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ξ゚⊿゚)ξツンちゃん夜を往くようです
482
:
名無しさん
:2021/08/30(月) 05:00:58 ID:je6Z08Ao0
( <●><●>)「さておき、試験の結果についてですが」
ξ;゚⊿゚)ξ「あっえっはい」
急に本題が出てきて驚く私。
居住まいを正し、必死の思いでワカッテマスさんの瞳を捉える。
( <●><●>)「……個人的には魔界にお戻りになるべきだと考えます。
ハインや勇者軍の事もあります。せめて半年、魔界に戻られてはいかがですか」
ξ;゚⊿゚)ξ
ξ;゚⊿゚)ξ「それは、個人的には、でしょう? 形式的にはどうだったのかしら」
死を覚悟して強めに聞き返すと、ワカッテマスさんは分かりやすく目をそらして返事を出し渋った。
だが数秒と続かない。彼は小さく息を吐き、調子を戻してから私に答えた。
( <●><●>)「もちろん合格ですよ。勝ったんですから、そこは絶対です」
ξ;゚⊿゚)ξ「……ほんとに?」
( <●><●>)「ほんとです。ハインの件が無ければ、なんて私が言うと思いますか?」
ξ;゚⊿゚)ξ
合格。
私の人生にほぼ存在しなかった2文字が明示され、肩の力がふっと抜け落ちる。
.
483
:
名無しさん
:2021/08/30(月) 05:01:41 ID:je6Z08Ao0
( <●><●>)「――ですがお忘れなく。結果はどうあれ厳戒態勢は変わりません。
地上での暮らしはそのままでも、勇者軍の件が落ち着くまでは護衛を付けます」
( <●><●>)「今後ともじっくりと鍛錬に励んで下さい。
今のままでは赤点回避がやっとですから、思い上がらぬよう」
ξ;´⊿`)ξ「思い上がりね、それは重々分かっているのだわ……」
嬉しさのあまり限界になったかと思えば、今度は重苦しい疲労感がどっと湧き上がってきた。
みんなの期待を裏切らずに済んだのなら――という自己肯定感に欠けた喜びで熱が冷めていく。
とにかく試験は合格とのこと。それに関して彼が二言を付け足すことは無かった。
ξ;゚⊿゚)ξ「……あの、ちょっといいかしら」
( <●><●>)「はい。なにかご質問ですか」
ξ゚⊿゚)ξ
ξ゚ー゚)ξ「……いえ、わざわざこっちに来てくれてありがとう。それだけ」
なので、私もあえて二言を述べるような真似はしなかった。
.
484
:
名無しさん
:2021/08/30(月) 05:02:35 ID:je6Z08Ao0
≪3≫
ξ゚⊿゚)ξ「勝ったわ」
('A`)「嘘乙。もうちょい笑えるの頼むわ」
ξ゚⊿゚)ξ
('A`)
ξ゚⊿゚)ξ
γ/ γ⌒ヽ (゚A゚;) ヴェッ…
/ | 、 イ(⌒ ⌒ヽ
.l | l } )ヽ 、_、_, \ \
{ | l、 ´⌒ヽ-'巛( / /
.\ | T ''' ――‐‐'^ (、_ノ
.| | / // /
ミセ;*゚ー゚)リ「――お嬢様、マジでもう本当におめでとうございます!!」
ミセ;*´ー`)リ「一時は私の教育方針が間違っているのかと己を疑う日もありましたが(ry」
試験の結果を報告してみて、一番必死で喜んでくれたのはミセリさんだった。
手のかかる魔王城ツンで申し訳ない。もうゴールしていいよね……。
ミセ*゚ー゚)リ「やはり強靭な肉体こそが正義! 今後ともよろしくお願いします!」
ξ゚⊿゚)ξ「ありがとう。でも今後のトレーニングは自分で考えるから大丈夫なのだわ」
ミセ*゚ー゚)リ
ミセ;*゚ー゚)リ「は、反抗期をば……!?」
ξ゚⊿゚)ξ「窓ガラスを割って回るなどしたい」
.
485
:
名無しさん
:2021/08/30(月) 05:03:19 ID:je6Z08Ao0
(´・_ゝ・`)「あーはいはいおめでとう。俺は最初から信じてたよ」ペチペチペチペチ
相変わらず縁側で寝てる盛岡が心にもない称賛を送ってくる。
ぺちぺちぺちぺちと適当に太ももを叩いて拍手してるのがシンプルに腹立たしい。
おててとおててを合わせるくらいやってほしかった。
(´・_ゝ・`)「よーしどんどん話を進めておくれ。次は素直四天王の処遇についてか?」
川; д川「……帰りにケーキ買っていきましょうね、お嬢様」
話を急かす盛岡を横目に見つつ、申し訳程度に断りを入れてから貞子さんが前に出てくる。
そういえば居たな素直四天王。一場面にキャラが集中すると話題が渋滞して困る。
川д川「彼女達なんですけど、盛岡の進言でこっちに引き込もうという流れになっています。
利用価値は色々あると思いますが、どうされますか?」
ξ゚⊿゚)ξ
ξ゚⊿゚)ξ「え、別にいらないけど」
川д川「なら処刑ですが」
ξ゚⊿゚)ξ「2択が極端なんな」
(´・_ゝ・`)(即答すんのもどうなんだよ)
.
486
:
名無しさん
:2021/08/30(月) 05:05:27 ID:je6Z08Ao0
(´・_ゝ・`)「なんだよなんだよ、俺がポケットマネーで雇う分には構わないだろ?
女友達を一気に4人。しかも仕事の付き合いだ、お前が気負う必要はない」
ξ;゚⊿゚)ξ「友達を金でって……バカじゃないの!?
あのね、友情ってのはお金じゃ買えないものなのよ!?」
人の心をなんだと思っているんだ。
私は盛岡を叱責した。
(´・_ゝ・`)
(´・_ゝ・`)「ところでお前、俺がやった財布はどうしたんだ?」
ξ゚⊿゚)ξ「えっ」
なぜ今その話題が出てくるのだ。
嫌なタイミングで重箱の隅をつつく盛岡はやはり陰湿だと思った。
(´・_ゝ・`)「どうなんだよ」
ξ;゚⊿゚)ξ「……カ、カラオケで落としました」
嘘をついても仕方がないと思い、私は正直に白状した。
彼に対して誠実になる必要はないのだが、事が事だけにやむをえない。
(´・_ゝ・`)「本当にか? 奪われたとか、なんか取り引きがあったとかじゃなく?」
ξ;゚⊿゚)ξ「はい」
(´・_ゝ・`)「普通に? なんの捻りもなく?」
ξ;´⊿`)ξ
(´・_ゝ・`)
冷たい視線に重い無言。
あれだけ口達者な盛岡が今までになく言葉を失っていて、流石に私も負い目を感じてきた。
(´・_ゝ・`)「……で、その財布をたまたま素直四天王に拾われたと」
ξ゚⊿゚)ξ「えっそうなの」
(´・_ゝ・`)「そうだよ」
そうらしかった。
.
487
:
名無しさん
:2021/08/30(月) 05:07:44 ID:je6Z08Ao0
(´・_ゝ・`)「そんで財布の中身だが、もちろん素直四天王が綺麗に使い切ってた。
口座も含めりゃ1000万以上はあったと思うが、さて、これはどういう意味だろうな?」
ξ゚⊿゚)ξ
ξ゚⊿゚)ξ「うーんとね、わかんない」
(´・_ゝ・`)「お前にお小遣いをやるのはいいんだよ。日本円なんて魔物には大して価値ないしな。
うちの議会もそれくらいの予算は下ろしてくれてる。財布を落としたのも別にいい」
(´・_ゝ・`)「でもな、『財布を落としました、それが敵の軍資金になりました』ってのは問題になる。
分かるか? こんな間抜けな話はな、やろうと思えばいくらでも枝葉が付くんだよ」
ξ゚⊿゚)ξ「わかんないて」
(´・_ゝ・`)
(´^_ゝ^`)「あ〜あ! 用途不明の1000万円を上にどうやって説明しようかな!
素直四天王を雇った事にすれば誤魔化せるけど、それが無理ならどうしようかな!」
(´^_ゝ^`)「財布を落とした、それをたまたま敵に拾われたなんて信じてもらえるのカナ!?
むしろ敵との癒着を疑われて立場が悪くなりそう! 議会にも色んな派閥があるしなぁ!」
(´^_ゝ^`)「どうにか埋め合わせないと政治的に面倒そうだけどいいのかなぁ!
まぁ俺が揉み消せばいいんだけど、頼まれてもない不正で手を汚すのは嫌だなぁ!」
ξ゚⊿゚)ξワカラヌ
(´・_ゝ・`)
(´・_ゝ・`)「俺が敵になるかも」
ξ;゚⊿゚)ξ「――昨日の敵は今日の友、素直四天王とは今からズッ友です!!!!」
(´^_ゝ^`)「う〜〜〜ん大変よろしい! それしか聞きたくなかった!」
友情とか金とかさ、そういう話じゃないんだよな。
人間関係っていうのはもっとこう、もっとなんか手遅れになってから良し悪しが分かるんだよな。
始まんなきゃ何も分からない。最初から他人を取捨しようだなんて最低の発想だ。
たとえ傷つくことになっても構わない。私はずっとそうしてきたのだ。本当である。
.
488
:
名無しさん
:2021/08/30(月) 05:10:37 ID:je6Z08Ao0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
盛岡のゴリ押しに負けた後、私は貞子さんに呼び寄せられて小声で話しかけられていた。
川д川「実のところ、最初に彼女達を庇ったのは盛岡なんですよ」ヒソヒソ
ξ゚⊿゚)ξ「えーそれは嘘でしょw」
川д川「さっきのゴタゴタも最初は言ってませんでしたし、間違いなく何かあります」
貞子さんの話によると、なんとあの盛岡が率先して人間を庇ったというのである。
日和見主義者のコウモリ野郎が人間に化けたのが盛岡だろうに、正味信じられない話だった。
というか、こっちの話を疑われても貞子さんに記憶を見てもらえば一発で解消できるではないか。
さっきは彼に気圧されたが、そもそも貞子さんが居れば大抵の問題は何とかなるのだ。
他にも女衒として素直四天王を売り飛ばすなどできるはずだし、さっきの一幕はどうにも杜撰である。
何かあると言われると、まぁ確かに何かあるんだろうなと思わなくもなかった。
川д川「別にこっちも処刑とかするつもりはなかったんですよ。
それでも一応記憶の消去をと思ってたところ、そうする前に食い気味に止められて」
ξ;゚⊿゚)ξ「なんぞそれ……やっぱ議会絡み?」
川д川「可能性は高いです。少なくとも彼には別の目的があると思うべきでしょう。
彼は試験突破のサポートとして来てる訳ですから、それが済んだ今何をするのか……」
ξ;´⊿`)ξ「……言いたいことは分かったのだわ。
みんなの立場も分かってるから、私は何も言わないのだわ」
川д川「はい。ご迷惑にならない範囲で動いてみます」
魔王軍政治戦略議会の盛岡。魔導宮廷所属の貞子さん。魔王の右腕であるワカッテマスさん。
ミセリさんはまた別としても、私の周りには実に多様な立場と考えがある。
ドクオにしたって龍族の掟には従っているし、私にだって個人的な思いがある。
ξ;´⊿`)ξ
この多様性に対して繊細な立ち回りを求められる感じ、魔界に居た頃のストレスが甦るようだった。
.
489
:
名無しさん
:2021/08/30(月) 05:13:17 ID:je6Z08Ao0
≡┌( ^ω^)┘「ツーーーーン!!!」ドテドテ
ξ゚⊿゚)ξ「ええいあデブが突っ込んできた」
そのとき内藤くんが突然私達のところに飛び込んできた。
呼び捨てを許す仲でもない筈だが、ここ最近の彼の人懐っこい雰囲気はやけに子供っぽい。
恐らくハインさんが捕まったせいで気が触れたのだろう。そっとしておこう。
川д川
ξ゚⊿゚)ξ”
お気をつけて、と視線を送ってくる貞子さんに軽く頷いて応える。
ひとまず面倒事は後回しにして、私は内藤くんにツッコミを入れることにした。
ξ゚⊿゚)ξ「内藤くん、ぶつかり稽古なら柱にやった方がいいと思うのだわ」
(; ^ω^)「全然違うお! 確かにツンは柱みたいな体型してるけどそんな失礼な真似はしないお!」
ξ゚⊿゚)ξ「体型でイジった私が悪かった。私にだって曲線はあるぞ」
( ^ω^)「マジで!? 触らせてほしいお!」
急にスケベだなお前。
.
490
:
名無しさん
:2021/08/30(月) 05:15:43 ID:je6Z08Ao0
ヘ(* ^ω^)ノ「とにかく試験合格おめでとうだお!
早速どっか遊びに行こうお! 祝勝会とかやりたいお!」
ξ;゚⊿゚)ξ「ええ〜そんな急な……」
ミセ*゚ー゚)リ「別にいいですよ。今日は私も付き合いますから」
('A`)「意向を無視して付き合わされる俺も居るぞ」
ξ;゚⊿゚)ξ
ξ;´⊿`)ξ「ええ〜……」
いつメンがぞろぞろと出揃ってきてなんかもうわちゃわちゃ感がすごい。
だが私が気後れするのも仕方がなかった。今の私はどちらかというと疲れているのだ。
今日まで溜め込んできた疲労がどっと溢れてきた感じで体が重い。
このプレッシャーが半端に残った感じの胃もたれ、1回自分で整理しないと絶対に片付かない。
要するに1人になりたい。帰って寝たい。今の私は帰って寝たいマンだった。
ミセ*゚ー゚)リ「だったら今日は健康ランドにでも行きます? 各自適当に過ごす感じで」
ξ;´⊿`)ξ「健康ランドって、なにその絶妙に惹かれる提案は……」
とは思うが、なまじ善意が相手なので「行かなくてよくねえか?」とは少し言いにくい。
ああ〜流される。もうこれ流れで行くんだろうなと諦めのように悟ってしまう。
でも健康ランドならいいかという気持ちもちょっとあった。健康ランドだしな。
ミセ*゚ー゚)リ「貞子、あっちの素直ズも連れてくけどいいわよね?」
川д川「大丈夫よ。変なことしたら内蔵全部爆発して死ぬよう制約掛けてるから」
川 ゚ -゚)「――えっ?」
川;゚ -゚)「おい待て貴様! 今なにか物騒なことを言ったな!?」
ノハ;゚⊿゚)「やめとけねーちゃん! 逆らったらここで爆破されちまうよ!」
o川*゚-゚)o「……健康ランドって何?」
lw´‐ _‐ノv「お風呂屋さん。エロくない方の」
インフォームドコンセントの欠如を感じる。
.
491
:
名無しさん
:2021/08/30(月) 05:16:15 ID:je6Z08Ao0
ミセ*゚ー゚)リ「お嬢様もそれでいいですか?」
ξ゚⊿゚)ξ「いいよ」
⊂( ^ω^)「よーし! それじゃあみんなで健康ランドだお!」
( と)
/ >
かくしてみんなで健康ランドに行った。
素直四天王とも裸の付き合いを経てそれなりに仲良くなった。
まゆちゃんも誘えばよかったなぁ。
.
492
:
名無しさん
:2021/08/30(月) 05:17:20 ID:je6Z08Ao0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
(´・_ゝ・`)「お前、けっきょく最後まで言わなかったな」
川д川「……どれを?」
ツンちゃん御一行が去った後、残された2人は短く言葉を交わしていた。
ハインの屋敷は貞子によって十分な結界が施されている。
ここで何を話そうと、秘密が外に漏れる事はなかった。
(´・_ゝ・`)「妖刀首絶ちの洗脳についてだよ。
自分があの刀の影響を受けてたって話、あいつ知らないだろ?」
川д川「……知らなくていいでしょ。教えたところで話が拗れるだけよ」
(´・_ゝ・`)「内藤ホライゾンや毛利まゆについても同じか?
従者のくせして不誠実な対処をするんだな。おお怖い」
川д川「余計な情報はシャットアウトする。世話役としては当然の仕事」
(´・_ゝ・`)「よく言うぜ、恣意的な情報操作だろうが。俺の仕事と大差ねえぞ」
ハインリッヒを捕らえてすぐ、貞子はハインの記憶を探って一連の情報を抜き出していた。
彼の来歴と目的、妖刀によって洗脳を施した対象などはとっくに確認済み。
しかしそれらの情報は魔王城ツンには一切伝わっておらず、つまり完全にハブられていた。
ツンが必要以上に人間に肩入れしていた訳。
内藤ホライゾンのキャラがいまいち安定しなかった理由。
一般人の毛利まゆがハインの手駒に使われていた事実。
妖刀云々を話してしまえば以上の事柄が一挙に片付くのだが、貞子はあくまでそれを隠した。
彼女は、魔王城ツンに行動の動機を与えたくなかったのだ。
(´・_ゝ・`)「――ま、もう手遅れだと思うけどな」
そんな彼女の思惑を知ってか知らずか、盛岡はまた主語曖昧な台詞を空に投げた。
貞子は彼を一瞥し、事務的に言い返す。
.
493
:
名無しさん
:2021/08/30(月) 05:19:23 ID:je6Z08Ao0
川д川「妖刀の影響が特に強かった彼にも即死レベルの制約は課してあるわよ。
怪しい動きをしたら大量の魔力が体に流れ込んで木っ端微塵。血の一滴も残らない」
(´・_ゝ・`)「で、内藤ホライゾンの記憶は見たのか? どうだったよ」
盛岡は食い気味に追及した。
川д川「それも異常なし。汚れ仕事に巻き込まれてて同情したくらい」
(´・_ゝ・`)「行動に一貫性はあったか? 全部の行動、ハインを理由に説明できるか?」
川; д川「……概ねそうだと思うけど妙に食いつくわね。今度は情報収集が仕事なの?」
(´・_ゝ・`)
(;´-_ゝ-`)
彼は項垂れ、己を戒めるように強く口をつぐんだ。
数秒を経て、彼はすぐ元に戻った。
(´・_ゝ・`)「まぁそんなとこ。素直四天王を引き込んだのも手遅れに対する備えだよ」
(´・_ゝ・`)「勇者軍には居場所がバレてる訳だしな。いつ行動を起こされたって不思議じゃない。
ツンを名指しで『あいつは魔物です』って喧伝される可能性もゼロとは言えないだろ?」
川д川「そうなったら魔界に連れ帰るだけよ。仕方なくね」
(´・_ゝ・`)「……へえ、そおなんだぁ」
勇者軍を放置していれば遠からずツンの日常は崩壊する。
そんな分かりきっている未来に対し、彼女は対策もせず『仕方なく』で済ませようとしている。
盛岡は、貞子という一個人の狙いはそこにあるのだと推察した。
( <●><●>)
(´・_ゝ・`)
そして次に、ここまですっかり存在感を消していたワカッテマスに一瞥を送る。
魔王の意向に従う彼は 『魔王城ツンを魔界に連れ帰りたい』 と明け透けに明言していた。
敵への対処に集中するべく、せめて一時でもツンを盤外に移したいというのが現場の本心なのだろう。
貞子はツンの味方だが、敵の侵攻を危惧してその考えに同調したとしても不思議ではない。
合理的な判断だ。それが彼女の役割なのだろうと、盛岡は暗に事情を悟っていた。
.
494
:
名無しさん
:2021/08/30(月) 05:20:55 ID:je6Z08Ao0
(´・_ゝ・`)(……かといって、貞子の魔術は万能じゃあない。
俺の記憶を読みきれてないのがいい証拠だ。内藤ホライゾンも要注意のままか)
(´・_ゝ・`)(ここまで話が拗れるならいっそ全部見抜いてくれた方が早いんだけどな。
そうなりゃ俺も清々しく元の予定に戻れるものを……)
狂いまくった予定を惜しみながら、盛岡は先日見つけた手掛かりの事を思い返した。
巡り巡って自分のもとに帰ってきたエルメスの長財布、その中にあった他愛のないメモ。
彼はメモの内容を頭に浮かべ、今後の身の振り方をどうするべきか考え始めた。
(´・_ゝ・`)(メモに書かれていた文言はひとつ、『誰も死なせるな』)
(´・_ゝ・`)(……どこにあんだよ、そんなルート)
孤立無援、ヒント皆無での一発勝負を強いられる盛岡デミタス。
行き先不明の片道切符は、彼を鈍行列車に乗せて次の舞台へと送り出していた。
.
495
:
名無しさん
:2021/08/30(月) 05:22:53 ID:je6Z08Ao0
≪4≫
〜健康ランド〜
ξ゚⊿゚)ξ「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙」
マッサージチェアに全身の筋肉をめちゃくちゃにほぐされ始め、30分が経過していた。
諸々の経過を省いて言うと、今の私は健康ランドの女と言っても差し支えない有り様だった。
気持ちいいのは当たり前。甘い快楽の中でくつくつと煮え続ける喜びは決して私を逃さない。
これが終わったら次は足のマッサージをしてもらおう。それも済んだら次はメシを食おう。
ミセ;*゚ー゚)リ「お嬢様、流石にそろそろ帰りませんと……」
ξ゚⊿゚)ξ「もういいの。私はここで怠惰を貪るのよ」
こちらの健康ランドはなんと24時間営業である。
しかもエロくない方のエステとか仮眠スペースとか色々あって従業員の態度もよい。帰りたくない。
ミセ;*゚ー゚)リ「ダメですって! 明日の学校はどうなさるんですか!?」
ξ゚⊿゚)ξ「1日くらいサボっても大丈夫なのだわ」
ミセ;*゚ー゚)リ「ダメだ、快楽に弱すぎる……」
ゆるゆるモードに火を点けたのはミセリさんなのだ、私は悪くない。
もうこのまま健康ランド巡りに人生を費やすのも吝かではないな。いつか魔界にもテルマエを作ろう。
.
496
:
名無しさん
:2021/08/30(月) 05:26:32 ID:je6Z08Ao0
川;゚ -゚)「……あの、我々はもう帰っていいだろうか。
というか私以外は先に帰らせたんだが……」
そんな折、低頭平身でやってきた素直クールがミセリさんに声をかけてきた。
帰り支度も済んでいるのか、彼女は既にコスプレ用学生バッグを小脇に抱えていた。
夜はまだまだこれからだというのに何という体たらくだ。寂しいからもっと居てほしい。
ミセ;*゚ー゚)リ「あーうん、いいわよ全然。日付も変わっちゃってるしね」
ξ゚⊿゚)ξ
ξ;゚⊿゚)ξ「え待って、日付が!?」
ミセ;*゚ー゚)リ「いやもうクソ夜中ですって! だから何度も帰りましょうって!」
時計を見ると時刻は深夜3時。名実ともにクソ夜中だった。
仮眠スペースに行ったきりドクオと内藤くんが帰ってこないのはそういう理屈だったか。
あいつら私を放ってガチ寝してやがるな。
ξ;゚⊿゚)ξ「えー帰んないでよクーちゃん! 爛れた恋バナとかないの!?」
川;゚ -゚)「こっちにも都合があるんだよ。あとクーちゃん呼びはやめてくれ距離感が狂う」
クールは腰に手を当てて黒髪をなびかせた。
相変わらずのコスプレ制服姿、しかし風呂上がりだと妙に色っぽく見える。
この人と裸の付き合いをしたのか。男子中学生基準の感動がぐっと込み上げてくるな。
ミセ;*゚ー゚)リ「ほらほらお嬢様も帰りますよ! 荷物取ってきますから、はい、ロッカーの鍵!」
ξ;´⊿`)ξ「ウグゥー! とんだ失楽園なのだわ……」
クソ深夜だしみんなお開きムードだし、私も諦めてミセリさんにロッカーの鍵を明け渡した。
それを受け取るやいなや、彼女は瞬時に踵を返してロッカーの方へと駆けていった。
あと数分もしたらマッサージチェアともお別れである。とてもつらい。
.
497
:
名無しさん
:2021/08/30(月) 05:28:37 ID:je6Z08Ao0
ξ;゚⊿゚)ξ「あ゙あ゙あ゙帰りたくないのだわ……」
川;゚ -゚)「散々エンジョイしただろうが。お前けっこう貧乏性だな……」
素直四天王の長女らしく小言を並べる素直クール。
私はそれを真摯に受け止め、強い決意をもってマッサージチェアを脱出した。
ξ;゚⊿゚)ξ「あ゙あ゙あ゙でも帰りたくない!!」
川 ゚ -゚)「ああそう。じゃあ私は帰るから。また明日、朝一番で顔を合わせよう」
クールはそう言ってバッグをまさぐり、中からビー玉付きのストラップを取り出した。
そのビー玉は、彼女と初めて戦った時にも見かけた謎アイテムにそっくりだった。
ξ゚⊿゚)ξ「……ねぇそれ、周囲に結界を張るヤツ?」
私は少し警戒して彼女に尋ねた。
裸を見せあった手前こんなに早く裏切るとは思えないが、とりあえずシリアスぶってみる。
川 ゚ -゚)「勘違いするな。これはまた別のヤツだ。
移動用のアイテムというか、こいつを割ると瞬間移動できるんだよ」
ξ゚⊿゚)ξ
ξ゚⊿゚)ξ「なんでそんなもん人間ごときが……」
想像してない答えがきて、私はまたしても人間見下しムーブを漏らしてしまった。
結界とか瞬間移動とか、私にもできないスゴ技をビー玉なんかで実現しないでほしかった。
ワザップか、ワザップで調べればいいのか。
.
498
:
名無しさん
:2021/08/30(月) 05:30:16 ID:je6Z08Ao0
ξ;-⊿゚)ξ「……そのビー玉、貞子さんに渡したらすごい喜ぶと思うわよ。
私が言っても説得力無いけど、魔術的には絶対に一級品だし……」
川 ゚ -゚)「そうでもないって。これの移動先は一箇所だけだし、大して便利じゃないぞ」
彼女はビー玉をつまみ指先で転がして見せた。
あれを割ったら一瞬でテレポートできるのだろうか。便利の基準が違いすぎて吐きそうだった。
川 ゚ -゚)「まぁ媚びを売る必要が出てきたら考えるよ。じゃあまたな」
ξ゚⊿゚)ξ「うむ」
彼女はそのまま指先に力を入れ、パキ、と音を立ててビー玉を砕いた。
それと同時にビー玉から溢れ出す異様な魔力。
彼女の姿はすぐさまその魔力に取り囲まれ、一瞬にして私の視界から消え――
.
499
:
名無しさん
:2021/08/30(月) 05:34:28 ID:je6Z08Ao0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
ミセ*゚ー゚)リ「お嬢様〜、支度が済みましたよ〜」
( ´ω`)「んお……眠いお……」スピスピ
(;'A`)「起きろ内藤。帰んねえと」
数分経って支度を終えると、ミセリは仮眠スペースに居たドクオ達を連れてツンのもとに戻ってきた。
しかしツンが座っていたマッサージチェアはもぬけの殻で、目の届く範囲にも彼女の姿はなかった。
ミセ*゚ー゚)リ
ミセ*゚ー゚)リ「ドクオ、今すぐお嬢様を探すわよ」
('A`)「――ちょいミセリさん、あれ」
2人はほぼ同時に言い、それぞれが発見した緊急事態に表情を曇らせていた。
ツンを最優先とするミセリはドクオを無視して話を進めようとしたが、
( ^ω^)「……勇者軍」
内藤ホライゾンの無視できぬ独り言が聞こえ、ミセリは咄嗟に彼らの視線を後追いした。
ミセ;*゚ー゚)リ「……ちょっと、これって」
そうして彼女は壁際の大型テレビに目を奪われ、その直後、アナウンサーの語りに耳を疑った。
.
500
:
名無しさん
:2021/08/30(月) 05:35:23 ID:je6Z08Ao0
|~二二二二二二二~| 『――繰り返します。臨時ニュースです』
| | | |
| | | | 『特例外来生物、通称魔物の現存が都内で確認されました』
| | | |
|_二二二二二二二 ,,| 『これを受け、政府は先ほど当該地域への自衛隊派遣を閣議決定しました』
|二二二二二二二二|
| [::=====:::○:]...| 『マニー防衛大臣は閣議後の会見で「すべて金で解決する」と述べ――』
|二二二二二二二二|
.
501
:
名無しさん
:2021/08/30(月) 05:35:46 ID:je6Z08Ao0
#06 幕間 〜群盲撫ツン〜
.
502
:
名無しさん
:2021/08/30(月) 05:37:19 ID:je6Z08Ao0
#1
>>2-65
#2
>>74-117
#3
>>122-160
#4
>>169-212
#5-1
>>231-266
>>271-289
#5-2
>>294-324
#5-3
>>330-363
#5-4
>>371-416
#5-5
>>422-461
#6
>>467-501
今回でAルートの序盤が終わりました
次回投下は10〜11月になりそうです 2年目もぼんぼる!(^ω^)
503
:
名無しさん
:2021/08/30(月) 08:09:45 ID:k6hZdaiA0
乙乙
504
:
名無しさん
:2021/08/30(月) 21:09:00 ID:oH7qdkuY0
うおー投下早くて嬉しいおつ!
内藤の性格もハインが妖刀で改造してたってこと?
やべえな妖刀
次も楽しみに待ってます
505
:
名無しさん
:2021/08/31(火) 18:43:14 ID:nXM1egM.0
安定した更新で助かる
ツンちゃんが心配だ
506
:
◆gFPbblEHlQ
:2021/11/05(金) 15:47:57 ID:vOUx5rwE0
お待たせしました。今月13日くらいに7話目を投下します
突然こんなこと言ってごめんね。
でも本当です。
次回ちょっとだけ考察を要するので気をつけて
それがやんだら少しだけ間をおいて、戦争が始まります
よろしくお願いします
>>503
ありがとうございます!
>>504
実際そうだと思っている人達と、そうじゃない人達が居ます!フクザツ!
>>505
すまない…
507
:
名無しさん
:2021/11/05(金) 16:00:36 ID:McInbeeo0
うおわ〜〜〜〜たのしみだ〜〜〜〜〜〜
508
:
名無しさん
:2021/11/05(金) 22:18:46 ID:f6b5XDtE0
よっしゃ、生きる理由が増えたぜ
509
:
名無しさん
:2021/11/13(土) 00:09:32 ID:5UWcgKYM0
今日追いついたので近日中に投下あるっぽい発言に歓喜
全裸待機するわ
510
:
◆gFPbblEHlQ
:2021/11/16(火) 23:52:07 ID:lQcTlYWQ0
≪1≫
川 ゚ -゚)「――……っと」スタッ
健康ランドの景色が消えて、視界のすべてが薄暗く塗り替わる。
素直クールは静まり返った周囲にさっと目を配り、テレポートの成功を事実として確認した。
山小屋のように粗野な室内。暖炉の火種は残っているが、窓を見遣るに夜更けの頃合い。
先に帰った素直四天王達も彼女を待たずに床についたのだろう。部屋に人気はなく――
\川 ゚ -゚)/ 「よ〜し私もさっさと寝、」
ξ゚⊿゚)ξ
川 ゚ -゚)「る、」
――部屋に人気はなく。
ξ;゚⊿゚)ξ「ここisどこ」
否、その声は素直クールのマブダチ、魔王城ツンではないか。
クールは視界の隅にあったツンを改めて直視すると、数度瞬きを繰り返し、露骨に眉をひそめて見せた。
_,
川;゚ -゚)「……ああ?」
ξ゚⊿゚)ξ(お前なんで居んのという視線キツいキツすぎる)
さっき健康ランドで別れたはずの2人。
それが相変わらず顔を突き合わせている現実、双方にとって等しく意味不明だった。
状況への理解が及ばず、合わせ鏡のように動かない2人。しばし沈黙が流れていった。
.
511
:
名無しさん
:2021/11/16(火) 23:54:04 ID:lQcTlYWQ0
川;゚ -゚)
ξ;゚⊿゚)ξ
川;゚ -゚)「いや、お前なんで居るんだ?」
ξ;゚⊿゚)ξ「こっちが聞きたいのだわ」
川;゚ -゚)
川; - )「……いや待て、一旦ここで待て。私では無理だ。家主を呼んでくる」
クールは片手で目元を覆い、そのままツンを置き去りにして部屋を出ていった。
かくして数分後、彼女はオイルランプを携えて部屋に戻ってきた。
('、`*川
――見知らぬ女性を、ひとり引き連れて。
.
512
:
名無しさん
:2021/11/17(水) 00:01:35 ID:pFrDK2CI0
川;゚ -゚)「ほらあれですよアレ。師匠にも見えてますよね?」
('、`*川「うーん、確かに居るねえ」
ξ゚⊿゚)ξ(扱いが心霊現象)
ボリュームのある黒の長髪を腰下まで伸ばした大人の風体。
着ている衣服はもろにパジャマ(水玉)だが、低めの声に飾らない素振りが相まって幼くは見えない。
どこか気が抜けた大人。彼女を一目で評するならば、これが最も端的な第一印象になるだろう。
ξ;゚⊿゚)ξ(……えっ?)
しかし、そういう無難な第一印象はあくまで一目に基づくもの。
彼女は素直クールが『師匠』と呼んだ人物なのだ。その実力はとても気になる。
だからツンも安易には印象を定めず、興味本位で彼女の実力を見定めようとしたのだが――
ξ;゚⊿゚)ξ(こ、この人……!)
レベル
ξ;゚⊿゚)ξ(私のパパとか、ワカッテマスさんとか、そういう領域に居るのだわ……!)
――結果、ツンの内から引き出されたのは最上級の比喩であった。
ツンの父親である現魔王のレベルとは、即ち『測定不能』を意味する天上の領域。
今ある物差しではこれ以上は測れない。いずれ自分も到達するはずの雲の上。
('、`*川「いや〜ほんとに実物なんだねえ。まさかそっちから来るとは思ってなかったよ、マジで」
そんなところに生身の人間が、これまた突拍子もなくエントリーしてきた衝撃たるやとてもすごい。
そう簡単に飲み込めるものではない。いかな自分の見立てと言えど、信じられなかった。
川 ゚ -゚)「これどうしましょう。私のテレポートに巻き込まれたんですかね」
('、`*川「だろうねえ。不慮の事故でもない、まさかの正規入場だ」フムフム
息を呑んで立ち尽くすツンを肴に推察を進めるパジャマの彼女。
やがてその推察も落着したのか、彼女はツンの前に立って背筋を伸ばし、得意げに深く頷いていた。
('、`*川「いやー、クールもまた珍しいお客さんを連れてきたね。
初めましてを2度言う相手、めちゃくちゃ久し振りだ」
ξ;゚⊿゚)ξ「……?」
川 ゚ -゚)「ああ、独り言は気にしないでくれ。話が拗れる」
.
513
:
名無しさん
:2021/11/17(水) 00:03:14 ID:pFrDK2CI0
('、`*川「――はい、こんにちは。そっちの時間だとこんばんは?
ついでにおはようとおやすみ。そして何より初めまして」
('、`*川「よく来たね、また会えて嬉しいよ」
ξ゚⊿゚)ξ
_,
ξ;゚⊿゚)ξ「は、はじめまして……?」
優しい声色で発せられた挨拶全部盛りみたいな言葉の羅列。
ツンはその中から最も無難なやつを選び、恭しく繰り返した。
.
514
:
名無しさん
:2021/11/17(水) 00:06:12 ID:haZuTTNw0
来てるじゃん!
515
:
名無しさん
:2021/11/17(水) 00:15:40 ID:pFrDK2CI0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
川 ゚ -゚)「そんじゃ私はこれで。おやすみなさい」
('、`*川「はいはい。今日もおつかれ〜」
暖炉の薪がパチパチと燃える中、素直クールは我先にと部屋を後にした。
面倒臭いしもう寝たいんだよ。彼女の去り際の視線はツンを無言で突き放していた。
ξ゚⊿゚)ξ Help me.....
('、`*川「それじゃあ早速、質問があれば」
残された2人は暖炉前のソファにそれぞれ座っていた。
ソファの間には小さなテーブルが置かれており、心ばかりの水と焼き菓子が用意されている。
ツンは焼き菓子(かなり焦げているクッキー)を1枚かじり、今一度現状を整理しつつ言葉を選んだ。
ξ;゚⊿゚)ξ「……あの、じゃあ名前から。私は」
('、`*川「魔王城ツンでしょ。それは知ってる」
彼女は言葉尻を横取りしてほくそ笑み、切れ長の垂れ目でツンを覗き込んだ。
出鼻を挫かれたツンは萎縮して目を細める。助けを求める気持ちがより強くなっていた。
('、`*川「あなた、『テストで0点にならないため』に名前から書くタイプでしょ?
『普通そうするから』って理由じゃなくてね。人間関係も狭く深くって感じかな?」
ξ;゚⊿゚)ξ
('、`*川「あ、そんで私は伊藤ペニサスね。先周はどうも」
一方的に話を広げ、彼女は肘掛けに乗せた腕をくるりと翻した。
そのまま「おはよう!朝4時に何してるんだい?」めいた姿勢になり、質問を続けるよう静かにツンを促す。
ツンはめげずに続けた。
.
516
:
名無しさん
:2021/11/17(水) 00:24:10 ID:pFrDK2CI0
ξ;゚⊿゚)ξ「えっと、……私達って会ったことないわよね?
どうしてそんな顔見知りみたいな、でも初見とも取れる感じで喋るの?」
('、`*川「……あーそこから。まぁそうだよね、あー」
ペニサスと名乗った女性は優柔に呟いて頬杖をついた。
それから少し唸って見せて、遠くを見つめながら口を開く。
('、`*川「なんてーか、私ってそれが両立するタイプなんだよね。
深層干渉防御の副作用って言い方もできるけど、まぁ聞き流すのが無難だと思うよ」
_,
ξ;゚⊿゚)ξ シンソ…カンショ…?
ツッコミどころが多いな。さては誘い受けか?
先程の印象が無ければ間違いなくそう言っていたツン、ここもぐっと堪えた。
ξ;゚⊿゚)ξ「あの、だったらもう本題なんだけど、私ここから帰れるのよね?
なんか流れでこうしてるけど、正直さっさと帰りたいのだわ……」
ツンは身を乗り出してペニサスに尋ねる。彼女が事を急く理由は健康ランドに居るミセリ達だった。
向こうからすれば突然ツンが消えたようなもの。無用な心配をかけて大事になっても困るのだ。
色んな意味で早く帰りたい。面倒事に直面したツンは大体いつも帰りたがっている。
ξ;゚⊿゚)ξ「あとなんていうか、事と次第によっては素直四天王の内臓も爆発しちゃうのよ。
結構のんびりしちゃったし、すぐ帰れるなら急ぎたいんだけど……」
('、`*川「あーあの内臓のやつ? あの術式なら適当にイジっといたから問題なし。
今の仕様でも血を吹いて胃がひっくり返る程度には痛いけどね。まぁいいでしょ」
ξ;゚⊿゚)ξ
ξ;-⊿-)ξ「いいからとにかく帰らせて。みんなを心配させたくないのだわ」
貞子の魔術をイジったとか、気になる部分も全力で聞き流していく。
ツンはコップの水を一気に飲み干すと、あえて無作法に立ち上がって結論を確言した。
ξ;゚⊿゚)ξ「はいごちそうさま! もう帰るのだわ!」
('、`*川「えーほんとにもういいの? 聞けば色々答えるのに」
ξ;゚⊿゚)ξ「とにかく素直四天王の知り合いなんでしょ?
それだけ分かってれば別にいいのだわ。機会があればまた今度、ゆっくり話しましょう」
.
517
:
名無しさん
:2021/11/17(水) 00:36:16 ID:pFrDK2CI0
('、`*川
('、`*川「だったら逆に質問があるんだけどさ」
途端、ペニサスは声を強めて別の話題に入ろうとした。
言外に込められた強かな意図――これに付き合わなければ絶対に帰さない。
ξ;-⊿-)ξ「……どうぞ」
ツンは甘んじて彼女の話を受け入れ、小さな嘆息と共にそう応えた。
('、`*川「急いでるのにありがとね。じゃあ聞くけどさ、その右腕ってどうしたのかな?」
彼女はツンの右腕を指差して、それからあえて数秒の間を作った。
薄暗い気迫。それがぴたりと首筋に張りつく。
ツンは右腕を隠すように身を捩り、弱々しく表情を曇らせた。
ξ;゚⊿゚)ξ「……な、なんで今、それを」
('、`*川「誘導尋問だよ。だって話してくれないんだもん、あなたが本当に聞きたがってる事」
ξ;゚⊿゚)ξ「本当、って……そんなん……」
右腕と聞いて、なにより先に思い出されたのは試験中の出来事だった。
━━━━━━━━━━
lw´‐ _‐ノv「すまんね」
ξ;゚⊿゚)ξ
━━━━━━━━━━
あのとき、素直シュールによって完全に破壊されたツンの右腕。
そしてその腕は意味不明な過程を経て完治、かくしてツンは勝利を収めるのだが――。
実際のところ、件の謎回復について分かっている事は何もない。
後日貞子が詳しい調査を行う予定だが、あれについての説明は、今は誰にもできなかった。
だからそもそも『他人に聞く』という発想がなかった。ペニサスの意図はあまりに唐突だった。
.
518
:
名無しさん
:2021/11/17(水) 00:43:16 ID:pFrDK2CI0
ξ;゚⊿゚)ξ「……答えたいけど、分からないのだわ。
気がついたら治ってて。そのうち調べる予定なんだけど……」
('、`*川「またまたぁ、分からないって事はないでしょう。
なにか予兆があったはずだよ。こじつけでもいいから考えてみて」
ξ;゚⊿゚)ξ「あの、ペニサスさんは答えを知ってるの?」
('、`*川「私は知らないよ。知ることもないだろうし」
ξ;゚⊿゚)ξ
━━━━━━━━
. _ ∩
レヘヽ| |
(・x・)
”c( uu} ,,ノミ入
丿 ノ
´~~~
━━━━━━━━
ξ;-⊿-)ξ「……でも私、治癒魔術なんて使えないのだわ」
('、`*川「だったら別の方法で元に戻ったのかも? ほら、ちょっと考えてみようよ。
別の腕と交換したとか、時間を進めたり戻したりとか、なんかあるでしょ?」
ξ;´⊿`)ξ「いや無いでしょなのだわ。そんなんもっとできんが……」
('、`*川「可能性の話なんだから気楽にいこうよ。結果としてその腕は治っているんだから。
ほらあれ、マインドマップとかってやつ? ヒューリスティクスも無駄じゃないよ」
ξ;´⊿`)ξ「いやぁ、だからって今ここで掘り下げなくても……」
('、`*川「……あー、答えしか知りたくない感じ? 現代っ子だね〜」
というか、今こっちには貞子という魔術関連の大御所が居る。
そんな相手が身近に居るなら、ここでどういった考察をしても最終的には的を外してしまうのだ。
なのでとりあえず安静にして、後日ちゃんとした医者に診てもらって、それから考える。
謎回復も一旦 『そういうものだから』 で片付けといて、なんかもう、そんな感じだった。
.
519
:
名無しさん
:2021/11/17(水) 00:48:39 ID:pFrDK2CI0
('、`*川「とはいえ、流石にそこまで消極的だとちょっと心配かな」
('、`*川「再現、再走、再生、再会、……あいつの狙いは再命名だっけか。
装われた形式的無知の読解、その外側にある点はまだ結べないか……」
ξ゚⊿゚)ξ「そう……ですね」
ツンは全てを理解したような真剣さで頷いた。
実際のところ何も理解していない。大体いつもそう。
('、`*川「ツンちゃんはどう思う? けっこう厳しいスタートでしょ」
ξ゚⊿゚)ξ
ξ゚⊿゚)ξ「絶好調を100とするなら40、……いや35ってところですね」
('、`*;川「……ああ、そう」
.
520
:
名無しさん
:2021/11/17(水) 00:53:30 ID:pFrDK2CI0
('、`*川「あーそうだ、そっちの盛岡とはどのくらい腹割って話してるの?
それ次第では私の動きも変わってくるんだけど……」
続いての質問には聞き馴染みのある名前が含まれていた。
どこか既視感のあるペニサスの言動が彼の名前と結びつき、「ああ〜なるほどね」となるツン。
ξ゚⊿゚)ξ(でも……)
でもあいつと腹を割って話す機会など一度でもあっただろうか。いや無い。
誰彼構わず煙に巻いて好き放題してるオッサン相手にそんな殊勝なことするか? いやしない。
ξ゚⊿゚)ξ「ははは」
結果、ツンは笑って誤魔化すしかなかった。
('、`*川「……なるほどね、オッケー分かった。
そっちとの距離感は掴めたよ、もう引き止めない」
そう言いながらペニサスは悠長に立ち上がり、部屋のドアに向かってパチンと指を鳴らした。
たったそれだけの動作を終えると、彼女は素直に道を譲り、片手を広げてツンを振り返った。
('、`*川「はいどうぞ、出口はこちらです。健康ランドのトイレに繋げといたよ。
向こうも2分くらいは経ってるけどいい? 一応時間も合わせとく?」
ξ゚⊿゚)ξ
ξ;゚⊿゚)ξ「えっ、繋げたってなに、別々の空間を!?」
('、`*川「うん」
Σξ;゚⊿゚)ξ「指パッチンだけで!?」
('、`*川「なしでもできるよ。やり方知りたい?」
ξ゚⊿゚)ξ「えーめっちゃ気になるんですけd……」
ξ゚⊿゚)ξ
ξ;-⊿-)ξ「――いや帰る! 今はとにかく帰るのだわ!」
正直めちゃくちゃ気になる。しかしツンは頑なに帰りを急いだ。とてもえらい。
ただでさえ現状は意味不明なのだ。『そういうものだから』を多用しなければキリがない。
ここで盛岡の名前が出てくるのもかなり縁起が悪い。ツンは早く帰って寝たかった。
.
521
:
名無しさん
:2021/11/17(水) 00:57:32 ID:pFrDK2CI0
≪2≫
ξ;´⊿`)ξ「うう〜……これ絶対まともな帰宅ルートじゃないのだわ……」
帰りのドアを開け放つと、その向こうには視界のすべてを塗り潰す暗闇が広がっていた。
健康ランドに続いているとは到底思えない異様な有様。ツンも人並みに二の足を踏んでいた。
そんなツンを励まそうと、ペニサスは何食わぬ顔で彼女の肩を揉みほぐした。
('、`*川「これ慣れると結構楽しいんだよ? こないだなんてダークライとかゲットできたし」
ξ;゚⊿゚)ξ「それ万歩計持ってないと詰まない?」
('、`*川「まぁ変なことしなければ大丈夫だって。
ツンちゃん■■■■の■■とか持ってないでしょ?」
ξ゚⊿゚)ξ「ええ、持ってないけ――」
ξ;゚⊿゚)ξ「……え? いまなんて言っ」
('ー`*川「なら大丈夫だよ死にゃしないから! ほら元気出してこ!」
ξ;゚⊿゚)ξ
('、`*川
ξ;゚⊿゚)ξ「あ、はい」
ペニサスとの対話を諦めたツンは暗闇に手を突っ込み、続けて数歩、ゆっくりと前に進んだ。
.
522
:
名無しさん
:2021/11/17(水) 00:59:42 ID:pFrDK2CI0
('、`*川「あーそうそう。そんな感じでいけば大体オッケーだから」
ξ;゚⊿゚)ξ「んなこと言っても光すらな――い……ッ!」
――暗闇に踏み込んだ直後、ぐわんと体が傾く感覚に襲われて足を止める。
三半規管が異常をきたしている。平衡感覚が一気に崩壊した。
ツンは遠心力を伴う錯覚に大きくよろめき、その場で千鳥足を踏んで頭を抱えた。
ξ; ⊿゚)ξ(この空間、やっぱりまともじゃ……!)
肢体を引き千切らんほどの浮遊感が四方八方に暴れ回り、体の感覚が端から蒸発していく。
しかし不思議と倒れはしない。ツン自身でもそれが奇妙で、五感の混乱はさらに悪化した。
ξ; ⊿゚)ξ …
ξ゚⊿゚)ξ(あっダメだ吐く)オロロロロ
船酔いと陸酔いと高山病と減圧症が同時に襲ってくるような即死攻撃。
ツンは真顔で嘔吐を終えると、やや青ざめた表情で背後のペニサスを振り返った。
('、`*川
ξ;゚⊿゚)ξハァ…ハァ…
('ー`*川「あっ忘れてたんだけどさ、ついでに伝言頼んでいいかな?」
ξ;゚⊿゚)ξ(こっちのゲロは無視か、強いな……)ハァハァ
部屋の中から柔らかい声をかけてくるペニサス。
彼女はゆっくりドアを閉めながら、残った話題を手短にツンに伝えていった。
.
523
:
名無しさん
:2021/11/17(水) 01:05:33 ID:pFrDK2CI0
('、`*川「――唐揚げどうも。約束は守ってるよ、って。
あなたの知ってる盛岡に伝えといてくれればいいから」
('、`*川「あとそれ、ガンガン進めば意外と楽になるから安心してね。
トンネルを抜けると健康ランドだった的な着地するからさ」
ξ; ⊿゚)ξ(そんな雪国的イントロで済む異常じゃねえのだわ……!)
('、`*川「そんじゃあね。また会えたらよろしく〜」
ぱたん、と軽い音を立てて閉じるドア。
そうしてツンは完璧な真っ暗闇に取り残され、もう自分の体の輪郭さえ捉えることはできなかった。
ξ;-⊿-)ξ「……ふぅ、はあ……」
ξ;゚⊿゚)ξ(こんなゲームのバグみたいなとこ、早く出ないと絶対ヤバいのだわ……)テクテク
口元を拭って立ち直り、荒れ狂う五感を宥めつつ前進を再開するツン。
彼女は既に方向感覚さえ失いかけていたが、なすべきことはすべて、彼女の細胞が記憶していた。
.
524
:
名無しさん
:2021/11/17(水) 01:06:04 ID:pFrDK2CI0
┌───────────────┐
│ │
│ ┌─────────┐ │
└──┼─────────┼──┘
│ ┌─────┐ │
└─┼─────┼─┘
└─────┘
┌───┐
└───┘
┌─┐
└─┘
□
.
525
:
名無しさん
:2021/11/17(水) 01:06:34 ID:pFrDK2CI0
#07 幕間 〜逃亡暦201X年の断片〜
.
526
:
名無しさん
:2021/11/17(水) 01:07:28 ID:pFrDK2CI0
≪?≫
――荒野の最中に、3人の少女が打ち捨てられていた。
辛うじて人間の形状を保つそれらは、たった数分前まで素直四天王として動いていたものだった。
そして間もなく絶命に至る。魔王城ツンはそんな彼女達を眺め、しかし一切の情動に至らなかった。
自分でやったという自負が感情に蓋をしている。
苦しみはない。もう慣れたものだった。
.
527
:
名無しさん
:2021/11/17(水) 01:14:19 ID:pFrDK2CI0
(´・_ゝ・`)「……お疲れさま。流石は魔王の娘だよ、あっさり終わらせやがった」ザッ
(´・_ゝ・`)「まぁ魔物が本気でやりゃこうなるわな。苦戦する方がおかしいか」
音を立て、あからさまに歩み寄ってきた盛岡デミタスがタオルを投げる。
ツンは一目もくれずにそれを掴み取り、自分の顔に飛び散っていた返り血の塊をざっと拭き取った。
(´・_ゝ・`)「って、なんだよ殺しきってないのかよ。
お前なあ、こういう甘さで味方が死ぬんだからな。気をつけろよな」
ξ゚⊿゚)ξ「……まだ使えると思ったのよ。
人間の駒は貴重でしょ。あとは任せるのだわ」
(´・_ゝ・`)「そうやってまた要らないものを増やす。おめー健康器具とか無駄にするタイプだろ。
使い道を考える身にもなってほしいね。処分も手間だしさぁ」
ξ-⊿-)ξ「そうね。あなたを信頼しているのだわ」
ツンは慣れた口振りで言い返し、赤黒くなったタオルを地面に投げ捨てた。
.
528
:
名無しさん
:2021/11/17(水) 01:14:42 ID:pFrDK2CI0
#'01 整合世界、決定論、Cosmos new version
.
529
:
名無しさん
:2021/11/17(水) 01:15:39 ID:pFrDK2CI0
ζ(゚ー゚*ζ
ζ(゚-゚*ζ「……出来損ない。これなら生け捕りで……」
どこか遠くに聞こえる声には嘲笑の意図すらなく。
女の瞳はただ冷淡に、今の私を単なるモノとして見つめていた。
ξ; ⊿ )ξ(わたし、まさか……)クラッ
意識が遠のく。死の実感が五体の感覚を薄めていく。
視界がボヤけて暗闇が滲む。
いつしか、私の体は地面に横たわっていた。
そして、私は――……
.
530
:
名無しさん
:2021/11/17(水) 01:17:32 ID:pFrDK2CI0
「――大丈夫ですか、お嬢様」
ξ; ⊿ )ξ
薄れゆく意識の中、聞き慣れた声が私のことを呼んでいる。
閉じかけた瞳に映る朧気な後ろ姿。
::::ミセ*:::ー゚)リ::::
深緑の魔力に覆われたその人は――ミセリさん以外の誰でもなかった。
ξ; ⊿゚)ξ(ミセリ、さん……)
ミセ*゚ー゚)リ「……間に合ったとは言えない感じですね。
でも安心して下さい。すぐに助けが来ますから」
――ミセリさんだ。ミセリさんが助けに来てくれていた。
満身創痍の体でも、たったそれだけの事実が元気をくれる。
心ばかりの感謝を込めて、私は精一杯の笑みを作った。
ミセ*゚ー゚)リ「なにも心配はいりませんよ。敵は私が片付けておきます」
そう言って優しい笑顔を返してくれるミセリさん。
私はそれですっかり安心してしまって、なんの不安も無いままに、すとんと意識を失ってしまった。
.
531
:
名無しさん
:2021/11/17(水) 01:18:08 ID:pFrDK2CI0
――間違いだった。
この時、私はどうあっても立ち上がるべきだった。
爪'ー`)「……デレ、そいつの相手は骨が折れるぞ」
爪'ー`)「私がやろう。少し下がっていなさい」
.
532
:
名無しさん
:2021/11/17(水) 01:18:31 ID:pFrDK2CI0
≪??≫
.
533
:
名無しさん
:2021/11/17(水) 01:19:47 ID:pFrDK2CI0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
川д川「……申し訳、ありません」
(´・_ゝ・`)「いやほら、貞子もお前を助けるので手一杯だったんだよ。分かるだろ?」
雁首を揃えていながら、2人が何を言っているのか意味が分からなかった。
(´・_ゝ・`)「貞子の魔力だけじゃミセリの命までは救えなかった。
お前が死ぬかミセリが死ぬか、ミセリは後者を選んでいったよ」
(´・_ゝ・`)「あの晩は俺もドクオも戦闘後で魔力は枯れてたし、いやぁ完全に想定外だよ。
敵の主力がいきなり登場するなんて、いったいどういう事だろうな??????」
(´・_ゝ・`)「あーあ、誰かがほんの少し、フォックスを足止めしてればなぁ……」
(´・_ゝ・`)「ハインなら、できたと思うんだけどなぁ……」
ξ゚⊿゚)ξ
ξ゚⊿゚)ξ「じゃあ、ミセリさんは私のために死んだって言うの?」
(´・_ゝ・`)「うん」
彼は必要以上の答えを言わなかった。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
.
534
:
名無しさん
:2021/11/17(水) 01:20:09 ID:pFrDK2CI0
≪???≫
.
535
:
名無しさん
:2021/11/17(水) 01:20:45 ID:pFrDK2CI0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
川; -゚)「……どうにも、話が違うな……」
ξ゚⊿゚)ξ
川; - )「……そうか。私達は、化け物のエサに……」
.
536
:
名無しさん
:2021/11/17(水) 01:22:20 ID:pFrDK2CI0
――ああ、なんで人間なんかに気を遣ってたんだろう。
こんな簡単に壊れるものを守ろうだなんて、私に出来るわけなかったのに。
諦めたらすごい身軽になれちゃったな。戦いやすいし、すごい解放感。
そうか、できるんだからやればよかったんだ。こんな簡単なこと、もっと早く気付けばよかった。
ξ゚⊿゚)ξ(魔力制御、貞子さんが付きっきりで教えてくれたの。
今なら大丈夫なのだわ。大丈夫、これからもっと『できるようになる』――)
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
.
537
:
名無しさん
:2021/11/17(水) 01:22:42 ID:pFrDK2CI0
≪????≫
.
538
:
名無しさん
:2021/11/17(水) 01:25:03 ID:pFrDK2CI0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
ノパ⊿゚)「……ああ、やっぱりお前がねーちゃんの仇か」
素直ヒートが独りごちて、私を睨む。
ノパ⊿゚)「決めた。殺害禁止のルールガン無視して殺しにいく。いいよな?」
o川*゚-゚)o「それでいいよ。どうせ敵地のど真ん中だし」
lw´‐ _‐ノv「……向こうは最初からそのつもりだよ。やらなきゃ殺される」
ξ ⊿ )ξ
――被害者ぶるなよ。
私は私を殺しに来たヤツを返り討ちにしただけだ。
そうしなければまた奪われる。だから私はできるようになったのだ。
私はただ普通に、人を倣って生きていただけなのに。
仇だなんて、私は、私はそんなものになりたかったわけじゃ――
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
.
539
:
名無しさん
:2021/11/17(水) 01:25:34 ID:pFrDK2CI0
≪?????≫
.
540
:
名無しさん
:2021/11/17(水) 01:26:56 ID:pFrDK2CI0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
(´・_ゝ・`)「ハインリッヒなら処刑されたよ」
ある日突然、恩人だった人の死を告げられた。
(´・_ゝ・`)「いや〜なんせ全部あいつのせいだからな。
お前の居場所が敵にバレたのも、結果ミセリが死んだのも、何もかも」
(´・_ゝ・`)「あいつ、お前を育てて私利私欲に使う計画なんか立ててたんだぜ?
最低だよな。やっぱり人間なんて信用できねえよな俺もそう思うよ」
(´・_ゝ・`)「あとついでに吉報。お前はもう自由の身だ。試験もなにもオールクリアだってさ」
ξ゚⊿゚)ξ
(´・_ゝ・`)「人殺しにも躊躇がなく、自衛するだけの実力も十分と上が認めてくれたんだ」
(´^_ゝ^`)b「いやぁ本当によかったね! すこぶる順調じゃーん!」
ξ゚⊿゚)ξ「……そう。よかったわね」
試験の結果が合格だろうと、私の心に大した感慨は湧いてこなかった。
ただ単に、まだ怒っていていいのだと、そう思った。
.
541
:
名無しさん
:2021/11/17(水) 01:31:53 ID:pFrDK2CI0
(´^_ゝ^`)
(´・_ゝ・`)「んで、お前はこれからどうやって生きていくんだ?
地上の暮らしは確かに続けられるけど、お前もう人間ごっこに興味ねえだろ?」
ξ゚⊿゚)ξ
(´・_ゝ・`)「……なあ魔王城ツン、本音を言えよ。遠慮するな。俺を上手く使えって」
(´・_ゝ・`)「もちろん代価は頂戴するが、信頼関係にはギブアンドテイクも必要だろ?」
(´・_ゝ・`)「お前の気持ちはよく分かる。ミセリの仇を討ちたいんだよな。
俺も同じ気持ちだしな。毎晩怒りに打ち震えてんだ。全身プルプルで困るよ」
ξ゚⊿゚)ξ
私にはそれが悪魔の囁きに聞こえたが、
悪魔って魔物の親戚みたいなものだし、まぁいいかと思った。
ξ゚⊿゚)ξ「その場合、私はあなたに何を返せばいいの?」
(´・_ゝ・`)
不意に、悪魔が少しだけ表情を強張らせた気がした。
.
542
:
名無しさん
:2021/11/17(水) 01:33:25 ID:pFrDK2CI0
(´・_ゝ・`)「よし、交渉成立だな? まぁ安心しろ。取り立ては今すぐじゃない。
遠い遠い未来、お前がもっと強くなってから、キッチリとな」
(´・_ゝ・`)「お前はただ、俺達が思ったとおりに強くなればいい。
裸の王にはさせねえよ。お前につくのは勇ましいチビの――7人の仕立て屋だからよ」
ξ゚⊿゚)ξ「……あなた、意外と童話好きだったのね」
(´・_ゝ・`)
(´・_ゝ・`)「べつに。ただの一般教養だよ」
.
543
:
名無しさん
:2021/11/17(水) 01:37:28 ID:pFrDK2CI0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
――それから私は盛岡の言うとおりに強くなって、
攻めてきた勇者軍を返り討ちにして、
敵の拠点を潰して回って、その道行きでも沢山の人間を殺して、
私はずっと怒ったまま、言われるがままにそれを繰り返して、
でも、繰り返せなくなっても私はまだ怒っていて、
最後に句点を打ったのはいつだろう、
なんて、ミセリさんと話した最後の夜を思い出しながら、
すべての戦いを終えた私は魔界でひとり、
どこかで忘れてしまった『まる』の書き方を思い出そうとして、
気が遠くなるような長い時間を、
物語のない静かな時間を、
ξ ⊿ )ξ
ただひたすらに、
現実的に浪費し続けて、
なにも続かない世界を、
ずっと、
続けて――
.
544
:
名無しさん
:2021/11/17(水) 01:38:09 ID:pFrDK2CI0
≪業務連絡:4周目の世界が完結しました≫
.
545
:
名無しさん
:2021/11/17(水) 01:40:16 ID:pFrDK2CI0
― -_ ̄― -_ ̄― -_ ̄― -_-_ ̄ ̄― -_ ̄― ― -_ ̄― -_ ̄― -_ ̄― -_ ̄
__―_____ ̄ ̄ ̄ ̄‐― ̄ ̄―‐―― ___ ̄ ̄――― ___―― ̄ ̄___ ̄
―― ̄ ̄___ ̄―===━___ ̄― ―――― ==  ̄―― ̄ ̄___ ̄―=
__―_____ ̄ ̄ ̄ ̄‐― ―――― ==  ̄ ̄ ̄ ――_―― ̄___ ̄
___―===―___ ―――― ==  ̄ ̄ ̄ ― ̄―‐―― ___―‐――
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【リザルト:4周目】
≪ ξ゚⊿゚)ξ / 魔王城ツン ≫
魔王化習得後、王座の九人を全員倒し、勇者軍を壊滅させた
併せてフォックスが死亡しているため、Bルートには突入できない
以降の展開は存在せず、彼女の物語はどこにも続かなかった
【戦闘方法】 [身体強化:SS] [魔力成形:A] [魔術:B+]
【基礎能力】 [パワー:A] [スピード:A]
[スタミナ:S] [コントロール:SS]
【備考補足】 魔王化と魔力成形を駆使して戦うインファイター
Aルート単体で実現しうる理想的な育成個体
盛岡デミタスのかんがえたさいきょうのつんちゃん
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 ̄―――― ==  ̄ ̄ ̄ ̄_――_━ ̄ ̄ ――_―― ̄___ ̄―=‐――‐―― _
___―===―___ ―――― ==  ̄ ̄ ̄ ――_―― ̄ ̄―‐―― _
__―_____ ̄ ̄ ̄ ̄‐― ―――― ==  ̄ ̄ ̄ ――_―― ̄___ ̄―
 ̄___ ̄―===━___ ̄― ==  ̄ ̄ ̄ ――_――__―_____ ̄ ̄ ̄ ̄‐―
___―===―_― ==  ̄ ̄ ̄ ――_―― ̄ ̄―‐―― ___ ――_― ―
―――― ==  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ―― __――_━ ̄ ̄ ――_―― ̄___ ̄―=
.
546
:
名無しさん
:2021/11/17(水) 01:41:36 ID:pFrDK2CI0
― -_ ̄― -_ ̄― -_ ̄― -_-_ ̄ ̄― -_ ̄― ― -_ ̄― -_ ̄― -_ ̄― -_ ̄
__―___ ̄ ̄ ̄ ̄‐― ̄ ̄―‐―― ___ ̄ ̄――― ___―― ̄ ̄___ ̄
__―____ ̄ ̄ ̄ ̄‐― ―――― ==  ̄ ̄ ̄ ――_―― ̄___ ̄―
___===―___ ―――― ==  ̄ ̄ ̄ ― ̄―‐―― ___―‐―
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◇◆ 次周特典 ◆◇
この物語は完結した。パーフェクトAAがやってくる。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 ̄――― ==  ̄ ̄ ̄ ̄_――_━ ̄ ̄ ――_―― ̄___ ̄―=――‐―― _
___―===―___ ―――― ==  ̄ ̄ ̄ ――_―― ̄ ̄―‐―― _
―――― ==  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ―― __――_━ ̄ ̄ ――_―― ̄___ ̄
.
547
:
名無しさん
:2021/11/17(水) 01:41:58 ID:pFrDK2CI0
┌───────────────┐
│ │
│ ┌─────────┐ │
└──┼─────────┼──┘
│ ┌─────┐ │
└─┼─────┼─┘
└─────┘
┌───┐
└───┘
┌─┐
└─┘
□
.
548
:
名無しさん
:2021/11/17(水) 01:42:57 ID:pFrDK2CI0
≪3≫
――気がつくと、私はトイレの個室に突っ立っていた。
ξ゚⊿゚)ξ …
ξ;゚⊿゚)ξ(あっ、マジでこんな着地するんだ)
ペニサスが言っていた通り、なんかふわっとした感じでテレポートが完了したっぽい。
私はすぐさまトイレを出ていき、元居た場所へと小走りで向かった。
ミセ;*゚ー゚)リ「……あっ、お嬢様!」
で、マッサージチェアのコーナーにはやっぱりミセリさんが居た。
落ち着かない様子で私を出迎えてくれた彼女を前に、なんだか無性に感動を覚えてしまう。
ξ;゚⊿゚)ξ「ごめんなさいミセリさん! かくかくしかじか!」
ミセ*゚ー゚)リ「それは仕方ないですね……」
トイレで踏ん張りすぎて恥ずかしかったので気配を消していた、という体で失踪を誤魔化す私。
さっきの出来事は話が拗れそうなので伏せておく。あと単純に説明が無理、見なかったことにしよう。
.
549
:
名無しさん
:2021/11/17(水) 01:45:04 ID:pFrDK2CI0
ミセ*゚ー゚)リ「それでは急いで帰りましょうか。
明日からまた忙しそうなので……」
ξ;´⊿`)ξ「そうね。私も今ので凄い疲れちゃった」
ミセ;*゚ー゚)リ「ああ、そんな大物が相手だったんですか。
お腹の調子が怪しいならもう少しごゆっくり……」
ξ;゚⊿゚)ξ「いや大物っていうか、なんかまた複雑なのが出てきたというか」
ミセ*゚ー゚)リ
ミセ;*゚Д゚)リ「――複雑なのが!? お腹の調子は大丈夫なんですか!?」
トイレで踏ん張った事にしたせいでコントになっちゃったな。
これ以上は会話が下品になりそうなので、私はドクオ達に話しかけて流れを変えた。
ξ゚⊿゚)ξ「2人とも、もう帰るのだわ」
('A`)「……分かってるよ」
( ^ω^)「おっおっ」
ちなみにこの野郎共は私が戻ったというのに深夜のテレビに釘付けであった。
どうせエロい番組を見ていたのだろう。仕方のない奴らだ。
,_
('A`;)「……どうすんだよコレ……」テクテク
やたら難しそうな顔で振り向いたドクオが早足に先行する。
私達もすぐに後を追い、トコトコと家に帰った。
.
550
:
名無しさん
:2021/11/17(水) 01:45:25 ID:pFrDK2CI0
___________________________
━━√━━━━━━━━━━━━━━━━━#━━━━━━#━━
 ̄ ̄
次回 【インナーゲーム編】 に続く
______
━━━#━━━━━#━━━━━━━━━━#━━━√━━━━━
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
.
551
:
名無しさん
:2021/11/17(水) 01:46:39 ID:pFrDK2CI0
| ロ :
| 口 ・
 ̄ ̄ ̄ ̄ ゚ ロ ・
・ : 。 口
ロ ロ
・
口 ゚ ロ []
。
・ ロ ・ : ロ 口 []
□ ・
[] | ̄| 口
。 口  ̄ 。
_
( ゚∀゚) ・ ・ ・
( )
| |
し ⌒J
|
\ __ /
_ (m) _ピコーン
|ミ|
/ .`´ \
_
( ゚∀゚) あっ! これ俺と会う前の話か!?
( )
| |
し ⌒J
〜おわり〜
.
552
:
名無しさん
:2021/11/17(水) 01:51:53 ID:pFrDK2CI0
#01
>>2-65
#02
>>74-117
#03
>>122-160
#04
>>169-212
#05-1
>>231-266
>>271-289
#05-2
>>294-324
#05-3
>>330-363
#05-4
>>371-416
#05-5
>>422-461
#06
>>467-501
#07
>>510-551
今回のイメソンはbinariaの「reino blanco」という曲です
短編祭音楽部門、重度イメソン厨なのに参加できなかったYO…(^ω^)
次回投下は年内です
日時を決めてる余裕は無さそうなので、隙間を見つけて適当に投下しておきます
>>507
やった〜〜〜〜〜〜〜〜ネ!!(^o^)
>>508
作者もツンちゃん投下を生きる理由にしているよ!(激重)
>>509
そう言ってもらえて嬉しいです!また置き去りにするね!
>>514
来たよ〜〜〜〜〜〜〜〜(^^o)
553
:
名無しさん
:2021/11/17(水) 02:11:19 ID:pFrDK2CI0
スレも折り返したのでツンちゃんまとめを再掲しておきます
1〜3周目(クールライターさん)
http://coollighter.blog.fc2.com/blog-entry-439.html
4周目以降
https://gekitetunchan.blog.fc2.com/blog-entry-25.html
554
:
名無しさん
:2021/11/17(水) 22:37:36 ID:sWruafis0
おつ!!
途中置き去りになった気がするけど次も楽しみに待ってます!!
555
:
名無しさん
:2021/11/17(水) 23:15:42 ID:haZuTTNw0
ほんと面白い
556
:
名無しさん
:2021/11/17(水) 23:27:05 ID:3BZd.crY0
乙
557
:
名無しさん
:2021/11/18(木) 21:13:20 ID:qsGEz2b20
乙
パーフェクトAAとの絡みが気になるな
558
:
名無しさん
:2021/11/20(土) 18:50:31 ID:zb7aQffo0
>そのまま「おはよう!朝4時に何してるんだい?」めいた姿勢になり、質問を続けるよう静かにツンを促す。
ここ好き
559
:
◆gFPbblEHlQ
:2021/12/20(月) 19:02:54 ID:xDJkNY0g0
≪1≫
その日の朝は妙に寝覚めがよく、午前6時にはすっかり目が覚めてしまった。
二度寝したいのは山々だったが、健康ランドでしこたま健康になった体がそれを許さなかった。
ξ´⊿`)ξ(肉体そのものが健康という概念に耐えられない……)ムクッ
私は「仕方ねえ起きるか」という気持ちで寝床を転げ出た。
洗面所に寄ったり諸般もたもたしつつリビングに向かうと、なぜかそこにはドクオの姿があった。
朝から縁起が悪い。
ξ゚⊿゚)ξ「え、なんで居るの」
('A`)「仕事だよ。お前のお守り、また再開するだってさ」
ドクオは私の前を横切ってソファに座り、これまた真剣な表情でテレビを見始めた。
しかもそれは海外のニュース番組を翻訳してるタイプの、なんかガチっぽいやつだった。
ξ゚⊿゚)ξ「えードクオ朝からそんなん見るの?」
('A`)「……たまにはな」
人の生死やガチ目の紛争、政治宗教などがオブラートなしバイアス強めで語られるニュース番組。
私も一緒になって10秒そこそこ眺めてみたが、朝から見るには随分と重たい内容が続いた。
朝は2000年代中期の15分アニメを見るのが一番だというのにな。しゃらくせえ時代だよ。
ミセ*゚ー゚)リ「お嬢様、おはようございます」
ξ゚⊿゚)ξ「あ、ミセリさんおはよ〜」
挨拶がてらキッチンから出てきたミセリさん。その片手には朝食を盛った大皿が3枚乗っていた。
空いてる手にも1枚あるので計4枚である。こっちもこっちで朝から重いな。
ミセ*゚ー゚)リ「今朝はサンドイッチですよ。沢山あるので死ぬほど食べてくださいね」
ξ゚⊿゚)ξ「死の引用が軽すぎる日常」
時間的にはかなり余裕だが、やることもないので優雅に朝を過ごすとしよう。
私は部屋に戻って身嗜みを整え、学校の制服に着替えてから朝食に立ち向かった。
.
560
:
名無しさん
:2021/12/20(月) 19:03:16 ID:xDJkNY0g0
ミセ*゚ー゚)リ「……お嬢様、少し大事な話があります。
そう大した事でもないのですが、食べながら聞いてもらえますか」
ξ゚⊿゚)ξ「モグモグなのだわ」
食事中、私はテレビを見ながら軽く頷いた。
今見ているのはデパ地下の最新グルメ情報である。ドクオからはチャンネル権を奪った。
当のドクオはグルメ情報には興味が無いらしく、ラグに寝転んで以降ずっと天井を見ている。
ミセ*゚ー゚)リ「まず、お嬢様は無事に試験を突破されましたよね。
それで証明できた事は2つ。ご自身の成長と、人間相手に戦えるという事実です」
ξ゚⊿゚)ξ「しゃにむに示してしまったよな、それらを」
ミセ*゚ー゚)リ「……単刀直入にお聞きします。
お嬢様にとって、人間という生き物はなんですか?」
ξ゚⊿゚)ξ
ξ゚⊿゚)ξ「なっ」
ミセ*゚ー゚)リ「人間は敵です。少なくとも、私には」
なんですかって、なに? と綾波ぶって聞き返そうとした途端ミセリさんの私見に先を越される。
人間は敵。そう断言した彼女の表情は、しかし普段通りの朗らかさを保ったままだった。
ミセ*゚ー゚)リ「でも、だからって積極的に敵を――人間を排除する訳ではありません。
ただ私は、襲ってきた相手は例外なく敵として迎えます。人間も、魔物も、すべて」
ξ゚⊿゚)ξ「……あなたはそこまで薄情じゃないのだわ」モグモグ
ミセ*´ー`)リ「襲ってきたらの話ですよ。ですので普段は大人しくしてるでしょう?
私達だって侵略目的でここに居る訳じゃありません。……そうですよね?」
ξ゚⊿゚)ξ「……もちろんなのだわ。戦う理由はない、だから人間は敵じゃない。
そりゃ勇者軍みたいなのは敵だと思うけど、それでも――」
ミセリさんのように白黒を分けることはできない。
そもそも主語がデカすぎるのだ。こんな話、どうやったって粗が出てくる。
.
561
:
名無しさん
:2021/12/20(月) 19:06:30 ID:xDJkNY0g0
ミセ*゚ー゚)リ「――それでは、お嬢様には宿題を出しておきます。
今日帰ってきたら答えを聞かせてください。いいですね?」
ξ゚⊿゚)ξ
ξ;゚⊿゚)ξ「えっ、この話って何? 本当になんなの!?」モグモグモグ!??!?!?
ミセ*゚ー゚)リ「だから大した話じゃないですってば。
ただなんというか、あの試験には私も思う所がありまして……」
ξ;´⊿`)ξ「ウグゥー!」
繰り返しになるが、先日の試験は私の実力だけで突破したとは言い難い内容である。
私のことを誰よりも長く鍛えてくれたミセリさんだ。心配する気持ちもひとしおなのだろう。
ξ;゚⊿゚)ξ(ミセリさんを安心させるには、筋肉……!)
しばらくは魔力絡みの特訓に集中したかったが、この感じだと物理の時間も削れそうにない。
せめて寝る時間だけは確保しよう。半ば放心しつつ私は覚悟した。
ξ゚⊿゚)ξ「で、宿題ってどんな内容なの? 今日から10トンの重りをつけて生活とか?」
ミセ*゚ー゚)リ「それやると地盤沈下の擬人化になっちゃいますよ」
ξ゚⊿゚)ξ「そうだねx1」
このくだり完全に要らなかったな。
ミセ*´ー`)リ「いいですか、今日お嬢様が帰っきてたらまた同じ質問をします。
そこでもう一度答えを言って下さい。宿題はそれだけです」
ξ゚⊿゚)ξ
_,
ξ゚⊿゚)ξ「……人間という生き物について? だったら答えも同じになるけど」
ミセ*゚ー゚)リ「それならそれで構いません。考えること自体が宿題みたいなものですし」
_,
ξ゚⊿゚)ξ「……そう。分かったのだわ」
なんか本題をはぐらかされてるな、と思う。
しかし追及するにもネタがなく、私はサンドイッチをモグモグするしかなかった。
朝食シーンは以上です。
.
562
:
名無しさん
:2021/12/20(月) 19:13:00 ID:xDJkNY0g0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
('A`)「……本当にいいんですね、学校なんか行かせて」
ミセ*゚ー゚)リ「ええ。こっちで話すと逆効果にもなりかねないから。
最低限の前置きはしたし、あとは自分で受け止めてもらうわ」
('A`)「あいつの夢を壊すと思いますけど……」
ミセ*゚ー゚)リ「せめて教訓にしておきたいのよ。どうせ壊れるものならね。
まぁワカッテマスにも同意は取ってあるから。護衛、気を抜かないでね」
('A`)「…ッス」
〜ξ゚⊿゚)ξ「おまたせ〜」トテチテツン
薄化粧をバッチリ決めて玄関に向かう私こと魔王城ツン@美少女。
時刻は7時を回ったくらいと、遅刻に始まった第一話を思うとすごい大躍進だった。
いや〜順風満帆ってこういう事なんだな。このまま人生のうまあじを味あわせてほしい。
うまみ自警団「うまみ自警団だ!!!!!!!!!!」
味わわ警察「味わわ警察だ!!!!!!!!」
ξ゚⊿゚)ξ「それじゃあ優雅に登校していくのぜ」
ゆっくり霊夢「ゆっくりしていってね」
('A`)「一応聞くけどさ、お前世界史の宿題忘れてないよな?」
ξ゚⊿゚)ξ「なんぞそれ」
('A`)「いやほら、モナーが最近バックレてるからって色々出されたろ。
今日から代理の教師が来るとかって話だし。聞いてなかったのか?」
ξ゚⊿゚)ξ
ξ゚⊿゚)ξ「そんな描写どこにあったのよ……」
私達はすぐさま家を出て学校に駆け込んだ。
まゆちゃんが先に来ていたので宿題を写させてもらった。
無から生えてきた宿題を3行の描写で片付け、かくして私の学校生活は幕を開けた。
.
563
:
名無しさん
:2021/12/20(月) 19:14:23 ID:xDJkNY0g0
≪2≫
登校後、ホームルームの時間になっても教師は現れなかった。
担任のモナー先生に代わって誰かが来るとの話だったが、いかんせん音沙汰がない。
新キャラ登場にちょっと身構え、猫を被っていたクラスメイトも次第にざわつき始めていた。
ξ゚⊿゚)ξ「ちょっとドクオ」ツンツン
っ
そういう私も周囲の喧騒に紛れてドクオに話しかけていた。
本当は席を立ってまゆちゃんと話したかったが、なまじ距離があるのでドクオで妥協する。
ξ゚⊿゚)ξ「なんで来ないのよ先生」
('A`)「知らねえよ……」
ドクオはふてぶてしくそっぽを向いて机に伏せた。
ええいまったくドクオだな。頭上で消しカスを量産してやろう。
「……いや、やっぱアレだろ……」
そのとき、クラス内の誰か(モブ)が答えを匂わせる一言を呟いた。
私はすぐに耳をそばだてたが、クラスメイトの騒ぎが邪魔で上手く聞き取れない。
「それで職員会議するって顧問が――」
「ほら、あっちの学校とか……」
「――もう情報出回ってんじゃん」
ξ゚⊿゚)ξ
友達が少ないせいで周囲のひそひそ話に加われない私は魔王城ツン。
そりゃ金髪ドリル美少女は異端だろうけど少しくらい声かけてくれてもよくないか。
意図せず居た堪れない気持ちになってしまった。私もドクオみたいに寝たフリをしよう。
.
564
:
名無しさん
:2021/12/20(月) 19:15:59 ID:xDJkNY0g0
ξ´⊿`)ξ「ああ〜昨日夜更しして今日も早起きだったから眠くて眠くて――」
「――魔王城さん、もしかしてニュース見てないの?」
自然な形で寝入るため、自然な形で布石を撒いていた私に誰かが話しかけてきた。
やれやれやれやれ仕方ないな私は寝たかったんだけど呼ばれたら起きるしかない。
私は隣に現れた人影を見上げ、親の顔より見た毛利まゆちゃんのご尊顔を拝見した。
ξ゚⊿゚)ξ「ああ〜おはようまゆちゃん。さっきは宿題ありがとね」
「うん、ごめんね寝るとこだったのに」
ξ゚⊿゚)ξ「そうなんすよ(笑)」
にしてもまゆちゃん、あんな窓際最後尾の涼宮ハルヒ席から話しかけに来てくれたのか。
しかも現在クラス内で席を立っているのはまゆちゃんだけだ。
正直すごく目立っているし、更にその行動はファーストペンギン的な影響まで周囲に及ぼしていた。
ξ゚⊿゚)ξ(……ああ、秩序が)
彼女が席を立った時点で 『噂の先生が来るまで席で待とう』 という暗黙の了解は消滅。
クラスメイト達は我先にとスマホを持ちだし席を離れ、控えめの声量で自由を謳歌し始めた。
亀裂が入ればあとは一瞬。人間社会の秩序など簡単に崩壊するという事だな。
.
565
:
名無しさん
:2021/12/20(月) 19:18:48 ID:xDJkNY0g0
「ニュース、見てないんじゃないかと思って」
ξ゚⊿゚)ξ「……えっ?」
と、私が学級崩壊に目をくれている間。
口辺に笑みを浮かべたまゆちゃんが私の視線を塞ぐように立ち位置を変え、改めて口を開く。
にしても、小規模な学級崩壊を引き起こした女が無垢に話しかけてくるこの質感よ。
色んな意味で感動を覚えてしまう。もしやこれがセカイ系の空気なのか?
ξ゚⊿゚)ξ「ニュースって何かあったの?」
「あーやっぱり知らないんだ。今すごいんだよ? ニュースなんかそれで持ち切りだし」
ξ゚⊿゚)ξ「ほーん」
「……でもさ、今の時代に魔物が出てきたんじゃ仕方ないよね。
国が発表してるくらいだし、もう警察とか動いてるのかなぁ」
ξ゚⊿゚)ξ「はぇぁー魔物が」
ξ゚⊿゚)ξ「魔物が」
ξ゚⊿゚)ξ
ξ;゚⊿゚)ξ(……いや、それ、ダメなやつ)
マジレス気味に脳裏で唱えたその瞬間、教室の扉が勢いよく開かれた。
そうして顔を覗かせたのは隣のクラスの担任である。モブなので描写は割愛する。
彼は教室内を無言で見渡してから、誰にあてるでもなくしゃがれた声で言い放った。
「体育館で全校集会だ。委員が整列させて、うちのクラスに続いて来てくれ」
そう言い切って踵を返し、彼は教室内のざわつきを咎めもせずに帰っていった。
最低限の指示。だがその声色は極めて深刻なものだった気がする。
そうした機微にクラス内は浮かれ気味だったが、移動が始まる頃には誰も喋らなくなっていた。
.
566
:
名無しさん
:2021/12/20(月) 19:24:34 ID:xDJkNY0g0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
――移動が終わって今は体育館。
冷たい床に放り出された生徒達の中、私はさっきの言葉を脳内で繰り返していた。
魔物が出た。国が発表した。ニュースになっている――本当ならば超一大事だ。
周囲の様子も加味すると、私の思考は嫌でも悪い方へと傾いていった。
ξ;-⊿-)ξ(……基本的に、魔物は人間の姿になって生活してるはず。
擬態=魔人化を習得してなきゃ移動許可も出ないし、その検閲は徹底的なはず)
ξ;゚⊿゚)ξ(単独で移動するにも相当魔術に長けてなきゃ無理だし、その痕跡は絶対に残る。
勝手に移動した奴が処刑されたなんて話、昔は結構あったらしいし……)
きっとドクオやミセリさんはこの事を知っていたのだ。
知っててあえて話さなかったのは、私に教えたとしても意味が無いからだろう。
第二次現魔戦争が起こるか否か――これはそういう話に直結している。
私の裁量でどうこうできる問題ではない。疎外感はあるが、仕方ないと思う。
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567
:
名無しさん
:2021/12/20(月) 19:27:01 ID:xDJkNY0g0
程なくして体育館全体にアナウンスが入った。
魔物という立場上、これから先の話を思うと気が重くなる。
アナウンスに続いて壇上に出てきたのはハゲの教頭先生だった。
彼は台本らしき紙切れを持って演台に構え、悠長に口火を切った。
『――……えー、ニュースを見て知っている生徒も多いと思いますが』
『非常に残念なことですが、先日この日本で、魔物による死傷者が発生しました』
ξ;゚⊿゚)ξ(し、死傷者……!?)
死傷者。その単語ひとつに現実が凝り固まる。
教頭先生はしばし言葉を止め、生徒の反応を窺いながら続きを話した。
『50年ほど前、現魔戦争と呼ばれるものがありました。この日本も戦場でした。
授業でも習っていますね。魔物というのはそれほど危険な生物なんです』
『それがまた現れたということで、昨日発表がありました。国の正式なものです。
追々情報は揃うと思いますが、当校としても今後の対応を――』
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568
:
名無しさん
:2021/12/20(月) 19:38:28 ID:xDJkNY0g0
「――おい!!!! 勇者軍? がなんか動くらしーぞ!!!!!!!!!!!!!!」
瞬間、教頭の話を台無しにするようなおちゃらけた声が体育館に木霊した。
実際その声は大騒ぎを目論んだ陽キャの煽動であり、続く言葉もバズ狙いの大声だった。
「なんか全員に配るとか言ってっけど……これロボットじゃねええの!!??!!!!?!?」
「……うわマジじゃん!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「戦争がはじまる……ってコト!?!???!?」
端に居た教師が数人動きだし、クソ陽キャ生徒とそれに反応した奴らを懲らしめに向かう。
前者は体育館の外に連行され、後者も整列からつまみ出されて怖い体育教師の近くに座らされた。
それは10秒足らずの一幕であったが、当の魔物である私をビビらせるには十分なイベントだった。
ξ;゚⊿゚)ξ(し、心臓に悪い……!)ズキズキ
非日常感に狂った人間、実際目の当たりにすると恐怖しかない。
デビルマンみたいな展開が他人事ではないとよく分かった。みんな平和に生きよう。
しかし、一度火が点いた民意はそう簡単には静まらなかった。
先のイベントに扇動された全校生徒が一斉に噂話を始め、形のない喧騒で体育館を震わせる。
大人数が打ち合わせもなく同じ行動を取るのは壮観ではあったが、いや本当に居心地が悪い。
勇者軍が動く。ロボットが配られる。戦争が始まる。
いや待てなんだロボットって。私だって頭が沸騰しかけてるんだが。情報が足りなすぎる。
ξ;゚⊿゚)ξ(くっ……! 私だけ出遅れてるのだわ、情報弱者なのだわ……!)
だが残念なことに私はコミュ障である。この状況で聞き込みができるほど機敏ではない。
華奢で可憐で美少女だしな。
今は周囲の会話を盗み聞きする程度で抑えておこう。私は魔物だ、ボロを出す訳にはいかない。
ξ゚⊿゚)ξ …!
そんな感じでキョロキョロしてると、視界の端にまゆちゃんが映った。
どうやら彼女は私の方をずっと見ていたらしく、その視線に応えると小さく手を振って返してくれた。
陽キャの扇動から始まった騒ぎに気をやられたのだろう。彼女は苦笑いで首を傾げていた。
ξ゚⊿゚)ξ(むっ、セカイ系の気配……!)
『黙れ』という旨の放送が入るまでの数秒間、私達は日常を求めて目を合わせたまま過ごした。
そこには大変ジュブナイルな質感があり、よかった。
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569
:
名無しさん
:2021/12/20(月) 19:47:16 ID:xDJkNY0g0
『……皆さんが静かになるまで2分かかりました。
今の2分を魔物に与えたら、恐らく殆どの生徒が成す術なく殺されるでしょう』
生徒がみんな死ぬ、なんて例えを軽々しく出せる教職者はそう居ない。
教頭という立場であれば尚更言葉は選ぶだろうに、選んだ結果がこの切り口なら大したものだ。
先ほどの騒ぎが尾を引いて教頭を「カッケぇ〜」と茶化す生徒も居たが、居るので仕方ない。
『それは教師も同じです。情けない話ですが、魔物が出ても私達では皆さんを守れません。
自分の身は自分で守る。その為にも今はとにかく落ち着いて、複数人で協力して行動することです』
『さっきのような発言こそが、こういった緊急事態中における最大の障害物なんです。
幸い国の動きは迅速ですから、集団行動を乱すような言動は謹んで――』
特定の生徒を悪者にする発言すら解禁して行われる切実な注意喚起。
だがその言葉尻はまたしても遮られ、今度は放送室から校舎全体に向けての呼び出しがあった。
天井付近のスピーカーから大きなノイズと荒い呼吸音が流れ出てくる。
誰かのイタズラという感じではない。事の緊急性はその息遣いだけで理解できた。
『……しゅ、集会中に失礼します。手が空いている教師は至急、職員室に戻って下さい』
『電話対応が間に合っていません。また来校されている保護者の方も多く、……』
その途端、教頭はマイクに顔を寄せて言った。
『全校集会はここまでとします。皆さんはここでしばらく待機してください。先生方は集まって』
私は教頭のアドリブを完璧な判断だと思った。
しかし彼の即断は生徒から反感を買ったらしく、こちらもまたザワザワと騒ぎ始めてしまった。
それを横目に教師陣が打ち合わせを終え、各種対応のため体育館を後にしていく。
教師は半分居なくなったが、残った精鋭コワモテ教師が怖かったのでみんな黙った。
ξ゚⊿゚)ξ …
以降30分、ひどく居た堪れない沈黙が続いた。
自分だけが仲間になれないその群れの中で、私はずっと息を殺して顔を伏せていた。
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570
:
名無しさん
:2021/12/20(月) 19:50:12 ID:xDJkNY0g0
≪3≫
〜30分後〜
「あ、おかえりなさい」
体育館から教室に戻ってくると、見知らぬ女教師が教壇に立っていた。
ξ゚⊿゚)ξ「……?(誰よアイツ……見ない顔ね……)」
クラスのみんなも彼女に対して「えっ誰」と口々に呟いている。
とはいえその正体は半ば自明で、クラスの興味関心は分かりやすく彼女に集まっていた。
職務放棄をエンジョイしているモナー先生の代役。心当たりはそれくらいしかない。
「みんな意外と落ち着いてるねー。私けっこう緊張してるんだけどな、こんなタイミングだし」
彼女は出欠表と私達の顔を見比べながらペンを走らせた。
ちなみに今日うちのクラスに欠席者は居ない。
見れば分かる事だろうに、彼女は私達の顔と名前を覚える為にあえて時間をかけていた。
彼女は若い先生だった。幼い顔つきにメガネをかけ、鎖骨に届くサイドテールを左にさげている。
明るい茶髪をしているが染めた感じではない。地毛なのだろうか、少し金髪も混じって見える。
ロングカーディガン、膝丈スカート、黒タイツ。なるほどこいつはエレン・ベーカーのフォロワーだな。
「うんうん全員揃ってて何よりです。やはりモブキャラは雁首揃えてこそですね」
ξ゚⊿゚)ξ
ξ;゚⊿゚)ξ !?
「はい先生! 出欠終わったんなら自己紹介してほしいです!」
突然とんでもねえ事を言い放った先生をスルーし、1人のモブ生徒が声を張り上げる。
他の生徒もそれに追従し、先生の自己紹介へと強引に話題を変えようとしている。
お前らそれでいいのか。今すごいこと言ってたぞ。流石の私もあそこまでは言わないぞ。
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571
:
名無しさん
:2021/12/20(月) 19:51:04 ID:xDJkNY0g0
「あー……ごめんね、先に言っとくべきだったね。私は別に新しい担任とかじゃないんだよ。
今だけの臨時っていうか、モナー先生の代わりの代わりみたいな」
好奇と期待の眼差しをぐっと遠ざけるように彼女は答える。
しかしその様子は一見して誘い受け。好奇心に駆られた若人を止めるには力不足だった。
「えっとね、だから自己紹介とかする意味ないんじゃないかなーって。
私が任されてるのって注意喚起のホームルームだけだし、……あの、始めていい?」
「ダメです!!」
「え、えー……!」
四方八方に汗マークを飛ばしてそうな慌てぶりが生徒達の嗜虐心をさらに煽る。
この辿々しい感じは新米で間違いないな。私は目の保養をしながらそう思った。
「――分かった分かった! もう自己紹介するから! 私は」
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572
:
名無しさん
:2021/12/20(月) 19:55:40 ID:xDJkNY0g0
「ということで、今は国全体が対応に追われてるから、みんなも落ち着いて行動してね」
「特に夜中は出歩かないこと。魔物に会ったらまず助からないんだからね?」
ξ゚⊿゚)ξ
はーい、とまばらな返事が空を飛び交う。
今なんか文脈が消し飛んだ気がする。と言ってもクラス内にさしたる異変はない。
ドクオをチラ見してもただのドクオだし、本当に何も起こっていないようだった。
ξ゚⊿゚)ξ …?
きっと通りすがりのキング・クリムゾンだろう。
私は魔法の言葉、まぁいいかを唱えて思考を差し止めた。
名も知らぬ新米教師いわく、事態を重く見た保護者も学校側に色々直訴しているらしい。
少なくとも今日は臨時休校。明日以降のことはメールやLINEで一斉送信されるとのことだった。
「それじゃあ私の仕事はここまで! 短い付き合いだったけど楽しかったよ!」
彼女は元気よく言って教壇を降りた。
若く瑞々しい教師の退場を惜しむ声が方々から湧いてくる。男子のそれは殊更痛切であった。
「――捨てたんですね、全部」
最後の最後、去り際のほんの一瞬。
彼女は教室の扉を閉めながらじっと私の方を見て、よく分からないことを口にしていた。
ξ゚⊿゚)ξ ?
よく分からないので、私も他のみんな同様にスルーを決め込むことにした。
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573
:
名無しさん
:2021/12/20(月) 20:00:19 ID:xDJkNY0g0
彼女が去った後、本日休校との報せが校内に響き渡った。
門限は1時間後。夕方頃には今後の対応を連絡する。
保護者を呼べる人はなるべくそうして、まとまって帰るよう校内放送が繰り返される。
ξ;゚⊿゚)ξ「えー宿題やったの完全に無駄なのだわ……」
('A`)「丸写しの宿題で何言ってやがる。文句言うなよ」
ξ;-⊿-)ξ「じゃあもう帰って寝ちゃおうかしら。普通に睡眠不足だし……」
「あっ……魔王城さん、帰るの?」
と、私の当て所ない独り言がどこぞの誰かにキャッチされた。
というか慣例的にまゆちゃんだった。もう構ってくれすぎて泣きそうだった。慈悲。
振り返ってみると彼女の手には弁当箱がある。言いたい事はなんとなく察しがついた。
「あの、お弁当、せっかくだし一緒にどうかなって……」
ξ゚⊿゚)ξ「別にいいけど、朝は食べてないの?」
「食べてきたけど、いつも5時には朝食済ませてるから……」
花の女子高生が修行僧みたいな生活してるんだなぁ。
ともあれせっかくのお誘いだ。ミセリさんのサンドイッチは学校で食べていくとしよう。
かくして私達は机を寄せ合い弁当箱を広げるに至った。
( ^ω^)「こんな時にメシ食べようって発想、逆にすごいお!」
('A`)「肝が座ってんなあ」
内藤くんを含めた計4人で各々メシを食べ始める。
他のクラスメイト達も帰ったり駄弁ったり陰謀論に花を咲かせたり、自由だった。
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574
:
名無しさん
:2021/12/20(月) 20:03:24 ID:xDJkNY0g0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「なんか一気に大騒ぎだよね。魔物が出た〜ってさ」
ξ゚⊿゚)ξ「そうね」
「死傷者が出てたなんてさっき初めて聞いたよ。
まだ見てないけどニュースもすごいんじゃない?」
('A`)「わりとマジですごいぞ。特に年寄りの反応がすごい」
「そうなの? やだなぁ、こういう時って火事場に紛れる人が一番怖いよ……」
ξ゚⊿゚)ξ「……このニュース、ドクオは最初から知ってたの?」
('A`)「そりゃ昨日の速報をリアタイしてるからな。お前の視界にも入ってただろ?」
ξ゚⊿゚)ξ
ξ;゚⊿゚)ξ「マジで?」
(;'A`)「マジだよ。お前、本当に一切知らなかったのか……」
という事は、昨夜健康ランドで見てたやつがそうだったのか。
早く教えてくれればよかったのに。いやでも本当に目の前で見てたしな、言い返せない。
( ^ω^)「魔物めちゃくちゃこえーお!!!」モグモグ
「……内藤くん、最初からそんなキャラだったっけ?」
( ^ω^)「いつも通りだお!!!!!!!!」
.
575
:
名無しさん
:2021/12/20(月) 20:07:07 ID:xDJkNY0g0
ξ゚⊿゚)ξ「……まゆちゃんもやっぱり怖い? 魔物とか、色々」
「私はー……どっちかって言うと人間かな」
話に沿って尋ねてみると、まゆちゃんは先程と同じように『人間の方が怖い』と答えてくれた。
ここは魔物に対する印象を言ってほしかったのだが、これ以上踏み込むのは私が無理だった。
彼女の口から魔物への罵詈が出てきたら多分泣いてしまう。そっとしておこう。
「現魔戦争の時代からたった50年だもんね。
年数的には一世代も跨いでないんだもん。戦争になったりするのかなぁ」
ξ;゚⊿゚)ξ「き、きっと大丈夫よ。そのうち収まってくれるのだわ」
「だといいけど、今の政治家ってもろに戦争経験者だしねぇ……」
ξ;´⊿`)ξ「ああ、昨今のヤングは老人を信頼してないから……」
だとしても、今この地上には魔王軍の精鋭とワカッテマスさんが来ているのだ。
彼らであれば間違いなく対応に当たっている。簡単な解決であれば数日も必要ないだろう。
ξ゚⊿゚)ξ
ξ;゚⊿゚)ξ
――簡単な解決? 私、いま何を考えた?
( ^ω^)「あ、死傷者の内訳が出てるお。現在死者1名だってお」コトッ
不意に、スマホを見ている内藤くんが安易な解決を想像した私に冷水を浴びせてきた。
机に置かれた彼のスマホにはyoutubeのニュースチャンネルが表示されている。
速報と銘打たれた動画が数分前にあげられていた。内藤くんが画面をタップし、それを再生する。
.
576
:
名無しさん
:2021/12/20(月) 20:10:39 ID:xDJkNY0g0
『魔物の第一発見者として通報を行った70代男性の死亡が、遺族の意向により公表されました』
『男性は地元猟友会に所属しており、昨晩もヒグマ出没の通報を受けて出動していたとの事です』
『男性が魔物に遭遇したとされる時刻は午後11時頃、同猟友会の数名と山に入ったところ――』
( ^ω^)「この人、鳥獣保護法とか全部無視して魔物に発砲したっぽいお。
年齢的にもそういう世代だし、魔物相手に血がのぼったのかもNE……」
内藤くんは動画を止めて適当なニュースサイトに画面を切り替えた。
それをパッと見ただけでも似通った文言がスクロールいっぱいに立ち並んでいる。
見分けはつかないが、大半が魔物関連のトピックであることは明らかだった。心臓が痛い。
('A`)「死傷者とか言っといて具体的な数字は後出しか。人道的配慮も使いようだな」
( ^ω^)「同感だお」
ξ゚⊿゚)ξ「……これ、実際何人くらい巻き込まれてるの?」
('A`)「知らねえよ。巻き込まれたってだけなら猟友会とか近くの住民、とにかく沢山だろ」
ξ;゚⊿゚)ξ「いや、そりゃそうだけど……」
……微妙に腑に落ちない。だってこれヒグマと魔物が同レベルで遭遇してるんだぞ。
そりゃ人間視点ならこれでいいのかもしれないが、どう考えても私には違和感が残った。
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577
:
名無しさん
:2021/12/20(月) 20:14:26 ID:xDJkNY0g0
ξ;゚⊿゚)ξ「ねえドクオ、昨日の速報ってどんな内容だったの?」
('A`)「魔物が出たから国が動くって話だよ。自衛隊を動かすとか何とか」
ξ;゚⊿゚)ξ「場所は? この国のどこに魔物が出たの?」
('A`)「……そういや、昨日のニュースじゃ都内って言ってたか?」
( ^ω^)「言ってたお」
ドクオと内藤くんが顔を見合わせる。彼らも違和感に気付いたようだった。
私は深く息を吐き、逸る気持ちを抑えつつ考えを口にした。
ξ;-⊿-)ξ「……ヒグマって北海道のクマでしょ?
都内で出たって話とは噛み合わないのだわ」
( 'A`)「そうだよな。自分で言ってて俺も気付いたが」
てめぇドクオ私の名推理に便乗しやがったな。
( ^ω^)「てことは、東京と北海道で別々の魔物が出たって事かお?」
ξ;゚⊿゚)ξ「いいえ、もしそうだったら都内の情報が少なすぎるのだわ。
多分このニュース、私達がここまで気付くのを想定したうえで――」
('A`)「――おいツン、今はメシだろ。時間もねえんだから急いで食おうぜ」
持論の展開に熱が入ってくるや否や、ドクオは的外れな注意で私の話を遮った。
続けて視線でまゆちゃんを指し示し、人前で話しすぎだと暗に諌められる。
確かにまゆちゃんを置いてけぼりにしてしまった。この話は一旦胸に秘めておこう。
.
578
:
名無しさん
:2021/12/20(月) 20:16:54 ID:xDJkNY0g0
「……思ったんだけどさ、魔物ってこの50年間どうしてたんだろうね」
しかしまゆちゃんはこちらの気遣いを察したのだろう。
自分のせいで会話が止まるのをよしとせず、彼女はおもむろに話を続けようとした。
そうなんだよな、まゆちゃんってこういう子なんだよな。モブキャラなのに健気で泣けてくる。
私はドクオに目配せをして確認を取ってから、ゆっくりと彼女に聞き返した。
ξ゚⊿゚)ξ「……どうしてそう思うの?」
「だってさ、そうやって隠れてたって事はいつでも攻撃できたって事でしょ?
だからちょっと不思議に思って。その魔物、意外と普通に暮らしてたんじゃないかな?」
ξ゚⊿゚)ξ
ξ*゚⊿゚)ξ「まゆちゃん……!」
なんて冷静かつ穏健なスタンスなんだ。
人間みんながこうならいいのにな。無理か。悲しいな。
.
579
:
名無しさん
:2021/12/20(月) 20:18:19 ID:xDJkNY0g0
「きっと魔物の中にも温厚なのが居るんだよ! でなきゃ何十年もこっちで暮らせないって!
どうにか和平交渉とかできないのかな、戦争なんて時代でもないんだし……」
ξ゚⊿゚)ξ(そうなのよ、手を取り合えればみんなハッピーなのよ……)モヌモヌ
私は心内で同意しつつサンドイッチを食べ進めた。
きっと彼女は例外だろうが、人間側からこういう話が出てくるのは本当に嬉しかった。
机上の空論でも絶望を語るよりはずっとマシだ。心の友よ……。
「――そうだ、魔王城さんは魔物が現れたらどうする?
わるいスライムじゃないよ〜的な感じだったら話聞いてみる?」
ξ;゚⊿゚)ξ「え、スライム基準で考えるの……?」
私は答えに迷って目を泳がせた。
だって私がその「わるいスライムじゃないよ」を言ってる魔物なのだ。答えに困る。
「私だったら話くらいは聞いちゃいそうだなー。
会った時点でほぼ詰んでるみたいだし、逆に気楽かも」
ξ;゚⊿゚)ξ「そこは普通に逃げてほしいのだわ」
「じゃあそうなったら魔王城さんに助けを求めるよ!
その時はちゃんと受け取ってね、最後のエメラルド・スプラッシュを」
ξ;´⊿`)ξ「それ助けに行っても間に合わないやつ……」
.
580
:
名無しさん
:2021/12/20(月) 20:20:19 ID:xDJkNY0g0
「――助けてね」
ξ゚⊿゚)ξ
ξ゚⊿゚)ξ「えっ?」
「……えっ? あ、もしかして本気っぽく聞こえちゃった?」
ξ;゚⊿゚)ξ「あ、いや、なんか緩急がすごいから」
今のまゆちゃん、花京院典明を引用した直後とは思えないガチトーンだったな。
私も咄嗟のことで上手い切り返しができなかった。私がコミュ障だから……。
「えっと、立場が逆なら私も助けに行くから〜って流れをキメようかと……」
ξ;´⊿`)ξ「そうなのね、こんな状況だから少し真に受けたのだわ。すまぬ……」
「あはは、仕方ないよ。私だってこの空気にアテられてるしね。
多分これからもっと大変になるよね。心頭滅却、落ち着いて行動しなくちゃ」
ξ゚⊿゚)ξ「まぁ大丈夫よ。呼んでくれたらいつでも駆けつけるのだわ」
「本当? 助けに来てくれる?」
ξ゚⊿゚)ξ「そらもう白馬の王子様よ」パッカラパッカラ
( ^ω^)「風……なんだろう吹いてきてる確実に、着実に、俺たちのほうに」
('A`)「工作員や邪魔は入るだろうけど、絶対に流されるなよ」
「2人もやっぱりそう思う? 情報社会だもんねー生きづらさしかないよ〜」
( ^ω^) ('A`)
ξ゚⊿゚)ξ「そうだねx1」
ネットミームを持ち出して女子高生にマジレスされる哀愁は筆舌に尽くしがたいな。
そろそろ門限が迫ってきている。よーし帰るぞ!
.
581
:
名無しさん
:2021/12/20(月) 20:23:44 ID:xDJkNY0g0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「それじゃあ私は親が来てるから。みんなまたね」
ξ゚⊿゚)ξ「うん。まゆちゃんも気をつけてね」
かくしてまゆちゃんとは校門で別れることになった。
彼女は校門近くに路駐していた黒いミニバンに乗り込み、車内からこちらに手を振ってくれた。
なんていい子なんだ。私は清楚かつエレガントに手を振って見せた。
('A`)「こいつ急にしおらしくなったな」
ξ^⊿^)ξ「エロ本みたいなこと言わないで。車内の親御さんが見てるかもしんないでしょ」
(;'A`)「いやぁ今更だろ、お前の素行なんてまゆちゃん喋りまくってそうだけど……」
ξ^⊿^)ξ「別にいいのよ。礼儀は弁えてますって伝わればプラスなのだわ」
('A`)「なんでそういうクレバーさが日常的に発揮されないんだ……」
(^ω^)「残念なツン」
ξ^⊿^)ξ「内藤くん、そういう悪口は地味に刺さるのよ」
まゆちゃんを乗せたミニバンが法定速度を遵守して走り去っていく。
あとは私達も家に帰るだけだが、ここで私は棚上げにしていた問題を掘り返すことにした。
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