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生命ノ在処<イノチノアリカ>

19bitter ◆Uh25qYNDh6:2012/06/26(火) 18:45:49 HOST:p4239-ipbf2501sapodori.hokkaido.ocn.ne.jp

「ああ……っと、織?」

咄嗟に思考がついていかず、立ち上がりながら確認するようにそう紡ぐ。
それを受けた織は怒るでもなく、ただ呆れたように息を吐いた。
はぁ、と響いた小さな音が、夜の空気に溶ける。
「……全く貴様は、何故こんな時間に山をうろついている。死にたいのか?」
もう何度も聞いた、冷めた声色。
しかしその内容は理解出来ず、昌は首を傾げた。
が、否定しようにも織の瞳は真剣そのもので、喉まで出掛かった言葉が奥へ引っ込む。
確かに今は夜で、暗闇で視界が利かない分朝や昼に比べれば大分危険だ。
春も半ばに差し掛かり、動物達も活動を始めて――。


「あ」

そこまで考えて漸く織の言わんとしている事が解り、昌の口から間抜けた音が零れた。
織もまた昌の心情を察し、
「社(やしろ)の傍……私の目が届く場所に居たのが幸いだったな。でなければ、今頃貴様は〝それ〟の牙に掛かってお陀仏だ」
と言って昌を……正確にはその背後を見遣った。
「? 〝それ〟って……」
向けられる視線が自身を通り越している事に気付き、何か居るのかと振り返る昌。
後ずさった足に、草ではない、硬い毛の感触が伝わった。
同時に生温い液体が肌を濡らし、ぞわりと鳥肌が立つ感覚を覚えながら足下を見る。


目を凝らして漸く捉えた〝それ〟は、灰色の毛並みを持つ狼だった。
死んでいるのか気絶しているのか、ぴくりとも動かない。

「命拾い、しただろう?」

すぐ傍でそう言った織に対し、昌はこくこくと頷く。
織は慣れた手つきで刀身を拭い鞘(さや)へ収めると、
「これに懲(こ)りたら、もう二度と夜の山には近付くな。……毎回助けてやるのは骨が折れるし、そう出来る保障もないからな」
と、双眸を据わらせて言い並べた。
その後に、脱力したような昌の言葉が続く。
「……そうしておく。散歩中に死ぬなんて御免だしな」
――散歩。
昌としては何気なく放った一言だったのだが、言い切られた直後織の瞳に明らかな驚愕が浮かんだ。

「散歩? 貴様……散歩していたのか?」

「あぁ、そうだけど……」

思わぬところに食い付かれ、肯定の声が僅かに揺れる。
疑問府で溢れる黒い双眸に構わず、織の言葉は更に続いた。

「……こんな夜更けにか」
「ああ」
「登山とは散歩感覚で行うものなのか?」
「俺にとってはな」
「………………」

一方的な問いに、当然のように返される答え。
その末、織が吐息混じりに口を開く。

「……随分と体力馬鹿なのだな。〝以前は〟あんなにも――」

ぽつりと零し淡々と言い切ろうとした言葉は、

「以前……?」

昌の一言で途切れた。


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