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児童文庫ロワイヤル
34
:
◆BrXLNuUpHQ
:2024/02/15(木) 03:13:10 ID:???0
ティーバッグを握る。するべきことはある。なら、これも同じだ。
少しだけ考えて、こころはその場に立ち止まることにした。
山本ゲンキが現れたのは、それから直ぐのことだった。
「──で、織田信長の前に織田信長が現れた!ってわけよ。それからもうショットガン持った方の信長に追われてスッゲー大変でさ、あ、クッキー食べるか?」
「ありがとう。」
こころより年下だが、少し背が高いゲンキは、きらめく汗を拭いながら、片手でクッキーを差し出してくる。
モソモソとしたそれに口の中の水分を持って行かれながら、こころは誰かのことを思い出していた。
空と霧のために自分がどれだけの時間歩いていたのかこころにはわからなかったが、足の感覚は遠足の時のような重さだ。しかしそれも直ぐに終わるという確信があるので苦痛では無い。むしろ、ようやく目的地に辿り着いたという理由のわからない嬉しさがある。
「で、どこに向かってるの?」
「わからない……一緒に来る?」
「もちろん! どっちみち迷子だしさ、とりあえず着いてくぜ。」
ゲンキはまるで殺し合いなどどこ吹く風というように明るかった。自分とは違うと思ったが、同時になにか共感めいたものを感じて、それを不思議に思う。しかしそれを言語化するより先に、二人の目に写ったものがあった。
人だ。こころと同じ中学生ほどの子供が倒れている。それもただ単に一人道路上に寝ているというわけではない。複数の男女が、血の池を作って折り重なっていた。
「し、死んでる……!」
「……」
ゲンキのような言葉も出ずに、こころは立ちすくむ。だが、同時に自分はこれをどこか予感していたようにも思えた。
「急がなくちゃ……!」
「おい待て! 一緒に行くぜ!」
急かされるように死体に近づく。幸運にも二人の知った顔ではない。こころは死体に一礼すると、続いてすぐ近くの学校へとかけ足で入った。ここが目的地だ。ここに、会わなければいけない人がいる。
運動不足の自分が疎ましい。ここまで歩きづめなのもあって足が動いてくれない。それでも校舎に入ると、一つ一つ部屋を確かめていく。そして半ばほどまで来たところで、こころは足を止めた。
犬だ。白い小さな犬がいた。「アン?」と保健室から出てきて、小首をかしげていた。
「なんだ野良犬かぁ?」
「はっ……はっ……ちがうよ、首輪がある。」
「あっ、本当だ。えっお前も参加者なのか? いや参加犬か。大変だなお前も。」
「アン。クゥン。」
ゲンキは膝を折って犬へと手を伸ばす。犬は警戒したように手の匂いを嗅いでから、撫でられるのに任せた。こころはその横を通り過ぎて、犬が出てきた部屋の前に立つ。
保健室。
足を踏み入れる。
胸が痛いくらいに心臓が早い。
「あの、すみません、誰かいませんか?」と声を出す。
人の気配が、カーテンで閉められた一画からして、突然それが開かれた。
次の瞬間、こころに電流が流れた。
脳だけでなく胸も貫いた衝撃のベクトルの終着点。それがここだ。
「あ……安西こころ、です。」
「……井上、晶子。」
気がつけば、どちらともなく涙を流し始めていた。理由のわからない落涙だが、なぜか二人は抱き合い、声を出して泣いた。
記憶が無くても、互いに宿る共感が互いを震わせ、増幅させる。
この時こころとアキは、自分たちが何を求めて動いていたのかを知った。
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