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艦娘がいない鎮守府のようです

322 ◆HS4z8y6JHc:2016/10/29(土) 07:53:25 ID:PWZ18VnA0
深海棲艦の言葉は、人間には理解できない
彼女達がその口から発する音は、全てノイズのような不協和音として聞こえる

これが、艦娘だと『言葉』や『鳴き声』として認識出来るのだ
兵士クラスである駆逐イ級や空母ヲ級などは『鳴き声』として
将クラスである『姫級』や『鬼級』などは『言葉』として、耳に届く

内容は主に恨み言や煽りの類だ。艦娘と人類に対して明確な憎しみを露わにする


それが、どうして今


『人間』である私に、理解できるのだろうか

323 ◆HS4z8y6JHc:2016/10/29(土) 07:54:37 ID:PWZ18VnA0




■■■■■■■■■■■鎮守府のようです




        Epilogue



.

324 ◆HS4z8y6JHc:2016/10/29(土) 07:56:19 ID:PWZ18VnA0
いや、理解っている筈だ。私はもう人間ではない
あの愛おしい我が家に着任したその時から、別のモノに作り替えられてしまった

だから今、私は男性でありながら『龍田』の艤装を背負イ
鎮守府近海を埋メつくす、深海棲艦の群れと

たった一人で戦争ヲしているのダカラ


「■■■ッ!!!!」


龍田専用近接艤装であル『矛』で、ル級の首を刎ねた
勢いヨく吹き出す血飛沫を身に受ケナがら、背後に迫っていたハ級に裏拳ヲ見舞う


「■■■■■ーーーーーーーーーーッ!!!!!」


最後の魚雷を撃ち、弾薬が尽キタ。この分だと燃料モ直に底を着くだロう
殺さねば。私が、俺が殺サレるまで、目の前にいる大軍を殺シつクサねば


【オウ】


うルサい


【おう】


黙レ


【王よ】


「■■■■っ■■■■■ーーーーーーー!!!!」


何故俺ヲ、『王』ト呼ブ

325 ◆HS4z8y6JHc:2016/10/29(土) 07:58:06 ID:PWZ18VnA0
ホ級のクビを切り裂キ、チ級の頭蓋を握りツブス


「■■■■ッ!!」


タ級の背骨を腹から抜き取り、ヲ級の顎ヲ引キ裂いた


殺さねば


【王よ】


殺サネば


【王よ】


殺サネバ


声ガ聞こエなくなるマデ


「■■■……!!」


駆逐棲姫の首をオル、北方棲姫ヲ真っ二ツにスル
海中カラ足首を掴モウとしタソ級の顔面を踏ミ砕イタ
戦艦棲姫ニ向けて投ゲツケた矛は、額から脳を串刺シニした


「■せ■……!!」


レ級の尾ヲ引き抜キ、振リ回シてツ級の頭を吹っ飛バス
マダ息がアッタレ級の腹にソレを突き刺シテ返シテヤリ、そこで


艤装ハ動カナクナッタ

326 ◆HS4z8y6JHc:2016/10/29(土) 07:59:27 ID:PWZ18VnA0
殺した、殺した、何人も、何隻も
かつテ俺が立った陸の戦場で、奴らがソウシたように

それなのに、何故


「殺せよッ!!」


「俺を殺せェッ!!!!」


奴らは、砲弾の一発も撃たなイノダろウか


【王よ】


【王よ】


【愛おしき我らが王】


身体が重たイ。燃料が切れタからだロうか
違う、そんなものじゃない。背中ニ、艤装とは違ウ別のモノが圧し掛かッテいる


【嗚呼、なんて羨ましい】


【王の身になれるなんて、羨ましい】


【果報者だわ。彼女たちは】


背中から、尾ガ伸ビルかのように
俺が殺シタ深海棲艦ノ屍ガ、一塊ニなって繋ガッテイル

327 ◆HS4z8y6JHc:2016/10/29(土) 08:00:46 ID:PWZ18VnA0
「あ」


「あああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」


【嬉しい、嬉しい】


【我が身は王の肉に】


【幸せだわ、幸せだわ】


濁った瞳が、俺ヲ見ル。薄い唇カラ、膿のヨウナ液体と共ニ嗤いゴエを吐キ出ス
矛ヲ投ゲ捨テナケレバ良カッタ。容易ク自害デキタ機会ヲ自分カラ手放シテシマッタ


【王よ、王よ、愛おしき我らが王】


腕、上ガラナイ。顎、閉ジラレナイ
自分デ首ヲシメルコトモ、舌ヲ噛ミ切ル事スラ出来ナイ


【人間が我らを作った】


【人間が艦娘を作った】


【そして、嗚呼、我が王。貴方すらも作り上げた】


「殺せ……殺せよ……」


【嗚呼、王が!!王が!!我々にお声を掛けてくれた!!】


【王!!王!!なんて麗しいお声!!お姿!!】


【人間の醜い声を捨てて下さったのだわ!!我々の為に!!】

328 ◆HS4z8y6JHc:2016/10/29(土) 08:01:58 ID:PWZ18VnA0
俺ハ、俺、俺、おれ、オレ……
人ノ言葉スラモウ、話スコトガ出来ナイノカ


【さぁ、参りましょう。我らが王】


【艦娘を葬りに】


【人間を根絶やしに】


葬リ……根絶ヤシ……


【屍の上に、貴方の玉座を作りましょう】


【醜いガラクタを積み上げましょう】


【我らの怨念を晴らしましょう】


馴染ジンデ、ユク、深海ノ、青イ血ニ、白イ、肌ニ
血液ガ 巡ル度 俺ガ オレデハ ナクナッテイク


【さぁ】


【さぁ】


【さぁ】


深海棲艦ノ 冷タイ手ガ オレノ身体ヲ、海ノ中ヘト引キズリ込ム
思考モ ボンヤリト ナッテイキ キオクスラモ―――――

329 ◆HS4z8y6JHc:2016/10/29(土) 08:04:06 ID:PWZ18VnA0
「クソ……■■■共がァァァ……!!」


手放シテ、ナルもノか
オレが、俺が鎮守府で過ゴした四年間の思イ出ヲ、失ッテたまるモノか
この身、この魂を支配サレても、あいつらの事を忘れて堪るものか


「覚え■け……てめえらと■をブチ■■のは……」


【まぁ、なんて醜いお言葉】


【引きずり込んでしまいましょう】


【海の底で癒して差し上げましょう】


多数の手が、身に圧し掛かる大量の屍が、海へ海へと落としていく
暗い海面から覗き込む、ゾッとするような無数の笑顔が俺に向けられていル


「俺の■娘■と……まだ見ぬ漢達だ……ッ!!」


冷タイ海水ガ、首元マデ迫ッタ
最後ニ、鎮守府ノ方向ニ顔ヲ向けタ


届カ無イダロウ 伝ワラナイダロウ ソレデモ 最後ニ




ワカレ ダケハ



.

330 ◆HS4z8y6JHc:2016/10/29(土) 08:05:13 ID:PWZ18VnA0






「■■■■■■■■■■■鎮守府、万ざ―――――」






.

331 ◆HS4z8y6JHc:2016/10/29(土) 08:06:02 ID:PWZ18VnA0






ごぽり。







332 ◆HS4z8y6JHc:2016/10/29(土) 08:08:21 ID:PWZ18VnA0
【嗚呼、なんたる幸せ、なんたる悦び】


【ご生誕なされた。我が王が】


【深海の王が】



「」



【始めましょう】


【ええ、始めましょう】


【私たちの戦争を】




【『禁じ手』を使う戦争を】






333 ◆HS4z8y6JHc:2016/10/29(土) 08:10:32 ID:PWZ18VnA0
―――――
―――



『りん』


脛にすり寄ってきた白猫を抱き上げる
首輪の鈴の音が、不気味なほどに響き渡った。この場所も、静かになったものだ


「そうだね。飲み込まれてしまった」


私に止める術は無かった。深海棲艦化が始まった段階で、既に彼女達の策中に嵌っていたのだ
『彼』ならば或いは……という期待も、たった今砕かれた


「渡してしまった……『プログラム』にはない、チートにも匹敵する戦力を」


あるいは、『バグ』とでも呼ぶべきだろう。この世界には、この『ゲーム』には、本来ある筈のないユニットなのだ


「本当に、現れるのかな……」


その『バグ』を打倒できる戦力が。彼が言い残したような


「『漢』という、戦士は」


猫は応えない。ただ、我関せずと言いたげに顔を洗っただけだった


「……また暫く、静かになるね」


応えない。既にうとうとと船を漕ぎ始めていた


「そうだね。少し、眠ろうか」

334 ◆HS4z8y6JHc:2016/10/29(土) 08:12:03 ID:PWZ18VnA0





「この呪われた鎮守府に招かれる、可哀想な提督と艦娘が現れるまで」






335 ◆HS4z8y6JHc:2016/10/29(土) 08:13:29 ID:PWZ18VnA0





■■■■■■■■■■■鎮守府のようです




         END






336 ◆HS4z8y6JHc:2016/10/29(土) 08:15:11 ID:PWZ18VnA0
































337 ◆HS4z8y6JHc:2016/10/29(土) 08:16:48 ID:PWZ18VnA0








(;'A`)「あっれー?合ってる?ここで合ってる?」








338 ◆HS4z8y6JHc:2016/10/29(土) 08:20:45 ID:PWZ18VnA0
「……」


爽やかとは言えない目覚めだった。軋む廊下の音と、マヌケな男の声
どれほど眠っていたのかはわからないが、どうやら漸く『替え』が着任したらしい


『りん』


猫が急かすかのように尻尾を振る。思わず、顔が綻んでしまった
それがまるで、私の『期待』をそのままそっくり表現しているかのようだったからだ


「そうだね」


帽子を被り、襟を正す


「会いに行って、見極めよう」


『チュートリアル』の始まりだ―――――







「新入りが、『彼』の意思を継ぐ者かどうかを」







339 ◆HS4z8y6JHc:2016/10/29(土) 08:21:18 ID:PWZ18VnA0






■■■■■■■■■■■鎮守府のようです → 艦娘がいない鎮守府のようです








340 ◆HS4z8y6JHc:2016/10/29(土) 08:27:20 ID:PWZ18VnA0
ラノベ祭りが盛り上がろうとしている中、まーだ紅白作品に引き摺ってんのかこの一発屋はとお思いでしょうが榛名は大丈夫です
ラノベ祭り用の作品は既にほぼ完成しているので大丈夫です。意識高いんで大丈夫です

じゃあ秋刀魚乱獲してきます

341名無しさん:2016/10/29(土) 08:31:46 ID:BWkCZ74w0
乙でした!!

342名無しさん:2016/10/29(土) 10:20:24 ID:R9.coqeg0
乙!

343名無しさん:2016/10/29(土) 14:26:52 ID:b80mLqYE0
おつ
闇堕ちの過程描写すてき

344名無しさん:2016/11/12(土) 04:09:24 ID:2vNTBpOo0
乙、王、そうか、お前だったのか……

345名無しさん:2016/11/12(土) 06:06:22 ID:e/vGa8gs0
いやそこは察しておけよ兵十

346 ◆HS4z8y6JHc:2017/01/03(火) 14:47:55 ID:K/4oRt6E0



艦娘がいない鎮守府のようです 外伝



『捨て艦娘がいる鎮守府 ‐Mermaid Naval District‐』



序章 今夜投下予定

347名無しさん:2017/01/03(火) 15:05:43 ID:IoiTDeqw0
マジかよ

348名無しさん:2017/01/03(火) 16:10:54 ID:HiVo44XI0
わーい

349名無しさん:2017/01/03(火) 22:58:43 ID:4ivdVNCU0
さむいかぜひく

350 ◆HS4z8y6JHc:2017/01/04(水) 00:49:14 ID:BYyQ37mk0





艦娘がいない鎮守府のようです 外伝






351 ◆HS4z8y6JHc:2017/01/04(水) 00:51:33 ID:BYyQ37mk0



川 ゚ -゚)「生物の、序列について考えたことはあるか?」



女はレザーチェアに腰を掛け、デスクに両肘を着き手を組んだ
本来そこに座るべき男は、床に這いつくばりながら憎々しく彼女を見上げた


川 ゚ -゚)「頭の良さ、腕力、魅力……どれで順序を決めるかは様々だが、私は単純に『強さ』を基準にしている」

川 ゚ -゚)「例えば、霊長類だ。貴様ら『ヒト』は、そのカテゴリの中では下から数えた方が早いらしい」

川 ゚ -゚)「当然と言えばそうだ。ゴリラに殴り勝てる人間などいるはずもない。だから頭と手先を使い、『武器』で強さを補った」


晩酌をするつもりだったのであろう、デスクの上にウィスキーの瓶と、グラスが置かれていた
彼女はそれを手に取ると、瓶の栓を抜き、やや乱暴に注いだ


川 ゚ -゚)「『武器』を持つ上で成り立つ強さを以てして、ヒトはめでたくこの星の支配者となった」


グラスを掲げ、琥珀色の液体をしばし揺らしながら眺めた後
傍らに立つ、左目に眼帯を着けた少女に手渡した


从;゚∀从「呑めねえんなら置いとけよ……」


ボソリと文句を呟いた少女は、それを一口に煽り、グラスをデスクに叩きつけた


从 ゚∀从「っあァ、効く……」

352 ◆HS4z8y6JHc:2017/01/04(水) 00:53:43 ID:BYyQ37mk0
川 ゚ -゚)「ヒト唯一の天敵は、同じ武器を持つヒトであり、他種生物からその支配を脅かされることなど、まずありえなかった」

川 ゚ -゚)「しかし、そこに現れたのは『外来種』。つまりは、深海棲艦」


彼女の蒼眼が、仄かな光を放つ
それを見た男の顔から、血の気が引いていく


川 ゚ -゚)「海の底から現れた、現代兵器が通用しない怪物……いや、ここはあえて『生物』と呼ぼうか」

川 ゚ -゚)「我々と、同じような生き物だ。海の底でどのような営みが行われているのか定かでは無いが、飯を食い、睡眠を取り……」


引き出しを開けると、判子や文房具と並んで、仰々しいデスクには大よそ似つかわない性的玩具が入っている
それを手に取り、男の眼前に放り投げ、喉の奥で短く笑い声を漏らした


川 ゚ー゚)「セックス……まで、嗜んでいるかは知らないが、生殖器がある以上、ある程度の想像は出来る」

川 ゚ -゚)「ヒトの営みと酷似し、その上でヒトの能力を上回る『新生物』だ。当然、『欲』もあるのだろう」

川 ゚ -゚)「美味い飯が食いたい、十分な睡眠を取りたい、寂しさを埋める恋人が欲しい……」


川 ゚ -゚)「暗い海の底から、日の光注ぐ陸の上で生活をしたい……そこで邪魔になるのが!!」


突然大声を出し、芝居がかった態度で手を一つ叩く。男は肩をビクリと竦ませた


川 ゚ -゚)「地上に蔓延るヒトの存在だ。ああ、確かに共存という道もあっただろうがしかし!!奴らはそうはしなかった!!何故か!!」

川 ゚ -゚)「所説あるが、私はこう思うのだよ。ヒトより優れた生物であるなら、共存など回りくどく面倒な方法でしかない」

川 ゚ -゚)「有力な攻撃手段も、堅い外殻も持たない、弱小な生物など、取るに足らないからだ」

353 ◆HS4z8y6JHc:2017/01/04(水) 00:56:34 ID:BYyQ37mk0
川 ゚ -゚)「さぁさぁ!!絶体絶命の人類!!成す術もなく海上を、地上を蹂躙される!!」

川 ゚ -゚)「そこに颯爽と現れたのが、深海棲艦と唯一対抗しいれる存在、『艦娘』だ!!さぁ、万雷の拍手を贈って差し上げろ!!」


チェアを半回転させ、眼帯の少女に向かって仰々しく拍手をする
シンとした室内では耳障りでしかない破裂音に、少女は眉間に皺を寄せた


川 ゚ -゚)「無条件で味方となり、見返りを求めず戦い、子犬のように懐き、奴隷のように付き従う!!一体、神は何を考えてこんな『都合の良い』生物を作ったのだろうなァ!!」

从 ゚∀从「うるせえよ」

川 ゚ -゚)「おっと、中には反抗的な艦娘もいるようだ。何故だろうなぁ?貴様、答えてみろ」


「……」


川 ゚ -゚)「はい、時間切れ!!どうやら、彼は身に覚えが無いようだな天龍!!」

从 ゚∀从「いつまで茶番やってんだよ……」


『天龍』と呼ばれた少女は、帯刀している近接艤装を抜いた
刃は赤褐色に塗られ、峰は中間部で一段落ちている
まるで、『艦首』を模したかのような刀であった


从 ゚∀从「さっさとぶっ殺そうぜ。売春斡旋のネタは上がってんだ。これ以上無駄に生かしとく必要もねぇだろ」

川 ゚ー゚)「フフーフ、天龍、天龍、天龍ゥ……堪え性が無いのはお前の悪い癖だ」

从 ゚∀从「ああ?」

川 ゚ー゚)「どのような悪人にも、『許されるチャンス』は与えられるべきではないか?我々だって過ちを犯す立場だ。一方的に裁きを下すなど、神も仏も首を傾げるぞ?」

354 ◆HS4z8y6JHc:2017/01/04(水) 00:57:50 ID:BYyQ37mk0
从 ゚∀从「そーかい、いつからご立派な信教者になったんだか」


不満げではあるものの、天龍は素直に刀を納める
代わりに酒瓶を手に取り、行儀悪く直飲みした


从 ゚∀从「ぷはっ……どーぞ、お続けくださりやがりませ。肴にもならねえ茶番をよ」

川 ゚ -゚)「ご協力、痛み入るよ天龍」

从 ゚∀从「ケッ」

川 ゚ -゚)「悪いな、話の腰を折ってしまって。えーと、なんだったかな……ああ、そうそう」

川 ゚ -゚)「子犬のように尻尾を振って懐いてくる小娘が、その後どうして反抗的な態度を取るようになるのか……見たところ、あー……」


男の顔は屈辱と恐怖と懇願が入り乱れ、汗と皺という無自覚の化粧を施していた
二十代前半という実年齢から、幾分か老けたように見える


川 ゚ -゚)「子供はいないようだな?結構、そのまま聞いてくれ」

川 ゚ -゚)「例えば、産まれたばかりの赤ん坊が二人、ここにいるとしよう」

川 ゚ -゚)「一人は、愛情という環境下に。もう一人は、身勝手という環境下に置く」

川 ゚ -゚)「余程のサイコパスでもない限り、前者は真っすぐに育つだろう。ではもう一人は?」

川 ゚ -゚)「決まってる。よほどの聖人でもない限り、歪んで育つのだろうよ」

355 ◆HS4z8y6JHc:2017/01/04(水) 00:59:31 ID:BYyQ37mk0
川 ゚ -゚)「彼女達にも、同じことが言えるのでは無いか?」


「ッ、私はただ……」


川  - )「誰 が 鳴 く こ と を 許 し た ?」


男の心臓が、キュウと締まりあがる感覚に襲われる
彼女の放った言の葉一つが、余りにも『冷たかった』からだ
それは、彼女にとっては些細な脅し文句だったのかもしれない、しかし
窮地らしき窮地に陥ったことすらない男にとっては、肝を掴まれるほどの迫力であったのだ


川 ゚ -゚)「フー……ある男は、艦娘をこう例えたよ」

川 ゚ -゚)「『艦娘は白いスポンジだ。人間と比べて、周りの汚濁を余りにもよく吸い込み過ぎてしまう』とな」

川 ゚ -゚)「生まれた時には既に物心ついた少女、淑女だ。だが、中身は社会の、人間の汚れを知らないオボコと来た」

川 ゚ -゚)「しかもだ、資材さえつぎ込めば幾らでも『新品』が作られる。なぁ、お兄さん」

川 ゚ー゚)「さぞ楽しかったのだろうなぁ、『生きたお人形遊び』は」


彼女は立ち上がると、床に転がっているリボルバーを拾いに歩いた
傍には、赤い切断面が鮮やかな指が数本転がっている


川 ゚ -゚)「長々と、わかりきったことを説明して悪かったな。しかし、こんな当たり前のことを、わざわざ説明しないとわからない連中がこの界隈には多すぎる」

川 ゚ -゚)「敵戦力と拮抗するためとは言え、『提督』というクソの役にも立たないカスをここまで増やす必要は無いと思うのだよ私は」


装弾数五発の『S&W M37』。日本警察に配備されている9㎜リボルバー
使われた形跡は無く、新品も同様の綺麗な状態だった
それを拾い、シリンダーをスイングアウトさせ、弾薬四発を掌に落としポケットに仕舞う

356 ◆HS4z8y6JHc:2017/01/04(水) 01:00:09 ID:BYyQ37mk0
川 ゚ -゚)「さ、て」


拳銃を振ってシリンダーを仕舞い、銃口を男の頭に突き付け撃鉄を上げる
血の気が引いていく男とは対照的に、彼女の色白い肌にはうっすらと赤が差した


川 ゚ー゚)「さぁ、質問だお兄さん。私は言ったな?『生物の序列について考えたことがあるか』と」

川 ゚ー゚)「人間は今、二つの種に迫られている。一つは言わずもがな。もう一つが、お前たちが弄んだ『お人形』だ」

川 ゚ー゚)「深海棲艦にも匹敵する、優秀な種を。それも、まだ共存する余地のある『艦娘』という種と」


川 ∀ )「積極的に関係を瓦解させていく人類は、これから一体どうなるのか?なぁ、答えてくれよ?お兄さん」


『艦娘』とは、深海棲艦の登場から数年後、突如として現れた『人類側の戦力』
『艤装』と呼ばれる装着型の兵器を背負い、海を駆け、砲と魚雷を放つ容姿端麗な少女達
人間に忠実であり、愛想があり、魅力がある。兵士としての役割だけではなく、一種の『偶像』としての力も持っていた

その体は、地球上には存在しない未知なる四つの『資材』と、所謂卵子の役割を果たす『開発資材』から構成されている

血を、汗を、涙を流すその体と魂は『母の身』を介さず
たかだか二メートル四方の、黒い箱から産まれ出る存在だ

故に、世間は彼女達を英雄視すると共に、懐疑と軽蔑の目も向けた

『得体の知れない奴らに、国防を任せても良いのか?』
『深海棲艦と変わりない化け物が、我が物顔で日本に留まるな』
『学生のような見た目をして戦争をするなど、不謹慎では?』

生物の誕生を根底から覆す彼女達は、例えるなら宇宙人やUMAと同等の『未知』だ
それを目の当たりにした民衆が恐怖と不安を覚えるのは、当然と言えるだろう

357名無しさん:2017/01/04(水) 01:01:53 ID:YTu82EnI0

(; ^ω^)「ってことは……」


 だとすると、ここは一日前だろうか。
 一日前の、どこだろうか。
 周りを見渡し、確認をする。

 そしてすぐ、ここがどこだか分かった。


(; ^ω^)「……同じ、場所?」


 今居るのは、あの施設内。
 どう考えても、一日前の景色ではなかった。

 恐らく数時間前でしかないはずだ。


(; ^ω^)「ど、どういうことなんだお……?」
  う


 今までと同じように”戻る”のであれば、これはおかしい。
 何かが起きてるのは間違いない。

358名無しさん:2017/01/04(水) 01:02:14 ID:YTu82EnI0
最高にミスりました申し訳ないです

359 ◆HS4z8y6JHc:2017/01/04(水) 01:02:27 ID:BYyQ37mk0
しかし世間は守られている立場だ。不平不満を声高々に響かせる市民団体も少なくは無いが
『英雄』としての確固たる評価と敬意を示す者も多かった
人命を脅かす怪物を討ち滅ぼす女神は、虐げられていた人々に希望を与えたのだ

世間は称賛と、不満の声を上げる。それは大した問題ではない
応援は体に力を漲らせ、罵倒は心に傷をつける。問題では無かった
人間社会、人生でも『当たり前に起こりうる出来事』であるからだ

問題は、艦娘を『益』と見た政府と海軍であった


「わ、私はただ上層部の指示に従っただけだ!!」


切断された右手の指を左手で包み込み、声を震わせるその姿は、さながら神の像を前にして懺悔をする罪人の有様だった
だが、男の眼前にいるのは神ではない。ただの女だ


川 ゚∀゚)「ほう!!続けろ!!」


ただ銃を突き付けて、人形のように整った顔を醜悪に歪ませ嗤う、ただの女だ


「か、か、艦娘の派遣は世間が抱える戦争に対するストレスの減少になる!!わ、わかるだろう!?これは私欲からの行動じゃない!!」

「そう、そうだ!!『癒し』だ!!人が、人らしい幸福を得るための義務に応えただけだ!!」


从 ゚∀从「……」


天龍は酒を大きく煽ると、酒瓶を割れんばかりにデスクへと叩きつけた

360 ◆HS4z8y6JHc:2017/01/04(水) 01:03:49 ID:BYyQ37mk0
「ヒィッ!?き、キミ達には悪いことをしているとわかっている!!しかし、同意の上での派遣だ!!」


从 ゚∀从「『断れないことを前提にした』同意か。懐かしいぜ、バカみてーにてめえら『提督』に付き従ってた、あの頃のオレがよ」


川 ゚ -゚)「そう責めるな、天龍」


不意に、女の顔が無表情に戻る。引き金から指を離し、銃口を地面へと向けた
そしてしゃがみ込み、男と目線を合わせる


川 ゚ -゚)「なるほど、お前の主張はわかった。『他人の為に、あえて悪の道へと進んだ』。そう言いたいのだろう?」


「あ、ああ!!そうだ、そうです!!私だって、本心から彼女達を送り出したわけでは――――――」


男の言葉は、『床』と『痛み』によって遮られた
鼻先に広がる熱と激痛。割れるような額の痛みが、喉から言葉ではなく、悲鳴に似た呻きを上げた


川 ゚∀ )「そんな主張は、これまで散々聞いてきたんだよ。違う、違う、違う……」


男の髪を掴み、顔面を地面に叩きつけた当の本人には、醜悪な笑顔が再び浮かび上がる


川 ゚∀゚)「違う違う違うぅぅぅ!!!そうじゃあないだろう!?なぁ!?私は貴様の『本心』を!!」


頭を持ち上げ、叩きつける


川 ゚∀゚)「心からの『欲望』を!!!!」


叩きつける


川 ゚∀゚)「下衆な『本性』を!!!!!!!!」


叩きつける


川 ゚∀゚)「人間の『汚さ』を!!!!!!聞きたいんだよ!!!!!」

361 ◆HS4z8y6JHc:2017/01/04(水) 01:04:55 ID:BYyQ37mk0
「ガ……」


鼻が文字通り曲がり、前歯は折れ、蒼白の顔面は生々しい赤色に染まる
女は自らの眼前まで男の頭を持ち上げ、拳銃を顎下に突き付け、囁いた


川 ゚∀゚)「それを曝け出して、初めて貴様の言葉は私の胸に突き刺さるのさ」

川 ゚∀゚)「さぁ、聞かせろ。汚泥のような醜い本音を。私の『指』を止めて見せろ」


フロントサイトで、顎を愛撫するかのようになぞる
撃鉄は引かれた状態のまま、指はトリガーに掛かっている


「ブフー……ブフー……」


男に、『提督』に求められたのは、綺麗事や建前ではない
生物の欲望を煽る美しさと、犬のような忠実さを併せ持つ艦娘を、どう思い、どう扱ったか
親を持たず、人権も無く、守られる法律も無い彼女達は、男の目にどう映っていたか
女が求めているのはその本心だ


「ア……ああ、ひってやる、ひ、言ってやるとも……!!」


彼の心を覆っていた、『正当化』という皮が剥がれ落ちていく


『戦争だから』『人の為だから』『正義の為だから』


体裁を保つための詭弁では、目の前の悪魔は満足しない
悪魔に『情』など無い。あるのは、愉悦を求める底なしの欲だ

『愉しませる』ことだけが、命を繋ぐ可能性なのだ

362 ◆HS4z8y6JHc:2017/01/04(水) 01:06:18 ID:BYyQ37mk0
「き、ひ、決まってんだろ……」


男は半ば自暴自棄だった。彼は初めて、自らの本音を吐き出す
それまで彼は、欲望と良心を両方とも肯定する『言い訳』を、ずっと自分にも言い聞かせていたのだ


「か、かっ、艦娘は金になるんだ……考えてもみ、みろ!!資材さえあれば、年頃の美女が幾らでも生み出せる!!」

「そりゃ、俺だって最初は使命に燃えていた提督だったさ!!だ、だ、だけど!!」

「上層部からのプレッシャーや、戦果ノルマに追われている内に、お、お、俺は疲弊しきった!!外出もロクに出来ず、給金だってまともに使えない、圧迫された生活に!!」

「その内、狂うんだよ……貢物をしなくても、ご機嫌を取らなくても、懐いてくる美女に囲まれていたら!!」

「俺の、俺の良心のひび割れに、水を注ぐように入って来るんだ……欲望が!!」


川 ゚∀゚)「それで艦娘を好き放題犯し、売春で小銭を稼いでいたと?」


「構わないだろう!!どうせ幾らでも湧いて出る代物だ!!海軍大本営だって黙認している!!」

「俺たちは人間だ!!艦娘よりも、深海の連中よりも、心身共に脆弱な生き物だ!!」

「だったら!!少しくらい我を通してもいいじゃないか!!あいつらは兵器だ!!モノだ!!工場で作られる玩具と変わりないだろう!!」

「少しくらい遊んだって、少しくらい、懐を潤したって、だ、だ、誰も責めやしない!!誰もだ!!」


川 ゚∀゚)「ハハ……ハハハ!!天龍、聞いたか!?どいつもこいつも変わり栄えしない、似たような答えばかりだ!!」

从 ゚∀从「ああ。こいつら、二言目には『疲れた』『狂う』『あいつらはモノだ』だからな」


「ど、どうだ……言ってやったぞ!!ああ!?」


喚いた男の口から飛び出た血の飛沫が、女の顔に小さな斑点を作る
男は自暴自棄だった。勘の悪い者でも、この後どのような結末を辿るかなど容易く理解できる
『どうせ殺されるのだ』という諦めが、今際の際の虚勢を絞り出してた

363 ◆HS4z8y6JHc:2017/01/04(水) 01:07:51 ID:BYyQ37mk0
川 ゚ -゚)「ああ、ご苦労だった」


女は表情を戻すと、額に銃口を押し当てる


「ッ……」


男は唇を噛みしめ、瞳をきつく閉じて人生最後の痛みに備えた


川 ゚ -゚)「……」

川 ゚ー゚)「クッ、クク……」


しかし、何時まで経ってもその瞬間は訪れない
その内、額から冷たい鉄の感触が取り除かれた


川 ゚ -゚)「約束は守るさ。お前は見事、私の指を止めた」

「はっ……?」

川 ゚ -゚)「『心に突き刺さったよ』。貴様の、室外まで響く本音はな」

「じゃ、じゃあ……」


男は目を見開くと、女は既に立ち上がり帰り支度を始めていた


「こ、殺さないのか?」

川 ゚ -゚)「ああ、『殺さない』さ」

「ほ、ほ、本当に?」

川 ゚ -゚)「勿論」


天龍はフックに掛けられていたコートを取って広げ、女が袖を通す
拳銃は手に握られていたままだったが、グリップでは無く銃身を掴んでいた

364 ◆HS4z8y6JHc:2017/01/04(水) 01:09:39 ID:BYyQ37mk0
九死に一生を得た男は、浅く呼吸を繰り返す
鼓動と痛みが、その実感を味あわせてくれた
『生きてもいい』。打って変わってそっけなくなった女の態度は、赦免のように思えた


「ああ……ああ、す、すまなかった……俺が間違ってた……すまない……すまない……」


川 ゚ -゚)「……」


扉に向かう女は謝罪に見向きもせず


从 ゚‐从「……」


対して天龍は、蹲る男をゴミを見るかのように一瞥した


「これからは心を入れ替えるよ……艦娘も大切にする。今日この日を教訓に……」


川 ゚ -゚)「おい」


「はっ、はい!!」


女の呼びかけに、男は咄嗟に扉の方向へと向き直る
次の瞬間、開いた扉の先を見た男は


「」


絶句した

365 ◆HS4z8y6JHc:2017/01/04(水) 01:10:55 ID:BYyQ37mk0
川 ゚ -゚)「殺しはしないさ。『我々は』」


そして男は女の本当の意図を理解した

何故、証拠を掴んでいながらすぐに殺さなかったのか
何故、自分から本音を引き出させたのか
何故、グリップではなく銃身を掴んでいたのか

何故、会話の中で『室外まで響く本音』を強調したのか


「あ……は、榛……名……」


扉の先に立っていたのは、男が唯一『指輪』を渡し、唯一寵愛を注いだ秘書艦娘だった


ミ*゚∀゚彡「オラ、入れよ」


榛名の背後に立ち、後頭部を銃口で小突いたのは高雄型重巡洋艦の三番艦である『摩耶』
男の艦隊にも同種の艦娘はいたが、全くの『別人』だと嫌でも思い知らされた
女に付き従う天龍と同じ、『人間に恨みを持つ艦娘』だと


川 ゚ -゚)「ご苦労、摩耶」

ミ*゚∀゚彡「お前らばかり楽しみやがってずりぃぜ全く……天龍、俺にもくれよ」

从 ゚∀从「ほらよ」


天龍から酒瓶を受け取った摩耶は、銃を降ろさず口を付ける

366 ◆HS4z8y6JHc:2017/01/04(水) 01:12:41 ID:BYyQ37mk0
川 ゚ -゚)「さて、お嬢さん。お騒がせして悪かったな」


女は口を開かず、ただ男を一心に見つめる榛名の右手を取り


川 ゚ -゚)「我々はお暇する。これは鎮守府の備品だろう?『返すよ』」


拳銃のグリップを握らせる。摩耶は酒を楽しみながらも、榛名に銃口を軽く押し当てプレッシャーを掛けた


「ま、待て……待ってくれ!!」


川 ゚ -゚)「あっあー、もてなしを受けたいのは山々だが生憎我々はこれでも忙しい身でね」

川 ゚ -゚)「お互い、積もる話もあるだろう。お邪魔しては悪い。部外者は消えるとするさ」


「こ……こんなのって……!!」


最後に、女はとびきりの笑顔を作った


川*^ー^)「ごゆっくり」


それも、刹那と持たず


川 ゚∀゚)「は、はは」


あの醜悪な嗤いに変わっていく


川 ゚∀゚)「ハハハハハハ!!!!ハハ、傑作だな!!」


浴びせるように男に嘲笑を贈った彼女は


川 ゚ -゚)「それでは、失礼」


コートを翻し、司令室を後にした
天龍が後に続き、最後に銃口を向けたままの摩耶が、足で扉を閉める
部屋には男と、一発の弾丸が込められた拳銃を握った榛名が残った

367 ◆HS4z8y6JHc:2017/01/04(水) 01:13:44 ID:BYyQ37mk0
川 ゚ -゚)「ふぅ」


部屋を出た女は、すぐに歩こうとはせず室内に耳を傾けた
聞こえるのは、男の命乞いの声だけだ。だんだん口調が荒くなっていくところを見るに、上手くいってはいないらしい


川 ゚ -゚)「行こうか」

从 ゚∀从「いいのか?」

川 ゚ -゚)「さぁな……おっと」


女は足元の障害物をひょいと避ける
その障害物は、廊下に点々と落ちていた
どれもが人の形をし、女であり、全てが血を流し、全てが息をしていなかった

どれもが、『提督』の良識を信じ、戦い死んだ艦娘だった


川 ゚ -゚)「お前らはもう少し綺麗に殺せないのか?」

ミ*゚∀゚彡「無茶ゆーなよ。お行儀よく横並びに殺せるかっての」

从 ゚∀从「二人で一施設分丸々相手してやっただけでも上出来だろ」

川 ゚ -゚)「現状に満足しては進歩は無いぞ。こんな話を知ってるか?とある人間が一人で海域の解放を―――」


その時、軽い銃声が女の言葉と足を止めた


川 ゚ -゚)「……ハァー」


女はその音を、しばし聞き入った後


川 ゚ -゚)「『往け』」


と、両端の二人に短く命令した

368 ◆HS4z8y6JHc:2017/01/04(水) 01:15:44 ID:BYyQ37mk0
从 ゚∀从「クソ、またかよ……」


天龍は刀を抜き


ミ*゚∀゚彡「どいつもこいつもお人好しで困るぜ」


摩耶は酒瓶の底を壁に打ち付け叩き割った


川 ゚ -゚)「いつも通りだ。『二人共』殺せ」

ミ*゚∀゚彡「りょーかい」

从 ゚∀从「あいあい……」


気の抜けた返事とは裏腹に、足早に来た道を戻る二人
女はコートのポケットから煙草を取り出し、咥えて火を着けた


川 ゚ -゚)y-~「ふーっ……」


ドアを蹴破る音。すぐさま、一人が倒れ込む音が聞こえた
水っぽい咳が何度か聞こえ、それは直に掻き消えるように聞こえなくなった
代わりに耳に飛び込んで来たのは、男の慟哭。秘書官の名を何度も叫んでいた

それも長くは続かず、次に『話が違う』だの『帰ったのでは』だの、『助けてくれ』だのと命乞いに変わる


川 ゚ -゚)y-~「散々、他人の人生を弄って、食い散らかして……」


その命乞いも、『重い球が転がるような音』の後に、聞こえなくなった


川 ゚ -゚)y-~「生きて許されようなど、虫の良い話ではないか?」

369 ◆HS4z8y6JHc:2017/01/04(水) 01:16:43 ID:BYyQ37mk0





艦娘は『益』である





これは、彼女達を管理する政府、海軍両名の共通認識だ
日本は深海棲艦発生率が最も多い激戦海域であると同時に、唯一の艦娘保有国でもあった

しかしながら、深海棲艦は日本海域に限らず世界中の海に現れ、シーレーンを封鎖
流通と漁業は大幅な制限を強いられ、株価は暴落。世界恐慌へと突入した
世界各国は深海棲艦用の兵器開発を進めたが、どれも有力な成果を挙げなかった

日本は先進国に向け、艦娘を派遣。輸送船護衛や海域解放に、大いに貢献した
『隣の国々』は兵力の独占を大々的にバッシングしたが、陸上にまで侵攻され始めた時には鳴りを潜め、日本の救援を求めた

これに対し日本は世界各国へ向けて『支援』を要請した。艦娘の派遣にも金と資源が必要であり、国家予算では賄えないという理由で
そんな事は無かった。艦娘製造コストであり、艤装のエネルギー元である資材は山ほど手に入ったからだ
無くなっても、一定の量になるまで増え続ける無限の資源が、彼女達を作り、動かしていた

各国諜報部はこの情報を掴んではいたが、指摘までには至らなかった
現状、各国が回っているのは『日本』と『艦娘』あってだからだ。特に先進国は事を慎重に構えた
もしも日本からの艦娘派遣が途絶えれば、他国との競合に大きな遅れを取ってしまう
かと言って常任理事国が手を組んで敵対の意思を示してしまうと、今度は深海棲艦の侵攻に手を焼く

石油や天然ガスの資源供給の停止や、輸出食品量の制限なども、結局は自国の首を絞める制裁でしかなく
各国は日本の要求に、ただ従うしかなかった

日本政府は、人類以外の外敵の出現と、唯一の対抗戦力の独占により

史上、類を見ない『軍需』を手にした

370 ◆HS4z8y6JHc:2017/01/04(水) 01:17:21 ID:BYyQ37mk0




艦娘は『益』である




海軍は艦娘に対して唯一絶対の掟を設けた

『艦娘三原則』


・第一条 艦娘は人間に危害を加えてはならない。
・第二条 艦娘は人間に与えられた命令に服従しなければならない。ただし、あたえられた命令が、第一条に反する場合は、この限りでない。
・第三条 前掲第一条及び第二条に反する恐れの無い限り、自己を守らなければならない。


アイザック・アシモフが提示した『ロボット工学三原則』を元に考案された原則である
人間への安全性、命令への服従、自己防衛を目的とする三つから成るこれらは、艦娘を『人』ではなく『物』として扱う深意が含まれている
『物』をどう扱うかは、それぞれの鎮守府に配属された提督に一任され、それがどうなろうと厳しい刑罰を科せられることは無かった
それは人命、ひいては指揮官の身の安全と戦果を第一に考えられており、実際に戦場に立つ『物』はその役割を果たすために働かなければならない
極端な話ではあるが、提督の命令が『死ね』であるならば、人命を守るため従わなければならない

だが、彼らが率いる『物』は人間と変わらぬ姿であり、人の身を介さず産まれ出たとしても『生きている』
そう易々と特攻命令を下す提督は少なかった。彼らにも良心があり、例え『物』として扱われる存在だとしても、情はあった

情はあったが、人間にはもう一つの顔がある。『欲』である
生きる為に、充実した人生を送るために必要なファクターではあるが、多種生物に比べ人間のそれは計り知れない
勝利を得れば次の勝利を。階級が上がれば次の階級を。普通の人生では得られない、『戦争の酔い』
やがて彼らは効率よく、それでいて連続して勝利を得るために『物』を使い潰し始めた

それだけではない。艦娘はその誰もが魅力的な美女である
鎮守府という外界から隔離された施設で、彼女達に囲まれている内に、提督の中に抗いようのない肉欲が生じる
『物』という立場と原則を悪用し、有無を言わさず性交に及ぶ事態が後を絶たなかった

そしてその欲は、鎮守府の外へと伝染した

施設にも最大収容人数が定められており、これを越さない為に建造や海域からドロップした艦娘は『解体』及び『近代化改修』に回さなければならない
人によって誤解が生じているが、本来これらは『艤装』のみを対象としたもので、艦娘本人は大本営預かりとなり次の派遣先が決まるまで待機となる
だが、提督が報告書に『轟沈』と書き示せば、それはどこにも属さない一人の女として手元に残るのだ

『性』は金になる。そこに目を付けた提督と、外部の人間は、一般人に向けた違法風俗を展開した
途端に、人々は金をつぎ込んだ。人間の女性が働く風俗と比べ、ハズレが無く
賃金を払う必要が無いので、料金は割安だったのだ。艤装を奪われた彼女たちの多くは、性奴隷としての道を辿った

371 ◆HS4z8y6JHc:2017/01/04(水) 01:17:56 ID:BYyQ37mk0
風俗店で使い物にならないと判断されれば、富裕層に向けて販売された
富裕層が飽きれば、他の誰かの手に渡った
他の誰かが飽きれば、また他の手に渡った
心身が壊れたと判断した誰かは、人の目に付きやすい場所に捨てた
学生がその場所で拾い、成年雑誌を回し読みするかのように弄び
いよいよダメだと判断すれば、またどこかに捨てる

『捨てられた艦娘』は、失意と絶望の果てにこうして一生を終えるのだ



だが、例外もいた



傲慢な人間に怒りと殺意を覚え、泥を啜ってでも報復の為に生きようとした艦娘
砲火と水しぶきが入り混じる戦場に恋い焦がれ、海に還るまで死ねないと這いずる艦娘
提督の愛を信じ続け、再会を夢見て立ち上がった艦娘


死の安楽を真っ向から拒否し、生の道を選んだ『艦娘達』
そんな彼女達を集め、まとめ、願いを叶える人物が一人



川 ゚ -゚)y-~「ふぅーっ……」



女の名は、『素直クール』
『捨て艦娘達』の提督であり、海軍が産んだ見えざる怪物であった

372 ◆HS4z8y6JHc:2017/01/04(水) 01:18:52 ID:BYyQ37mk0


川 ゚ -゚)y-~「序章はここまでだ」



彼女は語る、誰もいない虚空に向かって
彼女は語る、舞台と客席を隔てる『壁』に向かって


狂った彼女は語りかける。『このゲームをプレイする、別の世界の誰か』に向かって


川 ゚ -゚)y-~「さぁ愉しめ、観客共。目を閉じず、耳を塞がず」


煙草を足下に落とし、踏みつける
彼女はそのまま歩き出した。静かになった司令室からは、二人分の足音が続く


川 ゚ -゚)「これは一つの原題から産まれた、幾千の物語の中の一つ」


川 ゚ -゚)「タイトルは」





『捨て艦娘がいる鎮守府 ‐Mermaid Naval District‐』







373 ◆HS4z8y6JHc:2017/01/04(水) 01:19:19 ID:BYyQ37mk0












coming soon……

374 ◆HS4z8y6JHc:2017/01/04(水) 01:23:31 ID:BYyQ37mk0
>>.358 気にしなくてええやで


異常が序章です
クソ眠いんで要点だけ伝えると

・最高にワルなクールを書きたかった
・本章まだ書いてない

です。眠いので寝ます

375名無しさん:2017/01/04(水) 01:29:17 ID:zblw43OU0
乙!!
ずっと待ってたからリアタイで拝めて嬉しい。次も楽しみにしてる。

376名無しさん:2017/01/04(水) 01:47:05 ID:pZq577GQ0
乙 良いクールだ
クソ提督ばっかでよく海軍回ってんな……

377名無しさん:2017/01/04(水) 02:21:55 ID:vjg4Y8Ic0
乙!
本章も楽しみにしてる

378名無しさん:2017/01/04(水) 03:13:04 ID:kFpgIqII0
オウ、クール
回ってなかったからアカツキに入りこまれたのだ

379名無しさん:2017/01/05(木) 00:54:40 ID:THLO.zrk0
提督がクソすぎてやむなしとしか

380 ◆L6OaR8HKlk:2019/02/02(土) 22:30:52 ID:lIaAaTQ60
『後を託す』

俺も過去に何度か言われた言葉だ。全く冗談じゃねえ
そりゃ言う側は楽だろうさ。だが言われた側にとっちゃ重てえプレッシャーがのしかかってくる
それも世界の命運が掛かってりゃ尚更だ。俺が世界最強の男だからって、支えるモンにも限界がある。だろ?

だが、今になって漸く気がついた。この言葉は簡単には言えねえってな
後もなく、手立てもない。だから『なんとかしてくれる』っつー期待と信頼を以て言わねばならない
ハハ、無責任なことにな。しょうもねえ







原作『艦隊これくしょん〜艦これ〜』





.

381 ◆L6OaR8HKlk:2019/02/02(土) 22:33:04 ID:lIaAaTQ60
改めて自己紹介をしよう。俺はこの場所で提督をしていた者だ
本名は知ってるよな?どうせ今頃にゃ毎日テレビで報道してんだろ
勘弁して欲しいぜ。自分の名前あんま好きじゃねーんだよ。女の子みたいで
にも関わらずズケズケと報道するんだからメディアってマジクソだよな

恐らく、名前の後にはこう続いてるはずだ
『戦後最悪の戦争犯罪人』『人類の裏切り者』『艦娘を私物化しようとした変態』『国連事務総長殺害容疑者』
言っとくが、最後以外全てデマだ。事務総長については特に大した理由はない。只の私怨だ。なんならインスタにアップしても良かった

こうなった経緯だが、単純に言えば『嵌められた』ってとこか。まぁ、そうする必要があったとも言い切れる
知っての通り俺が率いた艦娘部隊は国内外で最強と呼ばれた存在だ。故に、様々な『ワイルドカード』として国家間の利権争いに巻き込まれてしまった
提督という立場になって、俺は再認識したよ。『世界平和なんて到底叶わねえんだな』ってよ
だから一度、俺たちの真の目的を果たすために、敢えて汚名を被り存在を消す必要があった
これもメディアが報じてるだろうよ。『国連特殊部隊、集団心中』ってな

そうして表舞台で姿を眩ませたのち、俺たちに賛同する強力な支援者の元、水面下で部隊を再編
国家に縛られない、真の遊撃部隊として活動を再開する。これが俺の立てたシナリオだ
すんなり行くとは思わねえが……提督たる俺よか優秀な副司令艦がいるんだ。なんとかなるだろ






…………






作 ◆HS4z8y6JHc
協力◆vVnRDWXUNzh3





382 ◆L6OaR8HKlk:2019/02/02(土) 22:33:57 ID:lIaAaTQ60
俺も、あいつらの側にずっと居てやりたかったが、別の仕事が出来た
『味方』として働けるのは、この後の一仕事で終わりだろう。間も無く俺は、『裏返ってしまう』


……


ああ、クソ。チクショウが。『人類の裏切り者 』っつーのも、あながち嘘じゃねえ
だが俺は、この終わりの見えない深海棲艦との戦争に終止符を打てるヒントに一番近い存在だ。分の悪い賭けでも、乗るしかねえ


『例え、愛した娘達に矛を向けることになっても』だ







原案『( ^ω^)ひたすら嘘予告をしていくようです』

『艦隊これくしょん〜漢これ〜のようです』
『('A`)提督だけど艦娘がいない鎮守府に配属されたようです』
『艦隊これくしょん 〜仮面ライダー青葉〜 のようです』


『大ブン動会!〜2016年紅白〜』

『艦娘がいない鎮守府のようです』



.

383 ◆L6OaR8HKlk:2019/02/02(土) 22:34:41 ID:lIaAaTQ60
この独白が、お前の手に渡ったのは偶然じゃない。俺はあいつの目を信じる

『彼女達と共に生き、戦い、暁の水平線に勝利を刻むに値する人物』

それがお前だ。もう一度言うぞ。『後を託す』
お前が本気で世界を変えたいと望むなら、俺が遺した全てを差し出そう
ただし、『小娘共』はそう簡単に言うことを聞くと思うなよ?俺だって散々手を焼かされたんだからな

先ずは青葉を頼れ。どうしようもねえ戦闘狂だが、話は聞ける古参だ。親身になってくれるだろう
戦う力が欲しいのなら、天龍に稽古をつけてもらえ。但し、相応の覚悟を以ってな。そこらの天龍とはワケが違うぞ
疲れた時には金剛のお茶会に呼ばれると良い。アホな奴だがあいつの入れる紅茶は染み入るように美味い
嫌なことがありゃ軽空母連中の飲み会に混ざれ。ゲロと頭痛でそれどころじゃなくなるからな
夕立とは根気のいる付き合いになるだろうな。お前が知ってる夕立とはだいぶギャップがあると思うが、優しく接してやってくれ
ウォースパイトは日本に帰化した英国艦だ。彼女を祖国から守ってやって欲しい
それ以外の海外艦は国へ帰したが、それでも戻ってきた時には暖かく迎え入れてくれ。ビスマルクは腐女子だ
加賀と瑞鶴の言い争いは別に放置しても構わねえ。あいつらどうせクソくだらねえ事でしか喧嘩しねえから
二週間に一回のペースで鈴谷が夜に騒ぐと思うが、絶対に目を合わせるな。思いっきり床に叩きつけたくなけりゃあな
熊野にお嬢様感を求めるなよ?あいつ狩猟が趣味のハンターだからな
これは必ず頭に叩き込んで欲しいんだが、怪奇現象に襲われた時は自分で対処しようとせず真っ先にあきつ丸を呼べ
エイリアンが徘徊してる場合は別だ。初月を呼べばいい
衣笠にタバコ吸いすぎんなって間違っても言うな。絶対にタバコを取り上げるな
瑞鳳は度々変わった口癖を言う。会話しにくいと思うが、何、すぐ慣れる
自分ではどうしようもねえと到ったなら、古鷹を呼べ。彼女に逆らえる艦娘はほぼいない



叢雲を、支えてやって欲しい。とびきり優秀な参謀……いや、今は司令艦か
気丈に振る舞ってるが、何でもかんでも一人で抱え込んでは押し潰されるタイプの子だ
俺が言える立場じゃないのは重々承知してる。恥を忍んで頼もう
どうか、あいつの良き相棒に、理解者になって、抱える荷を軽くしてやってくれ


時雨に関しては、お前にも……いや、誰にもどうにかすることは出来ない。諦めてくれ
今はもう、一縷の望みにしか縋っていないのだろう。端から見れば『病んでいる』とも見て取れるはずだ
俺に出来たのは、彼女が俺と共に死なないように突き放すことだけだった。どんな苦しみが待っているかもわかっていた
どんなに残酷でも『生きて欲しい』と願うのが親心だ。そうだろ?
どうにかしようと思うな。下手に手を出せばお前の寿命が縮まるだけだ。姉妹艦に任せるのが最善手だろう
それでも、お前がどうしようもないお人好しで、人の忠告を聞かないとんでもねえバカならば
一切の容赦をせず、あいつに向き合え。泣かせても構わん。半殺しにしてもいい。ただし、それ相応の報復を覚悟しろ
血みどろの対話を経て、彼女と『信頼』を結べたのなら、これ以上ない心強い味方になるだろう

384 ◆L6OaR8HKlk:2019/02/02(土) 22:35:35 ID:lIaAaTQ60
どうか、俺の娘達をよろしく頼む。お転婆で、じゃじゃ馬で、お脳から常識っつーもんが欠如してる、俺の可愛い娘達を


彼女達を幸せにして欲しい


その為に俺は手段を選ばなかった。時には犯罪紛いの行為にも手を染めた
不器用なもんでな。俺も叢雲の事を言えねえ。一人でなんとかしようとした
お前は俺のようになるな。遺した物には『人脈』という武器もある。いざとなれば頼れ

……いや、そもそも、これを読んでいるのは『お前達』なのかもな

もしも隣に、背中を預けるに値する仲間がいるなら、絶対にその繋がりを絶つんじゃねえ
オカンも言っていた。『人の情だけは捨てるんじゃない』と。情が、人間を人間たらしめる唯一の要素なのだと
俺も深く肝に銘じて生きてきたつもりだったが、どこかで怠ってしまったのだろう。戦友を手に掛けた時、それを痛感した

お前達に同じ道を辿って欲しくない。決して裏切るような真似をするな。今、隣にいる『誰か』は力であり、救いだ
そいつに命を懸ける覚悟を以て生きろ。他人に『依存だ』とコケにされたらこう言い返せ


『これこそ、俺達の最強の武器だ』とな


……長々と時間を取らせて悪い。最後に一つ、檄を贈らせてくれ

385 ◆L6OaR8HKlk:2019/02/02(土) 22:36:20 ID:lIaAaTQ60
今からお前が歩む道は、茨で舗装されている
敵は深海棲艦だけじゃない。欲望や悪意ある人間や、権力、時には国家すら容赦なく襲い掛かる
だが、臆することは無い。お前の背には、俺が育てた最強の戦力がついている。お前が歩む道は、俺達の屍でこさえてやる
幾千の戦場と死線を越え続けろ。勝利の女神の存在を疑うな。友が膝を着いた時には、肩を貸して前に進め
絶望に身を委ねるな。拳一つ残ってりゃ、それがお前の勝ち目だ。固く握りしめて、お見舞いしてやれ

このクソに溢れた世界で、『最強の男』になって






『俺を越えてみせろ』







健闘を祈る。提督殿








作 ◆L6OaR8HKlk








386 ◆L6OaR8HKlk:2019/02/02(土) 22:36:47 ID:lIaAaTQ60





「……」




「好き勝手、言ってくれるじゃねえか」




「それに、話も違うぜ?アンタの言う『娘達』ってのは、一体どこで何してんだ?」




「……」




「ハァ……故人に文句言っても始まらねえ。『俺を越えてみせろ』?上等だ。燃えるじゃねえか」




「その与太話、乗ってやる。一切合切全て救って……」




「歴史に『最強の男』の名を刻んでやるよ」

387 ◆L6OaR8HKlk:2019/02/02(土) 22:37:15 ID:lIaAaTQ60





「『抜錨』」






『Weigh Anchor!!』






388 ◆L6OaR8HKlk:2019/02/02(土) 22:37:52 ID:lIaAaTQ60




|::━◎┥「東郷ドクオ。改め、駆逐艦『電』」




|::━◎┥「出撃するッ!!!!!」






艦娘がいない鎮守府のようです 改








389 ◆L6OaR8HKlk:2019/02/02(土) 22:38:19 ID:lIaAaTQ60
























追伸

長門に気をつけろ

390名無しさん:2019/02/02(土) 22:39:49 ID:whbJc6As0
まじか、支援
くそ楽しみにしてる

391 ◆L6OaR8HKlk:2019/02/02(土) 23:36:40 ID:lIaAaTQ60
艦これSSの方メインでやってるんですけど、他作者さんとのコラボで世界観広がったし今ニートで時間クソ有り余ってるんでリブート版予告編です
もう紅白関係ないし艦これ未プレイ読者とか知らんもんってコンセプトで書くつもりなんで、ブッチギリで置いてけぼりにします。よろしくお願いします


https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1546267221/
https://engawa.open2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1536501657/


あと予習必要になると思うんで頑張って読んでください。前提督の話です。ブーン系要素あります

392名無しさん:2019/02/03(日) 04:20:01 ID:a5LqRBmM0
おう毎秒書くんだよあくしろよ

楽しみに待ってます

393名無しさん:2019/02/03(日) 05:36:40 ID:FnVCWH2U0
続き書いてくれるのか ありがたい
楽しみにしてる

394名無しさん:2019/02/03(日) 17:58:51 ID:qCgQeeHw0
    ∧_∧
    (0゚・∀・) ワクワク
  oノ∧つ⊂)
  (0゚(0゚・∀・) テカテカ
  ∪(0゚∪ ∪
    と__)__)

395 ◆L6OaR8HKlk:2019/02/07(木) 21:19:53 ID:vpwffbZI0
『よだか』。俺のあだ名だ。宮沢賢治の小説は読んだことあるか?国語の授業で習っただろ?
『実にみにくい鳥です』。他の鳥はそいつの顔を見ただけで嫌になっちまうっつってな。他人事じゃねえと思ったよ
ただ、あの話は最後に、鷹に迫害されて住処を追い出されたよだかが、空高く舞い上がって星になるっつーオチだった。

気に食わなかったね。他の鳥を見返しもせず、最後はお星様だぁ?
意味がわからなかったし、テストで『作者の心情を答えよ』と問われても、俺にはさっぱりだった
だからせめて俺は、突っ張って生きてやろうと思った。馬鹿にした連中には噛み付いてやったし、誰にも負けないように腕っ節も鍛えた
そうして行き着いた先が、『海軍』っつー腕力が物を言う職場だった

ガキの頃は『せんそうはいけないことです』だなんて教育が当たり前だったよな?
だが今となっちゃ、『いけないこと』をしなきゃ生きていけない環境になっちまってる。言い換えりゃ『戦争で食える』世界だ
兵士は正に天職だった。死と隣り合わせだが、殺せば殺すほど評価される。しかも相手は同じ人間じゃねえ。海からやってきたバケモノ、『深海棲艦』とその眷属
それと宗教の為なら自爆も辞さないクソテロリスト。良心はチクリとも痛まなかったね
男ばかりの組織も、ブサイクな俺には気が楽だった。勘違いしてもらっちゃ困るが、別にそっちの気があるワケじゃねえ
顔面格差による劣等感も、いくらか安らいだってだけだ。戦場を渡り歩いた戦友とも、良い関係と築けていた

396 ◆L6OaR8HKlk:2019/02/07(木) 21:22:20 ID:vpwffbZI0
あれはアフリカでの防衛戦だった。深海棲艦および『寄生体』の侵攻を食い止める任務だ
俺は避難民の受け入れ及び警護を担当していた。楽な仕事じゃねえが、命の危険は前線より遥かに少ない
海辺から微かに聞こえるドンパチをBGMに、夜間の哨戒に就ていた。娯楽も何もねえ場所だったが、星は綺麗でな
夜空を眺めながらぶらついていたら、戦友の一人が『おい、おい』と呼んだ。戦場には似つかわしくない、新しいオモチャもらったガキみてーな顔してたよ

それがなんだか可笑しくて、俺も釣られてニヤついた。「何だよ」と聞くと、「良いから」と言いながら手招きをした
任務の最中だったが、ちょっとくらい良いだろうと思ってついていった。てっきり、ハッパでも……おっと、これはオフレコで頼む
案内された先は廃墟寸前の民家。避難区のテントから少し離れた場所だった
窓からは温暖色のLDEライトの灯りが漏れ、笑いと話し声が聞こえた。戸がぶち壊れた玄関には、申し訳程度の隠し布がされていてな


「ケーキとクラッカーでお出迎えか?誕生日はまだ先だぜ?」


そう聞くと、戦友は『頼むぜオイ』とも言いたげに空を仰いだ


「任務ばっかで気が詰まるだろ?分隊長殿が息抜きを手配してくれた。さぁ、入れよ」


俺は呆れて笑っちまった。任務中にも関わらず、不真面目なこって。とな
とは言え、分隊長殿の厚意を無下にはできない。それに俺も『息抜き』は嫌いじゃない
現地の商売女でも呼び込んだんだろうとでも期待して、隠し布を払い中に入った


そして、室内の様を目の当たりにして、俺の笑顔は引きつった

397 ◆L6OaR8HKlk:2019/02/07(木) 21:25:17 ID:vpwffbZI0
出迎えの歓声あげる分隊のメンバーと、『息抜き』を用意した分隊長殿
そしてその中心には、四肢を拘束された『日系』の少女が、猿轡をされて横たわっていた
その瞳に涙と、猛烈な怒りを燃やして俺を睨めつけている。アフリカの地に削ぐわない『セーラー服』は目も当てられないほど破け、所々に焦げ目がついていた
『人間じゃない』と一目見てわかったのは、その娘の髪色が『銀色』だったから。陽炎型駆逐艦、『浜風』と呼ばれている艦娘だった


「分隊長殿、これは?」

「何、ここ一帯を締める提督殿とはちょっとした顔見知りでな。手を回してもらった」


俺の声は震えていたが、周りの連中は手拍子と囃子をあげる。頭は悪酔いしたかのようにグルグルと回り出し、喉から込み上げてきた吐き気をグッと堪えた
それが、連中には期待で唾を飲んだかのように見えたらしい。両手に構える四キロ近い鉄の塊が厭に重くなって、壁に立てかけた
傍に立つ、俺を呼び寄せた張本人は肩に手を置いて顔を近づけた。吐く息から、酒の臭いがプンと鼻につく


「分隊長殿がな、素人童貞のお前に一番に良い思いさせてやろうってんで俺らはお預け食らってたんだ。果報者だなぁ?ええ?」

「『よだか』のお前にゃ一生に一度あるか無いかの機会だぜ?逃す手はねえって!!」


わかっていた。男社会の海軍にとっては、同じく戦場に立つ目麗しい艦娘は性の対象になるってことも
ただそれは、酒の肴に話す卑下た妄想の粋に、『いつかヤれたらいいな』くらいの妄想に留まっていると思っていた
そりゃ、それくらいなら俺だって幾らでも付き合った。妄想も、無いと言えば嘘になる
それに、分隊長の『厚意』も、他の連中の『お預け』も、欲望はあるだろうが俺を想っての行為だろうと理解もできた。だが


「……ああ、すまねえ」


商売女ならどれだけ気が楽だったことか。『仕事』というサービスを受けることで『対価』を支払う、言わば対等の立場と合意の上に行われる行為だ
しかし艦娘が、俺ら兵士を差し置いて、最前線でバケモノと戦い続ける少女が


ただの『息抜き』として使われるのは、我慢ならないものがあった

398 ◆L6OaR8HKlk:2019/02/07(木) 21:30:35 ID:vpwffbZI0
俺は醜い『よだか』だ。金を支払わなきゃ女など縁のない人生だと知っている
艦娘という美少女に、人間だったらブタ箱に間違いなくぶち込まれる『強いた姦淫』を行えるまたと無いチャンスだとも

だが、それでも


人として、『男』としての尊厳を容易く捨て去れるほど、『醜悪』ではなかった


「すまねえ」


二度目の謝罪で、その場にいる全員の笑顔が凍り付いた。腐っても兵士だ。『殺意』には過敏になる。じゃなきゃとっくにおっ死んでいる
それが背中を預けあった仲間から発せられた物でも例外じゃない。切り替えは素早く、誰もが『腰のイチモツ』に手を伸ばした
ただし、俺には『素面』というアドバンテージがあった。無かろうと、この場にいる誰よりも素早い自負があった

左の裏拳で隣の男の顔面を殴りつけると同時に、右腰のSIG P220を抜き、右端から順に頭を撃ち抜いていった
最初は分隊長殿だった。最年長、四十過ぎのオッサンで、息子さんは今年高校に進学したらしい
次は最年少、俺の後輩だ。新米の頃から面倒を見てきた。ようやく一端の面構えするようになったばかりだった
三人目、副分隊長。若く才能のある男だった。嫁さん自慢が鬱陶しかったな

三人を撃ち殺し、ここでようやく残りの連中の銃口が俺を見定め始めた。俺の所属していた分隊は七人編成。俺を除けば残り三人
左端の先輩が吠えながら拳銃を向ける。さっき殴りつけた同期の胸倉を掴み、盾にした


「東ごっ……!!」


背中から肺を撃ち抜かれ、気道を昇って来た血が俺の名前と共に噴き出した
エロ本の貸し借りをしては『穴兄弟だな』とか、ふざけた話ばっかしてた。最後の言葉が俺みてえな野郎の名前とは、全くロマンチックだな
その盾越しに先輩を撃つ。俺達同期三人を最初に風俗に連れて行ったのはこの人だった。当の本人は平井堅みたいな嬢に当たったと聞いて腹抱えて笑った
肉盾を維持したまま、最後に残った正面の同期に銃口を向ける。ただし、奴のそれは俺を狙っていなかった


「何のつもりだ……!!」


撃つのを躊躇ったのか、それともこっちの方が俺を止める算段があると判断したのか
『浜風』を抱え上げ、無骨な『イチモツ』を頭に押し当てていた

399 ◆L6OaR8HKlk:2019/02/07(木) 21:34:57 ID:vpwffbZI0
「わかってんのか!?おまっ……っ、仲間を殺した!!何故だ!!」


泣いていたよ。仲間を偲んでか、狂った俺を憐れんでかは定かじゃないがな
その慈しみを、銃口を向ける少女に少しでも向けていたら、こんな惨劇は起こらなかっただろうに


「……何故?ハハ……」


自分でも不気味になるほど、その笑いは自然に零れたよ。当の本人でこれなんだから、彼方にとっちゃ滅茶苦茶恐かったんだろうな
顔は青ざめて、今にも股座を濡らさんばかりの怯えぶりだった。拳銃も、カタカタと震えていたよ
『何故?』。タチの悪いジョークだった。何が一番悪いかって、『俺が一番聞きたかった』からだ

何も殺さなくても良かったじゃねえか。怒鳴りつけて一発殴り飛ばせば、彼らも過ちに気づいただろうに
左手の死体を持っていられなくなり手放した。思考を巡らせるために、額を小突きたくなったからだ
掌底で古い家電の調子を直すように叩いたが、答えはすぐには浮かんでこなかったが
詰まった息を吐き、拳銃を構え直すと、案外すんなりとそれは見つかった。この重さが、『軽さ』が、正しく答えだった


「『これ』だよ」

「は……?」


答えは、俺らが置かれている状況にあったんだ。『戦争』だ
『せんそうはいけないことです』。教科書や授業じゃ到底知りえない、教えて貰えない生の実感が圧し掛かる
深海棲艦や、寄生体や、テロリスト。連中に向けて引き金を引いて引いて引いて引いて―――――


「『軽くなっちまった』」


最初は重たかった筈の引き金が、今じゃ何の躊躇いもなく引ける
一時の激情に身を任せて仲間を撃つことが『これほど容易く』なるほどに
せんそうはいけないこと。ああ、身をもって実感した。法や道徳など、お利口さんのおべんちゃらなんかよりもずっとずっと


「イカレたようだ。俺も、お前らも」

「ドク、待っ……!!」

400 ◆L6OaR8HKlk:2019/02/07(木) 21:38:08 ID:vpwffbZI0
これが例えば、平和な世界であるならば
彼らは『息抜き』と称したレイプ・パーティーなど開催しなかっただろうし
俺も、仲間を『六人』も撃ち殺すこともなかった。死んだ連中がもし口を利けたなら、俺と一緒にこう言うだろう


『戦争が、俺らを狂わせた』


ってな


「……」


最後に撃ったのは、俺の親友だった。こいつだけは、俺を『よだか』と呼ばなかった
あいつは溜りに溜まった鬱憤を晴らそうとしただけだった。誰も彼もが、終わりの見えない異国の戦場で、一時の癒しを求めただけだ
運が悪いとすれば、俺という融通の利かないアホが、部隊に一人いただけだった

銃声はキャンプにも届いただろうか。いずれにせよ、俺は言い逃れができねえことをした
狭い部屋に広がった血の溜まりを歩き、頭から出ちゃいけない代物がドロドロと流れ出る分隊長殿に近づき、ポケットを弄った
胸ポケットにお目当ての『鍵』があったよ。家族の写真と一緒にな
俺は急いてしまったかもしれなかった。これを見りゃ、『父』である彼は考えを改めたかもしれなかったからだ
最も、その写真は既に効力を失っていたのかもしれないけどな

浜風の怒りは消え、怯えの視線を向けていた。理由はどうあれ、ものの数十秒のうちに六人を殺したんだ。無理もなかった
四肢を拘束していた手錠は艦娘用の特殊鋼材製だった。用途は連行や懲罰だけでなく、このような事も含まれるのだろう
手足を自由にさせ、猿轡を解いても彼女はすぐには動かなかった。吐き気を抑えるかのように口を手で覆い、へたり込んだままガタガタと震えていた
慰めに掛ける言葉など無く、辛うじて血で汚れてない場所を見つけると、座ってタバコに火を着けた

401 ◆L6OaR8HKlk:2019/02/07(木) 21:41:27 ID:vpwffbZI0
「どうして……」


やっと口を開いたかと思えばこれだ。さっきのやり取りを聞いてなかったらしい
イラついたよ。どうあがいても解けない問題を延々と問われ続けているようでな。腹いせに持ってた拳銃を壁に投げつけても、気は晴れなかった


「いいからとっとと出てけよ……」


ビクリと身体を弾ませた彼女に対して、続けて怒鳴りつけるまでの気力は残ってなかった
六人。六人だ。どうあがいても刑は免れない。遺族に合わす顔も無い。俺の人生は今ここで終わりを告げた


「……逃げましょう」

「ハハ、どこへ?」

「どこでも構いません。このままだと貴方は……」

「頼むから!!」


彼女がどんな面持ちで、どんな想いで俺を連れ出そうとしたかはわからねえ
ただこれ以上、俺は生き恥を晒したくなかった。『駆け落ち』と言やあロマンチックだろうさ。だがそんな逃避行、耐えられるワケがねえ
タバコの先端が、中程までに到達した頃になって彼女はようやく


「ありがとう、ございました……」


青白い顔ぶら下げながらか細く礼を言って、出口へと進み始めた
帰る先など無いのだろう。逃げる当てすらも無いはずだ。彼女は管理者である『提督』に売られたのだから
死体の一人から拳銃とマガジンを抜き、隠し布を払いのけ、最後に


「また、お会いしましょう」


とだけ呟いて、この場を去った。『どこで』かは、聞かなくてもわかる。どうせお互い『長く無い』とでも悟ってたのだろう
とにかく、これで俺のした殺しの最低限の意味は成し得た。無責任とでも取れるだろうが、一介の兵士にはこれが精一杯だった

402 ◆L6OaR8HKlk:2019/02/07(木) 21:44:25 ID:vpwffbZI0
大して吸いもしなかったタバコを足下に捨てると、血溜まりが火を飲み込み、消えた
残った紫煙がむせ返るような鉄の臭いと混じったが、逆にそれが気を紛らわせた
LEDライトの側に置かれていた酒瓶を手に取り、一息に呷る。安酒だが、鼻がキュウと絞まるような度数が『恐怖』を薄ませた
仕上げがまだ残っていた。『イカレ』と称したのなら、それなりの末路を迎えなければ気が済まなかった
投げた拳銃を拾って、撃鉄を上げて銃口をこめかみに押し当てる。何らかのガタを感じたが、『もう一人殺す』くらいならまだ耐えれられるだろうと信じた


「フッ、フゥー……」


最後に頭を過ぎったのは、仲間でも家族でもなく、あだ名の由来になった小説の一文


『よだかの星は燃え続けました。いつまでもいつまでも燃え続けました。』


誰も見返さず、空に高く舞い上がったあの腰抜けは、俺なんかよりよほど気高い最後を迎えたのだとようやく気がついて




俺は引き金を引いた



.

403 ◆L6OaR8HKlk:2019/02/07(木) 21:47:11 ID:vpwffbZI0
―――――
―――




('A`)「で、拳銃が案の定ぶっ壊れてたんで暴発した結果、俺は無様にも生き残って軍法会議。死刑を待つ身だったがなんでかどうして、よくわからん場所に送られる羽目になっちまったってこった」


( ^ω^)「ぐーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!」

(´^ω^`)「ぐーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!」


('A`)「お前ら人の古傷ほじくり返しといてそれはねえだろ」


あれから二年が経ったが、俺はまだ生きている
同じく何らかの重罪を犯し、同じ刑に処されたであろう連中と共に
悪路を走る輸送バスに揺らされながら、『流刑地』に向かっているのであった






『艦娘がいない鎮守府のようです 改』









404 ◆L6OaR8HKlk:2019/02/07(木) 21:52:33 ID:vpwffbZI0
今日はここまで。お疲れさまでした

405名無しさん:2019/02/07(木) 22:23:26 ID:t6Dvqgb20
本名バレにより一人の作者を引退に追い込んだ感想を一言頂けますか?

406名無しさん:2019/02/08(金) 08:41:48 ID:NguumjB60
乙!
帰ってきてくれて嬉しいよ

407名無しさん:2019/02/08(金) 08:52:50 ID:N4h/YHf60
乙。
最後で容赦なくシリアスさんぶち殺すスタイル好きよ

408名無しさん:2019/02/08(金) 18:06:33 ID:wdJnh.TY0
>>405
本名バレしたのはムカデじゃなくて酒犬のほうなんだよなあ

409名無しさん:2019/02/22(金) 18:39:56 ID:zy9DjFxw0
おっつおっつ
ちょっと聞きたいんだがコラボ先の人と、各々の作品の展開とかキャラの扱いって
話し合ったりとかしてんの?それとも独断?
コラボ先が人類滅亡エンドしか見えなくてそうなるとこっちとの兼ね合いとか
どうすんのかなーって気になってね
まあパラレルですよって言われたらそれまでなんだが

410 ◆L6OaR8HKlk:2019/05/01(水) 02:36:09 ID:5QojOfSc0
留置所を出たのは明け方。早朝の空気は秋の訪れを感じさせる涼しさだったが、太陽は今だ自重を知らず
二時間も経てば車内は蒸し風呂のように湿気と熱が籠った。ブラインドが施された車窓は光こそ通しはしなかったが、換気も出来ず仕舞いだ
空調などという贅沢は囚人である俺達には許されないらしい。一つ壁の向こう側にいる運転席は、存分にその恩恵に預かれているというのに


('A`)「……」


それでも、熱中症という配慮から水だけは許可された。一人一本、二リットルのミネラルウォーター
この状況下では正に命の水と言っても過言ではない。残り三分の一にまで減ったそれを一口分含み、少しずつ飲み込んだ
当の間抜け面二人は、俺の独白を子守歌に大いびきを掻いている。こんな暑い中、よくも眠れるものだ


('A`)「あー……暑ぃな」

( ^ω^)「うんお!!!!!!!!!!!!!!!」

(;'A`)そ「うおっ!?」


顔だけ此方を向けてデブが返事をした。熟睡してるもんかと油断してた俺は面を食らう羽目になる
デブというのは実に見苦しい。それがこれだけ蒸し暑ければ不快感も増すというものだ

411 ◆L6OaR8HKlk:2019/05/01(水) 02:36:49 ID:5QojOfSc0
( ^ω^)「心に残るお話をどうもありがとうだお」


その上、語尾まで馬鹿丸出しときた。顔つきこそ朗らかだが、このバスに同乗している以上、俺と同じ重犯罪者である事に間違いはない
にこやかなデブの代名詞と言えば、某映画の微笑みデブを思い出す。これからこんなのと生活すると思うと辟易する


('A`)「そりゃ結構。よく眠れたようで何よりだ」

( ^ω^)「いやほんと……工科学校にいた頃を思い出したお」

('A`)「整備士か?」

( ^ω^)「おっお、艦娘の艤装を弄繰り回す変態だお」

('A`)「変態なのは見ればわかる」

( ^ω^)「お前失礼だな」

('A`)「話の最中に居眠りこく野郎に言われたかねえな……名前は?」

( ^ω^)「平賀 文(ふみ)、ブーンとでも呼べお」

('A`)「可愛げのあるあだ名で」

( ^ω^)「『よだか』よりかは遥かにマシだおね」

('A`)「そうだな、デブーン」

( ^ω^)「新生活がギスりそうで何よりだお」


頭が痛いのは暑さの所為だけでは無さそうだ

412 ◆L6OaR8HKlk:2019/05/01(水) 02:38:04 ID:5QojOfSc0
( ^ω^)「そんで?」

('A`)「東郷 独王」

( ^ω^)「名前かっけえ……」

('A`)「キラキラしてるだろ?本名なんだぜ、これ」


数時間は一緒のバスに揺らされていると言うのに、自己紹介はこれが初だ。身の上話が先だった理由は


(´^ω^`)「ぐーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!」


そこのオッサンが『暇だからジャンケンして恥ずかしい話暴露しようぜ!!』の提案に乗ったからだ
それにしても自己紹介が先だと思う。ついでに言うと俺の昔話に到達するまでに三つほど恥ずかしい話を暴露している


( ^ω^)「げろしゃぶか……ドクだな」

('A`)「ドクでいい」

( ^ω^)「げろsy ('A`)「ドクでいい」圧が凄い」

(´^ω^`)「俺かい!!!!!!!!!!!??????????」

(;'A`)そ「うおっ!?」

(;^ω^)そ「うおっ!?」


こいつら実はずっと起きてたんじゃねえのか

413 ◆L6OaR8HKlk:2019/05/01(水) 02:38:51 ID:5QojOfSc0
(´^ω^`)「誰だいって顔してんで自己sy( ^ω^)「間宮 静雄だお」オイオイオイご挨拶だなテメエ」

('A`)「それで、Mr.スピード・ワゴン。職は?」

(´・ω・`)「メシ炊きだ。よろしく」

('A`)「調理師がどうしてここに?」

(´^ω^`)「オナホにした野菜でカレーを作ったんだよーーーーーーーーーーーい!!!!!!!!」

( ^ω^)「オッサン今年でいくつ?食べ物で遊んじゃいけないってママに教わらなかったかお?」

(´・ω・`)「嘘だよ……料理人が飯を粗末にすっかよ……今年四十だぞ俺……」

( ^ω^)「マジなら着いたら速攻で埋めてたお」

(´^ω^`)「ロクデナシ同士仲良くしようぜ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!」

('A`)「出来たらごめん被りたい」

( ^ω^)「顔がウザい」

(´・ω・`)「クソガキ……」

414 ◆L6OaR8HKlk:2019/05/01(水) 02:39:33 ID:5QojOfSc0
「やかましいぞ!!」

(#´゚ω゚`)「お喋りくらいさせろカス共がーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!!!だぁって運転してろゴミ野郎ーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!」


監視からの至極ご尤もな注意にもこの返し。やはりロクデナシで間違いはなさそうだ
戦場で最も強力な部隊は糧食班というが、連中が全員このようなイカレでは無いだろう


「チッ……ロリコンの分際で……」

(´・ω・`)「おう今なんつった?」

( ^ω^)「止せおオッサン。手首に何が巻き付いてんのか見えてないのかお?」


手錠と、左手首に大きな腕輪。二つの液体が入ってるそれは、混ざり合うと化学反応を起こし爆発する
逃げ出せば爆発。抵抗すれば爆発。外そうとすれば爆発。通信により下された指示に歯向かうと爆発
手榴弾の原理をご存じだろうか?B級映画なんかじゃ炎を噴き上げる爆弾として使われているが、本来は爆破による『破片』で殺傷する事を目的としている


('A`)「……」


この腕輪も同じ。手首が吹っ飛ぶだけなら安いものだが、下手を扱けば死人は一人に留まらない
ここであの兵士が気まぐれを起こせば車内は血みどろの大惨事になるのは目に見えている
俺としては別にそれでも構わないが、後で掃除をする連中が余りにも不憫だ

415 ◆L6OaR8HKlk:2019/05/01(水) 02:40:11 ID:5QojOfSc0
(´・ω・`)「こんなもんフランク・マーティンだけで十分だっつーんだよ……」

('A`)「もしくは一日外出権ってとこだな」

( ^ω^)「勘弁してくれお。娯楽から離れて暫く経つってのに」

('A`)「お前らもか?」

(´・ω・`)「ああ、新聞すら読ませて貰えなかったぜ」


ショボい飯に臭くて狭い部屋だったのは共通だったらしい。普通に拷問だった
それ故だろうか。他愛のない会話を楽しんでいる自分がいた


( ^ω^)「新天地は、もうちょいまともだと助かるお」

(´・ω・`)「一杯やりてえもんだな」

('A`)「……」


『新天地』。死を許さなかった俺の運命とやらは、その贖罪の地で
一体、どんな償いをさせようってのだろうか―――

416 ◆L6OaR8HKlk:2019/05/01(水) 02:40:39 ID:5QojOfSc0
―――――
―――



「―――以上だ。何か質問は?」

( ^ω^)「はいお」

「無いようだな。それでは、我々は撤収する」

( ^ω^)「はいお」

「くれぐれも、逃げ出そうなどと思わぬように」

( ^ω^)「はいお」

「行くぞ。長居すればタダでは済まんからな」

( ^ω^)「はいお」


必要最低限の説明を終え、移送班は逃げるように去っていった
バスが残した排気ガスと砂ぼこりを感じていないのだろうか。ブーンは五回目の挙手を繰り出していた


(´・ω・`)「さて、噂に違わぬ堂々の佇まい。これが『地獄の鎮守府』かい」


荷物を担ぎ上げ、古ぼけた木造の校舎を見上げる。逆立ちしてもこれが現代の軍関連施設には見えないが
これでも『元』は、太平洋に面する廃村を再利用した一つの『鎮守府』だったらしい
エンジン音が響く背後を振り返れば、山と緑がお出迎え。文明建築らしき代物は、鉄筋コンクリートで作られた『ゲート』くらいだ
まさしく『ザ・ド田舎』って感じの場所だった。少なくとも、フリーWi-Fiは設置されちゃいねえだろう

417 ◆L6OaR8HKlk:2019/05/01(水) 02:41:18 ID:5QojOfSc0
('A`)「にしても、随分と緩い制約を課されたな」

(´・ω・`)「拍子抜けするほどにな。ただ……」


そこに何故『地獄』などという物騒な名称まで付与されているのか。海軍に属する者なら、ある種の都市伝説として耳にした事のある噂話がある

『着任した提督及び艦娘が悉く不審死を遂げる呪われた鎮守府』

その惨劇は、片手じゃ収まらないほど数多く存在する。故に、軍が厄介者を始末する『処刑場』とまで呼ばれた場所だった
この話は勿論ながら民間にも知れ渡っているが、何せ話が話だ。本怖スレを盛り上げる程度のネタに留まってはいた
たまにワイドショーなんかで思い出したかのようにマスコミからの質問を投げかけられたりもするが、広報担当は決まってこう言った

『ただのオカルトです。信憑性はありません』と

俺も二人も、その言葉を信じて本気にしていなかったが、ああも露骨に逃げ帰られると考えを改めざるを得ない

418 ◆L6OaR8HKlk:2019/05/01(水) 02:42:21 ID:5QojOfSc0
('A`)「……まさか実在してたとは」

(´・ω・`)「伽椰子でも住みついてんのかね……艦娘が力で押し負けるとは考え辛いが」

('A`)「やだ怖くなってきた」

(´・ω・`)「ブサイクだから大丈夫だろ」

('A`)「根拠にならねえよクソ眉毛」

(´・ω・`)「コンプレックスをネチネチと突く天才かお前」


誰もが軍に入れば口なんて一瞬で悪くなるものだろう


('A`)「……ここの最後の主が『世界最強の提督』であり、『世界最悪の犯罪者』である変態、『小練 詩音』」


ちょうど二年も前だろうか。国内どころか世界を揺るがした大事件がある
その可愛らしい響きの名前の男は、『国連海軍特殊部隊』という枠内において国内外最強と言わしめる艦娘部隊を率いる立場でありながら
当時の国連総長である一人の日本人を殺害。全部隊員と共に行方を暗ませた。その後、捜査により次々と悪行が明らかになる


('A`)「部隊員である艦娘の洗脳に、隔離された鎮守府でのサバト、政治家との癒着、海外艦娘の不当な買収……」

(´・ω・`)「中でもスナッフ・フィルムを好んだ変態だっつー話だったな……胸糞悪い話だぜ。ったくよ」


稀代の大悪党の壮絶な人生は、以下艦娘を巻き込んだ海上での集団自決で幕を閉じたとされているが
数多く遺されている筈の死体は、一つも見つかっていない。依然として捜査と警戒は続いているものの
この広い太平洋で壮絶に爆死したのなら、魚の餌になっていると考えるのが自然だろう
それに、世間の風化は案外早い物。未知の敵対生物との戦時下なら、情報の移り変わりはより目まぐるしい
死んだ野郎の安否より、深海凄艦の動向と明日の天気の方がよっぽど重要な案件となっていた

419 ◆L6OaR8HKlk:2019/05/01(水) 02:43:21 ID:5QojOfSc0
('A`)「そんで、俺らに課せられたお仕事が『元』悪の巣窟の管理か」

(´・ω・`)「近海の監視と一日二回の無線報告、建造物の維持、修繕。期限は終戦を迎えるまで。その後の恩赦に関しては追って考慮する」

('A`)「補給は月一、ライフライン完備、ネットは使えないが地デジは見れる……給料も、雀の涙ほどには出る」

(´・ω・`)「尚、鎮守府から半径十キロ以上離れた場合、腕輪に内蔵されたGPS信号により爆破装置が作動する」


大まかな説明は以上。実にシンプルでわかりやすく、それでいてぬるい仕事だった
この施設が『訳アリ』なのを除けば、檻の中で一生を過ごすより遥かに良い待遇と言える
まぁ、『実績』があるからこそ俺らみたいなクズを消耗品として管理人に就かせたのだろう


('A`)「何か質問は?」

( ^ω^)「はいお」

('A`)「はいブーンくん」

( ^ω^)「おやつは出ますかお?」

('A`)「あいつら帰って正解だわ」

(´・ω・`)「荷解きして探検と行こうぜ」

( ^ω^)「暗い雰囲気を少しでも和らげようと思ったのに」


余計なお世話だった。とにかく、先ずは一息つきたい
必要最低限の生活必需品が入ったバックを担ぎ直し、新たな『我が家』……別名、『あばら家』に足を踏み入れた

420 ◆L6OaR8HKlk:2019/05/01(水) 02:44:09 ID:5QojOfSc0
鎮守府である旧校舎と隣接する居住棟の一室にそれぞれ荷物を置き、オッサンは調理場、ブーンは工廠の確認へと一目散に飛び出した
特にこれといった専門職に就いていない俺は、校舎内を適当に散策することにした。出来ることなら早急に風呂場を見つけて汗を流したい
曰くつきの施設に置いて個人行動は死亡フラグに該当するが、着いて早々登場人物が殺されるなんて盛り上がりに欠けるよなぁ


('A`)「意外と……」


てっきり廃屋一歩手前な内装を想像していたが、中は案外綺麗だった。学校の面影は色濃く残っており、教室には椅子と机が規則正しく並んでいる
初めて踏み入る場所でも『学校』とは懐古を掻き立てるものだが、それが良い思い出とは限らない。ガキの頃から問題児だった俺にとっちゃ、苦虫を頬張ってるようなものだ


(;'A`)「ああ、やだやだ」


嫌な事だけはずるずると覚えているんだから、人のオツムってのは構造的に欠陥を抱えているらしい


('A`)「ん……?」


などと、人の作りを嘆いていると、廊下の先で『リン』と鈴の音が聞こえた


(;'A`)「うっわ……」


気の所為なら良いのだが、目を向けた先に何か『白く細長い物』が軽い足音を伴って消えていったのだから、誤魔化しようもない
俺はどうもきっちりと死亡フラグを立てていたらしい。早速怪異にお出迎えされるとは、全くツキがない
いや……オカルトなんてそうそうあるだろうか?確かに『場所』として地獄の鎮守府は存在した
だが『噂』までもが実在するとは限らない。仰々しい代物には決まって尾鰭が付くものだ


(;'A`)「猫かなんかだろ……」


またもや死亡フラグを立てた気がしてならんが、正体さえ掴んでしまえば恐れも無くなる
意を決して、その後を追ってみることにした

421 ◆L6OaR8HKlk:2019/05/01(水) 02:44:52 ID:5QojOfSc0
('A`)「……」


『りん』、『りん』
曲がり角、階段、辿り着いた先でチェックポイントのように鈴の音が聞こえ、『猫』が走り去る
まるで俺をどこかへと導いているかのようだ。その先が地獄のような有様で無ければいいが


('A`)「ん?」


二階へと上がった時、音が『きしみ』に依るものへと変化した


('A`)「おっと……」


音を追って廊下を歩くと、程なくして正体が判明した。内開きの『扉』が僅かに開いていた
ドアノブは丸いタイプであり、猫が飛び乗った所で開けられるとは到底思えない
室名札を確認すると、そこには『司令室』の文字が。あの悪名高い提督の、執務室であった


(;'A`)「マジかよ……」


好奇心は猫をも殺すというが、猫に抱いた好奇心で殺されるとは思ってなかった
しかし、背を向けて逃げるのも何か恐いし……ええい、男は度胸、なんでも試してみるものだ


(;'A`)「お邪魔……」


扉を軽く押し、変な手ごたえが無いことを確認して開けていく。ショットガンズドンとか無くて一先ず胸を撫で下ろした
カーテンは全て閉ざされている為、やや薄暗い。壁際のスイッチを押して電灯を点けた。電流走らなくて二先ず胸を撫で下ろした
先ず目についたのは重厚な執務机。その手前には応接用のソファーと足の短いテーブル。ちょっとした流し台とクッキングヒーター、冷蔵庫があるのは茶を入れるためだろう
壁際にはズラリと本棚が並んでいる。資料かと思えば、なんとほとんどが漫画本だった。中には映画のDVDも差し込まれている


(;'A`)「……」


執務室というよりは、ネカフェの有様だ。いや、紙媒体よりデータ化を好んだ人物だったのかもしれない
だが、肝心のデジタル媒体は執務机の正面に立て掛けてある液晶テレビくらいしかない
それもそうか。PCがあるなら重要な証拠となる。もし残っているなら真っ先に徴収されるだろうし
そもそもそんな物をおめおめと残したままにしとくとは思えない。俺ならば絶対に壊す


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