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児童文庫ロワイヤル

1◆BrXLNuUpHQ:2023/11/02(木) 07:41:52 ID:???0



いろんな児童文庫作品でバトル・ロワイヤルするリレー小説です。2スレ目です。
いっしょにリレーしてくれる方募集中、リレーしたくなくても感想レスとかもらえたら企画主が喜びます。

有志の方が作ってくださったまとめウィキです。
https://w.atwiki.jp/jidoubunkorowa/

2◆BrXLNuUpHQ:2023/11/02(木) 07:43:50 ID:???0



【基本ルール】

●最後の一人まで殺し合う
●参加者には毒などを注射する首輪が着けられていて主催者が殺したいなと思ったら殺される
●最後の一人になったら主催者側の仲間になれる(待遇は応相談)
●地図なし
●支給品なし
●能力制限なし
●参加者名簿なし
●装備の没収あんまりなし
●武器の配置あり
●参加者には一枚ずつ初期位置から近い会場内の有力なアイテム一つを印したメモが与えられる(鍵の場所や暗証番号、使い方なども併記)
●主催者は自分が気に食わない展開になったら時間を巻きもどす可能性がある


【書き手ルール】

●参加者は最大366人
●会場は大まかに東西南北4つのエリアに分けられており、参加者は矛盾の無い範囲で自由に登場・移動できる
●参加者の枠を使い切らなくても登場済みの参加者で放送に行けそうだったら放送に行く(二回目以降の放送も同様)
●バトロワ原作の瑞穂みたいな終盤になるまでほぼ未登場のキャラもあり
●主催者が拉致れなさそうな参加者(一般的な小火器で殺害できない・特殊な方法でないと捕まえられないなど)は参戦不可
●殺し合いを破綻させられそうな参加者はマークされていて不審な動きをしたら即首輪が作動しがち
●そもそも主催者側にルールを守る気はあまりない、が、他の主催者側に文句を言われないために不正はバレないように行う
●子供の頃に読んだきりの作品も多いと思うので多少のガバは気にしない
●書き手に修正を求めても受け入れられなかったら、自分で修正してよし
●投下しただけでは仮投下扱い、他の書き手にリレーされたタイミングで本投下扱いに
●2回目のオープニング投下前に投下された本編は原則全て本投下扱いとする
●リレーをしやすいようにSSの文末には以下の書式にのっとった状態表を書く

【キャラ名@そのキャラが出てくる本のタイトル(シリーズの場合はここにシリーズ名)@本が出ている児童文庫のレーベル名】
【目標】
●大目標
●中目標
●小目標



【主催者】

【進行役】
【ツノウサギ@絶望鬼ごっこシリーズ】

【黒幕】
【灰色の男たち@モモ】
【ギロンパ@ギルティゲームシリーズ】
【大形京@黒魔女さんが通る!!シリーズ】
【黒鬼@絶望鬼ごっこシリーズ】
【キャプテン・リン@パセリ伝説シリーズ】
その他企画完結までに発売されたデスゲームものの主催者たち



【企画段階上の真の黒幕候補】

羽入@ひぐらしのなく頃にシリーズ@双葉社ジュニア文庫



【その他】
児童文庫ロワイヤルウィキの設立者さん、私も管理者になりたいので連絡お願いします。

3◆BrXLNuUpHQ:2023/11/02(木) 07:44:12 ID:???0
新スレです。
よろしくお願いします。

4◆BrXLNuUpHQ:2023/12/03(日) 00:01:24 ID:???0
投下します。

5◆BrXLNuUpHQ:2023/12/03(日) 00:04:38 ID:???0



(えーっと、まず警察署に行って双葉ちゃんを五エ門さんに助けてもらって、銀髪の人を神楽さんに殺されないようにしつつ神楽さんを殺さないようにして、で、銀髪の人が警察署にいる二人組を殺さないようにして、えーっと、頭がこんがらがります!)

 地面の少し上を滑るようにほうきに乗って飛ぶゴスロリ少女。黒鳥千代子はべらぼうに急いで警察署へと向かっていた。
 千代子ことチョコは黒魔女である。
 黒魔女を祖母に持ち、魔界一のインストラクターの元で2年間黒魔女見習いとして修行を積んだ。
 という記憶を魔力と共に無くし、更には殺し合いの主催者の手で記憶を封じられ、自分を2年前の小学5年生だと思っていたのを、その殺し合いの主催者こと大形京の手伝いで破ったのがさっきのこと。
 この大形京、今回の殺し合いの発端であり、同時にチョコの同級生でもある。
 そもそもチョコが黒魔女見習いとしてご近所トラブルを解決したり魔界で冒険したりした原因の何割かは大形だ。もちろん今回も大形が暗躍し、いつものようにチョコを巻き込んだわけだが、しかし今回は例外がある。古手梨花を殺し合いに巻き込んだらいつの間にかついてきた上に謎の精神病を主催者たちの間にバラ撒いている梅毒みたいな存在、オヤシロさまによって大形も破滅へと向かっているのだ。
 というわけで封じた記憶を暴かれてまで面倒事を押しつけられたチョコは、すでに100を超える回数、梨花の救出に奔走していた。全ては彼女が発動してしまった時間ループ魔法のせいである。
 このループ魔法、前回と違った自分にならなくては永遠にループし続けるというものだ。というわけでなんとか梨花の救出しなくてはならないのだが、この時の梨花は既に負傷した上に殺し合いに乗っている芦屋ミツルから命を狙われている状況である。つまりほぼ詰みセーブである。

 ここであらためて状況を整理しよう。チョコが達成すべき目標は以下の通りだ。

1、松野おそ松の生存
2、弱井トト子の生存
3、白銀御行の生存
4、四宮かぐやの生存
5、神楽の生存
6、天地神明の生存
7、山田奈緒子の生存
8、うずまきナルトの生存
9、うちはサスケの生存
10、前原圭一の生存
11、園崎魅音の生存
12、古手梨花の生存
13、アスモデウス・アリス
14、吉永双葉の生存
15、宮美三風の生存
16、宮美ニ鳥の生存
17、石川五エ門の生存
18、雪代縁の生存
19、関織子の生存

 以上の19名はチョコの行動次第で生死が変わる人間だ(円とルーミィはチョコが単独行動する限り確実に生存する)。
 チョコがループから抜け出すためには全員が生存していなければならない。
 しかしこれには問題がある。以上の19名は殺し合っているのだ。
 特に警察署内外の人間は些細なことで誰が死ぬかが変わるのでチョコは既に100回以上ループするハメになっている。
 というよりマーダーである雪代縁が神楽や五エ門を殺したり殺されたりするので、彼をどうにかしなければループは終わらない。
 彼ら全員を1時間以上生き残らせる、当然チョコ本人も死んではならない。あまりに困難で絶望的だが、やらなければいつまでたってもループから抜け出せない。それは途中で諦めて10回ぐらい捨て回を挟んだのでよくわかっている。ふて寝して休憩もとれたし魔力も回復した。腹を決めてやるしかない。

「こうなったらやるしかない! とりあえず分身!」

 黒魔女さんのバトロワRTAはーじまるよー(ハーイよーいスタート)

6◆BrXLNuUpHQ:2023/12/03(日) 00:09:10 ID:???0



「ルキウゲ・ルキウゲ・リフレッテーレ!」

 まずは分身魔法ルキウゲ・ルキウゲ・リフレッテーレで分身をうみだします。
 本人と区別するために名前を付けられますが、攻略速度を考慮してデフォルトネームでいきます(当たり前だよなぁ?)

「分身のあたしは北にほうきでダッシュ! おねがいね!」
「任せて本体のあたし!」

 分身魔法で生み出せるのは本人の劣化コピーです。
 チョコが一度に生み出せるのは一人まで、分身も分身を生み出せますが、知能とかなんやらに問題が出てきます。
 なので分身は最低限の人数とし、一人だけを古手梨花の救出へと向かわせます。
 まあ数分以内に爆死するのが決まってるんでどうやっても助からないんですけどね、初見さん(現在時刻1時20分)

「「ルキウゲ・ルキウゲ・ラスタンファスターレ! しりとり! りんご! ゴリラ! ラッパ! パンツ! つみき! きつね! ねこ! こい! いなほ! ほうき! ルキウゲ・ルキウゲ・ロフォカーレ!」」

 次にしりとり魔法ルキウゲ・ルキウゲ・ラスタンファスターレで箒を生み出し、飛行魔法ルキウゲ・ルキウゲ・ロフォカーレで空を飛びます。
 しりとり魔法はしりとりで物を生み出す魔法です。便利な魔法ですが、場にそぐわない物は出せません。たとえば冬にスイカを出そうとするとスイカのビーチボールが出てきます。
 今回は箒なので出せましたが、チョコはしりとりで『ほ』が最後に来る言葉がなかなか出てこず、ループの最初の方ではしりとりを10分以上やってたり諦めて街で箒を探したりしていました(3敗)
 現在は短いルートを見つけられましたが、ゴリラをゴッホにすればゴッホの絵葉書から箒へと繋げられるのでこちらの方が早いですね。チャートにちゃあんと書いておきましょう(激うま味ギャグ)
 ルキウゲ・ルキウゲ・ロフォカーレは比較的オーソドックスな呪文で、魔力を物を動かすとかの、シンプルなことに使いたいときはとりあえずこれが出てきます。本来は空を飛ぶときは、カエルとか雑草とか混ぜて作ったクッソ汚い飛行薬を塗っていないといけませんが、ある程度魔力があると力技でなんとかなります。
 今回のチョコは見習いだった5年生の頃ではなく、ギュービッドにガチムチに鍛えられた6年生終了後からの参戦なので無理やり飛べます。お前マジシャンみたいだな。
 さて、飛べるようになったら警察署に一直線です。ここで下手に寄り道すると東方仗助を殺した後の雪代縁に遭遇します。
 縁は付近を通り掛かるだけで超感覚で襲いに来ます。トラウマがあるためチョコは絶対に殺されませんが、ほぼ確実に負傷する上に大幅ロス確定です(2敗)
 素直に警察署に向かいましょう。

「いた! ルキウゲ・ルキウゲ・コントラーレ!」
「──あれ? え、ここどこ? あ、そうだ、喫茶店で待ち合わせしてたんだ……」
(よし、 三風ちゃんはこれで警察署にはいかないはず。)

 警察署に向かうと、周辺に妹の惨殺死体を目撃して正気を失いさまよっている宮美三風がいますので、コントロール魔法ルキウゲ・ルキウゲ・コントラーレで操ります。
 三風の行動はランダムではありますが、だいたい警察署から1キロほどの辺りにいます。この時に、箒が役に立つんですね。単純な速さや消耗を考えると、箒をしりとり魔法で出すよりも自転車を借りパクした方がいいのですが、地上からでは三風を見つけるのは安定しません。無理してでも空中から探した方が早いです。
 あまりモタモタしていると警察署で戦闘が始まってしまい、彼女は音に引き寄せられて向かって行って高確率で流れ弾により死亡します(3敗)
 もしくはアスモデウス・アリスによって捕食されます(1敗)
 が、妹の死を一時的にでも忘れさせて別のことに気を向かわせれば、あとは勝手に記憶を封じ込めて建物の中でじっとしていてくれます。
 姉のニ鳥と出会うと記憶が戻ってしまいますが、ループするかの判定がある2時20分以降ならば衝動的に自殺しようが問題ありません。本当の問題はニ鳥の方です。

7◆BrXLNuUpHQ:2023/12/03(日) 00:17:42 ID:???0

(もう始まってる!)
「な、なに、爆発?」

 そうこうしてるうちに始まりました警察署戦。響いてきた銃声は園崎魅音がうずまきナルトの影分身を射殺した音です。そしてこのラスト20分でチョコは100回近くループしています。ここからが本当の地獄ってわけだ。

「ルキウゲ・ルキウゲ・アドラメレク。よし、がんばれあたし!」

 運気上昇魔法ルキウゲ・ルキウゲ・アドラメレクをかけて幸運にバフをかけます。最初からかけとけよ思うかもしれませんが、その場合は運気上昇魔法に分身魔法に飛行呪文にしりとり魔法と一度にかける魔法が多すぎてバテます。ここからは少しでも魔力を回復するために、箒で飛ばずに徒歩で警察署へ向かいます。50m走12秒代じゃ歩いても走っても誤差だよ誤差!
 警察署まで約1キロ、これまでの飛行魔法で魔力を使ったチョコの足では10分はかかります。つまり警察署の戦闘はもう始まってる!わけですが、始まる前に到着するのはよほど運がないと無理です。
 いや無理かどうかやってみなきゃわかわんないだろう?と思われるかもしれませんが、三風を空を飛ばずに一発で見つけてもギリギリな上に、警察署に着いた時には魔力がガス欠するので何もできません。おとなしく歩きましょう。

「ハァ、ハァ、きっつ……」

 少女早歩き中……

「ハァ……ハァ……」

 少女早歩き中……

「ハァハァ……あっつ……」

 代わり映えしないので、言うことが(ないです)
 このままゴスロリJSが汗だくで歩いているところをみても退屈だ、そんな皆様の為に──
 『黒魔女さんが通る!!』について、お話します。
 黒魔女さんが通るは講談社青い鳥文庫より出版されている児童文庫です。作者は石崎洋司先生。
 主人公のチョコが黒魔女見習いとして個性豊かなキャラとドタバタしたり冒険したりするマジカルファンタジーです。
 2005年から2023年にかけて青い鳥文庫の看板作品で有り続けた、シリーズ累計400万部超えの超人気シリーズです。
 2005年!? 嘘やろ? 当時の読者はもういい大人ですね、間違いない。
 既刊41巻に、チョコの師匠ギュービッドや同級生の麻倉&東海寺を主人公としたスピンオフ、同じ青い鳥文庫の若おかみは小学生とコラボした公式クロスなど、派生作品も数多く出ています。
 全部把握してる人いるんですかね……?
 ネットでは二次創作してる人もちらほら見られますが、この作品は主人公のチョコの1人称ものの上、1巻読み飛ばすとキャラの解釈が全然違ったものになります。
 だから、キャラ設定を変える二次創作が出てくるんですね(1敗)
 本編終了後のスピンオフでちゃぶ台返すのはルールで禁止スよね? 石崎先生はルール無用だろ。やっぱし怖いスね石崎先生は。

「ハァハァ……いた、二鳥さん! いる!」
「なんだなんだ、二鳥の知り合いか?」「あの服ってさっき話してたやつじゃないか?」
「チョ、チョコちゃん!? なんで、どうしてここに……」

 と、チョコが警察署近くに到着しましたね。ここですべきことは一つ。二鳥を警察署に向かわせないことです。
 二鳥はうずまきナルトとその影分身に護衛されていますが、正面から堂々と行くとナルトたちは警戒せず、チョコのゴスロリから察してくれます。二鳥もチョコの声を聞けば慌てて出てくるので、ここは直球で行って大丈夫です。

8◆BrXLNuUpHQ:2023/12/03(日) 00:23:22 ID:???0

「あのね、さっき二鳥さんと同じ顔をした三つ編みの人がいたの!」
「なんやて!? 三つ編み、三風か!?」
「わかんないけどあっちの方でフラフラ歩いてたよ。見失っちゃったけど、なんだか顔が真っ青だった。」

 そして追い直球で三風のことを伝えます。具合が悪そうだと思わせつつ見失っちゃった(大嘘)と言えば、姉妹を探して合流したいと思っている二鳥は、チョコがこれまでどうしていたかも聞かずに飛び出そうとします。

「三風……ウチ、行かな!」
「三風って、妹か?」「なら俺らが探しに行ってやるってばよ。」
「ウチが行かなアカンねん、ウチら家族やもん!」
「今それどころじゃないってばよ! 五エ門のおっちゃんが戦ってんだぞ!」

 するとナルトと口論になります。この時二鳥を護衛しているうちはサスケはチョコを警戒して奇襲できる体勢で待機しているので現れません。
 二鳥は野原しんのすけを射殺した一件で無意識にチョコを避けているので、ここでチョコが立ち去る提案をすると受け入れがちです。ただしそれは三風の捜索に協力しないだけの理由付けが必要です。

「五エ門ってオジサンだね、伝えてきます。」
「ありがと! 和服で刀持ってる侍や! 見ればわかるから!」
「待てって二鳥!」「捕まえていいのか?」「どうする?」「二手に別れるか?」

 この理由付け、五エ門に伝言するぐらいのもので大丈夫です。このあと二鳥はナルトとサスケにより拘束され、警察署に接近することはなくなります。
 また三風を見つけた方向をズラしておくことで、二鳥に先んじて捜索に向かったナルトはアリスと神楽に近づきます。こうしておくことで、警察署の戦闘音から寄って行ったアリスが2時20分までに二鳥を奇襲して建物ごと焼き殺す可能性を潰します。
 アリスはナルトの影分身との戦闘を選ぶか、やり過ごして二鳥を狙いに行ったところを警戒を強めていたサスケに妨害されることとなります。

「待てよ、俺も行くってばよ。」
「ありがとう! あたしチョコ!」
「うずまきナルトだ。俺らが伝令するってばよ?」
「でも二鳥さんに約束したから!」
「うーん……でも危ないし、てか足遅えし……おーいみんな!」

 ここで分身ナルト4体が着いてきてくれます。
 彼らとは必要最小限のコミュニケーションだけであとはチョコを気遣って行動してくれます。しんのすけの件で同情しているのでいつもより優しいです。そもそもコミュニケーションするだけの体力がありません。
 話の流れで騎馬戦みたいな体勢でかついで連れてってくれます。
 さて、ここまでで

4、四宮かぐやの生存
8、うずまきナルトの生存
9、うちはサスケの生存
13、アスモデウス・アリス
15、宮美三風の生存
16、宮美ニ鳥の生存

 6名の生存がほほ確実になりました。ラスト10分で13名を生存させます。このラスト10分のせいでチョコは何十回もやり直すことになっているのです。
 再走ポイントが1時間中のラスト10分にあるとかやめたくなりますよ〜ループ〜(切実)

「傘パクってんじゃねえぞ銀髪ブタ野郎。今謝るなら半殺しで済ませてやるネ。」
「助太刀しよう。拙者も奴には借りがある。」
「……邪魔ダ。」

9◆BrXLNuUpHQ:2023/12/03(日) 01:00:22 ID:???0

 というわけでやって参りました縁vs神楽&五エ門。
 ですがここで最も優先すべきはこの3人ではありません。警察署内で倒れている双葉です。
 双葉は縁との戦闘で負傷したところに、救助に来たナルトの分身から落下して、ヒビの入っていた肋骨が折れて肺に突き刺さり瀕死になっています。
 この怪我をこの場で処置できるのは医者の息子の天地、ではなく五エ門だけです。天地は自分の立場が悪くならないなら他の参加者を見捨てることもいとわないです。なんとかして縁との戦闘から五エ門を双葉の救助に向かってもらわなければなりません。
 ここが最大のリセットポイントです(84敗)

「!誰ネ──逃げるナ!」
(よし、警察署の中に逃げた!)

 ここで縁は周囲を見渡しいくつもの銃口が向けられていることを悟り警察署内部に逃走を図りますが、その直後に射殺されます。
 この時ちょうど良いタイミングでチョコをかつぐナルトたちが神楽に勘づかれると、分身のナルトたちもチョコの方へ気を取られ、五エ門と一対一になった縁は逃走に成功します。
 その猶予、0.5秒。遅すぎれば射殺されますし早すぎれば縁は突撃を図って神楽を道連れに死亡します。

「ルキウゲ・ルキウゲ・ロフォカーレ!」
「うわっ!」「いてっ!」

 ここで分身ナルトを足蹴にして箒で空を飛び、五エ門と神楽に続いて窓から突入します。
 中では廊下で五エ門と縁が戦っていて、五エ門の後ろで神楽が五エ門を避けて前に出ようとしています。というのを確認する間もなく壁を蹴って加速しつつひたすらダッシュ! 目的地はそう、双葉です。

「なんだ!? 止まっうぼぉ!?」
「いったぁ……ってそれどころじゃない!」

 護衛しているナルトに突っ込み減速と口論になるのを防ぎます。そして部屋のドアを開けまして。

「君は──」
「大変だぁ! 女の子が倒れてるぅ! 誰か助けてぇ!」

 天地が話しかけてくるのをスキップして大声で叫びつつもと来た道を戻ります。双葉発見のフラグを立てていなかった場合、救助できても五エ門に怪しまれて拘束されてしまいます(1敗)

「はっ! あなたは"石川五エ門"ですかっ!?」
「その格好、やはり「退くねオッサン!」」

 そして戻ると五エ門がリアクションしている間に神楽が五エ門を押し退けて縁と戦い始めます。連戦で縁はバテているのでこのままだと殺されます。1分以内に五エ門を双葉の元へ連れていきましょう。

「君はさっきの──」
「よし! 二鳥さんのところに戻らなきゃ!」

 天地と五エ門が話しかけてきますがセリフを言い終わり次第箒でダッシュです。
 このセリフを言っておかないと五エ門が一瞬早く動いてしまいます(1敗)
 言うと咳き込む双葉に気を取られてごまかせるので絶対に言いましょう。
 さて縁たちの所に戻り、ません。このタイミングでは縁は上の階に逃走を図り、さっきの位置には分身のナルトが突入してきています。このナルト、数が多くて行動が読めません。縁に次ぐお邪魔キャラです。
 廊下を逆に進み、階段をひたすら上に向かいます。ここからも時間からの戦いでしたが、ここからはもっと時間との戦いです。

10◆BrXLNuUpHQ:2023/12/03(日) 01:40:38 ID:???0

1、松野おそ松の生存
2、弱井トト子の生存
3、白銀御行の生存
5、神楽の生存
10、前原圭一の生存
11、園崎魅音の生存
12、古手梨花の生存
18、雪代縁の生存
19、関織子の生存

 ここまで来てやっと折り返し地点。残り9人をこの数分で生存確定させます。
 が、ここで問題があります。現在時点で既に古手梨花は死亡しています。というか始まって直ぐに死んでます。こればっかりはどうしようもありません。
 そう、本来ならこのRTAは絶対に成功しません。
 しかし、古手梨花には事件の発端となっただけあって特殊な能力があります。これは彼女と同じひぐらしキャラにもあてはまりますが、記憶の引き継ぎという現象です。
 この現象、ループしているチョコだけが本来は記憶を引き継げますが、何十回とループしていると微かに記憶に残り行動を変えます。言うなら試走のデータを元にNPCが行動を変えているようなものです。チートも良いところですが、早さを競うんじゃなくてループから抜け出そうとしている身なんだ上等だろう。

(ごめん神楽さん!)
「お前さっきの──アブネェ!」

 ここで神楽は縁の投げた手榴弾からチョコを守るため番傘を広げてガードしてくれます。この間に縁は更に上階に逃走して、ヘリに乗って警察署から脱出しようとする圭一と魅音を高確率で殺します。
 これに打つ手は、ないです(あっ、ない……)

「ぐああああ!」

 叫び声を上げつつ爆風に煽られたフリをして窓ガラスをぶち破ります。
 圭一と魅音を助けようとしていると、おそ松が白銀会長を撃ち殺すのにどうやっても間に合いません。祈りましょう。

(まずい、魔力が、うわああああ!」

 さて、お祈りポイントですが……
 駄目みたいですね(ダメみたい……)
 運気上昇魔法の効果でガバ運を避けてきましたが、魔力切れだけは必ず来ます。今回のチョコは捨て回で体調を整えて来ましたが、後半はずっとダッシュなのでこんなふうに魔力切れで空から落っこちます。

「! 機械! イカ! カイト!」

 ここでオリチャー発動! 飛行を諦め既に発動していたしりとり魔法でカイトを生み出し、落下速度と方向を調整します! 箒で飛ぶだけの魔力は無くても、カイトで落ちるだけならまだイケたみたいですね!

「見えた! 時計、稲穂、ほうき! すみませえええん!!」
「はひっ!?」

 そして箒に戻して白銀の顔面に着地、ここで全チャート終了です。
 後は運ゲーです。祈りましょう。

「ヤバいヤバいヤバいヤバいまた間に合わない!」

 チョコは焦りまくって警察署に戻ろうとしていますが、既に警察署からはヘリコプターが離陸しています。
 このヘリコプターが2時20分までに墜落しなければ圭一と魅音は生存判定です。

「なんなんだよこの急展開!」

 突っ込んでくるヘリコプターにおそ松が叫び、おっこがチョコを押して屈めたところでタイマーストップ。時間は2時20分です。
 ここでヘリコプターが墜落してみんな死んでもループからは解放されますが、なんか上手く行って持ち直して飛んでいきました。ループの力でしょうか。すごいねオヤシロさま。

「……あれ? 助かった? 巻き戻らない……もしかして、あの、今何時何分ですか?」
「えっと、20分かしら。」
「……やったぁ!」

 チョコがガッツポーズしながら号泣しながら気絶しましたが完走をした感想をば。
 当時は若く黒魔女さんの設定でどんでん返しが起こるとは思っていませんでした。アニメを元にしたスピンオフなども入れると黒魔法の設定も変わってくるので、どこからどこまで盛り込めばいいのかと思いましたが、もう全部アバウトに行くことにしました。
 この後チョコは魔力の使い過ぎで丸一日ぐらい黒魔法が使えなくなる上ろくに意識も戻りませんが、企画的に重要なキャラが把握難易度が高過ぎて手に負えなくなったわけではありません(本当?)
 児童文庫キャラが能力制限必須なぐらいにインフレするなんて思うわけないだろいい加減にしろ!
 というわけで今回の投下はここまで。中時間のご視聴ありがとうございました。

11◆BrXLNuUpHQ:2023/12/03(日) 01:45:18 ID:???0



【0222 『南部』住宅地・スーパー】


【黒鳥千代子@黒魔女さんと最後の戦い 6年1組 黒魔女さんが通る!!(20)(黒魔女さんが通る!!シリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
 殺し合いを止める。
●中目標
 ギュービッド様と古手梨花さんを探す。
●小目標
 大形くんとか野原くんとか気になること多すぎ! だけどとにかく織子ちゃんを助けられたよかった。

【関織子@若おかみは小学生! 映画ノベライズ(若おかみシリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
 白銀さんといっしょに殺し合いから脱出する。
●中目標
 白銀さんと学校に避難する。
●小目標
 この女の子は……?

【松野おそ松@小説おそ松さん 6つ子とエジプトとセミ@小学館ジュニア文庫】
【目標】
●大目標
 死にたくない。帰りたい。
●小目標
 十四松……

【弱井トト子@小説おそ松さん 6つ子とエジプトとセミ@小学館ジュニア文庫】
【目標】
●大目標
 主催者をぶっ殺す。
●中目標
 この女の子の目的は……?
●小目標
 十四松くん……

12◆BrXLNuUpHQ:2023/12/03(日) 02:00:24 ID:???0



【0222 『南部』繁華街】

【宮美三風@四つ子ぐらし(1) ひみつの姉妹生活、スタート!(四つ子ぐらしシリーズ)@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
 ???



【0222 『南部』警察署近く】

【宮美二鳥@四つ子ぐらし(1) ひみつの姉妹生活、スタート!(四つ子ぐらしシリーズ)@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
 生き残る。
●中目標
 家族に会う/あの男子(圭一)を殺す。
●小目標
 三風……!

【うずまきナルト@NARUTO-ナルト-白の童子、血風の鬼人(NARUTOシリーズ)@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 殺し合いとかよくわかんねーけどとにかくあのウサギぶっ飛ばせばいいんだろ?
●小目標
 ニ鳥を守る。



【0222 『南部』警察署】

【神楽@銀魂 映画ノベライズ みらい文庫版(銀魂シリーズ)@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 バトルロワイヤルとその主催者を潰す。
●中目標
 病院と首輪を外せる人間を探す。
●小目標
 変態(縁)をぶちのめす。

【石川五エ門@ルパン三世VS名探偵コナン THE MOVIE(名探偵コナンシリーズ)@小学館ジュニア文庫】
【目標】
●大目標
 殺し合いからの脱出。
●中目標
 二鳥やナルトなどの巻き込まれた子供は守る。
●小目標
 双葉を救助する。

【天地神明@トモダチデスゲーム(トモダチデスゲームシリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
 生き残る。
●中目標
 信頼されるように努めて、超人的な参加者から身を守れる立ち回りをする。
●小目標
 チート参加者を丸め込んでグループを立ち上げる。まずはナルトだ。



【0222 『南部』】

【雪代縁@るろうに剣心 最終章 The Final映画ノベライズ みらい文庫版@集英社みらい文庫】
●大目標
 人誅をなし緋村剣心を絶望させ生地獄を味合わせる。
●中目標
 緋村剣心と首輪を解除できる人間を探す。
●小目標
 ???

13◆BrXLNuUpHQ:2023/12/03(日) 02:01:06 ID:???0
投下終了です。
タイトルは「メガトンチョコ」になります。

14◆BrXLNuUpHQ:2023/12/24(日) 00:10:28 ID:???0
こちら前スレとなっております。

https://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/12648/1609427193


こちら5月から7月にかけてのパロロワ月報になっております。


各ロワ月報2023/5/16-2023/7/15

ロワ 話数(前期比) 生存者(前期比) 生存率(前期比)
コンペLS 52話(+51) 70/80(-10) 87.5(-12.5)
界聖杯  160話(+11)  26/46(-2)  56.5(-4.4)
オリロワZ 89話(+9) 26/50(-6) 52/100(-12)※OP2話含む
決闘 52話(+9) 92/112(-3) 82.1(-2.7)
児童文庫 126話(+7)  174/236(-8)2L目名簿より 83.0(-2.2)※総参加者数365
媒体別 99話(+5) 135/150(-0) 90.0(-0)※OP含む
チェンジ 131話(+5)  31/60(-0)  51.7(-0)
オリロワVRC 31話(+4) 37/40(-0) /92.5(-0)※OP含む
虚獄 128話(+3) 32/75(-1) 42.7(-1.3)
令和ジャンプ 59話(+3) 47/61(-0)  86.4(-0)
コンペ 93話(+2)  85/112(-3) 75.9(-2.6)
烈戦 39話(+0) 59/61(-0) 96.8(-0)
ゲーキャラ 117話(+0)  41/70(-0) 58.5(-0)
異世界オリロワ 3話(+0) 36/36(-0) 100(-0)

シンチェ 142話(+83) ?/? 100.0(-0)※登場話候補作58作品含む
続アニロワ 3話(+0) 86/86(-0) 100(-0)
WARKS 6話(+6) 59/60(-1) 98.3(-1.7)
LCロワ 3話(+3) 29/30(-1) 96.7(-3.3)
シン・アニ: 3話(+3) 73/74(-1) 98.6(-1.4)

完結
表裏 111話(+7) 7/52(-2) 12.7 (-4.6)


・パロロワwikiで本期間分の月報が更新されてなかったので勝手に月報作っちゃいました。たぶん抜けは多々あります。
・ロワ系のスレ並びにハーメルン・pixivで行われている企画を集計しました。
・修正前・修正後・破棄全て1話としてカウント、分割話は投下開始時点でまとめて1話としてカウントしました。
・FFDQ3ロワさん・月報協力ありがとうございます。
・表裏ロワさん完結おめでとうございます!


それでは投下します。

15◆BrXLNuUpHQ:2023/12/24(日) 00:11:49 ID:???0



 弱井トト子が引き金を引き、十名以上の人間が銃撃戦を繰り広げた住宅地の一画から、徒歩数分のところにあるやや大きめの雑居ビル。
 その一階部分は、地下への階段となっている。
 まさかそこが地下鉄への入り口などとはこの街を往く参加者も気づかないだろう。一応、付近には駅への案内があるし、当のビルには小さいが地下鉄の看板もあるのだが、土地勘のない街でいつ撃たれるかわからない中ろくに地下鉄に乗ったこともない人間も多々いるという事情を考えれば、そこに気づける参加者というのは僅かだ。
 そして地下へと降りると、広がっているのは地下街である。
 地下一階は一つの都市区画と言えるほどの広さで、モノレールや電車の駅ビルとそれぞれ繋がっている。それぞれに乗り換えるには端から端まで歩かねばならずその距離は都市部の路線の一駅分ほどもあるが、一応これで一つのターミナル駅だ。この街に住人がいればさぞ面倒な通勤通学だろう。
 地下二階は地下鉄の改札とホームがある。こちらは上階とは打って変わって没個性的な地下鉄だ。面白みのない作りに、後付されたようなバリアフリー、天井の一部からは雨漏りもしている。
 氷室カイはその全てが自分の記憶にあるものと違いないことを認めると、己がタイムリープしたことを認めた。

(ギロンパのあれはハッタリではなかったか。いやはやスゴいな、未来のパンダ型ロボットは。)

 言葉には出さず、心の中でだけ感心の笑みをこぼし、表情は怯えたものを浮かべる。
 殺し合いに巻き込まれたクイズマニア、それがカイが己に与えたロールだ。

(ゲームの参加者は365人、最後の1人まで殺し合う、ただし例外あり、か。フフフ、前のループも予想外のことが起きて面白かったけど、今回も楽しめるかな?)

 2週間前のフューチャーワールドでの戦い。100億円と十万人の命を巡った戦いよりも更に上を行く恐ろしさ。
 自身が参加者として、そして主催者として挑んだそれを見事に打ち破られたところに現れたのが大形と灰色の男たちだった。
 様々な世界から老若男女に化物を集めたデスゲーム。その運営にスカウトされ、自身のアジトを暴いたその凄まじさに協力に足る相手と見なした。実際はただ単に氷室カイとして動いているときの彼に黒魔法をかけただけでアジトそのものはついぞ見つけられなかったのだが、彼からすればどちらも同じだ。種も仕掛けもないマジックというものは興ざめではあるが、それを知恵で出し抜くことには知的好奇心が刺激される。
 カイが参加者として動くことを選んだのはそのためだ。この殺し合い、参加者の知的な戦いではなくごく単純な暴力が支配するものだが、だからこそそんなつまらないデスゲームを仕掛ける、チートでふんぞり返っている魔法使いやロボットを叩き潰したいと感じる。
 対主催をまとめ上げて反旗を翻させようか? はたまたマーダーとして道化師を演じようか? 楽しめるロールは多々あるが、その中で選んだのは、自分の正体を知る『Qube』のプレイヤーにリベンジすること。カイが直々に選んだ彼らは、見事にカイの用意した謎を解き、知恵と勇気でフューチャーワールドを攻略した。ではそんな彼らは、知恵をも喰らう暴力にどう立ち向かうのか? それが気になる、首輪越しではなく真横で見たい。

(彼ら以外にも面白い参加者ばかりだ。果たして彼らのようにジョーカーに気付けるのか、もしそうなら……ハハハ!)

 思わず吹き出しそうになり口を抑える。このバトルロワイヤル、カイ自身はルール面の監修を担当した。放送ごとにいくつかの新しいルールを課すというものだ。参加者には動物もいるので頭を使うようなものをあまり用意できないというのはなんとも惜しかったが、それでもそんな存在を計算に入れての知略を問うゲームは作れる。
 主催者特権で首輪が偽物であるのと初期位置の周辺の参加者の情報はあるが、それ以外はあえて一般の参加者と同じにしている。無論面白そうなら特権を使うことにためらいは無いのだが。
 くつくつと口の中で笑うカイの耳に、子供の声が聞こえてきたのはその時だった。

16◆BrXLNuUpHQ:2023/12/24(日) 00:12:36 ID:???0



「だから、俺はツノウサギとかの仲間じゃないんだって。信じてくれよ。」
「はう〜〜……」
「はう〜って言われても……」

 一ノ瀬悠真はオメガ困惑していた。
 突然殺し合えと言われたのは、まあそりゃ人並みには驚いたが、彼は死神だ。バイトだけど。
 護廷十三隊的なアレに所属し、現世を彷徨う虚「虚って言うな死者の魂って言ってくれ」地の文にツッコむんじゃねえ初期のBLEACHみたいな設定なんだからこの方がわかりやすいんだ上等だろう。
 それはともかく、つまり悠真はふつうの中学生よりは多少は異常事態への心得があり、今回のこれは自分では手に負えないレベルの悪霊が襲撃を仕掛けてきた、という認識であった。
 なって日は浅いが、これでもバトルものの少年マンガの主人公みたいな境遇だ。やるべきことはもちろん、巻き込まれた人を助けること、というのは何も特別な力を手に入れてからの話ではない。病気の弟のために何かできないかともがくぐらいには、力を託されるに足る資質がある。というわけで早速周囲を偵察に向かったわけだが。

「やっぱり怪しいよね、ステファニーちゃん。殺し合えって言われてるのに助け合おうなんて。裏切る気だよね?」

 数分して出会ったのは、片手でぬいぐるみのうさぎに話しかけ、もう片手で拳銃を油断無く構える、ゴスロリの同年代の少女だった。
 いや中1ぐらいにもなって人形持ち歩くなよ話すなよとか、その銃どっから持ってきたんだエアガンだよなとか、その服めちゃくちゃ高そうだなとか、よく見たらカワイイなこの子とか、色々考えてしまい困惑していたのだ。

(くっそー、安全装置かかってたりしないかなあれ。マジでいつ撃たれるかわかんないぞ。)

 だんだん疲れてきたのか銃口がブレているとはいえ、拳銃を突きつけられたらさすがに動揺してしまう。なかなか冷静になれない自分を自覚しながらもなんとか打開策を探す。とはいえそれが見つからないから今の状況なのだが。
 壁際でハンズアップしたまま、少女の視線を受け続ける。今まで悠真が話していたので会話も続いていたが、ついには沈黙が場に鎮座するようになった。
 これなら色々うるさいクラスメイトの方がマシだ──などと動揺よりも困惑よりも気まずさから変なことを考えだして、ふと気づく。そう言えば少女の名前も知らない。というかよく見たら少女も気まずそうだ。

(よく考えたら、本当に撃つ気なら最初から撃ってないか……?)
「あのさぁ……」
「な、なに?」
「この手、手上げてんのキツいんだよ。おろしちゃだめか?」
「え〜〜……どうしようかなぁ〜〜。」
「なあ、頼むよ。そんぐらいならいいだろ。手おろすぐらいなら。」
「手おろすだけ? ほんとぉ?」
「本当に本当。神に誓う。」
「神に誓って言う人だいたい嘘じゃ〜ん。」
「いや俺の神に誓うは一味違うから、死神に誓うから、頼むよ一生のお願いだよ、俺小学校の時も一生のお願い使ってこなかったタイプだぜ。」
「あ、中学生なんだぁ。」
「ああ、一ノ瀬悠真。中1だ。て制服見ればわかんだろ。」
「ちっちゃいしコスプレかなって思ったぁ。」
「ちっちゃくねぇよ平均はあるよ!」
(よし、銃口はおりた。)

 胸襟を開いたトークをしつつ、悠真は銃口に気を配る。悠真に戦う力はあるとはいえ、それは死神化的なアレなので生身では単なる中学生だ。もちろん銃で撃たれたらめちゃくちゃ死ぬ。ここはなんとか穏便に済ませるしかない。

(なにやってんだアイツら……)

 それをずっと眺めていたカイの前で2人が落ち着いて話し出すのはかれこれ10分後のことだった。

17◆BrXLNuUpHQ:2023/12/24(日) 00:14:50 ID:???0



「ねぇ、やっぱり戻ろうよ〜。」
「そ、そうですよ、戻りましょう……」

 ゴスロリ少女こと宮野ここあは、めっちゃ嫌な予感を感じてしきりに悠真の服を引っ張っていた。

「ここあちゃんそんなに怖いの〜? 桃平気だよ!」
「ほら、小2の桃ちゃんだってこう言ってるんだぞ? ねえ魚塚さん?」
「こっちに振られても……とにかく、この薬莢まだ温かい、さっき撃ったばっかと見て間違いないですぜ。」
(なんか怖い人と一緒になったしなんか銃の音すごいするし、これどうなっちゃうの〜〜?)

 ここあは絶体絶命ゲームというギャンブルのズガン枠の少女だ。
 ろくに自己紹介をする間もなく、サンドウィッチ食って毒殺されただけの女子小学生である。あまりに早く死にすぎて主人公たちと交流する間もなかったので、どんな人間性なのかすらわからない。
 だがそれでも、弱井トト子やヌガンが銃を乱射する市街地を散策するぐらいなら駅ビルに戻りたかったのは間違いなかった。
 間違いないといえば、今のパーティーも怖かった。悠真はまだいい。その後に現れたカイもだ。この2人は男性だが、情けない感じがするので殺されそうな感じはない。実際は全然違うので彼女の目は節穴もいいところなのだが、しかし後の2人に関しては正解である。
 桃こと桃花・ブロッサムと、魚塚ことウォッカ。この2人は確かに表社会の存在ではない。そもそもウォッカはいつもの黒ずくめなので、自分が疑われて見えることは折込済みだ。

「なんで銃撃ってる人に近づこうとするの〜〜?」
「そ、そうですよ、危ないですよ……(この子やっぱり足手まといだね。こういうのが1人いると、有能揃いのチームでも足並みを乱す、足元をすくわれる。君たちはどうかな?)」
「でも、お前みたいに怖くて銃を持ってるだけかもしれないだろ?(実際に撃つのはヤバイやつだけど)」
「それに、桃の友達が怖い目にあってるかもしれないもん!(この子邪魔ですね、隙見て黒魔法でちょっと眠っててもらいましょう)」
「自分はマトリなんで見逃せないっスけど、カイさんたちは戻っててもらってもいいですよ?(着いてこられるとやりにくいんだよなぁ……こいつ胡散臭いし)」
「そ、それは……」

 ここあは閉口する。
 確かにウォッカは怖い。だがそれよりも、ウォッカと別行動するのが怖い。
 重ねて言うが悠真とカイは頼りない。自分を守ってくれるのは、どう見てもヤクザみたいなウォッカのような強い盾である。
 一般人の感覚として、殺人鬼がそこらじゅうにいるかもしれない街なら、話のできるヤクザから離れたくないのだ。

「はう〜〜、ステファニーちゃん、どうしよう?」
(トト子もマーダーとして見ておくと、この辺りの戦闘は加速しそうだな。まずこの子を危ない目にあわせてこの集団の人間性を見ようかな?)
(宮野や氷室さんがああ言うのも当然かもな……このへんで戻るか?)
(カイさんはここあさんに便乗するタイプですね、先に黙らせるのはここあさんにしましょう。)
(ここあってガキに便乗してばっかだな。どっかでガキの方を黙らせりゃ……)

 自分を生死問わず黙らせようとするパーティーメンバーに気づかず、ここあはトト子のサブマシンガンやヌガンのアサルトライフルの銃声に耳を抑える。
 このパーティー、彼女以外は全員生死をかけた戦いを経験している。戦力的には中途半端であるのにこれ以上なく戦闘向きの思考を持つパーティーで、マスコットには死神の鎌が何重にも絡みつく。

 果たしてここあは第一放送を突破できるのか?



氷室カイ(前のループでは深海恭哉にバズーカ撃ち込まれたか駅ビルから出たけど、今回はどうなるかな?)
深海恭哉「……見つけた。」



 駄目かもしれない。

18◆BrXLNuUpHQ:2023/12/24(日) 00:16:56 ID:???0



【0047 南部・駅ビル近く】


【氷室カイ@天才謎解きバトラーズQ vs.大脱出! 超巨大遊園地(天才謎解きバトラーズQシリーズ)@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
 主催者兼ジョーカーとしてゲームを楽しむ。
●中目標
 対主催に紛れ込み、ステルスマーダーする。
●小目標
 そろそろ深海恭哉に狙われそうだから気をつけようっと。

【一ノ瀬悠真@死神デッドライン(1) さまよう魂を救え!(死神デッドラインシリーズ)@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
 事件を解決する。
●中目標
 家族や仲間が巻き込まれていないか心配。
●小目標
 もう少し辺りを偵察する?

【宮野ここあ@絶体絶命ゲーム 1億円争奪サバイバル(絶体絶命シリーズ)@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
 また死にたくない。

【桃花・ブロッサム@黒魔女さんのハロウィーン 黒魔女さんが通る!! PART 7(黒魔女さんが通る!!シリーズ)@講社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
 生き残る。
●中目標
 先輩(ギュービッド)たちが巻き込まれていないか心配。
●小目標
 ウォッカを利用する。

【ウオッカ@名探偵コナン 純黒の悪夢(名探偵コナンシリーズ)@小学館ジュニア文庫】
【目標】
●大目標
 生き残る。
●中目標
 桃(桃花)や氷室たちを利用する。
●小目標
 銃撃犯を探すという体で足手まといから一旦距離を置きたかったんだがなぁ……

【深海恭哉@ギルティゲーム(ギルティゲームシリーズ)@小学館ジュニア文庫】
【目標】
●大目標
 生き残る。
●中目標
 対主催に紛れ込み、自分の信頼を上げる。
●小目標
 紛れ込めなさそうな集団は殺す。集団の足を引っ張るやつも殺す。バレないように殺す。が

19◆BrXLNuUpHQ:2023/12/24(日) 00:17:29 ID:???0
投下終了です。
このスレでもよろしくお願いします。

20◆BrXLNuUpHQ:2024/01/27(土) 00:00:28 ID:???0
新年あけましておめでとうございます、投下します。

21◆BrXLNuUpHQ:2024/01/27(土) 00:01:20 ID:???0



 小松原麻紀は、取り出されたテレフォンカードをしばらく呆然と見つめていた。
 狭苦しい電話ボックスに何度かアラームが鳴ったのも昔に思えるほどに、感覚が重く圧迫されていた。
 家の電話番号はもちろん、長野の父方の家に、幼なじみの小笠原牧人の家、そして当然警察と消防にかけても、どこにも繋がらない。
 手を緑色の受話器に伸ばしかけた、でも手には取れなかった。どことも、誰とも、繋がれない。そう確認することが、苦しい。伸ばした手から肩にかけてどっしりとした何かを感じて、麻紀はうつむいて電話ボックスを出た。

(赤い、霧……)

 視界に赤いものが入って、出たばかりの電話ボックスの扉偽を預けて目を閉じる。
 目を開けたくない、今自分がいる、この地獄のような現実から目をずっと閉じていたかった。


 小松原麻紀は、どこにでもいるような普通の女子小学生だ。
 この間新築の家に引っ越したり、兄が不良のようになったり、幼なじみとの関係に悩んだりもしたけれど、それでも普通の、日本に何人もいる少女でしかないはずだった。
 それがふと気がつけば、まるで知らない場所にいた。そして聞かされたのは、何かのマスコットのようなキャラクターから発せられた──『殺し合い』という言葉だった。

「牧人……どこ……?」

 細い体から力が抜けて、へたり込みそうになる。でもそうなったら二度と立てなくなる気がして、でも心細くて、麻紀は気がつけば幼なじみの、大好きな男の子の名前を呟いていた。
 こんなにも会いたいと思うのは、ここ最近の中でも一番かもしれない。牧人が一学年上の細川詩緒里と付き合いだしたと聞いていてもたってもいられなくなったことを、思わず思い出す。

「そうだ……牧人! 牧人もここに!」

 思い出したから、自分のこと以上に牧人を心配する。少し前までの牧人に会いたいと思っていた自分を、麻紀はひっぱたきたくなった。
 こんな空が赤くて霧も赤くてそこらじゅうの建物にマシンガンや対戦車ライフルや地対空ミサイルや劣化ウラン弾があるような地獄ではなく、牧人には苦しいことがあっても平和な、あの日本にいてほしい。
 探さなくては、牧人が巻き込まれていないことを願ってはいるけれど、もし巻き込まれているのなら一緒にならなければ。使命感にも似た思いが、震えていた膝に力を与える。そして手にしたブローニング・ハイパワーをしっかりと握った。ダブルカラムの太い銃把は、麻紀の小さな手には余る。その大きさが願いの大きさであるかのように麻紀は両手を重ねて、力を込めて立ち上がった。
 すると今までと感覚が変わってくる。うんざりするような赤い視界はそのままでも、微かに聞こえてくるものがあった。
 洋楽、だろうか?

(このメロディー、少し似てる。)

 その曲が気になったのは、その調べが麻紀の記憶に焼き付いたものを思い起こさせたから。
 牧人の母、心を病んで不慮の死を遂げた、麻紀から見れば幸せそうな人だった、それでも心の中は違った人。
 麻紀にとっては、両親や親戚以外で一番親しかった大人の女性。
 気がつけば、麻紀の背中は電話ボックスから離れていた。会いに行かなくてはと思った。自分にできることがあるかなんてわからない、たぶんきっとない、それでも動きたいと思ったから。

22◆BrXLNuUpHQ:2024/01/27(土) 00:01:47 ID:???0

 暗い街を歩く。電灯に照らされて赤く染まる歩道を歩いていくと、だんだんと音楽の大きさが上がっていく。十分ほどさまよって、麻紀は一件の雑居ビルの前で足を止めた。
 二階にあるスナックから大音量でどこかの国の言葉の曲が流れている。灯りが煌々と点いたそこへ急な階段を登って行くと、木の扉を押し開けた。かすかにきれいな音色がして、それが扉につけられたベルだと見上げて気づく。音がかき消されるほどの大きな音が、スナックの中から聞こえてきた。一歩足を踏み入れて、濃厚な酒の匂いに二の足を踏む。酒の知識などない麻紀にはそれがシェリー酒のものだとわかるはずもなく、ただなんとなくワインのようだと思うだけだった。
 カウンターに転がる酒瓶が、酒の池と滝を作り、滝壺にはグラスが落ちていた。そして這ったような跡が店の奥へと続いているのを見つけたとき、麻紀の耳に音楽とは別の音が届いた。あまり聞き取れなかったが、それでもなんとなく人の叫び声に聞こえたのは、恐怖からだろうか?
 あらためて、ブローニングを両手でしっかりと持つ。硬質な硬さと、想像以上の重さが伸ばした手の先にかかり、自分の胸の方へとゆっくり引き戻す。
 おそるおそる音のした方へ、這ったような跡を歩いて向かう。店の奥にあるトイレが音の出どころのようだ。かすかにだが、人の気配もする。一息つくと、麻紀はゆっくりと半開きのドアを開けて。
 目にした光景に麻紀は目を見開いた。

「大丈夫、かな?」
「ハー……ハー……んんっ!」

 ドアを開けた先にいたのは、小柄な少女だった。牧人の妹よりは大きいが、小学校低学年ぐらいだろう。華奢な体は青白く、茶色の髪から覗くうなじには、汗が真珠のように光っている。そしてその下には、麻紀と同じ首輪が付けられていた。

「おっ……! おえぇっ……!」
「わたし、小松原麻紀。あなたは?」

 便器に向かって嘔吐する少女の背中をさすりながら言う。そこで初めて気がついたのか、少女はビクリと一度震えると、ゆっくりと麻紀の方を向いた。
 きれいな顔だった。口の端を汚しながらも、だらだらと唾液と胃液が垂れながらも、その大きな瞳は同性の麻紀であっても吸い込まれそうだ。ぼんやりと焦点の合わない目が、麻紀の顔を二度三度と往復する。ホワイトアウト、あるいは、ブラックアウト。見えているようで見えてなということだ。

「誰……いいえ、誰でもいいわ……お水……持ってきてもらえる……」

 ゲロよりもアルコールの臭いが鼻につく息は、自分より年下とは思えないぞっとする美しさを持つ声だった。まるで大人を相手にしているようなプレッシャーを覚えて、麻紀は曖昧に頷くと小走りでカウンターへと向かう。小洒落たグラスを手に取り、一度ためらうも蛇口をひねる。赤い水ではなくふつうの水が出たことにホっとして、麻紀は水を注ぐと少女のもとに持っていった。

「これ、お水持ってきたよが」
「お、おえぇ……おほーっ……おほーっ……ありがとう……」

 受け取った水を一息に飲もうとして、少女がむせる。何度もゴホゴホと息をしながらなんとか全て飲み干すまでに、口の端から流れた水が粘性を持った銀の糸に変わる。たらりと垂れたそれが少女の服をてらてらと濡らすのを見て、麻紀は新しいグラスとタオルを持ってくることにした。

(このお酒……もしかしてあの子が。)

 二度目ともなれば手際も良くなる。すぐに水を入れ、近くにあった手拭きを取ると、自然目の前で横倒しになっている酒瓶が気になった。今まで少女とそれが結びついてこなかったが、あの様子からして飲んだのは彼女だろう。あんな小さな子がお酒を飲むなんて麻紀には想像もできなかったが、それでも現実が、それも現実なのだろうと思わせた。

23◆BrXLNuUpHQ:2024/01/27(土) 00:06:09 ID:???0

「んんっ! んほー……こんなに……悪酔いするなんて……」
「あのー……お水、また持ってきたけど。」
「ありがとう……あら、こんな小さな子だったなんて……んほお! おっ、おっ、おろおお!!」

 今飲んだ水を盛大に吐く少女に慌てて水を渡す。

(小さな子って、あなたの方が小さいじゃない。)

 大人びた言葉だったが、見るも無残な吐きっぷりに呆れるよりも心配になってくる。
 このまま具合が良くならなければ救急車を呼ばなくては、でも電話は繋がらなかった──そんなふうに悩む麻紀の心配が通じたのか、悪い酒を全て吐き出したからか、だんだんと少女の具合は良くなっていく。目の焦点が合い始め、十分ほど経った頃には、立てないまでも落ち着いて話せるぐらいには安定した。

「フー……アハハ……みっともないところ、見せたわね……ありがとう、少し、良くなった……」
「お酒飲んだの?」
「ええ……ええ、フフ、フフフ……嫌なことがあったら、お酒に逃げるものでしょう?」

 麻紀に抱きかかえられてソファに寝かせられた少女は、そう言うと近くのテーブルに置かれたグラスへと手を伸ばした。少女に言われてレモンを絞った水が入っている。麻紀はそれを手に取ると、少女の手に持たせて、口まで誘導した。何度も舐めるように、ゆっくりと飲み込んでいく。その間に何か言おうとしたけれど、麻紀には何も思いつかなかった。

「良く知った劇薬なら……飲み干せたのだけれど……」

「過去は……体が受け付けてくれなかった……」

「どうしたら、良かったの……」

 ポツポツと、少女は喋った。
 それはなんとなく聞いてはいけないもののように麻紀には思えた。
 麻紀には大人の事情はわからない。自分の心のことだってわからなかったのだ、他人の話なんて理解できるわけがない。
 それでも、知ってはいけないこと、知られてほしくないことを知ってしまうことの怖さは知っている。そうして起こる変化はとても残酷で、命さえ奪ってしまうものだということを。
 そして、それを知った自分に、なにができるのか。

(いまは、いまはどうしたらいいんだろ。)

 麻紀は少女のことなんて何も知らない。なんとなく自分が聞かない方が良かったことを聞いてしまったと理解しただけで、彼女の事情どころか名前すらもわからない。
 ただなんとなく、突然殺し合えと言われて、それだけで飲めないお酒を無理やり飲んだ、というわけではないと思った。
 理由はわからない。
 わからないけれど、少女が感じているのは、自分が感じている恐ろしさよりももっとすごいものだという予感がある。

「ごめんなさい……ゴッホ、ゴッホ!」
「大丈夫?」
「うう……ダメそう……また吐く、出る……出る出る……うぷっ!」

 慌てて少女をトイレまで連れて行く。既に吐くものも残っていないのか、えづくだけで胃液すら出てこない。

「動かないでください。」
「えっ。」

 少女の背中をさすっていた麻紀の背中に、硬いものが押しつけられる。首だけで後ろを向くと、麻紀たちと同じように首輪をつけられた眼鏡の少女が水平二連式ショットガンを構えていた。

24◆BrXLNuUpHQ:2024/01/27(土) 00:10:13 ID:???0



「し、死んでる……君がやったのか!?」
「ち、ちげえ! オレが来たときにはもう死んでたんだ!」
「待て……死んでない……」
「「うおっ!? 生きてるっ!?」」

 ゆっくりと目を開ける。まぶたが重たい。
 居想直矢は頭痛と発汗の不快さを感じながらもなんとか立ち上がった。

 このバトル・ロワイアルには複数名の能力者が参加しているが、この直矢もいわゆるサイコメトラータイプの能力者だ。
 そういった能力者が中学生ほどになれば、だいたい二種類に別れる。過度に大人びるか、人との接触を避けるようになるかだ。
 直矢は後者のタイプであった。こういった能力は往々にして人の強い感情ほど読み取るものだが、人が抱く強い感情というものはどういったわけか負のものが多い。それでなくとも人の心に土足で踏み入ることは、それ自体への嫌悪感がある。
 直矢はそのため普通の学校にはいかずに理解ある寺に作られたフリースクールに通っているのだが、しかし他の能力者と同じく環境に苦しめられていた。
 会場に充満している赤い霧は地獄に由来するもの、当然負の感情に満ち満ちている。そんな場所に放り出されれば、不快な音が流れ続けるヘッドホンを付けられたようなものだ、拷問に等しい。
 その結果が現在、マシンガンを持つ色黒の小学生、利根猛士と、特徴がないがなんとなくギャグ漫画感のする顔をした男、松野一松に発見されるという次第である。

「キミ大丈夫? 汗が尋常じゃないけど。」
「……ええ、なんとか──アッー!?」

 気遣いの言葉をかける成人男性相手に、慣れない敬語を心がけて話す。だがそれも僅かな間だった。一松に触られたとたん直矢の頭に流れたのは、一松がケツの穴に旗を通ずるっこまれる光景だった。

(え、な、なんだ?)

 より正確には、一松の目を通してみた記憶なのか何なのかよくわからないがそういう光景なので、一松と同じ顔をした五人の男たちの肛門に旗が挿入される光景だった。なぜか普段よりも克明に、その時の音、臭い、そしてアヌスの感覚まで伝わってくる。
 思わず膝から崩れ落ちる直矢。今までの人生で経験したことのない直腸への異物感に、思わず失便したかと慌てるが、それが幻覚だと気づいてホっとする。もちろん男子中学生である直矢に尻穴にヌッと何かをぶち込まれた経験などない。

「え、ちょっ、大丈夫!?」
「ほっ、ほっ、ほっ、ほあーっ!?」
「え、なにこれは……」

 ドン引きする一松にそれはこっちのセリフだよと言いたくなったが、そもそも勝手に読み取ってしまった直矢が悪いのだしなによりあんな姿は誰にも話したくないはずだしというかあれが現実に起こったこととは到底思えないので黙っておく。

「すみません、ちょっと具合が悪くて……」
「いやそうはなんねえだろ。」

 利根に冷静にツッコまれるが、そうとしか言いようがない。具合が悪いのも本当だ。悪くされたと言いたいところだ。

(気持ち悪すぎて、霧のムカつきがふっとんだぜ……)

 怪我の功名である。不幸中の幸いとは絶対に言わない。なにか人間の尊厳が奪われた気がする。

「とりあえず、情報交換とかしない?」

 露骨に話を変えるように一松がそういうのを首肯する。こうしてようやく互いの名前を知ることになったのだが。

25◆BrXLNuUpHQ:2024/01/27(土) 00:15:11 ID:???0

「六つ子?」「マジすか?」
(じゃあさっきのあれは兄弟みんなで旗を……?)

 一松が言うには自分たちは六つ子だという。なるほどだから六人全員掘られてたのね、いやそうはならんやろ。何があってそうなった。

「ここが地獄って、そんな……」「……わからなくはない。」

 次に利根が言うには、自分は死んだはずであり、ここは地獄であるという。
 たしかにある意味地獄を味わったが、そういえばオープニングに出てきた変なマスコットには角が生えていたような気もするし生えてなかった気もする。なんだか遠い昔のことのようだ。

「なにかの能力者ってそんな中二病な……」「オレは信じるぜ……周り見ればわかるからな……」

 次に直矢も話した。能力者については伏せるが、しかし能力によるものという疑いは伝えておく。一松も利根も程度の差はあれ、直矢の言うことに納得したようだ。

(首輪付けられて、銃まで落ちてたらそうなるだろうな。)

 赤い霧に赤い空に馬鹿みたいに置かれている銃。それを見ればこれが現実なのか怪しいと能力者と無関係でも思うだろう。直矢もあまりに生々しい霧の影響を受けていなければ、真っ先に幻覚を疑った。

 それから話すこと十分間。親の顔より見たバトル・ロワイアルの開始直後に出会った参加者がしがちな会話をしながら、自然と三人は歩きだしていた。道の真ん中に突っ立っているのはどう考えても危険だ。年長者ということもあり先頭を歩く一松について行くと、気がつけば繁華街らしき場所に出ていた。

「人の多いところは危ないんじゃないすか?」
「そうだけど、ほら、こんなメモがポケットに入ってたんだ。」
「なんですそれ?」
「さあ……」
「あ……それ、持ってます。」
「マジかよ、あっ、オレのズボンにも入ってる。」

 それはアイテムの場所を指し示したメモなのだが、なにぶん誰も謎解きが得意ではないので、しらみつぶしに繁華街の入れる店を探していく。クイズを解く際の王道を往くやり方、全通りである。メモ担当の主催者、Xこと氷室カイが気を使って簡単にした上、繁華街にあるとわかるところまでは特に簡単にしたのだが、三人は頭を使わず力押しでアイテムを手に入れた。
 紹介しよう、【大形京の近くにあった本@黒魔女さんが通る!!】である。

「なにこれ? 小説か。」
「主催者の嫌がらせじゃないすか? それよりさっきの話……うん?」

 クソみたいなハズレアイテムだと判断したのでとびきり簡単にしたのだが、三人はそんな気遣いに気づかず脳死で突破した。適当にその辺の開いてた牛丼屋に入って見つけただけである。
 もっとも三人とも別にこれを探す気などそもそもない。ただなんとなく、目標らしい目標が欲しくて、それに向けて行動していたくて、雑談する間の徘徊先に選んだだけである。
 水を勝手に飲んでいる直矢と一松をよそに、ペラペラと利根は本を読む。サッカー少年なので別に本はどうでもいいが、過去の経験から怪しいものを口にしたくなくて、二人が飲んでる間の暇つぶしだ。そして利根が会話の途中で声を上げたのでなんだとなると、音が聞こえるという言葉。一松と二人で耳を傾けると、たしかに洋楽のような曲が聞こえた。本は関係ないのか。

「商店街の放送かな?」

 一松の言うとおりだとその場は思ったが、すぐにそれが間違いだと気づいた。
 繁華街を歩いていくと、すぐに音は大きくなっていく。五分もしないうちに一つの酒場から大音量で曲が流れていることに気がついた。店の外まで流れるほどで、慎重に店内に足を踏み入れた三人は、耳を圧する音に驚いたほどだ。

26◆BrXLNuUpHQ:2024/01/27(土) 00:21:12 ID:???0

「ゲッ、仙川!」
「あなたは利根……!」

 この時、なぜ自分は何も考えずに一松の後ろをついていったんだろうと、直矢は後に悔いた。
 少し考えればわかるはずだ、殺し合いの場で、大音量を立てるなどまともな人間のすることではないということに。
 霧と一松のせいで平静を失っていたことは理由にはならない。それで死んでは目も当てられないのだから。
 さて、話を戻そう。
 先に利根は自分が死んだと、過去の経験から怪しいものを口にしたくないと書いた。
 そして麻紀が酒に酔った少女を介抱している際に出会った少女。この少女の名前は仙川文子というのだが、この二人にはある共通点がある。
 それは絶体絶命ゲームという小学生が一億円を奪い合って殺し合うデスゲームで、互いが足を引っ張って死ぬことになった二人だということだ。

「動かないでください!」
「テメエ汚えぞ!」

 え、なにっ、と呆けた声を出す一松と直矢の前で、仙川と名乗った少女は銃を突きつけていた。
 突然のことでついていけない。なぜさっきまで普通に話していた小学生男子が、同じぐらいの女子に殺気を剥き出しにしているのか。あまりに状況が変化しすぎて、一松と二人で顔を見合わせる。
 仙川と呼ばれた女子が、横にいた少女を人質にでもするように盾にしているのも、わけのわからさに拍車をかける。

「せ、仙川さん?」
「すみません、私、このゲームに乗ってます。」
「え、え?」

 困惑の声を上げる少女、麻紀。実はこの二人はこれまでに直矢たちと同じように情報交換していてのこれなのだが、そんな事情は直矢にはわからないし、一松にもわからない。
 つまり、今ポカンとしているのが正常な反応だ。
 そして異常事態でそれは、命取りだ。

「あなたのせいで私まで死ぬことになったんです! あなたが勝手だから!」
「テメエの運動音痴を棚に上げんじゃねえ! つーかそいつお前の仲間じゃねえのかよ!」
「あなたルールを理解していないんですか? 『これ』も『絶体絶命ゲーム』と同じでしょう!」
「チイッ! じゃあなオッサン!」
「えまだオッサンって歳じゃ──」

 次の瞬間、ダオン!という爆音が響いた。と同時に、直矢の顔に何かがかかる。
 頭に映像が流れる。直矢より数メートル前の視点。突然、最前列にいた利根が一松の襟首を掴んで、自分の前に押しやって、次の瞬間、少女の持つショットガンが光って。

「これは、走馬灯。」
「テメエマジか! やりやがったな!」
「あなたが盾にしたんでしょう! さあ盾はなくなりました! 動けば撃ちます!」
「え……あ……仙川、さん……」

 一松の体がズルリと倒れる。開けた視界で、麻紀と直矢の目が合った。お互い理解した。
 「わけがわからない」と。

「邪魔だ、うおっ!?」
「ぐっ。」

 逃げようとした利根が直矢にぶちあたる。狭い入り口、子供といえどすれ違うスペースなどない。
 視界の端で、仙川の眼鏡がキラリと光った。

(ああ、撃たれるな。)
「クソがっ! また足手まといのせいで──」

 突然のことで脳が把握できないが、それでも人の悪意はわかる。
 ぶつかった時に流れてきた利根の記憶は、仙川と二人で黒服の男たちに拘束されるもの。それが強い記憶だから流れてきたのだろう。そしてなにより、仙川の目は冷たかった。

27◆BrXLNuUpHQ:2024/01/27(土) 00:28:15 ID:???0

 もし、三人が無警戒にこの店に足を運ばなければ──直矢にそれを注意できる精神的な余裕は無かった。
 もし、利根が本ではなく銃を手に持っていれば──直矢は彼がマシンガンから手を離して紐で肩掛けにするのをホっとさえした。
 もし、利根から彼が死んだという話を詳しく聞き出しておけば──絶体絶命ゲームのことを口外すれば命に関わる以上それはありえない。
 そんな無意味な仮定が頭をよぎる前で、仙川はショットガンの狙いを定める。

 次の瞬間、散弾が放たれた。

「俺は不死身の杉元だあああああっっ!!」

 次の瞬間、不死身の杉元こと【杉元佐一@映画ノベライズ ゴールデンカムイ@集英社オレンジ文庫】が現れ、散弾を受けながらも突貫して仙川をぶん殴った。

「なにっ。」「なんだあっ。」

 これには直矢も利根も驚愕である。なんか突然自分たちとは毛色の違う旧日本兵が現れれば当然であろう。
 しかしなぜ突然ヤングジャンプで連載し2700万部を売り上げた人気漫画の主人公が現れたのであろうか? その答えは利根の持っていた本にある。

 話はつい先日、大形がバトル・ロワイアル開催のために本屋さんに訪れたところからはじまる。
 彼はいつものように殺し合わせたい児童文庫を物色していたのだが、その時に見つけたのがゴールデンカムイのノベライズ本であった。
 映画公開と同時に発売された本作は書店でも目立つところに置いてあり、旧日本兵を殺し合いに巻き込めばより活発な戦いになると期待して購入した。
 しかし、一つ誤算があった。
 ゴールデンカムイは児童文庫ではないのだ。
 大形たち黒魔女さん勢は講談社派だ。少年マンガといえばマガジンだし少女マンガといえばなかよしだし青年マンガといえばヤンマガだ。
 だからジャンプやヤンジャンのノベライズ事情に疎かった。ジョジョもるろ剣もかぐや様も実写映画のノベライズがみらい文庫から出ているのだからゴルカムもみらい文庫から出たのだと誤解してしまったのだ。
 というわけでゴルカムの参戦は無しになったのだが、それはそれとして買ってしまったノベライズ本がもったいない。なんとか再利用できないかと考えたところ、主催者たちが会場に配置する食料について話していたのを聞いて、これだと思った。
 理由はわからないが、デスゲームものの主催者は参加者の食料にこだわることがある。このロワでも峯岸総理やXのように己の地位を誇示するかのように高級料理を振る舞ったもの、仙川や利根のようにゲームの一端として料理を食べることになったものなど、例となるケースは多い。もちろんギロンパや黒鬼のように現地調達でなんとかさせるケースもあるのだが、大形はせっかくなのでアイヌ料理を振る舞うアイテムとして再利用することにした。やることは簡単で、本の中に入る黒魔法の逆をかけておくだけである。
 さて、この黒魔法、適切にかけなければ適切な効果は得られない。時間を巻き戻そうとしてループに巻き込まれたチョコがその例だが、大形もそれと同じミスをおかしていた。食べ物を選んで本から出す黒魔法をかけたつもりが、花園だんごの串を鶴見中尉にぶっ刺される拷問をされた杉元を団子判定して召喚してしまったのだ。
 これには大形も焦った。本が利根の手に渡ったことで観戦していたらどういうわけか参加者でない人物が召喚されていたのだから。即座に時間を止めると杉元を本の中に戻し代わりに花園だんごを置いておく。さいわい死者は出ていないのでギロンパさえ処理すれば隠蔽可能だ。
 そのあとのことなど、単なる参加者間の問題でしかない。

28◆BrXLNuUpHQ:2024/01/27(土) 00:35:07 ID:???0

「は、ハッハー! ラッキー!」

 数秒の空白の時間でいち早く立ち直ったのは利根だった。銃撃を受けたので反射的に殴った杉元のような常人離れした行動はできなくても、意味深なメモに書かれたアイテムから男が出てきたのだから、それはそういうものだと考えた。
 依然として仙川は麻紀を人質にとってはいるが、杉元に殴られほぼ気絶している。もたれ掛かっているというのが正解だろう。
 つまり今の彼女は完全に無防備で。

「ま、待て──」

 パラララララ。
 直矢の静止の声も間に合わず、9mmパラベラム弾が二人の少女を撃ち抜いた。

「いっ、たい……! どう、して、なんで……牧……」

 信じられない、そう目で言う麻紀と、頭部から脳みそをほとばしらせて即死した仙川が崩れ落ちる。その体に引きっぱなしにされたトリガーから銃弾が突き刺さり、文字通りのハチの巣を作った。

(なんでだ、なんで……)

 死体が出来上がった。さっきまで友好的に振る舞っていた同行者の手によって。
 理解が追いつかない。撃つ必要はどこにもなかったはずだ。あの子はもう戦える状態じゃなかった。
 そんな無意味ななぜに対して、答えは直ぐに示される。
 マシンガンの銃口は、直矢の顔の前に向いていた。

「お前……殺し合いに、乗って……」
「勘違いしてんのかもしんねーけどよ、これが本当に殺し合いなら、何人殺しても生き残ってやるぜ……!」

 前提が違った。直矢はこれまで意識的に利根の心を読むことを避けていた。だから見誤った。利根が自分の願いのためならば他人が死ぬことも厭わない人間だということを。
 体が動かない。いや、動かせない。心を読まなくてもわかる。動けば撃たれる。そんなことはわかるのに、利根の心はわからなかったのだ。
 そして一発の銃声が店内に響いた。
 呆然と、直矢はその様子を見るしかない。利根の近くの壁に、弾丸が突き刺さると煙を上げた。
 誰かが、利根を撃ったのだ。

「チっ! まだ敵──弾が!?」

 慌てて振り返った利根が引き金を引くも、弾丸は発射されない。先の一連射でマガジンは中身を全て吐き出している。
 直矢の上を利根は飛び越えると、階段を駆け下りる音が聞こえてきた。逃げた、助かった、ということか?

「……間に合ったわね。」

 そして聞こえてきたのは、大人びた少女の声。
 息遣いは荒く、おぼつかない足音が聞こえる。
 直矢は驚いた。姿を現したのは、低学年ほどの少女だったのだ。十歳にも行かないような子供が、大きな拳銃を小さな両手に握りしめている。ぷんと酒の匂いがした。

「こっちの二人は、即死ね……この男性も……」
「君は……」

 深い意味なく、相手の素性を問うた直矢の言葉に、少女は歩み寄ろうとした足を止めた。
 手を口にやり、目を閉じる。何かを悩むようだった。
 何秒かそうして、小さな声でこう言った。

「灰原、哀。」

29◆BrXLNuUpHQ:2024/01/27(土) 00:45:29 ID:???0



 灰原哀にとって、この殺し合いは現実のものではないと判断するのに大した時間は必要なかった。
 彼女の持つ科学的知識に基づけば、霧や雲といった気象現象が異様な色合いをしていることに、夢以外の結論は出なかった。
 大人を子供に戻す薬を開発し、自らも投薬により子供に戻るという現実離れした経験を今もしている彼女だが、そんな彼女だからこそ人より踏み込んだ知見がある。空の色は太陽光によるところがもっぱらで、それを人工的に変色しようとなれば非現実的な費用がかかる。万が一技術的に可能であっても、金銭的に不可能だ。
 だから全く読めない文字の書かれたポスターと合わせて、灰原は己が夢の中にいるがゆえの現象であると認識した。夢の中では文字が読めないということは往々にしてある。己が識字障害や幻覚をもたらす薬物の影響下にあり、なおかつ首輪に爆弾を付けられ拉致されたと考えるよりも、ずっと自然だった。

「悪夢ね……パブなんて思い出になるような場所じゃないんだけれど……」

 つぶやきながら、ボトルキープされた酒瓶の中から一つ取り出し、匂いと温度を確かめるとグラスに注ぐ。
 シェリー酒。
 因縁深いそれをカウンターの上に放置されたH&K P7の横に置いた。

「……引き金を引けば、この悪夢も終わるのかしら?」

 スクイズコッカー。シングルアクションとダブルアクションの特徴を併せ持った機構だ。その評価は別れる。
 今の自分はどちら側なのだろう、灰原はそんなことを考えてグラスを煽った。ワインより強まっているアルコールが喉を焼く。
 このまま飲みづつけて、酔いつぶれてしまえばいい、こめかみに向けて銃を撃つのが怖いのだから。
 夢の中だというのに、まだ恐怖が体をがんじがらめにする。P7を撃ったのは、コナンと初めて会った時のことだった。復讐者なのだろうか、今の自分は。シェリーという名を与えられた黒の組織から逃げ出して、終わりのないただの逃亡者に過ぎないのだろうか。
 酒を煽る。たった一杯だというのに、手が震える。子供の体はアルコールを受け付けてくれなかった。
 零しながらも注いで、古びたコンポをつける。聞いたことの無い洋楽が流れる。音量を上げると、またグラスを煽った。


(あの時もそう……)

 自分が再びトイレで吐いている間に、現れた仙川。麻紀を彼女と二人きりにするべきではなかった。
 剣呑な声が聞こえて、銃声が響いて、男の叫びが耳をついて、ふらつく足取りで拳銃を手にして戻ったときには、見知らぬ少年の手にあるマシンガンからは煙が上がっていた。
 何があったかは大きな声で聞こえている。灰原を見つけ介抱してくれた麻紀は、無関係な参加者のとばっちりで死んだ。麻紀だけではない、名も知らぬ成人男性も、顔がわからぬほどの損傷を受けている。

(私が音楽をかけていなければ、もしかして……)

 マシンガンを持った少年に発砲し、彼が逃げ出したことでその場の生存者は二名になった。灰原は入り口を出たところで倒れる少年に近づく。
 その目にはどんな感情の色があるのだろうかと、P7の銃口を見ながら思った。

「こっちの二人は、即死ね……この男性も……」
「君は……」
(私は、なんなのかしら……)

 灰原哀は生きている。今、生きている。
 自分とは対象的な、小松原麻紀が死んでいったのに。
 そんな中で、何を求めて自分は生きればいいのだろう。

「灰原、哀。」

 最後まで直矢の目を見れずに、それでもこの不確かな迷宮から抜け出したくて。
 拳銃をポケットにしまって、手を差し伸べて、灰原はもがくことを決めた。

30◆BrXLNuUpHQ:2024/01/27(土) 00:56:24 ID:???0



【0054 『北部』繁華街】

【灰原哀@名探偵コナン 紺青の拳(名探偵コナンシリーズ)@小学館ジュニア文庫】
【目標】
●小目標
 私の目的は……?

【利根猛士@絶体絶命ゲーム 1億円争奪サバイバル(絶体絶命シリーズ)@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
 生き残り人生をやり直す。
●小目標
 殺し合いに乗る。

【居想直矢@異能力フレンズ(1) スパーク・ガールあらわる! (異能力フレンズシリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●小目標
 ???


【脱落】
【小松原麻紀@星のかけらPART(3)(星のかけらシリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【仙川文子@絶体絶命ゲーム 1億円争奪サバイバル(絶体絶命シリーズ)@角川つばさ文庫】
【松野一松@小説おそ松さん 6つ子とエジプトとセミ@小学館ジュニア文庫】

31◆BrXLNuUpHQ:2024/01/27(土) 01:07:27 ID:???0
投下終了です。
タイトルは『ハート──怖くないと言って星のかけらを飲み干したい』になります。
それと、このロワでは地図がないためあんまり意味が無いですが、各方面の生存者リストを置いておきます。
話の都合で同じエリアでも出会ったり出会わなかったりしますが、交通手段などを使わない限り別のエリアにはあんまり早く移動できません。
エリアが言及されていない【自由】のキャラはなんの制限も無く会場の任意の地点にポップします。
地図なんてクビだクビだクビだ!

【東部】2
○虹村形兆○久遠永久

【西部】3
○藤原千花○神田あかね○藤原千花

【南部】41
○関織子○深海恭哉○園崎魅音○弱井トト子○北条沙都子○秋野真月○木原仁○一路舞○ルーミィ○宮美ニ鳥○花丸円○黒鳥千代子○ヌガン○前原圭一○山田奈緒子○白銀御行○宇野秀明○倉沢竜土○松野トド松○加山毬藻○ギュービッド○二階堂大河○宇美原タツキ○宮美三風○風見涼馬○雪代縁○桜木紅絹○石川五エ門○うずまきナルト○桃花・ブロッサム○ウオッカ○松野おそ松○宮美一花○新庄ツバサ○ケルベロス○サウード○天地神明○メタモン○氷室カイ○一ノ瀬悠真○宮野ここあ

【北部】17
○園崎詩音○関本和也○小林旋風○早乙女ユウ○佐藤マサオ○桃地再不斬○芦川美鶴○ロボ○ライオン○バギー○乙和瓢湖○山田クミ子○クレイ・シーモア・アンダーソン○紫苑メグ○灰原哀○利根猛士○居想直矢

【自由】
その他全キャラ

32◆BrXLNuUpHQ:2024/02/15(木) 03:11:37 ID:???0
投下します。

33◆BrXLNuUpHQ:2024/02/15(木) 03:12:27 ID:???0



 安西こころは、特徴が無いのが特徴の女子中学生だ。
 不登校の経験があったり、奇妙な異世界で命がけの戦いをすることもあったが、それは彼女を知らない人間からすれば全く想像もできないような、街を歩いていてすれ違っても誰も気に求めないような、没個性的でありかつ人から注目を浴びないような人物だ。
 そもそも、異世界であるかがみの孤城での記憶などろくに本人にはない。そういう空間なので仕方ないのだが、彼女からすれば、ある日ふと、学年が一つ上がるのをきっかけにしたように、なにかが自分の中で変わったように感じた程度だ。
 だが、その身に刻まれた経験は、たとえ記憶が消えたところで変わりない。そしてそれがもたらすものも。

「なに、これ……血が……こんなの知らない……ううん、知ってる? なんで……」

 こころはデジャヴを感じていた。もちろん殺し合いに巻き込まれるのなど今日が初めてのはずである。しかし、どうしても自分は一度これを経験しているという思いが、どこからか湧き上がってくるのだ。
 時間を巻き戻されたことをこころが知覚できるわけはない。しかし、自分がなにか大切なことをしなければならないという、直感的な使命感が、観念的ななにかを覚えていた。

「この匂い……ストロベリーティーだ。」

 自分が喫茶店にいることに気づくより先に、独特の甘い匂いを知覚する。その匂いもこころの感覚を呼び起こしていることは知らず、しかし嗅覚は人間を時に視覚よりも強く刺激する。
 こころはティーバッグの袋をいくつか手に取った。不登校であった時に、カウンセラーの人がよく入れてくれた、というだけではない。これを誰かに届けることが、過去からも未来からも大切だと伝わってきている。
 そうだ、自分はこれを届けたいと思っていたのだと、こころは不自然なほどに納得していた。己でも理解不能だが、そうしなくてはならない。いつかの自分がそう思っていたのを、こころは強い実感を持って手に握りこむ。

 ──彼女がそれを届けたいと願うアキは、彼女と違って何かに突き動かされた結果、より自分を責めることになっている。
 ルパン三世たちとの出会いは、しかし彼女の心の傷を癒やすにはまだ足りない。
 こころが知らないこころのように、こころが手を伸ばす必要がある。

 こころは、ティーバッグだけ持って扉を開けた。ガラス窓は鏡のように彼女を写す。ちっぽけな一般人。流れ弾でいつ死んでもおかしくないモブ。数百人いるうちの一人。それがこころだ。しかし赤霧に包まれた会場を歩く彼女に、恐れを超えた研ぎ澄ましたものがあった。
 喫茶店を出ると、自分が大きな建物の中にいることがわかった。ピクトグラムが文字に代わって、そこが何かを知らせる。空港だ。
 こころは足の向かう先へ行った。いくつかのゲートを越えて、鍵のかかっていない扉を見つけた。そして彼女がたどり着いたのが、管制塔だった。
 道中で見つけたカードキーで中に入る。心は自分でも不思議なほどに違和感無く、いくつかの機器を操作した。そうすることが何かを変えると、あるべき形にするという、啓示とも言える感覚がある。
 ここでやるべき事は終わった。行く先は真っ直ぐに、衝撃のベクトルが胸を貫く方へ、こころは歩んでいく。空港を抜け街へ出ると、途中で何度も銃声が聞こえ、ときおり爆発音も聞こえた。だが不思議と、こころはそれを怖いとも遠ざかろうとも近づこうとも思わなかった。
 やりたいことはわかっている。ただベクトルの向かう先へと。
 そんな彼女がようやく足を止めたのは疲れからではなく、ついに自分のすぐそばへと駆けてきた足音のためだった。
 直感でわかる、危険ではないと。わずかに迷う、無視してもよいかと。こころの目指すところとはたぶん違う。しかし、自分のすぐ近くで、今も命が失われそうになっているのではないかと。
 こころの感覚に変化が訪れる。今までの明晰な方向性が消え、二つに別れた。
 つまり、行くか、会うか。

34◆BrXLNuUpHQ:2024/02/15(木) 03:13:10 ID:???0

 ティーバッグを握る。するべきことはある。なら、これも同じだ。

 少しだけ考えて、こころはその場に立ち止まることにした。
 山本ゲンキが現れたのは、それから直ぐのことだった。


「──で、織田信長の前に織田信長が現れた!ってわけよ。それからもうショットガン持った方の信長に追われてスッゲー大変でさ、あ、クッキー食べるか?」
「ありがとう。」

 こころより年下だが、少し背が高いゲンキは、きらめく汗を拭いながら、片手でクッキーを差し出してくる。
 モソモソとしたそれに口の中の水分を持って行かれながら、こころは誰かのことを思い出していた。
 空と霧のために自分がどれだけの時間歩いていたのかこころにはわからなかったが、足の感覚は遠足の時のような重さだ。しかしそれも直ぐに終わるという確信があるので苦痛では無い。むしろ、ようやく目的地に辿り着いたという理由のわからない嬉しさがある。

「で、どこに向かってるの?」
「わからない……一緒に来る?」
「もちろん! どっちみち迷子だしさ、とりあえず着いてくぜ。」

 ゲンキはまるで殺し合いなどどこ吹く風というように明るかった。自分とは違うと思ったが、同時になにか共感めいたものを感じて、それを不思議に思う。しかしそれを言語化するより先に、二人の目に写ったものがあった。
 人だ。こころと同じ中学生ほどの子供が倒れている。それもただ単に一人道路上に寝ているというわけではない。複数の男女が、血の池を作って折り重なっていた。

「し、死んでる……!」
「……」

 ゲンキのような言葉も出ずに、こころは立ちすくむ。だが、同時に自分はこれをどこか予感していたようにも思えた。

「急がなくちゃ……!」
「おい待て! 一緒に行くぜ!」

 急かされるように死体に近づく。幸運にも二人の知った顔ではない。こころは死体に一礼すると、続いてすぐ近くの学校へとかけ足で入った。ここが目的地だ。ここに、会わなければいけない人がいる。
 運動不足の自分が疎ましい。ここまで歩きづめなのもあって足が動いてくれない。それでも校舎に入ると、一つ一つ部屋を確かめていく。そして半ばほどまで来たところで、こころは足を止めた。
 犬だ。白い小さな犬がいた。「アン?」と保健室から出てきて、小首をかしげていた。

「なんだ野良犬かぁ?」
「はっ……はっ……ちがうよ、首輪がある。」
「あっ、本当だ。えっお前も参加者なのか? いや参加犬か。大変だなお前も。」
「アン。クゥン。」

 ゲンキは膝を折って犬へと手を伸ばす。犬は警戒したように手の匂いを嗅いでから、撫でられるのに任せた。こころはその横を通り過ぎて、犬が出てきた部屋の前に立つ。
 保健室。
 足を踏み入れる。
 胸が痛いくらいに心臓が早い。
 「あの、すみません、誰かいませんか?」と声を出す。
 人の気配が、カーテンで閉められた一画からして、突然それが開かれた。
 次の瞬間、こころに電流が流れた。
 脳だけでなく胸も貫いた衝撃のベクトルの終着点。それがここだ。

「あ……安西こころ、です。」
「……井上、晶子。」

 気がつけば、どちらともなく涙を流し始めていた。理由のわからない落涙だが、なぜか二人は抱き合い、声を出して泣いた。
 記憶が無くても、互いに宿る共感が互いを震わせ、増幅させる。
 この時こころとアキは、自分たちが何を求めて動いていたのかを知った。

35◆BrXLNuUpHQ:2024/02/15(木) 03:13:52 ID:???0



(銃も持たねえで来るとはねえ。平和ボケっていうのかなんていうか。ま、悪い子じゃあなさそうだな。)

 井上晶子と高橋蓮を学校で保護する形になっていたルパン三世は、ワルサーを懐にしまいながら歩き出した。
 ルパンが彼らと出会ってから既に一時間、校舎を探索して安全を確認し終えたと思ったところで校門から入ってきたのがこころ達だった。武装していないことから警戒していつでも撃てる体勢を維持しつつ追跡する。この殺し合いでは、銃を持っていない参加者は不自然だ。迷い無く校舎に入るのも気になる。
 そして保健室まで来たところでいよいよ声をかけるかと思った矢先だった。明らかに雰囲気に殺気がないので成り行きに任せたが、中学生ほどの相手とはいえ緊張する時間だった。

「そいつが気に入ったかい?」
「うお!? なんだこのオッサン!?」
「オッサンだと? お兄さんって言ってほしいんだけどなぁ。お肌だってピッチピチよ?」
「あ、本当だ。スキンケア何使ってるんですか?」
「ンフフ、ニベア。」
「アン! アン!」

 ゲンキに声をかけて共に保健室に入る。中では目を擦りながら起きた蓮と、抱き合い涙する女子中学生二人がいた。

「なんだぁ? こころさんどうしたんだ?」
「うーん……だれ?」
(にしても、また子供か。)

 困惑するゲンキと、寝起きで頭が回っていない蓮、そして泣き続けるこころとアキ。
 計四人の子供たちを前に、ルパンは内心で苦い顔をしていた。
 ルパンとしては首輪の解除に動きたいところだ。解除への工具が見つかれば上、解除のノウハウがある人間を見つけられれば中、自衛できる人間なら下、といったところだが、出会ったのはお守りが必要な子供四人に犬一匹。組む相手としては下の下である。
 では見捨てるかというとそうはいかない。それでは大怪盗の名折れ、主催者の思う壺だろう。

(くっそー、ゲームの主催者なら参加者をどこに置くかも決められるだろうよ、俺が動きにくいように、わざと子供ばっか近くによこしてないか?)

 ルパンは主催者の悪意を感じた。ルパンにせよ次元にせよ五エ門にせよ、この状況ならお守りをせざるをえない。それがわかって出会うように仕向けられている気がする。ある種の人質だろうか。しかも近くに殺し合いに乗った人間までオマケされている。ルパンが動かなければ子供が死ぬということだろうか。

(で、削って首輪外すのも主催に歯向かうのも防ぐってか。おいおいやることが随分と狡っ辛くねえかい?)
(──校舎か。狙いにくいな。)

 そしてルパンの危惧通り、学校には新たなマーダーが現われる。
 ゲンキが最初に見つけた死体を作った男、ジンはこころ達を追跡して学校の敷地外から狙撃する機会を伺っていた。
 ゲンキや信長とはニアミスした彼だが、途中でこころを発見していた。
 見つけてから撃つまでの間にゲンキと出会ったことで、他の参加者と合流する可能性を考えて泳がせた結果、ジンもまたルパンのいる学校に近づくことになった。
 この殺し合い、早々他の参加者には出会えない。見敵必殺では、制限時間などがあった時に殺し切るのが間に合わない恐れがある。むろんリスクはあるが、少なくともペラく信長のような珍獣ではなく日本人の中学生。束になっても殺し尽くせるという自負はある。

(この霧の上に校庭で距離があるが……風もないなら500メートル先からでも頭を打ち抜ける。さあ、難人いる?)
(少なくともマシンガン持ってる奴がいるからな。保健室は逃げやすいが、どうすっかねぇ。)

 ジンは狙撃を試み、ルパンは新たな出会いに頭をひねる。
 同作キャラが出会うと死ぬというジンクスは、漆黒の追跡者を呼び寄せた。
 果たして天下の大泥棒は凶弾をも盗むことはできるのか?
 それはこころやアキでも予感できない新たな局面だった。

36◆BrXLNuUpHQ:2024/02/15(木) 03:16:10 ID:???0



【0250 海辺近くの繁華街や自然公園の方にある学校】



【安西こころ@かがみの孤城(下)(かがみの孤城シリーズ)@ポプラキミノベル】
【目標】
●大目標
 殺し合いから脱出する。

【山本ゲンキ@生き残りゲーム ラストサバイバル でてはいけないサバイバル教室(ラストサバイバルシリーズ)@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 殺し合いってマジ? やっべーだろ。
●中目標
 あの信長は……?
●小目標
 このオッサンは……?

【シロ@映画ノベライズ クレヨンしんちゃん ガチンコ! 逆襲のロボとーちゃん(クレヨンしんちゃんシリーズ)@双葉社ジュニア文庫】
【目標】
●大目標
 生き残る。
●小目標
 ルパンたちと一緒にいる。

【井上晶子@かがみの孤城(下)(かがみの孤城シリーズ)@ポプラキミノベル】
【目標】
●大目標
 殺し合いから脱出する。

【高橋蓮@猛獣学園!アニマルパニック 百獣の王ライオンから逃げきれ!(アニマルパニックシリーズ)@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 帰りたい。
●小目標
 アキやルパンと一緒に、つかさを撃った敵を倒す。

【ルパン三世@ルパン三世VS名探偵コナン THE MOVIE(名探偵コナンシリーズ)@小学館ジュニア文庫】
【目標】
●大目標
 殺し合いから脱出する。
●中目標
 首輪を外す方法を探りたいが……嫌な予感がするなあ。
●小目標
 犬(シロ)を警戒しつつ、子供たち守る。

【ジン@名探偵コナン 純黒の悪夢(名探偵コナンシリーズ)@小学館ジュニア文庫】
【目標】
●大目標
 主催者の情報を手に入れるために態勢を整える。
●小目標
 ようやく殺し合いらしくなってきたな……

37◆BrXLNuUpHQ:2024/02/15(木) 03:16:28 ID:???0
投下終了です。

38◆BrXLNuUpHQ:2024/03/02(土) 06:23:11 ID:???0
投下します。

39◆BrXLNuUpHQ:2024/03/02(土) 06:23:42 ID:???0



──動画が始まり、視点が床から上がる。スマホは二階堂の学ランの胸ポケットに入れられているようだ。動画には宇美原タツキ、加山毬藻、松野トド松が映っている。

二階堂「準備はできたか。荷物は置いてけよ。」

トド松「ねえ……やっぱりやめない? 危ないって。」

マリモ「なら一人になれば? 私たちは光矢を洗脳から解きに行くから。」

二階堂「アンタは光矢が撃ち殺されてたって言った。コイツは光矢が他のプレイヤーを撃ち殺してたって言った。どっちかが嘘をついてるにせよ、光矢が殺したあとに殺されたにせよ、確認しに行かないってわけにはいくかよ。めんどくせーけど。」

トド松「でも……」

二階堂「宇美原、フロント頼む。マークスマンライフルでバックにつく。」

──宇美原は無言で頷く。トド松は心配そうな顔で口をパクパクと動かしている。
──何度か会話を交わして、四人は民家を出て学校へと向かう。二階堂は片手にコンパスを握っている。灰色の矢印が空転している。

二階堂「静かだな。どうする。」

宇美原「先行する。」

二階堂「了解。」

──サブマシンガンを持った宇美原を先頭に、すぐ後ろをマリモが、十メートルほど離れてトド松が着いていく。二階堂はトド松から数メートル後ろにいるようだ。

二階堂「校門の辺りは遮蔽物が無い。煙幕と制圧射撃するか?」

宇美原「頼んだ。」

──画面が揺れ、二階堂はサブマシンガンに持ち替える。二階堂が発砲すると宇美原は発煙筒を数個投げつけつつ走り、校門を突破する。次いでマリモが別方向へと突破する。
──弾が切れたサブマシンガンを捨て、二階堂が走る。途中で追い越されそうになったトド松と二人で校門を突破する。少し間をおいてマリモも合流する。

二階堂「待ち伏せは無いみたい──」

──突然宇美原が走り出す。画面の端に何かが転がり込んでくる。宇美原は抜刀し、それをホッケーのように校舎の窓ガラスへとシュートする。数秒後、校舎内で爆発が起こる。

二階堂「グレだ!」

宇美原「校舎に人影が見えた。」

──宇美原は校舎の壁面のパイプを伝い二階の窓から中に入る。直後子供の悲鳴が聞こえる。

二階堂「光矢か? いや、違う、誰だ?」

マリモ「着いてきなさい!」

トド松「なに!? なんなのこれ!!」

──マリモに続いて割れた窓ガラスから校舎の中に入る。室内は爆発の跡が見える。振り返るとトド松が窓枠を乗り越えようとして転がり落ちている。

二階堂「加山、案内しろ。」

マリモ「階段はこっち。」

──先行するマリモはサブマシンガンを乱射しながら廊下を移動する。弾が切れると近くの部屋に入り、ライフルを持って出てくる。

二階堂「そこらじゅうに弾があると気軽に撃てるな。」

マリモ「ほらほら! 逃げないと撃ち殺すぞ!」

二階堂「オレもマシンガンにしとくんだったか。」

──階段を上がると、マリモが廊下の校舎裏側を、二階堂が廊下の校庭側をそれぞれ調べていく。これまでの間子供の悲鳴がし続けている。

二階堂「アイツは拷問でもしてんのか?」

40◆BrXLNuUpHQ:2024/03/02(土) 06:24:39 ID:???0

マリモ「タツキ! アンタが!」

???「ち、ちがうよぉ! 僕じゃな、ぐっふ!?」

二階堂「誰の声だ……宇美原!」

──教室の中で、マリモが頭がタマネギのような形の十歳ほどの少年に馬乗りになって殴りつけている。その近くで宇美原が頭部から血を流して床に倒れている。

二階堂「意識は無い、呼吸は……してるな。待て、加山なんかおかしい。」

マリモ「はぁ……はぁ……なに!」

二階堂「こいつ後頭部を殴られてる……もう一人いるぞ! おーいオッサン! 生きてるか!」

トド松「置いてかないで〜! なんで君たちそんなグイグイ行けるの!」

二階堂「まだ生きてるみたいだな。」

マリモ「もう一人ってどういうことよ?」

二階堂「突入した宇美原が後ろから襲われるのは変だろ、後ろ窓なんだから。なのにこいつは後頭部から血を流してる。このタマネギ頭制圧してるところを狙われたってところか。」

マリモ「もしかして光矢が……」

二階堂「コイツを不意打ちできる奴なんてそうはいない……たしかに光矢ならな。おいタマネギ頭、何があったか話せ。」

マリモ「喋らなきゃ撃つぞゴラァ。」

タマネギ頭「わ、わからない! 銃の音が聞こえて、爆発して、そ、それで、そうしたら突然押し倒されて……」

──タマネギ頭の少年の顔の横に銃弾が撃ち込まれる。タマネギ頭の少年が悲鳴を上げて失禁する。

二階堂「加山。」

マリモ「気をつけなさい、次は何するかわかんないからね。」

二階堂「たく……だってさ。ちゃあんと話さないとこの怖いお姉ちゃんに撃ち殺されちまうぞ? 話せば助けてや──うわ汚え。」

タマネギ頭「た、助けてええええ!! ころさ、殺されるうううううう!!!」

──タマネギ頭の少年が激しく暴れだし、画面が床に近づく。スマホが胸ポケットから落下したようだ。以後映像はほとんど黒一色になる。音声は変わらず記録される。

マリモ「逆効果だった?」

二階堂「なにやってんだよ。とりあえずコイツは縛りつけとくか。加山抑えてろ。」

マリモ「いやよバッチイ。」

二階堂「お前が漏らさせたんだろ。コイツ縛ったら全員で宇美原を保健室に連れて行く。」

マリモ「トド松にやらせればいいんじゃない?」

二階堂「バラバラになったらコイツみたいにヤラれんだろうよ。」

マリモ「もうトド松とバラバラになってるけど。」

──数秒沈黙。

二階堂「おーい! オッサン!」

──二階堂とマリモは数回呼びかける。呼びかけに反応は無く、タマネギ頭の少年の嗚咽する音だけが聞こえる。

二階堂「クソ。」

マリモ「まさか……どうする?」

二階堂「コイツを人質にする。仲間の可能性が──」

──何かが転がる音と共に、二階堂が「グレだ!」と叫ぶ声がする。
──激しい足音、マリモの悲鳴、何かが床に落ちる音が同時にする。
──二階堂の絶叫と共に爆音が響く。以後音声の記録は無くなり、黒一色の画面だけが記録される。

──約十分後、画面が床から離れ、四宮仁奈の顔を映す。
──記録終了。

41◆BrXLNuUpHQ:2024/03/02(土) 06:26:23 ID:???0



「二階堂……キミに何があったのさ。」

 千切れかけた腹部から飛び散る内蔵を踏まないように慎重に近づいて、血と糞の臭いが立ち込めるそこで、二階堂の手を取ろうとし、その手首から先が吹き飛んでいるのを見て、代わりに血と脳漿と金属片に塗れた頭部を撫でる。
 そして四宮仁奈は、瞳孔の開いた二階堂の目を閉じさせようとして、硬直した瞼を閉ざせずに呟いた。

「仁奈ちゃん……」

「……もう、大丈夫?」

「はい……でも……」

「うん……ごめん、やっぱムリそう、吐いてくる。」

 口を抑える梶原蓮華に呼びかけられ、四宮は立ち上がるとフラフラと歩きながら女子トイレへと向かった。
 便器まで辿り着けず、洗面台で吐く。何も食べてない胃からは、胃液だけが口へと上がる。苦さは、二階堂と食べたスイーツからはまるで似つかなかった。


 四宮と二階堂の付き合いはさほど長くない。四宮が死者の魂を成仏させる死神のバイトを始めてからだから、数カ月とも言えないほどだ。それに死神のバイトは暇な時は暇で、いつもは拠点としている喫茶店でのバイトが専らだ。
 口は悪いが顔と中身は悪い奴じゃない。思い返せば、二階堂について知っていることといえば、ほとんど喫茶店のバイトの同僚という思い出である。
 そんなバイト仲間が、学校の廊下で血塗れになって死んでいた。
 上半身と下半身は辛うじて繋がっているだけで、手はどこかにいき、そして身体中に金属片が突き刺さっていた。まるで身体の中央が爆発したような、壮絶な死に方だった。

(あー、ヤバイな。今泣いたら、立ち直れなくなる。)

 死神のバイトのキッカケは霊感だった。この仕事は親しい人間の死を経験した子供が就く事も多い。自分の中で、壊れそうなものを感じる。
 優等生という言葉は四宮のためにある。頑張って良い子やってる美少女なのだ。ここで泣いて膝をつけば、その間にどれだけ危険なことが起こるかはわかっている。
 四宮は自分の手に着いた血を洗う。これだけやったら、こんなクソッタレなゲームに負けないバイタリティのある女の子に戻ろう。そう決心して、十数分後手を真っ赤にして蓮華の元に戻った。


「いやー吐いた吐いた。たぶんレンゲより吐いたよ。」
「仁奈ちゃん……」
「でも心配しないで、わかったことはあるから。」

 ──四宮と蓮華は、ゲーム開始から一時間ほどして出会って以来だ。お互い話せる範囲の身の上は話したが、こうなっては突っ込んだことも言わなければならなくなる。なにせこの校舎で死んでいたのは、二人のそれぞれの知人であり、そして動画にも情報があったからだ。
 爆発音を耳にして校舎に入れば、見つけたのは蓮華の親友であるパセリの兄、光矢の死体と謎の少年の死体。蓮華がトイレで吐いている間に二階に上がれば、二階堂の死体。二人で近くの部屋に入り込み崩れるように椅子に座っていれば見つけたのは二階堂のスマホ。録画されていた記録に映る、それぞれの知人。考えなくてはならないことは多い。
 なぜ二階堂と蓮華の知人であるマリモが同行していたのか、光矢について錯綜していた情報は何なのか、誰が爆弾を投げ込んだのか、あのタマネギ頭の少年は何者なのか、そしてマリモたち三人は無事なのか。

「さ、仲間に何があったのか考えよっか。それが今できることだよ。」
「それは……うん。そうだよね、実は一つ気づいたことが。」
「うん、なになに?」
「さっきのビデオで光矢さんが洗脳されてるって言ってましたけど実は──」

42◆BrXLNuUpHQ:2024/03/02(土) 06:27:11 ID:???0



(──気持ち悪い、なにが、起こった……)

 四宮と蓮華が学校にくる少し前。マリモは耳鳴りが酷い頭を抑えながらなんとか立ち上がる。仲間に呼びかけるが、返事は無い。ヨロヨロと廊下に歩き出て、息を呑んだ。

「大河!」
「……逃げ、ろ……包帯、持ってこい……」

 つい数秒前まで横にいた二階堂が、なぜか廊下で上半身と下半身が千切れて血まみれになっている。手は吹き飛び、顔は誰なのか一瞬わからないほどに損壊していた。

(やられた! 爆弾、さっきの、いやそれより。)
「さ、先にタツキを逃がすから!」

 教室に取って返して、未だ気絶している宇美原を担ぐ。衝撃波に襲われた直後、自分よりも体格の良い少女を動かすのは、いかに空手をやっていて運動には自信のあるマリモでも難しい。
 試行錯誤して、肩を貸すようにして引きずることにする。最後に顔を見ておこうと二階堂の方を見れば、既に事切れていた。

(お、重い! こんなの運ぶなんて無理! な、なんとか、近くの教室に……)

 感傷に浸る余裕はない。明日は我が身、急いで避難する。宇美原を見捨てたいのは山々だが、このままでは確実に殺される。せめてどこかに隠してから一人で逃げよう。そう考えたマリモは、転がるように音楽室へと入り込んだ。
 分厚いカーテンと窓の間に二人して入り込む。一応隠れられて、マリモはうめき声と共に大きく息を吐いた。
 状況がわからない。何が起こったのだろう。理解できないが、おそらく攻撃された。誰に。

(やばっ、誰か来たっ。)

 回らない頭で考え込んでいたところに、扉の開く音がした。他とは違う防音仕様の独特の音と、カーペットの上を歩く音。考えている間に宇美原を置いて逃げていれば、そう考えてももう遅い。一歩一歩と近づいて来る足音に、ポケットのハンドガンを取り出すことすら気づかれそうで、ただ息を潜める。
 かすかな足音に耳をそばだてる。カーテンに邪魔されてか気配もわからず、ただ呼吸することに恐怖を感じるしかない。
 もし、カーテンを開けられたら即座に撃とう。誰かなどと確認している暇は無い。マリモはポケットに手を添えて睨む。カーテンが僅かに動き。

「──行ったみたいね。」

 間近に聞こえた足音が遠のき、ドアの開く音が聞こえて、マリモは安堵の声を漏らした。
 恐る恐るカーテンから顔を覗かせる。夜の学校という不気味なロケーションもあって肝が冷えるが、それでも誰もいないことへの安心は大きい。
 ひとまずは一難去ったというところだろう。頭や体の痛みもだいぶ引き、冷静さが戻ってきた。そうすると気になったのは宇美原の容態だった。

「ちょっと、アンタ起きなさいよ。あ〜ダメだ、伸びてる。置いてくしかないわね。」

 指でつついたり呼びかけたりしてみても、宇美原は全く反応を示さない。完全に気絶している。こうなっては仕方ないとマリモは窓を開けた。光矢だけでなくタマネギ頭の少年に姿が見えない敵までいるのだ、こんなところに長く居るのはナンセンスである。死んだ人間には悪いが、大事なのは自分の命だ。最低限匿ってやったのだし、ここからは逃げることだけ考えてとっとと行動する。
 窓から地面を見た。廊下で死んでる二階堂はたしかロープか何かを持ってきていたなと思い、振り返ってカーテンから顔を出したその時。

43◆BrXLNuUpHQ:2024/03/02(土) 06:27:53 ID:???0

「あ! アンタはさっきの!」
「う、うわあああ!!」

 そこにいたのは、タマネギ頭の少年だった。手にはロッカーに入ってあるようなほうきを持ち、ギョッとした顔でマリモを見ている。次の瞬間それを叫び声と共に振りかぶり、脳天めがけて振り下ろしてきた。

「あっぶな!」
「この! この! 人殺し!」

 とっさに撃とうと取り出したハンドガンを両手で構えて、銃身で受け止める。間にカーテンが挟まっていたのが幸いだが、硬い感触が手に食い込む。ぐっとそのまま押し込まれて、マリモの顔色が変わった。

(アイツを運んだ時の疲れが残ってる!)
「やってやる! やってやるぞ!」

 宇美原を引きずった時には火事場のクソ力と言えるほどに握力を使った。その疲労は今も、手の強ばりとして残っている。ほうきの攻撃を受け止める度に手から肘へと痺れが走り、それが肩へと伝わっていく。
 受ける回数が十を超えた当たりでマリモはより一層の危機を覚えた。手が痙攣し始めている。銃で受け止めていたがもう限界だ。

「くっ……キャオラァ!」
「ひいっ!」

 守ったら負ける、そう思って前に出る。得意の空手でハイキック、上段回し蹴りだ。受け止めた直後に左足を前に出し、それを軸足として体重を乗せようとして、マリモの膝から力が抜けた。三半規管の不調。近距離での爆発により本調子でないところで出そうとした大技は、しかし崩れるように足を上げて回転するだけになり、とっさにしゃがみこんた少年の頭上を通り過ぎる。
 戦闘経験の不足。マリモの失敗はそれだろう。己のコンディションを測り違え、安易に大技で仕留めようとした。一撃で勝たなければヤラれる、そういった焦りが、判断を狂わせ技を鈍らせた。

「あうっ!」
「ハーッ、ハーッ、よ、よし!」
(クソっ、銃が!)

 更に転倒の衝撃で握力を失くしていた手からハンドガンがこぼれ落ちる。めざとく少年は拾うと、上半身だけ起こしたマリモの額へと銃口を突きつけた。

「な……なに……! こ、こんなことが、こんなことがあっていいはずが……」
「さっきはよくもやってくれたね、覚悟はできてるんだろうね!」
「ま、待て! 話せばわかる!」
「問答無用! し、死んじゃえ!」
「クソボケがぁ! チックショオオオ!!」
(し、死ぬの? ウソでしょ、こんな──)

 走馬灯だろう、マリモの体感時間がゆっくりとしたものへ変わる。反射的に立ち上がり後ろへと逃げ出そうとする。自分でもそれが無意味な行動だとわかっているのに、第三者からの視点で直ぐに撃ち殺されるとわかっているのに、体は勝手に駆け出している。走ったところで行き先は窓。飛び降りようともまず確実に死ぬからロープを探そうとしていたし、仮に助かっても骨折は免れない。
 こんなことなら宇美原を見捨てていれば、いや光矢のために学校に戻らなければと思うが、マリモはそこまでクズにはなれない。もはや何も考えられず、ただ自分が死ぬ瞬間を他人事のように傍観して、そして。

「銃(それ)はダメだろ!」
「ガッ!」

 窓から入り込んできた黒尽くめの人物がマリモの頭上を超えていった。
 銀色の髪に、金色の瞳の美形。その美しさに釣られるように首を動かせば、渾身の右ストレートが少年の顔面を殴り抜いていた。歯が血飛沫とともに飛び散る。その勢いのまま少年が転がるように音楽室から出ていくのを、マリモはただ呆然と見送った。

「あっぶなかったあ。おいアンタ、大丈夫かい。」
「あっ……はい。」

 黒のローブに身を包んだ美形が、手を差し伸べる。その華奢な手に引っ張り上げられて、マリモは自分がようやく助かったという実感を得た。

44◆BrXLNuUpHQ:2024/03/02(土) 06:29:29 ID:???0



「うぅぅ、い、痛い……なんで、こんなこと……」

 そしてタマネギ頭の少年こと永沢君男は校舎をさまよっていた。
 永沢がこの学校に来たのはつい最近のことだ。それまで非現実的な状況を受け入れられずに、初期位置の民家で引き篭もっていたが、近くの学校でメタモンによる銃撃の音をきっかけに外に出る決意をした。
 そもそも永沢からすれば、こんな異様な街など歩きたくはない。だが一人でいることはもっと心細かった。だから銃声であっても、人の気配には近づいていく。なあに、自分だって殺し合う気なんて全く無いのだ、他に人がいたって殺し合おうとする人はいないだろう。きっと銃声だって、たまたま試し撃ちか何かしただけだ。

「どうして……どうして簡単に殺し合うんだ!」
(ヒッ! もう何人いるんだよこの学校!)
(……)

 だがそこはメタモンの狩場であった。
 学校から逃げたマリモ達を追ったメタモンは、途中で彼女たちがとって返してくるのを見つけた。メタモンにとっては好都合な展開、すぐに追跡から待ち伏せへと方針を変えて学校に一足早く戻った。
 そして永沢を見つけたメタモンは、方針を変えることにした。
 これまでの戦闘ではどうしても殺し損ねることがあった。だが永沢という第三者を見て発想を変える。これはポケモンバトルではないのだ、自分で他の参加者全てを倒す必要は無く、参加者同士を潰し合わせればいいと。
 あとは簡単だった。カラ松にへんしんすると落ちていた手榴弾を適当に投げ込んだ。別に死ななくてもいい、これをきっかけに永沢と殺し合ってくれればいいと、やるだけやって後は成り行きに任せた。
 予想外だったのは、カラ松が兄弟の草野球に付き合っていたので人並みには肩があったことと、宇美原が永沢に素早く勘づいたことだ。メタモンが天井に変身してすぐに宇美原が飛び込んできて瞬く間に永沢を制圧してしまったのは指物メタモンも驚いた。だがむしろ好都合、光矢に変身しながら自由落下の勢いを乗せて後頭部を強打し、倒れる宇美原の陰になるように床へとへんしん、駆けつけた二階堂とマリモが宇美原と永沢へと注目している間に、メタモンは堂々と供託の陰でカラ松へと再度変身する。後は近くに落ちていた手榴弾を転がせば全員殺害となるはずだった。
 しかし、メタモンにとって不都合な予想外もあった。手榴弾への警戒を強めていた二階堂は投げて直ぐに気づくと抱えて壁を隔てる廊下へと走った。おかげで誰も殺せなかった。更にトド松はマリモ達を恐れて逃げていた。永沢の悲鳴とマリモの怒号は、彼の足を遠さげるのには充分だった。更に、手榴弾の音で一度は学校を離れて迷子になっていたギュービッドが戻ってきた。おかげでメタモンは音楽室に永沢とマリモと宇美原が逃げ込んだのを追撃したのに。安全策を取ることにした。これはマリモが永沢と殺し合うこと、そこにギュービッドも加わることという予想のものだが、誰も死なないのは予想外であった。

「ヒック、ヒック、い、痛いよ……にゅ、乳歯かな、折れた歯は……うぅ……」
(あの声、さっきの子か? アイツらあんな小さい子もボコボコにしてたのかよ!)
(……)

 メタモンは考える。学校を脱出しようとする永沢をトド松が見つけたようだ。彼らは殺し合うだろうか。それともメタモンが直接手を下して確実に数を減らすべきなのだろうか。

45◆BrXLNuUpHQ:2024/03/02(土) 06:31:18 ID:???0



【0323 『南部』中学校】

【松野トド松@小説おそ松さん 6つ子とエジプトとセミ@小学館ジュニア文庫】
【目標】
●大目標
 死にたくない。
●中目標
 殺し合いに乗った兄弟を止めたい。
●小目標
 中学校から離れる。というかマリモたちから離れる。

【加山毬藻@パセリ伝説 水の国の少女 memory(9)(パセリ伝説シリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
 殺し合いを打倒する。
●中目標
 操られた光矢を助ける。
●小目標
 このイケメンは……?

【宇美原タツキ@絶滅世界 ブラックイートモンスターズ 喰いちぎられる世界で生き残るために@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 EDFとして主催者を打倒して生き残る。
●中目標
 EDFの隊員や光矢と合流する。
●小目標
 ???

【永沢君男@こども小説 ちびまる子ちゃん1(ちびまる子ちゃんシリーズ)@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 生き残る。
●小目標
 学校から逃げる。

【四宮仁奈@死神デッドライン(2) うしなわれた家族(死神デッドラインシリーズ)@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
 生き残る。
●中目標
 蓮華と一緒に一ノ瀬や仲間になりそうな人を探す。
●小目標
 学校を調査する。

【梶原蓮華@パセリ伝説 水の国の少女 memory(9)(パセリ伝説シリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
 殺し合いから脱出する。
●中目標
 パセリたちと合流したい。
●小目標
 仁奈と一緒に動く。

【メタモン@名探偵ピカチュウ(小学館ジュニア文庫)】
【目標】
●大目標
 優勝を目指す。
●中目標
 強い参加者にへんしんする。
●小目標
 参加者を殺し合わせる。

【ギュービッド@黒魔女さんのクリスマス 黒魔女さんが通る!! PART 10(黒魔女さんが通る!!シリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
 大形を止め、今回の事件を解決する。
●中目標
 チョコや桃花ど合流する。
●小目標
 マリモを保護する。



【脱落】
【二階堂大河@死神デッドライン(2) うしなわれた家族(死神デッドラインシリーズ)@角川つばさ文庫】

46◆BrXLNuUpHQ:2024/03/02(土) 06:34:15 ID:???0
投下終了です。
ノベライズ作品に頼りがちなのでこれからは新しい作品は出さないようにします(新しいキャラを出さないとは言っていない)

47◆BrXLNuUpHQ:2024/03/31(日) 07:51:59 ID:???0
投下します。

48◆BrXLNuUpHQ:2024/03/31(日) 07:52:22 ID:???0



 会場西部、デパート。
 喫茶店や水族館ではアンジェロがスタンドによって多数の参加者を殺傷した。
 ピラミッドでは罠によって内部に引きずりこまれる参加者も出た。
 そして何人かのチョロ松と織田信長は、生きているあるいは死んでいる自分と遭遇した。
 デパートも参加者による騒乱とは無縁でいられなかった。その中でも比較的日常の気風を保っているのは、上田次郎と蜘蛛の鬼(父)という死体も無く死んだ二人によるところが大きい。
 郊外の巨大なビルディングは戦い終わった静けさに包まれ、買う者のいない衣食住の商品を提供している。

「これって万引きなんじゃ。」
「ゲームで言う会場ギミックみたいなもんだしいいんじゃない? そこら辺に落ちてる武器といっしょでしょ。」
「そうだぜ降奈ちゃん。どうせアイツらの用意したもんなんだから食わねえだけ損だぜ。」
「前も食べ物とか置かれてたしいいと思いますよ。じゃあ、いただきます。」
(意外と図太いなこの子。)

 デパートならどこにでもと言えるほどにあるデパ地下。修羅場を超えた星降奈・西塔明斗・虹村億泰・北神美晴の4名は、そこから思い思いに商品を取ると、エスカレーターの前で待機していたカザンと共に警備室へと向かった。
 無骨なモニターに囲まれた部屋は安らぎとは無縁だが、館内と館外を伺う監視カメラが張り巡らされていた。戦い終えた者にとっては、不意をうたれないことよりもリラックスできることはなかった。
 とはいえ、別に何か食べながら集まる必要もないのだが。

「前のギルティゲームでも何日も捕まえられてました。食べれる時に食べておかないと。いただきます。」
「そのギルティゲーム?ってなんなの美晴。おいそれぼくの。」
「かてえこと言うなよ。つーかよぉ明斗、その話しなかったっけ?」
「いやフルナにも説明しないと、ねえ?」
「あの……それより……」

 それぞれ食べ始めた3人を前に、話を振られたフルナは口ごもった。自分が何から話せばいいかわからなかったからだ。
 人が死んだのに食べてる場合かだとか、さっきの人は本当に死んだのかだとか、あの鬼っぽいのはなんだったのかだとか、こんな時だから食べておかないとってなんなのかだとか、ギルティゲームとはなんなのかだとか、何を話題にするかで言葉が出ない。
 バチバチと体から静電気が発せられる。ストレスが電気となり、それを抑えようとしてまたストレスがかかって電気が流れる。そんなフルナを見て当然の疑問を美晴は口にした。

「ところで、なんでバチバチしてるんですか?」
「あう……それは……」
「スタンド使いなんだろ?」
「おい億泰……え?」
「え?ってなんだよお前だろ。」
「いや。ぼく知らない。なにそれ。」
「お?」
「あの……スタンド?ってなんですか?」
「え、お前ら違うのかよ。」
「虹村さん、どういうことですか?」

 億泰の声と共に、メイトとフルナの視線が億泰の横へと動く。それを見て美晴は首を傾げ、そんな美晴を見て億泰も首を傾げて。そのままガリガリと頭を掻くとやおら気合いを入れた。

「え、あーしょうがねえな、『ザ・ハンド』! 美晴ちゃんはスタンド使いじゃねぇみてえだけどよぉ、お前らは見えてんだろ?」
「なんか水色のオーラっぽいのは見えてるよ。」
「いっしょです。」
「どうなってんだ? お前らもスタンド出してみろよ。」
「いやだからそんなの知らないって。はじめに触ったときもそんなの出なかっただろ。」
「あっ、そうか。それにフルナちゃんもスタンド出てねえのにバチバチしてるもんな。」
「あの、先からなんの話してるのかわからないんですけど、もしかしてみんな超能力者だったりしますか?」
「……」
「……虹村さん?」
「その反応じゃバレバレだろ、まあ、少なくともぼくはそうだよ。いわゆる読心能力って言えばわかるかな。」
「テレパシーみたいなものですか?」
「サイコメトラーかな。触れた相手の考えてることや記憶がわかるんだ。試してみる?」

49◆BrXLNuUpHQ:2024/03/31(日) 07:52:40 ID:???0
 フルナが能力を隠しているらしいので下手にごまかした億泰に変わって、メイトは己の能力の開示をした。彼のサイキックは秘密にすれば秘密にするほど人からの信頼を失う。それは経験則からのものだが、美晴はスっと手を差し伸べた。

「マジで?」

 怪訝な顔になってしまうのを自覚しつつも言ったメイトに、美晴は覚悟を決めたような顔で頷く。嫌なものを感じつつも、察してその手に触れた。

(──グアッ……これ、は……)

 その瞬間、メイトが感じ取ったのは強烈な負の感情だった。
 日頃から能力の使用には気をつけていて今も意識的に相手の心に踏まこまないように心がけていたのに、それでもなお顔に出そうなほどの感情が手を伝って脳内をかけ巡る。思わず手に鳥肌が立ち、直ぐにでも手を離してしまいたくなる。それほどの強いストレスに、メイトは思わず思った。

(美晴、君はこんなの抱えて生きてるのか?)

 死への恐怖、理不尽への怒り、目の前で息絶える仲間への悲しみ、自分への無力感、生き残った仲間への信頼、そしてギロンパへの憎悪。
 ドス黒い泥沼の中に、一つ眩く輝くものがある感情。なまじ黒一色でないぶん、黒より黒く感じずにはいられない。

「なるほど……これが、ギルティゲームか。同じ首輪が使われてるってことは、今回のコレももしかしたらってわけだ。」
「すごいですね、本物の超能力者なんだ。」
「まあね、驚いては……ないね。」
「はい。もう『そういうもの』だって思ってるんで。」
(そういうもの、ね。)

 未来の世界の時間犯罪者系パンダ型ロボットと同列に扱われているようだが、それは口にしなかった。
 美晴から見たギルティゲームは、この殺し合いに似ていた。違うところがあれば、より理不尽なところだろうか。時に完全な運で殺され、最後には誰一人として生かして返す気のない、デスゲームとは名ばかりの殺戮ショー。バトル・ロワイアルの方がまだ公平なそれにチャけることも許してくれない。

「明斗よぉ、お前だけでわかった気になってねえで説明してくんねえか?」
「あ〜わりい、これ説明してたら長くなるやつだわ。その前に自己紹介片付けようよ、スタンドってなんなの?」
「話そらしてねえか? まあいいけどよ、おれのスタンドは──」

 億泰がそう言うと、テーブルの上に置かれた缶ジュースのプルトップが開けられた。そしてそのままひっくり返される。口から溢れるジュースがテーブルへと溢れる寸前で、ジュースの滝がかき消える。それが何度も起こって、最後には缶そのものが消滅した。

「これがおれの『ザ・ハンド』よ。おれのスタンドは人型だからこんなふうに物を持ったりフタを開けたりもできる。しかも『ザ・ハンド』が右手で触れたものはなんでも削っちまえるってわけだ。」
「スタンドってのは能力の呼び方か。つーかずりいな、サイコキネシスと物を消せるのの2つできるのかよ。」
「サイコキネシスっつーか、自分の体がもう一個あるみたいな感じだな。人によっちゃあもっと色々できるらしいぜ。」
「あの、わたし!」

 音を立てて椅子から立ち上がったフルナに視線が集まった。

「わたし、実は、体から電気が出せる能力があるんです!」
「やっぱり。」「だよなぁ。」「知ってる。」
「……い、以上です。」

 誰にも秘密にすることになっている能力について話したのにアッサリとしたリアクションをされ、恥ずかしくなってすぐに座った。

50◆BrXLNuUpHQ:2024/03/31(日) 07:53:02 ID:???0
「共通点は超能力者ってことか。おれバカだからわかんねえけどよ、この殺し合いって超能力者が集められてるんじゃねえか? 美晴ちゃんもなんかこういうのあるのか?」
「いいえ。でも、超能力者が集められてるっていうのは正解だと思います。前の時は小学6年生が集められて殺されていったんですけど、おんなじように共通点のある人を集めて殺したいんだって、そんな気がするんです。」
「でも美晴は能力者じゃないんだろ?」
「それは……たぶん、うらまれてるからだと思います。前のゲームから脱出して警察にも話したんで。」
「口封じってことかよ。気に入らねぇ。」
「さっきの蜘蛛頭の巨人もなんかの能力で作った怪物ってところかな? だいぶヤバイじゃん。」
「……だな。」

 自分の父親を思い出して言葉が出てこなくなった億泰は、美晴から目をそらした。超能力者を集めるという推理は、これまで億泰がやってきたスタンド使い集めから出たものだ。やってきたことはギルティゲームの主催者であるギロンパとそう変わりない気がして、怒りを迸らせている美晴を直視できなかった。
 「それより、もっとやばいことがわかった」そうメイトが言ったときには救われた気さえした。

「みんな、今何年だ。」
「あ? そりゃ平成──」「令和──」
「お?」「あれ?」
「ああやっぱり。ぼくら多分全員バラバラの時代から連れて来られてる。」
「なにっ。」
「美晴の心を読んだときに平成って言葉が出てきたからもしかしたらって思ったが……そりゃ未来の世界からやってきたことは色んな時代からも集められるよな。」
「時間を操る……いくら超能力が使えても、そんなことまでできるんですかっ!?」
「いんや、できる。おれが知ってるスタンド使いに、時間を停められる人がいる。」
「……できればいてほしくなかったな。マジかよこれ……」

 億泰が断言したのを見て、メイトは天を仰いだ。殺し合いの主催者がタイムリーパーの上に、時間停止までできる超能力者も存在していると来た。ここまで来るとどんな能力者でもいると想定しなくてはならない。そしてそれは同時に、能力者の想定などしきれないから無駄ということを意味する。

(フルナも億泰も比較的オーソドックスなサイキッカーっぽかったが、そんなチートまでいるのかよ。ただでさえ洗脳とか呪いとかのいがちなヤバい能力を警戒しなきゃならないのに、これかなりヤバくないか……?)
「でも、ギロンパは簡単には時間を巻き戻したりはできないと思います。この前はそういうことはしないで、ロボットに乗って襲ってきたあと爆発で倒したんで。」
「ちょ待てよ美晴ちゃん、ロボットってなんだよ? その、ギロンパ?がロボットなんだろ? ロボットがロボットに乗ってんのか?」
「ギロンパがロボットなのかはほんとのところはわからないですけど、そうです。なんか、アニメの悪役が使ってそうな感じので、ガーンッ!って。」

 今度は億泰も天を仰いだ。未来の世界から襲ってくるのはわかる。そういうスタンドなのだろう。だがロボットは反則だろう。というかロボットでなくても反則だ。スタンド使い同士で戦いになるのはスタンド以外の部分は差が小さいからであって、これがロボットやら最新兵器など使われたらスタンドうんぬんの前に殺される。
 頭にあるのは億泰の兄、虹村形兆のスタンドだ。ミニチュアの軍隊のスタンドの恐ろしさは弟としてよく知っている。あれが人間サイズになって襲ってくるとかその中にロボットがいるとなったらもうどうしたらいいかわからない。『ザ・ハンド』でいくら削ろうともミサイルや砲弾を何万発とぶち込まれれば死ぬのだ。
 黙ってしまった年長の男性陣に、美晴とフルナは顔を見合わせて、何か言おうとして押し黙り持ってきたお茶を飲む。
 場に会話が戻ったのは、人間たちの輪に加わっていなかったカザンが監視カメラに映る人影を見つけた時だった。

51◆BrXLNuUpHQ:2024/03/31(日) 07:53:19 ID:???0


 デパ地下に置かれていた米袋を、デパート入口から少し入った両柱際に土嚢のように積んでいく。その前には飲料水の入ったダンボールが置かれ、更に頑丈な家具がその前に積まれる。そしてそれらの高さ数十センチほどのバリケードには、十字砲火ができるように機関銃が小村克美と村上の手によって慎重に据え付けられた。

「ねえ村上さん、これなんかヤラレ役がよく居るあれっぽくない?」
「えーそういうこと言うなよ考えないようにしてたんだから。」

 デパートの上階で蜘蛛の鬼に見つからないように息を潜めていた2人は、監視カメラによって発見されたあと、ありがちな交流を経て億泰たちのグループに加わった。
 超能力関係や主催者関係の情報を知らされた時には驚いたが、それより驚いたのはあの鬼を撃破したことだ。あんな非現実的なものに勝てるのなら、超能力だろうが魔法だろうがない方がおかしい気がしてくる。どのみちこんなわけのわからない状況なので、何を言われても逆に自然に受け入れられた。むしろ2人が集めた大量の兵器に4人が呆然としていたほどだ。

「手榴弾だけで50発あるからなあ。よっこいしょ。」
「地面には置いておかないでほしいよな、転けそうになるから。」

 集めた兵器はデパートの内と外を隔てる防衛へと使われることになった。今のデパートは全てのシャッターが閉められ(いくつかは商品や展示物のせいで閉められず、億泰たちが手分けして閉めに行く羽目になったが)、無人になったエリアはセンサーが入っている。これでこのデパートは密室状態というわけだが、なにぶんデパートに落ちていた対戦車銃や迫撃砲などを見ると、それだけでは不安が残る。というわけで入口全てに同様のバリケードを作ってデパートを要塞化することとなった。

「でもラッキーだよね、あんなモンスターにも勝てる人たちと仲間になれるとか。」
「村上さんたちー、休憩でーす。」
「はーい。まあね。けっこうなんとかなるかもな。」

 億泰たちに比べると没個性的だと自分たちでも思うが、それは生き残ることとは無関係だ。と思いたい。美晴の呼びかけに叫び返すと、2人はサブマシンガンを肩にかけて警備室へと向かった。

「お疲れ、後は億泰だけか。あっ、フルナ、どうだ?」
「どこにもつながりません。」
「やっぱり電話もネットもだめか。」

 戻った2人は難しそうな顔で話すメイトとフルナに出迎えられた。彼らが超能力者だとは、フルナから迸る電流を見れば納得するしかない。置かれていたお菓子をつまみながら少し待つと、デパート内を周っていた億泰と美晴とカザンも戻ってきた。

(でっかい犬だなぁ。)
(ドーベルマンかな?)
「そろったな。じゃあ始めるか、まずはシャッターの──」

 話し始めたメイトに2人は聞き役になる。
 考察と戦力の拡充を進める対主催の集団と合流しても、2人はまだモブのままだった。

(このままたてこもられるのは面倒だ。)

 そしてそんな人間たちを静かに見つめ作為を巡らす存在が一つ。
 妖怪カザンは犬のフリをしながら機を待つ。
 彼らを竜堂ルナへとぶつける、そのタイミングを。

52◆BrXLNuUpHQ:2024/03/31(日) 07:53:36 ID:???0
投下終了です。

53◆BrXLNuUpHQ:2024/04/22(月) 00:00:06 ID:???0
宗田理先生の御冥福をお祈りします。
投下します。

54◆BrXLNuUpHQ:2024/04/22(月) 00:01:52 ID:???0



 安永宏にとって拉致されて殺し合わされるという状況は、驚きはしたもののどこか納得がいくものだった。
 中一の夏休みに廃工場に立てこもって以来、ヤクザやらカルトやらと何度もやり合ってきている。数カ月前には実際に拉致られているし、喧嘩の強い安永は直接殴り飛ばすことも多い。早い話が、思い当たるフシが山ほどあるのだ。

(つっても、毒付きの首輪はねえだろ。谷本なら……いや流石に無理か。)

 気がつけばどこともしれない森の中。赤い霧に赤い空、黒い雲に稲光とめちゃくちゃホラーな環境だ。正直こんな外を出歩きたくはないが、今の安永は完全なる迷子。
 自分を拉致った奴は相当俺に頭が来てるんだろうなと考えつつ、少し歩くと小道に出た。
 さて、下りか上りか。緩やかな坂道を降りていこうとして、ふと仲間の相原が言っていたことを思い出す。山で遭難したら登れ、と。
 山ではなく森だが、まあ高いところのほうが色々見渡せるだろうと仲間の助言に従う。その歩きに恐れはない。相原を始め、これまでの安永のピンチには常に仲間たちの助けがあった。今安永がすべきは、その仲間の足を引っ張らないようにクレバーに立ち回り、自分が助ける側になるように動くことだ。

(毒って言うからには、タイマーとかリモコンとかで動くんだろうな。立石じゃ火薬の扱いはできても毒や機械はどうにもなんねえだろうし、相原も菊地もこういうハイテクなのはできねえだろうな。なら、誰か外せる参加者を見つけるしかねえ……あいつはどうだ?)

 犬のように首輪を付けられる趣味など無い。真っ先にこいつをどうにかしてやると思いながらどれだけ歩いただろうか。自然体でありながらもしかし油断無く周囲を警戒していた安永は、霧に紛れた人影を見つけた。即座に足音を忍ばせつつ駆け寄る。明るい髪の色をしたロン毛だ。女だろうか。
 しばらくつける。女は山歩きの心得も度胸もあるのだろう。安永も舌を巻くほどに、軽トラでも走れそうなほど整備されている小道とはいえ山道を歩いていく。油断はしない。ここは殺し合いの場だとはよく覚えているし肝に銘じているが、そうでなくても反骨精神がある。
 そんな安永が女に声をかけようと思ったのは、山道を降りてきた学ランと女が会話を始めたからだった。


「なら、みんな気がついたらこんな森の中にいたんですね。」
「ええ。まあ、森っていえるかはわからないけれど。」
「どういうことです?」
「ほら、この草を見て。これ、造花よ。この木も花も。全部プラスチックでできてるみたい。」
「うわっ! なんだこれ! すり潰してるのに汁も何もでてこないなんて。」
「詳しいんですね。」
「それほどでもないわ。山村の診療所で看護婦をしてるからね、不自然なものは気になるの。」

 出会った女、鷹野三四はそう言いながら一輪の花を手折ろうとして、不自然な弾力をしたそれから手を離した。
 看護婦だと言う鷹野三四と、高校生だと言う小柄な広瀬康一、どちらも首輪を外すことはできないが殺し合いに否定的らしい。肯定的な人間などいないとは思うが、拉致した人間のジョーカーが紛れ込んでいる可能性もあるので心を許しはしない。それでも今すぐに殺し合いにならないだけましだ。

「看護婦さんかぁ。そう言われると優しい雰囲気が──」
『あーあー聞こえるかー! オレ達は殺し合いに乗ってない! みんなも殺し合いなんてやめようよ! LOVE&PIECE! 愛だよ愛! てかさ、いきなり変な森に連れて来られて殺し合うヤツいねえよ! あんな変なウサギっぽいやつに殺し合えって言われてさ、殺し合うなんてさ、こんなんでいいのかよ! だから! 殺し合いなんてやら『お前放送ヘタすぎんだろ変われ!』ちょっと待てジャンケンで勝ったのオレじゃん!『爆弾のこと言わないと』それで! あの、この、灯台『展望台』展望台に、ちがう、展望台の、裏に、爆弾があんのよ! 仕掛けたの! で、あの展望台来るときはこの下の崖みたいな坂の下の方で、合図してほしいのよ! そしたらあの爆弾のスイッチオフにするから、あの、あれ、あれだ、『あのーあれだよ』あの『アレだね』おい全員ド忘れしてんじゃねえか!』

55◆BrXLNuUpHQ:2024/04/22(月) 00:02:56 ID:???0
 突如として聞こえた声に、3人は耳をすませた。拡声器でも使っているような声。音の反響の仕方からそれなりの距離が離れている。そして方角はおそらく、山道の上り。気になるのはその内容。爆弾とは何なのか。そして。

「馬鹿か。殺し合いってわかってんのか。」

 安永は呆れて言った。爆弾がはったりにせよ本当であったにせよ、あまりに大雑把な手だと、廃工場に立てこもった時に割と似たようなことをした口で言う。むしろ経験者だからこそ言う。相当な用意があっても警察に突入されたらどうしようもなかったのだ。本気で殺しに来る馬鹿がいるなら、マジな危険さだ。

「マズいよ、急いで止めさせないと。」
「待って康一くん、なにかおかしくないかしら。」
「なにかって、どういうことです?」
「いえ……引っかかるのよ、なにか。不自然っていうか……女の勘っていうか……」
「……なら、俺だけで見てきます。」
「宏くん。」
「俺も鷹野さんと同じ考えだけど、このまま森の中を迷ってるぐらいなら罠でもいい。」

 そして同時に、渋る鷹野に何かを感じた。鷹野が言ったのと同じような理屈だが、安永はそれを鷹野に感じていた。
 なにより、安永の仲間はああいう放送にほいほいついて行きそうなやつが何人かいる。そのことは仲間たちもわかっているので、結果的に知り合いと出会える可能性がある。そこまで考えて、安永は仲間が巻き込まれている可能性を考えてげんなりした。自分一人だとある意味不幸中の幸いだが、どうせ巻き込まれているのだろう。

(カッキーとかまた拉致られてるんだろうな。それか、逆にカッキー以外みんな拉致られてるとかか。)

 一人だけ変な風に割りを食ったりする伊達男を思い浮かべて失笑していると、爆音が響いた。方角は、さっきの放送の方向。

「爆発!? さっきの話本当だったのかっ。」
「宏くん、今の聞こえた?」
「わかってます、でもなおさら行きますよ。」
「……そう。幻聴じゃなかったのね。」
「鷹野さん。」
「いえ、ごめんなさい、少し現実感が無くて。」
「ああそうじゃなくて、ぼくも同じです。今度は爆発なんて、まるで幻覚でも見てるみたいだなって思って。」
「そうね……どこまでが現実かわからなくなるわ……宏くん、言っても止めなそうだから言うけど、私はこの道から山を下りようと思うわ。気が変わったら、追いかけてきて。康一くんはどうする?」
「ぼくは……すみません、少し考えていいですか。」

 信じられないが、殺し合いというのなら爆弾の一つも置いてあるのかもしれない。安永は認識を切り替えて、どう森の中を捜索するかを考えつつ、柔軟運動を始めた。康一は安永と鷹野の顔を見比べて考え込んでいる。少し話した感じ、鈍くはなさそうだ。自分と同じように、仲間があの爆発音に近づく可能性を考えたり、罠だと警戒していたりするのだろう。もしかしたら鷹野を一人で行動させることを良しとしていないのかもしれない。その理由は不明だが、今の安永としてはさっさと決めてくれればそれでいい。

(足音だ。複数だな。)
「ぼくは……あの子たちと話してから決めたいと思います。」
「あの子……?」

 首を傾げた鷹野が道の先を見て身構える。こちらに3人の子供が向かってきていた。小学校高学年ほどだろう。一瞬さっきの放送をしていた3人かと思って、1人が女子だったので思い直す。
 向こうも気づいたのだろう。100メートルほど離れた場所で止まり、3人でなにか話しだした。チラチラとこっちを見つつ、時々もと来た道を見返している。少ししてその中の1人が小走りに駆け寄ってきた。

(なんとなく菊地に似た雰囲気だ。)
「野宮球児だ! 殺し合いなんてやる気はない! アンタらは!」
「安永宏! 誰が殺し合いなんかやるかよ!」
「だよな! おーい! 大丈夫そうだぞ!」

 簡単に信用するなよとは思うが、こういう思い切りの良さは好きだ。
 安永はあっという間に6人のパーティーの中にいた。

56◆BrXLNuUpHQ:2024/04/22(月) 00:03:34 ID:???0
「つまり……オヤシロさまは宇宙人だったのよ!!」
「「「「「な、なんだってぇ!?」」」」」

 思わずマガジンマークをつけて驚く子供たち。
 彼らは今、森の中にあった変電所にいた。
 安永が出会ったいかにも体育会系な少年、野宮球児。その野宮のクラスメイトでいかにも文学少女な本乃あい。そして彼らとは全く無関係だがたまたま森の中で出会ったというヘアバンドをネックウォーマーのようにして前髪うざったい感じの少年、西宮アキト。
 彼らと出会い親の顔より見た情報交換をした結果、即座にそれぞれの生きている時代がバラバラなこと、世界に関する情報が違うことが判明、更に西宮からは黒喰なるエイリアンの存在が示されるは、野宮と本乃からはカゲアクマなるクリーチャーの存在を言われるは、康一からはスタンドなる超能力について教えられるは、鷹野からはオヤシロさまなる邪神について伝えられるは、安永が中1の時に廃工場に立て篭って機動隊とやり合ったり誘拐犯に暴行したり、その後もチンピラやカルト教団やヤクザに直接的あるいは間接的な暴行をクラスメイトと共に行ったことを話して全員からドン引きされたりした結果、『オヤシロさま=黒喰=カゲアクマ=スタンド、つまりエイリアン由来の自立行動するタイプのスタンド』という話にまとまった。

「いや、エイリアンが超能力使っておかしいだろ。」
「おかしいのはヤクザやカルトと何度もやり合うあなたよ。東京ってそんな雛見沢みたいに治安悪いの?」
「ひ、雛見沢ってそんな荒れてるんですか?」
「ちょっと連続殺人事件が起こってるだけで、ヤクザもカルトも……あったわね、どっちも……」
「ひ、雛見沢って素敵なとこなんだな……な、本乃?」「う、うん……」
「顔ひきつってるよ二人とも……でも連続殺人事件なんて……そういえば僕の杜王町も行方不明者多いんだったな……」
「み、みんな、本当に日本の話だよね?」
「いや西宮、エイリアンで日本滅んでるお前のとこが一番やばいと思うぞ。」

 今のところまともなのが、教師を名乗る不審者によって理不尽なデスゲームをさせられた野宮と本乃だけである。
 それはさておき、6人は頭を悩ませる。なにせ超能力を使えるエイリアンが相手だ。たとえ超能力が使えなくてエイリアンでなかったとしても、自分たちに毒入り首輪を付けられるような存在なら同レベルにやはりヤバイ。しかも恐ろしいのは、互いの知り合いだ。というか安永の知り合いだ。

(やっぱ解放区について話すのはまずかったか。)

 殺し合いの場でヤクザとやりあうような不良中学生(注:安永は本来なら数カ月後、家計を助けるために年齢をごまかしてバイトするような勤労学生である)が目の前にいる上に、そいつとつるんで散々やってるのが1ダースいるのだ、警戒せざるを得ない。鷹野の知り合いもダム開発と連続殺人事件というきな臭さの塊のような村人たち、康一の知り合いは言わずもがなの超能力者で実際に人を何人も襲ったモノもいて、西宮の知り合いは武装組織の少年兵だ。
 そして変電所の中にあったのは、ライフル。ミステリーものの殺人鬼や不良もののヤンキーやバトルものの超能力者や特殊部隊がいる環境で、銃。何も起きないはずがない。いや実際に既に爆発が起きている。殺し合いは、もう始まっている。

「でも、ほら、あいちゃんたちみたいにドンパチとは無縁そうな人もいるじゃない! 別にみんながみんな安永くんや西宮くんや広瀬君の知り合いみたいとは限らないわ!」
「鷹野さん待ってください! 距離取らないでください!」
「よせよ広瀬さん、みっともない。」
「割と宏くんのせいでもあるよ!」
「いや超能力者には言われたくないな。」
「とにかく、まずは仲間を集めようぜ! ほら、銃だってあるんだし、襲ってこられても、な! あ、鷹野さん! 大人だしこれ、銃持ってもらえますか?」

57◆BrXLNuUpHQ:2024/04/22(月) 00:04:17 ID:???0
 ギスギスしだした安永たち3人に野宮が割って入る。地球を守る組織に入っていると言う割にはオドオドしていて頼りない西宮に代わって声を出していく。というか、自分とクラスメイトの本乃以外全員危険人物のように思えてならないので、せめて本人は危なくなさそうな鷹野をまともにしようと言う涙ぐましい努力だ。あの3人に銃を持たせるのは自分も怖いし鷹野も怖いはず、なら彼女に銃を持ったせればまだ落ち着いてくれるだろう。
 その考えは、鷹野が流れるような手つきで銃の点検をしたことで砕かれた。

「あの……鷹野さん、もしかして、銃を扱ったことありますか?」

 オドオドという調子で、西宮が問いかけた瞬間、あからさまに『しまった』という表情を鷹野は浮かべた。
 室内に緊張が走る。
 ゴゴゴゴゴゴ。
 そんな擬音が聞こえた気がした。

「今の鷹野さんの動き……ハリウッド映画でアーノルド・シュワルツネッガーが景気の良いBGMをバックに銃を扱うシーンみたいな……まるで野球選手がバットを持つような自然さを感じる手つきでした……」
「鷹野さん……あんた、本当に看護婦か?」

 冷や汗が康一と安永の頬を伝う。
 鷹野は首筋に手をやりハッとした表情を浮かべた後、絞り出すように言った。

「私は……防衛医大卒なの。施設育ちで、お金がなかったから……勉強しながら給料を貰えるから……だから、自衛隊で勤務したこともあるから、銃を使えるのよ。」

 冷や汗を流しながら、ニコリと笑ってみせる。
 野宮は思った。俺一番銃渡しちゃいけない人に渡しちゃったかもしれないと。

 変電所の中はどんどん重い空気になっていく。誰も殺し合いに乗っていないにもかかわらず、6人の緊張度は遂に危険な領域へと突入する。

58◆BrXLNuUpHQ:2024/04/22(月) 00:05:13 ID:???0



【0122 『北部』森】

【菊地英治@ぼくらのデスゲーム(ぼくらシリーズ)@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
 このクソッタレなゲームをブッ壊す。
●中目標
 仲間と合流する。
●小目標
 こいつらヤバくないか?

【鷹野三四@双葉社ジュニア文庫 ひぐらしのなく頃に 第ニ話 綿流し編 下(ひぐらしのなく頃にシリーズ)@双葉社ジュニア文庫】
【目標】
●大目標
 ゲームから脱出する。
●中目標
 仲間と合流する。
●小目標
 流石にごまかせないわね……これが幻覚なら、いいのだけれど……

【広瀬康一@ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章 映画ノベライズ みらい文庫版@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 ゲームから脱出する。
●中目標
 仲間と合流する。
●小目標
 ……危ない人じゃ、ないよね?

【野宮球児@迷宮教室 最悪な先生と最高の友達(迷宮教室シリーズ)@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 みんなで脱出する。
●中目標
 仲間と合流する。
●小目標
 この人たち大丈夫だよな?

【本乃あい@迷宮教室 最悪な先生と最高の友達(迷宮教室シリーズ)@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 みんなで脱出する。
●中目標
 仲間と合流する。
●小目標
 ……不安だ。

【西宮アキト@絶滅世界 ブラックイートモンスターズ 喰いちぎられる世界で生き残るために@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 EDFとして主催者を打倒して生き残る。
●中目標
 EDFの隊員と合流する。
●小目標
 へ、変なことが起きないようにしっかりしないと。

59◆BrXLNuUpHQ:2024/04/22(月) 00:06:25 ID:???0
投下終了です。
タイトルは『地獄を歩いているなら突き進め』になります。

60◆BrXLNuUpHQ:2024/05/23(木) 00:00:54 ID:???0
投下します

61◆BrXLNuUpHQ:2024/05/23(木) 00:01:31 ID:???0



 宇野英明は順手で包丁を持つとかすかに膝を折った。膝からふくらはぎにかけての重心は、いつでも前へと飛び出せるようになっている。包丁は体の前へ、肩・肘・手へと一直線に前方に伸ばす。
 宇野の左前方では宮美一花が、右前方では新庄ツバサが同様に刃物を持っていた。一辺10mの正三角形の陣形。その中央でリュードこと倉沢竜土は、両手に厚手のタオルを巻きつけていた。
 ジリジリと三角形が縮まっていく。冷や汗をかく3人に対して、リュードはいたって平静。タオルを巻きつけ終えた手を上に向けると、2度振る。手招きだ。

「本気でいいから打ってこい。」
「──しゃあっ!」

 リュードの挑発に応えたのは宇野。正面で相対していた彼は、包丁を片手面のように振りかぶると駆け寄って振り下ろす。
 対してリュードは不動。緩いファイティングポーズのまま、どこを見ているのかわからない視線を宇野へと向ける。
 2人の距離はみるみる縮まり、4m、3m、2m、宇野が振り下ろした包丁は、しかしリュードから1mほど手前で空を切った。
 伸びきった腕をリュードは難なく手で掴み、軽く手元に寄せる。それだけで宇野はつんのめって地面へ倒れた。

「3人同時に来いって。」

 笑いながら振り返るリュードに、一花とツバサはたじろぐ。顔を見合わせた後、両手で刃物を握り駆け出したのは一花だった。目をつむり突貫する。慌ててツバサも追い、刃物を横薙ぎに振ろうと大きく横へ腕を伸ばす。
 その2人の目の前から、リュードが消えた。

「なにっ。」「なんだあっ。」

 驚き、思わずまた顔を見合わせた2人の目の前にリュードはいた。
 フットワーク。キックボクシングだけでなく、格闘技全般における基本的な技術である。しかし、使い手は元日本チャンピオンにも勝った高校生格闘家、速度と位置取りは、当然、並ではない。
 単なる移動とは違う、攻防一体の間合い管理。相手の加速に合わせて死角へと鋭く潜り込む。一花が目をつむっている以上、ツバサの瞬きのタイミングに合わせれば、瞬間移動と錯覚させるほどに、『見えていたのに消えた』と思わせるほどに、ポジショニング。
 本当に見えた時にはもう遅い。薄目を開けた一花も、目を見開いたツバサも、2人は驚愕の声を上げ終わる間もなく腹部へと衝撃を感じた。リュードの連続の回し蹴りが、それぞれへと寸止めで掠めたのだ。

「うそ……」「はっ、速え……」

 もはや呆然とするしかない。2人は刃物を取り落とす。
 それはまるでマジックだった。
 マジシャンが観客の目の前でコインを消して別のところから出現させるような、そんなトリックを目の前の人間に行われた。その事実に呆気にとられるしかない。
 なにより驚くべきは種も仕掛けもないこと。単純な技術と筋力、そしてそれを可能とする人並外れた努力に、それを支える才能。それを目の当たりにしたのだ。
 いっそ魔法や超能力の方が納得がいっただろう。今起こったことはそのようなファンタスティックな光景だ。だがそれを生身の人間が、人を選ぶとはいえ再現性のあるやり方で行ったとなれば、同じ人間であるがゆえに信じられない。
 しかもそれが、この何時間かを共にしてきた男が行ったのだ。
 明らかに同じ殺し合いに参加していいレベルではない。ヨロヨロとようやく立ち上がった宇野は、包丁を床に叩きつけて叫んだ。

「3人で勝てるわけ無いだろっ!」

62◆BrXLNuUpHQ:2024/05/23(木) 00:03:11 ID:???0
 サウードの襲撃を辛くも逃れた4人は、あれから少しして駅ビルに身を寄せていた。
 謎の銃撃犯から逃げれたと思ったら謎のイスラム過激派に襲われ謎のヤク中コスプレイヤーに助けられたという経験は、4人に安全な場所に避難するという強い動機を与えた。
 施設を見つけてはスーパーでの戦闘が頭をよぎり、民家を見つけては弔うこともできずに死んだ少女が頭をよぎる。街をさまよった4人が最後に行き着いたのが、駅ビルであった。
 おっかなびっくり銃を構えて、30分ほどかけて無人であることを確認した時には、全員疲労しきっていた。
 張り詰めた神経は安らげそうな場所を見つけてもなかなか休まらず、外から襲われにくそうな居酒屋に腰を落ち着けても、4人はしばらく銃を片手に水を飲む有様だった。
 特に緊張していたのは一花である。巻き込まれていそうな知り合いが、ラストサバイバルを想像するためほぼすべて他人ばかりのツバサや、ぼくらの仲間を想像するため「まあなんとかなってるだろう」と思える宇野に比べて、一花が想像するのは姉妹たち。一番しっかりしていて一番荒事にも慣れている自分に比べて、妹たちは本当にただの女子中学生だ。そもそも一花自身も正真正銘の一般人なのに、その一花以上に殺し合いに向いていない妹たちを不安に思って仕方がない。
 襲われる心配がなくなったとたんに、今度は妹たちを心配して出ていこうとした一花は、当然他の3人に止められた。
 もちろん一花も、姉妹を探すあてもなければ見つける前に殺される危険性も理解はしている。だが、それで止まるようならはじめから出ていこうとしない。自分が死に瀕した恐怖は、妹たちを失う恐怖を呼び起こし無茶な行動をさせようとしていた。
 少しの問答の末に宇野が切り出したのが、刃物を使う練習だった。

「待てよ、せめて戦う練習のひとつもしておいたほうがいいんだぜ。仲間も守れるしな。」

 完璧な思いつきだが、先の戦闘もあってか一花は意外なことに受け入れた。「俺もハッタリが効くようになったぜ」などと自画自賛する宇野にリュードが渡したのは、包丁。

「銃は音が出るからな。ナイフ使う練習とかどうだ、俺が相手になる。」

 そして先程のあれである。


「バランス考えろよ……勝てるわけねえだろこんなの……」

 宇野が叩きつけた包丁を拾いながらツバサはうんざりした様子で言った。たった数歳年上なだけだが、刃物や銃では埋められない差をわからされた。ラストサバイバルでも割と個人差はあったが、武器という一発逆転の手段があってもここまで格差があるのか。

「イチカ、立てるか?」
「大丈夫……」
「大丈夫な人間の声じゃないぞ……?」

 そしてへたり込んでいた一花に手を貸す。緊張の糸が、圧倒されたことで切れたのだろう。気が抜けたのもあり、今までの疲労からか膝が笑っていた。

「銃があっても勝てる気がしねえ……」
「宮原本当に大丈夫か、生まれたての小鹿みたいになってるぞ……」

 アンタもだろとツッコもうとしたツバサだったが、彼自身も今にも座り込みたいほど疲れていた。
 それだけの疲労が蓄積していたというのもあるが、それ以上に、刃物を人に向かって振るうこと、それがとてつもないストレスだということを実感する。

(リュードさんが余裕そうにしてたのはそれか──なんだ?)

 あの人わかっててやったんだな今更ながらに思うが、それは耳に聞こえてきた金属音で中断された。
 軋むような、一定のリズムを刻むような音が聞こえた気がした。一花も顔を上げている。「なんだこの音」という宇野の言葉は、リュードの手によって遮られた。

「シー。音を立てるな。あそこのシャッターが閉まってく。」

63◆BrXLNuUpHQ:2024/05/23(木) 00:06:11 ID:???0



「3人で勝てるわけ無いだろっ!」
「やっぱり誰かいるよな?」
「よし、シャッター閉めよう!」

 宇野たちのいる駅ビルの地下。
 地下鉄側の駅ビルで、一ノ瀬悠真と宮野ここあはシャッターのスイッチのフタを開けていた。
 悠真たち5人が弱井トト子の銃の乱射音を聞きつけ捜索すること1時間あまり。その結果は空振りだった。
 トト子の乱射はだんだんと距離が離れことをウオッカは悟り、また別方向から聞こえてきたヌガンが引き起こした銃撃戦の音から、複数の強力な銃火器が多数置かれ使用されていることは明らかだった。
 それでもウオッカが捜索を続行したのは、弾除けが近くに5つもあるからだ。ウオッカはジンの右腕として情報収集なども受け持っている。そんな彼からすれば、この殺し合いは全く情報が無いのに等しい状態。少しでも判断材料を増やすべく、リスクを承知でリターンを取りに行く。チームを2つに分け、それぞれが10mほどの距離を開けて行軍する。手榴弾などの爆発物による奇襲を警戒してのものだが、それは功を奏して無事何事もなかった。
 問題はあまりにも何事もなかったことだ。
 元々小林聖司を付け狙っていたヌガンはその後も移動し、それ以外の銃撃音はヌガン以上に離れていた。見つかったのは数個の空薬莢のみ。土地勘が少しはついただけの丸坊主である。こうなっては仕方がないと元の駅ビルに戻ることになった。物資も多く、出入り口も複数あり、防犯システムにも期待できるからだ。

 そして時間は現在に戻る。
 手分けしてシャッターを閉めることにした5人のうち悠真とここあのペアは、駅ビルの地上部分に避難してきた宇野たちを察知した。
 地下と地上では路線が違う上に連絡通路で隔てられているため、大声を出さない限り互いに気づくことはない。防犯カメラなどのシステムも違うためこれまで気づくことはなかったが、宇野の叫び声と包丁を叩きつけた音は、位置こそわからなくてもハッキリ聞こえた。
 バリケードとしてシャッターを降ろすことになっていたのだが、悠真は迷う。確実に誰かがいるのにシャッターを操作してまえば向こうにもこちらの存在が伝わってしまうのではないか。しかし同時に、シャッターを閉めてしまえばとりあえずこちらに向かってくることはできなくなる。あちらが鍵を探すなり武器でぶち抜くなりしても、確実に時間を稼ぐことはできる。

(ここは、幽体化して──てオイ!」

 太ももに走ったぬくもりと指の感触に声を上げてしまう悠真。
 ギイ、と軋みを立ててシャッターが閉まり始める。
 ここあは悠真のポケットから鍵を取り出すといそいそとシャッターを閉めていた。

「お前な……」
「どうしていつまでも閉めないの?」
「今閉めたら音で向こうにもバレるだろ。」
「……」
「お、お前まさかそれに気づかずに……」
「逃げよう!」
「おいおい待て待て余計なことをするな!」

 そそくさと歩き出したここあを慌てて追いかける。
 だから悠真は気づいていなかった。

64◆BrXLNuUpHQ:2024/05/23(木) 00:10:31 ID:???0
「あそこだ、シャッターが閉まっていく。」
「タイマーか?」
「待て……時間が中途半端じゃないか?」
「あ、ホントだ。たぶん……時計の数字読めないけど。」

 それぞれサブマシンガンを手に、いち早く駆けてきたリュードと宇野に。
 悠真の危惧通り、異音に気づいた彼らは二人一組で偵察に動いていた。2人の後ろには一花とツバサが援護できる位置にいる。と言ってもさっきのことで人を殺せないことはわかったので、虚仮威しに銃を構えるだけなのだが。

「俺らみたいに立てこもる気か。こっちもやろうぜ。」
「待てよ、それだと俺たちがいることが。」
「バレても問題なくないか? 俺らみたいに殺し合いに乗らないような奴らだと思うぜ。」

 宇野にそう言われてリュードは後ろを振り返った。
 果たして一花やツバサのように人を傷つけることをためらうようなマトモな相手だろうか。
 果たして一花やツバサのように初対面で目的のわからない人間とも会話ができる相手だろうか。
 前に向き直ればシャッターのスイッチと書かれた小扉があった。宇野のナイフがあればこじ開けることもできるだろう。
 1枚のシャッターを前に、リュードはまた頭を悩ませることになった。



 そしてそんな駅ビルの外で、内部から生じる異音に耳を傾ける参加者が1人。

(なんの音だ? 中で何が起きてるんだ?)

 深海恭哉はサブマシンガンを胸に抱えたまますべき行動を考えあぐねていた。
 ここあ達を付け狙い襲撃の機会を伺っていた彼は、しかしウオッカによる警戒でそのチャンスが見つからなかった。彼が持っていた、あるいは見つけた武器による砲撃にせよ銃撃にせよ、ウオッカ達を一網打尽にできないように動いていたからだ。2つに分けられたチームのうちどちらかは確実に殺せるが、もう片方のチームに反撃される恐れがある。恭哉自身も小学生であるため、相手が同年代であっても銃を持っている以上は迂闊に襲えなかった。
 そうこうしているうちに武器を構えて襲撃しようとしていた恭哉の方が疲労してしまい、ここあ達が駅ビルに戻る頃には襲うどころではなくなってしまった。そもそも襲わずに無害な参加者を演じて潜り込めば良かったと思いついた頃には後の祭り、今更ノコノコと出て行けば、待ち構えている彼らに射殺されるかもしれないと、足が竦んでしまう。よくよく考えれば、集団で行動していて殺し合いに乗ってなさそうだから潜り込もうとしているのにその彼らに襲われることを恐れるのは矛盾しているのだが、なまじ一度死んだ身、死の恐れは何よりも勝る。

 じわりと不穏な気配が駅ビルへと充満していった。

65◆BrXLNuUpHQ:2024/05/23(木) 00:21:10 ID:???0



【0240 『南部』駅ビル】

【宇野秀明@ぼくらのデスゲーム(ぼくらシリーズ)@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
 生き残る。
●中目標
 家族を探して合流する。でも、たぶんいないよな? 大丈夫だろ? なんでぼくらの仲間たちと合流したいな。
●小目標
 地下鉄側の駅ビルにいる奴らに対応する。

【宮美一花@四つ子ぐらし(1) ひみつの姉妹生活、スタート!(四つ子ぐらしシリーズ)@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
 生き残る。
●中目標
 姉妹を探して合流する。
●小目標
 リュードと宇野を援護する。

【新庄ツバサ@生き残りゲーム ラストサバイバル 最後まで歩けるのは誰だ!?(ラストサバイバルシリーズ)@集英社みらい文庫】
●大目標
 生き残る。
●中目標
 家族を探して合流する。子供しか参加者じゃねーなら親はいないと思うが……
●小目標
 リュードと宇野を援護する。

【倉沢竜土@天使のはしご5(天使のはしごシリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
 誰かが死ぬのは嫌だ。
●中目標
 紅絹たちが巻き込まれてないか心配、探したいが……
●小目標
 地下鉄側の駅ビルにいる奴らに対応する。


【0240 『南部』地下鉄駅ビル】

【一ノ瀬悠真@死神デッドライン(1) さまよう魂を救え!(死神デッドラインシリーズ)@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
 事件を解決する。
●中目標
 家族や仲間が巻き込まれていないか心配。
●小目標
 やべえよやべえよシャッター閉めちまったよ……

【宮野ここあ@絶体絶命ゲーム 1億円争奪サバイバル(絶体絶命シリーズ)@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
 また死にたくない。
●中目標
 ウォッチ達に守ってもらう。
●小目標
 逃げるっ。


【0240 『南部』駅ビル近く】

【深海恭哉@ギルティゲーム(ギルティゲームシリーズ)@小学館ジュニア文庫】
【目標】
●大目標
 生き残る。
●中目標
 対主催に紛れ込み、自分の信頼を上げる。
●小目標
 突っ込む? いやここは様子を見よう……

66◆BrXLNuUpHQ:2024/06/11(火) 07:39:32 ID:???0
前の投下のタイトルは『軋み』でした。
投下します。

67◆BrXLNuUpHQ:2024/06/11(火) 07:40:17 ID:???0



(着心地は良いけど、早くお風呂に入りたいな。)

 鬼殺隊の黒衣装に身を包んだ三谷亘は、そう思いながら片腕に手を当てつつ早足で移動していた。
 虎と化した李徴に助けられたのは対さっき。いつまた蜘蛛の鬼(姉)が戻ってくるかわからないので急いでいたのだが、チクリと焼けるような痛みを感じて下を向けば、腕の数カ所が僅かに溶けていた。ほんの飛沫程度がかかったほどだろうが、それでも火傷のような傷になっている。もし旅人としての装備でなく普通の服だったのなら、今頃溶けていたのは服ではなく自分だったとゾッとした。
 幻界での旅路ではこのぐらいの傷は日常茶飯事だが、だからこそワタルは早く手当てしなければと急ぐ。ちょっとした傷でも、運が悪ければ悪化する。悪化すれば、かかれる病院なんてない。そういった経験が素早い行動をさせていた。

(シャワー? こんなところに?)

 溶けた靴に足を取られながらもなんとか数百メートルほど移動したところで繁華街に出た。そこで見つけたのが漫画喫茶である。ワタルたち旅人は幻界でも言葉が通じるように女神より加護を受けているのか、ここでも問題なく文字が読めた。とりあえず入ってみる。当然無人だ。

「使わせてもらいまーす……」

 RPGなら都市型のダンジョンと言ったところか。少し抵抗はあるが施設をタダで使わせてもらうことにする。シャンプーはもちろんメリットを選んでひとっ風呂浴び、清潔にした傷口には手当てをしていく。深手ではないがわずらわしい。服もいくらかあったが、肌着だけ着て鬼殺隊の服を引き続いて着ることにした。少し汚れているが、この装備のスペックは実感している。そしてドリンクバーとアイスクリームで一息入れたところで、ふとパソコンに目が行った。

「久しぶりだなあ。点いたり……したっ。」

 駄目で元々、電源を入れると、スリープだったのかすぐに立ち上がった。これには驚くが、ネットが使えないなら意味ないかと思い直していくつか動かしてみる。もしこれがネットに繋がっているのなら助けを呼べるのだが、そうは上手くは行かないらしい。極めてシンプルな理由でネットはできなかった。ブラウザのアイコンが無いのだ。

「あれ? これどうやるんだっけ、カッちゃんが前言ってた気もするけど……」

 試行錯誤するも、ただの小学生であるワタルには手に余る。幻界での冒険もデジタルリテラシーには寄与しない。飲もうとしたコップが空なのに気づくと、諦めてドリンクバーに立った。
 久々に飲むコーラを、ボタンを押して注いでいく。ふと、ワタルは閃いてコップを手にパソコンの前に戻った。そしてアイコンの一つを押す。あきらかにブラウザとは違うのでスルーしていたが、そのマスコットのようなアイコンには見覚えがあった。オープニングにいたツノウサギだ。
 はたして、表示されたのは掲示板だった。いわゆる、専ブラである。特定のサイトだけ閲覧できるものだが、ワタルが気になったのは書いてある文面であった。

68◆BrXLNuUpHQ:2024/06/11(火) 07:40:59 ID:???0



1066:やっちゃう名無しさん sage 01:48:47 ???/???
大太刀ハーッ逝ったーっ

1067:やっちゃう名無しさん sage 01:49:49 ???/???
弱き者…

1068:やっちゃう名無しさん sage 01:50:00 ???/???
こマ?

1069:やっちゃう名無しさん sage 01:50:12 ???/???
超スピード!?

1070:やっちゃう名無しさん sage 01:50:13 ???/???
賭けたマーダーが全滅したというの? 進行者であるこの私の…

1071:やっちゃう名無しさん sage 01:50:59 ???/???
>>1070
ギャンブルが弱ぇ奴なのか…!?

1072:やっちゃう名無しさん sage 01:51:02 ???/???
ふーざーけーるーなー

1073:やっちゃう名無しさん sage 01:51:37 ???/???
糞が
糞が
糞が
あ^〜糞が

1074:やっちゃう名無しさん sage 01:51:58 ???/???
やってしまいましたなぁ

1075:やっちゃう名無しさん sage 01:52:01 ???/???
ちくわ大明神

1076:やっちゃう名無しさん sage 01:52:30 ???/???
なんだコイツは
人が話している途中に

1077:やっちゃう名無しさん sage 01:52:56 ???/???
大場大翔殺す

1078:やっちゃう名無しさん sage 01:52:57 ???/???
待って待って待って喧嘩しない



「なんだこれは……」

 そこにあったのはクソみてェな掲示板だった。
 書かれている言葉の意味はわからないが、民度が低いことはわかる。
 こうはなりたくない。
 だが贅沢は言っていられない。彼らに助けを求めても力になってくれそうにないが、幻界のハイランダー達にも連絡が行くかもしれない。とにもかくにも書き込もうとしたところで、しかし打ち込んでいた文字を消して一端ROMる。ネチケットを義務教育で学んでいるのもあって、まずは掲示板の流れを見ようとログを遡っていく。
 その中でワタルの目があるレスに止まった。



978:やっちゃう名無しさん sage 01:25:28 ???/???
ワタルは蜘蛛の鬼(姉)に緊縛されたみたいだな
なんてことだ、もう助からないぞ

978:やっちゃう名無しさん sage 01:25:34 ???/???
首輪から聞こえる悲鳴、一人称視点での臨場感あるもがき、楽しませてもらっている
頑丈な少年に出会えたことに感謝

980:やっちゃう名無しさん sage 01:25:44 ???/???
顔がね…

981:やっちゃう名無しさん sage 01:26:20 ???/???
それはよくない

69◆BrXLNuUpHQ:2024/06/11(火) 07:41:33 ID:???0



(これボクのことだ!)

 ワタルはハッと首輪に手をやり、ついで口を手で抑えた。
 この書き込みにあるワタルというのは他ならぬ自分のことだろう。蜘蛛の鬼(姉)というのも、自分を襲ってきた女の特徴と一致する。
 そして首輪から聞こえる悲鳴という文章、これが意味するのは首輪に盗聴器のようなものが仕掛けられているということだろう。なんならカメラも仕込んであるかもしれない。
 そしてなによりワタルが戦慄したのは、この掲示板の目的だ。彼らは楽しんでいる。ワタルが、そしてワタルを含めた人達が殺し合わされるのを!

(!? まずい! 今こうして見てるのも彼らに見られているかもしれない!)

 蜘蛛の糸に見えたものは、地獄の釜の蓋だった。迂闊に書き込んでいれば、すぐさま見ていたことがバレただろう。なんなら今もう既にバレているかもしれない。
 ワタルは慌てて首輪にタオルを巻いた。肩から掛けたままにしていたのが不幸中の幸いか。とりあえずこうしていればカメラはごまかせるかもしれない。だいぶ気休めだが、やらないよりマシだ。
 ワタルは恐る恐る掲示板を読み進める。新しいレスがいくつもあるが、ワタルに関することは無い。それが気づかれていないからなのか、それともなにか目的があってなのかわからず、心臓がギリギリと痛む。
 少しして蜘蛛の鬼(姉)の書き込みがあったときは本当に心臓が飛び出そうになった。どうやらミモザという少女を襲っているらしい。一方別の場所では蜘蛛の鬼(母)が鈴鬼なる鬼と合流したらしく、その後は蜘蛛の鬼についての書き込みが続いた。

(なんでカッコつけてるんだろう。名前ないのかな。)

 読んでいくうちにこの殺し合い進んでいることが実感させられる。既に数十名の脱落者が出ているというが、それはつまり数十名の死者が出ているということだ。殺し合いが始まってまだ2時間もしないのに、あまりに人が死にすぎている。思わず気分が悪くなるワタルだったが、レスが一時的に途絶えたので最初の方の書き込みを確認しようかと考えたところで、視界の端を何かが動くのを捉えた。
 慌てて振り返る。目を凝らしてみても何も見つからないが、そこで初めて自分が入り口からすぐの席にいることを思い出した。パソコンは他にもあるだろうと思いついて、席を移動する。どうやらこの漫画喫茶はいくつかのフロアがあるようだ。それが店として大規模なのか否かはわからないが、とりあえず一通り店を調べてから改めて掲示板を調べようと思い直した。

(これ、エアガンじゃないのか。本物の銃がなんでここに?)

 まず気になったのは、今まで無視していた、床に落ちている拳銃やショットガンだ。割と苦労して木刀を手に入れたのに、なんでこんな簡単に銃が手に入るんだ?と思いエアガンだと決めつけていたが、一つ持ってみれば本物だとわかる。ますます洞爺湖と印された木刀の存在意義がわからなくなるが、それはそれとして銃よりも剣のほうが使い慣れているので持っていくのはこちらにする。よく考えてみれば銃など使い方もわからなければ撃ったこともないのだ。それよりはまだわかりやすい武器だ。それにこの木刀、不思議と頼りになる気がする。もしかしたら何か特別な木刀なのかもしれない。
 その後も床に落ちるライフルなどを避けつつ、フロアを探索する。ひとまず人影は見当たらない。次は上のフロアをと思い、非常階段で行くことにした。いないとは思うが、待ち伏せを警戒して一応用心はする。
 扉を開けると、無骨な鉄階段だった。足音が響きそうだなと思うが、靴をスリッパに履き替えているので大丈夫かなと思い直す。もっといい靴を探さないとと考えながら一歩足を踏み出して、ワタルは無意識に視線を彷徨わせていた景色の中に人影を見つけた。

70◆BrXLNuUpHQ:2024/06/11(火) 07:41:54 ID:???0



 かける言葉が見つからなかった。
 居想直矢は、灰原哀を連れて近くの公園に来ていた。あの酒場での惨劇の後、死体に囲まれていた2人。直矢は逃げるようにその場を離れた。
 彼にできることはそのぐらいだった。たかが心を読める程度の能力では、子供が子供を殺す異常事態など、対処のしようがなかった。最低限、逃げなければという意識だけがあり、しかし誰かに助けを求めるのは怖く、だが誰にも頼れなのも怖い。
 恐怖と、それを上回る混乱と困惑が、直矢の足を動かしていた。

「ハァ……ハァ……おえ……」
「大丈夫か……」

 哀が嘔吐く声を聞いて、彼は自分の周りの景色が変わっているのを自覚した。これまでのことが夢の中のことのように、現実感がまるで無い。いちおう自分がこれまで歩いてきたことはわかるが、どうやってここまで来たか、元の場所に戻るにはどうすればいいかはまるでわからない。

「公園で休もう。」

 目についたものから、とりあえず目的地を決めた。頭がうまく働かない。死という根源的な恐怖、それが直矢を絡めとる。気が滅入る赤い霧を見ても、思い出すのは死体から流れる血だ。そして彼の持つ異能力により、霧からは負の感情を感じる。平常時ですら負担になっていたそれは、ただでさえストレスに苛まれている彼に容赦なく襲いかかる。頭が割れるように痛むのは過度のストレスからか。
 公園の水飲み場の蛇口をひねる。手で水をすくい、顔を洗う。バシャバシャと音を立てて顔を洗う。冷たさで頭も心も冷静になってくれと。そして顔を上げると、電信柱が動いているのが見えた。

「……」

 もう一度顔を洗う。もう一度顔を上げる。
 電信柱が斜めに傾いて動いていた。しかも何か重いものが動く音も聞こえる。
 その直後、公園の木々の切れ目から現れたのは、大砲だった。

「なにっ。」

 思わずつぶやく直矢の前に現れたのは、8,8 cm Flugabwehrkanoneだった。
 第一次世界大戦後、ドイツが開発した高射砲、つまりは空に向けて撃つための大砲である。
 優秀な兵器であるために歩兵や戦車に向けても使われることがあった。
 その砲弾は上空8000メートル、横に向けて撃てば15キロ先まで届き、厚さ10センチの装甲を2キロ以内なら貫通する。
 それほどまでの射程と破壊力を持つ砲撃を4秒に一度行えるのがこれだ。

「ううぅ……あれはアハトアハト……」
「知っているのか灰原。」
「名前はね。さすがに実物は初めてよ……」

 口元を手で抑えながら、青い顔で灰原は黒の組織にいた時のことを思い出した。VTOL機や潜水艦まで保有するのだ、当然高射砲に関する資料もあった。とはいえ灰原の専門分野とは畑違いだったので、あくまでも大雑把な性能しか知らないのだが。

「あんなものまで……アイツらも大概だけど……戦争でもする気なの……?」
「なんだあっ。」

 自分の記憶へと潜り込みかけた灰原を、直矢の声が引き戻す。
 公園の入り口を横切っていくアハトアハトは、4輪の台車のようなものに載せられている。
 そしてそれは、一人の少女によって手押しされていた。
 人知を怪力の少女に思わず叫び声も出る。

「■■■!? ■■■!」
「何語なんだ……」

 直矢の声に気づいたのか、大砲を手で押していた少女はこちらを向いた。
 紹介しよう、彼女はシェーラひめ。
 さばくの東のはて、古き王国シェーラザードのハールーン王のひとり娘にして、世継ぎのひめ、シェーラザードである。

71◆BrXLNuUpHQ:2024/06/11(火) 07:42:18 ID:???0



「ここどこなのかしら。また変なことになっちゃったわね。」

 とりあえず地面に嵌っていたマンホールを外してみて指先でコインのようにくるくる回しながら、シェーラは首をひねっていた。
 黒い瞳と黒い髪は黒曜石のように艷やかで、黙っていれば美少女ではある。エキゾチックな衣装と合わせて、近くにいる少年を惑わせるだけの魅力は持っている。
 これで足元にうっかりへし曲げてしまった銃器などがなければさぞモテただろう。

 シェーラはアラビアンな世界の人間であり、こんなコンクリートジャングルなど生まれてこの方見たことなかった。
 とはいえ悪い魔法使いに目の前で親を殺され(まだ死んでない)国を滅ぼされ(まだ滅びきってない)自分も狙われている(本人自身はそこまで狙われてない)身の上だ、絶体絶命の状況もそこそこ慣れてはいる。
 それにこれまでの冒険で、見たことのない景色はたくさん見てきた。なんか中華っぽいのになんかレパント海っぽいのに、とにかく砂漠のオアシスにいては一生見ることのなかったものばかりだ。異様な景色も、『ここは砂漠とは違う』ぐらいの軽い認識であった。それでいて自然体のまま警戒や洞察はできているのはさすがの旅歩きの経験だが、それはともかく、彼女は見つけた銃をさっそく「えいっ」ってやってブッ壊していた。
 砂漠の世界に銃器などない。彼女が知る大砲の仲間みたいなものだろうと思って、ちょっとこう、ブンってやったら壊してしまった。これにはシェーラも驚き、謝りつつ元の場所にそっと置いておいた。どうせ自分をさらった悪い奴が用意したものだろうけど、だからといって雑に扱ってはいけない。
 そう、シェーラは怪力なのだ。

 さて、アハトアハトは7トンほどである。
 この重さ、アフリカゾウと同じぐらいである。
 シェーラも昔はゾウを持ち上げて足の裏に刺さったトゲとか取ってあげたものだ。
 つまり、シェーラは7トンの物でも問題なくリフトアップできる。

「なんか強そうなのがあったわ! これなら壊れなさそうね!」

 そして落ちていたアハトアハトを拾った。
 銃はよくわからないが、大砲なら使ってる人を見たことがある。もし使えなくても砲丸投げに使える砲弾も手に入った。
 片手でアハトアハトを持ち上げ、もう片方で一緒に落ちていた弾薬運搬車も持ち上げる。

「うわああっ! 大砲が練り歩いている!?」
「あら? どこから?」

 そうして歩いていたところ、非常階段から顔を出したら顔面に砲口が直撃しそうになったワタルの叫び声に気づき、出会ったという次第であった。

72◆BrXLNuUpHQ:2024/06/11(火) 07:42:45 ID:???0

「ていうことがあったんだ。」
「どういうことなの……」

 ワタルからの説明に、灰原は目が点になる。
 自分のせいで人が死んだとか、まだ酒が残っていているとか、そんなもんを問答無用で吹き飛ばす怪物を超えた怪物の登場に、ただただ圧倒されていた。

「■■■? ■■■■■■。」
「そうだね。」
「何語?」

 なお、シェーラひめの言葉は当然日本語ではないため、灰原も直矢も何言ってるかわからない。ワタルだけが旅人として女神に与えられた加護か何かによって世界が違う者とも交流できるのでコミュニケーションが取れている状態だ。
 ちなみにシェーラひめの方針は仲間との合流なのだが、そんなことをわかるわけがない2人は、ただただ困惑と衝撃と恐怖を味わっているだけだった。まるでヒグマか何かが人間に擬態しているような、人間と変わらない外見で人間では絶対できないことをすることへの嫌悪感、不気味の谷現象のようなものを感じずはいられない。
 それは正常な人間の反応なのだが、すっかり異世界に慣れているワタルからすると、異様にこちらから距離を取る感じがして、殺し合い故に信頼されてないのかと少し悲しくなった。

「とりあえず、ボクたちは学校に行こうと思うんだ。もし友達が巻き込まれていたら、きっと向かうからね。」
「学校か……あれを転がしてか?」

 あれというのはもちろんアハトアハトだ。
 さすがに担ぐのは危ないのでシェーラひめには転がしていってもらったのだが、彼女からすれば買い物カートを転がすようなものだ。遅いからと乗せられたワタルが軽く恐怖を感じるスピードでシェーラひめは押した。
 そんなシェーラひめは、公園のトイレに落ちていた軍刀を検めている。彼女は剣の腕にもそれなり以上の自信がある。単なる腕力任せではない王家の者として鍛えられた流麗な刀さばきと、それはともかく腕力に耐えられず振り下ろしたらブッ壊れた軍刀が、灰原と直矢を戦慄させた。

「あらら。刃はすごいのになまくらね。」
「見栄えはいいけど、不良品だったのかな。」

 そんな2人に気づかず、ワタルは刀に目が行っている。シェーラひめほどの剣速の持ち主は見たことなくとも、シェーラひめ以上の剣の使い手はハイランダーに加わってから目にすることがあった。確かに彼女のフィジカルは凄いと思うが、技量ではもっと上を知っているし、魔法が使えない以上はやはり限界もあることを幻界での冒険で理解していた。

(こいつらも異能力者か?)

 そして直矢が自分の知識から考え出した答えは、彼らが常人ではないということだ。シェーラひめは怪力、ワタルは翻訳といったところだろうか。彼は彼の経験で状況を受け止める。

(──そう。ふざけた夢ね。)

 そして灰原は、これが幻覚だと確信を強めた。
 自分が犯した罪に立ち向かい、なんとか立ち上がろとした矢先に見た現実離れした光景は、彼女に自身の正気を否定させるには充分だった。

「いいわ、行きましょう。」
「灰原?」
「ここでこうしていても仕方ない……そうでしょう?」

 そう言って見せた表情に、直矢はシェーラひめを見た時よりも戦慄した。
 灰原は、笑っていた。

「なんなんだ……何が起きてるんだ……」

 ワタルが心配そうに声をかけるのも気にせず、毒づかずにはいられなかった。

73◆BrXLNuUpHQ:2024/06/11(火) 07:43:20 ID:???0



【0206 『北部』繁華街の公園】


【三谷亘@ブレイブ・ストーリー (4)運命の塔(ブレイブ・ストーリーシリーズ)@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
 脱出する。あの掲示板は……
●中目標
 怪物(姉蜘蛛)に警戒しながら、仲間やミツルがいるかどうか探す。
●小目標
 学校に向かう。

【シェーラ@シェーラひめのぼうけん 空とぶ城(シェーラひめシリーズ)@フォア文庫】
【目標】
●大目標
 仲間と合流する。
●中目標
 殺し合いをなんとかする。
●小目標
 学校に向かう。

【居想直矢@異能力フレンズ(1) スパーク・ガールあらわる! (異能力フレンズシリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●小目標
 なんなんだこれはどうすればいいんだ……

【灰原哀@名探偵コナン 紺青の拳(名探偵コナンシリーズ)@小学館ジュニア文庫】
【目標】
●小目標
 そう……全ては夢なの?

74◆BrXLNuUpHQ:2024/06/11(火) 07:44:39 ID:???0
投下終了です。
タイトルは『シェーラひめとFlugabwehrkanone』になります。

75◆BrXLNuUpHQ:2024/06/15(土) 00:00:39 ID:???0
投下します。

76◆BrXLNuUpHQ:2024/06/15(土) 00:01:14 ID:???0



「幹太郎さん、あれ。」
「どうした。」
「子供だ。小学生ぐらいの。」
「俺たちだけじゃなかったんだな。嬉しくともなんともない。」

 江藤想志と幹太郎の2人は最初期に出会ってからこれまで行動を共にしてきた。
 キックボクシングに打ち込む高校生である想志と、南の島でカフェをやっている青年の幹太郎。顔が良いぐらいしか共通点がないように見える2人だが、彼らには一つの共通点があった。

(あの試合から記憶がなかったんたげど……ここって地獄とかじゃないのかな。)
(妖界じゃなくて地獄にでも送られたのかって思ったんだけどな、ちがうのか?)
「どうしたんだよ二人とも。にしてもこのパスタウメェな、お兄さんプロ?」

 声をかけて5分も経たないうちになんかもう打ち解けた雰囲気を発している少年、本原仁。
 彼から話を聞いて疑いの心を小さくする。
 『自分たちが死んだのではないか』という疑いの心を。
 想志は倉沢竜人にキックボクシングの試合中に、幹太郎は竜堂ルナに死闘の果てに、それぞれ植物人間にされたり妖界へと送還されたりした。
 彼らの記憶は揃って自分がこの世のものではなくなる寸前。そして出会った相手もここが地獄ではないかと疑う男。景色もおどろおどろしく必然的に自分たちの地獄行きを疑う。そうでなくても殺し合いという地獄なのだ、現実のこととは受け止められなかった。
 会場西部が初期配置にもかかわらず南部まで歩いてきたのもそのためだ。元々境目近くだったとはいえ、それでも数kmは歩いている。自分たち以外に生きている存在を探し求めて彼らはさまよった末に仁を見つけたのだ。

「まあな。うまいだろ。」
「俺緑色のパスタとか初めて食べたぜ。」
「仁、もう一回聞きたいんだけど……その……」
「ん? 地獄がうんとかとか? オレ死んだ覚えとかないし、普通に妖怪とか悪魔とかにユーカイされたとかじゃねえかな。なんかあの、ウサギ?が言ってたし。」
「妖怪って……」
「あ、この貝なに?」

 全くマイペースにパスタをがっこむ仁に言葉を失くす想志と、妖怪という言葉に黙り込む幹太郎。
 なにせ幹太郎は妖怪だ。先述の死闘も彼が人間を文字通りの植物人間にしていたことがルナ達にバレて皆殺しにしようとしたからだ。なんならこの殺し合いでもまだ態度を決めかねていないだけでマーダー寄りである。
 色々と普通ではないとはいえ日常生活の延長線上にある想志の人生と比べて、彼は思いっきりファンタジーの境遇だ。こうして想志にパスタを振る舞っているのも、付け合せのドリンクに一服盛ってブッ殺す下準備を兼ねている。とはいえ同じように想志にもパスタを振る舞い、その後も調べものをしたり物資を集めたりとまるでマーダーらしいことは何一つできずにいるのだが。
 本当に一般人の対応をする想志とは差がある。彼の方はこの殺し合いに巻き込まれた、同じようなどこか普通でない境遇であっても一般人とかけ離れていない参加者とまるで同じようなリアクションしかできない。いちおう落ちていた銃を拾い、いちおう家族に電話をかけてみたりして、いちおうアイテムを集めて、いちおう避難する。やってきたことなどそれで説明がつく。そしてそれがつかなくなる時など、ごく限られている。

「──だれだ!」

 最初に気づいたのは妖怪の感覚を持つ幹太郎。素早く振り向き、しかし首を素早く左右に振る。それは人を探す仕草だ。こちらに近づいてくる誰かを感知した途端、他にも2人感知した。自分たちを囲むように、3人の参加者がいる。

「幹太郎さん?」
「やっべ合図忘れてた。」

 疑問の声を上げる想志よりも、まだ口にパスタを突っ込みながら仁が言った言葉に明敏に反応する。
 一瞬殺そうか悩む。その瞬間、頭に浮かんだのは、悲しそうな少女の顔だった。

(やっぱり、だめだな……)
「合図って、どういうことだ?」
「えーっと、ちょっと待ってて。みんなー! 大丈夫そうだぞー!」

 仁の声から少しして3人の少女が現れても、幹太郎の頭にはルナの顔がこびりついていた。

77◆BrXLNuUpHQ:2024/06/15(土) 00:01:39 ID:???0



 マンションである。それも複数の。
 交差点に面した4つのマンション、それへの侵入を防ぐように立ち入り禁止テープが張られている。車道にもしっかり中空に貼られ、幹太郎はそれをめくると、裏には太いワイヤーが貼ってあった。

「そのテープには気をつけてくださいまし。手榴弾に繋がっていますの。」
「先に言ってくれないか?」

 幹太郎達を囲むように現れたそこそこ美少女たち。『殺し合いからみんなで脱出する委員会』を名乗る彼女達がみんなで仁を叱るのを一通り見てから、情報交換が行われた。
 現れたのは、ピンクのフリフリドレスの秋野真月、一人だけやけにサブマシンガンを持つ姿が様になっている北条沙都子、黒髪ロングでいかにも委員長という雰囲気を醸し出している一路舞の3名である。
 彼女たち3人と仁も、幹太郎たちと同じような経過を辿っていた。すなわち、自己紹介をして、協力して通報などしようとし、駄目とわかると物資を集め、拾い食いで休憩し、武器を持って別の建物を調べるという具合だ。考えることはだいたい皆同じである。というか他にやることもできることも殆ど無い。無いからこそそれを認めてしまっては無力感に殺されるので、何かやることを見つけて動く参加者が多いのだ。
 そうして他の参加者を探すことになったのだが、別にこれは全員乗り気というわけではなかった。というのも、4人で同じ行動をしている中で明らかに能力に差があったことがきっかけである。
 旅館の跡取り娘として英才教育を受けている真月は、避難所に必要なものやそれを実際に作るノウハウまで持っていた。殺し合いで重要となるセキュリティは、トラップマスターの異名を持つ沙都子の手により落ちていた武器を用いたデストラップにより完成した。
 そうなるとつまらないのは仁と舞である。行動力がトチ狂っている仁と根っからの仕切り屋である舞からすると、2人の指図で避難経路を確認したり防犯システムを確認したりワイヤーを張ったり穴を開けたりはつまらない。なんだかんだ楽しんでやってる仁はともかく、自分が2人より劣っているのを自覚してしまった舞は、意地とプライドにかけて2人に比する功績を浴びて委員長スゴイって言われたかった。
 というわけで拠点もできたことだし次のフェイズである。舞が主導したのは、自分たちと同じように巻き込まれた人間を探すことであった。
 この殺し合いでは、あまり参加者たちは動き回ろうとしない。その理由は3つある。1つ、赤い霧のせいで視界が効かない。まともに見えるのは100mほど。300mまでなら色や輪郭がぼやけるぐらいだが、500mほどまで行くとかなり見えにくくなり、1kmまで行けば発光しているものでなければまず見えない。もちろん個人の視力によりだいぶ差はあるのだが、それでも1kmの限度があった。2つ、銃器が多い。基本的には建物の中に落ちていることの多い銃を目にした参加者は、それで撃たれることを必然的に想像して動きが鈍っていた。にもかかわらず動き回る参加者は、自分の大切な人が巻き込まれている確信があるか、銃撃をなんとかできる自信があるか、あるいは銃を目にしてないなどで危険性を軽視しているかだ。3つ、誰が参加者かわからない。参加者名簿は無く、オープニングで誰かを見かけても記憶は曖昧にされている。そのせいで積極的に動く動機が薄い。
 しかしそれだけの理由があっても、舞は主張を引っ込めることはなかった。結論ありきで考えれば、霧が濃いなら自分たちが見つかる可能性は少ないし、よって銃で撃たれる可能性も少ないし、オープニングで知り合いを見かけた気がするということだ。なにより、彼女は元々拡声器で呼びかけるような真似をしている。そのせいで学校では無く近くのマンションをメインの拠点にすることになったのだが、不都合なことはふっ飛ばして捜索の重要性を強弁していた。
 ちなみに仁も仁で同じように拡声器を使っていた。こちらも舞のような対抗意識からではないが、将来の明るさで「まあなんとなるだろ」と思って同調していた。彼としてはこういうグイグイ引っ張っていく人間は、無人島での経験からそんなに嫌いではない。舞も舞で仁のような目の離さない男子の世話を焼く癖があるので、この2人は喧嘩しながらも仲良く捜索を主張した。

78◆BrXLNuUpHQ:2024/06/15(土) 00:02:06 ID:???0


「──というわけで、お二人にも『殺し合いからみんなで脱出する委員会』に入っていただきたいと思います。」

 マンションの一室に通された2人は、目の前に茶菓子を置かれつつ舞にそう切り出された。結局舞に押し切られた彼女たちが最初に見つけたのが、幹太郎たちだったというわけである。ちなみに想志が最初に仁だけ見つけたのは、仁が一人で突っ走ったからだけではない。彼を囮にして反応を見て危なくなったら援護しようと沙都子が言ったためである。あまりにもあんまりな案だが、当の仁本人がノリノリだった上に舞まで賛成に回ったのでまたも真月は押し切られた。
 ちなみに言い出した沙都子は、何かあれば仁に流れ弾が行くのも仕方ないと言外に思いつつ言ったことを彼は知らない。

「協力するのは、いいんだけれども……」

 そう口ごもる想志の視線の先にあるのは速射砲。

「男手が欲しいんです。」
「なるほどな。」

 想志とは別の意味で言葉重く、幹太郎は納得した。
 さすがに小学生4人ではあんな大砲はどうにもできなかったのだろう。だが大砲に驚く想志をよそに、幹太郎はこの殺し合いにいる参加者のレベルに表情を渋くした。
 妖怪の自分以外は全員人間の子供としか出会っていない。そのことに違和感があった。たとえ銃があろうと、妖怪にはそうそう致命傷にはならない。まして相手が子供ならなおさら。だが大砲は違う。さすがにこれを向けられれば迎撃も防御も回復力任せの突破も無謀だ。確実に死ぬ。
 つまりは幹太郎のような一握りの強者と、それをジャイアントキリングすることを期待された多数の弱者という構図。それがこの殺し合いの参加者の間にあるのではと。

「かまわないよ、なあ?」
「はい、みんなで協力したら、なにか変わるかもしれませんしね。」
「ありがとうございます。それではお二人の入会を──」

 舞の声を遮るように、突如爆発音が響いた。

「──ちょっと待ってくださいね。」
「大変だ! トラップゾーンに車突っ込んできた!」
「本原くん! 人が話している途中に──」
「そんな場合じゃねえだろ沙都子が作ったトラップがドーンて!」
「確認してくる。」
「一緒に行きます。」

 仁ともめる舞を置いて、2人はマンションの出口へと急ごうとした。途中で床に貼られたテープからそれてショートカットしようとしてワイヤートラップを踏みそうになったり、ショートカットしようとして天井に吊り下げられたモップを寸前で躱したり、ショートカットしようとして謎の水風船により幹太郎の腕が洗剤まみれになったりしつつ、結局テープ通りに歩いてマンションを出る。さっきの交差点に出れば、軽トラが1台横転していて、2人の後ろから沙都子と真月も駆けてきた。

「さっきの手榴弾の罠に引っかかったのか?」
「幹太郎さん、その腕は……順路から外れましたね? テープの貼られている床以外は危険だと教えましたのに。」
「君のトラップをあまく見てたよ……」
「でもあれはやりすぎなんじゃ……」
「あら想志さん、ちゃんとテープをはっていたのに無視されたのはそちらでしてよ。」
「そっちじゃなくて、あの軽トラの……」
「あっちだってちゃんとテープをはっていますでしょう。」
「この霧じゃ見えなくないかな?」
「見えてから気づいても、車って止められないんじゃないか?」
「……失念してましたわ。」
「──はっ! それよりみなさん! 車の人を救助に行かないと!」

79◆BrXLNuUpHQ:2024/06/15(土) 00:02:38 ID:???0

 ヤッベという顔をする沙都子にドン引きしていた真月は、ふと思い出したように言った。急いで6人全員で向かおうとして、一番最後に来たのに先頭を走っていた仁がくくり罠に引っかかり電信柱に吊り上げられる。

「ぬおおおおおおお!?」
「テープの貼ってあるところを歩いてっていいましでしょうに!」
「テープが張ってあるの向こうだろぉ!」
「貼ってある地面を見なさい!」
「空中に張ってあるのに!?」
「こっちは私たちでやっておくので、真月さんたちは軽トラのほうを!」

 そう言い舞も、仁の救助をしている沙都子の手伝いに向かい、6人があっという間に3人になり、慎重に一歩一歩近づく。途中で想志が立ち入り禁止テープの陰に張られたワイヤーを踏みかけて危うく全員手榴弾で爆死しそうになったものの、なんとか幹太郎たちは無傷で軽トラへと近づけた。

「陰にかくれてる上につや消しのグレーまで塗ってあったぞ……あの子確実に殺しに来てないか?」
「幹太郎さん! 中に人が! ううん、人かなあ……」
「これは……着ぐるみ?」

 愚痴る間もなく呼ばれて近づいた幹太郎が目にしたのは、グッタリした梨だった。

「なんなんだ次から次からもう!」

 キャラを崩壊させながらも、幹太郎は呆然とする2人に代わって、横転した軽トラに登ると、助手席のドアを開ける。木の妖怪である彼からすれば、謎の梨の匂いのする着ぐるみだか妖怪だかには人間よりも抵抗が薄い。

「うぅ……生きてる……生きてる?」
「ほら、手を伸ばせ。」

 意識がある運転席の梨に、幹太郎は手を伸ばした。
 2人の手が繋がれる。
 ぬるり。
 幹太郎の腕にかかった洗剤によって、滑って手が離れた。

「さっきの罠のやつ!」
「代わります!」

 なんとか梨を引っ張り上げる想志。いまさらながら木の妖怪だけあって普通の人間よりも洗剤への抵抗が弱くなんか体調が悪くなっていく幹太郎。いまだ目の前の梨に困惑する真月。

(誰か……誰かミーを……助けてちょ……)

 そして軽トラの陰で、縛られたまま荷台に載せられていた男、イヤミはしめやかに気絶した。

80◆BrXLNuUpHQ:2024/06/15(土) 00:03:01 ID:???0



【0300 『南部』小学校近くのマンション】

【江藤想志@天使のはしご1(天使のはしごシリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
 脱出する。
●中目標
 この世界は地獄じゃないのか?
●小目標
 梨(ラ・フランシス)を助ける。

【幹太郎@妖界ナビ・ルナ(3) 黒い森の迷路(妖界ナビ・ルナシリーズ)@フォア文庫】
【目標】
●大目標
 脱出する。
●中目標
 この世界は地獄じゃないのか?
●小目標
 なんか気持ち悪いな……

【本原仁@そんなに仲良くない小学生4人は無人島から脱出できるのか!?@小学館ジュニア文庫】
【目標】
●大目標
 脱出する。
●小目標
 おろしてくれえええ……

【北条沙都子@双葉社ジュニア文庫 ひぐらしのなく頃に 第三話 祟殺し編 下(ひぐらしのなく頃にシリーズ)@双葉社ジュニア文庫】
【目標】
●大目標
 殺し合いから脱出する。
●中目標
 部活メンバーと合流する。
●小目標
 じっとしなさい!

【一路舞@黒魔女さんが通る!! PART 6 この学校、呪われてません?の巻(黒魔女さんが通る!!シリーズ)@講社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
 自分がリーダーになって脱出する。
●中目標
 いないとは思うが真月や沙都子だけに活躍されるのは悔しいので、巻き込まれている知り合いがいないかいちおう探す。
●小目標
 暴れたらおろせないでしょう!

【秋野真月@若おかみは小学生! 映画ノベライズ(若おかみは小学生!シリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
 脱出する。
●中目標
 知り合いが巻き込まれていないか探せる体制を作る。
●小目標
 この梨は……?

【ラ・フランシス@ふなっしーの大冒険 きょうだい集結! 梨汁ブシャーッに気をつけろ!!(ふなっしーの大冒険シリーズ)@小学館ジュニア文庫】
●大目標
 殺し合いからの脱出。
●小目標
 なんだ……なんで突然爆発した……?

【イヤミ@おそ松さん 六つ子とエジプトとセミ@小学館ジュニア文庫】
●大目標
 優勝を目指す。
●中目標
 拘束から脱出する。
●小目標
 ちょっと待つザンス! ミーの今回の出番これだけザンスか!? せめて存在気づくところまでやってh

81◆BrXLNuUpHQ:2024/06/15(土) 00:03:42 ID:???0
投下終了です。タイトルは『みんなで殺し合いから脱出する委員会』になります。

82◆BrXLNuUpHQ:2024/06/21(金) 07:18:45 ID:???0
投下します。

83◆BrXLNuUpHQ:2024/06/21(金) 07:22:03 ID:???0



 必要なのはタイミングだ。
 双方の手に銃、こちらはあちらの存在に気づき、あちらはこちらに気づいていない、数は2人に対して人数不明の多数。
 条件は悪い。だがやらなければ殺されるのは自分たちだという恐怖を自覚していた。

「行くよ、圭ちゃん。」

 何度も視界内に人影が見当たらないことを確認して、園崎魅音は大きな音を立てないよう慎重に、それでいて即座に発砲できるように素早くロッカーから飛び出た。


 魅音が前原圭一と山田奈緒子の3人で身を潜めていた警察署にうずまきナルトの影分身が侵入したことに端を発した警察署の戦い。
 ナルトの言葉から来訪した石川五エ門と緋村剣心を求めて切り進む雪代縁の戦闘が起こり、混乱する中でナルトの影分身により警察署を制圧されたのだが、それすらも把握できず、魅音は圭一と2人でロッカーに隠れるのが精一杯だった。
 その後吉永双葉や神楽が縁と戦闘になったことも、天地神明が山田と合流したことも彼女たちが知る由もない。ただただ、殺した人間と同じ顔と姿の人間が何十人も目の前に存在したことだけが、2人の目にする範囲でわかることだ。
 思わず疑うのは幻覚である。ストレスなどから自分たちが正気でなくなったと疑う他ない。それもそうだろう。どこの世界に影分身が実在すると思うか。彼女たちにわかるはずがない。射殺したら煙になり銃を落とす存在は、人間であっても人間でなくても、恐怖の対象以外の何者でもなかった。

「よし、誰もいない。」
「魅音、どうする気だ?」

 恐怖をありありと目に浮かべて問いかける圭一に、魅音は片手を掲げた。鍵がぶらさがった。

「これ、ヘリコプターの鍵。屋上にあるみたいなんだよね。」
「ヘリって……動かせるのか?」
「まあね、ハワイで親父に習った。これでもおじさんお嬢様だし。」

 魅音は冗談めかして言ったが、半分は事実だ。
 園崎家は雛見沢周辺を縄張りとする極道の家。その次期当主である魅音は、その『筋』の『英才教育』を受けている。銃(チャカ)の扱いやヘリコプターの操縦(テク)もその一貫だ。
 彼女からすればそんなものが役立つ日などできれば来てほしくなかったのだが、今となっては死中に活を見出すこととなったので文句は言えない。
 だから彼女は気づかなかった。圭一がナルトの影分身に向ける恐怖の目を、次第に魅音にも向けていることに。この窮地を脱することに集中している魅音には、届かない。ナルトの影分身をあっさり射殺したことにも、山田を見捨てようとしていることにも、こんな状況で無謀なことをしようとしていることにも。
 そもそもこの襲撃は、魅音が影分身を射殺したことが原因の一つだ。襲撃を警戒するあまり軽かった引鉄は、災厄を呼び寄せた。とはいえ彼女が撃たなくとも縁は警察署を目指していたのでどのみち戦いは起きていただろう。他の参加者同士で潰し合ってくれていることを考えれば、そこだけはむしろプラスであったかもしれない。しかしそれを差し引いても、大きなマイナスを見落としてはならない。圭一からの不信というマイナスを。

(魅音、本当にお前は──)
「足音もしない……行くよ!」
「お、おう!」

 無理やり声をひねり出す。
 圭一はどこに向けたらいいかわからない恐怖を飲み込んだ。

84◆BrXLNuUpHQ:2024/06/21(金) 07:22:30 ID:???0

 同時刻、警察署上階。
 縁と神楽の戦闘はいよいよ佳境に入っていた。
 チョコの手引により生じた五エ門抜きでの戦い。その苛烈なインファイトにナルトの影分身はなすすべなく、既に50体以上が消滅していた。
 それには全く使い慣れていない武器を使っていることも大きい。影分身たちはなまじ誤射を警戒しなくていい分適当に撃ちまくり、半数以上が自滅により射殺されていた。
 そして影分身の存在が神楽の邪魔をする。先の打ち合いから不利を悟った縁は、神楽とは間合いを取り続け銃撃戦に持ち込んでいる。致命傷を狙うのではなく、前進を阻むための弾幕に、神楽は傘を拡げてジリジリと進むしかない。強引に突破しようにもナルトたちが邪魔になり近づく前に撃たれるのは目に見えていた。そうしているうちに縁との距離は着実に開いていく。
 しかし、この二人の戦いはその実、神楽が徐々に追い詰めていた。縁の流れ弾は影分身にも当たり、増えるペースより減るペースの方が早い。なにより、縁は神楽に致命傷を狙っていないのではなく、狙えないのだ。神楽を殺そうとするとどうしても体が鈍ってしまう。先の無刀での虎伏絶刀勢は、神楽があの程度では死なないという脅威を殺さなくて済むという安堵から放てたもの。とは本人が認めることは決してない。彼は本気で殺そうとはしている。しているが、そこから出される結論は神楽を殺すことのないような攻撃を選ぶ。

「お前ら邪魔ネ!」
「「うわあああ!?」」

 苛立つ神楽が影分身を2体掴みあげ放り投げる。縁は冷静に後退し、煙と化して消えるのにも惑わされず神楽の足止めを行う。影分身は脆すぎて銃撃の盾の役目も果たせない。そのくせ神楽の機動は邪魔になるので、彼女からすればいない方がだいぶマシだ。とはいえ縁が後退を選んでいるのは殺しても殺しても続々と現れるナルトを忌避しているからという理由もあるのだが。

「おりゃあ!」「撃ちまくれってばよ!」
「チッ……」

 階段まで辿り着き登ろうとし始めた縁に、上からの銃撃が襲う。一気に駆け上ると即座に倒すが、更に上階から、そして下階からも銃撃。そのおかげで神楽が踏み込めないでいるが、縁も動けない。
 上からの銃撃が弾切れで止んだタイミングで、縁と神楽は駆けた。

「邪魔だ。」

 悲鳴を上げる間も与えずに瞬殺し、更に上へ。その背後からは猛然と神楽が迫る。今までに稼いだ距離的アドバンテージは瞬く間になくなり、数メートル後方に感じるプレッシャーで縁の背筋が泡立つ。しなやかな筋肉を躍動させ、更に上へと駆け上ろうと方向転換した時、神楽の顔が目の前にあった。

「〜〜ッ!」
「このっ!」

 神楽が猛然と伸ばした手が鼻先をかすめる。更に一歩踏み込む彼女の手がついに縁を捉えようとして、その手の勢いが急に落ちた。
 神楽自身も驚くが、原因はすぐにわかった。膝が笑っている。さっきの一撃が今ここで足に来た。

(このままじゃ逃げられるネ。)
「ナルト! なんか他にできることないアルか!」

 神楽がダメージを負っているように、縁も疲労している。先に限界が来るのは縁だ。だが今のこの数分間だけ、神楽にダメージが少しまでつきまとうその数分間だけ、縁に届かない。届かなければ押し切られる。
 切羽詰まった彼女が打つ手はもうこれしかない。ナルト頼りだ。

「なんかって、なんだよ!」「あ、あれとかよくないか?」「あれってなんだってばよ。」「それは、『アレ』だよ。」「そうか、アレか!」

85◆BrXLNuUpHQ:2024/06/21(金) 07:22:59 ID:???0

 影分身たちの間で会議が行われる。無茶振りだが、なにかあるらしい。
 その言葉に縁は警戒を強める。そしてどんな搦手も見逃さないと集中して最上階へと駆け上がった縁が見たのは、屋上を警備していた影分身が駆け下りてくる光景。まだこれだけ残っていたのかと驚くが、冷静に射殺しようとして、彼らの手から銃が無く、代わりに妙な印を結んでいることに気づいて──

「「「「「ハーレムの術!!」」」」」
「──ハ?」

 上から『全裸の姉』が降ってきた。
 雪代巴は、もう十年も前に死んだ。殺されたのだ。緋村抜刀斎に。
 あの日のことは一日たりとも忘れたことはない。
 縁が大陸に渡り腕を磨き、裏社会の頭目にまでなり、日本を火の海にせんと戻ってきたのは、全ては憎き抜刀斎に生地獄を味合わせるため。
 その、最愛の姉が、裸で落ちてくる。
 理解が追いつかない。
 何人もの姉が、雪のように落ちてくる。
 思わず縁は、両手を拡げていた。
 このままでは姉が怪我をする。
 だから受け止めようとするして
 しかし何人もの姉を一人で受け止めることなどできはしない。
 その瞬間、縁の頭は焼き切れ、完全なパニック状態になる。

「ToLOVEるカ!!」
「グアアアア!!」

 その顔面に神楽の拳が突き刺さり、顔面が鼻を中心に陥没して、ようやく縁は正気を取り戻した。幻覚だ!

(!!!!!?!?!!!!!!)

 神楽に殴り飛ばされ、壁へとめり込む。人形にコンクリートがひび割れ、一瞬意識が飛ぶ。
 次の瞬間、縁は追撃をかけようとした神楽をカウンターで殴り飛ばして階段から転がり落とした。

「■■■■■■■■■■■■■■■!!」

 声にならない絶叫を上げると、目についたかけを皆殺しにする。思わずビビって上へと逃げる影分身を追って、彼はまた駆け上がりだした。


 ハーレムの術。
 それは後の七代目火影が考案した卑猥な術だ。
 セクシーな裸の美女に変化することで油断を誘う『お色気の術』に、『影分身の術』を合わせることで、相手を包囲し視界も奪うという恐るべき忍術である。
 その凄まじさは、忍者の祖である六道仙人の母にしてチャクラを齎した者、大筒木カグヤを封印するきっかけとなったと言えば伝わるであろう。
 後世では禁術に指定されたりされてなかったりするほどだ。
 ただし、この術は別に雪代巴に変化する術ではない。影分身たちが変化した美女の姿はバラバラだ。にもかかわらず縁が姉と誤認したのは、彼の中である一定の年齢の女性を姉へと重ねてしまうからだ。そして世界一美しい姉は必然的に美女から連想されるものだ。そうなったらもう全部が姉に見えるのも仕方ない本当に仕方ない。


「■■■■■■■■■■■■■■■!!」

 そしてそのことに気づいた縁の殺意は最大限に増していた。
 姉を裸にした。これは殺すだけでは済まさない。
 実際は別に縁の姉に変化したわけではないのだが、そんなことはどうでもいい。
 ナルトは殺す。絶対に殺す。確実に殺す。殺す殺す殺す殺す!!

「■■■■■■■■■■■■■■■!!」

 絶叫しながら屋上のドアを蹴破る。鉄製のそれは爆発したかのように吹き飛び、屋上を滑った。
 だが彼が目にしたのはそれではない。
 彼の目の前でホバリングするヘリコプターでもない。
 そのヘリコプターを操縦する姉の姿だ。

「■■■■■■■■■■■■■■■!!」

 白い悪魔は、猛然とヘリコプターへと駆け出した。

86◆BrXLNuUpHQ:2024/06/21(金) 07:23:53 ID:???0


「ゲェッ!? さっきの!?」

 一方、姉と間違われた魅音はドン引きして思わず急制動しかけたのをなんとか堪えて出力が上がるのを祈った。
 縁が暴れまくったおかげで、警察署内の移動はなんとかうまく行った。何度も影分身をやり過ごし、エレベーターに生きた心地がしないまま乗り込み、影分身たちと入れ違いで屋上に辿り着いたときにはへたり込みそうになった。

「魅音、本当にイケるのか?」
「大丈夫……うん、イケる。イケるよ!」

 屋上がヘリポートになっていて、ヘリの実物を見たときにはダッシュした。ドアを開け、様々な計器に目を奪われるも、最低限飛ばすのに必要なスイッチを思い出してエンジンをかける。無事にローターが回り出したときには歓声も上げた。
 そしてようやく、ようやく出力が安定して、飛べるとなった時に、爆音がしてドアが飛んできた。
 縁だ。

「上がれ上がれ上がれ上がれぇ!!」
「く、来るな! 来るなぁ!!」

 絶叫する魅音と圭一の声も、ローターの音もかき消す程の絶叫を上げながら縁が迫る。どこから声を出してるのかもわからないほどの大音量だ。ヘッドセット越しでもなお耳を圧する。本当に人間なのかと疑わざるを得ない。鼻と口からは止めどなく血が溢れ、人間でも喰ったように血が滴る口は、まさしく鬼だった。

「上がったあ!」

 ふわりと浮遊感がする。魅音が喜びの声を上げた途端、襲ってきたのはガクンという、揺れ。唐突に傾く。
 恐る恐る、見る。血まみれの手が、ドアの窓ガラスにべたりと張り付いた。

「こんのぉ!?」

 もう何を言ってるかも自分ですらわからず、魅音は操縦席から拳銃を乱射した。手だけでわかる、あの男は、離陸の寸前でヘリにしがみついて来たと!
 ドアを開けようとしたところに拳銃弾を受けたのか、一瞬手が止まる。が、また動き出す。ロックをかけているので開かないが、そんなことをお構いなしにガンガンとドアが鳴る。圭一が慌てて抑え込むが、まるで太刀打ちできない。ヒグマか何かから暴れているような、そんなパワーだ。

 ガスン!

「なんだあっ!?」

 更に悪いことは続く。
 縁を追った神楽と影分身たちは屋上に到達した。そこで見るのは、縁がヘリに掴まっている光景。
 そうなれば当然こう考える。「屋上にいた仲間と空から逃げる気だ」と。

「待てゴラァ!」

 折れた鼻から鼻血を流す神楽と、消滅を免れた数体の影分身が、アサルトライフルを、マシンガンを、ショットガンを乱射する。既に神楽でもジャンプで届かないほどの高度と距離だが、銃弾なら届く。数秒の間に100を超える弾丸が放たれた。
 不幸中の幸いは、それらが致命的な部品を撃ち抜かなかったことだろう。何ヶ所か油圧を撃ち抜き、出力が上がらなくなって操縦も上手くできなくなった程度だ。
 ちなみに魅音は素人なのでもちろん堕ちる。

「グッ、グ……ウゥ!」

 狙われた張本人の縁は一発も当たらなかった。しかしドアをこじ開けようとしたところに銃弾が襲い、手を離さざるを得なくなり、片手の指先でしがみつくハメになる。そのおかげで圭一はドアを抑える必要がなくなったのだが、銃撃を受けて割れた窓ガラスが顔にいくつも刺さり、聞こえてくる縁の唸り声と合わせて顔を青くしていた。

87◆BrXLNuUpHQ:2024/06/21(金) 07:24:52 ID:???0

「クソッ! 上がれぇ! 上がらんかぁ!」

 必死にエンジン出力を上げ、操縦桿を引き上げる。そんな魅音の努力も虚しく、ヘリは瞬く間に体制を崩した。縁がぶら下がる方へと傾き、地面へと堕ちていく。重力に引かれて加速度的に堕ちようとする機体を無理やり立て直そうとする。

(ヤバイ、ヤバイヤバイ、上がれ、上がってよ、上がれってんだ!)

 目の前には道の真ん中でこちらを見上げている何人かの人間がいる。その中の1人が、彼女たちが生き延びために尽力していた黒鳥千代子だとわかりはしない。ただ必死に、必死に操縦桿を引く。

「魅音!」
「上がる! 絶対上げる!」
「魅音!」

 急降下でドアに磔にされている圭一に怒鳴り返しながら、魅音はあらゆる神々に祈った。オヤシロさまでも誰でもいい、一生に一度のお願いです、墜落させないでください。
 その願いは、叶えられた。

「いっけえええええ!!!」

 慌てた様子で伏せたり逃げたりする人間たち。彼らの近くにあった自家用車に衝突する寸前、重力に揚力が勝った。高度の低下が止まり、道路から2m、5m、10mと離れていく。
 魅音は圭一と顔を見合わせる。バチン! 言葉にならない雄叫びを上げて思いっきりハイタッチした。
 墜落の寸前で、効きの悪かった油圧が動くのが間に合ったのだ。出力は上がり機体の体勢は正常なものへ。そのまま速度と高度を上げて、ヘリは北上を始めた。
 魅音は、圭一越しに見える窓ガラスにべたりと残された血の手形を見て冷や汗を拭う。あの悪鬼はどうやらさっきの急制動で振り落とせたようだ。あれから数分経っても襲ってくる気配は無い。そのことにホッとして、魅音はようやくヘリを着陸させることを思い出した。さっきまでどう墜落させないかを考えていたせいで、自分から高度を下げる発想が消えていたのだ。いつの間にか速度も高度もすっかり上がっていて、と思ったところで計器に目が行く。
 下がっている。速度も、高度も。

「ほんとすげぇよ、マジ映画みたいだったぜ。」
「下がってる……」
「え?」

 魅音は自分がわかる範囲の機具を全て操作する。動かない。何も。
 油圧が死んだのだ。
 銃痕から流れ出たオイルは、ついに油圧の作動に必要な量を下回ったのだ。

「圭一! 平たい場所探して!」
「魅音? 嘘だよな?」
「ヤバイ、堕ちる。」
「嘘だよな!?」

 魅音は必死で目を凝らした。赤い霧のせいでほとんど何も見えない。自分の下の地面だけが鮮明だ。そして鮮明さで、おおよその高度を知る。もう100mもない。
 更に悪いことは重なる。おぼろげに前方に影が見える。それが何か理解して血の気が引いた。

「山だ……」

 高さにして200mもないだろう。小山だ。小山が目の前に迫っている。ゆっくりとそこに突っ込んでいっている。
 高度は上げられない。方向も変えられない。
 奇跡は2度は、起こらない。
 ずるりと、力なく手が、操縦桿から離れかけた。
 その手を熱いものが包み、操縦桿を握らせた。

「諦めるな!」

88◆BrXLNuUpHQ:2024/06/21(金) 07:25:41 ID:???0

 圭一が、魅音の手を手で包み込んでいた。

「魅音、すげぇよ。お前ずっとすげえ。ヘリに乗る前も冷静に行動してたし、乗った後も堕ちそうになるのを立て直したし、こんなのできるのお前だけだよ。魅音がいなかったら、オレは警察署で死んでた。あの時お前に話を聞いてもらえたから、生きてやろうって思えたんだ。オレはダメなやつだけど、お前が世界一スゴい女の子だってことはわかるぜ。オレを見捨てないでずっと隣りに居てくれた。横で見てきたからわかる、お前なら絶対何があっても大丈夫だ。絶対雛見沢に帰れる、またレナや沙都子や梨花ちゃんと会える、オレにはわかるよ、お前かそれをできるって。みろよ、あそこに学校があるぜ。こんな場所でも、学校って雛見沢と変わんないんだな。あそこに降りるだけだ。降りて部活の仲間にアイニ行くだけだって、スッゲー簡単だろ? できるできる気持ちの問題だお前ならやれるってこれまでもできたんだ今度も奇跡を起こせるって魅音ならできるってだってお前スッゲェ頑張ってるもん!」

 まくし立てる圭一に魅音はしばらく呆気にとられた。途中から何言ってるかよくわからなかったが、不思議と自分ならできると、このヘリを安全に着陸できると、そんな自信がわいてきた。そんな力が圭一の言葉にはあった。自分でも不思議なほどに、あの校庭に着陸できる気がしてきている。
 魅音は深呼吸を一つして言った。

「圭ちゃん、エンジンを止める。」
「わかった!」

 それは賭けだった。
 ヘリはエンジンが停止しても落下の際の風をプロペラで受けて滑空することができる。だがそれは、魅音の未熟な操縦技術では到底不可能なことだった。
 魅音はエンジンを切ると、その回転をプロペラと切り離した。前方へと進む推力も高度を維持する推力も無くなる。異様に静かになった期待の中で、ヘリは空を滑った。
 一つ幸運だったのは、動力を失った場合でも姿勢制御できるように非常用の油圧が用意され、それが稼働したことだろう。本来は油圧系統に問題が発生した場合にスイッチで切り替えられるのだが、機体の訓練はおろか操縦自体が素人魅音では、パニック状態でなくともそれを操作することなどできなかった。期せずして動くようになった操縦桿は僥倖である。
 魅音はヘリを旋回させた。校庭は東西が長辺の長方形となっている。対角線から侵入して、少しでも長く滑走路にしようとする。

「ダメだ、まだ高い……」

 降りようとして、旋回を続ける。高さも速さも、思うように落ちない。大事なのはタイミングだ。狙った地点に狙った侵入角でも着陸する必要がある。
 それはプロでなければまず不可能だろう。だが魅音には無根拠に自信があった。
 2度回り、3度回り、4度目。ここだ。魅音は操縦桿を倒した。グッと落ちる。ぶつかる、その直前で操縦桿を引く。落ちるスピードが一瞬緩やかになり、重力で体が押し付けられる。そのすぐ後に、ガリガリという衝撃が魅音のシートベルトを締め付けた。

「と、まれええっ──」

 ミシミシとアバラが嫌な音を立てる。土煙が視界をなくし、ガラスが降り注いで魅音の意識は無くなった。

「──イッテェ……生きてる、のか?」

 その横で頭を抱えていた圭一は、締め付けられた腹部を抑えながら。見回す。周りの景色は、地表だ、生きている、ということを確認するより先に感じた、熱。

「降りれたのか……アッチ! 燃えてる!?」

89◆BrXLNuUpHQ:2024/06/21(金) 07:26:46 ID:???0

 油圧から漏れ出た油と摩擦熱、発火するには充分だった。瞬く間に煙が上がって、圭一は慌ててシートベルトを外した。ドアを外そうとして、全く開かないことに気づいた。着陸の衝撃で変形している、とはわからないものの顔が青くなる。惨劇は終わっていない。このままでは脱出できずに丸焼きだ。

「魅音! 起きろ! マジかよ……」

 魅音側のドアならばと思って声をかけて、そこで異様に静かな魅音にようやく気づく。彼女は着陸した後も操縦桿を握っていた。寸前で耐ショック姿勢をとった圭一に比べて、受けたダメージは明らかに大きかったのだ。

(そんな、ここまで来てかよ。ヘリを飛ばして、しかも緊急着陸までやったんだぜ、こんな奴いねえよ、誰だってできない、奇跡を起こしたんだぜ? それがこんな終わりってありかよ?)

 奇跡は何度も怒らない。
 だから奇跡なのだ。
 2度起こっただけでも大盤振る舞い、それ以上を期待するなどおこがましいにもほどがある。
 圭一は神に祈る。
 せめてシートベルトだけでも外そうと。外して、窓ガラスをなんとか割ってと。
 だが祈ったところで何も変わらない。
 神の愛想も尽きている。
 ベルト一つも外すことができない。
 圭一自身も、不時着のダメージで体に力が入らなかった。
 それでもなんとかベルトを外そうとして、ベルトを銃で撃ち抜こうとした。
 その手がベッタリと血で汚れていて、圭一は突然頭がクリアになった。

(──そうか、そうだよな、オレ……人殺してるんだもんな。)
(そんなやつが、助かるわけねえよ。)
(でも、ああ神様、死ぬのはオレだけでいいだろ? オレをかばってくれたからって、魅音まで巻き込まないでくれよ。)
「……違うか……巻き込んだのは……オレか……」

 銃の引鉄を引こうとして、全く力が入らない。
 その理由はわからず、圭一は手を下ろした。
 一酸化炭素も回ってきている。体が更に動かなくなってきている。
 目もかすみ、魅音の顔もよく見えない。それでも最期にその顔を焼き付けようと目を凝らした彼は、悪魔と目があった。

「お前──」
「覇ッ!!」

 ──神が助けないような人間に手を差し伸べるのは、悪魔だ。
 雪代縁はドアをぶち破ると、次にシートベルトを切り捨て、魅音を引きずり出した。
 縁はこの十数分の間、ずっとヘリにぶら下がっていたのだ。ドアが開かなかったので着陸するまで待つことにし、警察署近くでの急降下の際に態勢を立て直してそのまま不時着するまで張り付いたのだ。最後は時速100キロ近いスピードで校庭を滑るヘリから飛び降り受け身を取り、ダメージから回復次第駆けつけたのである。

「待てよ……連れてくなよ……!」

 圭一は自分でもどこにそんな力があったのかわからないほどの力で飛びかかっていた。火事場の馬鹿力とはまさにこのこと、傍から見れば弱々しくヘリから転げ落ち、なんとか二本足で立っているようでも、魅音を追いかける。
 なんで縁が現れ、なんで魅音を連れて行くのか、突然の不合理な展開に頭が追いつかない。
 なんなら縁もわかっていない。なぜ自分は魅音を助けたのか、そして今も助けているのか。着地の際に頭を打っての混乱か。言語化できない。

 ついに爆発を起こしたヘリに煽られ吹き飛んで、気絶してもなお、圭一は魅音へと手を伸ばしていた。

90◆BrXLNuUpHQ:2024/06/21(金) 07:27:58 ID:???0

【0245 『北部』 学校】

【園崎魅音@双葉社ジュニア文庫 ひぐらしのなく頃に 第二話 綿流し編 上(ひぐらしのなく頃にシリーズ)@双葉社ジュニア文庫】
【目標】
●大目標
 生き残る。
●中目標
 家族や部活メンバーが巻き込まれていたら合流する。
●小目標
 ???

【前原圭一@双葉社ジュニア文庫 ひぐらしのなく頃に 第一話 鬼隠し編 上(ひぐらしのなく頃にシリーズ)@双葉社ジュニア文庫】
【目標】
●大目標
 生き残る。
●中目標
 ???
●小目標
 ???

【雪代縁@るろうに剣心 最終章 The Final映画ノベライズ みらい文庫版@集英社みらい文庫】
●大目標
 人誅をなし緋村剣心を絶望させ生地獄を味合わせる。
●中目標
 緋村剣心と首輪を解除できる人間を探す。
●小目標
 ???



【0222 『南部』 繁華街・警察署】

【神楽@銀魂 映画ノベライズ みらい文庫版(銀魂シリーズ)@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 バトルロワイヤルとその主催者を潰す。
●中目標
 病院と首輪を外せる人間を探す。
●小目標
 ???

91◆BrXLNuUpHQ:2024/06/21(金) 07:28:25 ID:???0
投下終了です。
タイトルは『疾風と業火』になります。

92◆BrXLNuUpHQ:2024/06/24(月) 02:48:42 ID:???0
投下します。

93◆BrXLNuUpHQ:2024/06/24(月) 02:49:33 ID:???0



 寺の喫煙所。
 空条承太郎は何時間ぶりかの煙草を吹かしながら、タブレットに視線を向けていた。
 画面の中では、代わり映えのしない監視カメラの映像が流れ続けている。異変が何か気を配りながらも、承太郎は静かに物思いにふけっていた。

「ニャアアアン疲れたニャアアア……」
「……」
「ニャ、なんニャ? オレっちの顔になんかついてるニャ?」
「いや……」

 そこに現れたくたびれた様子の何かに、承太郎は目を奪われてマジマジと見ていた。視線に気づいた本人から問われてごまかすが、今こうして承太郎が思い悩んでいるのは、まさしく彼についてである。
 いや、本人や彼という呼び方が、はたして適切なのか。承太郎自身にもわからない。わからないから悩んでいるのだ。
 あらためてもう一度見る。2頭身のフォルムにオレンジの毛並みの、二足歩行する猫。堂々と人間の言葉を話したその猫の名前を、ジバニャンと言った。


「こっちも本物だぁ!」
「やめるニャくすぐったいニャ!」

 小一時間前に出会った天野景太がその珍獣を発現させた時、宮原葵に撫で繰り回されるのを見ながら承太郎は冷や汗をかかざるをえなかった。
 どうやらジバニャンは妖怪だといい、素質のある人間でなければ見えないらしい。スタンド使いである承太郎や、鬼にさんざんに狙われた葵、そして神社の跡取り息子だという東海寺阿修羅はジバニャンをしっかりと目視したものの、一人そういった素質が無い空知うてなは困惑した様子で葵を見ていた。彼女からすれば、ケータが突然おもちゃを操作したと思ったら、自分以外の全員が一斉に何かの存在に驚き出したようなものだろう。一般人がスタンドに直面した時のような混乱が見られた。そんな彼女も触覚だけはどういうわけか感じ取れるようで、ジバニャンが握手すると「なにこれ!? モフモフしてプニプニしてる!?」と驚愕の声を上げていた。
 さて、問題はケータが妖怪を召喚したことではない。元々承太郎はそういったオカルトに心得があるどころか当事者である。それに葵や東海寺からも話を聞いていたので、そういった存在に驚くことなどない。うてなの話も合わせて、自分たちがバラバラの時代から集められたということの方がよほど関心があった。
 しかしながら、そうも言ってられなくなったと、承太郎はしきりにケータとジバニャンに話しかける葵を見て思う。そう、問題は彼女なのだ。

「あの、私ファンなんですよ、ウィスパーも呼んでもらっていいですか?」
「なんでキミそんなにオレらのことに詳しいの!?」「オレっち気味が悪いニャ……」

 葵はまるで芸能人か何かのおっかけのようにケータとジバニャンについての知識があった。ケータたちからは全く面識が無いのにだ。
 そのこと自体には、驚きは薄い。違う時代から集められた可能性あるからだ。葵がケータたちより後の時代の人間で、ケータたちから見れば未来で親しくなり、詳しくなったとも考えられる。
 だが実際は違った、違うのだ。だから承太郎は頭を悩ませている。
 葵は言った、「天野ケータとジバニャンは『妖怪ウォッチ』というゲームのキャラです」と。
 そして、ジバニャンからも言われたのだ。

「空条承太郎って、ジョジョニャ?」

 ジョジョ、それは承太郎の学生時代のあだ名である。と言ってももっぱら承太郎と呼ばれていた。なぜそのあだ名を、と思ったが、直ぐに違和感に気づく。葵は『妖怪ウォッチ』という作品名を出していたが、『ジョジョ』というのも作品名ではないかと。

(ゲームだけじゃない、キャラクターを現実にするスタンド……あるいは、人間をキャラクターのように何かの作品に出すスタンドか……?)

94◆BrXLNuUpHQ:2024/06/24(月) 02:50:55 ID:???0

 考えて見ると、ケータたちのように混乱せざるをえなかった。さしもの承太郎もポーカーフェイスが崩れる。キャラクターが現実に飛び出してくるのは受け止められても、自分自身がキャラだと言われれば驚愕も強い。なにより承太郎は、その考察が真に迫るものだと感じているからだ。
 この考察には、違う時代から集められたという前提がある。今確認できている中では、承太郎の世界が一番古く、ケータの世界、葵の世界と新しくなっていく。そして葵はケータを、ケータもといジバニャンは承太郎をキャラクターとして認識している。このことから、違う世界から人間を集めた主催者は、全参加者の未来の存在ではないかと承太郎は考えていた。未来から過去にタイムスリップするためには作品である必要があるのか、作品から参加者を集めたためにタイムスリップしているように見えるのか、それとも何か別の事情があるのかまではわからないが、承太郎の知るスタンドには様々な制約を持つものもある。タイムスリップの可能性と同じぐらいには様々な作品のキャラクターが殺し合いに招かれている可能性があるだろう。


(ラオウやケンシロウと殺し合えってか? やれやれだぜ……)

 腹巻からチョコのお菓子を取り出し黄昏れた感じで食べるジバニャンを見て、承太郎は物思いから我に返った。しばらく考え込んでいたらしい。タブレットの映像は、依然として変わりはなかった。

 承太郎の懸念点は3つだ。
 1つは単純に参加者が強いこと。同じスタンド使いだけでも厄介極まりない化物を承太郎は知っている。またアイツを殺すとなればどれだけ骨が折れるかわかったものではない。なのに、承太郎が読むジャンプキャラが参加者にいる可能性があるのだ。なんなら町一つ壊せるキャラクターも外道なことを進んでやるキャラクターもいる。そういうキャラクターは主人公に焼きを入れられると決まっているのだが、はたして主催者は悪役だけ招く真似をしていないだろうか。
 それに、自分のことを一方的に知られているのも気に食わない。承太郎も丸くなったとはいえ、鬱陶しいのは嫌いである。さっきのケータたちに葵が話したことを考えるに、相当プライベートなところまで知られているらしい。それで気分がいいわけがない。
 そしてなによりも厄介なのが、今こうして考えていることも主催者に筒抜けの可能性があることだ。漫画を読むようにキャラクターのプライベートまで覗けるのならば、頭の中まで覗けてもまるで不思議では無い。そうでなくてもテレパシーのような能力を持つスタンド使いがいるだけで同じことが起こる。

(まあ、コイツをハメてるってことは、無えとは思いたいがな。)

 ただ、その可能性は承太郎は低いとも考えていた。今こうして自分が生きているからであり、そして首輪を着けられているからだ。
 チェーホフの銃という言葉がある。わざわざ首輪を用意したからには、それを使う必要性があるのだろう。まさか単なるアクセサリーとして着けさせたわけではあるまい。よしんばアクセサリーであったとしても、それが活躍するのはオープニングのような参加者を殺す場合。つまりは、必要性があろうとなかろうと、首輪を着けさせた以上は、もし殺すのであればそれで殺すと、承太郎は考えた。全くの無駄な物を用意するぐらいなら、たとえそれを使う必要が無くとも、わざわざ無駄に何かの役目をもたせるだろう。必要があって用意したのでは無く、用意したから必要をこじつけた。
 また、これはジャンプ読者としての意見だが、何十人もキャラクターがいて、はたしてそのすべてを追うだろうか? 承太郎も興味の無い連載は流し読みする。主催者も、興味の薄い参加者には注目しないだろう。たとえば承太郎たちはさっきまで食事していたのだがそんなシーンを殺し合いを見たい人間は読み飛ばすだろうし、もっと言えば承太郎が街を彷徨っていた時などまるで代わり映えのしないシーンが1時間以上続いたのだ。そんな退屈なものに集中する物好きが、こんな大それた殺し合いなど開くとは思えない。つまらないものは読み飛ばす、それならすべての参加者の思考などいちいち読んではいられまい。

(隙は用意されてる。それがわざとなのかはわからねえが、やることは変わらねえ。)

 承太郎は唇に熱を感じて、すっかりチビた煙草をもみ消した。

95◆BrXLNuUpHQ:2024/06/24(月) 02:52:01 ID:???0



「オレあの子怖いよ……」
「災難だったな……払っとくか?」
「ううん、遠慮しておく。」
(なんかみんな盛り上がってていいなあ。)

 ケータと東海寺が男子同士でダベっているのを、うてなは遠目から眺めていた。喫煙所の方では、また葵がジバニャンを撫でくりまわしているのか黄色い悲鳴が聞こえてくる。他のみんなはジバニャンの声も聞こえるんだろうなと思いながら、はあ、とため息をついた。
 この寺にいる5人の参加者のうち、うてなだけがジバニャンを見ることが叶わなかった。スタンド使いである承太郎、鬼に追い掛け回されている葵、実家が神社の東海寺、そしてジバニャンを呼び出した張本人であるケータは妖怪ともコミュニケーションがとれるのだが、うてなには残念ながらそういうものへの経験が無い。いちおう生還士として訓練中に人知を超えた怪物に襲われた経験もあるのだが、それでは駄目らしい。
 一人だけ見えないとなると、どうしても疎外感を感じてしまう。元々うてなたちは初対面の人間同士。その中で自分だけが話題に加われないとなると心細く感じる。
 これがもっと他の話題ならば話を変えることもできたかもしれないが、目に見えない存在がいるというのはどうしても考察の対象になる。そうでなかったとしても、それまでのクールな葵が目をきらめかせてジバニャンたちに触れ合っているのを見て、思うところがある。唯一の同性で同年代なのに、すっかりほっぽられてしまっている。
 もちろんうてなはプロだ。まだ入門したてといえども鍛えられているエリートだ。日本に何人もいない特別な小学生である。そのために努力もしてきた。それが努力でどうこうならないところで輪に入れないとなると、どんな顔をすればいいのかわからなくなる。

(みんなどうしてるかな。)

 意識は幼なじみの双葉マメや、クラスメイトたちへ。
 うてなが生還士を目指しているのも、共に被災したマメが彼女を助け、そして生還士を目指したからだ。彼女を含めうてなの知り合いは、こういった場所でもきっと適切に行動できているだろう。うてなは応急処置などを得意とするが、教わった知識から寺を避難所として利用できるように、物資を集積し、避難経路を確認し、調理しと様々なことをこれまでしてきた。ジバニャンという妖怪が現れるまでは、承太郎という大人が現れるまでは、うてながここの中心だったのだ。
 仲間のことを考えても、けっきょく愚痴っぽくなってしまう。うてなはトイレに行くと、自分にできることは残ってないかと考えることにした。まずは監視カメラから見る。相変わらず代わり映えしない、静止画のような映像だ。すぐにつまらなくなり、とりあえず銃でも集めておくかと考える。最低限のことは既にやっているので、それなら後回しにしていた武器をどうこうしようというわけだ。
 うてなの指示で銃を持ってはいたが、彼女自身銃の知識など無い。聞きかじったものから安全装置をなんとかしたり、人を襲うというよりかは野生動物に襲われないための知識から陣形を組んだりしたが、実際に銃撃戦になったら戦えるわけがない。そもそもの話、誰も銃を撃ったことなどなかったのだ。うてなが発砲したのも威嚇射撃のみ、それも近くの地面に撃つだけで、撃ってみた感覚からこれを人に向けて撃つのは無理だと理解した。止まっている数メートル先の目標にも当たらないのだ、何発撃っても当たる気がしない。なにより、重い。普通の小学生より運動ができるうてなでも、こんなものを持ち歩くのは気が滅入る。よく軍隊とかはこんなの持って丸一日歩けるなと思った。

(はぁ……)

 一人で考えていると気分が落ち込んでくる。寺を一回りして手榴弾を回収し、併設された駐車場の、監視カメラからよく見える場所に段ボール箱を持っていてその中にしまう。一仕事終えてさあ次はもっと気の晴れることをしようと思うが、特に何も思いつかず、とりあえずまた監視カメラを確認する。あいもかわらない退屈な映像にまたため息がでる。しかし、沈黙したうてなに代わって人の声が聞こえた。
 うてなは耳を澄ませた。男女の声だ。少なくとも女の方は、葵とは声が違う。もっとよく耳を傾ける。この声は、寺の人間の声ではない。

(他の参加者の子だ。)

 うてなは気づくと、すぐさまタブレットを操作した。内線にかけると承太郎が出る。うてなは嬉々として駐車場の辺りで2人の知らない人間の声がしたと伝えた。これで自分も輪に入れると。

96◆BrXLNuUpHQ:2024/06/24(月) 02:56:10 ID:???0



「あっ、ほんとだ、妖怪ウォッチの、えっと……」
「あ、天野景太です。」
「あ、どうも、伊藤孝司です。」
「あの、もしかして君もオレのことをゲームで知ってる?」
「ごめん、そんな妖怪ウォッチ詳しくなくて……」
「あ、そうなんだ……」
「あ、なんかごめん……」
「いや、別に……」
「あ、うん……」
「……」
「……」

 気まずい空気がケータと孝治の間に流れているが、もっと気まずいのはうてなの方だった。
 彼女が見つけた孝治と関織子(原作版)の2人は、うてなと同じように拠点を作ってから数時間何も起こらないのを確認して、大通り沿いに偵察に来たらしい。
 だいたいこの時間ともなれば他の参加者もする行動は同じということはわかったが、そんなことはうてなにとってどうでもいいことだ。
 問題は、2人がジバニャンを見える側の人間であることだ。しかも孝治に至っては葵と同じ学校で同じように鬼に追いかけられたという、元からの知り合いだった。

(葵ちゃん、孝治くんに妖怪ウォッチについて語り始めちゃったなあ……)

 唯一の女子仲間だった葵は孝治とケータを引き合わせて、微妙な空気感の2人の仲を取り持とうとしている。新しく仲間に加わった女子であるおっこは、こちらは和服つながりなのかなんなのか、「関! キミのその白い霊力……間違いない! オレと同じ霊能力者だな!」などとわけわかんないこと言った東海寺にどこかに連れて行ってしまっている。そんな2人はしっかりとジバニャンと挨拶も交わしていた。7人もいるグループで、ジバニャンとコミュニケーションをとってないのはうてな1人だけだ。

(うじうじしてるなぁ……)

 自分で自分が嫌になる。今のこの状況も、それに悩む自分も。
 本当はもっと色々と考えなくてはならないことがある。しかしこういう危機的な状況で大切なのは、コミュニケーションだ。それができないと、孤立する恐れがある。そんなのは生還士失格だ。
 だが打開策が見つからない。見えない物を見ようとしても、タブレットは何も写さない。
 うてなは、ただただ葵が何かを撫でている仕草をしている空間を睨むように見ていた。


(─助けてくれニャ〜。)

 そしてそのジバニャン。と彼とアイコンタクトするケータは、なんとかうてなに助けてもらいたかった。
 まず自分たちがゲームだかなんだかのキャラクターと言われて驚いているのに、そこから同年代のかわいい女の子が自分のプライベートも知っていることに戦慄し、しかもやたら好感度が高いことに恐怖していた。特にケータからすると、突然自分のことをなんでも知ってる美少女が自分に好意を向けているというシチュエーションで、こんな場所でなければときめくかもしれないが、こんな場所ならバチクソヤバいストーカーに凸られているようなものである。
 こうなったら唯一ジバニャンを見れないうてなに入ってもらって、妖怪まわりの話題から変えてもらうしかない。同じ男子の孝治は興味が無いようだが葵の元からの知人なので話しに付き合ってしまうし、東海寺はむしろグイグイ来るし、承太郎はシンプルに怖い上に何かを真剣に考えているようでとても声をかけられない。

 じわじわと進むディスコミュニケーション。そのことに気づくのは当事者のうてなすら気づかず。
 5時57分。まもなく第一回目の放送が始まろうとしていた。

97◆BrXLNuUpHQ:2024/06/24(月) 03:10:30 ID:???0



【0557 寺院】


【空条承太郎@ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章 映画ノベライズ みらい文庫版@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 殺し合いを破綻させる。
●中目標
 寺院に人を集める。
●小目標
 考察を進める。

【宮原葵@絶望鬼ごっこ きざまれた鬼のしるし(絶望鬼ごっこシリーズ)@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 今回も脱出する。
●中目標
 寺院に人を集める。
●小目標
 ご本人だぁ……

【空知うてな@サバイバー!!(1) いじわるエースと初ミッション!(サバイバー!!シリーズ)@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
 生き残り、生きて帰る。
●中目標
 寺院に人を集める。
●小目標
 はぁ……

【天野景太@映画 妖怪ウォッチ 空飛ぶクジラとダブル世界の大冒険だニャン!(小学館ジュニア文庫)】
【目標】
●大目標
 殺し合いを止める。
●中目標
 トモダチと合流したいんだよね。
●小目標
 あの……プライバシーを尊重してほしいんスよ……うてなさん助けてもらっていいスか?

【東海寺阿修羅@黒魔女さんのクリスマス 黒魔女さんが通る!! PART 10(黒魔女さんが通る!!シリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
 黒鳥を探す。
●中目標
 寺院に人を集める。
●小目標
 妖怪ウォッチわかんないんだよなあ……

【伊藤孝司@絶望鬼ごっこ くらやみの地獄ショッピングモール(絶望鬼ごっこシリーズ)@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 とりあえず鬼ごっこだったら逃げるよね。
●中目標
 仲間と合流したいんだけどね、もうそもそも人と出会わないの。
●小目標
 宮原ってこんなキャラだったか?

【関織子@若おかみは小学生! PART13 花の湯温泉ストーリー (若おかみは小学生!シリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
 よくわからないけど家に帰りたい。
●中目標
 家族を探す。
●小目標
 承太郎さんたちに協力する。

98◆BrXLNuUpHQ:2024/06/24(月) 03:11:12 ID:???0
投下終了です。
タイトルは『自由人の狂想曲』になります。

99◆BrXLNuUpHQ:2024/07/02(火) 09:10:32 ID:???0
投下します。

100◆BrXLNuUpHQ:2024/07/02(火) 09:12:30 ID:???0



 ──0120 『北部』学校近く──

(ここは……? 車の中……? だれ……雛見沢の子供じゃない……雛見沢じゃない!)

 パラパラと自分の顔面に何かが降りかかる。硬質な刺激は肌を突き刺して、気絶していた古手梨花の気つけとなった。
 朧気な視界では、車のフロントガラスが割れている。割られている。同年代の男子が、ライフルの銃床で殴りつけていた。それをぼんやりと見ていると、子供1人がギリギリ潜れるほどの穴が開いたところだった。
 そして気絶による意識の混濁が急速に晴れていった。記憶がつながり、思い出した光景は熊に襲われるという信じがたいもの。しかし、自分に半ば覆いかぶさる男が、それが現実だと無言で教える。

(富竹……! 富竹がまた死んでるっ!)

 殺し合いに巻き込まれる前からの知り合い、富竹ジロウ。元自衛官だと名乗った彼が、頭から脳が見える状態で微動だにせずもたれかかっている。どう見ても死体だ。そして梨花の鼻を突くのは、濃厚な血の臭い。その強さから出血の程を推し量り、身体で分析した結果は明白。

(たしか、校門のあたりで、外国人の、女の子が襲われてて……オオカミとクマが突っ込んできて……それで……ミツル……そう、ミツル、アイツが何かした?)
(待って、蘭は? 大翔は? 超能力者に、主催者の関係者なのよ。あの2人に死なれたら──)
「開いた! 息もある、この子だけでも助けないと。」
(この子だけ、ですって? それじゃあ……)

 記憶を芋づる式に思い出していく。自分の身体が引っ張られていく感覚は、すぐに足元から這い上がってくるような絶望感にかき消された。
 超能力者、磯崎蘭。時間が巻き戻る前の記憶を失わずにいたエスパーで、様々な能力を持つ盾であり矛。
 生還者、大場大翔。司会者であるツノウサギが前に開いた命懸けの鬼ごっこで逃亡に成功した、主催打倒の切り札。
 その2人が同時に失われた。信頼の置ける富竹と合わせれば3人。絶対に失ってはいけない、換えが効かない人材がまたたく間に全滅した。

(蘭の仲間は、前の時は今頃には死んでたはず。合流は期待できない。大翔の仲間は第一放送までには会えなかった。これはもうダメかもわからないわね。それに……)

 名前も知らない少年たちに呼びかけられても、梨花は無反応で思考を巡らす。怪我によって話せないとでも思っているのだろうなと、2人を他人事で分析して、内心で鼻で笑った。もう何もかも手遅れなのに、と。
 気心の知れた自衛官も、超常現象に何度も遭遇してきたエスパーも、主催者に一度は勝利したリピーターも死んだ。そして自分は。

「大丈夫? しっかり!」
「立てるか?」
「みー……からだが、動かないのですよ……」

 首から下の感覚が、古手梨花には無かった。

(フフ、フフフ……笑えてくるわ。こんなにも、人の手の上で踊らされていると……)
(ここでも、雛見沢でも、結局は同じ……何度やり直してもダメなように世界はできている……)
(今度は、同じように記憶を持っている蘭もいるから、もしかしたらって思ったのだけれど。甘かった。何もかもぜんぶ……)

 乾いた笑いしか出てこなかった。もはや勝ち筋も未来への道も見えない。それは奇しくも彼女の人生そのもののようであった。
 何度やり直しても、どれだけ努力しても、全てはムダ。今回は同じような立場の蘭がいたが、それでもダメだった。これではもはや、何も改善点が見つからない。
 実際には、蘭の仲間は今現在は生きているし、大翔の仲間もすぐ側まで来ている。しかし神でもなければ神が近くにいもしない彼女では、そんなことに気づくはずもない。
 梨花の心に諦めが募っていく。雛見沢での頑張りも、今となっては惰性でやっていたように思えてきた。
 だが、しかし、そのまま心折れて眠りにつこうとする彼女は、ふと目を開けた。それは悠翔とリクの言葉が届いたから、ではない。一つの疑問が、全てを投げ出す前に気になったからだった。


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