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切り落とされた首の話

1 ◆nu89KoW33w:2021/10/23(土) 21:57:20 ID:S/RA0zHE0
刑死者の多い夏だった。
長い干魃が各地を襲い、飢えと乾きは人々を凶行へと駆り立てた。

( ゚д゚ ) 「名はホライゾン、生まれは西の漁村……で間違い無いな。今日はお前が最後だ」

( ^ω^) 「……」

( ゚д゚ ) 「しかし、強姦殺人とは馬鹿な真似をしたものだな」

( ゚д゚ ) 「盗みに入った家の娘に見つかり、居直り強盗か。そこで観念しておけば死なずに済んだ物を」

( ^ω^) 「……僕は」

盗み、奪い、犯し、殺す。
そして凶行には相応の報いが与えられる。
それらは全てこの時代において最早ありふれた、日常的な営みとなっていた。

ありふれた、余りにありふれた――――

( ^ω^) 「僕は、誰も殺してないお」

( ゚д゚ ) 「ああ、そうかも知れんな」

( ^ω^) 「彼女を殺した人間を僕は見た」

( ^ω^) 「蛇のような目の、背の高い男。僕はそいつに陥れられたんだお」

( ゚д゚ ) 「……諦めろ。抵抗しても苦しみが続くだけだ」

( ^ω^) 「……」

( ^ω^) 「許さない。死んでも許さないお」

そう、この男のように無実の罪で囚えられ、真犯人への強い怨念を抱いたまま命を落とすことも、
この時代では実にありふれた「悲劇」である。

間もなく、執行官の手によって男の首は刎ねられた。

2名無しさん:2021/10/23(土) 21:57:55 ID:S/RA0zHE0
.



    〃⌒ ヽ
   /   rノ                 切り落とされた首の話
  Ο Ο_)  ......,,,,,,(  ω )


             .

3名無しさん:2021/10/23(土) 21:59:57 ID:S/RA0zHE0
【執行官と放蕩息子の話】

端的に言うと、遊び過ぎて金が無かった。

フォックスは生来の浪費家であり、計画性を著しく欠いた楽天家である。
酒を買い、女を買い、女を喜ばすための贅沢品を買い漁る。
干魃によりあらゆる物の値段が上がった後も振舞いが正されることはなかった。

結果、名家と呼ばれる実家からの決して少なくない仕送りも使い果たし、
日々の食事にも事欠くほどに彼の懐事情は困窮を極めていた。
そんな彼にとって、古い友人からの突然の呼び出しは喜ぶべき出来事だった。

爪'ー`) (これで次回の仕送りまで持たせられるな)

相手も決して裕福な身の上ではないが、それでも自分は招待される側である。
軽い食事と一、二杯の酒を望んだとしても責められることは無いだろう。
あわよくば数日分の食事代を借りることもできるかもしれない。
打算に満ちた腹の中を隠そうともせず、フォックスは友人宅のドアを叩いた。

( ゚д゚ ) 「……ああ、来てくれたか」

爪'ー`) 「お招きに預かり感謝するよ、ミルナ。本当なら手土産の一つでも持ってくればよかったんだが」

( ゚д゚ ) 「思ってもいないことを言わなくていい」

( ゚д゚ ) 「まあ、上がってくれ。飯も酒も普段より上等なやつを用意してある」

爪*'ー`) 「そうかい? 悪いな、へへ」

もしもフォックスがもう少し思慮深い人間であれば、
この妙に物分りの良い友人に対して警戒の念を抱いていただろう。
しかし、彼の性分がそれを許さない。彼の心は既に晩餐の皿の上にあった。

4名無しさん:2021/10/23(土) 22:03:20 ID:S/RA0zHE0
フォックスは遠慮の欠片もなく食事を、酒を消費する。
そんな彼を咎めることもなく、ミルナは空いた盃に酒を注ぎ続ける。

爪*'ー`) 「いやあ、実を言うと金欠で困ってたんだよ」

( ゚д゚ ) 「仕送りはどうしたんだ?」

爪*'ー`) 「んなもん使っちまったよ。キレイな姉ちゃんと仲良くするためにな」

( ゚д゚ ) 「女遊びも程々にしておけよ……ほら、酒が空だぞ」

爪*'ー`) 「おっと、ありがとよ。でもまあ女遊びはやめられねえよ」

爪*'ー`) 「こないだも首と腰が細い良い女に会ってな、実家の馬車の話をしたら乗ってみたいって言うもんだから」

爪*'ー`) 「俺はすかさず、馬車もいいが目の前の馬に乗る気はないか?って返したんだよ」

( ゚д゚ ) 「馬……なるほど、馬の話を……」

爪*'ー`) 「ああ、もちろんこの馬ってのは俺のことでな……」

( ゚д゚ ) 「いや、説明は大丈夫だ。それはそうと、お前は馬車を操れたよな?」

爪*'ー`) 「うん? ああ、実家じゃ基本的に御者任せだったが、嗜み程度にはいけるぞ?」

爪*'ー`) 「なんなら乗せてやろうか。酒の礼くらいするさ」

( ゚д゚ ) 「……」

( ゚д゚ ) 「言ったな?」

爪;'ー`) 「え?」

突然、ミルナは仏頂面を強張らせ、前のめりになってフォックスの顔を覗き込む。
気圧されたフォックスの瞳から視線を逸らさず、「言ったよな?」ともう一言。

5名無しさん:2021/10/23(土) 22:05:54 ID:S/RA0zHE0
爪;'ー`) 「ああ、乗せてやるよ。馬車の用意が必要なんで今すぐとは言わないが」

( ゚д゚ ) 「馬と馬車はもう手配してある。明日の朝、酒が抜けたら出発だ」

爪;'ー`) 「じ、準備が良いことで……どこに行きたいんだ?」

余計なことを言ったと後悔しつつ問いかけると、にやり、と、ミルナの口角が歪む。
ここまで来てとうとうフォックスは自分が「嵌められた」ことに気がついた。

( ゚д゚ ) 「乗るのは俺じゃない。西の漁村まで荷を運んでほしい」

爪;'ー`) 「西の漁村!? おいおい3日はかかるぞ!」

( ゚д゚ ) 「どうせ金も無くて退屈していたところだろう? 往復一週間の手間賃は出す」

( ゚д゚ ) 「逆に断るなら、今この場で、今までの借金を全部返してもらおうか」

爪;'ー`) 「そんなこと言われたってよ……お前、俺を嵌めてまで何を運ばせたいんだよ?」

( ゚д゚ ) 「それは……」

口籠るミルナ。その様子を見てフォックスの脳裡にはある映像が浮かぶ。
馬車で運ぶような大荷物。準備の良さから考えると配達には迅速さが求められるのだろう。
そして、目の前の男の職業。

( ゚д゚ ) 「お前、医者の家系だったよな?」

爪'ー`) 「ああ、そうだが?」

( ゚д゚ ) 「ある程度そういう教育は受けているか?」

爪'ー`) 「そうだが、何が言いたい?」

( ゚д゚ ) 「なら、まあ、耐性は有るか……取り扱いも常人より幾らか心得が有るだろう」

( ゚д゚ ) 「荷物は木箱と鞄だ。それぞれ首のない死体と生首が入っている」

6名無しさん:2021/10/23(土) 22:17:24 ID:S/RA0zHE0
爪'ー`) 「……流行りのアレか? お前はそういう不正はしないタイプだと思ってたが」

それは激務薄給の執行官達が密かに行っている、謂わば小遣い稼ぎ。

斬首刑に処された人間の首は通常、所定の期間が終わるまで市中に晒されることになっている。
遺族は首のない死体をまず受け取り、暫くしてから腐りかけの生首が届けられる。
犯罪者とはいえ血を分けた身内である。愛する家族の余りに変わり果てた姿に卒倒する者も少なくないという。
そこで生まれたのが「首隠し」の文化だ。

爪'ー`) 「遺族から金を受け取って死体も首も新鮮なうちに送り届けるんだっけ?」

爪'ー`) 「刑死者が多すぎて首の管理もザルになってると聞くが、お前が手を出す程とはな」

( ゚д゚ ) 「……」

「首隠し」は決して褒められた行為ではないが、非難するつもりもない。
誰が死ぬわけでもない、この時代においては些細な悪事。
むしろ、そのお陰で美味い食事にありつけているのだから依頼者には感謝しても良いくらいだ。
フォックスはそう考えた。

爪'ー`) 「それで、この酒のスポンサーは誰なんだ? 死体の親か? それとも友人?」

( ゚д゚ ) 「……俺だ」

爪'ー`) 「は?」

( ゚д゚ ) 「飯も、手間賃も俺の貯金だ。金なんか誰からも受け取っていない」

7名無しさん:2021/10/23(土) 22:18:46 ID:S/RA0zHE0
( ゚д゚ ) 「こんな仕事をやっていると、納得できない殺しをしなきゃいけない時がある」

ミルナは懺悔するかのように語り続ける。

( ゚д゚ ) 「食うに困っての強盗で誤って相手を殺してしまった老人」

( ゚д゚ ) 「犯されて孕んだ子を発作的に手にかけた幼き母親」

( ゚д゚ ) 「……そして、他人の罪で殺される人間。今日も俺は無実の男の首を刎ねた」

爪'ー`) 「おいおい、無実の罪って……」

死刑囚は当然、裁判で死刑と決まったから死刑になるのだ。
どうして検事でも裁判官でもないお前が、無実だなんだと言うことが出来るのか。
フォックスの反論に、ミルナは「その通りだ」と返した。

( ゚д゚ ) 「お前の言い分は正しい。だが、そう思ってしまったのだからしょうがないんだ」

( ゚д゚ ) 「いいか、普通、罪を否認する人間は命が惜しくて否認するんだ」

( ゚д゚ ) 「無罪を証明したいのではなく、生きたいから否認する。故に処刑の直前こそが死刑囚の最も取り乱す瞬間になる」

( ゚д゚ ) 「だが、あの男は違った。あの男は死を受け入れ、その上で己の無実を主張した」

爪'ー`) 「そいつが飛び切りの変人だったんだろ。それか既に精神がおかしくなっていたかだ」

( ゚д゚ ) 「そうかも知れないな。だが、もし俺の想像が正しかったなら……」

男の死体について、遺族から首隠しの依頼は無かった。
最期までまで無実を主張した男の潔白を、遺族ですら疑っているのか。
それとも、既に家族など存在しなかったのか。

いずれにせよ、もしも男が本当に無実であったなら、
全てに見放された哀れな男の訴えを、陥れられ、殺された不幸な男の無念を、
せめて自分だけは、男の首を切り落とした自分だけは肯定してやらなければいけない。

胴体側の切断面から規則的に噴き出す血飛沫を見つめながら、ミルナは生まれて初めて正義に背くことを決意した。

爪;'ー`) 「馬鹿真面目が……わかったよ。俺は金が貰えるなら文句は無い」

爪;'ー`) 「ただし、途中で役人にバレても俺は知らぬ存ぜぬを通すからな。お前に渡された中身不明の荷物を運んだだけだ」

( ゚д゚ ) 「わかってる。そのために首桶じゃなく鞄を用意したんだ」

爪;'ー`) 「へっ、どこまでも準備が良いことで……」

翌朝、そこには二日酔いの御者に操られ友人の家を発つ馬車の姿が有った。

8名無しさん:2021/10/23(土) 22:20:12 ID:S/RA0zHE0
街道には危険が多い。
飢えた野犬の群れや山賊化した難民は勿論、
整備不足の路面に車輪を取られ、馬車が横転してしまう事故も少なくない。

護衛を雇う事ができる商人や上流階級の貴族でもなければ、
動物除けの匂い袋をぶら下げ、積み荷は抑えて「旨みのない獲物」を演出し、
路面に気をつけながら慎重かつ迅速に、天に祈りを捧げて通行するのが作法である。

爪'ー`) (……まあ、何かあったらその時に考えれば良い)

金持ちと貧乏人。今のフォックスの立場は間違いなく後者だ。
だというのに、当の本人はのほほんとしたものである。

両家の生まれに恵まれた才覚。幼い頃から危機感とは無縁に生きてきた。

事実、片道3日と言われた西の漁村への道程も、
馬の疲労度を見極めた速度調整と路面状況を読みきったルート選択により、
初日の夕方にして道半ば、中継地点となる街にまで到達しようとしている。

爪'ー`) (思ったより早く着きそうだな。一日くらいゆっくりして行くか?)

高い能力と、それをを台無しにしてしまう精神性を持ち合わせていたのが彼の最大の不幸と言えるだろう。

爪'ー`) 「……ん?」

もうすぐ街が見えてくるという所で、フォックスの目に異物が映った。
進行方向の路面を塞ぐように野犬の死骸が転がっている。

爪;'ー`) 「うへえ、こいつは躱して進むのは無理だな」

フォックスは死骸の前で馬車を止めて考え込んだ。
無理矢理轢いて通っても良いが、「肉と骨でできた塊」は案外頑丈だ。
車輪に何か起こってしまえば修理に余計な金がかかる。

爪;'ー`) 「しょうがないにゃあ……」

背に腹は代えられない。
深いため息とともにフォックスは馬車を降り、死骸の排除に取り掛かった。

9名無しさん:2021/10/23(土) 22:21:07 ID:S/RA0zHE0
その様子を枯木の陰から眺めている男がいた。
街の貧民窟に住むドクオである。

('A`) (今だ……!)

フォックスの意識が犬の死骸に向いている隙を見計らって、ドクオは馬車の荷台に飛び込んだ。
細長い木箱、新品の鞄、安物の鉈、食料と飲み水、夜を過ごすための薪と外套。
忙しなく首を振り、積荷を物色する。

('A`) (くそ、商人の馬車かと思ったが、大した荷物は積んでなさそうだ)

('A`) (木箱は鍵がかかっているしデカすぎる。外套も安物だな……)

('A`) (そうなると……)

荷物の少ない旅とはいえ、財布や時計くらいは持っているだろう。
ドクオは積み荷の中から鞄を手に取り、静かに荷台から抜け出した。

戦利品の確認を後回しにして、貧民窟への帰路を急ぐ。
フォックスが鞄を失くしたことに気付いたのは、街に着いて暫く経ってからのことだった。

10名無しさん:2021/10/23(土) 22:23:03 ID:S/RA0zHE0
【盗人の話】

昼下がり、真新しい鞄を抱えながら挙動不審に街を歩く男がいた。

(;'A`) (とにかくこいつを処分しないと……)

家に帰り、盗み出した鞄を開くと、そこには光のない瞳でこちらを見つめ返す男の生首があった。
うわあと叫び、鞄を放り投げる。床に落ちた鞄からは金具が壊れる音とともに生首が転がり落ちた。

現実感の無い光景に込み上げる熱。
吐瀉物の臭いを口中に感じながら、ドクオは生首の入った鞄を抱えて家を飛び出した。
人混みを避け、民家の明かりに怯え、いつの間にか日が沈み、日が昇り、
そして今、太陽はドクオの逃げ場を奪うように真上からその身を照らしている。

(;'A`) (家には置いておけない。見つかったら俺が殺したと思われる)

(;'A`) (とにかくどこか、人の目につかない所に捨てなければ……)

貧民窟を抜け出して、路地裏を進む。
建物の隙間から見える中央広場では、多くの人々が平穏を享受していた。

(;'A`) (畜生、俺がこんな思いをしているのに奴らときたら……)

('A`) (……おや……?)

広場の一角、樹木に背中を預けて佇む少女の姿が目に入った。

ζ(゚ー゚*ζ

少女の足元には鞄が置かれている。
真新しい鞄。色も、形も、ドクオが持っている物とよく似ていた。

('A`) (……)

これだ、とドクオは考えた。

11名無しさん:2021/10/23(土) 22:24:01 ID:S/RA0zHE0
昔から影が薄い人間だと言われていた。
どれだけ頑張って働いても要領の良い奴らに功績を奪われる。
干魃による不況で雇い主から「口減らし」に遭い、仕事を失ったのもそのせいだと考えている。

だが、今は自分の影の薄さに感謝したい気持ちだった。
男はこっそりと少女の背後に忍び寄り、足元の鞄に手を伸ばす。
ちらり、横目で様子を伺うが、少女がこちらに気付いている様子はない。

(;'A`) (音を立てるなよ……さり気なく、自然にすり替えるんだ)

あの間抜けな御者も出し抜いた自分だ。これくらいどうということはない。

横目で少女を見る。まだ動く様子はない。

少女の鞄に手をかけて持ち上げる。少女はまだ気付いていない。

(;'A`) (後は俺の鞄を置いて、バレないうちに逃げるだけだ!)

片手で抱きかかえていた鞄を体から離し、少女の鞄が有った場所に設置する。
静かに、そして素早く。鞄の下敷きになった雑草が折れ曲がる音さえ、酷くやかましく感じられた。

とうとう、生首の入った鞄から指を離す。
横目で少女を見る。

ζ(゚ー゚*ζ

少女は、前屈みになったドクオの顔を見つめていた。
生気のない瞳が一瞬、鞄の中の生首と重なって見えた。

12名無しさん:2021/10/23(土) 22:24:58 ID:S/RA0zHE0
(;'A`) 「……あ、えっと」

言い訳の言葉を口にするより早く、少女は足元に置かれた鞄を持ち上げた。
壊れかけの留め具を外し、中を覗き込む。
ドクオは真っ白な思考のまま、少女の様子を眺めることしかできなかった。

ζ(゚ー゚*ζ 「……」

ζ(゚ー゚*ζ 「確かに受け取りました。ありがとうございます」

鞄の中身を覗いて数秒、少女が発した言葉はドクオの理解を超えたものだった。
硬直し、身動きが取れぬドクオに一礼して少女は走り去る。
その手には生首の入った鞄が強く握られている。

(;'A`) 「た、助かった……?」

ようやく言葉を発した頃には、少女の姿は見えなくなっていた。
何が起こったのかは理解できないが、既に生首は手元に無い。
安堵の溜息が口から漏れる。

ドクオは新たに手にした鞄を抱えたままその場にへたり込んだ。
夜通し彷徨った足は棒のようで、踵には血が滲んでいる。
今の今まで全く感じていなかった疲労感が全身を襲い、いっそ寝転んでしまいたい気分だ。

( <●><●>) 「おい」

突然、背後から声がしてドクオは飛び上がった。
振り返ると背の高い、黒尽くめの男がこちらを見下ろしている。
男の手には、真新しい鞄が握られていた。

13名無しさん:2021/10/23(土) 22:26:05 ID:S/RA0zHE0
(;'A`) 「はい?」

引きつった笑顔を作り、言葉を返す。

( <●><●>) 「来るのは女だと聞いていたが、まあ良い」

( <●><●>) 「この時間にその鞄を持って来ているのだ。間違いないだろう」

( <●><●>) 「ほら、鞄を寄越せ。こっちの受け取りが先だ」

黒尽くめの男はそう言うと、空いている手をドクオに伸ばした。

(;'A`) 「えっと、この鞄は……」

( <●><●>) 「余計なことは喋るな。殺されたいのか」

(;'A`) 「へ? ひえっ……!?」

ドクオの手から強引に奪い取られた鞄。
それと交換に、男は自分が元々持っていた鞄をドクオに押し付けた。

( <●><●>) 「しかし、大金を払ってこんな物を欲しがるとは……雨乞いの儀式と言ったか」

(:'A`) 「いや、あの……」

( <●><●>) 「……黙秘か。まあいい。こちらもお前達のような異常者との付き合いは御免だ」

( <●><●>) 「とにかく、取引は終わりだ。他言無用。洩らしたら殺すぞ」

(;'A`) 「だ、だから……」

( #<●><●>) 「いいな!」

(;'A`) 「は、はい!」

男が立ち去り、またもや呆然と立ち尽くすドクオ。
状況が掴めぬまま、手がかりを求めて押し付けられた鞄を開く。

14名無しさん:2021/10/23(土) 22:26:48 ID:S/RA0zHE0
.

(,;,;,;;,;ν;;,;)

鞄を開くと、そこには光のない瞳でこちらを見つめ返す男の生首があった。


        .

15名無しさん:2021/10/23(土) 22:29:20 ID:S/RA0zHE0
【御者と奴隷の話】

フォックスは焦っていた。
何としてでもホライゾンの首を取り返さなくてはならない。
刑死者の死体を紛失したとなれば、ミルナだけでなく自分まで罪に問われるかもしれない。
それに何より、今回の件には借金の返済がかかっている。

しかし、首の行方については全く心当たりが無いのも事実だった。
盗まれる理由が無い。道中で落としたのかと思い街道を遡ってみたが見つからない。
手掛かりを失ったフォックスは、最後の手段を思いついた。

爪'ー`) 「奴隷を一人。中肉中背の男で、今すぐ手に入るならどれでも良い」

( ´∀`) 「かしこまりました。少々お待ち下さい」

首がないなら、作れば良い。
背丈のよく似た男を買い、何らかの手段で殺す。
切り落とした首を正体がわからなくなる程度に汚せば、代理の生首の完成だ。

元々首隠しを望んでいなかった遺族のこと。
口八丁で丸め込めば誤魔化す事はできるだろう。

( ´∀`) 「お待たせしました。こいつならどうでしょう?」

( ,,^Д^) 「……」

爪'ー`) 「おっ!」

奴隷商が連れてきた男を見て、フォックスは喜びの声を上げた。

( ´∀`) 「ご時世か男の奴隷は供給過多でしてね。お安くしておきますよ」

爪*'ー`) 「良いじゃないか。目元が気に入ったし、何より安いというのは素晴らしい」

爪*'ー`) (体格もピッタリだ!)

爪*'ー`) 「こいつを貰おう。この場で受け取れるか?」

( ´∀`) 「勿論! それではお買い上げということで……」

16名無しさん:2021/10/23(土) 22:30:27 ID:S/RA0zHE0
購入したばかりの奴隷を連れ、フォックスは街を後にした。
残り一日半の道程。その間に奴隷を殺す必要がある。

( ,,^Д^) 「しかし、奴隷の私が荷台で休んでいて良いのでしょうか?」

奴隷の男は馬車の荷台に待機させている。
逃げられぬよう荷台には外から鍵をかけているが、今のところ気付いていないようだ。

爪'ー`) 「気にするな。馬車を操るのは俺の仕事だ」

( ,,^Д^) 「そうですか……それでは、私の仕事は何なのでしょうか?」

「お前の仕事は死ぬことだ」という言葉が一瞬浮かび、すぐに飲み込む。
奴隷を人間として扱う者は少ない。
しかし、屠殺を待つ家畜にさえ言わないような言葉を現実に発するのは気が咎めた。

爪'ー`) 「えっと、そうだな。護衛だよ護衛。護衛というか見張りかな?」

爪'ー`) 「お前を買う直前、泥棒に入られてな。治安が悪いのは知っていたがこれ程とは……」

( ,,^Д^) 「なるほど、つまり私はご主人と荷物を守るのが仕事ということですね?」

( ,,^Д^) 「……では、早速お役に立てそうです」

爪'ー`) 「は?」

馬車の中で奴隷が立ち上がる気配がする。
間もなく、周囲の岩陰から、茂みの中から、複数の男達が現れ馬車を取り囲んだ。

17名無しさん:2021/10/23(土) 22:31:12 ID:S/RA0zHE0
( ФωФ) 「馬と荷物を置いていけ。命は助けてやる」

集団の中の一人が告げる。
「山賊に襲われているのだ」と理解するまで時間はかからなかった。

(  ゚∀゚ ) 「諦めて荷台を開けな。別にこっちは殺しちまっても良いんだぞ?」

抜身の短剣を光らせながら、山賊はじわじわと包囲を狭める。
気付けば逃げ道はどこにもなく、ただ相手の言葉に従う以外の選択肢は残されていなかった。

爪;'ー`) 「お、おう、抵抗はしない。鍵を開けるから待ってくれ」

(  ゚∀゚ ) 「早くしろよトロくせえな。一回刺せば動けるようになるか?」

爪;'ー`) 「止めてくれ! すぐに開けるって言ってるだろ!」

フォックスは御者台を降り、荷台に回り込む。
震える手で何とか解錠を終えた所で、背後から嘲笑混じりの声が聞こえた。

(  ゚∀゚ ) 「お疲れさん。じゃあ死んでくれや」

爪;'ー`) 「は!? 言う通りにしただろうが!」

(  ゚∀゚ ) 「顔を知られて生かしたまま帰すわけが無いだろ。常識で考えろよ」

18名無しさん:2021/10/23(土) 22:31:55 ID:S/RA0zHE0
山賊の持つ短剣が無防備な背中に迫る。しかし、それがフォックスの体を傷つけることは無かった。

開放された扉から伸びた腕が、瞬間のうちにフォックスを荷台の中に引き込んだのだ。
入れ替わるようにして飛び出した奴隷。その手には積み荷の鉈が握られている。

( ,,^Д^) 「……」

(  ゚∀゚ ) 「何だお前――――

言い終わるのを待たず、奴隷の鉈が山賊の頭を叩き割った。
真っ二つに割れた断面から血とも脳漿ともつかない液体が溢れ出す。

( ФωФ) 「……は?」

( ,,^Д^) 「ご主人」

爪;'ー`) 「な、何だ!?」

( ,,^Д^) 「どんな仕事を任されるのかと心配していましたが、得意なことで良かったです」

( ,,^Д^) 「私が呼ぶまで荷台に隠れていてください」

( ,,^Д^) 「……すぐ済みますので」

( #ФωФ) 「殺せ!お前達、こいつを殺せ!」

掛け声を受け、山賊達は奴隷に襲いかかる。
何本もの剣が、槍が、奴隷を殺すべく向けられた。

しかし、山賊たちの武器は奴隷の身には掠りもせず、
奴隷はただ淡々と、一人一人の頭を一撃のもとに叩き割っていく。

信じられぬ光景を目の当たりにし、フォックスの胸の内にはふたつの思いが渦巻いていた。
ひとつは生き延びられたことを喜び、幸運に感謝する思い。
そしてもう一つは――――

爪;'ー`) (あいつ、どうやって殺そう?)

19名無しさん:2021/10/23(土) 22:33:45 ID:S/RA0zHE0
【小村の少女の話】

街道の起伏を尻に感じながら、少女は戦利品の鞄を大切に抱えていた。
駅馬車の内部は閑散としている。

ζ(゚ー゚*ζ (あとはこれを村に届ければ……)

少女は街から少し離れた小さな農村の生まれである。
家族とともに畑を耕し、麦を育てて暮らしてきた。
裕福ではないが平穏な暮らし。少女は村での生活を愛していた。

干魃が村を襲ったのは、半年ほど前のことだった。

罅割れた大地、干上がった川、枯れゆく草木。
愛する村の平穏が恐るべき速度で破壊されてゆく。
村に残された最後の手段は、生首だった。

村には伝承が有った。
大昔、同じように干魃が起こった時、人柱を立てて神に祈った。
生贄の首を祭壇に捧げると、たちまち雨雲が空を覆い、三日三晩の雷雨が続いたという。
根拠のない迷信。しかし、それに縋るほか無かった。

生首は新鮮な物が良いだろう。
当然、殺人は犯罪であるし墓を掘り返しても新鮮な死体は出てこない。
そうなると、調達先は自ずと絞られる。

     ( ∵) 「新鮮な人間の頭部か……」

     ζ(゚ー゚*ζ 「はい、それも出来るだけ早く」

     ( ∵) 「何に使う気やら……まあ良い、ちょうど始末する予定のクズが一人いる」

     ( ∵) 「三日後の昼、中央広場の樹の下で待て」

     ( ∵) 「金は新品の黒鞄に詰めておけ。目印だ。当日は代理の男が交換に行く」

金さえあればどんな物でも用意してくれる組織。それ以上の知識は身を滅ぼすだろう。
目の小さい、黒尽くめの男に指示されるまま、少女は中央広場の樹の下で取引を完遂した。
「代理の男」が想像よりも見窄らしい服装で、挙動不審だったことだけが少しばかり気がかりだった。

20名無しさん:2021/10/23(土) 22:38:33 ID:S/RA0zHE0
ζ(゚ー゚*ζ (村まであとどれくらいだろう?)

自分を、いや、生首を待ち侘びる村の人々。一刻も早く帰還したい気持ちが募る。
抱きしめ続けた鞄。生首に体温が移ると腐敗が早まるのではと思い至り、少女は慌てて身体から離す。

( ・∀・) 「思ったより時間がかかってますね」

不意に、横から声をかけられる。
見覚えのある顔。最近、村外れの屋敷に移ってきたという男だ。
一度か二度、村で見かけたことはあるが、
普段は屋敷の中に籠もり、よくわからない「研究」とやらをやっているらしい。

ζ(゚ー゚*ζ 「あ、どうも……」

( ・∀・) 「村の方ですよね。私はモララーと言います」

ζ(゚、゚*ζ 「えっと、ご丁寧にありがとうございます。デレです」

( ・∀・) 「存じ上げておりますよ。村の若い女性といえばデレさんとツーさんしか居ませんからね」

( ・∀・) 「しかし、馬車の進みがやけに遅い。先程御者に聞いたら馬の調子が良くないと言っていました」

ζ(゚- ゚*ζ 「そうなんですか……。急いでるのに……」

( ・∀・) 「我慢するしかないですね。無理をさせて馬が潰れてしまっては元も子もありません」

( ・∀・) 「どうせ何も出来ないなら、一杯いかがですか?」

モララーは盃を二つ取り出すと、革袋から何かを注いだ。
赤紫色の透明な液体。爽やかな香りが鼻腔を刺激する。

ζ(゚ー゚*ζ 「これは?」

( ・∀・) 「果物の汁に薬草を漬け込んだものです」

( ・∀・) 「甘くて美味しいですし、酔い止めにもなりますよ」

ζ(゚、゚*ζ 「へえ……ありがとうございます」

21名無しさん:2021/10/23(土) 22:39:31 ID:S/RA0zHE0
恐る恐るという様子で、液体を口に含む。
瞬間、口の中に広がる甘み。草木の死にゆく村では久しく感じることが出来なかった味覚。

ζ(゚、゚*ζ 「うわあ……これ、美味しいです!」

( ・∀・) 「お気に召したなら良かった」

( ・∀・) 「漬け込んでいる薬草には疲れを取り、心を落ち着かせる効能もあります」

( ・∀・) 「どうです、もう一杯?」

ζ(゚ー゚*ζ 「ありがとうございます。でも、貴重な飲み物では?」

( ・∀・) 「確かに安物ではないですが、村のために頑張っているお嬢さんにご褒美というやつです」

ζ(゚ー゚*ζ 「あ……」

( ・∀・) 「私も事情は知っていますからね。女性一人で村を出るのは心細かったことでしょう」

( ・∀・) 「目の下に大きな隈が出来ていますし、村を出てからまともに眠れていなかったのでは?」

今回の取引のため、村の人々は残り僅かな財産を出し合った。
取引相手に渡す金を除けば、後はせいぜい一人分の旅費。
誰かが一人で村を出なければとなった時、手を上げたのがデレだった。

ζ( ー *ζ 「えっと、その……」

( ・∀・) 「大丈夫、ここは大丈夫ですよ」

もしも駅馬車が山賊に襲われたら、男や老人はそのまま殺されてしまうだろう。
しかし若い女であれば生き延びることは出来るかもしれない。デレはそう主張した。
生き延びた後に何が待っているかを知らないわけではなかった。
それでも、他の誰かが犠牲になるのは耐えられなかった。

これから死体を買いに行こうという人間が他者の身を案じるなど矛盾しているかもしれない。
しかし、デレの心の中の正義がそれを肯定した。

ζ(;、;*ζ 「ありがとうございます……私、ずっと怖くて……」

ζ(;、;*ζ 「本当に襲われたら、死んでやろうって……隠し持ってるナイフが手放せなくて……」

緊張の糸が切れるとはこういうことか。
頬を伝う熱を感じながら、デレは思った。

22名無しさん:2021/10/23(土) 22:40:08 ID:S/RA0zHE0
( ・∀・) 「周りの景色を見るにまだまだ村は遠い。涙を拭いて、もう一杯飲んだら少し休みましょう」

( ・∀・) 「村に着いたら雨乞いの準備をするんですから体力を残しておかねば」

ζ(うー゚* ζ 「うん……ありがとうございます」

ζ(゚ー゚*ζ 「少し泣いたら、気が楽になりました」

( ・∀・) 「外套をお貸しします。下に敷けば、この硬い椅子よりは快適に眠ることが出来るでしょう」

ζ(゚、゚*ζ 「そうですね、それではお言葉に……」

ζ(-、-*ζ 「あま……え……て……」

旅の終わりに初めて、デレは安心して眠ることができた。
馬車が村に着き、デレが目覚めると、
モララーの姿は既に無く、彼の外套だけが残されていた。

外套だけ。そう、外套だけだった。
馬車の中にはデレと外套だけが残されていた。

23名無しさん:2021/10/23(土) 22:41:25 ID:S/RA0zHE0
【正義の話】

首を手に入れられなかったこと。
フォックスにとってそれが何よりの不満だった。

タカラと名乗ったこの奴隷は、たった一人で山賊の半数程度を殺し、残りを敗走させた。
その後タカラは枯木と鉈で器用に道具を作成し、街道脇に穴を掘り始めた。

     ( ,,^Д^) 「埋葬します。ご主人、少し時間をください」

     爪;'ー`) 「は? 放っておけば良いだろそんなもん」

     ( ,,^Д^) 「いけません。死体は野犬を呼びますし、後を通る人達の障害になります」

     ( ,,^Д^) 「それに何より、罪人であれ死人は死人です。死体を野晒しにするのは哀れでしょう」

     爪;'ー`) 「そ、そうか……まあ良い、早くしろよ」

命の恩人であり、殺人の天才であるタカラに、軟弱なフォックスが強気に出られる筈もない。
せめて奴隷の主人としての態度を崩さないよう取り繕うのに必死だった。

     爪;'ー`) 「しかし、見事に頭を真っ二つだな。死体には情けを掛けるくせに」

     ( ,,^Д^) 「生きている間は敵ですので殺します。死人は敵ではありません」

     爪;'ー`) (なんだそりゃ……お、この死体は……!)

死体の山の中でフォックスが発見したのは、腹を割かれた死体だった。
その傷が致命傷になったのだろう。
他の死体とは違い、首から上は全くの無傷だった。

     爪'ー`) 「おい、タカラ」

     ( ,,^Д^) 「何でしょうご主人?」

     爪'ー`) 「その死体、首だけ持っていきたい。処理してくれ」

そうだ、体格が合っていれば死体は誰でもいい。
わざわざこの異常に強い奴隷を殺そうとする必要は無いのだ。

     ( ,,^Д^) 「いけません。彼がかわいそうです」

     爪;'ー`) 「は? 主人の命令だぞ?」

     ( ,,^Д^) 「……いけません。彼をここに眠らせてやるのが、彼を殺した私の約目です」

タカラの手元の鉈から血が滴り落ちる。
フォックスはそれ以上、何も言うことが出来なかった。

24名無しさん:2021/10/23(土) 22:42:27 ID:S/RA0zHE0
( ,,^Д^) 「埋葬が終わりました。出発しましょう」

爪'ー`) 「……そうだな。余計な時間を食った。今日は南西の農村辺りで宿を取ろう」

( ,,^Д^) 「おや、目的地は西の漁村では? 南西方向は遠回りになりますが」

爪'ー`) 「馬鹿が……盗賊はどっちに逃げた?」

生き残りの盗賊達は、街道を西方向に走って行った。
このまま最短距離で漁村に向かった場合、馬車は再度盗賊達と鉢合わせする可能性がある。

爪'ー`) 「どうせまた殺して、穴掘って埋めることになるんだろ?」

「そっちのほうがよほど遠回りだ」とフォックスが続けると、タカラは暫く黙ってから笑い出した。

( ,,^Д^) 「盗賊と遭った時の心配事が、命でも積荷でもなく時間ですか」

( ,,^Д^) 「信頼していただけたようで何よりです。ご主人、あなたと積荷は必ず守りますよ」

爪'ー`) 「……とにかく、進路は南西だ。さっさと荷車に戻れ」

( ,,^Д^) 「いえ、荷車には戻りません。また鍵をかけられると助けるのが遅れます」

( ,,^Д^) 「私も御者台に座りましょう。少し窮屈ですが、命には代えられません」

爪;'ー`) 「おいおい、勘弁してくれよ」

( ,,^Д^) 「いけません。次も無事に鍵を開けられるとは限らない。仕事のためには横に居るのが一番良いのです」

25名無しさん:2021/10/23(土) 22:44:01 ID:S/RA0zHE0
問答を繰り返しながら農村に着いた頃、陽はすっかり沈んでいた。
家から漏れ出す明かりは僅か。貧しい小村であることが一目で分かる。

爪'ー`) 「ここも干魃にやられたか」

爪'ー`) 「何年か前まではもうちょい栄えてた村なんだがな」

( ,,^Д^) 「過去にも来たことがお有りで?」

爪'ー`) 「ああ、村の外れに身内の別荘が有ったんだよ」

何年か前、まだフォックスの親族が彼の将来に希望を持っていた頃、
親族の一人に招待される形で村を訪れたことが有った。
自然豊かな村。時間がゆっくりと流れているような、穏やかな雰囲気の村。
草木の一本もなく、寂れ果てた現在の様子とは似ても似つかない。

爪'ー`) 「その別荘もどこぞの学者に売り払ったってんで暫く足が遠のいていたが……これ程とは……」

爪'ー`) 「結構気に入ってた村なんだがなあ……」

( ,,^Д^) 「……」

爪'ー`) 「まあとにかく、宿を探すか。やってりゃ良いが」

それきり二人は黙り込んで、村の中を探索した。
フォックスは単に話題が尽きたから黙った。そしてタカラは、村を見渡しながら何かを考え込んでいるようだった。

26名無しさん:2021/10/23(土) 22:44:48 ID:S/RA0zHE0
爪'ー`) 「……お?」

村の中央付近、乗合馬車の停車駅に差し掛かった所で、地べたに座り込む少女の姿が目に入った。

ζ(;、;*ζ

少女はうつむき、静かに肩を震わせている。
不審に思ったフォックスが馬車を止め、様子を伺っていると、
少女は懐から短剣を取り出し、自身の首元に突き立てた。

ζ( ー *ζ 「……」

爪;'ー`) 「あ……! おい、ストップ! 止めな!」

爪;'ー`) 「ああもう、間に合わん! ……タカラ!!」

( ,,^Д^) 「承知しました!」

「馬車から降りて駆け寄れ」
そのつもりでフォックスはタカラの名を呼んだ。
しかし、大きく返事をしたタカラは馬車から降りる様子がなく、少女に向かって、勢いよく鉈を投擲した。

爪;'ー`) 「はあ!? おい何やって……」

金属の衝突する音。
タカラの鉈は少女の身に触れることはなく、手に持つ短剣のみを弾き飛ばした。

( ,,^Д^) 「私より鉈の方が早いので」

表情を変えず語るタカラに、フォックスは最早返す言葉もなかった。

27名無しさん:2021/10/23(土) 22:46:03 ID:S/RA0zHE0
ζ(;、;*ζ 「死なせてください! もう私が死ぬしか無いんです!」

爪;'ー`) 「待ってくれよ。どうしたんだい?」

爪;'ー`) 「落ち着いて、落ち着いて。俺で良ければ話は聞くからさ」

本来、自分が既に「厄介事」の中心にいる状況で、これ以上の面倒を抱えるのは御免だった。
しかし、フォックスの場合、相手が若い女であれば話が違う。
どんな状況であっても女絡みの好機は見逃さない。危機感の欠如も極まれリという有様だ。

ζ(;、;*ζ 「……誰にも言いませんか?」

爪'ー`) 「ああ、内緒にする。俺と、君だけの秘密だ」

ζ(;、;*ζ 「そちらの方は?」

( ,,^Д^) 「私はご主人の所有物です。ご主人が望むのであれば秘密は洩らしません」

ζ(;、;*ζ 「……本当に、内緒にしてくださいね」

デレが語った内容はこうだった。
干魃に苦しむ村を救うため、村人たちは雨乞いの儀式をすることにした。
デレは「儀式のための大切な道具」を調達する役目だったが、帰りの馬車の中でその道具を紛失してしまった。

道具は恐らく、村外れの屋敷に住むモララーが持ち去ったのだ。

( ,,^Д^) 「村外れの屋敷というと……」

爪'ー`) 「だろうな」

状況は大方理解した。
しかし、一つだけ確認しなければいけないことがある。

爪'ー`) 「ちなみにその大切な道具って、何?」

ζ(゚ - ゚;ζ 「それは……言えません」

古今東西、儀式に使うものといえばある程度予想がつく。
人に言えないような道具。それも恐らく消耗品。
動物や人間の死体。それも、心臓、血、首など生死に関わる部位のものだろう。
確信に近い予感が有った。

28名無しさん:2021/10/23(土) 22:47:32 ID:S/RA0zHE0
爪;'ー`) (首を突っ込んじゃいけない臭いがするな。上手いこと話を切り上げて逃げようか)

フォックスの考えを他所に、デレは言葉を続ける。

ζ(;、;*ζ 「干魃で皆が苦しんでいるのに、私はなんということを……」

( ,,^Д^) 「皆が苦しんでいる……」

ζ(;、;*ζ 「ああ、儀式をしなければこの村はお終いです。もう、私が死んでお詫びするしか……」

( ,,^Д^) 「村が、終わる……ご主人の愛した村が……」

爪'ー`) 「ん?」

( ,,^Д^) 「ご主人の大切な村が……財産が……」

爪'ー`) 「おい?」

( ,,^Д^) 「守るのが……私の役目……!」

「待て、その流れは良くない」
フォックスが咎めるより早く、タカラは叫んだ。

( ,,^Д^) 「私達が、その道具を取り返しましょう!」

ζ(゚ー゚*ζ 「え……」

( ,,^Д^) 「モララーという男は村外れの屋敷に居るのですね?」

ζ(゚ー゚*ζ 「はい、駅馬車の御者さんもそちらに向かう姿を見たと」

( ,,^Д^) 「あの屋敷はもともとご主人の親族の物。内部の構造はご存知でしょう」

爪;'ー`) 「待て待て待て待て待て、聞きたいことがたくさんある」

29名無しさん:2021/10/23(土) 22:48:28 ID:S/RA0zHE0
第一に、なぜ取り返しに行く話になったのか。
第二に、内部構造の知識が必要ということは、屋敷に侵入する前提なのか。
第三に、なぜ「私が取り返す」ではなく「私達が取り返す」と言ったのか。
フォックスの問いかけに、タカラは淀みなく答えた。

( ,,^Д^) 「第一に、ご主人の愛した村を守ることはご主人の財産を守ることと同義だからです」

( ,,^Д^) 「第二に、物を盗み出した人間に、その物を返還するよう求めることは無意味だからです。盗み返すしかありません」

( ,,^Д^) 「第三に、ご主人と私が離れた場合、何かあった時にご主人の命を守ることが困難だからです」

( ,,^Д^) 「私の見知らぬ村の中に居られるより、私の後ろに隠れていただいた方が守りやすい」

爪;'ー`) 「待て、多分だが色々おかしいぞ! 少し落ち着いてだな……!」

( ,,^Д^) 「いえ、待てません。今回の目的地は西の漁村。ここで時間を徒にするわけにはいきませんので」

抵抗虚しく、タカラはフォックスの身体を抱えて御者台に乗り込んだ。

( ,,^Д^) 「すぐに済みます。貴女は安心して家に帰りなさい」

ζ(゚ー゚*ζ 「は、はい! どうかご無事で……」

爪;'ー`) 「ああもう、わかったよ! さっさと済ませて寝るぞ!」

こうなればもう自棄だ。泥棒でも何でもしてやろう。
仮にモララーに抵抗されてもタカラが守ってくれるだろう。
俺を守って、もしそれで死んでくれたら儲けものだ。
フォックスは意を決し、村外れの屋敷へと馬車を進めた。

30名無しさん:2021/10/23(土) 22:49:55 ID:S/RA0zHE0
馬車を走らせて数十分、屋敷の門に到着した。
既に周囲は暗闇の中。人目につかぬ場所に馬車を停める。

爪'ー`) 「良いか、中の人間に見つかったら逃げるぞ」

爪'ー`) 「戦おうとするな。例の道具を手に入れる前だったとしても諦めろ」

爪'ー`) 「それが守れないなら侵入は認めん」

( ,,^Д^) 「承知しました、ご主人。……あ!」

思い出したように声を上げるタカラ。
フォックスは慌ててその口を塞ぎ、無警戒な行為を咎める。

爪;'ー`) 「声を抑えろ……! 入る前に見つかりたいのか……!」

( ,,^Д^) 「失礼しました。しかしご主人、あのお嬢さんに道具の正体を聞きそびれて……」

爪'ー`) 「……道具なら大方予想はつく。俺が探すからお前は周囲を警戒していろ」

( ,,^Д^) 「承知しました。流石ですね、ご主人」

爪'ー`) 「無駄口は叩くな。行くぞ」

ある程度金を持っている人間の屋敷には、使用人が出入りするための通路がある。
屋敷の主人さえ把握していない、使用人のためだけの隠し通路、隠し扉。
数年前の来訪で偶然その入口を発見していたのは僥倖だった。

爪'ー`) 「聞けば、モララー自体は大した金持ちじゃないらしい」

爪'ー`) 「使用人も雇っていないとなると、この通路のことは知る由も無いだろう」

門から少し離れた物陰に、静かに佇む石製の小屋。
閂を外し小屋の中に入ると、狭い空間の中には地下へと続く扉があった。

爪'ー`) 「これをぶっ壊して地下道を進めば屋敷の中だ。使用人は門じゃなく、地下から入ってくるんだよ」

タカラが鉈を叩きつけると、扉にかけられた南京錠は歪に変形し、砕けた。

爪'ー`) 「……行くぞ」

( ,,^Д^) 「はい、ご主人」

31名無しさん:2021/10/23(土) 22:51:59 ID:S/RA0zHE0
地下道に入ると、内部は予想通りの有様だった。
数年間閉じたままの空間。空気は淀み、黴臭い。
一歩進むごとに降り積もった埃が削れ、真新しい足跡が残る。

小さなライターの炎を頼りに歩くには、少々厳しい道である。

( ,,^Д^) 「やはり、この通路は使われていないようですね」

爪'ー`) 「ああ、これを抜ければ使用人専用の支度室。そこから隠し通路が伸びて、屋敷内の全ての部屋に繋がっている」

( ,,^Д^) 「部屋の目星は?」

爪'ー`) 「知らん」

爪'ー`) 「学者なんて人種は変人の集まりだ。変人が何をどこに置くのかなんて想像できるか」

( ,,^Д^) 「それでは総当たりで?」

爪'ー`) 「強いて言うなら……暗くて涼しい所だ。棚の中とかな。だがそんな物はどの部屋にも有るだろう」

地下道は下り坂から上り坂に変わり、やがて木製のドアが現れた。
鍵はかかっていない。小屋の扉が最後の侵入者対策だったのだろう。
ドアの隙間からも、光は漏れ出していない。向こう側も暗闇だ。

( ,,^Д^) 「開けます……」

爪'ー`) 「……」

開かれた扉の内側に人影はない。
空っぽの本棚に、簡素な机と椅子がいくつか。

爪'ー`) 「今から言うことをよく覚えろ」

埃かぶった机に指で図形を描きながらフォックスは語る。

32名無しさん:2021/10/23(土) 22:54:59 ID:S/RA0zHE0
爪'ー`) 「俺が覚えている限り、これがこの館の間取り図だ」

( ,,^Д^) 「これが? ……随分詳しい図ですね」

爪'ー`) 「お世辞は良い。とにかく、俺達は今ここにいて、この隠し通路を通って屋敷の中を周る」

フォックスは説明を続ける。
隠し通路側からは部屋の中を覗き見できる。主人の不在を見計らって部屋の手入れをするためだ。
無人を確認してから入る以上、隠し扉を開けた瞬間に鉢合わせということは無い。
心配するべきは部屋の探索中にモララーが入って来ることだ。

爪'ー`) 「覚えなきゃいけないのは各部屋の”主人用の”出入り口の位置だ。常にその方向を警戒しろ」

( ,,^Д^) 「なるほど、承知しました……」

爪'ー`) 「覚えたか? 覚えたなら行くぞ。お前がヘマをしたら置いて逃げるからな」

タカラは「勿論です」と返し、隠し通路に入っていった。
数秒時間を置き、危険がないことを確認した所でフォックスはその後を追った。

( ,,^Д^) 「この部屋は無人ですね……」

爪'ー`) 「入るぞ……」

屋敷内の部屋を一つ一つ、入念に調べていく。
目当ての物は見つからない。
どの部屋も研究道具と思しき金属の器具や、奇妙な図形が描かれた資料が散らばっている。

33名無しさん:2021/10/23(土) 22:57:21 ID:S/RA0zHE0
爪'ー`) (ん? この資料)

ある部屋で、机上に置かれた一枚の紙が目に付く。
見覚えのある器具。昔実家に出入りしていた学者が持ち込んだ物によく似ていた。
その器具はハンドルを回転させることで、雷のような力を生み出すことが出来るらしい。
白髪の老人が子供のような笑顔でそう語っていたのを覚えている。

爪'ー`) 「雷の研究ねえ」

( ,,^Д^) 「もしや、見つけましたか……!?」

爪'ー`) 「ああいや、すまん。この部屋には無いみたいだ」

( ,,^Д^) 「そうですか……では次の部屋に」

次の部屋も、その次の部屋も、更にその次の部屋も、それらしき物は無かった。

なぜどこにも置いていない。それに、帰宅したはずのモララーが見つからないのも不自然だ。
屋敷の方に歩いていたという御者の発言は間違いで、「道具」もモララーも全く別の場所に行っているのではないか。
そもそも本当に「道具」はモララーが持ち去ったのか。
フォックスの心に疑念が募る。

爪'ー`) (時間をかけ過ぎたら馬車が発見される。引き時は見極めなきゃな)

半ば諦めかけていたその時、地下の一室で、フォックスは己の目を疑うことになる。

34名無しさん:2021/10/23(土) 22:58:32 ID:S/RA0zHE0
( ,,^Д^) 「この部屋も無人ですね。入ります」

爪'ー`) 「ああ」

その部屋は物置のように扱われており、大きな研究資材がいくつも、保護用の目隠し布を掛けて保管されていた。
奥側の大荷物は長期間放置されているらしく埃を被っているが、
手前の方には丁寧に手入れされた器具や資材の山がある。

資材の山の一角、金属器を詰め込んだ木箱の影に、真新しい鞄が置かれている。

爪;'ー`) 「はあ!?」

一目見て、フォックスはそれが何であるかを理解した。
道中で失った首入り鞄。色も、形状も、間違いなかった。

( ,,;^Д^) 「ご主人……! 声が大きい……!」

爪;'ー`) 「あ、ああ……すまん」

鞄を手に取り、恐る恐る中を覗き込む。

(  ω )

丸一日、求め続けた生首がそこに有った。

35名無しさん:2021/10/23(土) 22:59:46 ID:S/RA0zHE0
( ,,^Д^) 「見つけましたか……!?」

爪*'ー`) 「違うが、見つけたぜ……!」

( ,,^Д^) 「違うとは?」

爪*'ー`) 「こいつは道中で俺が盗まれた鞄だ! まさかこんな所に有るとは……」

爪*'ー`) 「多分だが、俺から盗んだのもモララーだったってことだ」

爪#'ー`) 「そう思うと腹が立つな。あの変態野郎、変な物を集めやがって……」

( ,,^Д^) 「落ち着いてください。今は戻ってきたことを喜びましょう。今の目的は何ですか?」

正直な話、フォックスはこの時点で目的を果たしていた。
失った生首が戻ってきた。この妙に強い奴隷を殺す計画を立てる必要もない。
ましてや「愛した村が消える危機」などというのは、奴隷の脳内で極端に誇張された妄想である。
多少の物寂しさが無いわけではないが、村を出て一日もすれば忘れてしまう程度の感傷に過ぎない。

爪'ー`) 「……おっと、そうだな。探しものを続けよう」

しかし、フォックスは無計画な楽天家である。
悩み事が解消し、気分が良くなったタイミングで、「若い女を救う」役割から降りることなど考えない。

爪'ー`) 「次の部屋は……これは、何だ……?」

36名無しさん:2021/10/23(土) 23:01:50 ID:S/RA0zHE0
物置の隣の部屋は、モララーの実験室として扱われているようだった。
広い空間に長机と椅子が一つ。
目隠し布を掛けられた大型資材が並んでいるのは物置と同様だが、
室内は日常的に清掃されているようで、資材も、本棚の書類も、丁寧に手入れされていることが伺える。

爪'ー`) (ここは……マズいな)

爪'ー`) 「警戒しろ。ここで鉢合わせする可能性が一番高い」

( ,,^Д^) 「……はい、ご主人も急いで探索を」

机上の資材、戸棚の一つ一つに至るまで、入念に確認する。
木や金属で出来た機材、注射器、ガラス製の器やレンズ、絹の糸、謎の鉱石、細い針、どれも違う。
盗んだナマモノを扱うのであれば、すぐにでも取り出せる場所に置いておくはずだ。

既に「道具」を手にしていることなど知る由もないフォックスは、成果のない探索に、徐々に焦りを見せ始める。

爪;'ー`) (どの棚にもそれらしき物は入っていない。なぜだ?)

爪;'ー`) (俺の考えが間違っていた? 例えば、心臓や首じゃなくもっと別の物……)

爪'ー`) (……まさか?)

フォックスは思い至る。
いくら戸棚を探しても見つからないのは、それが「戸棚に入らないほど大きな物」だからではないか?
勿論、その考えは誤りであるが、彼の周囲には、彼の仮説を勢い付ける物品が大量に存在した。

爪;'ー`) 「おいタカラ、目隠し布だ。そのどれかに隠されている! 全部剥ぎ取れ!」

爪;'ー`) 「時間はないぞ、急げ……!」

( ,,^Д^) 「承知しました……!」

37名無しさん:2021/10/23(土) 23:03:23 ID:S/RA0zHE0
手当り次第、大荷物に掛かった目隠し布を取り払う。
次々と姿を表す大型実験器具。
鉱石を粉砕する器具、試料や器を固定する器具、雷のような力を生み出す器具。すべて違う。

爪;'ー`) 「これじゃない……これでもない……」

爪;'ー`) 「じゃあこいつなら……っ!?」

「ちょうどフォックスの背丈ほどの大きさの」物体に被せられた布を取り払う。
布の下から現れたのは、首のない人間の死体だった。

爪;'ー`) 「何だこの死体、狂ってるのか?」

( ,,^Д^) 「……許されませんね」

彼らの反応も当然である。なぜなら、それは単なる首無し死体ではない。
死体の身体には、絡みついた蛇のような縫い目が無数に存在し、
その縫い目を境に、大きさも、色も違う手足や皮膚の部品が貼り付けられている。

つまりこれは、複数の死体を切り刻み、縫い合わせて作った継ぎ接ぎの死体だった。

( ,,^Д^) 「……」

( ,,^Д^) 「すみません、ご主人。しくじりました」

爪'ー`) 「え?」

背後からの破裂音。
同時に、タカラの身体が大きく傾いた。

38名無しさん:2021/10/23(土) 23:04:43 ID:S/RA0zHE0
( ,,;^Д^) 「銃です。物陰に、早く……!」

膝をつくタカラ。その太腿からは血が噴き出している。
フォックスが破裂音の方向を振り返ると、銃を構えた男と目が合った。
整った顔立ちに柔和な笑顔。会う場所が違えば、誰一人として彼の本性に気づくことは不可能だろう。

( ・∀・) 「泥棒なら警察に突き出して終わり、としたいところですが……」

( ・∀・) 「見ちゃいましたよね。だから駄目です」

爪;'ー`) 「モララー……」

( ・∀・) 「おや、名前を知ってらっしゃる。村の方ではないと思いますが」

爪;'ー`) 「この悪趣味な人形、村の人間から盗んだものか?」

( ・∀・) 「は……?」

フォックスの言葉に、モララーの表情が凍りつく。
数拍の後、銃弾がフォックスの頬を掠めた。

爪;'ー`) 「ひっ……!」

( #・∀・) 「危ない、殺してしまうところだった……」

( #・∀・) 「良いか、これは私の20年に及ぶ研究の集大成だ!」

( #・∀・) 「無知な輩に教えた所で無駄かも知れんがな!

モララーは片手で銃を構えたまま、もう片方の手で筆を取った。
真っ白な壁をインクで汚しながら話を続ける。

39名無しさん:2021/10/23(土) 23:07:54 ID:S/RA0zHE0
( #・∀・) 「いいか、人間の体がどうやって動いているか知っているか?」

爪;'ー`) 「筋肉の収縮だろ」

( #・∀・) 「……そうだ! では、筋肉の収縮がどうやって起こっているか!?」

爪;'ー`) 「さ、さあ?」

( #・∀・) 「そうだ知らんだろう! 私は知っている!」

( #・∀・) 「筋肉の収縮とは、雷の力で起こるのだ!」

( #・∀・) 「体内に極小の雷が発生し、その力により筋肉が収縮し、体が動く!」

( #・∀・) 「手も、足も、心臓も、全て雷の力で動いているのだ!」

( #・∀・) 「図にするとこうだ! こう、こう、こう、こうだ!」

( #・∀・) 「であれば……わかるだろう!?」

爪;'ー`) 「……わかる?」

破裂音とともに、フォックスの足元の床が弾ける。
フォックスは再び悲鳴を上げ、タカラはその様子を忌々しげに見つめていた。

( #・∀・) 「動かしてみたくなるだろうが! もう動かない死体の身体を!」

( #・∀・) 「試してみたくなるだろうが! 死体の頭に電流を流せばどうなるか!」

爪;'ー`) 「頭おかしいんじゃねえの、あんた」

( #・∀・) 「ああ、狂っているかもしれないな! だが、この研究で文明はまた先に進む」

( #・∀・) 「雷の力で死人を動かす時代が来るのだ」

( #・∀・) 「見られた以上、生きて返すわけにはいかない。お前たちの犠牲で、人類は死を乗り越えられるかもしれない」

40名無しさん:2021/10/23(土) 23:08:35 ID:S/RA0zHE0
( ,,^Д^) 「それはつまり、ご主人を殺すということですね」

膝をついたままのタカラが口を開いた。
足元には既に血溜まりが出来ている。急いで処置をしなければ失血死は免れられない。

( #・∀・) 「ああ、ただし、すぐには殺さない。生きている間でなければ出来ない実験も有る」

( #・∀・) 「最終的には死ぬだろうが、まあ、抵抗しなければ苦しまずに死なせてやっても良い」

( ,,^Д^) 「であれば……」

( ,,^Д^) 「守るのが、私の仕事です」

( #・∀・) 「は?」

穴の空いた足に、力が込もる。噴き出す血の量が一気に増す。
タカラは両目でモララーを捉えたまま、力強く鉈を握りしめた。

爪;'ー`) 「おい、タカラ! 何をやって……」

( ,,^Д^) 「モララー、私は貴方やご主人のような学はないが、貴方が間違っていることは分かる」

( #・∀・) 「何を言っているんだ、さっきから。状況が理解できないのか?」

( ,,^Д^) 「人間を動かすのは雷の力ではない。人間は、動かねばならぬから動くのです」

( ,,^Д^) 「役目を全うするために。己が心に従い、正義を為すために動くのです」

( ,,^Д^) 「私は今、ご主人を守らなければならない。であれば……」

( ,,#^Д^) 「足の傷など、何の障害でもない!」

( #・∀・) 「なっ……!?」

41名無しさん:2021/10/23(土) 23:09:42 ID:S/RA0zHE0
タカラは立ち上がり、モララーに向かって駆け出した。
穴の空いた足で床を蹴り、飛び散る血液が机上の資料を汚す。

( #・∀・) 「馬鹿が……! 穴空き死体じゃ使い道が無いだろうが!」

モララーは怒りを滲ませながら引金を引いた。
放たれた銃弾は、次の瞬間には目の前の愚者の眉間に到達し、頭を吹き飛ばすだろう。
実験材料が一つ減ってしまった。細目の男の方は何とか上手くやらなければ。

そんな打算は全て、科学を解せぬ愚者によって打ち砕かれた。

( ,,#^Д^) 「殺したいなら頭か心臓。私でもわかる!」

殺意を持って迫りくる銃弾を、タカラは鉈の腹で受け止めた。
鉈は砕け、大小の破片が宙に舞う。

次弾が発射されるより、タカラの到着が早かった。
タカラはモララーの頭を掴むと、そのまま、折れた鉈の柄を首に突き刺した。

( # ∀ ) 「あれ……?」

気の抜けた声とともにモララーの身体が崩れ落ちる。
銃を握る力も、もう残されていないようだ。

(  ∀ ) 「ああ……」

(  ∀ ) 「ごめんなあ、でぃちゃん……」

それきり、モララーが再び動くことはなかった。

42名無しさん:2021/10/23(土) 23:10:54 ID:S/RA0zHE0
フォックスはただ、全てが終わるを呆然と眺めていた。
穴の空いた足で立ち上がり、銃を持った相手に打ち勝つ。
一つの奇跡が目の前で繰り広げられた。

しかし、奇跡の代償は大きい。

( ,, Д ) 「ご主人、無事ですか?」

爪;'ー`) 「俺は無事だ。そんなことよりお前、無理しやがって……」

( ,, Д ) 「血が止まりませんね、流石にもう死ぬかもしれません。守れてよかった」

爪;'ー`) 「馬鹿野郎、いいから寝てろ! いま治療してやるから!」

( ,, Д ) 「医術もできるんです? 立派なご主人に使えられて良かった……」

爪;'ー`) 「くそ、これから死ぬみたいな言葉ばかり……」

記憶を頼りに、フォックスは治療を試みた。
戸棚から絹糸を取り出し、破れた血管を結紮した。
結紮できぬ程に損傷した部位はライターで炙った金具を押し付けて焼いた。

爪;'ー`) 「あとは、何だ……? 確か血を流し過ぎた時には塩水を注射して……」

爪;'ー`) 「畜生、もっと勉強しときゃ良かった!」

フォックスは思いつく限り、出来る限りの治療を施す。
つい数時間前まで死を願っていた相手であることなど、忘れてしまっているようだ。


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