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( ^ω^)千年の夢のようです
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9/24(水) 夕方より投下します
よろしくお願いします
前スレ
>( ^ω^)千年の夢のようです
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/13029/1401648478/
まとめサイト様(以下敬称略)
>ブンツンドー
http://buntsundo.web.fc2.com/long/sennen_yume/top.html
>グレーゾーン
http://boonzone.web.fc2.com/dream_of_1000_years.htm
作品フィールドマップ(簡易)
http://imefix.info/20140922/321215/rare.jpeg
http://imefix.info/20140922/321216/rare.jpeg
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只今ディスクを入れ換えています。
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地図すげえな
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うはぁテンション上がってきた
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投下が待ち遠しい
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( ^ω^)千年の夢のようです
- 傷痕留蟲アサウルス -
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(推奨BGM:Battle Conditions)
http://www.youtube.com/watch?v=ye71DzVgw_k&sns=em
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しえ
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(´・ω・`) 「ビコーズの伝えたいこと、
分かりましたか?」
( ^ω^)「言葉は聴こえなかったけどなんとなく」
ショボンは立ち上がり、
互いの自己紹介も簡潔に済ませると
二人の不死者はアサウルスに向き直す。
( ^ω^)「…まだ二人ほど、無事な人がいるみたいだおね。
あっちはツンに任せて僕らはアレをどうにかするお」
(´・ω・`)" 「…」
頷きながらミルナの居る方を一瞥した。
この小さな崖上からあそこの砂浜までは距離がある。
とはいえアサウルスの爆炎は範囲の大小次第でミルナとでぃを巻き込むだろう。
(´・ω・`) 「…友達を死なせたくない。
接近戦を挑ませてもらう」
( ^ω^)「戦いの経験は?」
(´・ω・`) 「残念ながら先程までは……
でも、そろそろ慣れてきたよ」
-
初めて武器をとり戦う相手があんな巨獣であることはショボンにとって不幸だったろう。
その腰にかけた武器を見て問い掛ける。
( ^ω^)「…得物は剣でいいのかお?」
(´・ω・`) 「ひとまずは。 止めは恐らく変わるけど」
しかしブーンという不死者がここに居たこと…
些細な不幸すら補い有り余る希望。
ショボンにとって始めて、
"仲間" と呼べる同種の人間が現れたこと。
( ^ω^)「だったら5分だけ…
そこで僕の動きを観てるんだお」
( ^ω^)「君が不死者であれば
5分後には、その意味がわかるから」
その言葉にショボンが頷くと
ブーンは腰鞘から自前の剣を抜き、アサウルスへと跳躍していった。
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ξ゚?゚)ξ「【スリプル】!」
その魔導力を表す灰色の粒子が
黒蟻となった人々を次々眠りに囲う。
ワンテンポ遅れて発動するその魔法は、
反応し、跳び掛かってくる人々の動きを空中で止めた。
力なくバタバタ倒れていく黒蟻の群れ。
( ゚д゚ ) 「お、おい!」
ξ゚?゚)ξ「平気よ。 眠らせただけ。
…それにしても抵抗なく効いたわね」
ξ゚?゚)ξ「そこの人も手当てしましょうか」
(# ц ) 「……」
( ゚д゚ ) 「…ありがとう、助かる」
( ゚д゚ ) (なんだか俺は…他人に助けられてばかりだ)
ミルナが唇を噛み締めて俯いた。
戸惑って、やっと決意する頃には
他人が先にその覚悟を得ている気がする。
蟻を模した赤ん坊に躊躇し、
むざむざでぃの精神を深く侵してしまった。
もっと早くショボンの心に踏み込んでいれば、友として独り震えさせる事もなかったかもしれない。
ξ゚?゚)ξ「ねえ、ちょっと」
( ゚д゚ ) 「ーー えっ」
ξ゚?゚)ξ「この女の子運ぶの手伝って。
礼拝堂の陰まで避難するのよ」
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>>11は訂正して再投下します
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ξ゚⊿゚)ξ「【スリプル】!」
その魔導力を表す灰色の粒子が
黒蟻となった人々を次々眠りに囲う。
ワンテンポ遅れて発動するその魔法は、
反応し、跳び掛かってくる人々の動きを空中で止めた。
力なくバタバタ倒れていく黒蟻の群れ。
( ゚д゚ ) 「お、おい!」
ξ゚⊿゚)ξ「平気よ。 眠らせただけ。
…それにしても抵抗なく効いたわね」
ξ゚⊿゚)ξ「そこの人も手当てしましょうか」
(# ц ) 「……」
( ゚д゚ ) 「…ありがとう、助かる」
( ゚д゚ ) (なんだか俺は…他人に助けられてばかりだ)
ミルナが唇を噛み締めて俯いた。
戸惑って、やっと決意する頃には
他人が先にその覚悟を得ている気がする。
蟻を模した赤ん坊に躊躇し、
むざむざでぃの精神を深く侵してしまった。
もっと早くショボンの心に踏み込んでいれば
独り震えさせる事もなかったかもしれない。
ξ゚⊿゚)ξ「ねえ、ちょっと」
( ゚д゚ ) 「ーー えっ」
ξ゚⊿゚)ξ「この女の子運ぶの手伝って。
礼拝堂の陰まで避難するのよ」
-
礼拝堂横にでぃを横たわらせながら、
ミルナは気が付いた事がある。
ショボンの立ち回りから、
アサウルスの注意を引き付けていたのは今なら理解できる。
…それを差し引いても礼拝堂が形を残しすぎてはいないだろうか。
建てられて百年以上経過する建物が
こうも爆炎吹きすさぶ衝撃に耐えうるものなのか。
( ゚д゚ ) (ひょっとして…ショボンはこれを?)
彼が何十年と、独り着々とこの日のために準備していたのなら…?
ミルナは海を一瞥する。
アサウルスを見据えるショボンと一人の男。
ツンが絶対の信頼を置く戦士だという。
( ゚д゚ ) 「…」
自分は何の為にこの島に残ったのだろう?
『友達のため』ーー
果たして本当にそうだろうか?
自問自答を繰り返し、その場に立ち尽くした。
----------
-
(;´・ω・`) (…すごい)
ショボンの驚愕。
はじめて目の当たりにする戦闘者の技術。
ブーンがアサウルスに立ち向かって
まだ2、3分しか経っていない。
にも関わらず、ブーンはすでにアサウルスの外殻を剥がしつつある。
ィ'ト―-イ、
以`θ益θ以 《…グガガ》
アサウルスが腕を振り回すたび津波が起こる。
それを跳び避けるブーンを襲う、
もう一方の巨腕すら、くるりと回転上昇して避け切った。
生み出された風圧にもめげずアサウルスの腕に着地すると、
伝って巨躯を駆け上がりながら鋭い斬撃を繰り出していく。
かさぶたを乱暴に剥がすように舞い飛ぶアサウルスの灰。
(;´・ω・`) (しかしあんなに近くにいたら蟻が…)
灰蟻のことも伝えてあるはずだが、
ブーンがそれを気にしている様子はない。
彼の進撃は止まらない。
-
ィ'ト―-イ、
以`θ益θ以 《ガヴヴヴォ…!!》
比率で言うならば、ブーンこそアサウルスの巨躯にまとわりつく蟻。
先のショボンが蟻に苦しんだように、
今度はアサウルスが苦しんでいる。
呻き声らしき音をあげると大きく背を反り、更に腕を振り回し始めた。
ィ'ト―-イ、
以`θ益θ以 《ヴオオ…! ヴオオ…!!》
右へ左へ…天の雲をちらすかのように。
そのスケールから緩慢に見えるだけで、三日月島に伸びていれば泥を拾うように柔らかく抉るだろう。
しがみつくブーンにも相当な重圧がかかっているはずだ。
にもかかわらず、アサウルスという巨蟻が堪らず海に叩きつけた腕から
蚤のように小さく跳ねるブーンの姿。
_,
(#^ω^)「ーー ふっ!!」
祈るように頭上で添えられた両手が次の瞬間、
断罪の斧となって振り下ろされる。
アサウルスの肩から海面まで迸る白い軌道。
地割れのように、 ーー ベキベキッ!
音を奏でる黒い外殻にヒビが入った。
(´・ω・` ) (チャンス……か?)
だがしかし、追撃せずブーンは飛び退いた。
:ィ'ト―-イ、:
:以`θ益θ以: 《ゴオアァッ…!!》
-
ィ'ト―-イ、
以`θ□θ以 パカッ
(^ω^ )「! ーー あれか」
(;´・ω・`) 「ブーン、チャフを!」
ショボンの一声とほぼ同時。
胸元からネジやボルトを無造作にばら蒔き、
まるで足場がそこにあるかのように空を蹴る。
:《 ゴ ア ア ア ア ア ア ア ッ ッ ! ! 》:
アサウルスの爆炎咆哮。
-
三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三
三三三三三三三三三三三三三三三
三三三三三三三
三三三三 彡
三三 彡 ビリビリ
三 :(つω゚ ;): 「ーー !!!」
三三 ビリビリ 彡
三三三三三
三三三三三三三三三三
三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三
超近距離の核熱がブーンを包み込む。
ブスブスと肌表面を焦がしながら
海の上に "着地" し、ノーステップで舟の上まで舞い戻る。
(´・ω・`) 「大丈夫?」
(^ω^;;)「こんなの…まともに喰らえないお」
じっとりと汗ばんだ顔を裾で拭う。
外熱による体内の冷却機能が働いたのか、
はたまた心の問題かは当人にしか分からない。
ブーンの予想を遥かに越える爆炎 ーー。
直撃は不死者といえども消し炭になるだろう。
-
だが、今回こちらだけに被害が出たわけではないらしい。
, ;
;
ィ';ト―-イ、;
以;`θ益θ以 ブスブス…
近接で咆哮が爆発したアサウルスも核熱の巻き添えを喰っている。
ショボンの時のように距離が離れていれば起きなかった現象が、予期せぬダメージを蓄積させた。
アサウルスも影響範囲を理解していなかったのだろう、呆然としたように戸惑い動かない。
(´・ω・` ) 「…やはり接近戦のほうがリスクに見合うリターンに恵まれるね」
(^ω^ ;;)
つ◎ ) 「今のうちに…」
ブーンは【ヒール】で自身の回復を促す。
ツンであればより即座に効果が表れるが
今、あの島から彼女を離すわけにもいかない。
( ^ω^;)
つ◎ ) 「何か見てて掴めたかお?」
-
(´・ω・`) 「…」
ショボンはすぐに答えない。
収穫は確かにあった。
身体に沸き上がる形容しがたい新しいチカラ。
……とはいえ、彼らとて万能ではない。
(´・ω・`) 「たぶん、完全に真似出来ることと出来ないことがある」
その言葉にブーンは小さく頷く。
( ^ω^)「だお。 そこから出来ることを自分なりにやったらいいんだお」
(´・ω・`) 「なるほどね」
ーー 不死者は共に戦う仲間の技を盗む ーー
理屈ではなく身体がそうさせるのだ。
個別差あれど、時間をかけて自分のスキルとして使用する。
その浸透速度が到底並外れているのが
彼ら不死者の特性といえる。
-
(´・ω・`) 「そういう意味であれば…
君の動きの中で僕に出来ないことはない。
多少、形は変わるけど」
そこに強がりや見栄はない。 事実の言霊。
真似はできなくとも代替え行為がショボンの中で芽生えているのだと、そう言っている。
( ^ω^) (これは…末恐ろしいかもわからんね)
動きの目的が理解できているのだろう。
となれば、ブーンとショボンは似た性質を
持ち合わせているのかもしれない。
;
ィ';ト―-イ、;
以;`θ益θ以 《ーー ゴゴガァ…》
アサウルスが止めていた動きを再開した。
それを見た二人は剣を手のひらでひと廻しして腰を落とす。
まるで双子の合わせ鏡のように。
(´・ω・`) 「奴には防衛本能がある。
でなければ君が巨躯を走り回る事にあそこまで抵抗なんてしないはずだ。
そして…これだけ離れていればまた咆哮する」
( ^ω^)「逆に言えばもう近接で咆哮はしない、という事だおね。
僕も同意見だお、行こう」
スッ  ̄^ω^)「…それとショボン、
"魔導力" を意識するんだお」
サッ (´・ω・` ̄ 「"魔導力" ?」
-
言葉を聞いた分、
ショボンよりもブーンが早く残像に変わった。
打ち合わせもせず左右から挟み込むように
弧を描いてアサウルスに接近する。
ィ'ト―-イ、
以`θ益θ以 《…ガアッ?!》
海の上を走る二人に戸惑ったか、それでも巨大な腕を叩き付ける。
局地的な津波が引き起こされ、
足場として乗っていた舟も彼方へと無残バラバラに吹き飛ばした。
ーー もはや彼らには不要だが。
(・ω・` ) 三 (魔導力……ビコーズの降臨と共に現れた概念か)
ブーンと同じ要領で飛び込んだショボン。
既に傷付けられたアサウルスの腕を伝い、
弱点となる胸部に目掛けて走り出す。
思考はフル回転。
短い単語から歴史を紐解きつつ、当てを探した。
(・ω・` ) 三 「……思い当たるのはこれしかないなあ」
空から間断なく降り注ぐアサウルスの外殻灰。
火の粉にも似た黒い塵が辺りを囲む。
だが、喰らうまい。
-
13
 ̄ ̄ ̄ ̄Z__ (`・ω・´ ) ギィン! __
ーー "降臨" 。
それは産まれる前に死んでいったシャキン。
彼は魔導力の源水としてショボンに宿り、
ショボンは彼を魔導力として行使できる。
(`・ω・´) 「……推して参る!」
"ふたごじま" 最後の遺産はいま急速に成長し、
空からの使者アサウルスに
不死のツルギを突き立てんと突き進む。
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>>13再訂正
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 ̄ ̄ ̄ ̄Z__ (`・ω・´ ) ギィン! __
ーー "降臨" 。
それは産まれる前に死んでいったシャキン。
彼は魔導力の源水としてショボンに宿り、
ショボンは彼を魔導力として行使できる。
(`・ω・´) 「……推して参る!」
"ふたごじま" 最後の遺産はいま急速に成長し、
空からの使者アサウルスに
不死のツルギを突き立てんと突き進む。
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(# ^ω^)「おおおおっっ!!」
再びアサウルスを登るブーン。
彼の進んだ道には破壊された外殻が散乱する。
磨きあげてきた太刀筋が千年の重みとなり、
何十倍の体格差をものともせず砕いていく。
ベキベキベキベキベキッ!!
:ィ'ト―-イ、:
:以`θ益θ以 : 《グガア! ガゥゴゴゴ!》
悶え、拳で自身の腕を思わず殴り付けるアサウルス。
だがブーンが屈強な腕でガードを固める度、
いたずらに自傷行為となって跳ね返るダメージがその本能を葛藤させた。
腕の動きを止めれば
白い亀裂が巻き付き外殻を破壊する。
腕を攻撃すれば黒いクレーターが己に破弾し、
やはり外殻を破壊する。
はじめこそ小さかった穴。
何者かに指し抉られ、
傷口を押し広げられているかのように
ジワジワと ーー。
ィ'ト―-イ、
以`θ益θ以 《…ガ……》
ィ'ト―-イ、
以` ゚"牟゚ 以 《ーー ギュオオオォォオオッ》
-
更にアサウルスの喚き声がひときわ大きくなる。
ブーンだけでも厄介なところにショボンが加わったのだ。
まだ無事だったはずのもう片方の腕が軋み、
巨蟻の神経全域に警報を鳴らしている。
ショボンもアサウルスを斬り刻みながら疾走。
彼は補佐役などで決して終わらない。
ベキベキベキベキベキッ!!
(# ^ω^)「ふぉぉおおおおおおぉッ!」
ーー【破壊】。
ひと振りで二度の衝撃が襲い掛かる。
一度圧力が掛かった箇所に、風の魔導力による同時衝撃を加えることで、面のダメージを叩き出す。
物質が反射する固有振動を利用した二重撃。
(#`・ω・´) 「くぅおおおぉおぉおぉおおっ!」
ーー【切断】。
その剣に音はない。
無闇に剣を振り回すことはなく
都度、鞘に収めては必殺のタイミングで抜刀し、風の魔導力で斬撃を極限に研ぎ澄ました線のダメージを通す。
鞘で力を溜め、解放反発力を利用した抜刀撃。
暴れるアサウルスを嘲笑う斬撃の唄は高らかに。
外殻に潜む筋繊維を明確に破壊し、
内殻に通う神経筋を確実に切り刻んだ。
-
:ィ'ト―-イ、:
:以`θ益θ以 :《グゥオッ ゴボォッ!》
痛みに耐え巨躯を震わせ、ぶしゅるしゅると息を吐く都度、目に見える膨量の灰が煙幕となって不死者の視界を遮らんとした。
放たれた灰は大群蟻へと成り代わり、容赦なく降り注ぐ。
(`・ω・´ ) (ーー 蟻が)
だが、二人には蟻が寄り付かない。
それどころか避けるように、
風に凪がされ大海へとそのまま墜ちていく…。
彼の纏う魔導力がその身を淡く包み、
灰蟻の接着を許さないのだ。
( `・ω・´ ) 「…ブーンが灰を気にしなかったのはこういう事か」
仕組みは解らないがアサウルスの強力なアドバンテージを無力化できるのは大きい。
ブーンがこれを予め知っていたとは思えないが、闘い方として何らかの理に適っているのかもしれない。
(`・ω・´) 「僕はまだまだ知らなきゃいけないな」
この日のために準備してきたのは
すべて亡き兄者と、そして島の人々のため。
自身の欲といえばただ一つしかなかった。
すなわち、ーー この黒い来訪者への復讐。
-
この魔導力、後ほど研究してみるか…
ショボンがそう考えている頃、ブーンは間も無くアサウルスの左肩へと到達していた。
( ^ω^)「…」
手を休め、挑発するかの如く仁王立つ。
海上の空で浴びる風は少し湿り気があり、
アサウルスの硬く無機質な肩に乗っていることを忘れるならば、それもまた心地いい。
微振動から宙に放たれる灰蟻も、まるで繊維を
焼いた残りカスのように舞っていく景色が
浮遊感を増長させる。
心なしか届く、アサウルス胸部からの熱もそれを手伝った。
アサウルスの巨躯は不明瞭な箇所が多すぎる。
どこからどんな攻撃が来るかが解らない。
だから警戒を怠るつもりもない。
それでも彼がこうしているのは理由がある。
( ^ω^)(手応えがないお)
アサウルスに感じた驚異と、
実際に戦っている現実との間には、隔たりを感じずにはいられない。
確かに咆哮は凄まじき威力を誇った。
しかしそれ以外、稚技に等しい行動だけしか
アサウルスから感じられないのだ。
…まだ躯の動かし方を知らない動物。
生まれたての野性。
ビコーズに喚ばれ、
"アサウルスから抱いた恐怖" はこんなものではないはずだった。
-
ξ゚⊿゚)ξ「……」
( ゚д゚ ) 「…どうしたんだ、彼は?」
礼拝堂前でツンの張った【シールド】に身を守られながらミルナが呟く。
立ち向かう二人に感嘆していた矢先、
その動きを止めたブーンと…アサウルスにも違和感を覚えた。
ξ゚⊿゚)ξ「何かあるんだわ、引っ掛かりが」
そう言って一歩前に踏み出す。
解除される【シールド】。
その手にはまた新しい魔導力が練られ始める。
( ゚д゚ ) 「…」
綺麗な光だな…と、隣でそれを見るだけしかできないミルナは思った。
ツンが合わせる掌の隙間は、周囲の不純物を取り除くかのように少しずつ輝きを増していく。
心なしか虹色に錯覚する粒子が蛍のようにフワフワと。
そして自分の掌と比べた。
ゴツゴツと、特に気を配ること無く過ごした男らしい手。
仕事柄、短く切り揃えられた爪も無骨そのもの。
ただそれだけだ。
不甲斐なく、何もない空間を掴む。
( ゚д゚ ) 「……」
-
ィ'ト―-イ、
以`θ益θ以 (^ω^ )
------------------------------------------------------------
((@))((@)) ドックン ドックン…
------------------------------------------------------------
( あれが弱点の胸部 )(^ω^ )
( …試してみるかお? )(^ω^ )
巨蟻の腕はもう機能していない。
ショボン曰く、生態系における虫類と似た本能をもつアサウルスが "代替防御" を行うことは考えにくい。
つまりまだ腕を動かすことが出来るとすれば
既にこの肩に留まる自分を払い除けるだろうし、そうでなければ外敵に対して逃げるべきなのだ。
(`・ω・´) 「…」
ショボンも追い付いた。
反対側の肩に乗り上げる。
そして、ブーンに向けて制止のジェスチャー。
ーー なにか見過ごしていないだろうか?
-
(`・ω・´) 《僕が先に飛び込む。
君は様子を見て後から頼みたい》
"(^ω^ )
経験の勝るブーンに後続を託し、ショボンが前に出る。
異存は出ない。
ーー なぜか気が逸る。
この位置から飛び降りるだけで辿り着くのだ。
内蔵のような剥き出しの胸部…二つの太陽に。
(`・ω・´) ( どのみち、"この状態" を長く維持できないしね )
シャキンの降臨は魔導力を駄々洩れにするため、長時間の行使は難しい。
ショボンからすれば早めに決着をつけるに越したことはなかった。
ーー 意を決して、地獄の釜に飛び込むが如く
ショボンの身体が落下する。
「ーー ?!」(゚ω゚;)
同時に見えたのは…ブーンの驚愕の表情。
-
チ
ィ ッ
ブ l
・
-
ーー 衝撃、
(´。ω )
と呼ぶことすら生ぬるい破壊の衝戟。
-
『ーー え っ ?』
-
「ショ ーー (゚ω゚;#)
ξ;゚⊿゚)ξつ◎「ーー
(; ゚д ゚ ) 「 シ ョ ボ ン !! 」
『? ミルナ、そこは危ないよ… 』
-
アサウルスの足元…海に落ちてゆくショボン。
それを示す小さな水柱がミルナの視界に飛び込んだ時、ブーンの背中には彼をも貫く黒い槍。
ドス ドス!!
(゚ω゚ ;:: 「ーー おッ?!」
ーー 耳障りな音をたて、
背中に生えた二本の黒い槍が肉を押し潰すように蠢き、不死者の内臓を排除にかかる。
油断したつもりはなかった。
だが、アサウルスを構成するパーツの中で
これまで全く動くことのなかった "触角" が予備動作なく伸びてきた事…
そして飛び込んだショボンを突如潰した
"触腕" に気を奪われたその一瞬を狙われた。
_,
(´ω^;)(…な、まじかお……)
視界には迫る海面、血の翼 ーー。
意に反して重く閉じていく瞼に抗えない。
抵抗するまもなくブーンは真っ逆さまに墜ちていく。
ξ;゚⊿゚)ξ「ブーン!!」
ツンはもう一度掌に魔導力を込め始めるも、
視界からブーンが消えていく方が早かった…。
-
------------
〜now roading〜
(`・ω・´)
HP / --
strength / --
vitality / --
agility / --
MP / --
magic power / --
magic speed / --
magic registence / --
------------
(推奨BGMおわり)
-
ーー 意識の暗幕は、夢を映し出す ーー
-
血霧 水圧
再生
矯正
-
狭い箱庭の中、
僕たちはやがて来る日を
静かに待っていた。
互いの額をくっつけ合い、
時に血霧まみれた水圧に
無様らしくひしゃげた事もある。
その度に、まだ柔らかな此の身は
再生して元通り…
求められるべき形に矯正される。
それは自我ではなく、
彼女の意志だったのかもしれない。
-
僕たちに与えられたこの箱庭は
極めて不安定な揺り籠だった。
繋がれた管から、触れる水溜まりから、
酸素を吸うたびに。
僕たちはぶつかり合う。
奪い合う、 生命を。
身が千切れるほどに。
そしてまた、再生を繰り返した。
-
本来、この箱庭が正常を許容するには
人数制限があったのではないかと
僕は思う。
では無理矢理に詰め込まれたのは
誰の意志か。 …母か? …それとも父か?
悦び勇んで来るべき未完成な生命を
脅かす…… 子殺し。
そんな状況を作り出す親がいるとは
考えたくない。
人智の及ばない領域ならば、きっと神が
戯れに介入しているのではないか。
…もし戯れでなければ
『神』という存在そのものが
そもそも不完全なのだ。
-
……だからこそ僕は問いたい。
観測者よ。
僕たちはなぜ生まれようとしているのか。
こんなにも歪な箱庭に押し込められてまで。
己は純真に生まれようとしながら
その一方で不純にも相手を殺さなくては
ここから生きて出られない。
もしこれを
神が司るのなら、戯れか、不完全ゆえに。
人が司るのなら、無知か、残酷さゆえに。
ーー そんな世界がもし…、
もしもどこかにあるのなら。
それは生命が始めて
目の当たりにする
地獄と遜色は無い。
-
完全を求めるつもりはない。
存在しないものは掴み取れず、
それ故に生命は完全を求めるからだ。
果たして求めるためには魂が必要になる。
魂のない生命は具現せず、現象もない。
魂は生命にとって、
文字通り『命』となる。
では一つの生命に容れるべき二つの魂が
混在するこの場所では
なにが起こるのか…自ずと解るはずだ。
-
僕たちは奪い合うべくして奪う。
育まれるための礎は一つ分しかないから。
弱肉強食。
座れる席は一つ分しかないから。
僕はそれが当たり前だと思っていた。
彼を押し退け、喰らい続けた。
誰に気付かれる前に芽生えた本能…
与えられた餌を貪る事を、
教えられるまでもなく。
生き物は元来、ある程度の
完成を律して生誕する。
産まれてすぐに立ち上がり、
殻を破り、
親の顔を覚えるよりも先に、
自分が何をするべきかを知っている
-
それに比べて僕たちはいかに
不完全な状態で産まれるか。
教えられることが少なすぎる。
覚えることが多すぎる。
身体の動かし方も、声のあげ方も、
生命を留める息の仕方まで。
すべて産まれてから
覚えなくてはいけないらしい。
食べることだけだ。
栄養を、
この管から注がれる僅かなエネルギーを
滞りなく摂取することだけ……
それが僕たちに与えられた
原始の神託 (オラクル) 。
唯一、何よりも早く、
知るを知る煩悩。
-
幾度傷付いても再生し、
それにより消耗したエネルギーを
栄養から供給する。
需要はない。 一方的だ。
一方的だからこそ、感じるものもある。
でも…そこに僕たちの意思はない。
あるのは餌を放る母の意志なのだと。
僕たちに意思はない。
餌を貪る意志だけがただポツリと。
-
ーー なのに、何故?
(推奨BGM:parting forever)
http://www.youtube.com/watch?v=0PxuRHGbg7A&sns=em
-
……君は弱かった。
そう思っていた。
餌を貪るのはいつも僕だ。
弱肉強食。
僕の方が強いのだと。
この生命に選ばれるのは
僕こそがなのだと、
漠然とした結果が輪郭を現していく。
見えない意志に、
自分が選ばれているのだと
そう感じていた。
-
だが違う、そうではなかった。
・・・・・・・
君は君の意思で…
僕に生命を譲るつもりでいた。
不完全ながらも必死に足掻く僕は
この箱庭で色々なことを吸収してきた。
領域も、栄養も、母の意志も、
ーー そして生命も吸収してきた。
それはすべて、君の魂の上で
転がされていたとも知らずに…。
-
支援
-
元々一つの魂が分かれた僕たちは、
いつしか別の個体として
膝を抱え丸まりながら、
選択の日を待っていた。
僕は貪ってきた。
周りにあるすべてのものを。
そこに意思はない… あったのは、
飽くなき生への渇望。
それは生き物にあるべき欲望。
…生きるのだから当然だ。
君は ーー 最初からそれを手放していた。
-
………。
これをなんと形容するのか、
僕には分からない…。
分かるのは、
彼という魂は僕に生命を譲るために
いま此処にいる
ーー そして
-
間も無く、
この箱庭にも終わりが来る。
僕たちはこれから長い…長い旅に出る。
理は此処とそうは変わりはしない。
弱肉強食。
強いものが生き、弱いものが死ぬ。
《怖 ι Ι 》
僕たちは此処で一つの魂だけを選び
『命』として産まれなくてはならない。
…残された魂は……此処で朽ちるのだ。
-
お疲れさま、 《怖ぃ》
僕のもう一つの魂よ。
さぞ苦しい想いをしただろうか?
……いや、意思なき僕たちに
そんな感情はまだ
芽生えてはいないだろうか?
《怖い》
心残りは、僕のこの思考が
一体何であるのか…それを知りたかった。
しかし、それももうリミットだ。
ほら…箱庭が崩れていく。
脆く容易い僕たちをぐしゃぐしゃにして。
-
支援
読んでるよ
-
この崩壊に君の身体は
きっと耐えられない。
それだけの蓄えを、今日に至るまで
すべて僕に与えてしまったのだから。
再生の糧はなく、
創生の鍵もない。
僕たちがこの箱庭において
楔とする、ずっとくっつけていた額が
離れようとしている……。
嗚呼、君の身体が
崩壊の波に浚われて
光の粒子に変換されていくのだと。
-
これは…
-
《コワイ》ーー。
だから僕は
此処で初めて手放した。
今まで蓄えてきたものを。
今まで奪ってきたものを。
今まで気付かなかった 《 怖 い 》
君の優しさに甘えていた…この魂を。
《恐い》さ。
粒子になるのは僕でいい。《怖い》
賢いふりをして最も愚かだった…
君より弱い僕が此処に残ろう。
《 怖 い …》
-
ーー 。
ああ、そういえば。
僕たちに、
名が付けられていたのを
知らないだろう?
もう触れ合えなくなる記念に
教えてあげる。
……ショボン。
君の優しさは時に決断を鈍らせる。
長い旅の中で…君を強く苦しませる。
-
君が優しさに
押し潰されそうになったなら
意思なき僕という魂を
思い出してくれないか?
君が苦しみに
一人で耐えられなくなったなら
生命なき僕という存在を
思い出してくれないか……。
ーー 君の意志、
僕が奪ってでも、
ひとときでも長く、
君を 生かしてみせる。
それが ーー 僕だけに与えられた
本当の神託 (オラクル) 。
-
でも、根底にあるのは《怖ぃ》れない。
…やはり、こわいんだ、僕。 ……
怖い
出来れば生きたい。
《恐》
生きたい。
生きたい。《怖い》
生き怖い。 生きたい。
き
生きたい、生き い、生きたい、生 ーー
い た イ
い ワ
恐 コ
い 助
よ の け
《やめるんだ》
に て
こ
ーー 生きたい。 わ
い…。
-
48
《生きたかった》
…ショボン、君は強かったんだ。
このとりとめのない
恐怖に打ち克てるほど優しく。
《本当は死にたくない》
消えていく今なら判る。
それとも……
僕のこの生への渇望は
限られた者だけが持つ願望だったのか?
例えばそう、永遠を生きて生きて、
決して消えない
願いが呪いであると
愚かにも気付かないような。
僕が浅ましく餌を貪るその隣で
日々、衰弱していた君は
…怖くなかったのか?
誰にも気付かれず 死んでゆく
自分の消失を 消えてゆく
僕は君のように受け止めてゆきたい。
-
弱肉強食。
僕が言い出しっぺだからね。
本当に強かった君だから、生きてくれ。
さあ、互いに旅立つ時間が来た。
後ろは見るな。 前を向け。
下は向くな。 見上げて歩け。
《さようなら弟よ》
できなかったら… げんこつ::;,,.,..
-
(推奨BGMおわり)
-
------------
〜now roading〜
(´・ω・`) ω・´)
HP / C
strength / C
vitality / D >> B
agility / B
MP / C
magic power / A
magic speed / D >> C
magic registence / D >> B
------------
-
それはブーンが海に落ちたのと同時だった。
天秤から弾かれるように飛び上がったのは
アサウルスが隠していた "触腕" に
蚊蜻蛉よろしく潰されたはずのショボン。
( #´・ω・`) 「…やってくれたね」
水飛沫を蒔いて再度アサウルスの躯へと。
押し潰された傷は見当たらず、痛みを訴える素振りもない。
ξ;゚⊿゚)ξ _3 「 ーー 間に合っていたようね」
ツンが初めに蓄えていた魔導力は
ショボンのダメージを落下の瞬間癒していた。
…結果としてブーンへのフォローは間に合わなかったが、
彼があれくらいでどうにかなるなど思わない。
絶大な信頼と…それでも不安になる気持ちは、
背中合わせにツンの心を足踏みさせる。
( ゚д゚ ) 「…」
(´・ω・`) 「ブーンは?!」
ξ゚⊿゚)ξ
つ∴o 「ブーンもあの触角に!
でもすぐ戻るわ、貴方はアサウルスを!」
叫びながら魔導力を組み直し
【シールド】を発動。
幾何学模様の光の壁がショボンの目の前で
主張するも、やがて透過した。
-
,,
ィ'ト―-イ、 ζ⌒
以`θ益θ以 ζ 《ーー ガゴガガゴ》
ζ((@))((@))
ζ_,
"
アサウルスの巨躯に生えた細い腕が
触手として不規則にうねりをあげる。
やはり元の両腕が再生したわけではない。
(´・ω・`) (無から有を生み出すのは物理的にはあり得ない。
恐らくはエネルギー源があるんだ。
…何を元にしてあんなものを…?)
その時、アサウルスの膝元からも新たに黒い槍が飛び出し、走るショボンの頬を掠める。
また触手…だが痛みはない。
軽く手首を返すだけの小さな動きで、それを切断する。
(´・ω・`) 「…」
剣には血糊もなく、刃が欠けた様子もない。
容易く斬れた触手もそのまま海へと落ちる。
-
バシャァッ
聴こえる距離でも無いのに
重い音が耳に届いた気がした。
それは着水ではなく第三の触手が生まれた音。
先より細いそれを、今度は太股から生やしているのだと認識する前に身体が動く。
目の前の触手は桂剥かれて縦に割れる。
「この程度ならば」
ーー そう口にした直後、
ショボンの見ている世界が薄暗くなった。
(;´゚ω゚`) 「!!」
頭上から逆さまになったアサウルスの顔と、
開かれた顎が間近に迫っている。
全速力で横に翔びそれを避けると
いま居た場所は大きな顋が喰い破る。
……アサウルス自身の太股から。
外殻ごとバキバキと、躊躇なく真っ黒な口の中へとその下半身が消えていく。
噴き出すのは赤い血液ではない。
高粘度の黄ばんだ涎のようなものが辺りに飛び散った。
三 ´・ω・`; )「何やってるんだこいつは?!」
ブーツの裏で踏み締めるアサウルスの躯は岩のように硬く、尖った間接は崖の踊り場となるため足場には困らない。
困らないが……安全地帯とはなり得ない。
ショボンはその要塞の上を渡り移動した。
-
----------
ーー /ヽ゛シャ
ーー バキッ
ーー バキッ
ーー バシャァッ
バシャッ
ーー バ キ バ キ ッ
ξ; ゚⊿゚)ξ 「……」
( ; ゚д゚ ) 「……」
(# ц )
耳に届く数多の外殻の割れる音に、思わず開いた口が塞がらない。
二人の視界で繰り広げられられているのは
咀嚼を行うアサウルスの上半身と、
それに抗いながらも無慈悲に暴れ貪られる下半身。
まるで異なる意思を内包しているかのように。
でなければ役立たずの躯に罰を与える司令塔。
…罪を精算する半身の罰音がこちらまで響く。
ミルナ達の場所からは陰になっているが
音はショボンの鼓膜も震わしているだろう。
雛鳥達が群れをなし、
同胞の生誕を祝うドラムが盛大に叩かれる。
-
ヽ /
γ ζ ζ
以 ζ `θ益θ ζ / :ギュルァアァ…
〜 、ヾ( ( @))((@) ゴアアァァアア…:
〆√ ヽ
∫ V⌒
(;´・ω・`) 「ーー …っ」
上半身を突き破りいづるのは無数の触手…
いや、黒い鞭、黒い大蛇とも。
ブーンの背を貫いた触角は目覚め、
黄色の眼の上から不規則にうねり、己よりも矮小な不死者を見下す。
一本一本、蛇が舌先を弄ぶかのように。
しなる鞭が外殻をバキリと叩くその度、
剥がれた破片が軍隊蟻へと姿を変えた。
ザワザワと ーー カサカサと ーー。
その巨躯を這う進軍は遅くない。
統率された蟻が向かうのは…甘く、甘い餌。
食すたびに栄養となり、
また子供を産み育むために必要な人間というエネルギーを求めているようだ。
-
:《クルゥルルル……キケケケ…》:
自らの下半身を瞬く間に喰らい尽くしたアサウルス。
歓喜しているのか、喉を震動させて唸った。
(; ゚д゚ ) 「!! こっちに向かってくる」
次の目標を定めたアサウルスが動き出す。
うねる大蛇が海を刺すごとに、少しずつ三日月島へと向かって。
朽ちて捨て置かれた両の腕は
その動きに抗わず、力なく揺れていた。
ξ゚⊿゚)ξ「そうね…いいじゃない、やってやるわよ」
(; ゚д゚ ) 「……?」
ξ゚⊿゚)ξ「【ライブラ】!」
光の珠となった魔導力が漂い始める。
間も無く一直線にアサウルスの巨躯に走るも
道中、その珠は二股に別れた。
一つは真っ直ぐアサウルスの元に。
もう一つは海の中へと潜り込むとやがて発光。
( ゚д゚ ) 「……いまのは?」
ξ゚⊿゚)ξ「生体反応を感知する魔法」
ミルナは今もまだ恐怖が抜けていない。
ツンもそうだと思っていた。
だから…彼女の落ち着き払った態度には
男として気を挫かれたような気になる。
-
ξ゚⊿゚)ξ「……」
ツンの脳内を巡る思考は素早かった。
直情型ではあるが決して浅はかではない。
ショボン一人でどこまで出来るのかが分からないが、囮と足止めは期待できない。
ここからは分担して戦わなくてはならない。
集束した触手が二足歩行を実現している。
ならばあれを止めればいい。
だが、あの腕のように一枚樹ではないだろう。
ξ -⊿-)ξ「……」
ともすればブーンのような【破壊】の剣技では恐らく相性が悪い。
あれを断ち斬るに優秀な【切断】の剣技を使う
ショボンが上半身の元に居てはいけないのだ。
まとめて分断するつもりでなければ止まらず…
どうであれ三日月島は世界から消失するに違いない。
-
ξ゚⊿゚)ξ「やっぱり…せめてもう一人いないといけないわね」
( ゚д゚ ) 「……さっきの男…ブーンは…?」
二人は海面を見るも、それらしき影は見当たらない。
あるのはアサウルスの外郭をなす細かな破片がパラパラと吸い込まれていく様のみ。
下の海にそびえ立つ大蛇は太陽コロナの如く
放射状を描きながら輪転する。
ξ゚⊿゚)ξ「ミルナ、貴方泳げる?」
( ゚д゚ ) 「えっ」
ξ゚⊿゚)ξ「ブーンを助けなきゃ」
( ゚д゚ ) 「…し、しかし……」
(# ц )
彼らの隣には自責の念に押し潰されたでぃ。
未だ横たわり起きる様子はない。
( ゚д゚ ) 「…」
まずミルナはこう考える。
『もしもツンが眠らせた住人が目覚めたら?』
…しかしその憂慮は見透け、遮られる。
ξ゚⊿゚)ξ「【スリプル】は刺激さえ与えなければ解けないと思うわ。
あの怪物と戦うのよ、私達もね」
-
ミルナは次にこう考えた。
自分達がやるのだ。 誰でもない。
そう、自分が。
( ゚д゚ ) 「…」
ξ゚⊿゚)ξ「私がショボンと一緒に時間を稼いでくるから、その間に貴方はブーンを引き揚げてきて」
自分はショボンのためにこの島に残った。
友達のために残ったのだ。
でぃにもそう言ったじゃないか。
( ゚д゚ ) 「……」
ξ゚⊿゚)ξ「危険がないとは言えないわ。
でも…私達がやらないともっと状況は悪くなる」
あの怪物に立ち向かえとは誰も言っていない。
誰にも言われていない。
ショボンも逃げろと警告していた…。
それを信じて人々を避難させたのも自分だ。
"現在" を選んだのは他でもない自分自身。
さっきまで、何か自分に出来ることはないかを
必死に考えていたはずだ。
ーー 自分に出来ることを。
ξ゚⊿゚)ξ「お願い」
( ゚д゚ ) 「…」
( ゚д゚ ) 「…俺は」
-
( ゚д゚ ) 「ーー ここで、でぃを護る」
ξ゚⊿゚)ξ
口をついて出た言葉は、提案の否定。
時間にしてひととき。
しかし、心の中では何日も何週間も考え抜いたほどの疲労感を伴った。
彼は彼なりに精一杯思い悩んだ。
ショボンを引き揚げろと言われれば、
もしかすると否定しなかったかもしれない。
むしろ今、危機に晒されているのは
あの触手にまみれた上半身に囲まれているショボンではないかとも心配する。
ξ゚⊿゚)ξ「……」
身の丈を知らなくてはいけない。
単なる島内の運び屋だった自分が、あんな大きな怪物にこれ以上近寄れるわけがない。
( ゚д゚ ) 「ちなみに、あんたの魔法が確実に解けないという保障はあるのか?」
避難中に遭遇したアサウルスを通り抜けた住人らは、蟻の尖兵となって戻ってきてしまった。
まだ来るかもしれない。
もしそうなってしまえば…?
でぃの瞳が決定的にもう開かなくなるのは嫌だ。
ξ゚⊿゚)ξ「……。
経験上、可能性として高いってだけね。
私もこんなのと戦ったことはないもの」
-
( ゚д゚ ) 「……そうか」
ξ゚⊿゚)ξ「この島に武器はある?」
( ゚д゚ ) 「そこの崖下にショボンが用意した得物が沢山あ 「ありがと。」
( ゚д゚ )
ξ゚⊿゚)ξ「それを借りてくわね」
言葉尻はツンの言葉と重なりかき消される。
冷たくも鋭くもない、優しい声色を残して
ツンは走り去っていった……。
( ゚д゚ )つ 「あ…」
( ゚д゚ ) 「……」
( д )
----------
-
三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三
ヽヽヽヽヽヽ\\ヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽ
ヽヽヽヽヽヽ \\ ヽヽヽヽ ヽヽヽ ヽ
ヽヽヽヽヽヽヽ \\ ヽヽヽ ヽヽ
ヽヽヽ ヽヽ \\ ヽ ヽ
ヽヽ ヽ ヽ \\ ズアッ !!
三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三
-
\\,,'∴
゜" ザ
「キリがない!」 (´・ω・`;)つ←── シ
〟. ュ
// ∵ ッ
//
孤立奮闘するショボンの視界には
四方八方から襲い掛かってくる黒き森。
何度斬り伏せても一歩を踏み出さないうちに
いくらでも頭をしならせ垂れてくる。
捌き切れない鞭は
ツンの【シールド】によって防いではいる…
かといって無防備に身体を晒すほど全面的に
信用することはできない。
(´・ω・`;) 「見えているのに ーー」
このままでは辿り着かない。
触手の先にはアサウルスの弱点とされる
二つの太陽が大きく脈打つ。
だが険しい道のりだった。
海空を見下ろせば
心なしか三日月島が近寄っている気がする。
-
足下の軍隊蟻は魔導力の放出で対応できるだけ
まだ救いがあった。
それでも魔導力は無尽蔵とはいかない。
気を抜けばこの不死の身は漆黒に染まり、
跡形もなく喰い尽くされるだろう。
蟻が食むのは肉体ではない。
魂の器である生命を貪るのだ。
痛みのない死が何をもたらすのか、もう一度試す気にもならなかった。
(´・ω・`) 「…」
ふと。
肌が触れあうほど目の前で
瞳から光を失っていった兄者の顔を思い出す。
触手の森をいくら斬ったところで
その数を減らすこともなければ、本体にダメージがあるかも疑わしい。
アサウルスの進攻も止めなくてはならない。
太陽に己の刃が通用するかも分からない。
「ショボン!」
(´・ω・`) 「ーー !」
逆扇に降り下ろされる触手群に危うく刺し貫かれるところだった。
身体一つ分の後退で事なきを得ると、無防備なそれを横薙ぎに一閃。
ーー だがそこにはひときわ太い触手…いや、
触腕が螺旋を描き、ショボンの首に迫る。
-
ξ゚⊿゚)ξ「させないわ!」
一度はショボンを危うく潰し殺した触腕。
二度目は不自然に軌道を変え、
あられもない方向へと尖端を歪み刺した。
その根元は空気の抜けたゴム毬のように大きくひしゃげている。
そうさせたのはツンが突き出す小さな拳。
(;´・ω・`) 「……無茶苦茶だな」
ξ゚⊿゚)ξ「せえっ ーー!」
回想と実相の狭間に気を取られ過ぎた彼を救った声主が、休まず大きく振りかぶるのは鋼のツルギ。
切断…までは出来ずとも大木を切り倒したように触腕を無力化した。
⊂ξ ゚⊿)ξ「アサウルスの移動を止めましょ。
貴方は下に行って。
私が代わりにここで注意を引くから」
ブーンと一緒にいた女性…ツンといったか。
正直なところ同じことを考えていたので
ショボンは彼女の提案に反論する気はない。
その身を案じることもなければ、
性差による気遣いもない。
-
「恩に着る」
 ̄´・ω・)
そう言い残し、触手のすき間を潜り抜けた。
さっきのように悠長に飛び降りはしない。
弾丸のように海面まで一直線に翔んだ。
それを捕えられる触手はなく、
今度は一方的にショボンの狙い通りその脇をすり抜け、直後アサウルスのバランスが少し崩れる。
「行き掛けの駄賃、
貰っておくよ ーー」ω・`)
ショボンはそのまま海の中へ。
上がる水柱の数は両手に足りなかった。
後を追うように、
アサウルスの脚を構成する大蛇の成れの果てもブチブチと悲鳴をあげて沈んでいく。
-
ξξ゚⊿゚)ξ:「ーー …さっそくやってくれたのね」
上にいたツンの足場が大きく揺れる。
出現した急勾配の坂を転げ落ちないようにと
外郭に突き立てようと試みたツルギは刺さらなかった。
その点はやはり男二人のようにはいかない。
相手が困難であればあるほど、
剣は単純な力で優劣が決まるものではないらしい。
ξ゚⊿゚)ξ∩「やっぱりこっちの方が ーー」
じっと手を見つめる。
細く白い女性らしい形と、男性顔負けの握力を誇る指先が徐々に赤く染まりゆく。
ξ゚⊿゚)ξつ「【フレアラー】!」
色が抜けると同時、空気が鋭く鳴り、駆けた。
広範囲の炎がツンを中心に走り盛る。
根元から焼き尽くされる黒い触手が
まるで踊り死よろしく狂い悶え、粒子となり散っていく。
その威力は残骸を蟻に変質する間すら与えない。
ξ゚⊿゚)ξつ「ーー 私には向いてるのかしら?」
-
( ゚д゚ ) 「…ショボン」
遠巻きに居るミルナからも、ショボンの姿はよく見えた。
海に落ちたのはきっとブーンを捜しに行ったのだろう。
ツンの提案通り。
それをしなかった自分の代わりに。
戦いが始まってどれほどの時間が経ったのか…
小一時間程度?
それとも実は丸一日経過してはいないか?
人は…そんな短時間で恐怖を克服できるのか?
( ゚д゚ )
アサウルスの上部でも赤い光が見える。
あれは炎か、得体の知れない別の何かか。
礼拝堂の前で足を地につけているのは彼一人。
ただ目の前のそれを見ているだけ。
(# ц )
( ゚д゚ ) 「なあ、でぃ。 大丈夫か?」
返事はない。
胸部の上下運動から彼女に息があるのは分かっている。
まだ…目覚める様子はない。
( ゚д゚ ) 「お前が俺なら、助けに行けるのか?」
そんな彼女に問い掛けている自分を、
ミルナは酷く卑怯者だと罵った。
----------
-
。
.゜
(´・ω・`)(……いた)
海中のそれほど深くない位置、
岩のソファで眠るブーンを見つけた。
首を反っているせいで表情は見えない。
。
゚.
(;´・ω・)(まずい!)
……近付いて、そこで始めて気が付いた。
彼の身に無数の蟻が集っている ーー。
生物には一定の酸素が必要なのだとしても。
アサウルスの破片は o
その全てが "蟻" であり、 ゜.
巨獣アサウルス ( ´>ω<)
そのものなのだ。
既存の生態系から勝手に
その性質を思い込んでいたせいで失敗する。
あの時も騙された。
O
o 。 。
.゚ o .
( ´>ω・) .゚
(:::ω:::::)
ひとまずはこちらが先決。
ブーンにへばりついている蟻群を引き剥がすべく、ショボンは魔導力を放出 ーー
-
。
.゜
(;´・ω・`)( ーーするとなれば、この蟻は…?)
この後どこに向かうかを想像し、息を飲む。
( ^ω^)『"魔導力" を意識するんだお』
ブーンから受けたアドバイス。
あのお陰でショボンは蟻に喰われず戦うことができた。
何故、この男はそれを言えたのだろう。
ショボンが三日月島で過ごした100年間、
魔導力に関する事項は
ビコーズの神託と、実生活における朧気な感覚のみが身体に教えてくれていた。
だが……それだけだ。
ツンも防御壁を張っていた。
ブーンも自身の傷を癒していた。
でもショボンにはそれがまだ出来ない。
これ以上のやり方が分からない。
。
.゜
(´・ω・`)(何かあるんじゃないか?
"魔導力" にはもっと重要な性質が)
-
試しに放出する魔導力の感覚を変えてみる。
…しかし、何も変化の起きないままに
ブーンを貪る蟻達がただ剥がれていくだけだ。
黒い雲がぶわりと一斉に浮力を得てしまう。
慌てて鞘から剣を抜き放つも
水中では思うように動けず、刃は虚しく水を切る。
霧散する蟻は散り散りに…やがて取り返しのつかないほどその範囲は拡がってしまった。
。
.゜
(;´・ω・`)(くそっ…!)
背中から首筋まで、海水より冷たい手のひらに
ショボンの心ごと鷲掴みにされる気がした。
この蟻達はこのまま海の中をさ迷うのだろう。
棲息域にある生物がその生命を喰い荒らされる未来図が、否が応にも脳裏を支配する。
ーー 弱肉強食。
長年培われた食物連鎖に異変が起きる。
ともすれば島の住人のように、
関わった生き物が蟻の尖兵として再びショボンの前に現れるかもしれない。
-
……揺らめく視界から蟻が消えた後。
ショボンは気持ちを切り替えブーンを担いだ。
全身に細かな傷は見られるが、致命傷はなさそうに思える。
彼の肉体は、蟻の牙を殆ど通していない。
ならば気を失っているのは
体力的な問題ではなく、精神的な何か……
万が一、彼が蟻に感染したとなれば大問題だ。
。
.゜( ω )
(´・ω・`) (…どっちがいいかな)
ショボンのなかで一巡した思考は
ブーンを素直に引き揚げることとなった。
暴走を恐れて今ここでひと殺すよりも、
復活を望んでアサウルスを早めに撃破する。
親元のアサウルスが死ねば
先ほど逃した蟻群も
その姿を維持できなくなる可能性に賭けた。
。
.゜( ω )
( ´・ω・`) (頼むよ、ブーン)
ブーンの探索にそれほど時間は掛けていない。
早めに戻ればツンも無事である可能性が高まるのだ。
若き不死者は酸素を求め、
海面に射し込む光のもとへと戻りながらも
その眩しさに瞳を閉じた。
-
『なあショボン?』
『なに? 兄者さん』
( ´_ゝ`)『お前、海の中をもっと見てみたいか?』
(´・ω・`) 『…まあ、興味はあるけど』
(´<_` )『生身じゃ限界がある…、が。
なんなら船に屋根をつけて囲ってしまえば潜水できるんじゃないかと思ってな』
(´・ω・`) 『そうなの?』
(´<_` )『酸素の供給や船体バランス、
エンジンの問題もあるだろうが、理論的には可能だと思うぞ』
( ´_ゝ`)『夢が広がるな……
うはww超重量潜水艦アニジャwwwwww 』
(´・ω・`) 『島の皆が乗れるくらいでっかいのねwwwwスピードシップ緒本wwww』
(´<_`;)『お前らそんなんだったか…?
無理いうな。 第一、それを造るのは誰だよ』
アナタ!
( ´・ω・)σ ワーイ ムーリー
( ´_ゝ`)σ ∩(´<_`∩)
キミダッ! ムリムリムリー
-
( ω )
ii(´>ω・`)ii 「ーー ぶはっ」
海面に上がると、ありったけの酸素と
肺の中にどっぷりと溜め込んでいた二酸化炭素をコンバートする。
口を開けて何度も何度も息を吸い込んだ。
身体の中を流動する血液がグングンと活性化され、体内からエネルギー通貨を支払い終えると彼の身体に軽さが戻ってくるようだ。
巣潜りして遊んだ幼い頃よりも
長く潜れたのは身体の成長か、
不死ゆえにかはもう分からない。
「…惜しかったな…」
解体した潜水艦を尊び、一度だけ欠伸を許す。
( ゚д゚ ) 「ショボーン! そこかぁ!」
振り向けばそう離れていない海の上…
真剣な顔をして小舟を走らせるミルナの姿。
( ω )
(ι ´;ω・`) 「ミルナ……君は…」
( ゚д゚ ) 「ブーンはこっちに乗せて、お前はツンの所へ行ってくれ」
( ω )
(ι うω・`) 「……君も無茶するなあ」
-
横付けた小舟にブーンを乗せると、ミルナの嘔吐く声が聴こえた。
後から乗り上げたショボンが見たものは
背骨を挟むように2つの大穴で肉を抉られていた不死者の大きな背中。
ーー 常人であれば十二分に致命傷だ。
(;´・ω・`) 「これは酷い」
( ; ’ ω^)「……お」
(; ゚д゚ ) 「だ、大丈夫か? 動かない方が」
(;’ ω^)
つ◎ 「ぐ……助かったお」
目を覚ました途端に大汗をかきながらも
震える手で【ヒール】を詠唱。
弱々しい光がブーンを包む。
(;‘ ω^)
つ◎ 「ツンは…どこだお?」
(´・ω・`) 「陣形を変わってもらった。
僕が君を助けたのは移動を開始したアサウルスの足止めついでだよ」
-
一瞬だけ ーー 苦虫を噛み潰したような顔で
ブーンは目を伏せた。
それはショボンの言葉に、ではない。
(;^ω^)
つ◎ 「…急いで戻るお。
触覚に刺された時、急激な眠気に襲われた…
あれに不意をつかれたらツンも ーー」
(; ゚д゚ ) 「眠りって、【スリプル】とかいう魔法をあの怪物も使うのか?」
(´・ω・`) 「魔法については僕も分からない…
けど、嫌でも気付かされたよ。
アサウルスは単なる蟻の怪物じゃないって」
(;^ω^)
つ◎ 「ビコーズがこの日のために僕らを呼んだのも頷けるお」
(´・ω・` ) 「……」
当の御神体…そういえば姿が見当たらない。
( ^ω^)「それでも僕たちは出来ることをやるだけだお」
-
両腕を粉砕されたアサウルスが取った行動は
[無防備]。
少し考えれば罠だと分かるはずが、あの時は
なぜ二人とも隙をみせてしまったのか。
まるで思考や感情が "留められず先走った" かのように。
(´・ω・`) 「行こう。 今度こそヘマはしない」
( ^ω^)「だお!」
言うが早いか ーー
頭上に陣取るアサウルス目掛けて
不安定な船を足掛かりに二人の不死者が姿を消す。
彼らの跳んだ反動で船体は大袈裟に沈み、
辺りを波立たせた。
:(( ゚д゚ ): 「……三人とも無事でいてくれよ」
戦いに参加しないミルナも、
顔をあげると自分が今どこに居るのかを思いだして島へと戻る。
小さな舟を真逆に漕ぎだし、急いでアサウルスの元から離れる。
(( ( ゚д゚ ) 「………」
-
ここまで来るのも大きな勇気がいった。
もう充分だと思った。
同時に胸に去来するのは
ショボンに置いていかれた寂しさと、
とてもついていけないであろう不死者とアサウルスの戦闘に腰の引けた自身の不甲斐なさ。
この舟も、恐ろしい形相で蟻と化した人々が
乗っていたものをなんとか心を奮い立たせ、
押して海に漕ぎ出したのだ。
ショボンやブーンの身を案じながらも
同時に船底にも誰か張り付いていやしないかと想像したりもした。
これ以上は心がもちそうにない。
今日だけで一生分の感情を揺さぶられた気がする。
・・・・・・・
ーー 不自然なほどに。
(( ( ゚д゚ ) 「……俺はもう」
充分だ。 何度もそう思ってる。
ショボンやブーンやツンの三人を
信用する、しないの問題ではなかった。
「でぃを連れて…この島から離れよう」
人の言葉は口にして始めて完成する。
決意も、事実も、史実も、
……その心も。
-
(;^ω^)「ツン!」
ξ;;-⊿-)ξ「……」
前線に復帰したブーンの目に飛び込んできたのは、肩を落とし、へたりこむツン。
周囲の触手は根元から焼け枯れたものと
いまだ健在のものがある。
…だが、いずれもその動きは停滞。
代わりに蟻の大群がその尖端から続々と姿を現し始めていた。
(´・ω・` ) 「……」
ξ;;゚⊿-)ξ「二人とも…戻れたのね。 良かった」
三( ^ω^)「どうなってるお?!」
ξ;;゚⊿゚)ξ「こっちに来ちゃダメよ、ブーン!」
(;^ω^)):「おっ」
駆け寄るブーンを制止。
ツンの言葉は続く。
-
ξ;;゚⊿゚)ξ「アサウルスに魔法を返されたわ。
【リフレクト】とでも言うのか…とにかく、
私が使った【フレアラー】もそのままね」
ξ;;゚⊿゚)ξ「いま動きがないのは【スリプル】を放ったから。
でも…きっとそれももうすぐに返される」
瞬間、ショボンの頭に
浮かんだのはミルナの言葉。
ξ;;゚⊿゚)ξ「アサウルスは魔導力を吸っているのよ、蟻から、触手から…。
喰い喰われたものは養分として、アサウルスが使えるようになる」
ーー ミルナが【スリプル】を
知っているタイミング
ξ;;゚⊿゚)ξ「私自身ももう魔導力が吸いきられて動けそうにない。
だから今のうちに……アサウルスを倒して」
( ^ω^)「残るはあの太陽と触角かお」
ーー ブーンが触角から受けた
眠りのダメージ
(#^ω^)「把握したお、今すぐに ーー
ーー それ以外に与えた魔導力が
まだ残ってるのではないか…?
-
(#^ω^ ̄  ̄ あれを叩き壊す!」
ツンを傷付けられて怒ったブーンの姿が消え
 ̄  ̄´・ω・`)
今度は先走る感情に "感染" していない
ショボンの姿が消えたのはまったくの同時。
-
太陽に飛び込む二人を迎え撃つ二本の触角。
以`θ益θ以 《 ーーギギィ》
アサウルスの口角が釣り上がった気がした。
その尖端に込められた魔導力は、
(#^ω^)「!!」 (´・ω・`) 彡
【破壊】と【切断】
-
「だが次は僕の読み勝ちだ、アサウルス」
(´・ω・`)つ←── 「あの日、僕を
彡つ 殺せなかった失態を悔やむんだね」
-
二本の触角は二人の不死者に個々肉薄。
だが一本はショボン自らの抜刀術により
正面から相殺される。
魔導力の波動がショボンの身体を大きく後方に吹き飛ばした。
そしてもう一本…
ショボンの投擲した黒い槍は触角を
ブーンの眼前で貫き、軽く引き千切る。
以`θ益θ以 《ーー !!!?!》
あの日、ショボンと兄者を貫いた黒い槍。
今なら分かる。
兄者が先に貫かれたせいで、
この槍に込められた魔導力がその時点で失われたのだと。
先にショボンを貫きさえすれば
ショボンは一度死に、
そのまま不死蟻の尖兵と化す…
そういう筋書きだったのかもしれない。
現実には兄者が死に、
蟻になれず命を失った。
ショボンは兄者によって
その不死の命を助けられていたのだ。
-
(メメ´;; ω・`)
つ 「…一矢報いるのはその槍って決めてたからね」
空っぽの黒い槍は触角の魔導力を吸い込み
その威力を100%引き出したといえる。
果たしてその役目を達成したことになった。
(# ゚ω゚)「ぜぇえあァァアアッッ!!」
今度こそ完全なる無防備になったアサウルスの太陽の元に、全力で剣を振りかぶる男。
ーー 最も善なる精神を保ち続け
千年間、人を助け続けてきた不死者。
同時に【破壊】を司る、愚直で優しき人間。
その剣が、橙色に脈打つ剥き出しの太陽…
アサウルスの心臓を叩き壊した ーー!
-
三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三
三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三
三三三三三三三三三三三三三三三三三三
三三三三三三三三三三
三三三三三
三
三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三
三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三
-
------------
ー ザ□ッ 、υOΣ £。adiΠg----ー
ィ'ト―-イ、
以`θ益θ以
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怕・S紮銀!・誌・帥 >∞
諢・4祉∴モ!・
J銀!・¥瘁冷
!溪!・/Se・阪宍隋披ス
l痺cヮ&・怜 > 續医・膩
莟翫R九訣:
売:/羶絎我)・散 ・初≡蕭倅コ
(推奨BGM:Crisis & Warning)
http://www.youtube.com/watch?v=qW7d5otOnjo&sns=em
------------
-
三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三
三三三三三三三三三三三三三三三三三
二二三三三三
三三三三三三三三三
三三三三三三三三三三三三三
二三三三三三三三三三三三三三三三三三
三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三
三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三
-
三三三三三
(´つω ・`) 「 ん ?」
「
お( ^ω^)
っ
ξ;; -⊿-)ξ 「
?
…
」
…
」
-
ーー 瞬間、彼らは自らの場所を見失った。
(´・ω・` )( ^ω^)ξ;; -⊿-)ξ
そこは雲浮かび髪撫でる空の上ではなく
指先ほどの輝きを点在させ、
漆黒に囲まれた…
まるで見たことのない宙の上に感じられる。
( ´・ω・`) 「……」
ブーンがアサウルスの太陽を破壊した途端、
もう片方の太陽にもヒビが入ったかと思えば
その隙間をこじ開けるように、堪えきれず黒い霧が漂い始めたのをショボンは見た。
あの時、目をまばたき気付けば此処にいる。
…ブーンを見やれば同じような表情。
(^ω^ )「…どういうことだお」
(´・ω・`) 「僕にも分からない」
ξ;; -⊿-)ξ
ここは酸素もあるのか、息苦しさとは無縁。
互いに姿を目視できるのは
辺りに散らばる粒子の灯りによるものかもしれない。
とはいえそれは照らしているのではなく、
浮き上がらせている……というイメージだが。
取り戻した平衡感覚を確かめるように、
彼らは二、三足踏みをする。
感触は無く、だが薄く張られた水が波紋のような揺らめきを生んだ。
-
(;^ω^)「ツン、…ツン?」
∪ ∪"
(("ξ;; -⊿-)ξ))
横たわるツンからの反応はない。
魔導力を吸いきられた…と言っていたのをすぐに思い出すと、ブーンもひとまず立ち直す。
(´・ω・`) 「平気そうかい?」
◎⊂(;^ω^)「魔導力は所謂精神力だから…どうやら昏睡してるみたいだお」
(´・ω・` ) 「…魔導力を元にした魔法っていうのは、僕の思うよりも複雑そうだね」
ブーンがツンに与えているのは【キュア】。
傷や体力を癒す【ヒール】と異なり、
身体に備わる免疫力や異物、異常をそれぞれ活性減退させる効果をもっている。
魔導力の枯渇はそのどれにも当て嵌まらないが、昏睡に至る精神ダメージへの、
抵抗力の手助けにはなる。
二人は筋肉を緊張させたまま
しばらくの間、その場から動かない。
これもアサウルスの攻撃なのかと警戒するが
待てども一向にその予兆は見られなかった。
-
( ^ω^)「ショボン」
掛けられた声に目を向ける。
( ^ω^)σ「あっちの灯りだけ、少し周りと違くないかお?」
彼が指差す方角に目を凝らすがショボンには今一つ伝わらない。
単に視力の問題か、でなければ魔導力の消耗によって見えているものが違うのかもしれない。
( ´・ω・`) 「…行ってみよう。
僕が前に立つ、君は後ろへ」
ξ;; -⊿-)ξ
∪( ^ω^)「頼むお」
ツンを背負い、ブーンは後方に陣取った。
ーー アサウルスは人を騙す。
ショボンは有事の対応のために得物を構えようとして、
( ´・ω・`) (……そういえば剣が)
手元から無くなっていることに気が付く。
残しておいた鉄槍も、鉄剣もない。
黒い槍も先ほど投擲してしまったのだから、
持っているはずもない。
今の彼は徒手空拳…
更に、体術の心得もない。
出来ることはただ一つ。
(´・ω・`) (壁になるしかないな)
-
足音のない空間に、
ただ靴の裏にある感触の存在を証明する波紋だけが広がる。
周囲の光の粒子は一切を停止しており
歩いている感覚とまるで乖離しているようで…時に、自信が無くなっては自身の脚を確認する。
ξ;; -⊿-)
∪( ^ω^)「なんだか……ちゃんと歩けてるかどうか不安になるおね」
( ´・ω・`) 「たしかに」
ξ;; -⊿-)
∪( ^ω^)「ショボンはあの灯りが見えないのかお?」
( ´・ω・`) 「灯り…っていうならね。
粒子なら分かるんだけど、正直見分けはついていない」
消えては浮かぶ光の粒子……
なんともなしに腕を伸ばしてはみるが距離感をつかめず、やはり手のひらは空を切る。
目を閉じても、開けていても、
残像が同じ風景を創り出してしまう。
暗闇は…想像を増長するものだ。
-
( ´・ω・`) 「……神の眼球、か」
ξ;; -⊿-)
∪( ^ω^)「おっ?」
ふと呟き、ブーンがそれに応えた。
ショボンは独り言が多い…
癖のようなものだが、それは寂しさの裏返しでもある。
( ´・ω・`) 「かつて "ふたごじま" にあった
教典の文頭…その一節に出てくる単語さ」
( ´・ω・`) 「《-偉大な神は、真っ暗闇な
その世界を憂いて己の眼球を取りだし、
その虹彩からは光を…瞳孔からは闇を…
硝子体は大地を…水晶体は海を産んだ》」
ξ;; -⊿-)
∪( ^ω^)「《この世界は
神の眼球そのものとして生まれ変わり、
また神の瞼の下に埋め直された。
これにより神の体温を得たことで世界には暖かみが生まれた》
ーー だったかお?」
続いて語られたこと驚きながら、
そういえば彼も昔、島に来ていたのだと思い出す。
ξ;; -⊿-)
∪( ^ω^)「《だが神もまた真っ暗闇の中にいる。
神が目を開ければ夜になり…
目を閉じれば朝になる…-》」(´・ω・` )
-
こんな場所で男二人が読み上げた言葉がおかしくて、見合わせて少し笑った。
それは兄者が繋いだ、彼らの共通の思い出。
不死でなくとも、
人は思い出を数珠繋ぎにして心のなかで
永遠に生き続けることが出来る。
【永遠の命】とは、
必ずしも不死者を指すとは限らない。
(( ( ´・ω・`) 「…それなら、
不死者っていうのは一体なんだろうね?」
ξ;; -⊿-)
(( ∪( ^ω^)「……」
最後のショボンの呟き…
ブーンの口から応えは返ってこなかった。
「……」 ξ;; -⊿゚)
(( ∪(
-
……やがて三人の前に現れたのは
アサウルスの胸部に宿存した橙の輝き ーー
熱源を持ち、鼓動脈を打つあの太陽だった。
アサウルスに埋め込まれていた時と違うのは
今、それが目の前の宙に浮かんでいて
内蔵のような球体を、
半身でなく、堂々と晒している点だ。
(´・ω・`) 「剣を一本借りるよ」
ブーンの腰鞘にある数本から手前の柄を握り
慎重に引き抜く。
血糊や刃こぼれも無い、極上の一振り。
自分が用意して使っていたものよりも、その重量には大きな差があった。
これとまともに斬り結ぶなどすれば、
並みの得物では堪えきれず破壊されるだろう。
そしてそれを難なく扱い、手入れを怠らなかったであろうブーンに対して、
ショボンは尊敬と畏怖を覚えた。
-
ξ;; -⊿-)
∪( ^ω^)「気を付けるお」
剣の扱いに、ではない。
此処に来て依然、沈黙を守るアサウルスは
不意討ちを喰らったあの時とまったく同じシチュエーション。
(´・ω・`) 「ああ」
最大限の警戒を解かないまま、鞘ごと借りて腰を落とした。
(´・ω・`) 「……」
ショボンが身に付けた抜刀術の利点は
"刃を抜くその瞬間まで自由に身を動かせる"
というもの。
間合い取りに焦らなければ、
そして、不意討ちに気を配りさえすれば
ギリギリまで回避に徹することが出来る。
(´・ω・`) 「…」
今のショボンでも
初撃だけならなんとかこの剣は扱えるだろう。
タメを作り上げながら
太陽まであと一歩。
-
太陽はド ク…ン ーー と、
ッ
その衝撃に反発して歪み、反り返る。
反れた衝動は反動となり内部を打ち付けた。
封じられ行き場を失ったエネルギーが、
何度も、何度も何度も何度も何度も ーー。
( 三 (´・ω・`; )
ショボンは定位置に戻ると、鍔を鳴らして刃を納めた。
ーー 彼の居合いは太陽を切り裂かなかった。
ξ;; ゚⊿-)
∪(;^ω^)「なんだお、これは?!」
剣を抜く前にその異変は起きたのだ。
「分からない、どっちだ?!」(´・ω・`;)
ξ;; ゚⊿゚) 「……魔導力が」
∪(^ω^;)「ツン ーー?」
ξ;;゚⊿゚)ξ「魔導力だけが、激しく膨らんでる」
-
ツンのその言葉に呼応するかのように、
太陽内部から確たる何かが突き破らんと
動きは激しさを増していった。
此処にいるぞ! 此処にいるぞ! 此処に!
そう主張する太陽は腕を生やす。
サイズにして、人間と同じ形をした腕。
引っ張られるように段々と、
肩、顔、頭、胸、腰……
やがて足先まで生え揃った頃、太陽は
いつのまにか姿を消してしまう。
ξ;; ゚⊿゚)
∪(;^ω^)( ;´・ω・`) 「 ーー…」
あとには全身橙の人型が佇む。
……誰かが唾を飲み込む音がして、
それと同時に "それ" はひっくり返った。
・・・・・・・・・
天地ではなく、表裏。
蛸を捲るように、服を捲るように。
剥き出しの血管が捲れ仕舞われる。
-
ξ;; ゚⊿゚)
∪( ゚ω゚)「!!!」
そうして現れたのは
从 ∀从
一人の女性らしき、人間。
(;´・ω・`)
ショボンの心中は驚愕に満たされつつも、
視線は釘付けにはならなかった。
なぜならば ーー
ξ;゚⊿゚) 「あな、た……」
∪(;゚ω゚)「な、なんでこんな、ところにいるんだお…?!」
……不死者である、ブーンとツンが
より大きなショックを隠しもせずにいたのを見てしまったから…。
-
从 ∀从
从 ゚∀从
从 ゚∀从 「ーー ……ぁ」
(´・ω・`;) 「…知ってるのかい? あれを」
ξ; ゚⊿゚)
∪(; ゚ω゚)「……」
从 ゚∀从 「……よう、久し振り」
その声は人間だった。
その姿形は紛れもなく人間だった。
此処がどこだか分からなくとも、
アサウルスと無関係であるはずはない。
ξ;゚⊿゚)
∪(;゚ω゚)「ーー ハインリッヒ…」
从 ゚∀从 「ありがとな二人とも。
それと…もう一人のお前も不死者だろ?」
(;´・ω・`) 「!」
从 ゚∀从 「いまは限られた時間しかない。
聞いてくれ、そして、伝えてほしい」
-
涼しげな声だった。 だが微かな焦り。
ハインリッヒと呼ばれた女性から
敵意を感じることは全く無かった。
むしろショボンには…
悲痛のなか掴みとった一握りの機会を
一切合切逃さないために身を潜めていた囚われの神のように思われた。
从 ゚∀从 「アサウルスは死なない。
"生きる概念" と "生きたい願望" が
この世にある限り、遅かれ早かれまた現れる」
从 ゚∀从 「前者は人間に必要なもんだ…
でも、後者はすぐに行く先を誤っちまう」
从 ゚∀从 「何かに祈るな、見えないものにすがるな。
人は自分の足で歩けるように出来ているし、
他人の手をひととき握ることは、すがり祈りとは関係がない」
その言葉は唐突で、
前提が何かも分からなければ
答えが何かも解らないものだ。
ξ;; ゚⊿゚)
∪( ゚ω゚)「……」 (;´・ω・`)
ーー 尚もハインリッヒの独白は続く。
神託のように。
-
从 ゚∀从 「ブーン、俺のことは気にすんな。
済んだことをいちいち引き合いに出しても仕方無いしな」
从 ゚∀从 「これからだ。 未来のこと。
もうこれ以上、不死者なんていらないんだよ」
从 ゚∀从 「でないとアサウルスが利用しちまう……
生きる願望の、塊であるお前らを」
:从; ゚∀从:「ーー ぐっ」
(; ´・ω・`) 「…?」
:从; ゚∀从σ:「…ダメだ時間が全然足りねえ。
この、上にいる奴も…連れてけ、邪魔だ」
ξ;゚⊿゚)ξ「え……あっ!」
ショボンとブーン達が見上げると、
そこにはもう一つの太陽が脈動していた。
さっきは気付かなかったが
同じようにモゴモゴと動いている。
-
:从; ゚∀从:「そいつは、そいつで……
アタシとは別のところから、アサウルスに引き摺り込まれたらしい」
:从; >∀从:「ーー っはあ、はあッ」
ξ;;゚⊿゚)ξ「ハイン!」
:从; ゚∀从:「……いつだか前…アタシにはちと分からないが…
先に降りた、もう一匹のアサウルスがいた。
……東の方角、そいつが処理した、
けど、代わりに……、そのザマだ」
ハインリッヒは苦しんでいる。
だが、一体何に対して ーー
《ビシィッ》
⊆‖(´・ω・`; ) 「?!?! ーー なっ?!」
直後、ショボンの腕には
闇から伸びた黒い何かが巻き付いている。
慌て、隣を見ればブーンやツン、
そしてどうやらハインリッヒにも既に。
⊆ξ; >⊿゚)ξ⊇「くっ ーー!」
( ゚ω゚)⊇「ふぉぉぉっ?!」
-
:从; ゚∀从:「ーー ちくしょう、あんだけ時間かけてもこれしか主導権が握れねえのか?!」
:从; ゚∀从:「ブーン、お前の拘束だけならアタシがなんとかしてやる!
すぐに…アイツの太陽も ーー ぶっ壊し、たら…!」
⊆(´・ω・`;) 「?!」
:从; ↑∀从:「お前らだけでも此処から逃がしてやるからよ!」
-
《パリンッ》
(;^ω^)⊃「?!」
硝子の割れる音と共に、ブーンを捕らえていた闇が解放される。
ブーンは迷わなかった。
バランスを崩しながらも真上に跳ぶと、
もがき足掻く太陽目掛け、
重い剣を突き出すとビチビチ血の雨を降らす。
割れる太陽の中から、血にまみれた男が一人
…もたれていた身をゆっくりと落下させる。
赤く紅く熟れた果実の種が握られ/.,:;;'A)
押し出されるように。
",
,...:,
( A )
片手に銃斧を握りしめて離さない男を抱き止める余裕は無かった。
ブーンも共に落ちながら、叫ぶ。
手を伸ばすように、その声で。
「ハイン! お前も ーー」(^ω^;)
-
从; Γ∀从 「ーー …クーに、よろしく頼むわ」
-
三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三
三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三
三三三三三三三三三三三三三三三三三三
三三三三三三三三三三
三三三三三
三
三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三
三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三
-
三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三
三三三三三三三三三三三三三三三三三
二二三三三三
三三三三三三三三三
三三三三三三三三三三三三三三
二三三三三三三三三三三三三三三三三三
三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三
三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三
-
血涙を流しながら笑ったハインは…
そのまま闇腕に囚われ呑まれた。
それは僕達の視界が呑まれるのと
どちらが早かったのか。
気付けば三人は離れ離れになった。
僕は海にたゆたい、
通りかかりの船に掬い上げられる。
結局そこが何だったのか
分からないまま ーー。
-
(推奨BGM:おわり)
-
------------
〜now roading〜
从 ゚∀从
HP / D
strength / E
vitality / E
agility / C
MP / B
magic power / B
magic speed / B
magic registence / C
------------
-
乙
-
「ーー 以上が僕の話。 (´・ω・`)
長くなってすまなかったね」
ショボンが大きな溜め息をつくと、
山小屋の中は空気の鳴る音に満たされた。
組んでいた腕を離し、代わりに指を絡める。
_
( ゚∀゚) 「……」
ジョルジュは完全に聞き入っていたようだ。
当人の記憶の夢の後すぐに
こんな話を聞かされたからだろうか、
一点を見つめて動かない。
ショボンは何か声をかけようとしたが
考えをまとめる時間も必要だろうと思い、
彼の視線が揺れるのを黙って待っていた。
……だから、その沈黙を破ったのはもう一人。
今回の話が始まる直前にドアをぶち破り
乱入を果たした、遠慮知らずの狼藉者。
その細く長い腕が振られたかと思うと
パァン、と、掌から心地よい叩音を鳴らす。
ジョルジュの肩が跳ねる。
顔を上げてじとりとそちらを見るが、鳴らした本人はたいして気に止める様子もない。
気にするような人格でも無さそうではあるが。
-
川 ゚ -゚)「それでここに私を連れてきたのか」
(´・ω・`) 「途中で勝手に寄り道してたのはそっちでしょ」
川 ゚ -゚) 「…出逢ったばかりの相手に
妙に馴れ馴れしい口を利くんだな、お前は」
水の都に立ち寄った際、同じく出入り門で
追い返されていたのが彼女だった。
清く長い黒髪を隠しもせず、伸ばした背筋は神々しさすら感じさせる。
ーー だが初対面ではない。
クーとショボンは過去、既に出逢っている。
だが…
今の彼女はそれを憶えてはいなかった。
(´・ω・`) 「利害が一致してるんだから言いっこ無しだ。
僕の話もこれで終わったし、これからどうやって水の都を元に戻すか考えようよ」
-
ワカッテマスの遺した策略の一部であろう
都住人以外の締め出しは、他の地域からすれば大問題となりつつある。
すなわち
『証を持つ者だけを受け入れる永久中立国』
…こんなもの、皮肉にも程がある。
川 ゚ -゚) 「…まったく、なぜ私が追い出されなければならないんだ」
彼女をここに連れてきたのは、その問題を解決するに役立つであろう期待。
そして、もう一度……
ハインリッヒから承けた
たった一言を彼女に届けるために。
-
川 ゚ -゚) 「あの門番の顔は覚えた。
後で処罰してやりたいが……職務に忠実なのは誉めてやるべきか」
_
( ゚∀゚) 「……」
なぜ記憶を失っているのかは分からないが
ショボンの知る彼女は、聡明な大魔導士。
道の途中で何かに気をとられると、
すぐ横道に逸れるような行動を取る点を除けば、率直で嘘のない人物だとショボンは評価する。
ただし、
「水の都の女王である」
という彼女の言葉には強い驚きを受けた。
_
( ゚∀゚) 「都の住人すべてに配られたオーブ
…それをなんとかして手に入れるか?」
(´・ω・`) 「都市に入れなければ、都市から出てくる人もいないのに?
中立国ゆえの自給率の高さが、習慣的な商人の出入りも抑えてしまっているのが仇になってるね」
川 ゚ -゚) 「外部からの影響をなるべく受けないために、私がそうやって作り上げたのだから当然だ」
ε_ (´-ω-`;) 「…だから。
今はそれがまずかったんだってば」
-
過去を忘れた彼女は
どうやらまた懲りずに歴史へと介入していたらしい。
ショボンの驚きはそういう意味だ。
川 ゚ -゚) 「何を言うか。
真に責めるべきは、この事態を引き起こしたワカッテマス……あ、今はお前だったな」
_
(;゚∀゚) 「だから俺じゃないっての。 いや、
違わないけどさ…俺だけど俺じゃない」
川 ゚ -゚) 「お前を締め上げればソイツが出てくるんじゃないか?
そうでもなければ信用できないんだが」
_
(;o゚∀゚)o 「おーっとそこまでだ、危害を加えるなら反抗するぜ?
ただでさえ、そのしょぼくれから痛い目見させられてるんだからな」
彼女は……あの時も女王だった。
記憶がなくなれば、
人はまた同じことを繰り返すのかと。
そう、ショボンは思わずにはいられない。
-
(´・ω・`) 「真面目にやってくれるかな?
都を戻す手段を考えないと先に進まないんだけど」
彼女は一度裏切られた。
守ろうとしていた普通の人々に。
_
( ゚∀゚) 「あっ、そうだ! 土塊!
賢者フォックスに成り済ましてた泥人形が、
他にいるかもしれないんだよ」
川 ゚ -゚) 「フォックス…しくじったか?
それほど迂闊な奴では無いと思ったが」
そして今度もまた、
意図せず裏切られようとしている。
ワカッテマスという彼女のイレギュラーは、
歴史のイレギュラーと同義。
何かを作り上げるということは、歴史を作り上げるのと同じことだ。
人が誰かに声をかけて、
その誰かは人に触れて、
積み重なって創られるのが ーー 歴史。
ショボンが、兄者を通して
ブーンやツンと出逢ったように。
ジョルジュが、ツンを通して
ショボンと出逢ったように。
アサウルスを通して、
ハインからクーに、クーからワカッテマス、
ワカッテマスはジョルジュへと ーー。
ミルナやでぃも、
きっとどこかで誰かと繋がっていくのだ。
-
川 ゚ -゚) 「なんとかして王宮の侍女にでも接触できればいいのだがな…」
(´・ω・`) 「まがりなりにも女王なら、
いざという時の抜け道か何か、用意しなかったの? 」
川 ゚ -゚) 「内から外には出られるが逆は無い。
……というか、よくそういうのがあると判ったな?」
_
( ゚∀゚) 「……」
(;´・ω・`) 「…あのねえ」
穏やかだったはずの歴史が
時に酷く歪曲してしまうのは何故だろうか?
人の歩みが道となり、河となる。
人の寄り添いが森となり、空となる。
自然に生きるならば
人が傷付かなければならない理由など
見当たらないのに。
川 ゚ -゚) 「…」
_
( ゚∀゚) 「……」
川 ゚ -゚)「貴様、さっきから何を見ている?」
-
クーに当時の記憶が無かったのは
幸いなのかもしれない。
_
( ゚∀゚) 「…いい乳だ」
川 ゚ -゚) 「は?」
ジョルジュ…そしてワカッテマスの傷は、
少なくともクーに向けられない。
(´・ω・`) 「まさか……ジョルジュ、君は」
川# ゚ -゚)「さっきからそれを見てたのか?」
クーから、彼に向けて傷を抉ることもない。
_
( ゚∀゚)o彡゜ 「キレイなものは癒しだろ?
きっと君の胸は俺の運命の ーー」
川# ゚ -゚)つ 「…【フォース】」
-
ーー 傷痕を留める人数は
少ないほうがいい ーー
-
-
----------
ーー それはパラ…パラリと
少しずつ、確かに空から落ちてきた。
きっかけは一筋の黒き雷。
髪の上から感触を覚えるそれが、
自分のためにそぼ降っているわけではないことくらい、彼は重々知っている。
水面に浮かぶフェノメノンは
波紋として型どり広がりきる前に、
間断なく産まれる新しい波紋と、ぶつかり合って消えていく。
周囲には雨が降り始めていた。
( ゚д゚ ) 「……」
思い起こすのは、今朝の朝雲。
天気が下ることも、
いつもの日常であれば何事もない。
(# - )
-
いつもの日常であれば ーー
洗濯物を自室に干して、
湿気を利用して壁や床の汚れを拭き、
踏み均した絨毯の塵を取り除き、
外に出たがらない人々に頼まれれば
「わかった」と二つ返事で仕事を承ける。
(゚д゚ ) 「……」
そんな日常であれば ーー
作業を黙々とこなしているだけで時間は過ぎ
やがて暮れ往く夕日を眺めては
「また明日に」と身体を休める。
今日は記念すべき
彼にとって、そんな世界の終わりの日。
-
(; ゚д゚ ) 「これは……」
見上げれば。
巨躯を有する怪物 ーーアサウルスの石像が
ミルナとでぃの乗る舟と、三日月島との間に
途方ない大きさのアーチを遺している。
蔦が互いに絡み合うように
捻れた大蛇の幹と、
大輪を咲かせたかのように
捻れた触手の花が。
大木に太陽を乗せた石のオブジェクトとなって三日月島を大陸から隔離していた。
[この海、航るべからず]
そんな声がどこからか聴こえてきそうで、
ミルナは奥歯を強く噛む。
-
彼の傷痕は決して浅くはない。
しかし、自傷した心の爪跡ならば
やがて癒せる日がやってくるだろう。
対して、でぃの心の爪跡は
生々しく残ることとなる。
ーー ミルナは清算しなくてはならない。
( ゚д゚ ) 「ショボン…お前の」
舟の荷物のなかには
長刀と騎兵槍も共に乗せていた。
戒めのためか、感染した何かのせいか。
……そこに走り墜ちた黒い雷が
発光に紛れて騎兵槍の中へと消えたように、
ミルナにはそんな風に見えた。
ーー いや、むしろ紛れもなく。
-
(; ゚д゚ ) 「黒い ーー 槍…」
見間違いではない。
ショボンが握りしめ、持っていったはずの黒い槍がそもそも雨天の始まりを告げたのだ。
目の前と頭上を交互に見やるが、ショボン達は帰ってこない。
だんだんと、
視界を動かす比率も片寄り始める。
サイズとしては元来大きい得物の騎兵槍が
ミルナの目の前でメキメキと蠢きたつ。
金属で出来ていたはずの騎兵槍は、徐々にそのフォルムを増長。
少しずつ…少しずつ、
身長よりも少し大きい程度だった騎兵槍が、
アサウルスの願望により拡大膨張する。
内部に宿る黒い蟻、生まれたての命に似て。
-
…しかし、殻を破らんとするも力尽きたのか
ミルナが意を決してそれを握った瞬間、
騎兵槍はその動きを止めた。
( ゚д゚ ) 「…」
無音に感じられた世界に音が戻る。
ミルナは己の意識が周りの世界から離れていたのだと、そこで自覚した。
ーー それきりだ。
彼の前で
その騎兵槍が二度と蠢くことはない。
-
至り、彼にとってその黒い槍は、
傷痕を留めるアサウルスの欠片などではなく
友として過ごした記憶の中の
ショボンから与えられた激励へ姿を変える。
『ずっと見ているから』
たとえ欲からなる希望的観測だとしても、
彼からそう言われている気がした。
再会叶わぬ夢のために、
彼はその後の生涯を過ごす運命にある。
だからといって彼の魂が今、それを知り、
悲しみ…気力を失うことはない。
銷魂は、
前向きに生きる者を妨げられはしない。
-
今はまだミルナに無い勇気。
だが求めれば、
いつかはそれを得ることができる。
その命が永遠でなくとも、
次の瞬間、尽きる命だとしても。
( ゚д゚ ) 「この槍は…
いつか、いつか返しに行くからな」
無意識に丸くなっていた背中。
意識して筋を伸ばす。
顔を上げる。
島よりも遥かに広大な地平線が
弱い人間の歴史を受け止めるべく、出迎える
いつか胸を胸を張って
借りたものを返せるように。
限られた年月と魂が
弱き者を、強き者に変える為に。
(了)
-
これで今回の投下を終わります
投下中の支援ありがとうございました
途中ミスが目立ち、読みにくくなりました
すみません
誤字訂正もこのあと行います
(´・ω・`)ω・´): 傷痕留蟲アサウルス >>6
-
誤字について
申し訳がたちません、気を付けます
>>64
左上【48】はページカウントです
本来表示する必要はありませんでした
>>111
>続いて語られたこと驚きながら→×
続いて語られたことに驚きながら→○
>>148
>いつか胸を胸を張って→×
いつか胸を、胸を張って→○
-
乙でした
-
※千年の夢 年表※
------------------------------
-900年 ***********
→信仰の概念がうまれる
( ∵)は偶像生命体として同時に生誕。
-400年 ***********
→結婚(結魂)制度のはじまり
-350年 ***********
【ふたごじま】→魔導力の蔓延
-312年 ***********
【銷魂流虫アサウルス】→前半
→ "隕鉄" が世界に初めて存在する
-220年 ***********
【銷魂流虫アサウルス】→後半
【傷痕留蟲アサウルス】☆was added!
→騎兵槍と黒い槍が融合
-210年 ***********
→大陸内戦争勃発。
【帰ってきてね】→前半
-200年 ***********
【帰ってきてね】→後半
【死して屍拾うもの】
→ "赤い森の惨劇"
-195年 ***********
→大陸内戦争終了。
【はじめてのデザート】
-190年 ***********
【その価値を決めるのは貴方】
-180年 ***********
【老女の願い】→復興活動スタート
-
-150年 ***********
【老女の願い】→荒れ地に集落が出来る
→川 ゚ -゚) が二代目( ´∀`)に指輪依頼
-140年 ***********
【老女の願い】→老女は間もなく死亡
→指輪の暴走を美しい湖に封印。
-130年 ***********
【人形達のパレード】
【此処路にある】
→(´・ω・`)( ゚∀゚)川 ゚ -゚) 邂逅☆was added!
→二代目( ´∀`)死亡時期
-120年代 ***********
【命の矛盾】
-100年代 ***********
【繋がれた自由】
【遺されたもの】
→偽りの湖の封印が解かれる
【時の放浪者】
-40年代 ***********
【老女の願い】→集落→町になる
00年代 ***********
【老女の願い】→( ^ω^)が
官僚プギャー、炭鉱夫ギコに再会
-
★作中マップ
大陸戦争前
http://imefix.info/20140924/251211/rare.jpeg
大陸戦争後
http://imefix.info/20140924/251212/rare.jpeg
-
乙です ('A`)神出鬼没だな
-
大量投下おつ!!!!
クー記憶喪失なのかよとかこっからでぃ持ち直すのすげぇとか
なんかいろいろあるけどすげえおつ!ブーンさん強いっすね
ハイン気になるなードクオはもともと歪んでたのかこれから歪むのか
面白かったよ!
-
乙
過去未来が入り乱れて面白い
気になる要素がどんどん出てくるな
次回も楽しみにしてる
-
読む度謎が増えてくおつ
-
>>150に追加
>>132
>ーー だが初対面ではない→×
ーー 初対面ではない→○
推敲がきちんと出来てないのが恥ずかしい…
台風接近による頭の悪さということで御容赦願いたいほどに
-
そしていつも読レスありがとうございます
前スレを励みや支援で埋めてくれた方にも感謝します
今度から投下は晴天時のみにします
雨日は、推敲も投下もガタガタになってしまったので…
投下日時変更の際は当スレに書きますね
次回は幕間、または ('A`) のお話になります
よろしくお願いします
-
乙
ハインも気になるしドクオも気になる
話が投下される度に読み返すのおもしれ
黒い槍を3代目モナーが直そうとしてたけど大丈夫なのかな…
-
面白かった!でも携帯で読むとツンの口が化けてるんだよぅ…
-
皆さんいつも読レスありがとうございます
a ξ゚⊿゚)ξ
b ξ゚⊿゚)ξ
c ξ゚⊿゚)ξ
>>162
上記の三種ツンで文字化けしていないのってありますか?
前スレの途中まではaで書いていたのに
最近文字化け表示するようになって…
同じく困っています
-
自分はないな
2chMate 0.8.6/KYOCERA/KYY24/4.4.2/LR
-
これ読んでロスオデ買ったよ!楽しくプレイさせて貰ってるぜ!
iPhoneでBB2Cを使って見てるんだが、bだけが反映されないだけで文字化けはない
-
>>163
iPhone(BB2Cっていうアプリ)だけど、aとcはちゃんとなってる。bだけ化けてる。
-
なるほど、私は
2chMate 0.8.6/PANASONIC/102P/2.3.5/LR
の環境でいつも投下の際、aが化けはじめる→cに変えるけど次の投下で化ける→今回bでやりました
上のはbしかきちんと見れてませんが、単にしたらばの気紛れなのかな…
>>162さんもcで見れるなら、今後cで通してみます
>>165
おおー嬉しいw
好きな千年の夢が見つかった時は是非教えてください
-
>>162ですがaとcは大丈夫ですのぅ。環境によって見えたり化けたりとややこしいですなぁ…
-
やっと追いついた
不死者たちの戦闘の凄まじさに興奮した
アサウルス戦は映像で見たい熱さがある
-
昔 むかし ちいさな山のなかで
村の者が 誰も近付かないやうな
浅くて深ぁい 森のなかに
ひとりの若い山人が すんでおりました
-
その山人は 樹をきり 獣をかり
川みずをのんでは ねとこにつく
村の者も だぁれも 山人と
ろくに口も ききゃあしません
くるひも くるひも 山人はひとり……
-
なにせ山人を おとなは みていません
はてさて
在るのに居ないとは これ異かに
村のこどもが 胆をためそうと
山にたちいると 顔をみたといいます
ですが おとなが覗きにいくと
どこを歩いても いつ歩いても
切りたおされた樹ぃや
獣をめしたあとが のこるばかり
ときに村をあらす 妖怪のほねばかり
-
おお、きてる!支援
-
はじめこそ これはたたりだ
いやさ 山のかみのいたずらだ と
うわさしていた村のひとびとも
《かみさまが獣をよく喰ふまいよ》
といふ誰かのことばに うなずいて
てっきり村の者たちは
山人がてまえかってに すみついたんだ
……そう思ふことにしたそうな
-
おとなの心配をよそに 子はあつまり
山人のところへ あそびにいくといふ
《山人あめたべた》 《山人にくとった》
《山人うたぅた》
どうやら害はなかろうと おとなも
《あぶないことはするでないよ》
と声かけるに とどまっておりました
-
そんなある日 村のかわ上のほうがくで
おおきな おおきな おぉーきな
太陽をさえぎるほど おおきな太陽が
よるをひき連れて 山にふってきます
空をさいて 山をにじり 海をあらします
おとなは残った子らをひっぱって
《もうだめだぁ このよはおわりだあ》
はばからず 泣いて
ただ ただ うずくまっていました
-
( ^ω^)千年の夢のようです
- 東方不死 -
-
美しいものには棘がある。
華は寒暖から身を防ぐために棘を持ち、
明確な敵意をもったものに対して、その棘を剥き出しにする。
だが、それは人が後世に作りあげた空想だ。
本来の目的は違う。
己の力だけでは成長できないその華は、
寄り添った別の花に棘を巻き付けながら、利己的に生き永らえるためその棘を持つのだ。
巻き付かれた花は傷付き倒れ、
それを糧にして華はより強く、大きくなる。
<ヽ`∀´>
今日も一人、
そんな華の前にのこのこと現れた。
-
<ヽ`∀´> 「…御師が言っていたのはここニダね」
背中に巨大な太極図…陰陽印を背負うのは
大柄だが、見た目より柔らかな物腰の男。
辺りを支配する月と宵闇。
肌寒い秋夜に都合の良い厚手の和装。
口の広がった袖を、胸元に絡ませながら
正面に見据えるのは…古くより現存する湖。
<ヽ`∀´> 「見た目は綺麗な湖ニダが…」
-
約10年 ──。
この湖が大陸の闇と囁かれ始めてから
それだけの月日が流れていた。
数多の白魔導士が原因を調査してきたが
未だ解明と解決には至らない。
底深くにある何か…。
その存在が年々、力を増しては
解呪に挑む者の精神を崩壊させるケースも珍しくない。
観光地として身を休める旅人の憩いの場は
過去に "美しい湖" として名を馳せていた。
今では、その外観から似つかわしくない
曰く付きの場所として、人々から
── "偽りの湖" と呼ばれている。
-
<ヽ`∀´> 「こうも広いと、ウリだけの力でなんとかできるような結界は張り切れないニダ」
呟きながら、男…ニダーは
風のない湖の周りを一周しながらも、ある方角に集中させるように短かな鉄串を立てていく。
歩いてはざくり、歩いてはざくり、と……
男の何気無い動作は、大地の点穴を的確に刺していった。
峨嵋刺と呼ばれるその串は、両端が鋭く研ぎ澄まされた、東方に伝わる隠し武器の一つ。
島国のお伽噺話では頻繁に目にする鬼……
そして女性が心に秘め持つ鬼の角…
その角をモチーフとして製造された、文字通りの "暗鬼" 。
<ヽ`∀´> 「解呪ではなく、まずは惡氣点をずらして端に寄せてみよう。
攻か、防か……御師には攻であれと教わってはいるニダが」
-
ニダーは峨嵋刺で構築した場から離れると、
月を見上げ、影を見下ろした。
師から伝授されし風水術。
星や天地に備わる魔導力を借りることの出来る東方の魔法を、彼は行使する。
計り終えた立ち位置の上、
風も吹かないのに背中の太極図がなびいた。
<ヽ`∀´> 「北東鬼門に穴は開けた。
どれだけ強大な穢れなのか…ウリも確かめてみるニダ」
静かな湖畔に風が舞う……
大きくなるざわめきは歪な水面が起こす波。
波長どころか基の性質のまったく異なる二つの魔導力は、ぶつかり合わず、
湖を型どる蒼を湾曲させながら割った。
<ヽ`∀´> 「…」
だが……それだけだ。
-
鬼門に流れゆく穢れは水と油のように。
彼の魔法と交わらないまま重心を傾けて、いまだ水面を制圧している。
ニダーは湖の底を覗いてみるが、さしたる発見もなく、次の動向を迫られた。
<ヽ`∀´> 「…重いけど、激しくはない。
まさか何もないはずは無いが …」
<ヽ`∀´> 「……ニダ」
そして己が感じ取ったものを優先する。
だがそこには、
誰が、いつ、湖に何をしたのか……
解呪の詳細は引き継がれていない。
それを取りまとめる国という機関はあれど、
現在はその機能を著しく停止している。
<ヽ`∀´> 「【デスペル】!」
それがニダーの仇となった。
せめて流れを寄せず、最初から解呪の魔法を放っていれば……
反動で押し寄せる穢れた津波が、その身に降りかかることもなかった。
-
── 眼前、鼻先。
<ヽ;゚∀゚> 「イ、イゴムォーーっ?!」
迫る手のひらの影。 うねる亡者の腕。
人ひとりを事も無げに握り潰せるほどの巨大さは、その圧力だけでニダーを後退らせた。
瀬戸際で接触を防いだのは両手に添えた双峨嵋刺。
加えて皮肉にも ──
今も継続する、鬼門点穴による引き寄せがなければ間に合わなかっただろう。
<ヽ;゚∀゚> 「ぐっ……ぎぎ!」
【デスペル】は風水魔法ではない。
彼の魔導力に吸い寄せられた湖の穢れは
目の前にぶら下げられた魔導力を【ドレイン】すべく、ニダーもろとも握り潰そうとする。
嵐吹き荒ぶかのように揺れる水面が、湖の体裁を保たなくなりつつある。
<ヽ; >∀゚> 「〜〜っ! こんなの聞いてないニダ!!」
ニダーの魔導力が光の粒となって湖の中に吸い込まれ、溶けていく。
偽っているのは見た目だけではない…
内包する穢れも、
秘める禍々しさも、
湖はもはや一介の人間が手を出せるような代物ではなくなっていた。
命を危機に晒されて始めて気が付く彼の思惑、そして自惚れた我が心。
-
『ニダー、俺達には時間がない。
お前なら間違いないからこそ頼む』
『何でも良い……人や獣を吸い込むという
魔の湖からその秘密を暴いて、収穫があれば持って帰ってきてくれ』
師の言葉が脳裏によぎる。
あの時、浮かんだ疑問を口にしていれば今頃どうなっただろう。
不出来な弟子と罵られながら過ごした修行時代を思い出し、反骨精神を奮い起たせる。
<ヽ;゚∀´> 「……ぐぎぎ」
ニダーも、この湖のことをまったく知らなかったわけではない。
周辺の生態系が緩慢ながら崩されてきたことくらいなら、大陸の行く先々で耳にしていた。
しかし彼の生まれる以前から、
果敢な戦士として…そして風水の使い手として活躍してきた師からの懇願が、
まだ若いニダーの心にどこか驕りを付けた。
<ヽ;゚∀´> 「…?!」
その時、湖の水面に浮かび上がる固形物。
── まだ闇を秘めているのかと、膠着状態ながら警戒を強める。
カチカチと震える双峨嵋刺を持つ腕の中、ぼんやりと考えるニダーではあったが
一方で冷静な思考が、固形物の正体を見極めようと努めていた。
時にそれは生死を分かつ "未練、執着" とも呼ばれるのかもしれない。
<ヽ;゚∀´> 「……あれは」
脳の処理速度だけが加速した世界で、捉えた輪郭が告げる見知った正体。
人の形。 その方角、南西裏鬼門。
-
一度発動した魔導力は継続してその効果を発揮しない。
少しずつデスペルの効力が薄まると共に、
亡者の腕が興味を失い、ニダーへの強襲は力を失っていく。
反して手伝うように、
継続して穢れを吸い寄せる風水魔法が、亡者の芯を向こう側へと引きずり込む。
<ヽ;゚∀´> 「っオ!」
ニダーは好機とみるや一歩下がると同時、素早く腕を振り上げた。
袖口から飛び出す複数本の峨嵋刺が、
その固形物の横をすり抜け ──巻く。
<ヽ;゚∀゚> ( 間に合えっ!)
人がいるとなれば放っておけなかった ──そこに師の言葉など関係ない。
そのまま勢いを殺さず、ニダーは更に大きく飛び退いた。
キリキリと袖先で鳴る音は、嘶く亡者の声にかき消える。
転がり離れる身体が砂を絡めて汚れていく。
受け身をとる余裕もなかった。
ひたすらに…、その場から逃れる。
── ォォン… ── ォォン…
── オ オ ン …
あとに残るは
耳にこびりついた呻き声だけ…。
-
やがて鎮まりかえった偽りの湖…。
<??;゚∀゚> 「ハアーッ、ハアーッ…」
自由を取り戻した身体とは対照的に、心は得たいの知れぬ何かに縛られる。
ニダーは恐ろしかった。
これは単純な死の恐怖とは違う。
道半ばの魂を…自分という個を吸い取る、ただそれだけのために存在する亡者が……
手のひらの影が己を食むかのように
ばっくりと開かれていたのを、目の当りにしたあの瞬間が。
口内に溜まった唾液を呑み込もうとして…
しかし拒絶を表した喉頭によって反流し、無様に咳き込んでしまう。
-
<ヽ;`∀´> 、「けほっ…げほっ……」
何の目的かは知らないが…もし元凶がどこかにいるならば責任を取らせたい。
赤の他人がこんなものに関わるべきではなかった…と、ニダーはそう胸中で毒づいた。
こんなところに送り出した師への憤りも少なからずあるが。
<ヽ`∀´> 「── はぁ」
しばしの間、彼は片膝をつき、荒れた呼吸が整い終わると顔をあげた。
辿る視線は、袖口から繋がる炭素鋼に巻き付く人間。
結わく峨嵋刺が尾となり、回収を為したのだが……
<ヽ;`∀´> 「…何ニダ?」
炭素鋼に食い込む腕がピクピクと、筋肉の収縮を伝え抗う。
── 生きている。
あの穢れた湖に沈んでいたはずなのに?
ニダーは恐る恐る、うつ伏せているその人間の顔を覗き込んだ。
-
「…ふひ、ひ」( ∀`)
砂に埋まるべたべたの横顔から、
邪に尖る奥歯を見せつけて
"ポイズン" は嘲った。
-
------------
〜now roading〜
('A`)
HP / F >> C
strength / D
vitality / A
agility / A
MP / C
magic power / B
magic speed / C
magic registence / A
------------
-
ギュルギュルと響く機械音…。
末端のネジ一本からエンジンに至るまで。
街道を走る小型電動貨車が、土埃を舞わせながら木々をすり抜け駆けて往く。
固い土を踏みつけるたびに沈む車体。
しかし中にある運転座席や、後部荷台を思うほど揺らすことはなかった。
大陸戦争にも利用された運搬車ではあるが、その全てを廃棄されることは少ない。
むしろ堂々と現存しながら、この時代の人々の暮らしに役立てられている。
('A`)「…」
<ヽ`∀´> 「……」
広い荷台にはたった二人。
砂を払い切り、汚れの目立たなくなった服の上から、白く襟の立った上着を羽織ったニダー。
背中の太極図は一回り大きく見えるが表情は俯き、暗い。
そして乾きつつあるもののボロボロの黒い防弾衣に、炭素鋼と峨嵋刺で両腕ごと縛られたポイズン。
空を仰ぐ視線、口許は貼り付けたような薄ら笑い。
一見真逆に見える彼らに共通しているのは、濁った瞳。
-
('A`)「…なぁ?」
沈黙が支配する空間で、先に口を開いたのはポイズンだ。
当然ながら…なんとなく気まずいなどといったくだらない理由からではない。
('A`)「いい加減なにか喋れよ。 お前の名前でもなんでもいいから」
ふひひ、と洩らしながら命令口調でニダーに声をかける。
興味があるなどというくだらない理由からでもない。
<ヽ`∀´> 「…ニダー」
('A`)「よぉ〜やく喋ったか。 なにセンチしてんだか」
<ヽ`∀´> 「君には関係ないニダよ」
それだけ答えてニダーはまた俯く。
窓はなく、四隅に備えられた仄かな光源だけが、閉鎖的な荷台の二人をじっと見下ろしていた。
-
('A`)「……」
('A`)「ふひ」
ポイズンは笑う。
自分の状況にさして頓着せず、なぜ緊縛されているのかも、この電動貨車の行き先にも興味がない。
ただ直感だけ。
この後はお愉しみな出来事がきっとあると。
無為自然に過ごしていれば、いつも自分の元には愉快な奴が現れる。
自分はそういう世界にいるのだ。
この腐れた脳みそを使うのはその時で良い。
策士は策に溺れる。
臆病者は想い出に縛られる。
弱者は起きてもいないことを不安がる。
……なんと揃いも揃って馬鹿ばかり。
そんな愚かしいことは一切する理由がない。
死なばもろとも消えてゆくのだから。
── たとえ不死であろうと。
久し振りの揺れに車酔いしたわけでもないだろうが、ポイズンはどこか鬱陶しげに壁に寄り掛かると、冷えた感触がこめかみから伝えられる。
それは彼にとって思いのほか心地好かった。
( A` )「……タバコある? ひひっ」
-
<ヽ`∀´> 「…ここは火気厳禁ニダ」
( A` )「ぁーそー」
「ツマンネ」と吐き捨てるポイズンの横顔を見て、ニダーは少しだけ探りをいれた。
<ヽ`∀´> 「なんで湖の中にいたニダ?」
('A`)「君には関係ないズラよ」
<ヽ#`∀´> 「…」
('A`)「怒んなよ、ジョーダンじょーだん」
('A`)「まあ寒中水泳ってやつだ」
垂れ下がった目尻でヘラヘラとしたその調子は、何か隠しているようにも見える。
そんなポイズンを凝視して、一言──
<ヽ`∀´> 「… "長寿の法" 」
('A`)「はあ?」
<ヽ`∀´>「……いや、なんでもないニダ」
…どうやら投げ掛けた単語はかすりもしなかったらしい。
ポイズンの表情は微動だにしなかった。
その後は少しだけ雑談を試みるも、さしたる情報すら得られそうもないまま時間は過ぎていく。
<ヽ`∀´> 「……」
どうしたものかと、ニダーの思考は貨車の外へと浮かんで、そのまま消えてしまった……。
-
数日後、電動貨車から降ろされた山中のとある屋形の前。
「お帰りなさいませ、ニダー殿」
出迎えた剣士達は一様に脇差しを携え、先に歩くニダーを一瞥すると道を開ける。
葉を少なくした大木の下にはその場に不釣り合いな些か仰々しい機械類が置かれているものの、ポイズンの関心は別のところにあった。
('A`)「…サクラか」ボソッ
<ヽ`∀´> 「こっちに来るニダよ」
ニダーにそう誘われるも、二本の足をすぐには動かさない。
辺りを囲む剣士から刀の柄で背中を押され、やっと身体を揺らして歩きだした。
両腕は解放されなかった。
屋形内を回り込むように続く長廊下から見えるのは、やはり庭先に咲くサクラの花…。
天道虫が非力な羽を休めている。
<ヽ`∀´> 「サクラを知ってるニダね」
('A`)「……?」
('A`)「なんだ、そりゃあ」
今度はキョトンとした顔でニダーの顔を見返す。
ポイズンの反応の違いに対して、訝し気に首を捻りながらもニダーはそれ以上話し掛けなかった。
-
「ご苦労だったな、ニダー」
長廊下の角を曲がると、新たに続く直線の中腹で、白い髭を蓄えた背の高い老人が腕を組んでいるのが見える。
<ヽ`∀´> 「御師様、戻りました」
( `"ハ´) 「応。 収穫物は…そいつか」
('A`)「ぉ〜コイツがお前の言ってた師匠ってやつか」
(`"ハ´ ) ギロリ
── その老人。
かつてこの地域を取りまとめていたバルケン公を成敗し、その後の安寧を作り直すに貢献した一人。
<ヽ`∀´> 「ニダ……あの、御師さ ──」
( `"ハ´) 「3つ目に入れ、彼がお待ちアル。
2、1、1、1、5」
<ヽ`∀´> 「……」
言い切り顎をしゃくると、それきりシナーは無表情のまま廊下の柱に寄り掛かった。
齢にして90を超えたシナーから、孫ほどに歳の離れた弟子であるニダーの会話はそれで終わる。
…労いの言葉はない。
身を案ずる様子もない。
ポイズンを収穫物と言ってのけたことに対する、ニダーの疑問もかき消される。
眼をつむり、弟子の顔を見るまでもなく、シナーはじっとして動かない。
-
しえん
-
廊下に面した襖部屋を開け進んでいく。
('A`)「おめーバカにされてんじゃあねえか。 あ?」
<ヽ`∀´> 「……」
ニダーは応えない。
ただ無造作に襖を引き、ポイズンを先に進ませてから自分が入るという動作を繰り返す。
('A`)「…ぁ、図星だったか? ごめんなぁ、ふひひ!」
♪〜 ('A`)「弟子なんだろ、いつかは師匠なんて越えるもんだぜ」
ポイズンは流暢に言葉を続ける。
ニダーはそんな彼を相手にしない。
('A`)「少なくとも俺には師弟愛だのどーだのは感じなかったけどな」
<ヽ`∀´> 「…もうすぐ着くニダ」
('A`)「……。 ふひひ」
('A`)「…殺しちゃえよ」
-
何度も明け開いた襖の向こう…
物理法則に沿わない方角へと続く廊下の先に、垂れ幕で区切られた大部屋が鎮座する。
ニダーが「失礼します」と一声かけると、張りのない、短い返事が咳き込む音に混じって返ってきた。
(-@"∀@) 「ご苦労だったねえ」
<ヽ`∀´> 「ご気分はいかがニダ?」
(-@"∀@) 「良くは、ない」
ごっぷごっぷと、耳障りに痰の絡む濁音が広間に響く。
シワだらけの老人…アサピーはしばらくの間、喋ることもできず生理現象と争っている。
(-@"ц@) 「ぐぅ〜、ごけぇッ!」
(-@"∀@) 「…ぺっ! ……ぅー…。」
('A`)「…」
('A`)「ジジイ、うるせえぞ」
<ヽ;`∀´> 「こら! 控えるニダよ!」
(-@"∀@) 「よい…。 ングッ 私ですら同じ思いなのだからな」
若々しかった過去の姿は無く…
もはや墓の前にたつ骨と皮の残骸は、ポイズンの言葉にも動じる様子はない。
-
(-@"∀@) 「……君が、湖から引き揚げられた者か」
(-@"ц@)',: 「そうか…聞いた通り ──ゴッホ!」
(;'A`)「きったねえーなあ〜」
(-@"∀@) 「……ぐっぐっぐ…」
眼鏡の奥から鋭い眼光が射す。
隠さず咽が鳴った。
── ついに求めていたものを目の前にしたかのように。
(-@"∀@) 「ニダー、君はもう下がってよい」
<ヽ`∀´> 「…は」
(-@"∀@) 「シナー、連れていきなさい」
('A`) ハ ´) 「応」
いつのまにか、ポイズンの背後には老戦士シナーの姿。
ド
ス
ッ
!
直後、後頭部に貫く痛みが走る。
──尺半ばまで刺さった峨嵋刺。
そこでポイズンの意識はぶっつりと ──…… ..
-
-
《山人、どこや?》
(推奨BGM:A Return, Indeed... (Piano) )
http://www.youtube.com/watch?v=jPT4hh9BesE&sns=em
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----------
《山人ー!》やまひとー
《相手せいー!》
あいてせいー
……静かな森の山に響き渡るのは、まだ澄んだ…誰かを呼ぶ声。
キンキンと高い音波が山の空気と起伏に反射し、無遠慮に木霊する。
風の弱い日はいつもこうだった。
島国であるこの土地には湿気が多く、僅かな冷涼を求めて日陰に身を潜める習慣がある。
だが彼が住み着いてからというもの。
もののついでと言わんばかりに、飽きもせず彼を捜し回る遊戯が流行ってしまったらしい。
歳を取ればくだらないことも、幼な子にとってみれば新鮮で好奇心を満たす、悦ばしい日々の出来事なのだろう。
-
《山人ー!》 や
まひと
《どこじゃー?》ど
こ
じ
ゃ
彼を求め、見えぬ手は鳴り止まない。
この遊戯は男を見つけるまで続けられる。
島国には四季があり、人が万年過ごしやすい環境とはお世辞にもいえない。
変化に耐えきれず身体に異変をきたす者や、不幸に見舞われ、一年を憂鬱に思い起こさせる時季が必ずやって来ることを嘆く者も在る。
風暖かく、
しかし大陸から病を運んでくる春。
陽強く、
しかし恵みをより引き立たせる夏。
想い猛り、
しかし決して叶えることのない秋。
白雪舞う、
しかし魂を誘っては永遠をよぶ冬。
-
彼が此処に辿り着いたのは遥か遠い冬。
今でも目をつむれば、白い結晶が溶けて赤く染まるような…傷付き疲れ果てた身体を引き摺っていたことを思い出す。
その時、山の麓の童に姿を見られたのが運のつきだった。
いくら施しを拒絶しても言葉は通じず、まるで自分勝手に振る舞う年端もいかぬ童たちは、彼の面倒を見る代わりにあることをねだった。
《山人、うたうとぅてくれ》
この島国では唄に特別な想いを注ぐという。
── 悦びも、哀しみも。
── 怒りも、愉しみも。
言霊を詠んではころころと、目まぐるしく表情を取り替えていく。 それはまるでこの島の四季のようだと…根負けした彼は思った。
-
《きゃはは》ゃはは
《へたくそ!》たくそ!
《真面目にやってえ》ってえ
彼には唄の才能がなく、なんど月を見送っても、いくら陽が暮れようとも、みなの好奇心を満足させることは出来なかった。
そのたびに『もうやめだ』と彼が言っても、童たちの大合唱によって拒否を遮られる。
彼には注ぐ心がないのだと、みなが言う。
彼も否定しなかった。
注ぐものがなければ唄は吟えないのなら、きっと己れはそうなのだと。 だからもう諦めろと。
《山人げんきだせ》
差し出されたのは一粒の飴…。
"白い花" と呼ばれたそれを、男は戸惑いながらも受け取った。 だが検討違いの慰めに、
『己れは何も落ち込んじゃあいない』と否定する。
《さぁさ 山人あいてせい》てせい
-
ある日のこと、童の一人が尋ねた。
《山人はなにがすきだ?》
…好きなものなんてない。
《愉しいことすきか?》
…愉しいことなんてない。
《嬉しいことすきか?》
……嬉しいと、思ったことがない。
《怒ったりするのか?》
怒るほど誰かに期待しちゃあいない……。
《そんなの哀しくないか》
……。 そんな風に考えたこともないな。
-
彼は自分に嘘はつかなかった。
長い月日のなか他人を欺くのは、正体を隠し、退屈を紛らわせるためだったが、自分自身を偽ったところでなんの意味もない。
無駄なことは好きだが、無意味なことには無関心。 そうやって長い間、気の遠くなるほど間延びした命を淡々と享受した。
この島国に来た理由を忘却し、ひたすらに生きる無意味さを、退屈しのぎによってまた忘却する……。
いつしか彼はその存在意義をも深淵に沈ませ、宙ぶらりと世界を漂うようになってしまった。
長い時間を生き過ぎた。 人が人としてもつべき心は…もう渇き切ったのではないか。
風が吹けばカサカサと崩れてしまう。
水を与えても吸い込む前にむせて吐き出してしまう。
土に還したくても周りと交ざり合うことが出来ない。
ならばいっそのこと燃やしてしまえばいい。
いたずらに摩擦を起こし、生命が命足るに必要不可欠な酸素という名の魂の血路を奪い、時には彼自身も火種の泥を被ってゆく。
-
《山人おるかー》るかー
《山人うたつくってきたぞぅ》ぞぅ
……今日もまた、山のなかに。 麓に住む童たちが彼を捜し回る声がする。
《山人もこれならうたえるな》
《山人はてがかかるな》
不死でも腹は減る。 男はやはり退屈しのぎに頭を割った獣のにくをたべながら、遠くて近いその音に、ただ静かに聞き耳をたてた…。
《山人みぃつけたー》
つけたー
-
-
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《ヒタ… ヒタ…》
('A`)「…」
《ヒタ… ヒタ…》
ポイズンが目覚めると途端に、すえた匂いが湿り気を帯びて鼻をつく。
体機能が動き始め、ただでさえ細い瞼を更に薄めて開いた。
《ヒタ… ヒタ…》
── 四角い部屋だった。
暗く、飾り気どころか生活感もない…いや、目が慣れてくると、そこはむしろ人がおおよそ生活出来ないような空間であることが分かってくる。
《ヒタ… ヒタ…》
冷えた人工石の感触が背中一面に広がる。
窓は一つもなく、天井は低い。
真っ暗闇にならないのはいたるところに生えた苔のおかげか……だが、それも淡く弱々しい。
どこからか水の滴る音がすると、悪ふざけのように幾度となく反響した。
耳の奥から脳に向けて潜り込んでくる不快感が、ますます時間隔を狂わせる。
《ヒタ… ヒタ…》
-
('A`)「…チッ」
《ヒタ… ヒタ…》
身を起こそうとしたが動かない。
両腕両足に枷が嵌められ、床の蝶番へとリングによって繋がれている。
《ヒタ… ヒタ…》
('A`)
《ヒタ… ヒタ…》
('A`)「…」
《ヒタ… ヒタ…》
ポイズンは聴覚を研ぎ澄ませた。
……しかし水滴の反響によって邪魔されるのか、部屋の外の音を拾うことができない。
床に耳をつけても地響きすらない。
…その違和感。
《ヒタ… ヒタ…》
('A`)「…臭ぇなあ」
ポイズンは耳がいい。
自分に聴こえないならば、ここはどこか離れた場所にあるのだろうと推測する。
たとえば…
上下階層もなく、左右区域もないような。
生物の通る空洞も、川や水の通る道すらも ──
('A`)「水」
-
はたと違和感の正体を掴み掛ける。
建築物は必ず大地からはじまり各々を接触させている。
地下室であろうと屋上であろうと。
土から台が立ち、台は骨を組み、骨は肉をつけ、肉は皮を纏う。
そのいずれにも音は波長振動として伝わるものだ…伝わる面が大きければ大きいほど
防音対策による間接材や壁の厚みは、集中するポイズンの聴覚には意味をなさない。
('A`)「……なんで水が滴ってんだ?」
さながら雲から放たれる孤独の雨粒のようだった。
空に見放され、辿り着く先で瞬く間にその存在を消していくように。
ぶつ切りの訪れと終わりに、ポイズンの勘はよく働いた。
-
跡絶える部屋の音…
2、1、1、1、5…
突如出現したシナー…
('A`)「…」
理屈は必要ない。 結果だけで充分だ。
ここは "空間が切り離される" ──。
数字は恐らくあの襖を開けた順番だろう。
その分け断たれた空間にもやがて来訪者がやってくる。
ギギイイと重苦しい錆音の隙間から、明るい空気と光源が入り込んだ。
ポイズンの片眼が反射的に閉じられる。
残り開く眼には…膝下まで隠す長いコート。
( <●><●>) 「……お目覚めですか?」
('A`)「てめーか」
あの時、偽りの湖へと共に沈んだ土塊。
後光射す佇まい…その身影から浮き上がる眼闇は、もともと特徴深かった黒を一層濃くしている気がする。
なによりも…纏う魔導力が土塊らしくない。
研究場でポイズンが身に付けた、本物のワカッテマスと同等同質か ──それ以上に感じられた。
-
('A`)「なんでここにいるんだあ?」
( <●><●>) 「…」
無言。
出入り口はいつのまにか閉められていた。
小さな段差を歩く時も、こちらに向かってくる時も、滑るようにワカッテマスは移動する。
コートの裾から見える硬そうなロングノーズブーツさえ無音を奏でた。
その不気味さが…かつて土塊だったワカッテマスの変化を薄々ながら明瞭に、ポイズンの勘を刺激する。
( <●><●>) 「……偽りの湖ではお世話になりました」
('A`)「…」
( <●><●>) 「水の都は貴方……ではないことはわかってます。
ですから不問としますよ」
('A`)「……都??」
( <●><●>) 「憶えていませんか?」
( <▲><●>) 「…貴方のそれ… "虫喰い" ですね」
-
('A`)
('A`)「…ぁ……?」
ポイズンにしては珍しく、演技でなく言い淀んだ。
( <▲><●>) 「…フフ」
なぜ目の前で自分を見下ろすワカッテマスが、それを知っているのか? ……と。
ポイズンは死ぬと記憶が途切れる。
途切れ方は様々であり、直前のことは憶えていても、それ以前のことを穴が開くように忘れる状態を彼は "虫喰い" と呼んだ。
だが誰かに教えるようなことは有り得ない。 そこに記憶の有無はまったく関係ない。
そもそもポイズンの中でしか定義付けしていないのだから。
( <●><●>) 「まあいいでしょう。
さっそく、戴きますよ」
('A`)「? 何を《ズ
ボ ッ !》
言葉を待たず、ワカッテマスの腕が振るわれる。
…素早い動きだった。
ポイズンが不意に銃斧を構え、トリガーを弾くのと同じくらいに。
(; 'A`)、"; 「── がはっ!!」
-
喉から込み上げてきた衝動に打ち克てず、天井に向けて血液をぶちまける。
…ポイズンが思うよりその量は多く、だが考えていたよりは飛ばなかったらしい。
痛みは耳鳴りを鷲掴んで遅れてやってきた。
О" ( <●><●>)
щ 「……まず一つ」
手鞠のように弄ぶのは優越感か。
ワカッテマスの手の中には小さく紅い臓器。
病的に痩せた指の一本一本から、研いだナイフのような鋭利な爪が主張している。
( <●><●>) 「…二つめ」
ポイズンがなにかを言う前に、次の手が皮膚を貫いて、先と似た大きさの内蔵を引き千切った。
耳の奥でブチブA ゚)
(。Aチ
ブ
チィッ ──と、
視界明滅暗転不協和音
ハ シ ヲ成ス。
-
( <●><●>) 「私はね。 これまで私が受けた仕打ちをどうしてももっと多くの人間に返さなくてはならないのです」
( <▲><●>) 「……そのためならば、今までのことはお互い水に流そうではありませんか」
( <▲><●>) 「この臓器から、私がもっと素直な貴方を創って差し上げます。
気に入らなければそれこそ何体でもね」
( <▲><●>) 「貴方はずっとここに居れば良いのです。
そして…時々は他の貴方が何をしているのかくらいは観せてあげますよ」
( <▲><●>) 「……聞いていますか?」
( A )
── ポイズンからの返事はない。
穴を開けた腹部から、止まず溢れる紅血が床を染めていくのみ…。
だらしなく開けた口の動きから、辛うじて息はあるらしいことがわかる。
( <●><●>) 「ふむ。
では、もう一つくらい……」
(;<●><▼>) 「── グッ?!」
-
言いかけて ──ワカッテマスは表情を変えると、足早にポイズンから距離をとった。
閉まりゆく扉の狭間に消えていくのは【キール】という言葉、赤黒い魔導力が彼に浸透していく音、そして
ブスブス…
…気泡とも呼べない散乱体が弾ける音。
周囲の景色が変質し始めた。
苔ブスブス…が灼ける。
腕や脚を拘束する枷がみるみる錆びていく。
その場に残されたポイズンのブスブス…身体から発される猛毒のせいだった。
無味無臭…密室に充満する天然の害毒が、瀕死の身体を奮起させるよう暴散する。
ブスブス…
沈んでいく身体が、床すらも腐食させ溶かしていることを示す。
ブスブス…
( A )ブスブス…
ブスブス…一度飛び散った毒……
その行き先は、
( A`)
ブスブス…
発生源に取り込まれ、その傷を癒した。
----------
-
《パタン》
<ヽ`∀´> 「…ワカ殿、どうしたニダ?
顔色があまりよく ──」
( ∩ <●>;) ))
「……ご心配なく。 なんでも、ありません」
<ヽ`∀´> 「お…」
屋形の内廊下ですれ違い、そのまま離れてゆく。
急ぎ足で走り去っていくワカッテマスを見送りながらも、ニダーは廊下を曲がって行き止まり…
その先の唯一ある扉へと足を踏み入れた。
ギイィ <ヽ`∀´>つ|
入口すぐの小さな段差は上がり框。
天井からぶら下がる垂れ紐を引くと、かちかち点滅した後ではあるが、頼りがいのある橙の明かりが隅々まで照らした。
なんともなし、ぐるりと視界を泳がせる。
そこは壁一面に画かれた太極図や人体図、古今の東方武具の尺図、妖怪絵馬の写しなどがひしめいている。
元はといえばバルケン時代、身内で茶会を行うために用意された広間だった。
アサピーの代には豪華な家財や壁紙を取り外し、いつしか戦術研究室となり、いまや風水師の彼らだけが使っている。
ニダーは慣れた動作で、今度は壁紐を引っ張ると換気扇が回り始めた。
片隅にまとめてある掃除用具から箒と塵取りを手にして、若き風水師は雑務に励む。
確実なる違和感を残したまま…。
-
ワカッテマスが同じ屋形内で過ごすようになってから5年…。
ニダーを取り巻く環境はいつの間にか、大なり小なり居心地の悪さを拭えない。
<ヽ`∀´> 「……」ザッザッ
師であるシナーは
老いを感じさせないほどに肉体的…とりわけ生殖機能に衰えを見せない好色だ。
平均寿命の長い東方出身者としても逸脱した現役の戦士であり、見た目もせいぜい還暦ほどにしか見えない。
屋形に住まう下女を手籠めにし、孕ませたことも数多くあったという。
ニダーは彼の十数人目の息子であり──嫡子でもある。
兄弟はみな先に死んだ。
<ヽ`∀´> 「…」ザッザッ
アサピーは年老いてなお先見の明を持ち、領地をこれまで公平無私に治めてきた。
…そう聞いている。
だが近年はどうだろうか?
修行の一環で立ち寄った村では、奉公人を寄越せとの通達に脅迫めいたものを感じることがあるのだ、と…
困り果てた村長に秘の相談を持ちかけられたこともある。
<ヽ`∀´> …ザッ…
<ヽ`∀´>
…この部屋には誰も立ち寄った形跡がない。
ニダーは掃除を終えて部屋を出る。
ガチャリと錠の落ちる音を背中に受け、部屋をあとにした。
塵取りにしまった埃からも明らかだが…なにより。
先のワカッテマスは、
どこから出てきたのだろう。
-
( `"ハ´) 「…」
イ从゚ ー゚ノi、 「…」
夜の帳は下り、屋形の内にて各々は食事をとる。
膳に乗せられた品数は多い。
主に山菜や川魚を素材とし、いずれも煮る、焼く、漬けるなど簡素な調理を施されたものばかりだ。
だが決して質素ではない。
<ヽ`∀´> 「遅くなりました」
( `"ハ´) 「構わん。 座るアル」
遅れて現れた弟子に、シナーが文句一つ言うことはなかった。
彼が求めるのは栄養摂取という目的の達成であり、必要な人間が揃った場で食を召すという習慣の順守である。
ニダーは師を正面とする下座に着くと一礼し、食事を用意してくれた奉公人…きつねにも謝意を示す。
シナーが料理に箸を付けてから、彼も続いて汁物に手を伸ばした。
イ从゚ ー゚ノi、 「…」
きつねはそれに加わらない。
ただ部屋の隅で用を言い渡されるのを、頭を垂れ、指先を揃えて待つ。
着物越しに覗く圧し饅頭のような谷間が、裸樹のように枯れた室内に薄紅花を添える。
-
( `"ハ´) 「客人はいつも通りアサピーのところか?」
イ从゚ ー゚ノi、 「そう存じております」
( `"ハ´) 「他に収穫物はなかったのか?」
<ヽ`∀´> 「……あれ一つニダ」
ニダーは答えながら、右手の人さし指と中指を交差させるように立てる。
( `"ハ´) 「そうだったな、すでに聞いたんだったか」
白湯を啜り、白身魚の骨ごと箸で切り口に運ぶ。
程好くホロホロと煮込まれたおかげで口の中を傷付けることもない。
<ヽ`∀´> 「御師……」
( `"ハ´) 「ご苦労だったな、ニダー。
お前は私の誇りだ」
( `"ハ´) 「……アサピーもワカッテマスも喜んだだろう」
<ヽ`∀´> 「…ありがとうございます」
( `"ハ´) 「なにか言いたそうだな?」
-
ニダーに向けて発されるのは、シナーからの明確な不快感。
── 俺のやることに何か間違いがあるか?
眼でそう言い、
シナーもまた人さし指と中指を交差させる。
( `"ハ´) 「しばらくはお前にもやらせることはない。
大人しく屋形のなかで風水の腕を磨け」
( `"ハ´) 「また新しい発見があれば見てやろう。
俺もまだまだ現役アルよ」
人さし指をトントンッとこめかみに当てながら、シナーはニヤリと笑う。
それは彼がニダーの稽古をつけている時にもよく見せる顔だ。
( `"ハ´) 「俺はこのあとアサピーのところに往くが…
おい、きつね」
イ从゚ ー゚ノi、 「はい」
( `"ハ´) 「お前はニダーの世話をしろ」
イ从゚ ー゚ノi、 「わかりました」
きつねは顔を上げぬまま、より深く辞儀。
奉公人は世話をするのが大前提だ。
あえて言葉にされるということは、奉公人にとっての『世話』とは一つの意味しかない。
( `"ハ´) 「今日の食事は終わりだ」
-
----------
(-@"∀@)" ガツガツっ ガツガツっ
( <●><●>) 「…お味はいかがでしょう?」
(-@"∀@) 「んぁ〜?
…不味いに決まって、っっ」
(-@"ц@).'; 「── ごっふ!」
( <●><●>) 「ですが我慢しなくては。
こぼした分はともかく…」
アサピーの私室…となった場所。
かつてここで命を落としたバルケン公が、主に使用していた広間である。
あの頃のバルケンより更に歳を召した息子は、偽りの湖の話が耳に届くたび、日々ある思いを強くしていた。
(-@"д@)、「ぜぇ〜… ぐフッグフッ! ぜぇ〜… 」
(; -@"∀@) 「………わか、てる」
( <▲><▲>) 「もっと味わってください?
……待ちわびた食材なのですから」
-
(; -@" ム@) ムングムング…
次の一口は吐き出さなかった。
一切調理されずに剥き身で差し出された "それ" は、冷めやらぬ血と粘膜でベタついており、老いた彼にとって飲み込むことも困難…。
ブチッ
ある程度まではナイフで切断したものの、
『手を加えるほどに鮮度と効果が薄れてしまう』というワカッテマスの言葉に取り憑かれた。
ブチッ
だから…噛み砕くしかない。
ブチッ
( <●><●>) 「…さすがは名君としてこの地域を治めているアサピー殿。
やると決めたらやり遂げる気概を感じます」
( <▲><●>) 「長生きするべきです、アナタは」
(; -@" ム@) ムングムング…
…ブチッ
-
グチュ
ニッチャ…
ング
ア モッ
-
ワカッテマスはそんなアサピーを見つめながら、白く細い手で口許を覆う。
指先が隠すのは吐き気ではない。
…嘲笑み。
-
∠ ▲ ゝ < ▲ ゝ
-
ニダーがポイズンを助けたのと同じく、
数年前シナーに引き揚げられたのがワカッテマスだった。
土塊である彼が時を経て風滅せず、今日まで生きているのは湖の力が関係している。
(-@"Д@) 「──ガハッ! けへっ、ぺっ」
( <●><●>) 「……まだお訊きしていませんでしたね。
なぜそうまでして貴方は、命永らえようというのですか?」
(-@"∀@) 「…はぁ、ングッ ──…ぷは」
(-@"∀@) 「…」
( <●><●>) 「いえ、失言でしたか。
私なぞ一介の調査員に過ぎません…聞き流して頂いても」
ワカッテマスの被る仮面はとある亡国の研究家。
穢れの解呪を試みたシナーをも欺き、湖から得た記憶によってそれを為す。
(-@"∀@) 「ただ純粋に、もっと生きたい…ではいけぬか?」
-
バルケンの支配がアサピーの統括へと替わってから70年…
領地内の生活水準は飛躍的に向上した。
なにも税を抑えるといったような短絡的な政りを行ったわけではない。
バルケンが肥やしたものを返還した後、領民がこれまで通り納める年貢に見合う報酬を適切に払ったに過ぎない。
アサピーの元に残る財産は必要最低限。
だが彼にとってはそれでも良かった。
いたずらに発展を求めなくとも、人は生きていけるのだ。
土地の整備にかかる範囲や費用すらも、彼は独断でなく必ず人々に相談することで反発を抑えた。
民主主義は密告を防ぎ、個人の責任を霧のなかに隠す。
なにより日常の振る舞いが、横暴な老バルケン公に比べ寛容で庶民的だった。
人々は彼の統治を喜んだ。
──近年までは。
(-@"∀@) 「怖いのだよ。
それを、誰かに任せてしまえば…また……」
( <●><●>) 「…」
そうして名君による統括は過去の話となりつつある。
とどのつまり彼は実権を握り続けたいのだ…と、生まれ変わったワカッテマスは思っている。
-
(-@"∀∩) 「……いや、私は何を言っているのか。
ほっほっ、忘れてくれ」
( <●><●>) 「私には政り事のことなど計り知れませんのでご安心を。
愚痴くらいならば聞けますがね」
( <●><●>) 「……ところで御老公、折り入って頼みが」
ワカッテマスの表情は変わらない。
── というよりも、今のアサピーにはそれが見破れない。
(-@"∀@) 「……またか?」
( <●><●>) 「どうしても人手が必要でありまして。
もしお借りできるなら、また新たな食事も献上できます」
(-@"∀@) 「…」
( <●><●>) 「作業は引き続いて山中に潜む "害虫駆除" と、私の研究所への輸送のみをお願いするつもりです」
その言葉に嘘はなかった。
だが、作業に充てられた人々は、その日を境に当たり前の日常を過ごせなくなることが確定するだろう。
-
──"害虫" 。
その言葉に、
アサピーとワカッテマスが捉えるものは
大きく異なっていることを
誰が知るだろうか……。
-
------------
〜now roading〜
( `"ハ´)
HP / D
strength / C
vitality / C
agility / C
MP / G
magic power / D
magic speed / C
magic registence / C
------------
-
《山人、どこや?》
今日もまた童達が山を登る。
唄の吟えない男のために、切り倒された樹の合間を縫うように、よたよた、よろよろ、歩き続ける。
しかし、その日はどうやら勝手が違う。
野が燃え丘が燻る中に放り出されている。 童の顔は酷く強張り黒ずんで……声は枯れていた。
-
《なあ山人ー》山人ー
《助けてくれぇ》くれぇ
がらがらと割れる音は、辺りを包む轟炎のせいだろうか。
……自分が思うように出せない悲鳴。
蕾にも似た唇には無数の線がはしり、ひとたび綴じれば独自の意思をもつかのように吸い付いて離れない。
潰された咽はまるで老婆のように、その童の姿がなければ、棄てられた姥が生涯最後の助けを呼ぶ声と思われても致し方ない。
熱波が山全体を囲う。 村に燃え移るのも時間の問題だった。
《山人、たのむ》のむ
-
当の男といえば…唯々座り込んでいる。
まだ生きた切り株の上で胡座をかき、斧を担いでいるだけ。 銃の引き金を弄ぶだけ。
『ここまで来れたらな』…大きな影の元、無理難題を呟く。
上を向けば黒き太陽の腹がよく見えた。
《おとうがしんだ》しんだ
《おかあもおらん》おらん
はぐれ童ら。 逃げた先で何を想う?
すがるもの亡き弱者の嘆きは必ずしも叶わない。
《山人ー、はよ逃げよ》
幼子よ…。 何を以て其れにすがる?
…塞がっていなければ、両の腕が男の耳を潰したやも知れぬ。
-
いつか見た夢は落日。
いま或る現もどうせ落日であろう。
ならば……まなこの先に映る幻はどうだ。
息をきらせるまだ小さな楼閣。
《山人おった》
── とんだ愚図に懐かれたものだと嘆息して止まない。
ここに童達の未來なぞ在りはしないのに、ついぞこんな山奥まで…嗚呼、草鞋もどこへやったのか。
齬 呀 嗚 嗚 嗚 嗚……
虫が獣の真似事をするな。
騒がずとも聴こえるとも。 聴こえるとも。
大きな虫は唾をはき、液にまみれた童の輪郭をむなしくも塗り替えてしまった。
童影は虚闇となり、音にならぬ咆哮を真似て叫び始める。
かつての童。
四つん這いのそれはもはや人に非ず。
-
なるべくして成った現実は、男の感傷を雀の涙ほどももたらさない。
だのに何故こうもがたがたと腕が揺れるのか、と…ふと思いはしたが、それは男の思い違いであった。
尖兵と化した蟻童に向ける銃は、曇りなく真っ直ぐと伸びている。
《 !》
発砲音は無い……、男には聴こえなかった。
引き金を弾いたその瞬間だけ、切り取られた世界のなかで時間が進んだ。
引き金を弾く、引き金を弾く、引き金を……
切り取り線が元に戻されると、どこに潜んでいたのか烏がばさっばさっと数羽…焔の海から仄暗い天空へと放たれる。
かつて童であったものたちは動きを止め、最後の最後までなにかを囁いた。
《 》
-
『…── そうか』
男は童と過ごした時のなかで初めて笑った。
だが、その笑みを見せる相手はもういない。 …居ればこう洩らしただろう。
《山人、愉しそう》愉しそう
引き金は軽かった。 道連れた命も軽かった。 足手纏いがいなくなって我が身も軽くなった。
童の遺言はたしかにこの耳に届く。
男の心も、幾分軽くなったものだ。
『さあ、これで思う存分
あの化け物と闘える』
そして、また笑う。
-
-
(-A`)「……んぁ?」
うたた寝していたポイズンが目を覚ますと。
( <●><●>)('A` ; )「うおっ」
──視界一杯。
瞳孔を大きく開き、不死を弄ぶ不気味な呪術師と目が合った。
ゆっくりその身を離され気付いたことだが、その手のなかに白く、黄ばんだ棒切れを握っている。
('A`)「なんだそら?」
( <●><●>) 「…」
軽い調子で声をかけはしたが返事は沈黙…。
ワカッテマスの腕が血で濡れていることを確認し、自身の身体を見やれば胸部に穴が開いていた。
今日の傷は腕を無理矢理捩じ込んだような跡…。
('A`)「…あぁ〜」
幾日も続いたこの確認作業に、ポイズンは飽き始めている。
どうやら睡眠中も臓器を抜き取る拷問もどきは続けられていたが、もはや夢からの覚醒に至らなくなったらしい。
( <●><●>) 「…貴方、痛覚が無くなってしまったのですか?」
('A`)「さあてねえ? ひひひ」
( <▼><●>) 「…」
('A`)「…ズイブンと表情豊かになったじゃねえか」
-
この余裕はどこから来るのか…互いの立場が交代しつつある。
負傷しその都度、毒素を撒き散らしていたはずのポイズンは、今やその素振りすら見せない。
拡げた傷口からじくじくと血が滴る。
なのに痛みも訴えず眠りこけた。
不死の肩書きに偽りなき、生きたオブジェ。
('A`)「それ俺の肋骨だろ? 意外となげえんだなぁ」
( <●><●>) 「……これで私が何をしてるのか…知りたくはありませんか?」
('A`)「いやー全然」
他人に興味はない。
( <●><●>) 「……そうですか」
( <●><●>) 「残念です。
そろそろ私もここから御暇させて頂こうかと思っていたので、土産話にでも…と考えたのですがね」
-
呪術師の第一目的はすでに達成されている。
ワカッテマスがここに残っていたのは当初その精度を上げるためであり、
ポイズンが現れたことで発生した第二の目的は所詮 ″ついで″ だ。
('A`)「俺がすんなり逃がすと思うか?」
( <●><●>) 「思う思わないでなく、
逃 げ ま す 。
私は貴方と争うために生を受けたわけではない」
('A`)「ふひひ。 まっ、そりゃそ〜〜だ」
ポイズンはふらりと立ち上がり、凝り固まった間接各所を意識して可動させる。
…枷などとうに外していた。
錆び切って崩壊した残骸は、ぼろりと砂になり、床に散った。
ポイズンの毒が、鉄も、魔導リングすらも腐蝕させる程に効果を増している。
その事実にワカッテマスが気付いていたのかはわからない。
しかしその反応は却々に早い。
呪術師はすでに跳び退いていた。
('A`)「逃がさねえよ…ひ、ひひ」
あっという間に出入り口の扉を締めた呪術師の後を、ポイズンはゆったりと追い詰める。
慌てることはない。
いずれは追い付く。
-
----------
── アサピーの広間。
寝酒を誘う老師が、老公人の横で片膝を立てながら升酒を揺らす。
喉をならすのは彼一人。
(-@"∀@) 「…気分は優れてはいるんだがね…。
飲み交わすにはまだ辛いよ」
( `"ハ´) 「気にするな」
日課…とまではいかずとも。
シナーがこうしてアサピーの元でじっと酒を飲むのは、幾度となく繰り返されてきた習慣だった。
バルケン公の没日から数十年……
人生の大半を二人は常に、共に歩んだ。
アサピーは常に村々を想い領地を治め、
シナーは彼を手助けて報酬を得る。
世間の評判は他の領地に比べ、すこぶる良いものだったといえる。
人々は強く騙し合うこともなく、
大きな反乱も起こさず、
比較的穏やかな日々を享受しながら…
こうしている今も順調に、歴史は世代を引き継ごうとしている。
そんな文字通りの平和を作り上げたのは他ならぬ、アサピーの無利無欲、理想思想。
そしてシナーの頑固な自制心と行動力が合わさったことによる、たゆまぬ努力の結果といえよう。
-
( `"ハ´) 「…」
(-@"∀@) 「お互い歳はとったけど…君は恐ろしく若々しいな」
(-@"∀@) 「……羨ましいよ」
うつむき加減なシナーの顔を、アサピーは遠くを見るかのような表情で迎え入れる。
だからこの行為には気付いていない。
眼球を動かさず、しかし鍛えられたシナーの視野は、抜け目なく部屋の四隅を観察していた。
( `"ハ´) 「身体なぞ、努力と鍛練で手に入れるものアルよ」
シナーが捉えるのは、天井端に4巣構える鳥の棲みか。
自然界には有り得ない…すべてが同じ形をしている。
(-@"∀@) 「相変わらずだねえ」
(-@"ц@)."∴ 「けほっ! けほっ!」
_,
(-@"∀@) 「……私は、いまになって父の気持ちがわかる気がする」
アサピーの日常において、奉公人が傍らに立つことを昔から許さなかった。
出来ることは自分でやる、というのが彼の方策であり、人手が必要なとき以外、奉公人を呼びつけることはなかった。
どんな雑用も自分で済ませたかった。
老バルケンとは違うのだ、と。
-
( `"ハ´) 「お前は今まで必死にこの領地を守ってきた。
バルケンのジジイの代わりとなり、自分の価値よりも、限りなく大勢の価値を守ってきた」
シナーは升に口づけて、一呼吸置く。
( `"ハ´) 「俺には到底無理なことアル」
(-@"∀@) 「…単なる結果じゃあないか」
その大勢とやらに入れなかった者を、あえて見て見ぬふりをしてきたこともある。
外枠の上に立ち、治める立場となって、アサピーがはじめて分かったこと…。
それは善悪が個に依存する以上、
誰の目にも明かな平和や公平などというものは、存在しなかったということだ。
(-@"∀@) 「過程があって、今がある」
( `ハ´) 「もちろんそうだ」
飢えが発生しないよう
食料を貯蔵する倉を造らせた。
……盗みを働くものがいた。
賊に襲われても身を守れるよう
警隊を組み、すべての村に派遣した。
……その警隊が略奪を起こした。
意見、希望が聞けるよう
村々で定例の進言会を開催させた。
……やがて誰もが真意を隠しだす。
(-@"∀@) 「私だけが多くを望んでも。
私だけがいくら手を差しのべても。
……それを受けとる人が居なければならなかったんだ…」
-
若かりし頃であれば貫けた信念。
だが満ち満ちた身体に、誰しもいずれ来たる不自由という名の枷が嵌められるたび、心は弱くなっていく。
( `"ハ´) 「俺ならそんなくだらん輩なんぞ放っておくがね」
(-@"∀@) 「父を…バルケンを討った時点で決めていたんだよ。
私は彼のようにはなるまいと」
(-@"∀@) 「なのに……」
白無垢の心と触れ合っているつもりが、なにかを成し遂げんとする己の色が交ざっていく感触…。
それは意図せぬ染色を引き起こす。
従うのは楽なものだ。
誰かの創り歩いた道をついていけば良い。
…アサピーが、バルケンの後釜を継いだ頃のように。
(-@"∀@) 「いまの僕は…、どうなった」
……名君の最後が得てして悲哀に見舞われるのは、自らの道を創り出す過程において、常に孤独という闇に立たされるからだろうか。
( `"ハ´) 「背負いすぎアル、お前は」
たとえサラリーが目的だったとしても、
隣には長年の相棒…片腕として寄り添う者が在っただけでも、バルケンとは違う。
── だが、それだけだ。
-
やはり己も独裁者の一人だった。
( -@"∀ )
人の行動には必ず伴ってしまうその概念が、
年月の果てに淀みない魂すらも蝕む。
善悪とは形のない毒のようなものだ。
彼の価値は、理性という殻を溶かし、確実に変質してしまった。
人が生きる以上、
時の流れから避けることはできない。
( `ハ´) 「アサピーよ」
(-@″∀@) 「……わかっているさ」
_,
(-@″∀@) 「だがそれでも」
( `ハ´) 「もうワカッテマスに協力するのはやめろ」
使いもしない奉公人を集い、ワカッテマスの元に出した。
その後、人々がどうなったのかは分からない。
……アサピーは、分からないままなのだ。
「私は生きるよ、シナー」
-
----------
<ヽ`∀´> 「ワカッテマス殿がどこにいるか知らないニダか?」
「某が見たのは三日ほど前ですが…」
「お出掛けになって以降は、まだ戻られていないかと」
残り僅かなサクラ咲く玄関口でのやり取り。
見張りの剣士から帰ってきた答えは肩透かしたものだった。
客人として迎えられたワカッテマス。
住み着いてからずっと、屋形から離れることなく過ごしていた。
とはいえ、シナーの張った無限回廊によって、屋形内ですれ違うことは滅多にない。
だがアサピーに聞いても、奉公人に聞き回っても、ようとして所在が知れない…。
こうして見張りから聞いたのが最後となった。
<ヽ`∀´> 「…分かったニダ…ありがとう」
ざわめく心中。
── これほど早いとは予想外だった。
-
ニダーは踵を返して屋形に入ろうとして…
踏みとどまり、サクラの下に置かれている機械[ホークアイ]の基のパネルをタッチする。
キュイィ ──と、雀の鳴くような起動音に伴い、画面が映し出された。
分割される屋形内の映像は、すべてホークアイからの視点。
アサピーの広間にある
あの鳥の巣も[ホークアイ]だ。
紫色に光るワカッテマスの監視装置は時を経て進化していく。
<ヽ□∀□> カチ… カチ…
…映し出される限り、
やはりどこにもワカッテマスの姿はない。
廊下にはまばらながら奉公人が通る。
無限回廊は解除されているため、開けっ広げの襖の間が覗かれた。
アサピーはシナーと二人、自室で向かい合って座って待っているようだ…。
部屋四隅のホークアイから監視の眼が ──
<ヽ□∀□> 「…四隅すべて?」
── あるのはおかしい。
<ヽ`∀´> 「これを最後に触ったのは誰ニダ?!」
その半数は、ワカッテマスが居なくなったその日、シナーが潰しているのだから。
-
「恐らくは拙者ですが…」
はて何を、といった表情で、見張りの剣士はニダーを見返してくる。
その佇まいはいつもと変わり無く思えた。
──それがおかしいのだ。
何故、"彼らはそれを報告しなかった" ?
何故、″客人の外出を伝えない" のか。
<ヽ;`∀´> 「ここ数日でモニターに変わったことは?」
「私がみる限りでは。
引き継ぎもおなじく、いつも通り異常はありませんので」
<ヽ;`∀´> 「……分かった、…」
項垂れるニダー。
釣られるように、二人の剣士も項垂れた。
── その身を縛る炭素鋼の反動のせいで。
「ぐおっ」
「?! ニダー殿、なにを」
<;`∀´> 「きつね! 御師に伝えるニダ!
〈後手〉と!」
《かしこまりマシタ》
呼び声に応え、どこからか若い声がする。
しかし同じ名前の奉公人よりも幾分低く。
-
( `"ハ´) 「!」
イ从゚ ー゚ノi、 「シナー様。 ニダー様よりお伝えに」
( `"ハ´) 「…〈後手〉か?」
イ从゚ ー゚ノi、 「ハイ」
( `"ハ´) 「応。 お前は残るホークアイを潰せ。
…アサピーに接する必要はない」
シナーの判断と指示は早い。
次の瞬間には姿を消すきつね。
屋形の外では剣士達のどよめきがあがり、
屋形の内では奉公人達のざわめきが蔓延っている…。
( `"ハ´) 「…棄てたか、既に拾った後か」
彼のなかに迷いはない。
だが後悔はある。
シナーの目線はいつしか固定されたまま、じっと正面を見据えていた。
-
(-@"∀@) 「…」
自室となる広間で、もはや人の道を踏み外してしまった老人。
…誰にそう教えられたわけではないが、シナーには半ば判ってしまっている。
( `″ハ´) 「あの日、金にもならぬお前の慈悲を素直に聞くべきではなかった…」
( `″ハ´) 「…あんな得たいの知れぬ者を掬い上げるべきではなかったのだ」
(-@″∀@) 「…」
( `″ハ´) 「その瓶底眼鏡を外せ」
(-@″∀@) 「私をどうするのだ?」
( `″ハ´) 「外せ」
(-@″∀@)
(つ-@∀@)スッ…
-
トレードマークであった眼鏡を外し ──
( ;`″ハ´) 「…………、 やはりそうか」
その奥に潜む眼睛。
そして流れ消えていく紅い泪を露にする。
こうして裸眼に見つめられるだけで、どこか頭がクラクラしてくるのは何らかの違和か、ただの思い過ごしか。
( ;∩ハ´) 「故郷に残る文献で読んだことがあった。
数百年もの昔から、この世界の人間に宿る禁忌を犯したものに表れると……」
よもや己の代にその片鱗を…
ましてや友にその片影を見てしまうとは。
( ;`″ハ´) 「……そこまでしてお前は」
( ↑″∀↑)
(#`″ハ´) 「踏み込んだか、アサピー!」
-
------------
〜no road***〜
( ↑"∀↑)
HP / #D
streeenth ゝ ∩
viτality / E
agilit〆 / D
〓P / C
-agic ¢oMer / D
ma--c speed , D
wa\ic regisбЭnce ! ゐ
(推奨BGM:DarkSaint)
ttp://www.youtube.com/watch?v=wUNNGv5oELM&sns=em
------------
-
<ヽ`∀´> 「御師! 後はウリ達だけ ──
<ヽ;゚∀゚> ── にだぁ?!」
ワカッテマスの手が掛かっていそうな全員を縛りつけ、駆け付けたニダーが見たものは…。
( `"ハ´) ( ↑∀"↑)
<ヽ;`∀´> 「あれは…」
服装も、髪型も、座り方も…
紛れもなく彼が知るアサピー公。
── だが顔つきだけは別人。
( ↑"∀↑)「……ニダー、お前も」
( ↑"∀↑)「お前も私を責めに来たのか?」
<ヽ;`∀´> 「…なに……?」
若き風水師がここに来たのは
長く不審でありながら目的が不透明だった、ワカッテマスの失踪…その始末をどうするのか。
師であり父であるシナーの指示を仰ぐためだ。
アサピーの、このような異変など考えもしなかった。
( ↑"∀↑) 「お前も私が生きることに反対か?」
-
戸惑うニダーにしびれを切らしたか、アサピーの存在が変容し始める。
空
邪 熱
殺 妖
瘴 豪
怒
放たれるそれらは総てが "気" だ。
"氣"" に敏感な風水師の二人の肌を灼きしだかんと、今はまだ弛く波を打つ。
( `"ハ´) 「お前…」
( ↑"∀↑)「君が悪いんだよ、シナー。
君が私を…私を見限ろうとするから」
( `"ハ´) 「ワカッテマスに何をされた?」
アサピーの膝が伸びる。
曲がっていた背筋も。
心なしか、口から大きく吐き出した息は灰色のモヤがかかる。
…シナーが問い質す前とはうって代わり、
弱々しく見えた老人は何一つ恥じることなど無いように胸を張った。
( ↑"∀↑)「何かをされたなんて人聞きの悪いことを言わないでくれ。
彼は彼なりの誠意をもって、私に接してくれていた」
( ↑"∀↑)「私の愚かな話を聞いて、ただ純粋にそれを叶えようとしてくれたんだ」
( `"ハ´) 「だったら何故それを俺達に話して ──
( ↑"∀↑)「…そうだな。
君にとっては何気ない一言だったのかもしれない」
( ↑"∀↑)「あの日………──
-
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
( <●><●>) 『── しかし貴方達は…偽りの湖へ一体何のために?』
(-@"∀@) 『水の都がまだ復旧していないうちに、恩を売ろうかとケホッ、思ってね。
…蔓延る穢れとやらを落としたかったのだが…』
( `"ハ´) 『俺の風水魔法ですら、お前を助けるので精一杯だった。
お前、どうやって生きてたんだ?』
この日、
ワカッテマスが真実を答えることはない。
それより…呪われた彼が嗅ぎ取ったのは、
迫り来る死に脅えた老人の心の闇だった。
土塊だったはずの彼は
以前よりも艶やかに、
他人を観察できるようになっていた。
( <▲><●>) 『いえ、私にもなにがなんだか……』
空っぽな彼に、
10年の愉しみ… 20年の悦び…
30年の苦悩…… 40年の諦め……
"穢れ" と身勝手に名付けられた
様々な魂が、湖のなかで輪転し、
何度も生き死にを体験させたために。
-
(-@"∀@) 『…長寿の法?』
( <●><●>) 『ええ。 湖にそんな噂がありましたので、私は調査のために』
( `"ハ´) 『そこを湖につけ込まれたか…間抜けな奴アル』
(-@"∀@) 「…」
( <●><●>) 『…危うく取り込まれるところを救って頂けたご恩もあります。
どうでしょう? 貴方達は湖に眠る収穫物を持ってくる、私はそれを解読して貴方達に差し出す…』
( <●><●>) 『私のような一介の研究者には、領地同士の繋がりや…いうなれば人類発展のためなどという大義名分は畏れ多くも抱きません』
『もしも利が一致するのであれば ──』
…そんな初対面での荒唐無稽な甘言に
耳を貸すほど、アサピーとシナーは
落ちぶれてはいなかった。
確かに鼻で笑い、一度別れたのだ。
( `"ハ´) 『人はどうせ死ぬ時に死す。
死に場所くらい自分で決めるアルよ』
(-@"∀@)
( <▲><▲>)
だから、付け入る隙を遺す。
淀み滓を湖から与えられたのか、
土塊の意思で【ドレイン】したのか…
ともかく
湖は一つの魂を創り代えた。
命短き運命に、
千年の猶予を与えてしまった…。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
-
( `"ハ´) 「……」
( ↑"∀↑) 「なんの不都合があろう?
湖の穢れを解呪できれば、その土地の人々に恩を売れた。
国力の下がっている水の都に恩を売れた!」
( ↑"∀↑) 「…あわよくば、収穫物次第で私は不老不死になれた。
── いや、もしや既になれたのだろうか?」
<ヽ;`∀´> 「……アサピー殿…なにを…
本気で、言っているニダ?」
まだ若きニダーには理解できなかった。
小さくとも人の生活を纏める苦悩が。
……こうして生きていることが、誰かに用意された人生の辿り路であることを。
当たり前過ぎる暮らしの影に、
必ずどこかで
誰かの犠牲が成り立っていることを。
( ↑"∀↑) 「気分がいいんだ、あれを食べてから……
本気かって? 嘘をつく理由があるか?
自分を偽って生きることにもう疲れたんだ。
人生最後のひとときくらい良いだろう!
私利を!
私欲を!!
我が儘を叶える資格も私には無いのか!」
( `"ハ´) 「無いな」
-
── わずかばかりの沈黙。
それが、場を埋め尽くさんとしていた氣を霧散させる。
シナーの言葉は同情の色なく真っ向の否定。
たった三文字…
時間に換算すれば一秒に満たない発言は、
しかして高揚し、更に捲し立てようとしていたアサピーの思考をぶつりと停止させるには充分だった。
( ↑"∀↑) 「 ……なに?」
( `"ハ´) 「無い。
お前が選んだ道はそういうものアル。
本来ならば人の上に人はいない……。
にも拘わらず、望んで人の上に立ったのはお前だ」
<ヽ;`∀´> 「御師…」
( `"ハ´) 「死ね。 お前の天寿はもしかすると数年前、既に全うしていたのかもしれん」
( ↑"∀↑) 「…シナー」
( `"ハ´) 「人でない者が………」
シナーの震えた口許は…ある種の感情を携え、彼との70年間に訣別を告げる。
-
( う"ハ;) 「人の世界で生きていても、後は歪むだけだ」
⊂( ↑"∀↑) ⊃ 「歪みなんて誰にでもあるじゃないか…それを私にだけ押し付けて。
自分はまた晴れやかな気持ちで人生リスタートか?」
ピッ ,⊂( `"ハ´)
⊂( ↑"∀↑)⊃ 「するものか、しやしない、させや ──ツ?!
アサピーの頭がひとつ分、大きく逸れる。
後ろの壁にドスッと重い何かが穴を開けた。
<ヽ;`∀´> 「お、御師! アサピー殿!」
⊂( ↑"∀↑) 「…」
⊂( `"ハ´) 「…いつものお前なら避けられるとは思わなかっ ──
狼狽するニダーの視線の先。
涙を振り拭ったシナーの手が
同時に放った峨嵋刺。
振り上げられたアサピーの腕。
似たように動いたシナーの頭。
(- `"ハ ) …─⊂("∀↑-)
…スパッ …スパッ
⊂( ↑∀"↑) 「…おやおや」
⊂( ↑∀"↑) 「いつもの君なら避けられると思っていたなあ」
-
一度の交錯を合図に、その戦いは静かに始まった。 広間はさながら能の舞台上と化す。
舞を演じるかのように踊る二人の姿は微塵も老いを感じさせない。
ニダーの目に映るのは、幾つもの光の筋が軌跡となり、互いの身をすり抜けていく峨嵋刺と炭素鋼の織り成すレーザー光。
背後が瓦礫となりて破壊されていく雑な摂理音が響き渡るのとは対照的に、芸を披露する二人の空間は無音に感じられる。
得物を放る指先、
体重を移動させる腰の運び、
宙に浮く爪先、
次の対象を見据える眼差し。
もし人間の動き、芸というものを点数や数値化するような無粋なシステムがこの世界に存在するならば、きっとニダーの方が彼らに勝るだろう。
そんなものとは別次元の概念がここにある。
彼らの動きひとつひとつが、
観る者の思考を気付けば領犯してゆく…。
-
そうして呆けていると、
交差するレーザー光の一線が頬を横切った。
<ヽ-`∀´> 「…」
ツウ…
無意識に一歩下がる。
背中の太極図が風圧になびく。
椅子も用意されない…しかし、特等席で観覧する闘の能は、ニダーの拳に汗をかかせる。
そうしてふと……袖口に隠す暗鬼の重みが気になった。
炭素鋼と峨嵋刺を組み合わせたニダーの武器。
そもそも隠し武器として使用する性質上、単一で完成度の高い暗鬼を組み合わせる必要はない。
それでもその両方を併せて使いこなす道をニダーは選びたかった。
かつて尊敬した二人の武器を使いたいがために、幼い頃から、シナーとアサピーの二人から手解きを一身に受けてきた。
<∩`∀´> ゴシ…
思い出せばむしろ、実の父親でなかった分だけアサピーの方が優しく接してくれていたような気がする。
…広間の節々に、赤い色が飛び散り始めた。
-
----------
('A`)「…〜〜♪」
('A`) 、 ぺっ
地に唾するポイズン。
彼の立つ場所はいずこかの山中であり、木々の間からはアサピーの屋形が、薄紅の花を屋根にして佇んでいるのが見下ろせる。
('A`)「〜♪… …あれか」
止む鼻唄。
ワカッテマスを追って部屋を出たのは良いが、見知らぬところへと放り出されてしまった。
あれから既に数日経っているため、恐らく、ワカッテマスがのうのうと屋形に居座っているとは考えにくいことも承知している。
('A`)「おい」
ハハ ロ -ロ)ハ 「ハイ」
ポイズンの背後の視界がスライドする。
その陰に重なっていたのは女…
金色の髪をもつ忍。
('A`)σ「そいつ必要か?」
ハハ ロ -ロ)ハ 「私が承ッタ指示に含まれてマスので」
-
ワカッテマスの波動を追う道中、ポイズンが出逢った忍はハローと名乗った。
彼女も荷物を取りに、隣接する村からアサピーの屋形へと帰るところだったのだという。
土地勘のなかったポイズンにとっては僥倖であり、ハローにとってはもののついでとして、断る理由なく同行している。
……問題はその荷物。
背負うことも憚れるせいで、彼女達の足取りは速くなかった。
('A`)「俺はもう行くから置いてくぜ」
返事を待たず ──
言い放ってポイズンだけが崖を跳んだ。
急勾配を跳ねて降るその姿は、忍も顔負けの身軽さを見せ付ける。
ワカッテマスに付けられた怪我など、まるでなかったかのように。
ハハ ロ -ロ)ハ 「…」
土埃も舞うことなく消えていく背中を追い掛けはしない。
ハローは荷物と共に見送った。
ハハ ロ -ロ)ハ 「アノ唄は……」
山道を歩くなか、ポイズンが途切れ途切れ、思い出したように口ずさんでいたのを隣で聴いていた。
しかしそれを彼女が問いただすことはない。
忍として、不用意な質問を他人にする躾は受けていないからだ。
それも…なんの変哲もない、ただの子守唄。
彼はどこで覚えたのだろうかと、疑問は心のなかに仕舞い込むことにした。
----------
-
(;;`"ハ´) ハアハァ…
(↑∀"↑) 「……凄いな、これは」
<ヽ;`∀´> 「御師…!」
(;;`"ハ´) 「手を出すな」
息を切らしたシナーが膝をつく。
はじめこそ互角に見えた戦いも、今となっては一方的な結末を迎えようとしている。
一人の足元には血溜まりが生まれていた。
ぬかるみに足をとられつつも、アサピーは炭素鋼の投擲を止めない。
防ぐシナーの両腕はボロボロと布切れを散らし、その下からは無数の傷が露わになる。
(;;`"ハ´) 「糞!」
…致命傷は必ず避けていた。
むしろシナーの峨嵋刺こそ、アサピーの身体中を刺して離さない。
⊂(↑∀"↑)⊃ 「…みろ、彼は約束を違えていない。
痛みのない身体…これはもはや不死と呼べるのではないかな?!」
…腕を大きく広げた格好は、まるで不出来なサボテンだ。
伸ばしきった指先は五本。
子供のように喜んだ表情を全身で表現しているらしく、甦る肉の弾力が峨嵋刺を押し返す。
⊂(↑∀"↑)⊃ 「それに比べて……いくら鍛えてもやはり限度があるようだね。
君の何十年を、私は勇気をもって踏み込むことにより数日で入手した事実をどう思う?」
-
乾いた音をたて、峨嵋刺が畳の上に転がる。
<ヽ;`∀´> 「アサピー殿、もう止めるニダ!
貴方も手当てしないと…」
⊂(↑∀"↑) ⊃「不要」
(↑∀"↑) 「そもそも…彼は私を明確に殺しに来てるじゃあないか。
ここに来て止めるとでも?」
(;;`"ハ´) 「その通りだ、ニダー。
何度も言わせるな…手を出すなアル」
<ヽ;`∀´> 「うぅ…」
ニダーの心中は相剋している。
指示に背いてでもシナーに荷担したい気持ちと、しかし出来るならば戦いをやめて貰いたいという思いが強く在った。
このまま黙っていても、いずれどちらかは倒れるだろうことは想像に難くない。
考えたくはないが…アサピーの様子を見る限り、シナーのほうが死に近い。
<ヽ;>∀< > 「……」
しかし選べない。
どちらも……ニダーにとっては尊敬する人生の師であるがために。
選ぶことが、できない。
-
(;;`"ハ´) 「コイツはここで死んだ方が世のためだ。 俺が必ず殺す」
<ヽ;`∀´> ( ──嘘だ)
シナーはよく嘘をつく男だった。
他人から彼への第一印象は
容赦がなく、とりわけ修行や鍛練に関わる分野においては実直な誠実さを見せる。
…だが一方、暗躍という名の慈悲も見せる。
アサピーに関してもギリギリまで陰で動き、どうにかワカッテマスとの関係を断ち切らんと行動した。
ホークアイによる監視の目を逃れるため、
ワカッテマスも知らないようなジェスチャーで、表向きの言葉から欺こうと提案したのもシナーだ。
彼は誰かのためなら自身にも嘘をつける。
時にそれが思い込みだとしても。
…今回のような結果を招いたことは、
シナーの中でどれだけ葛藤があろうか。
-
( ↑∀"↑) 「だ、そうだよニダー。
私も彼には何一つ期待などしていなかった。
サラリー目当ての男なぞいずれこうなると思っていた。
出来れば…君のように若い人材にこれから働いて貰いたいんだ」
( ↑∀"↑) 「命尽きるまで、私の元で」
<ヽ;`∀´> ( ──それも嘘だ)
アサピーは嘘をつかない男だった。
初対面であろうと柔らかな物腰でスッとテリトリーに入り込み、人心の掌握に長けた。
シナーの現金な性格も、アサピーだからこそ長く続いたのだ。
報酬の先に潜む誠意を見たがるシナーを、誰よりも重宝した。
誠意には情で返すシナーの性質をわかっていた。
彼でなければこの領地を長く平穏に治めることなぞ出来はしなかっただろう。
…ワカッテマスに出逢いさえしなければこれほどの事件にならず、大陸の東半分は誰もが彼を讃えたまま人生の終わりを迎えただろう。
-
(( <ヽ;`∀´> 「…」
(;#`"ハ´) 「おい!」
もう…それも無理な話なのだろうか。
まだ間に合うのではないか?と考えれば考えるほど、ニダーは諦めきれない。
気が付けば、二人の間を遮るように立ち竦んでいた。
<ヽ;`∀´> 「ウリの望みは "和解" 。
もう、二人とも止めるニダ…」
( ↑∀"↑) 「私は止めてもいいよ。
…だが、それで何が解決する?
僕はこれまで通り、自分が思い描いたように周囲を動かしていく」
(;#`"ハ´) 「ニダーどけ!
餓鬼がでしゃばるな! 失せろ!
お前が死のうが誰も悲しまぬわ!」
「説得は無駄だ!」……シナーの怒声が、辺りの空気を静かに凍らせた。
<ヽ;`∀´> 「…」
……冷えた沈黙。
これが仲睦まじく語り合うかつての三人であったなら、天使が通ったとでもぽつりと囁き、笑いあえたのだろう。
── 残念。
褪めきったシジマは天使の笑みでなく、
世に孤立した悪魔の笑い声を運んできた。
-
(↑∀"↑)ボソッ
「…なに?」(↑∀"↑)
ド
ン
ッ
(↑∀"↑)
「……あれ」 ( Γ ∀"↑)デロん
( Γ ∀"↑)'A`) 「ふひ」
( 'A`)
《ドサリ……》
…そう大きな音がしたかは分からない。
糸が切れた人形のように倒れるアサピーの真後ろ。
五体満足に舞い戻ってきたポイズンの姿がそこにはあった。
(;;`"ハ´) 「アサピー!」
<ヽ;`∀´> 「アサピー殿!!」
('A`)「ひ……ふひひ」
手には血塗られた峨嵋刺が握られている。
…しかし、問題はそこではなく。
-
(;#`"ハ´) 「…アサピーに何をした」
何故、シナーの攻撃を受けても倒れるどころか、痛みさえ訴えなかったアサピーが伏したのか?
<ヽ;`∀´> 「ドク…戻ってこれたニダか」
('A`)「ぉ〜久し振りだなぁニダー。
つってももう時間の感覚がわかんねえけど」
('A`)「こんな半端な不死…
半死か? なんざ余裕だ、 よ・ゆ・う♪」
::( Γ"∀↑):: 「ガッ ── ガハァ……」
ポイズンが貫いた首の穴は貫通している。
喉から傷口から…アサピーの流血はその蛇口を止められない。
('A`)「…ぁん? なんでまだ生きてんだ…
よっ!」
'.;( Γ Д"↑(# 「おごっ?!」
ポイズンのブーツ底は血に染まりつつ
ミ゙ヂィッ!
と、アサピーの横面を踏み潰し、捻り回す。
ゴリゴリと頬の奥から軋みを鳴らし、アサピーの口許からは真っ赤に染まった固まりがこぼれ落ちた。
人生に一度しか生え替わらない硬い骨が、無惨にも寄生宿から永久に見放される。
<ヽ;`∀´> 「!!」
⊂(;#`"ハ´) 「やめろ!!」
-
(= ('A`)「おっとぉ」
(;#`"ハ´) 「くっ!」
不死者の影上を空しくなぞった峨嵋刺。
だが疲労したシナーの投擲が不完全なのではなく、ポイズンが素早いのだ。
踏みつけていた足はアサピーから離れるも、身体を蝕む痛みにシナーはそれ以上立ち上がれず、追撃できないでいる。
そんなシナーに目もくれず、ポイズンはアサピーに向けて言葉を続けた。
('A`)「…おめぇ、喰ったのは肉だけじゃねえな?」
伸ばした両腕はブラブラと膝の上…
しゃがみ込んだポイズンが、半死の顔を不気味に覗き込む。
(; Γ "Д↑) 「…は〜っハビュ、…はハビュ〜っ」
(; `"ハ´) 「喰った、だと?」
('A`)「コイツの顔、見たろ?
喰いながら願ったんだよ
いや、渇望するって言葉が正しいのか?」
('A`)「並大抵の願望じゃねえが、しょせんは媒体も借り物…」
('A`)「だから "半死" っつったんだ」
-
「なあ?」
…その問い掛けに、アサピーは答えない。
シナーの知る文献には
"人間の禁忌" の具体的な中身、方法まで記されていたわけではない。
"肉" ……その単語が耳についた。
単純で最も連想しやすい物質。
そして確実なのは
ワカッテマスがそれを知り、
ドクと呼ばれた収穫物もそれを知っている、
……ということ。
(;;`"ハ´) 「…!」
目まぐるしく、老師は思い出す。
ポイズンの戯言を真に受けるつもりはない…
だがアサピーはどうだ?
真実ならば、事実の確定に至っていない一つの隙がある。
('A`)「お前をォ殺す〜ってか」
…ならば無駄ではないかもしれない。
己がきつねに指示したホークアイの処理と、それに伴う荷物の輸送は。
目の前の男に展開を任せてはいけない。
どこの馬の骨ともつかない若造に、アサピーを殺させるわけにはいかない。
-
('A`)「まあいいや、も「 待ってくれ 」
('A`)「?」
(;;`"ハ´) 「アサピーを殺すんだろう?
それは構わん…だが少し待て」
<ヽ;`∀´> 「…」
('A`)「… "待て" 、だと?」
よろけながらシナーは気丈に立ち上がり言った。
負傷は軽くないとしても、ここで立ち上がらなければならないという決意の元に。
対して考える素振りすら見られないポイズンはじっと、自身に歯向かう糞ジジイの目を見ているだけだ。
('A`)「なーんか勘違いされてるなぁ〜」
('A`)「ひひっ」
アサピーは激痛からの唐突な解放に戸惑いながらも、ゆっくりとシナーを見る。
── 同時、
彼に飛び掛かる黒い獣…悪魔に似た
ポイズンの後ろ姿も。
-
------------
〜now roading〜
<ヽ`∀´>
HP / C
strength / C
vitality / B
agility / C
MP / C
magic power / C
magic speed / D
magic registence / B
(推奨BGMおわり)
------------
-
敵から振り下ろされた己の武器が、己の頭上を掠めていく煩わしさ。
(;/;`"ハ´) 「ぐうっ!」
反撃にまっすぐ突き出した峨嵋刺は、大きく屈んだポイズンの髪を僅かに引きちぎるのみ。
次の瞬間、空いた脇腹に響く衝撃。
思わずシナーはたたらを踏むも、転ぶ。
そして濃い影がシナーを覆い尽くした。
('A`)「アサピーだのなんだの…殺すのに誰かなんて関係ねえ」
(;/;`"ハ´) 「…」
見下ろしたその顔はつまらなそうで…しかしどこか嘲笑っている気がする。
もしかしたら怒りを孕んでいるのかもしれない。
(;/;`"ハ´) 「…」
── わからない。
人が誰しも持つはずの "氣" が無いのだ、ポイズンには。
だから老師にはその男の動きも、思考も、感情も、何一つ読みきれない。
('A`)「てめーに命令される筋合いもねー」
唯一ポイズンの声から、それが本気であることだけは感じ取れる。
…見た目は20代の若造から、自身より遥かに長く生を明かしたかの如き超然感に気圧される。
"('Д`#)「餓鬼がでしゃばるな! 失せろ!」
::(;/;`"ハ´ii):: ビクッ
── ポイズンの恫喝に、80年近く戦士を自負していたシナーが人生ではじめて慄いた。
尻餅をつき、無意識ながら腕の力でじたばたと退く姿は滑稽で…
まるでカラクリ人形が音に反応するかのようにカタカタと。
-
ハアッ、ハアッ、ハアッ…ハアッ……
自身の息遣いが、耳元で爆竹でも鳴らしているのかと錯覚するほど大きく痺れる。
久しくなかった己の命の危機。
有言実行の気概、無感情に人を死せる殺意が目の前にそそり立つ。
怪我をしているだけで、こんなにも身体は言うことを聞いてくれないのかと魂が縮み上がった。
いつの間にか安全圏で生きていたことを嫌でも思い知る瞬間が、ついにシナーにもやってきてしまったのだ…。
-
('A`#)
('A` )「…なんてな」
「ひひひ!」と、書物の頁をめくる気軽さでガラリと雰囲気を変えたポイズンは踵を返し、シナー達に背を向け悠然と壁際に歩いてゆく。
( )「ジジイの今の姿をみても」
( 'A)「…御師様ぁ〜ってか?」
(;/;`"ハ´) 「?」
ひととき、シナーにはそれが何のことか分からなかった。
…だがポイズンが壁に身を預けて座り込むと、弾かれたように真横を向いて…その意味に気が付いた。
<ヽ`∀´> ('A`)
(;/;`"ハ´)
ポイズンを見上げた時よりも高い位置にその顔があった。
<ヽ`∀´> 「それ以上はウリが相手ニダ」
…不出来な自慢の弟子。
甘えを捨てるべく、いつの日か父と呼ぶことを禁じた最後の息子。
-
('A`人) - ☆「いいねぇ〜、カッコイー」
=⊂('A` ) 「ほっ」
(;/;`"ハ´ii) 「!」
ぱちぱちと小馬鹿に手のひらを叩く様子から一転、ポイズンの不意打ち。
音よりも速い峨嵋刺の光線が。
《カラン…ッ》
/'∩
<ヽ`∀´> ⊂('A` )
∪,/
果たしてシナーを貫くことはない。
その眼前で方向を変え、力なく宙を舞う。
…ニダーの炭素鋼がそれを阻んだのだ。
('A` )「…やるじゃん」
点の攻撃を線で防ぐのは易くない。
むしろ非効率的でもあるその手段は、しかしそれ以外の得物を携帯しないニダーにとって唯一ともなる。
<ヽ`∀´>「あくまで御師を狙うニダか?」
('A`)「あー、んじゃこっちでいいわ」
( Γ ∀"↑ii)「!」
次にポイズンは逆腕を振るった。
間近で横たわるアサピーの鼻先三寸で
《ギャリン──ッ》
…不快な金属音が木霊する。
-
<ヽ`∀´>つ 「させないニダ」
今度は峨嵋刺同士の衝突。
ポイズンの意図を読み切り、守りに徹する風水師。
(;/;`"ハ´) 「ニダー……」
( Г ∀↑ ) 「……」
"б('A`)「ん〜??」
ポイズンの心は煮え切らない。
ニダーは構えるもののそこから動く気配が無い。
純粋な意味での戦闘を行っていないとはいえ、ポイズンにはそれが納得いかない。
なにをまどろっこしいことをしているのか?
これほどの腕があるならば、果敢に攻めてきても良さそうなものを。
まるで時間稼ぎだ。
-
『アサピーを殺すんだろう?
それは構わん…だが少し待て』
-
('A`)
あぁ…と、
誰にも聴こえない吐息が漏れた。
('A`)「…面白くねぇ」
ポイズンは勘が良い。
だから想像する経過は違えど、予想した結果は同じだろう。
これは自己満足。 理解されない美徳。
そう考えながら、胸元のタバコを取り出そうとして…湖に漬かると消失したいつかの過去の現象を思い出し、吸うのを諦めた。
-
('A`)「おい」
<ヽ`∀´> 「…?」
('A`)「シナーが死ぬのは嫌か?」
<ヽ`∀´> 「嫌ニダ」
答えははっきりしている。
誰しも目の前で親が死ぬことを望みはしない。
('A`)「アサピーが死ぬのは?」
<ヽ`∀´> 「嫌ニダ…けど」
('A`)「この姿じゃ仕方ねえから迷ってる、か?」
<ヽ`∀´> 「…元に戻れるならきっと大丈夫ニダ。
だからそれまでは……」
('A`)「俺が元に戻す方法を知ってるなら?」
Σ <ヽ;`∀´> 「ほ── 本当ニダか?!」
('A`)「さっきみた通り、ダメージを与えることもできるんだから元に戻せたって不思議じゃねえだろ?」
「不死の仕組みがわかってりゃどーってことねえ」と、ポイズンは痰を吐き捨てた。
今このときでなければ、
『掃除するのはウリなのに…』というニダーの声が聴こえなくもない。
-
('A`)「俺が死ぬのは?」
<ヽ`∀´> 「…」
<ヽ`∀´> 「二人にこれ以上危害を加えないなら、ドクも嫌いになれないニダ」
懸命に本音を語る人間は、観察力が落ちる。
真摯であればあるほど。
その時ポイズンの目付きが鋭くなったことを…ニダーは気付かなかった。
<ヽ`∀´> 「ウリがドクを救ったせいで、こんなところに来させてしまったのが気になっていたニダよ…
考えてみれば、君はただ巻き込まれただけニダ」
<ヽ`∀´> 「それに…ドクの眼は。
どこかウリに似ることがあったニダ」
('A`)「…」
お人好しの言葉は止まらない。
<ヽ`∀´> 「そうでなくとも、一度知り合った仲なら良くしたいと思うニダ。
アサピー殿も、御師も、根は悪く ──
-
('A`)「あーそーかい」
耳が腐りそうになり、思わず遮る。
ポイズンからの問いはそれっきり…。
そのまま静かにうつむき、目を閉じたまま動かなくなった。
親子二人はしばらく様子を窺うが、時間がただ流れるだけ。
<ヽ;`∀´> 「……??」
(;/;`"ハ´) 「……。
ニダー、奴にはもう敵意はないようだ」
震えの止まった身体を立たせながら、広間のある一点を目指して足を引きずり歩きだす。
(;/;`"ハ´) 「それよりも、そろそろきつねから荷物が届く。
迎えにいってくれ」
<ヽ`∀´> 「し、しかし…」
(;/;`"ハ´) 「こちらは気にするな。 往け」
そう背中で語るシナーの姿が、なんだか小さく見えた…そんな気がした。
不安げにポイズンを一瞥してから
── 彼は置き物のように動かないが ──
ニダーは広間を後にする。
何度も、何度も…振り向きながら。
-
('A`)
(;/;`"ハ´) 「…」
(↑∀"↑ii) 「…ハア…ハア」
…しばし沈黙が流れる。
ポイズンは目を瞑り、アサピーの視点は先程よりも定まっていない。
やがてシナーは目的地に屈み、その手にかつての友の面影を拾い上げた。
(;/;`"ハ´)つ-@@ 「かけておけ」
(↑∀"↑ii) 「…いらないよ、まだ眼は見えてる」
(;/;`"ハ´)つ-@@ 「これは頼みだ。
どうであれ、来たるべき末路のために」
(↑∀"↑ii)
@@-⊂(↑∀"↑ii)スッ
横たわりながら…アサピーは眼鏡を掛け直す。
するとどういうわけか、その心に平静が訪れた。
(ii@∀"@-) 「…」
(;/;`"ハ´) 「好」
-
シナーは緊張の意図が切れたのか、その場にがっくりと座り込んで話し始めた。
並んで向かうはポイズンの方角ではあるものの、声を掛けるのはあくまで友に向けて…
小弱々しく…静かな…しゃがれた会話。
(;/;`"ハ´) 「お前は本当に、一度たりとも隠居は考えなかったアルか?」
(ii-@"∀@) 「……そりゃあ任せられる者がいるなら任せたいと常に思っていたさ」
(;/;`"ハ´) 「お前の息子にやらせれば良かっただろう。
若い奴には未来がある。
行動力も可能性も、俺達より遥かに ──」
(ii-@"∀@) 「まだまだ経験が浅い…
それに、近年の仕事ぶりではダメだ。
だからこそ村に派遣していたのに…グッ」
(ii-@"∀@) 「ま、だだよ…私がやれる内は ──げほっげほっ!
……私が、やるさ」
(;/;`"ハ´) 「その身体でか?」
(ii-@"∀@) 「そのために君といた」
「俺はいらないんじゃなかったか?」
そう鼻で笑うと、喉の奥から鉄の味がした。
口内からは出さず、それを舌で押し返す。
そもそも何年前から同じことを言っているのかと、少し歳上の風水師は重く息を吐いた。
二人がバルケンを討ったのはアサピーの息子よりも若い年の頃…
サクラのみならず、色とりどりの花々が咲き乱れる季節だったはずだ。
-
(ii-@"∀@) 「だが、何十年も共にいて、どうやら信用しきれなかったんだなあ……」
人は死に近付くにつれ猜疑心が増長する。
鈍くなった脳神経の伝達を補うための防衛本能の一種であるとすれば、やはり死は孤独への一歩を着実に踏み出させるのだろう。
アサピーの場合はここ数年で特にそれが顕著になったものだと、屋形の誰もが感じている。
実の息子ですら彼の傀儡でしかない。
(;/;`"ハ´) 「この期に及んでまだ諦められないのか?」
…にも拘わらず。
それまでの功績と、まったく破綻したわけではない人格などから彼に強く進言できる者はいなかった。
したところで、シナーの言葉にも頭越しに否定的な場面がよくみられたのだから、それも当然と言える。
(ii-@"∀@) 「なら君は…諦めたからニダーを生かしたのか?」
(;/; "ハ ) 「………」
アサピーがシナーを信用しきれなかったのは、こさえた子を悉く死に追いやっていたからに他ならない。
厳しさを履き違えた戦士は加減を知らず、また愛の与えかたもわからないまま子に接していただけ。
それは人としてどこか欠落していたのではないかと、アサピーはシナーを評価していた。
彼もまた、真意を隠す人々と同じだった。
-
これ以上言えば余計に自分が意固地になることが分かって、シナーも口をつぐむ。
もっと早く、お互い提言しておけば良かったのかもしれない。
……もはやその年月は経ち過ぎた。
麒麟も老いれば駄馬に劣るる ──。
自然の摂理に逆らったがために、アサピーも、シナーも、どこかで引き際を誤ってしまった気がしてならない。
時計は朽ちる準備を始めている。
次に取り付けるための新しい時計が、同じように動いてくれる保障はないのだ。
(ii-@"∀@) 「ウォール高原を治める領主が世代交代したのは…いつか君に言ったか?」
こんな風に、アサピーとの会話は常に政り事を軸としていた気がする。
もっと人として、子をもつ親として、彼と語り合えることがあったのではないだろうか。
-
(;/;`"ハ´) 「…数年前、一度顔合わせにきたことがあったな」
(ii-@"∀@) 「そう。
見た目以上に血気盛んな若者だ。
あれ以来、視察の名目で少しずつこちらの領地を削りに来ている」
(ii-@"∀@) 「…息子の役目ではないのだ……矢面に立つのは私でなければならない」
(;/;`"ハ´) 「だからといって、ワカッテマスを利用したつもりだったか?」
対する返事はない…だが、そうなのだろう。
いつからかアサピーの中では手段と目的が刷り変わってしまうほど、欲望を越えた渇望に抗えなくなっていた。
(ii-@"∀@) 「シナー、私は」
(ii-@"∀@) 「…まだ生きたいんだ。 どんな手を使ってもね」
(;/;`"ハ´) 「…」
(ii-@"д@) 「── げほっげほっ」
(;/;`"ハ´) 「…己の身体を労われない奴が言って良いセリフではないな。
……もう、俺も同じだろうが」
('A`) 「あーだめだ待てねえ」
-
シナーとアサピーが意識したとき、
いつしかポイズンは立ち上がっていた。
老いぼれ二人の時世の句…
それを求めたのはシナーであり、アサピーも薄々は気が付いていたのかもしれない。
生きたくとも、生きられない者がいる。
どれだけ求めても手に入らない物が、この世には絶対的に存在することも。
(ii-@"∀@) 「ワカッテマスを引き入れた時点で、お前が此処に来ることも運命として決まっていたのだろうか?」
('A`)「どーだろうなあ〜」
(;/;`"ハ´) 「まったく……最後の最後で余計なことをしたものだ。
アサピー、奴の次はお前アルよ」
彼らも立ち上がり、そして対峙する。
誰一人として思想や目的は一致していない。
だが…生きるために。
('A`)「せいぜい育んだ友情にすがりな」
それでも……生きるために ──
-
なんてな、ふひひ。
-
(推奨BGM:A Return, Indeed... (Vocal Version)
http://www.youtube.com/watch?v=p77DfHa2Ndo&sns=em
-
----------
ドタドタと…長い廊下のどこにいても響くほどの足音が3つ、広間へと近付いてくた。
広間を隔てる布の幕が盛大にめくられる。
<ヽ;`∀´> 「御しっ ──
<ヽ;゚∀゚> ──!!」
-
その肩に、めくられた幕の一部がパサリと降りかけられた。
ニダーの身体はそこで一切の活動を停止する。
足も、手も、胸の鼓動も、開いた口も…
視線すら硬直し、その身を伝う涙だけが一筋こぼれ落ちるのを見たものは居ない。
ハハ ロ -ロ)ハ 「ニダーさ…ッ」
ホークアイ破壊と荷物輸送を任された女も息を呑む。
ニダーの後ろから声をかけた彼女の鼻孔をくすぐったのは…腐臭。
それは彼女が生業上で嗅ぎ馴れた血の臭いよりも更によく知る、内臓や消化気管を傷付けた際に発される臭気と同じだった。
⊂ハハ ;ロ -ロ)ハ 「……そこデお待ちクダサイ」
ハローが "背後" に制止の声をかけ、歩を進めた。
努めて冷静に状況を把握しようとするも、その惨劇が覆らないことは明白に過ぎる。
-
<ヽ;∀;> 「……ぁ…ぉ、あ……」
がっくりと膝をつく若人…。
横たわる二体の首なし死体。
ハハ ;ロ -ロ)ハ 「…」
むせ返る血生臭さよりも、その場を支配するニダーの嗚咽だけがハローの頭のなかを延々と巡りめぐった。
一通り死体をまさぐってみたものの、やはりシナーとアサピーの身体的特徴に相違ない。
忍である彼女の今の雇い主はシナーであったため、こうなってしまっては任務終了の旨を報告すべく忍の里まで戻らねばならない。
「きつね、もう入っていいかい?」
広間の前…荷物から声が上がった。
── その声は若き日の
アサピーによく似ている ──
少しだけ悩みながらニダーを見るも、現実に打ちのめされた者から返事を得られないため、ハローは独断で肯定しておいた。
……隠し様など無いのだから、そうするしかなかっただけなのだが。
-
( ・∀・) 「…」
ハハ ロ -ロ)ハ 「モララー様、オ気を確かに」
入室した三人目…ハローが輸送してきた荷物とはアサピーの息子を指した。
彼はもはや肉塊と化した父の姿をただ呆然と眺める。
( ・∀・) 「いや、僕は平気だよ」
シナーの指示通りホークアイの破壊に向かったハロー…それは領地内に張り巡らされたものも含まれていた。
父からは屋形を与えられず、言われた通りに周辺地域の村々を転々とするだけの傀儡。
それがアサピーからの、息子への評価…。
( - ∀ - )
( ・∀・) 「…公務の引き継ぎを行う。
すまないけれど、里に帰る前に一仕事頼まれてくれないかな?」
ハハ ロ -ロ)ハ 「わかりマシタ」
だがそれはホークアイの "誤った映像" により植え付けられた、不当な評価を多分に含めたものだ。
本来、モララーは父に似た才覚をもつことを…アサピーの胸には届くことがないままだった。
<ヽ;∀;> 「うぅぅぅ〜………」
( ・∀・) 「ニダー」
-
少しだけ歳上のモララーの手のひらが、がっしりとした風水師の肩に乗せられる。
( ・∀・) 「これが父と、シナーさんの末路であるならば、まずは甘んじて受け止めよう」
<ヽ;∀;> 「…ぅ……」
( ・∀・) 「これから忙しくなる。
領地内の統括も、ウォール高原の領主との駆け引きも、きっと僕だけじゃ無理だ」
バルケンの背中をみて育ったアサピーは
父のように決してなるまいと誓い、
自らの手を汚してまで名君を目指した。
( ・∀・) 「だから……君の力を貸してくれないか?」
( ・∀・) 「シナーさんが、僕の父に尽力してくれたように」
アサピーの背中をみて育ったモララーは
父のように名君たれと憧れ、
自らの手をこれから汚していくのだろうか。
<ヽ;∀;> 「……」
<ヽう∀;> グイッ
( ・∀・) 「そして、いつか二人でこの仇を討とう。
たとえ父の最後が誉められたものではなかったとしても、僕の誇りは父であり、君の誇りはシナーさんだった」
<ヽう∀´> 「…そう、ニダね」
ハハ ロ -ロ)ハ 「…」
<ヽ゚∀゚> 「ドク……赦さないニダ」
-
----------
── 刻は一週間後。
街道のない路をひたすら歩き続け、
彼はいま高原の丘を登っていく。
('A`)「〜♪」
上機嫌な様子で振り回すその手には、
何重にも巻く布に納められた首が二つ。
('A`)「…ひひ!」
月明かりの下、 ──彼は独り。
('A`)「………」
── 草木茂る丘の上で、独り。
('A`)「… 〜〜♪」
── 鼻唄の音だけが、哀しそうに。
('∀`)「〜♪」
── ポイズンだけが、嬉しそうに笑う。
-
《…寄せては返す波》
('A`)「…〜♪」
《…必ず訪れる朝と夜》
('A`)「……あんだっけか…?」
('A`)「〜…♪」
《…貴方の優しさで
頬がぬくもりに満たされても》
('A`)「…ぷっ」
('A`)「〜〜…〜〜♪」
《…幸せな時の中で震えている》
('A`)「…」
《それでもいつかはきっと… ──》
('A`)「… ──ひひ、」
('∀`)「 ふひ、ひひひひひ…!」
-
「…いつか、なんて
来やしねえよ」
-
-
夜が明けて…。
ウォール高原を治める領主の元には
二つの御首級が届けられた。
差出人は名乗らず、
特に領主への面会も求めなかった。
ただ一言、
『ここに瞳孔の大きな男が来ただろう?』
と質問をして、その姿を消したという。
問われた兵士は述懐する。
守秘義務により回答は差し控えたものの、
その男の眼光の前では
表情まで偽ることは出来なかった、と。
-
かつて山人と呼ばれた男は孤独を探す。
孤独でなければ戦えない男。
誰かを誰を 誰のため誰が 誰に向け
護る、庇う、救う、 赦す、求める?
莫迦莫迦しい。 ──五月蝿い。
そんなものは家畜の餌にも成りはしない。
《山人、どこや?》
-
('A`)y-~
「逃がさねえよ……ふっひひ」
A`)y-~
「ワカッテマスの野郎が目をつけるなら、恐らくは」
)σ ⌒ 、 ピンッ
不死者の行く先、争いの跡在りて──
-
《なあ山人》
それでもいつかはきっと
闇に光が生まれ
《うたうとぅてくれ》
悲しみのなかにきっと
微笑みが生まれるはず
《そう、それや》
それでもどこかできっと
闇に心が生まれ
悲しみのなかに必ず
《くすす、下手やなぁ》
本当が生まれるはず
あなたはいつか帰ってくるから…
《山人、たのむ》
あなたはいつか
帰ってくるから…
《山人とまた…遊びたいなあ》
(了)
-
これで今回の投下を終わります
投下中の支援ありがとうございました
(´・ω・`)ω・´): 傷痕留蟲アサウルス >>6
('A`) :東方不死 >>170
-
--------------------------------------------------
※千年の夢 年表※
--------------------------------------------------
-900年 ***********
→信仰の概念がうまれる
( ∵)は偶像生命体として同時に生誕。
-400年 ***********
→結婚(結魂)制度のはじまり
-350年 ***********
【ふたごじま】→魔導力の蔓延
-312年 ***********
【銷魂流虫アサウルス】→前半
→ "隕鉄" が世界に初めて存在しはじめる
【東方不死】→山人の夢 ☆was added!
→('A`) がアサウルスと相討ち ☆was added!
-220年 ***********
【銷魂流虫アサウルス】→後半
【傷痕留蟲アサウルス】
→騎兵槍と黒い槍が融合
→('A`) がアサウルスから解放 ☆was added!
-210年 ***********
→大陸内戦争勃発。
【帰ってきてね】→前半
-200年 ***********
【帰ってきてね】→後半
【死して屍拾うもの】
→ "赤い森の惨劇"
-195年 ***********
→大陸内戦争終了。
【はじめてのデザート】
-190年 ***********
【その価値を決めるのは貴方】
-180年 ***********
【老女の願い】→復興活動スタート
-
-150年 ***********
【老女の願い】→荒れ地に集落が出来る
→川 ゚ -゚) が二代目( ´∀`)に指輪依頼
-140年 ***********
【老女の願い】→老女は間もなく死亡
→指輪の暴走。 川 ゚ -゚) が湖に封印。
-130年 ***********
【人形達のパレード】
【此処路にある】
→(´・ω・`)( ゚∀゚)川 ゚ -゚) の三人が集結
→二代目( ´∀`)死亡時期
→偽りの湖から( <●><●>)が引き揚げられる ☆was added!
-120年代 ***********
【命の矛盾】
【東方不死】 ☆was added!
-100年代 ***********
【繋がれた自由】
【遺されたもの】
【時の放浪者】
-40年代 ***********
【老女の願い】→集落→町になる
00年代 ***********
【老女の願い】→( ^ω^)が
官僚プギャー、炭鉱夫ギコに再会
-
★作中MAP更新
大陸戦争前
http://imefix.info/20141016/91070/rare.jpeg
大陸戦争後
http://imefix.info/20141016/91071/rare.jpeg
※あくまで大陸戦争が大きな区切りであるため、戦前・戦後の名称は便宜上の分け方です
9番のように厳密に言えば一部そぐわないものもあります
-
乙
-
相変わらずの濃密な内容乙でした。
-
平日始めにも関わらず読レスありがとうございます
前回のように文字化けがあればご報告ください
以降から特殊コードor代理文字使用にて対処します
-
乙
ワカッテマス許すまじ
そういえばドクオ初登場時も唄歌ってたんだっけか…?
なんかドクオのキャラにどっぷりはまっていく
-
やっと読み終えた。大量投下乙
ワカッテマスは土塊が本物に成り代わったって認識でいいのかな
そういえばドクは最初鼻唄って呼ばれてたし、ずっとそれを歌ってたのか
-
きつねにも2代目がいたけどヒートは生きてるのかな
おつ
-
ありゃごめん
ドクオがアサウルスと相討ちってどこだっけ?
-
多分だが
最初に山人の夢で黒い太陽の大きな虫(アサウルス)と戦って、
>>121でハインが
先に東でアサウルスを処理したけどそのザマって言ってドクが助けられたから、そこが相打ちと解放の時期だと思う
つーか安価探していますげえことに気が付いた
ハインとアサピーが同じ目してる
-
前の話を読み直すとまた新しい発見があったりするからついつい何度も見返しちゃうな
-
>>318
そうですね、湖の【ドレイン】によって赤い森の一族の儀式をここで済ませる→生命の循環によって土塊が土塊でなくなった…
という流れです
あくまで元は本体の右腕から【カース(呪い)】で製造した土塊なので、その魂に和香やジョルジュ(慈夜)のような善い成分はほぼ存在しません
>>319
年齢に換算するとノパ⊿゚) はこの時120歳ほどになります
生死はさておき、ハハ ロ -ロ)ハ には頭領の証(数珠)が渡されていません
>>320
おおむね>>321さんの回答で相違ありません
-
120歳のヒート想像してワロタ
-
今年中の投下は良くてあと一度できるかどうか、になりそうです
その時にはまたよろしくお願いします
-
楽しみに待ってるぜ!
-
了解。待ってるぞい。
-
待ってる
-
( ^ω^)千年の夢のようです
- 白い壁 黒い隔たり -
(推奨BGM:Ruins of the East)
http://www.youtube.com/watch?v=v9PRpIezoUY&sns=em
-
「さあ、歩きなさい。 罪には罰が与えられるのが決まりだ」
首から頭の先まですっぽりと覆う布兜。
他と異なる特徴的な格好の男が、二回り以上も細い腕を引っ張っていた。
ヽ/ ゚、。 / 「……?」
膝をつき、布兜の男へと懇願する母親を見て、
何が起こっているのか分からないという表情をした子供。
自分の足は動いていないのに景色だけが少しずつ傾いていく、そんなことのほうが興味深いように。
「フィレンクトさん、お願い、やめてください!
その子が居なくなったら私はどうすればいいんですか!」
母親は怒りを露にし、もはや泣き叫ばん勢いで男に掴みかかる。
…だがフィレンクトと呼ばれた布兜の男は動じることなく、母親に捕まれた別の腕を強く振り払って言った。
-
「…両親も、法を守って貴女という一人娘を大切に育てたんじゃあないのか?
それを貴女は、貴女だけの都合で、規則を破り、国を想わず…
あまつさえ己の親をも冒涜するのか?」
── この国は訪れることのない充足感と常に戦っていた。
領地は広く、人口も多い。 …だがいくら作物を植えても豊作の年を迎えた事はない。
土壌や気候に問題があるわけでは無かった。
豊かなその高原地域は、人の過ごしやすい恵まれた大地と呼ぶに、一見して相応しい。
隣接する砂漠とは比べるべくもない。
「こ、子供がお腹にいると知った時、そそ…それを、殺せというの?!」
ただ不思議と…一定量を超える農作物は収穫できない。 不作の時期はあれど、豊作を迎えた史実がこの国には無かった。
他国との物品流通もどういうわけか滞り、資源が国内に溢れることはない。
月日を経て、それに逆らうように人口だけが増え続けた。
人はやがて個々の裕福さを願うようになる。
不足なく家族を養える豊かな生活にしたければ、他の土地へと移住するか、口減らしでもしなければその願いも成立しない。
それなのに──
-
「……子作りをしなければ良かった。
一つの家庭において子は一人のみ。
昔からそう定められているにもかかわらず、産んだのは貴女の責任だ」
「違うわ! 避妊もした!
それでも子供は望んで私の元に産まれてくれたんです!」
フィレンクトはわずかな沈黙の後、言う。
「刑法20番列9記に基づき、ここに罪状を言い渡す」
「フィレンクトさんっ!」
「《罪人は二人目を産んだ時点で一人目の子を事実上破棄したと見なし、国家はそれを回収する。》
《これに従い、回収された子は国の恩情により、破棄まで一週間の猶予が与えられる。
面会は自由。
ただし、回収した子への物品受け渡しについては公務員監視のもと、許可されれば通すことができる。》
……以上」
国は対策として、育てられる子の数に制限を設けた。
…二人以上産めば罰せられる。
それに加え、〈汝の国を愛せ〉と叫ぶパトリオティズム。
その糾合のもと、一度でも居住を構えた人々は国から出ることを禁じられていた。
さもなくば、これも罰せられる。
二度と国に足を運びいれることは必ず、見つかり次第拘束されるだろう。
ウォール高原に領地を構えるのは、そんな国だった。
( ^ω^)「…」
とある安宿場の窓辺。
ブーンは嫌でも見聞きできる広場で繰り広げられるやり取りを、物憂げに眺めているところだ……。
-
----------
ブーンが街にたどり着いたのは昨日のこと。
見渡す限りの草原を有した丘と、街を仕切るようぐるりと囲む白い壁が、もうすぐ終わりを告げる晴れた秋空によく映えた。
壁の背丈はブーンが見上げても首が痛くなる程に高い。
それにひきかえ、まるで猫が入るためとでも揶揄できそうな…
だが単体で見ればそれでも巨大な門扉を正面にして、入国を求める人々が集っていた。
「おやあんたはあの時の…もうオアシスから戻ってきたんですか?」
声がする方にブーンは振り返り──それが自身に向けられたものではないことを知る。
「ええ、売り物が無くなっちまったんでね。
なにせ運べる量はどうしたって限られてるでしょう?
そもそもの供給が足りなきゃ親父の代にあった荷を運ぶ車も、今じゃお役御免です」
「ハハッ違いない! おっとと、すみません」
商人同士の語らい。
ブーンを挟んで行われるも、頭ひとつ飛び抜ける彼の視線に気付いたことで間もなく止んだ。
「では、またあとで」
仲間に別れを告げると、商人はこちらにも愛想を振り撒いた。
咎めるつもりは毛頭無かったが、余計な気を遣わせてしまっただろうか。
ブーンも軽く手を挙げ会釈をしつつ、ゆるく笑おうとして……しかし表情筋がうまく動かなかった。
-
銅鑼を鳴らす門番の合図音。
次いで大袈裟にカタカタ音をたて扉がせり上がる。
…しかしまだ誰も動かない。
ブーンが訝しく眉を細めた頃、二度目の合図が鳴った。
ようやく群れをなしていた待ち人達が歩き出す。
規律があったのだろう、ブーンも群れの一粒としてそれに倣った。
( ^ω^)「…おっ」
城壁とも見間違う白い壁の向こう側は、まばらに古家が建ち並んでいただけの荒れ地だった。
土はかたく、草もない。 だから路もない。
群れの大多数はそれに気を留めるでもなく散っていき、背後では門扉の閉まる音がゴリゴリと響いた。
「……前にも増して、がらんどうになったもんだ。
この国もそろそろ……──」
群れからはぐれた老人が隣で呟いた言葉。
ブーンには見えない郷愁の景色が重ね映し出されているのだろうか。
「お前さんは余所者だろう? こんな街に何か用かね」
( ^ω^)「…捜しものに」
「そうかい。 そろそろ陽も暮れる。
ここを左手沿いに歩けば、安くて、そのくせまだ使い込まれてないベッドの旅宿にありつけるよ」
向かい合わせた表情はどこか空虚に、老人はそのままどこかへ行ってしまった。
何を言いたいわけでもなかったらしい。
老人にとって話し掛ける相手は誰でもよく、それでも共有せずにはいられない言葉は淋しさの表れなのかもしれない。
-
それと思わしき宿が見えてくると、歩みが自然と遅くなる。
晴天空に泳ぐ雲が同じスピードで離れていく。
もしかすると夜には一雨来るかもしれない…と、ブーンはどことなく思い、視線を戻した。
なるほどたしかに安い宿だ。
屋根の一部は崩れたまま。
壁を白く染める塗装は剥がれ、灰色を暗く際立たせた。
窓から見える部屋の具合からは客が入っている様子もない。
つい先ほど交わした会話を思い出すに、使い込まれてないベッドとはジョークのつもりだったのか。
…とはいえなんら構うことなく、ブーンは入り口の扉へと近付いた。
-
磨かれ清潔感を保つ両開きの扉には、
来客を告げる役目であろう、素材そのものの古さを塗り潰すかのような黄色のベル。
目を凝らすとどこか規則性のある凸凹のついたドアには、
可愛らしいピンク色のペンキでメッセージが書き込まれていた。
[☆Welcome Back! Dear Brother☆
(おかえりなさい、お兄様)
☆You Are Welcome! My Loving Family☆]
(私の大切な家族ですもの、また来てね)
もう少し顔を上げると目に飛び込む宿看板。
店名は──
( ^ω^)「[pO・Od]……なんて読むんだお?」
暗号か? 発音に困って動きを止めた時、宿の向かいに建つ小さな医院から声がした。
高く小さな声、揺らぐ静かな声、
そして…ハキハキとしつつも、しゃがれ声。
「せんせー! ありがとー!」
「本当にお世話になりました。
他のお医者さんには診てもらうことすらできなかったのに…なんとお礼をいったら良いか」
「いいんです、それが私の仕事なんですから。
お子さんに何かあればいつでも来てください。 夜中でも、朝一番でも」
一組の親子が手を振りながら医院を後にしていた。
微笑ましく見ていると、しばしの間をおいて、白衣の老人がその姿を見送るように顔を出す。
その視線は…横に歩く親子ではなく、正面からブーンを捉え、
「…どうしたんです? 貴方もなにかお困りですか?」
-
ブーンが辺りを見回しても人影は他にない。
先ほど出てきた親子も、別の古家の向こうへと行ってしまった。
( ^ω^)「いや、僕は……」
「患者ではない」 ──そう答えようとして、言葉は紡がなかった。
あれからどれほどの時を過ごしたか。
あれからどれほどの出来事に気を囚われていただろうか。
あの日、確かに彼は言っていた。
ブーンもツンも、そのために時間を共にした。
あの迷い道で。
あの瓦礫にまみれた渇き路で。
『うん! 高原が近いかもしれません!』
息子の面影を彼に重ねた、辛くも心地よき、デザートコースでの記憶。
(,, ><)「いいんですよ。 どんなことでも話くらいなら聞けるんですから。
さあ、どうぞこちらへ」
ブーンの視界のなか…開け放たれた扉を背に、彼は奥へと引っ込んでいく。
しゃりしゃりとスリッパの音が耳に届いた気がした。
誘われたブーンは空を見上げ、そしてその足先を医院へと向ける。
……勘は外れていたのだろうか?
いつの間にか、
雲ひとつない空っぽの晴天。
-
(,, ><)
つ□ 「すみません、お茶を切らしているので白湯ですが」
長居するつもりはないから、と
断りをいれながらも礼を述べ、湯呑みを受け取った。
その際に少しだけ触れた指と指から年月の刻みを感じつつ、記憶の面影を残した老医師を観察する。
(,, ><)「いやあちょうどお昼時ですね。
もうご飯は食べたんですか?」
事務テーブルの上…
老医師は探るように腕を泳がせ、やがて小さな包みを手を取ると膝元に寄せる。
可愛らしい黄色いハンカチ。
結び目をほどくとその中から握り飯がふたつ。
年老いているとはいえ、目の前の医師が食すにしては少なすぎる量だ。
( ^ω^)「…お弁当、可愛らしい包み布は奥さんかご家族の趣味かお?」
(,, ><)「いえいえ! 私は独身です。
家族ももういません。
これは先の患者さんが差し入れてくれたんです」
( ^ω^)「……」
(,, ><)「そうですか、可愛らしいですか…では、お返しする時そう伝えなくては」
-
握り飯を何度か掴み直し、彼は口に運ぶ。
ブーンなら一口で含んでしまいそうなそれを、少しずつ、少しずつ、味わうように噛み締めている。
(,,*><)「うんめー! 胡麻塩が丁寧にまんべんなく効いていて、疲れが吹っ飛びますね」
( ^ω^)「おー、それは良かったですお」
(,, ><)「……あっ、すみません…年甲斐もなく興奮して」
「お金よりもなによりも、気持ちを込めたこういうものが一番嬉しいんです」
と彼は言った。
ブーンは笑みを浮かべて頷いたが、反射行動にすぎない。
-
時間をかけて握り飯を食べ終わると、彼は手のひらとひらを
パンっパンっ
とはたき、白衣に米粒がついていないかを確かめるように手探る。
…膝元にポロポロと散らばる胡麻には気付かない。
( ^ω^)「まだ取れてないお」
(,, ><)「あれっ? そうですか」
ブーンはそれをはたこうと腰をあげかけ──やめた。
目の前の彼は子供でもあるまいに、言葉で伝わるのだから充分だと考え直した。
(,, ;><)「恥ずかしいです、この歳になっても食べ物をこぼしてしまって…」
(,, ><)「察するところ旅の途中ですか?
もし寝床がまだなら、隣の宿で部屋を用意させますよ」
( ^ω^)「おっ、貴方の宿でしたかお?
ちょうど行こうと思ってたんだお」
さっきまで身ぶり手振り動かしていたその身を、老医師は一瞬だけこわばらせる。
-
(,, ><)「んー私のというか、妹が作って建てたんです。 若い頃にね。
……10年前の流行り病で亡くなってからは私が経営してますが」
(,, ><)「なにぶん医療と二足のわらじ。
なかなか手入れも行き届かないところはありますが、ベッドだけは毎日綺麗にしてます」
(,, ><)「あたたかく柔らかいベッドは、私達兄妹の幼い頃からの夢だったんです」
医師は気まずそうに…
同時に照れるように頭をかき、言った。
( ^ω^)「……そう、かお」
( ^ω^)「なら宿の部屋をひとつ借りるお。
よろしく頼んでいいかお?」
(,, ><)「もちろんです、改めて自己紹介させてください。
私はビロード…この街で医療行為を行っているしがない鍼師です」
(,, ><)つ‡ 「受付にこれを渡してもらえればいいですよ、部屋の鍵です。
数十分後にはのんびりできるようにしますから」
( ^ω^)つ‡ 「ありがとうだお」
(,, ><)「良い夢を」
----------
-
そして翌日、窓ガラスの向こう側……
広場ではいままさに幼子が布兜の男に手錠を掛けられ、連行されていく。
ブーンにとってなかなか見逃し難い場面に遭遇しているはずだった。
だが──
( ^ω^)「…一週間の猶予」
胸中に制止の声をかける。
ツンがここに居れば、
今にも飛び出していきくのではないか…そんな風に考えつつも、窓に背を向ける。
見知らぬ街で無闇に暴れる訳にはいかなかった。
人々が住む土地には、その住人によって培われたルールが存在する。
個人の倫理的にはどんな悪法であっても、全体を通せば利に適うものもある。
その場に残され咽び泣く母親の腕のなか、
幼子に買い与えたとおぼしき、動物のぬいぐるみが寂しげに抱かれていた。
(▼・ェ・)
-
「…さあ、こっちだ」。
等身の高い場所から発される、警官フィレンクトの低い声。
ヾ/ ゚、。/ 「……ママは?」
警官とは国の公務員。
治安を維持する役目をもつ尖兵。
定められた法を犯す者を見逃さないこと…それが彼の役目だ。
それを示すはずの声色は、しかし、どこか揺らぎを感じさせた。
「いま行くのは…君だけだ」
なにかを噛み締めるようなフィレンクトの返答。
──ウォール高原。
ここでは情よりも、常人と罪人を隔てる法が優先される。
-
公共の場で他者に迷惑をかけた者
…禁固1年。
他者の所有物を盗んだ者
…禁固2年。
他者に危害や暴行を加えた者
…禁固5年。
他者の命を奪った者
…禁固10年。
罪人を庇う者
…禁固15年。
そして多重育児は
…財産刑。
職務を放棄した公務員は
…生命刑。
── どちらも死刑。
-
そう、法は決して民の為のものとは限らない。
法の中身を決めているのは一握りの立場の者であり、それを行使して裁くのも一握りの選ばれし者のみ。
それは機械が支配するプログラムや、はたまた信仰神が定めるルールを神自身が管理することとはまったく異なる性質。
この国では神を気取るその一握りが、元は優劣などない同じ人間を管理しているに過ぎない。
/ ゚、。 / 「…ねえ、どこにいくの?」
「………黙ってついてくるんだ」
フィレンクトが去った後、広場には再び人々の声が色めき始めていた。
中央を横目にして、口々に何かを話しあう人々。
だが、子を連れ去られた母親へと寄り添う素振りは誰一人見られない。
人々の頭に浮かぶ罪状は──罪人を庇う者…禁固15年。
警官の判断一つで、自身が罪に問われることを恐れているのだった。
(^ω^ )「…」
限界を感じたブーンは立ち上がり、宿から抜け出すと広場へ向かった。
「ぅぅ……どうして、だれが……」
そんな声が聴こえてくるから、とてもじっとしていられなかった。
-
母親のすすり泣きが、より鮮明に聴こえた。
ぬいぐるみを抱いたその姿…
ブーンの記憶に一筋の痛みが走る。
『…私、忘れていたのかも。 ⊿ )ξ
人の命は元々、預かりものなんだわ』
無力感に覆われ、誰かにすがりたいという思いが見てとれる母親の背中。
そこに、この国のルールをまだ知らないブーンが寄り添った。
「…ゥっ……あ、すみませ…ん、いま……立ちますから」
( ^ω^)「……」
『怯えないで。 僕は正義の味方だお』
…以前の彼ならばそんな風に答えるだろうか。
しかし今、なにも言葉は出てこない。
-
ひとまず広場から離れ、事の顛末を聞く。
どうやら彼女の知らないところで家庭事情が警官側に漏れていたらしい。
…そして、国法や刑罰のことも知ることができた。
( ^ω^)「……お」
*(‘‘)*「…」ジーッ
(;^ω^)「…??」
咽び泣き続ける母親の家に着くと、
古びた玄関を開けた先の物陰から、小さな顔の女の子がこちらを覗きこみ──いや、睨み付けてくる。
そんな様子に気が付くことなく、玄関口でどさりと、母親は崩れるように腰をおろした。
「………はぁ…」
( ^ω^)「少し落ち着いたかお?」
「…はい、先程は失礼しました」
母親は名をレモナといった。
「あちらの娘はヘリカル。
……さっき警官に連れていかれた、ダイオードの妹なんです」
彼女はたどたどしく、寂しそうに話す。
特に…後半は周囲に気を配るよう声を潜めて。
こちらを信用しているわけでもあるまいが、あの広場で話し掛けたのはブーンただ一人。
ブーンは頷き、彼女の不安を和らげようと聞き手にまわる。
( ^ω^)「この家は他に誰かいないのかお?
おじいちゃんとか、おばあちゃんとか」
-
ブーンはこの時 "夫" という言葉はあえて発しなかった。
居るならばいの一番に頼られるべき存在だが、案の定レモナは荒く首を振る。
…子供を連れ去られたショックが強すぎるのか、動作のひとつひとつがオーバーに見えた。
「……きっと、誰かが密告したんですわ」
──忌々しげに呟くレモナ。
「でもこのあたりの人達は昔からの知り合いばかりで、ましてや怨まれることなんて身に覚えもないし…」
爪を噛みブツブツと塞ぎ混む様子は、ブーンの問い掛けるすきま風を通さない。
子供を多く産んでしまう家庭など──自然の摂理の枠内に過ぎないのだから──そんなものは腐るほどの前例がある。
-
レモナの話によると、ウォール高原では
親は二人目以降を生んだ場合、数年間その存在をひた隠して暮らしたあと、子を家庭から追い出すという。
その日を境に自立を余儀なくした子供達。
群れを作り、小屋を拵え雨露を凌ぎ、物請いで腹を満たす人生が例外なく待っている。
餓死…… 病死…… 事故死……
身体も小さく、まだ生きた経験の薄い子供にとっては甘い話であるはずがない。
「……ダイオードも、もう少しだったのに」
もし生き延びられるならば。
その頃に警官が来ても、もはや誰の子か判らないのだから連行はされない。
未成年法により14才以下の単独生活者は罰せられない。
この時初めて、刑罰は幼子や存在するはずの両親に対して適用外となるのだという。
( ^ω^)「…どうしてそんな法が」
ウォール高原はその豊かな土壌を騙り、望まれる資源の総量が明らかに限られていた。
供給は需要に追い付かず、しかし外の人々はうわべに聞く豊かさを求め、なにも知らないまま入国する。
そうして爆発的に増加する人口は国を圧迫した。
いまや自分の食いぶちを稼ぐにも知恵を絞らなくてはならない。
ここにいる住人は、元は故郷を離れた存在ばかり。
再び国を捨てる行為に呵責し、留まり続ける連鎖……。
国の生存権は、
孤独を生きてやっと得ることが出来るボロボロの片道切符だった。
-
*(‘‘)*「……まま、ねぃちゃんは?」
国は人口を増やしたくない。
…だから抑止力として法をかざす。
親は産まれてくる子を生かしたい。
…だから法をかいくぐる。
「──ウっ」
一度は止まりかけたレモナの嗚咽も、口を開けば反芻される。
「ごめんなさい…………。
もう、あの子は帰ってこないと思うと……。
明日、目が覚めてもっ…この家には自分とヘリカルしか居ない…なんて──ううぅぅっ!」
*(‘‘)*「……かえってこないの? ねぃちゃん」
( ^ω^)「…」
レモナに断りをいれてから、ブーンはヘリカルの方へと向き直った。
ヘリカルの足元には白い用紙が散らばっている。
ぱっと目に映る紙には、遠目ながらも人のようなものがふたつずつ描かれていた。
テーブルの上に置かれるガラスの調味料容れを再利用した鉛筆立てが、たった数本しかない色筆の淋しさを助長する。
*(‘‘)*「そっか」
( ^ω^)「…」
──違う。
ブーンはその瞳に潜む濁りに気が付いた。
ありもしない寂しさは助長されない。
*(‘‘)*「なに? おじちゃん」
──密告者は、この妹だ。
(推奨BGMおわり)
-
----------
ガシャァン……と、硬く冷たい鉄格子のぶつかり合う音が空間に反響する。
「君の住む部屋は今日からここだ。
…母さんが会いに来たらまた呼びに来る」
/ ゚、。 / 「??」
フィレンクトの低い声が、まだ6歳になろうかという程の小さな子供に向けられた。
黒い牢獄で響き廻る鉄の音。
呪詛のように繰り返される硬い錠鍵のそれは、彼女の耳にどう届いたろうかとフィレンクトは気にかかった。
ここに来るまで娘に抵抗されなかったのは、現状を理解していないが故に。
…それもまたこの刑罰の狙いでもある。
大人になれば誰しも捕まりたくない一心から必死で暴れるため、その分また人手を必要とするからだ。
/ ゚、。 / 「いつまで待ってればいいの?」
「……迎えが来るまでだ。 なにか欲しいものはあるかい?」
"会いに来る" のは母親であっても、
"迎えに来る" のは母親ではないが。
/ ゚、。 / 「…あたしのヌイグルミ……」
「…分かった。 持ってくる」
-
そう言うと、フィレンクトは足早にダイオードから目を背ける。
職務とはいえ、知人の子を──
/ ゚、。 / 「フィレンクトさん、私、悪いことしたの?」
「……君は、」
/ ゚、。 / 「ごめんなさい…だから、おうちに帰して」
「、……」
──つい数日前にもレモナの留守中に面倒を見たことがあるこの娘を、こんな場所に連れてきたくはなかった。
「…私にはその権限がない。
寒くなったら、そこにある毛布を使うんだ。
足りなければ追加を持ってくるから」
/ ゚、。 / 「うん」
一週間後には失われる命が、少し微笑んだ。
彼女のなかで、まだフィレンクトは優しいおじさんで居られるらしい。
だから余計にフィレンクトの心を蝕む。
若さゆえに迷う警官は、牢の出入り口に紐で掛けられる書類に作業用チェックの印を付け、
地上への階段を逃げるように駆け登っていった。
-
----------
( ^ω^)「もっと延々散開とした街かと思ったけど…」
中心部に近づくほど整備されていく路面と建物、そして人波。
安宿から見る景色とはだいぶ様変わりしてきた街並みが、ブーンを迎える。
居住区や商業区といった区画はなく、その曖昧な線引きは、ひとつ角を曲がれば姿を見せる。
その光景は ──変わらず白く、しかし薄暗い。
散策の目的は、ダイオードが連れていかれた収容所。
そう呼ばれるからには、もっと大きくて目立つ建物があるものだと想像しながら、ブーンは目を光らせ歩いていた。
だがむしろ、中心部のほうが小さくもよく似る建物ばかりが並び、よそ者のブーンには見分けがつかない。
( ^ω^)「…うーん」
白いキャンパスに鉛筆で外壁の線だけを横に一本ジグザグに描けば、この風景は完成するだろう。
色彩を欠くのは、その土地面積に対する国の資源の少なさを象徴しているのかもしれない。
時間だけが悪戯に過ぎていく。
-
ヒャッハー!支援だぁ!!
-
(;^ω^)「だんだん下り坂ばかりになって……もはや自分がどこにいるかもわからんお」
^ω^ )))「いったん戻って、少しでも高い場所から見下ろしてみるかお」
^)))
(<● ))
(<●><●> ) ))
"( <●><●>) キョロキョロ
ブーンが踵を返したその場所で、入れ違いに現れた呪術師が辺りを窺う。
ワカッテマス──ブーンとの面識はまだない。
だからその一瞬だけでは、互いの存在に気付くこともなかった。
(<●><●> ) 「ふむ…こうして歩いてみるとなかなか広い街です」
( <●><●>) 「そして程よく濁って…」
( <▼><●>) 「…まるで領主の野心と同じ。
どこも同じ、誰も同じ」
-
今から一ヶ月ほど前、この街から南西に位置する隣国公人の屋形に、この呪術師は居た。
アサピーを実験台として、不死者を弄んだ赤い森の怨念…その残り香。
( <▼><▼>) 「…少々時間がかかってしまいましたが」
懐にしまっておいた荷物が嵩張るのだ、とワカッテマスは独りごちる。
加工した "ポイズン" の臓物は、腐らぬよう氷の魔導力で凍らせてある。
覚えたての風水魔法で隔離することも考えてはみたが、その場合は繋ぐ先の空間を用意せねばならない。
人口の多い、かつ隠れる場所のないこの街ではどこに人の目があるかわからなかった。
( <●><●>) 「取りあえずは予定通り。
アサピーの話ではやや強引さの目立つ気質とも言っていましたが、しょせん俗物。
……さて、と」
( <●><●>) 「……そうだ、こうしましょう」
誰にも聴こえない声で呟きながら、ワカッテマスは何処かへとその姿を消した。
その目的──いまだ大陸への復讐を胸に。
-
丘に面した外壁沿いを歩きながら街下を眺めるブーン。
その耳に、もの悲しげな声が届き始めた。
…それは民謡にも聴こえるが、
音程は酷く曖昧で頼りない。
( ^ω^)「おっ?」
歩みを止めず進み続ける。
やがて見えたのは…しゃがみこむ一人の男。
遠巻きにこうして見るだけで、頬も腕も痩せこけていることが明確なフォルム。
据わったその目付きは鋭く、しかし脱力した様子で街を睨み付けていた。
見覚えがある。
ブーンは悠久の生に沈む泡沫の記憶から、その糸を手繰り寄せ、想起する。
('A`)y-~ 「……〜♪」
ツンが己の隣にいた頃…
三日月島でアサウルスを倒した時…
あの不思議な空間で、ハインに頼まれ救った男に相違ない。
('A`)y-~ 「ぁ?」
('A`)y-~ 「なに見てんだ」
-
丘の上を撫でてゆく風が、白い壁を避けて二人の頭上に草花を散らしていく…。
彡
彡
( ^ω^) ('A`)y-~
彡
あの時の二人は言葉を交わすどころか、
まともに目をあわせる余裕すら無かった。
現実空間に戻った時には、もう彼の姿はなかったのだから。
……名も知らぬ、不死の同族。
-
('A`)y-~「…おい、なんか言えよ」
( ^ω^)「ごめんお、なんでもないお。
君はここで何してるんだお?」
('A`)y-~ 「ぁー? お前ここの人間……って感じじゃあねえな。
訊いてどうすんだ、そんなもん」
(;^ω^)「おっ……、僕は捜しものをしていて…
ここから見えないかと思って来たんだお」
('A`)y-~ 「…」
('A`)y-~ 「ふひ、なんだそりゃ」
男はブーンに "ドク" と名乗り、口角をつり上げた。
ブーンも同様に名乗ると一層つり上げ、しかしすぐに表情と視線を戻す。
同じ不死者と知っていてシンパシーを感じたわけではあるまい。
…だが彼を知る者からすれば、ドクは少し上機嫌に見えたかもしれない。
-
('A`)y-~ 「俺も捜しもんさ。
ここから見えるわけじゃあねえけど…まあ待ってんだよ」
ひひひ、とドクは歯の奥から笑いを噛み洩らす。
( ^ω^)「そうなのかお。
もし良かったら、この街の収容所がどこにあるとか…知らないかお?」
('A`)y-~ 「あぁ? それなら」
ドクの指差す先…
街の中心から少し外れた屋根群のなか、ぽっかりと穴が開くように空洞になった箇所があった。
クレーター状の大地に建てられたこの街は道が平行でなく、坂を降るほど裕福で身分の高い者が住んでいる。
罪人からは連想しにくいが、公務員である警官が関わるならばそこではないかという。
ドクは諍いの起きていた余所の領主の首を献上するため、一足先に街の特徴を知っていたに過ぎないのだが。
( ^ω^)「高い建物だとか目立つ場所とばかり思っていたけど…まったく逆なのかお」
ε_ ('A`)y-~ フゥ
( ^ω^)「ありがとうだお、ドクオ」
-
再び街中へと歩くブーンの足取りが、心なし軽くなる。
……百年越しの出逢い。
永遠を生きるブーンにも、同じ境遇の存在がこの世界にいることが嬉しくもあり…悲しかった。
繰り返される出会いと別れは怖くない。
慣れたといえば嘘になる……
だが、必然に駄々をこねるほど幼いつもりはない。
( ^ω^)「……そうだお」
怖いのは──二度と出会えないこと。
ましてやそれが同じ時を過ごす者同士であったなら、必然と切り捨てることが果たしてできるだろうか。
( ^ω^)「まずは一つずつ、出来ることからやっていくんだお」
『初心忘れるべからず! ⊿ )ξ
見失っちゃダメよ、ブーン』
( ^ω^)「……だおね、ツン」
そのためにまずはここへ来た。
大陸中をしらみ潰し、必ずツンを助ける。
その方法を見付けるためなら、どんな苦労も厭わないつもりだ。
ブーンは想い、馳せる。
・・・
僕たちが、これまでと変わらず世界を旅するために。
-
('A`)y-~
ε_ ('A`)y-~ フゥ
ピンッ ('A`)σ ⌒ 、
(A` ) 「……ん…?」
ドクの違和感が、何を捉える。
( 'A`)「──いや、こっちが先か」
そして同時に捜しものを捉えた。
どうするか?
もちろん…ドクにとって優先順位など決まりきっている。
準備は整った。
彼は炙り出さねばならない。
そのための準備に時間を費やしたのだから。
逃走劇の主役。
餌を食べ終わるまでその場を動かなかった愚かな野うさぎには罰が下るだろう。
('A`)「ひひっ」
太陽と月が気紛れに揺れる刻となったウォール高原に、二筋の闇が射していく。
-
-
『ねえ、ブーン? ⊿ )ξ
私が──みるとしたら』
-
-
----------
収容所の入り口で、フィレンクトはぼんやりと考えていた。
「……私は、なぜ警官になった?」
国の法が法であるため、地域住人同士の繋がりは弱くない。
従順に従うならば、
生涯一人にしか使うことのない育児用品などに、限られた資源をその都度割り当てることも躊躇われるのが国の実情だ。
育児に限った話ではないが、この国において、人々は使い回せるものならば大切に保管して再利用する習慣がある。
……独裁者の理想通りにいけば、民との意識は一致するはずだった。
だが現実にはそううまくいかない。
-
『……子作りをしなければ良かった。
一つの家庭において子は一人のみ。
国にそう定められているのに、
産んだのは貴女の責任だ』
「……支給されている粗末な避妊具で、それを守りきれるわけがないじゃないか」
あの時のフィレンクトの言葉は、かつて警官学校で習った教科書の一文をそのまま読み上げたもの。
無意識にも、本心ではなかったという彼なりのささやかな反抗ではあるが、一般市民がそれを知ることはない。
伝わらない想いは身勝手な自己犠牲の元、自身を肯定させる。
レモナとダイオードの顔を思い出し、胸が痛む。
そんな彼の頭上に、大きな影が乗っかった。
( ^ω^)「ここが収容所かお? 面会したい人がいるお」
フィレンクトははっとして顔を上げる。
にこやかな青年がそこには居た。
自身と同年代……
しかし、その身に纏う雰囲気は過去に出逢った誰よりも柔らかく、どんな犯罪者よりも威圧感を覚えた。
どれくらい呆けていたのかと反省しつつ、公務員として面会者のための手続きを準備する。
…誰にも悟られてはならない。
国家への反逆心さえ、自身は抱いてはならない。
フィレンクトは揺らぐ心をしまいこみ、職務へと戻る。
-
「では本日の面会対象の名を」
( ^ω^)「ダイオード」
「──、わかりました」
規則にのっとり、面会者の指紋を採取する。
ブーンは特に抵抗なく受け入れたが、国民相手であれば拒否されることも珍しくはない。
犯罪者同士の繋がりを暴くためのシステム…なのに、こんな時までやらなくてはならない。
──バカな、あの娘は犯罪者ではない。
牢に続く第一の扉…チェーンを外し、三本からなる蝶番を順に引いていく。
都度、重たい金属音が壁の向こうで響いているのが平静を装う手から伝わった。
( ^ω^)「ずいぶんと厳重だお」
「法に背くと、大なり小なりの制約がついてしまいます。
この牢には軽犯罪者から重犯罪者までが収容されているので」
──そんな場所にあの娘を放り入れたのか、自分は?
フィレンクトの心に錯綜する、職務への忠誠と秘めた道徳心。
蝶番と共に、彼自身の鍵も弛んでいく。
無表情を装うフィレンクトが顔をあげた。
対するブーンの眼差しは真っ直ぐだ。
その単純な行為が、相手にとって護るべき "心の殻" を無意識にひび割れさせていく。
-
[目は口ほどに物を言う]…ブーンはそれを実現させる。
フィレンクトはブーンから目線を外すことができなくなり、まばたきすら忘れてしまった。
突き詰めれば、これもブーンのもつ【破壊】の魔導力。
良心への信仰と法への忠信に葛藤する若い警官の身に、正しい力が入るはずもない。
「……」
( ^ω^)σ「扉、開かないのかお?」
「………ッ、し、失礼。 少し具合が──」
( ^ω^)「君はきっと真面目な人なんだね」
どこか心を見透かされたことに恥ずかしさを隠しきれず、やっとの思いで顔を背けると、
ブーンの方を見ないようフィレンクトは扉をあけ、駆け足になった。
牢に続く階段を踏み歩く音が落ち着かない。
( ^ω^)「僕も力ずくで何かをするわけじゃないお」
「…」
( ^ω^)「僕の目の前で泣いてる人がいたから、手助けしたいだけなんだお」
「……」
収容所の気温は高く、暑い。
風邪をひいただろうか?
秋を忘れさせるような、なんともいえぬ汗が長袖の下、腕を伝うのはそのせいだと……フィレンクトは言い切れなかった。
-
/ ゚、。 / 「フィレンクトさん」
「面会だ。 君の私物を届けてくれた人がいる」
フィレンクトの言葉に輝いたダイオードの目は、しかしブーンの姿を捉え、戸惑いに変わる。
/ ゚、。 / 「…おじちゃん、だれ?」
( ^ω^)「はじめましてだお。
つ(▼・ェ・) これ、君のだって聞いて
届けに来たんだけど…」
/ *゚、。/ 「あっ! びーぐる!」
「今はまだ上司がいる時間だから、牢の中にまでは渡せないが…
こうして私が見ている範囲でなら触って構わないよ」
隙間越しにぬいぐるみを抱き締めるダイオードを見ても、フィレンクトの表情に変わりはない。
……変わらぬように努めている。
/* ゚、。 / 「ねえ、もうおうちに帰れるの?」
-
( ^ω^)「すぐ帰れるお。
だから良い子でもう少しここで待っててくれって、お母さんから」
本来そんなことは許されない。
フィレンクトの肩がピクリと動く。
国において法は守られるべき秩序であり、警官とはそれを執行する番人の端くれ。
この牢にいる罪人は、いわば国の所有物だ。
『他人の所有物を盗んだ者、禁固2年』
──耳の奥で法が囁く。
/* ゚、。 / 「ほんとー?」
( ^ω^)b「だお。 お母さんを待とうお」
「……」
──その法は、娘を救わないのに?
-
子供をあやしつける方便にダイオードは気付くはずもなく、無邪気な笑顔を振り撒いていた。
そう、国内の人間ならば…
この大柄で笑みを絶やさない男が言ったのでなければ、フィレンクトは何の心配もしなかったろう。
ブーンを前にして、その純たる想いと、どこか底知れない旺然さに不安を覚える。
( *^ω^) / *゚、。 /
彼は旅人である。
どんな罪を犯そうとも、
こちらが捕まえる前に国を抜け出してしまえば……
警官としての虫の知らせだった。
体内に篭る細胞が、外部からの異分子に反応するように。
ブーンが法を犯す確証などあるはずもなく、ブーンという個人の人格を疑うことともまた別次元の話。
それでももし──
「それは君たちが決めることではない」
牢内が静まり返る。
…相対、奥にはまだいくつもの牢が並び、そちらからクックッと笑い声や呻き声が耳に届くようになった。
こんな場所で、ダイオードを一人にさせているのは誰なのか。
法か?
「…そろそろ面会時間は終わりとする」
いや、他ならぬフィレンクト自身だ。
ダイオードがここにいるという現実が…
ダイオードをここに連れたという事実が……
一度揺らいだ彼の心を、更に崩壊させていった。
-
------------
〜now roading〜
( ^ω^)
HP / A
strength / B
vitality / A
agility / A
MP / H
magic power / E
magic speed / C
magic registence / F
------------
-
様々な感情が行き交う、人の命は約100年……
東方では更に永く生きる人もいた。
楽しいことばかりとはいえないが、その触れ合いに寄り添うことは
ブーンのような不死者が生を実感できるチャンスともいえる。
それはもちろん、人から承けるのみに留まらない。
年月が経ち、姿を変える土地からは、また新しい発見をすることもあった。
ガヤ… ガヤ
( ^ω^)「…ツンなら、これからどうするお?」
ガヤ
ブーンがこのウォール高原に来るのは何百年振りだろうか?
隣り合う砂漠が、まだ砂漠になる前だったのは間違いない。
大地は目まぐるしく模様を変える万華鏡…
いくら時を経ても同じ絵柄が映し出されることはない。
だから旅をしていて飽くことも決してなかった。
……今までは。
ザワ
( ^ω^)「ダイオードを助けることは、レモナさんを罪人にしてしまうお…でも」
…ザワ
どこか灰色の世界。
思い出すのはヘリカルの瞳。
ダイオードに比べてあまりに貪欲に映ったあの眼差しは、しばらく忘れられそうにない。
ザワザワ
-
ガヤガヤ
周囲の音がよく聴こえるようになった。
思いにふけた意識を視界に戻すと、
街人らの頭が右往左往に流れていく夕暮れ時の景色に改めて気が付く。
それはただただ流れるのではなく……時にぶつかり、規則性からほど遠い無規律な雑流。
「逃げろっ!! 化け物が──」
「うわあぁあ!」
あがる悲鳴。
瞬時に切り替わるブーンの脳内スイッチ。
しばらく眠っていた細胞が目まぐるしく、弛んでいた身体の芯を引き締める。
「家の中じゃあ潰される…! 離れろ、離れろぉ」
「…向こうかお」
三( ^ω^)
呟きを置き去りにブーンは駆け出していた。
腰に下げた数本の剣が、がちゃがちゃりと静かに音をたてる。
視線の先、白い建物群の頭からは鈍色ひかる鉄の翼が生えていた。
-
( ^ω^)「これは…」
境界線は無い、いつの間に足を踏み入れていたのか。
飛び交う瓦礫、人の身体。
血で血を洗うには些かその量が多すぎる。
弧を描くよう放られ、その場にタイミングよく現れたブーンの腕へ "がくん" と収まったのは肉のカタマリ。
仰向けに垂れる身体の中心には紅い背骨。
成人男性の死体。
( ^ω^)「……」
勢いよく飛んできてもその衝撃に身をよじることなく、ブーンは巨木のようにまっすぐ立ち、死体を見下ろす。
腕に伝わる死の感触……
首の肉も崩れ、千切れそうな舌がだらしなく口許から零れているのを直視してしまう。
たち込めるは新鮮な血の匂い。
死体はフィレンクトと同じ布兜…警官の格好をしていた。
ブーンの周辺にはいまもなお、宙に警官隊が浮かび、そしてぼとぼとと降り注ぎ続ける光景が止まない。
今この場を支配しているのは、聴く者を慄かせる破砕音と、雷を思わせる唸り声──
-
《グ ゴ ォ ア ア ア ァ ア!!》
('∀`)「ひひっ、ひひひ!!」
(;^ω^)「ドク?!」
ひときわ巨大な鳥が大地を暗く染める。
広げる翼が、空の蒼さをその体躯以上に隠している。
その背中で笑うのは──不死者ドク。
-
('A`)「おい、そこでいいのか?」
('∀`)「まーそのまま死ぬのもいいぜぇ?
ひひっ! 羨まーし〜ぃい♪」
誰に話し掛けているのか、グリガンの生み出す風に乗せられたドクの声が届く。
それを聴き取れたのは、辺り一面に動くものが無くなったからだ。
/::; <●>) …ゴトリ
──たった一つ、死体の山から立ち上がった呪術師を除いて。
大きな瞳孔、闇を模倣するフード。
その衣の奥から【カース】と囁く声がした。
ブーンがそれを捉えたと同時、黒い炎が柱となってワカッテマスを囲む。
「……気色悪いもん造りやがって」('A`)
('A`)
('A`) ( <●><●>) ('A`)
('A`)
(;^ω^)「──どうなってんだお」
-
ワカッテマスはいち早く領主に取り入り、土塊を製造していた。
元となっているのはボイズンの臓物。
そのすべての土塊の手に、長身の銃が握られている。
( <●><●>) 「…すり潰してみなさい。
貴方自身の内臓で良ければ
A`) ザザッ
( <▲><●('A`) ──ね」
ワカッテマスを護るよう身構える二体。
他の一体はドクに向けて走りだし、残る一体はワカッテマスの背後で…
('A`)「……」
('/ :
:/A`) ズ リ
ュ ッ
──身体ごと裂かれ、崩れる。
(<●><●>; ) 「?!」
( ^ω^)
?詡囈鼹鼹鼹?,
 ̄ ̄ ̄
土塊の身体から、温もりなき重い剣が姿を見せていた。
滴るものは何もない。
"隕鉄" とも異なる両刃剣は、土塊の肉と骨と血を切断面から【破壊】し尽くしたブーンの得物。
-
>>379を修正して再投下します↓
-
ワカッテマスはいち早く領主に取り入り、土塊を製造していた。
元となっているのはボイズンの臓物。
そのすべての土塊の手に、長身の銃が握られている。
( <●><●>) 「…すり潰してみなさい。
貴方自身の内臓で良ければ
A`) ザザッ
( <▲><●('A`) ──ね」
ワカッテマスを護るよう身構える二体。
他の一体はドクに向けて走りだし、残る一体はワカッテマスの背後で…
('A`)「……」
('/ :
:/A`) ズ リ
ュ ッ
──身体ごと裂かれ、崩れる。
(<●><●>; ) 「?!」
( ^ω^)
つΓーーーー,
 ̄ ̄ ̄
土塊の身体から、温もりなき重い剣が姿を見せていた。
滴るものは何もない。
"隕鉄" とも異なる両刃剣は、土塊の肉と骨と血を切断面から【破壊】し尽くしたブーンの得物。
-
( <●><●>) 「…何者です? いえ、答えずとも良いのですが」
だが、すぐ真後ろで起きたそんな迅速劇にもワカッテマスは動じていない。
頭から割れ伏した土塊から粉が舞い、光る粒子となって人形は消えていく。
呪術師の瞳…こちらの観察に努めているのだろうとブーンは感じ取った。
相手に恐怖という感情は恐らくない。
足元に残った砂を無造作に蹴飛ばしながらブーンは続ける。
( ^ω^)「見つけたお。
君だおね? ツンにあの呪いをかけたのは」
『黒い……瞳孔の大きな… ? )ξ
あれは赤い森の────』
( <●><●>) 「さあ? 存じません。
"この私ではない" と思いますが」
( ^ω^)「【カース】…ツンはその魔法を受けてから、ああなってしまったお」
( <●><●>) 「……………ほう?」
「興味がありますね……
-
( <▼> <▼> ) …どうなりました? それ」
-
下卑た笑み…その瞳孔を弧月に歪ませる。
後頭部が熱くなる気がした。
そんなブーンの視界に映るのは
『クックッ』と笑うワカッテマスと
空の上から墜ちる、喰い千切られた "ポイズン" の下半身。
( ゚ω゚)「……やっぱりお前なのかお」
"ポイズン" の下半身は大地を前に粒子となる。
土塊はその身を繋ぎ止める媒体が破壊されればこの世に存在できない。
真上には巨獣グリガンと、不死者ドク。
ダメージを受けた様子はなかった。
……土塊はドクの力をもコピーするに至っていない。
( <●><●>) 「……解凍が早かった…仕方ありませんか」
( ゚ω゚)「ツンを元に戻すお」
(<●><●> ) 「知らないものは戻せません。
先ほど言った通り、それは私ではない。
……ですが見せてもらえるなら──」
-
突然ワカッテマスが大きく跳躍した。
動き自体は素早くないが、予備動作はなく、さらに周囲を囲む土塊までも同時にその場を離れている。
(゚ω゚ )「なん──っ」
追うつもりのブーンを襲う突風、そして鉄の羽根。
ワンテンポの遅れがその身を封じ、肉を切り刻む。
《ギィィイイッッ!!》
Σ(# ;゚ω゚)「ふおぉぉおっ!!」
──グリガンの【ダウンバースト】。
はるか上空から注ぐ刃と、
全体重を乗せた体当たりがブーンに迫り、
邪
魔
す
ん
な
と、
耳にがなり声をこびりつかせた。
爆発音はグリガンと共に、ブーンは白い瓦礫の山へと吹っ飛んでいく。
('A`)
「それは俺の獲物なんだよボケが」
-
ガリ(ガリ ガリ ;;゚ ガω゚リガリガリッ!
ブーンの意思を断ち切らんとする巨獣のメテオ。
背中に受ける衝撃が意識を失うことを許さない。
瓦礫の山を爆砕してなお、グリガンの【ダウンバースト】は止まらない。
遥か先で原型を保っていた建物という建物すら粉砕しながら翔んでいく。
('A`)「てめーはそこで戯れてな」
グリガンから降り、それを眺めていたドクは
そのままワカッテマスの消えた方角へと足を向ける。
( )「…」
( 'A)「…なんだと?」
…グリガンの攻撃が止んだ。
巨獣の体当たりは、この程度で終わる攻撃ではないはずだった。
「…待、つお……!」
空によく通る声がする。
衝撃の余波がびゅうびゅう土煙を押し退けていく。
ひらけてゆく景色…新たに出来た瓦礫の壁。
蜘蛛の巣状にひび割れたその中心に。
グググ…
::(;つ^ω^)つ::「…あいつには…訊かなきゃ、いけないことがっ、あるんだお!!」
グリガンの牙を抑え込み、膨張させた筋肉によって巨獣を怯ませるブーンの姿。
( 'A)「…」
( 'A)「ひひっ、おもしれぇ〜」
-
グググ…
::(;つ^ω^)つ::「ドクもアイツに用があったのなら、目的は一緒のはずだお!」
('A`)「んー、あぁ〜そうねえ〜」
::(;つ^ω^)つ::「それなら一緒に──」
('A`)「馴れ合うつもりはねえ。
どーしてもってんなら、てめーはそこでグリガンを倒してみろ。
おもしれーぞソイツは」
::(;つ^ω^)つ::「ド、ドク…頼むお!
僕は君と争うつもりはないんだお!」
('A`)「争ってんじゃねえか、どっちが先にワカッテマスを捕まえるかをよ」
::(;つ^ω^)つ::「ツンを助けるために、アイツから病気を治す方法を僕は知りたくて──」
('A`)「他人の事情なんざ知ったことか。
俺の用が済んでからにしろよ」
::(;つ^ω^)つ::「どうしてだお! 話を聞いてくれお! ドク!」
( 'A)「あばよ、ブーン。 …ひひっ」
そういって、ドクは去っていった。
グリガンの向こう側にいるブーンから見ることも出来ず、ただ気配でドクが居なくなったことを知る。
グググ…
::(;つ ω )つ::
::(;つ゚ω゚)つ::「……ドクオー!!!」
-
ブーンの叫びに呼応してグリガンの牙が震えだす。
──否、震えているのは鋭い体毛か。 それも全身。
七色の羽根をもつ孔雀が異性に対してアピールするのと同じように、鉄の羽根もまた、強者に向けて。
::(;つ゚ω゚)つ::「ま、マズイお!」
グリガンが短く鳴いた。
『お前の力、もっと見せてみろ』
そう言いたげに、無数の羽根が死神の鎌を連想させるほど逆立ち…欠けた月を作り出す。
『【バーストウィング】…!』
____、
`ーーーと(# ゚ω゚)つ::
ミ 「…ッこの──」
…羽根が身体を貫く音も、叫び声も、
ドクには届かない。
-
----------
「ぐあぉお!!」ギシギシッ
「ははは ( <●><●>) ははは」
「ギャアァァッ」
ギシィッ
( < ●>< ●>) つ 「【カース】…」
ギシッビシッ
「あ゛ー! あ゛あ゛あ゛ー!」
ガッシャーン
⊂(<● ><● > ) 「…【カース】」
街中に次々と、氷の柱が生えそびえる。
ドクとグリガンから逃げるワカッテマスはしかし、素直に街から出ようとしなかった。
「しね…シネ…
<●> <●>
死ね…しネ…」
ピキリ、パキリと結晶を踏み締め。
優雅に歩くその姿はさしずめ童話の笛吹男だった。
いまや凍えそうな寒空の下、愉しげに振り蒔かれる赤黒い魔導力。
なす術なく人々は瞬時に石化し "凍って" ゆく。
それが柱の正体。
《バスッ!》
「おめーが死ね」('A`)
-
咄嗟に目を向けるしか出来なかったワカッテマス。
その眼前にドクの弾丸が迫った。
( <●><▲> 「──
'=⊂('A`) ひひっ」
フード越しに頭が揺れる。
ドォゥンッ…と鈍く重い音。
──そして
('A`)「…! 野郎」
弾力性に富む分厚い衝撃吸収材を鈍器でなぐればそんな音がするだろう。
ダメージの大部分を散らす陽炎の壁がワカッテマスを囲んでいるのを、ドクは確かにみた。
('A`)「GC (ガードコンディション) …このタイミングでか」
( <●><●>) 「…貴方でなくグリガンであれば貫けたでしょうにね」
('A`)「それじゃあ意味ねぇんだよ」
-
任意で一定量の魔導物理壁を張る【シールド】とは違い、
GCは発動もまちまちで、単一では弾丸を防ぐほどの壁も作れない。
──それが魔導研究者達の常識であり、大陸戦争時代には
[戦場の奇跡][女神のお目こぼし]とも呼ばれていたほどだった。
グリガンのような規格外の存在でもなければ覆せない。
人は群れ、心から仲間と連携し、団結することではじめてGCが発動するが──
( <●><●>) 「貴方の土塊とは随分と相性がよろしい…それを収穫としておきますか」
主従関係よりも強固な上下関係。
土塊人形とワカッテマスにはおあつらえ向きなのかもしれない。
('A`)「……」
('A`)「ひひひ」
土塊から奪った銃では貫けない。
本来の得物であればGCを減少させるリングが共に在ったはず──……などと悔やむのは、限られた時間を生きる者だけの特権。
千年を生きる彼の心に、悔いるという文字はない。
('A`)「俺が諦めると思うか?」
ドクは両腕をだらりと下げ、首をかしげると
ワカッテマスを見下すよう睨み付けた。
('A`)「たっぷり時間はあるんだ、遊んでやるよぉ〜っひひひ♪」
('∀`)「…お前の企みも、怨念も、生きる目的も希望も
手足も首も顔面も目玉も舌も血も肉も骨も、
全っ部 ────
もう、俺のもんだ」
----------
-
街の至る場所で発砲音が紫空に舞っていた。
色に灰塵が混ざるのは、同時に放たれた炎のせい。
主人に寄り添うよりも優先度の高い命令を受けている土塊の所業は、常人にすれば狂気の沙汰だった。
「なぜ…私達がなにをしグェッ」
「助けてくれ! た──ッハギァ」
人々を襲う凶行。 止めることは出来ない。
土塊が引き連れた領主の姿を背景に残したまま、鉛の雨に撃たれて地に沈んでいくばかり。
|(●), 、(●)、| 「この区域の住人は反逆者だ!
収容所などもういらぬ! 資源の無駄だ!
老人もいらぬ! 国の未来に必要ない!」
|(●), 、(●)、| 「殺せ!」
興奮のあまり瞳孔を開いた領主がその手を振りかざし、控えていた警官たちも場の鎮圧にかかる。
──なにが反逆で、誰を殺せばよいのか?
誰一人としてそれを把握している者はいないのだろう。
国民を撲り倒し、流れ弾に貫かれながら、彼らの耳元では法が囁いている…。
『職務を放棄した公務員は、生命刑…つまりは死刑』
殺せ!
殺 せ!!
殺 せ!!
-
『殺せ !』
『殺 せ !!』
『 殺 せ!!』
/; ゚、。 / 「…なんのおと?」
狂気を運んでいる張本人、
ウォール高原の領主の声が地に吸われ聴こえてくるそこは、地下に建設されている収容所。
冷えているはずの壁床からじりじりと熱を感じ始める。
フィレンクトも、制服の一部である布兜ごしに、パラパラ降る小石や砂埃の重みを感じた。
表情は自然と歪み、天井のあちら側から目が離せない。
「私にも分からない……石が降る、その毛布を頭に被っておくんだ」
/ ;゚、。 / 「う、うん」
「……いったい何が起こっている?」
人間とは思えないほど悪意に満ちた頭上の声を、ダイオードはどう受け止めるだろうか。
フィレンクトは無意識に階段へと足を向ける。
/; ゚、。 / 「おかあさん! ねえ、おかあさんは??」
-
「レモナさん……そうだ! 避難活動はされているのか?!」
/; ゚、。 / 「えっ…」
「君はここで待っ……いや!」
フィレンクトは踵を返し、牢を開錠する。
二日ぶりに開かれる鉄柵。
その奥でいそいそと、薄汚れた毛布にくるまろうとするダイオードが慌てて顔を上げた。
「おいで。 私から離れないように。
レモナさんの所まで必ず送り届けよう」
/ ゚、。 / 「…うん」
もう分別のつく年頃だ。
地上に起こる騒動はともかく、フィレンクトの焦り…住民を守ろうとする優しさは感じとるのだろう。
その時──ひときわ大きな震動が収容所を揺さぶった。
他の牢ではまだ繋がれた罪人達が恐怖に叫び、
「俺達も出せ! クソガキ! おい殺すぞ!」
と、この期に及んでまだ恐喝じみた言葉を投げつけてくるが、フィレンクトの聴覚はそれを遮断する。
「上では何があるか分からないが…君はとにかくお母さんのところに行かなくては。
…怖いかい?」
問い掛けから間を置かず、
ダイオードは首を小さく横に振る。
/ ゚、。 / 「フィレンクトさんがいるならへーき」
……その口許は、笑っていた。
-
警官として特にここ数年、フィレンクトがやってきたのは誰かを罰する職務ばかりだった。
──罪を犯すほうが悪い。
──なぜ法を破るのか?
……どうして規律を破ってまで私達の目を逃れ、信用してくれないのか。
いつしか意識の谷底へと沈んでいった。
公務員試験に合格し、当初抱いていたはずの
"純粋に誰かを守り、平和に過ごせるよう助けたい" という想い……。
それがまだ自分の中に残っていて、打てばこうして鐘を響かせるのだ。
なにも恨まれ疎まれる仕事で生涯を終える必要はない。
自分にはまだ道が他にもある。
この国に拘らず、素直に生きる人生がある。
(‘_L’) 「さあ、行こう」
そう考えたフィレンクトの顔は晴れやかで、活力に充たされる。
今までの死んだような顔ではなくなった。
そして誇らしげな微笑みをダイオードに向けると、
──頭から瓦礫に潰された。
-
パラパラ……
パラ…パラ … パラ
/ ゚、。 / 「……」
( ω )
ダイオードの目の前に広がる無惨な天井瓦礫。
大量の土がザラザラと…
夕焼けに照らされた砂煙が、牢獄の空を彩った。
フィレンクトと入れ替わりその場に現れたのは、先日顔を合わせたばかりの青年──ブーンの姿。
/ ゚、。 / 「……」
ダイオードはその瞬間を見ることが出来なかった。
フィレンクトはどこにいったのだろうと、幼い瞳は瓦礫、空、ブーン、砂を順番に見つめる。
( ω )「……ぉ」
ブーンが唸り、その身に背負っていた毛布をうっとおしげに引っ張り捨てた。
それはあまりに巨大で厚みのある、ダイオードにとって見たことのない、生々しい鉄色の光沢を映し出す。
ずる
り、ず
るり、ビ
( ω ) チャッ。 /; ゚、。 /
-
彼女の頬に跳ねるは、血。
目の前に押し寄せられた毛布は一枚の絨毯のように牢獄を埋めつくし、
しかしところどころ羽をむしられ、むせかえる獣の臭いをダイオードの鼻腔に充満させた。
ブーンがそれに気付いたかは分からない。
…剣を立て、支えるように立ち上がる。
顔を上げるとはじめて辺りを見回した。
( ;; ω^)「……ダイオード?」
(;;; ω^)「いてて……。 じゃあここは、収容所かお?」
/; ゚、。 / 「……」
(;;; ω^)「?」
見開かれた瞼から覗く瞳孔が…
驚きによって小さな黒点となりながらも、ブーンからついて離れない。
正確には──その足元の瓦礫から。
-
ブーンは天を仰ぐ。 月のない空。
牢獄に開いた大穴から、相容れない熱と冷気が流れ込むのを感じた。
灰塵は見えどグリガンの気配はない。
翼を失いどこかへ去ったのだろうか。
深く息を吸って静かに吐く…。 すると背中にどっと汗をかいた。
手をあてながら、我ながら頑丈な身体と強運に感謝する。
運良くGCが発動していなければ、彼の胸を鉄の羽根が貫いていただろう。
(;;;^ω^)
つ◎ (そうなれば、後はやられ放題だったはずだお)
…肩から片翼を丸ごと分断して尚、
グリガンの攻撃は凄惨の一言に尽きるものだった。
思い出すに震える手で【ヒール】を発動する。
さらにその中のもう一つの救いは、完全にグリガンと密着していたことだった。
こちらの攻撃さえ届けばどんな強敵相手にもチャンスはあるのだから。
手の内にある使い古された両刃剣…
"デュランダル" を一瞥すると、ブーンはもう何度かの深呼吸を繰り返す。
永きに渡りブーンの愛用してきたこの不滅の刃は、不死すら屠ることが出来る。
ともすれば不死を屠るためだけに存在する剣。
-
…ドサリ。
その時、何かが倒れる音がした。
見やればダイオードが尻餅をつき、小さな歯と身体を小刻みに震わせている。
( ^ω^)つ「驚かせてごめんお…どこか怪我してないかお?」
/; ゚、。 / 「やだ」
(;^ω^)つ「?」
/; ゚、。 / 「……いやだ」
差しのべた腕は、所在無く宙に留まる。
ブーンには理由が計り知れない。
(( /; ゚、。 / 「こないで」
(;^ω^)つ「?? 僕を忘れたかお?
ほら、おかあさんから頼まれて、ぬいぐるみを持ってきた──」
(( /; ゚、。 / 「いやあ!」
(;^ω^)「……あぅ」
はたと気付き、"デュランダル" を鞘に納めたが、ダイオードの態度は一向に変わる様子を見せない。
仕方なくブーンはその場を後にする。
「もう少しここに隠れていてくれお、おかあさんを連れてくるお」
……そう伝えてから階段を登った。
大地を揺るがした衝撃によって壊れそうな扉に、荒く手をかけながら一度振り返る。
先ほど自分の居た場所で、四つん這いのまま項垂れているダイオードの後ろ姿が見えた。
まるでそこに何かがあったかのように。
-
…きっとこの予感は当たっている。
ぬいぐるみを下敷きにしてしまったのかもしれない。
だがそれを確認するより、街の被害が拡大する前に安全を確保したかった。
レモナとダイオードを会わせなければ。
多少なりとも恨まれるのは構わない。
それでもできる限りのことはしてやりたかった。
(^ω^;)「すぐ戻ってくるお!」
返事は聞かず、地上に出てまずは周囲を確認した。
…やはりグリガンの姿はない。
代わりに人々が倒れ、秋夜の空気と混ざりあう冷気の湯気が例外なく立ちのぼっているのを見た。
場に残留する微かな魔導力が、
かつて【カース】を受けたツンを治療した際に感じたものとあまりに似通っている。
( ^ω^)「…ドクにやらせちゃダメだお」
ブーンの捜しものは形を為した。
ツンを治すための手掛かり…
ドクがあの呪術師をまだ殺害していなければ、間に合うかもしれないのだ。
そのためドクよりも先に、呪術師を捕まえる必要がある。
──だが。
はやる気持ちを抑えつつ、ブーンはレモナの住む郊外へと走り出す。
遠いどこかでブーンの知らない、誰かの笑い声が聞こえた気がした。
----------
-
無情だなぁ……
-
(推奨BGM:Eclipse of Time)
http://www.youtube.com/watch?v=Avl3A--8xYU&sns=em
-
ダイオードの拒絶以降、ブーンの表情は曇り続けていた。
道行く道は軍兵が無秩序に侵攻したかのように荒れている。
郊外に向かう分には迷いはしない。 クレーター状に緩やかなこの街は、坂を上れば高原側に進むことになるからだ。
だが街の中心地から離れても、離れても…。
惨劇の跡と静寂が、わずか半日で街中に蔓延っていた。
走るブーンの視界、白い建物は古び、冷気を帯びる死体の数もまばらになっていく。
(;^ω^)「…【ウォータ】ではこんな冷気を発しないお」タッタッタッ
(;^ω^)「まるで氷の……でもそんな魔導力は聞いたことないお」タッタッタッ
ツンの症状を思い出す。
緩やかな石化…一切の動きを停止した身体…。
(;^ω^)「誰かいないかお?!」タッタッタッ
張り上げたその声も虚しく暗闇に消えた。
この辺りはまだたくさんの人が溢れ住んでいたわけではない。
うまく避難していてくれたなら善し……さもなければ──
時折《パキリ…》と冷たい音がする。
氷の柱だった名残が、死体の一部から剥がれ落ちる音であると知り、ブーンの胸はざわついた。
まもなくレモナの家に着く頃。
前方にはビロードの医院が、その背と輪郭を現し始めた。
…窓はことごとく割れ、壁に大穴を空けて。
速かったブーンの歩調が更に速度を上げる。
-
(;^ω^)「ビロード!」
(^ω^;三「…ビロード?! 居るかお!」
穴からそのまま中に入り込むと、ブーンの声が再び飛ぶ。
医院内には人影もなく、死体も見当たらない。
「……だれ、ですか?」
(;^ω^)「!! ビロード!!」
返事があった。
弱々しくはあるが、それは紛れもなくビロードの声だった。
ブーンは声のする方角……医院の正面口へと走る。
(;^ω^)「良かった、無事だったのかお」
「………」
彼は外にいた。
[po・oq]の看板が外れ、土にめり込んでいるその真横…。
安宿入り口の石畳に座り込むビロードは俯き、顔は夜の暗さに紛れてよく見えない。
「その声は…あの時の」
( ^ω^)「だお。 怪我がなくてなによりだお」
「なにより……ですか」
-
「私の隣のこれ…お店の看板ですよね?」
ビロードの手が優しげに置かれる。
数時間…いや数十分前には入り口の扉頭上に掲げられていたであろう看板。
ビロードが重い腰をあげると腕を伸ばし、看板の端から中央にかけてシワだらけの指を這わせる。
「私ね、途中からひょっとして…と思っていました。
お久し振りです、ブーンさん。
……ですよね?」
( ^ω^)「…!」
彼が立ち上がったことで、扉に描かれたウェルカムメッセージに深い影が差す。
目の見えないビロードは言葉を続けた。
「…ぽっぽちゃんが建てた宿、まだ営業できますか?
私の触れないところは、無事に形を残してくれていますか?」
「あっという間だったんです。
はじめは外が騒がしくなったな、と思う程度だったんです」
「でもそのあとすぐに地震が来て、私は夢中で医療用ベッドの下に潜り込みました」
その視線は当然定まらず、彼はずっとブーンに対して横を向いていた。
-
( ^ω^)「…大丈夫だお、少し修理すればすぐに…」
「街の人々は無事ですか? この国は、旅人がまた泊まりに来てくれますか?」
……ブーンは答えられなかった。
広い街ではあるが、この現状が街の反対側で起こらなかったという保障はどこにもない。
領主が何をしていたのかすら、ブーンには把握しきれていないのだから。
「……すみません。
これでは八つ当たりですね、ブーンさんに私がしていいことではない」
「流行り病にかかった時、ぽっぽちゃんは宿の扉に貴方へのメッセージを遺してから逝きました。
私たちはあの砂漠道で、ブーンさんとツンさんから、大人としてのお手本を見せてもらいました」
( ^ω^)「……」
「子供に優しくすること。
命令ではなく、一緒に行動すること。
…なによりも、あんな子供だった私たちの個人の意思を、とても尊重してくれていたのだと。
歳をとるたび、私たちは様々なことを振り返っては、貴方たちに感謝したんです」
ビロードは白衣の裾で目元を拭う。
洩れない嗚咽は、彼がここまで生きてきた我慢強さの表れか。
──なのに、その顔が見えない。
-
「おかえりなさい、ブーンさん
ここはウォール高原の貴方の家なんです。
僕たちの…もうひとつの家族のための」
ビロードは少しだけ笑っていた。
ブーンからは顔が見えなくとも、なんとなくそれが判った。
…ここにツンが居ないことを申し訳なく感じてしまう。
「一日だけしかおもてなし出来なくてごめんなさい。
もっともっと、貴方には柔らかなベッドで身体を休めて欲しかった」
「だからまた…この場所に来てください」
「その時に私はもう居ないけれど……証しを遺しておきます」
──ブーンの心臓が跳ねる。
続くビロードの言葉は、更にその激しさを増した。
-
「少しだけ触れた、貴方の指先はあの頃のままでした。
さっきも貴方が呼んでくれた声で、確信できたんです」
「普通ならそんなはず無いけれど……
きっと、ずっとずーっと長い間、貴方は生きているんですね? ──そして、これからも」
「だからまた来て欲しいんです。 私たち兄妹が住んだこのお家に。
……ブーンさんとツンさんが、旅をして、またここに来ればいつでも休めるように」
「それが、私たちから貴方への恩返しです」
-
最後まで、ビロードはこちらを向いていたはずだった。
……なのに最後まで
この時の彼の顔はブーンの記憶に残らなかった。
(推奨BGMおわり)
-
----------
ザァザァと降りしきる秋の大雨。
いつもなら風に吹かれて草木も囁く高原の自由さを、頭ごなし大地に押さえつけるかのように強く…。
大粒の滴を、これでもかと言わんばかりに放出している黒雲の仕業だ。
( ^ω^)
丘の上、見下ろす景色はここへ来た時とそう代わり映えしない。
ただ今は天候のせいで見通しが悪い。
白く高い壁がぐるりと囲むウォール高原の街は、丘にいてなお、中の様子を窺い知ることは難しかった。
二段構えの白い壁は内側から丘を展望できても、外側からは不可視となる。
戦時の際の外敵から街を守りやすい構造になっているのだろう。
………そんなウォール高原に存在した国は、皮肉にも内側から崩壊した。
-
( ^ω^)「なにが…原因だったんだお?」
ブーンからすれば、あっという間の出来事だった。
ドクとの邂逅…
思えばその時──ツンの居ない寂しさを抜きにしても──大きな喜びに浮き足立っていた気がしなくもない。
あの時点で予兆はあったのだ。
アサウルスを倒した不死者が『捜し物をしている』のだと…その言葉に、ブーンは自身の境遇を無条件に重ねてしまった。
もっと何かを感じても良かったのだ。
ドクに訊きたいことが、今になっていくつも頭に浮かぶ。
-
ビロードと別れた後、レモナとヘリカルは見つからなかった。
置き去られたダイオードは
収容所のあの場所で疲れ果てたのか、眠っていた。
目の下に、泣き晴らした跡を残して。
あの街に残っているのは一部の住人だけだった。
領主は消え、生き残り解放された警官隊が涙を流して救助活動を行っていた。
ダイオードを抱えて宿に戻った時も、ビロードの顔はやはりよく見えなかった。
( ^ω^)
( うω^)グイッ
( ^ω^)
『まってるから ⊿ )ξ
貴方がアタシを治す手段を見付けて──』
-
( ^ω^)「…もう少し待っててくれお」
フードの呪術師、そしてそれを狙うドク。
手掛かりは増えた。
どちらかを捜すことでも、ツンを治す第一歩となる。
大丈夫…まだ大丈夫なはずだ。
そう自分に言い聞かせ、ブーンはウォール高原を後にする。
雨でぬかるんだ草と土がブーツにしがみつく感触を、少しだけ疎んじた。
-
ビロードの親孝行は嬉しかった。
その気持ちに嘘はない。
だが、それを素直に受け取るためには
ツンが必要不可欠なのだとブーンは思う。
……ビロードの想いとは裏腹のエゴで。
土砂崩れに埋もれ命をおとした、
ニューのことが脳裏をよぎった。
そしてレモナの居ないあの街で、
ダイオードは大丈夫だろうかと悩んだ。
……知り及びもしない過ちに、ブーンは気付かないまま。
雨は人の言葉を通さない。
音を悪戯に拡散する。
止むまでは再現なく増殖し、見えるものも見えなくなる。
-
すれ違う。
親の心、子は知らず……。
間違い続ける。
──子の心、大人は知れず。
迷い続ける。
自分自身に抗いながら。
それでももし、いつか。
その "いつか" の為に、
人は希望を抱き、
なんとか生きているのかもしれない。
(了)
-
これで今回の投下を終わります
新年もよろしくお願いします
>>382の文字化けはツンの口です
(´・ω・`)ω・´): 傷痕留蟲アサウルス >>6
('A`) :東方不死 >>170
( ^ω^) :白い壁 黒い隔たり >>329
-
--------------------------------------------------
※千年の夢 年表※
--------------------------------------------------
-900年 ***********
→信仰の概念がうまれる
( ??)は偶像生命体として同時に生誕。
-400年 ***********
→結婚(結魂)制度のはじまり
-350年 ***********
【ふたごじま】→魔導力の蔓延
-312年 ***********
【銷魂流虫アサウルス】→前半
→ "隕鉄" が世界に初めて存在しはじめる
【東方不死】→山人の夢
→('A`) がアサウルスと相討ち
-220年 ***********
【銷魂流虫アサウルス】→後半
【傷痕留蟲アサウルス】
→騎兵槍と黒い槍が融合
→('A`) がアサウルスから解放
-210年 ***********
→大陸内戦争勃発。
【帰ってきてね】→前半
-200年 ***********
【帰ってきてね】→後半
【死して屍拾うもの】
→ "赤い森の惨劇"
-195年 ***********
→大陸内戦争終了。
【はじめてのデザート】
-190年 ***********
【その価値を決めるのは貴方】
-180年 ***********
【老女の願い】→復興活動スタート
-
-150年 ***********
【老女の願い】→荒れ地に集落が出来る
→川 ゚ -゚) が二代目( ´∀`)に指輪依頼
-140年 ***********
【老女の願い】→老女は間もなく死亡
→指輪の暴走。 川 ゚ -゚) が湖に封印。
-130年 ***********
【人形達のパレード】
【此処路にある】
→(´・ω・`)( ゚∀゚)川 ゚ -゚) の三人が集結
→二代目( ´∀`)死亡時期
→偽りの湖から( <●><●>)が引き揚げられる
-120年代 ***********
【命の矛盾】
【東方不死】
【白い壁 黒い隔たり】☆was added!
→ウォール高原の国法制度が崩壊 ☆was added!
-100年代 ***********
【繋がれた自由】
【遺されたもの】
【時の放浪者】
-40年代 ***********
【老女の願い】→集落→町になる
00年代 ***********
【老女の願い】→( ^ω^)が
官僚プギャー、炭鉱夫ギコに再会
-
乙
-
>>404の誤字を一部修正します
×→[po・oq]の看板が外れ、土にめり込んでいるその真横…。
○→[po・od]の看板が外れ、土にめり込んでいるその真横…。
小さなこだわりですが下が正しい表記です
それと今回から酉を共通にすべく変更しました
◆WE1HE0eSTs→◆3sLRFBYImM
となります
-
おひさしぶりおつ!
そしてがっつりやばいじゃないっすか・・・ビロードぉ・・・また会えてうれしいけどもう・・・
安定のドクオな
-
久々にきたな
グリガン止めるとかブーンつええ……
ビロードとかフィレンクトとかヘリカルとか……つーか色々書きたいんだがキャラの思惑みたいなのが入り乱れてて感想がまとまらん。なんだこれ
とにかく乙!面白いわ
-
おつ
-
命の矛盾じゃなくて矛盾の命じゃないか?
-
感想、投下中の支援、ありがとうございます
>>424
失礼しました、矛盾の命が正しい表記です
こちらで切り貼りしてるうちに書き間違えたようです
-
乙。
待ってたよ
-
待ってますぞーーー
-
お久し振りです。
投下分のお話は完成したのですが
レス数が多いのと、まとまった時間がないために投下はもうすこし先にさせていただきます。
前回から間が空いたということもあり、
せっかくなので支障のない範囲で設定集の一部を載せておきます。
ひとまずは主要のキャラクター紹介を兼ねて…
おさらいの代わりにでも、良ければ読んでいただけたら幸いです。
-
( ^ω^)
遥か昔からこの世界を旅する、最も善なる心を保ち続けて生きる不死者。
武器は剣(大剣)。
彼の行動原理は《助ける》ことと《ツン》。
土地を巡るのは人々を間近で見続けたいという想いから。
不死者のなかでも極めてスタミナがありタフだが、ステータス異常には人間と同じ程度にかかってしまうため、その欠点を補うべく得意とする魔法は【キュア】である。
ξ゚⊿゚)ξ
ブーンと同じく、遥か昔から世界を旅する不死者。
行動原理は《護り庇う》ことと《ブーン》。
戦闘では魔法を主に駆使するが腕力はブーンより強い。
(ただし彼の前でそれを振る舞うことは、ブーンのメンツを考慮しており多くはない)
武器の扱いが得意ではなく、ブーンと共に行動していても技を盗めない。
ステータス異常にひどく弱い…その理由は今後明らかになる。
-
('A`)
過去には東方にも住んでいた不死者。
武器はガンアクス(刀や峨嵋刺などの東方武器も使用可能)
傭兵名はポイズン。
痛みや死を恐れず、不死の特権を誰よりも行使している。
行動原理は《孤独》と《生死の狭間》。
彼の唄は教わったものであり、本人は認めないが気に入っている…が、唄そのものが不得意のため正確には盗めていない。
死によって訪れる記憶障害を気にする様子は窺えないものの、死そのものについては敏感であるため、いちいち原因を探ろうとしている節がある。
自身が毒を撒き散らす体質からか、ステータス異常には滅法強い。
川 ゚ -゚)
他の者と異なり、時代ごとに特定の住居や社会的立場を得ている不死者。
ショボンいわく『歴史に介入している』。
行動原理は《安定》と《信用》。
魔法の扱いに長け、資質も高い。その長所を活かした得意武器は錫杖(複数の魔導リング付属)。
たとえば同じアイテムをツンが使うとしても、クーのように同時多発的に魔法を発することは出来ない。
彼女はまだ多くの謎を残しており、それは今後解明されることとなる。
-
(´・ω・`)
ある時を境に生まれた新たな不死者。
魂のなかには死産したはずの(`・ω・´)が共に在るが、人格はあくまでショボンのみである。
行動原理は《好奇心》と《恐怖》。
得意武器は剣。刀による居合い技は独学だけでなく、当時( ´_ゝ`)の部屋にあった本から知識を得たものである。
(ツンにとっては『ツマラン』らしく、読むのをやめていた)
些か偏屈なところがあるが、根は優しく真面目。
各魔導力のもつ特有波動を感知するのが得意だが、普段は呪術(赤黒い)に的を絞っている。
_
( ゚∀゚)&( <●><●>)
赤い森の民が作る民族人形に魂を宿した人工的な不死者。
元は二重人格のようなもので、
その想いの強さからかつてはワカッテマスが前面に出ていることがほとんどだったが、
最終的にはジョルジュが主人格となる。
行動原理は《受け継ぐ》こと。
どちらも呪術を使用できるが、人格によって得意な魔法が異なっている。
体術は赤い森の男子皆が一族から物心付く前から教わるもの。
まだ幼かったジョルジュが青年になってここまで昇華できたのは、ひとえに想いの強さに他ならない。
-
ミ,,゚Д゚彡
孤児であるため親の顔も知らない、世界でも珍しい金色の髪の持ち主。不死者ではない普通の人間。
行動原理は《他人のため》。
得意武器は本来槍に限らないが、ミルナが置いていった騎兵槍のみを望んで使用している。
ミルナに似てポーカーフェイスなところがあるが、寂しがりで人と接している方が好き。
普段はナナシ(名無し)と名乗り、傭兵名はフサギコ(塞ぎ児)。
故郷でも陰口として後者が呼ばれていた。
(*゚ー゚)のことは幼少の淡い恋として心に秘めていたが、
それを表さないままに現時点で唯一、生身で時代を越えてしまった。
( ´∀`)
大陸に代々工房を構える細工職人。人間。
基本的に一族皆、同じ顔をしている。
行動原理は《探求》と《徹底》。
四代目はクーの目の前で呪術であるはずの【ドレイン】を使用しているが、なぜ習得しているのかは現時点では不明。
得意武器はナイフ。
彼ら一族は自力で魔法を使えないが、自身で製造したアイテムを媒体に魔導力を駆使することができる。
食べ物に頓着していないため、クーの料理は褒めつつもあまり嬉しいとは感じていなかった。
-
从 ゚∀从
クーやブーン達と昔から面識のあったらしき女性。
大陸などとは全く異なる空間にいるらしいが、詳細は不明。
ブーン達をその空間から逃がすことはできても、自身は脱け出せないようだった。
彼女と意図的に出逢った者は今のところいない。
グリガン
不死ではないが恐ろしく長寿の、世界でも唯一種の巨大モンスター。
地方によっては伝説上の生き物として崇められ、山頂から山頂へと飛び移る姿がときどき目撃されている。
対峙した人間はことごとく殺されてしまうが、現時点で( ^ω^)と('A`)には引き分けている。
得意技は重力を引き込みつつ、体躯を活かした必殺の【ダウンバースト】。
アサウルス
黄色の瞳と二つの太陽をその身に所持する超巨大生物。
一個体ではないため複数存在する。
三日月島付近では行動不能となって石化したアサウルスが海に佇み、東方のアサウルスは退治された以上の明記はされていない。
天から降ってくる者ともいわれ、不死者の活躍がなければ間違いなく滅亡の大天災に数えられる存在。
ハインいわく『生きる概念と生きたい願望がアサウルスを産む』。
硬質の外殻は並みの攻撃では歯が立たず、たとえ通用しても
人間とは身体的スケールの差によって微々たるダメージしか与えられない。
しかしその外殻は後に"隕鉄"として、世界に新しい素材をもたらした。
特性は《感染》と《概念や願望の増幅》。
口や身体中から噴き出す灰は独自の生命体となり、個別に動き出す。
(通称:蟻)
この蟻に咬まれると感染し、人間はそのまま蟻と同じ生命体となってしまう。
なお、不死者が蟻に感染した歴史は見られない。
-
ひとまずここで区切ります
作品本編の投下の際は、またよろしくお願いします
-
うわーひさしぶりじゃないか!
まってるぞ!
-
まってたんだからな��
-
これは楽しみ
-
『やった、ついに倒れたぞ!』
――そこには宙があった。
『皆は無事か?!』
果てはない。
…あるのはただ、彼方まで見渡す限り一面の闇。
それに抗うように点々と灯る小さな小さな光りだった。
『まだ近寄ってはならぬ!
第一衛兵長、騎兵隊長らで囲め!
あれだけのことをしでかしたのだ、万が一を考え――』
感触を確かめるべく手を伸ばすことは叶わない。
寒くもなく、暑くもない……そんな意識すらどこか遠い。
思考と乖離した、どこか身近な心の臓。
ドクドクと穴を開けて冷たいなにかを垂れ流している…そんな気がした。
『女王様! 女王様は無事かぁ!』
-
( …なにが女王だ )
あるかどうかもわからぬ胸中に独りごちる。
舌打ちができない。
…比喩ではなく。
その身体は中心部に大穴を開けられたのだから。
( 、 トソン 『女王はご無事です。
貴殿方はこの不届き者の処置を…それを民衆も、女王も望んでおります』
『トソン殿、かたじけない…我々がもっと早く――』
( 、 トソン 『侍女たる我らに遠慮や配慮は無用。
さぁ、準備をしましょう、都の人々に伝えるのです……』
( 、 トソン 『賢者様殺害、その一連の犯人が死んだことを』
( …そうだったね )
呪術師が招いた、脆く短きディストピアの崩壊を告げる侍女の声。
目視できぬ表情…しかしその声色から、俗物らしく
《してやったり!》
とでも言い含んでいることだろう。
( はぁ、くだらない )
――思い、"彼" の意識はそこで呑まれる。
-
"生まれて" はじめて。
若き不死は、今から長い夢に入る。
その死体の傍らで、粉砕した幾ばくかのオーブの欠片を散らかしたまま。
-
( ^ω^)千年の夢のようです
- 夢うつつのかがみ -
-
从 ー∀从 (・ω・` )
気がつけばそこに在た。
…辺りの風景は先ほど感じていたものと変わりはない。
―― 闇。
かつては星のように形を遺していたのだろうか…。
黒に残留する白い粒子に囲まれたショボンの前には、
いつか見た、跳ねっ返りの髪を垂らす女性が立っている。
从 ー∀从 ″
从 ゚∀从 「……おっ」
从 ゚∀从 「おいでなすったか」
乱暴に後頭部をかきながら、
「お前が来るのは珍しい」と囁いた。
(´・ω・`) 「…ハイン、リッヒ?」
从; ゚∀从 「……あれっ?」
-
彼女は辺りを見回す。
地面も空も存在しない、頼りなき黒の空間にはショボンと二人だけだ。
从 ゚∀从 「なんで憶えてんだ??」
(´・ω・`) 「? …僕はそんなに記憶力に問題のあるタイプじゃないと思うけどね」
从 ゚∀从 「いや、そういうつもりじゃあないんだが……」
(´・ω・`) 「…常人からすれば随分と長い年月ではあるかもね。
あれは大陸戦争よりも前…ふたごじまのアサウルスを倒した後だったか」
こんなことを話すには意味がある。
ショボンは当たり前を口にするのがむしろ嫌いだった。
差し障りのない返答で間を繋ぎながら、ショボンはハインを観察する。
それは警戒心ではなく、目の前の彼女が表す戸惑いを受けてのものだ。
从∀゚ 从
ハインはやはり何かを否定するよう、ほんの少しだけ…かぶりを振った。
从 ゚∀从 「まあいいや。
せっかく来たんだ、ゆっくりしていけよ」
(´・ω・`) 「…そうだね」
答えながら――
ショボンの頭の中では一瞬だけ《パチリ》と音がした…気がした。
ゆっくりする……、休息をとる…?
(´・ω・`)
たしかになにもすることはない。
ここではなにもする必要がない…。
-
(´・ω・`)
思考に蓋をされている気分だった。
違和感。
なにかがおかしい。
(´・ω・`)
だが、その何かは思い出せない。
(´・ω・`)
なぜ、思い出せないのかも思い出せない……。
-
从 ゚∀从 「しばらくは俺と話でもするか?
いまなら俺も落ち着いて話していられる」
从 ゚∀从 「それとも一人、想い出にでも浸るか?
お前が望めば、いつもより多くの出来事を視ることも可能だろうな」
(´・ω・`)
(´-ω・`) 「そうだね、そうしよう」
ハインの提案に乗るようにショボンはわざとらしくニヒルに笑い、
その心では "思い出すという作業を棄てる" ことにした。
分からないことは仕方がない。
ならばそれはそれとして、確認できることがあるはずだ。
極めて単純な質疑であっても。
(´・ω・`) 「ここは、一体なんなんだ?
どうして君はここにいる?」
-
从 -∀从
从 ゚∀从 「ここは…俺にも正直わからねえんだよなあ」
先程とは異なり、間はあれど、淀みのない口調でハインは答えはじめる。
(´・ω・`) 「自分がいる場所もわからないのかい?」
从 ゚∀从 「自らすすんで来た場所ではあるが、望んで来た場所じゃあないんでね」
ハインはお手上げ…というように、両手を軽くあげておどけてみせた。
若干の嫌味を混ぜこんだつもりのショボンの言葉にも、彼女は動じない。
言葉遊び的な回答の真意は解らないが、特に深入りするつもりはショボンにもなかった。
どうでもいいのだ。 自分が作り出す目的以外は。
彼はいつも永い間、そうやって生きてきたつもりだ。
从 ゚∀从 「だが本来、ここはお前ら "不死者が死んだ" ときに来る場所だ」
从 ゚∀从 「イコール、お前は死んだからここにいる」
(´・ω・`) 「だから、死んだらなぜ僕らはここに来るのさ」
从 ゚∀从
――今度こそ。
ハインはその動きをはっきりと止める。
从 ゚∀从 「……この空間でその質問をしたのは、お前がはじめてだ」
どことなく…笑っている気がする。
まるで来る時がきたかのような、
待ちわびた者の笑み。
-
----------------------------------------
(゚、゚トソン 「申し訳ありません、クー様。
此度は宮殿内にまで賊の侵入を許し、あまつさえ緊急用ドックの避難扉まで……」
川 ゚ -゚) 「いや、構わない。
私もちょうどそちらを壊してでも侵入するところだったからな」
('、`*;川 「面目も御座いません…、備えてあった【クーチラス】すら破壊され――」
川 ゚ -゚) 「お前も気にするな。
もはや年代遅れの自動戦車ごとき、また造ればいい」
水の都…
延々続くかのようなメインストリートを真っ直ぐ進むその奥に佇む、碧白き宮殿。
その内部。
川 ゚ -゚) 「死傷者は?」
('、`*;川 「はい!
衛兵からの報告では怪我人こそ多数出てしまいましたが、命に別状ある者はいなかったようです」
川 ゚ -゚) 「ここに運べ。 私が治療しよう」
【シールド】を施す紋章が刻まれた大扉
――横一文字に斬りつけられ、大破している――
の向こう側…。
両指を前に握りしめ、背筋を伸ばした女性が三人。
-
ドーム型をした天井は、骨を支えるため放射線状に壁中で柱を組む。
180°視界の開けたこの大広間は普段は開放されており、一般人も自由に出入りができた。
都中と同じく白を基調とし、
薄碧のレリーフが彫られた壁面は眼に優しく、
しかし滞在する人々の姿を浮き上がらせる。
衛兵と侍女が許す限りは、女王との謁見も比較的寛容だ。
…しかし、いまここには彼女たちしか居ない。
まるでその身分を示すように、
クーと呼ばれた女性だけが玉座を背に、他二人へと向き合っていた。
川 ゚ -゚) ( …あれだけ暴れて、誰一人として死なせず突破したか )
クー。
不死者であり、現在は水の都の女王。
川 ゚ -゚) 「都の中でその他の被害を確認しているなら報告してくれ。
些細なことでも構わない」
――同時に。
彼女が大陸戦争を引き起こした一国の主であったことは、都の誰も知る由はない。
-
(゚、゚トソン 「建築物、及び潜水艦などへの被害は微小。
数週間もあれば修復は可能との報告が上がってきています」
('、`*;川 「確認中のものとして、重要文化財にあたる物品の窃盗や破壊はいまのところ見られていません」
(゚、゚トソ 「以前、フォックス様より住民に配布されたオーブも、持ち運びされた様子はないと……」
川 ゚ -゚)
侍女らのいうオーブとは、
ワカッテマスの創り出した泥人形フォックスからの監視アイテム【ホークアイ】の亜種。
川 ゚ -゚) 「オーブとは?」
('、`*;川 「あっ! 失礼しました。
オーブについては女王不在時の処置として、賢者様から安全確保の名目により配布されておりまして――」
あえてクーは素知らぬ演技をした。
それはショボンからの願い事でもある。
-
(´・ω・`) 『君が都を大切にしたいなら、時には騙し合いもしなくちゃならないと思うよ』
(´・ω・`) 『騙される民ならとことん騙してやればいい。
君が感情に正直でいることと、他者がそれに従順でいることはイコールにはならないはずだ』
クーにとっては、いらぬ苦労をかけられている気がしてならないが仕方ない。
わざわざ単独での暴動を引き受け、あまつさえ
《内側からしか開けることの叶わない避難口まで侍女を誘導することにより、
唯一その道を知っていてもおかしくない女王と外側から合流させる》
という、遠回しな作戦を成し遂げた、
同じ不死の若造に払う敬意くらいは示さねばならない。
川 ゚ -゚) ( …ブーンやツンとはまるで逆なんだな )
侍女ペニサスの報告は続いているものの、その言葉はクーの耳に届かない。
その脳裏では、
自分以外の者が一時でも一つの国を統治、掌握したかもしれない未来が描かれていた。
摂理からすればそれもまた致し方ない。
本来ならば人の世において不死の存在がイレギュラー。
だが統治者が変わるときは、国も大きく形を変えなければならない。
更に言うならば、クーは自身を決してイレギュラーだとは考えていない。
産まれてきたのだから意味をもつのだ。
彼女もまた世界を構成する部品…卑下する要素など、何一つ在りはしない。
川 ゚ -゚) 「そうか…では、そちらにも私が処置を新たに施そう。
あとですべてのオーブを持ってきてくれ」
('、`*;川 「す、すべて…ですか?!」
川 ゚ -゚) 「すべてだ。
人も、オーブも、一つ残らず必ず頼むぞ」
…不死者は果たしてどこから来るものなのか。
ショボンよりも古い存在の彼女の記憶からは、失くなっている。
----------------------------------------
-
从 ゚∀从 「―― こんな感じだ」
(´・ω・`) 「なかなか面白いものがあるね」
二人は顎を――ハインはショボンに比べるとより高く――上げ、
正面に浮かび陣取る空間へと目を向けていた。
彼ら以外に唯一、闇に浮かぶそれは薄紫のモヤに潜む円長形をしている。
ハインはそれを[かがみ]と呼んだ。
从 ゚∀从 「確証はないが、恐らくいまは現実の時間にリンクしてると思う」
(´・ω・`) 「…とは?」
从 ゚∀从 「仕組みは知らねえから答えられないぞ。
それと、俺単独ではクーの景色しか視れない」
(´・ω・`) 「僕にも視れるのかい?」
从 ゚∀从 「やってみな」
ハインの言葉のすぐあと、ショボンが[かがみ]に向かって一歩踏み出す。
視界一面は[かがみ]に埋め尽くされ、
替わりに下がったハインのことを思い出す前に、空間は歪み始める…。
从 ゚∀从 「…お前自身のことについてなら、過去が視れるだろう。
念じてみろ」
从 ゚∀从 「ただし強すぎる願いはやめとけ。
これはあくまで思い出を映
す
だ
け
の
[かがみ]
だ
か
ら
な」
-
-
風景が、
歪む。
-
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「―― の?」
「――軍師どの!」
気が付けば…次第に誰かを呼ぶ声が聴こえはじめ、その音量は時間と共に肥大していく。
声色はひとつではなく……重なり、やがて明瞭さをも欠きはじめた。
「…ショボンどの!」
そんななか最後の呼び掛けがハッキリと耳に届く。
同時――皮膚を焼く熱、バチバチと鼓膜を打つ気泡音も。
若干の不快感を抑えながら無表情に顔をあげた。
植物の画が施された黒い首輪を装着した男が、ショボンの顔を覗き込んでいる。
《くそっ一体だれが!》
「しっかり!! どうかご指示を。
森が…森が焼けているモナ!!」
(´・ω・`) 「…ああ、わかってる」
《だれが?!
呪術師どもに
決まってるだろ!》
-
……赤い森。
大陸戦争終盤に突如発覚した、
呪術師たちの反乱を発端とした――と、騙られる――ジェノサイドの舞台。
それがいま、空と大地を赤く染めていた。
(´・ω・`)つ 「森の住人を無理矢理にでも避難させろ!
こんなことは軍として望んではいない。
火の元を見掛け、もしそれが――」
時代は二つの大きな国が大陸を奪い合っていた。
ショボンは[空の軍]軍師として、部隊を率いてここにいる。
だが火の鳥游ぐ混乱の最中、瞬く間に発生した状況について誰一人として追い付くことが出来ていない。
「モナー! どうなってる!!
斥候隊に火炎ボトルや火炎放射銃でも配ったのか?!」
「入るたびに構造の変わるこの森は計り知れなかったから…
可燃障害物の除去用としてチームごとに配布はしたモナ」
「じゃあそれだな!
制御もできないようなとんだ不良品をつかませやがって!」
「そんな…、そんなことないはずモナ!
たとえ不具合が起きても、ここまで大規模に燃え広がるような武器なんて、モナは製造してないモナよ!」
モナーと呼ばれた男はヒステリックになる一歩前、心を沈めつつも激しく動揺する。
(´・ω・`) 「いちいち騒ぐんじゃない。
訓練を受けた国軍ならば、目の前のことに集中するんだ」
モナーの生業はアイテム調合…そして自動機械の製造。
しかし、決して人の命を殺めるための道具を造ったことはないと自負していた。
-
モナーが "マッシュルーム" と名付け製造した大型のオートマトンがある。
下腹部に用途ごとの異なるアタッチメントを装着することで、人間には不可能な作業を難なくこなす。
それか戦場に投入されたとの話を聞いたのは、
ショボンに呼ばれ、城下町を二人で歩いている時に聞こえた人の声からだった。
『あれがモナーかぁ。
細工師って聞いてたけど、厳つい人なんだな…まるでウドの大木だ』
『知らないのか?
マッシュルームもあの人が一人で造ったらしいぜ』
『マジかよ! この前の中央区での戦場じゃあ、ずいぶんと敵軍を蹴散らしたらしいじゃないか!』
『ああ…あれがいくつもあれば、それだけでも勲章ものだろうな』
『なるほどねえ〜。 それで軍は彼を召集したってワケだ』
…本来あれは可動式除障害機として造り上げたものだった。
それなのに、いまや[空の軍]が誇る落城用突撃兵器などと呼ばれていることに、モナーは酷く悲しんだ。
-
まだ若きモナーが開発したアイテムは、他にも数知れない。
単なる装飾品から…
素人にも扱え、かつ生活水準の向上をめざしての日常雑貨…
逆に専門性の高い、注文する当人以外にとってはなんの価値も見出だせない物すら造り上げた。
個人作業のため生産ペースに限界はあれど、依頼人たちは待ち続け、完成を喜んでくれた。
彼もそれで充分だと思っていた。
受け継いだ技術が他人に認められることは、
一族の生きた証明を認められることと同義だった。
『次戦に投入されるらしい新兵器は、半永久的に敵を燃やし尽くす火石だそうだ』
――だが大陸戦争は、そんな発明者の意に反し、彼と彼の発明品を利用していく。
交換不要なカンテラも、もはや悪魔の獄炎扱い。
今回使われた火炎ボトルもそうだ。
指向性をもたせ、日陰に強い木ばかりが育たぬように開発した森木の間引き用アイテム。
念入りに調整し、発火後の空気に触れれば約20秒以内に消化されるようにしていたはずだった。
【フレアラー】などの魔導力を意図的に加えでもしない限り、
いま森で起きているような大惨事にはなり得ない。
使い方次第でこんなにもなってしまうのかと…モナーは落胆している。
人殺しは、人が生み出す歪みの象徴。
戦争は……歪みの頂点なのかもしれない。
(´・ω・`) 「モナー、…モナー?」
「――あ、…」
(´・ω・`) 「落ち着け。 大丈夫か?」
ハッとして顔を上げた。
優しく声をかけてくれていたのは、祖父の故郷の恩人であるショボン。
――そう、ショボンだけは。
モナーにとって彼だけは、これまで信頼を裏切るような真似をしたことがなかった。
-
モナーは深く呼吸した。
一度、二度。
…心拍数が平常に戻るのを感じる。
身体の大きい彼は、深呼吸によって全身に久しく酸素を送り込んだ気がした。
視界が少しだけクリアに感じられるようになった。
すると、サルビアよりも真っ赤な大火に自分の身を晒していることに改めて気付かされる。
…なぜか?
日に日に依頼人から裏切られる思いの中で、
いまや彼のためにモナーはここいると言っても良い。
(´・ω・`) 「一番、二番隊は僕と奥に進む。
残りは全員武器を収め、救助活動に専念しろ」
-
指示を飛ばすショボンの背中を見つめながら、モナーだけが所在なさげに立ち尽くす。
心ない騎士の言葉が頭を反芻した。
「……」
( ´・ω) 「モナー、行こう。
誰も君を心から責めてなんていない…
あんなもの、単なる八つ当たりだ。 気にするなよ」
「…モナ」
彼らのルーツとなる孤島では独自の細工技術が培われていた。
ショボンが青年となり、身体的成長をピークに留める頃、
すでに当時の技術者が何人も大陸に遠征している。
ふたごじまという本来閉ざされた島…。
広く新しい繋がりを持たせることで、信仰とは異なる心の芯を創りだした一時代。
それは、
自身が背を丸め、何かに縋りつかずとも、
自信が背を押し、奮い起たせてくれる概念。
そんなショボンに付き添うモナーもその子孫の一人だ。
巡りめぐって軍師となったショボンの隣で、大陸戦争の一隅に加わっているのは稀なる偶然といえる。
「…ちっ、熱すぎる」
「おい離れるなよ」
額から…、首裏から…、
背中、腰に至り……。
篭る熱を冷却しようと、身体の中の水分がとめどなく絞り出される。
-
(( (;´・ω・) 「…」
「……汗が止まらないモナ」
「なあモナーさんよ。
アンタ、こう…身体を冷蔵するようなアイテムは持ってないのか?」
「この暑さじゃあ水なんてすぐに温まってしまうモナよ」
「じゃあ氷は? 小型の製氷機とか…」
「荷物がかさばりすぎる。
あれは水と風の魔導力を組み合わせて、波動を安定化させないといけないモナ。
持ち運べるサイズなんてとてもとても……」
ボソッ 「…役立たずだな」
「やめろ、モナーの言うことは確かだ。
魔法の使えないお前が知らないだけさ」
「…なんだと?」
「…… モナ」
(;´・ω・`) 「くだらない言い争いはやめろ。
…何が起こるか分からないんだ」
単体で氷の魔導力を発せられるのは、
大陸西に古来より鎮座し[氷河の牙]と呼ばれるアイスキャニオン…
そこから採れる "生きた氷塊" のみ。
歴史上、人間の魔導師が扱える魔導力は
炎… 水… 風… 土…
この4種に限られている。
その他の波動が発見できないのか、
それとも存在しないのかは定かではなかった。
ショボンも魔法を使えないため、詳しくはない。
なお獣の肉や根菜など、生活を送るために
食糧を冷凍保存する補助的アイテムの人工的な製造は出来るものの、
魔導力の循環を考慮するとどうしてもサイズが大きくなる。
-
「……持ってくればよかったですね」
(;´・ω・`) 「"生きた塊" を?
誰がこの現状を予測できたものか。
知ってたらそれこそ貨物車で運んできて、炎を消すために使うさ」
つまり…必要ならば直接採取に行くのだ。
すでにこの時代、商人たちのなかには傭兵を雇い、氷山と街を往復する者もいる。
幸い "生きた氷塊" は文字通り、
生命を感じさせるほどにしぶとく効果を発揮する。
誰もが同じく、手首に巻かれたリストバンドで汗をぬぐう。
しきりに辺りを見回しては目を凝らし、時には立ち止まった。
(( (;´・ω・)
唯一ショボンだけが休むことなく足を動かし続けた。
その歩みは普段に比べても遅い…しかし、騎士たちは追い付くのに必死だった。
流れ落ちるまえに蒸発する汗…。
しかし気に留める様子もなく滴らせている。
「…みんな、少しペースが乱れてるモナ?
状況が状況だから大変だろうけど、軍師どのに頑張って追い付いてくるモナよ」
「わかってるさ、…おい皆!」
明け空すら埋めようとする炎の森。
紅い顋が揺らめく。
長く続く大陸戦争……屍の上を進むこともある。
それと比較しても森の異質な光景に怯みつつ、騎士同士が引ける腰を叩きあった。
少し坂になった道のりが、ショボンの背中を頼もしく、そして大きく見せる。
-
(;´-ω-`)_з
――真剣に職務を全うしているだけならば、彼の後世への遺恨もなかっただろう。
モナーも、騎士たちも、そう思っていた。
この軍師はいま、戦争の勝利と人命救助を秤にかけているだけなのだと。
(……この焼けつく熱) (;´・ω・)
――いつかのアサウルスの咆哮にも似た肌の感触。
それをひとり思い出しているとは露知らず。
-
------------
〜now roading〜
(´・ω・`) ω・´)
HP / C
strength / C
vitality / B
agility / B
MP / C
magic power / A
magic speed / C
magic registence / B
------------
-
今日の投下はここまでです。
まとまった時間がどうしても取れないので、
今回のお話はローディング画面の区切りで日を跨ぎます
また明日か、出来なければ数日後に。
よろしくお願いします
-
乙
-
乙
相変わらず読み応えがあって面白い
続きも期待
-
----------
「ちくしょう、ひとっこ一人いやしねえ」
「広すぎるんだよ。 しかもこの炎…
こんなんじゃ当の村人らを捜すのも一苦労だ」
「状況次第では戦闘を避け、避難活動を優先するほうがいいのでは?」
「避難させるもなにも、ここはあの呪術師たちの住む森だぜ?!
俺たちがどうこうしなくたって、ただでさえこんな ――ああッくそ、熱ぃなぁ!」
森内のどこか。
周囲に気圧され悪態づく兵士たちの姿。
大陸戦争の後期ともなれば国軍の訓練も追い付かず、命令系統はやがて脆さを露呈する。
彼らは皆、前衛からも外された偵察隊の一ピースに過ぎなかった。
立ち振舞いに規律はなく、任務の遂行よりも無事この場をやり過ごすことを考えていた。
「死体の二、三でも見付かればそれを手土産にして引き揚げちまおう。
…なあに。
首を落として、顔を切り刻んじまえば陣営だの住人だのはわからねえさ」
薄汚い手の甲をボリボリとかきながら、名も知らぬだれかは言った。
群衆に指揮官らしい人物は見当たらない。
半数以上は傭兵で構成され、だからというわけではなかろうが動きは鈍重で粗悪だった。
しかし例外なく首には識別用のリングプレートをかけている。
くすんだ裏面には死亡時の墓標と化す名前の刻印。
胸元から取り出したそれを眺めていた兵士の一人が、思い出したように前方に向けて声をかける。
「…おい、あんまり列から離れるなよ。
どうせ何も見つからないさ」
-
ミ,,゚Д゚彡 「火の元も、人の姿も、ちゃんと調べないといけないから」
堕落しかけた群れのなか、異質を放つのは金色の髪を靡かせる青年。
身の丈を大きく上回る騎兵槍が、軽々と背負われる凛々しさを感じさせた。
炎すら彼を避けているかのように、その顔には一筋の汗もかいていない。
「真面目な野郎だな。
その槍といい…たしかお前も傭兵だったか」
ミ,,゚Д゚彡 「そう」
「……」
ナナシに話しかけた兵士は、
無骨な外見に憂いを帯びた瞳を揺らしながらリングプレートをインナーの奥へとしまいこむ。
過去の怪我であろう…右目だけ、不自然に細い。
その間、ちらりとナナシが兵士を見やった。
まくられた長袖の肘から手首にかけて、長く深い、ノコギリ刃でつけられたような斬り痕が目に入る。
「……いつの間にこんな傷…?」
兜の隙間から覗く顔の皺から、彼がナナシよりもだいぶ年上であることがわかる。
ナナシの視線に気付き、そう呟くと、兵士は腕を動かした。
腕を上げるその動きはぎこちなく、傷によって阻害されていることは明らかだ。
きっと最近できた怪我なのだろう。
兵士は苦笑いしつつ、諦めたように手を降ろした。
「ははっ……もう満足に自分の身も把握できてない奴が、偉そうに言っていい台詞じゃあなかったな」
ミ,,゚Д゚彡 「きっと、いまは興奮してるだけだから。
手当てしたほうがいいから」
「…」
ナナシは腰元からヒールポットを取り出し、兵士の傷口に振り掛けた。
夜でも灯る魔導の粒子が泡立ちはじめ、みるみると皮膚は再生する。
――そう、皮膚だけが。
-
「……なにかが骨に挟まってるような」
ミ,,゚Д゚彡 「違和感がある?」
魔導力における回復魔法【ヒール】には、
肉体の再生促進はあっても後遺症の復帰には役立たない。
どうやら彼の腕はこれまでのように動くことはないのかもしれない。
戦仕事…とりわけ傭兵家業でもよく聞く話だ。
戦闘中は興奮状態によって認識していなくとも、一段落したとたんに負傷…
時には、糸が切れたように倒れ、息を引き取る者もいる。
「いや……きっと俺みたいな奴は潮時なんだろうな。
心も体も」
肉体が資本である彼らは、使える武器がなくなれば戦から身を引くしかない。
崇高な意識をもった兵士だろうと。
報酬にしか興味のない下衆な傭兵だろうと。
仕事の役に立てない者など、雇う側からみれば何もできない無垢な子供と同じ…穀潰しだ。
ミ,,゚Д゚彡
かける言葉は思いつかなかった。
兵士はその佇まいや年齢的にも、ナナシよりよほど長い時間を戦場で過ごしている。
ナナシが言えることなど、とうに自覚しているはずだ。
-
一人で懸命に探索を続けようとするナナシの背中で、
「……みんな、一旦止まってくれ」
と、手当てを受けた先の兵士の声がとんだ。
ナナシが再度振り向くと、他の兵士らも同様に顔をあげる。
「いま敵軍に襲われるような事態になっても、まともに戦える状態じゃない。
…森の民の捜索もそうだ。
ここは一度だけ気を引きしめて、短時間でさっさと終わらせないか?」
身の回りでパチパチと燃え盛る炎壁が彼らを照らし、じっとりと焦がしていく…。
齢を重ねた声が、緩んだ場を律した。
指揮の経験を思わせる一声。
――『早く終わらせる』という言葉に大きく同意したのかもしれない。
一部に不満げな態度は見せつつも、一同は汗を拭い、乱れた足並みを揃え始める。
声をあげた兵士はそんな反応を眺めると、ナナシに振り向き、言った。
「…道なき道は諦めろ。
ひとまず通り抜けられるところだけでも充分だろう?
全員がお前に付き合うこともできないからな」
ミ,,゚Д゚彡 「ありがとうだから」
「ふん…傭兵が真面目に仕事をこなす横で、
国軍の俺たちが堂々サボるわけにもいかないってだけだよ」
ミ,,゚Д゚彡 「……」
「[空の軍]も、この森にいるはずだからな」
そう言う兵士の背筋が伸びた。
ナナシも釣られて姿勢を直す。
「…その代わりと言ってはなんだが。
やつらと戦闘になったときは頼むぞ」
-
[空の軍]――。
長きにわたり、優秀な王が統べるという噂だけが先行するも、
何十年とその姿を見たものはいないという。
ナナシの雇い主は、それを相手取り戦争を引き起こした[都の軍]。
…その頂上には、美しき女王が君臨する。
「早く終わらせて、女王の声でも聴きながらうまい酒を飲みたいもんだ」
「だな。 こんなところで死ぬのはおれも御免だ」
先程よりも軽くなった行進。
しかしもはやこの場から心の離れてしまった兵士たちの言葉は、傭兵のナナシには解らない。
この兵士もまた国に属する以上、女王を崇めているのだろうか?
人間の上に存在する人間。
ナナシの住む村の長とはまた違う、絶対的信仰にも似た崇拝は、
戦場に向かう兵士たちにとって心の支えになっているのだろうか?
ミ,,゚Д゚彡
崇めるもののないナナシには解らない。
-
元来、赤い森には様々な仕掛けがあった。
一歩森に足を踏み入れれば、
色とりどりの花を咲かせた木々が無秩序に立ち並ぶ。
見上げて空の形が歪なのは、大地が隆起している証…それが虹色の起伏ともなる。
しかしそれらはすべて束の間を支配するのみで、時が経つごとにガラリと姿をまるで変えた。
二度と同じ表情を現すことのない森は、外部の人々をおおいに惑わせる。
…とはいえ確かに路は存在する。
脇を見やれば大小の岩々が常に草に寄り添う。
森の民だけに判る、呪術によってマーキングされた、極めて自然で不自然なオブジェ。
広大な自然物のなかに、呪術で反応する魔導感知機が備わったものが点在するのだ。
土を掘り起こせば、赤黒い魔導力によって動き、宙を舞う円盤も隠されている。
他に類を見ない魔導力…そしてテクノロジーが伝えられているのが、赤い森の特異性ともいえる。
それに目をつむっても。
鳥がさえずり、昆虫や、大人しい草食動物が自然の生態系を作り上げていた。
人間が空から見下ろせたなら…
この一帯は色彩鮮やかな密林として、
いつか人々の瞳を癒やす景勝地にも成り得たのだろう。
だが今やこの地は、地獄の焦土の口を開けている。
赤い森は紅く染まり
今日をもって消えるのだ。
-
------------
〜now roading〜
ミ,,゚Д゚彡
HP / A
strength / A
vitality / B
agility / D
MP / H
magic power / H
magic speed / E
magic registence / D
------------
-
異変は[都の軍]から始まった。
一人の兵士が、突如うずくまる。
「おい、大丈夫か?」
傍らにいた仲間への返事はなかった…。
兵士は自身の両肩を抱き、ガタガタと震えている。
「……おい?」
訝しげに覗きこむ顔。
邪にも思える覗かれた顔。
…まだ少し幼さを残す表情をした仲間は、たしかにそれを見た。
いまにも倒れ込むほどに膝をつく。
――口が裂け、だらしなく垂れ落ちる唾液を。
――薄く開いた瞼から射し込む、黄色の瞳を。
――肩に食い込ませた爪から滲み出る、赤いはずの黒い血液を。
《 ィ゙ ―― ォ 》
-
そしてあがる、濁音の悲鳴。
(・ω・` ) 「…いまの音…」
ショボンの元にも微かにそれは届いた。
様子が窺えないが、常時に響くべき音ではない。
「…見てくるモナ?」
( ´・ω・) 「…」
火の手がさらに伸びる。
ショボンは少しだけ顎をあげると、眉をひそめてこう言った。
(´・ω・`) 「……進軍は終わりだ。
全員この森から退避してくれ」
「モナっ?!」
(´・ω・`) 「来た道はできるだけ使うな。
戦闘も絶対にするな。
何が起きているのかも、確認する必要はなくなった」
モナーは汗をぬぐう。
素直には頷けず他の反応を窺うも、しかし騎士の半数は忠実に命令通り、素早く行動に移りだしていた。
とはいえ走り出してから…ショボンの言葉に首をかしげた者もいる。
まだ場に残る騎士たちに、ショボンは言葉を続けた。
-
(´・ω・`) 「残るならば、命の保証はできない。
僕の軍師としての役目は、この言葉で終わりとする」
それきり、ショボンは軍に背を向けて歩き出してしまった。
なにかが鳴いた方角へと。
「……な、なあ、どうする?」
「どうって…」
「おいおい! 自分だけさっさと逃げるのか?!」
慨嘆の声にも、ショボンは振り返らない。
「……」
「なんなんだよ、一体…」
間もなくショボンは去った。
――残された戸惑い。
人として、唐突なショボンの態度の変化に文句の一つでも言いたくなるのは当然だった。
「…モナ」
短すぎた一連のやり取りの間、モナーも動けなかった。
なぜショボンは急にそんなことを言い出したのだろうかと、その意味を探るが…
いまはただ、紅く染まる茂みの奥へと消えていった彼を見て、茫然とするしかない。
-
ショボンにとって…それはなんら進歩のない、いつかの行動と同じだった。
彼にしてみれば、ひとたび口にすれば己の義務は果たされ、後の判断責任は相手側にあるのだと未だに思っている。
「…やっぱり納得できないモナ」
「おっおい、モナーどこに行く!」
……言葉とは本来、受けとる側にも時間と理解が必要だ。
伝え、伝えられるために、人は常に心を労する。
その努力を怠る果ては、無差別な暴力と遜色ない。
待ち構えるは、ただただ心傷付く末路。
『ショボンか…。
思えば彼の未来観は、わしらとは違ったのかもしれないな』
『ふたごじまに住んでいたままであったなら決して知ることの無い知識や経験…わしらはそれを得た』
『新天地には未知があり、それを既知とするには自ら行動を起こさねばならない』
『待つだけでは駄目なのだ。
例えば信仰を棄て、代わりに何かを求めるように……
誰かに教えられずとも、わしらは手探りで生きてきた』
『辛いことも多かったが…楽しくもあった。
そしてショボンは今もずっと生きておる…』
『もし、お前が彼に出逢ったときはこう伝えておくれ…――』
モナーはそんな祖父の言葉を思い出しながら、ショボンを追い掛ける。
「軍師っ――いや、ショボンどの!
待つモナよーー!」
次いで消えたモナーの姿。
それを見送り、[空の軍]は撤退をはじめた。
……彼らにとっては幸か不幸か。
ショボンだけが感じ取ることのできた、
前方で産声をあげた脅威の片鱗に気付く能力は備わっていない。
-
(´-ω-`) 「小さな波動だったけど…間違いない」
(´・ω・`)「蟻は…すべて潰す――」
紅模様の空の上。
太陽に偽装した眼球が卑しく見下ろしていたのを、ショボンは見逃していなかった。
-
----------
「ゴルルゥゥ…ッ!」
ミ;,,゚Д゚彡 「待って!! 皆どうしちゃったから?!」
[都の軍]は、まさに混乱の渦中。
人あらざる咆哮が隊列を貫いたかと思えば、
あっという間に "それ" は感染し、
兵たちの共喰いが炎を背景として繰り広げられている。
咀嚼音が地鳴りのように響く。
喰われたものから、喰うものへと変貌しては他の獲物に身体を預ける。
食まれた肉は容易く千切れ、赤子の口許のように脂を塗った。
わずかな緑を残していたはずの土壌すら、飛び交う血涙に背景を同化させていく。
餓鬼の住まう地獄、
その切り取り絵図――。
ナナシは昔、孤児院で読み聞かされたお伽噺のなかに、こんな風景をみた気がした。
「…ガ アグルゥゥゥ……」
ミ;,,゚Д゚彡
「ナ……ナ゙シぃぃ…っ」
ミ;,,゚Д゚彡
迷い、どうすることもできないナナシの前にも "それ" は立ち塞がった。
――腕には皮膚を塞いだはずの、ノコギリ刃の斬り痕。
今では痕の闇が広がり、わさわさと黒い粒子が灰のように舞い流れている。
「ナ…na≠ィ……
逃げ っロぉ」
ミ;,,゚Д゚彡 「!!」
-
――気が付けば、ナナシは走っていた。
恐怖からではない。
正気にも聴こえた声に反応したのとも、また違う。
元は人であったはずの兵士達…
変貌し、怪物となった彼らであっても、
騎兵槍で根こそぎ薙ぎ倒す気にはなれなかった。
それだけならまだその場に留まり、呼び掛け、
事態の収拾に努められたかもしれない。
ハァッ
ハアッ
;,,゚Д゚
ハァッ
無数の朱一色の灯籠が残像となり、視界の外側へと融けていく。
それでも時々、振り向いてナナシは探した。
呪術師……そう呼ばれる森の民も護らなくてはならない。
[都の軍]としてここに来たのはそのためだったのだから。
だが、彼を突き動かした本当の理由は。
ミ゚Д゚,,;彡
ナナシが本能的に感じ取った、
『主の元に還らせてくれ』
という無味無臭の強烈なイメージ。
あの兵士の傷痕から湧き出る黒い粒子が放っていた、
この背中の騎兵槍へと向けられていた執着心。
-
支援
-
その後も彼の心を脅かす呻き声…それとも怨嗟の声だろうか。
数分、それとも数十分…。
ミ゚Д゚,,;彡
ミ;,,゚Д゚彡 ( …?! )
時間の経過が体感できなくなった頃、森に孤立したナナシの耳に轟きが飛び込んできた。
がむしゃらに走ったせいで、完全に方角を見失っている。
ただでさえ赤い森の構造は単純ではない。
土の起伏と、たびたび遮る樹木によって道が路を成していない。
ミ,,゚Д゚彡 「…!」
――突如としてふたたび動きだしたナナシの足。
彼の耳には、幻聴ではない誰かの声が聴こえた…。
爆炎。
ナナシの目の前で、ひときわ目立っていた巨木のひとつが頭から割れていく。
咆哮に混ざる聞き慣れた金属音が、
見えない腕としてナナシを引っぱるように連れていった。
ミ;,,>Д゚彡 「くッ…!」
周囲はますます紅く染まりつつある。
熱風はナナシの身体を締め付け、視界をぼやかす。
意思とは裏腹に揺らぐ脚をふんばり上げ、彼は走る。
枯れた葉が、頬を切り。
濡れた頬が…風を切り。
-
風が――視界を切り拓く。
-
( ω・` ) 「…」
血塗られた抜き身の得物を携えながら、
ショボンはその鈍色光る先端を見つめている。
軽く一振り…。
血糊が弾かれ、片刃の剣が露になった。
( ω・` ) 「実戦では初めてだったね、これを使うのは」
握るのは、"隕鉄" と呼ばれる鉱石から造られた刀。
時に山奥で… 時に砂浜で…
ショボンはひとつひとつ、小さな隕鉄をかき集め、
来たるべき戦いに備えていた。
細工をした職人が『天からの贈り物』とまで称した天然物質、隕鉄。
しかしその正体は、ショボンが三日月島でアサウルスと対峙したあの日、
ブーンを助けるために海の中で霧散した "蟻" やアサウルスそのものを原料としている。
(´・ω・`) 「剣としては最高の出来だ。
あの約束は面倒でも、モナーに苦労をかけた甲斐はあった…」
呟いて、辺りを見回す。
やがてその視線はある一点に注がれた。
(´・ω・`) 「蟻…、いや違う?」
-
アサウルスの波動は感じない。
ガサガサと仰々しく…茂みが音をたてた。
やがて立ち現れたのは、今しがた斬り伏せ終えた黄色目をした蟻の軍兵ではなく、
瞳の奥に確かな意志を持つ、金色髪の青年。
ミ,,゚Д゚彡 「!」
葉を掻き分けてナナシが見たものは――足元に転がる[都の軍]兵士の累死体。
無傷の生存者の手には、灰色を浮かべた剣。
その鋭さと色は周囲の風景からも浮き、得たいの知れない不気味さを窺わせた。
自然かつ素早く、ナナシは背中の騎兵槍に手をかける。
対峙するショボン。
しかし慌てることなく、ゆったりとした動作で正面に向き直して剣を収めた。
(´・ω・`) 「まて。 君はあっち側の兵か?」
ミ,,゚Д゚彡 「?!」
敵意を感じられず、慌ててナナシも踏みとどまる。
(´・ω・`) 「争うつもりはない。
僕はいま森の民と、この状況を作った原因を探しているところなんだ」
-
…金色の青年はナナシと名乗り、呼応してショボンも名を告げる。
慎重に言葉を選び、
[空の軍]につい先ほどまで所属していたこと…
事態を鑑みた上で立場を捨て、単身ここにいることを話した。
ミ,,゚Д゚彡
ナナシは硬直し、聞いているのかいないのか判別しかねる反応を示す。
――だがショボンが次いで状況を伝えようとした瞬間、
ひどく興奮した様子で駆け寄ってきた。
ナナシの手には騎兵槍。
切っ先はこちらに向いていない。
敵意は感じられずとも思わず怯み、手で制し、理由を訊く。
(´・ω・`;) 「まて! どうしたっていうんだ」
ミ,,゚Д゚彡 「やっと逢えた!」
ミ,,゚Д゚彡 「しぃが、貴方を捜してるから!!」
(´・ω・`;) 「――!」
(推奨BGM:A return indeed (piano ver.)
https://youtu.be/jPT4hh9BesE
-
しぃ。
……ショボンにとって、懐かしい名前だった。
当然、それほどの時間を置き去っていたわけではない。
(´・ω・`) 「……」
だが、彼女の元に戻るつもりは毛頭ない。
戻れない。
(´-ω-`) 「……」
(´・ω・`) 「…君は、しぃの何なんだい?」
ミ,,゚Д゚彡 「ナナシはしぃの幼馴染みだから!
しぃに頼まれて、ショボンを捜し回っていたから」
いまここに居るのも、ショボンを見つけるためだったと彼は言う。
しぃが無事でいること…
戦場外れの孤児院で子供を産んだこと…
その後は彼の故郷に住まいを移したこと…
嬉しそうに…ナナシの口から、伴侶のいまの姿が楽譜に並ぶ音のように流れてくる。
(´・ω・`) 「そうか…」
ショボンは思う。
子供の名前はどうしたのだろう?
これからしぃが立派に子を育て上げることが出来るならば、
不死である自分がいずれ出逢う時が来るかもしれない…。
ミ,,゚Д゚彡 「ショボン、二人で一緒に帰ろう!」
-
………しかしショボンは答えない。
最初の言葉以外には、何も質問もしなかった。
しぃの話を聞くにつれ、
アサウルスに縛られていた人生観…その胸中に差し色渦巻く感覚。
心地好くも浮き足立ち、落ち着けなくなる感情が、何処からともなく湧くのだ。
当時もいまと同じ思いに襲われていたことに、このとき気付かされる。
(´・ω・`) 「…僕には捜し物があってね。
過去の失態を取り戻している最中なのさ」
……しぃと繋がりをもったのも、
子を産んだ不死者の話を聞いて興味をもったからに過ぎない。
彼女とどこで出逢ったのかすら、思い出せない。
(´・ω・`) 「もしかすると、この森は当たりなんだ。
だから…僕がなんとかしなきゃ」
……しぃと共に過ごした時間を忘れたのではない。
記憶に薄いのだ。
とはいえ愛ではなく情くらいはあったのだろう。
彼女を選んだのは――縁、ただそれだけ。
そう、それだけのつもりだ。
-
(´・ω・`) 「すべてが終わったら帰ろうとは思っている。
…森を出たら、しぃにそう伝えてくれないかな?」
ミ,,゚Д゚彡 「家族を置いてまでやらなきゃいけないことが、この世にあるの?」
(´・ω・`)
それだけだと…
ひとり思い込んでいただけだった。
ミ,,゚Д゚彡
そして、ナナシは察している。
ショボンは戻らないのではないかと。
(´・ω・`)
ショボンが帰らなければ、しぃの子供は父親を得られない。
孤児であるナナシにとって――どこかに存在するはずの両親。
名も顔も知らぬ二人は、ナナシの深い深い記憶の底で、能面をかぶり眠っている。
何事もない日常… 戦場を駆ける瞬間…
それはまるで泡のように突如浮かんでは、残滓も残さず消えていくのだ。
だから、いつかはその面を外し、自分の本当の名前を呼んでくれるのではないかと…
ナナシは心のどこかで期待している。
子の傍に居られない親とは、果たしてどんな事情があるのか。
子を捨てる親とは、どんな気持ちなのか。
ミ,,゚Д゚彡 「しぃの子は、ショボンの子だよね?」
ミ,,゚Д゚彡 「なのに逢いたくない…から?」
-
ナナシも、しぃも、孤児院にいた他の子供も、皆一度は大人に尋ねたことがある。
『どうしてぼくにはママがいないの?』
『なんでパパはわたしに会いに来てくれないの?』
決まって、大人達は誰もが微笑み、
『パパやママはね、すこし忙しいだけなの。
居ないからって泣いていたら、心配しちゃうでしょう?
……だから、皆いい子で待っていようね』
と、言った。
(´・ω・`) 「だからだよ。
巻き込みたくないんだ、僕の過失に」
ミ,,゚Д゚彡 「…」
(´・ω・`) 「納得できない、か。
…君にも、なにか理由があるのかな?」
ナナシの顔は動かない。
周囲の炎がまた動き出す。
…まるで意志をもっているかのように。
( ´・ω・) ( 親、か… )
ショボンも実の親の顔を知らない。
シャキンとの命の譲り合いを経て、物心付く以前に衰弱して母は亡くなったらしい。
父に至っては後追い自死だったと、後に知った。
とはいえ兄者や弟者、ロマネスク爺、デレとミセリ……様々な大人が、彼には付いて回っていた。
ショボンにとってはそれで充分満たされていたのだ。
(´・ω・`) 「いいだろう。
望んで成った傭兵ならば、相応の覚悟も自然とできているんだろうしね」
ミ,,゚Д゚彡 「一緒に帰ってくれる?」
(´・ω・`) 「その前に聞いてくれ…この世界にはアサウルスという怪物がいる。
人の身も心も喰い尽くす蟻を従える……――
(BGMおわり)
-
その話は毎日の平和を享受し、
穏やかに生涯を終える者達には理解できないであろう、荒唐無稽な物語の一欠片。
だが現に、蟻による感染はナナシも先程まで目にした光景だ。
素直にショボンの言葉を信じることができる。
ミ;,,゚Д゚彡 「……いつかは大陸中にも?」
(´・ω・`) 「その可能性はすでに現実になってしまった。
この炎も強くなるにつれて、微かな波動を感じずにはいられない」
結果、どちらの陣営でも同じ状況が発生している。
ショボンとしては、森の民がもはや蟻なのか…
蟻が無差別に仕掛けたせいで、たまたまこの森が失われていくのかも確かめたい。
ミ,,゚Д゚彡 「どうすればいい?
肝心の森の民も見付かってないし…」
(´・ω・`) 「僕の通ったルートにも居なかった。
…ということは答えは単純」
(´・ω・`) 「まだ誰も通ってない場所にいる。 単純明快だ」
-
ショボンの所属する[空の軍]は、
大陸を迂回するように北から攻め込んできている。
対してナナシの所属する[都の軍]は南側から森に入った。
進軍ルートは南北に直進。
森内部の性質によって若干のブレを計算しても、
両軍とも大きく大陸外側へは外れないように指示されていることが、ナナシの話を加えて判明した。
ミ,,゚Д゚彡 「ということは、東寄りを捜せば――」
(´・ω・`) 「違う、恐らくは西寄りだ。
君らは名目上、森の民を守るためにここへ来たんだろう?」
(´・ω・`) 「だったら西寄りの方が可能性がある。
普通なら細かな進軍ルートを、内側だの外側だので現場にいない者が決めやしない」
ショボンは何度目かの空を見上げ、方角を確認する。
……一瞬だが、しかめ面を隠しきれなかったのを、ナナシは見ただろうか。
(´・ω・`) (知っていたんだ、"二人の女王" は。
森の民がいざとなればどこに逃げ隠れるのかを…)
-
----------
『 !!』
――遠くに聞こえる叫びの直後、
全ての酸素をマントルの下から引っこ抜くかのような大きく短い音が轟き、
なにかを引き裂くような赤い津波が天高く地走るのを、二人は見た。
炎の壁が天を貫き、逆流する橙が森を深紅に染める。
「あっちだ!」 三 ´・ω・)
三 ,,゚Д゚彡 「うん!」
日が暮れるにしたがい、明らかに変わる森の雰囲気。
ショボンの動きは速かった。
ナナシも決して鈍足ではないが、
この短時間で何度ショボンを見失いそうになったか分からない。
《大陸に――を呼ぶ―――族め!
我―が王と、――ショボンの名において
皆殺しに―――――!!》
分厚い炎と木々の向こう。
途切れ途切れの叫びが聴こえた。
地鳴り響く、違和感を残す "割れたような音" 。
三 ;,,゚Д゚彡 「……?? なんの音だから」
三 ´・ω・) 「擬態音だ。
こうして離れて聴くとよく判るな…」
三 `・ω・) 「…しかも好き勝手なことを言ってくれる」
-
アサウルスはもちろんのこと。
ショボンが探していた蟻も、蟻に感染し尖兵となった人間も、
本来まともに人語を喋ることは出来ない。
宿主の声帯と知識をほんの少し利用して、それらしく喋るのが関の山だ。
三 ;`・ω・) ( 擦り付ける気か?! 僕とクーに、この事件を… )
三 ;`・ω・) ( …いや、下手をすれば―― )
-
赤い森への侵略命令は、
――対外的には "王" であり、極一部の人間のみ知る事実としては "女王"――
から下されたもの。
森の民が利用するであろう隠れ場への誘導も、女王から下されたもの。
[空の軍]……クーの軍。
[都の軍]……敵対する女王の軍
`・ω・) ( 僕がここにいるのは、アサウルスの蟻を探してのことだ。
ハインの伝言以外、クーには話していない )
`・ω・) ( ならばクーは何故、森の民を狙った?
どうして…呪術師を巻き込んだんだ? )
思考の最中。
眼前に迫っていた焔の枝を、首を捻って躱す。
《ゥガァアーーッ!》
転がった丸太を飛び越えつつ、帯熱する岩を踏み台に跳躍すると
茂みの奥から、ショボンを追うように人の形をしたものが飛び出してきた。
黒い首輪、そして黄色の瞳を一瞥するなり腰元からの一閃。
牙剥き出しの口が限界以上に裂けると、蟻と化した騎士はその身から脳と眼球を切り離される。
;,,゚Д゚彡 「ショボン!」
`・ω・) 「分別している! 人なら殺さないさ」
心配とは別の答え。
判断の良さに驚いての咄嗟の呼び掛けではあったが、
それがむしろショボンに対する信用にも繋がろうとしている。
ナナシにとって、人を殺さない戦士が自分以外にもいるのだと。
…ショボンとしては、単にモナーとの約束を果たしているに過ぎないのだが。
-
――呪術師たちの死に場所――
二人が次に足を止めたのは、もはや人の立つ場ではなくなった惨状の跡…。
息を切らせた不死者と青年。
(;`・ω・´) 「…民すら標的か、アサウルス」
周囲を炎でぐるりと囲まれた広場には、紅と碧の和服に身を包んだ人々。
大人だけでなく、まだ幼い者もいた。
/,, ∀;;;)
翠色の礼服に身を包む父親らしき男の下敷きになった子供が、ナナシにもわずかに見えた。
血にまみれ、辛うじて原形を保ちつつも
その顔は獣に食むられ歪に欠けてしまっている。
誰も彼もが血の池に溺れ、例外なく身を千切られ…
噴血した赤水を啜る蟻だけが、ギラリとこちらを向いた。
三 ;`・ω・´) 「くそ!」
ミ#,,゚Д゚彡 「だあああっ!!」
得物を握り、地を蹴る二人。
神速を誇るショボンと、ナナシの騎兵槍の先端が同じ位置を陣取った時。
蟻が獲物から手を離し、新しくやって来たエサにその牙をカチカチ鳴らした時。
"彼女" は空から降ってきた。
-
------------
〜now roading〜
( ´∀`)
HP / B
strength / C
vitality / D
agility / E
MP / G
magic power / D
magic speed / D
magic registence / E
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本日はここまで。
投下中のご支援ありがとうございました、また後日に続きます
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おつ!!
次も楽しみにしてるぜ
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乙
盛り上がってる
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乙 色々交差してるなー
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つい読み返したくなっちゃう
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おつ
-
おつ!
先が気になるよー
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こんな面白い現行があったなんて…!
一話から読んできたよ!
まだまだブーン系も捨てたもんじゃないな!乙です!
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追いついた
乙
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本日21時頃に投下を再開します
よろしくお願いします
-
代々の呪術師が踏み締め歩んだ大地に辿り沸き上がるは
森林を燃やす焔とは異なる、艶やかな丹赤。
「【フレアラー】!」
細く白い腕が鞭のようにしなやかに振られ、
魔導力の軌跡に沿った純紅の炎が扇状に撒き散らされる。
《ッゴアァ?!》
《ゲキャ――》
炎幕に晒された蟻の群れ。
歪んだその身を怯ませ、
ショボンらに向けて踏み込まんと差し出していた足が止まる。
-
三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三
ヽヽヽヽヽヽ\\ヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽ
ヽヽヽヽヽヽ \\ ヽヽヽヽ ヽヽヽ ヽ
ヽヽヽヽヽヽヽ \\ ヽヽヽ ヽヽ
ヽヽヽ ヽヽ \\ ヽ ヽ
ヽヽ ヽ ヽ \\ ズアッ !!
三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三
「サポートか、有り難いね」
\\ ザシッ
 ̄ ̄ ̄`・ω・) \\
∪ \\,,'
↑ \
レ ,゛`
有無を言わせぬ追撃の【切断】。
一振りで幾重も対象を斬り刻むショボンの技は、蟻の命を容赦なく屠っていく。
――さらに瞬刻、ショボンの後頭部を逆撫でる重力が発生した。
ミ#,,゚Д゚彡 「ふんっ…!」
ナナシを中心にして荒れる一陣の大旋風。
ショボンは振り向かず、額を土に擦り付けるほど低く屈む。
…騎兵槍そのものは空を割くに留まった。
だがその膂力が生む衝撃によって、
炎の壁は煽られ揺らぎ、蟻の宿り主である騎士の身体が浮き上がる。
まだ終わらない。
更にナナシが身体を一回転させ――
ξ゚⊿゚)ξつ 「【グランダ】!」
――《ブシュッ》
間髪いれず降り注ぐ岩石群。
《ブシュッ》――、肉と骨の狭間から空気をひと欠残さず押し出したような《ブシュッ》音が残響する。
-
ミ;,,゚Д゚彡 「わっ…と!」
たたらを踏む。
力の矛先を失った騎兵槍が、周囲の熱によってとろけた土を抉った。
(`・ω・´) )) 「っと」
ショボンが一歩下がると同時、岩の墓標が音もなく突き刺さっていく。
地面を伝わる振動。
1つ…2つ……では足りない、場にいた全ての蟻の墓。
ξ゚⊿゚)ξ 「これなら生きていても、そうそうには動けないでしょう?」
…言って振り向いた姿は、この場に似つかわしくない華麗さを照らし魅せる。
一呼吸おき、表情を動かさずにツンは微笑んだ。
それはまるで西洋彫刻の像にも似て…。
ふたごじまで見たレリーフの女英雄が単身、
現実に脱け出してきたのではないかとショボンが思うほどだ。
―― ツン。
ブーンと行動を共にする不死者の女。
ショボンとはアサウルス絡みで、すでに面識がある。
ミ,,゚Д゚彡 「み、味方?」
(´・ω・`) 「敵ではないよ。 少なくとも、僕と君よりはね」
ξ゚⊿゚)ξ 「久し振りね、ショボン。
こんなところで逢うとは思ってもなかったけれど…」
二人の顔を交互に見るナナシを嘲るように、
再会を懐かしむ不死者の余韻を吹き飛ばすように。
…辺りは爆炎が一層盛り出した。
-
ミ;,,゚Д゚彡 「あっ!」
ξ;゚⊿゚)ξ 「……ふぅ」
(・ω・`;) 「…ゆっくり話す時間も無くて残念だ」
もはや森の大半は焼け落ちて原型をとどめていない。
ショボンらが通ったわずかな道も、ツンの通った空の道も塞がれる。
死屍の転がる広場は今、ひときわ分厚い炎の檻の中と化した。
ξ゚⊿゚)ξ 「ただの炎じゃないんだわ…
アサウ…いえ、蟻の性質が本体に近付いているみたいな…」
(´・ω・`) 「同意見だ。 奴も時を経て成長するのかもしれない」
――もしくは、アサウルス本体が降臨しているのか?
ショボンはそんな言葉をひとり呑み込んだ。
(´・ω・`) 「ブーンもここにいるのかい?」
ξ゚⊿゚)ξ 「別行動……よっ!」
-
発言が終わる前に、再び振るわれるツンの腕。
こんどは魔導力の軌跡が蒼く描かれ、淡い粒子を残したかと思えば…
水面に映る泡のように弾けて消えた。
だが、ツンの詠唱はそこで止まらない。
ミ,,゚Д゚彡 「…す、すごいから!」
感嘆の声。
入れ替わり発現したのは巨大な濁流の渦…
宙を起点に、竜巻を起こしながら巡る水槍だ。
(;´・ω・`) ( ここまでのものか、魔法とは )
ξ゚⊿゚)ξつ 「突き破るわよっ、【アクアデス】!!」
ズ ァ ァ
ァ ァ ァァァ
三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三
ァァァアアアアアアアアアアアアアアア
アアアアアアアアアアアア
ミ;,,゚Д⊂彡
「 「 …ぅおぉッ !?! 」 」
(;`・ω・⊂)
アアアアアアアアアアアア
三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三
【アクアデス】…死を冠する水の鉾。
焔を吸い込みながら術者の意思に従い突き進んでいく。
巨大な竜神が頭から檻を飛び出さんと暴れまわる。
着弾の余波が多量の蒸気となって破裂し続け、ショボンらの頬を焦がした。
「少し我慢してよね…!」
と、ツンの声が聴こえた気がした。
…蟻が産み出したであろう周囲の炎檻も、紅い毒を無遠慮に撒き散らす。
-
――だが。
ξ;゚⊿゚)ξつ 「…だめだわ! 他の炎とは厚みが違いすぎる!」
術者であるツンには手応えがあり、しかしいま一歩足りないのだと警告する。
「ならば…!」  ̄ ̄`・ω・)
ミ;,,゚Д゚彡 「ショボン!」
その呼応は素早かった。
止まぬ熱源に突入するショボン。
…しかしナナシが見たのは彼の背中だけではない。
炎との距離を詰めるほど、
無音の悲鳴をあげ、ばりばりとあからさまに捲れていくのは――ショボンの肉と皮膚だった。
-
「こんなもの―― (`・ω;;
アサウルス本体の咆哮に比べればまだマシだ』
…ショボンが思い浮かべた言葉はただそれだけ。
身体の信号が途切れ、脳が感触を見失い、
目が潰れて何も見えなくなろうかというところで居合いの一撃を見舞う。
「これでどう…だッ」 (;`・ω::
不死の身に宿す風の魔導力をもって、炎の壁を【切
断】。
-
ξ;゚⊿゚)ξつ 「―― 」
……ツンの言葉は炎熱にかき消え、聴こえなかった。
熔けゆく目蓋でショボンがかすかに見たものは、 なおも立ち塞がる炎壁。
(` ω;;
――まだ路は拓けていない。
こればかりはショボンにとっても想定外だ。
所詮は人の身。
【切断】のリーチが足りていない。
永年生きた驕りが彼の警戒を疎かにしたのか…
それほどに厚があり、圧を持った蟻の炎。
森中を焼く総てのフレアが今、この広場に集まっているとしか思えなかった。
アサウルスの咆哮と同性質を得た焔は、まだ幼いながらも不死者を苦しめる。
…だがあと一息のはずだ。
(` ω;; ( …もう一撃を)
力尽きる前に放たねばならない。
意識なき得物が推進する。
-
三三 ミ#,,゚Д つ
(; ω;; ( …あと一撃を )
-
求める一撃。
それを加えようと迫っていたのは、不死ではない青年だった。
この光景を黙って眺めていられるナナシではない。
魔導力のない彼は、己のちからのみを率いてショボンの真後ろを追ったのだ。
…そして目の前で膝から崩れるショボンの頭上を飛び越える。
ミ#,,゚Д
` ω;; その槍…
金色の髪に灯火、身に付けていたプレートアーマーも融けて剥がれていく…。
なのに、その騎兵槍は…――
#,,゚Д゚ 「ショボンは!
ショボンは、しぃの元へ帰すから!!」
-
《同胞の魔導力を感じる》
持ち主の意志に反して――
《喰わせろ… 還してくれ》
しかし呼応し――
《ぉお…力が…戻ってくる》
異なる目的を達成する――。
-
------------
〜now roading〜
( ∀ )
HP / B?
strength / C?
vitality / D?
agility / E?
MP / G?
magic power / D?
magic speed / D?
magic registence / E?
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-
(推奨BGM:The Wanderer of Darkness)
https://www.youtube.com/watch?v=t1bzIOvNVO4
----------
どれだけ歩いたことだろう。
草花や生木が燃えた匂いに混ざって、人体の焼けた臭いが辺りに蔓延している。
硝煙混じりの暗雲が、狙って顔の高さにまで降りてきたかのような悪視界。
行く先見えない森は、体力も時間も…そして気力も奪っていく。
「だれか、誰かいるモナかーー??!!」
軍ともショボンともはぐれたモナーは、鎮火しつつある灰土を一人進む。
過ぎる時間と共に、足取りもひどく重くなった。
延々とした地化粧の空が、彼を見下ろしている。
「…」
川の流れが止まったかのように静かな森の跡で、ときおり届くのは枯れ木の鳴る音だろうか…。
あれほど盛っていた炎の海も、もう蛍のように残骸を灯すだけだ。
道中、断片的に耳にした誰かの声も、もう聴こえない。
「…はぁ……」
腕も足も限界がきた……。
ついぞ、その場で立ち尽くす。
-
カサカサと、木っ端が主張するのは惨劇の残り火。
所属を示す黒い首輪が、煤だらけの軽鎧とよく似合った。
…まるで闇に紛れるように。
「なにをやってるモナ…自分は……」
赤い森はもはや荒野と化した。
鮮やかな彩りも、ひたすらな紅も、森の面影はなにもない。
何者にも邪魔されることなく、緩やかな風が吹いた。
「だれか…――
ショボンどのー!
――もう、だれでもいい!
居るなら返事をしてくれモナーー!」
-
虚しく天を抜けるモナーの野太い声。
星のない夜空を見上げれば闇の大地に成り変わり、
空転する意識はそのまま背中から倒れ込みかねない。
モナーの疲れはピークに達していた。
戦場における大声など、
敵に聴かれれば自軍の位置を知らせる愚行でしかないが、彼は叫び続けている。
その声が枯れるまで。
「だれかぁーーー!」
…モナーは名声など求めていなかった。
敵兵に見付かろうと、戦う意思も残っていない。
ショボンに追い付けさえすれば良い。
追い付いて、彼の態度に憤り、肩を掴み、
――『貴方は何を抱えているのか?』
そう問い質すつもりだった。
-
ふと気付いたことがある。
奇しくもそれは、祖父からの伝言と異口同音なのだ。
「はぁ……はあ…はァ………」
感謝を口にしていたはずの好好爺が、
礼ではなく、なぜそんなことを言いたかったのか…
いまのモナーになら判る。
言葉少なげな者が誰しも、心になにかを抱えているわけではない。
他者への気が回らない。
人目が怖い。
そもそも興味がない。
理由は様々あれど
育つ環境と、自身の思い込みによって形成された性格というものも多分にあるだろう。
しかし、ことショボンにおいてはいずれも当てはまらない。
彼は充分に気が回り、他人を恐れなかった。
堂々とした振る舞いで、効率的な物言いをする。
かと思えば…どこか人をくった涼しげな言葉すら操る男だ。
「……疲れたモナね…」
だからこそ何故、あの瞬間だけ…
泣き出しそうな、幼い顔を見せたのだろう?
-
まもなく夕焼けを喰らい尽くすであろう地平線。
沈む太陽にあやかり、その身を共に伏せてしまうほどに休息を欲した。
頬の触れた大地は、見た目より固く生ぬるい。
倒れ込んだ勢いから不意に口内を侵す泥を、唾液で濡らし乱暴に吐き出した。
何度も、何度も、異物感が拭えるまで。
「…」
脱力感。
モナーの両手両膝が深く土にめり込んでいく。
熱で熔けた土塊がその身を汚すのも厭わない。
横倒しの世界は、
モナーの意識に浮遊感をもたらす。
-
――コトン コトン。
工房の扉に取り付けたノックハンドルが、来訪者を告げる音。
『ごめんください、モナーさん』
(推奨BGM:Ruins of the east)
https://youtu.be/v9PRpIezoUY
-
……いつかの夕暮れ時だった。
単身、謝罪に現れた老婦人を思い出す。
声の主は、モナーにアイテム製造を依頼した者の代わりに。
のちのち戦争へと、身勝手かつ想定外に利用した立場の代理として。
『きつねどの?
今日はまだ納めの日ではなかったはずモナ』
イ从,,゚ ー゚ノi、 『王の命とは別件で来たの。
…償い足らずとも、せめて私からだけでも、貴方に謝りたくて』
きつねと呼ばれた老婦人は一礼し、工房の扉を後ろ手に閉める。
一体何かあったものかと…モナーは室内への移動を促した。
彼女に対して警戒心など抱くこともない。
イ从,,゚ ー゚ノi、 『作業中なのにごめんなさいね』
なぜなら…開店して一年ほどの細工工房に彼女が現れるのは、これが初めてではなかったからだ。
-
国からの依頼が徐々に増えたのは、大陸戦争のはじまる数ヵ月前。
…日に日に増える生産量。
出来上がり次第、納品しては入れかわり舞い込む依頼。
きつねは国からの使者として、モナーの元をたびたび訪ねていた。
普段ならお茶のひとつでも淹れるのだが、その日はきつねの方から謝辞された。
疑問符を浮かべるモナーにゆっくりと彼女は話し始める。
イ从,,゚ ー゚ノi、 『貴方が製造した品々が悪用されているの…。
それを伝えたくて』
-
『えっ…??』
イ从,,゚ ー゚ノi、 『それとまもなく、城からの官がここを訪ねてくるでしょう』
イ从,,゚ ー゚ノi、 『貴方を、戦場へと連れに』
"悪用" …… "戦場" ……。
どちらもすぐには脳に染み込まない単語。
呆けるモナーを前にしたきつねはうつむき、少し咳き込んで、すぐに顔を上げた。
イ从,,゚ ー゚ノi、 『見てしまったの。
貴方の製造品を手にした騎士たちが、魔導師の集う訓練所で実験していたところを……』
イ从,,゚ ー゚ノi、 『でも、それは――』
魔導力を回復させるマナカプセル。
そして凡庸武器の依頼も含まれてはいたが、その程度の依頼ならば日常茶飯の範疇に過ぎない。
大陸には野生のモンスターが生息し、
その生活テリトリーを破る際には誰しも必要とするものだ。
問題は、他の品の扱い方なのだと彼女は言う。
彼女を通じて城から注文されたのは、
…容器内の水体積を減らすケロロンポーチ。
兵糧の一部を手軽に運ぶための生活雑貨。
…弱魔導力を乱反射するライトレンズ。
耐久性にまだまだ改良点はあるが、使い捨ての夜光補助アイテム。
イ从,,゚ ー゚ノi、 『私も先日まで気付けなかった。
ひとえに王を信用していたから。
もし、アイテムをあのように扱うつもりであるなどと最初から知っていれば…』
イ从,,゚ ー゚ノi、 『貴方が庶民の生活に貢献してきたこと…しもじもの者たちほど、よく理解してる。
そして私もその一人でありながら、
故郷と家族かわいさに、上役に逆らうことができなかったの』
イ从,, ー ノi、 『……止められるかもしれない可能性を見捨てていたの』
-
重力に逆らわず、両手両膝…額まで床に擦り付ける彼女は、幾度も謝罪を口にした。
イ从,, ー ノi、 『ごめんね…モナーさん…。
本当に…面目ない……』
年老いた彼女にも家族があり生活があることくらい、独り身のモナーにも理解はできる。
…しかしなぜこの老女が謝らなければならないのだろう。
頭の片隅で違和感を覚えたが――すぐにかき消した。
よほど職務に忠実なのだと思うことにした。
彼女の態度から多大なる罪悪感が伝わってきたのだから。
そうとも。
きつねは右から左へと、言伝と製品を運んでいたに過ぎない。
職務上やるべきことをしただけだ。
イ从,,゚ ー゚ノi、 『いいのよ。
しがない国の下僕とはいえ、私も無関係ではないから。
それに…この戦争はきっともっと大きくなるわ』
庇う言葉をかけるモナーにも、彼女は首をたてには振らなかった。
――それどころか前髪に隠れて伏し目がちな瞳が、まるで東方の刀のように鋭く映る。
緩やかに歪曲し、しかし美しさを兼ね備える刃。
しかしそれも一瞬のこと。
袖口からチラリと見えた数珠がカラ…と哭いた時、そこにはいつものきつねが映っていた。
-
きつねはモナーの知るどんな女性よりも不思議な人だった。
老女ではあるが、年月によって刻まれるべきシミやたるみはほとんど見当たらない。
首元のシワを見てはじめて、年齢を推測する材料のひとつに数えられる程に若々しい。
他の人々とは一線を画す雰囲気も特徴的だった。
老いて凛々しく柔らかなその物腰は、自然とモナーの口を緩ませる。
イ从,,゚ ー゚ノi、 『孫は何人も…ええ、おかげさまで。
みんな良く出来た子達でねぇ、こんなお婆になっても元気を分けてもらえるんですから』
『孫かぁ…自分は子供すらできるかわからないモナ』
イ从,,゚ ー゚ノi、 『子供を作るのは女の役目。
貴方みたいな人はどーんと構えて過ごしていればいいんですよ』
『でも…毎日仕事しているだけモナよ?』
イ从,,゚ ー゚ノi、 『いいじゃないですか。
男なら人として、出来るだけ大きな証を遺してみせれば。
生来、女より出来ることがひとつ少ないのだからそれくらい頑張らないといけません』
イ从,,゚ ー゚ノi、 『手の届くことだけでいい…
それだけで、自然と貴方の思い出は形を変えて、次の世代に必ず引き継がれるわ』
『だったらなるだけ長生きしないと。
モナには細工師の道を極める夢があるモナ!』
イ从,,゚ ー゚ノi、 『そうね。
短く儚い命でも、たくさんの人たちに勇気を慈しみを与えたお話しだって世の中にはあるわ。
いつか死んでしまうからこそ、人は頑張れる。
それでいいの。 …それがいいのよ』
仕事中は誰とも時間を作らないモナーだが、彼女とならば不思議と世間話に花を咲かせた。
祖父母や両親が他界してからというもの、久しく無かった小言も心地好い。
だからこそ――何故、他人のために?
-
モナーの職人としての憤りは胸中に秘められつつ、確かに権力者へと向けられる。
すなわち己から汗をかかず、欲と利権のみを貪る肥えた豚。
心を痛めるのはいつも仕える者たち…利用される側だ。
イ从,,゚ ー゚ノi、 『私は戦争がはじまる前に里に戻るつもり。
…もはやあの王を止められる者は、この国にいないでしょうから』
イ从,,゚ ー゚ノi、 『だからせめて。
乱心の片棒を担いだ "責任" を、老いた私なりに取らせていただこうと思うの』
-
組織に属した者の世界は、ヒエラルキーによって支配される。
信仰だろうと、
職業だろうと、
血の繋がりであろうと。
たとえ偽りにまみれようと、
天から下される命令を民意と称され、否が応にも従わなければならない。
臆面なくマイノリティという黒羊の皮を被って、人々の心に忍び寄り添ってくる偽善。
気付けば無垢すら色に染まるだろう…背向くものには容赦なく、そして無寛容だ。
きつねをそうしたように。
『きつね? …申し訳ない。
私は本日付けで製品の受け渡しを担当することになった、フサグという者だ。
…まだこちらに来たばかりでね、前任のことは特に知らされていないんだ』
翌日から老女の代わりに来た男は若かった。
礼儀正しく、決められた時間もよく守る。
大陸東の出身で、故郷の山には色とりどりの花が咲き乱れるのが自慢らしい。
…だが彼を知るため交わした会話はそれだけ。
その後、ショボンがモナーを迎えにくるまで、フサグが無駄口を叩くことはなかった。
きつねのように、
フサグとモナーが笑いかけ合うこともなかった。
-
「……ぁ…」
遠ざかっていた意識を戻すと、もうすぐ夜が来ようとしている。
モナーはゆっくりと身体を起こし、大きなため息をついた。
大陸で生活を嗜み、感じてきたことを思い羅列する。
霊長類どころか、指先ほどの虫たちと変わりない管理社会。
共感を強いては個を認めない。
かと思えば一部の例外者の成功だけを模倣し、いつのまにやら我が物顔で共有を語りだす…。
もしも虫呼ばわりが無礼ならば。
獲物を無理矢理にでも地に組伏せるその様は、かの肉を喰い千切る獣と何が違うのだろうか。
『さようならモナーさん。 イ从,, ー ノi、
どうか貴方は自分に精一杯、忠実に生きて……』
……以来、きつねがモナーの元に現れることはなかったが、
彼女のことは今でも印象深く、モナーの確かな記憶に刻まれている。
だからこそ、あの日のきつねと先のショボンに、似た影が差していたことを気にかけた。
立ち上がり、乾きつつある泥も払わず、モナーはもう一度叫んだ。
「人がいるなら、早くこの森を出るモナよー!」
…喉の奥が痛んだ。
胸中は不自然なまでにざわついている。
「……誰か、誰でも、いい…。 もう、…」
-
それきり暫し動くこともできないまま、
改めて自分が今、なにをしていたのかを俯瞰し、とうとう自覚してしまう。
「……最低モナ」
モナーが本当に捜していたのはショボンではない。
―― "森の民を連れて帰る" 。
そんな大義名分だ。
このまま独りおめおめと戻れば、
混乱に乗じて軍を離れた臆病者の称号とともに、
戸の立てられぬ噂の的になるのではないか…。
軍師として大陸戦争に貢献していたショボンとは違い、たかだか一介の細工師。
戦闘の実績もなく、提供した製造品も己の意の通りに使われた試しがない。
頭のなかではシルエットの群れがモナーを囲み、こぞって指をさしていた。
「自分以外を利用して…」
身震いする。
かつてのきつねの言葉が心を苛んでいく。
記憶を写した羊皮紙が虫喰われ、不規則な穴をあけるように。
-
嘲笑は恐くない。
だが…祖父から受け継ぐ一族の信頼を、自分の代で失うことを彼は最も畏れた。
生きた証を遺すため、自身に忠実に行動した結果が "誰かを利用する" ことになろうとは。
……果たして、そんなモナーが遭遇する。
「だれか、いるの?」
「!! 子供の声…どこにいるモナか?!」
「……ここ」
跳び跳ねる心音を抑えつつ、消えそうな声を頼りに近寄るのは
焼け残った樹木、木炭、廃材の数々が崩れ重なったバリケードのような殻。
モナーには知り得ない、人為的に造られた天岩戸。
中からは出られないのだろうか。
モナーが瓦礫を取り崩す音だけが響く…軽く触れただけで、ガラガラと。
「あとすこし…っ、待ってるモナよ!」
(推奨BGMおわり)
-
廃瓦礫の隙間から姿を見せたのは、
軍員には含まれるはずもない、まだ小さな男の子だった。
「君は…ひょっとして森の子、モナね?」
「……」
子は答えなかった…しかしそうなのだろう。
怯えているのか、眼球が落ち着きなく揺れている。
モナーは膝を抱えて震える子の手をとり立たせると、
少しでも安心させるように目線を同じくした。
全身煤だらけではあるが、穏和そうな顔つきの男の子だ。
「怪我はしてないモナか? 痛いところとか…」
「……」
「大丈夫、なにもしないから。
とはいえ森はこんな状況モナ…」
「…」
「またなにが起こるか分からない。
次に炎に囲まれたら、モナーだって逃げられるか判らない…だから――」
「もう……いやだよぉ」
「…ぁ」
みるみる表情が崩れていたかと思うと、子は膝を折って座り込んでしまった。
隠しもしない嗚咽が、モナーの耳に嫌でもこびりつく。
「ぅわあぁぁああん……あぁぁん………」
「モナ…」
-
しばらく立ち尽くすも、泣き止まぬ幼な声は時間だけを食し続ける。
困り果てたモナーはやがて意を決するようにもう一度、子の腕を握りしめた。
「泣いてたって、なんにもならないモナよ」
「ぐすっ…ぐすん……」
「モナは人を追い掛けてたんだけど…
でももうここを出た方が絶対にいい。
君の親も、もしかしたら森の外で待ってるかもしれないモナよ?」
「……」
沈黙、
「 …嘘だ」
拒絶。
「モナ?」
「おとうさんも、おかあさんも……ぼくの目の前で殺された」
「――!!」
子の目付きが鋭くなる。
黒く、深く…。
まだ小さく未発達な瞳の奥で、
眉をひそめるモナーを映した瞳孔だけが明らかに大きくなった。
-
「……その首輪、おんなじだ。
おしさんたちが……お前たちが…!
お前たちが!! おとうさんとおかあさんを!!」
「…ちょっ…ちょっと落ち着くモナよ!
モナはただ――」
「ゆるさない…!」
立ち上がり、我を忘れ、怒りを "増幅" させられた、
生き残りである呪術師の子が右腕を大きく振りかぶる。
「 赦 さ な い ! 」
-
森に蔓延していたのは蟻の炎だけではない。
紅蓮を失してなお、この時点においては
"人の心を先走らせるなにか" が充満していた。
呪術師の子には "恐怖" と "恨み" 。
モナーには "焦燥" と "諦観" 。
「「 うわあああ!! 」」
重なる叫喚。
危害を加えるべく降ろされ、それを防ぐべく振り上げられた…大きさの異なる手と手の狭間。
赤子の頭を潰すかの如く、ひしゃげた人形が嗤い歪んだ。
それは呪術師が造りあげた、子供たちへの儀式のための人形。
泥を詰め、髪を添え、生まれた使命を果すために……
練り込められた魔導力――【ドレイン】。
-
生起せし呪術のトルネイド。
二人の目に映る景色は闇に染まり、血に埋まった。
赤黒い魔導力が煙となって蒙蒙と噴きあがる。
最後にモナーが知覚出来たのは、食い込んだ指先に当たる泥の感触。
「ぐああぁぁああ…ッッ!!」
「うわぁあーーー!!」
異なるオクターブによって彩られる悲鳴。
発動した【ドレイン】から逃れようにも、指が人形から離れない。
二人の身体を行き来する魔導力が、二色の勾玉となって巡り廻る。
ぐるぐる…ぐるぐるぐるぐる…と。
息をするように吸い込まれ、頭を垂れては吐き出される輪転の波動。
二人の身体が意思とは裏腹に、ゆらりがくりと揺れ動く。
吐血するモナー。
「モナ…ァあが…が…――」
…呪術師の人形。
天の恵みである雨水。
赤い森で採れる恵みの土。
それが混ざった時に出来る "泥" ……。
その泥に練り込まれる呪術【カース】と、
人形の穴を塞ぐ際に使われる、髪と糸に編み込まれた呪術【プーラ】によって、
はじめて儀式のための準備が出来るのだ。
皮膚を突き破らんと盛り上がる管。
行き場を失いかけた血が、
ここぞと爪先から噴き出し始める。
( まさか…このまま死ぬ……モナか…?? )
-
呪術師の血をひかないモナーには
禍害にしかならぬ、赤黒い魔導力。
【プーラ】とは身代わりの呪術。
一族を想う気持ちが強ければ強いほど、その効力も大きくなる。
護られる対象は、一定量のダメージならノーリスクでやり過ごすことができる。
「痛いよぉ…おと…さん、おかあ、さ……」
( 死にた…くない……モナ、… )
モナーの腕がだらりと下がり、
そのいかり肩を、子におぶした。
魔導力が往来の速度を増す。
-
【ドレイン】の波動は群を抜いて異質だ。
【プーラ】に護られているはずの子供たちですら、例外なく哭き叫び、気を失う。
宿す魔導力をかき回され、精魂尽き果ててしまうのだ。
…モナーを巻き添えにし、意図せず儀式を開始したこの子も同じく。
いまは歯を食いしばって目の前の仇に意識を向けるので精一杯だった。
呪術師たちはなぜ儀式に人形を使うのか?
それは【ドレイン】の循環によって失われる生気を少しでも還元するためだ。
命なき人形が得られないエネルギーは、元あった子供の身体へと帰還する。
( …――ぁ う )
それなのに、今はモナーという存在が加わっている。
【ドレイン】によって二つの魂は、悪戯に混ざろうとしていた。
適正もなく、身代わりの呪術もないモナーでは、そもそも【ドレイン】に堪えられない。
…弱っていた彼の魂が、やがて呪術師の子へと片寄り始める。
( ――たく…ない、死にたくな――…ま、だ、やりたい こと …が )
-
モナーの記憶から、
《工房》…
《祖父》…
《故郷( ルーツ )》…
-
消えていく、
《(´・ω・`)》…
《隕鉄の刀》…
-
流れ出ていく、
《イ从,,゚ ー゚ノi、》
生きた証。
-
-
…やがて。
赤い森の片隅で、静寂はその力を取り戻す。
赤黒い渦は粒子となりて、
闇中をか弱く羽ばたく蛍のように空に散った。
細かな魔導力が飛び立ったであろう大地。
そこには独りぼっちの生命が、所在なさげに膝をついていた。
傍らでは植物の画が施された黒い首輪をはめる青年が静かに横たわる。
青年が伸ばした腕…その先で、なにかを掴まんとする掌はもう動かない。
彼の魂は途上ながらにして
もうひとつの可能性に満ちた男子に献上された。
記憶…そして存在意義も。
【ドレイン】
人生はしばしば川の流れに例えられる。
大海に出る路もあれば、いつかは尽きる路もあるだろう。
モナーという人間はこの日、この赤い森で、その路をたしかに閉じた。
-
( ´∀`)
モナーの死を眺めるのは、
同世代である仲間たちの儀式を横目に脅え、なにもできなかった小さな独り。
人形ではなくモナーという青年を通して、今しがた【ドレイン】の儀式を終えた男子。
呪術師の一族として後継されし真実なる生き残り…
その彼に、生きた証の総てを託してモナーは絶息した。
( ´∀`)
『死にたくない』――。
渇望してなお、願いは叶わなかった。
しかしまだ呆けている生命の中で、モナーという路が新奇に創られようとしている。
( ´∀`)「……この人のこと、頭に流れ込んできた…」
( ∀ )
-
( ;∀;)「ごめ、ごめんな…さい」
屍に向けてはじめて口にしたのは、贖罪の言霊。
( ;∀;)「この人は…もっと生きたかったって…。
ぼくと、おんなじ……もな」
( ;∀;)「…?… 一族を大切にして、でも、こわくて、お母さんがぼくを隠してくれて」
"結魂" した記憶はまだ結合しきらない。
しかし、それも時間の問題だ。
( ;∀;)「ごめんなさい、ごめんモナ、ごめんなさいモナ…――」
モナーという青年の抱いていた夢と願望に惑わされながら、
自らの名もまもなく思い出せなくなる呪術師の一族。
やがて慟哭止まぬまま歩きだす。
「…うぅ〜〜…――」::( つ∀ )::
「ぅぁあァあん……っ――!」 ::( ;∀ )::
その足は無意識に森の出口を目指す。
小さな後ろ姿。
一度…二度、大きく深く呼吸して、
彼は地平線の彼方へと消えていった…。
-
----------
ξ゚⊿゚)ξ
HP / G
strength / A
vitality / C
agility / D
MP / B
magic power / C
magic speed / C
magic registence / H
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-
今日はここまでです
ショボンの長い夢ですから、ゆっくり読んでいただければ幸いです
続きはまた後日に
-
乙
-
乙
良かった
-
面白い!!
おつ
-
乙!呪術使えるモナーはこのモナーとは別人だったんか…
-
長そうだからずっと敬遠してたけど読んでみたらかなり面白いわ。乙
ふつうに本格ファンタジーじゃねえか
-
普通に本格
-
乙乙
-
(推奨BGM:)
https://www.youtube.com/watch?v=GmR3AALCPzo
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( 熱が…ない? )
その身へと、徐々に五感が戻る感触を得た。 狭い痛みを確かめながら目を開く。
視界の端…いや、近すぎてぼやけているのだろう、
白く優しい光に包まれたショボンの身体に降り注ぐ【ヒーラ】の魔法。
背後にいるであろうツンに感謝し、まずは状況の把握に努めんとした。
眼球を右へ、左へ…上にも巡らせる。
灰色の夕暮れが、鉄色となった大地に抗っている。
(´・ω::) 「なるほど」
脳への情報は少ない方が整理しやすい。
ショボンを渦巻いていた炎は一切の動きを止めている。
ξ;゚⊿゚)ξつ 「……消えた、けど――」
(´・ω:: ) 「…?」
獄炎を演出していたはずの広場は音を無くし、元凶すらも姿を失っている。
見渡せば月明かりも届かぬ冥い大地…。
人と蟻――と化した騎士――の屍床。
炎壁が遮っていた向こう側も、たった一点を除いて同じ光景があった。
-
「…あなたたち、何者?」
まだ人であることを証明するかのように、明確な発音が届く。
その女性の長髪、そして長袖の紅い礼服に身を包んでいるおかげで呪術師を推測させたが、
距離が離れているため、ショボンにはその表情まで読み取れない。
ツンから見るに母親なのだろう…頭部だけになった血塗れの子を大切そうに抱えていた。
:::д/:川
「いえ、それよりも…――
ξ;゚⊿゚)ξ 「…」
その子から…離れて…っ!」
女呪術師が指をさす。
その方角には――
「……ナナシ?」 (;´・ω::)
-
ミ,,●皿●彡
(;´・ω::) 「ナナシ…!」
彼が無造作にぶら下げる騎兵槍は蒸気を噴き、煮えたぎるよう赤く染まっている。
…碧色の死者をその尖端に深々と突き刺して。
自らの意志で人を刺したことのなかったナナシの腕から洩れ放たれる、明確な殺意。
(;´・ω::) 「ツン、何が起きたんだ?」
ξ;゚⊿゚)ξ 「彼が薙いだ瞬間、その槍が "吸い込んだ" のよ、辺りの炎を全部」
「…感染したんだわ、
この兵士たちのように」
ナナシのとる姿勢は、人間たる骨格を差し置きまるで四つ足獣を体現する。
赤熱の騎兵槍と相まって、見る者の恐怖心を煽った。
関節の可動限度を超えた首がグルンと逆さに捻れ、二人の不死者をその瞳で貫く。
――眼はまるで呪術師の瞳孔。
――覗かせる牙は蟻を連想させる。
ミ●皿●,,彡
怪するナナシを挟んだ反対側、女は抱いた娘の額に軽くくちづけた。
別れも惜しまず、礼服の胸元へと小さなそれをしまう。
「……あなたたち二人は "まだ人間" なのね?!
逃げて! どうせもう私たち一族は助からない」
「空の王、そして軍師ショボン!
その二人が滅ぼしたわ、怪物を使って!
それを伝えて欲しいの!」
-
森の民らはショボンの姿を知らない。
目の前に偽られし仇がいるとは思わず、呪いを託す。
(;´・ω・) 「…」
ξ;゚⊿゚)ξ 「諦めちゃダメよ!
私がそっちに行くから、待――」
「逃げてーーー!」
 ̄ ̄ミ,,●皿●彡
遺言代わりの懇願が木霊する。
ナナシの身体…いや、 "騎兵槍が女の元へと低く滑る" 。
煙を噴き上げ、淡い軌跡を直線に伸ばさんと触手の残像をなびかせながら。
…恐らく、過去争いなく過ごしてきた平和な森の民に、それはどう映っただろう。
祈り捧ぐ天国への閃光か。
無慈悲な地獄の終着点か。
――《グしゅリ》…。
再び人間を貫く騎兵槍の醜い音は、身体に穴を開けた者の耳にだけ届いたに違いない。
-
「あ…あ…」
わなわなと、ふるえる唇。
「あなた…――」
ミ,,●皿●彡 「……」
苦虫を噛み潰す表情のショボン。
ツンは詠唱していた回復魔法を放たず、手中に保留している。
そして女は小さく口を開け、背中から生えたその赤い翼をただただ見つめていた。
(;´-ω・`) 「――……」
騎兵槍が喰い破ったのはショボンのわき腹。
女に辿り着く前、神速を以てその身を庇っていた。
-
ミ,,●皿●彡
(;´-ω・`) 「…ナナシ、目を覚ますん――
::(;´ ω ):: ――グ…おぉお お お ッ!!」
発火量を増幅させる騎兵槍。
ショボンを内部から焼き付くさんと、更なる魔導力を放出する。
ξ;゚⊿゚)ξつ 「【ヒーラス】!」
【ヒール】、そして【ヒーラ】を超える最上位回復魔法【ヒーラス】を発動させるツン。
素早く、そして大きな光がショボンに染み込みはじめた。
…しかしこのままでは盛り続ける騎兵槍からのダメージによって、
癒しの魔導力もすぐに相殺されてしまう。
――それでもショボンは。
「…三日月島の時から、」
(;;`・ω メ 三 ( ズリュ…ッ ) ミ●皿●,,彡
その僅かな無痛の瞬間を利用し、騎兵槍ごとナナシを突き飛ばす。
槍という外装で不死の血を舌なめずりし、名残惜しそうに騎兵槍がケタケタと嗤った。
(;;`・ωメ) 「思っていたけれど、よくぞここまで気が利くものだねツンは。
…でもまたこうして助かった、礼を言う」
ξ゚⊿゚)ξ 「ショ――…うがないでしょう。
でも、どうしてナナシは……」
-
思わずショボンの名を呼びかけそうになるツンだったが
呪術師の手前、寸で止めた。
ヘタな誤魔化ししかできなかったのは、言い換えて彼女の誠実さにも繋がっている。
(;;`・ωメ) 「…」
ショボンの脳裏には、時を遡り集束していくひとつの答えが導かれつつあった。
炎の壁に挑むナナシの姿…騎兵槍…。
形状は異なるはずが、
石突きとなる柄頭に刻印された金糸を確かに視た。
それは三日月島で末者がしたためた槍とまったく同じ印。
「…貴様、あのときの小僧か」 ミ●皿●,,彡
Σ (;`・ωメ) 「――!?!!」
「久しいが…
忌まわしき不死め」 ミ●皿●,,彡
-
――赤い森の惨劇よりも、
ξ;゚⊿゚)ξ 「…」
――呪術師たちの怨みの矛先になるよりも、
「あの日以来、永く意識を失いはしたが
時を経ても貴様に逢えたということは…
これが相剋というものか」 ミ●皿●,,彡
――ショボンの心を蝕む邂逅。
(;`・ωメ) 「…人語を、理解しているのか」
「魔導力さえ喰えれば、
他は貴様らとなんら違いない」 ミ●皿●,,彡
-
…かつて末者が黒い棒として加工した隕鉄は、いわばアサウルスの卵だった。
しかも、魔導力の空っぽな生きた屍。
それが別個体のアサウルスの太陽と接触した際、
ごく僅かな魔導力を得たことにより、生物としての反射行動を起こした。
「あの日、邪魔さえ入らなければ
貴様を媒体に降りたものを…」 ミ●皿●,,彡
結果、アサウルスの本能は最も身近にあった物体を餌に喰らおうとする。
…それが単なる騎兵槍であったことが、このアサウルスの不幸。
(;#`・ωメ) 「邪魔……だって?」
ショボンは悟る。
目の前にいるのが幼き自分に飛来した、あの黒い槍であることを。
…兄者の仇は、この固体こそなのだと。
「可能性をいくら持てども、人間のままでは駄目なのだ。
蟻を生む排泄物にしかならぬ」 ミ●皿●,,彡
ξ゚⊿゚)ξ 「……」
(;#`・ωメ) 「…兄者さんのことか?
兄者さんは僕の恩人だ、お前の餌なんかじゃ――」
だが飢えはアサウルスを殺さない、殺せない。
意識なき100年余りの刻は天災に幸をももたらす。
「我は、貴様だ」 ミ●皿●,,彡
-
ξ-⊿゚)ξ 「…」
「あなたたち、なんの話をしているの?」
女呪術師はただならぬ雰囲気を感じつつも想像には至らない。
先とは異なり、今度はツンが黙しつつも密かに【ヒール】を放出した。
呪術師の傷が柔らかく癒えていく。
(;#`・ωメ) 「……なんだって?」
「貴様が産まれ、我も産まれた。
我々は純粋にエネルギーを欲し、不死たる
貴様らに惹かれているだけ…」 ミ●皿●,,彡
(;#`・ωメ) 「…」
「長く生を得れば知識も増える。
永く命を保てば理も身に付く」 ミ●皿●,,彡
(;#`・ωメ) 「不死者の数だけお前たちが生まれるのか?
だったら…ナナシから離れろ」
「この人間なぞ媒介に過ぎない。
我が身は未だ封じられている」 ミ●皿●,,彡
ナナシの口で語るアサウルス。
かざし示す騎兵槍は尚も炎熱し、蒸気を炊いた。
内包する忌々しさを代弁するかのように。
-
「…が、我を一介の獲物扱いなど癪にさわる。
このまま生きるも一興か」 ミ●皿●,,彡
(;`・ωメ) 「恐らくナナシはなにも知らず、その騎兵槍を使っている」
(;`・ωメ) 「…お前にも理があると言ったな?
彼には彼の人生がある。
用があるなら代わりに僕の身体を直接使えばいい」
ξ;゚⊿゚)ξ 「ちょっと…!」
「……そうして内に秘めた我を殺すか?
あの日、この身を利用してまで我が
同胞を葬ったように」 ミ●皿●,,彡
「ならばこの者もしかり葬る」 ミ●皿●,,彡
(;#`・ωメ) 「彼を巻き込む必要はない!
お前達の目的は僕だろうっ!」
「その通り。
我らアサウルスにとって、人間は路傍の石にも足りえぬ。
欲するは不死の生命のみ」 ミ●皿●,,彡
「我らは各々、不死と同一…相剋の存在。
――だがしかし」 ミ●皿●,,彡
ナナシの躯の構えが変わる。
腕を引き、腰を落とした半身の態勢…。
-
「貴様はひとつ、運命を反故した。
故に我も禁を犯そう」 ミ●皿●,,彡
(::`・ωメ) 「…運命の反故、だって?」
「すなわち相剋の黙殺。
我々アサウルスは定められし天敵のみと争うべきなのだ。
弱肉強食…
魔導の理を貴様が失した」 ミ●皿●,,彡
騎兵槍からたぎる炎が更に強大に膨れ上がった。
…一変する空気。
静まったばかりの広場も再び赤く染まると、
既に刀に手をかけていたショボンの姿も照らされる。
その時既に、両者の射程圏内。
 ̄ ̄`・ωメ) ( …ナナシ、頼む! )
「貴様に関わるものすべて我らの大敵と知れ」
ミ●皿●,, ̄ ̄ ̄
-
アサウルスが操るナナシのランスチャージ。
纏うは咆哮の業火球…
それも見上げんばかりに強大な灼熱のメルト模様がナナシの姿を覆い隠す。
対する【切断】。
蟻の炎の壁すら届かなかったこの技術では相性が悪いことをショボンも自覚している。
…ブーンの【破壊】であれば、この火球を打ち崩せたかもしれない。
しかし居ない者にすがることは出来ない。
なにより、これはショボンの闘いなのだ。
 ̄ ̄`・ωメ) ミ●皿●,, ̄ ̄
ショボンは立ち向かう。
自らの落とし前をつけるべく。
天敵を滅ぼすべく。
仇をとるべく。
衝突間際。
【切断】を、相手の精神に作用させた。
-
ミ●皿●
-
●Д゚,,彡 「――!!」
-
魂を乗っ取っていた共有意識が【切断】された時間は瞬きの間にも満たない。
しかしその一瞬がナナシ本体の抵抗を生んだ。
ランスチャージはガクンと勢いを失うと、身体をわずかに宙へと浮かせる。
Д゚,,彡 ( ショボンを… )
ナナシの目的はしぃのため。
幼馴染みの願いを叶えるためだけに、ショボンにすら斬られる覚悟も厭わない。
アサウルスはまさしく路傍の石につまづいたのだ。
そして――
 ̄ ̄ ̄ ̄`・ωメ)
未だ業火球は健在。
これこそツンの【アクアデス】に加えてショボンの【切断】にも耐えた、
あの分厚い炎の壁を【リフレクト】している。
ξ#゚⊿゚)ξ
つ∴o キュゥゥ
ならば同じことを繰り返したところで往々にして無駄となる。
それでも、ツンは詠唱を止めていなかった。
-
ξ#゚⊿゚)ξつ サッ
…ツンもそれは重々承知している。
自身の魔導力では足りないのだ、最大級の魔法をもってしても。
不死であろうと至らぬものは認めなくてはならない。
・・・
だから、唱えるのはこっちだ。
ξ#゚⊿゚)ξつ 「【ライブラ】!」
-
攻撃力をもたぬ補助魔法…。
掌から生命感知の波動が放たれると、元は一つだった光の塊が枝分かれに分離した。
緩くも速く着弾し、同時に発光。
呪術師の女、
ツン、
ショボン、
ナナシ、
――騎兵槍。
( そこか…ッ! )  ̄ ̄ ̄ ̄`・ωメ)
業火球と槍の中に身を隠すアサウルスの生命が、その在りかを輝き示した。
…それだけでいい、総てを斬る必要はないのだから。
・・・・・・・・・・・・・
アサウルスだけを斬ればいいのだから。
いまのショボンに事足りる、どんな攻撃魔法より強力で頼もしい最大のサポート。
-
,゜..
"`\\
\\
\\
-
\\
\\
\\
(`・ω:メ)
∪
|
-
ξ;゚⊿゚)ξ
ミ●皿●,,彡
「…手応えは、」 (・`ωメ´::)
-
ゴフッ ;`, (゚ωメ´::)
ξ;゚⊿゚)ξ 「!!」
ショボンにも手応えはあった。
――それでも。
喉を迸るのは、抗えない五臓の悲鳴。
色を失くした呪術師の森に赤い色を返り咲かせる。
ミ,,●皿●彡 「狙いは良かったのだろう。
だが伝えたはずだ…
"我々は天敵のみと争う" べきだ、と。」
ミ,,●皿●彡 「我は貴様にとっての相剋だ」
ナナシを包んでいた、散り散りに火の粉舞う魔導力…。
再び意識を共有化したアサウルスが騎兵槍を肩に担ぎ、ショボンへと向き直った。
-
「…な、何が起こったの? 彼はどうして…」
ξ;゚⊿゚)ξ ( ……【切断】は風の魔導力、でも―― )
魔導力には属性が帯びられる。
火は水に、水は土に、土は風に、風は火に…それぞれ相剋の関係によって喰われてしまう。
照らし合わせるならば、
そもそも炎の壁が【アクアデス】に耐えた違和感に、ツンも気が付いた。
ξ;゚⊿゚)ξ ( 【リフレクト】にしても理に適っていない。
アサウルスがキズを負った形跡も、反射ののタイムラグもない )
ショボンへのダメージは更に不可解だった。
アサウルスはショボンに対して攻撃をヒットさせたように見えなかった。
先の接触は【切断】の一方的なアタックではなかったか…?
ショボンの手から隕鉄の刀が滑り落ちると、同時にその肘から先も共に沈む。
千切れた片腕からドロ
ッ…
と、血溜まりが大地に円を描いた。
::(-ωメ´:;;)::
ハア ハア
ミ,,●皿●彡 「利き腕がなければ、もはや得意気に剣技も繰り出せまい。
…最も、あろうとなかろうと同じ愚行を繰り返すだけだが」
「…」 ::(゚ωメ´::)::
ミ,,●皿●彡 「不死とて死は一時訪れる。
だから我は死を与え続けよう……
貴様に、命脈刻む暇すら与えぬ矛盾の命を」
-
アサウルスの意思の元、ナナシの身体が一歩前に出る。
( これは違う…。
【切断】のダメージじゃあない ) ::(゚ωメ´::)::
騎兵槍の尖端が届くとき、
ショボンの心臓なり脳天は貫かれるだろう。
彡
( ダメージだけ切り取って具現したような…
反射ならこの感触は有り得ない ) ::(゚ωメ´::)::
波動感知に長けるショボンにとって、自身の魔導力と特性を見誤ることは考えにくい。
かといって、アサウルスだけが無傷のカラクリも判らない。
,●皿●彡
現実は容赦なく迫ってくる。
もはや避ける体力など残っていない。
近づく死に抵抗すべく、視界は緩慢な時の流れを映し出した。
( 相剋…… 天敵…… ) ::(゚ωメ´::)::
-
ショボンは思考を走らせ続けた。
違和感をヒントに、目の前の危機にギリギリまで抗う。
…アサウルスの歩調が変わる。
ミ,,●皿●彡
( 存在… 不死と、アサウルス ) ::(゚ωメ´::)::
ξ;゚⊿゚)ξつ 「【ウィンダラー】!」
逃げられないショボンを救うべく動くのはツン。
【ウィンダラー】…広範囲に巻き起こる魔突風とカマイタチ。
アサウルスを中心に添え、溶け残る鎧の隙間、肉を切り刻んでゆく。
::ミ,,●皿●彡::
ξ;゚⊿゚)ξつ 「くっ…」
…しかしその歩みを阻害するには至らない。
ギチギチ軋む音をたてつつも、発生した慣性に逆らい前進するアサウルス。
顔を歪ませ、握り直した騎兵槍を――
ミ,,●皿●彡 「!」
――正面に突き出して…虚空に触れた。
そこにあったはずのショボンの姿が無い。
(;´-ωメ:) 「……ぅ…」
静かに首を振った先、
【ウィンダラー】の余波に吹き飛ばされた不死の青年を改めて捉える。
-
アサウルスはゆったりとした動作で振り向いた…。
焦る様子はない。
背負う月と濁った星光…
そして宵雲に潜む二つの太陽がなおも健在している。
「……娘…小賢しい真似をするな」 ミ●皿●,,彡
ξ゚⊿゚)ξ 「…」
「貴様も我の因果に含まれたいか?
余計な手を出さず、望みさえすれば
まだ長生きさせてやるが…」 ミ●皿●,,彡
ξ゚⊿゚)ξ 「…?」
ξ゚⊿゚)ξ 「そうね、お願いしたいわ」
交わす言葉とは裏腹にぶつかる視線、退かぬ不死。
蚊帳の外にいる女呪術師だけが後ずさりした。
【ウィンダラー】の狙いはアサウルスへの攻撃でなく、ショボンの緊急回避。
ダメージを伴いはしても、まだ死にはしないと踏んでのこと。
…そしてそれは思わぬ副産物をツンに与えたらしい。
表情から焦りが消える。
睫毛をはじかせ、勝ち気な眉をますますつり上がらせた。
ξ゚⊿゚)ξ 「他にも試してみる?」
⊂ξ゚⊿゚)ξ 「…【リジェネ】」
挑発する仕草でそのしなやかな腕をユラユラと揺らしたかと思えば、
流れる動作で魔法を発動する。
(;´-ωメ:)
-
光の魔導力がショボンを包む。
――反応はそれだけだった。
「……」 ミ●皿●,,彡
「ククッ、知恵は回れど実力が追い付かぬか。
弱々しき癒しの波動よ」 ミ●皿●,,彡
ξ゚⊿゚)ξ 「逃げて。
森や皆は残念だけど…貴女だけでも生きるのよ」
-
「……えっ」
認識には一呼吸分の時間がかかった。
女呪術師が、場にそぐわぬ声をあげる。
ξ゚⊿゚)ξ 「大丈夫。
せっかくアサウルス様が長生きさせてくれるっていうんですもの」
ξ゚⊿゚)ξ 「ねえ?」
「……」 ミ●皿●,,彡
ξ゚⊿゚)ξ 「ほーら、認めてるわよ」
「……」
そのやり取りに、
心中を困惑させながらも女呪術師は、一歩…また一歩と下がっていく。
視線はそれぞれに泳ぎ、やがて無防備な背中を晒しながらこの場を離れる。
自身の娘に向けていた別れの口づけとは対照的に、名残惜しそうに振り返っていた。
ツンに向けては申し訳なさそうに…。
アサウルスに向けては怒りの矛先として…。
ミ●皿●,,彡
アサウルスは静かにそれを見送るだけだった。
騎士道精神では決してないだろう…。
とはいえ、意識を朧気とさせるショボンの薄目に入るアサウルスがとても人間臭く映った。
-
ξ゚⊿゚)ξ 「… さて、と」
女呪術師が居なくなるのを見届けると、
ツンは逆手に指を絡ませ、リラックスするかのように伸びをする。
《カチャリ…》。
騎兵槍から突撃準備の鐘鳴。
「不死にすら敵わぬ我に、人間が
随分と余裕を見せるものだな」 ミ●皿●,,彡
ξ゚⊿゚)ξ" 「あら、アサウルス様?
ご存じ無いのね……」
ξ゚⊿゚)ξ 「【コンフュ】!」
伸びをしたまま――指先から放たれるは、神経回路の混濁魔法。
「?!」 ::ミ●皿●,,彡::
ドクンッ
色彩なき横倒しの刃が騎兵槍を貫通する。
直後、アサウルスがよろけ始めた。
ξ゚⊿゚)ξ
つ∴o 「貴方はショボンのことしか眼中にないのかしら?」
-
続けて詠唱したのは【フォース】。
ひたすらに物理的でしかない衝撃がアサウルス本体に襲いかかる。
吹き飛ぶ騎兵槍…
だが、ナナシの手がグリップを離さない。
重量に引きずられた身体が僅かに浮いた。
「グゥっ…小癪――
三ξ゚⊿゚)ξ !!」 ミ●皿●,,彡
その眼前に距離を詰めていたツン。
【コンフュ】から解放されたアサウルスの元へと駆け出し、
ξ`゚⊿゚)ξ 「っハァ!」
⊂彡
・・・・・・・・・
ショボンの隕鉄の刀を振り降ろす。
-
《ギチィ ―ィン!》
-
灰色の空に木霊する金属音…。
ξ゚⊿゚)ξ 「…」
ミ,,●皿●彡 「…」
重なりあう、刀と槍。
ミ,,●皿●彡 「…なんのつもりだ」
ξ゚⊿゚)ξ 「今度は反射しないのね。
意図して? それとも…アタシにはできないのかしら」
ミ,,●皿●彡 「なるほどやはり小賢しい」
鍔迫り合いする互いの武器。
…ツンはナナシの胴をすり抜け、騎兵槍を直接叩いた。
疑念を払拭するためだけに。
グッグッ…と、また嗤い声がした。
ミ,,●皿●彡 「だがこうも近付いたのは、やはり貴様の力不足というものだったな」
(;´-ωメ:) 「 ぅ…」
(;´・ωメ:) 「……はあ、はあ…」
(;´゚ωメ:) 「!!」
-
ド
::ξ;゚⊿゚)ξ:: 「――…ッッ!」
ス
ッ
…ツンの身体が跳ねた。 何度も、ガタガタと。
極短の縄で繋がれた家畜のように、決められた空間だけで痙攣を赦される。
ξ;;゚⊿-)ξ,゚、 「が――ふっ…」
徐々に上がっていく高度。
足が大地を離れ、小さなブーツを伝ってボタボタボタボタと血を垂れ流す。
…騎兵槍がツンを貫いていた。
何が起こったか、当人は把握することもままならず。
ミ,,●皿●彡 「この躯はとても良い。
身の丈を越える得物をここまで自在に操れるか」
::ξ;; ⊿ )ξ:: ビクッビクンッ
(;´゚ωメ) 「――くそ…、ツンーーー!!」
-
ショボンの身体は少しずつ動くようになっていた。
不死者といえど、自然に回復するわけではない。
これは【リジェネ】の段階的治癒の発動によるものだ。
即効性のある【ヒール】と違い、
本来ならば毒のような継続ダメージを受け続ける環境下で本領を発揮する。
消費魔導力の少なさから、非戦争地帯での治療にも役立てられる。
ツンはアサウルスの注意を引き付けるため…
そしてあえてショボンがすぐに動かないよう活用した。
やがて…ツンの痙攣が止む。
ミ,,●皿●彡 「ふむ…」
刀の扱い方を盗めなかったツン…。
瞬時に繰り出された旋風槍に対処できず、その刃を弾かれ、返り討ちにあってしまった。
ミ,,●皿●彡 「どこかでこんな死体を見たな」
結末は――百舌鳥のはやにえの如く。
槍に貫かれたその姿は、ショボンの記憶からかつての兄者をフラッシュバックさせる。
(;#´゚ω゚) 「アサウルス!!」
ミ●皿●,,彡 「邂逅…そうか。
これはいつかのお前でもあった」
-
グッグッ、グッグッ、
…嗤いが止まらない。
そうだ、このまま
女を投げつけてやろう。
…アサウルスはそんな風に考えていたのかもしれない。
ショボンから顔をそらさず、
騎兵槍を振りかぶろうとして……その意識は完全に余所見をしていた。
「…やっぱりね、
ショボンのことしか
見えてない」
Σ ミ●皿●,,彡
-
「アタシも不死者なの。⊿゚)ξ
…貴方は知らなかったみたいだけどね」
ミ;,,●皿●彡 「!!!」
(;´・ω・) 「ツン!!」
「【リベンジ】!!」⊿゚#)ξ
アサウルスの狼狽――同時、爆散する闇色の太陽光。
::《ゴ ア ァ ア ァ ァ ッ ッ》::
獣の断末が
哭き響く。
-
( 推奨BGM:Distorted Space )
https://www.youtube.com/watch?v=2wOonO74Y2M
-
シュゥウゥ……
.
: :: ,
ミ,,○皿○彡
(;´・ω・) 「…や、ったの……か?」
ξ ⊿ )ξ
(;´・ω・) 「ツン?」
膝をつくアサウルス…地に伏すツン。
どちらも立ち上がる気配は無い。
【リベンジ】…その身に受けた傷をそっくりそのまま放つ。
ダメージではなく概念であるため、
被爆した対象は痛みそのものや瀕死といった、発動者の状態をトレースする。
…かろうじて息があるのだろう。
ツンの身体は極々わずかだが、呼吸による上下運動が見られた。
貫かれた箇所は長く綺麗な後ろ髪に隠れて目視できない。
どのみち彼女も不死の者…。
生きてさえいるならば、その怪我の度合いよりも確認しなくてはならないことがある。
(´・ω・`) 「…アサウルスは」
`
: :: ,
ミ,,○皿○彡
-
ショボンは警戒しつつもアサウルスへと近よった。
しかし何も起こらない。
(´・ω・`) 「アサウルス、死んでいるのか?
いやしかし……」
空を見上げる。
夜空の彼方……雲の切れ間に、太陽は無い。
三日月島に出現したアサウルスは二つの太陽を破壊しても石化したまま、
島の海にその身を晒している。
いつの間にか現れた謎の物体として、
世間的認知が広がっているのをのちのち小耳に挟んだことがある。
生きているとは考えにくいが、消滅していないのも確かだ。
-
《 ( A ) 》
ならば東方のアサウルスはどうだろうか。
あの日あの空間でブーンが助けた男。
ハインの言葉を訊くに、彼がどうにかしたという。
-
だが、東方のアサウルスらしき発見談などこれまでに聞いたことがなかった…。
人の多くはひとつの場所に定住するが、遊牧する民もいる。
訳あって大陸から東方に旅立つものもいるだろう。
よって東方の生き残りがいようがいまいが。
何かしら形跡が残っているならば、人々は伝え、いずれはショボンの元に情報が入る。
アサウルスと蟻の痕跡を追い続けた彼に。
(;´-ω・`) 「――ぃづッ!」
ツンから取り戻した隕鉄の刀で騎兵槍をつつくと、
感触が痛みとなってショボンに跳ね返った。
そこで今度は素手で優しくさわってみる。
…やはり、さわさわと身体をまさぐられる感触。
(´・ω・`) 「相剋…か」
ツンがショボンを残して【リベンジ】…自爆したのは、
このアサウルスが彼女でしか有効なダメージを与えられないことを悟ってのことだろう。
倒せる確信があったのかは彼女にしか判らないが。
ならばショボンが期待されているのはトドメではなく、
(´・ω・`) 「恐らくは――」
-
ショボンはアサウルス本体である騎兵槍へと意識を向け、集中する。
やがて不可視の腕…その輪郭が伸び、宙を漂い始めた。
自身の腕ではない。
彼は両足のスタンスを自然にとり、両手は下がったままだ。
魔法の使えない彼だが、代わりに独自の概念を編みだし応用していた。
ふわり、ふわりと。
ショボンによく似た形の腕が魔導力によって具現されている。
(`-ω-´) 「…」
騎兵槍――そこから魔導力の波動は感じられない。
生きとし生けるものには総じて魔導力が備わっている。
アンデッド、無機物の魔導生命体…
アサウルスも例外ではなく、灰蟻にすら纏われているもの。
それが魔導力。
-
【ライブラ】が死んでいるものを生命感知出来ないように、
この不可視の腕もまた、魔導力のないものは感知出来ない。
これまでの経験と法則に則るならばアサウルスは死んでいるといえる。
――なのに、ショボンに対する相剋の特性は消えていなかった。
(`-ω-´) 「…」
もともと魔法を使えない人間からはパルス状の波動が流れているため、
ショボンの感知範疇にはもうひとつの存在が同様に捉えられる…ナナシもまだ無事のようだ。
アサウルスとの共有意識から完全に【切断】すべく、
自らの掌をナナシの顔に触れた。
直接魔導力を送り込めば、より強く意識を切り離すことが出来るだろう。
ミ,, Д ⊂(・ω・´ ) 「いま助けるぞ、ナナシ…」
騎兵槍たるアサウルスの処分はそれからだ。
そう思い、ショボンが【切断】を発した――
-
ミ,, Д⊂(;`・ω・) 「!!」 ――その時。
感知内にもうひとつの魔導力。
かつて感じたことのない、破裂寸前の膨脹波動。
背後へと振り向く。
ξ ⊿ )ξ
ツンではない。
(・ω・´;)
(;`・ω・)
他に、居る。
(推奨BGMおわり)
-
------------
〜now roading〜
ミ,,●皿●彡
HP / B
strength / B
vitality / B
agility / C
MP / C
magic power / B
magic speed / D
magic registence / H
------------
-
次投下でこの回は終わりです。
よろしくお願いします。
-
乙
-
ハラハラする
面白かった!乙
-
おつ!!
続きが気になる
-
おつ!ツンかっけえっす
-
----------
それは過去に無い感覚だった。
魔導力の波動……
ある日を境に世界で充満し始めたエネルギーをショボンが感じとる際、
様々なイメージをキャッチしている。
【火】が息苦しくなるならば、
【水】は重い。
【土】に締め付けられ、
【風】は感覚が薄くなってゆくかのように。
癒しを司る【光】の魔導力はむず痒さを覚えた。
(;`・ω・) 「……」
アサウルスの波動のような、チクチクとした刺々しさともまた違う。
未知に抱くは畏れもあり…。
しかしそれ以上に、彼がその場から逃げ出さないのは
心を埋め尽くすような赤黒い正体を掴みたいという好奇心が大きい。
立ち向かう精神はいつでも持ち合わせているつもりだ。
(・`ω・´;) 「……」
手は無意識に、いつでも抜刀できるよう腰に当てていた。
がっしりとした首を振るよりも忙しなく瞳を動かす。
廃巨木の奥、焼けて黒ずんだ岩の蔭、
それとも死体に擬装してはいないか…彼は意識を光らせた。
-
「……終わったの?」
だがその心配も杞憂に終わる。
ショボンの前に姿を見せたのは…ツンが逃がしたはずの女呪術師。
(`・ω・) 「まだ居たのか…どうして戻ってきた?」
問い掛けて、思わず息をのむ。
女の様子がおかしい。
敵意のベクトルをひしひしと感じさせる。
…波動の発生源すら一致させて。
「考えたの…私一人で逃げても仕方ないって。
誰もいなくなって、私はなにを支えに生きるというの?
独りで、どうしたらいいの?」
(`・ω・) 「命が惜しくなかったのか?
せっかく助かったんだ、せめてみんなの分まで――」
「声が聴こえたわ…
貴方が、ショボンだったのね」
(;`・ω・) 「!」
-
彼女は脇に何かを抱えていた…。
ショボンは目を凝らす。
それは彼女が懐へとしまいこんだはずの我が子の首。
カタカタと腕を震わせているのは、隠しきれぬ感情によるものだった。
「不死…って言ってたわね?
本当に死なないの?」
その表情は氷のように、冷たい。
その瞳孔は闇よりも、黒い。
-
(;`・ω・) 「…」
「……返事してよ、でないと」
(;`・ω・) 「…」
『理由がある、これは僕の仕業ではない』
…などという言葉は出てこない。
ショボンは葛藤していた。
三日月島の半壊滅、
赤い森の消滅、
森の民のジェノサイド……
言葉巧みに弁明すれば、もしかすると彼女からの罪は免れよう。
いずれもショボンが関わった事件だ。
しかし、彼自身が引き起こしたものではない。
ましてや望んだこともない。
アサウルスはショボンの意志とは無関係に、やがて現れただろう。
赤い森も、大陸戦争における国家間の諍いによる火の粉が降りかかったにすぎない。
ジェノサイドすら、その両方が同時に発生した不幸の結果論。
「この怒りをどこにぶつけたらいいのか、分からないの…」
だが、しわ寄せはなんの罪もない人にこうして襲い掛かる。
それをどうして己が為だけに否定することができようか。
-
さらにショボンが観察すると、女呪術師の瞳孔が大きく開かれていることに気が付いた。
子の生首の瞳すら見開き、こちらに向けられている。
(;`・ω・) 「…」
(;`・ω・) 「……僕だ」
それでも…
(;`・ω・) 「僕のせいで、君たちをこんな末路に導いてしまったのかもしれない」
「!!!」
(;`・ω・) 「不死も本当だ。
僕は死なない…何をされても、きっとまた甦るだろう」
「どう、して…」
(;`・ω・) 「…」
-
望む望まないに拘わらず、他者の評価が自己を作り出す。
映る姿は真実には相違ない。
加害者の言い訳がどれほど求められようか。
被害者の言い分がどれだけ受け止められようか。
女呪術の瞳から、一筋の涙が流れ落ちた。
「私の瞳が見えるでしょう…?
この瞳孔は、一度開いたら元には戻らない。
怨んでしまえばそれが晴れるまで求め続けてしまうのよ」
…彼女にも分かっていた。
目の前で一番にアサウルスと戦ったのもショボンであり、真に一族の仇ではないことを。
《パキッ》
「……どうして、貴方みたいな人がいるの?
なんのため?
私たちを巻き込むため?」
(;`・ω・) 「巻き込みたくはなかった…。
それでも、事実は変わらない」
「貴方が居なければ、この森も無くならなかった?
貴方が居なければ、私達一族ももしかしたら逃げることができた?」
「――止まらないの、止められないの。
聴かなければ良かった、あのまま逃げれば良かった。
貴方が…ショボンが身を呈してまで私を庇ってくれた恩すら、
この頭の中から消えていく……」
《パキッ》
-
混沌とした意識を維持できない《パキッ》のか、女呪術師の身体が更に振動し始める。
その背から、後光射す闇の波動が吹き出した。
…まるで、アサウルスの太陽コロナと同等の転輪を画いて。
《パキパキ…ッ》
(;`・ω< ) 「!!」
「これは私達への呪い。
制御不能な…魔導力……【ウラミド】の、 呪縛……」
「逃げ、て……貴方が、
私達に、囚われるべき人、で…なぃ の な ら 《パキパキッ》、 」
突如、
その手に掲げた子供の首がゴウッ――と、瞬時に燃えて発光し、散った。
-
(;`>ω⊂) 「――ぐっ!?!」
ショボンが目を奪われたその隙、女呪術師の足元からは冷え冷えとした風がそよぐ。
宙に泳ぐ鮮血の粒子。
《パキパキパキパキ――ッッ》
瞳孔から天を衝く闇柱。
蟻の顋を擁してあんぐりと開けた口から、零下の霜煙が吐き散らかされた。
(;`>ω⊂;:"`
―― 闇のブリザード。
(`>::"`
―― 一直線に彼のもとへ。
( ;::゙`
ショボンの身体を
正気に戻ったナナシが
力任せに押し流した。
それがショボンの
赤い森の記憶――。
-
《 http://imepic.jp/20150716/776760 》
-
-
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
-
「 」
-
「 ――?」
-
……目覚めよと、呼ぶ声がする。
-
早く起きろと、叱る声がする。
-
( …うるさいなぁ )
眼が開くよりも先に、意識が覚醒した。
「 か?」
微睡む肉体に力は入らず、
しかし心地好い浮遊感が起き上がる義務感を結束させてはくれない。
「仕 な 。
れてたん だか 」
少しずつ聴こえ始めた音に嫌でも耳を傾けると、何者かの会話であることがわかる。
やれやれ…と。
まだ気だるげな四肢に無理やり電気信号を送り、身体を動かそうと試みた。
しかし長い時間を同じ姿勢で過ごしていたせいか、
命令を脳がキャッチするまで間があることに内心苦笑してしまった。
存外、不死の身体でも仕組みは人の枠を外れないらしい。
目蓋はなかなか開いてくれなかった。
-
《バシッ!》
頭に衝撃が走る。
誰かがショボンの頭をはたいたのだ。
从 ゚∀从 「ったく、何度揺り動かしても起きやしねえ」
『すまないな、こいつは根っからの寝坊助でね』
从 ゚∀从 「そうやって甘やかすからだよ。
あんまり長居はさせたくないんだがなー」
『なるほど一理ある』
話し声はハインと、もうひとりは男のようだ。
……いや、男が二人で計三人だと、なんとなく思った。
それよりも何故ハインに叩かれなくてはならないのか…
ショボンなりに考え始めるが、果たして納得がいかない。
从 ゚∀从 「もっぱついくか?」
『ショボンは我輩たちからみればいつまでも子供なのである。
優しくしてやってくれ』
( ――!?! )
今度こそ、ショボンの瞼が開かれる。
四人の声は明らかに異質で……
-
从 ゚∀从 「よう、おかえり」
(´・ω・`)
(´・ω・`) 「……な、なんで」
(推奨BGM:Parting Forever)
http://www.youtube.com/watch?v=e10cxFIPeKE
-
( ´_ゝ`)『ったく…お前は寝不足村の住人かっつーの』
(´<_` )『流石だな兄者、いつまでも発言センスは化石か』
( ФωФ)『久しいであるな、ショボン』
…異質だが、しかし懐かしく。
(´・ω・`) 「なんで居るのさ」
-
( ´_ゝ`)『なんでって…』
(´<_` )『お前が呼んだんじゃないか』
(´・ω・`) 「僕が呼んだ?」
ショボンは彼らに近付こうとして、すぐに理解することになる。
相も変わらぬ闇のなか。
ハインはすぐ隣でしゃがみこみ、ニヤニヤこちらを眺めている。
( ФωФ)『ほら、せっかくなのだから早く起きるのである。
おお…大きくなりおって…』
( ФωФ)『撫でてやりたいが、子供扱いも失礼であろうか』
他の三人は違う。
よろりと立ち上がるショボンにしても、少し見上げた位置にいる。
彼らは…[かがみ]の "向こう側" に映し出されていた。
-
从 ゚∀从 「最初に言っただろ?
念じればこの[かがみ]に映るんだ。
お前の過去の出来事も…お前の過去の記憶の人物も」
遅れてハインも立ち上がり、エッヘンとした様子で腰に手をやった。
ショボンからは背後にいるため見えないが。
(´・ω・`) 「そうか…なら過去を覗いているうち、兄者さんのことを考えた気がするよ」
(´<_` )『俺は?』
( ´_ゝ`)『ふっ、嫉妬するなよ愚弟』
(´・ω・`) 「思い出したのは死に様だけど」
( ´_ゝ`)『…』
(´<_,` )
( ФωФ)『赤い森…そしてそのあとの事も。
色々と見させてもらったのである』
(´・ω・`)
( ФωФ)『大変だったな、ショボン』
-
自らの産み出した幻とはいえ、誰もが以前と同じだと思った…。
サスガ兄弟も、ロマネスク爺も、
かつて少年だった頃のショボンの記憶に彷彿とさせる。
(´・ω・`) 「……なんだよ」
だから、後ろめたさがあった。
(´・ω・`) 「[かがみ]の幻覚のくせに……」
( ФωФ)
時は経ち、ショボンは彼らよりもはるかに齢を重ねてしまった。
二度と変わらない背格好と、過ぎたる現実。
…もう、後戻りもできない。
ショボンがアサウルスと関わったことも。
赤い森が地図から消えてしまったことも。
ナナシがショボンを庇い、氷漬けになって生ける屍と化したことも。
それ以降、呪術師の生き残りであるワカッテマスに永く怨まれていたことも。
(´・ω `)
从 ゚∀从 「俺がクーの景色を覗けるように、
お前がモナーの景色を覗いたように…」
从 ゚∀从 「こいつらも、お前の記憶やその周りを覗くことができたみたいだ」
-
(´<_` )『お前にも伴侶がいたんだな…。
心配してたんだぞ?
兄者が死んでからのお前はそれまでと、まるで別人だったから』
(´<_` )『ずっとじゃなくてもいいんだ。
誰かと過ごす時間…それが人生の潤いになる。
…俺がお前にしてやれなかったことを、他の誰かがやってくれたなら俺も嬉しいよ』
結局しぃとは生涯、顔を合わせなかった。
どんな顔をしておめおめと帰るべきか判らなかった。
誰にも伝えられない大罪に… 彼女とその子供に…
罪悪感を抱き続けていた。
-
( ´_ゝ`)『なのにお前はずっと独りで…
"自分はこの世に独りきり" だと思い込んで、生きてきたんだな』
( ´_ゝ`)『あげく水の都で犠牲になったのは、ヒロイックな感傷にでも浸りたかったのか?
一度くらい死なないと、みんなに申し訳ないってか?』
同族を見渡せば…
クーは死ぬことでかつての記憶を失い、
ジョルジュはワカッテマスを失った。
不死であろうと、人は常に何かを失わねばならないのだと思っていた。
( ´_ゝ`)『人は孤独で死ぬことができる。
信仰という支えの無くなったあの島で、俺が一番気をもんだのは自死への対策』
( ´_ゝ`)『…お前の両親の分まで、俺はお前を孤独にさせないよう過ごしたつもりだ』
(´ ω `)
-
叱られ、怒鳴られ、見損なわれても仕方のない生き方を、
ずっと…自分はしてきたのではないかと……どこかで考えていた。
( ФωФ)『ショボン…お主はバカタレであるな』
(´ ω `)
( ФωФ)『どれだけ人に愛されてきたのか、まだ分からぬか?』
( ФωФ)『思い出してみるが良い。
どれだけの人が、お前を助け、お前を生かしてきたのかを』
[かがみ]の住人は容赦なく言葉を投げつけてくる。
サスガ兄弟からは慰めを…。
ロマネスク爺からは一喝して諭すように。
-
( ´_ゝ`)『ショボン、ふたごじまを…
弟者やロマネスク爺の住んだ三日月島を救ってくれてありがとうな』
( ´_ゝ`)『そして俺のためにアサウルスを延々と追わせてしまって…すまなかった』
(´<_` )『ショボン、お前は凄い奴だよ。
俺たちはすぐに老いぼれるから、
生き方をどうこうだなんて考える以前に楽な生き方を選びがちだ。
…島の技術や人々も、大陸各地にあるだなんて昔なら考えられなかったぞ』
(´<_` )『追放された俺でも、あの島でやっと生きやすさを見付けて天寿を全うできた。
息子の末者も、ちゃんとお前の力になってくれて良かったよ』
( ´_ゝ`)『ぇ、なにそれ、お前子供作ってたの?』
(´<_` )『デレとな』
( ФωФ)『それはそれは……祝えなくて残念だったのである』
( ´_ゝ`)
(´<_` )『…そういえば兄者はミセリよりデレ派だったっけか』
( ´_ゝ`)『実体があったら殴りかかってるところだよ……なあ、ショボン?』
(´ ω `)
( ´_ゝ`) 『……』 (´<_` )
-
ショボンと兄弟の沈黙を受け、再びロマネスクが口を開いた。
( ФωФ)『仲間が出来たのであるな。
お主と同じ時間を共有できる……』
( +ω+)『不思議なものである。
ショボンも、彼らも、なぜ生まれたのであろうか』
(´ ω `)
( ФωФ)『…逆であるか。
生まれてきたからには必ず意味があるはずなのである。
必要だから生まれたのだと、我輩は信じておるよ』
( ФωФ)『一緒に日々を過ごしてくれてありがとう、ショボン。
…我輩は、お主が死ねないことを憂いる。
悦ばしいことも、怨めしいことも…凡てが永遠に終わらぬのだから』
从 ゚∀从 「…」
( ФωФ) 『ショボン、もっと強くなれ。
他人を頼るのだ』
-
( 強くなって…他人を頼る? )
昔はなんと口うるさい爺だと、うっとうしげにあしらっていたものだった。
なのに今なら、ショボンにも分かることがある。
…ロマネスクも微笑んでいた。
血縁はなくとも、孫と話すことがとても嬉しそうに。
そして思う。
ロマネスクはこんなに難しいことを話す人間だったろうか?
会話からイコールが繋がらない。
少なくともショボンのなかではそうだ。
「どういうこと?」
いつのまにか幼い頃の声色となったショボンが真意を尋ねると、
淀みなくロマネスクは応えた。
-
( ФωФ)『耳を塞ぎ、心を閉じてはならぬのだよ。
お主の過ごした時間は確かに誰かの命を奪い、しかし同時に誰かの命を救ったではないか』
(´<_` )『三日月島では兄者の代わりに俺が生きた。
兄者が生きていたなら、お前がアサウルスの手足になって島の人間を皆殺す未来もあったかもな。
…その手で兄者やデレ達を殺すような、考えたくもない架空の未来だけど』
( ´_ゝ`)『モナーは呪術師の血を薄めて、【ウラミド】の呪いを解き始めた。
…お前も後に逢っただろう? 二代目モナーはあの時の子供だよ』おう
( ФωФ)『水の都に至っては誰ひとり、その命を失ってはおらぬ。
他者には呆気なく映る平和的解決も、お主の迅速な行動が生んだ奇跡なのだ』
( ФωФ)『見誤ってはならぬ。 卑屈にもなるな。
考え方ひとつ、視点を変えれば人は感謝し合って生きていけるのである』
-
ショボンは彼らの言葉を黙って聞いていた。
決して自分を責めない言霊が、
身体中に染み込んでいく心地よさに沈んでいく……。
足は地についているだろうか?
そんな不安に駆られたが、
そもそもここが大地なき宙闇の空間であることをなんとか思い出す。
沈下する目線に追い打ちをかけるよう
ポンっ――と、ショボンの頭に重みが加わった。
ハインの手のひらが置かれたのだと、見てはいないが理解する。
从 ゚∀从 「アタシからもひとつ教えといてやるよ」
从 ゚∀从 「[かがみ]が映すのは過去だけじゃない…
さっきのクーみたく、現在も映してくれる。
要するに思いの大きさ、想いの強さに影響を受けて投影されるってわけだが…」
つっけんどんな口調ではあるが、それはハインなりの照れ隠しなのかもしれない。
ショボンの視線はあくまで[かがみ]の三人に注がれているにも拘わらず、
どうして彼女までが微笑っていると分かるのだろう…。
-
「前に出な… [かがみ]にもっと近付いて」
…ハインの声に導かれ、ショボンは恐る恐る歩を進めた。
眼前にそびえる[かがみ]。
――こんなに見上げるものだったろうか?
変わらず映るはあの頃の三人の姿。
願望に従い、考えるよりも早く腕を伸ばして触れる。
到着点はまっ平らな[かがみ]ではなかった。
紛うことなく、それは[かがみ]を越えて現れた
兄者、弟者、ロマネスクの三者三様の手の感触。
ショボンがそれに驚く間も無くぐいと引き寄せられると、四人は肩を寄せ合う形になる。
-
『どうした、ショボン?』
『…やれやれ』
『家族の前では、
いつまでも子は子であるな』
「…うるさいなあ」
-
( ´_ゝ`)
⊃(´;ω;`)(´<_` )
( ФωФ)⊂
-
人はいつも誰かと共にある。
一匹狼を気取るのは、人を傷つけたことにすら目をそらす愚か者だ。
人はいつも誰かを求めている。
ひとたび出逢えば縁を紡ぎ、その蜘蛛の糸が千切れるまで助け合える。
誰に何を言われても強くあり続けることのできる存在などありはしない。
瞬間を生きる者も、悠久を過ごす者も、
同じ時を歩み寄り添う。
――そうやって、人が安穏と
生きていければどれほど良いか。
-
从 ゚∀从 「…」
从 -∀从
从 -
′
四人を遠目で見つめながら、ハインは闇に消えていった…。
その身を、黒い何かに巻き取られながら。
( ´,_ゝ`)o
⊃(`;ω;)(´<_,` )
( +ω+)⊂
ショボン達はそれに気が付かない。
今はただ[かがみ]が与えた記憶と邂逅に、
束の間のうつつを抜かす。
-
―― 千年を生きる者。
―― 千年を過ごす可能性を秘めていた者。
[かがみ]に善悪はない。
只あるのは、
未来と、それを生き抜く概念と願望…
この世界を構築するエネルギーだけを貪欲に求めている。
-
リミットは刻々と迫りつつある。
"彼ら" は手に入れなくてはならない。
運命を乗り越えなくてはならない。
[かがみ]による願望の投影によって
うたかたの合間、幼くなったショボンに
闇に光る粒子の灯りが不規則に、しかし…確かに三つの輝きが、
煌々と照らされ増えたことにも気付くことはない…。
-
( …あの日以来、初めて )
( 少しだけ、心が休まった気がする )
( 自分を赦してくれる人と一緒に居るのは、こんなにも気持ちの良いものなんだ )
( でも兄者さんたちも、
僕が死んでここに来なければ逢えない幻覚… )
( 不死の僕には、せっかく
寄り添う存在が見つかったとしても
必ず別れが訪れてしまう…… )
-
そしてショボンは少しだけ、
ξ-⊿-)ξ
∪^ω^)
ブーンとツンを、羨ましく想った。
(了)
-
乙
-
乙
引き込まれたわ
-
乙!
-
--------------------------------------------------
※千年の夢 年表※
--------------------------------------------------
-900年 ***********
→信仰の概念がうまれる
( ∵)は偶像生命体として同時に生誕。
-400年 ***********
→結婚(結魂)制度のはじまり
-350年 ***********
【ふたごじま】
→魔導力の蔓延
-312年 ***********
【銷魂流虫アサウルス (´・ω・`)幼年期】
→ "隕鉄" が世界に初めて存在しはじめる
【東方不死 〜山人の夢〜】
→('A`) がアサウルス(a)と相討ち
-220年 ***********
【銷魂流虫アサウルス (´・ω・`)青年期】
【傷痕留蟲アサウルス】
→アサウルス(c)撃破
→騎兵槍と黒い槍(アサウルスb)が融合
→('A`) がアサウルス(a)から解放
-
-210年 ***********
→大陸内戦争勃発。
【帰ってきてね ミ,,゚Д゚彡幼年期】
-200年 ***********
【帰ってきてね ミ,,゚Д゚彡青年期】
【死して屍拾うもの】
【夢うつつのかがみ "赤い森の惨劇" 】
→結魂によって二代目( ´∀`)生誕 ☆was added!
→アサウルス(b)復活 ☆was added!
→ミ,,゚Д゚彡は【ウラミド】に巻き込まれてアサウルス(b)もろとも氷漬けに ☆was added!
-195年 ***********
→大陸内戦争終了。
【はじめてのデザート】
-190年 ***********
【その価値を決めるのは貴方】
-180年 ***********
【老女の願い 復興活動スタート】
-150年 ***********
【老女の願い 荒れ地に集落が出来る】
→川 ゚ -゚) が二代目( ´∀`)に指輪依頼の時期。
-140年 ***********
【老女の願い 老女は間もなく死亡】
→指輪の暴走時期。 川 ゚ -゚) が湖に封印
-
-130年 ***********
【人形達のパレード】
【此処路にある】
→(´・ω・`)( ゚∀゚)川 ゚ -゚) の三人が集結
→二代目( ´∀`)死亡時期
【夢うつつのかがみ 水の都】 ☆was added!
【東方不死 湖から( <●><●>)引き揚げ】
-120年代 ***********
【矛盾の命】
→ξ゚⊿゚)ξが石化(?)
【東方不死】
【白い壁 黒い隔たり】
→ウォール高原の国法制度が崩壊
-100年代 ***********
【繋がれた自由】
【遺されたもの】
【時の放浪者】
→ミ,,゚Д゚彡( <●><●>)( ゚∀゚)川 ゚ -゚)が同じ場所にいる
( ´∀`)は四代目。
-40年代 ***********
【老女の願い 集落は町として発展】
00年代 ***********
【老女の願い】
→( ^ω^)がプギャーとギコに再会
-
これで今話の投下を終わります、ありがとうございました
大陸マップの更新もしてあるのですが
肝心のデータを手元に移し忘れたので後日貼り付けます
…残り6話、その後エンディングです
読んでくださる方には是非とも、もう少しのお付き合いをよろしくお願いします
(´・ω・`)ω・´): 傷痕留蟲アサウルス >>6
('A`) :東方不死 >>170
( ^ω^) :白い壁 黒い隔たり >>329
(´・ω・`) :夢うつつのかがみ >>438
-
乙 もう残り6話か…長いような短いような
続きも楽しみに待ってるわ
-
読レスありがとうございます
いつも読んでいただいて嬉しいです
★誤字脱字の修正について
>>587
>「不死にすら敵わぬ我に、人間が
随分と余裕を見せるものだな」 ミ●皿●,,彡
※正しくは↓
「不死すら敵わぬ我に、人間が
随分と余裕を見せるものだな」 ミ●皿●,,彡
>>600
>自身の腕ではない。
彼は両足のスタンスを自然にとり、両手は下がったままだ。
※正しくは↓
自身の腕ではない。
彼は両足のスタンスを自然にとり、両肩は下がったままだ。
>>637
>…お前も後に逢っただろう? 二代目モナーはあの時の子供だよ』おう
※↑おう、は消し忘れ
-
おう乙
あと六話か
楽しみにしてる
-
投下できなかった大陸マップの更新についてだけ
作品フィールドマップ
http://imepic.jp/20150728/318990
http://imepic.jp/20150728/319000
-
いつも読んでくださる方、ありがとうございます
時間の都合上、今回もひとつの話を前後編として分けて投下します
本日の19時過ぎから前編を。
後編は少し間をおいてしまうかもしれませんが、
今週末には投下し終えると思うのでどうかよろしくお願いします
-
('∀`)うわーい
投下予告ありがとー
楽しみにしてるぞ
-
wktk
-
その状態を、なんと呼べば良いのだろう。
从 ゚∀从
暇をもて余す…いや、やるべきことはある。
そのために彼女は存在していなくてはならない。
::从;゚∀从::
手持ち無沙汰…というほどには楽もできない。
現にいまも彼女へと闇が巻き付き、その身を拘束し始めたところだ。
-
::从↑∀::::
冥獄の亡者が絡める果てなき腕。
溶け込む背景もまた常闇。
从;:'' '
そして呑まれていく。
これまでも、これからも。
彼女の身体がすべて喰い尽くされると、この空間は真に静寂をもたらす。
呼吸音も、心音も、光さえ誰にも届かない。
――まさしく【無】。
-
彼女が居なくなっても…観測を続けるかのように闇は続く。
意識だけは何処かにあるものの、しかし彼女が何かを視ることは叶わない。
…そうして幾ばくの刻を経て、やがては前ぶれなく、宙に色が生まれる。
はじめは黒く。
白を混ぜて灰色がかり、同時に碧と紅に脈打つ線が走り出した。
-
血を通わせ――、
神経を通わせ――…
それすら見えなくなる頃、宙に浮かぶのは橙色の、歪な様相を醸す珠だった。
ブヨブヨと弾力性を伴うせいかまともに円すら描けずもがく様が、
グロテスクな剥き出しの心臓を思わせる。
ドクン....
ドクン …
ド ク ン・・・
鼓動は徐々に大きくなっていく。
人のいない真っ暗闇に唯一、息づく太陽が主張を開始した。
-
膨張した太陽は人の大きさほどになると、大樹に実る果実となる。
吊るされた提灯のように、その内部に明かりを灯した。
……更なる静寂の後、
ベリベリベリ…ッ!
(=⊂从; ゚∀从⊃=) 「――暑っいんだよ!」
熟れた果実が反転して人の形を成した。
途端、彼女は薄殻を乱暴に破り捨て現れる。
从 ゚∀从ゞ 「…ぁー、くそ」
ベタベタとまとわりつく保護液は放っておけばすぐに渇くことは知っている。
…そもそも、拭き取るものすらここにはない。
一糸纏わぬ姿で軽く足踏みすると、
髪をバサリと振りあげ後頭部を掻きむしった。
そして二、三の咳払い。
-
从∀゚ 从 「ショボンはもう戻ったか」
从 ゚∀从 「そしてまた誰も居ない…ね」
寂しげにひとり呟き、歩き出す。
先ほどまでは見えなかった紫色のモヤが前方に陰ったかと思えば、
あっという間に眼前立ちはだかる自分自身。
――どこか歪な写し身。
彼女はそれを[かがみ]と呼んでいる。
兄者、弟者、ロマネスクは
ショボンと共に解放されたのか姿を見ない。
代わりに映るのは。
スレンダーではあるがどこか不健康で、女性らしさを失ってしまった骨と皮の構成体。
あえて直視せぬまま[かがみ]に手をかざし、意識を集中させる。
从 -∀从
从 ゚∀从 「……たまにはこんなのもいいか」
手を離し、顔を下げた。
[かがみ]に照らす景色は変化している。
-
白基調のタートルネックに露出した肩。
二の腕を残し、指先まで覆うレッグウォーマー。
膝下まで垂れ下がる絹の法衣は、白と灰の緩やかすぎるコントラストを描く。
スリットがはいっているが、ロングブーツとの狭間に揺れる素肌をチラつかせる風はない。
从 ゚∀从 「へへっ」
…彼女の髪の色と相まり、よく映えた。
装飾は肢体を彩り艶やかにしてくれる。
貧相さを覆い隠してくれる。
片足を軸にくるりと廻ってみた。
布きれが生む動きは少ないものの、
彼女のためにデザインされた法衣は何者にも侵されぬ神聖さを醸し出している気がした。
-
从 ゚∀从 「…懐かしいな、これも」
[かがみ]で具現した衣類…それは遠い過去、譲り受けたものだ。
少なからず辛いこともあったが、嬉しいことのほうが多かった日々を思い出す。
从 ゚∀从 「結局…三人並んでは着られなかったしな」
人は永遠を憶えることはできない。
かつて所持した品々は、そんな頼りない脳細胞の代わりに当時の記憶を受け継いでくれる。
彼女――ハインリッヒは、[かがみ]の前でもう一度くるりと舞った。
続いて右へ、左へ…時に弾みながら、リズミカルに小さくゆったりと。
まるで玩具を買い与えられた女の子が、全身で喜びを表現するかのように。
タン…
タン…
タタン…
从 ^∀从
心のなかで鳴り響く足音はとても愉しげに聴こえた。
闇に浮かぶ、満面の笑み。
止める者は誰もいない。
真っ暗闇に、一人きりの舞踏演。
それで良い。
ハインにとって、それは人生で一番輝いた感情。
きたる日が来ず、あのままであったなら…。
二度と表に出すことを赦されていなかったのかもしれないのだから。
-
( ^ω^)千年の夢のようです
いつか帰る場所で
-
----------
誰しも物心のつく遥か昔から――。
外の世界は蒼と灰闇によって、天地が延々と支配されていた。
土も、木も、湖も、岩も、雪も、砂もない。
一面の大海……ただそれだけ。
人類はそれが当然であると受け入れていた。
いつから始まったものなのか、当の人々ですら誰も知る由はない。
翼もつ存在はとうに絶え、大海原を住み処とする存在もすでにいない。
唯一…海洋の最果てにそびえる巨大な塔、グランドスタッフだけが
この世界に生ける者の闊歩できる唯一の箱庭だった。
-
「もう用意は出来たのか?」
辛うじて聞き取れるほどのくぐもった声が、明るい密室に木霊する。
対照的に薄暗い死の外界を窓越しに眺めながら、小太りな男は振り向かずにそう言った。
背後には頭を垂れる痩せこけた女が立っている。
両者ともに制服であろう外套に全身を隠し、フードを目深く被っているため
その表情を互いにうかがい知ることはできない。
「ぬかりなく」
「よろしい。 あとは六人次第か」
返答して…女には聞こえないよう、ため息をついた。
原因は彼自身にもわかっている。
「あとどれくらいの猶予があると?」
「約3日後に沈むとの観測が評議会指令本部から」
「平時すら悲観的なことに敏感な奴等だ。
何度もシミュレートした結果だろうから間違いはあるまい」
「こちらの準備も迅速に、との通達を共に」
「俺たちにそれを言う時点で、連中は本質が理解できているのかを問い詰めたいところだな」
-
太った男は宙に向けて言葉を吐き出す。
本来向けるべき相手…評議会員はこのグランドスタッフ地下で飽きもせず、
地核振動演算に精を出していることだろう。
働いている分には文句などないが、
今更わかりきった世界の行く末と、行き着く末の向こう側……。
それをわざわざ狂った人形のように、
繰り返し明らかにする人種を二人は最後まで好きになれないままだ。
「互いに息子がいる。
親ならばせめて立場を放り出してでも傍に居てやりたいのだろうな」
「そうですね、そうなります」
「保ちそうか?」
「わかりません。
ですが彼の人生ですから。
彼自身に満足いくピリオドを選んでもらうつもりです」
「そうか」
「西川さん、報告は以上ですが何か折り返しますか?」
「不要だ、戻ろう。
我々に出来ることも、三日後までは何もない」
不自然なほどに抑揚の無い会話を終え…二人はひとつしかない扉を後にした。
空調の効いた室内はしかし静かで、足音だけが彼らの在りかが遠ざかることを教えてくれる。
-
----------
その日、外は大嵐だった。
だが報せの音は箱庭の誰にも響かない。
窓もなく、目を惹く色も形もなく、ただ広大…。
無限を思わせる無機質な白のエントランスの一角で、
人目を気にもとめない荒い声が反響する。
(;^ω^)「どういうことだお?!
そんなこと、昨日までは一言も……」
「当然だ、本日付けの決定事項であり当人らも既に輸送した」
(;^ω^)つ 「一週間後には結婚式だお!
伊出に逢わせてくれお!!!」
「本日の許可は降りない」
荒声の主はがっしりとした、恵まれた体躯を目立たせる青年だった。
奥に鎮座する大扉。
その門番を務める相手の胸ぐらを掴むほどに興奮し、くってかかっていたところだ。
誰もが通り過ぎ、横目に見ることもない。
門番も、自身への暴力的行為についてなにも言及しない。
ただただプログラムのように最後の言葉を繰り返した。
「許可が降りない以上、通すことはできない」
でき損ないのオートマトンが台本を棒読むような無気力さだった。
-
「その手を離しなさい」
(^ω^;) 「西川…」
青年に向けて新たに吐かれた言葉は、門番のものではない。
くぐもった声…先程まで職務室にいた小太りの男だった。
「内藤の声は大きすぎる、あちらのほうまで聴こえていたぞ。
彼も仕事で言っているだけだ。
判ったらその手をおろしておくように」
そう咎める助け船にも、門番は表情を変えない。
ただ無表情に乱された外套の襟元を正し、数分前と同じように己が職務に戻ってこう言った。
「西川にはすでに通達が届いているはずだな?
説明はそちらでおこなっておいてくれ」
( ^ω^)「…あんたがこんな時間に出歩くなんて珍しいお」
「息子との時間を作りたくてな」
( ^ω^)「僕との?」
内藤は耳を疑った――。
血の繋がりはあれど情はなく、縁も果てなく薄い…。
間もなく二十を数える人生ではじめて聴く台詞を受けた。
それほどの父、西川との関係性。
-
だがそれ自体は珍しい光景ではない。
家族をもつ誰もが、同じように希薄な繋がりで生きている。
希薄…そう感じる事こそマイノリティといえる。
違和感を覚えるのは、グランドスタッフにおいて極一部の者だけだ。
( ^ω^)「いったん家に戻るお。
知ってること…詳しく教えてくれお」
頷き、父は息子の肩を抱き連れ歩きだす。
息子は父の温度を感じながら歩きだす。
そこに気恥ずかしさを持つのも、
いまこの場では、やはり内藤ただ一人の胸中にしか生まれない感情だった。
-
薬剤の包装アルミ箔にも似た、
おなじ間隔おなじ扉がずらりと並ぶ住居エリア。
( ^ω^)「評議会でなにが起きたんだお」
――010号室。
カーペットの敷かれた部屋には、
内藤が木材でこしらえた背の低い椅子が乱雑に置かれている。
「三女神の一人となるべく、井出はいま最上層にいる」
( ^ω^)「めがみ?」
しかしお互いそこには座らず、床から延びた円柱を椅子がわりにした。
西川が選ぶのはいつもそちらだ。
内藤の造った椅子に腰を下ろす場面を見たことがない。
日常の光景。
内藤の舌打ちが虚しく空に舞うが、
それを気にする様子は父親から見られなかった。
-
「なにか可笑しいか?」
( ^ω^)「なにか、って……」
女神――いにしえの比喩表現において表れた、実在なき偶像の概念。
創られては地母や鬼母のような両極面をもち、感情の象徴として捉えても差し支えない。
それを目の前の男が発する異物感が大きい。
「私も生まれる遥か以前のロストワードだからな、無理もない」
( ^ω^)「…回りくどいお…その女神が、井出とどう関係して――」
「あの針が6度回る頃にこのグランドスタッフは沈み、硬く暗い海でみな死ぬこととなった」
( ゚ω゚)「 は?」
-
「お前にもやってもらうことがあるのだ。
次に呼ばれる時は井出とも逢えるだろうが、それが見納めだと思ってくれ」
( ゚ω゚)
「せめてお前の結婚式は見てみたかったが」
( ゚ω゚)
人類の歴史は間もなく終着点に到達する。
緩やかに…しかし加速度的に、
幾星霜の果てで世界は死に辿るのだ。
( ゚ω゚) 「……それ、どういう意味だお」
――確定済みのロストオデッセイ。
(消えゆく人類の遍歴)
-
世界には。
物質を物質足らしめるための二大要素がある。
【魔導力】は想像と魂を生み出し、
【重力】は命をはじめとする総ての存在を具現した。
どちらも欠けてはならない。
重力がなければ、生まれるはずの命も魂と成るまえに散る。
魔導力がなければ、何一つ創造されない【無】の世界となる。
バランスを保って過ごしていたはずの永き史上に飽いた摂理の結果か…。
そもそもが平等性を欠いた別離の繰り返しか…。
いつしか暴走を始めた魔導力によって、天地は人の手を離れ、
重力は彼方に消えようとしている。
何年前…何十年前…
それとも何百年、何千年と…。
星はもはや、ひたすらに生の息吹をぐしゃぐしゃにかき回し、
虚しく命の粒子を巻き散らかすだけの遊戯処刑場と相違無い。
それでも…定まることを知らぬすべての生命。
感情が失されながらも、
辛うじてその名残をもつ人間が存在した。
(; ω ) 「いや、それよりも彼女は…ツンはどうなってしまうんだお?!」
「どうにかなってしまうのは我々のほうだ。
私も、お前も」
(; ω ) 「…」
「伊出は生き残るために礎となる。
人が、人であるうちにな」
-
----------
从 ゚∀从
_
ξ゚⊿゚)ξ
川 ゚ -゚) 「私達は…これからどうなるんだ?」
「どうにかなってしまうのは我々だ。
高岡、伊出、素直。
君たち以外は針が6度回る頃にグランドスタッフと共に沈み、魔導力の藻屑となる」
――時、同じくして。
グランドスタッフ最上層に位置する赤い空間…。
やはり全身に外套を被る評議会員の元、終末を通達される三人の女性がいた。
「君たちは尖兵であり、さもなくば最後の人間だ」
ξ゚⊿゚)ξ 「…なぜ、私たちなのですか?」
天井というものはそこに有って無いような場所だった。
内部での視界は不思議とクリアだが、
半透明に映る外を悠長に眺めるには、外壁をなすクリムゾンカラーのベールが邪魔をする。
吹きすさぶ大嵐がノイズとなって更に不透明さを増した。
ここに立つ限り、世界は紫と濁赤に染まり、世の終わりの増殖を連想させる。
-
名前通り、グランドスタッフは杖の形状をしている。
天空から見下ろせばスケールに従い、先端には巨大な紅きオーブが嵌め込まれていた。
そんな球体内部からはじめて見る景色。
素直はほんの少しだけ目を細め、
伊出は大きく眉をひそめ、
高岡は微動だにしない。
「感情値の高い者と想像値の豊かな者、そして性別が雌の君たちが選出された。
もっとも可能性が高いために」
从 ゚∀从
川 ゚ -゚) 「中身の説明はいただけるのか?
いや、それとも拒否権の有無は」
「拒否はすなわち人類への反逆を表すことになる。
しかしそれを罰することは評議会でも決定していない」
ξ゚⊿゚)ξ 「…」
「説明に入る」
从 ゚∀从
-
海に沈殿する魔導力の暴走により、ことごとく触れた物質が海面に熔けてゆく。
例外はない。
魔導力は人のみならず、星への猛毒としてすべてを滅ぼしにかかっていた。
かつてのグランドスタッフならば天を貫くほどの高さを誇るも、
今では最下層が浸かり、その根元すら維持できていない状態だ。
事ここに到り、評議会は科学技術による回避手段が尽きてしまい、
ついにははち切れんばかりの魔導力を、反対に利用することに活路を見いだした。
「有を減退させることは出来たとしても、
無になったものを再び呼び起こすことは出来ない」
それが発足したばかりの評議会が出した結論。
重力はもう戻らない。
もはや魔導力を抑え込んでも人類の末路は変わりない。
評議会は移住を決めた。
"別の星" ではなく、"別の世界" へ。
それは魔導力を結晶化し、概念に乗せ、新しい世界へと人類を移す方舟計画。
「そのためには我々では話にならないのだ。
感情をもつ者が想像し、はじめて創造できる」
_
ξ゚⊿゚)ξ
「世界を……?」 从∀゚ 从
川 ゚ -゚)
-
グランドスタッフに生き残る評議会員、あるいは他の外套姿の者達に
感情というものは大概残っていない。
空っぽだ。
泣くことも…笑うことも…
怒ることも、悲しむこともない。
現代人類には表現できなくなった、"心" 。
たとえ言葉を駆使し、喜怒哀楽というものを伝えられたとしても、
果たして真意まで解らない。
たとえば訝しげに顔を歪める井出の表情は、他人にしてみれば理解しがたい反応に映る。
「グランドスタッフにおいて感情をもつと評される6名のうち、雌三名。
君たちには古来伝わった運命の女神たる称号を与える。
私には無意味でも、言霊は君たちの力になるのだろう」
彼女たちの反応は気にすることなく、外套の男は三者三様の衣装を差し出した。
特注品の儀式衣裳。
いまや珍しい、色彩とデザインを伴う、実用外に見出だされる感情の賜物。
受領者の意思などお構い無しに手渡した。
評議会が導きだしたキーワードと共に、未来は彼女たちに握られる。
-
現――。
川 ゚ -゚)
「素直、君は表面上を我々にいくら真似ていようと
心中穏やかではいられない生き物らしい。
それは太古の空模様と同じだという」
「空、そら、から、くう…。
三日後までに好きなものを選び抱いておけ。
」
渡された絹の法衣…
カラーは覚めるような青。
-
未来――。
ξ゚⊿゚)ξ
「伊出、君の名は創造にとても都合が良いとのデータがある。
原初たるアルファ(a)を抱け、未来を育む者…イデアよ」
渡された絹の法衣…
カラーは赤と黒のツートン。
-
過去――。
从 ゚∀从
「高岡、君は」
差し出される法衣…
白地に灰色ラインの紋章。
从 ゚∀从
「その前に。
選出のためのデータ誤りを私は疑っている。
なぜ君なのか、評議会の誰もが理解できなかった」
从 ゚∀从
『呼びつけておいて何を……』
そう素直と伊出が、怪訝な表情を向ける先に立つ高岡の顔は動かない。
しかし議会の評価はもっともだった。
高岡は常に笑顔を絶やさぬ代わり、変化に乏しい。
周囲はそんな彼女を "能面" と呼ぶ。
張り付いた笑みが、文献に載る舞踊に用いられたというマスクに酷似していた。
地位高い評議員の前でも決して媚びず、
誰かの提案に否定したことも、命令には質問を返したこともない。
能面を除けば、高岡もまた普遍的な人間に数えられた。
从 ゚∀从
-
「我々にとってこれが最後の任務となる。
成功してもそこから先は君たちにしか認識できない。
もともと亡ぶ運命にある人類の足掻きだ」
从 ゚∀从 「わかります」
「なぜ君が選ばれたのだろうか、本人ならば答えもでるのではないか」
从 ゚∀从 「答える材料がありません」
「運動能力、知能、神経率のいずれも君の水準は高い。
認めよう。
しかし今回に最も必要なものは "感情" だ。
君には本当にそれがあるのか?」
从 ゚∀从 「データに出たのであればそれは相違なく」
「それが信じがたい。
ならばどうしてそれが外面に表れないのだろうな。
それとも以前に比べて減少傾向にあるのか」
从 ゚∀从
从 ゚∀从 「それは―― 」
-
-
高岡の夢は
もうこの世界では叶わない
-
----------
―― 十数年前。
静寂に混ざってけらけらとあがる、幼い笑い声。
从 ´∀从 (´- ` 川
ξ´⊿`)ξ(^ω^*)
(`・ω・)
('A` )
葵色モザイクの空間…育児院。
天井と壁に名残ある彩りは、かつての空と大地を模していたのだろう。
幼児たちの感情と想像の具現を受容していた壁画だ。
羊皮紙代わりの記録群。
それも年月を重ねるたび、記憶のようにかすれていくこともまた摂理。
-
人類の記録が語る。
『おめでとう! 無事産まれたよ』
無事、出産を告げる声。
いくつもの母胎がひとまずの役目を終えて安堵するであろう。
それはいつの時代も変わらない。
『可愛いね、元気な子だね』
連れ歩けば届く声。
何人もの父像が未来を夢見て奮起するはずの。
何時なんときも変わらない…?
( ∵) 『高岡、おいで』
『ハイ、せんせー』从∀` 从
――そして、過ぎ去りし夢。
変わらないでいてほしいのは、今を生きる者にとって共通の願い。
しかし、過去と未来はそれを保障しなかった。
安心を生むはずの感情は、やがて変質していくことになる。
嫉妬や怠惰という天秤にかけられる労い。
失った感情がコピーにコピーを重ね、様式美すらも一寸先は形骸。
傾いた感情は徐々に淘汰されてしまった。
-
この世にはもう、幹も枝もない。
だから巻き取る蔓も居られない。
涙ほどの新樹の種が
ぽつり、
ぽつり、
蒔かれても、迎え入れるには心モノクロな箱庭。
新生児専用の容器…並ぶ空白。
それが表すは絶対的人口数と、未来好奇心の減少だ。
ゆくゆくは魔導力の海に沈んでしまった育児院にも、玩具と呼べるものはなにもなかった。
イメージを投影する積み木も、
法則を超越するトランポリンも、
音を歌にするハーモニカも。
( ∵) 『見よう見まねだけどね。
私からのプレゼントだ』
『センセー!
なぁに、これ??』 从∀` 从
博物な文献に遺されるのみ。
『そっか!
こうやって遊ぶんだ』从∀` 从
( ∵) 『そうか。
そうやって遊ぶものだったのか』
-
比ぶれば、両手から零れるほどに新たな生命が生まれていた時代…。
人が願望を叶え、理想を現実にする都度、その心は空っぽになってしまった。
空虚な大人たちは、わずかに守った自己の投影を我が子に託す。
怪我をさせない…不慮の事故に備えたい…。
言う通り生きなさい…心配させないで過ごしなさい…。
『子供たちのため』
『子供たちのため』
『子供たちのため』
呪いを勝手に背負わせてきた、そんな幾多ものエゴイストたちすらもう居ない。
創造物を奪い続け、去りゆくものを遺すことすら許せない化け物は
後の魔導力によって暴走した感情の末路…そのパラドクスだったのだろう。
( ∵) 『高岡が一番よく笑うからな』
『わらうとだめ??』从∀` 从
もはやグランドスタッフにいるのは、感情を失った人類の成れの果てだ。
( ∵) 『いいや、そのままで生きてほしいと私は思った。
だがいつか評議会に強く目をつけられてしまう』
( ∵) 『だから――』
育児院に預け、いずれは手がかからなくなるほど、
人はますます我が子と逢う頻度を減らしていく。
生死の確認だけが、親たちが顔を出す基準。
『感情がないのだから仕方ない』
『心配する情などないのだからやむを得ない』
それが現代人類の持ちうる免罪符。
白紙同然の証明書。
その溝を埋めるように……
感情を持つ僅かな子供たちは自然と集い、
同じ仲間と過ごす時間を一層大切にした。
-
从 ´∀从 『はい、ツンのまけ〜♪』
ξ´⊿`)ξ 『だからイヤだって言ったのにー』
川 ´ -`) 『…ふたりとも、なにやってるの?』
ξ´⊿`)ξ 『クーだー。
あのねー、かくれんぼー』
从 ´∀从 『いつも布団のすきまでねたふりしてるんだもん、わかるよ♪』
ξ´⊿`)ξ 『目をとじてるのにどうして見えるの?』
川 ´ -`) 『…だれが? …だれを?』
ξ´⊿`)ξ 『あたしのこと。 ハインが』
从 ´∀从 『わたしとじてないよ! だからみえるよ』
ξ´⊿`)ξ 『おかしーなー??』
川 ´ -`) 『…みえるよ、目をとじてるのはツンだけだもん。
…たまにへんなこというよね』
从 ´∀从 『へんなこという、いう!』
ξ´⊿`)ξ 『ブーン、ふたりがバカにしてくるよー』
(*^ω^) 『おっおっみんな仲良くしようお!
ねえドクオ、シャキン?』
(`・ω・) 『仲良くなんて…』
『…ブーンが代わりに
やりかえせば?』"('A` )
ケホッ ケホッ
-
必要最低限にしか口を開かない同級生と比べ、
なんにでも笑い合える彼女たちは、かけがえのない友だった。
暗号を決め、秘密基地を作り、食事の時間になるまで遊戯に興じた。
人に無意味と断された "渾名" という文化すら独自に作り上げた。
…はじめこそ気付けなかった違和感。
他の誰と話したところで、返ってくるのはイエス・ノーの二者択一。
誰の家族も皆が皆、それが当然だったのだから致し方ない。
このグランドスタッフにおいて、
彼女たちこそが異質であることを知ったのは、六人が成長を経てごく最近のことだ。
从 ´∀从 『わたなべー、わたなべー!』
从 ´∀从つ◇ 『ねぇみてみて! 今日もテストで100点だよ!』
从 ´∀从つ◇ 『井出ちゃんと素直ちゃんよりも!
内藤っちよりも点数良かったんだよ!』
『100点はすごいことねぇ、一度できたのだから次回もできるはず。
何より他者より優れていて不利なことはないわよ〜』
『あぁでも声のボリュームが大きいかな。
もう少し下げなさい、人間の聴力も許容量は有限なのだから』
从 ´∀从つ◇
从 ´∀从
从 ∀从 『……うん』
-
小さな枯れ井戸も、
大きな海の枯渇へと続く路となる。
突然変異などではない。
高岡の味わった家族愛の先天的喪失など、ほんの一部でしかない。
共存社会においても、
競争社会においても。
弱者への口先だけの庇護と、
強者に向けた反逆においても。
喜びも、寂しさもぜんぶ。
自らの意志で、長く永い時間をかけて、
人は他人への無感情を呼び込み続けた。
『魔導力値が上昇している』
『例がない。 誰だ?
何かが共鳴しているとでも』
『吸いこんでいるのか、
それともこれは――』
記録に頼り、データをなによりも最重要視する世界。
感情を司るはずの原子たる【魔導力】は、もはや人と依存し合うことが無くなった。
…酸素と同じく、人に必要とされるはずの粒子はとうに破棄されていたのだ。
それは過剰な毒となって
人類へと襲い掛かる。
-
( ∵) 『高岡、何歳になった?』
『17歳だよ、名瀬せんせー』 从 ∀゚ 从
( ∵) 『結婚相手はもうアーカイブに記されたのか?』
『…ねえ、アタシは好きでもない人と
結婚しなくちゃいけないのかな』从∀゚从
( ∵) 『…』
( ∵) 『だれか "好き" な人がいるのか?』
从∀゚ 从
『……あれっ?』从∀゚ 从
-
数百年、数千年と。
大地震や巨大竜巻、はたまた病原ウィルスの超蔓延……。
人がおおよそ体験してきた天災の歴史は数えれば果てがない。
しかし言い換えればそのたびに克服し、免れてきた勝利者の歴史でもある。
人の生命と共に曖昧なる記憶が消えたとしても、記録はカタチとなって残る。
客観性をもつ事実は文字となり、脳裏に刻まれやすい。
ひとつ…またひとつと積み重ね構築されたそんな歴史。
アーカイブが人々の信頼に足るのも、致し方ないのかもしれない。
…しかし、これでもう最後だ。
供給過多の魔導力が大気を支配した時、星の中心に大きな穴が開いた。
【重力】と【魔導力】が流れ込み、
置き去りの世界からは多くの魂…感情が、光の粒子となって空と大地に散る。
『現在、建設中のグランドスタッフ。
これなら穴を塞げるかもしれん』
高岡の先祖たちはそう提案した。
致命的傷痕をたんなる物理的な穴としか認知できず、
だからこそ物理的な解決方法しか思い付かなかったのだろう。
当時すでに失いかけていたのかもしれない。
移入できなかったのだ…
星が嘆く感情に。
安易な記録が、訴えるべき情を持ち得ないことを誰もが見過ごしていた。
-
眠っていた大穴――深淵に潜む[かがみ]の存在。
その本質を人類が認識したのは百数年後。
世の万人が取り戻せなくなった感情に
世の番人が改めて縋ったのは、
さらにその数十年後のことだった……。
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-
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〜now roading〜
从 ゚∀从
HP / D
strength / E
vitality / E
agility / C
MP / B
magic power / B
magic speed / B
magic registence / C
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-
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「具合はどう?」
('A`) 「良くならないからここにいるんだろうが」
グランドスタッフには、人が必要とする設備のすべてが詰め込んである。
外套姿の女性――西川と別れてから、直接向かった先の病室に現れた彼女。
その目線は痩せこけた頬に目の下のくまが目立つ、実の息子に注がれていた。
('A`) 「今さらなにか用か?」
周りには誰もいない。
二人だけの空間…ベッドに沈む鬱田の口調は冷たい。
だらりと垂らした両腕。
力が入っていないことが見てとれる。
更にいうなれば彼の両脚も、幼少の頃から動くことがなかった。
いくら感情を抑えても、内包する感情は漏れ伝わりそうな吐き捨てる言葉。
…そんな親子関係も時代によって確かにあったのだろうが。
「三日後に世界は終わるんですって」
('A`)
('A` ) 「ああ、そう…」
病室に窓はない…それでもまるで外の景色を眺めるような素振りを鬱田はした。
つるりと白い壁一面。
治療を名目とし、自死防止のための措置として
娯楽性を廃して機能美のみを求めた部屋。
-
壁の向こう側を席巻しているはずの大嵐と同様に、彼の機嫌を感じられる者はここに居ない。
項垂れた彼が一度大きく咳き込むと、
シーツの上にべたべたと少量の血が飛び散った。
混じりけのない鮮血が、内臓から涌き出たことを暗に示す。
( A ) ハァ… ハァ…
「大丈夫?」
( A`) フゥー…
( 'A`) 「うわべの言葉はいらねえよ」
心配を口にする母親ではあるが、それもまた先人に学んだ結果に過ぎなかった。
こういうとき、親はこうするものだ…そんな習性を反復しているだけ。
息子もそれを見破っている。
「生徒たちはお見舞いに来てくれてる?」
('A`) 「アンタの用件をまず言えよ、なにかあるんだろ?」
「素直、井出、高岡の三人。
彼女たちを[かがみ]にぶつける【魔導力】の塊にして、
別の世界に移住してもらうわ」
切り返される会話が異なろうと、母親は言い淀まなかった。
感情を失くした者はそういった躊躇がない。
-
('A`) 「別の、世界だあ?」
「それだけじゃない。
これは秘密事項だけれど、貴方に隠し事はできないから言うわね。
貴方と内藤を含めた感情値の高い三人は――」
続く言葉を訊き終えた頃、彼の身体は悲鳴をあげた。
苦痛のなか、鬱田の瞳に映るのは
無表情にこちらを見やり、コールスイッチを押しながら状況を伝える母の姿。
「ヒーラー、病号666にてクランケの容態悪化。
喀血量の増大が見られるため迅速に」
がフッ―― ('A`)、'、
「血量さらに増加」
( A`)
「ひ… ひひひっ」( ∀`)
――こんなことなら早く死ねばよかった。
感情をもつ鬱田は母親に聞こえないよう呟き、意識が果てた。
生まれつき病いに冒され、
苦しめられ、
三日後に世界に殺される運命を背負う彼は、より明確な死を宣告されたことになる。
-
…次に意識を取り戻したのは、針が一回転半した頃。
('A`)
誰もいない病室――のはずが、
彼を取り囲むように子供たちが立っていた。
「起きた?」
('A`)
「目が覚めたみたい」
「おはよう、せんせー」
まるで砂漠で見付けた蜃気楼のようだった。
嬉しさや驚きのない、事実をなぞるだけの淡々とした響き。
子供の声からやはり感情というものは感じられない。
彼らもまた鬱田の母親…そして評議会の者と同じ顔をしている。
('A`)
なのにどうして…
彼の目尻は僅かに下がっていた。
-
('A`) 「なぜ、ここにきた?」
鬱田は問う。
「せんせーにお礼を伝えるためです」
と、子供たちは答える。
('A`) 「そうか…」
('A`) 「もう少しだけ教えてやれることもあったがな。
誰かから聞いたのか、明後日のことを?」
鬱田は幼少から病いに伏しながらも、
勉学に励み、手作りの教壇に立ち、
車椅子から降りることなく職務を全うする教師だった。
表向きは生徒の知識量向上。
その裏、主体性を育まんと、自らの想う感情のなりたちを教示した。
『有を減退させることは出来たとしても、
無になったものを再び呼び起こすことは出来ない』
評議会…いや、この世界において通説となる言葉。
昔から幾度となく聞かされたものだが、鬱田はそれに強く反発して生きてきた。
('A`) 「率直に訊く。
お前らはどうやら二日後に死ぬ、そして俺もな」
('A`) 「それについてどう思うか、答えてみせろ」
-
子供たちはさほどの反応を示さない。
…だがしかし数人。
窺うように隣の者と目を合わせた生徒が居たのを、鬱田は見逃さない。
('A`) 「理解出来はしても、言葉にできる奴はいないか?」
「いま僕たちにうかんだ言葉は、きっとせんせーの望むものではないとおもうんです」
('A`) 「…そうか、それならいい」
拒絶じみた反論。
なのに鬱田は満足げに頷き、生徒を並ばせると
各自の頭に ぽん…ぽん… と、手を置いた。
('A`) 「たった数年の付き合いだったが…楽しめた」
('A`) 「じゃあな」
-
結局、退出し終わった子供たちはなにも答えなかった。
二、三人振り返ったのを鬱田はただ見届けた。
迷ったのだろう…だが、鬱田にとってはそれこそが望んだ答え。
――迷い、戸惑い、躊躇する。
まさに感情が為せる沈黙に他ならない。
( 'A) ( …他人の気持ちを理解すべきだなんて思っちゃいない。
くそくらえだ。
どうせ心があろうとなかろうと、真に解り合える人間なんていやしねえ )
…世界が終わらなければ。
後天的に感情を取り戻した子供たちが
次世代を繋いだかもしれない未来を思い、鬱田はほくそ笑む。
だがそれは決して子供のためでなく、
人類と世界構造への挑戦ともいえた自身の人生に対する自嘲に過ぎない。
( 'A) ( 俺が教師になったのも、
可能性すら決め付ける俺以外の人間が許せなかっただけ…。
奴らは俺のエゴに付き合わされただけ… )
横たわる以外の時間を指導に費やし、
感情の伝達――その達成率は低くとも、不可能と云われたことを可能にしたのだと。
ささやかながら自負し、何も遺らない未来に唾を吐いた。
そして酸素と魔導力漂うベッドの上で一人、入り口に背を向けて眠りにつく。
次に目覚めた時は…世界最後の日であればなお良い。
――そんな達観の境地を邪魔する者ありて。
( 'A) 「…」
( 'A) 「おめーかよ」
-
彡
彡
( ^ω^) ( 'A)
彡
-
風が吹く。
窓もない袋小路の一室に。
その来訪に、鬱田は背中越しでも正体が判る。
( 'A) 「ブーンか」
( ^ω^)「…ドクオはもう聞いたかお、例の話」
顔も向けない鬱田の様子は、内藤にとっていつも通りだ。
ベッド脇に寄り、座りもせず視線を下ろす。
( 'A) 「おめーはなんて聞いてる?」
( ^ω^)「西川からは、
三人が[かがみ]に突入する際の "つがい" だって…」
( ^ω^)「ドクオは?」
( 'A) 「"壁" だってよ」
鬱田が「ひひひ」と嘲笑った。
共に両親は評議会メンバーであり、重要事項は洩らすところなく伝達される。
-
"つがい" と "壁" ――。
内実の意味は同じであっても、言い方に差異が生じていることもまた感情の証。
鬱田は嘲笑いが止まなかった。
…それは内藤の父親に対して向けられてはいない。
西川には極々僅かながら感情があるのではないかと、母親から聞いたことがある。
評議会の言葉を、より正しく伝達したであろう己の母とは違う。
…だから嘲笑う。
( ^ω^)「ドクオはやるのかお?」
( 'A) 「そもそも選択肢なんてねえだろ」
( ^ω^)「でももし、グランドスタッフが沈まなかったら――」
( 'A) 「ふざけんな、俺にはその可能性すらすがれねえ。
おめーはそれで良かろうがよ」
( ^ω^)「…ドクオ…」
-
他の者に比べ、鬱田には絶対的な時間がない。
彼の死は約束されたもので、たまたま今に至り生き延びているだけの偶然。
血を流すたび臓物は抉れ、体力を削られる。
内藤もそれを知らぬわけではなかった。
ただ…友が自分より先に死ぬことは信じられないのだ。
幻想に縋りたいだけだ。
( ^ω^)「せめて最後まで一緒にいたいお」
とはいえ評議会の計算ミス、地殻変動の気紛れ……。
はたまたその他、いかなる理由によってグランドスタッフが生き残ろうとも
その直後に病いが生命を喰い尽くすならば、
鬱田にとってはやはり世界が終わるに同じこと。
( 'A) 「…井出のところにはもう行ったのか?」
-
内藤の慰めには応えず、恐らくの本題を問うた。
( ω )「…」
( 'A) 「…けっ、相変わらず優柔不断なヤローだ」
沈黙――…感情の表れ。
( ω )「どんな顔でツンに…最後になんて言えばいいのか判らないんだお」
迷い――…感情の表れ。
( 'A) 「だったら尚更…こんなところに来るんじゃねえよ、クソったれが」
( 'A`) 「おめーのやりてーことをやる。
…それの何が難しい?
誰に遠慮して、何を恐がるって――ゲホッ んだ」
('A`) 「死ぬことよりも、ツンに会うことが恐いか?
だったら生まれた時期を間違えたな、早く死ね、ボケ」
( ω )
向き直した先、内藤が大きく項垂れている。
『あまりにも女々しい』と鬱田は胸中で毒づいた。
('A`) 「……チッ」
彼はそんな内藤が好きではない。
…枕元に隠し持つタバコに火をつけ、煽るように煙を吹き掛ける。
そして――
('A`)y-~ 「なぜ、ここに来た?」
生徒たちと同じ言葉をぶつけた。
-
( ω )
( ^ω^)「…」
( ^ω^)「友達に会いに来たらダメなのかお?」
('A`)y-~ 「…… わかってんじゃねえか」
鬱田はまた舌打ちしてしまう。
しかし風を扇ぎ、煙を払いのける内藤の答えは明るかった。
上げたその表情からは一種の爽やかさすら感じさせる。
ε_ ('A`)y-~
( ^ω^)「……そうだおね。
行ってくるお、ツンのところにも」
( ^ω^)「最後でも、そうじゃなくても…
会わなきゃなにも始まらないんだおね」
('A`) 「…」
――嫌いだった。
内藤の愚直さも。
どんなに悪態をつこうと、決して友を拒絶しない情の持ちようも。
愚痴り、迷いはしても帰る場所をもつ、心ひとすじなところも。
僅かでも感情をもつ者が親であったことも。
自分には叶えられないことに手を伸ばせる、その自由さも。
-
二吸いほどしかしていないタバコをもみ消すと、鬱田はゴソゴソと身を下げてしまった。
( 'A) 「もういけよ、時間は足りねえくらいじゃねえか?」
「疲れたから寝かせろよ」
…そう言ったきり、鬱田は眠りに入る。
隠れて小さく何度も咳き込む唇が赤く染まり、
シーツを同色に汚したことを内藤は気付いただろうか…。
( ^ω^)「ありがとうだお、ドクオ」
入室時とはまるで正反対に、跳ねる靴裏。
井出の元へと歩く内藤の足取りは軽かった。
…鬱田の元を離れるその足取りは速かった。
二人のあいだに別れの言葉はない。
内藤は想う。
最後まで鬱田は自分にとっての友でいてくれる、と。
彼は井出との時間と、求めるための勇気のひと押しを与えてくれたのだ。
-
鬱田が毎日血を吐き、死の淵を往来していることを知っている。
それを自分たちの前に決して見せまいと振る舞うことも知っている。
だから、走った。
自らもいままで通りの友で居なくてはならない。
井出を優先し、鬱田に甘え、背筋を伸ばす。
(^ω^ )
情を繋いだ存在。
友が最後までこの世界にいることが嬉しくもあり…楽しかった。
( A)
背後に消える鬱田の病室…。
そよいだ風は、もう止んでいる。
-
----------
川 ゚ -゚) 「…感情を魔導力としてぶつける、か」
ξ゚⊿゚)ξ 「そもそも[かがみ]を信じていいのかしらね」
从 ゚∀从
三人はトボトボと階段を降りる。
高岡以外の表情は暗い。
先ほど評議会との作戦会議を終えたところだった。
…世界のリミットはあと二日。
グランドスタッフが沈むまでに実行、そして成功しなければ、
人という種はこの星から完全に消える。
川 ゚ -゚) 「どう思う?」
ξ゚⊿゚)ξ 「どうって…」
魔導力渦巻く猛毒の海――その排水口となる、
[かがみ]への突入だけならば、
生死を問いさえしなければ誰にでもできること。
川 ゚ -゚) 「なにを創造すれば良いと思う?
どう想像すれば…私たちや、皆が、生き残ることができるんだろうか」
从 ゚∀从
ξ゚⊿゚)ξ 「…みんなが生き残る」
川 ゚ -゚) 「会議ではその点にまったく触れられなかった。
つまり評議会…しいてはアーカイブにも答えがないということだろう?」
-
三人に課せられた事項は多くない。
ひとつ、――[かがみ]への突入。
ひとつ、――創造。
ひとつ、――移住の達成。
从 ゚∀从
ξ゚⊿゚)ξ 「[かがみ]がどこまでの力を持っていて、どこまで反映できるのかよね」
星の外に目を向けて
『世界はまだまだ広い』と豪語した学者のいた時代は確かにあれど、
達したのは絶望的結論。
観測上、そして現実問題においても
人類は星間移動を成し遂げられていなかった。
川 ゚ -゚) 「それも不安要素のひとつか。
誰かが先に飛び込んで、試してみるか?」
ξ;゚⊿゚)ξ 「…」
川 ゚ -゚) 「……すまない、さすがに不謹慎だった」
すでに大地を飲み込み、グランドスタッフという最後の一口も喰らおうとしている魔海。
飛び込むことはイコール死を意味する。
前例もある。
――星の外も同じ。
例外なく、飛び立つことは死を約束されていた。
-
从 ゚∀从
川 ゚ -゚) 「とはいえ実質あと一日だけが私達に残された時間か。
悔い無く取り組まねばな」
先の素直の言葉は、誰かを犠牲に試そうと言ったわけではない。
問題点とその解決方法について近道を口にしただけ。
「なんなら私が先に飛び込むさ」とフォローしたものの、
首を横に振る友の姿から余計に、ばつの悪さを覚えてしまったようだ。
ξ゚⊿゚)ξ 「ねえ…クー、ハイン」
川 ゚ -゚) 「ん?」
ξ゚⊿゚)ξ 「ブーンに逢ってきても…いい?」
川 ゚ -゚) 「ああ、行ってくるといい。
ハインも構わないだろう?」
从 ゚∀从 「いいよ」
ξ゚⊿゚)ξ 「ありがと、二人とも。
また明日ね」
-
…去り行く姿は背筋を伸ばし、凛としていても、バタバタと急く足取り。
小さな背中と、ウェーブがかるブラウンの巻き髪がゆらり揺れるのを見送った。
――まるで、さよならの挨拶のように。
从 ゚∀从
外見ならば、素直。
振る舞いや言動をみれば、井出。
高岡にとって彼女たちは、それぞれ女性らしさという点において突出している気がした。
同性からみても愛らしさを感じてしまうほどに。
川 ゚ -゚) 「結婚式を前に、とんだ邪魔もあったものだな」
从 ゚∀从 「ああ」
川 ゚ -゚) 「ハインは? 名瀬先生はいいのか」
从 ゚∀从 「!!」
川 ゚ -゚) 「隠さなくてもいいさ、私達をなんだと思ってる」
从 ゚∀从 「それを言うのはクーだけだよ」
-
川 ゚ -゚) 「む、そうか」
素直の観察眼…昔から鋭かったのを思い出す。
彼女に嘘や、場凌ぎの言い訳は通用しない。
それゆえに小さい頃は誰とでもよく喧嘩をした。
川 ゚ -゚) 「ドクオの顔でも見てくるよ。
おそらく、あいつが私のパートナーになるはずだから」
そう言って、彼女もその場を後にした。
真っ直ぐな黒髪の先が柳のように左右を泳ぎ、
その姿が消えるまで、ついつい目線を釘付けにされてしまう。
从 ゚∀从
……居残った高岡だけはそのまま立ち尽くし、階段を降りようとはしなかった。
从 ゚∀从
パートナー、つがい、壁……。
人は感情の差によって、同じ意味を違う言葉で表す。
从 ゚∀从
-
時間だけがただ流れていく。
…いまの高岡にはそれも心地良かった。
もう少しで自由になれる気分だった。
手持ち無沙汰に壁に背を預けると、そのまましゃがみこむ。
从 ゚∀从
両膝を抱えて顎をのせ、じっと動かず耳を澄ます。
あの時と同じように…
"能面" の彼女は待っていた。
从 -∀从
「…二人はもう行ったのか」
――その声を。
-
从∀゚ 从 「うん」
/ ∵) 「場所を移ろう。
さすがにここでは他の者も来る」
外套の隙間から覗く瞳は一見して、感情を表さない。
だが高岡はその顔が昔から好きだった。
挨拶もそこそこに寄り添い歩く。
無駄という無駄を省かれた、同じ内観を。
階段… 踊り場… 横に伸びる通路は円を描き、遠く反対側で連結している。
リング状のエリアをひとフロアに数え、延々と階層を連ねているグランドスタッフ。
从 ゚∀从 「評議会はもういいの?」
/ ∵) 「ほとんどの者は残るがね、私は今をもって解放されたよ」
魔導力を悦ばしく定義した、歴史上の象徴的建造物。
……皮肉にも、過剰な魔導力を集めてしまった諸刃。
そんなグランドスタッフに似つかわしくない光景といえば、
元評議会員の外套が女性の指先によって、ささやかに引っ張られていることだろうか。
从 ゚∀从 「…そっか」
/ ∵) 「…これで私も、君たちと一緒だ」
-
高岡、素直、井出。
内藤、鬱田… そして、名瀬。
選択されし[かがみ]の贄たち。
たどり着いた名瀬の部屋は殺風景なものだ。
感情のない者にレイアウトなど必要なかった。
全面は真っ白。
放り投げた書類を受け止めるだけのローテーブルが、ぽつりと備えられているだけ。
他には何もない。
――高岡と出逢う前であれば。
从 ゚∀从 「相変わらずだなー」
/ ∵) 「習慣はそうそう変わらないよ」
从 ゚∀从つ∥ 「お邪魔しまーす」
言うより早く、リビングとキッチンを通った高岡が、奥へと続くカーテンをめくり開けた。
(▼・ェ・)
(^ω^∪)
四方壁を金糸の刺繍で施された、
荘厳たるレリーフ布で囲むプライベートルーム。
ゴシック調の棚の上では彼女たちを出迎えるように、
二体の大きなぬいぐるみが左右に鎮座している。
両極の愛らしさを表す動物をモチーフにした綿人形。
どちらも高岡が造ったものだ。
「ただいま!」
そう言って、彼女が二体の頭をころころ撫でる。
そして止まらぬ歩調で最奥のベッドに倒れ込む一連の様子を、
名瀬はただじっと眺めていた。
-
( ∵) 「…」
从 ゚∀从 「ねー、センセーも疲れたっしょ?
こっちで横になろうよ」
( ∵) 「……その前に、君に謝らなければ」
緩慢な動きで脱いだ外套を備え付けのフックにかけるなり、名瀬は深く頭を下げた。
从 ゚∀从 「なんだよー……そんなに改まって」
( ∵) 「昔、君に言ったことを憶えているか?」
当然憶えている。
だからこそ高岡は、友の前でも能面であり続けたのだから。
从∀゚ 从
ザ――ザッ
彼女の網膜に焼き付いた四角いモニタ。
白い枠、映り流れる時の思い出…。
三三三三三三
( ∵三三三
――ザザッ
脳裏からめくり被さるあの頃が、 ザッ
目の前に広がる視界を揺らがせた。
三三三三三三三三三三三
三三三三三从
三 夢――ノイズが…走る。
ザザッ――
三三三三三三三三三三三三三三三三三三
三三三三三三三三三三三三三三三
ザーーッ 三三三三三三三
-
推奨BGM:lipse of Time (Harp Version)
(https://www.youtube.com/watch?v=UJrCeAOO3Xo)
-
----------
( ∵) 『評議会に強く目をつけられてしまう。
だから――これからは感情を抑えて過ごすんだ』
『どーしてー??』 从∀` 从
…いつだったか、名瀬はそう言った。
『それがいつかはまだ視えない。
だが感情豊かな者ほど、過酷な運命が待ち受ける未来があるのだ』
と、言葉を繋いで。
( ∵) 『君には笑っていてほしい。
その運命も今ならまだ避けられる可能性がある』
高岡も思い出す。
二人の始まりは空虚な育児院を出てすぐの、
通路で独り蹲っていた時だったということを。
素直と喧嘩し、泣きっ面を誰にも見られたくない一心で膝を抱えた日。
人の行き交う背景で、膝を抱える女児がそれだった。
-
人体なれど肉の塊にしか見えない、高岡を誰もが無視していく…。
せいぜい彼女の耳に届くのは『うるさい女の子な』という声の刃と、
( ∵)
『どうかしたのか』
从 ;∀从
聖杯の滴に似た、救いのひと声。
-
以来、二人は幾度言葉を交わしただろう…。
別段面白い話をしていた訳でもないが、
しかしコロコロと変わる少女の顔を見たときから……、
まるで生まれた時代を間違えているかのような、爛漫な振る舞いの高岡を見たときから……、
名瀬はひとつの夢を見出だしてしまった。
( ∵) 『それが誰を指していたのか見当はつく。
君はこのままでは含まれる』
ある日、目にしたアーカイブ。
抽出されていた六人分の人体データ。
『かこく、ってなにー?』从∀` 从
( ∵) 『とても、とても辛いということ。
だから私がそれに取ってかわろう』
『?? なんでー?』 从∀` 从
( ∵)
( ∵) 『そうすれば君を救えるかもしれないから』
从∀` 从
-
グランドスタッフにおける教師の役目とは、
アーカイブに記された過去の出来事を、ひたすら機械的に詰め込む作業に他ならない。
疑問や寄り道はないはずだった。
教師も、生徒も。
淡々と学び、史実の羅列を頭に並べるだけ。
だからこそ道徳なき歴史の反復によって、世界は間も無く滅ぶのだが…。
( ∵) 『その代わり教えてくれないか、君の感情というものを』
『……』 从∀` 从
( ∵) 『どうした?』
『ううん、なんでもないー』从∀` 从
-
名瀬だけが気付いていなかった。
高岡に惹かれた、その心こそ感情であるのだと。
何年経っても、気付かない。
( ∵) 『今日はどうした』
『別に……ただちょっとだけ、
クーと喧嘩しただけだよ』从 ゚∀从
( ∵) 『そうか』
『理由は訊かないの?』从∀゚ 从
( ∵) 『高岡から言わないときは、こちらから訊けば良かったのか?』
『…めんどくせーなあ』从∀^ 从
( ∵) 『そうか?』
高岡だけは気付いていた。
自分に気をとめた名瀬には、自分たちと同じく感情があることを。
-
しかし彼の日常態度は常に無表情だった。
からかった後のツンのような、つっけんどんな態度をとることもなければ
意見の対立によって喧嘩したときの、クーのような無口になることもない。
( ∵) 『まだあの玩具はとっておいてあるのか?』
『あるよー、せんせーからせっかく貰ったんだから
簡単に捨てやしないって』从∀゚ 从
( ∵) 『高岡は物持ちがいいんだな』
『…』 从∀゚ 从
( ∵) 『どうした?』
『なんでもねーよ…』 从 ゚∀从
淋しくなかったといえば嘘になる。
他人の心を察するのに感情は不可欠であっても、
かといって、感情があれば心が読める道理もない。
可能性があるだけだ。
より深く知り合うための。
( ∵) 『…』
( ∵) 『解ってやれなくて、すまない』
-
いつのまにか、拗ねて見せると罪悪を覚えるようになったらしい。
その時だけは、二人だけの牢獄。
かつて失われた恋人の語らいのように。
『…ばーか』 从 ^∀从
――しかし相剋。
いつかは失われる恋人の信頼のように。
名瀬の思惑すら踏み潰す、この世の魔導力は命すら奪うことを思い出させてくれる。
-
高岡と名瀬が時間を共にするようになってしばらく。
グランドスタッフ中層、展望台の名残りである広域窓の一部が人為的に破壊された。
そこは唯一、外の世界を眺めるための機能を備え、
しかし利用者は彼ら以外に居なかった。
感慨を覚える者でなければ、景色に目を奪われることもない。
川 ゚ -゚) 『……なぜ、こんなことに』
人々には計り知れなかった事実がそこにはある。
――毒は無くとも、魔導力漂う外気に望んで触れる者など居るはずもない――。
そう考えるのが一般的だった。
環境の引き起こした突発的な事故としての処置を施し、
数日後には記憶から消去された、数百年ぶりの自殺者の出現。
『相談された人はいないの?』ξ゚⊿゚)ξ
从 ゚∀从 『ブーンは?』
( ^ω^) 『特になにも…。
でも、あいつの部屋でこれを見付けたお』
『見せてみろ』 (A` )
川 ゚ -゚) 从∀゚ 从
((( ^ω^)つ◇ ⊂(A` )
ξ゚⊿゚)ξ
-
内藤を含めた五人が一斉に覗きこむのは、手のひらに収まるほどの薄い一枚の用紙。
丁寧に書かれた筆跡は、
心境を落ち着かせ、一字一字を確実に記したものと推測させるに充分だ。
『気が狂う前に試したい。
先に逝くよ、三度めの大嵐にまた』
川 ゚ -゚) 『…』
( ^ω^)『シャキンは一体なにを言いたいんだお…』
从∀゚ 从
『…知るかよ、めんどくせえ』(A` )
ξ゚⊿゚)ξ 『試したい…なにを?』
級友たちに走る動揺は激しかった。
…だが、名瀬に突き刺さった衝撃はそれを越える。
( ∵) 『……』
-
ザザザ…
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
イケニエ カイシュウタイショウ
ヘンコウ…_
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
粛然、かつ真暗闇に浮かぶ文字。
( ∵)" 『…』カタカタ
名瀬はアーカイブに指を走らせていた。
ホログラムに映り並ぶ、上層エリアの片隅。
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
ヘンコウコウホヲ
チュウシュツ シマシタ
■タカオカ_ 从 ゚∀从
生命力 / D
表現力 / E
身体耐久力 / E
発想力 / C
感情値 / B
魔導波動力 / B
魔導適応力 / B
魔導許容量 / C
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
( ∵) 『……やはり』
溜め息と――狂った計算。
選ばれるはずの一人が消えたことで、
自身が庇うべき高岡の名が、再び候補者に浮き上がってしまったことを知る。
頭を抱えて、同時に崩れそうになる脚に力を注いだ。
一度芽生えた感情に抗えず、次の手立てを考えるべく瞳を閉じる。
…彼もまた、夢を視るために。
三三三三三三三三
ザザ三三三三三三三三
三三三三三三三三三三三三三三――ザ
三三三三三三三三三三三
三三三三三三三三三三三三三三
-
三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三
三三三三三三三三三三三三三三三三三
二二三三三三
三三三三三三三三三
三三三三三三三三三三三三三
二三三三三三三三三三三三三三三三三三
三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三
三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三
-
三三三三三三三三三三三
三三三三三
(推奨BGMおわり)
-
----------
目覚め、ベッドの上で抱擁していた腕を離した。
高岡の首元でごろりとした重みが残されていることに気付く。
( ∵) 「…すまない、痛かったか?」
その声で、遅れて意識は覚醒した。
――いつもと同じかそれ以上に。
体勢は不自由ながらも大きく首を振り、答える。
「ううん、満たされた気分」 从∀^ 从
枕木の役目を果たす名瀬の腕は細身ながらどっしりと、そして柔らかさを感じさせる。
触れる微熱が遅れてやってくると、
首から胸、胸から背中を伝わり…足先までが痙攣したような気がした。
-
从∀- 从
流れ落ちる一粒の汗の感触が背筋をなぞる。
ふわふわとした心地よき倦怠感。
宙に浮くようなこの気持ちは何度体験しても慣れないものだと…胸中で呟いた。
いまの二人の距離。
吐息が当たり、しかし肌の触れ合わない隙間がある。
腕を伸ばすまでもないが、指先だけでは届かない。
いまの高岡にとって具合の良いスペース。
…でなければ一糸纏わぬその身体を、彼の視界に入れてしまう。
「わがままばかり聞いてくれて、ありがと。
アタシはこれでもう悔いはない」 从∀ 从
( ∵) 「…」
「――って、センセーも一緒に飛び込まなきゃいけないんだっけ…。
最後がアタシで悪かったかな?」 从∀゚ 从
( ∵) 「そんなことはないよ。
むしろ…私こそ同じように考えていた」
「…そっか」 从∀^ 从
-
齢、成人に届かぬ女が微笑う。
つられ、妙齢たる男も目を細めた。
……もう逢えないかもしれない。
その想いを、互いに秘めたまま。
名瀬が高岡と居た年月は十と無かったが、
代え難い時間を過ごさせてもらったと彼は考えている。
…心残りを挙げるなら、笑顔だけは最後まで上手くならなかったことだろうか。
「ね、センセーはさ…」 从∀゚ 从
…ゴ ゴ
( ∵) 「――!」 ゴ
「? どしたの 从∀゚ 从
《ゴ ゴ ゴ》
――これ、なんの音だ?」 ::从;゚∀从::
::(∵ )::
::( ∵):: 「…高岡、服を」
《ゴゴゴ ゴ ゴ ゴ》
-
世は無慈悲。
悠長な暇(いとま)など、
むざむざ与えてくれはしない。
《ヴ…ォオオ》
誰かを中心にこの世は回らない。
ヒトを最後まで裏切って… その日が――来た。
-
記念すべき終わりの日。
グランドスタッフ
――崩壊。
-
------------
〜now roading〜
( ∵)
HP / C
strength / D
vitality / D
agility / F
MP / C
magic power / D
magic speed / C
magic registence / A
------------
-
本日は以上です。続きは後日に
-
乙
続きも待ってる
-
井出って書かれてる所と伊出って書かれてる所があるのは仕様かな?
-
乙!
-
乙〜
早く続きが知りたい
-
超気になる
どう繋がるんだろ
-
読んでいただいてありがとうございます
>>747
すみません、伊出が正しい表記です
■誤字修正について
井出×→伊出○
>>728
>せいぜい彼女の耳に届くのは『うるさい女の子な』という声の刃と×
→せいぜい彼女の耳に届くのは『うるさい女の子だな』という声の刃と
-
期待
-
おつおもしろい
こっからどうなってくんだ
-
いい所で切るなあ
おつ
-
――崩壊の刻がきた。
彼らの前に、
地響きの末路は様々に、明確な姿を現す。
「チキショウがぁ…っ!」
))
( ;'A)
意図せず大海へと向かって放り出され、
満足に四肢をばたつかせることも出来ない鬱田が短く叫ぶ。
彼は眠り、しかし夢を見る前に病室から投げ出されて空にいる。
三日後の滅亡どころではなかった。
二日後に来るはずの壁の役目すら、満足に与えられる以前に――。
「どうして…
なんで俺がこんな!」
((
('A`#;)
強風に煽られ、彼は頭から墜落していく。
下は魔導力によって腐った海…、
上は大きな影に覆われてはいるが、倒壊する人類の象徴グランドスタッフが見える。
翼があれば、この窮地を脱出できたのだろうか。
もはや手本となる生物はおらず、
嵐によって気流を乱した空はそもそも慈悲など持ち合わせることなく、
彼の骨肉をバチバチと殴りつける。
…それはまるで、早く死ねと言われているようでムカついた。
…雨に濡れて重みを増した服が無駄にまとわりついて苛ついた。
-
((
(A`#)
「ふざけんな、
俺は俺の意思で最後を…――」
下半身は既にない。
千切れた肉からは、神経繊維が簾のように揺れる感触。
それを振りほどけない不自由な状況と…なによりも。
((
(# A`)
「そもそも――
なんなんだよ、テメーは…」
))
(# A
「こんな、こんな死を俺は――」
-
『望んじゃあいねぇぞぉ…!』
-
…そう、彼は終わりの否定を願った。
命の死を、魂の消滅を。
己の脆さと世の不条理に怒りを抑えられない青年。
安穏とした日々に求めたはずの永久を、
どうしてこの期に及んで振りほどこうというのか。
…だが悲しきかな、
力なき抵抗は薄儚く粉砕される運命にある。
どのみち鬱田という存在は、死を目前に控えた弱者だった。
分断された肉は体機能を停止させ、
薄弱な意識もろとも黒き濁流へと飲み込まれていく…。
「せめて死ぬんなら、A`)
..,,:;;:
テメーを('殺してかぁ…――ッ
そんな断末魔も風と牙に消え。
闇に喰われ、血飛沫すらも遺さぬまま、
彼という存在は漆黒の渦に捲き込まれていった。
-
----------
))
川#゚ -゚) 「ドクオーーーっ!!」
倒壊するグランドスタッフよりも高きもの…
自身が落下する速度よりも速きもの…
分離していく鬱田の下半身よりも歪なるもの…
嵐よりも荒々しい、衝撃的なワンシーンが大部分の意識を占めた。
灰空の吐き落とす水滴は彼女の長髪を縛り付け、
現実の直視から逃れようとする。
文字通り、空に後ろ髪を引かれながらも、
しかし彼女のその切れ長な瞳を釘付けにした。
((
川# -゚)
友と別れ、眠る鬱田の背中を見送りながら自室に戻るところだった。
明日には[かがみ]に突入し、果たさねばならない使命感を胸に床につく。
…そんな今日という日を無事に過ごすはずの彼女の時間を――
-
))
( - ゚#川 「この…化け物が…!」
…破壊した。
それがアーカイブに記される、
星の外に住まう巨獣であることを彼女が知る術はない。
赤と黒で彩られた顋の向こう側を目前に…。
同じ時を過ごした友が、
評議会員に手渡されていた法衣の色を思い出す。
-
小さな頃、三人でよくやった遊戯がある。
伊出も高岡も、そして素直も、
いわゆる "ごっこ遊び" が好きな子供だった。
集まると誰かが床に線を引き、
ここではないどこかの間取りを創ったものだ。
ξ´⊿`)ξ 『ママやるー』
从∀` 从 『えー、じゃあアタシは娘ね♪』
川 ´ -`) 『…わたしは?』
ξ´⊿`)ξ 『パパやってよー』
無遠慮な返答に洩れる溜め息…。
しかし、それもいつものことだ。
男の役目を負わされることに抵抗などなかったが、
たまには可愛い役を回してほしいと考えたことも当然ある。
だがそれを口にしたことはない。
素直が役割を果たすことで、
二人の友は愉しげに笑い、そうして素直も笑えたのだから。
川 ´ -`) ξ´⊿`)ξ 从∀` 从
川 ´ -`)
川´ー`)
-
役割は重要だ。
人は生活の過程で自然と立場を得て、
在るべき場所で生きるのではないかと素直は思う。
そして心安らかにしていられるならば、どんな苦境にも耐えられる。
だからこそ高ぶり、吼える感情。
川# Д
…せめて気持ちの整理をつけたかった。
例えば[かがみ]に飛び込んで、
【魔導力】によって望みを叶える…。
その代償として命を失うならば、等価と納得できなくもない。
だが現実はどうだ?
こんな訳のわからない化け物に齧られる最後など、
予想もしなければ望みもしていない。
まだなんら対価を支払っていないつもりだ。
-
それとも何かを願うこと…
それ自体が代償とでも、
この世界は言い張るつもりか?
-
))
川# Д 「そんな人生は――」
非道、不条理、裏切り…。
歴史は誰彼構わずそれらを繰り返して、繰り返して、
そして、終わるのか?
バ
「認め 」
ク
ンッ
-
----------
唸る雷雲。
ブラウンの巻き髪を絡めとる、
雨、雨、雨……。
空気に代わり、水分を多分に含んだ毛髪が、
背中から墜ちていく彼女の視界を
さながら朽ちた炎のように揺らめき埋め尽くす。
))
ξ ⊿ )ξ
手足に力が入らない。
…いや、呆然として、感じられないというほうが正しいのかもしれない。
))
ξ ⊿ )ξ
遠目に見やれば、伊出の片手が少し長く影を作っていることに気が付くだろう。
それは腕から生える腕…。
比べれば、握る指先から先は一回り以上もがっしりとしている。
-
数秒前の伊出は内藤と共に、
ゆるやかな時を…
ささやかな語らいを…
十数年間変わらぬ、時の共有感を愉しんでいた。
前触れなく出現した太陽に、
グランドスタッフの頭部を食むられるまで…。
二人は肩を寄せあい、蜜を交換し合っていた。
見つめあい、瞳の奥に吸い込まれるほど暖かな幻想を抱き合っていた。
))
ξ ⊿ )ξ
――そんな二輪の向日葵を、誘われた太陽が焼き尽くした。
失われし神話…
イカロスの翼に激怒した神の如く。
牙によって片割れを奪った災厄がそこには在る。
-
))
ξ ⊿ )ξ 「……ブー…ン?」
不思議と涙は流れていなかった。
ひたすらに放心し、取り残された胸中には後悔の念が押し寄せている。
揺れを感じたあのとき、僅かでも自分から離れれば良かった。
自身の甘えがもし彼を殺したとすれば――こんな風に考えてしまうと内藤は怒るだろうが、
……しかし正直な気持ちだ。
((
ξ ⊿ )ξ⊃⊂
ほんの一部分のみになった恋人を見つめる間だけは時間が止まる。
ずっと一緒に居て、
それが恋だと後で知って、
寝ても覚めても共に在った。
空に落ちる時、護るよう腰にあててくれた掌。
闇に満ちる時、庇うよう突き放してくれた腕。
それが今もまだ…伊出から離れようとはしない。
ξ ⊿ )ξ⊃⊂
ξ ⊿ )ξ⊃⊂(^ω^
ξ ⊿ )ξ⊃⊂
-
絡めた五指に繋がるべき青年に想いを馳せる。
とめどなく込み上げる熱に反して、どうしても湧かない泪。
それでも…太陽は朧ぎ、いくつも見えた気がした。
髪の隙間の向こうで空をぐるりと輪転し、舞っている。
ξ゚⊿ )ξ 「…?」
-
"それ" からすれば伊出など塵に充たない矮小な存在だろう。
…にも拘わらず、
明らかにこちら目掛けて折り返してくるのが解る。
嵐の元に晒される太陽ではあるが、よく見れば違和感を覚えるフォルムだった。
雷光に照らされる伸びた黒い塊が節足動物を思わせる。
――それも二体。
螺旋を描いて渦巻きあう。
巨大さゆえの緩慢さと不規則な動きが、
却ってそれぞれ意志をもつ生物であることを直感に告げた。
ξ゚⊿ )ξ
ξ゚⊿゚)ξ
ξ#゚⊿゚)ξ
そう考えるが瞬刻、伊出の心が奮い起った。
頬が紅潮するのを強く自覚する。
-
天寿、天災…
病い、事故…
天命に従い魂が召されるならば、
湧いた悲哀を閉じ込め、己を納得させる時間も作ることができるかもしれない。
そして、感情によって言い訳を生み出す。
ξ#゚⊿゚)ξ 「…返して」
――だが、違いすぎる。
いま目の前に広がる太陽は、
近くで見れば見るほど一個体の生物であると認識できた。
闇に紛れてはいるが、触手がある。
太いのは触腕か。
先端に生えているのは触角なのだろう。
ξ#゚⊿゚)ξ 「ブーンを、返してよ…」
生き物が意志をもち、
意思によって生き物を殺すのならば…
弱者と認識してなお、喰らうならば…
『弱肉強食って言葉が、昔あった』
-
走馬灯のように。
…いつかの、生きていた頃の彼の言葉が浮かぶ。
『ぁあん?』 ('A`)
(`・ω・) 『食物連鎖ともいうらしい。
弱いものは強いものの供物になる、という意味だが』
川 ゚ -゚) 『シャキン…お前またアーカイブを勝手に覗いたのか?』
(・ω・´ ) 『調べ始めればキリは無くとも面白いものだよ、あれは』
(`・ω・) 『強いものはイタズラに弱いものを食べるわけじゃないんだってね。
手加減をして、自分が飽きたり飢えないように…
そして半永久的にその関係性を保つケースが多かった』
( ^ω^) 『それがどうしたんだお?』
(`・ω・´) 『いまの僕たちの話だ。
人類以外の生き物が居ない世界……
これはそんな関係性を保つことに失敗したということじゃないか?』
『…』 从∀゚ 从
彼は皆と共に行動することが少なかった。
代わりに博識ぶって、
考えることそのものが愉快であるかのように、
たまに口を開けば皆を困惑させていた。
-
『くだらねぇ…
いちいち深い理由なんてあんのかよ』 ('A`)
(`・ω・) 『君も先日晴れて教師になったろう、まんざら興味のない話ではないと思うけどね』
( ^ω^)『マジかお?! いつのまにおめでとうだお!』
『おめー…、うるせぇよ』 ('A`)
(` ω ) 『それはおそらく、 "感情" のせいさ』
彼の表情は、伊出が横から見ていてもはつらつと…だが同時に陰りを見せた気がした。
(`・ω・) 『かつての人間には類を見ない知恵と向上心があった。
弱点を補い、欠点を隠し、道具や環境すらも操って生き延びるといった…ね』
ξ゚⊿゚)ξ 『道具を操る… そうね、言われてみれば』
从∀゚ 从
彼女たちは玩具すら与えられない時代を過ごした体現者だ。
物に溢れ、者に溢れる時代もたしかに存在するのだろう。
だがそれも "霊長類の頂点" を自ら謳った時点で終わりに向かっていた。
-
川 ゚ -゚) 『だが頂点の何が悪い?
成ってこそ得られるものも、きっとあっただろうに』
(・ω・´ ) 『まだ見ぬ "得られるもの" の存在を認めるなら、
いつか来る "失うもの" もまた共に認められるべきじゃないか?』
『表裏、相反…いや、突き詰めれば相剋か』
――彼はそう言葉を続ける。
川 ゚ -゚) 『理解はできるがな…』
(・ω・´ ) 『きっと君の言う通りだ。
はじめこそ希望のために、人は何かを求めるんだろうし』
それなのに驕り、怠み…
そのくせ同種である他者を妬んでは怒りを露にする。
それがアーカイブに記された
人間という生物。
先天的性差や後天的ハンデであろうと臆面なく利用して、
周囲を蹴落とすことのみに時間を費やし、
"我こそ頂点" たる矜持を維持しようとする。
それがアーカイブに記された
人間という歴史。
-
(`・ω・) 『ヒトという種を蔑ろに、
個の優劣をこうまで醜く気にする生物は他に居ないんだよ』
( ^ω^)『どうしてそんな……仲良くしてほしいお』
(`・ω・´) 『ブーンやクーの発言も、いつかは僕のような歪みとなる日が来るのかな?』
『とどのつまり、
てめーも責任転嫁じゃねぇか』 ('A`)、
苛立たしげに鬱田は唾を吐き、タバコに手をかける。
隣にいた高岡が無表情のまま大きく離れたのは、煙を嫌がったのかもしれない。
(`・ω・) 『天敵のいない存在になってしまった挙げ句、操るものを消費しきって…
磨耗し、ついにほとんどの感情をなくしたヒトの残り屑が僕らなら――』
ξ゚⊿゚)ξ 『ねえ、考えすぎじゃない?
卑下したって良いことなんてなにも…』
(` ω ) 『……しかしもう、そうとしか思えなくなってしまった』
_
ξ゚⊿゚)ξ 『…』
良くない思考のどつぼにはまっているのだと、しかして伊出は言葉を飲み込んだ。
-
真実は違うかもしれない…が、残念ながら史実は如実に物語った。
兄弟喧嘩も、宗教戦争も、
個の概念から魂の救済を追い求めた末路でしかない。
心から相手を尊重出来たなら、たとえ相容れない存在であろうと赦せるはずだ。
…とはいえ彼の個人的考察も、
過去の何者かが視た未来の一部でしかない。
解っていても、人は辿る。
(`・ω・) 『ただ生きて、ただ無意味に死ぬだけの人生ならいっそ…』
ξ゚⊿゚)ξ 『……もぅ!』
川 ゚ -゚) 『いい加減にしろ、お前の言っていることは結果論じゃないか』
(・ω・´ ) 『そうだ、しかし紛れもなく僕たちに降りかかっている現実だ。
"もしも" なんて材料が、もうこの世界には無いんだから』
世のすべては天秤にかけられる。
どちらかを得ればどちらかを失う。
表があれば裏があり、光によって影が創られるように。
-
支援
-
万物に宿るべき【魔導力】。
それを[かがみ]が際限なく吸い込んだおかげで、
ほとんどの人間から感情が磨り減ってしまった現実のように。
【魔導力】の増長に反比例して、【重力】が失われていったように。
(`・ω・) 『例えばそう、まったく別次元のイレギュラーでも起きない限りは…――』
――世界は変わらない。
( ^ω^)『…』
(`・ω・) 「……なにか言いたそうだね?」
――生まれ変わらなければ。
( ^ω^)『シャキンのいう通り、"感情" が原因で世界がこうなってしまったなら…』
『……』 从∀゚ 从
( ^ω^ )『それを正すのも、"感情" じゃあダメなのかお?』
-
ξ゚⊿゚)ξ 『――!』
(`・ω・´) 『万が一それが出来たとして、
結局は同じことを繰り返すだけじゃないか…それを無意味だと言うんだ』
川 ゚ -゚) 『…シャキン』
( ^ω^ )『無意味じゃないお!
いまシャキンが自分で言ったじゃないかお』
('A`)y-~
( ^ω^ )『得るも失くすも、どっちも認めるって…』
(`・ω・´)
( ^ω^ )『だからまた、得たらいいと思うんだお』
(` ω ´)
( ^ω^ )『あまり考えすぎないで、まずは僕たち六人がずっと一緒に楽しく過ごそうお』
ξ゚⊿゚)ξ
( ^ω^ )『みんながおじいちゃんおばあちゃんになって、死ぬときになったら…』
( ^ω^ )『その時に決めたらいいお。
意味があったか、なかったか、なんて』
(` ω ´) 『…………それでもやはり無意味だったら?』
从∀゚ 从
( ^ω^)『生まれ変わって、また一緒に生きてみればいいお』
ξ゚⊿゚)ξ
ξ゚⊿゚)ξ
-
ξ^ー^)ξ
-
自分の死の間際、死んだ人間を思い出す皮肉。
記憶のフェードアウトした視界で、生物の口がバックリと開かれたのが目に入った。
『気が狂う前に――』
当時こそ彼のあの言葉は、ネガティブな思考の果てに尽くされたものだと思われた。
ξ#゚⊿゚)ξ 「……もしも、これがシャキンの言ってたイレギュラーなら」
『合図は三度目の嵐――』
そう記された遺言。
今日まで続いていたこの天候は、誰も知らない三度目の嵐だ。
ξ#゚⊿゚)ξ 「ブーンが一緒に楽しみたかった未来を…、ブーンを……!」
死ぬのが怖い、 だからこじつける。
無意識に、
反射的に、
『また一緒に生きてみればいいお』
振り上げる…その腕を。
ξ#゚Д;)ξ 「返してよ!!!」
願いを込めた…内藤の腕を。
-
三三三三三三三三三三三三三三三三三三
\\
\\
\\
\\
三三三三三三三三三三三三三三三三三三
-
-
こうして伊出も、汚らわしい口内に消えた。
それが、この世の現実だった。
-
----------
叩く壁、騒ぐ天井。
――滑り落ちるぬいぐるみ。
鳴りはためく鼓膜――。
墜ちゆくグランドスタッフと共鳴し、名瀬の部屋も強く傾く。
残りわずかな重力が作用して高岡の身は右へ、左へ…。
名瀬の声が聴こえたのもいつの頃か、もはや忘れてしまうほどに混乱している。
そのうちに流れ閉められたカーテンの元へと、細く柔らかな肢体が無様に投げ出された。
「いっ――てぇ〜…!」
::从∀<;从
先から天地が何度、逆さになった?
立ち上がることすらままならず翻弄される。
何が起きているのか…高岡には正しく把握できていなかった。
从;゚∀从::「くっ…センセー、どこ?!」::
-
ここに彼がいるならば、
『どうしたのかな』
『なにが起きたのかな』
などと言葉を交わし、心の拠り所として少なからず安堵したことだろう。
それとも…裸で名を呼ぶその妖艷さに、眩暈を覚えるか。
ここには彼女以外の肉声が無く、
地鳴りだけが静かに、大きく返事するのみ。
从;゚∀从::「センセぇ…居ないのか??」::
泣き出しそうな声も震え震えに、
::《ガ コ ンッ》::
何度目になる分からない衝撃が襲いかかる。
((
从; ∀从
未だ慣性に従い、しなり転がっていく。
高岡には自重を支える体力が残っていない。
【重力】が最後の力を振り絞る。
それほどに激しい…天空から崩れ去る塔内部の様相は。
-
ひび割れた壁にたどれば肩を強打。
時に天井へと背中を預け、ベッドの角に腹部を潰されそうになる。
遅れて頭に落ちるぬいぐるみが見当違いに微笑ましくて、
まだある現実感を薄めてしまう。
《ガツ ―― ンッ》
「――っが ぁ…」
::从 ∀从::
どこかでぶつけた後頭部が、視界を揺らがせた。
近くて遠く…なにかが砕ける音は鳴り止まない。
::从∀゚;从::
::从;゚∀从::
……襲う激痛に身を仰け反らせてなお、少し潤んだ瞳は愛しき人を探した。
-
…しかし見当たらない。
高岡に服を着るよう警告した彼はその直後、
激震をものともせず部屋を駆け出ていったのだから当然だ。
从 ∀从
……頼りたい時、隣に居ない。
…寄り添いたいのに、あるのは孤独。
从 ;∀从
寂しいという感情が走り、衝動に任せて危うく責めそうになる自分を留める。
i:.
iii从; ∀从iii
そして脱力した――。
なのに、柔らかな膝が床に触れることはない。
( ……あれっ? )
覚えたのは強烈な浮遊感だった。
次の瞬間、
視界へと飛び込んできたのは
-
蒼と灰に染まる景色。
-
う
っ
そ
ii,, i;i
iiii从;゚∀从ii,i ( …だろォ?! )
-
人が空を游ぐという奇跡がここにある。
特定次元の概念さえ取っ払えば……
いつの時代も現実可能な奇跡の一つではあるが、
命の保証は得てして、無い。
箱庭が予定よりも早く、
世界から弾かれてしまったことを高岡はこの時やっと知った。
『餌場に降りてくる人間がいるぞ!』
…この世に海王類が現存したならば、海面の裏でそう叫んでいたかもしれない。
((
从;゚∀从 「!!」
・・・ ・・・・・
だがこの時、叫んだものは――
-
ガァ
グ ガ
( センセー、助けて…!! ) ッ!
ガ
ガ
-
突風と膨大な雨粒がその身を助け包もうとして…
しかしすり抜けるように霞めていく痛み。
目の前で繰り広げられる闇と光の衝突。
不思議と落下している感覚は得られなかった。
それはまるで現実とは裏腹に、
育児院で読んだ童話の、綿飴雲にでも自分がなったかのように高岡は思えた。
代わる代わる行き交う景色も。
吸い込まれるような向かい風も。
身体の中心から爆発するほどの外音も。
脳の認識が追い付かなければ別世界なのだと…
彼女はこの時、不意に知れたのだろうか。
从 ∀ 从
…自分自身が天地を見失っていても、そこに存在があれば自己は確立できる。
…自分自身が見地を見失っていても、別の存在が他にあるなら自己は確執に至る。
( …なんだよ、これ )
彼女の視界を最後に埋め尽くす、
この星にとって…
そして彼女にとっても最大のイレギュラー。
( センセーは… )
黄色の双眸。
( みんな、は―― )
-
(推奨BGM:Fire Above the Battle)
https://www.youtube.com/watch?v=GmR3AALCPzo
-
----------
(# ∵) 《これ以上やらせるか…!》
崩れ落ちゆく人類の象徴を尻目に、
狼狽した様子を声色に乗せて彼は吠えた。
嵐を跳ね返すほど激しく、触れては弾く雨粒の蒸発。
青天井にも似た体熱の上昇を感じずにはいられない。
そんな名瀬がいま対面する巨獣。
《20光年前に女王ハ死ンダ》
( ∵) 《――!!》
《新タな王と巣が必ダろウ。
我ラニハ羽根があり、顋がある、ダかラ――》
彼らもまた落下している。
ただし、消滅寸前の【重力】など問題にせずとも
己が宿す体機能のみで。
音なき音で語られる相手の言葉を、
《だから私のいるこの星に来たのか?》
と、名瀬は遮った。
-
(# ∵) 《知っていて…我の縄張りに、きたのだな?》
怒気をはらみ、――名瀬の口調が変わる。
振り回した腕に衝撃。
嵐すら驚き、叩きつけていた雨を弱まらせた。
怒りと共に膨脹する名瀬の躰が助走なく宙を駆ける。
《此処に貴様の居場所はない》 三三 (#∵)
・・・・・・
その黒き外殻が大きく風に流れると、
灰色の空と相まって斑模様を映し出した。
高度を落とし、近くなった海には陰りが差す。
さながら竜――いや、歪で、でこぼことしたフォルムは "蟻" を呈した。
胸には二つの太陽をかざし、翼さながらに広げるは黒々と光る触腕。
-
――稲光。
轟きわたる硬殻の摩擦音。
…相手も負けじと腹をよじり、互いに巻き付き合うが。
ギチギチ…ギチギチギチギチ!
(# ∵) 《喰ったものを吐き出せ、今ならまだ間に合うかもしれんぞ》
名瀬のほうがひとまわり大きい。
体躯はそのまま優劣の材料となる。
耳を刺す、まるで鋼を引き裂くような音響すらダメージソース。
《グ、ガグギギギギ……》
二体の蟻が絡み合うも、その力量には明らかな差があった。
一方は膨らみ、もう一方はみるみる縮小していく。
バスッ
(# ∵) 《早くしろ、魂ごと喰らうのは許してやる》
バスバスッ――
言いながら名瀬の触腕から生える無数の黒棘。
捻り巻いては相手の外殻を割り、その隙間を縫い刺していく。
鳴り続ける、人間には耐え難い音…。
しかしその鼓膜へのダメージは、いまの名瀬になんら影響を及ぼさない。
《ガ…ぐぐっ…
――ゴ ア ア !
アッ ッ! 》::
:(# ∵)::: 《?!》
ビリビリビリッ
-
緊縛に堪えきれない、星を襲った黒蟻がひときわ強く吼えた。
名瀬が力を抜いたわけではない。
にも拘わらず、
零れるようにズルリと白い剥き身が新たに生まれ出る。
支えを失い脱皮した殻が空々しく躯のなかで砕け散り…
引き換え、束縛を断ち切った本体が懐を抜けていく。
そのような機能もあるのか、と思いながら…しかし彼は見逃さない。
(# ∵) 《逃げるな、貴様それでも "アサウルス" の名を冠る端くれか!》
うねりを上げ、すぐさま追いつき噛み千切る。
――が、惜しくも尾のみに留まった。
僅かな速度減退を生じさせて、再び海面が近付く。
分裂してもなお蠢く、不快な舌触り。
ぶちぶちと音をたてるその口内部は砂利の感触を得る。
《…コれほどの差がアルのか》
"アサウルス" が、呟くと共に奥牙を噛み締めたのを
背後に追う名瀬が知ることはない。
滲む感情を窺わせる。
《道理で甘露な味がシタ》
――だとしても
悔しさではないらしいが。
-
《さぞカし良質な餌デ、貴様ハ永く腹ヲ満たし続けタのだろうな》
(# ∵) 《…》
《単体では敵わぬトハいえ、まだ喰イ足りぬ》
(# ∵) 《その言い草、より喰えば我に勝てるとでも?》
逃げるものと追うもの。
捕食者と被食者。
《それヲいまから試すのダ》
――言うが早いか、"アサウルス" の動きが垂直に曲がる。
嵐により海面が荒立てた波を、通過する衝撃波が噴き上げた。
その先に見るのは、砕け落ちるグランドスタッフ。
『食い足りぬ――それを試す』
…狙いは塔の中に閉じ込められた人の群れ。
(# ∵) 《やめろ!》
《奪わレる憤怒か? そレトも失う嫉妬か?》
《先の戦力といイ、どちらにしテも貴様は稀有な好例として同胞に語られるだろう》
(# ∵) 《不可能だ、貴様はここで滅する》
《クハハ、やはり。
"感情" は育めば育むほどにウマく、そして糧になるとな》
-
"アサウルス" ――。
( ASA - USUS )
-
それは元来、星外生命体として宇宙を漂う存在。
故郷たる棲み処を持たず、
個体ごとに一定完成された躯と独立した精神を所持する。
しかし同時に特定属性を崇めるといった、
一個体ながら集団的――いや、
複合的意志の決定と統率を行う特殊性も併せ持つ。
その餌は "願望" と "感情" 。
彼らは各惑星に点在する形状なき想いを察知しては、
舞い降り、
吸い込み、
喰らって、
満足すればまた星々をわたり、
永遠にも似た時の流れを生き続けている。
-
《感じる…感じるぞ……。
小粒ながら、先のどれよりも極上の匂いを》
空気に乗って届く、かつての同胞の声の抑揚。
徐々に豊かさを増している。
敵はすでに捕食を重ねている。
名瀬が止めきれず視覚した時点で既に4人…。
よりによってそれは評議会で選ばれた、感情をもつ子供たち。
(# ∵) ( これ以上、摂取させるわけには… )
そのとき突如、"アサウルス" がゲラゲラと下品に嘲笑った。
雷雨をかき消す波動。
逆風が互いの距離を更に空ける。
ビリビリ
(#;∵):: 《――!!!》
《見 つ
け た ぁァ ア ア
あ あ》
-
ii; i.
iii从 ∀从,ii
-
(; ゚.゚) 《高岡…っ!!》
表れはせずとも心情にて噴き出す汗。
五人目の餌がついにぶら下がった。
――"当初こそ高岡の感情を吸い込んでいた" 者として、
極上…その言葉に同意と殺意を誘われてしまう。
長くは続けなかったものの、
アサウルスの指摘は図星だった。
確かに名瀬は、高岡の感情という
餌を食し続けた。
《シャアああッ――!!》
気の昂りに速度を上げたアサウルス。
情の揺さぶりに速度を上げた名瀬と、一時的にも激しく差が生まれる。
(; ∵) 《くそっ!》
餌であるはずの弱者に欲情し、
高岡という存在を知った。
離れゆく距離…間に合わない。
瞬時にそう判断付け、名瀬は頭部を軸に、躯を鞭のようにしならせた。
研ぎ澄まされた槍の如き尾部をアサウルスに射つ。
-
《見えるようになっテきた》
アサウルスが体躯を渦巻き躱したと思えば、背に生やした触角を拡散させた。
白い太陽から放射線状に放たれる闇。
槍の尖端が届くよりも速く、闇は鞘を象り名瀬を包みこむ。
(; ∵) 《!!》
寒気を感じて深追いを避けた。
素早く尾を分離する。
一足先に掌握され、潰されるのとほぼ同時に。
そうして躯の一部を失うも、一瞬の時を稼ぐことでアサウルスに追い付く。
アサウルスの向こう側で、
高岡の姿が少しだけよく見える。
落水までまだ距離があった。
《ゴエエアッ!!》゚ )
再び密着し、ホールドせんと囲う名瀬の触腕。
それに対する咆哮を合図にアサウルスの触手、触角、触腕が乱れる。
双方が体節から手足を駆使し、大小問わず絡み合った。
-
゙ ヂ ゙
ギチ (# ∵) ギ キ
ギ ゙(゚∈゚ チ ゙!
チ
-
不可視たる音の波が空間そのものを引き千切る錯覚。
躯の芯で鳴り響くたび、向かい合う太陽が空を覆う灰闇の表面を吹き飛ばす。
…いつのまにか
嵐は過ぎ去り小雨となった。
(# ∵) 《…っ》
《…》 (゚∈゚ )
――拮抗。
感情の塊を喰らったアサウルス。
時間経過と共に肥大し、
今や外殻を脱ぎ捨てたにもかかわらず成虫の風格すら漂う。
隙間を縫い繰り出した名瀬のヘッドアタックまでも受け止めたその表情も、
感情を持ち、強い意志を発していた。
ギチギチギ
(゚∈゚ ) 《腹のなかに飼うだけでも…
予想以上に力がみなぎるものだな、感情とは》
チギチギチギ
(# ∵)
チギチギチ…
(゚∈゚ ) 《消化まで時間がかかっている。
だが完全に喰らい終われば、貴様も越えられるか?》
-
(# ∵) ( はじめに闘争心が育ったか )
胃袋へと直に贄を納めたアサウルスに比べれば、
名瀬は永きに渡り細々と、
霞に等しい【魔導力】を吸い込んでいたに過ぎない。
( ∵) ( …丸飲みにされた素直と伊出なら、まだ間に合うか…? )
大気や海を支配する魔導力はいわば源泉。
生物の感情を通すことで濾過し、その純度を高める。
何百年と生き、姿を変えながら人間社会に紛れ込んだ名瀬はそれを学んだ。
( ∵) ( なんとか助けてやれるならば…―― )
……学びすぎて、
人に近づきすぎた。
(゚∈゚ ) 《ここで隙を出すとは。
そんなに殺してほしいか、同胞》
-
名瀬の意識の端、アサウルスが身を退いた。
あまりにも静かで穏やかな離脱だった。
高岡やその友
――自身の生徒――
を "心配する気持ちが走らされた" ことで反応が出遅れる。
三 ( ゚∋゚)
ii; i.
iii从∀ 从,ii
後方反転したアサウルスの先で――
(; ゚.゚) 《 高 岡 ぁ ァ…ッ ッ!! 》
たったいま…まさにこの時、
腮の奥に消えていく彼女の姿があった。
-
姿形は違えど、名瀬は
皆と同等に感情を持つ
最後の仲間なのかもしれない。
姿形が異なるだけで、
名瀬は人と共に生きられることを
証明したのかもしれない。
-
ガァ
グ ガ
( センセー、助けて…!! ) ッ!
ガ
ガ
-
最後の悲鳴。
( ∵)
聴こえた。
助けたい。
せめて高岡だけでも。
( . )
…意識を自分に向けてはいなかった。
それでも、彼は胸元にある太陽の片側を開放する。
――内部に脈打つ、心の臓。
醜悪に開かれたそれはペンタグラムを描く唇のように、
赤黒く蠢いたかと思えば突如、吸飲を開始した。
嵐なく大海原全体が揺れ、
大地なき水面に津波を引き起こす。
::(;゚∋゚)):: 《?!》
-
彼らという生命体がもつ太陽にはそれぞれ共通した役割があった。
感情を食事として摂取する一方、
蓄積した感情の残滓を放出する。
溜め込み、爆発させる…。
その様はなにかに似ている。
( . ) 《それは我のモノだ》
強欲からなる激情。
傲慢を重ねた絶望。
色欲の招いた破壊。
怠惰な生涯の結末。
妬みにも似た展望。
( . ) 《貴様などに喰われるくらいなら…自ら喰ってやる》
彼の行く末は、
暴食の果ての喪失。
…突き詰めてそれが【過去の織り成す未来の姿】であると、
いつかどこかで語る哲学者が現れるだろうか。
-
::;゚∋゚ ))):: 《う、動か――》
( . ) 《どうして我らに二つも心臓があると思う?》
( . ) 《口があれば喰らえるのに…なぜかを考えたこともあるまい》
アサウルスは自身に水飛沫が届く感触を得た。
…見下せば、もはや目前に海がある。
::;゚∋゚ ))):: 《いつの間に落ちて…いや違う、我はここから動いていないはずだ》
::;゚∋゚ ))):: 《まさか、むしろ、海面のほうこそが――》
近付いている。
( . ) 《王が…我々アサウルスの巣が、どのようにして発現するのか教えてやろう》
-
( ↑.↑) 《王が必要なのだろう? こうするのだ…自分の生命でな》
::;゚∋゚ ))):: 《やっやめ――――
-
《【ドレイン】…!》
-
------------
〜now roading〜
( ゚∋゚)
HP / B
strength / B
vitality / D
agility / G
MP / H
magic power / H
magic speed / D
magic registence / F
------------
-
時間都合の関係上、最後まで投下するつもりが間に合いませんでした、すみません
本日はここまでです
投下中の支援ありがとうございました
近いうちに当話のラストをお送りします
-
乙
-
おつ
>>785の何度目になる分からないって所と>>794の20光年前って所と必ダろウって所は誤字脱字ではないのかね
-
>>819
誤字指摘ありがとうございます
>>785
何度目になる分からない→×
何度目になるか分からない→○
>>794
《新タな王と巣が必ダろウ。→×
《新タな王と巣が必要ダろウ。→○
※20光年については、
感情の宿らないアサウルスには時間という概念がないため
永短の違いは分別できても、宇宙を漂った距離で時間経過が測られている設定により、誤字ではありませんでした
自分なりにあれだけ推敲していても、こんなに誤字だらけで大変申し訳ないです
ですので指摘はすごく励みになります、重ねて感謝します
-
おつ・・・センセーはアサウルスだったのか
おもしろいよー続きまってる
-
元ネタ知らんがすごく壮大で面白い!
乙!
>799のスペルって……
-
あとは当話のエピローグのみなのですぐに投下しに来ます
少し私生活が慌ただしいので、もう少しだけお時間をください。
>>822
読んでいただきありがとうございます
肝心な部分を間違ってしまいました…これも誤字ですね
ASA-USUS→×
ASA-URUS→○
そろそろ前話までの誤字修正も、後日まとめサイトで依頼させていただきます
よろしくお願いします
-
>>7901の
-
うわあいろいろミスった
>>790の現実可能って所も誤字かなって書こうとしたんだすまない
-
読み込んでもらえているみたいでとても嬉しい!
ありがとうございます
そこは意図した表記ですが、きっと記述が良くないんですね
現実可能な〜のほうが自分の書きたいイメージに沿っていました
実現可能な〜、の場合、
理論的には出来るけどまだやったことがない…といった未知なるものへの科学的イメージがあります
当話ではすでに様々なプロセスをさんざん試した上での末路なので、その表記にしました
-
从 ゚∀从編の最後を投下します
-
----------
その状態を、なんと呼べば良いのだろう。
-
从 ゚∀从
何もない…? ――そうではない。
正しくは直黒にまみれた空間がある。
そのせいで彼女は、自身の二本足がしっかりと存在しているかも分からない。
::从;゚∀从::
手持ち無沙汰…などという余裕はとても持てない。
現にいまも彼女には闇がべったりと絡み付き、その身体を拘束しているかのようだった。
-
しえ
-
アサウルス体内。
…正確には、
名瀬がアサウルスごと、世界をまるまる飲み込んだ太陽の内側。
差し込む光のないその場所は死後を連想するほど静かで、
外気…それどころか温度を感させることすら拒絶した。
実は意識を失ったまま、いまも空を落下している最中ではないか…。
それとも海の底へと沈んでしまい、混濁とした意識が乖離して夢でも視ているのか…。
高岡自身はなにも知らず、
"自分は死を迎えてしまった" と認識している。
だから瞳を開けばまた、あの世界で――
::从 ∀从::
彼女はそう考え、しかしすぐに止めた。
誰もいない部屋…
壊れゆく塔…
支えのない空…
迫る腐海と、黒い巨獣。
恐怖満ちる今しがたまでの境遇と比べれば、
ここはある種の平和をもたらしているといえる。
とはいえ、そこに立つだけでも孤独は助長され、
呼吸を忘れてしまうほどの閉塞感を覚えるのも事実だった。
グランドスタッフから投げ出されたあの時の感覚など、
比較にもならない浮遊感が高岡を襲い続ける。
::从∀゚;从::
「センセぇ…………」
「…名瀬センセー……?」
::从;゚∀从::
「……誰か…、いないの……?」
-
口走るさきから虚空へと消えてしまう自身の声にまで不安を駆られる、
音の反響すらない…ひたすらに黒い場所。
朧気な四肢の感覚から、此処はやはり夢の中なのだと脳が信号を発し始めていた。
从 ゚∀从 "
――だがそれを引き留める、現実へのトリガー。
从 ゚∀从
つ"
-
《…世界は神が作り出した》
それは下腹部で蠢く、異質な鼓動。
从 ゚∀从 「…」
つ
己の意志とは無関係に…
ドクっ、 ドクっ、 と鳴り報せる命の鐘。
从 ゚∀从
まばたきほどの微々たる感触でしかなかったものが、
いざ意識し始めると不思議と存在感を…愛しさを増していく。
…心当たりがあった。
しかし、こんな状況下でやっと手に入るとは夢にも思っていなかった。
それは世界の終わりを通告された日、諦めたはずの夢…。
さらに――もうひとつ気付いたことがある。
-
《…偉大な神は真っ暗闇な世界を憂いて》
∵
从 ゚∀从 「!」
心に余裕が出来たわけでもなかろうが…わずかに見上げた先で、闇に隠れた光の粒子。
そんな小さな輝きに、愛しき人の面影を見付けてしまう。
∫……すまなかった∫
从 ゚∀从 「…」
∫ここは巣だ。
君…、君を私は…………∫
从 ゚∀从
从 ゚∀从 「いいよ、無理に喋らなくても」
震えぬ鼓膜の頭の奥に流れ込んでくる聞き覚えのある声。
へへっ、と高岡が笑うと、
いつもの無表情に隠された困惑の色が届いた。
从 ゚∀从 「あー、そっか助けてくれたんだ…。
ありがとね、センセー」
∵
从 ゚∀从
-
《己の眼球を取りだし》
∵
从 ゚∀从 「みんなも居るの?」
たった今、観測者は高岡ただ一人。
たとえ他者にとって成立しない会話であっても、彼女にさえ解れば問題ない。
从;゚∀从 「……待って、その前に!
結局どうなったのか、教えてくれないかな」
……語ることがあるとすれば。
アサウルス、そして高岡たちの世界をドレインした名瀬は、
その膨大な魔導力によって太陽のなかで "巣" を構築した。
宙闇である此処には素直や伊出たち…
そしてアサウルスすらも【魂】として内包されている。
从 ゚∀从 「…センセーは…どうなってるんだ
?」
一度ひらいた太陽は永劫閉じることはない。
いつまでも、いつまでも…
生命を燃やし続けるべく、溜め込んだ魔導力の放出を続ける。
…そうして、いつかは枯渇してしまう。
餌の供給なき魔導力には終わりが来る。
-
《その虹彩からは光を》
从 ∀从 「なんで……そんなことしたんだよ」
∫……たす…けたか…た∫
从 ∀从
アサウルスが餓えで死ぬことはない。
…その代わり、名瀬の魔導力によって此処に生かされる高岡は
エネルギー供給がなければいずれ死んでしまう。
彼の蓄えた感情…【魔導力】が底をついた時、ついに高岡には正真正銘の死が訪れることとなる。
从 ∀从
从 ∀从 "
从 ゚∀从
名瀬は此処では星となり神となる。
アサウスルという一生物が、王として君臨するのはそういう意味だ。
-
《瞳孔からは闇を》
从 ゚∀从σ 「…あのさ、あれは、なに?」
前方…真下…、それとも真上。
彼女の視界の範疇で毒々しい紫霧が現れていた。
つい先程まで、無かったはずなのに。
∫[か…がみ]∫
从;゚∀从 「!! …あれがっ?!」
彼女は慌てて駆け寄るも思わず気が逸り、少しだけつまづいた。
[かがみ]と呼ばれる――しかし目の前のそれは気体の集合体だった。
額縁はもちろん鏡面なども当然見当たらない。
高岡の知る一般的な鏡とは趣が異なる。
それでもしばらくの間、目を奪われていた。
从 ゚∀从 「…」
評議会…つまりは人類が最後に求めた、切り札であり元凶。
海底にあるべきもの。 …海底にて求めようとしたもの。
よくみると、[かがみ]はほのかに光る粒子を散らせている。
まるで動くものに反応し舞いあがる、密室に射しこむ光に生きるの塵のように。
「……これが、そうなんだな」
-
《硝子体は大地を》
川 ゚ -゚) 「もっとこう、物体的な感じを想像していたんだが」
从∀゚ 从 「クー…
Σ 从∀゚;从 って、ドクオ?!」
振り向いた先には友がいた。
その足元にも、鬱田が転がっている。
……上半身だけの、残酷な姿ではあるが。
( A )
川゚- ゚ ) 「息はある。
…なにかを探してるみたいに、さっきからずっとこんな調子だよ」
鬱田は焦点の合わない虚ろな瞳で、素直へと顔を向けて呆けている。
意識を感じさせる所以は片腕を不自然に伸ばす指先が、
微々しくも何かを掴もうとするような動きを見せていたせいだ。
川 ゚ -゚) 「それより。
これに飛び込むはずだったのか、私たちは」
∫も…う、……ぃ∫
川 ゚ -゚) 「?」
∫原初の…望…は……届い…た∫
( A )
∫あと……実行…るの…み∫
-
しえ
-
《水晶体は海を産んだ》
脳裏に漂う音の正体が名瀬であることを素直も理解している。
…高岡にそうしたのと同様、名瀬は各自の【魂】へと個別に語りかけていた。
「クー…、ハイン…?」
後ろを振り向く二人は、それが伊出の声であるとすぐに気が付いた。
伊出もまた皆をみて安堵に顔を緩ませる…。
だがそれも次の瞬間には脆く崩れさる。
川 ゚ -゚) 「ツン、無事か」
ξ;゚⊿゚)ξ 「ドクオもいるのね。
ねえ、ブーンは…どこかで見なかった??」
从 ゚∀从 「…えっ…」
内藤の腕と共にアサウルスに飲み込まれた彼女の手の中には、なにも残っていない。
半死体の鬱田ですらここにいる。
ならば動けず、空間のどこかで助けを求めているのかもしれない。
川 ゚ -゚) 「すまない、私は見かけてない」
从 ゚∀从 「俺も…」
ξ;゚⊿゚)ξ 「居ないのよ……どこにも」
从 ゚∀从 「センセー、知らない?」
从 ゚∀从
从 ゚∀从 「……センセー?」
このとき――いくら高岡が呼び掛けても応えは響かなかった。
どんなに目を凝らしても、名瀬の面影を見付けることは叶わなかった。
空間の主たる名瀬。
彼ならば判らぬはずもないという希望。
三人のなかでそれが徐々に薄らいでいく。
-
《世界は神の眼球として生まれ変わり、》
人は迷い、問い掛け、答えを得ることで一縷の安定を築き上げる。
……必ず答えが得られるものだという、根拠のない奇跡的前提の元に。
だが突き付けられる、闇。
从;゚∀从 「…」
川 ゚ -゚) 「……あまり猶予はない、かもしれないな」
ξ;゚⊿゚)ξ 「先生の力が足りていないってこと…?」
空間の維持、そして行動には、主たる名瀬にエネルギーがなくてはならない。
名瀬からの供給を途絶えさせないためには、
此処や、【かがみ】を通して、常に感情を届けなくてはならない。
川 ゚ -゚) 从∀゚ 从 「……ツン」
内藤だけがここにいない――ともすれば、伊出には困難な条件かもしれない。
魂さえあれば、名瀬によってこの空間にて生かされるはずだった。
元より瀕死の鬱田がいまなお死なないのはそういう仕組みだ。
ならば――内藤はどうなってしまった?
三人が同じ結論に達し、慌てて否定する材料を捜している。
一度失ったかと思えば己だけが生き永らえ、
なおも奈落でじっくりと、喪失を噛み締めろとでもいうのか。
高岡からすれば、内藤を名瀬に置き換えるだけで想像に容易い。
"从∀゚ 从 (( 川 ゚ -゚)
ξ ⊿ )ξ
どこも一緒だ……元の世界も、此処も。
誰かにとってありふれた一寸先の没未来となることもあれば、
誰かにとっては一握りのチャンスへと姿を変えることもある。
-
《また神の瞼の下に埋め直された》
从 ゚∀从 「クー?」
(゚- ゚ 川 「私が先に行こう」
淀みのない歩みと、歪みのない声で素直はそう言った。
[かがみ]の前に立ち、長く美しい黒髪が一度だけ伸縮する。
顎を上げ、何もない宙をふと仰いだのだと、二人には分かった。
川 - ) 「――――」
从;゚∀从つ 「クー!」
だが素直の足は二度と止まらなかった。
友に背を向けたまま唇を動して…
後ろ手を軽く振ると、そのまま[かがみ]という靄に飛び込んでいった。
从;゚∀从つ
ξ ⊿ )ξ
( A )
素直は評議会で与えられた【現】の意味を、彼女なりにずっと考えていた。
いま出来ることは、いまにしか出来ない。
昨日の自分には不可能で、明日の自分にも不可能かもしれない。
だから "いま" なのだ。
…それは同時に、最も移ろいやすく愚かな決断にもなる諸刃。
かつては過去の自分が吐いてしまった不謹慎な言葉の尻拭い。
これからの名瀬の空間…そして[かがみ]の効力。
薄氷の上を歩く選択肢しかない彼女は、それでも悦び尖兵として役目を請け負ってみせた。
「これが役割というものなんだろう。
…ならせめて私は、自分で求めて、自分で何者かになりたい」
-
《神の体温を得たことで》
靄に消えたその言葉は、高岡たちに届いただろうか?
从 ゚∀从 「…あ」
すると余韻なく、[かがみ]に異変が起こりはじめた。
みるみると靄の濃度が色を強くしていく。
確かな指先で瞼をこすった高岡の細い腕が、うつ向く伊出の肩にぶつかった。
共有した視線の先では、次第に闇に同化せんと集圧する紫煙。
目を凝らせば内側へ、内側へと捻られるベクトルを感じ取れる。
ぎゅ
る
り ぎ
る
ゅ
ぅ。
――寄せては返す、圧しては膨れる。
うねり蠢く[かがみ]の不定形さから、悪意といえるものは発されていない。
むしろ高岡の胸中に呼び起されたのは――
(▼・ェ・▼) (∪^ω^∪)
…名瀬の部屋に置いた二体を造るとき、内を覗けばこうして綿を詰めていたのだろう。
『ねぇねぇこれ、ブーンに似てない? ……ツンが見たら欲しがるかなあ』
『…どうだろうか』
…その日、隣で眺めていた名瀬の戸惑いも、今ではもうずっと昔のことのように思える。
まもなく四方に噴き出し、具現する一枚の大鏡。
あれほどあった靄が、大人しく鏡面の周囲で額縁の役目を引き受けた。
∫素直…現……彼女ガイれば…∫
∫過去…未来も、形にナル∫
-
《世界には暖かみが生まれた》
この[かがみ]の変質は【秩序】のカタチ。
不確かなものに対する畏怖の性質を、素直が払拭した。
ξ゚⊿゚)ξ 「名瀬先生、内藤は…」
取り戻された名瀬の声。
たとえ一時的な回復だとしても、力を得たのは間違いない――だが、
∫さあ未来…を創レ、伊出∫
ξ゚⊿゚)ξ 「…」
∫未来は…ダイ…ョ……かラ∫
感情を自らの内に留めていない名瀬は、
もはや呟き続けるだけの自動システムになりつつある。
ズリュ…
ズリュ……
――しかしシステムであれば…人が創り、人の力でコントロールできる理論も存在する。
ズリュ・・・
(( (; A )
奇怪な音に振り向く高岡が目に捉えたのは、呆けていたはずの鬱田だった。
不可視の床に散らばる肉片が、彼の足跡を痛々しく赤黒く染めていく。
ズ リ ュ ・ ・ ・ 。
(( (; A )
从; ゚∀从 「おい、ドクオ!」
死を望み、命乞いをした弱者。
なんとも無様に這っている。
その身を千切りながらも腕を交互に突き出し、
闇とまぐわうその姿は不死の申し子に相応しい。
-
《だが神もまた真っ暗闇の中にいる》
ズ...
( A )
ξ;゚⊿゚)ξ 「貴方も行くの? ブーンも…まだ来てないのよ?」
「…………、関係ねぇ」 ( A )
一瞬だけ止めた身体を再び這わす。
死の間際に霞む鬱田の声が、ここではよく通った。
「俺は… 俺のために生きて」 ( A )
从 ゚∀从
「俺のために、死にてぇんだけだ」 (( ( A
そう言い遺し、鬱田は身をよじりながら[かがみ]をくぐっていった。
ξ゚⊿゚)ξ 「…… ドクオ…」
目の前の[かがみ]に、先のような変化は訪れない。
そのせいではないとしても、
二人は鬱田という人物に、どこか諦めにも似た想いをひととき抱く。
昔からそうだったようで、もっとも理解しがたい友だったのかもしれない。
唯一、内藤だけは彼を認めていた気がする。
…だがしかし素直の時とは異なり。
彼がもたらすのは人の心――いやそれどころか
もっと根本的な。
"命" に関わるファクターであることを、彼女たちが思い知らされるのは今ではない。
-
《神が目を開ければ夜になり…》
从 ゚∀从
ξ゚⊿゚)ξ
∫次は、どっチ∫
…顔を見合わせる二人は動かない。
伊出には内藤を求める願望があり、
高岡には誰にも伝えていない企みがあった。
『行かないなら、お先に失礼するよ』
从∀゚;从 「?!」ξ;゚⊿゚)ξ
『そのためにずっとあそこで待っていたんだからね』
直に届いたようにも聴こえ、にも拘わらず浮世離れした響きが辺りを走る。
伊出が振り向き確かめるよりも早く煌めいた光の風が、
二人の背を撫でて[かがみ]に吸い込まれていく。
∫君か、よクぞここマデ∫
『貴方が恐かっただけだよ…でもそれももう終わりみたいだ』
かつて自殺を図ったはずの感情の持ち主を、名瀬は感嘆を示し迎え入れた。
…高岡には、なぜかそう感じた。
つり上げた眉に印象深い、ぶっきらぼうな顔が目に浮かぶ。
ξ;゚⊿゚)ξ 「――その声、ひょっとして」
『予想と現実はこうも違う。
…やり直すっていうのも、まんざら悪い気分じゃないね』
『それと気を付けて。
ここにはもう一匹いる、迫ってきている…。
くれぐれも、名瀬先生の足手まといになったらいけないよ』
-
《目を閉じれば朝になる》
ξ゚⊿゚)ξ 「シャキン…」
从;゚∀从 「あいつ、腐海のなかで……」
簡単な話ではない。 …有史前例もない。
アーカイブに載らなかった彼の魂の行方と結末は、
評議会の誰がいても、過去のどんな研究学者も、
理解の範疇を越えた出来事だとして頭を破裂させかねないほどに。
事ここに至り、彼がおこなったのは史上初の不屈の体現といえる。
――しかしそれを奇跡と呼ばず、
わざわざ解明科学に傾倒する無粋な真似は、彼女たちがやらなくても良い。
∫魔導力には…その力があル∫
∫畏れルナ。 いまナら私がいル∫
ξ;゚⊿゚)ξ
人のもつ創造の可能性を有らん限り膨らませるのも、魔導力というものだ。
ξ゚⊿゚)ξ
从 ゚∀从 「…ツン」
ξ゚⊿゚)ξ
ξ゚⊿ )ξ
从 ゚∀从 「ツン…!」
ξ ⊿ )ξ
(推奨BGM:A Return, Indeed... (piano version))
https://www.youtube.com/watch?v=WnKGdqolFhA
-
《……それでも神は続けた》
「…いまは怖くても、いまは一人でも……
私は、最後にブーンがいてくれさえすれば大丈夫」
「そのための世界を創るなら、歩んでみる。
もしも…ブーンが後で追い付いたら…よろしくね、ハイン」
迷いを振り切るように走り、続いて彼女も[かがみ]へと飛び込み消えた。
从 ゚∀从
評議会に未来を託された伊出は、これから何を創るのだろう…。
高岡の知る限り初めて、伊出は内藤と離れて大きな行動をすることになる。
ともかく彼女も、此処から旅立った…まるでなにかに急かされるように。
从 ゚∀从 「…………ツン…」
从 ゚∀从 「…シャキン、ドクオ……」
从 -∀从 「クー…… …ブーン、皆……」
一人を除いて、ついに高岡は友を全員見送った。
[かがみ]の向こう側で果たしてなにが起こるのか。
まだ、それは誰にもわからない。
∫…はやく…、まもなく奴が来る∫
[かがみ]へのエネルギーは主に名瀬が得る。
…だが、アサウルスもまたその特性として感情を察し、餌を求めてやってくる。
――名瀬という、巨大な餌を目掛けて。
忘れてはならない。 アサウルスは餓えで死なない。
これから此処は、遅かれ早かれ名瀬とアサウルスの戦場となる。
だからこそ、残りわずかな自我を振り絞り、心配そうな色で高岡の意識に語りかけた。
-
《力の限り、》
从 -∀从
从 ゚∀从
「お願いがあるんだけど」
…高岡が切り出す。
沈黙で続きを促す名瀬。
「アタシは…此処にいたい」
沈黙で、戸惑いを表す名瀬。
「感情はセンセーにもずっと必要なんでしょ?
皆と一緒に[かがみ]に入ることも考えたけど…」
「なるべく、なるべくさ、 …近くにいたいんだ」
沈黙で、否定する名瀬。
「お腹のなかにも居るんだよ…。
センセーとしか、あんなことしてないから間違いはないし」
沈黙で――驚愕を示す名瀬。
「子供の頃のアタシなら、単に誰かと笑って過ごせたらそれだけで満足だった。
…でも、でもさ…一度 "それ" を知っちゃったから……」
「好きな人と、時間と場所を一緒にする嬉しさ…。
格別で、とろけそうで、なにものにも代えがたいこの気持ちを」
-
《愛しきヒトのために、》
高岡は、無意識に両手を腹部に添える。
いや、もはや抱えている…といったほうが正しいか。
さっきまでは鼓動を感じる程度だったにも拘わらず、今では……。
∫…妊娠していた、のか∫
――常識はずれの成長速度。
人の時代に名瀬と呼ばれたアサウルス…その彼の創り出した空間。
感情を先走らせ、時間の概念すらまだ持たない此処では成り立ってしまう奇跡。
そもそもが、桁外れの願望を彼女が抱いているために。
「産みたいんだ…センセーとの子供。
ブーンのことも…ツンと約束したし」
「シャキンはどんな風になってでも、最後にはちゃんと生きてた。
ドクオだって、あんなになってもまだ生きてたんだ…」
∫…∫
「クーは、…大丈夫かなぁ。
ああ見えてアイツ、その場の雰囲気に流されやすいところがあるから……心配になる」
∫……此処では子は産めない。
その代わりに――∫
独白する高岡を置いて、名瀬はその力を少しだけ使用した。
愛しき彼女のためだけに。
アサウルスの危険性から我が子を護るためだけに。
「……そっか」
「…………うん、ありがと、センセー」
-
《次の時代を創生するために、》
闇に覆われた世界で。
生まれたての小さな小さな魂が、
ふわりと胎内から漂い浮かぶ。
へその緒を連想させる、輝き繋いだ光の糸も、
母から離れ、[かがみ]に到達する頃、
やがては静寂の離別に運命を委ねる…。
高岡は自分に良く似た、
その金色の髪の毛を
最後に瞳へと焼き付けた。
-
《帰ってきてね、と身勝手な願いを込めて》
゚∋゚
∵
从∀゚ 从
高岡が名瀬を庇い、
アサウルスが高岡を喰らい、
名瀬は高岡を再生する。
永劫続くかと思わせる摂理の輪が、こうして此処に構築された。
-
「……ごめんよ、アタシの赤ちゃん。
――ごめんね、まだちゃんと母親になってあげられなくて」
∫見守っている、必ず∫
「うん…、いつか二人で逢いにいくんだ。
いまは此処でセンセーを助けないと」
∫新しい世界は、私が護るよ∫
「だからそれまで、どうか…どうか……」
《みんなと同じ世界で、
無事に、生きていて》
(了)
-
--------------------------------------------------
※千年の夢 年表※
--------------------------------------------------
終末年 ***********
【いつか帰る場所】 ☆was added!
→グランドスタッフ倒壊。[かがみ]への突入。 ☆was added!
創世-1000年 ***********
-900年 ***********
→信仰の概念がうまれる
( ∵)は偶像生命体として同時に生誕。
-400年 ***********
→結婚(結魂)制度のはじまり
-350年 ***********
【ふたごじま】
→魔導力の蔓延
-312年 ***********
【銷魂流虫アサウルス (´・ω・`)幼年期】
→ "隕鉄" が世界に初めて存在しはじめる
【東方不死 〜山人の夢〜】
→('A`) がアサウルス(a)と相討ち
-220年 ***********
【銷魂流虫アサウルス (´・ω・`)青年期】
【傷痕留蟲アサウルス】
→アサウルス(c)撃破
→騎兵槍と黒い槍(アサウルスb)が融合
→('A`) がアサウルス(a)から解放
-
-210年 ***********
→大陸内戦争勃発。
【帰ってきてね ミ,,゚Д゚彡幼年期】
-200年 ***********
【帰ってきてね ミ,,゚Д゚彡青年期】
【死して屍拾うもの】
【夢うつつのかがみ "赤い森の惨劇" 】
→結魂によって二代目( ´∀`)生誕
→アサウルス(b)復活
→ミ,,゚Д゚彡は【ウラミド】に巻き込まれてアサウルス(b)もろとも氷漬けに
-195年 ***********
→大陸内戦争終了。
【はじめてのデザート】
-190年 ***********
【その価値を決めるのは貴方】
-180年 ***********
【老女の願い 復興活動スタート】
-150年 ***********
【老女の願い 荒れ地に集落が出来る】
→川 ゚ -゚) が二代目( ´∀`)に指輪依頼の時期。
-140年 ***********
【老女の願い 老女は間もなく死亡】
→指輪の暴走時期。 川 ゚ -゚) が湖に封印
-
-130年 ***********
【人形達のパレード】
【此処路にある】
→(´・ω・`)( ゚∀゚)川 ゚ -゚) の三人が集結
→二代目( ´∀`)死亡時期
【夢うつつのかがみ 水の都】
【東方不死 湖から( <●><●>)引き揚げ】
-120年代 ***********
【矛盾の命】
→ξ゚⊿゚)ξが石化(?)
【東方不死】
【白い壁 黒い隔たり】
→ウォール高原の国法制度が崩壊
-100年代 ***********
【繋がれた自由】
【遺されたもの】
【時の放浪者】
→ミ,,゚Д゚彡( <●><●>)( ゚∀゚)川 ゚ -゚)が同じ場所にいる
( ´∀`)は四代目。
-40年代 ***********
【老女の願い 集落は町として発展】
00年代 ***********
【老女の願い】
→( ^ω^)がプギャーとギコに再会
-
投下中の支援、ありがとうございました
これだけのラストに間が空いてしまって大変申し訳ないです
(´・ω・`)ω・´): 傷痕留蟲アサウルス >>6
('A`) :東方不死 >>170
( ^ω^) :白い壁 黒い隔たり >>329
(´・ω・`) :夢うつつのかがみ >>438
从 ゚∀从 :いつか帰る場所 >>662
-
■誤字脱字について
>>836のアサウルス表記の一部が
アサウスル、になっていますが誤りです…すみません。
>>845のドクオの発言の一部は誤字ではなく、呂律が回っていないものと考えていただければ幸いです
-
乙
今回の話のタイトルは>>670では「いつか帰る場所で」だったけど「いつか帰る場所」とどっちが正しいんだろう
>>831のアサウルス体内、感させる、>>837の生きるの塵、>>838の「息はある〜」の部分のクーの顔、>>841の没未来の部分もミスかな、仕様ともとれる所もあるけど
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おつ・・・ハイン・・・
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>>859
いつもありがとうございます
もはや自分で何度見返していても、誤字脱字が無くなってくれません
なにか良い手があればいいのですが…
タイトル→「いつか帰る場所で」が○
>>831
アサウルス体内→誤字ではない
感させる→感じさせる、が○
>>837
生きるの塵→生きる塵
>>838
「息はある〜」の部分のクーの顔→仕様
>>841
没未来→誤字ではない
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こども気になるな
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乙!
おつむの弱い俺は簡単な解説が欲しい…笑
ハインに似た子供って出てきたっけ?
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ミ,,゚Д゚彡金色の髪の毛の描写があった人物を思い出すんだ……!
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乙!
あ〜〜なるほどね!能面とか帰ってきてねで繋がりがあるのか
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∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
メモリ残量が不足しています。
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
-
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
次の夢を見るためのメモリ(レス数)が足りません。
空き容量のあるスレッドを立てるまで、しばらくお待ちください……。
――option画面に移行します。
番号(記号)を選択することでデータベースにアクセスできます。
Tips表示には時間がかかる場合があります。
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
-
Tips ― キャラクター頁
※未登場キャラクターおよび、現時点で未解放のエピソードは【???】で伏せられているため選択できない
1■( ^ω^):???
2■ξ゚⊿゚)ξ:???
3■川 ゚ -゚):???
4■('A`) :白い花 _
5■( <●><●>) & ( ゚∀゚):呪術の種類
6■(´・ω・`) :初代モナーとの約束
7■ミ,,゚Д゚彡 :???
8■( ´∀`):???
9■(`・ω・´) :自殺の理由
10■从 ゚∀从 :夢
11■( ∵) :???
12□???:???
13■( ゚д゚ ) :ナナシとの生活
14■(#゚;;-゚) :大陸戦争に馳せる想い
15■ノパ⊿゚) :毒の効かない体質
16■lw´‐ _‐ノv :???
17■ハハ ロ -ロ)ハ :みなしごの鎮魂歌
18□???:???
19□???:???
20■イ从゚ ー゚ノi、 :きつねの正体
21■爪'ー`) & 爪゚A゚) & 瓜゚∀゚) & 爪゚ー゚) :賢者の忠誠
22■('、`*川 & (゚、゚トソン :視線の先に
23■( ><) & (*‘ω‘ *):宿に込めた願い
24■( ^ν^):越えられない壁
25□???:???
26■(・∀ ・) & (-_-):傭兵という立場
27■(*゚ー゚) & (*゚∀゚) :待ち続けて…
28■(,,゚Д゚) &( ^Д^) :???
29□???:???
30■(・(エ)・) :???
31■( ,'3 ) :価値
32■( `ハ´):戦士の生涯
33■(-@∀@):コンプレックスの塊
34■<ヽ`∀´> :風水の仕組み
35■( ・∀・):???
36■('(゚∀゚∩ :わんわんお
37□???:???
38■( ФωФ):変えられないもの
39■( ´_ゝ`):変えられるもの
40■(´<_` ):海に見た雪景色
41■ζ(゚ー゚*ζ & ミセ*゚ー゚)リ :双子の確執
42■(‘_L’) :虐げられしもの
43■/ ゚、。 / & *(‘‘)* :???
44■|(●), 、(●)、| :虐げしもの
45□???:???
-
Tips ― 用語頁
※未表示のものでもフリーワード入力で追加される(上限アリ)
A■銷魂流虫 & 傷痕留蟲
B■AAキャラの顔表示
C■アサウルス(ASA-URUS)
D■魔法の種類、属性の強弱
E■リング
F■GC(ガードコンディション)
G■魔導力
H■[かがみ]
I■[かがみ]の贄、つがい、壁
J■終末年の人々
-
とりあえず24でおねしゃす
複数選択アリなら5、41も追加で
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B!
-
>>868
4、9、15、23が見たい
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24,38,39,40おなしゃす
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4 6 15 が気になる
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27とHが気になります
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15か41でおなしゃす
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now loading......
-
■24 - 越えられない壁 -
( ^ν^)「まだかよ、とーちゃん」
ウォール高原から南に程遠くなく。
イプシロン山脈と呼ばれる細長い山地がある。
尾根は大陸文化を分断するほどに高い。
さらに大陸中央を縦に割っている河と相まって、
入り組んだ複雑な地形を構築している。
( ^ω^)「もう少しで着くはずだと思うお」
( ^ν^)「なあ…なんでいちいちあんな余計なことしたんだ?」
(;^ω^)「余計って… 荷運びしてるだけだお?」
荷物には依頼主の心が一緒に包まれているという言葉を思い出す。
( ^ν^)( 運ぶよりも気を遣ってたよな、明らかに )
…誰に渡すのか、何を渡すのか。
…どんな気持ちなのか、何を伝えたいのか。
今回ニューが同席して判ったのは、
ブーンは依頼主からそれを訊き出すのが得意だということだ。
-
当時まだ魔導力もなく、【破壊】の概念も持たぬブーン。
相手からしてみれば見ず知らずの人物に大切なものを預ける行為…。
猜疑はかけられて然るべきであろう。
だが父はそれを難なくクリアしてしまった。
( ^ω^)「待ち遠しくてウキウキしてるかもしれんお。
早く向かうお!」
( ^ν^)「……遅くなったのはとーちゃんのせいだろ」
息子であるニューの仕事も郵送屋だった。
だから、初対面の相手から信頼を得るのがどれだけ大変か…身に染みて理解している。
そして今回。
なんの変哲もない品物が運び手となるブーンの手によって、
文字通り手心を加えられていく一部始終をみた。
( ^ν^)「そのままのほうがいいと思うんだけどな」
――自分にはそこまで出来るだろうかと思わず考えてしまった。
父のように休みなく動くことが出来るわけではないが、
ニューもまたこの仕事を気に入っている。
喜びも、時に悲しみも運んでしまうとしても、決まって人々から礼を言われるのは悪くない。
…だからこそ。
ニューは品物を触らない。
これまではなにも訊かず、黙々と職務をこなすだけだった。
-
朝日を背負い、夕焼けを背負い、月夜を抱いては空の涙に目を覚ます。
…そんな一日を過ごしてようやく辿り着いた目的地。
地図にも載らない小さな町は谷風が強いものの、
比較的安定した気候を保っている。
稲穂と緑に囲まれて建ち並ぶ背の低い平屋は、
信者が山々に膝をついて崇めているかのようだった。
(;^ν^)「ねえ、マジでやるの…?」
「あたりまえだお! (^ω^ )
ニューも早くこっちに来るお!!」
「……、チッ」 (( (;^ν^)
「"それ" を忘れちゃだめだお!」
潜めつつも大きなブーンの声が耳を打つ。
ニューは隠れて深い溜め息をついた。
やがて送り先となる一軒の扉の前に立ち、準備する。
大の大人がゴソゴソとなにやら企んでいる様子は誰にも見られなかった。
…でなければ、カブに火を灯した時点で放火犯とでも間違えられかねない。
《 コ コ
ン、 ン… 》
室内へと響かせるノックの音。
…ニュー自身の胸にも似たような音が鳴り、それはどんどんと大きくなっていく。
聴こえていないはずなのに、
隣で父はクックッと笑っていた。
やがて扉が開くと…………
-
「うわぁっ――?!」
目線は下。
何者よりも早く驚きをあげた小さな小さな子供。
だがその瞳はすぐに細まり、口許には微笑を浮かべた。
( ★ω^)「お届け物ですおー☆」
( メΘνΘ)「……どうも」
仮面の下から覗かせる二者二様の表情。
ブーンはまず持っていたカブのかがり火を手渡すと、
次いで背負っていた布袋からは
星々を描いたひとつの箱を子供に差し出す。
( ★ω^)「遠く離れた、君のお父さんから。
炎は魔除け。
箱のなかにはこわーい魔物と戦うための武器が入っているお」
「お父さんから?! やったー、おばあちゃん、みてー!
お父さんからーー!!」
( メΘνΘ)「…早く開けるんだ、さもないと、俺が君を食べてしまうぞ」
嫌々ながらニューも役割を果たす。
フルフェイスの被り物は傷痕を目立たせて、死者を連想させる。
彼は悪霊として、子供に退治されなくてはならない。
家のなかでは笑みを携えた老婆がこちらを柔らかく眺めていた。
「オバケなんて、オバケなんてあっちいけ!」
箱から出てきたのは――樫の木で造られた玩具の杖。
振り回すだけで効果を発揮する、魔法のステッキだ。
-
( ★ω゚)「あばばばばば!」
「キャッキャッ!」
「……」 (ΘνΘ メ)
秋の収穫と、
つつがなき幸福の訪れを祈願して、
この家族にもたらされる福音の儀式。
「あばばばばばば!!」 (( ( ★ω゚)
「まてー!」
(メ ;ΘνΘ)「…真面目か」
死ぬこと叶わず、
地獄にも落ちることのできない悪霊のお伽噺を依頼主から訊いていたブーン。
それを偶像ではなく実在する存在として、自らを重ねていたのかは定かではない。
(メ ΘνΘ)
(メ ΘνΘ)「…まあいいや」
いくつになっても楽しそうな父親だと思った。
仕事も、家庭も、
真っ直ぐ向き合うその姿にニューは何を思うのだろう。
少なくともあんなおちゃらけた真似は出来そうもない。
…だがせめて、見知らぬ子供に優しく出来る程度の器量は見習いたいと彼は思う。
そのためにはもうしばらく、この父の背中を見ていることになりそうだ。
<了>
-
■5 - 呪術の種類 -
_
( ゚∀゚)と( <●><●>)では使用できる呪術に違いがある。
_
( ゚∀゚)の呪術
パワーデス→strengthを上昇させる
ドッジ→agilityを上昇させる
( <●><●>)の呪術
シャドウ << シャドラ→闇色の炎を具現する
ウィルス→病気状態にする
カース→呪う(効果は様々)
キール→毒素による抗体増進状態にする
その他の呪術
ドレイン→吸収(もしくは混在)する
プール<<プーラ→ダメージを身代わりする
共通点は、いずれにしても想いの強さがそのまま魔導力の強さになるという点。
作中のジョルジュの言葉を借りるならば「人の数だけ希望を持つ」かのように。
…希望が、必ずしも人に害を与えないとは限らないが。
_
( ゚∀゚)の呪術は森の民の善なる心が高まるにつれて青天井に効果が高まる。
逆に。
呪えば呪うほど( <●><●>)の呪術は本来の効果を越えて歪んでいく。
<了>
-
■41 - 双子の確執 -
ζ(゚ー゚*ζとミセ*゚ー゚)リ の二人が、
直接対話しているシーンが実はない。
あくまで第三者を挟むことで会話が成立する。
ふたごじまの双子には一つの特徴がある。
二人に限らず、
兄弟(姉妹)の性格は真逆になってしまう性質だった。
( ´_ゝ`)は島のしきたりに、なんとかして従うことができた。
(´<_` )は島のしきたりに、どうしても従うことができなかった。
そんな流石兄弟の場合、
ブーンとツンが島に現れたことで縁を結び直して和解できた。
デレとミセリの場合。
彼女たちは互いの信仰心こそが一番で、
それ以外は順位として蹴落とすべき存在と考えていた。
性的趣向すら理解できず、
また神官として位を上げることができないのは
相手がいるせいだと思い込むまでにこじれていた。
-
兄者とミセリの弔いが行われた時に、それぞれが涙を流すシーン。
( うωФ) 『彼はそう、我輩に説いてくれた… それで…良いのだろう?』
ζ(;ー;*ζ 『……ミセリは…どんな気持ちだったのでしょう』
(∩<_∩ )『…代わりにあんたが精一杯生きてやれ』
ロマネスクは、年老いた自分よりも若い命が失われたことに涙した。
年老いた自分にも、まだまだ知るべきことがあるのだと恥いた。
弟者はやっと和解した兄弟を失ってしまった悲しみに涙した。
一度は島を見捨てた自分に、兄者の分まで生きることを学んだ。
しかし、デレはちがう。
仲違いしたまま姉妹を失った自分に涙した。
失われた年月と、理解できぬミセリの心を知りたくて、
思わず弟者とロマネスクに問い掛けた。
自分では答えを見つけることはできなかった。
弟者はそれを察して、上記の答えを導いたに過ぎない。
性的趣向についても記述しておく。
ζ(゚ー゚*ζは、高齢者であればあるほど慈愛の精神を見せる。
ミセ*゚ー゚)リは、とりわけ幼い男子を愛した。
【ふたごじま】の話中でミセリが兄者に冷たかったり、
【銷魂流虫】においてショボンが襲われた際は真っ先に庇ったのもそのため。
デレはロマネスクに立場以上の想いを抱いていたが、
後のミセリの喪失感から弟者のアドバイスに従いついていくことで、
後年はなんとか自我を保っていた。
-
■B - AAキャラクターの顔の有無について -
作品内でAA顔が表示されている場合、生きる願望が強いことを表している。
子供は生への希望に満ち溢れていることが多く、
大人は人生の終着を見定める頃に願望がなくなってしまうことが多い。
(死にたい、という意味ではない)
レモナには顔表示が無く、
/ ゚、。 /と*(‘‘)*が顔表示あり。
西川や渡辺、鬱田の母親(カーチャン)が顔表示なし。
話中で変化した者もいる。
最後だけ顔をみせた(‘_L’)
最後にどうしても顔を見られなかった( ><)
――など。
-
■4 - 白い花 -
東方不死…山人の夢で、('A`)が童からもらった飴がある。
それが「白い花」…
白花と書いてハッカ飴と読む。
山人である('A`)は、これを受け取ったものの舐めずにとっておいた。
そしてアサウルスを退治し、
例の空間に閉じ込められ、
lw´‐ _‐ノvに拾われるまで、
飴には自然の塵が積もり積もって覆われてしまった。
――毒の懐で。
なお忍の里に伝わる "秘薬" とは、岩石と化したこの白花を指す。
>見た目はどちらかといえば綺麗な石…しかし、よく見ればその輝きは砂糖水を溶かしたような淀みが内部で蠢いている。
内部は飴なので上記のような中身がまだ残っていた。
(腐ってはいるが、ドクの願望によって存在は消えなかった)
ロスオデ原作でも『白い花』という夢の話がある。
<了>
-
失礼しました。
>>885と>>886の終わりに付けるべき↓
<了>
↑の記載が抜けていました
脳内変換をお願いします
-
あれ、渡辺ってどこで出てたっけ……?
-
>>889
なにげに>>696で、幼い从 ゚∀从が呼び掛けていたりします
彼女は高岡の母親でした
-
■9 - 自殺の理由 -
【いつか帰る場所で】において、
遺書をしたため魔導力の海に身を投げた(`・ω・´)
彼は産まれた頃からの記憶と、生まれつき備わる予知夢をもつ。
笑顔を向けてはいても感情のない人の群れ。
成長し、アーカイブを覗いたことでそれが
"哲学ゾンビ" と呼ばれる存在であることを知った。
幼い頃。
なにも知らない内藤たちにそれを伝えることも憚られ、
眠れば夢の中でアサウルス(主に名瀬)が現れる。
…将来出現する( ゚∋゚)もいたのだが、まだ彼には見分けがつかなかった。
毎日が苦痛の連続。
何年も続く孤独な地獄。
いつしか心を閉ざしかねないまでに追い詰められた彼は、
勇気をもって、友にこの世界の話を切り出した。
なぜこうなったのか。
どうして今こんな世界に居なければならないのかを。
……だが。
-
(` ω ´)
( ^ω^ )『あまり考えすぎないで、まずは僕たち六人がずっと一緒に楽しく過ごそうお』
――無駄だった。
人というものに対する考え方が、自分とはあまりに違う。
このとき友に理解して貰うことは不可能なのだと心の奥底で感じてしまった。
現実には友に否定され、
夢には世界の終末とアサウルスに心を追い込まれた結果、
彼は逃げ道としての自殺を決意する。
それでも。
死に直面して僅かにもっていた希望が、魔導力の海。
魔導力が感情の塊であり、歴史そのものが微睡んでいるのではないかと推測した彼は
足掻くように別の道を模索していたといえる。
『気が狂う前に試したい』
…それは最後の最後に、魔導力による生まれ変わりを信じていた彼の遺言。
『三度目の大嵐にまた』
…それは世界の最後に、何が起こっているのかを予知夢した彼の遺言だった。
[かがみ]の向こうの世界でまさに生まれ変わろうしていた彼の推測は正しかった。
…それがやっと現実になるまえに、ショボンに出逢わなければ。
<了>
-
■15 - 毒の効かない体質 -
忍の里で飾られていた秘薬のせいで、
忍たちは常人よりも毒への耐性がわずかだが上がっている。
(毒がまともに漏れているわけではないが、シューの話していた通り
そこにあるだけで空気中に微量、滲んでしまっていた)
ノパ⊿゚)はひょんなことから修行中に秘薬をみてからというもの、
毎日その毒素に惹かれ、覗き込んでいた。
特にシューが体調を崩しはじめてからは
いかにそれを持ち出すかばかり考えていたので、身近に秘薬のある時間が増えていった。
そのせいで彼女は他の忍びに比べて毒への耐性が人一倍、培われていくことになる。
とはいえ、
('A`)本人の撒き散らした高純度のポイズンに長時間耐えられるとは考えにくく、
あくまで常人、他の忍に比べて…でしかない。
<了>
-
■23 - 宿に込めた願い -
[po・od]という看板は、( ><)のために(*‘ω‘ *)が考案したもの。
上から読んでも下から読んでも(つまり左右対称に)同じ読み方にできる。
看板がどんな方向になっても、自分が居なくても、
目の見えない兄が困らないように作っていた。
読み方も[ぽっぽ]である。
――余談。
(*‘ω‘ *)の宿屋と、鉄道員(ぽっぽや)をかけた洒落でもある。
遠出の出来ない彼らが、未だ見ぬ土地に思いを馳せていたら…?
ゲーム原作では『ハンナの旅立ち』という宿屋の娘の夢の話がある。
-
今日はいったんここまで。
>>894でも<了>の記載が抜けていました
すみません
-
すげぇ全部来るとは…
またみたい…!おつ!
-
おつ
ずいぶん細かいとこまで考えてるんだな
練り込まれてて面白い
-
すっげーこまけぇのな
原作のゲームやってみたくなったわ
-
ほんと天才だわ…
もしまだ間に合うならフリーワード IとJ入力させてくれ!
-
まだ可能なら32,33,34のどれかを・・・!
-
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
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――option画面に移行しています。
番号(記号)を選択することでデータベースに順次アクセスしています。
フリーワード入力の場合はアルファベット指定と併せ、
希望する単語を入力してください。
表示までしばらくお待ちください。
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
��
-
っしゃきたぁ!
16,21、H,Jおなしゃす!
ってかA〜Jまで全部気になるわAAの顔のあるなしおもしろかったし
-
6.13.42.44オナシャス
-
I■[かがみ]の贄、つがい、壁
と
J■終末年の人々
を入力する!!
-
■38 - 変えられないもの -
特級神官の( ФωФ)
【ふたごじま】話中の "天かける儀式" での神託によって、
祈り、しいては信仰を否定されてしまった。
彼を含めた島の人々は存在そのものすら拒絶された負の感情を抱いてしまい、
結果としてそれがアサウルスの招来を許してしまう。
しかしこの舞台裏で、一点の相克が行われていた。
とあるワンシーンから抜粋する。
(´・ω・`) 『海中はどんなものがあるんだろう』
( ФωФ) 『これ、集中しなさい』
(´・ω・`) 『ねえ、なにがあるの?』
( ФωФ) 『うむ、魚がいるのは確かだが…
か ーー …人間は水に潜れない。
誰も海の中をきちんと見たことはないのである』
-
『か ―― …』
ロマネスクは言い淀み、悟られぬように誤魔化しはしたが…
本当はこう発言するつもりだった。
『神のみぞしるのである』。
…信仰は終わっていなかった。
島の人々のなかにも同じような者は確かに居たが、
特級神官として携わっていたロマネスクのなかでは秘めた想いが特に大きく在り続けた。
アサウルスは感情を餌にし、感情目掛けて襲ってくる。
感情値が強ければ強いほどアサウルスは感知しやすくなり、
それが負の感情であればあるほどアサウルスという個体は強くなる仕組みだ。
御神体としての( ∵)が行った警告は
あくまでアサウルスの招来を防ぐためのものだった(終末年における人々のように無感情を求めた)が、
ふたごじまの民に蔓延した否定感の強さはビコーズの予想になかったといえよう。
アサウルスはこれによって一定の強さを手に入れるも、
ロマネスクを筆頭に、心の底からの純粋な祈りによって不完全な状態で降臨する。
その姿が "黒い槍" のアサウルスであり、
兄者とショボンを貫いた正体となっている。
<了>
-
■39 - 変えられるもの -
( ´_ゝ`)はかつて信仰教団としての責務は果たしつつ、
しかし ミセ*゚ー゚)リやζ(゚ー゚*ζ、
その他の信者による行き過ぎた勧誘を、それとなく止めるよう努めていた。
【ふたごじま】話中に記述された用語を紐解くとこうなる。
破折屈伏(はしゃくくっぷく)とは、いわゆる折伏を指す。
人をいったん議論などによって破り、自己の誤りを悟らせること。
摂受(しょうじゅ)は、
心を寛大にして相手やその間違いを即座に否定せず反発せず受け入れ、
穏やかに説得することをいう。
ミセリとデレは前者ばかりに気をとられていた。
兄者によって日頃から後者の心を説かれてはいたものの、
結局最後まで改善することはなかった。
とどのつまり、兄者は組織には馴染めても島の信仰に染まっていなかった。
そんな彼だからこそ、いの一番に価値観を変化させることができたのだろう。
-
ふたごじまの信仰は以下の特徴がある。
・御神体(ビコーズ)を奉っていた。
・神、および天使や神の使いの存在を肯定していた。
・信者はみんな灰黒色の木札を持っていた。
…典型的な偶像崇拝。
崇めるべきは神であり、心のない依り代を用意してまで
"見えないものを、目に見える" まで追い求める。
突き詰めてそれは
"神を信じる" のではなく、
"神を信じている自分を盲信しているだけ" だと弟者は思った。
だから弟者は耐えきれず、追放に至る。
兄者は違う。
"神を信じる" ということは、
"同じものを信じる仲間も信じられるはず" なのだと、
信仰の先にある対人感情を求めていた。
-
天かける儀式から数年…。
大空洞の兄者の元に、かつての信者として以後毎日を過ごす沢山の迷い人が訪れていた。
『あれから夜も眠れません…。
陽が昇れば思えます、新しい朝が来た、と』
『…夜の帳がおりるたびに気持ちが塞ぐんです。
もう二度とあの日には戻れないのだ、と』
『自分には何もないことを思い知ったよ。
見続けていたのは幻で、身に付いたのは身体の贅肉ばかりじゃて…』
『こんなことなら、ああしておけば良かった…こうしていたなら……
そんな思いばかりが募るのよ、ねえ』
異口同音に語られる不安。
ロマネスクですら、時に口をついて溢すことがあった。
( ФωФ)『…我々の信仰とは、一体なんだったのだろうか』
( ´_ゝ`)『皆も、きっとおなじ気持ちなのでしょうね』
そこで彼はまず話を訊き、肯定し、相手の言葉を促す。
――摂受。
そうすることではじめて、人はこちらの言葉を求める時が来る。
彼は言葉を結ぶ。
――折伏。
( ´_ゝ`)『……しかし輝く過去も、薄暗い未来も、すべては貴方の心が作り出した執着でしかない。
貴方を否定しているのは、他ならぬ貴方自身です。
誰一人として貴方を否定していない』
( ФωФ)『…』
( ´_ゝ`)『好きだった頃の貴方はもう居ないことを認めましょう。
そうすれば、きっと誰かが助けてくれる。
…たとえばそう、昨日はじめて出逢った人が縁を結ぶこともあります』
-
いつか見たやり取りを、ここにもう一度記述しておこう。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ξ゚⊿゚)ξ「…儀式、結局はどう思ったの?」
( ´_ゝ`)
つ□~ 「…変わらんさ。 変われないよ」
無反応ではないが、やはり気落ちしているせいですべてを諦めたように彼は呟く。
( ^ω^)「神はまだ、兄者の中にいるかお?」
( ´_ゝ`)
つ□~ 「……どうなんだろうな」
( ^ω^)「……」
( ´_ゝ`)「…でももしかしたら、俺はもう町に居ても仕方ないかもしれないな」
そう言って彼は顔を伏せ、膝を折ってしゃがみこみ、祈るように少しだけ涙を流す。
それは海へ向けて…
かつて自分が追放した、もう会うことのできない弟へ向けて…
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ここで兄者が流した涙は、失われた島の信仰に対するものではない。
人の心と向き合わなかった島民と己の末路に涙したのだ。
きちんと向き合えていたなら、
弱った彼らは互いを慰められるはずなのだから。
-
そしてもうひとつ。
兄者の葬儀でロマネスクはこう語った。
( ФωФ) 『肉体は朽ちても、魂がいく場所は我らの記憶の中なのだ』
( うωФ) 『彼はそう、我輩に説いてくれた… それで…良いのだろう?』
後年の兄者の生活は、時に挫けることもあれど、きっと充実していたのではないかと思う。
人は人と居ることで向き合う準備を整える。
人は人と触れ合うことで向き合える。
ふたごじまから三日月島へと名を変えたこと…。
それを物語る一端に、兄者を筆頭とする
"変われた者" たちが確かに居た。
世に蔓延る信仰を否定こそしないが、ないがしろにしてはいけないものも必ずあるはずだ。
遺されるものを考えて祈るべし。
本質として何が大切かを考えるきっかけになるだろう。
――願わくば、
死の間際に空っぽな記憶だけが灯び甦らないことを切に願う。
変われるものは救われる。
<了>
-
now loading......
-
■40 - 海に見た雪景色 -
"(´<_` )「よっ――こいせっ…と」
すっかり愛着のわいた小舟に荷を詰め込んで、弟者は背を伸ばした。
天に煌めく星々が彼の瞳を潤す。
ひんやりした空気が鼻孔を触る。
いま彼は一人、陸に面した低い崖下でたゆたう舟に揺られている。
月に照らされた海面がわずかながら彼という存在を知らせてはいるが、
それを知っているのは依頼人だけだった。
(´<_` )「重量オーケー、スペース問題なし。
…あとは到着を待つばかりだな」
今日の客は若い ――といっても同世代頃と思われるが―― 一組の男女。
まとめた荷物をひとまず弟者に預け、当人らは日没から夜明けまでに改めて来るという。
曖昧な指定時刻ではあるものの別段心配はしていなかった。
言い方は悪いが、人質ならぬ物質がこちらにはある。
金銭も共に受け取っているため、いざとなれば換金させてもらえばいい。
あまり考えたくはない待ち伏せという線も、自分が海にいれば逃げる自信もあった。
-
(´<_` )「…」
(´<_` )
(`<_,` )"
゚。('<. ` )「――えっくし!!」
息を吐き、ぶるるっと震えた身体を思わずさする。
防寒具として厚手の首巻きと手袋を装備してはいるがそれでも尚。
(´<_`;)「……この辺りは冷えるな」
大陸には二季がある。
空の彼方…太陽がもっとも放熱する夏と、その放熱が静まる秋。
しかしそんな秋の気候にしても、これほどの寒気を感じることは滅多にない。
ふと見上げた先に聳える大きな頂き。
ちりちりと宙に降り注ぐパウダースノウ。
天に近いほど色濃く主張し、しかし地に降り立つ頃にはかき消えてしまう儚い命。
(´<_` )「……まだかなぁ」
――アイスキャニオン。
それは古来より形成されし氷の山が鎮座する雪原地帯。
彼は棚氷の片隅に舟を止めて、いまか、いまかと依頼人を待っている。
-
大陸北西に位置するこの地域は気温だけでなく、風景も寒々しさを感じさせる。
草木の生えにくい土… 氷壁に覆われた獣道。
この山を登るための路は存在するのだろうか…。
背が高く分厚い氷が邪魔をして、なまじ歩くことも砕くこともできそうにない。
猛り吹くすきま風は迷路の入り口を連想させつつ、
その奥を見通すことすら許しはしない天然の要塞を思わせた。
(´<_` )「ワケアリ…駆け落ち… うーん、そんなところか?
暇をもて余し、なんとなく依頼人を思い起こす弟者。
悲壮感漂う雰囲気でもなかったが、どこか神妙な面持ちを残していった印象がある。
(´<_`;)「…あーくそ、ますます寒くなってきたぞ」
夜が深まってきた……。
波に濡れた舟には少しずつ氷霜が張り付きだす。
強くなる身体の揺れ。
それが冷気に凍える自分自身のせいだけではないと、
気付かされるまでそれほど時間はかからなかった。
《ド
::(´ : 》
「ぅお?!」 <_`;): ォン
――直後、吹雪空を衝く爆発音。
真横に噴き出す大量の雪土が彼方向こうへ飛んでいく。
(´<_`;)「おいおいおい…なんだよ、何が起き ――――」
-
凄まじい震動がここまで轟き伝わった。
方角は違ったものの雪崩が押し寄せる可能性を考え、
弟者はオールに手をかけた。
いつでも舟を動かせる心構えをもちながら空を仰ぐ。
(´<_`;)「…………」
…。
しかし閑静に時は流れる。
弟者がいくら待っても、
アイスキャニオンの動きは続くことなく、それきり日常を取り戻していた。
余韻としての粉雪が彼の頭をほんの少しだけ撫でていくだけ。
そんな固まった体勢のまま一時間が経とうとしている。
(´<_`;)( …早めに離れたいところだな、これは )
「待たせてしまってごめんなさい」
その時かけられた声は最後に聴いた音と同じだった。
視界の外から投げられる不意打ちの穏やかさ…。
先の爆発と比べての落差に、一瞬でも心身を強張らせてしまった己を自嘲する。
(´<_`;)「えっ――あ、ぁあ…あんたか」
ξ゚⊿゚)ξ 「約束通り残っていてくれて凄く助かるわ、ありがとう」
-
ツンは崖上まで来ると、片手でスカートの前を抑えながら舟へと飛び乗った。
カクッと揺れる足元にも弟者は平然と立ち、依頼人を支えようと腕を差し出す。
…しかし、どうやらいらぬ心配だったようだ。
彼女は慌てる様子もなく足場の感触を確かめると、
弟者の手を軽く握り返した。
そして振り向き、アイスキャニオンの麓を指差す。
ξ゚⊿゚)ξ 「あと一人ももうすぐ来るから待っててね」
(´<_`;)「いいけどあんたら…今まで雪山に居たのか?
さっき上のほうで爆発が――」
ξ゚⊿゚)ξ 「居たけど…大丈夫よ、ここまでは追ってこないはずだから。
でも念のためブーンが戻ってきたらすぐに出発しましょう」
(´<_`;)「…??」
煙に巻くようなやり取りから程なく、もう一人の依頼人であるブーンの姿が見えた。
挨拶もほどほどに、彼もまた崖から飛び乗る。
⊂( ^ω^)⊃ 「 ――っとう!」
ツンと違い、ブーンは体格に恵まれている。
ガク と大きく舟が傾いた。
ン、
…海上で荒波に揉まれることもある弟者ですら、さすがにたたらを踏む衝撃。
ξ゚⊿゚)ξ 「大丈夫?」
(´<_` )「ああ…それじゃあ行くぞ」
( ^ω^)「よろしくだお!」
弟者は掴んでいたオールに重心を落とすと、肩を回して舟を進める。
静かに…だがしかし速やかに岸辺を離れた。
-
ブーンもツンも、短い河を渡る時くらいにしか舟を動かしたことがない。
だから大海で舟を操るのは弟者の生業であり、得意分野だ。
細かな流氷を退かしつつ、
大きな流氷に行く手を遮えられぬよう、
器用にオールと舟頭を左右に操る。
( ^ω^)「うーん、さすがだお。
やっぱりお願いして良かったお」
ξ゚⊿゚)ξ 「実は誰に頼んでも断られていたのよ。
陸地経由も考えていたけれど、今日は少しでも退路を増やしておきたかったから……」
(´<_` )「退路…アイスキャニオンにはそんな危険なものがあるのか?」
ξ゚⊿゚)ξ 「一部の人にとってはね。
麓にいる分には何もないんだけど…私たちにはあそこが故郷だから」
弟者は内心驚きながらも「へえ…」と適当な相槌を打ち、
後ろにいる二人の表情を窺おうとした。
今はリラックスした様子のブーンとツン…。
しかしよく見れば、その額にはうっすらと汗が滲んでいる。
あのアイスキャニオンにいたにも拘わらず。
…走ってきた疲れとは明らかに異なる発汗の跡。
――なによりも。
今は遠くに見える、
彼らの背後の空に見えるのは――
-
(´<_`;)「――……」
弟者は生唾を飲み込み、前方へ注意を向け直す。
氷海地帯での余所見は命取りとなる。
自分だけならいざ知らず、今は二人の命を預かっている身…。
万が一、この舟が転覆でもして冷たい海に投げ出されてしまえば決して生きて帰れないだろう。
人の生が有限である限り。
ξ゚⊿゚)ξ 「……」(^ω^ )
そんな弟者の気持ちを二人が見抜いているかは分からない。
…彼らがアイスキャニオンで戦っていたのは、
かつて自分たちが産み出してしまった幻影。
今しがた弟者の見た、
この世のものとは思えぬ残像。
(´<_` )「…まあいいさ、命があるだけ俺は今日という日に感謝するよ。
さあ、ここからどこに向かえばいい?」
すでに氷の群れは抜けた。
ここからは水温も高くなり、
しかし代わり海底からの災害に注意を払わねばならない。
雪景色に背を向け、
三人を乗せた舟が少しの重みを取り戻して大海を走る。
-
( ^ω^)「西の孤島、"ふたごじま" まで」
(´<_` )「――!」
年に一度は必ずその地を告げる客がいる……まるで弟者の里帰りを願うかのように。
(´<_` )「…良かったらアンタらの話でも訊かせてくれるかな」
もうすぐ彼の故郷において、一つの歴史が刻まれる。
世界の構造と共に…。
(´<_` )「故郷…ね。
俺も実はその島の生まれでさ」
オールを漕ぐ手は止まらない。
むしろどこか急かすように力んでいるのを弟者当人は気付いてはいないだろう。
一度どこかの町で食料を…、
それと、先日までに飲みきってしまったコーヒーを補給しよう。
弟者は頭の中でぼんやりとそう考えて、次の瞬間には世界地図を浮かべる。
そうこうしているうち――。
アイスキャニオンで見た影のことを彼は少しずつ忘れてしまった。
悪い夢のように。
<了>
-
■6 - 初代モナーとの約束 -
ショボンが携えていた "隕鉄の刀" 。
彼がこれを所持し始めたのは赤い森での軍事侵攻時。
原材料となる隕鉄は、三日月島を発ってから
(アサウルス戦でブーンを助けるために海に散らしてしまった)蟻を捜しては殺し、
かき集めたもの。
隕鉄を加工した初代モナー(以下モナー)は、
かつて三日月島から大陸に移住した家系の生まれである。
彼らが初めて出会ったのは大陸戦争最初期。
モナーにとってのショボン。
祖父母、両親から言い伝えられていたとはいえ、
不老不死の存在を間近でみた驚きは大きかった。
それと同時――軍に所属しているという事実に対しても。
-
そんな彼が請けたショボンの依頼、
それが "刀の製造" 。
死なない人間が、殺し合いの避けられない戦争に関わっている。
死なない人間が、人殺しの道具を欲している。
たかだか一振りの刃であろうと、どれだけ生殺与奪を握れるのか…
モナーでなくとも理解できよう。
そして当時、大陸におけるモナーの人間関係は徐々に崩れていた。
とりわけ依頼に関して想定外の使い方をしてしまうケースが後を絶たず、
その内容もよりによって軍事利用に傾きつつある状況に、
いいかげん辟易としていた。
ともすれば不老不死が求めるほどの刃など、
当時、精神的に疲れていたモナーにとっては畏怖の対象そのものでしかない。
『ショボンは…その刀でどれだけの命を奪うつもりモナか?』
(´・ω・`) 『誰かを殺すためじゃあない。
普通の人たちでは太刀打ちできないであろう存在に立ち向かうに、
もっと適した力が欲しいだけさ』
依頼受理を渋るモナーに、ショボンはゆっくり諭すように話し始める。
-
(´・ω・`) 『モナー、君のこれまでの話は聞いているよ。
自分の意思とは裏腹に他人を傷付けたり死なせてしまう……
どうしようもなくて、やるせない気持ちならば僕にも理解できる』
(´-ω-`) 『だからせめて僕は、製造者となる君に誠意をもって応えたい。
僕の望む力を与えてくれるならば、君の望まない力は決して持たない。
…これを等価交換条件とでもいおうか』
(´・ω・`) 『この戦争には必ず裏がある。
人と人、国と国の単純な争いではない気がする…。
恐らくは、僕の捜しているものが関わっているような――』
二人きりの部屋。
やがてテーブルに置かれたショボンの手の中に一つのガラス瓶。
中にはぎっしりと黒い塊…いや、黒い虫の群れが詰められている。
(´・ω・`) 『僕からの条件はただひとつ、これを練り込んだ得物を頼めないか?
形状は問わないが…とりわけ扱いには注意がいる。
作業時には念のため僕も同席するよ』
-
…こうして二人はしばらくの時間を共に過ごす。
黒い虫の特性上、鍛練作業には困難極まる部分もあったが、
ショボンの手助けによってひとまずは無事に得物が出来上がった。
鈍色に、しかして刃の奥に潜ませる輝きは、反して光を発している。
「この世のものとは思えないモナ」
(´・ω・`) 「はは、なんだかそれ、自画自賛してるみたいだね」
「あの虫は一体なんだったモナ?
しかもそれがこんな刃になるとは夢にも……」
(´・ω・`) 「…」
"空から降ってきたのさ" ――。
このときショボンには、そう形容するのが限界だった。
それでもモナーはどこか満足げに頷き、
「ならこれは、天からの贈り物ってことモナね」
と納得した。
そしてショボンに向けて、刀を差し出す腕を途中で止める。
「……このあいだ話してくれたこと、覚えているモナ?」
-
等価交換条件。
そしてショボン自ら語った、刀の使い道。
「そのままそっくり約束して欲しいモナ」
…誰かを殺すのではなく、普通の人には立ち向かえない存在のためにこの刀を使う。
(´・ω・`) 「…わかった」
「約束なんて曖昧なもの…期待しているわけじゃないけど。
それでもこの刀はショボンのために造られたモナ」
人にも物にも、存在理由が必ずある。
鳥の翼は空を飛ぶために…人の足は歩くためにある。
レゾンデートルを否定してしまうのをモナーはなにより嫌がった。
だから――モナーは戦争が嫌いだ。
(´・ω・`) 「同感だね」
軽い口調。
しかし、刀を受け取ったショボンの腕から伝わる力強い返答をモナーは確かに感じとる。
その双肩に人の意志を背負い、若き不死者は礼を陳べて城へと戻っていった。
再びモナーを引き連れて、赤い森に旅立つのはこのあとの話。
そして10年…100年と月日が流れても、
ショボンはモナーとの約束を守り続けていた。
<了>
-
今日はここまで。
スレが埋まるまではリクエストにすべて答えます
-
■27 - 待ち続けて… -
【時の放浪者】にて、ミ,,゚Д゚彡と行動を共にしていた(*゚∀゚)
彼女は故郷に戻った十年後、
村の者とそのまま結婚し、子を育むという極々平凡な人生を歩む。
はじめの数年ほどはナナシがまた遊びに来てくれることを願っていたがやがてその想いも自然と消えた。
しかし彼と出逢うまでは年齢的問題(当時まだ14歳ほど)もあり、
それほど異性と付き合う意識は芽生えておらず、
ナナシの物腰柔らかな性格、
反して戦闘時にみせる勇ましさを目の当たりにしたことで人格形成に影響が出たのか、
彼女が人生の伴侶に選んだのはいわゆる "男らしい" 相手だったという。
自覚こそないがナナシが初恋の相手だった。
ところで。
話中にも記述した通り、曾お祖母さんの名前は "しぃ"。
-
【帰ってきてね】にて、(*゚ー゚)はすでに(´・ω・`)との子を宿している。
ラストでは無事出産してナナシの故郷へとその身を寄せた。
…やがて大陸戦争終結。
ナナシの故郷は戦乱の煽りを受けて壊滅。
村人は皆、他所の土地へと移り住み、しぃもまた一時は避難したものの帰還する。
ようとして知れないショボンの行方を捜しつつも彼女が行ったのが、ナナシの故郷復興だった。
子供を預け、ナナシの帰還を信じて、彼女はたった一人で村の建て直し作業を行い続けた。
( ^ω^)とξ゚⊿゚)ξが彼女の前に現れたのはその時期。
川をひき、草木を植え、ナナシの故郷は長い年月をかけて元の姿を取り戻していく。
――【老女の願い】における老女(村の長老)とは、(*゚ー゚)である。
一人きりで復興作業を続けるうち、彼女には
"生きる目的" こそあれど、
"生きたい願望" は薄まってしまった。
※顔表示に関してはTtips B (>>886) を参照
復興を遂げ、村の人々が戻ってくる頃、
しぃの中は別の達成感によって心地好く満たされている。
そのため生きる願望が再び戻ることはなく、そのまま後世に継いでこの世を去った…。
図らずもナナシは、
彼女の一族に密着して生きていることになる。
※おまけ
しぃの一族は女性が生まれると名前の意味を継ぐ(男は原則、名前の継承はない)。
4 → 3 → ナシ → 2
(*゚ー゚)→???→???→(*゚∀゚)
↑
婿養子が入る
この設定がとあるヒントにもなるが、それはまた後に解明される。
<了>
-
■H - かがみ -
生命体の住まう星に存在する精神的物質。
なぜ在るのか、なんのために在るのかは不明。
名前の由来は諸説ある。
・強い感情を持つ者が前にたてば、その想いを映し出す。
・強い感情を持つ者が飛び込めば、その想いを具現する。
・映し、具現するものは必ず何かが歪んで表される(実際の鏡が左右逆になるように)。
・[かがみ]が暴走するのは、その星のバランスが崩れた時(重力≠魔導力…など)。
4番の理由によって終末年までに暴走し、
2番の理由から[かがみ]を利用しようとするも、
3番の理由のためにメインキャラ各々が苦難を背負う羽目になっている。
1番の特性は現在从 ゚∀从が主なる案内人として使用。
ブーン系千年の夢の主な舞台は、
[かがみ]の向こう側で生きる者たちの物語だ。
ふたごじま、大陸、東方の島などがある。
[かがみ]の此方側の世界はグランドスタッフしかなく、残りはすべて海と化している。
それが崩れ去った今はm0ц――
Cワカ> �*オヌM・G
fサYス^N曚麈C*v徐・テ* Vl��Ci)ヨK・惚ラテ絎*・- ュ・L1隆モ゚晥L・*・タ駈モE
umメg*ァvョタ"*稠ー*トシ*C2ヌヨャ
*・・9ソ繝+・]1��ニ3オL・*・!XR*゙eЕ*iヲ゚
ゥb゙��ィゥ被)坿゙繕*ヘァ"*ホ・_盡rメ猤・ヨ捌
ハワ*鴎涯Vン\N・B*�\レ
-
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
emergency
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
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∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
この項目に関して、
これ以上の閲覧が現時点では許可されませんでした。
option画面に戻り、次の選択肢に自動移行します。
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
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■I -[かがみ]の贄、つがい、壁 -
【いつか帰る場所で】話中、
[かがみ]の贄として選ばれたのは
川 ゚ -゚)、ξ゚⊿゚)ξ、从 ゚∀从 の三名。
選ばれた理由は感情値の高さ。
そして[かがみ]に突入させ、生存した場合は子孫を繁栄させる可能性があることから。
…贄という呼び方は
所詮、評議会員からすれば人類の尖兵隊…悪く言えば捨てゴマに過ぎないため。
さらに、シミュレーションは行われていても、
実際は人類がまだ未体験となる事柄を押し付けた役割としての名称である。
( ^ω^)、('A`)、(`・ω・´)(後に( ∵)と入れ替わる) の三名は
雌三名を突入させるまでに起こりかねない物理的トラブル、
または突入時の実験のために駆り出されていた。
※具体例。
[かがみ]が人体に悪影響を及ぼすとなれば
雌が少しでも五体満足に突入できるよう
文字通り壁役として前面に差し出される…など
だがもしも[かがみ]そのものには悪影響がなく、雄も無事に突入できる場合。
別の世界で雌と共に子孫を繁栄させる役目を負ってもらうつもりだった。
西川はわずか数%でも良き可能性を信じて内藤に「つがい」と説明し、
鬱田の母親は可能性の高い結末であるとして息子に「壁」と説明した。
<了>
-
■J - 終末年の人々 -
大部分の感情を失ってしまった人類のなれの果て。
読者にとって分かりやすく端的に言うならば
"哲学ゾンビ" がもっとも近い存在(そのもの、ではない)。
一見感情を表していてもそこに意識がない…というのが哲学ゾンビだが、
この世界においては行動原理のみを追従し、
喜怒哀楽を
出す→→出せる→出さない→出せない→持っていない
の順に失っている。
人格としての文化的特徴は機能美を追求し、無駄を省く。
デザインという概念すら持ち合わせなくなるため、服装や建築物、環境に対する関心度も薄い。
その代わり目的への道筋をたてやすいので、追求するという行為は得意。
…それが根本的解決に繋がるかどうかは全くの別問題ではあるが。
-
記述のあった登場人物については以下の立場が取られている。
西川→( ^ω^)の父親。
もし感情値が強くAA表示がされるとすれば ( ^ω^) な顔かもしれない。
鬱田の母→('A`)の母親。
もし感情値が強くAA表示されるとすれば J( 'ー`)し な顔かもしれない。
渡辺→从 ゚∀从の母親。
もし感情値が強くAA表示されるとすれば 从'ー'从 な顔かもしれない。
…なお、まだ人類が感情を持っていた頃に建築されはじめたものがグランドスタッフであり、
完成前に暴走した[かがみ]によって世界から魔導力が流れ出てしまっている。
グランドスタッフ設計図は感情を失う前なので建設そのものに問題なかったが、
感情のない人類には未知なる出来事に対して
『こういうときはこうすれば良い』
という行動がとれない。
結果として
『穴が空いたことが原因ならば、穴を塞ぐ』
という短絡的な解決方法を誤って追求してしまい、
それが[かがみ]暴走の真実、根本的な解決から人類をますます遠のかせてしまった。
<了>
-
考えてばっかだと感情ってなくなってくのこわいな
おつ。まだわかんないとこおおいけど次スレでもおわらなそうだなw
-
■32 - 戦士の生涯 -
東方出身の( `ハ´)。
彼が生まれてすぐ、一族は繁栄を求めて海を渡った。
しかしシナーが10歳の頃に大陸戦争が勃発し、戦火にて親を亡くす。
その後、lw´‐ _‐ノv に拾い育てられ、忍の技を学んだ。
使用武器の峨嵋刺は戦災孤児の彼にとって親の形見であり、護身武具。
シナーには生まれもったメンタルの強さと戦闘センスがあった。
同期のなかでもメキメキと頭角を現し、
ゆくゆくは立派な忍になるかと期待されていた数年後、シナーは突如里を抜けてしまう。
…とはいえ決して抜け忍というわけではなく、シュー許可を得られている。
(出生が他の者と異なることも、
土地に縛られてはならないというシューの気持ちが背景にあった)。
そして大陸戦争終結時まで戦場へと赴き、ひたすら戦いに明け暮れる日々が続いた。
軍に所属した時期もあったが、
組織的な規律よりも自分に化した規律に忠実な性格が影響し、
その大半が暗殺…または暴動のきっかけを作るような暗躍が主な内容だった。
-
得るものも多かったが、比例して心が渇いていく実感。
シナーの魂は常に飢餓を抱えていた。
特に一対一の戦いはその隙間を埋め、
対峙した相手と心の読み合いを行うことでその空腹を満たす。
この餓えは、シナーが生まれる約100年前。
東方のアサウルス…そして不死者が蔓延らせた闘争心の、
残り香のようなものが感染しているとみて良い。
軍から支給されるサラリー(給与)で酒を食らう毎日と、
退屈からなる刺激への渇望を天秤にかけた結果、
戦争も所詮は "ヒト対ヒト" ではないことにいつしか堪えきれなくなってしまった。
死に至らしめる瞬間に友とみなし、そして殺す。
彼はただ殺すことのみを目的にした戦闘で心踊らせたことは一度もない。
…女子供を殺めた朝は、
沈む己の気持ちを偽ってでも誇り高く次のステージに向かう。
そうすることで自身がもたらす他人の人生の結末を否定しない。
そんな矜持をシナーは是とした。
大陸戦争終結後は( ,'3 )の暗殺をきっかけに、
(-@∀@)の元で大陸東の地域を治める。
【その価値を決めるのは貴方】においてバルケンの屋敷に訪れたシナー。
それはシューから請けた依頼によるものである。
その理由は別の項目、または本編にて語られる。
<了>
-
■33 - コンプレックスの塊 -
領地世間ではバルケンの名を継ぐ形となった(-@∀@)。
彼自身は父バルケンを恨むこともなく、
バルケンもまたアサピーを邪険に扱うことなく、幼少期こそ普遍的な家族として過ごした。
だが一般家庭とは異なり、
バルケンは公人としての勤めに日々忙殺されていた。
アサピーが成長し、手がかからなくなるにつれて家族の時間も失われ、
二十歳を間近に控えたある日、バルケン夫妻は決別した。
( ,'3 ) 『…オヌシはどうする、無一文の女の元に行くか?
それともここでワシの仕事を覚えてみんか』
(-@∀@)『ついていきましょう。
そうまでして公人…いえ、女王に与する貴方の仕事にも興味がわいていたので』
アサピーは幼い頃から何事もこなす神童といえた。
体も頭もよく動く青年だった。
――その一方、人の情というものを心から理解していたかどうかは疑わしい。
バルケンや母から具体的にそれを教わるような教育を受けたことはなかった。
それを感じ取れるような生活を育んだことがなかった…。
-
彼が実の父であるバルケンに手をかけたのは、当時の情勢に基づいた客観的判断でしかない。
領民の心が離れても。
大陸戦争が終わっても。
バルケンは己に課せられた業務と欲望に向き合い、忠実に生きていた。
(-@∀@)
_つ◇ 『シナーさんにもさきほどお話し済みですが、これはあの御老公が隠していた過去の商売に関わる記録…』
(-@∀@)
_つ◇ 『つまりは帳簿ってやつです』
アサピーがそれを入手したのは他者への言い訳のため。
親殺しの責任から目をそらし、
あくまで世間が求めた結果であると言わんばかりに転嫁した。
( ↑∀"↑) 『だ、そうだよニダー。
私も彼には何一つ期待などしていなかった。
サラリー目当ての男なぞいずれこうなると思っていた』
彼からシナーへの報酬は多額だった……、一介の戦士に支払うにしては多すぎるほどに。
シナーは常々、複雑な思いを抱いたことだろう。
それほど高く評価されているならそれでよし……。
だが――対面してこそ感じる、奥底に情のないアサピーの瞳をシナーが見逃すことはない。
-
公人として人心を掌握できた彼は、
しかし個人間における人情というものを理解することができなかった。
表面的には合理的かつ才人。
…その実、知れば知るほど
節々で彼のアンバランスな性格は滲み出てしまう。
アサピーはある意味、[かがみ]の向こう側で形成された人類のなれの果て…
終末年の人々をわずかながら彷彿とさせるような人格であったといえる。
それでも彼がAA表示されていたのは情とは全く別物の――
"生きたい渇望" を色濃く抱いていたからに他ならない。
彼の欲望の一文。
それを最後に記そう。
「気分がいいんだ、あれを食べてから……
本気かって? 嘘をつく理由があるか?
自分を偽って生きることにもう疲れたんだ。
人生最後のひとときくらい良いだろう!
私利を!
私欲を!!
我が儘を叶える資格も私には無いのか!」
<了>
-
■34 - 風水の仕組み -
( `ハ´)と<ヽ`∀´>が主に使用していた風水術。
星や天地に備わっている魔導力を借りることが出来る東方の魔法。
人体が発しているものではないので、それ自体は偽りの湖にも感知されず発動できた。
ゲーム原作には登場しないため、魔法名はない。
この項目では
【( ^ω^)千年の夢のようです】における
風水の根源について説明する。
-
――風水とは?
困った時には神に頼み、感謝を陳べるも神に対して行われるような……
そんな神という存在を崇める地には、元々存在しえない概念である。
神に頼る…それは悪くいえば他力本願な印象を受ける。
ならば神を崇めない地域において、人が人の力だけで生きていけるかといえばそうはならない。
絶対的な負の境遇を弾き返そうとして何かを求めるのが "生きたい渇望" である。
いざ人の力が及ばない領域に出くわしてしまった場合はどうするか。
人は繁栄を求めて…自然、天地に頼るだろう。
良運気、極めれば奇跡。
果たして…悪意、穢れもすべてコントロールしようと思想する。
氣の流れを研究し相剋を纏うそれは
食物連鎖にも似て非なる概念だった。
-
【( ^ω^)千年の夢のようです】では
この風水術を自身の魔導力に乗せることで、
本来不可能である法則…
黒、・白魔法や呪術には具現不可能な現象を引き起こすポテンシャルを秘める。
※具体例
・バルケンの屋形→無限回廊
・偽りの湖→水の流れや重心を変化させる
居住および生活する上でこの風水術が活用される文化は、
大陸、東方のどちらにも育っていない。
あくまで特殊な魔法としての位置付けではあるが、一子相伝というものでもない。
"相剋" は風水術の範疇にある。
黒い槍のアサウルスとショボンの間に起こった、不可思議な現象も決して無関係ではない。
<了>
-
おつ
-
乙です!シナー達の見たかったので嬉しかった!ありがとうです!
-
久々にブーン系読みに来て、まとめで一話から一気に読んでしまったよ
今後にも期待
-
13、14、22、26、31、42、44
見たいです!
-
冷静に考えてリクエスト多すぎるなwww
特に14と22が見たい!
-
now loading......
-
■22 - 視線の先に -
(゚、゚トソン 「お湯加減はいかがでしょうか?」
水の都。
円形を縁取る、左右対称の宮殿内部には至るところに水の姿を見ることができる。
兵士の詰所と、憩いの庭園があるフロア1階。
浮遊する円盤形のエレベータで一つ上がれば、十字に区切られた空中回廊。
それを繰り返し、最上階には女王の私室や大浴場がある。
「悪くないよ、いつもありがとう」
(゚、゚トソン 「なによりです」
観音開きの扉の向こうから、クーの声が柔らかに届く。
侍女の一人、トソンは見えるはずのないお辞儀をすると
ゆったりとした動作でその場を後にした。
(゚、゚トソン 「女王様の召し物を選んできますね。
その間、ここをお願いします」
('、`*川 「はい」
緊急時に鳴らされるハンドベルを手渡されたペニサスが代わりに扉の前に立つ。
スタスタと軽やかに離れるトソンの背中を見送ると、
ソワソワして場に留まっていた。
-
('、`*川 ( あぁ…クー様 )
呼び出されるまで静かに待つのが役目。
背中合わせの空間にいるはずの女王を想い、ペニサスはトソンの遅い帰還をかすかに願う。
武力的緊急事態でもなければこのフロアに他の衛兵は誰も立ち入らない。
手に持つベルが鳴るか、宮殿に対する衝撃が走らなければそれが平穏の調となる。
「いまそこにいるのはペニサスか?」
('、`*;川 「――はっはい!」
「先の食事は誰が?」
('、`*;川 「本日のメニューは僭越ながら私が決めました。
近海で獲れた貝類が最近とても美味だと、都で耳にはさんだもので…」
「そうか」
('、`*;川 「お…お気に召しませんでしたか?!」
「いいや違うよ。
言う通りとても美味しくて今も舌に心地好く残っているものだから」
('、`*;川 「はい、コック長にも伝えさせていただきます」
「うん、いつもありがとう」
-
ペニサスの思考が止まり、空を巡る間…。
クーの私室ではトソンが
あれでもない、これでもない、と、湯上がりの着物をコーディネートしている。
(゚、゚トソン 「宮殿内の気温、室内の湿度を考慮すると……」
(゚、゚;トソン 「ああ…でもそうすると女王が昨夜召した外套と色が似すぎているし……」
(゚、゚トソン 「そう、昨日はどんな夢を見たと仰っていたかしら。
今夜もよりよい安眠についていただくために…」
(゚、゚トソン 「思い出しました、汽車…汽車ですわ。
どこかも分からない場所に行くつもりだったのだと」
、゚トソン )) 「そんな不安な思いを抱かせてはいけません。
森のなか、それとも海辺でゆったりと癒されるような一時を
せめて夢の中でも過ごしていただかねば……」
侍女たるもの、どんな些細なことも見逃してはならない。
総てが女王のためになるように考え抜く。
一般市民の生活からはかけ離れているとしても、
これがトソンの毎日の日課だった。
(゚、゚トソン 「決まりました、これにしましょう」
薄すぎず、厚すぎず。
わずか数時間後にはまた催しを変えるであろうもののために、
トソンがかけた時間は小一時間にのぼった。
-
一日を終えたクーが、二人に語りかける。
川 ゚ -゚) 「なにか変わりなかったか?」
(゚、゚トソン 「事故や事件はありませんでした。
('、`*川 民からの嘆願書もすべて目を通しましたが、これといって…」
川 ゚ -゚) 「わかった。
でも少しでもひっかかることがあれば、いつでもなんでも伝えてほしいんだ」
「もったいないお言葉です」
――侍女二人の声が重なると、クーは満足げに微笑み、手招きする。
(゚、゚トソン 「!」 ('、`*川
寝る前に必ず行われる儀式の合図だ。
トソンとペニサスが跪き、クーの前に顔を近付ける。
クーもまた、彼女たちの瞳をじっと覗きこんだ。
二人にはそれが何を意味するのか分からない…。
だがいつもこの儀式を行った後のクーはとても嬉しそうに眠りについた。
そのためならば、どんな不可解な行為であっても甘んじて受ける気概を彼女らはもっている。
川 ゚ -゚) 「おやすみ」
(゚、゚トソン 「よい夢を」
('、`*川 「明日もまたよい日を」
そして二人はれーすのヴェールを隔てたすぐ隣の部屋へと帰っていく。
女王の私室に隣接して過ごせるのも、彼女たち二人だけに赦されし特権といえた。
そして万が一、
――有り得ないだろうが――
女王に害成さんとする者が侵入することがあれば、盾となり刃となることが義務付けられた。
選ばれし侍女になるためには女王の許可が必要となる。
今のところトソンとペニサス以外、その役目を承ることが出来た者はいない。
-
「お願いします、私も女王様のためにここで働かせてください!!」
都の民からの志願者は後をたたない。
誰もが皆、素晴らしき女王のためにその身を捧げる覚悟をもって懇願に現れる。
(゚、゚トソン 「貴方は以前もいらっしゃいましたよね?」
('、`*川 「名前はたしか…」
「ガナーです、一昨日に仕事もやめてきました」
(゚、゚トソン 「なぜそこまで?
貴方は子供を指導する公職に就いていたかと記憶していますが」
「ひとえに女王様と国を尊敬しているからです!」
('、`*川 「我を通すために仕事を放り出す人を、女王がお認めになると思いますか?」
(゚、゚トソン 「貴方を慕う子供たちを見捨てるのですか?」
「…」
少しだけ怒気を孕ませるガナーが、手提げ鞄からいくつもの白封筒を差し出す。
…子供たちからの寄せ書きだった。
たどたどしい文字で綴られるそれはいずれもガナーという人物に対する、
無垢で不器用な礼と応援のメッセージに埋めつくされていた。
「背を向けて逃げるような生き方はしていないつもりです。
今よりももっと大きな平穏をお手伝いするために、覚悟をもって来ています」
この時のガナー眼差しは曇りなく見えた。
偽っているとは到底思えない。
前回はクーの不在により日を置くこととなったが、その間に二人は彼女の身辺調査を完了していた。
少なくとも、ガナーという人物は客観的評価からも誠実に値している。
(゚、゚トソン 「わかりました、これ以上はなにも申しません。
女王の謁見手続きに入ります…どうぞこちらへ」
「あ、ありがとうございます!」
-
ガナーが謁見の間に入ると、一段高い場所からクーが見下ろしていた。
川 ゚ -゚) 「ここで働きたいと」
('、`*川 「侍女として、希望されております」
「女王様、何卒…何卒、この都の礎として務めさせてはいただけませんか!」
興奮するガナーに手で制すトソンを、さらにそれをクーが制した。
クーは優雅に立ち上がり、女王の座席からゆっくりと降りる。
侍女で二人が辞儀を促すまでもなく跪いてしまう緊張感が辺りを包んだ。
川 ゚ -゚) 「…」
「…………っ」
川 ゚ -゚) 「顔を上げてくれ、そうかしこまらなくてもいいんだ」
おそるおそる顔を上げたガナーの瞳が、クーとぶつかる。
川 ゚ -゚)
「……」
川 ゚ -゚)
「……」
-
――そして、クーは黙って立ち上がる。
そのまま座席へと戻り、こう言った。
川 ゚ -゚) 「君には今まで通り働いてもらいたい」
「…!」
答えは、ノー。
侍女の資格なしと断された彼女はがっくりと項垂れ、かき消えそうな声で礼を陳べると
それきり俯いたまま宮殿を後にした。
(゚、゚トソン 「クー様、お目にかないませんでしたか」
川 ゚ -゚) 「……」
トソンの問い掛けには答えず、ただ悲しそうにクーは微笑んだ。
-
クーも、ガナーの人格を否定するつもりはない。
侍女から渡された調査結果も、実際にみた印象にもなんら問題はない。
…しかし瞳の奥にある光沢に陰を視た。
誰にもわからないだろう、それはクーにだけ感じられる違和感でしかない。
川 ゚ -゚) 「このあと少し出掛けても良いかな」
('、`*川 「お忍びですか?」
川 ゚ -゚) 「個人的懸案事項があってな、出来ればフォックスたちにも黙っていてほしい」
(゚、゚トソン 「分かりました…都に何かあった際は?」
川 ゚ -゚) 「君たちが対処してくれ。
【ホワイトボア】の起動許可は出しておく」
川 ゚ -゚) 「それともし…私が一ヶ月以上戻らない時、どちらかは西の都の工房に来るように」
長くしなやかな指に一枚の地図が挟まれている。
トソンが恭しくそれを受け取ると、クーも自室へと戻っていった。
(゚、゚トソン 「……」 ('、`*川
-
クーが真っ直ぐに人の瞳を見つめるときは、光沢の真贋を判断しているときだった。
やましい思いを見破るものではない。
虚心坦懐に生きているかどうかを見抜くものでもない。
だが、陰が差した者にはいつか裏切りが訪れることをクーは学んだ。
記憶にないかつての悲劇も、
それを知っていれば違う現在がここにあったのではないだろうか?
川 ゚ -゚) 「……さて、四代目に逢ってくるか」
不死者の一人、クーがその過去を省みることは出来ないのだが。
(了)
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■14 - 大陸戦争に馳せる想い -
(#゚;;-゚)は島から逃げたミルナと別れた後、後遺症に襲われた。
手に残る…子を殺めた感触が彼女を苦しめる。
島で使用した長刀を片手に、
憂さを晴らし、悪夢を散らすように、木々や岩草に切りつける。
三日月島に戻る選択肢は選べなかった。
宿のベッドに潜り込んでも、闇に浮かぶ灰蟻の黄色眼が眠ることを許さない。
夜な夜な叫んでは追い出されるのを繰り返すうち、やがて彼女は公共施設から遠ざかり野宿する身となる。
長い間、人目を避けて辿り着いた先は大陸南東に位置する[都]。
…後に[空の都]と対立する領地だ。
戦争と共に道中出現し始めたモンスターとの戦いがでぃを強くした。
都に着くまでに幾多もの傷を身体に残した。
だが全てが外的要因とは限らない。
傷の半分は自傷行為によってつけられ、そのおかげで彼女は自我を保つ。
大陸の端から端まで移動したのも、
傭兵となって戦争に志願したのも、
彼女が三日月島の悪夢からほんの少しでも離れたかった表れである。
-
でぃは他者の命を奪うことにそれほど抵抗がない。
他のキャラクターと比べ、軽薄に殺人を犯すことができる。
他人を斬ることで命を軽く考える。
人を斬るたび、『幼な子を殺した』ことが『日常』となる感覚を得られる。
日常ならば、その行動は特殊性を失すると同時に後悔も失わせると考えていたからだ。
しかしそれでも彼女は生涯、延々と苦しむこととなる。
孤児院の教会で(*゚ー゚)が出産したとき、
ナナシには見学を薦めつつ自分も中に入らなかったのは、
"自分には生まれた命を迎える資格がもう無いのだ" と思っていた証。
助産婦であったでぃは、もう2度と新しい命に関わることはなかった…。
彼女は死ぬまで、悪夢にうなされて生涯を終えた。
(了)
-
■13 - ナナシとの生活 -
三日月島を出た( ゚д゚ )は、目を覚ました (#゚;;-゚) に見放されて以来、
あてもなく大陸西部を放浪していた。
島を出たことのない無知さゆえに、アイスキャニオンへと迷いこんだこともある。
大陸戦争前は "生きた氷塊" を運び、[空の城]と往復することで金銭を稼いだ。
大陸に戦禍が拡がるころに南西部へと移り住み、孤児院で ミ,,゚Д゚彡 や (*゚ー゚) と出逢った。
そんなミルナが、ナナシと暮らすようになって気付かされたことがある。
ミ,,゚Д゚彡 「ねえ」
( ゚д゚ ) 「ん?」
ミ,,゚Д゚彡 「どうしていつも苦しそうに眠るから?」
-
本人に自覚はなかったが、ミルナはすでにアサウルスに感染していた。
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
痛みがないせいで気付くのが遅かった。
パニックになり脚をいくら振り回しても、
赤ん坊を振りほどくことができない。
((; ゚д゚ )) 『くそぅ、離れろ! やめろ!』
地団駄を踏んでも、手で押し退けても、
赤ん坊の牙はミルナの皮膚を喰い破っていく。
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
彼がなぜ蟻の尖兵にならなかったのか?
それは "生きたい願望" が他人よりも強いため、
僅かながら蟻化までに抵抗する時間があり、
さらには持ち帰った黒い槍が同族としてのカムフラージュを果たしていたせいだ。
※( ´_ゝ`)の場合は一撃で絶命したせいで蟻化しなかった。
もし手元に黒い槍がなければ、ミルナも蟻化しただろう。
-
( ゚д゚ ) 「心配かけてすまないな、俺は大丈夫だから…もう寝なさい」
ミ,,゚Д゚彡 「うん」
ナナシはよくミルナの顔色を窺った。
…捨てられて孤児に戻るのが怖いわけではない。
毎夜悪夢にうなされても、不平不満、愚痴というものを
ナナシの前で決して吐かなかったミルナを純粋に心配していた。
( ゚д゚ ) 「兄弟が欲しいか?」
ミ,,゚Д゚彡 「いらないから」
( ゚д゚ ) 「でも俺が仕事に行ってる間、寂しくないか?」
ミ,,゚Д゚彡 「ちゃんとここに帰ってくる?」
( ゚д゚ ) 「ああ、仕事こそ泊まりがけでもなければ必ず」
ミ,,゚Д゚彡 「じゃあ寂しくないから」
( ゚д゚ )
ミ,,゚Д゚彡 「きちんと待ってるから」
( ゚д゚ ) 「…」
「ありがとうな……」
-
当時、大陸戦争の終わりは見えず、激化の一途を辿っていた戦禍。
日に日に質素になる食事。
無骨な男の手料理など、彩りというものからは縁遠い。
ミルナは思った。
孤児院で過ごしていた方がよほどナナシの為だったのではないかと。
実際のところ、孤児院の仲間に馴染めなかったナナシの居場所は少なかった。
ナナシにとってはミルナが立派な育ての親と思えるほど、月日は流れ……――。
( ゚д゚ ) 「辺境にあるこの村も、もうすぐ巻き込まれてしまうかもしれん。
いざとなったら皆と避難するんだぞ」
ミ,,゚Д゚彡 「…………」
ミ,,゚Д゚彡 「帰ってくるから?」
( ゚д゚ ) 「約束する、……今までありがとう」
( ゚д゚ ) 「もし帰ってこられたら、今度こそ俺はお前に……」
こうしてミルナは戦争へと赴いた。
故郷を捨てた彼は、もはやナナシこそが心の拠り所だった。
彼は誰かのために自分を犠牲にしたかった。
少しでも早く戦争を終わらせるために。
ナナシが安心して生活できるように。
そして黒い槍を置いて発ったミルナは戦闘の最中、
アサウルスの感染が進行し、ついには還らぬ人となってしまった。
(了)
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■21 - 賢者の忠誠 -
――ある時は、名もなき平地で。
爪'ー`) 「……遅すぎた、か」
至る場所でわずかにあがる灰煙。
戦争が終わってもそれは怨念のようにくすぶり続け、もう十数年は経つ。
人の気はなく…しかし鼻をつく腐臭が本来そこに在ったはずの痕跡を報せる。
そんな残魂の匂いに囲まれ、一人の青年が溜め息混じりに呟いた。
そげた頬に細い肩。
いつもより渇いた川風に泳がされる伸ばしっぱなしの髪が
その身に蓄えた疲労を空に伝える。
脱力した身体にぶら下がる両腕がこんなにも重いのだと、
彼はその日はじめて知ることができた。
柱から崩れ、廃墟と化した小屋という小屋。
中には屋根を貫いた煙突が備わっていたものもいくつか見当たるが、
半ばひび割れ、もしくは倒壊してしまっている。
青年――若き日のフォックスはトボトボと、
自分の記憶に比べて変わり果てた故郷の風景を噛み締めるように歩き始めた…。
爪'ー`) 「ふは…ははは…なんだ、これ」
幾つもの村と人の命を巻き込み終結した大陸戦争――。
十五年という時の移ろいは、大地を削り、川を枯らし、歴史に大きな爪痕を残している。
フォックスの足元に転がる鏃の燃えかすも、この村においてその一端を担った戦犯だろう。
-
彼が生まれてすぐに拡がった戦禍は、一般市民にすら戦う力を求められた。
さもなくば最低限の自衛すらままならないほどに激しい戦であったことを物語るように。
両親と共に疎開した先でフォックスは魔法を習い、扱うようになる。
そしてその才能たるや、凡人の域に収まるようなものではなかった。
…とはいえ彼が更にその腕を磨き、
軍兵にも劣らぬ力を得る頃には戦争は終結してしまうのだが。
「この村の者か」
爪'ー`) 「――! …誰だ」
偲ぶフォックスの意識がひらける。
いつかの我が家…その壁の名残をなぞっていた指を慌てて離した。
川 ゚ -゚) 「誰?」
川 - ) 「……そうだな、なんと言えばいいのか」
爪'ー`) 「?」
川 ゚ -゚) 「…失礼、私はクーという」
今は大陸を旅している者だ……そう言葉を繋ぐと、
彼女は青年の警戒心を解くつもりで無防備に横へと並んだ。
その横顔は彫刻のように整い、殺風景なこの場所に似つかわしくない美しさを醸し出す。
火の粉が舞い上がるまでのほんの数秒…フォックスはクーに見惚れていた。
川 ゚ -゚) 「ひどい有り様だな」
――火の粉?
爪'ー`) 「…有り様だった、というべきかな」
《ゴウッ》――。
クーの口が動くよりも早く。
炎のオーロラが大地に踊り始め、辺りを一斉に赤く染めた。
盛え波打つ赤い帯は二人を避けて、村の痕跡を消し去るように拡がっていく。
-
クーは唇を閉じ、黙ってその光景を目に焼き付けた。
村を焼き付くす炎がいよいよ夕陽を押し退け、空模様を入れ替えていく。
爪'ー`) バチ バチ
川 ゚ -゚) バチ …
火は人為的な魔導力によってもたらされている。
寂しげで、しかし満足げな横顔から…クーはこれがフォックスの仕業であることを確信した。
川 ゚ -゚) 「いいのか?」
爪'ー`) 「こうも半端に遺されると余計に心苦しいんだ」
彼の育ったこの場所は、人口にして100人に充たない小さな村だった。
再建するにも踏み荒らされた水田は干からび、抉れ、使い物にならない。
何年…あるいは何十年とかけて土壌を甦らせることは不可能ではないかもしれない。
だが戦争中ずっと疎開していたフォックスには農耕の経験がなく、
そのための何かを学んだこともない。
……彼が手にいれたのは、村を助けるための力だった。
爪'ー`) 「邪魔な物をスッキリさせただけだ…リセットだよ。
空いている椅子であれば、またいつか座る人達がいるかもしれないだろう?」
川 ゚ -゚) 「…」
爪'ー`) 「独りになった私が、もうこの村を縛る謂れはない。
大切な思い出くらい自分の中で留めておけばいいさ」
思い出は――記憶。
その衝撃が強ければ強いほど、人に深く荒々しく刻まれる聖痕。
しかしそれを留めることが出来ない者は、どうすればいいのだろう…?
クーには、フォックスという名のまだ若い人生が羨ましく思えた。
-
――ある時は、砂漠の民の元で。
瓜#゚∀゚) 「なぜ我々が退くのか!!
失せゆく大地を自然の流れというならば、戻るのを待つもまた自然づ!」
太陽の下、甲高い怒声が轟き渡る。
草の芽吹きつつある土を踏み締める仲間。
それを目の前にして、地団駄を踏む娘の靴底からはばらばらと黄土が舞う。
大地の色を境目に、ひとつの民が崩壊を告げようとしている。
瓜#゚∀゚) 「貴方たちのいう "砂漠の民" とはなんづ?!
砂礫と生きる強き者ではないのか?
それともただ砂鉄と砂金を追い求む、我欲強き者だったのか?!」
瓜#゚∀゚) 「生き死にならばまず私たちが自ら閃き、
導きを経て継承してゆくべきではないのかづ!
そうやって民は何代も過ごしてきたではないか!」
蹴りあげた砂が、日差しに影を作ったのも一瞬。
荒く吐かれた言葉と息が虚しく木霊した。
それでも娘の癇癪は止む気配がない。
…離れていく仲間たちの行歩も、止まない。
瓜#゚∀゚) 「…」
-
仲間の背中が草木に隠れ、視界からいなくってもしばらく。
残された娘、づーは立ちすくみ…その場を動こうとはしない。
…やがてはまっすぐ射していた足先の影も左手に寄り添った頃。
川 ゚ -゚) 「すまない、道を尋ねたいのだが」
Σ 瓜;゚∀゚) 「!」
俯いていた顔をあげるとそこには女がたっていた。
仲間たちのいた場所で、入れ替わるように影も向き合う。
瓜゚∀゚) 「道を…?」
づーは後ろを見やる。
砂漠で構築された地平線。
間近に寄ればでこぼこと砂丘が視界を遮り、
隆起したキメの細かい砂山が行く手を阻む。
まさかこちら側では無いだろう。
そう問うが、女…クーは首を振ると案内を願った。
「伝統を積み重ねて生きる大地をこの目で見たい」のだと。
瓜゚∀゚) 「奇特な人だづ…」
つい先ほど、現住の民が手放したものこそ "伝統" であるというのに。
-
女の二人旅…デザートコースと呼ばれる天然路を辿る。
初めて逢った者同士なのに、彼女たちは不思議とウマがあった。
瓜゚∀゚) 「ここでは砂漠と高原が、ぐるぐると回るように入れ替わっていくんだづ」
砂漠化と緑地化がまぜこぜに進行する地域。
この砂漠では。
陽の出ているうちはその場にいるだけで灼熱が身を焦がす。
少なからずこの環境に慣れているはずのづーも、うっすらと額に汗粒を作った。
その横で、クーは涼しい顔を崩さない。
川 ゚ -゚) 「中心には何があるんだ?」
瓜゚∀゚) 「オアシスだづ。
それも他とは比較にならないほど、大きくて清んでいるづ」
川 ゚ -゚) 「豊富な水……それはいい」
瓜゚∀゚) 「そこで皆は身体を休めて次の目的地に向かうづ」
川 ゚ -゚) ( …いいや、少しの間でも人が住む場所は選べないな )
なにかを思案するクーに、づーは気付かない。
一方では砂漠が拡大し、しかしその一方で緑が蘇る輪廻の地。
百年という時間をかけて変わるその景色を、
一人の人間が同じ場所で観察できることは稀だった。
瓜゚∀゚) 「本来、親子で継がれるべき生きる道……なのに
瓜 ∀ ) ――私たちは…」
この日、づーの仲間は永住の地を移すべく旅立った。
中には最低限の知識だけ与えられた後、
単独でこの地を出るよう告げられた幼な子もいる。
-
瓜゚∀゚)
川 ゚ -゚) 「……」
二人は沈黙を背負っていた。
歩を進める足を砂にとられることも厭わず、しかし荒くなる呼吸。
疲労によるものだけではないだろう。
「いるべき人の消えた土地は、その姿を変えてしまうのではないか?」
そんな言葉がクーの耳に届いた。
川 ゚ -゚) 「人の消えた土地?」
瓜゚∀゚) 「誰しも皆、生まれた場所を選べないからこそ、故郷への想いも特別だと考えていたづ」
瓜゚∀゚) 「自然の成り行きを否定はしないづ。
もしかすると土地が人を拒絶することもある…、この砂漠のように」
川 ゚ -゚) 「ああ」
瓜#゚∀゚) 「それでも私たちは先祖代々この場所で生きてきた…。
苦しくても生きる力を手にいれてきたつもりづ……!
領地を隔てて高原で過ごす遊牧の民も、きっとその気持ちは同じだづ…!!」
次第にヒートアップするづーの口調。
もう戻らないであろう、仲間への憤りがつぎつぎ噴出する。
瓜#゚∀゚) 「生き辛い生活ならば、何度でも自ら変えてみせたら良いづ!」
瓜#゚∀゚)「生き難い環境ならば、一時だけでも離れたらいいだけだづ!!」
川 ゚ -゚)
瓜#;∀;) 「……決して!
束の間の休息と、綿々たる放棄は取り違えてはならんづ…!!」
瓜#;∀;) 「大地が人を突き放しているのではない!
住まう人が…! 民が……!!
他でもない私たちが、この砂漠を見棄ててしまったんだづ!!」
太陽光に遮られない慟哭は延々と空に舞い、クーはただそれを見つめていた。
故郷を失う…ましてやそこに生まれた子が自ら選択してまで、
生まれた場所…いわば親を。
失った者は次に何を成すべきか、づーの背中をさすりながらクーは考えていた。
-
――ある時は海上で。
爪゚A゚) 「命だけは助けよう…積み荷は戴くがぬ」
艶かしい声で言い放つ妙齢の男、ぬーが腕を高く振る。
それを合図とし、背後に控えていた乗組員がわらわらと散っていく。
続けてドカドカと乱暴な足音が甲板を乱れ叩き、異を唱える人の声をかき消した。
酒樽、木箱、銅筒…。
次々と運び込まれるその中身は本来、
とある港町から出港した船に積まれていたはずの品々。
爪゚A゚) 「ほかにも鋭利な物、鈍器、武器になりそうな物が見付かればすべて奪うんだぬ」
甲板にずらりと並ぶ、屈強な男の群れが例外なく後ろ手を縛られている。
――略奪を生業としている海賊たち。
悔しさを滲ませつつも睨む彼らの双眸が真に怯むのは、
歴然とした力の差を見せつけられた時しかない。
ぬーが外套をバサリと翻し、風になびくその奥で巨大なマストが後光を射した。
縦帆を3枚、横帆を1枚備える彼の船が、
一回り小さい海賊船たちの動きを封じたのはものの数分前のことだ。
爪゚A゚) 「おっと、この船もそのまま返すわけにはいかんぬ。
ボートならくれてやるからそれで陸まで戻るがよい」
爪゚A゚) 「……ぬ」
-
川 ゚ -゚)
縛られ悪態をつく海賊たち…その最後尾。
場に似つかわしくない美しい娘を見つけると、ぬーは思わず近付いた。
爪゚A゚) 「…君は一人だけ趣が違うぬ?」
もっと間近でよく見たい…突き詰めればそんな下世話な審美眼。
無意識の瞳が捉えた一種の神々しさがそうさせたことを彼が自覚するのはまだ後だ。
川 ゚ -゚) 「だろうな、私はこいつらとは関係ない」
「海に浮かんでたところを助けてやっただけの行きずりだよ」
舌を打ちながら頭目らしき海賊が言った。
隠し持つものなどなさそうな女の薄手の格好から判断し、
ぬーは縄をほどくよう部下に指示をし解放させた。
不慮の事故などにより海に落ちて溺れる者は少なくない。
だが水溜まりや河などと違い、
長い間浸かると人の身体が溶けてしまうという話をきいたことがある。
爪゚A゚) 「漂流者か、怪我はないかぬ」
手首をさすりながら頷き、クーは礼と自身の名を口にした。
川 ゚ -゚) 「やはり海は広すぎた」
爪゚A゚) 「??」
その真意が判る者は誰もここにいない。
彼女がなぜ大海原に漂っていたのか、後のぬーにも話されることはなかった。
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推進力を得て動き出したぬーの船が海路を行く。
浅瀬に乗り上げぬよう…、荷を積みすぎぬよう…。
目的地を直接口にする者は誰もいない。
それでも皆、ひとつの目的をもって統率されていた。
爪゚A゚) 「陸地に戻るのはあと一度、稼ぎを得てからだぬ」
川 ゚ -゚) 「稼ぎ?」
爪゚A゚) 「なに、一般船は襲わぬよ、対象はあくまで海賊のみだぬ」
商船などを襲い金品を強奪するのが海賊とするならば、
更にそれを襲い収穫を奪い返すのもまた等しく海賊である。
もとはといえば大陸戦争中、避難する人々を襲う荒くれ者が多い事例を嘆き、
自ら海の世界へ飛び込んだという。
「虎穴に入らずんば虎児を得ず…だぬ」
そんなぬーの言葉を信じるには時間も事例が足りないが、適当な相槌をクーは返すだけだった。
そして見渡す。
運航中はもっとのんびりした装いを想像していたが、船内は忙しなく指示が飛び交っている。
爪゚A゚) 「そろそろ君は部屋に入っておくんだぬ」
川 ゚ -゚) 「出来ればここで見学させてもらえると嬉しいのだが…」
爪゚A゚)σ" クイッ クイッ
指し示す先の水平線。
大陸から距離をおけばおくほどに綺麗な蒼が広がる。
世界は広い。
キュイキュイと鳴く鳥も、ピチピチと跳ねる魚も――いない。
爪゚A゚) 「もうすぐ嵐が来るんだぬ」
ぬーは更に指示を飛ばし、自らも休むことなく船のなかを走り回っていた。
数年に一度あるかどうかの大嵐に船が巻き込まれるのは、この数十分後のこと。
世界は広く、まだまだ人智に至らぬことばかり。
人はそれにあやかり、そして従い生きる寄生者に過ぎない。
周囲の喧騒とは裏腹に、クーは自身の両手をじっと見つめていた。
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――ある時は、名もなき岬で。
爪゚ー゚) 「僕はこうして風を浴びることに幸せを感じるんだじ」
きっかけは離れの町で耳にした噂話だった。
もう何年も…夜明けになると岬に立ち続けては、日が暮れる頃に姿を消す若き変人がいると。
川 ゚ -゚) 「君はいつからこうしているんだ」
爪゚ー゚) 「うーん……」
若者は顎を上げてこめかみを指差す。
思案する――素振りを見せてそのまま数分が経過した。
川 ゚ -゚) 「…いや、いい。 無粋な質問だったな」
爪゚ー゚) 「もう覚えていないじ」
彼は屈託なく微笑みを見せる。
性別は異なるが綺麗な顔立ちをしている、とクーは思った。
川 ゚ -゚) 「飽きないのか?」
爪゚ー゚) 「毎日違う風が吹くんだじ。
一度たりとも同じ風の声が聴こえることもないから、そんなこと考えたこともなかったじ」
爪゚ー゚) 「自ずと見える景色も変わる。
だからなんとなく…自分の視野が広まる気がするんだじ」
果たしてどうか。
遠くにいるだけでは、何かを成すことはできない。
川 ゚ -゚)
…近くとも成し遂げられないものも確かにあるのだが。
-
じーと名乗る若者はいわゆる世捨て人だった。
日がな一日を岬で過ごしては、眠る時間になるとふらりと何処かへ行く。
…雨さえ降らなければその場に寝転がり、そのまま夜を明かすこともあるのだという。
温暖な季節もそんな彼の習慣を増長させた。
魔物も近寄らない不思議な岬だった。
爪゚ー゚) 「悩みごとがあるのかじ?」
川 ゚ -゚) 「そう見えるか?」
爪゚ー゚) 「強いて言えば…なにかに悔いているような」
川 ゚ -゚)
爪゚ー゚) 「独りになりたい時はなればいいじ。
離れてみて、はじめて気が付くこともきっとあるじ」
彼の達観した言葉は奇妙な説得力をもった。
そこに生きた時間の長さなど関係のないことくらい、クーにも分かっているつもりだ。
それでも…少しだけ意地悪をしてみたくなる。
川 ゚ -゚) 「君はここにいて、何かを得ることができたか?」
爪゚ー゚) 「うーん…」
川 ゚ -゚) 「この土地で生まれたのか?」
首を横にふるじーの仕草は柳の葉を思わせた。
そしてまたニコリと微笑み、彼の日常へ戻ってしまう。
川 ゚ -゚) 「…」
岩地がオレンジ色に染まる。
水平線もまもなく月を映し出す頃だ。
-
爪゚ー゚) 「大陸戦争にまつわるこんな噂を聞いてるじ」
クーがその場を立ち去ろうとした時だった。
背中にかけられた唐突な言葉が彼女の足を止める。
川 ゚ -゚) 「噂?」
爪゚ー゚) 「紛争地域…とりわけ直接的な戦いが起こった場所ではその後、次々と星が降ったと」
爪゚ー゚) 「ここもかつては灯台が町を照らしていたらしいじ」
足下は長く続く断崖絶壁。
泡白い海が、絶え間なく灰淡い飛沫を岩肌に打ち付けている。
爪゚ー゚) 「戦争で失われたものはとても多かったと聞くじ。
ましてやその最中に注がれたという流れ星の輝きが、
かつて有ったいろいろなものを壊してしまったのだとしたら…」
明るいうちはまだ見えない粒子状の空星も、
夜になれば惑星のなり損ないとして、その渇いた存在を主張するだろう。
だがもし現実にそんなものが降ってきたのなら
この岬はとうに消滅していても可笑しくない。
……クーはそう口にしようとして、やめる。
なぜそんなことを知っているのか自分でも不思議だった。
川 ゚ -゚) 「……だとしたら?」
爪゚ー゚) 「その星を是非とも見てみたい」
じーが爽やかに微笑んだ。
破滅を求める顔ではなく、あくまで好奇心からくる笑顔。
爪゚ー゚) 「人智を越える現象こそ、世界のもつ最大の魅力だと思うんだじ」
-
魔導力を利用した魔法学は、戦争によって大きく進化した。
黎明期たる大戦の時代が終わる頃に迎えた成熟期は、
人々と土地土地の荒廃からリスタートしている。
川 ゚ -゚) 「本当にそう思っているのか?」
爪゚ー゚) 「悲劇があったことも承知しているじ。
それは痛ましくて、肯定するつもりもないじ」
爪゚ー゚) 「僕はただ単に知らないことを知りたいだけ。
誰もやらないことをやる…それがきっと好きなんだじ」
そういって若者はどこかに去っていく。
ざあざあと、さざ波がクーの意識を取り残した。
ふと見上げれば暗がりに浮かぶ月と目が合った。
……それはなんとなく、嗤っているようにも見える。
川 ゚ -゚)
記憶をなくしてからずっと。
姿なき罪悪感が、透明な剣となってクーの胸を刺している。
悟られない感触だけがひたすらにその重みを増している。
大陸戦争を引き起こしたという記憶を失って…。
しかし生々しい記録をその目に焼き付けるたび、彼女は思うのだ。
『私は一体、
いつまでここに居ればいい?』
-
―― 10年後。
癒えぬ戦争の爪痕は、隠しきれぬ生々しさを未だに露呈している。
土地の廃退、生活の困窮、文明の後退……。
そしてなによりも顕著なのは動物たちのモンスター化だった。
空には火の鳥が舞い、森にはトレントが息を潜める。
海に出れば水獣と成り果てた大魚が牙をむく。
クーが出逢った四人の姿はいまひとつの大森林にあった。
大地がぽっかりと開けた口に、密やかに浮かぶ島。
瓜゚∀゚) 爪゚A゚)
爪゚ー゚) 爪'ー`)
お互い面識はない。
散り散りに現れた面々が、しかし吸い寄せられるように島の中心へと並んで歩く。
道すがら風景に混ざる二足獣が好奇の目で見つめている。
襲ってくる気配はなく、ただただ目を合わせるに留まった。
モンスターにしては珍しい生体だと誰かが呟く。
やがてそれも過ぎ去れば、
見えてきたのは四人を出迎える樹冠のアーチ。
爪゚A゚) 「…この地形で多雨林などとは珍しいぬ」
爪゚ー゚) 「湿ってはいるけど、悪くない風の通り道があるじ」
ゆっくりと、しかし目的を持って彼らは歩く。
澄んだ空気に反して、いつの間にか…しとしと雨が降っていた。
-
頭上に展開される葉が雨避けとなってくれているため、皆の身体が濡れることはない。
同様に太陽の光も遮っているが、不思議と視界は明るみに満ちている。
不満があるとすれば。
樹々の多さと水捌けの悪さによって、道らしき道が用をなしていない。
このままでは往来には向かず歩きづらい…という点か。
瓜゚∀゚) 「でも、これだけの雨が降るなんて羨ましい限りだづ」
爪'ー`) 「そうかな…何事も過ぎたるは及ばざるが如しといえるがね」
一言、二言話すその様子から緊張感はみられなかった。
中には笑顔を見せる者もいる。
穏やかなムードが彼らを包む。
いつしか足音も重なりあい、
各々がバックボーンを推測できる程度の言葉を交わし終える頃…。
爪'ー`) 「そろそろのようだな」
-
先頭のフォックスが軽く手を上げ、三人を制した。
森はまだ抜けていない。 …しかし、拓けている。
空から差す陽光が彼らを神々しく見下ろした。
チキチキ…
瓜゚∀゚) 「ここはずいぶんと暖かいづ」
爪゚A゚) 「また海の上とはかけ離れた景観だぬ」
チキチキ…
空に木霊する、四人の感嘆と鳥の囀り。
苔むした岩や貧弱な細木は、
こうも輝かしく照らされているだけで生命の息吹を力強く感じさせるのかと思わせた。
チキチキ…
段差のある土に、がらごろと石畳だけが乱雑に敷かれている。
辺りにそのような物質は存在しないので誰かが置いたのは間違いなかろうが、
それがかえって人工的な匂いからますます遠ざけていた。
爪゚ー゚) 「…なるほど。 チキチキ…
これなら満遍なく空気も循環するはずだじ」
言い終わる前に、じーが腕を振るった。
流れる指先が白い風を纏い、木の葉を散らす。
パタタタタ ッ
――小鳥が異変を察して飛んでいく。
風は円を描き、やがて彼の前で上昇すると、
わずかながら視界を遮っていた枯塵も空高くに舞った。
爪'ー`)∂" 「…」
パチン、という音はフォックスのものだ。
…誰かが彼に向き直るより早く。
燃えたことすら悟らせない瞬きの間に蒸発する枯塵。
あとには火の粉の残滓が蛍のように浮かび揺れている。
-
爪゚ー゚) 「そこまでしなくとも…」
爪'ー`) 「いつかどこかで土になるんだ。
わざわざ人の手を加えるなら、片付ける手間もどのみち必然だろう」
労力を省いてやったのだと言わんばかりのフォックス。
その目の前で蛍火が橙から――蒼に変化していく。
爪'ー`) 「おや?」
気付いた時には、彼の魔導力の粒子がぽかんと間抜けに弾けた後だった。
爪゚A゚) 「そのわりに後始末が雑だぬ」
爪'ー`)y‐ 「最後はこのタバコに火をつけようと思ったのだがね」
爪゚A゚) 「屋内ではやらぬように頼みたいものだ」
フォックスはちらりと窺う。
口五月蝿そうに警告した男の手のひらがしっとりと濡れていることを。
魔導力は相剋に従う。
じーの風は彼の火に呑まれ、
今まさにぬーの水で打ち消されたように。
瓜゚∀゚) 「手の内の見せっこは私で最後かづ?」
少し高い声に、三人とも振り向いた。
紅一点の彼女は屈むと土を撫でる。
「でこぼこな大地だづ」という。
同じ自然に生まれたものが、
気候や人の手の有無…そして年月によってこうも姿形を変えるのか。
故郷の砂漠の匂いを思い出しながら、彼女は魔導力を放つ。
爪゚ー゚) 「――…おお」
-
しえん
-
吐息に音を乗せたのはじーだけではない。
ぬーも、フォックスも同じように…目の前の景色に目を奪われる。
爪'ー`) 「すごいな、私には思い付かない」
一度だけだ…足元をなにかが通り抜けたように感じられたのは。
地軸が滑り動く錯覚のあとには、
石畳が織り成す立派なメインストリートが地平線まで連なり出来上がっていた。
土壌は均され、樹木が並木道を倣う。
大樹の変移動に伴い、
大きく拓けた枝葉の隙間から天道様が堂々姿を現している。
あとは建造物さえあれば誰もが人の生活の気配を感じるだろう。
爪゚ー゚) 「これは誰かに?」
瓜゚∀゚) 「独学。
大地に生えるものはすべて深く根付いているづ。
土を揺らせばそれが丸ごと動いてしまうのも自然の摂理だづ」
爪゚A゚) 「ここが数分前まで鬱蒼とした森だったとはもう誰も思わんぬ」
一度は離れた鳥たちが仲間を連れて戻ってきた。
棲み処を失くさずに済んだ、嬉しそうな鳴き声がピィピィと響き渡る。
瓜゚∀゚) 「驚かせてすまなかったづ」
――吹かせ、燃やし、相殺する。
多くの魔導力は、経てして誰かを傷付けるためのものが主眼だ。
戦争が促進させたとはいえ、人は過剰な力を得る際、
たんなる暴力の延長線上をイメージしてしまうのかもしれない。
万物に宿りし魔導力。
多くの人間によって地水火風へと箱をわけられてはいるが、
その本質が想像によって創造を成すエネルギーであることを
このなかでづーだけが掴みかけている。
「ありがとう、ここまで来てくれて」
いっそう大きくなる鳥の声。 四人の視線もひとつに重なる。
空白のメインストリートの向こう側に小さな影がぽつりと現れた。
-
近付く影がその輪郭を明確にしたのと、空の色が同化したのは同時だった。
白きメインストリートだけが風景に浮いている。
瓜;゚∀゚) 爪;゚A゚)
爪;゚ー゚) 爪;'ー`)
《シャラン…》
鈴に似た音が全員に聴こえる。
星雲が渦をまき、天がますます暗くなる。
――だが反して眩いほどの星光。
闇をいいことに数多の存在を一粒残らず主張し始めた、魔導力の星。
「【パーティクル】」
その声主をここにいる誰もが知っていた。
まだ遠くに居るはずなのに何故だか分かった。
…しかし放たれた言葉と魔法を、これまでに見聞いたことがない。
・・・・・・
それは術者を境界線に、"街が創り出されていく" 奇跡を生み出していた。
一歩足を踏み出すたび、色が塗られていく。
殺風景だった島に新たな国が建造されようとしている。
爪;゚ー゚) 「…なんとも珍しい風に逢えたじ」
「それはよかった」
爪 ;ぅA゚) 「いよいよ平和に耄碌してきたかぬ…」
「それも良いことだと思うが」
超常現象的に創られている街。 扇状に拡がる影響。
返ってくる口ぶりから、それは一人の人間の手で行われていることが窺えた。
まるで不可視のベールが剥がされていくにつれ顕になる、その全体像が見えてくる。
-
瓜;゚∀゚) 「ど…独特のセン…じゃなくて、
色々な土地が混ざっているかのような多彩さだづ」
づーのいう通り、街と呼ぶには統一感というものがなかった。
木でできた平屋もあればビニール製のテント張りもある。
かと思えばそのすぐ隣で、
何倍も背の高い灯台や石造りの館が生まれている。
歪なのだ。
コンセプトはなにもなく、頭のなかで思いついたものを
片っ端から具現化しているような唐突さにも思える。
「づー…君の優しさは失われていないんだな、安心したよ」
爪;'ー`) 「…」
「フォックス、わかってるさ。 君たちを呼び出した理由だろう?」
爪;'ー`) 「……さっきまではね」
なにかを求めるように、彼だけが片足を踏み出した。
(( 爪;'ー`) 「もうどうでもよくなった。
なんだ、その魔導力は…??」
フォックスの胸中は穏やかでいられなくなった。
どうしようもなく惹かれていた。
未知の魔法…。
そしてそれによって創られたらしき、紛うことなき故郷の一角。
それはあの日、自分で燃やし尽くした彼の家だった。
(( 爪;'ー`) 「時間を巻き戻せるのか?」
爪;'ー`)つ 「十年という記憶のなかにある君が、
いま目の前にいる君と何一つ変わらない事実と、なにか関係があるのか?!」
わざわざ彼が歩まずとも陽の位置は変わっていく。
影が明るみの元に晒され、ようやくその姿を照らした。
川 ゚ -゚) 「私にももう無いんだ。 故郷だけでなく、家族すら」
-
その手には錫杖が握られている。
二つのリングがシャラリとぶつかり鳴り響く。
爪;゚A゚) 「……摩訶不思議な…歳を取らぬのか?」
川 ゚ -゚) 「どういうわけかは私にも判らないがね」
頷くクーはそう答えると一度だけ振り向き、隠れてため息をついた。
川 ゚ -゚) 「時は戻せないし…人の魂もどうにもならない」
言葉より、目に見えるクーの表情が何よりも物語る。
それでもなお、
『 』――。
四人は彼女の存在を神格化し、そして違う単語で…彼女を同じく形容した。
爪;'ー`) 「…そう、か…」
肩を落とす彼に追い付いた三人も、興奮した様子でクーを囲んだ。
爪;゚ー゚) 「こんな魔法があるなら…!」
瓜;゚∀゚) 「私たちにも扱えるのかづ??」
川 ゚ -゚) 「…いいや」
―― 【パーティクル】はクー自身の魔導力に依存しない。
ある条件下でのみ発動する、借り物の力。
爪;゚A゚) 「そこんな街を創ってどうする気かぬ?」
――長い沈黙。
クーは唇に指を当てしばし思案している。
ここに来るまで、彼女なりの選びに選んだ言葉ではあったが、
結局は一番シンプルな言葉を口にした。
川 ゚ -゚) 「皆さえ良ければ、しばらく私とここで暮らさないか?」
-
瓜;゚∀゚) 爪;゚A゚) 「――は?」
爪;゚ー゚) 爪;'ー`)
-
共同生活は楽ではなかった。
生まれも育ちも異なる五人。
考え方も合わなければ、欲するものもバラバラだ。
…だが、どこか似た境遇は目的意識を同じくする。
島中の森林が切り開かれる頃にはいつしか
[都]と呼ぶに相応しい街に生まれ変わることとなった。
瓜#゚∀゚) 「フォックス、どうしてあの橋を壊すんだぬ!!」
爪'ー`) 「あの構造のままでは船が通過できないだろう? 作り替えるために必要な作業だよ」
爪゚ー゚) 「船を小さくすることはできないのかじ?
船体の下半分を潜水させるとか」
爪゚A゚) 「面白い発想ではあるがぬ…。
ドックを宮殿に隣接させる以上はその他の設備も含めて、
遅かれ早かれやはり必要になるぬ」
川 ゚ -゚) 「すまないな、づー。 今回は橋を動かそう」
瓜#゚∀゚) 「〜〜、我慢を強いられるのは民の暮らしだづ!」
爪゚ー゚) 「…うごかす……――そうか。
フォックス、壊すのは橋の真ん中だけにできるかじ?」
川 ゚ -゚) 「いい案でも浮かんだか?」
爪'ー`) 「……ははあ、じーが言うならばなんとなく分かったぞ」
川 ゚ -゚) 「よし、作業期間は宮殿を一部開放しよう。
民への説明も、負担もすべて私たちが受け持つようにな」
-
クーは都の主として長く、そして安定した生活を維持した。
驕ることなく、騙ることなく。
四人は魔導力を磨き続け、そのほとんどを人々の生活向上に役立てた。
やがて民からは尊敬の意を評して "四賢者" と呼ばれるまでになる。
この都は一度だけ、水害に属する天災に見舞われたことがある。
都にも壊滅的な被害がでた。
四人は【パーティクル】を求めたが、
当時のクーはこれを詠唱することができなかった。
都の建造物が白を基調として作り替えられたのはこの頃を境としている。
修復時、泥に汚れた壁や道を払拭したいがための色選びではあったが、
結果としてクーとぬーの魔導力に浄化された周辺海域によく合い、
復興後は[水の都]のステータスとしてその清潔性を轟かすに担った。
四賢者がクーに忠誠を誓うには、何十年と積み重ねた実績が必要だった。
耳障りのよい言葉だけでなく、行動、そして結果がなによりも大事だった。
クーにとって、水の都とは…。
過去は取り戻せないが、少なくとも今その時を生きるに充足した信頼を得られた時代。
時間にして百年足らずではあるが、
憶えのない罪に罰を与えられたクーの心を助けていたのは
この四人の賢者たちが最も身近に寄り添っていたおかげである。
(了)
-
以上で千年の夢2スレ目を終わります
ここまで読んでくれた方、ありがとうございました
リクエストはまた次のスレのラストにて
次のお話までにしばらくお時間をいただきますが、また何卒よろしくお願いします
それでは良いお年を。
-
乙乙
来年の投下を楽しみにしてる
-
誤字修正について
>>957
川 ゚ -゚) 「個人的懸案事項があってな、出来ればフォックスたちにも黙っていてほしい」→×
川 ゚ -゚) 「個人的懸案事項があってな、出来れば他の者たちにも黙っていてほしい」→○
※このときすでにフォックスたちはいません。
年代的には【繋がれた自由】の直前です
>>946
ありがとうございます
まとめサイトからも来ていただけるというのはいっそう励みになります
この他にも誤字脱字があるかもしれませんが、当スレでは残りレス数が限られているため
これにて>>1からの発言を控えておきます
いつもご指摘くださる方にも感謝します
以下は残り話数です
----------
川 ゚ -゚)→幕間→川 ゚ -゚)→幕間→川 ゚ -゚)→エピローグ
----------
来年になったら次スレだけ建てて、投下準備にはいります
重ねてよろしくお願いします
-
乙
訂正入ってなくてミスかなと思った所置いとく
915の最初の弟者の台詞に」がない、918の遮えられぬ、919の代わり海底、928のTtips、936のシュー許可、自分に化した、
953のれーす、954のガナー眼差し、970のいなくっても、975の時間も事例が、986の声主、988のそこんな
あと過去話の方でも
( ^ω^):その価値を決めるのはあなた の562のかなのお、ミ,,゚Д゚彡:時の放浪者 の474のデータムロム、
( ^ω^):白い壁 黒い隔たり の332の二度と国に足を運びいれることは必ず、342の飛び出していきく
以上です 次スレ建てた後にでもいいのでそこミスじゃないよとかいう所あったら指摘してくだしあ
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おつ!壮大なストーリー半端ねぇ…
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おつー
読んでると時間忘れちまうなあ
うめうめ
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乙乙
話のスケールと細かさがすごいなぁ
来年も楽しみにしてる!
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睡眠時間削って全部読んできた
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うめ
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