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イラスト・SSスレ
1
:
無限遠かなた
:2011/07/17(日) 00:32:30
稼ぎましょう。
2
:
空憂 愛
:2011/07/17(日) 00:40:35
空憂 愛 キャラ説
*泡-BUBBLE-
両親は、金に狂っていた。
愛は貧しい家庭に生まれる。
◇
「将来、俺がせってぇ幸せにしてやる!」
男は女にそんな約束をした。
男は女の兄であり、女は男の妹であったが、二人は互いに互いを愛し合っていた。
周囲の視線を撥ね付けるように、男は懸命に努力する。
勤勉。その言葉がよく似合う人であり、女も、そんな男を甲斐甲斐しく支えていた。
しかし、生活は一向に豊かにならず、それもあってか、二人はまるで、互いに互いを慰めあうかのように愛を紡ぎ合っていった。
「すまん」
男が女に謝る。男の名は、亜貴、女の名は有為という。
有為は赤ん坊を抱いていた。赤ん坊の名は愛。二人は愛の両親だった。
有為は微笑む。
「まだ、お祖父ちゃんから借りたお金があるから」
しかし、亜貴の顔は深刻だ。彼には仕事がない。
以前まで働いていた町工場は、有為とのことが噂になり、退職を勧告された。
亜貴は必死に工場に残れるよう掛け合ったが、周囲の視線は冷たかった。
噂は尾ひれをつけて、瞬く間に広がる。もはや、この町に亜貴と有為の居場所は無かった。
「本当に、すまん」
亜貴は有為に頭を下げる。いや、下げることしかできなかった。
3
:
空憂 愛
:2011/07/17(日) 00:42:20
>>2
「……クソッ」
亜貴は独り公園で呟いた。
空には満月が輝いている。夜風が冷たく彼の頬を撫でた。
日中、面接を受けにあちこちをまわったが、どこの会社もその反応は芳しくない。
小さな町だ。どこに行っても、亜貴は有為との関係について尋ねられた。亜貴はなんとかそれを濁そうとしたが、かえって不信感を抱かれ、さらに言及された。
言及されれば、正直に話すしかない。なぜなら、亜貴は、有為との関係を否定したくなかった。
自分たちは間違ったことはしていない。
亜貴はそう固く信じることで、妹との関係を正当化し、この貧しく辛い生活の中で自分を保つことができていた。
(どうして……! どうしてなんだよ……! 俺たちが何したって言うんだ……!)
だが、亜貴も気づいてはいた。自分たちはまだ若く、現実は甘くはない。だが、それを認めた瞬間、有為との関係は終わりを告げる。
彼らの両親は、車の事故で亡くなっていた。彼らは祖父の元に身を寄せることになったが、祖父と両親は互いに絶縁状態であった。祖父は両親に対してと同様、亜貴と有為に対しても冷たく当たった。一緒に暮らすことさえ拒んだ。そして、祖父は二人を屋敷から追い出し、二人に学校の側にあった古い空き家を買い与える。
二人はまだ学生であり、二人っきりではさすがに生きてはいけない。そのため、祖父は最低限の学費と生活費は毎月、使いのものに渡すよう申し付けていた。
だが、その額は文字通り最低限であり、二人が目いっぱい節約してようやく食べていけるかいけないかという額だった。
二人は祖父に、頭を必死に下げ、共に暮らせるよう頼んだ。そんな二人を、祖父は嘲り、容赦なくあしらった。そして、自分の住む屋敷には、二度と顔を出すことが無いよう命じた。
亜貴と有為は、一つ屋根の下で二人きりになった。
二人の関係は、このときから狂い始める。ただの仲の良い兄妹でしかなかった二人が、これをきっかけに互いを異性として意識し始め、男と女になった。
有為が亜貴の子を妊娠していると知って、祖父は待っていたと言わんばかりに二人を勘当した。
そして、二人に無断でアパートを引き払い、彼らの居場所を奪う。
絶望する二人に、祖父は金を貸した。返す必要はない、という言葉を添えて。
それは、二人を思いやっての餞別などでは決してなく、単なる手切れ金としての意味合いしかなかった。そのときの、祖父の自分たちを蔑むような眼差しを見て、亜貴と有為は、祖父と決して分かり合うことなど出来ないと悟る。
亜貴と有為の関係は、祖父の手によって、学校にも広まっていた。学校は有為に、亜貴の子を堕ろすよう告げる。
しかし、学費も払えず、これから先の見通しもない彼らにとって、我が子は希望だった。
亜貴と有為は高校を退学し、祖父の手から逃れるようにして、遠くの町で暮らし始めた。
亜貴は大学への推薦が決まっていたが、それを蹴って有為と暮らす道を選んだ。
二人の幼馴染であり親友であった男は、亜貴の代わりに有為の面倒を見てもいいと言ってくれた。その男は信用のできる友であったが、亜貴は一点においてその友を信じることができなかった。
親友は、有為のことを愛していた。また、有為も自分と関係を持つ前は、親友に対して恋心を抱いていた。
亜貴は不安だった。
有為が自分から離れて、親友の元に行ってしまうことが。
その不安は無意識なものであり、亜貴はその不安に気づけなかった。そのため、責任と強情を混同し、親友の提案を蹴った。
4
:
空憂 愛
:2011/07/17(日) 00:42:40
>>3
(お金がいるんだ……! 俺は父親なんだ……!)
愛の将来のためにも、貯蓄をしておきたい。しかし、今の亜貴の収入では、どれだけ切り詰めても貯蓄などする余裕はない。
アルバイトでも何でもすれば、収入の面では何とかなるかもしれないが……。それでも将来の不安は残る。まだ幼い愛を残して、一人出稼ぎに行くわけにもいかない。
それに有為は、母親だが、まだ自分からすれば子どもだ。できるだけ自分が側にいて、有為の心の支えになりたい、と亜貴は考えていた。
しかし、この現実を前に、あれもこれもとなすには、亜貴もあまりにもまだ子どもだ。
亜貴は今になって、有為を受け入れてしまったことを後悔しそうになる。
本気で頑張ればなんとかなる……そう考えていた。祖父の言葉が蘇る。
『お前みたいな若造に何ができる?』
祖父が正しかったのかもしれない。
だが、その祖父の言葉を受け入れていれば、今頃、有為を、そして愛を抱きしめることはできなかった。
そう考えると、やはり祖父の言葉は受け入れられないのだ。
(何、考えてんだよ)
亜貴は自分の中の弱い心を打ち消すように、大きく声を張り上げた。
こんなことじゃダメだ。
頭ではそう分かっている。しかしこの先いったいどうしたら……。
亜貴は頭を抱える。そのとき、視線の先に、何か紙切れのようなものが落ちているのに気づく。
亜貴はそれを拾い上げた。
(何だこれ?)
よく見ると、それは宝くじだった。日付を確認すると、恐らくまだ期限は切れていない。
(……これも運試しか)
亜貴はそう思い、それをポケットに入れる。
一万でも当たっていれば、そんな些細なことを祈りながら。
5
:
空憂 愛
:2011/07/17(日) 00:43:03
>>4
・
・
・
(夢じゃないッ! 夢じゃないんだッ! 俺たちは見放されてなんかいないッ……!)
亜貴は全力で家へと走っていた。
その手には、あのとき拾った宝くじの券が、固く握られている。
亜貴は思った。これで、有為と愛を幸せにしてやれる。
早く、有為にこのことを伝えたい!
興奮のあまり、亜貴は早まる気持ちを抑えられなかった。
そこには一千万があった。
有為も亜貴も、その大金を前にしたとき、この先、自分たちの将来に疑いを抱かなかった。きっと、このお金さえあれば、自分たちは幸せになれる。
だが、彼らの信じた幸せなときは、わずか三年のうちに泡のように消えた。
何が悪かったのかを数え上げればきりがない。、
彼らはその大金で、夢のような贅沢を堪能した。
もちろん、初めのうちはその使い方も可愛らしいものであったが、日が経つにつれてしだいにエスカレートして行く。有為と亜貴は、まるで湯水のようにその大金を使い始めるようになった。
泡銭の一千万など、ちっぽけな額であった。
彼らは豪遊の果てに、その一千万を、わずか二年のうちに使い切る。
有為と亜貴の勤勉さは、所詮、極貧の環境の中でそうせざるを得なかったというだけに過ぎなかった。
「今日は、何しようか」
二人は、もう元の勤勉な生活に戻ることができなかった。
二人は愛の親であると同時に、まだ遊びたい盛りの子どもでもある。今まで我慢していた分、遊ぶ楽しさをようやく知った二人が、以前のような生活に戻るのは容易ではなかった。
「私、お腹空いちゃった」
「なら、いつもの店でご飯にしよっか」
亜貴はサイフの中身を見た。
「あ、またお金借りなきゃ……」
6
:
空憂 愛
:2011/07/17(日) 00:43:22
>>5
喫茶店に亜貴と有為は来ていた。
テーブルを挟んで二人の正面には、男が座っていた。
「もう、いい加減にしろよ」
その男は、二人に冷たくそう言い放つ。その男は有為と亜貴の、古くからの親友だった。そんな彼がこんな風に、自分たちを突き放すなんて。彼の言葉を聞いた二人は、信じられないとでも言いたげに顔を見合わせる。
「おいおい。困ったことがあったら、頼ってくれってお前が言ったんじゃないか」
亜貴は男にそう言う。男は有為の頬をちらりと視線を送る。
男は有為のことが好きだった。
男は、亜貴の「有為を必ず幸せにする」という言葉を信じて、有為を亜貴にまかせた。
「僕は、お前を信じてたんだぞ……」
男は悲しそうな目を亜貴に向ける。
これで、四度目だった。
初めて、亜貴に頼まれた額は三万だった。それから二週間もしないうちに五万。そして、その三日後に十万。今回は……。彼は、二人を信じて金を貸した。だが、どんどん堕ちていく二人を前にして、男はもう二人を信じられなくなっていた。
聞いた話によると、自分以外の同郷の友にも、金を借りようとしたらしい。
「俺も、お前を信じてるさ。それに、十万や二十万、お前なら安いモンじゃないか」
しかし、男の悲痛な気持ちも一切考えず、亜貴はしれっとそんなことをのたまう。あげく有為を抱き寄せ、
「二人目を作るんだ……。金がいるんだよ」
と笑った。
男は有為の方を見た。有為はぽけーっと、亜貴に身を委ねている。
そこに、かつて男が愛した有為の姿はなかった。
「僕の愛した有為も、亜貴も、もうッどこにも、いないんだなッ……!」
男はそう呟き、すっと立ち上る。亜貴は慌てて、男の袖を掴んだ。
「金は?」
男はその言葉に、深いため息をついた。
「本当に、いい加減にしてくれ……」
「親友だろう? なんとかしてくれよ。お前、金持ちじゃないか」
「……」
男は掴まれた袖を無言で払った。
そして、そのまま会計を済ませて喫茶店を出て行く。
「お腹、空いた」
有為が亜貴に縋る。
「……クソッ」
亜貴は窓ガラスの方に目をやる。その向こうに見えた、男の背に彼は舌打ちした。
7
:
空憂 愛
:2011/07/17(日) 00:43:45
>>6
「有為はここで待ってろ」
暗闇の中、亜貴は有為にそう告げた。
有為は頷く。
亜貴は、ナイフを握り締めている。
亜貴と有為は、男の住むアパートの一室の前に来ていた。男は浪人生であり、現在は独り暮らしをしていると、亜貴は以前本人から聞いていた。
インターホンを鳴らす。亜貴はドアの向こうに耳を傾ける。
どたばたと、ドアの向こうで物音がした。そして、男は何も知らずに玄関のドアを開ける。
「――――!?」
かつての友を前にして、亜貴は何の躊躇いも見せなかった。
亜貴は男の喉元にナイフを突き刺し、その喉を縦に引き裂く。それは一瞬の出来事だった。亜貴はまるで男を押し倒すがごとく、そのまま男の部屋へと押し入る。
男が信じられないという表情で亜貴を見つめているにもかかわらず、亜貴は口元を笑みで歪ませていた。
「ざまぁ、ないな」
と男を吐き捨て、男を置いて亜貴は部屋の奥へと向かう。鮮血が男の喉元から、噴水のごとくあふれ出す。
男は何事かを精一杯叫ぼうとしたが、その喉からゴボゴボと空しい音だけがするだけであった。
亜貴は男の部屋の中を見渡す。
質素な部屋だった。最低限、生活に必要なものしか見受けられない。
机の上には、ノートや教科書らしきものが広げられている。
やけに物が少ないため、目的のものを探すのにも、そこまで苦労はしなかった。
「……あった」
亜貴は男の鞄の中から、分厚い茶封筒をいくつも見つける。その中には五〇万を超えるだろう額の大金がいくつも入っていた。
「やっぱ、お前ん家、金持ちじゃん」
亜貴はそれを手にして、男の元へと引き返す。男は何かを懸命に伝えようともがいていた。
だが、亜貴は男に対して。止めと言わんばかりにナイフを突き落とす。
男はかつての親友にいったい何が起こったのか、それすら理解する間もないまま絶命した。
亜貴は、血溜まりに沈んでいる男のその肩を叩き、一言だけ、
「ありがと」
と呟いた。
8
:
空憂 愛
:2011/07/17(日) 00:44:11
>>7
「おかえり」
男の部屋から出た亜貴を有為が出迎えた。
亜貴は有為の手を握る。
「邪魔が入るまえに逃げちゃおう」
亜貴がそう言うと、有為はちらっと男の部屋のドアを見た。
そして、
「うん」
とだけ頷く。
二人は手を繋いで走っていた。
「なんだか、楽しい」
有為が笑う。
「俺もだ。なんかドラマみたいだな」
亜貴も笑った。
「どこまでも行けそうだね」
「どこまでも行こう、二人で」
二人は、互いに固く手を握り合い、立ち止まって唇を重ねた。
・
・
・
「きっと来るから大丈夫だよ」
保育士のお姉さんは、そう微笑んでいた。
窓ガラスの向こうには暗闇が広がっている。
周りには、愛とその保育士のお姉さんしかいない。
「まま、ぱぱ……」
愛は心細げにそう呟いた。お姉さんは愛の手をそっと握る。
だが有為と亜貴の二人が、その晩、愛を迎えに来ることはなかった。
翌日も、その翌日も、愛は待ったが、二人揃って再び愛の前に姿を現すことは決してなく――。
亜貴だけがその後、無残な惨殺死体となって、愛によって発見される。
9
:
空憂 愛
:2011/07/17(日) 00:45:45
空憂 愛 キャラ説
*犠牲 -SACRIFICE-
今日は快晴。気持ちのいい空だ。
いつもの日常、何の変化もない単調な日々。目の前には、仲良しの友達がいる。
「まったく」
無警戒としか言い様がない。その後姿に私は憤りを覚えた。
そっと忍び寄り、私は彼女との距離を縮めていく。そして、にゅっと両手を彼女に伸ばした。
「おはよッ」
「ひゃぁぁあああああっ!」
彼女は声を上げ、びくんッと全身を震わせた。
「な、ななななななななn、何すんのぉッ!?」
彼女はそう声を発すると、私の手を胸から引き剥がしてしまう。無理矢理。
あーあ。
私は思わずそう呟く。
その言葉を聞いて、彼女はかんかんだ。
私は単に、おはようの挨拶をしただけだよ……?(笑)
あ、ちなみに私が胸を鷲掴みにした彼女の名は、水橋 瑞穂。私はみずっちと呼んでいる。
10
:
空憂 愛
:2011/07/17(日) 00:46:12
>>9
「むむむ、この手にすっぽり収まる感じがいいのにぃ!」
「ふ、ふざけんなァ!」
「そんなこと言って、嬉しいくせに……」
「う、嬉しくなんかないッ!」
みずっちはそうは言うものの、顔が真っ赤だ。私はにやにやと笑みを浮かべて見せる。
そんな私を見て、みずっちは、わなわなと震えた。
「ねえ、愛ちゃん」
「なぁに、みずっちぃー?」
みずっちは、ゆっくりと私に詰め寄ってくる。ほんと可愛いやつだぜ。
「知ってる? それされるのってねぇ、すっっっごい恥ずかしいんだよッ!!」
そう叫ぶや否や、みずっちは私に飛び掛った。
それを予想していた私は、華麗にそれをかわして見せる。
「へへーん! 悔しかったらやり返してごらんなさい〜。できたらだけどねぇ〜」
私はみずっちに背を向けて駆け出した。みずっちは慌てて私の方に手を伸ばすが、空しく空を切った。
「ま、待てェ!」
背後を振り返り、私はみずっちが追いかけてくるのを確認する。彼女の速さに合わせつつも、追いつかれないように走る。
みずっちとの差は大分ある。
「ふふん。この私に追いつこうなんて、百年――……」
ふと道の先に視線を戻す。黒塗りの高級車が目に入った。
私は思わず立ち止まる。
「――つ、つかまえたぞッ! って、どうしたの?」
みずっちは私の肩ごしに道の先を見た。黒塗りの高級車が、道の真ん中に駐車している。
じっとその場で様子を伺っていると、車のドアが開いた。体格のいい男二人が、中から出てくる。黒のサングラスに黒いスーツと見るからに怪しい。
私はみずっちの方を見た。
「みずっちは先、学校に行っててよ」
その言葉に、みずっちは心配そうに私の顔を覗き込む。
「大丈夫なの?」
そう言うので、私はへらへらと笑って見せた。
「えー、心配しすぎだよ?」
しかし、みずっちは、なおも暗い表情を見せている。すでに黒服の男らは、私たちのすぐ側まで来ていた、だが、彼らは話しかけてくるでもなく、ただじっとこちらを見つめている。それが一層、薄気味悪い。
「私の、せいだよね」
「みずっち……」
みずっちが俯く。私は居た堪れなくて、みずっちをぎゅっと私は抱き寄せた。
「なに言ってんの? みずっちは私の大切な親友だもん。そんなこと気にしないでよ」
「……」
「それに、あいつらはみずっちのことが無くても、最期の最期まで、私の能力について知ろうとしたよ」
「愛ちゃん、でも……」
「もうッ、そんな暗い顔ばっかしてると、さっきみたいに襲っちゃうからね!」
みずっちは顔を上げる。みずっちの瞳は揺れていた。
私なんかのために、そんな表情をしてくれる。私はそんなみずっちが大好きだった。
みずっちは、ふるふると顔を左右に振り、袖で自分の顔をこする。
「わかったょ……。私先行く、学校でね!」
「うん」
みずっちは、チラッと黒服を睨み、そして、一気にその横を駆け抜けて行った。
みずっちの姿が見えなくなったのを確認して、私は黒服に向き直る。
「おまたせー」
そう言うと同時に、額に銃口が向けられた。
「ついて来てもらおう」
私は思わずため息を吐く。
「レディーに対して、そんなエスコートの仕方って無いんじゃない?」
「抵抗すれば撃つ。ただの脅しではない」
黒服はそう言いながら、引き金に指をかけた。
「のりわりぃー」
先程のより、いっそう深くため息を吐いた。
改めて、私は黒服に向き直る。
「例の件に関しては、会長さんとこの前、直接会った際、これっきりにして欲しいと丁重にお断りを入れたと思いますが」
「会長は、お前の能力を必要としている。これは会長の命令だ」
「私の意志は尊重されないんですか?」
「これは会長の命令だ」
「あなたたちの意志も……?」
黒服は私の肩を無言で押す。私はつんのめり、黒服の方を見上げた。
「立て」
手を差し伸べるでもなく、そう告げる。
「もっとさぁ、やり方ってもんがあるんじゃないの?」
そう言うが、黒服の返事は無かった。
全く、死の迫った老人というのは、かくも扱い辛いものなのかね。
11
:
空憂 愛
:2011/07/17(日) 00:46:36
>>10
「よく来たね」
目の前の老人は、好々爺のような笑みを浮かべている。
「何の御用でしょうか?」
私は改まって尋ねる。
「何、君にとっては簡単なことさ。わしの病を治して欲しいんだ」
「……これが、人に物を頼む態度でしょうか?」
私の後頭部には、未だに銃口が向けられていた。
「ふふ、君はこうでもしないと、わしの頼みを聞いてはくれんだろう?」
「こういうのを脅しって言うんですよ」
全く、恐ろしい人だ。この好々爺とした笑みの裏に、この人はどれだけの血を浴び、それを隠しているのだろうか。想像したくもない。
「わしにはまだ、この日本のためにも、やらなくてはならない仕事があるのでな。報酬はいつもの倍だ。文句はあるまいな?」
恩着せがましい。こういう物言いをする人間は嫌いだった。
日本のためと言いながら、結局は自分の今の地位を維持することしか考えていない。
「そこにトランクがあるから持っていくがいい」
老人が部屋の隅を指差す。黒いトランクが一つ転がっていた。
イラッと来た。
12
:
空憂 愛
:2011/07/17(日) 00:47:30
>>11
私の能力『d-drager』は、病を引き起こしている病魔を顕現させて引きずり出し、実体化させるだけの能力だ。
人や獣を治したりできるのは、彼らを物理的に対処、もしくは対話によって納得させることができればの話。能力の本質そのものではない。
病魔は人を内側から食い殺す化け物。
その力に強弱はもちろんあるが、病院で治療できる程度のものなら、わざわざ私のところになどやっては来ない。
こいつらが、私に治せと命じる病は、老人がかなりの高齢であるという点もあり、私一人で処理できるキャパシティをはるかに超えた化け物ばかりなのだ。
彼らは、本来、生き物の内に引きこもり、外界に出ることを好まない。
そのような化け物を、無理矢理引きずり出して、事情を言って聞かせたところで、素直に私の言うことなど聞きはしない。
それどころか、彼らはきっとその矛先は、私に向けるかもしれない。
私は黙って化け物に喰い殺されるか、彼らに私という新しい寝床を与えてやるしかない。
そうじゃないにしても、別の誰かが犠牲になる。
どれにしても、割に合わない。
この老人にも、このことは以前に説明した。それに、治した結果どれだけの犠牲が出るかについては、この老人だって今までのことから把握しているはずだが。
黒服の男が、トランクを拾いあげ、その中身を私に見せた。
札束がぎっしりと詰まっている。
ちらっと老人の方を見ると、老人はどうだという顔つきで私を見ていた。
私はつかつかと、黒服に歩み寄り、黒服が手にしたトランクを床に叩き落とした。札が宙を舞い踊る。
私は、キッと老人を睨んだ。
「報酬なんかいりませんので、あなたの今の地位を捨ててください」
「バカを言うな」
老人が鋭い目で私を見る。それでも口元に作られた笑みは崩れていない辺りが、この老人の厚顔さを物語っている。
黒服が私の頭に銃口を強く押し付けた。
老人は言う。
「出来損ないから生まれたような小娘が、調子に乗りよって」
撃鉄の鳴る音が頭の中に響く。
「お前は、黙ってわしを治しさえすればいいんだ」
むかつく。
こいつむかつく。
「なんで私があんたのために命をかけなきゃなんないの? 調子に乗ってんのはあんたでしょ。ふざけんなッ。あんたなんか死んじまえよ!」
私はただひたすら言葉を続けた。
「今、ここで生き延びても、あんたはもう長くないよ。死を怖れて先延ばしにしたところで、死神はあんたの喉元に刃をすでに突き立ててる。あんたは結局、死ぬしかないんだよッ!!」
私の言葉を聞き終え、老人はにっこりと私を見た。
「もう満足か? で、治すのか、治さんのか? お前の選択はどっちだ?」
老人はじっと私を見つめる。
「……」
「さあ、決めろ」
老人が迫った。
こんなところで、こんなやつに殺されたくはない……。
私に選択肢は無い。
13
:
空憂 愛
:2011/07/17(日) 00:47:55
>>12
その建物の地下には、だだっ広い空間が広がっていた。黒服の男が何十人とそこにはいた。
「普段はここで野球でもしてんの?」
冗談でそう尋ねるが、黒服の男たちの返事はなかった。
「小娘は死なせるな。これからも役立ってもらわなくてはならん」
老人がそんなことを言う。
銃口は未だに私に押し付けられている。これについては、脅しではない、と。
老人が目の前に座っている。その頭を小突きたくなる衝動を堪えて、老人の左胸に掌を当てる。ずぶッと私の手が老人の身体の中に埋まっていく。
(……あ、いた)
容易にそれは発見できた。発見するのは楽だ。発見が楽ということは、それだけでデカいということ。つまりヤバいやつだ。
「いいの? これ、引っ張り出しちゃって?」
私に銃口を向けている黒服に尋ねるが、彼は無言だった。
「これ、前のよりずっとヤバいから。止めるなら今のうちだよ……?」
背後に控えている黒服たちにもそう投げかける。しかし、彼らの返事はない。
老人が私の手首を掴む。
「いいからやれ」
「なッ……! ダメだって――!!」
止める間もなかった。老人は私の手を自分の胸から引き抜く。
病魔は……決して宿主を襲わない。
病魔たちは話していた。
――我らにとって宿主は世界だ。
その言葉が意味するもの。それは、病魔たちは宿主たちを殺すべく、存在している訳ではないということ。
だが、病魔たちは強大であればあるほど、その性質はエゴイスティックとなっていく。
顕現した病魔は、宿主を積極的に殺すことは無いが、宿主を生かすために自己を犠牲にすることもない。
ただし、転移によって、顕現した病魔が宿主を替えれば、元の宿主がその病魔によってそれ以降蝕まれることはなく、その病自体がまるで元から無かったかのように全快する。転移先の宿主に、その状態が引き継がれることになるが。
一番、安全なやり方は、要するに立ち退きだ。しかし、強大な病魔は、エゴイスティック。こちらの話すら聞こうとせず、顕現した瞬間、暴れまわる。
14
:
空憂 愛
:2011/07/17(日) 00:48:19
>>13
手が引き抜かれた刹那――。巨大な質量をもった何かが、私の全身を激しく打ちつけた。あまりの衝撃に、私は宙を舞う。
眼下には、巨大な黒い影が広がっていた。牛のような二本の角を持つ巨体の病魔。
黒服たちの悲鳴と爆音とが反響する。
だから言ったんだ。
そんなことを思うと同時に、宙を舞っていた身体は地面に叩きつけられた。
「……ッ痛ゥ……」
体中が痛い。
眼前では、黒服たちが懸命に戦っている。
やつらは死ぬ気だ。何せあいつらは……。
私は立ち上がり、彼らに背を向けた。
「私は、付き合ってられない」
独り言のようにそう言い残し、私は出口へ向かって走り出した。
――私が命を懸ける理由なんて無いから――
「大丈夫?」
その言葉に目を開ける。
みずっちが私の髪を撫でていた。
上体を起こそうとして、全身に痛みが走る。
「あ、じっとしてていいよ」
みずっちが慌ててそう促す。周りを見渡すと、可愛らしいぬいぐるみがたくさん飾ってある。
ここは――みずっちの部屋だ。
「午後の授業が始まっても来ないから、心配になって戻ったんだよ」
私はあの後、なんとかあの屋敷から抜け出ることが出来た。そして、痛みを抱えながらも、なんとか元いた場所までは戻ってこれた。
しかし、戻ってこれたのはいいが、そこで気を失ってしまったらしい。
頭がくらくらする。
私はかけ布団で顔を半分隠した。
「……みずっちの匂いがする」
みずっちは恥ずかしそうに微笑んだ。
「もう、何言ってんのー?」
「……みずっち、愛してるぜ」
ちょっとキザっぽい感じでそう言って見る。
「もう、そんな状態で言ったって、全然カッコよくなんかないよー?」
みずっちは顔を真っ赤にして俯いた。
そうは言っておきながら照れてるみずっちが可愛くて、私はみずっちをだた黙って見ていた。
そうして生まれた長い沈黙の後、お互いに顔を見合わせ、プッと噴出しあう。
「私たち、バッカみたい!」
みずっちがお腹を抱えてゲラゲラ笑うので、
「違うよ、本当にバカだよ!」
私はそう言ってやる。
ここが、好き。この空気が大好き。
「みずっち、だいすきだぁーッ!」
私は起き上がり、ぎゅっと彼女を強く抱きしめる。
たった、それだけのことで、身体中の痛みがまるではじめから無かったかのように、すぅーっと引いていくように感じられた。
「よしよし、いい子いい子」
そんな私をみずっちは優しく迎え入れてくれるから。
だから、ここが私の居場所。
15
:
空憂 愛
:2011/07/17(日) 00:49:03
空憂 愛 キャラ説
*Disease Drager
毎日がつまらなかった。
ここはまるで牢獄のように感じる。
「『お嬢様』」
黒服が私を呼んでいる。
「なに?」
「会長がお呼びだ」
・
・
・
――『お嬢様』、お呼び「だ」、か。
いくら何でもこの言い方は無い、と前から思っていた。
ここに来て、もう半年が経つ。
この屋敷にいる誰もが、私に対して敬語を使わない。それでいて、形の上ではお嬢様と呼び、豪華な部屋を与えている。
堅苦しいのは嫌いだ。
だけど、この人間は誰もが、蔑むような目で私を見ている。
16
:
空憂 愛
:2011/07/17(日) 00:49:25
>>15
目の前には老人がいた。実際にはモニターがあり、そこに老人が映し出されているだけだが。
老人のその態度こそ、まさにこの屋敷に仕える人間全ての、私に対する態度の全てを代表しているのだ。
彼は私にとって曾祖父にあたるらしいが、私は彼を曾祖父と思ったことはない。
私にとって、こいつはただの老人だ。
「何か御用ですか?」
私は白々しくそう尋ねる。なぜ呼ばれたのか、そんなことは分かっている。
『いや、用というほどのものじゃないさ』
老人は好々爺のような笑みを浮かべていた。他者を欺き続けているうちに、その表情が、顔に貼りついてしまったのであろう。こいつは、好々爺などでは決してないと、私は断言できる。
モニター越しでしか会話をしないという点でも、信用するに値しない。
『さすがのワシにも我慢の限界というものがある』
老人は優しげな声でそう続けた。
小娘と思って、私を侮っているのが毎度毎度見え見えだった。
「我慢も何も、私をここに閉じ込めているのは、あなたではないですか?」
はっきり言って、こんなやり取りは茶番だ。
私は両親に捨てられ施設にいた。
施設での生活はそれなりに楽しかったし、友達も多かったから、不満があってもそれほど辛くは無かった。
だが、ある日、私は魔人として覚醒する。
それ以来、世界が一変した。やつらが、私の前に現れた。
会長と呼ばれる老人と、黒服の一味。私の曾祖父を名乗り、私の存在を知っていながら、今の今まで私の存在を黙殺していたやつ。
もし私が魔人でなかったら、もし私の能力が老人の役に立つものでなかったら、老人が私に接触することはなかっただろう。
老人は私の能力を、具体的に知りたがっている。それゆえに、老人は私を施設から追いやった(引き取った)。そして、私をこの屋敷に閉じ込めている。
老人は小さく息を吐く。
『一つ覚えておくがいい』
老人の目がカッと開き、その眉間にしわが走った。
『ワシはワシの役に立たない人間は必要としない。役に立たない道具を長く置いておくつもりはない』
老人がそう言い終えると同時に、モニターは暗転した。
黒服が私の肩を掴む。
「終わりだ。行くぞ、『お嬢様』」
「いい加減、その『お嬢様』っての、本当に止めてくれないかな? バカにされてるみたいでイヤなんだけど」
私は声を荒げてそう訴えたが、黒服の答えは無言だった。
17
:
空憂 愛
:2011/07/17(日) 00:49:49
>>16
◇
「みずっち、おっは!」
私はみずっちの部屋を訪ねていた。
老人はみずっちの養父だった。私と同じように、みずっちも老人に引き取られ、ここに閉じ込められている。
だが、老人はみずっちを愛してはいない(私についても同様だが)。
「おはよう、愛ちゃん」
みずっちは何も知らない。
私の能力のことも、老人の思惑も。
「具合、大丈夫?」
みずっちは病気だった。それも深刻な病で、治療は難しいらしい。
老人はみずっちの養父なのに、莫大な資産が有るくせに、みずっちを治療しようとはせずに、ただ彼女を囲い込んでいる。
もし私が自分の能力で、みずっちを治療すれば、みずっちは助かる。けど、そんなことをすれば、老人の思い通りになってしまう。
(ごめん、みずっち)
私は彼女のこけた青白い手を見て、罪悪感に駆られる。
みずっちは日に日に弱っていく。
老人はみずっちを決して助けはしないだろう。老人は私を試しているんだ。
「あんたは、どうしたらいいと思う?」
無駄だとわかってはいても、つい黒服に話しかけてしまう。
黒服はやはり答えない。
予想はしてても、やはりムカつく。
「ねえ、あんたしゃべれないの!? それともしゃべらないの!?」
そう、声を荒げたが、黒服は何の反応も見せなかった。
そうこう悩んでいる間にも、みずっちはどんどんやつれていく。
このまま、放っておいたら、きっと。
18
:
空憂 愛
:2011/07/17(日) 00:50:11
>>17
・
・
・
「会長がお呼びだ」
黒服が部屋に入ってきて、私にそう告げた。
「はいはい」
いい加減、このやり取りにも飽きる。
いつも通りに不平を言いながら、黒服にモニターの前まで連れて来られた。モニターの電源が入る。すると突然、黒服は無言で、私に対して踵を返した。
「どこ行くの?」
驚いてそう呼び止めるが、黒服は返事をせず、そのままどこかへ行ってしまう。
来るなと言っても、いつもはついて来るというのに……。何か怪しい。
モニターに視線を向けると、老人がいつものように笑っていた。
もはや、あの笑顔だけで腹立たしい。
「何か御用ですか?」
私は尋ねる。
『いや、今日は一人かい?』
見てれば分かるだろ。
そう思うが、それを口には出さなかった。こいつは分かってて言ってるんだ。恐らく何かを企んでいるに違いない。
「何か用ですか?」
「いや、何。たまには曾孫の顔でも拝みたくなってな」
「はぁ。そうですか、なら帰ります」
こいつと話すことはない。
私は老人に背を向けた。何が『曾孫の顔を拝みたい』だ。黒服の後を追おう。嫌な感じがする。
そう思ったのもつかの間、老人が私を呼び止めた。
『そんなに慌てなくてもよい』
私は首だけ振り返り、老人を不審の眼差しを向けた。
私の疑念を見て取ったのか、老人はほっほと気が抜けるような笑いを上げる。そして言った。
『あの娘のところへ行くつもりなら、お前が行くまで、何も起こらんさ』
その言葉で背筋が凍るのを感じる。私は、一目散にその場から去り、みずっちの部屋へ向かう。
『言ったはずだろう? ワシはワシの役に立たん人間はいらん、と』
部屋を出る間際、そう言って笑う老人の声が聞こえた。
19
:
空憂 愛
:2011/07/17(日) 00:50:38
>>18
「みずっちッ!」
私はみずっちの部屋のドアを勢いよく開ける。
「早いな、『お嬢様』」
そこには黒服がいた。
「な、なにしてんの……?」
「見て分からないか?」
黒服の口元が邪悪に歪む。
目の前にはみずっちがいた。みずっちは、シーツをぎゅっと握り締め、目に涙を湛えながら私を見つめた。
「み、みずっち……?」
「近づかない方がいい」
駆け寄ろうとする私に対し、黒服はそう告げた。やけに饒舌だ。こんなにしゃべるこいつは今まで見たことがない。
黒服は二丁の銃を両手に携えていた。
一方は、みずっちの右の肩に向けられ、もう一方はみずっちの口腔に突っ込まれている。
「ふ、ふざけんな……! みず――」
私が声を上げた刹那、その言葉を遮って、銃声が室内に鳴り響く。
「――――ッ!!」
みずっちがくぐもった悲鳴を上げた。
みずっちの肩から、どくどくと鮮血があふれ出していく。
「や、やめろよッ!! みずっちは――」
再び、私の声を遮って、銃声が鳴り響いた。
弾丸が、今度はみずっちの左掌を貫く。
その痛みにみずっちはもがき、黒服の腕の中で暴れ出す。
それに対し、黒服は舌打ちをし、次はみずっちの左足へと銃口を向けた。
「大人しくしていろ。まだ撃たれ足りないか?」
みずっちはその言葉に、ぴたっと硬直し、ガタガタと震えながら目を瞑る。
20
:
空憂 愛
:2011/07/17(日) 00:51:04
>>19
「……ふ、ふざけんなよ……!」
私は黒服を睨んだ。
そんな私を見て、黒服はにこりと笑った。こんな風にこいつは笑うのか。それは、あの老人と同じ笑みだった。
「さあ、こいつを治してみろ」
黒服は私に迫る。
わ、私は……後ずさった。
「そ、そんな能力、私には……無い……!」
なんとかそう搾り出す。
だが、当然黒服は、そんな言葉では引き下がらない。
「そうか、なら、こいつには死んでもらうしかないな」
黒服はそう言って、みずっちの口腔に突っ込まれている銃の撃鉄を引いた。
「…………運がいいな。一発目は外れだ」
みずっちの頬を伝う涙が、私の胸を締め付けた。
「や、やめてよッ……! みずっちは関係ないでしょ?」
三度目の銃声が鳴り響いた。
「あ……あぁ……」
見ると、みずっちの左足も血に染まっていた。
「み、みずっちが、死んじゃうょ……! や、やめてよッもう!!」
私の制止を無視して、男が無言で、右足にも銃口を向けて、撃鉄を鳴らした。
すでに、みずっちに意識は無く、彼女は白目を向いている。
「ぁあ……、や、やめ……!!」
動揺する私を、黒服は鼻で笑う。
「病床の身とはいえ、こいつも魔人だろ? この程度じゃ、死にはしないさ」
21
:
空憂 愛
:2011/07/17(日) 00:51:24
>>20
「……ふ、ふざけんなよッ!」
いくら何でも、こんなに撃たれて血を流したら、いくら魔人でも死んでしまう。
ただでさえ、みずっちは病気が身体が弱ってるんだ。
「ふざけてるだって? そう思うのは自由だが、このままじゃぁ、こいつはもう時間の問題だな」
「……クッ……」
為す術がない。
「何をうな垂れている。証明すればいい。『お嬢様』のその能力が、本物なら、こいつでな」
黒服は不敵な笑みを浮かべた。
こいつは、このまま私が何もしなければ、間違いなくみずっちに止めを刺すだろう。
みずっち。
死なせたくない。
こんな死に方させたくない。
だけど、いまさら?
私はみずっちを助ける手段を持っていながら、今まで何もしてこなかったのに?
みずっちはそんな私をどう思うだろうか? 最低なやつだって、思うに違いないんだ。
男がみずっちの首根っこを掴み、歩み寄ってくる。
「私はッ……!!」
言いかけて止まる。
「私がどうした? 殺すのか?」
男がみずっちの首ねっこを掴み、私の眼前に突きつける。
みずっちの血が私の頬にかかった。
その瞬間だった――みずっちの顔と、ぱぱの死に顔が重なる。
22
:
空憂 愛
:2011/07/17(日) 00:51:46
>>21
怖い。
ようやく気づく。何が私をここまで躊躇わせるのかを。
私は自分のこの能力を、他者に使うことで、いったいどのような事が起こってしまうのかを、本能的に知っている。
だけど、私はそれ以上に、みずっちを失うことが恐ろしい。ずっとずっと恐ろしい。
私は、こんな苦しんで、こんな酷い死に方をするみずっちを見たくない。
みずっちと、もっと一緒にいたい。
その気持ちは、嘘じゃない。誤魔化しなんかじゃない。
私は、みずっちが好きだから、みずっちを助けたい。
「……そんなに見たいなら、見せてあげるよ」
気づけば、私はそう言っていた。
恐ろしさが互いに鬩ぎ合うあまりに、私はやけになっていたのかもしれない。
「そうだ、それでいい」
黒服は笑う。そして、みずっちの口から銃を引き抜いた。
私はみずっちを黒服から庇うように抱き寄せる。
「みずっち」
彼女の胸にそっと手を添えた。
みずっちの周囲は彼女の血で真っ赤に染まっている。
病院に行ったところで、もはやどうにかできる状態ではなく、だが、このままでは間違いなく失血で死んでしまうだろう。
それでも、私が能力を使えば、きっと助けることはできる。だけど、どう助ける?
ちらりと黒服の方を見る。
黒服は未だにこちらへ銃口を向けている。
23
:
空憂 愛
:2011/07/17(日) 00:52:06
>>22
私はみずっちの胸の中に、手を埋めていく。
しかし、個人的には少し気味の悪い光景だと思うが、それを見ても黒服は、表情一つ変えない。
「ねえ、一つ聞きたいんだけど」
手を埋めながら、黒服に尋ねる。
「なんだ?」
「私は自分が魔人だと明かした覚えはないんだけど、どうして私が魔人だって気づいたの?」
私の疑問に、黒服はふんっと笑った。
「会長は『お嬢様』が施設に引き取られたときから、自分にとってお嬢様が有用な存在となるか否かを調査していた」
「調査って……」
「その調査を通して得られた、あらゆるデータを総合的に判断した結果、会長は『お嬢様』を魔人と判断したのさ」
道端で倒れていた小動物とかに、能力を用いたことがあった。
みずっちにはそのことを話したが、彼女がこいつらと通じているとは思えない。
誰も周囲にはそのときは、いなかったと思うが、こいつらがずっと調査していたというのなら、そのころから私を影から見張っていたのかもしれない。当時は、こんなことになるなんて思わなかったし、ありえるかもしれない。
しかし、そんな昔から見張られていたかと思うと、気分が悪い。
「…………私にはさ、プライバシーも無いの?」
私はあの老人のことが嫌いだったが、殺意までは覚えていなかった。しかし、今なら、私はあの老人を何の躊躇いもなく殺せると思う。
「で、その後、どうするんだ?」
黒服が尋ねる。
「病魔を見つけたら、それを掴んで、この手を引き抜く。そこからが、始まり……」
だとは思う。
実のところ、私は人に対して、自分の能力が発動したことがない。
具体的に、どのような手順を踏むのかについては、魔人として目覚めたとき、頭の中にイメージとしてすうっと湧いては来たけど。
どんな化け物が引っかかるか検討もつかない。
「いた」
意外と簡単に見つかった。二匹いる。
しかし、この、嫌な感じは……。
「早くしろよ。死んじまうぞ」
黒服は私を急かす。
いったい誰のせいだと思っているんだ。私は男を睨んだ。
ただでさえ蒼白だったみずっち顔には、もはや生気すら感じない。
クソッ。
私は、みずっちの中にいた"何か"を、思い切り引きずり出した。
24
:
空憂 愛
:2011/07/17(日) 00:52:25
>>23
「あッ?」
黒服がぽかんと天井を見上げた。
――夜があった。
一瞬のうちに、そこは夜へと変わる。
「――え――……!?」
夜と一緒に、宙空には、二つの巨大な目玉が浮いていた。それは、ぎょろぎょろと視線を動かし、私と黒服を見比べる。
こいつらが、みずっちの中にいた、病魔……?
常世のごとき"闇"の病魔と、巨人のごとき"目玉"の病魔。
私が今まで見てきた病魔とは何かが決定的に違った。
過去に私が助けた小動物たちの中にいたのは、握れば潰れる様な病魔たちばかりだった。
だけど、こいつらは明らかに、それらとは決定的に何かが違う。
悟る。こいつらは『不可避の死』だ。
みずっちの怪我は、すでに手後れだった。
みずっちの病は治すのが困難だった。もしかすると、みずっちはこの病で死ぬ運命だったのかもしれない。
「うおぉおお……!」
黒服が銃を掲げた。そして、その目玉に対して発砲を試みる。
パシャンッとそれは、まるでゼリーのように弾けて、周囲に肉片を散らした。二つの眼窩が床の上に転がる。
黒服は緊張からか息を荒くしている。
だがその眼窩の奥から、神経の束がにゅっと顔を出し、新たな目玉を形成していく。
「クソッたれがッ」
黒服は携えていた銃を投げ捨て、懐に手を伸ばす。
――手榴弾。
25
:
空憂 愛
:2011/07/17(日) 00:53:03
>>24
「あ」
私はそう声をあげた。
まさか、この部屋ごと爆破する気か。
「や、やめ――」
だが、私が黒服を制するよりも早く、手榴弾とともに黒服の身体が闇に飲み込まれる。黒服の身体が宙に浮いて行く。
私はただ、それを見ていることしか出来ない。
闇の中で、黒服が悲鳴を上げていた。バキバキッと音がし、彼の身体がありえない方向に折りたたまれていく。
肉の塊となったそれは、ぼたぼたと床の上に落ちていった。
全身が恐怖のあまりガクガクと震えた。本能的に分かる。今迂闊に動けば、間違いなく殺される。「夜」は未だにこの場を支配していた。
暗闇が延々と広がり、目玉はこちらを見ている。
(こんな得体の知れないやつ、どう対処しろって言うんだよ)
掌に汗が滲む。
このままじゃ、きっと、私もこいつに――。
そう思った瞬間だった。
「グギャァァアアアッ――!」
突如、闇の中から獣のような悲鳴が轟く。それは化け物が発した断末魔の叫びだった。
真っ黒な液体が四方八歩に飛散する。
26
:
空憂 愛
:2011/07/17(日) 00:53:30
>>25
恐らく、あの黒服が持っていた手榴弾が、化け物の中で炸裂したのだろう。
まるで霧が晴れていくかのように、闇がすうっと晴れていく。
後に残されたのは二つの黒い球体だけだった。恐らく、あの目玉の病魔は、あの黒い体液を、間近で浴びてしまったのだろう。
その二つの球体は、まるで何かを探すかのように宙を彷徨いながら、ぎょろぎょろと視線を走らせていた。
(もしかして、目が見えていない?)
私は目を伏せ、押し黙った。
自分の心臓の音だけが、どくんっどくんっとはっきり聞こえる。どれほど時間が経っただろうか、私はちらっと視線を上げる。
息を呑む。あの球体が、自分のすぐ目の前に浮かんでいた。
じっと、まるでこちらを伺っているかのように動かない。
(ごめんなさい)
私は再び目を伏せ、固く目を閉じる。
震えはまだ続いていた。怖い。
早く、早くどこかへ行って欲しい。私には病魔に対抗する手段は無い。
今、こいつは大人しくしているが、もし迂闊なことをすれば、きっと私もあの黒服と同じ目に合うだろう。
私はひたすら耐えた。
――――。
そのとき、誰かの囁くような声が聞こえた。
私は、恐怖のあまり目を開けることができない。
――――。
27
:
空憂 愛
:2011/07/17(日) 00:53:49
>>26
その声は微かであるが、確かに私の耳元で囁かれている。
気が遠くなるような、そんな気がした。
逃げ出したいという衝動に、身体が支配されていく。
それでも、私は逃げなかった。
すると、しだいにその囁き声は遠のき、やがては聞こえなくなった。
恐る恐る目を開ける。球体の影はもうなかった。
「お、終わった……」
腰が抜ける。
今の今まで、心臓を掴まれていたような気さえする。
「……みずっち」
みずっちは何事もなかったかのように、すやすやと眠っていた。
ベッドからは血の跡も無く、蒼白だったその顔にも生気が戻っている。
恐らく、あの病魔は転移を行ったのだろう。
病魔を取り除く方法は二つある。一つは、物理的に排除する方法。もう一つは病魔自身に、宿主を替えさせる方法である。
前者はまさに実力行使であり、後者は対話によって行う。
だが、一度物理的に排除しようとした病魔に、対話は通じない。もちろん、小型の病魔であれば、こちらの実力を持って、話を聞かせることはできるが、今回は私の方が圧倒的に実力不足だった。
宿主の死とともに、病魔たちも消滅する。
顕現させられた直後は、基本的に血が上っている彼ら病魔であるが、冷静に考えれば、病魔たちは宿主とともに滅びるよりも、宿主を次々に替えていった方が、長く存在できる。
今回、あの"夜"の病魔の体液によって、あの目玉の病魔は視界は封じられていた。
それによって、我に返り、自ら転移を行ったのかもしれない。
転移の対象に私を選ばなかったのは幸いであるが、もし、あのとき動いていれば、恐らく私に転移していたことだろう。
28
:
笹元ころも
:2011/07/17(日) 02:16:09
陣営用のSS・イラストスレはもう表に立てられてるみたいなんで、こっちはシクレ用に頂いていいですかね?
解除前のシクレの正体に関わるような応援はこっちに貼っといて、解除されたら誰かが表にドバっと貼りましょう!
というか、私が自分のSS貼りたいだけなんだよね←
【笹元ころも プロローグSS ふたりの秘密】
十数年前、とある病院にて、全く同時に二つの命が生まれた。
佐々木羽衣と、宮本衣織。
運命の赤い糸で結ばれし、二人で一人の少女――
「おそいよ、いおりちゃん! そんなんじゃ、おいてっちゃうよ!?」
「ふええええん! まってよ、ういちゃあああああん!」
好奇心旺盛で行動力もあるが、他人の都合などお構いなしに突き進む羽衣。
引っ込み思案で流されやすいが、全てを包み込むような優しさを持つ衣織。
二人の両親は親友同士で家も隣同士。生まれた時から二人が共に育つことは既に決定されていた。
「ほら、もう! あんたをいじめた男子はあたしがとっちめたから、もう泣いてんじゃないわよ!」
「ぐすっ、ぐすんっ……羽衣ちゃん、いつもごめんね……ありがと……」
いつでも、どこへいくときも二人は一緒。クラスもずっと同じで、互いの家で頻繁にお泊まりし合った。
二人は、まさに一つの存在であるが如く生きてきた。
やがて二人も成長し、ついに初潮を迎える。「性」に目覚めるときが訪れたのだ。
その「性」の萌芽の矛先が互いの最も近しい存在に向いてしまったことは、きっと極々自然なことであったのだろう。
「衣織っ……! ああっ! 可愛い衣織っ、あたしだけの衣織っ――!」
「羽衣ちゃん、はやくっ……はやくきてえっ……! 切ないよう――!」
二人は、最初は恐る恐る、慣れてきたら貪るように――そして今では互いの想いを確かめるように、幾度となく躰を重ねてきた。
毎夜の蜜月の中で、その絆の名を「友情」から「愛情」へと変化させながら、二人は愛を育んできた。
時は流れ、二人が高校生になったある日のこと。
破天荒娘・羽衣が唐突に切り出した。
「ねえ、衣織……希望崎、行きたくない?」
「……ええええええ!? 希望崎って、あの『ダンゲロス』!?」
慈愛少女・衣織が驚愕したのも無理はない。
私立希望崎学園――戦闘破壊学園ダンゲロスと言えば、凶悪なる魔人たち跋扈せし天外魔境。
一年前、好奇心旺盛すぎる羽衣は進学先を希望崎にしようとしていたが、珍しく衣織が強く反対し譲らなかったため、渋々現在の女子高へ進んだのだった。
「あそこ、最近も二回おっきいドンパチあったそうなんだよね……楽しそうだよね……!」
「ダメだよ羽衣ちゃん! 私たち、魔人じゃないんだよ!?」
そう、あくまでも二人は人間。
魔人学園に人間が入り込むとどうなってしまうかなど想像に難くなく、それゆえに衣織はかつてもそう言って羽衣を止めたのだった。
だが、今回は――瞳の中に満点の星空を描いた今回の羽衣は、誰にも止められなかった。
「あーっ! もうガマンできない! ダンゲロスに行くわよ、衣織!」
「いやあああああああ、やめようよ羽衣ちゃあああああああああん!」
泣き叫ぶ衣織を引きずりながら、煌めく像を残し疾走する羽衣であった。
29
:
笹元ころも
:2011/07/17(日) 02:16:40
「いい? 絶対にバレちゃだめだからね!?」
「私よりも自分自身に言い聞かせてよね、羽衣ちゃん……」
どこで手に入れたのかも定かでない黒尽くめの変身グッズに身を包み、果たして二人は希望崎に潜りこんだ。
武器も、途中でゴミ捨て場に置いてあったのを引っ掴んできただけの物干し竿と洗濯ばさみである。実に心もとない。
ともかく二人は、覆面を着用した羽衣を衣織が肩車し、あたかも一人の魔人であるかの如く振る舞っていた。
その名も、笹元ころも。
二人で一人であることの証左。絆の具現化。愛の結晶。
「あの人、壁に向かって独り言してるよ……」
「すげえ中二力だな……話しかけると殴られそうだし、そっとしておこう」
周りの連中もその威容に気圧され、二人と会話を試みる者もあまりいないようであった。
そうしているうちに、いつの間にやら「美人らしい」「中二力も高いらしい」「でもすごい美人らしい」などと勝手なイメージが先行してしまっていた。
ただ、中にはそんな独り歩きした噂に惑わされてしまった者もいたようだったが――
「ころもちゃあああああああん! 俺と一緒にイイコt――」
「くたばれ!」 バコーン!
「ギャース!」
――このように、二人の息の合った連携により撃退されていた。
このナイスなコンビネーションは、二人が一緒に長い時を過ごしてきたことの賜物でもあったが、それだけでなく、この戦いに身を投じてから、二人は特別のトレーニングを行っていた。
すべては彼らのような不届き者から身を守るため、そしてこの死闘を生き抜くためである。
「……へへへ、コンビネーション、だいぶサマになってきたじゃんね!」
「はあ、はあ……私は、すごく疲れるんだけど……」
「確かにあたしたち、持久力はないかもだね……足が止まってるところを狙われちゃいけないから、こう、やられる前にババーンと分裂してビックリさせたいよね!」
「ぜえ、ぜえ……なんでもいいよ……」
「でもやっぱ殺されるのはヤだし、危なくなる前から分裂できるよう準備しとこっか。その時はさ、劇的にやりたいから廊下でみんなに見せつけてあげよーよ!」
「ひい、ひい……廊下と教室のちがい、わかんないよ……」
二人のトレーニングは、放課後の空き教室にて行われた。
正体がばれたら何をされるか分かったものじゃないから出来るだけ目立たぬようにという理由での選出であったが、魂胆はそれだけではなかった。
誰もいない教室で、やることだけはしっかりとやっていたのである。
「ひゃあんっ……羽衣ちゃん、そんなトコ舐めたらっ……!」
「んふふ、舐めたらなんだってぇ? 聞こえないなあ♪」
荒い息遣い。零れる衣擦れ。幽かな水音。
甘やかな、密やかな、二人だけの時間と空間。
「……衣織ったら、ぴくぴく震えちゃって……きひひ、かわいいぜ」
「あうう、だって……こんなときに、こんなところで、なんて……誰かに見られちゃったら、どうするの――ひうっ!」
「そんなこと言って、いつもより気持ち良さそうじゃないか……あんた、実はこういうの好きなの?」
「やああっ、言わないでったらあ……羽衣ちゃんのばかあ……!」
周りに魔人が蔓延っているというシチュエーションのためか、はたまた四六時中互いの体温を感じられるためか、二人は平常よりも熱く、激しく、濃厚に乱れた。
そして、訪れる絶頂――!
「「 っ、あああああんっ!! 」」
快楽の果てへと達し、身を寄せ合いながら肩で息をつく二人は未だ気付いてはいなかった――己が躰に漲る、何か不思議なチカラを。
常識を逸脱した存在たちが産み出す瘴気渦巻く空き教室で行為に及んでいたせいであろうか、一時的にではあるが、二人にも魔人能力の片鱗が見え隠れしていたのである。
脱力し床に寝転がり、空を見上げる少女たち。
その瞳には、一体何が映っているのか――?
「ねえ、衣織……」
「……なあに? 羽衣ちゃん」
「……もし、無事に帰ったらさ」
「……うん」
「――イチャイチャしよっか」
「ずっとしてたでしょ!?」
いつもの空き教室に飾られていた百合の花は、例えようもなく美しかった。
願わくば、この一輪の華が、永久に枯れぬよう―― <終>
30
:
しお
:2011/07/17(日) 14:16:26
シクレ内容に抵触しそうなんで、一応こっちで。
「今回のハルマゲドンは、厳しい戦いになりそうね・・・」
「ならば、やはり彼女を」
「私たちには、あの娘が必要なの・・・」
----------------------------------------------------------
―ハルマゲドン開始、数か月前―
結昨日商(ゆきのあきな)は、謎の手紙によって生徒会室に呼び出されていた。
(わたし、何か悪いことしたっけ・・・?)
普段でこそ能力を悪用して小金を稼いでいる彼女であるが、能力の詳細は一部の人間にしか教えていない。
無害な魔人を装ってハルマゲドンを回避してきた自分が、何故このタイミングで・・・?
扉の前で思考を巡らせていると、ふいに後ろから声をかけられた。
「あなたが結昨日商さん?よかったー、来てくれた!とりあえず、入って!」
傍らに少年?を連れた少女―空憂愛(すくいうぇあ)。
彼女の反応からして、目的は『粛清』とかではないようだ。余計に思考が絡まる。
こんな自分が、なぜ?何の目的で・・・?
渦巻く疑念を抱いたまま、生徒会室に足を踏み入れる。
「・・・来たわね」
生徒会室の中には、二刀を携えた少女―無限遠(むげんえん)かなたと、
眼鏡をかけた教師風の女―月読芽九(つくよみめぐ)が待ち構えていた。
「・・・あんたたち、私に何の用?『仕事』なら生徒会長を通して―」
「「「お願いしますッッッ!」」」
「・・・へ?」
あまりに突然の出来事に一瞬、頭が真っ白になった。
(え?何これ?ドッキリ?)
面食らうのも無理は無い。
思考がグシャグシャになる。もう何が起こってるのか理解出来ない。
「ちょ、ちょっと・・・?どういう―」
「申し遅れました。私たち、次のハルマゲドンの為に有用な魔人をスカウトする
『生徒会ドラフト委員』と申します」
「今度のハルマゲドンには、結昨日さんの力が絶対に必要なんですッ!」
「え・・・?待ってよ、だってあんたたち私の能力もしらないでしょ!」
「だいたい察しはついてるよ〜」
「えっ」
「多分この学園の半分くらいの魔人が知ってると思います」
「マジで」
「マジです」
「・・・いや、でももしかしたら違うかもしれないよ?」
「でも、今までのデータからして十中八九あなたの能力は―」
「わーわーわー!だ、だめー!多分正解だからだめー!」
隠してたはずの自分の能力が学園中に知られてると思うとなんとも恥ずかしいものである。
「・・・じゃ、じゃあわたしが役立たずだって分かるのになんで呼んだのよー!」
「えっ」
「えっ」
「・・・いや、だって・・・結昨日家の人でしょ・・・?」
「・・・なんか、こう・・・能力にとんでもない仕掛けとかあったり」
「・・・ないよ。何も・・・」
「・・・あ、はい・・・」
「・・・帰って、いい・・・?」
「・・・一応、いてください・・・」
31
:
結昨日商@やまいち
:2011/07/17(日) 14:47:46
>>30
そこまでやるなら商シクレ解除せずにスタメンに出しやがれよ!
32
:
神有月 空虚@ははは
:2011/07/19(火) 20:00:35
『同能力者の嘆き』
「はぁ、どうしたもんかしら……」
食堂で物思いに耽る少女の名は結昨日商。此度行われるハルマゲドンにて、ドラフト1位で生徒会に指名された少女である。
だが少女は自分がドラフト1位で選ばれるような能力ではない事を自覚していた。
確かに使い方によっては非常に強力である。だが、あくまでも作戦の主軸にすることはできない。そういう能力だ。
だからこそ、ドラフト1位というのは青天の霹靂であった。
「あれ、商ちゃん。どうしたの?」
一人考え事をしてる様子の彼女が珍しかったのか、少年が声をかける。
少年の名は神有月 空虚。商とは学園に入学してからの付き合いである。
「あぁ、アンタね……。実は――」
商は自分がドラフト1位に選ばれたことを話す。ちなみにドラフトは2人がこうして会話をしている間にも続いていた。
「へぇ……。でもまぁ、商ちゃんの能力が強力な事には変わりないんだし、いいんじゃない?」
「アンタが自分でそれを言うのはどうかと思うけど……」
商も空虚も基本的に能力は秘密にしている。だが、2人はお互いの能力を知っていた。
理由は2人の能力でできる事が殆ど同じものであるからだ。性の差を考えなければまったく同じ能力といっていい。
勿論、さすがに能力原理は異なる。商は約束を絶対遵守させる能力で、空虚は現実を書き換える能力だ。
だがそれでも2人は初めて出会った時に直感的に理解した。お互いの能力が同じ結果を齎すものであると。
入学してからの付き合いというのは、その縁が齎したものである。
「で、えーと……今の参戦状況は……」
空虚が小脇に抱えていた名簿を開く。何よりも生存を重視する空虚にとって、誰が参戦するかは非常に重要な情報であった。
ハルマゲドンといった物騒な行事が多々勃発する希望崎学園において、参戦者動向は命に直結すると言ってもいいからだ。
空虚が所持している参戦者名簿は自動的に参戦者の名前が書き込まれるというシロモノだ。空虚はこれを元に自分の能力が一番活きる陣営に潜り込むのだ。
現在も生徒会と番長のドラフト係によるドラフトは続いており、次々と名簿に新たな名が刻まれていく。
「――あ」
番長陣営に参戦することとなったある人物の名前を見て、思わず声を上げる空虚。
何事かと思い、商も参戦者名簿を覗き込んで……同じように声を上げる。
「……げ。まずいわね、これ……」
阿天小路御影。それが2人に声を上げさせることとなった人物の名前である。
商も空虚も彼女のことを良く知っていた。――やはり、入学してからの付き合いがある人物だからだ。
付き合いがあるといっても、あまり良いものではない。何せ、2人とも御影に『卑怯者』というレッテルを貼られているからである。
御影は曲がったことが大嫌いな正々堂々とした勝負を好む魔人である。故に魔人能力もそれに相応しく、召喚されたものを轟音で両断するというものであった。
対する商も空虚も方法は違えど、召喚した者に戦いを任せて自分は逃げる……という能力だ。御影が嫌うのも納得できる話だ。
2人とも能力を秘密にしていたのだが、武人の直感か御影にはやはりバレてしまい、事あるごとに「正々堂々勝負しろー!」と追いかけられている。
勿論その度にそれぞれ能力で身代わりを呼び出し、逃げ出しているのだが……御影の火に油を注ぐこととなっているのは言うまでもない。
そんな関係が入学してから3年生になる今までずっと続いているのだ。
最早、御影は商と空虚の天敵と言っても差し支えない。2人が苦い顔をしたのもこれが原因だ。
「うん、商ちゃん――長いようで短い付き合いだったね。僕はちょっと番長陣営に自分の能力をアピールしてくるよ」
「あっ!? ちょっとアンタだけ逃げる気!?」
「そうだよ。僕の能力は逃げ特化なんだから、逃げてもいいじゃない」
「そうはさせないわよ……! アンタもアタシと同じ生徒会陣営に来なさい!」
立ち去ろうとする空虚をがしっと捕まえる商。
「やめろよ!? 味方陣営に役立たず増やしても意味無いだろ!?」
「敵陣営に強敵を増やさないという意味はあるわ!」
振り払おうとする空虚だが、商は離れない。
男女という違いはあれど、2人の身体能力には差がまったく無いからだ。こんなところまで同じなのであった。
そうこうしているうちに空虚の持つ参戦者名簿に新たに名前が書き込まれる。
――生徒会陣営:神有月 空虚、と。
「あぁぁぁー!?」
33
:
神有月 空虚@ははは
:2011/07/19(火) 20:10:19
せっかく書いたのに普段の癖でsageちゃった(ノ)'瓜`(ヾ)
34
:
無神月ルカ
:2011/07/20(水) 10:16:13
やまいちさん、これ表に張ってもいいですか?
『結昨日商の陰謀』
「うう〜、トイレ、トイレ〜〜」
無神月ルカは小走りに駆けていた。
先程、そこらへんで死んでいた魔人をリサイクルした彼女だったが、はてどうしたことか。今や突然の猛烈なDP意に駆られていたのである。
必至に肛門括約筋を引き締めて、内またでバタバタと小走りしていく彼女。だが、ついに彼女の前に救いの扉が……。
そう、女子トイレが現れたのである!
「た、助かったよぉぉ〜〜」
――しかし。
「入ってまーす!」
「…………!」
なんと使用中! しかも、ここだけではない!!
「入ってまーす!」
「入ってるよー!」
「入ってるってばー!」
全てのトイレが使用中! なんということか!!
ルカは急いで一階上の女子トイレへと向かった。
だが、そこも……!
「入ってまーす!」
「入ってるよー!」
「入ってるってばー!」
さらに三階の女子トイレも同じ! 意を決して向かった四階も同じだ!!
一箇所や二箇所ならともかく、これは到底ありえない事態!
「ひゃ、ひゃああ、も、もうらめぇ〜〜。DP出ちゃう、DP出ちゃうよぅ……」
こうなってはもう背に腹は代えられない。
ルカは男子トイレへと駆け込んだ。しかし、あろうことか……!
「入ってるぜ」
「入ってるってことよ」
「入ってるんだな、これが」
男子トイレまで埋まっているではないか!
「ふんぎぎぎぎぃいい〜〜」
ルカは出口まで差し掛かったDPを必至に抑えて、脂汗を流し、顔を真赤にしてよたよたと歩く。
目的地は職員校舎の職員用トイレだ。そこまで行けばいくらなんでも……。
だが、その時。彼女は信じられない光景を目にした……!
「はーい、みなさん、次はこっちのトイレでーす。はーい、順序良く入っていってくださーい」
なんと、結昨日商が魔人を召喚しまくっては、片っぱしから学園中のトイレに送り込んでいるではないか!
これではトイレが埋まるのも当たり前だ!
「あ、商さん……。一体、何を……」
「あら、ルカさん。ごきげんよう」
商はルカに気付くとクスッと笑いかけた。
「あの……。これは、一体……」
「お分かりにならない? 見ての通り、トイレを埋めてるのだけど」
「な、なんで……そんなことを……?」
「あら、そんなの決まってるじゃない」
商は、顔面蒼白となってぷるぷる震えているルカに近づくと、パコパコと腹パンしながら、
「DP我慢してる女の子が好きだからに決まってるだろ――ッ!?」
「うっ、うぇぇ……」
まさに外道――!!!!
果たしてルカはDPを我慢しきれるのか!?
結昨日商の魔手から逃れ、使用されていない女子トイレを見つけることができるのか!!?
次週へ続く――!!!
35
:
結昨日商@やまいち
:2011/07/20(水) 21:58:06
>>34
俺に許可とるって「あなたのキャラをうんこ我慢顔フェチにしたいんですけどいいですか?」ってことですか?
ダンゲに投稿してるんだしネタキャラになるのは覚悟してるし別にいじられても全然かまわないけど、許可求められても困りますよ。
勝手にしてくださいよw
36
:
無神月ルカ
:2011/07/20(水) 22:31:00
>>35
いやー、この辺りになると、「意図的に貶める二次創作」とスレスレかなーと思いまして。すんません。
37
:
結昨日商@やまいち
:2011/07/20(水) 22:37:55
>>36
いや、だからその判断をキャラ作成者にさせるのはおかしくないですかw?
別に勝手に貼る分にはこっちも笑って済ませられるけど、
俺が許可出したらキャラ作成者公認の設定になっちゃうじゃん。
エロ同人誌描いて本家の作者にこれコミケで売っていいですか?って聞いてるようなもんですよ。
自分の書いた文章が意図的に貶める二次創作かどうかぐらい自分で判断してくださいよw
SS自体は面白かったですよ。
38
:
無神月ルカ
:2011/07/20(水) 23:14:51
>>37
いや、もちろん意図的に貶める気はないんですけど、人によっては怒るかもしれないから危ういラインは
一応全部許可取るようにしてるんです、僕のラインとしては。
範馬慎太郎をホモ設定にした時も許可取りましたし。
まー、でも、この手のネタであまり真面目に議論するのも寒いんで、この辺にしときましょう……。
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