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生命ノ在処<イノチノアリカ>

27bitter ◆Uh25qYNDh6:2012/07/16(月) 09:46:34 HOST:p4239-ipbf2501sapodori.hokkaido.ocn.ne.jp


【三】

「毎度ありー」

 翌日。青く晴れ渡った空の下、昌は一人、甘味屋の店番に駆り出されていた。
普段なら店主である弥麗なり、同じ働き手である清吾なりが側に居るのだが、清吾は大幅な遅刻。弥麗に至ってはもう数時間、店の奥へ行ったきり戻って来ない。
特別文句を言う気はないのだが、酷く退屈なのも事実で、本日三度目の大欠伸を噛み殺した。
 王(おおきみ)が城下へ下りた日から町の賑わいは増し、その姿を一目見んと、今日も大通りは多くの国民で埋め尽くされている。
――そんなに見たいもんかね。
此方をちらりとも見ずに去っていく人々を眺めながら、昌はぽつりと呟いた。
 正直王室(うえ)の人間にこれといった興味は無いし、すすんで会いたいとも思わない。精々遠目に確認出来れば良いか、程度だ。
 こうしている間にも眼前の人の波は濃くなる一方で、その動きを目で追おうものなら数秒で酔ってしまいそうだった。そうなる前に視線を外し、息を吐く。
「…………暇だ」
零した言葉に嘘は無い。
こんなにも人で溢れかえった場所に身を置いているのに、今から一時間程前の来店を最後に客足は途絶えていた。
弥麗が戻る気配も無い。
――もういっそのこと寝てしまおうか。そう考え始めた時、


「何だとコラァ!!」


場に満ちる空気を裂くように、男の怒号が響いた。

――――喧嘩か?


「ちょっと通してくれ」

壁のように立ち尽くす人々を掻き分け、前へ進み出る。
 そうして昌の視界に入ったのは、此方に背を向けて立つ小柄な人物――恐らくは少女――と、それを睨むように見据える男の姿だった。
 男の顔は赤らんでおり、ふらふらと今にも倒れそうな様子から、泥酔している事が見て取れる。それにしてもやけに赤く感じるのは、怒鳴り声を上げるまでに感情が高ぶった所為(せい)だろう。
 その後ろでは、老夫婦がなにやらおろおろと首を動かしている。
 男は肩で息をし、少女は薄群青の着物を纏う背をぴんと伸ばしたまま……一向に揺らがない。

「おい、そっちから呼び止めておいてだんまりかぁ? どういう教育されてやがる」

暫くして、男が苛立たしげに口を開いた。
――少女は答えない。

直後。怒りが頂点に達した男の拳(こぶし)が、小さな身体を殴らんと振り上げられた。


「っ、危ねえ……!!」

思わず身を乗り出した昌の双眸が、周囲の民衆と同時に見開かれる。

――が、


「酒に酔わされ無銭飲食、気に入らなければ暴力か。本当に、どうしようもない大馬鹿がいたものだな」

響いたのは鈍い騒音でも、悲痛な叫びでもない。
少女は涼しげな声色で言い並べ、驚愕に固まっている男の手首を力一杯捻った。すぐさま上がったのは、痛みにもがく悲鳴。
「…………あいつ」
 覚えのある声に、昌が小首を傾げたのとほぼ同時。

「何事です」

幾重もの人混みを左右に裂き、赤髪の人物が顔を出した。


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