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生命ノ在処<イノチノアリカ>

8bitter ◆Uh25qYNDh6:2012/06/07(木) 21:13:46 HOST:p4239-ipbf2501sapodori.hokkaido.ocn.ne.jp

「……は? だからあの神社にもう人は居な――」

「そんな訳があるか!」

「ちょっと昌――」
「鳥居も神社の建物自体も、まだ立派だった……」
毎回よく観察している訳ではない為色合いまでは思い出せないが、手入れが行き届いていない――なんて様子は微塵も感じられなかった。
そう、実際巫女が存在していても違和感などなかったのだから。
怪訝そうな表情で話す姉の言葉を尽く遮り、昌は目にした事実を訴え続けた。
しかし珠南の顔に納得の色は浮かばず、逆に疑心や困惑が見え隠れするばかり――
やがて珠南は昌によく似た――鴉(からす)のような黒髪を揺らし、軽く首を傾けた。
「それが本当なら再建されたのかもしれないね。でも昌、あんたその娘(こ)と会ったのは今日が初めてだって言ってたろ」
「? あぁ、言ったけど。それがどうかしたか?」
今度は昌が首を傾げ、珠南に言葉の先を求める。
「仮に今までの話が本当で、あんたの言う巫女があの神社に居たとして――何で〝今まで気がつかなかったんだ〟」
――毎日のようにあの場所に行っていたあんたなら、簡単に気付けた筈だろう?
そう言って傾けた首の角度を深くした珠南に、昌は何も言い返せなかった。
正論だったのだ。
幾ら昇る朝日に見惚れていたとしても、確かに存在する他者の気配に気が付けないなど有り得るのだろうか――否、有り得ない。
現にあの少女は、気配を隠すどころか凄まじいまでの〝存在〟を主張していたじゃないか。
そこまで考えると居てもたってもいられず、腰を落ち着けていた場所から勢いよく立ち上がる。
昌はそのまま出入り口の方向へ駆け、何処へ行くんだと言いたげな姉を振り返った。

「確かめて来る!」


引き戸を開けて外に出ればもう周囲の音は耳に入らず、昌はただ走った。
自身の目が正しい事を願って、あの少女が幻ではない事を願って――



「……よく、…………見えねえな」
神社に辿り着いた頃にはすっかり日が暮れ、丁度早朝とは正反対の景色が其処にはあった。
月明かりだけが照らす社殿は殆ど闇に隠され、その状態はおろか――大まかな色さえ満足に確認出来ない。
――これは無駄足だったかもしれない。
薄っすらそんな考えが頭を過(よ)ぎるが、今更引き返す気にもなれず、昌は神社の入口――鳥居へと足を進めた。
やはり夜という事があってか、明るい陽光が注いでいる時間帯とはまるで違う雰囲気だ。
やがて目の前に迫った鳥居の柱に触れ、指先を滑らせた。
が――ここである違和感を覚え、昌は瞳を瞬かせた。
おかしいな、朝見た時そんな様子はなかったのに――――
「ぼろぼろだ……」
ざらりと伝わる感触は、滑らかな塗装ではない――木の手触り。
余程鮮やかなのか暗闇の中でも赤い鳥居だと分かったが、その赤色は所々剥がれ明らかに老朽化していた。
当然の如く、境内に人の気配はない。――全て、珠南が昌に聞かせた通りだった。
じゃあ、今朝俺が見た光景は一体何だったんだ。
立派な建物を構えた神社も巫女も、此処には居ない。
――嗚呼、本当に無駄足だったらしい。

そこで、昌の意識は途切れた。




◆◇◆




「――い、――――」

――何だ、誰かの声?

「――おい、――きろ」

五月蝿いな、ていうか何言ってるか全然聞こえな――

「いい加減起きろ貴様ぁあああ!!」
「どわああぁああああ――ッ!?」

突如、鼓膜を貫いた怒号。
その凄まじい声量に、昌の意識は一気に覚醒した。
重たい瞼を開き直すと目に入ったのは、既に夜の闇など一片も残らない青空。
雲が掛かっている為白っぽくも見えるが、朝がきているという事は間違いなかった。
どうやら鳥居の柱を背に眠っていたらしい。
「あー……朝か。……、背中痛ぇ…………」
盛大な欠伸を零しつつ、言葉そのままに背中をさする昌。
その無防備な後頭部に、容赦ない一撃が飛んだ。

「漸く起きたか。私がわざわざ目を覚まさせてやったのだ、感謝しろ愚か者」


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