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スタンド小説スレッド3ページ

469:2004/05/28(金) 22:12



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 枢機卿は、Bf109のコックピットで闇夜を眺めていた。
 高速で流れていく周囲の風景。
 こんな風に、戦闘機を操縦したのは何十年振りだろうか。

 真っ暗にもかかわらず、視界は完全に良好。
「まあ、闇目の利かない吸血鬼など存在しないからな…」
 枢機卿は笑みを浮かべて呟いた。
 随伴機も、特に問題はない。
 自機が、かなり先行している点を除いて…

「さて…」
 ディスプレイに光点が表示された。
 前方から接近物多数。
「目標確認。随分と団体で来たものだな…」

 F−15J。
 20世紀における最強の戦闘機、F−15・イーグルの航空自衛隊改修機。
 その編隊が迎撃に駆けつけてきたのだ。
 うち、敵機2機が先行。こちらに直進してくる。
 この距離でミサイル攻撃を行ってこない理由はただ1つ。

「あくまで最初は威嚇射撃という訳か…」
 枢機卿は呟いた。
 自機の速度を落とさず、そのまま直進する。
 先行している2機も、真っ直ぐに近付いてきた。

 案の定、F−15Jに備え付けられたバルカン砲が虚空に向かって火を吹く。
 敵機に当たる可能性がある攻撃は、威嚇とは見なされない。
 よって、威嚇射撃は見当違いの方角へ放つ。
 それが、この国のルールのようだ。
「筋は通す…か。その心根、悪くはない…」
 枢機卿は冷たい笑みを浮かべた。

 機内に備え付けられた国際無線が、お決まりの音声を放つ。
『警告する。貴機は、現在領空を侵犯している。至急…』
 英語で告げているのは、先程威嚇射撃を行ったパイロットだろう。
「これだけの編隊を前に警告か。律儀な事だ…」
 枢機卿はため息をついた。
「その愚かなまでの規則遵守… 我らゲルマンと通ずるものがあるな」

 敵編隊の先頭機2機との距離は、どんどん縮まっていく。
 枢機卿は無線機を手に取ると、そのスィッチを押して告げた。
「勇敢なる兵士よ、1つ問おう。命の意味とは何だ?」

『命の意味…? …繰り返す、貴機は、現在領空を侵犯している』
 向こうのパイロットは少し動揺した後、先程の台詞を繰り返した。
 枢機卿は無視して続ける。
「かけがえのない命… 本当にそうか? 例えば、ここから遠い地… アフリカにいる1人の人間。
 消えて無くなったところで、世の中は変わるか?」

『警告に従わなければ、撃墜する。繰り返す…』
 枢機卿の言葉に全く取り合わないように、パイロットは告げた。

「答えは…『何も変わらない』。その人間と関わりのあった者が悲しむのみだ。
 そう。命の価値とは、他者との関連による言わば付加価値なのだよ」
 枢機卿は、まるで日曜日の教会の神父のように話し続ける。

『貴機は、現在領空を侵犯している…』
「そもそも、かけがえのない命とは大いに語弊がある。
 命など、日々失われているではないか。これは、財の損失か?
 軍用機のコックピットに座る君になら分かるだろう。
 そんな筈はない、『かけがえのない命』などは虚構であると…
 人の命を奪う為の機械を操縦している君には分かるはずだ。この愚かなる欺瞞がな…!」
 枢機卿は、目の前の2機をしっかりと見据えた。
 この速度だと… あと20秒後にすれ違う計算になる。

『警告に従わなければ、撃墜…』
 壊れたレコードのように、無線から伝わってくる声。

「――なぜ、そんな兵器などが作られた?
 君が必死ですがっている、領空侵犯とやらのやり取りは何の為にある?
 『かけがえのない命』ではなかったのか? これを偽善といわずして何という?
 問おう。問おう。問おう。問おう。問おう。問おう。君に問おう」
 枢機卿は、両袖から愛銃のP09を取り出した。
 P08のフルオートカスタムが両手に1挺ずつ。
 そのグリップを強く握る。

『黙れ! そんなのは関係ない! これが手続きだからだ!!
 世の中はそういう風に出来てるんだよ!!』
 とうとう我慢できなくなったのか、パイロットは怒声を上げた。
 枢機卿は、満足そうに笑みを浮かべる。


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