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生命ノ在処<イノチノアリカ>
15
:
bitter
◆Uh25qYNDh6
:2012/06/19(火) 19:49:03 HOST:p4239-ipbf2501sapodori.hokkaido.ocn.ne.jp
◆◇◆
「そういえば、今日は王(おおきみ)がこの城下にいらしてるらしいよ」
少し歩いた先、時間にしておよそ五分。
それまで無言で足を進めていた弥麗が唐突に口を開いた。
「王(おおきみ)が?」
大人しく手を引かれたまま、昌がそう言って顔を上げる。
つられて同じ事をした清吾も、不思議そうな表情を浮かべて弥麗を見遣った。
王(おおきみ)とは、別称〝天子(てんし)〟とも呼ばれる……文字通りこの天照大国の長(おさ)だ。
人当たりが良く穏やかで、比較的親しみやすい人物として知られている。
しかしその反面、顔面は常に黒い薄布で覆われており、〝未だ嘗て、誰一人としてその素顔を見る事は叶っていない〟という、どこか謎に包まれている存在でもあった。
そんな王(おおきみ)が城の外を出歩いているとなれば、町が混雑するのも頷ける。
「あの人が来ててこれなら、案外マシかもな……」
弥麗の左手をしっかり握ったまま周囲を見回し、しみじみと呟く清吾。
昌がそれに同意して頷きかけた時、
「きゃっ」
――とん、と何かが腰辺りにぶつかった。
昌の身長は現在約167センチ(まだまだ伸びる予定)。
その腰にぶつかるという事は、小さな子供だろうか……。
そう思って肩越しに後ろを振り返ると、3、4歳程の少女がその場に尻餅をついていた。
此方にとっては些細なものでも少女にしてみればそれなりの衝撃だったようで、大きな茶色の瞳は薄っすら泪に濡れている。
「おやまァ……」
昌と同じように振り返り、目に入った光景に小さく息を吐く弥麗。
昌は繋いでいた手を離し、それをそのまま少女へ差し伸べた。
「悪いな、怪我無いか?」
「う、ん。……ありがとう、おにいちゃん」
もう片方の手も添えて抱き起こしてやると、少女はそう言って愛らしい笑顔を浮かべた。
それを見ると頬が綻び、昌の口元にも自然と笑顔が浮かぶ。
やがて少し離れた場所にいた母親に連れられ、少女は人混みの中へ消えていった。
ひらひらと何度も振られる小さな手が見えなくなるまで見送った後、
「……で、何で王(おおきみ)が城から下りて来たんだ?」
此処で漸く、昌は一番聞きたかった事を口にした。
王(おおきみ)は、一国を治める長であると同時に政治の要(かなめ)――親しまれているとはいえ、そう簡単に出歩ける立場ではない。
そもそも、祭日でもない日に城を空ける程行動的な人物ではない筈だ。
少なくとも、昌の中ではそんな人物像が創り上げられていた。
おそらくは、清吾も同じだろう。
揃って顔面に疑問府を浮かべっ放しの二人の様子に引き笑いを零し、弥麗はゆるりと口を開いた。
「それなんだけどサ、君達〝月詠(ツクヨ)族〟を知ってるかい?」
「え、と……あの〝不老不死の一族〟っていうやつか?」
「知ってる知ってる、小さい頃母ちゃんに聞かされた気が……」
昌、清吾の順で、口々に〝月詠族〟という存在について知っている事を答える。
それに対し弥麗はにこりと頷いて、
「そうそう、二人とも大当たり。その月詠族の存在がネ……王室(うえ)で騒がれ始めてるらしいンだよ」
一瞬、三人の間に沈黙が流れた。
「……月詠族って、本当に居るのか?」
その沈黙を最初に破ったのは清吾。
いつもの他愛無い会話なら一言二言突っ込みを入れる昌だが、そう出来る要素が見付からず、無言のまま思考を巡らせていた。
そんな昌の左頬を、伸ばされた細い指がつつく。
「ヒヒッ、その顔だと信じてないみたいだねェ……」
――当たり前だろう。
頬をつつく動きを止めない指先は敢えて無視し、昌は心中でそう零した。
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