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仮投下スレ2

1もふもふーな名無しさん:2009/05/15(金) 20:32:18 ID:SF0f54Dw
SS投下時に本スレが使えないときや
規制を食らったときなど
ここを使ってください

458 ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/23(木) 23:01:32 ID:/WCPsINo
高町なのは、冬月コウゾウ、ケロロ 仮投下させていただきます。

前編・中編・後編と、無駄に3話構成だったりします……

459脱ぎ捨てしもの(前編) ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/23(木) 23:02:38 ID:/WCPsINo


「こ……子供になっちゃった……?」
「ケロ〜! 高町殿〜!!」

 ここはG−2エリアにある温泉の施設の中。
 ちょっとしたトラブルから、夢成長促進銃によってなのはは子供の姿になってしまった。
 そんな彼女を前にして呆然とするケロロ。
 そしてさすがの冬月もこの異常事態に驚きを隠せなかったが、今はそれどころではない。
 放送はもう始まっているのだ。

「高町君、ケロロ君。とにかく放送を聞くんだ。
 私は要点をメモしておくが、君たちもよく聞いておいて後で確認してくれ」

 冬月は2人にそう言って手に持っていた3枚のDVDを手近な机の上に置き、デイパックを開いた。
 そして支給されている基本セットの中にある紙と鉛筆を取り出し、メモを取る準備をする。

「あ、はいっ。わかりました」
「わ、わかったであります、冬月殿!
 マッハキャリバー殿もよろしくであります」
『了解です。放送の内容を記録します』

 なのはとケロロが、そしてマッハキャリバーが冬月にそう答えて放送に耳を傾ける。
 なのはは9歳の頃の姿になって夢成長促進銃を持ったまま。
 ケロロは濡れた床で滑って転んだあと、立ち上がろうと起き上がった所だ。

 ちなみになのはは子供になったせいで浴衣がだぶだぶになっていて、とっさに胸元を押さえている。
 ここには老人と宇宙人ガエルしかいないので、誰も気にしていないのだが、乙女のたしなみと言った所だろうか。

 放送では草壁タツオがなにやら前置きを語っていたが、3人はあまりそれを聞く事はできなかった。
 だが、重要な事は言っていなかったようなので、3人は禁止エリアの発表に意識を集中する。

「19時、F−5。
 21時、D−3。
 23時、E−6か……」

 そうつぶやきながら冬月はメモを取っていく。
 今回はかなり島の中央が指定されたようで少し気になったが、今はそれを確認する暇はない。
 放送はまだ続いており、次は死亡者が発表されるはずだったからだ。

460脱ぎ捨てしもの(前編) ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/23(木) 23:03:09 ID:/WCPsINo

『次はいよいよ脱落者の発表だ、探し人や友人が呼ばれないかよく聞いておいた方がいいよ。
 後悔しない為には会いたい人には早く会っておく事だよ―――せっかくご褒美を用意してあげたんだから、ね?』

 そんな草壁タツオの前置きには耳を貸さず、冬月は死亡者の名前だけを聞き逃さないように集中する。
 なのはとケロロも思う所はあるのだろうが、今は黙って耳を傾けていた。

 だが、なのはの幼い顔には悲痛な表情がはっきりと浮かんでいる。
 何しろ、あの火事の中からヴィヴィオという少女とその仲間が生きて逃げ出せたかがこれでわかるはずなのだ。
 無理もない事だと思いつつ、冬月もまた、加持やアスカ、シンジ、タママ、小砂らの無事を祈る。

 そして、死亡者の名前が次々に発表されていく。

『朝比奈みくる』

「ん? この名前は……」

 そうつぶやいた冬月になのはとケロロがどうしたのかと視線を送る。
 冬月は掲示板に目を通していたため、この名前を知っていたのだが、今は放送の最中である。
 説明は後でいいだろうと判断し、黙って首を振っておく。

『加持リョウジ』

「加持君が……?」
「ケ、ケロ〜〜! 加持殿っ……!!」
「加持さんっ……!!」

 加持の名前があげられ、3人が全員思わず声を上げる。

『草壁サツキ』

「…………」

 知っていたとは言え、サツキの名前を聞くと3人の間に重苦しい空気が流れた。

『小泉太湖』

「この名前、小砂君か!?」
「そんな。小砂ちゃんまで……」

 冬月となのはがつぶやく。
 貴重な協力者だった。守るべき人の1人だった。
 あの小さくともたくましい少女にはもう会う事はできないのか。

461脱ぎ捨てしもの(前編) ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/23(木) 23:03:42 ID:/WCPsINo

『佐倉ゲンキ』

 3人は反応しない。
 誰も知らない人物だったようだ。

『碇シンジ』

「シンジ君もか……!」

 冬月が再び小さく声を上げる。
 とうとうシンジと冬月はこの島で会えないまま、永遠の別れを迎えてしまった。

(碇……すまない。お前とユイ君の息子を守ってやれなかった……)

 冬月は心の中でそうつぶやき、無念そうに顔を伏せる。

『ラドック=ランザード』

『ナーガ』

 この2名は続けて誰の知り合いでもなかったようだ。

『惣流・アスカ・ラングレー』

「そうか……アスカ君も……」
「アスカ殿が……」
「アスカ……」

 3人ともアスカには複雑な思いがあるが、死を望んではいなかった。
 むしろ冬月やなのはにとってはいまだにアスカは保護すべき対象ですらあったのだ。
 だが、そのアスカもどこかで命を落とした。また救えなかったのだ。

『キョンの妹』

 その名前には誰も反応しない。
 そして、その名を最後に今回の死亡者発表は終わったようだった。

『以上十名だ、いやあ素晴らしい!
 前回の倍じゃないか、これなら半分を切るのもすぐだと期待しているよ。
 ペースが上がればそれだけ早く帰れるんだ、君達だってどうせなら自分の家で寝たいよね?』

「なんという言いぐさでありますか……!」
「ケロロ君。気持ちはわかるが放送が続いているから今はこらえてくれ……」
「ケ、ケロ〜……」

462脱ぎ捨てしもの(前編) ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/23(木) 23:04:29 ID:/WCPsINo

 その後の草壁タツオの話は、主催者に反抗して命を落とした参加者が居たというものだった。

『念の為言っておくけど僕達のかわいい部下も対象だよ?
 あと逆らった人が敵だから自分は無関係というのも無し、その場に居た人は全員連帯責任さ。
 勝手な一人の所為でとばっちりを食らうなんて君達も嫌だろう?
 愚かな犠牲者が二度と出ない事を切に願うよ。』

『話が長くなったけどこの勢いで最後まで頑張ってくれたまえ! 六時間後にまた会おう!』

 こうして第3回、18時の放送は終了した。







「加持さん、サツキちゃん、小砂ちゃん、アスカ……」

 風呂場の脱衣所で、なのはが死んでしまった知り合いの名前をつぶやく。

 放送の後すぐに禁止エリアや死亡者の確認をしてから、彼女は改めて小さい浴衣に着替えに来たのだ。
 さっきまで着ていた浴衣は大きすぎて体に合わず、万が一の場合にも邪魔になるからだ。

 だが、着替えに来た理由はもう一つある。
 少しだけ落ち着いて考える時間が欲しかったのだ。
 あまりにも多くの死亡者。守れなかった人たち。
 それらを受け入れ、気持ちと考えを整理する時間がなのはには必要だった。

「ヴィヴィオや朝倉さんやスバルが生きていた事は嬉しいけど、喜ぶわけにはいかないよね。
 あんなにたくさんの人が亡くなっているんだから。
 それに、あの小砂ちゃんまでが……」

 だぶだぶの浴衣を脱いで小さいサイズの浴衣に袖を通しながら、なのはは悲痛な面持ちでつぶやく。
 自分の腕の短さに少し違和感を感じたが、今はそれよりも死んでしまった人たちの事に意識が向かっていた。

463脱ぎ捨てしもの(前編) ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/23(木) 23:05:10 ID:/WCPsINo

 例えば、なのはを師匠と呼んで慕ってくれた小砂。 
 サツキが冬月を刺した場所で別れてから行方が知れなかったが、あの後一体何があったのか。
 一体どんな死に方をしたのだろう。
 やはり誰かに殺されたのか。
 自分の居ない所で起こった事はわからない。
 側にいない人は守れない。何もできない。後から結果を知って後悔するだけ。

 これからもこんな事を繰り返すのか。
 知らない所で死んでいく人の名前を放送で告げられて後悔して。
 目の届く場所にいる人を守ろうと必死になって、守れなくて後悔して。
 でも事態は何も変わっていなくて。
 それどころか悪くなっていく一方で。

「このままじゃ……いけないんだ。
 ちっとも前に進んでない。
 時間が流れて死ぬ人は確実に増えていくのに、事件の解決には少しも近づいてない。
 ただみんなを守るだけじゃ足りないんだ。
 ここからみんなで生きて元の世界に帰るには、あの主催者たちを何とかしなきゃ。
 でも、一体どうすればいいのかな、マッハキャリバー……」

 浴衣の前をあわせながら、なのはは胸元にぶら下がっている青いクリスタルのペンダントに話しかける。
 なのはが風呂から上がったので、マッハキャリバーは再びなのはが持つ事になったのだ。

『主催者を打倒するには我々の状況はあまりにも不利と言えます。
 しかし、それでもなお戦う事を選ぶのであれば、
 まず首輪を外すか無力化する方法を考える事が先決ではないでしょうか』
「そう……だね。
 この首輪がある限り、私たちは逆らえない。
 戦うどころか逃げる事さえできないし、逆らったらあの男の子みたいに液体に……」

 首輪に触りながらなのはは小さくため息をつく。

『まだ道が断たれたと決まったわけではありません。
 及ばずながら私も微力を尽くします。
 元気を出して下さい。Ms.高町』
「マッハキャリバー……ありがとう。
 うん。私、諦めたりしない。絶対ヴィヴィオを、みんなを守って、ここから助け出してみせるよ」

 そう言いながらなのはは浴衣の腰ひもを結び、その上に温泉に置いてあった紺色の羽織を着る。
 しばらくはこの格好で居る事になりそうなので、浴衣一枚ではさすがに体を冷やすからだ。

464脱ぎ捨てしもの(前編) ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/23(木) 23:06:18 ID:/WCPsINo

 そして、着替えを終えたなのはは改めて鏡を見る。
 そこに写っているのは温泉備え付けの浴衣を着た小さな女の子。
 エースオブエースと呼ばれた自分ではない。
 なのはな思わずくすりと小さく笑ってしまった。

「こんな時に、こんな事で笑ってたら不謹慎かな。
 でも、なんだか変な感じ。私ってこんなに小さかったんだね」

 そうつぶやいてなのはは鏡の前でくるっと回ってみたりポーズを取ってみたりする。

 しかし、動いてみて実感したのだが、腰のあたりに微妙に違和感がある。
 体が小さくなったせいで相対的にショーツがかなり大きくなっており、ぶかぶかなのだ。

 ――ちなみに、胸がぺったんこになっているので、すでにブラジャーは外している。

「……ずり落ちて来そうでいやだな。
 いっそ履かない方がいいのかな?
 万が一戦闘中にずり落ちてきてそれが元で死んじゃったりしたら冗談にもならないし」
『バリアジャケットをズボン型に変更すれば対応できるとは思いますが……』
「そうだけど、ずっとバリアジャケットを装着してもいられないし……」
『休息を取ろうという時には特にそうですね。
 Ms.高町が気になさらないのであれば、私としてもこの状況で大きすぎる下着は履かない事を推奨しますが』
「う〜〜ん……」

 乙女の羞恥心と現実の板挟みになってなのはは少し迷ったが、しばらくうなった末に決断する。

「決めた! 脱いじゃう!
 浴衣の時は下着つけないって聞いた事あるし、こんな状況で気にする人いないよね、きっと!」

 そう言ってなのはは一旦羽織を脱ぐと、腰ひもをほどいて浴衣をはだけてショーツを脱ぎ捨てる。
 下着を履かなくても別に害は無いのだが、心理的に違和感は拭えない。
 しかし、万が一にもパンツがずり落ちたせいで死ぬのは嫌だし、せいぜい大人に戻るまでの辛抱だ。
 なのははそう考えて、顔を少々赤くしつつ、また浴衣の前を合わせて腰ひもを締め直す。
 そして、最後にまた羽織を着て着替えは完成だ。

「うん。大丈夫。たぶん一見しただけじゃわからない……よね?」
『そうですね。それに、子供の体型であればさほど気にする必要はないかと思われます』
「うん。ただ、元に戻る時は気をつけないとね……」

465脱ぎ捨てしもの(前編) ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/23(木) 23:07:01 ID:/WCPsINo

 なのははそうつぶやきながら改めて自分の姿を鏡で確認する。
 戦闘などで動き回ればひどく危険な状態になりそうだが、戦闘になればバリアジャケットに着替えるはずだ。
 今のなのはのバリアジャケットはミニスカートで危険だが、バリアジャケットの変更は可能である。
 少女時代に使っていたバリアジャケットならスカートは長いので、おそらくなんとかなるだろう。



 そして、ひとしきり自分の姿をチェックして一息つくと、なのははまっすぐに立って鏡に写る自分の姿を見つめる。

 そうやって幼い頃の自分の姿を見ていると、その頃に出会った幼いフェイトの姿が自分の横に見えるような気がした。
 あれだけ泣いたのに、死んでしまった親友の事を思うとまた目頭が熱くなって涙が出そうになる。
 だが、なのははそんな感情を振り払うようにぶんぶんと首を振り、ぐっと両拳を握って気合いを入れた。

「よしっ! 戻ろう!
 まだまだ、私は元気なんだもん。くよくよしてる場合じゃないよ。
 行こう、マッハキャリバー!」
『はい。Ms.高町』

 そう言ってなのはは脱いだ下着の上下と大人用の浴衣を抱えて脱衣所を出た。
 なんとなく口調が子供っぽくなっているのは鏡で今の自分の姿を確認したせいかもしれない。
 しかし、そのおかげでこれまでの自分と今の自分を切り替える事ができたとも言える。
 温泉でいくらか回復できた事もいい方向に作用したのかもしれない。
 いずれにせよ、子供になってしまった事は、なのはにとって悪い事ばかりでもなかったようだ。

(フェイトちゃんも、きっと私に頑晴れって言ってくれる)

(ヴィヴィオを。スバルを。この島に連れてこられた人たちみんなを助けて欲しいって願ってる)

(だから行くよ私。負けない。絶対諦めない。最後までくじけない)

(フェイトちゃん。だから、ヴィヴィオを、みんなを、……そして、私を見守っていて下さい――)

 そんな思いを胸に、冬月とケロロの元に向かうなのはの背を、窓から入った夜風が優しく押す。
 その風から自分を励ますフェイトの想いを感じたような気がして、小さな少女は少し表情を和らげた。

466脱ぎ捨てしもの(前編) ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/23(木) 23:07:32 ID:/WCPsINo





「加持殿……さぞや無念だったでありましょう。一体誰が加持殿を……
 しかし、我輩きっと犯人を見つけて償わせるであります。
 冬樹殿やメイ殿を殺したヤツらと同じように……
 だから、草葉の陰から見ていて欲しいであります……」

 なのはが着替えに行った後、温泉施設のロビーでケロロがつぶやいた。
 だが、その表情は怒りに震えているといった様子ではない。
 何か不安を感じているような。どこか犯人に怒りをぶつけるのをためらうような雰囲気があった。

 そんなケロロを少し心配そうに冬月が見ている。

(ケロロ君も気付いているのか? タママ君が加持君を殺したという可能性に……)

 ケロロもタママと加持の間がうまく行っていない事は知っていた。
 だからこそ彼らを二人っきりにして話し合わせ、仲良くなってくれる事を期待していたのだ。
 だが、2人は転移装置によってどこかへ消えてしまった。
 そして加持の死。

 冬月のようにマッハキャリバーから2人が消える直前まで争っていた事を知らなくとも、想像はするかもしれない。
 そして、その事を知っている冬月にとっては、タママへの疑いはケロロよりも強い。

(しかし、タママ君はタママ君なりにケロロ君やサツキ君を守ろうとしていたのだ)

(仮に、犯人がタママ君だったとしても、タママ君への対応は難しくなるな……)

 タママが思い違いからそんな行動を取ったのなら説得して罪を理解させる事が正しい道だろう。
 だが、冬月にも加持が何かを企んでいた可能性は否定できないのだ。
 彼は基本的には頼れる男だったが、有能であるがゆえに信用ならないという面も確かにあった。
 加持がサツキの支給品を盗んだというタママの言葉も嘘や見間違いとは限らない。
 だとすれば、充分疑う余地はある。

(だが、たとえそうだったとしても、加持君を殺して決着をつけるという方法を選ぶべきではない)

(少なくとも私にとってはそれが正しい。だが、味方に害が及ぶ前に何とかしようという考えもひとつの正解だろう)

 だから冬月はもしタママが犯人でもタママを罰する事には気が進まなかった。
 たとえ考えが違っても、タママは大事な仲間なのだ。
 やり方に問題があるとしても、望みは同じだったはずだ。
 今冬月達に必要なのは固く結びついた絆である。
 冷たいようだが、たとえ加持の死が原因であっても、できる事なら仲間同士で争う事は避けたいのだ。

467脱ぎ捨てしもの(前編) ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/23(木) 23:08:14 ID:/WCPsINo

(絆か。タママ君が加持君を殺したとして、それを隠して絆を結ぶなどとは。ただの欺瞞なのではないか……)

(いかんいかん。いつの間にかタママ君が加持君を殺したと決めつけている。私とした事が、軽率だな)

 何もタママが加持を殺したと決まったわけではないのだ。
 ならば今はタママが殺したのではないと信じてやるべきだろう。
 もしも再開できてその時に何か明確に疑わしい事があったならその時に考えればいい。
 今からタママを擁護する事を考えるなど、タママに対しても失礼だ。



「冬月殿。何か考え事でありますか?」

 冬月がタママについての考えに区切りをつけようとしていると、ケロロが声をかけてきた。
 どうやら難しい顔をして考えていたので心配されてしまったようだ。

(いかんな。顔に出てしまっていたようだ。なるべくケロロ君には余計な心配をさせないほうがいい)

 冬月はそう考えて、とっさに平静を装ってケロロに答えた。

「……いや、たいしたことではないんだ。
 これから考えねばならない情報の事を頭の中で整理していただけだよ」
「そうでありますか。
 確かにこれからどうするべきか。考える事は多いでありますなあ」

 どうやらケロロにはそんな冬月の考えは気取られなかったようだ。
 冬月は長年の人生経験から身につけた厚い面の皮を今はありがたく感じつつ、言葉を続ける。

「ああ。だが、何とかせねばならない。
 このままあの草壁という男を喜ばせてなどやれるものか」
「もちろんであります!
 力を合わせて、必ずあの男ともう1人の主催の娘っこをギャフンという目にあわせるでありますよ、冬月殿!」

 ケロロのそんな言葉に冬月は心からの肯定の意を込めて頷いた。

(そうだ。このまま皆の命を、そして私の命をあいつらの好きになどさせてはならんのだ……)

(そのためにできる事は。やらねばならない事はなんだ。考えろ、冬月コウゾウ)

 打倒主催者を叫び気合いを入れるケロロとはまた別のベクトルで冬月も気を引き締めていた。

 戦う力を持たず、特殊な能力もない自分にできる事は考える事だけだ。
 ならばそこに全力を尽くさねばならない。
 冬月はそんな思いを胸に、静かに闘志を燃やすのだった。

468脱ぎ捨てしもの(中編) ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/23(木) 23:10:24 ID:/WCPsINo


 着替えを終えたなのはが温泉施設のロビーに戻った後、冬月は2人に発見したノートパソコンの説明を始めた。
 ケロロが発見したDVDの事も気にはなったが、内容を見るには時間がかかりそうだった。
 だから一旦その3枚のDVDはデイパックにしまっておき、パソコンの方を優先する事になったのだ。

 ロビーのソファーに座り、パソコンを立ち上げた冬月がまず最初に2人に見せたのは掲示板だった。

「掲示板? こんなものがあったなんて……」
「すでにいくつか書き込みがあるようでありますな」
「うむ。それで、まずこの最初の書き込みを見て欲しい。
 この朝比奈みくるという人物は先ほど死亡者として名前があがっていただろう」

 冬月にそう言われて2人は掲示板の最初の書き込みを読んでみる。
 そこには『朝比奈みくるは主催者の仲間です。あの女を殺してください』と書かれていた。
 ちなみにこの書き込みはシンジによるものだが、冬月たちがそれを知る術は無い。

「この掲示板を見ていたから冬月さんは彼女の名前を知っていたんですね?」
「そういう事だ。ただ、この書き込みが真実かどうかは何とも言えない所だ。
 そもそも主催者の仲間だから殺してくれというのが短絡的すぎる。
 私としては、いささか感情的すぎるという印象を受けるな」
「そうでありますなあ。
 しかし、その朝比奈という方も亡くなってしまったわけであります。
 もしやこの書き込みを読んだ参加者に殺されたのでありましょうか?」
「それもわからないな。
 わからないが、そういう可能性もある。
 掲示板に書き込む時はそういう事も考えておかないと無用の衝突を生みかねないという事だな」
「そう言えば、朝比奈みくるっていう名前はさっきのDVDにもありましたね。
 長門ユキ、朝比奈ミクル、古泉イツキの3人……なぜこの3人なんでしょうか?」
「この3人に何らかの繋がりがあると見る事もできるな。
 そうするとこの書き込みもあながち嘘ではないという事になるが……
 しかし、はっきりした事はあのDVDを見てみない事にはなんとも言えないだろう。
 このパソコンでも見られるかもしれないが……まあ、それは後にしようか」

 冬月の言葉に2人は頷き、さらに掲示板の書き込みを読み進めていった。

469脱ぎ捨てしもの(中編) ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/23(木) 23:11:06 ID:/WCPsINo

「おっ? この書き込みは……ドロロのやつでありましょうか?」
「む? 知っているのかねケロロ君?」

 次の書き込みを見たケロロは、『東谷小雪の居候』という名前にすぐに気付いた。
 東谷小雪というのはドロロが一緒に生活している地球人の少女の名前である。

「この名前からして、ほぼ間違いないでありますよ。
 ドロロは我輩の仲間の中でも特に真面目な男でありますから、
 この書き込みは信用していいと思うであります」
「ふむ。となると、このギュオー、ゼロス、ナーガという3人は危険人物に間違いないというわけか。
 しかし、ナーガはすでに死亡したと先ほどの放送で言っていた。
 となると、我々が知る危険人物は、深町晶・ズーマ・ギュオー・ゼロスの4人。
 それにあの空を飛びミサイルを撃ってきたカブト虫の怪人を加えて5人という事になるか」

 冬月はそう言って、自分をミサイルで攻撃してきた異形の怪人の姿を思い出す。

(あの時はうまく逃げる事ができたが、できれば二度と会いたくはないな……)

「我輩も少しだけその怪人の姿を見たであります。
 体から高熱を放射して森に火を放ったのもそいつでありますよ」
「市街地で激しい攻撃を加えてきた上空の敵も、そのカブト虫の怪人ですよね?」
「状況からすればそうだと考えて間違いないだろうな。
 残念ながら名前はわからないが。
 そう言えば彼は何人かの参加者の事を私に尋ねてきたな。
 確か……アプトム、高町君、キン肉スグル、ウォーズマンの4人だったと記憶しているが」

 そこで自分の名前が出された事になのはは少し驚く。

「どうして私を……?
 他の3人の名前は名簿でしか知りませんし……」
「ああ。彼の目的を聞き出す事はできなかったが、どうやら殺し合いそのものとは違う目的があったように思う。
 アプトムという人物を特に探したがっていて、あとの3人はついでという印象だったが、それも憶測にすぎん。
 結局そこから何かを読み取るのは難しいと言わざるを得ないな」

 仕方がないのでとりあえずアプトム、キン肉スグル、ウォーズマンの3人の名前だけ覚えておこうという事になる。
 そして、3人はさらに掲示板を読み進めていった。

470脱ぎ捨てしもの(中編) ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/23(木) 23:11:38 ID:/WCPsINo
「中・高等学校内に危険人物……これもドロロが言うのでありますから、気をつけた方がいいでありますな。
 と言っても、この書き込みはお昼前のものでありますから、今どうなっているかはわからないでありますが」
「あんな大火事があったからね。
 ところで、ドロロっていう人は生け花が趣味なの?」

 なのはがケロロに尋ねる。
 掲示板の名前の欄に『生け花が趣味の両きき』と書いてあったからだ。

「やつはペコポンですっかり日本の文化に染まってしまったのであります。
 元々暗殺兵だったでありますが、ペコポンに来て忍者にクラスチェンジしてしまったでありますからなあ」
「に……忍者? 忍者ってあの手裏剣を投げたりどこかに忍び込んだりする忍者?」
「そうであります。
 この東谷小雪というのが忍者の少女で、小雪殿に会った事が忍者になったきっかけのようであります。
 あ、誤解の無いように言っておくでありますが、
 暗殺兵だったと言ってもドロロはまったく危険な人物ではないでありますよ?
 自然を愛し、ペコポンを愛し、正座して茶をすするのがお似合いの温厚なヤツであります。
 その上戦闘能力は武装したケロロ小隊の他の隊員4名を一度に相手にできるほどであります。
 もしドロロが一緒に居てくれればかなり心強いでありますなあ」

 『……時々存在を忘れるけど』と心の中でケロロは思ったが、あえて口にはしなかった。

 そして、その後の書き込みは1つだけ。
 古泉という学生服を着た茶髪の男が危険人物だという内容だった。
 古泉イツキもDVDに名前があった1人だが、DVDを見ていないのでそれが意味する所は不明である。
 また、この書き込みも誰が書いたかわからないので、一応心にとめておくだけにしようと言う事で意見が一致した。







「これで一通り読み終わったでありますな。
 しかし、せっかく掲示板があるのなら我輩たちからもドロロに何か伝えたい所であります。
 我輩たちしか知らない言葉を使って暗号を作れば、
 危険人物にバレないように合流する事だってできるかもしれないであります」

471脱ぎ捨てしもの(中編) ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/23(木) 23:12:13 ID:/WCPsINo

 そのケロロの言葉を聞いて、なのはも真剣に考え始める。

「そうだね……
 もしヴィヴィオ達がどこかで掲示板の存在を知っていてくれればヴィヴィオ達とも合流できるかもしれない。
 それだけじゃない。スバルとだって……
 でも、ヴィヴィオにも解読できて、危険人物には絶対わからないような暗号が作れるかな?」
「喫茶店で使ったサツキ君の『狸の伝言』を使うという手はあるな。
 ヴィヴィオ君にも解読できるようにとなると、ヒントはなるべくわかりやすくせねばならないが、
 朝倉君も一緒にいるなら気付いてくれるかもしれん」
「おお、その手がありましたな!
 ドロロならばその暗号、気付いてくれそうであります。
 あとは誰の名前を暗号に使うかでありますなあ……
 小雪殿は掲示板に名前が書かれているでありますからやめておくとして、桃華殿かサブロー殿か……」

 ケロロは冬月の提案に賛成らしく、暗号で使う名前を考え始める。
 だが、喫茶店の暗号を知らないなのはは話が飲み込めず、冬月に質問する。

「その『狸の伝言』って、どういうものですか?」
「ある特定の文字を抜くと意味が通じるようにした文章の事だよ。
 喫茶店では『仲間の事は気にしないで』とヒントをつけ、
 私とタママ君の名前の文字を抜くと意味が通じるようにしておいた」
「なるほど。『た』だけを抜くような簡単な暗号なら気付かれやすくても、
 それだけたくさん字を抜くのは見抜かれにくいですね。
 ヴィヴィオやスバルが知っている人なら……はやてちゃんかアイナさんあたりかな?」

 狸の伝言の説明を受けてなのはも納得したらしく、暗号を考え始める。
 だが、冬月は少し申し訳なさそうにそれを遮って言う。

「確かに掲示板に暗号を書き込んで合流を目指すのは悪くないのだが、
 うまい暗号を考えるには少し時間がかかるだろう。
 だからそれは後回しにして欲しいんだ。
 もう一つ、検討したい事があるのでね」



 冬月はそう言ってタッチパッドを操作し、掲示板から画面をトップページに戻してkskコンテンツをクリックする。
 そうするとディスプレイにキーワード入力の画面が表示される。
 そして、その画面の下の方には小さくヒントが表示されていた。

472脱ぎ捨てしもの(中編) ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/23(木) 23:12:59 ID:/WCPsINo

「冬月さん。これは……?」

 冬月が開いた画面を見て、なのはが尋ねる。

「この画面から先に進むにはキーワードを入力しなければならないようなんだ。
 キーワードのヒントはここに小さく、背景に近い色で表示されているんだが、私にはさっぱりわからなくてね」
「どれどれ。『ケロロを慕うアンゴル一族の少女の名前(フルネームで)』
 ……って、なぜ我輩の事がヒントになっているでありますか?」
「それは私にもわからない。
 だが、わざわざキーワードを入力させるのだから、君たちにだけ公開されている情報があるのかもしれないな」
「我輩たちにだけ、でありますか?
 一体なんでありましょうか。まあ、とにかく入れてみるであります」

 ケロロは考えを打ち切ってキーワードを入力してみる事にした。
 そして、ケロロが「アンゴル・モア」と入力してエンターキーを押すと、画面が切り替わる。
 そこには『参加者状態表:第3回放送時』と書かれている。
 その下には参加者の名前と、ダメージ(大)、疲労(大)、などと言った情報が一覧表になって表示されていた。
 ただし、何人かの状態は『死亡』とだけ表示されている。
 まったく予想外の情報が表示された事に3人とも驚きを隠せない。

「こ、これは……なぜこんなものを我輩たちに見せるでありますか?」
「わからないが、状態に『死亡』と表示されている参加者は私が記憶している情報と一致しているようだ。
 それに、我々の情報に関しては間違っていないようだね。
 例えば私の状態は『元の老人の姿、疲労(大)、ダメージ(大)、腹部に刺し傷(傷は一応塞がっている)、決意』だ。
 誰が書いたのかは知らないが、なかなか的確に現在の状態を表現していると言えるな」

 そう言って冬月は自分の腹のあたりを左手で軽く撫でる。
 老人の体に戻ったせいもあり、疲労も怪我もなかなかに厳しいようだ。
 一方、ケロロの状態表には『疲労(大)、ダメージ(大)、身体全体に火傷』と書かれている。
 全身が痛み、皮膚がひりひりするのを感じつつ、ケロロもこの情報が間違いないようだと納得する。

「私の状態……『疲労(中)、魔力消費(中)、温泉でほこほこ』って。
 温泉でほこほこなんて事まで書いてあるんだね」
「間違いなく放送直前の高町殿の状態でありますな。
 高町殿が子供になられたのはほとんど放送と同時ではありますが、
 ここに書かれてなくて、元に戻っていない所を見ると、
 子供になったのは放送直後と判断されたのでありましょう」

473脱ぎ捨てしもの(中編) ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/23(木) 23:13:40 ID:/WCPsINo

 納得する2人に、冬月がやや明るい口調で話しかける。

「だが、我々は運がいいのかもしれないぞ。
 ここに書いてある説明によると、どうやらこの情報は放送の時にだけ更新されているようだ。
 つまり、今このコンテンツを開いたおかげで、我々は参加者の現在の状態を知る事ができるわけだ。
 例えばタママ君の状態は……『疲労(大)、全身裂傷(処置済み)、肩に引っ掻き傷、頬に擦り傷』か。
 疲れてはいるが、この処置済みの裂傷というのは早朝にネブラ君と戦った時のものだろうし、
 大怪我はしていないようだな」

 タママの状態を確認しながら、冬月は加持の事を思い浮かべる。
 だが、状態表にはタママと加持に何があったかを示すような記述は無い。
 だから、冬月も今はその事を考えるのはやめておく事にした。

(今はタママ君が無事であった事を素直に喜ぶべきだろうな……)

 そして、冬月がそう考える間にも、なのはとケロロは状態表を読み進めていく。

「ヴィヴィオは『疲労(中)、魔力消費(小)、覚醒直後』
 覚醒直後って事は気絶でもしていたのかもしれないけど、怪我はしてないみたい」

 ヴィヴィオに怪我が無い事を知り、小さななのははほっとした表情を見せる。

「朝倉君の『疲労(特大) 、ダメージ(中)』というのは気になるがね。
 一緒にいたもう1人の子供は名前がわからないので調べようがないか。
 3人がどこか安全な場所で休んでいるのならいいのだが……」
「そうでありますなあ」

 冬月たちはヴィヴィオたちの安全を祈らずにはいられなかった。

 次になのははスバルとノーヴェの状態を確認する。
 ノーヴェの方は『疲労(中)、ダメージ(中)』で、怪我はしているようだが朝倉よりは元気なようだ。
 しかし、スバルの状態表には『全身にダメージ(大)、疲労(大)、魔力消費(大)』と書かれている。
 どう見ても満身創痍、倒れる寸前としか思えない状態だった。

「スバル……きっと力の限り戦っているんだね。
 でも、早く合流してあげないと、このままじゃ……」
『…………』

 無事とは言えそうにないスバルの状態を見て、なのはは不安な表情を浮かべる。
 マッハキャリバーは何も言わなかったが、きっとスバルを心配しているのだろう。
 マッハキャリバーにとってスバルはかけがえのないパートナーなのだ。
 そう、なのはにとってのレイジングハートがそうであるように。

474脱ぎ捨てしもの(中編) ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/23(木) 23:14:10 ID:/WCPsINo

 一方、ケロロもまたドロロの状態を確認して少なからずショックを受けていた。

「切り傷によるダメージ(小)、疲労(大)、左眼球損傷、腹部にわずかな痛み、全身包帯。
 あのドロロが片目をやられたでありますか?
 現在のダメージは小さいようでありますが……」

 そして、冬月はというと、小砂から名前と特徴を聞いていた川口夏子の状態を確認していた。

「川口君の状態は、『ダメージ(微少)、無力感』か。
 肉体的には問題ないが、精神的にまいっているのかもしれんな。
 無理もない事だ。小砂君のためにもできれば早く合流したい所だが、手がかり無しか……」

 3人の間に重い沈黙が流れる。
 しかし、ここで3人が落ち込んでいても何の役にも立たないのだ。
 だからなのははあえて気持ちを切り替えて他の情報に目を移し、分析を始めた。

「危険人物のギュオーは状態表では全身打撲、中ダメージ、回復中。
 ゼロスは絶好調。
 深町晶は精神疲労(中)、苦悩って書いてありますね。
 ズーマは偽名みたいだからこの表では確認できませんが」
「ギュオーはそれなりにダメージを受けているようだが、他の危険人物は元気なようだな。
 まあ、そうそうやられるような連中ではないという事か」

 続いてなのはは古泉の状態に注目する。

「この古泉一樹という参加者は掲示板に危険人物として書き込まれていましたが、状態は
 『疲労(中)、ダメージ(小)、右腕欠損(再生中)、悪魔の精神、キョンに対する激しい怒り』となっています。
 悪魔の精神ってどういう意味かわかりませんけど、危険な印象は受けますね」
「右腕欠損(再生中)というのも奇妙な記述だな。
 まさか失った腕を再生できるような怪物なのだろうか?」
「学生服を着た茶髪の男って書いてありましたけど……わかりませんね」
「あの書き込みの通り、涼宮ハルヒという参加者を殺したのは古泉という男なのでありましょうか?」

 ケロロは2人に疑問を投げかける。
 あの書き込みは誰が書いたのかわからないが、古泉が危険な人物という事であれば真実かもしれない。

「それはわからないけど、可能性はあるかな。
 DVDに名前が書いてあった事とか、この『キョンに対する激しい怒り』って言うのも気になるし。
 でも、これだけじゃまだ何とも言えないかも」
「キョンと言えば、この『0号ガイバー状態』というのもわからないでありますなあ。
 これは本当に何かの状態を示す言葉なんでありますか?」
「わからんな。主催者にとっては何か意味のある言葉なのかもしれんが」

475脱ぎ捨てしもの(中編) ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/23(木) 23:14:40 ID:/WCPsINo

 この状態表の記述は確かに正確らしいのだが、たまに意味のわかりにくい所がある。
 『0号ガイバー状態』と書いてあるからにはそうなのだろうが、この3人にはそれが何の事だかわからなかった。
 わからないので、なのははカブト虫の怪人が探していたという人物の状態を見てみる。

「アプトムという人は『全身を負傷(ダメージ大)、疲労(大)、サングラス+ネコミミネブラスーツ装着』ですね」
「ネコミミネブラスーツ……そういえばネブラ君はネコミミの形をしていたな。
 それをこの人物が持っているという事はもしやこの人物が小砂君を……?
 いや、そう考えるのは早計すぎるか。単に取引をして譲ったのかもしれん」

 一瞬アプトムが小砂を殺した犯人ではないかという考えが冬月の頭をよぎったが、冬月はすぐにそれを否定した。
 情報が少なすぎるのだ。憶測だけで何かわかった気になるのは危険だし、トラブルの元にしかならないだろう。

「キン肉スグルは『脇腹に小程度の傷(処置済み) 、強い罪悪感と精神的ショック』でありますな。
 罪悪感を感じるという事は善人のようにも思えるでありますが……」
「それも早計すぎるだろう。
 罪悪感を持っていても殺し合いに乗っている可能性はある。
 むしろ殺し合いに乗った事に罪悪感を感じている可能性もあるしな。
 やはりこの情報だけでは判断できないようだ」
「ウォーズマンの状態は『全身にダメージ(中)、疲労(中)、ゼロスに対しての憎しみ、サツキへの罪悪感』ですね。
 この人も罪悪感……それもサツキちゃんに対して。
 サツキちゃんに何かしてしまったという事でしょうか?」
「我輩、サツキ殿とはこの殺し合いの最初から行動を共にしていたでありますが、
 ウォーズマンという人物の話は聞かなかったでありますな……」
「この『ゼロスに対しての憎しみ』というのも気になるな。
 ドロロ君の情報によるとゼロスは危険人物という事だから、何か被害にあったのかもしれない」

 それぞれ気になる事は書いてあるのだが、情報としては弱すぎて参考にはできないようだった。
 しかし、他に何か情報が得られれば合わせて判断の材料にはできるかもしれない。
 このアプトム、キン肉スグル、ウォーズマンの3人に関してはそれ以上言える事はなさそうだった。

476脱ぎ捨てしもの(中編) ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/23(木) 23:15:12 ID:/WCPsINo

 その後、さらに状態表を調べていた冬月がある事に気付く。

「む? ケロロ君、高町君。このネオゼクトールという参加者の状態を見てくれ」
「えーと、なになに? やけに長いでありますなあ。
 『脳震盪による気絶、疲労(大)、ダメージ(中)、ミサイル消費(中)、羽にダメージ(飛行に影響有り)』
 ミサイル消費? それに羽にダメージで飛行に影響有りという事はもしやこいつは……」
「そうだ。ミサイルを持ち、羽で空を飛ぶ参加者がそうそう居るとは思えない。
 確証はないが、こいつがあのカブト虫の怪人である可能性はかなり高いだろう」
「それに『右腕の先を欠損(再生中)、破損によりレーザー使用不可、ネブラによる拘束』ってあります。
 この人は腕を再生できてレーザーも使えるんですね。それと、このネブラによる拘束というのは……」
「うむ。おそらくネオゼクトールはアプトムによって気絶させられ、捕まっているのだろう。
 カブト虫の怪人が本当にネオゼクトールであるなら、探していた相手に捕まってしまったという事になるな。
 あのような怪物を捕まえるのは難しいとは思うが、ネブラ君が一緒なら可能かもしれない。
 むろん、アプトム本人の能力によるものかもしれないがね」
「ネブラっていうのは頭に装着すると羽を広げて空を飛んだり触手で攻撃したりできる生き物なんですよね?」
「うむ。確かタママ君の知っている相手だったが、ケロロ君も知っているかね?」
「ケロケロリ。確かにネブラ殿は知り合いであります。
 もっともあまりいい関係とは言えなかったでありますが、
 色々な事があって、最近はそれなりに平和的な関係になっていたであります。
 まあ、それはともかく、ネブラ殿の力であればあの怪物ともやり合えるかもしれないでありますな。
 元々怪物退治は得意とする所でありますからして」

 こうしてネオゼクトールがカブト虫の怪人である可能性が高い事やアプトムに捕まっているらしい事はわかった。
 だが、今のこの3人にとってはそれは行動を決める上で重要な情報ではない。
 危険な参加者が捕まっているというのは安心できるのでいいのだが、それを利用してどうするという事でもないのだ。

 だからこの話はそれ以上に発展せず、なのはは別の参加者に目を向けたのだが、そこに気になる記述を発見した。

「あ、このトトロっていう参加者の状態が『温泉でぽかぽか』になってる。
 もしかしてこの近くにいるんでしょうか?」

 そして、なのはが口にしたトトロという名前にケロロが反応する。

「ケロッ? トトロと言えば、確かサツキ殿が言っておられた名前であります。
 この近くにいるのであれば、お会いしてサツキ殿の事をお伝えするべきかもしれないでありますな。
 しかし、少なくとも我輩があたりを探索した時には誰も居なかったはずでありますが……
 そうでありましたな。マッハキャリバー殿」
『はい。探知可能な範囲には参加者らしき反応はありませんでした。
 ですが、露天風呂の垣根を破壊した跡があり、その状態からまだそれほどの時間は経っていないと思われます』
「おお、そうでありましたな。
 露天風呂の男湯の方の垣根が壊れていたであります」
「ふむ……ケロロ君。そのトトロという人物はどういう人なのかね?
 サツキ君の知り合いならば悪い人間ではないのだろうが、
 一応確認しておきたいのでね」

477脱ぎ捨てしもの(中編) ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/23(木) 23:15:43 ID:/WCPsINo

 冬月はケロロにそう尋ねたが、ケロロは困ったようにこう答えた。

「それが、我輩もトトロという人物についてよく知らないのであります。
 サツキ殿から詳しく聞いておけばよかったのでありますが、聞きそびれたままになっていたのでありますよ。
 サツキ殿の言い方からして味方してくれそうな人物だろうとは思うのでありますが……」
「少しでもわかる事は無いの?
 男か女かとか、年齢とか、人種とか。
 名前からして日本人じゃなさそうだけど」
「いやあ、それがさっぱりなのでありますよ。
 そう言えばサツキ殿も直接の知り合いという感じではなかったような気もするでありますなあ」
「うーむ。それではその垣根が破壊された露天風呂の様子はどうだったのかね?
 何かわかった事があれば言ってみてくれ。ケロロ君」

 冬月にそう聞かれて、ケロロは眉間に皺を寄せながら腕を組んで、露天風呂の様子を思い出しながら答える。

「一見した所、垣根は戦闘があって破壊してしまったという感じではなかったでありますな。
 何というか、建物の中を通る事を考えずに一直線に温泉に入ろうとして壊したというか」
「うーん。ものぐさな性格の人なんでしょうか?
 ずいぶん乱暴な行動のようにも思えますが……」
「そうだな。いくらこんな殺し合いの島だからと言っても、普通は入口から入るだろう。
 仮に中に誰かがいる事を警戒したとしても、空いている窓を探すなど、他にやりようはありそうなものだ。
 垣根を破壊して入ってくればその音で気付かれてしまうからな」

478脱ぎ捨てしもの(中編) ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/23(木) 23:16:15 ID:/WCPsINo

 3人はすっかりトトロの正体をつかみかねていたが、そこでマッハキャリバーが自分の推測を述べた。

『痕跡から推測する限り、入ってきたのはかなり大型の生物だったようです。
 人間であるとすればかなり特殊な体格の人物ですね。
 例えば相撲取りのような体型でしょうか』
「相撲取り……?
 すごく太った外人さんって事でしょうか?
 原始的な生活をしている部族か何かで、こういう建物の入り方を知らなかったとか」
「ふむ。これは一度露天風呂をよく調べてみた方がいいかもしれんな」
『確かに、体が大きい分はっきり足跡が残っている可能性がありますので、
 露天風呂で足跡をよく調べればもっと詳しく分析できるかもしれません』

 マッハキャリバーのその言葉を聞いて冬月は頷き、ケロロとなのはに確認を取る。

「では、後回しにすると痕跡がわかりにくくなる可能性もあるので、
 さっそく露天風呂を調べようと思うのだが、2人ともそれでいいだろうか?」
「我輩はもちろん賛成であります。
 トトロ殿がサツキ殿の関係者である事は間違いないのでありますからして。
 できればどういう人物か調べて、いい人そうならサツキ殿の事をお伝えしたいであります」
「私もそれでいいと思います。
 トトロがサツキちゃんの知り合いなら、どういう人で今どうしているのか気になりますし、
 できれば合流して一緒に行動したいですしね」
「よし。それでは露天風呂に向かうとしよう」
「はい」
「了解であります。冬月殿」

 こうして、一行はトトロの事を調べるために露天風呂の調査に向かう事になった。

479脱ぎ捨てしもの(後編) ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/23(木) 23:17:30 ID:/WCPsINo



「おっと。露天風呂に行く前に1つやっておきたい事があったな。少し待ってもらえるかな?」

 トトロの調査で露天風呂に向かおうとした所で冬月はそう言って2人を止めた。
 2人が快くそれに応じると、冬月はまずノートパソコンの電源を切ってデイパックにしまう。
 そしてノートパソコンをしまった手でデイパックの中を探り、冬月は夢成長促進銃を取り出した。

「なるほど。冬月殿ももう一度ヤングな姿になっておくのでありますな?」
「ああ。若返っておけばいくらかは回復も早まるだろうし、万が一の事態にも対応しやすいだろう。
 それに高町君のような若者には弱体化する面も大きいだろうが、私のような老人にはデメリットは少ない。
 使用回数に制限があるかどうかはわからないが、この銃を使わせてもらってもいいかな?」
「私はいいと思います。
 戦闘で使う可能性もありますけど、冬月さんが少しでも楽になるならぜひ使って下さい」
「我輩ももちろん異論はないでありますよ」
「ありがとう。では遠慮無く使わせてもらうよ」

 2人の同意も得られたので、冬月は少し2人から離れて自分に銃口を向け、夢成長促進銃の引き金を引く。
 すると冬月は銃から放たれた光線に全身を包まれ、あっという間に十代半ばの少年の姿になった。
 結果的に一行の外見は、中高生ぐらいの少年、9歳の少女(浴衣+羽織)、立って歩くカエルという事になった。

「よし。これでいいだろう。
 では行こうか。高町君、ケロロ君」
「はい。でも目の前で見るとやっぱりその銃はすごいって思いますね。
 まるで魔法みたい。……と言っても私はそんな魔法使えないんですけどね」
「まあ、ケロン星の科学力はペコポンとは比べものにならないでありますからな。
 その銃を作ったクルル曹長の技術も我が軍屈指のレベルでありますし」

480脱ぎ捨てしもの(後編) ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/23(木) 23:18:02 ID:/WCPsINo

 ケロロはまんざらでもなさそうにそう言ったが、それを聞いて冬月はふとある事を思い出した。

「そう言えばケロロ君。
 そのクルル曹長というのはもしや黄色い体で度の強そうな丸いメガネをかけたケロン人ではないかね?」
「ケロッ? 確かにその通りでありますが、冬月殿はクルルを知っていたでありますか?」
「いや、タママ君からも何も聞いては居なかったのだが、その人を夢で見たんだよ。
 知らない人物を夢で見るというのは不思議な事だがね。
 そう言えばその夢にもう1人出てきたのが、高町君が着ていたようなデザインの茶色い軍服を着た少女だったよ。
 名前は聞けなかったが、年齢は高町君より少し下ぐらいに見えたな。
 アスカ君のようなオレンジ色に近い色の髪で……確か長い髪を頭の両側で結んでいたかな」
「……ティアナ……
 それはティアナという私の知人によく似ていますね。
 その子はなんて言っていましたか?」
「まあ、ただの夢の話だがね。
 立ち話していると時間ももったいない。歩きながらでよければ話そう」

 冬月の言うのももっともだと2人が同意したので、3人は歩き始める。
 同じ建物の中なので露天風呂はそう遠いわけではない。
 だから少し話しただけで一行は露天風呂に到着し、冬月はそのまま調査をしながら話を続ける事になった。

「今思い出してみても不思議な夢だったよ。
 起きてすぐには思い出せなかったが、こうして話してみると意外によく覚えていたものだな。
 あまりに不思議な夢で印象が強かったせいだろうか?」

 露天風呂の男湯には土のついた素足で歩き回ったトトロやライガーの足跡が残されていた。
 その足跡を調べながら、冬月はそんな事を話す。

 この時点での冬月はこの夢の事をまだ「不思議な夢」ぐらいにしか認識していなかった。
 だが、話を聞いた2人の考えは少し違っていたようだ。

481脱ぎ捨てしもの(後編) ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/23(木) 23:18:36 ID:/WCPsINo

 冬月と同じく風呂場の床の足跡を調べていたなのはが冬月に尋ねた。

「ひとつお尋ねしますが、冬月さんは予知夢を見るような特殊能力を持って居るんですか?」
「いや。私はただの人間だよ。今はこうして若返るという不思議な体験をしているがね」
「では、冬月さん自身の認識では、夢でまったく知らない情報を見る事はあり得ないと思いますか?」
「偶然の一致はあると思うがね。
 『虫の知らせ』などという現象も多くはそれで説明がつくだろう。
 ただ、私も今回の夢はどこか普通ではないような気はしていたんだが……
 やはり君たちから見ても普通ではないと思うかね?」

 なのはは冬月の問いかけに深く頷く。
 そして、破壊された垣根を調べていたケロロも同じように頷いてこう言った。

「冬月殿が知らないはずのクルルとティアナ殿の容姿や言葉遣いを知った事。
 それに、そのティアナ殿が告げたという我輩たちに迫っていた危機というのははっきりとはわからないでありますが、
 冬月殿が遭遇したというカブト虫の怪人がそうだったとすれば辻褄があうであります。
 ここまで来ると偶然の一致では説明できないでありますよ」
「しかし、だとしたら2人はあの夢は何だったと思うのかね?
 私は超能力者なんかじゃない。それなのに不思議な夢を見たという事は、何者かに見せられたという事だろうか?
 だが、一体誰が? どうやって? 何のために?」

 冬月のその問いにすぐに答えられるものは居ない。
 冬月の見た夢が異常なものである事は3人とも理解しつつあったが、それが何だったのかは推測の域を出ない。

「予想はいくつかできます。
 主催者が何らかの意図があってやった可能性もありますね。
 例えば、私たちを諦めさせないためにあえて励ますような夢を見せたとか。
 そして、私たちの味方をする何者かが見せたという可能性もあります。
 その場合、その人物は主催者の監視をかいくぐってそんな事ができるという事になりますね。
 しかも、その人物はクルルやティアナの事を知っている。
 もしかしたら、本当にクルルやティアナが外から干渉して来たのかもしれません」
「冬月殿に夢を見せたのが味方だとしても、主催者があえてそれを見逃した可能性もあるでありますな。
 そこの所はまだ何とも言えないであります。
 今の情報だけではどうにもならないという事でありましょうか」
「もう一度眠って同じ現象が起こるならいいのだがね。
 私は後で交代で仮眠をとる事を考えていたのだが、その時に何か起こるかもしれんな。
 だが、とりあえず夢の話はここまでにしよう。
 今はトトロの事を調べるだけ調べておかなければ」

 なのはとケロロもそれには賛成だったので、一行は露天風呂の調査に専念した。

482脱ぎ捨てしもの(後編) ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/23(木) 23:19:31 ID:/WCPsINo







 一通り露天風呂の男湯を調べてみると、トトロやライガーの足跡はかなり残っていた。
 だが、ピクシーやフリードリヒのものは見つからなかった。
 彼らは基本的に空を飛ぶので、足に泥があまり付いていなかったからである。
 そのため、一行は露天風呂に侵入したのは2匹の獣であると推測する。

『足跡や破壊の跡から推測すると、一方の生物は2足歩行で身長は2メートル前後。
 かなり大型の生物のようです。
 強いて言うなら熊に近いでしょうか。
 一方の4足歩行の動物は大型の犬科の生物だと推測できます。
 体長は1.5メートルと言った所でしょうか』
「そんな大きな獣が2匹も……
 それは本当にサツキちゃんの知り合いのトトロなんでしょうか?」

 マッハキャリバーの分析を聞いて、なのはが冬月とケロロに疑問をぶつける。

「種類の違う野生の獣が行動を共にするというケースは珍しいな。
 まったく無いとは言わないが……
 可能性としてはどちらか片方か、あるいは両方が参加者であると考えた方がいいのではないかな?」
「あるいは、トトロ殿はこの獣たちとはまったく別に温泉に入って去っていったのかもしれないであります。
 このお湯で濡れて読めなくなった手紙のようなものも気になるでありますし」

 そう言ってケロロが差し出したのはトトロが残していった古泉の手紙である。
 濡れて読めない上にビリビリに破れていたが、何か文字が書いてあった事だけは判別できる。

483脱ぎ捨てしもの(後編) ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/23(木) 23:20:20 ID:/WCPsINo

「誰かが書いた手紙なのは間違いないみたいだし、
 これを残していったのがトトロっていう人なのかもしれませんね」
「ふむ。しかしこれはさっぱり読めんな。
 間違って落としたものを獣が破ってしまったといったところだろうか」
「しかし、そうなると足跡を残していった大きな獣たちはなんなのでありましょうか。
 ケロッ。そういえば最初に集められた時にでっかい毛むくじゃらの生き物を見たような気がするであります」

 マッハキャリバーの推測から獣の姿を想像したケロロは、唐突にその事を思い出した。
 そして、ケロロにそう言われて初めて冬月となのはもその事を思い出す。

「そう言えば、大きな丸い毛むくじゃらの……」
「そうか。あれは二本足で立っていたような気がするな。
 ではあれがトトロで、我々の少し前に犬科の獣を引き連れて温泉に入って去っていったという事か」
「そう考えるのが一番辻褄が合いそうでありますな」

 そう言ったケロロの言葉に冬月となのはもおおむね同意する。
 落ちていた手紙がなんなのかというような謎も残るが、基本的にはこの推測は正しいと思われた。

 こうして3人の間ではトトロの正体はとりあえずあの獣だと仮定する事になった。
 だが、これからどうするかは決まっていないので、なのはは2人に質問してみる。

「トトロの正体はあの獣だとして、これからどうしましょうか?
 トトロを探して今から出発しますか?
 それともやっぱりここで休んで行きましょうか?」
「そうだな……トトロとどうしても合流したいのであれば足跡を追いかけるという手はあるが、
 私としては気が進まないな。
 もうすっかり日も暮れてしまった。今から足跡を追って進むのは難しいと思う。
 それに、サツキ君が味方だと考えていたにしても、トトロというのがあの獣だとなると、
 果たして合流する事に意味があるかどうか。
 意思の疎通がどこまで可能なのかも疑わしくなる。
 また、我々の状態が良くないという理由もある。
 だから私はここでじっくり体力を回復させる事を提案するよ」

484脱ぎ捨てしもの(後編) ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/23(木) 23:20:51 ID:/WCPsINo

 若返った冬月は、年齢に似合わぬ落ち着いた口調でそう言った。
 ケロロもそれに同意してこう続ける。

「我輩としてはサツキ殿の事をトトロ殿に教えてさしあげたいという気持ちに変わりはないであります。
 ただ、そのために我輩たちが無理をする事はないとも思うのでありますよ。
 もちろんトトロ殿の事を抜きにしても、タママやドロロ、
 それにヴィヴィオ殿や他の善良な参加者を見つけて合流したいという気持ちもあるのでありますが、
 今はその時ではないと思うであります」

 なのはから見ても、2人の意見はもっともだと言えた。
 今は気を張って行動しているが、本来なら2人は安静にしているべきなのだ。
 なのはは子供になっていても、夜であっても必要ならば行動するつもりでいるが、それを2人に求める事はできない。

 しかし、ヴィヴィオを探したいという感情は、今のなのはの中で何よりも強い感情だった。
 だからなのははいっその事1人でも出発できないかとも考えたが、それはできなかった。
 こんな殺し合いの中で得られた大切な仲間を。
 それも、こんな傷だらけの仲間を残して行く事はできない。

 それになのはが1人で行くとなるとマッハキャリバーをどうするかという問題もある。
 マッハキャリバーが無ければ子供になったなのはではどこまで戦えるかわからない。
 だが、冬月達にとってもマッハキャリバーは接近する敵を察知してくれる貴重なアイテムだ。
 デバイスが1つしか無い以上、別れて行動すればどちらかがリスクを負う事になる。

 だからなのはは1人で行きたいという気持ちをぐっとこらえて、2人にこう言った。

「……そうですね。
 私もまだ回復しきっているわけではありませんし、
 もう少し休んで体調を万全に整えてから行動した方がいいと思います」
「それでは、もう少しこの温泉で休息を取る事で決まりでありますな。
 そうと決まれば我輩たちも温泉に入らせてもらうでありますか。冬月殿」

485脱ぎ捨てしもの(後編) ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/23(木) 23:21:22 ID:/WCPsINo

 うつむき気味になって言葉を発したなのはにケロロも多少違和感を感じてはいた。
 だが、何を思っているかまでは気付かなかった。

 しかし、冬月は目の前の小さな少女が何をこらえているか察していた。
 市街地でヴィヴィオに会った時、普段の彼女からは考えられないほど取り乱したなのはである。
 彼女が1人でもヴィヴィオを探したいと思っている事はある程度見当がついた。

「高町君。すまない。
 我々が一緒にいるせいで、君には不自由をさせてしまっているね。
 だが、私も一晩中ここに留まるつもりはない。
 温泉に浸かって、栄養をとり、10分でも20分でも交代で仮眠を取ったら、
 すぐに出発してヴィヴィオ君や朝倉君たちを探そう。
 だから、それまで少しだけ我慢してもらいたい。
 この通り、お願いする」

 そう言って冬月はなのはに深々と頭を下げる。
 そして、慌ててそれを制止するなのは。

「そんな、頭を上げて下さい、冬月さん!
 大丈夫です。ヴィヴィオが無事だって事はわかっているんですから。
 朝倉さんも怪我をしてはいましたが、重傷ではないようでしたし、きっともう1人の子も無事だと思います。
 思い返せばあの時不思議な盾や障壁がヴィヴィオ達を守っていました。
 きっとヴィヴィオ達には何らかの身を守れる装備があるんです。
 だから、ここで体力や魔力を回復しておくのはきっと最良の選択なんだと思います。
 だって、私たちはみんなで生きて帰らなきゃいけないんですから……」

 浴衣の小さな胸に両手を当て、目をつぶって冬月にそう伝えるなのは。
 その様子はどこか、自分を納得させているようでもあったが、表情は安らかだった。

「高町殿。我輩たちのためにすぐにヴィヴィオ殿を探しに行けず、申し分けないであります……」

 遅ればせながら事情を察してケロロもなのはに頭を下げる。

「ううん。大丈夫だから気にしないで、ケロロ。
 信じてる。ヴィヴィオは弱い子じゃない。だって私の娘なんだもの。
 きっと……きっと私が行くまで無事で待っていてくれる」
「そうでありますな。
 我輩も信じるでありますよ。
 ヴィヴィオ殿も、タママも、ドロロも、みんなきっと無事で待っていてくれると」

486脱ぎ捨てしもの(後編) ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/23(木) 23:21:52 ID:/WCPsINo

 そう言ってケロロはなのはと一緒に胸に手を当てて祈るように目をつぶった。
 冬月も2人と思いは同じであったが、あまり長くこうしても居られないと思い、2人に話しかける。

「それではそろそろ動き出そうか。
 まず私とケロロ君は温泉。高町君にはその間万が一に備えて待機していてもらいたい。
 私たちが温泉を出たら交代で仮眠を取ろう。
 あまりゆっくり寝ていられないが、ただじっとしているよりは確実に疲れが取れるはずだ。
 その後、準備を整えて出発する。
 目安としては……20時から遅くとも21時までには出発すると考えておこうか。
 高町君どうだろう? もっと早い方がいいだろうか?」
「私はそれでいいと思います。
 でも、私の事よりケロロはこのスケジュールでいいの?
 冬月さんの怪我は私の魔法でもある程度治せるけど、ケロロの怪我は治せないし……」

 なのはは心配そうな顔でケロロにそう確認した。
 自分の魔力が回復して冬月の治療をすれば最終的に一番重傷なのはケロロになる事が予想されたからだ。

「我輩もそのスケジュールに異論は無いでありますよ。
 こう見えても我輩、厳しい訓練を乗り越えてきた軍人。
 それに普段から夏美殿にしょっちゅうぶっとばされているでありますが、大抵すぐに復活しているであります。
 これしきの怪我、温泉に入って少し休めばどうという事はないでありますよ。ゲ〜ロゲロ」
「そ、そうなんだ?
 それならいいんだけど……」
「まあ、本人が言うのだからここは信じよう、高町君。
 それではおおまかなスケジュールはさきほど言った内容で決まりと言う事で、
 我々は早速施設内の男湯に入ってこようか、ケロロ君」

 ケロロの発言に少し笑いながら、強がっているその気持ちも感じた上で冬月はそう言って話をまとめる。

「わかったであります。
 ではデイパックは高町殿に預けるとして、
 その中のナイフとスタンガン、それから催涙スプレーと夢成長促進銃をもらって行くでありますよ。
 万が一に備えて用心はしておいた方がいいでありますからな」
「そうだな。では、あとの荷物は高町君に持っていてもらおう」
「わかりました。確かにお預かりします」

487脱ぎ捨てしもの(後編) ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/23(木) 23:23:30 ID:/WCPsINo

 こうして露天風呂の調査は終わり、一行は一旦二組に分かれる事になった。
 だが、冬月は歩き出すとすぐに何かを思いついて、2人にある提案をした。

「そうだ。今のうちにもうひとつやっておきたい事があるのだがね……」







「いやー、極楽極楽。温泉とはやはりいいものでありますなあー」

 温泉の内風呂の湯船に浸かったケロロはすっかり上機嫌であった。

 ちなみに元々明るくはないのだが、風呂場の中はかなり薄暗くなっている。
 これは先ほどの冬月の提案で、あえて最低限の明かりを残して施設内の明かりを消しておいたからだ。

 元々この施設は昼も夜も関係なく明かりがつけっぱなしになっており、発見されやすかった。
 それに明かりをつけていると、外からは丸見えで中から外は見えにくい。
 つまり、明かりを暗くしたのは少しでも危険を回避しようという苦肉の策であった。

「うむ。まさか温泉に入る事になるとは思わなかったが、やはりいいものだな。
 それに、こうして裸になってみると皺だらけだった体も若返ったせいでつるりとしていて、
 何やら生まれ変わったような気分だ」

 ケロロの隣で湯船に浸かる冬月もなかなかに上機嫌であった。
 この温泉の効能は「火傷、切り傷、打ち身、身体の疲れ、魔力の消費、虚弱体質」と表示されていた。
 どうやらその表示に嘘は無かったらしく、全身を火傷したケロロが入っても不思議とあまりしみる事もないようだ。

「この温泉には通常とは異なる特別な成分でも入っているのかもしれんな」
「確かにこの温泉に浸かっていると、心なしかじわじわと『回復してる〜』という気がするでありますなあ」
「しかし……よく見るとこの温泉、LCLのようにも……いや、気のせいか?」

 この温泉のお湯は薄いオレンジ色をしていた。
 これはエヴァのエントリープラグを満たす液体であるLCLと酷似している。
 本当のところどうなのかは主催者のみぞ知るといったところだが。

488脱ぎ捨てしもの(後編) ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/23(木) 23:24:00 ID:/WCPsINo

「冬月殿。そのLCLとはなんなのでありますか?」
「LCLというのは言ってみれば羊水のようなものだ。
 その中に居るものを守り、包み込む液体だ。
 その中に居るものはその液体を肺に入れても溺れる事はなく、LCLから酸素を吸収する事ができる。
 だが、同時にそれはATフィールドを失った生命体の『かたち』でもある。
 そう、最初に主催者に首輪の効力で液体にされた少年が居ただろう。あの液体がLCLだよ」

 冬月はあえて隠す必要もあるまいと思い、素直にLCLの事を説明する。
 だが、それを聞いたケロロはさすがに驚いたらしく、ザバッと湯船から立ち上がって叫んだ。

「ゲ、ゲローーッ!? この温泉のお湯があれと同じという事でありますか!?
 そんなものに浸かっていて我輩たち大丈夫なんでありますか!?」
「落ち着いてくれ、ケロロ君。
 同じだと決まったものでもないのだ。
 仮に万が一同じだとしても、LCLに浸かっていて害があるという事はない。
 何も心配する事はないんだよ」

 冬月の説明でケロロはどうにか落ち着きを取り戻したようで、再び湯船に浸かってほっと息をつく。

「そうでありますか。いや、ほっとしたであります。
 しかし、冬月殿はそのLCLやATフィールドというものに詳しいようでありますが、
 もしやこの首輪についても何かご存じなのでありますか?」
「いや、残念だがこの首輪の原理については私にもわからないのだよ。
 ATフィールドを破壊するアンチATフィールドというものが存在する事は確かだ。
 それによってATフィールドを破壊された全ての生物はLCLに還元され、『個』を保てなくなる。
 この首輪が人間をLCLに変えてしまうのは、おそらくアンチATフィールドを発生しているからだろう」

 話はまだ続きそうではあったが、冬月がそこまで言った所で思わずケロロが一言口を挟む。

「……冬月殿。それは充分わかっておられるのではありますまいか?」

 言われた冬月は話を遮られて怒るでもなく、生徒に話を聞かせるようにこう続ける。

489脱ぎ捨てしもの(後編) ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/23(木) 23:25:15 ID:/WCPsINo

「そうではないのだよ、ケロロ君。
 そのアンチATフィールドをどうやって発生させているかが皆目見当もつかないのだ。
 私の知るアンチATフィールドとは、
 鯨よりも巨大な『ある生物』の特定の器官に特殊な刺激を与える事によって発生するものだ。
 特に生命をLCLに還元するほどのアンチATフィールドともなればな。
 だが、この首輪はこの大きさでそれを実現しているのだ。
 いかなる技術を用いたのか、私の理解を超えているよ」
「しかし冬月殿。大きさの問題であれば、ある程度は我々宇宙人の技術でどうにかなるかもしれないでありますよ?
 原理さえわかっていれば、我輩にも少しは構造を理解できる芽が出てくるであります。
 我輩こう見えても発明のまねごとぐらいはやった事もあるのでありますよ。
 さすがに我輩1人では心許ないでありますが、ドロロやタママの知恵も借りればあるいは……」

 ケロロのその話を聞いて冬月はあごに手をあて、考えながらこう言った。

「……そうか。そうだったな。
 君は宇宙人で、しかもあの夢成長促進銃を作ったテクノロジーを持っていたんだったな。
 そうか、もしかすると君たちの協力があれば……
 いや、君たちだけでなく高町君や他の世界の人間の知恵も借りればこの首輪を無力化する事ができるかもしれない。
 正直言ってどこまで見込みがあるかわからんが、できねば我々は終わりなのだからやるしかないな」

 冬月はこれまでに様々な参加者と出会ってその話を聞いてきた。
 だからその経験から、すでにこの島に集められたのが多数の別世界の住人であると理解しつつあった。
 ただ、ここまでそれをはっきりと意識し、考える余裕がなかったのである。

 この世界が人類補完と関係があろうが無かろうが、今は目の前にある状況を受け入れて対処しなければならない。
 となれば、自分にない知識や技術を持つものの力を借りる事は当然の発想であった。

(首輪を解除する方法を考えねばと思ってはいたが、今まで生き延びるのに必死で考えが及ばなかったな……)

(だが、気付いたからにはその方向で動いていかねばなるまい)

 冬月は心の中でそうつぶやくと、ケロロにも聞こえるように言葉に出して考え始めた。

490脱ぎ捨てしもの(後編) ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/23(木) 23:25:46 ID:/WCPsINo

「ただ、それには最低でも一度は首輪を分解してみねばならんか……」
「分解でありますか……
 しかし、分解するとなると生きた参加者の首輪を使うわけには行かないでありますな」
「うむ。亡くなった参加者の遺体から首輪を取り外して分解するしかないだろうな。
 高町君などはいい顔をしないかもしれないが、どうしても必要な事だ。
 こらえてもらわねばなるまい」
「きっと、高町殿もわかってくれるでありますよ。
 まあ、実際に参加者の死体を発見するのがいつになるかもわからないでありますし、
 ゆっくり納得していただけばよいでありましょう」
「そうだな。
 我々はしばらくは休息せねばならない。
 それにドロロ君やタママ君とも合流しておかねば首輪を分解できても解析は難しくなるだろうし、
 他の参加者にも協力を仰げるならそうしたい。
 首輪を分解できるのは当分先の事になるか……」

 そう言って冬月はばしゃりと湯船の湯を両手ですくって顔にかけ、ごしごしと顔を洗う。
 そして、顔の湯をぬぐって一息つくと、ざばっと湯船で立ち上がり、そのまま歩いて湯船を出た。

「そろそろ上がるとしようか、ケロロ君。
 ゆっくり入っていたいのはやまやまだが、状況的にそうも言っておれんだろう」

 それを聞いてケロロもじゃぶじゃぶと泳いで湯船の端にたどり着き、ざばっとお湯から出て言った。

「そうでありますな。
 では温泉はこのぐらいにして、上がるとするでありますか」
「ああ。あまり高町君を1人にもしておけないからね」

 こうして2人は籠に入れて近くに置いてあった服を持って風呂場を出て脱衣所に向かう。
 服を近くにおいておかないと万が一の事態に対応できないので風呂場に持ち込んでいたのである。
 もちろんケロロは服など持っていないが、夢成長促進銃やナイフやスプレーを入れた籠は持ってきている。

 そして、2人は脱衣場で体を拭き、ケロロはそのまま裸で、冬月は元の服を着る。
 ちなみに脱衣場も明かりはほとんどつけておらず、薄暗い。

 着替えながら冬月がふと窓の外を見ると、外はもう完全に日が落ちて暗くなっていた。

491脱ぎ捨てしもの(後編) ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/23(木) 23:26:22 ID:/WCPsINo

「もうすっかり夜だな。
 休息を取る間、危険な人物が寄ってこなければいいのだが」
「冬月殿の指示で施設の明かりはほとんど消しておいたでありますから、
 そうそう明かりを見てここに来る参加者は居ないと思うでありますが……
 温泉につられて誰かが来ないとは言い切れないでありますなあ」
「明かりを消したのは気休めと思った方がいいだろう。
 それでも、煌々と明かりをつけておくよりはずっといいとは思うがね。
 まあ、もし何者かが侵入してきたらそれはその時に対応するしかあるまい。
 それより、着替えも済んだ事だしそろそろロビーに戻るとするか。ケロロ君」
「了解であります。冬月殿」

 ケロロは敬礼しながら冬月にそう答え、2人は脱衣所を出てなのはが待つロビーへ向かった。







「……ふう。これで調整は万全だね」
『はい。現在の私に可能な調整は全て完了しました』

 冬月とケロロが温泉に入っている頃。
 薄暗い温泉施設のロビーでバリアジャケット姿のなのはとマッハキャリバーが会話していた。

 もう温泉に入っているなのはは警戒のために残ったのだが、この時間を利用してデバイスの調整を行っていたのだ。
 ズーマとの戦闘の際にも調整はしていたが、しょせん急場しのぎである。
 2人が温泉に入って無防備になっている今、なのはだけでも万全の状態にしておかねばならない。

 とは言え、前衛のスバルと後衛のなのはでは戦闘スタイルに大きな違いがある。
 そのため、調整した今でも100%の力を発揮するとは行かないが、かなり戦いやすくはなっただろう。

 冬月の発見したノートパソコンやケロロが発見したDVDも今はデイパックに入れてここに置いてある。
 風呂に入っている時に何かあった場合に備えての事である。
 そして、2人が風呂から上がったらまたこのロビーに集合する予定だ。

492脱ぎ捨てしもの(後編) ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/23(木) 23:27:00 ID:/WCPsINo

「リボルバーナックルもこれでなんとか使えそうだね」
『ですが、現在のMs.高町の体格では格闘戦はお勧めできません。
 リーチもパワーも、そして物理耐久力も著しく低下しています』
「わかってる。できるかぎり砲撃向けに調節したし、これで殴り合いをするつもりはないよ。
 今の私じゃ、魔法の補助と防御に使うぐらいだね」

 なのはのバリアジャケットは9歳の頃使っていたものに変わっている。
 これは下着を履いていないのでミニスカートは(乙女的な意味で)危険すぎると判断したためである。
 また、デザイン的にも今使っているジャケットを縮めるよりこちらの方がいいだろうと考えての事でもあった。

 ただし、昔と違ってその両手には頑丈そうな籠手がはめられ、両足にはローラーブーツをはいている。
 右手の籠手はマッハキャリバー内蔵のリボルバーナックル。
 左手の籠手はケロロが拾ってきたリボルバーナックル。
 両足のローラーブーツはマッハキャリバーの本体である。

 正直言うとリボルバーナックルは今のなのはの小さな手には大きすぎるのだが、サイズを調節して装着している。
 それでもやはりごつすぎる印象は否めないが、デバイスとして、防具としては役に立つだろう。

「どっちかというとローラーブーツを使いこなせるかどうか心配かな。
 まあ、できる限りやってみるけどサポートはよろしくね、マッハキャリバー」
『お任せ下さい。ウィングロードの自動詠唱も含め、ある程度はこちらでコントロールできます』
「うん。じゃあバリアジャケットは解除しようか。
 左のリボルバーナックルも収納できる?」
『はい。それではバリアジャケットを解除します』

 マッハキャリバーがそう告げると同時になのはの姿はバリアジャケットから温泉の浴衣姿に一瞬で戻る。
 それほど膨大ではないにしてもバリアジャケットの維持には魔力を消費する。
 必要のない時には解除しておいた方がいいのだ。



 とりあえず戦闘準備が整って、なのはは一息ついて外の様子を伺う。
 外はすっかり日が落ちて暗くなり、視界はかなり悪い。
 だが、ロビーもかなり薄暗いため、少しは外が見やすくなっている。

493脱ぎ捨てしもの(後編) ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/23(木) 23:27:34 ID:/WCPsINo

 冬月の提案で3人は温泉施設全体の明かりを暗くしておいた。
 そのため、このロビーもかなり暗くはなっているが、それでも字が読める程度の明るさはかろうじて保っている。
 少々不便ではあるが、どうせ休息を取るのだから、問題ないだろうという判断であった。

「これからの事……考えなきゃね……」

 なのははそうつぶやいて自分の首輪を触る。
 この首輪を外さなければ自分達に勝ち目はない。
 冬月たちにはまだ相談していないが、2人が風呂から出たら話してみようと思う。

 残念ながらはっきりとはわからないが、首輪からは特徴的な魔力波動を感じる。
 冬月やケロロと話し合えば、少しは何か道が開けるかもしれない。
 しかし、それでもやはりネガティブな思考がなのはの頭に浮かんでくる。

(首輪を外す方法なんて見つかるんだろうか? 主催者たちがそんな事を許すとも思えないし)

(でも、なんとかしなきゃ。諦めないって決めたもの。絶対になんとかなる。してみせる)

(幸い私は1人じゃない。冬月さんやケロロが一緒に居てくれる。だから、絶対負けない。負けられない!)

 そう考えながら、外からなるべく姿を見られないように隠れてロビーの窓から外の様子を伺うなのは。
 その小さな胸に宿る決意の炎はまだ小さいが、少しずつ確実に強さを増していた。

 だが……

(それはともかく……やっぱり、ちょっとスースーするかな……)

 一方でそんな事も考えてしまうなのはであった。
 人間、どんなときでもシリアスに徹するのは難しいようである。

494脱ぎ捨てしもの(後編) ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/23(木) 23:28:26 ID:/WCPsINo
【G-2 温泉内部/一日目・夜】

【高町なのは@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】9歳の容姿、疲労(中)、魔力消費(中)、小さな決意
【服装】浴衣+羽織(子供用)
【持ち物】基本セット(名簿紛失)、デイパック、コマ@となりのトトロ、白い厚手のカーテン、ハサミ、
     ハンティングナイフ@現実、
     マッハキャリバー@魔法少女リリカルなのはStrikerS、
     リボルバーナックル(左)@魔法少女リリカルなのはStrikerS
     SOS団創作DVD@涼宮ハルヒの憂鬱、ノートパソコン
     血で汚れた管理局の制服、女性用下着上下、浴衣(大人用)
【思考】
0、絶対なんとかしてみせる。
1、冬月、ケロロと行動する。
2、一人の大人として、ゲームを止めるために動く。
3、ヴィヴィオ、朝倉、キョンの妹(名前は知らない)、タママ、ドロロ、夏子たちを探す。
4、冬月とケロロに首輪の外し方を相談してみる。
5、掲示板に暗号を書き込んでヴィヴィオ達と合流?
6、トトロとも合流できたらいいけど……


※「ズーマ」「深町晶」を危険人物と認識しました。ただしズーマの本名は知りません。
※「ギュオー」「ゼロス」を危険人物と認識しました。
※マッハキャリバーから、タママと加持の顛末についてある程度聞きました。
※夢成長促進銃を使用し、9歳まで若返りました。

495脱ぎ捨てしもの(後編) ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/23(木) 23:28:57 ID:/WCPsINo

【冬月コウゾウ@新世紀エヴァンゲリオン】
【状態】10代半ば、短袖短パン風の姿、疲労(中)、ダメージ(中)、腹部に刺し傷(傷は一応塞がっている)、決意、温泉でつやつや
【服装】短袖短パン風の姿
【持ち物】催涙スプレー@現実、ジェロニモのナイフ@キン肉マン
【思考】
0、今は休息を取ろう。
1、ゲームを止め、草壁達を打ち倒す。
2、仲間たちの助力になるべく、生き抜く。
4、夏子、ドロロ、タママを探し、導く。
5、なのはと共にヴィヴィオ、朝倉、キョンの妹(名前は知らない)を探す。
6、タママとケロロとなのはを信頼。
7、首輪を解除するためになるべく多くの参加者の力を借りたい。
8、トトロとは会えれば会ってみてもいいか……
9、後でDVDも確認しておかねば。


※現状況を補完後の世界だと考えていましたが、小砂やタママのこともあり矛盾を感じています
※「深町晶」「ズーマ」を危険人物だと認識しました。ただしズーマの本名は知りません。
※「ギュオー」「ゼロス」を危険人物と認識しました。
※マッハキャリバーから、タママと加持の顛末についてある程度聞きました。
※夢については、かなり内容を思い出したようです。
※再び夢成長促進銃を使用し、10代半ばまで若返りました。





【ケロロ軍曹@ケロロ軍曹】
【状態】疲労(中)、ダメージ(中)、身体全体に火傷、温泉でほかほか
【持ち物】スタンガン@現実、ジェロニモのナイフ@キン肉マン、夢成長促進銃@ケロロ軍曹
【思考】
0、今は休息を取るであります。
1、なのはとヴィヴィオを無事に再開させたい。
2、タママやドロロと合流したい。
3、加持、なのはに対し強い信頼と感謝。何かあったら絶対に助けたい。
4、冬樹とメイの仇は、必ず探しだして償わせる。
5、加持の仇も探して償わせたいが、もし犯人がタママだったら……
6、協力者を探す。
7、ゲームに乗った者、企画した者には容赦しない。
8、掲示板に暗号を書き込んでドロロ達と合流?
9、トトロにサツキの事を伝えてやりたい。
10、後でDVDも確認したい。


※漫画等の知識に制限がかかっています。自分の見たことのある作品の知識は曖昧になっているようです

496 ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/23(木) 23:32:31 ID:/WCPsINo
以上です。

書いておいてなんですが、前編だけで終わっていてもいいような気もします。
でも書いてしまいました……すいません。

497脱ぎ去りしもの ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/25(土) 18:09:20 ID:UOrY/ZqE



「こ……子供になっちゃった……?」
「ケロ〜! 高町殿〜!!」

 ここはG−2エリアにある温泉の施設の中。
 ちょっとしたトラブルから、夢成長促進銃によってなのはは子供の姿になってしまった。
 そんな彼女を前にして呆然とするケロロ。
 そしてさすがの冬月もこの異常事態に驚きを隠せなかったが、今はそれどころではない。
 放送はもう始まっているのだ。

「高町君、ケロロ君。とにかく放送を聞くんだ。
 私は要点をメモしておくが、君たちもよく聞いておいて後で確認してくれ」

 冬月は2人にそう言って手に持っていた3枚のDVDを手近な机の上に置き、デイパックを開いた。
 そして支給されている基本セットの中にある紙と鉛筆を取り出し、メモを取る準備をする。

「あ、はいっ。わかりました」
「わ、わかったであります、冬月殿!
 マッハキャリバー殿もよろしくであります」
『了解です。放送の内容を記録します』

 なのはとケロロが、そしてマッハキャリバーが冬月にそう答えて放送に耳を傾ける。
 なのはは9歳の頃の姿になって夢成長促進銃を持ったまま。
 ケロロは濡れた床で滑って転んだあと、立ち上がろうと起き上がった所だ。

 ちなみになのはは子供になったせいで浴衣がだぶだぶになっていて、とっさに胸元を押さえている。
 ここには老人と宇宙人ガエルしかいないので、誰も気にしていないのだが、乙女のたしなみと言った所だろうか。

 放送では草壁タツオがなにやら前置きを語っていたが、3人はあまりそれを聞く事はできなかった。
 だが、重要な事は言っていなかったようなので、3人は禁止エリアの発表に意識を集中する。

「19時、F−5。
 21時、D−3。
 23時、E−6か……」

 そうつぶやきながら冬月はメモを取っていく。
 今回はかなり島の中央が指定されたようで少し気になったが、今はそれを確認する暇はない。
 放送はまだ続いており、次は死亡者が発表されるはずだったからだ。

498脱ぎ去りしもの ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/25(土) 18:09:51 ID:UOrY/ZqE

『次はいよいよ脱落者の発表だ、探し人や友人が呼ばれないかよく聞いておいた方がいいよ。
 後悔しない為には会いたい人には早く会っておく事だよ―――せっかくご褒美を用意してあげたんだから、ね?』

 そんな草壁タツオの前置きには耳を貸さず、冬月は死亡者の名前だけを聞き逃さないように集中する。
 なのはとケロロも思う所はあるのだろうが、今は黙って耳を傾けていた。

 だが、なのはの幼い顔には悲痛な表情がはっきりと浮かんでいる。
 何しろ、あの火事の中からヴィヴィオという少女とその仲間が生きて逃げ出せたかがこれでわかるはずなのだ。
 無理もない事だと思いつつ、冬月もまた、加持やアスカ、シンジ、タママ、小砂らの無事を祈る。

 そして、死亡者の名前が次々に発表されていく。

『朝比奈みくる』

「ん? この名前は……」

 そうつぶやいた冬月になのはとケロロがどうしたのかと視線を送る。
 冬月は掲示板に目を通していたため、この名前を知っていたのだが、今は放送の最中である。
 説明は後でいいだろうと判断し、黙って首を振っておく。

『加持リョウジ』

「加持君が……?」
「ケ、ケロ〜〜! 加持殿っ……!!」
「加持さんっ……!!」

 加持の名前があげられ、3人が全員思わず声を上げる。

『草壁サツキ』

「…………」

 知っていたとは言え、サツキの名前を聞くと3人の間に重苦しい空気が流れた。

『小泉太湖』

「この名前、小砂君か!?」
「そんな。小砂ちゃんまで……」

 冬月となのはがつぶやく。
 貴重な協力者だった。守るべき人の1人だった。
 あの小さくともたくましい少女にはもう会う事はできないのか。

499脱ぎ去りしもの ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/25(土) 18:10:21 ID:UOrY/ZqE

『佐倉ゲンキ』

 3人は反応しない。
 誰も知らない人物だったようだ。

『碇シンジ』

「シンジ君もか……!」

 冬月が再び小さく声を上げる。
 とうとうシンジと冬月はこの島で会えないまま、永遠の別れを迎えてしまった。

(碇……すまない。お前とユイ君の息子を守ってやれなかった……)

 冬月は心の中でそうつぶやき、無念そうに顔を伏せる。

『ラドック=ランザード』

『ナーガ』

 この2名は続けて誰の知り合いでもなかったようだ。

『惣流・アスカ・ラングレー』

「そうか……アスカ君も……」
「アスカ殿が……」
「アスカ……」

 3人ともアスカには複雑な思いがあるが、死を望んではいなかった。
 むしろ冬月やなのはにとってはいまだにアスカは保護すべき対象ですらあったのだ。
 だが、そのアスカもどこかで命を落とした。また救えなかったのだ。

『キョンの妹』

 その名前には誰も反応しない。
 そして、その名を最後に今回の死亡者発表は終わったようだった。

『以上十名だ、いやあ素晴らしい!
 前回の倍じゃないか、これなら半分を切るのもすぐだと期待しているよ。
 ペースが上がればそれだけ早く帰れるんだ、君達だってどうせなら自分の家で寝たいよね?』

500脱ぎ去りしもの ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/25(土) 18:10:52 ID:UOrY/ZqE

「なんという言いぐさでありますか……!」
「ケロロ君。気持ちはわかるが放送が続いているから今はこらえてくれ……」
「ケ、ケロ〜……」

 その後の草壁タツオの話は、主催者に反抗して命を落とした参加者が居たというものだった。

『念の為言っておくけど僕達のかわいい部下も対象だよ?
 あと逆らった人が敵だから自分は無関係というのも無し、その場に居た人は全員連帯責任さ。
 勝手な一人の所為でとばっちりを食らうなんて君達も嫌だろう?
 愚かな犠牲者が二度と出ない事を切に願うよ。』

『話が長くなったけどこの勢いで最後まで頑張ってくれたまえ! 六時間後にまた会おう!』

 こうして第3回、18時の放送は終了した。







「加持さん、サツキちゃん、小砂ちゃん、アスカ……」

 風呂場の脱衣所で、なのはが死んでしまった知り合いの名前をつぶやく。

 放送の後すぐに禁止エリアや死亡者の確認をしてから、彼女は改めて小さい浴衣に着替えに来たのだ。
 さっきまで着ていた浴衣は大きすぎて体に合わず、万が一の場合にも邪魔になるからだ。

 だが、着替えに来た理由はもう一つある。
 少しだけ落ち着いて考える時間が欲しかったのだ。
 あまりにも多くの死亡者。守れなかった人たち。
 それらを受け入れ、気持ちと考えを整理する時間がなのはには必要だった。

「ヴィヴィオや朝倉さんやスバルが生きていた事は嬉しいけど、喜ぶわけにはいかないよね。
 あんなにたくさんの人が亡くなっているんだから。
 それに、あの小砂ちゃんまでが……」

 だぶだぶの浴衣を脱いで小さいサイズの浴衣に袖を通しながら、なのはは悲痛な面持ちでつぶやく。
 自分の腕の短さに少し違和感を感じたが、今はそれよりも死んでしまった人たちの事に意識が向かっていた。

501脱ぎ去りしもの ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/25(土) 18:11:34 ID:UOrY/ZqE

 例えば、なのはを師匠と呼んで慕ってくれた小砂。 
 サツキが冬月を刺した場所で別れてから行方が知れなかったが、あの後一体何があったのか。
 一体どんな死に方をしたのだろう。
 やはり誰かに殺されたのか。
 自分の居ない所で起こった事はわからない。
 側にいない人は守れない。何もできない。後から結果を知って後悔するだけ。

 これからもこんな事を繰り返すのか。
 知らない所で死んでいく人の名前を放送で告げられて後悔して。
 目の届く場所にいる人を守ろうと必死になって、守れなくて後悔して。
 でも事態は何も変わっていなくて。
 それどころか悪くなっていく一方で。

「このままじゃ……いけないんだ。
 ちっとも前に進んでない。
 時間が流れて死ぬ人は確実に増えていくのに、事件の解決には少しも近づいてない。
 ただみんなを守るだけじゃ足りないんだ。
 ここからみんなで生きて元の世界に帰るには、あの主催者たちを何とかしなきゃ。
 でも、一体どうすればいいのかな、マッハキャリバー……」

 浴衣の前をあわせながら、なのはは胸元にぶら下がっている青いクリスタルのペンダントに話しかける。
 なのはが風呂から上がったので、マッハキャリバーは再びなのはが持つ事になったのだ。

 なお、夢成長促進銃は冬月に預け、代わりになのははケロロからリボルバーナックルを預かっている。
 左手用のリボルバーナックルは、右手用と一緒にマッハキャリバーの中に収納する事ができたからである。

 そして、なのはの問いかけに冷静な声で答えるマッハキャリバー。

『主催者を打倒するには我々の状況はあまりにも不利と言えます。
 しかし、それでもなお戦う事を選ぶのであれば、
 まず首輪を外すか無力化する方法を考える事が先決ではないでしょうか』
「そう……だね。
 この首輪がある限り、私たちは逆らえない。
 戦うどころか逃げる事さえできないし、逆らったらあの男の子みたいに液体に……」

 首輪に触りながらなのはは小さくため息をつく。

502脱ぎ去りしもの ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/25(土) 18:12:20 ID:UOrY/ZqE

『まだ道が断たれたと決まったわけではありません。
 及ばずながら私も微力を尽くします。
 元気を出して下さい。Ms.高町』
「マッハキャリバー……ありがとう。
 うん。私、諦めたりしない。絶対ヴィヴィオを、みんなを守って、ここから助け出してみせるよ」

 そう言いながらなのはは浴衣の腰ひもを結び、その上に温泉に置いてあった紺色の羽織を着る。
 しばらくはこの格好で居る事になりそうなので、浴衣一枚ではさすがに体を冷やすからだ。

 そして、着替えを終えたなのはは改めて鏡を見る。
 そこに写っているのは温泉備え付けの浴衣を着た小さな女の子。
 エースオブエースと呼ばれた自分ではない。
 なのはな思わずくすりと小さく笑ってしまった。

「こんな時に、こんな事で笑ってたら不謹慎かな。
 でも、なんだか変な感じ。私ってこんなに小さかったんだね」

 そうつぶやいてなのはは鏡の前でくるっと回ってみたりポーズを取ってみたりする。

 しかし、動いてみて実感したのだが、腰のあたりに微妙に違和感がある。
 体が小さくなったせいで相対的にショーツがかなり大きくなっており、ぶかぶかなのだ。

 ――ちなみに、胸がぺったんこになっているので、すでにブラジャーは外している。

「……ずり落ちて来そうでいやだな。
 いっそ履かない方がいいのかな?
 万が一戦闘中にずり落ちてきてそれが元で死んじゃったりしたら冗談にもならないし」
『バリアジャケットをズボン型に変更すれば対応できるとは思いますが……』
「そうだけど、ずっとバリアジャケットを装着してもいられないし……」
『休息を取ろうという時には特にそうですね。
 Ms.高町が気になさらないのであれば、私としてもこの状況で大きすぎる下着は履かない事を推奨しますが』
「う〜〜ん……」

 乙女の羞恥心と現実の板挟みになってなのはは少し迷ったが、しばらくうなった末に決断する。

503脱ぎ去りしもの ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/25(土) 18:12:50 ID:UOrY/ZqE

「決めた! 脱いじゃう!
 浴衣の時は下着つけないって聞いた事あるし、こんな状況で気にする人いないよね、きっと!」

 そう言ってなのはは一旦羽織を脱ぐと、腰ひもをほどいて浴衣をはだけてショーツを脱ぎ捨てる。
 下着を履かなくても別に害は無いのだが、心理的に違和感は拭えない。
 しかし、万が一にもパンツがずり落ちたせいで死ぬのは嫌だし、せいぜい大人に戻るまでの辛抱だ。
 なのははそう考えて、顔を少々赤くしつつ、また浴衣の前を合わせて腰ひもを締め直す。
 そして、最後にまた羽織を着て着替えは完成だ。

「うん。大丈夫。たぶん一見しただけじゃわからない……よね?」
『そうですね。それに、子供の体型であればさほど気にする必要はないかと思われます』
「うん。ただ、元に戻る時は気をつけないとね……」

 なのははそうつぶやきながら改めて自分の姿を鏡で確認する。
 戦闘などで動き回ればひどく危険な状態になりそうだが、戦闘になればバリアジャケットに着替えるはずだ。
 今のなのはのバリアジャケットはミニスカートで危険だが、バリアジャケットの変更は可能である。
 少女時代に使っていたバリアジャケットならスカートは長いので、おそらくなんとかなるだろう。



 そして、ひとしきり自分の姿をチェックして一息つくと、なのははまっすぐに立って鏡に写る自分の姿を見つめる。

 そうやって幼い頃の自分の姿を見ていると、その頃に出会った幼いフェイトの姿が自分の横に見えるような気がした。
 あれだけ泣いたのに、死んでしまった親友の事を思うとまた目頭が熱くなって涙が出そうになる。
 だが、なのははそんな感情を振り払うようにぶんぶんと首を振り、ぐっと両拳を握って気合いを入れた。

「よしっ! 戻ろう!
 まだまだ、私は元気なんだもん。くよくよしてる場合じゃないよ。
 行こう、マッハキャリバー!」
『はい。Ms.高町』

 そう言ってなのはは脱いだ下着の上下と大人用の浴衣を抱えて脱衣所を出た。
 なんとなく口調が子供っぽくなっているのは鏡で今の自分の姿を確認したせいかもしれない。
 しかし、そのおかげでこれまでの自分と今の自分を切り替える事ができたとも言える。
 温泉でいくらか回復できた事もいい方向に作用したのかもしれない。
 いずれにせよ、子供になってしまった事は、なのはにとって悪い事ばかりでもなかったようだ。

504脱ぎ去りしもの ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/25(土) 18:13:20 ID:UOrY/ZqE

(フェイトちゃんも、きっと私に頑晴れって言ってくれる)

(ヴィヴィオを。スバルを。この島に連れてこられた人たちみんなを助けて欲しいって願ってる)

(だから行くよ私。負けない。絶対諦めない。最後までくじけない)

(フェイトちゃん。だから、ヴィヴィオを、みんなを、……そして、私を見守っていて下さい――)

 そんな思いを胸に、冬月とケロロの元に向かうなのはの背を、窓から入った夜風が優しく押す。
 その風から自分を励ますフェイトの想いを感じたような気がして、小さな少女は少し表情を和らげた。







「加持殿……さぞや無念だったでありましょう。一体どこの誰が加持殿を!
 しかし、我輩きっと犯人を見つけて償わせるであります。
 冬樹殿やメイ殿を殺したヤツらと同じように……
 だから、草葉の陰から見ていて欲しいであります!!
 ああ、だけど一緒にいたタママは無事なんでありましょうか。心配であります」

 なのはが着替えに行った後、温泉施設のロビーでケロロが無念そうにつぶやいた。
 ケロロが命の恩人とも思っている加持が死んだのだ。
 その怒りは冬樹やメイを殺した犯人へのそれと比べても勝るとも劣らぬものなのだろう。

 そんなケロロを少し心配そうに冬月が見ている。

(ケロロ君は気付いていないのか? タママ君が加持君を殺したという可能性に……)

 ケロロもタママと加持の間がうまく行っていない事は知っていた。
 だからこそ彼らを二人っきりにして話し合わせ、仲良くなってくれる事を期待していたのだ。
 だが、その後2人は転移装置によって共にどこかへ消えてしまった。
 そして加持の死。

 もし2人の事をよく知らない人ならば、タママが加持を殺したと考えたかもしれない。
 だがケロロは、2人が喧嘩をしていたとしても殺し合う事はないと信じて疑っていないのだろう。

 あるいは冬月のようにマッハキャリバーから2人が消える直前まで争っていた事を聞いていれば違ったかもしれない。
 でも、冬月はまだその事をケロロには伝えていないのだ。

505脱ぎ去りしもの ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/25(土) 18:13:51 ID:UOrY/ZqE

(仮に、犯人がタママ君だったとすると、タママ君への対応は難しくなる)

(しかし、タママ君はタママ君なりにケロロ君やサツキ君を守ろうとしていたのだろうな……)

 タママが思い違いからそんな行動を取ったのなら説得して罪を理解させる事が正しい道だろう。
 だが、冬月にも加持が何かを企んでいた可能性は否定できないのだ。
 彼は基本的には頼れる男だったが、有能であるがゆえに信用ならないという面も確かにあった。
 加持がサツキの支給品を盗んだというタママの言葉も嘘や見間違いとは限らない。
 だとすれば、充分疑う余地はある。

(だが、たとえそうだったとしても、加持君を殺して決着をつけるという方法を選ぶべきではない)

(少なくとも私にとってはそれが正しい。だが、味方に害が及ぶ前に何とかしようという考えもひとつの正解だろう)

 だから冬月はもしタママが犯人でもタママを罰する事には気が進まなかった。
 たとえ考えが違っても、タママは大事な仲間なのだ。
 やり方に問題があるとしても、望みは同じだったはずだ。
 今冬月達に必要なのは固く結びついた絆である。
 冷たいようだが、たとえ加持の死が原因であっても、できる事なら仲間同士で争う事は避けたいのだ。

(絆か。タママ君が加持君を殺したとして、それを隠して絆を結ぶなどとは。ただの欺瞞なのではないか……)

(いかんいかん。いつの間にかタママ君が加持君を殺したと決めつけている。私とした事が、軽率だな)

 何もタママが加持を殺したと決まったわけではないのだ。
 ならば今はタママが殺したのではないと信じてやるべきだろう。
 もしも再開できてその時に何か明確に疑わしい事があったならその時に考えればいい。
 今からタママを擁護する事を考えるなど、タママに対しても失礼だ。



「冬月殿。何か考え事でありますか?」

 冬月がタママについての考えに区切りをつけようとしていると、ケロロが声をかけてきた。
 どうやら難しい顔をして考えていたので心配されてしまったようだ。

(いかんな。顔に出てしまっていたようだ。なるべくケロロ君には余計な心配をさせないほうがいい)

506脱ぎ去りしもの ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/25(土) 18:14:22 ID:UOrY/ZqE

 冬月はそう考えて、とっさに平静を装ってケロロに答えた。

「……いや、たいしたことではないんだ。
 これから考えねばならない情報の事を頭の中で整理していただけだよ」
「そうでありますか。
 確かにこれからどうするべきか。考える事は多いでありますなあ」

 どうやらケロロにはそんな冬月の考えは気取られなかったようだ。
 冬月は長年の人生経験から身につけた厚い面の皮を今はありがたく感じつつ、言葉を続ける。

「ああ。だが、何とかせねばならない。
 このままあの草壁という男の思い通りになどさせられるものか」
「もちろんであります!
 力を合わせて、必ずあの男ともう1人の主催の娘っこをギャフンという目にあわせるでありますよ、冬月殿!」

 ケロロのそんな言葉に冬月は心からの肯定の意を込めて頷いた。

(そうだ。このまま皆の命を、そして私の命をあいつらの好きになどさせてはならんのだ……)

(そのためにできる事は。やらねばならない事はなんだ。考えろ、冬月コウゾウ)

 打倒主催者を叫び気合いを入れるケロロとはまた別のベクトルで冬月も気を引き締めていた。

 戦う力を持たず、特殊な能力もない自分にできる事は考える事だけだ。
 ならばそこに全力を尽くさねばならない。
 冬月はそんな思いを胸に、静かに闘志を燃やすのだった。







 その後、着替えを終えたなのはが温泉施設のロビーに戻り、3人は再びロビーに集合した。
 そこで冬月は、まず2人にノートパソコンの説明を始める。
 ケロロが発見したDVDの事も気にはなったが、内容を見るには時間がかかりそうだった。
 だから一旦その3枚のDVDはデイパックにしまっておき、パソコンの方を優先する事になったのだ。

507脱ぎ去りしもの ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/25(土) 18:14:57 ID:UOrY/ZqE

 ロビーのソファーに座り、パソコンを立ち上げた冬月がまず最初に2人に見せたのは掲示板だった。

「掲示板? こんなものがあったなんて……」
「すでにいくつか書き込みがあるようでありますな」
「うむ。それで、まずこの最初の書き込みを見て欲しい。
 この朝比奈みくるという人物は先ほど死亡者として名前があがっていただろう」

 冬月にそう言われて2人は掲示板の最初の書き込みを読んでみる。
 そこには『朝比奈みくるは主催者の仲間です。あの女を殺してください』と書かれていた。
 ちなみにこの書き込みはシンジによるものだが、冬月たちがそれを知る術は無い。

「この掲示板を見ていたから冬月さんは彼女の名前を知っていたんですね?」
「そういう事だ。ただ、この書き込みが真実かどうかは何とも言えない所だ。
 そもそも主催者の仲間だから殺してくれというのが短絡的すぎる。
 私としては、いささか感情的すぎるという印象を受けるな」
「そうでありますなあ。
 しかし、その朝比奈という方も亡くなってしまったわけであります。
 もしやこの書き込みを読んだ参加者に殺されたのでありましょうか?」
「それもわからないな。
 わからないが、そういう可能性もある。
 掲示板に書き込む時はそういう事も考えておかないと無用の衝突を生みかねないという事だな」
「そう言えば、朝比奈みくるっていう名前はさっきのDVDにもありましたね。
 長門ユキ、朝比奈ミクル、古泉イツキの3人……なぜこの3人なんでしょうか?」
「この3人に何らかの繋がりがあると見る事もできるな。
 そうするとこの書き込みもあながち嘘ではないという事になるが……
 しかし、はっきりした事はあのDVDを見てみない事にはなんとも言えないだろう。
 このパソコンでも見られるかもしれないが……まあ、それは後にしようか」

 冬月の言葉に2人は頷き、さらに掲示板の書き込みを読み進めていった。

「おっ? この書き込みは……ドロロのやつでありましょうか?」
「む? 知っているのかねケロロ君?」

 次の書き込みを見たケロロは、『東谷小雪の居候』という名前にすぐに気付いた。
 東谷小雪というのはドロロが一緒に生活している地球人の少女の名前である。

508脱ぎ去りしもの ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/25(土) 18:15:33 ID:UOrY/ZqE

「この名前からして、ほぼ間違いないでありますよ。
 ドロロは我輩の仲間の中でも特に真面目な男でありますから、
 この書き込みは信用していいと思うであります」
「ふむ。となると、このギュオー、ゼロス、ナーガという3人は危険人物に間違いないというわけか。
 しかし、ナーガはすでに死亡したと先ほどの放送で言っていた。
 となると、我々が知る危険人物は、深町晶・ズーマ・ギュオー・ゼロスの4人。
 それにあの空を飛びミサイルを撃ってきたカブト虫の怪人を加えて5人という事になるか」

 冬月はそう言って、自分をミサイルで攻撃してきた異形の怪人の姿を思い出す。

(あの時はうまく逃げる事ができたが、できれば二度と会いたくはないな……)

「我輩も少しだけその怪人の姿を見たであります。
 体から高熱を放射して森に火を放ったのもそいつでありますよ」
「市街地で激しい攻撃を加えてきた上空の敵も、そのカブト虫の怪人ですよね?」
「状況からすればそうだと考えて間違いないだろうな。
 残念ながら名前はわからないが。
 そう言えば彼は何人かの参加者の事を私に尋ねてきたな。
 あの後色々あったせいで聞かれた名前は忘れてしまったが、確か高町君の事を聞かれたのは覚えている。
 もちろん私は何も教えなかったがね」

 そこで自分の名前が出された事になのはは少し驚く。

「どうして私を……?
 聞かれた他の参加者というのはスバルやヴィヴィオやフェイトちゃんではないですよね?」
「ああ。少なくともそれはなかったな。
 それに、彼の目的を聞き出す事はできなかったが、殺し合いそのものとは違う目的があったように思う。
 とは言ってもそれも私の憶測にすぎないがね。
 結局そこから何かを読み取るのは難しいと言わざるを得ないだろう」
「気になりますけど、今は何もわかりませんね……」

 仕方がないのでとりあえずこの話はここまでにして、3人は掲示板を読み進めていった。

「中・高等学校内に危険人物……これもドロロが言うのでありますから、気をつけた方がいいでありますな。
 と言っても、この書き込みはお昼前のものでありますから、今どうなっているかはわからないでありますが」
「あんな大火事があったからね。
 ところで、ドロロっていう人は生け花が趣味なの?」

 なのはがケロロに尋ねる。
 掲示板の名前の欄に『生け花が趣味の両きき』と書いてあったからだ。

509脱ぎ去りしもの ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/25(土) 18:16:15 ID:UOrY/ZqE

「やつはペコポンですっかり日本の文化に染まってしまったのであります。
 元々暗殺兵だったでありますが、ペコポンに来て忍者にクラスチェンジしてしまったでありますからなあ」
「に……忍者? 忍者ってあの手裏剣を投げたりどこかに忍び込んだりする忍者?」
「そうであります。
 この東谷小雪というのが忍者の少女で、小雪殿に会った事が忍者になったきっかけのようであります。
 あ、誤解の無いように言っておくでありますが、
 暗殺兵だったと言ってもドロロはまったく危険な人物ではないでありますよ?
 自然を愛し、ペコポンを愛し、正座して茶をすするのがお似合いの温厚なヤツであります。
 その上戦闘能力は武装したケロロ小隊の他の隊員4名を一度に相手にできるほどであります。
 もしドロロが一緒に居てくれればかなり心強いでありますなあ」

 『……時々存在を忘れるけど』と心の中でケロロは思ったが、あえて口にはしなかった。

 そして、その後の書き込みは1つだけ。
 古泉という学生服を着た茶髪の男が危険人物だという内容だった。
 古泉イツキもDVDに名前があった1人だが、DVDを見ていないのでそれが意味する所は不明である。
 また、この書き込みも誰が書いたかわからないので、一応心にとめておくだけにしようと言う事で意見が一致した。







「これで一通り読み終わったでありますな。
 しかし、せっかく掲示板があるのなら我輩たちからもドロロに何か伝えたい所であります。
 我輩たちしか知らない言葉を使って暗号を作れば、
 危険人物にバレないように合流する事だってできるかもしれないであります」

 そのケロロの言葉を聞いて、なのはも真剣に考え始める。
 ヴィヴィオと一刻も早く合流したいなのはにしてみれば、わずかな望みも見過ごせないという心境なのだろう。

「そうだね……
 もしヴィヴィオ達がどこかで掲示板の存在を知っていてくれればヴィヴィオ達とも合流できるかもしれない。
 それだけじゃない。スバルとだって……
 でも、ヴィヴィオにも解読できて、危険人物には絶対わからないような暗号が作れるかな?」

 スバルなら多少難しい暗号でも解読してくれるかもしれないが、ヴィヴィオはそうは行かない。
 そのため考え込んでいるなのはに、冬月がアドバイスをする。

510脱ぎ去りしもの ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/25(土) 18:16:47 ID:UOrY/ZqE

「暗号なら、喫茶店で使ったサツキ君の『狸の伝言』を使うという手はあるな。
 ヴィヴィオ君にも解読できるようにとなると、ヒントはなるべくわかりやすくせねばならないが、
 朝倉君も一緒にいるなら気付いてくれるかもしれん」
「おお、その手がありましたな!
 ドロロならばその暗号、気付いてくれそうであります。
 あとは誰の名前を暗号に使うかでありますなあ……
 小雪殿は掲示板に名前が書かれているでありますからやめておくとして、桃華殿かサブロー殿か……」

 ケロロは冬月の提案に賛成らしく、暗号で使う名前を考え始める。
 だが、喫茶店の暗号を知らないなのはは話が飲み込めず、冬月に質問する。

「その『狸の伝言』って、どういうものですか?」
「ある特定の文字を抜くと意味が通じるようにした文章の事だよ。
 喫茶店では『仲間の事は気にしないで』とヒントをつけ、
 私とタママ君の名前の文字を抜くと意味が通じるようにしておいた」
「なるほど。『た』だけを抜くような簡単な暗号なら気付かれやすくても、
 それだけたくさん字を抜くのは見抜かれにくいですね。
 ヴィヴィオやスバルが知っている人なら……はやてちゃんかアイナさんあたりかな?」

 狸の伝言の説明を受けてなのはも納得したらしく、暗号を考え始める。
 だが、冬月は少し申し訳なさそうにそれを遮って言う。

「確かに掲示板に暗号を書き込んで合流を目指すのは悪くないのだが、
 うまい暗号を考えるには少し時間がかかるだろう。
 だからそれは後回しにして欲しいんだ。
 もう一つ、検討したい事があるのでね」







 冬月はそう言ってタッチパッドを操作し、掲示板から画面をトップページに戻してkskコンテンツをクリックする。
 そうするとディスプレイにキーワード入力の画面が表示される。
 そして、その画面の下の方には小さくヒントが表示されていた。

511脱ぎ去りしもの ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/25(土) 18:17:21 ID:UOrY/ZqE

「冬月さん。これは……?」

 冬月が開いた画面を見て、なのはが尋ねる。

「この画面から先に進むにはキーワードを入力しなければならないようなんだ。
 キーワードのヒントはここに小さく、背景に近い色で表示されているんだが、私にはさっぱりわからなくてね」
「どれどれ。『ケロロを慕うアンゴル一族の少女の名前(フルネームで)』
 ……って、なぜ我輩の事がヒントになっているでありますか?」
「それは私にもわからない。
 だが、わざわざキーワードを入力させるのだから、君たちにだけ公開されている情報があるのかもしれないな」
「我輩たちにだけ、でありますか?
 一体なんでありましょうか。まあ、とにかく入れてみるであります」

 ケロロはそう言って考えを打ち切り、キーワードを入力してみる事にした。
 案ずるより産むが易し。やってみればわかる事を考えていても仕方がない。

「えー、ア・ン・ゴ・ル・点・モ・アっと。
 ゲロゲロリ。何が出てくるか見てのお楽しみでありますな。
 あ、それポチっとな」

 答えを入力し終わったケロロがエンターキーを押し、画面が切り替わる。
 そして、そこに現れたものとは――

512脱ぎ去りしもの ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/25(土) 18:17:57 ID:UOrY/ZqE


【G-2 温泉内部/一日目・夜】

【高町なのは@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】9歳の容姿、疲労(中)、魔力消費(中)、温泉でほこほこ、小さな決意
【服装】浴衣+羽織(子供用)
【持ち物】マッハキャリバー@魔法少女リリカルなのはStrikerS
     リボルバーナックル(左)@魔法少女リリカルなのはStrikerS
     ハンティングナイフ@現実、女性用下着上下、浴衣(大人用)
【思考】
0、役に立つ情報だといいけど……
1、冬月、ケロロと行動する。
2、一人の大人として、ゲームを止めるために動く。
3、ヴィヴィオ、朝倉、キョンの妹(名前は知らない)、タママ、ドロロたちを探す。
4、掲示板に暗号を書き込んでヴィヴィオ達と合流?


※「ズーマ」「深町晶」を危険人物と認識しました。ただしズーマの本名は知りません。
※「ギュオー」「ゼロス」を危険人物と認識しました。
※マッハキャリバーから、タママと加持の顛末についてある程度聞きました。
※夢成長促進銃を使用し、9歳まで若返りました。

513脱ぎ去りしもの ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/25(土) 18:18:47 ID:UOrY/ZqE

【冬月コウゾウ@新世紀エヴァンゲリオン】
【状態】元の老人の姿、疲労(大)、ダメージ(大)、腹部に刺し傷(傷は一応塞がっている)、決意
【服装】短袖短パン風の姿
【持ち物】基本セット(名簿紛失)、ディパック、コマ@となりのトトロ、白い厚手のカーテン、ハサミ
     スタンガン&催涙スプレー@現実、ジェロニモのナイフ@キン肉マン
     SOS団創作DVD@涼宮ハルヒの憂鬱、ノートパソコン、夢成長促進銃@ケロロ軍曹
【思考】
0、果たして何が出てくるかな。
1、ゲームを止め、草壁達を打ち倒す。
2、仲間たちの助力になるべく、生き抜く。
3、夏子、ドロロ、タママを探し、導く。
4、タママとケロロとなのはを信頼。
5、首輪を解除する方法を模索する。
6、後でDVDも確認しておかねば。


※現状況を補完後の世界だと考えていましたが、小砂やタママのこともあり矛盾を感じています
※「深町晶」「ズーマ」を危険人物だと認識しました。ただしズーマの本名は知りません。
※「ギュオー」「ゼロス」を危険人物と認識しました。
※マッハキャリバーから、タママと加持の顛末についてある程度聞きました。
※夢については、断片的に覚えています。



【ケロロ軍曹@ケロロ軍曹】
【状態】疲労(大)、ダメージ(大)、身体全体に火傷
【持ち物】ジェロニモのナイフ@キン肉マン、
【思考】
0、一体何が見られるんでありましょうか?
1、なのはとヴィヴィオを無事に再開させたい。
2、タママやドロロと合流したい。
3、加持となのはに対し強い信頼と感謝。何かあったら絶対に助けたい。
4、冬樹とメイと加持の仇は、必ず探しだして償わせる。
5、協力者を探す。
6、ゲームに乗った者、企画した者には容赦しない。
7、掲示板に暗号を書き込んでドロロ達と合流?
8、後でDVDも確認したい。
9、で、結局トトロって誰よ?


※漫画等の知識に制限がかかっています。自分の見たことのある作品の知識は曖昧になっているようです

514 ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/25(土) 18:22:32 ID:UOrY/ZqE
2回目の仮投下、終了です。
いや、ただ縮めただけじゃんって言われるとその通りすぎて何も言えませんが、
一応これだけ書いておけば「放送を聞いてすぐの反応」と「掲示板への感想」は消化できたのではないかと……

515なるか脱出!? 神社の罠(前編) ◆YsjGn8smIk:2009/07/27(月) 18:36:30 ID:rXOZgaF.

『スバル! 山の向こうで凄い煙が上がってるですぅ!』

偵察から戻ってきた性悪妖精ことリインフォースのその言葉でその場にいる全員に緊張が走った。
まっくろくろすけことウォーズマンが声を投げかける。

「リインよ、何処が燃えていたかは判るか?」
『ここからじゃ煙しか見えなかったです。……山頂の神社からならもっとよく見えると思いますけどぉ』
「フウム……その山頂の神社は見えたか?」
『はい、少し行った所に階段があって、その上にそんな感じの建物が建ってました』

性悪妖精のその報告を聞き終えるとウォーズマンが勢いよく俺たちの方へと振り向いた。元気な事だ。

「聞いてのとおり、神社はもうすぐだ。スバル、そしてキョンよ。歩けるな?」
「はい!」

と、力強く答えるスバルだが、その動きはどうにも鈍い。
まあ……動きが鈍いのは俺も一緒なのだが。

俺たちは疲労していた。

ウォーズマンに痛めつけられた俺と、ボコボコにされ(まあ半分は俺のせいなんだが)疲労しているスバル。
そんな身体での山登りなので、俺たちの移動速度はどうしても鈍かった。

そんなこんなで結局、俺たちは放送までに神社にたどり着く事が出来なかった。
性悪妖精が戻ってきてから数分も歩かないうちに、辺りには草壁のおっさんの声が響いたのだ。



「グ……な、なんて事だ〜〜っ。草壁サツキとゲンキが死んでしまったと言うのか……」

がっくりとうなだれるウォーズマンの姿を見て、フリーズしていた俺の思考もようやく再起動する。
そしてその頃になって俺の頭にもようやく事態が飲み込め始めた。
そうだ、いま確かに草壁のおっさんは朝比奈さんと俺の妹の名前を呼んだんだ。
つまりこれは……朝比奈さんと妹が死んだという事なのだろうか?
ハルヒの時のように、あっさりと。

原因はなんだろうか。二人はどんな風に死んでしまったのだろうか?
……いや待て、朝比奈さんと妹が死んだ理由? 
俺は理由を知っている気がする。
なんだっけな。確か、ああそうだ――俺が二人の殺害を頼んだんじゃないか。

『だから、雨蜘蛛さん…もしこの二人に出会ったら……二人を…』
『みなまで言うな――お前さんの望み、この雨蜘蛛様が叶えてやろう』

そうだ、あの時の約束通りに雨蜘蛛のおっさんが二人を殺してくれたのだ。
ははは……運良く雨蜘蛛のおっさんは二人に出会えたんだのだろう。
俺自身が立て続けに妹・ハルヒ・古泉と出会えたんだ。そんな偶然が起こっても今更驚かないぞ。

「…………」

眩暈がする。

516なるか脱出!? 神社の罠(前編) ◆YsjGn8smIk:2009/07/27(月) 18:37:02 ID:rXOZgaF.

「キョン君!?」

ああ……俺をそう呼ぶのは誰だ?
朝比奈さん? それともあいつか?
いやいや、どうした俺? 冷静になれ。二人はもう死んだんだ。
草壁のおっさんがそう言ったんだから間違いない。
もう俺がそんな風に呼ばれる事はないはずなんだ……二度と。

眩暈が――する。

なんだ、これは?
まるで、まるで混乱しているみたいじゃないか。
馬鹿げている。二人を殺してくれと頼んだのは俺だ。
自分で頼んだ事が実現してショックを受けるなんてどうかしている。
俺はこう思うべきだ。
『雨蜘蛛のおっさんのお陰で二人を殺さなくて済んでよかった』ってな。
なあ、そうだろ? あとはもう生き返るだけで、二人はこれ以上苦しまないで済むんだ。
喜べよ俺。なんでこんなに胸が苦しいんだ。

これじゃあまるで――。

【ああ、そうさ。後悔してるんだよ】

唐突に聞こえたその声に俺は凍りついた。視線だけを動かして声の方向を見やると。
……そこには『俺』が居た。

【だから言ったんだ。今のお前じゃ悪魔になんてなれないって】
「なんで、お前が……」

思わず呻いてしまう。
二度と見たくなかった顔がそこにはあった。

目の前には俺そっくりな『俺』が俺を見下ろしていた。

おいおい。なんなんだよこれは。俺はいつの間に眠っちまったんだ?
よりによってなんでこいつがここに居る?

「なんでお前がここに居る。大体、悪魔になれないだって?
 はっ、お前も知ってるだろ? 俺はあれから古泉を罠に嵌めて、ナーガのおっさんを殺した。
 もう十分悪魔なんだよ。……そんな俺がいまさら何を後悔するって言うんだよ」
【よりによってあの雨蜘蛛のおっさんなんかに殺人を依頼しちまった。それを後悔している……違うか?】

その言葉に――胸が、軋む。

「そ、そんな事は――」

ない。
と……どうしても口に出しては言えなかった。
理性はそう言い切りたかったのだが、感情が、口がついてこない。
そう、感情。
俺は初めて理解する。さっきからこの胸をギリギリと締め付けるような痛みの正体を。

「そんな馬鹿な……なんで今更」

517なるか脱出!? 神社の罠(前編) ◆YsjGn8smIk:2009/07/27(月) 18:37:33 ID:rXOZgaF.

こいつの言葉を肯定なんてしたくなかったが、今回ばかりは正しいのかもしれない。
くやしいがそんな風に内心で認めてしまった。
胸を締め付け、俺を苦しめているこの感情は恐らく――――後悔。
いくら後で生き返るとは言っても、あの拷問狂な雨蜘蛛のおっさんに朝比奈さんと妹の殺害を依頼しちまったのだ。
後悔……しているのかもしれない。
あのおっさんはきっと俺の時のように朝比奈さんを――妹を――拷問したのだ。
有刺鉄線で体を縛り、眉間に銃を突きつけながら、枝切りハサミで徐々に指を切る。
顔を殴られ、腹を貫かれ、そしてあの少年のように徐々にミンチにされ、「キョン君」と俺の名を呼びながら事切れ――。

「うげえっ!」

喉の奥に熱いものが込み上げくる。

ああ――吐き気がする。

そしてそんな嘔吐感の中で、俺は何故かスバルの言葉を思い出した。
『君が殺した男の子にもいっぱいいっぱい大切なものがあった筈だよ』
ああ、そうかよ。つまりこういう事なんだな。
癪だが認めてやるよ……いや、認めざるをえない。

【な、後悔してるんだろ?】
「……ああ。そうなのかもな」

俺は静かに認めた。認めちまった。
殺し合いが終われば生き帰って記憶が無くなるとはいえ、俺は朝比奈さんや妹に苦しんでほしくはなかったんだ。
そして俺が殺したあの子供やナーガのおっさんにも、そう思う人間がいるのかもしれない。
今更そんな事に気付いちまった。

最悪だ――俺は全然悪魔になんてなれてない。
そんな偽善めいた良心みたいなモノがまだ残っていたんだ。

【なあ、もうこんなバカな事は止めにしないか?】

『俺』が呆れたように肩をすくめる。
その言葉に、俺は流されたくなった。
だってそうだろ? 俺が殺さなくても雨蜘蛛のおっさんあたりがきっと殺し尽くしてくれる筈だ。
俺はこのままスバルたちと一緒に殺し合いを止めるなんていう無駄な足掻きをしてればいい。
どうせ長門の計画を止める事なんて出来っこないんだしな。

【どうした? 気味が悪いぐらいまともな事を考えてるじゃないか。ついでにもう一つの方も誤魔化すのは止めないか?】
「急になんだ。俺がいったい何を誤魔化してるっていうんだよ?」
【終われば元通りになるっていう、その現実逃避をだよ】

……またそれか、しつこい奴だな。
後悔は確かにしてるみたいだが、それは現実逃避でもなんでもない。

「あのな、長門の目的は観察なんだ。観察が終われば生きかえらせてくれるに決まってるだろう」
【アホか。仮に観察が目的だったとしても観察対象はハルヒだけだろ? 
 なら長門、いや――情報統合思念体はハルヒだけしか生き返らせないんじゃないか?】

鼓動が早くなる。何を言ってるんだこいつは? 
理解できない。いや理解したくない。

【こんな事にも気付けないのは単にお前が目を――】
「ぐああああああああああああああああああああああああ!!」

俺は絶叫する。その先は聞きたくなかった。理解したくなかった。
だと言うのに『俺』はしつこく言い続ける。俺は再び叫び。

「キョン君!」

叫んだ瞬間、頬をはたかれたような衝撃が俺を襲い、視界が真っ白になった。
頬が痛え……だけどその痛みに同時に安堵を覚えていた。
その痛みのお陰で『俺』の声がまったく聞こえなくなっていたからだ。
真っ白な視界が明けると、目の前にいつの間にか青い髪の女が――スバルが居た。

「よかった、気が付いた?」
「……気が付いたって、何の話だ?」

518なるか脱出!? 神社の罠(前編) ◆YsjGn8smIk:2009/07/27(月) 18:38:04 ID:rXOZgaF.

俺は見下ろすスバルに向かって憮然と尋ねる。
……というか俺はいつのまにか地面に横たわっていた。一体何がどうなってるんだ?
俺のその疑問が分かったのかスバルが説明した。

「放送を聴いてキョン君は倒れたんだよ、覚えてない?」

情けない事に……どうやら俺は気絶していたらしい。
道理で『俺』が現れる筈だ。しっかりしろ俺。情けないぞ。

「フムウ……」

頭を振りながら立ち上がると、何故かウォーズマンがじっと俺を見ていた。
俺はその視線に嫌な感じを受けて目を逸らしながら尋ねる。

「なんだよ?」
「いや。……歩けるようならもういくぜ。早くギュオーたちと合流し、このエリアから離れねばならないからな」
『そうです、あと一時間でここが禁止エリアになっちゃうんですから、キリキリ歩いてください』

そんな憎まれ口を叩く陰険妖精すら何処となく心配そうな顔で俺を見てやがる。
くそ、それだけ無様に気絶しちまったって事か。

「わかった、わかりましたよ」

俺はため息をつきながら歩き始める。
……なんとか歩けそうだが、妙に足がふらついていた。

「キョン君、大丈夫?」

うしろからスバルがそんな事を聞いてくるが、俺はそれを無視して歩き続けた。
こいつの言葉を――キョン君というその呼び名を――聞いてると、胸が軋む。
理由は知らん。たぶん疲労のせいで心が弱っているのさ。だから俺はスバルを無視する。
疲労。疲労なんだ。
胸が軋むのも、気絶したのも、あの悪夢も全部疲労のせいだ。

疲れていた。
酷く疲れきっていた。

今だけは何も考えたくない。殺し合いの事も、死んでしまった――の事も。
何も考えず、ただ重い足を前へと動かす事だけに集中する。
だというのに。

なんで身体の震えが止まらないんだ。



リヒャルト・ギュオーはそれを聞いたとき、その金色の瞳に驚愕と疑惑を浮かべた。
主催者が放送を通して告げてきたその言葉は彼にとってそれほど予想外だったのだ。

「何故よりによってここを禁止エリアにする……!」

彼は苛立ち紛れに床を蹴破りながらそう叫ばずにはいられなかった。
前回といい今回といい、まるで主催者は狙ったかのようにギュオーがいる場所を禁止エリアにしていた。
そう、あたかもギュオー個人に悪意があるかのように。

519なるか脱出!? 神社の罠(前編) ◆YsjGn8smIk:2009/07/27(月) 18:38:52 ID:rXOZgaF.

(いや――もしやあるのか?)

苛立ち紛れに浮かんだその考えが意外と正解なのではないかとギュオーは気付く。
前回のH-5といい今回のF-5といい、ギュオーにとって都合の悪い場所が選ばれていたのだ。
それにより前回は草壁メイの死体をウォーズマンに発見される危険が生まれ、
今回はそのウォーズマンとの合流を阻まれかけている。
偶然というにはあまりに出来すぎていた。

(となると原因はなんだ? ……まさか草壁メイか?)

放送が聞こえてきた空へと視線を投げながら、ギュオーが思いついたのはそれだった。
つまり、娘の死体を粉砕された事に怒った草壁タツオが嫌がらせをしているのではないかと考えたのだ。

(いや、それはありえんな。娘をこのような場所に放りこんだ父親がそんな事で怒りを覚えるはずがない。
 ならばなんだ? 他に主催者たちに恨まれる覚えなどないのだが……)

思考の迷宮へと迷い込みそうになったギュオーだったが、彼はその事ばかりに気を取られているわけにはいかなかった。
主催者により神社から追い出されかけている彼は、早々に移動先を決め、別のエリアへと脱出しなければならないのだ。
恨まれている理由の究明はひとまず横に置き、ギュオーは目前に迫った問題に目を向けた。

(しかし何処へ行ったらいい? 北は大火災がおきている。恐らく今回の死者の多さはあの火災のためだろう。
 となると北は危険だ。行って得られるものがあるとも思えん……ならば南か?)

未だ煙があがっている北の空から平穏そうな南の空へと視線を動かしながらギュオーは頷く。

(ふむ、それがいいような気がするな。上手くすればウォーズマンとも合流出来るだろうしな)

この場で合流予定のウォーズマンは未だに姿を現さない。
放送で呼ばれていないのだから死んではいないのだろうが、何か問題が起きているのは間違いないのだろう。
そんな事を考えながらギュオーが視線を空から山道へと移したのだが――その瞬間、彼の瞳は再び驚愕に染まった。

(あれは! まさか……ガイバー!?)

視線の先、この場へと続く山道――僅か百メートル程度の至近に宿敵ガイバーの姿を発見してしまったのだ。
それを見てギュオーは咄嗟に鳥居の影へと身を潜める。
鳥居の影からそっと窺うと、その横には印象的な黒い男――ウォーズマンと少女――恐らくあれがスバル・ナカジマだろう―

―が居た。どうやらウォーズマンたちはガイバーと行動を共にしているらしい。

(……まずい、まずいぞ。ガイバーと居るという事はまさか俺の事がばれたのか?)

夕闇のせいではっきりとは見えないがあのガイバーが深町晶ならば全てがばれている可能性もあった。

(いや待て、そう考えるのは早計だ! ユニットを支給されただけの無関係な奴かもしれん……ん?
 待てよ……もしそうならば、これで俺が知らない二つ目のユニットがあったという事になるな)

自身の考えにギュオーは息を呑んだ。
ユニットが量産されている可能性は予想していたが、他にも何かを思いついた気がしたのだ。

(というなるとこの島にはかなりの数のガイバーが居る事になる。ならば主催者たちはユニットに手を加え……た?)

その瞬間、稲妻に打たれかのようにギュオーの心に衝撃がはしる。

(そうだ! 手を加えなければガイバーは例え一片の細胞片からでも全身を復元してしまう。
 そして細胞から復元したガイバーには首輪が――この殺し合いの要たる首輪がない!
 この殺し合いを成立させているのはこの首輪だ、主催者がそんなミスをするだろうか?)

自身の首にある冷たいそれに触りながらギュオーは今までの主催者の行動を思い浮かべる。

520なるか脱出!? 神社の罠(前編) ◆YsjGn8smIk:2009/07/27(月) 18:39:24 ID:rXOZgaF.

(いや、草壁タツオと長門有希はそこまでマヌケではないだろう。
 となると、ガイバーの復元能力はかなり衰えている可能性が高い。
 最低でも首が切断されたら二度と復元できないレベルまで抑制されているはず。
 ……そうでなければ簡単に首輪を外されてしまうからな)

そしてギュオーは思考の迷宮を走破した末に、自身の未来すら左右する重要な疑問へと遂に到達した。

(……では装着者が殺された場合、ユニットはどうなる?
 本来ならガイバーは細胞の一片からでも復元するが、この島では恐らくそれはない)

ギュオーは自身の思考の先にある希望の香りに、ひどく興奮していた。

(そのまま機能を停止する可能性も否定できんが、もう一つの可能性も考えられる)

そしてにやりと声に出さずに笑いながらギュオーはガイバーを見やる。

(そう、つまりユニット・リムーバーがなくとも、この手にユニットGを手に入れられるという可能性が!)

視界の先では倒れていたそのガイバーがゆっくりと起き上がっていた。
ウォーズマンたちと一緒にこちらへと登ってくるユニットG。
ギュオーにはすでにあれがガイバーではなくユニットに見えていた。

(どうする? ガイバーごとウォーズマンたちを不意打ちで殺してしまうか?)

そっと神社の奥へと身を隠しながらギュオーは思索する。
見ていて判ったのだが奴らの動きはどうも鈍い。戦いでもあったのか酷く消耗していた。
不意をつけば一息で倒す事も可能だろう。

(いや、落ち着けギュオー! ウォーズマンにはまだ使い道がある。
 いま奴らとの信頼関係を失うのは惜しい。……ここはチャンスを待つべきだ)

ギュオーは顔を歪ませながら、そのチャンスをどうやって引き起こすか夢想する。

(そうだな、ガイバーが一人となった所を狙えばいい。
 殺した後は深町辺りが襲いかかってきたとでも言えば単純なウォーズマンは誤魔化せるだろう。
 ……そして獣神将たる俺がガイバーを纏い、世界の王となるのだ!)

口から漏れそうになる笑いを堪えながら、ギュオーはウォーズマンたちを出迎えに階段へと向かった。



「よく戻ったな、ウォーズマン!」
「おお、ギュオーか! 遅くなって済まない」

ギュオーはウォーズマンとしっかりと握手を交わし、再会を喜んで見せた。
そして初対面の二人へと視線を動かし、怪訝な表情で疑問を投げかける。

「その二人は?」
「ああ、スバルとキョンだ……詳しい話をする前にまずはここから離れよう」
「そうだな、ここが禁止エリアになってしまう前に移動した方がいいだろう」

ウォーズマンの言葉にとりあえず頷きながら、ギュオーはキョンという名前から詳細名簿の内容を思い出そうとした。
印象が薄い為に全ては思い出せなかったが、たしか普通の学生だったはずだ。
殺しても問題ない――そんな事を考えていたのだが、ふとウォーズマンが辺りを見ながら尋ねてきた。

「ところでギュオー、タママはどうしたんだ?」
「ああ、タママ君か……それなのだが実は彼は一人で北へと走り去ってしまったのだよ」
「たった一人でか!?」

521なるか脱出!? 神社の罠(前編) ◆YsjGn8smIk:2009/07/27(月) 18:39:54 ID:rXOZgaF.

驚くウォーズマンにギュオーは肩をすくめて言った。

「私も引き止めはしたのだよ? だが、ケロロ軍曹たちを助けると言って聞かなくてね」
「……ギュオーよ。タママは本当に自ら走り去ったのか?」
「ん、どういう意味だね?」

何故か鋭くなったウォーズマンの口調に眉をしかめながら聞き返す。

「本当にタママは自分の意思で走り去ったのか、と聞いているんだ」
「……なにがいいたい?」

知らず、声に困惑の響きが混ざる。ウォーズマンの口調に珍しく毒のような物を感じたからだ。
そしてウォーズマンは姿勢を正してこちらを見やると決定的な一言を放った。

「単刀直入に聞くぜ。ギュオーよ、俺はお前が殺し合いに乗っていると聞いたんだ」
「……ッ!?」

その時、ギュオーは表情に走った衝撃を隠そうとして失敗した。
そしてウォーズマンの後方にいるスバルも、同じように驚いてウォーズマンを見上げた。

「ウォーズマンさん……?」
「ここはオレに任せろ。この問題はやはり放置するわけにはいかない。
 ……スバル、そしてリイン。お前たちはキョンと一緒にそこで見ていてくれ」

そのウォーズマンの言葉に何かを感じたのか、スバルはその青い髪を僅かに揺らして頷いた。

「わかりました」
『キョンの見張りはお任せです』

そんな会話を横目に、ギュオーは脂汗を浮かべながら必死に打開策を考えていた。

(ええい、俺が殺し合いに乗っている事がどこから漏れた。
 魔法使いの小娘……いやそれとも深町晶か? とにかくここはなんとか誤魔化さなければな)

深くそして深刻な動揺からギュオーはなんとか立ち直り、細心の演技をこらして驚いてみせた。

「なんという事だ……一体誰がそんな嘘を? ウォーズマン、私は殺し合いになど乗ってはいない。
 恐らくこれは私を陥れるための罠なのだろう……」
「そう信じたいところだが、オレはお前に襲われたという人物に話を聞いたのだ」

腕を組みながらウォーズマンは悠然とそんな事を告げてくる。
それを聞いてギュオーの顔から余裕が弾けとび、焦燥が踊った。

(ぬ……う。そういう事か。
 奴らと直接会話をしたというのなら、いくらこのお人よしでも誤魔化しきれんかもしれん)

簡単に誤魔化せると思っていただけに、この予想外の事態にギュオーの背中に冷や汗が流れる。

「ま、待てウォーズマン! そいつらが真実を話しているとは限らない――」
「ギュオー。お前は何故そんなに焦っている?」

声を上ずらせたこちらの言葉を遮り、ウォーズマンが鋭く尋ねてくる。
その表情は苛烈といっていいほど引き締められており、その視線は矢のように鋭かった。

「心拍数もひどく上がっているな……そしてその額から流れる大量の汗」

そこで一拍、間を置き――ウォーズマンは言った。

522なるか脱出!? 神社の罠(前編) ◆YsjGn8smIk:2009/07/27(月) 18:40:25 ID:rXOZgaF.

「お前は……嘘をついているな?」

その時になってようやくギュオーはウォーズマンを侮っていた事に気付いた。

(……迂闊だったな。お人よしだと思って甘く見すぎていたが、こいつはコンピューターの分析力を持つロボ超人。
 そう簡単に誤魔化せるような相手ではなかったという事か……。
 ええい! こうなっては仕方がない。ここでウォーズマンたちを始末し、ユニットGを手に入れてくれるわッ!)

ここまで疑惑が深いのならば、いっそここで始末したほうが後腐れが無くていい。
そんな風にあっさりと方向転換する事を決めると、ギュオーは静かに拳を固めた。

「どうなんだ、ギュオー。お前は殺し合いに乗っていたのだな?」

鋭く尋ねるウォーズマンの視線を睨み返しながらギュオーはその質問に答えた。

「答えは………… ” Y E S ” だッ!!」
「ぐおっ――!」

一瞬で獣神将へと転じながらギュオーは重力衝撃波でウォーズマンを吹き飛ばす。
だがウォーズマンもそれを予想していたのか、上手く受け流して数メートル後方であっさりと地面に着地した。

「『ウォーズマンさん!』」

遠巻きに見ていたスバルとリインが動きかけるが、それをウォーズマンが軽く手を振って制止する。
そしてウォーズマンはこちらに顔を向けながら何故か深いため息をついてきた。

「なんという事だ……まさか本当にお前が殺し合いに乗っていたとはな――ギュオー!」

その言葉に何か嫌な予感を覚えて思わず問い返す。

「なんだと? ま、まさかウォーズマン今のは!?」
「その通りだ。オレにはお前が殺し合いに乗っているという確信はなかった。見事に馬脚を現したなギュオーよ」

ブラフに――よりによってウォーズマンに騙されてしまったのだ。
目が眩むほどの怒りを覚えながら、ギュオーは言葉を搾り出す。

「ちがう……。私はユニットを手に入れる為に自ら正体を明かしてやったのだ!
 そしてウォーズマン! ユニットさえ手に入れば貴様の力など最早必要ない!」
「おのれ――っ!」

距離を詰めようとウォーズマンが接近してくるが――遅い。
すでにギュオーは重力を制御し終えている。
全身に埋まっている球体――グラビティ・ポイントが煌き光る。そして圧倒的な重力が渦巻く。

「地 獄 へ …… 行 け ッ ー ー ー !」

解放された超重力に囚われてウォーズマンが木の葉のように舞う。
そしてウォーズマンごと周辺の大地十メートルほどを超重力が押し潰す。

「……そ、そんな」
『ウォーズマンさん!?』

大量に舞う土煙の向こうでスバルとリインが再び悲鳴をあげていたが、今度はそれに答えるウォーズマンの姿はなかった。
土煙が収まると、そこにあったのはクレータのみ。
すり鉢上に抉れた地面と欠片も残さず消滅したウォーズマンを見て、ギュオーは大きく笑った。

「はっはっは! 意外とあっけなかったな! ……さて、それではユニットをいただくとするか」

523なるか脱出!? 神社の罠(前編) ◆YsjGn8smIk:2009/07/27(月) 18:41:01 ID:rXOZgaF.

残っているのは時空管理局とやらの新人とガイバーの力を手に入れたただの学生。
さっさと殺してユニットを頂こうと腕を前に――出そうとして、腕が動かない事に気付いた。

「……なんだ?」

視線を落とすと獣神将の身体を何か光る鎖のようなものが縛っていた。

『そこまでです!』

すっかり忘れていたリインフォースが声をあげて言った。

『バインドをかけました、大人しく投降するです!』
「小賢しいわ、この羽虫があッ!!」

咆哮と共に噴き出る怒りを重力子に変え、生成した衝撃波をリインに解き放つ。
リインの仕業と判った瞬間、吹き荒れた怒りをそのままぶつけたのだ。

『きゃふ!』
「空曹長!? ……このおっ!」

いつの間にかギュオーの間合いへと接近していたスバルが拳を掲げながら吼えてくる。
だがリインが吹き飛んだ瞬間、ギュオーを縛る魔力の鎖もまた消滅していたのだ。

「その程度で私を止められるかとでも思っていたかッ!!」

拘束が解け、自由となった腕でスバルの拳に合わせるように――ギュオーも拳を放つ。

「がっ……は……!」

クロスカウンター。
自身の突進力に獣神将の腕力が加わったその一撃を喰らい、スバルは激しく跳ね飛び、転げ、地面を滑っていった。
そんなスバルを一顧だにせずギュオーは笑いながらガイバーの元へ――逃げ出そうとしていたキョンへと指を向け。

「おっと、逃がしはしないぞ」

指を弾いた。
いや、正確には重力で出来た弾丸を指で射出したのだが……それは見事にキョンへと炸裂する。

「ぐああああああ!」
「40%の威力の重力指弾(グラビティ・ブレット)だ。まだ死んではいないだろう?」

重力指弾を背中に食らい吹き飛ぶキョンに機嫌よくギュオーは話しかけた。
もうすぐ手に入るとなると、機嫌が悪くなる理由など何もなかった。
その時、キョンが急に起き上がり頭をこちらへと向ける。

「こ、この!」

だが――あまりに遅い。
その攻撃を予測していたギュオーは前方に生み出したバリアであっさりとヘッドビームを防ぐ。
そして動揺したキョンを蹴りとばして、背中を踏みつけた。

「がっ……!」
「もう終わりかガイバー? フフフ、ならばこれでようやく私が世界の王となれるわけだ!」

押さえ切れない哄笑が思わず口からこぼれ出す。
それが聞こえたのか、足元で呻くキョンが苦しげに聞いてくる。

「世界の王? い、一体何の話だ……」

524なるか脱出!? 神社の罠(前編) ◆YsjGn8smIk:2009/07/27(月) 18:41:31 ID:rXOZgaF.

その問いにギュオーは機嫌よく答えてやった。

「ふ、よかろう。あと数分の命だ、冥土の土産に教えてやろう」

そして、ユニットガイバーが捕食したものの身体能力を強化・増幅すること。
元から強力なものが――例えば獣神将が殖装すれば限りなく神に近い存在となれることを教えてやる。

「つ、つまりお前はガイバーになりたいって事か。ならガイバーは渡す! だから!」
「まあ、落ち着きたまえ。まだ話には続きがあるのだよ」

キョンを宥めて更に説明する。

「ユニットはな、本来はユニットリムーバーという物を使わねば解除は出来んのだよ。
 だが、私の予想ではこの島では装着者を殺せばユニットが手に入る可能性が高いと睨んでいる」

それを聞いて足元のキョンが驚いたように叫ぶ。

「そ、それって……つ、つまり俺を殺すって事か!?」
「そういう事になるな。さて、理解できたところでそろそろ死んでもらおうか……私の為になッ!」

そしてギュオーはキョンを思いっきり踏みつける。

「ぐあ……ああああああああああああああああああああ!」

ガイバーのせいだろうか、意外にもキョンの背骨はあっさりと折れはしなかった。
絶叫するキョンを踏み抜こうと、ギュオーは更に足に力を込めようとして。

「リボルバーシュート!」
「――ぐぬ!?」

吹き飛んだ。
一瞬、何が起きたのか理解できなかった。
なにしろ気迫に満ちた声が聞こえたかと思えば次の瞬間には身体が吹き飛んできたのだから。
……とはいえ多少吹き飛びはしたが、それほど大した衝撃ではない。
すぐに体勢を整えて声が聞こえた方に視線を動かすと――そこには青の少女が拳を向けて立っていた。




525なるか脱出!? 神社の罠(後編) ◆YsjGn8smIk:2009/07/27(月) 18:42:02 ID:rXOZgaF.


「ほう、私の一撃を食らって生きていたとはな。そうか、そういえば貴様も戦闘機人だったな」

ギュオーがそんな言葉を漏らすが、それに返事をする余裕なんてスバルにはなかった。
キョンの悲鳴を聞いて意識を取り戻しのだが、咄嗟に撃った魔法が当ったのは奇跡に近い。
視界が揺れ、ふらつく身体に何とか活を入れる。

(痛っ〜……!)

木の幹に強かに叩きつけられたせいで背中が酷く痛んだ。でも背骨が折れていなかっただけ幸運だったのかもしれない。
それほどギュオーの一撃は凄まじかったのだ。

「く、ちくしょう!」

スバルがギュオーと睨みあって出来たその一瞬の合間を拾い、キョンが駆け出す。
神社の外を目指して一目散に。

「ええい、往生際の悪い! 逃がさんといってるだろうがッ!!」

ギュオーが咄嗟に重力指弾を放とうとしたが、その隙を逃すわけにはいかなかった。

「うおおおおおおおおおっ!」

スバルは残った力を振り絞って真正面から飛びかかった。
そして叫びながら全力で打ち出したスバルの右拳が今度こそギュオーの顔に突き刺さった。

「お……のれッ!」

だがギュオーは顔面を歪ませながら僅かに後退しただけだった。
そしてその巨体から繰り出される拳をなんとか避けながらスバルはうしろへと大きく跳ぶ。
信じられないタフネスだった。
しかしキョンにはそれで十分だったのだろう。
スバルがちらりと視線を動かすと、キョンはすでに神社の境内から姿をくらませていた。

「そんなに先に死にたいのなら、望みどおり貴様から先に殺してくれる!」

獣神将のその殺気に押され、一歩だけ後ずさる。
だけど、なんとかそこで踏み止まる。身体は既に限界に近い。
時間をかければかけるだけ勝率が下がっていく事をスバルは悟っていたからだ。
故に――狙うは一撃必倒。

(接近してバリアブレイク、そのままディバインバスターでノックダウン……それに賭けるしかない)

それにはデバイスの――レイジングハートの協力がどうしても必要だった。
スバルはそっとレイジングハートに問いかける。

「レイジングハート、戦える?」
『はい。ただしリカバリーは60%程度しか終わっていません。
 今の状態では魔法が安定しない可能性がありますので、注意を』
「わかった。レイジングハート……セットアップ!」
『stand by ready.set up.』

刹那の後、スバルの左手には杖状のレイジングハートが、そして身体にはバリアジャケットが現れた。

「ほう、それがベルカ式魔法という奴か?」
「……?」

526なるか脱出!? 神社の罠(後編) ◆YsjGn8smIk:2009/07/27(月) 18:42:32 ID:rXOZgaF.

ギュオーのその言葉に僅かに疑問が湧くが、スバルはそれをあえて思考から追い出す。
一点集中、それしか活路はないのだから。

「いっくぞおおお!!」

だんっ! と、地面を踏み抜き前進する。
だがギュオーはスバルの接近を許さず、重力指弾でこちらの接近を阻む。

(これじゃあ、近付けない……!)

間断なく襲い掛かってくる重力の弾丸を避けているうちに、次第にギュオーとの距離が開いていくのを自覚する。
距離が開けば開くだけ不利になる――こちらの切り札は接近しなければ使えないのだ。
ジリジリと追い詰められるスバルにギュオーがじっとこちらを見据えて低く笑った。

「もう接近などさせんよ。IS『振動破砕』だったか? そんなものを使われては堪らないからな」
「……なんで」

それを知っているの?
その言葉にスバルは一瞬、気を逸らされた。――刹那、ギュオーが手を振り上げて衝撃波を放つ。

「――――っ!」

レイジングハートの自動防御が……僅かに間に合わない。
衝撃がバリアジャケットを通り抜けていくのを、スバルは声なき悲鳴をあげながら理解した。
痛みとショックに耐えながら、地面の上を転がり、スバルはその場に倒れこんだ。

「貴様の事は全て知っているぞ、スバル・ナカジマ――いや、タイプゼロ・セカンドよ!」

にやりと笑う獣神将。スバルの背筋にぞくりと冷たい物が走った。
スバルは圧倒的な力と全てを見通すようなその眼差しに確かに恐怖を覚えてしまったのだ。

(勝てない……の? あたしの力じゃ……)

膝が震えて立ち上がることは出来ない。目が霞んで視界がぼやける。

「さて、私も忙しい。そろそろ死んでもらうとしよう」

ギュオーの全身に埋まっている球体が発光し、その腕の中に力が渦巻くのを感じた。
ウォーズマンを倒したあの技だと――そう意識した瞬間。

スバルの脳裏に急激にさまざまな思い出が浮かんだ。

ウォーズマンの顔が。
ナーガの顔が。
ガルルの顔が。
アシュラマンの顔が。
フェイトの顔が。

死んでいった人たちの顔が思い浮かぶ。

(これって……走馬灯?)

そして中トトロの顔が。
キョンの顔が。

思い浮かんではまた消えた。

(やだ……まだ、死にたくない。まだ、死ぬわけにはいかない)

527なるか脱出!? 神社の罠(後編) ◆YsjGn8smIk:2009/07/27(月) 18:43:07 ID:rXOZgaF.

まだ助けられてない、まだ何も出来ていない、まだ……まだっ! 
歯を食いしばり、足に力を込める。
その意思に――身体が応えてくれた。

(まだ……立てる。そうだよ、今のあたしは……泣いてるだけのあの頃のあたしじゃないんだから!)

厳しい教導に耐え抜いた身体はまだ動く、動いてくれた。
地面に手をつき、身体を支える、ゆっくりと立ち上がってレイジングハートを構える。
レイジングハートも応えてくれた。魔力がスバルの眼前に障壁を生み出す。

障壁じゃ防げないかもしれない――そんな弱気が脳裏に閃くが、負けるもんかと歯を食いしばって弱気を振り払う。
スバルとは逆にギュオーは勝利を確信しているのか――笑みを浮かべていた。そして。

「では、さらばだ――ん?」

と。
収束した力をこちらに向けた瞬間。突如ギュオーの身体がぐらついた。彼の足元が揺れていたのだ。

「……地震か?」
「ギュオオオオオオオオォォォ――――っ!!」

地震――ではなかった。
それはドリル、それは竜巻、それは――螺旋回転する超人だった。
地下から飛び出してきた黒い竜巻は土を吹き飛ばしながらギュオーの身体をも弾き飛ばす。

「なんだとッーーー!?」

叫ぶギュオーと驚くスバルの間にその超人は着地し――呼吸する。

「コーホー」

と、腕を交差させてしっかりと。
そこには確かに彼が居た。死んだと思った黒い伝説超人(レジェンド)が。

「ウォーズマン! 馬鹿な、なぜ貴様が生きている!?」
「簡単な事だ。オレはセンサーが重力異常を感じたその瞬間、
 自ら超人削岩機(マッハ・パルバライザー)で地面への奥へ潜ることで、ダメージを最小限に抑えたのだ」

平然とそんな事を言われたギュオーが絶句する。

「ウォーズマン……さん?」

倒れそうになりながら名前を呼ぶと、黒い伝説超人は大きく頷いてくれた。

「遅れてすまない。固くなった地盤から抜け出すのに時間が掛かってしまった……大丈夫か?」
「はい……なんとか!」

本当は立ってるのがやっとだと言うのに、不思議と力が沸いてくるのを感じていた。
自分が決して一人じゃない、その事が挫けかけていたスバルの心に不屈の力を与えてくれていた。

「リインとキョン?」
「空曹長は……ここです」

短く聞いてくるウォーズマンにそう簡潔に答える。
すぐ近くで気絶していたリインをそっと手のひらの上に乗せながら、そしてスバルはもう一人の行方を告げる。

「キョン君は……その、逃げました」
「なんだと!?」

528なるか脱出!? 神社の罠(後編) ◆YsjGn8smIk:2009/07/27(月) 18:43:38 ID:rXOZgaF.

ウォーズマンが驚愕すると同時に、超人の凄まじさに絶句していたギュオーもそこでようやく立ち直ったのか。

「ぐううッ、このくたばりぞこないどもがッ!!」

怒鳴りながら猛然と重力指弾を撃ち出してきた。
ウォーズマンはスバルの身体を抱きかかえながら、大きく飛び退き重力指弾の雨から逃れる。
そして追うようにとんできた重力指弾が様々な物が破壊していく。
神木を、鳥居を、そして狛犬を……ギュオーとの射線上にあったあらゆるモノが破壊されていく。

そしてその時、不思議な事が起こった。
急に大地が鳴動し始めたのだ。

「な、なんだ!?」

再度振動する地面に流石に警戒したのかギュオーは空中へと跳び退る。
だが、今度はギュオーの足元だけではなく神社全体が鳴動していた。
物陰に隠れながらそれを見ていたウォーズマンが口を開く。

「スバル。ここはオレに任せてお前はキョンを追え」
「え、でも……ウォーズマンさんは?」
「オレは正義超人としてギュオーとの決着をつけなければならない。
 ……だが、このままキョンを放っておくわけにもいかないんだ」

そこまで厳しい表情だったのだがふと、表情を緩めてウォーズマンは続ける。

「元・残虐超人だったオレにはわかる。
 放送時のあの動揺……奴は自らが行った残虐行為を後悔している。
 だが、一人になれば奴はまた罪を犯してしまうだろう。しかし……お前が居れば。
 お前のテンダーハート(優しい心)が隣にあれば……奴は正道へ帰る事が出来るかもしれないぜ!」

そのウォーズマンの言葉に、スバルは嬉しさと不安がない交ぜになる。

「で、でも! いくら何でもウォーズマンさん一人じゃ!」
「行けスバル! これはギュオーを信じたオレの責任。お前はお前が出来る事をするんだ!」

その強い言葉に押されるようにスバルは吹っ切る。

「わかり……ました! ウォーズマンさん、どうか無事で!」
「ああ、お互いやるべき事が済んだら先ほどのリングで合流しようぜ!」
「はい!」

そしてギュオーが振動する神社に気を取られているのを確認するとウォーズマンが叫ぶ。

「いまがチャンスだ。行けっ、スバーーール!」

ギュオーの注意が逸れているその隙に――スバルはキョンが消えた草むらへと飛び込んでいった。





沈みかけの太陽の光が木々の隙間から僅かに漏れる。
そんな薄暗い山道を俺はひたすら走り続けた。
視界ははっきり言って悪い。何度も木の根に足を取られかけて転びかけていたぐらいだ。

こういう薄暗い夕暮れ時の事を逢魔時とか言うんだったか。
確か魔物が出るような時間帯って話だったはずだが――現状では洒落にもならない。
今現在俺は魔物から命がらがら逃げ出しているんだからな。

529なるか脱出!? 神社の罠(後編) ◆YsjGn8smIk:2009/07/27(月) 18:44:08 ID:rXOZgaF.

逃げる、逃げる、後ろも見ずにひたすら逃げた。
魔物から?

いや、何も考えたくないのに次から次へと襲い掛かってくるこの現実からもだ。
頼むから休ませてくれよ。今だけは何も考えたくないんだ。
だというのに、なんであんな怪物に命を狙われなきゃならないんだ。
ああ、ハルヒの声が聞きたい。……そう思わずにはいられない。
一日前の俺が聞いたら笑っちまうだろうが今だけは真剣にあいつの声を聞きたい……そう真剣に思った。
あいつの声が聞こえたら、何も考えずに済むんだ。
ただあいつを生き返らせるために、ゲームを終わらせる事だけを考えてればいい。
あいつの為に殺せばいいんだ。

そしてまた後悔するのか?

胸が軋む。
朝比奈さんと妹が死んだ、たったそれだけの事で俺はおかしくなっちまった。
なんだか知らんが、妙な事ばかり思い浮かぶ。

もう止めようぜ、俺には無理だったんだ。
古泉を殺せるのか? それにたとえば長門を殺せるか?
無理だ。朝比奈さんと妹が死んだと知ったぐらいでこんなに無様に迷っている俺が、殺せるわけがない。
それともまた雨蜘蛛のおっさんにでも頼むか? 殺してくれって。

胸が軋んだ。
そして激しい胸の痛みに思わず足を止めて胸を押さえていたら――バクン、と。
突然、強殖装甲が解除された。

「う……がっ」

殖装が解けて俺の身体に強烈な痛みが襲いかかってくる。
ガイバーじゃなくなったからだ。……気が遠くなる。
なんでガイバーが解除されちまったんだ?
なんだよ、これは。わけがわからねえぞ!

「ガイバーーーーー!」

地面に転がりながら俺は力の限りガイバーを呼ぶ。
……だが呼んだと言うのに何も変わらない。
たしか解除されても呼べば次元の狭間から来るはずだろ?
なんで来ないんだよ。説明書に書いてあったあれは嘘だったのか?

くそ、痛みで気が遠くなる。
どうなってるんだ……ガイバーがなければ、殺せない。
ああ、気が遠くなる、だが意識は……失いたくはない。
また『俺』に……会うのはごめんだ、せめて、ハルヒに会わせてくれ。
そうすれば……俺は……。



何か声の様なものが聞こえて思わず振り向いた。

「?」

そしてトトロがその声の聞こえたほうへと歩いていくと、そこには人間が倒れていた。

「ガルッ!」

530なるか脱出!? 神社の罠(後編) ◆YsjGn8smIk:2009/07/27(月) 18:44:39 ID:rXOZgaF.

血の臭いを感じてライガーが唸る。
その人間のから濃い血の臭いがしたからだ。
びっくりした顔でトトロが見ていると、その横をすり抜けピクシーがその人間に近づく。

「〜〜?」

ピクシーはその人間が動かない事を確認すると、抱き起こした。
その拍子にうつ伏せに倒れていたその人間の顔がトトロにも見えた。

「!」

トトロの目が見開かれる。
それは見た事のある顔だったからだ。

「――ハァ!」

ピクシーがその人間に気合を込めて回復魔法をかける。
トトロはそれを横目に手のひらに僅かに残っていた手紙の切れ端をじっと見つめた。

「キュクルー?」
『それは……先ほどの手紙。もしかしてこの人物が?』

フリードとその首にかかっているケリュケイオンが尋ねてくる。
それにトトロは無言で頷き、倒れている人間に近寄った。
近くで見るとその人間が負っている傷は――深い。

「フ〜〜」

しばらく魔法を使い続けていたピクシーだが、そんな声をあげてへたり込んでしまう。
どうやらこれ以上、回復魔法を使うのは無理のようだった。
人間の傷は、まだ治りきっていない。

「…………」

トトロはゆっくりとその両腕でそっとその人間を抱え上げる。

『どうするのですか?』

ケリュケイオンの言葉にトトロはにっ、と笑って駆け出した。
風のように、疾風のように。
木々がつくり出す、森の抜け道を全力で走り続ける。
トトロは知っていたのだ。

傷ついた動物が温泉で療養するという事を。

531なるか脱出!? 神社の罠(後編) ◆YsjGn8smIk:2009/07/27(月) 18:45:09 ID:rXOZgaF.


【G-3 森/一日目・夜】

【トトロ@となりのトトロ】
【状態】腹部に小ダメージ
【持ち物】ディパック(支給品一式)、スイカ×5@新世紀エヴァンゲリオン
     フリードリヒ@魔法少女リリカルなのはStrikerS、ケリュケイオン@魔法少女リリカルなのはStrikerS
     ライガー@モンスターファーム〜円盤石の秘密〜、ピクシー(疲労・大)@モンスターファーム〜円盤石の秘密〜
     円盤石(1/3)+αセット@モンスターファーム〜円盤石の秘密〜、デイバッグにはいった大量の水
【思考】
1.自然の破壊に深い悲しみ
2.誰にも傷ついてほしくない
3.キョンを温泉にいれて療養させる
4.????????????????

【備考】
※ケリュケイオンは現在の状況が殺し合いの場であることだけ理解しました。
※ケリュケイオンは古泉の手紙を読みました。
※大量の水がデイバッグに注ぎ込まれました。中の荷物がどうなったかは想像に任せます
※男露天風呂の垣根が破壊されました。外から丸見えです。
※G-3の温泉裏に再生の神殿が隠れていました。ただしこれ以上は合体しか行えません。
※少なくともあと一つ、どこかに再生の神殿が隠されているようです。


【名前】キョン@涼宮ハルヒの憂鬱
【状態】気絶、ダメージ(中)、疲労(特大)
【持ち物】デイパック(支給品一式入り)
【思考】
0:ハルヒの声が聞きたい。
1:手段を選ばず優勝を目指す。参加者にはなるべく早く死んでもらおう。
2:ギュオーから逃げる。
3:採掘場に行ってみる?
4:ナーガが発見した殺人者と接触する。
5:ハルヒの死体がどうなったか気になる。
6:妹やハルヒ達の記憶は長門に消してもらう。

※ゲームが終わったら長門が全部元通りにすると思っていますが、考え直すかもしれません。
※ハルヒは死んでも消えておらず、だから殺し合いが続いていると思っています。
※みくると妹の死に責任を感じて無意識のうちに殺し合いを否定しています。
 殺す事を躊躇っている間はガイバーを呼び出せません。



『スバル。対象が移動を開始しました』

エリアサーチでキョンらしき『複数』の反応を捉えていたレイジングハートがそんな報告をしてくる。

『キョンとその人たちが一緒に歩き始めたって事ですかぁ? ……それって危険ですぅ!』

少し前に意識を取り戻したリインが、スバルが頭にしがみ付きながら悲鳴をあげる。
リインの言う通り――危険だった。
キョンと一緒に居るのが殺し合いに乗っている人間だったら、キョンが。
そして乗ってない人間だったら場合は、その人たちの命が。
スバルはふらつく身体をなんとか前進させながら、レイジングハートに問いかける。

532なるか脱出!? 神社の罠(後編) ◆YsjGn8smIk:2009/07/27(月) 18:45:39 ID:rXOZgaF.

「レイジングハート、まだ……見失ってないよね?」
『はい。ですが対象は異常な速度で移動しています。
 このままではあと数十秒ほどでサーチエリアの外へと離脱されてしまいます』
「もっと速度を上げないと……追いつけないって事だね」

萎えた足に力を込める。大丈夫――走れる。
身体も魔力も限界なんてとっくに超えている。
だけど、それでも――走る。まだ走れた。

闇に覆われ始めた漆黒の森をレイジングハートの誘導に従いスバルは駆け続けた。
足はしっかりと動いてくれていた。だけど。

「ごほっ……ごほっ」

突然、咳が出る。
息が詰まり、流石に立ち止まって手で口を押さえた。

『スバル!?』

頭上からリインの驚いたような悲鳴が聞こえる。
そしてリインが何に驚いているのか、スバルにもすぐに判った。
口に当てた手のひらが――赤く染まっていたのだ。
一瞬、何が起こったのかまったく理解できず、スバルは硬直する。

『危険ですスバル。すでにダメージは危険領域を越えています。休息を進言します』
『ですぅ! 無茶はいけませんよ。もしかしたら内臓にダメージがあるのかも……』

レイジングハートとリインがそう警告してくれたが、スバルは笑って言う。

「大丈夫ですよ。さっきの戦いでちょっと口の中を切っただけですから」
『でもぉ……』
「ここで止まれません。止まるわけには行かないんです!」

ギュッと腕で口を拭いながら、心配そうなリインを安心させるように力強く、宣言するように言った。

『キョンの為ですかあ?』
「それもあります……でも、それだけじゃないんです。これは自分の為でもあるんです。
 今ここで止まったら、今ここで出来る事をやらなかったら、絶対後悔するって思うんです」

理想を信じてくれたウォーズマンやガルルの為にも……止まるわけにはいかなかった。

『スバルの決意はわかりました……。でもキョンを捕まえたら絶対に休んでくださいね?』

心配そうに、だがそれでもリインはそう言って認めてくれた。
それにしっかりと頷いてスバルは再び駆け始める。自身の信じるモノの為に。

533なるか脱出!? 神社の罠(後編) ◆YsjGn8smIk:2009/07/27(月) 18:46:10 ID:rXOZgaF.


【F-4 森/一日目・夜】

【スバル・ナカジマ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】ダメージ(特大)、疲労(特大)、魔力消費(特大)、今の状態で身体を酷使すると吐血します
【装備】メリケンサック@キン肉マン、レイジングハート・エクセリオン(修復率60%)@魔法少女リリカルなのは

StrikerS
【持ち物】支給品一式×2、 砂漠アイテムセットA(砂漠マント)@砂ぼうず、ガルルの遺文、スリングショットの弾×6、
     ナーガの円盤石、ナーガの首輪、SDカード@現実、カードリーダー
     大キナ物カラ小サナ物マデ銃(残り7回)@ケロロ軍曹、
     リインフォースⅡ(ダメージ(中))@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【思考】
0:キョンを追う。殺し合いに戻るようなら絶対に止める。
1:機動六課を再編する。
2:何があっても、理想を貫く。
3:人殺しはしない。なのは、ヴィヴィオと合流する。
4:I-4のリングでウォーズマンと合流したあとは人を探しつつ北の市街地のホテルへ向かう (ケロン人優先)。
5:オメガマンやレストランにいたであろう危険人物(雨蜘蛛)を止めたい。
6:中トトロを長門有希から取り戻す。
7:ノーヴェのことも気がかり。
8:パソコンを見つけたらSDカードの中身とネットを調べてみる。

※大キナ物カラ小サナ物マデ銃で巨大化したとしても魔力の総量は変化しない様です(威力は上がるが消耗は激しい)
※リインフォースⅡの胸が大きくなってます。
 本人が気付いてるか、大きさがどれぐらいかなどは次の書き手に任せます。





それはある意味ショッキングな光景だった。
特にギュオーにとっては。

「神社が変形する……だと……!」

ギュオーが呆れたような驚いたような微妙な呻きを漏らした。
そう、ギュオーの言うとおり神社は機械的な動きで変形をしていった。
屋根だけは原型を留めているが、他は壁だろうが床だろうが関係なく、動き、曲がり、合体していく。
そして神社だったものはウォーズマンにとって見慣れたある物へとその姿を変態し終える。
それは。

「……リングか」

ウォーズマンも思わず呟く。
そう、スポットライトに照らされたそれは――どう見てもリングだった。
屋根とそれを支える柱だけを残して神社の壁や床は変形してリングとなっていたのだ。

「な、なんだこの……ありえん変形は……!」

変形してリングに変わる神社など始めて見たのだろう。ギュオーはその瞬間、完全に戦いを忘れていた。
だが、長い年月様々なリングを見てきたウォーズマンはその驚愕から立ち直るのもまた早かった。

「スクリュー・ドライバー!」

回転する黒いドリルとなり空中で佇むギュオーに向かって牙を剥く。
しかし、ギュオーはやはり只者ではなかった。
直前でそれに気付くと咄嗟にバリアを張って受け止める――が。

534なるか脱出!? 神社の罠(後編) ◆YsjGn8smIk:2009/07/27(月) 18:46:50 ID:rXOZgaF.

「なにいッ!?」

それでも尚、ギュオーは驚愕の声をあげた。
確かにバリアで受け止めはしたのだが――黒い竜巻はバリアごとギュオーを押し始めたのだ。

「ぬ……!」

荒れ狂う黒の奔流に押しやられるようにギュオーはリングの上へと着地した。
そしてウォーズマンも回転を止め、リング上へと着地しながら宣告する。

「ギュオーよ。このリングで相手をしてやる!」

ウォーズマンは超人レスラーだ。
リングの上でこそ100%の力を発揮できる。故にリングでの決着を望んだ。
ただ、それだけだったのだが――それはウォーズマンにも予想しえない事態を引き起こした。

『警告。シールデスマッチモードの発動を確認。現時点からリング外は全て禁止エリアとなる。繰り返す。警告――』

首輪からそんな警告が発せられ、

「……!」
「なんだとッ!」

図らずも二人の動きが同時に止まった。
そして首輪は数度警告をすると沈黙してしまい、それ以上の情報は何も得られなかった。

「どういう事だ……まさか主催者どもは私達をこのリング上に閉じ込めたのか?」
「首輪の警告を信じるならばそういう事になるな……」

敵同士だというのにギュオーが漏らした独白に思わず返事をしてしまう。
距離を取りながら、思考の迷宮に入りかけていた二人だが、
異常事態は止まる事をしらなず、更に襲い掛かってきた。

ゴゴゴゴ。

と。
再び地面が鳴動した。

「今度はなんだ?」

ギュオーが呻きながら尋ねてくるがウォーズマンに答えられる筈もない。
そしてしばらくするとリングの中央の床から何かがせり出してきた。



 | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|
 | 僕は実況中トトロ!,|
 |_________|
    .∧ | ∧     
   ,i  |_,! i、    
   i .。 |_ 。, `i    
   i -ー、―-、 |    
   i ,/"^ヘ^i i   
   i i'       | |   
   i ヽ_,._,/ ,'   
    ゙ー---―'  


呆然とした二人が正気に戻るのには数分を要した。

535なるか脱出!? 神社の罠(後編) ◆YsjGn8smIk:2009/07/27(月) 18:47:20 ID:rXOZgaF.



「そうか、お前がスバルが言っていた中トトロか」
『スバルを知ってるの?』
「ああ。少し前までこの場に居たぜ」
『スバル……元気だった?』
「ええい、関係ない話をしている場合か! 動物ッ! つまり貴様はこの試合のジャッジをするというのだな?」

ウォーズマンが主導となり中トトロから事情を聞きだしていたのだが、話が逸れた事に苛立ったギュオーが割り込んで来た。
その苛立たしげな様子は先ほどの放送で『主催者への攻撃のペナルティ』、『かわいい部下も対象』という
あの警告がなければ中トトロを締め上げていただろう、とウォーズマンが確信するぐらい激怒していた。

『実況役でもあり、観客でもあるよ』
「なるほど、つまりは先ほど長門がやっていた――」
「貴様の立場は判った。それでシールデスマッチモードとはなんだ? 何故リング外がすべて禁止エリアとなったのだ!」

などと、ウォーズマンを押しのけて、またギュオーが質問をする。
言葉を遮られ、内心で思うところもあったが――その疑問はウォーズマンも持っていたので黙って見守る。

『じゃあ説明するね』

と、二人の視線を浴びた中トトロは軽く頷きながら説明をはじめた。
たどたどしいその説明を簡単に纏めるとこうだ。

・シール(封印)デスマッチモードとはリング上での決着がつくまで場外が全て禁止エリアとなり、
 勝負から逃げ出す事が出来ない特殊なデスマッチである。
・ただし場外でも一分間は首輪は発動しない。
・勝者がリングの上に設置されている籠の中に敗者を入れることで試合終了。
 その時点でシール・デスマッチモードは解除され、リング外全禁止エリア化は消滅する。

「なるほどな、大体わかった。つまり変則のケージマッチみたいなものだな?」

ウォーズマンは天井から吊るされていた鉄柵で出来た籠の様なものを見ながら尋ねる。
気になってはいたのだが、恐らくあれが敗者を放り込む檻なのだろう。

『その通りだよ! それで、あの……』
「まだ何かあるのか?」

僅かに躊躇ったような中トトロの言葉を聞いてウォーズマンは先を促す。

『今回は少し問題があって、その、あと三十四分以内に勝負がつかなかった場合、二人とも……溶けちゃいます』

あっさりと告げられた、そのとんでもない言葉にギュオーが驚愕したように絶叫する。

「な ん だ と !」
「……! しまった、そういう事か〜〜っ!」
「そういう事とは……どういう事だウォーズマン!?」

接近してくるギュオーに思わず先制攻撃をしそうになったが、
ウォーズマンのフェアプレイ精神がそれを辛うじて押し留める。
それでも流石に冷静ではいられず早口でその事実をギュオーへと伝えた。

536なるか脱出!? 神社の罠(後編) ◆YsjGn8smIk:2009/07/27(月) 18:48:28 ID:rXOZgaF.

「ギュオーよ、先ほどの放送を思い出せ。
 このエリアはあと三十四分……いや、正確にはあと三十三分二十四秒後には禁止エリアになるんだぜ――っ!」
「そうか! つまりそれまでに決着をつけ、このエリアから離れなければ二人して液体化する……そう言う事か!?」

ギュオーの問いかけに中トトロが頷く。

『そういう事です。なので早く試合を開始して決着を――』

そんな中トトロの言葉を最後まで聞くまでもなくギュオーは動いた。

「うおおおおおおおお! いくぞ、ウォーズマンッ!!」
「よかろう、来いギュオーーーっ!!」

カーン、と。高らかに試合開始のゴングが鳴り響いた。
今、主催者すら予測しなかったであろうデスマッチが始ったのだった。

F-5が禁止エリアになるまであと――三十三分。



【F-5/神社/一日目・夜】

【リヒャルト・ギュオー@強殖装甲ガイバー】
【状態】 全身軽い打撲、ダメージ(中)、疲労(中)
【持ち物】参加者詳細名簿&基本セット×2(片方水損失)、首輪(草壁メイ) 首輪(加持リョウジ)、E:アスカのプラグス

ーツ@新世紀エヴァンゲリオン、
     ガイバーの指3本、空のビール缶(大量・全て水入り)@新世紀エヴァンゲリオン、
     毒入りカプセル×4@現実、博物館のパンフ
     ネルフの制服@新世紀エヴァンゲリオン、北高の男子制服@涼宮ハルヒの憂鬱、クロノス戦闘員の制服@強殖装甲

ガイバー
【思考】
1:優勝し、別の世界に行く。そのさい、主催者も殺す。
2:ウォーズマンを倒しこの場から脱出する。その後、キョンを殺してガイバーを手に入れる。
3:自分で戦闘する際は油断なしで全力で全て殺す。
4:首輪を解除できる参加者を探す。
5:ある程度大人数のチームに紛れ込み、食事時に毒を使って皆殺しにする。
6:タママを気に入っているが、時が来れば殺す。

※詳細名簿の「リヒャルト・ギュオー」「深町晶」「アプトム」「ネオ・ゼクトール」「ノーヴェ」「リナ・インバース」「

ドロロ兵長」「加持リョウジ」に関する記述部分が破棄されました。
※首輪の内側に彫られた『Mei』『Ryouji』の文字には気付いていません。
※擬似ブラックホールは、力の制限下では制御する自信がないので撃つつもりはないようです。
※ガイバーユニットが多数支給されていると推測しました。
※名簿の裏側に博物館で調べた事がメモされています。
※詳細名簿の内容をかなり詳しく把握しています。

537なるか脱出!? 神社の罠(後編) ◆YsjGn8smIk:2009/07/27(月) 18:49:09 ID:rXOZgaF.

【名前】ウォーズマン @キン肉マンシリーズ
【状態】全身にダメージ(中)、疲労(大)、ゼロスに対しての憎しみ、サツキへの罪悪感
【持ち物】デイパック(支給品一式、不明支給品0〜1) ジュエルシード@魔法少女リリカルなのはStrikerS
     クロエ変身用黒い布、詳細参加者名簿・加持リョウジのページ、タムタムの木の種@キン肉マン
     日向ママDNAスナック×12@ケロロ軍曹
     デイバッグ(支給品一式入り)
【思考】
1:ギュオーを倒し、この場から脱出する。その後はI-4のリングでスバルを待つ。
2:タママの仲間と合流したい。
3:もし雨蜘蛛(名前は知らない)がいた場合、倒す。
4:スエゾーとハムを見つけ次第保護。
5:正義超人ウォーズマンとして、一人でも多くの人間を守り、悪行超人とそれに類する輩を打倒する。
6:超人トレーナーまっくろクロエとして、場合によっては超人でない者も鍛え、力を付けさせる。
7:機会があれば、レストラン西側の海を調査したい
8:加持が主催者の手下だったことは他言しない。
9:紫の髪の男だけは許さない。
10:パソコンを見つけたら調べてみよう。
11:最終的には殺し合いの首謀者たちも打倒、日本に帰りケビンマスク対キン肉万太郎の試合を見届ける。

【備考】
※ゲンキとスエゾーとハムの情報(名前のみ)、サツキ、ケロロ、冬月、小砂、アスカの情報を知りました。
※ゼロス(容姿のみ記憶)を危険視しています
※加持リョウジを主催者側のスパイだったと思っています。
※状況に応じてまっくろクロエに変身できるようになりました(制限時間なし)。
※タママ達とある程度情報交換をしました。
※DNAスナックのうち一つが、封が開いた状態になってます。


※【シールデスマッチ用特設リング】
神社が変形して出現したリングです。
リング起動用のスイッチは神社にあった狛犬の石像の口の中……だったのですがギュオーの攻撃で破壊され、運悪くスイッチが入ってしまいました。
名前の通りリングの外に逃げられないようにリング外が全て禁止エリアになるというシール(封印)されたリングです。
リングに二人以上の人間が立つとシール(封印)が発動。
リング外禁止エリア化という封印を解除する為には天井付近に設置されている檻に敗者を叩き込むか、あるいはリングアウト等で敗者が死亡した場合のみ解除されます。

敗者を放り込む檻は頑丈で、一旦閉まると簡単には脱出できないようになっています。

538 ◆YsjGn8smIk:2009/07/27(月) 18:50:45 ID:rXOZgaF.
以上で仮投下終了です。
長い間お待たせして、申し訳ないです。

539Hard Luck Duo ◆5xPP7aGpCE:2009/07/30(木) 03:12:13 ID:HUBhMMTs



太陽は今尚海と空を紅く染めていたが既に水平線の彼方に半ば以上没していた。
さほど時間を経ずして完全に沈むだろう、そして日中暖められた気温は心地良い程度にまで下がる。
だが例外もある、島の最北部では最も陽が高かった時の気温を更に更新し続けていた。

街とは人類が生み出した可燃物の集合体でもあった。
強風に煽られて火勢は一向に衰えない、何一つ消火活動が行われない無人の街を飲み込み尽くさんと寧ろ勢いを増している。
既にその尖兵は海岸までを制圧し、東西に前線を押し広げていた。

数十分前まで集っていた者達の姿は既に無い。
脱出手段を見つけた者は早々と去り、戦いを選んだ者は命を失った。
今や炎が主人として闊歩する街に残るのは僅か、その中に敗残兵の様に追い立てられる者が居た。



               ※       



―――遠くへ、化け物と災から出来るだけ遠くへ!

一人と一匹の逃亡者はひたすら走っていた。
人間の川口夏子とモンスターのハム。姿形は異なっても危険を避けるという生物的本能は変わらない、僅かでも安全な場所を求めて東を目指す。
だが走っても走っても熱気からは逃れられなかった、市街地全体がオーブンに放り込まれたと錯覚する程に灼熱地獄と化していた。
汗は忽ち蒸発し呼吸の度に喉が痛んだ、風すらも熱せられ天然のドライヤーとして丸干しにしようと吹き付ける。

シンジの地図に合流場所として記したデパートはとうに過ぎ去っていた。
元々期待薄であった上、来ていたとしてもこの大火の前では逃げ去っているだろうと思うしかない。
今は自分達の身の安全が何より優先なのだ。

川口夏子は今の自分が許せなかった。
強者の争いに巻き込まれたのは運が悪かったと納得できる、結果撤退したとしても何ら恥ずかしくは無い。
しかし過程はどうだ、自分は冷静に対処し最善の道を選べたのか?
―――否
では持てる力を振り絞り納得のいく戦いが出来たのか?
―――それも否

『わかるか? これが力の差というものだ。首をへし折られるか、切り落とされるのが嫌なら俺に逆らわない方が懸命だぞ』

何も出来なかった、化け物に呆然とし交渉すら成立せず単なる囮として利用された。
その上涙目で考えた事は現実逃避とも言える力への渇望、最初から最後まで子供同然の有様だった。

540Hard Luck Duo ◆5xPP7aGpCE:2009/07/30(木) 03:12:52 ID:HUBhMMTs

(女だから、弱いからいけないんだ! 無知だからヒドイ目にばかり遭うんだ!)

あの日以来何度も自分に言い聞かせてきた、大事だった家の手伝いも止めて努力し続けて来た。
西オアシス政府の軍人になれたのはそれだけの汗と血を流したからだ、何もせず強くなりたいなど―――自分自身を侮辱するに等しいというのに。
何と無様な事か! これでは糞に塗れたあの時の自分と変わらないではないか。

『だ、だからといってあなたのような危険のある人物を近くに置くわけには――がふっ』

何故あの時の自分はあんなに情け無い声を出した?
危険な連中など灌太を始め幾度も相手して来たではないか、姿形が違うだけであれ程取り乱すなんて!
今迄生きてきた結実がこれか、自分はここまで弱かったというのか!

己を取り戻すに従ってまざまざと記憶が蘇る。
とてつもなく耐え難い感情が渦を巻く。
衝動的に壁に頭を叩き付けたくなった、絶対にこのままの気分でいたくない!

「……殴って」
「ムハッ、何を言っているのですか夏子さん?」

それは罰。
それは二度と同じ事を繰り返さぬ為の誓い。
身に塗れた弱さを打ち払う為の夏子の選択。

「いいから殴って! これはケジメよ!」

ハムは急にそんな事を言われ戸惑いの表情を浮かべる。
だがすぐに夏子の顔を見て合点が行ったらしい、走るのを止めてブンブンとシャドーボクシングをしてみせる。

「言っておきますが我輩の拳は痛いですよ、本当に良いのですかな?」
「ええ手加減は無用よ、ガツンとして頂戴!」

目を閉じた夏子が横を向く、それは頬を殴れという意思表示。
夏子が立ち直ってくれるのはハムにとっても歓迎だ、女性を理由に断れば恐らく更に夏子を怒らせる。
ならやるべき事は只一つ、ハムは躊躇無くそれを実行した。

跳躍力に優れる兎の後脚が大地を蹴る。
更に屈めた身体がバネを効かせて上体を加速、固く握り締められた拳はフック気味の軌道を描いて夏子の顔面に激突した。

”ガゼルパンチ”

野生の獣が放ったそれを受けて夏子は3メートル余りも吹き飛んだ。
言われた通り手加減無しの本気の一撃、道路をマネキンの様に転がる彼女を見てハムの表情に不安が浮かぶ。
駆け寄ろうとした矢先、ヨロヨロと夏子が立ち上がった。

「いいパンチだったわ……、あんたウチの隊でも十分やっていけるんじゃない?」
「お褒めに預かり光栄です、正直立ち上がれないのかと思いましたよ」

鼻血と口元の血を袖で拭いながらも夏子は笑う、酷い顔だが憑き物が落ちたように目は光を取り戻していた。
これでいい、弱い自分とは決別しなければならないと彼女は自分に言い聞かせる。
砂漠で弱気になれば絶望を呼び込む、ここから新しいスタートを切れるかどうかが生死を分ける。
ぱん、と自分でも頬を叩いて気合を入れる。激痛が走るが死ぬ事と比べたらどうという事は無い。

541Hard Luck Duo ◆5xPP7aGpCE:2009/07/30(木) 03:13:44 ID:HUBhMMTs

「ハム、こんな頼りない同行者を見捨てたくなった? だとしても文句一つ言わないわよ」

夏子はここで改めて自分が認められているのかを問う。
さっきといい今迄といい本当に情け無い所を見せてしまった、賢い兎が別れを望むならば止めはしない。
信頼を失った相手と同行を続けたところでその末路は知れている。

「我輩を見くびらないで下さい夏子さん、先程の夏子さんならともかく今の貴方とは寧ろこちらから同行をお願いしたい程ですよ。
 第一ここで夏子さんを見限ったところで何一つ我輩の有利にならないじゃないですか」

ハムは当然のように首を振る。
確かに夏子は弱さを見せたがそれは彼とて同じ事。
悪魔将軍、アプトム、ゼクトールといった力の及ばない強者を知った、その上で別れるなど彼ならずとも愚策と判断するだろう。
幸い夏子は自ら立ち直った、彼女の気概を見せられてハムは自ら頬を出す。

「次は夏子さんがお願いします、私にとっても先の事は失態でしたし報いを受ける理由はあります」
「そして信頼も得たいという所かしら? まあいいわ、お互い貸し借り無しでやりましょう!」

言うが早いか夏子が動く、腰を軸に上体を捻り反作用が脚を勢い良く加速する。
横薙ぎの踵が先程のお返しとばかりハムの横っ面を猛打した、踏ん張りも効かずに二足兎は体操選手の様に回転する。
それでも受身はキッチリとこなすのはさすがモンスターという所か。

「イタタタ……、夏子さんも本当に手加減しないんですから危うく気を失うかと思いましたよ」
「それはお互い様じゃないの? さて、貴方のこれからの考えを聞かせて貰えないかしら」

頬を押さえるハムを夏子は助け起こした、今は早急に行動方針を決めなくてはならない。
策士として警戒していたが今や一蓮托生といっていい状況である事はハムとて解っている筈だ。

「我輩達の選択肢は限られてます、逃げるか引き返してあの人達に取り入るかです」

強者を味方に付けるのは街に来た目的の一つだった、頭を下げてでも仲間になるメリットはある。
あの時は先に夏子が断ってしまったが話し合いの余地は十分に有るとハムは睨んでいた。

「後者は反対ね、私達の感情を抜きに考えても決着が付いた後で仲間にしろというのは今更過ぎるわ」
「同意見です。それに夏子さんは感情的に申し出を受け付けなかったみたいですが合わないと思う勘は案外当たるものです。
 あの人達とたとえ組めても長続きしなかったと割り切りましょう」

こぼれた水は戻らない、ハムとて一度決裂した以上望みは薄いと思っている。
二人以外の他人は所在が知れない、なら逃げるしかない。言葉を交わすまでも無く頷き合う。
逃げ道についても選択の余地は無い、西側は完全に塞がれた、北や東は海に追い詰められるだけ。
火災の鎮火を期待するのは砂漠で雨乞いをするも同然、夏子とハムは既に市街地の運命を見限っている。

風が急速に強くなっていた。
偶然の追い討ちでは無い、火災の高熱が猛烈な上昇気流を生み出して周囲の空気を引き寄せているのだ。
それは新たな酸素を供給し、個々の火災を集束させ、巨大な塊となって渦を巻く。

”火災旋風”

大火や山火事で非常に恐れられる現象が起こり始めていた。
数百度の高温ガスが荒れ狂う炎の嵐、パゴダの様に立ち上るそれは今遠くともやがて襲い来る地獄。
危険を承知で南下する以外に道は無かった、もはや悪魔将軍を恐れてはいられない。

542Hard Luck Duo ◆5xPP7aGpCE:2009/07/30(木) 03:14:43 ID:HUBhMMTs

「急ぐべきです、下手すると南に火が回ってしまいます」

ハムが促す。ここからでは良く見えないが南の山腹でも盛んに煙が立ち昇っていた。
燃え方次第では炎に囲まれてしまう、ハムはそれを心配しているのだ。
夏子もそれは解っている、だが目の前の建物に気付いて立ち止まる。
ハムもすぐにそれに気付いた、看板に書かれた文字がはっきりと建物の役目を教えていた。

「診療所ですか、こんな街外れに在ったんですねね。まさかあそこに立ち寄りたいと!?」
「ええ、傷の手当てに使えるものが残っていれば是非回収しておきたいわ」

ハムはもう一度振り返って炎が到達する時間を推し量る、多少の品を持ち出す程度の余裕は有りそうだ。
これは不幸続きの一人と一匹に与えられた果実なのかもしれない。
ここまで来て何も得ずに引き返すのかという気持ちはハムにも有る、程無くして失われるとわかっているだけに一層美味として瞳に映る。

「異論はありません、ですが夏子さんはそれらの品を使えるのですか? 宝の持ち腐れというのは勘弁いただきたいのですが」
「当然よ、応急措置程度なら実務経験を何年も重ねてるわ」

録に医者が居ない関東大砂漠では自分で怪我の措置をするのは当たり前だった。
既に走り出した夏子を追いながらハムはやはり別れなくて正解だったという思いを新たにした。

(それにしても―――何故この施設は地図に載ってなかったのでしょうかね?)

ハムの疑問は尤もであった、確かに目立つ建物ではないが命のやり取りが行われる舞台では海の家や廃屋などよりよっほど重要度が高い筈。
なのはに朝倉、リナの様に治癒の技能を持つ存在が居る故か? だとしても医療施設としての価値を減じるとは思えない。
だがそれを言うのならこの島そのものが不可解なのだ、一施設の不記載などそれに比べればほんの些細な事に事に過ぎない。



               ※       



一般に離島の診療所は設備が充実しているとは言い難い、重病の患者は本土の基幹病院へ搬送するのが基本であるからだ。
それ故に市街地の外れなのだろう、ヘリポートを併設する診療所となればどうしても立地が限られる。
この島はレジャー施設が多いリゾート地という理由からか、離島としては充実した診療所であった。

「包帯、消毒薬、手術道具に医薬品各種、白衣まで有るわね。出来る限りの物は持っていくわよ!」
「ムハ〜、では我輩は病室を見回るついでに毛布やシーツでも集めるとします」

奇妙な言い方だがここは誰一人として訪れた事の無い処女地であった。
全ての物が手付かずのまま残っている、棚には整然と薬品の瓶が並び、掃き清められた室内にはゴミ一つ落ちていない。
手分けして有用と思われるものをバッグに詰めた、特に縫合糸や鎮痛剤など外傷の治療に役立つものは真っ先に確保した。

彼女らの貪欲さはこれまでの失ったものを少しでも埋め合わせようとしているかに見えた。
仲間とは離散し戦力も不足、せめて道具をと思うのは自然かもしれない。
それらが役立つ時が来るのかはわからない、それでも、賽の河原だとしても希望は積み上げていかねばならないのだ。

夏子が腕を止めた時、収納が全て開け放たれ台風や地震の被災地さながらの光景がそこに在った。
薬品はあらかたバッグに詰めた、急いだ為に高血圧や糖尿病の薬といった役に立ちそう無いものも混じっているだろうが元の世界の土産にはなる。
医学書までも回収したがさすがに手術台やレントゲンは諦めた。

543Hard Luck Duo ◆5xPP7aGpCE:2009/07/30(木) 03:15:39 ID:HUBhMMTs

時計に目を遣れば放送まであと僅か、一通りの物は手に入れた事だしハムと合流して一緒に聞くべきだろう。
念の為取りこぼしは無いかと別の部屋を覗いてみる。医療品が第一だったがそれは終わった、他に何か有れば僥倖だ。
探すまでも無くそれはあった、診療室らしきその部屋の机に設置されていたのはモールとゴルフ場で見たアイボリーの箱、即ちパソコン。
だが夏子の瞳は険しかった。

「S、O、S? こんな文字は前見たパソコンには無かったわね……」

そのパソコンは奇妙であった。
モールのパソコンもゴルフ場のパソコンも最初は電源が入っておらず当然画面も消えていた。
なのにこのパソコンは点いている、三文字のアルファベットが浮かんでいる―――となれば。

まさか他に誰かが入り込んだのか!? 夏子は銃を取り出して警戒を強める。
しかし気配は何処にも無い、不審に思いながらも夏子は銃を下ろさない。
パソコンを調べる? いや時間が無さ過ぎる、ここは一旦ハムと相談して―――

「夏子さん」

―――!!!

突然背後から声が掛けられた。
一瞬で振り向くと銃口の先には見慣れた兎が立っていた、危うく発砲しかけた指先が脱力する。

「何よ、脅かさないで。本気で焦ったわよ」
「それはこちらの台詞ですよ夏子さん、放送が近いから来てみたのですが……何かあったのですか?」

夏子の銃と共にハムも思わず上げた両手を下ろす。
視線だけで夏子が示す、ハムも視線を追って文字の浮かんだパソコンに気付く。

「言っておくけど私は何もしてないわよ、最初に見たときからあの状態だったの」

ここには誰も来てない筈、奇妙だと言いたげな声で夏子は語った。
薄暗い部屋に浮かぶSOSの文字、得体の知れないそれは確かに不気味な雰囲気を放っている。
ハムは一瞬目を細めたもののすぐ夏子に視線を戻した、夏子も理解して頷く。
今構ってる暇は無い、パソコンはひとまず放置してその場で地図と名簿を広げる。その直後に放送は始まった。

『全員聞こえているかな? まずは君達におめでとうと言ってあげるよ。
 辛く厳しい戦いを乗り越えてここまで生き残っているなんてそれだけで褒められるものだしね』

夏子もハムも一言も発しなかった。
一語一句を聞き逃すまいと集中する、夏子達にとって放送は数少ない情報源だ。
特に今回は繰り広げられる動乱を目撃しただけに敏感にならざるを得ない、ペンを構えながら言葉を待つ。

(炎上する市街地といい、この言い方といい、よほど今回は動きがあったらしいわね……)

その内容はどうせすぐに解る、今は覚悟だけを決めておく。

『だからといって油断しちゃ駄目だよ? 友達が出来た人も多いみたいだけどその人は隙を伺ってるだけかもしれないんだからね。
 できれば堂々と戦って死んでくれる方がいいなあ。
 あ、これはあくまで僕の好みの話だよ? 油断させて仲間を裏切るのは賢い方法だし大いに結構さ』

チラリ、と顔を上げたハムと目が合った。
お互い何も感情を顔を表わさずに視線を戻す。
夏子にとってハムに限らず他人は全てが警戒の対象だ、ハムとて似たようなものだろう。
しかし今は利害が一致している、仲違いしたところで得るものが無いと解っているからこそ隙を見せられる。
わざわざタツヲがそんな事を言うという事は参加者の結束は思った以上に固いのかもしれない、一瞬だけそんな可能性を考える

544Hard Luck Duo ◆5xPP7aGpCE:2009/07/30(木) 03:16:20 ID:HUBhMMTs

『さて、皆が気になる禁止エリアを発表するよ。九箇所にもなるとさすがに危ないから聞き逃さないようにね。
 暗くなってきたけどしっかりメモしておく事を薦めるよ』

そんな事は彼に言われるまでも無い、自然とペンを握る手に力が篭る。
一粒の汗が地図の脇にポトリと落ちた。

『午後19:00からF-5』

最初に指定されたのは島の山頂だった。
遠くてまず影響は無い。

『午後21:00からD-3』

遊園地を包囲する禁止エリアに追加の一箇所、これも遠い。
一見何かありそうな配置だが調べるのは時間からして難しい。

『午後23:00からE-6』

またしても島の中央部、今回は海は一箇所も指定されなかった。
そして気付く、この配置が意味するものを。

『覚えてくれたかな? 近い人は危ない場所に入り込まないようによく考えて行動すべきだよ。
 そんな死に方も僕にとっては面白くないからね』

(島が分断されかけているわね、通れる場所が狭まっている)

すぐに塞がれる訳ではないが意識しない訳にはいかないだろう。
だが今は深く考えている暇は無い。

『次はいよいよ脱落者の発表だ、探し人や友人が呼ばれないかよく聞いておいた方がいいよ。
後悔しない為には会いたい人には早く会っておく事だよ―――せっかくご褒美を用意してあげたんだから、ね?』

いよいよだ。
仲間の生死がこれで解る、みくる、万太郎、そして―――シンジ。
他にも知った名前が呼ばれる可能性がある、覚悟を決めて言葉を待つ。

『朝比奈みくる』

いきなりその名前は呼ばれた。
だが夏子もハムも厳しい表情を見せたものの驚きはしなかった。

―――やはり

それが共通の認識であった。
悪魔将軍の元に置き去りにした時から半ば予想していた結末。
重い空気の中で生前の彼女を想いながら名簿に横線を引く。

『加持リョウジ、草壁サツキ、小泉太湖 ……』

続けて何人もの名前が呼ばれた。
加持はシンジから知り合いと聞いていた、サツキは全員にとって見知らぬ他者、そして夏子は一人前を目指していた少女の死を知らされる。
砂漠の住民にとって死は隣り合わせ、夏子もそうだか師匠の灌太も悲しむ事すらないだろう。

545Hard Luck Duo ◆5xPP7aGpCE:2009/07/30(木) 03:16:56 ID:HUBhMMTs

『佐倉ゲンキ、碇シンジ』

前者には誰も反応しなかった、だが後者は一時は仲間として行動した少年だ。
みくるを死に追いやったのは彼の責、再び合うような事があれば夏子はケジメをつけさせるつもりだった。
何が原因で死んだか解らない、悪魔将軍かその一味である古泉やノーヴェの手によるものか。
それを知ったところで無意味だろう、いずれにせよ彼は報いを受けたのだ。

『ラドック=ランザード、ナーガ、惣流・アスカ・ラングレー、キョンの妹』

放送は続き更に四人もの名前が呼ばれた、ラドックとやらは知らないが危険人物の可能性が高いナーガが死んだ事は唯一の朗報か。
既に無意味となったがシンジを説得可能な人物として目星を付けていた少女も命を落としていた。
最後に呼ばれたキョンの妹。直接の面識は無いが夏子にとってみくるから保護して欲しいと頼まれた対象の一人。
果たして彼女の兄は何を思うか、そしてみくるが

『以上十名だ、いやあ素晴らしい!
 前回の倍じゃないか、これなら半分を切るのもすぐだと期待しているよ。
 ペースが上がればそれだけ早く帰れるんだ、君達だってどうせなら自分の家で寝たいよね?』

重い空気の中でタツヲの機嫌良い声が響く。
これで終わりかと思われたが放送は尚も続いた。

『ただ―――残念なお知らせというか、改めて君達全員肝に銘じてほしい事があるんだ。
最初の説明で言ったよね? 僕達に逆らっちゃいけないってさ』

(残念? 何があったというのかしら)

一転して声のトーンが変わった事に夏子もハムも怪訝な表情を浮かべる。
どうやらタツヲが望まない何かが起こったらしい。

『さっき呼ばれた人の中にはね、実際に反抗して命を落とした人が含まれているんだよ。
 僕だって不本意だったけどどうしても態度を改めてくれなかったんでこの有様という訳さ』

本当に詰まらなそうなタツヲの声。
嘘や脅しの類では無いだろう、絶望を与えたいのならもっとマシな方法がいくらでも有る。
誰かは知らないが立ち向かう者が死んだのは残念だ、と彼女らは思う。

『話が長くなったけどこの勢いで最後まで頑張ってくれたまえ! 六時間後にまた会おう!』

励ましの言葉で放送が終わる。
主催者への怒りなど時間の無駄とばかりに軍人と詐欺師はすぐさま得られた情報を整理する。

「状況は悪くなるばかりです、死者の多さといい大火といい考えるまでもありませんね」
「ええ、私も認識が甘かった事を認めます。方針も見直さなければ追い詰められるだけでしょう」

厳しい視線が交わされる。
18時間で参加者が半減する勢いながら今尚脱出の目処は立っていない。
加えて常識外の強者の存在、更に厄介な事に悪魔将軍の様に徒党を組む者も中にいる。

「マンタさんが生きていてくれた事は喜ぶべきですが何処で何をしているかわかりません、オメガマンに捕まったのか追いかけっこでもしているのか……」

ハムが手を広げてわからないとジェスチャーした。
そうなのだ、戦力として最も期待できる万太郎は八時間以上前に別れたきり。彼の脚力ならばとうに追いついても良さそうなのに未だ姿を現さない。
オメガマンが尚も生存している事に関わりが有るのかもしれないが所詮は推測、確かなのは合流場所を失ったという事実のみ。

546Hard Luck Duo ◆5xPP7aGpCE:2009/07/30(木) 03:17:41 ID:HUBhMMTs

「もはや早期の再開は望めません、よって今後は彼に拘らず行動します」
「止むを得ませんでしょうね、マンタさんを探しに戻って悪魔将軍やオメガマンに出遭ったら元も子もありませんし」

切り捨てる訳ではないがこの状況で彼一人ばかりを探してもいられない。
合流は成り行きに任せ、死者と生存者を改めて検討する。

残り28人となった名簿をざっと眺めると参加者が急速に淘汰されているという事実が浮かぶ。
力の無い者が次々に死んでいる、みくるやシンジは言うに及ばず戦闘経験が豊富とはいえただの人間である砂も死んだ。
加持、アスカ、キョンの妹とは面識が無いが力無き一般人と聞いている、強者も混じっていたかもしれないが死者に弱者が多い事に変わりない。

このままでは強者や化け物ばかりが残る、ますます弱い自分達の立場は悪くなる。
例え万太郎のような正義感の強い人物が含まれているとしても力の差がある者に囲まれるという事実は非常に重い。
天秤が傾く前に取れる手段は取らねばならない。

他者と接触せずに徹底的に逃げ回り強者の共倒れを待つという方法もある、しかしそんな砂漠で宝石を拾うような幸運を夏子もハムも期待していない。
モールのパソコンでは参加者の位置が知れた、似たような情報が敵に渡らないとは限らないのだ。

それに後になればなる程既存のグループに加わるのが難しくなる。
特殊技能や情報が有るのならともかく唯逃げ回るしかしなかった人物など歓迎される筈が無い。
それが夏子の認識だった、晶の様なお人好しはそこまで生き延びているか怪しいものだ。

「これからは積極的に行動し他者との接触を試みます、一刻も早く戦力として役立つグループを作らねば私達に未来はありません」
「我輩も止むを得ないと思います、このままでは確実にジリ貧ですからな」

ついに夏子は方針を翻した、言いながら遅すぎた決断だったと彼女は思う。
生き延びるためには仲間、情報、有用な支給品を集めなければならない、慎重を意識し過ぎていかに多くの機会を失った事か。
リスクを恐れてはリターンは無い、もっと早く公民館を目指していれば他グループとの接触も可能だったろう。

そこで新たな仲間になりそうな人物を探してみる。
もちろん候補をリストアップしたところで居場所が解らねば無意味だが頭に入れておく必要はある。

「まずオメガマン、悪魔将軍、古泉、ノーヴェ、アプトム、ゼクトール、雨蜘蛛は危険人物として候補から除外します。
 加えてパソコンで名前が挙がっていたギュオーとゼロスも警戒すべきでしょう」
「逆に信頼できそうなのはマンタさんが言っていた正義超人の方々……キン肉スグルさんにウォーズマンさん、そして博物館に居た深町さんぐらいですな。
 シンジさんの知り合い冬月さんは静かな人と聞きましたが乗っていないかどうかはわかりません、あの人達の名前が解れば良かったのですが」

ハムと夏子が目撃した再開と別離の光景、恐らく自分達と同じく徒党を組む弱者なのだろう。
離れすぎていた為に表情や声が解らなかったのが惜しまれる、服装や体型からして女性や子供が多かった様だが特殊な才能を持っていないとも限らない。
だが直後の激しい攻撃と火災だ、何人かは放送で呼ばれたのかもしれないと過剰な期待を押し留める。
灌太は限りなく黒に近いグレーだ、下手すると強者に差し出される事にもなりかねない。

「一匹抜けていますぞ夏子さん、我輩とマンタさんが巨大なモンスターを見たとお話したでしょう」

ハムが告げたのは街道で出会った巨体の獣。
夏子もそれを聞いてモールで見た背中を思い出す、忘れていた訳では無いのだが分類不明の為にどう考えるべきかと思っていた。

「シンジ君を運んでいたという動物ね、万太郎君はいい奴じゃないかと言っていたけど名前も目的もわからないのでは何とも言えないわよ」

元より万太郎の判断を当てにするつもりは夏子には無かった、考えの判らない強者など警戒対象以外の何者でもない。
ハムも基本的には同じ思いだ、その瞳に擁護が混じってないのに気付いて沈黙する。
一体何が言いたいのか?

547Hard Luck Duo ◆5xPP7aGpCE:2009/07/30(木) 03:18:27 ID:HUBhMMTs

「夏子さん、我輩には気になる事があのです。ゴルフ場で見たパソコンの画面にあのモンスターが写っていた事を覚えておいででしょうか?
 ああそういえば夏子さんは背中だけしか見ておりませんでしたね、ともかく我輩が見たモンスターと画面のモンスターは同じでした」
「その動物ならモールのパソコンにも出てきたわ。特に気にしなかったけど参加者をそんな形を見せるなんて確かに不審に思えるわね」

即ち、あのモンスターは特別扱いされている。
ハムは夏子がこの事実を共通認識として受け入れた事を確認して話を続けた。

「これから語る事は我輩の考えすぎかもしれません……ですが思い至った以上夏子さんには話しておくべきだと思ったのです。
 そもそも我輩達がここまで追い詰められたのはシンジさんが引き起こした災害の結果なのは夏子さんもご存知と思います。
 そのシンジさんを我輩達に押し付けたのがあのモンスターなのですぞ、あの時山小屋にもモンスターが居座っていましたがおかげでその場から動くことが出来ませんでした」

その結果シンジの手引きで悪魔将軍に追いつかれた、とまでは口に言わずとも理解できる。
夏子はハムの言いたい事を悟って反論した。

「つまり、あの獣は私達の不利になるように導いたという事? 結果論過ぎるわ、シンジ君をモールに運んだのは万太郎君と貴方だし動かないと決めたのも私達自身よ?」
「その通りです、しかし我輩にはどうしても気になるのですよ。あのモンスターは近くに居たにも関わらず悪魔将軍から我輩達を助けてはくれませんでした。
 それにシンジさんの時は偶然ではないのです、我輩とマンタさんが北へ向かう事を決めた直後にモンスターが出てきたのですよ」

頬をかきながらハムが淡々と事実を述べる。
もし会話が主催者に漏れていたとすれば、主催者からモンスターに情報が伝わったとすれば―――偶然では有りえない。
パソコン画面に登場したというだけで主催者との関係を疑うのは早計かもしれない、だからこそハムも慎重な物言いなのだろう。

「……」

夏子は思わず沈黙した。
ハムもまた自分と同じく盗聴の可能性に気付いていたのだ。
そして筆談という方法を取らないのは先程の放送を聞いたからだろう、反抗の末の死を残念と語る草壁ならこの程度で罰するとは思えまい。
尤もそれ以前に正解かわからない、罰せられればそれが答えという事になる。

有り得なくは無い、そういった殺し合いをコントロールするゲームマスター的な存在が参加者に混じっていても不自然では無い。
だとすれば―――あの獣は、敵だ。

ギリッと夏子は歯を軋ませた。
今迄の屈辱と無念を思い出す、自然と腕が拳銃に触れる。

「ま、あくまで可能性が有るいうだけですよ。とにかく今後あのモンスターとは出来るだけ接触を避けるべきでしょう。その上でお尋ねしたいのですが」

ハムが夏子を宥めつつ更なる問いを投げかける。
夏子も怒りに我を忘れる事無くハムの言葉をじっと待つ。

「夏子さんは冷静な判断が出来ると我輩は買っているのですが……もし今後シンジさんみたいに混乱した人が現れたらどうなさいますか?」

予想だにしない質問であったがその答えは既に夏子の中で決まっていた。
弟と重ねて甘くした結果がこの有様だ、誓った以上二度と過ちを犯す積りは無い。

「殺すわ。そんな弱い奴なんか生かしたところでロクな事にならないってこれ以上無い程良く解ったから。
 もし他の誰かと一緒なら気付かれないように始末する。腐ったものは早く取り除かないと取り返しが付かなくなるものよ」

不敵な笑みを浮かべながら銃を構える。
それこそがハムの望んだ答え、満足して大きく頷いた。

「だとすればますますマンタさんとは合流しづらくなりましたね、あの人なら絶対に止めるでしょうしむしろ別行動の法が都合が良いと思います」
「やっぱりアンタは油断ならない考えの持ち主だったわね、案外うまくやっていけそうな気がするわ」

548Hard Luck Duo ◆5xPP7aGpCE:2009/07/30(木) 03:19:13 ID:HUBhMMTs

改めて決めた事を確認する。
・今後は安全に接触できるパソコンも活用しつつ他者と積極的に交渉する。
・足手まといは特殊技能の持ち主は別として殺す事も厭わない。
・万太郎との合流には拘らない、合流の意志は有るが成り行きに任せる。
・有用な支給品を手に入れる、特に武器を優先する。

窓の外を見れば先程よりも炎が迫っていたがまだ遠い。
地図や名簿を仕舞い終えたその時だった、突然真昼のような明るさに続いて耳を劈くような爆発音と衝撃が診療所を震わせた。
窓が一斉に飛び散り夏子とハムは直ちに伏せる。

そして爆発が遠いとみるや割れた窓から慎重に外の様子を窺った。
立ち上る煙の中でも一際目立つ建物がある、窓という窓から黒煙を吹き上げる高層建築。

デパートだ。
遠目でも屋上が大破したと解るデパートが爆発の中心地に間違いなかった。
化け物同士の争いかと先程の二人を思い浮かべる、だとすれば巻き添えを喰わないうちに退避すべきかもしれない。
だがパソコンを一度も調べもせずにここを去るのも惜しい気がする、とにかく状況を見極めようともう一度外を眺めた。

「ムハ〜、何ですかあの光跡は?」

夏子もハムが指し示すものにすぐ気付いた。
デパートの屋上から空高くに上昇してゆく何かがある。
怪物にしては小さすぎる、ロケットだとすぐに気付く。
恐らく決着が付いたのだろう、軍人としての勘がそう告げていた。

「何かを曳いているわ……南の方に向かっている。どうする、ハム?」

一方のハムはロケットなど初めて見る。
最初は驚いていたが夏子からそれが物を飛ばす道具だと教えられて考え込む。

あれを追うか、ここに留まってパソコンを調べるか。
二兎を追うもの一兎を得ず、だが二手に別れる方法も有る。
いずれにせよここが焼けるのも時間の問題、すぐに決めなければならない。

そんな彼等の悩みを他所にロケットは尚も飛び続ける。
夕日を浴びて輝きながら一人の男の想いを込めて。
繋がっているのは一つのバッグ、意志を持つものが中には入っている。


更に高く。
更に速く。
更に遠くへ。


下界の喧騒を見下ろしながらロケットは南を目指す―――

549Hard Luck Duo ◆5xPP7aGpCE:2009/07/30(木) 03:19:53 ID:HUBhMMTs




【B-08 市街地診療所/一日目・夜】



【川口夏子@砂ぼうず】
【状態】顔にダメージ、強い決意。
【持ち物】ディパック、基本セット(水、食料を2食分消費)、ビニール紐@現実(少し消費)、
 コルトSAA(5/6)@現実、45ACL弾(18/18)、夏子とみくるのメモ、チャットに関する夏子のメモ
 各種医療道具、医薬品、医学書
【思考】
0、何をしてでも生き残る。終盤までは徒党を組みたい。
1、パソコンを調べる? 光跡を追う?
2、怪物(アプトム、ゼクトール)と火災から逃げる。
3、キン肉スグル、ウォーズマン、深町晶と合流を目指す。
4、万太郎と合流したいが難しいと思っている。
5、ハムは油断ならないと思っているが今は自分を見放せないとも判っている。
6、生き残る為に邪魔となる存在は始末する。
7、水野灌太と会ったら――――



【備考】
※主催者が監視している事に気がつきました。
※みくるの持っている情報を教えられましたが、全て理解できてはいません。
※万太郎に渡したメモには「18時にB-06の公民館」と合流場所が書かれています。
※ゼロス、オメガマン、ギュオー、0号ガイバー、ナーガ、怪物(ゼクトール、アプトム)を危険人物と認識しました。
※悪魔将軍・古泉を警戒しています。
※深町晶を味方になりうる人物と認識しました。




【ハム@モンスターファーム〜円盤石の秘密〜】
【状態】顔にダメージ
【持ち物】基本セット(ペットボトル一本、食料半分消費)、
 ジェットエッジ@魔法少女リリカルなのはStrikerS、チャットに関するハムのメモ、大量のシーツと毛布類
【思考】
0、頼りになる仲間をスカウトしたい。
1、パソコンを調べる? 光跡を追う?
2、万太郎と合流したいが難しいと思っている。
3、キン肉スグル、ウォーズマン、深町晶と合流を目指す。
4、殺し合いについては乗るという選択肢も排除しない。


【備考】
※ゲンキたちと会う前の時代から来たようです。
※アシュラマンをキン肉万太郎と同じ時代から来ていたと勘違いしています。
※ゼロス、オメガマン、ギュオー、0号ガイバー、ナーガ、怪物(ゼクトール、アプトム)を危険人物と認識しました。
※悪魔将軍・古泉を警戒しています。
※深町晶を味方になりうる人物と認識しました。
※現在スタンスは対主催だが状況を見極めて判断する。

550 ◆5xPP7aGpCE:2009/07/30(木) 03:20:41 ID:HUBhMMTs
以上で仮投下終了となります。
度重なる延長申し訳ありませんでした。

551 ◆igHRJuEN0s:2009/08/08(土) 20:32:52 ID:YrRABrO.
これより仮投下を開始いたします。

552鬼になるあいつは二等兵 ◆igHRJuEN0s:2009/08/08(土) 20:34:11 ID:YrRABrO.

北に顕在していた市街地郡、その東側。
そこはB‐6を中心にした大火災により、地獄と化していた。
炎の勢いは尚も止まらず、轟々と燃え続けている。
さらに、炎が建物を焼くことによって発生した煙で地獄の中の様子は、高い場所でも無い限りほとんど伺えない。
この中にいたとしたら、火炎に対する消火手段も防御手段も持たなければ、炎や煙によって命が危ないだろう。
それぐらいのことは、若きケロン軍の兵士・タママ二等兵もわかっている。
彼はケロロ・草壁サツキ・冬月コウゾウが無事に火災地帯から移動していることを祈り、そして一秒でも早く合流または救出のために、火災地帯を東に遠回りすることを決めた。
そして今、C‐6の境界を抜けて、だいたいC‐7に入った辺りだ。

「ハァハァ・・・・・・軍曹さん、サッキー、フッキー・・・・・・!」

時間が過ぎる度にタママの心に焦りが募っていく。
仲間たちが無事であることを強くは信じているが、一瞬でも気を緩ませば最悪のケースが頭に浮かんでくる不安に押し潰されそうだ。
おまけに距離はそれなりに離れているとはいえ、火災地帯からの熱気がタママをイライラさせる。
ケロン人は体質的に湿気を好み、乾燥が天敵なのだ。
つまり、地球人以上に乾燥に敏感であり、乾燥に対するストレスも地球人より大きい。
僅かながらも熱気に曝されている現状は、タママのストレスを加速させるには十分だった。

「早く・・・・・・早く!
はやぐうううぅぅぅ!!」

タママは不安からくるストレスに対し、足をできるだけ早く動かすことで発散させようとする。
不安を忘れるために眼を血走らせ、恐持ての顔で唸りをあげる。
結果、土煙をあげて地面を蹴れるほど走るスピードが速くなり、狂気じみた表情で走る彼はまるで走る獣のようだった。
それだけタママが必死であることを理解してほしい。


そして、走る彼がC‐7の真ん中ぐらいに差し掛かった辺りだろうか、タママが第三回放送を耳にしたのは。

『全員聞こえているかな? まずは君たちにおめでとうと言ってあげるよ−−』

553鬼になるあいつは二等兵 ◆igHRJuEN0s:2009/08/08(土) 20:35:04 ID:YrRABrO.
「放送・・・・・・ゴクッ」

主催者・タツヲの声が流れる放送に、タママは心臓の鼓動が早くなり、唾を飲んだ。
今までは放送一つでこれほど緊張することはなかった。
最初の放送はケロロやサツキたちが目の届く距離にいたため、親しき者だけは死なない安心感があった。
二回目の放送は加持の一方的な折檻(本人いわく仲間のため)をしていて、聞いた後はともかく、聞く前はそれほどの実感もなかった。
三回目にあたるこの放送を聞くのは、今までと状況が違う。
仲間たちとは離ればなれになり、いまだに合流は果たされていない。
つまり、自分の眼の届かない内に仲間たちが死んでいる可能性は大いに有り得る。
仲間たちがいたと思わしき公民館とその周辺が火事になっているのが、タママの不安を誘う。

(いいや、軍曹さんたちはきっと無事ですぅ。
僕はそれを信じるだけですぅ)

不安も弱気も振り払い、ただ愚直に仲間の生存を信じてタママは走り続けることを選んだ。
悠長に記録している暇があるくらいなら、ケロロたちとできるだけ早く捜した方が良いと思い、メモは取らずに走りながら聞き耳を立てることにした。


禁止エリアは、F-5・D-3・E-6。
いずれも気にするほど近場にできるわけでもなく、市街地にいるハズの仲間たちが困るような配置でもないだろうと安堵する。

問題はここからだ。
禁止エリアの発表の次は、死者の発表になる。
タママの胸の高鳴りがいっそう速くなる。

(神様、仏様、ご先祖様・・・・・・一生のお願いですぅ、軍曹さんやサッキーとフッキーが無事でいるようにお願いしますですぅ)

死者の名前が呼ばれ始める前にタママは不安に押し潰されないように強く神頼みをした。

そして、いよいよ死者の名前が発表される。
これが一生の中で最も長い数分間になりそうだと、タママは予感していた。


『朝比奈みくる』

−−知らない、どうでも良い、他に死人がいるならとっとと言ってくれ。
それが面識の無い朝比奈女史への、タママの感想である。

『加持リョウジ』

「ターマタマタマタマ!
ざまぁみやがれですぅ!!」

554鬼になるあいつは二等兵 ◆igHRJuEN0s:2009/08/08(土) 20:36:02 ID:YrRABrO.
加持の死はわかっていたため、放送を聞かなくとも知っている。
しかし、加持は気にいらない奴もといサツキを殺そうとした人物。
それが死んだという喜びを思い出し、口に出して笑いたくなったのだ。
本人にその笑いを抑える気はまったくなく、なおもケロン人独特の笑い声を発しながら笑い続けるが・・・・・・

「ターマタマタマタマ−−」
『草壁サツキ』
「−−タマタマ・・・・・・タマ?」

・・・・・・サツキの名前が呼ばれた瞬間、タママから笑い声が消え失せ、足を動かすスピードは急減速し、やがてゼロになった。
一気に突き飛ばされたような感覚を覚え、思考が覚束なくなる。

放送は、そんなタママのことを尻目に続けている。

いちおうの仲間だった小砂、冬月が保護したいと言っていた碇シンジ、加持の手下であるアスカ、彼らが死んだことも知る。
他の名前も聞いたことが無い連中に関してはどうでもよかった。
呼ばれていない所からして、ケロロと冬月がまだ生きているのは僥倖である、僥倖ではあるのだが今のタママはそれを素直に喜べない。

最後にタツヲからの警告、要約するなら「自分たちに刃向かおうとして死んだ者がいたので、同じことはしないように」ということを言っていたが、ほとんどタママの耳に入ることはなかった。
それらのことよりも、もっと大きなショックによってタママは動けずにいるのだ。


放送が終わると同時に思考が回復して現状を理解できるようになったタママは、その場で両腕と両膝を地面につけ、嗚咽を漏らしだした。

「うわああぁああぁん!
なんで死んじゃったんですかサッキーーーッ!!」


付き合った時間は短けれど、確かにサツキはタママにとっての掛け替えの無い友達であった。
ケロロに関する嫉妬で一方的な暴力な奮った愚かな自分を許してくれた優しい少女だった。
心の強さと広さを兼ね備え、妹思いの良い女の子だった。

しかし、その少女に会うことはもう二度と、ない。

555鬼になるあいつは二等兵 ◆igHRJuEN0s:2009/08/08(土) 20:36:36 ID:YrRABrO.
放送をデタラメだと思いたくとも、死んだ加持も放送された所からして、嘘でも無いようだ。
以上のことを頭では理解しつつも、若輩の兵士タママの心は友の喪失を受け入れきれるほど強くはなかった。
彼はただただ泣き喚いた。

「サッキーーーッ!!」



−−−−−−−−−−−

556鬼になるあいつは二等兵 ◆igHRJuEN0s:2009/08/08(土) 20:38:21 ID:YrRABrO.


放送が終わって、泣きだしてからどれほど時間が経っただろう。
涙を流す度に体内の水分が失われていったため、身体がだいぶ乾いているのがわかる。
サツキ喪失のショックによるものか、今までの疲れがどっと押し寄せ、再び立ち上がる気力が湧かない。
知り合いの冬樹やガルルが死のうとも、たいした感情は抱かなかったが、ここにきて初めて『大切な友』を失ったがために大きな精神的ダメージを負った。
共に泣く者も慰める者も叱る者もいない中では、心の痛みを和らげることもできない。


そのように彼が弱っている中で突如、二つの聞き覚えのある声が聞こえてきた。
それらはうなだれるタママを嗤う。

『守りたかった女の子を守りきれなくて残念でした。トンだお笑い草ね、あははははははははは』

一つはアスカ。
放送で死を告げられたハズなのだが、何故かタママの耳には、彼女が気に障る言葉で嘲笑ってくるのがわかった。

『俺を引き離したからあの子は安全だとでも思ったか?
 殺し合いに乗ったのは俺一人とは限らないんだぜ?』

もう一つは加持。
間違い無く死んだ男だが、口調こそ涼しいが腹の中は真っ黒であり、タママを責めてくる。
それ以前に死人が語りかけてくるなどありえないことだが、今のタママには、そんな細かいことを気にしていられるほどの心の余裕はなかった。

「黙れ・・・・・・黙りやがれですぅ」
『あはははははは』
『ハハハハハハハ』

普段から高い声であるタママにしては低い声で言葉を吐き出し、血走った眼を涙の染みた地面から二つの声がする方向へギロリと向ける。
彼の放つ言葉にも眼力にも、激しい怒りと憎悪が宿っている。
しかし、タママの怒りなど知ったことかと言わんばかりに、加持とアスカは嘲笑い続ける。
それが余計にタママのハラワタを煮え繰り返させ、虫酸を走らせる。
まず、怒りを叩きつけるようにタママは言い放った。

「おめーらのような奴らのせいでサッキーが死んだんですぅ!」
『それは違うんじゃないか?
 俺らのような殺し合いに乗った奴らからサツキ君を守れなかったのは君のせいだろ?』
「僕は、サッキーを守ろうとしてたですぅ!!」
『言い訳がましく「自分は頑張ったから仕方ないんだ」みたいなことをほざいてんじゃないわよ』

557鬼になるあいつは二等兵 ◆igHRJuEN0s:2009/08/08(土) 20:39:19 ID:YrRABrO.

「むぐっ・・・・・・」
『せめて俺を連れ込むなら、例の部屋に何かしら仕掛けがあることぐらい調べておけばよかったのにな。
 君がそれを怠ったから、仲間と離ればなれになっちまって、サツキは命を落としたんだ。
 しかもその後の、正義の味方気取りでメイの仇討ちなんか考えているから、その間にサツキは死んだんだろうな』
「・・・・・・うるさい」

加持たちが言ったことは、尤もかもしれない。
今さら、取り返しのつかないミスに自分の行動を正当化するようなことを言っても虚しいだけだ。
加持の企てに気づき、仲間から一時的に引き離して腹の中を暴こうとしたものの、部屋にどこかへワープする仕掛けがあることに気づけなかったために、サツキたちとは遠くに引き離された。
彼女を守る者が減った分、サツキの生存率を引き下げられたのだろう。
一方のタママは離れた後も合流を考えず、メイの仇捜しに時間を費やしてしまった。
見方によればタママの過失だろう。
それでも、タママは加持たちにだけはミスの指摘をされたくなかったのだ。

『守りたい者は守れない、守れなかったら過失を認めず言い訳をする惨めな奴。
 君は所詮その程度だってことだ』
『本当よね〜。
 果たして、こんな奴にサツキの死の責任なんて取れるのかしら?』
「黙れって言ってるんですよ、聞こえねーんですかこのゴミめらども・・・・・・!」

自分を笑う二つの声に対して、タママは立ち上がり、血が出るほど拳を握りしめ、顔中にマスクメロンばりのあおすじを作る。

『まったく、こんな情けない奴に殺されたのなら、俺を殺した責任も取ってほしいぐらいだぜ、なぁタママ君?』

プッチーン

加持の煽り文句が、とうとうタママの怒髪天をついてしまった。
タママの口から放たれる、大地を揺るがしそうな怒声。

『おめーみてぇなウジムシどもの命と、サッキーの命を同じにするんじゃねぇ!!
 おめーらのような不愉快な奴らは全員地獄に落ちればいいんだよぉ!!
 さっさと消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ、消えろぉぉぉーーーッ!!』


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