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生命ノ在処<イノチノアリカ>

2bitter ◆Uh25qYNDh6:2012/06/06(水) 17:23:10 HOST:p4239-ipbf2501sapodori.hokkaido.ocn.ne.jp

序章 「夢と現(うつつ)と幻と」


――嫌だ、もうこれ以上……。

誰か早く、〝私〟終わらせて――

少女が泣いている。
嫌だ、嫌だと、ただ泣きじゃくっている。
これは見慣れた夢――俺はいつも通り、蹲った小さな背中へ手を伸ばす。

「……またか」
――いつもいつも、決まってここで目が覚める。
薄暗い部屋で目覚めた黒髪黒眼の少年――昌(しょう)は、空を切った右腕を見つめぽつりと呟いた。
ここ最近ずっとこんな調子だ。寝不足からくる欠伸を噛み殺しながら立ち上がり、寝乱れた着物を軽く直して部屋の引き戸に手を掛ける。
まだ夜明けには少し早い――
「よし、またあそこに行くか」
〝あそこ〟とは此処から大分離れた裏山の頂に位置する神社の事であり、昌が心底気に入っている場所だ。
今から行くとなると普通ならば半日は掛かるが、幼少時からずば抜けた体力を持つ昌にそれは当て嵌まらない。
暇さえあれば山を登り、五時間程で山頂に辿り着いては其処から日の出を拝むのが昌の楽しみだった。
今日もまたそれは変わらず、息切れさえせずに登り着いた場所で昇陽の時を待つ。
やがて少しずつ顔を覗かせはじめた太陽は美しく、昌の纏う着物と同じ濃紺だった空を白く塗り替えた。
――ああ、やっぱり綺麗だ。
今日もまた、そう呟いていつも通りの一日が始まる
――筈だった。

「おい、其処で何をしている」
柔らかく――そして穏やかに流れていた空気を、鋭い声が貫く。
男にしては高いし、女にしては低い。所謂中性的な声だ。
背後から響いたそれに対し反射的に振り返った昌は、其処に佇む人物を見て言葉を無くした。
投げ掛けられた問いに答える事も忘れ、目を離せずに見入る。
昇ったばかりの朝日を反射し、光を受けた水面のようにきらきらと輝く銀の短髪――凛々しく吊り上がった双眸は透き通った碧(あお)色を湛え、繊細なガラス細工のような睫毛に縁取られていた。
服装はと言えば、袴が濃藍なのを除けば典型的な巫女装束。
少女と称するのが妥当な年頃だろうその身体は細く――今にも折れてしまいそうだ、そんな印象を昌に抱かせた。
それでもすらりと背筋を伸ばした立ち姿は、言い表すなら〝美しい〟の一言で。
こんな姿を目にして見入るなという方が無理だろう――そんな甘い考えを巡らせている昌の目に少女が携える刀が映っている筈もなく、
――ほぼ放心状態で固まっている昌を目掛け、容赦なく白銀の刃が振り下ろされた。
「……すげぇ、こんな美人初めて見た――――、て危なっ!」
辛うじて避けなんとか受身を取った昌だが、直後――刃同様鋭い少女の怒号が飛んだ。
「ふん、自業自得だこの愚者ッ! 此処で何かしていたのか、していなかったのかっ! どちらなのかさっさと答えろ愚者!!」
「――っ、分かった! 分かったからそれ下ろせ!」
何故(なにゆえ)今日、それもついさっき出会った相手に二度も〝愚者(ぐしゃ)〟呼ばわりされなくてはならないのか――そう思わずにはいられなかったが、先程のようにもたもたしていては今度こそ命が散る。
場所は良いとして、意味も分からず死んでいくのは御免だ。
まずは保身の為、昌は再び振り上げられた刀を下ろしてくれるよう訴えた。
実際口を突いて出たのはほぼ叫びのようなものだったが、そこまで回る頭はなかったようで。

「…………愚者、貴様名は?」
長い沈黙の後、響いたのは少女の口から紡がれた新たな問いだった。
――俺が愚者なのは前提なのか? あとお前、絶対名前聞くタイミング間違ってるぞ。
瞬時に浮かんでは消える、少女に対する突っ込み。
「あー……昌(しょう)だよ。此処にはただ、日の出を拝みに来ただけだ」
色々と言いたい事はあったが、折角攻撃の手が緩んだのだから――と早口で名を告げる。
言葉はじめから頭を掻く左手は止めないまま、最後に「他意はない」と付け足した。
〝昌〟と告げた瞬間――少女の切れ長の瞳が僅かに揺らいだように見えたが、きっと気のせいだろう。
「……それは、本当だな?」
「ああ」
「そうか……なら、いい」
――何に対しての許しなのか、それは分からない。
それだけ紡いだ少女は妙に大人しく、先程までの気迫はどこへやら。何処か安堵したような表情で碧い瞳を伏せている。
その様子をただ眺めていた昌は、少女の顔付近に遣っていた視線を下ろし、同時に軽く首を傾げた。


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