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児童文庫ロワイヤル
1
:
◆BrXLNuUpHQ
:2023/11/02(木) 07:41:52 ID:???0
いろんな児童文庫作品でバトル・ロワイヤルするリレー小説です。2スレ目です。
いっしょにリレーしてくれる方募集中、リレーしたくなくても感想レスとかもらえたら企画主が喜びます。
有志の方が作ってくださったまとめウィキです。
https://w.atwiki.jp/jidoubunkorowa/
367
:
◆BrXLNuUpHQ
:2025/05/12(月) 00:55:21 ID:???0
「え……な?」
引き抜いたゴルフクラブで星乃美紅を殴打して、芦川ミツルは思った。失敗した、と。
女装しているために女子トイレに入ったミツルだが、そこで彼女に言われたのだ、「ふしぎな雰囲気がする」と。
思えばそれは、女装への違和感から出た言葉だったのかもしれない。だがミツルは感じ取ったのだ。彼女の中に自分とは毛色の違う魔力を。
殺さなくては。彼女は旅人の可能性がある。もしそうならミツルの悪評を知っている可能性もある。魔法は使えない。だが音を立てずに殺せる物は、変装のために用意した物の中にある。
ズガン!
個室から出てきた彼女を、隣の個室で待ち構えていたミツルは殴打した。鈍い音と美紅の声が思いの外大きくて、何度も何度も振り下ろした。手の感覚がなくなるまで後頭部を殴りつけた。床との間に挟まれ頭蓋骨が折れ、脳みそが飛び散って、血が辺り一面に広がるまで殺して、そこでようやく気づいた。殺ってしまったと。
計画とは違った、予想外だった、まさか、まさか魔力の持ち主がいるとは。想定外だった、こんなはずではなかった、こんな衝動的で無計画な殺しをするはずではなかったのに。せっかく見つけた集団なのだなら、もっと穏便に、いやでも首輪解除のためだから殺して回ったほうが──
「美紅ちゃん、いるー?」
その時聞こえてきた女の声、ミツルは名前を知らないがサネルの声に、とっさにトイレの個室に隠れた。魔法を使おうかとも考えたが、杖を取り出す時間が無い。息を潜めて待つこと3秒、4秒──
「美紅ちゃ……きゃあああ!!」
絶叫が響いた。こうなったら殺るしかない。そう思い杖を取り出すか迷っていると、走る音が聞こえた。気配が遠ざかる。今だ、今やるしかない。
ミツルは素早く魔法で浮き上がると、杖で窓ガラスを叩き割った。一度外に出かけて、慌てて得物にしたゴルフクラブをとって戻る。そのまま屋上に上がろうとして、そういえば見張りがいたなと思い出した。上へは逃げられない。下には多くの人間がいる。必然、横へと逃げる。適当に窓ガラスを割って入ると、大急ぎでドアに鍵をかけた。
「こ、小林ーー!!」
しばらくして聞こえてきたのは、知らない人間の名前だった。あの女は小林美紅なのだろう。目立たないようにするため没交流のため名前をほとんど知らないミツルはそんなふうに思った。そして少し冷静になれている気も。
教室の中の鏡の前に立つ。ものの見事に返り血を浴びていた。せっかくの変装もこれでは意味が無い。すぐに着替えようとして、ゴルフバッグに伸ばした手が血に濡れていることに気づいた。服だけでなく顔や脚まで血塗れだ。着替えたところでとても出ないが誤魔化しようがない。
(シャワーを浴びないとどうしょうもない、しかたないな、一度学校から抜け出して──)
「クソッ、2人も死んだたと?」
(2人? どういうことだ? ああ、そうか。)
廊下から聞こえてきた声は、たしか見張りの安永だったか。ということは今なら屋上は手薄かと思ったが、続いて聞こえてきた声で、どうやらそちらにもまだ見張りがいるらしい。これは学校から出にくいなと思ったが、それよりも良い情報が手に入った。
ミツル以外にも殺した人間がいる。おおかたさっきの放送の首輪解除の新ルールを狙ってのことだろう。そう察すると一転して光明が見えた。
自分以外にも殺し合いに乗っていることがわかっているのは、ミツル自身ともう1人の殺人者しかわからないことだ。そのもう1人に殺人を押し付けるもよし更なる殺人でキルスコアを伸ばす助けにするもよし、とれる手が広がっている。ミツルはこれまでに5名ほど殺しているが、全体では81名ということは、急げば次の放送での首輪解除も狙えるかもしれない。
血に染まった顔でミツルは密やかに策を練る。その姿は、彼が魔法を手に入れたキッカケになる、無理心中を図った父親によく似ていた。
368
:
◆BrXLNuUpHQ
:2025/05/12(月) 01:16:19 ID:???0
そして学校近くではもう2人の参加者が、喧騒とは無関係な公園にいた。だが2人、というのは外見上は語弊があるだろう。女子中学生の額を慎重に肉球で押すその参加者は、どこから見ても虎だったのだから。
「ううん……イッタァ……ぐっ、なにこれ……」
やがて少女の瞼がピクピクと動き、頭を抑えて上体を起こした。眉間にシワを寄せ、目をギュッとつむる。そうして数分すると、ようやく少女は目を開けた。
「どこ? ここ?」
キョロキョロと辺りを見ながらなんとか立とうとする。そこで初めて、自分がいつの間にか何かにもたれていることに気づいた。生暖かく、ゴワゴワとしていて、獣臭い。痛む頭を抑えて後ろを向くと虎柄の毛皮が見えた。
「虎……虎!?」
驚きの声を上げて飛びのこうとするが、全く足がもつれて転ぶ。彼女がいるのが公園の砂場ということもあって怪我は無い。それでも痛みよりも驚きで少女は声を上げそうになるが、脳を直接破壊するような強烈な頭痛がそうさせなかった。やがてそれが収まると、虎が大人しく見つめているのを見て、少女はひとまず冷静さを取り戻した。
「なにこれ……なんで……これ、夢だよね。」
「夢ではない。」
虎が喋った。そのことでまた少女は腰を抜かしたが、またも強烈な頭痛でそれどころではなくなる。あまりの痛みに、空や霧が赤いことも、虎が喋ることもなんてことのないように感じるほどだ。
「自分は……李徴。故あって虎に変じた者だ。」
「あ、どうも、私は……」
朗々と、しかし唸り超え交じりに名乗った虎こと李徴に名乗り返そうとして、その少女は口をパクつかせた。少女は信じられないという表情で、何度も視線を上下に、そして李徴に向ける。その異様な姿と、頭部の骨折と出血を見て李徴は気づいた。
「少女よ、あのウサギの言ったことを覚えているか?」
「ウサギ……な、なんのこと? ていうか、ここどこ?」
そう言う少女、園崎魅音は、次から次へとわけのわからないことに直面して、年相応の反応しか示せなかった。
李徴が縁によって担がれビルに安置されていた魅音を連れてきたのは、ちょうど放送中の時だった。彼は感じていた。初めての感覚だった。自分よりも虎に近い人間と出会うのは。
李徴は感じていた。己の獣性が増している。この6時間人としての意識を保てたのが奇跡だったのだろう。聞こえてくる銃声も火事も無視して、なるべく外に出にくそうな建物を見つけてそこに潜んでいた。だがヘリコプターの墜落からの顛末を屋内から見ていて、縁を目にした時、彼は水鏡に写った己を見たような感覚を覚えた。あり得ざることだった。自分以外に、否、もしかして自分以上に獣に身をやつした存在など。
それは恐怖だった。あの男の目的はわからない。だが、あの少女が側にいるには危険すぎる。
そうして、李徴は待った。縁の隙を。薄れゆく理性の中で、恐らくこれが最期の人との出会いだと感じる。そして放送の瞬間、彼は動いた。音によって己の足音を消して近づく。自分の首輪以外からも音がしているということは、あの男の首輪からもしているのだろう。その可能性にかけて、寝かされていた魅音を攫った。
実際は人間以外には人誅の意味も無いと縁が無視したからなのだが、彼はともかく魅音を攫うと近場の公園まで連れて来ていた。彼女の傷が縁によってつけられたかもしれないのだ、せめて理性があるうちは彼女の側にいようと。だが。
(なんで、ここ、どこなの? 私は……魅音、だよね。それとも、詩音? 今の私は、ううっ、頭が──)
(──もう己は、ここまでか。)
「さらばだ、少女よ。もし袁参という名の者に会えれば隴西の李徴は虎となったと話してくれ。それと、三谷亘という少年がいれば、李徴はもはや虎と化したと告げてくれ。」
「ま、待って!」
李徴は己が魅音に向けて欲望が抑えられなくなっていくのを感じ駆け出した。虎が自分から逃げていくというその状況に、しかし魅音は恐怖を抱いた。思い出せない。自分がなぜここにいるのかも、自分がなぜこんなにも頭痛を感じているのかも、なぜ異様に身体が動かないのかも。彼女はわからない。神経に問題を抱えたがゆえに自分の肋にヒビが入っていることも、それ以外にも大小の怪我が彼女から動くことをできなくさせている。
ついに火の放たれた火薬庫、そしてそこから離れて1人記憶を喪失した魅音、会場北部はついに等活地獄へと化す。
369
:
◆BrXLNuUpHQ
:2025/05/12(月) 01:21:51 ID:???0
【0612 『北部』学校とその周辺】
【柿沼直樹@ぼくらのデスゲーム(ぼくらシリーズ)@角川つばさ文庫】
●大目標
殺し合いから脱出する。
●中目標
仲間を探す。
●小目標
菊地たちは死んだし今度は別の奴が殺された……? どうなってんだ……
【鑑隼人@パセリ伝説 水の国の少女 memory(3)(パセリ伝説シリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
復讐完遂のためにはパセリを生き残らせる。
●小目標
光矢……パセリは守るよ。
【竜宮レナ@双葉社ジュニア文庫 ひぐらしのなく頃に 第一話 鬼隠し編 上(ひぐらしのなく頃にシリーズ)@双葉社ジュニア文庫】
●大目標
覚せい剤の幻覚をどうにかしたい。
●中目標
単独行動して部活の仲間を探したい。
●小目標
学校からは離れたい。
【利根猛士@絶体絶命ゲーム 1億円争奪サバイバル(絶体絶命シリーズ)@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
生き残り人生をやり直す。
●中目標
殺し合いに乗る。
●小目標
???
【緋村剣心@るろうに剣心 最終章 The Final映画ノベライズ みらい文庫版@集英社みらい文庫】
●大目標
一つでも多くの命を救う。
●中目標
鱗滝と近藤の治療の術を探す。
●小目標
学校で殺しか……
【相楽左之助@るろうに剣心 最終章 The Final映画ノベライズ みらい文庫版@集英社みらい文庫】
●大目標
殺し合いをぶっ壊す。
●中目標
とにかく鱗滝のオッサンと近藤をどうにかしねえとな。
●小目標
さっきの声はうさんくせえしあっちじゃ殺しだぁ?
【鱗滝左近次@鬼滅の刃〜炭治郎と禰豆子、運命の始まり編〜(鬼滅の刃シリーズ)@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
殺し合いを止める。
●中目標
鬼を斬る。
●小目標
学校内にいる殺人者を止める。
【天照和子@歴史ゴーストバスターズ 最強×最凶コンビ結成!?(歴史ゴーストバスターズシリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
殺し合いから脱出する方法を探す。
●中目標
鱗滝さんと近藤さんを助けられる人を探す。
●小目標
緋村さんたちと一緒に動く。
【双葉マメ@サバイバー!!(1) いじわるエースと初ミッション!(サバイバー!!シリーズ)@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
生き残り、生きて帰る。
●中目標
火事を止める。
●小目標
鱗滝さんと近藤さんを助けられる人を探す。
370
:
◆BrXLNuUpHQ
:2025/05/12(月) 01:23:31 ID:???0
【近藤勲@銀魂 映画ノベライズ みらい文庫版(銀魂シリーズ)@集英社みらい文庫】
●大目標
殺し合いに乗った連中を取り締まる。
●中目標
白尽くめの女たちを殺す。
●小目標
鱗滝と協力して学校の中のゲームに乗った奴を捕らえる。
【安永宏@ぼくらのデスゲーム(ぼくらシリーズ)@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
このクソッタレなゲームをブッ壊す。
●中目標
仲間と合流する。
●小目標
菊地は死ぬし、小林も殺された? 学校の中に殺し合いに乗ってる奴がいんのか?
【雪代縁@るろうに剣心 最終章 The Final映画ノベライズ みらい文庫版@集英社みらい文庫】
●大目標
人誅をなし緋村剣心を絶望させ生地獄を味合わせる。
●中目標
緋村剣心と首輪を解除できる人間を探す。
●小目標
学校を襲い内部の人間を半殺しにし緋村剣心を探させる。
【乙和瓢湖@るろうに剣心 最終章 The Final映画ノベライズ みらい文庫版@集英社みらい文庫】
●大目標
殺しを楽しむ。
●中目標
赤鼻の男(バギー)や角の生えた男(キリヲ)を殺せる手段を考える。
●小目標
殺しまくって首輪を外す。
【沖田悠翔@無限×悪夢 午後3時33分のタイムループ地獄@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
今回のバトル・ロワイアルを生き残って家族の元に帰る。
●中目標
みんなと一緒に脱出の方法を探す。
●小目標
そんな……さっきまで話してたのに……
【芦川美鶴@ブレイブ・ストーリー (4)運命の塔(ブレイブ・ストーリーシリーズ)@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
ゲームに優勝し、家族を取り戻す。
●中目標
もう1人のマーダーを利用して学校の人間を殺していき首輪を解除する。。
●小目標
まずは返り血をどうにかする。
【サネル@新妖界ナビ・ルナ(5)刻まれた記憶(妖界ナビ・ルナシリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
ルナや姉のように自分も戦い、殺し合いを止める。
●中目標
灯子の家族を探す。
●小目標
そんな、美紅ちゃん……
【園崎魅音@双葉社ジュニア文庫 ひぐらしのなく頃に 第二話 綿流し編 上(ひぐらしのなく頃にシリーズ)@双葉社ジュニア文庫】
【目標】
●大目標
???
【李徴@山月記(4)山月記・李陵 中島敦 名作選 @角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標(人間の心の場合/獣の心の場合)
誰も殺さぬように隠れる/己の飢えを満たすために、食い続ける
●小目標(人間の心の場合)
危険人物がいた時だけ、食い殺す
【鈴鬼@若おかみは小学生! 映画ノベライズ(若おかみシリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
脱出を図る。
●中目標
自分の知る魔界の知識や集めた情報を残す。
●小目標
ピンフリさん……
【脱落】
【小林旋風@ギルティゲーム(ギルティゲームシリーズ)@小学館ジュニア文庫】
【星乃美紅@小説 魔女怪盗LIP☆S(1) 六代目夜の魔女!?@講談社青い鳥文庫】
371
:
◆BrXLNuUpHQ
:2025/05/12(月) 01:24:31 ID:???0
投下終了です。
タイトルは『虎は伏す、そして──』になります。
372
:
◆BrXLNuUpHQ
:2025/05/20(火) 07:22:49 ID:???0
投下します。
373
:
◆BrXLNuUpHQ
:2025/05/20(火) 07:23:53 ID:???0
松野おそ松は、そっと、冷たい台の上に弟の体を横たえた。
霊安室は冷え冷えとしていて、動くものは何もなかった。まるで時間まで凍ったかのようなそこで、弱井トト子と2人で立ちすくんでいた。
十四松が死んでから2時間が経った。その背中は少し黒ずみだし、持ち上げると、かすかにこわばりを感じた。
そんな弟を、冷蔵庫のような金属製の機械にスライドさせていく。人間が入るべきものとは全く見えないそれに、弟を入れることをおそ松は戸惑ったが、彼の横に立つトト子が押すと、十四松の姿は見えなくなった。
警察署を出て小一時間か。探し当てた病院には、医者どころか誰もいなかった。患者も、殺し合いに乗った人間も、それ以外の参加者も。全くの無人だったと、来たときと同じように連絡すると、おそ松はスマホをズボンにねじ込み、窓から外を見た。
ベッドなどはあるようだが、あまり大きな病院ではないようだ。全体的に古ぼけた感じがして、外壁にはヒビも入っていた。弟を寝かせるには嫌な場所だ。適当に入った病室から眺める空は、相変わらず赤く、そして、黒く、濁っていた。
何度かスマホが鳴った。そのたびに煩わしく思いながらも、取り出して、終話のボタンを押す。それが二度、三度とあり、おそ松はマナーモードにして無視することに決めた。それからも何度か振動したが、そんなことはどうでもいいことだった。
空には時々、稲妻が光った。黒い雲の間をつなぐように光が走った。赤い霧越しでも、怪しく輝くそれが、おそ松の目を焼いた。
『──強くなれる理由を知った』
「ん。」
唐突に聞こえた歌声に、おそ松は寝転んでいたベッドから空を見ることをやめて、天井を見上げた。
足音が聞こえてきたのでそちらを見れば、慌てた様子でトト子が、缶ジュース片手に、病室へ入ってくる。すると音楽もより聞こえるようになって、そこでおそ松はようやく自分の首輪やテレビから曲が流れていることに気づいた。
──大富豪のカラ松氏
「カラ松くん……」
そして聞こえてきた声に、おそ松の意識は覚醒した。
今、カラ松と言わなかったか? 前後の言葉は聞き取れなかったが、たしかに、たしかにカラ松という言葉が聞こえた。弟の名前なんだ、聞き間違えたりするはずがない。それも、十四松ではなく、生きているはずのカラ松の名前が。
「なあトト子ちゃん、今カラ松って──」
──チョロマツ
──チョロ松警部
「チョロ松くんも……!」
おそ松は最後まで言い切れなかった。
今度は2回も、2回もチョロ松の名前が呼ばれた。間違いない、チョロ松が2連続で呼ばれていた。
意味がわからない。なぜチョロ松の名前が2度も呼ばれるのか。おそ松たちは六つ子だが、だからといって同じ名前を2度呼ぶのはおかしいだろう。だからきっと言い間違いか何かだ、他の弟をチョロ松と間違えたなんてことはない。
──なごみ探偵のおそ松
そして呼ばれる自分の名。ほらやっぱり、この放送は誤報なのだろう。だって、自分はこうしてピンピンしているのだ。
──松野一松
──松野十四松
──松野チョロ松
その希望が、否定される。
一松が、そしておそ松が看取った十四松の名前が呼ばれた。今度はちゃんとフルネームで呼ばれていた。そしてまたチョロ松の名前も。
今度は3人だ、3人も弟の名前が呼ばれた。松野家の糞ニート6人のうち、3人の名前が同時に呼ばれたのだ。
おそ松は弟の死を告げたスマホを投げ捨てると、片手に銃を持ったままベッドから起き上がり、そして、意味も無く窓辺をうろついた。カラ松、チョロ松、一松、そして、自ら看取った十四松。放送で呼ばれた名前は、6人中5人、おそ松自身を除いても4人も死んだのだ。
そのことを理解して腰が抜けそうになったおそ松は、しかし、駆け出した。突然、病室を飛び出ると、廊下から階段へと向かい、駆け下り、最後の1段で転び、立ち上った。そして病院を出ると、叫んだ。
「トド松!!!」
「お、おそ松、兄さん……?」
おそ松はろくに動かない足を動かして駆け寄ると、自分と瓜ふたつの顔の男を抱きしめる。
松野家の長男が、末男と出会ったのは、ゲーム開始から6時間ほど経った時のことだった。
374
:
◆BrXLNuUpHQ
:2025/05/20(火) 07:24:17 ID:???0
「うわー、カラ松死んだか。やっぱこれ全員巻き込まれてんのかな。」
松野トド松は自分のスマホのレコーダーを起動して放送を録音しつつ、公園のベンチで声を上げた。
学校で暴行された永沢を見たトド松は、その後街を徘徊していた。二階堂達と合流するなどという発想は全く無かった。むしろ、彼らとは会いたくないとずっと早足でこれまで逃げてきた。それも当然だろう、小学校低学年ぐらいの子供をボコボコにする連中などと一緒にいたくない。きっとあの学校でのなんやかんやはアイツらがやったんだろうと言うことになる。冷静になれば不自然なところがある考察だが、トド松に人が死んだ場所で冷静になれるようなタフなメンタリティも、真相に気づくクレバーなインテリジェンスもない。伊達にニートをやっていないのだ、そういった能力は進学なり就職なりしている同年代より確実に下である。
だから彼は、自分がひたすらに学校の周りを螺旋を描くようなルートでさまよっていることにも気づいていなかった。そもそも土地勘の無い場所を歩いた経験も不足しているのだ。更に、標識や看板も当然読めない。そうなると人間は分かれ道に差し掛かった時に右に行くか左に行くか癖が出るもので、じわじわと遠ざかりつつも学校からはなかなか離れられていなかった。
そしてろくに休憩もなしに歩き続けることがそれをエスカレートさせる。足が辛くて休もうとする度に、宇美原達が自分を追いかけてきている気がして、とにかくもっと距離を取ろうと思うのだ。そうして疲れて更に鈍くなった頭で彼は徘徊するのだが、そんな時でもデジャヴというのは感じてしまうもの。実際は単に同じ場所を何度も歩いているだけなのだが、それに恐怖を感じてまた歩き出すのだ。彼は結局3時間近くも、放送が始まるまでの間、ほとんど歩みを止めなかった。
「なんでチョロ兄さん松2回呼ばれた?」
そんな彼を冷静にさせたのは、奇しくも放送だった。明智小五郎やら明智光秀やら、トド松でも偽名とわかる名前が呼ばれて一気に気が抜けた。とりあえずこれは真面目に聞かなくて良さそうだと思うとツッコむ余裕も出てくるものである。ここに来てようやく疲労を強く感じた彼は、公園のベンチにどっかりと座り込んだのだ。
ただ、呼ばれた名前がトド松の予想通りの2人なのは少し引っかかった。トド松が考える六つ子の死にやすい順序はカラ松>チョロ松>おそ松>十四松>トド松>一松である。
カラ松は無理だ、絶対にイタいことをしてつまらない死に方をしている。この順序はいわば余計なことをする順だ。その点でカラ松は六つ子の中では頭が回る方なのだが、性格がアレすぎてそれが全部裏目に出るタイプだ。1人で何かするとなるとほぼ100%ろくなことをしない。
余計なことという意味では別方向にチョロ松もやらかす。こちらは一見常識人のように振る舞っているが、所詮は六つ子である。兄弟達の中ならまとめ役になれても一般社会でやっていけるほど人間ができていない。カラ松もそうだが、自分が社会不適合者の無能という自覚が薄いのに張り切ってやらかすのだ。
そういう意味ではおそ松はだいぶ2人よりはしぶといだろう。どこに出しても恥ずかしい糞ニートだが、本人もその自覚があるので、こんな場所では無駄なことはせずに、ヤバくなったら子供だろうと親兄弟だろうと見捨てて逃げ出すはずだ。人からの評価はボロクソでも、生き残るということに関しては、まあ平均点は取れるだろう。
そんな3人よりも意外にも死ななそうなのが十四松で、これは人間か怪しいところがあるという意味では無く、あんな天然な言動の割に常識というかそういった部分は最低限抑えて動けるタイプなのだ。ようは、他の4人とはヤバさのベクトルが違う。それに家でごろつくかパチンコするかの他と比べて曲がりなりにも体を動かしてるのも大きい。
そしてトド松である。六つ子の中で唯一まともで交友関係も広いのだ、他が平均かそれ以下でも自分は生き残るだけならまず死なない気がしてきている。
なお、一番死ななそうな一松は別の味で危険だ。殺し合いに乗ることはないが、殺されそうになった時に一番引鉄を引きそうなのが一松だ。それでいて本人もそのことの自覚があるので、極力人との接触は避けるだろう。なんなら、ゲームが終るまでどこかに引き篭もっているかもしれない。
375
:
◆BrXLNuUpHQ
:2025/05/20(火) 07:24:42 ID:???0
──なごみ探偵のおそ松
「あー、おそ松兄さんもか。てかなんだよその呼び方。」
──松野一松
──松野十四松
──松野チョロ松
「え。」
おそ松の名前にツッコみながら、他の兄弟が聞いたら袋叩きにされそうなことを考えていると、ついにま行に放送が差し掛かる。そして彼の兄弟の名前がまた呼ばれた。今度のトド松からは、顔から血の気が引いていた。
呼ばれてしまった、呼ばれないだろうと思っていた兄弟の名前が。
それまで聞き流しかけていた放送に耳を傾けるが、もちろん言い直してくれるはずもなく。トド松はわけのわからない現実にただ驚くしかない。信じがたい、信じるわけにはいかない言葉だ。自分以外の松野家が全滅したなんて。
思わず立ち上がり、意味も無く歩き出す。もう放送など頭に入っていない。どこへ向かうともなくただフラフラと公園をうろつくその姿に、彼が思い描いていたような彼自身は無い。
「トド松!!!」
「お、おそ松、兄さん……?」
突然聞こえてきた声にも、トド松は緩慢な反応しか示さなかった。それが知った声だとわかり、もはや唯一の兄弟だとわかり、自分が抱きしめられているとわかって、ようやく涙が出た。
「兄さあだだだだだイッダィ!」
抱きしめるを通り越して鯖折りにされたからかもしれない。我に返るとトド松は、凄まじい力で抱きついているおそ松をなんとか引き離すと、そこでようやくトト子もいることに気づいた。
「ゼェー……ゼェー……兄さん……無事だったんだね……」
「ゼェー……ゼェー………ああ……俺はな……」
先の一幕でお互い息も切れ切れになりながら、まずは互いの無事を確認する。
改めてトド松が見ると、その顔は間違い無くおそ松のものだった。
(──なんだよ、ほらね?)
安堵の熱が胸から上がってくる。トド松は心底ホッとしたあと、急にバカらしくなった。
冷静に考えれば、六つ子全員が殺し合いに巻き込まれている可能性は高くないだろうし、さすがに6時間程度で死にまくるのもおかしいし、そもそも名前の呼び方がおかしいのだ。あんなものを真に受けるなどどうかしている。
「あっ、トト子ちゃんも一緒だったんだ。ってそうだ、逃げないと、まだ近くにいるかも知んないんだ。」
「……逃げる?」
「それが聞いてよ、学校にいたんだけど、そこであった子供がもうヤバくて……」
いつもの調子を取り戻しつつ言うトド松はそこで気づいた。シリアスだ、おそ松がシリアスすぎる。さっきのベアバッグのようなテンションと比べて、なんというか『陰』の気を感じる。それもトト子も同じくだ。
「そうか、じゃあ……戦わないとな。」
「へ? あっ、うん、いやでも逃げようよ、ボクらが戦う必要ないって、他の誰かに任せようよ。」
「……ダメだな、十四松もいる。」
「うえっ!? 十四松もいんの? あ、もしかして怪我したから病院に来たとか──「死んだよ」──へ?」
「大丈夫だ、お兄ちゃんに任せろ。」
十四松が死んだ。突然のボケにトド松はツッコみそこねた。それを気まずく思う。相変わらずノンデリなボケだ、タイミングよくツッコまなければ変な空気になる。というよりも、言った本人がやけにシリアス入っている。いったいどういうことかと聞こうとして、トト子の顔を見た。
376
:
◆BrXLNuUpHQ
:2025/05/20(火) 07:25:11 ID:???0
(泣いてる。)
トト子は泣いていた。それはもう、しめやかに泣いていたのだ。
どうして?そう問う間もなく、突然泣き顔から目つきが変わる。「そこだっ!」という声と共にサブマシンガンを抱えると、病院の正面脇にある駐車スペースを銃撃した。
「なになになに!?」
「俺の後ろに来い!」
突然のトト子の凶行に腰を抜かしかけてしゃがみ込みそうになるのを、おそ松が掴み上げて立たせる。
「隠れて!」とどこからか少女の声が聞こえたが、状況が飲み込めない。
「さっきの人だよ!」
「撃ち返してやる!」
今度は別の声も聞こえて、引っ張られる間も下を向いていたおそるおそる目を開けたトド松は息を呑んだ。いつの間にか病院の入り口の陰まで移動していて、トト子がサブマシンガンを車に向けて撃っている。その車の陰からも中学生ぐらいの子供が顔を出してこちらに銃を向けていた。そう冷静に観察できたのは、彼らの銃口がまるでこっちに向いていないからだ。
「あうっ!」
「直幸っ!」
子供たちの銃撃はあさっての方向に飛んでいく。だがトト子の銃弾は彼らの隠れる車へと向かい、薄いアルミのボディを貫通したのか、悲鳴が聞こえてきた。
「トト子ちゃん!? マズいよ!!」
「チっ、弾ぁ!」
勇気というよりはツッコみからトド松が上げた声に返ってきたのは、緊迫したトト子の声だ。その性格は明らかに豹変している。慌ただしくリロードするのを見てなんとなく、あんだけ撃ってるんんだから弾も切れるだろうと思っていると、ピン!という音がした。
おそ松が何かを投げようとしている。その背景には、和服っぽい少女が、子供たちが隠れていた車とは別の車の陰から飛び出してこちらに駆け寄ってきていた。
それらを見て、トド松にできることはない。ただ見送るしかない、おそ松が何かを振りかぶるのも、少女が肉薄してくるのも。例えるならば、ランナーが突っ込んでくる二塁から一塁へと送球してダブルプレーに討ち取るような、そんな構図。おそ松が何かを投げるのと、少女がおそ松に斬りかかるのはほぼ同時だった。
おそ松が一瞬早く何かを投げる。少女は、それに向かってギリギリでジャンプした。斬りつけようとした刀でそれを弾こうとして、カンっと音を立てて何かの軌道が変わる。キャッチャーフライのようにふんわり上がったそれが落ちるのを追ったトド松の背中が思いっきり引っ張られた。
「爆発すんぞ!」
「きゃあっ!!」
おそ松の言葉は爆音で聞こえなかった。煙と音がトド松を襲う。あまりのことに目を見開いたトド松が見たのは、爆発を背中に受けたのかアスファルトの上にしゃがみ込む少女。そしてその顔面をサッカーボールキックしようとしているトト子が、突然血を吹き出した光景だった。
「トト子ちゃん!」
ピン!とまた音が聞こえた。
手榴弾だった。おそ松は手榴弾を投げようとしていた。
外野が送球するように大きく振りかぶる。狙いは、トト子に向かって銃撃した、銃を向けていた少年。そしてその脇にいる、第二の少女。
トド松は彼女と目があった。彼女は武器を持っていなかった。その手は何かを訴えるようにこちらに伸ばされ、血に濡れていた。その横で何かが光る。おそ松はそこに向かって手榴弾を投げた。投げられた手榴弾が、コマ送りのようにゆっくりと飛ぶのがトド松にはわかる。そしてその手榴弾は、下から伸ばされた手によって掴まれた。ライナー性の当たりをファインセーブするようにアウトを取られ、バックホーム、そして。
トド松は閃光と共に意識を失った。
377
:
◆BrXLNuUpHQ
:2025/05/20(火) 07:25:42 ID:???0
知り合いの名前が呼ばれた、という以上の意味があることはわかっていた。
宮美四月という同級生のことを弟が好きなのは、姉である彼女が一番知っているのだから。
同じ中学に進学して、まだ大して時間も経ってないのに弟の心を奪った女に、思うところがないはずがない。むしろ彼女は、弟に何かしたのではと疑ったほどだ。
そんな彼女が死んで。そして。
「直幸! なおゆきぃ!」
「だい、じょうぶ……だよ……ねぇ──」
大河内杏は、目の前の光景に慟哭する他なかった。
2時間ほど前に謎の男を撃退してから、彼女と直幸、そして神谷薫の3人は、薫の同行者という木之本桜を探していた。元いた民家からは逃げなければならなかったし、桜が小学生らしいこともあって、他に目的地などない大河内姉弟は自然と薫に引率される形で彼女と行動をともにしていた。
話が変わったのは、あの忌々しい放送だ。ふざけた名前に混じって、宮美家の四姉妹の名前が呼ばれた、あの時だ。
もちろん、杏はあんなものを信じない。なんの裏付けもない情報を鵜呑みにするなどメディアリテラシーの欠けた行為をするわけがない。だがそれでも、知り合いの名を呼ばれて動揺がないわけではなかった。
「待って、声が聞こえた。」
そんな2人を前に冷静にそう言ったのは薫だ。知り合いの名前も桜の名前も呼ばれなかった彼女は、油断無く周囲に気を配り続けていた。そうして聞きつけたのだ、松野家の長男と末男が邂逅した時の声を。
「あれ、さっきの男じゃない。」
そうして慎重に病院の敷地に入り見つけたのは、先程の男だった。しかも同じ顔をした男もいる。目つきは違うが、あれは双子か何かだろう。彼らは病院の向かいの公園で何か話している。その無防備な姿は先程の様子とは大きく異なるが、彼らも放送で動揺しているのだろう、とにかく危険人物を先に見つけられたのだからとっとと逃げよう、そう決めた薫が大河内姉弟を引率して離脱しようとしたその時、彼らを銃弾が襲った。
「そこだっ!」
「しまった、隠れて!」
(もう1人いたの!?)
期せずして勘の良い伏兵に、見つかった。トト子が叫びながら撃っていなければ、咄嗟に飛び退けず薫は蜂の巣にされていただろう。しかしそれが明暗を分ける。銃弾の雨に分断されて、薫は2人とは真逆の方向に逃げざるをえない。ここで薫が撃ち返さなかったのは、結果論で言えば正解だった。回転式機関砲よりもなお連射できる銃器と撃ち合いになれば、直幸のように被弾しただろうから。
「さっきの人だよ!」
「撃ち返してやる!」
「ダメ! 逃げて!」
逃げろと言っても、薫自身2人に逃げ場が無いのはわかっている。なんとか隙を作ろうと、物陰に隠れながらトト子に近づこうと急ぐ。
「あうっ!」
「直幸っ!」
「そんなっ。」
そして聞こえてくる2人の悲鳴。臍を噛む思いで薫はなんとか車から車へと進む。そして好機は来た。トト子の弾が切れたのだ。そして危機もだ。そのタイミングで手榴弾を投げる準備をおそ松は整えた。
「チっ、弾ぁ!」
今だ、そう思って駆け出した薫と、おそ松の目が合った。相手は丸腰だ、撃たれる前に間合いを詰めて──そんな風に、手榴弾が投げられる直前まで考えていた。
何かまずい。この土壇場で投げつけようとしているのだ、止めなければ。だが間に合わない。自分の上を通り過ぎようとする何かに、薫は咄嗟に刀を伸ばした。柄の先が僅かに触れ、姉弟の隠れる車の前にポトンと落ちる。それを目で追わなかったのは不幸中の幸いだろう。その直後に起爆した手榴弾が顔面を襲わなかったことで即死を避けられたのだから。
378
:
◆BrXLNuUpHQ
:2025/05/20(火) 07:26:04 ID:???0
(これ、炸裂弾、だったの……)
爆風に耐えて立ち続けられたのはさすがというべきか。数秒耐えた後ついに膝を折るが、薫は前を見続けていた。
「トト子ちゃん!」と声が聞こえる。あの女が間合いを詰めてきている。耳も目も使えるのに、身体が動いてくれない。あと数秒、数秒あれば膝が言うことを聞いてくれるのに。
徐々に薫の視界がスローモーションになる。そして浮かぶのは、剣心の、死んだ両親の、そしてこれまでに出会って来た人たちの顔。
ああ、これは、走馬灯だ。そう思った矢先、薫の顔に血飛沫がかかった。トト子が蜂の巣になっていく。その後ろではまた男が炸裂弾を投げようとしている。
(まだ、死んでる場合じゃない!)
そう思うと急に体に活力が戻った。ピン!という音が聞こえる。薫は反射的にジャンプしていた。きっとあれはまた同じように飛んでいく。今度は取りこぼさない。
スローモーションはまだ続く。飛んでくる黒いマツボックリのような炸裂弾の、表面の溝まで見える。イケる、そう思った。右手1つで掴む。そして投げ返す。それを一動作で淀み無く。ただ前へとぶん投げる!
おそ松と目が合う。今度は立場が逆転した。後ろに倒れていくトト子のスレスレを飛び、おそ松の元へと飛んでいく。おそ松はそれを、両手で掴むと、自分の胸に抱くようにした。
そして今度の起爆が、おそ松の、トト子の、そして薫へと殺到したのだ。
「薫、さん……」
杏は顔面に破片が突き刺さり、首から血を流して動かなくなった薫から手を離した。その手は真っ赤に染まっている。つい数秒前まではしていた心臓の脈が、ついに止まった。
戦闘終了から5分。その場には3つの死体が出来上がっていた。一番損傷の酷いのはおそ松のものだ。胸部が完全に吹き飛び、その顔の判別は司法解剖のプロでもわからないほどに吹き飛んでいる。その少し前にいたトト子は後ろからの爆発と、直幸の銃弾により、おそ松とほぼ同時に即死していた。彼らに比べれば爆発直後は意識のあった薫は比較的軽傷とすら言える。五体満足の死体は彼女だけだ。
「どうしよう、直幸が……だれか! 誰か助け。」
ズガン。
訂正しよう。その死体はすぐに2つに増え、3つに増えた。
トド松は杏を撃つと、足を引き釣りながら直幸の元に行き、彼が持っていた銃を乱射した。
379
:
◆BrXLNuUpHQ
:2025/05/20(火) 07:26:39 ID:???0
【0618 『南部』古めの病院】
【松野トド松@小説おそ松さん 6つ子とエジプトとセミ@小学館ジュニア文庫】
【目標】
●大目標
???
●中目標
???
●小目標
???
【脱落】
【松野おそ松@小説おそ松さん 6つ子とエジプトとセミ@小学館ジュニア文庫】
【弱井トト子@小説おそ松さん 6つ子とエジプトとセミ@小学館ジュニア文庫】
【神谷薫@るろうに剣心 最終章 The Final映画ノベライズ みらい文庫版@集英社みらい文庫】
【大河内杏@四つ子ぐらし(3) 学校生活はウワサだらけ!(四つ子ぐらしシリーズ)@角川つばさ文庫】
【大河内直幸@四つ子ぐらし(3) 学校生活はウワサだらけ!(四つ子ぐらしシリーズ)@角川つばさ文庫】
380
:
◆BrXLNuUpHQ
:2025/05/20(火) 07:27:27 ID:???0
投下終了です。
タイトルは『ツインプレー』になります。
381
:
◆BrXLNuUpHQ
:2025/06/04(水) 07:41:16 ID:???0
投下します。
382
:
◆BrXLNuUpHQ
:2025/06/04(水) 07:42:04 ID:???0
コトコトコトコト。
給湯室、と入り口のドアにプレートを付けられた部屋は、8畳ほどの広さの真ん中にテーブルが置かれている。そこに鍋敷きをひくと、エリンはコンロから鍋を持ち上げて慎重に置いた。
「陽人君。」
「うおっ!?」
窓辺の和泉陽人は、声をかけられると飛び起きて、慌てて周囲を見渡すと。
「悪い、寝てたか……」
「だいじょうぶだよ、何もなかったから。」
「なにも、か。」
バツの悪そうに言うも、エリンにそう言われて、心配そうな顔をした。
エリンたちがこの美術館に来てから数時間が経った。ハンターから逃げようと動いていた時、周りが駐車場や庭園になっていて近づく者に気づきやすい建物を見つけて入ったのだ。屋内に入った途端に大量の銃器があることに驚いたり、監視カメラを見つけてホッとしたり、電話が繋がらなくてガッカリしたりと、他の参加者がここ数時間でやったことを一通り経験して。他のグループと違うところというと、その間陽人が気を張り続けていたことだ。
(長いな……)
逃走中ではなかなか無い長丁場に、陽人はすっかり疲れ果てていた。彼のこれまでの経験が裏目に出ていた。これほどまでに何も無い時間が続いたことなど、逃走中では無かったのだ。
立ち上がると、心配を顔に出しながらモニターを眺める。高価なものもあるからか、防犯はしっかりしているらしい。まさか殺し合いの場に怪盗などいないだろうに、どうやらちゃんと監視カメラ機能しているようで、その無意味さが不気味に感じる。視線を外しかけたその時、モニターに動く影を見つけて、陽人が二度見したと同時にけたたましいアラームが鳴った。
敵か! ハンターか! そう思ってモニターに近づくと、制服姿の少女の慌てた様子が映っている。そしてカメラの方に向かって何やらジェスチャーをして、慌ただしく駆け出した。数分もせずにガチャリと部屋のドアが開く。だが陽人は動くことはなかった。それが誰かわかりきっていたからだ。
「ごめんなさい……」
そう言いながら入ってきたのは、このチームでは最後の一人、小川凛である。陽人はため息をつくと笑って防犯センサーを切った。
つくづく、自分の知るゲームとは違うと思う。こんな頼りになる設備を自分が使えれば、ハンターから逃げるのももっと楽になるだろう。時間といい自分の常識の通じなさを感じる。
そう思うとようやく、少し肩の荷が下りた。これまでの何時間かは、いつハンターが四方から殺到してこないか、実は美術品に紛れていてタイマーで放出されるんじゃないかと気を張り続けていた。なにより、あまりに何も起きない時間が長過ぎたのだ。いつ襲われるかと思いながら過ごすのは、とてつもなく時間の流れを遅く感じさせる。
(こんなことなら、小清水を拾ってきてやったら。)
そうなると自然、目の前で死んだ小清水凛のことが思い出される。あの硬直していく姿は、目を閉じれば今も瞼の裏にこびりついて離れない。あの死に顔を忘れることは、きっと無いのだろうと思う。
それでも陽人は、冷静になろうと考えた。自分が一番ハンターの脅威をわかっている。彼女ですらハンターに見つかれば振り切るのは容易ではなく、あんなにもアッサリと命を落としたのだ。そしてアイテムのように置かれた銃や刀。仮にハンターがいなくても、危険な人間はおそらくいるだろう。そうなれば自分一人で死体を運ぶなど無謀でしかない。もちろんエリン達を巻き込むわけには行かないので、己一人で死体を──
(死体……アイツを死体として……)
「陽人君?」
「……ああ、ありがとう、いただきます。」
見知った仲間を、人間ではなく物として運ぶような発想に行き着いて、陽人は不機嫌に立ちすくんだ。遺体1つ弔ってやれないことに、どんな顔をすればいいのかわからない。
それでもエリン達が無理矢理でも明るく振る舞っているのを見て、陽人はなんとか強張った顔を緩めようとしつつテーブルについた。
383
:
◆BrXLNuUpHQ
:2025/06/04(水) 07:42:49 ID:???0
「この匂いなんだ……飯でも食ってんのか?」
陽人たちがいるその美術館の駐車場で、毒づく1人の少女。
名前は竹井カツエ。彼女のその手は、右手はテーピングで固められ、左手は拳銃が握られている。小学生には似つかわしくないその姿は、眼光の鋭さもあって、胡乱な雰囲気を感じさせるには充分であった。
空寺ケンとの戦闘から時間にすれば、数時間というほどは経っていなかった。互いに空手の実力者、男女の性差も小学生同士ではむしろ女子に有利に働く。銃ではなくあえて己が信を置くステゴロを選んだ2人の戦いは、ルール無用のバーリ・トゥードと化し、最後はハンターの乱入によって決着となった。
あれからしばらく。その間カツエは手傷の手当てに当たっていた。組手もやるのだ、その辺りの知識は運動しない子供よりはある。彼女はひとまず動けるようになると、街をさまよい、見つけたドラッグストアを漁って必要な物を手に入れた。熱を持った傷をアイシングし、ガチガチにテーピングで固める。彼女にできる限りのことをすると、最後に痛み止めをがぶ飲みした。
それが効いてきたのか、しばらくすると小走りできるぐらいには痛みが引いてきた。傷を痛めないように念入りにストレッチすると、適当に食べ物を口にしようとした時、ふと防災バッグを見つけたのでそれに詰め込む。苛立たしげにグミを口に放り込んで、とにかくもう少し安全な場所に移動しようと、カツエは足早に、しかし痛みからゆっくりと歩き出した。このドラッグストアは外から中が丸見えすぎる。店としてはそれで良いのだろうが、安心して腰を落ち着ける場所には程遠い。
(なんなんだこの平たいビル、まあなんでもいい、中の奴をぶっ殺して……)
そうして街を歩いている時に見つけたのが、凛たちがいる美術館だった。霧の中から突然現れた、開けた空間の奥にある建物。場違いに思えるほど手入れがされた庭園には、謎のオブジェも点在している。カツエは遠巻きにそれを見ると、侵入できる場所を探して駐車場へと行き着いた。1つだけ換気扇が回っている小部屋(といっても他と比べてだが)があり、そこからは美味そうな匂いが流れてくる。そう言えばここに来てからろくに何も食べてない、そんなことが頭をよぎった時だ、後ろからかすかに足音が聞こえたのは。
「しいっ!」
「うわっ!」
ズガン!と銃弾が停車してある自動車を撃ち抜く。カツエが躊躇無く発砲した弾丸は、元々狙いなどつけていないのでどこかに飛んでいき、その隙に尻餅をついた少年、陽人は素早く車の影に転がり込んだ。
「待て! 殺す気はない!」
「るっせえ!」
振り向きざまに撃って当たるなどカツエ本人も思っていない。拳銃を連射しながらダッシュすると、陽人を蹴り殺そうと距離を詰める。見敵必殺、人を見たら見つけ次第殺す、頭にあるのはそれだけだ。
車の周りをカーブするタイミングで更に撃ち、すぐさま突っ込む。陽人は同じタイミングでカツエから対角線になる位置に駆け込んだ。発砲するが、素人の腕ではわずか数メートルの距離でも当たらない。舌打ちをして追いかけるが、再び角を回ったときには陽人の姿は無かった。どこに行った?その疑問は直ぐに解決した。視界の上方から何かが飛んでくる。とっさにバックステップをすれば、ボンネットから屋根を足場に飛び込んできた陽人が、目の前にいた。
「ヤバ──」「死ねえ!」
叫んだのは同時、動いたのも同時。
カツエが引鉄を引いた瞬間、陽人は反射的に腕を上げる。その腕がカツエの手をずらし、そして銃口からは弾が発射され、ない。
384
:
◆BrXLNuUpHQ
:2025/06/04(水) 07:43:51 ID:???0
(弾切れ!?)
「ガッ!?」
撃ち尽くしたことを理解するより先に、今度はカツエが反射で殴りつける。今度も腕を動かされるが、体に染み付いた武道の動きは、人間の反射をも超える。鳩尾こそ外したとはいえ正中線にガードも虚しく正拳突きが突き刺さり、陽人は肺の中の空気を出しながら吹き飛ばされた。
「はっ……なるほど、罠だったってわけね。」
「違っ! ぐっ……!」
上体を起こしている所に横から蹴りを入れてうつ伏せにすると、カツエはその上に乗った。にわかに鼓動を早くした心臓を落ち着かせるように深呼吸して辺りを見渡す。すると中空に赤い光が見えた。よく見ればそれが監視カメラだと気づく。なるほどこれで気づかれたかと、他にも何かないか探すと、車の脇に立ち竦む2人の少女と目が合った。
(……なんだこいつら。)
少女たちが動かないように、カツエも硬直した。この銃弾が飛んでくるがもしれないところに突っ立っている2人は何なのか。殺し合いの場だどいうのに手ぶらである。ではカツエのように腕に自身があるのかというと、とてもそうには見えない。片方は中学校の制服だろうか、天然なのかパーマなのか、とにかくウェーブした髪が特徴的な少女だ。もう片方は、緑の髪に緑の瞳、さらに民族衣装らしきものに身を包んだ奇抜な格好の少女である。2人とカツエは見つめ合っていた。
「……お前ら動くな、コイツ殺されたくなかったら武器捨てろ。」
「は、はい……」
弾の切れた拳銃を陽人に向け、弾が無いのだからこれでは脅しにならないかと2人に向け、いや2人に向けても脅しにならないのは同じだと思ったが、とりあえず格好として向ける。すると2人は、慌ててポケットなりから拳銃を地面におっかなびっくり置いた。
すると拍子抜けするのはカツエである。まさかこんな、ド三流のチンピラムーブを自分がすることになるとも、それで相手が従うとも思っていなかった。コイツらは弾切れだと気づいてないのか?その可能性に気づいてカツエは薄く笑う。どうやら頭の弱いいい子ちゃんなのだろう。ならカモだ。
「あ、あの、こんなことやめませんか。」
「うるせえ! 早くその銃、こっちに滑らせろ。」
「そんな……」
「早くしろぉ! 撃つぞゴラァ!」
「凛さん、それは……」
「だ、大丈夫……もう撃てないから……」
「チっ!」
いやバレている。ならなんなのだコイツらは。さっき銃を出したときそのまま撃っていれば良かったではないか。カツエから見れば不合理な行動に困惑が深まる。目的がわからない。殺し合いを前提としたその頭では。
カツエは銃を捨てると、陽人にバックチョークをかける。もういい、まずはコイツを殺ってから、次はお前らだ。そう考えると、首輪が邪魔でうまく締められずまごついているところに曲が流れ出す。
『──強くなれる理由を知った。』
「なにっ?」
陽人の首輪だけではない、カツエ自身の首輪からも、横に停まっている車のカーラジオからも、美術館の館内放送からも、エリンたちからの首輪からもだ。
「お前ら動くな!」
「ち、違うよ、私たちじゃないよ!」
「……ミッションか?」
「みっしょん?」
混乱する3人と、1人ダメージに顔を歪めながらも冷静に何が怒るかを察する陽人。気色ばむカツエを無視するように、第一回放送が始まった。
385
:
◆BrXLNuUpHQ
:2025/06/04(水) 07:44:18 ID:???0
コポコポコポコポ。
ぬるめのお湯を注ぐと、4人分の湯呑みから茶葉の香りが匂い立つ。
エリンはお盆を持つと、それをテーブルの上に置いた。
「ありがとう。」
反応を示したのは陽人1人だ。カツエはポトフをがっきながら鋭い目を向けるだけだった。そして、凛は、泣いていた。
『広瀬崇』
その名前が呼ばれた時が、戦いに水が入ったタイミングだった。放送が始まって直ぐにその趣旨が当の放送によって伝えられ、自然と全員がそれに耳を傾けることになる。エリンたち3人は元より、カツエも自分の家族の名前が呼ばれていないかは当然気になる。そうして無事に『た』で名前が呼ばれなかったことで安堵し、小清水凛の名前が呼ばれてもわずかに身じろぎするだけだった陽人を締め直し、さてこれからどうコイツらを片付けるかと思っていた時だ。
「広瀬、崇……?」
膝から崩れ落ちる人間など、空手をやっていてもそうそう見ることはない。その貴重な実例をカツエは目にした。
その名前が呼ばれた瞬間、凛の体から全ての力が抜けたように見えた。横のエリンがとっさに支えていなければ、打撲は免れなかっただろう、ストンという落ち方。
カツエが何もしなくても、少女たちは無力化された。エリンは凛を見捨てて動けるようなたまでないことは短い間にわかった。その凛は明らかに顔面蒼白、1人では動けもしないだろう。そして陽人は自分が首に手をかけている。負ける要素など、ない。
それでもカツエは、放送が終わるまで、自分の腕に陽人が手をかけるまで動けなかった。
「……殺し合いなんてやる気はないよ、みんな。あんたもそうじゃないか。」
「ア……チっ!」
違う、そう言い捨てようとして、しかし、言葉に詰まった。殺し合いに乗っている。そう口にするには、あまりにも、あまりにもこの場の空気は死んでいたのだから。
(……いや、待てよ、そもそも、そもそも最初は同盟相手探そうとも考えてたんだ。ならコイツらって使えるんじゃねえか? たぶんクッソお人好しだもん。)
「俺は和泉陽人、あんたは?」
「……殺し合えば何でも願いが叶うんだろ? 信用できるか。」
「あんなくそみたいな放送の方が信用できねーよ。だろ?」
「……そうか、竹井カツエだ。」
それにもう1つ、カツエが方針を改める理由があった。
放送していた死野マギワは、カツエの参加していた絶体絶命ゲームの進行役である。ゆえに、彼女はその放送を真実だと受け取った。たとえ織田信長が呼ばれようが明智光秀が呼ばれようが、あの放送内容自体が何かのヒントも兼ねたのだと受け取った。残念ながらメモを取ることはできなかったので全部は憶えきれないが、それでも人数は把握した。
だが陽人たちはマギワもツノウサギも知る様子を見せなかった。だから真に受けない、信じない、値千金の死亡者情報を。信じることなどできない、あんな非現実的な内容を。
(家族の名前とか呼ばれればともかく、そうじゃないなら信じないもんなのか。てことは、コイツらが殺しに行く可能性は低い……?)
そして信じないからこそ安心できる。カツエは十中八九、追加ルールによるキル数レースは真実だと考えていた。あんなルールが追加されれば、集団で動くことなどできない。人数が集まれば集まるほど、殺し合いに乗るメリットが増える。だが、あの放送を信じないのであれば、その意味は大きく変わる。カツエだけが3人殺せるポイントをキープしているに等しい。
386
:
◆BrXLNuUpHQ
:2025/06/04(水) 07:45:13 ID:???0
(なら、今ここで無理して殺す必要はないよな……あと6時間、放送ギリギリまで、こういうバカを集めて、最後にぶっ殺せば──)
「あの……」
「あ?」
エリンに声をかけられて、カツエはスプーンが止まっていることに気づいた。どうやら考え込んでいたらしい。ちょうど小腹も空いていたところに出てきた暖かくて優しい味の飯に、張っていた気が緩んだのは仕方のないことなだろう。これではいかんと出されたお茶をゴクゴクと飲み、飲んでからこれに毒が入っている可能性を考えて、青い顔になるが、何も起きないのでホッとする。当のエリンはというと、凛の横に座って話しかけていた。
(アタシだけかよ……)
「竹井、大丈夫か?」
「……なにが?」
「いや……ほら、手だよ。」
「あぁ……アンタは?」
「俺は……あー、いいパンチだったぜ。」
「あっそ。」
陽人も、無理をしているのが明らかだった。顔は強ばり、じっと監視カメラの映像を見ているかと思えば、落ち着かないように部屋の棚や引き出しを漁ったりしている。そうしてしばらくすると、袋菓子の小袋を1つ開けて、また監視カメラの映像を見始めるのだ。
誰も彼もが疲れた顔をしていた。たった6時間、知り合いの名前が呼ばれた信用できない放送が流れただけで、それまで保っていた連帯が崩れている。カツエはこの3人がまともなグループだった頃を知らないので、やけに辛気臭い奴らに潜り込んでしまったと思った。
(やっべ眠くなってきた……この空気も疲れるし……いやでも、さすがに寝たらやばいか?)
現に今、こうして自分は飯まで食っている。エリンたちはあの戦闘にも関わらず、カツエをパニックになっていただけだと判断してなんと受け入れたのだ。実際問題あの時のカツエは殺られる前に殺ろうと思ったから撃ったので出会い方が違えばもっと表面上は穏便に殺るはずだったのだが、ともかく寝れるときに寝るのはいいかもしれない。自分に気づくぐらいには注意深いのだし、センサー代わりと考えればアリだろう。
「そこのソファー借りるよ。」
これはある意味賭けだ。凛たちが度を越したお人好しならば、利用価値はでかい。なにせ81人の死者だ。カツエが首輪を外すには1人で10人近く殺さなくてはならないかもしれない。その時のために、同じようなお人好しを集めるお人好しホイホイとして、そして肉の盾として使えるか。
「カツエさん、どうぞ。」
「お、あんがと。」
直ぐに立ち上がりパタパタと小走りで棚からタオルを渡してきたエリンを見て、カツエは思う。特にコイツは使える。何人だか知らないけどきっと利用できる。後は、カツエ次第だ。
(せいぜい利用させてもらうよ、エリン。)
(カツエさんはよく見張ってないと。)
そのエリンがカツエを危険視していることに気づかぬまま、彼女は眠りにつく。その緑の瞳の慧眼さは、彼女の予想を超えていた。
エリンはこのグループで、実は放送を真実だと誰よりも思っていた。そして同時に同じぐらいに疑っていた。いわばフラットな中立の視点である。
親が処刑され天涯孤独の身となった彼女を助けた蜂飼いのジョウンから学んだ様々な知識は、この場ではほとんど役に立たない。だがそれでも、人の話というものが、時に自然と、つまり真実を言い表していることもあれば、誤りや過不足があることもあることは、変りなかった。
エリンはツノウサギのことを知らない。死野マギワのことも知らない。彼女たちがどのような立場で、どのような知識を持って、どのような事情で、どのような目的であの放送をしているのか、正しいことは何もわからないのだ。また彼女がリョザ真王国の、大公領の、その中でも異端の霧の民ということも大きいだろう。生まれからして本来なら言葉が通じるかも怪しい異民族の中で、異民族の文化を受けて育ったのだ。必然的に己の見え方が他とは違うことを、環境が教える。たとえ差異が無くてもあることになる。
だからエリンは、竹井カツエという生き物を最初から観察していた。彼女の闘蛇を思わせる殺気立ち方に、なぜそうなったのか気になったのだ。そうして気づいたのは、違和感だ。なにか、なにか思い違いをしているように思えてならない。凛や陽人と同じような、単に殺し合わさせられている子のはずなのに。
緑の瞳は見えないものまでまなざせるのか?
387
:
◆BrXLNuUpHQ
:2025/06/04(水) 07:48:21 ID:???0
投下終了です。タイトルは『緑の瞳は見えないものまでまなざせるのか?』になります。
388
:
◆BrXLNuUpHQ
:2025/07/12(土) 07:37:58 ID:???0
状態表忘れてました
【0624 『東部』都市部・美術館】
【エリン@獣の奏者(講談社青い鳥文庫)】
【目標】
●大目標
殺し合いから脱出する。
●中目標
凛さんたちが心配した。
●小目標
カツエさんに違和感。
【和泉陽人@逃走中シリーズ(集英社みらい文庫)】
【目標】
●大目標
この殺し合いから脱出する。
●中目標
監視カメラを見張る。
●小目標
小清水……
【小川凛@泣いちゃいそうだよシリーズ(講談社青い鳥文庫)】
【目標】
●大目標
???
●小目標
???
【竹井カツエ@絶体絶命ゲーム 1億円争奪サバイバル(絶体絶命シリーズ)@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
生き残り人生をやり直す。
●中目標
凛たちを利用して殺しまくれるタイミングを待つ。
●小目標
寝る。
タイトルは『緑の瞳は見えないものまでまなざせるのか?』になります。
それでは投下します。
389
:
◆BrXLNuUpHQ
:2025/07/12(土) 07:39:22 ID:???0
一つはっきりしたことがある。このままではこのグループはダメだ。
アスモデウス・アリスは、睨み合う宮美ニ鳥と山田奈緒子を見て、言葉が通じないのに思った。
「ここで時間を無駄に使うわけにもいかない、しかし、言葉が通じるのはかぐやだけ……悩ましいな。」
「石川さん、もうええやろ。三風探しに行っても。アイツだってこの辺にはおらんのとちゃいます?」
「すみませ〜ん山田ですけど……ま〜だ時間かかりそうですかね……」
10人の殺し合いを良しとしないものが警察署に残ったのは30分ほど前のことだ。
5名の動ける人間が病院の捜索に向かっている。それもこれも、ニ鳥が山田を銃撃したためである。そうアリスは理解していた。
先の戦いでは、元から警察署にいたらしい双葉が意識不明の重態となった。彼女に何が起こったかはわからないが、そうとう傷は深いようで、今はもう喋ることもできなくなっている。ハッキリ言えば、彼女だけであれば病院を探そうという話にはならなかったかもしれない。医者がいるかもわからないこの場所で見ず知らずの子供1人助けるために危ない橋を渡る者はそういないだろう。その意味ではニ鳥が呼んでいたチョコというドレスの少女も同様である。こちらも意識不明の重態だ。しかも双葉のように原因がわかっているわけでもない。頭というどうしようもない怪我も、原因がわからないどうしようもない昏睡も、見捨てるには十分な理由だ。
怪我と言えば、五エ門と白銀もである。直接戦闘した五エ門は深刻な打ち身らしいし、白銀も首を痛めている。だが彼らの怪我も、命に別状は無いだろう。治療は必要だろうが、最優先に考えるほどかは場合による。
問題は山田だ。腕を貫通する傷を負った彼女は、早急に治療しなくては確実に死ぬ。だが治療さえすればおそらくは生き残る。これが厄介だ。彼女を中心に考えざるをえない。
「……まだ待て。そろそろ連絡がある頃合いだろう。」
そう言う五エ門も、病院が見つかれば治療すべき程度には負傷している。アリスもだ、割と消耗している。ハッキリ言えば、シャワーでも浴びて一眠りしたいほどだ。それもこんな空気でなければできたのに。
あらためてアリスは思う。これだけの、おそらくは今すぐには殺し合う気のない人間が集まっているのに、まるで組織として成り立っていない。10人の殺し合いに反対する人間のうち、満足に戦えるのはほぼゼロである。それどころか、その内の2人は殺し合った中である。命に関わる怪我をした子供もいる。未だ目を覚まさないどれほどの症状化もわからない子供もいる。これでどうやって一枚岩になれというのか。10人もの人間が大量の武器を手に入れられる状況でありながら、状況は好転するどころか、いつ血を見てもおかしくない一触即発である。
「……い、ぬ……?」
「……あー?」
「刺激すると寝言みたいのは出てくるが、また直ぐに気絶してしまう。これは……」
寝たきりの女児ふたりを看病するのは、首を動かせない同年代らしい人間。アリスからすればいっそ食い殺して傷を直したくなる光景だ。死んでも困らずむしろ疎ましい足手まといがいなくなると喜びさえする者も、この空間にはいるだろう。もちろんそんなことをすればかぐやの不興を買うリスクがあるのでしないが。それにそもそも人間は入間に献上することが第一である。
会話が無くなり、また重苦しい空気が漂う。寝るわけにもいかずに無駄に起きていることにストレスを覚え始める。そのいらだちに拍車をかけるように何かの音が鳴った。
「はい、もしもし……ええ。」
かぐやがスマホで通話していた。彼女は真剣な顔で答えている。もしやようやく、そう思ったアリスはすぐにその判断の正しさを知った。
「神楽さんたちが病院を見つけたそうです。」
390
:
◆BrXLNuUpHQ
:2025/07/12(土) 07:39:48 ID:???0
「待つネ、双葉はどうする気なんだヨ。」
神楽は病院内の武器を集めていくナルト達の前に立ちはだかった。
警察署を出発して病院を探しに出かけた神楽、ナルト、サスケが目的地を見つけたのは10数分前のこと。だがそれから今までの間に、彼らの中には亀裂が生まれていた。
「それは……でも、サクラちゃんが……」
「お前、双葉が死にそうなのに死んだ仲間に会いに行く気──」
バツの悪そうに言うナルトに、食ってかかろうとした神楽は、しかし最後まで言い切れない。顔を赤くしていたのに一転して血の気が引いて、握り拳を力無く落として呟いた。
「ゴメン……言いすぎたヨ。」
「……わかってるってばよ。」
らしくないしおらしさを見せる神楽に、ナルトは気にしていないという感じで言う。だがその言葉が出てくるまでの顔は今にも神楽をぶん殴ろうと言わんばかりの表情だった。それを無理やり押し込んで、笑って誤魔化そうとして、出たのは上ずった声と、ひきつった顔と、ひと粒の涙だった。
春野サクラが死んだ。証拠写真付きでその事実を知らされた時、ナルトはそれまでの優先順位とか、そういった物が一気に吹き飛ぶ感じがした。
ナルトはサクラが好きだ。自分と同じものを感じるサスケを、ライバルと決めたサスケを、一途に愛しているかわいい女の子だ。顔とか才能とかでサスケに負けているからだけではなく、親がいなくて非常識だからだとかで彼女に嫌われていると知った時には、それは傷ついたものだが、それでも見返してやると思って、修行や任務に励んだ。この間は波の国で命がけの任務だったが、それでもなんとか達成して、身も心も強くなっただけでなく、少しは彼女に認めてもらえるようになったのだ。
春野サクラが死んだ。彼女の死体の画像を見せられた時、ナルトはそれまでの色々なものが一気に崩れる感じがした。火影になってみんなに認められる。その最初のみんなが、もういない。自分を好きになってほしかった一番の人が、もういない。自分を蔑む木の葉隠れの里のみんなのように、自分を嫌う彼女を見返したい、認めさせたい、そう思っていたのに。
言葉にできない様々な感情が腹の中でグルグルしている。熱を持ったそれが身体中をかけ巡る感覚がする。ミツキにかつて木の葉を襲った化け狐がお前だと言われた時のような、目の前でサスケが殺されたと思った時のような、あの感覚がする。それがなんなのかわからずに、ただ力として振るうこともできたのにそれをしなかったのは、傍らに同じように彼女の死を悲しみから憤るサスケがいたからだ。
「オレたちの任務は病院の捜索だったはずだ。目的は達せられた。ここからは好きに動かせてもらうぞ。」
「そんなこと──」
「神楽、お前だって知り合いとここで合流できるから双葉の所に戻りたくないんだろ。」
赤い瞳──写輪眼でそう言うサスケの目は、憎悪に光っていた。ナルトがサクラの死に名前のわからない感情を抱いたままだったのは、先に憎悪を表に出したサスケがいたからだ。
サスケもまた、同じだった。一族郎党を殺され、復讐を誓った中で、忍としての初めての仲間の1人がサクラだった。孤独というものを知らずにナルトの陰口を叩く彼女をウザいと思ったこともあるが、彼女にチームワークをはじめ能力があることをサスケは知っている。なにより、サスケにとっては数少ない繋がりだった。ただ擦り寄って来る女と同じに見えても、芯が一本通っている、そんなサクラが、殺された。自分が臆病に双葉を着けていた間に、サクラは殺されていたのだ。またサスケは、己の無力で、繋がりを失ったのだ。
391
:
◆BrXLNuUpHQ
:2025/07/12(土) 07:40:14 ID:???0
「……そうだヨ。銀ちゃんと会えるって思ったらホッとしてるヨ。でも双葉も見捨てらんないネ。」
「……クソっ。」
だがそんな憎悪を、神楽は受け止めてはくれなかった。挑発交じりの言葉に返ってきたのは、ボロボロの少女の、沈んだ声と顔だった。
サスケも理解している、神楽はあの銀髪の侍と誰よりも戦っていた。全身に生傷が刻まれ、その動きはぎこちない。服の下は見えている部分よりも更に深手かもしれない。彼女にこそ医者が必要だ。そんな時に仲間の情報が手に入り、そして傷ついた人間の情報もある。
もしサスケが神楽の立場なら、当然迷う。迷った末に双葉を優先しようとするだろう。実際には体が勝手に動いてしまうが、理性では双葉を優先する。
そんな割り切りも欺瞞も神楽には通用しない。真正面からジレンマを口に出されて、サスケは己の不甲斐なさに直面させられた。これでは舌打ちしか出ない。せっかく双葉の救助に協力しない理由はあるのに、神楽のこんな態度を前にして、それを押し通すだけの恥知らずさもなかった。
サスケは写輪眼を解いた。やけに息が上がると思ったら無意識に使っていたことに気づいたのだ。上がった洞察力が、神楽の内面まで読み取ってしまったのだろう、その感情を理解してしまえば、サスケもまた動けなくなっていく。
「あの……みなさま。」
「……誰ネ。」
「はい、風間トオルです……その……みなさま、病院を探しに来たんですよね。」
「それがどうしたんだ? アァ?」
「ヒイッ! い、いえ、そのですね、探してるものが見つかったのなら、お友達に知らせたほうがよろしいかと……」
神楽の圧力で半ベソを書きながら言うトオルの言葉に、3人は固まった。そう言えば誰か警察署に連絡しただろうか?
「……サスケ、お前さっき電話してただロ?」
「いや……ナルトは、してないよな。」
「だって神楽がやってるかなって……」
「でも、医者いないんだから教えてもしょうがないヨ。」
「そうとも言えるしそうでもないとも言える。医者の手がかりも探せばあるかもしれない。それに警察署の奴らが医者と合流した可能性もゼロというわけじゃない。」
「……電話する?」
「早くかけるネ!!」
ここでようやく神楽たちは誰も警察署に電話していないことに気づいた。全員が全身知り合いの情報を手に入れてそれどころではなかったのだ。しかしこれは忍としてはありえないミスだ。誰が連絡するかの分担も、それをチェックする体制も何もかもなかったのだ。これでは三人一組などとても言えない。
「こっちは準備できたぞ……なにしてんだ?」
「タイガ、悪い、オレら警察署の仲間に電話すんの忘れててさ、もうちょっと待っててくれってばよ。」
「それはいいけどさ、ちょっと問題があるんだ。武器集めすぎて乗るスペース無くなったから、ジャンケンで負けた奴がシートベルト締めらんなくなるんだけど、大丈夫だよな?」
「……ああ、1人減るからな。」
サクラの遺体の場所を知り、案内役を買って出た藤山タイガの言葉に、電話を終えたサスケは答えた。「どういうことだってばよ」と聞くナルトを横目で見て言った。「お前、ニ鳥の妹探しに行け。」
「なっ!」
「ナルト、お前アイツに妹探してやるって約束したよな。」
「そうだけど……」
「だったら警察署まで戻れ。双葉たちはこっちに来るがニ鳥とオッサンは警察署に残るらしい。お前が行ってここまでの道のつゆ払いをしつつ合流しろ。神楽、お前は病院の近くで医者を探せ。それなら銀ちゃんだかとも合流しやすいだろ。」
「……いいのか? 仲間は?」
「あぁ……オレが行く。サクラは必ずオレが連れ帰る。いいな、ナルト。」
サスケの判断は早かった。それは警察署と同じく、別のグループとやりとりしたことで換気がされたからだ。
ニ鳥の妹を探す、医者を探す、サクラを殺した犯人を探す。考えるべきはこの3つだ。3つだけ考えることにした。三人一組で当たるとなれば、必然それぞれで手分けすることになる。そうなった時、最も余裕のあるサスケが戦闘の予想されるサクラ奪還を担当し、治療が必要な神楽が病院周辺での活動を受け持ち、チャクラ切れのナルトが残りの1つをやるのが最もバランスがとれている。それになにより、それぞれにやらなくてはいけない理由がある組み合わせになった。
「…………わかった。サスケ、サクラちゃんをぜってー連れ戻してくれよ。」
「ああ。サクラはオレが連れて帰る。一生の約束だ。オレにとっては‥‥やっとできた繋がりだからな。」
392
:
◆BrXLNuUpHQ
:2025/07/12(土) 07:40:46 ID:???0
「──ていうことがあったんです。」
「なるほど、それでこの騒ぎってわけか。」
ボリボリと白髪頭を掻きながら言うその姿からは、いかんせん真剣味というものが感じられない。
こいつ大丈夫かと思いながら名波翠は、着流しにブーツという和洋折衷な男にそう説明した。
サスケたちが出て行った30分弱あと、ほぼ同時に2組の訪問者が現れた。
1つは山田や双葉といった負傷者を連れた警察署のグループである。軽傷の白銀や、彼と知り合いのかぐや、かぐやとしかコミュニケーションができないアリス。彼ら5人の間には、その着流しの男を見たとき大いに動揺が走ることになった。その男、坂田銀時の『銀髪の侍』というのが、あまりにも雪代縁に似ていたからである。
「新田真剣佑ほどの筋肉はねえよ。それあったら変態仮面やってるよ。」
「変態……?」
(なんやねんこの死んだ眼の兄ちゃん、思考が読みにくい、能力者か?)
「で、神楽もここにいるんだって?」
「ええ、でも今はいないんです。近くでお医者さんを探してます。」
「医者か。」
翠から頭の中を覗かれているなど知らず、銀時はシリアスな空気をまとう。神楽の宛がついたのは良かった。これで少しは肩の荷が下りる。あとは新八だ、とっとと合流するに越したことはない。しかし医者が必要となると、既に死んだらしい東方定助のことを考えざるをえない。
銀時も軽くだが、警察署から来た者たちの情報はこうして翠から聞いているところだ。あのヤンクミみたいな貧乳はともかく、子供の方は、ハッキリ言って助からないだろうなと思った。こんなニートみたいな侍でも、幕末の血生臭さは知っている。人間ああなったらもう助からない。死ぬしかない。手当ては確かなものだったが、あれをやったならもう手遅れだとわかっていそうなものだ。
少しして彼女が神楽が助けようとしていた少女と聞いたときには嘆息せずにはいられなかった。なるほど神楽が頼んだのだろう。となるとますます気が重くなる。神楽が走り回ってるのは、これから死ぬしかない双葉を助けようとしてなのだから。
(あの痙攣の仕方はかなりヤバイな。いつ死んでもおかしかない。こんなの神楽になんて言やいいんだ。)
死んだ魚の眼のような瞳から更に光を失くして考える。神楽と行き違いでよかったと思えるほどに、かける言葉が思いつかない。悩んでも答えが出なさそうで、銀時はため息をつきつつ、「そんなに遠慮してないでとっとと話してみな」と、後ろに来ていた白銀に言った。
「すみません、あなたが神楽ちゃんの言っていた銀さんですか。」
「まあな、お前さんは「白銀御行です」そうかい、それでなんの用だ。」
「あの子……たしか、双葉ちゃんのことです。」
その話か、そう思ったのが顔に出たのだろう。「話しにくいかもしれませんが」と続けられ、言いたいことは察しがつく。
「ああ、俺から言っとく」と答えるが、何を言うべきかなどまるで思いつかなかった。神楽たちと一緒にいた彼らなら、銀時よりも双葉のどうしようもなさもわかっているだろう。それでも、いやそれだから神楽にかける言葉はない。
こういう時は、そういった事情からは無関係で、かつ神楽と関係が深い銀時がうってつけではある。
「……動くのに理屈なんていらねーか」
涼真と紅絹との合流は遅れそうだな。そう思いながらバイクへと向かう。やるべきことは一つだ。神楽が医者を探しているのなら、自分もそうするまで。たとえ無意味なほどに低い可能性でも、魂がしたいと思うことが大事だ。
「人一人駄目になるかどうかなんだ、やって見る価値はありますぜってんだ。」
銀時はバイクのアクセルを吹かした。
393
:
◆BrXLNuUpHQ
:2025/07/12(土) 07:41:10 ID:???0
「あれは警察署じゃないですかい?」
医者探しに出た銀時と時を同じくして。
警察署には1台の四駆が近づいてきていた。
ハンドルを握り問いかけたのは、黒ずくめの男、ウォッカ。犯罪組織の幹部である彼は、当然その素性など話すはずもなく。そしてその真後ろの座席で心配そうに景色を見ているのは宮美一花である。反社会的勢力と女子中学生という犯罪的な取り合わせであった。
彼らが安全そうな駅から離れて1時間ほどの間車を走らせていたのは、一花の頼みに理由がある。彼女の妹である二鳥の目撃情報が手に入ったからだ。
「そうですね……景色に見覚えがあるし、この辺りで会いました。」
その目撃情報というのが、後部座席で一花の隣に座る深海恭哉である。実のところ、彼はルーミィという幼女を殺そうとしたところを二鳥たちに見つかってごまかした。そんな事情で二鳥たちから離れたのでもちろんあまり会いたくない相手なのだが、既に3時間ほど前だということを考えて、割と正確な情報を答えていた。どうせ死んでいるだろうとは思うが、不自然にならないように時間を稼ぎつつ、彼女たちの遺体を見つけることを願う。
そして助手席で氷室カイは、この状況をどう楽しむかを考えていた。主催者の1人でありながら自らジョーカーとなった彼にも予想のつかない展開になりつつある。果たして行く先に何が待ち受けているのか、そう期待を込めて前を眺めていると、思いの外早くそれは現れた。
(オレンジのジャージ、うずまきナルトか。)
警察署から飛び出してきたのは病院からこちらへと向かったナルトだった。車に手を振っている姿からは殺し合いの緊張感というものを感じないが、それを表情には出さずに「ウォ、魚塚さん!? 人です!?」とカイは気弱な青年の演技をする。もちろんウォッカは言われるまでもなく目視しているだろうが演出というものは大切である。
(チッ、面倒だな。)
それはウォッカも同じである。不用心だか減速する。本当は跳ねてしまいたいところだが、麻薬捜査官というロールはまだ価値があるし、さすがに子供を跳ねるのは印象が悪すぎる。うっかり一花の知り合いについての情報など持っていられるとこの面倒なドライブを続けなくてはならないのかもしれないのも手間だ。
そして、その心配はすぐに現実のものとなった。
「二鳥!? なんでお前こんなのに乗ってんだってばよ!?」
「二鳥!? あなた二鳥に会ったの!?」
「二鳥はお前だろ!」
会話が始まってすぐに情報交換が始まった。幸か不幸か、出会ったのは二鳥の同行者である。さてどうしようかと恭哉とウォッカが考えていると、決断を出すより早くナルトが煙となった。
(ワオ。これが影分身か。)
驚くカイ以外のリアクションを楽しみつつ、カイ本人も初めて生で見た忍術に興奮を覚えざるを得ない。参加者全員の情報は事前に把握済みで頭にも入っているが、身を持って体験するのはやはり違う。やって良かった、バトル・ロワイアル。そんな風にカイが感動していると、4人の前に警察署の中から一花と瓜ふたつの少女が駆け出してくるまで1分も経たなかった。
「一花!」
「二鳥!」
同じ顔で同じ制服の少女たちが駆け寄り、抱き合う。鏡合わせのような光景にカイは微笑みを、恭哉とウォッカは複雑な顔を作る。果たして自分が殺し合おうとしていたとバレてないか、果たして有益な情報が取れるような人間か。値踏みする視線の先には、更なる人影が現れる。
394
:
◆BrXLNuUpHQ
:2025/07/12(土) 07:41:35 ID:???0
(まあ、1人じゃねえよな。)
(あの子はいない……死んだのか?)
先のナルトに、和服の少女、そして和服の男が警察署から出てきて、彼らは超常現象を起こしたナルトよりも他のことが気になる。ウォッカは和服の男、石川五エ門の只者ではない雰囲気を、恭哉は二鳥と一緒にいたはずの野原しんのすけたちがいないことを気にする。
「二鳥! ああ良かった、無事で。待ってその血はなに? 怪我してるの? 早く手当てしないと。」
「落ち着いてって。それより三風は? この辺りにいるらしいねんけど。」
「皆さん、どうぞ中へ。」
「不逞の輩が潜んでいるかもしれぬ。話は中でしよう。」
関織子に続いてそう言う五エ門は明らかに負傷している。にもかかわらずその覇気はウォッカをして戦慄させるほどのものだ。確信する。絶対にカタギではないと。
「……うごっ。」
(コイツは確か、チョコか。)
そして中で黒鳥千代子を確認し、桃花・ブロッサムの探していたチョコお姉ちゃんも見つける。気絶しているのは気になるが、情報は集められそうだ、少しの間ここに腰を落ち着けよう。
これまでの4時間の間の情報交換はすぐさまに始まった。
「それで三風はどこにいるの?」
「それがわからないから困ってるんや。チョコちゃんはこの辺りで見たって言うとったやけども……」
「チョコって、この子? 生きてる……よね?」
「うん……」
「気絶してる? 何があったの?」
「それが……わからへん。変な侍と戦っとったみたいやけど。」
「サムライ……?」
まずは自己紹介より先に、一花と二鳥の妹探しを一同は優先した。どちらのグループも宮美家の四つ子のノリは知っているので、扱い方も同じになる。実はこうまで切羽詰まるのは稀なのだが、そんなことはわかりようもない。
そうして話させていると、次第に話題はそれぞれのこれまでへと移っていく。他の人間ならいざ知らず、姉妹となるとさすがに情報交換を優先するようだ。
「私の方は……そうだった、これ。」
切り出したのは一花の方からだった。そういえばと、新庄ツバサのメモのコピーをポケットから取り出す。駅での情報交換のメモを彼から出発する時に渡されたのを思い出して、一花はそれを広げた。
さてこうなると困るのは二鳥である。彼女はこれまで銃撃のショックと妹を探すことでほとんど情報交換らしきことをしていない。これまで共にいた五エ門やナルトにサスケはもちろん、最初に出会った花丸円や黒鳥千代子の苗字もわからない。警察署に集まったメンバーなど半分以上は名前すら知らなかった。なにより、話せるはずがない。自分が人一人殺したかもしれないなどと。
「こっちは……その……」
「ごめんなさい、辛いことを思い出させたわね。」
だがそんな妹を一花は優しく抱きしめた。一目見て尋常な状態じゃないことはわかる。それなのに嫌なことを考えさせた自分を一花は恥じたのだ。
「違う……謝らんといて……」
「ううん、謝らせて。悪かったわ。」
そんな一花を見て、今度は二鳥が恥じ入る。自分が言い出せないでいるせいで、姉に余計な申し訳無さを感じさせて、傷つけている。そんな自分がたまらなく情けないのに、姉に人殺しだと知られることがたまらなく嫌で、何も言い出せないのだ。
「皆さん、お茶いれてきました。」
織子ことおっこがそう言ったことで軽食をつまみながらの情報交換へと移行したことで、二鳥はほっとした。この針のむしろから開放されたことに。そうしてほっとしている自分に嫌になって、今すぐ三風を探しに行くと言って外へと出て行きたくて、しかしそれが姉を危険に晒すことになることもわかっていて、何も言えずに湯呑みを握りしめることしかできなかった。
395
:
◆BrXLNuUpHQ
:2025/07/12(土) 07:42:00 ID:???0
「すみません、医者の情報はありません。」
「まあ、そうだろうな。それでだ、病院に行くのは。」
「はい、お願いします。」
「お前さんは。」
「……『おねがいします』。」
警察署で情報交換が進む頃、銀時は風見涼馬と桜木紅絹と合流していた。
これまでの道すがら、銀時は単車を2人の待つ方角へと向けながらも、人の痕跡が無いかを調べていた。待たせている相手もいるので、医者探しを行う場所は自然と決まる。
そして今この場に3人しかいないことがその結果だった。
(仗助が生きててくれりゃってのは、言えねえな。)
医者は見つからなかった。代わりに見つかったのは、医者よりも頼りになったであろう東方仗助の死体だった。
涼馬と紅絹を見つけた民家から少し離れた場所できな臭さを感じ、近づいた所で発見したのは、斬殺された仗助の息を引き取った姿。その傷口から下手人は相当の剣客だとわかる。たとえば、雪代縁のような。
怪我を治せる人間は死人として見つかり、それを殺ったであろう人間の実在を信じることになる。警察署から来た人間の話と合わせても、確実に縁がいるのだろう。そもそも銀時がこうして医者を探しているのも、もとを正せば縁が双葉を傷つけたからに他ならない。
それどころか、交番で見つけた4つの死体、あれも縁が殺ったかもしれない。特にあの中の1人、制服姿の少女は確か宮美四月だと涼馬から聴いている。というのも、彼が四月の姉の三風と共にいた時に妹の死体を見つけたからで、彼に代わって三風の捜索も引き受ける気でいた。そしてその三風は、警察署のグループの1人が探している少女でもあるらしい。
四姉妹全員攫って縁にぶつけられたせいでとんでもない被害が出ている。一刻も早くなんとかしなくてはならない。
だがそれは、もう確実に助からない双葉よりも優先すべきことなのだろうか?
「銀さん、病院には怪我をしている人がいるんですね?」
「ああ、お前さんたち届けたら医者探しに行くよ。」
「……わかりました。」
サンケツするシートの最後尾から話しかけてきた涼馬の声はわずかに重かった。返事にあった間にはどんな感情があるのか。おそらくは、銀時と同じだろう。
これから直面するのは死ぬのを見守るしかない相手だ。病院だというのに、怪我人を治せる者などいない。唯一の希望も今は死者。銀時は涼馬のことをボーイスカウトか何かぐらいに考えているが、それでも彼が責任を感じるだろうなと察せられた。
「飛ばすぜ。」
銀時は背中に抱きつく紅絹が密着したのを感じてアクセルを吹かした。
確かに仗助は死んでいた。だがそれは、1つの可能性を意味していた。
仗助以外にも人を治せる人間がいる可能性を。
(ナルトがいんなら医療忍者とかもいんじゃねーか? だいたいバトルもんには1人ぐらいヒーラー役がいるもんだ。)
銀時の方針は固まっている。継続して医者や治癒能力持ちの人間を探す。
双葉が助からないなど、医者でもない己(テメェ)が決めて諦める真似はしない。神楽が諦めていないのに、銀時が止まっていたら、魂が死んでしまう。
「おい知ってるか!」
風を切る音に負けないように叫ぶ。
「諦めたらそこで試合終了ですよ!」
銀時は一層アクセルを吹かした。
396
:
◆BrXLNuUpHQ
:2025/07/12(土) 07:42:26 ID:???0
「諦めたらそこで試合終了ですよ……か。」
それから小一時間後、涼馬と紅絹は警察署に居た。
銀時は病院の人間と引き合わせると直ぐに単車を走らせ、残された2人はその場の人間と情報交換を行った。
自分たちを襲ったあの白髪の侍が警察署を襲撃したことや、三風と四月の姉が警察署にいることを知れば、どこへ向かうかはすぐに決まる。事前にある程度銀時から話を聞いていたのもあったが、涼馬自身の人間性から手早く行動をしていた。
「送っていただいてありがとうございます白銀さん。」
「『ありがとうございます』」
「いや、首のお礼だ。」
ここまで来るまで連れてきてくれた白銀に、紅絹と2人で頭を下げると、白銀は首のコルセットを軽く叩きながら薄く笑った。一通りの救急救命技術を習得している涼馬が手早く病院にあったコルセットを装着すると、むちうちの痛みが驚くほどに、とはいかないまでも、だいぶ軽減された。これまではコーヒーのカフェインで無理矢理痛みを飛ばしていたが、飲む量を半分に減らしても良いと思えるほどの改善に、涼馬を信頼しても良いと思えるほどのものを感じたのが2人に協力した理由である。でなければかぐやを置いて殺し合いの場で動きなどしない。
「帰る時も探しておくよ。」
「お願いします。」
「おっと、もう出るのか。ならこれを。」
「貴方は……魚塚さんでしたね。」
帰りがけに同じように車を走らせようと準備していたウォッカがツバサのメモを渡す。駅のグループとの情報交換よりも帰還と医者探しを優先しているのだが、思いもよらない収穫物に素直に受け取る。嘘や偽りや間違いがある可能性を考えても情報があるに越したことはない。
「こちらでも情報を纏めておきます」と残して車に乗り込む白銀に続いてウォッカも車を出す。こちらは医者を探すのと駅の人間を警察署に連れてくるという名目で、独自に情報収集するのが目的だが。この調子なら放っておいても情報は警察署と病院に纏まっていく。ウォッカとしては自分だけが把握している地理なり武器なりを集めておくことを優先したい。
「うん……まだ起きないんだ……」
カイが桃花に電話している横を抜けて、涼馬は寝かされているチョコの元へと向かう。彼が警察署に来たのは彼女も理由の1つであった。
自分では双葉の処置は不可能だがチョコならば可能かもしれない。三風の捜索はもちろん大事だが、助けられる命があるとわかっているのならそちらを優先する。もし手のうちようがないのならすぐに出発する気でいた。
(脈はしっかりしている。呼吸もだ。意識レベルは悪くない。五エ門さんの見立て通りだ。)
そうしてチョコを診て彼は直ぐに出発を検討した。聞かされたとおり、この失神は外傷などのものによるとは見えない。服で隠れている部分は同性の紅絹に診てもらったが、素人の彼女から見ても怪我は無いようだ。仮にあったとしても、頭部に傷が見られないことからそれが失神と関係ある線は薄かったが、手がかりに違いはない。
発見時に多量の発汗が見られたことから、自律神経の失調や強いストレスと予想した。過労による貧血の線もあるが、二鳥から聞いたチョコの数時間前の様子からその可能性は低いと見る。医者と比べれば拙い判断だと自覚はあるが、生還士としての訓練と経験から、彼女の容態が急変するリスクは少ないと判断できた。
なら次に行うべきは。
■
397
:
◆BrXLNuUpHQ
:2025/07/12(土) 07:43:21 ID:???0
「氷室さん、宮美さんたちはどちらですか?」
「えっと……あっちのベンチにいたかな。」
「ありがとうございます。」
電話を終えて手持ち無沙汰そうにしていたカイに案内されて宮美姉妹の元へと向かう。ここに来た目的としては、三風の捜索である。それが第一義だ。だがこれはやっておかなければならない。
宮美四月の死を伝えることを。
「……」
「はい、行きましょう。」
紅絹の無言の、しかし雄弁な頷きを見て、涼馬も覚悟を決めた。四姉妹全員と巡り会った自分がやらなければならない。これはそういったことなのだ。足取りが重いのを自覚しながらも、しっかりと踏み出して、歩む。長いようにも短いようにも感じる一瞬のうちに、涼馬は瓜ふたつな少女たちの前へと進んだ。
「宮美さん、お話したいことがあります。」
「……」
「……風見くん、だったっけ。なにかしら?」
反応したのは一花の方だった。姉妹は互いへの思いから、三風を探すことよりも互いに寄り添う今から抜け出せずにいた。それが切り替わるのは、すぐ後のことだった。
「──四月さんが亡くなられていたのを、三風さんと確認しました。」
5分か、10分か。その間、その場から音が消えた。
覚悟はしていた。こうなることは。この沈黙を味わうことは。
「……しづ……三風と、会ったのね。」
そう言う一花の顔面は蒼白だった。何かを言おうとしては口を開け、二鳥と顔を見合わせては口を閉ざし、それを何度も繰り返した末に出たのがそれだった。
「はい。その後雪代縁に襲われ、安否不明です。」
努めて涼馬は、淡々と話した。「雪代縁」と二鳥が呟くのが聞こえた。彼女の手は一花の手を固く握りしめ、また握りしめ返されているようだった。ブルブルと震えるその手が跳ね上がり、次いで姉妹は同時に立ち上がった。
「……三風を探さないと。」
「うん、早く探そう、行かな。」
「手伝います。」
未だ雪代縁が近くにいる可能性は高い。そう判断しているにも関わらず、涼馬は決断した。状況から考えれば、既に三風も死亡している可能性は高い。だがそうであっても2人を三風捜索に往かせることは重要だ。
今も武装している精神不安定な人間を隔離するためにも。
(桜木にはここに残ってもらう。アイツを庇いながらじゃコイツらに対処できない。)
いつ暴発するかわからない爆発物にも、悲劇に見舞われた遺族にも、どちらにも見える。そしてその2つは両立し得る。人は故あれば人を傷つける。それが本意ではなくてもだ。
宮美家の為に妹を探す。他の参加者の為に宮美家を隔離する。非情でもやらなければならない。彼女たちにこれ以上の悲しみを背負わせないためにも。彼女たちが悲しみを生み出さないためにも。
だがそれは、2人の殺し合いに巻き込まれた被害者と己自身を危険に晒すような悪行を肯定するのだろうか?
「じゃあオッチャン、頼んだってばよ。」
「ああ。ここを頼む──」
「石川さん、私たちも三風さんの捜索に向かいます。」
三風の命を諦めたくないのか、それとも一花と二鳥の鎮静を諦めたくないのか、それとも自分でも無意識なうちに既に諦めた後なのか、答えは涼馬自身にもわからなかった。
398
:
◆BrXLNuUpHQ
:2025/07/12(土) 07:43:43 ID:???0
そうして時間は、第一放送が流れる6時を迎えた。
幸運にもこの何時間かを身の危険なく過ごした一堂に、その情報は容赦なく与えられた。
「もしもし。」
「もしもし、サスケ!」
「叫ぶな、聞こえてる。」
放送から10分ほどしてからだろうか、慣れないスマホに戸惑いながらも耳に当てれば、サスケに聞こえてきたのはナルトの声だった。
「もしもし、松野さん。これ聞いたらすぐに折り返してください。」
警察署ではおっこがおそ松に何度目かの通話を試みていた。留守電に入れると、今度は涼馬に持たせたスマホへと発信する。
「大変だぁ、双葉ちゃんが、双葉ちゃんが死んだあっ。」
「メイ子、電話や! 神楽と銀さんと、ええっと後、そうや、警察署にも!」
「かけてます。通話中? タイミング悪いな。」
そして病院ではトオルに看取られながら吉永双葉がついに息を引き取った。翠もその感覚で双葉から命が喪われたのがわかる。
新しい情報とその共有が、参加者を大きく変えていく。
399
:
◆BrXLNuUpHQ
:2025/07/12(土) 07:44:14 ID:???0
そうして時間は、第一放送が流れる6時を迎えた。
幸運にもこの何時間かを身の危険なく過ごした一堂に、その情報は容赦なく与えられた。
「もしもし。」
「もしもし、サスケ!」
「叫ぶな、聞こえてる。」
放送から10分ほどしてからだろうか、慣れないスマホに戸惑いながらも耳に当てれば、サスケに聞こえてきたのはナルトの声だった。
「もしもし、松野さん。これ聞いたらすぐに折り返してください。」
警察署ではおっこがおそ松に何度目かの通話を試みていた。留守電に入れると、今度は涼馬に持たせたスマホへと発信する。
「大変だぁ、双葉ちゃんが、双葉ちゃんが死んだあっ。」
「メイ子、電話や! 神楽と銀さんと、ええっと後、そうや、警察署にも!」
「かけてます。通話中? タイミング悪いな。」
そして病院ではトオルに看取られながら吉永双葉がついに息を引き取った。翠もその感覚で双葉から命が喪われたのがわかる。
新しい情報とその共有が、参加者を大きく変えていく。
400
:
◆BrXLNuUpHQ
:2025/07/12(土) 07:45:07 ID:???0
【0610 『南部』警察署とその周辺】
【宮美二鳥@四つ子ぐらし(1) ひみつの姉妹生活、スタート!(四つ子ぐらしシリーズ)@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
四月が……死んだ?
●中目標
三風を探す。
【石川五エ門@ルパン三世VS名探偵コナン THE MOVIE(名探偵コナンシリーズ)@小学館ジュニア文庫】
【目標】
●大目標
殺し合いからの脱出。
●中目標
次元が死んだか、それとも首輪を外したか。
●小目標
警察署に戻る。
【黒鳥千代子@黒魔女さんと最後の戦い 6年1組 黒魔女さんが通る!!(20)(黒魔女さんが通る!!シリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
殺し合いを止める。
●中目標
ギュービッド様と古手梨花さんを探す。
●小目標
???
【うずまきナルト@NARUTO-ナルト-白の童子、血風の鬼人(NARUTOシリーズ)@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
サクラちゃんを殺した奴を殺す。
●中目標
二鳥の妹を探す。
●小目標
警察署を警備する。
【ウオッカ@名探偵コナン 純黒の悪夢(名探偵コナンシリーズ)@小学館ジュニア文庫】
【目標】
●大目標
生き残る。
●中目標
桃(桃花)や氷室たちを利用する。
●小目標
なんだこのいい加減な放送? まあ情報にはかわりねえか、このまま集めよう。
401
:
◆BrXLNuUpHQ
:2025/07/12(土) 07:45:23 ID:???0
【宮美一花@四つ子ぐらし(1) ひみつの姉妹生活、スタート!(四つ子ぐらしシリーズ)@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
生き残る。
●大目標
四月が……死んだ?
●中目標
三風を探す。
【深海恭哉@ギルティゲーム(ギルティゲームシリーズ)@小学館ジュニア文庫】
【目標】
●大目標
生き残る。
●中目標
対主催に紛れ込み、自分の信頼を上げる。
●小目標
今呼ばれた名前……ギルティゲームで死んだはずの子の名前まで……
【氷室カイ@天才謎解きバトラーズQ vs.大脱出! 超巨大遊園地(天才謎解きバトラーズQシリーズ)@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
主催者兼ジョーカーとしてゲームを楽しむ。
●中目標
対主催に紛れ込み、ステルスマーダーする。
●小目標
81か、予想より少ないかな。
【風見涼馬@サバイバー!!(1) いじわるエースと初ミッション!(サバイバー!!シリーズ)@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
生き残り、生きて帰る。
●中目標
警察署を拠点をとし、殺し合いに巻き込まれた方を保護する。
●小目標
宮美家を見張りつつ三風を探す。
【桜木紅絹@天使のはしご1(天使のはしごシリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
死にたくないけど……今起こっていることを受け止めきれない。
●中目標
お姉ちゃん……
【関織子@若おかみは小学生! 映画ノベライズ(若おかみシリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
白銀さんたちとみんなで殺し合いから脱出する。
●中目標
ピンフリにあかねさんが……でも嘘かもしれないよね。
●小目標
色々電話する。
402
:
◆BrXLNuUpHQ
:2025/07/12(土) 07:46:06 ID:???0
【0610 『南部』病院とその周辺】
【アスモデウス・アリス@魔入りました!入間くん(1) 悪魔のお友達(入間くんシリーズ)@ポプラキミノベル】
【目標】
●大目標
会場を探索し、入間がいれば合流。
●中目標
シノミヤ・カグヤたちを入間に献上する。
●小目標
81か。参加者はそれなりに多いようだ。
【山田奈緒子@劇場版トリック 霊能力者バトルロイヤル 角川つばさ文庫版@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
上田さんが、死んだ?
【白銀御行@かぐや様は告らせたい―天才たちの恋愛頭脳戦― 映画ノベライズ みらい文庫版@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
情報を集めて脱出する。
●中目標
家族や生徒会の手がかりを探す。
●小目標
人数も内容も信じがたいが……
【四宮かぐや@かぐや様は告らせたい―天才たちの恋愛頭脳戦― まんがノベライズ 恋のバトルのはじまり編@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
何が起こっているか調べて、脱出する。
●中目標
家族や生徒会の手がかりを探す。
●小目標
人数も内容も信じがたいが……
【神楽@銀魂 映画ノベライズ みらい文庫版(銀魂シリーズ)@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
定春──?
403
:
◆BrXLNuUpHQ
:2025/07/12(土) 07:46:34 ID:???0
【風間トオル@映画ノベライズ クレヨンしんちゃん ガチンコ! 逆襲のロボとーちゃん(クレヨンしんちゃんシリーズ)@双葉社ジュニア文庫】
【目標】
●大目標
しんのすけ……ねねちゃんまで……
●小目標
双葉ちゃんが死んだあっ
【坂田銀時@銀魂 映画ノベライズ みらい文庫版(銀魂シリーズ)@集英社みらい文庫 死亡】
●大目標
デスゲームものなんて一時期のマガジンかよ。今のジャンプでこういうのはウケねーぞコノヤロー。
●中目標
定春の名前が呼ばれた──
●小目標
病院に戻る。
【名波翠@宇宙からの訪問者 テレパシー少女「蘭」事件ノート9(テレパシー少女「蘭」事件ノートシリーズ)@講談社青い鳥文庫】
●大目標
知り合いと合流して脱出する。
●中目標
蘭……やっぱり……
●小目標
色々連絡する。
【玉野メイ子@サイキッカーですけど、なにか? (1)ようこそ、ウラ部活へ!?(サイキッカーですけど、なにか? シリーズ)@ポプラキミノベル】
【目標】
●大目標
まず死にたくない、話はそれから。
●中目標
とりあえず翠に従っとく。
●小目標
この首輪で死者をカウントしてる? それとも放送自体ブラフ?
404
:
◆BrXLNuUpHQ
:2025/07/12(土) 07:46:58 ID:???0
【0610 『不明』 森近くの民家】
【うちはサスケ@NARUTO-ナルト-白の童子、血風の鬼人(NARUTOシリーズ)@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
サクラを殺した奴を殺す。
●中目標
宮美三風を探す。
●小目標
情報交換する。
【藤山タイガ@絶滅世界 ブラックイートモンスターズ 喰いちぎられる世界で生き残るために@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
主催者をぶちのめして生き残る。
●中目標
胸に刃物が刺さってる男子(タイ)から情報を吐かせる。
●小目標
情報交換する。
【脱落】
【吉永双葉@吉永さん家のガーゴイル@角川つばさ文庫】
405
:
◆BrXLNuUpHQ
:2025/07/12(土) 07:49:31 ID:???0
投下終了です。
タイトルは『鮮明になったのは──』になります。
406
:
◆BrXLNuUpHQ
:2025/08/31(日) 08:51:55 ID:???0
投下します
407
:
◆BrXLNuUpHQ
:2025/08/31(日) 08:52:27 ID:???0
「おーい、リストコピーして来たぜ。」
「こっちも終わったなっしな。」
時刻は6時手前。
会場北部にある小学校の体育館の、校舎からなるべく離れた位置には青いビニールシートが敷かれている。
その上に並べられた死体を見て野宮球児は気分を悪くしながらも、その場にいる5人(梨を含む)にプリントを配布した。
「なんか数合わなくねえか。こんなにいたのか。」
「安永さん、さっき車椅子とかピエロの人たちも来たからじゃないですか。」
「数え違えたか?」
ふなっしーの隣で死体を検分していてやはり気分を悪くした安永がやや青い顔で言うのを、球児は顔を背けて言葉を返す。鼻で息をしないようにしているのもあって上ずったその声に、誰も意図を聞くようなことはなかった。
保健室での騒ぎの後、江戸川コナンや相原徹といった面々は情報の整理に取り掛かっていた。それぞれ知り合いに出会えたことである程度役割分担ができる。コナンとしては不審な鷹野三四から目を離して灰原哀と小嶋元太と離れることは避けたかったが、灰原も判断能力はあるようだし元太も何かあったら直ぐに探偵バッジを使うだろうし、一応任せることとする。正直なところ、今の灰原は若干、いやかなり怪しいところはあるが、それは元太もわかっているようで、なおかつ何かあれば探偵バッジという阿笠博士の発明品を使いたがるタチだと見越して任せることにする。それにこれだけの死体を前に、探偵が動かないわけには行かない。
(殆どの死体は熊に襲われたものみたいだが、いくつかは明らかに変だ。)
「江戸川、大丈夫か?」
「うん、僕のおじさん探偵だから、ヘーキだよ。」
「……そうか。」
心配そうに声をかけた相原が言葉を飲み込んだのには気づいたが、だからといってこれ以上に上手い誤魔化しようもないので放っておく。コナンの関心は、死体とこの学校にいる人間のことだ。
今現在、コナンが一番の課題としていることが何かと言えば、それはこの学校に何人いるかわからないということだ。もっと言えば、この学校に殺人犯が潜んでいる可能性が高いということだ。
小学校を避難所とするのは発想としてはありきたりなものだろう。特に小中学生にとっては。そうした理由でここに集まったのが学生中心なのか、それともこの殺し合いに拉致された人間が学生中心かのかはわからないが、とにかく沢山の人間がここに集まってきている。そしてその中には殺人犯が紛れ込んでいる可能性を排除できていなかった。
はじめ、コナンは殺人についての情報を優先して集めていたのだが、複数のグループはそれぞれ殺害現場を直接見たり間接的に聞いたり、あるいは自分たちが襲われたりなどあまりに頻発していて方針を変えざるを得なかった。わかっているだけで数え切れぬほどの銃刀法違反に複数の獣害、そして殺人だ。たとえばコナン達は黒鬼を名乗る子供に暴行を加えられたし、ふなっしーが出会った少女たちは竜堂ルナなる少女に殺害されかけた可能性がある。あるいは目の前の死体をここまで運んだ沖田悠翔たちのように、謎の魔法使いによる殺人を目にした者もいる。もちろんなんらかのトリックだろうが、それは残念ながら今考えている間は無い。同時にこれだけ事件が起こると、まずやるべきことはこれ以上事件を起こさせないことだ。
「沖田さん、さっきのリストを見せてあげようよ。」
「……そうだな。」
人が死ぬのを見ているしかなかった負い目から遺体の安置に協力していた悠翔だが、疲労もあって青褪めた顔で小さく返事をする。それでも弱々しく差し出したのは、校外学習などで使うバインダーだ。そこには職員室から持ってきたコピー用紙が何枚か挟まれ、一番上の紙には死体の特徴が列記されていた。
ますます顔が青くなりながらもそれを読む球児だが、一通り読んだあとはほっと息をつく。あらためて自分の知り合いと思わしき遺体は無いことを再確認した安堵だ。そもそも彼や他の男子が遺体の収容や検分しているのは、それぞれの知り合いが死亡している不安からだ。顔面が損壊している遺体もありそれが多大なストレスを与えもしたが、しかし誰の知り合いも存在しなかった。そのことがこの場の人間の冷静さの源泉である。
408
:
◆BrXLNuUpHQ
:2025/08/31(日) 08:53:21 ID:???0
(この人たちが落ち着いていてくれて良かった。銃を持ってる子供が相手じゃ手が出せないからな。)
「しっかし、血生ぐせえな。校舎の方まで臭いそうだぜ。」
「安永! いや……そうだな。みんな動揺するよな。」
「ああ。コイツらには悪りいけどよ、死体ってのがこんな気分悪くなるもんだって思わなかったぜ。」
「これからどんどん臭うだろうしな。冷房でもつけれれば少しは、腐るのを遅くできるかもな。」
「……悠翔くん、気分悪いなら我慢しないほうがいいなっし。」
「……平気です……」
まずは小学校に潜む殺人犯らしき人物がいないか確認する。そのためには最低限何人いるかは把握しなければ。次はそれぞれの情報を整理して、凶器を手放させて……コナンがそう今後の段取りを考えていると、唐突に周囲に音楽が響いた。
「悠翔くんスマホ鳴ってるなっし?」
「いやちが。」
「おいスピーカーからも流れてんぞっ。」
「スピーカーだけじゃない、首輪からもだ!」
安永にそう答えたことでコナンは冷静さを取り戻す。自分より混乱している人間から受ける恩恵というものはある。それがコナンに放送へ耳を傾ける余裕を生む。
『──えっと、今後は6時間ごとに放送する。毎度前回からの脱落者と、追加ミッションと、あと雑談を話すからよく聞いとけ〜。脱落者は死んだヤツの名前、ミッションは新ルールの追加、雑談は、まあ話すヤツの気分だな。で、脱落者の名前は……』
「なっ!?」
そんな余裕は直ぐに吹き飛んだ。聞こえてきた言葉に耳を疑った。聴きたくない、聴かせたくない言葉が一度に続いた。
追加ミッション、その意味は犯人は何らかの方法で殺し合いを強制させるか、あるいは殺し合うように誘導するということだろう。これだけでも事件の動機になるが、それよりも恐ろしいのは、脱落者──誰が死んだかの情報だ。
(おそらくこの首輪には、ウエラブルデバイスみてーに着けている人間の心拍数でも測るセンサーが入っている。それで誰が生きてるかわかるんだろうが、そんなの俺らには確かめようがねえ。そもそも犯人がバカ正直に正確な情報を言うとは限らねえ。)
(だがそれでも、大切な人の名前を呼ばれれば誰だって動揺する。)
コナンは十中八九、伝えられる死者の情報は真実だと推理していた。この『十中八九』が厄介なのだ。
技術的には民間に出回る家電を組み合わせるだけでも正確な生死の判断はできるだろう。なんなら阿笠博士ならもっと多機能な物を作れる。この首輪に求められるだろう機能はその程度のものだ。よって重要なのはそこではない、それを使う側だ。問題は犯人の動機がわからないなら、どこまで正しく話すかが絞りきれないということなのだ。嘘を話す理由は思いつかないが、それは話す内容が『確からしい』と思える程度のことしか意味しない。
例えば、総理大臣の名前が呼ばれたとしよう。しかし実際には総理大臣は参加者でないとする。この時、日本人ならば大なり小なりショックを受けるのは間違いないだろう。たった1名嘘の名前を読み上げるだけで、何十人もの人間を動揺させられる。
そしてもっと悪い場合は、実際に総理大臣でも誘拐されていて、殺し合いの中で殺害されていた場合だ。これはその一人に関しては放送の内容が正しいことを意味する。だがそれだけだ。その一例だけで放送で読み上げられる被害者が全て死亡したと決めつけられるわけではない。それでも放送を真実だと思わせるには充分だ。
嘘とブラフでパニックを起こすのはどこかの怪盗もやる手だが、この殺し合いの場でのそれは悪辣さが違う。警察もいないこの場では誤情報を訂正することもできずに、被害者の間で情報の認識に差が生まれる、差が不信を生み出す。銃器が大量に放置されているこの場で疑心暗鬼が拡がれば、殺し合いは避けられない。
409
:
◆BrXLNuUpHQ
:2025/08/31(日) 08:54:27 ID:???0
(警察の救出を待ってる時間は無い。だが脱出しようにもこの放送の内容次第じゃ──)
『アガツマゼンイツ、アカネザキムー──』
コナンに考察の時間など与えやらんとばかりに死者の名前が読み上げられ始める。ぐぅの音も出ないがやるべきことは事前にやっておいた。この放送はスマホからも流れている、レコーダーを起動して直ぐに放送を録音した。まずは与えられる情報を聞き逃さないことだ、そう切り替えるコナンに、直ぐ洗礼が浴びせられる。
『──アキラ、アケチコゴロー、アケチミツヒデ、アベソウタ──』
(明智小五郎? 明智光秀? おいおいまさか、あだ名だよな?)
『──アマノシロウ──』
「天野!?」
聞こえてきたのは推理小説のキャラクターの名前に戦国武将、そして隣の相原の、安永のクラスメイトの名前だ。
にわかに周囲の空気が殺気立つ。先程までのピリついたものから雰囲気の濃密さが変わった。
『──オグロケンジ──オーバヒロト──カラデラケン──キクチエージ──』
「小黒に菊地……?」
「……」
「ウッソだろ……おい。」
(また知り合いが呼ばれたのか? それに今オオバヒロトって言わなかったか。主催者側だと言っている奴が探している人間が呼ばれた、どういうことだ。)
次々と相原のクラスメイトの名前が呼ばれていく。球児のクラスメイトの名前も呼ばれ、その合間にオオバヒロトの名前があることをコナンは聞き逃さない。危険人物が探すように言っていた名前が死者として読み上げられる。そのことは充分にコナンの注意を引いた。
『──ジゲンダイスケ──ゼニガタコーイチ──』
(銭形警部まで……!)
だが推理など許さんとばかりに、コナンの知り合いの名前も呼ばれていく。殺しても死ななそうな人間の名前が次々に呼ばれて。さしものコナンも頭がそちらに向く。そして。
『──ツブラヤミツヒコ──』
その名前が流れて、コナンはハッとした表情になったあと、奥歯を噛み締めた。
冷静であればわかっていたはずだ。元太がいて灰原がいるのだ、少年探偵団のメンバーが他にも巻き込まれている可能性には。その可能性を無意識の内に小さなものと考えていた。そのぶんだけ、今、こうして強いショックとしてコナンに降りかかる。
(……いや待て、光彦が本当に死んだ可能性は……バーロー、高いに決まってる。明智光秀や織田信長ならともかく、光彦をブラフにして影響を受ける──)
『──マツノイチマツ、マツノジューシマツ、マツノチョロマツ──』
(おいおい、なんかマツってつく名前やたら呼ばれてないか?)
そして仲間の死を受け止める時間も無く放送は続く。一時思考の海に浸りかけたが、コナンの耳は放送の違和感を逃すことは無かった。
やたら『マツ』がつく名前が多い。偶然か、それとも故意か。コマツバラを始め苗字に『マツ』が付くものだけでなく、名前にも『マツ』が付くものが多い。よく思い出せば、妙な形容詞付きのなんとか『マツ』が多かった気もする。
この異様な『マツ』推しはなんなのか。並行して考えようにも、放送は続く。
410
:
◆BrXLNuUpHQ
:2025/08/31(日) 08:55:21 ID:???0
『──おっと、追加ルールの発表、忘れるところだったぜ。追加ルールは……ジャン! キルスコアレース! 6時間で一番殺した参加者は、優勝者とは別にゲームから勝った扱いになるぜぇ。今からリモートで首輪外すからよ、ゲーセンかどっかで終わるまで暇つぶししてくれよ。』
『次の放送で脱落者として名前呼ぶから、みんな気いつけて聞きぃ。ちなみにこのルールはこれからも有効や。みんなん中で次の6時間で一番殺したやつも抜けられるで。今ならキルスコア2倍で、参加者一人殺したら二人殺したことにしたる。前の6時間で何人も殺したマーダーもおるけど、これで今からでも追いつけるで〜。あ、首輪外れてるやつはキルスコアにならんから気いつけてなぁ。』
「クソッ!」
思わず悪態が口から出た。冴えた頭を持つ探偵には似つかわしくない振る舞いだが、ヘドが出なかっただけマシだろう。
案の定だが、追加ルールは殺人を煽るものだった。多く殺したものが助かるなどという、命をキルスコアとしか見なさない殺人ゲームが、誰の耳にも届く形で伝えられた。その恐ろしさに背筋が寒くなる。
なによりタイミングが悪い、最悪だ。あの放送を聞いて自分の知り合いが死んだ者にとっては正しく悪魔の囁きである。特にまずいのが、首輪から解放された人間がいるというところだ。それはつまり、知り合いを殺した殺人犯が殺し合いから解放された──そういう考えに行き着く道が作られたことになる。
読み上げられた死者の名前は81名。戦国武将などの名前もあるため、ほぼ全員が知った誰かの死を知ったかもしれない。そんな彼らに、光彦を失ったコナンを含めた者たちにこう告げたのだ。「お前の知っている人大切な人を殺した犯人は、殺し合いから解放されたぞ」と。
(んなの誰が納得できんだ。こんな殺し合い開いた奴が一番悪いってわかってても、首輪外した奴に恨みが行っちまう。本当は殺してないのかもしれないのに。)
そしてこのルールの一番の問題点はここだ。首輪を外している者が自分の知り合いの殺人犯とは限らないということではなく、そもそも誰かを殺して首輪を外したとは限らないことだ。つまり、首輪解除に成功した者が傍から見れば危険人物に見えるのだ。
殺し合いから脱出するにしても何をするにしても、この首輪がある限りその行動は犯人たちに筒抜けだろう。そのためこの首輪を無力化することが殺し合いを止めるための大前提だが、そこが崩された。殺し合いに反抗する者が積極的に殺し合っている者だと誤解されかねない。
もちろん逆もまた然りである。本当は連続殺人の果てに首輪を外したのに、危険を犯して首輪解除に挑み成功した者と振る舞えさえする。なによりこの可能性に行きつけば、迂闊に首輪解除を行えない。あのルール1つで首輪を外すことのリスクが大きく高まってしまった。
(最悪だ。)
犯人たちがやったことと言えば言葉一つだ。真実か確かめようのないことを無理矢理聞かせただけだ。それだけなのに、この銃を所持した人間が50人近くいる学校で事件を起こさせるには充分すぎるのだ。
コナンは恐る恐る安永たちを見た。もし、もしあの放送を真に受けられれば、既に何人ものクラスメイトが殺され、殺し合いから脱出する方法があると分かれば、そう思ってしまったのなら。彼らの持つ銃が自分や誰かに向けられる可能性を感じながら見上げると。
「……で、エアコンどうする。」
「入口にリモコンとかないってことは準備室にあるかもしれないな。鍵取ってくる。」
「待て、職員室だろ。コイツを使ってみる。」
放送など無かったかのように先程のエアコンの話をしていた。というかコナンのスケボーを安永が乗ってどこかに行った。
411
:
◆BrXLNuUpHQ
:2025/08/31(日) 08:56:17 ID:???0
「あ、おい!」
「江戸川、借りるぜ。」
スケボーを使われたこともそうだがあまりに平然とした態度に驚きを隠せない。「さっきの放送を無視してるのか?」と漏れ出た呟きに、相原が意外そうな声を上げた。
「信じたのか? あれを。」
「全部じゃない……よ。」
ギリギリで取り繕うと、なんとか小学生らしい演技で問う。「でもあの人たちは、殺し合えって言ってるよ? みんな信じるんじゃないかな?」と。
それを聞いた相原は、顎に手を当てて何秒か考えた後言った、「信じる部分あったか」とやや不思議そうな顔で。
「俺たちはあのツノウサギだかをぶっ飛ばそうとしてる、殺し合いなんてする気がないって言ってる。なのに放送は信じます、とはならないだろ。」
「でもわざわざ嘘を言うかな。」
「言うな。本当のことを話す意味が無い。」
断言するような言い方の相原に更にコナンは問う。それはなぜ放送を信じようと思えないかというより、信じないと判断した理由が知りたかったからだ。
「本当のことを言わなかったら、誰も殺し合わなくなっちゃうんじゃないかな。だって最後の一人になったら助かるってことも嘘だって思っちゃうよ。」
「助ける気があるとは思えないな。そもそも最初から嘘だろ、突然誘拐して殺し合えなんて言うやつが約束を守るはずない。最後は皆殺しだ。それに嘘がバレる心配も無い。」
「そうかな、たとえば、誰が死んじゃったかを正確に言えば信じる人もいるんじゃない?」
「詐欺師が何言っても、詐欺ってない詐欺師ってだけだな。首輪に毒が入ってること以外、真実はわからない。」
それに、と相原は続ける。
「あの放送でわざわざ着けた首輪を外すような事を言ってた。なんでそんなことをするのか、そんなことをしないといけないのか。それってつまり、首輪を外した奴らがいるからそいつらを妨害したいからじゃないか。」
「それは。」
楽観的だ、が、当のコナンもその可能性は頭の隅にはあった。
将来的な首輪解除への牽制ではなく、既に首輪解除を成し遂げた者への嫌がらせ。あるかないかで言えば、ありえる。しかもこの場合、別に嘘をつくわけでもない。単に動機を非開示のまま新しいルールを追加しただけだ。殺し合いの促進では無く、破綻を防ぐために。
「俺の仲間の名前も何人か呼ばれたが、あいつらはタフだ、殺されるより首輪を外してる方があいつららしい。」
「……僕の友達の名前も呼ばれたよ。きっと相原さんの仲間みたいには……」
「死体を見るまでは疑ってるぐらいでいい。俺もあいつらが全員死んでないとは思ってない。でもそれは、クソッタレな殺し合いを押し付けてくる奴の話とは関係無い。」
トントンと首輪を指でつつきながら相原は続ける。
「この首輪に本当に毒が入ってるかも怪しい。確かめようとしたら死ぬからな。俺らなら全員の首輪に毒なんて入れないで、何人かはもっと安上がりなやり方をする。」
おいおいと言いたくなるコナンをよそに、飄々とした態度で相原は言い終えた。
相原にあるのは、あるいは安永などこの放送を聞いた相原の仲間にあるのは、首輪を着けて殺し合わせる側の視点である。
さすがに人を殺せるようなアイテムはそうそう作らないが、激痛の1つや2つ与えるものやリンチの心得もある。その観点から見れば、全員の首輪に仕掛けをする必要を感じない。大半のものをハリボテにして、残ったものに手間と予算をかけてえげつないものに仕上げる。そしてそれを見せてみれば、楽でスマートな脅しになる。ようはリアリティを感じさせればいいわけであって、こけおどしでも見せしめを派手にしたほうが効くという考えだ。
412
:
◆BrXLNuUpHQ
:2025/08/31(日) 08:57:07 ID:???0
「……いや、死んでんのに近いことにはなってんじゃねえかな。」
「どういうことなっし?」
「それは……なんていうか。」
だがその視点に他のデスゲームに巻き込まれた経験を持つ球児が、それまでの沈黙を破り複雑そうな顔で言う。その言い方にコナンだけでなくふなっしーも引っかかったのだろう。問いかけるが、球児は言葉を濁した。その雰囲気が、答えにくいことを聞かれたというよりは、なんと答えればいいかわからないといった様子で、よりコナンの興味を引く。
「それよりも気になるのは追加されたルールだ。わざわざ首輪を外すなんて言い出したのは──」
「待たせたな。」
「安永、さっきの放送どう思う。」
「確かめようがねえんだから頭に入れとくぐらいでいいだろ。あんなの真に受けるか。」
「ていうわけだ。まずは遺体を──」
「それよりヤバい話がある。」
相原が話を変えようとしたところに安永がスケボーに乗って戻ってきた。その手から鍵を受け取りながら改めて話を続けようとしたところで、安永が真剣な顔で切り出したのと同時に、チャイムが鳴った。それが校内放送で使われるものだと察したあと、直ぐに全員校門へ駆け出した。
『──みんな、校門に車が近づいて来てる!』
「チッ、走りながら話す。」
「OK、なにがあった。」
「2人殺された。」
「なっ!?」
驚愕の声を上げるコナンに、驚きからかよろける相原に構わず、安永は続けた。
「殺されたらしいのは俺たち見張り組の小林って奴と、もう一人女子がやられたらしい。名前はわかんねえけど、たしか高校生だったか。」
「星乃さんか!」
この小学校にいる女子高生は2人、星乃美紅と四宮かぐや。そのうちかぐやは怪我人として保健室で寝ているのをコナン自身で確認している。保健室で人が死ねば元太が探偵バッジで連絡してくるだろうから自由に動ける美紅が殺されたのだろう。
推理しながら駆ける間にも後ろの校舎から怒声が聞こえだした。まずい、殺人が起きたことでパニックになる可能性は高い。その上新しい避難民が来るとは。
安永は伝えるべきことは話したと言わんばかりにスケボーに乗ると一気に先行する。いつの間に使い方を覚えたのか自走できるようになっていて、さすがに走って追いつけない。コナンたちが校門に着く頃には、安永は銃を構えて何か叫んでいた。
「柿沼! 本物か!」
「俺は世界に一つだけのカッキーだよ!」
「まずい、止めないと!」
「いや、大丈夫だ。」
ようやく近づけたコナンが急いで止めようとする。安永が暴発する可能性もなくなはない。そう思っての行動は、並走していた相原に遮られた。
「仲間だ。」
「たぶん本物だけど聞くぞ! お前廃工場でなにしてた!」
「誘拐されてた!」
「みんな! アイツは本物の柿沼だ! 俺の知り合いだ!」
「お前俺のことネタにしてただろ!」
「やっぱりな、柿沼だ。」
わずかにため息混じりに言う相原の声には安堵の色があった。安永も銃を降ろしてハイタッチしていて、コナンもようやく足を止める。連続殺人事件の後だけに緊張もひとしおだ。だがまるで一息つく暇など無い。校舎では2人死に、そして車の中には負傷者が詰め込まれていたのだから。
「いやそれじゃだめだ、大怪我してる人が2人もいるんだよ。なあ、そっちに医者とかいないか?」
「看護師ならいるけど、こっちも何人も怪我してて手が足りてないらしい。病院とか知らないよな。」
413
:
◆BrXLNuUpHQ
:2025/08/31(日) 08:58:27 ID:???0
素早く情報交換した結果、柿沼と同行していた負傷者がまず安永に付き添われ校舎に向かい、残ったメンバーは校門から少し離れたところにある雑居ビルに移動することになる。負傷者でもない人間が何人も校舎に向かうことは今は危険すぎる。あの放送の直後で、既に数分の間に死者が出たことは、コナンにとっても大きな衝撃だ。そしてそこに無関係な人間を向かわせる危険性に思い至らないわけがない。本当であれば負傷者を向かわせることもありえないのだが、応急処置が可能なのが保健室だけである以上背に腹は替えられなかった。
「な、梨?」
「ふなっしーなっし。」
(避難民の調査に放送の推理、殺人事件の捜査にこの人たちの対応……やることが、やることが多い。あとスケボー返せよ。)
なによりまずいのは、校舎内に殺人犯がいる可能性が高いということだ。その発生を防ぐためにもこの学校に集まった人間について知って、精神的に不安定そうな人間の目処をつけておきたかったが間に合わなかった。今から向かって殺人犯を止めに行くのが重要だとわかっているが、しかしその前に聞いておかなくてはならないこともある。
「えっと、お兄さんたちも誰かに襲われたの?」
「それを説明するには、拙者たちの今の状況から話す必要がある。少し長くなるぞ。」
ふなっしーに困惑気味していた十字傷が頬にある男、緋村剣心と名乗った青年はそう時代がかった風に言った。
このグループが何者かに襲われているのは明らかだ。それを知っておかなければ、彼らを追撃する殺人犯へ備えることができなくなる。校舎内にいる殺人犯と、学校外にいるかもしれない殺人犯、どちらへの対応をすべきか即断即決しなくてはならない。
そのコナンの判断は、既に遅いと気づくのは、その数秒後剣心たちの乗ってきた車が爆発炎上したときのことだ。
「ぐおおおおおおお!!?」
直撃を受けた道着の男、相楽左之助が吹き飛ぶ。彼が盾となったことで辛うじて直撃を避けることができた軽自動車に次いで何かが撃ち込まれて、爆炎と共に中から何かが吹き飛んできた。オレンジの明るい紐のようなものが先端に付いた棒状のものから枝が展開する。それが人間の手足だと気づいた時は、コナンの前に双葉マメの即死した顔と目があった時だった。
「炸裂弾だああっ!!」
更に放たれた擲弾から車を守らんと左之助が叫びながら前に出る。突き出した拳に40ミリの弾体が突き刺さり、その衝撃で起爆、既に吹き飛んでいた皮膚を簡単に通り過ぎると、ところどころが抉られていた筋肉に遮られながらも骨へと達し、破片が脳と内臓を吹き飛ばし、左之助の肉体を爆発四散させる。
追って放たれた飛来物が容赦無く迫る中、コナンは爆発で吹き飛ばされたと錯覚するような凄まじい勢いを感じた。それが剣心が自分を抱きかかえて駆けたのだと気づくのはもう少し先のこと。ただ今は、視界の端でふなっしーが銃を構えようとして、彼の手が無いことと彼の頭が無くなっていくのを見ていただけだった。そしてそれを理解して。
(バーロー!! こんだけ武器が置いてあるんだぞ!! いつ奇襲されたっておかしくねえじゃねえか!!)
コナンは自分をぶん殴りたくなった。
端的に言えば、油断していたのだ。
基地での黒鬼の襲撃以来、戦車に乗り込んでの逃避行の間も、この学校に来て多くの参加者と出会ってからも、事件は起こっていなかった。『誘拐』された『被害者』たちが『犯人』から殺し合うように『脅迫』されても、その犯人が目の前におらず危害を加えてくる様子もないのだから、冷静さは保てるはずだという過信か願望があった。もちろんただ漠然と状況に流される気はなく、その為にできる限りのことをしてきたしこれからもしていく、そう思っていた。これまでの行動はその一環でもあったし、また探偵として目の前の遺体が生まれた原因を明らかにするという使命と習性でもあった。
414
:
◆BrXLNuUpHQ
:2025/08/31(日) 08:59:49 ID:???0
「みんな校舎に逃げるなっし──」
だがそんな『探偵』のあり方を『人誅』は許しはしない。復讐劇は推理小説では無い、遠距離から何人もの人間を殺戮できる機会があるなら老若男女も問わず躊躇無く殺傷する。探偵どころから警察も軍隊も皆殺しにする個。暴力のみで上海マフィアの頭目にまでなった野蛮なカリスマ。
雪代縁とは、そういう男だった。
「緋村抜刀斎……!!」
ふなっしーが血みどろの梨汁をぶちまけるのを見て、傷が開くほどに口を吊り上げ、縁は牙を向くように笑う。笑顔とは元来威嚇の表情であるという俗説を見たものに信じさせる獰猛な顔で、撃ち終えたグレネードランチャーを放ると、足元の別のグレネードランチャーを手に取り乱射した。だが決して剣心は狙わない。剣心の周囲の人間を殺す、殺して生地獄を味合わせる、その為に。
「ふなっしーさん! 顔が、顔が飛んでって。」
「ダメだ悠翔! 戻んな!」
コナンたちにとっての不幸は、剣心達が拠点としようとしたビルが、縁が拠点としていたビルの隣だったこと。縁が出発して直ぐに剣心を見つけた。ならばやることは人誅である。
予定とは変わったが、剣心の周囲を無差別に吹き飛ばすというのはこの殺し合いの前からの計画だ。ならば変わりなく人誅を実行する。
とにかく人誅を実行するめちゃくちゃ人誅を実行する人誅を実行する人誅を実行する人誅人誅人誅人誅人誅復讐復讐復讐人誅人誅人誅人誅人誅。
「姉サン……見ててね。」
白煙に包まれた学校に向けて、縁は機関銃を担いで歩き出す。そしておもむろに銃口を向ける。目標は、倒れ伏した梨の中身を拾い集める少年。
バララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララ。
わずか数秒の合間に、7ミリの金属が50発放たれる。
人間では到底持つのがやっとのはずの武器を、縁はさも当然のように使う。彼の同士はこれよりも重いもので街を砲撃しようとしたのだ、それになにより10年以上に渡って探し求めた怨敵が目の前にいるのだ、肉体の限界など超えて当然である。
「あ。」
「チックショオオオオ!!」
「撃っちゃダメダアッ!!」
即死したふなっしーの死体が、それに覆い被さる悠翔が、ズタズタの肉片に削られていく。どこから狙われているのかわからず周囲に銃を乱射した球児の放つ弾丸が2人を人の形でなくしていく。その銃口が地面に伏せる相原の上を通過して、コナンとそれを背負う剣心の方に向く寸前、真っ赤な塊が覆い被さった。
「ふなっしーさん邪魔──」
乱射される弾丸が胴体を次々に貫通していく中、ふなっしーは球児から銃を取り上げようとする。それに抵抗する球児の手が飛び、頭が飛び、胴体が鳩尾の辺りから別れる。飛び出した小腸が依然として立っままの下半身へと垂れ下がり、その勢いのまま大腸もまろびでる。そこを弾丸が打ち抜き、中に入っていた糞と血がコナンの眼鏡を汚した。
「見つけた。」
ニヤリと笑う美少年は、双眼鏡から目を放すと、背を預けていた赤い日産GTRの運転席へと乗り込む。アイドリングしていたそれのアクセルを踏むと学校へと走らせた。
少年の名は日守夕夜。悪魔と戦うマテリアルにして、彼自身も悪魔の子である。
彼は方針を変えて助けたスネリから離れていた。というのも、深手を負ったスネリはこんこんと気絶し続け。手当をしたとはいえ化け猫1匹にかかりきりになる間に時間ばかり過ぎて行った。それは誰ともろくに会話しないまま数時間経ったということ、妹であるサーヤの捜索をしたい彼にとってはあまりに無駄な時間だ。
やむを得ず切り上げて付近を捜索したのだが、この頃にはサーヤはその場をとっくに離れ、また銃撃された経験から人目に付く場所に出ないようにしていた。そうなると1つの街から人一人を探すのは至難の業。更に近場の人間は第一回放送までのトップマーダーであるタイ達によって死体ばかりと生者に出会うことはとんとなく。その間に見つけたカーディーラーで地図でも無いかと探していた時に車の鍵を見つけ、長距離を高速で駆け回ることにした。
そうして立ち昇る煙に目をつけ近づいてみれば、正しく縁が学校を襲撃するところだったのだ。ただ問題は、せっかく遠くから観察できていたのに煙幕を張られてしまったこと。これは縁が見つけたグレランのうち片方にはスモークグレネードが装填されていたためだが、遠目に見ているユーヤはもちろん撃った本人である縁も予想だにしていない。結論として、ユーヤは学校へと向かうことを決める。ゲーム開始から6時間、100人近い人間が死んでいる状況で初めて会話ができる人間がいる場所なのだ、多少の障害は抹殺してでも征く価値はある。
全参加者の1割を越す人数が集まった学校はこうして煙と血に包まれた。
415
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◆BrXLNuUpHQ
:2025/08/31(日) 09:02:53 ID:???0
【0614 『北部』小学校とその周辺】
【安永宏@ぼくらのデスゲーム(ぼくらシリーズ)@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
このクソッタレなゲームをブッ壊す。
●中目標
仲間と合流する。
●小目標
何だこの爆音!?
【江戸川コナン@名探偵コナン 紺青の拳(名探偵コナンシリーズ)@小学館ジュニア文庫】
【目標】
●大目標
何が起こっているか調べて、脱出する。
●中目標
元太や灰原のような知り合いを探す。
●小目標
???
【相原徹@ぼくらのデスゲーム(ぼくらシリーズ)@角川つばさ文庫】
●大目標
殺し合いから脱出する。
●中目標
仲間を探す。
●小目標
狙われてる、どこから!?
【柿沼直樹@ぼくらのデスゲーム(ぼくらシリーズ)@角川つばさ文庫】
●大目標
殺し合いから脱出する。
●中目標
仲間を探す。
●小目標
何!? 何なの!? 怖いよお!?
【緋村剣心@るろうに剣心 最終章 The Final映画ノベライズ みらい文庫版@集英社みらい文庫】
●大目標
一つでも多くの命を救う。
●中目標
鱗滝と近藤の治療の術を探す。
●小目標
銀髪の男(縁)の襲撃から人々を守る
【雪代縁@るろうに剣心 最終章 The Final映画ノベライズ みらい文庫版@集英社みらい文庫】
●大目標
人誅人誅人誅人誅人誅復讐復讐復讐人誅人誅人誅人誅人誅
●中目標
人誅人誅人誅人誅人誅復讐復讐復讐人誅人誅人誅人誅人誅
●小目標
人誅人誅人誅人誅人誅復讐復讐復讐人誅人誅人誅人誅人誅
【日守夕夜@魔天使マテリアル(8) 揺れる明日(魔天使マテリアルシリーズ)@ポプラカラフル文庫】
【目標】
●大目標
サーヤを守り、脱出する。
●中目標
サーヤと合流する。
●小目標
化け猫(スネリ)を助けて誤解を解きたかったけど第一回放送終わるまで出番無かったから積極的に動くよ。
【脱落】
【双葉マメ@サバイバー!!(1) いじわるエースと初ミッション!(サバイバー!!シリーズ)@角川つばさ文庫】
【相楽左之助@るろうに剣心 最終章 The Final映画ノベライズ みらい文庫版@集英社みらい文庫】
【沖田悠翔@無限×悪夢 午後3時33分のタイムループ地獄@集英社みらい文庫】
【ふなっしー@ふなっしーの大冒険@小学館ジュニア文庫】
【野宮球児@迷宮教室 最悪な先生と最高の友達(迷宮教室シリーズ)@集英社みらい文庫】
416
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◆BrXLNuUpHQ
:2025/08/31(日) 09:03:39 ID:???0
投下終了です。
タイトルは『TORATORATORA』になります。
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