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アメリカ軍がファンタジー世界に召喚されますたNo.15

1名無し三等陸士@F世界:2016/10/03(月) 01:41:59 ID:9R7ffzTs0
アメリカ軍のスレッドです。議論・SS投下・雑談 ご自由に。

アメリカンジャスティスVS剣と魔法

・sage推奨。 …必要ないけど。
・書きこむ前にリロードを。
・SS作者は投下前と投下後に開始・終了宣言を。
・SS投下中の発言は控えめ。
・支援は15レスに1回くらい。
・嵐は徹底放置。
・以上を守らないものは…テロリスト認定されます。 嘘です。

224ヨークタウン ◆.EC28/54Ag:2017/07/04(火) 23:12:53 ID:PM3/LMsM0
準備が終わると、シーラビットはクレーンに吊り上げられ、慎重な動作でカタパルトの台座上へと運ばれて行った。


午後0時30分 キャッスル・アリス艦内

「ご苦労だった。下がっていいぞ」

ローリンソンはクレイトン兵曹長とロージア少尉から一通り報告を聞いた後、2人を下がらせた。

「飛行長、どう思うかね?」

ローリンソンは右隣に立っていたベルンハルトに声を掛けられると、溜息を吐きながら首を横に振った。

「予定された事ではあります。とはいえ……こうもあっさり空振りに終わると、ちと悔しい物がありますな」

ローリンソンは、海図台に置かれた海図を見据えながらベルンハルトにそう答えた。

「飛ばせる飛行機の数が多ければ、索敵の効率も上がるのですが」
「ま、案の定と言った所だな。それに、最初から敵船団が見つかる訳ではない。戦争をしているんだ……これも、結果の一つとして受け入れんと行かんさ」
「確かに」

ローリンソンはそう返しつつ、心中ではやれやれと呟いていた。

キャッスル・アリスとシー・ダンプティが行った航空偵察は、目標としていた敵護送船団を発見する事無く幕を閉じた。
2機のシーラビットは予定の航路を飛行したものの、目標は発見できぬまま母艦に戻ってきたのである。

「しかし……シー・ダンプティの艦載機が途中、機上レーダーの故障を起こしたのは痛いですな。おまけに、シー・ダンプティ機の針路上には
予想していなかった多量の雲が続いていたとも聞いています。もしかしたら」
「君の言いたい気持ちは分かる。だが、シー・ダンプティの艦載機は途中から雲の下まで高度を下げて偵察している。しかし、目標はそれでも
見つからなかった。やるべき事はやっているさ。だが……第1次索敵は誰が見ても失敗だよ」
「……索敵線を変更致しましょうか?」
「変更か……どれぐらいかね」

225ヨークタウン ◆.EC28/54Ag:2017/07/04(火) 23:13:35 ID:PM3/LMsM0
ベルンハルトが聞き返すと、ローリンソンは海図上に書かれた索敵線をやや北にずらした。

「第1段索敵ではこの針路上に敵影は見つかりませんでした。なので、北に50マイルほどずらし、第2段索敵でこの針路上を索敵してはどうでしょうか」
「ふむ……悪くない考えではある。だが、シー・ダンプティ機の索敵範囲はどうなるんだ?」
「シー・ダンプティ機は、偵察高度を変えて先程とほぼ同じ範囲を偵察させてはどうでしょうか。シー・ダンプティ機が飛行高度を変えたのは偵察行の
半ばを過ぎてからです。針路上の天候が先程と同様ならば、雲の下を飛ばして偵察させればよいと思います」
「そうは言うがな……シー・ダンプティの飛行科将校の考えもあるし、第一、こっちは命令する側ではない。出来るとすれば、君の言った案を伝えることぐらいだな」
「……では、シー・ダンプティ機の第2段索敵の飛行計画がどのようになっているか問い質してみましょう。無論、こちらの索敵計画も伝えてからですが」
「それがいいだろう。早速打ち合わせに入るとしようか……俺達の背後にいる僚艦8隻に任務をこなして貰う為にもな」

2人はそう決めると、通信員を呼んで索敵計画の打ち合わせに入った。


午後1時20分 キャッスル・アリス艦内

打ち合わせが一段落した後、ベルンハルトは通信室の近くにあるこじんまりとした一室を訪ねた。
室内の小さなテーブルの上に置かれた魔法石を前に、険しい表情を浮かべながら会話を交わす2人のカレアント人士官は、ベルンハルトを見るなり
席から立ち上がった。

「これは艦長」
「ああ、そのままでいい……して、どうだね。魔法石の具合は?」

ベルンハルトが問うと、右側の白い犬耳の魔導士官……カレアント海軍所属の魔導将校であるフィリト・ロイノー少尉が口を開いた。

「魔法石の出力は、ひとまず安定の数値を出しているのですが、唐突に出力が不安定になる事が多くなっています。一応、このまま使うのならば、
2時間の連続使用には耐えられるでしょうが……」
「一応、持ってきた予備の魔法石が1つありますので、それを代わりに使う事も考えましたが、機能停止状態の魔法石は、活性化するまでに1日半の
時間を要すと、ミスリアル側から説明されています」

ロイノー少尉の隣にいる、茶色と黒が混じったまだら模様の長い猫耳のカレアント人士官、サーバルト・フェリンスク少尉も会話に加わった。

226ヨークタウン ◆.EC28/54Ag:2017/07/04(火) 23:14:20 ID:PM3/LMsM0
「恐れながら……小官としましては、不安要素を取り除くには、不具合のある魔法石は使用せず、予備の魔法石に取り換えてから作戦を継続するのが
よろしいのではないかと思いますが」
「……ロイノー少尉も同じ意見かね?」

ベルンハルトは真顔でロイノー少尉を見つめる。

「私も同じです。先ほどお話を聞きましたが、まだシホールアンル軍護送船団は発見できていないようですな。僭越ながら申し上げます。ここは
フェリンスク少尉の言う通り、魔法石を変えて、万全な体制で臨まれた方が良いと、私も思います」
「……参ったな」

ベルンハルトは渋面を浮かべ、左手で自らの後頭部を掻いた。

敵船団襲撃は、2隻のアイレックス級潜水艦と16隻の通常型潜水艦と共同して行う予定だが、事前の打ち合わせでは、シー・ダンプティを基幹とする
第1群とキャッスル・アリスを基幹とする第2群、それぞれ9隻に別れており、個別で敵船団を攻撃する事になっている。
この2個潜水艦隊は南北に300マイル離れており、群旗艦を務める司令潜水艦が定期的に連絡を取り合っていた。
キャッスル・アリスは、第2群の目として航空偵察を行い、敵船団を発見した場合は後方40マイルに展開している潜水艦8隻を付近に呼び寄せ、敵船団を
視認範囲内まで近づけた後は、キャッスル・アリスがまず敵船団に雷撃を行い、敵護衛艦の注意を引き付けたうえで、第2群本隊8隻で波状雷撃を掛けて
敵船団の漸減を図るという計画が立てられていた。

なぜこのような計画が立てられたのか。
それは、生命反応探知妨害装置の不足に起因していた。
ミスリアル側から貸与された生命反応探知妨害装置は、敵対潜艦の追尾を振り切れる画期的な魔法兵器であるが、生産数が少ないのと、魔法石の各種調整には
同盟国の魔導士が共に乗り組む必要があるため、一部の潜水艦にしか配備されていなかった。
アイレックス級は全艦が、同盟国の支援の甲斐あって探知妨害装置を搭載する事ができたため、同級に属するシー・ダンプティとキャッスル・アリスは、
今回の作戦では敵船団攻撃後に、護衛艦を一部なりとも誘引して本隊の負担を軽減する事が求められていた。
しかし、それを完璧にこなす為には、探知妨害装置が入力された魔法石が、予定通りに探知妨害魔法を発し続ける事が求められる。
もし、敵の生命反応探知魔法を妨害できなければ、キャッスル・アリスは複数の敵護衛艦に追い回され、最悪の場合撃沈されるであろう。

「魔法石がしっかり働いてくれないとまずいんだがなぁ……何しろ、この辺りの水深は何故か、あまり深くないから、深深度に潜って攻撃を回避する事も難しい。
魚雷も本隊の搭載している電池魚雷と違って、従来の尾を引きまくる奴を使っているからな……どうしたものか」

2人のカレアント軍士官は、目の前で渋面を浮かべ、喉を唸らせながら苦悩しているベルンハルトを見て、自然と悪い事をしてしまったと、心中で感じていた。

227ヨークタウン ◆.EC28/54Ag:2017/07/04(火) 23:15:09 ID:PM3/LMsM0
「……艦長、我らが付いていながらこのような様になってしまい、深く……お詫び申し上げます」

ロイノーはそう言いながら、相棒のフェリンスクと共に頭を下げる。
それを見たベルンハルトは、さり気ない動作で右手を振った。

「いや、別に貴官らが悪い訳ではあるまい。貴官らはよくやってくれているよ。普段から魔法石のチェックも欠かさず行い、本分を尽くしているばかりか、
うちの手伝いまでやってくれているからな。別段、謝る必要は無いぞ」

ベルンハルトは、快活さを感じさせる口調でひとしきり言った後、少しばかり表情を歪めながら魔法石を指差した。

「責があるとすれば、こんな危なっかしいモノを手渡したミスリアル側の責任者だろうな。これで事が起きたら、そいつをうちの艦に呼んでから、
魚雷発射管に詰め込んでやるさ」
「エルフを魚雷発射管に詰め込むのですか……それはまた……怖いですなぁ」

さらりと言ってのけたベルンハルトに対し、2人は顔をやや引き攣らせた。

「おっと……ここは笑う所だぞ?」

ベルンハルトが苦笑しながら言うと、2人も表情を和ませた。

「ひとまず、魔法石の状況は掴めた。引き続き、魔法石の監視と調整を行ってくれ」
「はっ。何かありましたら、すぐにお伝えします」

フェリンスクがベルンハルトにそう返答し、隣のロイノーはベルンハルトの顔を見ながら無言で頷いた。


同日 午後2時 キャッスル・アリス艦内

「飛行長、機体の状況はどうなっている?第2段索敵は出来そうか」

ベルンハルトは海図台の側で航海長とひとしきり話し合った後、目の前に現れたローリンソンを見るなり、おもむろに声を掛けた。

「機体の状況は万全です。帰還後に整備を行いましたからな。燃料補給も間もなく終わります」

228ヨークタウン ◆.EC28/54Ag:2017/07/04(火) 23:16:06 ID:PM3/LMsM0
「そうか。本日2回目の航空偵察は準備を終えつつあるな」

ベルンハルトは満足気に頷く。

「ところで艦長。群司令からは何か言われましたか?」
「ああ、魔法石の話か……」

ベルンハルトは、魔法石の状況を確認した後に、後方の潜水艦ベクーナに座乗する第2群司令ローレンス・ダスビット大佐に一連の報告と、
今後の動向についての指示を仰いでいた。

「司令からは、魔法石の動作が完全に停止する恐れが無いのならば、作戦を続行せよと命じられたよ。つまり、魔法石の交換はやらずに任務に当たれという事さ」
「それはまた……大丈夫でしょうか?」
「不安しか感じんが……まぁ、やってやれん事はないだろう」

ベルンハルトは腕組しながら、ローリンソンに言う。

「それに、万が一魔法石が使えなくなったとしても、戦えん訳ではない。あの便利な兵器が出る前は、もっと悪い環境で敵と戦った事もある。
その時の経験を活かして立ち回るだけさ」
「……いやはや、艦長は慎重なのか、大胆なのか分かりませんなぁ」

あっけらかんとした口調で言うベルンハルトに対し、ローリンソンは唖然としながらそう言い放った。

「まぁ……私の親戚がUボート乗りだったからな。爆雷攻撃に遭遇しやすい血筋を受け継いでいるのかもしれん」
「うちらクルーからしてみれば最悪な血筋かもしれませんな。潜水艦乗りにとって、爆雷攻撃を食らう事は死の一歩手前か……その先に直結するかの、
2つに1つですから」

傍で聞いていたボールドウィン航海長が、毒のある言葉で返した。

「言いたい事を言える部下を持てて幸せだよ」

ベルンハルトは苦笑交じりに、ボールドウィンへそう言った。

「艦長……時間ですな」

229ヨークタウン ◆.EC28/54Ag:2017/07/04(火) 23:18:06 ID:PM3/LMsM0
ローリンソンは腕時計を確認してから、艦載機発艦の時間が迫っている事を伝える。

「もうそんな時間か。よし、上がろう」

ベルンハルトは頷くと、ローリンソンと共に艦橋に上がっていった。
彼らが艦橋に上がるまでの間、キャッスル・アリスの甲板上では、早朝と同じように整備と燃料の補給を終えた艦載機がカタパルト上に引き出され、
暖機運転を開始していた。
艦橋に上がったベルンハルトは、上空を見渡してから、顔に渋面を浮かべた。
キャッスル・アリスの上空には雲が張っており、所々切れ間が見えてはいるのだが、航空偵察にはあまり不向きな天候に思えた。

「飛行長、どう思うね?」

彼は、空に指差しながらローリンソンに聞く。

「雲の量が多くなってますなぁ……朝と比べると、状況は幾分悪くなってます」
「……わが合衆国海軍気象部の予報官によれば、この海域の天候は2月辺りまで良好の見込みと言っていたが」
「この異世界の天候予測なんぞ、はなから当てにしとりませんぜ。何しろ、気象データの蓄積がまだまだ足りん上に、前にいた世界よりも天候の
変わり具合が異様ですから」

それを聞いたベルンハルトは、苦笑しながら肩を竦めた。

「ああ、まさにそれだ。晴れ間が見える分、天候は良好…と、言えなくもないがね」
「まぁ……そうとも取れますな」

ローリンソンも苦笑いしながら空を見上げた。
心なしか、風もやや強くなっているようであり、艦首方向からふぶく風の音も幾分大きくなっているように思えた。
程無くして、しばしの休息を終えた2名の搭乗員が艦橋に上がってきた。

「飛行長!」
「おう、ご苦労」

ローリンソンとロージア少尉、クレイトン兵曹長が互いに敬礼をする。

「これから第2段索敵に行ってもらうが、索敵の手順、飛行経路は先ほど話した通りだ。無事に帰還する事を祈っているぞ。艦長からも何かありますか?」

ローリンソンはベルンハルトに顔を向け直して言う。

「いや、私からは特にないが……私も飛行長と同じく、諸君らが無事に帰還する事を祈っている。よろしく、頼む」
「無論であります。それでは、行ってまいります」

ロージア少尉は、さり気ない口調でベルンハルトにそう返すと、敬礼を送ってから甲板に降りた。
そして、クレイトン兵曹長と共に艦載機に乗り、朝と同じようにカタパルトから射出された。
シーラビットはキャッスル・アリスの周囲を旋回した後、未だに見ぬ敵護送船団を求めて、一路、西方へ向かっていった。

230ヨークタウン ◆.EC28/54Ag:2017/07/04(火) 23:19:58 ID:PM3/LMsM0
同日 午後2時20分 ノア・エルカ列島東方沖150ゼルド(280マイル)地点

小休止のため、艦内の食堂に下がっていたネルス少佐は、小走りで艦橋に上がり、艦長席に座っていた駆逐艦フロイクリ艦長、ルシド・フェヴェンナ中佐に
やんわりと声を掛けた。

「艦長、今戻りました」
「やや遅めの昼飯は美味かったかな?」

フェヴェンナ中佐は、微かに笑みを浮かべながらネルス副長に聞く。

「ええ、美味でしたよ。空きっ腹には程よく効きましたな。本当なら、もう少し早い時間に昼食を済ませていたはずですが……」
「いきなり来たからな。ヤツが」

フェヴェンナ艦長は、右手の親指を上に向けながら言った。


今から5時間前……午前9時頃の出来事であった。
それまで、護送船団は5リンル(10ノット)の速力で東に向けて航行していた。
対潜警戒を行いながらの航海であるから、どの艦も一定の緊張を保ちながら航行を続けていたが、この海域にはまだ米潜水艦が跳梁していない事もあって、
ある程度のんびりとした雰囲気がどの艦でも流れていた。
しかし、その軽やかな空気は、船団の一番北側を航行していた第51駆逐隊の駆逐艦ギョナスチの緊急信によって瞬時に吹き飛んだ。

「緊急!船団の北東方面の空域に敵機らしきものを確認せり!敵機は現在、雲の中に隠れた模様!」

全艦に飛び込んだこの緊急信によって、護送船団の空気は一気に張り詰めたものとなった。
駆逐艦ギョナスチからは、更に

「敵機らしき物、再度視認!距離、10000グレル!(2万メートル)」

という通信が入り、その後も2度、敵機視認の報告が飛び込んできた。
最初の通信が伝えられてから5分後、護送船団旗艦から速力を12リンル(24ノット)に上げ、南東方面に一斉回頭せよとの命令が伝わり、
船団は針路を南東寄りに変えた。
最初の敵機視認の報が伝えられてから15分後、ギョナスチからの追加報告は入らなくなった。
この時点で、敵機と思しき機影は、東の彼方に向けて飛び去っており、船団の視認範囲内にはいないと判断された。

231ヨークタウン ◆.EC28/54Ag:2017/07/04(火) 23:20:28 ID:PM3/LMsM0
それから5時間ほどが経った今……護送船団の各艦艇では、殆どの乗員が緊張に顔を引きつらせており、このフロイクリの艦内でもピリピリとした
空気に包まれていた。

「副長。やはり、みんな緊張しとるな」

フェヴェンナは眉間にしわを寄せながら、ネルスに話しかける。

「無理もありません。我が艦隊は敵機に発見されたのですから」
「発見か……」

フェヴェンナは顎を撫でながら、喉を唸らせる。

「……どうも腑に落ちんな」
「と、言われますと……?」

艦長の発した意外な言葉を聞いたネルスが、すかさず問い質す。

「なぜ、敵機は船団の上空で旋回しなかったのだ?」
「旋回……ですか」
「そうだ。偵察機は、目標を見つけた時は、その目標の詳細をなるべく正確に母艦に伝える必要がある。そのためには、まずは船団にもっと接近し、
必要とあれば上空を旋回して規模と編成を確認するはずだ」
「そういえば……これまでに会った米軍の偵察機は、よく雲の外に出て、我が方の編成を調べていましたな」

ネルスは過去の経験を思い出しながら、艦長にそう返した。
竜母機動部隊の護衛艦として活動した時期が長いフロイクリは、よく輪形陣の外郭に配備されており、そこから米軍の艦上偵察機が偵察飛行を行う様子を
幾度となく視認している。
敵の偵察機は、護衛のワイバーンが迎撃に向かえばすぐに退散していったが、いずれもが雲の外に出て、念入りに艦隊の編成を調べていた。
偵察機がすぐ逃げるのは、長居すれば護衛のワイバーンに撃墜されるからであり、別の戦域では、護衛機を持たない船団が敵の偵察機に四六時中
張り付かれたという情報もある。

「敵が船団を見つけていれば、必ず雲の外に出て来ただろう。何しろ……丸裸なのだからな。でも……敵機は雲の外から出てこなかった」

232ヨークタウン ◆.EC28/54Ag:2017/07/04(火) 23:21:14 ID:PM3/LMsM0
「もしかして……敵機は船団を発見していない……と?」
「過去の経験から照らし合わせれば、必然とそうなる」

フェヴェンナは空を見据えた。

「ギョナスチから伝えられた情報では、雲と雲の間を飛行していた敵機をたまたま視認し、それがあたかも、船団が敵機に見つかったという誤解を
生んでいるのかもしれん」
「しかし艦長……こちらが敵機を見つけたのならば、敵機もこちらを見つけたのではないでしょうか?」
「雲と雲の間を飛行しているだけで、船団の詳細が分かる筈がない。ましてや、敵機と船団の距離は、10000グレル(2万メートル)を割った
事が無く、最後の報告では15000グレル(3万メートル)まで離れていたと伝えられている」

フェヴェンナは顔をネルスに向けた。

「これは、“獲物を見つけた狩人”の動きではない」
「では……船団の存在は敵にまだ知られていない、という事ですか」
「そうなるな」

ネルスに対し、フェヴェンナはそう断言した。

「とはいえ、敵が第2の索敵を行う可能性もある。もしそうなれば、現針路を航行していたままの船団は、敵の第2次索敵で発見されてしまうだろう。
旗艦から命じられた進路変更は正しい判断だ」
「なるほど……では、船団は難を逃れたという訳ですな」

ネルスは安堵の表情を浮かべながらそう言ったが、フェヴェンナは真顔のまま言葉を返す。

「そうであると、いいのだがな」

233ヨークタウン ◆.EC28/54Ag:2017/07/04(火) 23:22:05 ID:PM3/LMsM0
午後4時 ノア・エルカ列島東方沖300マイル地点

キャッスル・アリスから発艦したシーラビットは、洋上に雲が多い事を考慮し、高度2500メートル付近を飛行していたが、目標である護送船団を
発見できぬまま往路の偵察行を終え、反転して母艦に引き返しつつあった。

「……まだ見つからんか」

後部席でレーダーに視線を送ったロージアは、依然として船らしき反応を捉えない事にやや苛立っていた。

「機長、やはり見つかりませんか?」
「ああ。レーダーにも反応が無い」

クレイトンにそう返したロージアは、無意識のうちに舌打ちする。

「母艦まであと240マイルか……あと1時間半以下の距離だな」

ロージアはそう言いながら、チャートに印を入れていく。
第2次索敵は、第1次索敵のよりも北側へ索敵範囲をずらして行われている。
これは、第1次索敵で機器の故障などにより、予定通りの索敵を行えなかったシー・ダンプティ機の補填として計画され、実行したものだが、
今の所、キャッスル・アリス機はこの範囲内で敵らしき船を発見できていない。

「参ったな……」

ロージアは眉間に皴を寄せながらも、目線は周囲を見回していく。
雲の下を飛行している水上機は、周囲に海を見渡せる事ができる。
だが、その四方には未だに、敵らしき船の影すらない。
今しも無線機から、シー・ダンプティ機が敵を発見したという朗報が入るかと期待するが、その期待が叶う事は、未だに無いままだ。
クレイトンとロージアが、悶々とした気分に苛まれながらも、時間は無情にも過ぎていく。
2人の搭乗員は、それでも完璧な動作で索敵を続ける。
しばらく時間が経ち、ロージアはレーダーから目を離し、目視で周囲の索敵を行っていく。
一通り、辺りを見回してから、レーダーに目線を移す。
機上レーダーには、依然として反応は映らない。

234ヨークタウン ◆.EC28/54Ag:2017/07/04(火) 23:22:43 ID:PM3/LMsM0
「機長。母艦まであと200マイルです」

耳元のレシーバーに、クレイトンの定時報告が入る。
チャートに目を移し、手書きで機位を記していく。

「あと1時間か……こりゃ、第2次索敵も空振りに終わるかもしれんな」

記入を終えると、彼はレーダーに目を移す。
レーダースコープには相変わらず影も形もなく、端にシミのような物が映った時には、目線を機の左側に向けており、そこから後方、右側と
視線を巡らせていく。

「機長、やはり……索敵は失敗ですかね」
「ああ。失敗だな。やはり……偵察機は多く揃えんと効率が悪いな」

クレイトンの質問に、ロージアは溜息混じりの声で答える。
ロージアは気持ちを改めるため、深呼吸をしてから索敵を続けようとした。
その時、彼の脳裏に先ほどの光景が思い起こされた。
レーダーから目を離した時……スコープが端に着いた時、一瞬だけシミのような光点が見えていた。
その後、ロージアは周囲を索敵した後に再度レーダーを見たが、反応は無かった。

(そう……“シミ”すら無かった……!?)

ロージアは心中でそう呟いた直後、急に目を見開き、機の左側……北の方角に顔を向ける。
北側の海域は一瞬、何も見えないように思えるが、よく目を凝らしてみると、その方角には、雲がより一層低く垂れ込んでいる。
周囲の雲は、大体3000メートルから4000メートルの間に浮いているが、その方角の雲は3000メートルから2000メートル付近まで降りているように見える。

「……クレイトン!燃料はあとどれぐらいだ?」
「いつも通り、増槽タンクのみならず、胴体の燃料タンクも満タンで出撃しましたから、あと500マイル(800キロ)は飛行できますが……どうかしましたか?」
「すまんが、北に針路を変えてくれ。方位は340度。急げ!」
「……!アイ・サー!」

235ヨークタウン ◆.EC28/54Ag:2017/07/04(火) 23:23:23 ID:PM3/LMsM0
先ほどから打って変わったロージアの口調に、何かを察したクレイトンは、言われるがままに機首を北に向けた。

「もしかしたら、目の錯覚かもしれん。だが……今まではあの微かな“シミ”すら無かった。燃料にはまだ余裕がある。例え何も無かったとしても、
母艦に帰れるだけの燃料は残る筈だ」

ロージアはそう呟きつつも、期待に胸を膨らませながら、その時が来るのを待った。




それから10分ほどが経った。

午後4時30分、機上レーダーが明確な反応を映し始めた。

「捉えたぞ。方位335度、距離25マイル!」
「機長、こっちも視認しました!雲の下に隠れてますぜ!」

高度2000メートルまで降下したキャッスル・アリス機は、前方の洋上を行く敵護送船団の姿を目視で確認していた。

「敵の数は……3隻ほど見えます!」
「レーダーの反応は既に10隻ほど捉えている。もっと近付くぞ!」

ロージアの指示に従い、クレイトンは速度を上げて、敵護送船団との距離を詰めていく。
敵船団との距離を詰める中、ロージアは敵船団発見の報告を母艦に伝え始めていた。
それからしばらくして、キャッスル・アリス機は敵船団の全容が明らかになる位置まで接近を果たした。

「機長、護衛艦が発砲してきました!」
「近付きすぎるな!撃ち落とされるぞ!」

ロージアは切迫した声でクレイトンに注意を促した。
敵弾はキャッスル・アリス機から300メートル離れた右側下方で炸裂し、黒煙が沸いた。

236ヨークタウン ◆.EC28/54Ag:2017/07/04(火) 23:24:13 ID:PM3/LMsM0
距離は敵船団の外周から13000メートルほどを開けているが、念のため、15000メートル付近まで下がる事にした。
敵艦は盛んに対空砲弾を放ってくるが、キャッスル・アリス機の至近で炸裂する弾は1発も無かった。
クレイトンは、敵船団との距離を保ちながら、ゆっくりと外周を回っていく。
最初は敵竜母が護衛に付いていると思われたが、見た所、敵船団には護衛艦と輸送艦しかいないため、敵ワイバーンの存在を気にする事無く、
敵船団の詳細を確認する事ができた。

「敵船団は駆逐艦、輸送艦総計40隻前後。そのうち、護衛艦は12隻、残りは輸送艦の模様。母艦との距離は200マイル、方位300度。
速力は約20ノット。敵船団は同針路を依然として航行中なり」

ロージアは、敵船団の編成と針路、推定速度を事細かく報告していく。
程無くして、報告を終えたキャッスル・アリス機は船団の上空を1周してから帰途に就こうとした。

「機長、やりましたね!」
「ああ。ビンゴだ。失敗に終わるかと思ったが……どうやら、運に見放されていなかったようだ」
「報告も終わりましたし、帰還しますか?」
「ああ……少し待て」

ロージアは即答しようとしたが、この時、頭の中で何かが閃いた。
しばし考えてから、彼はクレイトンに次の指示を飛ばし始めた。


午後4時50分 ノア・エルカ列島沖東方170ゼルド(318マイル)地点

「敵機、北東方面に遠ざかります」

駆逐艦フロイクリの艦橋では、フェヴェンナ艦長とネルス副長は、緊張に顔を強張らせながら顔を向け合った。

「副長、最悪の事態だな」
「ええ……旗艦からはまだ何もいって来んようですが」

フェヴェンナは眉を顰めながら、旗艦のいる方角に顔を向ける。

「なるべく早く命令を出して欲しい所だが……まぁ、司令も心中穏やかではないのだろう。昨今の経験が浅いのなら、今の心理状態で素早く
命令を下すのは、容易な事ではあるまい」

237ヨークタウン ◆.EC28/54Ag:2017/07/04(火) 23:25:00 ID:PM3/LMsM0
フェヴェンナは憮然とした表情のままネルスにそう返した。
この時、魔導士官が艦橋に入室してきた。

「艦長!旗艦より通信であります!」

フェヴェンナは手渡された紙を一読してから、複雑そうな表情を浮かべた。

「艦長、旗艦の司令は何と言われているのです?」
「全艦、別命あるまで現在の針路、並びに、速度を維持せよ、との命令だ」
「それは……」

ネルスもまた、眉間に皴を寄せつつ、艦長から差し出された通信文を手に取った。

「恐らく、敵の偵察機は水上機だ。そして、水上機という事は……例の航空機搭載の潜水艦がいるに違いない。これが敵の空母なら、偵察機の
下腹にあんなアシが付いている筈がない」
「船団の針路や航行速度を変更するように意見具申してはどうでしょうか?今のままだと、敵に先回りされる危険が大いにあるかと」
「一応、私もそうするつもりだ。だが……敵の偵察機は北東方面に向けて帰還していった。それはつまり、午前中に遭遇した同じ偵察機が
索敵範囲を変えて、こちらを追って来たという事になる。とはいえ、距離からして、敵もあまり近くにいるとは思えない」
「では……船団は……?」
「司令は北東に居る敵潜水艦部隊の追跡を逃れるため、1日程は南下を続けるかもしれんな」

フェヴェンナはネルスにそう言った後、一呼吸おいてから言葉を付け加えた。

「高速輸送艦様々と言った所ではある。偽装対空艦の元となった船体だ。こういった所で速さが生かせるのは流石だな」
「最高速力は13リンル(26ノット)まで出ますからね。おまけに量産向きの船体ですから数も多い」
「80隻の高速輸送艦は、この海上交通路維持には欠かせない存在と言える。最も……」

フェヴェンナは真顔のまま前方を見据える。

「敵にとってはただの餌にしか見えんだろうな」
「ひとまず、南下を続ければ敵潜水艦は振り切れそうですな」

238ヨークタウン ◆.EC28/54Ag:2017/07/04(火) 23:26:07 ID:PM3/LMsM0
「速度はこっちが速いからね」

ネルスにそう返答した後、フェヴェンナは艦長席を立ち、ゆっくりとした足取りで左舷側の張り出し通路に歩み出た。
通路には、冬の冷たい海風が強く吹いており、防寒着を着ているとはいえ、体が少しばかり震えた。
上空の太陽は、現在の時刻が夕方に近いとあって早くも傾きつつある。

「今日の日没は午後5時30分となっています」
「ふむ……それにしても、今日の夜も冷えそうだな」

後ろから声を掛けてきたネルスに、フェヴェンナは単調な声音で答えた。

「しかし、このまま現針路を維持してもいいのでしょうか。敵は潜水艦部隊のみではないような気がします」
「エセックス級空母を擁する敵機動部隊が近くにいるかもしれない、と思っているのだな?」
「このような大船団を一気に叩き潰すのであれば、空母機動部隊で殴り込む方が、効率が良いですからな」

それを聞いたフェヴェンナは頭を2度、横に振った。

「ま、成るように成れ、さ」


その後、船団は南下し続けたが、午後6時には偽装針路を取るため、一路南東方面に転舵し、10リンル(20ノット)の速力で航行し続けた。


午後6時20分 ノア・エルカ列島沖東方530マイル地点

護送船団を発見したキャッスル・アリス機は、一時北東方面に離脱したが、離脱から40分後には針路を母艦へ向けていた。
その頃には日が落ち、辺りは真っ暗闇となった。
母艦であるキャッスル・アリスは、艦載機を誘導するために電波を発信したため、クレイトンとロージアの乗る偵察機は、誘導電波に沿って母艦へ戻る事ができた。
午後6時には、機上レーダーがキャッスル・アリスを探知し、クレイトンはその艦影を目標に飛行を続けた。

「機長、前方下方に明かりが見えます!母艦です!」
「OK。こっちからも見えたぞ」

239ヨークタウン ◆.EC28/54Ag:2017/07/04(火) 23:26:49 ID:PM3/LMsM0
クレイトンが喜びの声を上げるのを耳で聞きつつ、ロージアは平静さを保ちながら次の指示を下していく。

「夜間着水になる。訓練通りに、慎重にやってくれよ」
「勿論です。では、行きますよ!」

クレイトンの掛け声とともに、機体が母艦の近くに向けて速度を上げていく。
程無くして、母艦上空に到達すると、クレイトンは愛機の速度を緩めつつ、上空を旋回する。
2度、3度と旋回を繰り返すうちに、速度は更に緩まり、クレイトンは慎重に期待を操りながら、着水準備に入った。
エンジンのスロットルを絞り、機体を水平に保ちながら、ゆっくりと下降していく。
着水の瞬間は最も緊張する時だ。
着水事故が起きた時のために、2人は風防ガラスを開ける。
外から冬の冷たい風が容赦なく吹き込み、2人の体が急速に冷えていく。

「今回も、上手く行ってくれよ」

ロージアは寒さに震えつつも、小声で着水成功を願う。
空母に乗っていた時は、着艦時に着艦フックがワイヤーを捉えてくれれば、強制的に減速する事ができた。
しかし、水上機は、常にうねりを伴い、安定しているとは言えない海上に降りなければならないため、着水は非常に難しい。
訓練中に、僚機が着水に失敗して全損事故を起こしたのを見ているロージアは、空母艦載機とは違った難しさがある事を、真に理解していた。
機体の右手に、母艦が見えてきた。
真っ暗闇の中にサーチライトで位置を知らせるキャッスル・アリスの姿は、心の底から頼もしいように思えた。

「着水します!」

クレイトンからそう伝えられると、ロージアは万が一の時に備えて、体を身構えた。
唐突に機体下部から突き上げるような衝撃が伝わる。周囲からは、フロートが海水を切り裂く音が響いて来る。
ドスンという衝撃が伝わると、次は機体が一瞬だけ浮いて軽やかな浮遊感を感じたが、すぐにまた下部から衝撃が伝わり、そこからこすり続けるような音と
振動が機体を震わせ続ける。

240ヨークタウン ◆.EC28/54Ag:2017/07/04(火) 23:27:35 ID:PM3/LMsM0
フロートから水しぶきが上がり、海水の一部は操縦席や後部席にまで振りかかってきた。
着水からそう間を置かぬ内に、2人の機体はキャッスル・アリスのほぼ右真横の位置で停止した。

シーラビットが艦の右側20メートルの位置に停止すると、ベルンハルト艦長が矢継ぎ早に指示を飛ばし始めた。

「艦載機収容急げ!見張り員、周囲の警戒を怠るな!ここで敵に襲われたらあっという間にやられるぞ!」

ベルンハルトの指示に急き立てられるかのように、艦載機の収容は順調に行われ、程無くして、シーラビットは艦内に収容された。
収容作業を見守ったベルンハルトは、艦橋から司令塔に降りた所で、通信員から1枚の紙を手渡された。

「艦長、群司令より命令であります」
「ご苦労」

ベルンハルトは、紙面に書かれた命令文を見た後、深く頷いた。

「さて、遂に本番か……この先どうなる事かな」

彼は、そうぽつりと呟いた後、艦内放送を行うため、マイクを手に取った。

241ヨークタウン ◆.EC28/54Ag:2017/07/04(火) 23:28:10 ID:PM3/LMsM0
SS投下終了です

242名無し三等陸士@F世界:2017/07/05(水) 16:49:27 ID:brS9mKss0
うおー待ってた甲斐があった
作者超乙

243名無し三等陸士@F世界:2017/07/05(水) 21:08:29 ID:dr5pgCdc0
大雨特別警報
num.to/814977904859

244名無し三等陸士@F世界:2017/07/06(木) 20:45:24 ID:3pTbBygo0
投下乙です
護送船団、一度は運が味方したが二度はなかったか
あと魔法石がらみの問題、後々キャッスル・アリスにとって命取りになりそうな…さてどうなる?

245名無し三等陸士@F世界:2017/07/07(金) 23:48:22 ID:Nr8Xppbo0
投下乙です

26ノットまで出る優秀船
これあれだ単船全速力航行したほうが潜水艦による被害が減る船だ
せっかくワイバーンという垂直離着陸できる装備があるのに
戦力予備がなくて船団に持ってこれないのは末期ならでは
この時点でシホールアンル商船はどのぐらい被害を受けてるのだろうか?
もしかしたら潜水艦でもなく空母でもなく巡洋艦あたりが殴り込んでくる可能性も

リバティー船「量産が効くと聞いて」
シホット「数おかしい」
ちなみにリバティー船以外にも作った貨物船も含めると
5000を余裕で超えるとかおかしい

246名無し三等陸士@F世界:2017/07/08(土) 13:25:35 ID:1cB0piDI0
うぽつです
発見された輸送船団、はてどうなるか…

247名無し三等陸士@F世界:2017/07/09(日) 12:47:04 ID:aBBY4nQI0
多くの犠牲のを出して、必死に潜水艦から守り抜いた輸送船も、あとちょっとのところで航空部隊に沈められてしまう未来が見えるのですが...

248名無し三等陸士@F世界:2017/07/09(日) 15:19:48 ID:iGUq2.lEO
元世界のシャルンホルスト&グナイゼナウみたいに、アラスカ級巡戦を主体に襲撃部隊編成して護送船団を叩くのも良さそうかな?

249名無し三等陸士@F世界:2017/07/25(火) 13:26:36 ID:P7Va0zYs0
>>247

ボロボロになりながらも入港して接岸し、軍港の責任者と敬礼を交わしている時に空襲警報が……

250ヨークタウン ◆.EC28/54Ag:2017/09/09(土) 22:48:00 ID:V47gl7Ss0
大分遅れてしまい申し訳ございません。今現在、色々と悩みながらもなんとか制作を続けております。
最悪でも、9月中までには更新したい所です。

ひとまず、レス返しをば…

>>242氏 ありがとうございます!
しかし、また間が空いてしまいましたね……
我ながら情けない限りです

>>243氏 運命の女神は米側に味方してしまいましたね。
ですが、キャッスル・アリスも地味に不安抱えているので、この先、無事に攻撃できるかどうか……

>>245氏 シホールアンル帝国は、開戦前には1300隻の商船を保有し、開戦後には500隻を建造しております。
ですが、米側の攻撃の影響で、1486年(1946年)1月時の保有数は700隻を下回っています。

>潜水艦でもなく空母でもなく巡洋艦あたりが殴り込んでくる可能性も
巡洋艦主体の打撃部隊の方が船団襲撃には向いてそうですね。特に、シホールアンル海軍の主力が壊滅した現在は
本当にやりたい放題です。

>>246氏 潜水艦部隊の襲撃されて、どえらい目に遭う事はほぼ確実ですね……

>>247氏 >>249氏が言われる通り、米艦載機に蹂躙されまくって何もかもが台無しになってしまうでしょうな…

>>248氏 第5艦隊所属のアラスカ級巡戦は、2隻とも損傷大なので、今現在は本国のドックで修理中ですね
どんなに早くても、今年の4月までは前線に出られないかもしれません
とはいえ、アラスカ級がいなくても、デモイン級を始めとする優秀な巡洋艦部隊で、船団襲撃は充分に行えるかと思います

まぁ、敵にもなけなしの戦艦がいて、そいつらが加わる時もありそうですが、遭遇した時はジャブの連打で(wows脳

251名無し三等陸士@F世界:2017/09/10(日) 17:44:15 ID:Z7mT7VDw0
>なけなしの戦艦

なぜだろう…信濃ってワードがふっと…w

252名無し三等陸士@F世界:2017/09/11(月) 15:30:10 ID:P7Va0zYs0
「シホットの戦艦か……駆逐艦のエスコートもたった数隻。やるぞ。雷撃戦用意!」

253名無し三等陸士@F世界:2017/09/12(火) 11:33:58 ID:7n9rWn1s0
 フリンデルト帝国に本土から2400㎞先のルキィント列島、ノア・エルカ列島に対して侵攻する能力がある辺り一応列強国の範疇に入ってるんですね。
使者の口ぶりからして侵攻軍は編成準備段階に入ってる様ですが、アメリカ側はフリンデルト帝国の海軍力については把握しているんでしょうか?

254ヨークタウン ◆.EC28/54Ag:2017/09/29(金) 17:04:28 ID:13KWRoLo0
>>251-252氏 
大物食いは潜水艦乗りのロマンですからな。
そして、それが果たせるだけの実力は充分にあるので、戦果は出せるでしょう

>>253
フリンデルドもマオンドにやや劣るぐらいで、十分な列強国です。
保有する海軍力も強力で、軍艦の性能的にはマオンドに迫る程です。
米海軍情報部は、マオンド海軍は竜母こそ保有していない物の、超弩級戦艦クラスの主力艦
8隻を含むかなりの規模の海軍力を有しているとの報告を、海軍首脳部に伝えています。
それに加えて、フリンデルドは急速な技術開発を進めており、国力自体も順調に成長し続けています。

戦後は、対フリンデルドを見越した戦略を立てる事は、ほぼ間違いないでしょう。

255名無し三等陸士@F世界:2017/10/06(金) 21:39:17 ID:PWWuALII0
>なけなしの戦艦
現時点でなんとか動けそうなシホールアンル帝国の戦艦って第二次レビリンイクル沖海戦に参加して生き残った
ケルグラストとクロレク、そして竣工したばかりのロェリーネルスくらいだな
あとオールクレイやレンベラードは結構前から動向不明だが、どうなったんだろ

そして調べてる最中に気がついた
クロレク、トアレ岬沖海戦でアラスカに沈められたんじゃなかったっけ…

256 ◆3KN/U8aBAs:2017/10/07(土) 00:21:12 ID:mllP.FRo0
ご無沙汰してます。
> ヨークタウン氏
毎度毎度楽しませていただいております。
通商破壊ってやってる側は楽しいですよね。何もしなくても敵が弱るから。
しかし商船隊の損失も船体の大きい外航船が主体でしょうし実際の海運力は額面の数字以上に厳しいでしょうね。

NATO軍ネタ小説を書いておりましたが、
どうも国家間の戦争よりも戦後の話のほうがたくさんネタが膨らんでる状態です。
細かい世界観がまだ固まってない状態ですが先にそっちから消火しようか悩み中です。

257名無し三等陸士@F世界:2017/10/07(土) 09:54:45 ID:P7Va0zYs0
>なけなしの戦艦

「ドックに入れて中を埋めて、不沈砲台にしよう(白目」

258ヨークタウン ◆.EC28/54Ag:2017/10/07(土) 11:04:27 ID:13KWRoLo0
レスありがとうございます

>>255
これ、言うの忘れてたんですが…クロレクが喪失したのを、自分が記憶違いでそのまま生還した
事にしてましたね…
そのクロレクに入る枠は、実はレンベラードの予定でした
更新の間隔開けると碌なことにならんですな……本当に申し訳ないです

>>◆3KN/U8aBAs氏 お久しぶりです。
通商破壊は、やられてる方はストレスマッハですから、そのうち、色々と壊れそうですな

>NATO軍ネタ
ご自分のペースで書かれてもよろしいでしょうな。
なお、当方は本来のペースが崩れまくってアカン模様(大馬鹿

>>257氏 沈まないけど、無力化は出来るので結局は……

259 ◆3KN/U8aBAs:2017/10/10(火) 20:38:54 ID:99azSPfg0
一回SSの書き方を鍛えなおすために戦後OR後方ネタで一本書こうと思います。
いくつかネタがあるので一部を投下。参考までに読みたいネタを選んで頂ければ。(13日に一旦〆)
A. 「かぜ」が吹くとき
B. ゼロから始める土建屋万歳計画
C. 覇権国家の「総括」

260ヨークタウン ◆.EC28/54Ag:2017/10/11(水) 13:13:27 ID:13KWRoLo0
どれも甲乙つけがたいものですが……特に選ぶとしたら、自分はCを読みたいですかな

261undefined:2017/10/11(水) 18:29:10 ID:09HlkyNU0
俺もCで

262名無し三等陸士@F世界:2017/10/11(水) 20:39:56 ID:V3J1W.ao0
C

263 ◆3KN/U8aBAs:2017/10/14(土) 23:55:06 ID:cWlnjSDo0
ご無沙汰です。Cの希望しかなかったのでCで進めさせていただきます。
短いですがプロローグを投下します。

様々な樹木が周囲を覆い隠し、茂みが前に走った車のわだち以外を走ること拒否するかのように生い茂る。
そしてその間を針で通すかのように引かれた道をハンヴィーはひた走る。最近舗装されたらしいが、砂利道での乗り心地はフリーウェイに比べれば曲乗りに近い。
ドライバーは気さくな人ではあったが今は無言だ。彼曰くこの森はたびたび盗賊が出没するそうだ。
私は今、ある地方都市に駐留する部隊への補給を行う車列の中にいる。そこで私は地元の住民と兵士たちの交流を取材するつもりだ。
ハンヴィーが止まった。無線機が淡々とした言葉を発している。肝心なところはわからないが、どうやら前に何かあるらしい。
「おい、カメラマン、仕事だ。しばらく作業を待っててもらうから撮影してこい。オレッド、ルイス、彼に同行しろ。」
ドライバーのマルツ軍曹の「ご厚意」で兵士たちの作業を撮影することになった。同行する二人の兵士も車から降りている。
「ここにおける大事な仕事だからな。しっかりと焼き付けておけよ。」
私が車から降りるときの軍曹の顔はどこか思わせぶりな表情をしていた。

「とりあえずこれをつけておけ。」
車列の前へ向かう途中、ルイスと呼ばれた黒人伍長は私にマスクを押し付けた。風に乗ってすえたにおいが鼻を衝く。

車列の前にあったのは破壊された荷車とその持ち主の哀れな姿だった。ハエがたかっているところを見るとそれなりに時間がたっていることは容易に推察できる。
持ち主の体には刀傷が生々しく残り、彼のものと思われる馬には矢が何本も刺さっていた。彼の言っていた盗賊にあやめられたのだろう。
私がカメラを向けたのを見ると、荷車に集まったマスクをつけた兵士たちは二手に分かれて行動し始めた。
一組は道路のわきの木々の薄いところにスコップで穴を掘り始め、もう一組は荷車から馬を切り離そうとしていた。
「どいてどいて。」後ろから声をかけられて道を譲ると兵士たちが大きな袋を担いで掘りかけの穴の近くへ走っていく。
もう少し詳しく撮影しようと近づこうとしたが、ルイスに止められた。
その時、私は作業をしている彼らが手袋と作業着をテープでつないでいることに気づいた。
しばらくすると、穴が掘り終わり、同じころに人で運べるレベルまで荷車が解体されていた。
穴の底に車列から運んできた袋から白い粉をまんべんなく振りかけると、兵士たちは穴に死体と荷車の残骸を投げ込み、
その上にまた袋の白い粉をかけて掘った土を埋め戻し始めた。兵士たちの動きはどこか慣れが入っていて、無駄な動きや戸惑うそぶりはみられなかった。

「これが、この世界の現実だよ。」
ルイスは隣で私にそう言った。戦争でこの世界の支配体制が崩れたために、こういった盗賊の被害が増えているのだろう。
国家と国家の戦争は終わったが、それが必ずしも平和を意味するとは限らないのだ。

なお、このテープがアメリカ本土のデスクや茶の間に流されることはなかった。異世界の門をくぐる前に検閲で削除されたようである。

264名無し三等陸士@F世界:2017/10/15(日) 20:08:45 ID:goCvEF.k0
ヨークタウンさん
お預けがそろそろ辛いです。

265ヨークタウン ◆.EC28/54Ag:2017/10/16(月) 12:07:48 ID:13KWRoLo0
>> ◆3KN/U8aBAs氏
大国が潰れたら潰れたで、その後の厄介ごとが生まれるのは、ある意味必然ですな…

>>264
納得いく文ができないので辛いです……筆力をお持ちでいらっしゃるのならば、自分に
恵んで頂けませんか(爆

266名無し三等陸士@F世界:2017/10/16(月) 22:00:13 ID:/z.kbFnY0
>>263
投下乙
国は倒したけど厄介事が残る
中東でよく見るあれ状態になってしまうのも仕方ないというか
なんというか

>開戦前には1300隻の商船を保有し、開戦後には500隻を建造しております。
>ですが、米側の攻撃の影響で、1486年(1946年)1月時の保有数は700隻を下回っています。

ブリテンとか日本に比べれば被害は少ないな(白目
なお離島や船主へのダメージ
ついでに国民から海軍への評価が(ry
海軍陸軍トップのメンツは仲良くできそうだけど
現場レベルだともうヤバそう
海軍が壊滅した今陸軍への負担がうなぎのぼりだし

ヨークタウン氏の投下が待ちきれない人は
ttp://www.eukleia.co.jp/eushully/an003.html
をやろうか

267名無し三等陸士@F世界:2017/10/17(火) 06:26:54 ID:tVE0sPfQ0
男がプレイするならこっちだ!
面白いよ
Rule the waves
ttps://simulationian.com/2017/02/rulethewaves/

268名無し三等陸士@F世界:2017/10/17(火) 06:34:55 ID:tVE0sPfQ0
あとこんなのも
原始的なSAMで米帝機を鴨打ちしよう(無理
SAM Simulator
ttps://sites.google.com/site/samsimulator1972/home
スレ違い失礼致しました

269名無し三等陸士@F世界:2017/10/28(土) 10:38:36 ID:RIJGGSMU0
SSを書くだけの気力がなかなか溜まらないので繋ぎのやっつけイラスト

ttps://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=65625606

270 ◆3KN/U8aBAs:2017/12/02(土) 10:58:34 ID:wXRzNQb.0
ご無沙汰してます。
練習用小説の続きとなります。

ナイフルはある地方の中心都市である。中央の丘を利用した城塞とそれに近接する寺院を中心に城壁に囲まれた旧市街とその外側の新市街に大別される。
以前、城塞はこの地方の軍隊の拠点として利用されていたが、NATO軍に占領されてからは城門を閉鎖して半ば放置に近い状況であった。
補給物資の車列はNATO軍の拠点となっている郊外のFOBに入った。
ほかの地域でもそうだが基本的にNATO軍は主要な補給路の近くに基地を作り、そこを起点に治安維持や軍政業務を行う。
新しく作るため土地の収用が必要ななるが、この世界では自動車やヘリコプターなどないので基本的にすべて一から作るしかないのだという。

「ルイスは私の代わりに到着の報告をしてきてくれ。残りは荷下ろしを手伝え。こっちだ、カメラマン。」
ハンヴィーから降ろされて、軍曹に案内されるまま基地内を移動する。後ろでは兵士たちがトラックから荷を下ろしていた。
その数台後ろではフォークリフトが大きなコンテナを持ち上げている。しばらく歩き、補給所とは別の区画に入ると、腕組をした強面の兵士が立つ一角に案内された。
「マルツ。こいつが俺のところの新入りか。銃は撃てるんだろうな?」
「銃で射撃はできないが、カメラで撮影はできるぞハイド。お前が銃を使うんだ。スティーブ、こいつはハイド。この地域で君を案内してくれる。ハイド、こちらはスティーブ、本国のジャーナリストだ。」
「はじめまして。ニュース・エコーのスティーブンソンです。」
「ブラボー中隊、第1小隊、ハイド曹長だ。お会いできて光栄だ。今後は我々の小隊の指示に従ってもらう。小隊長は今本部にいるので後で紹介しよう。」
「この面だが、気さくないいやつだ。何も心配することはない。」
「余計なことが言う暇があったら自分の部下のところへ戻ったらどうだ、『軍曹』?」
へーへーわかりましたよ、と聞こえるようにつぶやきながら軍曹は戻っていった。

「この基地を案内しよう。まずは射撃練習場だ。面白いものが見れるぞ。検閲官が通してくれるかは別だがな。」
そう言われながら案内されたが、射撃練習場へと近づいても銃声は聞こえてこなかった。代わりに誰かの大きな声が聞こえる。
「よーし、スティーブンソン、シャッターチャンスだ存分に撮れ。検閲官に没収されるだろうがな。」
『〜〜〜〜!これは〜〜〜〜〜!だから〜〜〜〜』
射撃練習場では、アメリカ兵が現地の言葉を大声で上げていた。
異世界の言葉は勉強していたものの、軍隊の用語は学ばなかったのですべてを直接聞きとることはできなかったが、それでも大体の意味を察することはできる。
ここが射撃訓練場で、彼の手元にマガジンのないAKライフルとチェコ製拳銃があれば何をしているかは想像に難くない。
ただし、ここが東欧と違うのは、学生たちが『ヒトではない』ということだろう。

「あいつらは現地の民兵隊だ。戦争でこの地域の支配階級が死ぬか逃げ去ってしまってな。民生や治安維持の組織を一から作らなければならなくなったんだ。他の地域も似たようなものだよ。」

指導役の兵士が傍らに立つ中、我々に比べ長い耳をした男性が拳銃を的に向けて構えている。その後ろには狼男や羽を背負った男性が並んでいた。この地方の中心であったため、距離、種族や年齢を問わず多彩な人々が生活しているようだ。ただし、その中で、「我々によく似た」人間の姿は数えるほどしかいない。

異世界で軍隊が統治を行っていることは、それがたとえ一時的なものであるとはいえ、メディア、あるいは議会などでの政治的議題に載るものであった。
私も、この地方に来る前に、異世界でのNATO軍総司令部での取材で、民生担当の将校に同様のことを質問した。
「我々は、異世界の『人種差別的な』政権とは違う。我々の軍法、および現地のルールにのっとって、可能な限り、すべての民衆に平等に接するように努力している。
それがたとえかつて敵であった者であったとしても、最低限守られるべき権利はある。」
確かに総司令部では、各地の有力者を集めて勉強会が行われていた場面を見学させてもらえた(ただしカメラは禁止された)し、各地では今行われているような自警組織の編成も行われている。
我々によく似た「ヒト」が自警組織に参加できているところから見て、かつて敵であったからという理由でこういった組織に参画する機会を奪われているわけではないようだ。

NATOの基地で東側の銃声が鳴り響く。

271名無し三等陸士@F世界:2017/12/02(土) 19:41:46 ID:ZqrZSx6Q0
もしも検索 ⇒ bit.ly/2kJFRlx

272名無し三等陸士@F世界:2017/12/02(土) 20:35:03 ID:ZGTTPISs0
乙です
銃で武装したエルフ兵は狙撃がエグイことになりそう

この世界に民主主義(に加えて共産主義)という恐るべき劇薬が広まるのか...
この世界の「ヒト」はいくら酷似していても事実上地球人とは別種族でしょうから、
そういった意味でもエルフ?や狼男といった種族との区別もつけないのでしょうな

273名無し三等陸士@F世界:2017/12/06(水) 19:00:35 ID:ltLdW.lY0
乙です

なんかエルフってあんまり君主制を引いてるイメージがないな
長老会とかがやんわり統治してるって感じ
あるいは原始共産主義的な集落が森ごとに合って、それらの緩やかな連合体的な感じ

274 ◆3KN/U8aBAs:2017/12/16(土) 00:33:07 ID:Em0zPSLA0
某所でWorld in Conflictというゲームが一時期無料配布されてましたね。
おかげで筆が進みましたので>>270の続きを投下。

小隊長のバノン少尉や基地の他の隊員の協力のもと、最初の数週間はこの地域の風習などを学びつつ、現地民兵の訓練を取材させてもらった。

訓練は基本的にアメリカやイギリスのそれを元とし、検問の設置や不審物の捜索など治安維持任務の分量を多めに配している。
その代わり、大砲や戦車などを用いた訓練は全く行われなかった。
大きな機材を使うと言えば、適性があると判断された隊員に自動車の教習を行ったことか、
アメリカやヨーロッパの町中で売られているピックアップトラックに乗せたことぐらいだろうか。
民兵たちの使う武器も初日に見かけた東側(チェコスロバキア)製の小銃や拳銃のみで、ピックアップに搭載したものを除けば、
機関銃すら用いることはなかった。(テクニカルの機銃も東側製である。)こ
の世界では銃や大砲といった火薬を用いる道具が発達しなかったこと(魔法で同様の現象を作り出すことは可能なそうだが)、
治安維持に大砲や戦車は必要ないとの判断から、装備を限定したらしい。確かに、市街地ならば重い機関銃より拳銃のほうが優位かもしれないが、
都市部以外、例えば先に通った森などでは機関銃のほうが効果的なように感じる。

訓練を観察していると、あることに気づいた。ある一定の身体的特徴を有している者に、一定した適性が存在することである。
例えば長い耳を持つ人ならば、射撃訓練で他の人よりも早く教官を満足させることができたし、
手足の短い人は各種装備が入って重くなったバックパックを簡単に担ぎ上げる。狼男は不審物の捜索で非常に高い成績を上げた。
こちらに来てから早い段階で教えられたことだが、この世界には我々の世界における「ヒト」によく似た生物が複数存在し、
お互いを「種族」と呼んで区別している。いわゆる小説や映画に出てくるような存在が(本にあるような形で)実在するわけである。
こういった形質の違いについて、主に遺伝学的なアプローチが本国で行われているが、いまだに結論は発表されていない。何か見つかっても発表されるかは疑わしいが。

なぜこの点に気づけたのかというと、訓練の手法が基本的に我々のやり方で行われるからである。
訓練、およびその前の編成の決定は当人の希望や出自にかかわらず、教官や基地司令が多少調整するがランダムに決めることになっている。
そのため、基本的に種族や出身地がバラバラのチーム(6名)編成が出来上がる。
これは第一次世界大戦で郷里、出身ごとに部隊を編成し、そのまま壊滅して地域コミュニティの存続に支障をきたしたことの対策であるのだが、
この世界では個人(種族)の身体的差異をよりいっそう強調することになってしまっている。
さらに、以前の統治の名残からか種族間の仲は険悪で(そうでもしなければ反乱になるからであろう)この訓練と編制手法は当の訓練兵たちには非常に不評であった。
我々の世界のやり方が、必ずしもこの世界になじまないこと、ましてや優越することがない場合があることを示す典型的な例である。
しかし、軍隊はこの方法を継続していた。多少無理やりな方法でも、種族間の軋轢を緩和することができると考えていたこと、
そしてなにより「そのほうが効率的である」とかたくなに考えていたからである。彼らは自らが「支配者」と思われつつあることに今のところ気づいてはいなかった。

投下終了。これでこの話はいったん区切りとします。
次は「ネット小説らしく」会話文重視で書いてみたいなと。

275名無し三等陸士@F世界:2017/12/16(土) 18:54:21 ID:xcVmLF4g0
乙です
様々な種族で構成された六人一組のチーム、ですか……それ何てウィザードリィ?
あと作中でチェコ製の銃器が使用されてますが、統一で要らない子になったであろう旧東ドイツ製銃器も結構使われてそうだ

276 ◆3KN/U8aBAs:2017/12/23(土) 21:11:08 ID:gMExFQgE0
見切り発車で書き始めましたけど意外と話が展開していったものです。
以下コメ返し
>>265 266
戦争によって空白ができるとそこから不安定化が起こるのは東南アジアやイラクで見られましたからね。

>>272
> 銃で武装したエルフ兵は狙撃がエグイことになりそう
じゃけん狙撃銃を供与しましょうね〜

>>275
ウィザードリィを意識したわけではないんですが、結果的にそうなっていることは否定できませんね。
また現地兵の訓練には東側の銃を用いています。東欧各国への経済援助の一環として大量に買い込んでいる設定です。「購入代金」なので使い道は完全に各国政府にゆだねられています。
構造も単純ですし、西側の武器とは規格が違いますからね(ここ重要)

277名無し三等陸士@F世界:2018/01/01(月) 02:49:00 ID:cj58Jmoo0
結構経つだけど、ヨークタウン様の作品の更新って絶望的?
せめて月1でいいから今月更新できるできないとか生存報告がてらの報告あれば嬉しいのに

278名無し三等陸士@F世界:2018/01/01(月) 13:13:40 ID:xcVmLF4g0
A happy new year!
今年もこのスレが(そして他のスレも)盛り上がりますように…

>>277
ツイッター見なされ
ttps://twitter.com/USSCV5bigyorky

279sage:2018/01/28(日) 09:48:40 ID:B8RxRp8k0
>構造も単純ですし
ここ地味に重要だけれどもこちら側からすれば単純な構造の小銃ですら、
異世界では再現が困難である事を前提とした供与であるとも言えます。
ごく少数の小銃を手作りで作るというのは技術的には一応可能です。
ベテラン工がフライス盤を駆使して削りだし、ライフリング用の
ブローチ盤も手作りで作っていたとすれば可能ではあります。
しかし、数は揃えられません。
三十年戦争以前の欧州や日本の戦国時代では初期の先込め式マスケット
ですら一万の兵に千丁もあれば大軍と見做されていました。
異世界でもこれぐらいまでの銃器の配備までなら可能でしょうがこれ
以上の数は揃えられません、規格の問題も大きいですが大量生産が
可能になるのは地球世界でも産業革命(工業化)以降です。
産業革命以前は旋盤を動かす安定した動力がなかったのが最大のネック
で職人を完全な使い捨て、使い潰しで働かせたとしても数は揃えられ
無いのです(奴隷労働させたらサボタージュの危険性も出ます)。
工作機械(これを自作するにも多大な技術力を要しますが)などは整備さえ
していれば、人間が疲れ果ててしまうような作業でも延々と製造できます
からね。
産業革命以前に旋盤の動力として使われていたのは馬でした。

パキスタンやアフガン、フィリピンのゲリラは今でも手作りでAK作って
るだろとか言う人も居ますが、AKはシリーズや製造国が違っても
大部分の部品に互換性があるから何丁かあれば共食いで再生(リストア)
出来るというだけで異世界で自給自足出来るのは精々、木製銃床とか
ネジくらいのもんでしょうな。
銃身は使えば使うほど摩耗し、必ず交換命数が来てしまいます。
銃器を供与されていても交換部品の供給を止められてしまえばそれまで
です。
バレルを削り出せる特殊旋盤まである工場は地球世界のゲリラの持って
いるような場所にはそうそうありませんので。
尚、調整もなしに部品が交換出来るのは、日本だと第二次世界大戦以降
(JIS規格制定後でも出来ている分野は少なかった)、これは枢軸内での
工業先進国のドイツでも同様でルガーP-08などは、部品に共通のシリアル
Noが振ってありました。

280名無し三等陸士@F世界:2018/02/15(木) 09:08:45 ID:WDM44Um20
昔、何かの映像でゲリラっぽい人?が工作機械で削り出しで銃を作ってるところは見たことある。
技術援助で、工作機械自体は提供されてる。 もっとも、工作機械の摩耗する部品を入手できるかは知らない。
 日本の商社は知ってて、融通してそうだけど。その辺りの感覚がゆるいし。

281名無し三等陸士@F世界:2018/02/15(木) 22:54:41 ID:B8RxRp8k0
>>280
>何かの映像でゲリラっぽい人?が工作機械で削り出しで銃を作ってる
いや、だからそれが279で言ってた「手作りでAK」なんですってば。
一応通常兵器関連であっても外為法の関係で商社であろうがどうだろうが
持ち出せないものは決まってますよ。

282ヨークタウン ◆.EC28/54Ag:2018/06/16(土) 09:05:58 ID:4r/3PIrQ0
>>265氏 被害が少ない(甚大であることには変わりない
という事ですね、分かります
その他諸々への影響も大きくなりつつあるので、シホールアンルは非常に辛いです

あと、>>267氏や>>268氏も紹介してくれましたが、色々なゲームがあるもんですなぁ
少しばかり興味がわいてきましたね

>>269 外伝氏、応援イラストありがとうございます!
シホールアンルの兵器ショーな感じでいいですね。
しかし、この女騎士さんもいいっすなぁ。1人ぐらい持ち帰ってもバレないでs(ry

>>◆3KN/U8aBAs氏 SS投稿お疲れ様です。
今回も良い物を読ませていただきました。占領地域の現地種族を教育して仕立て上げるのはなかなか難儀な事でしょうが、
練成に成功すれば、なかなかに頼れそうな武装組織になりそうですな。

>>277氏 長い間お待たせして申し訳ありませんでした。今日あたりに投下しますので、しばしお待ちを
あと、>>278氏の言われる通り、ツイッターで情報発信しておりますので、そこを見るのも良いかと思われます。

それでは、お待たせ致しました。
これよりSSを投下いたします

283ヨークタウン ◆.EC28/54Ag:2018/06/16(土) 09:06:40 ID:4r/3PIrQ0
第285話 海上交通路遮断作戦(後編)

1486年(1946年)1月6日 午前3時 ノア・エルカ列島沖東方500マイル地点

潜水艦キャッスル・アリスの艦長を務めるレイナッド・ベルンハルト中佐は、艦長室で仮眠に入ってから、1時間足らずで部下に起こされた。

「艦長、起きて下さい」
「……む、来たか?」

ベルンハルトが目の前にいる部下に聞くと、部下はすぐに顔を頷かせた。

「よろしい。仕事の時間だな」

ベルンハルトはそう独語しつつ、ベッドから起き上がり、ハンガーにかけていた制帽を頭に被りながら、発令所に向けて歩いて行った。
急ぎ足で発令所に辿り着くと、平静な声音で副長に尋ねた。

「敵かね?」
「はい。2分ほど前に、水上レーダーが敵らしき反応を捉えました」

副長のリウイー・ニルソン少佐は、台の上に広げている海図に、持っていた赤鉛筆の先をなぞらせて、ある一点で止める。

「位置は本艦より北西、方位278度、距離は約20マイルです」
「速力は?」
「現在、16ノットで東に向かっております」

ベルンハルトは、海図上の自艦の位置と敵と思しき反応の位置を交互に見つめる。
敵の針路は、キャッスル・アリスの位置からちょうど北の辺りを通り過ぎる形になっていた。
キャッスル・アリスが幾らか北に進めば、敵を捕捉し、雷撃を敢行する事ができる。

「艦長、レーダー員から続報です。反応は今も増え続けており、スコープ上には6隻の艦影が映っているとの事です」

284ヨークタウン ◆.EC28/54Ag:2018/06/16(土) 09:07:18 ID:4r/3PIrQ0
航海長のレニー・ボールドウィン大尉がベルンハルト艦長にそう伝える。

「6隻か……つまり、この反応はアタリという事だな」

彼はそう言うと、満足そうな笑みを浮かべてから両手を叩いた。

「通信長!旗艦に報告だ!」
「はっ!」

ベルンハルトから幾らか離れた場所にいた通信長が、返事をしながら体を振り向けた。

「我、敵船団をレーダーで探知せり。位置は本艦より北西、方位278度方向、距離は約20マイル。本艦はこれより、計画通り敵船団襲撃に向かう、
以上だ。すぐに送ってくれ」
「アイ・サー!」

通信長は、ベルンハルトから指示を受け取ると、すぐさま部下の通信員に、先ほどの報告文を送るように命じた。

「これより潜行する!」
「アイ・サー。潜行用意!甲板の見張り員は至急、艦内に戻れ!」

ボールドウィン航海長の声が艦内と甲板上に響き、甲板で見張りに当たっていたクルーは、大急ぎで艦内に戻っていく。
最後のクルーがハッチから艦内に入ると、いつも通りにハッチを固く閉め、それからハシゴを伝って艦内に降りてきた。

「急速潜行!深度40!」

ベルンハルトは次の命令を下し、艦のクルー達はそれに従って機敏に動いていく。
艦内に轟音が響き渡り、キャッスル・アリスは艦首を傾けつつ、急速に海面下に没していく。
艦の両舷から夥しい泡が立ち上がり、夜目にもわかる黒い艦隊が、波間に消えてゆく。
最初は艦首が没し、次に艦橋、そして、最後に艦尾部分がするすると、海面下に没していった。

285ヨークタウン ◆.EC28/54Ag:2018/06/16(土) 09:07:51 ID:4r/3PIrQ0
潜行を開始してから20分後、キャッスル・アリスは潜望鏡深度まで浮上しつつあった。

「浮上停止、針路・速度そのまま」

潜望鏡深度である10メートルに達した事を確認すると、ベルンハルトは新たな指示を次々と飛ばし始めた。

「魚雷戦用意!生命反応探知妨害装置始動!始動確認後、潜望鏡を上げる」

ベルンハルトの指示はすぐさま、ロイノー少尉に伝わる。
探知妨害魔法装置の置かれた部屋で、2人の魔導士が魔法石に入力された術式を起動し、程無くして、キャッスル・アリスの周囲にうっすらと、
青い膜のような物が展開された。

「艦長!術式展開完了。探知妨害魔法は正常に起動しております」
「よろしい。潜望鏡上げ!」

ロイノー少尉の報告を受け取ったベルンハルトは、次の命令を下した。
駆動音と共に潜望鏡が海面に上げられていく。
程無くして、潜望鏡が上げ終わると、ベルンハルトはペリスコープに張り付いた。
周囲をゆっくりと見回していく。
洋上は、上空の月明かりのお陰で夜間にもかかわらず、思いの外明るいように思える。
うっすらと視界の上隅に見える二つ月の月光が、洋上を照らしているようだ。

「……お、居たぞ」

ベルンハルトは、夜闇にうごめく何かを見つけた。
闇の中で、月光に照らされている艦影は、はっきりとは見えない。
だが、その特徴的な艦影を見分ける分には苦労しなかった。

「先導駆逐艦を視認。距離……5000。速力14ないし、16ノット。敵の針路は北東、方位55度」

286ヨークタウン ◆.EC28/54Ag:2018/06/16(土) 09:09:24 ID:4r/3PIrQ0
ベルンハルトは、駆逐艦の速力と針路を目測で確認してから、一旦は潜望鏡を下げさせる。
その後、水上レーダーを洋上に上げて最終確認を行った。

「こちらレーダー手。洋上の反応を再度確認しました。紛れもない敵護送船団です!」

ベルンハルトはレーダー手の側に駆け寄り、レーダースコープの反応をその目で確認した。
PPIスコープには、くっきりと敵護送船団の姿が浮かび上がっている。
外周には小型艦の反応があり、それらが輸送艦の周囲を取り囲んでいた。
敵船団は、キャッスル・アリスの前方を通過しつつある。
攻撃のチャンスは今であった。

「レーダーを下げ、潜望鏡を再び上げる。目標は、船団の外周にいる駆逐艦だ」

ベルンハルトは、再び潜望鏡を上げさせる。
海面上に潜望鏡が上がると、彼はペリスコープに取り付いて、目標の確認を行う。

「よし……いたぞ。敵駆逐艦が1……2……3……やはり多いな」

キャッスル・アリスから、距離5000から3000ほどの間にいる駆逐艦の数は意外と多いように思える。
敵は今、キャッスル・アリスに横腹を晒して航行しているが、駆逐艦は潜水艦の天敵だ。
何かの拍子でこちらが見つかれば、この駆逐艦群はすぐさま殺到し、キャッスル・アリスに爆雷の雨を降らせてくるだろう。
ベルンハルトは、胸の鼓動が幾分早くなるのを感じたが、平静な口調のまま指示を出し続ける。

「目標、船団先頭側の敵駆逐艦2隻。1番艦は距離4000。2番艦は距離3000。最初に1番艦を狙う……」

彼は、月明りに浮かぶ艦影を睨み据える。

「的速16ノット……距離4000。1番、3番、5番、発射用意!」

287ヨークタウン ◆.EC28/54Ag:2018/06/16(土) 09:09:57 ID:4r/3PIrQ0
魚雷発射管室では、水雷科員が21インチ魚雷を慎重に動かしながら、発射管に魚雷を装填する。
重さが1トン以上もある魚雷の装填作業は、非常に難儀な物であるが、水雷科員の動作は、慎重ながらもキレを感じさせる物がある。

「水雷長より艦長へ、魚雷発射準備完了!2番、4番、6番発射管も装填完了!」
「了解!」

ベルンハルトは水雷長からの報告を聞いた後、最初の目標である敵1番艦へ狙いを定めていく。

「目標、敵1番艦。1、3、5番……発射!」

彼の命令が艦内に響き渡る。
直後、前部の魚雷発射管から魚雷が発射された。
1番、3番、5番と、魚雷が順繰りに海中へ躍り出る。
ベルンハルトは息つく暇もなく、次の目標に狙いを付ける。

「続いて敵2番艦をやる。的速16ノット……距離3000!2番、4番、6番、発射用意!」


駆逐艦フロイクリは、輪形陣右側外輪部の3番艦として、前方の2番艦タリマの後方500メートルを8リンル(16ノット)の速力で航行していた。

「輸送艦1隻が機関の故障を起こした影響で、船団の船足が遅いままですな」

艦橋で薄暗い洋上を見据えていたフロイクリ艦長ルシド・フェヴェンナ中佐は、後ろで報告書を1枚1枚読みながら、状況報告書を書いている
ロンド・ネルス副長のぼやきを聞いていた。

「船足が早いとは言え、民間船用の質の悪い魔法石じゃ無理からぬことですね。全く、これだから足手まといの船は」
「副長。あの輸送船とて、今は海軍に編入され、乗員も我が海軍の将兵で固めた立派な海軍所属艦だ。あまり悪く言わんでも良かろうが」
「恐れながら……当方は事実を申したまでです」

288ヨークタウン ◆.EC28/54Ag:2018/06/16(土) 09:10:39 ID:4r/3PIrQ0
副長の容赦ない口調に、フロイクリは小さく溜息を吐いたが、その言葉は嘘ではない。

民間船に動力機関として搭載される魔法石は、軍用の物と比べて幾分質が落ちる。
その質も、アメリカがこの異世界に召喚され、本土が戦略爆撃を受けるまでは、幾らか手荒く扱っても故障を起こす事は少なかった。
しかし、84年以降から始まった、米軍の帝国本土空襲によって本土内の魔法石精錬工場や魔法石鉱山が次々と狙い撃ちされてからは、状況は
大きく変わってしまった。
今護衛している輸送艦は、民間の造船所が帝国中枢の命を受けて1484年9月頃から建造を開始し、1485年10月以降に本土北海岸の各造船所にて
就役した新しい船である。
排水量15000ラッグ(10000トン)という比較的大型の船体に、最高速力13リンル(26ノット)という性能は、物資の高速輸送にはまさに
うってつけであり、竣工した船は片端から海軍に編入され、主にルィキント、ノア・エルカ列島からの生産物資・補給品輸送に用いられた。
だが、この高速輸送艦が就役した時期は、ちょうど、米軍の所属するB-29による戦略爆撃が苛烈を極めている時期と重なっていた事もあり、当初は
輸送船に搭載される筈の魔法石は、南部領産の良質な物であったが、同地が度重なる戦略爆撃によって荒廃したため、急遽、帝国北部付近の魔法石鉱山より
精錬した魔法石が、この輸送船の動力源として使用される事になった。
だが、北部産の魔法石は、一部の鉱山を除いて良質とは言えない代物ばかりであった。
8リンルほどの巡航速度で航行するのならば、輸送艦は故障を起こすことなく航海を行う事ができるのだが、機関を全力発揮した場合、高確率で故障を起こしてしまう。
最大速力が発揮できなくなるのはまだマシな部類であり、12月初旬の輸送中には、機関停止を起こして、船団から落伍した船も現れる始末である。
これらの事から、輸送艦の艦長は、造船所の担当官から「機関に過度な負荷をかける事は極力避けるように」と、きつく言われる有様であった。
この事は、輸送艦を護衛する水上部隊の将兵にも伝わっており、副長のような口さがない将兵が、輸送艦を足手まといとののしる事は日常茶飯事だった。

「言いたい事は言っても、戦争は終わらんぞ。今は引き続き、対潜警戒を怠らんようにする事だ」
「は……乗員には改めて、そのようにお伝えします。しかし艦長……敵の潜水艦は北にいる筈です。この海域にはいないのではありませんか」
「いないと思った時に来るのが連中だぞ。ウェルバンルの例を見ても明らかだと思うが……?」

フェヴェンナは、言下に戒めの言葉を潜ませながら、くるりと顔を向けた。

「念には念を……と、言う事ですな」
「当然だ。しっかり警戒しておけ」

彼は副長にそう言ってから、顔を再び前方に向け直した。

その刹那、旗艦より緊急信が飛び込んできた。

289ヨークタウン ◆.EC28/54Ag:2018/06/16(土) 09:11:20 ID:4r/3PIrQ0
「旗艦より通信!敵魚雷接近!」

直後、前方から白い閃光が煌めいた。

「……!?」

この瞬間、フェヴェンナは意識を切り替えた。
見えた閃光はすぐに消えたが、そのすぐ後に、腹に応えるような轟音が海上に轟いた。

「旗艦、魚雷を受けましたー!あ、2番艦タリマ、急速転舵!」

フェヴェンナは、月明りにうっすらと照らされた僚艦が、急回頭する様子を見て即座に反応した。

「面舵一杯!急げ!魚雷が来るぞ!!」

フェヴェンナは大音声で命令を発した。
彼の号令を受け取った航海員が操舵手に指示を下し、操舵手は素早く舵輪を回した。
フロイクリの小柄の艦体が右に曲がり始める。
その瞬間、前方のタリマが、右舷側から水柱を噴き上げた。

「タリマ被雷!」

見張りの絶叫めいた報告が艦橋内に響いてきた。
この時、タリマは右舷側後部付近に被雷し、艦後部の推進基軸室と後部兵員室を破壊され、そこで待機していた8名の応急要員は全員戦死した。
タリマの被雷はこれだけに留まらず、右舷側第1砲塔横にも魚雷が命中した。
魚雷の弾頭は、駆逐艦の薄い腹を串刺しにし、第1砲塔弾薬庫付近にまで達してから炸裂。
この瞬間、砲塔弾薬庫に収められていた大量の砲弾が誘爆し、タリマは艦首第1砲塔付近から火柱を噴き上げた。

「タリマ、大爆発を起こしました!弾薬庫の誘爆を起こした模様!」

その知らせを聞いたフェヴェンナは、悔しさの余り歯噛みする。

290ヨークタウン ◆.EC28/54Ag:2018/06/16(土) 09:11:57 ID:4r/3PIrQ0
(タリマは致命傷負ってしまったか……!)

彼は心中でそう呟きつつ、伝声管越しに通信員へ向けて指示を飛ばした。

「通信士!旗艦との交信を行え!連絡がつき次第、敵潜水艦の追撃許可を取り付けよ!」
「了解!」

通信室の魔導士官は彼の命令を受け取るや、すぐさま旗艦へ魔法通信を飛ばす。
だが、旗艦メリヌグラムは被雷の影響で通信員に何らかの影響が出ているのか、返事はなかなか来なかった。
3分ほど待っても返事が来ない事に業を煮やしたフェヴェンナは、独断で動く事に決めた。

「事態は急を要する。第109駆逐隊の指揮は、ただ今より、このフェヴェンナが執る!通信士!第51駆逐隊旗艦に、我、第109駆逐隊の指揮を
継承せり。これより対潜先頭に入ると送れ!その後、僚艦キガルアに対潜戦闘、我に続けと送信せよ!」
「了解!」

フェヴェンナは通信士にそう送らせた後、返事を待つまでもなく、対潜戦闘に移った。

「対潜戦闘用意!機関全速!爆雷班、配置に付け!」


潜水艦キャッスル・アリスのソナー員であるリネロ・ウェルシュ1等兵曹は、ソナーから敵駆逐艦の物と思しき推進音が徐々に近づいて来る事に気が付いた。

「敵駆逐艦、近付きます!距離2800!」
「深度80まで潜行を続けろ」

その知らせに対し、ベルンハルトは驚く事も無く、冷たい口調で指示を下す。

「現在、深度30……32……34……」

291ヨークタウン ◆.EC28/54Ag:2018/06/16(土) 09:12:35 ID:4r/3PIrQ0
計測員が艦の深度を刻々と伝える。

「魔法石はしっかり発動していると聞いている。ならば、敵はこちらの正確な位置を把握できんはずだ」

ベルンハルトは、心中で魔法石のおかげだと付け加える。
現在、キャッスル・アリスは敵船団の針路から反対方向へ抜ける形で避退しようとしているが、魚雷の流れた方向から大まかな位置を掴んだ
シホールアンル駆逐艦が、海中に潜むキャッスル・アリスを討ち果たさんと、船団から離れて急行しつつある。
敵駆逐艦の発する生命探知魔法の効用範囲は、深度によって範囲が狭まって来るが、平均的な性能として、水深20メートル付近の探知範囲は、自艦から
半径2000メートルとなっており、そこから深くなるにつれて狭くなる。
最大探知深度である160メートルでは、探知範囲は半径800メートルに狭まるため、魚雷発射からどれだけ深く潜れるかによって、生存性が大きく変わって来る。

「敵駆逐艦、なお近付きます!速力、約30ノット。距離、2200!」
「毎度ながら思うが、敵側は音を直に聞くのではなく、魔法石の反応を“目視”しながら潜水艦を探すのだから、どれだけ速力を飛ばそうが探知に
支障を来さない。魚雷攻撃を受けてから迅速に反撃に移れる点で言えば、我が米海軍より優れていると言えるな」

ベルンハルトが半ば感嘆するように言うと、ボールドウィン航海長が頷く。

「まったくです。その点、我が合衆国海軍の駆逐艦は、音を聞かんといかんですから、あんな高速で走りまくるのはできません。いつもながら……
足が速いというのは羨ましいものですよ」
「この戦争が開始されてから、我が潜水艦部隊の損失が相次いだのは、それを知らなかった事にもある。色々と、シホット共の事を馬鹿に関する輩が
おるが……対潜能力に関しては、うちらと遜色ないだろうな」

彼はそう言いつつ、顔を上向かせた。

「ま、それも…探す相手が見つかればの話だ」
「敵駆逐艦、我が艦の後方を通り過ぎます!」

ソナー員の報告が発令所内に響く。

292ヨークタウン ◆.EC28/54Ag:2018/06/16(土) 09:13:23 ID:4r/3PIrQ0
敵艦はキャッスル・アリスの後方600メートルの位置を、約30ノットほどの速力で突っ走って行った。
その直後、ソナーは別の音を捉えた。

「海面付近に着水音らしき物、複数!」
「爆雷だな」

ベルンハルトはぽつりと呟く。
しばし間を置いて、くぐもったような爆発音と、振動が艦に伝わって来た。

「敵艦は本艦の位置を掴んでいないためか、見当はずれの所に爆雷を落としていますな」

ボールドウィンがそう言うと、ベルンハルトも頷いてから言葉を返す。

「探知されぬという事は、実に素晴らしいものだ。あの探知妨害装置を全ての潜水艦に設置すれば、敵の水上部隊は何もできんようになるぞ」

彼は心の底から、探知妨害装置のありがたみを感じた。
爆雷の炸裂音は、20を数えた所で一旦鳴りやみ、その10秒後に再び炸裂音が響き始めた。
キャッスル・アリスには、2隻の敵駆逐艦が対応しているようだが、敵艦は闇雲に爆雷を叩き込んでいるだけだ。

「深度50……55……60……」

キャッスル・アリスは、潜行を続けながらも、敵船団との距離を徐々に離しつつある。
艦の後方から、未だに爆雷の炸裂音が響いているが、キャッスル・アリスの乗員達は、奇襲を受けた敵艦がパニックになって、デタラメに爆雷を
落としているのだと言ってせせら笑っていた。

「深度65……70……」
「艦長、敵艦1隻が針路を変えました。こちらに近付きつつあります!」

ソナー員からその報告を聞いた時、ベルンハルトは特に警戒もしていなかった。

293ヨークタウン ◆.EC28/54Ag:2018/06/16(土) 09:13:57 ID:4r/3PIrQ0
「敵は、1隻ずつに別れて本艦の捜索に当たっているようだな」
「対潜水艦の索敵においては、悪くない判断かと思われます」

ボールドウィンは、敵側の判断を素直に評価した。

「敵艦、高速で後方より接近!」

ソナー員の報告が逐一艦内に響く。
各所で配置につく乗員達は、上空からうっすらと聞こえるスクリュー音に耳を傾けているが、誰一人として不安に思う物は居ない。
ある乗員などは、頭上付近を通過していく敵艦に中指を立てたり、挑発するような言動を発するほどだ。


通信室の隣に設置された臨時の魔法石監視室では、フィリト・ロイノー少尉とサーバルト・フェリンスク少尉が共に魔法石の作動状況を注視していた。

「始動から15分ほどが経ちますが、今の所異常見られませんね」

フェリンスク少尉は、その特徴ある長い耳をひくひくと動かしながら、笑顔でロイノー少尉に言う。

「まだ安心するな。今は作戦中だぞ」

楽観口調なフェリンスク少尉に対し、ロイノー少尉は憮然とした口調のまま、戒めの言葉を発する。

「昼間に確認された不具合の原因はまだ掴めていないんだ。今の所、この魔法石は仕事を果たしてくれているが、いつ、何時異常を発するかわからん。
何らかの兆候が現れるかもしれんから、魔法石から絶対に目を離すな」
「はっ!」

フェリンスク少尉は短く返答して、より一層注視する物の、内心ではそう肩肘張らなくてもいいじゃないか、とも思っていた。
敵の駆逐艦は、2人の乗る潜水艦の位置を全く掴めず、海上をうろうろするしかないようだ。
今しも、爆雷の炸裂音と思しきものが複数聞こえてくるが、音は離れており、艦には微かな振動しか伝わって来ない。

294ヨークタウン ◆.EC28/54Ag:2018/06/16(土) 09:14:50 ID:4r/3PIrQ0
「先輩……潜水艦に乗ってて、爆雷攻撃を受けた事はありますか?」
「いや、俺が乗ってる時は、幸運にも敵艦から爆雷を食らう事は無かったな」

2人は、妖しい光を発する魔法石を眺めながら会話を交わしていく。

「ただ、艦の乗員からは、恐ろしい物だと聞かされてはいる。なんでも、凄まじい衝撃なので、体を艦内のあちこちにぶつけたりしてエライ目に遭うようだ」
「私が聞いた話では、爆雷攻撃後の浸水対策も過酷であると聞いていますが……」
「実際、過酷らしいな」

ロイノーは頷きながら言う。

「特に、この辺の海は非常に冷たい。浸水でもすれば、氷点下にまで冷やされた海水を浴びなければ行かんから、下手をすれば凍傷に
なりかねんようだな」
「ただでさえ寒いのに……更に寒い海水を浴びながら浸水対策か……そんな事にはなって欲しくない物です」
「安心しろ。こいつが動いている限り、敵は俺達に指一本触れる事すらできんさ」

不安気になるフェリンスクを励ますように、ロイノーは不敵な笑みを浮かべながらそう返した。
ふと、艦の上から遠ざかっていたスクリュー音が再び近づいて来るのが聞こえた。

「……なんか、また近寄ってきますね」
「しかし、よく聞こえるもんだな」

ロイノーは、犬耳をかざしながらフェリンスクのずば抜けた聴覚に感心する。

「俺の種族も聴覚はいい方なんだが……ここからじゃさっぱりだな」
「サーバル族のウリですからな。最も、この艦に搭載されているソナーには大きく劣りますが」

フェリンスクは内心誇らしげに思いつつも、控えめな笑みを浮かべる。
彼の耳は時折ピクピクと動き、その大まかな進行方向を推測する事ができる。
この動作は、キャッスル・アリスの乗員からはなぜか人気があり、艦にカメラを持ち込んでいた兵からは、なぜか記念写真をせがまれた程である。

295ヨークタウン ◆.EC28/54Ag:2018/06/16(土) 09:15:34 ID:4r/3PIrQ0
「まぁしかし、今回の話はなかなかの土産話になりそうだな。特に、君の兄思いの妹さんは目を輝かせて聞き入りそうだ」
「カリーナですか……あいつの過剰とも言えるようなはしゃぎっぷりには、毎度辟易とさせられてますよ。まぁ、喜びを表現するのは
いい事なんですが……」

フェリンスクは、カリーナと呼ばれた2つ年下の妹の顔を思い出し、苦笑しながらそう答える。
どちらかというと、普段は物静かなサーバルトであるが、彼の妹は太陽のように明るいと言われるほどの性格の持ち主であり、所構わず
はしゃぎ回るのが難点でもある。
だが、そんな天真爛漫な妹も、彼が戦地に行く前日には、涙ながらに彼の生還を望んできている。

「たまには、あいつが放つ「凄いよー!」が恋しくなったりもしますな」
「帰ったら、たっぷりと言わせてやればいい」
「はは、そうしますかな」

2人は互いに微笑みながら、心中ではこの作戦を終えた後の予定に思いを馳せていた。
頭上のスクリュー音が一際大きくなった時、唐突にロイノー少尉が立ち上がった

「フェリンスク……すまんが、俺は便所行って来る。すぐに戻るぞ」
「了解です」

彼は、ロイノーに小声でそう返すと、ロイノーは小さく頷いてから、速足で監視室を抜け出した。
フェリンスクは言われた通り、魔法石の監視を続けた。
ミスリアル製の魔法石は、薄い水色の光を発し続けている。
その妖しい光が、この艦の存在を敵から隠し通しているのだが、今の所は、昼間に危惧したような兆候は全く見られない。
艦の上方から聞こえてくるスクリュー音は、いつの間にか小さくなっており、敵艦も間もなく遠ざかっていくであろう。
ふと、腕時計に視線を送る。

「午前4時10分か……今日の朝飯は美味い物が出るかな」

彼は幾らかのんびりとした口調で呟く。

296ヨークタウン ◆.EC28/54Ag:2018/06/16(土) 09:16:19 ID:4r/3PIrQ0
それから、先輩のトイレが思いの外長い事に気付き、フェリンスクは顔を出入り口に向けた。

「遅いな……さては、小便ではないのかな」

あの先輩でも緊張するんだなぁと、彼は心中で思い、顔を魔法石に振り向ける。


魔法石からは、一切の光が発せられていなかった。


「敵艦、更に遠ざかります。距離800……」
「付近にいる敵艦は1隻だけか。もう1隻はまだ、別の海域を探しているようだな」

ソナー員の報告を聞きながら、ベルンハルトは事務的な口調で呟いた。
キャッスル・アリスの周辺をうろつく敵駆逐艦は、相変わらず高速を維持したまま艦を離れつつある。
その一方で、上の敵艦の相方は、ここから3000メートル離れた海域でキャッスル・アリスを探し回っているようだが、肝心のキャッスル・アリスが
探知妨害魔法の効果で敵の探知から逃れているため、無駄な行動となっていた。

「敵船団は依然、16ノットのスピードで航行中か。あとは、本隊がどれだけ敵さんを沈めてくれるかだな」
「本艦の仕事はこれで終わりになりますかな?」

ボールドウィンの問いに、ベルンハルトは頷いた。

「ああ。探知妨害魔法に守られているとはいえ、長居は無用だ。手筈通り、一旦南方へ離脱する」

ベルンハルトはそう言ってから、新たなる命令を下そうとした。
その矢先に、ロイノー少尉が血相を変えて発令所に飛び込んできた。

「艦長!一大事です!!」
「何だ?」

297ヨークタウン ◆.EC28/54Ag:2018/06/16(土) 09:17:06 ID:4r/3PIrQ0
ベルンハルトは相変わらず、平静な口調で尋ねたが、ロイノー少尉の発するただならぬ気配を感じ取った彼は、心中で魔法石絡みの事で
トラブルが起きたかと確信した。

「魔法石が……動作を停止しました!」
「な……何ぃ!?」

仰天したボールドウィンが思わず声を上げてしまった。
ベルンハルトは無言のまま発令所から出ると、速足で通信室の隣に設けた魔法石監視室に向かった。
室内に入ると……そこには、ただの透明な水晶球が台の上に置かれていた。
本来ならば、その水晶からは光が発せられ、水晶自体が放つ探知妨害魔法はキャッスル・アリスを覆い、敵の生命反応探知魔法から位置を
隠してくれるはずである。
だが……その水晶は一切の光を発せず、ただの小綺麗な置物が台の上に載っているだけである。

「この艦は……普通の潜水艦となんら変わらん状態になっている、という事か」

ベルンハルトは、渋面を浮かべながらそう言うと、すぐさま発令所に戻っていった。

「限界深度まで潜行!」

彼は発令所に戻るなり、即座に命じた。

「艦長、限界深度までですか?」

ぎょっとなったボールドウィンが聞き返す。

「そうだ。今すぐにやれ!敵はすぐに戻って来るぞ!」
「アイ・サー!」

ベルンハルトの命令を聞いたクルー達がにわかに動き出した。
一度は深度80で維持していたキャッスル・アリスは、敵駆逐艦の再攻撃に備えて潜行を始める。

「艦長。魔法石が故障したタイミングですが、その時はちょうど、敵艦の有する探知魔法の限界範囲をギリギリで抜け出ていた可能性があります。
もしかすると……」

298ヨークタウン ◆.EC28/54Ag:2018/06/16(土) 09:17:53 ID:4r/3PIrQ0
「敵はこちらを探知しとらんかもしれんな」

ベルンハルトは、楽観論を口にするボールドウィンにそう相槌を打つ。

「心の底から、そうあって貰いたいと祈るものだが……」

彼はため息交じりの口調で言いながら、頭上を見上げる。
そこにソナー員の切迫した声音が響いてきた。

「艦長!艦の左舷後方より推進音!近付きつつあります!」
「どうやら……敵さんの探知範囲内に引っ掛かっていたようだな」

顔を青くするボールドウィンに向けて、ベルンハルトは無機質な声音でそう言い放った。


駆逐艦フロイクリの艦橋に新たな報告が伝声管越しに伝えられた。

「こちら探知室!前方生命反応探知!距離360グレル(720メートル)、深度45グレル(90メートル)!」
「了解!奴を追い詰めるぞ。爆雷班、正念場だ!気合を入れて掛かれ!」

フェヴェンナ艦長は語調を強めながら、各部署に新たな指示を下していく。
それまで13レリンク(26ノット)のスピードで航行していたフロイクリが更に速度を上げる。

「敵艦、尚も潜行中。深度50グレル!」
「50グレルか・・・探知装置の限界探知深度は80グレル(160メートル)だから、そのまま素通りしていたら逃げられていたな」


その反応は、今から10分ほど前に確認された。
フロイクリは、僚艦2隻を瞬時に撃沈破した小癪な敵潜水艦を討ち取るため、続航してきた僚艦と共に二手に別れつつ、威嚇がてらに爆雷投射を
行いながら索敵していたが、敵艦は一向に探知できなかった。

299ヨークタウン ◆.EC28/54Ag:2018/06/16(土) 09:18:39 ID:4r/3PIrQ0
敵の探知に失敗したと確信したフェヴェンナ艦長は、僚艦と共に船団の護衛に戻ろうとしたその矢先……
探知範囲内ギリギリのところで、何がしかの反応を捉えたのだ。
その報せを聞いたフェヴェンナは即座に反転を命じ、それから程なくして、フロイクリは待望の敵潜水艦を探知するに至った。
艦首が海水を掻き分け、艦首甲板に冷たい水飛沫が振りかかる。
艦の動揺もそこそこ大きいが、フロイクリは15レリンク(30ノット)の高速で爆雷投下点へと近付いていく。
艦尾付近に待機する爆雷班は、既に投下準備を終えており、その時を今か今かと、手ぐすね引いて待っていた。

「艦長!敵潜水艦の魔上に到達しました!深度55グレル!(120メートル)」
「爆雷班!敵艦の深度55グレル!爆雷投下開始!」

フェヴェンナは即座に爆雷投下を命じた。
爆雷班の班長は大音声で投下を命じ、フロイクリの艦尾から2個ずつ爆雷が投下されて行った。


「海面に着水音!爆雷です!!」

ソナー員の報告を聞くや、ベルンハルトは渋面を張り付かせたまま口を開いた。

「爆雷が来るぞ!衝撃に備えろ!」

彼の発した言葉は、スピーカー越しにすぐさま全艦に伝わった。
艦内の各所で乗員達が壁に手を置いて踏ん張ったり、台にしがみついて衝撃に備えようとする。
ロイノーとフェリンスクも、手近にある固定されたテーブルに手をかけ、来たる衝撃に備えた。

「先輩……うちらは無事に生きて帰れますよね…?」

フェリンスクは顔を青ざめさせながらも、比較的軽い口調で先輩に話しかける。

「なーに、心配するな。この艦の乗員達もプロさ。任務を終えれば、のんびりとくつろぐ事もできる」

300ヨークタウン ◆.EC28/54Ag:2018/06/16(土) 09:19:24 ID:4r/3PIrQ0
ロイノーはそう言ってから、フェリンスクの肩を軽く叩いた。

「心配は無用だ」

彼は自信ありげな口調で、部下に返答する。
その直後、艦の後方から爆発音と共に衝撃が伝わって来た。
腹に応える轟音が耳の奥にねじ込まれる。

「っ……!?」

フェリンスクは耳の奥に届く不快な音に、思わず顔を顰める。
衝撃で室内が揺れ、体がその揺れに流されようとするが、踏ん張って耐える。

「最初から爆発の位置が近い……」

ロイノーは敵艦の正確な狙いに感心を覚えつつも、心中では撃沈される恐怖感が徐々に大きくなり始めるのを感じていた。
次の爆発音が鳴るや、艦はさらに激しく揺れた。
まるで、樽の中に籠った時に、外から棍棒でぶん殴られているような衝撃だ。
2人の体は衝撃で更に揺さぶられ、テーブルにかけた手に痛みが走る。
更に爆雷が炸裂すると、その衝撃が2倍増しで襲って来た。
体の横から、飛んできた壁にぶち当たったような強い衝撃が伝わり、フェリンスクはそれに耐えきれず、テーブルから手を放してしまった。

(ま……まずい!)

彼は慌ててテーブルを掴もうとするが、新たな衝撃が艦を刺し貫く。
衝撃の余波をもろに受けたフェリンスクは、勢い良く弾き飛ばされ、室内の腰掛に真正面から飛び込んでしまった。
胸や腹に猛烈な痛みが走り、直後に体の右側から床に転倒し、更に右腕や肩にも激痛が走った。

「あ……がぁ…!!」

フェリンスクは体に伝わる痛みに悲痛な声を漏らし、思わず目を瞑ってしまった。

301ヨークタウン ◆.EC28/54Ag:2018/06/16(土) 09:20:00 ID:4r/3PIrQ0
体に走る痛みは、これまでに体験した事のない物だった。

(体が……もしかしたら、骨が何本かやられたかもしれん……)

彼は自分が負傷した事を自覚するが、同時に先輩であるロイノーの状態も気になった。

(はっ…せ、先輩は……先輩は無事だろうか……?)

フェリンスクはそう思うと、閉じていた目を開け、体の痛みに耐えながら先輩に目を向けようとした。
そこに新たな衝撃が走り、艦が大きく揺れ動く。
だが、先ほどの衝撃と比べると、それは小さく感じた。

「爆発の位置が遠ざかっているのか……」

フェリンスクは小声で呟きつつ、顔を動かしてロイノーを探し始めた。

「先……輩……あぁ……先輩!!!!」

ロイノーは、フェリンスクのすぐ傍に倒れていた。
彼は頭から血を流し、顔を血で真っ赤に染めていた。
うつ伏せになる形で倒れているロイノーは意識を失っており、顔の辺りにはうっすらと血だまりが出来つつある。

「先輩!しっかりしてください!」

フェリンスクはロイノーを揺り動かすが、反応はない。

「おいどうした!?」

唐突に、フェリンスクの背後から声がかかった。
振り向くと、そこにはニルソン副長が、顔を引き攣らせながら立っていた。

302ヨークタウン ◆.EC28/54Ag:2018/06/16(土) 09:20:41 ID:4r/3PIrQ0
「先輩が負傷したんです!早く手当てしなければ……!」
「待て!ここではロクな治療ができん。医務室に運ぶぞ!」
「わ、わかりました」

フェリンスクは言われる通りにロイノーを運ぶため、体を起こして立ち上がろうとしたが、胸や腹から伝わる痛みに顔を歪めた。

「うっ…!?」
「おい……お前も負傷していないか?顔色が悪いぞ」
「自分はまだ大丈夫です……!それよりも」

フェリンスクは無理やり笑顔を作りながら、ニルソンにロイノーの脇を支えるように促す。

「ああ、わかった。俺は左側を持つ。そっちは右側を持ってくれ」

ニルソンはそう言ってから頷くと、フェリンスクと共にロイノー少尉を医務室に運んで行った。


「前部兵員室の浸水止まりません!応援をよこしてください!」
「了解!すぐに寄越すから待っていろ!」

ベルンハルトは艦内電話越しに報告を受けてから、ニルソンに早口で命令を伝える。

「副長!あと5人ほどかき集めて後部兵員室に送れ!」
「アイ・サー!」

ニルソンは発令所から飛び出し、応援の兵をかき集めてから前部兵員室に駆け込んでいった。
それから5分ほどたってから、ニルソンが発令所に駆け戻って来た。

「艦長!ロイノー少尉とフェリンスク少尉が負傷しました!」
「なに?あの2人が!?」

303ヨークタウン ◆.EC28/54Ag:2018/06/16(土) 09:21:18 ID:4r/3PIrQ0
それまで平静さを装って来たベルンハルトだが、この予想外の報告には面喰ってしまった。

「はい。爆雷炸裂の衝撃で転倒したようです。ロイノー少尉は頭から血を流し、フェリンスク少尉は胸や腕を強打しとるようです」
「畜生!不良品を艦に持ち込んだのみでは飽き足らず、負傷して医務室に担ぎ込まれるとは。なんて奴らだ……!」

ボールドウィンが思わず罵声を放ちかけるが、ベルンハルトは片手を上げて制した。

「おっと、これ以上は文句言わんでも良かろう」
「し、しかし艦長」
「ここは戦場だ。予想外の事が起こるのは致し方ない。今は味方の文句を言うより、俺達ができる事をしよう」
「は……」

ボールドウィンは罰の悪そうな顔を浮かべつつ、艦長の指示に従った。

「航海長。海底まではあと何メートルだ?」
「この辺は水深が比較的浅いので、あと50メートル潜れば海底に辿り着きます」

ベルンハルトは、艦が生き残る最善の方法を脳裏で考えていく。

「深度140!」

深度計を読み上げる声が発令所に響き渡る。
艦内にミシ、ミシ、という艦体が軋む音が響き渡り、それが今の実情と相俟ってより不快に感じさせる。
艦内電話のベルが鳴り、ベルンハルトはすかさず受話器を取る。

「こちら艦長!」
「こちらA班。前部兵員室の浸水止まりました!」
「OK!至急別の浸水箇所の対応に回れ!」
「アイ・サー!」

304ヨークタウン ◆.EC28/54Ag:2018/06/16(土) 09:21:54 ID:4r/3PIrQ0
受話器を置くと、またもやベルが鳴る。
彼はすぐに受話器を取って、報告を聞いた。

「艦長!こちらB班です!後部機械室前の浸水収まりました!機器の損傷は今のところありません!」
「了解!」

ベルンハルトは素早い防水作業に満足気だったが、不安の種は尽きない。

「ソナー員より報告!海上の敵艦が反転して接近します!右舷前方、距離2500!」
「チッ!また来るぞ……!」

ボールドウィンが忌々しげに呟く中、ベルンハルトは無言のまま思案を続ける。

「艦長!別の敵艦が現れました!2隻目です!左舷後方、距離3000!」

ソナー員の新たな報告が伝わる。
1隻目の敵艦は、反転してキャッスル・アリスの右舷側前方から接近しつつあり、2隻目は艦の左舷側後方より迫りつつある。
キャッスル・アリスは完全に挟み撃ちにされつつあるのだ。

「深度150!」

その声が響くと同時に、艦体の軋み音がより大きく発せられる。
キャッスル・アリスは、無理をすれば深度200までは潜れる事ができるが、それは理論上の数値であり、実際はその手前で圧壊する可能性もある。
しかし、今は敵の駆逐艦2隻に追われ、執拗な攻撃を受け続けている。
情報部の分析によると、敵駆逐艦の搭載している生命反応探知装置は、効用範囲が深度160メートルである事が判明しており、最低でも170メートルは
潜らなければ安全とは言えない。

「水圧にやられるか、爆雷で叩きのめされるか……二つに一つと言いたいが、欲深い俺は、そこに三つ目を追加する事にするぞ」

ベルンハルトが小声でつぶやく。それを聞いたボールドウィンが、小声でベルンハルトに問う。

305ヨークタウン ◆.EC28/54Ag:2018/06/16(土) 09:22:43 ID:4r/3PIrQ0
「その三つ目とは……?」
「このくそったれな危機を脱して、生きて帰る事さ」

ベルンハルトは、汗にまみれた顔に不敵な笑みを作りながら、ボールドウィンにそう答えた。

「右舷前方の敵艦、間もなく本艦直上に到達!あ、海上に着水音多数!」

ソナー員の報告が伝えられると、艦内に再び緊張が走る。

「シホットの連中、ここぞとばかりにばら撒いてやがる」

誰かが発した忌々し気な声がベルンハルトの耳に入り、彼も心中で同感だと答える。
海上より聞こえるスクリュー音が小さくなり始める。

「深度160!」

計測員が、震度計を読み上げると同時に、爆雷の炸裂音と振動がキャッスル・アリスを震わせる。
最初の爆雷は艦の前方遠くで炸裂したため、振動はさほど大きくない。
2度目の爆発も大したことないように感じられるが、振動は若干大きい。
3度目の爆発で艦の振動が大きくなり、誰もが足元を揺さぶられる。
4度目の爆発が起きた直後、キャッスル・アリスの艦体は衝撃に叩かれ、艦内の乗員は爆音に耳を打たれ、衝撃に体を揺り動かされた。

「!……シホットの糞ったれ共め!」

ベルンハルトの耳にボールドウィンの放つ罵声が飛び込んでくる。
彼もつられて罵声を放ちそうになるが、そこに5発目の爆雷が炸裂し、キャッスル・アリスの艦体が大きく揺り動かされた。
6発目、7発目、8発目と、他の爆雷もキャッスル・アリスの至近で次々と炸裂し、衝撃が艦を叩きのめす。
艦内の乗員は全員が衝撃に翻弄され、ある者は壁を背中に打ち付けて気絶し、ある者は頭を強打し、血を流しながら昏倒する。
テーブルに置いていたコーヒーカップが衝撃で床に落ち、音を立てて砕け散る。

306ヨークタウン ◆.EC28/54Ag:2018/06/16(土) 09:23:31 ID:4r/3PIrQ0
計器のカバーガラスが耳障りな音を発して割れる。
9発目の爆雷も、衝撃波が艦体を叩いたが、振動の大きさは小さくなっているように感じられた。
それ以降は爆音も徐々に小さくなり、振動もさほどではなくなったが、危機はまだ去っていなかった。
艦の後方に遠ざかって行ったはずの炸裂音が、今度は後方より近付いてきた。

(2隻目の爆雷攻撃だな……!)

ベルンハルトが心中でそう呟いた直後、真上から強烈な炸裂音が響き渡った。
艦体が、真上から巨大なバットに叩かれたらさもありなん、といった様相で強く揺さぶられる。
5回、6回、7回と、多数の爆雷が艦の上方で炸裂し、衝撃波がダメージを受けたキャッスル・アリスに更なる追い打ちを掛けていく。
艦の乗員は、誰もが引き攣った表情でこれに耐えているが、不思議にも、この爆雷攻撃は先の物より幾分マシなように思えた。
振動と爆音がひとしきり収まった後、発令所に各部署から報告が舞い込んできた。

「前部兵員室より報告!浸水あり!」
「機関室に浸水!現在防水中、各電池の損傷無し!」
「艦載機格納庫に浸水警報!」
「後部魚雷発射室に浸水!現在防水中です!」

損傷個所が先の爆雷攻撃より多い。
また、各部署からも負傷者が出ており、今報告に上がっただけでも10名の乗員が負傷したという。
敵駆逐艦はキャッスル・アリスに相当のダメージを与える事に成功したようだ。

「クソ!腹立たしいが、いい腕だ……」

ベルンハルトは、苛立ち紛れに呟きつつ、敵駆逐艦の腕前の良さに感心した。
キャッスル・アリスの受けた損傷は浅くは無く、手空きの乗員は総出で、予備のダメコン班と共に各浸水箇所の応援に向かった。

307ヨークタウン ◆.EC28/54Ag:2018/06/16(土) 09:24:13 ID:4r/3PIrQ0
「現在の深度、175!」

計測員の報告が耳に入るが、先の声とは違う。
後ろを振り返ると、意識を失った水兵が同僚に医務室へ運ばれていく様が見える。
今まで艦の深度を伝えて来た計測員は、先の爆雷攻撃で体のどこかを打ち付けて負傷したため、交代要員が配置されたようだ。

「艦長!右舷燃料タンクの残量に異変が!」
「残量だと……?」

ベルンハルトは、すぐさまその水兵の所へ移動し、燃料タンクの残量計を見つめる。

「……まずいな。タンクの燃料が漏れているぞ」

残量計の指している値は、ゆっくりとだが減少しつつあった。
これは、キャッスル・アリスの艦体に穴が開き、そこから燃料が漏れているという事を示している。
現在、キャッスル・アリスは深度180メートル付近を潜行中で、尚も潜行を続けているが、艦体に穴が開いた状態ではこれ以上の潜行は無理であり、
また、漏れた燃料を敵が発見すれば、そこを目印に好き放題爆雷を叩き込める。
キャッスル・アリスは、自らの位置を敵に教えながら潜行を続けているのである。
潜水艦乗りにとっては、今の状況は最悪とも言えた。


ひとしきり強い衝撃が続いたが、それは程無く収まっていた。

「た、助かった……?」

医務室で手当てを受け、横に寝かされていたサーバルト・フェリンスク少尉は、恐る恐る目を開けた後、一言そう呟いた。

「酷い攻撃だ。これじゃ思うように怪我人を見れん!」

308ヨークタウン ◆.EC28/54Ag:2018/06/16(土) 09:24:48 ID:4r/3PIrQ0
医務室の主であるリドロー・スコークス軍医大尉は、しかめっ面を浮かべながら忌々し気に叫んだ。
彼は起き上がろうとするフェリンスクを見ると、片手を上げて制した。

「おっと!肋骨にヒビが入っている。大人しくしておけ」
「は、はぁ……」

フェリンスクはスコークス軍医長の言われる通りに、そのまま横になろうとした。
彼は胸の辺りに白い包帯をきつく巻かれている。
先の爆雷攻撃で転倒した際、胸を強打したが、スコークス軍医大尉の診察によると、肋骨にヒビが入ったようだ。

(このまま動き回っても、ケガを悪化させるだけだ。悔しいが、ここは……)

彼は心中でそう呟きながら、体を床に横たえた。
その時だった。
彼の特徴である長い縞模様の耳は、どこからともなく聞こえてくる声と音を捉える。

(……助けてくれ……?)

男の声と、水が流れるような音。
フェリンスクは自分が今いる場所を眺め回すと、即座に体を起こした。

「お、おい!寝ていろと言っているだろう!」

スコークス軍医長は、負傷者の血に染まった右手をフェリンスクに向けて指すが、フェリンスクは気に留める事無く、顔に苦悶を表しながらも、
勢い良く立ち上がった。

「誰かが助けを呼んでいます!自分は負傷しましたが、体はこの通り動きます!」

彼はそう言うなり、胸を押さえながら医務室を飛び出していった。

309ヨークタウン ◆.EC28/54Ag:2018/06/16(土) 09:26:26 ID:4r/3PIrQ0
「馬鹿野郎!貴様は怪我人なんだぞ!いいから戻るんだ!」

スコークス軍医長は尚も制止したが、フェリンスクはそれを無視して後部兵員室の辺りに向かっていった。
フェリンスクは通路に出てから、後部兵員室の前までたどり着いたが、その途中で艦の乗員が見当たらなかった。
なぜ見当たらなかったかは大方予想が付いたが、現場に着くや否や、フェリンスクはその光景を見るなり、思わず目を見開いてしまった。
兵員室の前には、1人の水兵が噴き出す海水を止めようと、必死の形相で分厚い布を浸水箇所に押し当てていた。
その水兵の周囲には、3名の同僚が壁にもたれかかったり、床で仰向けになって倒れている。
何が起きたかは明白だった。

「助けを呼んだのは君か!?」

フェリンスクはその水兵に近寄りながら尋ねた。

「あ、あんたは……」
「フェリンスクだ!」
「ああ、カレアントから来た助っ人さんか!丁度いい、その厚い木板と棒を取ってくれ!」

水兵は、片足をばたつかせて木板と棒の位置を示す。

「これか!」

フェリンスクは木板と棒を取ると、水兵の顔の前に掲げた。

「ああ、そうだ!今からこの布の上に木板を被せる。その後、木板を棒で抑えて他の奴が来るまで待つ!」
「他の奴って……ここの浸水報告はまだやってないのか?」
「そんな暇なかったんだ!とにかくこの木板を当ててくれ!」

フェリンスクは水兵の必死の訴えに応えるべく、浸水箇所である布のかかったパイプに木板を当てていく。

310ヨークタウン ◆.EC28/54Ag:2018/06/16(土) 09:27:07 ID:4r/3PIrQ0
パイプから噴き出す海水の量は多く、フェリンスクはその水兵同様、あっという間に全身ずぶ濡れとなってしまった。
しかも、真冬の海水を全身に浴びているため、体が急激に冷えてガタガタと震え始める。
フェリンスクは木板を投げ出したい気持ちに駆られたが、それを心の中で抑えて、布の上に木板を当てた。

「当てたぞ!」
「OK!俺が棒で抑える。あんたも一緒に抑えてくれ!」

フェリンスクは水兵と共に浸水箇所の抑えにかかった。
パイプからの浸水は幾らか弱まったように思える。
しかし、体は冷たい海水を浴びて震えており、先ほど負傷した胸の辺りからも、鈍い痛みが伝わって非常に苦しくなる。

「畜生!こいつらがまともに動けてりゃ、もっと楽になったのに……!」
「今倒れている仲間は、先の爆雷攻撃でやられたのか?」

フェリンスクの質問に、水兵は浸水箇所を見据えながら答える。

「そうだ。別の浸水箇所の応援に向かっていたら、いきなりシホット共の爆雷が降って来てな。それでこの辺で踏ん張って耐えようとしたら、
衝撃であちこちに叩きつけられてね。それで、この様さ」

水兵は、半ば自虐めいた口調でフェリンスクに語った。
よく見ると、水兵は頭から血を流しており、顔の右半分が赤く染まっていた。

「君……怪我をして……」
「ああ。痛いよ!だが、今は俺の怪我の心配をしている場合じゃない。ここの浸水箇所を放置したら取り返しのつかない事になる。あんたは知らん
だろうが、最初はとんでもない量の海水がここから噴き出してきやがったんだ。それを必死で抑えてたところに、あんたが来てくれた」

水兵は寒さで声を半ば震わせつつも、フェリンスクに顔を向けた。

「これで、俺達が生還できる確率は、5%上がったなと思ったね」
「5%か……なにも役に立たんよりはマシって事かな」

311ヨークタウン ◆.EC28/54Ag:2018/06/16(土) 09:30:07 ID:4r/3PIrQ0
フェリンスクは水兵にそう返す。
それを聞いた水兵が、半ば顔を顰めながらも、微笑みを見せた。
この時、フェリンスクは更なる痛みを感じた。

「っ……ふ…!」
「おい、どうした!」
「いや……俺もドジを踏んでしまってね。肋骨の辺りをやってしまったんだ」
「ワオワオ……そんじゃ、今ここに居るのは手負いばかりって事か!」
「その通り。状況は良くないね」

フェリンスクは自嘲気味な口調でそう付け加えた。
体に鈍い痛みを感じ続けているせいか、両手で抑えている木板が鋼鉄の重しのように思い始めていた。
彼は力を振り絞り、木板を抑え続けるも、冷たい海水を浴び続けているせいもあってか、今度は両手の感覚が薄れ始めていた。

「手が……」

フェリンスクは悲痛めいた声を漏らす。

「なあ、あんた魔法使いなんだろ!?何か魔法を使ってこの状況を打開してくれ!」

水兵がそう要求するが、フェリンスクは首を左右に振る。

「無茶言わんでくれ……それ以前に、俺の両手はコイツを抑えるので精いっぱいだ!」
「ファック……このまま待ち続けるしかねえのか!」

水兵は罵声を漏らしながら、震える両手で木板を押し続ける。
他の浸水箇所で防水の目処が付けば、ここにも人手が回るのは確実だ。
だが、この個所の浸水報告はまだ行っておらず、更に、目処が付くまでにどれだけの時間がかかるのか見当もつかない。
今や、1秒は10分にも等しく、1分は1時間にも等しいと思えるほど、2人の体力は摩耗しきっていた。

312ヨークタウン ◆.EC28/54Ag:2018/06/16(土) 09:30:58 ID:4r/3PIrQ0
そのまま時間は過ぎていく。

何分経ったか分からないが、フェリンスクはふと、抑えている木板がパイプの側から徐々に押されているように感じた。

「く……なんか、向こう側から押されている気が……」

彼はその違和感に負けじとばかりに、震える手で木板を抑え続けるが、冷たい海水を浴び続けて両手の感覚はとうに失われていた。
いや、両手どころか、体中が濡れているため、感覚が麻痺している。
そのため、2人は同じタイミングで浸水箇所の抑えを緩めてしまった。
その瞬間、抑えが無くなった浸水箇所から噴水のように海水が噴き出し、木板に強い圧力がかかった。

「あ…しまった!」

フェリンスクは、水圧に押しのけられ、背後に転倒しようとしている中で自らの失態を悟った。
同時に、これだけの噴出を、フェリンスクはたった1人で抑えていた水兵の努力と根性に感心もしたが、疲労困憊した2人がこの浸水を抑える事は、
もはや絶望的に思えた。

そして、そのまま背中から壁にぶつかろうとしていたフェリンスクは、不意に別の何かに受け止められると同時に、目の前に現れた2人の水兵が、
木板と棒を持って浸水箇所の抑えに掛かっていた。



その報せを聞いた時、ベルンハルトは半ば仰天してしまった。

「何?そこでも浸水が発生したのか!」
「はい。幸い、ダメコン班のブランチ一等水兵と、フェリンスク少尉が浸水を抑えていたお陰で、大事には至らなかったようです」
「フェリンスク少尉だと……どうして彼が?」

彼は首をかしげながら、報告を伝えて来たニルソンに質問を続ける。

313ヨークタウン ◆.EC28/54Ag:2018/06/16(土) 09:31:36 ID:4r/3PIrQ0
「ブランチ一等水兵の話によりますと、彼の班は艦載機格納庫の浸水防止の応援に向かっていた所に爆雷攻撃を受けて人事不省に陥り、
必死に助けを呼びながら防水に努めていたところ、それを聞きつけたフェリンスク少尉が現れて作業に協力してくれたとの事です。
それから15分間、2人は浸水の拡大を最小限に抑え、力尽きてしまいましたが……そこに艦載機格納庫の浸水を止めて、様子を見に来た
兵員が現場に到着し、防水に当たったとの事です」
「後部兵員室前の浸水箇所は、浸水発生の報告が上がっていなかった。もしフェリンスク少尉がそこに来ていなかったら……」
「そのフェリンスク少尉ですが、ブランチ一等水兵は確かに助けを呼んだのですが、彼曰く、必死の防水に努めていたため、
あまり大きな声は出せず、せめて、近場に居る仲間が気付ければよいと思っていたそうです。そこにフェリンスク少尉の登場と相成った訳ですが、
フェリンスク少尉は医務室から後部兵員室前に来ています。医務室は発令所寄りの位置にあり、現場から離れているため、声は聞き辛い。ですが、
フェリンスク少尉はその声を聞いて、現場に駆け付けたと言っています」

ニルソンの説明を聞いたベルンハルトは、フェリンスクの体の特徴を思い出してから言葉を返し始めた。

「……もしかしたら、フェリンスク少尉は殊更耳が良かったのかもしれん」
「と、言いますと……?」
「フェリンスク少尉は恐らく、猫科系の獣人だ。しかも、あの耳の模様は、うちらの世界にいたサーバルキャットの柄とほぼ似ている。俺は以前、
アフリカに生息する猫科系の生態を調べていたんだが、サーバルキャットは耳が良くてな。遠くの異音でもすぐに聞きつけて行動を起こし、
ある時は地中に居る獲物を察知して捕らえる事もあるという。可愛らしい姿の生き物だが、根は立派なハンターさ」
「艦長……では……?」

ニルソンがベルンハルトに聞くと、彼は苦笑しながら自らの頭を指差した。

「俺達は、助っ人の耳に救われたのかもしれんな」

ベルンハルトは苦笑しながら、副長にそう言い放った。

「艦長。燃料の流出が止まりません」

そこに、燃料計を注視していた部下から再び報せが入る。
ベルンハルトは予め決めていたのか、即座に指示を下した。

314ヨークタウン ◆.EC28/54Ag:2018/06/16(土) 09:32:52 ID:4r/3PIrQ0
「右舷側の燃料を放出しろ」
「え……放出でありますか?」

部下の兵曹は一瞬、ギョッとなった表情を浮かべて聞き返した。

「何度も言わせるな。右舷側燃料放出!急げ!!」
「あ、アイサー!」

兵曹はベルンハルトに促されて、部下に命令を伝えた。
彼の判断は、ニルソンとボールドウィンも驚かせていた。

「艦長、よろしいのですか?燃料を捨てれば、今後の哨戒活動に支障が出ますが……」

ボールドウィンは訝し気な表情を張り付かせながらベルンハルトに言うが、それに対して、ベルンハルトはあっさりとした口調で返す。

「目印を与えているのなら、消してしまうまでだ。生き残るのならば仕方かなかろう?」
「は、はぁ……」
「なに、命あっての元種だ。慎重でかつ、狡賢く……サブマリナーの基本だ」

その一言を聞いたニルソンが、何かを思い立ったのか、手を上げた。

「艦長、ひとつ提案したいのですが」
「何か妙案を思いついたようだな……聞こう」
「妙案かどうかは分かりません。ある意味、だましの基本のような物で、敵に見破られる可能性もありますが」
「生死がかかっとるんだ。試せる事は何でもやろう」

ベルンハルトは不敵な笑みを浮かべながら、副長に発言を促した。

315ヨークタウン ◆.EC28/54Ag:2018/06/16(土) 09:33:30 ID:4r/3PIrQ0
駆逐艦フロイクリの艦橋からは、右舷側400グレル(800メートル)を反航する僚艦キガルアが見えていたが、その僚艦が突然、爆雷を投下し始めた。
唐突に、キガルアの後方から水柱が立ち上がった。

「キガルア爆雷攻撃開始!」
「なに?敵艦を探知したのか!?」

フェヴェンナ艦長は、キガルアが生命反応を捉えたのかと思ったが、頭の中ですぐに否定する。
敵潜水艦は既に、生命反応探知装置の索敵範囲内から脱しており、フロイクリとキガルアはあてどもなく、海上を彷徨うしかなかった。
敵艦が探知外に逃れる寸前に行った爆雷攻撃は、位置的に見て相当の打撃を与えたと確信しているが、どの程度の損害を与えたかははっきりとしておらず、
フェヴェンナは敵艦を逃がしたと思っていた。
そこに、キガルアが突然の爆雷攻撃を開始したのである。

「通信士!キガルアに状況を知らせよと伝えろ!」

フェヴェンナはそう指示を伝えながらも、頭の中ではキガルア艦長の判断が本当に正しいのか疑問に感じていた。
キガルアの艦長は、まだ29歳の若手艦長であり、勇猛果敢ではあるものの経験が不足している。
出港前にキガルア艦長とはひとしきり会話を交わしたが、正直、頼りにならないとフェヴェンナは確信していた。
キガルアからの返信はすぐに届いた。

「キガルアより返信!我、敵艦より流出した物と思しき黒い油を発見。目下、追撃中!」
「黒い油……敵艦の燃料か」

フェヴェンナはそう呟いてから、先の爆雷攻撃は敵艦の外郭に損傷を与えと確信した。
だが、最も気がかりな情報がその中には含まれていなかった。

「敵艦は探知したのか……正確な位置は分かっているのか……?」

彼は、キガルアが“黒い油のみ”を見つけて、そこに爆雷を叩き込んでいる事が非常に気になった。
キガルアは洋上に光を照らしながら、尚も爆雷攻撃を続けているが、よく見ると、油が見つかったと思しき場所をぐるぐると回っているだけだ。
それに加え、報告には油がどの方角に繋がっているかと言う情報も全く見受けられない。

316ヨークタウン ◆.EC28/54Ag:2018/06/16(土) 09:35:24 ID:4r/3PIrQ0
「ええい、くそ!通信士!もう一度問い合わせろ!敵の油膜はどの方角に繋がっているか。敵艦の生命反応は探知しているのか。急ぎ送れ!!」

フェヴェンナはそう指示を下しながら、胸の内で不安を感じ続けている。
そもそも、彼ら護衛駆逐艦の役目は船団を守る事である。
今はこうして、敵の潜水艦を追い回しているが、本来ならばすぐに切り上げて、船団の護衛に戻らなければならない。
先の魚雷攻撃で僚艦2隻が撃沈され、1隻が乗員の救助に当たり、2隻が潜水艦の掃討に当たっているため、船団の護衛艦は現時点で7隻に減ってしまっている。
そろそろ頃合いだとフェヴェンナは思っているのだが、僚艦キガルアは敵の追撃に夢中になってしまい、全力で爆雷攻撃を敢行中だ。

「艦長、キガルアより返信。敵の位置は把握せり、心配ご無用なり……以上です」
「たったそれだけか!?あの若僧が、しっかり報告せんか!!」

フェヴェンナは苛立ちを募らせる。
キガルアの行動は、完全に頭に血が上った野獣の如しである。

「完全に視野が狭くなってますな……」

ネルス副長も半ば呆れながらフェヴェンナに言う。

「あんな様子じゃ、早死にするだけだ」
「艦長、そろそろ船団の護衛に戻らなければ……」
「俺もそうしたいが……キガルアを置いてはいけない。あいつは単艦にすると、すぐにやられるぞ」

フェヴェンナはそう返したが、内心ではキガルアを放置して戻りたい気持ちで一杯であった。
しかし、それは寸での所で彼は抑えている。
シホールアンル海軍の駆逐艦は、敵潜水艦の掃討に当たる時は、最低でも2隻1組で当たるように厳命されている。
なぜそのような命令が発せられたというと、実際に1隻のみで対潜掃討に当たると、複数展開している思われる米潜水艦群に返り討ちに遭い易い為だ。
そのため、フェヴェンナの率いるフロイクリはキガルアを置いて、船団護衛に戻れずにいた。
キガルアと共に戻るには、フェヴェンナがキガルアの艦長を説得するか、キガルアが敵潜水艦を撃沈するか……二つに一つだ。

317ヨークタウン ◆.EC28/54Ag:2018/06/16(土) 09:36:30 ID:4r/3PIrQ0
フェヴェンナは、躊躇いなく前者を選んだ。

「通信士!キガルアに追申だ!」
「艦長、キガルアに何と……?」
「敵潜水艦の追撃を中止し、直ちに船団へ合流すべし、と送れ」
「え……キガルアは今、対潜戦闘中ですぞ!」

副長は仰天してしまった。戦闘中のキガルアにそれは無茶だと言わんばかりの口調だ。

「さっきから大雑把な位置をぐるぐると回って爆雷落としているだけの連中が、敵の潜水艦を沈められるとは思えん。ここで無駄に時間を使うよりは、
船団に戻って輸送艦群を護衛したほうがいい」
「は、はぁ……」

副長はフェヴェンナの断固とした口調に口を閉ざした。
フェヴェンナの指示は、キガルアに届いたが、その返答はフェヴェンナの苛立ちをさらに募らせた。

「フェヴェンナより返信!我、目下敵潜水艦を追撃中。船団への合流は貴艦のみで行われて結構である……」
「気違いめ!今、船団がどれだけ危うい状況なのか分らんのか……!」

彼は歯軋りしながら、指示に従わないキガルアに怒りを感じていた。

「重ねて指示する!至急、船団へ合流されたし!また、単艦行動は上層部より厳に戒められているため、貴艦の申し出は受け入れられず。今は損傷し、
姿を隠した敵潜水艦を追撃するよりも、船団の護衛に注力した方が良いと、当艦は確信する物なり!以上、送れ!」

フェヴェンナが怒りを交えた口調で、送信文を魔導士に伝えた時、見張り員が新たな報告を艦橋に伝えた。

「艦長、キガルアが爆雷攻撃を停止しました!」
「ほほう……艦長の指示に従うのですかな」

318ヨークタウン ◆.EC28/54Ag:2018/06/16(土) 09:37:14 ID:4r/3PIrQ0
ネルス副長が感心したように言うが、フェヴェンナは首を左右に振った。

「それは分からん。まぁ、いずれにしろ、あちらも何か報告を伝えてくるだろう」

フェヴェンナがそう言ってから2分後……彼の言う通り、キガルアから報告が伝えられた。

「キガルアより通信。敵潜水艦のより流出した黒い油を更に発見。その量、極めて多し……また、油以外の多数の浮遊物も視認せり、であります」
「……撃沈したようですな」
「その多数の浮遊物とは一体なんだ?キガルアに問いかけろ」

ネルスの言葉を肯定する事無く、フェヴェンナは魔法通信で浮遊物の詳細を問おうとした。
そこに新たな通信が入る。

「キガルアより通信。浮遊物の中に敵が使用したと思しき書類や木の板、衣類など多数を視認。当艦は敵潜水艦の撃沈を確認せり」
「死体は?敵艦乗員の死体は見つからんのか?」
「……死体発見という文面はありませんが、衣類など多数とありますから、恐らくは」
「恐らくは、ではない。敵の潜水艦が撃沈されれば、必ず死体が上がってくるはずだ。キガルアに敵兵の死体の有無を確認させろ!」
「は……直ちに」
「艦長!船団より緊急信です!」

フェヴェンナが、最も肝心な事を問い質そうとした矢先に、別の魔導士が切迫した声音を張り上げながら報告を伝えて来た。

「別の敵潜水艦が護送船団に雷撃を敢行。輸送艦2被雷、大破との事です!」

この瞬間、フェヴェンナは護衛失敗を確信したのであった。

319ヨークタウン ◆.EC28/54Ag:2018/06/16(土) 09:37:59 ID:4r/3PIrQ0
午前4時30分 帝国本土向け護送船団

輸送艦511号は、先頭を行く1番艦と2番艦が相次いで被雷し、急速に速度を落とす様子を目の当たりにしていた。
511号艦長であるラヴネ・ハイクォコ中佐は、即座に面舵を切って、前方の2番艦との衝突を回避した。

「魚雷警報―!見張り員は魚雷警戒を厳にせよ!」

ハイクォコ艦長は大音声でそう命じながら、心中では突然起きた魚雷攻撃に、ある不審な点を感じていた。

「副長!戦闘の輸送艦からは雷跡発見の報は入らなかったのか!?」
「先もお伝えした通り、魚雷発見の報告は伝わっておりません。いきなり水柱が立ち上がりましたから……」
「何だそれは……!」

ハイクォコ艦長は、今までに経験した事のない雷撃に困惑していた。
彼は今まで、3度ほど敵潜水艦の襲撃を経験した事があるが、いずれも魚雷の航跡を見張りが確認していた。
だが、今回はその報せも伝えられぬまま、いきなり僚艦が被雷したのである。

「艦長!」

困惑するハイクォコ艦長の背後から、野太い声が響いてきた。
振り返ると、そこには赤と緑の装飾で彩られた特性のローブに包んだ、小太り気味の魔導士が立っていた。

「いきなり別の船が魚雷攻撃を受けて沈んでおったが、この船団は今敵の攻撃を受けておるのか!?」
「その通りです、トミアヴォ導師」

ハイクォコ艦長は素直に答えると、トミアヴォと呼ばれた中年の魔導士は不快げに顔を歪めた。

「この船には重要物資を積んでおるのだ!何としてでも敵の攻撃を避けて貰いたい!!」
「無論、努力はいたします。重要機密品に指定されている物資を積んでいるとあっては、我々もできうる限りの事はします」

320ヨークタウン ◆.EC28/54Ag:2018/06/16(土) 09:38:38 ID:4r/3PIrQ0
ハイクォコ艦長はそう言ってから、恭しげに頭を下げた。
トミアヴォ導師は、シホールアンルの中でも優秀な大貴族であるウリスト侯爵と、繋がりの深い魔導士の1人である。
昔から優秀で、腕の立つ魔導士として広く知られているが、性格は悪く、横暴であり、権力に物を言わせて物事を強引に解決する人物としても知られている。
トミアヴォはこの511号輸送艦に搭乗する際も、その身勝手なふるまいで乗員を多いに悩ませており、積荷に関しても重要機密品と伝えるだけで
詳細は知らせてくれず、物資を梱包した幾つもの木箱の周辺には、トミアヴォが共に連れて来たウリスト家の私兵が、厳重に張り付いて警戒し、
艦の乗員すら近づけない状態だ。
彼らの傲慢な態度は、乗員達を大いに怒らせていたが、ハイクォコ艦長は重要機密品を護衛しているのだから我慢しろと言い聞かせていた。
その責任者であるトミアヴォが、血相を変えてハイクォコ艦長のもとに現れたのである。

「艦長、このままでは他の輸送艦と一緒に狙われてしまう。ここはひとつ、船団から離脱して、独航で港に向かってはどうか?」
「導師。それはできません。ここで隊列を離れれば、それこそ敵の思う壺です」

ハイクォコ艦長はトミアヴォの提案をすぐに否定する。
すると、トミアヴォは怒りで顔を真っ赤に染め上げた。

「何を言っておる!貴官はこの船に重要物資を搭載している事を忘れたのか!?帝国の行く末がこの船に積んだ物資に掛かっておるのだぞ!?」
「導師の言う事はごもっともでしょう。ですが、そのお言葉には従えません」

ハイクォコがそう言うと、トミアヴォは更に怒声を上げかけた。
その瞬間、衝撃と共に大音響が鳴り響き、右舷側中砲部から高々と水柱が吹き上がる。
右舷側から伝わった強烈な衝撃のため、艦橋内の誰もが床を這わされ、ある者は壁に体を打ち付けて重傷を負う事となった。



潜水艦ベクーナに座乗する第2群司令ローレンス・ダスビット大佐は、艦内に伝わる爆発音を聞くなり、ベクーナ艦長を務める
フリン・クォール中佐と共に顔を見合わせた。

「新たな爆発音を感知。魚雷命中、まだ続きます」
「司令、敵は今頃、大慌てでしょう」

クォール艦長は小さな声でダスビットに言うと、彼は満足気な表情を見せた。

「敵の左右に展開した、潜水艦8隻の全力攻撃だ。しかも、こっちが撃った魚雷は新型のMk-20。今頃、敵の船団指揮官は
航跡の見えない魚雷を食らって大いに目を回してるに違いない」

321ヨークタウン ◆.EC28/54Ag:2018/06/16(土) 09:39:24 ID:4r/3PIrQ0
Mk-20とは、アメリカ海軍が開発した新型の潜水艦搭載用魚雷である。
この魚雷は、今までの標準魚雷であったMk-14を元に再度設計されたもので、その大きな特徴は、電動推進式である事だ。

電動推進の魚雷は、1943年にMk-18がアメリカ海軍で最初の電動推進式の魚雷として開発されたが、開発当初は実用性に
乏しかったため実戦には投入されなかった。
ただ、その経験は後の開発に生かされることになり、1945年10月にMk-20魚雷が開発され、順次量産される事となった。
Mk-20は電動推進式であるため、通常の魚雷と違って速度が遅いという欠点があり、速力36ノットで4800メートル、
18ノットで7200メートルと、射程距離も短くなっている。
しかし、Mk-20は、これまでの燃料推進魚雷と違って、電動推進式で魚雷から排出する空気が非常に少ない為、航跡がほぼ出にくく、
夜間訓練時においては、敵役を担った艦が魚雷を視認できないため、ロクな回避運動を行えぬまま被雷判定を受けるなど、静粛性に極めて優れていた。
今回の作戦では、本隊を担うバラオ級、ガトー級潜水艦にこのMk-20が初めて搭載され、先の攻撃で使用されたが、その結果は大いに
満足できるものであった。



「魚雷命中音止まりました。確認できた爆発音は10回です」
「敵の護衛艦はどうなっている?こちらに向かってきているか?」

クォール艦長は、即座にソナー員へ聞き返す。
ベクーナを始めとする第2群の潜水艦8隻は、魚雷発射後、即座に現場海域から離脱を図っている。

「今の所、こちらに向かう敵艦らしき音は探知できません」
「命中音からして、少なくとも、5、6隻は食えたか」

ダスビット大佐が言うと、ベクーナ艦長は顔に笑みを見せた。

「不発魚雷もほぼ無いようです」
「うむ、素晴らしい事だ。それに、Mk-20の弾頭には300キロのトルペックス火薬が搭載されている。被雷した輸送艦は例外なく沈むかもしれん」
「これでまた、撃沈トン数を稼ぐ事ができますな」

クォール艦長が言うと、ダスビット大佐は深く頷いた。

「とは言え、この雷撃が成功したのは、一重にキャッスル・アリスが敵の護衛艦を複数誘引出来たお陰でもある。今の所、連絡が途絶えているが、
連絡が回復したら、連中にねぎらいの言葉をかけてやらねばな」

322ヨークタウン ◆.EC28/54Ag:2018/06/16(土) 09:40:17 ID:4r/3PIrQ0
1486年(1946年)1月10日 シホールアンル帝国西部 ホーントゥレア港

駆逐艦フロイクリは、生き残った輸送艦と共にホーントゥレア港に入港した後、艦に収容した損傷艦の乗員を下艦させ、その作業をようやく終えていた。

「艦長、収容した乗員の下艦が終わりました」
「ご苦労だった……」

フェヴェンナ艦長は、いつも通りの平静な声音で返すと、制帽を取り、自らの頭をひとしきり掻いた。
目線を艦の右側に移す。
フロイクリの右側にある桟橋には、ロアルカ島から共に付いてきた輸送艦が、搭載した物資の荷下ろしをしているが、ロアルカ島出港時には30隻を
数えた輸送艦も、ホーントゥレア港到着時には12隻に減っていた。
残りの18隻は全て、敵潜水艦の雷撃によって撃沈された。
また、12隻居た護衛駆逐艦も、ホーントゥレア港に到達したのは8隻だけである。
4隻の駆逐艦もまた、敵艦の雷撃に撃沈されたのだ。
これに対し、シホールアンル側の戦果は、血気に逸ったキアルガが敵潜水艦を追い回した末に、米潜水艦1隻の撃沈を報告したのみだ。
いや、キアルガの通信には、敵艦乗員の死体を確認したという文面が入っていなかったため、取り逃がした可能性が高かった。

「完敗……だな」

フェヴェンナはポツリと呟く。
それを聞いた副長が、これまた小声で彼に問いかけて来た。

「艦長。ルィキント列島とノア・エルカ列島は今後、どうなるでしょうか」
「敵潜水艦が跳梁し始めたとあっては……早晩、維持されていた連絡線も遮断される。そうなれば、ルィキント、ノア・エルカは確実に孤立するだろう」
「孤立……ですか」
「なに。俺達は今まで同様、やれることをやるだけだ」

フェヴェンナはネルスにそう返すと、彼の左肩をポンと叩いてから、艦橋を後にした。

323ヨークタウン ◆.EC28/54Ag:2018/06/16(土) 09:40:53 ID:4r/3PIrQ0
1486年(1946年)1月11日 午前8時 レビリンイクル沖西方220マイル地点

サーバルト・フェリンスク少尉は、久方ぶりに浮上した艦の後部で、彼方まで続く水平線をじっと見つめていた。
空は青く晴れており、時折冷たい風が吹く物の、気持ちの良い天気と言えた。

「やあ少尉、体の具合はどうだね?」

ふと、横合いから声を掛けられた。
フェリンスクは右横を振り返る。

「これはベルンハルト艦長」
「その様子だと、具合は良さそうだが」
「いえ、まだ胸が痛みます。軍医殿の診察によりますと、肋骨が折れているようですが……あとは打撲傷のみで、肋骨以外は大したことないと。
歩くぐらいなら何とか大丈夫です」
「ほう。何とか重傷で済んだか」

ベルンハルトは微笑みながらそう言うと、懐からタバコを2本取り出し、1本を差し出した。

「タバコは吸った事あるかね?」
「タバコですか……」

フェリンスクの反応を見たベルンハルトは、彼がまだタバコを吸ってないなと確信した。
ベルンハルトは時折、ロイノーとフェリンスクに声かけたが、2人ともタバコは吸わなかった。
理由としては、あまり好みじゃない匂いが付くと困る、との事だ。

「艦内で吸うと匂いがこもるが、ここで吸うなら匂いもすぐ晴れる。生き残れた記念にどうだい?」
「はぁ……」

フェリンスクは何故か、バツの悪そうな顔を浮かべていた。


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