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切り落とされた首の話
1
:
◆nu89KoW33w
:2021/10/23(土) 21:57:20 ID:S/RA0zHE0
刑死者の多い夏だった。
長い干魃が各地を襲い、飢えと乾きは人々を凶行へと駆り立てた。
( ゚д゚ ) 「名はホライゾン、生まれは西の漁村……で間違い無いな。今日はお前が最後だ」
( ^ω^) 「……」
( ゚д゚ ) 「しかし、強姦殺人とは馬鹿な真似をしたものだな」
( ゚д゚ ) 「盗みに入った家の娘に見つかり、居直り強盗か。そこで観念しておけば死なずに済んだ物を」
( ^ω^) 「……僕は」
盗み、奪い、犯し、殺す。
そして凶行には相応の報いが与えられる。
それらは全てこの時代において最早ありふれた、日常的な営みとなっていた。
ありふれた、余りにありふれた――――
( ^ω^) 「僕は、誰も殺してないお」
( ゚д゚ ) 「ああ、そうかも知れんな」
( ^ω^) 「彼女を殺した人間を僕は見た」
( ^ω^) 「蛇のような目の、背の高い男。僕はそいつに陥れられたんだお」
( ゚д゚ ) 「……諦めろ。抵抗しても苦しみが続くだけだ」
( ^ω^) 「……」
( ^ω^) 「許さない。死んでも許さないお」
そう、この男のように無実の罪で囚えられ、真犯人への強い怨念を抱いたまま命を落とすことも、
この時代では実にありふれた「悲劇」である。
間もなく、執行官の手によって男の首は刎ねられた。
21
:
名無しさん
:2021/10/23(土) 22:39:31 ID:S/RA0zHE0
恐る恐るという様子で、液体を口に含む。
瞬間、口の中に広がる甘み。草木の死にゆく村では久しく感じることが出来なかった味覚。
ζ(゚、゚*ζ 「うわあ……これ、美味しいです!」
( ・∀・) 「お気に召したなら良かった」
( ・∀・) 「漬け込んでいる薬草には疲れを取り、心を落ち着かせる効能もあります」
( ・∀・) 「どうです、もう一杯?」
ζ(゚ー゚*ζ 「ありがとうございます。でも、貴重な飲み物では?」
( ・∀・) 「確かに安物ではないですが、村のために頑張っているお嬢さんにご褒美というやつです」
ζ(゚ー゚*ζ 「あ……」
( ・∀・) 「私も事情は知っていますからね。女性一人で村を出るのは心細かったことでしょう」
( ・∀・) 「目の下に大きな隈が出来ていますし、村を出てからまともに眠れていなかったのでは?」
今回の取引のため、村の人々は残り僅かな財産を出し合った。
取引相手に渡す金を除けば、後はせいぜい一人分の旅費。
誰かが一人で村を出なければとなった時、手を上げたのがデレだった。
ζ( ー *ζ 「えっと、その……」
( ・∀・) 「大丈夫、ここは大丈夫ですよ」
もしも駅馬車が山賊に襲われたら、男や老人はそのまま殺されてしまうだろう。
しかし若い女であれば生き延びることは出来るかもしれない。デレはそう主張した。
生き延びた後に何が待っているかを知らないわけではなかった。
それでも、他の誰かが犠牲になるのは耐えられなかった。
これから死体を買いに行こうという人間が他者の身を案じるなど矛盾しているかもしれない。
しかし、デレの心の中の正義がそれを肯定した。
ζ(;、;*ζ 「ありがとうございます……私、ずっと怖くて……」
ζ(;、;*ζ 「本当に襲われたら、死んでやろうって……隠し持ってるナイフが手放せなくて……」
緊張の糸が切れるとはこういうことか。
頬を伝う熱を感じながら、デレは思った。
22
:
名無しさん
:2021/10/23(土) 22:40:08 ID:S/RA0zHE0
( ・∀・) 「周りの景色を見るにまだまだ村は遠い。涙を拭いて、もう一杯飲んだら少し休みましょう」
( ・∀・) 「村に着いたら雨乞いの準備をするんですから体力を残しておかねば」
ζ(うー゚* ζ 「うん……ありがとうございます」
ζ(゚ー゚*ζ 「少し泣いたら、気が楽になりました」
( ・∀・) 「外套をお貸しします。下に敷けば、この硬い椅子よりは快適に眠ることが出来るでしょう」
ζ(゚、゚*ζ 「そうですね、それではお言葉に……」
ζ(-、-*ζ 「あま……え……て……」
旅の終わりに初めて、デレは安心して眠ることができた。
馬車が村に着き、デレが目覚めると、
モララーの姿は既に無く、彼の外套だけが残されていた。
外套だけ。そう、外套だけだった。
馬車の中にはデレと外套だけが残されていた。
23
:
名無しさん
:2021/10/23(土) 22:41:25 ID:S/RA0zHE0
【正義の話】
首を手に入れられなかったこと。
フォックスにとってそれが何よりの不満だった。
タカラと名乗ったこの奴隷は、たった一人で山賊の半数程度を殺し、残りを敗走させた。
その後タカラは枯木と鉈で器用に道具を作成し、街道脇に穴を掘り始めた。
( ,,^Д^) 「埋葬します。ご主人、少し時間をください」
爪;'ー`) 「は? 放っておけば良いだろそんなもん」
( ,,^Д^) 「いけません。死体は野犬を呼びますし、後を通る人達の障害になります」
( ,,^Д^) 「それに何より、罪人であれ死人は死人です。死体を野晒しにするのは哀れでしょう」
爪;'ー`) 「そ、そうか……まあ良い、早くしろよ」
命の恩人であり、殺人の天才であるタカラに、軟弱なフォックスが強気に出られる筈もない。
せめて奴隷の主人としての態度を崩さないよう取り繕うのに必死だった。
爪;'ー`) 「しかし、見事に頭を真っ二つだな。死体には情けを掛けるくせに」
( ,,^Д^) 「生きている間は敵ですので殺します。死人は敵ではありません」
爪;'ー`) (なんだそりゃ……お、この死体は……!)
死体の山の中でフォックスが発見したのは、腹を割かれた死体だった。
その傷が致命傷になったのだろう。
他の死体とは違い、首から上は全くの無傷だった。
爪'ー`) 「おい、タカラ」
( ,,^Д^) 「何でしょうご主人?」
爪'ー`) 「その死体、首だけ持っていきたい。処理してくれ」
そうだ、体格が合っていれば死体は誰でもいい。
わざわざこの異常に強い奴隷を殺そうとする必要は無いのだ。
( ,,^Д^) 「いけません。彼がかわいそうです」
爪;'ー`) 「は? 主人の命令だぞ?」
( ,,^Д^) 「……いけません。彼をここに眠らせてやるのが、彼を殺した私の約目です」
タカラの手元の鉈から血が滴り落ちる。
フォックスはそれ以上、何も言うことが出来なかった。
24
:
名無しさん
:2021/10/23(土) 22:42:27 ID:S/RA0zHE0
( ,,^Д^) 「埋葬が終わりました。出発しましょう」
爪'ー`) 「……そうだな。余計な時間を食った。今日は南西の農村辺りで宿を取ろう」
( ,,^Д^) 「おや、目的地は西の漁村では? 南西方向は遠回りになりますが」
爪'ー`) 「馬鹿が……盗賊はどっちに逃げた?」
生き残りの盗賊達は、街道を西方向に走って行った。
このまま最短距離で漁村に向かった場合、馬車は再度盗賊達と鉢合わせする可能性がある。
爪'ー`) 「どうせまた殺して、穴掘って埋めることになるんだろ?」
「そっちのほうがよほど遠回りだ」とフォックスが続けると、タカラは暫く黙ってから笑い出した。
( ,,^Д^) 「盗賊と遭った時の心配事が、命でも積荷でもなく時間ですか」
( ,,^Д^) 「信頼していただけたようで何よりです。ご主人、あなたと積荷は必ず守りますよ」
爪'ー`) 「……とにかく、進路は南西だ。さっさと荷車に戻れ」
( ,,^Д^) 「いえ、荷車には戻りません。また鍵をかけられると助けるのが遅れます」
( ,,^Д^) 「私も御者台に座りましょう。少し窮屈ですが、命には代えられません」
爪;'ー`) 「おいおい、勘弁してくれよ」
( ,,^Д^) 「いけません。次も無事に鍵を開けられるとは限らない。仕事のためには横に居るのが一番良いのです」
25
:
名無しさん
:2021/10/23(土) 22:44:01 ID:S/RA0zHE0
問答を繰り返しながら農村に着いた頃、陽はすっかり沈んでいた。
家から漏れ出す明かりは僅か。貧しい小村であることが一目で分かる。
爪'ー`) 「ここも干魃にやられたか」
爪'ー`) 「何年か前まではもうちょい栄えてた村なんだがな」
( ,,^Д^) 「過去にも来たことがお有りで?」
爪'ー`) 「ああ、村の外れに身内の別荘が有ったんだよ」
何年か前、まだフォックスの親族が彼の将来に希望を持っていた頃、
親族の一人に招待される形で村を訪れたことが有った。
自然豊かな村。時間がゆっくりと流れているような、穏やかな雰囲気の村。
草木の一本もなく、寂れ果てた現在の様子とは似ても似つかない。
爪'ー`) 「その別荘もどこぞの学者に売り払ったってんで暫く足が遠のいていたが……これ程とは……」
爪'ー`) 「結構気に入ってた村なんだがなあ……」
( ,,^Д^) 「……」
爪'ー`) 「まあとにかく、宿を探すか。やってりゃ良いが」
それきり二人は黙り込んで、村の中を探索した。
フォックスは単に話題が尽きたから黙った。そしてタカラは、村を見渡しながら何かを考え込んでいるようだった。
26
:
名無しさん
:2021/10/23(土) 22:44:48 ID:S/RA0zHE0
爪'ー`) 「……お?」
村の中央付近、乗合馬車の停車駅に差し掛かった所で、地べたに座り込む少女の姿が目に入った。
ζ(;、;*ζ
少女はうつむき、静かに肩を震わせている。
不審に思ったフォックスが馬車を止め、様子を伺っていると、
少女は懐から短剣を取り出し、自身の首元に突き立てた。
ζ( ー *ζ 「……」
爪;'ー`) 「あ……! おい、ストップ! 止めな!」
爪;'ー`) 「ああもう、間に合わん! ……タカラ!!」
( ,,^Д^) 「承知しました!」
「馬車から降りて駆け寄れ」
そのつもりでフォックスはタカラの名を呼んだ。
しかし、大きく返事をしたタカラは馬車から降りる様子がなく、少女に向かって、勢いよく鉈を投擲した。
爪;'ー`) 「はあ!? おい何やって……」
金属の衝突する音。
タカラの鉈は少女の身に触れることはなく、手に持つ短剣のみを弾き飛ばした。
( ,,^Д^) 「私より鉈の方が早いので」
表情を変えず語るタカラに、フォックスは最早返す言葉もなかった。
27
:
名無しさん
:2021/10/23(土) 22:46:03 ID:S/RA0zHE0
ζ(;、;*ζ 「死なせてください! もう私が死ぬしか無いんです!」
爪;'ー`) 「待ってくれよ。どうしたんだい?」
爪;'ー`) 「落ち着いて、落ち着いて。俺で良ければ話は聞くからさ」
本来、自分が既に「厄介事」の中心にいる状況で、これ以上の面倒を抱えるのは御免だった。
しかし、フォックスの場合、相手が若い女であれば話が違う。
どんな状況であっても女絡みの好機は見逃さない。危機感の欠如も極まれリという有様だ。
ζ(;、;*ζ 「……誰にも言いませんか?」
爪'ー`) 「ああ、内緒にする。俺と、君だけの秘密だ」
ζ(;、;*ζ 「そちらの方は?」
( ,,^Д^) 「私はご主人の所有物です。ご主人が望むのであれば秘密は洩らしません」
ζ(;、;*ζ 「……本当に、内緒にしてくださいね」
デレが語った内容はこうだった。
干魃に苦しむ村を救うため、村人たちは雨乞いの儀式をすることにした。
デレは「儀式のための大切な道具」を調達する役目だったが、帰りの馬車の中でその道具を紛失してしまった。
道具は恐らく、村外れの屋敷に住むモララーが持ち去ったのだ。
( ,,^Д^) 「村外れの屋敷というと……」
爪'ー`) 「だろうな」
状況は大方理解した。
しかし、一つだけ確認しなければいけないことがある。
爪'ー`) 「ちなみにその大切な道具って、何?」
ζ(゚ - ゚;ζ 「それは……言えません」
古今東西、儀式に使うものといえばある程度予想がつく。
人に言えないような道具。それも恐らく消耗品。
動物や人間の死体。それも、心臓、血、首など生死に関わる部位のものだろう。
確信に近い予感が有った。
28
:
名無しさん
:2021/10/23(土) 22:47:32 ID:S/RA0zHE0
爪;'ー`) (首を突っ込んじゃいけない臭いがするな。上手いこと話を切り上げて逃げようか)
フォックスの考えを他所に、デレは言葉を続ける。
ζ(;、;*ζ 「干魃で皆が苦しんでいるのに、私はなんということを……」
( ,,^Д^) 「皆が苦しんでいる……」
ζ(;、;*ζ 「ああ、儀式をしなければこの村はお終いです。もう、私が死んでお詫びするしか……」
( ,,^Д^) 「村が、終わる……ご主人の愛した村が……」
爪'ー`) 「ん?」
( ,,^Д^) 「ご主人の大切な村が……財産が……」
爪'ー`) 「おい?」
( ,,^Д^) 「守るのが……私の役目……!」
「待て、その流れは良くない」
フォックスが咎めるより早く、タカラは叫んだ。
( ,,^Д^) 「私達が、その道具を取り返しましょう!」
ζ(゚ー゚*ζ 「え……」
( ,,^Д^) 「モララーという男は村外れの屋敷に居るのですね?」
ζ(゚ー゚*ζ 「はい、駅馬車の御者さんもそちらに向かう姿を見たと」
( ,,^Д^) 「あの屋敷はもともとご主人の親族の物。内部の構造はご存知でしょう」
爪;'ー`) 「待て待て待て待て待て、聞きたいことがたくさんある」
29
:
名無しさん
:2021/10/23(土) 22:48:28 ID:S/RA0zHE0
第一に、なぜ取り返しに行く話になったのか。
第二に、内部構造の知識が必要ということは、屋敷に侵入する前提なのか。
第三に、なぜ「私が取り返す」ではなく「私達が取り返す」と言ったのか。
フォックスの問いかけに、タカラは淀みなく答えた。
( ,,^Д^) 「第一に、ご主人の愛した村を守ることはご主人の財産を守ることと同義だからです」
( ,,^Д^) 「第二に、物を盗み出した人間に、その物を返還するよう求めることは無意味だからです。盗み返すしかありません」
( ,,^Д^) 「第三に、ご主人と私が離れた場合、何かあった時にご主人の命を守ることが困難だからです」
( ,,^Д^) 「私の見知らぬ村の中に居られるより、私の後ろに隠れていただいた方が守りやすい」
爪;'ー`) 「待て、多分だが色々おかしいぞ! 少し落ち着いてだな……!」
( ,,^Д^) 「いえ、待てません。今回の目的地は西の漁村。ここで時間を徒にするわけにはいきませんので」
抵抗虚しく、タカラはフォックスの身体を抱えて御者台に乗り込んだ。
( ,,^Д^) 「すぐに済みます。貴女は安心して家に帰りなさい」
ζ(゚ー゚*ζ 「は、はい! どうかご無事で……」
爪;'ー`) 「ああもう、わかったよ! さっさと済ませて寝るぞ!」
こうなればもう自棄だ。泥棒でも何でもしてやろう。
仮にモララーに抵抗されてもタカラが守ってくれるだろう。
俺を守って、もしそれで死んでくれたら儲けものだ。
フォックスは意を決し、村外れの屋敷へと馬車を進めた。
30
:
名無しさん
:2021/10/23(土) 22:49:55 ID:S/RA0zHE0
馬車を走らせて数十分、屋敷の門に到着した。
既に周囲は暗闇の中。人目につかぬ場所に馬車を停める。
爪'ー`) 「良いか、中の人間に見つかったら逃げるぞ」
爪'ー`) 「戦おうとするな。例の道具を手に入れる前だったとしても諦めろ」
爪'ー`) 「それが守れないなら侵入は認めん」
( ,,^Д^) 「承知しました、ご主人。……あ!」
思い出したように声を上げるタカラ。
フォックスは慌ててその口を塞ぎ、無警戒な行為を咎める。
爪;'ー`) 「声を抑えろ……! 入る前に見つかりたいのか……!」
( ,,^Д^) 「失礼しました。しかしご主人、あのお嬢さんに道具の正体を聞きそびれて……」
爪'ー`) 「……道具なら大方予想はつく。俺が探すからお前は周囲を警戒していろ」
( ,,^Д^) 「承知しました。流石ですね、ご主人」
爪'ー`) 「無駄口は叩くな。行くぞ」
ある程度金を持っている人間の屋敷には、使用人が出入りするための通路がある。
屋敷の主人さえ把握していない、使用人のためだけの隠し通路、隠し扉。
数年前の来訪で偶然その入口を発見していたのは僥倖だった。
爪'ー`) 「聞けば、モララー自体は大した金持ちじゃないらしい」
爪'ー`) 「使用人も雇っていないとなると、この通路のことは知る由も無いだろう」
門から少し離れた物陰に、静かに佇む石製の小屋。
閂を外し小屋の中に入ると、狭い空間の中には地下へと続く扉があった。
爪'ー`) 「これをぶっ壊して地下道を進めば屋敷の中だ。使用人は門じゃなく、地下から入ってくるんだよ」
タカラが鉈を叩きつけると、扉にかけられた南京錠は歪に変形し、砕けた。
爪'ー`) 「……行くぞ」
( ,,^Д^) 「はい、ご主人」
31
:
名無しさん
:2021/10/23(土) 22:51:59 ID:S/RA0zHE0
地下道に入ると、内部は予想通りの有様だった。
数年間閉じたままの空間。空気は淀み、黴臭い。
一歩進むごとに降り積もった埃が削れ、真新しい足跡が残る。
小さなライターの炎を頼りに歩くには、少々厳しい道である。
( ,,^Д^) 「やはり、この通路は使われていないようですね」
爪'ー`) 「ああ、これを抜ければ使用人専用の支度室。そこから隠し通路が伸びて、屋敷内の全ての部屋に繋がっている」
( ,,^Д^) 「部屋の目星は?」
爪'ー`) 「知らん」
爪'ー`) 「学者なんて人種は変人の集まりだ。変人が何をどこに置くのかなんて想像できるか」
( ,,^Д^) 「それでは総当たりで?」
爪'ー`) 「強いて言うなら……暗くて涼しい所だ。棚の中とかな。だがそんな物はどの部屋にも有るだろう」
地下道は下り坂から上り坂に変わり、やがて木製のドアが現れた。
鍵はかかっていない。小屋の扉が最後の侵入者対策だったのだろう。
ドアの隙間からも、光は漏れ出していない。向こう側も暗闇だ。
( ,,^Д^) 「開けます……」
爪'ー`) 「……」
開かれた扉の内側に人影はない。
空っぽの本棚に、簡素な机と椅子がいくつか。
爪'ー`) 「今から言うことをよく覚えろ」
埃かぶった机に指で図形を描きながらフォックスは語る。
32
:
名無しさん
:2021/10/23(土) 22:54:59 ID:S/RA0zHE0
爪'ー`) 「俺が覚えている限り、これがこの館の間取り図だ」
( ,,^Д^) 「これが? ……随分詳しい図ですね」
爪'ー`) 「お世辞は良い。とにかく、俺達は今ここにいて、この隠し通路を通って屋敷の中を周る」
フォックスは説明を続ける。
隠し通路側からは部屋の中を覗き見できる。主人の不在を見計らって部屋の手入れをするためだ。
無人を確認してから入る以上、隠し扉を開けた瞬間に鉢合わせということは無い。
心配するべきは部屋の探索中にモララーが入って来ることだ。
爪'ー`) 「覚えなきゃいけないのは各部屋の”主人用の”出入り口の位置だ。常にその方向を警戒しろ」
( ,,^Д^) 「なるほど、承知しました……」
爪'ー`) 「覚えたか? 覚えたなら行くぞ。お前がヘマをしたら置いて逃げるからな」
タカラは「勿論です」と返し、隠し通路に入っていった。
数秒時間を置き、危険がないことを確認した所でフォックスはその後を追った。
( ,,^Д^) 「この部屋は無人ですね……」
爪'ー`) 「入るぞ……」
屋敷内の部屋を一つ一つ、入念に調べていく。
目当ての物は見つからない。
どの部屋も研究道具と思しき金属の器具や、奇妙な図形が描かれた資料が散らばっている。
33
:
名無しさん
:2021/10/23(土) 22:57:21 ID:S/RA0zHE0
爪'ー`) (ん? この資料)
ある部屋で、机上に置かれた一枚の紙が目に付く。
見覚えのある器具。昔実家に出入りしていた学者が持ち込んだ物によく似ていた。
その器具はハンドルを回転させることで、雷のような力を生み出すことが出来るらしい。
白髪の老人が子供のような笑顔でそう語っていたのを覚えている。
爪'ー`) 「雷の研究ねえ」
( ,,^Д^) 「もしや、見つけましたか……!?」
爪'ー`) 「ああいや、すまん。この部屋には無いみたいだ」
( ,,^Д^) 「そうですか……では次の部屋に」
次の部屋も、その次の部屋も、更にその次の部屋も、それらしき物は無かった。
なぜどこにも置いていない。それに、帰宅したはずのモララーが見つからないのも不自然だ。
屋敷の方に歩いていたという御者の発言は間違いで、「道具」もモララーも全く別の場所に行っているのではないか。
そもそも本当に「道具」はモララーが持ち去ったのか。
フォックスの心に疑念が募る。
爪'ー`) (時間をかけ過ぎたら馬車が発見される。引き時は見極めなきゃな)
半ば諦めかけていたその時、地下の一室で、フォックスは己の目を疑うことになる。
34
:
名無しさん
:2021/10/23(土) 22:58:32 ID:S/RA0zHE0
( ,,^Д^) 「この部屋も無人ですね。入ります」
爪'ー`) 「ああ」
その部屋は物置のように扱われており、大きな研究資材がいくつも、保護用の目隠し布を掛けて保管されていた。
奥側の大荷物は長期間放置されているらしく埃を被っているが、
手前の方には丁寧に手入れされた器具や資材の山がある。
資材の山の一角、金属器を詰め込んだ木箱の影に、真新しい鞄が置かれている。
爪;'ー`) 「はあ!?」
一目見て、フォックスはそれが何であるかを理解した。
道中で失った首入り鞄。色も、形状も、間違いなかった。
( ,,;^Д^) 「ご主人……! 声が大きい……!」
爪;'ー`) 「あ、ああ……すまん」
鞄を手に取り、恐る恐る中を覗き込む。
( ω )
丸一日、求め続けた生首がそこに有った。
35
:
名無しさん
:2021/10/23(土) 22:59:46 ID:S/RA0zHE0
( ,,^Д^) 「見つけましたか……!?」
爪*'ー`) 「違うが、見つけたぜ……!」
( ,,^Д^) 「違うとは?」
爪*'ー`) 「こいつは道中で俺が盗まれた鞄だ! まさかこんな所に有るとは……」
爪*'ー`) 「多分だが、俺から盗んだのもモララーだったってことだ」
爪#'ー`) 「そう思うと腹が立つな。あの変態野郎、変な物を集めやがって……」
( ,,^Д^) 「落ち着いてください。今は戻ってきたことを喜びましょう。今の目的は何ですか?」
正直な話、フォックスはこの時点で目的を果たしていた。
失った生首が戻ってきた。この妙に強い奴隷を殺す計画を立てる必要もない。
ましてや「愛した村が消える危機」などというのは、奴隷の脳内で極端に誇張された妄想である。
多少の物寂しさが無いわけではないが、村を出て一日もすれば忘れてしまう程度の感傷に過ぎない。
爪'ー`) 「……おっと、そうだな。探しものを続けよう」
しかし、フォックスは無計画な楽天家である。
悩み事が解消し、気分が良くなったタイミングで、「若い女を救う」役割から降りることなど考えない。
爪'ー`) 「次の部屋は……これは、何だ……?」
36
:
名無しさん
:2021/10/23(土) 23:01:50 ID:S/RA0zHE0
物置の隣の部屋は、モララーの実験室として扱われているようだった。
広い空間に長机と椅子が一つ。
目隠し布を掛けられた大型資材が並んでいるのは物置と同様だが、
室内は日常的に清掃されているようで、資材も、本棚の書類も、丁寧に手入れされていることが伺える。
爪'ー`) (ここは……マズいな)
爪'ー`) 「警戒しろ。ここで鉢合わせする可能性が一番高い」
( ,,^Д^) 「……はい、ご主人も急いで探索を」
机上の資材、戸棚の一つ一つに至るまで、入念に確認する。
木や金属で出来た機材、注射器、ガラス製の器やレンズ、絹の糸、謎の鉱石、細い針、どれも違う。
盗んだナマモノを扱うのであれば、すぐにでも取り出せる場所に置いておくはずだ。
既に「道具」を手にしていることなど知る由もないフォックスは、成果のない探索に、徐々に焦りを見せ始める。
爪;'ー`) (どの棚にもそれらしき物は入っていない。なぜだ?)
爪;'ー`) (俺の考えが間違っていた? 例えば、心臓や首じゃなくもっと別の物……)
爪'ー`) (……まさか?)
フォックスは思い至る。
いくら戸棚を探しても見つからないのは、それが「戸棚に入らないほど大きな物」だからではないか?
勿論、その考えは誤りであるが、彼の周囲には、彼の仮説を勢い付ける物品が大量に存在した。
爪;'ー`) 「おいタカラ、目隠し布だ。そのどれかに隠されている! 全部剥ぎ取れ!」
爪;'ー`) 「時間はないぞ、急げ……!」
( ,,^Д^) 「承知しました……!」
37
:
名無しさん
:2021/10/23(土) 23:03:23 ID:S/RA0zHE0
手当り次第、大荷物に掛かった目隠し布を取り払う。
次々と姿を表す大型実験器具。
鉱石を粉砕する器具、試料や器を固定する器具、雷のような力を生み出す器具。すべて違う。
爪;'ー`) 「これじゃない……これでもない……」
爪;'ー`) 「じゃあこいつなら……っ!?」
「ちょうどフォックスの背丈ほどの大きさの」物体に被せられた布を取り払う。
布の下から現れたのは、首のない人間の死体だった。
爪;'ー`) 「何だこの死体、狂ってるのか?」
( ,,^Д^) 「……許されませんね」
彼らの反応も当然である。なぜなら、それは単なる首無し死体ではない。
死体の身体には、絡みついた蛇のような縫い目が無数に存在し、
その縫い目を境に、大きさも、色も違う手足や皮膚の部品が貼り付けられている。
つまりこれは、複数の死体を切り刻み、縫い合わせて作った継ぎ接ぎの死体だった。
( ,,^Д^) 「……」
( ,,^Д^) 「すみません、ご主人。しくじりました」
爪'ー`) 「え?」
背後からの破裂音。
同時に、タカラの身体が大きく傾いた。
38
:
名無しさん
:2021/10/23(土) 23:04:43 ID:S/RA0zHE0
( ,,;^Д^) 「銃です。物陰に、早く……!」
膝をつくタカラ。その太腿からは血が噴き出している。
フォックスが破裂音の方向を振り返ると、銃を構えた男と目が合った。
整った顔立ちに柔和な笑顔。会う場所が違えば、誰一人として彼の本性に気づくことは不可能だろう。
( ・∀・) 「泥棒なら警察に突き出して終わり、としたいところですが……」
( ・∀・) 「見ちゃいましたよね。だから駄目です」
爪;'ー`) 「モララー……」
( ・∀・) 「おや、名前を知ってらっしゃる。村の方ではないと思いますが」
爪;'ー`) 「この悪趣味な人形、村の人間から盗んだものか?」
( ・∀・) 「は……?」
フォックスの言葉に、モララーの表情が凍りつく。
数拍の後、銃弾がフォックスの頬を掠めた。
爪;'ー`) 「ひっ……!」
( #・∀・) 「危ない、殺してしまうところだった……」
( #・∀・) 「良いか、これは私の20年に及ぶ研究の集大成だ!」
( #・∀・) 「無知な輩に教えた所で無駄かも知れんがな!
モララーは片手で銃を構えたまま、もう片方の手で筆を取った。
真っ白な壁をインクで汚しながら話を続ける。
39
:
名無しさん
:2021/10/23(土) 23:07:54 ID:S/RA0zHE0
( #・∀・) 「いいか、人間の体がどうやって動いているか知っているか?」
爪;'ー`) 「筋肉の収縮だろ」
( #・∀・) 「……そうだ! では、筋肉の収縮がどうやって起こっているか!?」
爪;'ー`) 「さ、さあ?」
( #・∀・) 「そうだ知らんだろう! 私は知っている!」
( #・∀・) 「筋肉の収縮とは、雷の力で起こるのだ!」
( #・∀・) 「体内に極小の雷が発生し、その力により筋肉が収縮し、体が動く!」
( #・∀・) 「手も、足も、心臓も、全て雷の力で動いているのだ!」
( #・∀・) 「図にするとこうだ! こう、こう、こう、こうだ!」
( #・∀・) 「であれば……わかるだろう!?」
爪;'ー`) 「……わかる?」
破裂音とともに、フォックスの足元の床が弾ける。
フォックスは再び悲鳴を上げ、タカラはその様子を忌々しげに見つめていた。
( #・∀・) 「動かしてみたくなるだろうが! もう動かない死体の身体を!」
( #・∀・) 「試してみたくなるだろうが! 死体の頭に電流を流せばどうなるか!」
爪;'ー`) 「頭おかしいんじゃねえの、あんた」
( #・∀・) 「ああ、狂っているかもしれないな! だが、この研究で文明はまた先に進む」
( #・∀・) 「雷の力で死人を動かす時代が来るのだ」
( #・∀・) 「見られた以上、生きて返すわけにはいかない。お前たちの犠牲で、人類は死を乗り越えられるかもしれない」
40
:
名無しさん
:2021/10/23(土) 23:08:35 ID:S/RA0zHE0
( ,,^Д^) 「それはつまり、ご主人を殺すということですね」
膝をついたままのタカラが口を開いた。
足元には既に血溜まりが出来ている。急いで処置をしなければ失血死は免れられない。
( #・∀・) 「ああ、ただし、すぐには殺さない。生きている間でなければ出来ない実験も有る」
( #・∀・) 「最終的には死ぬだろうが、まあ、抵抗しなければ苦しまずに死なせてやっても良い」
( ,,^Д^) 「であれば……」
( ,,^Д^) 「守るのが、私の仕事です」
( #・∀・) 「は?」
穴の空いた足に、力が込もる。噴き出す血の量が一気に増す。
タカラは両目でモララーを捉えたまま、力強く鉈を握りしめた。
爪;'ー`) 「おい、タカラ! 何をやって……」
( ,,^Д^) 「モララー、私は貴方やご主人のような学はないが、貴方が間違っていることは分かる」
( #・∀・) 「何を言っているんだ、さっきから。状況が理解できないのか?」
( ,,^Д^) 「人間を動かすのは雷の力ではない。人間は、動かねばならぬから動くのです」
( ,,^Д^) 「役目を全うするために。己が心に従い、正義を為すために動くのです」
( ,,^Д^) 「私は今、ご主人を守らなければならない。であれば……」
( ,,#^Д^) 「足の傷など、何の障害でもない!」
( #・∀・) 「なっ……!?」
41
:
名無しさん
:2021/10/23(土) 23:09:42 ID:S/RA0zHE0
タカラは立ち上がり、モララーに向かって駆け出した。
穴の空いた足で床を蹴り、飛び散る血液が机上の資料を汚す。
( #・∀・) 「馬鹿が……! 穴空き死体じゃ使い道が無いだろうが!」
モララーは怒りを滲ませながら引金を引いた。
放たれた銃弾は、次の瞬間には目の前の愚者の眉間に到達し、頭を吹き飛ばすだろう。
実験材料が一つ減ってしまった。細目の男の方は何とか上手くやらなければ。
そんな打算は全て、科学を解せぬ愚者によって打ち砕かれた。
( ,,#^Д^) 「殺したいなら頭か心臓。私でもわかる!」
殺意を持って迫りくる銃弾を、タカラは鉈の腹で受け止めた。
鉈は砕け、大小の破片が宙に舞う。
次弾が発射されるより、タカラの到着が早かった。
タカラはモララーの頭を掴むと、そのまま、折れた鉈の柄を首に突き刺した。
( # ∀ ) 「あれ……?」
気の抜けた声とともにモララーの身体が崩れ落ちる。
銃を握る力も、もう残されていないようだ。
( ∀ ) 「ああ……」
( ∀ ) 「ごめんなあ、でぃちゃん……」
それきり、モララーが再び動くことはなかった。
42
:
名無しさん
:2021/10/23(土) 23:10:54 ID:S/RA0zHE0
フォックスはただ、全てが終わるを呆然と眺めていた。
穴の空いた足で立ち上がり、銃を持った相手に打ち勝つ。
一つの奇跡が目の前で繰り広げられた。
しかし、奇跡の代償は大きい。
( ,, Д ) 「ご主人、無事ですか?」
爪;'ー`) 「俺は無事だ。そんなことよりお前、無理しやがって……」
( ,, Д ) 「血が止まりませんね、流石にもう死ぬかもしれません。守れてよかった」
爪;'ー`) 「馬鹿野郎、いいから寝てろ! いま治療してやるから!」
( ,, Д ) 「医術もできるんです? 立派なご主人に使えられて良かった……」
爪;'ー`) 「くそ、これから死ぬみたいな言葉ばかり……」
記憶を頼りに、フォックスは治療を試みた。
戸棚から絹糸を取り出し、破れた血管を結紮した。
結紮できぬ程に損傷した部位はライターで炙った金具を押し付けて焼いた。
爪;'ー`) 「あとは、何だ……? 確か血を流し過ぎた時には塩水を注射して……」
爪;'ー`) 「畜生、もっと勉強しときゃ良かった!」
フォックスは思いつく限り、出来る限りの治療を施す。
つい数時間前まで死を願っていた相手であることなど、忘れてしまっているようだ。
43
:
名無しさん
:2021/10/23(土) 23:12:35 ID:S/RA0zHE0
思えば自分は、何の信念もなく生きてきた。
幼少期は周囲に期待されるままに振舞った。
落ちこぼれ、堕落し、放蕩息子の烙印を押された後は、
むしろその評価を証明するように、前にも増して刹那的な生活を送るようになった。
周囲に求められるままに生きることは楽だった。
役割とは、役目とは、全て他者から与えられるものだと思っていた。
古い友人は、見捨てられた死刑囚の潔白を信じ、私財を擲った。
自分はそれを馬鹿真面目だと嘲笑し、協力を求める瞳を面倒だと感じていた。
今日出会ったばかりの奴隷は、死者の尊厳を守り、主人を守り、人体の奇跡を起こしてみせた。
自分はこの奴隷に、「死んで生首になる」役目を押し付けようとした。
そして今、すぐ側で死体を晒している科学者の凶行もまた、己の信念に従った結果なのかもしれない。
「役目を全うするために。己が心に従い、正義を為すために動く」
全くその通りだ。
その言葉の通り、自身に役目を課した誇り高い人々の中、
ただ自分だけが、ふらふらと力なく、大きな流れの中で揺蕩っている。
恥を知れ。そう思った。
44
:
名無しさん
:2021/10/23(土) 23:14:00 ID:S/RA0zHE0
思いつくだけの治療を済まし、ようやく足の出血が止まった頃、
フォックスはタカラの心臓が既に動いていないことに気がついた。
爪;'ー`) 「駄目だ! まだ死ぬな!」
力の限り、タカラの胸を殴打する。
胸への殴打で息を吹き返した病人の話を聞いたことがあった。
何度も、何度も腕を叩きつけるが、心臓が再び動く気配はない。
爪;'ー`) 「動け!生き返れ!」
諦めの文字がフォックスの脳裡をよぎる。
太腿の血管が切れ、出血多量。元々助かる見込みの少ない手術だった。
もしかすると、この男も死んでしまうのかもしれない。
あの死刑囚のように、山賊のように、そして、科学者のように。
――――科学者。
そう、雷の力で死体を動かそうとした科学者のように、である。
爪;'ー`) 「へ……へ。俺もテンパって頭がおかしくなってるかも知れん」
爪;'ー`) 「なあ、タカラ。もしお前が生き返ったら、俺勉強するよ」
爪;'ー`) 「お前がどんだけ大怪我しても治せるような医者になってやる。それが俺の役目だ」
爪;'ー`) 「だから……」
フォックスは「雷のような力を生む機械」にタカラの身体を繋げ、力の限りハンドルを回した。
45
:
名無しさん
:2021/10/23(土) 23:14:33 ID:S/RA0zHE0
翌朝、屋敷から抜け出す2つの人影があった。
明日には西の漁村に着くだろう。
46
:
名無しさん
:2021/10/23(土) 23:19:46 ID:S/RA0zHE0
【盗人と小村の話】
フォックス達がモララーの屋敷を抜け出した頃、同じくこの農村に訪れる人影があった。
その両腕には、新品の鞄が大事そうに抱えられている。
(;'A`) 「結局街には捨てられなかった。乗合馬車でここまで来たは良いが……」
投棄場所を探し、村の中を歩く。
追い詰められ、消耗した精神。ドクオは寂れた村のあらゆる場所で、誰かに監視されているような錯覚を覚えた。
鞄を放り投げてどこかに走り去る。それだけであらゆる問題が解決するというのに、どうしても出来なかった。
すると、村の一角で村民たちが輪を作り、何やら話し合っているのが聞こえてきた。
ζ(;、;*ζ 「朝になっても帰ってこない……あの人達、きっと失敗したんです……」
ζ(;、;*ζ 「もう駄目です。死んでお詫びします!」
( ;´_ゝ`) 「早まらないで! そんな事しても何にもならない!」
ζ(;、;*ζ 「いいえ、私が死んだら雨乞いの儀式が出来るでしょう!」
<ヽ;`∀´> 「馬鹿な事を言うな! デレちゃんを生贄にだなんて……」
ζ(;、;*ζ 「でも、それじゃあどうやって……」
ζ(;、;*ζ 「どうやって生首を手に入れるって言うんですか!?」
('A`) 「え?」
47
:
名無しさん
:2021/10/23(土) 23:20:37 ID:S/RA0zHE0
【切り落とされた首の話】
その日、これまでの干魃が嘘のような、記録的な豪雨が降り注いだ。
大地に染み渡る恵みの雨。人々は、自然は、力を取り戻すだろう。
£°ゞ°) 「しかし、こんな日に葬儀などしなくても……」
蛇のような目の、背の高い男が呟く。
葬儀が有るのであれば、神に仕える者として参加しなければならない。
面倒な役割だと溜息を吐いた。
£°ゞ°) 「しかし、あの手紙……」
今日届く死体を、今日のうちに埋葬しろ。
都市部の役人からの手紙に、そのように書かれていた。
不正の暴かれぬうちに全てを埋めてしまうのは、「首隠し」の常套手段だ。
この村で死刑になった人間といえば……
£°ゞ°) 「……」
£^ ゞ^ ) ニコォ…
自分の代わりに、無実の罪で死んでくれたあの男ではないか。
£^ ゞ^ ) 「恩人の葬式であれば、出席しない訳にはいかないな……」
48
:
名無しさん
:2021/10/23(土) 23:22:34 ID:S/RA0zHE0
男が葬儀場に着いた時、既に死体を運ぶ馬車は到着しており、死体を埋葬するための墓穴の準備も終わっていた。
後は祈りを捧げて死体を埋めるだけ。
豪雨を除けばいつも通りの、退屈な葬儀だった。
(´;ω;`) 「届けていただいて、ありがとうございます」
ホライゾンの父親が、輸送役の男に深々と頭を下げている。
男の脇には杖をついた奴隷が控えている。
爪;'ー`) 「いえ、そんな畏まらず……」
J( ;ー;)し 「いいえ、こんな綺麗な身体で帰ってきてくれるだなんて。首もくっついて……」
爪;'ー`) 「縫い合わせただけです。こっちの方が良いかなって思って……」
(´ ω `) 「恥ずかしながら……我が家は金がなく、首隠しを依頼することが出来ませんでした」
(´;ω;`) 「でも、信じていたんです。息子がそんな事をするはずがない」
(´;ω;`) 「息子は、首を刎ねられて死ぬべき人間ではない!! だから、この首は……この首は……」
( ,,^Д^) 「うちのご主人は名医ですからね。傷跡も上手に隠れているでしょう?」
爪;'ー`) 「やかましい! ほら、もう帰るぞ!」
( ,,^Д^) 「全く、奴隷使いの荒いご主人ですね。デレさんに別れの挨拶もさせてくれなかったし……」
爪;'ー`) 「あんな状況どうやって説明するんだよ! いいだろ、そのうち全部見つかって、盗られたものも帰ってくるさ」
( ,,^Д^) 「楽観視は身を滅ぼしますよ、ご主人」
爪;'ー`) 「わかってるよ!」
£°ゞ°) 「……」
確かに、死体の首は見事に縫い合わされていた。
遺族が涙を流して喜ぶのも納得だろう。
しかし、面白くない。男は思った。
無実の罪で殺された息子。
その変わり果てた姿に咽び泣く両親の姿が見たかった。
自分が殺したも同然の相手とその遺族に対し、嗜虐的な快楽を期待していた男は肩透かしを食らったような気分である。
もっとも、その落胆を表に出すことはなく、男は淡々と葬儀を進行した。
49
:
名無しさん
:2021/10/23(土) 23:24:46 ID:S/RA0zHE0
£°ゞ°) (もう良い、つまらない葬儀は終わりにしよう)
£°ゞ°) 「それでは、埋葬の時間です」
死体の入った木箱ごと、墓穴の中に下ろす。
雨脚は更に強まり、雷雨となった。
早く土を被せなければ墓穴は水で溢れてしまうだろう。
(´;ω;`) 「ゆっくり眠りなさい、ホライゾン」
父親がスコップを握った次の瞬間、轟音とともに、その場の全員の視界が白く染まった。
近くに雷が落ちたのだと理解するまでに暫しの時間を要した。
(,,゚Д゚) 「落雷か!? どこに落ちた!」
参列者の一人が叫ぶ。
それに導かれるように他の参列者や遺族も周囲に視線を送る。
しかし、至近距離での落雷でありながら、どこにもその痕跡は残っていなかった。
J(;'ー`)し 「まさか……ホライゾン!」
母親が叫び、墓穴へと駆け寄る。
穴の中を覗き込んだ母親はそのまま卒倒した。
£°ゞ°) 「まさか……」
男の胸が高鳴る。最期の最期でこんな奇跡を見せてくれるとは!
墓穴に群がる者たちを押しのけて、男は他の参列者同様、穴の中を覗き込んだ。
50
:
名無しさん
:2021/10/23(土) 23:26:31 ID:S/RA0zHE0
(,,;,;,;;,;ω;;,;,;)
穴の中では、落雷により皮膚の焼け焦げた死体が横たわっていた。
£°ゞ°) 「ああ、なんという悲劇だ……」
発する言葉とは裏腹に、男の心は今まさに絶頂せんほどに昂ぶっている。
このまま死体を目に焼き付けようか、それとも、周囲の反応を見るべきか……。
迷う男の目の前でそれは起こった。
(,,;,;,;;,;ω;;,;,;)
(,,;,;,;;,;ω;;,;,;)
(,,;,;,;;゚,;ω;;,゚;)
死体の瞼が、開いたのだ。
いや、それどころか、指が、口が動き、死体が何かを伝えようとしている。
あまりの出来事に、見る者は皆凍りついたように身動きが取れなくなっていた。
(,,;,;,;;゚,;ω;;,゚;) 「蛇のような目の、背の高い男」
£;°ゞ°) 「あ……あ……」
動くはずのない身体。聞こえるはずのない声が、男を追い詰める。
(,,;,;,;;゚,;ω;;,゚;) 「お前が、ツンを殺した!」
暫くして、市中には男の首が晒された。
51
:
名無しさん
:2021/10/23(土) 23:27:01 ID:S/RA0zHE0
.
〃⌒ ヽ
/ rノ 切り落とされた首の話
Ο Ο_) ......,,,,,,£ ゞ )
.
52
:
名無しさん
:2021/10/23(土) 23:37:40 ID:S/RA0zHE0
【部門】
鬱・猟奇、音楽
【楽曲・アーティスト名】(音楽部門のみ)
ピタゴラスイッチ オープニングテーマ/栗原正己
【楽曲URL】
https://music.youtube.com/watch?v=35PuusQ_w5g
曲はイメージソングです。
53
:
名無しさん
:2021/10/24(日) 03:10:02 ID:dU/yDk5Y0
おもしろかった、乙!
ところで、曲選曲が一番猟奇的なんだが?
54
:
名無しさん
:2021/10/24(日) 14:41:06 ID:HfpA1bbM0
乙ぁ
55
:
名無しさん
:2021/10/24(日) 20:02:03 ID:0oGtyWwk0
乙
猟奇的ではあるがハッピーエンド?だ
56
:
名無しさん
:2021/10/24(日) 20:48:54 ID:xPqP/EQc0
ピタゴラスイッチで声出して笑った
面白かった!乙
57
:
名無しさん
:2021/10/24(日) 22:28:40 ID:pC08nT.U0
FOXとタカラの関係がとてもよい
58
:
名無しさん
:2021/10/25(月) 12:33:28 ID:ec6igwpk0
乙
なんでピタゴラスイッチなんだよー無理にでも音楽部門にねじ込みたかったのか?と思ったけど
確かにピタゴラスイッチに登場する装置みたいに巧く話が繋がってたわ
59
:
名無しさん
:2021/10/25(月) 20:36:20 ID:uRjDYn5s0
あんた天才だよ
話の構成がうますぎる
いいもの読ませてもらった、ありがとう
おつ!
60
:
名無しさん
:2021/10/26(火) 12:04:56 ID:/NU3qk8E0
構成力と選曲センスが良すぎる
61
:
名無しさん
:2021/10/26(火) 18:04:06 ID:Gd80HQ7c0
選曲から出来上がった話がセンス良すぎる
すごい面白かった
62
:
名無しさん
:2021/10/30(土) 00:25:50 ID:Jae8vk7w0
乙!めちゃくちゃ面白かった
タカラ好き
63
:
名無しさん
:2021/11/02(火) 03:37:09 ID:Y5bWUEAo0
めちゃくちゃ好きだ!
キャラクターは面白いし話の構成も上手いし最高!
モララーの最後のセリフでウルっときたぜ……
64
:
名無しさん
:2021/11/02(火) 12:52:43 ID:cHoJGtOI0
小気味の良い超良質な短編作品だった
これはよいものだ
65
:
名無しさん
:2021/11/02(火) 23:03:51 ID:GMPt12R60
めちゃめちゃ面白かったし選曲にワロタ
乙です
66
:
名無しさん
:2021/11/03(水) 08:16:41 ID:uRnMqzQA0
まさに小説版ピタゴラスイッチ
お見事
67
:
名無しさん
:2021/11/03(水) 08:39:28 ID:upncKQDA0
すれ違いの果てに収まるべきところにおさまったいい構成
すげぇ面白かった、乙
68
:
名無しさん
:2021/11/06(土) 12:35:59 ID:BtjkYnD20
選曲が良すぎる
綺麗に落ちがつきましたね
69
:
名無しさん
:2021/11/09(火) 17:00:14 ID:wtfOGRSM0
めちゃくちゃ好き
物語も好きだけど選曲で投票を決めた
70
:
名無しさん
:2021/11/14(日) 07:55:27 ID:M4.4UGVM0
ラジオわろた
また是非面白いの書いてくれ
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