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スタンド小説スレッド3ページ

1新手のスタンド使い:2004/04/10(土) 04:29
●このスレッドは『 2CHのキャラにスタンドを発現させるスレ 』の為の小説スレッドです。●

このスレでは本スレの本編に絡む物、本スレ内の独立した外伝・番外編に絡む物、
本スレには絡まないオリジナルのストーリーを問わずに
自由に小説を投稿する事が出来ます。

◆このスレでのお約束。

 ○本編及び外伝・番外編に絡ませるのは可。
   但し、本編の流れを変えてしまわない様に気を付けるのが望ましい。
   番外編に絡ませる場合は出来る限り作者に許可を取る事。
   特別な場合を除き、勝手に続き及び関連を作るのはトラブルの元になりかねない。

 ○AAを挿絵代わりに使うのは可(コピペ・オリジナルは問わない)。
   但し、AAと小説の割合が『 5 : 5 (目安として)』を超えてしまう
   場合は『 練習帳スレ 』に投稿するのが望ましい。

 ○原則的に『 2CHキャラクターにスタンドを発動させる 』事。
   オリジナルキャラクターの作成は自由だが、それのみで話を作るのは
   望ましくない。

 ○登場させるスタンドは本編の物・オリジナルの物一切を問わない。
   例えばギコなら本編では『 アンチ・クライスト・スーパースター 』を使用するが、
   小説中のギコにこのスタンドを発動させるのも、ギコにオリジナルのスタンドを
   発動させるのも自由。

 ★AA描きがこのスレの小説をAA化する際には、『 小説の作者に許可を取る事 』。
   そして、『 許可を取った後もなるべく二者間で話し合いをする 』のが望ましい。
   その際の話し合いは『 雑談所スレ 』で行う事。

444:2004/05/24(月) 23:11

「…!!」
 しぃ助教授は息を呑んだ。
 ディスプレイに表示される、複数の光点。
 それは、囲い込むように周囲から接近してくる。
「…1隻たりとも逃がす気は無し、って事ですか…」
 しぃ助教授は、ディスプレイを凝視して呟いた。



          @          @          @



「先行していた、『ヘミングウェイ』が沈みました…」
 ねここは、暗い顔で言った。
 ショックを受けるのは無理もない。
 同じASAの仲間であり、沈んだ艦の中にも多くの知り合いがいるのだろう。

『全艦散開!! 各艦、陣形を大きく取りなさい!!』
 イヤホンから、しぃ助教授の指示が伝わってきた。
『このままでは狙い撃ちです!! 全艦、ランダムに蛇行運動!!』

 俺は、『アウト・オブ・エデン』を展開した。
 敵潜水艦は今…

「蛇行じゃない、全速前進だッ!!」
 俺はねここに叫んだ。
 全艦が動き出した瞬間、潜水艦は護衛の3隻とこの艦にそれぞれ2発ずつ魚雷を撃ったのだ。
 蛇行のために減速すれば、魚雷の直撃を受ける…!!

「…!?」
 ねここは、俺の方を見た。
 そして、無線機のスィッチを押す。
「副艦長よりCICへ! このまま直進、機関最大戦速!!」
 ねここは、CICにそう指示を出した。
 俺の言葉を信じてくれたのだ。
 『ヴァンガード』が、大きく前方に進む。

『敵魚雷、接近感知!! 距離2000!!』
 通信士の声が伝わってくる。
 俺は、唾を呑みこんだ。
『このまま前進で回避可能…!! ………………やった、回避成功しました!!』

「…ふぅ」
 俺は額の脂汗を手の甲で弾くと、大きなため息をついた。
 ねここも安堵のため息をついている。
「ありがとう。モナーさんの指示が無ければ、今頃は…」

 しかし、俺の『アウト・オブ・エデン』は息をつく余裕さえ与えない。
 展開している3隻の護衛艦が、たちまち撃沈される光景を捉えたのだ。

 CICから、力の無い連絡が来た。
『僚艦『ヘルマン・ヘッセ』、『スタンダール』、『シェイクスピア』、大破炎上…
 3隻とも航行は不能。現在、乗員が退艦しています…』

「そんな、まさか…」
 そう呟いて、ねここは硬直する。
 リナーは口を開いた。
「あれだけ蛇行して海面を乱せば、魚雷のセンサーは相当に狂うはず。
 だが、それを問題にせずに3隻を撃沈した。こちら側の操舵を完全に読んでいる、凄まじい偏差射撃だ。
 相手は、トップクラスのサブマリナーだぞ…」

「…ん? あれは…」
 俺の『アウト・オブ・エデン』は、異常を捉えた。
 50Km先に、1隻の艦が…
 それも、明らかに軍艦だ。
 俺は、艦船を目標にして周囲をサーチする。

「…大艦隊モナ! 囲まれてるモナ!!」
 俺は叫んだ。
 50Km前方に、8隻の大艦隊。
 後方からも、同規模の8隻の艦隊が高速接近している。
 俺の通常探知ギリギリの場所に、今まで待機していたのだ。
 ASAの艦隊を囲い込むように展開しながら…
 そして敵潜水艦の霍乱によって陣形が崩れた今、一気に接近してきた…!

『前方より、大艦隊接近!! 後方からも…!!』
 少し遅れて、CICからの報告。
 ねここは息を呑んだ。
「こちらはイージス艦とはいえ、たった2隻…!」

「でも、やるしかないだろう…?」
 リナーの横には、いつの間にか彼女が持ち込んだ特大ガトリングガンがある。
「潜水艦よりは、まだ戦いやすい相手だ。いざとなれば、接舷して白兵戦で制圧すればいい」
「…本気で言ってるモナ?」
 リナーならやりかねないのが怖いところだ。

 艦橋からの扉が開いて、艦長であるありすが甲板に姿を現す。
「…さすが三幹部、危険に対する嗅覚は並外れているらしいな」
 リナーは、場違いな衣装を着た少女を見て言った。
 ありすは、ゆっくりとこちらへ来る。
 久し振りに感じる、この威圧感と圧迫感。
「サムイ…」
 ありすは、いつものように呟いた。

「…リナーさんの言うとおりです。くじけていてはいけませんね」
 ねここは大きく頷いた。
「ありすの『ゴッド・セイブ・ザ・クィーン』の射程なら、対艦ミサイルの撃墜は可能ですし。
 攻撃に専念すれば、敵の半分くらいは…」

445:2004/05/24(月) 23:13

「…ああ、やってやるモナ」
 俺はバヨネットを取り出した。
 だが、我ながら何をやるのだろう。
 正直、俺はこれっぽっちも役に立ちそうにない。

 無線機のイヤホンから、しぃ助教授の声が伝わってきた。
『全艦…って、もう『ヴァンガード』だけですね。とにかく、全艦に通達です。
 イージス艦の全兵装及び各員のスタンド能力を駆使し、敵艦隊の全艦を撃沈します。
 各員、己の身の防御を最優先にしつつ… 派手にブッ潰してやりなさい!!』

「はは… 結局、こうなるんですね」
 ねここは笑った。
「相変わらずだな、そっちの大将は…」
 リナーはため息をつく。
 そして、夜空に浮かぶ月を見上げた。
「奴等には… 吸血鬼に対して、真夜中に喧嘩を売った事を後悔してもらうか…」



          @          @          @



 非常に狭い空間。
 コーンという音が、定期的に周囲に響いている。
 慣れない者が足を踏み入れば、息が詰まってしまうだろう。
 ここは、潜水艦の艦内である。

 大きなヘッドホンを嵌めている男が、ディスプレイと向き合っていた。
 彼はこの艦の水測長、海中の僅かな音を拾い取る重要な役割だ。
 いわば潜水艦の耳である。
「3隻目の沈没音を確認… ASAのヴァージニア級巡洋艦、3隻とも撃沈です!!」
 水測長は静かに告げた。

「…ヨシ」
 でぃは、ディスプレイを見つめて大きく頷く。
「後は… イージス2隻のみですな、でぃ艦長」
 副艦長は、でぃに言った。

「タイキ…」
 でぃは呟く。
「機関停止、この場に待機だ」
 副艦長は素早く指示を出した。


 でぃは、光点の浮かぶディスプレイを見つめる。
 ここまでは、見事に型に嵌った。
 孫子の教えに、『囲師は周することなかれ』というものがある。
 敵を包囲する時は、一箇所だけ空けておけという事だ。
 完全に追い詰めてしまえば、思わぬ反撃を受ける可能性がある…というだけではない。
 意図的に、相手に逃げ道を用意しておく事で、敵の動きをそこに誘導できるのだ。

 例えば、敵を3箇所の出口しかない家に閉じ込めたとする。
 そして、出口を3箇所ともに火を付けてしまえば、相手の動きが読めなくなる。
 だが、あえて1箇所だけ火を付けなかったら… ほぼ間違いなく、敵はそこから脱出を図るはずだ。

 ASAの敵司令官の指示や対処は的確だ。
 だが、余りに的確過ぎる。幾つかある手段のうち、一番的確な手を選ぶのだ。

 先制攻撃を食らわせれば、追撃を避けるために加速した。
 向こうにとって、一番的確な手だ。
 敵の加速に乗じてギリギリまで接艦すれば、振り切るためにジグザグ航法を取った。 
 向こうにとって、一番的確な手だ。
 ジグザグ移動による海面の乱れに紛れて僚艦を撃沈すれば、艦同士の距離を大きく取った。
 向こうにとって、一番的確な手だ。
 そして海面は大きく乱れ、ソナーがろくに使用できない状態に自らを追い込んだ。
 後は、目の見えない相手を殴るようなものだ。
 こちらは、巻き起こった航跡群を目標に殲滅するだけ。

 完全に、こちらの誘導通りに動いている。
 こちらが意図的に用意した逃げ道に、見事に駆け込んでいるのだ。
 向こうの司令官はスタンド使いとしては優秀かもしれないが、軍司令官としては余りに未熟。
 戦場を肌で感じていない。戦いを自分で組み立てていない。
 現在の向こうの惨状は、全てマニュアル的な判断が招いた事態だ――
 でぃは、ディスプレイに映る敵艦の光点を見つめた。

446:2004/05/24(月) 23:14


「…キタ?」
 でぃは水測長に訊ねる。
「ええ。味方艦隊が接近しています。後は、波状攻撃を浴びせて終わりですよ…」
 ディスプレイをチェックし、笑って告げる水測長。
「手負いの獣は危険だ。まして相手はスタンド使い。接近した時が一番怖い。それを忘れるな」
 副艦長は、そんな態度を戒めるように言った。
「はっ! 甘い認識でした!」
 水測長は慌てて姿勢を正す。

 不意に、クルーの1人が告げた。
「管制機よりデータリンク。距離7000、国籍不明艦を確認。こちらに接近しているようです。
 かなり大型… これは、戦艦クラス!?」
 彼は大声を上げる。

「戦艦クラスだと…?」
 副艦長は、報告をしたクルーの後ろに立った。
「画像は来ているか?」

「…ええ」
 クルーは、機材を操作する。
 ディスプレイに、黒い艦影が表示された。
 副艦長がそれを覗き込む。
 どこからどう見ても、重武装の戦艦だ。
「これは… アイオワ級か…?」

 クルーの1人が口を開いた。
「いいえ… この主砲塔の数、艦橋の形… これは、『ビスマルク』です!」
「『ビスマルク』だと…? ナチスドイツの戦艦を、なぜ今さらASAが模造した…?」
 副艦長は顎に手を当てて呟く。

「…」
 でぃは、ディスプレイを見つめた。
 大ドイツ帝国海軍、超弩級戦艦『ビスマルク』。
 当時のヨーロッパで最強を誇ったとは言え、今ではもはや骨董品だ。
 まともな戦力になるはずがない。

 …これは、本当にASAの艦なのか?
 こんなものを、今さら投入する必要がどこにある?
 彼の嗅覚は感じ取った。
 この戦艦は、ASAに籍を置く艦ではない。

 何か…妙だ。
 こちらの味方でもASAでもない艦が、なぜ接近してくる?
「…コワイ」
 ディスプレイを凝視して、でぃは呟いた。
 漆黒の艦影。甲板にずらりと並ぶ砲塔。
 その姿はまさに、時代の亡霊だ。
 その威容に、でぃは禍々しいものを感じた。



  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

447ブック:2004/05/25(火) 01:44
     EVER BLUE
     第十七話・TROUBLE MAKER 〜歩く避雷針〜


 僕達を乗せた船は、無事島の港まで着いた。
「よし、錨を下ろせ。」
 サカーナの親方の声に従い、乗組員が錨で船体を港に固定する。

「さて、それじゃあ俺は、燃料だの砲弾だのの交渉に行って来るわ。」
 サカーナの親方が上着を羽織る。
「それでは私もご一緒させて頂きます。
 あなただけに財政を任せては不安ですので。」
 高島美和がサカーナの前に出た。
 まあ、彼女が一緒なら安心だろう。

「2〜3時間は停泊しているのだろう?
 ならば俺は少し島の街に寄らせてもらう。
 剣の補充をしたいのでな。」
 マントをたなびかせながら、三月ウサギが告げた。

「構いませんが、個人の武器の購入は自腹ですよ。」
 冷たい声で高島美和が返す。
「分かっている。」
 無表情で答える三月ウサギ。

「それじゃ、俺もちょっくら外へ散歩に行くとするか。
 この島を出たら、当分娑婆の空気は吸えそうにないしな。」
 ニラ茶猫が軽く背伸びをした。
「あ、なら俺も一緒に行くよ。」
 オオミミが続く。
 全く、君といいニラ茶猫達といい呑気なものだな。
 君達は、『紅血の悪賊』に狙われている真っ最中なんだぞ?

「でしたら、私もご一緒させて頂きましょう。」
 タカラギコが包帯とベルトに巻かれたパニッシャーを手に取り、背中に担ぐ。
 いつも思うのだが、
 この優男のどこにこれだけの大きさの得物を振り回すだけの力が隠されているのだ?
「この得物だけではどうにも小回りに欠けますしね。
 手頃なサイドアームを手に入れなければ。」
 タカラギコが巨大な十字架をコツコツと手で叩いた。

「…外に出るのは勝手だが、お前ら絶対に目立つような事するんじゃねぇぞ。」
 サカーナの親方が僕達を睨む。

「ふん。こいつらと一緒にしないで貰おうか。」
 三月ウサギがオオミミとニラ茶猫の方に視線を移す。

「おい、そりゃどういう意味だフォルァ!」
 ニラ茶猫が三月ウサギに突っかかった。
「事実を述べたまでだが?」
 皮肉気に返す三月ウサギ。
 それにしても失敬な。
 この僕がついているのに、オオミミをニラ茶猫と同列に語るとは。

「まあまあ、二人とも落ち着いて…」
 オオミミが険悪なムードになった二人の間に入る。

「ふん。」
「けっ。」
 ニラ茶猫と三月ウサギはしばし目線を合わせて火花を散らした後、
 ほぼ同時にお互いそっぽを向いた。
 この二人、仲がいいのか悪いのか…

「…そんなんだから心配なんですよ。」
 高島美和が呆れたように呟く。

「天はどうする?」
 オオミミがふと天に尋ねた。
「アタシは遠慮しとくわ。
 また前みたいに恐いおじさん達に追いかけられちゃたまんないし。」
 天が首を振る。

 良かった、こいつが一緒じゃなくて。
 僕は密かに胸を撫で下ろした。

「兎に角、だ。
 くれぐれも騒ぎは起こすなよ?」
 サカーナの親方が念を押す。

「心配すんな。
 俺が居る限り大丈夫だって。」
 胸を張るニラ茶猫。
 いや、お前が一番心配なんだって。

448ブック:2004/05/25(火) 01:45



 僕とオオミミと三月ウサギとタカラギコの三人で、街中の刀剣屋の品を物色していた。
 ニラ茶猫は三月ウサギと一緒に歩くのが嫌だったのか、船を降りたとたん
『ロイヤルミルクティーと生ハムメロンで潤ってくるぞフォルァ。』
 などと訳の分からない事をぬかしてさっさと行ってしまった。
 まあ三月ウサギとニラ茶猫が一緒だと、
 サカーナの親方が心配していたように騒ぎを起こしてしまう可能性があるので、
 一人でどっか行ってくれて内心ほっとしているのだが。

「ふあ〜ぁ。」
 戦闘に武器を使わないオオミミが、退屈そうに欠伸をついた。
 僕もこういう分野には興味が無い為、いささか辟易している。

「ふむ…」
 タカラギコが大刃のナイフを手に取り、軽く手の平で遊ばせる。
 握り心地を確かめているのだろうか?

「……」
 と、タカラギコが何か訴えるような目で三月ウサギを見つめた。
 何だ?
 こいつらホモか?

「…何だその目は。」
 迷惑そうな顔で、三月ウサギが言う。

「いや、あのですね、恥ずかしながら私、一文無しなのですよ。
 ですから、優しい足長おじさんが何かプレゼントしてくれないかな〜、と。」
 縋るような視線を三月ウサギに送るタカラギコ。
 あんた、金も持ってないのに買い物について来たんかい。
 つーか、最初から人に奢らせるつもりだったのか?

「親父、そこの棚にある剣全部寄越せ。」
 三月ウサギがタカラギコを無視して店主にそう言った。

「ああ、そんな…」
 恨めしそうな声を出すタカラギコ。

「そこの棚の剣を全部?
 お客さん、冗談も大概に…」
 そこで三月ウサギが金色に輝く像をカウンターに叩きつけ、店主の言葉を遮った。
「代金はこれで充分だろう。
 分かったらさっさと剣を売れ。」
 ちょっと待った。
 その金の像って、確か…

「やばいよ三月ウサギ。それ、確か『紅血の悪賊』の船から取ってきた…」
 オオミミが小さな声で三月ウサギに耳打ちする。
 それにしても、三月ウサギはいつのまにそんなもの持って来たんだ。
 それとも、最初からマントの中に隠していたのか?

「こんな趣味の悪い像が、軍事機密な訳はあるまい。
 それに、これぐらい正当な報酬の範疇の内だ。」
 涼しい顔で答える三月ウサギ。
 やれやれ、サカーナの親方がこの事を知ったらどんな顔をする事か。

「…分かりました。
 ですがお客様、こんなに沢山の剣をどうやって…」
 棚に掛けられた大量の刃物を見やりながら店主が尋ねる。

「ふん。」
 質問には答えず、三月ウサギは次々と剣をマントの中に入れ始めた。

「あ、あの、それは一体…」
 その光景に、目を丸くする店主。
「気にするな。ちょっとした手品みたいなものだ。」
 剣を収納しながら三月ウサギが口を開く。

「手品…手品…
 うん、そうだよな。
 こんなの手品に決まってる…」
 現実逃避しているのか、店主がブツブツと独り言を言い始めた。
 この異様な現象を、無理矢理手品とこじつけて納得するのに必死なのだろう。

「いやあ、便利な能力ですねぇ。
 本当に羨ましいですよ。
 私なんか、こんな重いものを一々担がないといけないんですから。」
 背中のパニッシャーに目を向けながら、三月ウサギが溜息を吐く。

「…おだてても、お前の武器は買わんぞ。」
 冷徹に三月ウサギが言い放つ。
 三月ウサギに図星を突かれたのか、タカラギコががっくりと肩を落とした。

「オオミミ君…」
 タカラギコが、今度はオオミミに目を向けた。
「…ご、ごめんなさい。
 俺も小遣い程度しかお金持ってないし、
 果物ナイフみたいなものしか…」
 手を振りながらタカラギコの期待を退けるオオミミ。
「そうですか…」
 タカラギコが残念そうに呟いた。

449ブック:2004/05/25(火) 01:45


「…俺、先に店を出とくよ。」
 退屈が限界に達したのか、タカラギコの視線に耐えられなくなったのか、
 オオミミが外に出ようとした。
 それがいい。
 三月ウサギが剣を全部マントの中にいれるにはまだまだ時間が掛かりそうだし、
 外で何か冷たいものでも飲むとしよう。

「ああ、お気をつけて。」
 タカラギコはオオミミにそう言うと、再び三月ウサギに訴えるような視線を向けた。
 どうやら、まだまだ武器を奢って貰うのは諦めていないらしい。

「うん。俺、この店を出た所から見える位置には居るから、
 終わったら声を掛けてよ。」
 そう言うと、オオミミは刀剣屋の出入り口のドアを潜った。

(さて、どうするオオミミ?)
 僕はオオミミに尋ねた。
「そうだね。
 前にパン屋さんがあるし、そこで何か食べ物でも買おう。」
 オオミミがパン屋を指差した。
(賛成。)
 僕とオオミミは一心同体。
 本来スタンドである僕は食べ物など必要無いが、
 オオミミの感覚を共有する事で味覚を楽しむ事も出来る。
 だから、オオミミが食べた物を僕が味わう事も可能なのだ。

「それじゃ、買いに行こうか『ゼルダ』。」
 オオミミが小銭の詰まった財布を握り締めてパン屋に向かう。
 早く、オオミミ。
 僕はもう待ちきれな―――


「!!!!!!!!!!!!」
 次の瞬間、オオミミの体が何者かの腕に掴まれた。
 驚く間も無く、首に腕を回されて体を捕らえられる。
「…!?」
 自分を捕まえた人を見ようと、咄嗟にオオミミが首を後ろに向ける。
 全身を分厚いコートに包んだ、奇妙な風貌。
 背中には、パニッシャーと同じ位に大きな何かを担いでいる。
 顔はフードを目深く被っている上に、サングラスまでかけているので、
 ぱっと見ただけでは判別がつかない。
 だがオオミミの背中に当たる柔らかな二つの膨らみからして、どうやら女性のようだ。

「…!貴様!!」
 と、そこに数人の男達が駆けつけてきた。
 その手には、十字架を模した武器を持っている。

「動くな!!」
 男達が詰め寄ろうとした瞬間、オオミミを捕らえた女が声を張り上げた。
 その言葉に動きを止める男達。

「動くでないぞ。
 妙な真似をすれば、この者の首をへし折る。」
 凍りそうな程冷たい声。

 …どうやら、騒ぎを起こすのは三月ウサギでもニラ茶猫でもなく、
 僕とオオミミになってしまったようだ。
 畜生。



     TO BE CONTINUED…

450丸耳達のビート:2004/05/25(火) 22:06


 丸耳の少年が、椅子に腰を下ろした。
テーブルを挟んだ対面には、顔も右腕もない男が座っている。

「いらっしゃい…だいぶお疲れのようだけど、欲しければ飲み物くらいは出すよ?」
「いや…必要ない」
 そう言うと、少年の向こう側に座った男が首を振った。
砕け散った右腕に、のっぺらぼうの白い顔。
「そう…ところで、なんて呼べばいいのかな。…あ、名乗りたくないなら構わないよ。
 こっちで勝手に呼ばせて貰うから。『のっぺらぼうさん』『白塗りさん』『片腕さん』…
 いや、『片腕さん』ってのはウチのメンバーとかぶる…」

「…<インコグニート>だ。そう呼んで貰おう」
「『名無しさん』って…僕の偽名ネーミングセンスはそれ以下なのかな?」
「ええと…君の悪口は言いたくないのでノーコメントです」
「それは言ってるのと同じだよ〜…」
 テーブルにのの字を書き始める少年に、<インコグニート>が答えた。
「本名だよ。私が私自身につけた、な」
「あ、そう…で、はるばるこんな所に来たんなら、僕らに用があるんでしょ?」
 のの字を書いていた指が、気を取り直すようにこつん、とテーブルを叩き、中空にくるりと円を描く。

「そうだ…私の用件は二つ。まず、私に敵対するSPM構成員の排除と…『エタニティ』の能力を貸与して欲しい」
 す、と隣に佇んでいた少女の体に緊張が走った。
軽く右手を挙げていきり立つ少女を抑え、そっと口を開く。
「人生っていうのは…何事もギブ・アンド・テイクってものだよね。
 それが見ず知らずの、たった今初めて会ったばかりの奴なら尚更…。
 僕が敵を消して能力を貸せば、その見返りに何をくれる?」

 沈黙。

 お互いに黙ったまま、空気だけが張りつめていく。
永遠とも思える時が過ぎ―――<インコグニート>が答えた。
 world
「世界だ」

「はぇ?」
 少年の後ろで、少女が素っ頓狂な声を出した。

451丸耳達のビート:2004/05/25(火) 22:08

「聞こえなかったか?世界をやろう」

「世界…?」
「そう、世界だ…元々私は『帝王になる』事だけを目的として生まれた存在だからな。
 支配した後のことなど、実のところさしたる興味はない」
「えーと…要するに、『プラモ作るのが好きだけど、場所取るから作ったのくれる』とかそんな感じ?」

 何やらえらく平和な例えになってしまい、少年以外の二人の顔に汗が浮かんだ。
「…いや、その比喩は…」
「待って下さい。話を聞くに、貴方の最終的な目的は『世界の帝王になる』と?」
 今まで話し合いに参加していなかった少女が、初めて自分から口を開いた。

「そうだ」
 情報は隠さない。協力を求めている以上、『信頼』を見せねばならないのだ。
「貴方、自立型スタンドですよね」
「…そうだ」

 …ふと感じる威圧感。目の前の少女に、敵意が宿っている。

「本体が、死亡したのは?」
「千九百…八十七年だったか」

 チリチリチリチリ、肌が焼けるような感覚。
少女の口元に浮かんでいた、薄い笑みが消えていた。

「本体の、名は?」

 しばしの躊躇い。
全てのカードを晒す訳でもないし、彼の名を明かすのには問題はないだろう。

 そう判断し、口を開く。


「―――ディオ・モランドー」


  ―――――!


 その名が出た瞬間、少女の敵意が爆発した。

452丸耳達のビート:2004/05/25(火) 22:09
「貴様ァァァァ―――――ッ!」
 絶叫しながらテーブルを駆け上がり、周囲の空間に揺らぎが生まれる。
「なっ…!」
 驚く間もなく揺らぎが肥大化し、スタンドヴィジョンが浮かび上がった。
ぼんやりとした輪郭の人型スタンド。
わああああん、とざわめきのような音が聞こえる。
 即座に『思念の刃』を展開させ、防御に備え―――


「縛れ―――『エタニティ』!」


 少年の叫びと共に具現化した鎖が、二人の動きを封じた。
ごろりと少女がテーブルに転がり、<インコグニート>の刃と体も椅子に縛り付けられる。

「ふあっ…!」
 締め付けられた少女が、テーブルの上で甘い吐息を漏らした。
鎖の端は空中へ融け込むように同化しており、一ミリも動かせなくなっている。

「ぅぁ…何故、止めるのですか…!コイツのせいで、私達『ディス』は地獄を見たのですよ!!」
「…彼のせいじゃない。彼は只のきっかけだよ。彼がいなくたって、いずれ他の人間がそうなってた」
「しかし…!」

 縛られたまま、憎悪の籠もった目で<インコグニート>をにらみつける少女。
やれやれと溜息を一つ、<インコグニート>へと向き直る。

「済まないけど…『名無しさん』。この話、無かった事にして。
 『世界をやろう』なんてとても信用できないし、万一できても僕らは世界なんていらない。
 ただ今のままでいられればいいんだよ。だから、双方不干渉って事でいいでしょ?」
「…そうか…残念だ」
 言っているものの、断られるのがわかっていたのかあまり悔しそうな口調でもない。
      ディス
「悪いね。僕等のメンバーも納得しそうにないから…お引き取り願うよ」
 そう言うと、刃と体を縛り付けていた鎖『エタニティ』が消滅した。
ふっと刃を消し、<インコグニート>が席を立つ。
「では…また会おう」

  ―――また?

 眉をひそめる間もなく、<インコグニート>は部屋から消えていた。

453丸耳達のビート:2004/05/25(火) 22:10

  ―――また?

 眉をひそめる間もなく、<インコグニート>は部屋から消えていた。

「『また会おう』って…不干渉って言ったんだけどな…あれ?」
 少女に鎖を絡ませたまま<インコグニート>の座っていた椅子を見ると、封筒が一つ置かれていた。
手紙に使うようなものよりも少し大きめの、色気もそっけもない茶封筒。
「…忘れ物?」
「返す必要なんてないです。あんな奴が『エタニティ』を貰おうなんて―――」
「ちょっと黙ってなさい」

 そういうと、『エタニティ』の鎖を少しだけ締め付けてやる。
「ゃあ…ふあンッ!」

「さて、と…」
 卓の上で悶える少女を余所に、椅子の上の封筒を取り上げた。
「…ま、いいよね、ちょっとくらい見ても…」
 爪を使ってぺり、と封を切り、中身を取り出す。
「写真…?」
 中には、輪ゴムで止められた数枚の印画紙が中にまとめられていた。
ぱちんとゴムを外し、中の写真を覗き見る。

 そして―――その中の二人を見て、顔色を変えた。


  長毛種の少年―――『チーフ』。

  丸耳の少年―――『茂名・マルグリッド・ミュンツァー』。


        ・ ・ ・ ・ ・   ・ ・ ・ ・
―――――また会おう、必ずまた、な…


            インコグニート
 顔と右腕のない『名無しさん』の声が、聞こえた気がした。

454丸耳達のビート:2004/05/25(火) 22:11




「…ぅん…」
 ぱちり、と目を開けた。

 右手を上げて目を擦ろうとするが、酷く重い。
目の前に上げて握り拳を作ろうとするが、ぴくぴくと軽い痙攣を起こすだけだった。
そうこうしているうちに力尽き、顔の上に右手を落とす。
 感覚が全くない。
顔面に右手が乗っている感覚はあるのに、右手で顔面を触っている感覚が感じられない。

「…うわぁ…気持ち悪…」

 一人表情を歪めていると、病室に誰かが入ってきた。
「…気付かれましたか」
「ジエン…さん?…えと…私、なんで寝てるの?」
「ええ…と、『ヨーダイガキューヘンシタ』という奴ですよはい」
「HAHAHA、マルミミのドアホウが薬間違えてのぉ。
 数時間もすれば…明日の朝には感覚が戻ってくるじゃろ。
 首のバンソーコーは取ってはいかんぞ。絶対」
「二人とも…何か、隠してます?」


  ぎくんっ。


「………さあ、何の事やら」
「………人を疑うなんて無礼じゃぞ♪」

 辛うじてとぼけていると言っていい状態。
だが、ジエンは冷や汗でスーツがビショビショになっているし、茂名に至っては露骨にキャラが変わっていた。
「…別にいいですよ、話したくないなら」

 ジエンと茂名が顔を見合わせ、ほっと一息。
「まあ、寝てる間に血を抜いて売ったりとかそういう事はしとらんから安心せい」
「ぅぇぁ…そんな事してる人がいるんですか?」
 顔をしかめるしぃに、ジエンが答えた。
「昔はあったらしいですよ。半身不随の人が、足から血を抜かれて…」
「いや〜…聞きたくない〜…」
 おどけて首を振り、ジエンと茂名が笑う。


 実際はそれより酷いコトされたとは、口が裂けても言えなかった。

455丸耳達のビート:2004/05/25(火) 22:12




―――そして、その酷いコトをした張本人はといえば。

「うう……」

 ベッドの上で枕を抱いて、一人思案に暮れていた。

  ―――――胸、凄かったなぁ。たゆーん、って。

(って違う違う違うっ!)
 ピンキィ
 桃色思考の首に縄を繋いで、本来の考えへと引き戻す。
彼女の服をはぎ取って牙を打ち込むまで、全て鮮明に覚えていた。

 今こうして枕を抱いて悶々としているのも『僕』ならば、しぃの首に牙を立てたのも『僕』。
自業自得とはよく言ったものだけれど、この場合はどうなるんだろう。

(あ、また脱線してる…)


―――ひぁ…ぁ、洗っても、洗っても…男の人達の…感触が…消えな…くて…
     汚れた躯…ふぁ…マルミミ君に…好きに…なって…貰えない…!


 思い出す。暗い病室での、しぃの言葉を。

(…やっぱり、これって…告白…だよね。)

 男手一つで育てられたから、女性との付き合いなんて近所のオバさんと虐待されたしぃ族くらい。
学校だって、子供じみた外見のせいで評判は『カワイイ』…
 生まれてこの方、女の子とつきあった事など一度もなかった。

(で…僕は、どう思ってる?)
 …嬉しくないわけは、ない。
しぃ族の女の子は沢山見てきたけれど、その中でも彼女は綺麗だった。
 十四歳という話だったが、とてもそうは見えない大人びた外見。
でも、中身はやっぱり十四歳の女の子…そのギャップが、見る者を引きつける。

                ・ ・ ・ ・ ・ ・
 けれど、それは本当に人間である僕の、人間に向ける愛なんだろうか。
        ・ ・ ・ ・ ・ ・        ・ ・ ・
 それとも、吸血鬼としての僕の、非常食に向ける食欲なのだろうか。


 愛なのか、欲望か―――そこで思考は停止する。
わからないまま前にも進まず、ゴールの無い迷路のようにぐるぐるぐるぐるただ迷う。


  ―――――けどやっぱり凄かったなぁ。サイズの合うブラ家に無かったもんなぁ…って待て待てっ。


 三度脱線する思考を引き戻すが、いつしかうとうとと眠りについていた。




  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

456丸耳達のビート:2004/05/25(火) 22:13

                           @@@@
   @@@@     @@@@      @@@@  (゜д゜@
   (゜д゜@アラヤダ @゜д゜)     ∩゜д゜)   ┳⊂ )
(( ⊂ ⊂丿    (つ  つ ))  ヽ ⊂丿  [[[[|凵ノ⊃
   (_(_)    (_)_)     し'し'    ◎U□◎

 近所のオバさ(ブツッ) 奥様方

                ウルワ  マダム
茂名診療所の近所に済む逞しき人妻達。
男ヤモメの茂名診療所によく晩ご飯を作りに来てくれる他、
しぃのような入院患者の衣服なども無償で提供するなど、     @@@@
茂名診療所は彼女らによる無償の愛で成り立っているのだッ! (゜д゜@ …ケド、デバン ナイノヨネェ…

457ブック:2004/05/26(水) 00:06
     EVER BLUE
     第十八話・CEMENT 〜ガチンコ〜 その一


「『ジャンヌ・ザ・ガンハルバード』…!」
 男達がオオミミを掴む全身コート女を睨んだ。

「…ふ。」
 僕とオオミミを抱えたまま女が後ろに大きく跳躍した。
 いや、大きくなんてものじゃない。
 その距離実に十メートル以上。
 オオミミを抱え、助走無しでのこのジャンプ。
 明らかに人外のそれである。

「くっ、貴様!」
 男達が僕達へ駆け寄ろうとする。

「動くなと言っておる!」
 女がオオミミの首に回した腕に力を込めた。
 オオミミが、苦しげに声を上げ、その様子を見て男達が悔しそうに動きを止める。

「では、な。」
 女が再び飛翔した。



 まるで風のような勢いで、女はオオミミを抱えながら街中を飛び進んだ。
 街の人々が、驚いた様子でそれを眺めるが、
 女は一向に構わぬ様子でそのまま駆け抜けて行く。

「…そろそろいいじゃろう。」
 そう呟くと、女は薄暗い裏通りで足を止めた。
 そして、オオミミをゆっくりと地面に下ろす。

「……!」
 オオミミが警戒態勢を取る。
 僕も、いつでも出現出来るように準備しておく。
 あの怪力、あの身のこなし、そして陽光を嫌うようなこの格好、
 この女、間違いなく吸血鬼だ。
 まさか、『紅血の悪賊』か…!?

「そう固くなるな、小僧。
 別に取って喰ったりなどせぬ。」
 と、思いがけず和やかな口調で女が喋ってきた。
 その声色に、思わず肩透かしを食らう。

「あの、あなたは…」
 オオミミが何か言いたそうに女に声をかける。

「名乗る程の名は持ち合わせておらぬよ。
 …そうじゃ。
 行きがかり上とはいえ、さっきはすまなんだな。」
 女がオオミミに巾着袋を投げ渡した。

「……!」
 オオミミがその入れ口を開けてみて仰天する。
 巾着袋一杯に、ぎっしりと詰められた金貨。
 何で、吸血鬼がこんな大金を?

「あの、俺、こんなのは…!」
 オオミミが慌てて金貨の詰まった巾着を返そうとした。
 馬鹿、オオミミ。
 君は何でせっかくの儲けを棒に振ろうとするんだ。

「いいから持っておけ。
 先程の迷惑料じゃ。
 子供は素直に駄賃を受け取るのが、可愛げというものじゃぞ?」
 クックと含み笑いを漏らす女。
 その口からは二本の白い牙が覗く。
 フードを被りサングラスをかけている為、顔はよく見えないが、
 恐らく相当の美人だろう。

458ブック:2004/05/26(水) 00:07


「…そういえば忘れる所じゃった。
 お主、この辺りで『紅血の悪賊』に狙われている船があると聞いておるのだが、
 何ぞ知らぬか?」
 …!
 この人も、僕達を追っているのか!?
 だが、今の質問の仕方からして、『紅血の悪賊』ではなさそうだ。
 なら、この人は一体何者なんだ?

「し、知りません…」
 露骨に動揺した様子で答えるオオミミ。
 駄目だ。
 僕から見ても、隠し事してるのがバレバレだ。

「…どうやら、お主は嘘を吐けない性格のようじゃな。」
 女の声が冷たいものへと戻り、一歩オオミミへと近寄る。
 オオミミは後ろに下がろうとするも、背中に壁が当たりそれを阻んだ。

「う、嘘じゃないです。
 俺は、本当に何も…」
 オオミミが冷や汗を流す。
 女は既にオオミミの目と鼻の先まで接近していた。

「!!!」
 いきなり、女がオオミミの顔を伝う汗をその舌で舐め取った。
「この味は、嘘を吐いておる味じゃぞ。」
 汗を舐めただけで嘘か本当かを見抜いた?
 この女、変態か?

(無敵ィ!!)
 このままではヤバい。
 咄嗟に僕が外に出て、女を突き飛ばすべく腕を伸ばす。

「!?」
 しかし、その一撃が当たる事はなかった。
 命中の寸前で、女が紙一重でそれを避ける。

 僕の姿が見えた?
 まさか、この女スタンド使いなのか!?

「!!!!!!!」
 直後オオミミが首を掴まれ、そのまま壁に押し当てられた。

「…驚いたぞ。
 可愛い顔して、スタンド使いだったとは。
 じゃが、どうやら大きな魚が網に掛かったみたいじゃな。」
 女が静かに口を開く。

「さて、すまぬがお主の知っている事、
 洗いざらい唄って貰おうか?」
 女が軽くオオミミの喉を掴む手に力を込めた。

「…本…当に、知らな…い……」
 オオミミが苦しそうに言葉を搾り出す。
 このままだと、非常にまずい。

(無敵ィ!!)
 女に目掛けて左のフックを放つ。
「甘い。」
 しかし、女は背中に担いでいる巨大な「何か」で、巧みにその拳を防御した。
 この人、強い…!

459ブック:2004/05/26(水) 00:07

「…仕方無い。
 あまりこういう真似はしたくないのじゃが…」
 女がサングラスを外した。
 怖気も奮うような、極上の美人。
 しかし、残念ながら今はその美顔に見とれている状況ではない。

「……」
 女が猛禽類の様な瞳で、オオミミの目を覗き込んだ。

「……!!!」
 オオミミがビクンッと痙攣する。
 同時に、彼の意識が一気に遠のいていくのが感覚を通じて分かる。

(……!)
 彼の感覚に同調する形で、僕の意識も持っていかれそうになった。
 遠く遠く遠く遠く遠く遠く遠く遠く。
 心地よい魂の眠りへと…

 …!!
 まずい。
 これは、
 催眠術(ヒュプノシス)…!

「さて、答えて貰おう。
 お前は、何を知っている?」
 女がオオミミの目を見つめたまま尋ねた。
「…はい。その船は、俺達の―――」

(しっかりしろ、オオミミ!!)
 心神喪失状態のオオミミに向かって、僕はあらん限りの声で叫んだ。
「!!!」
 オオミミが、僕の声を受けて正気に返る。

「…!!
 儂の瞳術が破られた!?」
 女の顔が驚愕に歪む。
(無敵ィ!!!)
 そこに生まれる一瞬の隙。
 僕の右拳が、今度こそ女の顔を捉える。
 女性の顔をグーで殴るのは気が引けるけど、今回はまあ不可抗力だ。

「くっ…!」
 殴られた右頬を押さえ、後方に跳ぶ女。
 さっき拳を交えた時の感じからして、
 多分相手の方が戦闘能力に関しては何枚も上手。
 しかも、相手は吸血鬼。
 人間を軽く屠る事が可能な超常生物だ。

「……!」
 ゆっくりと間合いを測るオオミミ。
 だが、勝機は無い事もない。
 今は日中。
 太陽の光は吸血鬼の致命的な弱点だ。
 それならば、僕達で何とか出来る!

「…先程の無礼は詫びよう。
 しかし、儂とて子供の使いでここに来ている訳ではない。
 すまぬが、どうあってもお主には知っている事を話して貰……」

460ブック:2004/05/26(水) 00:08


「!!!!!!!!」
 突然女がその身を翻した。
 次の瞬間、さっきまで女が居た場所に無数の剣が突き刺さる。
 この剣、
 まさか―――

「それ以上の相手は、この俺だ。」
 黒いマントをたなびかせ、建物の屋根から隻眼の男が僕達を見下ろす。
 三月ウサギ、来てくれたのか…!

「お主、何者じゃ!?」
 女が背中の大きな「何か」の包帯とベルトを外した。
 そこから、変な形の凶悪な得物が顔を覗かせる。
 何だ、これは。
 銃とハルバードが合体したようなそんなとてつもないような…

「…俺に銃は効かんぞ。
 そして、この距離ならば投擲(こっち)の方が速い。」
 女に銃口を向けられても、少しも動じぬ様子で三月ウサギが告げた。
 その両手には、既に剣が握られている。
「成る程、大した自身じゃ―――」

「!!!!!!!!」
 刹那、女が巨大な得物を持っているのとは別の手で、
 懐からリボルバー式の大型拳銃を取り出して何も無い空間に向けて構えた。

「…いやはや、折角姿を消していたのに、
 いきなり見つけないで下さいよ。」
 何も居ない筈の空間から聞こえてくる声。
 すると、そこから徐々に人の姿が現れてきた。

「タカラギコさん…!?」
 驚くオオミミ。

「どうやら間に合ったみたいですね。
 いや、実によかった。」
 タカラギコはパニッシャーを女に向けて構えている。
 しかし、彼は一体いつからそこに居たのだ?

「……!」
 張り裂けそうな圧迫感。
 重苦しく圧し掛かる沈黙。
 視線と視線が、
 銃口と銃口が、
 殺気と殺気が交錯する。
 一触即発の緊張感が、あたりを静かに包み込んだ。

461ブック:2004/05/26(水) 00:08



     ・     ・     ・



 ―――三月ウサギとタカラギコがオオミミとジャンヌの元に辿り着くより少し前―――


 俺は噴水前のカフェで、ロイヤルミルクティーと生ハムメロンで潤っていた。
 優雅な一時。
 まさに上流階級の俺に相応しい。

「あいつら今頃武器屋で買物してんのかねぇ。
 ま、どうでもいいけどなフォルァ。」
 本当は少し寂しいのだが、悲しくなるのでその事は努めて考えないようにしておく。

「……?」
 と、通りの向こうが何やら騒がしいのに気がついた。
 何か、事件でもあったのだろうか。
 何気なくそちらに目を向けてみると…

「ブゥーーーーーー!!!!!」
 俺は口に含んでいたロイヤルミルクティーを全部噴き出した。
 オオミミが、全身コートの変人に誘拐されているのが目に飛び込んできたからだ。
 あの野郎、何だってあんな面倒な事に巻き込まれやがる。

「しょうがねぇ奴だな…」
 ほっとく訳にもいかないので、面倒だが助けに行く事にする。
 渋々と席を立ち上がり…

「!!!!!!!!」
 突如、俺は背後から殺意を感じ取った。
 即座に後ろに振り向く。

「あんた誰だよ、おっさん。」
 後ろに居たのは、頭の天辺から一本だけ毛が生えた髭親父だった。
 その顔に、丸い眼鏡をかけている。

「おお、これは失礼。
 実は人を探していましてな。」
 禿親父がピカピカに輝く頭に手を当てた。

「それで、俺に何か関係があるのかフォルァ。」
 警戒態勢を取りながら、禿親父に尋ねる。

「ええ、その探している人の人相が、
 耳の大きい少年、頭に大きなリボンをつけた少女、
 全身黒コートの片目の男、
 …そして、頭に緑色の毛の生えたギコの亜種の男でしてな。」
 …!
 こいつ、『紅血の悪賊』の一味か!

「さあ?
 そんな奴、周りにいくらでも居るだろ?」
 俺はわざと白を切る。

「そう。
 だから…」
 禿親父の殺気が大きくなった。
「お前で五人目だ!!」
 禿親父の横に浮かび上がる人型のスタンドのビジョン。

「『ネクロマンサー』!!」
 俺もスタンドを発動させる。
 蟲を鋼に擬態させ、腕に即席の刃を形作る。

「『アンジャッシュ』!!」
 男がスタンドの指先を俺に向けた。
 キラリと光る指先。

「!!!!!」
 次の瞬間、俺の右肩に小さな痛みが走る。

「…?針!?」
 見ると、俺の右の肩口には細長い針が突き刺さっていた。

「へっ!こんなチンケな得物で、俺を殺れるとでも…」
 すぐに針を引き抜く。
 これしきの傷、『ネクロマンサー』で回復させるまでも…

「があぁ!!!?」
 しかし針を肩から引き抜いた瞬間、そこに直径三センチ程の穴が肩に穿たれた。

「くっ!!!」
 穴から吹き出る血。
 何だ、これは。
 今のが、奴のスタンドの能力か…!?

「儂のスタンドに興奮したか!!」
 禿親父が誇らしげに声を張り上げた。



     TO BE CONTINUED…

462ブック:2004/05/26(水) 23:46
     EVER BLUE
     第十九話・第十八話・CEMENT 〜ガチンコ〜 その二


「くあああぁ!!」
 肩に開けられた穴から血が流れ出す。
 馬鹿な、どういう事だ?
 あんな細い針に刺されただけなのに、針を抜いた途端穴が開くなんて…

「うわ!?」
「きゃあああああ!!」
 俺の様子と、只ならぬ雰囲気に気づいた周りの奴等が、慌ててその場から逃げ出す。

「手前…!」
 肩を押さえながら禿親父を睨みつけた。
 『ネクロマンサー』が、肉に擬態して風穴の開いた傷口を修復する。

「…ずいぶん変な体だな。」
 やや驚いたような表情で禿親父が呟く。
「頑丈だけが取り柄でね。」
 俺はおどけながら答えた。

「お前、『紅血の悪賊』の手合いか…?」
 構えながら、禿親父に尋ねる。
 こんな真昼間に軽装の服で闘いを挑むとは、どうやら吸血鬼ではなさそうだ。
「そうだったら?」
 禿親父が俺と視線を合わせる。
 俺達の近くには既に人は居らず、かなり離れた所に野次馬が囲いを作っている。
 辺りは静まり返り、カフェの前にある噴水の水の音だけが俺の耳に入って来た。

「くっ。お前ら、本当にどこにでも居るのな。」
 うんざりしながら俺は口を開いた。
 全く、こんな辺鄙な島にまで出張って来てんじゃねぇよ。
「それはすまなかったな。
 だが、儂もここで貴様らの足止め、加えて戦力の削減を仰せつかっておる。
 残念だが、貴様にはここで死んで貰おう。」
 禿親父のスタンドが、ゆらりと禿親父の傍に現れた。

「『アンジャッシュ』!」
 そんなこんな考えているうちに、禿親父のスタンドの指から再び針が放たれる。
「ちっ!!」
 避けるのは間に合わない。
 『ネクロマンサー』を擬態させる事で創り出した刃で針を受ける。
 奴のスタンドの右手の五本の指から放たれた五本の針が、
 次々と腕から生えた刃に突き刺さった。

「糞が!」
 一々針を抜いている暇は無い。
 そのまま禿親父に向かって突進する。

「うるぅうぅあぁあ!!!」
 大上段からの振り下ろし。
 禿親父の光り輝く脳天目掛けて刃が襲い掛かる。

「『アンジャッシュ』!!」
 真剣白刃取り。
 禿親父のスタンドが、俺の『ネクロマンサー』の刃を両手で挟んで受け止めた。
 このスピード、近距離パワー型か…!

463ブック:2004/05/26(水) 23:48

「フォルァ!!」
 足の甲の部分で『ネクロマンサー』を刃に擬態。
 そこに生えた刃をで斬りつける様に、禿親父に向かって蹴りを繰り出す。

「いたずらばっかりしおって!」
 禿親父のスタンドが、刃の生えていない部分に足を当てて俺の蹴りを受け止めた。
 だが、ここでは止まらない。
 続けて腕の刃で禿親父の首を狙う。

「馬鹿もーーーん!!」
 禿親父が叫んだ。
 同時に、俺の『ネクロマンサー』の刃に刺さっていた針が引き抜かれる。

「!!!!!!!!!!」
 直後、刃に五つの大きな穴が穿たれ、
 『ネクロマンサー』の刃が虚空に散った。

 これは!?
 いきなり、針が勝手に抜け落ちた?
 いや、それより、
 今開けられた穴は、さっき肩に開けられた穴よりずっと大きい…!

「…!!」
 俺の刃に刺さっていた針が、宙を舞いながら禿親父の指に戻る。
 よく見ると、針の根元には細い糸のような物がくっついていた。
 あれで、針を引き戻したのか。

「!!!!!」
 今度は男の左手の指先が俺に向けられた。
 五本の指から飛び出す針。
 まずい。
 刃で受けようにも、擬態が間に合わ―――

「がっ!!」
 咄嗟に回避行動を取るも、かわし切れずに針の一本が俺の左目に突き刺さる。
「ちぃ!!」
 急いで針を引き抜く。

 ―――ボヒュン

 音を立て、俺の左目ごと頭をくり抜かれる。
「ぐああああああああああああああああ!!!」
 脳を一部を抉り取られ、思考が一瞬濁る。
 加えて、左側の視界が完全に奪われた。

「くううぅ…!」
 追撃を喰らうのは危険だ。
 朦朧とする頭で、何とか禿親父から距離を離す。

「!!!!!!」
 その時、俺の足元の地面がいきなり消失した。
 穴に足を捉えられ、無様にその場に倒れる。

 …!!
 地面に、あの針を打ち込んでおいたのか!

「『アンジャッシュ』!!」
 倒れた俺目掛けて、禿親父のスタンドが針を放つ。

「うおお!!」
 穴から足を引き抜き、何とかかわそうとするが、
 左腕の二の腕に針が一本刺さってしまう。

「くっ…!」
 今度は針を引き抜かない。
 これまで、針を抜いた途端にそこに穴を開けられている。
 恐らく、奴のスタンドの能力は針を刺し、
 それを抜いた瞬間に周囲に穴を開ける能力。
 ならば、針が刺さったままならば、大したダメージにはならない。
 兎に角、今は体勢を立て直す。

464ブック:2004/05/26(水) 23:48

「…吸血鬼も真っ青の再生能力だな。」
 俺の頭に開けられた穴が修復していく様を見ながら、
 禿親父が呆れ気味に口を開いた。
 既に、眼球も殆ど再構築しかかっている。
 我ながら、ぞっとしないスタンド能力だ。

「羨ましいだろ?」
 右腕に刃を生やしながら、禿親父を見据える。
 しかし、ここまでにかなりの『ネクロマンサー』を使ってしまった。
 このままでは、再生しきれなくなってお陀仏になりかねない。

 …だが、何故だ?
 頭の針を抜いたとき、さっき俺の刃に開けた位大きな穴を開ければ、
 いくら俺の『ネクロマンサー』といえど危なかった。
 なのに、何であの時はあんな小さな穴しか開けなかったんだ?
 いや、そういえば、
 今まで開けられた穴の大きさは大きかったり小さかったりまちまちだ。
 …何か、穴の大きさには法則性が有るのか?

「左腕の針を抜かなくてもいいのかな?」
 禿親父がニヤニヤと笑う。
「その手に乗るか。
 針を抜いた途端にそこに穴が開く位、もう気づいてるんだよ。」
 しかし、相手はこの針を引き戻す事で自在に引き抜く事が出来る。
 だとすれば、攻撃の最中に引き抜かれてダメージを受けるよりも、
 今の内に自分で抜いておく方がいいかもしれない。

「ちっ。」
 舌打ちしながら、針を引き抜いた。
 ダメージを受けると分かっていながら自分で針を抜くのは癪だが、仕方な―――


「!!!!!!!!!!!」
 抜いた瞬間、今までで一番大きな穴が左腕に穿たれた。
 その余りの大きさに、腕が千切れて地面に落ちる。

「があああぁ…!!」
 筆舌に尽くし難い程の痛み。
 糞、何故だ。
 何で今回はこんなに大きな穴が。
 いや、考えろ。
 何か法則は有る筈だ。
 さっきの頭の時の穴と、今の穴と、何が違う?
 何か、針を抜く時に違いは…

「!!!!!!!!!!」
 …そうか、そういう事か。

「針が刺さっている時の時間…!」
 歯を喰いしばりながら、俺は呟いた。
 針が刺さっている時間が長ければ長い程、抜いた時に大きな穴が開く。
 それなら、今迄の事も説明がつく。
 頭に刺さったとき、俺はすぐに針を抜いたから穴が小さくて済んだ。
 対して、今の左腕や、刃に刺さった時は、
 すぐに針を抜かずに刺さったままにしておいたから、
 大きな穴が開いたんだ。

「正解。
 だが、それでどうするのだ?」
 禿親父が嘲るように言い放つ。

 その通りだ。
 こんな事が分かったからといって、どうだというのだ。
 禿親父の攻撃への対策にはなっても、勝利の決め手にはならない。
 糞。
 考えろ。
 勝利への道筋を、奴を殺す方法を。

 思考思考思考。
 千切れた左腕からは、噴水のように血が流れている。
 …血……噴水……
 ……噴水………水…

「!!!!!!!」
 そうだ。
 きっと、これなら…!

465ブック:2004/05/26(水) 23:48

「うおおおお!!!」
 俺は千切れた左腕を振るい、そこから迸る血を禿親父に叩きつけた。
「!?」
 血の目潰しを喰らい、僅かに怯む禿親父。
 すかさず、右腕の刃で斬りかかる。

「カツオォ!!」
 しかし相手も近距離パワー型のスタンド使い。
 訳の分からない名前を叫び、紙一重で俺の斬撃を回避する。
 俺の刃は禿親父の服を少し切り裂いただけで、体を両断するには至らなかった。

「たわけめ!服を掠っただけ…」
 そう、『服を掠った』。
 それが出来れば充分だ…!

「ぐああああああああああああ!?」
 次の瞬間、禿親父の服が勢い良く炎上した。

 これこそが、俺の狙い。
 さっき血を撒き散らしたのは、目潰しが本来の目的じゃない。
 俺の血の中に潜む『ネクロマンサー』を、奴の服にくっつけるのが目的だったのだ。
 そして、奴の服で『ネクロマンサー』をリンに擬態させる。
 リンは非常に発火温度が低い物質。
 ちょっとした摩擦熱でも、充分に火を点ける事が出来る。

「おのれ…!!」
 禿親父がカフェの前の噴水に駆け込む。
 そう、お前はそうやって服に点いた火を消すと思ったよ。
 そして、それこそがお前の地獄への片道切符だ!

「『ネクロマンサー』!!」
 左腕を修復する分だけの蟲を残し、残りを全てとある物質へと擬態させる。
 俺の右腕に生まれる、鈍色に輝くコンクリートブロック大の物体。
 これが、俺の切り札だった。

「!!!!!!」
 噴水に飛び込み、体に点いた火を消化する禿親父。
 そこに、作ったばかりの鈍色の塊を放り込んでやる。

「!?」
 水に投げ入れられた塊を、不思議そうな目で見る禿親父。

「…冥土の土産に教えてやる。
 その物質の名前はな―――」
 物質の周囲の水が、沸騰したように泡だった。

「―――金属ナトリウム。」
 そう、水に接触する事で、激しく反応する化学物質。
 その大きな塊が、今大量の水の中に―――

466ブック:2004/05/26(水) 23:49



!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!



 耳をつんざく様な爆発音。
 それに伴い、噴水からとてつもない大きさの水柱が立つ。
 噴水の中の水が一瞬にして空になり、
 空に巻き上げられた水が天のように地面に降り注いだ。

「おわあ!!」
「ぎゃあああああああああああ!!!」
 野次馬達が悲鳴を上げる。
 どうやら、爆発のショックでバラバラになった禿親父の肉片も、
 水と一緒に落ちてきたみたいだ。
 まあこっちだって命懸けなのだ。
 これ位は勘弁して貰おう。

「化学の勝利、ってやつだなフォルァ。」
 千切れた腕をくっつけながら、勝利の余韻に浸る。
 これこそが、俺の『ネクロマンサー』の闘い方。
 その真骨頂。
 だけど、何か肝心な事忘れているような…

「あ。」
 思い出した。
 サカーナの親方に、絶対に騒ぎを起こすなと言われていたのだ。

「…ま、しょうがねぇわな。
 不可抗力不可抗力。」
 深く考えるのは止そう。
 そんな事より、今はここから逃げなければ。
「逃げるが勝ち、ってやつだフォルァ。」
 俺はそそくさとその場を立ち去るのであった。



     TO BE CONTINUED…

467:2004/05/28(金) 22:10

「―― モナーの愉快な冒険 ――   吹き荒れる死と十字架の夜・その3」



          @          @          @



 店の外から、ヘリのメインローター音が聞こえた。
「…着いたみたいだょぅ」
 ぃょぅは、カウンターから出る。
「じゃあ、行くか…」
 ギコは荷物を抱えると、ソファーから立ち上がった。

「モナー君によろしくね」
 コーラの入ったグラスを置いて、モララーが言った。
「モララー君… ぃょぅがいない間に、勝手にお酒を漁ったら承知しないょぅ」
 ぃょぅが釘を刺す。
「や、やだなぁ… 僕がそんな事をするはずないよ…」
 モララーは露骨に視線を逸らした。
「…」
 そんなモララーを不審げに見た後、ぃょぅはBARから出ていった。
 ギコが後に続く。
 扉の開閉時の、カランカランという鐘の音が店内に響いた。

 そのまま、ギコとぃょぅは駐車場に出る。
 そこには、ギコの想像より遥かに大きなヘリが着陸していた。
 機体は、黒みがかったグレーにペイントされている。
「H−60・ブラックホーク…?」
 ギコは、呟きながらそのヘリを見上げた。
 これは輸送ヘリじゃなく汎用ヘリだ。
 無論、武装もしている。
 こんなのでASAの艦に近付いたら、撃墜されるんじゃないか?

「さぁ、乗るょぅ」
 ぃょぅはそう言ってヘリに乗り込むと、慣れた様子で操縦席に座った。
 そして、ギコがASAから聞いた座標を地図に書き込む。
「…ちょっと遠ぃょぅ。途中給油が必要かもしれなぃょぅ」
 そう呟きながら、計器類をチェックするぃょぅ。

「確か、このヘリは乗員が3名必要じゃないのか?」
 ヘリに搭乗したギコは、操縦席のぃょぅに訊ねた。
「1人で操縦可能なように改良したょぅ」
 ぃょぅは当たり前のように答える。
「じゃあ、テイクオフだょぅ!」

 ギコとぃょぅを乗せたブラックホークは、たちまち空高く舞い上がった。
「…自衛隊に見つかったらどうするんだ?」
 ギコは訊ねる。
「そうならない為に、五課のヒラ操縦士じゃなくぃょぅが操縦を引き受けたんだょぅ」
 ぃょぅは正面を向いて言った。
 ギコは、窓から夜の町を見下ろす。
 戦争が始まろうが、眼下の風景は変わらない。
 だが、この町にまで戦火が拡大すればどうなるだろうか。
「守るべき町…、か」
 ギコは呟いた。

「昔、ヘリの操縦士をやってたって言ってたな? どこでだ?」
 ふと、ギコは操縦席のぃょぅに訊ねた。
「…ソマリアだょぅ」
 ぃょぅは即答する。
 それからしばらく、2人の会話は無かった。

468:2004/05/28(金) 22:11



          @          @          @



 千葉県、嶺岡山。
 この地に設置されたレーダーサイトが、最初にその異常を捉えた。

「海自では、今頃派手にやってるんだろうな…」
 ずらりと並ぶディスプレイ。
 それに向き合っていた航空自衛隊隊員の1人が、椅子にもたれて言った。
「第1と第2が総出だろう? これでASAの艦隊を潰せれば、戦争も終わるんだがなぁ…」
 その隣の空自隊員が呟く。

「こっちにも特別要請が来たみたいだぞ。
 アレを投下するから、F−2支援戦闘機を1機派遣してくれ…って」
 それを聞きつけて、空自の1人が寄ってきた。 
「アレって… アレだよな」
 椅子にもたれていた隊員が、声を落とす。
「また、マスコミに叩かれるぞ。ウチの幕僚長、こないだも…」
 そう言い掛けた隊員が、ディスプレイに目をやった。
「…おい、何だよこれ!!」

 ディスプレイに広がる光点。
 その数は、40を越えている。
「航空機の編隊…! ASAかっ!?」

 隊員達が、一斉にそれぞれのディスプレイに向かう。
「アンノウン(正体不明機)、時速1000で接近中!! 距離140キロ、高度100!」
「機数、80を超過!!」
「IFF(敵味方識別機)反応なし!! フライトプランにも当該機なし!!」
「百里基地にスクランブル・アラート!!」
「米衛星より、画像来ました!!」

 ディスプレイに、2種類の航空機が映し出される。
「…レシプロ機だって?」
 その前時代的な機体外観に、隊員の1人が呟いた。
「両機とも照合不能!! 戦闘機と爆撃機の2種の模様!! おそらく、ASAの開発した最新機種と…」

「最新なものか…」
 駆けつけてきたレーダーサイトの所長が口を開いた。
「メッサーシュミットBf109、爆撃機はJu87… 共にナチスドイツの機体だ」
「ナチスですって…?」
 隊員は、ディスプレイに見入る。
「でも、60年も前の機体でしょう? それが、亜音速で…」

「改修機だろう… ASAは何を考えている?」
 所長は顎に手を当てた。
 海自からの連絡では、ASA艦隊をかなりのところまで追い込んだらしい。
 それが、なぜ救援に行かない?
 陽動… いや、そもそもこの航空編隊はASAの所属か?

「…向こうは爆装している。通常の領空侵犯対処ではなく、迎撃任務だ。
 百里基地に、第204飛行隊と第305飛行隊を出すよう連絡しろ!」
 余計な思考を打ち切って、所長は指示を出す。
「はっ!!」
 隊員の1人が、素早く無線機を手に取った。

469:2004/05/28(金) 22:12



          @          @          @



 枢機卿は、Bf109のコックピットで闇夜を眺めていた。
 高速で流れていく周囲の風景。
 こんな風に、戦闘機を操縦したのは何十年振りだろうか。

 真っ暗にもかかわらず、視界は完全に良好。
「まあ、闇目の利かない吸血鬼など存在しないからな…」
 枢機卿は笑みを浮かべて呟いた。
 随伴機も、特に問題はない。
 自機が、かなり先行している点を除いて…

「さて…」
 ディスプレイに光点が表示された。
 前方から接近物多数。
「目標確認。随分と団体で来たものだな…」

 F−15J。
 20世紀における最強の戦闘機、F−15・イーグルの航空自衛隊改修機。
 その編隊が迎撃に駆けつけてきたのだ。
 うち、敵機2機が先行。こちらに直進してくる。
 この距離でミサイル攻撃を行ってこない理由はただ1つ。

「あくまで最初は威嚇射撃という訳か…」
 枢機卿は呟いた。
 自機の速度を落とさず、そのまま直進する。
 先行している2機も、真っ直ぐに近付いてきた。

 案の定、F−15Jに備え付けられたバルカン砲が虚空に向かって火を吹く。
 敵機に当たる可能性がある攻撃は、威嚇とは見なされない。
 よって、威嚇射撃は見当違いの方角へ放つ。
 それが、この国のルールのようだ。
「筋は通す…か。その心根、悪くはない…」
 枢機卿は冷たい笑みを浮かべた。

 機内に備え付けられた国際無線が、お決まりの音声を放つ。
『警告する。貴機は、現在領空を侵犯している。至急…』
 英語で告げているのは、先程威嚇射撃を行ったパイロットだろう。
「これだけの編隊を前に警告か。律儀な事だ…」
 枢機卿はため息をついた。
「その愚かなまでの規則遵守… 我らゲルマンと通ずるものがあるな」

 敵編隊の先頭機2機との距離は、どんどん縮まっていく。
 枢機卿は無線機を手に取ると、そのスィッチを押して告げた。
「勇敢なる兵士よ、1つ問おう。命の意味とは何だ?」

『命の意味…? …繰り返す、貴機は、現在領空を侵犯している』
 向こうのパイロットは少し動揺した後、先程の台詞を繰り返した。
 枢機卿は無視して続ける。
「かけがえのない命… 本当にそうか? 例えば、ここから遠い地… アフリカにいる1人の人間。
 消えて無くなったところで、世の中は変わるか?」

『警告に従わなければ、撃墜する。繰り返す…』
 枢機卿の言葉に全く取り合わないように、パイロットは告げた。

「答えは…『何も変わらない』。その人間と関わりのあった者が悲しむのみだ。
 そう。命の価値とは、他者との関連による言わば付加価値なのだよ」
 枢機卿は、まるで日曜日の教会の神父のように話し続ける。

『貴機は、現在領空を侵犯している…』
「そもそも、かけがえのない命とは大いに語弊がある。
 命など、日々失われているではないか。これは、財の損失か?
 軍用機のコックピットに座る君になら分かるだろう。
 そんな筈はない、『かけがえのない命』などは虚構であると…
 人の命を奪う為の機械を操縦している君には分かるはずだ。この愚かなる欺瞞がな…!」
 枢機卿は、目の前の2機をしっかりと見据えた。
 この速度だと… あと20秒後にすれ違う計算になる。

『警告に従わなければ、撃墜…』
 壊れたレコードのように、無線から伝わってくる声。

「――なぜ、そんな兵器などが作られた?
 君が必死ですがっている、領空侵犯とやらのやり取りは何の為にある?
 『かけがえのない命』ではなかったのか? これを偽善といわずして何という?
 問おう。問おう。問おう。問おう。問おう。問おう。君に問おう」
 枢機卿は、両袖から愛銃のP09を取り出した。
 P08のフルオートカスタムが両手に1挺ずつ。
 そのグリップを強く握る。

『黙れ! そんなのは関係ない! これが手続きだからだ!!
 世の中はそういう風に出来てるんだよ!!』
 とうとう我慢できなくなったのか、パイロットは怒声を上げた。
 枢機卿は、満足そうに笑みを浮かべる。

470:2004/05/28(金) 22:13

「そう、世界はそのように構築された。だから私は哀れな魂に告げよう――」

 先頭の2機が目前に迫る。
 枢機卿の機体を囲い込むようにすれ違う瞬間、枢機卿は自機のキャノピーを押し開けた。
 亜音速の空気抵抗が、もろに枢機卿の身体に吹き付ける。

「――Kyrie eleison(主よ憐れみたまえ)」

 枢機卿は操縦席から立ち上がると、大きく両手を広げた。
 まるで、十字を形作るように。
 そして、その両手に構えたP09の引き金を素早く引く。

 フルオートで発射された弾丸は、左右から挟みこむようにすれ違うF−15Jのコックピットを直撃した。
 そのままキャノピーを貫通し、パイロットの頭部を貫く。
 操縦士を失い失速する2機。
 後は、地表に激突するのみだ。

 枢機卿は、場の空気が変わるのを敏感に感じ取った。
 後方に控えているF−15Jの編隊から照射される無数のアクティブ・レーダー、そして殺意。
 様子見から迎撃へ。
 彼等の任務は変更された。
 これで、舞台は整ったというわけだ。

「さあ… 神罰に溺れよッ!!」
 枢機卿は、手許のスィッチを押した。
 機内のステレオから、勇壮な曲が大音響で流れる。

Ka-me-ra-den, wir mar-schie-ren in die neu-e Zeit hin-ein.
「   戦友よ、    我等は    新しき時代へ行進する 」

 メロディーに合わせて、枢機卿は口ずさんだ。
 その曲は、無線機を通じて相手側にも伝わっているだろう。
 敵編隊は、視界ギリギリの地点に展開していた。
 吸血鬼の視力でギリギリという事は、向こうからの目視は不可能。

「有視界戦闘など、過去の遺物というわけか…」
 枢機卿は呟くと、自機のスピードを限界まで上げた。
 アフターバーナーを消費し、その機体速は音速を超える。
 前方から、何発もの対空ミサイルが飛来してきた。

wir sind stets zum Kampf be-reit.
「 我等の戦いの準備は堅い 」

 速度を落とさず、枢機卿はミサイルの雨を切り抜けた。
 超音速で、数々のミサイルのホーミングを振り切る。
 そして枢機卿のBf109は、敵編隊の正面に躍り出た。
 その数、約60機。
 空を覆い尽くす大編隊だ。

Lie-be Mag-de-lein, laB das Wei-nen sein;
「 愛する乙女よ、 悲しむのはやめよ 」

 枢機卿は、素早く周囲に視線をやった。
 全ての情報を分析し、確率・統計的に導き出された最適な行動パターンを割り出す。
 自機の位置。針路。指示対気速度。真対気速度。対地速度。風向風速。射線の保持。Optimum Altitudeの確認。
 敵機の動き。進入飛行経路。飛行高度。失速速度。最小操縦速度。最大運用速度。航空機の姿勢。バイパス比。
 エレメンタルの組み合わせ。各機残存燃料の把握。編隊の有機的関連。各機の射程及び視程。
 気温。気圧。CATの有無。気温逓減率。正規重力計算。遠心力計算。エトヴェシュ補正。
 ランチェスター理論。クラウゼヴィッツ的『戦場の相互作用』の加算。集中効果の法則。
 防御・隊列数分割式。命中率と砲外弾道計算。真空弾道の軌道計算。暴露時間と被弾確率。
 そして、最低限の誤差修正――

「――戦状把握。これより神罰を執行する」

 両手の拳銃で敵機のコックピットに狙いをつけた。
 自機の機銃、機関砲、ミサイル、全てを編隊に照準を合わせる。
 一斉に、バラバラに散る敵編隊。
 もう遅い。全ての試算は済んでいる。

denn wir kampfen ster-ben furs Va-ter-land.
「なぜなら我等は祖国のため死ぬのだから」

 枢機卿の機は、そのまま急上昇した。
 それを追うように高度を上げる機体、守勢に回る機体、距離を置く機体、対応は様々だ。
 まるで、枢機卿の割り出した行動モデルをなぞるように。
 ――射線確保。
 そして、一直線に編隊の中へ突っ込む。

471:2004/05/28(金) 22:14

 枢機卿は、両手の拳銃の引き金を引いた。
 同時に、13mm機銃、20mm機関砲が火を噴く。
 さらに、ミサイルを発射。
 拳銃弾は、コックピット内のパイロットの頭部へ。
 機銃弾や機関砲弾は、燃料タンクへ。
 ミサイルは、機体の胴部へ。

ie-be Mag-de-lein, laB das Wei-nen sein;
「 愛する乙女よ、 悲しむのはやめよ 」

 全機の行動を完全に読んだ偏差射撃に、F−15Jは次々に被弾していった。
 だが、向こうも黙ってやられるはずがない。
 敵機の中距離ミサイルが乱れ飛ぶ。
 それでも、敵機の全ての動作は最初に割り出した行動パターンに符合していた。
 電子機器による誘導は、機関砲の弾道より読むのは容易い。
 ミサイルを避けつつ、敵機体を殲滅しつつ、枢機卿のBf109は敵編隊の間を縦横無尽に駆けた。

 ――オーバーシュート。
 編隊を突っ切ってしまったようだ。
 目の前に、飛行機1つない夜空が広がる。
 急速旋回して、再び編隊の中に飛び込んだ。

 その瞬間、機体に衝撃が走った。
「…!?」
 枢機卿は、真上に視線をやる。
 この機体よりもさらに高度に、1機のF−15Jの姿があった。
 真上からバルカン砲を喰らったようだ。

「…ふむ、いい腕だ」
 機体が大きく揺らぐ。
 この角度で、そしてミサイルが乱れ飛ぶ中で、頭上から見事に射線を通すとは…

 ――どこで読み違えた?
 おそらく、編隊を突っ切って18機目。
 向こうの射線を遮るはずだった敵機を、つい落としてしまったようだ。

 さらに衝撃。
 一瞬の隙に、後方を突かれた。
 エンジン付近に被弾。
 おそらく、頭上の機体と2機編隊。
「素晴らしい連携だ… その技量を賞賛しよう」
 枢機卿は、笑みを浮かべて呟いた。

 Bf109の機体後部は炎に包まれている。
 エンジンが発火しているようだ。
 これ以上の飛行は不可能だろう。

 機体は、とうとう落下を始めた。
 枢機卿は座席から立ち上がると、機体の上に立つ。
 SS制服の裾が、風圧で激しくはためいた。
「さて、困った…」
 そう呟くと、一番近い位置にいるF−15Jに視線をやった。

「少し遠いが… 吸血鬼の肉体ならば、何とか可能か」
 機体の上で助走をつけ、枢機卿はそのまま飛んだ。
 そして、F−15Jの機首部に着地する。
 コックピットの正面に立つ枢機卿。

「な…!?」
 突然目の前に降り立った男の姿に、パイロットは驚きの表情を浮かべる。

denn wir kampfen ster-ben furs Va-ter-land.
「なぜなら我等は祖国のため死ぬのだから」

 枢機卿は、コックピット内に銃口を向けた。
 そのまま、頭部を狙って引き金を引く。
 銃声と破壊音。
 コックピット内に鮮血が飛び散った。

 空を切る轟音。
 枢機卿の乗るF−15Jに向かって、ミサイルが飛んできた。
 機体の背に直立し、枢機卿はその飛来物に目をやる。
「随分と執拗だな。そうまで私の首が欲しいか…」

 銃口をミサイルのシーカーに向けると、枢機卿は引き金を引いた。
 銃弾が命中し、空中爆発するミサイル。
 さすがに間近での爆風は強烈だ。
 枢機卿の体は、機体の背から投げ出された。

「全部潰すつもりでいたが、早くもリタイアか…」
 落下しながら、枢機卿は両手のP09を連射する。
 3機のF−15Jのコックピットを撃ち抜いたが、それで限界だ。
 そのまま、彼は高速で落下していった。

 後方から鳴り響くジェット音。
 Bf109、Ju87で構成される吸血鬼航空部隊がようやく飛来してきた。
 頭上で、F−15Jとの交戦が始まる。

「先行しすぎた事が仇となったか…」
 大空中戦の光景も、みるみる遠くなっていく。
 落下速度は増す一方。
 真下は海である。
 この身体なら、充分に落下衝撃に耐え切れるだろう。
 枢機卿の身体が海面に激突し、高い水柱が上がった。


「せっかくの一張羅が濡れてしまったな…」
 枢機卿は、仰向けで海面に浮いていた。
 そのまま、名残惜しそうに上空を見上げる。
 真上では、『教会』の吸血鬼航空部隊と航空自衛隊が激突していた。
 火花や爆発、機関砲の咆哮が響く。
「…さて、母艦に戻るか」
 枢機卿は呟いた。

472:2004/05/28(金) 22:15



          @          @          @



 俺は、大きく深呼吸をした。
 敵は合わせて16艦。こちらは2艦。
 いくら戦いは数でするものではないと言っても、余りに分が悪い。

「…勝算はあります」
 ねここは、緊張した表情を浮かべながら口を開いた。
「従来の艦隊戦のように、目視できない距離からの撃ち合いならば、こちらに勝ち目はありません。
 でもASA本部ビルが奇襲された時、しぃ助教授は16発のミサイルを撃墜しています。
 向こうはそれを警戒して、ミサイルの使用を控えると思うのです。
 そうなると、近代ではありえないような艦隊接近戦になると思います」

 接近すれば、こちらにはスタンドという強い武器がある。
 少しだけこちらに有利に傾くかもしれない。

「…ミサイル16発を落としただと? なら、私はその3倍は落とす…」
 リナーは、別の意味でやる気のようだ。
 アヴェンジャー機関砲を掴む手に力が入っている。
 とにかく、今は心強い。

「ん…?」
 『アウト・オブ・エデン』が、しぃ助教授の艦の接近を捉えた。
 艦同士の距離を狭め、連携を取ろうというのであろう。
 そして、前方からも近付いてくる物体が…

「…来たモナ!! 右20度から、ミサイル2発!!」
 俺は怒鳴った。
「副艦長よりCICへ!! スタンダードで迎撃を!!」
 ねここが無線を手にして叫ぶ。
 後方から轟音がした。
 この艦から、まるで打ち上げ花火のようにミサイルが飛翔していく。
 それは、そのまま前方へ高速で飛んでいった。
 あれが、スタンダード対空ミサイル…

 ミサイル同士が空中衝突し、両者とも爆砕した。
「当たったモナ! 向こうのミサイルを撃ち落したモナ!」
 俺は興奮して叫ぶ。
 ねここは、俺に視線を向けた。
「モナーさんが早く教えてくれたお陰です。ミサイルが来たら、この調子で…」
「…また来たモナ!!」
 俺は、息つくヒマもなく叫んだ。
「…敵艦が2艦、こちらに近付いてきたモナ!! 後ろの艦からもミサイルが3発…」

「スタンダード3番、4番、5番!! 目標、敵対艦ミサイル!!」
 ねここは素早く反応した。
 再び、発射されたミサイルが前方に向かう。

「敵艦接近か…」
 リナーが、アヴェンジャー機関砲を構えた。
 眼前の海に、肉眼でうっすらと艦影が見える。
 先頭に1艦。その後ろにもう1艦の縦列だ。
 先頭艦の前部に備え付けられた単装砲が、素早くこちらを向いて…

「ありすッ!! お願い!!」
 ねここは叫んだ。
 周囲に、夜を裂くような爆音が響き渡る。
 敵艦の単装砲… そして、リナーのアヴェンジャー機関砲が同時に火を噴いたのだ。

 大きな掌、おそらくありすの『ゴッド・セイブ・ザ・クィーン』が砲弾を弾く。
「うわぁッ!!」
 その瞬間、『ヴァンガード』が大きく揺れた。
 流石に全弾は防ぎきれなかったようだ。
 艦の前部に砲弾が直撃…!!

「いや、相打ちだ」
 リナーは、敵艦を見据えたまま言った。
「このアヴェンジャーで敵艦を撃沈するのは到底無理だが、固定兵装を潰す事はできたようだな…」

 見れば、敵艦の前部単装砲が吹き飛んでいる。
 でも、まだ後部の砲門が残っているはず。
 敵艦は、転舵運動を…

「転舵させるな! 沈めろ!!」
 リナーが叫んだ。
「ハープーン!! 目標、前方敵駆逐艦!!」
 ねここは素早く指示を出す。
 ミサイルが、轟音と共に撃ち上がった。

 ハープーン対艦ミサイル。
 亜音速で飛来、そして水上艦に激突・爆砕する強力なミサイル兵器。
 転舵運動を取っている最中の敵艦に、避ける術はない。

 ハープーンは、敵艦の艦橋に直撃した。
 ミサイル自身の爆発。さらに、火薬庫か何かに引火したようだ。
 敵艦上で誘爆が起こっている。あれでは、航行は不可能だろう。

「やった!!」
 俺は叫んだ。
 こっちに放たれた3発のミサイルも、こちらの対空ミサイルで撃墜したようだ。

473:2004/05/28(金) 22:16

 しぃ助教授の艦『フィッツジェラルド』が、『ヴァンガード』の横に並んだ。
 艦橋のてっぺんに立つしぃ助教授が見える。
 そして、その後ろに影のように控える丸耳。

「気を抜くな! まだまだ来るぞ!!」
 リナーはガトリングを構えて叫んだ。
 俺は素早く前方に視線を戻す。
 もっとも、俺が気合を入れても仕方がないが。

 後ろの1艦が艦砲射撃を放ってきた。
 ありすの『ゴッド・セイブ・ザ・クィーン』の掌が、その砲弾を叩き落す。
「距離が遠い。これでは、あそこまで届かんな…」
 リナーはアヴェンジャー機関砲を構えたまま呟いた。

 『アウト・オブ・エデン』が、ミサイルの接近を感知する。
「ミサイルが来たモナ! 数は1、2、3、いや、もっと… 50発以上!!」
 俺は叫んだ。
 ねここも、ありすも、リナーも、驚きの表情を見せる。
 隣の艦でしぃ助教授が息を呑むのが、無線越しに伝わってきた。
 今から来るのは、まるでミサイルの雨だ。それが、あと30秒後に…!!

「…飽和攻撃! こちらのミサイル処理能力を上回る物量で押してきたか!」
 リナーは、ガトリング砲を仰角30度に向けた。
「構わんさ。落とせるだけ、落としてやろう…」

「サムイ…」
 ありすの周囲に、無数の巨大な掌のヴィジョンが浮かぶ。
 かなり射程の長いスタンドだが… それでも、ミサイル攻撃に対しては余りにも不利だ。
 ありすの身ひとつではなく、艦そのものを防衛しようと言うのだから。
 ねここは無線を操作して言った。
「ウェポン・オール・フリー(全兵装使用自由)。砲雷長の判断で、迎撃及び攻撃を行って下さい」
『了解。 …そちらも健闘を祈ります』
 CICからの応答。
「駄目な時は、総員の退艦を速やかに…」
 そう告げて、ねここは無線を切った。
 そして、前方を見据える。

「…来たぞ!!」
 リナーは叫んだ。
 視認範囲にミサイルの大群が…!!
 それは、星のように正面に点在していた。
 広がった点にしか見えない物体が、徐々に大きくなっていく。
 前方の艦も、ミサイル攻撃とタイミングを合わせるかのように艦砲射撃を繰り出してきた。
 空を切るようなミサイルの飛来音と、単装砲の太鼓のような音が闇夜に響く。

「はいだらー!!」
 ねここは、ミサイル群を見据えて叫んだ。
 『ヴァンガード』と『フィッツジェラルド』から、同時に多数の対空ミサイルが発射される。
 こちらの対空ミサイル、リナーのアヴェンジャー機関砲弾、ありすのスタンド…
 それらが、一斉にミサイルの大群に向かった。
 前方で次々に巻き起こる爆発。
 それは、まるで花火のように俺の目に映った。

 それをかいくぐって、数発のミサイルが飛来する。
「この…ッ!!」
 リナーが、素早くアヴェンジャー機関砲を向けた。
 かなり付近まで接近していたミサイルが、弾丸を喰らって爆発する。
 その爆風に、俺はよろめいた。

「まだ来るのか…!!」
 リナーは、アヴェンジャー機関砲で接近してきたミサイルを次々と撃ち落していく。
 だが、それでも迎撃が追いつかない。
 『ヴァンガード』のCIWS20mm機関砲もフル作動しているが、それでも…
 アヴェンジャー機関砲の射撃を逃れたミサイルが、寸前まで迫る…!!

 轟音と共に、ミサイルはそのまま水没した。
 こちらに迫るミサイルは、次々とあらぬ方向に逸れていく。
 これは、しぃ助教授の『セブンス・ヘブン』…!!

「さすが、しぃ助教授!! 助かりました!!」
 ねここは無線で言った。
『余り私を頼らないで下さい。遠距離になれば、当然精度も弱まりますからね…!』
 しぃ助教授は告げる。
 さらに、しぃ助教授は仮にも人間。
 スタミナにも限界はある。

 向こうは、それでも遠方から次々にミサイルを放ってくきた。
 もう、100発はとっくに越えているはずだ。
 リナーのガトリング、両艦の兵装、そしてしぃ助教授とありすのスタンドを持ってしてもなお、迎撃しきれない。
 飛来したミサイルのうちの1発が、艦首部分に直撃した。

「うわァッ!!」
 『ヴァンガード』がぐらぐらと揺れる。
「大丈夫、これくらいじゃ沈みません!!」
 ねここは叫んだ。

474:2004/05/28(金) 22:17

「…弾切れだ」
 アヴェンジャー機関砲を下ろして、リナーは呟く。
 そこへ1発のミサイルが飛来した。
「…!!」
 リナーはアヴェンジャー機関砲を持ったまま、砲丸投げの要領でその場で1回転する。
 そして、ミサイル目掛けてアヴェンジャー機関砲の砲身をブン投げた。
 頭上で爆発が起こり、砲身の直撃を受けたミサイルが海中に没する。

「…対艦ミサイルを、前方の艦に放つようCICに伝えろ。軌道は超低空だ」
 リナーは、ねここの方に振り返って言った。
「は、はい… でも、間違いなく迎撃されると思いますが…」
 ねここは、急な申し出に困惑して告げる。
「…構わん。急げ!」
 リナーは言った。
 ねここは素早く無線を操作する。
「前方敵艦にハープーン! 軌道は海面スレスレでお願いします!」

 指示の直後、後部発射口からハープーン対艦ミサイルが撃ち上がった。
 リナーは、その場から艦首に向けて真っ直ぐに走り出す。
 まさか…!!

 いったん真上に撃ち上がったミサイルが、誘導に従って下降していく。
 加速をつけたリナーが、艦首から思いっきりジャンプした。
 そのまま、敵艦へ直進するミサイルに飛び乗る。

 前方の艦のCIWS機関砲が作動した。
 たちまちのうちに、こちらが放ったミサイルは撃墜される。
 だがリナーはミサイル撃墜の瞬間、敵艦に飛び移ったようだ。

「本気で、白兵制圧する気モナね…」
 俺は思わず呟いた。
 その瞬間、前方から爆発音が響いた。
 直後に、艦が大きく揺れる。
 艦の右舷にミサイルが当たったのだ。
 損傷の規模からして、ありすの『ゴッド・セイブ・ザ・クィーン』が爆発をある程度抑えたようだが…

「くッ…!!」
 『ヴァンガード』は大きく傾き、俺はよろけた。
 しぃ助教授の艦も、何発か喰らっている。
 この艦よりも損傷は大きいようだ。

『ねここ!』
 無線機のイヤホンから、ねここを呼ぶしぃ助教授の声。
『こちらの後部甲板にミサイルが直撃しました! 怪我人続出です! 至急、治療をお願いします!!』
「分かりました! ただちに向かいます!!」
 ねここは、俺とありすに背を向けて駆け出した。
「…どうやって行くつもりモナか!?」
 俺は叫ぶ。
「内火艇があります!!」
 ねここはそう答えると、ブリッジの中に消えていった。

 内火艇って、ボートに毛が生えたような奴じゃないか…
 そんなもので、この銃弾やミサイルが飛び交う戦場を渡るのか…?
 俺は、隣のありすを見た。
 ゴスロリに身を包んだ少女は、必死な顔で前方を見つめている。
 この艦に迫るミサイルを、もう何発落としたのだろうか。
「ありす、頑張るモナ!!」
 俺は、ありすを激励した。
 応援するしか、俺にできる事はない。

「…だいじょうぶ」
 ありすは頷く。
 その額に、一筋の汗。
 あれほどの射程と力を持つスタンドである。
 この小さい身体に、それを維持し続けるだけのスタミナはあるのだろうか…

「…?」
 『アウト・オブ・エデン』は、不穏な気配を感知した。
 後方から、何かが近付いてくる。
 これは、航空機か…?

 俺は、背後の空を見上げた。
 1機の飛行機が、高速で飛来してくる。
 その胴部と主翼には、見慣れた日の丸。
 機体下部には、爆弾のようなものを装備している。

 ――妙だ。
 これだけのミサイルの雨の中、わざわざ飛行機で爆撃しにくる必要など全くないはず。
 あれは…
 あの爆弾は、何だ?

 『それ』は投下され、『ヴァンガード』の甲板前部に落ちた。
 俺達のすぐ近くだ。
 爆発など起きはしない。
 ただ、その物体は甲板に転がったのみ。
 飛行機は、そのまま速度を落とさずに前方へ飛んでいく。
 これは… 何か、苦い香り…?

 突然、ありすが膝を付いた。
 そして、そのまま甲板に横たわる。

「ありす!!」
 俺はありすに駆け寄った。
 呼吸が荒い。手足が僅かに痙攣している。
 これは――


 ――窒素性化学物質、シアン化水素。組成式はHCN。
 化学兵器として有名で、米軍コードはAC。
 吸入から15秒程で呼吸亢進。
 15〜30秒後に痙攣。
 2〜3分後に呼吸が停止、その後数分で心停止に至る――

 本来、化学兵器を屋外で使う事は兵器運用上ありえない。
 たちまち空中に四散してしまうからだ。
 しかし、これは個人を狙った攻撃だな。
 ASA三幹部ありすの命のみが狙いなのだろう。
 君は吸血鬼だから大丈夫だが… この娘はいくら強大なスタンドを所持していようが、肉体は人間だ。

475:2004/05/28(金) 22:19


「化学兵器だと…!? 女の子なんだぞ!?
 女の子1人を殺す為に、奴等は化学兵器なんか持ち出したっていうのか!?」
 俺は憤慨して叫んだ。
 そして、ゆっくりとありすを抱き起こす。
 ぐったりとして、力が入っていない。

 ――か弱い女… とはとても言えんだろうがな。
 やるなら急げ。
 間に合わんぞ。

「お前に、言われるまでもないんだよッ!!」
 俺はバヨネットを取り出すと、ありすの胸に突き刺した。
 そして、大きく横に薙ぐ。
 肺を犯しているシアン化水素『だけ』を『破壊』――
 さらに、バヨネットで周囲を大きく一閃した。
 これで、空気中のシアン化水素は残らず『破壊』したはず。

 だが、あくまで毒素を取り除いたのみ。
 ありすの容態は悪い。
 俺は無線機のスィッチを押した。
「ありすが化学兵器… ACで倒れた! 急いで救護を!!」
 俺は叫ぶ。
『艦長が…? 了解しました!!』
 CICから迅速な返事が返ってきた。
 その瞬間、艦が大きく揺れる。
 左舷に、ミサイルの直撃を食らったのだ。 
 ありすが倒れた今、この艦はもう持たない…!


 ――『私』に替われ。

「黙れ! お前の力なんて、絶対に借りるか!!」
 俺は叫んだ。
 『殺人鬼』の奴、いつの間にしゃしゃり出てきたんだ?

「くッ…!!」
 俺はありすの身体を抱えると、艦橋に向かって走った。
「ともだち…?」
 ありすが、俺の顔を見上げる。
「黙ってろ! すぐに治るから!!」
 俺は叫んだ。

「大丈夫ですか!!」
 艦橋へのドアが開き、担架を持った艦員達が走ってくる。
「ACを吸ってる! 応急解毒は済ませたから、100パーセント酸素補給を!!」
 俺は、素早くありすを担架に乗せた。
 そして、艦員達を見る。
「この艦はもうダメだから、あんた達も避難を…」
 艦員は、厳しい視線を向けた。
「艦を見捨てて逃げ出したりはしません。私達も戦っています」
「…」
 俺は、思わず視線を逸らした。
「では、あなたも気をつけて!!」
 艦員達はありすの乗った担架を持ち上げると、艦橋の中に走っていった。

 そう。俺は見逃していた。
 戦っているのは、俺達だけじゃない。
 なぜ、この船は沈まない?
 浸水を食い止めているクルーがいる。
 傾く艦を必死で操舵しているクルーがいる。
 敵ミサイルの撃墜の為に、CICでディスプレイと向かい合っているクルーがいる。
 救急の為、艦内を駆け回っているクルーがいる。
 みんな、戦っているのだ。

 『私に替われ』。
 そう、『殺人鬼』は言った。
 奴の力など、借りたくはない。
 だが… もしこのまま『ヴァンガード』が沈んだ場合、多くの犠牲者を出した場合、俺はどうなる?
 醜い力に身を委ねないで良かった、と胸を張れるのか?
 そんな筈はない。
 そんなのは、俺個人のエゴだ。
 俺は、この艦のみんなを――
 そして、この艦のために戦っている人達を守りたい。

 ありすはミサイルを防ぐ為に戦って、化学兵器に倒れた。
 リナーは、たった1人で敵艦に乗り込んで戦っている。
 しぃ助教授は、必死でミサイルを迎撃している。
 ねここは、あっちの艦内を駆けながら怪我人を治療している。
 丸耳は、副艦長として『フィッツジェラルド』を指揮している。
 みんな…
 みんな、戦っている。

 ――だから。

「――だから、俺も戦う」
 俺は、俺の中の『殺人鬼』に告げた。

476:2004/05/28(金) 22:20



          *          *          *



(――だから、俺も戦う)
 私の中の『monar』は告げた。

「…ふむ」
 正面から飛来するミサイル群を見定める。
「君は、ミサイルに対して何もできないと思い込んでいる。
 確かにミサイルの破壊力の前では、吸血鬼の肉体とて抗う術はない。だが、それは――」

 私は、甲板を蹴って高く飛んだ。
「――正面から向かった場合の話だ」
 さらに艦橋を蹴り宙高く跳ねると、虚空をバヨネットで一閃した。
 ミサイルから照射されるレーダー波をまとめて『破壊』する。

「対艦ミサイル・ハープーンのホーミングにはアクティブ・レーダーを使用している。
 向こうの波を一時的に掻き消してやれば、目標を失い迷走するのみ」
 私は、手元のバヨネットを回転させて告げた。
「君の戦い方は未熟だ。ミサイルが射程距離外にあるというだけで、『破壊』できないと匙を投げる。
 もっと注意深く観察すれば、レーダーの波が視えたはずだ」

(…)
 『monar』は無言で私の動きを見ている。
 まるで、戦い方を観察しているように。

 ミサイルの大半は目標を失い、海面に落ちた。
 そんな中、大型のミサイルが向かってくる。

「そして、タクティカル・トマホーク巡航ミサイル。
 これは、誘導にINS及び衛星データ・リンクを使用している。故に…」
 私は、バヨネットを軽く振った。
「衛星からの通信を断つ。これで、トマホークは無力と化す」
 そのまま、水没するトマホーク。

「――以上だ」



          *          *          *



「ああ。分かった――」
 俺は頷いた。
 そして、バヨネットを構える。
「――後は俺がやる」

 飛来してくるミサイル。
 再び、照射されるレーダーの波を『破壊』した。
 続けて、衛星からの電波をも『破壊』する。

 衛星からは、常にデータが送られてくる。
 『破壊』は一時的なものだ。
 トマホークを無効化するには、絶えず『破壊』し続ける必要がある。
 それでも…
 俺は、戦える。

 俺は大きくバヨネットを薙いだ。
 四方から浴びせられるレーダーの波を次々に『破壊』する。
 それだけで、ハープーンは無効化する。
 なぜ、こんな簡単な事に気付かなかったのか…

『どうやら、そっちはモナー君だけみたいですね…』
 無線機から、しぃ助教授の声がした。
「こっちは大丈夫。ミサイルは全部叩き落としてやるモナ!」
 俺は言った。
『…期待してますよ』
 しぃ助教授が告げる。

 前方のミサイル群が、大きく逸れて海中に没した。
 しぃ助教授の『セブンス・ヘブン』だ。
 俺も次々にレーダー波を『破壊』する
 これなら、何とか凌ぎきれる…!


 ――ドス黒い気配。
 何だ、これは…?
 何かが…
 背後から、何か巨大な物が近付いてくる。
 ミサイルや航空機なんて大きさじゃない。
 この艦の1.5倍以上。
 これは、戦艦…?

 それも、間近だ。
 俺とした事が、ここまで接近されてしまった。
 このままじゃ、『ヴァンガード』の後部に激突する…!!

「CIC!! 全速前進だッ!!」
 俺は、無線機に叫んだ。
 俺の指示が通じるのかは分からない。
 だが… 『ヴァンガード』は大きく前進してくれた。
 それでも、間に合わない…!!

『『セブンス・ヘブン』!!』
 無線機から、しぃ助教授の声が響く。
 同時に、凄まじい衝撃が『ヴァンガード』を揺るがした。
 艦後部から響く破壊音。
 俺はよろける体を立て直した。
 現在、なぜかミサイル攻撃は止んでいる。
「一体、何が起こってるモナ…?」
 俺は、甲板を駆けて艦後部に向かった。


 黒い威容。
 戦艦の巨体が、『ヴァンガード』後部にめり込んでいた。
 ヘリ着陸用の甲板が無惨にひしゃげている。
 これだけの重量差があれば、通常なら確実にこちらの撃沈。
 この程度の被害で済んだのは、『セブンス・ヘブン』が激突のショックを分散してくれたからであろう。

「これは…!」
 俺は、謎の艦を見上げた。
 威塊にして醜悪。
 リナーは、戦艦は現代においてほぼ運用されていないと言った。
 だが… これは、どう見ても戦艦だ。
 自衛隊の艦とは思えない。
 それに、どこか異様だ。この艦は気持ちが悪い。

477:2004/05/28(金) 22:21


「…?」
 向こうの艦首に、人影が見えた。
 そして、馬のいななきが聞こえる。
 …馬だって?
 こんな近代戦の最中に、馬?
 そう。人影は馬に乗っていた。

 そのまま、人影は高く跳んだ。
 そして、こちらのヘリ甲板に着地する。
 艦と艦の間を、馬で跳んだ…!!
 そして、馬の背に乗っているあの男は…


 その屈強そうな男は、立ち尽くす俺の姿を見定めた。
 その眼光、普通じゃない。
 一目で分かる。こいつ、恐ろしく強い。
 『蒐集者』のような、化物じみた雰囲気とは質が異なる。
 洗練された、戦士としての強さ。
 これは、そういう類の人種だ。

「我が名は山田――」
 男は馬から降りた。
 その手には、大きな薙刀。
 いや、青龍刀の亜種だろうか。柄がかなり長い。
 俺の『アウト・オブ・エデン』は、その武器に何かを感じ取った。

 山田と名乗った男は、ゆっくりとこちらへ歩み寄りながら口を開く。
「…士ならば構えよ。後ろを見せるなら、斬りはせぬ」

「…!」
 俺は、素早くバヨネットを構えた。
「モナは…」


 ――その刹那。
 一瞬の殺気の後、俺は地を這っていた。
 何が起きた?
 背中が冷たい。
 俺は、倒れているのか?
 そして、胸に刺すような痛み。
 いや、実際に刺されたようだ。
 心臓を貫かれたのか?
 人間だったら、完全に即死だ。

 山田は、倒れ伏す俺に目をくれる事もなく歩いていく。
 艦橋へ向かっているようだ。
 もはや、彼の目に俺は映っていない。

 こいつは、リナーと同じ。
 たった1人で、艦を制圧する気だ。
 だが… これはASAの艦。
 スタンド使いが多数乗っている事は明らか。
 それでも、こいつはたった1人で――?

 『アウト・オブ・エデン』ですら、先程の動きが視えなかった。
 しかも、スタンドによる速さじゃない。
 あの青龍刀にはスタンドが関与しているようだが、それすら使っていない。
 こいつ自身の、磨きぬかれた速さだ。
 俺には、最初から勝ち目などない。
 でも――

「行かせるか…!」
 俺は血を吐きながら立ち上がった。
 心臓を貫かれている。
 吸血鬼でなかったら、当然即死だ。
 でも… みんなが戦ってるのに、こんなところで倒れていられるか!!

 山田は口を開いた。
「ほう、お主も吸血鬼か…」
 しかし、こちらを振り向こうとはしない。
 それどころか、そのまま艦橋に歩いていく。

「待て! お前は、艦内には入れさせない…!」
 俺はバヨネットを構えると、艦橋へ向かう山田に走り寄った。
 その背中に、バヨネットを…
「その意気や良し。だが――」
 山田の手にしている青龍刀が、僅かに傾く。


 ――そして、俺は再び甲板に転がっていた。
 山田の青龍刀が、俺の胸を貫いたのだ。
 俺の方を、一瞥すらせずに。
 もう、殺気すらなかった。
 蝿を払うのと大差はない。

 足音が遠くなっていく。
「――実力が伴わなければ、どうにもならぬな」
 山田の声が、重く響いた。



  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

478:2004/05/28(金) 22:29
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|(†)ヽ
|)))))
| -゚ノi  < …
と)ノ
|ハゝ     × ― モナーの愉快な冒険 ― 吹き荒れる死と十字架の夜・その3
|       ○ ― モナーの愉快な冒険 ― 吹き荒れる死と十字架の夜・その4

479ブック:2004/05/28(金) 22:54
     EVER BLUE
     第二十話・BREAK 〜水入り〜


 三月ウサギが、タカラギコが、謎の女性が、
 張り詰めた空間の中、ただ静かに得物を構える。
 息が詰まる程の圧迫感。
 僕やオオミミが入り込める世界じゃない。
 緊張で、頭がどうにかなってしまいそうだ…!

「…すみませんが、誰かそろそろカードを切ってくれませんか?
 この十字架結構重くて、そろそろ疲れてきたんですよ。」
 そんな状況にも関わらず、タカラギコが呑気な声で喋る。
 しかしそんな口調とは裏腹、微塵も隙を見せはしない。

「この狸め…」
 全身コートの女が、タカラギコにリボルバーを向けたまま睨む。

「……」
 三月ウサギは、剣をいつでも投擲出来る体勢のまま少しも動かない。
 膠着状態が始まってしばらく経つというのに、
 彼等の顔には汗一つ浮かんでいなかった。
 蚊帳の外のオオミミは、全身汗でびっしょりだというのに。

「…得物を下ろせ。
 儂は、今ここでお主らとやりあう心算は無い。」
 埒が明かないと思ったのか、女が停戦を提案した。

「信用出来んな…」
 三月ウサギは構えを解かない。
「そう言うのであれば、まずは貴女から物騒な物を率先してしまうべきでは?」
 タカラギコもパニッシャーを下げはしなかった。

「それは出来んな。
 そこの黒マントの者は、儂が銃を下ろした途端に剣を投げる気満々じゃろう?」
 こうして、停戦条約はあっという間に却下された。
 再び、その場を静寂が包む。

「……!」
「……!」
「……!」
 三人が、微動だにしないまま隙を探り合う。
 互いの気迫で景色が歪むような錯覚。
 ここでの一分が、まるで一時間のようだ。
 一体、いつまでこの状況が続く―――

480ブック:2004/05/28(金) 22:55



!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!



 突然響き渡る爆発音。
 その場の全ての者の意識が、その音に向けられる。

「!!!!!」
 誰よりも早く反応したのは女だった。
 物凄い跳躍により、一瞬にして僕達から間合いを離す。

「ちっ!!」
 三月ウサギが剣を投げるも、既に女は射程外まで逃げていた。
 剣が何も無い地面に突き刺さり、女は僕達から大分離れた所で着地する。

「…どうやら今回は間が悪かったようじゃな。
 ここは、一旦退く事としよう。」
 銃とハルバードが合体したような武器を背中に担ぎ、女が口を開く。

「じゃが、近いうちに再び挨拶をさせて貰う。
 その時は、もう少し穏便に事を進めたいものじゃな。」
 そう言い残すと、女はその場から飛び去って行った。
 あの人、結局何だったんだ?



「大丈夫ですか、オオミミ君?」
 パニッシャーを下ろし、タカラギコがオオミミに声をかけた。

「あ、はい。
 助けに来てくれてありがとうございます。」
 オオミミがタカラギコに頭を下げる。

「それから三月ウサギも、ありがとう。」
 オオミミが三月ウサギの方に顔を向けた。
「ふん…」
 三月ウサギがそっけのない返事を返す。

「…今の出で立ち、吸血鬼か?」
 と、三月ウサギがオオミミに尋ねた。
「多分…」
 オオミミが生返事をする。

「先日私達の船を襲った連中の仲間ですかねぇ?」
 タカラギコが首を傾げた。

「多分、違うと思う。
 何かそういう感じじゃなかったし。」
 オオミミが首を振りながら答えた。

「しかし、だとすれば一体どこの…」
 三月ウサギが、地面に刺さった剣をマントの中に回収しながら考え込む。
 実際、あの人は何が目的で僕達を探していたのだ?

481ブック:2004/05/28(金) 22:55



「あ、お前ら!」
 と、そこにニラ茶猫が駆けつけてきた。
 随分走ってきたのか、息が大分荒い。
 さらに、服のあちこちが血塗れである。

「ニ、ニラ茶猫、大丈夫!?」
 オオミミが心配そうに声をかける。

「ん?おお、平気平気。
 俺の『ネクロマンサー』は不死身だフォルァ。」
 胸を張るニラ茶猫。
 どうやら、誰かと闘ってきたみたいだ。

「さっきの爆発、お前か…?」
 三月ウサギがニラ茶猫に質問する。

「あ…ああ。
 展開上どうしようもなく、な。
 まあ勝負には勝ったんだから問題無いって。」
 ニラ茶猫が冷や汗を掻きながら答える。
 この馬鹿。
 あれだけ騒ぎを起こすなと言われておきながら、何で爆発なんかさせてんだ?

「…開いた口が塞がらんな。
 貴様、頭脳が間抜けか?」
 呆れた様子で呟く三月ウサギ。

「うるせえな!!
 しょうがねぇだろうが!
 いきなり『紅血の悪賊』に襲われたんだから!!」
 …!!
 『紅血の悪賊』!
 矢張り、ここにもその一味がいたのか…!

「ふん。
 貴様がもう少し強ければ、あれほどの騒ぎも起こさなかったろう。
 どこの三下と死闘を演じていたのかは知らんが、
 実力の程が知れるというものだな。」
 あからさまに三月ウサギが皮肉を言う。

「んだとぉ!?
 じゃあここで、俺が本当に弱いかどうか試してみるか!?」
 腕から刃を生やしてニラ茶猫が構えを取る。
 だから、騒ぎを起こすなと言っているのが分からないのか。
 どうしてこの二人が一緒だと、こうなってしまうのだ?

「ちょ、ちょっと二人ともやめなよ。」
 事態を重く見たのか、オオミミが仲裁に入る。
「ふん。」
「けっ。」
 オオミミに間に入られ、三月ウサギとニラ茶猫が渋々矛を収めた。

「いやはや、お二人とも仲がよろしいですねぇ。」
 タカラギコが微笑みながら言った。

「誰がこんな奴と!」
「誰がこんな奴と!」
 三月ウサギとニラ茶猫の声がハモる。

「ふん。」
「けっ。」
 声が重なった事にお互いバツが悪くなったのか、二人のムードがより険悪になる。
 この二人、本当に仲が良いのか悪いのか…

482ブック:2004/05/28(金) 22:56


「あ、そうだ。タカラギコさん。」
 と、オオミミが思い出したようにタカラギコに言った。

「はい?」
 きょとんとした顔でタカラギコが答える。

「さっきの女の人からこれ貰ったんです。
 これでタカラギコさんの武器を買いに行きませんか?」
 オオミミが懐から金貨の詰まった巾着袋を取り出した。

 オオミミ、君は何を言ってるんだ?
 せっかくの大金を他人の為に使うなんて。
 それだけのお金があれば、何回フルコースを食べられるか分かっているのか!?

「いえ、そんなの悪いですよ。」
 口では遠慮しながらも、明らかに嬉しそうな顔をするタカラギコ。

「お、おい、オオミミ!
 お前どこでそんな金…」
 吃驚した様子でニラ茶猫がオオミミに質問した。

「さっき恐い女の人に誘拐されちゃってね、
 それで、その人に貰ったんだよ。」
 オオミミが答える。

「ああ!?
 誘拐されて金を貰うってどういうこった!?
 普通逆だろ……ってまあいいや。
 それよりオオミミ、ものは相談だがその金を少し俺に預けて…」
 下品な顔でニラ茶猫がすりよってくる。
 どうせ、ろくな事を考えてはいないだろう。

「駄目。
 ニラ茶猫に渡したって、どうせ博打かエッチな事にしか使わないもん。」
 にべも無くオオミミが断った。

「…!
 馬っ鹿野郎!
 オオミミ、お前俺を何だと思ってやがるんだ!!」
 ニラ茶猫が必死に否定する。

「図星だろう?
 何せお前のベッドの下には『無毛天ご…」
「わーーー!わーーー!!わーーー!!!」
 三月ウサギが何か言おうとした所に、
 ニラ茶猫が大声を張り上げてそれを妨害した。
 『無毛天ご…』?
 一体何の事だ?

「いやはやすみませんね、オオミミ君。
 私が女性であれば、迷わず抱かれたい男ナンバーワンに君を投票しますよ。」
 タカラギコがこれ以上無い笑顔を見せる。
 まるで、新しい玩具を買って貰う子供のように。

「…自分で買い与えた武器が、自分に向けられなければいいがな。」
 三月ウサギがぼそりと呟く。

「そういう事言うの、やめてよ…」
 オオミミが悲しそうな顔をした。
「ふん。」
 三月ウサギがオオミミから視線を逸らす。
 個人的には僕も三月ウサギと同感だ。
 いくら敵意が見られないからとはいえ、オオミミは無防備過ぎる。

「…そういやオオミミ、女に誘拐された、っつてたけど、
 どんな奴だったんだ?」
 重苦しくなった空気を察したのか、ニラ茶猫が話題を変えた。

「あ、うん。
 確か、コートに全身をすっぽり包んでて、
 それから、凄く大きな武器を持ってた。
 何か、銃とハルバードがくっついたみたいな…」

「…!?」
 その時、ニラ茶猫の表情が一瞬だけ変わった。
「…?
 どうしたの?」
 不思議そうに、オオミミがニラ茶猫に尋ねる。

「…いや、何でもねぇ。
 多分、思い違いだ。」
 ニラ茶猫が会話を打ち切る。
 それにしてもさっきの彼の表情は?
 何か思う事でもあったのだろうか。

「どうでもいいが、買い物に行くなら早くしろ。
 『紅血の悪賊』が居たと分かった以上、のんびりは出来んぞ。」
 低い声で三月ウサギが告げる。

「あ、そうだね。」
 頷くオオミミ。

 そうだ、今は考えていたってしょうがない。
 とにかく先に進まなければ。

(オオミミ。何があろうと、君は僕が守ってみせるからな。)
 色々と解けない問題を山積みにしながらも、
 僕はそこで思考を中断させるのであった。



     TO BE CONTINUED…

483( (´∀` )  ):2004/05/29(土) 14:48
「ダズヴィダーニャ(ごきげんよう)・・。巨耳モナー・・。」
「ネクロ・・マラ・・ラーッ!」

―巨耳モナーの奇妙な事件簿―『ピッチャーデニー』

雨がしきりに降っている。
そして雨と濃い霧のせいでお互いの輪郭がギリギリ見えるくらいの状態の俺と・・ネクロマララー。
「・・かなりわかりやすい輪郭だなぁ。テメェは。」
「君に言われたくはないよ・・。」
・・ムカつく返し方をしてきやがる
まるで『犬を勝手に吠えさせてる』みたいな風に流しやがって
「・・先輩を殺した時から、テメェは俺の手で『逮捕』すると決めていた。」
「・・それで?」
ネクロマララーは頭の後ろをかきながら、面倒くさそうに言った
「・・テメェを今ココで、『逮捕』するッ!『ジェノサイア act2』ッ!」
俺は思いっきり地面を叩きつけた。
すると地面がブレ、ガチャピン戦とは比べ物にならない量の針が現れる。


「フン・・。まだコッチの少女の方が威圧感があったな・・。」
ネクロマララーのスタンドらしき物が何かを投げる。
・・雨霧のせいで良く見えない。
「『重力弾』。」
一気に地面の針が消える
・・・先輩の時と一緒だ・・・・。
「私は君を助けてやったのだぞ・・?逮捕より先に礼が欲しいがな・・。」
抜かせアホが。
「お前のした事はただの『殺人罪』だ。助けられたから何だ。俺が頼んだ覚えもない。」
「・・そうか。」


・・・!?
なんだこりゃ・・ッまわりの空気が・・薄い・・ッ!
・・あの時と同じだ・・『矢の男』や『殺ちゃん』。『ガチャピン』と同じ様な『威圧感』
だが・・その中でも格別だ・・ッ!『矢の男』と同じくらいの威圧感がありやがる・・ッ!
「しかしがっかりだな。君はまだ『弱い』。スタンドが進化したと聞いて期待したんだがな・・。
私が相手するまでも無いな・・『大ちゃん』ッ!!」


ネクロマララーが一歩引くと後ろからハゲ頭の男が現れた。
「・・ピッチャーデニー・・。」
・・?
何を言ってやがるコイツ・・?
「それじゃあ。大ちゃん。後は頼んだぞ。」
「了解。」
ネクロマララーは雨と霧の中に消えていった
「ちょ・・っ待ちやが・・ッ!」
俺がネクロマララーを追おうとするとハゲ頭の『大ちゃん』と呼ばれる男が立ちはだかった
「・・ッ!邪魔ァッ!」
大ちゃんを思いっきり殴ろうとすると大ちゃんの目の前に現れたキーホルダーくらいの大きさのスタンドに防がれる
「クソがッ!・・?」

484( (´∀` )  ):2004/05/29(土) 14:49
俺がもう一発殴ろうとした時。その『異変』に気付いた。
「『右手』が動かない・・?」
俺がその右手を見ていると。キーホルダーくらいの大きさのスタンドが喋り始めた
「キシシッ!オマエ、イマオレヲナグッタダロ?ヨッテ、『ペナルティ』ヲウケテモラウゼッ!」
良く見ると俺の右腕に×印がついていた。
「こ・・これは・・ッ!?」
「イッタダロ?テメェハコトバモワカンネェノカッ!クソガッ!『ペナルティ』ダッツッテンダロガッ!」
プチッ
「テメェッ!図に乗ってんじゃねぇぞッ!スタンドごとk・・」
!?口が開かない・・ッ!?
「キシシシシッ!テメェ、イマオレニ『ボーゲン』ハイタダロ?『ペナルティ』ダゼッ!」


・・ッ!そういう事か・・ッ!
つまり・・アイツに対して『失礼』な事をすると『失礼』をした部分が使えなくなるんだッ!
だからあんな野球の監督の様な格好をしていたのか・・ッ
だとするとどうする・・。矢張り本体のほうを攻撃するしか・・
その時、俺の足元に植物が這う様な感触がした
その感触に反応し後ろを向くと、その植物は殺ちゃんの方向へのびていった。
そして植物の元をたどるとムックの手から伸びていた。
(・・!!ムック・・意識が戻ったのかッ!?)
・・いや、戻ってはいるが・・自分の力で起き上がる事もまだ出来ない様だ
相当なダメージがまだ体にこもってるらしい。
だとすると・・・気付かれるのはマズい。
多分ムックは殺ちゃんを回復させようとしているのだ。
だがソレが見つかってしまうと瀕死のムックがとてつもない危険な状態になる上
殺ちゃんも回復しない。更に殺ちゃんは早く治療しないとヤバい状況だ。
(頼む――ッ気付かれないでくれッ・・)


俺がそう願うと植物は殺ちゃんのスカートの中に入っていった。
殺ちゃんが『あッ――』という声をもらし少し痙攣した。
・・そしてその時、俺の中の『何か』が確実にキレた


「ンンンンンンンンンン(こンのドグサレが)ァ――ッ!!!!!」
俺は瀕死のムックに向かって思いっきりキックを食らわす
「ンンン!ンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンァーッ!!ンンンンンッ!ンンンンンァ―ッ!
(テメェッ!気絶してる無防備な少女に何してんだコラァーッ!!言ってみろッ!言ってみろァーッ!)」
・・・ハッ
・・・マズい、ついつい我を忘れてムックを――ッ
「・・・タシカ、ソイツノノウリョクハ・・『ショクブツヲハヤス』ダッタヨナァ・・ソシテソノショクブツノヨウブンヲ・・ヒトニオクリ・・『カイフク』サセルコトモ
デキルンダッタヨナァ――ッ!?」
奴のスタンドが叫ぶ
クソッ!何をやってんだ俺はッ!
「ソノケダマノリョウテニ『ペナルティ』ヲアタエルゼェッ!」

485( (´∀` )  ):2004/05/29(土) 14:50

ムックの両手に×マークがつく
・・すまない、ムック。
・・おや?
頭から血流しているムックの手から出ている植物は未だ、伸びていく。
今度はちゃんとスカートの上を登って
・・・でも何故か逆にエロい。
だが一体・・何故・・?ムックの両手は封じられているからこれ以上植物の成長・・!


その時俺は空がいつの間にか晴れている事に気付いた。
そしてさっきまで降っていた雨で濡れている植物・・っていうか雨で濡れてると信じたい(特に先端は)
(・・そうかッ!ムックの出す植物の成長性はとてつもないッ!だからこの少量の雨水(?)と太陽光で成長を続けられるのかッ!)
そして伸びた植物が思いっきり殺ちゃんの腕に突き刺さる。そして殺ちゃんの体が少し打ち震えた
「――ッ・・ここ・・は・・?」
殺ちゃんの傷がみるみる癒えて立ち上がる殺ちゃん。
「チィッ!アノケダマメッ!」
「・・状況がイマイチ理解できないが・・闘っている事は確か・・だな?」
殺ちゃんは大ちゃんに銃を向ける
「ンンンンッ!ンンッ!ンンンンンンン――(殺ちゃんッ!待てッ!アイツの能力は――)」


無常にも喋れない俺の言葉は届かず、弾丸が発射された
そして物凄いスピードで弾丸にあたりに来るスタンド
「キハッ!テメェ・・イマ・・オレヲ『ウッタ』ナッ!?」
自分からあたりに言っただけだろがッ!
そう脳内ツッコミを入れている間に殺ちゃんの右手に×マークがつく
「・・!?馬鹿なッ!右腕が動かんッ!・・このハゲがッ!私に何をしたァッ!」
「キハハハハッ!テメェッ!コンドハ・・ボウゲンヲハキヤガッタナッ!『ペナルティ』ダッ!」
てめぇに暴言吐いたんじゃなくて本体にだろッ!
また脳内ツッコミいれている間に殺ちゃんの口に×マークがつく
「ンンンンッ!?ンンン・・・」
どうやら殺ちゃんもアイツの能力に気付いて来たようだ。


さて・・現在の状況を整理してみようか。
俺は右手・口がつかえない。よって後は左手 両足 ・・。まぁ戦闘に使えるのはこれくらい・・か。
殺ちゃんも俺と同じ・・もしかして『おっぱいミサイル』の出番もッ!?・・ドキドキ。
んでムックは両腕が使えない。その上俺のダメ押しキックで完全に意識を失ってやがる・・。

486( (´∀` )  ):2004/05/29(土) 14:50

俺が頭ん中で必死に考えていると殺ちゃんがアイコンタクトで『左に行け』と指示をする。
そうか・・両側から攻撃する気か・・
殺ちゃんの合図と同時に俺は左へ、殺ちゃんは右へ走る
「ンンンンンンンンンンンーッ!(ジェノサイアact.2―ッ!)」
「ンーンンンンンンッ!(リーサル・ウエポンッ!)」
俺と殺ちゃんは同時に攻撃した
スタンドはとまどったが即座に俺の攻撃を受けた。
そして銃弾は大ちゃんめがけてあと何秒かで着弾する位置にきた
「ンンンン・・(終わりだ・・。)」


しかしその時、俺たちは信じがたい物を目撃した
「まだだ・・まだ終わらんよッ!」
なんと、鉄のグローブの様な物で全ての銃弾を受け止めていた
「ン・・ンンンッ(ば・・馬鹿なッ)!?」
俺と殺ちゃんは同時に叫ぶ
「これでも野球選手時代は名キャッチャーでな・・。銃弾くらいなら何発でもとれるぞ?」
大ちゃんは得意げに笑いながら言う。
・・・っていうか野球ボールと銃弾じゃ格が違うだろっ!
「キシシッ!ソシテ巨耳ィッ!テメェニハ、ペナルティダッ!」
俺の左腕に×マークがつく。・・もう両手がつかえねぇのか・・


「ンンン・・ンンンンンンン?(ならば・・これでどうだ?)」
殺ちゃんは左手から大きな銀色の物をだした
その銀色の武器は横からチューブが出ていて、そのチューブは背中についてる大きなドラム缶の様な物についてる
・・・・!そうか、これは!
「ンンンンン・・ンンンンッンンンンンン(火遊びは・・ママと一緒にやりな)・・・。」
殺ちゃんはそう言うと左手に力を込める
そして次の瞬間、銀色の武器から大量の火炎が放たれる。
そう。コレは火炎放射器だ。流石に実体の無い砲撃にはアイツも・・


しかし 俺は 次の瞬間 またもや 眼を 疑った
奴のスタンドが炎を全て飲み込んだのだ
「ブフゥ〜・・テメェ、オレニホノオヲ『ノマセタ』ナッ!『ペナルティ』ダゼッ!」
火炎放射器に×マークがつく
クソッ!やられたっ!もう後がない・・あとは蹴りか・・お・・おっぱいミサイr・・
いやいや違う違う違う。まじめに考えろ俺
しかし無常にも俺の頭にはおっぱいミサイルのイメージばかりが浮かぶ


「ンン、ンッンン!ンッンンンンン・・(なぁ、殺ちゃん!おっぱいミサイ・・)」
俺が殺ちゃんに声をかけようとすると殺ちゃんは後ろを振り向き、俺にアイコンタクトを送った。
『逃げろ』
必死な眼だった為、すぐに伝わった。
そして、俺がどれだけ馬鹿な事を考えてたかわかって恥ずかしくなった。


そして殺ちゃんは手話で『ムックを担げ』と俺に命令する
了解だ。とりあえずここから逃げるしかない・・ッ!
合図と共に一斉に走り出す俺と殺ちゃん
そして途中で枝分かれし、ムックを担いで殺ちゃんの元へ戻った
後ろを振り向くと、大ちゃんが必死で追ってきてるがこの距離だ。多分間に合わないだろう。


しかし俺が前を向いたその時殺ちゃんが大きく弧を描いて宙を舞い、地に落ちた
「グゥッ―ァッ!?」
矢張り自力で成長しただけの花では回復量が少なかったのか
地に落ちた殺ちゃんの古傷から血が吹き出し殺ちゃんは呻き声をあげる

487( (´∀` )  ):2004/05/29(土) 14:50
まだ状況が良く理解できない。何が起こった?あいつら・・何をした・・?
そしてパニクった頭を落ち着かせ、前方を見るとマッチョで野球ボールの様な顔をした監督の様な奴が立っていた
・・まさか・・コイツは・・。


「『敵前逃亡』は最大のペナルティを与えるしかないな・・。」
声にも体つきにも面影は残ってないが・・・こいつは間違いない・・さっきのスタンドだっ!
俺は必死で背を向け逃げようとしたが俺が振り向いた場所にすぐに奴は移動してきた
「――ッ!」


「この世から・・――退場しろ」
両腕が塞がれ、ガードもできない俺の顔面に奴のパンチが入る
そして鈍い音がなる俺の口
・・・顎と歯が折れた音と思われる。


「退場ッ!」
そしてさらにもう一発パンチがくる
頭が揺れる。周りの景色がゆがんでみえてきた
「退場退場ッ!」
そんな俺に非常にももう一発食らわされるパンチ。
それも鳩尾に入れられ俺は宙を舞う


「退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場
退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場
退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場
退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場
退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場
退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場――ッ!」


宙を舞った俺の体に『退場』ラッシュがあてられる
声にならない叫びが虚空に消える
「この世からァ―――ッ!退場しろォ――ッ!」
そして駄目押しの一発で思いっきり吹っ飛ぶ俺


「さて・・次は・・あの少女だ。」
マッチョなスタンドは殺ちゃんの方へ歩いていく。
しかしその瞬間。スタンドが消えた


「――えッ!?」
大ちゃんは素っ頓狂な声をあげる。
そして次の瞬間、殺ちゃんの回し蹴りを思いっきり食らう大ちゃん
更に手錠をかけた

488( (´∀` )  ):2004/05/29(土) 14:51
「く・・そっ!こんなも・・の・・。」
大ちゃんの顔色が変る
俺からは殺ちゃんの後姿しか見えないが、このドス黒く息苦しい感覚
良くわかる。『魔眼』だ。


「外したければ外せ、スタンドを使いたければ使え。ただし・・」
大ちゃんのスタンドが消えて効果が切れたのか、殺ちゃんは自由自在に喋った。
「・・・・貴様のスタンドや、グローブじゃ護れないほどの砲撃をかましてやる。」
深紅に輝いているだろう殺ちゃんの眼に、体中に現れた火器に、流石の大ちゃんも戦意喪失している
「は・・はひ・・ごめんなはひ・・。」


大ちゃんの体がかなり震える。どうやら小便も漏らしているようだ。
こうなってしまうと上級幹部ってのも情けないなぁ・・。
「し・・しかし・・どうやって私めのスタンドをお消しになったのですか?」
大ちゃんは恐る恐る聞く


「その問いには・・俺がお答えしよう・・。」
ヨロヨロしながら俺は立ち上がった。
「ある・・二人の兄弟が・・俺のジェノサイアの応援で力を貸してくれた・・。」
そう。流石兄弟だ彼らに俺のジェノサイアを向かわせて、応援を要請した。
・・・しかしこれでまた出費が・・ッ!


「彼らの能力を使えばアンタのスタンドを『削除』するくらいわけなかった。って訳よ」
本当に頼りになる兄弟だこと。・・・金の問題に眼を瞑ればな。
「・・・・・一応、教えておこう。」
殺ちゃんに連行されてる時、大ちゃんはつぶやいた
「・・・何だ?」
「ハートマンに・・気をつけろ。」
「・・・・?」
俺が頭の上に疑問符を浮かべると、そこから大ちゃんは押し黙ってしまった


「おい。気になるだろ。話せ。」
殺ちゃんが脅迫するも
「よせ。それだけの忠告がもらえただけでありがたいんだ。」
俺は殺ちゃんの肩を叩き言った。
「・・・・・・ああ。」
殺ちゃんはそう言うと、大ちゃんを連行した。
「ハートマン・・か。アイツとも決着をつけなきゃならないな・・。」
俺は雨上がりの青く輝く空を見上げ呟いた

489( (´∀` )  ):2004/05/29(土) 14:51
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・


〜キャンパス〜

「ふむ・・。まさか大ちゃんがやられるとはな・・。」
『神』が呟く
「なぁ、神さんよぉ。」
後ろにたっていた男が呟く。・・ハートマンだ。
「・・・何だ?」
「ココの『門番』。是非俺様にやらせてくれないか?」
ハートマン軍曹はニヤニヤしながら言った。
「・・ふむ。まぁ良い。・・しかし、珍しいな。貴様が門番などと言うのは・・。」
『神』が言う。
「まぁいいだろ・・。あのウジ虫どもを始末するのは俺だ。どこぞのケツの汚れた豚に渡すことは無い。」


ふいに、ハートマンの口から銀色に輝く牙が見えた
「!!・・まさか・・貴様・・。」
「安心しろ。すぐに片付けてきてやる。俺の戦歴に傷を付けたあのウジ虫どもをな・・。」
ハートマンの眼が紅く輝く
「・・・まぁ良いだろう。期待してるぞ。軍曹・・。」
「Thank you ・・。あ。言い忘れていたが。一応、行けるのは夜だけだからヨロシク・・。」
漆黒のマントをはためかせ軍曹は言った。

490( (´∀` )  ):2004/05/29(土) 14:52
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・


〜夜・キャンパス前〜

「狙うなら夜しかない・・か。嫌な予感がしてならなくなってきたぜ。」
俺は不服そうに呟く
「まぁ確かに・・。逆に闇夜から奇襲されたらまずいしな・・。」
殺ちゃんもため息をつく
「・・・・。」
そして汗だくで押し黙るムック。
そう。この計画はムックがたてた物だった。


「ま、まぁいいじゃないですKA!とにかく早KU――。」
その瞬間。とてつもない轟音が当たりに響く。
手だ。巨大な手が振り落とされた。それを紙一重でかわすムック
「――なッ!?」
ムックが錯乱する
「落ち着け!この手の野郎は・・アイツしかいねぇッ!」
葉のこすれる音が聞こえると、門の前から人が現れた。
「久しぶりだな。『ハートマン』。」
「軍曹をつけろッ!便所虫がッ!」      リ ベ ン ジ
肌を叩くような強い夜風の中、ハートマンの『復讐戦』が始まった・・。

←To Be Continued

491( (´∀` )  ):2004/05/29(土) 14:52
キャンパスでの最終決戦寸前!ここでキャラ復習

登場人物

――――――――――巨耳派――――――――――

 / ̄ ) ( ̄\
(  ( ´∀`)  )巨耳モナー(24)

・幼い頃とてつもなく不幸な境遇に居たAA。強盗さえ居なければ自分は不幸にならなかったと信じ
 警察に憧れ、試験にトップで合格。警察官になることができた。
 現在は義父と義母の家から遠く離れた場所に住んでいる。
 もともと本庁に居たのだが、頭が良かった為、上司達に左遷させられる。
 スタンドは『ジェノサイア』。↓参照。


 <ヽ从/>
  <)从人/>
 </゚∀゚ヽ>ジェノサイア(?)

・巨耳モナーのスタンド。能力は『画面のある物を自由に移動する』事。
 スタンドでありながら人間に酷似した思考を持ち、いつも自由気まま
 巨耳モナーの唯一の『友達』にしてお姉さん的存在。


  彡. (・) (・) ミ
 彡        ミ
 彡   ▲    ミ ムック(5)

・良くわからない。本人は『地球上のAAじゃ私には敵わないNE!!』を良くわからない事を抜かす
 元『ある組織』の幹部だったがその厳しい訓練と非情な作戦に逃亡するも
 ある幹部2人につかまり洗脳される。そして巨耳モナーと闘うも『殺』と名乗る少女に威嚇され惨敗
 ただ、↑の言葉はダテじゃなく、戦闘能力はズバ抜け

 スタンドは『ソウル・フラワー』。ビジョンは下半身の無い人型で胸にバラ。額にひまわり、両肩に紫陽花が咲いている。
 能力は『花を咲かす』こと。ただし、花の栄養分をコントロールして傷等の回復を早めたり、
『どんな風に咲いたどんな花か』などの詳細情報も操作可能。


   ( _ __  ノ
  '⌒/^ミ/^M'ヽヘ`ヽ 
    li/! リ从 リ)〉 }
   )' ゝ(l.゚ -゚ノl `!岳画殺(13)

・ひょんな事から巨耳モナーに協力する事になった少女。
 『魔眼』を持ち、ソレを隠してるコンタクトレンズを外すと
 どんな者でもその場にたったり、目を合わせる事ができなくなる
 普通の成人男性でも気を失わない様にするだけで必死。
 コンタクトをつけた後でも震えは止まらない。

 スタンド能力は『リーサル・ウエポン』。ビジョンは無し。
 体の一部を『自分が一度でも見た事がある重火器』にする能力
 ただし、その重火器が破壊されるとその重火器に変えていた体にダメージを受け
 もう一度その武器を見ないとその重火器は使えない。
 また、結構重い為、出しっ放しは難しく、すばやい移動が出来ない。
 更に体中重火器な為、チャッカマンで弾丸に火をつけただけで大爆発する。
 必殺技は『死ぬが良い』。『死ぬが良い』という決め台詞と共に体中の武器をぶっ放す一斉射撃。

492( (´∀` )  ):2004/05/29(土) 14:53
――――――――――キャンパス――――――――――

  ∧_∧
  (  ๔Д๖)がんたれモナー(故)

・巨耳モナーを殺そうとしたAA。
 先輩の不良軍団の中でもリーダー的存在。
 ジェノサイアに吹っ飛ばされ病院送りとなった。
 親がアッチ系な人の為かとても乱暴。『ある組織』の一人らしい

  ∧_∧
  ( ´Д`)128等身(逮捕)

・『キャンパス』の幹部。かなり長い。アンシャス猫達の『ペット』
 『危険レベル97』(最高は100)という称号を持つ怪物
 ちなみにこのレベルがどれくらい高いかと言うと、世界同時多発テロくらい危険。
 その体だけで相手を絞め殺す事も可能。組織の特攻幹部。早い強いキモい。
 でもかなりナイーブで傷つき安い為、扱い難い。
 『氏ね』って言っただけで泣く。『不細工』なんていわれたら立ち直れない人。
 しかしあまりにけなされると『超暴走状態』となり最強の怪物とかす。
 しかもとてつもない量の涙を流し、その涙の水圧で人の頭を吹っ飛ばす事ができる
 この時の状態で『危険レベル97』となる。ムックの手により逮捕。動物園送り

 スタンドは『アクア・ブギー』ビジョンは手が生えている水色の蛇型。
 能力は『水を弾丸並みの強度に変える事』。
 暴走状態のときの涙も弾丸並みの強度になるのでとてつもなく強い。

493( (´∀` )  ):2004/05/29(土) 14:54
  ∧,,∧∧_∧ 
 彡 l v lミ l v l)アンシャス猫(故)

・『キャンパス』の幹部。『2匹で一匹』がモットーらしい
 決め台詞は『鈴木宗男デシタ!!』。
 煽るのと心の隙間に漬け込むのがとても上手い。組織中でも洗脳のスペシャリスト。
 失敗するとただ怒らせるだけ。ムックに洗脳をしていたのもこの2匹。
 ガチャピンに頭部を食われ、両者ともに死亡。

 鈴木さんのスタンドは『ピュア・エスケイキズム』。
 半径5メートル以内に現在の自分の心境によって震度が変わる地震を発生させる。
 最大で関東大震災レベルの震度を出すことが出来る。ビジョンはマッチョな男型。
 宗男さんのスタンドは『エンチャント・メント』。
 ビジョンは矢をもった白い女神像。当たった相手の『運』を吸い取る事が出来る。
 この矢に刺されれば刺されるほどジブンは不運になっていき、矢は幸運になる。
 連続で放てる矢は最大で10本まで。

   /ノ 0ヽ
  _|___|_
 ヽ( # ゚Д゚)ノハートマン軍曹(逃亡)

・『キャンパス』の上級幹部。教育係。
 超スパルタで有名でムックを『育てた』張本人。
 口が悪いながらも人望は結構厚い人
 対巨耳戦で片手を失いながらも逃亡。キャンパスに逃げ込んだ。

 スタンドの能力の詳細は不明。
 どうやら床や壁に体をもぐらせ、巨大化させて出す能力



 |::::::::::   (●)    (●)   | 
 |:::::::::::::::::   \___/    |  
 ヽ:::::::::::::::::::.  \/     ノ 大ちゃん(逮捕)

・某野球チームの元監督らしいが、詳細は明らかになっていない。
 頭はスキンヘッドで『ピッチャーデニー』が口癖
 若かりし頃は甘いルックスをもっていたらしい。
 昔、大勢の人達に色々罵倒された事がある為、今の世界が嫌になり『キャンパス』に入った。
 スタンドにも相当の力があり、入ってからすぐに上級幹部まで上り詰めた。トムの恩師
 しかし流石兄弟兄者のスタンドによってスタンドを破壊された上、殺ちゃんの魔眼によって脅迫、逮捕された。
 最後に「ハートマンに気をつけろ」と謎の言葉を残した。

 スタンドは『ニューロシス』。容姿は帽子を被った野球ボール大の顔に小さい体。
 大きさはキーホルダーくらい 能力は自分に対して『失礼』な事をした者に『ペナルティ』を与える事
 例えば左手に持ってる銃で攻撃すれば銃を持っている左手全体を、右手で殴れば右手全体を動けなくさせる
 更に遠隔操作系から近距離パワー型に変化もでき、かなり有能なスタンド。
 結構理不尽な能力の為『理屈が通じないスタンド』と恐れられている。


    /⌒\
   (    )
 ∈--→Ж←-∋  
  ) :::|    |::: (  
 ( ::( ・∀・):: )ネクロマララー(69)

・『ある組織』に属す超上級幹部らしい。
 がんたれモナーを瞬殺するほどの力の持ち主
 普段は結構優しいタイプの人なのだが、戦闘時は一変。組織の最強参謀。
 占いは当たる確立90%。外れた事は今まで『火星が落っこちる』くらい。

 スタンドは『ザット・ガール』。ビジョンはドス黒い顔に鉄製のマスクをつけたスタイル抜群のメイド。
 能力は通常の重力の1.5倍の重力を与える『重力球』と150〜200倍の重力を与える『重力弾』を作り、放つ事。
 因みに重力球の重力発動条件は『相手に当てるor触れる』事だが重力弾の重力発動条件はわかっていない。

494( (´∀` )  ):2004/05/29(土) 14:54

――――――――――謎の敵――――――――――

   〆⌒ヽ
  ( Θ_Θ)ガチャピン(消息不明)

・ 殺を助けた男。一応背は八頭身。
 ムックを殺そうとしているらしく、ジブンの個人情報を漏らすのも嫌う謎の人物。
 アンシャス猫の攻撃を全て防ぎ、さらに始末した。
 普段は結構明るくおちゃらけた性格だが、ムックの事や『食』に関することとなると一変する
 好きな物はスタンド使いの肉。決め台詞は『食 べ ち ゃ う ぞ 』。怖い。
 現在、対巨耳モナー戦後消息不明。

 スタンドは『ジミー・イート・ワールド』。ビジョンは蛙の様な四足歩行で緑色の怪物。
 歩いた跡にカタツムリが這った跡の様な分泌液が付く(無害)
 完全な雑食でゴムから金やダイヤまで噛み砕く顎を持つ。スピードはとてつもなく早く、
 一旦目を付けられたらもう諦めるしかないのかもしれない。

  ∧_∧
  ( :::::::::::)矢の男(消息不明)

・すべてにおいて謎の男。『弓と矢』でスタンド使いを増やしているが
 その目的は不明。部下を殺す非情さと全てを支配するかのような眼をもっている。
 その眼に睨まれた者は精神がイッてしまったりする。
 更に彼がいるだけで周りの空気が変貌し、かなり重くなるらしい。
 スタンドについてはまだ何もわかっていないが、かなりの実力者。
 現在、対巨耳モナー戦後消息不明

495ブック:2004/05/30(日) 00:52
     EVER BLUE
     第二十一話・ONE=WAY TRAFFIC 〜それでも進むしか〜


 出来損ない、出来損ない、出来損ない、出来損ない、出来損ない、出来損ない、
 出来損ない、出来損ない、出来損ない、出来損ない、出来損ない、出来損ない。
 その言葉が、奇形モララーの頭を埋め尽くしていた。

「俺は…出来損ないじゃねえぇ!!」
 力の限り壁を叩く。
 壁の一部が拳の形に陥没した。

「…ならば、結果でそれを証明すればいいだろう?」
 と、そこへいつの間にか長耳の男が現れた。
 長耳の男は、試すような視線を奇形モララーに向ける。

「ああ、そうだ…
 俺は出来損ないなんかじゃねぇんだ…
 俺は出来損ないなんかじゃねえええええええEEEEEEEAAAAAAA!!!」
 奇形モララーの咆哮が辺りに響き渡る。

「……」
 叫ぶ奇形モララーの足元に、長耳の男が一枚の紙切れを落とす。
「…何だ、こりゃあ?」
 その紙を拾い上げる奇形モララー。

「ようやく『奴』から連絡員に、あの『カドモン』の居場所を掴んだとの情報が入った。
 どうするかは好きにするがいい。
 ただ一つ言っておくが、私はここには来なかった。」
 後ろに振り返る長耳の男。

「ふっ…ははっ、ふふはははははははははははははははは!!」
 狂ったように、奇形モララーが笑い出す。
「OKOK分かったぜぇ…
 待ってろ爺共。
 もう俺を出来損ないなんて呼ばしゃしねぇ。
 手前らの前に、あの『変異体』を引っ下げて来てやるァ…!」
 奇形モララーが再び笑い出す。
 その目には、真っ黒い炎が煌々と燃え盛っていた。

496ブック:2004/05/30(日) 00:52



     ・     ・     ・



「いやー、やっぱりハンドガンは良い!
 この手の平にすっぽりと収まる安心感。
 久し振りだと感慨も一入ですねぇ。」
 『GREADER SINGLEHAND』という銘柄のハンドガンを握りながら、
 タカラギコが目を輝かせた。
 結局オオミミがタカラギコに買い与えたのは、
 拳銃二丁に予備のマガジン十本。
 それから弾丸を数百発。
 加えて小刃、中刃、大刃のナイフをそれぞれ何本かずつ。
 それで、あの女から貰ったお金はすっかり底をついてしまった。
 糞。

「…買い物の途中、暫く姿が見えなかったが?」
 三月ウサギが、牽制するようにタカラギコに言った。

「あ、すみません。
 恥ずかしながら、ちょっと憚りに行ってまして…」
 頭を掻きながらタカラギコが答える。
 嘘を言ってる風には見えないが、それでも油断は禁物だ。
 何せ、『特技は人を騙す事』と自分で言うような人間なのだから。

「ふん…」
 これ以上追求するだけ無駄と感じたのか、三月ウサギがタカラギコから顔を離す。

「…どうでもいいが、お前ら……」
 突然サカーナの親方が口を開いた。
 心なしか、血圧が高くなってるように見受けられる。

「あれだけ騒ぎ起こすな、つってたのに、
 何で大爆発なんざやらかしてんだ!!!
 お前ら本当に俺の話聞いてたのか!!?」
 顔を真っ赤にするサカーナの親方。
 予想はしていたが、やっぱりか。

「俺は関係無い。
 文句があるならそこの馬鹿に言え。」
 三月ウサギがニラ茶猫に視線を移す。

「し、しょうがねぇだろう!?
 俺だってわざとあんな事した訳じゃ……っ痛ぇ!」
 弁解しようとするニラ茶猫の頭に、サカーナの親方の拳骨が落ちる。

「言い訳すんな!
 全く、どう落とし前つけるんだこの馬鹿が!!
 それとも賞金首にでもなるつもりか!?」
 サカーナがさらに拳骨を振るう。

「呆れてものも言えませんわね…」
 高島美和がお茶を啜る。
「ニラ茶猫さん、HELL2U(地獄に逝きやがれ)です〜。」
 可愛い声でさらりと罵倒するカウガール。
 一応ニラ茶猫と付き合っている筈なのにこの言いよう。
 酷いな、この女。

「皆、もうやめなよ。
 ニラ茶猫だって仕方なかったんだろうし…」
 誹謗中傷の集中砲火を浴びるニラ茶猫を、オオミミが庇い立てする。
「心の友よ〜〜!
 やっぱり信じれるのはお前だけだ〜〜〜!!」
 泣きながらニラ茶猫がオオミミに抱きついてくる。
 寄るな、鬱陶しい。

497ブック:2004/05/30(日) 00:53



「阿呆は放っておいて…
 オオミミ、そういえば吸血鬼らしい女に連れ去られかけた、って聞いたが、
 本当なのか?」
 サカーナの親方がオオミミに尋ねた。
「あ、うん。」
 オオミミが頷く。

「…『紅血の悪賊』でしょうか?」
 高島美和が考え込む素振りをみせる。
「多分、違うと思う。」
 首を振るオオミミ。

「そういえばタカラギコさん、
 この前『常夜の王国』も動いている、って言ってましたよね?」
 不意にカウガールがタカラギコに聞いた。

「ええ、そうですが…」
 拳銃を懐にしまい、タカラギコが答える。

「ということは、そこの手合いの可能性もある、と。」
 高島美和が湯飲みを机の上に置いた。

「……」
 静まり返るブリッジ。
 どうやら、僕達は本当にとんでもない事に巻き込まれているようだ。
 今までにも何回か危ない橋を渡る事はあったが、
 恐らく今回のは桁が違う。
 正真正銘とびきりの厄ネタだ。
 その不安が、皆に重く圧し掛かっていた。

「と、兎に角だ!
 落ち込んでても埒が開かねぇんだし、
 今は『ヌールポイント公国』を目指そうぜ!!」
 暗い雰囲気を払拭しようと、サカーナの親方が明るい声で告げる。
 誰の所為でこうなってると思ってるんだ、誰の。

「…士気を高めようとなさっている所悪いですが、一つ忠告させて頂きます。」
 と、高島美和が口を開いた。
 全員の視線が、彼女に集まる。

「今回の一件で、私達の明確な位置を『紅血の悪賊』に掴まれてしまったでしょう。
 そして、当然彼等も私達が近隣の国の勢力圏に侵入すると予測している筈です。
 その事から、これからの道中かなりの確立で妨害が入ると予想されます。」
 高島美和が冷静な声で告げる。

「で、その妨害の件ですけど…」
 高島美和の声と同時に、ディスプレイに地図が映し出される。

「ここが私達の現在位置、そしてこれが『ヌールポイント公国』の領空内への
 最短ルートです。」
 地図に赤いマーカーが示され、そこからさらに赤い線が伸びる。

「見ての通り、このルートの途中には幾つかの島が近在しています。
 もしそこに『紅血の悪賊』の戦力があるとしたならば、
 私達をその近くで迎え撃つ位はやってくるでしょうね。
 いえ、それだけではありません。
 『ヌールポイント公国』内の仲間も外へと出張って来るかもしれません。
 連中にとっては、私達が『ヌールポイント公国』に入る事が敗北条件ですからね。」
 高島美和が大きく息を吐く。

「遠回りをすればいいんじゃないの?」
 天が不思議そうに尋ねる。

「遠回りしたとしても、私達が燃料を補給した所で結局は足がついてしまいます。
 そして、もたもたしていたら『紅血の悪賊』の本隊に追いつかれるやもしれません。
 時間が経てば経つ程、こちらが不利です。
 残念ですが、少々の危険を冒してでも最短距離で『ヌールポイント』公国に入る事が、
 最も安全な手段としか考えられませんね。」
 高島美和が顔を曇らせる。
 つまり、どうあっても戦いは避けれそうにないという事か。

「糞ったれ…!」
 ニラ茶猫が足で壁を蹴る。
「たまらんな…」
 溜息を吐く三月ウサギ。

「まあまあ皆さん、そうお気を落とさず。
 何があるかは分かりませんが、私が居る限りそう簡単には手出しさせませんよ。」
 タカラギコが得意気にパニッシャーを担いだ。

「貴様が一番信用ならんのだがな…」
 三月ウサギがタカラギコを見据える。

「そんな殺生な…」
 情けない声を出すタカラギコ。

「よっしゃ、取り敢えずミーティングはここまでだ!
 野郎共、持ち場へ戻れ!
 こっから先、一秒も気を抜くんじゃねぇぞ!!」
 サカーナの親方が激を飛ばす。

(……)
 いつもなら、その威勢の良い声でどんな不安も吹き飛んでしまうのだが、
 今回は何故か気が晴れなかった。
 何かがおかしい。
 何か、果てしなくどす黒いものが、ゆっくりと這い寄って来るような…

「どうしたの、『ゼルダ』?」
 オオミミが僕に尋ねた。
(何でもないよ、オオミミ。)
 考えるのはよそう。
 ただの思い過ごし、確証の無い漠然とした不安じゃないか。
 わざわざ自分から深みに嵌ってどうする。

(オオミミ…きっと、大丈夫だよね。)
 僕はそうオオミミに囁いた。

498ブック:2004/05/30(日) 00:54



     ・     ・     ・



 荘厳な部屋の中で、二人の豪華な服を着た二人の老人が話し合っていた。
「…又もや『ジャンヌ・ザ・ハルバード』を取り逃がしたらしい。」
「流石は『常夜の王国』の懐刀、そう易々とはとれんか。
 忌々しや…」
 老人の一人が舌打ちする。

「岡星精一もやり過ぎておるようで、あちこちから苦情が来ている。」
 老人が眉を顰める。
「あ奴は確かに有能だが、限度を知らぬのが玉に瑕だな…」
 渋い顔を見せる老人達。

「聖王様は何と―――?」
 老人の一人がそう聞いた。
「…岡星精一の代わりに、『切り札』(テトラカード)を遣わせろ、との事だ。」
 もう一人の老人が口を開く。

「まあ確かに、岡星精一を抑えられ、且つ『ジャンヌ・ザ・ガンハルバード』と
 渡り合えるといったら彼奴等しかおらんか。
 で、誰を送り込むのだ?」
「K(キング)とJ(ジャック)は別件で派遣中。
 Q(クイーン)も休暇で旅行中だ。
 今残っているのはA(エース)だけだな。」
 老人が重苦しく口を開いた。

「A……あの新参者の『闘鬼』か。
 あの守銭奴しか残っておらぬとはな…」
 老人が渋い表情になる。
「そう言うな。
 確かに奴は金は掛かるが、それに見合った働きはする。
 何せ、この『聖十字騎士団』に入って僅か一年で、
 騎士として最高の誉れたる、
 『切り札』(テトラカード)の地位にまで上り詰めた程の者なのだからな。
 これ以上の適任者は他に居るまい?」
 もう一人の老人が相方を宥める。

「仕方が無い。Aに遣いを遅るか。
 どうせあの『家』に居るのだろう?」
 老人がやれやれと肩を竦める。

「…それでは手並みを見せて貰おうか、あのAの称号を持つ男に。」
 老人が険しい声で呟いた。



     TO BE CONTINUED…

499ブック:2004/05/31(月) 00:25
     EVER BLUE
     第二十二話・REINCARNATION 〜生まれ還りし者〜 その一


 〜オオミミ達が『紅血の悪賊』に襲われる一年程前〜



 炎上する小型飛行機から、俺は何とか体を這い出した。
「はあ…はあッ、糞……!」
 足を引きずりながら悪態をつく。

「冗談じゃねぇぜ…
 どこなんだよ、ここ!?」
 全く訳が分からない。

 …そうだ、俺は何でこんな目に遭っているのだ?
 確か、あの奇形に呼ばれて来てみれば、そこは陰気臭い場所で…
 それで何かヤバい気がしたから、隙をついて逃げ出そうとしたんだ。
 で、勿論飛行機の乗り方なんか分からないから適当に動かそうとしたら、
 いきなり飛行機が発進して、それで案の定ここに墜落して…

「……!」
 足がもつれ、その場に倒れ込む。
 まずい。
 マジで死んでしまいそうだ。

 …死ぬ?
 ちょっと待てよ。
 俺は、確かもう死んだ筈…

「…なんて事考えてる場合じゃねぇぞ。
 このままじゃ、寂しくて死んじまうぞ…」
 体中の力を総動員し、何とか立ち上がった。
 とにかく、どこか休める場所と、食い物を探さないと。
 復活して間も無く、再びくたばるなんて笑い話にもなりゃしない。

「くっ…!」
 しかし、もう体は限界だった。
 またもや倒れる俺の体。
 畜生め、ここまでか…!

「……?」
 と、近くに人の気配を感じた。
 思わず顔を上げて、気配のした方向を見る。

「あ……」
 そこに居たのは、まだ幼い少女だった。
 怯えたような目で、俺を見ている。

「…ちょ……助け……」
 必死に声を絞り出し、その少女に助けを求めた。
 頼む。
 人を呼んで来てくれ。

「……!!」
 しかし、少女は俺が呻くのを見ると怯えたように走り去ってしまった。

(待て、待ってくれ!!!)
 だが、俺の叫びはもう声にはならなかった。
 何てこった。
 最後のチャンスかもしれなかったのに。
 ああ、そろそろ走馬灯が…

「……」
 すると、俺が諦めかけた所に再び少女がやって来た。
 …?
 逃げたんじゃ、なかったのか?

「お水…」
 震える手で、少女が俺にコップに入った水を差し出した。
 そうか、さっきはこれを汲んで来てくれたのか。

「……」
 コップを受け取り、一気に水を飲み干す。
 美味い。
 今迄に、これほど水を美味く感じた事などなかった。

「…ありがとう、助かっ―――」
 …そうお礼を言おうとした所で、俺の意識は遠ざかった。

500ブック:2004/05/31(月) 00:25





「…よっと。」
 掛け声を上げ、雑貨の詰まった箱を棚の上に置いた。

「悪いわねぇ。病み上がりだってのに、お手伝いして貰っちゃって。」
 恰幅の良いおばちゃんが、俺に冷えたお茶を手渡した。
「いや、別にいいですよ。
 厄介になってるんだから、これ位お安い御用ってなもんですって。」
 礼を言い、おばちゃんからお茶を受け取る。

「トラギコ兄ちゃ〜ん!
 遊ぼ〜〜〜〜〜!!」
 そこに、子供達が駆け寄ってくる。
「お〜〜う!
 ちょっと待ってろ!!」
 急いでお茶を飲み干し、子供達と共に広場に走っていく。

 あの女の子に助けられ、この孤児院に担ぎ込まれて早十日。
 ここの人達の献身的な介護のお陰で、体はすっかり良くなっていた。
 まさかこっちの世界でも孤児院にお世話になるとは、つくづく因果なものだ。

「おっし、何して遊ぶ?
 鬼ごっこか?かくれんぼか?警泥か?六むしか?缶蹴か?ドッヂボールか?」
 子供達に服を引っ張られながら、何をして遊ぶのか提案する。

「缶蹴りがいい!」
「うん、それがいい!」
 子供達が無邪気な笑みを浮かべながら答えた。

(…二度と、こんな事が出来るなんて思っていなかったのにな。)
 そんな子供達の笑顔を見て、自嘲気味に笑う。

 俺にはもう、こいつらを抱く資格なんて有りはしないのに、
 何故俺はここにいるんだ?
 これも、神のおぼしめし、ってやつなのか?
 それなら、俺は…

「……?」
 と、建物の影に寂しそうにこちらを見つめる人影を発見した。
 俺を見つけてくれた、あの女の子だ。
 確か名前はちびしぃと言ったか。

「どうした?
 こっちに来て皆と一緒に遊ぼうぜ。」
 俺は笑いながら手招きする。

「……!」
 しかし、ちびしぃはそのままどっかに行ってしまった。
 いつもそうだ。
 あの子もここの孤児院の子供なのだが、
 ここに来て十日というものの、あの子が他の子供と遊んでいるのを見た事が無い。
 いや、それどころか、笑顔の一つすら見れなかった。
 他の子があの子を虐めている訳でもないのに、一体どうしてだ?

「なあ、ちびしぃも呼んで来てやれよ。
 仲間外れは悪い子のする事だぜ?」
 俺は近くの坊主にそう促した。

「違うんだよ。
 あいつの方から逃げてんだって。
 少し前までは、一緒に遊んでたのに…」
 顔を曇らせて坊主が答える。

 前までは一緒に遊んでた?
 それなら余計に変だ。
 あの子に、何かあったのか?

「!!!!!」
 その時、俺の頭を何か固い物が直撃した。
 これは、空き缶か?

「や、やば!
 当たっちゃった…」
 向こうの方で子供達がしまったという顔をする。
 どうやら、缶蹴りの缶を蹴ったのが、俺に命中したらしい。

「こぉの悪餓鬼共ーーーーー!!」
 頭からたんこぶを生やしながら、子供達を追いかける。
「逃げろーーーーー!!」
 子供達が蜘蛛の子を散らすように逃げていった。

501ブック:2004/05/31(月) 00:26





 俺は子供達の寝室のドアを静かに開け、中の様子を確認した。
 時計は既に夜の十一時を指しており、子供達はスヤスヤと寝息を立てている。
「……」
 俺はそれを確認すると、音を立てないようにドアを閉めた。
 昼間しっかり遊んだ所為か、ぐっすりと眠っているようだ。

「トラギコさん、ちょっとお茶でもいかが?」
 俺が自分の部屋に戻ろうと、食堂の前を通りかかった所に、
 この孤児院の職員である、恰幅のいいおばちゃんが声を掛けてきた。

「あ、それじゃ馳走になります。」
 折角なので、一杯頂く事にする。
 食堂に入り、おばちゃんの前の席に腰をかけた。

「ごめんなさいね、家の子供達がヤンチャばっかりしちゃって。」
 ティーカップに紅茶を注ぎながら、おばちゃんが苦笑した。

「いえ、全然構いませんよ。」
 笑いながら熱い紅茶に口をつける。
 甘苦い琥珀色の液体が、口の中に広がっていく。

「でも大変ねぇ。
 事故のショックで記憶を無くしてるなんて…」
 心配そうな顔でおばちゃんが尋ねる。

 本当は記憶はばっちり残っているのだが、
 『実はラギは別の世界の住人だったラギよ!』、と言った所で
 変人扱いしかされないのは分かりきっている事なので、
 記憶喪失という事にしておいた。
 この方が、何かと問題も少ない。

「…すみません。
 こんなに長い間ご厄介になってしまって…
 もう少ししたら、すぐ出て行きますから。」
 俺は申し訳無い気持ちで一杯になりながら口を開いた。
「あらあら、そんな事気にしなくていいのよ。
 ここの子達も懐いているし、好きなだけゆっくりして行きなさいな。」
 おばちゃんが屈託無く笑う。

 口ではそう言っているが、
 この小さな孤児院では大人一人を余分に養うのでも大きな負担だろう。
 ここの人達の為にも、早くここから出なくては。

「それにしても、あなた子供と触れ合うのが上手ね。
 もしかしたら、元は孤児院か育児園で働いていたのかもね。」
 おばちゃんが微笑みながら話す。
 大正解だ、おばちゃん。



「…あの、ちびしぃの事なんですけど。」
 紅茶を飲み終えた所で、俺はそう話題を切り出した。

「ええ…」
 おばちゃんが暗い顔になる。

「…元々大人しい子だったけど、
 それでも少し前までは皆と笑いながら遊んでいたのよ。
 だけど、急に心を閉ざしてしまって…」
 沈痛な面持ちで喋るおばちゃん。
 やっぱり、この人もあの子の事は心配していたようだ。

「何か心当たりはあるんですか?」
 俺はおばちゃんに尋ねた。

「…いえ、特に何も。
 あの子に直接聞いてみた事もあるんだけど、
 『何でもない』の一点張りで…」
 おばちゃんが首を振る。

「そうですか…」
 俺は呟いた。
 あの子の顔、決して『何でもない』なんてものじゃない。
 詳しい事は分からないけど、間違い無く何かを思い詰めている。
 まるで、独りぼっちで何かと闘っているような、そんな悲壮感…

「…分かりました。
 それじゃ、そろそろ失礼します。
 お休みなさい。」
 カップを流しに入れ、俺は食堂を出た。


 …どうする。
 いや、どうするかなんて、もう決まってるじゃないか。
 あの子を、助けてやる。
 あの子には、命を救って貰った借りがある。
 今度は、俺が助けてやる番だ。

(お前に何が出来る?
 かつて手を血に汚した咎人の分際で、正義の味方気取りか?)
 俺の心の影から聞こえる嘲りの声。
 何とでも言え。
 例え偽善でも、あの子を放ってなんておけるものか。
 これが、俺の生き方だ。

「…俺は、今度こそ間違えない。
 俺は……!」
 拳を固め、唇を強く噛む。

 そうだ。
 俺はもう、間違える訳にはいかない。
 それが、向こうの世界で守り切れなかった、置き去りにしてしまった、
 あの孤児院の人達に対するせめてもの償いだ。
 だからあの子だけは、何としても助けてみせる…!

「悪いな、親父、お袋。
 どうやら、まだそっちには逝けないらしい。」
 夜の闇の中、俺は決意を固めるのであった。



     TO BE CONTINUED…

502ブック:2004/06/01(火) 05:05
     EVER BLUE
     第二十三話・REINCARNATION 〜生まれ還りし者〜 その二


 たった一つの命を捨てて
 生まれ変わった縞々の体。
 金を稼いで孤児院に送る。
 トラギコがやらねば誰がやる。



 次の日、やっぱりちびしぃは独りぼっちのままだった。
 いや、むしろ自分から皆と距離を取っているような気さえする。

「どした?
 一人で遊んでてもつまんねぇだろ?」
 見かねてちびしぃの後ろから声をかける。

 子供ってのは、笑いながら遊ぶのが仕事なんだ。
 こんな寂しそうなのを放っておく訳にはいかない。

「……!」
 しかし、ちびしぃはすぐに俺から逃げ出してしまった。
 …俺、何かまずい事でもしたのかな?

「トラギコ兄ちゃ〜〜〜ん!
 こっち来て遊ぼうよ!!」
 そこに、他の子供達が俺を呼んでくる。

「あ、ああ。
 ちょっと待ってろ!」
 …まあいい。
 焦る事はないんだ。
 ゆっくりと、あの子の心を解きほぐしてやりゃあいい。

 気になる事はあったものの、俺は取り敢えずそれを置いといて
 子供達と一緒に遊ぶ事にした。

503ブック:2004/06/01(火) 05:05





「悪い、ちょっと便所な。」
 鬼ごっこの途中、急に尿意を催した。

「え〜、すぐ戻って来てよ。」
「ああ、分かってるって。」
 口を尖らせる子供達に笑って答える。

(え〜っと、確か便所はこっちだったよな…)
 回りを確認しながら、厠目指して進む。
 矢張り、慣れない場所ではこういう時に困ってしまう。

「……?」
 と、その途中でちびしぃの姿を見かけた。
 何だ?
 あいつこんな人気の無い所で何を…

「お―――」
 俺が声をかけようとした瞬間、ちびしぃは孤児院を囲う柵を超え、
 外へと駆け出して行ってしまう。

(…?あいつ、何処へ?)
 俺は便意も忘れ、ちびしぃの後を追った。
 もしかしたら、あいつが塞ぎ込んだのと何か関係有るのかもしれない。



「……」
 ちびしぃに見つからぬようこっそりと後を尾けていくと、
 いつの間にか近くの街まで辿り着いていた。

「あいつ、こんな所に何しに来てんだ?」
 呟きながら、尾行を続ける。
 ちびしぃは通りにある玩具屋やお菓子屋に寄り道するでもなく、
 一直線にどこかに向かって歩いていた。
 一人で勝手に街に言っちゃ駄目だ、ってあのおばさんに言いつけられてる筈だってのに、
 こいつはどうしてこんな所に…

「……?」
 と、ちびしぃがようやく足を止めた。
 その目の前には、白い壁のやや大きめな建物。
 入り口のあたりには、十字架型のレリーフが飾られている。
 あれは、この世界の教会のようなものだろうか。
 だとすれば、こっちの世界にも宗教はあるって事か。

「……」
 ちびしぃは少し躊躇うような素振りをした後、
 意を決したように教会らしき建物へと入っていった。

「ここが目的地って事か…」
 お祈りでもするつもりなのだろうか?
 でも、だとしたら何で一人でこっそりと。
 おばちゃんや他の子供と一緒に来ればいいだろうに…

「!!!」
 そこへ、強烈な尿意が襲い掛かってきた。
 やばい。
 そういえば、便所に行く途中だった…!

「う〜〜、トイレトイレ。」
 今トイレを求めて全力疾走しているラギは
 いきなり変な世界に飛ばされたごく一般的なスタンド使い。
 強いて違うところをあげるとすれば、寂しいと死んじゃうってとこかナー。
 名前はトラギコ。

「…って、そんな事言ってる場合じゃねぇぞ!」
 もう限界寸前だ。
 糞、仕方が無い。
 今ちびしぃの入っていった教会に、トイレを借りる事にする。
 出来ればちびしぃにはバレたくなかったが、背に腹は変えられない。

「ちょっと邪魔するぜ!」
 勢いよく教会の中へ駆け込む。

「どうされました?」
 驚いた顔で尋ねる聖職者らしき格好をした男。

 ウホッ! いい男…

「…って違う!
 わりぃ、便所貸してくれ!!」
 俺は必死に男に頼んだ。

「あ、向こうのドアを開けて左です。」
 男が指を差して答えた。

「サンキュー!」
 俺はすぐさま男の指差したドアを開け、便所の中へと飛び込んだ。
 急いでチャックを下ろし、逸物を取り出して用を足す。

「はふぅ〜〜〜〜〜…」
 心の底から安堵の溜息を吐く。
 よかった。
 もう少しで生き恥を晒すところだったぜ…


「いや〜、どうも助かりました。」
 便所から出て、照れ隠しの笑みを浮かべながら男に礼を言う。
 さて、ちびしぃと一緒にお祈りでもするとするか。
 向こうの世界じゃ、神にあんま良い思いではないけどな…

「……?」
 そこで、俺は異変に気づいた。
 ちびしぃが、居ない。
 変だな。
 確か、ここに入った筈なのに…

「如何なされました?」
 きょろきょろする俺に、神父が尋ねてきた。

「いや…ここに女の子が来た筈なんだけど、知らないか?」
 周りをもう一度探してみるも、やっぱりちびしぃはどこにも居ない。

「いえ、そのような方はここには来ておりませんが…」
 神父が素っ頓狂な顔で答える。
 馬鹿な。
 それとも本当に俺の見間違いだったのか…?

「…分かった。
 お邪魔しちまったな。」
 俺はそう告げて、教会から一旦出る事にした。

504ブック:2004/06/01(火) 05:06





 夕暮れも近くなった頃、教会の入り口から一人の子供が出てきた。
 辺りを見回し、力ない足取りで外へ出る。
 そのまま、独りぼっちでとぼとぼと帰路を歩んでいた。

「…おい。」
 教会から大分離れた事を見計らい、
 俺はその子供の後ろから声を掛け、肩に手を置いた。

「……!」
 子供がびっくりして振り返る。
 そして俺の顔を見ると、すぐさま逃げ出そうとした。

「待て、ちびしぃ!」
 俺はちびしぃの腕を掴んで、彼女を引き止める。
 教会の前に張り込んでて正解だった。
 やっぱりこの子はあそこに居た。

「一人で街に来ちゃ駄目だ、って言われてたろ?
 何でこんな事したんだ?」
 出来るだけ優しい声で、ちびしぃに尋ねる。
 怒ってはいけない。
 怒ったら、全くの逆効果だ。

「お願いです、皆には言わないで…!」
 俺から逃げられないと察したちびしぃは、泣きながら俺に懇願した。
 その体が小刻みに震えている。

「…?
 どういう事だ?」
 確かに一人で街に来たのはいけない事だが、それでもこの震えようは異常だ。
 あのおばちゃんは、そこまで厳しく怒るのか?

「…何があった。
 俺に、話してみろ。」
 ちびしぃの目を真っ直ぐ覗き込む。
 目を逸らす、ちびしぃ。

「何でもないです。だから…」
 ちびしぃが俺の腕から逃れようとする。

「嘘吐け、何でもないって事はないだろう?」
 俺が逃がすまいと力を加えると…

「嫌ぁ!!!」
 ちびしぃが、悲痛な顔で拒絶の声を上げた。
 おかしい。
 尋常の、恐がり方ではない。

「…大丈夫だ。
 今聞く事は、絶対に誰にも言わない。
 だから、一人で抱え込まないで話してみな。
 何があったのか知らないけど、俺はお前の味方だ。
 大した力にゃなれないけど、二人で一緒に考えようぜ?」
 俺は腕から力を抜き、ちびしぃを見据えて言った。

「…本当に、誰にも言わない?」
 おずおずと聞き返すちびしぃ。
「ああ、約束する。」
 俺は微笑みながら返した。

「…言ってみろ。
 何が、あったんだ?」
 俺はゆっくりとちびしぃに尋ねた。
 ちびしぃはしばし沈黙した後、やがて意を決したように口を開く。
「私―――…」

505ブック:2004/06/01(火) 05:06





「……!!!!!!」
 ちびしぃの話を聞いた俺は、自我を保つのに精一杯だった。
 わなわなと肩を打ち震わせるのが、自分でもよく分かる。

「お願い、皆にはこの事言わないで…!
 私なら、平気だから…!」
 ちびしぃがしゃっくり交じりの声で告げる。

 馬鹿な。
 平気な訳ないだろう…!

「……!」
 歯を喰いしばり、激情に駆られそうになるのを抑える。
 糞が。
 何で、この子がこんな目に…!

「…今迄、誰にもこの事は言わなかったのか?」
 俺は怒りに震える、それでも出来るだけ平静を保った声でちびしぃに聞いた。

「……」
 泣きながらちびしぃが頷く。

「…私達のお家は、教会の人からお金貰ってるんでしょ?
 だから、私がこの事をしゃべったらおばちゃんや皆に迷惑かけちゃう。
 痛いのや気持ち悪いのは嫌だけど、
 皆が困るのはもっと嫌だもん…」
 ……!
 この子は、俺だ。
 あの家の人達を守る為に、その小さい体で必死に闘ってきたのだ。
 本当は泣き叫びたかっただろうに、
 誰かに縋りたかっただろうに、
 それなのに、こいつは逃げなかった。
 独りぼっちで、闘ってきたのだ。

 今、ようやく分かった。
 こいつが他の皆と距離を取っていたのは、皆が嫌いだからじゃない。
 好きだから、
 優しくされると、助けを求めてしまうから、
 だから無理して心を閉ざした。
 それが、どれだけこの子にとって辛かった事か…!

「私は、大丈夫だよ。
 最初は痛かったけど、だんだん楽になってきたもん。
 だから…」
「……!」
 無理して笑おうとするちびしぃを、俺は強く抱きしめた。

「…もういい。
 もういいんだ…!
 もう平気なふりなんかすんな!
 もう一人で頑張るな!
 大丈夫だ!
 俺が助けてやるから!
 絶対に、何とかしてやるから!
 だから、一人で傷を抱え込むのはもうやめろ…!!」
 涙を流しながら、ちびしぃをしっかりと抱きとめる。
 許さない。
 あの教会の奴等、絶対に許さない…!!

「―――ぁ…うああああああああああああああああ!!!!!!」
 ちびしぃが、俺の腕の中で泣き叫ぶ。
 まるで、今迄溜め込んでいた痛みを一気に解き放つかのように。

「あああああああああああああああああああああ!!!!!!」
 ちびしぃの泣き声が、夕暮れの空にいつまでもいつまでも響き渡っていった。

506ブック:2004/06/01(火) 05:06





 日もとっぷりと暮れた夜更け、俺は再び教会の前へと佇んでいた。
「!!!!!」
 教会の扉を勢いよく開け放つ。

「!!あなたは昼間の…」
 便所を借りる時に会った神父が、吃驚した様子で俺を見る。

「……!!」
 俺は構わず、神父の胸倉を掴んで壁に叩きつけた。
 神父の喉元からくぐもった声が漏れる。

「…何を……!
 このような事をされては、必ずや神の罰が…」
 苦しそうに呟く神父。
 神の罰?
 なら、お前らに最初に下されるべきだ。

「!!!」
 片腕で神父を持ち上げ、今度は床に背中をぶち当てる。
「ぐはっ…!」
 神父が苦しそうに声を上げた。

「…司教は、どこだ?」
 神父の襟首を押さえながら、俺は低い声でそう告げるのだった。



 神父に司教の部屋の場所を聞き出した俺は、一直線に司教の部屋へと突き進んだ。

 …見つけた。
 あの部屋か…!

「!!!!!」
 力任せに扉を蹴破る。
 蝶番が外れ、扉が半壊して床に倒れた。

「何だ、騒がしい。」
 薄暗い部屋の中から、落ち着いた男の声が聞こえてくる。
 声のする方向を見ると、髭を生やした壮年の男。
 どうやらこいつが、司教のようだ。
 その傍らには、半裸の少年と少女。
 ついさっきまで、お楽しみだったって訳か。

「貴様、どこの賊だ?」
 男が俺を見る。

「…地獄の鬼さ。
 閻魔様の言いつけで、お前を地獄に送りに来た。」
 ありったけの怒りを込めて、司教を睨みつける。

「地獄…?
 さて、そんな場所に連れていかれる覚えは無いが…」
 この期に及んで白を切る司教。
 こいつ、心底腐ってやがる…!

「よくもそういけしゃあしゃあと抜かせるな!!
 手前のやった事は全部知ってるんだよ!!!」
 腹の底からの声で叫ぶ。
 ここまで怒ったのは、あのでぃに対して以来だった。

「ふん…あの小娘か。
 後で仕置きをしておく必要があるな。」
 ようやく司教も俺が何の為にここに来たのか思い当たったようだ。
 あの小娘とは誰なのかは聞くまでもない。
 ちびしぃの事だ。

「…話は全部聞いてんだ。
 ここの有り金全部あの孤児院に寄付して自首しろ。
 そうすりゃ、命だけは助けてやる。」
 司教ににじり寄りながら、俺はそう告げた。
 半裸の少年と少女は、俺達が睨み合っている間に部屋から逃げ出す。
 それでいい。
 ここからは、子供が見ていい世界じゃない。

「はっ!
 誰が自首すると!?
 それともお前が裁判所に訴えるか!?
 薄汚い孤児院の餓鬼と、何処の誰かも分からないチンピラの言う事など、
 誰が信じるものか!!」
 高らかに笑う司教。
 ここで、こいつの寿命は決定した。

「そうかい…
 なら、ここで死ね。」
 俺は一気に司教へと駆け寄ろうとする。

「間抜けめ、私がただの司教と思ってか!
 見ろ、『聖十字騎士団』の力を…!」
 司教の背後に人型のビジョンが浮かび上がる。
 驚いた。
 こいつも、スタンド使いか。
 だが…

507ブック:2004/06/01(火) 05:07

「『オウガバトル』!!」
 奴の右腕辺りで空間を分断。
 遅い。
 その程度の力で、接近戦で俺の『オウガバトル』に敵うものか。

「ぎゃああああああああああああ!!!!!」
 右腕を斬り落とされ、血飛沫をあげながら司教が絶叫する。
 何だ。
 それしきの事で情けない。
 あの子はもっと痛かった。
 なのに、泣き言一つ言わなかった…!

「ま、待て!
 私を殺していいのか!?
 あの孤児院には、私が特別に金を多く回しているからこそ経営出来ているのだぞ!?
 私があいつらを飼ってやっているんだ!!
 そこの子供の一人や二人に手を出した所で、何が悪―――」
 五月蝿い。
 豚がそれ以上喋るな。
 今度は左足をちょん切ってやる。

「ひぎいいいいいいいいいいい!!!」
 片脚を失い、地べたをのた打ち回る司教。
 これでもまだ手緩いものだ。
 あの子の受けた十分の一の苦しみでも、じっくりと味わうがいい。

「…だったら、これからは俺が稼いでやるよ。
 泥水を啜っても、再びこの手を血で汚しても、
 俺が金を稼いでやる!」
 結局、世の中は金か。
 金が無きゃ、何も出来はしない。
 それは、こっちの世界でも同じだったみたいだ。

「あんな、まだ毛も生え揃ってねぇような小さな餓鬼に、
 重たい荷物背負い込ませやがって…
 笑顔すら、奪い去っていきやがって…!
 手前は、手前だけは、絶対に許さねぇ!!!」
 『オウガバトル』が腕を大きく凪ぐ。
 奴の首の部分で、空間を分断。

「待、やめ―――」
 それが、司教の最後の言葉だった。
 恐怖に歪んだ顔のまま。司教の首が床に転がる。

508ブック:2004/06/01(火) 05:08



「どうやら、また間違っちまったみたいだな…」
 呟き、『オウガバトル』を解除する。
 この呪われし力(スタンド)、
 二度と使うまいと思っていたのに…

「…感傷に浸ってる暇はねぇぞ。
 金目の物見つけたら、さっさとここからトンズラして…」
 そう一人ごちつつ部屋の中に視線を這わせ―――

「!!!!!!!!!」
 不意に、部屋の入り口に人の気配を感じた。
 『オウガバトル』を発動させ、咄嗟に構えを取る。

「誰だ…!」
 俺は入り口の方に向いて叫んだ。
 そこに居たのは、二人組みの男達。
 一人は、ギコ種の目をした変な犬。
 もう一人は、モララー種の目をしたギコだった。
 しかもこいつら、相当強い…!

「無駄な抵抗はやめ、大人しく投降しなさい!」
 モララーの目をしたギコが俺に告げる。
 その横には、白と黒のストライプの入った服に身を包んだ人型のビジョン。
 こいつも、スタンド使いか!

「…君が、そこの司教を殺したのかね?」
 隣の犬男が、落ち着き払った声で俺に尋ねた。

「だったらどうした?」
 鼻で笑いながらその質問に答える。

「何故殺したのです!
 あなたは、命を何だと思っているのですか!」
 モララーの目をしたギコが噛み付いてくるような勢いで俺につっかかる。

「何故殺した?
 お前、こいつが何をしたのか知ってるのか?
 こいつはな、何の罪もねぇ餓鬼を、欲望の捌け口にしてたんだぞ!?」
 思い出すだけでむかっ腹が立ってくる。
 こいつの所為で、あのちびしぃは…

「だからといって、殺して言い訳がないでしょう!
 それとも、あなたは自分が神の代理人だとでもいうのですか!?」
 呆れる位真っ直ぐな視線。
 それが、余計に俺を苛立たせた。

「…一つ教えておいてやるよ、坊主。
 世の中にはな、殺さなきゃどうしようもねぇ野郎が、腐る程存在するんだ。
 そこでくたばってる司教や、俺みたいな連中がな。」
 そう言い放ち、地面に唾を吐く。
「それに、すぐ殺した分だけまだ慈悲深いと思って欲しいぜ。
 この屑に傷つけられた子供は、一生痛みを引きずって生きていかなきゃならねぇのに、
 こいつは一瞬の苦痛で済んだんだからな。」
 このモララー目のギコは何も分かっちゃいない。
 世の中は、奇麗事だけで出来てる訳じゃないんだ。

「あなたは…!」
 俺を睨むモララー目のギコ。
 今にも飛び掛かってきそうな雰囲気だ。

509ブック:2004/06/01(火) 05:08

「よせ、セイギコ。」
 と、横の犬男がモララー目のギコを諌めた。
「ですが、ギコ犬さん…!」
 何か言いた気な目で犬男を見るセイギコと呼ばれた男。

「お前も『切り札』(テトラカード)のJだろう?
 それが、そんなに取り乱してどうする。」
 その言葉に、セイギコとかいう男は押し黙る。
 やれやれ、少しは静かになったか。

「…見苦しい所すまないな。
 そういえば申し遅れた。
 私はギコ犬。
 『聖十字騎士団』、『切り札』(テトラカード)のKだ。」
 丁寧に自己紹介する犬男。
 物腰こそ柔らかいが、この男、恐らく横のセイギコより実力は上…!

「…ふん、そこの下種のお仲間さんか。」
 司教の死体を一瞥し、俺はそう口を開く。

「僕達を愚弄する気か…!」
 と、セイギコが再び牙を剥く。

「よせ。」
 ギコ犬と名乗った男が、セイギコを抑える。
「……!」
 悔しそうにセイギコが俺をねめつけた。

「…私達も児童性的虐待の件で、そこの司教を連行しに来たのだ。
 対処が遅れて、誠に申し訳なかった。」
 ギコ犬と名乗った男が、俺に深々と頭を下げる。

「…謝るなら、俺じゃなくて傷ついた子供達に謝るんだな。」
 俺はそう言うと、外へ出ようと窓を開け放った。

「どこへ行く!?」
 後ろから、セイギコが声をかけてくる。

「外へ、金を稼ぎに行く。」
 俺は振り返らないまま答えた。

「待て!
 人を殺しておいて、逃げれると思っているのか!!」
 空間が圧縮されたかのような緊迫感。
 どうやら、セイギコとそのスタンドが臨戦態勢に入ったらしい。

「…俺はあの子と約束した。
 俺が助けてやる、と。
 絶対に何とかしてやる、と。
 だから、俺はどんな事をしてでも金を手に入れる。
 その邪魔をするってんなら、お前らを殺してでも行かせて貰う…!」
 『オウガバトル』発動。
 鬼の姿をしたビジョンが、俺の横に現れる。

「貴様!!」
 セイギコが吼えた。
 いいのか?
 そこはもう俺の射程距離だ。
 瞬き一つで、その首を斬り落とせるぞ…!?

「待て。」
 俺とセイギコが攻撃を繰り出そうとした瞬間、ギコ犬がその間に割って入った。

「……」
「……!」
 気を外され、俺とセイギコは一旦矛を収める。

「…そこの君、取引をしないか?」
 と、ギコ犬が俺に向き直って告げた。
「取引…?」
 思わず聞き返す。

「そうだ。
 見た所、君は相当凄腕のスタンド使いらしいし、
 根っからの悪人という訳でもなさそうだ。
 今回の件にしても、情状酌量の余地は充分にある。
 いや、寧ろ対処の遅れた我々にこそ非があると言えよう。」
 ギコ犬が一歩俺の前に進み出た。

「そこで、だ。
 君、『聖十字騎士団』に入ってみるつもりはないか?
 もし入隊するならば、この一件は私が上手く揉み消しておくが。」
 つまり、罪は見逃してやるから仲間になれ、か。
 この男、見かけによらず食えない野郎だ。

「ギコ犬さん、何を言ってるんですか!!
 俺は反対です!!
 こんな奴…」
 信じられないといった顔をするセイギコ。

「そう言うな。
 それに、『切り札』(テトラカード)も、
 Jには君が就任したが、Aは未だに空席のままだ。
 『聖十字騎士団』も人材不足で困る。」
 ギコ犬が苦笑する。

「…どうする?
 選択は自由だ。
 但し、断るのであればこちらも全力で君と闘うが。」
 膨れ上がる闘気。
 負ける気はしないが、二人掛かりでは流石にしんどいか。

「…一つ、教えろ。」
 俺はギコ犬を見据えて言った。
「その仕事は、儲かるのか?」

510ブック:2004/06/01(火) 05:09





〜一年後〜

「トラギコ兄ちゃん、おめでと〜〜〜〜〜!!」
 子供達の声と共に、クラッカーが鳴らされる、
 テーブルの上には、慎ましやかだが、この孤児院で精一杯の御馳走が並ぶ。
 俺がここの孤児院に来て早一年。
 今日は、ここの皆がそんな俺の為にパーティーを開いてくれていた。

「……」
 ちびしぃが俺に微笑む。
 たった一年かそこらで、あれだけの傷が癒えたとは思えない。
 それでも、時々は笑顔を見せてくれるようになった。
 ならば、もはや俺に出来るのは見守ってやる事だけだ。

「はい、これプレゼント!」
 男の子が、赤いリボンで包んだ箱を俺に差し出す。
「お、ありがとう。」
 俺はそれを両手で受け取ろうと―――

「……!!」
 一瞬、俺の両手が真っ赤に血で染まったように見える。

 殺した。
 『聖十字騎士団』に入ってから、金の為に殺した殺した殺した。
 何人も殺した殺した殺した殺した殺した殺した。
 しかも、殺したのは人だけじゃない。
 吸血鬼とかいう御伽噺のような化け物も殺した殺した殺した。
 俺はもう人殺しですらない。
 この両手は人外の血で汚れきっているのに。
 俺はここに居る資格なんて無いのに…

「…?
 どうしたの?トラギコ兄ちゃん。」
 子供の声で、はっと我に返る。

「…いや、何でもねぇ。」
 無理矢理笑顔を作り、プレゼントを受け取る。
 プレゼント箱が、とても重く感じられた。


「失礼する。トラギコは在宅か?」
 と、パーティーの最中に礼服の男が孤児院を尋ねてきた。
 …『仕事』か。

「悪いな、ちょっと席を外すぜ。」
 子供達に謝り、礼服の男と共に部屋を出る。
 子供達の前で、『仕事』の話はしたくない。

「…で、何の用だよ。
 見ての通り、取り込み中なんだがな?」
 全く、折角のパーティーを台無しにしやがって。
 いつもより多く、報酬をふんだくってやる。

「聖王様より直々の勅命だ。
 トラギコ、たった今より貴殿に『切り札』(テトラカード)のAとしての任務を下す。
 貴殿の都合は考慮されないと心得よ。」
 礼服の男が無闇に豪華な紙切れを取り出し、俺に突き出す。
 聖王から直接の命令とは、俺も偉くなったものだ。

「まず前金として報酬の一割だ。
 言っとくが、それを貰わない限り梃子でも動かねぇからな。」
 俺が手を差し出すと、礼服の男は憮然とした表情で俺に包みを渡す。
 その中には、札束がぎっしりと詰まっていた。

「…毎度あり。」
 指で札束の枚数を数える。
 一割でこの大金。
 これは、かなりあがりを期待出来そうだ。

「守銭奴め…」
 礼服の男がわざと聞こえるように呟く。
 好きなだけ言ってろ。
 手前には、金の本当の価値など分かるまい。

「…で、『仕事』の中身は何だ?」
 …結局、俺にはこれしか出来ないみたいだ。
 罪を犯し、その代価として金を得る。
 血塗られた業深き生き方。
 汚れきった両手。

 でも、それでいい。
 それであいつらを守れるなら。
 泥を被るのは、俺一人で充分だ…!

(…枕が変わっても、やっぱりするこた同じ、ってか。)
 金を見つめながら、俺は自嘲気味に笑うのであった。



     TO BE CONTINUED…

511:2004/06/01(火) 16:58

「―― モナーの愉快な冒険 ――   吹き荒れる死と十字架の夜・その5」



          @          @          @



「これは…!」
 ギコはブラックホークから身を乗り出して、眼下の光景を見据えた。
 横列に並んだ2艦が、ミサイルの集中砲火を受けている。

「退屈な毎日って言ってたが… モナーの奴、これで退屈なのか?」
 ギコは汗をぬぐって言った。
「…そんなわけなぃょぅ。右側の艦、後部甲板が破損して、長くは持たなぃょぅ」
 ぃょぅが告げる。

「参ったな… これなら、レモナかモララーを連れてくるべきだったぜ…」
 ギコはそう言って、操縦席のぃょぅに視線をやった。
「モナー達の乗ってる艦に着艦できるか!?」

「…昔の血が騒ぐぃょぅ」
 ぃょぅはそう呟くと、急速に機体の高度を下げた。
 ヘリ内が大きく揺れる。
「うおっ!! 大丈夫なのか!?」
 ギコは叫んだ。
「何かに掴まらないと危なぃょぅ!!」
 そう言ったぃょぅの目には、炎が灯っている。
 2人の乗ったヘリは、『ヴァンガード』に向けて急速下降を始めた。

「久々に燃えてきたぃょぅ!!」
「うおぁぁぁぁぁ――ッ!!」
 自由落下と変わらないほどの加速に、ギコは大声で悲鳴を上げた。



          @          @          @



 リナーは、海上自衛隊護衛艦『くらま』の艦内を駆けていた。
 CICさえ制圧してしまえば、この艦は無力になる。

「CICに踏み込ませるな!!」
 正面から、ショットガンを持った艦員達が姿を現した。
「撃てッ!!」
 艦員たちは素早く横列に並ぶと、一斉にショットガンを構える。

「セミオートショットガン…? ベネリM4か。
 いいのか、自衛隊が装備年鑑に載っていない銃器を使っても…?」
 ショットガンの銃声が通路に響く。
 だが狙いをつけられた少女の姿は、すでに正面にない。
 リナーは通路の角に飛び込むと、拳銃を連射して艦員達の足先を撃ち抜いた。

「うわぁッ!!」
 艦員達は次々に足を押さえて倒れていく。
 足の小指の負傷だけで、事実上人間は戦闘不能となるのだ。
 リナーは通路に横たわる無数の身体を飛び越えると、CICへ向かって突き進んだ。
 正面の通路から、さらに艦員達が押し寄せてくる。
 ショットガンによる銃撃を避けながら、リナーは艦員達の足先を撃ち続けた。

512:2004/06/01(火) 16:59

「くそッ! 挟み撃ちかッ!!」
 ショットガンを構えて、正面の艦員が叫ぶ。
 その足先に、リナーは素早く銃弾を撃ち込んだ。
「ぐあッ!!」
 艦員はショットガンを取り落とし、床に転がる。

「挟み撃ち…?」
 確かに、内部の警備は若干薄い。
 艦後部からも誰か入り込んだのだろうか。
 ASAがスタンド使いを派遣して、サポートでもしているのか…?

「いたぞ! 第1通路だッ!!」
 多くの足音が近付いてくる。
 リナーは銃を構えた。
 向かいは曲がり角だ。
 姿が見えた瞬間、銃撃を…

 まるでミシンのような音が、曲がり角の向こうから響いた。
 間違いなく、フルオート射撃での銃声。
 そして、ドサドサと人が倒れる音。

「…?」
 リナーは異常を察知した。
 先程、フルオートで発射された弾丸は7発。決して聞き逃しはしない。
 艦員の倒れる音も、ちょうど7人分。
 フルオートの弾丸を、1人に1発ずつ当てた…?
 それも、艦員に悲鳴すら上げさせることなく。
 戦闘技能に特化した代行者の中でも、そこまでの精密射撃ができるのは自分か師匠くらいだ。

 カツカツという足音が近付いてくる。
 間違いなく、先程の芸当を行った当人。
 足音に水気が混じった。血を踏んだのだろう。
 歩き方、歩幅などで男と分かる。
 こいつは…!!
 リナーは、銃を構えて背後に飛び退いた。

 曲がり角から、その男が姿を現した。
 見間違えるはずはない。
 グレーのSS制服。
 髑髏が刺繍された制帽。
 襟には、42年型SS大将タイプの襟章。
 右袖にアルテケンプファー章。
 左袖にSS本部長級プリオンカフ。
 胸にハーケンクロイツを抱いた鷲のパイロット兼観測員章と、昼間戦闘徽章銀章。
 そして、両手に携えた2挺の拳銃…

「ほう。妙な所で会うな、『異端者』よ」
 男は、リナーの姿を見て言った。
「それはこちらの台詞です、師匠…」
 リナーは、正面に立つ男を見据えた。
 枢機卿…
 『教会』の最高権力者。
 そして、自分に戦闘技術や兵器の扱いを叩き込んだ男。
 その衣服は、なぜか水で濡れている。

「随分とお若くなられて。ですがSS正装で寒中水泳とは… 奇行癖は変わらない御様子ですね」
 リナーは言った。
 その軽口と裏腹に、掌に汗が滲む。

「母艦に戻る途中、ふとこの艦を見つけてな。
 ついでに制圧しておこうと思えば… よもや、君と鉢合わすとはな」
 枢機卿は事もなげに言った。
 その姿を、リナーは真っ直ぐに見据える。
「お教え願いたい。貴方がここにいる真意。私をこの国へ寄越した理由。他の代行者への、私に対する追討命令…」
 両手を下ろす仕草で、スカートの中に収納している2挺のベレッタM93Rに手を添えた。
 枢機卿との距離は、約10m。

 その質問に、軽い笑みを浮かべる枢機卿。
「1つ目の質問の答えは先程言ったはず。2つ目、『monar』への干渉。
 3つ目、君自身が一番よく知っているだろう、『異端者』よ…?」

「そんな表面的な事が聞きたいのではありません。何を企んでいるのか… 
 一体、どんな図を大局的に描いているのか聞いているのです!」
 リナーは、殺気を込めて枢機卿を睨んだ。

「答えると思うかね、この私が…」
 枢機卿はP09の片方を軽く回転させた。
 そして、銃口をリナーの方へ向ける。
「君には、私の持てる技術の全てを仕込んだ。久々に実戦演習といこうか。我が弟子よ」

 リナーは目の前の枢機卿を見据えた。
「貴方に教わった技能で、私は幾度の戦場を生き延びる事ができました。
 …まずは、その事に礼が言いたい」
「誰にでも習得できる戦い方ではない。私と同じ次元にまで到達できたのは、後にも先にも君だけだ。
 まさに、誇るべき私の唯一の弟子だよ。君の余生がもっと長ければ、捨て石のような扱いはしなかった」
 枢機卿は名残惜しげに言う。

 リナーは言葉を続けた。
「先程、貴方に教わった技能で生き延びれたと言いましたが… 正直、私はいつ死んでも構わなかったんです。
 無為な人生、早く終わった方が良かった。ですが…
 生還を望んではいなかったのにもかかわらず、この戦闘技能と吸血鬼の肉体が邪魔をした。
 私は、嫌いだったんです。吸血鬼も、スタンドも、この戦闘技能も、私の生も、全て…」
 そう言って、視線を落とすリナー。
 枢機卿はその物憂げな瞳を見る。
「…そうだろうな。君の吸血鬼に対する憎悪は、自己否定の裏返しだ」

513:2004/06/01(火) 17:01


 リナーは再び枢機卿に視線をやると、柔らかな笑みを浮かべた。
「…ですが、事情が変わったんです。嫌いだったものも、幾つかは好きになれました。
 今まで私を生かしてきた、貴方から教わった技能に感謝しています。
 ならばこの技能… これからも生き延びる事に使わせて頂く!!」
 スカートから2挺のM93Rを抜くと、その銃口を真っ直ぐ枢機卿に向けた。

「…ならば見せてもらおうか。君の、生きようとする力とやらを…!!」
「お相手させて頂きます、師匠…!」
 2人は、同時に前方に向って駆けた。
 走りながら、互いの銃を互いに向かって連射する。
 正確な射撃、そして正確な回避。
 それは、左右が逆にならない鏡に映したように同一だった。

「…腕は衰えておらんな」
「そちらこそ、全盛期の強さを手にしておられるようで…!」
 両腕の銃を連射し、相手の射線を避けながら突進する。
 両者の距離は、2mまで縮まった。
 2人ともそれぞれ右方に飛び退くと、同時に壁を蹴る。
 空中で接近する2人。
 互いの体に銃口を突きつけようとした右腕の手の甲が、空中で激突する。

 そして、同時に発射される銃弾。
 2人とも、同じタイミングで身体を逸らして避けた。
 なおも同時に着地する2人。

「互いに確率・統計的に最適な行動パターンを行使すれば、同じ動きにしかならんか…」
「そのようですね。効果的な占位、効果的な射撃… 全てが同じ」
 着地と同時に、両者は身を翻す。
 リナーは、右腕のM93Rを枢機卿の頭部に突きつけた。
 同時に、枢機卿は右腕のP09を突きつけてくる。

「…!」
 リナーは右手の銃を枢機卿に突きつけたまま、左手の銃を無造作に落とす。
 そのまま、目の前のP09に左手を伸ばした。
 素早くマガジン・キャッチを押し、リアサイト前部を引く。
 そのままスライドを後退させ、スライド・ストップを引き抜く。
 1/10秒にも満たない時間でのフィールド・ストリッピング。
 突きつけられていた枢機卿のP09は、一瞬の間にバラバラになった。
 同様に、枢機卿の頭部に突きつけていたM93Rも分解されている。
 分解の速度も、それに至る思考も全て同じ。

 リナーは残ったグリップを投げ捨てると、懐に手を入れた。
 各指の間に挟んだ4本のバヨネットを、爪のように相手の身体に振るう。
 枢機卿は、全く同様に4本のバヨネットで相殺した。
 両者とも一歩退くと、バヨネットを1本ずつ投げつける。
 上段に2本。下段に2本。
 枢機卿が同じ軌道で投げたバヨネットと空中衝突し、8本全てが床に転がった。

 その投擲は、相手に隙を作る為のフェイント。
 最後のバヨネットが手を離れると同時に、リナーの腕は背に回っていた。
 その手で、素早く日本刀の柄を掴んだ。
 枢機卿の腕も、自らの背後に回っている。

 リナーは日本刀を抜くと、大きく踏み込んだ。
 同時に、枢機卿が大きく踏み込む。
 その手には、カッツバルゲル。
 刺突より斬撃に特化した15〜17世紀の刀剣だ。
 長さ、ウェイトともに日本刀と同等。

 全く同じタイミングで、同じ角度で両者は打ち合った。
 違うのは、立ち位置のみ。
 激しく互いの武器をぶつけ合わせると、両者は飛び退いて大きく距離を開けた。

 同時に刀剣を投げ捨てる2人。
 リナーはP90を、枢機卿はMP40を懐から取り出した。
 そして、同時に互いの短機関銃の銃口を向ける。

「ふむ。さすが我が弟子。全て互角か…」
「そちらこそ。さすが我が師匠…!」
 2人は言葉を交わすと、同時に引き金を引いた。

514:2004/06/01(火) 17:01



          @          @          @



「あれは、一体…?」
 『フィッツジェラルド』の艦橋のてっぺんに立つしぃ助教授。
 その目は、『ヴァンガード』の後部に激突した戦艦を見据えていた。

『ビスマルク級戦艦… なぜ、あんな骨董品が?』
 無線機から丸耳の声が聞こえる。
 彼のいるCICにも画像が届いているようだ。
 しぃ助教授は、その戦艦の武装を注意深く観察した。
「…主砲をよく見てみなさい。あれが、60年も前の艦装ですか?
 砲口制退器や排煙器、水冷式砲身に垂直鎖栓式砲尾…
 発射速度や反応時間は、このイージス艦に搭載されている127mm単装艦載砲と変わらないはず。
 威力だけが38cm砲クラスです。あの連装高角砲も、おそらく30mmクラスのCIWS…!」

『最新装備で身を固めた戦艦… もしかして、『教会』の艦…?』
 丸耳は、信じられないように呟いた。
「…」
 しぃ助教授は答えない。
 おそらく、その可能性が一番高いからだ。
 正面を見据えるしぃ助教授。
 その空は、先程までとは打って変わって静かである。
「ミサイル攻撃が止んだ… 向こうにも、何かあったのか…」

 『フィッツジェラルド』が大きく揺れた。
 艦体に、ミサイルを3発ほど喰らっているのだ。
 『セブンス・ヘブン』で直撃は避けたとはいえ、決して軽いダメージではない。
「丸耳、被害状況は…?」
 しぃ助教授は訊ねる。
『後部甲板への一撃が効いていますが… まだ何とか』
 丸耳は、暗い声で言った。
 この艦も、余り長くは持たないようだ。

「退艦命令は、丸耳の判断で出しなさい。無駄な犠牲は避けるように」
 しぃ助教授は告げる。
『しぃ助教授はどうする気です…? まさか、艦と共に…!』
 丸耳は慌てたように言った。
 ため息をつくしぃ助教授。
「艦と運命を共にする気はありませんよ。ですが、ギリギリまでは…」
 突然、丸耳は声を上げた。
『…ちょっと待って下さい! 南西方向から接近物あり! 速度は… マッハ7だって…?』

「馬鹿な! 極超音速飛行を可能とする航空機は、まだ実用化されていないはず…!」
 しぃ助教授が叫ぶ。
『航空機じゃありません…! 人間大の大きさです!!』
 丸耳は興奮した口調で言った。
『凄まじく速いです! この艦に到達するまで、あと10秒…!!』

「一体、何が…!!」
 しぃ助教授は、南西の方向に視線をやった。
 風を切るような音。
 音速域での轟音が響く。

 『それ』は、凄まじい速度で飛来してきた。
 間違いなく、このまま突っ込んでくる…!!

「『セブンス・ヘブン』!!」
 しぃ助教授はスタンドを発動させた。
 マッハ7で激突されては、艦が危うい。

「逸れろォッ!!」
 しぃ助教授は叫んだ。
 そして、飛翔物の移動方向に修正を加える。
 艦から20mほど離れた位置で、『それ』の動きが止まった。
 まるで、見えない力に抑えつけられるように。
 凄まじい風圧が周囲に吹き荒れ、海は大きく波立った。
 艦がグラグラと揺れる。

「くッ…!!」
 しぃ助教授は唇を噛んだ。
 『セブンス・ヘブン』による指向性の操作でも、その勢いは殺しきれない。
 その余りの圧力に、しぃ助教授の腕が震える。

「ASA三幹部を… 舐めるなァッ!!」
 しぃ助教授は、両腕を思いっきり上げた。
 飛翔物は大きく上に逸れる。
 そのまま、『それ』は天高くすっ飛んでいった。

 しぃ助教授は確認した。
 『それ』は、確かに人型をしていたのを…
 すかさず、『それ』が吹っ飛んでいった方向に視線を向ける。

「…凄いなァ。僕の突進を止めるなんて…」
 ゆっくりと。
 それは降臨する天使のように、天からゆっくりと降りてきた。
 その背には、大きな羽根。
 しかし、しぃ助教授が思わず連想した『天使のように』という表現は誤っている。
 その背中に生えているのは、天使の羽根などではない。

 確かに、月光が透け虹色に輝く羽は美しい。
 だが、それは蝶の凶々しい羽だった。
 羽の男は、艦橋に立つしぃ助教授を見下ろす。
 ニヤニヤとした、下卑た笑みを浮かべて。

「…凄い凄い。良く頑張ったよアハハハハハハハハハハハハ…………………じゃあ死ね」

 その羽から、虹色の光が放たれる。
 鮮やかな光が周囲に照散した。

515:2004/06/01(火) 17:02

 この光は、ヤバイ…!!
 しぃ助教授は、そう直感した。
「『セブンス・ヘブン』!!」
 自身のスタンドで、全ての『力』を押し返すしぃ助教授。
 鮮やかな光は、艦を大きく逸れた。
 そのまま、光は海面に当たる。
 大きな水飛沫が幾重にも上がった。
 凄まじい風圧に、艦が大きく揺れる。

「…何だって? オマエ、一体何なんだ? 何をやったんだ?」
 羽の男から、ヘラヘラした表情が消える。

 …何者かだって?
 それは、こちらの台詞だ。
 今の鮮やかな光は、とてつもなく重い。
 まともに艦に当たれば、それだけで撃沈していただろう。
 こいつのスタンド能力は、一体…

「こんなのがいるなんて、聞いてなかったなァ…
 まあいいや。スタンドの力比べなんて、今までやった事なかったからね」
 男は再び笑みを浮かべる。
「名前を聞かせな、覚えといてやるよ。僕はウララー。こいつは、『ナイアーラトテップ』だ」
 ウララーと名乗った男は、背の羽を示して言った。

 『ナイアーラトテップ』…!
 あの報告書にあったスタンド名だ。
 確か、『教会』が保有しているというスタンド使いの死体…
「吸血鬼化による死者の蘇生、完成していたという訳ですか…」
 しぃ助教授は、ウララーを見据えて呟いた。

「へぇ。なかなか知ってるんだね。でも、蘇生技術は完成なんかしちゃいないさ。欠陥だらけだ。
 まあいいか。僕も名乗ったんだぜ? そっちも名乗りなよ、レディ…」

「全く… 普段は人外みたいに思われて、レディ扱いされたかと思ったら、貴方みたいな化物からとは…
 ホント、嫌になりますね」
 そう言って大きなため息をつくと、しぃ助教授はハンマーをウララーに向けた。
「私はASA三幹部の1人、しぃ助教授。私に挑むなら、死を賭しなさい…!」



          @          @          @



 俺は、よろけながら再び立ち上がった。
 バヨネットは… 離れた位置に転がっている。

「止めておけ。お主の技量では、あと100年続けたところで勝てはせぬ」
 山田は、背を向けたまま言った。

 …その通りだ。
 こいつには、今の俺の技量では決して敵いはしない。
 その凄絶なまでに緻密な斬撃。
 それは、血の滲む鍛錬と度重なる実戦で身につけたものだろう。
 俺の野良な戦闘技術では、どれだけ頑張ったところでこいつに傷一つ付ける事はできない。
 そう。
 今の俺の技量ならば――

 視たものを『破壊』できる以上、その逆も可能。
 『殺人鬼』は、夢の中で俺に告げた。

 『創造』すること。
 視たものを…
 視た技術を、俺の身体に再現すること。

 『アウト・オブ・エデン』――!!
 俺は、眼前の山田の背中を視た。
 こいつの技術を『創造』したところで、オリジナルに勝てるはずがない。
 何より、山田の技量をほとんど視ていない。
 それなら…
 山田の、洗練された武芸に打ち勝つならば…

 ――『アウ■・オブ・エ■ン』起動。
 ――創造、■始。
 ――対象1:『Giko』。
 ――対■2:スタンド『LAYLA』。
 ――構成要素、抽出中………

 脳内にノイズが混ざる。
 俺の脳に、幾多もの記憶が錯綜した。
 思い出せ。
 思い出せ。
 あの型。
 あの技。
 あの構え。
 あの気迫。
 あの殺気。
 あの呼吸。
 あの踏み込み。
 あの剣撃。
 思い出せ。
 思い出せ。

 ――そして、俺の体で。

516:2004/06/01(火) 17:03


「…」
 俺は懐から短剣を取り出すと、正眼に構えた。

「…?」
 山田が、ゆっくりとこちらを振り向く。
「肉体を強化する類のスタンド…? それにしては、闘気の質が先程までとはまるで違う…」

「スタンド能力をいちいち説明する義理があるのか…?」
 山田を真っ直ぐに見据えて、俺は言った。

「…ふむ、それも道理」
 山田は完全に身体をこちらに向けると、両腕で青龍刀を構えた。
「ならばこの山田、全力を持って相手をしよう…」

 俺は驚愕した。
 2度まで俺を倒した刃は、まるで本気ではなかったのだ。
 その構えから漏れる殺気。
 歴戦の戦士のみに許された必殺の気迫。

 俺は、山田の構えを視た。
 それは、まるで強固な陣。
 踏み込めば、倒れるのは俺。
 あれを破る方法は、全く視えない。
 ああなってしまえば、どのような攻撃も通用しないのではないか?

 あらゆる可能性を脳内でシミュレートした。
 上段からの斬りも、中段斬りも、下段も防がれる。
 突きも払いも薙ぎも通用しない。
 短刀を投げて殴りかかっても、甲板の破片を利用して攻撃しても、CICに砲撃するよう依頼しても、
 背後を飛んでいるヘリを落として巻き込んでも、艦ごと沈めても…
 何をしても、この構えは決して破れないのではないか…?

「相手の強さを理解する。それも、強さのうちだ」
 山田は、構えたまま言った。
「もう一度言う。背を向けるなら、斬りはせぬぞ…」

「誰が逃げるかッ…!!」
 俺は、大きく踏み込んだ。
 ギコと『レイラ』の神速の踏み込み。
 それを全身で再現する。

 その勢いを殺さず、山田の頭部に渾身の力を込めた斬り下ろしを放った。
 ――もらった。これならば!

 その攻撃を、容易く青龍刀の柄で弾く山田。
「…その一撃、見事」
 そう言いながら、山田は青龍刀を軽く回転させた。
 ――袈裟切り。
 俺の攻撃を弾いた動きから、一分の無駄もなく。
 その刃は俺の右肩口から入り、股下に抜けた。

「…!!」
 俺の上半身と下半身… いや、右半身と左半身に一筋のラインが走る。
 そこから、俺の体は真っ二つに裂けた。
 痛みはすでに麻痺している。
 『殺人鬼』の話では、痛覚を残してくれたらしいが…
 精神が耐えられる許容を超えたのだろう。
 俺の体は2つに分断され、甲板に転がった。

「…捨て置けるほどの凡夫ではなかったようだな。止めを刺させてもらう」
 山田が、俺の左半身に歩み寄った。
 まずい。
 頭部を完全に潰されれば、吸血鬼の肉体でも…!

 しかし、直後に来るはずの頭部への斬撃はなかった。
 山田は、俺を無視して前方を凝視している。
 何を見ている…?

「また、ひどいやられようだな。ゴルァ…」
 聞き覚えのある声がした。
 ヘリのローター音と、こちらへ歩み寄る足音。
 その腕には日本刀。
 背後には、これも日本刀を携えた着物の女性のヴィジョン。

「遅れて悪いな、着艦に手間取っちまった」
 そう言って、ギコは頭上のヘリを見上げた。
 そのヘリの操縦席から、ぃょぅ族の男が顔を出している。

「山田… そいつの刀は、さっきの俺の3倍は速いぞ…」
 俺は、山田を見上げて言った。
「…なるほど。お主の戦友か」
 山田はギコを見据える。

 ギコは、俺の左半身の脇に屈み込んだ。
「こりゃまた、随分と派手にやられたな。まさか真っ二つたぁ… 大丈夫なのか?」
「頭さえ潰されなかったら、再生はできるモナ…」
 俺は力無く言った。
 山田は、そんな俺達の様子を無言で見ている。
 隙を突いて斬りかかるような男ではないようだ。

「そりゃ便利な体だ。さて…」
 ギコは腰を上げると、山田を見据えた。
「そいつ、とんでもなく強いモナよ…」
 俺はギコに忠告する。

「ああ。そんなのは、物腰一つ見りゃ分かる…」
 そう言って、ギコは日本刀を抜いた。
 『レイラ』も、本体の挙動をなぞるような動きで刀を抜く。
「あいつは多分、俺の相手だ…!」

 ギコと『レイラ』、そして山田が、同時に互いの得物を構えた。



  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

517ブック:2004/06/02(水) 19:35
     EVER BLUE
     第二十四話・BEFORE BATTLE 〜嵐の前の静けさ〜


「船長、お茶です。」
 高島美和が、サカーナに一杯のニラ茶を差し出した。
「お、悪いな。」
 サカーナが右手で受け取り、緑色の液体を啜る。

「どうです?
 雑巾の絞り汁入り特性ニラ茶のお味は。」
 高島美和がそうサカーナに告げる。
「ぶうーーーーー!!!」
 口からニラ茶を噴射するサカーナ。
 霧吹き状に吐き出されたニラ茶に虹がかかった。

「お前な、そういう陰険な事やめろよ!!」
 ぺっぺと唾を吐きながらサカーナが怒る。
「嘘ですよ。
 そんなもの入れるなら、青酸カリでも混ぜています。」
 顔色一つ変えずに高島美和が答えた。

「お前な…そっちの方がもっとやばいだろうが……」
 呆れたようにサカーナが呟く。
 高島美和の場合、これが冗談に聞こえないから恐い。

「…しかし、不気味な位動きがありませんね。」
 高島美和が重苦しく口を開いた。
「…『紅血の悪賊』(クリムゾンシャーク)か?」
 そのサカーナの問いに、高島美和は頷く事で答える。

「どうなんだろうな。
 俺達を見失ってるのか、
 見逃してくれるつもりなのか、
 それとも着々と迎え撃つ準備をしてるのか…」
 サカーナが腕を組んで考え込む。

「恐らく最後のが正解でしょうね。
 一番と二番の答えは、些か楽観的過ぎるでしょう。」
 高島美和が溜息を吐いた。

「全くしょうがねぇなぁ…」
 サカーナがブリッジの船長席の椅子にもたれ掛かり、おおきく伸びをした。
「…大半はあなたの責任ですけどね。」
 高島美和が刺すような視線をサカーナに向る。


「…無事に『ヌールポイント公国』まで着いたら、お前ら船を降りな。
 これ以上、お前らが巻き込まれる必要はねぇさ。」
 珍しく真面目な顔をして、サカーナが高島美和に告げた。

「折角ですが、謹んでお断りさせて頂きます。
 再就職先も決まっていないのに、無職になるのは御免ですし。
 …それに、あなた一人では何も出来ないでしょう?」
 高島美和が微笑を浮かべる。

「お前…」
 感極まってサカーナが言葉を詰まらせる。

「あと、今辞めた所で退職金は受け取れなさそうですしね。
 加えて貰っていない給料だって山程残っているんです。
 船から降ろすつもりなら、まずそれらをきっちりと払って下さい。」
 サカーナを突き放すように高島美和が言った。

「…現金な女だな。
 折角のムードが台無しじゃねぇか。」
 サカーナがうんざりしたように呟く。

「あなたが金銭面においてズボラ過ぎるんです。
 船長ならもう少し自覚を持って下さい。」
 高島美和は子供を叱るかの如くサカーナを叱責するのであった。

518ブック:2004/06/02(水) 19:35



     ・     ・     ・



「百五十一…百五十二…百五十三……」
 口で数を数えながら、三月ウサギが右腕だけで腕立て伏せをしていた。
 彼の体中からは汗が流れ、それが玉となって滴り落ちる。
 しかし、それでもペースが乱れる様子は一向に無かった。

「…百九十七…百九十八…百九十九…二百…!」
 そこで右腕での腕立て伏せをやめ、
 汗を拭って小休止を取った後で、今度は左腕での片腕立て伏せを始める。
 これも、右腕と同じく二百回。
 その後、続けて両腕での腕立て伏せを二百回。
 しかも、その後半の百回は指でのプッシュアップだった。

「百九十九…二百…!」
 この一連の動作を、計二セット三月ウサギは行った。
 それから、今度は腹筋とヒンズースクワット。
 それらが全て終わった後に、丹念にストレッチをして筋肉をじっくりほぐす。

「……」
 ストレッチを終えた後、三月ウサギはマントの中から一振りの剣を取り出した。
 そしてそれを左手だけで握り、上段に大きく振りかぶって勢いよく下ろす。
 この時、剣は下まで振り切るのではなく上段の位置でしっかり止める。
 いわゆる、素振りというものであった。

「一…二…三…四…五…」
 三月ウサギは、この素振りを左腕だけで千本、右腕だけで千本、
 そして両腕を添えたもので千本繰り返す。
 これを、全部で三セット。

 腕立て伏せなどの筋力トレーニングは、
 超回復の為の時間を空けておく必要があるので毎日は行わないが、
 この素振りだけは一日たりとも欠かす事は無かった。

 勿論、只漫然と素振りをするのではない。
 鏡を見ながらフォームを確認しつつ、一本一本全力を込めて振り下ろす。
 振り切った時に手で絞りを入れるのも怠らない。

 実戦ではこのような基本技など何の役にも立たないと、
 知ったような事を抜かす輩もいるが、
 戦闘で使う応用技は基本の上にこそ成り立つのである。
 故に基本をしっかりと身に染み込ませ、
 錆付かせない為にも、反復練習は決して欠かせないものだった。

「五百三十三…五百三十四…五百三十五…」
 取り憑かれたように、三月ウサギは剣を振り続ける。
 もっと強く。
 昨日より強く。
 今日より強く。
 明日はなお強く。
 その飽くなき力への渇望こそが、三月ウサギをこの荒行に駆り立てていた。

 彼は何故、ここまでして力を求めるのか。
 それはオオミミですら知りはしない。
 全ては三月ウサギの心中にこそ秘められていた。
 それが白日の下に晒されるのは、まだ少し先の話である。



     ・     ・     ・



「……!」
 三月ウサギがトレーニングを行っている頃、
 奇しくもタカラギコもまた研鑽を積んでいた。

「…!……!」
 片手に拳銃を持ち、壁に書いた点に照準を合わせて構えを取る。
 そのまま、照準をコンマ一ミリもずらさずにその体勢を堅持。
 既に、タカラギコが銃を構えて一時間が経過しようとしていた。

「!!!!!」
 と、机の上に置いてあった時計のベルが鳴る。
 丁度一時間が来た事を、タカラギコに告げたのだった。

「ふぅ…」
 汗を拭い、息を整えた後で今度はウエイトトレーニングを始める。
 銃の反動を抑え、あらゆる種類の銃を自在に操る為にも、
 膂力を鍛える事は銃使いにとって不可欠である。
 ましてやタカラギコの使うのは、
 『パニッシャー』という規格外の化け物兵器。
 並大抵の筋力では到底御し切れない。

 彼は、強くなる必要があった。
 死ぬ訳には、いかないから。
 死ぬのが、恐いから。
 それが、タカラギコが強くあろうとする理由だった。

519ブック:2004/06/02(水) 19:36



     ・     ・     ・



 僕とオオミミは、甲板の柵に掴まりながら流れる雲を眺めていた。
 夕暮れの太陽が雲を金色に染め上げ、幻想的な景色を創り出す。
 夕暮れの空を見るのは、僕とオオミミの日課みたいなものであった。

「何そんな所で辛気臭くなってんのよ。」
 と、後ろから聞きなれた憎まれ口を叩かれる。
 それが誰かは振り向いて確認するまでもない。

「あ、天。」
 オオミミがゆっくりと後ろに顔を向ける。
 この女、僕とオオミミの折角のアバンチュールを邪魔しやがって。

「この前の島で誘拐されかけたんですってね?
 全く、鈍臭い男ね。」
 天がズカズカと歩み寄り、オオミミの横の柵にもたれ掛かる天。
 この野郎。
 そろそろ一発殴ったろか?

「うん。
 三月ウサギとタカラギコさんが来てくれなかったら危なかったよ。」
 オオミミが笑いながら答える。

(一応、僕も居たんだけどね…)
 僕が小さく苦言を漏らす。
 心外だ。
 僕は戦力として数えて貰えないのか?

「ご、ごめん、『ゼルダ』!」
 オオミミが慌てて謝る。
(いいよ、別に。
 どーせ僕はヤムチャなのさ…)
 ついつい臍を曲げてオオミミを困らせてやる。
 これ位の仕返ししたって、罰は当たらないだろう。

「…あんた達って、本当に仲がいいわねぇ。」
 天が半ば呆れ気味に呟いた。
 当たり前だ。
 この僕とオオミミとの間柄が、君みたいな薄っぺらい藁の家と比べられるものか。

「……」
「……」
 話題が無くなったのか、オオミミと天がお互いに黙りこくる。
 沈黙が、風と共に僕達の間に流れた。

520ブック:2004/06/02(水) 19:36


「…あんたってさ。」
 不意に、天が口を開いた。

「何?」
 オオミミが聞き返す。

「あんたってさ、何でこんな船に乗ってる訳?
 まだ子供のくせに、
 どう見たってこんな物騒な所には向いてないじゃない。」
 天がオオミミに尋ねた。
 子供って、お前もそうじゃないか。
 余計なお世話だ。

「うん…俺も、そう思う。」
 オオミミが苦笑する。
 何言ってんだ。
 『関係ないだろ』、ってガツンと言ってやれ。

「だったら何で今迄ここに居たのよ?
 親御さんだって心配してるんじゃないの?」
 ……!
 僕は絶句した。
 こいつ、オオミミに向かって言ってはいけない事を…!

「…お父さんとお母さんは、もう居ないんだ。」
 オオミミが、顔を曇らせた。

「―――!あ…ごめ……」
 天がようやく、自分がオオミミを傷つけた事に気がついたらしい。
 遅いんだよ、この売女。
 短い間とはいえ、オオミミと一緒に過ごしてきたんだろう?
 それ位、察せ。

「…!大丈夫、気にしないで。」
 オオミミが、硬直する天にフォローを入れた。
 馬鹿。
 何で君はいつもいつもそうやって。
 今君は、怒ったっていいんだぞ!?

「ごめんなさい、アタシ…」
 何と、この女が素直に謝っている。
 明日は雪でも振るんじゃないか?

「いいって。別に気にしてないから。」
 オオミミが微笑む。

 …嘘吐け。
 本当は、嫌な事を思い出して傷ついた筈なのに。

521ブック:2004/06/02(水) 19:37



「オオミミ。」
 と、後ろから低い声が掛けられた。
 この声は、三月ウサギだ。

「どうしたの?三月ウサギ。」
 オオミミが三月ウサギに尋ねる。

「悪いが、少し組み手に付き合ってくれ。」
 …まずい。
 三月ウサギの鍛錬に付き合わされるのか。
 彼は無茶をするので、三月ウサギはいいだろうが付き合わされるこっちは身が持たない。
 それでも、三月ウサギに言わせれば手加減をしているつもりなのだろうが。

「…ニラ茶猫は?」
 オオミミも三月ウサギとの組み手は嫌なのか、ニラ茶猫にその役目を転嫁しようとする。
「あいつは今ベッドの上で交戦中だ。
 下らな過ぎて、邪魔する気にもならん。」
 …あの色情狂め。
 この大変な状況下でもギシギシアンアンかよ。
 お目出てーな。

「…?天、どうして顔赤くしてるの?」
 オオミミが、セクハラと取られても仕方無い質問を天にぶつけた。
 案の定、天に思い切り足を踏みつけられてオオミミが悶絶する。

 …君は馬鹿か。
 今のは、さっき天が君に言ったのと同じ位の失言だぞ。

「そういう訳で、だ。
 すまんが、無理にでも付き合って貰う。
 そろそろ、体が鈍ってきているのでな。」
 三月ウサギがオオミミを見据える。
 やばい。
 彼は、本気だ…!

522ブック:2004/06/02(水) 19:37


「でしたら、私がお相手させて頂けませんか?」
 そこに、呑気な声が飛び込んできた。
 大きな十字架を背負った背広の優男。
 タカラギコ、いい所に来てくれた!

「…お前が?」
 いぶかしむ三月ウサギ。

「ええ。実は私も、そろそろ運動不足かな〜、と思いましてね。
 よろしければ、軽く手合わせして貰えれば助かるのですが。」
 タカラギコが笑いながら答える。
 よし、三月ウサギ。
 折角タカラギコがこう言ってるんだ。
 遠慮なく相手をしてやれ。
 僕達は、審判役をするからさ。

「…俺は貴様を信用していない。
 悪いが、手加減は出来んぞ…」
 三月ウサギが、ぞっとするような視線をタカラギコに向けた。
「いやそんな、どうか一つお手柔らかにお願いしますよ。
 私は弱っちいんですから。」
 にも拘らず、相変わらずの飄々とした笑みを見せるタカラギコ。
 そう、相変わらずの―――

「!!!!!!!!」
 その時、僕とオオミミは尻の穴に氷柱を突っ込まれたような錯覚に襲われた。

 違う。
 これは、違うぞ。
 タカラギコの顔は、いつも通りの笑顔だ。
 だけど、違う。
 何かが決定的に違っている…!

「……」
 三月ウサギもそれを感じ取ったのか、黙ったままタカラギコを睨み続ける。

「ではすみませんがオオミミ君、審判をお願い出来ますか?
 何、硬くならないで下さい。
 唯の稽古ですよ…」
 オオミミに顔を向けずに、タカラギコが告げる。
「……」
 三月ウサギは、何も喋らない。

 全身に鳥肌が立つ。
 天は、二人に気圧されるように後ろに下がり始めた。

(オオミミ…)
 僕は心配そうにオオミミに声をかけた。
 オオミミも緊張しているのか、返事は返ってこない。

 先程タカラギコが言ったのは大嘘だ。
 これは、けっして唯の稽古なんかじゃない。

 だけど、僕もオオミミも天も、二人を止めに入る事は出来なかった。
 それはある意味当然の事だろう。
 二匹の猛獣が入っている檻の中に、おいそれと入れる奴はいない。

「……」
「……」
 三月ウサギとタカラギコが、お互いに向き合ったまま立ち尽くす。
 二人は完全に臨戦態勢に入っており、
 そこから流れる気迫が空気を張り詰めさせる。

「は、始め!!」
 耐え切れなくなったオオミミが、悲鳴を上げるように開始の合図をした。



     TO BE CONTINUED…

523ブック:2004/06/03(木) 17:06
     EVER BLUE
     第二十五話・GUN&BLADE HIGH−TENSION 〜試し合い〜 その一


「は、始め!!」
 オオミミが開始の合図をしたが、三月ウサギとタカラギコは構えを取らなかった。
 それどころか得物すら取り出さずに、
 それぞれお互いに向かってゆっくりと歩いていく。

「そういえば…
 ルールはどうしますか?」
 歩きながらタカラギコが三月ウサギに聞いた。
 そしてパニッシャーを横に投げ捨てる。
 近接戦闘では、あの大きな得物は不利と考えたからだろう。
「お前は、戦場で今と同じ質問を敵にするつもりか?」
 質問を質問で返す三月ウサギ。

「成る程、道理ですね。」
 三月ウサギとタカラギコの距離がどんどんち縮んでいく。
 制空圏と制空圏が触れ合い、双方が必殺の間合いに入る。
 しかし、それでもなお二人は構えなかった。

「……」
「……」
 二人がすれ違い、背中を向き合せて一メートル程間合いをとった所で立ち止まる。
 まだ、二人共構えない。

「来いよ。」
 三月ウサギが尋ねる。
「そちらからどうぞ。」
 タカラギコが答える。

「来いよ。」
 三月ウサギがもう一度尋ねる。
「そちらからどうぞ。」
 タカラギコがもう一度答える。

「来いよ。」
 三月ウサギが尋ねる。
「そちらからどうぞ。」
 タカラギコが答える。

 ―――沈黙。
 時が止まったように空間が凍りつき…

524ブック:2004/06/03(木) 17:07



 !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 爆。

 三月ウサギとタカラギコが、一瞬の狂いも無く全くの同時に、
 振り向きざまに斬撃を繰り出した。
 三月ウサギの剣とタカラギコの大刃のナイフが打ち合わされ、赤色の火花を散らす。

「!!!」
 既に二人の両手には、それぞれ刃物が握られている。
 一体、彼らはいつ剣を抜いたのだ?
 近距離パワー型の僕ですら、抜刀の瞬間が全く見えなかった…!

「はぁっ!!」
 三月ウサギが右手の剣で、左からの袈裟斬り。
「!!!」
 それを右手のナイフで受けるタカラギコ。

「!!!!!!!!」
 休む間も無く、三月ウサギから次々と斬撃が飛んでくる。
 しかし、その全てをタカラギコは受け切っていた。

 右から、左から、上から、下から、正面から―――
 あらゆる方向からの白刃の閃き。
 それを弾き、流し、受けるもう一つの銀の光。
 もう解説など全く追いつかない。
 どちらかが何か行動を起こした時点で、既に次の攻撃が始まっている。
 そしてそのスピードが尋常の速さではない。

「!!!!!!!!」
 タカラギコの左手のナイフが弾き飛ばされた。
 矢張り、剣術では三月ウサギの方に一日の長があるみたいだ。

「死ィ―――」
 三月ウサギが両腕を交差させるようにタカラギコに斬りかかる。
 あれでは、一本しか得物を持たないタカラギコでは
 必ずどちらかの斬撃を喰らってしまう!

「!!!!!!!!」
 しかしタカラギコは受けなかった。
 身を屈め、ギリギリの所で必殺の刃をかわす。

「貰いましたよ!!」
 そのまま、タカラギコは右手のナイフを三月ウサギの胴目掛けて突き出した。
 だが…

「!?」
 タカラギコのナイフを握る腕が、三月ウサギのマントの中へと吸い込まれた。
 そう、あれこそが三月ウサギの『ストライダー』の恐ろしさ。
 あらゆる物理攻撃の一切合切を、全くの無効とする。

「ふっ!」
 三月ウサギが、無防備となったタカラギコの体に剣を振り下ろす。
 ここで、勝負有りか―――

「!!!!!!」
 しかし、タカラギコが自ら三月ウサギのマントの中に飛び込む事で、
 その一撃を回避した。

「ちィッ!!」
 三月ウサギが、剣をマントの中に突き入れようとする。
 だが、その直前にタカラギコはマントの中から転がり出た。

「ちょこまかと…!」
 三月ウサギがタカラギコに追撃を仕掛けようとする。

「!!!!!」
 しかし、その三月ウサギの試みはタカラギコの投擲した剣によって阻まれた。
 三月ウサギが投げつけられた剣を左手に持つ剣で弾く。

 あれは、三月ウサギの剣。
 さっきマントの中に入った時に、手に入れておいたのか。

 …化け物共め。
 斬り合いを開始してからまだものの数十秒しか経っていないが、
 もし僕があの場にいたら軽く二桁は死んでいる。
 近距離パワー型スタンド並の、いや、もしかしたらそれ以上の戦闘術。
 どれ程の修練を積めば、あそこまでの領域に到達出来るというのだ?

525ブック:2004/06/03(木) 17:07


「いやはや、見事な剣捌きです。
 私も白兵武器によるCQCを少々嗜んではいるのですが、
 どうやらあなたの方が一枚も二枚も上手なようだ。
 加えてその不可思議なスタンド能力。
 どうやらこのまま剣術で張り合うのは、得策ではないようですね。」
 距離を離した所で、苦笑しながらタカラギコが口を開く。

「……」
 三月ウサギが、そんなタカラギコの言葉には耳も貸さずに斬りかかろうとする。
 もう、これは稽古ではない。
 スタンド使い同士による殺し合いだ…!

「!!!!!」
 タカラギコが、左からの剣撃を右手のナイフで受ける。
 しかし三月ウサギは構わず逆の腕での連撃を…

「!!!!!!!」
 しかし、三月ウサギの剣がタカラギコに到達するより早く、
 まるで手品のような神業めいた速さで、タカラギコは懐から銃を取り出した。

「…ですので、私も得手(オハコ)を使わせて頂きます。」
 マントに守られていない三月ウサギの頭部目掛けて、
 躊躇する事なく引き金を引く。

「くっ!!」
 頭を横に傾け、紙一重で銃弾をかわす三月ウサギ。
 それと同時に、剣を横に凪いでタカラギコに反撃する。

「!!!!!」
 銃声。
 それと同時に三月ウサギの剣がタカラギコに喰らいつく前に軌道を変えた。
 有りえない。
 まさか、剣を狙い撃つ事で三月ウサギの攻撃を防いだ!?

「JACKPOT!」
 そこに生まれた僅かな隙を逃さず、
 タカラギコが三月ウサギ向けて拳銃を乱射する。

「『ストライダー』!」
 だがその銃弾は全て、三月ウサギのマントの中へと飲み込まれる。

「……!」
 タカラギコの拳銃がホールドアウトする。
 どうやら、弾切れのようだ。

「はあっ!!」
 勿論それを見逃す程、三月ウサギは甘くない。
 リロードを行ったり、新しい得物を取り出したりする前に、
 勝負を決めるべくタカラギコに踊りかかる。

526ブック:2004/06/03(木) 17:08

「!!!!!」
 と、三月ウサギがいきなり横に跳んだ。
 直後、タカラギコの眼前から眩い光の線が打ち出され、
 さっきまで三月ウサギの居た場所を恐ろしい速さで過ぎ去っていく。

「……!!」
 直撃こそしなかったものの、三月ウサギのマントには一センチ大の穴が開けられていた。
 馬鹿な。
 あの『ストライダー』に対抗出来るような武器が、タカラギコに?

「…どうやら、火や光等の純エネルギー体までは取り込めないみたいですねぇ。」
 拳銃のマガジンを交換しながら、タカラギコが呟くように言った。
 その回りには、幾つかの銀色の飛行物体が飛び交っている。
 あれは、確かタカラギコのスタンド。
 さっきの光の線は、あれによるものか!?

「…だからどうした。
 言っておくが、『ストライダー』を無効化する攻撃がある位では俺には勝てんぞ。」
 三月ウサギが無表情のまま答える。

「でしょうね…
 正直、今の一撃であなたを倒せなくて結構焦っています。」
 タカラギコが本気とも嘘とも取れない声で言った。
 その顔にはあの人の良さそうな笑みが浮かんだままだ。

「さて、それではそろそろ再開するとしますか。」
 タカラギコが右手のナイフをしまい、代わりにもう一つ拳銃を取り出した。
 どうやら、ここからは二丁拳銃で闘うらしい。

「ふん。」
 対する三月ウサギのマントの中からも、
 大量の剣が現れては甲板に突き刺さっていく。

「…行きますよ。」
 タカラギコが両手の拳銃をクルクルと回転させ、
 三月ウサギに照準を合わせて構えた。

「……」
 三月ウサギも剣を手の中で回し、
 右手を剣を順手に、左手の剣を逆手に持って構えを取る。

「……」
「……」
 二人が、無言のまま向かい合った。
 息が詰まるような静寂。
 その中で、二人の男の姿が夕日に美しく彩られるのだった。



     TO BE CONTINUED…

527ブック:2004/06/05(土) 02:10
     EVER BLUE
     第二十六話・GUN&BLADE HIGH−TENSION 〜試し合い〜 その二


 三月ウサギとタカラギコが、得物を握ったまま向かい合っている。
 ふたりは、まるで彫刻のように微動だにしない。

「……!」
 最初に均衡を破ったのは三月ウサギだった。
 両手に持っていた剣をタカラギコに投げつけ、
 さらに地面に突き刺さっている剣を取っては次々と投擲する。

「勘弁して下さいよ…」
 タカラギコが、それらを全て銃で撃ち落としていく。
 なんという精密射撃。

 しかし銃で剣を打ち落とすという事は、
 それだけ三月ウサギへの攻撃が手薄になるという事でもあった。
 三月ウサギがその合間を縫ってタカラギコとの距離を詰める。

「喰らえ…!」
 充分に接近した所で、三月ウサギが剣を振るった。
「くッ!」
 タカラギコが、その剣を右手の銃で受ける。
「!!!」
 三月ウサギが、もう片方の剣でタカラギコに斬り掛かる。
 タカラギコは、それも別の手の拳銃の銃身で防御した。
 響き渡る金属音。

「!!!!!」
 銃声。
 タカラギコが拳銃を発砲した。
 だが、攻撃の為に発砲したのではない。
 発砲の反動を利用して、受け止めている三月ウサギの剣を弾き返したのだ。

「ちッ!」
 三月ウサギがやや体勢を崩した。
 タカラギコはその隙にバックステップ。
 三月ウサギとの距離を取って、剣の間合いから離脱する。
「逃がすか…!」
 すぐさま三月ウサギはタカラギコとの間合いを詰めた。
 そのままタカラギコの胴体を左から切り払い―――

「!?」
 しかし、三月ウサギの剣はタカラギコの体をすり抜けて、
 次の瞬間タカラギコの体が消失した。
 これはッ!?
 いや、似たようなものを僕は一度見た事がある。
 確か、tanasinn島で『紅血の悪賊』に襲われた時に…

「!!!!!」
 刹那、三月ウサギの背後にタカラギコが出現した。
 三月ウサギに向かって銃の照準を合わせている。
「くっ…!」
 三月ウサギが振り向きながらタカラギコに剣を投げつける。
 だが、またもやタカラギコの体を剣がすり抜ける。
 これも虚像(フェイク)…!

「……!」
 三月ウサギがタカラギコを探して周囲を見回す。
 しかし、タカラギコの姿はどこにも見えない。
 音で探ろうにも周りには物音一つ立たず、
 気配でさぐろうにも嘘みたいに気配が掻き消えている。
 完璧な隠身術。
 本当にタカラギコはここにいるのかという錯覚すら覚えてしまう。

「!!!!!」
 三月ウサギの死角からあの光の線が発射される。
 まずい。
 このままだと、三月ウサギは―――

528ブック:2004/06/05(土) 02:11

「!!!」
 と、直撃の寸前で三月ウサギの体がその場から消え去った。
 いや、消え去ったと言うのは正しくない。
 語弊を恐れず言うが、三月ウサギの体が甲板の床へと『落ちた』のだ。

「!?」
 よく見ると、三月ウサギの消えた場所の床に
 黒い水溜りのような染みが生まれている。
 あの中に、三月ウサギは落ちたのか?
 !!
 まさか、あれが『ストライダー』!?

「!!!!!!!」
 次の瞬間、光線が放たれた場所目掛けて黒い水溜りから大量の剣が飛び出した。
 金属と金属の衝突音と共に、何も無い筈の空間で剣が弾かれる。
 そこから、徐々にタカラギコの姿が浮き出てきた。

「…褒めてやる。
 俺にここまで『ストライダー』を使わせた奴は、そう多くない…」
 黒い染みから、三月ウサギがゆっくりと這い出した。

「あなたこそ流石です。
 私の同僚にも凄腕の剣客の女性が居たのですが、
 あなたならば充分互角に張り合えますよ…」
 タカラギコが笑いながら言う。
 あの三月ウサギと互角に張り合える女!?
 一体それはどんな怪物なんだ。

「ほう。
 そんな女が居るのなら、是非とも会ってみたいものだな。」
 剣を構えながら三月ウサギが口を開く。

「…残念ですが、それは無理な相談ですね。」
 タカラギコが、不意に寂し気な表情を見せた。
 と、瞬く間にタカラギコの姿が再び消えていく。

「同じ手が何度も通用すると思うな…!」
 タカラギコが消えていくのを見て、
 三月ウサギがマントの中から大量の取り出して空に撒いた。
 一体、彼は何を…

「…オオミミ、そこの女、死にたくなければ動くなよ?」
 三月ウサギが僕達に目を向けずに告げる。
 一体、彼は何をするつもりなんだ?

「!!!!!」
 その時、僕はようやく三月ウサギの狙いに気がついた。
 空に撒かれた剣が、重力に導かれて上空より飛来する。
 それはまさしく、剣の雨であった。

「うわああああああああ!!!」
「きゃああああああああ!!!」
 オオミミと天が叫び声を上げる。
 しかし、剣の雨は二人の居る場所だけには降らなかった。
 何という技。
 いや、これはもはや技(スキル)なんてレベルじゃない。
 業(アート)そのものの領域だ…!

「くっ…!」
 舌打ちと共に、何も無い空間で剣の雨が弾かれる。
 タカラギコは、あそこか!

529ブック:2004/06/05(土) 02:11

「……!」
 三月ウサギがその場所に向かって高速で突進する。
「……!」
 タカラギコも最早姿を消しても遅いと考えたのか、
 姿を現して三月ウサギを迎え討つ。

「はあッ!!」
 三月ウサギが剣で斬り掛かる。
「ふっ!!」
 タカラギコが拳銃を抜く。
 お互いの距離が一瞬にして縮まり―――

「!!!!!!!」
 全くの同時に、三月ウサギとタカラギコが必殺の型に入った。
 三月ウサギは右手の剣をタカラギコの首筋に当て、
 タカラギコも拳銃を三月ウサギの眉間へと突きつけている。
 まさか、これ程までに伯仲した勝負だったとは…!

「……」
「……」
 三月ウサギとタカラギコは、得物を突きつけあったまま動かない。
 なのに、次の瞬間にもどちらかが死ぬかもしれないという圧迫感。
 見ているこちらが、先にどうにかなってしまいそうだ。

「……ふ。」
 と、タカラギコが微笑みながら銃を床に落とした。
「…ふん。」
 三月ウサギも、それに毒気を抜かれたのか剣を納める。
 どうやら、組み手はここで終わりのようだ。

「いやぁ、いい汗を掻かせて貰いました。
 またお手合わせ願いたいものですね。」
 タカラギコがにこやかに手を差し出した。
「……」
 しかし、三月ウサギはそれを知らん振りして後ろに振り返り、
 さっさとそこから去って行ってしまう。

「…嫌われちゃってますねぇ。」
 タカラギコが苦笑する。

「そうでもないと思いますよ?
 ああ見えて、三月ウサギは結構優し―――」
「オオミミ!
 適当な事を喋るな!!」
 オオミミの言葉を三月ウサギが遮る。
 あんな遠くからオオミミの声が聞こえるとは。
 長い耳は伊達ではないという事か。

「怒られちゃったね。」
 オオミミが舌を出しながら僕に囁く。
(君は余計な事言い過ぎだよ。)
 僕はそう相槌を打つのだった。

530ブック:2004/06/05(土) 02:12



     ・     ・     ・



「た、大変です歯車王様!
 奇形の奴が、勝手に出て行きました!!」
 軍服に身を包んだ兵士が、慌てた様子で歯車王の下へと駆けつけた。

「何ィ!?」
 信じられないといった風に答える歯車王。

「警備の者を強引に振り切り、
 一体の『カドモン』と数人の乗組員を脅して引き連れ、
 小型快速戦闘船『黒飛魚』を強奪した模様です!
 現在追跡隊を編成しておりますが、
 果たしてあの『黒飛魚』に追いつけるか…」
 軍人が顔を曇らせて告げる。

「貴様、何故おめおめとそのような事を!」
 電子音の入った怒声が、軍人に叩きつけられる。
 軍人が、その声を受けて身を萎縮させた。

「申し訳御座いません!
 ですが、あの奇形もスタンド使い。
 私達ではとても―――」
 軍人がそう弁解しようとする。

「言い訳は聞いておらぬ!
 首を落とされぬうちにさっさと奴を引っ立てて来い!!」
 歯車王が激昂する。
「は、はいっ!!」
 軍人は、逃げるように部屋を飛び出していった。



     ・     ・     ・



「速い!速い速い速い!
 流石は『黒飛魚』、金がかかっているだけはあるねぇ。」
 奇形モララーが、椅子にふんぞり返りながら満足そうに言った。

「き、奇形モララー様、本当にこのような事をなさって大丈夫なのでしょうか…」
 操舵士が不安そうに奇形モララーに尋ねる。

「あア?
 誰がお前に意見を許可した?」
 奇形モララーがその男を睨む。

「も、申し訳ございません!!」
 慌てて操舵士が謝る。
 その顔には冷や汗がびっしりと流れ出ていた。

「…う〜……うう…」
 と、奇形モララーの横に居る拘束具で包まれた人型の『何か』が、
 呻くような声を上げた。

「…はン。
 同族の気配を感じ取ってるようだなァ。
 しっかり仕事してくれよ…」
 奇形モララーが足で『何か』を小突く。
 『何か』がさらにくぐもった声を出して身悶えた。

「さて…
 大人しく待ってろよ、『成功体』ちゃんよォ…」
 奇形モララーが凄絶な笑みを浮かべる。
 その異様な雰囲気が乗組員の恐怖をさらに煽っていた。

「速いぜ速いぜ、速くて死ぬぜぇ…!」
 奇形モララーが舌なめずりをしながら呟いた。



     TO BE CONTINUED…

531ブック:2004/06/06(日) 00:37
 次の回からいよいよ血みどろの展開になる予定ですが、
 ちょっとその前に閑話休題。
 息抜きのつもりでどうぞ。
 あと勿論、このストーリーは本編とは一切関係がありません。



     番外・ときめきEVER BLUE 〜伝説の樹の下で〜
        出会い編


 やあ皆、僕の名前は『ゼルダ』。
 自他共に認めるオタクゲーマーさ。
 今日は新しい美少女ゲームソフトを買ってきたんだ。
 面白いゲームだといいなぁ…

(さて、と。)
 さっそく封を破り、ソフトを取り出す。
 僕が買ったのはあの有名なゲームメーカであるコ@ミのソフト。
 そう、もう言わなくても分かるよね。
 あの超有名な美少女ゲームソフトといえば…

(『ときめきEVER BLUE』…?)
 僕はパッケージに書かれてあるゲーム名を呼んで首を傾げた。
 ち、違う。
 似ているけど何か違うぞ!?

(ま、まあいいや。
 とにかく始めてみよう。)
 気を取り直し、ゲームをスタートする。
 あのお馴染みの曲が流れ…
 ではなく、黒の背景に何やら美少女キャラが太極拳みたいな踊りをし始めた。
 ちょっと待て。
 これってセンチメンタ(ryじゃねぇかよ!
 別の会社のゲームのパクリじゃねぇかよ!!

 そして画面に表示されるゲームタイトル。
 しかし、やはり何度見ても『ときめきEVER BLUE』。
 もういい。
 肝心なのは中身だ。
 オープニングにはこの際目を瞑ろう。

(まずは主人公の名前の入力か…)
 自分の分身である主人公の名前。
 これは結構重要な選択だ。
 さんざん悩んだ末、『オオミミ』と入力する。
 そして、いよいよゲームスタート。

「ふあああああああ…」
 主人公のオオミミの欠伸の声。
 どうやら、まずは主人公の自宅からストーリーが展開するらしい。
「さあ、今日は高校の入学式だ。
 新しい生活が始まるけど、楽しい毎日だといいなあ。」
 妙に説明臭い台詞。
 まあ、ゲームだから仕方無いか。

532ブック:2004/06/06(日) 00:37

「ちょっと、一人で何ぶつぶつ言ってるのよ。」
 画面が切り替わり、全裸の少女がベッドに横たわる絵が表示される。

 待てよ!!
 何でいきなり彼女がいるんだ!!
 しかももう既成事実作っちゃってんのかよ!!
 つーかこれエロゲーの展開じゃねぇか!!
 なのに何でパッケージに全年齢対象のラベルが貼ってあるんだよ!!

:名前『天』。
 主人公の幼馴染で、わがままな女の子。
 主人公と親密な関係になりたいと思っているものの、素直になれないでいる。

 身長162cm 体重48kg
 B82 W59 H83

 属性・幼馴染 お転婆 同級生:

 何だよこのキャラクター紹介は!
 親密な関係になりたいが素直になれないとかいってるのに、
 しっかりともうやってんじゃねぇかよ!
 しかも『属性』って何なんだよ!

「あ〜眠。
 アタシ今日学校休むわ。」
 入学式早々サボりかい。
 なんてただれた生活してるんだ。

「それじゃ、行ってきまーす。」
 両親に挨拶をしてオオミミが学校に行く。
 というか両親、高校生になったばかりの息子が家に女連れ込んでるのに、
 お咎めの一つも無しか。

「遅刻遅刻〜。」
 パンを口に咥えながら走るという、
 現実世界でこんな事やったらイタい奴確定の姿で登校するオオミミ。

「きゃあああああ!!」
 角を曲がった所で、女の子と激突する。
 ここまでくると、マンネリを通り越して予定調和の世界だ。

「痛たたたた…」
 頭を押さえてしゃがみこむ女の子。
 もちろん、サービスカットのパンチラは忘れない。
 純白の白いパンツ。
 だが、そんな事よりその後ろに担いだどでかい十字架は何だ?

1・「ご、ごめん。大丈夫!?」
2・「悪いけど急いでるんだ。じゃっ。」
3・「あア!?人にぶつかっといて詫びの一つも無しか!?
  しゃぶらすぞこのアマ!」

 突如出現する選択肢。
 これぞ美少女ゲーならではだ。
 しかし、三番目の選択肢は存在する事自体間違っているような…
 まあいいや。
 取り合えず1、と。

「ご、ごめん。大丈夫!?」
 僕が選んだ選択肢の通りにオオミミが発言する。
「え、ええ、何とか。
 こちらこそごめんなさい。」
 照れて顔を赤くする十字架女。

「ああ!もうこんな時間!!
 急がないと!!」
 十字架女はそのまま走り去ってしまった。
 あんな大きな物担いで、よく走れるものだ。

「おっと、こっちも急がないと!」
 躁鬱病患者のように、一々独り言を言ってからオオミミが行動する。

533ブック:2004/06/06(日) 00:38



 キ〜ンコ〜ンカ〜ンコ〜〜ン

 舞台が学校の正門前に移る。
「良かった、どうやら間に合ったみたいだ…」
 オオミミが画面の中でほっと息を吐いた。

「待ちな!
 そこの新入生!」
 と、そこに声が掛かる。
 現れたのは、長スカートを穿いた絶滅危惧種のヤンキー女。
「この学校で生活しようってのに、アタイに一つ挨拶も無しかい?」
 いきなり無茶な事を言い始めるヤンキー女。
 こいつ、学校でなく精神病院行った方がいいんじゃないか?

:名前『三月ウサ美』
 私立きらめき学園を仕切る女番長。
 スカートの内側に大量の剃刀を隠している事から、
 剃刀三月と呼ばれている。

 身長174cm 体重57kg
 B90 W62 H89

 属性・年上 上級生 不良 グラマー:

 キャラクター紹介が出たという事は、攻略対象キャラという事だろう。
 しかし、こんな変人攻略する奴いるのか?

「こら!お前達何をしている!!」
 そこへ、先生が駆けつけて来た。
「ちッ、先公が来やがった!
 今回だけは見逃してやるよ!」
 そのまま退場する三月ウサ美。

「君もすぐに入学式に行きなさい!」
 そのまま入学式へと画面が移行したのだが、
 特に何も無かったのでこの部分ははしょる。
 そして入学式を済ませたオオミミは、割り振られたクラスへと入っていった。

「よお、そこのお前。」
 いきなり、後ろの席の奴が馴れ馴れしく話しかけてきた。
「俺はニラ茶猫っていうんだ。
 よろしくな。」
 ああ、こいつはあれか。
 女の子の高感度とか、丸秘情報とかを教えてくれる便利キャラか。

「所でお前、この学校に伝わる伝説って知ってるかフォルァ?」
 突如として何の脈絡も無い話題を持ちかけるニラ茶猫。
 どうやらこのゲームのキャラは、精神破綻者の集まりらしい。

「何だい、それ?」
 オオミミが尋ね返す。

「良くぞ聞いてくれました!
 いいか、この学校にはな、『伝説の樹』っていうものがあるんだ。
 何で伝説なのかっていうと、
 卒業式の日に、そこで女が男に告白をしてだな…」
 ああ、そこで生まれたカップルは一生幸せになるとかいうのか。
 ようやくまともな恋愛ゲームっぽくなってきた。

「そこで振られた女が、計五人もその樹で首を吊ってるんだ。
 そして毎晩そこではその少女達の泣き声が…」
 全然ハッピーエンドじゃねぇじゃねぇかよ!
 そんな所で告白受けるのがこのゲームの目的かよ!
 つーかそれ、伝説じゃなくて七不思議の類じゃねぇかよ!
 切り倒せよそんな不吉な樹!!

「そうなんだ。知らなかったよ。」
 礼を言うオオミミ。
 何でそんな大きなニュースになってそうな事知らないんだよ!

「よーしお前ら、俺がこの教室の担任だ。
 早速だが転校生を紹介する。」
 何で入学式の日に転校生が来るんだよ!
 普通に新入生でいいじゃねぇか!

「それじゃ入って来い。」
 先生に促され、一人の女の子が教室に入ってくる。
 その背中には大きい十字架を背負っており…

「ああ〜〜〜!!」
 オオミミと少女が同時に声を上げた。
 登校中にぶつかった女の子だ。
 これまたなんつうベタベタな…

「?どうしたお前ら、知り合いか?」
 お約束の質問をする担任。

「いえ、別に…」
 バツの悪い顔で答える女の子。

「よし、それじゃあ自己紹介してみろ。」
 担任の先生がそう女の子に告げた。

「は、はい。
 名前はタカラギ子と言います。
 皆さん、どうかよろしくお願いします。」
 ペコリと頭を下げるタカラギ子。

:名前『タカラギ子』。
 大きな十字架を背負った転校生。
 不意に見せる寂し気な表情。
 何やら人に言えない秘密があるようだが…

 身長166cm 体重46kg
 B80 W56 H81

 属性・転校生 同級生 家庭的 暗い過去:

「よし、それじゃあお前の席はオオミミの隣だ。」
 担任が僕のオオミミの横の席を指差した。

「それじゃ、よろしくお願いしますね!」
 着席しながら、にっこりと微笑むタカラギ子。

 …こうしてこの糞ゲー、『ときめきEVER BLUE』は
 静かに幕を開けるのだった―――



     TO BE CONTINUED…

534丸耳達のビート:2004/06/06(日) 10:57
「じゃあ、戦闘系スタンドの招集よろしく頼んだデチ…」
 ぱさり、とクリップで留められた書類がデスクの上に放られた。

 診療所で久々にしっぽりまったりと愛を交わし合った後のこと。
徹夜で<インコグニート>の能力を書類にまとめ上げたせいで、二人の顔には深いクマが刻まれていた。

(無理は厳禁デチねぇ。眠いデチ…)
(ぎゃあ激しく同意を)
 『スタンド』の声でそんなしょうもない会話をかわすが、テーブルを挟んで座っているSPM構成員の顔に笑みはない。
ふと原因に思い当たり、笑みを浮かべてぱたぱたと手をふった。

「そんなに心配しなくても大丈夫デチよ。読んだりしないから」
「…左様ですか。承知いたしました」
 全然緊張を解かず、構成員が頭を下げた。

(…全ッ然、承知してないデチねぇ)
(ぎゃあ無理もないことかと)
 確かに、彼等がここまで恐れられること自体はそう珍しいことでもない。
赤の他人に心の奥底までを覗かれるなど、あまりされたくはないだろう。
「ぎゃあふさたん達はもう帰るので、後をよろしくお願いします」
「はい」

 用件は済んだし、これ以上いても大して意味はない。踵を返して、さっさとドアに向かった。

「…デチ?」
 ぐらり、と急にフサの身体が傾ぐ。
そのまま『チーフ』が振り向く間もなく、リノリウムの床に倒れ込んだ。

  ごどっ。

「フサ!?」
 人が倒れるような音ではない。
長い体毛はぴくぴくと痙攣を繰り返し、口の端からは涎が滴る。

  ひゅ、ひゅうーっ、ひっ、ぜぇーっ…!

「ぎ…あ…っ!クス…リィ…!」
「フサッ!…そこの君!水持ってきて!」
 呆気にとられる構成員に『力』を乗せて叫び、大慌てで内ポケットに手を突っ込んだ。
パッキングされた黒い錠剤をもどかしそうに取り出し、自分の口に含んで噛み砕く。

535丸耳達のビート:2004/06/06(日) 10:58

「水ですっ!」
 ひったくるようにコップを受け取り、口に含んで痙攣を繰り返すフサに流し込んでやった。
咳き込みながらも口移しで薬と水を飲み下し、ようやくフサの震えが収まったのは数分が経過した後。


「…大丈夫?」
「はい。…心配、かけましたね」
 真面目な口調で、フサが頷く。
何が起こったのか理解しかねている構成員に、『チーフ』が向き直った。

「そこの君…今起こった事は、誰にも言わないようにして貰えるデチか?」
「な…今のは、何なのですか!?」
 直後、構成員は自分の愚かさを後悔した。
外見だけなら自分の息子と大して変わらない『チーフ』からの殺気が、爆発的に膨れ上がったのだ。
「質問を質問で返すな。学校じゃ疑問形に疑問形で返せって教わったのか?
 これは頼みじゃない。命令だ。もしうっかり口を滑らせたりしてみろ…!
 クソの世話すらできない廃人に変えてやる」

「―――――ッ !! !!」                              ・ ・ ・ ・ ・
 心の底から、恐怖がわき出てきた。コイツは、いざとなれば躊躇なくそれをやる。
スタンド使いではない彼にもわかる。今自分が対峙しているモノは、もはや人間ではない。
 反射的に腰のホルスターに手を伸ばしかけ―――

「…ぎゃぁ…」

 ―――フサの呻きで、二人が我に返った。
「…イヤ、悪かったデチね。ゴメンゴメン。ともかく、誰にも言っちゃダメデチよ?…じゃ、また」
 そう言うと、まだぐったりをしているフサを担いでドアを出て行った。

 SPMの廊下で『チーフ』の背中におぶわれたまま、フサが小さく声を漏らした。
「…貴方まで…私に付き合う必要は無かったのですよ?
 いつ私のようになるやも解らないし…普通に歳を取れないのは、とても辛い事」
「馬鹿。死ぬときも生きるときも一緒だよ」
「………‥‥ぎゃあ」

536丸耳達のビート:2004/06/06(日) 10:59





 ほぼ同時刻、S市繁華街。
オヤジ狩りやクスリの密売に人気がありそうな路地裏で、一人のッパ族が絡まれていた。
ツバ カシジロウ
津葉 樫二郎…表の顔はケチな飲んだくれ、裏の顔もやっぱりケチなスリ師。仲間内ではッパと呼ばれている。

「おうコラァそこのふぐり野郎ァ」
「テメェ棚真会の金スろうたぁ…いい度胸やのぉ」

 ラメ入りスーツにオールバック。
 パンチパーマにサングラス。

(…つーても、スリが見つかったのはあっしのドジだから文句は言えないさねぇ)

「この落とし前、つけて貰わんとあかんなぁ」
 関西弁のパンチパーマが距離を詰める。
小柄なッパに比べれば、頭一つ分の差があった。

「ウダラ何ニヤついてンだッメェ!」
 がしりと財布を持っていた巻き舌のオールバックが、手首を掴む。
スられた右手の財布を奪い取ろうとして―――動きを止めた。

「あ…兄貴…コイツ…」
 財布に回されている指には、親指がある。人さし指がある。中指がある。薬指が小指がある。
そして、更にもう一本指があった。 ・ ・ ・ ・ ・
 小指の外側、更にもう一本細い六本目の指が付いていた。
「…片輪モンか。ちょうどエエな。…その手、押さえとけや」
 ばちん、と折りたたみ式のナイフを開く。

「極道も結構ユルくなったんやけどな。流石に金ギられて黙っとる程甘くないんや」

 壁に押さえつけられた六本指の手に、ゆっくりとナイフを近づける。
「ま、六本もあるんしの。コレに懲りて、カタギにでもなったらエエわ」
     ヤク
「どうせ麻薬で儲けた金でしょうが。それならあっしが貰っても問題はないでしょ」
「ンだとァテメェァ!」
 いきり立つオールバックを片手で制し、パンチパーマが静かに言った。
「ま、そうやろな。気持ちは判るわ。薄汚い金や。…けど、ワシらの金じゃ。棚真会のな。
 盗ろうとしたら、それなりのケジメってモンつけへんとなぁ」

 六本目の指にナイフが当てられる。刃が押され、皮膚が破れる寸前―――

「げぼっ!?」

 ―――突然、パンチパーマが吹き飛んだ。

537丸耳達のビート:2004/06/06(日) 11:00

 解放された右腕で、ポケットのチョコを取り出す。
口に放り込んで、倒れ込むパンチパーマを見下ろした。
「…薄汚い金、ね。そこまで判ってんのに、なんでそれを続けちまうのかねぇ。
 将来有望な少年少女にクスリ売って、それでも止めない…クズな人だ。
 …ま、スリのあっしも人の事ぁ言えないけど、ね」
「て…ッてめ…」
 ひくひくと二,三回パンチパーマが痙攣し、ぐたりと意識を失った。
顔面は蒼白、白目を剥いている。
「ンッ…の野郎ォ!」

 オールバックがッパの片手を押さえたまま、六連発のリボルバーを抜いた。
慣れた手つきでハンマーを上げ、ッパの側頭部に押しつけ、トリガーを引く。
弾丸の尻にある雷管が叩かれ、パン、と小気味良い音が鳴り―――ッパはその場に平然と立っていた。

 一瞬の自失。勘違いかと思い、もう一度引き金を引いた。
パン、と小気味よい音。ッパは平然と立っている。
 僅かに顔をしかめているが、これはただ単にうるさいだけ。血の一滴も流れてはいない。

  ―――いやまて、変だろ。

 通常、銃声という物はもっと大きい筈だ。
サイレンサーも付けてないのに『パン』なんて爆竹と変わらないようなショボい音がするはずはない。

「探し物は…コレですかい?」
 と、ッパが手を開く。
ころん、と弾丸が。ぱらぱら、と火薬が。
ッパの右手から零れてきた。

 驚愕に目を見開く暇もなく、巻き舌オールバックの意識はそこで途切れた。



「…ふぅーい」
 表通りに出て、溜息を一つ。

  カマカマカマ ハ・カ・マ〜♪

 ―――と、持っていた携帯から着歌が流れ出した。

「はいー、津葉ですー」
『ッパさん?私です』
「ああ、どーも」
 私です、で誰だか察したのか、当然のように挨拶を返す。
『ッパさん日本に住んでるんですよね。ちょっと依頼あるんですけど、いいですか?』
「『ディス』御大の命令でしょ?何でも言って下せぇ」
 少女の声に喜びが含まれる。
『ありがとうございます。……一人、捕まえて欲しい人がいるんです』

 親指が、人さし指が、中指が薬指が小指が、六本目の鬼指が、さわり、と蠢いた。


  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

538丸耳達のビート:2004/06/06(日) 11:01
          ___
         /    \
        |/\__\
       ○   (*★∀T)  更ニ簡略化ッ!
          と(⌒Y⌒)つ  コレデ次回から小ネタ活躍ガ…ッ!
             \ /
              V

           上半身のみのナヨいピエロ…
       実際のサイズはこのくらいなんだけどなぁ。
                ∨
               ∩_∩    ∩ ∩ 
              (´∀`;) 旦 (ー` )<何か貧相じゃの。
              / ============= ヽ
             (丶 ※※※※※※ゞノ,)
               ~~~~~~~~~~~~~~~~~


          ___
         /    \ 貧相ッ!?
        |/\__\
       ○ と(|i★дT)Σ
          と(⌒Y⌒)
             \ /
              V

         ああ、言っちゃいけないことを…
       っていうか何でおじいちゃん見えてるの?
                ∨
               ∩_∩    ∩ ∩ 
              (;´∀`) 旦 (ー` )<小ネタ時だけの心眼じゃ。
              / ============= ヽ
             (丶 ※※※※※※ゞノ,)
               ~~~~~~~~~~~~~~~~~

539ブック:2004/06/07(月) 00:25
     番外・ときめきEVER BLUE 〜伝説の樹の下で〜
        告白編


 入学式も終わり、家に帰って来る主人公のオオミミ。
 そこに、選択肢が現れてくる。

『これから何をしようか?』
 1・体力を上げる
 2・知力を上げる。
 3・容姿を上げる。

 おお?
 何かここら辺はまともっぽいじゃないか。
 そうだな…
 体力も知力も大切だけど、やっぱり女の子にモテる為には容姿だよね。
 3を選択、と。

『どうやって容姿を上昇させようか?』
 1・プチ整形で瞼を二重に。
 2・どうせならプチといわずに顔全部を…
 3・いっその事、マイケ@・ジャク@ンみたいに黒人から白人に!

 何で選択肢が整形ばっかりなんだよ!!
 いや、そりゃあそれ位しないと目だった効果は無いだろうけど、
 幾ら何でも生々し過ぎだろ!!
 もういい、だったら1の『体力を上げる』だ!

『どうやって体力を上昇させようか?』
 1・アンドリオル
 2・アナボル
 3・HCG

 全部ステロイドじゃねぇか!!
 お前ジャックハンマーにでもなる気か!?

(……)
 嫌な予感がするが、ならば2の知力はどうだ?

『どうやって知力を上昇させようか?』
 1・カンニングペーパー作成。
 2・替え玉にテストを受けさせる。
 3・教師の弱みを握って脅迫。

 知恵は知恵でも悪知恵なんかい!!
 つーか、普通に努力するような選択肢無いのか!?

 もうパラメーターを上昇させるのは諦めて、寝る事にする。
 ベッドにはまだ天が居たが、邪魔なので窓から放り捨てておいた。
 全く、先が思いやられるぜ…

540ブック:2004/06/07(月) 00:26

「ラギ!」
 と、いきなりベッドの中から変な女が飛び出してきた。
 何だよこいつ。
 というか、主人公は一体何人の女をベッドで飼っているのだ?

「お兄ちゃん酷いラギ〜!」
 お兄ちゃんなどと抜かす奇怪な生物。
 どう考えてもおかしいだろ?
 朝起きたとき、妹のいの字も出て来なかったじゃないか。

:名前『トラギ子』
 主人公の一つ下の妹。
 お金が大好きで寂しいと死んでしまう。

 身長156cm 体重41kg
 B78 W55 H77

 属性・妹 年下 守銭奴 寂しがりや:

 何なんだよこのキャラ紹介は…

「ラギは寂しいと死んじゃうラギよ!?
 さ、お兄ちゃん。
 今こそここで恥ずかし合体を…」
 いきなり服を脱ぎ始めるトラギ子。
 だから、何で全年齢対象ソフトでベッドシーンがあるんだ。

『どうしようか・・・』
 1・釘バットで殴り殺す。
 2・日本刀で刺し殺す。
 3・サブマシンガンで撃ち殺す。

 どうやら、どうあってもトラギ子を殺すしかないらしい。
 一々殺した時の感触が手に残るのもいやなので、3番を選択する事にする。

「おじさん、いかっちゃうぞ?」
 訳の分からない台詞と共に、オオミミのサブマシンガンが火を吹いた。
「ラギニャーーーーーーーーーーン!!!」
 蜂の巣になりながら、トラギ子が断末魔の悲鳴を上げた。

「さあ、明日に備えてゆっくりと休もう!」
 肉親を惨殺したばかりだというのに、さわやかな顔で眠りにつく主人公。
 どうだっていい。
 この程度の理不尽さなど、もう慣れた。

541ブック:2004/06/07(月) 00:26



 目覚ましの音と共に、シーンが次の日へと移る。
「さあ、今日も元気に学校へ行こう!」
 足元に転がるトラギ子の死体を無視して、オオミミが気合を入れる。
 そして、そのまま舞台は学校へと移行した。

「では、今回の授業はこれまで。」
 一時間目の授業が終わり、休み時間が始まる。

「あ、あの、オオミミ君…」
 そこに、一人の女の子が話しかけてきた。
 見ると、その頭には猫耳がついている。

:名前『みぃ』
 オオミミの同級生。
 最早説明の必要の無い猫娘。
 猫耳はいいものです。
 とてもとてもいいものなのです。
 はにゃーん。

 身長143cm 体重32kg
 B71 W49 H70

 属性・同級生 人外 猫耳 ちっこい つるぺた 従順 内気:

 キャラクター紹介が出たという事は、この子も攻略対象キャラか。
 しかし、この作者はよっぽど猫耳が好きなんだな。
 色々言いたい事はあるけど、取り敢えず死ねばいいと思うよ?

「どうしたの?」
 オオミミが聞き返す。
「あ、あの、相談に乗って欲しいんだけど、いいですか…?」
 おずおずとみぃが尋ねてくる。

『どうしよう?』
 1・いいよ、話してみて。
 2・後でゆっくり聞くから、今はパス。
 3・俺はお前の相談役じゃねぇんだ。
   チラシの裏にでも書いてろ、な?

 そうだな…
 ここで優しさをアピールしておけば、他の女の子の好感度も上がるかもしれない。
 ここは1、と。

「いいよ、話してみて?」
 主人公であるオオミミが、選択肢の通りに聞く。

「あ、あの…
 恋人の子供が出来たみたいなんだけど、どうすればいいのか、って…」
 何でそんなハードな相談、ただの同級生に持ちかけてんだよ!
 俺は金八先生かっつーの!!
 つーか、それってもうこいつには彼氏が居るって事じゃねぇか!!
 全然攻略対象キャラじゃないだろうが!!

『どう答えようか?』
 1・ちゃんと彼氏と相談するべきだよ。
 2・ああ、あいつなら産んでもいい、って言ってたよ?
 3・堕 ろ せ。

 これ以上面倒事に巻き込まれてたまるか。
 1を選択してとっとと女を追い払う。

542ブック:2004/06/07(月) 00:27


「よお、オオミミ。」
 と、今度は別の奴が話しかけてきた。
 どうやらニラ茶猫のようだ。

「いやー、さっき彼女から妊娠しちゃった、って言われてびっくらこいたぜ。」
 あれはお前の子かよ!
 避妊位しろこの猿が!
 というかびっくりしただけかい!
 もっと二人で話し合う事あるだろうが!!

「お前がジャンヌを傷つけた、って噂が流れてるぜ?」
 もうさっきの話題終了かよ!?
 つーかジャンヌって誰だよ!!
 何で会ってもいないような奴を、傷つけられるんだよ!!

「そうなんだ、ありがとう。」
 平然と答える主人公。
 いや、少しは疑問に思え。

 もういい。
 これ以上会話するだけ時間の無駄だ。
 さっさと自分の席に戻る。

「……?」
 と、オオミミが机の中に何かを見つけた。
 これは、手紙?
 何が書かれて…

『伝説の樹の下で待っています。』
 何でもう告白の手紙貰ってんだよ!!
 ゲーム開始から一日しか経ってないだろうが!!
 普通こういうのはデートとか積み重ねてから貰うもんだろ!?

「よし、宇宙へ行こう。伝説の樹の下に行こう!」
 どう考えてもいたずらとしか思えない手紙を鵜呑みにして、
 伝説の樹の下へと急ぐオオミミ。

 あはははは。
 こんな時にギャグを言うなよ、あははは。

「……!」
 樹へと駆けつけると、そこには一つの人影があった。
 あれが、手紙の差出人か。
 一体、誰が…

「私、あなたの事が…」
 突然の告白。
 その相手は―――

「ずっと好きだったぞ、フォルァ!!」
 ってお前か、ニラ茶猫!!!!!

「さあ、誓いのキスを…」
 唇を近づけてくるニラ茶猫。
 やめろ。
 来るな。
 やめろ。
 やめろおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!

543ブック:2004/06/07(月) 00:27





(うわああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!)
 僕は叫びながら目を覚ました。

「!?
 どうしたの、『ゼルダ』!?」
 オオミミが布団から跳ね起き、慌てて尋ねる。
 周りにみえるのは、お馴染みの『フリーバード』の船室。
 …今のは、夢だったのか?

(いや、何でもない。
 嫌な夢を見ちゃってね…)
 苦笑しながらオオミミに答える。
 そうだよ、あんな事が現実にある訳…

「それってもしかしてこんな夢か、フォルァ。」
 突然の声。
 見ると、ベッドの中には全裸のニラ茶猫が横たわっていた。

(うわああああああああああああああああああああああ!!!!!!)
 僕は、あらん限りの声で絶叫するのだった。



     NIGHTMARE NEVER END…





       __,,,,..-_─_一_-、、,,,,__
    ,r'´-_-_‐‐_‐-_-、`-、 ヾ`ヽ、   
   /,r',.-_‐_‐‐-_-、ヾ ヽ `ヾ 、ヽ
  /(.'´_-_‐_‐___-、ヾ ヽヾ)) )) ), )))ヘ
 l(i,i'´⌒ヾト、ヾ ヾヾ))_,ィ,'」 川 jノjノ}
 !iゝ⌒))}!ヾヽ),'イ」〃'″  フ;;;;;;;;;;;;;l  
 ヾ、ニ,,.ノノ〃ィ"::::::::::::::   /;;;;;;;;;;;;;;!  
/⌒ヽ  / ''''''     '''''' |;;;;;;;;;;;;;;;|  
|  /   | (●),   、(●)\;;;;;;;;|  好き勝手やり過ぎました。
| |   |    ,,ノ(、_, )ヽ、,,     | ごめんなさい。
| |   |    `-=ニ=- '      |  次回からは、ちゃんと本編に戻ります。
| |   !     `ニニ´      .! 
| /    \ _______ /  
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