>>2364
それに対して、たとえば朝日新聞の記事では、「主審に対して『私に謝りなさい。あなたはポイントも奪ったから、泥棒』と口汚く罵倒し、1ゲームの?奪を言い渡された」との記述があるので驚いた。ウィリアムズの発言は、確かにとても強い口調での抗議ではあったけど、「口汚く罵倒」などはしていないし、You owe me an apology.を「私に謝りなさい」という命令調に訳すのも誤解を呼ぶ。日経新聞には「次第にS・ウィリアムズはイライラを爆発させ、警告を受けた」という文があるが、これはプレーが自分の思うとおりにいかないことにイライラしていたような印象を与える。さらに、授賞式での大坂さんについて、「ブーイングの中で始まった優勝インタビューでは『勝ってごめんなさい』とひと言」という文もあるが、これは明らかな誤訳で、彼女は「勝ってごめんなさい」などとは言っていない。I'm sorry it had to end like this.は「このような終わり方になったことは残念です」であって、謝罪ではない。(sorryという単語が出てくると謝罪だと思うのは間違い。たとえば親しい人を亡くした人に、I'm so sorryというのは普通のことで、悲しみやシンパシーや遺憾の意を表現するのにもsorryは使われる。)テニスの試合の報道でもこのようなことがあるのだから、国際情勢についての報道でどれだけこうしたことがあるのかと思うと、恐ろしい気持ちになる。
日本の報道がある程度「日本贔屓」になるのは仕方ないかもしれないし、日本を代表する選手が勝利したのは、私も単純に嬉しい。でも、今日の展開は、日本人とハイチ人の親のもとで主にアメリカで育った日本代表選手と、スポーツの中でもとくに黒人が入りにくかった歴史をもつテニスで女王の座を築いてきたウィリアムズの対戦だったということで、「国」や「国籍」以上に、歴史的にとても意義深いものだったはず。憧れの対戦相手が苦い思いをする試合となってしまった、観客が新しいスターの誕生を祝福するどころかブーイングまでする(もちろん観客がブーイングしていたのは大坂選手に対してだけでなく、審判やそれが象徴する歴史や体制だけれど)結果となってしまった、そのなかで表彰台に上がり涙する大坂さんを見て、肩を抱いて力づけ、観客に「もうブーイングはやめましょう」と言うウィリアムズ。We'll get through this.という彼女が指すweとは、テニス界を率いたり応援する人々であり、日々セクシズムと闘う女性たちやレイシズムと闘うマイノリティたちであり、このような展開で試合に陰りができてしまった大坂さんと自分のことであろう。そのウィリアムズの姿と言葉に、これが本物の女王だと感じると同時に、マイノリティ女性が次世代のマイノリティ女性を勇気づけて世界の頂点に引き上げる絆と連帯を見て、少し救われた気がした。大坂さんはとても賢く成熟した人間なのは明らかなので、落ち着いた頃に、不公平なことには堂々と抗議するウィリアムズへの憧れをまた強くするだろうし、これから長いキャリアを積んで自らもそのようなロールモデルになるだろう、と期待。