したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |

仮投下スレ

318 ◆i7XcZU0oTM:2013/08/11(日) 01:47:04 ID:NNuiU0tQ0
予約分の仮投下を致します

319 ◆i7XcZU0oTM:2013/08/11(日) 01:47:18 ID:NNuiU0tQ0


 碌に辺りも見ずに、歩き続けたせいだろうか。
 気がつけば、月はあの忌わしい砂糖工場から、かなり離れていた。
 道中、微かに声が聞こえて来たが、声の発信源から離れ過ぎていたためか、上手く聞き取れなかった。
 あれは一体何だったのか……普段ならば、いくつも候補が出てくるようなこの問題。
 だが、今の月の精神状況では、とても普段の頭脳を生かすことができそうにない。
 何かを考えようとするたびに、チラチラと頭の中に浮かぶものが、月の思考を妨げる。

(……いつまで、お前は僕の頭の中に居座るつもりなんだッ……!)

 ダディクールを、自分の手で、殺した瞬間の光景。
 自分の手で、直接手を下した時の、手に伝わってきた感覚。
 あの瞬間の全てが、月の脳裏に、消える事なくくっきりと残っている。

 どれほど、振り払おうとしても。どれだけ、忘れようとしても。
 やればやるほど、それはより強く脳裏に刻まれてゆく。
 それこそが、他人の命を奪った、否定しようのない事実であり、証拠だ。
 今までも、デスノートで命を奪いはしたが、あくまで間接的でしかないのだ。

「…………!」


 どれだけ逃げ続けたとしても、罪からは逃げられない。
 目を逸らそうが、逃げ出そうが、罪はどこまでも追いかけてくる。
 いつかは、逃げ切れなくなる時が来る。
 逃げ切れなくなった結果、どうなるかは……分からない。

320 ◆i7XcZU0oTM:2013/08/11(日) 01:47:37 ID:NNuiU0tQ0




「ここは……地図で言うと、どの辺りになるんだ……?」

 PDAと地図を取り出し、簡単に現在位置を把握する月。

(C-4……結構な距離を歩いたようだ……)

 自分のいる場所。
 何でもない情報ではあるが、それを改めて確認したお陰なのか、月の心は今の所平穏を保てている。
 これが続くならば、冷静に物事を考えられる筈。
 月自身も、そう考えていた。






「……へぇ、何だか変わった奴が来たね」

 ここで生き延びる為には、できれば遭遇しない方が良い相手。
 そいつに、出会いさえしなければ。




〜〜〜〜




(やっぱり、誰もいないなぁ……人っ子一人いないや)

 閑散とした街中を闊歩するモララー。
 一見、スキだらけの行動だが実際はそうではない。
 傍目からはそうとは見えないが、常に周囲を警戒しつつ進んでいるのだ。
 並大抵の相手であれば、襲い掛かった所で返り討ちにされるのがオチだろう。

「声のした所に行くと、百貨店に戻る事になるなぁ。まあ、得られるかもしれない成果に比べたら、小さいものだけどね」

 どう行動するにしろ、考え無しに動く訳にはいかない……。
 百貨店を"襲撃"するならば、その時が来るまでに用意をせねばならない。
 どのような手段を用いるのか、どこから攻めるのか、どの武器を使うのか。
 どれかが不完全であれば、そこから崩れてゆく。

321 ◆i7XcZU0oTM:2013/08/11(日) 01:47:51 ID:NNuiU0tQ0

(方向はこっちでいいよね、多分)

 だが、襲撃を実行に移すのであれば、当然百貨店へと行かなければならない。
 モララーのいるこの街からでも、百貨店は少し見える。
 そこを目指して進めば、到着までそう時間は掛からないだろう。
 だが、この場では何が起こるか分からない。
 ……もしかしたら、何者かに襲われる可能性も十分ある。
 百貨店で起こるであろう戦いの前に、負傷等は避けたい……。
 そんな考えが、モララーの頭の中にあった。

(場所や大きさによっては……動けなくなる可能性も十分にある以上、極力負傷は避けたいな)

 もちろん、相手によってはそんな事も言ってられないのだが。
 ……多少の負傷を覚悟で、全力で殺しにいかねばならない相手。
 そんな相手が、いないとも限らない。
 今の所、そんな相手にはモララーは遭遇していないが……。今後、遭遇する可能性はある。
 その想像を、モララーは首を横に振って振り払う。

「とにかく、今やるべきことに集中した方がいいや」

 それほど強大な相手なら――――出遭った時に、確実に殺せばいいだけのこと。
 この場にいないのであれば、被害を受ける事などないのだから。
 それより、今やらなければならない事に集中した方がいいに決まっている……。

322 ◆i7XcZU0oTM:2013/08/11(日) 01:48:18 ID:NNuiU0tQ0





「大きい十字路だなぁ」

 またスタスタと歩き続けていると、普通の十字路に差し掛かった。
 確か、あの街にもこんな感じの交差点が……沢山あったような。
 それほど古い記憶ではないのに、ぼんやりとしたビジョンしか頭に浮かばない。
 あまり、重要と言う訳ではない記憶だからなのかもしれない。
 その証拠、になるかは分からないが、自身の行った戦闘の記憶は、しっかりと頭に残っている。

(……何やってるんだろう。こんな所で、油売ってる場合じゃないや)

 そう思って、百貨店目指して、足を進めようとした時。
 別の道から誰かが歩いてくるのを、モララーは確認した。
 作業着のような物を着て、肩に鞄をかけている。

「……へぇ。何だか変わった奴が来たね」

 モララーの発した声に反応して、男――――夜神月は、垂れていた頭を上げた。
 頭を上げ、視界にモララーの全身が映った瞬間。
 月の表情が、一瞬で凍り付く。

「……な……」
「何をそんなに驚いてるの? ずいぶんと失礼な人だなぁ。ただ、出遭っただけじゃないか。
 自己紹介でもしようか、僕はモララー。アンタの名前は?」

 月の脳裏に、PDAを確認した時の光景が蘇る。
 ……殺人者の中に、"モララー"と言う名前は……あった。それも、一番目立つ上の方に。

「う……嘘だろう……? こんな所で……こんな奴に、遭遇するなんて……ッ」
「嘘な訳ないじゃん。僕は実際にここにいるし。アンタもそうだろ?」

 危機を察知したのか、月の頭脳が急加速する。
 ……こいつに対抗できる何かはないのか?
 月の持っている武器は、牛刀にスタンガン。鞄の中に、ブラックジャックにガスバーナー。
 弾切れの56式自動歩槍に、(使い方を理解していないが)毒霧の杖。
 一方、モララーの武器は突撃銃一丁に狙撃銃一丁。
 月は今の所知る由もないが、これに加えて赤い刃も持ち合わせている。
 その上、元々の身体能力でも、月はモララーに引け目を取っている。

323 ◆i7XcZU0oTM:2013/08/11(日) 01:48:43 ID:NNuiU0tQ0

(どうすればいい……!? どうすれば、この緊急事態を乗り越えられる……!?)

 どれだけ考えた所で、1つの答えに収束するだけだ。
 ――――戦うしかない。戦い、倒すしかない。こいつは、"善良"とは程遠い存在だ。

(……でも、どうすれば?)

 戦った所で、勝ち目がないのは分かり切っている。
 牛刀で切りかかっても、辿り着く前に蜂の巣になるのが関の山。
 ならば、手持ちの武器を投げてみるか?それも、おそらく無駄な抵抗になるだろう。
 モララーと月の距離は4メートルほど。投げれば届くだろうが、あくまでそれだけだ。
 ……傷をつけ、命を奪くまでには到底行かないだろう。
 万事休すか、八方ふさがりか。どちらの言葉も、今の月の状況を現すには丁度良い言葉だ。

「ずいぶん驚いてるね。まあ、こんな姿の奴に出会えば別段おかしい反応でもないからな」

 右肩に巻かれた、白い……いや、白と赤のツートンカラーに塗られた布。
 体の所々に付着する、赤黒い斑点。右手に持つ突撃銃……。
 確かに、モララーの言う事にも一理ある。

「それより……こうやって出遭った以上、アンタを生かしておく訳にはいかないからな」

 チャキッ、と小さな音を立てて、突撃銃が構えられる。
 ……標的は、もちろん月。

「あ……」
「それじゃ……これでお別れだからな!」

 引き金が引かれる寸前。
 何もかもを捨てて、走り出す月。
 ……何をどうする、これをああする、そんな考えよりも、本能が勝った。

324 ◆i7XcZU0oTM:2013/08/11(日) 01:49:06 ID:NNuiU0tQ0
















 ――――死にたくない 生きていたい

(……僕は、まだ死ぬ訳にはいかな――――)














 静かな街に、銃撃音が木霊した。




〜〜〜〜〜

325 ◆i7XcZU0oTM:2013/08/11(日) 01:49:27 ID:NNuiU0tQ0




「ちょっと時間と銃弾を浪費しすぎたかな……?」

 何食わぬ顔で、百貨店を目指し歩を進めるモララー。

(時間も弾も、有限。無くなってしまったら、終わりだからな!)

 来たるべき"時"が来るまでは、なるべく無駄ははぶいていきたい。
 だが、今回の様に、誰かに遭遇した時は、そうも言っていられない状況になる可能性も、大いにある。
 そのためにも、先程仕留めた男から、有用な武器が手に入れば良かったのだが……。

(微妙なモノしか持ってなかったな。あれくらいの武器じゃ……ちょっと頼りないね。銃もあったけど、
 弾が切れてちゃ役立たずだよ)

 結局、収穫は忍法帳のポイントが入ったPDAのみだった。
 それでも、1人仕留めただけで2も忍法帳のレベルが増えるのだから、大きい収穫だ。

(でも……レベルが上がってたってことは、アイツも誰かを一人殺してたってことだよね。まあ、別段興味もないけど)

 とにかく、今は百貨店を目指そう。
 辿り着いて、準備を整え次第に……行動する。

(肩の傷もあるし、直接交戦するのは避けたかったけど……このチャンスをフイにする訳にはいかないからな)



【C-2・北西付近/1日目・朝】
【モララー@AA(FLASH「Nightmare City」)】
[状態]:右肩に銃創、赤い刃使用可能(残量小)
[装備]:H&K G36(10/30)@現実、根性ハチマキ@現実(肩に巻いてます)
[道具]:基本支給品一式×2、PDA(忍法帖【Lv=04】)、夜神月のPDA(忍法帳【Lv=01】)ランダム支給品0〜2、
    モシン・ナガンM28(4/5)@現実、H&Kの予備マガジン
[思考・状況]
基本:優勝狙い
1:百貨店を襲う。そのためにも、まずは百貨店へ
2:傷が癒えるまでは直接的な戦闘を避けたいけど……チャンスを逃したくはない
3:殺し合いに乗る、強者はなるべく後回し
※出典元により、自在に赤い刃を作り出す能力を持っていますが、連続して使用するとしばらく使えなくなります
※日本鬼子、鬼女の姿のみ覚えました。一条三位に関しては正確な姿を覚えられませんでした
※八頭身、モナー、ギコ、しぃ等を、ナイトメアシティに関係する者だと思っています

326 ◆i7XcZU0oTM:2013/08/11(日) 01:50:25 ID:NNuiU0tQ0



〜〜〜〜〜





 モララーも鞄の物色を終え、この場を立ち去ったあと。


(…………嫌だ…………死にたく、ない…………)


 足に、肩に、背中に銃弾を受け、もはや生きているのが精一杯な状態で、月は倒れていた。
 ……もう助かる見込みなどない状態で、ただ何も出来ずに終わりの時を待つ。
 それが、月にとってどれほどの屈辱なのかは、計り知れぬほど。

「…………誰か…………助、け…………」

 残った力を振り絞り、精一杯絞り出した言葉を、聴く者は誰もいない。
 何かを掴むかの様に、月は手を前に伸ばすが、手を取る者は誰もいない。
 たった一人で、孤独に飲まれながら、月は死ぬ。
 その事実を悟った瞬間、月は狂おうとした。叫ぼうともした。
 だが、もう狂う力も、叫ぶ力も、残されてはいない。













(…………新世界の、神になる、はずだった、のに…………どう、して…………)











 新世界の神を自称した青年は、おおよそ神には似つかわしくない終わり方で――――あっけなく、斃れた。


【夜神月@AA 死亡確認】

※夜神月の所持品は、夜神月のPDAが無くなった状態で遺体の傍に放置されています。

327 ◆i7XcZU0oTM:2013/08/11(日) 01:50:44 ID:NNuiU0tQ0
仮投下終了です。
指摘点など、あればお願いいたします

328ちょww和田がNANASHIに!?ww:2013/08/11(日) 17:50:17 ID:Z0.N69SUO
仮投下お疲れ様です
問題点は無いかと思います

329 ◆i7XcZU0oTM:2013/08/11(日) 22:12:39 ID:NNuiU0tQ0
ただ今本投下を行いました

330 ◆XG.R2oT3cE:2013/08/12(月) 20:17:44 ID:Pd6dF.8.0
予約分の仮投下をさせていただきます

331 ◆XG.R2oT3cE:2013/08/12(月) 20:18:14 ID:Pd6dF.8.0
先程死んだ二人の代わりになりそうなものは早く見つかった。
百貨店とは別方向に歩いていると、ふらふらとした足取りをした男が前方にいた。
背中には円状の物体がついており、その周りに18個の物体が浮いている。
創作の魔王と呼ばれるハルトシュラーは、その武器が何であるか瞬時に分かった。

(あれは……、エルシャダイのガーレか……使えるな)

近距離では使い物にはならないが、遠距離からなら一方的に相手を痛めつけることができる。
しかも盾としても使用することができる。威力が小さいとはいえ、ここまで魅力的な武器はない。
先程のおっさん二人と同じくらいの年齢だが、それでもあの武器があるだけあの二人のおっさんよりはマシだ。
普通に考えれば分かる弱点に気付かないデブに、愚かにも自らの命を差し出したガリ。
それに比べれば武器を持っている分マシであろう。
もっともハルトシュラーにとっては、それもほんの些細な現象に過ぎないが。
さて、ハルトシュラーは早速ガーレを持つその男を仲間にしようと近づいた。
見たところ彼はとても疲れているようだから、心配そうに声をかけよう。
いたいけな少女を装って、口調にも気をつけて。

「あ、あの……大丈
「……ッ!!」

ヒュン、とハルトシュラーの頬を何かが通り過ぎた。
目には見えなかったが、ガーレの弾を射出したのだろう。
(どうやらハズレを引き当ててしまったらしい……)
ハルトシュラーは心の中で舌打ちをする。

「く、くるなッ! お前も殺し合いに乗っているんだろう!」
「ち、違いますよ! 私が殺し合いなんて……、そんな……」
「嘘つけ! 10代の少女の振りをして、不意をついて俺を殺すつもりだな!? だがそうはいかねえ!」
「……ッ!」

(私の正体を見抜いた!? バカな……)
ハルトシュラーは虚を衝かれた顔をしたが、瞬時に持ち直した。
(いや、ありえないな。初対面だぞ? 分かるはずがあるまい)

「他の人間は騙せても、俺は騙せないぞ!! 分かったらコッチに来んじゃねぇ!! さもなくば殺す!」

332 ◆XG.R2oT3cE:2013/08/12(月) 20:19:38 ID:Pd6dF.8.0

(眼が泳いでいる……しかも、声が震えているな……)
ガーレを持つ男―――キユは少女の正体には気付いてはいなかった。
疲労、恐怖、焦り、怒り、たまりにたまった精神疲労は疑心暗鬼を助長させた。
善意は悪意に見え、疑いは確信に変り、目に映るものを敵に見る。
故に彼は例えそれが純真無垢の可愛らしい少女でも、疑う。
ハルトシュラーは理解した。
(そうか、この男。疑心暗鬼に陥っているな……)
なぜそうなっているかは分からないが、この男は全てを疑ってかかっている。
そうなってくると、あながちハズレでは無さそうだ。
原因をつきとめてそれを解消すれば、仲間になってくれるだろうし、まだ話し合いの余地はあるからだ。
(もっとも、一歩間違えれば死んでしまう可能性もあるのだがな)

「はっ……はっ……来るな、来るんじゃねぇぞ……」

ガーレを持つ男はかなり疲れており、さらに興奮した様子である。
行動、言動、全てに注意をしなければガーレで瞬殺されてしまうだろう。
今の自分の状態は、10代の少女なのだ。当然体力も10代の少女並み。
さらに持っている武器が、全て近距離で使わなければならないもので、どう考えてもコチラが不利であった。
(だが、折角見つけた駒だ。何とかして手に入れたい)
この先、このような殺し合いに乗っていない人物に会えるかどうかは分からないので、ハルトシュラーは早急に駒を手に入れたかった。
まだ、自分を襲った猫がいるのかもしれないのでそれに対する守りが欲しいというのもあるが。
そうと決まれば早速、ハルトシュラーは行動に移した。

「あ、あの……何かあったんですか? そんな疲れた様子で……」
「うるせぇ! てめえには関係ねえだろ! そんなに死にたいのか!?」
「え、えっと……だって、その、困っている様子ですし。あと、凄く震えているので……」
「……!!」

言われて自分の様子に気付いたのか、男は必死に震えを抑えようとする。
しかしその震えは一向に収まることは無く、余計に震えは増していった。

「やっぱり何かあったんですか? 例えば……怖い思いをしたとか……」
「っ……ち、違う……俺は悪くないっ、俺は悪くないんだ!」

急に男が頭を抱え、ぶんぶんと振り出した。
(ふむ? いきなり確信を突いたか? どうやら何かをしでかしたようだが……)
考えうるにこの男は誰かを、ガーレで攻撃してしまったのだろうか。
だとしても、疑心暗鬼になるには薄すぎる。誰かに攻撃されたから反撃をした。その類だろうか?

「あ、あの……「あ、アイツラがっ! 銃を持っているからいけないんだ! だから俺は勘違いしたんだ! 俺は悪くない!」……あの」

男はさらに興奮した様子で、その行動に対する弁明をずっとしていた。
ぐちゃぐちゃした内容であまり分からないが、男は襲われたのではなく襲った側だということが分かった。
(嗚呼、うるさい……。だが、もう一押しかな……)
恐らく、疑心暗鬼の原因は大方これだろう。
ならそれを解消すればいい。相当混乱している様子だから、まずは静めなければ。

333 ◆XG.R2oT3cE:2013/08/12(月) 20:20:20 ID:Pd6dF.8.0

「俺は悪くないんだ! なぁ、お前もそう思うだろう! な、な!?」
「えぅ……でも、その人達は別に貴方を殺そうとしたワケじゃないんですよね?」
「あ、あ……た、確かにそうだが……」
「だったら、どっちも悪くないんじゃないと思います…… その……この状況なら仕方ないと思うんです。
 その人達が殺しにきた、って勘違いしてしまうことも」
「…………あ」

(やっと静かになってくれたか。さて)
興奮も収まった、今なら冷静に物事を考えてくれているだろう。
疑心暗鬼の原因はこの非現実的な状況と、この男の勘違いによるものらしい。
ならば解決する方法は一つ。

「あの人達に謝りに行きましょう! きっと、許してくれるはずです!」
「で、でも俺は……三人を襲って……」
「でもそれは誤解だったんでしょう? それならあの三人もきっと許してくれますよ!」
「そ、そうかな……でも」
「でもじゃない! 大丈夫です! それに仲間は多いに越したことは無いでしょう? 行きましょ!」
「うわっ! ちょ、分かった! 分かったから! 引っ張らないでくれ!」
「あ、そういえば名前を聞いてませんでしたね。私はハルトシュラーです。貴方は?」
「お、俺は…………、っ」
「?」

ここにきて、男が自分の名前を言い淀んだ。
誰かに知られたくない名前なのだろうか。ならば、ここは無理に聞かないほうがいい。

「言いたくないなら別にいですよ。あとで、教える気になったら教えてくださいね?」
「……分かった」


□□□


思わぬ収穫だった。
新しい駒を手に入れたことに加えて、上手くいけば3体も駒が増えるかもしれないのだ。
しかもその内の一人は銃を持っているのだとか。
(これなら……あの猫に対抗できるな)
記憶が確かならば、あの猫が持っていた武器は薙刀と草刈り鎌とボウガン。
こちらにはガーレと銃、近距離用の警棒がある。
戦力差でいえば、ややこちらのほうが有利だろうか。
(さて、ゆっくり行こうじゃないか……)
口角がゆっくりと上がる。
キユはそのことを知る由も無い。

【A-4/1日目・朝】

【ハルトシュラー閣下@創作発表】
[状態]:健康
[装備]:警棒@現実、毒薬(青酸カリ)@名探偵コナン(?)
[道具]:基本支給品一式、PDA(忍法帖【Lv=00】)
[思考・状況]
基本:10歳の少女を演じながら、ステルスマーダーに走る
1:キユと行動
2:百貨店には近づかない
※身体能力の一切が10歳の女の子並みに制限されています。召還術も、自分の設定を変えることも出来ません
※拳法の技術や、剣技は体が覚えていますが、筋力などがついていきません
※毒薬は青酸カリです。説明書は「文字を入れ替える系」ネタが使われております

【キユ@週刊少年漫画】
[状態]:健康、人間不信、疲労(中)、精神疲労(小)
[装備]:ガーレ@エルシャダイ
[道具]:基本支給品一式、PDA(忍法帖【Lv=00】)、靴墨@現実
[思考・状況]
基本:殺し合いには乗らない……?
1:ハルトシュラーと行動。
2:攻撃した3人と和解する。
3:俺の名前……どうしよう……
※A-5のどこかの民家一帯がボロボロになっています

334 ◆XG.R2oT3cE:2013/08/12(月) 20:22:16 ID:Pd6dF.8.0
仮投下終了です。
問題点などがあれば指摘をお願いします

335ちょww和田がNANASHIに!?ww:2013/08/13(火) 12:47:58 ID:Q1Hue/GQ0
仮投下お疲れ様です
内容は問題ないと思いますよ

336 ◆XG.R2oT3cE:2013/08/13(火) 14:30:44 ID:IcMxgPsE0
本投下終了致しました

337 ◆m8iVFhkTec:2013/11/13(水) 22:43:17 ID:bf5RQd8w0
ミルコ・クロコップ、モナー、ウラー、クタタン、やる夫、チハ、畜生マッマを仮投下致します

338 ◆m8iVFhkTec:2013/11/13(水) 22:43:43 ID:bf5RQd8w0
「ここで大人しくしてるんだ、いいな」
「ええ、もちろんです。6時間後、キチンとお話致しますので……」
「どうだか……アンタの言うことは信じれるようなモンじゃない。
 そう言うなら今すぐにでも情報を提供したらどうだ?
 どうせ、もうそこから動けないことが確定しているんだ。
 さっさと殺し合いを脱出出来たほうがアンタも下手に殺されるリスクが減るぞ」
「いいえ、そういうわけには参りません。情報を話せばそのまま殺されるかもしれませんから」
「俺はアンタをお情けで生かしてやってんだぞ? それに応えようと思わないのか?」
「私は慎重なものでして。本当に私の命が保証されたと確信したらすぐにでもお話します」
「面倒くさいやつだな……」

クタタンは得体の知れない愛想笑いを浮かべる。
ミルコ・クロコップはそれを憎たらしげに睨みつけた。

ここは病院1階にあるロッカールーム。
ベンチが2台ほど並べられ、壁にずらりとロッカーが固定されている。
それ以外には何もない、窓すらもない単純な構造の部屋。
クタタンはそこに両手をロープで縛られた状態で閉じ込められた。
抉られた右腕は止血され、包帯を巻いて応急処置を施されている。

「ところでこの赤と白の球、説明書はどこにやった?」
「それがですね、付属されてなかったんですよ。不備なものですよね。
 ……あぁ、それは爆弾です。かなりの威力を持ったとなっております。
 知らずにそのボタンを押したところカウントダウンが始まったので、慌てて投げ捨てたのですが、建物が一つ壊れてしまいました」
「既に一つ使ったということは、そんなシロモノがいくつも入ってたってことか?」
「二つです。それが最後の一個となっております」
「どっちにしろ、こんなものを取っておくにはリスクが大きすぎる。後で破棄するぞ」
「フン、勿体無いですね……」
「もう一つ、この白い棒が何なのか答えろ」
「それはアーチという武器です。端を引っ張ると物体を浄化させるエネルギーが放出されます。
 私を襲ってきた老婆と男性一人には、それを使って対応したんですよ」
「そうか。もうこれ以上聞くことは無い。寝てろ」

病院に到着した時に、まずその惨状に驚愕したものだ。
表側のほうはそれほど目立った状況ではないが、駐車場側が破壊され尽くしているのだ。
黒く焼け焦げた中規模のクレーターがあり、焦げている何かの残骸が散らばり、さらにはアスファルトがひっくり返された跡も見受けられる。
ここに向かう途中、大きな爆発の音を聞いていたが、ここが発信源だったのだろう。
窓ガラスは爆風や破片によってほとんどが粉々に砕かれ、壁には銃痕が残されており、さらには低階層の壁の一部が崩落している。

ここで大規模な闘争が行われていたのには違いない。
一つ不思議なことといえば、駐車場側以外が全くと言っていいほど被害を受けていないところだろうか。
とりあえずミルコは、ウラーとモナーに病院内の探索を頼んでおいた。
構造の把握が必要なことと、そして闘争の生き残りが中にいる可能性があったからだ。
その間にミルコが、一人でクタタンの見張りを行う。

「ただいまモナ」
「一通り把握してきたウラ」
「なんかところどころで戦闘の跡が残っていたモナ……」

しばらくして、モナーとウラーが戻ってくる。
話を聞く限り、誰かが隠れている様子はなかったそうだ。


「ご苦労様。しばらくはそこの病室で休息を取ってくれ」
「了解しましたモナー」

殺し合いの開始から既に7時間が経過している。
目覚めてから現在まで、3人とも一睡もしていない。
ミルコはそれでも全く問題がない、しかし一般人である猫二人はそうはいかない。
今のところ身体的な疲労は少なくとも、後々響かないように休んでもらったほうがいいだろう。

安全を考慮して、なるべく近くの部屋に指定した。
なるべく自分の目の届く範囲に集まってもらったほうが安全だからだ。




そうして、1時間程経過しただろうか。
外から奇妙な音が響いてきた。

キュラキュラキュラキュラ……

車椅子を漕ぐような車輪の音が、徐々に大きくなってくる。

キュラキュラキュラキュラ……

ロビーの窓から外を覗き込む。
そしてその音の正体には、流石に驚きを隠せなかった。

339 ◆m8iVFhkTec:2013/11/13(水) 22:43:58 ID:bf5RQd8w0
「戦車だと……!?」

病院の前の道を、一台の戦車と一人の男が歩いていた。
明らかに重厚な車体にそぐわないほど軽快な音を共にキャタピラが回る。
ミルコはすぐさまモナーとウラーの元へ行った。

「起きろ、今すぐそこに得体の知れない奴らが来ている」
「まさか……襲撃モナ……!?」
「わからないが、相手は戦車を所有している。仮に敵意があった場合、この建物も容易に破壊出来るだろう。
 俺が奴らの様子を見てくるからその間、ここでクタタンの見張りを頼んだ。
 あと、もし何かあった時は荷物を持って、自分たちだけでもすぐさま逃げるんだ」
「わ、わかったモナ。気をつけるモナ……」

護身用としてアーチのみを持ち、表側の方へと向かう。
防具といえるものが無い以上、身軽な方が都合がいいからだ。


 ◆


(……さん……お姉さん……)

チハの呼ぶ声が少し遠くに聞こえた。



(お姉さん、そろそろ起きてよー)
「……ついウトウトしてしまったわね。今どの辺にいるのかしら」
(もう病院の近くだよ)
「……あのさ、少し離れた場所って言わなかったっけ?」

目覚め早々、マッマの機嫌が悪くなる。
というのも、彼女はもっと慎重に行動したいと考えていたのだ。

マッマとやる夫、そしてチハは地図に書かれていた『病院』に足を運んでいた。
病院、それは先ほどの爆発が起こった場所。危険人物がいる可能性が高く、出来れば近づきたくないと考えていた場所。
しかし、爆発音を聞いてわかることはあくまで"方向"だけである。
どの程度の距離なのか、といった細かい位置情報は、高地から見ない限り特定するのは難しい。
だから爆心地である可能性を考慮し、ある程度離れた位置でこっそりと様子を伺ってから行く、という話だった。

(え、てっきり入口付近かと……。僕は中に入れないし……)
「もし中に危険な奴がいたら狙われるかもしれないじゃない! それくらいわかるでしょ!?」
(ご、ごめんなさい……)
「あーもう、私は疲れやすいトシだっていうのに、誰かさんがわがまま行って私を歩かせるから……」
「なんでやる夫に八つ当たりするお……」

度々こちらに飛び火してくるのに、やる夫はげんなりする。
完全にストレスのはけ口として扱われている気がする。正直嫌である。
でも文句は言えない。ここからあのやきう兄みたいに一人で出て行く勇気がないから。
少なくとも頭の働くマッマと、安全な戦車と行動すれば安心を得られるのだから。

「まったく、仕方ないわ……見た感じ病院に壊されてる様子とか無さそうだし、こっそりと忍び込もうか。
 本当だったらもう少し慎重に行きたかったんですけどね? はぁ……」
(面目ない……。気をつけてね)

マッマはチハの蓋を開け、外に出る。
と、その時、すぐそばから駆け寄る足音。
反応も間に合わず、突如ガタイのいい男にやる夫の体は押さえつけられる。

「ウワアアァァァ」
「あんたら、殺し合いには乗っているか?」

男は低い声で問いかけてきた。


 ◆


「……とりあえず、荷物を整理しておくウラ……」
「そうモナね。いらない物は捨てるモナ」

ミルコが持っていったアーチ以外の物を取り出す。
ロープ、普通の縄だ。クタタンを縛るのにも使用している。便利。
工具セット、知識が無い自分たちには使えないが、おそらく分解や組立に役立つだろう。。
バスタードソード、自分でも正直持て余してるが、一撃ぶつければノックダウン出来るはずだ。
赤いシューズ、キック力を増強させるというがサイズが合わない。
というのも、自分たちの足のサイズは異様にデカイ。

   A_A 
  ( ´∀`)
  (    )
  | | |
  (__)_)←このように太ももよりも足のサイズが大きい。

ツボを刺激して脚力を向上させる仕組みらしいので、改造すれば自分らに役立つ物となるかもしれない。
ちくわ大明神、小腹が空いた時に食べることで満足を得られる。
オレオ、小腹が空いた時に食べることで満足を得られる。
ポイントカード、お餅の絵が描かれている。該当する店で使えばお得だろう。

340 ◆m8iVFhkTec:2013/11/13(水) 22:44:46 ID:bf5RQd8w0
そして、赤と白の球。クタタンの持ち物。

「おっさん、これは一体なんだウラ?」

ウラーはロッカールームの扉越しにクタタンに尋ねた。

「そのカプセルですか。フフ、それこそがですね、この殺し合いからの脱出に必要な道具なのですよ」
「モナ!? 今それを話すって、どういう風の吹き回しモナ!?」

平然と答えるクタタンに思わず驚愕の声をあげた。
本来の約束であれば、6時間後に教えてくれるという話だったはずだ。
今それを教えてしまうのは明らかに怪しい。

「ミルコさんには既に話しましたが、それは所謂、収納箱なんですよ」
「収納? こんな小さなボールに入るわけないウラ! いい加減にしろウラ!」
「これは特別なカプセルなんです。大きさとか形状とか、"普通のカプセル"というくくりでは考えてほしくないんです。
 もちろん、その中に入っている道具の使い道や、具体的にどうすればいいかの情報は黙秘させてもらいますが」
「ふむ……」

つまり、脱出のためのヒントがこの中に収められているということだ。
クタタンがやけに落ち着いた様子だが、その道具を見ただけで方法がわかるものではない、という自信があるのかもしれない。

「ミルコさんが帰ってくるのがちょっと遅いモナ……。本当に"いざ"という時が来ちゃった、なんてことはないモナよね……?」
「ええ、私もヒヤヒヤしますよ。彼のような力強い人がいないと、私も身の安全が確保出来ませんからね。
 お二人も荷物確認はさっさと済ませた方がいいかもしれませんよ」
「そうやって媚を売っても、心を許したりしないモナよ。私はなるべくミルコさんの指示に従うつもりだからモナね」
「媚を売るだなんてそんな。私はあなたがたを信用出来れば、脱出策をお教えるつもりなんですから」

二人の社長がドア越しに言い合っていた。
ウラーはそれを横目に見て、そして赤と白のカプセルを手にした。

「まぁ、ちょっと中身は気になるからなウラ。ちょっと見せてもらうウラ」
「ええ、どうぞどうぞ」
「ウラーさん、あんま勝手なことをしないで欲しいモナ!」



 ◆



病院の玄関で、ミルコとマッマたちは情報交換を行う。
脱出のために首輪を外す、そしてそのために技術力のある者を探す。
その目的にマッマはおおむね賛同し、さらにそれに対する問題点を指摘した。
少なくとも首輪の構造を把握するために、実験用の首輪が必要だと言うこと。

「流石に人の首に着いてる物を、ぶっつけ本番でいじるわけにはいかないでしょ?
 申し訳ないことだけど、既に死んだ人のから調達する必要はあると思うわ」
「あぁ、おそらくそれもやむを得ないだろう。外をある程度探索すればすぐに見つかるかもしれないな」

生きている者を救うためには、既に死んだ者には犠牲になってもらわねばならない。
そしてそれを行えるだけの覚悟は持っていた。

「……おっと、連れを待たせてしまっていた。一旦奥へ来て欲しい」
「他にもいたのね」
「モナーとウラーだ。見た目はちょっと妙だが驚かないで欲しい」
「大丈夫よ、慣れてるわ」
「それなら安心だ」

なんだこの会話、と蚊帳の外にいるやる夫は思った。

……と、その時。

「ひぃぎゃあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

悲鳴、とてつもなく長い悲鳴。
続けて男の声。何かを語りかけるような声。
ミルコ・クロコップはすぐさま駆け出した。
あの悲鳴はウラーのものだった。そして男の声は、クタタン。
今、あの場で最悪のことが起きているのだ。



奥へと走り去るミルコの姿を見て、

「何!? 何なの!? あっちで誰か襲われているの……!?」

あまりに突然の出来事に、マッマは大きく戸惑った。
ミルコの"連れ"が何者かに襲われたのは間違いないだろう。
ではどうするべきか。自分たちも助けに向かうべきだろうか。

いや、自分たちは大した武器を持っていない。
ここで感情に任せてミルコの後を追ったところで、何が出来るというのだろう
相手がとんでもなくヤバイ奴だった場合、きっと自分の命も危機に晒されるだろう。
果たして、出会って数分の者のために、危険を冒してまで助けに出るべきか。

341 ◆m8iVFhkTec:2013/11/13(水) 22:45:01 ID:bf5RQd8w0
「……ごめんなさい。私たちが行ったところで何も出来ないわ……」

出てきたのは謝罪の言葉。
不用意にリスクのある行動を取りたくなかった。
例え、助けたいという気持ちが本物であっても、自分の方が大切だった。

「やる夫、逃げるわよ」
「わ、わかったお……」

やる夫もまた、その意見に反対しようとはしなかった。
薄情な行為かもしれない。しかし、わざわざ死地に飛び込みたいとは思わない。

二人は黙って外へと走り出した。
すぐにチハに乗り込んで、その場を離れる。
彼の身が無事であることを祈りながら。


 ◆


廊下を全力で駆け抜け、奥のロッカールームの方へと進む。
そして、そこに広がる光景は、想像しうる中で最悪のものだった。

赤、赤、赤。
生き物という容器に目一杯詰められた、血液という液体。
その大量の液体が溢れ出て、廊下に大きな池を作っている。

ぐちゃり、ぐちゃり、ぐちゃり。
肉を貪る黒い怪物の姿あった。
内臓を引きちぎり、牙でさらに滅茶苦茶に咀嚼されていく。
怪物が食しているのは、ミルコが知っている顔。
タレ目を少しだけ引きつらせた驚愕の表情を携えたまま、ピクリとも動かない。

「ネメア、アイアンヘッド」

クタタンの声に反応し、化物はすぐさま食事を中止する。
赤く――文字通り血のように赤く、ナイフのように尖った鋭い角が、ミルコの方に向けられる。
そして突撃。
ミルコはその動きを捕捉する。そしてギリギリまで引き寄せ、左側へと抜ける。
真横の位置から、強烈なキックを叩き込む。確かな手応え、怪物の体が僅かに軋む。

急停止をした怪物はこちらへ居直ろうとする、そこへもう一撃蹴りを叩き込む。

「てっぺきだ!」

クタタンの指示、刹那、ネメアの体が水銀のような光を放つ。
顔面へと叩きつけられた蹴り、それが金属的な音を響かせた。

「―――ッ!?」

その硬さの変化に、体が予測出来なかず、己の足の骨が嫌な音を奏でる。
この鈍い痛みは、ひびが入ったに違いない。襲い来る苦痛にミルコは顔を歪ませた。

ネメアはそのまま覆いかぶさり、マウントポジションを取る。
ミルコはアーチをネメアの口内に押し付け、必死に牙を押さえつける。
その時、頭に強烈な衝撃を受けた。
巨大な鈍器で殴りつけられた。視界が大きくブレた。
そばには、バスタードソードを構えたウラーの姿があった。

その顔は恐怖に満ち溢れ、たった今自分が行なった行為にも焦りをあらわにしていた。

「ウラー、一体何を……」
「悪くない、俺は悪くない、悪くないんだ、殺さなきゃ俺が殺される、だから悪くないんだ。
 これは正当防衛なんだ、悪いことじゃないんだ、仕方ないんだ、自分の命を優先していいんだ」
「お前は、何を言っているんだ」
「あんな殺され方したくない、だから仕方ないんだ。俺が生きるためだから、悪くない。
 きんきゅ、緊急き、ひ、避難法、緊急避難法が、ついて、ついてるんだ、俺には」

もはや気が動転して、言っていることが完全に曖昧だった。
だがわかった。きっと、クタタンに恐怖を刷り込まれたのだろう。
モナーが殺される様を間近で見て、自分もこうなりたくなければミルコ・クロコップに襲いかかれと。

ネメアのアイアンクローが、ミルコの胸を思い切り貫く。
湧き上がる嘔吐感、喉から溢れ出てきた血が、口から吐き出される。

「フフフフ、いいお姿ですねぇ。自分が虐げた人物に逆襲される気分はどうですか?」
「てめぇ……どうやって抜け出しやがった……このモンスターは……」
「赤と白のカプセルに入ってたんですよ、私の従順な下僕としてね。
 ついでに言えば、ご丁寧にネメアを出してくれたのはウラーさんですよ、ありがたいですね」
「やはり、殺しておく、べきだった……か……」
「今更そんなこと言っても遅いですよ。甘かった自分をせいぜい恨みなさい」

そう嘲り、そして笑った。
あぁ、この憎らしいクソッタレに今から制裁を下せる。
散々侮辱しやがった罰を与えられる。
考えるほどに愉快な気持ちが湧き上がってくる。

「ネメア、そいつをしっかりと押さえておきなさい」

ネメアの前足が乱暴に顔面を押さえつける。
動けない様を見て、クタタンはその傍へと近寄り、思い切り蹴りつけた。
何度も、何度も、まるでサッカーボールを蹴るように放っていく。
叩かれた痛み、プライドを傷つけられた怒り、それら全てを足に込める。
頭部の形が徐々に変わっていく様を見るうちに、愉悦が溢れ出していく。

342 ◆m8iVFhkTec:2013/11/13(水) 22:45:11 ID:bf5RQd8w0
「ははは、はははは、ははははははっ!! どうだ? 何も出来ずに一方的にやられるのは?
 痛いか? 悔しいか? 私が憎いか? ははははははははははははは!!! ざまを見ろ!!」

なんと清々しい感覚だろうか。なんと爽快なのだろうか。
一撃ごとに心に渦巻いていたストレスが発散されていく。
曇天の空に大砲をぶち込んで、風穴を開けて青空を拝むような、そんな感覚だ。

「あはははははははははは!!!」

人間の中にある残虐性、それを解き放つことはこれほど素晴らしいことなのか。
罪悪感や背徳感、報復に対する恐怖が無ければ、こんな面白いものはないだろう。
笑いが止まらない。


その時、クタタンの足の動きが止まる。
彼の足首を、ミルコの手ががっしりと掴んでいた。
そして。

「放しなさ……ぐがああああああああぁぁぁぁぁ!!!」

人間離れした握力によって、足を砕かんと強く握られる。
骨がミシミシと悲鳴を上げる。血液がみるみる鬱血していく。
痛みに顔を歪めながら、クタタンはすぐさま指示を下す。

「ネメア、こいつの腕を切り落とせ!!」

メタルクロー。
ミルコの丸太のように太い腕が容易く引きちぎられる。
噴水のように、大量の血が吹き出して、床をベッタリと染める。

「ひぃいいいぃぃぃ!!」

離れて見ていたウラーは耐え切れず悲鳴を上げる。
白い壁や床を赤黒い液体が染め上げ、鉄臭い空間が出来上がっていた。
スプラッタ映画そのもののような光景が、眼前に広がっているのだ。

ミルコは、息も絶え絶えな様子で口を開いた。

「ウラー……聞け……」

名指しで呼ばれ、ウラーは飛び上がった。
何を言われるのかという恐怖で、ガタガタと体が震えだす。

「――いいか、聞けよ!!!?」
「ひ、はいィッ!!」

突然、病院に響き渡るような力強い怒号が放たれる。


「間違ってもお前は助かっちゃいねぇ、次がお前の番だ!! 肝に銘じろ!!!」


「五月蝿いですよ。病院では静かにするものです」

クタタンは足首を掴んでいた手を引き剥がし、思い切りミルコへと投げつける。
そして平坦な声で指示を下す。

「ネメア、殺しなさい」
「グオオオオォォォォン!!」

咆哮を上げ、ミルコを首筋から噛み千切った。



 ◆



カプセルが開かれ、中から現れたのは禍々しい怪物だった。
獅子のようで悪魔のようで、とにかくおぞましい外見をしていた。
俺もモナーもその場で腰を抜かして、ただ震えていた。
その怪物が俺たちを獲物として見ている、このまま殺されてしまうと思った。

と、その時クタタンはドア越しに囁いた。

『ウラーさん、そのカプセルを私に渡してください。
 その最強の生物を使役出来るのは私だけなのですから。
 この生物、ネメアを使ってあなたを殺し合いから守り抜きます、どうですか?』

343 ◆m8iVFhkTec:2013/11/13(水) 22:45:21 ID:bf5RQd8w0
それは悪魔の囁きだった。
そして俺は、それに応じてしまった。
『最強の生物が俺を守ってくれる』というのに期待を抱いたのもあるかもしれない。
しかし、このままでは怪物に食われるかもしれない、という恐怖が俺の背中を押したんだ。



『ウ、ウラーが裏切ったモナ……』
『すまないウラ。でも俺はどうしても死にたくないウラ……。
 生き残らせてもらいたいウラ……本当に許して欲しいウラ……!』
『……どっちにしろ同じモナ、このまま死ぬのはきっと……』
『さぁネメアさん、アイアンヘッドです』
『オマエモナー!!』

鋭い角で突き上げられ、モナーの臓器は破壊された。

『俺は……俺は……』

モナーの言葉が耳に張りついていた。
そうだ、間違えてしまった。きっと用済みな自分は、このまま殺されるんだ。
ネメアの爪によって拘束を解いたクタタンが、笑みを浮かべながらこちらに近づく。

殺される。

『ひぃぎゃあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!』
『落ち着いてください、私は約束を守ります!! あなたを殺す気はない!!』

俺は悲鳴を止め、クタタンの次の言葉を待った。

『我々が生き残るために、邪魔をするであろうミルコ・クロコップも排除します。
 チャンスを見て、思い切りミルコ・クロコップに攻撃をしなさい。
 彼を倒せば、あなたの行いを攻める者は誰もいない。それに、最強の味方を得ることが出来るんです』

クタタンの言葉を断る勇気は、俺の中にはなかった。
そして、その通りに実行した。今までの仲間を死に様をただ見ていた。


 ◆


耐え難い嘔吐感。
ウラーはその場で胃の中の物を吐き出した。
目の前の惨状が、仲間を裏切った罪悪感が、俺の中で蠢いていた。

「俺は、俺は、うわああああああぁぁぁぁぁ!!!!」

ボロボロと涙を流す。
この殺し合いから生きて返してくれると行ったミルコが、もう動かない。
まるで兄弟のように容姿が似ていたモナーが、もう動かない。
自分がどれほど取り返しのつかない行いをしたのか、それを痛感した。

「ウラーさん、あなたの判断は正しかった。
 あなたは生きるために何かを犠牲にする決断をしたのです。
 それを恥じる必要がどこにあるのでしょうか」

クタタンはそう言って俺の背中をさすった。
先ほど、ミルコを蹴りつけていた時とは全く違う、とても優しげな口調だった。

「アンタが……アンタさえ居なければ俺はこんな……」
「選択したのはあなたでしょう。安心してください、私の頭脳とネメアの力があれば、あなた一人くらい背負うのは容易ですよ。
 生き残りたいんでしょう? 生き残るのがあなたの願いですよね?」
「あぁ……」
「なら、死んだ彼らのことは忘れてしまいなさい。自分の命だけを考えればいいのです」
「…………」
「そうそう、あなたにご褒美を与えましょう。
 私たちが生き残るのに、最高に有利になるものです。
 ちょっとPDAを使わせていただきますよ」

クタタンは自身のPDAと、ウラーのPDAを同時にいじる。
何かしらの通信を行い、そしてウラーにPDAを操作していた。
これでOKです、と言って、その画面をこちらに見せる。

「私の殺害レベルをそちらに移し、忍法帖プログラムの"専用ブラウザ"をインストール致しました。
 周辺にどのくらいの参加者がいるのかを、完璧に把握出来る画期的なアプリです。
 これで不意打ちを受けることも無くなります、死のリスクがグッと減らすことが出来るのです」
「……俺はホントに、これで良かったウラか……。
 ホントにあんたは俺を助けてくれるんだろなウラ……?」
「もちろんです。私の下に着いたからには、相応の待遇を与えますとも。
 殺し合いを終わらせるためのあなたの手伝い、期待させていただきますよ」

344 ◆m8iVFhkTec:2013/11/13(水) 22:45:32 ID:bf5RQd8w0
正直に言うと、クタタンは信用出来るとは思えなかった。
モナーの言葉が、ミルコの言葉が脳内にこだまする。
きっと必要があれば、コイツはさっさと俺を殺すだろう。
自分が殺される番を、次に回しただけに過ぎない。

でも、もう後には戻れない。
クタタンと共に行動する以外に、自分が生きる道は残されていないのだから。



【C-3/病院内/一日目・午前】

【クタタン@ゲームハード】
[状態]:右腕に切り傷(中)、健康、束縛状態
[装備]:ネメア@ポケットモンスターアルタイル・シリウス、PDA(忍法帖【Lv=02】、ちくわ大明神@コピペ、アーチ@エルシャダイ
[道具]:PDA(忍法帖【Lv=00】、ちくわ大明神@コピペ、アーチ@エルシャダイ、
[思考・状況]
基本:優勝し、世界を美しいモノへ創り上げる
1:相手を見極め、出来るならば他の参加者に「協力」を呼びかける
2:ウラーを利用する
3:いわっちには自分の思想を理解してもらいたい


【ネメア@ポケットモンスターアルタイル・シリウス】
[状態]:支給品、健康、ボールの中
[思考・状況]
基本:クタタンの指示に従う
※使える技は、アイアンヘッド、悪の波動、メタルクローの他にもう1つあるようです。
 何があるかは次の書き手の方にお任せします。


【ウラー@AA】
[状態]:死に対する恐怖、悲しみ、罪悪感
[装備]:バスタードソード@FF&ドラクエ(FF7)
[道具]:基本支給品一式、PDA(忍法帖【Lv=00】"専用ブラウザ"をインストール済)、オレオ@イタチコラ画像、ポイントカード@当店のポイントカードはお餅ですか
[思考・状況]
基本:生存最優先
1:クタタンに着いていく
2:とにかく死にたくない……
3:化け猫(お断りします)とライオン(サバンナ)を警戒

※忍法帖プログラム"専用ブラウザ"をインストールしたため、周囲の参加者の位置がわかるようになりました。




【C-3/病院付近/一日目・午前】

【やる夫@ニュー速VIP】
[状態]:負傷(中程度)、血が付着、テンションsage、擬似賢者モード
[装備]:無し
[道具]:基本支給品一式、PDA(忍法帖【Lv=00】)、ランダム支給品0〜2(確認済み)、しょうゆ一㍑(1/4消費)@現実
[思考・状況]
基本:性欲喪失。とりあえず今は生き延びる
1:病院から離れる、ミルコたちに罪悪感
2:アイツ(やきうのお兄ちゃん)は怖いけど……でもマッマの言う通りにする
3:チハからは離れたくないけど、畜生マッマから離れたい。今のとこ出来そうにないけど
4:やらない夫がちょっと心配。でもやっぱりおにゃのこには会いたい
※擬似賢者モードによりテンションが下がり、冷静になってます。性欲が回復すれば再び暴走するかもしれません。

【畜生マッマ@なんでも実況J】
[状態]:健康
[装備]:ぬるぽハンマー@AA
[道具]:基本支給品一式×2、PDA(忍法帖【Lv=00】)、ランダム支給品0〜1(治療に使えそうなものは無いようです)、ハイヒール一足@現実
[思考・状況]
基本:殺し合いを止める
1:病院から逃げる、ミルコたちに罪悪感
2:あのバカを追いかける。
3:とりあえず、やる夫を戦闘要員兼弾除けにする。グンマーはどうしようか……
4:やる夫の友達のやらない夫に親近感

※ミルコ・クロコップと情報を交換しました。
※爆心地が病院だと知りましたが、原因はわかりません


【チハ@軍事】
[状態]:損傷無し、燃料残り77%、内部が少し醤油臭い
[装備]:一式四十七耗戦車砲(残弾無し)、九七式車載重機関銃(7.7mm口径)×2(0/20)
[道具]:基本支給品一式、PDA(忍法帖【Lv=00】)、ランダム支給品1〜3(治療に使えそうなものは無いようです)
[思考・状況]
基本:死にたくない
1:マッマの言う通りにする
2:殺し合いに乗った人には会いたくない
3:やきう兄に強い警戒。グンマーは……
※チハは大戦中に改良が施された、所謂「新砲塔チハ」での参戦です。
※チハは自分の武器の弾薬が無い事にまだ気づいていません。

345 ◆m8iVFhkTec:2013/11/13(水) 23:00:59 ID:bf5RQd8w0
以上で投下終了です

あと、一部表記を挿入し忘れてしまったので、
状態表の上あたりにこれを追加してください
↓↓























【モナー@AA 死亡】
【ミルコ・クロコップ@AA 死亡】

346ちょww和田がNANASHIに!?ww:2013/11/13(水) 23:02:17 ID:eI.j.C8o0
仮投下乙です
内容は問題ないかと思われます
後は、投下の際に初出の支給品の説明を入れれば良いかと

347 ◆i7XcZU0oTM:2013/11/20(水) 23:15:41 ID:vgpbOQzo0
予約文を仮投下します

348 ◆i7XcZU0oTM:2013/11/20(水) 23:16:10 ID:vgpbOQzo0


「うぐ…………」

 民家のブロック塀にもたれかかるファヌソ。
 左手で胸の辺りを押さえ、青ざめた表情で脂汗を浮かべている。
 どうして、このような事態に陥っているのか?

(胸が……痛い)

 ファヌソを突然襲った、胸の痛みのせいである。

「一体なぜ……まさか」

 ファヌソの頭の中に浮かんだのは、1つの仮説。

(竹安の身に、何かあった? …………その上、あまり想像したくない出来事……)

 ……この予想は、当たっていた。
 だが、今のファヌソには、それを確かめる術はない。

(このままじゃ碌に移動もできませんね……ああ、頭がクラクラする)

 こうしている内にも、鋭い痛みが胸から頭へと伝わっている。
 油断すれば、そのまま気を失って地面へと倒れ伏してしまいそうなほどに。
 ……こんな所で倒れるなんて、危険にも程がある行為だ。
 それが分かっているからこそ、ファヌソは何とか意識を保とうと努力している。
 ……それでも、胸から迫り来る痛みが、ファヌソの意識を遠ざける。

(ああ、そうだ……お医者さんカバン、を……つかえ、ば……)





 背負っていた鞄を地面におろそうとしたところで、ファヌソの意識はプツリと途絶えた。

349 ◆i7XcZU0oTM:2013/11/20(水) 23:16:36 ID:vgpbOQzo0









「…………」
「ぽぽ……」

 街の真ん中を目指して、ただ歩き続ける内藤ホライゾン一行。
 時折八尺様が「ぽぽぽ」と呟いたり、3ゲットロボが良く分からない事を言ったり……。
 会話らしい会話は、ほぼ無いに等しかった。
 唯一の会話は、道中、爆発音らしき物が聞こえた時のものだけ。
 それでさえ、非常にさっぱりしたものだったのだが。
 それほど、内藤の気持ちは沈んでいるのかもしれない。
 ……同行者1人+1体とは、会話が成り立たないと言う理由も、あるかもしれないが。

(いつまでもこんな調子じゃ、Tさんに申し訳ないお……でも……)
「ぽぽ、ぽぽ……」

 そんな様子の内藤の肩に、まるで励ますかのように、八尺様の手が触れる。
 おおよそ恐ろしさとはかけ離れた、しなやかで美しい手が。

「……」
「ぽ、ぽぽっぽ」

 何を伝えようとしているのか、相変わらず理解できなかった。
 だけれど、何だか、少し元気が出たような気がした。
 少なくとも、悲しみを一人で抱えて歩むよりは……。


「慰めてくれた……のかはわからないけど、ありがとうだお……」
「ぽ」


 殺伐とした空気が、少しだけ緩んだ。
 まるで一陣の風のように、内藤の心にかかった雲を、少し吹き払ってくれたような気さえした。
 もちろん、Tさんの事を乗り越えることが出来た訳ではない。
 だが、この八尺様の行動が、もしかしたらその手助けになる、かもしれない。



『がしゃーん、がしゃーん』
「ど、どこにいくんだお! ……って、あれは……!」

350 ◆i7XcZU0oTM:2013/11/20(水) 23:16:54 ID:vgpbOQzo0

 突然、3ゲットロボが内藤の傍を離れ、走り出した。
 その先には……男が一人、倒れていた。
 いち早く男の存在に気づいた3ゲットロボは、内藤にその存在を教える為に行動を起こしたのだ。
 ……会話で意思疎通を図れないが故の行動である。

「こ、こんな所になんで倒れてるんだお…………?」
「ぽぽぽ……」

 恐る恐る首元に手を当ててみると。
 ……予想とは裏腹に、生命の鼓動が、伝わって来る。つまり……死んでいない!
 しかし、仰向けに倒れた男の胸の辺りは、しっとりと血のようなもので濡れている。

(ち、血が出てるお……!)

 傷を確認しようと、内藤は男の服の胸の辺りをはだけさせた。
 そこには、銃弾を受けたかのような"傷跡"が……。
 これは、一体どういうことなのか?
 どうして、この"傷跡"が胸にあるのか?
 この男は一体誰なのか?
 一瞬にして、内藤の脳内にいくつも疑問が浮かぶが、その1つ1つを考えている暇はない。
 ……どんな事情があるにしろ、この男をここに放置していくのは危険だ。

「とにかく、ここに寝かせたままじゃダメだお……! どこか、安全な場所に運んだほうがいいお!」
「ぽぽっぽ」

 自身より大きい男の体をなんとか抱え、フラフラと近くの民家に入っていく内藤だった……。






351 ◆i7XcZU0oTM:2013/11/20(水) 23:17:11 ID:vgpbOQzo0




 ……目を開く。
 見えるのは、見慣れない天井だけ。

(ここは……?)

 首を動かさず、目だけをキョロキョロと動かして辺りを見る。
 どうやら、何処とも知らぬ民家の一室のようだ。
 上半身を起こして辺りを窺う……今まで、私はベッドの上に横たわっていたようだ。
 ……おかしい。私は、不覚にも道端で気を失ってしまったはず。
 なのに、どうしてこんなところにいるのだろうか……?

「……そうだっ、胸は!?」

 ガバッと、自分の服をはだけさせて胸を見てみるが……。

(……何ともない……妙な痕があるだけで、おかしいところは何も無いですね……)

 一体、何がどうなっているのだろうか?
 不可解な事ばかりで、流石の私でも少々混乱してしまいました。
 ……とにかく、もう何とも無いのならば、引き続き竹安を探しに行かなければならない。
 こんなところで時間を食って、竹安に何かあれば、私にも何かあるかもしれない……。
 ならば、こんな所で寝ていられない。今すぐにでも出発しないと。
 そう思ってベッドから降りようとした時……。
 閉まっていた部屋の扉が開いて、何者かが入ってきた。

「目が覚めたかお?」

 入ってきたのは、何とも言えぬ体型の青年(?)だった。
 私を、心底安心している目で見つめている。

「道端で倒れてた所を、僕がここまで運んでベッドに寝かせたんだお……」
「なるほど。だから私はここに」
「ついでに……怪我もしてたから、きちんと手当てしておいたお」

 ……怪我?
 少なくとも、気絶するほどの怪我は負っていないはず。
 状況がいまいち飲み込めずに少々困惑する私の事などお構い無しに、青年は話を続ける。

「それで……その、手当てする時に、お兄さんの荷物にあった道具を、使わせて貰ったお……」
「道具……」
「お兄さんの物を勝手に使って申し訳ないお! でも、手当てしなきゃどうなってたか……」

 そう言うと、青年は深々と私に頭を下げた。
 ……確かに、勝手に私の持ち物を探られてなおかつ無断使用されたのは少々気になりますが。
 ですが、そのお陰で私が助かった……。

352 ◆i7XcZU0oTM:2013/11/20(水) 23:17:27 ID:vgpbOQzo0




「…………私を助けてくれて……」




 ポツリと、柄にもない一言を呟いて、私は、足早に部屋を出た。









「……あの人、すぐに出てっちゃったお」
「ぽぽ」

 リビングの椅子に腰掛け、八尺様に話しかける内藤。
 ……特に礼を言うでも無く、出ていってしまった男。
 一体、あれは誰だったのだろうか。
 今の内藤や八尺様に、それを知る術はない。

(でも……不思議と、悪い人とは思えなかったお……)

 出て行く前に見せた、あの和やかな笑顔。
 そして、ぽつりと呟いたあの一言。

「……また、どこかで会えたら……」
「ぽっぽ、ぽぽ」

 ほんの少し、気分の晴れた内藤だった。

353 ◆i7XcZU0oTM:2013/11/20(水) 23:17:42 ID:vgpbOQzo0


【C-3とC-2の境目付近/一日目・朝】
【内藤ホライゾン@AA】
[状態]:健康、絶望感、クマーに対する強い恐怖と敵対心、少しばかりの希望
[装備]:木刀@現実
[道具]:Tさんの基本支給品一式、注射器@現実、ハロゲンヒーター@AA、ドーピングコンソメスープ@魔人探偵脳噛ネウロ
[思考・状況]
基本:生き残り、Tさんの父に謝る
1:クマーは必ず倒す
2:少し休憩したら、街の真ん中の方へ向かう
3:ドーピングコンソメスープを使う……?
※彼自身のデイパックは依然どこかに放置されています。

【八尺様@オカルト】
[状態]:健康、深い悲しみと後悔
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、エルメスの基本支給品一式、PDA(忍法帖【Lv=00】)、モナーの銅像@FLASHゲーム「密室船」、釣り竿@現実、3ゲットロボ@AA
[思考・状況]
基本: ぽっぽぽ……
1:“悲しみ”を少しでも減らす

【3ゲットロボ@AA】
[状態]:支給品、異常無し
[思考・状況]
基本:持ち主の命令に従う。内藤ホライゾン、八尺様に同行。









(あんな事を言うとは、私らしくもない……)

 歩きながら、私は先程の事に考えを巡らせる。




『私を助けてくれて、ありがとう』




(こんなセリフを言おうとは……まあ、感謝はしていましたがね)

 それを言葉にして出すとは、私も随分と変わったことをするものだ。
 だけれど、たまにはこういうのも良いでしょう。

(さて……竹安はどこにいるのか……)

 まだまだ、私は死なない。
 まだ、死ぬには早い。



【C-3とC-2の境目/1日目・朝】
【髪の子ファヌソ@ゲームサロン】
[状態]:肩に痛み、疲労感(小)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、PDA(忍法帖【Lv=01】)、お医者さんカバン(3/5)@ドラえもん、ヘリコプター@現実
    12.7mm弾×25、25mm弾×5
[思考・状況]
基本:気まぐれに行動する
1:竹安を探し出して保護する
2:ひろゆきをゆくゆくは地獄に落とす
3:手に入れた弾薬は、相応しい仔羊に与える
4:『裏ワザ』(死体やヘリをデイパックに収納できること)を誰かにひけらかしたい

※神通力が制限されています。自分が生み出したものが損傷を受けると、ファヌソにもダメージが及びます。
 竹安の装備が損傷を受けた際のダメージの程度については次以降の書き手の方にお任せします。

※ファヌソが立ち寄った小さな公園の中に、弾薬箱とわさび@オラサイトが放置されています。
 ファヌソが入手した物以外にも弾薬はあるようですが、種類と量は不明です。
※デイパックに参加者の亡骸を入れて持ち運べることを知りました。生者にそれが適応するかは次の書き手の方にお任せします。

354 ◆i7XcZU0oTM:2013/11/20(水) 23:18:15 ID:vgpbOQzo0
仮投下終了です
指摘点などあれば指摘お願い致します

355ちょww和田がNANASHIに!?ww:2013/11/20(水) 23:40:15 ID:hPZZd9GA0
仮投下お疲れ様です! 問題無いと思いますよ〜

356 ◆i7XcZU0oTM:2013/12/02(月) 23:26:12 ID:cKg5QjWc0
予約分を仮投下いたします

357 ◆i7XcZU0oTM:2013/12/02(月) 23:26:43 ID:cKg5QjWc0


 太陽は、既に天高く上っている。
 だが、照英一行の雰囲気は、まるでそこだけ影の中に入っているが如く暗い。
 ……数時間前の出来事の時点で、少なからず心に影は差していた。
 それに追い討ちをかけてしまったのが、定時更新だった。
 そこに名前が載っている事実が、そんな心に追い討ちをかける形となってしまったのだ。
 ……だが、それと同じように気まずい空気が漂っているところもあった。

(やっぱり、まだまだこの2人の間には、わだかまりが……)

 そう、T-72神と801の姐さんの間に……。
 幾度と無く、照英が間をとりなそうとしたのだが、どうにも上手く行かず。
 結果、今の時間までこの微妙な空気が続いているのだ。

(……いつまでも、このままじゃいけない。でも、どうすれば)

 焦れば焦る程、思考は絡まってしまう。
 それでは駄目だ、落ちついて1つづつ解いて行けば、必ず答えは出る。
 ……そう、分かっていても。
 不安が焦りを生んで、育ててしまうのだ。

(時が、解決してくれる……のを、待つ訳にもいかない)

 これが日常の一幕であったなら、その選択をするのも1つの手。
 だが、その手は…………使えない。
 いつ襲われ、いつ命を落とすかわからないこの状況で、"時が解決する"のを待つ事は、できない。

(僕が……どうにか……)

 そんな照英の悩みをよそに、801の姐さん達は道を進んで行く。
 ……どちらも、もしかしたら。
 一歩踏み出すだけで、元に戻れるのかもしれない。
 だけれど、その一歩は。果てしなく、大きい。

「……照英さん、PDAに反応が……」

 黙っていた801の姐さんが、唐突に口を開き、PDAを指差す。
 ……確かに、参加者の存在を現す光点が、前方に1つある。
 今の探知機の走査範囲は……約50メートルほど。
 光点は……少し離れた位置にある。実際の距離にすれば、30メートル程度。

「他の道を通ってるんだ」
「今も動いてる。このまま進んでいくと、僕らに遭遇しますよ」
(……一応私の後ろへ……)
「いや、予想以上に早いです! もうすぐそこに――――」

358 ◆i7XcZU0oTM:2013/12/02(月) 23:27:05 ID:cKg5QjWc0





「……あ、照英さんじゃないですか。奇遇ですねぇ」





 出て来たのは――――禁断の味に、魅せられてしまった男だった。










 数分程度、時は戻る。


「アシハモウダイタイイイカンジダロ……デモナァ……(足の怪我ももう随分と良くなったな……だが、まだ……)」

 素早く、存在を気取られないように。
 グンマーは、市街地を進む。
 ……1時間ほどの休養を挟んだ後に、グンマーはとりあえず東に向かっていた。
 負傷していた足の具合も、先程までに比べれば十分なほど回復していた。
 だが、それでも万全な状態からは程遠かった。
 現に、現在のグンマーの走行速度は、普段の半分も無い。

「トットトナオレッテノ……ジャネェト、マジデヤレナイダロ……」
(もう少し早く傷が治ってくれれば……でなければ、全力を出せない……)

 依然走り続けながら、グンマーは一人愚痴をこぼす。

「カンガエテミリャア、オレッテイママデダレモタオシテネェシ。イイトコマデイッタコトハアッタケドナ」
(考えてみれば、今まで誰も倒していないな。あと一歩の所まで行った事はあったが)

 そう呟いて、グンマーは今まで遭遇した相手を思い出す。

359 ◆i7XcZU0oTM:2013/12/02(月) 23:27:20 ID:cKg5QjWc0


 ――――最初に遭遇した2人組。
 ――――建物で不意打ちしてきた奴。
 ――――自身をとっ捕まえた集団。


 ……どれもこれも、本気でいけば、倒せたかもしれない相手たち。
 だが、そのチャンスを、ことごとく逃してしまった。

「モウチットマジメニヤレヨ、オレ……(もう少し、真剣にならないと……)」

 こんなことでは、とても村を守る戦士にはなれない。
 むしろ、このままでは守られる側になってもおかしくはない。

「……ヤッテヤル、ヤッテヤルゾォ!」









「あなたは……川越さん。まさか、あなたもここに連れてこられていたなんて……」
「ええ、散々ですよ」

 そう言って、川越さんはいつも浮かべている笑顔のまま、肩を竦める。
 ……目が、全く笑っていないように見えるのは僕の気のせいだろうか?
 恐る恐る、僕は川越さんに尋ねた。

「……お一人ですか?」
「ええ……何度か、人に出会ったのですが、同行はしてませんね。……僕の料理の素晴らしさを、
 理解してくれませんでしたから、する必要もないでしょう」

 心底残念そうに語る川越さん。
 ……どこかで、料理をしていたらしい。
 この状況では、確かに分かって貰えないかもしれない。
 ……嫌が応でも人を疑ってしまうような、ここでは……。

「その人達は、今どこに?」
「知りませんよ」

 ……言葉の後に、興味なんかない、と続いてもおかしくない口ぶり。
 僕の知る川越さんは、こんな人だっただろうか?
 それとも、この状況に長く置かれていたせいで、変わってしまったのだろうか……。

360 ◆i7XcZU0oTM:2013/12/02(月) 23:27:36 ID:cKg5QjWc0

「ねぇ、照英さん……この人、何か変じゃない……?」

 小声で、お姐さんが僕に訊いてくる。
 お姐さんも、僕と同じような事を感じていたようだ。
 ……今の川越さんは、どこかおかしいような気がする。
 コクリと小さく頷いて、お姐さんの意見に同調する。

「ところで、今は何を?」
「あぁ……今は、料理に使う食材を探していたんですよ」
「食材?」
「えぇ……とびきり美味しいものを、ね」

 ……僕は、ここであることに気がついた。
 さっきから、川越さんが僕の体をじろじろと観察している。
 一体、何のためにそんなことを?

「……なら、百貨店に向かえばいいんじゃないですか?」
「いえいえ、僕の求める味は、そんな所じゃあ手に入りませんよ」
「じゃあ、どこで……」

 僕がその言葉を言い終わるか終わらないか、その瞬間。
 ――――川越さんの目の色が、変わった。


「はあッ!」
「うわっ!?」


 シュッ、と風を切る音と共に……僕の着ていた服の胸元が、一文字に切り裂かれた。

「照英さんッ!」
『照英ッ!』

 T-72神とお姐さんの声が、ほぼ同時に聞こえてきた。
 その声など意にも介さない様子で、川越さんは僕に刃物を向ける。
 ……川越さんの握っていたものは、包丁だったようだ。
 こんな、料理人の命を武器に使うなんて!

361 ◆i7XcZU0oTM:2013/12/02(月) 23:27:55 ID:cKg5QjWc0

「……お姐さんは下がって! T-72神、お姐さんを中に入れてあげて下さい!」

 お姐さんは拳銃を持っているけれど、使い慣れないものを無理に使ったら、どうなるか分からない。
 それに……もし、戦うようなことになれば、僕が戦うと決めたんだ。
 だからこそ、とりあえずは安全だと思うT-72神の中に入るように言ったんだ。
 そうすれば、もし僕に何かあっても、お姐さん達は助かる。

(……分かりました)
「でも、照英さんはどうするの!?」
「……とにかく、川越さんをどうにかしないと! さあ、早く!!」

 横目でお姐さんが中に入るのを確認してから、僕は再び川越さんと相対する。
 ……川越さんが、どうしてこんな事をするのかは分からない。
 でも、このまま川越さんを放っておくのは、あまりにも危険すぎる!

「どうして、こんな事を!?」
「……ついさっき言ったばかりじゃないですか。僕は今、"食材"を探してるって」

 食材?それと、襲い掛かってきた事になんの関係があるのだろう。

「それとこれと、何の関係があるんです!」
「何度言わせるんですか? ――――食材探しです。調理するには、まず〆なきゃ駄目ですからね」
「……!! ま、さか」

 この川越さんの一言で、一体何を使用としているのかが、分かってしまった。
 ……まさか、まさか。




 川越さんは、人を、調理しようとしているのか?





「あの素晴らしい味、食感、舌触り……一度味わえば、やみつきですよ。あれ以上に美味しい物、存在しませんよ。
 僕の料理で殺し合いを止めるには、あの味が不可欠なんですよ。ですから……」

362 ◆i7XcZU0oTM:2013/12/02(月) 23:28:06 ID:cKg5QjWc0
「――――何を考えてるんですか、あなたは!!」

 ……気がつけば、僕の口から、怒号が飛び出していた。
 川越さんは……人として、越えてはならないラインを越えている。
 この状況でどうにかなったにしろ、そうじゃないにしろ……赦されることじゃない。
 しかも、川越さんの口ぶりから察するに、既に一度――――。

「……うぷっ……」


 不意に、酸っぱい物がこみあげてくる。
 その不快感に耐え切れず、僕はこみあげて来たものを地面へと吐き出した。


「うえ……っ」
「照英さんも随分と失礼ですね。人の話を聞いておいて吐くなんて……まあ、いいでしょう。それよりも、
 そろそろカタを付けないといけませんね。下準備の必要もありますから……」

 頭がクラクラする。
 川越さんの言っている事が、理解できない。
 ……いや、"理解したくない"と言った方が、正確かもしれない。
 とにかく、今の川越さんは、おかしい。こんな状況でさえ、いつもの笑顔を崩していない。
 だけど、目だけは違った。
 "狂気"と形容するのが正しいくらいに、ギラギラと……輝いている。

「さぁ、大人しくしてください。暴れられても――――困りますからねッ!!」
「くぅッ!!」

 キィン、と鉄同士がぶつかり合う音が辺りに響く。
 ……恐るべき速度で振るわれる包丁を、僕はただ金属バットで防ぐことしかできない。
 そんな僕の様子を嘲笑うかの様に、川越さんは攻撃を続ける。

「どうしたんです照英さん、その程度ですか?」

 じわじわと、僕の体に細かい切り傷が刻まれて行く。
 ……どうして、この期に及んで僕は、川越さんを攻撃できないんだろうか?
 川越さんを、傷つけてしまうのを、恐れているから?
 今現在、命を狙われているのに、どうして僕は……。
 僕は、守らなければならないんだ。
 自分を、お姐さんを、T-72神を……。
 その為に、僕がやらなければならない事は。
 川越さんを――――。

「……うおおぉぉぉぉッ!」

363 ◆i7XcZU0oTM:2013/12/02(月) 23:28:22 ID:cKg5QjWc0

 攻撃が少し緩んだ隙を突いて、僕は。
 手に持った金属バットを……川越さんの腕を目掛けて、思いっきり振った。
 当たった瞬間、まるで、時が止まったかのような感覚がした後に。




 言葉にしたくない感覚が、金属バットを通して、手に伝わってきた。




「――――ッッ!!」

 当たった部分を押さえ、地面をのたうち回る川越さん。
 ……攻撃の当たった右腕は、あらぬ方向に曲がっている。
 おそらく……骨が折れたか、砕けたかしているだろう。

「……今の内に、逃げましょう!!」
(分かりました!)

 とにかく、今は……逃げよう。
 無我夢中でT-72神に乗り込んで、僕達はここから逃げ出した……。









「うぐ、ぐぁ……腕、がぁ……」

 激しい眩暈で、立ち上がることもできない。
 今まで体験した事のない痛みが、川越の痛覚を休み無しに刺激する。
 その度に、気絶しそうになるのをグッと堪え、川越はなんとか意識を繋いでいた。
 ……そうしなければ、何があるか分からない。
 それは、川越も重々承知の上だった。
 だからこそ、立ち上がって安全な場所へ逃げなければならない。
 この状態では、とても"食材"を探しに行ける状況ではない。
 ――――川越が、常人であったなら。

364 ◆i7XcZU0oTM:2013/12/02(月) 23:28:37 ID:cKg5QjWc0

(この程度で……諦めて、なるものか……!)

 普通なら、当の昔に気絶していてもおかしくない。
 だが、川越は……"執念"で、意識を繋ぎ止めていた。
 全ては、自分の料理で殺し合いを止める為に。
 そのために人を殺めようとした、矛盾した意思のために。

「……ヤレヤレ、ノコッタノハイカレタヤツダケカヨ(……やれやれ、残ったのはおかしな奴だけか)」

 気がつけば、大柄の男――――グンマーが、川越の傍に来ていた。
 ついていない、と言った表情で、川越を見下ろしている。
 今の今まで乱入するタイミングを伺っていたのだが、丁度行動しようとした時に……。
 ……照英が、逃げ出したのだ。

「……今度は、ずいぶんと筋肉質ですねぇ……」
「ソノウエ、シニゾコナイトキテヤガル……マア、ラクショーダナ。ラッキー」
(その上、手負いと来ている……まあ、幸運と言う事にしておこう)

 川越へ、ゆっくりと銃口が向けられる。
 そんな状況でも、川越は動揺しない。
 むしろ、先程と同じ"目"に……。

「……ッ!!」
「ナッ……!」


 一瞬の出来事だった。
 突然起き上がった川越は、迷う事なく……。
 ――――グンマーの指に、齧りついた。
 眼をギラギラと輝かせながら、グンマーの指を――――。

365 ◆i7XcZU0oTM:2013/12/02(月) 23:28:51 ID:cKg5QjWc0





「ア゙アァァッ!?(ぐあァァッ!?)」
「少々硬いですが、まあ、下ごしらえすればなんとかなるでしょう」





 ……ぐちゃ、ぐちゃ、ぐちゃ。
 わざと、咀嚼音を立てながら、川越はグンマーの指を咀嚼する。


「……だが、他の肉には無い旨味がある! これはぜひとも――――」
「シニ、ヤガレェェェェェェェッ!!」

366 ◆i7XcZU0oTM:2013/12/02(月) 23:29:08 ID:cKg5QjWc0















 川越の台詞は、銃声によって遮られた。












【川越達也@ニュー速VIP 死亡】










367 ◆i7XcZU0oTM:2013/12/02(月) 23:29:27 ID:cKg5QjWc0





(今、銃声がしました)
「……どっちからしましたか?」
(先程まで、私達がいた方向です)

 そうですか、とそっけない返事を返して、またうつむく照英。

「照英さん……」
「……僕は……」

 あの状況ではやむを得なかった。
 自分を、同行者を守るためにはしかたなかった。
 例えそうだったとしても、照英が川越を負傷させたのは事実……。



(僕のやっていることは……正しいのだろうか……)



 襲われたから、応戦した。当然のことだ。
 だが、それでも。
 人を直接傷つけると言う事は、想像以上に恐ろしい事だ。
 ましてや、今までそんな経験のなかった人間が急に経験すれば、ショックも大きい。

(……分からない……何も)




 心にかかる影は、さらに濃くなっていく。




【D-3/1日目・午前】
【801の姐さん@801】
[状態]:健康、深い悲しみ
[装備]:グロック17(16/17)
[道具]:基本支給品×2、PDA(忍法帖【Lv=00】)、ドクオのPDA(参加者位置探知機能搭載)、出刃包丁@現実
     アイスピック@現実、うまい棒@現実、不明支給品×2(801の姐さん視点で役に立ちそうに無い物)
[思考・状況]
基本:生き残って同人誌を描く
1:……
2:照英さん……この気持ちは一体なんだろう? まさか恋?

【照英@ニュー速VIP】
[状態]:健康、使命感、悲しみ、上半身に複数の切り傷
[装備]:金属バット@現実
[道具]:基本支給品×2、PDA(忍法帖【Lv=00】)、首輪×2、麻雀牌@現実、出刃包丁@現実
     冷蔵庫とスク水@ニュー速VIP、サーフボード@寺生まれのTさん、不明支給品0〜1
[思考・状況]
基本:殺し合う気は無い。皆で生きて帰る
1:自分のやっている事は、正しいのだろうか……
2:801の姐さんとT-72神を仲直りさせないと……
3:いざ闘うとなると、やっていける自信がない……けど、やるしかない

【T-72神@軍事】
[状態]:装甲の一部にヘコミ、燃料消費(残り約85%)、カリスマ全開、悲しみ
[装備]:125ミリ2A46M滑空砲(0/45)、12.7ミリNSVT重機関銃(0/50)
[道具]:基本支給品、PDA(忍法帖【Lv=00】)、煙幕弾@現実×3、親のダイヤの結婚指輪のネックレス@ネトゲ実況
[思考・状況]
基本:人民の敵たるひろゆきを粛清し、殺し合いを粉砕する
1:手に入れた首輪を解析しましょう
2:私は、保護対象を守れなかった……
3:弾が欲しい……
※制限により、主砲の威力と装甲の防御力が通常のT-72と同レベルにまで下がっています。
※制限により、砲弾及び銃弾は没収されました。

※ドクオのデイパックは801の姐さんが、麦茶ばあちゃんのデイパックは照英がそれぞれ回収しました
※スーパーの鮮魚コーナー作業所から出刃包丁を2本回収しました 801の姐さんと照英が1本ずつ持っています
※801の姐さんの恋心は現時点では一方的なものです

368 ◆i7XcZU0oTM:2013/12/02(月) 23:29:40 ID:cKg5QjWc0









「ハァ、ハァ……クソッタレガ(はぁ、はぁ……何てことだ)」

 血の滴る手を押さえ、苦悶の表情を浮かべるグンマー。
 ……噛み千切られた部分は、衣服の一部を裂いて応急処置がなされている。
 だが、それでも出血はジワジワと続いている。

「アンニャロー、ヨケイナコトシヤガッテ……(あの男、余計な事をしてくれた……)」

 肩で息をしながら、グンマーは近くの壁に寄り掛かる。
 ……例えグンマーと言えど、痛みは感じるのだ。

「アシガヨクナッタカトオモエバ、コンドハ、テカヨォ……カンベンシテクレヨ……」
(足が回復したかと思いきや、今度は手、か……これ以上は勘弁してほしいな……)

 フラフラと、グンマーはまた歩き出す。
 ……左手の傷の、まともな手当てが出来る場所を求めて。



【D-3/一日目・午前】
【グンマー@まちBBS】
[状態]:健康、首筋に血を吸われた痕、足負傷(中程度・回復中)、左手指欠損(応急処置済み)
[装備]:熱光学迷彩服(所々破れている)@攻殻機動隊、サイガ12(7/8)@現実
[道具]:基本支給品、PDA(忍法帖【Lv=01】)、洗顔クリーム、予備マガジン
[思考・状況]
基本:優勝して、村を守る戦士になる
1:指のまともな治療が出来る場所を探す
2:頃合いを見て、戦場に赴く
※チハが喋ることを半信半疑に思っています
※やる夫を自分と同様に成人の儀を受けているグンマー出身者だと思っています

369 ◆i7XcZU0oTM:2013/12/02(月) 23:30:14 ID:cKg5QjWc0
仮投下終了です
指摘すべき点やおかしな点があれば指摘お願いいたします

370ちょww和田がNANASHIに!?ww:2013/12/03(火) 00:09:00 ID:jZrNmRIo0
仮投下お疲れ様です!
今回はちょっと指摘点なんですけども

>「……ヤッテヤル、ヤッテヤルゾォ!」
この部分にも翻訳文があったほうがいいと思います。
あと、照英の嘔吐する部分ですが、吐くにしては要因がちょっと弱いかなぁと。
その他は特に問題無いと思います。

371 ◆i7XcZU0oTM:2013/12/05(木) 23:13:25 ID:GLSMoPTs0
指摘点を修正して、本スレに投下いたしました。
指摘ありがとうございました。

372ちょww和田がNANASHIに!?ww:2014/10/07(火) 23:33:35 ID:fZ/JrTGM0
はじめまして。
髪の子ファヌソ、ブロンドさんを投下します。
タイトルは「大神と3匹の子羊」です。

373◇fZ/JrTGM0.:2014/10/07(火) 23:34:29 ID:fZ/JrTGM0
「これはまずいことになりましね…」
深刻な表情を浮かべそう言うファヌソは焦っていた。
さきほどの青年が、お医者さんカバンを使用してくれたおかげで一命は取り留めた。
しかしファヌソは自身の体の異変を感じていた。
神通力で自身をスキャンして細部まで確認した結果、ファヌソは詳細を理解した。
外傷は癒えたが全身から神通力そのものが失われていっている。
急激にではないが、常温に置かれた氷の塊がじわじわと溶け出すように、少しずつ神通力は失われていった。
おそらく竹安の装備が大きく破損するか消滅するような事態が起きたのではないかとファヌソが推理する。
それが原因で神通力そのものの根底の部分に致命的な損傷を受けた。
そして、このまま放置すれば自分は消滅する。
神族である彼にとって、神通力の源泉は魂そのものであり、それが傷付くことは生命に関わる緊急事態だった。
この状況を打開する方法が一つだけあった。
神通力ではなく、肉と血の力で生命を維持する存在になる。
つまり神格を捨てて生身の人間になることだった。

ファヌソは手強いローグ型ダンジョンRPGをプレイしているときのように頭をフル回転させて考えを巡らせていた。あまり時間はない。
今のうちに何かできることはないのだろうかと。
どうせ消えてしまう神通力だ。これを使って今後の展開を有利にするには…
「名案が浮かびました!同僚の神々の力を借りればよいではありませんか!」
そもそも自分が力を思うように使えないのは、この忌々しい首輪のせいだ。
ならば外部に助けを求めて彼らの力を借りれば良いだけの話だった。
本来であれば相手の都合などお構いなしに強制召喚して参戦させてやりたいのだが、神を召喚するには神通力がまったくと言って良いほど足りない。
そこで手紙を送ることにした。向こうからこちらに来る分には自分の神通力が不足していてもまったく問題はなかった。
神通力を使えば手紙の10通や20通、次元の壁を超えてでも発送可能だった。
さっそく手紙を送る。
返事はすぐに帰ってきた。
他の神々曰く。

元祖神「新作ゲームプレイ中。だめだめ( `・ω・´)ノシ」

紙様「事務用品A4普通紙の生産が急ピッチ。行けそうにない。ごめん」

武田徹夜神「101回目のプロポーズ リメイク版の主演俳優になった。忙しいから無理」

をーでぃん「斬鉄剣とグングニル修理中。また今度」

「…はぁ」
ファヌソはため息をつきながら返信されてきた誠意のかけらもない手紙をまとめてビリビリと破り捨てた。
「自宅のゲーム機が全部煙を吐きながら爆発してしまいなさい」
憎しみを込めてファヌソが他の神々を呪った。

374◇fZ/JrTGM0.:2014/10/07(火) 23:35:43 ID:fZ/JrTGM0
他に頼れる者がいないか、ファヌソが思案する。
「仕方ない子羊で我慢しますか」
ファヌソは神通力で召喚の印を結び、魔法陣を空中に描く。
すると空間に亀裂が入りそこから子羊たちが1匹、2匹、3匹と召喚される。
眠いときに眺めて数えたりしたら、そのまま眠ってしまいそうな光景だった。
「ん?ここはどこ?さっきまで自宅でテレビゲームをしていたのに」
「僕、徹夜でレベル上げしてて、ちょうど寝てたのに…誰こんな朝早くから?」
「来ましたね、子羊たちよ」
ファヌソが声をかけると、彼の存在に気が付いた3匹の子羊たちがファヌソに挨拶をする。
「あ、髪様!お疲れ様です!」
「あの〜僕たち今日は何で羊の姿なのでしょうか〜?」
「神通力節約のためです」
「はあ」
ファヌソが神通力をケチって負荷の少ない方法で子羊を召喚したため、彼らは本当に雲のような羊毛に覆われた羊の姿だった。
だが人間だった頃の名残りが、全員二足歩行をしている。
彼らはファヌソが在中しているスレで、懺悔する側の子羊たちだった。
子羊たちが懺悔し神々が裁くというのが、懺悔するスレの基本的な流れだ。
「では早速懺悔しますね。ええと海外の暴力ゲームで…」
「いえ、今日は懺悔と裁きはお休みです。実は、今私は面倒なことに巻き込まれていましてね。そこで貴方たちの助力を得るために貴方たちを召喚したわけです」
「面倒なことって何ですか?」
「実はかくかくしかじかの事情で…」
ファヌソはかいつまんで、殺し合いに巻き込まれてしまい戦力増強のため子羊たちを召喚したことを彼らに簡単に説明した。
「そんなことになっていたのですか。ひろゆきって野郎、許せませんね」
「ひろゆきに髪様の裁きを下しましょう」
「それがいいと思います。殺っちゃいましょう、髪様」
「話が早くて助かります。私もそうしようと考えていたのですよ」
そしてファヌソは召喚した子羊に命令を行う。
「では、ひろゆきを地獄へ落とすために私に貴方たちの力を貸しなさい。いいですね?」
ファヌソがそう言うと、子羊たちは足をそろえビシッ!と敬礼し次々に返事を返す。
「わかりました!僕たち全身全霊、粉骨砕身の覚悟で髪様を支援いたします!」
「僕たち、いつも髪様にお世話になっている身です。今度は僕たちが髪様をお助けしてみせます!」
「僕たちを髪様の目標達成のための尖兵として使役してください!」
実はファヌソは見た目弱そうな彼らを見て内心あまり当てにはできないだろうと感じていたが、なけなしの神通力を消耗してまで召喚した子羊をタダで返すのも惜しいという思惑と、それにこれから危険な戦いが待っている、多少弱くても仲間は不可欠だと考えた。
言葉には出さないが、そういった打算もあった。
「よしよし、良い心がけです。頼りにしていますよ」
「「「はっ!おまかせください!」」」
3匹の子羊の声がはもる。
いつも面倒を見てあげた子羊たちが、ファヌソの援助要請を快く受け入れる。
まさに子羊の恩返しだ。
私の人望(神望?)をもってすればこんなものである、私の人徳(神徳?)による彼らとの絆はとても深いのだとファヌソは内心自己陶酔していた。

375◇fZ/JrTGM0.:2014/10/07(火) 23:36:09 ID:fZ/JrTGM0
「さて、とりあえず仲間の頭数はそろいましたか…次に準備するのは…」
ファヌソの計画は神通力を失う前に、可能なかぎり次の戦いの準備をすることだった。
ゲーマーとしての経験がファヌソに告げる。今のうちに仲間、装備、消耗品をなるべく充実させておくべきだと。
どうせあと数十分で失ってしまう神通力だ。今ここで惜しまずにガンガン使ってしまうべきだと。
「武器や防具に始まり、薬草、毒消し草、聖水、あとMP回復アイテムと状態異常回復アイテムも…」
綿密な計画を立てるファヌソに対し子羊たちは呑気に雑談を始める。
「そうは言ったものの、僕たちって何をすればいいんだろう?」
「何もしなくても大丈夫なんじゃね?髪様の後ろに黙ってついて行くだけで良いよね?」
「そうそう、だって髪様がジゴスパークやアルテマ、メテオ連打して、無双すれば全部問題解決じゃん」
「もしくは核ミサイルを1ダースくらい召喚して黒幕ごと消し炭にして一掃っていうのもありだよね?」
「じゃあ次の回で最終回だよね?僕たちすぐお家に帰れるよね?」
小声のヒソヒソ話ではあったが、神の聴力を持つファヌソには丸聞こえだった。
普通の人間には聞き取れないような小さな音でも聞き逃すことはない。
「ああ、そうそう。いま私はそういった大掛かりな力は使うことができないので、期待しないでくださいね」
「え?どういうことですか?」
理不尽な殺し合いに巻き込まれたことは話したが、自分の能力の事を話し忘れたファヌソは子羊に大まかに説明することにする。
「この首輪のせいで不本意ながらフルパワーで力を使えません。しかも神通力の使い方を間違えて、神格を捨てて、さらに力をセーブする必要があるのです。これから先は強さ的には普通の人間と大して変わらなくなってしまいます。まったく参りましたよ」
「じゃあ、髪様って相当弱体化しているのですか?」
「残念ですがそうなりますね。ですから生き残るには貴方たちの力を借りなければなりません。頼みますよ」
その言葉を聞いた子羊達は互いにアイコンタクトを交わして、最後にコクリと頷くとファヌソに向かってニコリとほほ笑んで言葉を放つ。
「ざ…」
「ザ?」
”ザ”から始まる言葉でゲーム脳のファヌソの頭に真っ先に浮かんだのはジオン軍の最下級モビルスーツだったりしていた。
だが子羊らから帰った答えは
「「「ざまあああああああっ!」」」
「!」
ざまあみろと言う意味の言葉である。
もちろん誠意もクソもあったものではない。

376◇fZ/JrTGM0.:2014/10/07(火) 23:36:48 ID:fZ/JrTGM0
「日頃の行いが悪いから、こんな目に合っているんだ!自業自得だ!ざまあ見ろ!」
「なんで僕たちが命がけで、こんなヤバいゲームに付き合わなくちゃいけないんだ!冗談じゃない!」
「お前がどうなろうが僕たちには一切関係ないね!死ぬならお前一人で死ね!」
次々と口から暴言を吐きまくる子羊たち。
さっきまであんなに忠実だったのに何故こんなことに?
ファヌソは子羊たちのパラメータを確認してみる。
もしかしたら原因がわかるかもしれない。
何らかのステータス異常ってことも考えられる。
さっそく神通力を行使し子羊たちをスキャンする。
RPGや地域制圧型シミュレーションで敵味方を問わずキャラの能力を確認するのはゲーマーの基本行動の一つだ。
すると…

HP 9
MP 1
物理攻撃力 2
魔法攻撃力 1

(−中略−)

物理防御力 3
魔法防御力 3
忠誠度 0
状態異常 なし

「…」
ファヌソはステータスのある1点を凝視する。
子羊達が突然手のひらを返した理由が、そこにすべて書かれている。

忠誠度 0

「忠誠度0って…」
多少の事では動じないファヌソであったが流石にこれには言葉が出ず、目が点にった状態で、呆けたように、ただ茫然と立ち尽くす。
私と子羊たちの絆だの、なんだのと言っていた自分が滑稽な道化のようだった。
「いつもいつも僕たちに遠まわしに死ねと言ったり無理難題を押し付けやがって!こっちこそ許さないぞ!」
「僕たちが自分でお金を出して買ったゲームソフトだぞ!そのゲーム内で僕たちが、どんな酷い事をしたって何も問題は無いだろう!」
「そうだ!そうだ!エロゲーは地雷が多いんだぞ!金返せ、馬鹿野郎!」
中にはファヌソに責任が無いような事まで因縁をつけ、さらに子羊たちは追い打ちをかけるように暴言を吐きまくる。
「小さなメダルを集めるために、土足で民家に上がり込んで住人の目の前でタンスを勝手に開けようが、壺を壊そうが文句は言わせない!何が悪いんだ!」
「盗んだ車で歩行者達を次々と轢き殺して死体から財布を奪おうが、鉄砲で武装して銀行強盗しようが怒られるいわれは無い!」
「小さい女の子を拉致監禁してレイプしようが調教しようが何をしようが僕たちの自由だ!やらせろ!」
ギャアギャア騒ぎながら子羊たちは、氷属性の剣を殺して奪ったこと、女性キャラにリョナを強要したこと、視点操作を悪用し女の子のスカートの中を覗いたこと、などなどベラベラと犯した悪事を自慢するように話し始める。
当然その姿からは反省している様子などはまったく見られない。
そして一しきり言いたいことを言い尽くした子羊たちは、ファヌソに背中をむけて反対方向に歩きはじめる。
「んじゃ僕たちテレビゲームの続きやるから帰るわ。僕たち参加者じゃないから、好きにここから退場できるしね」
「せいぜい殺し合い賛成派の危険人物にチェーンソーとかでバラバラにされないように気をつけることだな」
「じゃあな〜死んだら骨は拾ってやるからな。あばよ〜」
歩きながら首だけ後ろを向けて小馬鹿にしたように手を振りながらファヌソに別れの挨拶を告げる。

377◇fZ/JrTGM0.:2014/10/07(火) 23:37:56 ID:fZ/JrTGM0
そんな彼らを黙って見送るファヌソではない。
表情は穏やかだが、殺意を込めてファヌソは右手に神通力を集めていく。
「地獄へ落ちなさい」
「うわーーーーっ!」
突然1匹の子羊の足元に直径2mほどの底が見えないほど深い穴が発生し、その場所に立っていた子羊は叫び声を上げながら奈落の底へと落ちていく。
「え?」
「うそ!」
仲間の一人が穴の中へ消えて行く様を見せられて子羊たちはびっくりして飛び上がる。
「あ…あの〜髪様って神通力を失ったのでは…」
先ほどまでの威勢の良さが消え、オドオドと尋ねる。
「ええ、この首輪のせいで神通力の大半が封じられています。大規模な力は行使できませんが、それでも1人でドラゴンやキメラを軽く捻るくらいの強さは十分ありますよ」
「で、でも人間と大した変わらなくなるって…」
「ああ、それはこれからなる、と言ったのです。でも今はまだ神通力はたっぷり残っていますよ。そう、貴方たち全員を地獄へ送るくらいはね」
子羊は汗だくになりながら土下座して謝りはじめる。
「ごめんなさい!許してください!さっきのは嘘です!髪様に忠誠を誓います!」
「いいえ、許しません」
ファヌソは冷たく言い放つ。
すると子羊の1匹が自分の能力について説明をはじめる。
「僕は僧侶で回復魔法が得意なんです!きっと髪様のお役に立てます!許してください!」
「ほう、本当に回復魔法が使えるのですか?」
「はい!」
ファヌソは半信半疑だったが、もし本当に回復魔法の使い手だというのならば、手放すのは惜しい。
今後の戦闘で大いに役立つだろうと考え、子羊の魔法を確認することにする。
「論より証拠です。回復魔法を使ってみなさい」
「は、はい!」
子羊は小さなチューブを取り出した。
「これはどんな傷にも効果がある、魔法の薬なのです!」
しかし、よく見ると、ただのオロナイン軟膏だった。
「それで?」
「それだけです」
ファヌソは、もう呆れて自称僧侶との交渉を強引に打ち切った。
「そんな物ここでは何の役に立ちません。地獄へ落ちなさい」
「うわーーーーっ!」
2匹目の子羊も、大きな穴に落ち、地獄へ消えていった。
銃火器や刃物を使用して、殺し合いをしているのに、オロナインって…しかも使いかけときている。
これはもう最後の子羊も、とっとと地獄へ落として武具やアイテムの準備にとりかかった方が、よほど有意義だとファヌソは判断した。
「では、貴方も地獄へ…」
「ま、待ってください!実は僕魔法使いで、攻撃魔法が使えるんです!」
ファヌソの言葉を遮り、懸命に助かる方法を模索する子羊。
「やれやれ、またですか…」
「実は僕、30歳まで童貞でした!だから魔法使いになれているはずなんです!」
「え?そうなのですか?」
そんなことで魔法が使えるなら苦労はしないのでは…?と疑問を持った。どう考えてもおかしい。
「いやいや。それってネラーどもが、おふざけで言っているだけなのでは…?」
「そんなことありません!僕ベギラマやファイラ並のそこそこ役に立つ魔法が使えます!」
「ふむ、火属性魔法ですか。では、実際に魔法を使うところを見せてください」
たぶん僧侶の子羊のときと同じ結果になる予感がしつつもファヌソは一応子羊にチャンスを与えた。
「はい!わかりました!」
子羊は懐から透明な液体の入った瓶を取り出し、入口に布きれを詰めていく。
火炎瓶だった。
−やっぱりですか。もういいです。だいたいわかりました。
「貴方のやろうとしていることは、放火魔と一緒です。地獄へ落ちなさい」
「うわーーーーっ!」
健闘虚しく3匹目の子羊も地獄へ落ち、子羊たちは全滅した。
そして騒々しい連中が一掃されたため、あたりに静寂が戻る。

378◇fZ/JrTGM0.:2014/10/07(火) 23:38:36 ID:fZ/JrTGM0
「やれやれ、子羊どものせいで余計な力を使う羽目になりました」
そして穴の近くに落ちている自称魔法使いたちの秘密道具に目をやる。
「ふう、オロナインに火炎瓶ね…」
呆れつつも、一応子羊が残していったアイテムは回収しておいた。
何かの役に立つこともあるかもしれない。
そして、ファヌソは計画通り神通力を惜しまず使い、武具やアイテムの作成に乗り出す。
まずファヌソは武器の作成を優先した。
攻撃は最大の防御である。
これからの戦い、しっかりとした武器がないと始まらない。
ファヌソが作成した武器は裁きの杖というアイテムだった。
実はこの裁きの杖は、鈍器としての性能は低いが、道具として使用することで小さな真空攻撃ができるメリットがあった。しかも武器本体が破壊されない限り何度でも使用できる。
呪文の詠唱を必要とせず、近距離、中距離両方で活躍できる万能性をファヌソは評価した。
−それに武器名も私にぴったりではありませんか。
もっと殺傷能力が高いロケットランチャーのような武器も考えたが銃火器は弾薬がなくなると戦力が0になるのであえて使用回数に制限がない武器をチョイスした。
本当は上位の天罰の杖が欲しかったが神通力不足で、作れそうになかった。まあ仕方がない。
「やれやれ、子羊召喚なんて後回しにして、先にもっと強力な武器を作成すればよかったですよ。まったく子羊どもめ」
子羊に頼ろうとした自分が馬鹿だったと毒づきながら、次に防御力の強化をすることにした。法衣に永久持続する補助魔法をかける。ほんの少しだが法衣の強度が増した。
そしてファヌソは残りの神通力を行使し、役に立つであろう消耗アイテムを適当に作成する。
道具袋の中にはファヌソがゲーマーの知識で今後色々な局面で役立つであろうと考えるアイテムが、詰めこまれていった。
そして、アイテムをいくつか作るうちにファヌソの神格は完全に消滅したのであった。

379◇fZ/JrTGM0.:2014/10/07(火) 23:39:24 ID:fZ/JrTGM0
人として生まれ変わったファヌソはまず作成した杖の性能を確かめることにする。
自分が所有している道具や武具がどの程度の性能を有しているかを知ることの大切さをゲーマーのファヌソは理解していた。
未知のアイテムが使えるか否か事前に入念にチェックする。
彼を知り己を知れば百戦殆からずと言うが、まさにそれだ。
裁きの杖を少し離れた位置にある樹木に向かって振りかざす。
すると小さな風の刃が発生し、それらは杖を離れビュンと唸りながら太い幹を浅く傷つけ、細い枝をいくつか地面に落とす。
けっして強力ではないものの神通力をまったく行使しなくても、杖に込められた力だけで、まずまずの結果が出せたことに満足するファヌソ。
「よし、ここからが本当の戦いです」
杖を握りしめ、決意を新たにする。
そして口では参ったと言いながらも、ファヌソは口元に笑みを浮かべていた。
今までは、神通力が制限されていたとはいえ、ファヌソの能力は他の参加者に比べてかなり高く、向かうところ敵無しの状態だったが、弱体化したことによって、もう生身でA-10神のような強敵を倒すことはできなくなった。
しかし、これで本当に歯ごたえのあるゲーム難易度になった事でファヌソは心のどこかで高揚している自分がいることに気が付いた。
「我ながら救いようがないオタゲーマーってことですか…フフッ」
こんな状況下にありながら、ファヌソは根っからのゲーマーだった。
「まずは仲間を増やす必要がありますね。今度はまともな人材希望です」
いきなり裏切った子羊たちが欠員となったことで、それは最も優先する課題だった。

【B3/1日目・午前】
【髪の子ファヌソ@ゲームサロン】
[状態]:健康(体調は完全回復しましたが神格を失いました)
[装備]:裁きの杖@ドラゴンクエスト9
[道具]:基本支給品一式、PDA(忍法帖【Lv=01】)、お医者さんカバン(3/5)@ドラえもん、ヘリコプター@現実
    12.7mm弾×25、25mm弾×5、オロナイン(使いかけ)×1、火炎瓶×1、道具袋(中にファヌソが用意したアイテムがいくつか入っています)
[思考・状況]
基本:気まぐれに行動する
1:神としての高い能力は失ったがゲーム関連の知識をフル活用し生存してみせる
2:ひろゆきをゆくゆくは地獄に落とす
3:手に入れた弾薬は、相応しい参加者に与える
4:『裏ワザ』(死体やヘリをデイパックに収納できること)を誰かにひけらかしたい
5:青年(内藤ホライゾン)にはちょっと感謝
6:仲間を見つけなくては
7:くそ……子羊どもめ

※神格を失い神通力が激減しました。ホイミやメラ程度の軽い力を数回だけは使える模様。そのほかどれくらいの力が残っているかは次以降の書き手の方にお任せします。
※ファヌソが立ち寄った小さな公園の中に、弾薬箱とわさび@オラサイトが放置されています。
 ファヌソが入手した物以外にも弾薬はあるようですが、種類と量は不明です。
※デイパックに参加者の亡骸を入れて持ち運べることを知りました。生者にそれが適応するかは次の書き手の方にお任せします
※なんだかんだ言っても子羊らと仲が良い。

※B3エリアの道路のど真ん中に直径2mほどの底が見えないほど深い穴が3つ空きました。落ちたら即死します。道具や死体を投げ入れた場合、回収不可になります。

380◇fZ/JrTGM0.:2014/10/07(火) 23:39:58 ID:fZ/JrTGM0
ブロンドさんは近鉄百貨店から、南西に向かって歩いていた。
拡声器での呼びかけが無駄に終わったので、別の場所で仲間を募る計画だった。
「なぜ誰からもテルがこない…これもきたないひろゆきの陰謀なのか?俺がさらに強くなることを、あごをガクガク言わせながら恐れているに違いない!」
幸か不幸か、ここまで誰とも会わないことに苛立ちを覚える。過疎が進んでいるネトゲでも、ここまで人がいないことなどなかった。
メンテナンス中に自分だけログインしてしまったのか?そんな錯覚さえ覚える。
「もうこの際だから忍者でも…いやダメだな、俺の誇り高きナイトのハートがそれだけはやめろと叫んでいる!」
こんな状況下であっても毛嫌いしている忍者など、絶対に仲間にはしたくなかった。
「ん?あれは?」
交差点をまがった100mほど先に人影を見つける。
少し遠いが何をしているのかもはっきり見てとることができる。
おれ視力検査で2.0とか普通に出すし。
白い法衣を纏った男が手にしている少し変わった形の杖を少し離れた位置にある樹木に向かって振りかざす。
すると小さな風の刃が発生し、それらは杖を離れビュンと唸りながら太い幹を浅く傷つけ、細い枝をいくつか地面に落とす。
ブロンドさんが見つけた男はファヌソだった。
ネットゲーマーのブロンドさんにとって、男が何らかの魔法のようなものを行使したことをすぐに見切る。
「きた!後衛っぽいキャラきた!これでひろゆきに勝つる!」
能力的にも自分の補助要員として申し分なし。そして杖装備法衣装備で、いかにも後衛が得意ですと言わんばかりのいでたち!
できれば後衛ジョブの黒魔や白魔は可愛い女の子の方が良かった。
そうすれば超カッコ良く前衛的に皆を守るナイトの俺は、ほぼ間違いなく100%モテモテだ。
だが、もうこの際贅沢を言ってはいられない。
ブロンドさんは相手が危険人物か否かの確認などもせず、問答無用で白い法衣の男にカカッと猛ダッシュをかけ、脳内で男にマウスカーソルを合わせてオンラインゲーマー的操作を行う。


  情報を見る
  ささやく
  トレードを申し込む 
→ パーティ申請をする
  フレンド申請をする
  ギルドに招待する
  メールを送信する
  遮断リストに加える
  不正行為を運営に通報する


立て続けに白チャットで大声でどなる。
「おい!そこのお前!格違いに強くて謙虚な俺の仲間に加えてやる!嬉しさのあまり沸騰してしまうくらい猛烈に感謝しろ!」
謙虚な人間は自分を強いなどと言わないし、しかも日本語がおかしいし、パーティ申請のマナーもクソもあったものではない。
なぜか道にできている大きな穴3つを軽やかなステッポで回避し、男の下へときょうきょ駆けつける。
「!」
突然背後から大声で意味不明なことを言いながらマッハな全力疾走で接近してくるブロンドさんを見て驚いたファヌソは、慌てて裁きの杖を構え先端をブロンドさんに向ける。
ステージやダンジョンなど危険な場所で猛スピードで自分に接近して来る物体は基本敵というゲーマーの習性からか体が勝手に動いた。


【B3/1日目・午前】
【ブロントさん@ネトゲ実況】
[状態]:健康、魔力消費(小)
[装備]:そんな装備@エルシャダイ
[道具]:基本支給品一式、PDA(忍法帖【Lv=00】)、拡声器@現実、手裏剣@AA(20/20)、肉まん×3、あんまん×3
[思考・状況]
基本:殺し合いを止め、ひろゆきを倒す
1:白い法衣の男を仲間に加えて、さらにあと4人募集する。リーダーは俺(後衛優先)
2:さきほどの募集に対するテルを待つ
3:汚いなひろゆきさすがきたない

※B-4の周囲のエリアにメンバー募集が掛かりました。
※パーティ上限が6人と限られていない事に気付いていません。
※近鉄百貨店内にいる他の参加者には気付いてません。
※まず、Lvが存在しない事に気付いていません。
※Tellが存在しない事にも気付いていません。
※軽率な行動のせいでブロンドさんを危険人物だと誤解したファヌソに攻撃されるかもしれません。

381◇fZ/JrTGM0.:2014/10/07(火) 23:40:22 ID:fZ/JrTGM0
場所は変わって、ここは地獄の1丁目。
夕焼けよりも、さらに赤みがかった色の空の下、子羊たちは貸し切り状態の温泉に浸かりながら疲れを癒している最中だった。
暇さえ見つけては、ゲームをしたりゲームをしたりゲームをしている彼らは、いつも疲労との戦いだった。
ゲーマーと言う名の戦士にも休息は必要だ。
神々の裁きにより何度も地獄に来ている…もとい落とされている子羊たちは、地獄の観光組合にとっては大のお得意様だった。
現金の持ち合わせが無くてもツケがきく。もう顔パスだ。
さきほども、すれ違った赤鬼や青鬼に挨拶をされた。
「ありゃ〜、あんたたち、また来たオニか〜。まあゆっくりしていくオニ」
と、こんな感じだ。

「ちくしょうめ!ひどい目にあったぞ!」
「ファヌソめ!許さないぞ!」
「すぐに蘇って仕返ししてやる!奴が弱体化している今がチャンスだ!」

湯けむりが立ち込める地獄谷温泉の上空に向かって子羊たちが吠えた。


【子羊@ゲームサロン-ゲーム内でした悪行を懺悔するスレ】
[状態]:ゲスト、健康
[思考・状況]
基本:生き返ってファヌソに仕返ししてやる!

※アイテム扱いです。倒しても忍法帳のレベルは上がりません
※ファヌソの神通力不足で本当に羊の姿で召喚された
※攻撃力は乏しく、参加者にとってはさほど脅威にならない程度
※反面、何度神々に裁かれ地獄へ落とされても、すぐに復活できるほどしぶとい。何度でも湧いてくる
※普段は真面目だが、ゲーム内では極悪人でも目を覆いたくなるような悪行三昧を繰り返している

子羊1:自称戦士。勝手に民家に上がり込んでタンスを勝手に開けたり、壺を壊すなど基本に忠実なゲーマー
子羊2:自称僧侶。聖職者のくせに暴力系残虐ゲームを好む。破戒僧。
子羊3:自称魔法使い。エロゲーを好む子羊。本人曰く30歳まで童貞だったため魔法使いになったとの事。8歳の頃から親に隠れてエロゲーをやっていた大物。

子羊が再登場するかどうかは、次以降の書き手の方にお任せします。


以上で投下終了です。

382◇fZ/JrTGM0.:2014/10/08(水) 20:57:07 ID:SAEj439c0
加筆修正して、2、3日後に投稿します。
もし、文章構成など、ご指導いただけるのでしたら、ご意見をお願いします。


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板