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生命ノ在処<イノチノアリカ>

22bitter ◆Uh25qYNDh6:2012/07/03(火) 21:45:14 HOST:p4239-ipbf2501sapodori.hokkaido.ocn.ne.jp

二章 散らない花


【一】

明らかに身を固くしている織を見て、昌は首を傾げた。
どうかしたのかと問いかけようとした時、


――ぽつり。

小さな雫がひとつ、鼻先に触れた。
見上げると既に月は無く、暗い中でもはっきりと分かる、厚い雨雲に覆われた空。
ひとつ、また一つと、雨粒の勢いは増していく。
雨か、と呟いた昌の前方で、織が我に返ったように瞳を瞬かせた。


「降り出したか。……もう行け、道が分からなくなるぞ」
再び平静を取り戻した双眸が昌を見据え、逸らされる。
そのまま立ち去ってしまいそうな背を引き止めようと、昌は咄嗟に伸ばした腕で――黒い鞘(さや)を掴んだ。
先の行動の理由を問い質(ただ)そうという訳ではない。
ただ単純に、もう少し話していたいと思ったのだ。
去ろうとした矢先後ろへ引かれ、振り向いた織が眉を寄せる。
「っ、おい何だ。私は行けと言った筈だが」
「待てって。なんだってそう、いっつもさっさと戻るんだよ。急ぎの用でもあるのか?」
「それを訊いたところで何になる」
いいから離せ、と握ったままの刀を引き戻す。
しかし、昌も負けじと力を込めた。
勢いで織の身体が傾き、上目に昌を見上げる形になる。
訝しげに細められた碧色と、視線がかち合った。

「俺が知りたいんだよ。別に深い意味はねぇけど」

たった数分。一言二言会話を交わせば、それで終わり。
それがここ数日間の、織との日常だった。
お陰で毎日のように顔を合わせていても、進展するどころか一定の話題すら見付からない。
決して長くはないとはいえ、共に過ごしていれば相手を知りたいと思うのは当然の事だろう。
それが未解決の謎で満ちている者ならば、尚更。


「――馬鹿者」

ぽつりと、雨音に混じって織の声が響いた。

「そんな事で一々呼び止めるな。私には社(やしろ)を護るという役目がある。少しでも離れれば、早々に戻るのは当然だ」
それに、と更に続ける。
「わざわざ危険な状況下で長話をする必要はない。……どうせ朝になれば、また顔を合わせるだろう」
だから今は、私を追うな。
そう言って織はもう一度刀を引き、無言で放すよう促した。
どうやら、これ以上問答する気はないらしい。
一切の反論を許さない言葉に息を吐き、昌は数秒を要して鞘を解放した。

「はぁ……分かった。明日また会えるんだな?」
「? ああ。何を今更――」



「じゃあ明日な」

今度はちゃんと明るい内に来るから、と口角を上げる昌。
瞬間、織の瞳が面食らったように見開かれる。
軽く手を振りながら去っていく昌を、織は何も言わずに見送った。
――何も言えずに、というのが妥当な表現かもしれない。

……これではまるで、〝友〟のようではないか。
小さく呟き、まだ温もりが残る鞘に指を滑らせた時――



「友では不満か?」


織の銀の睫毛が、ぴくりと揺れた。


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