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【添削】小説練習スレッド【キボンヌ】
1
:
名無しさん
:2004/11/25(木) 19:54
「自分も小説を書いてみたいけど、文章力や世界観を壊したらどうしよう・・・。」
「自分では面白いつもりだけど、うpにイマイチ自信がないから、
読み手さんや他の書き手さんに指摘や添削してもらいたいな。」
「新設定を考えたけど矛盾があったらどうしよう・・・」
など、うpに自身のない方、文章や設定を批評して頂きたい方が
練習する為のスレッドです。
・コテンパンに批評されても泣かない
・なるべく作者さんの世界観を大事に批評しましょう。
過度の批判(例えば文章を書くこと自体など)は避けましょう。
・設定等の相談は「能力を考えようスレ」「進行会議」で。
127
:
名無しさん
:2005/08/30(火) 13:59:23
乙です!面白かったです。
意思を持った理由は1番でも2番でも面白そうですね。それぞれ動かしがいがあって。
自分パペマペの能力投下した者なんで、お話読めて嬉しいです。
128
:
名無しさん
:2005/09/02(金) 00:22:36
>>127
レス有難うございます。他の人の感想が聞けて嬉しいです。
パペマペの能力面白そうだったので①の方にしようと思います。
②だと能力変えなきゃいけないのでそれは勿体無いですから。
少し手を加えて、あと能力者の能力と人間も考えて…話がまとまったらまた来ます。
129
:
名無しさん
:2005/09/09(金) 11:31:48
ピースの話を書いてみました。
一応今の時点では矛盾しないように書いたのですが、
やはり今ピースが出ている小説が終わるのを待った方がいいですか?
130
:
名無しさん
:2005/09/09(金) 15:57:12
>>129
ここは添削だけなので投下だけならいくらでもどうぞ。
期待して待ってます。
131
:
129
:2005/09/09(金) 21:40:34
ありがとうございます。
お言葉に甘えて投下させてもらいます。
それはある日のこと。ピースの2人がまだコンビを組んで間もない頃の話である。
劇場で行われる笑いの戦いを征し、見事今日をもって500円芸人の肩書きを手に入れた
2人は楽屋にいた。周りの後輩芸人には「おめでとうございます」と祝ってもらい、先輩
芸人には「今日はおごってやる」と声をかけてもらった。
「やったなぁ!マタキチ!」
綾部もちろん上機嫌だ。いつものうんさくさい笑顔を全快にしている。
「やったな。」
又吉は言葉少なく返した。
「なんだよマタキチ。やっと勝ったのに。どっか具合でも悪いのか?」
綾部は相方のいつにも増した無口さに心配して顔をのぞきこんだ。
フイとバツの悪そうな顔をして又吉はそっぽを向いた。その顔を見て綾部に嫌な予感が走った。
「もしかしてお前昨日また石を・・・!」
そう綾部が声を荒げた瞬間だった。楽屋にいる芸人達が一斉にこちらを見た。
そして空気はピンと張り詰めた。若干睨んでいる人間もいるような気がする。
「いっ石を・・・持って帰ったのか〜?しかもそのへんに転がってるなんの変哲もない石を!
マタキチはホントに変なもの集めるなぁ!」
綾部は苦し紛れにうわずった声で意味のわからない言い訳をした。周りの芸人がそれで治
まるとは思えない。しかし芸人達はまた自分達の話に戻った。
張り詰めた空気は作られたなごやかさに変わった。
「アホか。こんなところで、石について大声出すなや。」
「ごめん。で・・・また昨日、石を使って戦闘したんじゃないのか?」
又吉はまた目線を逸らした。
「えぇやんけ別に。俺は白や。黒が襲って来てもしゃーない。
それに白として戦わなあかんやろ。」
「あのなぁ・・・!」綾部はまた声を荒げそうになったが、
我に返り一息ついて小さな声で言った。
「俺は石持ってねぇから白とか黒とかよくわかんねぇけどさ・・・お前が怪我したりすん
のは嫌なんだよ。」
お前を助けることも出来ないんだ。続けて小さくつぶやいた。
又吉はうつむいたまま黙った。
綾部は石を持っていなかった。又吉と同じだけ芸人として活動してきたが、自分に石は
やって来なかった。それは運のいいことだと思っていた。しかし相方や仲間の芸人達が戦
い傷つくのを指をくわえて見ていなければならなかった。
戦いに巻き込まれたくない。
でも大切な人達を守りたい。
132
:
129
:2005/09/09(金) 21:50:23
そのとき楽屋のドアがノックされた。そして入って来たのは又吉の元相方、原だった。
その楽屋にいた芸人達は驚いて原に駆け寄った。
原はある程度芸人達と挨拶を交わしたあと、2人の方へやって来た。
「おめでとう。」
「見に来てたんか。」
又吉はしかめっ面で原を見た。原はにこやかに又吉を見下ろしている。
「今日は綾部に用があって来たんや。」
「えっ、俺?」
思わぬ言葉に綾部は驚いた。
「あ、でも今日は先輩におごってもらったりするんやろ?なら終わった後お前の家の近く
に公園があったよな?そこに来てくれへん?」
「・・・おっおう。」綾部は原の言葉に疑問を感じつつも、その誘いに応じた。
話があるなら携帯で電話したっていいし、メールだってできる。同期なのだから
特に隔たりもない。
又吉も原がなにを考えているのかを不審に思っているようだ。眉間にしわが寄っている。
その場はそのまま別れた。
先輩と飲みに行っている間もあれやこれやと呼び出された理由を考えたが思い当たる節がない。
約束どうり、綾部は原に指定された公園に行った。その公園は広いくせに外灯が少なく
真っ暗に静まっていた。まだ原は来ていないようだ。
綾部はまだ呼び出された理由を考えながら原を待っていた。すると黒い人影が現れ、
こっちに近づいてきた。誰だろう?原だろうか。暗くて見えない。と目を凝していると、
急に横からも人影サッと自分の目の前に現れた。
又吉だ。又吉は綾部に背を向けて少し遠くに見える影を睨みながら
石の力を開放した。
「おっおいっ!何してんだよ!」
綾部が驚いて聞いたが又吉はすでに黒い人影に向かって物語を語り始めていた。
公園は少ない外灯に照らされ真っ暗だ。人影などどこにもない。
又吉は公園には誰もいないという物語を語った。あの人影に捕まってはいけない。絶対に。
又吉はこの物語を続けながら綾部の方を振り返った。しかしその場所に綾部はいない。
まさかと前を見直すと黒い人影が消えている。
しまった・・・!
そう思った瞬間又吉の腹に鈍い衝撃が走った。その衝撃で又吉は自分の作った物語から
抜け出し、そのまま倒れこんだ。
「又吉!!」
綾部がしゃがみ込み抱き起こす。綾部には何が起きたかわからない。
又吉は気を失ってしまった。
そして黒い人影が目の前に立ちはだかった。
綾部が見上げた瞬間、背後からヒュッと風が通り抜けたと思ったその刹那、人影は後ろに吹っ飛んだ。
「こっちだ!今のうちに逃げろっ!」
背後から叫んだのは呼び出した張本人の原だった。
綾部は無我夢中で又吉をおぶって原と一緒に走り出した。
これが石をめぐる戦いか・・・。今まで経験したことのない緊張感、そして危機感。
綾部は一心不乱に走った。そして暗い路地を見つけるとそこへ入った。
又吉を降ろし、ヘタリと座り込んだが、原がまだ来ていない。路地から注意深くのぞくと、原がフラフラと走っ
てくるのが見えた。
「原っ!お前大丈夫か!?どっか怪我したのか?」
原に肩を貸し、路地へと入った。
原はハァハァと息を切らしながらなんとか言葉を発した。
「・・・ちょっと貧血になっただけや・・・これが俺の・・・石の能力の代償や。」
息も絶え絶えに原は話した。
「本当は一回でこんなにダメージくらわへん・・・でもコンビを解散して、芸人をやめて
も石をねらってくるやつらがおって、そいつらに対抗してたんやけど、どんどん石の力が
弱くなっていって・・・。今までどうりの力出そうと思ったらどんどんと代償もでかなっ
ていった・・・。さっきの攻撃も相手に尻餅つかせた程度やろ。」
「・・・じゃあこの石は芸人じゃないと力を発揮しない・・・?」
「いや、笑いへの情熱や・・・。」
ふうと一息ついた原は自分の首からペンダントにして吊っていた石を綾部に突き出して言った。
「又吉は相変わらず戦ってるんやろ?平和がほしいとかゆーてさ。
あいつ人が傷つくのとかめっちゃ嫌がるからな。アホや・・・。」
原はふっと鼻で笑った。
「あいつの石は攻撃には向かへん。そんでそれを助けていた俺にはもう力はない・・・。
だから頼む、この石をもらってくれへんか?危険なことに巻き込むのはわかってる。
でもお前の相方守ってやってくれ!このとおりや・・・。」
原は必死に頭を下げた。しばらく綾部は黙ったが、意を決してその石を受け取った。
「俺・・・仲間を・・・マタキチを守りたい。俺だって平和がほしい!」
原は微笑んだ。
「・・・ありがとう。」
パチパチパチ・・・
手を叩く音が路地の入口から聞こえた。
133
:
129
:2005/09/09(金) 22:05:04
>>132
「バナナマンの設楽さん・・・?」
「チッ・・・。」
原は舌打ちをした。
「黒の一番上の人間や・・・気をつけろ。」
綾部はゴクリと喉を鳴らした。
「綾部くん。原くんから石を譲り受けたところ悪いんだけどさ、黒に入らないかな?
もちろん又吉くんも一緒に。」
「嫌です。この石は仲間を守るために使うと決めたんです。人を傷つけるために使いたく
ないんです!」
するとその言葉に反応するように石も光った。設楽はふふっと笑うだけだ。
「綾部その石はな・・・」
原が言い終わる前に綾部は動いた。
何故だろう使い方がわかる。誰だ?俺に話しかけてくるのは。
自分の足下にあるコンクリートに触れ、大きな龍を放った。
「くっ・・・!」
狭い路地だったのが災いし大きな龍は動きずらそうだ。
設楽は龍が自分に激突する瞬間になんとかしゃがみ込んで避けた。
しかし、完璧に避けられるわけもなく傷を負った。しかしかすり傷程度ではない。
「くくくっ・・・さすが・・・すばらしい力だ・・・!」
傷を負ったにも関わらず、設楽は不気味に笑っている。
そしてゆっくり立上がりると同時に石が光り出した。
「綾部君・・・。君は黒の事をどうやら勘違いしているようだ。
少し僕の話を聞いてくれないかな?平和的に話し合いで解決しようじゃないか・・・。」
綾部は応じた。話し合いで解決できるならそうしたかった。
これが罠だということも知らずに・・・。
134
:
129
:2005/09/09(金) 22:05:54
>>133
長くなりました。次で最後です。
又吉はうっすらと目を開けた。ぼんやりと3人の人間が見える。2人の人間は
対峙していて、手前の自分を守る様に立っている人間の後ろには壁にもたれかかって
もう一人がいた。だんだんと対峙している2人の声が聞こえてきた。
「・・・どうかな。分かってもらえたかな?」
「はい・・・。」
だんだんと意識がはっきりしてきた。
「君の相方も起きたようだね。」
向こう側にいる男が言った。
設楽・・・!
又吉の目が大きく見開かれた。
その言葉を聞いた手前の男・・・綾部がゆっくりとこちらを振り返った。その時。
「原・・・。」
設楽が原に目で合図を送った。すると原はひそかに手元に準備していた鉄パイプを
にぎり、綾部の後頭部を一撃・・・ガツンッ。
「綾部っ・・・!」
又吉は瞬時に起き上がり倒れこんだ綾部に駆け寄った。さっき殴られた腹がズキンと痛ん
だが、そんなこと気にしてられなかった。
「綾部!おいっ綾部!」
必死に揺り起こそうとするが全く動かない。
「安心しろ。ちょっと眠ってもらっただけや。」
原が鉄パイプを肩に担いで冷たい目で又吉を見下していた。
「今度は又吉くんと話がしたかったからね。いやあ君の相方達は本当に信じやすい
いい人達だね。君とは違って。」
設楽はニヤリと笑う。
「まさか・・・また・・・。」
又吉に嫌な過去が蘇った。
「君は知ってたんだね。原が芸人でなくなれば石は力を失うと。だから原とのコンビを
解散した。それが原を助ける方法だと信じて。本来、白であった君達の片方が黒に変わってし
まってケンカは絶えなかっただろう?僕は又吉君が折れて黒に入ってくれるのを期待して
たんだけどね。」
又吉はキッと設楽を睨み付けた。瞳には過去に負わされた傷が写っている。
「俺はどうしてもその石がほしいんだよ。アトランティスの力を持つエレスチャルの力を。
全く又吉君、君は手間をとらせてくれたね。」
「原だけじゃなく綾部まで・・・!」
「“説得”させてもらった。もう彼は黒の一員だよ。」
冷たい瞳に又吉が写った。
「大丈夫。綾部君が次起きても、綾部君は変わらず君の事を好きだよ。
でも石に関してはどうかなぁ・・・?」
「うるさいっ!!」
設楽の挑発的でふざけた言葉に又吉は声を荒げた。
もうあんな思いはしたくない。
「もう・・・あんな思いはしたくない・・・。たった一人の相方・・・
もう失いたくない・・・。」
うつむいて、綾部の顔を見た。
「随分と仲がよろしいことで。」
原は鼻で笑った。
又吉はそっと原を見上げ、
「お前だって失いたくなかったんや。お前だって助けたかった・・・。」
原の顔に動揺が走る。原の瞳に過去が写る。
「お前に何がっ・・・!」
原が怒鳴ろうとするのを設楽が制した。
「又吉君。黒に入って黒に染まったフリをして綾部君が人を傷つけないように見張ればいいじゃないか、
“説得”を解けるようにいつも一緒にいたらいいじゃないか。それをやって見せてくれよ。
それが出来れば2人とも抜けさせてあげるよ。」
設楽が本当にそんなことを思っているわけがない。自分の石を破られない自信があるのだ。
「わかった・・・。」
又吉は小さく言った。
「やっと又吉君にも“説得”が利いたかな?」
ふふふと笑い背を向けて設楽は歩き出した。
「言っとくけどな、お前の石なんかにハマった覚えはないで。俺は綾部の目を覚まさせる
ためだけに黒に入るんや。」
設楽は原を従えて去って行った。
取り残された又吉は綾部の顔を見ながらつぶやいた。
「ごめんな・・・ゆうちゃん・・・。」
設楽の高笑いだけが聞こえる。
135
:
129
:2005/09/09(金) 22:11:02
すみません。本当にすごく長くなってしまいました。
読みにくいところもありますので、
もし読んでいただけたら感想をください。
136
:
129
:2005/09/18(日) 21:55:25
今気づいたのですが、この話矛盾してますねorz
ごめんなさい。
137
:
本スレ224
:2005/09/24(土) 01:03:15
本スレで言っていたさまぁ〜ずの番外編を落としにきました。
黒ユニットに分類されているコンビですが、ごく軽い話なのであまり黒っぽくありません。
でも黒でも白でも日常は結構ほのぼのしたところもあるんじゃないかと思って書いてみました。
石は能力スレにあるさまぁ〜ずのもの(もともと能力スレにさまぁ〜ずの設定書き込んだのも自分です)。
能力を使用しているのは三村のみです。
138
:
本スレ224@鈴虫1
:2005/09/24(土) 01:05:34
いつも通りの朝、いつも通りの日常。
自分の車の助手席でボーッとしながら相方の家に着くのを待つ。
窓からのぞく空は灰色の雲に薄く覆われていて、それを通して降りそそぐ朝の陽光はにじむように柔らかい。
今日はスタジオでの仕事だから、スッキリ晴れてくれてもよかったんだけどなあ、などと思いつつ、あくびを一つ。
あいにく、薄曇りの空にできた光の筋に美しさを感じるような感受性は持ち合わせていない。
かぶった赤いキャップのつばをぐい、と左手でひっぱって、視界を遮断する。
昨夜の酒が微妙に残っているので、少し休みたくなって目をつぶった。最近どうにも飲みすぎだ。
「うぃーす」
しばらくすると車はある路地で静かに停まった。
でかい荷物を肩にかけた相方が適当な挨拶とともに後部座席に乗り込んでくる。
とりとめもなく、たわいもない会話を車内に流しながら、テレビ局へと車はむかう。
ここまではまったくもっていつも通り、かわりばえのしない朝の光景。
…それがほんの少しばかりイレギュラーなものになったのは、二人が局の楽屋に入った後だった。
139
:
本スレ224@鈴虫2
:2005/09/24(土) 01:06:45
扉に貼りつけられた「さまぁ〜ず 三村マサカズ・大竹一樹 様」の文字をちらりと確認して中に入る。
撮りが始まるまでにはまだ余裕があるので、腰をおろした二人はのんびりと行動を開始した。
思い思いにペットボトルに口をつけたり、スポーツ新聞に目を通したりして時間を過ごす。
…そのとき、大竹が何か思い出したようにつぶやいた。
「あー…しまった」
「ん?」
「クーラー消すの忘れた」
「…帰ったらさみぃな」
「さっみぃな」
「高橋は?」
「さっき何かちょっと外すとかっつって出てった、…っと、あれ、どこだ…」
言いながら大竹はカバンをさぐり、タバコをとりだして火をつけようとする。
しかし百円ライターはチチッ、と火花を発するだけで、いっこうに炎が出ない。
「切れてやがる、お前の貸して」
「あー…ちょっと待って、今出す」
140
:
本スレ224@鈴虫3
:2005/09/24(土) 01:08:25
そう言ってジーンズのポケットをまさぐった三村だが、出てきたのはひしゃげたタバコの箱のみだった。
いつもなら減ったタバコの隙間に入っているのだが、今日に限って目当てのライターはない。
どうやら昨晩飲みに行った店にでも置いてきてしまったようだ。
「…入ってねぇわ」
「入ってねえって…どーするよ」
「高橋…って今いねえんだった」
ヘビースモーカーとまではいかないが、タバコが吸えないとそれなりに困る二人は顔を見あわせた。
タバコそのものなら自販機に買いに行けばいいが、ライターとなるとちょっと面倒だ。
しかたなく、廊下でスタッフにでも声をかけてみるか、と立ち上がろうとした三村に大竹が言う。
「お前アレは?アレで何とかなんねーの?」
「アレ?あー、石?」
「おー、アレで『ライターかよ!』とかってツっこめばいいんじゃね?」
「…お前、そのツっこみができるボケしろよ?」
「無理」
「じゃあ俺も無理だから、っていうかピューって飛ぶぞライター、ピューって」
「軽めに言えばいいだろ…あ、『秋の夜に 鳴いてる鈴虫 焼いてみる』は?」
「『なんでだよ!なんで焼いたの?焼かないでよ〜鈴虫を〜』…いや、これ『ライター』とかねえから」
「それ『なんで焼いたの?ライター?』とかにすればいいんじゃね?」
「あー、けどその『なんで』は『何使って』って意味じゃなくて『どうして?』の意味だけどな」
「細けぇよ、いいよ、いけるよ」
「…しょーがねーなー…」
141
:
本スレ224@鈴虫4
:2005/09/24(土) 01:09:43
三村は、ごそごそと財布の中から緑と紫と白が縞模様をつくる美しい石をとりだした。
手の中に石を握り込んで意識を集中させると、それはほんのりと淡く光る。
「おし、準備できた」
「んじゃいくぞ…『秋の夜に 鳴いてる鈴虫 焼いてみた』」
「『なんでだよ!なんで焼いたの?ライター?…
三村が『ライター』と口にしたとたん、ヒュッと空中にライターがあらわれ、大竹めがけて飛んでいった。
至近距離だったせいかライターの速度が意外に速かったため、大竹は「うぉっ!」と小さく叫んでのけぞる。
正面からぶつかるのは避けたものの、ライターは肩に当たってコロリ、と机に転がった。
…焼かないでよ〜鈴虫を〜』」
「ってお前!バカ!」
「へ?」
「おわぁ!」
三村が思わず最後までツっこみきってしまったせいで、今度は空中に一匹の鈴虫があらわれる。
これまた結構な速度で大竹にむかって飛んでいく鈴虫を見送って思わず三村はつぶやく。
「あ、鈴虫…」
「『あ』じゃねえ!」
…鈴虫は見事に大竹の伊達眼鏡のふちにぶち当たり、へろへろと緑茶のペットボトルの中に落ちて討ち死にしたのだった。
142
:
本スレ224@鈴虫5
:2005/09/24(土) 01:10:30
その後大竹は「鈴虫くせえ…」などと微妙な悪態をつきつつ眼鏡を手入れし、タバコに火をつけ。
三村は「ゴメンゴメン」などとあまり反省もなく謝りながら石をしまい、またもとのようにのんびりと時間が動き始めた。
5分後、先ほどのことを忘れてペットボトルに口をつけた三村は、ブフッ、と派手な音を立てて緑茶とともに鈴虫を吐き出すだろう。
大竹は「汚ね!」と後ろに飛びすさり、机の上が大…いや小惨事になり、楽屋は二人の笑い声やらうめき声やらでまた少しばかりにぎやかになる。
…そんなちょっとした、日常の話。
143
:
本スレ224@鈴虫(設定他)
:2005/09/24(土) 01:18:51
三村マサカズ
石:フローライト(螢石)
集中力を高め意識をより高いレベルへ引き上げる、思考力を高める
力:ツッコミを入れたもの、もしくはツッコミの中に出てきたものを敵に向かって高速ですっ飛ばす。
(例1)皿に「白い!」とツッコんだ場合、皿が飛ぶ。
(例2)相方の「ブタみてェな〜(云々」などの言葉に対し「ブタかよ!」とツッコんだ場合、ブタが飛ぶ。
条件:その場にあるものにツッコむ場合はそれほど体力を使わないが、
人の言葉に対してツッコむ場合は言い回しが複雑なほど体力を使う。
また、相方の言葉に対してツッコむ場合より、他の人間に対してツッコむ場合の方が体力を使うため、回数が減る。
ツッコミを噛むとモノの飛ぶ方向がめちゃくちゃになる。ツッコミのテンションによってモノの飛ぶ速度は変わる。
飛ぶものの重さはあまり本人の体力とは関係ないが、建物や極端に重いものは飛ばせない。
今回は(例2)の方で能力を使わせてみました。
石の身につけかたに迷ったんですが、原石のまま持ってる方がらしいかと思ったので、
財布の中にしまってることにしてみたんですが、加工品の方がよかったでしょうか。
なにぶん初めてなので、ビシバシ添削していただけるとありがたいです。
144
:
本スレ224@鈴虫
:2005/09/24(土) 01:21:59
あ、文中の「高橋」はさまぁ〜ずの後輩兼マネージャーの高橋氏です。
145
:
名無しさん
:2005/09/24(土) 01:54:59
ほのぼのしてていいですね。こういうの好きです。
本スレ投下問題ないと思いますよ。
146
:
名無しさん
:2005/09/24(土) 13:28:36
乙。
三村の能力の使い方面白いですね。
本スレ投下大丈夫だと思います。
147
:
本スレ224@鈴虫
:2005/09/25(日) 00:15:07
>>145-146
ありがとうございます。本スレ行ってきます。
148
:
◆8zwe.JH0k.
:2005/10/02(日) 16:34:51
こんにちは、以前◆BKxUaVfiSA というコテハンでホリケンと大木の話を書いた
者です。事情があってトリップ変わっちゃいました。佐久間一行とあべこうじの
話書いてみたんですが、添削頼みます。
149
:
◆8zwe.JH0k.
:2005/10/02(日) 16:37:23
困ったなあ、などと呑気に考えながら梯子をよじ登る男が一人。
服装は先ほどまで舞台に立っていたということで、随分奇抜な格好だった。
薄いTシャツに手拭いを首に巻いており、何重にも折り込まれて短くされた緑色のズボンからは健康的な脹ら脛が覗いている。少年のような形だ。
彼の困った、と言うのは、今複数の男に追いかけられている事ではなく、家で待っている200匹のペット兼家族への餌があげられないという事の方が強い。
きっとお腹空かしてるな、死んじゃったりしないかな、と心配事は尽きなかった。
登り切ってたどり着いたのは廃工場の塗炭屋根。所々雨の所為で鉄骨が錆び付き、穴が開いている。
腕を地面と水平に広げ、トントン、トン、と穴を飛び越しバランスを取りながら渡っていく。その後ろから若い男が二人、同じように走ってくる。
決して丈夫とは言えない薄い屋根に、三人もの大の男が乗っていると、さすがに思い切り暴れる、なんて事は出来ない。
屋根の左端と右端にそれぞれが立ったまま対峙する。
「つっかけだけで良く此処まで速く走れましたね、佐久間さん」
一人が、少し慎重に足を踏み出す。塗炭が嫌な音を立てて軋み揺れ、佐久間は「おっとっと…」とバランスを崩しそうになる身体を中腰になり必死に手をばたつかせて整える。
そして揺れが収まったところでゆっくりと身体を起こし、ほっと息を吐いた。
「…う〜ん、見逃せない?」
「無理です。逃がして怒られるのは俺たちなんですから」
ダメ元で尋ねてみると案の定否定された。
「見逃して欲しいなんて言ってきたの、佐久間さんが初めてですよ」
今まで戦ってきた者たちは、どうやら正義感、責任感に満ちあふれ、石の力を駆使して向かってきたらしい。
「黒に入ってくれるなら、何もしませんから、ね?僕らも簡単に人を傷つけたくないんですって」
男たちは、戦いを心からは望んではいないようだった。上の命令なのだろうか。お願いしますよ、彼らは懇願する。
150
:
◆8zwe.JH0k.
:2005/10/02(日) 16:39:04
「そういえば、佐久間さんザリガニいっぱい飼ってるんですよね」
「それが何?」
「黒に来てくれないと、あなたのザリガニを…」
「何する気だよ…!」
嫌な予感がし、額に冷や汗が浮かぶ。
「全部食べます」
何だって?それはゆゆしき問題だ…!
佐久間は少し困ってしまった。
自分は喧嘩は好きではないし、戦って勝てる自信も無い。相手が二人もいるなら尚更だ。
何より愛するザリガニたちが食べられてしまう。
とりあえずここから劇場はそう遠くはないし、ポケットに携帯も入っている。助けを呼ぶことは不可能では無かった。
相手に気付かれないようそっと携帯を取り出し、手を後ろに回したまま勘でリダイヤルのボタンを押す。
画面が見えないから誰に掛けているのか分からないがとりあえず三回押した時の相手に掛けてみようと思っていた。
カチ、カチ、カチ。丁度三回押したところで手探りで真ん中の決定ボタンを押す。
「何をしてるんですかっ!」
その時、一人の男が小さな火の玉を指先から出現させ、佐久間に向かって飛ばした。
「あわわっ、喧嘩は止めようって〜痛いだけだから…」
ふわり、と佐久間の手の平が火の玉に向けて翳される。
「この想い、伝われぇ〜っ」
ギリギリまで近づいて来た火の玉は、ポン、と可愛らしい音をたて、一輪の真っ赤なバラに変化し佐久間の手に落ちた。
自分には似合わないな、と佐久間は照れ笑いを浮かべる。男たちは頭の上にクエスチョンマークを浮かべているような間抜けた顔をしている。
その時、
『もしもーし、もしもーし?さっくん、どーしたぁ?』
癖のあるテノールボイスが携帯を通して小さく聞こえた。
(や、ったー)
佐久間は小さくガッツポーズをした。親交もあり、何より石の能力者であるあべこうじこと阿部公二に電話が繋がったのはラッキーだった。
「よそ見するな!」
151
:
◆8zwe.JH0k.
:2005/10/02(日) 16:40:15
一瞬携帯に目を捕られてしまった佐久間は(しまった)、と顔を上げる。
次の瞬間、目の前に男の拳が迫った。ああ、殴られるな。と他人事のように思った瞬間、頬に鈍い痛みが走り、視界が反転した。
あまりにも見事に顔面ヒットしたので、殴った男の方も、しまった、みたいな顔をして小さな声で「あっ…」と声を漏らした。
はね飛ばされた携帯はガチャン、と斜めの屋根を回りながら滑り落ちていく。
手を伸ばしたが後一歩遅く、携帯は重力に引っ張られ屋根から落下していった。
そして、地面に衝突し、跡形もなく消える―――筈だった。
高い屋根から落ちてきた佐久間の携帯を、下に立っていた誰かが片手で、上手いこと壊さないようパシッ、と軽い音を立ててキャッチする。
もう一方の手には、先程まで使っていたのだろうか、開いたままの彼の携帯が。
佐久間が殴られた顔を押さえながら、上半身を起こして下を覗き込んだ。
「落とし物」
彼――あべこうじは、屋根を見上げ、にっこり笑って携帯を振ってみせた。
152
:
◆8zwe.JH0k.
:2005/10/02(日) 16:44:57
佐久間一行
エンジェライト(天使を意味する石。マイナス思考の払拭)
能力…平和の念を掌に込め、危険な物を安全な物へと変える。
例)爆弾→クラッカー ピストル→水鉄砲
条件…「つたわれ」で発動。
危険かどうか、自らの判断が必要
153
:
◆8zwe.JH0k.
:2005/10/02(日) 16:48:11
まだ続きは考えてないですが、評判良ければ書きますんで。
154
:
名無しさん
:2005/10/02(日) 17:54:57
おっつっつー。
人間が描かれてていい感じですね。
でもエンジェライトはホリケンの石じゃなかったっけ?
155
:
名無しさん
:2005/10/02(日) 23:41:19
ホリケンはセラフィナイトで、これとエンジェライトは別物らしいので大丈夫。
さっくんのほのぼの感が良いですね。
156
:
名無しさん
:2005/10/04(火) 00:38:46
乙です!
さっくんは石の力まで平和的ですね。彼にとてもあっていると思います。
あべこうじナイスなタイミングで登場ですね!
続きお願いします!
157
:
名無しさん
:2005/10/04(火) 00:41:36
129さん
乙です!一気に読んでしまいました・・・
誰か又吉を助けてやれないものでしょうか・・・
続き、楽しみにしてます。
158
:
◆8zwe.JH0k.
:2005/10/24(月) 21:02:55
>>151
から
「あべさん…!」
「挨拶もなしに急に居なくなるもんだからさぁ、あははっいやー探しに来てよかったよーホントねぇ」
ひらひらと手を振る阿部は格好付けたように眉を顰め、何とも綺麗な早口でまくし立てる。
「ほら、逃げっから降りといで」
佐久間はその言葉にたちまち笑顔になった。はいっ!と元気よく返事をし、屋根からダイブする。固い地面に頭から落ちていくような体勢に、二人組はわっ、と短い悲鳴を上げて届かない制止の手を伸ばす。
地面に激突する寸前、佐久間は手を前に突き出す。柔らかな光に照らされ、ふかふかのクッション状になった土は落ちてくる身体の衝撃を優しく吸収する。
屋根の上から二人が見下ろしているのが見えた。え〜、とかすっげえ〜、とか若者らしい率直で素直な感想を述べている。
「うわ、さっくんすげー鼻血…!」
え?と手の甲で鼻の周りを触ってみると生暖かい真っ赤な液体がまとわりついた。阿部が言うには、顔半分がその血で染まってまるでスプラッター映画のようらしい。
近くで風船を割られたような、そんな衝撃が強く、痛みというものはあまり感じなかった。だから大したことはないと思っていたが、阿部の引きぎみな表情を伺う限り今の自分は、よっぽど見るに堪えない酷い顔なんだろうなぁ。と佐久間は思った。
「大丈夫ですよー。ね?ほら、骨は折れてないみたいですし」
「ほ、骨…」
目眩を起こしそうになっている阿部を尻目に、ポケットからウェットティッシュを取り出して顔をごしごしと擦る。
血を拭き取りすっきりした顔を見せてやると、阿部もほっとした表情を浮かべた。
159
:
◆8zwe.JH0k.
:2005/10/24(月) 21:03:33
そして気を取り直すようにパンッ、と一度手を叩く。
「よし、じゃ逃げるか。ダッシュね、ダッシュ!かけっこには自信あるよ、俺」
格好付けたように変なところで語尾を上げるのは彼のちょっとした癖だ。そういうときは大抵彼の心は自信に満ちている事が多い。佐久間は妙な安心感を覚え小さく笑い「そっすね」と返事をすると、つっかけを履き直し阿部の後ろを付いて走っていった。
ぺたん、ぺたんというつっかけ独特の平たい靴音を鳴らしながら、後ろを振り向いた。
思った通り背後からは屋根から下りた男たちが追いかけてくる。
一応昔テニスはやっていたし、体力にも足の速さにも自信はある。運動馬鹿な訳ではないが、久しぶりの本気の走りに、自然と佐久間は口元を緩ませた。
「ついてこれるもんならぁ、ついてこぉーい!」
走りながらくるりと一回転。
「何テンション上がってんの、ほらこっち!」
息を切らした阿部が佐久間の襟首をやや手荒に掴み、狭い路地裏に逃げ込む。ゴミバケツや空き瓶が散乱している所為でスピードが出せないのを佐久間は不満に思った。何しろ汚い所は大嫌いだった。全力で走るには先程の綺麗な広い道路の方が良かったのだが、何にせよその道路は長く続く一本道だ。万が一こちらが先に疲れるような事があれば捕まってしまう。
160
:
◆8zwe.JH0k.
:2005/10/24(月) 21:03:55
そう思えばこういう入り組んだ細い路地は相手を捲くにも有効なのだ。
思った通り向こうも追いかけてくるのに苦戦しているようだ。更に引き離すように足でバケツを倒し、積み重なった木箱…その一番下の段を思いっきりダルマ落としの要領で蹴り飛ばす。バランスを失った木箱の山はガラガラと崩れ落ちた。中身が入ったままだったビール瓶が幾つもその中から転がり出て、雨あられと降り注ぎ敵の進行を防ぐ。
「危ない危ない危ない〜っ」
勢い余って自分たちの方にまで振ってくるガラスの欠片に、手を引かればたばたと前に突き進む。
ガシャン、バリン、と近くに雷が落ちたときにも似た感覚が鼓膜を襲う。佐久間と阿部が通った跡は汚い埃がそこら中に充満した。
煙の向こうから追ってくる声は、もう聞こえない。
「………、やりいっ!」
後ろを振り返りながら尚も走り続け、二人でハイタッチを決めた。
161
:
◆8zwe.JH0k.
:2005/10/24(月) 21:05:25
本スレ過疎気味なんで投下しても大丈夫ですか?
162
:
名無しさん
:2005/10/24(月) 22:54:40
文章的にも全然大丈夫だと思いますよと一書き手の意見。
過疎なのは投稿が少ないからか…お笑いブームの衰退か…
163
:
名無しさん
:2005/10/26(水) 16:05:22
芸人をキープしたまま話の途中で戻ってこない書き手がたくさんいるのも原因だとオモ
164
:
名無しさん
:2005/10/28(金) 14:38:05
>163
こういうことにならないように一芸人=一書き手ルールがないとはいえ、
話の根幹に関わる事件がストップしてたりするからなあ
せめて続きが書けなくなったら放棄宣言がほしいわな
165
:
クルス
◆pSAKH3pHwc
:2005/10/28(金) 17:27:32
>>129
本スレでハロバイ編書いてた者です。
ピース編、読みました。凄く良いと思います。
ハロバイ編終わりましたし、本スレ投下しても良いんじゃないかと。
166
:
名無しさん
:2005/10/29(土) 17:51:18
乙です!
あべさく、というかさっくんがいるとほのぼのでいいですねv
ただ血は怖いな・・・顔見れないとはいえよく平気ですね。そして冷静(笑)
167
:
129
:2005/11/02(水) 23:56:14
遅レスすいません。
>>157
ありがとうございます。うれしいです。
また思いついたら書きたいと思います。
>>クルスさん
本スレ投下しても大丈夫でしょうか・・・。
クルスさんの話に支障が出てしまったのではないかと心配しています。
168
:
クルス
◆pSAKH3pHwc
:2005/11/03(木) 17:09:30
>>129
大丈夫ですよ。
私は元々3話で終わらせる予定でしたし、問題は無いです。
169
:
129
:2005/11/04(金) 09:48:03
では本スレに投下したいと思います。
本当にありがとうございます。
170
:
◆yPCidWtUuM
:2005/11/18(金) 03:47:44
どうも、以前さまぁ〜ずの番外編書いた者です。
気になることもあったので進行会議スレなどで質問してたんですが、
話がもうできてしまったのでとりあえず投下します。
ご意見等よろしくお願いいたします。
本編扱いで次長課長中心です。やたら長いですが、完結してます。
171
:
[タイトル未定−1]
◆yPCidWtUuM
:2005/11/18(金) 03:49:24
…ことの始まりは「石」だ。
井上にとってそれは、朝、玄関で履いた新しい靴の中に転がっていたせいで自分の足の裏に軽く刺さった、
金色の小さなものだった。
井上はその小さな塊を手にとって眺める。
ちょっとぼこぼこしていて、混じりけのない金色がとても綺麗だし、これがこのおろしたての靴の中から
出てきたことも不思議だ。買ったばかりの靴の先にこんなものが入っているなんてこと、あるんだろうか。
ちょっと面白いから河本に見せてやろう、と考えてジーンズのポケットにつっこんで家を出る。
河本にとってそれは、朝、仕度を終えて袖を通したマエ濯屋返りのジャンパーのポケットの中で指先に触れた、
淡い色の小さなものだった。
河本はその小さな石を手にとって眺める。
つるつるしていて、薄い橙色と白がつくる縞模様がとても綺麗だし、これがこのジャンパーのポケットから
出てきたことも不思議だ。洗濯屋でこんなものがまぎれこむなんてこと、あるんだろうか。
ちょっと面白いから井上に見せてやろう、と考えてもういちどジャンパーのポケットに戻して家を出る。
そして2人は楽屋で顔を合わせて、お互いが手にした不思議な石のことを知ることになる。
同じ朝に自分たちのところにやってきたその小さなものが、どんな運命をもたらすかはまだ、知らぬままに。
172
:
[タイトル未定−1]
◆yPCidWtUuM
:2005/11/18(金) 03:50:20
自分が石を手にした瞬間は特に何も思わなかったのだが、楽屋で井上が金色の塊を見せてきたとき、
そしてその石が自分のものと同じように、奇妙な経緯で井上のもとにやってきたと知ったとき、
河本はふとあることに思い当たった。最近芸人の間で石を持つことが流行っている、というのを
どこかで耳にした覚えがある。その石には何か力があるとか、それで何か一部でもめてるとか、そんな話も。
超常現象の類はあまり信じない質だったので、その話を聞いたときは石の力なんて随分うさんくさい、
と思った程度で特別気にしていなかったのだが、あれはひょっとして、この石と関係があるんだろうか。
「聡、変な石の話って知っとる?芸人の間で流行っとるとかいう…」
「あ、何か変な力がどうとかの…」
「そうや」
「詳しいことはよう知らんけど、聞いたことある」
「なあ、この石ってひょっとしてそれと関係あるんちゃう?」
「これが?」
「おかしいやろ、いきなりこんな偶然、俺らんとこ来るなんて」
「んー…そやね」
井上は何か考え込むように、指先で小さな金色の塊をもてあそんでいる。
河本から見てその欠片の色は、メッキされた金属の放つ金色や、何かが着色されて光る金色ではなく、
金という鉱物がもつ本来の色であるように感じられた。
173
:
[タイトル未定−1]
◆yPCidWtUuM
:2005/11/18(金) 03:51:35
もしこの推測が当たっているなら、あの小さな塊は、それなりに高価なもののはずだ。
あまり物欲がなく、金銭への執着も薄い井上のもとにそれがやってきたのはやはり運命と言うべきか。
もし自分だったらどこぞに売りにいったかもしれないが、井上はそれを綺麗な玩具程度にしか思っていない。
だからこそ、売ったりして手放そうなどとはきっと思わないだろう。
楽屋のテーブルの上、金色の塊をちょん、とおはじきのようにつつきながら井上が口を開いた。
「…これも、何か力あるんかな」
「どうやろ、俺のも何かあったりしてな」
河本は言いながら、テーブルに転がした自分の石をじっと見つめる。
綺麗な縞模様は何も伝えることなく静止したままで、答えなど出そうになかった。
見ているだけではどうにもならないので、とりあえずしまっておこうと手を伸ばす。
石を軽く手の中に握り込んだとたん、河本の拳の隙間から淡い光が漏れだした。
174
:
[タイトル未定−1]
◆yPCidWtUuM
:2005/11/18(金) 03:52:22
「な、何?」
驚いて手を開き、乱暴にテーブルの上に石を放り出す。それは橙色の光を放ちながらころころと転がった。
転がった先にあった井上の金色の塊は、河本の石にぶつかったと同時に、内側からふわりと光を放つ。
「うわ、光った!」
2人はしばし呆然と石の放つ光に見とれたが、輝いていた石はほんの30秒もするとその光を失い、
もとの姿に戻ったのだった。お互い無言のまま、石と相方の顔を交互に見やること数回、そして同時に言う。
「「…これ、何かヤバいで!」」
もはやここにある2つの石が、何か特別なものであることは疑いの余地がない。
だがしかし、これがどう特別なものなのかわからない2人はそのまま出番までの時間を悶々と過ごし、
本番中もそれを肌身離さず持ったまま、収録を終えて楽屋へと戻ったのだった。
175
:
[タイトル未定−2]
◆yPCidWtUuM
:2005/11/18(金) 03:53:20
…収録後の楽屋を、訪れる影2つ。
「よお」
「ちょっと邪魔するよ」
軽い挨拶とともに楽屋に入ってきたのは、2人が先ほどまで出演していた番組のMCであるくりぃむしちゅーの
有田と上田だった。最近共演する機会が増えてはきたものの、彼らがコンビで自分たちの楽屋を訪れるのは珍しい。
「どうもおつかれさんです」
「おつかれさんですー」
ふたりは少しばかりいぶかしく思いつつも、多くの番組を持つこの先輩コンビに礼儀正しく頭を下げた。
有田と上田はそれに「おう」などと簡単に応じる。その後、すばやく話を切り出したのは有田だった。
「あのさ、単刀直入に聞くんだけど」
「はい?」
「ひょっとして、石持ってねえか?」
176
:
[タイトル未定−2]
◆yPCidWtUuM
:2005/11/18(金) 03:54:19
見事と言うべき素早い切り込みに、返事をした河本は一瞬あっけにとられた。あまりといえばあまりに直接的な
質問だったので、返答に困ったのだ。石に何か特殊な力があるなら、簡単に持っていると答えてしまうのも
まずいんじゃなかろうか、と思った河本が迷っている間に、井上が代わりに答えてしまった。
「持ってますー」
のんびりした口調だが、これは重大な告白だ。河本は『ちょっと待たんかい!』と思いつつ相方を見やるが、
井上は何ら悪びれたところなく、いつも通りのきょとんとした表情で椅子に腰かけている。
返答を聞いた有田の方も、そう簡単に肯定の言葉がかえってくるとは思っていなかったらしく、ちょっと驚いた顔だ。
上田に至っては頭を抱えている。おそらく有田のバカ正直な質問で慌てたところに、さらにバカ正直な井上の返事が来て
打ちのめされたのだろう。河本はエ?、、に上田に共感した。
「上田、ほらやっぱ持ってるってよ!さっき共鳴したもんなー」
「…おう」
「何?何暗くなってんだよ?」
無自覚な有田とそれに疲れる上田に苦笑しつつ、河本は有田の言葉尻をとらえる。
『共鳴』とはいったい何のことだ?自分たちが石を持っていることが有田たちには伝わっていた理由は?
177
:
[タイトル未定−2]
◆yPCidWtUuM
:2005/11/18(金) 03:55:35
「あの、有田さん、『共鳴』って?何で俺らが石持っとるってわからはったんですか?」
「それはあれだ、俺らも石持ってるから。光ったんだよ」
「?は?」
「ああもう、有田代われ!…悪いな、ちゃんと説明するから」
「はあ…」
ため息まじりに有田を制した上田は、自分の石をとりだし、有田にも2人に石を見せるよう促して、
まず自分たちの石について簡単に語り始めた。河本の基本的な質問から、2人が石を手に入れたばかりで
何も詳しいことを知らないと察したらしい彼に、河本と井上は自分たちのもとに石がやってきた経緯を話す。
上田はそれにじっと耳を傾けてから、はじめは石の共鳴と力について話し、それから白のユニット、
黒のユニットについての説明をして、最後に自分たちが白のユニットに属していることを告白した。
「もしお前らの石の力が使えるものだったら、黒の奴らは自分たちの側にお前らをとりこもうとするだろうし、
それができなきゃ倒して石を奪おうとするだろう。俺らはお前らに『今すぐ白に入れ』とか強制する気はないけど、
できればお前らと戦うようなことは避けたいと思ってる。だからこうして話をしにきたんだ」
178
:
[タイトル未定−2]
◆yPCidWtUuM
:2005/11/18(金) 03:56:29
その言葉に河本は大きく頷いた。上田の話を聞いたところで、今すぐ白につこうとまでは思わないし、
逆に黒につこうとも思わない。わけもわからず戦闘に巻き込まれるのはまっぴらごめんだし、この2人の敵になる気も
さらさらない自分にとって、上田の言葉は至極受け入れやすいものだ。隣で井上も小さく縦に首を振っている。
そんな2人の様子を見て上田の話が終わったと判断したのか、今まで黙って話を聞いていた有田が、『待ってました!』
…とばかりに口を開いた。
「なあなあ、そんじゃさ、まだ2人は自分の石の力がどんなんだかわかってねえの?」
「はい、さっぱりですわ」
「なー、何なんやろな?」
河本は肩をすくめ、井上は河本と顔を見あわせて首を傾げる。石を巡る芸人たちの状況は理解したが、
自分たちの力がわからないことには何をどうすればいいのかさっぱりだ。そんな2人に有田は言う。
「まあでも、黒の奴ら来たら嫌でもわかるよ…ってお前らの力が戦闘に使えなかったらマズいな」
「もしどっちもそうだったら、攻撃系の奴に襲われたらひとたまりもないぞ」
「そっか、そーだよなあ…何か能力わかる方法とかねーのかよー上田」
「んなもん俺が知るか!…うーん、今までの奴らって大体みんなその場で石が発動してたしなあ」
179
:
[タイトル未定−2]
◆yPCidWtUuM
:2005/11/18(金) 03:58:06
有田と上田の2人は後輩の身の上を案じ、戦闘に巻き込まれる前に石の力を特定する方法はないかと考えを巡らせる。
そのとき、有田が突然「あっ!」と小さく叫んだ。
「お前の能力でこいつらの石の記憶読めばいいじゃねーか!」
「おいおい、俺の石じゃ記憶は読めても能力は…いや、前に持ってた奴が使った記憶があるかもしれねーか」
「そうだよ、石が覚えてるかもしれねーだろ」
「けど俺いくらなんでも見ただけで石の名前なんてわかんねーぞ?しかも蘊蓄まで言わないとなんねーし…」
ぶつぶつ言いながら上田は河本と井上にむきなおる。
「ちょっと見せてもらってもいいか?」
「あ、はい」
「どーぞ」
180
:
[タイトル未定−2]
◆yPCidWtUuM
:2005/11/18(金) 03:58:57
差し出しされた2つの石をしげしげと見つつ、上田は「あれ?」と小さく声を上げた。
「この井上のって、ひょっとして金じゃねーか?」
「あ、上田さんもそう思わはります?」
「…え、俺のって金なん?石やないんや」
「ああ、多分。まあこれも鉱物っちゃあ鉱物だしな…よし、こっちだけなら何とかなる」
そう言って上田は井上の金の粒に触れ、蘊蓄を脳裏から引っぱりだす。
「えー、金といえばみなさん、指輪やネックレスなどの装飾品としてお馴染みの貴金属ですが、
これはおそらく人類が装飾に使った初めての金属だろうと言われています。古代エジプトの
ヒエログリフでも金についての記述があるくらいでして…」
181
:
[タイトル未定−2]
◆yPCidWtUuM
:2005/11/18(金) 03:59:26
よどみなくつらつらと言葉を並べながら、小さな欠片に残った記憶を読みとっていく作業に入った。
その欠片の記憶は今朝の井上家の玄関、おろしたての靴の中から転がり出て井上とご対面したところまで戻ると、
それ以前は急に真っ暗になる。ただ、真っ暗な中で一瞬、誰かの右手が石にむかって伸ばされ迫る場面が、
映画のワンシーンのように閃いた。男の左手には何か、茶色い大きなものが握られている。
そしてその男の顔がノイズのようにさし込み、消えた。
…その顔は自分の記憶の中にある顔のひとつに重なる。とたん、男が左手に握っていたものの見当がつき、
上田はふっと笑った。石から手を離し、能力の代償である激痛が背中を走り抜けていくのに耐えてから、言う。
「ほとんど真っ暗だったけど、一瞬だけこの石に手を伸ばした奴の顔が…多分アイツ、何か知ってる」
「…アイツ?それ誰だよ上田」
「…ギター持ってた。波田陽区だ」
182
:
[タイトル未定−2]
◆yPCidWtUuM
:2005/11/18(金) 04:01:07
すいません、
>>176
の
>打ちのめされたのだろう。河本はエ?、、に上田に共感した。
は
>打ちのめされたのだろう。河本はおおいに上田に共感した。
です。文字化けしました。
183
:
[タイトル未定−3]
◆yPCidWtUuM
:2005/11/18(金) 04:01:52
…さて時は数日前にさかのぼる。
その夜ギターケースを小脇に抱えた小柄な男は自宅前で、もはや幾度めかわからない黒の襲撃を受けた。
もっともその日の刺客の連中は、かなり強力な石を持っていたにもかかわらず、本人たちの実力が
石に見合っていなかったため、途中で石の力が本人たちにはねかえって自爆したので戦闘は早々に終了している。
さらに襲撃の場所が場所だったこともあって、波田は最後の力を振りしぼり、どうにか我が家の扉のむこうに
滑り込んでから力つきて気絶したのだった。
…そしてまさに今、玄関で自分の靴にまみれて目覚めたところだ。
玄関で倒れたせいであちこち打った体が痛かったが、まずはとにかく先ほど刺客から回収して握りしめたままだった石を
しまっておかないと、と手を開く。その手のひらには小さな石が1つのっていた。
…1つ?
おかしい。自分はさっき、3人に襲われたのだ。そしてそいつらは1つずつ石を持っていた。
ならば回収した石の数は3つであるべきなのに、1つしかない。まさかうっかり回収し忘れたのだろうか?
いや、そんなはずはない、確かに自分は連中から石を回収したはず…と、そこまで記憶をさかのぼったところで、
波田は自分の記憶の異常に気づいた。
184
:
[タイトル未定−3]
◆yPCidWtUuM
:2005/11/18(金) 04:02:21
そうだ、自分はこの手の中にある石をまず拾って、それから次の石に手をのばしたはずだ。
そのあと…そのあと、どうなったのだろう?おかしなことにその先の記憶がすっぽり抜け落ちている。
どうやって自分はこの玄関までたどり着いたのか、それもなんだか曖昧だ。
手の中に残ったのは、変わった光を放つ透明な石のみ。ひょっとしてこれが何か力を発したのだろうか?
かるく握ってみると、何となく自分と波長が合うのを感じる。これを拾ったとき、まだ自分の石、ヘミモルファイトの力が
切れていない状態だったから、波長の似ていたこの石の力を自分が引きだしてしまったのかもしれない。
光にすかしてみると、透明な石の中でちらちらと虹色の光が踊る。戦闘の際に刺客がこの石を使っていた様を
思い出してみようとするのだが、この記憶にもまた靄がかかっている。
波田はあきらめのため息をつき、あまり成果を見ることのなさそうな思索に終止符を打った。
この石を持ち歩くのは気が進まない。かといって自宅においておくには敵の多い身だし、まさか捨てるわけにもいかない。
気休めにしかならないが、今まで回収してきた他の石とは分けて布に包み、持ち歩くことに決めた。
185
:
[タイトル未定−4]
◆yPCidWtUuM
:2005/11/18(金) 04:03:15
井上と河本は珍しく、2人並んで帰途についていた。
それなりに仲はよくとも、普段はプライベートを異にしている2人がこうして一緒に帰ることにしたのは、やはり今日楽屋で
聞かされた話が気にかかったからだ。結局2人の石の力は不明なままだったが、だからこそなおさら襲撃を受けたときの
不安が大きい。上田と有田が波田陽区に連絡をとってみると言っていたので、近日中に少しは事態が進展するだろうが、
今現在心細いのに変わりはない。2人いれば運良くどちらかが戦える能力を持っているかもしれないし、少しは
マシだろうということで今に至る。
夕暮れの陽がさし込む局の廊下をとぼとぼと歩きながら、河本がぽつりとこぼした。
「…どーなるんやろな、これから」
井上はそれに答える言葉を持たなかったので、2人は無言のまましばらく廊下を進み、エレベーターに乗り込んだ。
他に誰も乗っていない小さな動く密室の中、井上はやっと口を開く。
186
:
[タイトル未定−4]
◆yPCidWtUuM
:2005/11/18(金) 04:03:42
「なあ」
「ん?」
「この先な、どーなるかわからんけど」
「…おう」
「何かな、俺ら頑張ったらええと思う」
「…」
「それでええと思う」
河本は少し黙って、それから、
「…そうやな」
と小さく笑って呟いた。
187
:
[タイトル未定−5]
◆yPCidWtUuM
:2005/11/18(金) 04:04:22
ここは都内のとある居酒屋の個室、顔をつきあわせているのは2コンビ1ピン、計5人の芸人だ。
くりぃむしちゅーと次長課長とギター侍。つまりは有田、上田、井上、河本、そして波田。
有田と上田が波田に渡りをつけて実現した顔あわせである。
運良く井上と河本が黒のユニットに襲われることはいまだなく、石の能力も不明のまま2日がすぎていた。
波田の手元に残った例の石もその後特に発動することはなく、抜け落ちた記憶も戻っていない。
井上たちにはこの会合に顔を出す以外、選択の余地がなかったし、波田も上田たちの話を聞いて自分の拾った石と
何か関係がありそうだと思い、気になってここに足を運んだのだった。3人それぞれがぼんやりとした不安を抱えたまま、
有田の言葉で会合が始まる。
「んじゃ始めよーぜ…まず波田、聞きてーことがあんだけど」
「はい」
「井上が持ってる石の記憶を上田が力使って探ったら、お前がそん中に出てきたんだと」
「ええ、聞きました」
「お前はとりあえずアレだ、井上の石について何か知ってんの?」
188
:
[タイトル未定−5]
◆yPCidWtUuM
:2005/11/18(金) 04:05:00
あいかわらず単刀直入な有田の質問に、横の上田は苦笑している。
波田は自分のほうをうかがっている河本と井上の様子をそっと確かめながら、さりげなく井上の石の確認を要求した。
「あの、井上さんの石ってのは…」
「井上、見せてみ」
「あ、はい」
井上は手の上に金の粒をのせる。それをのぞき込み、もとより心当たりがなくもなかった波田は、その石に自分の姿が
記憶されていたわけをはっきりと理解した。
「…これ、俺が何日か前に拾おうとしたやつですね」
そう、井上の石は波田があの夜、2番目に拾おうとしたものだったのだ。
だが、その石がなぜ井上のもとに行ったのかまではわからない。
189
:
[タイトル未定−5]
◆yPCidWtUuM
:2005/11/18(金) 04:05:41
波田は諸々の状況から、この場での自分の立ち位置に関して判断を下すことにする。
白にも黒にもくみせずひとり動いてきた彼は自然に、過ぎるほどの用心深さを身に付けていた。
今日も収録もないというのに、不測の事態に備えて自らの武器となるギターを抱えてこの場に表れたほどだ。
上田さんや有田さんは白ユニットに属している。彼らは井上さんの石のことで自分に声をかけるとき、
自分たちの能力を隠そうとしなかった。こちらが黒ではないかと疑う様子のなかったところから考えて、
おそらく自分が石を回収し、ふさわしい人間に配って回っていることは誰かから聞き知っているはずだ。
話の出所はきっと川島さんあたりだろう。かといって白に勧誘しようという気もなさそうだし、河本さんと
井上さんが自分の石の能力も知らないような状態である以上…
“この場で詳しいことを話したとして、自分が不利になったり、危害が加えられたりする可能性は低い”という結論を
出した波田は、あの夜に拾った透明な石をとりだして見せ、自分が黒いユニットに襲われたときの一部始終を
話して聞かせる。その話を聞いて少し考え込む様子を見せていた上田は、波田の持ってきた石を手にとって言った。
190
:
[タイトル未定−5]
◆yPCidWtUuM
:2005/11/18(金) 04:06:36
「話を聞く限りじゃやっぱり、この石が何か力を発揮したとしか思えないな。もしかして波田、お前が拾えなかった
もう1個の石って河本のじゃないか?」
その言葉で河本がポケットからとりだした石に、波田は確かに見覚えがあった。上田の言う通り、これは波田を襲った
3人組の1人が持っていたものだ。
「間違いないですね、これは俺を襲ったもうひとりが持ってた石だ」
「…となると、お前が拾った石ってのは他の石を飛ばす力があるんかな?」
「他の芸人のところに、ですか?」
「多分、わざわざ井上と河本のとこに来たのはこいつらと波長が合ってるんだろ」
「言われてみればそうですね。俺、自分の石のせいか何となくその人にふさわしい石ってわかるんです。この2つの石は
お2人とぴったり波長が合ってる…」
波田はそこまで言ってふと思った。この石は自分の望みを叶えたとも言えるかもしれない、と。
自分の望みは悪意を持って石を使う人間からそれをとりあげ、ふさわしい人間に渡すことだ。
井上と河本が持っている石は、もしあのとき自分が普通に拾っていたとしても、いつかどこかでこの2人に渡すことに
なっていただろう。それは自分の胸元のヘミモルファイトの意志でもある。
191
:
[タイトル未定−5]
◆yPCidWtUuM
:2005/11/18(金) 04:07:17
「けどさ波田、お前、戦闘のときの記憶もまるまる抜けてんのか?だったらこいつらの石がどんな力持ってるかは
結局わかんねーままだな」
有田はちょっと残念そうにそう言ったが、波田はそれを否定した。
「いえ、記憶全部抜けてるわけじゃないんですよ。覚えてる部分もあります。少なくともこっち、井上さんの石は
攻撃用じゃないです。戦闘中に後ろに下がってたから…ただ、そいつ確かこの石を発動しようとして失敗してたはず
なんです。何だっけな、何かおかしなこと言ってたんだけど…」
「おかしなこと?」
「ええ、発動が失敗したときに…えーと、『凍る』とか何とか…」
「『凍る』…?何だそりゃ、何か冷やす系の能力なんかな?」
「さあ、そこまでは…。河本さんの石の方はちょっとよく覚えてないんです、すみません」
192
:
[タイトル未定−5]
◆yPCidWtUuM
:2005/11/18(金) 04:07:48
記憶が混乱している波田の話は要領を得なかったが、覚えていないものは仕方ない。
有田と波田のやりとりを聞いていた上田が、少し真剣な顔をして言った。
「波田、お前を襲った奴らが力足らずでこの石の発動に失敗して自爆したっていうなら、これは多分それなりの力が
ある石だ。だとしたら黒の奴らはきっと回収のためにまた襲ってくると思うぜ。まさか石がこいつらのとこに来てることまでは
わからないだろうから、お前がまた襲われる可能性は高いと思う。気をつけろよ」
上田の、自分の身を案じる言葉をありがたく思い、波田はうなずく。
こうしてそれほどの進展も見せることなく会合は終わり、5人は酒と肴に手をつけたのだった。
193
:
[タイトル未定−6]
◆yPCidWtUuM
:2005/11/18(金) 04:08:38
珍しい酒席をそれなりに楽しんで、5人は店を後にし、ほろ酔い加減でタクシーを拾おうと歩き出した。
有田はすっかりご機嫌で、首を軽く右腕でキメたような状態で上田を引きずり、長州の『パワーホール』を
大音量の鼻歌で歌いながら前を歩く。上田は今にも倒れそうになりながらよたよたと相方に連れて行かれた。
「…離せ!首キマッてる!相方不慮の事故で殺す気か!」
「ふんふんふふ〜ん♪ ふふふふふふふふ♪ ふんふんふふ〜ん…」
…先の角を曲がったらしく姿は見えないが、ここまで響いてくるほど2人の声は大きい。
残りの3人はなんとなく固まって歩いていたが、スニーカーの紐が解けた井上は、皆から少し遅れる。
今日の集まりに使った居酒屋は奥まったところにあるので、街道に出るまでが暗いせいか、前を行く相方と波田の背が
わずかに闇に溶けてぼやけていた。吹きすぎた冷たい風に、冬が近いなと思いながら上着の襟をかきあわせる。
そういえば自分の石を使っていた奴が、『凍る』とか言ってた、と波田は話していた。
こんな季節にそない寒々しい力ってのも何やなあ、と小さくごちて、ポケットの中の金の粒に触れてみる。
その瞬間、何となく指先から石の波動のようなものが伝わってきた気がして、慌てて井上はそれをとりだした。
194
:
[タイトル未定−6]
◆yPCidWtUuM
:2005/11/18(金) 04:09:21
…光っている。
これは例の『共鳴』という奴だろうか、それにしてはこないだと違う、何か嫌な感じがする。
「…準一!」
とっさに井上は前にいる自分の相方の名前を呼んだ。そのただならぬ声の調子にふり返った河本が今度は叫ぶ。
井上の後ろに凄まじいスピードで何かの影が迫って来ていたのだ。
「聡、伏せろ!」
195
:
[タイトル未定−6]
◆yPCidWtUuM
:2005/11/18(金) 04:09:49
それに反応して井上はバッと身を伏せた。凄まじいスピードでその上を人影が飛び越える。
人影はしなやかな低い姿勢でアスファルトの上にズザッ、と急ブレーキをかけて着地し、地面を見つめたまま言った。
「…ちぇっ、ラチるの失敗しちゃったよ二郎ちゃ〜ん」
ちょっと拗ねたようにこぼした言葉は、その声の調子と裏腹にまるで穏やかでない。
しかしその声と彼が呼びかけた名前に井上は耳を疑い、河本も目を見開いて硬直した。
「駄目だろ松田、もっと静かに近づけよ」
呼びかけに答えてのっそりと表れたのは、金髪の横に大きな男。
暗闇にまぎれて近づいたのは、東京ダイナマイトの松田と高野だった。
196
:
[タイトル未定−7]
◆yPCidWtUuM
:2005/11/18(金) 04:10:43
松田は黒く闇に溶ける道の上、片膝をついて腰を沈めた体勢のまま、くしゃりと笑って言う。
「井上くん久しぶり。元気にしてた?」
「…」
その口調は親しげなものだったが、井上はとても松田のその問いに軽く答える気にはなれない。
目の前の人物は自分を背後から襲い、拉致しようとしていたのだ。いくらそれがよく知る相手であったとしても、
恐怖と不信感は消えなかった。
一人離れたこの状況はまずい。そう判断した井上は、松田の様子をうかがいつつ河本の傍まで走った。
河本の横につくと、その後ろでは波田がいつの間にかギターをとりだして襲撃者の方を睨んでいる。
その様子を松田はつまらなそうな顔で一瞥し、ぐい、と体に力を入れて立ち上がり、服の埃を払った。
「おい、二郎…!こりゃ一体何のマネや!」
井上が自分の方に走ってくるのを見てハッと我にかえった河本は、前々からの友人である高野にむかって
悲痛な叫びをあげる。しかし高野は闇の中、いつもの笑みを崩さない。人好きのするそれが今に限っては
ひどく酷薄なものに感じられた。
197
:
[タイトル未定−7]
◆yPCidWtUuM
:2005/11/18(金) 04:11:32
「…井上くんの持ってる石に用がある。この間そっちのギターの彼を襲いに行った下っ端に誰かが
持たせちまったらしくてさ。使えねえ奴がいい石持ってもしょうがねえってのに…。
そいつらが失敗したとき回収されたもんだとばっか思ってたけど、今見たら井上くんが持ってんのな。
もしお前がレインボークォーツとかサードオニキス持ってんならそれも渡してもらうわ」
高野が普段通りの口調でそう言うのを聞いて、河本は理解したくないことをやっと理解した。
この2人は黒のユニットに属していて、自分たちの持つ石を回収しにきたのだ。
高野が『サードオニキス』と口にしたとき、自分の持つ石の名前がそれであることを河本はなぜか悟ってしまった。
レインボークォーツというのはおそらく、波田の拾った石の名前だろう。
198
:
[タイトル未定−7]
◆yPCidWtUuM
:2005/11/18(金) 04:12:02
高野たちと戦闘など、間違ってもしたくはない。だが、先ほどの松田の行為はあまりにも乱暴すぎる。
たとえ友人とはいえ、自分の相方を襲おうとした2人を許すわけにはいかない。素直に石を渡すなどもってのほかだ。
河本はスッと自分のサードオニキスを掲げてみせ、言った。
「これは渡されへんで。聡ラチろうとするような奴に簡単に渡してたまるかい!」
「まあそう言わないでさ…ほら、何なら黒に来たらいいじゃん、河本も」
「…こんな物騒な奴の仲間になる気なんざあらへんわ」
「そう、じゃあしょーがねえな」
ニコニコと笑ったまま、高野はオレンジ色をした自分の石を指先でもてあそんでいる。
そんな様子に焦れたのか、先ほどからずっと黙って立ったままでいた松田が口を開いた。
「二郎ちゃん、やっちゃっていい?」
「…まず井上くんのを盗ってこい、使われるとメンドクセーから」
「…あーい」
199
:
[タイトル未定−7]
◆yPCidWtUuM
:2005/11/18(金) 04:13:20
問われた高野は動じることなく答え、松田はまたも恐るべき速さで井上に飛びかかる。
井上は避けようとしたが松田のスピードの前にそれはかなわず、すぐさまマウントをとられて体の自由を奪われてしまった。
だが井上が手の中に握り込んでいた石を奪いとるのに手間どったせいでわずかに遅くなった松田の動きが
どうにか河本の目にうつった瞬間、河本は松田を指さし、頭の中に浮かんだ言葉を思いっきり叫んだ。
「そうは酢ブタの天津どーーーーん!」
とたんに松田の体はピタリと動かなくなり、井上の手から石を奪いとったまま、固まってしまった。
その上に空から酢ブタと天津丼が思いっきり降ってきて、松田の頭にドンブリと皿が直撃し、ガツーンといい音をたてる。
幸い割れなかったドンブリと皿から溢れ出した中身がびしゃびしゃとかかって、松田はあまりの熱さにパニックを起こした。
「痛っつーーーーだあぁうあっっちいぃいいい!!!!!!」
松田に馬乗りされた状態の井上まで酢ブタと天津丼のとばっちりを受け、松田の体を突き飛ばす。
「あっつーーーー!!!何すんの準一ぃい!!!」
「あ…すまん聡…」
200
:
[タイトル未定−7]
◆yPCidWtUuM
:2005/11/18(金) 04:14:10
天津丼のアンまみれで地面をごろごろ転がる男前の相方に小さく謝って河本は駆け寄る。
その様子にあっけにとられた高野を後目に、今度は波田が動いた。いつものギターの音が鳴り出す。
「拙者、ギター侍じゃ…」
「松田、ソイツのギターを奪え!」
そのフレーズに高野はハッとした叫び、まだヘルニアの後遺症がある体をひきずって井上たちに近づいた。
高野の声にどうにか立ち上がった松田が飛びかかろうとするそのとき、波田は次の台詞を叫ぶ。
「…残念!! 松田大輔ッ… 「真剣白刃どりーーーーっ!!!」 …ぃり…っ!」
ギターが日本刀に姿を変え、松田に向かってふり下ろされようとしたが、松田の両手がギリギリで刀を
白刃どりしたことに気を取られ、波田が台詞を言い切れなかっため、松田の動きを封じるには至らない。
そのまま石の力同士がぶつかりあった波田と松田は互いにはねとばされ、地面に叩き付けられた。
完全に力を発動できなかった分波田の方が分が悪かったか、松田は何とか受け身をとったが波田は
そのまま気絶したらしく、動かない。
201
:
[タイトル未定−7]
◆yPCidWtUuM
:2005/11/18(金) 04:14:59
その激しいぶつかり合いのさなか、地面に転がったまま戦いに気をとられていた井上と、その横にしゃがんでいた
河本のすぐ近くまで高野が迫っていた。
「…つかまえた」
静かに高野の声が河本の耳元に響く。肉厚の手のひらが河本の肩をがっちりと掴んでいた。
「河本、お前のサードオニキスちょうだい。あとレインボークォーツを多分波田が持ってるから、奪って俺に返して」
その言葉とともに高野の石が光を発する。河本はビクリ、と反応して握っていた石を高野に差し出し、立ち上がった。
その様子に慌てて井上も立ち上がり声をかけるが、河本は振り返りもせずにまっすぐ波田のもとへと走っていく。
「無駄だよ、今の河本には聞こえない」
高野は笑みを含んだ声で井上に言った。井上はバッと高野の方を向いてその笑い顔を睨む。
202
:
[タイトル未定−7]
◆yPCidWtUuM
:2005/11/18(金) 04:15:38
「俺の言うこと聞くってさ、河本は…しっかしアイツの石にはびっくりしたよ、サードオニキスは持ち主の個性で
能力が変わるって聞いてたけど、酢ブタと天津丼はねえよなぁ」
くっくっ、と愉快そうに笑い声を漏らした高野の襟首を、井上がグイ、と引っぱって言う。
「…二郎ちゃん、準一に何したん」
静かに、だが激しく怒る井上の吊り上がった目にも高野はちらりとも動揺を見せない。それどころか、自分の首元を
しめあげている井上の手首を、生まれついての握力をフルに使ってぎりぎりと握りつぶそうとした。
あまりの痛みに井上が顔を歪めて高野の首から手を離すと、高野も井上の手首を離す。
「…ちょっと言うこと聞かせただけだよ。ほら、もうすぐ終わる」
言いながら高野は顎で、波田の荷物をさぐっている河本を示した。井上は相方のその姿に愕然とし、駆け寄って
河本の背中に手をかけ、揺すぶる。
203
:
[タイトル未定−7]
◆yPCidWtUuM
:2005/11/18(金) 04:16:21
「準一、何してんねん、波田くんの石あいつらに渡したらあかんて!」
河本はうるさそうに井上の手を突っぱね、波田の持つレインボークォーツを探しつづけた。
それでも止めようと井上が河本をはがい締めにしようとすると、河本は井上を力一杯突き飛ばした。
体勢を崩して尻餅をついた井上は、呆然と自分の言葉の通じない河本の背中を見やる。
ひどく悲しい気持ちで井上はのろのろと立ち上がり、ふと、すぐそばの地面に光るものを見つけた。
…金だ。
おそらく松田が波田の刀を防いだとき、手から転がり落ちたのだろう。松田はまだ背中をおさえたまま倒れている。
高野はきっと、松田がこれを落としたことに気づいていない。だから河本に「金を返せ」とは言わなかったのだ。
井上は祈るような気持ちで金に手を伸ばした。この石の使い方は知らない、だがもしこれが自分のものだというなら、
きっとこの状況をなんとかしてくれる。そう思って井上は必死で小さな金の塊を握りしめた。
とたんに光り出す石に導かれたように、井上は伸ばした両手を頭上で固くあわせ、その中に石を包んだまま、
思いっきり地面にダイブする。井上の体は高野の目の前まで勢いよく滑っていき、その足下で止まった。
204
:
[タイトル未定−7]
◆yPCidWtUuM
:2005/11/18(金) 04:17:00
「しまったっ…!」
高野の声が響き、その手の中にあった石が光を失い、凍りつく。その瞬間、河本が正気を取り戻した。
その手にはちょうど波田のギターケースから見つけたところだったレインボークォーツが握られている。
一体自分が何をしていたのかわからず、河本は周囲を見回す。そこにはやっとのことで立ち上がろうとしている松田と、
目一杯体を伸ばしたままで高野の前に倒れている井上、そしてただ立ち尽くす高野の姿があった。
「聡っ?!」
動かない相方の姿に思わず河本は叫び声をあげる。見たところ怪我のないのに安心したものの、状況が
わからないのはそのままで、とっさに河本は自分の石のことを思った。ふと手の中を見ると、そこにあるのは
自分の石のサードオニキスではなく、波田の拾ったレインボークォーツだ。サードオニキスがどこにもないことに気づき、
やっと河本の記憶がよみがえってきた。そうだ、自分は高野にあの石を渡してしまった…!
205
:
[タイトル未定−7]
◆yPCidWtUuM
:2005/11/18(金) 04:17:40
「…それちょうだい」
河本がその小さな声に振り返ると、目の前には鬼の形相の松田が立っていた。まだふらふらしている体で
松田が河本に襲いかかる。もはや松田は石の力を使えてはいなかったが、死にものぐるいで河本の手から石を
奪おうとしていた。その執念とも言うべき力に河本は必死であらがう。体勢を崩して倒れ込んだ2人の後ろから、
それまで忘れ去っていた人物の声が聞こえた。
「河本、大丈夫か!」
先に行ってしまったものだとばかり思っていた有田だった。少し遅れて上田も走ってくる。その状況を見た高野は、
すぐに松田に声をかけた。
「松田、石はいい、逃げろ!」
その声に松田は河本からはなれ、高野のもとへと走ろうとしたが、もはや石の力の反動で体がまともに動かない。
地面を這うようにして自分のもとに向かってくる松田の手をとろうと高野は必死で走り寄るが、腰に爆弾を抱えた体では
限界があった。それでも何とか松田を助け起こし、その場を去ろうとする。
206
:
[タイトル未定−7]
◆yPCidWtUuM
:2005/11/18(金) 04:18:17
しかしそのとき河本が立ち上がり、レインボークォーツを握りしめたまま叫んだ。
「ふざけんなや、俺の石返していかんかい!!!」
…その叫びが闇に響き渡るとともに、河本の手の中で石が虹色の光を発する。その眩しさに全員が目をひそめた。
207
:
[タイトル未定−8]
◆yPCidWtUuM
:2005/11/18(金) 04:19:22
それからどのくらいの時間が経ったのかはわからない。
気づくと河本のもう一方の手の中には、サードオニキスが再び握られていた。
だが、河本にはなぜその石が再び自分のもとへやってきたのかさっぱりだ。
「うう…」
小さなうめき声に振り向くと、波田が起き上がろうとしていた。その横でなぜか正座した状態になっていた有田と
いつのまにか尻餅をついたままだった上田も気がついたのか、頭を振って目をぱちぱちさせている。
その様子を見ていて井上のことをすぐ思い出した河本が、彼の倒れていたはずの場所を見やると、そこには
体育座りで縮こまって震えている相方の姿があった。
208
:
[タイトル未定−8]
◆yPCidWtUuM
:2005/11/18(金) 04:21:14
「聡!大丈夫か!」
河本は井上に駆けより、異常な状態の相方に声をかける。すると井上は、紫色の唇でぽつりと呟いた。
「寒い…」
その手には金の粒が握られており、河本はこの井上の状態がおそらく石の力の反動であろうと察する。
確か波田を襲った刺客が『凍る』とか言ったと聞いた、これのことだろう。しっかりしろ、と井上の背中をさすり、立たせてやる。
「井上、コレ着とけ」
その様子を見ていたらしい上田が寄ってきて、侠気にあふれる発言とともに自分の上着を差し出した。
「…いやー上田さんオットコマエですねえ、ナーンにもしなかったくせに」
「…お前もだろ!大体お前が俺の首キメたまま歩ッてったからこいつらが襲われたの気づかなかったんじゃねーか!」
「いやいや上田さん、気づいてても貴方は戦闘の役には立たねえし同じですから〜!…残念!」
「有田さん、それ俺のネタです…」
「有田お前、大概にしとけよ…?」
209
:
[タイトル未定−8]
◆yPCidWtUuM
:2005/11/18(金) 04:22:25
有田の襟首をつかもうとして逃げられた上田はおちゃらけまくった相方を怒り心頭で追いかけ回す。
波田は松田との戦いでネックの折れてしまったらしいギターを拾いつつ、その様子をおろおろと見ている。
結局上田の上着を羽織ることにした井上と、その横に立つ河本は、何て緊張感のない人たちだろうと
この先輩たちに軽く尊敬すら覚えて覚えていた。
「…そういや、襲ってきた奴ら、どうしたんだ?」
有田を追いかけ回して疲れたらしい上田が、今度は逆に自分が相方の首をキメながら戻ってきて聞く。
有田は「ギブ!ギブ!」と叫んで上田の腕を叩いているが、解いてやる気はさらさらないらしい。
「あれ、そういやどしたんやろ…」
河本はぽつりと呟いて周りを見てみるが、松田と高野の姿はない。そして河本の脳裏からは、レインボークォーツが
光った後の記憶が全て消えていた。
210
:
[タイトル未定−8]
◆yPCidWtUuM
:2005/11/18(金) 04:23:30
「俺も松田さんとぶつかった後の記憶がないんです」
「ああ、気絶しとったからやろ」
「俺もこの石、拾った後の記憶がないわ…マグロになったのは確かやねん」
「は?マグロ?」
「うん、何かな、マグロやらなあかん気がして、滑ってったんよ、そしたら二郎ちゃんとこ着いて…そうや、二郎ちゃんの
石の力、多分俺の石ん中に凍ってる」
「二郎の力?」
「この石、きっとそういう力があんねん」
「…」
しんみりと井上の手の上の金の粒を皆が見つめる中、有田の弱々しい声が聞こえてくる。
「う…えだ…、し、し…ぬ…」
「…っ、すまん有田!」
…石に気を取られて力の調節を忘れていたらしい上田の腕に首をキメられまくっていた有田は、軽く絶命寸前だった。
211
:
[タイトル未定−9]
◆yPCidWtUuM
:2005/11/18(金) 04:24:05
「二郎ちゃん、腰大丈夫?」
「おー、何とか…お前足とかもう平気か?」
「んー、しばらく無理っぽい」
有田が相方の手で死にかけていた頃、東京ダイナマイトは少し離れた公園でぐったりしていた。
実はレインボークォーツが光り、高野の手からサードオニキスが失われた瞬間、彼らの前に赤いゲートが現れていたのだ。
そう、彼らを助けたのは黒の重鎮、土田だった。ゲートの中から土田が手を伸ばし、力一杯引っぱり込んで
この公園までつれてきたのだ。土田は一言「…疲れさせんなよ」と言い残し緑のゲートで去っていった。
「…今回は俺らの負けか」
「だねえ…悔しいけどさ」
松田と高野は顔を見合わせる。そしてつい吹き出した2人の笑い声が夜中の公園に響く。
どこぞのマンションの窓から「うるせえぞ!」と怒られ、また笑い、ひとしきり笑ってから公園を後にした。
…彼らの戦いもまた、終わらない。
212
:
◆yPCidWtUuM
:2005/11/18(金) 04:28:08
次長課長
井上聡
石:金(確実な助言と力)
能力:
その場にいる石を持っている人間の中で、もっとも自分にとって危険な存在を特定し、その能力を封じられる。
「築地のマグロ」になった井上が滑ってたどり着く先が最も危険な存在と特定され、その能力が井上の中に冷凍される。
例)1つの部屋の中に井上以外にAB2人の石の能力者がいたとする。
A:井上とその仲間への害意がある、石の力は弱い
B:井上とその仲間への害意がない、石の力が強い
この場合は、あくまで「自分にとって」危ない存在を特定するので、Bの力が冷凍される。
また、肉体的な害、精神的な害どちらにも反応する。
条件:
危険な人物に特攻していく形になってしまうというリスクがある。しかも井上自身は完全に冷凍マグロと化すので、
いっさいの攻撃/守備ができなくなり、その場にマグロの姿のまま放り出される。一回の戦闘につき一回の、捨て身の技。
能力を解除した後、冷凍の後遺症でしばらくの間寒くてたまらなくなる。また、その場の戦闘がすべて終わると
自然に井上は元に戻るが、井上の中に冷凍された能力は、次に井上が他の人間に能力を使うまで使えなくなる。
213
:
◆yPCidWtUuM
:2005/11/18(金) 04:32:00
河本準一
石:サードオニキス/別名:赤縞瑪瑙(人間愛、夫婦愛。個性を引きだす。内臓への活力。)
能力(1):例の顔マネと「お前に食わせるタンメンはねえ!」の台詞とともに中華料理屋の扉が出現、攻撃をはね返す。
能力(2):「そうは酢ブタの天津丼!」の台詞とともに指さした敵の行動を10秒止め、頭上に酢ブタと天津丼をおみまいする。
条件:
扉のサイズ以上の範囲はカバーできない。出現するのは横にひいて開ける2枚扉でのれん付き。街の中華料理屋や
ラーメン屋に多い磨りガラス製の扉。強度は銃弾を通さない強化ガラス程度。反射できるのは物理攻撃のみ。
また、台詞をかんだり顔マネが中途半端だったりすると扉の強度が下がる。1日に3〜4回くらいが限度。
酢ブタと天津丼は火傷するほど熱い。また、止められる行動は人間の運動行為のみで1人の敵につき1回が限度。
つまり「走り出そうとしている人」「人を殴ろうとしている人」「何か投げようとしている人」などを止めることはできるが、
「その場で動かずに何かおこなおうとする人」「頭の中で何か考えている人」「人が投げた物体」を止めたりはできない。
全能力を使いはたすと、河本は朝から晩まで休みなく厨房で働いたくらいの疲労感におそわれ、まともに動けなくなる。
*ちなみにサードオニキスは「個性を引き出す」とのことですので、持つ人によって違う力を持つという設定をつけてみました。
214
:
◆yPCidWtUuM
:2005/11/18(金) 04:32:52
波田が拾った石
石:レインボークォーツ(七つの光が願いを叶える)
能力:
持ち主の、他人に関する害意のない望みを叶える。ただしもとの状態以上に他人の能力を引き上げたり、
存在しないものを作り出して他人に与えるような力はなく、使用者自身に関する望みも叶わない。
つまり、「仲間の怪我を治したい」「遠くにいる仲間に自分の持っている傘を武器として与えたい」は叶うが、
「自分の怪我を治したい」「仲間の力を限界より強くしたい」「仲間にバズーカ砲を作り出して与えたい」は叶わない。
条件/代償:
他人に害を与えることを望む場合には、同等の害が使用者自身にももたらされるため注意を要する。
「敵に動けなくなるほどの怪我を負わせたい」という願いは叶うが、同時に自分も動けなくなるほどの怪我を負う。
叶えられる望みの大きさは「使う人間の実力」「石とどの程度波長が合うか」に左右される。
また、石を使用した際、その石に関することを中心に、使用者とその場にいたものの記憶が曖昧になる。
望みの害意のあるなしに関わらず、石が叶えた望みが大きければ大きいほど、記憶の損傷は激しい。
215
:
◆yPCidWtUuM
:2005/11/18(金) 04:39:46
おしまいです。河本の能力(1)を設定しておいて使えなかったのが心残りです。
あとレインボークォーツの行方をもうちょっとくらましとけば良かったと思いました。
この先も河本が持ちっぱなしってことはないと思います。
土田ももっと出したかったのですが、東京ダイナマイトとの接点が見つからず中途半端に…。
ちなみにこの話、ごく最近のことです。
次課長とくりぃむの共演番組は『くりぃむナントカ』あたりのつもりで書いてました。
やたら長い話になってしまいましたが、ご意見いただけると嬉しいです。
直すべきところや誤字脱字、設定の問題点などあったら教えてください。
216
:
◆yPCidWtUuM
:2005/11/18(金) 04:43:03
あと、江戸の者なので関西弁/岡山弁はおかしいところ多々あると思います。
その点も教えていただけたら嬉しいです。
217
:
名無しさん
:2005/11/18(金) 13:22:55
大作乙、超乙!
能力も単体だと何かとみんな面白いのに、戦闘の緊迫感が凄かったです。
そして戦闘とおちゃらけの使い分けがすげー!
自分はそんな風に書けないからめっちゃくちゃ尊敬します。
自分はこれをまんま投下でも大丈夫だと思いますよ。
218
:
名無しさん
:2005/11/19(土) 10:22:47
スピワとピースって何か共演したことありますかね?
ちょっとその二組で思いついたんで・・・
219
:
名無しさん
:2005/11/19(土) 14:16:26
心の底から乙!大作堪能しました。リアルに映像が浮かんできました。
しかしくりぃむしちゅーはどの方の作品でも緊張感ないなw
ところで、>200の5行目は
>そのフレーズに高野はハッとした叫び、
は、「ハッとして叫び」ですかね?細かくてすみません。
自分もこのまま投下で大丈夫かと思います。
220
:
◆yPCidWtUuM
:2005/11/19(土) 16:26:56
>>217
感想ありがとうございます。河本の能力はおちゃらけすぎかと不安だったので
そう言っていただいてホッとしました。ちょっと手直しして投下してきます。
>>219
感想&指摘ありがとうございます。ご指摘の部分、その通りです。
やはり夜中に書くと凡ミス出ますね。自分でも何カ所かおかしいところを
見つけたので、ちょこちょこミスを直したり細かい書き足ししたりして
投下することにします。多分今晩か明日あたり。
徹頭徹尾緊張感のあるくりぃむをそのうち書いてみたいw
おちゃらけゼロだけどそれらしいあの2人ってかなり難しそうですなw
>>218
たぶんしてないと思うけど、自分で調べてみたほうがいいかも。
221
:
名無しさん
:2005/11/20(日) 11:52:41
>>220
有難う御座います。調べてみます。
ところで名前欄の英語はどうやってだすんですかね…?
宜しければ教えてください。
222
:
◆bZF5eVqJ9w
:2005/11/20(日) 12:31:07
>>221
名前欄に半角#と
その後ろに好きな文字を八文字入れるだけですよ。
ちなみにトリップと呼ばれています。
223
:
◆/KySNfOGYA
:2005/11/20(日) 19:16:33
>>222
成程。トリップと言うんですね。ご親切に教えていただいて有難う御座います。
224
:
ジーク
◆Zw4Un748XA
:2005/12/14(水) 23:34:20
ちょっとばかし入院してました。
久しぶりに投下する前に、こちらに落とします。
225
:
ジーク
◆Zw4Un748XA
:2005/12/14(水) 23:46:29
中川の電話から約20分程前の事
「…で、アイツ理不尽な理由でキレるんすよ〜!」
「大変そうやな…」
雑談しながら歩くうちに、人通りの少ない路地に入る二人。
「人通りが少ないとこに来てもうたけど、飲み屋とかあるんか?」
幾分心配になってきた中川が後輩に尋ねる。
「……多分、道間違えたかも知れないっすね。」
「おいおい…頼むからしっかりしてくれや〜?」
自信なさげに答える藤原に、情けない声を出す中川。
引き返そうと後ろに振り返ると、今まで自分達以外は誰も居なかった筈なのに、いつの間にか二人の男が背後に立っていた。
「中川…奇遇やんなぁ。」
黒のシャツに黒のレザーパンツを履いた細身の男が、中川に話し掛ける。
「お前ら……いつの間に……」
全く気配を感じられなかった中川は、二人の姿を目にし驚愕の声を上げる。
「あれ?……浜本さんに白川さんやないですか!お久しぶりです!!」
藤原の前には、かつて大阪に居たとき世話になった、先輩の10$の浜本と白川がそこに居た。
「久しぶりやんなぁ〜藤原。元気しとったか?」
人の良さそうな笑顔で藤原達の方に歩き出す浜本。
「………来んといてや。」
今まで見せた事の無い険しい表情で、浜本に言い放つ中川。
「中川さん?」
明らかに先程とは違う中川の雰囲気に、子を困惑する藤原。
「……穏やかやないなぁ…中川。」
中川の態度にニヤリと笑う浜本。
その目にはどこか狂気の光が宿っている。
『な…何なん?何がどうなってんねんな?!』
今の状況に思考がついて行けず、混乱し始める藤原。
その時、混乱した藤原の思考を醒ます様に、藤原の持つ石『ユナカイト』が熱を帯びながら輝き始める。
「熱っ!!」
主の危機を知らせる石はますます強く光り輝く。
「藤原、何なんその光は?」
服越しでも分かるほど石は輝き、その光のあまりの強さに中川は驚きながら藤原に問い掛ける。
226
:
ジーク
◆Zw4Un748XA
:2005/12/14(水) 23:47:47
「……ましょう。」
「は?」
「逃げましょう!中川さん!!」
中川の手を引きつつ、浜本と白川に背を向け全速力で走り出す藤原。
「逃げれへんぞ藤原。俺らからはな………白川!」
「………」
虚ろな目で白川は手にはめたリングをかざして念じる。
すると、何かはっきりとは見えない力場が辺りを包み始め、藤原と中川の前にも見えない何かが立ちはだかる。
「なっ!!」
「しまった!閉じ込められたか!!」
先へ進もうとする藤原が、例えるなら見えない壁に邪魔されている。
そんな感じだった。
「逃げれへんぞ〜2人共〜」
クスクス愉しげに笑いながら2人の背後に迫る浜本。
「……闘り合う気ぃですか?」
恐る恐る尋ねる藤原。
その手にはユナカイトが握り締められ、臨戦態勢だ。
「別に、石を置いてこの場から居らんくなってくれるんなら、こっちも手ぇは出さへんで?」
笑みを貼り付けたまま返答する浜本。
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