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男「お願いだ、信じてくれ」白蓮「あらあら」
249
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2017/02/18(土) 07:27:18 ID:7m1iADqc
待ってるぞ
そういえばこの展開になって最初は四季映姫がヒロイン感ありまくりだったのに、いつのまにか全く出なくなったね
250
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2017/02/20(月) 22:29:08 ID:AjS/F5/E
某ゲーム風に例えるとしたら
真の平和主義者ENDを目指しているってとこかな?
251
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2017/03/19(日) 15:06:49 ID:XldCc.mk
乙です!
252
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2017/03/24(金) 23:40:49 ID:QyxJsnSU
楽しみ
253
:
<削除>
:<削除>
<削除>
254
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2017/03/28(火) 23:53:32 ID:LXhIelKg
ksk
255
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2017/04/07(金) 12:23:09 ID:wZJmGfmo
さっさと更新してくれないかな・・・
skypeで連絡しようにも一週間返信ないし・・・
俺に才能さえあれば、乗っ取ってやるんだけど・・・
256
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2017/04/09(日) 20:06:04 ID:YDMRdf1o
乙です!
257
:
ぬえ
◆ufIVXIVlPg
:2017/04/16(日) 22:10:24 ID:obr4KIvs
すいません、病院逆戻りになってました
258
:
ぬえ
◆ufIVXIVlPg
:2017/04/16(日) 22:28:41 ID:obr4KIvs
ナズ「さてさて、ずいぶん人………人なんて君しかいないけどここも手狭になったもんだ」
子供たちと戯れる妖精を身ながらナズーリンが大きくため息をはいた。
手狭も手狭。敷地はある程度あるとはいえ所詮寺。その中に百をも超える数がいれば窮屈に感じるのも当然だ。
男「さて、問題はここからなんだが」
膝の上にのった犬耳娘の頭を撫でながら考える。
犬耳娘「ちょ、ちょっと男お兄さん?」
これだけの人数を移動させるのは難しい。これだけの数が移動したならば確実的に目立つ。妖怪にも人間にも。そのどちらに見つかっても良い結果にはならないはずだ。
ならある程度分けて地底と往復させる?
犬耳娘「くすぐったいよぅ」
間に合うのか? 聖さんたちが亡くなるタイムリミットまでに。
どっちをとってもリスクはある。両者平等に重いリスクがある。どちらが軽いかは運命を見れない俺には分からない。
運命………そういえば霊夢は今頃レミリアのところにいるのだろう。ふざけた魔法使いはきっとフランとパチュリーに倒されている。
レミリアに会いに行けば運命を見てくれるだろうか。いや霊夢がいない今紅魔館に行ってもよくて門前払い、悪くて夕食になるだけか。
犬耳娘「ひゃ、ひゃぁ」
ナズ「変態」
259
:
ぬえ
◆ufIVXIVlPg
:2017/04/16(日) 22:33:36 ID:obr4KIvs
ふと顔を上げるとナズーリンが前と同じく冷たい目で俺を見ていた。
男「な、なんだよ」
ナズ「変態、変態男、君は私もそういう目で見ているのかい? 汚らわしい」
犬耳娘「わ、わふぅ…」
男「な、なんでいきなりそんなこと言うんだ? 俺は今一生懸命これからのことを考えているっていうのに」
ナズ「じゃあ撫でるのをやめたまえよ。大の大人が少女を抱きかかえて頭をなでるのはいかがわしいのだよ」
―――そういえば撫で続けていた。
撫でるたびにぴこぴこと動く耳が面白くて無意識で撫でてしまっていた。
膝の上でゆでだこになっている犬耳娘を下してナズーリンに弁解をする。
結局ナズーリンへの弁解に時間を使ってしまい考えは纏まらなかった。
260
:
ぬえ
◆ufIVXIVlPg
:2017/04/16(日) 22:41:49 ID:obr4KIvs
弁解が終わりようやくナズーリンの冷ややかな目から見下した目に変わったのでどうにかできないものかとナズーリンに意見をあおぐ。
帰ってきた答えは単純だが奇奇怪怪、意味不明なものだった。
ナズ「飛べばいいと思うけど」
もちろんここに飛行機なんてものはない。あったとしても滑走路もパイロットもいない。
頭の中に浮かぶはてなに押されて返せた言葉はただ一言
男「―――へ?」
なんて間の抜けた返答だけだった。
ナズ「あぁ、君には言ってなかったね」
ナズ「この寺は船で空を飛ぶんだよ」
再びはてなで埋め尽くされる頭。
寺は船じゃないし船は空を飛ばない。
どっからどうみてもここにあるのは寺で船ではない。
何一つ繋がらない単語に俺は混乱して目を泳がせた。
ナズ「だろうね。外の世界で船は飛ばないらしいからね」
ナズーリンがやれやれと肩をすくめたあと寺の方に向かって「ムラサー」と呼びかけた。
261
:
ぬえ
◆ufIVXIVlPg
:2017/04/16(日) 22:55:40 ID:obr4KIvs
水蜜「はいはい、私忙しいんだけど?」
白い帽子を左手に持ち、右手で髪をかきながら村紗がやってきた。忙しいという割には全然忙しそうには見えないのだが。
ナズ「口の端に米」
水蜜「嘘!?」
とっさに口の端に手を当てる村紗。それを見てナズーリンはにやにやとした笑みを浮かべ小さい声で笑った。
ナズ「またつまみ食いしたね?」
水蜜「どうか姐さんには、どうか姐さんには〜」
ナズーリンに土下座に近い形で素早く頭を下げる村紗がいた。それを見おろしながらナズーリンがさらににやにやと笑みを浮かべる。
ナズ「ま、今はそんなことはどうでもいいんだよ。とりあえず船長」
水蜜「船長? あぁ聖輦船の話かな? 準備はできてるよ」
立ち上がって力こぶを作るようにポーズをとる村紗。セーラー服の袖がずり落ちて白い二の腕が露わになった。
262
:
ぬえ
◆ufIVXIVlPg
:2017/04/16(日) 22:57:31 ID:obr4KIvs
いや、二の腕はどうでもいい。準備? なんだそれ。
準備に関してはどうやらナズーリンも初耳だったようで村紗に聞き返した。
水蜜「あれ、ナズーリンも聞いてないの? 姐さんが久しぶりに聖輦船を飛ばすって言うからいろいろ点検してたんだよね。結果全部大丈夫だったから問題なく飛ぶよ」
ナズ「聖はやけに思いきりが良いところがあったけどまさかあの時点で決めてたとはね」
男「まってくれ。やっぱり話についていけない」
ナズ「君はこっちの常識をまだ受け入れられてないのかい? 鬼も天狗もいるこの世界で船が飛ばない道理があるかい?」
あるよ。きっとたぶん。
………ないか。
謎の説得力。なんだここでは俺の常識にとらわれてはいけないのか。
もしかしたらこの世界だと月で兎がもちをついてるんじゃないだろうか。
なんてことはさすがにないか。
263
:
<削除>
:<削除>
<削除>
264
:
ぬえ
◆ufIVXIVlPg
:2017/04/16(日) 23:11:16 ID:obr4KIvs
ナズ「とにかく君の心配はもうない今想定しうる一番安全な方法が可能となった」
ナズ「人間は空を自由にはできないからね。ある程度不安要素はあるけど地上に比べたらないようなものだよ。それに聖たちもいるから大丈夫さ」
いたずらを自慢する子供のような笑顔―――本当さきほどから碌でもない笑顔しかないがそんな笑顔でナズーリンはこう続けた。
ナズ「まぁ。君は大船に乗った気持ちでいいのさ。毘沙門天の加護ぞありってね」
水蜜「確かに大船だけどナズーリンが威張ることでもないよね。寅の意を借るネズミ? 大船のネズミ? まぁネズミはいくらいても山に登れないしむしろ船底に穴あきそうで怖いなぁ」
ナズ「むっ。うるさいなぁ。こんな時ぐらい悦にいってもいいだろう? ただでさえ私は弱いんだから、さっ!」
水蜜「いだぁいっ」
水を差した村紗の足小指をナズーリンが思いっきり踏み抜く。村紗は踏まれた小指を押え大きく数度飛び跳ねた。
申し訳ないが流れ弾が怖いので擁護するつもりはない。
俺だって皆の意を借りてるようなもんだし、と腕を組んで村紗を睨むナズーリンに対して脳内で言い訳をした。
265
:
ぬえ
◆ufIVXIVlPg
:2017/04/16(日) 23:30:01 ID:obr4KIvs
水蜜「おー痛い。で、私に用ってそれだけ?」
ナズ「そうだよ。だから君は用無しだ。しっしっ」
水蜜「私の扱い悪くない?」
ナズーリンが村紗の腰を両手で廊下の曲がりまで押して行った。村紗は何度か文句を言っていたがナズーリンは一切耳を貸すことなく最後は村紗を蹴りだしていた。
理不尽なところがナズーリンらしいがそれでいいのだろうか。本人曰く弱いらしいのに。
ナズ「ん? なんだいまた考え事かい?」
男「なんでもない。それより寺……船が飛ぶ話だけど」
ナズ「聖に確認をとってくるよ。君はそこらへんで少女の頭でも撫でているといい」
男「言葉に棘がある」
何かした覚えはないのだが、なぜかナズーリンは不機嫌である。
ててととと廊下をかけていくナズーリンを見送って縁側から庭を見る。
妖精も子供も一緒になって遊ぶ風景。
一旦の平和がそこにあった。
266
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2017/04/17(月) 16:32:06 ID:P2CxT.7g
それはそうだが、一旦でしかないという……
267
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2017/04/18(火) 22:45:37 ID:uVQoZB/o
だよなぁ・・・(泣)
268
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2017/04/20(木) 13:42:03 ID:vZZgShn.
紫のとこの男が死んだのはいつだ?
270
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2017/04/29(土) 10:41:35 ID:ws7IXqpc
乙です
271
:
ぬえ
◆ufIVXIVlPg
:2017/05/01(月) 12:55:17 ID:sH0k4KCw
白蓮「捕まえてきました」
文「これはどういう状況なのですか!?」
その日の夜。夕食の場に聖さんがいないと少し騒ぎになっていた。
星さんも誰も聖さんを見ていない。寺の外に出て行ったところも誰も見ていないという。
混乱する皆をナズーリンが「まぁ、聖だし大丈夫だろう」の一言で静め、並べられた夕食の前で全員が待機していた。
ぐるると喉を鳴らす星さん。つまみ食いをするぬえと村紗を止める一輪。おとなしく待つ残り。そんな中黒い羽の生えた女性を聖さんが引きずって帰ってきた。
ナズ「………どんな状況なんだろうね」
272
:
ぬえ
◆ufIVXIVlPg
:2017/05/01(月) 13:07:18 ID:sH0k4KCw
話を聞くと夜空を見上げていたところ見知った鴉天狗が飛んでいたので、ジャンプして捕まえたらしい。
にこにこと笑っている聖さんだがその行動はまさに破天荒である。首根っこをつかまれ引きずられた女性は大きな目を何度も瞬かせこの状況を必死に理解しようとしているらしい。
理解できていないのはこっちも一緒で星さん以外は唖然としている。星さんは料理を見つめて喉を鳴らしていた。
白蓮「確か今、地底に暮らしていると伺っています」
文「あやや、確かにそうですが。なぜあなた方が私を………はっまさか人間達の」
ナズ「それは天地がひっくりかえってもありえないよ。私たちは初志貫徹して妖怪と妖怪の味方の味方だ」
一人合点して顔を真っ青に染めた女性にナズーリンが突っ込む。
男「あの、ところでその人、誰なんです?」
文「人間がいる、やはり―――っ」
ナズ「君のところにだって人間はいるだろうに。ほら確か子供と白衣を着た男がいたはずだ」
一輪「なぜ知ってるの?」
ナズ「………それは今はどうでもいいだろう」
水蜜「あっ、ひとりでこっそり温泉に行ったな!?」
ぬえ「うわっ、卑怯」
ナズ「どうでもいいだろう!?」
273
:
ぬえ
◆ufIVXIVlPg
:2017/05/01(月) 13:35:37 ID:sH0k4KCw
ナズーリンが隠れて温泉に行ったという事実に一輪さん達がざわめいたがナズーリンの一喝でしぶしぶと治まる。
ナズ「こほん。それじゃあ紹介するよ。これは鴉天狗の射命丸 文。天狗のくせに今は地底にいるゴシップ三流記者さ」
文「紹介に悪意がありませんか? えーっとご紹介にあずかりました鴉天狗の射命丸 文です。清く正しくをモットーに皆さんが知りたい情報を伝えるしがない文屋でございます」
ナズ「皆が知りたいことに合わせたゴシップだろうに」
文「………いいですけど別に。それで私が連れてこられた理由をいい加減教えてもらえませんか? 私だって暇ではないのです」
白蓮「一つお願いがありまして、ちょっと座ってお話しましょう」
文「では離していただけませんか。逃げませんから」
白蓮「ダメですよ」
聖さんは射命丸さんを片手で持ち上げて自らのひざに座らせた。そのまま後ろから囁く形で話を続ける。
白蓮「私たちも地底に行こうと思うのですが、その使者になってはいただけませんか。いきなり船でいくというのも失礼ですからね」
文「あ、首筋はダメです、あ、あややっ」
首筋に息がかかるたび射命丸さんが悶える。その後射命丸さんが承認するまで白蓮さんは囁き続けた。
本人は無意識らしいが。
274
:
ぬえ
◆ufIVXIVlPg
:2017/05/01(月) 13:52:08 ID:sH0k4KCw
文「ひとつ聞きたいのですが。いや聞きたいことは山積みですけども」
ようやく開放された射命丸さんが正座をした状態で右手を上げた。
文「貴方達は確か中立、というより不干渉でしたよね。そんな貴方達がなぜ?」
もっともな質問だ。だがその質問に返せる答えがぱっと思い浮かばなかった。
ナズーリンが目をそらし聖さんはニコニコと笑う。帰ってこない返事に射命丸は頬を掻いて続けた。
文「貴方達を連れた結果地底が何かの災禍に巻き込まれる可能性はありますよね。あなた方が逃げるぐらいの何かがあるのですか? さっきは負けて了承してしまいましたが流石にその理由を聞かなければ協力はできませんし場合によっては全力であなた方を阻止します」
文「命に代えても、あの人達を危険にさらすわけにはいかないのです!」
射命丸さんの剣幕に気圧される。彼女の言う事は正論であり、ごまかしたり避けたりはできない。もしそうすればきっと信頼など築けないだろう。
文「答えてください。聖さん。いえ、そこの人間でしょうか」
向けていた視線が聖さんから俺に移る。原因が俺にあると考えているのだろう。たしかにその通りだ。
だが一つ訂正するならば逃げるのではない。救いにいくのだ。だがこんなちっぽけな一人の男が救うといっても説得力は微塵もない。
だが一つ、説得できるとしたらばそれは俺ではない。
男「ついてきて、くれますか」
文「その先に納得できるものがあるのならば」
275
:
ぬえ
◆ufIVXIVlPg
:2017/05/01(月) 14:09:54 ID:sH0k4KCw
縁側にでると子供と妖精の騒ぐ声が聞こえる。楽しそうでなによりだ。
文「子供の声?」
男「ついてきてください。こっちです」
子供達がいる部屋とは真逆の部屋。出来るだけ静かにすごせるようにと選んだこの部屋に寝ている人ならば射命丸さんを説得できる。
おそらく、博打ではあるが。
襖を開けると遠くから聞こえる子供達の声に嬉しそうに耳を傾ける女性。
文「あや、あやや? 保母妖怪さんではないですか」
保母妖怪「! あら、その声は…射命丸様、ですか?」
俺を押しのけて射命丸さんが部屋の中に入る。その際さらに大きく開かれた襖から月の光が入り保母妖怪さんを照らした。
文「すみません。理解できません」
文「腕を切られた同胞を見て私になにを思えと?」
保母妖怪「あの、どうしたのですか?」
男「彼女達の命を救おうとした結果です、座ってください。一から話せば納得しますか?」
文「それが納得できるのなら」
276
:
ぬえ
◆ufIVXIVlPg
:2017/05/01(月) 14:21:53 ID:sH0k4KCw
保母妖怪「未来を知っているのですね」
文「いや、そんな馬鹿な話」
保母妖怪さんはあっさりと俺の話を信じてくれた。射命丸さんは当たり前だがそれに対し困惑。
文「なんで貴方はそう簡単に信じているんですか? 見た感じただの人間ですよこの人。巫女でも科学者でもないただの人間ですよたぶん」
保母妖怪「子供達が貴方を信じていますし、私もなぜか貴方を知っている気がしていたんです」
柔らかく保母妖怪さんが微笑む。その後傷口を労わる様に撫でた。
保母妖怪「私を守ってくれたのですよね。男さん」
男「そんなこと無いです。守れなかった。霊夢みたいにはなれなかった、ですからね」
保母妖怪「頑張りましたね」
保母妖怪「頑張ったんですよね」
277
:
ぬえ
◆ufIVXIVlPg
:2017/05/01(月) 14:34:39 ID:sH0k4KCw
文「ダメです。まだ納得できてないです」
保母妖怪「射命丸様」
文「理論も根拠も結局ないではないですか。記者に大事なのは分析して正しい情報を抽出すること」
文「感情論やなんやでほだされる私ではないのです」
ダメだったか。保母妖怪さんが味方をしてくれるならなんとかなったと思ったんだが。
文「一応聞いておきます。前の世界では私たちはどうなったのですか」
男「死にました。詳しくは知りませんが地底にいた全員が死んでしまったそうです」
男「逃げてないです。逃げるために地底にいくのではないのです。皆を救うために地底に行くんです」
文「ありえません。ありえませんね。こっちには私も鬼も土蜘蛛もさとり妖怪もいるのですよ? 幻想郷の嫌われ者が集まった地底が全滅? ふ、ふふふ。情報が足りなかったみたいですね。そんな骨董無形な」
男「死にます」
文「地底にいる『全員』? 人の神経を逆なでするのもいい加減にしてください、よぉ?」
278
:
ぬえ
◆ufIVXIVlPg
:2017/05/01(月) 14:49:56 ID:sH0k4KCw
肩がつかまれる。強く痛いほどに握り締められ、大きく見開かれた目で俺をにらむ。
文「あの人が死んでたまりますか!! あの人が!!」
保母妖怪「射命丸さんっ」
保母妖怪さんが這ってきて射命丸さんを止めようとする。その姿を見て射命丸さんは深く息を吐きながら肩から手をどけた。
文「………すいません。ただやはり信用できそうにないです。ただし保母妖怪さんをここにおいて置くのも気がひけます。子供達も妖精たちもいますからね」
文「聖 白蓮と星 寅丸の両名が私たちに隷属する。その条件付なら認めましょう」
男「無茶を言いますね。俺がここでそれを飲んだところでほかが納得するとは思えませんが」
文「他が納得するかはどうでもいいんです。納得するでしょう? あの二人なら」
確かにその通りだ。聖さんなら受け入れる。星さんも受け入れるだろう。だがそんな条件を飲むわけにはいかない。ひいてもらっている手を鎖につなぐわけにはいかないんだ。
星「構いませんよ」
葛藤している俺の後ろから声がかかった。いつの間にかたっている星さんが俺の頭に手を当て撫でる。
星「しかし、私だけでいいでしょう?」
男「ダメですよ、星さん。そんなこと」
星「いいではないですか。時には皆を助けさせてください。私の意味を遂げさせてくださいな」
くしゃくしゃと星さんが俺の頭を撫で反論を封ずる。
279
:
ぬえ
◆ufIVXIVlPg
:2017/05/01(月) 18:38:14 ID:sH0k4KCw
文「分かりました。不躾ですみませんね」
星「いいのです。私も貴方の立場は分かってるつもりですから」
文「時間ですが明日の明朝にここを出ます。私が先導しますがそちら見張りを何人かつけてください。流石に目立ちますから」
星「私は向こうでどうすればいいのですか?」
文「言い方は悪いですが人質です。おとなしくしてくれれば何も言いません」
二人の間で次々となされていく決まりごとや予定。それに口が挟めず俺は軽く項垂れた。
自分の思うこと全てがその通りに行くわけがない。
神も仏も誰も彼も俺を特別扱いしてくれるわけじゃない。
いくら未来を知っているからといっても小説の主人公ほど完全無欠にはなれない。
なろうと努力はしているといっても結果が出なければそれは言い訳にしかならないのではないだろうか。
もし、もし俺がもっと強くて特別で、未来は知らなくても皆を守れるほどの力を持っていればもっと楽だったのだろう。そしたら星さんだって。保母妖怪さんだって。
だがそうではなく、犠牲が一人増えた。
次の犠牲は―――誰なんだろう。
280
:
ぬえ
◆ufIVXIVlPg
:2017/05/01(月) 18:58:52 ID:sH0k4KCw
早朝。まだ日も顔を見せてない時間にナズーリンに起こされる。
遠くの音を聞くと幾人かが慌しく駆けていることが分かった。
寝床から這い出るといつにもまして冷たい空気。眠気は一瞬で吹き飛ばされた。
ナズ「準備をしたまえ、といっても君になんの期待もしていないから彼女、保母妖怪のところで労わってあげるといい。出発は少しゆれるからね」
それだけ行ってナズーリンも慌しく部屋を出て行った。残された俺は急いで服を着替え外へ出る。
水蜜「マスト立ててー」
一輪「雲山よろしく」
そのとき俺は目を疑った。
今まで見ていた寺がなくなっていた。いや、寺はある。しかし寺の中央に大きく刺されたマスト。
これを見て誰が寺だと思うのだろうか。
281
:
ぬえ
◆ufIVXIVlPg
:2017/05/01(月) 19:30:05 ID:sH0k4KCw
々と張られていく帆。並べられた巨大なオール。それはまだいい。
地面が無い。昨日まで土があり、子供達が走り回っていたところにあるのは木板。
遠くに見えるのが海ではなく変わらぬ森だということに安心はしたけどこれからどうなるんだ。
やっぱり飛ぶのか。飛ぶんだろうなぁ。
ナズーリンの言っていた出発するときには揺れるということ。つまりやっぱり飛ぶのか。
なら早く保母妖怪さんのところに行ったほうがいいだろう。
慌しい空気の中に身を投じて保母妖怪さんの部屋へ向かう。
その途中大部屋から弾むような寝息が聞こえて少し笑う。
なんだかさわやかな朝だ。
このさわやかな気分が続けばいいのだが。
なんて後ろ向きな考えはやめよう。
場所も変わって心機一転、昨日のことは悔いはしたが引き摺れば進歩はない。
それが昨日俯いた俺に対し星さんが言ったことだ
282
:
ぬえ
◆ufIVXIVlPg
:2017/05/01(月) 19:51:26 ID:sH0k4KCw
保母妖怪さんは静かに寝ていて、痛みに呻いてないことに安心する。
起こすわけにはいかないので中央に敷かれた布団にゆっくりと近寄る。
出発に備えて対処できる距離。すなわち布団のすぐ傍。
規則正しく上下する胸から視線を動かすと安らかな寝顔。射命丸さんよりは年上に見えるが聞いたところによると年下らしい。というか射命丸さんは天狗の中でもかなり年上のほうらしい。
そのことに言及すると嫌な予感がしたので言わなかったが。
文さんほど華やかではないがしっかり整った顔。地味な印象は受けたが子供と一緒にいるときの笑顔はかなりのものだ。
きっと将来いいお嫁さんになるのだろうなと下世話な意見を浮かべる。
………ぬえと仲直りできないかなぁ。
仲たがいしたわけではないけども。
283
:
ぬえ
◆ufIVXIVlPg
:2017/05/01(月) 20:04:42 ID:sH0k4KCw
っと、そんなことは今はどうでもいい。
いつ出発しても良い様に構えていないとな、と思っていると床から微かに振動が伝わった。
飛ぶのだろう。保母妖怪さんが転げないように布団の上から抑える。
保母妖怪「あの、なにを?」
男「今から―――」
何か勘違いされている気がする、せめて弁解をと思った瞬間にひときわ大きな振動。
地響きを立て体が左右に揺さぶられる。その直後に気持ちの悪い浮遊感が襲ってきた。
保母妖怪「あぁ、そうなんですね」
耐える俺と違って平気な顔をして納得している保母妖怪さん。が、振動が傷に響いたらしく顔をゆがめた。
男「大丈夫ですか? 保母妖怪さん」
保母妖怪「えぇ、なんとか。それより男さんのほうが辛そうですが」
男「大丈夫です。平気です」
とは言うものの血液が揺さぶられる感覚。貧血のような気持ち悪さに襲われている俺はちゃんと笑えているのだろうか。
284
:
ぬえ
◆ufIVXIVlPg
:2017/05/01(月) 20:43:35 ID:sH0k4KCw
「よぉそろー!!」
振動がある程度収まり浮遊感もある程度軽くなる。
どうやら離陸には成功したらしい。布団を押さえている手をどけ、座ったまま背伸びをする。
保母妖怪「子供達は大丈夫でしょうか」
心配そうな保母妖怪さんの声の後に聞こえる喝采に保母妖怪さんは顔を綻ばせた。
保母妖怪「まだ満足に飛べない子がほとんどですから楽しいのでしょうね」
保母妖怪「男さんも見てきたらどうですか?」
男「すいません、俺高いところ苦手なんで」
主に幽香のせいで。
とりあえず久々にゆっくりできそうだからゆっくりさせていただこう。
まだ朝日も出ていない。まどろむには十分で保母妖怪さんの横で座ったまま目をつぶる。
久しぶりに良い夢が見れそうな、なんだかそんな気が―――
285
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2017/05/01(月) 20:51:43 ID:TuceY1Fw
前回とは違う展開で面白い。
286
:
ぬえ
◆ufIVXIVlPg
:2017/05/01(月) 20:52:33 ID:sH0k4KCw
???「お久しぶりですね」
気がついたら闇の中にいた。
そしていつものように目の前に暗闇なのになぜか見える鱗の人。
男「またあんたか」
???「はい、いつも苦労をおかけします」
男「って思うならもう少し情報をくれ」
???「これで聖 白蓮たちの命は救われましたね。これが霊夢のためになればいいのですが」
男「話聞いてる?」
???「! もう、ダメですか」
男「ねぇ」
???「引き続き頑張ってください。貴方だけが頼りなのです―――」
男「おい」
287
:
ぬえ
◆ufIVXIVlPg
:2017/05/01(月) 21:01:50 ID:sH0k4KCw
男「何か教えてくれよ」
何か教えてくれってなんだよ」
どうやら寝ぼけているらしい。周りを見渡すと少し驚いた顔でこっちを見ている保母妖怪さん。
保母妖怪「なんだかうなされていましたが」
男「悪い夢、ではなかったはずなんですけど。良い夢でなかった気もするけど」
つまり普通の夢。覚えていない夢の感想なんてそんなもんだ。
男「着きました?」
保母妖怪「まだみたいですね。見てきてはいかがですか?」
思い出にある空はいつも吹っ飛ぶような速度で後ろに消えていく。
思い出すだけで寒気がするがもうそろそろその思い出を書き直してもいい頃だろう。
男「そうですね。言ってきます」
保母妖怪「あのっ」
男「? なんですか?」
保母妖怪「私も連れていってくれませんか?」
288
:
ぬえ
◆ufIVXIVlPg
:2017/05/01(月) 21:18:19 ID:sH0k4KCw
外に出ると強い風。部屋の中では分からないのが不思議なほどの風だった。
ナズ「はいはい、子供は部屋にって、男かい」
男「ナズーリン。あとどれくらいなんだ?」
ナズ「一時間もかからないよ。だけど何回か妖怪に襲われているから部屋に戻りなよ」
男「他の人はどこに?」
ナズ「村紗は操舵、射命丸と聖はびっくりして襲い掛かってくる妖怪の迎撃。私は見回りだよ。たまに妖精が逃げ出すからね」
ナズ「そうだ、君はどうせ暇だろう? 妖精たちの相手をしててくれないか?」
と決め付けられ仕事を与えられる、確かに暇だから構わないが。
出来ることはする。出来ることがすくないからやる。
男「了解です」
おどけて敬礼してみるとナズーリンは満足そうな顔をして去っていった。
外見が子供に近いからそんな仕草も可愛らし………くはないな、やっぱり。
289
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2017/05/04(木) 19:07:02 ID:QDyZkuPE
乙です!
290
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2017/05/06(土) 23:26:48 ID:nhxzyPqI
おつ!
291
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2017/05/07(日) 00:21:41 ID:OM9pv.2k
乙!
292
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2017/05/09(火) 01:24:57 ID:ts7eQVt2
頑張ってくれ
293
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2017/05/30(火) 19:39:09 ID:5Kc/IUx6
やっぱ面白いなあ
294
:
ぬえ
◆ufIVXIVlPg
:2017/06/02(金) 14:46:42 ID:qGWYXiCc
星「いやはや」
部屋に入ると星さんの声がした。しかし声はしても姿は見えない。
その代わりにあるのが子供と妖精でつくられた団子。何かに子供達が群がっていた。
多分、おそらく、いや確実にあの子供達の中にいるのは星さんだろう。子供達の声の合間を縫って困った声が聞こえてくる。
男「おい、あれなんだ?」
犬耳娘「ひゃい!?」
子供達の中に混ざらず一人で人形遊びしていた犬耳娘に事情を聞く。
話によると星さんが用意したおもちゃに子供達が群がっているらしい。
男「犬耳娘はいいのか?」
犬耳娘「わ、わたしはこれがあるから」
そういって汚れた、いや年季の入った人形の頭を撫でる。ここまでボロボロなのに大切にしているということはなんらかの事情があるのだろう。
男「可愛い人形だな。さて、星さん助けてくるかな」
犬耳娘「が、頑張って」
応援してくれる犬耳娘に力こぶをつくって笑って見せるがさてあれだけの子供と妖精をどうすればいいのかは分からない。
295
:
ぬえ
◆ufIVXIVlPg
:2017/06/02(金) 14:56:17 ID:qGWYXiCc
男「大丈夫ですか星さん」
星「その声は男さんですか。いや子供達も暇でしょうと思っておもちゃを持ち込んだのが運の尽きでしたね。子供達の数に対して用意したおもちゃの数が足りなかったのです。結果おもちゃを出せといわれこうなってます」
なんてたちの悪い。子供達の喧騒を聞いてみると確かにおもちゃという単語が拾える。
ねこにマタタビ。子供におもちゃ。効果は抜群だけど抜群すぎる。デパートなんかでおもちゃが欲しくて暴れまわる子供もいるぐらいだからなぁ。
男「ほーら、星さんが困ってるだろう」
チルノ「うわっ。何をするんだー!」
手を突っ込んで適当に引っこ抜くと子供というには大きな体。チルノだった。
男「なんでお前まで混ざってるんだよ」
チルノ「あたいだっておもちゃが欲しい」
なぜか誇らしげにそう言うチルノにでこピンを一発かます。
チルノ「ふぎゃっ。生意気だぞ人間!」
間髪いれずにもう一発。
男「星さんにいくら言ってもおもちゃは出てこないだろ。ほらお前ら解散解散」
手当たりしだいにでこピンをかますと子供達はわらわらと散っていく。ようやく見えた星さんの姿は髪も服も乱れ、神様たる威厳はどこにもなかった。
星「助かりました。ありがとうございます」
296
:
ぬえ
◆ufIVXIVlPg
:2017/06/02(金) 15:15:21 ID:qGWYXiCc
チルノ「うー。あたいだっておもちゃが欲しかった」
大妖精「チルノちゃん。しかたないよ。向こうで私と遊ぼう?」
星「………施せば施されなかった人が不平等になる。私もまだまだですね」
男「でもその親切に喜ぶ人がいることは確かですよ。皆そろって平等の不幸よりは誰かを幸せに出来たほうがいいんじゃないですかね」
俺自身いろいろな人に助けてもらったんだ。その親切が無かったほうがいいだなんて思えない。確かに不平等と思う人がいるかもしれないが確かに俺は救われている。
なんてエゴイズムあふれた考えになるのだろうか。神も仏も信じてこなかった俺にその答えは見つかりそうにない。
星「おもちゃはもう無いですし、今私が持っているものといえば」
星さんが腕を小刻みに振るうと、そのたび何かが袖口から転がり落ちてきた。その小さく輝くものは―――
星「宝石ぐらいですね」
チルノ「うおーっ、すげーっ。大ちゃんこれすっごいピカピカしてるぞ!!」
―――ルビーにサファイアその他もろもろ。透き通ったあれは水晶かダイアか。
どちらにせよ普段お目にかかることがないものたちでチルノの声に引かれて子供達がなんだなんだと集まってくる。
星「………あれ?」
不思議そうに首をかしげる星さん。まるで宝石がただの石であるかのようだ。いや、実際石ころで価値を決めたのは人間ではあるのだが。
その通りで子供達は転がる宝石を拾って遊び始める。転がしたり眺めたりぶつけたり。
297
:
ぬえ
◆ufIVXIVlPg
:2017/06/02(金) 15:24:19 ID:qGWYXiCc
男「子供達は光るものが好きですからね」
俺だって好きだ。主に価値が。
星「子供達が喜ぶのなら良い事だったのでしょう」
子供にとっては遊べるもの全てがおもちゃでなんて平和な世界なのだろう。
男「えぇ。そうですね」
何を施せばいいかなんてこっちが考えてるほど向こうは期待していない。いやそもそも基準が違うものに何を送ればいいかだなんて悩むほうが無意味でいざやってみれば成功することも多くある。なんて人生を分かったような考えを浮かべ一人笑う。
その価値基準の間を埋めていければ世界は平和にはなるのだろうけどそれは到底無理なことで世界はいろいろな視点に溢れているから楽しくて面白くて悲しくて非情。
幻想郷はそんな全てを受け入れるから残酷で―――
ずきり
頭が痛むと同時に幻聴。
かちりかちりと時計が進むような音。
声
足音
風の音
霊夢の声
298
:
ぬえ
◆ufIVXIVlPg
:2017/06/02(金) 15:35:20 ID:qGWYXiCc
―ねぇ、本当なの?
――えぇ、本当よ。昨日からずっと―――
――――う、嘘だっ―――ちゃんの嘘つきっ――
――――――行ってあげなさいよ
―――あ―――待ちなさいよっ―――ねぇっ―――
――おーい――たんだ?今――が走って―――けど。
―知らな――ん――ばか――
―――それより―――もいいか?―――
――あげて――喜ぶから―――
――――でも本当に―――――信じられない
―――だって――が言ってたもの――当よ
―――あいつ――つきだし、信じられ――――たくねぇな
――まぁね―――探し―――お願――見て――
母さんを―――――
299
:
ぬえ
◆ufIVXIVlPg
:2017/06/02(金) 15:47:02 ID:qGWYXiCc
星「男さん?」
星さんがいる。
畳の部屋に子供達と星さんがいる。
男「あ――はい」
星「大丈夫ですか。いきなり動かなくなってましたけど」
男「大丈夫です」
とはいうものの頭の整理が追いついていない。
俺はさっきまで木々の木漏れ日の下で霊夢を見てた。
霊夢と………………
痛い痛い痛い痛い。思い出そうとすると頭が痛い。
良く出来た白昼夢に脳が蝕まれているようで、脳の奥底で誰かがのこぎりを振り回しているかのような強烈な痛み。
痛みに思わず眼球が明後日の方向へ向き呼吸が止まる。
大妖精「ひぃっ」
考えるのをやめ、ようやく痛みが引く。
なんだったのかは分からないがどうやら触れないほうがいいらしい。
300
:
ぬえ
◆ufIVXIVlPg
:2017/06/02(金) 15:55:03 ID:qGWYXiCc
星「本当に大丈夫ですか? 大丈夫そうには見えないのですが」
男「人間は……空を飛べませんからそのせいです………気圧が」
変に返した言い訳に星さんは良くわからないまま頷く。
何度か深呼吸をし無理やり体を落ち着ける。もう痛みは嘘のように消えていた。
ナズ「もうすぐ着くから中にいるやつは皆何かに掴まりなよー」
外からナズーリンの注意が聞こえる。その声が聞こえた子供達から近くにいる大人に駆け寄り抱きついてきた。つまり俺と星さんに。
男「あぶっ」
星「はぁ…」
流石妖怪の子。抱きついてくる力は半端じゃなくいろんな骨が軋みをあげる。頭痛に比べればだいぶマシだけどそれでも
痛い痛い痛い痛い痛い痛い
301
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2017/06/02(金) 20:08:09 ID:7djFoOf2
物語が進んでいてうれしい
302
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2017/06/02(金) 21:43:53 ID:bo6Htd/U
和みますねぇ
303
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2017/06/02(金) 22:39:24 ID:ATy9nIn2
http://bit.ly/2q4mPE6
304
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2017/06/03(土) 04:07:12 ID:E3EqsPWo
見てる俺らだけは気楽なもんだが、やられてる方はたまったもんじゃなかろう
305
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2017/06/03(土) 08:10:56 ID:.6WKjLyY
乙です
306
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2017/06/13(火) 03:49:06 ID:3FMcsNBA
支援
307
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2017/06/15(木) 13:40:01 ID:Bne.dibQ
これ終わる頃には何歳になってるんだろうなあ
308
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2017/06/26(月) 20:17:49 ID:cUdtmeRA
シエン オブ オモロー
309
:
ぬえ
◆ufIVXIVlPg
:2017/07/02(日) 00:05:39 ID:Z62lBcOQ
痛みをなんとか我慢していると軽い浮遊感。不快なほどではないが違和感を覚える。
違和感と耳鳴りからどうやら船の高度が下がっているということがわかった。道中問題が起きなかったことは幸いで、もし大規模な戦闘でも起きていれば子供たちが巻き込まれることは必至だっただろう。
水蜜「あれぇっ?」
村紗の戸惑う声が遠くから聞こえた。それに続いて一輪の驚愕。聖の困った声が微かに聞こえる。
男「なにか、あったんですかね」
星「見てきましょう。男さんは危ないですからここで子供達を見ていてください」
男「いえ、もし危ない状況なら星さんがいてくれないと子供達が守れません。俺が行ってきます」
星さんが何かを言おうとしていたが、その前に立ち上がり部屋から出ることにしよう。
チルノ「うわーっ」
大妖精「ひゃあっ」
犬耳娘「いたいっ」
振り落とされた子供達の事は気にしない。
310
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2017/07/02(日) 00:19:59 ID:3N1C3.Ag
大ちゃんかわいい(*´ω`*)
311
:
ぬえ
◆ufIVXIVlPg
:2017/07/02(日) 00:22:32 ID:Z62lBcOQ
外にでると高度が下がったせいか風が弱まっていた。この風なら簡単とまではいかないが問題なく移動はできるだろう。
声の聞こえた方向。船の船首側へと向かうと村紗さんを筆頭に作業をしているメンバーが勢ぞろいしていた。
そのいずれの顔も明るくはなく、どうやら困った事態が起きたらしい。
男「どうしたんですか?」
村紗「やられたよ」
そういって村紗が深いため息をついた。それに合わせたかの様に、一輪が強く足を踏み鳴らした。
男「やられたって何が?」
一輪が怒るような何かが起きたのは確からしいが。しかし一体なにが?
村紗「今ここは誰がいる?」
そういわれたので数えてみる。目の前にいる村紗。その斜め後ろにいる一輪。船首に立っている白蓮さん。座り込んでいるナズーリン。
男「ぬえと響子と射命丸さんがいない」
村紗「ぬえは私も知らないけどそれはどうでもいい。響子は保母妖怪さんを見てるよ」
ということは。
男「射命丸さんは、どこへ?」
村紗「……………逃げたよ。案内する気なんてなかったのさ」
312
:
ぬえ
◆ufIVXIVlPg
:2017/07/02(日) 00:32:51 ID:Z62lBcOQ
男「逃げたって。約束が違うじゃないか」
ナズ「考えてみれば当たり前のことだったんだ。向こうには鬼がいる、土蜘蛛がいる、さとりがいる。私達よりずっとずっと強い妖怪がいるんだ。今さらご主人を巻き込んだところで得なんてなかったのさ。つまり初めから契約なんて守る気はなかった」
白蓮「困ったわねぇ」
一輪「姐さん困ったじゃすみませんよこの状況!? ねぇ、あんたがここに行けって言ったんでしょ!? どうすりゃいいのよこれ!」
一輪が近寄ってきて、俺の胸倉を掴む。それを止めようとしたのは白蓮さんだけで、他の皆は俺を責めるような目で見ていた。
男「受け入れてくれるように頼んできます」
それしかない。帰る場所はもうないし、このまま飛び続けるわけにもいかない。
責任をとらなきゃいけないのは一輪の言うとおり俺で、だから今から俺はあの結界を越えて説得しにいかなければいけない。
………?
一輪「説得するって言ったってどうするのよ。あそこから誰かが出てくるのを待つ? 出てくるわけないじゃない」
男「あの結界通り抜けられるんだよ、外から中だったら」
………?
一輪「………なんであんたがそんなこと知ってるのよ。未来を知ってるから?」
男「えっと、なんだったかな。たしか………紫に聞いた?」
たしか紫に地獄の結界の話を聞いたような。もしくは映姫さん?
313
:
ぬえ
◆ufIVXIVlPg
:2017/07/02(日) 00:46:49 ID:Z62lBcOQ
まぁ、誰が言ったかはどうでもいい。通り抜けられることが本当ならば。
男「じゃあ行ってきます、ってどうやって下りればいいんだ」
船はまだ浮いている。目がくらむほどではないが飛び降りたら相当運が良くない限りは死んでしまうような高さ。岩肌が景色ではなく凶器に思える。
ナズ「………私が連れて行くよ」
一輪「行くなら姐さんよ」
ナズ「言っちゃ悪いが聖は腹芸が苦手だ。この場に私以上に腹芸が得意なのはいるかい?」
そういって見回すナズーリンに三人は否定を返さない。一輪と村紗は顔を逸らし、白蓮さんは困った顔をして微笑んだ。
マミ「儂とかどうじゃね?」
唯一言葉を返したのは紫煙を燻らせながら愉快そうにどこからともなく現れたマミゾウだった。
314
:
ぬえ
◆ufIVXIVlPg
:2017/07/02(日) 00:58:17 ID:Z62lBcOQ
一輪「マミゾウ? 見なかったけどどこにいたのよ」
マミ「皆を見守っておったぞい。こっそりとな」
一輪「手伝って発想はどこに?」
マミ「ほっほっほ。老骨を頼るでないわ」
ナズ「手伝うって何を考えているんだい?」
マミ「親切心をそう疑われては敵わんのう。それでこの場に儂以上に腹芸が得意な奴はいるかね?」
からかうように明らかにナズーリンに向けられた言葉にナズーリンは言い返しはしなかったものの口角をぴくぴくと震わせた。
ナズ「だ、だけど私もついていくよ。私は聖たちほど甘くはないからね。それに監視は立場上慣れてるから私も最適なのさ」
マミ「それではこの三人で行く。良いかね、聖や」
白蓮「え、はい。そうね。頼みましたよ男さん。ナズーリン。マミゾウ」
男「任せてください」
マミ「飯の種ぐらいの働きは期待してもいいぞい?」
ナズ「やれやれ、いつも貧乏くじさ。まぁ、慣れてるけどね」
315
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2017/07/02(日) 01:33:01 ID:3N1C3.Ag
マミゾウさんヤッター
316
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2017/07/07(金) 16:53:29 ID:aaV6oKfc
シエーン
317
:
ぬえ
◆ufIVXIVlPg
:2017/07/10(月) 15:10:56 ID:IXjfrWdw
マミゾウに抱きかかえられて地面へと降りる。どこからか視線を感じたがどうせのら妖怪だろう。襲い掛かってこないのならば問題はない。
旧地獄に続くらしい縦穴は思ったよりは小さくそして深かった。覗いてみると遠く先の方に光が見える。あの光はいったいなんなのだろうか。
穴には飛べないものでも下れるように螺旋階段状に階段が作られていた。だが粗末な作りで事故防止用の柵なんてものはない。落ちたら死は免れないだろう。
ナズ「で、君の話だとこの結界は外から中なら通れるんだろう?」
マミ「珍しい結界よのう。結界とは外と中を分けるものなのに片方からは分けられてはおらぬ。このようなあやふやな結界がなぜこうも強固に存在してるか検討がつかぬよ」
男「何を言ってるかは分からないが、っと」
淡く金色に輝く結界へと足を沈める。結界は踏み入れた足を拒むことなくするすると通した。
男「引っこ抜けないな。やっぱり」
足を引き抜こうとするも上への動きは認められないようでもう後戻りはできないらしい。
両足を沈み込ませ、ゆっくりと階段を進み、結界が腰、胸、頭まで飲み込む。
肉体的には何も無かったが、精神的には何か嫌なものを感じた。
そうしてようやく全身を沈め、人心地ついたとき
男「っ!」
暗闇に揺らぐ緑色の瞳に気づいた。
318
:
ぬえ
◆ufIVXIVlPg
:2017/07/10(月) 15:18:11 ID:IXjfrWdw
男「………さとり、じゃないな。ことりでもない」
だが目の前にいる少女。結界の金色にかすかに照らされた少女は二人の面影を持っていた。
こいし「だれ?」
ゆらゆらと不可解な歩き方で近寄ってくる少女。その表情にはさとりのような達観もことりのような狂気もなかった。
言えば―――なにもなかった。
男「さ、さとりに会いに来た」
こいし「そうなんだぁ」
少女は俺の胸元まで顔を寄せ、そして俺の顔を見上げた。息が首筋にかかるほどの距離で、俺はうつろな緑色の瞳におぼれそうになった。
こいし「ついて、きて?」
そういって少女は俺の手を掴み。
こいし「えいっ」
深い穴へと引き摺り下ろした。
319
:
ぬえ
◆ufIVXIVlPg
:2017/07/10(月) 15:25:04 ID:IXjfrWdw
浮遊感、浮遊感、浮遊感。
さっきまでとは違う、ただの自由落下で、体を支配する浮遊感。
物は下へ落ちるという自然法則によって俺の体は加速していく。
こいし「あっはっはっは」
少女は俺の手を掴んだほうとは逆の手で被った帽子を飛ばないように押さえ無邪気で甲高い笑い声を上げていた。
こいし「しゃーぼんだーまーとーんだー。屋根、屋根ってどこだー。地底の空は皆やねー」
光が近づく。太陽の光とは違う青白い光。
男「う、あ」
見えた。その光に照らされた地面。
男「あぁあ」
岩肌、柔らかくないから
男「あぁああああぁああっ!!」
死ぬから、柔らかくないから、硬い、死ぬから死ぬ
感情を伝えるニューロンは情報過多でショート。地面が近づくにつれ恐怖が全てを追い出していく。
妖怪との戦いでもなんでもない、こんなところで俺は―――
320
:
ぬえ
◆ufIVXIVlPg
:2017/07/10(月) 15:29:45 ID:IXjfrWdw
こいし「はい、どーん!」
その擬音とは裏腹に聞こえる音は静かなもので。
男「あれ、俺、生きてる」
生きてる。呼吸もしてるし、心臓も動いている。
だけど俺の体はまだ地面に落ちておらず
文「せ、せ、せ」
文「大セーフっ!!」
その言葉で急激に変わった視界と現実をやっと認識することができた。
321
:
ぬえ
◆ufIVXIVlPg
:2017/07/10(月) 15:35:40 ID:IXjfrWdw
男「あ、れ? 射命丸さん」
文「なにやってるんですかあなたは!?」
こいし「ジャンプ!」
文「なんで、いきなり落ちてきて。結界があるからって飛び降りたんですか!?」
男「いや、あの子に引きづられて」
指を指した先にいる少女はにこにことこっちを見ている。行動は殺意しかなかったが表情はそんなこと微塵も感じさせない。
文「あの子って………んん!? こいしさん!?」
こいし「やっほぅ!」
文「なんでこいしさんが、というかなんで、いやなぜ!?」
なぜか混乱している射命丸さんとにこにこの少女。
収拾なんてつくわけがない。
俺は射命丸さんが落ち着くまで黙って抱きとめられていた。
322
:
ぬえ
◆ufIVXIVlPg
:2017/07/10(月) 15:40:34 ID:IXjfrWdw
文「ふぅ。ところでなぜ貴方がここに」
男「理由は分かるでしょうに」
文「………私は謝りませんからね」
そういってふいと横を向いた射命丸さん
こいし「目と目を合わせてー」
の顔をむりやり少女が曲げた。
さっきから行動がよく分からないな。なにが目的なんだろう。
文「やめふぇくだふぁい」
文「とにかく入ってきてしまったものはしかたありませんが、こちらの命令に従って」
マミ「ゴミ漁りがずいぶんとまぁ、偉そうにしてるじゃあないかね」
文「うひゃあ!?」
またどこからともなく現れたマミゾウが射命丸さんの頭をキセルで数度軽く叩く。それに続いてナズーリン階段を駆け下りてきて
ナズ「おろかものめっ!」
そう叫びながら俺たち二人の頭にとび蹴りをかました。
323
:
ぬえ
◆ufIVXIVlPg
:2017/07/10(月) 15:59:13 ID:IXjfrWdw
ナズ「なにがしたいんだい君は!」
文「な、なんで私まで」
ナズ「裏切り者には良い罰さっ」
激昂するナズーリンはその体躯ながらも迫力がある。俺たち二人は思わず正座をし、それからしばらくの間ナズーリンの説教を聞くこととなった。
ナズ「分かったかい?」
男「はい、すいません」
文「もうしません」
射命丸さんはともかく俺に関しては一切非は無いと思うのだがそれを証明する少女はいつのまにか消え、無実を証明することはできなかった。
結局俺の不注意で穴から落ちたということになり、ナズーリンからは愚か者という大変不名誉なあだ名された。
反論に意味はないと判断して耐え忍んではみたが、30分を越えたあたりからナズーリンは本来の目的を見失っているのではないかと思い、こんなことより先を急ごうと提案してはみるものの「こんなこと」といった表現が気に障ったらしくさらに激昂したナズーリンの説教は伸びた。
そうしてやっと終わったころには二人ともうなだれてトボトボと徒歩で地底を進むほどに疲れていた。
マミ「ナズーリンはおぬしのことを心配しておるのよ。くくく、愛情表現と思っておけ」
ナズ「そこ! 変なこと言うんじゃないよ!!」
マミ「おう、怖い怖い」
324
:
ぬえ
◆ufIVXIVlPg
:2017/07/20(木) 10:06:36 ID:YX8O3/46
文「よく躊躇なく結界に入ってきましたね。普通しませんよそんな行動」
普通はしないだろう。普通じゃないからやったんだ。
射命丸さんは俺の言い分を信用してないためか、いまだに横目でじろじろと見てくる。
まぁ、当り前だよな。素直に受け入れてくれた聖さんたちが特別なだけだ。本当、頭が上がらないな。
男「それにしても、不思議な場所ですね、ここ」
地底は文字通り地の底だった。上も下も、一面岩肌に覆われていて寒々しい。しかしなぜか明るい。
岩肌に生えた光るコケのせいだろう。不規則に灯された青白い炎のせいだろう。
なぜか空に輝く光のせいだろう。
男「なんなんだろうな。この場所」
325
:
ぬえ
◆ufIVXIVlPg
:2017/07/20(木) 10:20:30 ID:YX8O3/46
10分ほど歩いただろうか。あたりを照らす輝きが一層強さを増した。
一面に見えるのは白塗りの壁に朱色の柱。教科書で見たような優美で雅な建物でできた町が広がっていた。
そのどれもが多少の差はあれ、傷ついているが、岩肌で囲まれた空間よりはよっぽどマシだ。
岩肌と町の境目には大きな朱色の橋があり、その下には暗闇が流れている。底にあるのは水か地か。石ころでも投げ入れてみればわかるだろう。
「………誰、それ」
橋を渡ろうとしたときだった。橋の中腹で欄干に両腕を乗せ黄昏ていた少女がちらりとこちらを一瞥して声を投げかけてきた。
少女の髪は金色で目は深い緑色。それだけでも目立つ風貌だが顔の横にある耳は人間のものと違い尖っていた。
文「これはこれは水橋さん。奇遇ですねぇ」
パル「奇遇もなにも私は橋姫よ? ここにいて当然じゃない。それで、ネズミにタヌキはまだいいわ。誰よそれ」
パル「人間に見えるんだけど?」
そう水橋と呼ばれた少女が首を大きく傾けた瞬間だった。垂れた金色の髪から除く緑色の瞳が大きく揺らいだ。
ゾクリと背筋を震わすのは今まで何度も体験した殺気。今思えば人それぞれで持つ殺気の種類が違う。
彼女が持つ殺気は心を掴まれ地の底へ引っ張られるようなとても不気味で恐ろしいもの。
素直に殺されるんだと思わせた萃香のものとは対照的で、先の見えないおどろおどろしいものだった。
326
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2017/07/20(木) 23:05:06 ID:d7sU2Dtw
支援
327
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2017/07/21(金) 18:55:43 ID:WAgTHoPI
紫煙
328
:
ぬえ
◆ufIVXIVlPg
:2017/07/22(土) 13:22:58 ID:a1AQiFo.
文「あやや、落ち着いてください。これにはわけがありまして」
パル「この危ない時に外から人間を連れてくるわけって何よ。食料?」
射命丸さんの弁解甲斐なくいつのまにか指の間に挟んだ五寸釘を携え水橋がさらに歩みを進める。
彼我の距離はざっと5メートルほどまで迫っている。ゆらゆらと揺らぐ緑色の瞳の奥まで覗けるほどの距離。
ナズ「話を聞かないなんて。これだから嫌われものなのさ」
パル「ドブネズミとタヌキの害獣共が良く言うわね。煮ても焼いても臭くて食えたもんじゃないくせに」
ナズーリンの悪態に言葉を返す。ナズーリンは少し顔をしかめたがそれ以上悪態をつくことはなかった。
マミ「ぽんぽこタヌキは商売繁盛の人気者じゃて。まぁ、それはよい。大事なのは我らが何かではなくて、我らが何をするかじゃろう?」
パル「舌を斬って四肢を落とせば関係はないわ。貴方たちが善であれ悪であれ私たちは変化を望んでないわ」
話は通じない。百篇言葉を繰り返したところでおそらく止まらない。排除するという意思に対して話し合いを求む努力は不毛なようだ。
更に距離は詰められ2メートルほど。踏み込み腕を振るえば簡単に届く距離。距離は敵意の高さと反比例している。つまりこの距離は一触即発というわけで俺たちの間に緊張が走る。
男「分かった。手錠でも縄でもなんでも」
パル「斬りおとす方が早いわ」
最後の交渉は決裂。釘が地底の光を受け、鈍色に輝く。雰囲気は濁りあたりの臭いが変わる。戦いの雰囲気に周囲は呑まれ―――
「止まりな、パルスィ」
329
:
ぬえ
◆ufIVXIVlPg
:2017/07/22(土) 13:35:18 ID:a1AQiFo.
この場を制したのは俺たちでも水橋でもない猛る風と共に現れた第三者だった。
そいつに遅れ一層強い風が俺たちの体を押す。転ばないように踏ん張っていると俺の右手を引いてそいつが支えてくれた。
見ると長い金色の髪。それよりも目立つのは体格と額から生えた朱色の角。顔だちと過剰な胸のふくらみがなければ俺は男と思っていただろう。
身長はおそらく2メートル近く、肩幅も俺より太い。大きさは原初からある強さをはかる基本的な物差しだ。そんな彼女からなぜか俺は体格がまったく違う萃香を感じ取っていた。
パル「なんで止めるのよ、勇儀」
勇儀「ありゃあ誰が見たって止める。血みどろ沙汰は勘弁さ。酒が不味くなる」
今なお距離を詰めようとする水橋の頭を大きな手で押さえ制する。水橋は数度頭を動かそうとしたが諦めて釘を橋の下へと放り投げた。
パル「鬼のくせに」
男「あんた鬼なのか?」
とっさに反応してしまい、口走る。突然の言葉に勇儀が目を丸くしていた。
勇儀「あぁ、鬼だけどそれがどうかしたか?」
男「いや、萃香の」
と言った瞬間に気づく。
俺と萃香の関係性について説明ができないと。言い換えようにも萃香の名前を取り繕うことはできない。
勇儀は更に目を丸くして、そのあとにかっと大きく笑った。
330
:
ぬえ
◆ufIVXIVlPg
:2017/07/22(土) 13:39:19 ID:a1AQiFo.
勇儀「なんだい、萃香の知り合いかい!」
そういってぽんと頭を叩く。
しかし動作とは裏腹にその衝撃は重く軽く前のめりになってしまった。
マミ「で、通してくれるのかね?」
勇儀「拒む理由はないねぇ。それじゃあまず出会いの一献」
マミ「酒を拒む理由があるから勘弁願いたい」
勇儀「そりゃあ残念」
ナズ「なんだかよくわからないけど丸く収まったのかな」
文「みたいですねぇ」
331
:
ぬえ
◆ufIVXIVlPg
:2017/07/22(土) 14:26:42 ID:a1AQiFo.
恨めしそうな目で水橋に見送られ、勇儀さんに連れられ街道を進む。
地底では人間の姿は珍しいらしく、周りの妖怪からはじろじろと見られていた。目立つ理由はそれだけではないだろうが。
文「どうもありがとうございます勇儀さん」
勇儀「パルスィは融通が利かないからねぇ。門番としては正しいのかもしれないけど窮屈で退屈だろう?」
まぁ、嫌いじゃあないけどねと勇儀さんが付け加える。
俺はどうも好きになれないタイプだったが、その懐の広さは鬼特有のものか。
勇儀「しかし地底に用事があるならそこの射命丸にでも言伝を頼めばよかっただろう?」
ナズ「その予定だったのさ。だけど直前でこれが私達を謀って逃げてね。いやぁ、困った困った」
ナズーリンが悪戯染みた口調でそう言ったとたん、勇儀さんの足が止まり
勇儀「あん?」
呼吸が止まるほどの殺気が辺りに噴き出した。
文「あややややや、こ、これはですね」
勇儀「嘘をつくやつ、約束を破る奴は、私は嫌いだね。それがただの他人ならまだよし、まさかぁ私が目をかけてやったお前がそれをするとはなぁ」
文「り、りだっ―――」
眼にもとまらぬ速さで逃げようとした射命丸の足首を勇儀が眼がくらむほどの速さで捕まえる。
332
:
ぬえ
◆ufIVXIVlPg
:2017/07/22(土) 14:32:03 ID:a1AQiFo.
勇儀「仁義は通しな。先にさとりのところへ行って話をつけてくるんだ。いいね?」
文「は、はいぃっ。今すぐ行かせてもらいますっ!」
勇儀「よし、なら行って―――こいっ!!」
射命丸さんが逃げようとした方向とは逆方向に勇儀さんが射命丸さんの体を放り投げる。錐もみ回転したのちに蛇行しながら射命丸さんは飛んで行った。
勇儀「これでよし、と」
ナズ「ふぅ。少しは気が晴れた」
男「大丈夫なのかあれ」
ナズ「腐っても射命丸 文だよ。問題ないさ」
そういって笑うナズーリンに対し、やはり性格に難ありと首を縦に振った。
マミ「それでは、さとりのところへ向かうとしようか」
333
:
ぬえ
◆ufIVXIVlPg
:2017/07/22(土) 14:50:29 ID:a1AQiFo.
勇儀に連れられ更に進んでいく。街の風景はどんどん変わっていき、辺りは白壁から木造の建物が目立つ、あまり人間の村と変わらない風景になっていた。
勇儀「不思議かい? 妖怪のための場所がこんなに人間くさいだなんて」
男「えぇ、まぁ」
妖怪が人間より遅れた生活をしているとは思わない。だがしかしそれでもここはあまりにも人間染みていた。
勇儀「前までは人妖まみえる場所だったのさ。古明地当主さとりの手によって温泉が出来てから」
勇儀「そのころは平和で愉快だったさ。騒がしいのが好きな私達にとっちゃあいい場所だった」
こんなことになるまではねと付け加える勇儀さんの表情は物悲しげだったがすぐに表情を改めた。
マミ「おう、見えてきたぞ男よ。あれが地底が誇る温泉宿じゃ」
マミゾウが指差した先に見えたのは予想よりも立派で大きな宿だった。
マミ「さて話をつけにいこうかね」
話をつけに行こう。
かつて命を奪った負い目はあるが、今度は彼女を、皆を生かすために。
334
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2017/07/24(月) 10:32:02 ID:AzVP0jCs
支援ぬ
335
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2017/07/26(水) 01:52:58 ID:19.D4ZFw
始園
336
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2017/08/06(日) 00:33:35 ID:DvokWNrs
支援
337
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2017/08/15(火) 20:54:51 ID:mFE7nkno
紫焔
338
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2017/08/20(日) 21:06:52 ID:asIs4i2g
支援
339
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2017/08/21(月) 18:32:37 ID:u0dlETkE
安価スレだった頃から数えてもだいぶ経ったな…最初のスレからしたら尚更…早いもんだ
340
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2017/08/27(日) 23:29:50 ID:QqDRCM4s
時が経つのが早いなと思った(小並感)
341
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2017/08/30(水) 00:15:39 ID:phkufThI
支援
342
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2017/08/31(木) 00:43:50 ID:IEnbyyYs
支援
343
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2017/09/06(水) 05:49:03 ID:/PSy6drE
支援
344
:
ぬえ
◆ufIVXIVlPg
:2017/09/07(木) 22:54:46 ID:m.FE6kXk
こんな時でなければ感嘆の声をあげていそうな立派な玄関に入るとそこは閑散とし、人気を感じさせなかった。
辛うじて灯りは積もっているがそれでも薄ぼんやりとで、足元が十分に見えないほどには暗い。
不気味というよりはどこかもの悲しさを覚える空間だ。客足が途絶えてかなり経つのだろう。床には薄く埃が積もっている。
本当にここに? と疑問を投げかけてしまいそうになるほどには日々を過ごすに不適当な場所。
しかし勇儀さんと射命丸さんは先に進んでおり続かないわけにはいかない。埃まみれになるのが嫌そうな顔をしていたナズーリンの手を引いて進む。
靴を脱いで上がったため、足の裏はすぐにザラザラと不快な感触を覚える。前を行く二人を見れば靴を履いていたため脱がなくてもよかったのかもしれない。
屋敷の廊下は人気を失い活発さを失った見た目とは裏腹にかなりしっかりとしている。妖怪のために頑丈にしているのだろうと関係ないことを思った。
しかし見れば見るほどにここがどれほど力を入れて作られているのかが分かる。本当にこんな時でなければよかった。
どうやら見た目にふさわしく広いようで、何度も廊下を曲がりながら奥へ進んで行く。途中見えた厨房も立派なもので、煮炊きしかできない寺とは大違いだ。
掃除をすれば活動拠点としてこれ以上ないものになるだろう。そのためには話を通すことが重要だ。
何を語ろう。何を話そう。いや、相手は心を読むのだから関係はない。
嘘を付けない。誤魔化せない。
口先だけで今までを乗り切ってきた俺にとって相性の悪い相手。
一番心配なのは前の世界を知られることだ。
きっと、さとりにとって心地よいものではないはずだから。
345
:
ぬえ
◆ufIVXIVlPg
:2017/09/07(木) 23:12:39 ID:m.FE6kXk
対策なんて当然取れないまま、ようやく目的の部屋についた。
そこは襖ばかりの旅館の中で唯一の木製の扉だった。文が控えめに扉を叩くと、中からか細く誰かと尋ねる声が返ってきた。
文「あやや。貴方なら訊ねなくてもわかるでしょう?」
そう苦笑しながら文が扉を開ける。中の空気は暖かく、そして濃く甘い伽羅のような香りがした。
勇儀「それじゃあ私はここいらで失礼するよ」
さとり「…あら、勇儀も来てたのね。つれないじゃない。私から逃げるなんて」
勇儀「この話し合いに私は必要ないだろう? あるのはこいつらだけさ」
むんずと勇儀さんが胸元を掴み部屋の中へ押し入れる。手をほどくのを忘れていたナズーリンもつられて部屋の中へ入り、絡まった二人は床に尻もちをついて倒れた。
さとり「そう、あなたが………」
部屋の中では赤い重厚そうな椅子に座っているさとりがいた。
紫の髪の色は変わりないが、前見た時と違って痛んでおり、気怠そうな瞳の下には濃く大きいくまができていた。調子がよさそうには思えない。
さとりはちらりと俺を見た後、左手に持った煙管を大きく吸い、ゆっくりゆっくり、細く煙を吐きながら最後にため息と一緒に吐き出した。
甘くそしてほろ苦い香りが強くなる。どうやらこの香りはその煙管のものらしい。狭い部屋ではない。この部屋に充満するほどとはどれほど吸っているのだろうか。
346
:
ぬえ
◆ufIVXIVlPg
:2017/09/07(木) 23:32:14 ID:m.FE6kXk
さとり「心配してくれてありがとう。でも妖怪だもの。この程度じゃ死なないわ」
もう一度深くさとりが煙管を大きく吸い込む。
濁った瞳は俺を捉えているのかどうかが分からない。見ている気もするし、ここではないどこかを見ている気がする。
瞳自体は別物だが、どこかさきほどの少女と同じ印象を抱かせる。
文「また寝てないんですか? 妖怪は丈夫と言いましても精神はそうではないのですよ?」
さとり「寝れないわ。寝れないのよ。大丈夫、まだ健康よ。なにも問題はない」
その言葉は射命丸さんに返したものなのだろうか。俺には自分自身に言い聞かせてるように思える。
文「それでは少年さんも心配するでしょう。睡眠不足でそんなもの吸ってちゃ倒れてしまいますよ」
さとり「大丈夫。私がこんななのはここだけ。あの子は知らないわ。それよりもお話に来たんでしょう?」
さとりが座ってる対面の椅子を顎で示される。椅子は一人用で三人では到底座れそうにない。誰を座らせようかと考えたがどうやら指名されているのは俺だけらしい。
さとりの三つの瞳にじっとりと見られながら席に着く。
ナズ「いや、待っておくれよ。そいつはただの人間さ。話なら私やマミゾウが」
さとり「あなたはお客様じゃないの。私のお客様はあなただけよ。男」
さとり「話はあまり得意じゃないの。口下手でね。だから見せてくれるかしら。貴方の心」
訊ねてはいるが有無を言わせぬじっとりとした陰鬱な迫力があった。俺は断ることもできずに少し頷き、さとりは少し大きく目を開け俺を見つめた。
347
:
ぬえ
◆ufIVXIVlPg
:2017/09/07(木) 23:35:18 ID:m.FE6kXk
直後、さとりの手から煙管が落ちる。
ジュッ
毛足の長い絨毯が焦げ、煙管の火が消える。
瞳は大きく開かれ上下左右にせわしなく揺れ、青白かった顔はさらに血の気を失っていく。
だらりと下がった腕はわなわなと振るえ、震えた歯が触れ合ってかちかちと音を立てる。
明らかに正常ではない反応に射命丸さんが心配そうに近寄った瞬間。
絶叫が辺りの空間を裂いた。
348
:
ぬえ
◆ufIVXIVlPg
:2017/09/07(木) 23:46:07 ID:m.FE6kXk
想定できていたため、とっさに耳を抑えることに成功する。
しかし手で覆っても頭の中に響くその叫び声をもろに受けた射命丸さんはのけぞり、ナズーリンは白目を向いて気絶した。
咳だけでなく血をも噴き出しそうなほどの激しい声。それを止めたのは帰ろうとしていた勇儀さんだった
勇儀「おい!? どうしたさとり!? 大丈夫かさとり!? おいっ、おいっ!?」
その巨躯でさとりさんを抱きしめ背中を撫でながら呼びかける。叫び声は勇儀さんの体である程度阻まれ不快なくらいには低減したが続いてあふれ出した涙と嗚咽と鼻水が勇儀さんを汚していく。
想定はしていたが、心が揺れないわけじゃない。
かつて敵であった少女が苦しむ姿を見て何も感じないわけじゃない。
あぁ、やはりこうなってしまったかと頭を悩ませる前にすべきことが何かあるはずだと立ち上がろうとした時、射命丸さんに腕を捻られ床へ叩きつけられた。
文「やっぱりあなたは」
マミ「待ったっ!」
間にマミゾウさんが入ってくれ、どうやら怪我を負うことは避けられたらしい。しかし射命丸さんの視線は鋭く、勇儀さんもさとりさんを宥めながら怒りを含んだ視線をこちらへ向けてきた。
マミ「これには事情があるんじゃ。さとりが落ち着くまで待ってくれんか」
勇儀「こいつがここまでなるんだ。ろくな理由じゃないね」
にべもなく打ち切られる会話。一触即発のその状況でマミゾウさんは座り込んで、顎を大きく上に向けた。
マミ「納得いかなかったら儂の首をくれてやる。この男も、そこのネズミも好きにせい」
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