したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | メール | |

生命ノ在処<イノチノアリカ>

13bitter ◆Uh25qYNDh6:2012/06/10(日) 22:08:28 HOST:p4239-ipbf2501sapodori.hokkaido.ocn.ne.jp

一章 「太陽の国、月の郷(さと)」



「じゃあ姉貴、行って来るな」

「ああ、いってらっしゃい。しっかり稼いで来るんだよ?」

謎の巫女に会い数日が経過した、桜舞う春の朝。
早朝に出向いた神社から帰った昌は、身支度を整え直して再び家を出た。
深緑の袖を揺らし戸口で手を振る珠南を振り返り、「おう」といつも通りのやり取りを終えてからその場を離れる。


それから数分歩き一つ目の角を曲がった直後、昌の進行方向に人影が飛び出した。
「よ、おはよーさんっ! 今日も眠そうだな、昌」
「……清(しん)、お前は今日も無駄に元気だな」
栗色の猫毛を揺らし、半ば飛び掛るように昌へ走り寄ってきた少年の名は清吾(しんご)。
昌とは幼馴染で、幼少時は二人揃って散々暴れ回った仲だ。
確か〝天照の暴走族〟とかいう大層な渾名(あだな)付きだったな、と薄っすら記憶を辿りつつ、昌はすぐ目の前まで来た清吾へ言葉を返す。
天照(アマテラス)は自分達が暮らしてきたこの国の名、暴走族は単に見たままを表現した結果だろう。
「何だよその反応―、昔はもっと乗ってくれただろー?」
昌自身棒読みになった事は自覚していたが、案の定口を尖らせた清吾が不満げに昌を見た。
髪より少しだけ濃い栗色を湛えた双眸が、じとーっと細められる。
――その目は一体、俺にどういう切り返しを期待してるんだ。
同じように元気よく挨拶を返せば良かったのか? そうなのか?
向けられる視線に、昌は突っ込みやら問い掛けやらで忙しい思考を巡らせた。
しかし大分幼かった頃とは違い、今は二人共に16歳。
まだ成人の歳には満たないとはいえ、近所の子供とつるんで遊び回る歳、とも言い難いのが現実だ。
そんな自身の考えを貫き、
「昔は、だろ。もうガキっていう歳でもねぇんだ、暴走族は卒業したんだよ」
と、清吾の額を指で弾く。
弾かれた額を押さえ、大袈裟に飛び退いた清吾は暫く不満げな表情を崩さなかったが、数秒経過し昌の気が変わらない事を悟ると、諦めたように息を吐いた。
「あー……、美人なお姉さんとばったり会ったりしねーかなぁ」
だらしなく開いた清吾の口から紡がれたのは、先程までの流れとは関係ないにもほどがあるぼやき。
「……またお前は。そんな都合の良い事有り得るわけ…………、あ」
美人。そう聞いて昌の脳裏を過ぎったのは、織と名乗った巫女の事。
いつものように流そうと試みていた途中――そんなタイミングで思い出してしまった為に、言葉が不自然に切れた上音のような声を漏らしてしまった。
不味い。そう思った時には既に遅く、ザザザッと擬音が聞こえそうな勢いで清吾に詰め寄られる。
「あ!? あって何だよお前! まさか最近美人に会ったとか――」
「い……や、ないないっ! 断じて無い!!」
図星だった。が、肯定すれば〝会わせろ〟と騒ぐのは目に見えている為、昌は出来る限りの否定を示す。

「……本当か?」
向けられる、目一杯疑心に溢れた瞳。
それでも決して言うまいと、昌は内心冷や汗を流しながら数度頷く。
「な い ! こんな事で嘘吐いたって何の得もねえだろッ」
「……んー、それもそっか。そうだよなぁ……」
「ああ。ほら、馬鹿言ってると置いてくぞ」
数秒の思案。昌は最終的に納得したらしい清吾の様子に安堵の息を吐き、適当に話を終わらせて足を進めた。
「馬鹿は余計だ」等と文句を言いつつ、清吾が後に続く。
どうやら先程までの話題は既に頭にないようで、完全に〝馬鹿〟という単語に食いついている。

――単純な奴で良かった。


昌はこの時、16年間の人生で初めて神に感謝した。


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板