したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |

児童文庫ロワイヤル

21◆BrXLNuUpHQ:2024/01/27(土) 00:01:20 ID:???0



 小松原麻紀は、取り出されたテレフォンカードをしばらく呆然と見つめていた。
 狭苦しい電話ボックスに何度かアラームが鳴ったのも昔に思えるほどに、感覚が重く圧迫されていた。
 家の電話番号はもちろん、長野の父方の家に、幼なじみの小笠原牧人の家、そして当然警察と消防にかけても、どこにも繋がらない。
 手を緑色の受話器に伸ばしかけた、でも手には取れなかった。どことも、誰とも、繋がれない。そう確認することが、苦しい。伸ばした手から肩にかけてどっしりとした何かを感じて、麻紀はうつむいて電話ボックスを出た。

(赤い、霧……)

 視界に赤いものが入って、出たばかりの電話ボックスの扉偽を預けて目を閉じる。
 目を開けたくない、今自分がいる、この地獄のような現実から目をずっと閉じていたかった。


 小松原麻紀は、どこにでもいるような普通の女子小学生だ。
 この間新築の家に引っ越したり、兄が不良のようになったり、幼なじみとの関係に悩んだりもしたけれど、それでも普通の、日本に何人もいる少女でしかないはずだった。
 それがふと気がつけば、まるで知らない場所にいた。そして聞かされたのは、何かのマスコットのようなキャラクターから発せられた──『殺し合い』という言葉だった。

「牧人……どこ……?」

 細い体から力が抜けて、へたり込みそうになる。でもそうなったら二度と立てなくなる気がして、でも心細くて、麻紀は気がつけば幼なじみの、大好きな男の子の名前を呟いていた。
 こんなにも会いたいと思うのは、ここ最近の中でも一番かもしれない。牧人が一学年上の細川詩緒里と付き合いだしたと聞いていてもたってもいられなくなったことを、思わず思い出す。

「そうだ……牧人! 牧人もここに!」

 思い出したから、自分のこと以上に牧人を心配する。少し前までの牧人に会いたいと思っていた自分を、麻紀はひっぱたきたくなった。
 こんな空が赤くて霧も赤くてそこらじゅうの建物にマシンガンや対戦車ライフルや地対空ミサイルや劣化ウラン弾があるような地獄ではなく、牧人には苦しいことがあっても平和な、あの日本にいてほしい。
 探さなくては、牧人が巻き込まれていないことを願ってはいるけれど、もし巻き込まれているのなら一緒にならなければ。使命感にも似た思いが、震えていた膝に力を与える。そして手にしたブローニング・ハイパワーをしっかりと握った。ダブルカラムの太い銃把は、麻紀の小さな手には余る。その大きさが願いの大きさであるかのように麻紀は両手を重ねて、力を込めて立ち上がった。
 すると今までと感覚が変わってくる。うんざりするような赤い視界はそのままでも、微かに聞こえてくるものがあった。
 洋楽、だろうか?

(このメロディー、少し似てる。)

 その曲が気になったのは、その調べが麻紀の記憶に焼き付いたものを思い起こさせたから。
 牧人の母、心を病んで不慮の死を遂げた、麻紀から見れば幸せそうな人だった、それでも心の中は違った人。
 麻紀にとっては、両親や親戚以外で一番親しかった大人の女性。
 気がつけば、麻紀の背中は電話ボックスから離れていた。会いに行かなくてはと思った。自分にできることがあるかなんてわからない、たぶんきっとない、それでも動きたいと思ったから。


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板