したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |
レス数が1スレッドの最大レス数(1000件)を超えています。残念ながら投稿することができません。

本スレに書き込めない職人のための代理投稿依頼スレ

1魔法少女リリカル名無し:2009/01/08(木) 00:01:53 ID:Qx6d1OZc
「書き込めないの!?これ、書き込めないの!?ねぇ!本スレ!本スレ書き込めない!?」
「あぁ、書き込めないよ」
「本当!?OCN規制なの!?ODNじゃない!?」
「あぁ、OCNだから書き込めないよ」
「そうかぁ!僕OCNだから!OCNだからすぐ規制されるから!」
「そうだね。規制されるね」



捻りが無いとか言うな

2 ◆FInR8quS0Y:2009/01/08(木) 00:02:37 ID:Qx6d1OZc
ドガン



無機質な金属へと変化した己の腕を確認して慌てて鉄塔内部へと腕を引き戻す。

「まんまと罠にはまったというわけか……」

あくまでも表情を崩さずにザフィーラはこの鉄塔から出る方法を思案することにした。
まず、最初に思いついたのは先程の三人達以外は出たら金属化するという可能性。
これは即座に否定された。
万が一無関係な人間が巻き込まれたらどうする気だったのか?
それに、その前提だった場合はわざわざトリモチで足止めする必要は無い。

「ならば……」

次に考えたのは、最後の一人は出れないという条件だった。
ザフィーラはこの仮説と、先程の三人の動きを照らし合わせてみる。
矛盾は無い。だが、確証も持てないので仲間を使って実験する気も起こらない。
仲間に余計な心配の種を増やして戦闘に集中できなくさせるのも悪いので念話で伝えたりもしない。
八方塞となり仕方がないのでザフィーラは考えるのを止め、魔力の回復に努めることにした。


===


結論から言おう。ザフィーラの推測通り、この鉄塔から外界に出るための条件は他に人が鉄塔内にいることだ。
仗助はトラサルディーから噴上とミキタカに電話をし、鉄塔へと行ってもらい本来の主、鋼田一豊大にコッソリと話をつけたわけだ。
ちなみに一人で十分のはずの鉄塔に、自身の体をカモフラージュできるミキタカの他に噴上裕也まで入れた理由は
ミキタカと共に本体の場所を隠して安全にハイウェイ・スターを操作させるためだった。
スタンド使いの存在を探知できるとはいっても、戦闘中にまでは把握できないだろう。
仗助の読みは見事に的中し、二人の存在は最後の最後まで把握されずに終わったのだった。


===



「で、仗助。この腕の持ち主も追跡するんだろ?」
「あぁ、おそらくこれが無くなると由花子みたいにスタンドを使えなくなるみてぇだからよ〜。
 早いこと何とかしてくれねぇとヤベェ。こういうときほどお前のスタンドが頼りになるときはねぇよ」
「仗助さん。わたしにも何かできることはありませんか?」
「ミキタカ。悪いがお前は康一と億泰のサポートに行ってくれ。
 ハイウェイ・スターが追跡に回って戦力が落ちるのは明らかだからな」

鉄塔から少し離れた場所に仗助は腰を下ろして、今後の役割分担を決める。
息が荒くなりながらも仗助の判断力は依然健在。
自分の腹から生えている腕の衣服の一部をクレイジー・Dの腕力で引きちぎり布の欠片を得る。
普通の衣服とは明らかに異なる丈夫さを持った素材に戸惑いつつも、それを噴上の手に渡した。
噴上は即座に、布切れを鼻に当てて対象者の“臭い”を覚える。
猟犬以上の嗅覚を持った彼にとって、これだけで相手の存在を捉えたも同然。
シグナム、ヴィータとの戦闘中だったハイウェイ・スターを自分の下へとワープさせて新しい対象を探し始める。
今、足跡の形をしたハンターと変身能力を持った宇宙人がそれぞれの目的地へと走り出した。



====

3 ◆FInR8quS0Y:2009/01/08(木) 00:03:25 ID:Qx6d1OZc
「いたたたたた、痛いです、本当に痛いですって」

異次元に通じている魔法陣に腕を突っ込みながら、苦痛に顔を歪める女性。
私達は彼女に見覚えがある、いや、彼女の着ている草色の服に見覚えがある。
そう、この金髪で温厚そうな顔をした女性こそが現在仗助を苦しめている犯人、シャマルであった。
鉄塔から離れた橋げたの下、サポート専門の彼女は遠くから戦線にいる仲間を支援していたのだ。
だが、右腕が死ぬほど痛いこと以外になんら問題の無い彼女にもついに年貢の納め時が来た。

クンクンという何かが臭いを嗅いでいるような音。
振り返るシャマル。
無数に存在する黒い“足跡”。

目の前に広がるホラー映画化顔負けの映像に込み上げる悲鳴を抑えながら、残った左手で防壁を張る。
ほぼ同時に飛びついてきた足跡達がシャマルの魔法陣へと貼りついていく。
この場合、見えるのと見えないのではどちらのほうが恐ろしいのだろうか?
少なくとも、現在のシャマルの心の中では得体の知れないものへの恐怖が芽生え始めている。
何時回りこんでくるのか? あれに襲われたらどうするのか?
グッと来る恐怖を仲間への思いが抑える。
しかし、終焉は思ったよりも早く訪れた。
足跡の数枚が偶然障壁の端からシャマルの元へと辿り着くことに成功したのだ。
すると、他の足跡たちも同じルートを辿って障壁を回避するようになった。

「ひいっ!」

目に涙を浮かべながらも、シャマルは手で必死に振り払おうとする。
だが、その程度で引いてくれるほどハイウェイ・スターは生ぬるい能力ではない。
逆にシャマルの左腕にビッシリと食い込んでいき……

「ひぐっ、ああああああああああああああ」

明らかに体からエネルギーが吸収されたのが分かった。
抜けていく左手の力。
その間にも、足跡たちはシャマルの脚、腿、腹、胸、肩、顔を埋め尽くす勢いで付着していく。
一方的な蹂躙に怯えながらシャマルはついに仗助を苦しめていた魔法“旅の鏡”を解除して地面に倒れ伏す。
そうしている間にもじわじわと吸収されていく体力。
妙に気持ち悪い足跡に苦しめられながらも、シャマルはある魔法を使用した。
湿った地面に展開される緑色の魔法陣。
精一杯の力を込めて魔力を込めていくシャマル。
そして、魔法陣は激しく輝いた後に消えた。使用者であるシャマルと共に。

「はぁっ……ここまで来れば……」

無我夢中だったせいでどこに転送されたのかは分からない。
ただ、無事に逃げ切れたという安堵感のみが彼女の心中を暖かく満たしていた。
荒れた息を整えつつ、自身の張った結界に異常が無いか確認する。

「よかった……壊れてたりはしなかったんですね」

二度目の安堵。
そして、彼女は再び仲間の支援をするために“旅の鏡”を発動させようとして………

4 ◆FInR8quS0Y:2009/01/08(木) 00:04:19 ID:Qx6d1OZc
「いたたたたた、痛いです、本当に痛いですって」

異次元に通じている魔法陣に腕を突っ込みながら、苦痛に顔を歪める女性。
私達は彼女に見覚えがある、いや、彼女の着ている草色の服に見覚えがある。
そう、この金髪で温厚そうな顔をした女性こそが現在仗助を苦しめている犯人、シャマルであった。
鉄塔から離れた橋げたの下、サポート専門の彼女は遠くから戦線にいる仲間を支援していたのだ。
だが、右腕が死ぬほど痛いこと以外になんら問題の無い彼女にもついに年貢の納め時が来た。

クンクンという何かが臭いを嗅いでいるような音。
振り返るシャマル。
無数に存在する黒い“足跡”。

目の前に広がるホラー映画化顔負けの映像に込み上げる悲鳴を抑えながら、残った左手で防壁を張る。
ほぼ同時に飛びついてきた足跡達がシャマルの魔法陣へと貼りついていく。
この場合、見えるのと見えないのではどちらのほうが恐ろしいのだろうか?
少なくとも、現在のシャマルの心の中では得体の知れないものへの恐怖が芽生え始めている。
何時回りこんでくるのか? あれに襲われたらどうするのか?
グッと来る恐怖を仲間への思いが抑える。
しかし、終焉は思ったよりも早く訪れた。
足跡の数枚が偶然障壁の端からシャマルの元へと辿り着くことに成功したのだ。
すると、他の足跡たちも同じルートを辿って障壁を回避するようになった。

「ひいっ!」

目に涙を浮かべながらも、シャマルは手で必死に振り払おうとする。
だが、その程度で引いてくれるほどハイウェイ・スターは生ぬるい能力ではない。
逆にシャマルの左腕にビッシリと食い込んでいき……

「ひぐっ、ああああああああああああああ」

明らかに体からエネルギーが吸収されたのが分かった。
抜けていく左手の力。
その間にも、足跡たちはシャマルの脚、腿、腹、胸、肩、顔を埋め尽くす勢いで付着していく。
一方的な蹂躙に怯えながらシャマルはついに仗助を苦しめていた魔法“旅の鏡”を解除して地面に倒れ伏す。
そうしている間にもじわじわと吸収されていく体力。
妙に気持ち悪い足跡に苦しめられながらも、シャマルはある魔法を使用した。
湿った地面に展開される緑色の魔法陣。
精一杯の力を込めて魔力を込めていくシャマル。
そして、魔法陣は激しく輝いた後に消えた。使用者であるシャマルと共に。

「はぁっ……ここまで来れば……」

無我夢中だったせいでどこに転送されたのかは分からない。
ただ、無事に逃げ切れたという安堵感のみが彼女の心中を暖かく満たしていた。
荒れた息を整えつつ、自身の張った結界に異常が無いか確認する。

「よかった……壊れてたりはしなかったんですね」

二度目の安堵。
そして、彼女は再び仲間の支援をするために“旅の鏡”を発動させようとして………

5 ◆FInR8quS0Y:2009/01/08(木) 00:05:29 ID:Qx6d1OZc
ズキュン
     
    ズキュン

再びやってきた何かが体に食い込む感覚と、体内のエネルギーが吸い取られていく感触。
無作為にワープしたのに何故ここまで追跡できるのだろうか?
視覚? 聴覚? その二つでは絶対にない。
ならば魔力の追跡? しかし、バリアジャケットなどからは個人が特定できる魔力が出るはず無い。

「つまり……嗅覚ってわけですか」

そうと考えれば全て説明がつく。
が、原因が分かったところですぐに対応できるわけではない。
とは言ったものの分かった事が一つだけあった。
よくよく見れば、さっきまでいた橋は目の前にあるとまでは言わないが一応視界に入っている。
けれども足跡が彼女を見つけるまでには多少のタイムラグがあった。
つまり、鋭い嗅覚にも限界はありある程度離れれば探知できなくなるであるだろうということ。
自分たちの本拠地である東京に帰れば“これ”の追跡は止まる。
ヴォルケンリッターの参謀として考えれば、この状況下で取るべき行動は撤退。
自身だけならともかく、仲間の臭いまで特定されたらマズイ。

『皆さん聞こえますか……? マズイ相手が出てきました。
 詳細は後に伝えますが、各自いつもの場所に撤退してください』

念話でメンバーの三人へと撤退の意思を伝える。

『了解した、隙を作って引くとしよう』
『分かったぜシャマル』

シグナム、ヴィータからはすぐに肯定の返事が返ってきた。
しかし、ザフィーラの返事は意外な物であった。

『すまない……一旦こちらまできてくれないか?』
『……分かりました』

不吉な予感がする。
自分からゆっくりと養分が吸い取られていく中、二度目の転移魔法を行使した。
光に覆われていく自分。一瞬飛びかけた意識。
力を振り絞り完全に発動させてシャマルの姿は――――消えた。

6 ◆FInR8quS0Y:2009/01/08(木) 00:06:32 ID:Qx6d1OZc
「すまん…」
「ええ、悪いんですが敵の追跡を受けているんで手早く終わらせてください」
「要点だけ言おう。バリアジャケットを解除して民間人の振りをしてくれ……後、悲鳴を上げてくれないか? ありったけの声で」
「分かりました」

シャマルの腕を掴んで、自身は鉄塔の外へと出て行くザフィーラ。
彼の予想通り、彼の肉体が鉄塔の一部と化すことなく、無事に脱出する事ができた。
そして彼女は大きく息を吸い込んで肺に息を溜め……。

「きゃあああああああああああああああああああああああああああああ」

辺りに響き渡る悲鳴。
急なことだったのにも関わらず彼女の演技は鬼気迫るものだった。
当然、少ししか離れていない仗助にもその声は聞こえていたわけで。

「さぁ、民間人に手を出されたくなくばこちらまで来い!」

ザフィーラの脅迫の信憑性を大きく上げることとなった。
実際は、張られた結界のせいでスタンド使いと魔法使い以外は外に締め出されたのだが彼がその事を知る由はない。
本当に一般の女性が人質にとられたのだと思ってふらつく体を引きずりながら歩いていく。
怒りの炎を瞳に宿しながら。

「よぉ。テメェがここまでゲス野郎だったら鉄塔の一部にしちまった方が世の中のためだったかもしれねぇな」
「……お前からの評価などどうでもいい。貴様がここへ来なくてはこの女が無機質な塊になるぞ?」

予想はしていた無関係の人が死ぬという最悪な事態はまのがれた。
それでも怒りが湧いてきてたまらない。
クレイジー・Dの五指が固められて、力の入れすぎにより震えだす。
しかし、この状況下ではどうやっても倒すことはできない。
無意識の内に下唇を噛み締めていた。
歯によって避けた皮膚から流れ出す血液。
そして仗助は鉄塔内へと歩みだし、見えない檻の中へと入り込んだ。
辛そうな表情にシャマルの心を罪悪感が覆うが仕方がない。

(ごめんなさい……はやてちゃんの為にここで立ち止まっててはいけないの)

心中で謝罪しつつ、シャマルは鉄塔から外に出る。
同時に現れたハイウェイ・スター。
しかし、既に転送魔法の準備はできていた。
足跡が飛び掛ってくるも、そのときは既に二人の存在はこの町から消えていた。
突如消え去った二人の姿に鉄塔内で一人呆然とする仗助。
しばらくして気が付いた。二人はグルであったのだと。
戦闘を終えた億泰と康一が傷だらけで駆け寄ってくる、噴上裕也も気が付けば鉄塔の傍に立っていた。

「俺達の……負けだな」

悔しそうに仗助は呟く。
小さいながらもその場全員に聞こえたであろう声は地面に染み込んでいった。


====

「一分一秒がおしいというのに、一ページ分すら収集できなかった……私達の完敗だ」

何処かのビルの上、苦々しげな表情でシグナムは敗北を口にした。
その声は雲ひとつ無い星空へと吸い込まれていく―――――。


====

7 ◆FInR8quS0Y:2009/01/08(木) 00:07:19 ID:Qx6d1OZc
〜おまけ〜

本編ではシャマル追跡の際にどこかへ消えた噴上裕也。
一体彼は追跡中に何をやっていたのだろうか? 今から見せるのは彼の孤独な戦いである。


「はぁっ……はぁっ……」

規則的な呼吸をしながら人っ子一人いないアスファルト舗装の道を走る噴上裕也。
こういうとまるでランニングをしているように感じるだろう。
だが、彼の走りは明らかに全力疾走であった。
何故、皆が戦ってる最中に彼は一人走っているのだろうか?
それは彼の能力と大きく密接している。

彼の能力、ハイウェイ・スターには相手の養分を吸収するという強力無比な能力があるが、これには大きな欠陥がある。
以前は岸辺露伴の養分を一瞬にしてほぼ吸い尽くせたのだが、今回はやたらと時間がかかったこともこれに関係している。
ハイウェイ・スターの弱点。それは、自分が健康なときはエネルギーを吸収できないという事にある。
つまり、仗助たちと戦った頃は意識不明の重態だったので、非常に強力な吸引力を見せたが健康になった今では全く効果がない。
だがら噴上は自身の体からエネルギーを奪うために全力疾走を続けているのだ。

頑張れ噴上裕也! 勝利の為にあの星へと走れ!

8 ◆FInR8quS0Y:2009/01/08(木) 00:11:58 ID:Qx6d1OZc
投下完了です、代理投下をしてくださり本当にありがとうございます

さて、康一と億泰のバトルシーンを完全に省きましたがこれは仕様です
入れるか悩んだんですが、色々とネタが浮かびすぎたりなんだりでこれだけやると今後やばいだろうとなって中止しました
二人の戦闘を楽しみにしていた方には申し訳ありません。
キングクリムゾンされた分もこの二人には頑張ってもらいます。

9 ◆FInR8quS0Y:2009/01/08(木) 00:14:46 ID:Qx6d1OZc
あっ、言い忘れてましたが
スレの容量に気がつかずに前スレとこのスレの二つをまたいで投下してしまい申し訳ありまセンでした

10リリカル! 夢境学園 ◆XQrKF.nCNM:2009/01/10(土) 21:39:33 ID:A8vW5jpo

お猿さんを喰らいました 以下の内容をお願いします ORZ


「願望を叶える石か、まったくつまらないほどに優れている」

 かつて何度もフェイトはジュエルシードと対峙していた。
 だが、一度としてこれほど圧倒的な差があっただろうか?
 否、否である。
 感じたことがあるとしたら、彼女の母であるプレシア・テスタロッサが次元の壁を破砕し、開放しようとした時のみ。

「もっとも効率よく、そしてもっとも暴走しやすく使うには人の身が使うということだな」

 グンッとスカリエッティは手を上げて。

「――“離れよ”」

 フェイトは離れた。
 己の意思とは無関係に――吹き飛んだ。
 撥ね飛ばされたように吹き飛んで、次の瞬間スカリエッティが手を閃かせた。
 両手の指、合わせて十本。
 魔力のワイヤーがバインド状に彼女を縛り上げる。

「くぅっ!?」

 魔力を放出し、さらにバインドブレイクの術式を脳内で構築開始するが、身体に食い込んだバインドは全く弱まらない。
 彼女の乳房を締め上げて、腰を内臓を圧迫せんと強く拘束し、その太腿は螺旋を描くように入念にワイヤーが張っていた。
 淫らな妖艶さすらも感じれる光景。
 美しい女性を捕らえたその扇情的な光景に、スカリエッティは軽く目を向けながら、パチンと胸元で輝き続ける紅い宝玉を収めてブローチの蓋を閉じて。

「……やれやれ、まだ制御するには危険のようだな。危うく、凄いことになるところだった」

「!?」

 ボソリと呟いたスカリエッティの言葉に、ゾクリとフェイトの背筋に怖気が走った。

「さて、どうするかね。まだ足掻くかね?」

「っ、私は決して諦めない!!」

 フェイトは諦めなかった。
 バインドを振り払おうと努力しながらも、ある準備を開始する。
 最後の切り札を切る覚悟を決めた。
 しかし。

「ふむ、一つ言っておくが君の行なおうとする行為を薦めないぞ」

「?」

「調査は進んでいる。どうせライオット・フォームと言うフルドライブモードがあるんだろう」

「!?」

 看破された。
 フェイトは僅かに表情が揺らぐのを自覚し、汗が額に噴き出す。

11リリカル! 夢境学園 ◆XQrKF.nCNM:2009/01/10(土) 21:40:15 ID:A8vW5jpo
 
「一つ言っておこう。私は一発で倒れる自信がある」

「……え?」

「そのライオットフォームとやらならば多分私は一発で失神するだろう。一本でも精一杯なのに、二本も繰り出されたらそれは防げないからな」

 スカリエッティは淡々と告げて。

「ただし――君が脱出したとき、大きな犠牲を払うと思いたまえ」

 そう告げて出されたのは何の変哲も無いボタンだった。

「そ、それは?」

「なに、ただのボタンさ」

 カチッと押されると同時にモニターにフェイトの顔と全身が映り出す。
 どうやらフロア内に仕込んでいたらしいカメラからの画像。
 何の意味があるのだ? とフェイトが首を捻った瞬間だった。

「ソニックフォームとやらを使ってみるがいい。ただし」

 スカリエッティは笑って。



「脱げるぞ?」



「……え?」

「バリアジャケットの再構成はこのAMF濃度だと不可能だろう。つまり、スッパだ、全裸だ、破廉恥フォームを通り越して、ヘブン状態だ!」

 断言した。
 スカリエッティは酷く楽しそうな笑みを浮かべて。

「さあ脱出してみるがいい! その場合、ネットを通じて君の全裸姿がミッドチルダ及び次元世界中にお披露目されるのだがね!!」

「えええー!!!?」

 フェイトが絶叫にも似た悲鳴を上げる。
 そんなまさかだった。

「う、嘘。え? でもハッタリだよね。幾らなんでもAMFでバリアジャケットの構築阻害なんて、いやでも、さっきのザンバーが……」

「さて、私は用事があるので失礼するよ?」

「え? ま、まってー!!」

 てってけってーとスカリエッティは白衣の埃を払うと、歩き出した。
 向かう先はモニターの奥に隠されていた転送ポット。
 このままだと逃げられる。
 だがしかし、フェイトは迷っていた。

12リリカル! 夢境学園 ◆XQrKF.nCNM:2009/01/10(土) 21:40:59 ID:A8vW5jpo
 
「ぜ、全裸……恥女認定? いや、でも……」

 うーん、うーんと迷う。
 己の精神的生命の継続を選択するべきか、それとも背負った願いを叶えるべきか。
 迷い、迷いながらも。

「では、さらだ!」

 転送ポットに入ろうとするスカリエッティを見て。
 彼女は覚悟を決めた。
 覚悟完了。
 さようなら、私の人生と涙を流しながら。

「し、真・ソニックフォーム!!」

 フェイトは叫んだ。
 バリアジャケットの大半を衝撃波に変換し、バインドを振り払う。
 同時に新しいバリアジャケットを構築。
 電光を全身に纏いながら、フェイトは涙を流して音速を超えて疾走し――スカリエッティの背に迫った時だった。

「どりゃー!!!」

 壁をぶち抜いて、それが飛び出したのは。

「え?」

 それは蒼い髪をした女性だった。
 両手に彼女の親友の部下がつけているのと同じデバイス――リボルバーナックルを嵌めて、怒声を張り上げて壁を貫通してきた。
 如何なる威力か。
 如何なる実力か。

「母親を舐めるなー!!」

 そう叫ぶ女性が突き破った壁の勢いのままに飛び出して。

「あ」

「え?」

「おや」

 飛び出したフェイトに、勢いよく撥ねられた。
 前方不注意だった。
 パンを咥えて、てってってどしーん! という出会いから始まる漫画チックな状態とはまるで違って、二人共大きく撥ね飛ばされる。
 片方は音速を超える物体に激突されて、もう片方は速度を追求して防御力の欠けた状態だったから。

「……結果オーライ!」

 指を立てて、スカリエッティは転送ポットに逃げ込んだ。

「あ、いたたた。何よ一体」

 その数分後、むくりと起き上がったのは陸士ジャケットを羽織った女性だった。

「い、いたたた。なんなの?」

 フェイトも起き上がる。
 パチリと目が合った。

13リリカル! 夢境学園 ◆XQrKF.nCNM:2009/01/10(土) 21:41:31 ID:A8vW5jpo
 
「あら? 管理局の魔導師かしら?」

「え? えっと、貴方は。あ、スカリエッティ!」

「もう逃げられたわよ」

 はぁっと女性がため息を吐いた。

「所属教えてくれる? 状況がさっぱりだから」

「あ、えっと、機動六課のフェイト・T・ハラオウン執務官です」

「機動六課? 名前は聞いたことは無いけど、ミッドチルダUCATのクイント・ナカジマです」

「あ、そうなんで……え?」

 フェイトは一瞬耳を疑った。
 ファミリーネームに聞き覚えがあったからだ。
 そして、よく見れば顔にも見覚えがある。正確にはそれと良く似た顔をみたことがあった。
 誰が知ろうか。
 それは八年前、ジェイル・スカリエッティにカーボンフリーズされていたクイント・ナカジマ。
 それがつい先ほどそれを打ち砕いて、脱出してということをフェイトは知らなかった。

「それにしても、ずいぶんと破廉恥なバリアジャケットね? 流行っているの?」

「え? あ、ああ!」

 全裸!
 まっぱ!
 ヘブン状態!
 その言葉を思い出して、フェイトが慌てて胸を両手で隠した。
 のだが、そこに衣服の感触があった。

「あれ?」

 肩のむき出しになったバリアジャケット、太腿を露出させ、涼しげでもある真・ソニックフォームのバリアジャケットが其処にあった。
 裸などではなかった。

14リリカル! 夢境学園 ◆XQrKF.nCNM:2009/01/10(土) 21:42:31 ID:A8vW5jpo
 
「だ、騙された」

 ガクッとフェイトが肩を落とした。
 そんな彼女に、クイントは肩を叩いて。

「まあ気を落とさないで。機会はまたあるから」

「は、はい」

 スルリ。
 フェイトが頷いた瞬間、変な音がした。

「え?」

 フェイトが身体を見下ろす。
 ボロボロとバリアジャケットが剥がれ落ちて――肌色が目に飛び込んできた。涼しすぎるほどに。
 そして、モニターに沢山の肌色が踊って。


「いやぁあああああああああああああ!!!!」


 フェイトの絶叫が響き渡った。

 ちなみに、後日フェイトが泣きながらネットを確認したが、一切流れていなかった。

 どうやらブラフだったらしい。





「っ、フェイトの声?」

「急ぎましょう、ヴェロッサ!」

 ずたぼろになりながらも、散らばったガジェットの群れの中を二人の男女が歩いていた。
 スーツは残骸もなく、露出した肩から血を流したヴェロッサとヘソも丸出しに、乳房も切れ込みが入ったかのようにずたぼろのシャッハが支えている。

「ああ」

 息するのも辛いように歩き出しながら、不意にヴェロッサは気付いた。
 地面が揺れている。

「震動?」

「しかも、勢いが強まって……まずい崩落するぞ!?」

 二人が慌てて駆け出そうとした時だった。
 奥から一つの人影が飛び出した。
 正確には一人の女性を背負った女性が。

「っ! フェイトさん! と、誰?」

「いいから早く逃げるわよ!」

 二人にクイントが叫ぶ。
 背中で、「ぅう、お嫁にいけないよぉ、クロノもらってぇ」と呟くフェイトがバリアジャケットを再構築した姿で俯いていた。

15リリカル! 夢境学園 ◆XQrKF.nCNM:2009/01/10(土) 21:43:02 ID:A8vW5jpo
 
「しかし、どこに!?」

「引き返すにしても道が――」

 その時だった。
 周囲の扉を蹴破り、現れた人影があった。

「こっちだ!」

「き、君たちは!?」

 それは陸士たちだった。
 しかも、途中で行方不明になっていた面子ばかり。

「裏口ルートでなんとかやってきたんだ! それよりも逃げるぞ!!」

『応!!』

 巨大なポットを抱えた陸士たちが頷く。
 四人はそれに続いて走り出した。

 震動は限界まで達しようとしていた。






「さあ始まるぞ」

 嗤う、嗤う、男が一人。

「始めましょう、歴史の改革を」

 語る、語る、女が一人。

「聖王の揺り篭を、起動する!」

 地響きを上げて。

 大地を震撼させて。

 今日この日、世界が震えた。

 白き大いなる翼の復活に。


 さあ、物語を始めよう。

 恐ろしい物語を。

 そのクライマックスを。




 スカリエッティ拿捕大作戦 続行

 聖王の揺り篭攻略戦に移行する   ……世界の命運を頼んだぞ

16リリカル! 夢境学園 ◆XQrKF.nCNM:2009/01/10(土) 21:44:40 ID:A8vW5jpo
投下完了です。
途中でサル規制にかかりました。本当にすみませんでした ORZ
次回から聖王の揺り篭戦になります。
ミッドチルダUCAT、クライマックス! どうぞお楽しみ下さい。
熱さも燃えも萌えもあります、頑張ります!
代理投下の方、ありがとうございましたー!


以上の代理投下をお願いします。

17魔法少女リリカル名無し:2009/01/10(土) 21:59:13 ID:XM2dG1U6
<<代理投下終了。災難だったな…。困ったらまたいつでも行ってくれ>>

18R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/01/12(月) 21:51:34 ID:x7pCFNjk
「リンディ、上!」

アルフの警告。
咄嗟に障壁を展開すると、再度頭上から襲い掛かった砲撃が褐色と緑の壁に弾かれる。
障壁越しに見上げれば、滞空するオートスフィアの群れが視界へと飛び込んだ。
それらは散発的にリニアレールの路線上へと配置され、車両の通過に合わせて砲撃を放つ。
どうやら先程の焔は、あのオートスフィア群の一部を狙ったものらしい。
次々と襲い来る砲撃に、リンディは焦燥を押し隠しつつ鋭く叫んだ。

「アルフ、暫く時間を稼いで!」
「了解!」

結界を解除、ディストーション・フィールドの発動準備に入る。
その作業すらも、膨大な処理能力を誇るユーノと本局データバンクからのバックアップにより、僅か5秒程で発動段階へと到った。
すぐさま、アルフへと声を飛ばす。

「アルフ!」
「はいよ!」

アルフの展開していた障壁が消失すると同時、入れ替わる様に車両上部へと空間歪曲が出現。
可視化した揺らぎが降り注ぐ砲撃を呑み込み、その全てを片端から掻き消してゆく。
高ランク魔導師であるリンディが、更に魔力供給を受けた上で展開したフィールドだ。
新型とはいえオートスフィア程度の砲撃では、万が一にもその防御を抜く事はできない。

その間に周囲では、後方より接近するJF704式に対する迎撃が開始されていた。
直射弾と集束砲撃が薄青色の機体へと襲い掛かり、高出力AMFによってその威力を減じられながらも機体表面を削りゆく。
だが、ヘリは怯まない。
回避行動を取るどころか、更に速度を上げてリニアへと接近してくる。
敵機は飽くまで輸送ヘリであり、AMF以外にこれといった武装を施されてはいない筈だが、しかし危険な事には変わりがない。

攻撃がより一層に激しさを増し、更にシグナムの炎と局員に対してのみ可視化されたヴェロッサの「無限の猟犬」がヘリへと襲い掛かる。
しかし、いずれにしてもAMFの効果範囲内へ侵入すると同時に減衰を始め、決定的な損傷を与えるには至らない。
幾ら高出力とはいえ、余りに異常に過ぎる魔力結合阻害効果。
どうやら汚染によって、安全回路が完全に破壊されているらしい。
今やあのJF704式は、次の瞬間には魔力暴走による爆発を起こすとも知れない、制御できない爆弾の様な存在なのだ。
局員の間に、焦燥を含んだ念話が奔る。

『駄目だ、魔力弾が減衰してしまう! 何か構造的弱点は無いのか!?』
『ヴァイス陸曹、何か知りませんか!?』
『テール・ブーム側面の排気口を破壊できれば、トルクを相殺できずに墜落する筈なんだが・・・誘導操作弾じゃAMF効果域を突破できないだろうしな・・・』
『不味いわ、フィールドが!』

念話が交わされる間にもリニアとヘリの距離は縮み、徐々にAMFの効果がリンディ達にも影響を及ぼし始めた。
そしてあろう事か、ディストーション・フィールドまでもが綻び始める。
空間歪曲の範囲が、明らかに狭まり始めたのだ。
このままでは未だ続くオートスフィア群からの砲撃を、直接的に受ける事となってしまう。
だがそんな中、クアットロからの通信が入った。

『ウーノ姉様、そちらで車両のコントロールを掌握できます?』
『・・・20秒程あれば』
『では、お願いしますね。それと皆さん、何かに掴まっていた方が宜しくてよ?』

その会話の内容に、リンディはスカリエッティ等が座していた方向を見やる。
彼女の視線の先では、ウーノが壁際のコンソール前へと佇んでいた。
信じ難い速さでキーウィンドウ上に踊る指を見つめていると、今度はスカリエッティからの警告が意識へと飛び込む。

『さて、急停車するぞ。そろそろ準備した方が良いのでは?』

19R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/01/12(月) 21:53:03 ID:x7pCFNjk
その瞬間、リンディはフェイトを庇う様にその上へと覆い被さった。
視線だけは頭上へと向けたまま、同じくフェイトへと寄り添ったアルフが再度、障壁を展開する様を視界へと捉える。
直後、鼓膜を劈く金属音と共に車両へと急制動が掛かり、同時に30を超えるデバイスが頭上の空間へと向けられた。

そして、車両が急減速した結果、ヘリは一瞬にしてその上方へと躍り出る。
AMFによる重圧が急激に増すと同時、ヘリの至近距離に展開していたディストーション・フィールドは霧散し、アルフの結界が綻び始めた。
防御手段を奪われれば、後は砲撃の餌食となる以外に道は無い。

だが次の瞬間、轟音と共に頭上のヘリが「潰れた」。
砕け散る緑光の壁、飛び散る魔力光の残滓。
メインローターの一部が捻じ曲がり、既に圧壊していたコックピットが更に小さく押し潰される。
歪んだ機体は其処彼処から大小の破片を零し、亀裂と火花、赤々とした炎が一瞬にして表層を覆い尽くす。
金属が圧壊する巨大な異音が容赦なく鼓膜を叩き、飛び散る無数の破片がAMFにより減衰した障壁へと殺到した。

「まだ・・・!」

だというのに、ヘリはまだ飛んでいた。
減衰していたとはいえ、リニア進路上の空中に展開されたユーノの障壁、強固さでは並ぶ物の無いそれへと高速で突入し、機体各所より炎を噴き上げつつも未だ飛行している。
フレームが歪み十分な安定性すら確保できない状態となっても、メインローターとノーター・システムはその役目を放棄してはいなかった。
しかし、機内のAMFシステムはそうではなかったらしい。
元々が繊細な魔法機器である上に、耐久性を考慮されていない試作品だったのか、フレームの歪みに耐え切れず損壊した様だ。
全身を圧迫していたAMFの重圧が消失し、同時に鋭い念話が局員の間へと奔る。

『撃て!』

連射される直射弾、簡易砲撃。
シグナムの炎が機体を貫き、ヴェロッサの猟犬がテール・ブームを喰い千切る。
メインローターのトルクにより回転を始める機体へと更に大量の直射弾が撃ち込まれ、爆音と共にハッチが弾け飛んだ。
業火を噴きつつ、機体の高度が下がる。
そして、ユーノの警告。

『伏せて!』

視界へと飛び込んだユーノの障壁は、これまでとは異なる形で展開していた。
地表に対して垂直ではなく、水平に展開されていたのだ。
ヘリは回避する事もできずに障壁へと突入、鋼を引き裂く異音と共に機体が上下に分断される。
切断された機体下部は車両を掠めて路線へと接触、高架橋を破壊して市街へと落下した。
残る機体上部は回転運動の激しさを増し、更に路線に沿って建ち並ぶビルの壁面へと接触して大量のガラス片を周囲へと撒き散らす。

『やった!』

誰かが、念話で叫んだ。
ヘリは制御を失い、更に大きく速度を落として車両から離れ始めている。
あの様子からして、数秒後にでも墜落するだろう。
リンディも、そう信じて疑わなかった。
数瞬後、機体切断面より現れたそれを見るまでは。

「な・・・」

反応する間も無かった。
切断面から出現した、巨大な1本の触手。
有機的柔軟さと骨格の強固さを併せ持った赤黒い外観のそれは、車両とヘリの間に存在する40m程の距離を一瞬にして詰め、先端が4つに分かれると其々が天井部を失った車両へと突き立ったのだ。
異様な光景と衝撃に目を見開くリンディ達の眼前で、床面を抉ったそれは徐々に有機的な組織を構造物へと侵食させ始める。
鋭い、悲鳴の様な声が上がった。

「前へ! 逃げて!」

20R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/01/12(月) 21:53:59 ID:x7pCFNjk
それがフェイトの声だと理解した時には、既にリンディはアルフと共に駆け出している。
周囲に展開していた局員やスカリエッティ達も、前部車両との連結部を目指し走っていた。
そして全員が4両目へと移ると共に、ベルカ式の武装局員が自身の槍型デバイスに魔力を纏わせ、連結部を切り裂く。

「これで・・・」

彼が言わんとした言葉を、最後まで聞く事はできなかった。
振動と共に5両目が離れ行く様を見つめる中、破壊された連結部から離れようとしたその武装局員は、天井部を貫いて侵入してきた触手により頭頂部から2つに分たれたのだ。
その惨状に凄まじい悲鳴が上がり、頭上では天井面へと血管状の組織が奔り始める。
だがユーノ達が、その状況を黙って見ている筈がない。
忽ちの内に障壁とバインド、各種結界と炎、無数の猟犬が侵食された天井部を吹き飛ばし、襲い来る異形の姿を露わにする。

「さっきのヘリ・・・あれが!?」
「節操の無い化け物だね、バイドってのは!」

メインローターは未だ回転していた。
機体上部もほぼ原形を保っている。
だが、それは最早ヘリではなかった。

機体下部からは6本もの触手が伸び、内4本が切り離された5両目に、残る2本がこの4両目へと打ち込まれている。
それらを用いて機体を固定する事によって、バイド化したJF704式はトルクに抗っていた。
素人目に見ただけでも触手の総質量は、明らかに機体のそれを超えていると解る。
しかし増殖は未だ止まらず、無数に枝分かれした極小の触手群が、最寄りの局員達へと一斉に襲い掛かった。

「うあ・・・げ、ひ!」
「ぎ、い・・・ぎッ・・・!」
「嫌、嫌・・・! ぎ、う・・・ぅ・・・ッ」
『退がれ、退がるんだ! 巻き込まれる!』

悲鳴に告ぐ悲鳴。
それらが絶叫へと変化する前に、触手の群れは哀れな犠牲者達を津波の如く呑み込んでいた。
縫い針ほどにまで細分化した数千、数万もの触手が銃弾さながらの速度で伸長し、それらの先端が局員の身体を貫いてゆく。
人体を貫通したそれらは更に伸長、先端が床面に達し構造物と同化すると同時に増殖を停止。
植物の根、或いは神経ネットワークの如く張り巡らされた触手の枝の中、全身を貫かれた局員達の影が網状となった赤黒い触手の中に蠢く様は、他の生存者達の正気を乱すには十分に過ぎた。
そして無数の悲鳴が上がる中、更なる狂気じみた事実が発覚する。

『バイタルが・・・バイタルが残ってる!』
『何の事だ!?』
『デバイスのバイタルサインが残っているんだ! 生きてる! 彼等はまだ生きてるぞ!』
『何を馬鹿な・・・!』
『見て!』

局員の1人が、触手の一部を指した。
反射的にその先へと視線を滑らせたリンディの視界に、褐色の制服が映り込む。
数十本もの極小の触手に貫かれた、局員の腕。
僅かずつ滲み出す血液に、褐色の制服が徐々に紅く染まりゆく。
その末端、同じく微細な触手に縫い止められた五本の指が、確かに動いた。
当然の帰結として、その腕の付け根へと視線を移動した結果。

「ッ・・・!?」
「見ちゃ駄目だ、フェイト!」

アルフの叫び。
もう少しそれが発せられる瞬間が遅ければ、叫んでいたのはリンディ自身だったろう。
尤もそれが、果たしてフェイトへの注意であったかは怪しいが。

「何て・・・事・・・」

21ロックマンゼロ ◆1gwURfmbQU:2009/01/13(火) 00:30:23 ID:mFIQefSw
第四話です。
色々と同人誌方面で立て込んでしまい、投下が遅れてしまいました。
支援してくださった方々は、ありがとうございました。
今週からまたペースを戻していきたいと思います。
3〜4話はロックマンゼロの世界観というよりは、ロックマンゼロという作品に
登場するキャラや、メインヒロインであるシエルについてでした。
考えてみれば、この話からコミケで冊子貰った人も知らない展開なんですね。

それでは、感想等、ありましたらよろしくお願いします!




このあとがきを、誰か代理で。

22キャロとバクラの人 ◆2kYxpqWJ8k:2009/01/14(水) 21:52:15 ID:FuN4oaSA
「バリン」

終わりは呆気ないモノ。ガラスが割れるような音が一つ。そこには既にビショップと言う存在が居た証は何も無い。
ゆっくりとルーテシアは立ち上がり、呆気に取られて動けないエリオとキャロへと視線を向ける。

「っ!?」

二人の背筋を駆け抜ける寒気。先程のルーテシアを遥かに越えた違和感。
先程まででも完成していた芸術品を思わせる雰囲気だったが、ソレすらも飛び越えた。
コレは人間なんかじゃない。コレは化け物で、自分達はその獲物 食料に過ぎない。

「あなた達の……」

ルーテシアの口から零れるのは小さな呟き。それだけで世界が変わる。
小さな掌の上に浮かび上がるのはチェックメイトフォーのクイーンである証……と、ソレに寄り添うビショップの紋章。
本来ならばありえないチェックメイトフォーの二席を占める最強のファンガイアの誕生。
それを祝福するように沸き立つ闇が辺りを染め上げ、天空にはいつの間にか輝く真っ赤な満月。


「あなた達の夜が来る」


クイーンとして力と美貌、ビショップから受け継いだ知恵と策略を持つ彼女はキングすら凌ぐかも知れない。
数多ある次元世界で一斉に目覚めたファンガイアたちを纏め、管理局と数百年にわたる闘争を勝ち抜く事になる。
運命に最後まで準じた男が作り上げた存在が、その運命すら越える力を得たのは最大級の皮肉だろうか?

23キャロとバクラの人 ◆2kYxpqWJ8k:2009/01/14(水) 21:56:06 ID:FuN4oaSA
「そんな……」

「どうか私が居なくとも……」

「うん、解ってる。私はなるよ? 貴方の為なんかじゃないんだから……私は私の為に」

ビショップは内心で喝采を上げる。『その言葉が聞きたかった!』と。
完璧なクイーンを作り上げるという目標の最終関門、それはビショップ自身へのルーテシアの依存や甘え。
口にも態度にも出さないが、彼の手一つで育てられてきたルーテシアがソレを持たない事は不可能に近いだろう。
しかしその甘えはいずれ足枷になる。冷徹なパニッシャー、キングを宿す揺り篭には相応しくない感情だ。

「そうです……それで良いのです」

何故ビショップはそこまでするのだろうか? 自分の死を持ってまで完璧なクイーンに拘るのだろうか?
彼はこれまで三人のクイーンを見送った。
最強のキングの伴侶を務めながら、人間との愛を選んだ者。彼女は力を奪われ、隠居を強いられ、最後は逆上した息子に殺された。
二人目は人間のルールに縛られ、偽りのキバとの愛情を優先した上でキングに剣を向けた者。ビショップ自ら鉄槌を下している。
三人目はもちろんメガーヌ。もしクイーンとして覚醒させていたら、あんなオモチャに遅れをとり、死ぬ事も無かった。

「これで……貴女は」


それこそがビショップの知恵と運命が告げる見解。
ビショップとはクイーンやキングを育て、失敗と見ればその首を挿げ替える事すら許される存在。
しかし誰よりも知識を持ち、知恵を巡らせるビショップは運命に反抗する事を知らない。どこまでも賢く、同時に愚かなのである。

だから彼はこう考えた。己の運命を受け入れなかった者、逆らった者、知らなかった者。
クイーンとして相応しく無い者には死が運命的に約束されている。もちろんこの先に生まれる全てのクイーンにもそのルールは適用されるだろう。
死したメガーヌの腹から自力で這い出し、生まれた時からビショップはわかっていた。
『この子こそ! メガーヌと二人で決めた名 ルーテシアを冠する我が娘こそが次のクイーンだ』と。

「完璧な……存在に……」

どうしても不幸な目になど遭わせたくは無かった。この愛らしい子が死ぬなんて認められない。
だからクイーンとして育てたのだ。唯のクイーンでは無い。
悠久のファンガイアの歴史においても、類を見ない完璧なクイーン。強く美しく賢く定めに忠実な存在。
その為には父などと言う肉親は不要だ。必要なのは守る騎士であり、育てる師。
その役目が終わったのならば、最後の依存を断ち切るために命を絶つ。最後にどんなザコが相手でも油断は禁物だと言う教訓を教え込んで。

「■□■□」

最後は言葉にならない。だがこれだけは間違いなく言える。
彼は娘であるルーテシアを溺愛していた。死すら娘の為に浪費する事を厭わないほどに。
その形が人間には理解できない形であり、ルーテシアにも一生伝わる事は無いとしても、これは間違いなくビショップの愛だった。

24キャロとバクラの人 ◆2kYxpqWJ8k:2009/01/14(水) 22:01:22 ID:FuN4oaSA
以上です。現在編と過去編が交差しまくりで解り難かったかしら?
とりあえずルールーが出ているのが現在、ルー母が出ているのが過去だと思っていただければw
それにしてもこれはビショップなのか?という多大な疑問を生みましたね、コレ(他人事

25レザポ ◆94CKshfbLA:2009/01/18(日) 14:37:21 ID:.7UdPf8Q
以上です、ルーテシア徐々にメルティーナ化って話です。

今思うと、メルティーナが乙女っぽいかもしれないです。

本編まで後一話位だと考えています。


それではまたです。

26レザポ ◆94CKshfbLA:2009/01/18(日) 14:38:44 ID:.7UdPf8Q
そしてやってしまいました、どなたか御願い致します。

27レザポ ◆94CKshfbLA:2009/01/18(日) 14:54:18 ID:.7UdPf8Q
代理投下ありがとうございました。

28367:2009/01/25(日) 16:29:53 ID:f0XKjpmg
「俺は殺害に加担したんだ。
 そのことを受け入れるために俺は、俺がどんな有用性を持つのか明らかにしなければならない。
 俺もいつか死ぬ。その時が来るまでに俺は見つけ出さなければならない。俺自身の有用性を」
ウフコックの軌道――明確な出発点から目指すべき到達点へと弧を描く――誰にも止められない。
それはボイルドの新たなキャリアの始まりであり、選択でもあった。
どちらもジ・エンドに至るリスクを承知してクリストファーの描く“渦巻き”に飛び込もうという意思を示す。
チャールズの溜め息。
「死を見つめ楽園を去るか……」
《門出を祝ってやろうぜ》
トゥイードルディムが陽気に口を挟む。
チャ−ルズ――仕方ないと言うように微笑み、去っていく。

ウフコックはテーブルを飛び降り、イルカの鼻先と少年の膝に触れる。
「さようなら、トゥイーたち。俺は行くよ」
《さようなら、ウフコック」。また遊びに来てね》
《もし見つかったら会わせてくれよ。お前を必要とする相手ってやつをさ》
「約束するよ、トゥイーたち。お前たちは大切な友人だ」
ボイルドはウフコックを手に乗せ、立ち上がる。
男とネズミは楽園を去った。

      ◆◆◆

襲撃から二日目の朝。
食堂で軽食を受け取り、ロビーへ。
荷物は殆どない。ハザウェイのTシャツやジョーイのラジカセ、ラナのブーツといったものは何もなかった。
食事しながら待つ。誰がクリストファーの選択を選んだのか。
じきにジョーイとハザウェイ。続くようにラナがやって来た。
レイニーとワイズ。クルツと姿の現したオセロット。

介護棟からやって来る二人――イースター博士とウィリアム・ウィスパー。
「ウィスパーの識閾テストをしたんだ。彼もクリストファー教授のプランに賛成した、僕も」
聞かれもしないのに話し出す“お喋り”イースターの肥満体――ヘリウムガスが溜まったような腹。
イースターの押す車椅子の上で虚空を見つめるウィスパー。
脳に損傷を負ったかつてのオードリーの同僚。
脳に埋め込まれたハード/頭皮を覆う金属繊維/直感でコンピューターの操作する“電子世界のシャーマン”。
その結果として、ウィスパーは他者を理解しなくなった。データが精神――ささやきとなったイースターの“体の悪い弟”。

最後に管理棟のドアから姿を現すクリストファー。
「ふむふむ」
くるくると円を指先で描きながら、一人一人を指差す。
「ディムズデイル・ボイルド。
 ウフコック・ペンティーノ。
 ラナ・ヴィンセント。
 ジョーイ・クラム。
 ハザウェイ・レコード。
 レイニー・サンドマン。
 ワイズ・キナード。
 クルツ・エーヴィス。
 オセロット。
 ドクター・イースター。
 ウィリアム・ウィスパー。
 悪運と実力に満ちた九人と二匹のスペシャリストたちよ、よくぞ私のプランに賛同してくれた。心から感謝と歓迎の意を示そう。
 さあ、こちらへ来たまえ。いざ扉は開かれん」

茶番を好むクリストファー――その指にいつの間にか挟まれているカードキー/軽快な歩み/ロビーの扉脇を滑るように通過するカード。
ロックが次々に解除され、ゆっくりと扉が開いていく。
ロータリーには初めて目にする管理局を制服を着た幾人かの男たち。
「いざ“楽園”を出て荒野を渡ろう」
そして“楽園”を出た十人と二匹は新たな戦場へと向かった。

29367:2009/01/25(日) 16:30:41 ID:f0XKjpmg
投下終了です。
リリカルなキャラが全く出てませんが次回からでる予定です。
しかしクランチ文章難しい。

30367:2009/01/25(日) 17:01:39 ID:f0XKjpmg
>>28の方は投下できてました・・・

31魔法少女リリカル名無し:2009/01/25(日) 17:07:51 ID:1hMINRAQ
>>29
やっときました

32367:2009/01/25(日) 17:53:33 ID:f0XKjpmg
>>31
代理ありがとうございます

33リリカルセイバーズ ◆YSLPVXF4YI:2009/01/29(木) 19:42:43 ID:B2fxeMME
サルサン引っかかりましたのでどなたか代理投下お願いできますでしょうか?

スカルサタモンの攻撃に、スバルとティアナは防戦一方であった。
なんとか決定打は貰わずに済んでいるが、いつまでも防ぎきれるわけでは無い。

「チィ、しぶといんだよテメェ等は!」

スカルサタモンは何度攻撃しても倒れない二人にへの苛立ちが限度を超えていた。
完全体デジモンとしての自信と誇り。それが、たった二人の人間を倒せないという事で打ち砕かれた。
許せない、許してはおけない。自分達デジモンに遥かに劣る人間の分際で生意気なのだ。

「ティア……大丈夫?」
「少なくとも……あんたよりは大丈夫じゃないわよ……」

荒く息を吐きながら言葉を交わす二人に余裕はない。
魔力はほぼ空、応援を頼む暇も無い。体力もそろそろ限界と絶望的な状況だ。
どうやってこの状況を切り抜けるか思考を走らせるが思いつかない。

「いい加減にくたば……ん? なんだ!?」

スカルサタモンが杖を振り上げ、いい加減にトドメを刺そうと動こうとした時、それは現れた。
地響きと共にアスファルトを砕き、地中から出現したそれは全身を鋼で覆った竜。
背中に二つの大砲と緑色の液体に満たされたカプセルを背負った竜。全長は軽く15メートルを超えているだろう。
全身を黒みがかった銀色の装甲に覆われ、頭部のみが緑色に変色した竜は自分の足元にいるスカルサタモンへと顔を向ける。

「バ、バイオムゲンドラモン……なんでこんな処に!?」
「悪いね」

バイオムゲンドラモンと呼ばれた竜は、その外見の凶悪さに似合わぬ十代中頃の少女を連想させる声で呟く。

「ドクターからの命令なんだ」

右腕を振り上げ、豪速を持ってスカルサタモンへと叩きつける。
スカルサタモンはそれに反応もできず、鋼鉄の腕に押し潰され消滅。
バイオムゲンドラモンが腕を持ち上げた跡に出来たクレーターに、デジタマへと還元された姿で転がる。

「なっ……何、アイツ……」

突如出現し、スカルサタモンを一撃で倒したバイオムゲンドラモンにスバルとティアナは困惑する。
当の鋼の竜は軽く二人を一瞥すると、興味無さげに視線を外して自身が空けた地面の穴へと戻っていく。
二人は茫然としたまま、ヴィータとはやてが来るまでその場を動けなかった。

34リリカルセイバーズ ◆YSLPVXF4YI:2009/01/29(木) 19:44:10 ID:B2fxeMME
登場デジモン解説

シードラモン 成熟期 水棲型 データ種
長い蛇のような姿をした成熟期のデジモン。
高い攻撃力を持つが知性は低く、本能のままに行動する。
海は勿論、湖などにも潜んでおりその長い体を利用した締め付け攻撃は驚異の一言。
必殺技は口から吐き出す氷の矢「アイスアロー」


メガシードラモン 完全体 水棲型 データ種
シードラモンの進化形であり、一回り巨大化した水棲型デジモン。
頭部の外郭から伸びる稲妻形のブレードが武器であり、進化前のそれより硬度が増した兜としても用いられる。
知性や泳ぐスピードも発達し、執念深く相手を追いつめる。
必殺技は稲妻形ブレードから放つ雷撃「サンダージャベリン」


バイオムゲンドラモン 究極体 マシーン型 ウィルス種
100%フルメタルボディを持つ究極体。
一時期デジタルワールド最強の座に君臨していた程の戦闘力を持ち、他のデジモンを圧倒する頭脳とパワーを持つ。
その名の通り無限のパワーと持ち、体はさまざまなサイボーグ型、マシーン型デジモンの優れたパーツで構成される。
本作では人とデジモンの融合体であるバイオデジモンとして登場。
必殺技は背中の大砲から放つ超ド級の破壊エネルギー波「∞(ムゲン)キャノン」

35リリカルセイバーズ ◆YSLPVXF4YI:2009/01/29(木) 19:45:18 ID:B2fxeMME
長らくお待たせした上にこんな内容で申し訳ない orz
結局、兄貴と共闘したのライトニングだけだったり、はやてとかヴォルケンズ二人は出番丸ごとカットしたりとホント申し訳ない。
そしてようやく気がつきました……このSS一番のバランスクラッシャーは大だ。戦闘シーン執筆の際、強すぎて使いにくいのなんの。
バイオデジモンも登場……出すかどうか凄く悩んだんですけどね。正体が分かった人はご一報を、好きなデジモン一体差し上げます(何
さて、次回から本作のメインヒロイン(?)がよーやく出てきますといいつつこの辺で。

以上です。どなたかお願いします。

36魔法少女リリカル名無し:2009/01/29(木) 19:48:53 ID:3giaR4yo
代理投下終了しました。

37リリカルセイバーズ ◆YSLPVXF4YI:2009/01/29(木) 20:00:09 ID:B2fxeMME
>>36
確認しました。
ありがとうございます。

38LB ◆ErlyzB/5oA:2009/02/09(月) 10:10:08 ID:hnehCqd6
 ――あの人を、助けてください……
 惨めな姿で、少女は確かにそう言った。
 プレシアのためではなく、少年のためにそういったのだ。
 プレシアの前で我侭を言うなど、今まで一度たりとも有りはしなかった。
「何故……」
 どうしてあの時、自分は手を止めたのだろう。
 ――次はもっと、がんばります。だから……
 私のことだけ考えていればいい。そう叱るべき筈なのに。
 この状況で、あなたは私にお願いできる立場だというの。そう諭すべき筈なのに。
 頭ではそれがわかっていたはずなのに、プレシアは確かに躊躇した。
「何故……」
 躊躇する理由など、どこにもない筈なのに。
 ――おねがい、します……
 なぜ、そこで完全に手を止めてしまったのだろうか。
 わからない。
「けど……考えても、あまり意味がないわね」
 直後にプレシアは首を横に振り、その疑問を切り捨てた。
 そうだ。こんなことを考えている場合ではない。
 あんなことは、どうせ一度きり。フェイトが自分に我侭を言うことなど、もう二度とないだろう。
 そもそも自分があの少年を保護した理由は、フェイトの頼みによるものではない。
 左手に握るものへと、プレシアは視線を移す。
 鈍い光沢を放つ、二振りの剣。あの少年が持っていたものだ。
 最初はあの少年を追い出すつもりではあった。だが、腰のベルトに差していた『これ』を一目見た瞬間、プレシアは気付いた。
 持ち主の少年からは一切魔力を感じなくとも、『これ』そのものに電子音声機能が搭載されていなくとも……
 それでも『これ』は、デバイスだと。
 フェイト達は気付いていなかったようだが、間違いない。
 少年をフェイトから紹介されたときにもらった少年のデータを見る限り、少年のもといた場所は、おそらく管理局も見つけていない別の次元世界。
「案外と、使えるかもしれない」
 プレシアの両頬が、不気味に吊り上がる。
 フェイトが課した保護条件に、少年は素直に従っている。
 未知の世界から現れた少年。正体不明のデバイス。
 うまく利用すれば、悲願達成の近道になるかもしれない。
 価値が無ければ捨てるもよし。戦力になるのなら、管理局が手を出してきた時はいい駒となるかもしれない。
 プレシアの両肩が自然と震えだし、次第に声が混ざっていく。
 やがて、誰もいない廊下に、誰にも聞こえることのない壊れた笑い声が響き渡った。

39LB ◆ErlyzB/5oA:2009/02/09(月) 10:10:40 ID:hnehCqd6
 どこまでも、虚しく。どこまでも、狂気的に。

 今のプレシア・テスタロッサに、届く声は……ない。

40LB ◆ErlyzB/5oA:2009/02/09(月) 10:14:35 ID:hnehCqd6
               *

「はぁ……」
 公園のベンチに座り、セラは大きく溜息を吐いた。
 時間は既に夕刻。殆ど一日中歩いてディーとジュエルシードを探し続けていたのだが、収穫はなし。
 歩き疲れていると察したのか、合流したなのはと一緒に、ユーノから少し休むよう言われた。
 当のユーノは、なのはの肩に乗って休むとのこと。小動物ならではの方法だと、セラは思った。
 とはいえ、家からは少し遠い。一番近い休憩場所で休み、再び合流してから帰宅することとなった。
 そんなわけで、セラはなのは達から指定されたここ、『海鳴海浜公園』にいる。
 ……やっぱり、言い過ぎたでしょうか?
 ふと、合流直後のなのはとのやり取りを思い出す。
 朝にユーノが聞いてきたことは、なのはの悩みについて。
 ジュエルシードや敵対している魔導師のことで悩み続け、とうとう友人関係にまで影響を与えてしまっている。
 それを聞いた時、少しだけ悩んだ。
 不思議の国のアリスのように、突如この世界に迷い込んでしまった自分。
 ただの部外者である自分が、余計な手を出してもいいのか、と。
 とはいえ、せっかく保護を受けているのだから、その位の相談は引き受けようと思った。
 ユーノには、私に任せてください、とだけ答え、なのはと合流してすぐにお説教を始めた。
 全部話せなくても、肝心な所を伏せたりとか、そういう工夫をしてください……とか。
 手伝って欲しくなくても、せめてアドバイスくらいはもらってください……とか。
 最初はかなり慌てていたなのはだったが、次の言葉を聞くと何故か息を呑んだ。
 ――わたしもユーノさんも、なのはさんの傍にいますから。だから、困った時はちゃんと言ってください。わたしたちは、なのはさんのお友達なんですから。
 思うところがあったのか、なのはは思案するように俯いたままだった。
 その後はなのはの反応を待たずに、自分から先行して捜索を再開したため、なのはからの返事は聞いていない。
 というより、返事が少しだけ怖かったからかもしれない。
 やはり自分は、本来この世界とは無関係なのだから。
「なのはさんとユーノさん、まだでしょうか……」
 さらに、溜息の理由はもう一つある。
 なのは達から場所を聞いてここへ来てみると、I-ブレインが情報制御を探知したのだ。
 微弱ながらも奇妙な『物理法則の乱れ』に、まさかと思って発生源を探してみると、案の定。

41LB ◆ErlyzB/5oA:2009/02/09(月) 10:15:43 ID:hnehCqd6
 ……まさか、なのはさん達より先に見つけてしまうなんて……
 自分の座るベンチからは少し離れた、無造作に立っている一本の木へと視線を向ける。
 木の根元には、不気味に明滅を繰り返す、小さな青い宝石。おそらくあれが、話に聞いたジュエルシードなのだろう。
 早く対処するべきなのだろうが、封印方法を知らないし、知ったとしても多分できない。
 さらにいうなら、なのは達との連絡手段も持っていない。
 なのは達の正確な現在位置がわからない以上、迂闊に探すこともできない。
 ジュエルシードの暴走条件も大まかだが聞いており、自分が触れても発動する危険は十分に有り得る。
 せめて、周囲の物体から引き離せば発動が遅れるかもしれないと思い、重力制御で宙に浮かせようとしたのだが、
 ……さっきは、ホントにびっくりしました。
 朝からずっと展開しっぱなしだったD3を近づけただけで、ジュエルシードの頼りない発光が一気に強まったのだ。
 驚いてD3を離すと、それに合わせてジュエルシードの発光は元に戻っていった。
 試しにジュエルシードとD3の距離を調整してみると、それに合わせて発光現象の強弱が変化した。
 どうやら、魔法士の魔法にも反応するらしい。
 魔力や願いにジュエルシードが反応することは聞いていたものの、情報制御にも反応するとは思わなかった。
 とはいえ、情報制御も『願い』や『魔導師の魔法』と同様、脳内で『思考』することによって発現する。
 魔導師の魔力ではなく魔法そのものに反応していたとすれば、ありえないことではない。
 結局、ここでなのはの到着を待つことしか自分にはできない。
 完全に八方ふさがりだった。
「はぁ……」
 再び大きく溜息を吐き、空を見上げる。
 生まれてはじめて見る、茜色の空。
 シティの天井も合成映像で空を映せるのだが、本物の空にはやはり程遠いだろうとセラは思う。
 公園内を見渡せば、木々や草花などの自然が多くあることもわかる。
 シティ内外を問わず、このように緑溢れる場所は存在しない。
 自分の周りを取り囲むものすべてが、セラに一つの事実を告げている。

42LB ◆ErlyzB/5oA:2009/02/09(月) 10:17:01 ID:hnehCqd6
 ――この世界に、マザーコアは存在しない。
 情報制御によって、シティに住む一千万人の命を支え続ける『マザーコア』。
 生きた魔法士を培養層に入れ、ロボトミーを行って心を奪い、情報制御でエネルギーを賄い、コアとなった魔法士が使い物にならなくなれば、新しい魔法士と取り替える。
 いわば、魔法士を生贄にして人類を生き長らえさせるシステム。
 生贄という表現をより悪く言うなら、電池が似合うかもしれない。
 誰かの命を犠牲にしなければ、多くの人々の命が一日ともたずに失われてしまう。
 そんなシステムが、この世界には存在しない。
 自分の世界の有りさまだったそれが、この世界には存在しない。
 魔法士の世界で起こっている争いの理由が、この世界には存在しない。
 羨望が無いと言えば嘘になる。
 けれど、自分の本来いるべき世界のようになって欲しいとは欠片も思わない。
 しかし、ふと思う。
 残っている二億人を、この世界に移すことができたら、どんなに楽だろう。
 そうすれば、マザーコアの是非という争いだって行う必要がなくなる。
 少なくともこの世界は、自分の世界の『かつての姿』に限りなく近い。
 生き残った人々で、再スタートを切ることは不可能でもないだろう。
 そこまで考えて、セラはぶんぶんと首を横に振った。
 いくらそんなことを考えようと、所詮は夢幻に過ぎない。
 この世界に自分が来れたのは、きっと偶然。
 行き来する方法が見つかっていない以上、いくら考えても無駄でしかない。
 ――では、今この世界にいる自分はどうなのか?
 不意に浮かんできた疑問に、セラは目を見開く。
 何の関係もない筈の人間。存在しない筈の人間。
 魔法士の世界を見つけるまでの間、この世界における自分は何だというのだろうか。

43LB ◆ErlyzB/5oA:2009/02/09(月) 10:18:31 ID:hnehCqd6
「わたしは……」
 なんとなしに、そう呟いた時。
(高密度情報制御感知)
「え?」
 I-ブレインが、凄まじいまでの情報の歪みを感知。
 顔を上げ、ジュエルシードがついている木へと向けば、ちょうどその一帯が青白い光の柱を上げている。
 ……発動、したんですか?
 疑問もそこそこに立ち上がり、一旦この場から離れようと身を翻し、
「封時結界、展開!」
 振り向いた先には、異世界のフェレット。
 言葉とともに、フェレットを中心に空間が『変わって』いくのを、I-ブレインが余すことなく知覚する。
 本来なら自分も結界の外に追い出される筈なのだが、そこはユーノとなのはに必死で頼み込んでおいた。
「セラは、下がっててね!」
「は、はいです!」
 とはいえ、やはりできることは『遠くから見ること』だけ。
 ユーノの指示通り、この場から離れようとして、
「セラちゃん!」
「あ、なのはさん!」
 ユーノの後ろから、遅れてなのはが駆けつける。
 先程会った時とは全く違う出で立ちに内心で戸惑いつつ、セラもなのはのもとへと駆け寄る。
 左手に持っている杖がレイジングハートであり、現在着ている白服がバリアジャケットなのだろう。
「えと、大丈夫?」
 僅かに逡巡したなのはの問いに、怪我はないか、という意味がないことを正確に把握する。
「ちょっと驚きましたけど、平気です!」
 答えた直後に地面が揺れ、二人揃って直立のバランスを崩しかける。
 揺れが納まったかと思うと、今度は聞いたことのない咆哮が空気を震わせる。
 咆哮の主は、すぐに見つかった。
「あれが……」
「うん」
 呆然と『それ』を見るセラの呟きに、毅然とした表情でなのはが頷く。
 どこかの御伽噺の本にでも出てくるような、巨大化した木のお化け。
 そのお化けを中心に、I-ブレインがひっきりなしに異常な情報制御を感知し続けている。
 あれが、ジュエルシードの暴走体。
「ちゃんと隠れてますから、その……うまくは言えないですけど」
 何か言わなければと思い、なのはと向き合う。
「がんばってくださいね、なのはさん」
「……うん!」
 精一杯の笑顔で口に出てきたのは、月並みの励まし。
 それでも、お説教を受けていた時の沈みっぷりはどこへやら、なのはは微笑み、力強く頷いた。
 お説教が、功を奏したらしい。
「それじゃ、行ってくるね!」
 その言葉を最後に、なのはは暴走体へと向かっていく。

44LB ◆ErlyzB/5oA:2009/02/09(月) 10:20:14 ID:hnehCqd6
 なのはに手を振ってから、セラは林の中へと走る。
 たどり着いてから振り向くと、なのはが暴走体と対峙している。
 セラは、遠くからそれを見ていることしかできない。
 ……わたしは……
 さっきベンチで一人きりになったのを見計らい、鞄の中に入れた十個のD3を鞄越しに見つめる。
 わかっている。全部わかっている。
 あの化け物を倒すことくらいなら自分だってできるが、ジュエルシードを封印しなければ意味がない。
 むしろ自分の力に反応して、暴走が更に拡大する危険だってある。
 今力を使えば、管理局に目をつけられて実験動物扱いされるかもしれない。
 そうでなくとも、立場的に不利になることは確実だ。
 ――自分が加勢する事に、何等意味は無い。
 そう、自分に言い聞かせて、
(情報制御感知。右方)
 直後、別方向から情報制御を感知する。
 情報制御の発生源へとセラが振り向いた直後、視界を金色の何かが高速で横切っていく。
 物体の正体は、先の尖った金の弾体。おそらく魔力弾。
 複数のそれらが暴走体へと殺到し、突如現れた半透明の半球に遮られる。
 暴走体は攻撃に反応し、魔力弾の射手へと向き直り、吼える。
 セラも振り向いてみると、二つの影。
 一つは、橙色の狼。使い魔だろう。
 そしてもう一つの影は、公園のオブジェの上に立つ、黒衣金髪の少女。
 なのはのバリアジャケットと相反するような、色も肌の露出度も違う服装。
 黒衣とコントラストを成す白い肌。遠目からでもわかる、意志の強そうな赤眼。
 あの少女が、敵対する魔導師――フェイト・テスタロッサ。
 凛としたその佇まいが、しかしセラにはあの『悪魔使い』の少女のように危なっかしく見えた。
 そこまで考えた時、I-ブレインが暴走体の質量の変化を感じ取る。
 暴走体へと向き直れば、木の根に当たる部分が地表に飛び出した瞬間だった。
「ユーノくん、逃げて!」
 なのはの指示通り、ユーノもこちらの方へと避難して来る。
 しかし当のなのはの方は、暴走体から背を向けようとしない。
『Frier Fin』
 レイジングハートの電子音声が聞こえたかと思うと、なのはの両足にピンク色の羽が出現する。
 直後になのはが跳躍し、たたき落とされる『根』をすんでのところで回避する。
「飛んで、レイジングハート! もっと高く!」
『All Right』

45LB ◆ErlyzB/5oA:2009/02/09(月) 10:21:13 ID:hnehCqd6
 なのはの言葉にレイジングハートが答え、魔力で作られた羽が力強く羽ばたき、ぐんぐん高度を上げていく。
 と、今度はフェイトの方に情報制御を感知。
 振り向くと、少女のデバイスに著しい変化が起こっていた。
 それまで斧のような形状だったデバイスがいつの間にか鎌の形をとっている。
 形に合わせ、鎌の先端から金の刃が出力される。
「いくよ、レイジングハート!」
 なのはの声に顔を上げると、暴走体にデバイスの先端を向けるなのはの姿。
 レイジングハートも漆黒のデバイスと同様に、その形状を既に変化させている。
 その姿に見入る暇も無く、I-ブレインが新たな質量を探知する。
 振り向くと、フェイトのデバイスから伸びていた魔力製の刃が、くるくると回りながら暴走体へと向かっていくところだった。
 金の刃は、見た目通りの切れ味を持って『根』を次々と切り飛ばしていく。
 しかし、本体の方は先程の魔力弾と同様に障壁で防がれる。
 どうやら、暴走体の身を守る障壁を破らない限り、決定打は出せないようだ。
 目の前の戦況に、思わずセラは唇を噛む。
 一撃。
 自分がほんの一撃入れるだけで、あの障壁は簡単に破ることが出来る。
 それを、セラのI-ブレインが――質量知覚能力が告げている。
 いや、そもそも障壁さえ張らせずに倒すことが出来るかもしれない。
 その一撃すら、セラには許されない。
 今この状況で力を使ったら、真っ先になのは達に勘付かれてしまう。
 口止めするという手もあるが、それではなのは達の負担になるし、時空管理局に保護されれば二度と会えないかもしれない。
 管理局に余計な隠し事をするのは、自分一人だけで十分だ。
(情報制御感知。上方)
 I-ブレインのメッセージに顔を上げると、レイジングハートを四つの論理回路――否、魔法陣が取り巻いている。
「撃ち抜いて!」
 なのはの叫びに、レイジングハートの先端に魔力が集まっていくのを視認する。
 I-ブレインの質量知覚が、見た目よりも質量が小さいことを告げる。
 ユーノから聞いた、非殺傷設定を使っているのだろう。
「ディバイン!」
『Buster』
 掛け声と共に解き放った魔力が、暴走体へと直進していく。
 暴走体は先程と全く同じ障壁で防ぐが、今度は悲鳴をあげてのたうち始める。
 障壁越しにも影響を与えているのだろう。だが、あと一歩足りないようだ。

46LB ◆ErlyzB/5oA:2009/02/09(月) 10:22:33 ID:hnehCqd6
 フェイトの方はどうしているかと振り向けば、足元と正面に魔法陣を展開している。
「貫け、豪雷!」
『Thunder Smasher』
 漆黒のデバイスを槍の如く突き出すと、こちらも指向性の高い金の魔力が放出された。
 二方向からの同時砲撃に、暴走体も二つ障壁を張って暫く持ち堪えたものの、最後は苦しげな叫び声をあげながら次第に発光していく。
 その光の中から、ジュエルシードが浮かび上がる。
 直後、
「ジュエルシード、シリアル7!」
「封印!」
 早い者勝ちと言わんばかりに、二人の魔導師は封印を仕掛け、その場が一瞬で光に包まれる。
 セラは思わず両腕を掲げ、目に入る光を遮る。
 閃光が収まると同時に腕を下ろし、I-ブレインの知覚に従ってなのはの方を見上げると、ちょうどフェイトがなのはと同じ高度まで浮かんでいる。
 この距離では流石に会話を聞き取れないものの、あまり良い雰囲気ではなさそうだ。
 おそらく、これから二人は戦闘を始める。
 セラは暗澹たる思いで、二人の対峙を見守り続ける。
 ……わたしは……
 自分が入る余地など、どこにもない。
 これから起こる戦いに、他者の入る余地はないのだ。
(情報制御感知)
「え?」
 意外な方向からの情報制御を探知し、視線を更に上向ける。
 二人の魔導師とほぼ同じ高さで静止したままの、ジュエルシード。
 それが、不可思議な振動を起こしている。
 生物の鼓動ようでいて、しかし本物とは違うと認識させるような、不気味な振動。
 さらに、その振動が大きくなるとともに、ジュエルシードからの情報制御もより大きくなっていく。
 ……もしかして、封印できてないんですか?
 嫌な考えが浮かび、血の気が引く。
 二者の同時封印が互いの効果を相殺したせいで、封印が完了していないのか。
 魔導師の魔法に反応するのであれば、再び発動する危険がある。
 二人の魔導師にいち早く伝えようとして視線を戻し、セラは目を見開く。
 既に二人は接近し、互いに得物を振り下ろさんとしている。
 声を上げても、もう間に合わない。
 それでも伝えなければと、思いっきり叫ぼうとして、

47LB ◆ErlyzB/5oA:2009/02/09(月) 10:23:43 ID:hnehCqd6
(高密度情報制御・空間曲率の異常変化を感知)
 その二人の間に、水色に発光する球体が出現した。
「ストップだ――!」
 一瞬でその球体がなくなったところには、一人の人間。
 振り下ろされる二つのデバイスを、片や右手の杖で防ぎ、片や左手一本で掴む、黒衣の少年。
「え?」
 何が起こったのか、セラには一瞬分からなかった。
 光学迷彩も自己領域も無しに、突然人が現れたのだから。
 ……転移魔法、ですか?
 この世界で手に入れた知識が間違っていなければ、それしかない。
 朝の、フェイトによるものと思われる魔法行使もそうだが、あまりの情報制御にI-ブレインが一瞬悲鳴をあげている。
 これ以上大きく情報が歪んだら、I-ブレインそのものが煽りを受けて停止しかねない。
 まあ、もしも停止するのであれば、この世界に自分が転移した時点でI-ブレインが止まっていたのだろうが。
「ここでの戦闘行動は危険過ぎる!」
 驚愕に目を見開く二人の魔導師に、新たに出現した魔導師は交互に視線を向けつつ、名乗る。
「時空管理局執務官、クロノ・ハラオウンだ。詳しい事情を聞かせてもらおうか!」
 その言葉に、セラは目を見開く。
「時空、管理局……」
「まさか、動いたのか?」
 セラに続き、いつの間にか近くの木の枝に登っていたユーノも呟く。
 管理局員が思っていたよりも若いことに、セラは目を瞬かせる。
 肌以外がほぼ全て黒でできた少年の姿が、どこか黒衣の騎士に近い雰囲気を感じさせる。
 セラは一瞬ジュエルシードに目を向けるが、相変わらず不気味な鼓動を続けたまま。
 今のところ、まだ暴走はしていない。
「まずは二人共、武器を引くんだ」
 三人の魔導師は一旦離れ、そのまま真下に降り、ゆっくりと着地する。
「このまま戦闘行動を続けるなら……」
 と、そこまで少年が言いかけたところで、
(情報制御感知)
 I-ブレインのシステムメッセージと同時に、セラは上空を見上げる。
 フェイトが放っていたものとは色違いの弾体が三つ、少年へと降り注いでくる。
 魔力に反応したのであろう、魔導師の少年はすぐさま左手を掲げ、魔法陣でできた円形の障壁を発生させて弾く。
「フェイト、撤退するよ! 離れて!」
 射手は、いつの間にか空に浮かんで再び魔力弾を放とうとしている使い魔の狼。
 呼ばれた少女は、躊躇するような顔で使い魔を見る。

48LB ◆ErlyzB/5oA:2009/02/09(月) 10:25:01 ID:hnehCqd6
 だがその表情も一秒でなくなり、迷いを振り切ったかのように真上で浮かんだままの青い石へと飛んでいく。
 その直前から、使い魔は既に主の元いた場所へと魔力弾を放っている。
 取り残された二人の魔導師には当たらない、牽制攻撃。
 その魔力弾が地面に着弾すると同時に、爆発が巻き起こった。
「わっ!」
 爆発するとは思っていなかったセラは、目を白黒させる。
 自分とユーノが隠れている林まで、二人の魔導師が飛行魔法で後退するのを、セラのI-ブレインが淡々と知らせる。
 その間に、フェイトが宝石へと手を伸ばす。
 させじとばかりに、魔導師の少年が多数の魔力弾を放つ。
 なのは達の放ったものよりも、発動から射出までの時間が遥かに速い。
 ジュエルシードまであとほんの数十センチというところで魔力弾の弾幕に捕らわれ、一発がフェイトの左手を直撃する。
 小さく悲鳴を上げて、少女が落ちていく。
「フェイト――!」
「フェイトちゃん――!」
 使い魔となのはの悲鳴にあわせ、セラは一瞬息を呑む。
 このままでは、黒衣の少女が地面に叩きつけられるから……ではない。
 少女の落下地点に使い魔が滑り込み、そのまま背に乗せた時には、既に魔導師の少年が使い魔の手前にいる。
 使い魔が少年に気づいた時には遅く、少年は空中で右手の杖を使い魔に向けている。
 少年の杖先に青い魔力が凝り固まっていき……
「ダメ!」
 使い魔と少年の間になのはが割って入る。
 なのはの無茶ととれる行動に、セラは思わず声を上げそうになる。
 魔導師の少年もこれは予想外だったのか、驚いて動きを止める。
「止めて! 撃たないで――!」
 なのはの叫びにが耳に入ったのか、使い魔の背で気絶していた少女の瞼が僅かに開く。
「逃げるよ、フェイト! しっかり捕まって!」
 使い魔はそれを精神リンクで察知したのか、その場の全員が動きを止めている間に逃げ去っていく。
 直後になのはが振り向き、物憂げに顔を曇らせた。
 その間に、魔導師の少年は地面に着地する。
 表情に険がないところから、攻撃してくるわけではなさそうだ。
 ようやく戦闘が終わったらしい。
 セラは一つ息を吐き、木から下りてきたユーノと一緒に林を出る。
 魔法を使ったのか、ジュエルシードが少年の下へと降りてきている。
 幸い、暴走せずにすんだ様だ。

49LB ◆ErlyzB/5oA:2009/02/09(月) 10:26:46 ID:hnehCqd6
「ユーノくん、セラちゃん」
 こちらに気付いたなのはは、先程の曇った表情を一変させ、笑顔を向けてくる。
 ユーノは定位置であるなのはの肩に乗り、セラはなのはの傍へ駆け寄る。
「怪我とかはしてないですか? なのはさん」
「うん、大丈夫」
 ちょうどジュエルシードを手にした少年は、怪訝な表情をセラに向ける。
「民間人?」
 表情はそのまま、少年はなのはに顔を向け、
「まさか、巻き込んだのか?」
「ええっと、それはまあ、いろいろと……」
 途端になのはがしどろもどろで答えた直後、
(情報制御感知)
 海側にミントグリーンの魔法陣が出現し、人の映像が映し出される。
『クロノ、お疲れ様』
 映像に映っている女性が、少年に労いの言葉をかける。
 少年の上司だろうか。
「すみません。片方は逃がしてしまいました」
 一歩前に出て、クロノと呼ばれた少年が報告する。
『ううん。ま、大丈夫よ』
 対してあっけらかんとした口調で、女性は答える。
『でね、ちょっとお話を聞きたいから、そっちの子達をアースラに案内してあげてくれるかしら?』
「了解です、すぐに戻ります」
 直後に魔法陣は縮小して消え、少年がこちらに振り向く。
 完全に取り残されたなのはとセラは、思わず顔を見合わせた。
 展開についていけないのは、恐らくなのはも同じだろう。
 セラだって、こんなに早く時空管理局と接触できるとは思わなかった。
「転移を行うから、そのままじっとして」
「「あ、はい」です!」
 少年の指示に、慌ててなのはと同時に返事をする。
 何を思ったのか、少年は一瞬きょとんとしていたが、すぐに元の無表情を取り戻す。
「じゃあ、始めるよ」
 少年が、何気なくそう言った直後、
(高密度情報制御・空間曲率の異常変化を感知)
「「わ――」」
 セラとなのは、二人の声が再び重なる。
 再び転移を受けることに、セラは反射的に身をすくませる。
 同時に、セラは覚悟を決めた。
 こんなところで、怯えている場合ではない。自分にとっては、これからが大変なのだ。

               *

 本来の役者達は、次々と出でる中。
 魔法士は、未だ表舞台には出でず。
 ――長い一日は、まだ終わらない。

50LB ◆ErlyzB/5oA:2009/02/09(月) 10:29:10 ID:hnehCqd6
投下終了。
ディーセラがそれぞれ微妙な立場にあることを理解し、
ユーノの立場に嫉妬し(ぇ
セラの葛藤に関してご感想をいただければそれで幸いです。
最新刊読んだ方々は突っ込みを入れるところがあるでしょうが、あれの技術は魔導師の方が遥かに上なので、まあ何とかなるかな……ということで一つ。
以上。



……はい、規制くらうのもそれを予想するのも余裕でした。
どなたか代理投下をお願い致しますorz

51黒の戦士:2009/03/05(木) 22:04:13 ID:Qhx2olcM
OCN規制食らったので代理投下願いますorz


投下予告します

タイトル:魔砲戦士ΖガンダムNANOHA
クロス元:テレビ版「機動戦士Ζガンダム」

注意事項
レジアスが原作以上に悪役やっています。レジアス好きはご注意を。
時折R-15レベルの描写が出ます。
余りにも長いので一話を前中後編の3パートに分けます。
今回は前編を投下します。

52魔砲戦士ΖガンダムNANOHA 第1話前編:2009/03/05(木) 22:06:56 ID:Qhx2olcM
ニュータイプの力と魔法には、共通点がある。
両方とも、高まればその分科学との区別が曖昧になることだ。
―Q・V



テレビの向こうから来た男〜ヅダ黙示録〜

クラナガンでその事件は起きた。
昼下がりの市街地で、突如巨大な人型の機械が飛来。
街中に着地し、動きを止めた。
非番のため偶然現場に居合わせていたギンガ・ナカジマ(当時は陸士第108部隊所属。その後特進と同時に同隊を離れ、別の隊の隊長になっている)がその場で対応。
人型の機械はコックピットと思われる部位のハッチを開き、そこから乗員を取り出しそっと地面に降ろした。
驚くべきことに乗員は意識を失っており、この事実からこの機械が自力で動いていたことが後の調査で判明するも、原因自体は不明のまま調査は打ち切り。
保護された乗員はまだ少年であり、保護の際に居合わせた八神はやての証言から「カミーユ・ビダン」であることが判明するも、何故彼女が少年の名を知っているかに関しては未だ不明である。
なお、その時彼女は非常に動揺していたこともここに記しておく。
その後地上本部で行われた事情聴取の際に、カミーユ少年はあの機械の名前が「Ζ(ゼータ)ガンダム」であり、「モビルスーツ」と言う兵器の一種であることを教えてくれた。
また、事情聴取に当たったゲンヤ・ナカジマ三佐の人徳に触れたのか、終始協力的で素直だったとの証言が残っている。
ゲンヤ三佐の提案で行われた試験運転の際、Ζガンダムはその飛行性能と、並外れた機動性を発揮しており、武装を使わずともその力を誇示して見せる。
偶然とはいえ、あの「ガンダム」の名を関しているだけの事はあり、再開された事情聴取でそれを言われたカミーユ少年もどこか嬉しそうだった。
しかし、試験運転の際にΖガンダムの性能を目の当たりにし、意地でもこちら側に加えようとしたレジアス・ゲイズ中将の行動により、事態が一変。
恫喝まがいの方法で無理やりこちら側に加えようとする、中将の態度に反発したカミーユ少年は協力の是非の回答を保留。
その後は激しい罵り合いに発展し、結局カミーユ少年は本人の意思とこの一件を知った教会の干渉によりΖガンダムごと本局側に身柄を預けられることとなるが、それを聞いた本人は大変喜んでいたと言う。
だからあれほど物扱いは慎むようにと注意したのに……。
近年の中将の行動は血縁者である私の目にも余っており、早期の対策が必要と思われる。
ただ、ギンガ・ナカジマの証言に非常に気になる言葉があったので、この報告書の最後にそれを添えておく。
「ゲイズ中将のことに関して、『何か内側に仕舞い込んでいる様に感じた。それも凄く醜い何かを』と言っていました。中将の話にあそこまで拒絶反応を見せたのと、何か関係があるのかもしれません」
――――オーリス・ゲイズ

53魔砲戦士ΖガンダムNANOHA 第1話前編:2009/03/05(木) 22:08:34 ID:Qhx2olcM
カミーユとレジアスの激しい罵倒合戦から約一ヶ月後、機動六課。
慣れない事務作業を終え、カミーユは一息ついていた。
立ち上げられたばかりの機動六課では、前線に出る者どころか、後方の事務員まで不足しており、前線メンバーが時折事務作業に狩り出されることもある。
特に軍組織に身を置いた経験があり、立場上いつも暇人なカミーユは、多忙なはやてたちの代わりにこなすことが多い。
もっとも、今回だけは自分から買って出たのだが。

「地上本部に持って行く分はこれで全部。後は……」

ミッドチルダに漂流してから約一ヶ月。
結局、「陸に回されるよりははるかにマシだから」と言う理由で臨時採用の特務局員、と言う形で本局側につき、起動六課設立と同時に配属されたカミーユは、これと言った事件に出くわすこともないまま暇な日々を過ごしていた。
無論、Ζガンダムごと。
この決定に反発する声は、驚くほど少なかった。
地上本部に懸念を抱いている者が海に多かったのと、何より「レジアス・ゲイズ相手に罵倒合戦をしてのけた」ことでカミーユ自身が一目置かれてしまったからである。

「あの戦い……、『グリプス戦役』がアニメになっている世界から来た、か……。なんだろう、ずっと前に一度なのはに会った気が……デジャブか?」

メタっぽい呟きを口から出しながらくつろぐカミーユ。
実はミッドチルダでは、何者かの経由で第97管理外世界から「機動戦士ガンダム」が伝わっていたのである。
無論、はやてがカミーユの名を知っていたのも、彼女が「機動戦士Ζガンダム」(こちらはミッドには伝わっていない)を見ていたから。
結局、気は乗らなかったが、渋々自分で持って行くことにした。



「タクシーが迎えに来るまで、後1分くらいか……」

時間を合わせ、隊舎の玄関で待つカミーユ。
同時に、タイミングよくライトニング分隊の訓練が終わったのか、エリオが戻ってきた。
そして、エリオが声をかける。

「カミーユさん、外出ですか?」
「エリオか。向こうの注文の品が出来たから、これから届けに行くところだよ」
「……同伴、しましょうか?」

エリオのその言葉の意味をすぐに理解するカミーユ。
苦笑するしかない。
歓迎会でレジアスとの罵倒合戦の一部始終を嬉々として説明した自分が地上本部へ行くといえば、心配の余りそう言いたくなると分かるから。

「神父憎ければ教会も憎い、と言うけど、レジアスとは違って俺はそこまで落ちぶれちゃいないさ」
「ゲイズ中将に出くわしても、ケンカはしないでくださいね。八神部隊長に迷惑がかかりますから」
「了解。……ちょうどタクシーが来たな。行って来ます」

54魔砲戦士ΖガンダムNANOHA 第1話前編:2009/03/05(木) 22:10:43 ID:Qhx2olcM
地上本部。
カミーユは、もって来た書類を渡すべき人物を見つけ、その人目掛けて走り出す。
書類を渡すべき相手、それはオーリス・ゲイズであった。

「オーリスさん!」
「カミーユ君、一体どうしたの? 中将のこと、『見たくもない』って言っていたほど嫌っているのに」
「いえ、例のヤツを持って来たんです。それと、レジアスが嫌いな人は地上本部も嫌い、なんて公式は成り立ちませんよ、オーリス・ゲイズさん」

持ってきた封筒をオーリスに手渡すカミーユ。
その封筒に入っている書類、それは「あの時行われたΖガンダムの試験運転データ」である。

「いいの? わざわざ貴重なデータをこっちに渡すなんて」
「オーリスさんは、あの偏屈漢とは違って信頼できる人です。それに、あの時はフルパワーは出さなかったし、操縦も手を抜いていました。書類に書いてある数値もあの時測ったヤツより低くしてあります」
「なるほど……。道理でこちらの難癖に反発しなかったと思ったら。悪い子ね」

試験運転の際にカミーユは、わざと「低く評価されるため」に意図的に手を抜いたのである。
こちらの手の内を完全に明かすのは良くないと判断したからだ(それでも向こうが感心するほどのパワーを発揮してしまったが)。
実はちゃんとデータは採られたものの担当したラッドの独断で、データ自体はカミーユに譲渡され、六課の方に秘匿されたのである。
このデータがわざわざ地上本部へ提出されることになったのは、地上本部がデータの提出を108部隊に強要し、ラッドがバカ正直に「カミーユに渡した」と答えた結果。
1ヶ月も経ってから言い出したのは、ラッド曰く「こっちの偉いのが、中将の怪我でパニックになってたせいでど忘れしたせいかもしれない」とのこと。
直感でレジアスが黒幕と気付いたカミーユは、自らデータをまとめた書類を作成したのだ。
……改ざんしたデータと、レジアスへの嫌がらせの一言を書いた紙切れを向こうに送り付けたいがために。
罵倒合戦の結果、レジアスにかなり悪い印象を抱いてはいるが、彼とは対照的に冷静で空気を読めるオーリスには好意的なカミーユであった。

「それはどうも。後、お父さんへのプレゼントも同梱してありますから」
「……本当に悪い子ね。…………!!??」

呆れた直後、オーリスの視界に、緑のフィルターが付けられたかのような感覚が襲う。
だがそれは、オーリスだけでなく、周りにいた他の局員たち、更にカミーユにまで起きていた。
そして、彼らは見えてしまう。
カミーユのすぐ隣にいる、宙に浮いた不気味な女の姿に。

「貴方は……誰!?」
「私? 彼を、ベン・バーバリーを追ってここまで来ただけの女よ。でも、この子も意外と惹かれるものを持っているようね」

女は、隣にいるカミーユに興味を示したのか、彼の髪にそっと手を添える。

「! カミーユ君、その女……いいえ、その死神から離れるのよ!!」

オーリスの絶叫に我に帰ったカミーユは慌ててその場を飛び退く。
死神は少しだけ残念そうな顔をしながらも、言葉を紡ぐ。

「カミーユ……、素敵な名前ね。お前から感じるわ、死んだ人たちの思いを背負うことで強くなる力を。……その力、何処に行くのかしら?」

そう言い残し、死神が消えるのと同時に、その場にいた全員の視界が元に戻った。
呆然となる一同。
その場の空気を入れ替えるかのごとく、「グランガイツ・クルセイダーズ」と呼ばれる、ギンガ・ナカジマ率いる陸士新生64部隊が報告のためにやって来た。
それもわざわざ隊員総出で。
彼らを見て、瞬時にオーリスは思い出す、「ベン・バーバリー」と言う名前の男を知っていることを。
よりによって、ギンガの部隊の隊員であることを。

「バーバリー二尉、貴方に会いたがっていた人がついさっきまでここにいたわ」
「自分に? 一体誰ですか?」
「死神よ。とーっても綺麗な」

その言葉に、ベンは一気に青ざめる。
そして、腰を抜かして倒れた。
それを見ていたカミーユは、オーリスの耳元で囁く。

「あの死神と面識があったみたいですよ」
「リアクションを見る限り、そうみたいね……」

55魔砲戦士ΖガンダムNANOHA 第1話前編:2009/03/05(木) 22:12:36 ID:Qhx2olcM
地上本部前。
書類を届け終え、帰りのタクシーを待つカミーユ。
とそこに、携帯電話が鳴る。
液晶を確認してから、カミーユは電話に出た。

「カミーユ・ビダン。どうした? エリオ。帰ってきたら部隊長室に? はやてがΖガンダムの事で話したいことがあるって? わかった」

電話を切り、タクシーを待ちながら考える。
タクシーが来たのはそれから数分後であった。


機動六課隊舎、部隊長室。
はやてとカミーユがいる。
疾風の口から告げられたことは、カミーユにとって驚くべきものであった。

「改造する!? Ζガンダムをデバイスに!?」
「そうや。Ζガンダムはこの世界で言えば質量兵器。今更やけど、このままやと、向こうがうるさいのよ」
「デバイスじゃなくても、エンジンや武器周りを魔力式に換装すれば済むと思うけどな」

もっともなことを言うカミーユ。
だが、はやては首を横に振る。

「カミーユ君にリンカーコアが無かったらそれでいこうと思ったんやけど……」
「……待ってくれよ、あの時の検査じゃ魔力資質は無いって、シャマルさんからお墨付きもらったぞ」
「あん時はな。でも私も妙に気になってたし、最近なのはちゃんが『魔力資質が無いんじゃなくて、目覚めていないだけかもしれない』って言い出したから、こっそりシャマルに調べてもらったんよ」

はやては、シャマルから提出された一枚の紙を、カミーユに手渡す。
その紙に書かれていたデータを見たカミーユは己の眼を疑った。
シャマルがこっそり行った検査は、数日に渡る物であり、日が経つにつれ検出された自分の魔力資質が高くなっていたのだ。

「1週間前はB−、今日に入ってからAAA+!? 異常だ! なのはでもランク一個上げるのにどれほど時間がかかったと……」

感情が高ぶるカミーユ。
しかし、はやてはあくまでも冷静に、落ち着いていた。

「その魔力、Ζガンダムの武器とエンジンを魔力式に変えただけじゃ活用できんし、それ以前にニュータイプの力だけで戦ったら、また押し潰されるかもしれんよ。サイズがサイズやから、改造はここやなくて本局の設備で行う。以上」
「発狂しないためにも魔法の力でもΖガンダムを動かせと言うのかよ。で、いつ行けばいいんだ?」
「……話はつけてあるから、明日になったらΖガンダムごと転送魔法で本局に送るよ」
「了解」

少し疲れを見せながら、了承するカミーユ。
軽く敬礼してから、彼は部隊長室を後にした。
それを見計らい、はやてはシャマルから提出された「もう一枚」に目を通す。
それは、何故か「高町なのは」についてのものであった。

「ひょっとしたらニュータイプ能力が、なのはちゃんの魔力と共鳴したせいかもな、カミーユ君のリンカーコアが覚醒したんは。なのはちゃんの方も……」

その呟きを聞いたのは、はやてのスカートの中に隠れて一部始終を聞いていたリインフォースIIだけであった。

56魔砲戦士ΖガンダムNANOHA 第1話前編:2009/03/05(木) 22:14:44 ID:Qhx2olcM
夕方。
定時になり、カミーユは一足先に帰宅。
その身を預かっているのはあくまでも本局の方だが、何処に住まわせようか? で揉めてしまい、その場にいたはやての提案でナカジマ家に居候することになったのである。
ゲンヤとギンガは帰らない日が多く、スバルは六課の寮にいるため、必然的に家の守りを任される形になっていた。
そのため自炊する気になれず、食事はもっぱら外食や買ってきた物か、デリバリー任せ
今週は任務の都合上ゲンヤとギンガは帰らないため、一週間同じ店の違う種類のピザで済ませようかと思っていた矢先に携帯電話が鳴る。
液晶には、ゲンヤ・ナカジマの名が映し出されていた。

「もしもし」
「ゲンヤだ。カミーユ、今何処にいる?」
「家に着いたところですけど」

ゲンヤからの電話。
訝しく思うカミーユだが、それをおくびに出さずに応対する。

「ああ、ちょうどギンガと、アイツの部隊の連中と一緒に晩飯食いに行くことになってな。せっかくだからスバルとお前も誘うことにしたんだ。スバルにはもう連絡してある」
「いいんですか?」
「どうせ俺たちが帰ってこないと飯作らないんだろ? いつも出来合いばかりじゃ野菜不足になるぞ。家にタクシー呼ぶからそれに乗れ」

その一言を最後に、ゲンヤからの電話は切れる。
行動パターンがしっかり読まれていることに、少しげんなりするカミーユ。
それと同時に、今日になってようやく気付いた疑問を口にする。

「料理教室にでも行こうかな? そう言えば、試験運転の時、どうしてΖガンダムは前より楽に飛べた上に推進剤が殆ど減らなかったんだ? 本局に行った時にそれも調べてもらうか」

……君のニュータイプの力が、バイオセンサー経由で空気抵抗と燃費を抑えているからだよ、変形しなくても楽に飛べるのと推進剤が中々減らない点に関しては。


都内某所の居酒屋。
ナカジマ親子に新生64部隊、そしてカミーユで店は貸切同然の状態であった。
ギンガとバーバリー副長に、No.3のルイス以外は「バカ」だらけの新生64部隊はとにかくはしゃぐ。
みんないい気分で楽しんでいる時、突如として店の戸が激しく開けられる。
そこにいるのはどこか疲れた顔をした中年の男。

「赤い彗星……、赤い彗星! 俺は赤い彗星のシャアだ! ジオン復興のため、俺は立ち上がる! ジークジオン!! ジオン・ダイクン、ばんざーい!!」

中年はそう叫び、走り去っていく。
後に残された者の内、唖然としていたのはカミーユだけであり、他はみんなどこか達観していた。
ゲンヤはそっと口を開く。

「ガンダムシンドローム。数年前、こっちに『機動戦士ガンダム』が知られてから発見された新種の精神疾患だ。陸と海の確執を見て心が疲れた局員、特に陸所属で『ガンダム』に夢中になったヤツが陥りやすいとさ」
「……嫌な話ですね。今のを本物が見たらなんて言うか……」
「最近のレジアスを見てると、『むしろもっと増えてくれ』って思う俺がいる……。そのたびに自分が嫌になるんだ」

どこか寂しげな顔で酒を飲むゲンヤ。
ギンガやバーバリーたちもやるせない表情になる。
それを見て意を決したカミーユは、焼き鳥の串を手に持ち、ゲンヤの口に突っ込んだ。
驚いたギンガは慌ててカミーユを諌める。

「カミーユさん!」
「……忘れましょう。今の人の事は。今だけは全部忘れて、バカ騒ぎして」

それが合図であった。
お返しとばかりに、ゲンヤはカミーユにヘッドロックをかける。
それを見て騒ぎ出す新生64部隊の連中に、慌てて止めるナカジマ姉妹。
とりあえず、さっきの「ガンダムシンドロームの男」のことを忘れさせることに成功したカミーユではあった。

57魔砲戦士ΖガンダムNANOHA 第1話前編:2009/03/05(木) 22:15:42 ID:Qhx2olcM
時空管理局本局。
六課で保管されていたΖガンダムごと転送させられたカミーユを、デバイスマイスターたちが総出で出迎えた。
しかも全員が異様に興奮しており、端から見ると不気味以外の言葉が当てられない。
カミーユは愚痴るように呟くが、それを聞いた局員の一人がそっと訳を説明する。

「大げさだな……」
「ガンダムを弄れますからね」
「けどこいつはみんなが知っているRX-78じゃ……」
「それでも、『ガンダム』が実在していたと言う証拠の一つです」

彼らは知らないが、「機動戦士ガンダム」には続編がある(カミーユはちゃんと知っている)。
こちらに来る前のカミーユの活躍を描いた「機動戦士Ζガンダム」、精神疾患が完治するまでに起きた第一次ネオ・ジオン抗争を描いた「機動戦士ガンダムΖΖ」、これから起きる未来の出来事と思われる「機動戦士ガンダム 逆襲のシャア」。
それ以降も第97管理外世界では「ガンダム」の名を冠した作品が多く創られた。
幾つもの歪みと確執、そして「御大」の情念を背負いながら。

「俺は『エンジンと武器を改造するだけでいいんじゃないか?』と言ったんだけど、聞き入れれてもらえなかった」
「ガンダムですからね。エンジンと武器換えた位じゃ向こうは黙りませんよ」
「デバイスに改造しても、レジアスの信者は言い続けると思う」

サラリと流し、カミーユは約一ヶ月前の出来事を思い出す。
忘れもしない、事情聴取が終わり、ゲンヤから「俺たちのところで働かないか?」と誘われた時のことを。

58魔砲戦士ΖガンダムNANOHA 第1話前編:2009/03/05(木) 22:16:57 ID:Qhx2olcM
事情聴取に立ち会ってくれたギンガとはやても勧めてくれたので、「それもいいかも?」と思い始めていた。
どう答えようかと迷っている時に、いきなり部屋に入って来た威圧的な態度の男の姿が脳裏に鮮明に映し出される。
有無を言わさず、その男、レジアス・ゲイズはいきなり我々の側につけといってきたのだ。
その態度にムッと来たカミーユは、まだ「ゲンヤさんの下でなら働いてもいいかな?」と考えていたため、その時は「考えさせてください」と答えたのである。
が、直後にレジアスは声を荒げ、「質量兵器は禁止されているんだぞ!」と怒鳴ったため、短気なカミーユも一気に声を荒げた。

「うるさいな! それが次元漂流者に接する態度かよ! それでよくゲンヤさんの上司が出来るな!?」
「言わせて置けば……! 質量兵器に乗っていきなり市街地に着陸しておいて権利を主張するんじゃない!」
「こっちはその質量兵器に拉致されたせいで、ここに来てしまったんだぞ! それ以前に、文句をつけたきゃ、まずその性格を矯正しろよ!」

互いにヒートアップしており、もはや他の者の声が聞こえているかも怪しい。
掴み合いになりそうになった瞬間、ゲンヤが慌てて間に入る。

「落ち着いてください、中将! カミーユ、お前も熱くなるんじゃない!」
「上官に逆らう気か貴様!!」
「どいてください! この馬鹿の唾がかかりますよ!!」

流石に見かねたのか、ギンガとはやても二人を止めに入る。
カミーユの方は、ギンガにまで止められたせいか、ようやく大人しくなり始めた。
しかし、はやてが止めに入ったレジアスの方は……。

「犯罪者が正義であるワシに触るな!!」

そう言って、はやてを振り払い、はやては床に倒れた。
更に倒れたはやての顔を蹴ろうとした直後、レジアスは肩を掴まれ、引っ張られる。
肩を掴んだのはカミーユであった。

「お前、自分が何をしかけたのか分かっているのか!? それは『正義』がすることじゃないんだぞ!!」
「貴様、犯罪者を庇う気かー!」

59魔砲戦士ΖガンダムNANOHA 第1話前編:2009/03/05(木) 22:19:22 ID:Qhx2olcM
レジアスはそう叫び、肩を掴むカミーユに手を振り解く。
そしてその勢いを利用してカミーユの顔を殴る。
それを見たゲンヤはついに怒号を上げた。

「自分が何をしたのか分かっているのですか、あなたは!!」
「犯罪者を庇う奴を殴って何が悪いと言う! あの犯罪者に師と仰がれる貴様は口出しするな!」

ゲンヤも遂にレジアスに意見する。
レジアスの答えは、怒号と鉄拳。
ゲンヤが殴られたのを見たカミーユは完全に、「キレ」た。
レジアスの股間に狙いを定め、一気に蹴り上げる。

「ぐご、が……!?」

悶絶するレジアスに容赦することなく、カミーユは叫ぶ。

「そっちが殴ったからだぞー!!」

渾身の力を込めて、レジアスの顔に強烈な回し蹴りを食らわせるカミーユ。
蹴られた勢いで、レジアスの顔面は見事に壁に叩きつけられる。
そのまま倒れこんだレジアスを、カミーユは踏みつけた。

「俺は『手』を上げてはいないからな!!」

更にもう一撃足で食らわせようとした直後、突然物凄い力で羽交い絞めにされる。
騎士甲冑をまとったはやてがカミーユを羽交い絞めにしているのだ。

「ええかげんにし! やり過ぎや! おちつくんや、ホラ、深呼吸」

はやてに言われ、深呼吸し始めるカミーユ。
気のせいか、少しづつ昂った感情が沈静化していく。
レジアスの方も、秘書であるオーリスに起こされる。
が、なおもカミーユの方を睨み、吠え立てた。

「貴様、よくもワシを蹴ったな!」
「俺だけじゃなくてゲンヤさんまで殴っておいてその言い草かよ! 正当防衛、って言葉を辞書で調べてから言え!!」

片や蹴られたダメージで動けず、片やはやてに羽交い絞めにされて動けない。
当然、また舌戦になる。
結局、この舌戦はレジアスがオーリスに引っ張られる形で退場させられるまで続いた。
この時の罵倒合戦(とケンカ)が原因で、レジアスとカミーユはお互いを徹底的に嫌い合うようになったのである。

60魔砲戦士ΖガンダムNANOHA 第1話前編:2009/03/05(木) 22:20:32 ID:Qhx2olcM
「カミーユさん、どうしました!? 鬼みたいな顔で明後日の方を睨んで」
「……! ごめん、あのバカとの一件を思い出したら、勝手に怒りがこみ上げてきた……」

呼びかける局員の声で我に帰るカミーユ。
一方、局員の方はカミーユの言葉から、何を思い出したのかを瞬時に悟る。

「……アレですね。ゲイズ中将相手の罵倒合戦。それのせいで、向こうから移ってきた人たちの間じゃ、結構人気者ですよ、カミーユさんは」
「無理やりこっちに移された人たちの間で?」
「……向こうからこっちに移った人材全部が、強引に引き抜かれたわけじゃありませんよ。引き抜きを拒否するケースだって少なからずあります。中には引き抜かれて心底喜ぶ人までいますし」

局員の説明に、呆然となるカミーユ。
引き抜かれて喜ぶ?
目が点になった彼を見て、苦笑しながら職員は続ける。

「最初から引き抜かれるつもりで陸に入る人もいれば、志を持って陸に入ってゲイズ中将の偏屈さに失望して引き抜きに応じる人もいる、ってことですよ」
「後者に当てはまる人たちと一緒に食べるご飯は、とても美味しくなるだろうな」
「ハッキリと言いますね。と、私はこれで持ち場に戻りますね」

そう言って、局員はその場を去る。
カミーユも、Ζガンダムが運ばれていった、工房の方へと向かおうとしたが、直後に携帯電話が鳴る。
液晶を確認すると、「ミゼット・クローベル」と出ていた。

「カミーユ・ビダンです。どうしたんですか? ……そんな理由ですぐに来い? ミゼットさん、ちょっと待って……、切られた」


一時間後、ミゼットの執務室から解放されたカミーユは、ようやく工房にたどり着いた。
工房内では、マイスターたちが一心不乱かつ、異様なまでに手早くΖガンダムを分解し、部品を換えたり、組み込んだりしている。
幾らなんでも手際が良すぎる、と感じたカミーユの後に、いつの間にかミゼットが立っていた。
それに気付き、カミーユは思わず飛び退くが、ミゼットは笑う。

「手際が良すぎる、だろう? ここに流れ着いたガンダムは、Ζ嬢やが初めてだが、モビルスーツ自体はずっと前からこっちに来ていた。今Ζ嬢やをいじっている子達はそれに触れ、知る者達に教えを請うことで知識を得て、それを活かしている」

ミゼットの説明に驚愕するカミーユ。
更にミゼットは、何故今までそれが知られていなかったについても、話し始める。

「ミッドチルダで『機動戦士ガンダム』が知られる以前から、宇宙世紀世界からの漂流者は存在し、MSもまたその姿を現した。もし『MSがある世界』の実在が発覚すれば、MSを欲しがる連中は絶対に出てくる。レジー坊やと最高評議会はその筆頭かも知れない」

ミゼットは、レジアスだけでなく、最高評議会にもある種の不信を抱いているようだ。
カミーユは表情だけでそれを読み取る。

「MSとそれに関わる者達は、この世界における質量兵器禁止の理由も考慮し、『MSの兵器としての攻撃力と汎用性の高さ』という危険性を証明することでこちらの協力を得て、MS諸共自分たちの存在を隠した。後になって『機動戦士ガンダム』を見たときは驚いたよ」
「けれど、Ζガンダムが市街地に降り立った事で、モビルスーツが実在していることを、隠し通せなくなったと?」
「そう。ひょっとしたら、Ζ嬢やはそれが目的だったのかもしれない」
「Ζガンダムに意思がある。その意思がモビルスーツの実在を世論に教えた。怪談ですね。ところで、改造にはどれ位かかるんですか?」

カミーユの問いに、ミゼットは黙って指一本を立てる。
それを見て、カミーユは考える。
一日で終わるなら、「明日には終わる」と言うはずだから。
瞬時に気付く、「一日」では終わりそうに無いことに。

「1週間、ですか。何でそんなにかかるんですか?」
「……複雑すぎるのよ、Ζ嬢やの体は。複製自体は異常なまでに容易だが、変形の仕方と構造が複雑すぎる。更にコストパフォーマンスと整備性も最悪。加えて、あの子たちには他のデバイスの整備や製作の仕事もある。みんな本来の仕事の合間にΖ嬢やを改造しているのさ」

思わず納得するカミーユ。
構造と変形シークエンスが複雑すぎるのと、整備性の劣悪さは、そしてコストパフォーマンスの酷さは設計にかかわりメインパイロットも務めた彼が一番良く知っている。

「一週間という日数は、あの最悪極まるコストパフォーマンスと整備性の改善に必要な時間を入れた分。デバイスに改造するだけなら『2日』で済むわ。それと、その間こっちにいてもらうよ。あの子達は君の意見を欲しがっているからね」

61魔砲戦士ΖガンダムNANOHA 第1話前編:2009/03/05(木) 22:22:22 ID:Qhx2olcM
ミゼットの説明を聞いていたカミーユは、ふとΖガンダムの方に目をやり、異変に気付く。
マイスターたちが作業を止めて一斉にコックピットに群がっていたのだ。
それを見たカミーユとミゼットは、何事かとΖガンダムに近づき、作業中のマイスターたちに話しかける。

「どうした?」
「幕僚長。いえ、さっきデバイス用データを入れたんですが、システム音声だけが書き換えられたんです」
「何だと!?」

驚いて顔を見合わせるカミーユとミゼット。
マイスターの一人が、何故かΖガンダムに入っていたシステム音声を再生する。
≪Set up≫ 二人にとって聞きなれた声が再生された。 

「なのはの声じゃないか……」
「……ひょっとしたら、これはあの子のじゃなくて、Ζ嬢やの声かもしれないよ」


それから時が過ぎ、Ζガンダムのデバイス化は順調に進んでいた。
時に、元々入っているデータやフレームの構造に関してカミーユからの助言を受けながらも、マイスターたちは作業を進める。
作業開始から三日目、デバイス化自体は終わり、コストパフォーマンスと整備性の改善作業に入った。
割り当てられた部屋で、『機動戦士ガンダム』関連の書籍を読んでいたカミーユは、何気なしにテレビのスイッチを入れる。
どうも臨時ニュースをやっているようだ。
カミーユは、映っていた物を見て愕然とする。
「MS-06 ZAKU II」、それがガジェットに攻撃している光景がテレビに映っていたのだ。
更にテロップを見て、目を見開く。

「『これは生中継です』だって!? ミゼットさんに知らせないと!」

慌てて携帯電話を操作し、カミーユはミゼットに電話する。
すぐにミゼットは出た。

「カミーユ・ビダンです! ミゼットさん! ニュースで他のモビルスーツがガジェットと戦っているのが中継されています!」
「さっき政府の方から聞いた!」
「何をやっているんだ! あいつらは!」
「Ζ嬢やのせいで『モビルスーツの実在』が証明され、隠れる理由が無くなった……。今までスカリエッティと水面下で火花を散らしていた彼らは、開き直ってここぞとばかりに大手を振ってきたようだね」

カミーユが電話でミゼットと話す最中も、ザクはガジェットを攻撃する。
電話に集中していたカミーユは気付かなかったが、ザク・マシンガンから飛び出る弾は鮮やかな色をしていた。
見る人によっては、実弾に「魔力素」がコーティングされた特殊弾であることに気付いたはずである。
元の数が少なかったせいか、ガジェットはすぐに全滅、何故かザクは喜び勇んで小躍りしだした。
中継が、ヘリから地上のスタッフに移る。
ザクの足元で危険を顧みず、陸士新生64部隊も一緒に小躍りしている光景が映し出された。
よく見ると、ザクの足元には、ガジェットの残骸が転がっており、総数は明らかにザクが破壊した数を上回っている。

『元ザクハンターとしてどうかと思うが、さすがに今回は感謝するぜ、そこのザク!』

新生64部隊のNo3、パパ・シドニー・ルイスがザクに礼を言う。
ザク(に乗っている奴)の方も嬉しいのか、口元を掻く様な動作をし、さらにマニュピレーターを頭部に置くなど、コミカルな動きを見せる。
『照れるなー』と言う意味のジェスチャーだろう。
更に、ギンガがザクに話しかけている。
やたら大人しく、そのまま新生64部隊に連れられ、ザクが去っていく。

「ザクがギンガの部隊に保護されました」
「こっちも確認した。あのザク坊やのせいで今から緊急会議だ。切るよ」

ミゼットの方から電話が切られる。
カミーユはザクが人間に連れられて歩く姿が中継されているのを見て、不覚にもテレビに映るザクの姿を可愛く感じていたが、同時に市街地の心配もする。

「アレが歩いても道路は大丈夫かな?」

……道路以外にも心配する点が色々あるでしょうが。

62魔砲戦士ΖガンダムNANOHA 第1話前編:2009/03/05(木) 22:23:11 ID:Qhx2olcM
作業開始から4日目の朝。
何故かクロノ・ハラオウン提督がいきなり現れた。
フェイトから借りたビデオで『機動戦士Ζガンダム』を見たことがあるクロノは、一目カミーユの姿を見ようとスケジュールの合間を「突いて」わざわざ来たのである。
ちなみに、カミーユはフェイトに見せてもらった写真でクロノを知ってはいた。
カミーユに当てられた部屋に、クロノは入り、とりあえず挨拶する。

「おはよう、カミーユ・ビダン君。よく眠れた……」
「も、もう朝なのか……? 出来ればノックはして欲しかったな」

クロノが目にしたのは、目が充血しながらも、プレイヤー内のDVDを交換しようとしていたカミーユであった。
手にしているDVDのパッケージイラスト見て、クロノは頭痛を覚える。

「一晩かけて『機動戦士ガンダム』を見たのか、君は?」
「いや、これから『めぐりあい・宇宙編』を見ようとしてたところさ」
「……身支度を整えて、朝食をとった後でもいいだろうに。DVDはリアルタイムと違って置いてきぼりにはしないぞ。今日の夜はちゃんと寝ろよ」

そう言い残し、クロノはそっと部屋を出る。
カミーユはプレイヤーとテレビのスイッチを切り、時間を確認。
後30分もすれば食堂は局員たちでごった返すだろう。
とりあえず、歯を磨きシャワーを浴び、着替える。
そこまでが終わったところで、さっき会いに来た男が、フェイトの義兄、クロノ・ハラオウンであることにやっと気付く。

「そういえば、フェイトに写真を見せてもらったな。アレがお兄さんか。……名乗りもしないでいなくなるなんて、少し失礼な人だな」

徹夜のせいで頭が回っていないらしく、普段のようにカッとなることが無かった。


作業終了当日。
工房についたカミーユは、そのまま安置されているΖガンダムに乗り込み、起動させる。
久しぶりにΖガンダムを動かすが、その動きは全く衰えていない。
気のせいだろうか、乗っている間は体が軽くなったような感じに包まれる。
そこに、ミゼットから通信が入った。

「クラナガン市内にガジェット群が出現。六課が迎撃に出た。あの子達以外でアレを圧倒できるのは君とΖ嬢やだけだ。頼めるかい?」
「了解。転送魔法の準備をお願いします!」

カミーユが了承すると同時に、転送魔法が作動。
そのままミッドチルダへと、カミーユを乗せたままΖガンダムは戻っていく。
転送される直前、カミーユは掛け声を出した。

「カミーユ・ビダン、Ζガンダム、行きます!」

63黒の戦士:2009/03/05(木) 22:24:14 ID:Qhx2olcM
前編はこれで投下終了。

中編は明日ごろに投下します。

64黒の戦士:2009/03/06(金) 19:54:49 ID:i/Shd8pM
投下します

今回は中編です

65黒の戦士:2009/03/06(金) 19:56:21 ID:i/Shd8pM
クラナガン上空。
転送されたΖガンダムはそのままウェイブライダーへ変形。
本局から送られたデータに記された、出現位置目掛けて一気に飛ぶ。
既に機動六課が迎撃している。
それを見たカミーユは、変形と同時に叫ぶ。

「Ζガンダム、セットアップ!」 ≪Set up≫

コックピット内のカミーユを光が包む。
カミーユのバリアジャケットは、心なしかクワトロ・バジーナのあの赤い服と、なのはのバリアジャケットの折衷のような衣装であった(さすがに腕の長袖付き&スカートなし)。
しかも二つの白いリボンが巻かれていた。
バリアジャケット装着が完了すると同時に、Ζガンダムが変形しながら輝き始める。
それはまるで、元の色のまま輝きだしたかの様に……。
変形と、稼動携帯への移行が終わったΖガンダムの姿は、まるで全身が元の色のままメッキを施されたかのようであった。
それを見ていたヴィータが呟く。

「本物がエクストラフィニッシュバージョンになった……」

そんなヴィータの呟きなど露知らず、Ζガンダムは魔力式ビームライフルをガジェットの一体に向け、引き金を引く。
カミーユの急速に肥大化する魔力により、更に強力になって放たれたビームは掠っただけでガジェットたちをなぎ払い、直撃した地点にいたガジェットを瞬時に蒸発させる。
直後に、まるでモビルスーツの核融合炉を破壊した時の如き大爆発が起き、巻き込む形で他のガジェットを破壊した。

「非殺傷設定でも、AMFをものともしない威力をもたらすのが俺の魔力か。これならバルカンで十分に対応できる!」

バルカンから、なのはのそれと全く同じ色の魔力弾が雨となって放たれる。
距離を置こうとしたガジェットが瞬く間に蜂の巣にされ、爆発。
それを見て判断した他のガジェットが、接近して足元からの攻撃を試みるが、瞬く間に全部踏み潰される。
別のガジェットは接近を諦め距離を置こうとして離れた瞬間に、バルカンで吹き飛ばされた。

「死角に回り込もうとせずに近づくから簡単に踏み潰される! オマケに人が動かしているわけではないから、退こうとしない。でもスカリエッティの機械なら引き際を判断出来てもいいだろうに! それが出来ないから追撃されるんだぞ!」

叫ぶカミーユ。
傍目にはΖガンダムは呆然と立っているように見える。
とそこに、エネルギー弾がΖガンダムの右足目掛けて飛んできた。
Ζガンダムはそれに気付き、紙一重で足を上げて回避。
直後に起きた激しい爆発でバランスを崩しそうになりながらも片足立ちを維持する。
その威力にカミーユは戦慄を覚え、直感でガジェットではない誰かが撃ったと悟った。

「Ζのビームライフルと同じ威力の砲撃!? ガジェット? 違う! 今のは人が撃った!!」

一方、エネルギー弾を撃った方はチャージしながら、「足を上げる」という方法で自分の一撃を回避したΖガンダムに驚愕する。

「アタシの一撃をあんな方法で避けるなんて……。RX-78の血が流れているから!?」
「今はファーストガンダムは関係ないだろう!」

Ζガンダム越しに、カミーユの声がディエチに放たれる。
それからすぐに、Ζガンダムが再びビームライフルの引き金を引く。
ディエチの方もタイミングよくチャージが完了しており、Ζガンダムより先に引き金を引いた。
イメーノスカノンとビームライフルの撃ち合い。
何の偶然か、カミーユは非殺傷設定でディエチ自身に、ディエチはビームライフルに照準を合わせていた。
二つの軌跡はそのまま衝突、激しいプラズマの四散という形で相殺される。

「相殺!?」
「ディエチ!」

驚くディエチの耳に、ウェンディの声が聞こえた直後、彼女の体はイノーメスカノンごと宙に浮く。
ディエチが視線を移すと、自分の手を掴み、必死でライディングボートを乗りこなすウェンディの姿が見えた。

66黒の戦士:2009/03/06(金) 19:57:46 ID:i/Shd8pM
「さ、さすがにイノーメスカノンは重いっス!」
「少しだけ我慢して。もう一発撃つから!」

ディエチは叫ぶと同時に、三発目を撃つ。
Ζガンダムはまた避けようとしたが、回避行動に出る前に、別の誰かが発動させた防御魔法にぶつかったエネルギー弾はそのまま霧散した。
Ζガンダムのコックピットの前に立ち塞がるように、なのはが宙に浮いている。
今の結界はなのはが発動させたものであった。

「今のはなのはが!?」
「にゃはは……余計だった?」
「まさか。おかげで向こうに隙ができた!」

カミーユは答えるのと同時にグレネードランチャーを発射。
ウェンディは発射されたグレネードの機動から、当てずっぽうで撃ったと思い込む。

「ガンダムでも戦闘機人を狙うには腕と集中力がいるっス! そんな撃ち方じゃ落せないっス!」
「生身の人間に当てるつもりはないさ!」

カミーユの狙いは、グレネードランチャーの直撃ではなく、爆風によってライディングボートのバランスを崩すこと。
一緒に乗っているならともかく、ウェンディが片手でイノーメスカノンごとディエチを吊り上げている状態では、近くで爆風がおきただけでも失速に繋がる。
ましてや、飛んできた破片でバランスを崩すこともあるのだ。
当然、廃ビルの壁スレスレで飛んでいたウェンディは、そのビルに命中、爆発したグレネードが起こした爆風と、飛んでくる破片をまともに受けてバランスを崩す。

「これが狙いだったか、あのガンダム!!」
「謀ったなー! っス!!」

物の見事にライディングボートは着地に失敗。
ディエチとウェンディは得物諸共転がりまわる。

「ぺっぺっ! よくも……」
「勝負はまだ……」

戦う意志を捨てていないディエチとウェンディは尚も得物をΖガンダムに向けるが……。
直後に、スバルが背後からディエチの首根っこを掴み、ティアナがクロスミラージュをウェンディのうなじに突きつけた。
それを見ていたカミーユは、Ζガンダム越しに二人に声をかける。
何故かΖガンダムはサムズアップした。

「ナイス不意打ちだ」

カミーユの言葉に、顔を向けることなく、スバルとティアナは空いている手をΖガンダムに向け、Vサインをした。
それからすぐに、ディエチとウェンディはバインドで拘束される。
こうして、ストレージ(?)デバイス、Ζガンダムの初陣は終わった。

67魔砲戦士ΖガンダムNANOHA 第1話中編:2009/03/06(金) 19:59:05 ID:i/Shd8pM
その頃、地上本部にあるレジアスの執務室。
画面にはΖガンダムの戦闘映像が移っていた。
それを見て、レジアスはあっと言う間に表情を強張らせる。

「この映像は何だ? 何故あの質量兵器がガジェットを攻撃している!?」
「先程までの、時空管理局本局古代遺物管理部、機動六課の戦闘映像です。MSの隣にいる女性は、空戦Sの所属魔導師です。MSに関しては、恐らく本局側によって既に動力と武装を魔力式に改造されているかと。搭乗者に関しては、本人が自発的に協力しているとのことです」

淡々と解説するオーリス。
更に一言付け加える。

「ちなみに、4日前に市内に突如迷い込んだザクの搭乗者、『ワイズマン』はある部隊との接触が目的でしたが、その部隊とは他ならぬ機動六課のことです。また、既に接触を果たしており、身柄は向こう側預かりとなっています」
「いつの間に……。それに、地上部隊にSランクの空戦魔導師なぞいたのか?」
「彼女は教導隊所属で、書類上は出向の身ですから。ちなみに名前は高町なのは。もっとも、それ以前に、中将に言えば話がこじれるだけであることを向こうは察知しているものかと」
「第97管理外世界出身の、ガジェットモドキの元半死人か。……機動六課の後見人と部隊長は?」

レジアスのこの一言に、オーリスは仏頂面で端末を操作。
三人の姿が映し出される。
レジアスは服装から、本局と教会の者であることを察した。

「リンディ・ハラオウン総務統括官とその御子息、クロノ・ハラオウン提督、そして聖王教会の教会騎士団所属騎士であるカリム・グラシア女史の計三名です」
「英雄気取りの青二才どもが。特にこの2匹、闇の書の暴走で逃げ遅れて、グレアムに自分の艦ごと消し飛ばされた大間抜けのクライド・ハラオウンの身内ではないか!」
「……何年か前にそのような暴言をクローベル幕僚長の前で言って、大将への昇格が見送られたことをお忘れですか? なお、部隊長は八神はやて二等陸佐。魔導師ランクは総合SS。同隊にはフェイト・T・ハラオウン執務官も所属しています」

オーリスは、若干棘のある言葉で戒めながら続ける
その一言に、レジアスは一気に声を荒げた。

「八神はやてだと!? グレアム共々『闇の書事件』の首謀者ではないか!! それにフェイト・テスタロッサはP・T事件の容疑者の一人だぞ!」
「……グレアム提督はその件で自主退役しており、彼女の方は既に執行猶予を満了しています。それ以前に事件自体、彼女まで首謀者と見なすのはどうか?、という意見も未だにあります。ハラオウン執務官の方は、当の昔に無罪が確定しておりますが」
「犯した罪は消えん! 二匹とも闇の書諸共消滅すればよかったものを! プレシア・テスタロッサの走狗だった出来損ないのクローンの時といい、今回といい、本局と『海』は正義を何だと思っているのだ! あのような犯罪者に隊を任せるとは……」

はやてだけでなく、フェイトのことも罵り始めるレジアス。
「正義」に相応しくない悪辣な口ぶりと表情に、オーリスは表情を変えないまま露骨に嫌悪感を抱いた。
流石に頭に来たのか、それと無く毒が込められた一言で、レジアスに釘を刺す。

「今の椅子と命が惜しかったら公共でそのような発言はしないようにお願いします。中将はここ数年、地上部隊用のAMF対策予算を全て棄却しています。危機意識があるのならまずそれを通してください。無策だから向こうが代わりに行動したと考えるべきです」
「ぬぐ……。オーリス、近く査察しろ。徹底的に粗を探せ。もし見つかったらあの二匹を査問だ」

釘を刺されても尚懲りないレジアス。
「手土産持ってはやてちゃん側に寝返りたくなりそう」と、考えながら、とりあえず従うオーリス。
無論、言葉の毒を残すことも忘れない。

「了解しました。その代わり、AMF対策の予算は通してください。いつまでも地上部隊でガジェットに強いのが『リジーナ』の魔力式改良型を使う陸士新生64部隊だけでは、余りにも格好がつきません」
「ぐぅ……。分かっておる……」

その光景を、死神が嫌悪の感情を露にしながら見ていた。

「醜い……。自分以外の英雄を認めようとしなかった為に、英雄になり損ねた無様な男。その腐った魂、私の方から願い下げ……。オーリスは……良かった、はやての側に乗り換えるかで迷っている。早く寝返ろ、お前の人として堅実な理性も、私の欲する魂♪」

さっきとはうって変わって満面の笑みでオーリスを見つめる死神。
一週間以上前に感じた視(死)線を背後にまた感じたオーリスは振り向くが、既に死神は姿を消していた。

(さっきまで、あの死神がいた……。お父さん……、だけじゃない、私のこと『も』値踏みしていたと言うの……?)

68魔砲戦士ΖガンダムNANOHA 第1話中編:2009/03/06(金) 20:01:46 ID:i/Shd8pM
一方、ジェイル・スカリエッティのラボ。
潜伏中のナンバー2の報告から、ガジェットを指揮していたディエチとウェンディが捕縛されたことを知り、ジェイル・スカリエッティは荒れていた。
それを、オールバックの女性と、リーゼントの男性が呆れた顔で見ている。

「大将、落ち着けよ。二人捕まっただけだろ」
「二人『も!!』だ! 私の娘が二人も! 捕まったんだぞ!」
「すぐに救出、は勘弁してくれよ。捕まえたのは機動六課だ、地上部隊とは違って傷物にはしないさ」

男の言葉に、女は無言でうなずく。
一方のスカリエッティは、途端に弱気になる。

「ちょっと待ってよ、アリシア君にジェリド君! 貴重な戦力なんだよ!? 君たちの仲間でもあるんだよ!?」
「だから落ち着け。いくらAMFがあっても、カミーユと、あんたが向こうに行った際に余計な手を加えたΖガンダム相手じゃ分が悪いぞ」
「むぅ……」

スカリエッティを黙らせるジェリド・メサ。
一方、それを見ていたアフランシ・アリシア・レビルはそっと口を開く。

「最高評議会とレジアスはあくまでも広告代理店兼スポンサー、それも最低最悪のな。当てにはできぬ。だがこちらは時間がいくらでもある。愛娘たちの口の堅さを信じ、ゆっくりと救出のための策を練るべきぞ」

何処となく偉そうな口ぶりで話すアリシア。
その姿は、かつて闇の書の闇に囚われた時のフェイトを激励したあの時とは完全に違っていた。
ティターンズという道具でアースノイドもスペースノイドも減らそうとした漢、ジャミトフ・ハイマンを髣髴とさせる。

「忘れるな、我々の最終目標は第97両管理外世界と宇宙世紀世界という二つの地球を、『モビルスーツが人間を支配する星』にすることだ。それが『ディム・ティターンズ』の理想であることも、な」

その言葉にそっと頷くスカリエッティ。
しかし内心では、どうやってディエチとウェンディを救出しようかとさり気なく考える。
そこに、外部からの通信が入った。
端末をチェックし、最高評議会からのものと確認する
ジェリドは顔をしかめながら通信に出た。

「スカリエッティ・ラボ」

画像が映し出されると同時に、ジェリドは一応ハキハキとした声を出す。
そこに映っているのは、容器に入れられた3つの脳髄。
ジェリドとアリシアは何度も見たが、決して慣れない、それ以前にその言動と思想に対する嫌悪が脳髄への視覚的嫌悪感を極限まで増幅していた。
そして開口(?)一番に、その脳髄たち、最高評議会は件の戦闘の一件を口にする。

「人形の内、2体が『機動六課』如きに鹵獲されたそうだな。単刀直入に言う。その2体を処理せよ。奴らの口から我々の繋がりが露見する恐れがある」
「何を言うんですか! あの子達はそんな事はしない! 父たる私を裏切るような真似をする可能性があるとでも?」
「裏切らない可能性も『ない』。呪うなら『紛い物』を人間らしくし過ぎた己の才を呪え。これは命令だ」

69魔砲戦士ΖガンダムNANOHA 第1話中編:2009/03/06(金) 20:02:29 ID:i/Shd8pM
最高評議会はそれだけを言って、一方的に通信を切る。
相変わらずの言い草に、スカリエッティだけでなく、ジェリドとアリシアも怒りを覚えた。
特にスカリエッティの方は、手を握る力が強すぎる余り、爪が掌に食い込み始める。
とそこに、今度はレジアスからの通信が来た。
相変わらず、やたら威圧的で尊大すぎる態度が前面に出ている。
怒りを何とか抑え、スカリエッティは応対した。

「今日はどのようなご用件でしょうか?」
「ふん……。決まっておろう。機動六課とやらに鹵獲された戦闘機人に関してだ。六課ごとでも構わん、2匹とも始末しろ」
「あの子達が、自白するとお思いなのですか?」

予測通り、レジアスもディエチとウェンディの処分を要求してきた。
怒りのボルテージが一気に跳ね上がる。
スカリエッティたちの怒りの上昇など露知らず、レジアスは当然のように続けた。

「違法研究の産物の分際で、妙に人間臭いからな。向こうに懐柔されて、いつ我々のことを洩らすかわからん」
「随分な言い草じゃないですか……。その違法研究の産物を戦力にしたがっている方のお言葉ではありませんね。そんなに疑わしいなら、査察の名目で御息女に様子を見てもらえばいいじゃないですか」
「いいアイディアだな。ちょうど査察させるつもりだったのだ。まあ、あの2匹の命運は、オーリス次第だな。では、そろそろ会議なのでな。これで失礼させてもらおう」

レジアスからの通信が切れる。
その直後、スカリエッティの顔が瞬時に憤怒の形相になったことを、ジェリドとアリシアは見逃さなかった。
すかさず、二人はスカリエッティの背中をそっと押す。

「大将、そろそろ潮時じゃないのか? 向こうの言いなりになるのも……。自分の子供と、わが子を物扱いするスポンサー、どっちをとる気だ?」
「元々奴等の手助け無しでも十分な資金と資材は確保できるだけの力を持っているだろう。今が奴らに思い知らせる時と思うぞ」

その言葉に、スカリエッティの何かが切れた。
ジェリドとアリシアの言うとおりだと気付いたのである。
憤怒の形相のまま、スカリエッティは吼える。

「そうだよ……。お金と物資は既に十分過ぎるほどあるんだ! そうと決まれば、行動あるのみだ! 思い知らせてやるぞ、最高評議会とレジアス・ゲイズ。誰のために指名手配されてあげたと思ってやがんだ!! 後は戦力の更なる充実化だけだ!」

その言葉に、ジェリドとアリシアは笑顔でハイタッチする。
「これで二つの地球は支配したも同然」とばかりの笑顔で。
と、ジェリドは何故か今まで押し込んでいた疑問を、口にしてしまう。

「ところで大将、ディム・ティターンズの『ディム』って何だ?」
「DIMENSIONの最初の三文字をとってDIM(でぃむ)」

70魔砲戦士ΖガンダムNANOHA 第1話中編:2009/03/06(金) 20:03:40 ID:i/Shd8pM
機動六課、取調室。
スバルとティアナが、ディエチとウェンディを取り調べていたが、二人とも一向に口を割る様子は無かった。
名前を聞いた際に、「ディエチ」、「ウェンディっス。一応ディエチの妹っス」と答えたくらい。
その口の堅さに、スバルとティアナが根を上げかけた頃、様子を見に来たカミーユが入ってきた。

「思っていた以上に、口が堅いようだな」

スバルは、カミーユの方を見ながらこう洩らす。

「茶髪の子がディエチ、赤毛の子の方がすぐ下の妹でウェンディ、という名前なのが分かったぐらいです。読心術か何かで心の中を読めたら楽勝なんですけど……。」
「……ニュータイプでも、そうホイホイと心の中は覗けないし、覗く気にもなれないよ」
「やっぱり……」

ガックリとうな垂れるスバル。
ティアナも頭を抱え始める。
カミーユの方は、少し申し訳無さそうな顔でスバルを見ていた。
この光景を見たディエチたちは、「隙だらけ」と判断する。
実際、3人とも隙だらけ。
ディエチがカミーユたち目掛けて机を蹴り飛ばす。

「二人とも避けろ!」

瞬時にそれを察知して飛び退いたカミーユが叫び、遅れてスバルとティアナが飛んでくる机を避ける
机は紙一重で外れ壁に激突、それを見計らいウェンディがカミーユに肉薄した。
肉弾戦でかなりの強さを見せたスバルとティアナとは違い、カミーユの身体能力はそれほどでもないと判断した結果。
カミーユを人質にして、ここから逃げ出して仲間の所へ戻るつもりなのだろう。
ウェンディ、残念だがカミーユはホモ・アビスと空手のおかげで、体力と腕っ節はかなり付いている方だぞ。
当然、羽交い絞めにしようとして避けられ、逆に右腕と首を掴まれ壁に叩きつけられる。

「今抵抗しても、無意味だってことぐらい、分かれよ! ここが機動六課じゃなかったら、連帯責任云々で姉まで痛い思いをしていたかも知れないんだぞ!」

悲痛な顔で叫ぶカミーユ。
その表情と気迫に、ウェンディはおろかディエチも戦慄する。
カミーユの方は、不意のあの時のことを思い出す。
あの子の声が頭の中に響く、「見つけた、お兄ちゃん!」――――――

「もうお兄ちゃんはお前を殺したくないんだ!」

いきなり訳の分からないことを口にし、錯乱状態になるカミーユ。
危険と判断したティアナが、慌ててカミーユを拘束する。

「わああああああああああああ!!」
「カミーユさん落ち着いて! お願いですから!」

カミーユの悲鳴を聞きつけ、慌てて入ってきたヴィータが、カミーユをそのまま外へと引きずり出す。
ディエチとウェンディは、驚きの余り、動くことが出来なかった。

71魔砲戦士ΖガンダムNANOHA 第1話中編:2009/03/06(金) 20:06:07 ID:i/Shd8pM
医務室。
ベッドに横たえられているカミーユは、アイマスクをつけられていた。
シャマルは、ヴィータにカミーユの状態を説明する。

「多分、『ロザミィ』ちゃんのことを思い出しちゃったのよ。彼女とウェンディちゃんが重なって、取り乱したようね」
「『妹』以外の共通点が無いのにか!?」
「……それだけ引き摺っているのよ、カミーユ君は。一度自分のニュータイプ能力に押し潰されて、それから立ち直った後も」

ため息をつくシャマルとヴィータ。
そんな二人をよそに、半強制的に鎮静化され、眠りについていたカミーユはうなされていた。
そこに、なのはが入ってくる。

「カミーユ君、大丈夫なの?」
「……取り乱しただけで、起きた時には元に戻っているわ。流石にアレくらいで押し潰されるカミーユ君じゃないわよ」

シャマルの一言に安心するなのは。
ヴィータも安心はしたが、不安は拭いきれなかった。
カミーユがいつ、また、可笑しくなるのかが気がかりで。

「最高のニュータイプ、ってのも、考え物だな……」
「キツイこと言うな。ニュータイプなのは今更否定はしないけど」

いつの間にか目が覚めていたのか、ヴィータの呟きにカミーユはアイマスクをつけたまま返す。
起き上がり、アイマスクを取ったカミーユは、軽く驚く3人の表情を見て思わず微笑む。
シャマルとなのはは呆然とするが、ヴィータは頬を膨らます。
なのはは、ここに来た理由を思い出し、カミーユに告げた。

「そうそう、はやて隊長からの伝言だよ。明日から2日間休むこと、だって」
「……なんで?」
「……今日のアレが原因だと思う。いきなりパニックを起こしたって聞いて、はやてちゃん心配してたよ」

そう言われ、黙り込むカミーユ。
確かに心配はするだろう。
だからって、いきなり休ませるものか? とカミーユは考える
それに感づいたのか、なのはが付け加えた。

「スバルたちも、ちょうど明日から二日間休みになるの。それに合わせたみたい」
「……俺は見張り役かよ」
「見張り役はスバルたちの方だと思うの……」
「ガキ扱いするのかよ」

カミーユのぼやきに苦笑するなのは。
シャマルとヴィータもつられて笑い出す。
カミーユだけが不貞腐れていた。
だからガキ扱いされるのさ。

72魔砲戦士ΖガンダムNANOHA 第1話中編:2009/03/06(金) 20:07:33 ID:i/Shd8pM
次の日、クラナガン中央公園。
かなりの面積を誇るその公園は、まばらではあるが人が多かった。
スバル、ティアナ、エリオ、キャロらと共にそこに来ていたカミーユは、芝生に座りくつろいでいる。
今ここだけは平和だな、と感じながら。

「俺たちがこうやって和んでいる時でも、どこかでスカリエッティはロクでも無いことを企んでいるんだよな……」
「きゅくるー」

しみじみと呟くカミーユ。
しかしスバルたちは春の陽気に誘われ眠りこけており、聞いていたのはフリードリヒだけであった。
それから10分後、彼女はようやく目覚める。
とりあえず、カミーユたちは集合時間と場所を決め、思い思いに公園を散策することにした。

エリオとキャロは、森の中を進んで行く中である音に、何かを引きずる音に気付く。
木々に遮られているために見えないが、近くから聞こえる。

「すぐ、近くだね……」
「うん……」

木々を掻き分け、音が聞こえる方に急ぐエリオとキャロ。
二人は見つけた。
何かが入ったケースをを手に持ち、それを引きずって歩いていた二人の少女を。
エリオは慌てて、携帯電話でカミーユに連絡する。

その頃、敷地内のかなり大きい池の近くで涼んでいたカミーユは、エリオからの着信に出る。
エリオからの連絡に、カミーユは血相を変えた。

「持っていたケースの中にレリックが入ってた!? 場所は……」

カミーユが場所を聞こうとした直後に、轟音が響く。
空を見上げると、ガジェットに混じってモビルスーツが飛来したところであった。
そのまま一気に着陸するモビルスーツ。
カミーユはその機体が、「ティターンズ」が使っていたものであることに気付く。

「バーザム? 誰が乗っているんだ!? エリオ、ガジェットと一緒に、モビルスーツが来た! キャロと一緒にその子たちを連れて避難するんだ!」

通話を切り、携帯電話をなおすカミーユ。
不意に、バーザムと目が合ったかのような感覚が襲う。
あのバーザムは俺を狙っている、そう確信できる。
バーザムがビームライフルを構える直前に、唐突に池の水面から何かが飛び出す。
その何かは、バーザムをその腕で突き飛ばした。
それも、ビルスーツ。

「ズゴック、セットアップ」
≪Set Up!≫

操縦者の声が出た直後にシステム音声が響き、モビルスーツ、「ズゴック」の目と額に当たる部分に「仮面と角飾り」が付く。
機体色と相まって、「赤い彗星」を髣髴とさせるオプション(?)に、カミーユは何故か感心した。

「凄いセンスだ」

モビルスーツが地面を踏む衝撃により、一帯が軽く揺れた。
だが、市民たちはモビルスーツ同士の対峙に興奮している。
一ヶ月以上も前に突如として飛来したΖガンダム、数日前にガジェット相手に大立ち回りを演じたザク。
そして今度はモビルスーツ同士の対峙である。
逃げるのを忘れてひたすら見入っていた。
無論、カミーユは冷静である。

「何で逃げないんだよ。流れ弾の衝撃だけでも人は死ねるんだぞ!」

73魔砲戦士ΖガンダムNANOHA 第1話中編:2009/03/06(金) 20:08:46 ID:i/Shd8pM
ビームライフルを使われる前に、赤いズゴックは一気にバーザムに肉薄する。
が、バーザムは人間じみた動きでズゴックを殴り飛ばした。
バーザムのパイロットは思わず舌打ちする。

「ビームライフルを使わせたくないようだな」
「戦闘機人は無益な殺戮が好みのようだな」
「ふん……、そこまで言うなら、貴様はビームライフル抜きで相手をしてやる!」

バーザムは手に持ったビームサーベルを起動、ズゴック目掛けて振り下ろすが、紙一重でズゴックはかわす。
ズゴックのパイロットは、不敵に笑いながら、挑発する。

「見せてもらおうか、ジェイル・スカリエッティの手でパワーアップした、ガンダムMk-IIの量産型の性能を!」
「見せてやろうじゃないか! 『赤い彗星のシャア』!!」

モビルスーツ同士の激しい格闘戦は、普通に歩く以上に激しい揺れを生む。
もはや局地的な地震である。
その激しさ故、同行してきたガジェットたちも揺れに耐えながら静観するしかない。
気のせいだろうか、それともズゴックの爪がヒートクローにでも改造されているのだろうか、ズゴックの爪とバーザムのビームサーベルが鍔迫り合いをしている。
埒が明かない、そうカミーユが考えた直後に、轟音と共に大きな影が飛来。
それは、ウェイブライダーであった。

「……あの時と同じだ。勝手に動いている!」

ウェイブライダーは変形してΖガンダムになり、直後にカミーユの眼前に着地。
コックピットハッチを開け、その手をカミーユに差し出した。
「乗って」という合図と悟り、カミーユは困惑しながらも乗り込む。

「まるで俺の危機に駆けつけたみたいに……。こうなったらなる様になれだ! Ζガンダム、セットアップ!」 ≪Set up≫

「デバイスとしての」稼働モードに入ったΖガンダムを見て、硬直していたガジェットたちは行動を再開。
Ζガンダム目掛けてレーザーを放つも、シールドから発生する防御魔法でことごとく無効化される。
「右」腕に装着したシールドを構えたまま、Ζガンダムは脚部の魔力式ハイブリットエンジンで飛翔、距離を詰めて着地も兼ねて、ガジェットの内の数体を踏み潰す。
そして、空中にいるガジェットに対して、「左」手に持ったビームライフルを構え、発射。
ガジェットたちは瞬く間に撃ち落された。

「こっちより遥かに高い位置にいれば、気兼ねなく撃てる!」

Ζガンダムの姿を確認したバーザムは、ズゴックと距離をとり、ガジェットを盾にしてかく乱。
標的をΖガンダムの方へ変え、急接近する。
ビームサーベルの斬撃を、シールドで防ぎきるΖガンダム。
不意に、バーザムのパイロットからの怒号がコックピットに聞こえてくる。

「さすがだな、ガンダム。妹たちを囚われた悔しみ、その命で晴らさせて貰うぞ!」

パイロットがそう言うのと同時に、バーザムはゼロ距離でビームライフルを発射。
衝撃で後退させはしたが、それでも防ぎ切られてしまう。
それと同時にΖガンダムはバルカンで牽制……するはずが、カミーユの膨れ上がる魔力のせいで強力化していたため、バーザムの装甲に十分な打撃を与えることに成功する。

74魔砲戦士ΖガンダムNANOHA 第1話中編:2009/03/06(金) 20:09:23 ID:i/Shd8pM
「馬鹿な? ガンダムMk-IIの直系のバーザムが!?」
「ガンダムMk-IIの量産機とは思えない見た目をしているから!」

止めとばかりに、Ζガンダムの鉄拳がバーザムの頭部を直撃する。
その衝撃で、バーザムはいとも簡単に倒れた。
一方、バーザムのコックピットにいる戦闘機人、トーレは舌打ちする。

「単なるメッキバージョン化ではないか……。しかし、貴様のような節操無しに捕まる気は毛頭無い。勝負は預けたぞ、カミーユ・ビダンと機動戦士Ζガンダム!」

トーレが呟いた直後、もう一人の戦闘機人が『潜り』込んできて、彼女に密着。
そのまま『潜行』して行った……。
その頃、やけに静かなのをカミーユが怪しんだ直後、ズゴックが接近し、バーザムのコックピットハッチをもぎ取った。
いるはずの戦闘機人は、いなかった。
ズゴックのモノアイ越しにそれを見た、クワトロ・バジーナは驚愕する。

「どうなっているんだ? 転送魔法でも使えるのか!?」
「クワトロ少佐、これは一体!?」
「……私にも分からん。ところでカミーユ、私は『大尉』だぞ」
「失礼しました。クワトロ・バジーナ『大尉』殿」

突如として消えたパイロットの謎に困惑しつつも、クワトロとカミーユは二人なりに異世界での再会を喜ぶ。
その後は、本当に大変であった。
駆けつけた六課による半壊状態のバーザムの移送に、今回の戦闘と、保護した少女と回収したレリックに関する報告書の作成(避難誘導に専念していたスバルとティアナは別)。
そして、クワトロことシャアに群がるガンオタたちへの応対。
結局、少女たちはそのまま入院、クワトロのズゴックはΖガンダムで運ぶこととなった。

75魔砲戦士ΖガンダムNANOHA 第1話中編:2009/03/06(金) 20:10:53 ID:i/Shd8pM
機動六課、格納庫。
はやてとクワトロ、そしてカミーユがいた。
Ζガンダム、ザク、ズゴックの3体が並ぶ光景の中で。
はやての方はズゴックとクワトロの方を何度も見ながら、口を開く。

「幕僚長からもう一人来る、と聞いてましたけど、まさか『シャア・アズナブル』大尉とは思いませんでした」
「はやて、私は『クワトロ・バジーナ』大尉だ。ミゼット幕僚長直々の指名で機動六課に協力することになった。よろしく頼む。ところで、エリオとキャロが保護したという少女たちは?」
「検査のために聖王教会系列の病院に入院させました。あの時来たバーザムとガジェット、多分、あの子達が持ってたレリック目当てやったと思います。けど、何でカミーユ君襲おうとしたんやろ?」

あのときのバーザム飛来の原因を推理するはやて。
レリック回収をそっちのけにしてカミーユを襲おうとした原因が分からず首を捻る。
それと無く、クワトロは一言付け加えた。

「あの時、バーザムに乗っていた戦闘機人は『妹たちを囚われた悔しみ』と言っていた。恐らくカミーユを見て、レリック回収より妹たちが捕まったことへの報復を優先したんだろう。以前遭遇したことがある、眼鏡っ娘とは大違いだ」
「クワトロ大尉が会った事があるメガネに、ディエチとウェンディ、そしてバーザムに乗っていた奴……。後何人いるんだろ? 戦闘機人って。それに女ばかりなのかな?」

カミーユのさり気ない呟きに、クワトロは瞬時に反応する。

「あくまでも勘に過ぎないが、恐らく全員女だろうな。そちらの方が目の泳がせがいもある」
「だといいですねー。はやてもその方が揉みがいがあるだろうし」
「そうやなー。一人くらいロリがいてもええかなー。B地区摘まみ易いのばっかやったら流石に手応えが無いし……」

凄い馬鹿な会話に興じる3人。
このおバカなやり取りは、戻ってくるのが遅いからと、心配して来てみたなのはに怒られるまで続いた。

76黒の戦士:2009/03/06(金) 20:13:17 ID:i/Shd8pM
以上で中編の投下は終了。

後編は明日か明後日ごろに投下します。

77ラッコ男 ◆XgJmEYT2z.:2009/03/07(土) 00:41:26 ID:373iQlew
書けないので、代理お願いします。
****
おまけ……のようなもの

「エックス! どうして!?」
「ス、スバル!? いきなりどうしたんだ?!」

どう言う訳なのか、エックスは涙ぐんだスバルに問い詰められていた。一体何で責められているのか?
エックスはまだ理解できなかった。

「何であんな事したの!? あたし…信じられないよっ!!」
(そうだよな…俺がいきなり乱入して戦ったんだ…信じられないのも…)

エックスはスバルが突然と戦った自分に幻滅した物だと悟った。エックスに助けられる結果になったが、
いきなり破壊行為的な行動を取ったエックスに悲しんでいた―――と言うのがエックスの憶測であった。
今の自分に出来る事と言えば、とにかく彼女に謝る事だけであろう。

「ゴメン、スバル………あの時は―――」



「"スライディング"するのは本家シリーズだけなんだよ!! エックスはXシリーズなんだよ!?」



「―――へ? ……信じられない部分はそこなの?!」

ディスプレイ画面の皆様は、こんなツッコミするなよ!?絶対だぞ!?
と言うか何故スバルがそんな事を知っているのか?有る意味大いなる最大の謎であった……
(おまけのお話は本編と完全にリンクしている訳ではありません…たぶん)


****
以上です。やっぱり間が開いて申し訳ないですorz
今回のエックスの戦闘BGMはX2のOPステージをイメージしてますw

何か誤字、脱字等がありましたらご指摘くださいませー
…次はいつだろう…

78黒の戦士:2009/03/08(日) 01:33:23 ID:JjeSILpg
後編を投下します。

前編と中編より長いですorz

79魔砲戦士ΖガンダムNANOHA 第1話後編:2009/03/08(日) 01:34:19 ID:JjeSILpg
次の日、機動六課のある一室。
フェイトがはやてとなにやら話し込んでいる。
どうやら査察絡みのようだ。

「地上本部からの臨時査察?」
「そや。うちは突っ込み所が多いからな。下手すると査問に進展するかも知れへん」
「……突っ込み所自体、ここ数日で一気に増えたし……。無事に終わりそうにないかも」

深刻そうな表情で話すフェイト。
と、そこに一人の青年が話しかける。

「フェイト執務官、八神部隊長、どうしました? 深刻そうな顔をして」
「あ、バーナード、実はね……」

フェイトから査察の一件を聞いたバーナードは、呆れるようにため息をつく。
何となくではあるが、地上側の意図に気付いた様だ。

「粗探しするヒマがあったら、対AMF予算を通せばいいのに。全く……」
「バーニィ、そんなこと言わんの。レジアス中将も色々考えとるんよ」
「……アレの何処が尊敬できるのさ」

バーナード……バーニィの呆れるような問いかけ。
フェイトも呆れた表情である。
しかし、はやては暖かな微笑を浮かべながらキッパリと答えた。

「ミッドチルダの平和を願う気持ちは本物やし、何より正義感と責任感も強いやん。あんな使命感が強い人、そうおらんよ。正に『地上の正義の守護者』や」
「あんなのが、尊敬してくれてるはやてを『犯罪者』呼ばわりして蹴ろうとしたのが、ねえ……」
「優しすぎるよ、はやて……」

はやてのことが急に不憫に思えてきたフェイトとバーニィであった……。
付き合いきれないとばかりに、バーニィは足を動かす。
それを見たフェイトはどこに行くのかを尋ねた。

「何処に行くの?」
「早朝に向こうからザク・マシンガンのマガジンとSマインの予備弾にザク・バズーカの部品、そして大佐用の新しい機体が届いたんでザクの点検も兼ねてチェックして来ます」

彼はバーナード・ワイズマン。
あの時ギンガたちに保護されたザクの「中身」である。

80魔砲戦士ΖガンダムNANOHA 第1話後編:2009/03/08(日) 01:35:21 ID:JjeSILpg
その頃、カミーユたちはクワトロの運転する車で、あの二人が入院している病院へと向う。
クワトロの車は結構な大きさのワゴン車であったため、カミーユとなのはだけでなく、スバル、ティアナ、エリオ、キャロも同行した。
まだ休日なので、みんなでお見舞いに行こう、と言うスバルの提案の結果である。
ふと、ティアナはカミーユとなのはの方を見て、あの時のことを思い出す。
無茶な訓練を繰り返し、なのはの教導を無視した挙句、頭を冷やされそうになった瞬間のことを。

「頭冷やそうか……」、なのはが泣きそうな目でそう呟き、攻撃態勢に入った直後にすぐ近くで見学していたカミーユがいきなり割って入った。
庇うように立ちはだかり、なのはを止めた直後にカミーユはティアナの方を振り向き、悲痛な表情で呼びかける。

「みんなを心配させてまで強くなって、何の意味があるんだよ……。そんなやり方でティーダさんが喜ぶのかよ!?」
「……! 何でここで兄の名を出すんですか!」
「……歯を食い縛れ、お前の無茶がどれだけなのはとスバルを悲しませているか、教導してやる!!」

カミーユは叫んだ直後、ティアナの頬に全力で平手を炸裂させる。
その衝撃でティアナは倒れるが、胸倉を掴み、さらに平手打ちを繰り返す。
自分の頬がはたかれる音に混じって、何かが呻く様な音を聞き、更に顔に何か熱いものが落ちる感触が走る。
ティアナは、呻くような音はカミーユの嗚咽であり、顔についた熱いものはカミーユの涙であったことに気付く。

「どうして……? どうして泣いているんですか!?」
「泣くしかないじゃないか……。お兄さんを誇りに思っているティアナ・ランスターが、兄の魔法じゃなくて兄を侮辱したクズの世迷い言の方を信じていると知ったら、泣くしかないだろう!! アア……うあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」

結局、号泣しながら両襟をつかんでティアナをシェイクするカミーユの方が頭を冷やされ、ドタバタのままその時の訓練は中途半端に終わってしまう。
その一件と、その後でカミーユとシャマルに見せられた「アレ」のせいで、自分が思い詰め過ぎているだけと知り、反省できたのがせめてもの幸運だった気がする、とティアナは思った。

あの時の回想を中断し、ティアナはため息をつく。
心配そうにスバルが話しかけてきた。

「どうしたの?」
「……カミーユさんに泣かれた時のことを思い出したのよ」

ティアナは苦笑しながら答える。
短気で子供っぽいところがある割りに、何が正しいかを考えて物を言う彼。
自分を省みることができるようになる程、彼は激情家だった。

「……ティアって、いい意味で変わったね」
「……カミーユさんに泣かれた上にあんなの見せられたら、『いい意味で』変わった挙句にそれ自覚できるようになるしかないでしょ」

疲れたように呟くティアナを見て、スバルも苦笑してしまう。
二人の会話を聞いていたエリオとキャロもつられて苦笑い。
それを見ていたカミーユだけが首を捻り、なのはは微笑む。
一方のクワトロは、病院にいるシャッハから、とんでもない報告を聞かされていた。

「何だと? 検査の合間を突かれて、二人に逃げられた!?」
「申し訳ありません、ダイクン卿。こちらのミスです」
「そんなものは挽回すればいい。それよりも、私の名字は『バジーナ』だ。ピースにもそう伝えておくように」

この会話を聞き、なのはたちも驚く。
お見舞いのはずが、逃げた二人の捜索劇に出る羽目になり、なのはとクワトロ以外は少しげんなりする。

81魔砲戦士ΖガンダムNANOHA 第1話後編:2009/03/08(日) 01:36:28 ID:JjeSILpg
クワトロたちが病院に着いた直後、シャッハが大急ぎで近づいてきた。
一帯の封鎖と避難が完了している旨を説明する。
そのことに、なのはとカミーユだけが眉をひそめているのに、クワトロ一人が気付く。
かくして、二人の捜索が始まった。
院内の一角、シャッハがあの二人の詳細を説明しながらクワトロと行動を共にしている。

「魔力はかなりのレベルでしたが、それ以外は普通の子供でした」
「なら、どうしてわざわざこのような厳戒態勢にする? 気付いたのは私だけだったが、カミーユとなのはは怒っていたぞ」

避難が完了しているせいか、院内は無人であり、かなり寂しく感じる。
この厳戒態勢を不審に思ったクワトロは、それと無く毒を放つ。
シャッハもこれには気付いた。

「……検査中だった上、更に人造生命体であることが判明しました。どのような危険性が秘められているか、分かりません」
「だから、見つけた後は検査を再開、危険性の有無に関わらず後は隔離か? 『強過ぎる力は災いしか呼ばない』と考え行動すれば、その強過ぎる力が招いた災いを真っ先に味あわされるぞ。真龍を怒らせた、『ルシエ』とかいうマヌケ部族のようにな」
「……たった一人の友人を復讐のためと称して罠にはめ、更にロリコンでもあるのに人の道を説くのですか!?」

クワトロの言葉にムッとしたのか、シャッハはこの一言で返す。
クワトロはただそれに苦笑するだけであった。
何気なしに窓の方に視線を移し、なのはとカミーユ、そして逃げ出したと思われる二人の少女が中庭にいるところを目撃する。
少し遅れてそれを見たシャッハは、何を考えたのかデバイスを起動させた。

「どうやら、カミーユ君となのは君の大金星のようだな。……シャッハ、何を!?」
「逆巻け、ヴィンデルシャフト!」

82魔砲戦士ΖガンダムNANOHA 第1話後編:2009/03/08(日) 01:37:00 ID:JjeSILpg
院内の中庭を探していたなのはとカミーユは、運良く逃げ出した少女たちと遭遇する。
一人は金髪のオッドアイ、もう一人は紫色のウェーブのかかった髪であった。
その内、紫の髪の少女はカミーユを見て驚く。
今の姿になる前に、かつてティターンズに「兄」として刷り込まれた彼の姿に。

「お兄ちゃん、……お兄ちゃん!」

その言葉に困惑するカミーユ。
しかし、カミーユは同時にデジャブを感じる。
その仕草、言動、自分を見る目、年齢以外ほぼ同じなのだ、『ロザミア』に。
そしてカミーユはようやく、彼女が『妹』であることに気付く。

「そんな……。どうしてそんなに小さくなったんだ!? ロザミィ!!」
「ええ!?」

この叫びに困惑するなのは。
彼女が「機動戦士Ζガンダム」で見たロザミィは、明らかにカミーユより年上であった。
だが、今目の前にいる「ロザミィ」はカミーユより遥かに年下(5歳児ほどに見える)。
混乱している内に、いつの間にか戦闘態勢のシャッハがロザミィともう一人の少女の前に立ち塞がった。
それを見たなのはとカミーユは、シャッハの肩を掴み、二人から遠ざける。

「シスター・シャッハ、二人を怯えさせてどうするんですか!」
「それでも聖職者なのかよ!」

二人の気迫に押され、シャッハは後ずさる。
それを見たロザミィともう一人は、不思議と安心した。
そして、なのはとカミーユが優しく微笑みながら二人に近づく。

「ごめんね、驚かせた?」
「大丈夫か? ロザミィ」

落ち着いたところを見計らい、なのはは自分の名前を言い、直後にもう一人の少女に名前を尋ねた。

「私は高町なのは。あなたのお名前は?」
「……ヴィヴィオ」
「可愛いお名前だね。ねえ、どうしてヴィヴィオとロザミィは逃げ出したの?」

なのはは穏やかに、一緒に逃げ出した訳を尋ねる。
シャッハから庇ってくれたことで信頼してくれたのか、ヴィヴィオは口を開く。

「ロザミィのお兄ちゃんを、カミーユを一緒に探してたの」
「そうだったの……。もう大丈夫だよ、ロザミィのお兄ちゃん、見つかったから」

なのはにそう言われ、更にカミーユに抱きつくちびロザミィを見る。
そこに、クワトロが駆けつけてきた。
騎士甲冑姿のシャッハと、ヴィヴィオとロザミィをあやす、なのはとカミーユの姿を見て、クワトロはさり気なくシャッハの方に話しかける。

「どうやら、二人を怒らせてしまったようだな」
「放って置いてください……」

83魔砲戦士ΖガンダムNANOHA 第1話後編:2009/03/08(日) 01:38:45 ID:JjeSILpg
屋内の方で、ヴィヴィオたちを探していた残りの四人は、無事ヴィヴィオとロザミィが保護された光景を窓越しに見て安堵していた。
しかし、同時に局員と思しき連中が大挙して敷地内に乗り込んでくる一部始終も見えてしまう。
しかもなのはたちは気付いていない。
これを見たティアナはスバルたちに耳打ちする。
かくして、フォワード四人の静かなる大立ち回りが始まった。


これで一安心と安堵するクワトロであったが、何重にも響く足音を聞きつけ、いつの間にか手にしていた本型のデバイスを開く。
それを見たシャッハも身構え、なのはもレイジング・ハートを手にする。
なのはとクワトロの声が、同時に響く。

「レイジング・ハート」 「『旧約』夜天の書よ」 『セットアップ!』

なのははおなじみの白いバリアジャケット、クワトロははやてのそれの影響を多分に受けたような意匠の赤い騎士甲冑を身にまとっていた。
なのはは、セットアップの際にクワトロが言った「夜天の書」という言葉に反応し、その赤い騎士甲冑の意匠に軽く驚く。
そして、局員と思しき者たちが包囲するように現れた。
その中の、隊長と思しき下劣そうな男が口を開く。

「クワトロ・バジーナとカミーユ・ビダンだな……。首都航空第13部隊の者だ。恐縮だが地上本部に任意同行願おうか」
「……何の理由があってそれを言うのかね?」
「昨日の、クラナガン中央公園内での質量兵器使用に関してだ。レジアス中将直々の命令でね、悪く思わないでくれたまえ」

呆れ果てた顔で隊長を見るクワトロたち。
Ζガンダムは本局の方で、ズゴックはかなり前に支局でデバイスに改造済みである。
ミゼットのことだから当の昔に伝えてあるはず。
質量兵器と言っていきなり押しかけてきた時点で言いがかりだと暴露しているようなものであり、クワトロも突っ込みを入れてしまう。

「……気に食わないから連行しに来た、と言った方がよっぽど説得力があるぞ」
「黙れ! 自分たちだけ活躍しやがって……」

隊長の口から出た本音に、心底呆れる一同。
しかし、彼に率いられた局員はその言葉に揃って頷いていた。
とうとうシャッハがキツイ一言を口にし、カミーユも相槌を打つ。

「……そちらが活躍できないのは、レジアス中将が頑なに対AMF対策を拒絶しているのも一因です。文句を言う相手を間違えるにも程があります!」
「そうだ、そうだ!」

だがその言葉も届かなかったらしく、隊長は声を荒げる。

「犯罪者がまとめる様な部隊に協力している分際で……。忘れてもらっては困るぞ、魔法を使う手段がないのが3人もいて、殺傷設定の我々を追い払えると思っているのか?」

嫌らしい笑顔を浮かべて言い切る隊長。
局員たちが、バリアジャケットをつけてすらいない、カミーユ、ロザミィ、ヴィヴィオにデバイスを向ける。
カミーユは微動だにしなかったが、ヴィヴィオとロザミィは地上部隊の悪意を敏感に感じ取り、怯えてしまう。

「これがミッドチルダの平和を守る、地上部隊のすることなのかよ」
「黙れ、我々は正義だ! レジアス中将と言う正義の、代行者である我々に異を唱えた奴は全部悪なんだよ!」

余りにもイかれた発言に呆れ果てる余り、クワトロたちは開いた口が塞がらなくなる。
なのはに至っては、あくびをする始末であった。

「ふわわ……。世迷い言はもう終わり?」

84魔砲戦士ΖガンダムNANOHA 第1話後編:2009/03/08(日) 01:40:06 ID:JjeSILpg
なのはのこの一言に激昂した局員たちが一斉にカミーユたちにデバイスを向ける。
が、カミーユの背後にいた隊員が、デバイスを持っていた方の手を突如として撃たれ、デバイスを落としてしまう。
その隊員は振り向くが、そこには誰もおらず、他の隊員たちも混乱する。
その一瞬の隙を突き、カミーユは振り返るのと同時に構え、正拳突きをその隊員のみぞおちに直撃させた。

「…………!」
「正当防衛だぞ!」

うずくまった所を見計らい、後頭部に追い討ちでかかと落としを食らわせる。
後頭部に掛かった強い衝撃で、その隊員はそのまま失神。
それを見ていた別の二名が慌ててデバイスをカミーユに向けるが、彼らの目の前、否、周囲にティアナの姿をしたものが大量に出現。
隊長が真っ先に驚き、不思議な感覚に陥る。

「な、何だこれは!? しかもどこかで見たような?」

その隙に、なのはとクワトロが残りの二人に肉薄。
なのははレイジング・ハートを片方の顎に突きつけ、クワトロはもう片方の顎に狙いを定めて拳を構える。

「ショートバスター!」 「シュヴァルツェ・ヴィルクング!」

桜色の魔砲と、魔力を帯びた鉄拳が二人の顎に直撃。
その衝撃で彼らは宙に舞い、車田飛びよろしく顔面から地面に叩きつけられる。
それに思わず見とれるカミーユであったが、彼の耳には残りの局員たちが次々と撃破される音も聞こえていた。
カミーユが振り向くと、そこには顔を殴られた痕や、焼け焦げた痕、感電したような痕がついている状態で倒れている局員たちと、隊長を睨みつけているスバル、エリオ、キャロの姿が。
よく見ると、シャッハの足下に棒状のもので殴られた痕が残った状態で倒れている者もいる。
そして2秒ほどしてから、ティアナもその姿を現した。

「フェイク・シルエット、見違えるほど凄くなったな」
「エヘへ……、カミーユさんに泣かれましたから」
「……ティアナはそのネタを引っ張るのが好きみたいだな」

カミーユに褒められ、満更でもないのかティアナは、さり気なく憎まれ口を入れながらも喜ぶ。
カミーユの方も、ティアナの言葉に苦笑する。
一方、偶然にも最後まで無事だった隊長は、カミーユが発した「ティアナ」と言う名前に反応した。
ティアナ……、かつて部下だった男、ティーダ・ランスターの妹の名前。
それを思い出した瞬間、隊長の頭に血が上る。
彼はティーダほどではないが優秀だった。
しかし、殉職したティーダの葬儀の際にティアナがいる前で堂々と「無能」と断じてしまい、「人格に非常に問題あり」とされ内定していた違う隊の隊長就任が取り消されてしまう。
レジアスの狂信者であったため、レジアスの熱心な擁護により降格は免れたが、それでも出世が大幅に遅れたことは事実であった。
今の隊長の地位も、反省したフリをして必死にネコを被り続け、数ヶ月前にやっと手に入れたもの。
そして彼は、未だに「ティーダとその妹のせいで出世が遅れた」と、ランスター兄妹を逆恨みしているのだ。

「また、また俺のジャマをするのか! 貴様ら兄妹は!」

隊長は殺傷設定のまま迷わずティアナの顔面を狙って射撃魔法を放つ!
運良くそれに気付いたカミーユは、ティアナに回避するように言うよりも、こちら側に引っ張って強引に避けさせた方がいいと判断。
ティアナの手を掴み、一気に自分の方へと引っ張った。
いきなり手を掴まれ混乱するティアナであったが、引っ張られたサイに視界が移動し、隊長の構えた姿から「自分目掛けて攻撃魔法を放った」ことに気付く。
カミーユの判断は正解であったが、それでも、殺傷設定の魔法がティアナの首筋を掠め、そこの肉が裂け、血が出る。
しかし、それもお構い無しにティアナは的確かつ俊敏に隊長のデバイスを狙い撃ち、破壊した。

85魔砲戦士ΖガンダムNANOHA 第1話後編:2009/03/08(日) 01:41:10 ID:JjeSILpg
「……今思い出しました。兄の葬儀の時にお会いしましたね……」

冷たく言い放つティアナ。
片手で首筋を押さえながら、もう片方に持ったクロスミラージュを突きつける。
殺傷設定のまま魔法を放ち、それ以前に兄を侮辱した男に対して慈悲をかける気はない。
そういわんばかりの表情のティアナに、隊長は居直って尚も喚く。

「俺は、俺は悪くないぞ! 人質なんかに配慮した結果殉職するような奴を無能呼ばわりして何がいけないってんだ!!」

風が吹く……。
死神が吹かす、破滅の風が……。
本のページをめくる音が聞こえ、そして……。

「闇に沈め……! ブルーティガードルヒ!!」

余りにも醜い戯言を聞いたクワトロは殺傷設定にしたかったのを堪えつつ、非殺傷設定でブラッディダガーを隊長に放つ。
発音の方はドイツ語の方で。
ブラッディダガーは着弾と同時に爆発。
隊長を物の見事にズタボロにした。

「……この本が蒐集した“魔法”の試し撃ちに付き合ってもらいたいが、他にも貴様を叩きのめしたがっているのが3名いる。口惜しいが私は彼らと交代だ」

クワトロがそう言い放ちその場を引いた直後、今度はスバルが拳を構えた。

「ナックルダスター!」

スバルの鉄拳が、隊長に直撃し、勢い余って壁に叩きつける。
ブラッディダガーとナックルダスターの直撃で満身創痍となった隊長はそのまま壁に寄りかかったまま崩れ落ちた。
しかし、なのはとカミーユは止めとばかりに近づき、仰向けに倒れた隊長を見下ろす。

「……頭冷やそうか。長期入院が必要な程度に」
「そこのチンピラ! ティアナを殺そうとした代償がどれほど大きいかを教導してやるよ!」
「ま、ま、ままま……。ぎゃひゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ〜〜!!」

なのはの非殺傷設定の攻撃魔法と、カミーユの空手の技の情け無用なコラボレーションが始まった。
流石にヴィヴィオとロザミィが見ないように、二人の前にクワトロが立って視界を遮る。
なのはとカミーユ以外でこの制裁を直視できたのは、クワトロとスバル、ティアナだけ。
この制裁は、クワトロとシャッハが止めるまで続いた。
結局、首都航空隊第13部隊の面子は全員入院、六課側はティアナが首筋を負傷するもキャロの手ですぐに治癒と、なのはたちの圧勝。
クワトロたちは、連中が何をしたかったのか分からないまま、ヴィヴィオとロザミィを連れて六課へと戻っていった。

86魔砲戦士ΖガンダムNANOHA 第1話後編:2009/03/08(日) 01:42:51 ID:JjeSILpg
帰路にある車内。
カミーユとなのはは連中が来た理由に関して話し合っていた。

「質量兵器使用で聞きたいことがあるとか言ってたけど、結局何がしたかったんだろう?」
「……さあ。レジアス直々の命令で来たらしいから、何となく察しはつくけど……」
「何がしたいのかな? レジアス中将は……」
「レジアス・ゲイズだもん。自分たち地上本部は戦力不足だから、戦力が豊富な本局と『海』は持っているモビルスーツを全部こっちに寄越せ、って考えているんだよ。質量兵器云々を建前にして、魔力で動くように改造してあっても」

レジアスが何をしたいのかがわからず戸惑うなのはと、レジアスのことをバカにし切っているカミーユ。
スバル、エリオ、キャロは複雑な表情であったが、少なくともティアナはレジアスを否定するカミーユの態度に好感を持ち始めていた。
これ以上レジアスのことを思い出すのが嫌なのか、カミーユは気分を切り替えるためにある疑問を思い出し、クワトロに尋ねる。

「クワトロ大尉、少し聞きたいことがあるのですが」
「どうした?」
「……昨日、どうして公園の池から出て来たんですか? ズゴックに乗って」

カミーユの至極もっともな疑問。
実は、クワトロははやてたちに昨日の内に同じことを聞かれ、その時に答えたが、あいにくカミーユはそれを聞かず、いつもの通りナカジマ邸に早々と帰宅。
なのはたちもヴィヴィオとロザミィのことが気がかりで聞くのを忘れていたのだ。
と言うわけで、質問したカミーユだけでなく、なのはたちも興味しんしんでクワトロを見る。
クワトロからの答えは、単純だった。

「六課の近くに転送してもらう直前に、幕僚長から中央公園にガジェットとモビルスーツが出たと聞いて急遽公園の方に変更してもらった。池から出て来たのは、水中に転送してもらい、そこから地上に飛び出したほうがカッコいいかな、と思ったからだ」

茶目っ気を見せ、微笑みながら答えるクワトロ。
カミーユとなのはは「成る程」と素直に納得したが、スバルたちは少し呆れる。
ヴィヴィオとロザミィは我ら関せずとばかりに助手席で熟睡しており、クワトロにはそんな二人が何となく恋人同士に見えた。
その後、車内での話し合いにより、今日はカミーユがロザミィを預かることになり、カミーユも快諾。
ナカジマ邸でカミーユとロザミィを降ろし、クワトロの車は機動六課へと戻って行った。



次の日、機動六課。
一人で留守番させる気になれなかったカミーユは、ロザミィを連れて出勤してきた。
「おはようございますー」と、ロザミィが元気よく挨拶する。
カミーユも挨拶するが、今一声が大きくなかったため、シグナムに笑われてしまう。

「カミーユ、兄ならもう少し大きい声で『おはようございます』と言った方が様になるぞ。それと……、これを今日中に提出するようにと、八神部隊長直々の命令だ」

シグナムは手に持っていた紙、始末書をカミーユに渡すのと同時に、はやてからの伝言を伝える。
カミーユは面食らうが、シグナムはかまわず続けた。

「昨日の、あの一件のやつ?」
「当たり前だ。クローベル幕僚長が手回ししてくれたから、これ一枚で済むのだぞ。ちなみに、スバルとクワトロ、そして高町教導官は昨日の内に提出したぞ」

渡された始末書を見ながら、カミーユはあることに気付く。
いつもなら真っ先に挨拶してくれるあの娘がいないのだ。
ヴィヴィオとロザミィより2歳ほど上程度の容姿をしたあの幼女の姿が見えない。

「あれ? ヴィータは?」
「……クローベル幕僚長の所だ。彼女はヴィータが大のお気に入りでな、大抵ガンプラで釣って逢引に持ち込むのだ。別に昨日の一件で手回ししてもらったから逢引に応じたわけではないぞ」
「……あの人の遊び相手ですか。アイツも大変ですね」

苦笑するカミーユ。
レジアス相手に派手な罵りあいをしてのけたカミーユをいたく気に入ったミゼットは、初めて会って以来何かにつけてカミーユに「小遣い」をあげている。
カミーユ自身、既に社会人のつもりであるせいか、何となく子供扱いされている感じがするので嫌がったが、結局押し切られ受け取ってしまう。
そんなにガキっぽいのかな? と首を捻りながらも苦笑するカミーユであったが、一方のシグナムはどこか哀しげな表情で、一言付け加える。

「……遊びは遊びでも、ベッドをぎしぎし揺らす方の遊びだ」

87魔砲戦士ΖガンダムNANOHA 第1話後編:2009/03/08(日) 01:43:59 ID:JjeSILpg
クラナガン郊外にある、ミゼットの自宅内の寝室。
既に事を終えたミゼットが、バスローブを着た状態で2枚の書類を見比べている。
それは、地上本部から引き抜かれた局員の数の、去年までの総数を記した紙。
何故か最高評議会が『機密』扱いしているため、入手するのに結構な時間がかかった代物。
地上本部にいる協力者から貰った方に書かれている総数は、入手に時間がかかった方に書かれているものより遥かに多かった。
地上本部から入手した方を見ると、20年前から急激に引き抜きの数が増えていることがわかる。

「ここ最近戦力不足云々が激しいから調べたら、偽装か……。私としたことがこんな茶番を見抜けないとは、もうろくしたかね? にしても、これじゃまるでレジー坊やを暴走させるためとしか思えないね、引き抜き数の多さは。抉ってやろうか、あの3馬鹿とその走狗どもが!」

地の底から響くような呟きに反応したのか、ベッドで(一糸纏わずに)ぐったりしていたヴィータが、ミゼットの方を見る。

「ミゼットばーちゃん、どうした?」
「……ちょっとした調べ物だよ。さて、あいつ等をどうやって潰してやろうか? まあいい。今はお前ともっと愛し合うほうが重要だ」

ミゼットは二枚の紙を机に置き、バスローブを脱ぎ去って、ベッドに横たわるヴィータにまたのしかかる。
第2ラウンドの始まりだ?
衣服? 何それ? おいしいの?


その頃、六課の格納庫。
バーニィが昨日言っていた、クワトロ用の「新しい機体」がシャアズゴの隣に立っている。
その機体は、かの「シャアザク」とそっくりの配色の上、装甲の各所(指揮官機を表す角とか)に金メッキコーティングが施されていた。
カミーユはアングラ雑誌で、なのはは『MSイグルー』で見たことがあるその機体に驚く。
その名は「EMS-10 ZUDAH」!
カミーユが思わずため息を洩らし、クワトロが嬉しげに答える。

「EMS-10じゃないですか」
「奇跡的に残っていた一機が偶然こっちに流れ着いていたらしい」

かくして、赤と金に彩られた「シャア専用ヅダ」が誕生したのである!!
と、それは置いといて……。
『軌道上に幻影は疾る』で、ヅダが空中(?)分解するシーンをしっかりと見ていたなのは、さり気なく注意する。

「これ、フルパワー出すと自壊しますよ」
「それを防ぐための対策は用意してある」

その一言と共に、クワトロは『旧約』夜天の書を取り出す。
ページをめくり、クワトロが空いているほうの手を置くと、彼の隣に一人の少女が現れる。
なのはは彼女の姿を妙に冷静に見つめてしまった。
もしはやてがこの光景を見れば、狂喜乱舞していたであろう。

「リインフォース……!」
「そうだ。リインフォースI(アイン)。この娘はヅダとユニゾンしてもらう!」

かつて消滅したはずの彼女、初代リインフォース。
驚いたなのはが、彼女に何故ここにいるのかを聞いたが、彼女は「気が付いたら彼の側にいた」の一点張り。
クワトロも、「こちらに迷い込んだ時には既に持っていた。いつ手に入れたのかは覚えていない」と答える。
初代リインフォース自身は、自分が生きている事を隠したがっているが、クワトロの方はヴィータが戻り次第はやてたちに教えるつもりである模様。
目が点になっているなのはを尻目に、カミーユは珍しそうに初代リインフォースを見ていた。

88魔砲戦士ΖガンダムNANOHA 第1話後編:2009/03/08(日) 01:45:10 ID:JjeSILpg
数分後、六課の一画では、はやてとフェイトがまた話し込んでいる。
どうやら、臨時査察の日取りが決まったようだ。
何故か、フェイトの手にはウサギのぬいぐるみが二つ。

「一週間後?」
「そう。急に決まってな。まあ、向こうもこっちに懸念を持ってるから、仕方ないけど」

少し困った表情で言うはやて。
一方のフェイトは、地上本部側の意図に気付いてしまう。
一刻も早く、こちらの粗を探したいことに。

(こちらのことが相当気に入らないみたいね、向こうは。多分、Ζガンダムやヅダの事で相当ねちっこく追及されるわね。ディエチとウェンディからも情報らしい情報は引き出せていないのに……)

唇に指を当て、考えるフェイトであったが、休憩室前の扉に差し掛かった際に、誰かの泣き声が耳に入り、思考が中断される。
何事かと思い入ってみると、そこには、なのはとカミーユに抱きついて泣いているヴィヴィオとロザミィがいた。
どうやら、二人と離れるのを嫌がっているようだ。

(エース・オブ・エースと最高のニュータイプにも勝てへん相手はおるんやね……)

そういえば、今日は機動六課設立の目的云々で、なのはとカミーユ、そしてクワトロと一緒に聖王教会本部に行くことになっていた事を思い出すはやて。
あれこれ考えている内に、両手にぬいぐるみを持ったフェイトがしゃがみ込み、ヴィヴィオとロザミィに挨拶していた。

「こんにちわ。私はフェイト、なのはさんとカミーユ君の大事なお友達。ヴィヴィオ、ロザミィ、どうしたの? なのはさんとカミーユ君の二人と一緒にいたいの?」
『うん』

涙目のまま、頷くヴィヴィオとロザミィ。
フェイトは優しく二人に諭す。

「でも、二人とも大事なご用でお出かけしないといけないのに、ヴィヴィオとロザミィがわがまま言うから、困っちゃってるよ。この子達も」

達人的なオーラを放ちながら、ヴィヴィオとロザミィを上手くあやすフェイト。
使い魔(アルフ)を育て上げ、甥と姪の面倒も見ており、エリオとキャロの小さい頃を知っているフェイトにとって、泣き止まない幼女二人をあやすのはわけないのかも知れない。
フェイトは、こうして見事にヴィヴィオとロザミィをなだめきった。

89魔砲戦士ΖガンダムNANOHA 第1話後編:2009/03/08(日) 01:46:17 ID:JjeSILpg
数十分後、聖王教会本部。
はやてたちは、カリム・グラシアに案内され、その一室に入る。
そこには既にクロノ・ハラオウンがいた。

「やあ、昨日はちゃんと寝たかい?」
「そっちこそ、ドアをノックする癖はつきましたか?」

憎まれ口をたたきあうクロノとカミーユ。
これにははやてたち、特にフェイトが目を丸くした。

「お兄ちゃんと会ったことがあるの?」
「……Ζガンダムを改造してもらっていた頃かな。寝ずに『機動戦士ガンダム』を見てて、『めぐりあい・宇宙編』を見ようとしていたときにノックもせずにいきなり入ってきた挙句、名乗りもせずに説教垂れていなくなった」

刺々しい言葉で説明するカミーユ。
フェイトは呆れるような表情で、残りは苦笑しながらクロノを見る。
これにはクロノもバツが悪そうだった。
しかし咳払いをして、説明を始める。

「機動六課の設立目的は、迅速なロストギア対策及びガジェット迎撃を可能とすること。表向きはね」

クロノがモニターを操作し、彼とカリム、そしてリンディの写真が表示された。

「僕と騎士カリム、そしてリンディ統括官が六課の後見人。そして非公式だが、『伝説の三提督』と政府も支援を約束してくれた」

モニターに、今度はミゼットたち『伝説の三提督』の写真が表紙される。
なのはとフェイトは『三提督』が協力していることに驚き、クワトロとカミーユはミゼット以外の二人も協力している事を知り納得していた。
そして、カリムが席を立ち、同時に己のレアスキルを発動させる。

「これは、私のレアスキル、『プローフェティン・シュリフテン』。二つの月の魔力が上手く揃った時に初めて発動可能となるため、年に一度しかできませんが、最短で半年、最長で数年先の未来を詩文形式で書き記した預言書を作成することができます」

カリムの周りに、本のページと思しき物が彼女を囲むように集まる。
その内の一枚が、クワトロの元に近づく。
見たことも無い文字だったため、クワトロは読むことができない。
ページの方も元の位置に戻る。
それを見たクロノが説明した。

「……文章は解釈次第でいくらでも意味が変わるほど難解な上、使用文字は全て古代ベルカ語。更に内容もこれから起きる事態をランダムに書き出すだけ。的中率は『割と良く当たる占い』レベルだ」
「……この予言は、教会や本局に航行部隊のトップ、そして政府中枢も予想情報として目は通す。せやけど、地上本部の方は、レジアス中将が大のレアスキル嫌いやから目は通しとらん。まあ、信憑性はそれほど高いわけや無いから仕方ないけど」

少し困ったように説明するはやて。
それを見たクロノは、モニターにレジアスの写真を表示し、呟く。

「もっとも、レジアス中将の場合、自分に魔力資質が無いから、ひがみ半分逆恨み半分でレアスキルを嫌っているだけかもしれないがな」

表示された彼の顔を見て、カミーユとなのはは一気に眉をひそめる。
クロノも、汚いものを見るような目で評した。

「彼を尊敬しているはやての前で言うのもアレだが……。はっきり言って末期だな。真綿で自分の首を絞めているようなものだ」

冷たい表情で吐き捨てるクロノ。
はやての方は哀しげな表情でクロノを睨む。
しかし、クロノは更にダメ出しする。

「はやてが管理局入りした頃から、公の場での舌禍や部下の不祥事擁護などの問題行動を繰り返し、受けた批判と処分の数のワースト記録を更新中だ。魔法資質の無さを帳消しにできるほどのカリスマと超優秀な政治手腕のおかげで今の地位を維持できているに過ぎない」

90魔砲戦士ΖガンダムNANOHA 第1話後編:2009/03/08(日) 01:48:16 ID:JjeSILpg
クロノの言葉に頷き、「そうだよね」と呟くフェイト。
なのはも「地上の正義の守護者も地に堕ちたねー」とぼやく。
カミーユの方も、ここぞとばかりにレジアスをなじる。

「自分に無い力全てを妬み嫉み毛嫌いする。魔力資質が無いのはゲンヤさんも同じだと言うのに。どうやったらああも人として大きな差が生じるんだ?」
「他人を信じられるか否かの差だ。 信じないから疑い、疑うから他人を悪いと思い始める。 そうやって自分自身を間違わせる。自分だけが英雄になろうとすれば、尚更だ。アレを見る度に他人を信じることの難しさを再認識してしまう」

クワトロもそれに続く。
しかし、みんなはやての表情がどんどん険しくなっていることに気付き、話を予言の方に戻す事にした。
カリムは、ページを手に持ち、内容を静かに読み上げる

「無限の欲望、『次元と大地の子ら』を名乗り、青いヴェールをまとう花嫁となりし、黒い翼なびかせる白と青の巨人と冥王の如き、二つの美しき星を欲する。
守り手達統べる三つの影と、それの威を借る堕ちた『地上の正義の守護者』の罪暴かれ、かの者が牛耳る地上を守りし騎士たち惑わす。
やがて無限の欲望は彼らの罪を理由に、騎士たちが守りし中つ大地を征する事を宣す。
そして、滅びし王の宮殿が中つ大地の法の塔を砕き、次元行く船をも屠らん。
されど三つの影は、古き夜空の風と金の角そびえし幻影を従えた赤い彗星に滅ぼされん。
堕ちたる『地上の正義の守護者』は、写された思い出の源泉たる白い冥王を取り込んだ、黒い翼なびかせる白と青の巨人に討たれ、欠片も残らん。
『次元と大地の子ら』と滅びし王の宮殿に挑みし者達の先頭に立つは、彗星と冥王の牙城なり」

この予言を聞き、クロノとカリム本人以外は驚愕する。
そしてカリムは冷静に、冷静に口を開く。

「……最高評議会とレジアス・ゲイズ中将の醜聞の露見による混乱と、その隙を突かれた地上本部と次元航行部隊の壊滅に伴う管理局システムの崩壊。そして最高評議会とゲイズ中将の討伐……! 解読されたこの予言の内容です」

カリムのこの言葉に、はやては表情を暗くする。
クワトロはお構い無しに、カリムに尋ねた。

「地上本部及び次元航行部隊の壊滅と、管理局システムの崩壊阻止。それが六課設立の真の目的か」
「……場合によっては、最高評議会とゲイズ中将の粛清も視野に入れられています。はやてはゲイズ中将の醜聞に関してだけは極めて懐疑的でしたが」

真剣な表情で答えるカリム。
どこまでが当たりなのかは分からない。
だが、プローフェティン・シュリフテンが未来の事を言い当てているのは事実であった
予言の一説に、クワトロは考えを巡らせる。
自分の異名がバッチリ出てきたのだから致し方ないが。

(古き夜空の風と、金の角そびえし赤い幻影……。リインフォースIと私のヅダか。『割りと良く当たる占い』と言うより、『滅多な事では外れない占い』と言った方が適切だな)

91魔砲戦士ΖガンダムNANOHA 第1話後編:2009/03/08(日) 01:49:32 ID:JjeSILpg
地上本部の最上階近くのフロア。
相変わらずレジアス・ゲイズがヒーロー物の悪役みたいな態度と目付きで、夕焼けに染まるクラナガン市街を見ている
その後には、オーリスが立っていた。

「よろしいのですか? 査察を行うのは一週間後で?」
「臨時だからな。その日のためにワシ自らメンバーを選抜した。ミラー一尉以下全員、指揮するお前を満足させるに値する優秀な者達だ。奴等の企みなど知らんが、この地上を守って来たのはワシという正義だ! それを理解できん『海』と教会の好きにさせてなるものか!」

己の言葉に醜く酔いしれながら、レジアスは続ける。
それに吐き気を覚えながらも、オーリスは上辺だけ肯定し、内心では「どこが正義なの?」と毒づいていた。

「何より、私には最高評議会という心強い味方がいる。この父が正義だからだ。そうだろ? オーリス」
「……はい」
「公開陳述会も近い。本局と教会を叩く材料になりそうな物を洗い出せ! 向こうはモビルスーツを抱えている上に、昨日ワシの命令で、あの小僧とシャア・アズナブルに任意同行を求めた首都航空隊第13部隊を襲撃している。楽な仕事になるさ」
「機動六課についてですが、事前調査の結果、かなり巧妙に出来ている事が分かりました」

オーリスはそう言って、モニターを表示させる。
そこに映し出される、はやてとなのはたちの写真。
オーリスが説明を始めた。

「若輩を部隊長にし、主力二名は本局からの貸し出し扱い。部隊長の身内であるヴォルケンリッターと、次元漂流者を除けば、後は新人ばかり。モビルスーツは何れも質量兵器と見なされないように魔力式に改造済み。Ζガンダムとズゴックに至ってはデバイス化されています」

モニターに映し出される新人たちと、カミーユたちの写真。
それだけでなく、Ζガンダム、ザク、シャアズゴの写真まで表示される。

「何より期間限定の部隊、言わば使い捨て扱いです。本局にトラブルが起きても、簡単に切り捨てる事ができる編成になっています」
「小娘は生贄か……。同類とそれを庇う異常者の二匹が主力。身内以外の戦闘メンバーも、人間モドキにあの役立たずのティーダ如きに魔法を学んだ凡人、デッドコピーと己の力を使いこなせぬ出来損ないか。犯罪者にはうってつけだな」

とことん吐き捨てるレジアス。
その態度に嫌気が差しながらも顔には出さずにオーリスは呟く。

「もっとも、これ自体彼女が自分で選んだ道なのでしょう」
「オーリス!?」
「首都航空隊第13部隊に関して、教会系列のある病院から「敷地内に押しかけ、『ゲイズ中将の命令だ』という理由で高町教導官一行を包囲していた」と苦情が来ています。今日の予定は消化済みなので、直接赴いて事情を説明された方がいいかと」
「……ああ」

何事も無かったかのように淡々と語るオーリス。
彼女の心は既に決まった。

92魔砲戦士ΖガンダムNANOHA 第1話後編:2009/03/08(日) 01:53:28 ID:JjeSILpg
同時刻。
予定よりも早く帰りついたはやてたちは、休憩室で一息つく。
ヴィヴィオはなのはに、ロザミィはカミーユにくっ付いたまま離れようとしない。
ちょうどヴィータも事が終わったのか、戻っていた。
今がチャンスとばかりに、クワトロはヴォルケンリッターの残りを集合させてもらおうとはやてに話しかけようとする。
が、突如として警報が鳴り、モニターに外の様子が映し出された。
映し出されたものを見て、カミーユは声を荒げる

「……ガンダムMk-II! しかも何でティターンズカラーに戻っているんだ!?」

そこに映っているのは、ドダイに乗りこちらに近づくガンダムMk-IIと、それを追うガジェットの群れ、そしてガジェットの指揮機と思しきモビルスーツであった。
既にバーニィのザクと、シャアズゴが出撃してガジェット目掛けて発砲している。
出撃しようとするなのはたちを制し、クワトロは「君たちはヴィヴィオとロザミィをなだめていろ」と言って一人休憩室を出た。



格納庫。
クワトロはヅダに乗り、コックピットに隠してあった旧約夜天の書を取り出す。

「旧約夜天の書よ、セットアップ!」

バリアジャケットを装着し、ヅダを起動させて出撃する。
格納庫から出た直後、ガンダムMk-IIを乗せたドダイがすぐ近くに着地。
コックピットハッチが開くところが視界に入るが、クワトロはそれに構わずエンジンの出力を上げる。
ジール物産製の新型エンジン「新星」の大推力でヅダは飛翔し、クワトロもリインフォースIに命令した。

「ユニゾン・イン・ヅダ!」

この声と共に、ヅダの体が光に包まれる。
装甲の一部に布地のようなものが張り付き、ヅダの頭部に銀色の長い髪の毛が生え、更にピンク色のモノアイが何故か真紅のデュアルアイに変わった。
倍以上に跳ね上がった推力で、ヅダはガジェットの群れに肉薄する。

「魔法を無効化出来ても、衝撃に耐え切られないのなら無意味だぞ!」

ガジェットは構わずレーザーを発射するが、ヅダは大気圏内とは思えないレベルの機動で楽々とかわし、ガジェットたちにすれ違う。
数秒後、超音速で飛ぶヅダの発した衝撃波で吹き飛ばされ、ある機体は味方機のレーザーが当たり、またある機体は複数の味方機にぶつかり道連れにしながら、次々と破壊される。
既に、バーニィのザクとシャアズゴのおかげでかなり減っていたせいか、ガジェットの数は少なかった。
そこに、指揮機と思しき機体に乗っている者からの声が聞こえる。

「……我、現在地の確保に失敗。これにより、奪われたフラッグシップと搭乗者たちの奪還、それ以上に妹たちの救出は絶望的と判断。残存ガジェットは全機、地上の二機に特攻させ、本気はこれよりヅダに突貫する!」

93魔砲戦士ΖガンダムNANOHA 第1話後編:2009/03/08(日) 01:54:26 ID:JjeSILpg
モビルスーツがいきなりコックピットハッチを開けたかと思うと、中からディエチたちと同じ意匠の服をまとった幼女が出てくる。
右手では入り口の縁を掴み、自分の機体より下の高度にいるヅダ目掛けて手に持った投げナイフを投げた。
ヅダは構わずモビルスーツ目掛けて加速、投げナイフを装甲で弾いた直後、突如として起きた爆発により視界を遮られてしまう。

「爆弾だと!? 何時の間に?」
「先ほどの者が投げた金属片が爆発したのです。恐らく、あのパイロットは何らかの方法で金属片を爆発物に変えたものと思われます」

驚愕するクワトロに、ヅダとユニゾンしたリインフォースIが説明する。
それに納得した直後、クワトロの脳裏に光の筋が走り、敵がこちらに突っ込んで来ていることに気付き、回避動作を取った。
直後、広範囲にわたる爆風を散らしながら円盤状の物体が突進。
すれ違いざまにヅダはその物体に蹴りを入れた。

「避けきっただと!? だが避けるだけでは、このチンクのアッシマーには勝てん!」

チンクが叫んだ直後、アッシマーは再び変形し、モビルスーツ形体に戻る。
アッシマーの緑のモノアイが光り、ヅダを睨む。
これを見たクワトロは、間髪いれずヅダをアッシマー目掛けて体当たりさせる。
左肩のシールドが顔面に直撃し、アッシマーのモノアイ保護用の風防が砕け散ったが、チンクは動揺しなかった。

「……超硬スチール合金程度ではな!」

アッシマーはヅダのコックピットハッチに蹴りを入れ、弾き飛ばす。
ビームライフルを構え、引き金を引く直前に、全く別の方向から飛んできたビームがビームライフルに命中。
驚いたチンクが振り向くと、そこにはビームライフルを構えたガンダムMk-IIの姿あった

「あの男、あの距離から……!?」

右手ごとビームライフルが爆発し、その隙を突きヅダはギリギリまで接近、ゼロ距離で90㎜マシンガンを発砲。

「認めたくはないだろう? 自分の若さゆえの過ちというものは」
「あ、アッシマーが!」

この言葉と共に、アッシマーの頭部が弾丸で砕け散ったかのように破壊された。
しかし、同時にアッシマーのコックピット内に、チンク以外の第三者の声が聞こえる。

「チンク姉!」
「セイン! 何時の間に忍び……」
「ドクターの命令! もしアッシマーがやられた場合に備えて忍び込んでおきなさいって!」

この会話に感づいたクワトロは、急いでコックピットハッチを抉り取り、中を覗く。
すると、セインと思しき少女が、チンクを後から抱きかかえた状態でコックピットから「抜け出す」最中であった。
そのまますぐに姿を消し、数秒後にアッシマーの脇腹から飛び出し、そのまま落下、地面へと「潜行」する。
乗り手を失ったアッシマーはそのまま失速、盛大な水柱をあげながら海に突っ込んだ。
それを見届け、着陸するヅダ。
その視界の先には、セインが潜行した地点を凝視し、顔を見合わせて不思議がっているザクとシャアズゴがいた。

「あの撃ち方と気配……君もこの世界に来たのか? アムロ」

94魔砲戦士ΖガンダムNANOHA 第1話後編:2009/03/08(日) 01:55:18 ID:JjeSILpg
その頃、ガンダムMk-IIが着地した地点。
ガンダムMk-II内のコックピット内には、操縦していた青年だけでなく、壮年の女性とその使い魔もいた。
青年が二人に話しかける。

「プレシアさん、リニス、大丈夫か?」
「私とリニスは大丈夫よ……」

プレシアの方は少し気分が悪そうだったが、何とか強がる。
青年が振り向くと、リニスが優しくプレシアの背中を摩っている所が見えた。

「ゼスト・グランガイツの言うとおり、この『機動六課』に本当にフェイト・テスタロッサがいるというのか? シャア、お前が身を寄せている機動六課に……?」
「アムロ・レイ、彼はウソをついているようには見えませんでした」

アムロの呟きに、そっとツッコミを入れるリニス。
アムロは振り返らずに、モニター越しに見えるヅダの姿をずっと見ていた。
夕焼けの中で吹く風が、モビルスーツたちと、アムロたちを保護するために出たフェイトを、撫で回す。




次回


魔砲戦士ΖガンダムNANOHA

ディム・ティターンズの影
〜ニューメロの鼓動〜

カミーユ・ビダンはリリカルなのはの夢を見るか?

95黒の戦士:2009/03/08(日) 01:56:05 ID:JjeSILpg
これで第一話は全部投下終了。

本当に長かった……。

96魔法少女リリカルなのはs.CRY.ed ◆j1MRf1cSMw:2009/03/08(日) 21:15:24 ID:QVxyJ8BM
規制をくらってしまいました。申し訳ありませんがこちらに投下しますので代理投下をお願いいたします。


 さて、とりあえずその件の犯罪者の危険性と、相手をしなければならない可能性の高さは頭に叩き込み理解したが、彼女たちの目的はそれだけではない。
 当たり前だ、現地の犯罪者の相手をしに自分たちは派遣されたわけではない。その本当の目的は別のところにある。
 それこそが―――

「―――それじゃあ本題の次元震の原因究明についての捜査だけど」

 その主目的を語り出したなのはに皆の視線が再び集中する。
 本題とも言えるそれは一体どのような手順で行うのか、それをまだ四人は聞かされてはいなかった。

「この手のケースなら順当に考えれば、原因となっているものは・・・・・・ティアナ、何だと思う?」

 急に話を振られても、しかしティアナは慌てる素振りも無くそれこそ学院の講義の際の質問に答えるようにセオリーとなる答えを述べた。

「―――ロストロギア、でしょうか?」

 尤も、それが正解とは限らないので確証も無い答だとは自分でも思っていた。
「うん、それが真っ先に上げられる最も可能性のある答だね」
 故に間違いではない、そうティアナの答を評価しながら頷く。
 そもそも次元そのものに波及的効果を与えられるモノ、などというものは管理局の常識から考えてみてもまず稀少だ。
 遺失世界の遺産、秘めたる力を有するそんなモノ以外で、次元震を起こすことなどそもそも不可能と言ってもいい。
 だからこそ、管理局はロストロギアという存在を決して侮らず、回収する必要性が高いと認知している。
 次元世界そのものに危機を与えるソレを自分たちの手で安全に保守管理しないことには落ち着くことなど出きるはずがないからだ。
 だからこそ、次元震という現象が発生した際には管理局は必ずと言っていいほどロストロギアの関連の有無を調べる。
 そしてこうしたケースならば八割方、ソレが関わってくることがこれまでの管理局の記録からでも判断できる。

「だからこそ、二十二年前と今回・・・・・・後、これはついさっき分かったことだけど、六年前にもこの市街で惨劇が起こっているの。これらの事件に同一のロストロギアが関わっている可能性は無いとは言い切れない。でも―――」

 先程、ジグマールの口よりなのはは六年前に市街地で大規模なアルターによる惨劇が起こったという話を聞いた。
 ロングアーチスタッフに直ぐ様に確認を取ってもらったが、それにも次元震発生の余地が確認されていることが先程連絡されて届いたばかりだった。
 アルターによる被害、ジグマールは確かにそう言っていた。アルター能力についてはまだ詳しい事を把握していないが、それがロストロギアの誤認という可能性も無いとは言い切れない。
 しかし、それには疑念も残る。
 その最大の理由は観測された事件と事件の間の期間の長さだ。二十二年前と六年前、そして六年前と今回。
 規模こそ違えど観測された次元震の特徴はまったく同じモノなのだという。ならばこそ、これらには同一の何らかの原因が共通してあるはずだという推測が成り立つ。
 だが管理局とてロストロギアとは一概には言っても、その性質はバラバラなものばかりで一纏めには出来ない。・・・・・・だがこういったケースを起こす特徴はロストロギアには存在しない。
 一度何らかの原因で発動したロストロギアは外部からの強制介入による沈静化なくしては治まらないケースが多い。代表的な例を挙げるならあのジュエルシードが良い例だ。
 だが今回観測されている次元震は全て、同質であると共に瞬間的に発生して直ぐに治まっているものばかりだ。
 恒常的とも呼べぬ発生期間といい、瞬間観測でしかないという実例。そして管理局がどうして放置を続けてきたか、その理由を推測すればそれは―――

「―――私はそうじゃない、とも考えてるんだ」

 ―――その推測をなのはへと抱かせていた。

97魔法少女リリカルなのはs.CRY.ed ◆j1MRf1cSMw:2009/03/08(日) 21:16:31 ID:QVxyJ8BM
 四人もロストロギアが関わっているとばかり思っていただけに、なのはの突然の言葉にはやはり驚きを隠せていなかった。
「え? ロストロギアじゃないんですか?」
 疑問を口にしたスバルに対し、なのはは頷きながら己の推論を述べる。

「―――以上のことから、私はロストロギアとは別の可能性も考えられると思うの。
 ・・・・・・ジグマール隊長は六年前のその事件がアルターによるものだと言っていた。二十二年前も今回のものも性質は同じモノらしいから次元震の発生の媒介となったものは同じモノである可能性が極めて高い。ならそれは―――」

 ―――ジグマールの言葉通りなら、アルターということになる。

「・・・・・・じゃあ、次元震の原因はこの世界にいる能力者の仕業ってことなんですか?」
 俄かには信じ難い、言外でそう告げていることが分かるティアナがそう疑問に思うのも無理はない。
 なのはのその推論が正しいと言うのならば、ソレは個人か組織かどちらかにしろ、次元震を発生させているのが人間だということになってしまう。
 規模がどれ程のものであれ次元世界そのものに干渉しうる力を人間が持っている・・・・・・魔法ですら不可能なことを信じろと言う方がおかしなものだ。
 それこそ、あの存在し得ない夢物語の世界たる『アルハザード』は実在している、などと言っているようなものである。
 そんなことを出来る人間がいるとするならば、それは人間とは呼ばれない。

 ―――『災害』である。

「・・・・・・私自身でも穴がありすぎる推論だとは思ってる、けれどやっぱり今回の事件に関わってくる謎の中枢にはアルター能力があるとみて間違いないとは思うの」

 彼女の推論でいくならば、次元震を起こした犯人(人ならば)同一人物ということになるが、アルター能力者が生まれるようになったのは二十二年前にロストグラウンドが誕生してからだ。今回と六年前に起こった事件の犯人が共通だとしても、そもそもロストグラウンド誕生の原因そのものとなった事件に関しては矛盾してしまうことにもなる。
 だからこそ確証は無い。故にロストロギアの可能性も捨てきれず平行して調査を続ける。
 それでも彼女は感じていた。

 ―――事件の真相究明への鍵はアルターにある。

 明示できる証拠は無く、自論と直感という説得性には欠けるものだが、それでも全ての事件にはアルター能力が何らかの形で関わっているはずだと思っていた。
 だからこそ、それに関する調査も無限書庫経由で頼んでいたし、自分たちの方からも現地の情報を通じて調べてみようと思っていた。

「取り合えず、ロストロギアとアルター。この両方の線から調査を進めていこうと思ってる。じゃあそれに関する具体的な方針だけど―――」

 そう言ってなのははこれからのこの世界での行動方針を、部下たちへと語り出した。
 恐らくは長丁場となる、そんな確信を抱きながら・・・・・・

98魔法少女リリカルなのはs.CRY.ed ◆j1MRf1cSMw:2009/03/08(日) 21:17:28 ID:QVxyJ8BM
 標高が高いということは、同時に空にも近いと言う事だ。
 だからこそ―――こんなにも星が近くに感じるのだろう。
 高町なのはは空を飛びながらそんなことを考えていた。
 部隊のブリーフィングを終え、これからの行動方針を決め後は明日に備えて一日を終了するだけなのだが・・・・・・。
 何故かこうして空を飛んでいるわけだが、特に目的は無い。理由も無く、空を飛ぶなどという行為はミッドチルダでは許されない。そんな事は管理外世界とて同じなのだが。
 それでも高町なのはは空からこの大地を見下ろしていた。
 本土から切り離され、その大地の中ですら塀の外と内で異なる世界。
 地球には地球の、ミッドチルダにはミッドチルダのルールがあったように、当然ながら、ロストグラウンドにもソレは存在する。
 尤も、此処のルールというものは場所によっては過激や理不尽などと言ったものであるのかもしれないが。
 それでも、となのはは思う。

 この大地で生きている人たちが願っていること、望んでいることとは何なのか。

 独立自治とは聞こえは良い、だが実情は支援なくしてこの大地の住人・・・・・・少なくとも都市に住んでいる者達は生きてはいけないだろうというのは部外者であるなのはの目から見ても明らかだ。
 そして壁の向こう側、未開発地区と称されるむしろロストグラウンドという名そのものの世界はどうであろう。
 実情こそ目にはしていない。けれどインナー(この大地で都市部以外の生活者のことを指すらしい)出身のホーリー隊員の話を聞いてみても、それは酷い有様らしい。
 奪い合い、壊し合い、そして争い合う。
 少なくとも、そこには秩序と呼ばれる人が互いに生きていくために必要とされるルールはない。

 ―――力こそが全て。

 それこそがルールだと言わんばかりが、この大地の実情だった。
 秩序や法という権力に守られている人間などほんの一部、それこそ都市部の人間だけだ。
 この大地に生きる多くの人間は、恐らくは今日を生き抜くことに必死なのだろう。
 ならば何故、彼らはそれからの脱却を望まない。少なくとも、市街に登録をすれば住民になれ職にもありつける。
 少なくとも真っ当な人間としては生きることが出来る。だが、この多くの人間は進んでそれを求めようとはしていないと言うのが実情だ。
 インナーは自らの意志でインナーであることを在り続ける。多くのインナーはそうらしく、市街に登録・・・・・・本土への帰属を望もうとはしていないらしい。
 それが何故か、インナーの実情や思いを未だ知らぬなのはにはそれが分からない。だがそれは彼らにとっては一種の誇りであると言うことだけは察することができる。
 荒れ果てた無法の大地の上で、何が彼らにそれを選ばしているのか。
 平穏と呼べる世界で生まれ、この職に就くまでは同じように平穏な中で生きてきた彼女からは想像もできないものであった。

 だからだろうか、彼女がそれを知りたいなどと考えたのは。

99魔法少女リリカルなのはs.CRY.ed ◆j1MRf1cSMw:2009/03/08(日) 21:18:19 ID:QVxyJ8BM
 ホーリーが・・・・・・否、本土が示す秩序に目を背けても彼らがそれを見出し、そして守ろうとしているのは何なのか。
 恐らくは『彼』もまたそれを守ろうとしているのではなかろうかと勝手ながらに思った。
 ほぼ単独と言っていいほどに何の後ろ盾も無く、個人レベルでの反抗を続けている一人の反逆者。
 アルターという人とは異なる能力を有し、ソレを用いて戦い続けているその人物。
 ホーリーにおいては犯罪者と認定され、自分たちもまたいずれ出会い、戦うことを予感させるその人物。

「・・・・・・NP3228。・・・・・・ううん、違うよね。君の名は―――」

 資料に書かれていた一度捕獲された時に付けられた番号ではなく、彼自身が名乗ったその名前を。
 名字も無く、本名かどうかも怪しい、けれど恐らくは彼が彼であることを表しているその名前を―――

「―――カズマ、君か・・・・・・」

 星空にその身を浮かばせながら、高町なのははその男の名を静かに呟いていた。



 不意に誰かに名を呼ばれた気がした。
 呼ばれたと思い振り返り見た夜空の方角が都市部の方である事に気づき、彼―――カズマは思わず顔を顰めていた。
 またホーリーのクソ野郎共がこっちを倒すためにいけ好かねえ作戦でも立ててやがるのかとも思い、

「―――へ、それともテメエか?・・・・・・劉鳳ッ!」

 打倒を誓い、名を刻んだ宿敵の姿を脳裏へと浮かべ拳を握っていた。
 まぁどちらだっていい、劉鳳だろうとホーリーだろうとちょっかいを出してくる相手には容赦しねえし、必ずぶっ飛ばす。
 単純とも思える思考だが、それがネイティブアルターであるカズマの当たり前のような考えだった。

「・・・・・・にしても、何だか気にいらねえな」

 何故かは分からない、理由は不明だ。
 だが直感的に、今見ている方角から酷く気に入らない視線のようなものを感じずにはいられなかった。
 まさか空の上から誰かがこっちの方を見ているわけでもあるまいし、気のせいに違いないのだが、何故か気になって仕方がない。
 このまま背を向けたら負けなのではなかろうか、などという馬鹿らしいことすら本気で思っていたほどだ。
 だからカズマも睨み返すようにその方角に視線を向けたまま動かない。傍から見れば遠方に眼ツケをしているだけという酷く奇妙な光景だが、当人であるカズマという男はそんなことを気にしない。
 やがてその気に入らない視線のようなものも暫くすれば感じなくなり、カズマも内心で勝ったなどと密かに鼻を鳴らしながら、視線を外して再び進んでいた方角へと背を向け直した。
 実に馬鹿らしいことに時間を浪費してしまった、ということを漸く自覚しながらカズマは目的地―――ねぐらにしている家(廃墟と化している歯科医院)へと急ぐ。

100魔法少女リリカルなのはs.CRY.ed ◆j1MRf1cSMw:2009/03/08(日) 21:20:42 ID:QVxyJ8BM
「・・・・・・かなみの奴は、もう寝てるだろうな」

 同居している少女の顔をふと脳裏に浮かべながら、恐らくはもう就寝しているだろうことは予想が出来ていた。
 よくあることだ。頻繁に家を空ける自分の帰りが遅い時はいつも先に眠っている。普段からよく寝る娘でもあるし、そもそもカズマ自身も出迎えを期待するような性格ですらない。
 だからそれは問題ない、普段通り当たり前であり考えるまでもないことだ。
 ・・・・・・ならば何故、そんなことをふと思ったのか。
 考えるという行為自体を苦手とする彼はそんな思考も五秒で放棄した。どうでもいいさ、それで良かった。
 帰る場所にはかなみが居る。そんな当たり前のことが分かってさえいればどうでもいいことだ。
 ・・・・・・そう、どうでもいい。そんな当たり前さえ守れるなら。

「・・・・・・まぁ、その代償と思えば安いもんさ」

 右手を持ち上げながら、あのアルターの森での一件以降に進んでしまったアルターによる侵食を見てそんな事を呟いていた。
 だがこのお蔭でシェルブリットはパワーアップした。この力なら、ホーリーの奴らにも何も奪わせないし、劉鳳の野郎だって倒せるはずだ。
 馬鹿で調子者の憎めない相棒や、しっかりものの癖に泣き虫なあの少女だってきっと守れる。

「・・・・・・らしくねえよな、俺としたことが」

 金さえ積めば何だってやる、それがアルター使い“シェルブリット”のカズマであったはずだ。
 そんな自分がどういうわけか、そんな丸くなった思考をしている。・・・・・・まったくもって可笑しい限りだ。
 だがそれも悪くはねえ、そう思っている自分もいた。
 “シェルブリット”のカズマとしての本質は何も変わってはいないという自負がある。
 金さえ貰えば何だってやるし、欲しいものは奪ってでも手に入れる。
 その生き方を変えようとは思わない。
 だから今の考えだって結局同じであり、行き着く先とて同様だとカズマは思ってもいた。
 そう、気に入らねえ奴はぶっ飛ばすし、奪われないように守る。
 そして満足する程の派手なケンカをする。
 カズマが望んでいることは、ただそれだけだった。
 だからこそだろうか、

「なんか、これから派手なケンカが起きそうだ」

 理由も確信も無く、そんなことを思い、期待しているのは。
 だがきっとそれは直ぐに実現する。その相手は劉鳳なのか、或いは別の誰かなのか。
 それはカズマ自身にだって分からない。だがそれでも一つだけハッキリしている事は。

 ―――ソイツが壁となって立ち塞がるなら、この自慢の拳で打ち砕く。

 ただそれだけだった。
 ただそれだけを思いながら、カズマは家路へと着く足を止めることも無く歩き続けた。


 こうして失われた大地に不屈の魔法使いたちは降り立った。
 自身の『正義』という名の信念を貫く男は、彼女たちと出会い戸惑いと予感を覚え。
 未だ出会わぬ反逆者は、その出会いを予感しながら拳を握る。
 その出会いが何を齎し、何を為すのか。
 誰にもそれは分からぬまま、しかしハッキリとしていることがただ一つ。

 物語は、既に始まりもはや止まる事は許されない。
 ただ、それだけのことである。


 次回予告

 第一話 機動六課

 それは何をもっての反逆か
 男は怒りに拳を振り上げ
 女は杖を交わしながら話し合いを望む
 双方、譲れぬ思いを抱きながら最初の邂逅は激闘へと変わる。
 魔法とアルター
 その未知なる力の激突が齎すものとは何なのか・・・・・・



 以上です。初投下で不慣れなので時間を取ってしまいすみません。それと支援してくださった方、ありがとうございました。

101魔法少女リリカルなのはs.CRY.ed ◆j1MRf1cSMw:2009/03/11(水) 21:40:36 ID:ooJj/na2
また規制くらっちまいました。どなたか代理投下お願いします。


 だが両者とも、先の激突により一つの事実を直感的に悟った。
 それ即ち―――


 ……この女、やりやがる。
 確かに全力ではなかった、だが打ち抜く心算で放った一撃だったのは確か。
 そしてそう決めて打ち下ろした拳であった以上は、その結果はそうなっていなければおかしい。
 だが現実にはそうならなかった。相手のアルターの予想以上の堅さを打ち抜くことが出来なかった。
 言うなればそれは屈辱。……そう、あの日に劉鳳に味合わされた敗北の味の再現と同じ。
 無論、負けたなどとは思っていない。今度は必ず打ち砕く、意地でもそうする。
 けれど……

(……手加減できる相手でもねえか)

 本気でぶつかるに値する相手、それがカズマの眼前の女に対する偽らざる評価だった。


 ……この人、かなりの力だ。
 確かに全力ではなかった。だが制限下とはいえ自身の頑丈さには鉄壁に近い自負があった。
 重装型の砲撃魔導師として、長所として磨き上げた誇りとも呼べるものであったはずだ。
 それが危うく屈しかけた。後少しでも力を抜いていれば確実に打ち破られていただろう。
 言うなればそれは脅威。……久しく経験していなかった、自身を脅かすに値する危険性だった。
 だが屈したわけではない。まだ自分には余力もカートリッジという切り札もある。
 それでも……

(……油断は即敗北にも繋がりかねない)

 それだけの力量を有している、それが高町なのはの眼前の男に対する本心からの評価だった。


 ロストグラウンドの反逆者と時空管理局のエースオブエース。
 互いに不屈の信念を持つ両者の初会合による激突とその結果。
 そして抱いた互いへの評価。
 皮肉と言って良いほどに、それは酷く似通ったものだった。
 だがこうして、遂に―――

 ―――遂にこの大地の上で、二人は出会った。



「……NP3228………ううん、君が“シェルブリット”のカズマ君だね?」
「ハッ、だったらどうだってんだよ、本土のアルター使いさんよぉ!?」
 なのはの確認の為のその問いに、威勢よく啖呵を切るが如く返すカズマ。
 彼がこちらを本土から来たアルター使いという情報を早くも掴み認識していたことには驚きだが、まぁそれも今はどうでもいい。
「……漸く、会えたね」
「あん? 何言ってやがる?」
 これまで資料でのみその存在を確認し、是非会って話し合ってみたいと思っていた人物が眼前に現れてくれたのだ。
 それに興味や喜びを覚えないなのはではない。
 だが一方、そんな彼女の心情などはまったく知らず、しかも初対面の強敵だと認識した矢先にそのようなことをいきなり言われてカズマが分かるはずが無い。
 ……ただでさえ、この眼前の女は何故か自分をイラつかせる。その明確な理由を自分自身でも察せられないカズマにとって苛立ちは増すことはあろうと治まることはない。
 さっさとぶっ飛ばす、そう結論付けると共に彼は拳をなのはへと向けて身構える。
 その瞬間だった。

「なのはさん! 大丈夫ですか!?」

102魔法少女リリカルなのはs.CRY.ed ◆j1MRf1cSMw:2009/03/11(水) 21:42:18 ID:ooJj/na2
 そう叫びながらゾロゾロと今度は車内から眼前の宙に浮いている女と似たような格好をした輩が四人も出てきた。
 こいつらがどうやら君島が言っていた本土から来たアルター使いたちで間違いないだろう。
 ……だが、

「……ガキばっかじゃねえか」

 それも女子供、内二人はかなみとすら大差が無い。
 アルター使いに年齢など関係ないことはカズマとて承知の上だ。向かってくる奴はたとえどんな相手だろうが容赦しない。
 それでも思わずそんなことを呟いてしまうほどに彼は意外な連中の正体に驚いてもいた。
「……君島ぁ、やっぱりこんな奴らなんかにビビッててどうするってんだよ」
 思わず苦々しくそんな呟きを漏らさずにはいられなかった。ガキだと油断することは愚の骨頂であることはカズマとて理解できていたが、それでも相手の正体には思わず拍子抜けせざるをえなかった。
 だがカズマのそんな呟きを聞き漏らさずにピクリと反応した者たちがいた。
 それは当然、そんな風に侮られた彼女たち自身だった。

「……ティア、あたしたち馬鹿にされてるよ」
「安い挑発……でも癪に障るのは事実よね」
 スバルの言葉にティアナも正直にそう返しながら彼女たちはなのはを見上げた。
 先程あの男は自分たちの隊長と全力ではないほんの一瞬とは言えど互角に渡り合った。
 その実力の片鱗は確かに凄まじく、決して侮れたものではない。
 だが自分たちにも機動六課の隊員として、高町なのはの教え子として、JS事件などを潜り抜けてきて成長してきた自負がある。
 毎日毎日、必死になって歯を食い縛り賢明に鍛錬へと身を投じてきた。
 自分たちだって成長してきている、確実に強くなってきている。もうヨチヨチ歩きのヒヨっ子のままではない。
 その誇りが彼女たちに無言ながらもなのはへと告げさせる。

 わたしたちにやらせてください、と……。

 そしてそれは視線からなのはもまた察することが出来た。
 本当に、自信を持った、そして強い良い眼をするように彼女たちはなった。
 確かに敵は強敵、油断のならない相手だ。
 教え子たちを案ずるなら、もしものことがないように戦うのは自分の役目だ。
 それが当たり前だとも思っている。

 けれど、人は成長する。

 それを誰よりも良く知っているのも高町なのはであり、それを否定することは彼女たちにも出来ない。
 そして此処は心配して守ってあげる場面ではない。
 彼女たちの成長を、強さを信頼して、任せる場面だ。
 最初から全てを取り上げるのは傲慢であり、それは彼女たちを信頼していないのと同じだ。
 自分はJS事件の時もちゃんと彼女たちを信頼してきたではないか。
 ならば、ここもまた同じはずだ。
 故に―――

「―――良いよ、貴方達の力を彼に見せてあげて」

 自信を持って、そして不敵に教え子たちへとそう告げた。
 それを聞いた彼女たちもまた、同様に頷いてそれを了承。
 眼前の、カズマを相手に四人は身構える。
 ならばやってやる、そう行為は無言ながらも悠然とそれを物語っていた。
 相手の方も、こちらのその態度から察したのだろう。同じように対峙して身構える。
 なのははそれに手出しを加えない為に後方へと離れて見守ることにした。
 万が一の事態には、早急にフォローに入れるように覚悟し身構えながら。
 それでも今の彼女の胸中は、純真に自らの教え子たちと眼前の強敵の戦いを見入ることに務めようとしていたが。


 そしてカズマも身構えた。

103魔法少女リリカルなのはs.CRY.ed ◆j1MRf1cSMw:2009/03/11(水) 21:44:08 ID:ooJj/na2
 どうやら先にガキ共がこちらの相手をするような雰囲気だが……上等だ。
 良い目つきをしてやがる、喧嘩をするには申し分の無い意気込みは確かにある。
 女子供、四対一、それらはもはやこの後に及んでその一切が関係ない。
 こいつ等は敵、立ち塞がる壁。
 だったら―――

「じゃあ始めようぜ、喧嘩をよぉ!?」

 ―――この自慢の拳は纏めて全て打ち砕く、ただそれだけだ。


 右腕に装着した鎧のようなアルター。
 それがシェルブリットと呼ばれるカズマのアルター能力。
 背中に三枚の羽根状の突起物があり、それを推進剤のように用いて爆発的な突貫力を生み出す。
「……それがホーリーのデーターベースに残ってた相手の能力」
 典型的なクロスレンジタイプ、自分たちの部隊で言えばスバルと極めて似た能力。
 情報は全てこちらが掌握している、相手の手の内をこちらは完全に把握しているのだから。
 一方で、相手はこちらの魔法をアルター能力と勘違いしており、それですら未だ手の内は分かってなどいない。
 故にこちらは最初から圧倒的なアドバンテージを有しており、相手も慎重に来ざるを得ない。

 ……そう、思っていた時期がティアナ・ランスターにもありましたよ。

 まさか彼女のそんな思考すらも小賢しく思わせるほどに、いきなり迷いも無くあちら側から仕掛けてくるとは思ってもいなかった。
 事前に渡された大事な情報を一部、彼女は失念していた。
 そう、相手が単純とも評せるくらいに考えなしの突撃馬鹿なのだということを……。

 先手必勝。それは喧嘩において当たり前のことであり、細かいことなど気にしていてもそもそも喧嘩など出来もしない。
 故に躊躇い無く、これまで通りにカズマは地面を拳で叩くと共にその反動で高く跳躍。
 そのまま挨拶代わりのまず一撃。

「衝撃のぉぉぉおおおおおおおおおお―――」

 未だ固まったまま、バラけるにも今更遅い連中を相手に、カズマは容赦なくその一撃にて強襲する。

「―――ファーストブリットォォォオオオオオオオオオオオオオ!!」

 背にある三枚の羽根状の突起物、まずそれが一枚弾け飛ぶと共に、そこから圧縮されていたエネルギーが噴出され、勢い良く彼女たちへと叩き落すべく凄まじい速度にて強襲。
 威力も速度も、先程なのはが防いだ先の一撃の比ではない。

「さ、散開ッ!」

 見ただけでそれは充分過ぎるほどに理解できた。
 故に、ティアナがそう叫び切るよりも早く全員がその場を動いていた。
 何とか全員、その場を飛び離れるも無人となったそこにそのまま勢い良くカズマの拳は振り下ろされた。
 瞬間、轟音と衝撃が地面を抉り陥没させる。
 バリアジャケットを着ていても、防御もせずに喰らえばただでは済まぬ一撃であることは瞬時にこの場の全員が理解できた。
 ……尤も、理解できたはイコールで臆することではないのだが。

 朦々と上がる土煙の中、カズマは地面より拳を引き抜きながら瞬時に左側方へと振り返り拳を構える。
「はぁぁぁあああああああああああ!!」
 地面を削るような勢い良く滑走する車輪の音とその叫び声と共に、土煙を突っ切ってスバル・ナカジマが拳を振り上げて襲撃を仕掛けてきたからだ。
 予想通りの展開、故に迎え撃つ。それがカズマのやり方だ。
 ましてや拳のぶつけ合いをしてこようというのなら、それは望むところ。
「らぁぁぁあああああああああああ!!」
 相手が打ち込んでくる拳に合わせて、そこにピンポイントでカズマも返し、拳をぶつける。

104魔法少女リリカルなのはs.CRY.ed ◆j1MRf1cSMw:2009/03/11(水) 21:45:46 ID:ooJj/na2
 俺とテメエ、どっちの拳が強えかまずは一勝負ッ!
 そんな思いと共にぶつかり合う、シェルブリットとリボルバーナックル。

 火花と轟音を響かせながら、打ち勝ったのは――――――カズマ。

「おらぁぁあああああああああああああ!!」
 雄叫びと共に、押し負かし土煙の向こう側へと再びスバルを吹き飛ばすカズマ。
 次の瞬間には、そのまま地面を拳で叩き再び宙へと跳躍。
 直後、今まで彼がいたその場を切り裂くように突っ切る閃光。
「―――え?」
 それをやった当人―――エリオ・モンディアルは必殺の瞬間を逃し槍が空を切った現実を信じられずに呆然とそんな呟きを漏らしていた。
 だがそこへ再び着地したカズマは逃すことなくエリオを掴むと同時に、勢い良く今度は向きを真後ろへと変えて放り投げる。
 その瞬間に、
「確かに速え……でも足りねえよ」
 相手にもハッキリと聞こえるように耳元でそう言ってやりながら。
 弾丸のように勢い良く、エリオは放り投げられその進行方向にいた少女に向かって飛んでいく。

「―――なっ!?」

 クロスミラージュを構えていたティアナ・ランスターは予想外の事態に回避もままならずに少年と激突し吹っ飛んで行った。
 それを確認しながら、カズマはそれを追撃するべく駆け出した。

 一連の土煙の中での攻防、カズマは野生の勘とも呼べそうな驚異的な察知と身体能力に物を言わせたごり押しで見事に押し勝った。
 スバルが仕掛けてくるのは音と喧嘩の場数で踏んだセオリーで容易に予想ができ、得意の力技で押し切った。
 直後のエリオの不意打ちは大部分が勘だった。だがクーガーや劉鳳の真なる絶影などの速度を身を持って体験しているカズマには反応できないものでもなかった。
 最後の背後のティアナについては、まぁこそこそと背後から狙ってくる奴というのは何処にでもいるものだ。予想通りに試しにやってみたら案の定いやがった。
 そして二人纏めて直撃し吹っ飛んでいった。後はトドメの追撃を仕掛けるだけ。
 そう思いながら、土煙を突っ切ってカズマは二人を追い―――

 ―――瞬間、目の前に降り注ぐ炎に驚き急ブレーキを掛けざるを得なかった。

「―――んなっ!?」
 と驚きながら真上から降り注いできたソレを見上げれば、なんと上空には最後の一人であるキャロ・ル・ルシエが相棒である巨大化したフリードリヒの背に乗りながらカズマの侵攻を防ごうとしてくる。
 正直、かなみと歳も変わりそうに無い少女というのはカズマにとって最も殴りづらい相手だったが、

「アルターの方になら問題ねえだろうッ!?」

 飛び上がり、フリード目掛けてカズマは拳を突き込んだ。
 それをおいそれと喰らってやる義理も無いフリードは迎撃のブラストフレアをカズマに向けて放つ。
 だが―――

「温ぃんだよぉぉぉおおおおおおおおおおお!!」

 物ともせずに炎を拳で切り裂きながら向かってくるカズマ。その勢いは衰えの陰りすらも見えはしない。
 あわやそのまま炎を突っ切り、カズマの拳が飛翔する竜へと届かんとしたその時だった。

「リボルバァァァァァァ―――」

 ウイングロードを展開しながら颯爽とその横合いから駆けつけたスバル。
 そしてカートリッジロードと共に形成された魔力は、

「シュゥゥゥゥトォォォオオオオオオオオオ!!」

105魔法少女リリカルなのはs.CRY.ed ◆j1MRf1cSMw:2009/03/11(水) 21:47:29 ID:ooJj/na2
 思い切りカズマへと叩きつけられ、彼を吹き飛ばした。
「キャロ、大丈夫!?」
 慌ててそう尋ねてくるスバルに、キャロは間一髪の事態であったことなどもあり、やや呆然としながらも肯定の問いを恐る恐る返した。
「……そっか、よかった〜」
 安堵の吐息を盛大に吐き肩を落としたスバルに、キャロも改めて礼を返そうと口を開きかけ、

「撃滅のぉぉぉおおおおおおおおおおおおお―――」

 瞬間、聞こえてきた相手の言葉に瞬時に緊張しながらそちらへと振り返った。
 視線の先には吹き飛ばされていたカズマが立ち上がり、跳躍しながら再びあの先制攻撃の時と同じ一撃を放とうとしてきていた。
「キャロ、直ぐに離れて!」
 スバルが慌てたように叫びながら、迎撃する心算なのか身構えて彼へと振り向いていた。
 自分に何か出来ることは、そうキャロも思ったが今からでは何も間に合わず足手まといにしかならぬことを痛いほどに悟る。
「―――フリードッ!」
 だから邪魔だけはしないよう、足枷にはならぬように自身が使役する竜へとそう命じてこの場から全速力で離れる。

「―――相棒ッ!」
『―――All right』

 キャロという憂いが無くなった以上、スバルはもはや全力を出し切ることに厭わない。
 だからこその切り札を、相棒に命じて発動させる。

「―――フルドライブッ!」
『―――Ignition.』

 瞬間、盛大に展開されるカートリッジロード。
 それは即ち、己の切り札を出し切ることの、全力全開で立ち向かうことの表明。
 叫びと同時、展開される近代ベルカ式の魔法陣。
 そしてマッハキャリバーより発現する翼。
 ウイングロードを真っ直ぐに向かってくる相手へと定めながら―――

「ギア――――エクセリオンッ!」
『―――A.C.S. Standby.』

「セカンドブリットォォォオオオオオオオオオオオオ!!」

 互いに照準を合わせた弾丸の拳をぶつけ合うべく駆け出した。


 二度目の拳のぶつけ合い。
 今度は互いに掛け値なしの全力の一撃同士。
 その衝撃は先の激突の比ではなかった。
 震動・衝撃・轟音・明滅―――超常のエネルギーのぶつかり合い同士は周囲に激しくそれらを伝播させながら、拮抗を打ち破るべく互いに踏み込み合う。
 何ものをも打ち砕くための反逆の拳。
 何ものからも守るべき存在を守る為の不屈の拳。
 そのぶつかり合いの結果は―――

「―――何ッ!?」

 焼き直し……になることはなく、ほんの僅かながらもスバルの拳が押し返した。
 そのままウイングロードの足場に着地しながらも蹈鞴を踏むカズマに、続くスバルの急襲が降り注ぐ。
 交錯すると同時に次々に殴りかかられ、反応することも出来ずに殴り飛ばされ続ける。
 小娘の思いも寄らぬ猛攻に、カズマはぶち切れるよりも歯を食い縛りながら獰猛に笑う。
「上等だッ! どんどん来やがれッ!」
 そう思い次の瞬間にも殴られるも、カズマはその不敵さを収めない。

106魔法少女リリカルなのはs.CRY.ed ◆j1MRf1cSMw:2009/03/11(水) 21:50:07 ID:ooJj/na2
 スバルの動きに翻弄され、まるで反応できていない。我武者羅に振り抜く拳は空を切るばかり。
 だがそれでも、

「倒れねえよ……んな温い拳で倒れられっかよ!?」

 まったくもって手緩い。小手先の連撃などただでさえタフなこの身に効くはずもない。
 来るなら、仕留めるなら、デカくてキツイ切り札を持って来い!
 そう叫びながら、カズマはウイングロードを叩き再び跳躍する。
 それを追いかけ真っ直ぐに伸びてくる水色の道。其処を駆け抜けながら覚悟を決めたのか正面から漸く相手も仕留めにかかりに来るようだ。
 そうだ、それでいい。それならこっちも正真正銘、最後の一撃だ。

「抹殺のぉぉぉおおおおおおおおおおお―――」

 そしてスバルも覚悟を決める。
 何度殴り飛ばそうと、何度倒れてくれるよう願ってもこの男は倒れない。
 バリアジャケットを纏っているわけでもない、正真正銘の生身でありながら自分以上のタフネスさを誇っている。
 だからこそ、小手先の連打などどれだけ打ち込もうと、この男は倒れない。
 倒れずして立つ男を倒すにはどうするか?……そんなものは決まっている。
 問答無用で倒れざるえない全力全開の一撃をぶつけてやる。
 それも真正面から、それ以外にこの男を倒す方法は自分には無い。
 だからこそ、ウイングロードの道先を男の正面に真っ直ぐ合わせてスバルは駆ける。
 応える様にカズマは背中の最後の羽根を使っての全力の一撃にかかってくる。
 だからこそ、最大最強の一撃でこちらもまた応えるだけだ。

「一撃ッ……必倒ォォ!」

 残るカートリッジの全てを引き絞り、拳の前面に形成させた魔力を疾走しながら相手へと向けて身構える。
 最後の羽根を推進剤に遂にカズマの拳がスバル目掛けて向かってくる。
 スバルもまた迎え撃つためその拳を同じくカズマ目掛けて突き込んで行きながら―――

「ラストブリットォォォオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
「ディバィィィン……バスタァァァアアアアアアアアアアア!!!」

 ―――最後の拳のぶつかり合いが発生した。


 一度目はカズマ。
 二度目はスバル。
 ならば互いに後が無い、決着をつけるべきのこの三度目は?

「うぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
「はぁぁぁあああああああああああああああああああああああ!!!」

 大気を揺るがすほどの雄叫びも、押し込むべき肝心の拳も。
 意地も不屈の信念も。
 全て両者はどちらも譲らなかった。
 故に―――

 此処から先は、限界を超えたもの勝ちだ。
 そしてスバルは全力の切り札、エクセリオンモードを出し切った。
 だがカズマには……まだ限界の先の力が残っていた。

「シェルブリットォォォオオオオオオオオオオオオオ!!!」

 叫ぶと同時、カズマの右腕を覆うアルターは更なる進化を遂げる。
 より厚く、より鋭角に、より強く。
 背中からは三枚の羽根に変わり、一つの尾が出現しローターの回転のように回りだす。
 それに呼応するように、右手の甲が開き更なる輝きを増していく。
 強大な力がカズマに集まっていくのがその場の全員に理解できた。

107魔法少女リリカルなのはs.CRY.ed ◆j1MRf1cSMw:2009/03/11(水) 21:53:46 ID:ooJj/na2
 だが当人―――カズマにしてみれば、これだけではまだ足りない。
 そう、もっとだ! もっと、もっと、もっと―――

「―――もっと輝けぇぇぇええええええええええええ!!」

 叫ぶと同時、黄金の輝きを放つカズマの進化した拳が、遂にスバルを振り切った。
 その敗北はスバルにとって驚愕であると同時に……無念でもあった。
 何かを最後に叫ぶよりも早く、輝く光と衝撃に吹き飛ばされスバルは意識を失った。


「……さて、最後はアンタ一人だぜ?」
 そう不敵に言うものの実際は肩で息をしているのがカズマの現状であり、それは相手からも察せられるほどに明らかなものだった。
 実際、シェルブリットの第二段階を前座と思っていた相手に使わざるを得ないとは予想だにしていなかった。
 全力全開、その先にあるものから引き出してくるあの力はその代償として容赦なくその身を蝕んでくれる。
 その疲労は馬鹿に出来たものでなく、洒落にもならないのが現状だった。
 事実、あの時は一瞬こそ出したものの、なのはを前に見上げるカズマはアルターを解除した状態だった。
 もう一度アルターを発現し戦闘……とてもではないが、相手のなのはの方がカズマにそんな余力は残っていないだろうと思っていたほどだ。
 無論、やられた教え子たちの無念は晴らしてやりたい……が、ボロボロの相手を前に私怨をむき出しに私刑紛いの事を行う倫理観をなのはは持ち合わせていない。
 幸いにも、四人には大した怪我は無い。スバルが気を失っているがそれは大事に至るものほどではないことは確認済みだ。
 それらを踏まえ、そして物資輸送の護衛の任務に必ずしも相手を殲滅する必要性がない以上、ここで彼が諦めて引き下がってくれさえすれば撃退したと言う名目は立つ。
 手打ちはソレで充分のはず、これ以上不毛な争いを続ける必要などないはずだ。
 むしろ逆だ、なのははカズマと戦いたいのではない。カズマと―――

「ねえ、争いはもう止めにして少しお話しないかな?」

 対話、それが彼女がカズマへと望んだことだった。
 だが―――

「ハッ、絶対にノゥだ! ホーリーのアルター使いなんぞと話すことなんざこちとら何もねえよ!」

 獰猛に、不敵な獣の笑みを見せての拒絶だった。
 だが一度や二度の激しい拒絶くらいで引き下がる高町なのはではない。
 どんなに拒絶されようと、お話を聞いてもらうために何度も食い下がる。意地でも退かない、それが高町なのはのやり方だ。
 当然、カズマがなのはを受け入れることなど欠片も無い。理由は分からないが、コイツと会話をするだけで何故か分からぬ苛立ちが沸々と湧いてくるのだ。

「どうして? 私は君と争う心算なんて―――」
「テメエがホーリーだって時点で俺にはあり過ぎるんだよ! ゴタクなんざ結構だ、語るってんなら拳でやってやるよ!」

 ―――だからやろうぜ、喧嘩をよぉ!?

 相も変わらず、カズマがなのはに突きつけてくる欲求はただそれだけであった。
 そこに譲る気持ちなどあろうはずもない。只管に眼前の相手は頑なで意地っ張りであった。
 だが繰り返すがなのはにはボロボロのカズマと戦う戦意などもはやない。
 ただどうしてそこまで頑なに彼がホーリーに逆らおうとするか、自分たちと戦おうとするのかを話し合って聞きたかっただけだ。
 それはカズマにとっては苛立たしく、火点きの悪い行為以外の何ものでもない。
 それこそもはやこの茶番すらも打ち切って、問答無用で殴りかかりたいのが本音だ。
 それを思いながらも実行しない理由は……生憎と、カズマ自身にもそれは分からない。
 無抵抗な女に殴りかかる、無意識にもそんなことに負い目を感じているのかもしれない。
 だからこそ、なのはがやる気になってくれないとカズマも相手へと殴りかかれない。
 このままでは埒が明かない、だからこそ仕方なく取った手段がこれだった。

108魔法少女リリカルなのはs.CRY.ed ◆j1MRf1cSMw:2009/03/11(水) 21:56:05 ID:ooJj/na2
「そんなに俺と話がしてえなら、力づくで話を聞かせてみろよ」

 挑発の蔑笑と共に言ったカズマのその言葉に、ピクリとなのはは反応した。
 力こそがこの大地のルール。だからこそ、誰にも縛られない自分を縛りたいと言うのならそのルールに則ってかかって来い。
 そういう意図で告げたのだが、それはなのはにとって自身の心境を揺さぶられると言っていい提案だった。

 どうしてお話を聞いてくれないのか、それに悩んでいた相手のあからさまな拒絶に戸惑っていたなのはだが、相手のその言葉には思うところもあった。
 力づくで従わせる、などという方法は彼女にとって最も好まぬ方法だった。
 自らの意志で互いに歩み寄っての対話、それを望んでいた彼女にとっては乗る気にもなれない提案だ。
 それでも一方で、己の過去においても話を聞いてもらうために実力行使に出ざるを得なかった場面というのが何度かあったのは確か。
 フェイトの時もヴィータたちの時も、結果的には争わざるを得ない、良い悪いに関係なく、互いに退けぬ理由があったからこそぶつかり合うしかなかったこともあった。
 あの時のあれらの選択、あれらの戦いをなのはは後悔していない。あれは必要であったが故の、本音をぶつけ合うために必要であったからこその戦いだ。

 ……じゃあ、目の前の相手もそれを望んでいるのだろうか?

 喧嘩と言い切り、そちらの都合をぶつけて来る強引なやり方。お世辞にも褒められたものだとはいえない。
 だが彼女たちの時と同じように、この男もまたそういう引けに退けない理由がないとも限らない。ただ戦いだけを楽しんでいる、などということはないはずだ。
 きっと彼にも背負っているものがある、守らなければならないものがある。
 その為にも、話し合いには乗ることが出来ない。
 だからこそ、相手は戦いの中で本音を語り合う方法を望んでいるのかもしれない。
 ならば、不器用な自分がそれを聞き届けるには、それに応える以外にないのだろうか?
 ……本当に、悪魔らしいやり方でしかお話を聞いてもらうことは出来ないのであろうか?
 分からない、こちらが望んでいるのは対話。でもあちらが望んでいるのは闘争だ。
 致命的に違うのに、行き着き先には同じモノが待っている。
 その矛盾はジレンマとなりなのはの胸中を蝕む。
 それでも相手は早く決めろと決断を促がす、こちらと戦えと促がしてくる。
 それは自分がホーリーであり、彼がネイティブアルターである限り、変わらないことなのだろうか。

「迷ってんじゃねえ! そうと決めたことがあるんなら、迷わずそれを為せるように行動しろってんだ!」

 遂にカズマが苛立ちも顕に怒鳴ってくる言葉に、なのはは葛藤から引きずり出されハッとなる。
 迷うな、その強い言葉は確かに今の自分が欲しているものだったはず。
 精神面で弱くなり、戸惑っていた彼女が揺らがぬように欲していたはずの断固たる決意の言葉。
 それを言われて、彼女は漸くに覚悟を決めた。

「私は……君とお話がしたい」
「だったら力づくで実行しやがれ、ホーリー野郎!」

 その拒絶の言葉は次には気持ち良い位に清々しく響いた。
 いいだろう、好みじゃないがそれが必要だと言うのなら……もう迷わない。
 郷に入れば郷に従え、それが此処のルールであり、自分が彼の憎むホーリー隊員でしかないのだとすれば、

「……分かったよ、それでいい」

 今はそれを目一杯に演じきろう。悪魔らしいやり方で、話を聞いてもらう機会を勝ち取る。
 自分が失ってしまった強さにも、それは通じるはずだから。
 だから―――

「おいで、反逆者(トリーズナー)。―――遊んであげる」

 その目一杯の不敵な宣戦布告に、カズマはそれこそ呆気にとられ一瞬ポカンとしながらも、すぐに言葉の意味を悟ると共に。

「上等だぁ、テメエぇぇぇえええええ!!」

 獰猛な笑みと共に、シェルブリットを纏った拳で襲い掛かった。

109魔法少女リリカルなのはs.CRY.ed ◆j1MRf1cSMw:2009/03/11(水) 21:57:57 ID:ooJj/na2

 なのはがその身を守るように周囲に無数に展開している桜色の光弾の数々。
 それが彼女のアルター能力、詳細は不明だがあの橘あすかの“エタニティエイト”と似た能力なのだろうか。
 なのはと初めて摸擬戦を行い対峙した瞬間、一見して劉鳳はそう思考した。
 そして皮肉にも、カズマもまたこの瞬間、彼女と対峙した時にそう考えた。
 宿敵同士、まったく関係ないところでも同様の考えへと至るその皮肉。

 ……ただし、その思考の次に選んだ行動はまったくの対極であったが。

 劉鳳はまずは相手の能力を把握すべくに、慎重に絶影に隙を見て襲撃を窺わせながらの待ちの姿勢を取り、

「衝撃のぉぉぉおおおおおおおおお―――」

 カズマは考えなしにとりあえず攻めるという姿勢を選んだ。
 近づいて殴る、それがカズマの攻撃方法であり何よりも譲れぬスタンスだ。
 どんな相手だろうが、それを変える心算は無い。
 だからこその先手必勝、先制攻撃を取ろうとしたのだが……

「……駄目だよ、それじゃあ隙だらけだよ」

 宙に跳び拳をこちらに構えてくる相手になのはは瞬時にその光弾を十発、相手に容赦なく叩き込む。
 確かにカズマの攻撃は強力だ。だが幾度の死線を潜り抜けてきた歴戦のエースオブエースである彼女からすればモーションの隙が大きすぎる。
 それではつるべ撃ちの格好の的でしかない。
 事実、桜色の光弾は次々と拳を振り上げようとしているカズマの全身に叩き込まれていく。
 それを回避も防御も出来ずに、カズマは為す術も無く直撃し続ける。
 ―――尤も、

「ファーストブリットォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

 どれ程撃ち込まれようともまるで問題にもしないという勢いで、そのまま突撃してくるのが“シェルブリット”のカズマの所以だったのだが。

 だがそれはなのはにとっても承知の上、先程の戦いでスバルがあれだけ打ち込んでも倒れなかったほどの驚嘆的タフネスさを誇る相手に錬度・精度を高める為に威力を搾ったシューターを十数発撃ち込もうとも倒れるはずがない。

(やるならバスター……それも取って置きの一発でも直撃させない限り彼は倒れない)

 それは理解している、だが直射型の砲撃魔法にはどうしても溜めがいる。
 いくらなんでもそれを許してくれる相手でもない。
 だからこそまずは―――

「―――レイジングハート!」
『―――Load Cartridge.』

 突撃してくるカズマの拳、それを受け止めるべくなのははプロテクション・パワードを発動。
 カートリッジを用いて上乗せした障壁の強度は見事にカズマの拳を受け切る。
「……しゃらくせぇッ!」
 カズマはそれを打ち破らんと先程までと同様に更に拳を押し込もうとしてくる。
 しかし、それになのはは、

「綱引きだけが戦いじゃないよ」

 そう告げると共に、フラッシュムーブを発動し一瞬で側面に移動。
 当然、ぶつかっていた対象を失い、勢いを殺しきれずにそのまま拳が空を切るカズマ。その表情にはいきなりの事態に驚愕が走っていた。
 だがそれは当然、なのはにとってはがら空きの致命的な隙でしかない。

110魔法少女リリカルなのはs.CRY.ed ◆j1MRf1cSMw:2009/03/11(水) 22:00:51 ID:ooJj/na2
 レイジングハートの照準をカズマに合わせ、瞬時に再び形成された数十の魔力弾が一斉に彼へと向かう。
『Accel Shooter.』
 デバイスから発せられたその音声の直後、全弾がカズマの身へと直撃する。
 流石に堪えたのか、呻き声を上げながら落下していくカズマだがこちらを振り向き睨むその眼は陰りを見せない苛烈なものだ。
 彼の憤慨が分からないわけでもない。こちらは平然と力比べに乗ると見せかけ一方的に放棄した。
 綺麗や汚い云々を戦いに持ち込むほど彼女はアマチュアではない。無論、自ら長所の比べあいを放棄した自身の選択を全面的に肯定するわけではないが。
 だが彼女はプロだ。プライドよりも重視すべきことがあり、勝ちを取りに行くための戦いに拘りなど持ち込みはしない。

「撃滅のぉぉぉおおおおおおおおおおおおおお―――」

 蹈鞴を踏みながらの着地直後、再びカズマは二枚目の羽根を爆発させての拳の一撃をこちらへと向けてくる。
 その姿勢は愚直とも言えるだろう。なのはの個人的な心情としては好ましくも感じる。
 けれど、これとそれは別。

「セカンドブリットォォォオオオオオオオオオオオオオ!!」

 叫びと同時、再び弾丸と化し向かってくるカズマの拳。
 シェルブリット……正にその名称通りに彼の拳は銃口から発射される弾丸と同じだ。
 だがそれ故に、その軌道はなのはたちが魔法で扱うような例外を除けば決定されているも同じ。

「つまりは直線……それが分かっているなら」

 回避はそう難しいことではない。
 事実、その指摘通りに迫る拳をなのははかわしてみせた。
 そして放たれた弾丸はそこで止まる事もできずにそのまま飛んでいくしかない。
 当然、ここでもなのははすれ違い様に再び形成した魔力弾の群れをカズマへと叩き込む。
 全て的確に、無駄なく、効率的になのはの攻撃は続いていく。
 まるでそれは傍から見ている者からすれば詰め将棋、一方的なワンサイドゲームでしかなかった。


「………ちょこまかちょこまか飛び回りやがって……ッ!」
 挙句に針で刺すみたいな手緩い攻撃を何度もぶつけてくるだけ。
「………そんなんじゃなぁ・・・何度ぶつけられたって……」
 倒れやしねえぞ、と叫ぼうと口を開きかけるもカズマはそれが出来なかった。
 その理由は簡単だ。今の彼の姿を見れば明らかとも言える。
「随分と、お疲れみたいだね」
 その相手の忌々しい指摘の通り、カズマは肩で息をして立っているも辛いと明らかに思わせるほどにふらふらだった。
 実際、手緩い攻撃であり何発喰らおうとも倒れない、そう豪語したカズマの意見は正しいようで間違ってもいた。
 確かに一撃一撃のシューターには彼を昏倒させるだけの威力は無い。
 だがそれを何十発も間髪入れずに喰らわされれば?……それはまた違ってくることになる。
 塵も積もれば山となる、などとも言われるがボクシングでもボディに喰らい続ければ疲労とダメージは無視できぬほどに蓄積される。
 ましてや彼女が扱うのは正に人を倒す目的を持って扱われる魔法だ。常人の拳の比ではない。
 そしてそれには非殺傷設定という効果も一役買っていた。
 時空管理局の魔導師にとって非殺傷設定の魔法とは決して手加減の事を指さない。
 むしろ直接的に魔力ダメージを内部に浸透させるソレは、暴徒鎮圧などの役割において充分過ぎるほどに効果を発揮する。
 簡単に人を昏倒させることだけを目的とするならば、むしろ非殺傷設定の方が容易であるのも確かだった。
 何よりも全力を込めても相手を死に至らせる危険性は限りなく減少させている。ソレは高町なのはなどの非殺傷設定を絶対に対人において解除しないという信念を持つ者からすれば気兼ねの必要も無くなることを意味する。
 故に彼女は容赦なく、手加減抜きで彼を相手に魔力弾を叩き込み続けた。
 なまじ頑丈さに自負があり、手緩い攻撃と防御を怠ったカズマ自身の選択も合わさり、遂に先の新人たちとの戦闘も合わせて無視できぬだけのダメージが蓄積されてしまったのだ。
 傍から見てもこの現状、もはや勝敗は明らかだった。
 故に―――

111魔法少女リリカルなのはs.CRY.ed ◆j1MRf1cSMw:2009/03/11(水) 22:02:13 ID:ooJj/na2

「そろそろ、お終いにしようか」

 ―――彼女もまた改めてそう告げてきた。


「……おいおい、圧倒的じゃねえか」
 その様子を君島邦彦は見ていられないと頭を抱えながらも、どうすることも出来ずに物陰に隠れて見ていることしかやはり出来なかった。
 カズマが派手に喧嘩をし始めたのは離れていても響いてくる振動や轟音から直ぐに察せられた。
 失望され、相棒の資格を失ったとはいえそれでもカズマを見捨てることなど君島には出来なかった。
 故に、恐る恐ると言った様子も露わに戦場へと足を運んだのだが……

 そこで見たのは、やはり絶望的な光景でしかなかった。

 空を飛ぶ白い服に杖を持った、自分たちよりも僅かばかり年上の女。
 充分に美人と評されて良いほどに見目麗しくも思えるが、君島にとって彼女は悪魔のようにしか映らなかった。
 それは恐らく戦っているカズマ当人の方が尚更にそう思えたことだろう。
 本土から来たアルター使い、十中八九それで間違いないその女はまるでカズマを子ども扱いでもするように圧倒していた。
 尽く果敢に繰り出すカズマの拳すら、彼女は嘲笑うかのように簡単に避けて自らの攻撃を次々と彼へと撃ち込んでいく。
 それも表情一つ変えることなく淡々としたように、だ。
 カズマを圧倒しているその光景とも相まり、それは君島からすれば正に悪魔の如き所業であり、強さだった。
 あんなものロストグラウンド中のアルター使いを集めてきたところで勝てるとは思えない。
 正直にそう思えるほど、君島はその白い悪魔に恐怖を覚えていた。

 ……それでも、それでもカズマなら。

 そう、一縷の望みを戦いを見守りながらも抱かずには、期待せざるをえなかったのだが、それすらも段々と絶望に変えられるだけだった。
 もう何十発、或いは百発近く撃ち込まれたのではなかろうか。それ程にボロボロなカズマの姿とは対照的に、女の姿は涼しいほどに無傷そのもの。
 それも当然か、君島が見る限りでもカズマの拳は一度たりともあの女には届いていなかったのだから。
 それでも、一撃でも拳が届きさえすればカズマならばそこから逆転してくれるはずだと、そんな希望をこの期に及んでも君島は持ち続けようとした。

 ―――無情にも、次の瞬間には冗談みたいなレーザー砲紛いの一撃にカズマが吹き飛ばされるまでは……

 そして、そこから再び立ち上がる様子を見せないカズマを見て、遂に君島の最後の希望は絶望へと変えられた。



 そろそろ頃合だ。
 仕留めにかかるには充分過ぎると見計らい、なのはは改めて降服勧告をカズマへと促がす。
 尤も返ってきたのは、

「………上等…だッ!……やれるもんなら、やって…みやがれッ!」

 不屈とも言って良いほどに変わらぬそんな反抗の姿勢だったが。
 反逆者、開戦前に相手を思わずそう呼んでいたが、この男は事実その言葉通りの男だった。
 決定的に倒されなければ……否、或いは倒されても、この男は絶対に折れない。
 それが交戦してみて改めてカズマに対して抱いた印象だった。
 それはある意味においても力強く、気高くさえも感じられる。
 ……正直、羨望を覚えないわけでもない。
 或いはそれは失くしてしまったものへの郷愁だったのかもしれない。
 かつては自分もこの眼前の男と同じような時期があった。ただ我武者羅に、自身の信念だけを迷わずに、真っ直ぐに貫こう。
 そうやって空を翔けようとした頃が確かにあった。

112魔法少女リリカルなのはs.CRY.ed ◆j1MRf1cSMw:2009/03/11(水) 22:04:06 ID:ooJj/na2
 でもそれはもはや今の彼女には無い。まだ残っているのかもしれないが、本人が思っているほどにあるわけではなく、それならば失くしてしまったのと同じだ。
 何故、それが無くなった?……そんなのは決まっている。

 ―――大人になったからだ。

 少なくとも、社会で生き適応できる身の振り方を身に付けた。
 出来る事と出来ない事を明確に線引きし、限界を定めた。
 諦めという物の分別もまた覚えたのはこの頃だ。
 手にできるモノと手から取りこぼせないモノを定めて、それだけは守り抜こうと固く誓った。
 自身の掌の大きさを自覚した……恐らくは言ってしまえばそういうことだ。
 それに後悔は無い……否、抱けないし抱いてはならない。
 それで手に入れたものがあった、それで守り抜いたものがあった。
 それらを否定する行為だけは、絶対にしてはならない。
 少なくとも、現在に幸せを感じているのだ。そしてそれを守り抜きたいのだ。
 ならばこそ、自分はそれで良いと思う。

 ―――でも、この男は違う。

 言ってしまえばこの男は自分勝手であり、それは我が儘だとそのまま表現できる。
 我慢を知らず、規律を守れず、調和を乱す。
 マイナス面が顕著とも言えるほどに、一見すれば言い方は悪いが……クズだ。

 それでも、少なくとも彼は自分に嘘を吐いていない。

 正直だ、渇望して、執着や奪取に躊躇いを見せない。
 そして諦めと言う行為すら絶対に受け入れず、立ち向かう。
 自身を抑え付けない、限界を定めない、抗うことを決して止めない。
 純然たるアウトローの生き方、決して褒められるものでもない。

 ―――けれどそこには、確かな輝きが存在した。

 その輝きは力強くて眩しくて、自分では決して手に入れられないものだとはっきりと自覚させられる。
 だからこそ、きっとこんなにも惹かれてしまうのだろう。
 羨ましい、それを正直に認めてしまうことが出来る。
 でもそれでも―――

「―――それでも、私と君はやっぱり違うから」

 親近感を抱き、憧れるものを持っている。
 それでも自分たちは生き方も生きるべき場所も違う。
 譲れない、目指すべき場所が悲しいほどに異なる。
 だから―――今は倒す必要がある。
 その後に改めて、歩み寄れる限界ギリギリの部分まで見極めるために話し合おう。
 そのお話を聞いてもらうために、これしかないのなら。
 私は躊躇わずに、悪魔らしいやり方でも君を倒す。

 その決意と共に、なのははレイジングハートを眼下のカズマへと向けカートリッジロード。
 決定的な敗北を相手に与えるために、敢えて彼女は彼へと告げる。

「此処からは小細工なし……お互い、全力全開の比べあいだよ」

 言うなれば挑戦状、真っ直ぐ逃げずにかかって来いと相手のプライドを逆手に取った退路を断つためのそれは布石。
 そして今までのこの相手の言動を見る限り、その性格上必ず―――

「いいぜ! やってやろうじゃねえか!」

 ―――その誘いに乗った。
 カズマは了承の叫びを挙げると同時に拳を構える。

113魔法少女リリカルなのはs.CRY.ed ◆j1MRf1cSMw:2009/03/11(水) 22:06:26 ID:ooJj/na2
 その拳を必ずに弾丸と化してこちらへと撃ち込む為に。
 だがそれは彼女もまた同じ。無敵を誇る、誇りとも呼べる砲撃を持ってそれを迎え撃つためにこれまでやってきたのだ。
 だからこその、此処から先は真っ向勝負ッ!

「抹殺のぉぉぉおおおおおおおおおお―――」
「ディバィィィィィィィィィィィン――――」

 最後の羽根が砕け、カズマの渾身の拳が爆発を伴いながら弾丸と化してなのはを強襲する。
 飛んでくるカズマ、自ら射線に突っ込んでくる相手に躊躇い無く彼女は最強の魔砲を解き放つ。

「ラストブリットォォォオオオオオオオオオオオオオ!!」
「バスタァァァアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 弾丸と化したカズマを拳どころか丸ごと、桜色の奔流は包み込む。
 それを突っ切り、必死に届かせようと拳を相手に向かって突き上げ続けるカズマ。
 だが遂に―――

 ―――反逆の拳は不屈の魔砲に吹き飛ばされた。


 轟音と共にかなり距離の離れた岩まで吹き飛ばされ、叩きつけられたカズマを確認して漸く彼女は己の勝利を確信した。
 傍から見れば彼女はノーダメージ、一見すればこの結果は完勝だ。
 しかし本人からしてみれば、辛勝もいいところだった。
 実際、上手くいったから良い様なものの事実は綱渡りも良いところだった。
 正直に言って二人の間の力量はそれ程かけ離れたものではない。
 むしろ現状ならば、カズマはなのはを僅かばかりほど上回っていたはずだ。
 何故なら彼はエクセリオンモードを解放したスバルを相手に真正面から打ち負かしていたのだから。
 リミッターを課せられている高町なのはと、エクセリオンモードを解放したスバル・ナカジマ。
 この状態の両者ならば、力において上回るのは後者のスバルだ。
 なのは自身、それは正直に認めているところではあるし、スバルがなのはを打ち破れる可能性もまた高い。
 ならばそんな状態のスバルを倒して見せたカズマに、何故リミッターを付けたままのなのはがこうまで一方的な展開を見せ付けることができたか。
 そこは間違いなく、地力の差だった。
 本来ならば幼少時より弱肉強食のこの無法の大地で生き抜いてきたカズマの経験は常人の比ではない。
 だが十年もの歳月を過酷な様々な戦場、それも最前線で戦い抜いてきた高町なのはの経験は決してソレに劣るものでは無い。
 たかが小娘の十年、そう侮るなかれ。
 エースオブエース、無敵や不屈と称されるその経歴は決して伊達ではない。
 最前線の戦闘経験、そして自他共に含める最高峰の鍛錬、その双璧の壁の厚さは、持つ抽斗の多さはそう簡単に他の追随を許さない。
 だからこそ彼女は終始相手にペースを握らせない、土俵では戦わせない搦め手に徹した。
 プライドを押し殺し真正面からの戦闘を避け続け、ヒットアンドアウェイを繰り返す。
 そして蓄積され、無視できぬだけの疲労が溜まったのを確認してから、相手の退路を断ったチェックメイトを掛ける。
 多種多様な能力性を持ちながらも、個人のもの自体は単一性の能力であるアルターと、状況によって切り分けのきく多様性の魔法という相性の良さもあった。
 それら全てを踏まえての実践しきってみせた逃げ切り、この結果は正にそう言えた。
 だが例えどうだろうとも、

「……私の勝ちだよ、カズマ君」

 これで漸くにお話を聞いてもらえる。
 今の彼女が確信を持って考えていたのはそれだけだった。

 だが―――

114魔法少女リリカルなのはs.CRY.ed ◆j1MRf1cSMw:2009/03/11(水) 22:07:55 ID:ooJj/na2

 まったくもってボコボコだ。
 一方的に嬲られて、一発もこっちは相手を殴れない。
 ストレスが溜まる以上に、訳がわかんねえ。
 コイツは何だ? 悪魔か何かか?
 ……屈辱? ああ、その通りだ。こりゃあどう考えてもかつてない屈辱だ。
 これと同じほどのモノを味わったのはいつだ?……んなの、決まってる!

 ―――劉鳳、あのクソムカつくホーリー野郎に初めて負けた時だ。

 負け知らずだったこっちを一方的にボコりまくって、こっちのチンケなプライドをズタズタにしてくれた。
 挙句の果てには、俺なんて眼中に無いともきやがった。
 ふざけんじゃねえぞ、この“シェルブリット”のカズマを舐めんじゃねえ!
 テメエが俺を眼中にも入れるつもりが無えってんなら、俺が無理矢理にでも入ってやるだけだ!
 無視できないように、その胸に名を刻ませてやるだけだ!
 プライドをズタズタにされて、ボコボコにされたままのやられっぱなしで誰が終わるかってんだ!

 ……それはなぁ、本土のアルター使いさんよぉ……テメエも同じだ!

 借りは返す、それも倍返しのオマケ付きで、だ!
 やりたい放題やりやがって、ずっとテメエのターンってか?
 ……ハッ、ざけんなよ! 今度はこっちの番だ!
 もう容赦しねえ、ぶち切れたぞ、躊躇わねえぞ。
 テメエだけは許さねえ、ボコる、徹底的にボコる。
 だからこそな、そうやっていつまでも上から―――

 ―――勝ち誇って見下してんじゃねえよ!


 瞬間、ゾクリと背を走る悪寒をなのはは確かに感じた。
 そしてそれを直感的に悟り、ありえないと思いながらもそれでも目の前の現実がそれを否定していた。
 吹き飛ばした、確かに立ち上がれないほどの決定打を決めた心算だ。
 いくらなんでも驚異的なタフネスを誇ろうとも、それを立ち上がるのならもはや人間ではない。

 だというのに、あの男は立ち上がってみせた。

 それこそフラフラ、意識が有るのかどうかも一瞥しただけでは判断できない。
 体中がボロボロで、右腕を覆うアルターも既に砕けている。
 満身創痍などと言う言葉すら生温い、彼はもはや死に体に等しい。
 戦闘など出来るはずも無く、ましてやこちらを打倒することなど不可能な所業のはずだ。
 それでも気圧された。歴戦のエースオブエースであるはずの彼女は確かに彼を見た瞬間に恐怖を覚えた。

「………どうした…よ……?………まだ…終わっちゃ…いねえ…ぜ……」

 やがて不敵に、目一杯不敵に笑いながらこちらを見上げてカズマはそう言ってきた。
 それは正しく、戦闘続行の意思表示。決して自分はまだ敗北していないのだと言う明確な反逆だ。
 なのはは戸惑う、相手がとても余力が残った状態とも思えなければ、それで自分に勝てるとも思わない。
 けれどもこちらもまた、あの男を倒せない。例えもう一度バスターを撃ち込んでも、きっと男は立ち上がる。
 非殺傷設定の魔法と言えど、これ以上の過剰ダメージは相手をショック死に陥れかねない危険性がある。
 人命を奪う心算の無い彼女には、これ以上の彼への攻撃は恐怖を覚えると共に、どうしても躊躇われたものだった。
 けれどそれも所詮は彼女の側の都合。
 相手は―――カズマはそんな事情など知ったことではない。

「手加減抜き……つったよな? だったら―――」

 ―――こっちも此処から先は全力全開だ!

115魔法少女リリカルなのはs.CRY.ed ◆j1MRf1cSMw:2009/03/11(水) 22:09:34 ID:ooJj/na2
 そう叫ぶと同時、天を掴むが如く右腕を突き出すカズマ。
 再構成……否、これは更にその先の力。
 先程、エクセリオンモードのスバル・ナカジマを倒したあの黄金の輝き。

 なのはたちで言うならばリミッター解除に該当する行為。
 どう見ても体に限界以上の負担を強いているはずのアレを今の状態で解き放つなど自殺行為もいい所だ。
 黄金の輝きに目を眩ませられながら、それでもなのはは相手に制止を呼びかける。
 自身の保身の為ではなく、彼の体の為を思っての行為だった。
 だがそれを聞き入れるはずが、カズマにあるはずがないのも事実。
 輝きが集束していく。それと共に、更なる進化を果たして顕現する彼のシェルブリット。
 閉じていた右目を開け、両目で真っ直ぐにこちらを定めながら、遂に黄金の拳が解き放たれようとしていた。

「シェルブリットォォォオオオオオオオオオオオオオオオオ―――」

 本能で身の危険、そして何よりも背後に護衛すべきトレーラーがある事を察したなのはは、自身に退路が無い事をハッとして悟った。
 だからこそ呆けている暇など無かった。取れる選択肢はもはや一つだけ、迎撃と言う道しか残っていない。
 だがリミッター解除も今更間に合わず、今の状態の砲撃で先程の比ではない事が明らかな一撃を破れるか?

 出来る出来ないではない、やるしかないのだ。

 瞬時にそう腹を括った彼女はレイジングハートに命じ、ありったけのカートリッジのロードを行う。
 現状分の魔力をカートリッジを大量に用いての無理矢理の底上げ。……正直、限界越えの蛮行に等しい過負荷超過もいい所だ。
 だが今はこれしかない、この方法でしか対抗できない。
 だから躊躇っている暇は無い。

「ディバィィィィィィィィィィィィィィィィィィン―――」

 来るなら来い、こちらも既に腹を決めた。
 何度でも立ち上がり、何度でも向かってくると言うのなら。
 そこまでこちらとの対話を拒絶しようと言うのなら―――

 ―――こちらも意地でも譲らない。必ずお話を聞かせてもらう。

 だからこそのこれは、互いに退けぬ意地の張り合い。
 高町なのはとカズマとの、一対一の戦いであり、思いのぶつけ合いだ。
 そしてそれならば―――絶対に負ける心算は無い。


 反逆の拳と不屈の魔砲。
 一度目は決着が付いたその勝負、だが今度こそ絶対にケリを付ける為の第二ラウンド。

 ……否、最終ラウンド!

「バァァァアアアアアアアアアアアアストォォォオオオオオオオオオオオオ!!」
「バスタァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 黄金の輝きの拳が一直線、しかし回避も防御も許さぬ勢いでなのはに向かう。
 だが生憎となのははそのどちらの選択も取らない、当然だ。自分は勝ちを拾いに行くのだ。逃げに徹してどうする。
 だからこその迎撃、だからこその返答。
 カズマの拳が相手を撃ち抜く弾丸だというのなら、それも良いだろう。
 こちらは更にその上を行く、正真正銘の無敵の砲撃で迎え撃つ、ただそれだけだ。
 自身の代名詞とも言える、十年間ずっと武器として鍛え上げてきた。

 彼が誇る拳と同様に、自分が唯一誇れるその長所。

 その全力全開の桜色の砲撃がカズマに直撃、彼を飲み込んでいく。
 だが黄金の輝きは今度こそその輝きを翳らすことなく、どんどんとこちらに向かって迫ってくる。

116魔法少女リリカルなのはs.CRY.ed ◆j1MRf1cSMw:2009/03/11(水) 22:11:14 ID:ooJj/na2
 なのはは更に魔力を砲撃に注ぎ込み続ける。
 後など無い、考えない、今を勝ち取るために死力を尽くす。
 桜色の奔流はそれによって勢いを増し、飲み込むカズマは押し返そうと勢いを増す。
 カズマもそれには顔を顰め、苦しげに押し返され始める。
 だがまだだ、まだ終わっちゃいない。これくらいでは終われない。
 テメエのその砲撃が無敵だって言うんなら―――

 ―――俺はその無敵に反逆してやる!

 だからこそ、もっとだ! もっと、もっと、もっと、もっともっともっともっと―――

「―――もっと輝けぇぇぇえええええええええええええええええええええ!!」

 咆哮と同時、シェルブリットの回転する黄金の輝きは、その桜色の奔流すら凌駕し始める。
 限界などとうに超えている。だからこそ、ブレーキなど存在しない。
 ギアは常にフルスロット、焼き切れるまで回し続ける。
 あのクソムカつく女、アイツに意地でも一発叩き込むまで、誰が終わってたまるか!
 だからこそ、もっと輝け、そして突き進め。
 アイツを、あの女を、目の前の強大な壁を―――

 ―――突き破れッ!!

 黄金と桜色、二つの輝きの激突。
 両者共に退けぬ意地を、限界を超えてのぶつかり合い。
 切ったカードは正しく鬼札。手持ちで唯一無二の最強カード。
 そのどちらともに絶対の信を置いていただけに、負ける事は許されない。
 等しく拮抗を続け、押し破らんと侵攻する二つの力。
 拳と魔砲、対極にありながらそれでもどこか似たその両者の攻撃。
 反逆と無敵を代表するその両者の激突、それを制したのは―――

「―――ッ!?」
 驚愕に歪み、目を見開いたのは高町なのは。
 無敵を誇った最強の桜色の奔流、それを遂に突き破り黄金の輝きが目前へと迫ってきたからだ。

「なのはさんッ!?」

 それが誰の声だったか、部下たちの内の誰かなのだろうがこの瞬間には判別できない。
 そんな余裕が無かった、それ程に驚異的なその黄金の拳が目の前に迫っていたからだ。
 直撃すれば撃墜、それだけはまず間違いない。
 だからこそ、それだけは避ける必要がある。
 とはいえ、この軌道、このタイミング、この速度。
 全てが回避不能だと言うことをなのは本人にも確信させた。
 だがだからといって諦めない、諦めてなどたまるものか。

「俺の……勝ちだぁぁぁああああああああああああああッ!」

 迫る黄金の拳、勝ち鬨を同時に挙げる相手。
 だが―――

「まだだよ、まだ」

 ―――終わってなどいない。

 そのなのはの言葉と同時、カズマの拳が遂になのはの白いバリアジャケットの表面に触れ―――

「―――なっ!?」

 ―――瞬間、彼女を保護するバリアジャケットの上衣が爆発する。
 リアクティブパージ、バリアジャケットの表面を瞬間的に自ら爆破させることで防御を行う一度限りの切り札。
 だがそのカズマにとっての予想外の爆発、そして威力はカズマの拳の軌道を逸らすには充分なものだった。

117魔法少女リリカルなのはs.CRY.ed ◆j1MRf1cSMw:2009/03/11(水) 22:13:21 ID:ooJj/na2
 そしてなのは自身も衝撃に吹き飛ばされはしたが、直撃の結末だけは回避する。
 だが―――

 誤算があったとしたら、それはそれでも彼の拳が止まらなかったこと。
 そして突っ込んでいく軌道の先にあるものだった。
 そう、カズマが突っ込む先に待ち構えているのは彼女たちにとっては護衛対象である物資を積んだトレーラーだった。
 流石に直撃を避けるために必死だったなのはは、その瞬間背後の存在を忘れてしまい、その配慮を怠った。
 結果、カズマの拳はそのままトレーラーへと突っ込み、車両側面に風穴を開けてしまった。
 それは完全にトレーラーを相手に半壊させてしまった結果でしかなかった。


 外した、必殺必倒のタイミングで放ったはずの、今までで文句なく最強と思われた一撃。
 喰らわせれば勝てる、その確信が有ったからこそあの桜色の奔流を突っ切った瞬間に勝ち鬨の叫びを上げたのだ。
 だが結果はどうだ、思いもしなかった予想外の相手の隠し玉で拳の軌道は逸らされて、ぶっ飛ばせたのはトレーラーが一台のみ。
 当初の目的ならそれは成功と言える結果ではあるが、なのはを倒すことしかもはや頭にないカズマには失敗以外の何ものでもない。
 だがだからとはいえ、そこで諦めるという選択を当然の如く選ばないのが反逆者だ。
 故にこそ、外したのならもう一発。今度こそ間違いなく避けえない一撃を相手に叩き込む。
 その意志とともに炎上するトレーラーから拳を引き抜き、再び相手へとその拳を構えようとしたその時だった。

「―――ぐぅっ!?……クソがぁっ……!」

 こんな時に、今までの限界越えの反動が一気に体へと降りかかってきて、もはやアルターを維持するどころか、立っていることすらままならなくなる。
「……畜生…ッ…もうちょっとだってのに……ッ!」
 あと少し、もう一発であの気に食わない相手を倒せるのだ。だというのにどうしてこの体は、右腕は言う事を聞かない。
 それどころか直ぐにでももはや意識を失い倒れてもおかしくない疲労まで襲い掛かってくる。間が悪いどころの騒ぎではない。
 これ程の屈辱、これ程の無念、或いはあの宿敵である劉鳳との戦いに無粋な横槍を入れられる以上に納得できない。
 なんとか体を叱咤させ、疲労に鞭打ち反逆の姿勢を崩しはしないが、それでももう限界だった。
 先程はあんなに限界を必死になって二度も超えたというのに今回ばかりは無理だなどとはあまりにも皮肉すぎるとも思えた。
 だがこればかりはもはやどうすることも出来ない。故にこそ、力を出し切った結果として遂にカズマの体が大地に倒れようとしたその時だった。

「カズマぁぁぁあああああああああああ!」

 聞きなれた、それこそ腐れ縁であり身近とも言える男の声が聞こえてきた。


 やりやがった。……アイツは、カズマは本当にやりやがった。
 もう無理だと思った。いくら何でももう立ち上がれない。
 相棒は、カズマは敗北した。
 先の魔砲に吹き飛ばされた結果を見て、君島はその絶望を遂に受け入れかけた。
 彼にとってもそれは屈辱、無念以外の何ものでもない。
 結局は相棒に荒事は任せ切りの他力本願。それを自覚しているからこそ、自分は小賢しかろうとも相棒の足りない部分を補える役回りを引き受けようと思っていた。
 例え自分にアルター能力がなかろうとも、相棒には強力なアルターがある。だから自分は相棒を勝たせられるお膳立てを作れれば、それは立派な戦いだ。
 君島は自身のその考えを疑っても恥じてもいない。何故なら自分たちはコンビであり、二人で戦い続けてきたのだから。
 だからこそカズマの勝利は君島の勝利であり、その逆もまた然りだった。
 ずっとそうやって自分たちはやってきた。
 だというのに、この様は何だ?

118魔法少女リリカルなのはs.CRY.ed ◆j1MRf1cSMw:2009/03/11(水) 22:14:50 ID:ooJj/na2
 相棒だと一蓮托生だとコンビだと、都合の良い事を散々言ってきて、一度状況が悪くなりびびれば、もう自分は関係ないと途中下車。

 ……違うだろう、そうじゃねえだろ?

 確かに自分は臆病だ、腕っ節もからきしでアルターも持っていない。
 頭が回ろうと、口が上手かろうと、所詮は学も教養もないただのチンピラだ。
 それでも、そんな自分でも誇りを持っていたことが一つだけあったはずだ。
 それはあの馬鹿な考え無し、ついでに同居してる女の子を満足に養えない甲斐性無しのロクデナシ、そしてクズとも言える男。
 そんなどうしようもないにも関わらず、それでも折れず曲がらず退かない、不退転の意地を背負った本物の男であるアイツ……カズマと組んで戦っていることだ。
 それだけが君島にとって、誰にも恥じることなく誇れたことだったはずだ。
 アイツの足手まといではなく、肩を並べて歩ける相棒であるその資格こそが君島邦彦にとっての全てではなかったのか?

 それを捨てちまって、アイツ一人に全て任せて投げ出しちまってそれで何が残る?

「……残らねえ……何も……」
 残るものなどあるはずがない、それが当たり前だったはずだ。
 なのにそれなら、俺は此処で何をやっている。ビビッて震えて隠れて、解説役の傍観者になりきって勝手に期待して勝手に絶望して―――

 情けねえ、それでも男の子かってんだ!?

 まだやれることがあるだろう。自分に出来ることがあるはずだ。
 資格を失おうとも、弱い臆病者だろうとも、それでもやらなきゃならねえことがある。
 相棒を……ダチを助けられなくて、何が男だ。
 だからこそ命懸けでも、怖かろうとも殺されようとも直ぐにでも飛び出してカズマを助けに行く。
 それが君島邦彦がしなければならない戦いだ。
 そう決死行を覚悟したそれと同時、カズマは再び立ち上がった。
 そして今までに見たこともないほどの強大な力で、先の破れた魔砲すらも今度は打ち破ってみせた。
 君島はそのカズマの輝きに、功績に魅せられていた。
 だが直ぐにハッとなり、此処から見ていても分かるほどに、もはや力尽き倒れようとしているカズマを確認すると、車を飛ばして助けへと急行する。
 相棒のその名前を叫びながら。


 周囲への確認を怠っていたのは今更ながらに気づいた致命的なミスだった。
 結果、突如乱入してきたジープの運転手は倒れたカズマを車に乗せると瞬く間にこの場から離脱を図ろうとしていた。
 スバルは気絶中、他の三人は逃亡を阻止すべく動きかけるもトレーラーに乗っている運転手の救助と言う人命優先を覆すことは出来ない。
 そしてなのはもまた先の二度の全力の砲撃、過負荷超過のカートリッジロードの反動は魔法を扱うことすら無理なのが現状。
 故に乱入者と反逆者を乗せたジープは悠々とこちらの追撃を振り切り、結果的に逃亡を成功させた。
 護衛目的であるトレーラーは半壊、襲撃者も取り逃がす、この結果は正に・・・・・・

「……大失態、だね」

 部下たちはベストを尽くした、それは間違いない。
 ならばこの結果は自分にあるのだろう、もう見えなくなり始めたジープの姿を見送りながらなのははその結果を苦々しくも認めるしかなかった。
 結局、最後まで話し合う機会を勝ち取れなかった。その最大の無念も共に抱きながら……。



 結論から言えばマーティン・ジグマールからは咎めの一つすら無かった。
 それどころか彼はこの結果をむしろ予想以上に素晴らしいものだと褒め称えた。
 相手のその予想外の反応に一瞬こそなのはは驚けど、しかし直ぐにこの流れのからくりを察することが出来た。
 何てことはない、これは要するに―――

119魔法少女リリカルなのはs.CRY.ed ◆j1MRf1cSMw:2009/03/11(水) 22:16:16 ID:ooJj/na2

「私たちを試したんですね?」

 なのはのその問いに、ジグマールもまた隠すことなくその通りだと肯定の頷きを示した。
 薄々予想できていたことだっただけに、それ程に彼女は腹立たしさを感じることは無かった。
 当然だろう、ほぼ予想されていたこちらの経路と相手の襲撃。
 トレーラーに積まれていた物資が最低限の物しか無かったという事実。
 任務に就いた人員の構成とその人数。
 何よりも自分たちの素性と相手の正体。
 それはつまり、

「最初からジグマール隊長は私たち六課と彼が衝突するように、この任務を用意していたんですね」

 全ての結果がその答を示しているではないか。


 ジグマールにとってカズマというアルター能力者は、彼が知る数少ない『向こう側の世界』とこちらを繋ぐ大変に興味深い存在だった。
 彼は自身の目的の為にそういった人材を欲していた、だがあの男は飼い慣らせる存在ではない。
 むしろ逆、反抗を止める事ない反逆者。明確な敵だ。
 だが彼の力は劉鳳と同レベルの潜在能力を秘めた可能性に満ちたもの、必ずいずれはどんな手を使ってでも手に入れる。
 だが劉鳳以上にまだカズマはジグマールの想定するレベルには至っていない。力は目覚めへと至っていない。
 だからこそ、彼の力を目覚めさせ、引き出す必要がある。
 それに最適だったのは自身の部隊のホーリー隊員たちと戦わせることであった。
 だがその求めるには至らぬレベルであろうとも、一般のホーリー隊員たちではもはや敵うレベルを超えた力をカズマは持っていた。
 これ以上にカズマの力を引き出すには、もはや劉鳳と戦わせる他に方法が無かった。
 だがそれはジグマールが危惧する、貴重な存在である両者共に潰し合うという恐れにもなりかねない。
 そんな時だったのだ、この機動六課という異世界の組織の能力者たちがこのロストグラウンドへと舞い降りたのは。
 魔法というアルターとは異なる未知の能力、そしてソレを扱う者の劉鳳にすら劣らぬ実力。
 ジグマールにとって彼女たちはうってつけの人材だったのだ。

 そうして彼が仕組んだ思惑通りに……否、それ以上の結果を彼女たちとカズマの戦いは示してくれた。
 イーリィヤンの“絶対知覚”による監視を通して、カズマが『向こう側』の力の一端を引き出す成果が確認されたのだから、ジグマールにとってそれは喜ぶべきことだった。
 本音を語れば、それを引き出してくれたなのはたちの健闘には感謝してもし足りぬほどだ。
 尤も、それが六課からすれば良い面の皮の扱いを受けたに等しいこともまた承知してのことであったが。
 その思惑の全てを把握できずとも、なのはにもまたそれを察することはできた。
 言ってみれば茶番、任務とはいえ部下を危険に晒され一方的に利用されただけに等しい扱いに怒りや不満を覚えないわけでは無い。
 だが食わせ者と当初から警戒していた以上、これぐらいの扱いは受ける可能性があること自体は承知の上だった。
 最初からそもそも管理局と本土の間には、そして六課とホーリーの間には利用し合う打算関係は織り込まれ済みだ。
 感情に任せた糾弾に身を任せるほどに彼女とてもはや向こう見ずとはいられない。
 こちらにも知り得たものが多かった結果がある以上、ギブアンドテイクの元にこの成果を互いに黙認しあうことこそが、大人が取るべき選択だ。
 充分になのはとてそれは分かっている。だからこそ此処では短絡的な感情に任せた態度だけは取らなかった。

(……でも君なら、きっと違うんだろうね)

 先程死闘を演じた相手……カズマの姿が脳裏へと浮かび、思わずそんな風に思ってしまった。
 もし彼が自分の立場なら、きっと怒りと言う感情に任せてジグマールへと殴りかかっているはずだ。
 まったくもって実に羨ましい、それだけはこの瞬間に正直に思った高町なのはのカズマという男への羨望だった。

120魔法少女リリカルなのはs.CRY.ed ◆j1MRf1cSMw:2009/03/11(水) 22:17:48 ID:ooJj/na2
 そしてそんな彼女の思いなど知らぬ当人は、トレーラーへと襲撃をかける前以上に苛立っていた。
 当然だろう、上等な喧嘩だったのは確かだが、結局は相手を殴り損ねた。
 負けた心算など断じてないが、終わってみればこっちはボコボコにされたのにあの女は一発もこちらの拳を貰っていない。
 ダメージの総量から言えば勝ち逃げされたのに等しい。

「……あの女、次会ったら絶対に容赦しねえ」

 最低でも一発、あの不敵な面にぶち込まないことには収まりがつきそうに無い。
 フェミニズムなど欠片も持ち合わせぬこの男にとっては、もはやそれは躊躇いすらも抱かせない決定事項の如く決まっていた。
 間違いなく、この瞬間からあの名前も知らぬ女は劉鳳と並ぶ絶対に相容れぬ敵とカズマは認識していた。
 まぁ、それも今は置いておくとして……

「おい、君島」

 帰路に着く車の中、相棒に名を呼ばれ君島はビクリと反応した。
 直前であんな別れをした後に、余計とは思わないが結果的に彼を助けるために横槍を入れた。
 目に見えて不機嫌、苛立ちのボルテージがかつてないほど高まっているであろう今のカズマだ。こちらに余計な事をしやがってとでも八つ当たりじみた怒りをぶつけられかねない。
 ……まぁ、それもいいさ。今回は寸前で腑抜けちまったこちらも悪い。カズマを助けたことも後悔していないし、先の覚悟していた一発も結局殴られてはいない。
 だからこそ、今回くらいは甘んじて受けてやろう。それもまた相棒の務めと覚悟した時だった。

「んでどうなんだ、まだテメエのやってる事に後悔や迷いはあるのかよ?」

 それは予想外だったカズマからの問いだった。
 君島はそれに思わず驚きながら助手席の相棒へと視線を向けていた。
 カズマは疲れたのか、ぐったりと背をシートに預けながら目を瞑ったままだった。
 その横顔からは、彼が何を思っているかは君島にもはっきりとは分からない。
 ただ呆然と沈黙したまま、君島は相棒の横顔を見ていた後、やがて―――

「そんな余裕、もう無くしちまったよ」

 ―――視線を再び前へと戻しながら、君島は静かにそう答えた。

 後悔することも迷うことも人間なら誰だってすることだ。
 事実、君島だって自分の人生を振り返ってみてもその連続であったことは間違いない。
 正直、カズマがあの本土のアルター使いと戦っていた最中までだってそうだったのだ。
 けれど、先程の激闘の最後に相棒はとんでもない奇蹟を見せてくれた。
 或いは、あれは君島にとっては希望だったのかもしれない。
 だからこそ、助けに飛び出す頃には腹を括れた。
 この男に付いて行く、この男と戦っていくというのならそれで精一杯。
 うじうじと悩んだり悔いたり、ましてや迷うなどと言う余裕を抱く暇などない。
 要するに、覚悟を決めたということだ。
 そして覚悟を決めた以上は―――

「―――今はただ目の前の壁を乗り越える、それしかねえ。……だろ?」

 ニヤリと不敵な笑みを浮かべながら、君島はカズマに向かってそう言った。
 そしてソレを聞いたカズマが浮かべていた表情もまた、自分と同じものであった。
 腐れ縁から続く気づけば長い協力関係だが、これほど心底気が合って笑い合うことが出来たのは、或いはこの瞬間が初めてかもしれなかった。
 凱旋とはとても言えない帰路の途で、それでも二人は久しぶりに愉快に笑いあうことが出来ていた。



 由詑かなみがカズマの帰宅を知ったのは、表に君島の車が停まった音がしてカズマが車から降りながら君島へと別れを告げている声が聞こえたからだった。
 今日もカズマは一緒に働きに出かける約束を破り、また君島と一緒に何処かへと出かけていた。

121魔法少女リリカルなのはs.CRY.ed ◆j1MRf1cSMw:2009/03/11(水) 22:19:04 ID:ooJj/na2
 かなみはカズマが外で何をしているのか、その詳しい事を知らない。訊いてもカズマ自身が話してはくれないという理由もあった。
 それでも君島と一緒に何か仕事をしているようではあるようで、少ないがお金を稼いで帰ってくることがある。
 尤も、それも米と野菜を買い溜めてしまえば幾ばくも残らない額だが。
 はっきり言ってしまえば自分たちの生活は火の車であり、決して余裕のあるものでもない。
 カズマの稼ぎだけでは暮らしていけないからこそ、かなみもまた牧場の手伝いをして働いているのだ。むしろ、カズマの不定期の稼ぎよりも余程彼女の方が貢献しているとさえ言える実情だ。
 甲斐性無しのロクデナシ、と偶に不満を揶揄するように彼に向かって言うが彼が反論せずにそれを受け入れるのはこの現実を認めているからでもあるようだ。
 そうならばちゃんと働いて欲しい、それがかなみがカズマに持つ要望だったが、カズマはこれを殆ど守ってくれない。
 仕事場に連れて行くことに成功しても目を離せば逃げられる、かなみが大人たちに申し訳なく何度も謝っていることを彼は知ってもいないことだろう。
 そうしてマトモに働いてくれないカズマは君島と一緒に何かをしている。その何かが分からず、危ない事をしているのではなかろうかと彼女はいつも心配していた。
 かなみからすればお金云々はハッキリ言ってしまえば二の次、彼女が何よりも望んでいるのはこの生活が安心して平和にいつまでも続けられることである。
 カズマが無事に傍に居てくれるなら、それで自分の願いは殆ど叶っている。彼女は別に裕福になることなど望んでいないのだし、今がずっと続いてくれるならそれで満足だ。
 だが此処は無法の大地であるロストグラウンド、ネイティブアルターやホールドの脅威にいつ曝されても可笑しくは無い、そんな場所だ。
 かなみにとってはだからこそ不安だった、いつかカズマがこれらの争いに巻き込まれて自分の元を去っていくのではなかろうか、と……。
 だからこそ―――

「おう、今帰ったぞ。かなみ」

 そう言って帰ってきたカズマへとそんな不安は杞憂だと思いながら、微笑みかけてこの言葉を言わなければならないのだ。

「うん、お帰りなさい。カズくん」



 一つだけ、どうしても分からずに引っかかっていた疑問が漸くに氷解した。
 帰りを待つ少女の元へと帰り、彼女のいつも通りの笑みと言葉を聞き、それで分かった。
「……かなみ」
 少女の名を呼ぶ、それに彼女は不思議そうに首を傾げながら、
「なに、どうかしたの……カズくん?」
 こちらの態度に不審か不安を感じたのだろう、表情と声に滲み出ていた。
「……いいや、何でもねえさ」
 だが少女にそんな顔をさせるわけにはいかず、カズマは何事もないようにそう答えながらかなみの頭に手を伸ばして頭を撫でた。
 慣れない行為に思っていた以上に手に力が込められてしまっていたのか、彼女の髪を結果的にクシャクシャにしてしまい、リボンも曲がってしまった。
「ああ、酷いよカズくん!」
 当然かなみからすれば不満そのものだったようで、逆に泣きそうな顔をされて怒られてしまった。
「……あ、いや…ワリい、すまねえ、許せ」
 そう言いながらいつものように必死に結局は謝った。踏んだり蹴ったりの出来事ばかりの今日だったが、最後のコレが一番堪えた気がしてならなかった。

(……にしても、何か引っかかると思ってみれば)

 何故あの女に自分は訳もなくあんなにも苛立ちを感じてしまっていたのか。
 言葉を交わす度に不機嫌となってしまったのか。
 ……何てことは無い、気づきさえすれば至極尤もなことだ。

(あの女の声、かなみにそっくりだったじゃねえか)

 ならば苛立つのもまた当然だ。

122魔法少女リリカルなのはs.CRY.ed ◆j1MRf1cSMw:2009/03/11(水) 22:20:32 ID:ooJj/na2
 それはカズマにとってかなみの存在が憎いからでは無い。むしろその逆の存在であるからだ。
 由詑かなみという少女はカズマにとって貴重な守るべき存在なのだ。
 甲斐性無しのロクデナシ、ついでにクズも加えていい自分がそれでも生きている日常の象徴とも呼べる存在。
 決して、アルター使い“シェルブリット”のカズマの戦いの中にだけはいてはならない存在。
 そうであるはずの少女、まるでそんな彼女が戦場に居て、そして自分の敵である事を無意識に思わせてしまう声をあの女はしていたのだ。
 実にこちらの一方的な都合だが、それを容認できるカズマではない。

(……あの女とはやっぱ尚更、次でケリ付けなきゃならねえらしいな)

 “シェルブリット”のカズマの戦いの中には、由詑かなみを連想させるような存在は認めてはならない。
 だからこそ、あの女の声はもう戦いの中では聞きたくない。
 だからこその改めての固い決意だった。


「……カズくん?」
 やはり今日の彼の様子はどこか変だ。正直、少し怖いとすら思ったくらいだ。
 君島と一緒に出かけた先で何かあったのだろうか。危ないことに巻き込まれていなければいいのだがと不安にもなる。
 だからこそ心配気にもう一度その名を呼んだのだが、
「ん、心配すんな。何でもねえよ」
 そう言いながらいつものように診療台に座り、目を瞑ってしまう。
 そしてあっという間にカズマはもはや夢の住人となってしまっていた。
 その様子から疲れているのだろうと察したかなみは、部屋から毛布を持ってくると、それをカズマにかけてやり、部屋の電気を消した。
「おやすみなさい、カズくん」
 最後にそう就寝の言葉を告げると、かなみも今日はもう眠るために自室へと戻っていく。
 何か色々とゴタゴタが起こり、これから自分たちの生活が大きく変わってしまうかもしれない。
 その不安はかなみの中からはやはり消えることは無い。
 それでも今はそれを心配していても仕方がない。今はまだその時じゃない。傍にカズマがちゃんと居てくれる。
 そして彼は自分を置いていったりしない、そう信じることができる。
 だから今は、これでいい。
 そう吹っ切ってしまえば、後に心配することは殆どなく鬱な気分も無くなった。
 これならば今日もぐっすりと眠れそうだ。
 もしかしたらまた、あの“夢”が見られるかもしれない。
 それを正直、願いながらかなみは床に就き眠りにヘと落ちていった。


 ……夢を、夢を見ていました。
 夢の中のわたしは、何かに強く抗うそんな人になっていました。
 その人の前に現れたのは、白くて綺麗で、そして強い、そんな女の人でした。
 その人は女の人を相手に戦い、何度も倒されました。
 それでも何度も何度も、その人は立ち上がります。
 決して負けない、認めない、そして逃げない。まるでそんな事を告げるように。
 何度も倒され、何度も立ち上がり、何度もぶつかっていきます。
 その人も女の人も、どちらも決して諦めず、退こうとはしません。
 まるでお互いに、絶対に譲れないものを通し合うように。
 どちらが正しいか、どちらが間違っているか、わたしには分かりません。
 夢の中のあなたには、負けて欲しくない。確かにそう強く思いました。
 でも同時に、対峙する女の人にもまた屈して欲しくないとも思ってしまいました。
 それが何故か、わたしには分かりません。
 それでも、わたしは思ってしまったのです。
 夢の中のあなた、そして女の人。
 この二人が、争い合う以外の別の道で重なることは無いのだろうかと。
 わたしはただ、そう願い続けることしか出来そうにはありませんでした。
 ただ、そう願い続けることしか……

123魔法少女リリカルなのはs.CRY.ed ◆j1MRf1cSMw:2009/03/11(水) 22:24:49 ID:ooJj/na2
次回予告

 第二話 高町なのは

 無法の大地で生きてきた男。
 数多の世界の空を飛んできた女。
 価値観・願望は対極を示し、
 反対に根幹の想いには共感を示す中、
 女の言葉は男の拳に何を届かすことが出来るのか。
 カズマとなのは、再びの出会いが双方に示す道とは……


以上、投下終了です。
投下速度が遅すぎたり、容量自体が無駄に長くなってしまい申し訳ございません。
次はもう少し短く纏められるよう努力してみます。

124魔法少女リリカル名無し:2009/03/11(水) 22:29:18 ID:gu3qlvFg
ageないと気付かれないよ?
あと、00分過ぎてるから規制が解除されてると思うから。

age

125魔法少女リリカルなのはs.CRY.ed ◆j1MRf1cSMw:2009/03/11(水) 22:31:53 ID:ooJj/na2
ご指摘ありがとうございます。その場合は自分で投下し直した方がよろしいんでしょうか?

126魔法少女リリカル名無し:2009/03/11(水) 23:42:12 ID:gu3qlvFg
自分で投下しなおしたほうがいい。(もう代理投下されてますが)
あとどうみても規制される量だから、91KBは。
せめて、二つか三つに割らないと駄目だったと思います。

127りりかる新人隊員 ◆LtQa/zljtQ:2009/03/12(木) 17:10:12 ID:IWMWkURY
すいませんが、アクセス規制をくらってしまって、どなたか代理投下してはくれないでしょうか
ブリーチ第四弾です

128りりかる新人隊員 ◆LtQa/zljtQ:2009/03/12(木) 17:13:52 ID:IWMWkURY

―――――――――――――戸魂界(ソウル・ソサエティ)。
生あるものが死後行き着くとされる、亡者が支配する世界。
その戸魂界の中心部に位置する『瀞霊挺』(せいれいてい)。
選ばれた貴族や死神が住むとされる、戸魂界の中でも特に住み良い場所である。

 瀞霊挺 一番隊舎

 霊界と現世の平和を守り、それを脅かす悪しき者共を駆逐する霊界の正義。

――――――名を『護挺十三隊』。

その陣頭指揮を務める一番隊舎に今、それぞれの隊をまとめる隊長達が集まり始めていた。

――ある者はゆったりと
――またある者は悠然と
――またある者は音もなく
――またある者は面倒そうに
 歩き方に差異はあれど、皆隊長の証である白い羽織と、それぞれに任せられた数字をその背に負い、隊舎に集っていた。
やがて集った隊長達は、それぞれの番号に向き合うように並び始め、総隊長の到着を待つ。その並びは、まさに圧巻の一言につきた。
――――とある事情により今は数人が欠けて久しいが、それでもその凄まじさは微塵も薄れない。

しばらくして――、一番隊舎の巨大な扉が、ゆっくりと開いた。
入ってくるのは、長い髭を蓄えた老人。その外見の傷跡には、元々長く生きている死神の中でも、さらに長い年月、戦いに身を置いてきた事を感じさせる。

「急な収集に、よく集まってくれたの諸君」

 やがて、その老人――、一番隊隊長にして、護挺十三隊総隊長 山本元柳斎重國が、
深い双眸を広げ、重い口を開いた。


「それではこれより、隊首会を執り行う」



         魔法死神リリカルBLEACH
         Episode 4 『Actors gather』



 海鳴市 戦闘終了後 午後二時五分

「あ〜〜くそっ」
 空を覆っていた結界も消え、再び人と活気が訪れた海鳴市。
その外れの方――いまだ死神姿のままの一護が、不機嫌を露わに歩いていた。

「結局何だったんだよ! 一体」
 そう言う彼は、今は一人だった。
道行く人々は、黒い着物に大刀という、あまりにも目立つ出で立ちの彼を、しかし誰も気づかず通って行く。――とりあえず、チャド達の許へと帰る途中だったのだ。

「黒崎く〜〜〜ん!!!」
 すると、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
一護が顔をあげると、チャドと織姫、そして一護の代役を務めていたコンが、一護の許へとやって来ていた。

「不穏な気配を感じてきたんだけど…何かあったの?」
 開口一番に織姫が訊いた。
「あ〜〜あったさ…ったく」
 不機嫌を隠さずにそう返す一護。すると今度は織姫への態度が気にくわなかったのか、コンが一護を指差し、こう言う。
「やいやいやいテメエコラ一護!!! 井上さんに対してその態度は無いんじゃないのォ!!」
「うっせーな! どう返そうが俺の勝手だろ!!」
 ただでさえ深い眉間のしわを、さらに深くしながら一護はコンと睨みあう。
「なんだとぅ!? せっかくテメーが心配で見に来てやった俺にもそんな態度か!」
「テメエは俺じゃなくて井上に付いてきただけじゃねえのか?」
「……あったりまえよ!!!」
 隠すどころか悪びれもせず、コンは胸を張って宣言した。
「俺は誓ったんだ……巨にゅ…井上さんの為になら、俺はたとえ火の中水の中……」
「あーそういやルキアに会ったなあ」
 その言葉を聞くなり、コンは急に辺りを見わたし始めた
「――んマジィで!!? 姐さ〜〜〜」
「もういねえけどな」
 一護が冷淡にそう告げた後、無様に固まるコンを見て――鼻で笑った。

「『火の中水の中』ねぇ……フッ」
「……シャラァァッップ!!!!!!」
 空しい叫び声を上げた後、コンは捲し立てるように一護に食ってかかった。
「大体テメエはいままで何やってたんだよ!! アレか、虚退治なんて言っておいて実は姐さんと―――」
 そう言いかけたところで、コン――もとい一護の額に、代行証が投げられていた。
口からコンの元――義魂丸が飛び出し、それを一護がキャッチする。
再び一護の体は、ぐったりと倒れて動かなくなった。

「朽木さんに会ったの!? 黒崎くん」
 チャドに手伝ってもらいながらも、自分の体に入っていく一護に、織姫はそう訊いた。
「ああ、会ったさ」
 一護は、そう返した。
「何があったか、教えてくれるか?」
 今度はチャドが訊いてきた。とりあえず一護は、ガジェットの事、二人の少女に会った事、ルキアと恋次が現れたこと――
――そして『その後』の事を話し始めた。



 海鳴市 戦闘終了後 直ぐ

 ルキアと恋次に連れられ、スバル達の所から逃げだした後、結界から脱出し、―――その後の話。
一通り落ち着いた処で、一護はルキア達に訊いていた。

129りりかる新人隊員 ◆LtQa/zljtQ:2009/03/12(木) 17:16:06 ID:IWMWkURY
「一体何なんだ!! 何で逃げたんだよ!?」
 一護がそう叫んだ。けっこう大きい声にも関わらず、周りの人々は聞こえないかのように彼の言葉を無視した。
しばらくして、ルキアが返す。

「急なことで済まなかったな、だが奴等が管理局だと知れた以上、こっちのことはなるべく悟られてはならぬのだ」
「それに目標物も手に入れたしな、あちらさんも同じように、これが目的ともわかったんだから、あそこに残る方がどうかしてるだろ」
 続けて恋次がそう続ける。その二人の真顔な返答に、一護は頭が混乱してきた。
「じゃあ何か? あいつ等は本当は悪い奴だったのか!?」
 一護がそう言った。
――しかしレリックのような危険物を処理する、と言ったスバルの眼を見たとき、あれは人を騙すような眼ではないと思ったのだが…
 またしばらく間をおいて、ルキアが返す。
「別に悪い奴らではあるまい、奴等もまた、己の正義の為に動いているのであろう」
「??? じゃあ何で? 何で逃げたんだ!?」
 一護は、頭がこんがらがってきた。
 相手は悪人ではないとわかって、しかし逃げ出した理由がわからない。
一護は問い詰めるように訊いていた。――今度は返答に時間がかかった。

「……済まぬな、一度に全てを話すとなると、時間がかかり過ぎてしまう」
 少し困ったように、ルキアはそう答えた。
「詳しいことは、浦原の家で話すことにしよう。私達も、コイツを調べてもらうついででな」
 そう言い、一護の持つレリックを指差す。
一護は納得いかなかったが、ルキアの言い分も一理あるのでしぶしぶ承諾した。
「…わーったよ、じゃあ浦原さん家で話してくれんだな?」
「ああ、井上や茶度、石田も来ているのだろう? あ奴等にも上手く伝えてくれ――それと」
 ルキアは次の瞬間、一護の持つレリックをひったくった。
「あっ、てめ…」
「言っただろう、コイツを調べてもらうと。色々聞いてはいたが、世界規模の破壊力を有しているみたいだしな」
 レリックを翳しながら見るルキアを後に、恋次は続ける。
「じゃ、俺達は一足先に行ってるぜ。早く来いよ」
 そう言い終えると、ルキアと恋次はその場から去って行った。
「あっコラ!! ちょっと待て…」
 一護が言った時には既に、彼等の姿は微塵も無かった。

「ったく 何なんだチクショー」



「―――ってなわけだ」
 啓吾達の所へ向かって歩いていく途中に、一護は話を一通り終えた。
「……そんなことがあったんだ」
 話を聞き終えたところで、織姫がそう漏らす。
「……で、これからどうするんだ? 一護」
 今度はチャドが訊く。だが、一護の腹は決まっていた。
「決まってんだろ? これから浦原さん家に行って、ナニがドーなってんのか訊きに行く!」
「あれ? でもそれって…」

「うお〜〜い!! 一護〜〜〜!!!」
 織姫が言いかけた時、遠くから一護を呼ぶ声が聞こえた。
啓吾と水色、そしてたつきだ。
「何やってんだよ!? これから楽しいイベントが始まるって時に!!」
「ケイゴ、まだ僕達それらしいイベントに突入してないよ?」
「うるせぃ!! これから始まるところなんでぃ!!」
 啓吾と水色の会話は置いといて、たつきが改めて訊いてきた。
「で? あんた等いままで何してたの? トイレにしちゃ長くない?」
「ああ…まあ色々あってな」
「いいじゃねえか! いいじゃねえか!!」
 啓吾が割って入ってきた。聞いてもいないのに彼は、勝手に喋りまくる。
「これから旅館に行って、ポロリありの露天風呂へ入った後、肝試しをしてワーキャーってなって、それからそれから―――」
「ああ、ワリィ。済まねえけど、俺もう帰るわ」
一護のその言葉に、一瞬啓吾が固まった。

「――――――――――――――――――」
 しばらくの沈黙の後、
「――ハァ!!!????」
啓吾が鬼のような形相で叫んだ。
「うおっ 時間差!?」
 やっぱりちょっとたじろきながらも、一護は答えを変えない。
「ちょっと外せねー用事ができちまってな。後は俺抜きでやってくれ」
「あっ!!! ちょっと一――――」
 しかし啓吾の声は届かず、既に一護は遠くの方へ走って行ってしまった。
「イチゴォォォォォォォォォォォォ!!!! カァムバァァァァッックゥゥゥ!!!!!!」

130りりかる新人隊員 ◆LtQa/zljtQ:2009/03/12(木) 17:18:55 ID:IWMWkURY

 啓吾はちょっと涙目になりながらも、皆の方を振り向いた。
「もうこーなったら一護抜きで楽しんでやろうぜ!!! アイツが悔しくて地団駄踏むぐらいはじけてやろうぜ!!!!」
 笑顔をなんとか保ちながらそう言うが、織姫とチャドは、一護が行ってしまった方角をずっと見つめていた。
――――啓吾は嫌な予感がした。
「あのーー、井上さん? チャド?」
 恐る恐るそう聞く啓吾。次の瞬間、織姫とチャドも啓吾の方を振り向き言った。
「ゴメンね!! あたしも急に用事を思い出しちゃったかなあって」
「……ム、スマン。俺も…何か大事な用があった気がする」
「あ、あの!? ちょっとお二人とも―――」
 無論啓吾の制止が利くはずもなく、二人も一護と同じように走り始めていた。
「あ! ちょっと織姫ェ!!!」
 そう言いながら、たつきも一緒にその場を後にする。
結局、その場には啓吾と水色しか残らなくなってしまった。
「……ケイゴ、僕ももう帰っていい?」
 放心状態の啓吾に向って、水色はそう言うが、今の彼に、答えを返す力は残ってなかった。
「オーイ、ケイゴ?」
「……………」
 こうして、浅野啓吾のドキドキツアーは幕を閉じた。


 海鳴市 午後二時三分 とある建物内


「ええっ!!? 任務失敗!!?」

 モニター越しに、機動六課の部隊長、八神はやての驚いた声が響いた。
「うん…ごめんね」
「悪い、はやて」
 至極申し訳なさそうに返すのは、なのはとヴィータ。
――あの後、急に怪物達が引き返し始めたので、急いでスバル達の許へ向かった時には、レリックは取られ、犯人も見失った後だった。

「…せやけど、なのはちゃんとヴィータ、シャマルもおったんよな?…それでもどうにもならなかったん?」
責める風ではなく、疑問に思う風にはやてが言った。長い付き合いゆえに彼女達の実力も知っているからこそ、なおのこと不思議だったのだ。

「うーん…まあ、アンノウンがさ…現われてさ…」
「? ガジェットの新種か何かか?」
「いや、そうじゃなくて…何て言ったらいいんだろ…」
 ヴィータが説明しづらそうに、そう言が、はやての疑問符は増えるばかり。
それにガジェットの新種が現れたところで、そうそうなのは達を抑えられるものなのか?
―――それでも相当な数呼び寄せなくてはならないだろうし、レリック一つの為にそんな体それた数出てくるなら最初からそうしたはずだろうし――。

「まあ、一気に説明は出来ないから、そのアンノウンの画像をそっちに送ったところだし、詳しいことは帰ってから話すよ」
 なのはが、そう説明する。はやてもそれに頷いた。
「わかった。せやったら直ぐにでも帰――」
 一瞬そう言いかけ、急に済まなさそうに続けた。

「――ごめんな、せっかく帰ってこれたのに、またこんなこと言いだして」
「ううん、仕方ないよ。それに、はやてちゃんやフェイトちゃんを差し置いて私だけってのも何だかなって思ってたし」
「せやけど……」
「大丈夫!! 私は大丈夫だから」
 笑顔を繕い、そう言うなのは。はやては、本当に申し訳なさそうに謝った。
「――ごめんな、なのはちゃん」
「何ではやてちゃんが謝るの? 私はホントに大丈夫だから―――じゃあね」
 そう言い、通信を切るなのは。
しばらくして、今度はヴィータが訊いてきた。
「なあ、なのは…ホントにこれでいいのか?」
「――え?」
「だから、なのはの家族とか、アリサやすずかに挨拶してかなくていいのかってことだよ!!?」
 ヴィータが声を荒げた。――ただでさえ人員不足である時空管理局。そこで有名である分、中々休みも取ることはできない。
そのうえ元の世界に帰れることなど、滅多なことではありえないことだった。
―――今逃したらまた、いつ会えるかどうか。

 しかし、なのはは静かに首を振った。
「…しょうがないよ…すぐ帰らなきゃならなくなったし――それに…」
 少し間を置いて、続ける。
「それだったら、いっその事会わない方が、みんな忙しいだろうし…ね」
 ――正直、会いたくない。というと嘘になる。
けど、みんなはみんなの都合があるだろうし、もう帰ってしまう自分の為に、予定を割いて来てもらう程でもないはずだ。
――だったらいっそ会わない方が、妙な後腐れはなくてすむ。

 それでも、ヴィータは納得いかないようだった。
「けどよ…なのははそれで―――」
「ヴィータちゃん、私は大丈夫だから」
 しかし、なのはは皆まで言わせなかった。纏めた荷物を持って、部屋を出る。
「行こ、みんな待ってる」
 ヴィータも、渋々といった感じで部屋を出た。しかし、前を歩くなのはの後ろ姿には、やはりどこか寂しそうに見えた。

131りりかる新人隊員 ◆LtQa/zljtQ:2009/03/12(木) 17:20:20 ID:IWMWkURY



 空座町 浦原商店前 午後四時三十二分

 空座町のとある一角、そこに昭和の感じを醸し出す駄菓子屋があった。
名前を『浦原商店』。
子供には大人気のお菓子から、大人には口では言えないような物も売っている何でも屋であるが、それは世間を欺くためのカモフラージュに過ぎない。
――今、その浦原商店の前で、二人の子供が掃除をしていた。

「四番バッター、花刈ジン太 豪快なフォームから…」
 しかしその内の一人は、掃除などそっちのけで箒をバット代わりにして遊んでいた。
「殺人シュート!!! 打った大きい!!!」
「ジン太くん……何やっているの?」
 もう一人の大人しそうな女の子が、不思議そうにジン太という少年に訊いた。
「何って、ドッチボールに決まってんだろ。雨(ウルル)!! 男は黙ってドッチボールだぜ!!」
「でもそのボール……サッカーボールじゃなかったっけ?」
 雨と呼ばれた少女は、ジン太の持っているボール――先ほどのスイングを空ぶったボールは、確かにどこからどう見てもサッカーボールだった。
――サッカーボールでドッチボール。しかも手に持っている箒は明らかにバットにしていた……。

「なんか……色々混ざってるよ、ジン太くん」
 やんわりとつっこむ雨を見て、ジン太は顔を真っ赤にして叫んだ。
「うっ…うるせえ!!! これは俺が考えた新しいゲームだ!! 文句あるか!!?」
 そう言って、雨をいじめ始めるジン太。しかしこれはいつもの光景だった。
「い…痛い! 痛いよ…ジン太くん!!」
「大体そう言うことは早く言えよ!! チクショーお前のせいだぞ!!」
「酷い! 酷いよ…ジン太くん!」
 しばらくの間、雨の頭をグリグリするジン太。
しかし次の瞬間、ジン太の体は何故か2メートル近くまで飛び上がった。

「何をしておいでかな? ジン太殿」
「うおわっ!! テッサイ!!……さん」
 テッサイと呼ばれた、チャドと同じ2メートルはある巨人につままれ、慌てふためくジン太。――これもいつもの光景だった。
そんなところに、近づいてくる足音が幾つか。
「……これはこれは、お待ちしてましたよ」
足音の主を確認するなり、テッサイがそう言った。

――そこには一護と織姫、そしてチャドがいた
「浦原さんいるか?」



「いらっしゃ〜〜〜い」

 テッサイに案内され、店の居間辺りまで来たとき、そんな声が聞こえた。
入ってみると、テーブルを囲んだ奥に男が座って待っていた。
「しばらくぶりですね、黒崎サン」
見慣れた服に見慣れた帽子。相変わらずといった飄々ぶりを見せながら、彼――浦原商店店長 浦原喜助が挨拶した。
と、隣にいたルキアと恋次が、今度は不平を洩らした
「遅いぞ、一護」
「モタモタすんなって言ったろうが」
「うるせーよ、そんなに早く来れるか!」
 鬱屈そうにそう返す一護。――すると別の声が聞こえた。
「いや、それにしても遅すぎだろ。一体何してたんだ?」
「…石田、来てたのか?」
「…来ていちゃ悪いのかい? 黒崎」
 血管を浮かべながらそう言うのは石田雨竜。一護のクラスメイトでもあり、200年以上前に絶滅した退魔の眷属。
『滅却師(クインシー)』の末裔でもあった。
(しかし今はとある事情により、その滅却師の力は無くしている。)

「まったく、いちいちカンに障る言い方しかできないのか?」
 溜息をつきながらそう続ける雨竜。今度は一護の顔に血管が浮き出たが、しばらく睨みあっただけで丸く治まった。
「こっちだって色々あるんだっての…」
そう呟きながらも、一護はその場に座った。織姫とチャドも後に続いて座る。

「うむ…皆揃ったようじゃな」
 今度はテーブルに座っている、小さな黒猫がそう告げた。
「夜一さん、『そっち』の姿になってんだな」
「まあ、気分じゃ」

「ハイハイでは皆さん、ちゅ〜〜も〜〜く」
 そう声掛けて、喜助は懐から何か取り出した。――レリックだ。
「危ないんで、色々な封印をかけときました。余程のことがない限り安全ですよん」
そう言って皆に見えるようにテーブルに置き、続ける。

「さて、まず黒崎サン達は何が知りたいんですか?」
 一護の目を覗き込むようにして、喜助が訊いた。一護はしばらく押し黙って、やがて言った。
「じゃあ、時空ナンたらについて…」
「ハイでは朽木サン、朽木サン達がここまでに至った経緯をどうぞ!」
 明らかに一護の質問を無視し、ルキアに振る喜助。――――だったら訊くんじゃねえよ。
そう言いたいが、自分もいい大人、彼のこの態度も知らないわけじゃないんだから、と必死に血圧を下げる一護。
そうする間に、ルキアの説明は始まっていた。

132りりかる新人隊員 ◆LtQa/zljtQ:2009/03/12(木) 17:23:23 ID:IWMWkURY

「……ここ最近、虚の動きがどうもおかしくなっているようなのだ」
 どう説明するか考えながら、ルキアは話を続ける。
「一護、貴様も感づいているとは思うが、近頃の虚は、どうも集団行動が多くなってきている」
「え?……あ…ああ!! そうだな!…」
 慌ててそう繕う一護。―――――気づいてなかったな、そんな空気が流れた。
ルキアは一回咳払いをして続けた。
「…まあともかく、虚というのは元々、個々で強い魂魄を求めて途方もなく彷徨うものなのだ。それが最近、普通の虚同士ではしないような、連携的な動きを見せてきている
――その中心にいつもあったのが『コレ』だ」
 そう言って、ルキアはレリックを指差し、さらにこう続ける。

「どうやら虚共は、コレを必死になって探しているらしい。コレを見つけた虚達は、己の命を顧みずに守ろうとする
…中にはコレを手に入れた虚が逃げている間、他の虚が囮となって阻んだという報告も受けている
――相当に大事なものだと見るのが妥当だろう」

「ですが…問題はそこだけじゃない」
 今度は喜助が、ルキアの言葉をとって続けた。
「確かにコイツについて、まだまだ知らないことがたくさんありますが…それよりコイツを求めて動いている虚達もまた、よっぽどの統制が執れていることなんですよ。
――それこそ生半可なものではないくらいに」
「………つまり、どういうことだ?」
 一護が、疑問符を浮かべて訊く。話が遠回りすぎてよく分からなかったのだ。

「つまりですね……」
 喜助が、帽子の中にあった眼を覗かせながら、今度はかみ砕いて説明する。
「アタシ達は、コイツを探す虚達の裏に、大きな影が動いてるのでは無いかと疑っているわけですよ…ここまでくればもうお分かりでしょう?」
「裏?……影……――」
 しばらく考え込む一護だったが、やがて彼の脳裏に、ある光景がよぎった。



――――――血塗れのまま倒れている自分。
――――――それを遥か高みから見下ろす3つの人影。
――――――どうにもすることができず、ただ奴等を見上げることしかできなかった自分。

―――やがて彼等は、虚達に導かれ、霊界を去って行った。

忘れもしない、あの光景―――
「―――――あ!!」
 気づけば、一護はそう叫んでいた。他の皆も、同じわかった顔でお互いを見合わせる。
「そう…この裏には、あの男」
 喜助が、続けて言った。

「…藍染惣右介……彼が絡んでいるのではないかとね」

 ――――しばらくの間、沈黙が訪れた。





―――数週間前、霊界 戸魂界にて、ある事件が起こった。
―――霊界を守る護挺十三隊――その数人の隊長達が、反逆の狼煙を上げたのだ。


 ことの発端は、朽木ルキアの処刑からだった。
現世にて魂魄保護の命を受けたルキアは、途中で黒崎一護と出会い、そのまま虚に遭遇、最悪な展開に陥ってしまったため、やむを得ず死神の力を一護に渡してしまったのだ。
 戸魂界は、これを『勝手な死神の力の譲渡』という重度の違反と判断、処刑が決まってしまった。――ルキア自身もこれを受け入れてしまい、彼女は戸魂界にて裁きを待つ身になった。

 ただその処刑に納得がいかなかったのが一人いた―――。
――――黒崎一護だ。
 彼は浦原喜助、四楓院夜一らの先導のもと、そして茶度泰虎、井上織姫、石田雨竜らと共にルキア奪還を決心。戸魂界に乗り込んだ。
 協力者の力を借りてなんとか瀞霊挺に進出したものの、皆とは離れ離れに。そこからは先は、護挺十三隊を相手に、個々による激しい戦いが繰り広げられた。
 何度も傷つき、倒れながらも、抱いた意志を強く持ち、何度も立ち上がり、そしてまた戦う。
――そして遂に、まさに処刑寸前に、ルキアを助け出すことができた。――それで終わるはずだった。

―――――だが、これには別の真実があった。
―――――この処刑そのものが仕組まれたものだったと。

133りりかる新人隊員 ◆LtQa/zljtQ:2009/03/12(木) 17:24:41 ID:IWMWkURY

五番隊隊長 藍染惣右介 

彼は、この戦いで死んだと見せかけて、処刑をめぐる戦いの裏で暗躍していたのだ。

 彼の狙いは、死神と虚の境界を取り払い、更なる存在を生み出すと言われる、戸魂界で最も危険な物質『崩玉』。
製作者である浦原喜助は、この崩玉の存在を危険に感じ、仕方なく魂魄の中に埋め込んで隠すという方法を取った。―――その白羽の矢が立ったのがルキアだった。
 それを知った藍染は、戸魂界の上層部である中央四十六室を殺害。あたかも処刑が上層部の決定であることを見せかけ、自身は死んだと偽って影で戦いを様子見、
――そして処刑を行うことで、ルキアの中にある崩玉を取り出す計画を立てていたのだ。

―――――そして、戸魂界がこの真実に気づいた時は、既に遅かった。

 ――結果、ルキアは死を免れたものの、黒幕は取り逃がし、崩玉も奪われてしまった。
そして戸魂界は深い傷跡を残し、藍染と数人の共犯者――二人の隊長達は、虚達の力を借りて虚園へと去って行った―――――。



「――――――あいつか………」
 ずっと続くかと思われた長い沈黙を、一護が破った。あの惨状は、ある程度時間が経った今でも鮮明に覚えている。
「―――確証は?」
 今度は雨竜が喜助に訊いた。
「まあ100%とは言いませんが、その可能性は大ですよ」
 そう言う喜助だが、彼は絶対と確信しているようだった。
今度はルキアが説明を続ける。
「当初戸魂界は、藍染が動くまでは静観する手はずだったのだが、これ以上好き放題させていたら、これから対処するにつれてますます不利になる
―――ということで今、戸魂界から二つの命が下ったのだ」
「二つの……命?」
「ああ」
 そう言ってルキアは指で二の文字を作り、一つの指を折り曲げて言った。
「一つは、レリックを確保するために私と恋次を現世に派遣すること――もう一つは」
 ルキアが二つ目の指を折り、続ける。

「数名の隊長格と共に、レリックが多く密集しているという世界に赴き、そこから藍染の跡を辿ることだ」

「……つまり?」
 まだ疑問符を浮かべる一護の問いに、ルキアが簡単に言いかえる。
「時空管理局…貴様が会ったあの女達の住む世界へ直に行き、あ奴等よりいち早くレリックを回収する―――そう言うことだ」
「何で崩玉を持つ藍染が、いまさらこんなモンなんか狙ってるか知らねえが、とりあえず奴が求めているモンを俺達も探していけば、奴の尻尾ぐらい掴めるかも知んねーだろ」
「……それってもう決まったことなのか?」
 今度はチャドがそう質問する。
「ああ、決まったなら早ぇ方がいいだろ? いまごろあっちじゃ、どの隊長を派遣するか決めているとこなんじゃねえのか?」
「……あれ?」
 ここで織姫が、不思議そうな顔をして言った。
「だったらその管理局…って人達にも協力してもらえばいいのに、その言い方じゃまるでどっちが早く取るか競争!!…するみたいだよ」
「……確かにそうだ」
 最初に訊きたかった質問に戻ったことで、また一護が詰め寄る。

「あいつ等何者なんだ? 時空管理局って何なんだ!?」
 この質問には、何故か返答が遅かった。やがて喜助が、どう言ったらいいか悩みながらも答えた。
「時空管理局…ねえ……」
 しばらくして、喜助の口から衝撃の言葉が出た。

「……アタシ達も、よく知らないんすよ」

「―――――ハァ!!?」
 あんまりの返答に呆然する一護達を、喜助が慌てて遮る。
「あ、いや!…全く知らないってわけじゃあ無いんですけど…信用できるかどうかとなると…って意味ですよ」
 そう前置きし、喜助は説明しだした。

134りりかる新人隊員 ◆LtQa/zljtQ:2009/03/12(木) 17:26:25 ID:IWMWkURY

「まあ、平たく言えば…時空管理局ってのは、黒崎サン達のような霊力の強い人達が集まってできた警察のようなものって聞いてます
――――いわば滅却師の親戚みたいなものですね」
「…じゃあ死神と同じじゃん。何で信用してないんだ?」
 不思議そうにそう言う一護。わからぬ、とルキアは返した。
「死神になるとき、我らの存在は管理局には絶対に悟られてはならぬ、と教えられたが…その理由となると…」

「…二の舞を避けるためっスよ」
 しばらくの間を置いて、喜助が静かにそう言った。
「聞いた話なんですけどね…もし我々死神の存在が、管理局の連中に知られたらどうなるか、虚の事を知ったらどうなるか」
 ここで少し間を置いて、さらに続ける。
「もし虚の真実を知った管理局の一部…例えば黒崎サンのような正義感の強い人間達が、じゃあ自分達も虚を討つことにしようって事になったら、どうなると思います?
―――奴等は好んで人間を襲うと、死神と違って滅却することしかできない彼等が知ったらどうなると思います?」

「世界の崩壊を防ぐために、滅却師殲滅のようなものがまた起きる…ってことですか?」
 この答には、当事者の末裔である筈の雨竜が答えた。
喜助は、彼がきっぱり答えたことに意外そうながらも頷いた。
「……あんなことがあった以上それを恐れた戸魂界は、同じ轍を踏まないようにと距離を置くことにしたんでしょうね
―――真実を知らない限り、少なくとも彼等は虚のことは数ある魔法生物の一つぐらいにしか考えてないみたいですしね」
「―――けどよ…」
 一護は、まだ納得がいかない様子だった。

「それこそちゃんとお互いを知って話し合っていれば…今回のことだってこんな遠回りにならずに協力してもらえたはずだろ?」
 一護の言うことに、皆は頷く姿勢を見せるが……しかし喜助はただ静かに首を振るだけだった。

「…まあ、お偉いさんの考えることは、アタシ達にはよくわかなんないッスからねえ――怖くて信用できなかったんでしょう」
「それに…たとえ知っていたとしても、今となっては協力なぞ望めぬじゃろう」
 今度は夜一が、厳粛な声でそう告げた。

「…どういうことだよ?」
 夜一に向き直って尋ねる一護。しばらくの間を置いて、夜一は続けた。

「先にも言うた通り、今度の敵は藍染の可能性が高い――あ奴はずっと前から…それこそお主達の祖先がまだ赤ん坊だったそのずっと前からの永い永い間…我ら護挺十三隊を…戸魂界を謀ってきた男じゃ。
―――そんな奴が管理局の連中に何も手を加えていないと思うのか?」
 夜一のその言葉に、一護ははっとする。
「あ奴のことじゃ、管理局の一部を既に抱き込んでいるかもしれんし…いやもしかしたら、管理局全体が藍染の手下となりさがっとるかもしれん―――それぐらいのこと、平気であ奴はするじゃろう」
「………」
 しばらく押し黙っていた一護だったが、突然彼の脳裏に、スバルとティアナの姿が過ぎった。―――彼女達も自分を騙そうとしていたのだろうか?…いや、そんなはずは――
 しかし、夜一は反論を許さぬ口調で続ける。
「無論全員が、というわけでもないだろうが、それでもその位の考えがなければ…その位に疑ってかからねば…あ奴には届かないじゃろう」
 一護は、その言葉に何も返せないでいた。藍染の恐ろしさは…自分も心身共に身をもって知っていたからだ。
 今度は恋次が口を開いた。

「現世に来る時、総隊長が言っていたことがある……『味方と思うのは自分達だけ、周りは全て敵と思え』って……そうしないと勝ち目はねぇ…ってな」

「で、黒崎サン達はどうするんですか?」
 ここで喜助が一護に訊いてきた。
「え…どういうことだ?」
「言葉通りの意味ですよ。戸魂界は既に方針を決め、行動を開始している…派遣する人員が決まったら、直ぐにでも向こうに行くつもりでしょう―――黒崎サンも、当然行きますよね?」
 急な事に一瞬戸惑う一護だったが、確かに行くな、と言われても自分で行くことにするだろう。―――その時また、スバルの姿が浮かんだ。

135りりかる新人隊員 ◆LtQa/zljtQ:2009/03/12(木) 17:27:35 ID:IWMWkURY

(―――あいつとまた会ったら、今度は戦わなきゃならねえのか……)

 いまだ、彼女達と敵対するのに、若干の抵抗が――そして、本当にこれでいいのかという、一抹の不安も覚える。
――だが、ここまで知っていまさら立ち止まるなんてできないし、藍染の策略ならなおさら阻止しなければ、今度はいままで以上の血と犠牲が出るかもしれない。
――それだけは有ってはならない。
 一護は、無意識に拳を握り締めていた。

「――行かせてもらうぜ」

 周りの皆も、その言葉に頷いた。





 暗い暗い闇―――そして唸る砂嵐。
常に夜が空を覆う完全な闇に、小さく光る三日月。
下界には、ただっ広い砂漠に葉も無い枯れた木が疎らにあるだけ、他には何も無い、それだけの世界。

――その砂漠に蠢くは、虚の影―――

 死神は、この世界を『虚園(ウェコムンド)』と呼んでいた。

 その虚園、とある場所に、大きな大きな宮殿が建っていた。
周りの木が米粒に見えるくらいの、圧倒的な存在感を持つそれ―――。
『虚夜宮(ラス・ノーチェス)』
 藍染惣右介を頂点に置く、虚からさらに進化した存在、『破面(アランカル)』が潜む、彼の根城だった。

 虚夜宮 とある廊下

 白と黒で彩られた大きな廊下は今、歩く音で響き渡っていた。
聞こえる足音は一つ。その足音の主は、響き返る自分の足音にも気にも留めず、黙々と目的地に向かって進んでいた。

 その男――彼は面妖な出で立ちをしていた。

 まず身に纏う服は、全てが真白。腰には刀を帯刀している。
全身の肌も同じように白がかっていたが、髪は黒く、その左上には、かつての虚であった頃の名残か、仮面の破片のようなものがついている。
その瞳には、喜怒哀楽どの感情にも浮かんではなく、感情そのものがあるのかさえ疑問に思う眼をしていた。
 やがて―――歩き続ける彼の前には、大きな扉へと辿り着いた。
そこで立ち止まり、彼はしばし聳える扉を見上げた。

「ウルキオラかい? 入っていいよ」
 暫くして、扉の奥から声が響いた。
彼はゆっくりと扉を開け、中へと入った。

「急な呼び出し、済まなかったね」
 ウルキオラと呼ばれた彼の目の前には、後ろを向いた質素な椅子、それだけしか無かった。やがて椅子が前へと向きなおり、座っている者の姿が見える様になる。

「藍染様、御要件は何ですか?」
 ウルキオラは軽く一礼し、単刀直入にそう訊いた。
しばらくして、藍染は不敵な笑みをしたまま答える。
「君に、ある物を届けて欲しいんだ」
「……ある物?」
「そう、ある物だ」
 そう言って愛染は指を鳴らした。

 次の瞬間、ウルキオラのすぐ下の地面から、小さな円柱が伸び出てきた。
円柱はある程度まで伸びた後、今度は上部から螺旋状に分かれ始めた。
――それもある程度まで分かれた時、ウルキオラの前には小さな玉が現れていた。

136りりかる新人隊員 ◆LtQa/zljtQ:2009/03/12(木) 17:28:18 ID:IWMWkURY

 ――小さくも中で何かが激しく渦巻いているように見える『それ』
周囲には、危険だと判断された浦原喜助の手で封印された結界が張ってある『それ』
それでもなお、見る者にとてつもない何かを感じさせる『それ』
 浦原喜助が創り出した、死神と虚の境界線を取り払い、さらなる存在を生み出す『それ』
―――それの名を『崩玉』と言った。

「偽物では無い、正真正銘の本物だ」
 崩玉を手に取るウルキオラに、藍染は変わらぬ笑みを讃えて言った。
「これを、ある男に届けて――そしてしばらくの間は、その男の言う通りに動いて欲しいんだ」
 そしてしばらく間を置き、こう続ける。
「そして、その男の言う通りに動く裏で、君には極秘にあることをしてもらいたい。そのあることとは―――――」



「…わかりました」
 説明を聞き終えたウルキオラは、しばしの黙考の後、静かにそう答えた。
この任務について、疑問に思うことは数あれど、それを藍染に問おうとは思わなかった。
――自分にとって藍染は絶対、藍染がそうしろと言うならば、自分はその通りに動くだけだ。

「頼んだよ、ウルキオラ」
 藍染はそう言い終える頃には既に、ウルキオラは『黒腔(ガルガンタ)』を開いていた。
「では、直ぐにでも」
「ああ、」
 藍染は最後に、ウルキオラに目的地を伝えた。

「場所は、魔法の地ミッドチルダ。男の名はジェイル・スカリエッティだ」


 役者は集う―――彼の地ミッドチルダに―――。




―――――――――――――――――――――――――――――――To be continued

137りりかる新人隊員 ◆LtQa/zljtQ:2009/03/12(木) 17:29:02 ID:IWMWkURY
これにて終了です。どうもお疲れ様でした。
     補足 前回の質問について
 今回は『なのは』と『ブリーチ』の設定について、色々疑問が多いと思うので、
明かせる範囲だけで簡単な説明をしようと思います。

Q 管理局と戸魂界の関係について
今回の事が起こるまで、あまり交流はありませんでした。理由は、本編を見てくれたら多少なりと納得してくれるかと
 管理局側は、死神と虚の存在は確認できるけど、死神の場合あまり記録に残らないように改竄されているという設定です。そのため確認例がちらほらあるだけです。
 虚は、死神に比べると発見例が多いですが、霊=虚と結びつくまでには至っておらず、(外見から結びつけるのは不可能かと)それならまだ危険な魔法生物の一種と見なしているようです
(A`sのような怪物もいましたし)
 戸魂界側は、存在こそ知っていますが、今となっては信用することはできずに、勝手にさせている状態です。

Q なのは達の19年間について
 霊は見えていますが、虚は見てはいません。いつかはそれを描いた番外編でも創ろうかと。
 虚を見なかった理由については、現地の死神が優秀だったことにしてください。(一護も15年間は虚の存在を知らなかった)

Q じゃあミッドチルダに虚や死神は出ないのか
 ―――でません。それは何故か?
それは本編の続きということで。

 また質問があったらどうぞ、すぐには返せないかもしれませんが。

                        ――――――それではまた。
ここまで代理お願いします

138魔法少女リリカル名無し:2009/03/12(木) 20:06:38 ID:ppyTEUP.
>>137
自分も規制中なので無理ですが
代理投下のお願いは一番最後に別レスでやった方がいいと思います
その方が目に付きやすいので

あと何レス目〜何レス目までの範囲も書いて置いた方が

139りりかる新人隊員 ◆LtQa/zljtQ:2009/03/14(土) 14:45:05 ID:0zvgg.Go
確認しました
代理の方どうもありがとうございました

140レザポ ◆94CKshfbLA:2009/04/12(日) 16:42:01 ID:/jMypZuk
 「くっ!これは!!」
 「無駄ですよ、その赤いバインド、レデュースパワーは縛った対象の力を抑え、
 青いバインド、レデュースガードは縛った対象の防御を抑える……その意味はわかりますね?」
 
 そう言うとグングニルを振り上げるレザード、ザフィーラはバインドを外そうと力を込めるが思うように力が入らなかった。
 ザフィーラはなす統べなくレザードの攻撃を受け吹き飛んだ。
 すると今度はフェイトがトライデントスマッシャーをレザードに放つ。
 最初に撃ち出された直射砲を軸に上下に直射砲が伸び、三本の直射砲がレザードに向かって襲いかかる。
 だがレザードの左手に青白く炎のように揺らめく魔力を纏わせライトニングボルトを放つ。
 ライトニングボルトはトライデントスマッシャーを打ち破りフェイトに直撃した。
 すると今度はなのはがエクセリオンバスターを撃ち込む。
 
 「エクセリオン……バスター!!」
 「フッ……プリベントソーサリー」
 
 するとエクセリオンバスターから黄色い魔力の鎖が現れ、巻き付くとエクセリオンバスターは徐々に拡散し消滅した。
 なのはは驚く表情を見せるとレザードは得意気にバインドの説明を始めた。
 プリベントソーサリー、レザードがこの世界に合わせた魔法で、縛った対象の魔力を封じる効果を持つという。
 つまりそれは魔法を縛れば魔力の運動を止められ消滅し、
 肉体を縛ればリンカーコアの動きを封じられ魔法が使えなくなると語る。
 そしてレザードは眼鏡に手を当てると更に話しを続けた。
 
 「どうしました?さっきまでの威勢は何処へ行ったんでしょう?
  それとも…フフッ犠牲者がでなければ実力が発揮出来ないとか?」
 
 そう言うと左手を地上にかざすレザード、左手は先ほどと同様、魔力に覆われていた。
 なのはとフェイトはレザードがかざす手の方へ目を向ける、すると其処にはティアナやエリオ達の姿があった。
 まさか!といやな予感がしたなのはは、とっさにティアナ達に念話を送る。
 
 (ティアナ!みんな!急いでその場か―――)
 「…バーンストーム」
 
 そう言うとレザードは指を鳴らすと纏っていた魔力が消える。
 そしてスバルが居た場所を中心に直径数百メートルの部分が三度に分けて大爆発を起こし、その光景を目の当たりにするフェイト。
 するとレザードはバーンストームの説明を始める、バーンストームは爆炎を利用した魔法、
 そしてレザードの手によって非殺傷設定されている為、死ぬ事は無いと。
 だがレザードの炎は特別で対象が気絶するか、かき消すか、そして非殺傷設定が解除されてあれば燃え尽きるかしないと、炎は消える事が無いと話す。
 しかしバーンストームの跡地に残された炎は見る見ると消えて来ており、その状況に疑問を感じるレザード。
 
 「おや?思いの外、炎の消えが早い……そうか!相手が弱すぎて最初の爆炎だけで気を失ったのか!
  ならば…その後に訪れるハズであった身を焼かれる苦しみを味わなくて済んだようですね」
 
 そう言って高笑いを上げるレザード、フェイトは依然として跡地を見つめていた。
 あの場にはエリオ達の姿もあった…それが一瞬にして消されたのである。
 
 するとフェイトは怒りで目の瞳孔が開き、髪をふわりと逆立てると、ソニックムーブでレザードの後ろをとり、
 ブリッツアクションを用いて腕の振りを早めたジェットザンバーを放つ。
 だがレザードはとっさにシールドを展開させフェイトの攻撃を防ぐ。
 互いの攻防により火花が散る中、フェイトはレザードを睨み付け吐き捨てるように叫んだ。
 
 「アナタは!命をなんだと思っているんですか!!」
 「ほぅ……“人形”が生意気にも命を語るか……」
 
 その言葉に動揺を覚えるフェイト、その隙を付いてレザードはグングニルでフェイトの子宮辺りを突き刺す。
 グングニルにはアームドデバイスと同様、非殺傷設定されてあれば肉体を傷つけず、
 肉体を傷つけた際に生じるであろう痛みのみを与える効果を持っている。

141レザポ ◆94CKshfbLA:2009/04/12(日) 16:43:13 ID:/jMypZuk
 「かぁ!?……はぁぁぁ……ぁぁ…」
 「“人形”が…処女〈おとめ〉を失う時の様な喘ぎ声を上げるとは…な!」
 
 そう言ってレザードは更にグングニルを深く突き刺し更に突き上げた。
 グングニルによって深く突き上げられた痛みによって、フェイトは目を見開き涎を垂らしていた。
 
 「はぅ!……ぁ…ぁぁああ!!」
 「キツいですか?なぁに…すぐにこの感覚にも馴れます…よ!」
 
 更に深く突き上げ、グングニルは尾てい骨辺りを超えて貫き、腰から刃を覗かせていた。
 
 「カハァ!!」
 「とは言え所詮はただの“人形”……貴方が相手では木偶と情交するに等しいか…」
 「わた…しを…“人形”と……呼ぶな!!」
 
 涎を垂らし目には涙を溜めながらも必死に抵抗するフェイト。
 するとレザードはグングニルを引き抜きフェイトの顎を掴み、顔を近づけこう言い放った。
 
 「“人形”と呼ばれるのがそんなに不服か?…ならばこう呼んでやろう……プロジェクトFの残滓よ」
 「ッ!!!キッキサマ!!」
 
 フェイトの怒りは頂点に達しレザードの手を振り払うとバルディッシュをまっすぐ振り下ろした。
 だがレザードはフェイトの怒りの一撃をたやすく受け止めていた。
 
 「そんな!フィールド系?…いや支援魔法!?」
 「ご名答…正解した貴女にはコレを差し上げましょう…」
 
 そう応えるとレザードはフェイトに手を向ける、手には魔力が纏われており、魔力は手のひらを介して球体へと変化、それは徐々に加速していった。
 それを見つめるなのはは見たことがあった、いや確信していた、あれは自分の十八番とも言える魔法であると。
 
 「確か……名は」
 「フェイトちゃ――」
 「ディバインバスターでしたか」
 
 次の瞬間、レザードから青白いディバインバスターがフェイトに向け撃ち出された。
 フェイトはディバインバスターに飲み込まれ吹き飛ばされていく。
 だが後方でザフィーラがフェイトの救出に成功していた。
 
 「何で!アナタがディバインバスターを!」
 「ただの魔力を加速させて放出させるなど、私が出来ないとお思いで?」
 
 レザードは様々な魔力変換が可能な存在、魔力を加速させて撃ち出すことなど造作もないと不敵な笑みを浮かべ話す。
 その中レザードにルーテシアから念話が届く。
 
 内容は今し方ガリューは目的の品を回収し無事アグスタを脱出、現在ルーテシアの元へ向かっているという。
 
 (…わかりました、ではルーテシアはガリューが到着後すぐに転移して下さい、しんがりは私が務めましょう…)
 (わかった…やりすぎないでね)
 
 ルーテシアは一言残し念話を切る、それを確認したレザードは辺りを見渡すとなのはを中心にメンバーが募っていた。
 レザードは一通り見渡すと肩をすくめこう言い放った。

142レザポ ◆94CKshfbLA:2009/04/12(日) 16:46:54 ID:/jMypZuk
 「さて…貴方がたの実力も見えてきた頃ですし、そろそろ私は退散でもしますか」
 「なっ逃げるの!それに…私達がそれを許すと思うの!!」
 
 なのはのその言葉に大笑いするレザード、するとレザードは眼鏡に手を当てこう言い始める。
 
 「これは面白い事を言う、貴女は自分がどのような状況かまるで解っていないのですね」
 「それはどういう意味!」
 「こう言う事ですよ」
 
 そう言ってレザードは移送方陣で更に上空へと上がる。
 なのは達は必死に追いかけているとレザードの足元に、
 巨大な複数の環状で構成された多角形の魔法陣を展開、そして左手をなのは達に向け詠唱を始める。
 
 「…闇の深淵にて重苦に藻掻き蠢く雷よ…」
 
 するとレザードの目の前に黒い球体が姿を現す。
 球体の中は幾つか稲光が見えていた、そしてレザードは更に詠唱を続ける。
 
 「彼の者に驟雨の如く打ち付けよ!」
 
 すると球体は見る見る膨らんでいきレザードの姿すら見えないほどにまで巨大化していた。
 
 「あれは……まさか広域攻撃魔法か!?」
 「こんな場所で撃ち出そうと言うの!」
 
 なのは達は上空を見上げレザードの魔法を分析する。
 するとレザードの声だけが響いてきた。
 
 「安心なさい…非殺傷設定されてあります…ですので……」
 
 レザードの姿は魔法に隠れ見えないが、不敵な笑みを浮かべているだろう声でこう告げた。
 
 「存分に死の恐怖と苦痛を堪能して下さい…」
 
 そしてグラビティブレスと叫ぶと漆黒の球体はなのは達に向かっていった。
 なのは達は苦い顔をしながら迫ってくる球体を睨みつけると回避を否がす。
 だがヴィータがそれに反発する、何故ならなのは達の後ろにはアグスタが存在していた。
 アグスタの中にはまだ局員達が多数警備しており、今自分達が避けたらアグスタに直撃してしまうからだ。
 するとザフィーラが一歩前に出ると障壁を最大にして展開、グラビティブレスを受け止めようとする。
 その間になのは達はアグスタに残っている局員達に連絡を取ろうとした瞬間、
 ザフィーラの障壁が脆くも打ち崩され、ザフィーラを飲み込んでいった。
 更になのは達をも飲み込み、グラビティブレスは無情にもアグスタを包み込むように直撃した。
 
 …グラビティブレスの中は詠唱如く、無数の雷が蠢きあい、内にあるモノ全てを驟雨の如く打ち付けていた。
 暫くするとグラビティブレスは一つの稲光を残し消え、跡地にはアグスタが瓦礫の山となっており、一部は砂塵と化していた。
 その様子を上空で見届けたレザードは眼鏡に手を当てながら口を開く。
 
 「我ながら中々の威力ですね」
 
 そして高笑いをしながら移送方陣でその場を後にした。

143レザポ ◆94CKshfbLA:2009/04/12(日) 16:49:09 ID:/jMypZuk
 一方、一部始終見届けていたロングアーチは静寂に包まれていた。
 誰もが今まで見ていた光景が偽りであると考えるその中で、はやての檄が飛ぶ。

 「何を惚けとる!早よ現場に救護班を急行させ!いくら非殺傷設定の攻撃だとしても、あの量の瓦礫に埋められたら圧死か窒息死してまう!!」
 
 その言葉に端を発し一斉に動き出すロングアーチ、その中はやては右手を握ると思いっきり机を叩く。
 そして苦い表情を表しながらモニターを見つめ吐き捨てるかのように言葉を口にした。
 
 「私の……私の判断ミスや!!」
 
 
 
 
 一方ゆりかごに戻ったレザードは通路を歩いていると、ルーテシアがレザードの帰りを待っていた。
 ルーテシアはスカリエッティに頼まれた品物を渡しナンバーズにも品物を渡し、残りはレザードの品物だけだと話す。
 ルーテシアはレザードに一つのパピルスを渡す、パピルスには設計図のような物が描かれていた。
 そしてルーテシアはその品物が何なのか問いかけた。
 
 「博士…それ何なの?」
 「これですか?」
 
 ルーテシアの疑問に対し、パピルスに目を通しつつ笑みを浮かべこう答えた。
 
 
 
 「“ゴーレム”の設計図ですよ…」

144レザポ ◆94CKshfbLA:2009/04/12(日) 16:52:17 ID:/jMypZuk
以上です、レザード大暴れな回です。
アームド系の非殺傷設定はあんな感じにしてみました。



次は外伝を挟みながらの投下を予定しています。


それではまた。

145レザポ ◆94CKshfbLA:2009/04/12(日) 16:53:33 ID:/jMypZuk
そして久々に規制に引っかかりました。

どなたか代理投下をお願いします。

146魔法少女リリカルなのはs.CRY.ed ◆j1MRf1cSMw:2009/04/16(木) 21:24:31 ID:WCv/C/0M
やはり後一歩のところで規制食らった……すいません、どなたか代理投下お願いします。


 日も落ち夜の闇が支配する廃墟街の片隅で。不安を押し殺しながら、君島に言われた通りにずっとカズマの帰りを待ち続けていた。
 そんな時だ、瓦礫を踏む足音が聞こえてきて弾かれたように振り向いたその先に―――

 ―――待ち続けていた愛しい人がこちらに向かって歩いてきていた。

 かなみは漸くにカズマと会えたことに歓喜に打ち震えながら、彼の名を何度も呼びながら駆け寄り、彼へと抱きついた。

「すまねえな、かなみ。ちょっと野暮用でよ」

 この期に及んでまだいつものバレバレの言い訳をしようとするカズマが可笑しく、しょうがない人だと笑いかけ―――

 ―――カズマが背負っている君島に気づき、その笑みが止まる。

「き、君島さんが………あれ…………?」
「ん、君島がどうしたよ?」

 急に背負っている相棒のことで戸惑いだしたかなみを見て、それこそカズマは不思議そうに首を傾げていた。
 君島がどうかしたのだろうか……っていうかコイツはいつまで寝ている心算なのだろうか。

「おい、ちゃんと掴まってろよ君島。落っこっちまうだろ」

 そう言いながらついでに起きないものかと揺すってみたが、やはり反応なし。
 本当に熟睡してやがるのか、そんな呆れを抱いていたその時にカズマはこちらを……否、君島を見上げて泣いているかなみの姿に気づいた。
 なんでかなみが君島を見て泣いているんだ? その疑問の解が最初は分からなかったカズマであったが急に胸中に広がりだした嫌な予感である事に気づきはじめた。

「………君島?」

 本当に、君島は熟睡しているだけなのか?
 何故呼びかけに応えない?
 何故寝息一つ聞こえてこない?
 それに………何故、かなみが泣いているんだ?

「……お、おい……君島。……な、何だよ、チャラけてる場合じゃねえだろ?」

 段々と己の声が震えてくることにカズマは嫌でも気づいていた。
 今思えば、君島の様子はいつもとはどこか違い、変だった。
 よく考え、振り返ってみればそれはありありと分かることでもあり、そして今この状況こそがそれを証明しているのではないのか?

 傷だらけで、目を覚まそうとしない君島邦彦。
 そんな彼を見て泣いている由詑かなみ。

 ありえない、そんなことは絶対にありえない。
 脳裏に過ぎる最悪の予想を無理矢理に振り払いながら、カズマは君島を起こす為に何度も呼びかける。
 応えは、一度たりとも返ってこなかった。
 そのせいだろう、段々とカズマも焦ってきていた。

 おい、君島。そろそろ起きろよ。
 お前が誤解されるような寝方してるせいで、かなみが泣いちまってるじゃねえか。

 かなみも泣くな、泣く必要なんて無いだろう。
 お前が泣いちまってるもんだから……まるで……まるで………

 まるで、君島邦彦は本当に――――

147魔法少女リリカルなのはs.CRY.ed ◆j1MRf1cSMw:2009/04/16(木) 21:30:12 ID:WCv/C/0M

「………おい、起きろよ。………君島…………?」

 それでも、震える声でなんとかそれを認めたがらないように、否定するように、彼が応えてくれるように願って、カズマは君島へと呼びかける。
 だが―――



 ―――だが二度と、君島邦彦がカズマの呼びかけに応えることは無かった。



 次回予告

 第7話 ロストグラウンド

 誤解が不和を呼び、不和が戦いを呼び、戦いが悲しみを呼ぶ。
 その中で芽生えた友情も、愛も
 光の中に溶け込むしかないのか?
 往くは破壊、来るは破壊
 全て―――破壊。


というわけで君島退場です。
予定調和と言われればそこまでですが、サプライズ要素でも生かすことは自分の未熟な技量では出来そうにありませんでした。
その代わり自分なりにこれまでで一番力を注いだ部分だったのですがどうっだたでしょうか?
今回はちょっと詰め込みすぎた感もありますし、もう少しこれからは精進したいと思っています。
いつも長くてすいません。それでは、また。

148LYRICAL COMBAT ◆CF.MGbgQBo:2009/04/20(月) 17:17:37 ID:5mwSsDMs
さるさんに引っかかってしまいました…。投下の方は終了しましたので
どなたか次のレスの代理をお願いします…。

149LYRICAL COMBAT ◆CF.MGbgQBo:2009/04/20(月) 17:20:29 ID:5mwSsDMs
はい、第2話終了です。やっと六課との接触ができました。
支援してくれた方、ありがとうございます!
それでは、また。

150りりかる新人隊員 ◆LtQa/zljtQ:2009/04/26(日) 23:16:48 ID:anR3nOTw
新人隊員です。スレの容量が超えてしまって投下できません。
どなたか、続きを投下してはくれないでしょうか

151りりかる新人隊員 ◆LtQa/zljtQ:2009/04/26(日) 23:18:26 ID:anR3nOTw
新人隊員です。スレの容量が超えてしまって投下できません。
どなたか、続きを投下してはくれないでしょうか

152りりかる新人隊員 ◆LtQa/zljtQ:2009/04/26(日) 23:26:03 ID:anR3nOTw
 ――場所は変わり、研究施設。

「レリック反応を追跡していた、ドローンⅠ型6機、すべて破壊されています」
「ほう…」
 モニター越しに女性と会話をするのは、白衣の男――ジェイル・スカリエッティ。
別に映し出されたガジェットの残骸を見、至極興味深そうな表情をした。

「破壊したのは局の魔導師か…それとも、アタリを引いたか?」
「確定はできませんが、どうやら後者のようです」
「すばらしい、早速追跡をかけるとしよう」
底冷えするような冷笑を湛えてそう言うスカリエッティ。
と、そこにコツコツとこちらへと来る足音が一つ。

「ねえ、Dr。それなら、アタシも出たいんだけど」
「ノーヴェ、君か?」
「駄目よノーヴェ、貴女の武装は、まだ調整中なんだし」
「今回出てきたのがアタリなら、自分の目で見てみたい」
 どこかぞんざいな口調で頼む、ノーヴェと呼ばれた少女。
しかしスカリエッティは、ゆっくりと首を振った。

「別に焦らずとも、アレはいずれ必ず、ここにやってくる事になるわけだがね……まあ、落ち着いて待っていて欲しいね、いいかい?」
「……わかった」
 渋々納得したかのように、ノーヴェは引き下がった。
その間にも、彼等は事も無げに話を進める。

「ドローンの出撃は、状況を見てからにしましょう。妹達の中から、適任者を選んで出します」
「ああ、頼むよ」
そう言って頷くスカリエッティの視線は、もう片方のモニターに映し出された、何者かに破壊されたガジェットの詳細の方に移っていた。



「…俺の手が必要か?」
 不意に、スカリエッティの後ろから声が聞こえてきた。
ノーヴェとは違い、音も無く彼の背後を取る男。

 男は、面妖な出で立ちをしていた。
全てが白く染まった様な、死覇装にも似た服を着こなし、頭部には虚の欠片と思しき物が付いている。そして精密機械を思わせるような感情の起伏が見られない顔。
その冷徹な表情で、彼は睨むように訊ねていた。


「君の出番はここじゃあ無いよ」
しかし後ろを取られにも関わらず、スカリエッティの声は平坦そのもので返した。

「『破面』の力というのが、どれ程のものか、確かに見てみたいところだが、ここで使うにはいささか早計というもの……
当面君には別の場所で働いてもらうとしよう、頼むよ、ウルキオラ」
 その言葉に、男――ウルキオラは特に異議を唱えることはしなかったが、いま一つ、確認するように訊く。

「別に構わないが、藍染様との契約を、忘れてはいないだろうな?」
「わかっているさ、私と君の主とは、少なからない仲でもあるのだからねえ――約束はちゃんと守るよ」
 彼の謹直さに苦笑いを呈しながらも、スカリエッティは頷いた。

―――ならいい、とそれだけ確認するとウルキオラもその場を後に去って行く。

「……後は」
 そしてスカリエッティは再び視線をモニターに戻し、そこに映る高台――を感慨も無く見下ろす少女を見て呟いた。
「愛すべきもう一人の友人にも、頼んでおくとしよう」

153りりかる新人隊員 ◆LtQa/zljtQ:2009/04/26(日) 23:26:46 ID:anR3nOTw
「あ〜〜買った買った!」
 大手を振って歩く二人の女性がいた。
道行く人が十人いれば十人、振り返ること間違いなしの美女二人が、両手に買い物袋を抱えて歩いている。
「あの…いいんですか? こんなに買っちゃって」
 隣の巨乳美女、織姫が手荷物を見て恐る恐る訊くが、しかし乱菊はどうってことなさそうに返す。
「いいのよ! ちゃあんと経費から落としてきたし!」
「それ、いいんですか? 勝手に使っちゃったら日番谷君怒るんじゃ…」
「大丈夫、うちの隊長は懐が大きいから!」
 にっこり微笑んで言い切る乱菊。―――冬獅郎の苦労はまだまだ絶えない。
アハハ、と織姫が苦笑いを呈しながら、何気なく道を歩いていたその時。


「……?」
 ふと、何か気付いたように織姫が立ち止った。

「どうしたの織姫?」
「え、と…今何か聞こえませんでしたか?」
 周りを見渡して、聞き耳を立てる織姫。
乱菊もそれに倣うが、特に怪しい音は聞こえてこない。

「別に何も―――」



    カコン




 と、重く低い音が、乱菊の耳にも響いた。
聞き間違いじゃない、確かに何かが…こっちに来ている。

「こっちです!!」
 織姫が、角の路地裏に回った。
乱菊も織姫の後を追って角を曲がる。

 次の瞬間、二人は驚きに目を見張った。

「乱菊さん…これは……」
今、織姫たちの目の前には、重度の怪我を負った、少女が倒れていた。
だが、乱菊が目を向けたのはそこだけではなかった。

「……この子…」
 乱菊が彼女を介抱しながら、少女の腕に繋がれているケースを見た。
―――それは、レリックのケースに他ならなかった。


「とにかく、隊長に報告しなきゃ」
 彼女の瞳には、いつもの楽天的な表情が微塵にも消えていた。





 仮本拠地内 執務室にて

「…………終わった……」
 今しがた最後の生類整備を終え、やっとぐったりと机に項垂れる冬獅郎。
―――結局、乱菊の分までやってしまった。
先刻ほどに乱菊が出て行った時は、目も当てられないほどに雑多だった副隊長机も、今や自分の机と同じように綺麗に整っている。

154りりかる新人隊員 ◆LtQa/zljtQ:2009/04/26(日) 23:27:33 ID:anR3nOTw

 しかし、今広がる光景とは裏腹に、冬獅郎の心はストレスで曇りに曇っていた。

(やっぱり俺はお人好しか?)

 自己嫌悪で悶絶する冬獅郎。こんな調子では本当にこれからが思いやられる。
――もし、こんな時に何かありでもしたら。



「ん、何だ?」
 それを告げるかのように突然、懐にある伝令神機から、連絡が来た。
嫌な予感がすると分かりつつも、冬獅郎は渋々電話に出る。

「――十番隊 日番谷だが」
「隊長ですか? あたしです!」
「……何だよお前か」
 ただでさえ深い眉間をさらに寄せて、不機嫌を露わに訊く。

「一体今度は何があったんだ?」
「単刀直入に言います、路地裏で少女が大怪我で見つかったんです!!」
そらきた。
また新たに増えた厄介事に、冬獅郎は大きなため息を吐く。

「オイ…テメエまさか、それも俺の手が必要とか抜かすんじゃねえだろうな? それくらいの状況判断ぐらい自分でしやがれ―――」
「少女の持っていた物の中に、レリックと思しき物も見つかりました」


「!!!」
 瞬間、冬獅郎の目が驚きに開かれた。
まさかこんなにむ早く見つかるとは―――。
どうやら、状況というものは、いつもやってきてほしくない時にこそ、起こってしまうものらしい。
冬獅郎は再び大きなため息をつくと、改まった声で訊き直した。

「…場所は何処だ?」





「あ、ここです! 隊長」
 数分後、乱菊達の処に、えらくクールな、昭和風の少年服を着た冬獅郎が路地裏へと行き着いた。
「隊長…その服で来たんですか?」
 勇気があるなあ、という目と、それはないだろう、という珍妙な目で冬獅郎を見る乱菊。
―――どうやら自分がこれを着せたことは遥か遠い記憶の中に置いてきてしまったらしい。

「松本…テメエ後で覚えてろよ」
 そう吐き捨てから、改めて織姫の結界術で治療中の少女と―――隣の鎖に巻かれたケースを見やった。

「………封印は?」
「一応、しときました」
「――そうか」
 冬獅郎の視線は、レリックから再びケースへと移る。
正確には、ケースに繋がれている鎖に注目しているようだった。


「…これは……」
――切れている鎖の先端。
冬獅郎がそこから答えを導き出すのに、そう時間はかからなかった。


「レリックはもう一つある」
「――え?」
「直ぐに動くぞ、松本、準備をしろ」
 あまりの事についていけない乱菊を余所に、冬獅郎はすぐさま懐から丸い丸薬――もとい義魂丸を取り出し、口に入れた。

仮初の肉体から、彼の本来の姿が現れる。

155りりかる新人隊員 ◆LtQa/zljtQ:2009/04/26(日) 23:35:59 ID:anR3nOTw
黒い着物『死覇装』を身に纏い、さらにその上、護挺隊の頂点に立つ者のみ着用が許される『隊首羽織』そこに書かれている『十』の数字の白い羽織をなびかせ、
そこに長身の愛刀を担ぐ。
同時に、先程まで不機嫌で歪んでいた顔も、威厳のあるものへと変わっていた。

「はぁ…仕方ないか」
 渋々といった感じで、乱菊も冬獅郎の後に続き、義魂丸を口にする。
同じように身体から魂が引き剥がされ、冬獅郎と同じ死神装束の彼女が現れ出る。


その頃には、冬獅郎がレリックをケースから取り出し、先程までの自分の義骸に指示を出していた。
「とりあえず、お前達は拠点にまでこのレリックを届けてくれ」
冬獅郎の身体に入った義骸は、大仰な敬礼を取って答える。

「わかりました! 70%の確率で届けます!」
「100%の確率で届けろバカ!!」
 多少の不安は残しながらも、冬獅郎と乱菊の義骸達は素直に指示を受け取り、速やかにその場を去って行った。冬獅郎は素早く乱菊に向き直る。

「松本、お前はまず今のこの状況を黒埼達に伝えろ。それが終わり次第、残りのレリック探索を始めるぞ」
「え〜〜〜! 地下水の中を探し回るんですかあ?」
乱菊も開けられた地下道を見、不服そうな声を出す。
しかし、冬獅郎は有無を言わせない。


「松本、束の間の休息はもう堪能しただろ?」
 その口調は、先程までの不機嫌が醸し出したようなものでは無かった。怒鳴るでもなく諭すでもない、ただただ静かで、そして重みのある声。

「こっから先はマジで取り組め―――でねえと、死ぬぞ」
「…わかってますよ」
面倒そうに返しながらも、もう彼女の瞳からは、いままでのお茶らけた感じは消えていた。

「あの、日番谷君…あたしはどうしたら…」
「お前は、そのガキをある程度治療したら保護しろ―その後は命があるまで待機だ。わかったな」
「え、でも―――」
 
その眼には、「自分も戦いたい」という意味が容易に察せられた。
だが危害を加えられない彼女の性分では足手まといになることは分かり切っているし、第一状況が状況、個人の我儘に付き合うほど、今は暇でも無かった。

「言ったろ、待機する役も重要だってな――だから大人しく待っていろ」
「大丈夫よ、直ぐに終わらせてくるから」
「…わかりました」
 乱菊のその言葉に、織姫はただ頷くしかなかった。
そして、二人は再び地下水の入口の方に向き直る。

「準備はいいな、松本」
「何時でも」
 簡素な返答――だが、それだけでお互いの準備ができたことが、長年培ってきた信頼でわかっていた。
「日番谷君、乱菊さん」
織姫は、二人が消える最後の最後まで、冬獅郎達を見送っていた。

「―――気をつけて」
「ん、ああ」
「これが終わったら、またショッピングの続きでもしようね」
二人は、それぞれ織姫にそう返すと、暗い地下水の穴の中へと消えていった。





「―――それにしてもこの子、どっから来たんだろう?」
 目を覚ますまでの間、その場で治療することにした織姫は、改めて酷く傷ついた少女を見やった。着てる服や、痣だらけの身体を見ても、
ただ地下水を歩いてきたにしてはおかしい位ボロボロだった。
無論、レリックのケースを何故運んで来たのかも大きな疑問の一つ――なのだが……。

(…何だろう、この子…)

 それ以上に織姫の疑問を抱かせているのが、少女から感じる『霊圧』だった。
決して大きくは無い、むしろ小さい部類に入るくらいものではあるのだが、――どこか違う、織姫は理屈ではなく感覚でそう感じた。
 死神のものでも虚のものでも無く、だが自分達ともどこかかけ離れているような…この感覚は一体……。

156りりかる新人隊員 ◆LtQa/zljtQ:2009/04/26(日) 23:43:15 ID:anR3nOTw
「ウオオオオオオオオオオオオオァァァァァァ!!!!!!」


今度は路地裏の奥で、地獄から聞こえてくるような、重く、響くような唸り声が聞こえてきた。
織姫は、一旦手を休め、恐る恐る向こう角で蠢く影を見た。


 ――腕が、脚が。


人体の形相を留め得ないその姿態を見たとき、織姫の神経に戦慄が走った。

(虚だ……!! 何でここに?)

新たに湧き出る疑問。
虚は、自分に気づかず、その場から消えていく。
 ―――このまま野放しにはできない。

「ゴメンね、直ぐ帰ってくるから」
 織姫は少女に結界術を張ったまま、急いで虚の後を追いかけた。
角を曲がり、細道を通り、人気の無い路地裏を突き進み―――そして、見つけた。
長い時間を掛けてしまったが、漸く虚の影がその眼に視認することができた。

(せめて、これぐらいはみんなの役に立たなきゃ!!)
 そう意に決し、攻撃準備を整え、虚に向かって行こうとして―――不意に止めた。

「―――ガッ!!!?」
「……え?」
 突然虚は、頭を抱え込んで苦しみだした。
それと同時に、虚の身体がみるみるうちに溶けだし始める。
鱗のようなもので覆われた皮膚は、不気味な音を立てながらドロドロに落ちて、その上から蒸気が立ち込める。

「ギャァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!」
そして次の瞬間、原形すら留めずに、虚は字義通り蒸発して、消えた―――。

「……どうなってるの……?」
 織姫は、わけがわからず、ただそこで立ち竦むだけだった。


そして、その同じ頃。


「―――あれ?」
「どうしたの、エリオ君?」
 同じく束の間の休暇を楽しんでいたエリオとキャロは、ある街路地で足を止めた。

「いや、何か叫び声のようなものが聞こえたような――」
 エリオは不審げに辺りを見回し、そしてすぐ角にある細道に目を向けると、そこに一目散へと駆け出した。

「あ、待ってよエリオ君!」
急いで追いかけるキャロを余所に、エリオは角を曲って、そして驚きに立ち止った。
後から来たキャロも、エリオが見ているものを見て、その理由を悟った。

 道端に、不思議な光に包まれている少女が倒れていた。

「お…女の子? 怪我してる!」
「それと…何だろ、この光…?」
 少女に駆け寄り、不思議に光るものにエリオが触れようとした時、それはふっと消えてしまった。

「な、何? 今の」
「と……とにかくスバルさん達に知らせないと!!」
 慌てふためきながらも、少女の介護を始めるエリオとキャロ。
そんな彼等のやり取りを、頭上から遠巻きに見る小さな影が二つ。

「た…大変だ……」
 さっきまで少女の、治療の担当をしていた織姫の分身体ともいえる小人――舜桜が、エリオ達と同じくらいに慌てて言った。

「とにかく、織姫さんに知らせないと…!」




 時は進む、ゆっくりと。
  世界は交わる、再びに。
   そしてそれぞれの思いを胸に、彼等は衝突する。






―――――――――――――――――――――――――――To be continued.

157りりかる新人隊員 ◆LtQa/zljtQ:2009/04/26(日) 23:45:55 ID:anR3nOTw
今日はここまで、全然目新しいものが無くてすいませんでした。
なので予告でもしておきましょう。

次回、いよいよ戦闘開始! まず最初は『子供対決』からです!!
 ―補足…というか反省―
冬獅郎の少年服の下り、完全に要らなかったですね。
衝動的にやってしまって、最後まで入れようか迷ったんですけど…。
でもやっぱり今は反省しています。
質問があったらどうぞよろしくお願いします。
                       ――――――ではまた。


ここまでお願いします。今回はさるさんにやられるわスレは越えるわで色々と迷惑をかけました本当に申し訳ないです。

代理の方、ありがとうございました。

158魔法少女リリカル名無し:2009/04/27(月) 00:01:09 ID:sCgDLBUE
age

159魔法少女リリカル名無し:2009/04/27(月) 00:01:48 ID:sCgDLBUE
age

160<削除>:<削除>
<削除>

161魔法少女リリカル名無し:2009/04/27(月) 22:08:50 ID:uw0hWcUg
容量オーバーとわかっていながら、スレ立てせずに代理投稿依頼とな。

162無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/05/14(木) 20:10:11 ID:8AABVTo2
大変お久しぶりです。本当はGWに投下したかったんですが忙しかったりアクセス規制にあったり…ors
遅くなりましたがリリカル×ライダー第4話を20:30に投下したいと思います。

163無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/05/14(木) 20:53:01 ID:8AABVTo2
遅くなりましたがどうぞ。


「アンタみたいな犯罪者を、あたしは許さない」
 ティアナが一枚のカードを握りしめながら俺を睨み付ける。
 俺はそこまで恨まれるようなことをしただろうか?……いや、恨んでいるとは違うか。しかし彼女がああなっている理由はなんだ?
 人を傷付けたのが許せないのか、言い訳にしか聞こえないことばかり言うのが許せないのか、それとも罪が課されなかったことが許せないのか。
「おい、俺は戦い方なんか知らないぞ?」
 そんなの知らないとばかりに構えを取るティアナ。こちらの台詞は無視する算段か。
 しかしどんな理由にしろ彼女とは分かり合う必要がある。勘違いされたままというのは気分が悪い。
「じゃあ、いくわよ」
 結局、いくら考えようと、この戦いを止めることは出来なさそうだ。



   リリカル×ライダー

   第四話『模擬戦』




「なのは、何故この模擬戦を許可した?」
 後ろから話しかけられたので振り向くと、そこにはシグナムさんが立っていた。
 彼女の特徴は燃えるような、しかし赤いとは違う桃色に似た髪だと思う。普段からその髪をポニーテールに纏めていて、キリッとしててカッコいい。厳しく真面目な性格で、はやてちゃんの守護騎士達の中でも特にリーダーとして慕われている。
「シグナムさんがここに来るなんて珍しいですね」
「何を言う。こんな興味深い模擬戦、見ないはずがなかろう」
 彼女の戦闘(決闘?) 好きは、今に始まったことではなかった。
「にゃはは……そ、そうですね」
 実はわたし、ちょっとだけシグナムさんが苦手。あんまりお話しないからというのもあるけど、何より性格的に合わない。嫌いってわけじゃないし、むしろ尊敬してる所もあるのだけれど。
 逆にフェイトちゃんとは仲が良いんだけどなぁ。
「で、何故許可した? なのはらしくないと思うが」
 自分は過去の失敗から、無茶はさせないように教育している。今回の模擬戦はそれに反するということだろう。そう、自分でもそれぐらいは分かっている。
「やらせてあげないとティアナも納得しないだろうな、と思ったので。それにカズマ君が何故暴走していたかも知りたいし、丁度いいかと思いまして」
「やはりらしくないな。お前がそんな打算的な行動を取るとは」
 クスリと笑ってそんなことを言うシグナムさん。わたしってそんなに良い人ぶってたかな?
 ただ、らしくないなとは自分でも思うけど。
「まぁ、私は楽しませてもらうだけだ。なのはの判断以上の答えを私が出せる訳ではないからな」
 それっきり、黙り込んでしまった。

164無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/05/14(木) 20:53:46 ID:8AABVTo2



     ・・・



「クロスミラージュ、セットアップ!」
『Set up』
 ティアナが一枚のカードを掲げる。彼女の一声と共にそのカードと持ち主が橙色の光に包まれ、それが無くなった頃には先ほどとは全く違う、活動的な服装になっていた。おそらくあの服がバリアジャケットとやらだろう。
 そしてカードの代わりに握られた二丁の拳銃。アレが彼女のデバイスらしい。
「さぁ、アンタもバリアジャケットを纏いなさい」
 いや、纏えって言われてもやり方知らなんだがな。今から何をすればいいのか、さっぱりなんだから。

 ――戦え。

「……っ!」
 来た、アレだ。あの衝動が沸き上がってくる。俺に全てを破壊させようとする、あの衝動。なのはを傷付けたあの力。……俺をおかしくする、この力。

 ――戦え。

 また左手が動き出す。返却された例の機器を握った左手が。
「チェンジデバイス、セットアップ」
『Stand by ready set up.』
 例の機器、チェンジデバイスが動き出す。中央のクリスタルが一瞬光り、ベルトが射出されて腰に取り付けられ、待機音が鳴り出す。

――戦え。

 また、俺が俺でなくなっていく……。

165無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/05/14(木) 20:56:13 ID:8AABVTo2



     ・・・



「あれが、お前の言っていた」
「ホントに“変わった”でしょう?」
 わたしが見る先、空間シミュレーターが設置された訓練場。そこでティアナと“彼”は戦っていた。
 鎧に似た青いバリアジャケットを纏い、ティアナに向かって歩くカズマ君。けれど、彼はカズマ君であってカズマ君ではない。
「確かに戦うことしか考えていない戦闘狂のようだな。闘争本能の具現とは、言い得て妙だ」
 今日の朝、カズマ君の部隊入り挨拶の後にシャマルさんが出した一つの結論がそうだった。少ないデータと推測で成り立った、まだ原因すら欠片も考えられていない危うい推論ではあるけれど、確かに納得出来る考えでもあった。
「わたしのときはあっちが先だったんですけどね」
「あれが先だと、やはり恐怖を抱くだろうな。今は不安と危険性を感じているが」
 カズマ君の拳に展開された小さな青い三角形の魔法陣がティアナの放つ橙色の弾丸を悉く粉砕する。それは荒々しく原始的で、しかし緻密で精巧な迎撃。あんなシールドの使い方、初めて見た。
 シグナムさんの言う通り、不安と危険性、そして何とかしてあげたいという思いをわたしは抱いていた。そのためにも、まずはこの戦いを見届けなければならない。
 何をすればいいか、見極めるために。



     ・・・



「……くっ!」
 またも放った弾丸が迎撃される。
 すでに数十発は撃ち込んでいるのに、全て叩き落とされていた。あのカズマって人が突然表情を歪ませて変身してからずっと、言い知れぬ恐怖があたしを包んでいるのが分かる。それを振り払うように攻撃を続けるが、ことごとく無力化されてしまった。
「いったい、何なのよっ!」
 なのはさんの教えを破るのを覚悟でビルに飛び込む。射撃型魔導師、特にセンターガードの自分がみだりに動くのは本来得策ではないのだが、今回は一対一ゆえに例外だ。
 アイツはゆっくりとこちらに歩み寄る。こちらを侮っているのではなく、こちらを見極めるために。
 念のために空間に残しておいた魔力スフィア三つを魔弾に変えて、飛ばしておく。ただの時間稼ぎだ。今は考える時間が欲しかった。
(アイツ、戦い慣れしてる……)
 いや、正確には戦いをどう進めるのが最も合理的かを理解している、と言うべきか。普段みんなに指示を出す司令塔または頭脳となるあたしだからこそ、それらを理解しているということが分かる。
「カートリッジは使ってないから十分にある。ただ通常の魔法弾はまともに使用しても意味はない。ならクロスファイアか“アレ”を――」
 ――いやダメだ。そんな正攻法では勝てない。だいたい“アレ”はまだ実用段階にある代物じゃないのだから、今はまだ使えない。
 そう考えている間に、アイツはやって来ていた。
「っ!」
 自分の隣の壁が吹き飛ぶ。丸く穿たれた穴の先に見える、青い影。
「このォ!」
 考えている暇すら与えてはもらえない。あたしはクロスミラージュを構えて魔法弾を撃ち出した。

166無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/05/14(木) 20:57:35 ID:8AABVTo2



     ・・・



 ――戦え。

(……うるさい)

 ――戦え。

(うるさい)

 ――戦え。

(五月蝿い!)

 自らの内から響く声がうるさい。俺を惑わすこの声が五月蝿い。俺に望まないことをさせる声が本当にうるさい!
 俺は、人を守るためにしか、戦わない!
「……っ!」
 頭が疼く。今何かを思いだそうとしたはず――
「――あ、あれ?」
 目の前の光景に、思考がフリーズした。
「あ、アンタ、なんかに……」
 俺が、正確には装甲に包まれた俺の右腕が、ティアナの首を掴んでいた。その右手が、俺の意思に反して力を込めていく。
「や、やめ……」
止めろぉぉぉぉぉぉぉ!
 そう思った途端、手から彼女が消え失せた。
「き、消えた?」
 まるで陽炎のように橙色の輪郭を一瞬残して消えた彼女。あれは、一体?
 いや、そもそも俺は何をしていた?
「また、またなのか……」
 そう思い立った矢先に、事態は推移していた。
「ぐあっ!」
 背中に衝撃。装甲ごしではあるが、内臓を揺るがすような嫌な感じ。まさか、攻撃された?
 後ろを見れば、消えたはずのティアナがこちらに銃口を向けていた。
「あ、当たった……?」
 彼女も驚いたような顔をしている。
 そして状況を思い出す。今が模擬戦の真っ最中だったということを。
「や、ヤバい!」
 速攻で、全力で逃げることを決めた。
「あ、待ちなさい!」
 そして第2ラウンドが始まった。

167無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/05/14(木) 20:58:12 ID:8AABVTo2



     ・・・



「あれは幻影だったのか」
 シグナムさんが驚いたという顔をして、そう呟いた。
「ティアナ、この頃は頑丈なフェイクシルエットも作れるようになったんですよ。しかも喋ることが出来る精巧なものを。……まだ軽く掴めるぐらいですし、維持と精製に相当魔力を持っていかれるんですけどね」
 ティアナ特有と呼べる、彼女の得意魔法、それがフェイクシルエット。幻影を精製する魔法だけど、彼女が使えば色んな応用が効く。今のような精巧な偽者も、最近は作れるようになった。
 今の奇襲も、彼女らしい機転の効いたものだった。
「しかしアイツ、元に戻ったみたいだな」
 アイツとはカズマ君のことだろうけど、確かにさっきとは違う普通のカズマ君に戻っていた。先程の怖いぐらい完璧な戦闘が嘘のように今はティアナから逃げている。
「今のカズマ君じゃ、ティアナには歯が立ちませんよね」
魔法弾がカズマ君に降り注ぐ。橙色の光雨はフェイクを混ぜたものだけれど、相手の戦意を喪失させ、回避を困難にさせる。カズマ君の装甲にいくつかがぶつかり、火花が飛び散っているのが痛々しい。
 そろそろ模擬戦も終了か、と思う。これ以上続けても意味はないと思うし。
「いや待て、なのは。あいつをよく見ろ。無意識か知らないがティアナの射撃を避けてるぞ」
「え?」
 ……確かに、彼は逃げ惑いながらも体を左右にずらして避けていた。ティアナが四方八方から放つ射撃と誘導弾を当初は全弾直撃していたのが、今は八割を避けている。
「なのは、まだ面白くなるかもしれんぞ?」
 シグナムさんの笑顔が、妙に楽しげに映った。

168無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/05/14(木) 20:59:03 ID:8AABVTo2



     ・・・



「このっ、落ちなさい!」
「うわぁ!」
 アイツの右に着弾。いや、アイツが左に避けた結果、右に着弾と言うべきか。
 さっきから段々と回避が上手くなってる。無様に逃げているくせに、その背中に魔力弾が当たらない。その上、当たっても致命傷にならないほど頑丈なのだ。
 さっきとは違う意味で、焦りを感じていた。
「おい! もう降参するから撃つのを止めろ!」
「そうやって騙そうとしても無駄よ!」
 多分騙そうと言っているわけじゃないと思うけど。でもコイツをコテンパンに叩きのめさないと気がすまない。
 なんでここまでムキになっているか、自分でもよく分からなくなってるけど。
「このっ……!」
 フェイクシルエットを彼の前に出現させる。同時に誘導弾四発を二手に別れさせて左右同時攻撃。そして回避した所をあたしが――!
「うわっ!」
 彼が目の前に現れた偽のあたしを慌てて避ける。そこに誘導弾を仕向ける。
「いい加減にしろっ!」
 彼が体を捻って右の二発を避ける。流石に体制的に無理があるので左の二発は避けられなかったけど、手で強引に叩き落としている。それもシールドも無しに。
「でも、これで終わりよっ! クロスファイアァァァ、シューーート!」
 彼に向けた二つの銃口から八つの魔弾が炸裂する。魔力弾達は渦を描くような弾道を取りながら一つの砲撃のようにアイツに迫る。
「っ!」
 それに対しアイツは、剣を引き抜いて待ち構えていた。その構えは垂直に支えた剣の峰に左手を添え、腰を落とした独特のもの。
その左手が、ゆっくり剣の峰を撫でる。
「そんなんで……」
「でやぁぁぁ!」
 そんなあたしの疑問も刹那。一瞬の内に彼の元に届いた魔弾の軌道に合わせるように、彼は剣を動かす。その剣の腹を滑るようにして魔弾達はあらぬ方向へ流れていった。
 アイツは、その剣で、あたしの射撃を弾いた。いや、反らしたのだ。
 完璧に、受け流されたんだ。
「そ、んな」
「これで、もう終わりだ」
 疲れたような声で宣言するアイツ――カズマ。
 あたしは……まだ、負けてなんか――
「――二人とも、そこまで!」
 唐突に、なのはさんの声が訓練場を満たした。

169無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/05/14(木) 20:59:41 ID:8AABVTo2



     ・・・



「主はやて。これがカズマについての報告書です」
 大きな机と大量の書類。隣には小人用としか思えない小さな机。
 特徴と呼べるものがそんなものしかないこの部屋が部隊長室、そう、八神はやての部屋だ。
 ペンと紙の匂いに混じる仄かな甘い香りだけが、ここが女性の部屋であることを証明していた。
「ありがとな、シグナム。慣れないことやらせてしまって大変やったやろ?」
 いえ、と断りつつ書類を机に置くシグナム。
「しかし何故このようなことを?」
 彼女からしてみれば疑問に違いない。これではまるで彼を監視しているようだからだ。
 少なくとも彼女からすればカズマは本当に記憶喪失に見えるし、性格も悪くはないように見えたので、主の目的が読めなかったのだ。
 だが、それは決して主を勘繰っているわけではない。シグナムははやてを信じているからこそ、事情を説明して欲しかったのだ。
「んー、単に知りたかっただけよ? 今後使えるかどうかを」
 ……シャマルが言っていたのはこれか。
 シグナムは溜め息をつきながらはやての手を握った。
「シグナム……?」
「主、私達は家族であり、家来です。貴女のことを守護騎士全員が大切に思っていますし、我々全員が貴女のためなら命を捨ててでも尽くすつもりです」
「シグナム……」
 彼女は握った手に力を込め、決して離さぬように胸にかき抱く。
「だから主はやてよ、私達にだけは、隠し事をしないで下さい。私達家族を、信じてください」
 シグナムが深々と頭を下げる。その手は僅かだが、震えていた。
 はやては少しだけ驚いた表情を浮かべたものの、すぐにそれを笑顔に変えて彼女の頭に優しく手を置いた。
「私がシグナム達を信じていないなんてことは一度だってあらへんよ?」
 シグナムは頭を上げて、はやてと視線を合わせた。
「では教えてください。何故カズマの監察を、私に命じたのかを」
 そこで少しだけはやては困ったように首を竦めるも、すぐに笑顔に戻す。
「私は、カズマ君を助けるつもりや。けどそのためには彼の事を知っておかないかん。武装局員になれる実力があるなら私が連れていくつもりやし、本人が望むなら進路先を斡旋することもできる。逆に戦闘能力がないようならそれに応じた仕事を探してやらないかん。どちらにしろ、カズマ君のことを知らんと私は何も出来んやろ?」
「そういう、ことだったのですか……」
 流石は我が主だ、とシグナムが頷く。彼女としてもはやてがそこまで考えて動いているとは想像がつかなかったのだろう。
「申し訳ありません。信じ方が足りなかったのは、私の方だったのかもしれません」
「ええよ、気にせんどいて? それよりカズマ君のこと、ちゃんと見といてや?」
「はい、主はやて」
 今度こそ晴れやかな顔で、シグナムは力強く頷いた。

170無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/05/14(木) 21:00:17 ID:8AABVTo2



     ・・・



 結局、勝負はティアナの勝利で決まった。当然だ、自分はひたすら逃げていただけなのだから。
「カズマ君はやっぱりセンスはあるんだけど……」
「……すいません」
 不貞腐れたような返答を、なのはに返す。
 やはり最大の問題は"あれ"だろう。制御出来なければ俺は役立たずだ。ふと思ったが、記憶を失う前の自分は、こんなことで苦しんだのだろうか。
「痛っ!」
「こんなになるまで模擬戦続けたの?」
 俺の身体中に出来た打撲の後を見てシャマルさんが顔をしかめる。バリアジャケットとやらで多少はダメージを緩和出来ても、完全には無力化できないらしい。なのはも最初見たときは顔を歪ませていた。
「なんだかカズマ君って早速患者の姿が板に付いてきたわね〜」
「勘弁してくれよ……」
 小声で抗議しておく。効果は全くないだろうが。
 二度目の医務室だが、未だに慣れることはできない。いや、こういった場所に医者以外が慣れること自体おかしいか。アルコールの臭いが僅かに鼻をくすぐる空間は、やっぱり居心地悪さしか感じない。
「はい、おしまい」
 包帯をあちこちに巻かれてようやく完了か。何だか治療だけで疲れた。
「さ、二人とも疲れたでしょ? 食堂で皆待ってるから」
 なのはが笑いながら指差す。もう二時だった。一緒に付いてきていたティアナは隣で不満そうにしていたが、諦めたように溜め息をついた。
 シャマルさんに送られて医務室を出た後、食堂に三人で行く間、なのはが何度か話しかけてきたので気まずくはならなかった。ティアナも考え事をしているらしく、俺に絡んではこなかったし目も合わせなかった。
 そうして着いた食堂ではフォワードメンバーの三人、スバル、エリオ、キャロが待っていた。
 皿に盛られた料理を見て、ようやく空腹を意識したのが不思議だ。あんなに運動したというのに。俺は少食だったのだろうか。
「「お帰りなさい、なのはさん、ティアさん!」」
「お帰りなさい、なのはさん! ティアもお疲れ!」
 年少組のエリオとキャロは口を揃えて、スバルは大きく元気な声で、二人を迎えた。
 当然、俺の名前はない。
「……なのは、用事思い出したから今日は――」
「――ダメだよ。皆と仲良くしてくれなきゃ」
 見事に捕まってしまった。
 どうやら自分は器用なことが出来ない質らしい。腕を捕まれていたことにも、今更気付いたほどだ。
 ティアナはまだ考え事をしているのか、挨拶をした三人に軽く答えた後に椅子に座っても腕組みを崩さなかった。
「……ティア?」
「あ、な、なによスバル?」
 彼女も恥ずかしいと頬を赤く染めたりするのか、と思った。当然のことか。

171無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/05/14(木) 21:00:57 ID:8AABVTo2
「ティアがボーっとしてるなんて珍しいなーと思って」
「あたしは考え事してたのっ!」
 わいわいと騒ぎ出す二人だが、仲が良いのだろうからか、端からはコントのように見えた。決してティアナには言えないが。
「あ、あの」
「……え?」
 唐突に話し掛けられた。まさか誰かに話しかけてもらえるとは思ってなかったので、咄嗟に反応出来なかった。
 見ればキャロがこちらを向いて必死に何か言おうとしていた。……けれど、俺の関心は別の方にいってしまっていた。
「な、なんだその蜥蜴……」
「と、蜥蜴じゃないです! フリードです!」
「キュクルー!」
 彼女の頭に乗っている小さな羽を生やした白蜥蜴――もといフリードなる生物に、俺は驚いていた。
「そっかぁ、竜なんて知らないよね」
 なのはが合いの手を入れてくれたのは助かった。正直、驚いてる最中の俺に女の子の相手は無理だ。
「竜、だって?」
「そうだよ。わたしもフリードが初めてだったけど、似たようなものなら前に行った戦地で見たかな」
 とても竜には見えなかった。さすがに蜥蜴は違うだろうが。
「あ、りゅ、竜だったのか。その、間違えて、悪かったな」
 歯切れの悪い口振りに自己嫌悪したのは秘密だ。
「もう、せっかくエリオ君と謝ろうと思ってたのに……」
 怒っても可愛らしいのは幼い女の子の特権だろう。俺もキャロを見てるとひたすらに自分が悪いように思えてきた。
「ご、ごめんな」
「キャロもそのくらいで許してあげなよ」
 エリオがぽんぽんとキャロの肩を叩く。何だかお兄さんのようだ。
 ようやく機嫌を戻したキャロとエリオが姿勢を正してこちらを向く。こちらも何だか緊張してきた。
「「か、カズマさんっ」」
 二人が揃って声を上げる。いつの間にか、なのはもティアナとスバルも押し黙っていた。
「「今まで冷たい態度を取って、すみませんでしたっ!」」
食堂中に、二人の声が鳴り響いた。
 取り敢えず、声のでかさには驚かざるを得ない。二人仲良くハモるのはいいが、そのせいで食堂中に響いてしまうのは勘弁して欲しかった。
 しかも二人の声に反応した周りの目線が凄かった。何故だろう、謝られているのに悪者として見られているような気がする。
「べ、別に謝るほどのことじゃ――」
「その、わたしたち勘違いしてたんです」
 俺の言葉を遮るように、キャロは言った。
「わたし、最初は怖い人なんだろうな、って思ってて。あの時近くで見てたエリオ君が怖かったって言ってたし。でも模擬戦見てて、最初はやっぱり怖いと思いましたけど、途中から本当は優しい人なんじゃないかと思い始めて……」
「僕達にはティアさんを傷付けないように戦っているように見えたんです。戦いが終わった後も自分のことなんか全然気にせずティアさんの心配をしてましたし」
 キャロの言葉をエリオが引き継ぎ、俺に訴えかける。
 確かに自分に彼女を傷付ける意志があったかと言えば否だ。でもそれは当然のことだ。人を傷付けるなんて――。
(――待て。何故俺はそこまで人を守るだの傷付けるなどに拘るんだ?)

172無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/05/14(木) 21:01:28 ID:8AABVTo2
 一瞬の疑問。だが、それはすぐに氷解する。
(いや、人として当然か)
 それで決着はついた。ついてしまった。
「……聞いてますか?」
「――あ、あぁ、もちろんだって。それで?」
 すぐに誤魔化す。今考えることはそんなことではなかった。
「それで、その、これからは仲良くしてもらえませんか?」
「お願いします!」
 ぺこりと頭を下げるエリオとキャロ。願ってもないことだ。
「こちらこそ、仲良くしてくれると嬉しい」
 初めて心の底から笑えた気がした。
「――うん、無事仲直りできたね」
 にっこり笑顔でなのはが俺達の手を取って握らせる。気恥ずかしいが、なのはの気配りは嬉しかった。おそらくセッティングしてくれたのもなのはだろう。彼女も童子のような満面の笑みを浮かべていた。
 たちまち主導権を握ったなのはが話を進めていく。自分と彼女達が話しやすいようにしてくれながら。

 ――ま、これも悪くないか。

 俺もようやく、そう思えるようになった。



     ・・・



「ようやく打ち解けたか。世話の焼ける」
 くつくつと低くくぐもった笑い声を放つ男が一人、広大な広間でカズマを見つめる。
 巨大なモニターにはカズマが笑う姿が映し出されている。
「これでわしはお前の願いを叶えたぞ。すまんが、今度はわしの研究に付き合ってもらう」
 広間のあちこちに置かれた機械を操作しながら、ポケットから十二枚のカードを取り出す。スペードのマークと、鮮やかな生き物の絵が描かれたカードを。
「わしは研究者だ。悪く思わないでくれ」
 それらのカードを、機械のスリットに差し込む。
「さぁ、見せてくれ。人を超えた、仮面の戦士の力を」
 スリットから、光が溢れ出した。



     ・・・



 ようやく打ち解け始めた居場所、機動六課。安息の地を手にした彼は、日々腕を磨きながら内に潜む闇を押さえ込んでいた。そんな彼を試すかのように、断罪の鉄槌がカズマを襲う。

   次回『鉄槌』

   Revive Brave Heart

173無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/05/14(木) 21:09:10 ID:8AABVTo2
えー、ようやく第四話です。話は全然進んでおりません(汗)。
文章がかなり変わってしまい、書き方もイマイチだなぁとは思っています。第五話では改善したいので、感想や批判はバンバン受け付けております!

それとスレの過疎化を耳にしました。確かにベテランの多くが去ってしまい、寂しくなったかもしれません。最盛期の頃を知りませんが、やはり今より賑やかだったのかもしれません。
ですが、今も多くの新人は作品を投下しています。その中にはベテランと肩を並べるほどの実力者もおります。自分もいつかそうなるために精進しています。
そんな職人のために住人の皆さんが更なる応援をしてくださることを祈っています。このスレをいつまでも生かすために、皆さん頑張りましょう!

長文失礼しました。それでは。

174無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/05/14(木) 21:09:44 ID:8AABVTo2
では代理投下よろしくお願いします。

175無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/05/14(木) 22:49:30 ID:m.1OCQvU
ageます。そしてお願いします。

176ロクゼロ2 ◆1gwURfmbQU:2009/05/14(木) 23:39:36 ID:49i/o7Mo
じゃあ、私が代理投下してきましょう。

177ロクゼロ2 ◆1gwURfmbQU:2009/05/15(金) 00:04:51 ID:rqa.JTzM
投下終了。
>>175
行の長さに関するエラーが多発したので、もう少し投下の際は文章を改行した方が
良いと思いますよ。避難所の板は大抵の規制が解除されてますから気付きにくいで
すが、2chはそうでもないので。
ワープロソフトで書いたのをそのまま改行せずに流し投下をすると、結構見にくい
ですし。

178リリカル鉄人 ◆SwzZdVEqO2:2009/05/17(日) 20:47:30 ID:LLxI1tRg
さるさんばいばい食らってしまったので代理投下お願い致します
初回からミスしてすいません

「フェイトちゃんご飯出来たよ!」
「出来たよ!」

声を差し伸べてくれたのは、なのはとヴィヴィオ。
今は素直にこの手に縋ろう。そして思考の迷路から抜け出しなのはの作ってくれた食事を楽しもう。
フェイトが書斎から食卓へ行ってみれば、テーブルに並べられているのは大きなハンバーグが3つ。
今にも破裂しそうなほど肉汁を溜めこんだそれは、見ているだけでフェイトの食欲をそそった。

「うわー美味しそうだね」
「ヴィヴィオも手伝ったんだよねー」
「うん! フェイトママのはヴィヴィオが作ったの!」

よく見れば自分がいつも付く椅子の前に置かれているハンバークの形はかなりいびつだった。
だけど一生懸命作っていた様子を思えば、不格好さがかえって愛しく思えてくる。

「上手だね。ヴィヴィオが作ったのいちばん美味しそうだよ」
「私が作ったのはイマイチなの?」

そう言ったなのはの不満げな表情にしまったといった様子を見せるフェイト。

「えっと…なのはが作ったの凄く美味しそうだよ! 食べてみたいなぁ」
「ヴィヴィオの作ったのは食べたくないの?」

今度はヴィヴィオが泣きそうな顔をして上目使いに見上げてくる。
ここまで来たらもはやフェイトはパニック状態で、どうしたらいいのか分からずに目尻には涙が浮かび始めていた。
その様子を見たなのはがさすがにからかい過ぎたかと思い、声を掛ける。

「ほらほら冷めないうちに食べよ」
「食べよ!」
「二人ともいじめないでよぉ」

恨めしそうなフェイトの表情は、なのはの目にはむしろ愛らしく映り、やはりいたずら心をくすぐるのであった。
しかしこれ以上やって本気で泣かれても困る。今は家族3人で夕食を食べよう。
ひょっとしたらこれが3人で囲める最後の食卓かもしれないのだから。
なのは自身そういう仕事である事は覚悟してきたが今回は状況が状況だ。
もし脱走したスカリエッティとの本格的な戦闘になればフェイトもなのはも駆り出される。
そうすれば前回は勝ったが今回も同じようにはいかないかもしれない。だからせめてこうして娘や親友と過ごせる時間を大切にしよう。
悔いは尽きないがそれでも走馬灯を見るのならば幸せな記憶で満ちる様に。

「それじゃあいただきます」
「いただきまーす」

笑顔を浮かべるフェイトとヴィヴィオを見つめながら何故かは分からないがこの時なのははある予感がしていた。
自分はきっと。

「はい召し上がれ」

きっと二人を残して死ぬだろうと。

179リリカル鉄人 ◆SwzZdVEqO2:2009/05/17(日) 20:48:24 ID:LLxI1tRg
その頃ミッドチルダのある和風居酒屋にて。

「こんな時間にごめんなさいね、はやてさん」
「いえ最近は暇してますから」

座敷に腰掛けている女性が二人。一人はリンディ・ハラオウン。もう一人は元機動六課部隊長である八神はやてだ。
向い合せに座り、営業スマイルのような笑顔を向けるリンディに、こちらは正座をしながら硬い微笑みを浮かべるはやて。
はやては居酒屋にリンディと二人で居るこの状況に些かの戸惑いを覚えていた。
もちろんリンディとは面識がある、しかしそれでも親友の母親であり優秀な指揮官であるという面が強く、このような場所で二人で会う間柄とは言いにくい。
少なくとも杯を交わし合い、日ごろの愚痴を言い合う様な仲でない事は確実である。
はやて自身邪推とは思いつつも、当然この呼び出しには裏があるのだろうと想像せざるおえないのであった。

「あの」
「いらっしゃいませ。ご注文は」

何があるのかとはやてが戦々恐々として口を開いてみれば、それを遮る様に店員が声を掛けてきた。
いや、これが彼の仕事なのだから仕方がない。仕方がないのだが、それでもタイミングという物があるだろう。
そんな風に思っていれば向かいに座るリンディが笑顔で口を開いた。

「まだ決まっていないので後で注文します」
「かしこまりました」

そう言って店員はお冷だけ置いて別の客が居る座敷へと去っていった。
リンディとの緊迫した状況に渇きを訴える喉を潤そうと、はやてがお冷を口に運ぼうとした瞬間。

「はやてさん」
「は、はい」

リンディの呼びかけに、はやては慌ててお冷の入ったコップを座卓の上に戻すと両膝に手を置いた。

「実はお願いがあって呼んだの」

急に笑みの消えたリンディの表情に、はやてはますます身体を強張らせた。
一体何を言われるのだろうか。少なくともこの表情、良い知らせとは思えない。
もったいぶったように口を開こうとしないリンディ。その様子にどんどん事態を最悪の方向へと想定し直すはやて。
そんなはやての不安など気にも留めずにリンディは話し始めた。

「もうすぐ世界が滅ぶわ。はやてさん止めてもらえないかしら?」
「世界が? 滅ぶ?」

この人は何を言っているのだろう。唐突に世界が滅ぶと言われてもどう答えればいいか。
もったいぶったかと思えば今度がさらっと世界滅亡を口にしたリンディに、はやてが取れる態度と言えば、困惑と呆然のいずれかしかなく。

「どういう意味ですか?」
「そのままの意味よ」

聞き返しても返ってくる答えはやはり取り留めのない物で、より一層はやてを混乱させるのに一役買ってしまった。
しかしリンディの顔は至極真剣といった様子で、一見突拍子もない世界が滅ぶという言葉をはやての中で信用足る物に変えていく。

180リリカル鉄人 ◆SwzZdVEqO2:2009/05/17(日) 20:49:28 ID:LLxI1tRg
「あの…リンディさん何が起こるんですか?」

そうだ。何が起こるのか分からなければ戦えない。そもそも誰が相手なのか? どうすれば世界を救えるのか?
リンディの言葉が本当だとするならば、世界が滅ぶと言うならば、自分一人で何が出来るのだろうか。
1年前に起こったJS事件でそれに近い経験はしたかもしれない。だがあれは犯罪であって世界の存亡とはまた次元の違う問題だ。
はやてにとってリンディの世界が滅ぶという言葉はあまりに曖昧で、それにスケールが大きすぎて理解出来ない。
言葉が持つ意味の租借に苦闘するはやてに、リンディは表情を崩さずに話し始めた。

「それはまだ言えないの。だけど世界は確実に崩壊へと向かっているわ。
 だからもう一度、もう一度あなたの六課を使わせてほしいの」

理由を断固口にしようとしないリンディにさすがのはやても不信感は隠せない。
重大な事をリンディが隠しているのは確かだ。それも世界が滅ぶかもしれない秘密を。
いくらリンディに闇の書事件の恩があると言え、理由も分からずに命を掛けるのはまっぴらごめんだ。
例え親友の母親でもそんな事を二つ返事で引き受けられるほど、はやてもお人好しではない。

「理由も分からず命はかけられません。
 何を隠しているんですか?」

はやての言い分はもっともだった。詳細も知らされずに命を掛けるなど愚行に等しい。
リンディもはやての言い分はよく分かる、分かるのだが理由を言う事は出来ないのである。
それを知る事がはやてのこれからの人生を闇で染め上げてしまう事にもなりかねないのだから。
だけど世界を守らればならない。そう葬らねばならない物がある。

「それは……」
「リンディさん!」

世界を守るために少女一人を犠牲にするのは安いかもしれない。だがそれでは10年前の再現ではないか。
そう、はやて自身が犠牲になり解決しようとした闇の書事件。あんな惨劇を二度も繰り返すなど許される事なのだろうか。
それが……少女を犠牲にする事が私に課せられた罪なのだとしたら、私はどんな罰を受けるのか。
いや既に罰は受けている。これ以上ないほど罰を。
言ってしまえればどれほど楽にだろうか。どれほど心安らぐのだろうか。

「そうね、確かに。でもね、あなたを『こちら側』の人間にはしたくないのよ」
「こちら側?」

はやては分からない。この人の言葉は私には理解出来ない。
何が罪で何が罰なのか、リンディ・ハラオウンはどんなパンドラの箱を開けてしまったのだろうか。
リンディの言う『こちら側』とは一体どういう意味なのだろうか。
しかし執念にも似たリンディの言葉にはやては知りたくなっていた。リンディの言葉の意味がなんであるかを。
リンディにとっての『こちら側』つまりはやてにとっての『向こうの世界』の世界がどうなっているのかを。

「分かりました。お引き受けします。
 でもいつか、いつか全てを話してください」
「ええ、時が来たら必ず……必ず話しますから」

結局はやては真実を知る事は出来なかった。
だがしばらくの後はやてはリンディから思いもよらぬ真実を聞かされる事になる。
それが全次元世界を破滅へ導く全人類の存亡を賭けた戦いの引き金になろうとは、この時のはやてには想像も出来なかった。

181リリカル鉄人 ◆SwzZdVEqO2:2009/05/17(日) 20:50:24 ID:LLxI1tRg
午後20時。高町家は既に夕食を終え、ヴィヴィオがテレビにかじり付いている中、なのはとフェイトは夕食の後片付けをしていた。
二人が食器を洗いながら話すのはヴィヴィオ作成のハンバーグの話題でもちきりである。

「ヴィヴィオのハンバーグ美味しかったよ」
「まぁ味付けは私なんだけどね」

そんななのはの言葉にフェイトは苦笑いを受けべる。まぁその通りなのだがはっきり言ってしまうのは寂しい様な気もする。
折角ヴィヴィオが作ってくれたのだからもう少し褒めてあげてもいんじゃないだろうか?

「でもちゃんとふっくらしてたからヴィヴィオの腕がいいんだよ。味付けだけじゃあんなに美味しくならないよ」

だからヴィヴィオの名誉を保つためにも後見人としてしっかり母親に意見しなくては。
ヴィヴィオのこね方がよかったからこそ味付けが最大限に生かされたのだと。
いかにヴィヴィオのハンバーグが素晴らしかったか熱弁をふるうフェイトになのははやや頬を膨らませていた。

「フェイトちゃんヴィヴィオばっかり」
「そうかな?」
「私だってフェイトちゃんの事考えてご飯作ってるんだよ。栄養のバランスとか考えて」

フェイトは少し怒ったなのはが何となく面白かった。
六課の頃もJS事件後は別の仕事で忙しくなり同室と言っても一緒に過ごす時間が多かったとは言えない。
それに食事は給仕の人が用意しくれた物を食べていたから片付けもトレイを下げるぐらいな物だった。
こうして食器を洗いながらなのはと他愛のない話をする時間はフェイトにとって懐かしさを感じさせていた。
なのはと過ごす日常は本当に久しぶりだから、こんな皿洗いの時間でも嬉しく思えてしまう。

「分かってるよ。なのはにも感謝してる」
「うん」

今度は微笑みを浮かべるなのはに愛しさを感じていた。
一番最初の親友で、世界で一番大好きな親友。何が起こってもこの笑顔だけは守り抜いてみせる。
フェイトはそう誓ってなのはに微笑み返した。

――ピリリリ。

それも束の間。かすかに鳴り響いたのは、なのはの携帯電話のコール音。
なのははエプロンで手を拭くと自身の携帯の置いてある寝室へと走りだした。
寝室へ入るとベッドの上で着信を主張し続けるそれを手に取り、通話ボタンを押す。

「はい、高町です。はいはい……今からですか?」

一方皿を洗い続けるフェイトはなのはの会話の内容が少し気になって聞き耳を立てていた。
あまり良くは聞こえないがどうやら緊急の呼び出しらしい。
だがなのはに呼び出しが掛かるとは余程の緊急事態なのか? となれば当然危険度の高い任務だろう。
フェイトは皿を洗う手を止め、なのはの言葉に聞き入っていた。

「分かりました。すぐに向かいます」

フェイトにとってあまり聞きたい言葉であった。かなり厄介な事になっているらしいのは想像に難しくない。
蛇口から流れる水を止めるとフェイトは寝室へと歩き出した。
中を覗くと教導隊の制服に着替えるなのはの姿。その表情は先程見せた笑顔とは違う軍人としての高町なのはだった。
あらかた着替え終わるとフェイトの視線に気が付いたのか申し訳なさそうな表情を浮かべて。

「ごめん。緊急の呼び出し掛かっちゃった。悪いだけどヴィヴィオ見ててくれる?」
「どういう状況?」
「よく分からない。ただ高ランクの人達が何人も墜ちたって……」

182リリカル鉄人 ◆SwzZdVEqO2:2009/05/17(日) 20:51:11 ID:LLxI1tRg
その言葉で思い出すのは、なのはが墜ちたあの日の事。
あんな風になのはの苦しむ姿を見るぐらいなら、この身を引き裂かれた方がどれだけ良かっただろう。
だから今度は一緒に行きたい。高ランクが何人か落ちているなら自分にもいずれ声が掛かるだろう。どうせ行くならばなのはを守れる方がいい。
それにスカリエッティとの関与も気になる。

「私も行くよ。ヴィヴィオは、悪いけどアイナさんに見てもらおう」
「……分かった。じゃあアイナさんが来るまでヴィヴィオお願いね」
「うん」

あいにく高町家で家政婦をしているアイナはこの日休みを取っていた。フェイトとしても本当ならなのはと一緒に行きたいがヴィヴィオを放ってはおけないだろう。
とにかくなのはの事も心配だが、アイナが来るまではヴィヴィオの傍に居なければなるまい。
そんな事を考えている間にもなのはは準備を終え、玄関へと歩き出していた。
フェイトもその後を追う。

「じゃああとお願い」
「気を付けて」

慌てた様子で玄関を飛び出していったなのは。その様子を見届けるフェイト。
勢いよく締められたドアを見つながら妙な胸騒ぎがするのをフェイトは止める事が出来ない。
悪い事が起きる気がする。何故かはわからなかったがフェイトが思い出すのは今朝見た夢の事。
フェイトの中であの血のような紅い色をした瞳が見つめてくるのだ。そう、まるで自分と同じような瞳の色をしたあの鉄の巨人が。
その眼に宿っているのは夢で見た寂しさや儚さではない。殺戮と破壊と思わせる狂気の赤。
何度振り払おうとしても、その視線がこちらを見つめる事をやめてくれようとはしない。

「アイナさんに電話しないと」

フェイトはこれ以上夢の事を考えたくなくて携帯を取り出しアイナへと電話を掛けた。



午後22時 ミッドチルダ首都中央部。

「第1小隊。配置につきました」
『了解。敵を目視確認した後、排除行動に移れ』

いつもは美しい夜景を見せてくれる都市中心部は本局から派遣された武装局員達の存在によって物々しい雰囲気となっていた。
派遣されたのはエース級と呼ばれるAAランク以上の魔導師ばかり。
地上でこれほど戦力が展開される事は稀であり、恐らくは1年前のJS事件以来の事ではないだろうか。
召集を受けた高町なのはは第3小隊を任され、後方のビル陰から双眼鏡を使い様子を伺っていた。

今回の作戦で出動した小隊は4人1組で計6小隊。まずは偵察隊として第1小隊を送り、彼らが敵を確認次第、全小隊で奇襲による集中砲火を掛ける。
この作戦になのは自身、強い緊張感を感じていた。その理由は高ランクが墜とされたと言うのに敵の情報全くない事である。
最初に敵発見の通信を入れたのは、哨戒任務中の地上本部魔導師小隊だったらしいのだが、その報告後通信が取れなくなった。
不審に思った地上本部は、その後も通信があったポイントに部隊を投入し続けたが、いずれも現場到着直後に通信が途絶えてしまっている。
そして地上本部から本局に支援要請が入り、なのはに白羽の矢が立ったと言うわけである。

『敵と思われる物体を目視で確認! なんだありゃ10mはあるぞ!』

突如入る先遣隊からの通信。隊員は畏怖の感情に支配されているようで、その声は上ずり気味であった。
それを皮切りに先遣隊からの通信が続々と押し寄せてくる。

『いやもっとだ。もっとでかい!』
『こっちへ来るぞ! うわぁぁぁぁぁ!!』

断末魔の様な悲鳴を最後に先遣隊からの通信は途絶えた。各小隊は臨戦体制を整え、先遣隊から通信があった場所へ急ぐ。

183リリカル鉄人 ◆SwzZdVEqO2:2009/05/17(日) 20:52:13 ID:LLxI1tRg
「レイジングハート! エクシードモード!」

そう叫んだなのはの身体が桃色の光に包み込まれ、数瞬後に弾けて姿を現したのは戦闘形態エクシードモード。
なのはが持つ形態の中でも最大の出力と装甲を兼ね備えたエクシード。それを使うという事は全力全開の証。
恐らく先遣隊はやられたのだろう。だから省エネ形態であるアグレッサーモードの勝てる相手ではないとなのははそう判断したのだ。

「第3小隊出撃! 敵を殲滅するよ!」
『了解!』

なのははレイジングハートで敵の居る方向を指し示すと最大出力で飛行を開始した。
桃色の軌跡を伴い、音速に迫まろうかという速度で空を切る小隊長に、第3小隊員もぴったりと追従している。
直線速度では高機動魔導師にさえ匹敵するなのはに付いてくる辺り、彼等もエース級である事は想像に難しくなかった。
他の小隊も、それぞれが異った魔力光を発して高層ビルの隙間を彩りながら敵が待つ場所まで高速で駆け抜ける。
やがて全ての小隊は同じ場所にたどり着いた。そこは高層ビル群が立ち並ぶ中でも特に開けた空間で、中隊規模で動いても戦いやすそうである。
だがその風景と比べて他と比べても明らかに異質な物であった。規則的に大きく陥没している道路に砕かれたビルの壁。そしてその壁や道路の陥没の中にべっとりと付いた赤い何か。
それが先遣隊のなれの果てであろうとは、誰も想像したくないだろう。だがこれがなのは達に突き付けられた事実なのだ。
本局から送られた精鋭部隊に走るのは恐怖、絶望、戦慄、そして逃れようのない絶対的力量差。

「これは一体……ん?」

そう呟くなのはの耳に音が入り込んでくる。何かが駆動するような音、そう油圧パイプが動くような。
次に聞こえてくるのは何かが砕かれるような音。アスファルトが砕けているのだろうか? それらの音が一定のリズムを保って紡がれる。
徐々に近づいてくる音に、その場に居る全員が同じ事を考えていた。恐らくこれは敵が出す音だと。ビルの陰に隠れて姿は見えないがこれこそが敵なのだろう。
音はどんどん大きくなり耳を覆いたくなるほどだ。しかしなのは達が見つめるビルの向こう側に奴は居る。
敵の姿がどんなに強大でも目を逸らすな! 敵がどれほど恐ろしい音を立てようとも耳を塞ぐな!
全神経を集中して敵を感じろ! 奴が姿を現した瞬間、一斉射撃だ! なのはを含めた小隊員全員がそう思っていた。
もうすぐ、もうすぐ、ビルの陰から顔を出す。仲間の仇だ! 誰であろうと倒してみせる!
彼らはそう誓ったはずだった。はずだったのどうだろう。誰一人として動かない、いや動けないのだ。
何故ならビルの谷間からその巨体を見せた敵の姿は、彼らの乏しい想像力など遥か彼方に超越するほど強大で。

「ガオォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!」

彼らが想像したよりも遥かに恐ろしい咆哮を上げたからだ。



「ママ……」

なのはが緊急招集されてから実に1時間、彼女の娘であるヴィヴィオは涙ながらにフェイトに縋りついていた。
そう、幼いながらもヴィヴィオはこの異様な状況に不安感を覚えていたのだ。
フェイト自身ヴィヴィオに付いていたい気持ちはあったが、とにかくなのはが心配でたまらない。
それにそろそろアイナが来てくれるはずだ。折角の休暇、しかもこんな時間に呼び出すのは気が引けたがそうも言っていられない。
とりあえずアイナならヴィヴィオを安心して預ける事が出来る。フェイトはヴィヴィオを宥めながら腕にはめた時計にちらちらと目をやる。

「ママ……ママ」
「傍にいるよ、大丈夫」

嘘だ。今から遠くへ行ってしまう。でもとにかく今は泣き止んでもらわないと。
なのはは無事だろうか。もしもの事があればこの子はどうなるだろう。いや自分はどうなってしまうだろうか。
あの夢、私と同じ色の瞳で見つめ続けてくる彼。どれほど振り払おうとしても彼の視線が揺らぐ事はない。
真っ直ぐに見つめて投げ掛けてくる感情は存在の意義、存在の定義、存在の肯定と否定、孤独、悲しみ、生まれた意味。
兵器として代用品として生み出された者に生きる価値はあるのか? それはフェイトが長年悩み続けてきた事。
どれほど考えても答えなど出ない。出したつもりでも結局悩み、迷ってしまう。
そうだ、なのはを失えば拠り所を失くしてしまう。そうなればきっと。

――私は壊れるだろう。

184リリカル鉄人 ◆SwzZdVEqO2:2009/05/17(日) 20:53:22 ID:LLxI1tRg
フェイトはヴィヴィオを抱き締める腕に力を込める。お願いだから泣かないでよ。泣きたいのはこっちなんだから。
なのはを喪失してしまう可能性、それはフェイトにとって最大の恐怖であり、自己の存在意義を失う事でもある。
フェイトと言う人間は危うい。その心はちょっとした事で砕けてしまう。そしてバラバラになった破片を繋ぎ合わせる事は容易ではない。
だからヴィヴィオの背中を撫でているのは自己防衛のため。幼い我が子を守るふりをして自分に言い聞かせているのだ。
なのはは大丈夫。なのはは死なない。なのはを失うなんてありえない。なのはは笑顔で帰ってくる。
帰って来たら眩しいぐらいの笑顔で自分を抱き締めてくれる。私に美味しいご飯を作ってくれる。
寝る前には笑顔で「おやすみ」を言ってくれて、朝起きて隣を見たら「おはよう」と言って笑顔をくれる。

「なのはママ帰ってくる?」

小さな身体を抱き締めながらフェイトは思う。帰って来ないなんて嫌だ。なのはを失う未来なんてこの手で壊してみせる。
高町なのはを失う事が運命ならばそれさえも壊す力を、なのはを傷つけるならば例え相手がなんであろうと敵だ。
フェイトと言う人間は危うい。なのはを守るためならば世界を敵に回しても戦い続けるだろう。
そして望むだろう。世界を敵に回しても勝利を得る事が出来る絶対的な力を。
思い浮かべるのは夢の中で手に入れたあの力、フェイトが望む力の理想像、いかなる敵をも叩き砕く無敵の鋼鉄兵士。
だがそれは夢想でしかない、なら今この手にある力を信じる以外ないのだ。10年以上の歳月を掛けて磨き上げた魔法という名の技術。
フェイトは縋るヴィヴィオを離してその小さい肩に手を置いた。

「よく聞いてヴィヴィオ、なのはママは私が助ける。だからヴィヴィオはアイナさんとお留守番してて。
 私はなのはママを迎えに行ってくるからここで待ってて欲しいんだ」
「本当?」

ヴィヴィオの表情に僅かばかりの光明が差すとフェイトは柔らかい髪の感触を確かめながらその頭を撫でた。

「うん本当だよ。フェイトママはね、強いんだから」
「知ってる」
「なら、お留守番しててくれる?」

フェイトの言葉にヴィヴィオは涙を拭いながら力強く頷いた。やはり血は繋がっていなくてもなのはの子なんだ。
きっと強くて立派な女性になる。なのはのような不屈の心を持った魔導師に。
フェイトが未来のヴィヴィオに想いを馳せれば、玄関から響くチャイム音。
この時間に訪ねてくる人物は1人しか居ない。念のためフェイトがドアを開けて確認するとそこには待望の人の姿が。

「ごめんなさい、遅くなってしまって」
「アイナさん。いえ、こっちこそ急なお願いで。じゃあヴィヴィオお願いします」

フェイトはアイナを招き入れるとその足で寝室へ向かった。
そしてロッカーに掛けられている執務官の制服に手早く着えるとポケットから愛用のデバイスを取り出し、触れる様な口付けをする。

「バルディッシュ、なのはを守る力を私に」

フェイトは口付けしたままバルディッシュに囁きかけた。

22時30分 ミッドチルダ首都中央部。


時空管理局地上本部と高層ビルが立ち並ぶミッドチルダの中央部。
その中でもひときわ高いビルの上から下界を見下ろすのは、八神はやてと守護騎士ヴォルケンリッターが将シグナムにオールラウンダーのヴィータ。
彼女たちの視線の先に広がる光景は惨たんたる有様であった。

185リリカル鉄人 ◆SwzZdVEqO2:2009/05/17(日) 20:54:08 ID:LLxI1tRg
「なんだよこれ…廃墟じゃねぇか」

そう口にしたヴィータに他の二人も同意せざるおえない。先程までは照明から眩いばかりの光を放っていたであろうビル群。
だが今その輝かしい明かりは消え果て、どこまでも広がる瓦礫から突き出している鉄骨は、まるでこの街に対する墓標のようにも見えた。
つい数時間前には凛々しくそびえるビルであったろう瓦礫の山々に、半壊して内部構造を痛々しげに晒しているビルも複数見られる。
滅多な事では壊れない鉄筋コンクリートの壁は砕かれたり剥がされていたり、途方もない質量を支えるために生み出された鉄骨もどうやったらこう出来るのか、まるで溶けたようにぐにゃりと折り曲げられている。
こんな事を出来る人間が居るのか。もしこの場になのはクラスの砲撃魔導師が大勢居れば、或いは出来るかもしれない。
だが独力でこれほどの事が出来る者は居るはずもなく、たとえ居てもそれは人間ではないだろう。

「そう、こんな事が出来る人間、居るわけがない……まさかこれがリンディさんの言っとった」
『はやて聞こえるか?』

突然はやての言に割り込むように入る通信。それはフェイトの兄であるクロノ・ハラオウンからであった。
予期せぬ相手からの連絡に、はやては目を丸くしていた。

「クロノ君! どうしてクロノ君が?」
『ああ、今回母さんから君達のバックアップを頼まれてな。だが少ないな』

クロノが差すのは今回のメンバー。はやて自身いきなり六課のメンバーを集めろと言われても出来るはずもなく、自身の守護騎士であるヴォルケンズを伴ってきたという訳である。

「せやな。本当ならなのはちゃんとフェイトちゃんだけでも確保しよう思ったんやけど捉まらんのや」
『知らないのか? フェイトはともかくなのははそこの前線に出ているはずだ』
「なんやて!?」

そんな事聞いていない。出動前の報告では本局からの武装隊は、既に壊滅寸前との事だ。もしかしてなのはは……。
はやての脳裏をどす黒い空想が支配していく。それは血塗れになりがら息絶えたなのはの姿だった。
なのはは自分やヴォルケンズを助けてくれた親友の一人だ。そんな親友の変わり果てた姿など見たくはない。

「はやてぇ!」

はやての思案に突如入りこんで来た聞き覚えのある声。
振り返り見てみれば、上空から黄金色の魔力を伴って見知った顔が高速で近付いてくる。

「フェイトちゃん!?」

フェイトはその言葉が自身の耳届くと同時に、はやて達の待つビルへと降り立った。
何故ここにはやて達が居るのか? フェイトにとっては当然の疑問である。
彼女は娘ながらリンディから今回の作戦を聞かされてはいない。はやて自身フェイトには当然話が行っているものと思っていたから自分達を見て驚く理由が分からないのだ。
はやてはリンディからの頼み事に改めてきな臭い物を感じていたが、引き受けた以上は仕方があるまい。
いずれ全てを話すと約束したのだ。今はそれを信じるより他にないだろう。

「どうしてみんながここに?」
「説明は後や。それより」

はやては眼下に広がる光景を見るよう視線でフェイトに促す。
ゆっくりと視線を落としてみれば広がっているのは一面の廃墟。つい数時間前通ったばかりの光景とはまるで違っていた。
いつも通る風景の変わり果てた様子にフェイト自身驚愕する以外なかった。

「これは……どうして、どうしてこんな事に」
「聞いてへんの?」
「何を?」

やはり聞かされていないのか。しかし何故リンディはフェイトに話していないのだろう。
クロノには話が行っているようだし、リンディはフェイトに話したくなかったのか?
妙な勘繰りかもしれないが、自分がフェイトを指名するのは目に見えていたはず。なのになぜ事前に話が通ってないのか。

186リリカル鉄人 ◆SwzZdVEqO2:2009/05/17(日) 20:54:59 ID:LLxI1tRg
「はやて何の事!」

何も言わないはやてに苛立ちを覚えたのか、フェイトは乱暴にはやての肩を掴んだ。
バリアジャケット越しでも力強さを感じるとは相当強い力で掴んでいるのだろう。
そしてフェイトの視線。普段は優しさしか見せないそれは狂気とも取れる感情を孕んでいるようだった。

「答えてはやて! 何でこうなったか知ってるの!? なのははどこ!?」

そう、全てはなのはのため。ここで何が起こったのか、なのははどこへ行ったのか、その答えを知るのは、はやてだ。
なら自分は知らなければならない。問い詰めてでも何が起きているのか言わせねばならない。
フェイトの思わぬ剣幕にたじろぐはやてだったが、リンディがフェイトに今回の件を言わなかった以上何か理由があると考えていた。
フェイト・T・ハラオウンという人間に対して、はやては全幅の信頼を置いている、だがリンディはどうなのだろう?
実の子でないと言え、深い愛情を注いでいた事は周知の事実だ。それに執務官としてのフェイトにも信頼を寄せているはず。
ならどうして、どうしてリンディはフェイトに何も告げないのか?

「いやそれは……」

リンディの行動が理解出来ないはやては言葉に詰まり俯いてしまった。
その様子に普段温厚なフェイトも声を荒げる。

「はやて!」

――ドオォォォ!!

するとフェイトの問い掛けに被さるように突如響きわたる爆音と粉塵の嵐。その瞬間、辛うじて原型を留めるビル陰から桃色の閃光を帯びた人影が飛び出した。
フェイト達は見覚えのある光を目で追う。そして光を脱ぎ捨てる様にして現れた白いバリアジャケットの姿に確信した。

「なのはぁ!!」

咆哮にも似た呼び掛け。聞き覚えのある声に驚いたなのはがその方向を見やるとそこには見覚えのある姿が4つ。
間違いない、いや間違える筈がないその姿。

「フェイトちゃん! それに……」

みんな自分を助けに来てくれたのだろう。
だがそう思った瞬間なのはは気が付いた。そうだ来てはいけない。なぜなら今ここに居るのは。

「逃げてぇぇぇぇぇ!!」

なのはの叫び、その刹那響く轟音。なのはの後方にあるビルが噴煙を上げながら、積み木細工を蹴散らすように崩れ去ったのだ。
そして残留する土煙に浮かび上がる黄色い光源が二つ。その光になのはが戦慄を覚えた次の瞬間、一帯を覆う煙は爆音を伴った暴風によって吹き飛ばされたのだ。

「ガオォォォォォ!!」

廃墟と化した都市部に響き渡る咆哮。雄々しく吠えたその姿にフェイトが、いやその場に居る全員が感じたのは逃れようのない恐怖。
粉塵を切り裂き現れたのは、身の丈20mに迫ろうかという大巨人。全身には薄汚れた包帯を巻き、魔導師の攻撃で引火したのか、垂れ下がる端々には篝火のように炎が灯っている。
そしてその姿は、身に宿る癒えぬ古傷を隠さんとするように見えたのだ。まるでそれその物が大きな傷跡であるかのように。
剛腕と形容するのが相応しい力強く巨大な腕に、大地を踏みしめる脚部はその地鳴りを響かせる重量を支えるのに十分な大きさがある。
それに伴った巨躯はまるで神話に出てくる神のように威厳に溢れ、そして怪物のような禍々しい威圧感を併せ持っていた。
顔に巻かれた包帯より覗かせる黄色い眼光は鋭く、目の前に居るなのは達へと向けられている。
だがそれでも高町なのはは退こうとはしなかった! 恐怖の感情はあったがそれよりも今は、かけがえのない友を守る事の方が大事だった!

187リリカル鉄人 ◆SwzZdVEqO2:2009/05/17(日) 20:55:38 ID:LLxI1tRg
「私の大切な友達を!」

だから立ちはだかる物を撃ち抜く! それが自分の出来る事、これが自分の最大火力! 今までこの砲撃に。

「傷つけさせなんかしない!!」

撃ち貫けなかった物などない!!

「行くよレイジングハート!」
『了解マスター』

そう、これこそが高町なのはの全力全開にして、神さえも撃ち倒すと言う名を与えられた究極の砲撃魔法!

そしてその名を!

――カートリッジ全弾ロード!

その名を!

――チャージ完了! 発射準備!

その名を!

――射線軸固定。照準ロック!

その名を!

――これが私の……。

その名を!

――全力全開!!

その名を!

「ディバイィィィィィィンバスタァァァァァァァァァ!!」

レイジングハートから放たれた桃色の光流が巨人目掛けて突き進む。突然の攻撃に巨人は身動きを取る事も出来ない。
なのはが持ち得る最大火力の砲撃は巨人の腹部に直撃し、辺り一面を桜色の光で包み込んだ。

「ブレイク! シュゥゥゥトォォォ!!」

なのはの咆哮が轟くと同時に、眩い閃光が巨人を覆ったかと思いきや突如起こる大爆発。それは凄まじい爆流となり憎き敵を覆いつくした。
巨人の全身を内包するほどに巨大な爆発が現すのは砲撃手の完全勝利。ビルの壁でさえ貫くこの砲撃に撃ち倒せぬ物はない!
誰もが思う。なのはの本領をぶつけられては無事で済むまい。今巨人を包む爆炎が晴れる頃には、彼が神さえ倒す砲撃に屈した姿を見る事になるだろう。

「やったんか?」

はやては晴れない煙を見つめ続ける。どうやら敵が動く気配はない。
カートリッジ7発ロードのディバインバスター。やはりその砲撃は巨人の身体を粉砕するには十分すぎる程の威力があったようだ。
ゆっくりと爆風が天へと舞い上がる様子に、なのははホッと一息付いてからフェイト達の居るビルへと飛翔する。

188リリカル鉄人 ◆SwzZdVEqO2:2009/05/17(日) 20:57:04 ID:LLxI1tRg
「フェイトちゃ〜ん! みんな!」

遠目から見ても心配そうな様子を浮かべている4人に、なのはは笑顔で手を大きく振り、自分の無事をフェイト達に知らせた。

「なのは!」

それを見るやフェイトは最高速度で飛び出し、なのはに辿り着くや否や、その華奢な身体を力強く抱き締める。

「無事でよかったぁ……よかった」

そう言ってフェイトが嗚咽を漏らし始めるとなのはは笑みを浮かべ、フェイトの身体を抱き寄せた。
ひょっとしたらもう感じる事が出来ないかもしれないと思ったなのはの温かさにフェイトの安堵はますます強くなる。
なのはが家を出てからどれほどこの瞬間を待ち望んだろう。また抱き締め合えるこの瞬間がフェイトにはどんな事よりも嬉しかった。
なのは自身も最近感じていたフェイトやヴィヴィオよりも先立ってしまう不安をこの時だけは拭う事が出来た。
どうやら自分が死ぬのは今ではないらしい。まだヴィヴィオやフェイトと笑い合って過ごせる、そう思うとなのはは堪らなく嬉しくなって目尻に涙が浮かべていた。

「私は無事だよ。でも他の人達は……」

だが同時に思うのは散っていった仲間たち。皆果敢に巨人と戦ったがなのは以外の全員が殺されてしまった。
ディバインバスターを撃てていれば全滅はなかったのかもしれない。
そうは思っても砲撃は足を止めなければ撃てない。あの巨人にそんな隙を見せれば瞬く間に殺されていただろう。
実際先程の砲撃も友達を守りたいがためのやけくそであり、それが直撃した事も、そもそも撃つ事が出来たのが奇跡に近かった。

「なのはが悪いんじゃないよ。とにかく無事でよかった」

落ち込むなのはを何とか励まそうとフェイトは微笑みかける。そうしたフェイトの気遣いは嬉しいがそれでもなのはは責任感を拭い切れずにいた。
だがそれも束の間、後方から地響きのような音が聞こえた。なのはとフェイトは音のする方へ振り向く。
視線の先にあるのは、今だ砲撃の爆風が停滞している巨人の亡骸があるべき場所。そしてまた聞こえる地響き。

「これは……」

フェイトが呟くとなのははハッとした。この音は間違いなく。

「巨人だ」

そう、爆炎を振り払い現れたのは包帯姿の巨人であった。その悠然と歩く姿からはこれと言ってダメージを受けているようには見えなかった。
だが、所詮布でしかない包帯はディバインバスターの直撃を受けて吹き飛んだようで、隠されていた腹の部分を露わにしていた。
そこから覗くのは非常に彩度の低い青色の肌。もはや金属本来の色と言ってもいいほど鈍くて、色合いの薄い青である。
不気味な色合いの皮膚に一同は困惑する。相手の正体は何なのか? 果たして生き物なのか? それともそれ以外の何かなのか?
皆が思案している中、はやては冷静に巨人の肌を見る。視線の先にはディバインバスター直撃の跡。
よく目を凝らして見るが、そこにあるべき物がない。あれだけの攻撃を受ければどんな物でも必ず付く筈の物。
その結果を突き付けられてはやての額には汗が滲み出してくる。はやての様子に心配なったヴィータが声を掛けると。

「はやてどうしたんだ」
「なんて奴や。傷一つ付いてないなんて」

189リリカル鉄人 ◆SwzZdVEqO2:2009/05/17(日) 20:58:10 ID:LLxI1tRg
そう言われてヴィータは巨人の腹に視線を送る。そこには綺麗な光沢こそあれど傷らしい物は一切見られなかった。
まさかなのはの砲撃を、その直撃を受けて傷一つ付かない物質など、この世に存在するのだろか?
分厚い鉄筋コンクリートでさえ撃ち抜いてしまうなのはの砲撃で無傷。それもカードリッジを7発もロードした超超威力砲撃。
もはやこれは常識で考えられる範疇を超えた相手なのだとはやては確信した。リンディの世界が滅ぶという言葉、あながち嘘ではないらしい。
そして相手の様子をじっと観察していたフェイトは、敵の正体に気が付いて叫び声を上げる。

「あれは……そうか鉄だ! 鉄で出来た巨人だ!」

フェイトの言葉になのはも叫んだ。

「じゃああれは鉄巨人!」

いいや違う! 鉄で出来た巨人でも鉄巨人などでは断じてない!

分からぬというなら見せようこの姿! とくと焼き付けろこの身体! 全力全開の砲撃魔法に耐えたこのボディー!

神をも倒す? 笑わせる! ならこの身体は神をも超えし物なのか?

あるいはそうか? それも違う! これを操る者こそ全知全能絶対無敵の神となりえるのだ!!

鉄巨人は自らの身体に纏った包帯を掴んでそれを取り払った。

そして現れたのは全身が鉄で出来た鋼鉄の兵士! それが勝利する事のみを目的とした完全なる兵器、鉄人!

「ガオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!」



――鉄人28号!!



そうこれが私フェイト・テスタロッサ・ハラオウンと後に鉄人28号と呼ばれる正太郎との出会い。
それは、JS事件から1年が過ぎた夏の日の事でした

続く。

190リリカル鉄人 ◆SwzZdVEqO2:2009/05/17(日) 21:00:03 ID:LLxI1tRg
あとがき

まず初めての投下なのに規制食らってしまって申し訳ありません。
もう少し投下感覚調整すべきでした。
これで第1話は終了です。ここまで読んでくださった方、支援してくださった方ありがとうございます。
SSは書き慣れていないので文章などにおかしい所がたくさんあると思いますが書いていく内に改善したいと思います。
なので指摘などありましたらどんどん言って下さるとありがたいです。
改めて読んでくださった方、支援してくださった方ありがとうございました。

191リリカル鉄人 ◆SwzZdVEqO2:2009/05/17(日) 21:35:46 ID:LLxI1tRg
また規制……
>>187までは投稿出来たので>>188からどなたか代理で投下して頂けないでしょうか?
自分のせいでスレの進行止めるのも申し訳ないので
本当にお手数ですがよろしくお願い致します

192リリカル鉄人 ◆SwzZdVEqO2:2009/05/17(日) 21:53:39 ID:LLxI1tRg
本スレに代理投下してくださった方、本当にありがとうございました
これからはこのような事態がないように気を付けます

193ラッコ男 ◆XgJmEYT2z.:2009/05/17(日) 21:54:35 ID:HIgUv1Wg
リリカル鉄人氏の残りの部分を代理投下させていただきました。
これでよろしかったでしょうか?

194リリカル鉄人 ◆SwzZdVEqO2:2009/05/17(日) 21:56:41 ID:LLxI1tRg
>>193
ラッコ男氏、代理投下誠にありがとうございました
これからは他の方に迷惑をかけないよう注意していきたいと思います

195<削除>:<削除>
<削除>

196無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/05/24(日) 00:44:27 ID:ziKOyLyc
すみません。まだアクセス規制が消えないのでまた避難所投下になります。
誰か投下してください。お願いします。

投下作品はリリカル×ライダー第五話です。

197無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/05/24(日) 00:46:27 ID:ziKOyLyc
「オルタドライブ?」
 シャーリーの言う単語は、デバイス関係を多少は齧ったわたしにも聞き慣れないものだった。
 カズマ君のデバイス、チェンジデバイスと言うらしい箱か又は物々しいバックルとでも形容するしかないそれは、下手なロストロギアより謎だらけのものだった。
 もちろん普通のデバイスとは全く違う。機能もよくは分からない。おまけに厳重なプロテクトとダミープログラムによって内部データは閲覧できず、ブラックボックスな中身故にコピーも難しかった。
「ええ、カズマさんが何度か使用した後に調べてみたら幾つかプロテクトが解除されていたんです。それで調べてみたらそんな名前が」
 シャーリーにしては珍しい、聞いたことのない専門用語みたいだ。彼女に分からないなら、わたしにも分かる筈がない。
「それで、そのオルタドライブって何のことなの?」
 名前からして動力機関みたいな気はする。けれど動力機関が搭載されたデバイスなんて聞いたことがなかった。
「このデバイスに搭載された魔力精製機関のことみたいです。これのお陰でリンカーコアのないカズマさんでも魔法が使えるみたいなんですけど……」
 魔力素を変換出来る装置自体を聞いたことがない、とシャーリーは続けた。
 簡単に言えば人工のリンカーコアということだと思う。けどそんなもの、一体誰が作ったの?



   リリカル×ライダー

   第五話『鉄槌』




 訓練、訓練、また訓練だった。
 機動六課隊員、特にフォワードメンバーは頻繁にヘリで任務に向かっていた。復興支援や、ガジェットと呼ばれる自立戦闘機械の掃討などを行っているらしい。JS事件の傷痕は、未だあちこちに残っているらしかった。
 一方の俺はまだ任務に従事出来るだけの訓練を積んでいないため、一人居残り練習という有り様だった。一応、教官としてなのはが残っているのは不幸中の幸いか。
 すでに俺が目覚めてから、一週間も時間は経過していた。

198無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/05/24(日) 00:46:59 ID:ziKOyLyc
「飛行魔法に魔力付与攻撃、それにベルカ式防御魔法だけかぁ」
 なのはが訓練データを見ながらぼやく。
 薄々気付いていたが、俺は相当不器用らしい。基礎的な射撃魔法はもちろん、魔力スフィアの形成も出来なかった。というより、射撃魔法自体が向いていないのだろう。他に補助魔法や戦闘以外に使用する魔法も試したが、いずれもダメだった。
 唯一、飛行魔法だけは利点になるらしいが。
「まぁ、カズマ君はどちらかというと騎士だしね」
 騎士という言葉は聞き覚えがあるが、彼女の言う騎士はおそらく違う意味だろう。
「なのは、騎士って?」
「えっと、わたし達魔導師がミッド式魔法を使ってるのは教えたよね? ミッド式はね、攻撃魔法は主に射撃魔法が得意で他にも補助魔法や様々な魔法を使うのにも向いた万能な魔法体型なの。一方、ミッド式と対を成す魔法体系にベルカ式と呼ばれるのがあってね。そっちは格闘戦用の魔法を中心に戦闘に特化してるんだけど、それを扱うのが『騎士』」
 ……分かったような、分からないような。
 まぁ、斬り合いや殴り合いの方が向いてるのは事実だ。
「似たような戦い方をヴィータちゃんとシグナムさんがするから、帰ってきたら習うといいよ」
 そのヴィータちゃんとやらは知らないが。
「それよりなのは、もう一度ガジェットってのと戦わせてくれ。実戦形式が一番伸びるのが早い気がするんだ」
 俺の案をしばし顎に手を当てて考えた後、溜め息と共に首肯した。
「大体のことは分かったしね。でもガジェットじゃ、物足りないんじゃない?」
 なのは曰く、殴り合いや斬り合いが主な俺はガジェットに対し相性が良いらしい。AMFと呼ばれる魔力を阻害するフィールドを持つガジェットは並みの魔導師には天敵となるものの、自分のように殆ど魔力を使わないものには何の障害にもならないのだ。故にガジェットは自分に取って少々役不足な敵だった。
「でも他にないんだろ?」
「そういうわけでもないんだけど……」
 いつまでも顎に手を当てて悩むなのは。段々イライラしてきた。
「おい、そこまで悩むんならさっさとその隠し玉出せよ!」
「うーん、後悔しても知らないよ?」
 なのはは、にこりと笑った。

199無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/05/24(日) 00:47:29 ID:ziKOyLyc



     ・・・



「フェイトちゃんお帰り。ここんとこ忙しいのに厄介事押し付けちゃってごめんな?」
「平気だよ。それにはやてだって大変なんでしょ?」
「私は何時ものことや」
 フェイトちゃんが一週間ぶりに帰ってきていた。
 彼女に依頼したのはカズマ君の調査。執務官という立場を生かして本局で調査してもらっていたのだ。未だ記憶が戻らない以上、こっちが地道に調べていくしかないのだから。
「それでどうやった? カズマ君の世界は見つかった?」
「管理世界と把握している管理外世界からここ最近急にいなくなった人をリストアップしたんだけど、該当する人はいなかった」
「そっか……」
 思わずほっとしてしまう自分が嫌いになりそうだ。けど、せっかく六課とも馴染み始めたカズマがいなくなったら寂しいというのは事実だ。そういって自分を誤魔化すことにする。
「けどね」
「ん?」
 カズマ君の偽造の身分証明書を提出するために封筒に纏めていた手を止める。珍しい、彼女が言い澱むことがあるなんて。もう一人の親友ほどではないけれど、彼女も正義の人故に何でもはっきり言うのだ。
「実はそっくりな顔の人が15年前に日本で行方不明になったって情報があったんだ」
「なんやて!?」
 まさかだった。確かにカズマ君の顔は東洋系だし、名前も日本人っぽいとは思っていた。しかし本当に日本人、つまりは私やなのはちゃんの故郷、第97管理外世界の出身だったとは。
「でも15年前だから今とは顔が違うはずなんだよね」
「あ……そうやね」
 確かにそうだった。15年前に似ていただけなら今はずっと老けているはずだ。早とちりだった。
「そっか、ありがとな」
「いいよ、私も気になってたから」
 そう言って微笑を浮かべた後、彼女はここを退室していった。

200無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/05/24(日) 00:48:14 ID:ziKOyLyc



     ・・・



「はぁぁぁ!」
 円筒形のガジェットを真一文字に切り裂く。薄っぺらな装甲は容易くひしゃげ、内部機器を粉砕しながらオイルを撒き散らして爆散した。まぁ、魔力を物質化させて、ホログラムで見た目をリアルにしているだけの偽物なのだが。
「これで、15体か」
 訓練再開から10分、最初はガジェットと戦っててと言われて戦闘を続けていたが、数にキリがなかった。
 そしてまた、ビルの屋上から三体のガジェットが顔を覗かせる。
「くそっ、フライブースター!」
『Fly Booster』
 俺の声に続き、バックルから電子音声が鳴る。それに呼応して背中にある二本のブースターから青い魔力光が噴き出し、俺の体が浮かび上がった。
 ちなみに、俺は今の体を見て思うことがいくつかある。
 まずはバックル。本来はこんなものじゃなかった気がするのだ。他にも腹や肩のアーマーが不自然に感じる。本来ここには何かマークが描かれていたはずなのに。
 そしてこの背中にあるこのブースターも違和感の原因の一つだ。
「おりゃあああ!」
『Slash』
 飛び上がった俺の剣が青い魔力光を帯びる。
 俺はビルに着地しながら右足を軸に体を回転させ、三体のガジェットを一度に切り裂いた。――そして一歩遅れて爆発する。
「これで、18体かよ」
 違和感が何なのか、俺には分からない。今は精一杯生きるしかないのだから。
 再び床から四体のガジェットがせり上がる。まだまだ休ませてはくれないか。
「りあぁぁぁあ!」
 フライブースターを噴かせ、一気に突進する。いや、しようとした。
 それを、轟音が遮った。
「だ、誰だ!」
 ガジェットを粉砕した影。背は低い。だが赤い衣装と右手のハンマーが、俺の恐怖心をくすぐる。いったい誰だ?
「なのは、これは一体――」
「お前がはやてを誑かしたのかぁぁぁあ!」
「えぇぇぇ!?」
 その赤い影が、俺に襲いかかってきた。

201無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/05/24(日) 00:48:48 ID:ziKOyLyc



     ・・・



 鬱だった。
 何故彼をあそこまで罵倒したか分からない。犯罪者と勝手に決めつけ、彼に辛くあたった自分が堪らなく憎い。
 任務の合間、つかの間の休憩時間に、あたしは何をやっているんだろう。あの模擬戦以来、考え事ばかりしている気がする。
「ティア?」
 声がかかる。スバルだ。あたしに元気がないのを察して来てくれたんだろう。
「ねぇ、スバル」
「何?」
 スバルになら、悩みを吐いてもいいかな? 執務官になるために、あまり他人を頼ったりはしたくないのだけれど。
「どうしてあたし、カズマさんにあんなに辛く当たっちゃったんだろう」
「ティア……」
 理由は無いわけじゃない。ナンバーズを捕まえた際に、しかるべき罪を課せられるかと思ったら驚くほど軽くて管理局に不信感があったとか。最近良くしてくれているなのはさんを蹴飛ばしたことが許せなかったとか、はやて部隊長が庇ったのが信じられなかったとか。この頃アレの習得が上手くいかず溜まったストレスも原因かもしれない。ホントに、いろいろ。
 けど本当は、この機動六課という輪を壊してほしくなかっただけかもしれない。そんな小さな事のために辛く当たった自分が、本当に小さく見えた。
「ティア」
「何よ?」
「一緒に謝ろうか」
「えっ?」
 まさかスバルがそんなことを――と考えて、あたしよりもずっとそういうことを気にするやつだったのを思い出した。
「あたしも最初はまだ本調子じゃないなのはさんに暴力を振るったあの人が許せなかったけど、今では反省してるんだ。なのはさんがあの人は悪い人じゃないって言ってたの、早く信じておけば良かったって、今頃になって思ってる」
 目に涙を滲ませ、顔を伏せながら言うスバル。きっと任務中も悩んでいたのだろう。それを気付かせないように空元気を出していたに違いない。あたしがいつも通りだったら分かってあげられただろうに。それが悔しい。
「だから、その」
「分かった。スバル、一緒に謝りに行くわよ」
「ティア……」
 あたしはなるべくいつも通りに笑いながら、
「くよくよ悩むなんて、アンタらしくないでしょ」
 あたしは、そう言った。

202無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/05/24(日) 00:49:22 ID:ziKOyLyc



     ・・・



 何故だか俺は、ティアナとスバルのことを思い出していた。
 ティアナとスバルが謝りに来たのは昨日の話だ。こっちはかなり驚いたが、願ってもないことだったので俺も喜んで受け入れた。
 何故、今そんなことを思い出すのだろう。
「ぐあっ!」
「どうした! その程度かよ!」
 赤い服を着る人影は少女だった。ドレスのような派手なフリルがいくつも付いた服を来ていて、年は小学生くらいだろう。可愛らしい顔立ちをしている。
 そんな少女が憤怒の形相を浮かべて、ハンマーを振り回しながら襲いかかってくるなんて悪夢としか思えない。
「グラーフアイゼン!」
『Jawohl!』
 威勢の良い彼女の掛け声と、ハンマーから鳴る同じく威勢の良い機械音声が重なる。それと共にハンマー基部のコッキングレバーが動き、薬莢が排出される。
「カートリッジ!?」
「ラケーテン、ハンマー!」
『Raketenhammer!』
 赤い魔力がハンマーを包み込む。一瞬の後、ハンマーのヘッド部分は異形の姿に変貌していた。
 叩き付ける部分には鋭い突起が、反対側にブースターが付いた新たなハンマーヘッド。見るからに危険そうだと分かる凶悪な外見だ。
 それを彼女は、ジェットを吹かして自分の体を軸に回転させながら俺に叩き付ける!
「あぁぁぁぁぁあ!」
 俺はそれを右手に発動させた小さな三角形の魔法陣、パンツァーシルトで受け止める。
 甲高い耳が馬鹿になるような音が鳴り響き、ハンマーから生えた突起が俺の盾をガリガリと削っていく。
 凄まじい衝撃と突起による追加ダメージ。
 俺を守る盾は、限界に達しようとしていた。

203無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/05/24(日) 00:50:08 ID:ziKOyLyc
『お願い! わたし達の六課を守って!』
 その時、なのはの声が耳を震わせた。

――守る……?

 そうだ、守らなければ。今六課隊舎を守れるのは俺だけなんだ。

――そうだ、俺は。

 俺が、俺が戦わないと。六課を守るために。

――俺はもう、誰も失いたくない。

 そうだ、俺は――

――“全ての人を、守ってみせる!”

「おぁぁぁぁぁっ!」
 右手が輝き出す。眩い蒼の光は魔法陣を包み込んでいき、亀裂をみるみる修復させていく。
「な! コイツ、いきなり魔力量が」
 少女が表情を変える。だがそんなことはどうでもいい。
 俺はフライブースターを最大出力にして押し返す。
 均衡する力と力。
「バリア、ブレイク!」
 その状況を、俺はあえて粉砕する。
「なぁっ!?」
 盾となっていた魔法陣が爆発し、彼女とそのハンマーを吹き飛ばしながら噴煙で包み込む。これで一時的だが眼は潰した。
 俺は死角に一瞬で飛び、青い光を帯びさせた剣を降り下ろ――
「そこまで!」
 ――そうとした所で、戦いは終わりを告げた。

204無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/05/24(日) 00:50:44 ID:ziKOyLyc



     ・・・



「なのは! てめぇ!」
 先程まで戦っていた赤髪の少女が、なのはに掴みかかっていた。
「ごめんね、ヴィータちゃん。ああ言ったらカズマ君と良い戦いをしてくれるかと思って」
「にしてもやり方が悪過ぎだ!」
 おそらくなのはの言っていた秘策はこの少女の事だったのだろう。確かに偉く強い相手だった。
 ちなみに今いる食堂で夕食がてら事情を聞くということで集まったのだが、彼女がキレ出してしまったため俺には何も出来なかった。
しかし俺はなのはの少女みたいな甘い声にまんまと乗せられたということか。考えてみれば俺が戦わずとも彼女がいた訳なのだから、責任感を持つ必要はなかったのだ。くそ、あの高い声と必死さのある口調は反則だ。思わず守りたくなってしまった。
でも、俺は何か思い出しかけた気が――。
「ホントごめんね。今度はやてちゃんが休み取れるようにわたしが仕事引き受けるから。一緒に遊園地とか、この頃行ってないんじゃない?」
「ほ、ホントかなのは? やったー! はやてと久しぶりのお出掛けだー!」
 単純な奴だな、と思ったのは内緒だ。なのははもしかしてこうやって彼女“で”遊ぶことを目的としていたのではないか?
「ところでなのは。この子はどういう……?」
「あたしか?」
 なのはに対して散々怒りをぶちまけたからか、先程よりはずっと爽やかな自信に満ちた笑顔をこちらに向けた。
「あたしはヴィータ。はやての守護騎士ヴォルケンリッターにして機動六課スターズ分隊副隊長のヴィータだ」
 赤髪の少女、ヴィータはそう名乗った。



     ・・・



 ようやく仲直りをしたティアナはカズマへの詫びとしてクラナガンの案内を志願する。二人での奇妙な買い物は、しかし平和には終われない。
 ついに物語は始動する。最悪の方向へと。

   次回『覚醒』

   Revive Brave Heart

205無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/05/24(日) 00:57:44 ID:ziKOyLyc
以上で投下終了です。何度もご迷惑をおかけして申し訳ありません。2ch歴が短いのでアクセス規制の対処法などもわからなくて……。
すいません、作品に話を戻します。今回の話までは平和な話です。次回からカズマの正体がある程度明かされます。それと共にもしかしたらあいつも……?

感想、批評などをよろしくお願いします。

206無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/05/24(日) 08:46:37 ID:ziKOyLyc
すみません。では誰か、代理投下お願いします。

207ラッコ男 ◆XgJmEYT2z.:2009/05/24(日) 15:45:27 ID:FiZCd4IU
無名氏の第5話を代理投下しました。
上で既にゼロ氏も仰っていますが、一行が長くて
エラーが発生しておりましたので勝手ながら
一部改行させていただきましたが、大丈夫だった
でしょうか?

では、失礼します。

208無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/05/24(日) 20:47:12 ID:ziKOyLyc
ありがとうございました。
改行についてはwiki編集時にオリジナルのまま編集しているので大丈夫です。

209魔法少女リリカル名無し:2009/05/24(日) 21:09:23 ID:Q8qYANvU
>>208
そうじゃなくて、エラーが起こるから投下しにくいと指摘されてるわけで。
貴方のオリジナルがどうとかじゃなくて、人に代理を頼む以上はエラーが起こらないようにするのが
頼む側の最低限の礼儀じゃないでしょうか? 一度指摘を受けてるんですから

210無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/05/25(月) 17:07:41 ID:yovq0bBs
>>209
すいません。問題をきちんと理解していませんでした。今後はこんなことが起こらないよう注意しておきたいと思います。

ちなみに今回のエラーの原因が今一分からないので解決法などがありましたら教えてもらえますか?

211魔法少女リリカル名無し:2009/05/25(月) 18:00:17 ID:IY2TYZVY
>>210
文字は1行128文字まで
それを超えると投下出来なくなる
テンプレにも書いてあるので熟読するといいと思う

212無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/05/26(火) 07:27:34 ID:nD3RIsvc
あれはてっきり一行が128文字しか入らないからレスの際は合計文字数に制限かかるという意味に取ってました・・・・・・。
小説的には一段落128文字ということですね。わかりました、今後は気を付けます。ありがとうございました。

そしてラッコ男氏には迷惑をお掛けしたことに改めて謝罪させていただきます。申し訳ありませんでした。

213R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/05/30(土) 20:00:40 ID:8/jKotFc
時間になりましたので投下します



閃光と衝撃。
光子弾の奔流が眼前の壁面を掻き消すと同時、スラスター出力を最大へと叩き込む。
砲撃後の僅かな粉塵は晴れずとも、各種センサーがその向こうに位置する構造物の消滅を告げていた。
光子弾単発のサイズは親指程度、掃射時間は僅か1秒足らずだが、1度の砲撃によって放たれる総弾数は20万を優に超える。
波動粒子に対する抵抗性を獲得したバイド汚染体でもない限り、雪崩を打って迫り来る光子弾の壁を前にして存在を保つ事など不可能だ。

行く手を遮る物が何ひとつ存在しない事を確信し、壁面に穿たれた巨大な穴に向かって加速。
そして突入と同時、リフレクト・モードへと移行した光学兵器の閃光が空間を埋め尽くす。
機体周囲の全方位から爆発と生命反応の消失に際しての各種エネルギーが無数に検出され、それらの情報がインターフェースを通じて意識内へと流れ込んだ。
更にシステムをサーチ・LRG・モードへと移行、誘導性を有するレーザーを5秒間に亘って掃射。
逃走を図ったか、遠ざかり始めた反応源を殲滅する。
直後、システムを再度リフレクト・モードへ移行、反射制御ナノマシンの増殖・供給を停止した上で掃射開始。
選択式対物反射機能を失ったレーザーの嵐は、既に破壊されつくした周囲の構造物を更に微塵と化し、漂う粉塵すらも巻き込んで全てを消滅させた。
後に残るは半径600mにも及ぶ、巨大な球状の空間のみ。

数ある空間制圧型光学兵器の中でも群を抜く高性能にして、前線の部隊からは「凶悪」とすら評される、R-9Leoシリーズのマルチプル・レーザー・システム。
地球文明圏が有する全光学技術を、文字通り全て注ぎ込んで開発された光学兵器運用特化型フォースは、同一プロジェクトに於いて開発された「サイ・ビット」との連携によって破壊的な制圧力を発揮する。
大型装甲目標すら数秒の連続照射によって破壊可能な極高出力レーザー、更に高密度レーザー弾体をフォース及びサイ・ビットより放つクロス・モード。
ナノマシンによる超高速演算とレーザー触媒機能により、照射後のレーザー自体が選択的に対物反射機能を発動させるリフレクト・モード。
同じくナノマシン制御により、偏向誘導性を持たせたレーザーを掃射するサーチ・LRG・モード。

専用ビットであるサイ・ビットは基本的にフォースと同一のレーザーかサブ・レーザーを照射する為、その通常掃射は瞬間火力こそ特化型波動砲には劣るものの、総合火力では標準型波動砲のそれを凌駕すらしている。
更にサイ・ビット本体もまた攻撃能力を有し、波動粒子の充填後には近接防衛火器としての機能を発現。
その強大な打撃力は迎撃のみならず、機体を中心とした2000m以内の敵性体に対する積極的攻撃能力すら有している。
友軍以外の全てに襲い掛かり、波動粒子を纏っての突撃を以って喰らい尽くすのだ。
その攻撃行動は充填された波動粒子が尽きるまで停止する事はなく、単一の敵性体排除後には次々に目標をシフトしながら特殊戦闘機動を継続する。
フォース及びビットシステムの攻撃性特化と引き換えに波動砲の出力こそ低下したものの、その驚異的な空間制圧力は他のR戦闘機、及びあらゆる機動兵器の追随を許さない。
スペックだけに注目するならば、正に究極にして理想のR戦闘機。

しかしシリーズ初代となるLEOの実戦配備後、前線から上がったのは痛烈な批判の声だった。
構想段階からして余りにも攻撃に傾倒し過ぎたシステムは、Leoシリーズと他機種の同一戦域への同時投入をほぼ不可能にしてしまったのだ。
その最大の要因となったのは、リフレクト・モードの無差別性にあった。
Leoシリーズ最大規模の攻撃手段であるこのレーザーは敵性体のみならず、時に友軍機すら巻き込んでの過剰破壊を引き起こす。
IFFによるナノマシンを通じての反射角制御機能はあるのだが、友軍機による想定外の機動を始めとした各種現象の全てを反射・着弾までに演算処理するとなると、その総情報量はナノマシン群の処理能力を僅かに超えていた。
更にR戦闘機が度々投入される半閉鎖空間に於ける戦闘では、レーザーの空間密度が飛躍的に増加する為、必然的にナノマシンの負担は増加、友軍機への誤射が相次ぐ事態となる。
無論、被害以上の戦果は得られたのだが、運用する艦隊側としてはパイロットに単独行動を強いる結果となってしまったのだ。

214R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/05/30(土) 20:01:16 ID:8/jKotFc
以降のLeoシリーズは単機による殲滅作戦にのみ用いられる事となったが、それを受けた開発陣が自身等の技術を処理速度の向上へと振り分ける事は終ぞなかった。
如何なる理由か、彼等は機体運用に於ける汎用性向上には僅かな関心も示さず、新たに開発されたナノマシンの有り余るキャパシティを只管にレーザー出力の増大へと注ぎ込んだ。
結果、Leoシリーズの実態は当初の機体構想から大きく外れ、単独運用を基本とした戦術級殲滅兵器へと変貌を遂げる。
こうして実戦配備へと至った後継機「R-9Leo2」は、LEO以上に扱い難い機体となってしまった。
問題となっていたリフレクト・モードの総合火力が更に増大してしまった為、僚機の随伴はおろか施設奪回目的での運用すら不可能となってしまったのだ。

だが、ある程度の運用期間を経て、例外的に僚機を随伴させるケースも現れ始めた。
半閉鎖空間戦闘に於ける戦闘経験を豊富に有し、尚且つ限定条件下に於いて威力を発揮する波動砲を有した機体を補助に付ける事で、物量と耐久性を恃みに襲い来るバイド体を容易に殲滅する事が可能となる為だ。
今作戦に於いても、LEOⅡを運用する彼に対し僚機が与えられている。

「R-9DV2 NORTHERN LIGHTS」、コールサイン「ウラガーン」。
圧倒的密度を誇る光子弾幕により、群体型汚染体に対する大規模制圧射を行う機体。
操縦するのは4度に亘る大規模施設への突入・制圧の実績を持つ、第17異層次元航行艦隊に於いても古参に当たるパイロットだ。
R-9DV2が有する重装甲・大出力を活かしての一撃離脱を得意とする彼は、艦隊でも数少ないフォースの装備を必須としない人物でもある。
高機動にて敵性体群を攪乱・誘導した後に光子弾幕を叩き込み、再度攪乱へと移行しつつ充填を開始するその戦法は、対バイド戦線に於ける掃討戦を熟知したもの。
本作戦に於いてもその技能を遺憾なく発揮し、全方位より迫り来る汚染体群、及び侵食組織体を見事な戦闘機動で誘導した上で、光子弾の掃射により殲滅していた。
無論、管理局員に対しても同様である。
その上でこちらの攻撃時には安全圏まで脱し、収束と同時に攻撃を再開する機体運用は見事なものだ。
汚染拡大によりバイド係数検出機能を除く長距離センサーの殆どが沈黙し、同じく長距離通信すら断たれた現状ですらなお、ウラガーンとの相互支援行動は僅かな綻びも見せてはいない。

『反応消失、進路クリア』
『了解。HLRTへのアクセスハッチを確認、突入する』

物資輸送用大型リニアレール路線へと続く巨大なハッチが、レーザーにより抉り取られた空間の端、破壊され途切れた輸送路の奥から覗いている。
波動砲の充填を開始すると同時に機首を旋回させ、低集束砲撃によりハッチを破壊すると間髪入れずに機体をその先の空間へと滑り込ませた。
暗闇の中へと直線に連なって浮かび上がるは、光を失った無数のリニアレール路線警告灯。
至近距離に大型バイド体の反応は存在しないものの、彼は警戒を解く事なくレーザーをサーチ・LRGへと切り替える。

『バイド係数、最大値検出源まで約5700m。道中に障害物及び敵影は確認できない』
『了解、本機は後方に着く。エグゾゼ、前進せよ』

サーチ・LRGを2秒照射、サイ・ビットへと波動粒子を充填しつつ加速。
レーザーは屈折する事なく直進、暗闇の奥で爆発が起こる。
待ち伏せはない。
ザイオング慣性制御システム及びスラスターを低出力駆動、5700mの距離を一瞬にして移動した後に右旋回、目前の壁面へとビットを撃ち込んだ。
波動粒子を纏った2基のビットは一瞬にして壁面を打ち砕き、それでも足りぬとばかりにその奥へと飛び込み構造物を抉ってゆく。
破壊音と震動が機体を揺らす中、機体側面へと滑り込んだウラガーンが充填済みの波動砲を解き放った。
閃光と共に放たれた光子弾幕は、通常砲撃時よりも弾体散布界を絞られている。
サイ・ビットにより穿たれた壁面の穴、その更に奥へと突き立った20万の弾体は射線上の全てを呑み込み破壊し、数瞬後には円錐状に拡がる巨大な通路を形成していた。
崩落と粉塵が視界を覆い尽くしているものの、近距離センサー群が健常である以上、進攻には何ら問題はない。

215R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/05/30(土) 20:02:26 ID:8/jKotFc
『エグゾゼ、前進する』

そう告げるや否や、彼はリフレクトへと切り替えたレーザーを掃射しつつ加速する。
ナノマシン制御により機体へと直撃する軌道を除いて対物反射を繰り返すレーザー群は、一瞬にして空間を覆い尽くした。
反射毎に分裂を繰り返すメイン・レーザー、分裂機能こそ持たないものの同等の出力によって照射されるサブ・レーザー。
双方を照射するフォース、サブ・レーザーのみを高速連射するサイ・ビットによって、レーザー弾幕の密度は減衰を上回る速度で上昇してゆく。
数瞬後には愛機であるLEOⅡ「エグゾゼ」を除く空間の全てが青い閃光により埋め尽くされ、対物反射機能の枷より解き放たれる瞬間を待ち受けていた。
そして遂に、インターフェース越しに最後の障壁が浮かび上がる。
目標である高バイド係数検出源へと続く即席の侵攻路、その最後の障害となる構造物。
崩壊した階層の山が、数百mもの絶壁となってレーザーを反射している。

即座に彼は、前方の壁面に対する対物反射機能を解除。
万を超えるレーザー弾体の壁が一斉に牙を剥き、分厚い構造物の壁を瞬時に食い破る。
だが破壊はそれだけに留まらず、構造物の向こうに拡がる空間へと拡大した。
レーザー群は構造物を細分化して尚、集束を保ったまま空間そのものを粉砕したのだ。

光の暴風としか形容できない破壊が過ぎ去った後、センサー上へと出現したのは巨大なバイド生命体、そして無数の局員より発せられる生体反応だった。
前方ではレーザー群に呑み込まれたのか、数隻の次元航行艦の残骸と思しき破片が散乱し炎上している。
局員は空間全域へと散開しているが、レーザー群の通過痕である400m前後の範囲には不自然な空隙が生じていた。
周囲に存在する局員の位置から推察するに、幸運にも数十名の魔導師を巻き込んだらしい。
非戦闘員を含めれば、次元航行艦の残骸から推測して500名は下らないだろう。
レーザーに呑まれる事のなかった局員達は暫し呆然としていたが、程なくして状況を理解したのか、一様にデバイスを構え攻撃態勢を取った。

レーザーをリフレクトよりクロスへ移行、射軸を右側面80度に傾けた状態で照射を開始し、瞬時に左側面80度まで水平稼働。
同時に機体を左側面へと旋回させ照射範囲を更に高範囲へと拡大、レーザーの直撃と余波で以って周囲に滞空する魔導師を薙ぎ払う。
更にサイ・ビットより連続して放たれる高密度レーザー弾体が着弾と同時に高熱を撒き散らす力場を形成し、着弾地点を中心とする15m以内の構造物を真球状に抉り抜く。
直後、進行方向に対し機体右側面を向けたウラガーンが後方を突き抜け、移動を止めぬまま砲撃。
前方に存在する局員、そして次元航行艦の全てに対し光子弾幕を叩き付ける。

クロス・モードによる掃射からウラガーンの砲撃、一連の行動が収束するまで3秒足らず。
その間に、後方に位置する者を除く魔導師の大半と次元航行艦3隻がレーザーに、それを掻い潜った局員と11隻の次元航行艦が光子弾幕によって存在を消し去られていた。
抉られた構造物が凄絶な破壊痕を曝し、次元航行艦の残骸は炎を吹き上げ続けている。
危うく弾幕を凌いだ艦も其処彼処を穿たれ、少なくとも4隻が明らかな航行不能、2隻が機関部付近から炎を上げていた。
局員の姿に関しては、次元航行艦の陰より現れた無傷の20名ほど以外には確認できない。
負傷者の姿及び死体が確認できないのは、完全に消滅してしまった為だろう。

『前方、上層から下層へ貫通する崩落跡を確認。検出源と思われる』

局員生存者から魔導弾が撃ち掛けられるが、彼の注意は既に其処にはなかった。
狙うは唯1つ、上層より現れ下層へと落下していったであろう、大型バイド汚染体。
その正体は程なくして判明した。

『解析終了。「BFL-128『GOMANDER Ver.17.1』」幼生体及び「BFL-126『IN THROUGH Ver.32.9』」6体を確認、管理局部隊が交戦中』
『確認した。これより対A級バイド掃討戦へと移行する』

魔導弾を無視して前方へと加速、レーザーを切り替えサーチ・LRGを照射、同時に波動粒子の充填を開始。
絶え間なく放たれるレーザー群は、崩落地点の上で次々に屈折し垂直に下層へと降り注ぐ。
インターフェースを通じて伝わる、確かな空間の揺らぎと衝撃。
目標はその規模から幼生段階であると判別でき、未だ外皮が硬質化し切らぬ現状ならば構造的弱点を狙う必要はないと思われた。
寄生体との直接戦闘は避け、同一箇所への集中砲火のみで事足りる。
更に好都合な事に崩落跡を通じて強襲を掛ければ、直上からの攻撃は狙わずとも敵性体の構造的弱点へと直撃する筈だ。

216R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/05/30(土) 20:03:34 ID:8/jKotFc
崩落地点直上へと至るや、機首を直下へと旋回。
70m下方、粉塵と血煙の間から覗く砕けた水晶体へとクロス・レーザーを撃ち込み、更にサイ・ビットを射出する。
赤い軌跡を空間へと刻みつつ、レーザーは砕けた水晶体の中央を射抜き汚染体の体内へと突き立った。
汚染体の各所から爆発と見紛わんばかりの勢いで血液と肉片が吹き出し、更にサイ・ビットが体内へと突入した数瞬後、側面部位が内側より粉砕されて跡形もなく吹き飛ぶ。
直前まで醜悪な肉塊が存在していた空間を突き抜け機首を起こすと同時、敵性体に押し潰される様にしてツァンジェンが大破している事実が判明した。
パイロットのシグナルが消滅している事を確認すると、彼はそれ以上の注意は不要と判じ並列思考の大部分を目前の敵性体へと集中させる。

展開する無数の局員と、20隻以上の次元航行艦。
局員は一様に驚愕の面持ちでこちらを見つめ、一部は既にデバイスを構えて攻撃態勢を取っている。
周囲の状況から推測するにツァンジェンと汚染体の攻撃により、局員は既にかなりの被害を受けているらしい。
しかし次の瞬間、横殴りに襲い掛かった魔導弾幕により、局員の姿が掻き消える。
既に汚染体からの攻撃を予期していた彼は、フォースを盾に危なげなく弾幕を凌ぐと即座にサーチ・LRGの掃射を開始した。
レーザー群は魔導弾幕を正面から切り裂き直進、屈折して2体の汚染体、その長大な胴部へと殺到する。
球状の肉塊が次々に消し飛び、遂には汚染体の頭部までもが吹き飛ばされ消失。
重力制御による浮力を失った400mもの長躯が床面へと叩き付けられ、衝撃により血液が撒き散らされ豪雨の如く一帯へと降り注ぐ。
残存汚染体、計4体。

背後で光子弾幕の壁が垂直に叩き付けられ、A級バイド汚染体の残骸が更に細分化された。
降り注ぐ光子弾幕が、床面ごと敵生体を粉砕した事をインターフェース越しに認識しつつ、彼はウラガーンの合流を待つ。
全方位を映し出す電子処理された視界の中に浮かび上がる、障壁を展開し魔導弾幕を凌いでいた局員の姿。
彼等は残る汚染体とこちらとを同時に相手取るという状況に混乱しているのか、攻撃態勢を取る者の姿はあれど集団的な反撃行動へと移行する素振りはない。
とはいえ、上層階でこちらが取った敵対行動に関する報告が届けば、すぐにでも攻撃が開始されるだろう。
ウラガーンによる光子弾幕とレーザーの掃射を以って、汚染体もろとも速やかに殲滅する事が望ましい。

その時、背後で青い光が瞬いた。
彼はその光をウラガーンのスラスターが放つものであると判断し、IFFと視界に映る機影の双方を以ってその正しさを確認する。
ウラガーンは左側面後方の位置で停止、波動砲の充填を開始する。
局員も状況を理解したのだろう、ほぼ全員がデバイスの切っ先をこちらへと突き付けた。
そして彼もまたウラガーンの砲撃を待ち、リフレクト・モードによる殲滅を実行せんとする。

『本機は魔導師の殲滅に当たる。ウラガーン、艦艇を狙え』

誘導型・高速直射型を織り交ぜた魔導弾幕、そして砲撃と拘束用魔力鎖。
襲い来るそれらを躱し、撃ち砕き、或いはフォースに喰らわせる。
機体直下に発生した魔方陣より間欠泉の如く噴き上がる緑と褐色の魔力鎖を前方への急加速によって回避し、2発のミサイルを展開する局員の中央へと撃ち込んだ。
吹き飛び四散する魔導師の肉体を認識しつつ、彼は僚機へと指示を飛ばす。

『砲撃だ、ウラガーン』

応答はない。
更に局員より放たれた金色の砲撃魔法を水平方向への移動によって躱すが、右側面へと回り込む様に放たれた誘導弾と左側面からの汚染体による魔導弾幕が、左右より挟み込む様にして迫り来る。
彼は後方へ退く事はせず逆に前方へと加速、一瞬にして局員の頭上へと機体を滑り込ませ機首を反転し、追い縋る誘導弾群をクロス・レーザーの掃射で薙ぎ払う。
そして一向に砲撃実行の様子を見せぬ僚機を訝しみ、そちらへと意識を集中した矢先の事だった。
IFF消失、被ロック警告。
視界の一角で、金色の閃光が爆発した。

左側面スラスター最大出力、瞬間的に右側面方向へと200m移動。
光子弾幕が機体を掠め、衝撃と共に警告表示が視界を埋め尽くす。
ザイオング慣性制御システム損傷、機能回復措置完了まで約600秒。
光速巡航及び高次戦術機動、不能。
キャノピー内慣性消去機構、停止。

回避行動とほぼ同時、彼は些かも躊躇う事なくクロス・レーザーを照射した。
目標は濃緑色の機体、僚機であるウラガーン。
一瞬で10mほど上昇しレーザーを回避、レールガンを連射し弾幕を張る。
通常と比して緩慢な動きで辛くもそれを躱し、サイ・ビットへの波動粒子充填を開始。

217R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/05/30(土) 20:04:28 ID:8/jKotFc
何故こちらが攻撃を受けるのか、等と思考する事はなかった。
突然のIFF消失、僚機に対する無警告での攻撃。
考え得る理由は1つしかない。
汚染されたのだ。

だが、それよりも優先して対処すべき問題がある。
ザイオング慣性制御システムの停止。
背後に管理局部隊が展開しているこの状況下、慣性制御が不可能であるという事実は致命的だった。
慣性制御を用いた高機動は勿論の事、キャノピー内部へと掛かるGの消去すら不可能となってしまったのだ。
機体各所のスラスターを用いれば、正常時と同等ではないにせよ高機動を実行する事は可能である。
しかし発生するGを打ち消す事ができなければ、パイロットの身体は僅かに20m移動しただけでピューレの様に弾けてしまうだろう。
強化措置を施され、耐Gスーツとキャノピーに満たされた耐Gゲルによって護られた身体は理論上15Gまで耐える事が可能だが、それでも通常の様な瞬間的加速は不可能だ。

この状況下で汚染体と局員の双方を相手取る事は、無謀以外の何物でもない。
此処は局員に対する攻撃を控え、システムの回復を待つべきだろう。
こちらがウラガーンへの攻撃に集中すれば、自然と局員は汚染体への対処を優先させる筈だ。
無論、こちらから注意を外す事はないだろうが、システムが回復すれば問題はない。
高機動さえ可能となれば、抵抗すら許さずに殲滅できるだろう。

そして、彼は視界に映り込むウラガーンへと意識を集中した。
一見すると、その機体に異常は見当たらない。
しかし、センサー群は明らかな異常を伝えている。
バイド係数異常増大、パイロット生体シグナル消失。
どうやらA級バイド汚染体の残骸より侵食を受けたらしく、拡大表示されたエンジンユニット近辺から異常なまでの高バイド係数が検出されている。

だが、どうにも理解できない。
高度な対汚染防御が施されているR戦闘機が何故、僅か数秒の内に中枢まで侵食されたのか。
撃墜するのではなく機能を保ったまま汚染するとなれば少なくとも数十時間、侵食特化バイド体であっても数分は掛かる。
一体、何がこの短時間汚染を可能としたのか。

疑問が解消されるまでに、それ程の時間は掛からなかった。
ウラガーンの後方、既に生命活動を停止していた筈の肉塊。
一部は伸長し、ウラガーンの機体後部へと直結している。
増殖を繰り返し見る間に膨れ上がるその中に、濃紺青の光を放つ無数の結晶体を確認したのだ。
照合の結果、視界へと現れる見慣れない表示。



『High energy focusing material detected. LOST-LOGIA「JEWEL-SEED」』



瞬間、周囲の空間に満ちる魔力素の検出値が数十倍にまで膨れ上がった。
魔力素の集束によって形成された無数の力場が、触手の様に空間を侵してゆく。
本来ならば不可視であるそれらは、各種センサー群を介する事によって可視化され彼の視界へと映り込んでいた。
後方の局員達も、見えはせずともリンカーコアを通じて異常を感じ取ったのだろう。
ウラガーンへと視線を固定したまま、不可視の圧力に押される様にして後退してゆく。

そして遂に、ウラガーンの装甲の一部が内部より弾け飛んだ。
大きく抉れた機体からは黒々とした肉腫が泡の様に噴き出し、宛ら癌細胞の如く機体を覆い尽くしてゆく。
しかしその中にあっても、ウラガーンは波動砲の充填を開始していた。
汚染体はウラガーンの全兵装を制御下へと置いているのだ。

幾度目かの金色の奔流が、彼の視界を埋め尽くす。
幸いにして光子弾幕は別方向の艦艇を狙ったものだったが、しかし彼は気付いていた。
後方の局員達、その一部が不審な動きを見せている事に。
波動粒子を纏ったサイ・ビットが肉塊へと撃ち込まれ、血肉に混じり青い結晶体の欠片が降り注ぐ中、金色の髪を揺らす魔導師が欠片の1つを手にしている事に。

218R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/05/30(土) 20:05:10 ID:8/jKotFc
だが最早、彼の手の内に選択権はなかった。
彼が取り得る行動は、汚染された僚機との戦闘のみ。
意識内へと響く警告音だけが、状況の支配権が失われた事実を無機質に告げていた。

*  *  *

「・・・複製だって?」

呆けた様なアルフの声を耳にしながら、フェイトは無言で自らの手の内にある青い結晶体を見つめていた。
もう、10年以上も前になる。
母の望みを叶える、ただ只管にそれだけを望み、違法活動を繰り返した。
管理局との敵対、管理外世界の少女との闘いがあった。
母に捨てられ、新たな家族と掛け替えのない親友を得た。
全ては21の宝玉、計り知れない力を秘めたロストロギアを巡って起きた事だった。

『そうだ。あれはオリジナルのジュエルシードじゃない。良く見れば分かる筈だよ』

ロストロギア「ジュエルシード」。
願いを叶える宝石。
次元干渉型エネルギー結晶体であり、極めて不安定な性質を持つ人造鉱物。
外部からの魔力干渉によって容易く暴走し、特定条件下に於いては周囲に存在する生命体との融合を果たし物理干渉力を増幅させる事すらある。
単体で次元震を引き起こす程の膨大な魔力を秘めながら、歪な形でしか願いを叶えられなかった奇蹟の石。

「・・・確かにナンバリングは無いけど・・・でも、どう見たってジュエルシードじゃないか」
『知っての通りジュエルシードの総数は21だ。現存しているものは12個、そのうち本局にあるものに至っては8つ。ところが検出された反応数は40を超えている』

乗り越えた筈の過去が今、悪夢となってフェイトの眼前へと具現化していた。
光学兵器と波動砲の波状攻撃を浴びながらも、損壊を上回る速度で増殖を繰り返す肉塊。
金色の弾幕を放つ濃緑色の機体は、既に半ばまで肉塊に呑まれている。
電磁投射砲を連射している所を見ると、どうやら機能中枢を奪われたらしい。
肉塊によって半ば固定されている為、波動砲の射界がほぼ固定されている事は幸運だった。
射軸が壁面寄りに傾いている為、次元航行艦への被害は最小限に抑えられている。
だが徐々にではあるが、肉塊は機首をこちらへと向ける様に、表層部での不自然な脈動を繰り返していた。

『反応は今この瞬間も増え続けている。ジュエルシード自体が増殖と分裂を繰り返しているんだ』
「まるでジュエルシードが生きているみたいな言い方だね」
『生きているんだよ。ジュエルシードは取り込まれたんじゃない、それ自体がバイド化したんだ』

残るR戦闘機からの攻撃を受ける度に、肉片と共に周囲へと飛び散る青い結晶体。
自身が、管理局が、歴史上の幾多の文明が争い、全てを掛けて手に入れようと試みた21の宝石は、そんな人間達の苦悩と葛藤を嘲笑うかの様にその数を増し続ける。
肉腫の隙間より覗く結晶が青く瞬く度に、肉塊はその体積を爆発的に増大させるのだ。
既に汚染体の体積はR戦闘機による攻撃を受ける前と比して、3倍以上にまで膨れ上がっている。

「何の冗談だい・・・!」
『冗談なんかじゃない。ジュエルシードは自己の生命と生存欲求を獲得している。だからこそ肉の鎧が剥ぎ取られないように再生を促し、また自己の存在を残す為に分裂を続けているんだ』
「ロストロギアが子孫を残そうとしてるってのか。そんな馬鹿な」

閃光。
聴覚が麻痺し、光弾の奔流が100mほど離れた空間を薙ぎ払う。
衝撃が全身を襲うが、フェイトは片膝を突いたまま微動だにせず、弾幕の通過した痕跡へと視線を向ける事すらしなかった。
ただ一言、無感動に呟いただけ。

「使えるの?」

衝撃を避ける為か身を伏せていたアルフと局員、双方が自身へと視線を投げ掛けた事を感じ取りながらも、フェイトがそちらへと振り返る事はない。
手の内にある紺青の結晶体から視線を外し、肉塊へと取り込まれつつあるR戦闘機を見据える。
R戦闘機は肉塊によってほぼ固定されてしまった為か、電磁投射砲を連射してはいるが照準調整ができないらしい。
先程の砲撃もあらぬ方向へと放たれ、壁面を破壊して施設内部へと消えていった。
掃射型波動砲の威力は脅威だが、あれでは牽制程度にしか使い様はあるまい。

219R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/05/30(土) 20:05:53 ID:8/jKotFc
「ユーノ、このジュエルシードは使えるの?」

再度の問い掛け。
アルフや周囲の局員は言葉を発しない。
数秒の後、僅かに戸惑いを滲ませた声がウィンドウ越しに返される。

『反応を見る限りは、オリジナルとコピーとの間に違いはない。でも実際には汚染の可能性が・・・』
「もう1分は接触状態を保っているけど、何も異常はない」

幾度目かの壮絶な破壊音の後、足下へと転がった結晶体の欠片を更に1つ拾い上げると、フェイトは立ち上がった。
2つのジュエルシードを手に、汚染体への攻撃を続けるR戦闘機の機影を睨み据える。
バルディッシュをライオットブレードへ移行、全方位へと念話を発信。

『ハラオウン執務官より全局員へ。飛散したジュエルシードを可能な限り回収、一個所に集めて。但し肉体への接触は厳禁、魔法を使用して回収する事』
「フェイト!?」

アルフが、信じられない言葉を聞いたとばかりに叫ぶ。
しかしフェイトは、自身ですら驚く程の冷静さを保ったまま指示を出し続けた。

『持ち主が死亡したストレージデバイスと「AC-47β」も一緒に回収して。次元航行艦は順次出港を・・・』
『フェイト、馬鹿な真似は止すんだ!』

ユーノの叫びと共に、背後からフェイトの手首が掴まれる。
振り向けば手首を握ったアルフが、怯えを含んだ表情で自身の主を見つめていた。
恐らくはフェイトの意図を理解したのだろう、低い声色で問い詰めるアルフ。

「まさかそれ、使うつもりじゃないだろうね」
「他に方法は無いよ、アルフ」
「馬鹿言うんじゃないよ! それはもうアタシ達が知ってるジュエルシードじゃない、バイドそのものなんだよ!? そうやって持ってるだけでも、いつ汚染されるか分かったものじゃないんだ!」
「魔力の殆どはあの汚染体に供給されている筈。対汚染防御を施されている筈のR戦闘機を数秒で取り込んだんだから間違いない。これが機能している以上、こっちを汚染する事はできない」

言いつつ、フェイトはバルディッシュを掲げてみせる。
そのカートリッジシステムに直結した、明らかに後付けと判る歪なユニット。
「AC-47β」魔力増幅機構。
飛行資質を有さない魔導師にさえ翼を与え、バイドを含めあらゆる汚染に対する防御機能を強化する異界の技術。

「でも!」
「母さんの時に比べれば、ささやかな願い事だよ」
「そんな問題じゃ・・・!」

アルフの言葉が終るより早く、光学兵器の閃光が視界を覆う。
濃紺青の機体より放たれた無数のレーザー弾体が壁となり、巨大な肉塊を覆い尽くしたのだ。
衝撃音により聴覚が麻痺するが、その報告は念話を用いる事で問題なくフェイトの意識へと伝わった。

『ハラオウン執務官、ジュエルシードの欠片を確保した。30個はあるが、これでいいのか?』
『ストレージデバイス、14基を回収しました。全て「AC-47β」を装着しています』

周囲へと視線を走らせ、200mほど離れた地点に集積されたジュエルシードとデバイス、それらの傍らへと待機する局員達の姿を視界へと捉える。
体調にも魔力にも異常はない。
短時間の魔法行使程度ならば問題はない筈だ。

「ユーノ、クアットロ。魔力炉を暴走させられる? 数は多ければ多いほど良い」
『何を・・・』
『勿論できます。それで、何をさせるつもりなのかしら』

思わぬ言葉に問い返したのであろうユーノの言葉を遮ったクアットロが、答えを返すと同時にフェイトへと問い掛ける。
フェイトは結界の外、無数の光が瞬く隔離空間へと視線をやると、気負いもなく言い放った。

220R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/05/30(土) 20:06:39 ID:8/jKotFc
「転送を。全ての次元航行艦を管理局艦隊の許へ。本局内部に存在する、汚染を逃れた全ての生存者をその艦内へ」
「無茶よ!」

叫んだのは周囲に居た局員の1人。
彼女は興奮を抑えようともせず、フェイトへと食って掛かる。

「外ではアルカンシェルが乱発されているんですよ!? これだけ空間歪曲が発生している中で転送なんか行ったらどうなるか、貴女だって良く知っているでしょうに!」
「普通ならね。でも、これがある」

そう言葉を返しつつ、フェイトは自らの手の内にあるジュエルシードへと視線を落とした。
紺青の結晶体は、ただ冷たい光を放ち続けている。

「これ1つでも次元震を誘発できる。30個もあれば空間歪曲を突破できるだけの出力は十分に確保できる筈」
『君が言っていたんだぞ、そのジュエルシードは汚染体に魔力を供給し続けていると! たとえ全てのジュエルシードを同時に使用しても、それで十分な出力が得られるとは限らない!』
「ただ使っただけなら、そうかもしれない。でも」

床を蹴り飛翔、集積されたジュエルシードの許へと飛ぶフェイト。
同じ地点へと集められたストレージデバイスの1つを手に取るや、そのコアへとジュエルシードを収納する。
そして、言い放った。

「これを暴走させれば、魔力なんて幾らでも供給できるでしょ?」

ユーノは答えない。
否、余りに予想外の言葉に、返す言葉すら思い付かないのかもしれない。
フェイトは彼の返答を待たず、別の人物へと念話を飛ばす。

『どう思います、スカリエッティ』
『悪くはない。これまでに解析されたジュエルシードの特性から見ても、理論上では問題なく機能する筈だ』

突然の問い掛けに、肯定的な意見を返すスカリエッティ。
その声には常より纏う嘲りの色など微塵もなく、只管に無感動な冷たさだけがあった。
無理もない。
つい先程、彼の娘の1人であるセッテが目前で凄惨な最期を迎え、さらにトーレの死までもが知らされたのだ。
オットーとディードの死を知った時も、彼は全ての感情を取り落としたかの様な表情を見せていた。
押し隠してはいるが、恐らく彼の内面には溢れんばかりの憤りと、地球軍とバイドに対する憎悪が渦巻いているのだろう。

『だが失敗すれば本局も、先程出港した艦艇も唯では済まない。たとえ成功したとしても、本局は跡形もなく消し飛ぶだろう』
『成功すれば皆が助かる。試す価値はあります』

更に2つのジュエルシードを、ストレージデバイスへと収納するフェイト。
彼女の視界の端に、デバイスの1つを手に取る人物の姿が映り込む。
その武装局員はフェイトに倣い、デバイスへとジュエルシードを収納すると汚染体へと向き直った。
彼に続く様に、周囲の局員が次々にデバイスへと手を伸ばし、同じくジュエルシードを収納すると自らのデバイスを構える。
無言のままにその様子を見つめるフェイトへと、直後に複数の声が掛けられた。

「貴女1人では無理ですよ、執務官」
「時間がない。一斉に掛かるぞ、ハラオウン」
「蛇野郎の方は任せて下さい。執務官、デカブツを頼みます」

遥か前方、蛇状汚染体からの攻撃を遮っていたユーノの結界が、魔導弾幕の掃射が途絶えると同時に解除される。
直後、彼等は弾かれる様に前進を開始した。
床面擦れ擦れを飛翔魔法により滑空する者もあれば、魔力供給によって強化した筋力で以って駆け抜ける者もある。
後方からは砲撃が汚染体へと撃ち込まれ、魔導弾掃射ユニットとなっている肉塊を次々に破壊し迎撃を阻止せんとする。
その様子を横目に、フェイトもまた行動を開始した。

右手はライオットブレードを逆手に構え、左手にはストレージデバイスを携える。
汚染体の一部、肉塊より突出したR戦闘機のキャノピー先端を見据え意識を集中。
そして光学兵器の掃射が止んだ一瞬の間隙を突いてソニックムーブを発動、一気にキャノピー周辺を目指す。
しかし加速直後、肉塊の一部から霧が噴き出した。

221R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/05/30(土) 20:07:13 ID:8/jKotFc
「こ、のッ!」

フェイトは瞬間的に軌道を逸らし、霧の弾体を掠める様にして再度ソニックムーブを発動する。
結果として直撃は免れたものの、左の手首から先に痺れる様な痛みが奔った。
溶け落ちた訳ではないが、恐らく皮膚は跡形もないだろう。
しかし彼女は自身の負傷箇所を一顧だにせず、続けて襲い来る霧の弾体を機動力に物を言わせて回避し続ける。

『テスタロッサ、伏せろ!』

突然の警告に従い身を伏せると、巨大な炎の壁が頭上を突き抜けた。
シグナムだ。
相次いで放たれる炎は霧を掻き消し、フェイトの進路を切り開く。
次いで宙を翔けるは、魔力によって構成された猟犬の群れ。
それらは次々に汚染体へと牙を突き立て、魔力の過剰供給による爆発を起こし肉塊を抉りゆく。
すると今度は、汚染体の一部が触手の様に伸長し、数十mもの頭上まで鎌首を擡げた。

『そのまま進みな、フェイト!』

アルフからの念話。
触手は粘液と血液を周囲へと振り撒きつつ、大気を割いて垂直にフェイト目掛け振り下ろされる。
だが、彼女は進路を変えない。
振り下ろされる触手の軌道上には、僅か数瞬の間に数百本もの緑と褐色の魔力鎖が張り巡らされていた。
迫り来る巨大な触手は数十本もの魔力鎖を打ち砕き、しかし俄に動きを止める。
粉砕した数、その5倍以上もの物量の魔力鎖によって完全に拘束され、空中に静止したのだ。

『行け!』

急かされるまでもなく、フェイトは爆発的な加速を掛けていた。
張り巡らされたバインドの隙間を擦り抜け、汚染体へと肉薄する。
すると眼前の肉壁が裂け、無数の穴が穿たれた膜らしき部位が露わとなった。
酸の噴射口だ。
この至近距離では、どう足掻いても躱す事はできない。

だが、フェイトは噴射口の存在を気にも留めなかった。
緑光の魔導弾が、その中央へと突き立つ瞬間を目にした為だ。
銃弾は微かな光と共に弾け、直後に膜上の全ての穴から鮮血が噴き出す。
フェイトはその中央を蹴り、弾力を利用して上へと跳躍。
幾度目かのソニックムーブと共にブリッツアクションを発動し、右腕のみで以ってライオットブレードを肉塊へと突き立てる。
その位置は当初の狙い通り、僅かに露出するR戦闘機のキャノピー、その至近距離だった。

「バルディッシュ!」
『Riot Zamber』

フェイトの叫びと共にライオットブレードの細身の刀身が、ライオットザンバー・カラミティの巨大な刀身へと変貌する。
ほぼ全ての刀身が呑み込まれたその状態から更に捻りを加え、フェイトは汚染体の損傷個所を更に広く深く抉り始めた。
有機繊維が千切れる際の耳障りな音と感触、そして全身へと噴き付ける鮮血を無視し抉り続けること数秒。
唐突にフェイトは、有りっ丈の力でカラミティを引き抜いた。
反動でしなやかな身体が反り返り、弓の如き曲線を描く。
右手のカラミティを手放し、左手に持つストレージデバイスの柄を両手で固定。

「ッああぁぁぁぁッッ!」

そして絶叫と共に全身のばねを爆ぜさせ、垂直に構えたデバイスの矛先を振り下ろした。
カラミティによって刻まれた傷の中央へと突き立ったストレージデバイスは、肉壁を容易く割りつつ鮮血と共に内部へと呑み込まれてゆく。
程なくして1m50cm程のストレージデバイスは完全に肉塊へと呑まれ、フェイトの視界よりその全容が消えた。

222R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/05/30(土) 20:08:07 ID:8/jKotFc
「やった・・・!」

デバイスが完全に肉塊内部へと沈み込んだ瞬間、フェイトは全身を返り血に染めたまま我知らず歓喜の声を漏らす。
デバイス内のジュエルシードには、既に転送プログラムへの魔力供給を実行せよとの「願い」が込められていた。
後は、バイド体との接触により「AC-47β」内部の魔力蓄積率が臨界値を突破、暴走する瞬間を待てば良い。
暴走により齎される膨大な魔力は、デバイスを通じてジュエルシードへと流れ込む。
現在のジュエルシードは汚染体への魔力供給により、こちらの「願い」を叶えるには魔力量が圧倒的に不足している為、複数の「AC-47β」を暴走させる事で不足分を補うのだ。
そしてフェイトは今、デバイスと汚染体との接触状態を生み出す事に成功した。
後は暴走の瞬間を待ち、ユーノとクアットロが本局の機能を介して転送魔法を発動させるだけだ。

『退がれ、フェイト!』

ユーノからの警告。
咄嗟に重力に身を任せ、背後より迂回する様に襲い掛かる触手を回避。
途中、肉壁に突き立っていたカラミティの柄に手を掛けると、全身を縦方向へと回転させて刀身を振り抜く。
肉塊を切り裂き、そのままカラミティを回収。
ライオットブレードへと変貌させ、アルフ達の許へと急ぐべくソニックブームを発動せんとする。
だが、フェイトの心中を占めていた作戦成功による達成感は、局員からの警告によって打ち砕かれた。

『何か射出されたぞ!』

咄嗟に背後へと振り返ったフェイトの顔へと、細かな血飛沫が降り掛かる。
何事かと頭上を見上げた彼女の視界に、奇妙な血塗れの鉄塊が映り込んだ。
円柱状、長さ2m程の鉄塊。
余程の勢いで射出されたのか、明らかに推力発生機構を有していないにも拘らず天井面にまで達し、其処に衝突して弾かれると自由落下を開始する。
その正体が何であるかは、すぐに推測が付いた。

「爆発物・・・!?」
『退避を!』

警告とほぼ同時、緑光の魔導弾が鉄塊を撃ち抜く。
瞬間、閃光と共に鉄塊が爆ぜた。
やはり爆発物だったかと納得したのも束の間の事、これまでとは全く性質の異なる衝撃がフェイトを襲う。
巨大な構造物が崩落する際にも似た、しかしそれよりも遥かに重々しく暴力的な振動。
機関銃の如く連続する細かな振動が、雪崩を打って全身を打ち据える。
そして一瞬の後、振動が一際激しくなったその時。
フェイトの身体は大きく後方へと弾き飛ばされていた。

「・・・ッ!」

フェイトは見た。
爆発物の炸裂点から扇状に拡がり迫る、閃光の瀑布を。
無数の小規模爆発が連なり、1つの巨大な奔流となって流れ落ちる様を。

「今のは・・・!」
『ナパームだ! 執務官、戻って下さい! 其処は炸裂範囲内です!』

念話が飛び交う間にも、肉塊は次々に爆発物のポッドを射出する。
R戦闘機への搭載は明らかに不可能であると分かる総数のそれらは、バイドの有する模倣能力による産物か。
立ち込めるオゾン臭からして、内部に充填されている物は可燃性物質などではあるまい。
あのナパームもまた、何かしらのエネルギー集束技術を応用した爆弾なのだ。

223R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/05/30(土) 20:08:44 ID:8/jKotFc
『撃ち落とせ!』

体勢を立て直すや否や、フェイトはバインドを張り巡らせるアルフ目掛け必死に加速した。
ヴァイスを始めとする数少ない狙撃特化型の魔導師がポッドの迎撃を開始してはいるが、射出数が余りに多い為に対応し切れない。
迎撃されたポッドは緑掛かった光を放つ爆発の奔流を生み出すが、その流れは床面へと接触すると地形に沿って平行移動を開始するのだ。
即ち、炸裂点が空中ではなく床面ならば、爆発は一息に生存者達を呑み込んでしまう事となる。
これ以上の非戦闘員殺害を許す訳にもいかない為、ヴァイス等の狙撃は次元航行艦の方向へと向かうポッドに集中。
結果として蛇状汚染体への攻撃を成功させた魔導師達は、迎撃の手を擦り抜けたポッドの洗礼を受けてしまう事となった。

「逃げて!」

思わず零れた悲痛な叫びすらも、膨大なエネルギー輻射に伴う轟音によって掻き消される。
フェイトを信頼し、自らの生命の危険をも顧みずに蛇状汚染体へと挑み、見事使命を果たした勇敢なる局員達。
十数名の彼等は、仲間達の待つ安全圏まで後200mと迫り、しかし辿り着く事なく光の瀑布に呑まれた。
連続する爆発が彼等の姿を掻き消し、その存在の痕跡すらも残さず拭い去る。
周囲から幾つもの絶叫が上がる中、噛み締められたフェイトの唇からは少々とは言い難い量の血が流れていた。
そして、叫ぶ。

「ユーノ、まだなの!?」
『まだだ! もう少し、もう少しで・・・!』
『もう1機が逃げるぞ!』

背後に視線をやると、濃紺青の機体が側面を曝し逃亡する様が視界に入った。
先程の攻撃で何かしらの異常が発生したのか、常ならば瞬時に雷光の如き速度へと至る機動性を見せる事もなく、緩慢な加速で外部空間を目指す。
恐らくは「AC-47β」より発せられるバイド係数の増大を検出した為であろうが、管理局側が自滅するならば長居は不要と判断したのかもしれない。
いずれにせよ、脅威の一端が去った事に違いはなかった。

『魔力蓄積率、臨界値突破! 全てほぼ同時に暴走する!』
『全艦艇、エアロック封鎖完了しました!』
『艦外の者は5人から10人の集団を作れ! できるだけ密集しろ!』
「フェイト、こっちだ!」

無数の慌しい念話に混じり届いた、アルフの声。
彼女の許へと飛び込んだフェイトは、そのまま両の腕に強く抱き止められる。

「アルフ!」
「伏せなフェイト! 大丈夫だ、みんな此処に居る!」

アルフの言葉通り、其処にはフェイトの家族が集まっていた。
未だ意識の戻らぬリンディ、クライドのポッド。
フェイトはアルフに抱かれたままリンディの身体に腕を回し、3人でクライドのポッドに寄り添った。

『10秒前・・・』

ユーノからの通信に、フェイトを抱くアルフの腕が微かに強張る。
失敗すればどうなるか。
ユーノの腕は確かだが、ジュエルシードがこちらの意図通りに機能するとは限らない。
真空中に放り出される可能性もあれば、同じ領域に転送された次元航行艦の艦体と同化してしまう可能性もある。
最悪の場合、何処とも知れぬ空間へと転送されるか、転送自体すら起こらずに消滅してしまう事すらも考えられるのだ。
だが、今は信じるしかない。
ユーノの並外れた情報処理能力にクアットロのサポートが加われば、全ての次元航行艦と生存者の転送先座標を精確に設定できるだろう。
だが結局のところ、成否を決めるのは人間ではない。
全てはジュエルシード次第なのだ。

224R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/05/30(土) 20:09:19 ID:8/jKotFc
『5秒前!』
『多過ぎる、防ぎ切れない!』

突如として響いた衝撃音に、頭上を見上げる。
視線の先では20以上ものナパーム・ポッドが天井面へと反射し、艦艇群を目掛け自由落下を開始していた。
フェイトは瞬時に、自身等には打つ手が無い事を理解する。
数が多過ぎる事もあるが、それ以上にこの距離では今から迎撃に成功したとしても、拡散する爆発が艦外の生存者達を呑み込む事は明らかだった。
彼女にできる事は目を閉じ、リンディの身体を確りと抱き締める事だけ。
そして爆発を示す眩い閃光が、閉じられた瞼を貫いて視界を埋め尽くす。

『転送!』

爆音すらも消え去った、生と死の境界に満ちる静寂の中。
ユーノの声が、脳裏へと響いた様な気がした。

*  *  *

自身の肩を揺さ振る何者かの存在により、リンディの意識は闇から浮上した。
徹夜明けの様に重々しい瞼を上げ、視界へと飛び込んだ光の刺激に耐え切れず再び目を閉じる。
そのまま暫く目を押さえていたリンディだったが、肩を叩かれた事により無理やり瞼を見開いた。
僅かながら光に慣れ始めた視界の中、浮かび上がった人影は赤銅色の髪を揺らしている。
すぐさまその正体に思い至り、その名を声にして呼ぶリンディ。
ところが、幾ら声を出しても自らの声が聴こえない。
そればかりか、何事か語り掛けるアルフの声すらも聴き取れないのだ。

混乱し掛けるリンディだが、アルフはその様子に何事か思い至ったらしい。
両手をリンディの両耳に宛がい、御世辞にも使い慣れているとは思えないたどたどしさでフィジカルヒールを発動する。
頭部を両側面から包む優しい温もりに暫し身を任せていたリンディだったが、やがて聴覚が完全に回復した事を感じ取った。

「ありがとう、アルフ」
「済まないねぇ。リンディの鼓膜も破けてるだろうって事、失念してたよ。さっきまでフェイトに付きっきりだったからさ」

フェイト。
義娘の名を聞いた瞬間、リンディは自らの内に湧き上がった衝動に身を任せアルフの肩を掴んだ。
そして驚きに目を見開く彼女に、矢継ぎ早に質問を浴びせ掛ける。

「アルフ! フェイトは、フェイトはどうなったの!? 崩落は・・・!」
「ちょっと、落ち着きなってリンディ!」

慌てるアルフに詰め寄ろうと、リンディは大きく身を乗り出した。
だが次の瞬間、彼女の身体は重心を崩し右へと倒れ込む。
右足に違和感。
何が起きたか分からずそのまま床面へと叩き付けられそうになった彼女を、咄嗟に伸ばされたアルフの腕が抱き止めた。
そしてアルフに支えられたまま自身の右足へと視線を落とした彼女は、其処にあるべきものが無いという事実に気付く。

「え・・・」
「リンディ・・・」

右脚の足首から先が無い。
その事実を理解した瞬間、僅かな時間ながらリンディの思考は停止した。
自身の肉体の一部が欠損しているのだから、無理もない事だろう。
しかし彼女は聡明であり、同時に並外れた意志の強さを併せ持っていた。
何より彼女の母親としての慈愛は、自身の負傷を気に掛ける思考を大きく上回っている。

「アルフ、フェイトは何処に? あの娘は無事なの?」

先程の取り乱し様とは打って変わり、落ち着いた口調で問い掛けるリンディ。
アルフは面食らった様な表情をしていたが、やがてゆっくりと口を開く。

225R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/05/30(土) 20:10:01 ID:8/jKotFc
「フェイトは大丈夫さ。本局から脱出する時にちょっと無茶してね、今はぐっすり寝てるよ」

そう言って彼女が指差した先に、フェイトの姿があった。
床の上で毛布に包まり、何処か重圧から開放された様な安らかな表情で眠り続ける義娘。
左手に幾重にも包帯が巻かれてはいるが、それ以外に目立った負傷の痕跡は見受けられない。
その姿を確認するや否や、リンディは全身の力が抜けてゆくのを感じた。
深く、深く息を吐き、常ならぬ弱々しい声を漏らす。

「良かった・・・本当に・・・良かった・・・!」

アルフへと凭れ掛り、肩を震わせるリンディ。
優しく肩を叩くアルフから、更に言葉が掛けられる。

「勿論クライドも無事だよ、今はラボで分析を受けてる」

奇跡の様なその言葉に、リンディは小さく声を漏らしながら歓喜の涙を流した。
今度は無言のまま、アルフの手が彼女の背を撫ぜ続ける。
2分ほどそうしていただろうか。
顔を上げたリンディは漸く、周囲に存在する人影が数百人にも及ぶ事実に気付いた。
其処彼処で生存を祝う、或いは死者を悼む悲痛な声が上がっている。
場所はかなりの広さを持ったホールで、壁際には観葉植物が生い茂り、数件のカフェ・レストラン等が壁面に埋め込まれる様にして店を構えていた。
反対側には設置型空間ウィンドウの出現箇所である事を示す警告表示が、10m前後の間隔で連続して壁面へと貼り付けられている。
今はオフラインだが、本来ならば外部のパノラマ映像が映し出されるのだろう。

「此処は・・・」
「第6支局さ。脱出した艦艇とヴィクトワールからの連絡で、生存者の救助に来たんだ」
「救助に?」
「正確には汚染とR戦闘機を警戒して接近しあぐねていた所に、アタシ達が転移してきたんだけどね」

思わぬ言葉に、リンディはアルフの顔を覗き込んだ。
アルフは無理もないと云わんばかりに肩を竦め、リンディの背後を指す。

「その2人のおかげだよ」

振り返ると其処には、車椅子に座する人物とそれを押す人影があった。
右腕以外の四肢が無い金髪の男性と、亜麻色の長髪を揺らす女性。
ユーノ、そしてクアットロだ。

「ユーノ君・・・」
「リンディさん、御無事で何よりです」

ユーノはリンディの傍らへ車椅子を停めさせると、何処か疲れた様に息を吐いた。
そして手にしていたファイルをリンディへと差し出し、幾分事務的な声で報告を始める。

「ジュエルシード・コピー計31個、及び「AC-47β」14基の同時暴走を利用した強制転送により約46000名が脱出に成功。当該宙域には現在、膨大な魔力とバイド係数として検出される未知のエネルギーによる巨大な力場が形成されています」
「46000・・・あの状況を考えれば奇跡かしらね」
「上層部の被害も深刻と言わざるを得ません。キール元帥は中央区での戦闘指揮中に地球軍が使用した化学兵器により死亡。フィルス相談役はAブロックで民間人の避難誘導に当たっておられましたが、例の可変機による襲撃を受けAブロックの総員もろとも消息不明。
クローベル議長は転送による脱出に成功しましたが、既に胸部と腹部に背面まで貫通する致命傷を負っておられました。転移直前に汚染スフィア群からの砲撃を浴びたとの目撃情報あり。その後、手術室への搬送の途中で・・・」
「亡くなられたのね・・・」
「ええ」

場に沈黙が満ちる。
周囲では相変わらず喧騒が渦巻いているが、リンディ達4名は奇妙な静寂の中にあった。
それを破ったのは、新たに姿を現した2名の声。

226R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/05/30(土) 20:10:40 ID:8/jKotFc
「御三方とも、最後まで局員としての責務を果たしての殉職です。悔いは無かったと信じましょう」
「生存者の殆どは、武装局員による抵抗が時間稼ぎとなって避難に成功した者です。彼等の死は決して無駄ではありません」

ゆっくりと歩み寄る桃色の髪の女性と、その肩に乗った人形の様な小さな人影。
手を引かれ杖を突きつつ歩く、両目を包帯に覆われた緑髪の男性。
シグナムとアギト、そしてヴェロッサだ。

「お久し振りです、ハラオウン統括官」
「シグナム・・・ええ、本当に久し振りね。意識のある貴女と会うのは」
「お恥ずかしい限りです。私もアギトも、敵の脅威の程を見誤っていた。あの時に撃ち果たしていれば、この様な事態には・・・」

俯き、震える程に拳を握り締めるシグナム。
アギトも同様に、ロードの肩の上で黙り込んだまま俯いている。
彼女等にしてみれば、自らが撃ち漏らした敵によって本局内の人間が殺戮されてゆく様は、憤怒と屈辱と悔恨とに塗れた光景以外の何物でもなかったに違いない。
実際のところ、彼女達があのR戦闘機の撃墜に成功していたからといって本局が惨劇を回避できたとは思えないが、リンディは後悔に打ち震える彼女達へと掛ける言葉を見付ける事ができなかった。
その言葉を齎したのは彼女ではなく、これまで一言も発する事なく佇んでいた人物。

「思い上がりも甚だしい。たった1機墜としたところで、地球軍が襲撃を諦めるとでも? 逆に投入される機体が3機から6機に増えただけでしょうねぇ」
「・・・テメェ」

クアットロだ。
その挑発的な物言いに、アギトが気色ばむ。

「アギト、止せ」
「だってよ・・・!」
「そうなればバイドを含めた三つ巴という状況を考慮しても、こんな風にそれなりの長時間に亘って本局が持ち堪えられたか怪しいものだわ。状況がより悪化する事はあっても、その逆は決して起こらなかったと思いますけど」
「お前ぇ!」

見下す様な言葉に、遂にアギトが激昂した。
その小さな両手に炎を宿し、そちらを見ようともしないクアットロの横顔へと突き付ける様に腕を突き出す。
だが、シグナムの手が彼女の正面へと翳され、射出直前の火球の射線を遮った。

「其処までだ、アギト」
「何でだよ! コイツが・・・」
「要するに気にするなって言ってるのさ、クアットロは。随分と回りくどい言い方だけれどね」

そのユーノの言葉に、アギトの抗議の言葉が止む。
彼女は奇妙な物を見る様な目でクアットロを見やるが、当の人物はもはや興味がないとばかりに全く別の方向を見ていた。
だがリンディからは、ユーノの言葉と同時に色付いた耳が丸見えである。
恐らく内心では余計なフォローをしたユーノに、有りっ丈の罵詈雑言を浴びせ掛けている事だろう。
思わぬ人物の思わぬ一面を垣間見た事で、リンディの顔に微かな笑みが浮かぶ。
陰鬱な空気が和らぎ周囲の喧噪も徐々に落ち着き始めた頃、壁面全体に外部空間の映像が表示された。

「おい、見ろ!」

その声にリンディは、反射的に映像のほぼ中央を見やる。
巨大な空間ウィンドウには、隔離空間内部の映像が鮮明に映し出されていた。
無数の世界が隣り合う様にして密集する異様な光景の中、戦闘による無数の閃光が其処彼処で瞬いている。
その中でも、一際強力な閃光を放つ箇所があった。
惑星群とは反対の方向を映し出した映像、遥か彼方に光る恒星を背に浮かぶ人工天体。
更にその手前に映り込んだ巨大な光球、不気味な闇色の波動を放ち鼓動する異形の臓腑。

「あれが、本局です」
「え・・・」
「あの光球の中心が、本局艦艇の最終位置です」

227R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/05/30(土) 20:11:46 ID:8/jKotFc
ユーノの説明に誰もが言葉を失い、沈黙のままに光球を見つめる。
映像の手前、即ち周囲には無数の管理局艦艇が漂い、光球から遠ざかる為に移動を続けている様だ。
恐らくは本局の直衛に就いていた管理局艦隊だろう。
良く見ればこの第6支局以外にも複数、支局艦艇の艦影が空間内に浮かび上がっている。

「・・・あの力場は、何時まで持続するのかしら」
「不明です。魔力のみでの計算ならば、消滅まで80時間といった処です。しかし極めて高いバイド係数が検出されている事もあり・・・」

リンディの疑問にユーノが答え始めた、その数秒後。
映像の其処彼処に映るXV級の内1隻が、唐突に爆発した。
喧騒が一瞬の内に静まり返り、赤い光がウィンドウの一端を照らし出す。

「何が・・・」

直後、空間に1条の赤い線が刻まれた。
その線は周囲に無数の光弾を纏い、一瞬にして2隻のXV級を頭上より薙ぎ払う。
数瞬の間を置き、2隻のブリッジ近辺が閃光と共に弾け飛んだ。
その光景にリンディは、何が起きているのかを理解する。

「追撃・・・!」
「あの機体だ! あの青い奴が追ってきた!」

誰かが叫んだその言葉とほぼ同時、更に1隻のXV級と2隻の小型艦艇が無数のレーザー弾体によって撃ち抜かれていた。
艦首から艦尾まで徹底的にレーザーを撃ち込まれた3隻は艦全体から火を噴き、XV級は半ばより折れる様にして爆発、小型艦は小爆発を繰り返しながら崩壊してゆく。
既に空間は無数の魔導弾によって埋め尽くされているが、それらが敵機を捉える様子はまるで無い。

此処にきて漸く状況を理解したのか、生存者の一部から悲鳴が上がり始めた。
しかし大多数はもはや逃げ場がない事を理解しているのか、騒ぎもせずに呆然と映像を眺めている。
リンディもまた静謐を保っていたが、それは諦観によるものではない。
彼女は嘗て提督として培った経験を基に、冷静に戦況を評価しようと試みていた。
そして、気付く。

「・・・浅異層次元潜航?」
「恐らくは。攻撃時に潜航状態を解除し、目標を撃沈後に再度潜航しているみたいですね」

いずれの管理局艦艇も、まるで狙いが定まらぬ様に魔導弾を乱射していた。
それこそ誤射の危険性すら無視し、只管に弾幕を張り続ける。
それは即ち、敵機を捕捉できていないという事実に他ならない。
其処から導かれる、考え得る中で最も可能性が高く、且つ最悪の予想。
浅異層次元潜航機能を使用しての一撃離脱。

「不味いですね。異層次元に潜られると、こちらは全く手出しができない」
「出現する瞬間を狙えば・・・」
「不可能よ。あれだけ小型で常識外れの機動性を持つ移動体を狙い打つ機能なんて、管理局の艦艇には備わっていない」

言葉を交わす間にも、2つの光球が光の尾を引きつつXV級へと襲い掛かった。
その艦は必死に弾幕を張るが、光球は被弾を意に介さぬ様に艦体を蹂躙してゆく。
外殻を裂いた光球が、内部へと侵入を果たした数瞬後。
ブリッジと推進部を内部より引き裂き、光球は外部へと帰還を果たした。
崩壊する艦体を掠める様に飛来する影と合流した光球は、空間へと溶け込む様に姿を消す。

「・・・やはりね」

間違いない。
敵機は浅異層次元潜航を使用している。
こうなれば、管理局側に打つ手はない。
数隻ずつ徐々に撃沈されるか、或いはこちらへと向かっているであろう地球軍の増援に纏めて消し飛ばされるか。

228R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/05/30(土) 20:12:19 ID:8/jKotFc
「ついてないなぁ」

溜息と共に零されたユーノの言葉こそが、リンディの内心を代弁していた。
本当に、ついてない。
詳細までは知らないにせよ、フェイトが命を掛けユーノが持てる能力を振り絞った結果、多くの生存者が脱出に成功したのだという事は分かる。
しかし脱出に成功しても、直後に抵抗すら儘ならぬ脅威に直面するとは何たる不運。
否、不運ですらないのだろう。
局員の脱出を許した時点で、その収容先ごと抹消する心積もりであった事は間違いない。
敵機がこの場へと現れた事は、不運などではなく必然なのだ。

「・・・義母さん?」
「フェイト・・・」

背後より掛けられた義娘の声に、リンディは振り返る。
其処には毛布を羽織り、心細げな表情を浮かべたフェイトが佇んでいた。
リンディは義娘を近くへと寄らせ、その身体を優しく抱き締める。
フェイトは暫くされるが儘にしていたが、やがて自らも腕を伸べると義母の手に自身のそれを重ねた。
ウィンドウ上では更に4隻が火を噴き、閃光と共に爆散するか緩やかに崩壊を始めている。
周囲は再び静まり返り、リンディは静寂の中で唇を噛み締めた。

自身ができる事は何もない。
義娘やその友人は自身を救ってくれたというのに、今この状況に於いて自身が彼女達を救えないという事実は、リンディの心を容赦なく責め立てた。
迫る最悪の終焉を前に、偽りの安心を娘に与える事しかできない。

「ごめんね、フェイト」
「・・・何か言った? 義母さん」

既に疲労が限界に達しているのか、フェイトは意識を保つ事も辛いらしい。
少しでも安心させようと、リンディは彼女の髪を撫ぜる。
返り血だろうか、不自然に指へと絡み付く髪を解しながら、閉じられてゆくフェイトの瞳を見つめていたリンディ。
しかし彼女は、ふと顔を上げて本局の存在していた宙域、禍々しい光を放つ光球を見やる。
それは長い時を過ごした場所が有する、掛け替えのない記憶を脳裏へと刻み付けようとの、無意識下の行動だったのかもしれない。
だが、その視界へと映り込んだ光景は決して感傷を齎すものではなく、それどころか現実としての脅威と驚愕を叩き付けるものだった。

「・・・え?」

本局を呑み込んだ光球。
それが、消えていた。
あれだけ眩い光を放っていた魔力と未知のエネルギーによる球体が、跡形もなく霧散していたのだ。
代わりにその宙域へと現れていたのは、本局のそれに酷似した巨大な影。

「嘘・・・」
「おい、残ってる・・・本局が残ってるぞ!」

誰もが食い入る様に映像へと見入る中、影は周囲に纏う闇色の光を徐々にではあるが振り払い始めていた。
角度の問題か、巨大な十字架の様にも見えるその影は、恐らくは破損した対宙迎撃用魔導砲身展開機構の残骸であろう、環状構造物の残骸を纏っているらしい。
中心部からは無数の針状構造物が伸び、その先端付近には円を描く様に幾つかの残骸が付着している。
奇跡的に残った、本局艦艇の残骸。
未だ残る力場の影響か鮮明な映像を捉える事はできないが、少なくともリンディはそう判断した。
その考えが間違っている可能性になど思い至りもしなかったし、もし至ったとしてもすぐさま否定しただろう。

「見ろよ! あの暴走にも持ち堪えて・・・」
「待って、何か変よ・・・」

本局以外には有り得ない。
あれだけの巨大建造物、見紛う事なき形状。
あれが本局でなければ何だというのか。

229R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/05/30(土) 20:12:56 ID:8/jKotFc
「リンディ・・・あの棘、動いてないかい?」
「・・・いえ、私には」
「待って・・・動いてる、動いてるわ」

アルフの疑問に、クアットロが答えた。
常人より遥かに優れた彼女の眼は、その異常を鮮明に捉えたのだろう。
彼女は徐に影を指し、微かに震える声で一言。

「あれ・・・鼓動して・・・!」

まやかしが、拭い去られた。
力場の残滓が完全に消失し、揺らぎの下に隠れていた影の全貌が露わとなる。
偏光の殻が取り払われた後には、異形としか言い様のない存在が出現していた。

死骸にして生命。
無機物にして有機的。
それは最早、リンディ達の知る本局という巨大構造物でも、その残骸でもなかった。
周囲の環状構造物は跡形もなく、中心から全方位へと棘皮動物にも似た鋭い棘状構造物が無数に延びており、それら全てが生命体の如く不気味に揺らめいている。
同じく中心部から前後4対、計8基のバーニアらしき長大なユニットが延び、その先端には複数の歪なノズルが備えられていた。
嘗ては其々の方向へと延びていた巨大な6つのブロックは内2つが消失し、その抉れた箇所からは巨大な青いレンズ状の結晶体が覗いている。

「嘘だろ・・・」
「アルフ?」
「嘘だよ・・・あれ、あれは・・・」

何事かに狼狽するアルフ。
見れば彼女だけでなく、ユーノまでもが凍り付いた様に異形を見つめていた。
アルフが、叫ぶ。



「あれ、全部・・・ジュエルシードじゃないか!」



瞬間、異形が弾けた。
少なくともリンディには、そうとしか認識できなかった。
一瞬、全ての棘状構造物が振動したかの様に見受けられた直後、何らかのエネルギーの壁が異形を中心として爆発したのだ。

可視化する程の高密度エネルギーは、瞬時にリンディ達が搭乗する第6支局にも到達。
轟音と共に襲い掛かった凄まじい衝撃に、リンディの身体は腕の中のフェイトごと1m近くも跳ね上げられた。
無数の悲鳴。
そして彼女は背中から床面へと打ち付けられ、鈍い音と共にその口からは呻きが漏れる。
咳き込むリンディの腕の中、完全に意識が覚醒したらしきフェイトは、明らかに動揺した面持ちで周囲を見回していた。

警報。
警告灯が点滅し、周囲からは呻きと助けを求める声、鋭く指示を飛ばす声が入り乱れて響く。
リンディもどうにか身を起こし、直前の現象についての疑問を口にした。

「今のは・・・?」
「あの本局だったものが使用した、極広域戦略兵器でしょう・・・ごめん、手を貸して・・・撃沈というよりは艦艇内部の人間を狙った、間接的な攻撃手段かも」

クアットロに助け起こされながらも、淀みなく答えるユーノ。
彼の言う通り、警報こそ鳴り響いているものの艦体に重大な損傷は皆無の様だ。
しかしクルーを狙ったにしても、この程度の衝撃で死に至る者は多くはあるまい。

230R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/05/30(土) 20:13:31 ID:8/jKotFc
「見ろ、見ろ!」

突如、生存者の1人が叫び、ウィンドウを指した。
周囲の人間、リンディまでもその叫びにつられて映像を見る。
そして、絶句した。

「な・・・」

漂う残骸と拡がりゆく炎の波。
ウィンドウ上へと大写しになっていたのは、完全に破壊された濃紺青の機体。
十数秒前まで艦隊を執拗に攻撃していた、あのR戦闘機だった。

「あっちにも・・・!」

それだけではない。
良く見ればその機体以外にも、更に2機の機体が破壊され空間を漂っている。
いずれも巨大な力によって粉砕されたかの様な惨状だが、特徴的な形状のキャノピーとノズルの残骸から辛うじてR戦闘機であると判断できた。
恐らくは増援として艦隊への攻撃に加わろうとした、その矢先に撃墜されたのだろう。
だが、現れた残骸はR戦闘機のものだけに留まらなかった。

「嘘・・・」
「あれは・・・地球軍の艦だ!」

その残骸は、嘗て第97管理外世界へと赴いた3隻のXV級を攻撃した、恐らくは駆逐艦か巡航艦クラスの艦艇のもの。
やはり浅異層次元潜航により姿を隠していたらしいが、何らかの要因により破壊されたのだろう。
艦体は見るも無残に中央から割れ、更に弾薬が暴発したのか、凄まじい光を発して破片すら残さずに消滅する。

「浅異層次元潜航・・・」

その呟きを、リンディは聞き逃さなかった。
声が発せられた方向を見れば、傍らへとウィンドウを展開したユーノが何らかの操作を行っている。
すると大型ウィンドウ上に映し出される映像が、目まぐるしく変わり始めた。
次から次へと移り変わる映像上へと浮かび上がるのは、いずれも破壊されたR戦闘機と地球軍艦艇ばかり。
画面右下には対象との距離が表示されているが、その桁も数千から数百万と様々だ。
此処に来てリンディは、到る所で地球軍戦力が撃破されている事実を理解する。
しかし同時に、損傷を受けた様子など全くないR戦闘機と地球軍艦艇の数も多い。
そして、ユーノが発した言葉の意味に気付く。

「潜航中の地球軍に対する攻撃・・・?」

その思考へと至った瞬間、全ての疑問が解決した。
何故、複数の地球軍戦力が撃破されているのか。
何故、バイドは本局を襲ったのか。
何故、ジュエルシードを核として本局を変貌させたのか。

「まさか・・・!」

浅異層次元潜航を封じる為の存在を生み出す、その媒体として本局を選び。
極広域空間干渉を実行する為のエネルギー源、その供給源としてジュエルシードを複製し。
短時間での侵食拡大の為に必要な膨大なエネルギーの解放、その引き金として局員によるジュエルシードの暴走を誘導する。
フェイト達が人工天体脱出に際して使用する次元航行艦を発見した、その瞬間からバイドの計画は実行段階に移行していた。
管理局の必死の抵抗も、そして地球軍による本局での無法さえも。
多くの血を流し汚染体の排除と脱出に成功した事実にも拘らず、バイドによる計画の域を脱する事はできなかったのだ。

考え過ぎだろうか。
果たしてバイドに、これ程までに高度な人間集団の行動予測、そしてそれを利用した戦略の立案ができるものだろうか。
否、こうして悩む事、それ自体が間違っている。
既にバイドはそれを成し遂げ、最大の成果を上げているのだから。

231R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/05/30(土) 20:14:24 ID:8/jKotFc
恐らく浅異層次元潜航中の地球軍戦力は残らず撃破され、彼等は切り札の1つを失った。
常軌を逸した打撃力と神出鬼没の機動力・隠密性を併せ持つ事こそが、地球軍が最大の脅威たる理由である。
しかし今、彼等は浅異層次元潜航という隠密の盾を奪われ、絶対的少数にも拘らず地球軍が最大勢力として戦場に君臨している要因、その一端を切り崩された事となる。
この事態から予測できる変化、それは。

「均衡が・・・崩れる・・・!」

嘗ては本局であった異形、その周囲に無数の影が現れる。
それらは初め、小さな点に過ぎなかった。
しかし数秒後、それらの点は爆発的に膨れ上がり、無数の巨大な肉塊へと成長する。
赤黒い醜悪な肉塊は異形をほぼ完全に覆い尽くし、その僅かな隙間からはジュエルシードによって形成されたコアが放つ青い光が覗いていた。

肉塊に覆われた異形の周囲に、可視化した無数の揺らぎが発生する。
揺らぎは異形を中心として拡散を続け、ウィンドウに映る範囲全体へと拡大した。
画面に映る殆どが揺らぎ始め、全く遠近感が掴めない状態となる。

そしてある瞬間、揺らぎの中に影が浮かび上がった。
無数に発生した揺らぎの中、影は次々に浮かび上がりその数を増してゆく。
揺らぎが影によって掻き消えた後、其処にあったのは空間を埋め尽くす程の艦艇の影。
管理世界、バイド、地球軍。
所属を問わず密集した、無数の艦艇。
先程までとは比較にならない、それこそ映像上の全てを埋め尽くす数の汚染艦隊の全貌だった。

「まさか・・・この為に本局を?」
「正面から押し潰す気なんだ。浅異層次元潜航が使用できない以上、地球軍は圧倒的不利に・・・」
「ねえ、あれ!」

ウィンドウを埋め尽くす艦艇群の中、周囲の艦艇とは明らかに異なる巨大構造物の姿があった。
リンディの目は、自然とその構造物へと引き寄せられる。
巨大な2つの環状構造物を繋げた形のそれは、出現直後から微かに光を放ち始めたのだ。
ユーノがウィンドウを操作し、その構造物を拡大表示する。

「スペースコロニー?」
「いえ・・・これは・・・」

拡大表示されたそれは、見るからに奇妙な構造物だった。
直径は約8km、全長はその倍以上はあるだろう。
どうやら環状であるのは前部構造物のみであり、後部構造物には底部が存在するらしい。
周囲には円柱型のユニットが2つ付随し、前部と後部の構造物間にはそれなりの距離が開いている。
少し離れた地点に配置されている十数基のユニットはソーラーパネルだろうか。
前部と後部は其々が逆方向へと回転しており、光は後部構造物の底部中央へと集束している様だ。
その光が何を意味するのか、思い至るものは1つしかなかった。

232R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/05/30(土) 20:14:57 ID:8/jKotFc
「砲撃だ!」

光が炸裂し、衝撃が意識を掻き消す。
吹き飛ばされたのか、叩き付けられたのか、引き裂かれたのか。
意識が回復するまでの数秒の間、リンディは我が身に何が起こったのかまるで理解できなかった。
ただ朦朧とする意識の中、避難を呼び掛けるアナウンスに紛れる様にして、複数の聞き逃せない言葉が響いた事だけは覚えている。
決して忘れ得ぬ、無限の狂気による蹂躙の始まりを告げた言葉だけは。



『第61管理世界、崩壊! 敵砲撃、射線上の惑星を複数貫通! 第52観測指定世界、第12管理世界、第38管理世界、いずれも崩壊が進行中!』
『汚染艦隊、進攻開始! 陽電子砲の充填開始を確認!』
『地球軍、第97管理外世界周辺宙域へ向け撤退を開始・・・』



戦況が、傾く。

*  *  *

白い清潔な天井、窓とシェードの間から差し込む麗らかな陽光。
意識を取り戻したギンガが最初に目にしたものは、自身の置かれた状況を暫し忘れさせるものだった。
数秒ほど呆けた様に天井を眺め、次いで跳ねる様に上半身を起こす。
自らの半身を覆う清潔なシーツに程良い硬さのベッド、纏っているのは医療機関の患者服。

額へと生じた違和感に手をやると、指先が張り付けられたシールタイプのものに触れた。
ストラーダによって切り裂かれた傷を、何者かが手当てしたというのか。
他にも擦り剥いたらしき身体の各所に、適切な医療措置が施されている。
室内を見渡すが、どうやら此処は個室らしい。
閉じられたドアの向こうからは、微かな喧騒が聴こえてくる。
ベッドから身を乗り出し窓のシェードを上げると、白い雲が浮かぶ青空と眼下の緑が視界へと飛び込んできた。
自然に零れる、現状への疑問。

「此処は・・・?」

ドアの開く音。
咄嗟に振り返り拳を構えるも、その左腕にリボルバーナックルは無かった。
しかし、扉を潜り入室してきた人物の姿を捉えるや否や、ギンガの意識は完全にその人物へと釘付けになる。
その人物、彼女は記憶の中のそれよりも随分と伸びた桃色の髪を揺らし、柔らかく微笑んだ。

「良かった、意識が戻ったんですね」

思考を支配した驚きに、言葉を紡ぐ事もできないギンガ。
その目前で、彼女は手にしていた薬品の箱を近くの台上へと置くと耳元へと手をやり、既に装着していたインカムを通じて何処かへと報告を行う。
随分と慣れた動作だった。

「614、患者が覚醒しました。危険はありません」

その光景を呆然と見つめるギンガの目前で、彼女は耳元から手を離すと改めてギンガへと向き直った。
そして、再会の言葉を紡ぐ。



「お久し振りです、ギンガさん」



時空管理局辺境自然保護隊、第61管理世界スプールス駐在班所属。
キャロ・ル・ルシエ二等陸士の姿が、其処にあった。

233R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/05/30(土) 20:17:19 ID:8/jKotFc
以上で投下終了です
代理投下して下さった方、有難う御座いました

前回の投下より時間が空いてしまい申し訳ありません
ぶっちゃけた話、実生活に追われていたという以外にも、ょぅι゛ょと戯れるのに忙しかったという事もあります(海底都市的&核爆発後の廃墟的な意味で)
現在は作中の地球軍のモデルにさせて戴いた、ゴーグルとガスマスクがステキなガチムチどもの惑星に降下中
フェイトそん涙目な機動性の無人兵器とか、凡人とわんこを足して質量兵器持たせた戦闘スタイルの大佐殿と死闘を繰り広げております・・・ラデックカッコ良いよラデック

今回で本局脱出戦は終結です
脱出成功、そして浅異層次元潜航封じで地球軍涙目というお話
次回からは人工天体内部でのギンガと旧ライトニング達、そして民営武装警察と+αを中心とする話になります

「R-9DV2 NORTHERN LIGHTS」
光子バルカン強化型、相変わらず群体より単体に強いという謎仕様

「R-9Leo2」
チート機体、レーザー&サイ・ビット無双
波動砲が弱い?
あんなの飾りです、偉い人にはそれがわからんのですよ
難易度BYDOでもなきゃ、青か黄色レーザー撃ってるだけでおkという鬼畜機体
後述のゴマちゃん内部で青レーザーを乱射すれば気分は正しく以下略

「GOMANDER」&「IN THROUGH」
「Ⅰ」ステージ2のBOSS、R-21に相当
諸兄が思わず前屈みになること請け合いな♀の一部が寄り集まってできており、其処から奥様ウットリなブツ(IN THROUGH)がゆっくり出入りするといふ、健全にして純情なプレイヤーを
相次いでトイレに走らせた恐るべき魔性の♀バイド(因みに♂のBOSSは「Ⅱ」で、バカップルは「Δ」で登場)
その長年のキャリアにより一部R-TYPERからは所謂主人公の幼馴染キャラ(♀)に位置するとも言われているが、実際にはR戦闘機よりIN THROUGHの方が幼馴染(♂)ポジションに近い
何もしなくてもエネルギーを得て際限なく肥大化する為、逆に体内に同棲(寄生)している幼馴染(♂)のブツを出し入れしてエネルギーを放出してもらわないと死んでしまうという、いろんな意味で絞め殺したくなる様な生態を持つ
「FINAL」では激しい幼馴染(♂)のブツの出し入れを繰り返し抵抗したものの、あろう事か幼馴染(♂)のブツを出し入れする穴から強引に内部へと侵入した鬼畜外道(R戦闘機)によって
幼馴染(♂)の目の前で屈辱の胎内公開凌辱をされてしまった悲劇のヒロイン
しかも内部では、大人の性教育ビデオなどで繰り返し攻撃される敏感なトコロに潜り込むのが安全地帯という、4月1日ネタが罷り間違って通ってしまったのではないかという卑猥仕様なのでこれはもうだめかもわからんね

「BELMATE」
「Ⅰ」ステージ5のBOSS「浅異層次元潜航なぞ使ってんじゃねぇ(CV:若本)!!」
ゴマちゃんと違い至って健全な外見(要するにウニ)ながら、取り巻きのミートボールのみを突撃させて自分はフワフワしているという亭主関白さが仇となり
「TACTICS」で長年の強制コンビを解消されてしまった腐食金属集合生命体
しかし亜空間バスターを獲得し、更に攻撃にも迎撃にも使える優秀な中距離兵器と搭載数5をも併せ持つ母艦というとっても使える子として、バイド軍の陰の立役者に返り咲いた
作中では馬鹿デカい本局を媒体に、更にジュエルシードを核として形成されている為、戦場となっている空間全域での浅異層次元潜航を封じるに至っています
因みに「TACTICS」に於いて、ミートボールはミートボールで個別ユニットとして存在しますが、軟い、遅い、地味と三重苦の産廃ユニットなので残念
更に蛇足で、地球軍のバスター搭載艦はとても残念な使えない子、今回の文中でこっそりバスター喰らって沈んでます

「UTGARD-LOKI」
「TACTICS」にて登場、地球軍の誇る太陽系防衛用の巨大光学兵器施設、別名コロニーレーザー
射程距離は1天文単位(194,598,000km)という化け物、しかし実はニヴルヘイム級の艦首砲に威力で負ける
どうでも良い事ですが、敵デコイ1基に対して味方8部隊巻き込んで撃つのはどーよ、地球軍

では、また次回



以上です
代理投下をお願い致します

234魔法少女リリカル名無し:2009/05/30(土) 21:32:31 ID:ss2CCqQQ
行ってみる。

235魔法少女リリカル名無し:2009/05/30(土) 21:47:03 ID:ss2CCqQQ
さるさんくらったので誰か頼みます。

236魔法少女リリカル名無し:2009/05/30(土) 22:22:45 ID:klq83nAA
続き、終わりました。

237魔法少女リリカル名無し:2009/05/30(土) 22:24:22 ID:ss2CCqQQ
>>236
GJ!

238R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/05/30(土) 22:30:22 ID:8/jKotFc
ウロスでも書きましたが、改めてお礼を
ss2CCqQQ様、klq83nAA様
代理投下、有難う御座いました

239高天 ◆7wkkytADNk:2009/05/30(土) 23:33:23 ID:ugs/c37.
それでは、失礼いたします。

魔法少女リリカルなのは外伝・ラクロアの勇者

        第21話


「・・・・・ん・・・・・ここ・・・は・・・」
小さい唸り声を上げながら、ナイトガンダムはゆっくりと目を開ける。
最初に目に入ったのは真っ白な天井ではなく、天上一面を覆う照明の光り。
それだけで、此処が何処なのか直ぐに理解できた。
「・・・・・アースラの・・・・医務室か?・・・・」
このような体験をするのはこれで二度目、一度目は無人世界でのシグナムとの戦闘の後、そして二度目になる今回は・・・・・
うっすらとあの時の事を思い出す。意識が徐々に無くなっていく感覚、海面目掛けて真っ逆さまに落下する自分、
自分の名を呼ぶ周囲の声、そして落下する自分を抱き止め、必至な表情で自分の名を呼ぶシグナム。
その直後、ヴィータがはやての名前を叫んでいたような気がするが・・・・思い出せない。
「三種の神器の負荷に、耐えられなかったのか」
三種の神器装着による負担は直ぐに、それこそ装備した瞬間から自分の身に起きていた。
以前よりも負担の効果がいち早く現われたのは、間違いなく装着前のダメージと披露が原因、
あの時シャマルが回復魔法を施してくれなかったら、もっと早く気を失っていただろう。
それでも苦痛は体から抜けることは無かったが耐える事が出来るレベルだった。
今回の失態は勝利に浮かれ、気を抜いてしまった自分が原因・・・・言い訳の仕様が無い。
「・・・情け無い・・・・これではサタンガンダムの時と同じだ・・・・」
自分自身を反省するかの様に、深々と溜息をつく。
その行為が落ち着きを取り戻させたのか、自然と辺りを見回し現状を確認する。
場所は間違いなくアースラの病室だろう、気を失った自分が運ばれる所としては当然の場所だ。
直ぐ隣には鎧と武器が置かれている、電子スピアが見当たらないが、あの戦いで砕け散ったのを思いだした。
そして嵌め殺しの窓から見える景色は漆黒の景色と、その中で輝く幾つもの光
「宇宙空間・・・そうするとまだ、地球の衛星軌道上にいるのか・・・・・」
場所の把握が終った所で、次に気になったのは、自分が気を失った後の事だが、それ以前に自分はどの位眠っていたのかもわからない。
あいにくこの病室には時計はあるものの、日付を確認できるカレンダーの様なものは無い。
先ほどまで頭を預けていた枕の隣には、連絡用の端末が置かれていたが、特に動けないわけではないので、誰かを呼びつけるという行為はしたくは無かった。
一度体を伸ばした後、後ろ髪惹かれる思いでベッドから抜け出し、ゆっくりと入り口へと向かう。
そして、ドアのセンサーがナイトガンダムを感知し、音を立てて開く。すると其処には
「ナイトガンダム!!よかった!気が付いたのか!!」
正に今から部屋に入ろうとしていたクロノが立っており、普段は見せない歳相応の笑みでナイトガンダムを迎えた。
「クロノ、丁度良かった。今から君達の所に行こうと思って」
「わかってる、君が倒れた後のことだろ?でもいいのかい、もう起きて?」
クロノの表情から、自分がどれほど心配されているのかが痛いほど分かる。
自然と頭を下げ謝ろうとするがその行動をクロノが制した。
「謝る必要は無いよ・・・・でも、その様子だと大丈夫みたいだね。此処じゃなんだから食堂へ行こう」

「そうですか・・・・決着は無事についたのですね」
「ああ・・・・あの後、奴は完全に消滅した。同時に町での異常も収まった・・・・怪我を負った者はいるけど死傷者0、正に一件落着だよ。はい、紅茶でいいかな?」
クロノが差し出した紅茶をお礼を言った後受取り、早速一口飲む。おそらく疲れているであろう自分の為に砂糖を多めに入れてくれたのだろう。
程よい暖かさと甘さが体に染み渡るのを感じる。
その満足気な表情に満足したクロノは、自分が飲むために持って来たコーヒーを一口啜った後、ナイトガンダムと向き合うように、椅子へと座った。

240高天 ◆7wkkytADNk:2009/05/30(土) 23:34:10 ID:ugs/c37.
「彼女達・・・アリサ・バニングスと月村すずかは自宅へ帰ったよ。本当は数分前まで君の所にいたんだけどね、彼女たちも疲れているから
家に帰らせた。さすがに釈然とし無い表情だけど、なのは達の説得と後で事情を話すという条件付でね・・・・・・それと」
不意にクロノは席を立ちガンダムを真っ直ぐ見据える、そして、静かに手にしていたコップを置いた後、深々と頭を下げた。
「本当にありがとう。この事件、君のおかげで解決できた・・・・・・本当に感謝しきれないよ・・・・・」
クロノは本心からそう思っていた。
自分達がただ見ているだけでしかなかった闇の書の闇との戦闘、彼は犯されそうになったフェイトを助けてくれた。
そして根源である敵に致命傷を与え、仲間割れ寸前の皆をまとめてくれた。そして諦めかけた自分に戦う力を与えてくれた。
戦力としても、精神的な支えとしても、ナイトガンダムは皆を助けてくれた。
この勝利は間違いなく彼がいてこそ・・・・・・クロノはそう信じて疑わなかったが、当のナイトガンダムはその様な事を全く思ってはいなかった。
「いや、今回の勝利は、皆が力を合わせたから得られたものだよ・・・・・・この事件に関係した人達・・・・・・誰一人が欠けても
解決など出来なかった。だから私だけではない、なのは達やヴォルケンリッターの皆、そしてアースラのクルーやクイント殿達、
そしてクロノ、この勝利は君や皆のおかげだ、それを忘れないで欲しい」
一瞬クロノはポカンとしてしまうが、直ぐに彼の言葉の意味を理解し、はすかじい気持ちになる。
確かに彼の言う通りだ・・・・・・自分は何処かで彼を、ナイトガンダムを完全無欠のヒーローだと思っていた。
自分を含め、彼をヒーローと称えるものは多くいる、決して過小評価ではないと自信を持っていえる。
だが、現実はナイトガンダムの言った通りだ、この事件、関わった皆がいてこそ解決できた。誰が欠けても最悪な結果を招いて板に違いない。
結局自分たちはナイトガンダムをただヒーローとして持ち上げたかっただけだ・・・・・・・皆の健闘を無視して
「(まったく・・・僕もまだまだ子供だな・・・・)その通りだ、まったく君には叶わないな」
自身の恥を誤魔化すかの要にクロノはコーヒーを啜る。
そんな歳相応の少年の態度が微笑ましかったのか、ナイトガンダムも自然と顔を綻ばせ紅茶に再び口をつけようとするが
ふと気になった気とができたため、手をとめ、クロノに尋ねる。
「そういえば、皆は何処へ?はやての病室かい?」
ナイトガンダムにとっては何気ない質問、だが、クロノは答える事無く一瞬で表情を曇らせ自然と俯く。
彼の突然の表情の変化から、直ぐにただ事ではない事は理解できた。先ず脳裏に浮かぶのは知る人物の身の安否、
だがクロノは先ほど『怪我を負った者はいるけど死傷者は0』と確かに言った。彼が嘘を言う筈が無いので、この考えを斬り捨てる。
他に可能性がありそうな事を考えようとするが、それを口に出す前にクロノの口が開いた。
「・・・・・彼女も、君に会いたがっていた・・・君にお礼を言いたいと言っていた・・・・・もしかしたら神様が機会を与えてくれたのかもしれないな」
普段の自分なら決して言わない様なメルヘンチックな言葉。だが、消えゆく彼女の為に
いるかいないかも分からない神がチャンスを与えてくれたと信じたい。
「・・・・・今ならまだ間に合うだろう。来てくれないか・・・・・彼女の別れの儀式に」


八神はやてが自宅で目覚め、周りの迷惑を無視して車椅子を漕ぎ、ようやく目的の場所までたどり着いた時には、すべてが終ろうとしていた。
はやては声を荒げ涙を流し、必至に彼女『リインフォース』を引き止める。
破壊する必要は無い、自分が抑える、こんな事をする必要は無いと
「・・・・・主はやて・・・・・」
はやてのその思いに、リインフォースは必至に固た決意を砕きそうになる。
今すぐはやてを抱きしめたい、共に生きたいと叫びたい、そんな思いに駆り立てられ、自然と右足が一歩出てしまう。
だが、踏み出したのは一歩だけだった。一歩踏み出した直後、我を取り戻し、自分自身を戒めるかのように拳を握り締め決意を改めて固める。
「私は・・・・貴方に綺麗な名前と心をいただきました・・・それだけで十分です。騎士達も貴方の側にいます。
私の魔力や蒐集行使のスキルも、引き継いでいる筈です。ですから私は・・・・笑って・・・逝くことが出来ます」

241高天 ◆7wkkytADNk:2009/05/30(土) 23:35:13 ID:ugs/c37.
「・・・・っ・・・・話聞かん子は・・・嫌いや!!!そもそも何て消える必要があるんや!!もう何も・・・・心配する事なんかないやんか!!!
あの闇は倒した、もう今までの様な悪夢はおこらへん・・・・今までの罪もこれから償えばええ・・・・消える必要なんか・・・何処にもないやんか!!!!」
声を荒げていたため、嗄れた声になりながらも必至に彼女を説得する。だが、リインフォースはその思いを、首を静かに横に振る事で否定した。
「確かに、あの闇は消えました・・・・ですがあれが防衛プログラムだという事には変わりはありません。私が生き続ければ
防衛プログラムは・・・・あの闇は新たに作り出される。元のプログラムが既に無い今、修復は不可能・・・・・もう、この手しかないのです。
私は・・・・主である貴方の危険を払い、貴方の命を幸せを守る、最善の方法を取らせてください」
理屈は嫌でもわかった。同時にリインフォースが取ろうとしている方法が最も最善だという事も理解できた。
もし理解できていなければ駄々をこね、気を紛らわせる事が出来たかもしれない・・・・だが、それが出来ない。
何が夜天の主だ・・・・・大事な家族一人すら・・・幸せに出来ないなんて・・・・・
「泣かないでください・・・・・我が主」
そんなはやての気持ちを察したのだろう、リインフォースは再び歩み始める、ゆっくりとはやての元へ。
そして、彼女の頬にそっと手を載せ、優しく微笑んだ。
「大丈夫です、私は・・・・・もう・・・・世界で一番・・・・幸福な魔導書ですから」
泣きながらも必至に自分の名を呼ぶはやてに、リンフォースは改めて幸せを心から感じる。
名前と温かな心をくれた主、自分の為に泣いてくれる主、自分には大きすぎる幸せ。
「(出来れば、この幸せをずっと、かみ締めたかった)」
ゆっくりとはやての頬から手を離し、立ち上がる。そして背を向け、魔法陣の中心へと戻ろうとした時

                      「待つんだ」

否定を許さない凛とした声が、はやての泣き声しか聞こえない丘に響き渡った。
その声に全員が振り向く、聞こえた方向ははやての後ろから。
ザクッザクッと雪道を踏みしめる音と共に、その声の主はゆっくりと姿を表した。
「・・・騎士ガンダム・・・目覚めたのか」
誰よりも早く、リインフォースは声の主、ナイトガンダムを笑顔で迎えた。
彼には心からお礼を言いたかった、消える前に話をしたかった。
叶わないと思っていた願いが叶った事に、内心でいるかもわからない神に感謝の言葉を述べる。
「・・・・・・・・」
だが、ナイトガンダムはリインフォースを一瞥した後、何も言う事無く、ゆっくりと視線をなのはの方へと移す・・・・・そして
「なのは・・・フェイト・・・・・待ってくれないか」
彼のこの言葉は、なのはを含め、この場にいる全員が予想できた。だからこそ、それ程驚かずにその言葉を受け止める事が出来る。
おそらく此処に来たと言う事はクロノから事情を・・・それこそ今何が行われようとしているのかを聞いてきたのだろう。
彼の性格は付き合いが短いヴォルケンリッターやリインフォースでも理解できる、間違いなくこの儀式を止めようとする筈・・・だが

                     「私が・・・代わりにやろう」

その言葉は誰もが予想する事ができなかった。
「「えっ?」」
「なっ・・・ガンダムさん!!」
なのはとフェイトは声を揃えて驚き、ヴォルケンリッターの皆はただ唖然とする。ただ困惑するだけ、互いに顔を見合わせ、何を言っていいのか口ごもる。
そしてはやては最後の希望が砕かれような表情で固まってしまった。
はやてから見れば、訪れたナイトガンダムは自分と同じく、リインフォースを止めてくれる存在だと信じていた。
だが現実はその逆、自分の様に止めるでもなく、シグナム達の様に見守るわけでもない、彼女に死を与えに此処まで来た。
「・・・・・・わかった、お願いする。二人とも、悪いが下がってくれ」
リインフォースは、その申し出を快く受け入れた。
結果的には自分が消滅するという事は変わらない、それなら自分が最も恩義を感じている相手に葬ってもらいたい。

242高天 ◆7wkkytADNk:2009/05/30(土) 23:35:43 ID:ugs/c37.
最初で最後の我侭、これ位は許して欲しいと思う。
彼女の言葉を受取ったなのはとフェイトは、それぞれデバイスを降ろし、足元に展開していた魔法陣を消す。
そして邪魔にならないようにゆっくりと後ろへと下がった。
それに対し、ナイトガンダムはゆっくりと前に進む・・・・・・迷う事無く、一歩一歩ゆっくりと。
「なぁ!ガンダムさん!!やめて!!お願いや!!止めてぇぇぇ!!!」
既に自分の前へと進んでしまったナイトガンダムを止めようと、はやては車椅子を動かし追いつこうとするが、積雪で隠れた石に前輪を取られ転んでしまう。
雪が積もった柔らかい地面とは言え、受身も取ることができなかったため、叩きつけられた衝撃がはやてを容赦なく襲い自由を奪う。
せめてもと精一杯手を伸ばし、『やめて』と何度も懇願するが、ナイトガンダムは聞き入れようとはしなかった。

リインフォースから約二メートルほどの距離を開け、ナイトガンダムは立ち止まる。
そして左脇に抱えるように持っていた石版を掲げた。

             『ONOHO TIMUSAKO TARAKIT!!!』

石版はナイトガンダムの手を離れ、ゆっくりと浮き上がる、そして光と共に融合を開始した。
「あぁあああああああああああ!!!」
三種の神器装着時に起こる激痛、病み上がりの体には十分なほど堪える。
それでも『彼女』をこの世から消すには・・・・・この事件を本当に終らせるには必要な力、今までの装着時と同様、
確固たる目的を持てば、この苦痛も十分耐えられる。
盾が『力の盾』に、剣が『炎の剣』に、そして身に着けている鎧が『霞の鎧』へと変化していく。
そして最後の仕上げと言わんばかりにスパークを立てながら霞の鎧のバイザーが装着され、中央のくぼみに真紅の宝石がはめられた。
闇の書の闇との戦いでその姿を現したフルアーマーナイトガンダムが再び姿を現す。『彼女』をこの世から消すために。

炎の剣を横に振るい炎を纏わせる。そして、肩の高さまで持ち上げた後ゆっくりと引き、リインフォースを突刺す構えを取る。
その光景を最後にリインフォースはゆっくりと瞳を閉じる。
あとはこの切っ先を彼自分の胸目掛けて突刺せば良い、そうすればその美しい炎が焼いてくれる、もう阻む物は何も無い。
「主・・・・・貴方に幸福があらんことを」
瞳を閉じる瞬間彼女が見たのは、涙で目を晴らした主の姿だった、最後に主を悲しませてしまった事は心残りだが
今更慰めの言葉を投げかける事など出来ない・・・・・・そして
「っ!!」
ナイトガンダムが地面を蹴る、そして飛び上がり、何の躊躇も無く、炎の剣をリインフォースの胸に深々と突刺した。
一切の遠慮も無ければ一言の言葉も投げかける事無く、まるで敵を倒すかのように淡々と行われた作業。
誰もが、あまりにもあっけなく、あまりにも簡単に行われたこの作業にただ呆然とするばかり・・・・だが
「あ・・・・・・あああああああああああああ!!!!!!」
明らかな苦しみの叫びに、全員が現実に引き戻される。
その声の主、リインフォースは先ほどまで炎の剣が刺さっていた胸を掴み、喉が張り裂けんほどの叫びを上げながら蹲る。
その直後、激しい炎が包み込み、彼女を灰に火炎とばかりに燃え盛った。
「・・・・これ・・・で・・・・いい・・・・」
おそらくこの炎は、『闇の書の闇』と同じく、自分を完全に燃やしつくすだろう。
これでいいのだ・・・・・この苦しみは自分への戒めと思えば納得が行く。
先ほどまで聞こえていた主の叫びも徐々に聞こえなくなり、それと同時に痛みも引いて来る・・・否、これは感覚がなくなっているだけだ。
まるで自分という存在が焼き潰されていく様な感覚、それがジワジワと来るのだ・・・・・堪った物ではない。
「ああ・・・・これは・・・・・」
「これは余り経験したくない体験だな」何気なく呟こうとしたが、意識のがそれを許さず、言葉半ばで彼女の意識は完全に途切れた。

243高天 ◆7wkkytADNk:2009/05/30(土) 23:36:48 ID:ugs/c37.


                  「・・・・・・ス・・・・−ス」

何かが聞こえる・・・誰かの声が聞こえる

              「・・・・ォース・・・・インフォース・・・・」

聞き覚えがある声だ・・・・・何かを必至に繰り返して・・・叫んでいる・・・・・
何を叫んでいるのだろう・・・・・否、覚えがある・・・・・・徐々にはっきりとしてくる意識と共に、その意味を理解する、そう、それは

                    「リインフォース!!」

                    「私の・・・名前だ」

意識の覚醒と共にゆっくりと瞳を開ける。
まず目にしたのはどんよりとした空、そして休み無く降り続ける雪。
その内の一粒が目に入り、瞳に刺激を与える。だが、その刺激により彼女の意識は一気に引き戻された。
仰向けに寝ていた自身の体を起こし、あたりを見渡す。
最初は此処が『あの世』といわれている場所かと思ったが、目に写るのは先ほどまでいた海鳴市の丘の景色そのもの、
そして自分を驚きの表情で見ている幼い魔道師達と守護騎士達、
結論を出すにはそれで十分だった。自分は消えておらず、未だにこの世にいるという事だ。
「騎士ガンダム・・・・・これは一体」
剣が突き刺さった感触、そして体を焼かれる激痛、意識が徐々に消えてゆく感覚、そのすべてを経験したのに自分はまだ生きながらえてる。
彼が持つ炎の剣の効果は自分も目にしている、だからこそ、自分が生きている事は可笑しい。
考えられる事としては、直前にナイトガンダムが情けをかけたとしか思えない。
「・・・情けを・・かけたのか」
「いや、違う。私は確かに彼女を消滅させた・・・それは間違い・・・な・・・い」
体をふらつかせながらも、どうにかたたらを踏み無理矢理バランスを取る。やはり体が全快していない今では、短時間の装着にも体の負担は大きい。
意識を持っていかれる前に、三種の神器を石版に戻し、元の鎧の姿へと戻った。説明をする前に倒れては元も子もない。
「彼女って・・・まさか!!?」
ナイトガンダム以外の誰もが言葉の意味を理解できない中、八神はやてだけがいち早くその意味を理解した。
彼が言う『彼女』という言葉、そして彼にしては容赦の無い一撃、思い当たる節は一つしかない。
「闇の書の闇・・・・いや、防衛プログラムだけを・・・・・消したんか」
「そんなはずは無い!!」
そのはやての言葉に、全員が驚き、一斉にリンフォースのへと目線を向けるが、リインフォースだけが、その答えを大声を出し否定した。
確かに炎の剣はあの時、シグナム達のリンカーコアに取り付いた闇の書の闇の一部だけを燃やしつくすという
とんでもない芸当をやり遂げた。だか自分の場合はそれが当てはまらない。
『闇の書の闇』といわれている存在は自分というプログラムの一部、シグナム達の様に後から寄生した異物を排除する事とはわけが違う。
「あれは・・・奴は・・・私の一部だ!!それだけを消すなど・・・・・それに奴はまだ活動すらしていない!!
ありもしないものを消したなど・・・・・バカな冗談は(冗談ではない」
自分でも気が付かないほど取り乱しているリインフォースをナイトガンダムは落ち着かせるように優しさを含んだ声で諭す。

244高天 ◆7wkkytADNk:2009/05/30(土) 23:37:58 ID:ugs/c37.
その言葉が聞いたのか、未だに納得がいかないと言いたそうな視線を向けるものの、口を噤み、大人しく話を聞こうとする意思を示す。
「確かに、私は消そうとした・・・・・いや、確実に消した、管理者プログラムである君を。リインフォース、あの苦しみから、
君は体が燃える苦痛を経験した筈だ。それが確実な証拠」
「ああ、確かにそうだ。なら、此処にいる私は何だ!?管理者プログラムである私を燃やし尽くしたのなら、此処にいる私は何なんだ!!」
その問いに、ナイトガンダムは沈黙で答える。
決して答えられないわけでもなければ、焦らしているわけでもない。答えは直ぐに口に出来る、だがそれは彼女自身に気付いてほしかったからだ。
だか普段ならまだしも、自分に起こっている出来事に困惑する彼女にはその答えに行き着くには時間が必要だった。
沈黙して一分足らず、ナイトガンダムはゆっくりとその答えを口にする、それはとても簡単な答え
「君が・・・・祝福の風、リインフォースだからさ」
言葉の意味が理解できないのか、ただ呆然とする彼女にナイトガンダムは近づく。
そして彼女手をとり、落ち着かせるように優しく握り締めた後、ゆっくりと話し出した。
「君は、八神はやてと出会い、彼女の優しさに触れた・・・・そして彼女に深い愛情を抱いた、君だけじゃないヴォルケンリッターの皆もだ。
そして君達ははやてからとても大切な物を貰った・・・・・・暖かな心という、とても大切な物を」

ナイトガンダムの言葉の意味をいち早く理解したはシャマルだった。
以前の・・・否、今までの主は自分たちを駒の様に使ってきた。
休む暇も与えずに戦地に送られ、ただの道具として扱われた日々、時には性的奉仕を強要されたこともあった。
いまでは考えただけでも寒気がする出来事。だが、そう感じるこれらの事柄を、当時の自分達は何の文句も無く行ってきた。
理由は簡単、『嫌悪感』や『拒否』などの感情が欠落していたからだ。
おそらく当時から持っていた人間らしい感情といえば他のヴォルケンリッターを想う『仲間意識』だけ・・・否、今にして思えばそれも怪しい。
今までの主が自分達を駒と見るように、自分自身・・・いや、ヴォルケンリッター一人ひとりがそれぞれを『都合の良い戦力』としてしか見ていなかったと思う。
昔の自分も、ヴィータを心配する事はあったが、それは『仲間』として慕う物ではなく、
『駒』として使えなくなるのが・・・主の命に支障をきたすのを恐れての事だったと今では思う。
だが、今の自分はそうではないとはっきり否定できる。
夕食前にアイスを食べようとするヴィータを怒ったり
リインフォースとの別れを悲しんだり
夕食後、バラエティ番組を皆で見て笑ったり
今では当たり前の様に表現しているこれらの感情を持っているのが良い証拠だ。
自分達だけでは到底得られなかった・・・・・・否、必要とすらしていなかっただろう。
だが、笑うこと、悲しむ事、怒る事、それらの大切さを教えてくれ、自分達を『ただの駒』から『人』として変えてくれたのは、
ナイトガンダムの言う『暖かな心』をくれたのは、他の誰でもない今の主、八神はやてだ。

「暖かな・・・心・・・・」
「ああ、君ははやてを愛おしく思っている、そして命に代えても守ろうとした。それは『使命』や『命令』などでは決して無いはずだ。
『リインフォース』という名前と『温かな心』を貰ったその時点で、君はあの闇の書の闇の様に、管理者プログラムという器では無くなった。
私が炎の剣で焼いたのは管理者プログラムとしての部分・・・・彼女が生れ落ちるそのもの。これでもう何も心配する必要は無いよ」
ナイトガンダムの手の暖かさと優しい口調で、どうにか落ち着いて聞くことは出来た。
だが正直な所半信半疑だ・・・・・彼が嘘をつくとは思えないが、本当という確証も無い。
「信じられないのは理解できる・・・なら、ユニゾンしてみるといい・・・・・・はやてと」
ナイトガンダムも、彼女が完全に信用していないのは顔を見て直ぐに理解できた。だからこそ彼女にユニゾンを・・・主である八神はやてとのユニゾンを進める。
管理者プログラムそのものには防衛プログラムの他にも本来の融合型デバイスと機能『ユニゾン』も含まれている、
もし彼の話が本当なら、ユニゾン機能は失われている筈。
一度無言で頷いた後、ゆっくりと歩み始める。一歩一歩、はやての元へと。

245高天 ◆7wkkytADNk:2009/05/30(土) 23:39:17 ID:ugs/c37.
皆が見守る中、自分を真正面から見つめるはやての元まで近づいたリインフォースは、瞳を閉じ一度深呼吸。そして覚悟を決める。
「主はやて・・・・・お願いします」

目の前で目を瞑り、自分との融合を願うリインフォース。
自分がやる事は簡単、彼女とのユニゾンをおこなえばいいだけ。
もし融合できなければナイトガンダムの言った事が本当になる、だがもし融合できてしまうと・・・・・
「(・・・・何・・・うたがっとるんや・・・・馬鹿・・・・)」
否、何を不安がる必要がある。何故疑う必要がある。
彼は私達に力を貸してくれた、操られたあの子達を解放してくれた・・・・助けられてばかりだ。
それなのに、自分は何も恩返しをしていない所か彼を信用使用ともしなかった。
内心で自分自身を罵倒した後、ゆっくりと息を吸う。
「ほな・・・・・・いくで!!」
知識などは既に頭に入っている、融合失敗はありえない、出る結果は融合できてるか、何の反応も無いかだ。
心の中で祈る・・・・・いるかもわからない神様という人物に・・・・・・そして

『ユニゾン!!イン!!!』


はやての叫び声が響き渡った直後、訪れたのはユニゾン特有の眩い光でもなければ騎士甲冑に身を包んだはやてでもない。
ただ静かに雪がに振り静寂が辺りを支配する。
「・・・・・これで、間違いは無いはずだ」
静寂を破るナイトガンダムのその一言、後に『最後の闇の書事件』と言われるこの事件は、こうして終焉を迎えた。

リインフォースははやてを抱きしめ涙し、そんな彼女を子供をあやすかの様にはやては頭を優しく撫でる。
本当ははやても彼女の様に泣きたいのだろう。だが、幼いながらも八神家の大黒柱、そして守護騎士としての立場が、それを思いとどませる。
それでも、流れる涙を抑える事は出来なかった。閉じた瞳から流れ出る涙を拭わずに、はやてはリインフォースを出し決め、優しく頭を撫で続けた。

「全く・・・まさかこうなるとはな」
シグナム達も、はやてとリインフォースと共に喜びを分かち合いたかったが、今の二人の元に混ざるのは酷なことだと思い断念。
空気を読まずに近づこうとするヴィータの襟首を掴んだシグナム達は、この奇跡を起こした張本人の元へと向かった。
だが、当のナイトガンダムは、シグナム達と同じく二人の様子を伺ってはいたが、急にふらつき、地面に手をついてしまう。
その突然の自体に全員が不安に掻き立てられ、自然と駆け足となった。

今にも地面に倒れそうになるナイトガンダムを、シグナムが咄嗟に抱きかかえ、即座にシャマルに回復をする様に伝える。
その直後、ナイトガンダムに優しく癒しの風、湖の騎士に恥じないその効果は彼の体から疲労を抜き取ってくれる。
「やはり三種の神器の神器の負担か」
「・・・・・ああ、情け無いことに・・・・・どうやら、まだ使いこなせてはいないようだ・・・・」
起き上がろうとするが、どうにも体が満足に動かない、それ所か急に睡魔が彼を襲う。
多少の眠気ならどうにでもなるが、疲労と、シャマルの回復魔法の心地よさには勝てず、徐々に意識を手放してゆく。
「何言ってんだよ!!あんな無茶苦茶な装備品を連続して使ったら、普通は体がもたねぇぞ!使いこなせる云々の問題じゃ・・・って、ナイトガンダム?」
自分の異変にさすがに気付いたのだろう、しきりに何かを話しているが頭が理解しない。
視界もおぼろげになり、リインフォースとはやてがこちらに近づく姿を確認した直後、ナイトガンダムは完全に意識を失った。

246高天 ◆7wkkytADNk:2009/05/30(土) 23:41:11 ID:ugs/c37.
「此処は・・・・・何処だ」
騎士ガンダムが意識を取り戻したのは、先ほどまで自分が寝ていたベッドでもなければ、雪が降りしきるあの丘でもない。
ただ真っ白な光に包まれた空間だった。
体は飛行魔法を使っているかのように浮いているが不思議と独特の浮遊感は感じられない。
咄嗟にこのような状態になる前の出来事を思い出すが、あの後、意識を失った時点で記憶は完全に途切れている。
「一体・・・どうしたら・・・・」
今という現状が理解できないため、どうしたらいいのか途方にくれる。
叫ぼうにも返事をする物は誰もおらず、辺りを見回しても同じ景色が広がっているだけ
考えられる可能性としては二つある。一つはあの後意識を失った事から、此処が夢の中という事、
そして残りの一つが、自分は死んでしまい、此処が『あの世』と呼ばれている場所という事。
後者に関しては、ネガティブな考えは持ちたくは無いが、ありえないことではない。
普段だったら行動を直ぐにでも起こすのだが、このような状態ではどうしたいいのかまるでわからない・・・・・そんな時であった
「っ!!!?誰だ!!!」
後ろから感じる気配に気付いたのは・・・・・・・



「騎士ガンダム!!良かった・・・・・気が付いて」

ナイトガンダムが気絶した後、直ぐに彼はアースラへと運ばれた。
その場にいた全員が彼の安否を心配したが、目覚めてからの車椅子での全力失速、そしてリインフォースが助かった事で襲った安心感、
更に闇の書の闇との戦闘での疲れが抜け切っていないはやては、彼の後を追う様に意識を失った。
幸いただの過労というシャマルの診断から、はやては自宅へと帰ることとなり、ヴォルケンリッターも主に同行することとなった。
だが、リインフォースは彼にお礼が言いたいという事もあり、ナイトガンダムと一緒にアースラへと行く事に決め、
なのはとフェイトもまた、彼女に同行することとなった。

もう散々目にした天上を見つめ、直ぐに体を起こす。
まず目にしたのはリインフォースの安心した笑顔、本当なら直ぐにでも『心配ない』『大丈夫』と
自分が大丈夫だという事をアピールするのだが、今はそのような気分ではなかった。
「・・・あれは・・・・・間違いないのか?」
あの時聞いた事、それが真実なら・・・いや真実だろう、もしそうなら、自分は・・・・・・
「どうした?やはり体調が優れないか?」
表情を覗き込むように顔を近づけるリインフォースに、ナイトガンダムは無理矢理現実に引き戻される。
同姓が見ても見惚れるほどの美しさ、そのような印象を持つのはMS族でも変わらない。
「(・・・美しい人だ)あ・・・ああ、大丈夫、少しぼおっとしてしまっただけだよ」
笑顔で自分の健全をアピールするナイトガンダムに、リインフォースは安殿の溜息をつく。
「本当は高町なのはとフェイト・テスタロッサもいたのだが、二人とも明日は『シュウギョウシキ』という物があるらしい
クロノ執務官が多少強引にだか帰らせた。二人とも渋ってはいたが、お前が気絶しているだけという事がわかるとしぶしぶ了承していたよ」
「そうか・・・・リインフォース、君はいいのか?はやての所に行かずに」
「主は今はシグナム達がついている。私達の処分も現状では保留の状態、特に行動は制限されていない・・・・・全く人がいいのか、杜撰なのか。
だが、感謝しなければいけないな。ナイトガンダム、こうしてお前と話ができるのだから」

247高天 ◆7wkkytADNk:2009/05/30(土) 23:44:34 ID:ugs/c37.
八神はやての元へと転送されてから夢にまで見ていた・・・・否、叶わないと確信していたからこそ、
夢を見ることすら諦めた主や仲間達と共に歩める事が出来る時間。
何者にも変えがたいその贈り物を与えてくれた異世界の騎士に彼女は心からお礼が言いたかった。

「騎士ガンダム・・・・・本当に、なんとお礼を言ったらいいのか・・・・・」
情け無いが、正直何と言っていいのかが分からない。気持ちは十分すぎる程あるのだが、それを口に出して言えるほど彼女は器用ではなかった。
あまりの自分の口下手さに情けない気持ちになる。
「お礼なら必要ない。当然のことをしたまでだから」
一切見返りを求めず、さも当然の様に言い放つナイトガンダムに、彼女は言葉を詰まらせてしまう。
否、何となくではあるが予想はできた。彼は決して見返りは無論、感謝の言葉も必要とはしていないと。
だが、それでは自分の気が収まらない。
「むしろお礼ならクロノに言ってほしい。君の状態や詳しい状況などを教えてくれたのは彼なんだから。
それに、君の束縛を解いたのは三種の神器の力によるもの、私は何もしていないよ」
「馬鹿を言うな!行動し、結果を出してくれたのはお前だ・・・・・そんな態度をとって貰っては・・・・困る」
昔の主達の様に、もっと偉ぶったり、何か見返りを求めてくれたほうが良かった。
だが、主はやてといいナイトガンダムといい、そのような事は全くしない・・・・・ストレートに言うと物欲が全く無いのだ。
否、おそらく『気にしないで欲しい』というのが彼の願いなのだろう。
相手を助けるのに理由などつけず、自身の命も顧みない、そして対価となるであろう見返りや感謝の言葉すら求めない。
闇の書の闇が言った様に、彼には『闇』の部分が全く無い・・・・・・・聖人君子も真っ青だ。
「私は君を救えたこと・・・・・それで十分だよ、だから気にしないで欲しい」
笑顔でそういわれると、もう諦めるしかない。
それに彼のことだ、こちらから『何かしてほしい事は無いか』などと聞いたら間違いなく困るだろう、感謝している彼を困られるなど本末転倒だ。
「・・・分かった・・・お前がそう言うのなら・・・・・・・騎士ガンダム、やはり具合が悪いのか?」
何故だろう・・・・彼の表情が暗い様に見える、まるで何かを隠しているかの様な
やはり体調が悪いのかと思ったのだが、診断の結果ただの疲れだという事は湖の騎士から聞いている。
笑顔を向けてはいるが、どうにも何かを・・・・・まるで自分の中の動揺を隠しているかの様に感じる。
「?いや、そんな事は・・・・ないよ。どうしたんだい?」
明らかに嘘だ、おそらく嘘をつくのが下手なのだろう、はたから見ても直ぐにわかる、
直ぐに目をそらしたのが良い証拠だ。
多少好奇心というのもあるが、恩人である以上、自分では役不足ではあるが相談にはのってあげたい。
だからこそ再び尋ねようと口を開いた瞬間、
「クロノだ、入るよ」
彼女のの行動を阻止するかの様なタイミングで、ノックと共にクロノが入ってきた。



こんばんわです。投下終了です。
読んでくださった皆様、ありがとうございました。
編集、いつもありがとうございます。
職人の皆様GJです。
SDXサタンガンダム延びた・・・・orz やはり腹のマークか?
いいよ・・・リインフォースはいいよ・・・・・
次は近いうちに・・・・orz


代理投下、お願いいたします

248ラッコ男 ◆XgJmEYT2z.:2009/05/30(土) 23:57:23 ID:qd/bIq4o
それでは、代理投下させていただきます。
うぅ…ナイトガンダム…

249ラッコ男 ◆XgJmEYT2z.:2009/05/31(日) 00:27:24 ID:OHYZt5xA
以上、遅れながら高天氏の代理投下終了しました。
ここで言うのもアレですが、R−TYPE氏も高天氏も
GJを超えたGJであります!

R−TYPE氏、やはりバイドがやばすぎるww
やっと絶望を脱したと思いきやまた絶望とは…!
もはや絶望EDしか想像が……氏の影響で
ゲームアーカイブスでΔをDLしたのは秘密ですw
(撃墜されまくりですがorz)

高天氏、初代リインフォースをも救うなんて、ガンダムが
大変チート…もとい、凄くカッコイイであります!さすがは
神様の片割れ…!次回でとうとうラクロアに帰るのか…?
ナイトガンダム最高であります…!

…この場でお目汚し失礼しましたorz

250高天 ◆7wkkytADNk:2009/05/31(日) 00:34:55 ID:sDAZNeko
代理投下、誠にありがとうございました。

251リリカル鉄人 ◆SwzZdVEqO2:2009/05/31(日) 23:44:54 ID:WbX5E6oM
「そのための封印カプセルだ。1年前は使えなかったが今は頃合いになっているだろうからね。しかし惜しいなぁ。
 そう、もしもあの時カプセルと鉄人を使えていたら確実に勝てたのにねぇ。すべては私が無知故の過ち」

無知、敬愛するスカリエッティが自らを無知と罵る。それはウーノにとってあってはならない事なのだ。
彼女とってジュエル・スカリエッティは神。自らの神が我を蔑み、無知を謳うなど言語道断。それは絶対的と信じて止まない愛と信仰心を否する事ではないか。

「いえ! ドクターは無知などではありません! あの時の失態は全て我々ナンバーズの力不足による物。攻めるのならばどうか! どうかこの私めを!」

ウーノが椅子に腰かけたスカリエッティよりもさらに低く跪く。そう、1年前の失態は全てこの身による物。魔道師風情に頭脳を覗かれ、スカリエッティに信頼されればこそ知り得る情報を引き出されるという痴態。
この身を鞭で打たれようとも本望! いやむしろ敬愛するお方に敗北を与えたこの身に罰を! だが微笑みを浮かべるスカリエッティはウーノの頭を、その髪の感触を楽しむ様に撫で始めた。

「気に病む事はないよ。あの時は私にも落ち度があった。だが今回は違う! これから我々が手にするのは勝利あるのみ!」
「おおドクタースカリエッティ! なんと慈悲に溢れるお言葉。ならばこのナンバーズが長女ウーノ、貴方がお与え下さったこの身体と力は勝利のために!」

恍惚と瞳を潤ませるウーノの髪をスカリエッティは嫌味な薄ら笑いを浮かべて撫で続ける。
そして管理局の監視カメラをハッキングした映像が送られて来るモニターに映される光景は、スカリエッティの邪悪な欲望を満足させるには十分な物であった。

「さぁ進もうか鉄人よ! 目指すはアルカンシェル保管庫! ハハハハハハ!!」

スカリエッティの指示を受け、鉄人は炎の海と化した格納庫を行く。この奥の扉、そこが管理局の最強兵器アルカンシェルの格納庫。
アルカンシェルは百数十キロ四方の物体を対消滅させる危険な兵器で普段は格納庫に仕舞い込まれている。その格納庫も万全を期して分厚い特殊合金性の扉によって堅く守られていた。
その前に辿り着いた鉄人は、両手を扉の隙間に差し込み、こじ開けようとする。鉄人の怪力に格納庫の扉は軋む音を立てながらひしゃげていった。

「あいつアルカンシェルを!」

抵抗も出来ずに開かれていく扉にクロノが見たのは抗う事の出来ない力の差。やがて完全に開かれた扉から見えるのは、戦艦が何個も入るような巨大な空間、そしてそこに大量に設置されたアルカンシェル砲台の数々。
現在目立った犯罪もない事から管理局が保有する全てのアルカンシェルがこの格納庫に保管されていると言ってもよい。鉄人は格納庫の中程まで歩くと背中に背負っていた装置を床に置く。
すると下部に設置された杭の様な物がバンカーの要領で床に深々と突き刺さり本体を固定した。鉄人が数字の書かれたパネル部分を押していくと表示盤にデジタル表記の数字が表示されていく。
鉄人が入力しているのはスカリエッティ特製の巨大爆弾の起爆コード。タイマーを30秒にセット、さすがに無敵の兵士と言えど数百メートル規模の爆発に巻き込まれれば無傷といくまいから退避の時間が必要だった。
鉄人は爆弾から少し距離を取ってから床板に拳を振るい、機体が通れるほどの大穴を開けた。これでは爆発のエネルギーが逃げてしまうように思えるが、これだけの規模の爆弾ではそのような心配はない。
仮に多少逃げた所でビルをも吹き飛ばす衝撃波と数千度の熱流は、この規模の格納庫を吹き飛ばすには十分過ぎるほどの威力があるのだ。
巻き込まれては敵わないと言わんばかりに、鉄人は床に空いた大穴から下の階に飛び降りる。その様子を見ていたクロノは今更気が付いたのだ。そう、鉄人に対抗し得る唯一の手段が。

「アルカンシェルが」
「ドカーン!」

スカリエッティの嬉々とした声が船内に響くと同時に、アルカンシェルは猛炎に飲み込まれていた。灼熱の支配する格納庫の中は、宛ら溶鉱炉と言った風情で、溶けた壁やアルカンシェルが床一面に広がっていく。
アルカンシェル砲台の中には、爆風の熱で魔力炉が融点を越えて引火爆発してしまう物もあり、それらが隣の砲台に爆風を浴びせ、ついには連鎖的な誘爆をも生み出していたのだ。
格納庫内の監視カメラは全て爆発で壊れてしまったらしく、司令室のモニターには離れた位置の監視カメラからの映像が送られている。

252リリカル鉄人 ◆SwzZdVEqO2:2009/05/31(日) 23:49:24 ID:WbX5E6oM
書き忘れました規制を食らってしまったので代理投下をお願い致します

253リリカル鉄人 ◆SwzZdVEqO2:2009/05/31(日) 23:49:54 ID:WbX5E6oM
内部の状況は分からないが、炎が渦巻き、今尚爆発が止まないその様を見れば、アルカンシェルの全滅を疑う者はなかった。
それは航行船の中で様子を見ているスカリエッティも同じであったが、もっとも彼の場合抱く感情は落胆ではなく狂わんばかりの狂喜である。
スカリエッティは、モニターをあらゆる位置のカメラ映像に切り替えて、青ざめていく局員の顔を見るのが楽しくてしょうがないと言った様子を見せた。

「ハハハハハハ! 滑稽だな諸君。そんなに怖いかね、この鉄人が」

しかしこれはまだ序の口。本当の闘いはこれから始まるのだ。アルカンシェルさえ破壊すれば鉄人への対抗手段はなくなったに等しい。
だがこのまま終えてしまっては面白くない。折角の余興、どうせならとことん時空管理局を破壊してやろうじゃないか。
この日は歴史に残る日となるだろう。次元世界の守護神たる時空管理局本局がたった一人の犯罪者の手によって落ちた日、その機能を完全に停止してしまう日。
自分をコケにしてくれた者達への復讐にこれほどの物はない。今後語り伝えられる瞬間は目の前にある!

「そう、今日こそが我が宿願成就の時! 後に語られるその名を『時空管理局制止する日』とは今日この日の事よ! ハハハハハハハハ!!」
「そしてその瞬間、我等ナンバーズこの眼に焼き付け、永久の時を過ごしたとしても忘れる事はないでしょう!」

跪き、待望の眼差しで見つめるウーノに、スカリエッティは椅子から立ち上がり、左手を肩に置くと右の手でウーノの顎を持ち上げた。
交わる視線は同じ金色の瞳。自分が作り上げた美しき戦闘機人ウーノ。もっとも愛着を持っている彼女の励ましは、実に気分を高揚させる物だった。

「ウーノ嬉しいよ。そうなればこちらも張り合いが出てくるという物」
「でもドクター、鉄人単騎で管理局を相手にするのはちょーっと厳しいのでは?」

水を差すようなクアットロの言葉にスカリエッティはまだ自分の温もりが残る椅子に座り直した。確かにもっともな意見かもしれない。
さすがの鉄人28号と言えど時空管理局本局の全戦力を相手にすれば、敗北の可能性がないとは言い切れなかった。
しかし強大な力であるからと言って正面からぶつけるのは知恵のない人間がする事である。有り余る力はおとりにもなるのだ。
それは伏兵を忍び込ませるには絶好の隠れ蓑になる。おそらく管理局は伏兵の存在に気がついてはいない。
仮に気が付いていたとしても、鉄人との対決に戦力を集中せざるを得ないから、どうする事も出来ないだろう。
そもそも見つける事など不可能と言っていい。何故ならそれはスカリエッティが作り上げたナンバーズの中でも最も異質な能力の持ち主。

「そうかもしれないねぇ。だが鉄人だけではないよ。なぁセイン」
『はいドクター』

通信をしてきたのは戦闘機人ナンバー6『セイン』その能力は無機物に潜航出来るディープダイバー。直接戦闘力は低いセインだが特殊工作員や偵察員として非常に優秀で、今日も本局の内部破壊の任務を負っていた。
既に本局への潜入を果たして、その内壁を泳ぐセインの背中にはスカリエッティ手製の爆弾が大量に入ったリュックサックが背負われている。小型ではあるが破壊力は抜群でセインの目標を爆破するには十分だった。
セインの目的はあくまで鉄人のサポート。本局の壊滅をより完全な物にして、復旧までの時間を引き延ばす事。本局の動きを止める事は、これからの行動に大きな意味を持つ事になる。

「ふふふ、機人に鉄人。これこそ完璧な陣形。さて、そろそろメインディッシュと行こうか」

スカリエッティが不敵に笑う頃、クロノとエイミィは今だ内部に留まる鉄人の動きを追っていた。モニターに表示される監視カメラの映像が次々に切り替わり鉄人を追跡していく。
進行を留めようと隔壁が展開されるが鉄人の腕力の前にはとても敵わず、引き裂かれ、こじ開けられてしまう。本局の魔道師部隊も鉄人を撃退すべく立ち向かうがいくら攻撃しても装甲に傷一つ付ける事すら出来ない。
色取り取りの魔力弾や砲撃が鉄人に着弾する度、弾け飛んでは光の粒子となって一帯を染め上げていく。その様子は幻想的であったが同時に、本局一面に広がる炎が現実を突き付けていた。
鉄人が通り過ぎた後に残るのは、燃え盛る炎と勇敢な戦士達の血肉。燃える赤と生臭い赤によって管理局は染められていった。
視覚を支配するのは、凄惨なまでの破壊の痕跡。嗅覚を突くのは、炎と亡骸が焼ける匂い。心を支配するのは、威風堂々たる姿で立ちはだかる者への恐怖。
尚も突き進む力に拮抗出来る手段があり得るのか、いいやそんな物は存在しない。ほんの数分前にはあったとしてもそれは既に灰へと姿を変えていた。

254リリカル鉄人 ◆SwzZdVEqO2:2009/05/31(日) 23:50:29 ID:WbX5E6oM
司令室で見つめるクロノが悔し紛れに拳を握り締める。するとエイミィに巻かれた白い包帯に徐々に赤い血が滲んでいく。

「あいつはどこへ向かって。エイミィ!」
「分かってる! このまま行くと」

先程地上本部襲撃の差にも使われた進路計算シミュレーター。場所を時空管理局本局に設定してエイミィは再び鉄人の進路を予想する。

「このまま行くと……まさか!?」
「どうした! 奴はどこへ!」

エイミィの様子から今日何度目か分からない悪い知らせである事を悟ったクロノは声を荒げた。エイミィは苦虫を噛み潰す様に言葉を発した。

「この本局の中心……メインシステム制御室」
「そんな、まさか鉄人はメインシステムを落とす気なのか?」

時空管理局を機能させるには全ステータスをカバーできる膨大なエネルギーが必要であり、まして宇宙空間に浮かぶ本局は酸素供給等のライフラインを確保するシステムが必要不可欠である。
地上と同じ酸素と重力を生み出し、さらには次元航行艦の発着に、管理局全体の通信機能、レーダー等の軍事的設備。全ての機能を使うには大量の電力とエネルギーを安定供給させるシステムを両立しなければならない。
そしてそれらの管理局が持ち得る全ての機能を統括するのがメインシステムである。生命維持機能、軍事設備、電力供給ユニット、それら設備毎に配された管理ユニットを管理統括するためのシステム。
それが万が一破壊されれば、一時的にではあるが管理局のシステム系統が完全停止する事を意味していた。もちろん制御用のサブユニットは用意されているのだが。

「そう、サブユニットの破壊はセインの出番と言う訳だ」

スカリエッティの戦略は、まず鉄人がおとりも兼任してメインシステムを破壊。その後も各設備の管理システムや重要施設等を攻撃する。その間にセインがディープダイバーを生かして発見されずにサブシステムを爆破。
たった2人で行う作戦だが、それには理由があった。まず第1に鉄人が内部に侵入したとなれば、当然これを撃破しようと全戦力が集中するからセインの存在が気取られる可能性はかなり低い。
第2に如何に戦力を集中しようと魔道師の攻撃で鉄人が破壊される可能性は極めて低く、全戦力を長時間鉄人に釘付け出来て、且つ攻撃に居も解さず破壊行動の継続が出来る事。
第3にセインの能力ディープダイバーは無機物の中を潜航する事が出来る。つまり目視による発見は非常に困難で、鉄人への戦力集中と合わせて手薄となった本局の至る所に移動出来る事。
如何にセキュリティーが厳しくとも壁の中を進まれては対応出来ないし、さらに鉄人に戦力を割かねばないから警備は当然手薄になり、セインに入れない場所はないと言っていいだろう。
万が一セインが局員に発見されてもディープダイバーで壁の中に逃げ込めばいいし、鉄人を救助に回す事も出来る。
これが下手にナンバーズ全員を投入してしまうと複数人が同時に捕らえられた時、救助が間に合わない可能性が高い。つまりこの作戦はセインと鉄人二人で行うのが一番効果的なのである。
そしてスカリエッティの思惑通り、本局は鉄人の対応に追われセインの存在に気付く事はなかった。

「最強の切り札だからと言って、単独で使うほど愚かな行為はない。それのサポート、さらに見合った戦術と運用と言う物があるのだよ」

逃げ惑う魔道師たちに問いかけるようにスカリエッティは実に愉快そうな笑みを浮かべていた。たった二人に落とされるというのはどんな気分か。
きっと煮え返るほど悔しいに違いない。反面それを見る襲撃者の表情はまるで子供の様に喜んでいるのだ。

「こんな事が……本局がたった1機に翻弄されるなんて」

しかし襲撃を受けている当人にとってはたまった物ではない。エイミィ・ハラオウンはただ呆然と鉄人が本局を破壊していく様子を見つめる事しか出来なかった。
壁を壊し、床を抜きながら鉄人が目指すのはメインシステム制御室。巨大なマザーコンピューターが置かれた空間は、システム警護のために配置された魔道師数十人が滞空して尚余裕のあるほど巨大な物であった。
時空管理局の全設備、全データを統括し管理するためにはこの規模の制御ユニットでなければ対応する事が出来ないのである。

255リリカル鉄人 ◆SwzZdVEqO2:2009/05/31(日) 23:51:45 ID:WbX5E6oM
もちろん万が一のために、これよりも小型のサブユニットがいくつか存在しているが、切り替え時には一瞬とは言え管理局全体のシステムがダウンしてしまう。
その一瞬が巨大な設備を兼ね備えた時空管理局という場所であるからこそ脅威となり得るのだ。再起動した各システムの動作チェックなどには何日も掛かる。
その間に敵に攻められれば、万全の態勢で迎え撃つ事は出来ない。だからこそメインシステムだけは死守しなければならないのだ。

『敵機接近! 頭上から来るぞ全隊射撃用意!』

メインシステム防衛を任された魔道師部隊の隊長が通信で、その場に居る全員に指示を飛ばした。
隊員達が迎え撃つべく神経を集中すると頭上から小さく聞こえてくるのは衝撃音。その音が少しずつ近付いて来るのを誰もが感じていた。
そして耳を塞ぎたくなるほどに音が大きく響いたその瞬間、突如天井が崩れ、瓦礫と共に落下してくる巨体が一つ。その光景に思わず声を上げる一人の魔道師。

「まさかこれが!?」
「ガオォォォォォォォ!!」

咆哮を上げた鉄人が目指すのは直下、そこにあるマザーコンピューター。そうはさせまいと魔道師部隊が一斉に射撃を浴びせるが装甲に弾かれてしまって効果はない。
そのまま鉄人は拳を構え自由落下に身を任せた。鉄人が持つ質量、そこに自由落下のスピードと敵を叩き砕くパンチ力が上乗せされているのだからその破壊力は想像を絶する。
マザーコンピューターと接触する瞬間、鉄人は自由落下のエネルギーを生かしながら風切り音を伴って拳を突き出した。
防御用に本体自体が堅牢に作られ、魔力障壁で守られているマザーコンピューターであったがこのパンチ力に抗う事は不可能である。
激しい衝撃音が辺りに響くと鉄人の拳が自身よりもやや小さい程度の巨大なコンピュータを貫通していた。鉄人の腕が突き刺さって開いた穴からは電流と炎が迸っている。
やがて電流と炎はわずかな時間で巨大な物となり、一際眩しく輝くとマザーコンピューターは内から爆炎を撒き散らして破裂した。
その瞬間、時空管理局をメインシステム停止を知らせるサイレンが鳴り響く。クロノが居る司令室でも電灯は落ちて部屋を照らすのは非常事態を告げる赤い光。
先程まで鉄人を映していたモニターも機能を停止して画面は黒く塗り潰されていた。

「やられたか!?」
「でもサブシステムがあるからすぐに復旧するはず」

焦るクロノを宥める様にエイミィは言った。事実その通りで、メインシステムが機能停止すれば自動的にサブシステムに切り替わるように作られている。
このサブシステムは複数個存在しており、さらにその内のいくつかが機能停止しても管理局の機能をある程度は維持出来た。
エイミィの言う通り、メインシステムの機能停止から10秒程度でサブシステムへの切り替えは円滑に行われ、部屋を照らす電灯と鉄人を映すモニターも復旧した。
しかし画面に現れたのは燃え盛るマザーコンピューターだけで、肝心の鉄人の姿はどこにも存在しない。

「鉄人が消えた……ん? こ、これは!?」

エイミィは鉄人の所在を確かめようとサーチを起動し掛けたが何かに驚いたように手を止める。それを見つめるクロノは訝しげに問い掛けた。

「どうしたんだ?」
「サブシステムが……次々に停止していく」

自分で放った言葉にエイミィは凍りつく。彼女の使うモニター画面に表示されるのは、1番と2番サブシステム停止を告げる警告文。
次々に目まぐるしい速度でサブシステムが停止していき、その事実をただ淡々と表示する画面。
もしもサブシステムまで停止したら本局は完全に制御系統を失う事になる。そうなれば内部に入った鉄人への対抗手段を完璧に無くす所か、生命維持のライフラインまで断たれる事になる。
ライフラインが切断されると言う事は当然重力発生や酸素生成等、人間がこの本局で過ごす上で必要不可欠な環境を失う事に直結しているのだ。

「鉄人の仕業か!?」
「いや違う。これは、これは鉄人じゃないよ!」

エイミィの言葉にクロノは動揺を露わにする。鉄人ではないのなら一体誰が。そしてクロノの中で1つの可能性が浮かんで来た。

256リリカル鉄人 ◆SwzZdVEqO2:2009/05/31(日) 23:53:58 ID:WbX5E6oM
「まさか伏兵が居たのか……」

クロノは今更伏兵の存在に気が付いた自分を恥じていた。鉄人は武装を装備していないから広範囲を瞬時に破壊する事を不得手としている。
アルカンシェルの破壊にわざわざ爆弾を持ち込んだ事からもそれは明らかだった。つまり目立つ鉄人をメインシステムに向かわせる事で伏兵の存在を気取られないようにする。
手薄になった警備網を伏兵が掻い潜り、重要施設を爆破する作戦。非常に単純だが鉄人と言う手札を使ったこの戦略は非常に効率的で、効果的な作戦だ。

「司令官! 鉄人28号発見! 発電施設へ向かっています!」

クロノが思案の最中、司令室のオペレーターの一人が声を上げる。今度はエネルギー供給を断つつもりなのか、クロノの頬を冷たい汗が伝い落ちた。
発電施設も非常事態に備えて複数設置されているが、鉄人であれば全て壊すのにも大した時間は掛からないだろう。
もし電力施設を全て破壊された場合、管理局は完全に機能を停止する事になる。備蓄された予備電源もあるがサブシステムが完全に破壊されれば切り替えるためのシステムが存在しない事になる。

「サブシステム損耗数6機! あっ5、4、3、どんどん破壊されていきます!」
「鉄人28号第1発電ユニット破壊! 今度は第2ユニットが爆破! 被害甚大です!」
「鉄人が第3電力ユニットに接近中! 第4ユニットは何者かによって爆破!」
「酸素生成設備が爆破されました! このままでは局内の酸素が」
「内部に火災が広がっています! 火の手が強くて消火活動が間に合いません!!」
「発電ユニット次々に破壊されています! このまま行くと本局が機能出来なくなってしまいます!」

次々に知らされる施設破壊の知らせ。もはや本局は機能停止寸前まで追い込まれていた。クロノは悟った、本局は完全に破壊されるのだろうと。
仮に重要施設の爆破を繰り返す伏兵を見つけ拘束したとしても鉄人による破壊を止める事は出来ない。全ての施設が破壊される時間が少し伸びるだけだろう。
既に敗北は、鉄人の本局への侵入を許してしまった時点で決まっていたのだ。例えアルカンシェルが使えたとしても本局に撃ち込むわけにはいかない。
始めから勝ち目などなかった。たった1機のロボット相手に次元世界を統括する管理局が敗北する。それは全世界が鉄人に屈したという証明でもあった。
たった1機に敗北。その事実を提示された局員達はついに戦意を喪失してしまったのである。そして突然クロノ達の居る司令室の機能は停止した。

「クロノ、サブシステム大破……システム完全停止」

暗闇が支配する司令室。そこに聞こえるのはエイミィからの報告の声だけ。サブシステムの大破、それは完全な敗北を意味していた。
酸素供給等のライフラインが断たれたも同然の状態。中に留まり続ければいずれ酸素がなくなり、死んでしまう事になるだろう。
そうなってはここに残る事が危険だ。敗北を噛み締める様にクロノが天井を仰ぐと通信装置にコールが入って来た。
この状況に置いて通信とはおそらく可能性は1つしかない。クロノは通信装置を開くと通話のボタンを押した。

「こちらクロノ・ハラオウン……はい、はい、はい了解しました」

3度相槌を打って何かを了承したクロノ。エイミィはクロノに向き直ると誰からの通信で何を言われたのか聞く事にした。

「クロノ今のは? なんて?」
「上層部からだ。本局を……本局を破棄する……。総員撤退準備」

257リリカル鉄人 ◆SwzZdVEqO2:2009/05/31(日) 23:54:44 ID:WbX5E6oM
本局の惨状を目の当たりにした上層部は全局員の撤退命令を出した。もはや留まって戦っても勝ち目がないと考えたのだ。
クロノは悔しさに歯を食いしばりながらもこの命令に従わざるを得なかったのである。仮に残ったとしてもそれこそ命を棒を振るような行為だ。
今は逃げて体制を整え、時が来たら反撃をする。それが上層部のそして管理局にとっても一番の最善策だった。

「ここに居る者は全員クラウディアに乗って脱出。さぁ退避準備だ」

クロノは意を決して自分の部下達に伝えた。これが最善策なのだと、今は全員の命を守る事が大事なのだと。
鉄人相手に、一矢報いるか、敵わなくともせめて一太刀浴びせてやりたかったが、指揮官として仲間の安全を蔑ろには出来ない。

「どうかね諸君、敗北の味は! ハハハハハハ!」

一方のスカリエッティは、そんなクロノ達を嘲笑うかのように満面の笑みで時空管理局を見つめていた。
1年もの間復讐を望んだ相手についに報いる事が出来た喜び、その美酒は今まで味わったどんな快楽よりも素晴らしい物だった。
後に『時空管理局が制止した日』と呼ばれる日。長きに渡り次元世界に君臨した組織が壊滅した日。それはJS事件から1年が過ぎた夏の日。
そしてこの日を境に、フェイトとなのはの運命が戦争という名の坂道へと転げ落ちていく事を二人はまだ知らない。



続く。

258リリカル鉄人 ◆SwzZdVEqO2:2009/05/31(日) 23:57:10 ID:WbX5E6oM
あとがき

これで第2話は終了です。
ここまで読んでくださった方、支援レスしてくださった方ありがとうございます。
スレを1時間以上独占してしまい誠に申し訳ありませんでした。次回の投稿からは2回か3回ぐらいに分けて投下したいと思います。
レスの切り方も本当は60行ぎりぎりまで詰めたいのですが、容量がオーバーしてしまうので40〜50行前後で切ってます。
管理局は内部構造が分からなかったので完全に適当です。多分実際の構造とは違うと思います。
改めましてここまで読んでくださった方、支援レス下さった方ありがとうございました。
あとがきなのに長々と書いてしまい申し訳ありませんでした。
感想や指摘などがあればお願いします。

259リリカル鉄人 ◆SwzZdVEqO2:2009/05/31(日) 23:58:37 ID:WbX5E6oM
それではお手数ですが代理投下をお願い致します。
次回からは規制を受けないように何日かに分けて投下したいと思います。

260魔法少女リリカル名無し:2009/06/01(月) 00:00:53 ID:9AzZGg8M
代理投下に出陣してきます。

261魔法少女リリカル名無し:2009/06/01(月) 00:10:28 ID:9AzZGg8M
代理投下を終了しました。ご確認をお願いします。
何か間違いがあれば申し訳ありません。

262リリカル鉄人 ◆SwzZdVEqO2:2009/06/01(月) 00:15:35 ID:B12uJlJA
>>261
確認しました。
代理投下ありがとうございました。
次回からは分割して投下するのでこう言った事はなくなると思います。
改めましてお疲れさまでした。

263<削除>:<削除>
<削除>

264レザポ ◆94CKshfbLA:2009/06/03(水) 21:26:31 ID:te7VtcPY
 「スバル!先に行くよ!」
 「了解!ギン姉!!」
 「三番!ギンガ、突貫します!」
 
 そう言うとカートリッジを三発消費しエイミに向かっていく。
 そしてエイミの目の前まで向かうと左拳を振り下ろし更に振り上げる、ストームトゥースと呼ばれるコンビネーションである。
 だがギンガの攻撃はまだ終わらず、今度はウィングロードを螺旋の形に展開させて今度は左拳によるナックルバンカーを鳩尾あたりに打ち込む。
 
 「スバル!今よ!!」
 「応!四番スバル、ギア・エクセリオン!!」
 
 スバルが叫ぶとマッハキャリバーから片足に二枚、計四枚の翼を展開、A.C.S モードを起動させる。
 そして一気に加速するとカートリッジを二発消費、右拳に魔力が纏い、そのまま姉ギンガと同様エイミの鳩尾あたりに拳がめり込む。
 更にスバルはカートリッジを三発消費すると拳に環状の魔法陣が展開、めり込んだ拳の先には魔力弾が形成されていた。
 
 「ディバイン…バスタァァァ!!!」
 
 ゼロ距離からのディバインバスターはエイミの体内で炸裂し内側から強固な皮膚を貫き穴という穴から魔力光が溢れ出す。
 もはやとどめと思われた一撃であったが未だエイミは鋼の軛を外そうとしており、それを倒壊寸前のビルの屋上で見つめるティアナ、
 するとクロスミラージュをダブルモードに変えるとビルから飛び降り、左の銃でエイミの額あたりにアンカーショットを打ち込む、
そして一気に巻き上げ加速させると右の銃をダガーモードに切り替える、狙いは脳髄である。
 ティアナが迫る中、エイミは顔を上げティアナを見上げ口から炎を吐き出す。
 炎はティアナに直撃する瞬間、ティアナは陽炎のように消える、お得意の幻術である。
 本物は飛び降りたビルの中心、遠距離型狙撃銃ブレイズモードに切り替えたクロスミラージュを握り標準は見上げたエイミの頭である。
 
 「さようなら…エイミ姐さん…」
 
 そう一言呟くとティアナは引き金を引きファントムブレイザーを撃ち出す。
 クロスミラージュから放たれたファントムブレイザーは高密度に圧縮されており、
 エイミは小細く声を上げると頭を撃ち抜かれるのであった。
 
 …撃ち抜かれ頭部を無くしたエイミの体は轟音と共に倒れ光の粒子となって消滅、その光景を涙を流し見つめるティアナとスバル…
 すると突然フリードリヒが雄叫びを上げ、キャロは戸惑い目を向けるとその目には涙が浮かんでいた。
 
 「どうしたの?フリード」
 
 キャロの問いに答えないフリードリヒ、何故フリードリヒは泣いているのか…それはエイミが消滅する瞬間にあった。
 …ティアナの一撃がエイミの頭に直撃する瞬間、か細い声で一言「ありがとう…」と言っていたのだ。
 …エイミには元々から意識があったのか?…それとも死の一瞬だけ意識を取り戻すのか?
 それはもう分からない…だがフリードリヒの耳には確かにエイミの感謝の言葉が届いていたのだ。
 フリードリヒはまるで弔うように涙を浮かべ何度も雄叫びを上げるのであった。
 
 
 一方、一部始終を見ていたルーテシアはモニターを閉じガリュー及び地雷王を送還する。
 
 「いいのか?ルールー」
 「……私の目的は果たしたから」
 
 そう言ってレリックケースをアギトに見せ足早に去ろうとした瞬間、
 アギトはバインドに縛られルーテシアの右コメカミ辺りにはラテーケンフォルムが向けられていた。
 
 「やっと見つけたぜ、テメェラ」
 
 ルーテシアの後ろにはヴィータが睨みつけており、レリックケースを置くように指示すると温和しく従い手を挙げる。
 ヴィータ達はベリオンをぶっ飛ばした後出口へと向かい崩壊前に脱出していたのだ。
 その後巨大な竜が姿を現し、ヴィータはあの少女の仕業だと考えリインに少女の詮索をさせその後に発見、現在に至ったのである。
 その後しばらくしてヴィータの連絡をもらったスバル達が駆けつけ、レリックケースをキャロに持たせるヴィータ、
 スバルとティアナは複雑そうな面持ちでルーテシアを見つめていたが、当人は涼しい顔をしていた。

265レザポ ◆94CKshfbLA:2009/06/03(水) 21:27:47 ID:te7VtcPY
 
 ルーテシアはバインドにて縛られていると、クアットロからの念話が届く。
 
 (…ルーお嬢聞こえていますかぁ?)
 (……クアットロ、今まで何していたの?)
 
 ルーテシアの問いかけにクアットロは説明を始める。
 ルーテシアが地下水路で戦っている頃“鍵”を回収する為シルバーカーテンを用いて隊長クラスを足止め、その隙にセインが回収するハズであったのだが、
管理局はヘリを用意し“鍵”を運ばれるところであった。
 そこで第二プランの強襲による“鍵”回収を試みる為ディエチがイノーメスカノンをチャージ中、地雷王の地震に竜化したエイミの暴走が影響してヘリを飛ばす事が出来なくなったのである。
 だが今は地震王もエイミもいない為強奪にはもってこいの条件であると語る。
 今セインはルーテシアの近くにおり、レリックケース回収後、ルーテシアも回収するという。
 
 (其処で強襲の切っ掛けとなる合図の言葉を言ってほしいんですぅ)
 (……分かったそれで何をすればいいの?)
 (慌てないでねぇ、まだディエチのチャージが―――)
 (早くして……私…じらされるのは嫌いなの……)
 
 ルーテシアの言葉に両の手のひらを広げ肩をすくめるクアットロ、
 仕方ないと考えたクアットロは眼鏡に手を当て不敵な笑みを浮かべるとあの紅い魔導師に向かってこう言うように仕向けるのであった。
 
 一方ヴィータ達はヴァイスが操縦するヘリを見送ると、ルーテシアに目を向ける。
 
 「取り敢えずてめぇは公務執行妨害で逮捕だ」
 『逮捕は良いけど……大事なヘリは放っておいていいの?……また貴方は…守れないかも』
 
 その言葉にヴィータの目が蒼くなる、この少女は八年前の事件の事を知っているんじゃないのか、
 そう考え詰め寄ろうとした瞬間、リインが強力なエネルギーを感知したと、そしてその方向に指を指すと其処には女性が二人おり、
 その一人が大型狙撃砲でヘリに向け直射砲を撃ち抜いた。
 ヘリは急速回避出来ず激突は免れないと思った瞬間、ヘリと直射砲との間に桜色の光が割り込み爆発を起こす。
 爆発によりヘリの周りには白煙が包まれ徐々に晴れていくと、其処にはエクシードモードを起動させたなのはの姿がありどうやら先程の光の正体のようである。
 
 一方ヴィータはヘリの無事を確認していると、キャロの叫び声が上がり目を向ける。
 其処には水色の髪の少女の姿があり、手にはキャロから奪ったレリックケースが握られていた。
 ヴィータはその少女を捕まえるように指示するが女性は腰に付けた手榴弾のような物を投げつけると、まるで水面を潜るように道路の中を潜った。
 すると置き土産である手榴弾のような物が光を放ち爆発する。
 
 「くっ!閃光弾か!!」
 
 目をくらましつつ周りを確認すると既にバインドが解かれた二人を抱えている姿があり、ヴィータは必死に捕まえようと飛びつくが健闘空しく空振りに終わる。
 そしてリインは反応を調べるが対象は既にロスト、逃げられたという空しい事実だけが現場に残されているのであった。

266レザポ ◆94CKshfbLA:2009/06/03(水) 21:30:02 ID:te7VtcPY
 一方クアットロとディエチはなのはに追われていた。
 ディエチが手にしていたイノーメスカノンは重すぎるため現場に放棄、ビルの屋上を飛び移りながら逃走していた。
 
 「待ちなさい!」
 「待ちなさいと言って待つ人なんていませんよぉ」
 
 そうクアットロは軽口を叩くとカンに障ったのかアクセルシューターを撃ち出される。
 するとディエチは右足に力を込め思いっきり踏み込み跳躍、体を半回転しつつ腰に付けていたスコーピオンを抜くとアクセルシューターを迎撃した。
 そして逆さまから落ち掛けたところをクアットロが足をつかみ難を逃れる。
 
 「助かったわぁ、ディエチ」
 「こっちも助かった」
 
 そんな事を言いながら逃走を続ける二人、それを追うなのはにフェイトが追加されこのままでは本当にまずいと考えるクアットロであった。
 
 一方逃亡者を追いかけているなのはとフェイトの下に一つの念話が届く。
 
 (此方はエインフェリア、クロノ提督の名の下援護します)
 
 その聞き慣れない名前に困惑するもクロノの名が出た為、信用する二人、
 二人はエインフェリアに指定された位置に向かうこととなった。
 
 一方、エインフェリアのゼノンとカノンは海上を離れなのは達が追っていた場所を確認する。
 
 「さて…何を撃つつもりだ」
 「空を飛ぶ物にはこれが相応しいだろうな」
 
 そう言うと左手に雷を走らせるゼノン、その考えに乗ったカノンもまた雷を走らせると魔法陣を展開させる。
 そして二人の目の前に稲光が走る球体が出来上がるとゼノンは右、カノンは左に撃つこととなり
 そして――――
 
 『サンダーストーム』
 
 撃ち出された魔法は真っ直ぐ現場に向かって進むのであった。
 
 一方で隊長クラスの追撃を受けなくなった二人は少し戸惑いを見せ後方を見据える。
 何も起きない、まるで嵐の前の静けさだなと考えていると上空に稲光が起きている物を発見する。
 
 「あれは…グラビディブレスぅ?」
 「いや…違うと思うけど、多分あれは……」
 『広域攻撃魔法!?』
 
 二人は声を合わせてそう言うと二つのサンダーストームは広がりを見せる。
 その広がりの早さにクアットロは焦りつつ飛び抜けるが、後方ではサンダーストームから無数の雷がクアットロ達目掛け落ちていた。
 
 「きゃああああ!?」
 「ちょっと、クアットロ姉さん!?もっと高く飛んで頭が擦れる!!」
 
 しかし上昇すればあのサンダーストームの渦に巻き込まれる、しかし低いままでもあの雷の雨にやられる。
 クアットロは再度シルバーカーテンを使用して自分とディエチの姿を消すのであった。

 一方なのはとフェイトは指定された位置で周囲を確認していると、先程の二人組が姿を現す。
 
 「ビンゴ!行こうフェイトちゃん!」
 「分かった、なのは」
 
 そう言うとなのははレイジングハートを二人に向けカートリッジを一発消費し、フェイトは左手をかざしカートリッジを三発消費する。
 そして互いの足元に魔法陣が展開され魔力弾が形成されていく。
 そして――――

267レザポ ◆94CKshfbLA:2009/06/03(水) 21:31:17 ID:te7VtcPY
 
 「エクセリオンバスター!」
 「トライデントスマッシャー!」
 
 二人の魔法はクアットロ達を挟むように放たれ、クアットロ達は逃げられないと覚悟する。
 そして二つの魔法がぶつかり合い相殺され辺りには魔力の残滓が舞っていると、
 二人を片手ずつ掴む紫の短髪の女性が佇んでいた。
 どうやら監視役としてスカリエッティに派遣されたようだが、妹達のピンチに思わず手を出したようである。
 
 「たっ助かりましたぁトーレ姉」
 「…早くディエチを連れて行け、しんがりは私に任せろ」
 
 トーレの言葉に甘えるようにクアットロはディエチを抱えシルバーカーテンを使ってその場を後にする。
 するとなのは達が逃がさないとばかりに追うとすると、
 トーレの両手足にエネルギーの翼を展開、そして瞬間移動を彷彿させるようなスピードで
 なのはの腹部にミドルキック、更にフェイトの腹部にも後ろ蹴りを与えそのまま退避した。
 その一瞬の出来事になのはは痛む腹部を押さえ困惑する中、
 フェイトは先程の女性の速度はかつて自分が使っていたソニックフォーム、もしくはそれ以上の速度を出していたと考えていた。
 
 
 なのはからの連絡を受けたヴィータは今回の失態は自分のせいだと話し、ギンガもまた同じ事を言っていた。
 その中、恐る恐る手を挙げるティアナ、ヴィータ達には忙しくて連絡が遅れていたが、
 スバルとティアナはレリックケースに仕掛けをして置いたと話しヴィータとギンガは首を傾げる。
 
 一方“鍵”回収チームは合流地点に次々に集まり、其処にはベリオンの姿もあった。
 今回、回収出来たのはレリックケース一つ、その事をどうドクターや博士に報告しようか考えていると、セインがレリックを見たいとダダをこね始める。
 トーレはやれやれと言った表情を見せつつ了解するとセインは早速レリックケースの鍵を開錠、ふたを開けると中にはレリックは一つも入ってはいなかった。
 
 「なんでぇぇぇぇぇ?!」
 「…してやられたようだな」
 
 中身は空っぽ今回の任務は徒労に終わり疲れがドッと出るメンバーであった。
 
 一方行方知れずのレリックはキャロの帽子の中に隠されていた、戦闘面では後方支援のキャロに持っていてもらえば安全だとティアナのが出した提案であった。
 その事にヴィータとギンガは苦笑いを浮かべていると、ヴィータがあきれた様子で話し始める。
 
 「しっかし、いくら後方支援でもよく大丈夫だったな」
 「えっ!?」
 
 ヴィータの言葉に目を丸くするキャロ、レリックは高エネルギーの結晶体、いくら封印処置をされていても、
 魔法が直撃すれば暴走する可能性があると語り、その言葉に冷や汗を垂らすキャロ、そして恐る恐る聞いてみた。
 
 「もし…暴走させたら?」
 「そりゃあもちろん……頭がパーン」
 
 そう言って頭が爆発する様子をジェスチャーするヴィータに顔を青ざめるキャロ、
 そしてキャロは涙目でティアナに抗議するのであった。
 
 
 
 一方ゆりかごに戻ったクアットロ達はレザードとスカリエッティが待つ部屋に向かう。
 そして今回の一部始終を話すと腕を組むスカリエッティ、その行動に息をのむ一同。
 
 「つまり“鍵”もレリックも管理局側に回収されてしまったんだね」
 「申し訳ございません、ドクター」
 「まぁ、仕方がない、今日は疲れただろう…もう休みなさい」
 
 そう言って皆を帰らせるスカリエッティ、一同はその行動に疑問を感じるも一礼して部屋を後にした。
 暫く静寂が包み込む中、レザードの口が開き始める。
 
 「いいのですか?お咎めなしで」
 「あぁ、“鍵”はまた回収しに行けばいいからね」
 
 それに地上本部を崩壊させるきっかけにもなると、狂喜に満ちた表情を現すスカリエッティであった……

268レザポ ◆94CKshfbLA:2009/06/03(水) 21:32:57 ID:te7VtcPY
 以上です、ナンバーズ、機動六課と接触な回です。

  次回はまた中休みってな回です。
 
 それではまた。

269レザポ ◆94CKshfbLA:2009/06/03(水) 21:34:10 ID:te7VtcPY
そして引っかかりました、申し訳ありません。

270レザポ ◆94CKshfbLA:2009/06/03(水) 22:05:09 ID:te7VtcPY
投下を確認、代理投下ありがとうごさいました。

271無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/06/03(水) 22:39:46 ID:XcU6r8Tw
たびたび申し訳ありません。未だにアクセス規制が解けないので、代理投下をお願いします。
前回、前々回は段落毎の文字数が多いがためにご迷惑をおかけしました。申し訳ありません。今度は大丈夫だと思います。
次レスから投下をお願いします。

272無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/06/03(水) 22:42:20 ID:XcU6r8Tw
リリカル×ライダー第6話です。
本当は週刊投稿をしたかったのですが、執筆速度が遅くてずれてしまいました。
では読んでくだされば幸いです。

273無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/06/03(水) 22:43:16 ID:XcU6r8Tw
 服がない。
 一週間以上も経過して初めて気がついたことだった。
 制服と元々着ていたシャツとジーンズ。下着も貰ったのを含めて二組しかない。何故これでまともに生活が送れたのか不思議に思うほどだ。
 それを相談して最初に反応したのが何故か、ティアナだった。



     リリカル×ライダー

     第六話『覚醒』




 俺がその事態に気付いたのはこんな経緯があったからだ。
 あれはなのはからの特訓が終わった後のことだった。
「動きが甘かったぜ。あれじゃ狙撃されちまうぞ?」
 隊舎のドアに手をかけた直後、背中から声がかかった。
 六課では数少ない男性の声。心当たりがあったので振り向けば見事に的中していた。
「ヴァイスさん、驚かさないでくださいよ」
「悪りぃ、悪りぃ。がら空きの背中が目に付いちまったんで思わず、な?」
 彼はヴァイス・グランゼニック。六課では数少ない男性の前線要員だ。とはいえスターズ分隊、ライトニング分隊に所属しているわけではなく、彼はフォワード陣を運ぶヘリパイロット兼スナイパーなのだ。
 今はほとんどスナイパーとして活躍しているらしい。非殺傷設定という便利な機能がある魔法と狙撃は相性が良いとして、質量兵器が禁止されている管理局では重宝されているそうだ。
 ちなみに俺はこの人に不思議な懐かしさを覚えたことがある。先輩というところや射撃が得意というところに。親しくしているのはそれも理由の一つなのかもしれない。
 加えて、下着をくれたのもこの人だ。無論、新品を。
「しっかしカズマもお疲れだな。あそこまでシゴキ上げられるなんて」
「いえ、俺がまだまだなだけですよ」
「ちげぇねぇ」
 ヴァイスさんが笑う。彼とは外見的な年齢はほとんど変わらないのだが、本人がベテランだからか、先輩みたいにして付き合っている。

274無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/06/03(水) 22:44:02 ID:XcU6r8Tw
「そういえばカズマが着てる服ってそのシャツとジーンズしか見ないな」
「これしか持ってないですから」
 俺の台詞に、ヴァイスさんは目を吊り上げた。
「買えよ!」
 当然と言えば当然の台詞が返ってきたのだった。



     ・・・



「――てなわけで、どこに買いにいけばいいんだ?」
 あれから約30分経つ。ヴァイスさんは今から仕事とかで何処かに行ってしまい、仕方なく食堂に来ていた。そしてそこにいた隊長陣とフォワード陣に説明していた所だった。
「それは大変ですー。今からリィンがお店を検索してあげるのです!」
 騒がしい喋り方をするこいつはリィンフォース・ツヴァイという。妖精みたいな身長で飛び回っている奴で、もちろん人間ではない。彼女はユニゾンデバイスなんだそうだ。
「ありがとう、リィン」
「でもそれなら誰か案内してあげた方がええな」
 はやてが腕を組んだ状態で発言する。確かに機動六課の敷地から出たことがない自分には案内人がいた方が良いだろう。
「それならヴァイスさんを――」
「ヴァイス君はいないよ。確か三日間出張だって」
 魔導師として復帰してから忙しいんだよ、と続けるなのは。
「なら私が案内しようか? クラナガンに用事あるし、先日の詫びも含めて」
 そう提案するのはフェイトだ。彼女も前に俺のことをあれこれ勘繰っていたことをこっそり謝ってきたのだが、ティアナやスバルのような必死の形相みたいな感じではなかったからか、応対もしやすかったのを覚えている。
 彼女なら用事と重なるみたいだから問題ないか。
「じゃあお願――」
「あたしが行きます!」
 いきなり大きな声が鼓膜を揺さぶった。
 出したのは意外な人物だった。
「ティア?」
「あたし、クラナガンのお店とか結構詳しいですし、その、迷惑もかけましたし……」

275無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/06/03(水) 22:44:49 ID:XcU6r8Tw
 途中で尻すぼみになっていくティアナ。だんだん恥ずかしくなってきたのか頬が赤い。隣でスバルも唖然としていた。
 しかし何故にティアナが?
「わ、わかった。じゃあティアナ、頼むよ」
 俺もここで断るのは悪いと思ったので、その好意に甘えることにした。
 これが冒頭に至るまでの経緯だった。



     ・・・



 クラナガンというミッドチルダの首都に行く方法は、なんとバイクだった。ヴァイスさんのバイクを借りて行くらしい。無論、ティアナは免許を持っているそうだ。
「あたしの後ろでしっかり捕まってなさいよ」
 そう言いながら真紅のバイクに跨がるティアナ。自分の知識とは違う独特なハンドル。独特な形状。
 やはり俺はこの世界に住んでいた訳ではなさそうだ。
 ゴーグルと帽子を投げ渡される。着けろということか。
「ヘルメットとかないのか?」
「あるけど、あたしは持ってないわよ?」
「なら仕方ないな」
 頼りないが無いものはどうしようもない。
 俺はゴーグルとヘルメットを付けるとティアナの後ろに飛び乗った。
 セクハラで訴えられたくないのでバイク側面のグラブバーを掴む。
「二人とも、気を付けてね」
 声をかけてきたのはフェイトだ。なのはは今訓練中で送りにはこれなかったのだ。代わりにフェイトは自分が外出の用事もあるのでセットで見送りに来てくれたわけだ。
「はい、行ってきます!」
 ティアナが彼女に返事を返す。俺は片手を挙げてそれに応えた。
「行くわよ」
 ティアナの掛け声と共に、思ったよりもずっと軽やかなエンジン音が鳴りながら真紅のバイクは疾走を開始した。

276無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/06/03(水) 22:45:24 ID:XcU6r8Tw



     ・・・



「ふむ、ようやくか」
 男の見る先、モニターに緑色の怪人が移る。半透明の羽根と特徴的な足からバッタを連想させる外見。画面の隅には【Spade 5】と表示されていた。
他のモニターには様々な外見の怪人が映っている。
「記憶は再生する。君は私を恨むだろうな」
男が呟く。その壮年の顔は何所か笑っているようにも、泣いているようにも見える。
 コンソールを弄ると彼の目の前に広がる巨大なモニターに市街らしき俯瞰図と座標が表示される。青い光点と、赤い光点。それはいったい何を指しているのか。
 二つの点は、今一つになろうとしていた。



     ・・・



「広かったな〜」
 カズマが感心したよいに声を上げる。その両手に買い物の跡は全くない。ミッドチルダ転送魔法を応用した輸送システムが手ぶらの買い物を可能としている。
「まぁ、首都だしね。あそこのショッピングモール、良いのが置いてあったでしょ?」
「値段見ないで決めたけど良いのか?」
「アンタの給料から天引きされるだけよ」
「それを早く言えよ!」
 カズマとティアナ、二人は騒ぎ合いながら目的地へと向かっていく。ビル一つ丸ごと駐車場にした巨大な建物に。
 入った中は螺旋式構造になっており、二人はその中央を貫くエレベーターに入った。
「三階だったよな」
「当然でしょ」
 ティアナの言い方にカズマは顔をしかめるが、慣れたのか何も言い返さない。

277無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/06/03(水) 22:47:53 ID:XcU6r8Tw
 程なくして到着を知らせる鐘の音が鳴った。
「着いたわ。さ、行くわよ」
「ああ、どこに停め――」

 ――ドクン。

 今、カズマの何かが警鐘を掻き鳴らした。
「ティアナ! 何かいるぞ!」
「はぁ?」
 呆れたようにカズマを見つつも自らのデバイス、クロスミラージュを起動させて索敵を行うティアナ。彼女の相棒はすぐに回答を導き出した。
『There is unknown in this floor.』
「何ですって!?」
 己のデバイスの発言にティアナが目を見開く。
「なんで分かったの?」
「こっちだ!」
 ティアナの発言を無視し、カズマは何かに取り付かれたかのように走る。ぐるぐると、螺旋式の建物を回り込むように。
 そして到着した現場には、胸から血を吹き出す人間と、異形の怪人が存在した。
 昆虫を思わせる半透明の羽根、緑色の肢体、バネのような脚。
 怪人はカズマを見ると即座に羽根を展開して外に飛び出していった。

 ――ドクン。

「ティアナはそこの人を頼む! 俺はあいつを追う!」
「何言ってるの!? アンタは実戦に出たことすらないでしょ!」
「今あいつを追えるのは俺だけだ!」
 カズマはベルトに下げたウェストポーチからチェンジデバイスを取り出す。即座に変身して、背中のブースターを展開しながら怪人を追うために飛翔した。
 ティアナはそれを、口惜しげに眺めるしかなかった。

278無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/06/03(水) 22:48:27 ID:XcU6r8Tw



     ・・・



(俺はあいつを、あの化け物を知っている……?)
 カズマが胸中で自問する。その内容は彼の目の前を飛ぶ飛蝗似の怪人について。怪人はヘリポートらしい広いビルの屋上に降り立っていた。
 カズマも追随する形で屋上に降り、腰からナックルガードが不自然に喪失している剣を引き抜く。彼はその剣を構えながら、じりじりと距離を詰めていく。
(こいつは、俺の記憶の手掛かりなのか?)
 カズマの疑問は晴れない。だがやるべきことは変わらない。その剣を迷い無く構えたまま、怪人に向かって走り出した。
 怪人は小さな飛蝗を大量に発生させ、カズマの行く手を防ごうとする。だがカズマの進行は止まらない。
「うあぁぁぁぁ――!」
 剣を振り回して飛蝗を叩き落とす。例え斬撃を免れようと、それらが彼を阻むことは決して出来ない。カズマの強固なバリアジャケットの装甲は、そんなひ弱な飛蝗を全て弾いていく。
 怪人は飛蝗達での迎撃を諦めたらしく、カズマに蹴りかかった。
 激しい回し蹴り。
 だがカズマはその脚を避けながらカウンター気味に斬り返す。
「ギィィィィィ!」
 怪人の金切り声に近い叫び声が響く。鼓膜を揺らすそれにも怯むことなくカズマは剣を振り上げる。
『Slash』
「うぉあぁぁぁぁぁ!」
 青白い光を纏った剣が、怪人の腹を横断した。
「ギィィィアァァァ!」
 鼓膜が破れそうな断末魔と共に怪人は崩れ落ちた。
 バックルのような腰の装飾が二つに割れる。
「た、倒した……」
 ようやく倒した、とため息混じりにぼやきながら、すぐに通信の準備を始めるカズマ。だが――――

279無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/06/03(水) 22:49:10 ID:XcU6r8Tw
「ギィィイィィ!」
 ――――怪人は、再び脚を振り上げていた。
「な、ぐぁ!」
 カズマのがら空きの背中に怪人の蹴りがヒットし、吹き飛ぶ。その足の傷はすでに治っている。
 カシャン、とバックルが閉まる音が無惨に響いた。
(倒せなかった……!?)
 カズマが仮面の下で驚愕の表情を浮かべる。今完全に倒したと思い込んでいた怪人が、たった数十秒で再生するなど考えられなかった。
(いや、本当にそうか?)
 カズマが怪人を凝視する。
 特徴的な緑色の昆虫じみた肌。半透明の虫を思わせる羽根。そして、何らかの装飾品らしきバックル。
 そのバックルに、カズマの視線は吸い寄せられていた。

 ――アンデッドは絶対に死なない。

(何!?)
 自らの頭に浮かぶ知識。だが記憶を失っている彼には知る由もないもの。
 だが知っている。かつての自分が持ち得た知識。そう知っているはずだ。
「くっ!」
 再び蹴り飛ばされて剣を落とす。だがそんなことに構ってはいられなかった。

 ――アンデッドはカードに封印するしか倒す方法はない。

 次々と泡のように浮かび上がる知識。知っている。記憶を失ったから忘れたわけじゃない。これは、自ら封印した“知識”だ。

 ――そして封印できるのは仮面ライダーと……

 そして知識と共に断片的な記憶が蘇る。そう、それは最も封印しておきたかった記憶。
 知ることは罪だ。何故なら、知ればもう知る前には戻れないのだから。

 ――……ジョーカーだけだ。

 そうだ、俺は。

「うぁぁぁぁぁ!」
 カズマがベルトをむしり取り、変身を解く。だがそこには、新たなベルトが出現していた。
「あああああっ!」
 緑色の宝石を抱くハート型のバックルと金属質な帯で構成されたベルト。
 そこを起点に、一瞬にしてカズマの体が変わった。
「あぁぁぁぁあぁぁぁ!」
 透明なフェイスガードに守られた凶悪な吊り目。血肉を喰らい尽くすためだけにあるような鋭い歯牙。頭から伸びる噛み切り虫のような一対の触覚。緑色のしなやかな肢体。腕から生えた鋭利で長い刃物のような突起物。
 そんな外見に変貌したカズマが怪人に襲い掛かる。
 勝負は、一瞬だった。

280無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/06/03(水) 22:49:47 ID:XcU6r8Tw



     ・・・



「ティアナ? うん、うん……分かった。すぐ行くから」
 ティアナとの通信を切る。彼女からのエマージェンシー。カズマが一人で殺人未遂の犯人を追いかけているらしい。近くにいる私がすぐに救援に向かわなくては。
(でも、化け物ってどういう……ううん、今は目の前のことに集中しないと)
「バルディッシュ、行くよ」
『Yes, sir.』
 バルディッシュを起動、一瞬でバリアジャケットを装着する。三角形の飾りから戦斧へと変化したバルディッシュを片手に空に飛び上がる。
「はやて、緊急事態だから飛行許可を――」
『――もう取っとるよ。早くカズマ君を助けに行ってあげてな』
 はやての判断の迅速さは流石だ。現場が必要としているものを素早く用意出来る能力は、指揮官として無くてはならないものだろう。それをはやては若くしてすでに獲得していた。
「うん、ありがとう」
 もはや何の憂いもなく空を舞うように飛ぶ。六課最速の魔導師と言われるのだから、その名前に恥じぬよう早くカズマの元に駆けつけなければ。デバイスを起動しているのだろう、魔力反応も拾うことが出来た。
「見えた!」
 そこはミッドでもそれなりに大きい方のビル。頂上に広大なヘリポートがあり、そこにカズマの反応があった。……もっとも、数瞬前には反応が消えてしまったのだが。
(無事、かな)
 先程送っていったばかり故に、やはり気になる。
「カズマ!」
 ようやく辿り着いた屋上で、カズマは倒れていた。何か、カードらしいものを握り締めて。
「大丈夫? しっかりして」
 揺らしてみるが反応はない。けれど動脈を調べたらきちんと脈はあった。安心した。

281無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/06/03(水) 22:50:38 ID:XcU6r8Tw
(でも、どうして外傷もないのに気絶してるの?)
 追っていたらしい犯人も見当たらない。カズマが無事なのと犯人の不在という矛盾。まさかあの短時間でカズマを気絶させて逃走したというのか。なら何故カズマをわざわざ生かして……?
 だが考えにふけってばかりもいられない。私はカズマを抱き上げチェンジデバイスを拾うと、その場を後にした。



     ・・・



 ――来ないで、来ないで!

 ――よるな、化け物!

 ――近寄っちゃダメよ!

 ――知らない、お前なんぞ知らない!

 頭に響く怨嗟の声。老人、若人、男性、女性、その全てが俺を拒絶する。彼等は悲痛な叫び声を上げながら必死に逃げていく。追いかければ怖がられ、いるだけでも拒絶される。

 ――お前なんぞ消えろ!

 ――この化け物め!

「違う、違う! 俺は、化け物なんかじゃない!」
「か、カズマ君?」
「うわぁぁぁあぁぁぁ!」
 ベッドからカズマが飛び上がる。それを傍にいたシャマルが慌てて押さえ付けた。
「大……丈夫?」
 柔らかな金髪を揺らしながらカズマの顔を覗き込み尋ねる。その顔はすでに医師としてのものに切り替わっていた。

282無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/06/03(水) 22:51:16 ID:XcU6r8Tw
「違う、違うんだ……」
「分かってる。分かってるわ」
 シャマルがカズマの背中を擦る。しばらくそうしている内に、カズマは落ち着いていった。
「――シャマル、さん?」
「ようやく分かった?」
 彼の問いに柔らかな笑みを湛えながら彼女は答える。彼女はベッドから立ち上がり、デスクのチェアに腰掛けた。
「ここは、医務室、ですか」
「これで三度目よ。もう常連さんになってるわね」
 くすりと微笑みながら彼の状態をカルテに書き記していく。個人情報保護には電子媒体より紙の方が優れているため、彼女は紙のカルテに書き込んでいた。
「うなされてたみたいだけど、もう大丈夫?」
 その質問に表情を強張らせながらも答える。
「はい、もう大丈夫、です」
 シャマルはちらりと彼を覗きながらすらすらとペンを走らせていく。
 その時、唐突に医務室の扉が開いた。
「シャマル、カズマは……って、起きたの?」
「あ、ああ、今さっきな」
 入ってきたのはフェイトだ。
 カズマもシャマルも少し驚いた表情を浮かべる。特にカズマは意外な来訪者に戸惑い、応対もぎこちないものになっていた。
 もっとも、当人はおろかフェイトですらそのことに気付かないほど二人とも冷静ではなかったのだが。
「そっか、良かった。私が着いた時はすでに倒れてたから心配してたんだ」
 フェイトはここに来た経緯を話す。
 本当は事件の処理は執務官であるフェイト自身がすべきなのだが、ティアナは執務官志望であり、経験などを付けた方が良いとの判断で今回の事件の報告などはティアナが行うことになったらしい。
 そして手が開いたフェイトは気掛かりだったカズマの元へ来たと言うわけだった。
「ところで、どうしてあそこで倒れてたの?」
「それは……」
 口を開こうとしてそれが出来ず、顔を背けるカズマ。寝ていたにも関わらず彼の顔にはうっすらと隈が浮かび上がっており、表情は沈痛なものに歪められている。普段とはまるで別人になってしまったようだ。
「答え、たくない」
 いつものカズマからは考えられない変化。
 二人は、何も聞くことが出来なかった。



     ・・・



 自らの正体を思い出し、過去に押し潰されるカズマ。だが彼を嘲笑うように不死の怪人達は彼を奈落へ誘う。
 一方の六課も、本局から大事件の知らせが届いていた。

   次回『逃走』

   Revive Brave Heart

283無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/06/03(水) 22:57:25 ID:XcU6r8Tw
以上です。
今回で遂にカズマの正体を暴露しましたが如何だったでしょうか?
とはいえカズマの記憶はまだまだ穴だらけです。これからもお楽しみください。
御批評、御感想をお待ちしております。

284無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/06/03(水) 22:58:22 ID:XcU6r8Tw
これで代理投下分は終了です。
ではどなたか、よろしくお願いします。

285"IDOLA" came to magical land ◆iNYgbJQaCg:2009/06/03(水) 23:35:51 ID:GvJaNjzU
規制されました・・・代理投下お願いします。

286"IDOLA" came to magical land ◆iNYgbJQaCg:2009/06/03(水) 23:36:24 ID:GvJaNjzU

{大規模な時空震を確認しました!本部より南々東7kmより膨大な魔力反応あり!現在、目標の詳細を調査中!}
機動六課の隊舎で、アラームが鳴り響いた。
すぐさま六課の隊員は出撃の準備をし、八神はやての所に集まった。
「目標の解析が終わったらまずフェイトちゃんとスバルが出動して、フェイトちゃんは一足先に目標の確認。スバルはフェイトちゃんと合流した後、目標の調査や。調査物が危険物だったり、途中で襲われたりした場合は無理に応戦したり追撃するのはダメやで!もし二人じゃどうしようもなくなった時は、一旦本部に退くこと!」
はやてがそう言い終えると、いいタイミングでスピーカーから解析結果が流れた。
{出現した魔力反応を解析した結果、一つはロストロギア『ジュエルシード』と酷似しています!もう一つは解析しましたが、過去のデータに同じようなロストロギアの存在は確認できません!}

ジュエルシードと聞いた途端、フェイトの頭の中でパニックが起きた。
現在六課が管理しているジュエルシードは12個である。
21個あるジュエルシードの内、確認できてないのは9個、その中にはもちろんフェイトの母親のプレシアの分も含まれている。
母の形見と言える物が今、この世

287"IDOLA" came to magical land ◆iNYgbJQaCg:2009/06/03(水) 23:37:06 ID:GvJaNjzU

{大規模な時空震を確認しました!本部より南々東7kmより膨大な魔力反応あり!現在、目標の詳細を調査中!}
機動六課の隊舎で、アラームが鳴り響いた。
すぐさま六課の隊員は出撃の準備をし、八神はやての所に集まった。
「目標の解析が終わったらまずフェイトちゃんとスバルが出動して、フェイトちゃんは一足先に目標の確認。スバルはフェイトちゃんと合流した後、目標の調査や。調査物が危険物だったり、途中で襲われたりした場合は無理に応戦したり追撃するのはダメやで!もし二人じゃどうしようもなくなった時は、一旦本部に退くこと!」
はやてがそう言い終えると、いいタイミングでスピーカーから解析結果が流れた。
{出現した魔力反応を解析した結果、一つはロストロギア『ジュエルシード』と酷似しています!もう一つは解析しましたが、過去のデータに同じようなロストロギアの存在は確認できません!}

ジュエルシードと聞いた途端、フェイトの頭の中でパニックが起きた。
現在六課が管理しているジュエルシードは12個である。
21個あるジュエルシードの内、確認できてないのは9個、その中にはもちろんフェイトの母親のプレシアの分も含まれている。
母の形見と言える物が今、この世界に現れたのだ。

―――もし誰かに奪われたら?
「・・・イト・・・・・・」
―――もし何かが原因で壊れたら?
「・・・・イト・・・ちゃん」
―――もしこの世界から消えてしまったら?
「フェイト・・・・ちゃん」
―――もしこれが最後のチャンスだったとしたら?

「フェイトちゃん!」
「えっ?」
フェイトは漸くはやての声に気がついた。
「大丈夫ですか、フェイトさん?」
後ろからはスバルが声をかけている。
「ごめん、ちょっと考えごとしてて・・・」
「今はそんなことしてる余裕は無いで!」
そう言うとはやては、中央のモニターを指差した。
そのモニターでは出現したロストロギアが点で表示されてる他に、二つの小さな点がそれに近づいていた。
「誰かがロストロギアの反応があった場所に近づいとる!少なくとも管理局の人じゃないのは間違いないわ!このままだと危険や!」
はやてがそう言うと、フェイトとスバルはすぐに本部を飛び出した。

288"IDOLA" came to magical land ◆iNYgbJQaCg:2009/06/03(水) 23:37:40 ID:GvJaNjzU

一方、モニターに映っていた二点の正体であるナンバーズのセインとウェンディは、反応があった場所に到着すると、その目標の異様さに息を呑んだ。

そこに居たのは、毒々しい色の巨人だった。
右手は、刃は白く、刀身は黒い大剣と同化していて、左手はボウガンのような形をしていた。
体のあちこちに黄色や緑色の模様があって、何かが流れてるように見える。
胴体の部分に口みたいなのが付いており、頭には目らしい黄色の模様以外は何も無い。
こう説明すると、ただの気持ち悪い生物にしか見えないが、セインとウェンディは、そこから溢れ出る神々しいのか、それとも逆なのかわからない威圧感で、そんなこと考えもしなかったようだ。
「うわぁ・・・息苦しい・・・」
「さっさと目標物を手に入れて帰りたいッス・・・」
二人がそう愚痴ると、セインはジュエルシードを探しだした。
ウェンディは巨人の左手に近づき、ライディングボードでボウガン状の手の弓の部分を削り取ろうとした。が、硬くて中々削れない。
「ここらへんに落ちてたはずなんだけどなぁ・・・」
一方、セインはジュエルシードを探していたが、見つからない。

ウェンディが、やっと押せば折れそうな細さにまで削ったところでスカリエッティから連絡が入った。
『あと一分ぐらいで六課のお出ましだよ。目的の物は取れたかな?』
「「あと一分!?」」
ウェンディとセインがハモると、ウェンディは焦ってライディングボードを折れそうな部分に楔のように差し込んで、ボウガンの弓の部分を押しだした。
へし折るつもりだ。
セインも先程よりもよく見て落ちてないか再確認した。
しかしウェンディの方は予想外の抵抗を受け、力を込めるも折れず、セインも結局同じ場所を回るだけとなった。
「セイン!ちょっと手伝ってくれないッスか!?」
「ちょっと!ジュエルシードはどうするの!?」
「見つかるかわかんないのより見つかっていてもうすぐ取れるやつの方が確実ッスよ!そんなことより早くして欲しいっす!六課が来るッスよ!」
「うぅ・・・姉の威厳が・・・」
最終的にはセインがウェンディを手伝うことになったが、押している間も「威厳が・・・」と呟いていた。

289"IDOLA" came to magical land ◆iNYgbJQaCg:2009/06/03(水) 23:38:32 ID:GvJaNjzU

フェイトが到着すると、まずは巨人の威圧感に圧倒されたが、立ち止まってる場合じゃないと自分に一喝し、再び歩き始めた。
そしてよく近づいてみると、巨人の左手の辺りで何かしているセインてウェンディの姿を確認できた。
まだフェイトには気づいてないようだ。
フェイトはこれを好機に、頭を下げて巨人に身を隠しながら徐々に近づいた。

「ウェンディ!まだ取れないの!?」
「もう少しッス!」
残り10mの所でフェイトは二人が何をしているのかがやっとわかった。
(どうしてあんなのを・・・)
フェイトがそう思った次の瞬間

パン

「っ!?」
突如フェイトの近くで爆竹を鳴らしたような音がした。
これはウェンディが予め巨人の周囲に仕掛けておいた罠である。
彼女のISを応用させた技であるフローターマインを可能な限り小さくして、よく目を凝らして見ないとわからないようにする。
もちろんそこまで小さくすれば殺傷能力はなくなるのだが、音が鳴るので、例え姿が見えなくても誰かが来たのがわかるようになっている。

ポキッ

フローターマインの音と同時に、左手の弓部分が折れた音が響いた。
「やったッス!折れ「ウェンディ!」―えぇ!?」
セインはフェイトに気づいてないウェンディを掴み、ライディングボード、そして折れた部分を拾うと、そのまま地面へと沈んでいった。


フェイトは突如鳴った炸裂音のせいで二人組にばれ、戦闘もできずに逃がしてしまった。
地面に潜って逃げたということは、本来驚くべきことなのだが、今のフェイトの頭には後悔と挫折感しか入ってなかった。
(考えてたことが本当になっちゃった・・・)
再び母の形見から離れてしまった。
そんなことで頭がいっぱいなフェイトに通信が入る。
通信の主ははやてだ。
{フェイトちゃん!何があったんや!}
「はやて・・・ゴメン、ジュエルシードが・・・」
{ジュエルシードの反応ならまだあるで!}
「えっ!?」
フェイトはその言葉を聞いて、驚くと同時にとても安心した。
(そっか・・・まだ取られてなかったんだ・・・)
{今、ジュエルシードやない方の魔力反応が急激に上がったんや!}
「それってどういうこと!?」
ジュエルシードじゃない方と言ったら、恐らくこの巨人のことだろう。
その魔力が急激に上がったとは一体どういうことなのだろうか?

290"IDOLA" came to magical land ◆iNYgbJQaCg:2009/06/03(水) 23:39:18 ID:GvJaNjzU
まさか動き出すとかそういう類だろうか?
{わからへん!一体そっ――は何―――} 「はやて!?」
通信妨害だろうか、急にノイズが混ざり始めた。
そして完全に通信が遮断されると、次に巨人の体が光り始めた。
フェイトは暫く唖然としていたが、光り始めると同時に巨人の胸の上でより光り輝くものを見た時、その顔が呆けた表情から驚きの表情に変わった。
「あれは・・・ジュエルシード・・・!」
それは光っていて曖昧にしか見えないが、それでも見間違えるわけもなかった。
尚も光り続ける巨人の体にジュエルシードが近づき、そして触れると、巨人の体が一瞬にして水晶のような透けた体となった。
そして徐々に巨人は透明になっていき、最後には完全に消えた。
だが何もかも消え去ったわけではなかった。
ただ一人、老人が倒れ伏していた。


「フェイトさん!大丈夫ですか!?」
スバルが驚いた表情のまま立ちすくんでいたフェイトに声をかけた。
「スバル?」
どうやらフェイトの耳に届いたらしく、フェイトが返事をする。
「ここに向かう途中でいきなり通信が途絶えるんですから、びっくりしましたよ」
「私もはやてとの通信がいきなり切れたし・・・あっ!」
突然何か思い出したような声を出すと、フェイトは先程まで巨人がいた場所を指差した。
そこには倒れている老人が一人いるだけであった。

「そ、そんなことがあったんか・・・」
その後、通信が再び繋がったので、急いで救護班を呼ぶと、フェイト達も六課本部へと帰っていった。
本部に着くと、まずフェイトは今までのことを話しはじめた。
最初に二つの魔力反応の内、一つは見るのも悍ましい巨人だったこと。
次に巨人から何かを取って逃げていった二人のこと。
そして巨人が消えたと思ったらいきなり現れた老人のことだ。
「あかん、さっぱりわからんわ」
「確かに信じれられない話だね・・・」
やはり起きた出来事があまりにも常識はずれなのか、どうにも信じられないといった様子である。
フェイトもなのはとはやてに同意する。
だとしたら残る術は、現れた老人に聞くことだ。
今は意識を失っているが、じきに回復するだろうとシャマルは言っていた。


「ちょっとはやてちゃん、来てくれる?」
解散後、はやてはシャマルに呼び出された。
「なんや?もしかして目覚めたとか?」
そうはやてが言うと、シャマルは首を横に振ってこう言った。

「それがね・・・彼、人じゃないみたい」

291"IDOLA" came to magical land ◆iNYgbJQaCg:2009/06/03(水) 23:40:18 ID:GvJaNjzU
―――――――――――――――――――――――――

薄暗く、長い廊下をセインとウェンディは、歩きながら喋っていた。
「にしても今日のセインはかっこよかったッス!!」
「あの時はウェンディが罠を仕掛けてなかったらやられてたよ」
「だけどセインが気づいてなかったらやばかったッスよ!」
「はは、ちょっと照れるなぁ」
そんなやり取りをしていると、やがてスカリエッティの研究室に着いた。
研究室にノックして入ると、スカリエッティが正面の椅子に座っていた。
「セインにウェンディか。目標物は手に入れたかい?」
「それが、ジュエルシードの方は邪魔が入って・・・」
「でも、もう一つの方は持ち帰りましたッスよ!」
そうウェンディが言うと、右手に持ってたものをスカリエッティに渡そうとした。
スカリエッティは受け取ろうとしたが、ウェンディの手を見た瞬間、手を引っ込めた?
「どうしたんッスか、ドクター?」
ウェンディがスカリエッティの顔を見ると、そこには新しい実験体を見つけた時の、狂気の笑顔があった。
「いや、なんでもない。それよりそれはあっちのテーブルに置いてくれ」
ウェンディは不思議に思いながらも、スカリエッティが指差した方向にあったテーブルの上に置いた。
すると次にスカリエッティは笑みを含みながらこう言った。

「クク・・・ウェンディ、一度右手をよく見てみるといい。ひどいことになってるよ」

―――右手?
ウェンディはそう言われて、右手を見てみた。

「なっ!?」
右手は既に侵食されていた。
紺色の斑点が既に手首にまで到達していて、そこが岩のように硬質化していた。
手の甲が痛々しく見える程隆起しており、あと少しで皮膚を突き破りそうな―――否、今突き破った。
皮膚を突き破った骨格は黄色で、内側から光を放ってるようだった。
「い・・・いやぁぁぁああ!」
ウェンディは悲鳴をあげた。
だがその悲鳴は痛みによるものではなく、むしろ痛くないどころか、何も異常を感じなかったからこそ恐怖を感じた。

―――これが"いつもの"手である―――

そんなことをほんの少しでも頭を掠めたとき、ウェンディは今までにない恐怖を味わった。
「ウェンディ!」
セインがその場に座り込んでしまったウェンディの肩を揺さぶり、正気に戻そうとした。
だが、以前としてウェンディは虚ろな目をして自分の手を見つめたまま、「手が・・・」と呟くだけだった。

292"IDOLA" came to magical land ◆iNYgbJQaCg:2009/06/03(水) 23:42:07 ID:GvJaNjzU
スカリエッティはというと、まるで子供が新種の昆虫を見つけた時のような笑顔をしていた。
ただし、子供と違うのはその中に狂気を含んでいるということであった。
「セイン、ウェンディを急いで調整槽に連れていってくれ。ああ、入れる前にその右手をどんな方法でも構わないから切り離してくれよ。調整槽まで異常を起こさせないようにね」
セインは「調整槽に」とスカリエッティが言ったところでもう動きだしていた。
スカリエッティがそれに気がつくと、やれやれと言った感じで首を横に振った。

「さあ、一体何に侵食するのかな?」
スカリエッティはガジェットを使い、培養液に満たしたカプセルの中に例の物を入れた。
とりあえず戦闘機人であるウェンディが内部までも侵食されてたところから、機械と人の細胞には確実に憑くと把握していた。
今更ながらとても正気で扱える物体じゃないなとスカリエッティは笑いだした。
人に寄生する虫がいることは知っているが、それが細胞に劇的な変化を齎したことなど聞いたことがない。
ましてや無機物にまで反応を示すなど、本当にこの世の物かと問いたくなる。
そうスカリエッティ思った。
だが彼のコンソールを叩く手は止まらない。
科学者なら、例え外道に堕ちた者であろうとも、未知の物体に好奇心を持つのは当たり前である。
その性質が不明であるほど好奇心は風船のように膨らむ。
スカリエッティは様々な物をカプセルに入れてみたところ、次のような結果が得られた。

1.この断片には魔力を吸収する力がある。
 リンカーコアを入れてみた結果、断片はアメーバの様に広がり、これを取り込んだ。
 数分すると、小さな石のような物を吐き出した。
 リンカーコアの残骸のようだ。
2.魔力を吸収すると、断片は変形していき、やがて凸凹の球体のようになった。
 その時の大きさは変形前より大きくなっていた気がした。
 魔力量によって違いが現れるのだろうか?
3.この断片はかなりの生命力がある。
 試しに電流を流し、熱を加え、逆に冷やしたりもしたが、それによる反応はまったくといっていいほどなかった。

「ククク・・・魔力が糧とは・・・まったく素晴らしいな・・・」
スカリエッティはこのことをまとめると、研究室を後にした。
明日には何をしようか?スカリエッティの考えてることはそんなことだろう。
誰もいなくなった研究室で、あの断片は何もなかったかのごとくプカプカと浮いていた。

293"IDOLA" came to magical land ◆iNYgbJQaCg:2009/06/03(水) 23:42:43 ID:GvJaNjzU
投下完了です。

前のよりはよくなったハズですが・・・。

迷惑をかけるようなことをしてすいません。
次からは気をつけます。

294"IDOLA" came to magical land ◆iNYgbJQaCg:2009/06/03(水) 23:43:53 ID:GvJaNjzU
これで今回分は終了です。

書き直した上に規制で書き込めなくなって、揚句の果てに代理投下依頼でミスるとか・・・orz

295無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/06/04(木) 07:10:15 ID:UIx.7FaY
自分のもIDORAさんの前に依頼しています。

どなたか代理投下お願いします。

296無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/06/04(木) 19:24:16 ID:UIx.7FaY
新スレも立ちましたので、代理投下お願いします。

297魔法少女リリカル名無し:2009/06/04(木) 20:07:08 ID:6a2hu7Fo
じゃあいくよ。

298無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/06/04(木) 22:57:27 ID:UIx.7FaY
確認しました。
ありがとうございました。

299高天 ◆7wkkytADNk:2009/07/11(土) 23:36:36 ID:mS5b5FRM
すみません、さるさんをくらってしまいました。
代理投下をお願いいたします
------------------------------------------------------------


・一週間後

ナイトガンダムが仲間と合流し、共にラクロアへと帰還するが、其処にあったのは王国ではなく、平地と無数の瓦礫だけであった。
僧侶ガンタンクの説明から、この一件には『伝説の巨人』が関係している事を聞いたナイトガンダム達は
休む間も無く、巨人を倒す手掛りを持っているであろう『ルホイの星』を探す旅に出た。

一方、残ったガンタンクは城の兵や僧侶、動ける民を指揮し、救援活動、物資の調達、救援諸国への援助要請
など多忙な日々を送っていた、そんな時である。

「ガンタンク様!この薬草でしょうか?」
「・・ああ、間違いない、直ぐに収穫をしてくれ」

今のラクロアには圧倒的に物資が足りなかった、その中でも医薬品の数は絶望的で怪我の人数からして圧倒的に足りなかった。
瀕死の者や重傷者などには城の僧侶が付きっ切りで看病しているため、手遅れで死亡という自体にはならなかったか、
骨折や打撲などの死ぬことが無い怪我の者には少ない薬でどうにか凌いでもらうしかなかった。
痛み止めも無いため、野戦テントからは痛みによるうめき声が後を経たなかった。

先ほどガンタンクが見つけた薬草は処方すれば良い痛み止めになる。
あの兵士の話した量からするに隣の国からの物資補給までには十分持つ量だ。
「さて、私も帰っ!?」
帰ろうと仲間の元へ行こうとした直後、彼の後ろの森林が眩く光りだした。
何かと思い杖を構え振り向くが、光は既に消え、何事も無かったかのように静けさを取り戻す。
「・・・ジオンの魔術士か?だか、何故襲ってこない?」
サタンガンダムを倒したとはいえ、ジオン族やそのモンスターが襲ってくることがなくなったわけではない。
だからこそ、今の光もジオン族の魔術士の攻撃ではないかと疑ったが、一向に攻撃が来ない所か姿すら現さない。
不審に思いながらも、ゆっくりと光が発生した方へと足を勧める・・・・・・・・すると
「なんだ・・・・これは・・・・」
其処にはジオン族の魔術士などいなかった。其処にいたのは二人の人間・・・親子だろうか?
色々不審な点はあるが、この二人をこのままにしておくわけには行かない、特に親である女性の方はこのままでは死んでしまう。
小さな女の子の方は魂が抜けている症状に酷似しているが、助けられないことは無い。
「こっちに来てくれ!!!重傷の旅人の様だ!!!」
大声で仲間を呼ぶと同時に、ガンタンクは大人の女性の方に回復魔法を施す。
「・・・ただの旅人ではなさそうだな・・・・・」
彼がそう思うのも無理は無い、旅荷物は無論、彼女達の格好がそう思わせる。
大人の女性の方は黒い服にマントを羽織っただけの格好、とても旅人とは思えないし旅荷物も一切見当たらない。
そして小さな女の子の方は裸、割れた大きなガラスケースの様な物の中で蹲っていた。





こんばんわです。投下終了です。
読んでくださった皆様、ありがとうございました。
編集、いつもありがとうございます。
職人の皆様GJです。
SDXスペリオル、メッキか・・・・手袋つけてくれorz

このクロス作品を読んで頂きまことにありがとうございました。
どうにか無事完結することが出来ました。

続編は・・・・・・・・考えています

-------------------------------------------------------------------------
よろしくお願いいたします

300高天 ◆7wkkytADNk:2009/07/11(土) 23:56:57 ID:mS5b5FRM
どうにか自己解決できました
お騒がせしました。

301魔法少女リリカル名無し:2009/07/12(日) 21:12:23 ID:vQrkzhPw
規制中で書き込めないのでここに書けばよいのでしょうか?
みなさんの作品を読むうちに触発されて予告風ですけど書いてみました

ーーー
それは、私ら機動六課にもたらされた、もう一つの事件……

きっかけは、JS事件解決後の復旧の最中に確保したロストロギア……

ロストロギアの発動により、ミッドチルダへと呼び込まれる少女たち……

事件はその少女たちを中心に大きくなっていく……

ミッドチルダに煌く、異世界からの少女たちの閃光……

紫……青……黄……黒……赤……白……

それぞれの輝きを纏い、戦う六人の少女……

「ご奉仕させていただきますわ!!」
「ドキドキするっしょー!」
「いじめないでいじめないでいじめないでー!」


「おい!てめー!さぼってんじゃねーよ!」
「いやいや、小隊長殿の活躍の場を奪ないようにしないとね」
「はいはーいみんな仲良くですよー」


魔法少女リリカルなのはシュピーゲルはじまります……




「あぁー……世界とか救いてぇー……」

ーーー
クロス元は、「オイレンシュピーゲル」&「スプライトシュピーゲル」です

302R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/07/12(日) 21:57:34 ID:TfsCCoXA
それでは投下します



ウィンドウの向こう、巨大な戦艦を中心とした総数12隻から成る艦隊が、港湾施設より出港してゆく。
微速航行するそれら艦艇の所属は、管理局から各次元世界、そして地球軍まで多岐に亘っていた。
その殆どは人工天体内部へと転送され、バイドによる模倣の基となっていたオリジナルである。
艦隊旗艦に抜擢された全長1830mにも達する巨大な戦艦は、第148管理世界に於いて管理局への通達を行わずに建造された違法艦艇、空母型戦闘艦「ウォンロン」だ。
第148管理世界本星ではなく衛星上の基地にて秘密裏に建造されたこの艦は、アルカンシェルに匹敵する戦略魔導兵器のみならず、核弾頭を始めとして膨大な数の質量兵器と艦載機を搭載する戦略艦だったらしい。
此処十数年に亘って違法艦隊を保有しているのではないかとの疑惑が囁かれてきた当該世界だが、これ程までに強大な戦闘艦を有している等という事実は管理局の知るところではなかった。
それだけに、厳重な情報統制が為されていたのだろうと予測できる。

第148管理世界にとっての不運は、次元世界に於ける試験航行中にウォンロンが隔離空間へと転送されてしまった事だろう。
ランツクネヒトが提示した生存者の証言記録によれば、転送は26日前の事らしい。
そして混乱の最中、艦は中枢系に異常を来し始めた。
先ず緊急用隔離壁が作動、乗組員は館内各所にて孤立。
動力系統がダウン、循環システムの停止により全乗組員の2割が窒息死する。
残る乗組員はエリア毎の非常用電力供給システムの起動に成功したが、その後に彼等を待ち受けていたのは更なる脅威だった。
都市部等で運用する対人掃討機、即ちマンハンターが起動し、艦内の人間を狩り始めたのだ。
その他にも艦自体のセキュリティ、更には対BC防御システムまでもが生存者に牙を剥いた。
結局、アイギスによってウォンロンの出現を察知したランツクネヒトが艦内へと突入した時、生存していた乗組員の数は全体の1割にも満たない僅か52名。
内6名は後に、この時の負傷が原因となって死亡してしまう。

ランツクネヒト、そしてコロニー群に身を寄せる生存者にとっては、ウォンロンの転送は思わぬ幸運だった。
旗艦となり得る主力戦闘艦がL級次元航行艦1隻という状況下で、戦略兵器を満載した大型戦闘艦が現れたのだ。
彼等はウォンロンの生存者を収容した後に艦内を制圧し、一部制御系統を破壊する事で除染に成功。
生存者の協力の下に、カタパルトを始めとする各種設備の改修を経て、艦をコロニー防衛艦隊へと組み込んだ。
そして今、ウォンロンは無数の機動兵器と22機のR戦闘機を搭載し、脱出艦隊の旗艦として作戦行動に当たっている。

「・・・これが3時間前の映像だね」

ウィンドウを閉じ、自身の隣へと視線を移す。
青の髪、赤の髪。
無言のままにウィンドウを見つめていた2人に、彼女は気遣わしげに言葉を掛ける。

「・・・大丈夫?」

返す視線は、何処か虚ろだった。
1人はウィンドウの消えた中空から、もう1人は自身の掌から視線を外して彼女を見やる。
どうやら聞こえていなかったという訳ではないらしく、返答は確りとしたものだった。

「私達は大丈夫です。それよりも、なのはさんはどうなんですか? 軽い怪我ではなかったと聞きましたけど」

逆にこちらを気遣う言葉に彼女、なのはは苦い笑みを浮かべる。
彼女が目覚めたのは約21時間前、目前の2人より12時間遅れての覚醒だった。
完治までに要したその時間は、彼女が負った傷の重大さを意味している。
しかし状況の把握と前線への復帰については、2人よりもなのはの方が早かった。
無数の検査を受けねばならなかった2人とは異なり、彼女の場合は30分で全ての検査が終了してしまったのだ。
結果として2人の前線への復帰は約2時間前の事となり、今はこうしてなのはから状況の説明を受けている。

「大丈夫、もう完璧に治ったよ・・・ちょっと違和感はあるけどね」
「あはは、良く解ります」

そう言って朗らかに笑う彼女、スバル。
だがなのはは、その笑顔が作られたものだと見抜いていた。
その表情の裏に、色濃い苦悩が渦巻いているのだと。

303R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/07/12(日) 21:58:20 ID:TfsCCoXA
無理もないだろう。
ナノマシンによる高速復元を受けただけのなのはでさえ、自身の身体が数十時間前のそれと同一のものか否か、判然としない感覚を味わっているのだ。
況してやスバルとノーヴェは、脳髄を除く全身を再構築するという、治療とも呼べない異常な方法で生命を取り留めている。
長年に亘り苦楽を共にしてきた身体を本人達すら知り得ぬ間に奪われ、意識が回復した時には全く新しい身体が与えられていたというのだから、彼女達の受けた衝撃は如何ばかりのものか。
驚く程に違和感はないと語ってはいたが、その事実は何ら救いとはなり得ない。
彼女達がこれまでの人生を刻み込んできた本来の身体は、もはや永遠に失われてしまったのだ。
変わらぬものは、自身ですら認識する事が叶わぬ脳髄だけ。
極論してしまえば、それすらも本当に自身のものであるか否か、確かめる術は無いのだ。

そして彼女達が苦悩しているのは、その事実だけではあるまい。
現在は脱出艦隊と共にある、計9機の無人R戦闘機。
その制御中枢として用いられたという、スバルとノーヴェの体組織を用いた培養体。
戦闘機人として有する無機構造物との高度癒着性ゆえ、脳髄のみの存在として生み出された彼女等は自己の意識を持つ事すら許されずに加工され、唯バイドと戦う為だけの生命として変貌させられたのだ。
否、地球軍の例を鑑みるに、生物個体としての認識があるか否かも怪しいものだろう。
良いところ、単なるR戦闘機の一構成部位という認識かもしれない。
自分自身、或いは姉妹とも云えるそれらが単なる部品として扱われているという事実をどう受け止めれば良いのか。
2人は導きだせる筈もない答えを探し出そうと、必死に思考の闇を掻き分けているのだろう。

「・・・それで、アタシ達は此処で何をすれば良いんだ?」

暗く沈みゆく思考を引き上げるかの様な、ノーヴェの声。
彼女は自身達をこの場、即ちコロニー外殻へと運んできた強襲艇、そのタラップを降りるランツクネヒトの人員を見やっていた。
その声には怒気も敵意も感じられなかったが、常からの彼女の苛烈さを知っている身としては、逆にそれが良からぬ傾向に思える。
彼女もまた、自己の同一性について苦悩しているのか。

「外部からの救出部隊が到着するまでコロニー群を護る事、それが私達の役割だね。宙間戦闘はR戦闘機や艦艇の土壇場だから、私達は此処に取り付く小型から中型の機動兵器を排除する」
「防衛衛星は?」
「アイギスの兵装は威力が大き過ぎて、コロニーに取り付いた敵を撃つ事はできない。其処で、小回りの利く魔導師と小型機動兵器の出番って訳」
「ランツクネヒトのR戦闘機部隊はどうしているんです」
「「ヴィルト」隊と「ドロセル」隊は脱出艦隊の方。「シュトラオス」隊はアイギスと一緒に宙間防衛任務に就いているよ。此処に居るのは「ペレグリン」隊の4機、後は「ヤタガラス」だね」

言葉を紡ぎつつ、なのははランツクネヒト所属のR-11Sと、約26時間前に新たに合流を果たした地球軍所属のR戦闘機の映像を表示してみせる。
だが地球軍のR戦闘機の映像を目にするや否や、スバルとノーヴェの視線が剣呑な光を帯びた。
スバルは驚愕に、ノーヴェは敵意に満ち満ちた眼で、ウィンドウ上に映る黄色の塗装を施された機体を見据える。
そしてなのはにとってもその機体は、決して好ましくはない記憶と共に脳裏へと刻み込まれたものだった。
機体各所に張り巡らされたチューブ、複数の放熱機とタンク、キャノピー下部のノズル。
忘れはしない、忘れられる筈もない。

「R-9Sk2 DOMINIONS」
主天使の名を冠されし異形、業火を支配する機体。
嘗て第4廃棄都市区画を焼き尽くし、その炎によってなのはをも追い詰めたそれ。
3本の脚を持つ烏のエンブレムが刻まれたその機体は今、映像の中のそれと寸分違わぬ姿を彼女達の頭上に現わしていた。
航空機の尾翼を思わせる3つのコントロールロッド、各々のロッド左右に位置する計6枚の翼状放熱フィールド、それらを備えた巨大なフォース。
9つもの翼を広げる異形の影は、成程、日本神話にあるという三本脚の烏を思わせるものと捉えられるかもしれない。
神話の八咫烏は太陽の象徴であるとの事だが、こちらもまたトカマク型核融合炉を内蔵した機体だ。
だが同じ原理、同じ力を司る神の名を冠されているとはいえ、その機体の全貌からは神々しさなど全く感じられず、寧ろ禍々しさと質量兵器特有の無機質さが際立っている。

304R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/07/12(日) 21:59:01 ID:TfsCCoXA
何よりこの機体の存在を認め難い理由は、複数の同型機がクラナガン西部区画に対し、無差別砲撃を繰り返していた事実が記録映像より判明している事だ。
それらの砲撃は撃墜した汚染体の焼却が目的だったらしいが、クラナガン市民の生命を完全に無視したその凶行によって、少なくとも4万人が行方不明となっている。
死者よりも行方不明者の数が圧倒的に多い理由は、5,000,000Kにも達する超高温の炎によって、犠牲者の身体が区画ごと消滅してしまったからに他ならない。
どうやらなのはを砲撃した際には数千度にまで熱量を抑えていたらしく、更に西部区画でのそれについても最大出力での砲撃であったかは疑わしい。
何せあの機体には、熱核融合炉が搭載されているのだ。
熱核融合の励起には100,000,000K以上もの熱が必要である事を考慮すれば、最大出力での砲撃時には他のR戦闘機をすら凌駕する圧倒的、破滅的な破壊を齎すものと予想できる。
否、砲撃に波動粒子をも用いている事を考慮に入れれば、破壊の規模はその予想をすら上回るかもしれない。

「・・・このコロニーごと焼き払うつもりですか、彼等は」
「流石に出力は制限されているって話だよ。まあそれでも、巻き込まれたら一巻の終わりなのは変わりないけれど・・・私達も、ランツクネヒトもね」

ウィンドウを閉じ、息を吐く。
空洞内部は無重力だが、大気が在る為に呼吸は可能だ。
現在地であるコロニー外殻は人工重力が発生しており、その影響範囲は外殻から200m以内の宙間にまで及ぶ。
よって魔導師や歩兵、各種陸上機動兵器は、通常の感覚で行動する事が可能となっている。
なのは達は此処で、アイギスと艦隊、そしてR戦闘機による防衛網を突破し、外殻からコロニー内部へと侵入を図る汚染体を迎撃するのだ。

「それにしても・・・敵は本当に、あの防衛網を突破してくるんですか? 核弾頭とレーザー、おまけに電磁投射砲と波動砲にアルカンシェルですよ」
「それでもかなりの数が突破に成功するみたい。敵の物量が圧倒的過ぎて、どんなに少なくても3%近くがコロニーに取り付くらしいよ」
「具体的にはどれ位なんだ」
「小型の汚染体が300から400、50m級が約20、稀に100m以上が1体から2体」
「・・・3%でそれかよ」

うんざりとした様子で呟くノーヴェを横目に、なのはは頭上のヤタガラスを見上げ、次いで外壁の彼方を飛ぶ小さな影を見据える。
このコロニーは直径6km、全長は54kmに達する円筒形だが、彼女達の現在地はその端部だ。
その影が飛んでいるのは外殻中央、約27km離れた地点の筈だが、微かに視認できるその影はR戦闘機と同等か、或いは一回りほど大きい。
しかしその飛び方は、どちらかと云えば有機的な物を感じさせた。
悠々と宙を舞う影の傍には、それよりも少し小さな影が寄り添う様にして付き従っている。

「ヴォルテールとフリードですね」

スバルから掛けられた言葉に、なのはは無言のままに頷く。
真竜ヴォルテール。
第6管理世界、アルザスの守護竜。
竜召喚士であるキャロの命によって召喚され、彼女の障害を打ち砕く黒き竜。

「あれ、ルーお嬢の白天王をやった黒い奴か? 何で此処に居るんだよ」
「召喚したのは隔離空間が拡大した後だったんだけど、アルザスに戻す事ができないらしいよ・・・キャロが言うには、アルザスか第6管理世界全域に何かあったんじゃないかって・・・」
『警告。第4層より敵機動兵器群接近。出現ポイントA-74からJ-55。アイギス、交戦開始』
『第3層より敵機動兵器群接近。出現ポイントC-03からW-92。シュトラオス隊、交戦開始』

なのはの言葉を遮る様にして、全方位念話での警告が飛ぶ。
咄嗟に宙空を見上げれば、闇の彼方に無数の光が瞬き始めた。
同時にヤタガラスが緩やかに上昇を始め、そのまま人工重力の影響範囲外へと脱すると、青い燐光と轟音、そして衝撃波だけを残しその姿が掻き消える。
どうやら、反対側のコロニー外殻へと向かったらしい。
頭上の宙空は無数の閃光によって完全に覆い尽くされているが、距離の関係から此処までは未だに一切の音が届いてはいない。
レイジングハートを通じてバリアジャケットの防音設定を変更しながら、なのはは無言で激しい宙間戦闘の光景を見上げる。

305R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/07/12(日) 21:59:31 ID:TfsCCoXA
『やっぱり、気になりますか?』

そんな中、スバルからの念話が届いた。
今にも轟音が届くとも知れない中での、音声での会話は危険と判断したのだろう。
下手に防音設定を解除すれば、突然の轟音で聴覚を損なう恐れがある。
本来はデバイスが適度に調整してくれる為、これまでは特に気にも留めなかった。
しかし聴覚への被害の恐ろしさについては、つい数十時間前に身を以って体験したばかりだ。
少しばかりプログラムを強化し聴覚の保護に努めねば、まともに戦闘を行う事すら危ういだろう。
そんな事を思考しつつ、なのはは念話を返す。

『何の事?』
『例のカイゼル・ファルベを操ったっていう汚染体の事です。ザブトム・・・でしたっけ。R戦闘機の追撃を振り切って、第4層に逃げ込んだんですよね』

その言葉を受けたなのはの脳裏へと浮かぶのは、あの鋼色の異形の全貌。
40mにも達する全高に、全長が70m程もある節足動物の様な下半身。
人が認識し得る、ありとあらゆる負の感情が凝縮されているかの様な、醜悪な形相。
その額へと埋め込まれた、直径4mを超える赤い結晶体、レリック。
コードネーム「ZABTOM」。

逃げ切っていたのだ、あの戦域から。
砲撃によりなのはが意識を失った後、あの異形は浅異層次元潜航を用いて離脱を図ったらしい。
無論、目標と交戦中だったR-9C「メテオール」は追撃に移ろうとしたが、周囲の残存艦艇、その全てがオンラインとなった為に断念せざるを得なかったのだという。
メテオール、そして辛うじて意識を保っていた攻撃隊員達は、戦闘に気付いたランツクネヒトが応援に駆け付けるまでの約3時間、正に全滅と紙一重の戦闘、正確には逃走劇を継続。
最終的に、汚染艦艇群はペレグリン・ドロセル両隊とアイギス群の集中砲火により殲滅され、攻撃隊は意識の無いなのは共々ランツクネヒトに保護されたのだ。
戦域からの離脱に成功したザブトムの行方は、未だに判明していない。

『・・・全く歯が立たなかった訳だし、あれがまだ健在って事は此処も襲われるかもしれない。警戒しておくに越した事はないよ』
『できる事なら脱出艦隊の帰還まで、何処かで大人しくしていて貰いたいですね』
『できる事なら、ね』

その時3人の傍らに、警告音と共にウィンドウが展開される。
通常とは異なる赤い画面に、黒い「WARNING」の表示。
同時に質量兵器及び魔導兵器群による長距離砲撃が開始され、外殻の其処彼処から砲撃と誘導弾体が宙空へと放たれ始めた。
魔導師よりも射程の長いそれらが、迎撃の先鋒を担っているのだ。
続いて念話が脳裏へと響く。

『警告、敵機動兵器群の一部が防衛網を突破。「リボルバー」281体及び「キャンサー」149機、タイプ「ギロニカ」18体』
『管制室より全隊、照明弾を射出する』

「AIFS activated」の表示がウィンドウ上に現れると同時、コロニー外壁の各所より無数の火柱が上がり、数百ものロケット弾が宙空へと放たれた。
それらは微かに白い尾を引きつつ、瞬く間に闇の中へと消える。
そして、閃光。
強烈な白い光の中、コロニーへと近付く全ての影が明確に浮かび上がる。
敵、接近中。

『魔導師隊、迎撃を開始せよ』

その念話が伝わり切るよりも早く、無数の砲撃と魔導弾の弾幕が撃ち上げられる。
閃光の中に浮かぶ影は随分とその数を減らしてはいたが、それでも蜘蛛の様な大型の影が複数、砲撃のカーテンを物ともせずに降下してくる様が見えた。
異様な光景に軽く息を呑むと、なのははレイジングハートを構えて背後の2人へと指示を飛ばす。

『迎撃するよ、スバル、ノーヴェ! 単独行動はせず、周囲の魔導師隊と協力して・・・』

その言葉が言い切られる事はなかった。
宙空に巨大な業火の線が刻まれ、大蛇の如く蠢くそれが影を次々に呑み込んでいったのだ。
小型の影は跡形もなく消滅し、大型のものは爆散し炎を纏った僅かな破片となって降り注ぐ。
忘れもしないその光景、ヤタガラスの砲撃だ。

306R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/07/12(日) 22:00:15 ID:TfsCCoXA
だがそれでも一部の大型敵性体は、途切れた砲撃の合間を縫って降下を続ける。
激しい迎撃によって2体が宙空で四散したものの、未だに5体が健在だ。
降下軌道から予測される落着地点は、恐らくは外殻中央。

『おい、あそこって!』
『なのはさん!』
『分かってる、行くよ!』

落着地点に位置するエリオとキャロを援護すべく、なのははスバル達を引き連れ外殻中央へと向かう。
長距離砲撃は新たに防衛網を突破した一群の迎撃へと移行した為、降下中の5体を狙い撃っているのは魔導師と、質量兵器によって武装した歩兵のみ。
中央周辺にははやてとヴォルケンリッター、少し離れた位置にはギンガや他のナンバーズも居るが、速やかに大威力の砲撃を放てる者ともなればその数は限られる。
はやての砲撃は強力だが、詠唱に時間が掛かる為に敵性体の落着以前に発動する事は困難だ。
無論、他にも多くの戦闘要員が配置されているが、援護が来るまでの短時間とはいえ5体もの大型敵性体を相手取るには、エリオ達と数名の魔導師では不安が残る。
すぐにでも駆け付け、可能な限り速やかに攻撃に移らねばならない。

そんななのはの思考を嘲笑うかの様に、遥か前方の外殻に紅蓮の閃光が奔る。
爆発と見紛うばかりのそれに一瞬、最悪の事態がなのはの脳裏を過ぎるも、直後にその意識は閃光の内より放たれた2条の砲撃に引き付けられた。
周囲の大気をすら消し飛ばしつつ放たれた、紅蓮の業火を纏う2発の大規模砲撃魔法。
それらは降下中の異形2体を呑み込み、一瞬にしてその巨躯を四散させる。
砲撃の余波は他の1体にまで及び、その6本の脚の内2本を消し飛ばした。

降下姿勢を崩し、錐揉み状態に陥る異形。
その存在を無視するかの様に、金色の閃光が異形の傍らを突き抜ける。
魔力光の残滓を引きつつ、衝撃波を撒き散らして宙空を貫く雷光。
直後、如何なる理由か、残る2体の異形が降下姿勢を崩す。
3体の異形は姿勢回復を試みる様子もなく、人工重力に引かれるままに降下を続け、そして。

『ギロニカ、落着3。機能停止2』

そのまま、外殻へと叩き付けられた。
第一派迎撃開始より、実に1分12秒。
余りにも短時間の攻防だった。

*  *  *

『馬鹿げている・・・!』

チンクより発せられた念話は、眼前の戦闘を目撃したほぼ全ての魔導師の内心を的確に言い表しているだろう。
少なくともはやてとしては全く以って同意であり、目の前で繰り広げられた戦闘は彼女が良く知る少年と少女の行う戦いではなかった。
4体の大型敵性体を僅か6秒で撃破し、更に1体を行動不能に陥らせた攻撃。
簡潔に言ってしまえば、ヴォルテールのギオ・エルガに続いて、エリオのメッサー・アングリフによって連続的に攻撃を実行したに過ぎない。
しかしそれは、個々の攻撃の規模こそ桁違いではあるが、はやての知るエリオとキャロの連携と異なる箇所は無いのだ。
異常なのは其々の攻撃精度と威力、そして速度である。

ギオ・エルガが降下中の2体を精確に捉え一瞬で破壊した事は勿論だが、はやてにとってはその後のエリオの攻撃こそが理解の範疇外だった。
何しろ、一部始終を目撃していたにも拘らず、彼が何をしたのか全く視認できなかったのだ。
それでも、突如として宙空に出現したエリオの手に握られたストラーダが紫電の光を纏っていた事から、メッサー・アングリフを発動したのだろうという事は辛うじて理解できた。
解らないのは、彼がそれで何をしたのかという事だ。

『・・・ザフィーラ、見えた?』
『ええ、何とか』
『エリオは、何を?』

自身の家族にして守護獣であるザフィーラへと問い掛ければ、彼はエリオの行動を視認できたという。
はやてには彼の魔力光と、全てが終わった後に現れた彼の姿しか視認できなかった。
一体、エリオは何をしたのか。

307R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/07/12(日) 22:00:54 ID:TfsCCoXA
『刺突です』

ただ一言。
ザフィーラが放ったのは、それだけだった。
数秒ほどはやては彼の背を見つめ、呆然とした様子を隠しもせずに再度の問いを放つ。

『刺突が、どうしたん?』
『ですから、エリオのした事です。メッサー・アングリフによる突進からの刺突、彼がしたのはそれだけです』

はやては理解できなかった。
先ず、あの大型敵性体を単なる刺突で以って撃破したという言葉だ。
ストラーダに異様な改造が施されている事は既知であったが、それを考慮に入れたとしても異常である。
確かに、魔力付与を用いて放たれるエリオの刺突・斬撃は、師の1人であるシグナムのそれとまでは行かずとも強力だ。
だが、あれだけ大型の機動兵器を一撃で撃破できる程かと問われれば、はやては否と答える。
ガジェット程度なら未だしも、相手は幅50mにも達する機動兵器。
如何に強力とはいえ、飽くまで対人及び対小型機動兵器戦闘を想定して構築されたエリオの近代ベルカ式魔法では、それら規格外の存在を単独にて打倒する事は困難を極める筈だ。

更に理解できない事は、単体でさえ苦戦する筈の大型敵性体が2体存在し、それらがほぼ同時に機能を停止したらしき事である。
少なくとも、他方面からの攻撃が降下中の2体へと届いた様子は無かった。
であれば、それらを撃破したのはエリオ以外には有り得ない。
それともランツクネヒトか地球軍辺りが、こちらの知覚範囲外より何か仕掛けたのだろうか。

『エリオだ、はやて』

そんなはやての内心を察したのか、ヴィータからの念話が届く。
見れば彼女は、グラーフアイゼンを肩へと担いだまま、遥か前方を舞うフリードの影を見据えていた。
そして、険しい表情から滲む警戒の色を隠そうともせず、言葉を紡ぐ。

『どっちもエリオがやりやがった。一瞬だ』
『一瞬って・・・』
『ストラーダから一瞬だけ馬鹿デカい魔力刃を展開して1体目を貫いた後、その図体を蹴って殆ど減速なしで2体目をブチ抜きやがった。フリードの背中を飛び立ってから2秒も掛かっていない』
『おまけに魔力刃を敵に突き立てた後、サンダーレイジを放っています。内部から敵兵器の制御中枢を焼き切ったのでしょう』

ヴィータ、そしてザフィーラの言葉に、はやては改めてエリオの影を見やった。
彼は人工重力の影響範囲外へと脱した後、宙空より眼下の敵性体残骸を見据えている。
その時はやては、残骸と化したかに見えた一体が、未だ活動を続けている事に気付いた。

『・・・あかん!』

それは、ギオ・エルガの余波により姿勢を崩した1体。
どうやら外殻との衝突を経ても機能を保持していたらしく、残る4本の脚で姿勢を正すと同時に歩行を開始した。
良く見ると敵性体の表層は有機組織に覆われており、恐らくは半有機系機動兵器の一種であると思われる。
そして上部の機械部位より、発光する気泡が間欠泉の如く放たれ始めた。
その数は数十などという生易しいものではなく、明らかに1000を超えている。
僅かに下降して同高度に留まる無数の気泡は、不気味な光の帯となって周囲へと拡散を始めた。

『警告。ギロニカ、多目的浮遊機雷の放出を開始』
『敵兵装MFM-805、有機系空間制圧機雷。弾体は強酸性及び爆発性のガスを内包』
『こちらライトニング、目標を攻撃します』

管制室からの警告が届いた直後、聞き慣れたコールサインと共に別の念話が発せられる。
見れば、何時の間にかヴォルテールが敵性体へと接近しており、その背に乗る小柄な人物からは嵐の様に激しい弾幕が敵性体へと撃ち込まれていた。
その弾幕は記憶の中のそれよりも遥かに密度が高いが、恐らくはキャロのウイングシューターだろう。
攻撃はそれだけに留まらず、フリードが敵性体の周囲を旋回しており、矢継ぎ早にブラストレイを目標周辺へと撃ち込み続けていた。
弾幕と噴き上がる爆炎が気泡状の浮遊機雷を片端から焼き尽くし、更に敵性体の脚部を覆う有機組織までをも剥ぎ取ってゆく。

308R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/07/12(日) 22:01:26 ID:TfsCCoXA
次の瞬間、目標は全ての機能を停止していた。
可視化した衝撃波と金色の閃光がはやての視界を閉ざした後、再度視線をやった先には、敵性体上に立つエリオの姿。
その手に握られた異形のストラーダは敵性体の体躯に深々と突き刺さり、微かに紫電を放った後に呆気ないほど軽く引き抜かれた。
カートリッジシステムに装着された「AC-47β」から、大量の圧縮魔力が高圧蒸気の如く噴出する。
エリオは周囲の炎を気にも留めずに跳躍、低空を滑空する様にして接近してきたフリードの背へと飛び乗った。
フリードは上昇、頭上で待機していたヴォルテールと並び旋回を始める。

『ギロニカの撃破を確認。外殻クリア』
『アイギス及び防衛艦隊、敵の殲滅に成功。外殻展開中の各部隊は現状のまま待機、指示を待て』

呆然と2騎の竜を見つめていたはやては、管制室からの念話によって漸く戦闘が終結した事を理解した。
そうして、気付く。
自身がこの場に於いて、如何に無力であったかを。

何もできなかったのだ。
防衛網を潜り抜けて降下してきた敵の殆どは、各次元世界の兵器とR戦闘機によって大きくその数を減じ、僅かに落着した大型敵性体はエリオとキャロの2人が完膚なきまでに殲滅してしまった。
やや離れた地点に位置するティアナ達、そしてギンガとナンバーズは数機の小型敵性体を撃破した様だが、自身等は交戦にすら至らなかったのだ。
自身も、自身の家族達も、短時間の内に発動できる長距離攻撃魔法を持ち得てはいない。
ザフィーラやヴィータ、今は負傷者の治療に当たっているシャマルは勿論の事、シグナムのシュツルムファルケンでさえ射程と発動時間の面では些か心許ない。
自身は大威力・長射程の砲撃魔法を有してはいるものの、やはり発動時間の面で絶対的な不利がある。
故に、この迎撃戦に於いては、全くの戦力外だったのだ。

条件は同じだった筈である。
ヴォルテールの砲撃が如何に強力であるとはいえ、魔力の充填にはそれなりの時間が必要。
エリオの機動性が如何に優れているとはいえ、射程の絶対的な不足は覆し様のない事実。
にも拘らず、2人は実に見事な手際で、5体もの大型敵性体を撃破して退けた。

果たして、自身等に同じ芸当が可能だろうか。
恐らく不可能だろう。
あのタイミングで砲撃するには、敵性体落着までの時間を正確に予測せねばならない。
あの機雷を射出する異形の表層へと取り付くには、敵性体の行動を読み切らねばならない。
そのどちらについても、自身達には実行できるだけの下地が無い。
何故か?

「・・・決まっとるやん」

自身等には経験が無い。
自身の五感を通して収集した敵性体の情報も無ければ、攻撃実行を決断できるだけの要素も無い。
だがあの2人は、そして一月に亘りこのコロニーで生き抜いてきた者達は、それを自らの経験として獲得している。
彼等にしてみればこの程度の戦闘など、これまでにも幾度となく繰り返してきた事なのだろう。
キャロは砲撃のタイミングを知り尽くし、エリオは何処を攻撃すれば効率的に敵を屠れるかを知り得ている。
だからこその、あの手際、あの結果だ。
同様の戦果を叩き出す事など、現状でできる筈もない。
少なくともこの戦場で自身等は、あの2人と比して考えれば新兵も同然なのだ。

『管制室より外殻展開中の各部隊へ。敵増援は確認できず。魔導師及び歩兵部隊は順次コロニー内へ退去せよ』
『ライトニング隊、第3通信アレイ・ハッチへ』

はやて達の頭上を、黄色の塗装を施されたR戦闘機が悠々と飛び越えてゆく。
その後を追う様に白と黒の竜が飛び去った後、彼女は力なく首を振ると、傍らの2人を促して歩き始めた。
少し離れた位置を、同じ様にして歩くギンガ達の姿を視界の端へと捉えながら、彼女は遅々とした歩みでハッチを目指す。
一息に飛んで移動する気には、到底なれなかった。

*  *  *

解り切っていた事ではあるが、40000を超える人員の全てを同時に脱出させる事は不可能だった。
コロニーごと移動してはどうかという意見もあったが、コロニー自体の防衛能力及び耐久性の貧弱さ、そして何より移動速度が問題となり却下されたらしい。
そもそも浅異層次元潜航が不可能となった時点で、独力での脱出の望みは潰えた様なものだったのだ。
では何故、この段階で脱出作戦が決行されたのかと問われれば、それには大まかに3つの理由があった。

309R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/07/12(日) 22:02:02 ID:TfsCCoXA
1つは、当初の想定を超える戦力が揃った事だ。
ウォンロンという大型戦闘艦のみならず、総数8機ものR戦闘機との合流。
そしてスバルとノーヴェを解析して得られた情報、それらを基に培養された制御ユニットを搭載する事で、無人制御が可能となった9機のR戦闘機。
これらが揃った事で、浅異層次元潜航を使用せずとも正面から敵戦力を突破できるのでは、という可能性が出てきたのだ。
更に、総数900基を超える防衛人工衛星アイギスの約半数を随伴させる事により、大規模艦隊戦にすら対応できる程の戦力を送り出す事が可能となった。
艦隊を構成する各艦艇の巡航性能、そして敵の迎撃等を考慮すれば光速航行など望むべくもないが、それでも11時間以内に何らかの結果が齎されると思われる。
現時点で艦隊の出撃より4時間が経過している為、作戦が順調に進行すれば7時間以内に脱出艦隊、若しくは救援部隊がこの第3空洞へと現れる筈だ。

2つ目は、時間的猶予の消失である。
現状で判明している外部の状況は、決して好ましいものではない。
時間が経過するにつれ、バイドの物量は確実に他の勢力を圧倒してゆく。
最悪、地球軍を含む各勢力が遠方へと撤退する事態も考えられた。
そうなってしまえば、救援など望むべくもない。
よって、何としても短期の内に、外部との連絡を取る必要があったのだ。

既に、コロニー群の防衛戦力はそれなりに充実していた。
脱出艦隊の12隻を除いても、L級を筆頭として構成された7隻の戦闘艦による防衛艦隊。
ペレグリン・シュトラオス隊を含む11機のR戦闘機、450基を超えるアイギス。
数十機にも達する大型の質量・魔導兵器、1700名以上もの魔導師。
襲い来るバイド群を撃退するには、確実とは言えずとも十分な戦力である。
最早、作戦実行を躊躇う必要性は何処にも無かった。
このまま籠城戦を続けていたとしても、いずれはバイドの物量によって圧殺される事となるのだから。

そして、3つ目。
これまでに幾度となく、生存者達を悩ませてきた問題があった。
幾度か事態の改善を図ったものの、今に至るまで解決されてはいないその問題とは。

「またか・・・」

不規則に点滅した後、エリオの呟きと共に落ちる照明の光。
停電である。
このコロニー、元々は水星及び金星の公転軌道上に浮かぶ発電衛星群からの送電によって電力を得ていたらしく、完全自律発電機構としては非常用の原子炉が2基、それもコロニー建造当初の旧式型しか備えられてはいなかった。
無論、それで防衛系統を含む全システムへの電力供給が事足りる筈もなく、苦肉の策として第88民間旅客輸送船団の輸送艦2隻を第4ドックへと固定し、その動力である常温核融合炉を使用して電力を得ているのが現状である。
しかしそれでも、電力喰らいの防衛システムを維持した上で他系統への電力供給を網羅するには到底足りず、こうして不定期に何処かの区画が停電を起こすのだ。
電力供給に用いる輸送艦の数を増やしてはどうかとの意見もあったが、資源の輸送やコロニー間に於ける物資の流通等を考慮すると、これ以上は稼働状態にある艦数を減らす訳にはいかなかった。

結果、こうして現在もエリオ達の居る区画が停電するに至っている。
復旧までの時間もまちまちで、30秒程で回復する場合もあれば、2時間近くも停電が続いた事もあった。
元々が急ごしらえのシステムなので、異常の発生箇所もほぼ毎回に亘って異なるのだ。
こうなると大気循環システムまでもが停止してしまう為、各区画の隔壁は常に開放されている。
何時だったかランツクネヒトの隊員がエリオに、対バイド戦に於いては致命的な事だとぼやいていたが、停電で窒息死するよりはましだというのが大方の意見だった。

「今度は何時まで掛かるかな・・・」
「今回は早いと思うよ。原因はG-08のマス・キャッチャー格納区だって」

隣から掛けられた声に、そちらへと視線をやるエリオ。
其処には暗闇の中に浮かぶウィンドウを前にして操作を行なっているキャロ、その肩で翼を休めるフリードの姿があった。
彼女はウィンドウを閉じ、照明代わりの魔力球を浮かべる。

「空調も停止してる。少し暑くなるかも」
「良いんじゃないかな、このエリアって少し寒い位だし」

自らの使役竜の顎下に手をやり撫ぜるキャロと、微かに目を細めるフリード。
一見すれば微笑ましい光景だが、以前のそれとは僅かに異なるものである事をエリオは知っている。
キャロの表情に笑みはなく、フリードも以前の様に声を発する事はない。
それが何時からの事であるかも、エリオは良く覚えている。

310R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/07/12(日) 22:03:09 ID:TfsCCoXA
六課解散後、キャロと共に自然保護隊所属となったエリオは、彼女の元上司である2人の局員から大いに世話を焼かれたものだ。
ミラ、そしてタント。
彼等は上司としての指導に当たる傍ら、キャロとエリオを自身の妹と弟の様に可愛がり、どちらかといえば娯楽に疎い2人の為に様々な遊びを教えてくれたりもした。
エリオも彼等を姉や兄の様に想っており、2人が交際を始めた事を打ち明けてきた時も、キャロと共に我が事の様に喜んだものだ。
2ヶ月前にミラの妊娠が発覚した際も、喜びの余りタントが彼女を抱き締める傍らで、2人共に心中へ次から次へと浮かんでくる喜びと祝いの言葉を送り続けた。
そうしてあの日も、検査の為に仲睦まじく街へと向かう彼らを乗せた車を、巡回前にキャロと並んで手を振りつつ見送ったのだ。

スプールス全土へと「何か」が落着したのは、その3時間後だった。
狂った生態系が猛威を振るう地獄の中を死に物狂いで逃げ惑い、襲い来る異形の生命体群を片端から屠る。
救援を求めても答える者は無く、近辺の生存者を集めると状況に流されるがまま籠城戦が始まった。
こちらが優勢だったのは、最初の2時間のみ。
後は尽きる事のない物量によって徐々に圧され、初めに1人、次に10人、次に100人と、秒を追う毎に犠牲者数が増えていった。
だが、真に生存者達を追い詰めたのは、その事実ではない。

スプールスに生息する生物の大多数は、リンカーコアを有している。
それらは個体識別に利用する事ができ、更に対象の同意を経て付与される識別用マーカーにより、120時間毎に自然保護隊の施設へと24時間のバイタル送信を行うシステムが構築されていた。
そのシステムは住民にも任意で適用され、雨期には比較的大規模な自然災害が多発するスプールスの環境から、彼等を効率的に守る為に利用されていたのだ。
そしてあの日もまた、バイタル送信の実行日だった。

原生生物のバイタルに紛れる様にして複数の人間のバイタルが存在する事に気付いたのは、近代ベルカ式という戦闘スタイル故に最前線でストラーダを振るっていたエリオだ。
一部の敵が住民のバイタルを複数に亘って有している事を確認したエリオは、しかしそれを熟考する暇さえなくストラーダで対象を貫いた。
切迫した戦況下での咄嗟の行いだったが、実感を以ってその事実を振り返る事ができたのは4時間程が経過してからの事だ。

休息を取っていたエリオは、自身が「人であったもの」を殺めたという事実を反芻し、恐怖した。
嘔吐し、震え、水を飲み、また嘔吐する。
恐ろしい事実に彼の心は軋みを上げ、悔恨が意識を締め付ける。
だが、其処で膝を屈するにはエリオの意思は屈強であり過ぎ、思考は聡明であり過ぎた。
彼はキャロや他の生存者に余計な心労を負わせまいと、自身を叱責して再度前線へと向かう。
そして襲い来る「人であったもの」達を、自身の心を殺しつつ屠り続けたのだ。

その頃になると、生存者達は皆が気付いていた。
押し寄せる異形の生命体群の中に、人間を基とする個体が少なからず存在する事に。
無論、キャロも例外ではなかっただろう。
フリードの放つブラストレイは徐々に大型の敵のみを狙い始め、その砲撃頻度も時間を追う毎に減少していった。
施設のシステムは暴走し、敵性体へと接近する度に対象の個人名が表示される様になってはいたが、エリオは強靭な意志でそれらを無視する。
認識してしまえば、槍を振るう事などできなくなってしまうから。

意志の力を振り絞って、表示されるウィンドウを意識の外へと追いやり、悲鳴を上げる肉体とリンカーコアを無視して、敵を屠り続けた。
只管に突き、抉り、薙ぎ、穿った。
悲鳴も、咆哮も、血飛沫も、負傷さえも無視した。
戦闘以外に関する全ての思考を抑え込み、突き殺し、焼き殺し、踏み潰した。
一瞬でも攻撃の手を緩めれば、その立場となるのは自身達であると理解していた。
皆を護る為に、自身が生き残る為に、絶対の暴力たらんとした。

311R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/07/12(日) 22:03:51 ID:TfsCCoXA
それでも近接戦闘である以上、強制的に視界へと飛び込む情報もある。
対象へとストラーダを突き立てた瞬間に、眼前に表示されたウィンドウ上の名が目に入ってしまう事は幾度となくあった。
だがそれすらも無視し、エリオは押し寄せる無毛の鳥類にも似た異形を屠り続ける。
肉片と鮮血と共に敵の体内に巣食う無数の寄生虫が降り注ぐ中、彼は数十体目の異形へと突進、スタールメッサーで両脚を叩き斬り、落下してきた胴体へとストラーダの穂先を叩き込んだ。
その瞬間、噴き出す血潮の中で展開されたウィンドウを通し、彼の視界へと飛び込んできた人物名。



「タント」
「ミラ」
「胎児レベル 個人名未登録」



其処からのエリオの記憶は曖昧だ。
ただ、大量の魔力を消費した事と、耳を覆いたくなる様なキャロの悲鳴だけは覚えている。
後に記録映像を見たところ、彼は電気変換された魔力による暴走を引き起こしていた。
サンダーレイジの効果域を超える広範囲に亘って紫電の光が爆発し、周囲のありとあらゆる生命体を死滅させたとの事だ。
そして意識を失った彼はその後、5時間に亘って眠り続ける事となる。

尤も、彼自身は後に映像を見るまで、そんな事実があった事すら認識してはいなかった。
気付いた時にはベッドで仰向けになり、屋外より響く戦闘の音を耳にしつつ呆けていたのだから。
ただ、止める局員やキャロをすら振り切ってすぐさま戦闘へと復帰した際、異様に思考が落ち着いていた事だけは覚えていた。
後は機械的に敵性体を処理し、適当に敵を密集させた後にサンダーレイジで感電死させる作業を繰り返していた記憶はある。
そうこうしている内に人工天体内部へと転送され、ランツクネヒトによって保護されたのだ。
絶望的な籠城戦を生き延びたエリオ等だったが、その頃からキャロは全くといって良い程に笑わなくなった。
時折見せる笑顔は明らかに繕ったものであり、以前の様に自然な笑みを浮かべる事は決してない。
更に、今でこそこうして会話もできるが、保護された直後は顔を合わせる度に、まるで逃げる様にして彼の前から立ち去る事を繰り返していたものだ。

キャロが何を考えているのか、ある程度はエリオにも想像できた。
「ミラとタントであったもの」を殺してしまったエリオに対する制御できない憤り、それを抱く自身に対する憤怒と嫌悪、エリオに手を下させてしまった事に対する後ろめたさといったところか。
実質、あの時点でミラとタントという人間は死亡したも同然である事、殺害以外に方法が無かった事は、キャロも理解はしているのだろう。
だがそれでも、納得などできる筈もない。
直接に手を下したエリオを恨み、その役割を押し付けてしまったと自身を責め、しかし余りにも残酷な2人の死を受け入れる事は容認できず。
その優しさゆえにキャロは、エリオに対し憤りと罪悪感とを抱きつつも、否応なしに迫り来る状況に対応する中で一時的に精神が摩耗してしまったのだろう。

それで良い、とエリオは考えていた。
許さなくて良い、恨んでくれれば良いと。
そうでなければ、彼は正気を保つ自信が無かった。

いずれ、キャロの精神は回復するだろう。
彼女は強い。
残酷な現実も、何もかもを受け入れて、その上で前へと進む事ができるだろう。
だが、自身は以前と同じには戻れそうもない。
全てが終わった後、自身はこう考えてしまったのだ。



2人を、確実に殺せたのだろうか、と。



ストラーダを振るい「人であったもの」を屠り続けている最中、ふと脳裏へと浮かんだ疑問があった。
或いは自身のこの行いは、この異形へと変貌した人々にとっては「救い」なのだろうかと。
彼等はきっと、2度と人としてあるべき姿へとは戻れない。
異形の化け物と化し、同じ人間を襲い喰らう様からは、正常な人間の知性というものは全く感じられなかった。
このまま人を喰らい、無数の寄生虫を体内に宿しつつ狂気に侵されたこの世界を練り歩く事が、彼等にとっての幸福となるのだろうか。

312R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/07/12(日) 22:04:24 ID:TfsCCoXA
違う。
此処で彼等を生かしておく事は、決して慈悲とはなり得ない。
真に彼等を想うならば、その変わり果てた生を許容する事なく、人間である者の手で断ち切る事こそが救いなのではないか。

それは、単に罪悪感から逃れる為の言い訳に過ぎなかったのかもしれない。
だがその時の自身にとっては、震えそうな腕に槍を振るう為の力を与えてくれる、正に天啓とも云うべきものだったのだ。
このコロニーへと保護された後、治療を受けている最中に思考を占めていたのは、自身は2人を「救う」事ができたのかという、結果に対する疑問だけだった。
2人、否、3人の殺害は不可避のものであったと、既に自身の中では結論が導き出されてしまったのだ。

卑怯な事だとは思う。
自身がこの問題で悩む事は、恐らくは2度と無い。
キャロが3人を殺害する役割を自身に押し付けたというのならば、自身は3人の死を悼む役割をキャロに押し付けている。
彼女はいずれ、この隔たりを埋めようと歩み寄りを試みる事だろう。
だが、自身がそれに応える事は、恐らくない。
彼女と同じく死者を悼んでしまえば、自身は2度と槍を振るえなくなってしまうから。
異形と化した者の境遇を想ってしまえば、背後に護るべき者があるにも拘らず、その生命を奪う事を躊躇ってしまうから。

自分が殺し、キャロが悼む。
それで良い、それこそが最良なのだ。
全てが終われば、互いに2度と交わらぬ道へと分たれる事になるかもしれない。
歩み寄ろうともしない自分に失望し、死者の魂を厭わぬ内面を軽蔑し、キャロ自身の意思で自分の前から去るのかもしれない。
だとしても、この意志だけは覆すつもりはないのだ。
人が、或いは「人であったもの」が、この先もまた自身等の前に立ちはだかるというのなら。



キャロには、誰1人として殺させない。
その責は、全て自分が負ってみせる。



「・・・戻ったみたいだね」

空調からの風が髪を擽るとほぼ同時、キャロの呟きが漏れた。
直後に照明が次々に点灯され、通路は元の明るさを取り戻す。
「Air circulation system activated」との人工音声アナウンス。

「・・・行こうか」
「うん」

キャロを促し、歩み始めるエリオ。
と、その左肩にそれなりの重みが掛かる。
見れば、フリードが其処に止まり、翼を休めていた。
以前は頻繁にあったが、あの日からは1度として無かった事だ。
驚き、キャロを見やると、彼女は何処か怯える様にしながらも、エリオの手元へと自身の手を伸ばそうとしていた。
だが彼女は、自身を見つめるエリオの視線に気付くと、暫し迷う様な素振りを見せた後にその手を引き戻す。

咄嗟に手を握りそうになる自身を何とか抑え、エリオはキャロより視線を外して歩み始めた。
自身の名を呼ぶ、掠れる様に小さな声を意図的に無視し、平静を装って無機質な通路を進む。
その肩にはもう、小さな竜の姿はなかった。

*  *  *

「復旧しない?」

小奇麗に清掃されたレストランで食事を取っていたシャマルは、同じ店内から発せられた声にそちらへと振り返った。
彼女がこの場に居る理由は、何も職務を放棄した訳ではない。
シャマルが負傷者の治療に回された背景には、彼女が医務官の肩書きを持つだけが理由ではなく、能力が間接支援向きである為に迎撃戦には不向きと判断された事もあった。
無論、彼女自身もそれを承知していた為、特に問題はなく医療任務に就く事となったのだが、予想外な事に彼女がすべき仕事が殆ど無かったのだ。

313R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/07/12(日) 22:05:17 ID:TfsCCoXA
だが、少し考えれば納得もできた。
重傷者は「AMTP」と呼称される第97管理外世界の医療ポッドか、各次元世界の被災者が持ち込んだ治癒結界展開装置を用いて治療する事がこのコロニーでの通例だ。
それが時間的に最短の方法であるし、元より外科手術を行える人員の数は限られている。
生存者達にとって全てをオートメーションで実行してくれる機械類は、医療に携わる同じ人間よりも遥かに信頼性が高かったのだ。

問題は電力である。
医療ポッドに治癒結界、いずれにしても稼働時には大量の電力を消費する物だ。
電力事情の悪いこのコロニーでは、全てのポッド及び結界を常時稼働させる事など不可能。
以前は比較的広域の結界を常時展開しており、軽傷者は自力でその中へと入って治癒を行っていたらしいが、被災者の数が膨れ上がるにつれ電力消費も跳ね上がり、結界を維持する事が不可能となってしまったのだ。
其処で、今度は医療魔法を使用できる魔導師が脚光を浴びる。
短時間で負傷を癒す事のできる彼等の能力は軽傷者の治療に打って付けだったが、その活躍も長くは続かなかった。
アイギスの配備数が増大し防衛戦力が強化される事で、散発的な戦闘の発生件数が激減した為だ。
周期的に発生するバイドの大規模侵攻では、防衛網を突破した強大な戦力との戦闘である事が多く、担ぎ込まれるのは重傷者か死体ばかり。
即ち医療ポッドを使用するか安置所送りかの2通りであり、個人の有する医療魔法が必要となる場面そのものが激減してしまったのだ。

シャマルも例外ではなかった。
彼女が治療を施したのは、保護された時点で負傷していた民間人4名のみ。
一応の精密検査は行ったものの、特に異状もなく全ての検査が終了した。
その後も医療施設内部で待機していたのだが、局員の1人に休憩を勧められ、施設から少し離れた位置で食事の提供を始めたレストランへと足を運んだのである。
元々はこのレストラン跡を覗いた数人の被災者が、自身等が料理を供する職業であった事も手伝って、生存者の精神的なケアを目的に始めたものだという。
その意図は見事に実を結び、昼時までは少し早い時間帯である現在も、店内には十数人の人影があった。
これが食事時ともなれば、屋外のテラス席までが満席になるという。

シャマルのオーダーはマフィンにコールスローという軽食だが、元が合成食品とは到底思えない程に美味なものだった。
マフィンは、生ハムの塩気とトマトの酸味がチーズのまろやかな甘みと相俟って絶妙な塩梅となっており、それが容易に噛み切れる程度の固さに焼き上げられたマフィンと見事に調和している。
少し強めに利かせたドレッシングの胡椒も、しつこくない程度に刺激的なスパイスとなっていた。
マヨネーズではなくレモン風味のソースで仕上げたコールスローも、マスタードがアクセントとなって新鮮な味わいがある。
そして何よりシャマルが気に入ったのは、食後にオーダーしたコーヒーだ。
ふくよかな豆の香りはこれまでに嗅いだ事のないものだったが、その香ばしさは彼女の好みにぴたりと当て嵌まった。
口に含むとブラックでも仄かに甘みがあり、それが口の中の油分を爽やかに押し流してくれる。
時間があれば、何処の世界の豆を使っているのか、店の者に尋ねてみるのも良いかもしれない。

『G-08エリアです。供給ラインの迂回により他のエリアでは復旧が確認されたのですが、当該エリアの電力はダウンしたままです』
「エリアを使用しているのはメイフィールド近衛軍だったな。通信は?」
『不通。向こうからの接触もありません。隔壁が閉鎖されたのか、或いは・・・』
「他に向かえる部隊は?」
『既に4小隊が向かっていますが、時間が掛かります』
「すぐに向かう、魔導師を寄越してくれ。探査系に優れた者が良い」
「此処に居るわ」

カップの中身を飲み干しナプキンで口許を拭くと、席を立ち通信を続ける彼等へと歩み寄るシャマル。
驚いた様に彼女を見る彼等だったが、すぐに魔導師であると悟ったのか、同じく席を立つと足早に歩み始めた。
カウンターの奥に声を掛け、食事の礼を言うとそのまま店を出る。
シャマルもそれに倣い、店の人間に礼を言いつつ屋外へと歩み出た。

「オルセア正規軍・第203陸戦隊、指揮官のビクトル・アロンソだ。正規軍って組織はオルセアに山ほど在るが、それについては勘弁してくれ。現在の隊員数は19名」
「管理局医務官、シャマルです。そちらに魔導師は?」
「いや、居ない。だが全員が対機動兵器戦を想定した武装を有している」

314R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/07/12(日) 22:05:56 ID:TfsCCoXA
地下、即ち構造物内部へのアクセスポイントは市街の至る箇所にあり、シャマル達はその1つを目指す。
緊急用アクセス・ハッチの前には既に他の隊員が集合しており、各々が手にした質量兵器を点検していた。
そしてハッチが開放されると、全員が滑り込む様にして内部へと姿を消す。
後を追ってハッチ内部へと踏み込むと、其処には既にトラムが到着していた。
円柱状のレールから3本のアームが伸び、それらの先端に車体が接続された全方位可動式車両。
全員が車内に乗り込みドアが閉じると、トラムはすぐに発車する。
マス・キャッチャー格納庫までは3分だ。

「聞いた通りだ。我々はG-08エリアに向かい、周辺を調査する。当該エリアはメイフィールド近衛軍が機動兵器の保管に使用しており、特に大型マス・キャッチャー格納区は無重力状態が保持されている。
侵入する際はマグネットをオンにしろ。ドクター、飛翔魔法を使う際は重力下と感覚が異なるので注意を」
「了解」

やがて、トラムが減速を開始する。
車両が停止しハッチが開くと、其処はG-08エリア第2トラムステーションだった。
第203陸戦隊の面々が先に降車し、暫し安全確保をコールする声が続いた後、アロンソに促されてシャマルは車外へと歩み出る。
非常灯の明かりのみが照らし出すステーション内部。
薄闇の中を奔る赤い光、十数本のレーザーサイト。
シャマルはウィンドウを開き、アクセスを試みる。

「・・・駄目ですね。メインの電力は完全に落ちています」
『隔壁の閉鎖を確認。警戒して下さい』
「203了解。総員、格納区へ向かうぞ」

2名の隊員が通路を先行、やや離れて続く本隊。
後方にも2名が着き、隊は前後を警戒しつつ広大な通路を前進する。
やがて、閉鎖された隔壁が視界へと入った。
エリア各所へのアクセスルート、幅15m、高さ4mの通路を封鎖する、分厚い金属の壁。
隊員の1名が壁際のパネルを開き、内部のコンソールを操作する。

「駄目だ、全く反応が無い」
「管制室、電力を回してそちらからオーバーライドできないか?」
『了解、待機して下さい』

十数秒後、パネルに幾つかの光が点った。
すぐさま操作を再開する隊員。
そして彼はシャマルの名を呼び、コンソールの前にデバイス用のアクセスポイントである魔力球を発現させた。

「管理局のメカニックが構築したシステムなので問題は無い筈です、ドクター」
「ありがとう」

クラールヴィントをリンゲフォルムへと変貌させ、それを嵌めた指で魔力球へと触れる。
途端、隔離区画内の情報が、洪水の如く意識へと流れ込んできた。
システムの補助を得てそれらを整理し、並列思考で以って高速処理を行う。

「バイド係数2.62、複数探知。総数9」
「そいつは近衛軍の機動兵器だ。魔力増幅の為に「AC-47β」を模倣したシステムが配備されている」
「あとは・・・生命反応は確認できません。システム自体が沈黙しています」
「バイド係数の検出源は9ヶ所のみなんだな?」
「ええ」

暫しの沈黙。
シャマルは再度の探査を掛けるが、特に新しい情報は無かった。
何とか生命反応だけでも探知できまいかと試行錯誤していると、沈黙を打ち破ってアロンソの声が響く。

「マテオ、隔壁を開放しろ」

丁度その時、ステーションへとトラムが到着したらしい。
30名程の人員、魔導師やランツクネヒトを含むそれらが、こちらへと追い付いてくる。
どうやら通信越しに先程までの会話を聞いていたらしく、アロンソが続く言葉を紡ぎ出す事を待っている様だ。

315R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/07/12(日) 22:06:34 ID:TfsCCoXA
「検出源の数は兵器数と一致している。先程の戦闘で損失があったとの記録も無い。という事は、こいつは純粋なシステムトラブルである可能性が高い」
「万が一という事もあるのでは? 例えば、格納区内部にバイドが侵入しているとか」
「コロニー内部へ侵入するものは何であれ、全て記録される。24時間以内にこのエリアから外部へ出入りしたのは、メイフィールドの機動兵器だけだ。それに・・・」

アロンソは溜息を吐き、手にした質量兵器の銃身で軽く肩を叩く。
その素振りが何処か呆れを滲ませている様に感じられるのは、気の所為ではあるまい。

「正直なところ、原因は分かっているんだ。連中が使っている防護結界だよ。待機中は9機の機動兵器、その全てに結界を施しているんだ」
「何だ、それは」

初耳だったのだろう、新たに到着した人員の1名が怪訝そうに問う。
だが、どうやらランツクネヒトの小隊指揮官は既にその事実を承知しているらしく、無言のまま僅かに肩を竦める素振りを見せていた。

「近衛軍兵士の能力は非常に優秀だが、同時にプライドも並外れて高い。軍全体から選び抜かれた精鋭の中の、更に一握りが近衛軍に所属できる。能力だけでなく、王家への忠誠心も問われるんだ。
連中の兵器は他の軍団とは異なり、王家から直々に授けられたもの、という事になっている。連中はそれに傷が付く事を敬遠するんだ。だから、普段から防護結界を展開して厳重に管理している」

その話は、シャマルも知っている。
メイフィールド王朝を有する第71管理世界は、旧暦に於いて親ベルカ勢力国家だった。
真偽こそ定かではないものの、メイフィールド王家は一部聖王の血筋を引いている、との歴史的見解すら存在する程度には密接な繋がりがあったのだ。
その見解を裏付ける様に、第71管理世界は古代ベルカに良く似た、或いはその発展形とも取れる専制君主制が敷かれている。
一方で軍の大部分はシステムの近代化が進んではいるものの、これが近衛軍ともなると未だに兵士というよりは騎士としての性格が色濃く残されていた。
彼等の使用する兵器は王家より授けられ、王家より賜った命を果たす事にのみそれを使用するのだ。
それらが戦場に於いて損傷する事に関しては納得せざるを得ないであろうが、戦闘以外の要因で傷付く事は極力避けたいというのが彼等の本音だろう。

「結界の電力を外部から供給しているのか」
「結界そのものが外部に構築されたものだ。連中、マス・キャッチャーの保管ユニットに機体を格納して、表層に結界を展開したシャッターを下ろしているんだ」
「それが停電の原因か」

だが、その信念も時と場所を弁えて欲しいものだ。
シャマルは騎士として共感を覚えると同時に、そんな相反する思考をも抱いてしまう。
彼等にしたところで、現状でのその行いは最善でない事など疾うに承知している筈だ。
それでも信念を変える事ができないのは、誇りある騎士としての融通の利かなさ故か。

「これでもう3度目だよ。確か第97管理外世界じゃ、何とかの顔も3度まで、って言うんだろ?」
「仏の顔も、よ。それも一部地域限定」
「何だって良いさ。こいつを開けて、中に入ろう。窒息でもされたら貴重な戦力が減っちまう」
「同感だ」

マテオと呼ばれた隊員が、三度コンソールを操作する。
「Quarantine lifted」との音声の後、隔壁が天井面へと収納され始めた。
未だに照明は落ちたままだが、ドア等の操作は可能となったらしい。

「前進」

アロンソの指示と共に、総数50名近くにもなった歩兵と魔導師の混成部隊は、警戒を緩めずにエリア深部へと向かう。
行く先々で隔壁を開放し近衛軍人員を探索するものの、その姿が照明の落ちた闇の中に浮かび上がる事はなかった。
だが同時に、最も恐れていたバイド係数の変動、検出源の増加なども起こってはいない。
係数2.62、総数9。

『リフレッシュルーム、クリア。やはり誰も居ない。何処へ行った?』
『機体の整備中だったんだろう。格納区へ行くぞ』

316R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/07/12(日) 22:07:40 ID:TfsCCoXA
エリアに散っていた隊員が集まり、一丸となって格納区へと続く通路を進む。
やはり照明が落ちている以外にこれといった異常はなく、しかし万が一の事を考えるに警戒を緩める訳にはいかなかった。
バイドの脅威は此処に居る全員が身を以って経験しているであろうし、楽観的な予想を口にしたアロンソでさえ周囲警戒を怠る様子はない。
一同は、人に向けるには明らかに過剰な威力を有するであろう質量兵器、或いはデバイスを構え、足音を忍ばせる様にして移動を行っていた。
シャマルはバリアジャケットのデザインから徒歩で彼等の歩調に合わせる事を早々と諦め、今は飛翔魔法を用いて床面より僅かに浮かび上がり移動している。
そして通路を進むにつれ、右手の壁面に「MC HANGER BAY 01」との表示が施された隔壁が現れた。

「此処が格納区?」
『近衛軍が使用しているのは第4格納庫、もう少し先だ』

部隊は更に前進する。
200mほど進んだ頃、漸く「04」の表記が闇の中に浮かび上がった。
隔壁の前に展開した隊員達が質量兵器とデバイスを構え、無数のレーザーサイトの光が闇を切り裂く中、無機質な合成音声が響く。

『Quarantine lifted』

隔壁、開放。
次いで通常のドアが開放されると、その向こうには完全な闇が拡がっていた。
天井面と床面の非常灯が幾度か明滅した後に点灯し、漸く最低限の視界が確保される。
幅及び高さは50m程、奥行きは300m以上か。
シャマルは格納庫内部をサーチ、各種反応の位置を探る。

「バイド係数検出源、特定。此処だわ」
『壁面に格納ユニットの隔壁が並んでいるだろう。連中の機体はその中だ。確か、外殻から直接此処へ輸送される筈なんだが・・・』
『マス・キャッチャー・ユニットの格納用ラインがあるんだ。今は近衛軍が使用しているが、外殻ハッチ内部に機体を固定すれば、後はオートで格納ユニット内部まで運搬される』

ランツクネヒト隊員の説明を耳にしながら、シャマルは左右の壁面に並ぶ計10ヵ所の非常用隔壁を見渡した。
縦横60m程のそれら内部は、本来ならば近衛軍が設置した防護結界によって保護されているのだろう。
しかし今は完全に閉鎖され、その内部を窺う事はできない状態となっていた。
数名が各所の隔壁開放を試みるも、その結果は芳しいものではなかった。

『システムが操作を受け付けない。此処だけ独立している様だ』
『本当か?』
『詳しい事は解らないが、アクセスが拒否された。管制室、そちらからオーバーライドできないか?』
『試みましたが、失敗しました。先ずはエリアの電力供給を回復して下さい。その後で、再度オーバーライドを試みます』
『203了解。隊を2つに分けるぞ。我々はこのまま前進、アンタ方は此処の警戒を頼む。残っているのは大型マス・キャッチャー格納庫だけだ』

そして部隊は2つに分かれ、シャマルは第203陸戦隊と共に大型マス・キャッチャー格納庫を目指す。
目的地は第4格納庫を抜けた先、全ての格納庫へと繋がるドアが集合した通路の突き当たりにあり、逆方向のメインホールへと繋がるドアは破損している為に機能していないとの事だ。
進むこと数分、シャマル等は「LMC HANGER BAY」の隔壁へと辿り着いた。

「この先は無重力だ。ブーツの設定変更を忘れるな」
「電力が落ちているのに、無重力状態が維持されているの?」
「このコロニーは今、回転して遠心力を生み出している訳じゃない。急ごしらえの重力制御システムで、外殻へと向かって重力を発生させているんだ。無重力状態や重力偏向状態が必要な区画には、その影響が及ばない様になっている」

隊員がコンソールを操作し、隔壁を開放する。
その先に現れた通常のドアを前に、シャマルはシステム越しに内部を探った。
生命反応、多数。
システムエラーにより、詳細な数は不明。

「生命反応はあるけど、数は分からないわ。でも、彼等は此処に居る筈よ」
「マテオ」

アロンソの合図と共にドアが開かれる。
隊員達の質量兵器に取り付けられたフラッシュライトが内部を照らし出すと、微かな呻きが上がった。
照らし出された先に、パイロットスーツを纏った幾人かの人影。
どうやらペンライトの明かりを頼りに端末を覗き込んでいたらしく、向けられるフラッシュライトの光を遮る様に掌で目を庇っている。

317R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/07/12(日) 22:08:10 ID:TfsCCoXA
「オルセア正規軍・第203陸戦隊、停電の調査に来た。全員無事か?」
「・・・ああ、良く来てくれた、助かるよ。この通り、みな無事だ」

答えつつ、年配の男性が幾分ぎこちない足の運びで歩み寄ってきた。
ブーツのマグネットにより、足裏が床面へと吸い付いているのだ。
シャマル達もまた倉庫内に踏み入ると、途端に襲い来る無重力感。
飛翔魔法など用いていないにも関わらず、床面より浮かび上がる身体。
床面に突いた足の反動により、予想以上の勢いで浮かびそうになったシャマルは、慌てて飛翔魔法を発動し制動を掛けた。
アロンソの言葉通り、重力下とは異なる勝手に些か戸惑いながらも、何とか通常と同じ視点の高さを保つ。
何とか平静を装いつつ、彼女は近衛軍の指揮官らしき男性に問い掛けた。

「それで、停電の原因は判明しているんですか」
「ああ。恥ずかしい限りだが・・・「アンヴィル」を格納庫に戻した直後、いきなり隔壁が閉鎖されたんだ。停電はその際に起こった。どうやら、結界維持に電力を喰い過ぎたらしい」

アンヴィルとは、第71管理世界に於いて運用されている機動型魔導兵器である。
縦幅及び横幅は約50m、高さ15m程のそれは、外観からは上下に圧縮された騎士甲冑の様にも見える代物だが、その運用方法たるや空間移動砲台とも云うべき兵器だ。
機体の四方には高出力魔導砲、更に上部には円盤状の旋回砲塔を備え、全方位への攻撃を可能としている。
この旋回砲塔は多くの魔導兵器同様に砲身が存在せず、発射口のみが砲塔側面に穿たれている為、非常に高い耐久性能を誇っていた。
更に、内蔵されている戦術級魔導砲は次元航行艦クラスのそれと比較しては劣るものの、Sランクに相当する魔導砲撃を約8秒間に亘って持続し、更にその砲撃間隔たるや僅か10秒強という異常な性能を誇っている。
加えて、砲撃の持続時間を短縮し砲弾の様に形成する事で、0.3秒間隔での連射を40秒間に亘って継続する機能をも有し、現行の魔導兵器としては最も優れた機種であるとして、管理局内部でもその危険性を指摘する声が絶えなかった。
しかしこの状況下では、これ程に頼もしい戦力もあるまい。

「パイロットは?」
「まだ機内の筈だ。本来、格納されているマス・キャッチャーは無人だからな。隔壁を開放してやらねば、降機する事もできない」
「なら、早く出してやらないとな。マテオ、ルート再設定。ルペルトはマテオを補佐」
「了解」

そうして各々の作業に移る各員を、シャマルは展開したウィンドウ越しに眺めていた。
何度サーチを繰り返しても、バイド係数と検出源の個数、位置に変化はない。
それでもなお、シャマルには気になる事があった。

「何故、隔壁が作動したのかしら」
「魔力増幅用バイド体の所為だろう。あれは強力なシステムだが、実装されてから日が浅い。管理局で使用しているものみたいにエネルギーの蓄積で暴走する事はないが、妙に不安定になる時があるんだ」
「不安定に?」
「急激なバイド係数の上昇、そして下降だ。改善しようと思えばできるらしいが、増幅率を優先して目を瞑っているっていうのが現状だよ。恐らく、今回の停電もそれが原因だろう。
急激に上昇したバイド係数に反応したシステムが、安全の為に隔壁を閉鎖したんだ。それで電力不足に陥ったと」

成る程、とシャマルは納得し、ウィンドウを閉じる。
ほぼ同時に格納庫内の照明が回復し、広大な空間を光で満たした。
先程までの闇の中では気付かなかったが、遥か頭上に100名以上の人員が居る。
彼等はブーツの磁力により壁面に立ち、周囲と言葉を交わしつつ各々の作業へと戻ってゆくところだった。
他にもかなり大型の機材が壁面に固定、或いは太いチューブに繋がれた上で空間を漂っている。
先程の指揮官らしき男性がこちらへと向き直り、改めて礼の言葉を紡いだ。

「協力に感謝する。ありがとう。此処はもう大丈夫だ」
「なら良いんだ。じゃあ、我々は撤収する。他の連中を待たせているんでな」
「第4格納庫を通るのなら、パイロット達に此処へ戻るよう伝えてくれないか。どうにも先程の停電で通信システムがやられたらしい」
「何だって?」

男性の言葉にアロンソが第4格納庫に残った隊員達との通信を試みるものの、聴こえてくるのはノイズばかり。
暫し操作を続けるものの、状態が回復する事はなかった。
第4格納庫、通信途絶。

318R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/07/12(日) 22:08:53 ID:TfsCCoXA
「まいったな。ぼろコロニーめ、1ヶ所直すと2ヶ所壊れやがる」

悪態を吐きながらも、アロンソは隊員を呼び戻して帰投する事を告げた。
二言三言、指揮官と言葉を交わし、互いに敬礼して無重力圏を後にする。
シャマルもその後に続き、しかし通路との境を跨いだ瞬間、回復した重力に体勢を崩しそうになった。
何とか踏み止まるも、右足首に鈍い痛み。
すると、一部始終を目撃していたらしい隊員から、気遣う様な言葉が掛けられる。

「大丈夫ですか、ドクター?」
「あ、ええ・・・」

それは、マテオと呼ばれていた隊員だった。
大丈夫だ、との意思を込めて苦笑を返すも、直後に奔った再度の痛みに表情が揺らぐ。
傍にあった休憩用のベンチに腰を下ろし、シャマルは軽く息を吐いた。

「・・・ごめんなさい、少し捻ってしまったみたい。私は此処で治療していくから、貴方達は先に戻って」

その言葉に、シャマルを待っていたアロンソは何事かを考え始めた様だ。
暫くして彼は、シャマルの傍に付いていたマテオへと指示を出す。

「マテオ。ドクターの治療が終わるまで、傍に付いていてやれ。俺達は先に戻って、今回の件を報告する。ステーションに2人ほど残して行くから、彼等と合流して何時もの店まで来てくれ」
「了解」

それだけを言うと、部下を率いて通路の奥へと消えてゆくアロンソ。
初めは断ろうとしていたシャマルだったが、まだ勝手が良く解らない事もあり、折角の配慮だと厚意に与る事にした。
足首に治癒魔法を掛け、捻挫による軟部組織の損傷を癒すシャマル。
マテオは無言のまま、治療が終わるのを待っていた。

「見たところまだ10代みたいだけれど、貴方はどうして軍に?」

暫くして治療が終了すると、シャマルは足首の具合を確かめながらマテオへと問い掛ける。
彼の方もそういった問いには慣れているらしく、特に言い淀む様子もなく答えを返してきた。

「内戦で両親が死にまして。自分の街を焼き払った連中に復讐する為と、家族を食わせる為です」
「家族が居るの?」
「妹が1人。2年前にリンカーコアがあると判明して、それを頼りにオルセアから逃がしました。その4ヶ月後に、無事に管理局に入ったとの連絡が」
「そう・・・妹さんは何処の訓練校に?」

その時、マテオの視線が僅かに伏せられた事を、シャマルは見逃さなかった。
嫌な予感を覚えつつも、彼女は続く言葉を待つ。
果たして、語られたのは非情な現実。

「・・・第二陸士訓練校」

シャマルには、返す言葉が見付からなかった。
第二陸士訓練校はクラナガン西部区画郊外に位置し、バイドによるミッドチルダ襲撃時、ガジェット群の攻撃を受けている。
迫り来る数十機ものガジェット群に対し、教導官達は訓練生を地下へと避難させた上で迎撃を開始した。
訓練生を除いた全ての魔導師が、壁となって迫り来るガジェット群を魔導弾幕で以って撃墜せんとしたのだ。

結果、第二陸士訓練校は周囲6kmの土地と共に、ミッドチルダの地表から消滅した。
生存者は疎か、遺体すら1つとして発見されなかった。
行方不明者、2059人。
内、1634名が訓練生だった。

319R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/07/12(日) 22:09:24 ID:TfsCCoXA
「・・・もう行きましょう。皆が待っている」

そう言って促す彼に、ぎこちなく頷きを返す。
先導する様に先を歩くマテオの少し後方を、無言で着いてゆくシャマル。
やがて第4格納庫の前へと辿り着くと、マテオは其処で足を止めた。
訝しむシャマルに、彼は語り始める。

「ドクター」
「・・・なに?」
「妹は死んでしまいましたが、自分は後悔していません。オルセアに残っても、きっとアイツは遠からず戦火に巻き込まれて死んでいた」

背後のシャマルを振り返る事なく、マテオは言葉を続ける。
シャマルも、口を挟むつもりはなかった。

「それだけじゃない。何時かアイツも自分と同じ、戦場で誰かを殺す様になっていた筈です。銃の代わりにデバイスを手にして、見知らぬ誰かを殺す事に。アイツは、訓練校で友達ができたと言っていた。
そんな経験ができたのも、管理局に入ってミッドチルダへ行ったからなんです」

振り返り、シャマルの目を見据える。
その眼光の強さに、シャマルは息を呑んだ。

「自分はバイドを許すつもりはありません。奴等が目の前に現れるなら、その全てを殺し尽くしてやる。1匹だって逃がしはしない。此処に居る連中は皆そう思っている。貴方達はどうなんです?」
「マテオ・・・」
「管理局は、バイドを裁けますか?」

真っ直ぐに自身の瞳を見据えるマテオの問いに、シャマルは拳を固く握り締める。
シャマルとて、バイドは憎い。
数え切れぬ数の生命を奪い去り、踏み躙り、喰らい尽くした。
できる事ならば、存在の一片すら残さずに消し去ってやりたい。

しかしその憎悪の一部は、バイドのみならず地球軍へと向けられている事も事実である。
何せ、クラナガンでの犠牲者の3割近くは、地球軍の攻撃により発生したものだ。
更に云えば、バイドとは異なり意志の疎通が可能であるにも拘らず、それを承知した上で非人道的な作戦行動を実行したという事もあり、ある意味で地球軍に対してはバイド以上に純粋な憎悪を抱いているとも云っても過言ではない。

マテオはそれを承知した上で、シャマルへと問い掛けているのだ。
その地球軍への憎悪をも呑み込んだ上で、バイドに対し鉄槌を下す意志が、管理局にはあるのか。
そう、問うているのだ。
シャマルは、それを理解した。
だからこそ、答えるのだ。

「・・・勿論よ」

その言葉に、マテオは何を思ったのか。
再び格納庫のドアへと向き直り、掠れた声で何かを呟く。
その声は確かに、シャマルへと届いた。
彼女は小さく笑みを浮かべ、穏やかに声を掛ける。

320R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/07/12(日) 22:10:10 ID:TfsCCoXA
「・・・行きましょうか。皆が待っているわ」

マテオは微かに頷き、ドアを開放した。
そして1歩、格納庫内へと踏み入り。



瞬間、その姿が掻き消えた。



「あ・・・」

呆けた声を漏らすシャマル。
ほんの一瞬の事であるというのに、マテオの姿は跡形もなく掻き消えてしまっていた。
彼が其処に居たという痕跡は、何処にも無い。
壁面を見ると、全ての隔壁が開放され、その奥にはアンヴィルの巨体が鎮座していた。
其処にすら、彼の影は無い。

「マテオ・・・?」

ふと、シャマルは違和感を覚えた。
それは、ともすれば気の所為と断じてしまえる様な微々たるもの。
だが、確かに存在する感覚だった。

先程の無重力圏の様な、身体が浮かび上がる感覚。
無重力よりもはっきりと感じられる、自らの身体を引き上げんとする力。
否、上方へ「落そうと」する力。

バリアジャケットのポケットから、小さなケースを取り出す。
その中からアンモニアのアンプルを取り出し、掌に乗せてドアの外から格納庫内部へと突き出した。
アンプルは掌の上で奇妙に震え、直後に何かへと吸い込まれる様に掻き消える。
シャマルは迷わずケースを掴み、中のアンプルを全て取り出した。
そしてそれら全てを、通路と格納庫の境である、ドアのレール付近に撒き散らす。

今度は、視認する事ができた。
十数本のアンプルは徐々に、しかし確実に目で追える程度の加速で、ゆっくりと上方へ「落ちて」ゆく。
その軌跡を追い、シャマルはゆっくりと視線を上げた。
そして、それを目にする。

「う・・・あ・・・」



遥か50m上方、全てを染め上げる赤い染み。
天井面へと「落ちて」叩き付けられ、潰れて拉げた人間の成れの果て。
凡そ数十人分の、拉げた肉と骨の山。



「あ、あああぁぁぁぁッッ!?」

シャマルは叫んだ。
叫んだという自覚は無かったが、有りっ丈の声を振り絞った。
恐怖に歪む顔を取り繕うという思考すら持てず、アロンソやマテオ、その他の50名近い人間だったものの残骸を視界へと捉えながら、金切り声を上げ続けた。

321R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/07/12(日) 22:11:00 ID:TfsCCoXA
と、その視界の端に、蠢くものが映り込んだ。
反射的に視線を投じると、それは格納ユニットの1つ、その中から延びる影だった。
何かがユニット内部で蠢き、這い出そうとしている。
そしてシャマルは、その正体を目にした。

「うそ・・・」

それは、アンヴィルだった。
否、アンヴィルであって、同時にアンヴィルではなかった。
外観には何ら異常は無い。
しかし決して味方であるアンヴィルではないと、シャマルには分かった。
何故ならそのアンヴィルは。



上下が逆転した状態のまま、砲口をこちらへと向けているのだから。



瞬間、シャマルは飛んだ。
飛ぶこと以外の全てを思考より捨て去り、元来た道を全速力で逆行した。
背後で光が溢れ返り、轟音と熱風が全身を襲ったが、それすらも無視した。
只管に、ただ只管に大型マス・キャッチャー格納庫を目指す。
そうして「LMC HANGER BAY」の表示が記されたドアが目に入る頃、シャマルは唐突に全てを理解した。

何て事だ。
停電の原因となった隔壁の閉鎖は、機器の誤作動などではなかったのだ。
アンヴィルは汚染されていた。
バイドに汚染されていたのだ。
或いは、アンヴィルに擬態したバイド体なのか。

いずれにせよ、敵性体は狡猾にも、アンヴィルに内蔵されていた魔力増幅システムと全く同じバイド係数を保ち、アンヴィルそのものと成り切って侵入に成功したのだ。
そうとも知らず、管制室はアンヴィルをユニットへと格納してしまった。
だが、人間達が取り返しのつかない過ちを犯して尚、コロニーのシステムは正常に動作したのだ。
バイドを探知し隔壁を閉鎖、汚染の拡大を防ごうとしたに違いない。
だがそれも停電と判断ミスにより、あろう事か生存者自身の手で無力化されてしまった。
生存者達の最後の砦、その内部でバイドが解き放たれてしまったのだ。

「誰か・・・!」

大型マス・キャッチャー格納庫のドアを開き、シャマルは助けを求める言葉を放たんとした。
だが、その声は意味のない音となり、宙へと消える。
シャマルの眼前には先程と同じ、床一面の紅い花が咲いていたのだ。

「ひ・・・!」

思わず後ずさり、そのまま体勢を崩して倒れ込む。
格納庫内は、既に無重力ではなかった。
数十トンはあるだろう、巨大な機器が片端から落下し、それら拉げた金属の塊の下からは夥しい量の血液が溢れ返り、小さな流れを作っている。
飛び散る血痕は床面を完全に赤一色で覆い尽くし、壁面には数十mに亘って何かを引き摺った赤い筋が十数条も刻まれていた。
特に密集した血溜まりの中には、限りなく平面に近い状態となった肉塊と、その中から突き出す白い骨格の破片が無数に重なっている。
そして格納庫の中空には、濃群青の装甲を膨大な量の血で黒く染め上げたアンヴィルが、傲然とその巨体を浮かべていた。

322R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/07/12(日) 22:11:35 ID:TfsCCoXA
「うあ・・・ああ・・・!」

呻く事しかできないシャマルを見下ろすかの様に、アンヴィルは微動だにせず其処に在る。
だが、シャマルは気付いていた。
自身を圧迫する、異常なまでの物理的重圧を。
音を立てて軋む骨格、強大な圧力に悲鳴を上げる体組織。
眼前の存在が重力を意のままに操っている事を、シャマルは完全に理解する。
そうして、彼女の左眼窩の奥で、何かが割れる音が聴こえた瞬間。



アンヴィルの下部装甲を突き破り、無数の触手が床面を貫いた。



警報。
「QUARANTINE!」の表示が、残されたシャマルの右眼、その視界を覆い尽くす。
残された力を振り絞って上げた叫び、魂すら吐き出さんばかりのそれを聴き止めた者は、誰1人として存在しなかった。

323R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/07/12(日) 22:19:39 ID:TfsCCoXA
投下終了です
代理投下して下さった方、そして支援して下さった方、有難う御座いました

待て男「Quarantine activateって警告が聴こえたら、とにかく換気口から離れろって修理工のおぢさんが言ってた」

という訳で、コロニー脱出編第2話でした
ギロニカ残酷無惨の巻
卑猥じゃない中ボスの末路なんてこんなモンです
決して稼ぎ中に泡でミスった恨みではない

R戦闘機は1機増えて総数33機に
しかし22機は出張中でコロニーには11機しか居ません

そして遂に、恐らくは「Ⅲ」で最も嫌われているであろうBOSSの登場です
詳細は次回以降に書きますが、コイツに三半規管をやられたTYPERは多い筈

では、また次回



それでは、代理投下をお願い致します

324魔法少女リリカル名無し:2009/07/12(日) 22:21:33 ID:LHlZoWhY
行ってみる。

325魔法少女リリカル名無し:2009/07/12(日) 22:38:05 ID:LHlZoWhY
規制くらった。

326魔法少女リリカル名無し:2009/07/12(日) 22:54:32 ID:RiD6K0Sg
>>325
代理の代役行ってみます

327無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/07/12(日) 22:55:05 ID:RXVOkAFc
立て続けに申し訳ありません。R−TYPE氏の代理投下を行った後に自分の作品を投下しようと思ったのですが、アクセス規制にかかってしまいました。
どうかR−TYPE氏の作品投下後から30分後に自分の作品も代理投下をお願いします。

328無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/07/12(日) 22:56:46 ID:RXVOkAFc
 恐怖心を感じなかったことなんてない。
 いつも戦うのは怖かったし、別の次元世界にいる凶悪な魔法生物などは外見から既に恐ろしいものだった。
 それでも戦えたのは皆を守るためだったから。大切な友達や仲間、助けを求めている人達のためだから戦えた。
 けれどあの時から本当に怖くなってしまった。
 大切な、本当に守るべき大切な人が、出来てしまったから。
 死ぬのは怖くない。けれど自分が死んで彼女を一人ぼっちにしてしまうのは怖い。どうしようもなく怖い。
 あの怪我でわたしはまた弱くなった。このままでは本当に死ぬかもしれない。絶対に死ぬわけにはいかないのに。
 そんな悩みを抱えているわたしの前に、彼は現れた。



   リリカル×ライダー

   第九話『仮面』




 俺は無断外出がバレてしまい、隊長室に呼ばれていた。
「……で、カズマ君はなんで外に出とったん?」
 はやては珍しく怒っていた。真面目な表情を見た時も驚いたのだが、今回はそれ以上のものだった。
「俺は、その、外の空気が吸いたくて」
「それだけのためにわざわざヴァイス君のバイクを持ち出しとったん?」
 はやてがこちらを睨み付けながら痛いところを突いてくる。流石ははやて、普段から口論で勝てた試しがないほどの弁達者だ。いや、俺が下手くそなのもあるだろうが。
 ただ、今回はこちらも必死なのだ。負けるわけにはいかない。
「実は、怪物を倒そうと思って街を捜索してたんだ」
 嘘は、ついていない。内容は事実そのものだ。
「……もしかして、この前の事件の?」
 ティアナと出かけた時の、ローカストアンデッドの事件のことだろう。こいつのカードには色々と複雑な念を抱いてしまう。頼りにもなり、災いの種にもなる、そんな思いだ。

329無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/07/12(日) 22:57:33 ID:RXVOkAFc
何故かは分からないが。
 閑話休題。
「俺なりに責任を感じたからな。でもごめん、皆に迷惑かけたな」
 取り敢えず謝る。事実、彼女には迷惑かけっぱなしだ。この期に謝っておくべきだろう。
「――ホンマ頼むから心配かけんでや」
 はぁ、とため息をつくはやて。部隊長として忙しいにもかかわらず迷惑かけたのは本当に申し訳なかった。
 けれど、やめる気は全くないが。
「ところで、誰が気付いたんだ?」
「ん? キャロが気付いたんよ。芝生が荒れていたのを気にしててな」
 そうか、と俺は納得した。



     ・・・



「ライダー……僕とカリスの決闘を邪魔したお前を、僕は絶対に許さない!」
 空を舞う人影が羽根を引き抜く。高層ビルが乱立する、人工のジャングルとも言うべき街を見下ろしながら。
 彼が思い浮かべるのは一万年前のバトルファイトと、十五年前の人間が起こした偽物の殺し合い。
 前者はカリス――ハートのカテゴリーエースとの闘いを、後者は『仮面ライダー』と名乗る人間との戦いを想起させる。
カリスとはいわゆるライバルであり、バトルファイトに決着をつける際、戦おうと誓った仲だった。逆に『仮面ライダー』はその神聖な決闘を妨害した憎き敵だった。
「あの男が望む通り戦ってやろうじゃないか。そしてカリスを解放し、もう一度あの続きを――!」
彼は怒りを、そして決意を固めながら憎むべき人間を俯瞰する。
 人影、否、雄々しい翼を伸ばした人ならざる者の影から、鋭利な刃物のような羽根が鋭く投げられる。それは煌く軌跡を描きながら地表へと吸い込まれていく。
 またしても、クラナガンで被害者の絶叫が響いた。

330無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/07/12(日) 22:58:17 ID:RXVOkAFc



     ・・・



「ダメダメですよ〜! 一人で外出なんて〜」
 俺は訓練場に行きながらリィンにこっぴどく叱られていた。もっとも、身長30cm程度のリィンが怒っても可愛らしいだけだ。俺としては気にもならない。
「悪かったよ」
「もう、外出ならリィンがついていきましたのに〜」
 いや、それじゃ意味ないから。と心の中で突っ込んでみる。
 そんな雑談をしている内に、俺は訓練場に辿り着いていた。
 今日も誰もいない。皆捜査に奔走してるみたいだ。俺は日課の訓練をこなすためにリィンを連れて来ていた。リィンがいなければ訓練場の空間シミュレーターが制御できないからだ。
「じゃあ、いつもの続き、やりますよー!」
 おー、と言って答えるが、当然やる気はない。ここの所、寝不足がかなり響いていて、ときおり眩暈すらするほどだった。

――ドクン。

 そう、こいつらのせいで。俺はあんな狂った力を使わなければならなくなるんだ。そのために睡眠時間が削られているんだ。
 だが、今回の反応はいつもと違っていた。

――ライダー……ッ!

(まさか、上級アンデッドか!?)
 上級アンデッド。
 カテゴリージャック、クイーン、キングのアンデッド達のことだ。
 奴らの最大の特徴は、絶大な力と前回の優勝者の生物への擬態能力。
 奴らは前回の優勝者、ヒューマンアンデッドの一族、『人間』に擬態することができるのだ。つまり奴らは『人間』が持つ最大の武器、“知恵”を所有している。
「どうしたんですか?」
 奴らはマズい。このままにはしておけない。訓練は後回しだった。
「悪い! 野暮用が出来た!」
「カズマさん!?」
 俺は一気に走り出す。チェンジデバイスを起動させて腰に巻き付ける。
「変身!」
『Drive ignition.』
 レバーを引っ張ると同時に、たちまち俺の姿は青の拘束着を思わせるインナースーツと不自然に肩と腹の部分が塗りつぶされた銀色のアーマー、そして甲虫を象った仮面が貼り付いたヘルメットという組み合わせのバリアジャケットに包まれる。
『Fry booster』
 そして飛行魔法を発動し、背中のブースターを閃かせながら低空飛行で一気に飛び去ることにした。
(ライダー……?)
 一つの単語が、妙に頭の隅に引っ掛かりながら。

331無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/07/12(日) 22:59:05 ID:RXVOkAFc



     ・・・



(カズマ君……)
 あの夜、見てしまった真実が網膜から離れない。
緑色のおぞましいと思わせる肌と、鋭い眼を隠すように付けられた透明なフェイスガード。そして鋭利な刃物を思わせる右腕から伸びた突起物。
 彼の正体が、実は人々を殺戮する怪物だったなんて信じられなかった。
普段の彼は多少粗暴なところはあっても基本お人好しで、困った人がいれば迷わず助けにいくような人だ。そう、彼なはずがない。
 けれど、もし彼が怪物事件の犯人なら。
(わたしが、何とかしなくちゃ)
 そう、わたしが機動六課を守らなくちゃ。そのための隊長であり、そのためのエースオブエースなのだから。
「なのは、行くぞ!」
「あ、ごめん、ヴィータちゃん!」
ヴィータちゃんが赤いドレス型のバリアジャケットから伸びるスカートをはためかせながら怒鳴り声を上げる。後ろでスバルも手を振ってくれていた。
 取り敢えずカズマ君のことは帰ってから。今は任務に集中しなくちゃ。

332無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/07/12(日) 22:59:55 ID:RXVOkAFc



     ・・・



「ふん、来たか」
 眼鏡をかけたインテリのような雰囲気を持つ男が、スーツを直しながら呟く。
 巨大ビルの屋上ヘリポート。天を突く摩天楼に築かれた二人だけのコロッセウムにて、男は待ち続ける。
 そして、彼は現れた。
 銀色の装甲とブルーのアンダースーツ、甲虫を模した真紅の複眼が印象的な仮面。
 だが男の目からは以前と節々が違うように感じられた。肝心な腹と肩の部分に描かれるはずのマークもなく、剣も形が異なる。
「お前が、アンデッドか!」
 仮面の男――カズマが叫ぶ。
「待っていたぞ、ライダー!」
 男もそれに答える。眉間に皺を寄せながら。
「……本当に覚えていないとはな」
 男の呟きはカズマには届かない。
 男は一度だけ首を振った後、顔を上げた。
 その瞬間、男に変化が生じる。
 一瞬にして、右手に鋭い鉤爪を付け、雄々しい翼を広げる、黒い鎧と羽毛に覆われた怪人に変化していた。
「……上級、アンデッド」
 カズマが驚きの声を上げる。理解しているのと目の当たりにするのでは訳が違う、それを認識させられたというような声音だ。
 一方の男――イーグルアンデッドはすでに鉤爪を構えながら大空に浮かび上がり、戦闘態勢を整えていた。
「いくぞ、ライダー!」
 イーグルアンデッドが羽根を手裏剣のように投げ付ける。鋭利な羽根は肉を抉らんとカズマに襲い掛かる。
「くそっ!」
 カズマも後ろに飛んで避けながら背中のブースターを噴かし、空中に上がる。
「ほう、フロートのカード無しで飛行できるのか」
 感心しながら観察と羽根手裏剣による牽制を行うイーグルアンデッドに対し、カズマはその不完全な剣を抜いて羽根の迎撃を行う。

333無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/07/12(日) 23:00:46 ID:RXVOkAFc
「今度は負けん!」
 イーグルアンデッドは羽根をばら撒いた刹那、右腕を振り上げながらカズマの隙を突くようにして自ら襲い掛かった。
『Protection』
 だが、今度はイーグルアンデッドが驚愕する番だった。
 イーグルアンデッドの鉤爪が装甲に達する寸前、青のバリアに阻まれる。ガード魔法、プロテクションがオートで発動したのだ。
「魔法だと!?」
 イーグルアンデッドのような上級アンデッドは人の姿に化けることができる。故にヒト社会に潜り込むことが可能だ。
 彼が潜伏して知った驚きの事実、それが魔法だった。
 たかが人間がアンデッドにしか出来ないような“超”能力を行使したことに驚きが隠せなかった。
 そして目の前のライダー、何故以前は使えなかった魔法などという技を、こいつが覚えているのか。
「ふん。こんなもの、破壊すればいいだけの話しだ!」
 イーグルアンデッドは頭から余計なことを振り払うかのように首を振って、右腕の鉤爪を叩き付けた。
 その破壊力は、容易く強固なプロテクションを打ち砕く。
「ぐあっ!」
 衝撃に吹き飛ばされるカズマ。
 すかさずイーグルアンデッドはカズマを追跡する。
「――この程度なのか、ライダー」
 連続して繰り出される鉤爪を剣で払うカズマだが、一本二本と装甲に傷が入っていく。
 カズマは反撃に転じようとするも、悉くカウンターを食らってしまう。
「これで、終わりだ!」
 イーグルアンデッドが隙を突くように渾身の回し蹴りを叩き込む。
 強烈な一撃に意識を刈り取られたカズマは、そのまま地上へ落ちていった。
「カリスよ、やはり僕と戦えるのはお前だけのようだ」
 どこか哀愁を漂わせる、独りの男を残して。

334無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/07/12(日) 23:01:38 ID:RXVOkAFc



     ・・・



「――さん」
 誰かが俺を呼んでいる。起きて反応しなければならない。
 けれどとても瞼が重くて、反応出来そうにない。それに、こうしてい方が心地良いから、反応したくない。このまま眠っていたい。
「……マさん」
 鬱陶しい。このまま眠れば、これ以上苦しまなくてすむんだ。もうあの苦しみから解放されるのだ。
 だからこれ以上、俺を起こさないで――
「――カズマさんっ!」
「うわっ!?」
 リィンの怒鳴り声が一気に俺の意識を覚醒させる。ついさっきまで考えていたことをすっかり忘れ去ってしまうほど、豪快な起床だった。
「ど、どうしたんだリィン?」
「どうしたもこうしたもないですよっ! あんな高い所から落ちてきたから心配してたんですよ!?」
 そう言われて空を見上げる。
 すぐ近くには、天を突く勢いの、百階はありそうな巨大なビルがそびえていた。
(そう、か。あの上から落ちたのか)
 そっと周りを見渡す。地面に叩きつけられたならあの血が飛び散っているはずだが、それはない。ほっと安心すると共に疑問が湧き上がる。
「なんで、無傷なんだ……?」
「リィンが受け止めたからですっ!」
 泣きそうな顔で覗き込んでくるリィン。
 彼女は普段の妖精みたいな外見から、ヴィータみたいな小学生ほどの体格に成長していた。魔法とその体で受け止めてくれたのかもしれない。
 しかし、何故に膝枕をされているのか。
「あ、これはですね、変身魔法の一環で体を大きく出来る魔法なんですよ!」
 普段の30cmの体格では嫌が上にも彼女が人間ではないことを痛感させられるが、今の姿なら人間の子どもと大差ない。
そんな子どもに膝枕されていると思うと段々恥ずかしくなってきた。
「普段は何で小っちゃいんだ?」
「む、私だってこっちの方が子ども扱いされないから良いですけど、あっちの姿の方が魔力の節約とかで便利なんですぅ〜」
 こっちも子どもじゃないか、とは言わなかった。女性に余計なことを言うとろくなことにはならないことを何故か理解していたから。

335無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/07/12(日) 23:03:18 ID:RXVOkAFc
(……待てよ、俺は何かを忘れて――)
「――リィン! あいつは!?」
「はひゃ!? び、びっくりしました〜」
「いいから! あいつはどこに?」
 最初は目を真ん丸にして驚いていたリィンの顔が徐々に陰り、最後は視線を反らしていく。
「……見失いました」
 間違いない。あいつは人間に化けたのだ。すぐに探さなければまた被害者が出てしまう。しかし――
「取り敢えずカズマさんも起きましたし、結界を解いたら六課でたっぷり事情を聞かせてもらいますからね」
 ――どうやら、今すぐ追うことはできなさそうだった。



     ・・・



「くくくっ」
 百階以上はあると思われる高層ビルの屋上にて男は笑う。高らかに、嘲りを込めて。
 その瞳が映すモノは世界か、己か。
「やはりアンデッドには魔法が通用しないようだな」
 男は理知的で寡黙そうな顔に獰猛で野蛮な笑顔を浮かべ、下界を見つめ続ける。
 世界は何も知らないかのように整然と動く。いや、実際何も知らないのだろう。だから例え人が墜落しようと、街は決して変わらない。
「いや、奴が勝てないのはそれだけじゃないか。記憶がないんだからな」
 男は笑みを深めながら右手で弄んでいるカードを見つめる。
 端にスペードの刻印とアルファベットのAが穿たれ、鮮やかで生き生きとした甲虫らしき生物が描かれたカード。
 たかが紙切れ一枚に、どれほどの力が宿っているか、人々は知らないだろう。アクセサリーに強大な力を込めたもの――デバイス――を作れる連中には良い皮肉だと男は考える。
「さぁ、お前にきっかけを与えてやるよ。俺は“お前”を倒す必要があるんだからな」
 男はベルトに下げたホルダーの中から箱型の機器を取り出し、それを忌まわしげに握りしめる。
「俺はオリジナルを殺し、本物になる。そのためにまずは剣崎、お前を倒す!」
 決してこの男には似合わない笑い声を上げながら、彼は世界に向かって吠えた。

336無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/07/12(日) 23:04:13 ID:RXVOkAFc



     ・・・



 あの上級アンデッドとの戦いから次の日、俺は帰って早々はやてから散々怒られたことを思い出していた。
『無茶してもし死んどったらどないするん!?』
「無茶しても死ねないからなぁ」
 最近フラッシュバックする光景が思い浮かぶ。雪山。近付く地面。ぐしゃりという音。周りに広がる“緑”の血。
 夜な夜な俺を苛む記憶の断片。それが俺を追い詰めている。それが分かる。
 人ではない。
 そう、俺は化け物なのだ。それをありがたくも再確認させてくれる。お陰で睡眠時間は減る一方だ。これなら記憶が戻らない方がまだマシだったかもしれない。
 一度頭をかきむしり、思考をリセットする。そう、今考えることはあの上級アンデッドのことだ。他のことは、今はいい。
(ジョーカーでいくのでは飛行能力を持つアイツに勝つのは難しい。だからといって魔法では勝ち目はない……)
 どんどん選択肢が無くなっていっていることに気付いた。これでは奴に勝てない。考え方を変えなければ。
 そんなとき、機動六課演習場に凄まじい騒音が響き渡った。

337無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/07/12(日) 23:05:38 ID:RXVOkAFc



     ・・・



「何や!?」
 爆音と共に、はやての声が響きわたる。
 はやてが覗き込んだ窓の向こう側から、煙が昇った演習場が見える。それを見て、はやては顔を青ざめた。
「ザフィーラ! ちょっと調べてきてくれんか?」
『了解です、主』
 はやてが念話で己の守護騎士を呼ぶ。
六課に残る戦力は看護班のシャマル、指揮官のはやて、そしてフリーのカズマとザフィーラだけ。その上、はやては強力すぎる部隊にならないよう戦力規制のリミッターがかけられており、シャマルは前戦向けではなく、カズマは負傷中。戦えるのはザフィーラだけだった。
隊舎から飛び出す蒼き狼は四肢を振るって海上に浮かぶ演習場へと向かう。疾風を纏うかのような速さで滑り込んだ彼が見たものは、立体シミュレーターによって作り出されたコンクリートを出鱈目に打ち砕く怪鳥ならぬ怪人だった。
「何者だ」
 低く、唸るような声でザフィーラが言葉を投げかける。彼も人ではないからか、怪人に即座に襲いかかるような真似はしなかった。
「……今度は犬畜生か。人間といい犬といい、僕とカリスを邪魔するには役不足な連中ばかりだ」
「俺は犬ではない! 狼だ!」
 ザフィーラが毛を逆立たせ、低く腰を落とす。途端、彼の体が白く輝きだす。その姿が、一瞬にして獣人のそれに変わった。
 鍛え上げられた筋肉、がっしりとした逞しい体、そして白い髪とそこから生える犬耳。
寡黙な顔をしかめさせながら、ザフィーラはファイティングポーズを構える。
「ほう、人間のしもべに成り下がった犬畜生がアンデッドに刃向かうとはな」
「盾の守護獣、ザフィーラだ! 俺を侮辱し、主の御元を傷付けるお前を許さん!」
 ザフィーラは足元に三角形の魔法陣を展開し、それを蹴飛ばすような勢いで怪人――イーグルアンデッドに挑みかかった。
「犬ごときが、この空に上がるな!」
 それに対しイーグルアンデッドは雄々しい剛翼を広げ、鋭利な羽根を雨のように降らせる。そのナイフの豪雨をザフィーラは両腕に展開した三角形の魔法陣で巧みにはじいていく。
「その程度、俺には効かん!」
「この程度で消えてくれた方が良かったんだがな」
 イーグルアンデッドの傍にまで接近したザフィーラを鉤爪が迎え入れる。ザフィーラは二つの盾をもって防ぐが、イーグルアンデッドは強引に爪をねじ込み、盾を打ち砕いた。
「ぐぉ!?」
「犬がアンデッドに楯突くんじゃない!」
 さらに連撃として左ストレートを打ち込まれ、吹っ飛びザフィーラ。
 だが筋肉の鎧で包まれた守護獣は、この程度で怯みはしない。

338無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/07/12(日) 23:06:11 ID:RXVOkAFc
「まだまだ、いくぞ! 『鋼の軛』!」
 ザフィーラが両腕を構えると同時に大空を舞うイーグルアンデッドを囲むようにいくつもの魔法陣が浮かび上がる。
 それらがイーグルアンデッドに向いた瞬間、それらから白き拘束条が勢いよく伸びる!
「こけ脅しが!」
 それらをイーグルアンデッドも避けるが、二本が翼を貫通する。すぐに引き抜こうとするが、拘束条が膨らんでいき、抜けなくなる。
 それはまさに、空に射止められた鷲。
「なんだこれは!?」
「俺の『鋼の軛』はあらゆるものを貫いて捕獲する拘束魔法。お前も、これで終わりだ」
 羽ばたくこともできず空中に停止させられた状態のイーグルアンデッドは最初こそ暴れていたが、すぐに大人しくなった。
「主、終わりました」
「ふん、これで終わるかと思ったか?」
「――何?」
 彼は右腕を掲げる。嵌められた黒光りする鉤爪が閃く。それは決して降参のそれではなく、むしろ必勝を思わせるもの。
 イーグルアンデッドは、その鉤爪で自らの翼を斬り落とした。
「ぐっ!」
「なん、だと!?」
 そしてその刹那、千切れた断面から新たな翼を生やした。
「ぐおっ……!」
「翼を、強引に再生だと!? なんという生命力だ!」
 そしてイーグルアンデッドは一瞬でザフィーラの懐中に入り込み、鉤爪を腹に叩き込んだ。
 血を噴き出しながら墜落するザフィーラ。それを受け止めたのは、はやてだった。
「ある、じ……?」
「喋ったらあかん。シャマル、すぐに治療を」
「はい」
 あの念話から急ぎ赴いていたはやてとシャマルは、用意していた回復魔法によってザフィーラの治療を開始する。
 そこに、イーグルアンデッドが舞い降りた。
「人間の、しかも女か」
 右手を構えながら近付くイーグルアンデッドに立ちはだかるはやて。その彼女に対し、侮蔑の響きを込めた言葉を投げ掛ける彼。
「これ以上、好き勝手はさせん」

339無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/07/12(日) 23:06:43 ID:RXVOkAFc
 はやては自らの十字架を模した杖型デバイス、シュベルトクロイツを構え、イーグルアンデッドは己の鉤爪を構える。
 一触即発の空気。
 そこに割って入る影。それは、カズマだった。
「お前の相手は俺だ!」
「ライダー、貴様は負けたのだ。下がれ」
 それを無視し、剣を引き抜くカズマ。腰を下げ、垂直に立てた剣に左手を添える独特な構えを取る。
 そのとき、周囲を白い煙幕が包み込んだ。
「何や!?」
 はやての叫びすらも包み込むように広がる煙幕は演習場を瞬く間に包み込んでいく。はやてとシャマル、ザフィーラは固まっていたが、イーグルアンデッドとカズマはそれぞれバラバラに動き出し、まもなく散り散りになっていく。
 そんなカズマの元に一枚のカードが滑り込む。
「受け取れ」
「なんだ!?」
 カズマの右手にいつの間にか握られたカード。そして男の声。
 それは、カズマの記憶を激しく刺激する。
「今の声……、それにこのカードは」
 カズマは手元のカードを握りこみ、変身を解く。
「裏だ」
 聞き覚えのある声。そう、かつて自らを鍛え、導いた先輩である、戦友でもある男の声。
「そうだ――俺は」
 チェンジデバイスの裏、カードを挿入するラウズリーダーが顔を覗かせる。それを見てカズマは右手のカードを差し込んでいく。
 そしてそれを腹部に持って行った刹那、チェンジデバイス側面からトランプのカードに似たものが幾枚も飛び出し、カズマの腰にベルトに変化しながら巻きついていく。
 その姿は――
「――そうだ、俺は『仮面ライダー』だ!」
『Turn up』
 カズマがレバーを引いた直後にチェンジデバイス中央のクリスタル、その中のゴールデントライアングルが回転し、そこから青いエネルギーゲート、オリハルコンエレメントが射出される。
「うぉおぉぉぉぁぁぁ!」
 それを潜ってカズマは、「仮面ライダー」へと変身した。


     ・・・



 遂に「仮面ライダー」に変身したカズマ。再誕した彼とイーグルアンデッドとの第2ラウンドが始まる。
 一方、それを眺める三人の男達は、それぞれが行動を開始する。その目的は――

   次回「ライダー」

   Revive Brave Heart

340無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/07/12(日) 23:16:31 ID:RXVOkAFc
まず、このようなタイミングでの代理投下をしてしまったことに謝罪させていただきます。申し訳ありませんでした。
リアルの方が忙しく、今日くらいしか投下するじかんが取れなかったため、このような結果になってしまいました。
また、早めに投下予告をすることも考えましたが、執筆完了が先ほどでしたので出来ませんでした。
今回のことで気分を悪くされたかもしれないR−TYPE氏には深く謝罪させていただきます。
それと、代理投下をしてくださる方々には感謝してもしきれません。ありがとうございます。

それと作品についてのあとがきですが、今回は後半が突貫工事によるものなのでグダグダかもしれません。後日見直しし、wikiの方で修正するかもしれませんことをご了承ください。
今回はバトルメインです。カズマがいよいよ本来の力を取り戻します。次回はイーグルアンデッドとのリターンマッチです。ご期待ください。

341R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/07/12(日) 23:20:42 ID:TfsCCoXA
ウロスの方にも書かせて頂きましたが、改めてもう一度

LHlZoWhY様
RiD6K0Sg様
無名氏

皆様、代理投下有難う御座いました
投下数が多い為、必然的に皆様の手を煩わせてしまい、本当に申し訳ありません
そして無名氏、こちらこそ申し訳ありません
20:00に投下の予約をしておきながら、トラブルの為に投下時間を延ばしてしまいました
時間の無い中の投下にも拘らず、それを邪魔してしまった様で申し訳ありません

そしてもう一度、代理投下して下さった皆様、有難う御座いました

342無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/07/13(月) 14:44:26 ID:FT6T9Okk
代理投下確認しました。ありがとうございます。

それとR-TYPE氏がそのようにおっしゃてくださり、救われました。これからは気を付けますので、共に執筆頑張りましょう。

343ナッパ ◆1jOfzim.ew:2009/07/21(火) 02:07:42 ID:GW50T3aY
申し訳ございません、連投規制に引っかかってしまいました。

時間が時間なので規制が解除されるであろう朝方にでも続きを投下しようと考えていますが、
なにぶん公共の場でありますのでスレッドの流れを悪くしかねません。
もしこの時間帯に見ている方がいらっしゃれば、代理で残りの投稿をお願いしたいのですが…

朝方まで何もなければ規制が解除される頃に残りを投下いたします。
ご面倒をおかけして大変申し訳ございません

344ナッパ ◆1jOfzim.ew:2009/07/21(火) 02:08:19 ID:GW50T3aY

「さて、そろそろ時間だね、フェイトちゃん」

今まで口を開かなかったなのはが話しかける。
いつもどおりの口調、いつもどおりの声。
何一つ変わった様子などない、いつものなのはだ。

「うん、行こうか、なのは」

目配せを一つ、そして一歩前へ踏み出す。
なんの迷いもない一歩、穢れなき意思の踏み出す一歩、いつもと変わらない一歩。
何一つなのはは変わらないはずなのに。
フェイトだってそうだ、何も変わらない。
任務の困難さゆえ?いや、GEARの真相はあの世界の背景であって今回の任務に関係してくることではない。

「……………」

二人はそのまま転送ポートに入る。
転送の準備は完了した、あとは送り出すだけ。

「なのは」

転送の直前、無言の空間を破ったのはユーノの声だった。
はじき出されたかのように口から出たなのはを呼ぶ声。
責任を感じていた、結局のところ今回ユーノはなのはの役に立てていないからだ。
悪戯に此度の件を重くしたかもしれない、そんなことをずっと考えていた。
そのどこ申し訳なさそうな表情を見たなのはは笑う。

「別にGEARと戦うわけじゃないんだから、心配しないで?」
「そうだけど、全部が全部休眠しているとは限らないかもしれない」
「そうかもしれない、でもそうじゃないかもしれない」

もちろん上層部にもGEARの情報は行き届いている。
が、任務内容に変更はなかった。
ジェイル・スカリエッティの逮捕、そしてソル・バッドガイの逮捕。
後に追加されたソルの逮捕すらも変更はなかった。
あの世界の住人を逮捕する、管理外世界なのにも関わらず、だ。
何故?と聞いてみた、だが帰ってきた答えは“need to know”
…つまり末端が知る必要はないということ。
その事実を知りますますユーノの罪悪感は強くなった。
結局のところ、状況をこじれさせただけなのかもしれない、と。

「やるだけだよ、何が出てきても全力でいくんだ」
「無茶だよ、無謀すぎる」
「でも、全力以外の戦いなんて認められないの」

恐怖感はないのだろうか?ユーノは時折、なのはを疑問に思うことがあった。
全力でやるのはいい、でもその後のことを考えているのか、不安になる。

「それでも…命は一つなんだよ?」

問いかける、自分の罪悪感を少しでも緩和するための質問ではない。
純粋に、彼女の無事を祈る気持ちから。

345ナッパ ◆1jOfzim.ew:2009/07/21(火) 02:09:54 ID:GW50T3aY
「一つだけだからだよ、大切にしたいから全力でいくんだよ」

その時、ようやくこの違和感に気づいた。
おそらくいつもと変わらないから不安なんだろう、事の重大性に関わらずなのはの姿勢が変わらないことが。
なのはには油断のひとかけらもない、それは悪いことじゃない。
でも、自分の命を大切にしてくれるだろうか?
駆け引き…引き際を感じ取ってくれるだろうか?
これまで以上に命のやり取りに敏感にならなければならない。
だからだ、この硬くて重い空気はその反故から生まれる。
なのはの身を案じる一同、それに答えようと力むなのは。

「大切にする方法は全力出し切ることだけじゃない、休む事だって大事なんだよ」
「…わかってるよ、ユーノ君」

案じるだけでなく、言葉にして伝えた。
それになのはは頷いた、ほんの少しの間をおいて。







誰もが、その場にいる誰もが二人の無事を祈っていた。
あらゆる手を尽くした、万全を期した、やれることはやった。
されども不安は尽きない。
なのはだってわかっているはず、フェイトだってそうだ。
誰もが二人の無事を祈っていて、それが最優先であることぐらい。
二人に何かあれば悲しむ人が数多くいることくらいわかっているはず。

(なのは…フェイト…)

二人がいなくなった転送ポートを見つめる。
ユーノは二人がそこに無事に戻ってくること祈っていた。
ただ、祈ることしか出来なかった。

346ナッパ ◆1jOfzim.ew:2009/07/21(火) 02:17:16 ID:GW50T3aY
途中、規制に引っかかってしまい申し訳ございませんでした

前回、スカリエッティの情報はほとんどないにも関わらずナンバーズの事は知っているのは何故か
とうご指摘をいただきました
それに関しては時系列的にゼスト達がナンバーズと交戦した時期であり、ナンバーズの情報は
多少入手していたから、です。
まぁ、ナンバーズの紹介を今更することもないし、それが本題ではないので初めから知っている
事にした、というのもありますが…

次回は戦闘シーンばっかりです、どうぞよろしくお願いします。

347ナッパ ◆1jOfzim.ew:2009/07/21(火) 02:23:16 ID:GW50T3aY
スレ汚し申し訳ございません、何とか自分で投稿することができました
上記に投稿した分の代理投稿は取り消します

お騒がせして申し訳ございませんでした、今後二度とないように注意いたします。

348レザポ ◆94CKshfbLA:2009/08/06(木) 20:54:06 ID:CVrV0JfY
 〜おまけ〜
 
 此処はあらゆる時間・次元・事象を超越した世界セラフィックゲート。
 
 そして此処に一つの犬小屋が存在する、これはあらゆる次元の中で起こりえる一つの可能性が詰まった小屋である。
 
 だが決して…興味本位で覗くこと無かれ……
 
 
 
 
 ヴィータの一撃によって辺りは炎に包まれ、その状況を睨みつけるヴィータ。
 すると炎の中から一つの人影が姿を現し、ヴィータは苦虫を噛む表情を表し吐き捨てるように言葉を口にする。
 
 「………悪魔め…」
 
 
 
 
 
 其処から姿を現した人物、それは犬なのはであった。
 そして犬なのははゆっくりと歩き出し佇むと、静かに言葉を口にする。
 
 「あ……悪魔…で……良い―――」
 
 そう台詞吐くや否や倒れ込む犬なのは、それを見た犬フェイトと犬アルフが犬なのはに駆け寄ると
 犬なのはの体から白い煙が立ち上っており、その姿に犬フェイトの怒号が辺りに響く。
 
 「犬なのは!だからあれほど演出には拘らないでって言ったのに!!」
 「……死を………感じる………」
 
 犬なのはの体からは香ばしく肉が焼けた香りが漂っており、その匂いに思わず涎を垂らす犬フェイトであったが、
 すぐに気を取り直し頭を横に振っていると、犬アルフが犬なのはの様子を伺う為、体に手を伸ばすと焦りに近い表現で言葉を発する。
 
 「こっこれは本当に不味い!こんがりウェルダンじゃない!!」
 
 犬アルフの判断にまたもや涎を垂らす犬フェイトであったが、直ぐに拭き取ると犬なのはに抱きつき
 縋るような目つきをして犬アルフに目を向け問いかける。
 
 「どうしよ!私の嫁が!!」
 「落ち着いて!ノーブルよ、ノーブルエリクサーが必要よ!」
 
 しかも一つや二つではない、沢山の数が必要だと犬アルフは答える。
 ノーブルエリクサーとは貴重な薬草を元に調合する事で出来る回復薬で
 半死人の状態でも、この薬を飲めば全快するという代物である。
 
 話は代わり三匹の掛け合いを遠くで見ていたはやて達、するといきなり犬フェイトがシグナムに目を合わせ問いかけてきた。
 
 「アナタ!アナタなら持っているのでは?」
 「いや……私は持ち合わせ―――」
 「無いんですか!この戦闘狂ニート侍!!」
 
 犬フェイトの言葉に苛つきを感じたシグナムはレヴァンティンに手を伸ばすが、
 それを知ってか知らずか今度は犬アルフがシャマルに話しかける。

349レザポ ◆94CKshfbLA:2009/08/06(木) 20:54:33 ID:CVrV0JfY
 
 「じゃあアンタ!アンタなら持っているんじゃないの!風の癒し手って呼ばれているんでしょ!!」
 「わっ私はそう言う薬品類は―――」
 「持ってないの?!気が利かないわね!だから何百年も行き遅れるのよ!!」
 
 犬アルフの言葉にカチンッと来たシャマルはゆっくりと糸を垂らし始める。
 しかし二匹は無視した形で今度は犬フェイトがヴィータに目を向け声を掛け始める。
 
 「ではそこにいる少女、アナタならどうです?」
 「アタシがそんなの持っている訳―――」
 「やっぱり持って無いんですか?この万年ロリババァが!!」
 
 犬フェイトの無慈悲な言葉に怒りを表しグラーフアイゼンを握る手が堅く絞られていく。
 そして今度は犬アルフがザフィーラに問いかける。
 
 「それじゃアンタはどうなのさ!同じ犬同士アンタなら持ってるんじゃないの?」
 「持っていない、それに俺は犬ではない!守護―――」
 「持って無いの?!役に立たないわね!だからアナタはリストラされたのよ、この負け犬が!!」
 
 犬アルフの痛烈な非難に怒りを覚えるだけでは無く、殺意すら覚え拳を握るザフィーラ。
 すると二匹は、はやてを見つめるなり話しかけてくる。
 
 「アナタはアナタなら持っているんじゃないでしょうか?」
 「そうだよ!なんたって部隊長なんだからな!」
 「んなもん、持ってる訳ないやろ」
 
 さらりとはやては答えると更に話を続ける、元々自分達はノーブルエリクサーを知らない
 知らない物を持ち歩いているハズがない、と告げると
 二匹は溜息を吐き、頭を抱えて苦しみ悶えるように暴れていた。 
 
 「なんて事!こんな無能な人間が部隊長だなんて!!」
 「こんな無能な人間が部隊長だなんて世も末だ!!」
 
 そう言って叩き込むように悪態を付くと二匹は、はやてを指差し声を合わせてこう述べた。
 
 『この!エセ関西無能部隊長が!!』
 「なっ……なんやとぉ〜………」
 
 その言葉に堪忍袋がブチッとキレた音が辺りに鳴り響き、はやてはリインとユニゾンする。
 一方犬フェイトと犬アルフは犬なのはを依然として心配しており、駆け寄り声を掛けていた。
 
 「どっどうしよ〜!私の嫁が!嫁がぁ〜!!」
 「落ち着いて!きっと何か方法があるはずだよ!!」
 
 錯乱する犬フェイトに対し落ち着かせようとする犬アルフ、そして深呼吸を促すと二匹はその場で大きく息を吸う。
 すると犬なのはから漂う香ばしい匂いが鼻孔を貫き一気に涎を垂らす二匹。
 そして犬なのはをジッと見つめていると肩を叩かれるのを感じ、手で追い払うがそれが何度も繰り返され、嫌気を指した二匹は力強く払うと睨みつける。
 
 すると其処には冷めた目線を送るはやてとヴォルケンリッターの姿があり、流石の二匹も肝を冷やし懐で暖めていたあんパンを差し出し、土下座の形で許しを乞う。
 するとそれを見たはやてはゆっくりと二匹に近づき、膝を付き同じ目線で座ると二匹の頭を撫でる。
 二匹は自分達の行為を許してくれたのかと笑顔で顔を上げると、笑顔で迎えるはやての姿があり安心した途端、
 はやては素早い動きで二匹の顎を掴み取り、ミシミシと骨が軋む音が聞こえる程に締め上げる。
 その時、はやての瞳は最早怒りを超え殺意を超えた冷酷な…まるで深海のような深い色を表しており、
 その瞳に震え上がり漏らし始める二匹に、こう告げる。
 
 「そないおっかないんか?…せやけどもう遅いん…どれだけ命乞おうとも、もう遅いんや………もう…終いや」
 
 そう言って掴んだ顎を思いっきり突き飛ばすと二匹は地面を転がり、はやては立ち上がると直ぐに背を向け場を後にする。
 そしてはやてを護るかのようにヴォルケンリッターの面々が立ち並ぶと、
 徐々に二匹の間を詰めていき、二匹はお互いを抱き抱えるように震え上がっているのであった。
 
 
 
 …暫くしてヴォルケンリッターもまたその場を後にすると、其処にはこんがりと焼けた三匹がうつ伏せの状態で倒れていた。
 そして遠くでは犬ヴィータが三角座りのまま今までの光景をず〜っと見つめており、思わずぼそりと言葉を口にする。
 
 
 
 「アタシだけ…仲間外れかよ……」
 
 
 
  そう言って三角座りのまま塞ぎ込む犬ヴィータであった。

350レザポ ◆94CKshfbLA:2009/08/06(木) 20:55:52 ID:CVrV0JfY
 以上です、第三層終了ってな回です。
 
 
 次はセラフィックゲート第四層の予定です。
 
 
 最近は大気が不安定なので体調管理には気をつけて下さい。
 
 それではまた。

351レザポ ◆94CKshfbLA:2009/08/06(木) 20:57:54 ID:CVrV0JfY
申し訳ありません、引っかかりました。

すみませんが、代理投下をお願いします。

352レザポ ◆94CKshfbLA:2009/08/06(木) 22:23:18 ID:CVrV0JfY
代理投下確認しました、ありがとうございました。

353R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/08/09(日) 19:49:16 ID:lHLgL2i6
済みません、引っかかってしまいました
どなたか代理投下をお願い致します



『非戦闘員はベストラへ移送する』
「ベストラへ?」
『一応は軍事施設だからな。少々窮屈だが、このコロニーよりは遥かに強固だ。自律推進機能もある事だし、どんな状況にも対応できる』
「輸送艦の準備は・・・」
『もう暫く掛かる。準備が整うまでに何とか誘導を・・・』

突き上げる様な衝撃。
隊員の言葉は言い切られる事なく途切れ、全員が天井面へと叩き付けられる。
スバルは咄嗟に腕で頭部を庇ったが、それでも凄まじい衝撃が全身へと奔った。
僅かに呻き、しかしその声はすぐに小さな悲鳴へと変わる。
天井面へ叩きつけられた際と同等の勢いで、今度は床面へと叩き落とされたのだ。
全身を強かに打ち付け、それでも何とか身を起こせば、同様に呻きつつも意識を保っている他の4人の姿が在った。
ノーヴェが肩を押さえつつ、叫ぶ。

「何だよ、今の!」
「偏向重力か? もう此処まで!」
『違う。一瞬だが、慣性制御システムが停止したらしい。コックピット、何があった』

立ち上がろうとするギンガに手を貸し、スバルは軽く腕を振る。
異常は無い。
安堵に息を吐くが、傍らから発せられた声に不穏なものを感じ取り、振り返る。

『ダレン、応答しろ。どうした?』

コックピットへと呼び掛ける隊員。
恐らくはインターフェースによる通信も併用しているのだろうが、どうにもパイロットからの応答が無いらしい。
数度に亘って呼び掛けを行った後、彼は壁際に備えられたラックから自動小銃を取り外し、弾倉を点検しつつ言葉を発する。

『コックピットを確認してくる。何かあったのかもしれない』
「パイロットのバイタルは?」
『周囲のバイタルが残らず消えている。システム自体が沈黙した、だけなら良いんだが』

言いつつ、安全装置を解除する隊員。
ふとスバルは、自身の内に沸き起こる言い知れない不安に突き動かされる様にして、意識せず言葉を発していた。

「私も行く」
『様子を見に行くだけだ、すぐに終わる』
「バイド相手に油断なんか論外でしょう」

コックピットへと足を進める彼の後に続くスバル。
チンクも同行するつもりらしい。
隊員を先頭に1つ目のドアを潜り、コックピットへと続くドアの前に立つ。
だが、ドアは開かない。

「壊れているのか」

チンクの問いに答えず、隊員はウィンドウを展開して何らかの操作を施す。
数秒ほどで終了したらしく、彼はウィンドウを閉じると自動小銃を構えた。
手を翳し、スバル等に壁際へ位置する様に指示を出す。

『開放する』

そして金属音と共に、分厚いブラストドアが開放された。
先頭の隊員に続き、スバルはコックピット内部へと突入しようとして。

354R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/08/09(日) 19:50:36 ID:lHLgL2i6
『来るな!』

唐突に発せられた警告を聴き留めながらも間に合わず、彼女はコックピット内部へと滑り込む。
視線の先、呆然と立ち尽くす隊員の姿。
その、向こうには。

「ッ・・・!」
「スバル、何が・・・!」



散乱するコンクリートの破片、圧縮された空間。
左舷側を押し潰されたコックピット、壁面に密着している床面。
その僅かな隙間から突き出す、装甲服に覆われた人間の右腕があった。



「う・・・!」
『退がってろ!』

コックピット内を染める夥しい量の血液。
噎せ返る様な鉄の臭いに思わず声を漏らすスバルを余所に、隊員は残された右舷側の座席に着くとコンソールに指を走らせる。
操縦の大部分はインターフェースを通じて行うのだろう、座席横の操縦桿を握る様子はない。
吐き気を堪えながらチンクと共にその様子を見守るスバルだったが、すぐに焦燥を滲ませる声が上がった。

『クソ、瓦礫が・・・』
「どうした?」
『瓦礫が向かってくる! これは砲撃だ!』

隊員の言葉と同時、スバル等の前にウィンドウが展開される。
其処に映る光景に、彼女は息を呑んだ。
灰色の渦の中心域から、何かが飛来してくる。
明らかに人工物と判る、その直線的な外観を持つ物体とは。



『ビルだ! ビルが飛んでくる!』



直後、一切の前触れなく襲い掛かった衝撃に、スバルは為す術なく壁面へと叩き付けられる。
次いで天井面へ、床面へ、再度壁面へ。
周囲の構造物だけでなくチンクとも衝突を繰り返し、更に座席に着く隊員とも接触して彼を弾き飛ばす。
自身のものか、それともチンクのものかも判然としない悲鳴が響く中、最後に床面へと叩き付けられたところで漸く衝撃が収まった。

「っ・・・う・・・」

悲鳴を上げる全身に力を入れ、よろめきつつも身体を起こすスバル。
額からは血が流れていたが、それを拭う余裕すら無い。
周囲を見渡すと、チンクは意識を失ったのか微動だにせずに倒れ伏し、ランツクネヒト隊員は頭部を振りつつぎこちない動きで立ち上がろうとしていた。
微かに咳き込み口内の血を吐き出すと、スバルは幾分掠れた声で隊員へと問い掛ける。

「今のは・・・?」
『済まない、瓦礫を回避できなかったんだ。この機体はB-19エリアに墜落した』

スバルの問いに答えつつ、彼は展開したウィンドウ上に忙しなく指を走らせ始めた。
どうやら機体の状態を確認している様だが、瞬く間に赤い点滅に埋め尽くされてゆくウィンドウが損傷の激しさを如実に物語っている。
彼は10秒ほど操作を続け、ウィンドウを閉じると小さく悪態を吐いた。

355R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/08/09(日) 19:52:47 ID:lHLgL2i6
『クソ、エンジンも慣性制御も死んでいる。コイツはもう駄目だ』
「じゃあ・・・」
『脱出しよう。彼女を起こしてくれ』

少々ふらつきながら、彼はコックピットを出る。
スバルはチンクに深刻な傷が無い事を確かめるとその肩を揺すり、彼女の意識を呼び覚ました。
覚醒した直後は僅かに混乱していたチンクだったが、機体を捨てる事を告げられるとすぐに行動を開始する。

「周囲の状況は?」
「取り敢えず出てみないと分からない。墜落って言うんだから、地面は在ると思うけど」
「怪しいものだな」

兵員輸送室へ入ると、格納室へと続くドアの前でノーヴェが2人を待っていた。
彼女は頭部より出血するスバルと腕を押さえるチンクを目にするや、焦燥を隠そうともせずに声を上げる。

「その怪我・・・」
「姉は大丈夫だ。スバルも大した傷ではない」
「そういう事」

そうしてノーヴェを促すと、彼女はギンガとウェンディは後部ハッチの開放に当たっていると告げた。
どうにも瓦礫が邪魔をしているらしく、戦闘機人の膂力で以って無理矢理にハッチを抉じ開けようとしているらしい。
だが、格納室へと入ったスバル等の視界へと飛び込んできた光景は、歩兵携行型ミサイルの弾頭を分解するランツクネヒト隊員の姿だった。
何をしているのかと、スバルは傍らのギンガに問い掛ける。

「ギン姉、何してるの?」
「・・・ハッチは開きそうにないわ。機体の上にビルが丸ごと1つ圧し掛かっているみたいなの」
「生き埋めって事か」
「幸い、すぐ下に空洞が在るみたいでね。床を爆破して脱出するしかなさそうよ」
『終わったぞ、退がってくれ』

隊員の言葉にそちらを見やると、彼はスプレー缶の様な物から床面へと吹き付けたゲル状物質の中央に、分解した弾頭の内部機器を張り付けているところだった。
彼は小さなチップの様な物を張り付けた機器の中から抜き出し、それをヘルメットの後部に挿入する。
そして、誘導に従い全員が兵員輸送室へと退避すると、彼は伏せるように指示し、呟いた。

『起爆する』

轟音。
機体が震え、一時的に聴覚が麻痺する。
肩を叩かれ身を起こすと、隊員は格納室へのドアを開けようと苦心していた。
どうやら爆発でドアが歪んでしまったらしく、装甲服による筋力増強が在るとはいえ、彼の独力では開放にまで至らない様だ。
すぐにスバルとノーヴェが手を貸し、3人掛かりでドアを抉じ開ける。
火花が散り、小さな炎が其処彼処に揺らめく中をどうにか進んで行くと、床面に大穴の開いた格納室へと辿り着いた。
ウェンディが穴の中を覗き込む。

「見えた、トラムの路線ッス・・・下はショッピングモールか何かだったんスかね。随分奥までブチ抜いちまったみたいッスよ」
「深さは?」
「40mってとこスかね・・・ああ、周りは所々が崩落してるから、身体を引っ掛けながら降りるのはなしッスよ」

その言葉に隊員の方を見やると、彼は小さく肩を落として溜息を吐いた様に見えた。
周囲からの視線が煩わしいのか、ヘルメットに手をやり、暫し無言。
やがて手を離すと、何処か装った様に無感動な声色で言葉を発する。

『済まないが、誰か下まで降ろしてくれ』

356R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/08/09(日) 20:32:21 ID:lHLgL2i6
済みません、再度引っかかってしまいました
あとがきも含め残り3レスですので、どなたか代理投下をお願い致します



他に考え得るとすれば、可能性は1つしかない。
だがそれは、決して望ましいものではないのだ。
それができる存在とは、1つしか存在し得ない。



『木星軌道防衛艦隊・第2遊撃部隊所属、ヨトゥンヘイム級異層次元航行戦艦「アロス・コン・レチェ」』



地球軍艦艇。
それしか有り得ないのだ。

『ゴエモンより全軍へ、緊急!』

全方位通信。
インターフェースを用い、更に肉声で以って全軍へと呼び掛ける。
応答を待っている暇は無い。
混乱した各勢力の声を無視し、半ば叫ぶ様に続ける。

『国連宇宙軍所属・ヨトゥンヘイム級異層次元航行戦艦アロス・コン・レチェ出現、防衛網へ接近中! 目標艦は汚染されている! 繰り返す、目標は汚染されている!』

被ロック警告。
咄嗟に機体を下へと滑らせると、無数の光条が空間を貫く。
同時に、波動砲の充填率が臨界に達した。
デコイ展開、総数6機。
波動粒子によって形成されたデコイは、外観から各種反応に至るまで、彼の搭乗機であるR-9AD3と寸分も違わない。
フォースとビットでさえ、全く同様に再現されていた。
そして本体である彼の機体を含め、その全ての機首には波動粒子の集束を示す青い光が纏わり付いている。

『目標艦からの欺瞞情報により、アイギスの制御を掌握された! 現在アイギス群は、防衛艦隊戦力を汚染体と判断している! 繰り返す、アイギスの制御を奪取された!』

直後、彼は機体をほぼ反転させ、シャフトタワーの方角へと機首を向けた。
そして、砲撃。
青い閃光が光学的視界を埋め尽くし、無数の爆発が彼方までを埋め尽くす。
アイギス、30基前後を撃破。
遥か前方、何かに着弾した波動粒子が爆発する。
距離、約7200km。

『防衛艦隊は直ちにアイギスの排除を開始せよ! 最優先防衛目標はベストラ及び輸送艦群! ミサイルだけは何があっても通すな!』

複数の着弾箇所より業火を噴き減速しつつ、しかし決して停止する事なく接近してくる艦艇。
全長3700mにも達するそれは、先程の砲撃で慣性制御システムが停止したのか、後部メインエンジンの推力のみで以って航行しているらしい。
その黒々とした艦体上部、センサー類の集中する艦橋周辺に配置された6基の砲塔、計12門の砲口がこちらを捉える。
極高出力長距離光学兵器及び荷電粒子砲を搭載した、半自動選択式多機能砲塔。
更に艦体前部に位置する宙間巡航弾のハッチが開放され、無数の被ロック警告がインターフェースを通じて意識へと鳴り響く。

波動砲、再充填開始。
フォース・コントロールシステム、対空レーザー選択。
再びザイオング慣性制御システムの出力を引き上げ、アロス・コン・レチェの下方へと潜り込むべく機動を開始する。
だが、周囲の空間を埋め尽くすアイギスより掃射される光学兵器の火線が、それを許さない。
目標移動速度、秒速59km。
再度加速中。

『ゴエモンよりアクラブ、直ちに応援を要請する! シュトラオス隊、直ちにアイギスの排除に当たれ! コロニーが攻撃対象になるのも時間の問題だ!』
『アクラブより全軍!』

357R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/08/09(日) 20:32:51 ID:lHLgL2i6
あらゆる方位より放たれる光学兵器を回避しつつ、何とかアロス・コン・レチェへの攻撃を試みる彼の意識に、アクラブからの通信が飛び込む。
形成したデコイをアイギスに衝突させ、連続して8基を撃破。
更に多目的ミサイルを発射し、その爆発に5基を巻き込む。
急激に機首を引き上げズーム上昇。
波動砲充填率、臨界。
再度、砲撃を実行しようとして。



『Aエリア外殻、戦術核の起爆を確認! 繰り返す! コロニーに戦術核が着弾した!』



至近距離のアイギス群より、18基のミサイルが発射される。
戦術核弾頭搭載宙間迎撃用ミサイル。
明らかに回避不能であると分かるそれらが、高速で機体へと迫り来る様をインターフェース越しに意識へと捉えつつ、彼は無感動にトリガーを引く。
直後、青と白の閃光が彼の視界を塗り潰した。

358R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/08/09(日) 20:33:39 ID:lHLgL2i6
以上で投下終了です
支援、有難う御座いました

今回は説明だけ

「666」
公式での名称は「幻獣666(トリプルシクス)」
「Ⅲ」のステージ4、ファイアキャスクファクトリーのボスです
当たり判定のある球体が3つ回転する背景をグルグルと回しつつ、コイツ自体もグルグルと周囲を旋回します
この回転については、本作中では「偏向重力を操る為」と表現しました
しかもコイツ、XY軸が重なった時にレーザーを放ち、更にダメージが蓄積される毎にどんどん速く・・・
多くのTYPERがコイツに三半規管をやられ、玉と体当たりとレーザーに殺られた事でしょう

「R-9A4 WAVE MASTER」
R-9Aの正当進化系統、最終形態
地味に見えて実は最強機体の1つ

そして、おぺれいしょん・びたぁ★ちょこれいと、祝・発売決定―――!!!
ヤンデレ幼馴染の「地球軍」とツンデレ委員長の「革命軍」に迫られるあなたは、遂に究極の選択を迫られる事になります
幼馴染が夜なべをして作り上げたプレゼント「ふぉおす」を真っ向から否定してしまった委員長
2人の対立は体液を体液で洗うエログロネチョバトルへと発展!
更に、2人の対立を憂う引っ込み思案な新米担任教師「バイド」も、実はあなたに好意を持っていた!
物憂げな表情と幼い頃に傷付け合ってしまった切ない記憶、そして圧倒的なボリュームを持つバスト、通称「ぐりぃん☆いんふぇるの」を携えて迫る彼女にあなたは耐えられるか!?
SF恋愛シュミレーション「R-TYPE TACTICS Ⅱ おぺれいしょん・びたぁ★ちょこれいと」
2009年10月29日 発売!!

なお、このゲームをプレイした結果、虚脱感に襲われたり性欲を持て余したとしても、当社は一切責任を負いません





さあ、早くスレッジハンマーでEDF隊員を撲殺する作業に戻るんだ



以上です
代理投下をお願い致します

359R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/08/09(日) 20:39:51 ID:lHLgL2i6
代理投下を確認しました
本スレWmk4fF1q様、有難う御座いました

360魔法少女リリカル名無し:2009/08/10(月) 02:00:34 ID:P6NKm/Vc
高校の修学旅行で、こずかいが無いので、まる子の使用済みパンツを買ってください。
送料込みで千円です。携帯で、マルコのパンツ希望色と、あて先を言ってくれると送ります。
後払いです。 もうすぐ携帯は潰すので、しばらくの間だけど、買って買って。
090−8397−7448

361魔法少女リリカル名無し:2009/08/10(月) 02:15:49 ID:P6NKm/Vc
高校の修学旅行で、こずかいが無いので、まる子の使用済みパンツを買ってください。
送料込みで千円です。携帯で、マルコのパンツ希望色と、あて先を言ってくれると送ります。
後払いです。 もうすぐ携帯は潰すので、しばらくの間だけど、買って買って。
090−8397−7448

362無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/09/01(火) 21:26:15 ID:C2hRs8X.
さるさんを食らってしまいました。誰か投下していただけないでしょうか?


『カズマさん来てくれたんですねっ! リィンはちゃんと信じていましたよ!』
 カズマがブルースペイダーから降りつつはやてとリィンの元に行こうとする。
 しかし一足早かった者がいた。
「あぐっ!」
 その影は太い腕をはやての首に回し、そのまま縛り上げる。
「ベルトを下に置け! さもないとこの女が死ぬぞ?」
 影の主、カプリコーンアンデッドは愉しげな声でそう言った。
 その台詞、光景に何故かカズマは既視感を覚える。この吐き気のするような光景に。
「卑怯な!」
「五月蝿い! お前のせいで俺はこんな目に遭ってるんだからお前も痛い目を見ろ!」
「何のことだ!?」
「覚えてないとでも言うか!? なら今すぐ思い出させてやる!」
 怒り狂ったカプリコーンアンデッドははやての首を絞める腕に力を込めていく。その太い腕と対照的に細いはやての白い首が嫌な音を上げ出す。
「あっ、あ、ああ……」
「はやて!」
「さっさとベルトを置け!」
 カズマがカプリコーンアンデッドを睨み付けるが、意にも解さず笑みを浮かべながら首を絞めていく。
 だが、この時三人は後一人の存在を忘れていた。そう、はやての中にいるもう一人の存在を。
『フリジットダガー!』
 突然はやての内側から舌っ足らずな叫びが上がる。
「な……!?」
 その瞬間、カプリコーンアンデッドの真上に出現した氷の刃が彼の脳天を貫いた。
「今だ!」
 カズマがそこでショルダーチャージをかけて吹き飛ばす。その腕の中には、救出されたはやてがいた。
「か、カズマく――」
「はやて、離れてくれ。俺はあいつを倒す!」
「……」
 はやては一瞬不満そうな表情を浮かべるが、状況が状況故に素早く身を離す。
 カズマは醒剣ブレイラウザーのカードホルダーを展開し、二枚のカードを抜き出す。
『THUNDER,KICK』
 スラッシュされた二枚のカードから引き出される力は混ざり合い、コンボという名の必殺技へと昇華される。
『――LIGHTNING BLAST』
 カプリコーンアンデッドが、ゆらりと立ち上がった。
 その動作と同時にカズマはブレイラウザーを地面に突き刺し、彼の元に走る。
 カプリコーンアンデッドはそれを見ながら慌てて腕をクロスさせて防御態勢を取る。
 カズマはジャンプによって得られた位置エネルギーと、カードによって得られた雷撃の力を、強化された右足に込める。
「うぉあああぁぁぁぁ!」
 それを、容赦無くカプリコーンアンデッドに叩き付けた。
「ウォォォォオッ!?」
 その力によって、彼は壁をひしゃげさせるほどの勢いで吹き飛ばされる。
 カシャンという軽い金属音。
 カズマは静かに、『Spade Q』を封印した。

363無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/09/01(火) 21:27:04 ID:C2hRs8X.



     ・・・



 戦いが終わって、ようやく私は応接室を見回す余裕が生まれていた。あまりの酷い惨状に泣きたくなるだけだが。
 何だかんだで私も頑張ったと思う。数少ない近接魔法を駆使し、苦手なんてもんじゃないクロスレンジをどうにか戦い抜くことが出来たわけだし。
 それはそうと、今は聞きたいことが山ほどあった。カズマ君に。
「――なぁ、カズマ君」
「はやて、大丈夫か? 全身傷だらけだし……。くそっ、俺の帰りが遅れたばっかりに――!」
 けれど、こんなに他人のために一生懸命なカズマ君を見ていると、何だかどうでも良くなってきた。まるで往年のなのはちゃんみたいな……って、それは本人に失礼か。
「私は大丈夫や。今リィンが回復魔法をフル稼働中やし。それよりロングアーチに連絡を取ってくれんか? そこの受話器が使えればええけど、無理なら直接行ってくれん?」
「ああ、わかった」
 そう、私は大丈夫。私は部隊長、こんなところで倒れるようじゃ『奇跡の部隊』を率いることなんて出来ない。
しかし今回のハッキングを行った者が誰か、それが問題だ。ロングアーチにハッキングするほどの実力者で、怪人に協力できる者。心当たりは、二人いた。
これは捜索を急いだ方が良いかもしれない。
 そう思考していた私の元に、唐突に“轟”というエンジン音が耳に入る。
顔を上げた先には、今日二人目の来訪者がいた。
「剣崎、ようやくお前と戦う時が来たようだな」
 その来訪者は――
「――紅い、『仮面ライダー』?」
 真紅の配色ながら、カズマ君の変身した姿とそっくりなバリアジャケットを纏っていた。
 細部は確かに違う。頭はカズマ君のが一本角なら二本角になっているし、肩のアーマーなども形状が違う。
 そして似ているのはカズマ君のバリアジャケットとだ。何故なら、不自然なまでに腹部や肩が何かを塗り潰すように装甲が貼られているからだ。
「橘、さん……」
「剣崎、後でお前に通信を送る。そこに一人で来い。誰か一人でも連れて来ればあの悲劇がここで起きることになる」
「あの悲劇――?」
「お前がかつて己の体をかけて止めた悲劇だ」
 そのセリフで、カズマ君の表情が変わった。
「いいな?」
「待ってください、橘さん!」
 だが橘さんと呼ばれた紅い『仮面ライダー』はそれに答えることなくバイクを走らせてこの場を去ってしまった。
 結局私は、何一つ理解出来ないまま。なのに状況だけが次々と進んでいた。



     ・・・



 カズマが受けた決闘状。相手はかつての師、戦うのは異国の地、奮うのは人とは異なる体。
 人の皮を被る怪物と試験管から生まれた異形がぶつかり合った時、伯爵のストーリーは進む。

   次回『決闘』

   Revive Brave Heart

364ラッコ男 ◆XgJmEYT2z.:2009/09/01(火) 22:09:53 ID:r6rsbsiQ
それでは、代理投下いってきます。

365ラッコ男 ◆XgJmEYT2z.:2009/09/01(火) 22:15:17 ID:r6rsbsiQ
代理投下行ってきました。無名氏、ご確認をお願いします。

……ゴメンナサイ、とうとう9月になっちゃったorz(鈍足的な意味で)

366R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/09/06(日) 18:28:30 ID:hkOUlOwk
規制を喰らってしまいました
どなたか、代理投下をお願い致します



「無駄ッスよ、ギン姉。ソイツはもう、アンタやアタシの知ってるティアナじゃないッス」

いつもの口調で吐き捨てると、ウェンディは2人の傍らを擦り抜けてボードを浮かべた。
ボードの上へと飛び乗り、推力を引き上げんとする。
そんな彼女の背後から、思わぬ言葉が投げ掛けられた。



「あの2人はもう、私達の知ってるスバルとノーヴェじゃない」



瞬間、ウェンディはボード制御に関する、全ての情報をキャンセルした。
床面から50cmほど浮かび上がったボードの上に立ったまま、背後のティアナへと振り返る。
視界にはティアナの後姿、そして彼女を見やる驚愕の表情を浮かべたギンガが映り込んだ。

「ランツクネヒトが用意した新しい身体に、2人の脳髄が移植された事は知っているでしょう」
「・・・勿論」

知っている。
知らない筈がない。
それを聞いた時の衝撃は、今でも鮮明に思い出せる。
2人は誕生から慣れ親しんだ身体を、永遠に失ったのだ。

「2人の体組織から培養された生体ユニットが、無人のR戦闘機に搭載されている事は」
「知っているわ。それが?」
「それですよ、ギンガさん」

途端、全身が冷え切ってゆく様な感覚が、ウェンディを襲う。
脳裏に浮かぶ、最悪の予想。
そんな事はない、と否定しながらも、それで辻褄が合うと冷静に指摘する理性。
そして遂に、ウェンディが最も望まなかった答えが、ティアナから齎される。

「あの2体の身体に移植されたのは、オリジナルの脳内情報を転写された培養体。オリジナルの2人の脳髄は、あの身体に移植されていない」

周囲の全てが冷え切ってゆく。
そんな錯覚が、ウェンディを侵食していた。
ボードの高度が徐々に下がり、床面に接触する。
ウェンディは覚束ない足取りでボードを降り、ゆっくりとティアナへと歩み寄った。

「なら・・・それなら・・・」

震える両の腕を伸ばし、ティアナの肩を掴む。
力加減など考えもしなかったが、ティアナは特に反応を見せない。
冷たい瞳だけが、ウェンディを真正面から見据えている。

「2人は、何処に・・・?」

367シレンヤ:2009/09/07(月) 21:08:18 ID:Pi.CuIn2
本スレで「さる」という規制にひっかかったシレンヤですが、
ここに落とせばいいのでしょうか?
こんな規制があるとは知らなかったもので・・・

368魔法少女リリカル名無し:2009/09/07(月) 21:15:17 ID:/UBjECGg
もう投下できるようになっているはずですよ。
規制関係は予め調べましょう。

369シレンヤ ◆/i4oRua1QU:2009/09/07(月) 21:17:18 ID:Pi.CuIn2
あ、できました!
すいません。以後気をつけます。

370レザポ ◆94CKshfbLA:2009/09/22(火) 10:40:57 ID:GefxoisI
 以上です、序章ってな回です。
 
 
 なんだがゴテゴテ急ぎ足になっていますが、フェイトだけがいつものように影が薄い……

次は次章を予定しています。



 それではまた。

371無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/10/03(土) 19:38:06 ID:9cjmHxuA
最後の最後でさるさん食らってしまいました。代理投下、お願いします。



 一瞬の光。その後に発生するのは耳をつんざくような何かの炸裂音と、全てを吹き飛ばそうとするような衝撃波の嵐。
 重い体を持ち上げ、目を開く。視界に映った数瞬後の光景は、まるで違うものだった。
「橘さん……? 橘さん!」
 目の前には、仁王立ちした状態の橘さんがいた。そしてその橘さんが倒れてきたときに、全てを悟った。
 その背中は、アーマーすら判別出来ないほど黒く焼き焦げていた。
「橘さん!」
「け……ん、ざき」
 ひび割れたマスクから僅かに声が漏れる。その罅から、橘さんが垣間見えた。
「橘さん!? しっかりしてください!」
「カズマさん!」
 自分の脇をすり抜けるようにして現れたリィンが必死に回復魔法を発動する。
 俺は、呼び掛けることしか出来ない。
「橘さん!」
「はく、しゃくを……さが、せ」
「!?」
 伯爵――何度も橘さんの台詞に含まれていた言葉。
 しかしその意味を聞き出すことは、とうとう出来なかった。
「ごめんなさい……」
「リィン――?」
「助け、られませんでした……」
 橘さんを見つめる。その死は、あまりに唐突なものだった。
 救いたかった。助けたかった存在。なのに、何故死んでしまったのか。
「ハッハッハ! 君がオリジナルかね? 会えて嬉しいよ!」
 上空からかかる煩わしい甲高い声。余りに不快だったので、俺はその方向に向かって睨み付ける。視界には、四人の男女が写っていた。
「お前が……」
 その中央の人物。その顔には見覚えがある。一度だけ見た奴の写真。六課が探す宿敵。
「橘さんを殺したのかぁぁぁぁぁ!」
「五月蝿いね、静かにしてくれないか」
 血液が沸騰し、頭に血液が逆流する。怒りが全身を支配し、細胞を過剰に活性化させる。
 救えなかった自己嫌悪と、その機会を奪った者への憤怒。それは俺の理性を容赦なく破壊した。
「初対面だ、名乗っておこう。私が、ジェイル・スカリエッティだ」
 そう、コイツと戦う理由が、出来た瞬間だった。



     ・・・



 ついに六課に立ち塞がった宿敵、ジェイル・スカリエッティ。彼はカズマに強い興味を示す。その彼は、あるものをカズマの前で使用するのだった。
 一方、なのはとフェイトもジェイル・スカリエッティと戦おうとするが、新たな力を得たナンバーズに対し、苦戦を強いられるのだった。

   次回『スカリエッティ』

   Revive Brave Heart



※ELEMENTS 作詞:藤林聖子
        作曲:藤末樹
        唄:RIDER CHIPS Featuring Ricky より歌詞の一部を抜粋

372無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/10/03(土) 19:41:48 ID:9cjmHxuA
以上で投下終了です。
今回はかなりオリジナルの魔法運用を行っているため、拒否反応を示す方もいらっしゃるかもしれません。そのときは文章の改善などで応えたいと思っています。
また、今回で遂にスカリエッティの登場となりました。次回からは密接に彼がストーリーに関わってきます。お楽しみに。
ではでは、批評、感想、応援コメントお待ちしております。

最後に支援、代理投下してくださった方、ありがとうございました。

373魔法少女リリカルなのはs.CRY.ed ◆j1MRf1cSMw:2009/10/10(土) 22:26:05 ID:ovmHQmc2
やはり規制くらってしまいました。後2レスどなたか代理お願いいたします。

 少なくとも、あの男ならば壊れない。失われない。またベクトルはどうであれ純粋な渇望として己同様にこちらを求めている。
 己という存在を肯定せんが為の己を否定し、またこちらも否定すべき相手。
 もうそれでいい。それで構わない。それだけでも我慢する。

 だからいなくなるな。かかって来い。逃げるな。
 俺から俺という存在意義を奪うな。
 だからさっさと出て来い、劉鳳。
 テメエだって俺のことが気にいらねえんだろ? だったら―――

 ―――もう二人だけのサシのタイマンでそれだけをし続けようじゃねえか。

 死んだって構わない。命だって或いは……くれてやらんこともない。
 だから出て来い、さっさとかかって来い。
 俺の全てをテメエとの喧嘩にくれてやる覚悟は出来てるんだ。
 だから―――

「……俺から、俺の前から……居なくなってるんじゃねえよッ!!」

 俺が俺であるべき理由を。
 俺の拳を振り上げる理由を。
 俺から、奪うな!

 故に求め続ける。
 吼え猛り、暴れ狂い、後も先も関係ない衝動の化身と化して。
 カズマはただ、ただ劉鳳だけを求め続ける。
 それしか、自分には残っていないと思っていたから。

 しかし―――


「―――カズマ君!?」

 己のチッポケな名が呼ばれ、カズマは反射的に上空を見上げる。

「かな―――ッ!?」

 奪われたはずの、失ったはずの、何よりも愛しかったはずのその声が己の名を呼んできた。
 奇跡が己に応えてくれたのか、とらしくもないそんな思いで空を見上げ、そして結果的には落胆によりそれすらも裏切られた。

「……また……テメエかよ……ッ!?」

 憎々しい、そんな感情すらも生温いほどの激しい感情を込めた苛烈な視線で睨みあげる。叶うのならば、この睨みだけで呪い殺してしまいたいとすら思うほどに。
 それ程に見上げた空の上からこちらを見下ろすその女は目障りだった。

 ―――高町なのは。

 またコイツか、そんな鬱陶しさとしつこさと気に入らなさ、そして何よりも許容しがたき感情が相手の存在を激しく否定し、彼を苛立たせる。

 いつもいつもいつもいつもいつも!
 こちらの目の前に現れ、鬱陶しい綺麗事を押し付けようとしてくる目障りな相手。
 何だというのだ、どんな恨みがあってしつこくこちらに付き纏ってくるのか。
 何度立ちはだかって、邪魔をすれば満足するのか。
 そして何よりも―――

「カズマ君、もうやめ―――」
「―――うるせえッ!!」

374魔法少女リリカルなのはs.CRY.ed ◆j1MRf1cSMw:2009/10/10(土) 22:28:55 ID:ovmHQmc2

 何かを言おうとしてくる相手の言葉を、半ば無理矢理に声を張り上げて掻き消す。
 もう聞きたくないのだ、こいつの声は。
 もう呼ばれたくないのだ、その声で自分の名前を。

「……何で……ッ……何で……テメエの声はそんなに―――」

 ―――そんなに、かなみの声に似てやがるんだ!

 一方的な言いがかりだが、それでもカズマにはそれが耐え切れない。
 そちらが身勝手に奪い、もう二度と取り戻すことも出来ないのかと諦めかけていたというのに。
 それに何より……もう彼女だけは傷つけたくないから、背負わないと決めたというのに。
 忘れてしまいたいのに、捨て去りたいというのに……ッ!

『カズくん、カズくん……カズくんってば、ちゃんと聞いてるの』

 愛しかった、護りたかった、心の底から初めてそう思えたはずの相手だったのに。
 お前らが身勝手に奪い取りやがったというのに―――ッ!

「今更……ッ……今更、アイツの事をチラつかせてくるんじゃねえよ!」

 汚すな、触れるな、玩ぶな。
 そいつはお前らが勝手に触れていいものじゃない。
 自分だけの、自分だけの大切な宝物だったというのに。
 それを―――

「………返せよ」

 睨み上げながら、震える声でカズマはその言葉を叩きつける。
 かなみを返せ! 君島を返せ! 俺から奪った俺のモノを全部返せよ!
 それが出来ないって言うならさっさと―――

「俺の前から……消えてなくなれぇぇぇええええええええええええ!」

 瞬間、咆哮と共に虹色の粒子が辺り一体を覆い、周囲の岩石などを次々に分解していく。
 そしてそれを形として再構成……その姿は決まっている。

 “シェルブリット”

 カズマの、カズマだけの、己が唯一持っていて誇れる自慢の拳。
 己の全て、信念を結晶化した誓いの証。
 この大地を生き抜くための、カズマが得たたった一つの力。

 己の全てをコレに込めて、今はただ只管に気に入らない目の前のこの女を。
 立ち塞がってくる強固な壁を。

「気にいらねえんだよぉ! テメエはぁぁぁあああああ!」

 己の全身全霊の全てを賭けて、叩き潰す!


以上、投下終了。
とりあえず、前回分までを今日は改めて。内容はほんの若干修正入れてますがほぼそのままです。すいません。
この四ヶ月、この話ばっか延々と修正したり書き直したりしていて、スクライドとなのは1~3期を全話見直したりしてたんですが……やはり自分、キャラを掴みきれてませんか。
特になのはは色々コメなど参考にちゃんと”らしく”書こうとしてるんですが、どうにも上手くいってないみたいです。言い訳は見苦しいので書きませんが、感想・批評等も参考にしたいので率直な感想を頂ければありがたいかと。
相変わらず、長ったらしくてすいません。それでは、また。

375ラッコ男 ◆XgJmEYT2z.:2009/10/10(土) 22:29:53 ID:2KbfdMiw
それでは代理行ってきます。

376ラッコ男 ◆XgJmEYT2z.:2009/10/10(土) 22:36:13 ID:2KbfdMiw
代理行ってきました。改行エラーを喰らってしまって
最初の部分だけ削ってしまいましたが、大丈夫でしょうか?

377リリカルトリーズナー ◆j1MRf1cSMw:2009/10/10(土) 22:40:19 ID:ovmHQmc2
はい、ありがとうございます。というかお手数おかけして本当に申し訳ありませんでした。
代理確認の方させていただきました。ラッコ男氏、本当にありがとうございました。

378(旧)天元突破リリカルなのはSpiral ◆Yf6j8wsEUw:2009/10/16(金) 23:19:23 ID:F2bsrjSQ
ひさびさにきてみたら規制をくらってました。どなたか代理投下をお願いします。
――――――――――
注意)本ssでは原作とは異なる設定・世界観で進んでいきます。 そういうものが苦手な方はご注意下さい。
また、本ssはまとめwikiに掲載されている「天元突破リリカルなのはSpiral」とはストーリー・設定上の繋がりは一切ありません。





「――― 子供の頃は、毎日毎日、こうやって遺跡を掘るのが僕の仕事だった」

 魔力光球の淡い光に照らされながら、ユーノはおもむろに語り始めた。声変わりを忘れたような中性的な声が周囲の壁に反響する。
 気がつけば随分と奥まで来てしまった。首の後ろで括った長い髪も、仕事柄最近では日焼けとはすっかり縁遠い色白の顔も、今は土と埃で薄汚れている。
 だがユーノの表情に後悔の色はない。カビと埃にまみれたこの息苦しい空気も、一歩先は何も見えないこの暗闇も、彼にとってはかつて慣れ親しんだ懐かしい世界だった。

 ユーノ・スクライアに故郷は無い。彼の部族、スクライアは代々遺跡発掘を生業とする放浪の民だった。
 帰るべき故郷を持たず、遺跡から遺跡への根なし草。遺跡に見守られながら生を受け、遺跡とともに生き、そして遺跡に見送られてその生涯を終える。
 それがスクライアの民として当前の生き方だった。彼らにとって、自らの魂の半分は常に遺跡とともにあるのだ。それは「外の世界」を知り、部族を離れたユーノも同様だった。
 ユーノも幼い頃は大人達に交じり遺跡の発掘作業に従事し、その卓越した発掘の才能から弱冠九歳の身で現場責任者に抜擢された過去がある。
 部族の中で同じ年頃の子供達と遊んだ思い出は無いが、発掘の成果を持ち帰るたびに大人達から褒められたことはよく覚えている。幼かったユーノはそれだけで満足していた。

 発掘の現場を離れ、時空管理局無限書庫司書長という肩書きを得た現在においても、ユーノのその本質は変わっていない。
 多忙な職務の合間を縫って趣味の考古学に勤しみ、纏めた研究成果を学会で発表する。自分の研究が認められたとき、ユーノの心はこの上ない充足感で満たされるのだ。
 まさに「三つ子の魂百まで」とでも言うべきか。子供の頃から何一つ変わらぬ己の行動原理に、ユーノは自嘲するように唇の端を歪めた。

「他人から褒められるためだけに、お前はこんな穴蔵に潜るのか?」

 ユーノの独白を聞き終え、それまで黙っていたもう一人の男が口を開いた。深く被ったフードで顔を隠し、擦り切れたマントで全身を覆っている。見るからに不審な男である。
 フードの奥に隠れた男の素顔を、ユーノは知らない。名前も聞いたばかりである。遺跡の入口で偶然出会い、たまたま発掘について来きただけの同行者である。

「勿論、それだけじゃないさ」

 同行者の無遠慮な問いに、ユーノは笑って首を振った。勿論、そんな子供じみた優越感のだけに貴重なプライベートの時間を削ってまで過去を掘り返している訳ではない。
 考古学は仕事や生い立ちなどの事情を差し引いても興味のある分野であるし、「昨日」から学び、「明日」へ活かせることがこの世界には山のように溢れている。

「それに何より―――宝物を掘り当てることだってあるからね」

 どこか恍惚とした笑みを浮かべ、ユーノはひび割れた壁面を指先でなぞった。錆ついた金属特有の冷たくざらついた感触が指先から伝わる。
 虚空を浮遊する魔力光球が輝きを増しながらゆっくりと上昇し、暗闇に覆われた空間の全容を淡く照らし出した。

「これは……!」

 男の息を呑んだ。鋼鉄の巨人。あるいは巨神と呼ぶべきか。何にせよ、圧倒的な存在感を放つ人型の巨体が、両足を投げ出すような姿で二人の前に鎮座している、
 ユーノが触れているのは、壁ではない。まるで巨木のように太く逞しい鋼鉄の脛だった。

「大発見だ」

 ユーノの声が興奮に声を震える。その傍で、男も巨人に目を奪われていた。全身の体毛が逆立つのが分かる。胸の奥から湧き上がるこの感情は、戦慄か、それとも歓喜か。
 ラガンタイプのふてぶてしい顔。今は色あせているが、かつては鮮やかな真紅であったであろうボディ。そして何より、頭と胴体に二つの顔を持つ特徴的なその姿。
 ずっと昔、最強の宿敵であり、そして最高の相棒でもあった因縁深き紅蓮のガンメン。それと瓜二つな鋼鉄の巨人が今、男の前にいた。
 細部こそ記憶の中の姿と若干意匠が異なるが、間違いない。こいつは、この機体は―――!

「―――グレンラガン」

 鋼鉄の巨人を見上げ、男は唸った。深く被ったフードの奥で、まるで獣のような二つの瞳が爛々と輝いていた。



時空突破グレンラガンStrikerS
 第01話「あたしを誰だと思ってる!!」

379(旧)天元突破リリカルなのはSpiral ◆Yf6j8wsEUw:2009/10/16(金) 23:21:48 ID:F2bsrjSQ



 鋭い岩肌の突き出た丘陵の上空を、一機の大型ヘリコプターが飛んでいる。JF704式ヘリ、時空管理局地上部隊で制式採用された最新型の輸送ヘリである。
 新暦75年5月13日。ミッドチルダ東部の遺跡で発掘された古代遺失物(ロストロギア)を運ぶ特別貨物列車が何者かの襲撃を受ける事件が発生した。
 通報を受けた管理局は新設された対ロストロギア特殊部隊、通称“機動六課”に出撃を要請、正式稼働後初の緊急出撃(スクランブル)となった。

「それじゃあ、もう一度今回のミッションをおさらいしようか」

 緊張に包まれる輸送ヘリのカーゴ室に、機動六課スターズ分隊長、高町なのは一等空尉の声が凛と響く。
 輸送列車を追うこのヘリの中では、初任務を前にした前線フォワード部隊の最終ブリーフィングが粛々と行われていた。
 今回の任務は二つ。車両を占拠する敵勢力の撃破、そしてロストロギアの確保である。二つの分隊がそれぞれ車両の前後から突入し、中央へ向かうという作戦が立てられた。
 なのはは両分隊とは別行動をとり、輸送列車上空でライトニング分隊長フェイト・T・ハラオウン執務官と合流。二人で空の敵の殲滅を担当する。

「―――という訳で、ちょっと出撃てくるけど、皆も頑張ってズバッとやっつけちゃおう。危なくなったらすぐにフォローに駆けつけるから、安心して思いっきり戦ってね」

 展開されたメインハッチからカーゴ室を振り返り、なのははそう言って部下を激励する。なのはの言葉に、カーゴ室に残る四人の少年少女達が毅然とした顔で「はい」と返した。
 教え子達の頼もしい返事になのはは頷き、メインハッチの外へと勢いよく身体を投げ出した。自由落下による偽りの浮遊感を肌で感じながら、なのはは胸元の宝玉に手をのばす。

「レイジングハート、セットアップ!」

 なのはの掛け声とともに胸元の赤い宝玉が眩い光を放ち、金色に輝く三日月状の杖頭に桜色の柄を持つ一本の杖へと姿を変える。
 同時になのはの服装も、茶系の色合いを基調とした機動六課の制服から純白の防護服(バリアジャケット)姿に変身していた。

 雲を切り裂き、無数の影がなのはに迫る。鳥? 否、洗練された流線形のフォルムを持つそれらの翼は、明らかな金属の輝きを放っている。
 ロストロギアを狙い、次元世界のあちこちに出没する所属不明の自律行動型魔導機械、通称“ガジェット・ドローン”。そのⅡ型に分類される飛行タイプの敵だった。
 ガジェットⅡ型が撃ち放つレーザー光線の雨を、なのはは右へ左へと軽やかに避ける。そう、なのはは空を飛んでいた。
 なのはが杖を銃のように前方へ突き出し、U字状に変形した杖頭の先端に桜色の魔力粒子が収束する。

 ―――ディバインバスター!

 瞬間、収束した魔力の光が弾けた。桜色の光の奔流が轟音とともに虚空を突き抜け、呑み込まれたガジェットⅡ型が一瞬で蒸発消滅した。なのはの十八番の砲撃魔法である。
 優れた飛行技能と圧倒的な火力、それこそが空のエース・オブ・エースと名高い空戦魔導師、高町なのはの真骨頂だった。
 なのはを警戒し、陣形を立て直そうとするガジェット群を、頭上から飛来した金色の光刃がまとめて切り裂いた。

「フェイトちゃん!」

 嬉しそうな声とともに顔を上げるなのはを、片手に漆黒の大鎌を携える黒衣の女性が見下ろしていた。ライトニング分隊の隊長、フェイトである。

「同じ空は久し振りだね、フェイトちゃん」
「うん、なのは」

 朗らかな笑顔で声をかけるなのはに、フェイトもはにかんだような微笑を返す。

380(旧)天元突破リリカルなのはSpiral ◆Yf6j8wsEUw:2009/10/16(金) 23:22:57 ID:F2bsrjSQ
 そのとき、不意なのはとフェイトの顔から笑みが消えた。二人とも真剣な表情を浮かべ、互いに武器(デバイス)を構えて睨み合う。
 最初に動いたのはなのはだった。だが動き自体はフェイトの方が速い。
 黒い戦斧に変形したデバイスの根元から蒸気が噴き出し、弾丸用に圧縮し密度が高められた無数の魔力光球がフェイトの周囲に顕現する。
 なのはの周囲にも同様に、桜色の魔力弾が多数浮遊している。二人の視線が交錯し、次の瞬間、両者の射撃魔法が同時に撃ち放たれた。

「アクセルシューター!」
「プラズマランサー!」

 二人の凛とした声とともに、流星のように光の尾を引く桜色の魔力弾がフェイトを襲い、電撃のように鋭い金色の魔力弾がなのはに迫る。
 互いが互いを狙って放たれた二人の射撃魔法が、次の瞬間―――――互いの背中に忍び寄るガジェットⅡ型を正確無比に撃ち抜いた。
 なのはとフェイト、そして機動六課部隊長である八神はやて二等陸佐を加えた三人は十年来の親友同士である。互いが考えていることは手に取るように分かった。

「腕は錆びついてないみたいだね、なのは。ちょっと安心した」
「当然。わたしを誰だと思ってるの、フェイトちゃん?」

 不敵な笑みを交わし、なのはとフェイトは弾かれるように別方向へ飛び去った。敵はまだまだ残っているのだ。どこまでも広がる蒼穹を舞台に、二人のエースの戦いは続く。




 その頃、なのは達の奮戦の甲斐もあり、四人の前線フォワード部隊員を乗せた輸送ヘリは安全無事に降下ポイントまで到着していた。
 まずはスターズ分隊員、スバル・ナカジマとティアナ・ランスターが先頭車両へと降下する。
 続けて部隊最年少であるライトニング分隊員、エリオ・モンディアルとキャロ・ル・ルシエが最終車両に向かって飛び降りた。

「「「「セットアップ!!」」」」

 四人の声に合わせてデバイスが起動し、自動的にバリアジャケットも展開・装着される。
 先頭車両の屋根の上へ無事に着地し、スバルが初めて身に纏うバリアジャケットを見下ろしながら「あ」と声を上げた。なのはのバリアジャケットにそっくりなのだ。

「皆さんのバリアジャケットのデザインと性能は、各分隊の隊長さんのを参考にしてるですよ。ちょっと癖はありますが高性能です」

 見惚れたように自身の姿を眺めるスバルの眼前に、まるで妖精のように小さな少女がふわりと舞い降りた。
 リインフォースⅡ。なのはに代わり現場指揮を任された、「祝福の風」の二つ名を持つはやての腹心である。

「スバル! 感激するのは後にしなさい」

 すぐ傍に降り立ったティアナの咎めるような声に、スバルはハッと我に返った。
 瞬間、スバル達の足元が歪に盛り上がり、触手が生えた楕円形の鋼鉄の塊が屋根を突き破りながら飛び出してきた。ガジェット・ドローン、その最も基本的なⅠ型である。
 コード状の触手をうねらせながら襲いかかるガジェットⅠ型に、スバルとティアナの対応は冷静かつ迅速だった。

「ヴァリアブルシュート!」

 凛とした声を響かせながらティアナが片手の拳銃型デバイスを構え、迫りくるガジェットⅠ型を狙い橙色の魔力弾を撃ち出した。
 瞬間、レーザー射出口も兼ねたガジェットⅠ型正面のセンサー・アイが不気味に明滅し、不可視の膜のようなものが本体を包み込んだ。
 Anti Magi-link Field(反魔力結合領域)、略してA.M.F。効果範囲内のあらゆる魔力結合を強制分解し、魔法を無効化するガジェットの特殊能力である。
 しかしティアナが放った魔力弾は展開された無効化フィールドを貫通し、ガジェット本体をも撃ち抜いてみせた。風穴を開けられたガジェットⅠ型が無惨に爆破四散する。
 不可能を可能に変えたティアナの奇蹟、その秘密は魔力弾の多重弾殻構造にあった。ティアナは攻撃用の弾体を、無効化フィールドで消される膜状バリアで包んだのだ。
 フィールドを突き抜けるまでの間だけ外殻が保たせ、本命の弾丸はターゲットに捻じ込む。AAランク技能に匹敵する超高度な「小細工」だった。

381(旧)天元突破リリカルなのはSpiral ◆Yf6j8wsEUw:2009/10/16(金) 23:23:49 ID:F2bsrjSQ
 立ち昇る黒煙を突き破り、スバルが雄叫びとともに天井の大穴から車両内部へ突入する。殺到する光線の雨を掻い潜り、スバルは浮遊するガジェットの一体を殴りつけた。
 籠手に覆われたスバルの右拳が敵の装甲を食い破り、手首のタービンが唸りを上げて猛回転する。雄々しい怒号を轟かせ、スバルは魔力を解放した。

「リボルバーシュート!!」

 瞬間、零距離から撃ち出された衝撃波がガジェットを粉砕した。降りかかる破片を左手で払い、スバルは車両内を蠢く残りのガジェット達を見渡す。
 ガジェット達はスバルを警戒したように距離をとって取り囲み、瞬くようにセンサー・アイを明滅させる。四方から集中する無機質な視線を毅然と睨み返し、スバルが吼えた。

「遠い背中を追い続け、天の向こうをあたしは目指す! 気合いの炎を心に灯し、魔法の拳で明日を掴む!!」

 おもむろに掲げた右手で天井の大穴を、否、その向こうに広がる天空を指さし、まるで演劇の台詞のような芝居がかった口調でスバルは叫ぶ。

「機動六課スターズ隊03、なのはさんの一番弟子、スバル・ナカジマ! 鉄屑ども、あたしを誰だと思ってる!!」

 威勢よく啖呵を切ったスバルの胸元で、何かが煌めいた。ドリルだった。ネックレスのように首から架けたチェーンの先端で、金色の小さなドリルが光っているのだ。
 ―――集中砲火を喰らった。
 全方位から容赦なく降り注ぐレーザー光線群が直撃し、スバルの身体が大きく吹っ飛ぶ。バリアジャケットに護られ怪我やダメージはないが、痛いものは痛い。

「こ、んのぉ、馬鹿スバルがぁっ!!」

 醜態を晒す相棒にティアナが憤慨したように怒号を上げた。デバイスを二挺拳銃(トゥーハンド)形態に切り替え、自らも車両内に飛び込む。
 二挺拳銃を構え、多重弾殻魔力弾を連続発射。マズル・ラッシュを轟かせながら車両内のガジェットを一掃する。
 そのとき、撃ち漏らしたガジェットⅠ型が触手をうねらせ、体当たりするようにティアナへ跳びかかった。死角からの完全な不意討ち、迎撃が間に合わない。
 しかし次の瞬間、風切り音とともにガジェットの楕円形のボディが大きくひしゃげ、まるで粘土細工のように真ん中から真っ二つに捩じ切られた。
 爆砕音とともに立ち籠める黒煙の奥から人影がティアナの前に姿を現す。スバルだった。拳を振り抜いた体勢で制止している。

「危なかったね。ティア」

 構えを解き、そう言って無邪気に笑いかけるスバルに、ティアナからの返事は天を突くかの如き怒号だった。

「スバル! アンタ馬鹿ぁ!? 呑気に格好つけてる隙にフルボッコなんて、お馬鹿にも程があるわよこの馬鹿!!」
「三連発で馬鹿って言われた!?」
「四連発よ! そして今から五回目を言ってやろわ。このミッションは一分一秒を争うんだから、へらへら笑ってないでとっとと進め馬鹿スバル!!」

 怒鳴るティアナに追い立てられるように、スバルは慌てて走り始めた。列車の停止をリインフォースⅡに頼み、二人はガジェットを蹴散らしながら車両の中央を目指す。
 そして辿り着いた。十三両編成である輸送列車の中央部、重要貨物室。ロストロギアが保管される、今回のミッションの目標地点へ。
 扉を攻撃する敵、Ⅲ型と呼ばれる大型のガジェットを撃破し、二人は重要貨物室の中に足を踏み入れた。ライトニング分隊の二人は、エリオとキャロまだ到着していなかった。
 照明が落とされた、薄暗い広間のような空間の殆どを占領するように、巨大な影が横たわっている。周囲の薄闇に二人の目が慣れるにつれ、その全容が少しずつ見えてきた。
 スバルとティアナは絶句した。巨大な鋼鉄の巨人が二人の前に鎮座していた。
 人の形を忠実に模したシルエットでありながら、その姿はまさに異形。まず第一に、その巨人には顔が二つあった。
 左右の側面から牛のような角を生やした頭部の凛々しい顔。そして胴体部分に模られた鬼神のような厳つい第二の顔。まるで顔の化け物である。

 だが何よりもスバルとティアナを驚愕せしめたのは、目の前の存在が巨大な人型の機械兵器であるという事実そのものだった。
 これまで確認されてきたものとは随分と意匠が異なるが、間違いない。これは、この機体は―――!

「「―――ガンメン!」」

 呆然としたような二人の声が、重要貨物室に響き渡った。




 ―――つづく

382(旧)天元突破リリカルなのはSpiral ◆Yf6j8wsEUw:2009/10/16(金) 23:24:28 ID:F2bsrjSQ
以上、投下完了です。
リリカルなのはクロススレ住人の皆様。おひさしぶりです、はじめまして。
去年のちょうど今頃までこの板でお世話になっていた、「天元突破リリカルなのはSpiral」作者です。
今回からトリップをつけることにしました。

本ssは拙作「リリカルなのはSpiral」のリメイクssです。
ただし登場人物や主役機、敵勢力などの諸設定は旧作と大きく異なり、実質的には全くの別作品となります。
諸事情から「リリカルなのはSpiral」の執筆に詰んでしまい、色々と悩んだ結果、この度「グレンラガンStrikerS」という形で再スタートさせて頂くことにしました。
また、リメイク作品の執筆開始にあたり、申し訳ありませんが「リリカルなのはSpiral」の更新は停止させて頂きます。
今度こそ完結を目指して鋭意執筆させて頂くので、またよろしくお願いします。
――――――――――
ここまで代理をお願いします。

383高天 ◆7wkkytADNk:2009/10/17(土) 21:39:56 ID:dgveZ8nE
こんばんわです。
凄くお久し振りです。
ラクロアの新作を書いたのですが、規制で投下できませんでしたorz
代理投下をお願いいたします。

384高天 ◆7wkkytADNk:2009/10/17(土) 21:42:55 ID:dgveZ8nE
                    はるか昔・・・・・・・とある次元世界

其処は戦場だった、多くの巨大な戦艦『戦船』が飛び交い、休むことなく光学兵器や実弾を目標に向かって放つ。
それは目標を、目標ではない別の物を、目標を中心とした一帯を破壊し、焼き尽くし、粉々に吹き飛ばす。

数多の兵士が相手を殺すために引き金を引き、獲物を振り下ろす、堪えることのない様々な声、叫び、苦しみ、歓喜。
彼らが敵を殺すのは理由がある、友のため、自身の世界のため、恋人のため、家族のため、快楽を得るため、金のため、忠誠を誓う王のため、理由は様々。

そしてそれらを束ねるそれぞれの王自身も、己の力を示すため、世界を征服するために力を振るう。

『一騎当千』の言葉を証明するかの様に、圧倒的な力で数多の軍勢を蹴散らす王

自身に戦闘力は無いものの、高い指揮能力を駆使し、兵を有利に導く王

友軍、敵軍問わず、自らの能力でそれらの屍を自らの駒として戦わせる王

そして、ひときわ巨大な戦船に乗り、その圧倒的な破壊力で敵を蹂躙する王、

それ以外にも、多くの王がその力を振るう。その戦いは果てしなく・・・そして数多の次元世界を巻き込んでも尚続き、終わりは無いかに見えた。


                        『・・・・愚かだ・・・・』


その惨状を空から見つめている者がいた、そして、見下ろしている大地や空での惨状を見て自然と呟く。
皆がただ戦い殺しあうだけの世界、誰もその行為を疑問には思わず当然の事だと思っている、それを愚かと言わずになんと言うか。

そもそも、『彼』はこの世界の住人ではない。普段はある世界を中心とし、数多の世界を見守っているだけの存在、
もしもそれらの世界に危機が訪れた場合、その原因を排除するのが彼の主な仕事であった。
彼が此処に来た発端は、見守っていたある世界が『次元断層』を引き起こし、崩壊しかけたことが始まりだった。
幸い直ぐに手を打ち、その世界の崩壊を『軽い地震』程度で防ぐことは出来たが、其処は魔法は無論、文化・科学レベルも平均より下の基準、『次元断層』などが起こる事など無かった。
無論、不運や様々な要因が重なり、『次元断層』などの大災害が起こることもあるか、今回のは明らかな人為的な行為。
早速自らの仕事をこなす為、彼は原因であろう世界へと赴いた。
其処で彼が見たのは戦場、何かを救うためでもなければ、何かを守るためでもないただの戦い。
舞台となっている世界は無論、他次元世界の被害すら省みず、己の勝利のみに執着する王達、そしてその王の行為に何の疑問も抱かない兵
その光栄を見た彼は、ただ呆れるだけであった・・・・・・その時である。

                  『未確認物体・・・・・排除』

幾つのも閃光が突如彼を襲う。それは俗に言う『ビーム』という光学兵器であり、触れた者を一瞬で蒸発させる光。
彼に死を齎すために、その光が一直線に彼に向かう・・・・・そして直撃
激しい爆音と光の花火が空を明るく照らすが、誰も気にする事はしない、そのような光景は此処では日常と化しているから。
    
            『直撃・・・・確認・・・・・逃走形勢・・・無し』

上半身は人間の形をし、、下半身は飛行用のブースターのみという形態の機動兵器は、両腕のビーム発射口を閉じ腕を下ろす。

385高天 ◆7wkkytADNk:2009/10/17(土) 21:44:00 ID:dgveZ8nE
続けて、後方から銃や剣の様な物を持って近づく人間に状況を報告し、同時に対象の生死の確認を行おうとするが、銃を形をし武器『デバイス』を持った男に止められる。
「もういい、死体が落ちない以上、蒸発した事に間違いはない」
『・・・了解・・・周囲の索敵を開始します・・・・』
「それでいい・・・・戦船の装甲にも風穴を開けるビームだ、障壁を張った形跡が無い以上、間違いなく蒸発だ。
あと死体ではない、形状から何かしらの機動兵器だ、残骸だろ?」
剣の形をしたデバイスを持つ男が、仲間であろう男の間違いを指摘したあと、デバイスにカートリッジを補充し始める。
未だに爆煙が立ち込める空を見ながら、銃のデバイスを持つ男もカートリッジの補充を行う。時間にして数十秒、補充が終った二人はこの場を離れるため後ろを向く。

既に破壊した対象に対する興味を彼らは失った。敵対する輩は沢山いるのだ、未確認であるため興味はあったが壊れてしまえばそれまで、一々付き合ってなどいられない。
本当なら警告などを呼びかけるのだが、相手は自分の部隊に無い機動兵器、攻撃理由はそれだけで十分。
此処では味方以外はすべて敵、機動兵器は無論、人間でも降伏しようが、命乞いをしようが関係ない、敵対する者は殺すか殺されるか、ただそれだけ。
戦場でもある最低限のルールも、此処では意味がいない・・・・当然といえば当然だ、関係の無い次元世界を幾つも巻き込んでいる時点で、そんな価値観は既に無くなっている。
突如現われた敵の機動兵器に驚きはしたか結果は直ぐに破壊、大したことは無かった。拍子抜けした気分に犯されながらも、二人はその場を後にしようとした・・・だが


                『・・・警告、対象はせいx・・・』

                     「ん?どうし」


索敵を終えようとした機動兵器は突如発生したエネルギーを感知、即座にその場を去ろうとする二人に警告をする。
その内の一人は即座に気付き、疑問の言葉を呟きながら振り向く

                彼が見たのは黄金色の光、そして迫り来る光

もし喋る余裕があったのなら、彼はこう呟いていただろう・・・・「綺麗だ」と。だかその言葉は無論、彼は疑問の言葉を話しきる事すら出来なかった。
否、自分が死んだことすら理解できなかったかもしれない。
迫りくる光は機動兵器を消し、二人の騎士を消す・・・・・・・否、蒸発させる。だが、それだけでは済まなかった。
放たれた光は消える事無く伸び続ける、そして幾つもの機動兵器と兵を飲み込みながら一つの戦船に直撃、先ほどまで空中要塞の一つであった戦船を大破させた。
戦舟の残骸が煙と炎に包まれながら大地へと落下する中、幾つもの機動兵器と兵、一隻の戦船を無へと返した『彼』が爆煙の中から右手を突き出した状態で無傷で姿を現した。
『やはり・・・・・この世界の・・・・・人間は・・・・・・』
優れた英知を持っていても、結局は互いを滅ぼす事にしか使わない愚か者の集まり。
自分が見守る世界にも人間はいるが、これほどまで愚かではない。否、此処にいるのは人間ではないのかもしれない、ただ戦うだけだの愚かな生き物・・・ならやる事は一つ
今、自分は奴と・・・・・『古代神バロックガン』と同じことをしようとしている。だが、今なら奴の考えもわかる気がする。
すべての人間を消滅させようとした奴の気持ちも分かる気がする

無論、すべての人間が愚かではない。だが、この者達は・・・・この世界の人間は別だ、他者を巻き込み、己の勝利しか考えない愚かな生き物。
このまま奴らを野放しにしても、ただ殺し合い全滅、もしくは誰かが勝利するだけで終る。だかその結果が齎される頃には、一体幾つの命が、世界が犠牲になるだろうか。
なら自分がやる事は一つ、腐った部分は正常な部分が腐る前に取り除くこと。

ゆっくりと腰に下げている鞘から剣を抜く。そして自身が持つ赤き翼を広げ、力を一気に開放した。
空気が振動し、何かを叩いたような轟音が響き渡る、それだけで何時までも続くと思われた戦いはピタリと止まった。

                        だがそれも一瞬

機動兵器から放たれるビームなどの光学兵器、ミサイル、巨砲などの実弾兵器、騎士や魔術師が放つ白・黒・赤様々な色が入り乱れる攻撃魔法、
それらが下方、そして左右から一斉に彼目掛けて放たれた。

386高天 ◆7wkkytADNk:2009/10/17(土) 21:44:53 ID:dgveZ8nE
警告も無し、下手をすれば何なのかを確かめずに行われた一斉砲撃、だが攻撃を放った彼らからして見れは当然の行為だった。
こんな彼らでもすべてにおいて共通する事があった、それは『味方以外は排除する』という事。
先ほどの攻撃対象も、自分達の所属する舞台の兵器ではないから排除する、ただそれだけ。

それに目標のあの力、下手をすれば自分達の王に匹敵する力を兼ね備えている、この一斉攻撃でも生ぬるいかもしれない。
だが幸運な事に、他の軍勢も同じ考えを持っていたのだろう、先ほどの一斉攻撃は全員ではないが、結果的にすべての勢力が加わっている、目標の排除は間違いない。
攻撃を放ったほぼ全員がこのような考えを持っていた、中には上手く敵が利用でき、障害物を排除できた事に嫌らしくニヤつく輩もいる。

もしこの中に少しでも冷静さを取り戻している人物がいたら気付いていたかもしれない・・・否、一部の王は気付いていた。
兵や側近は『敵側の機動兵器を倒した』と言っている、確かにあれは自分達の保有する兵ではない、そうなると自分達の敵であることは間違いない。
ならなぜ、すべての勢力が一斉に攻撃をしかけたのだろうか?もし何処かの王が所有する兵であったのなら、攻撃をしない、もしくは阻止する筈だ。それを行った奴がいないと言う事は・・・・・
その王の予感は的中していた・・・・だが、すべてが遅すぎた。


突如爆煙の中から閃光が放たれる。それは軸線上にいる兵を飲み込みながら地上に落下、周囲の兵を多数巻き込み大爆発を起こす、
突然の出来事に光に飲み込まれた兵士、そして爆心地にいた兵士は悲鳴をあげる事も、防ぐ事も出来無かった・・・・否、自身に何が起きたのか理解出来ずに死を迎えた。
爆心地から広がる光に包まれた兵士は、彼らとは違い、恐怖の叫び、必死の逃亡、多重障壁の展開など、己のすべき行為をすることが出来たが全てが無駄に終わり、光に飲まれた。

「・・・な・・・・なんだよ・・・・」
皆の言葉を代弁するかのように、一人の兵が上空の爆煙を見つめながら裏返った声で呟く、デバイスを持つ手は震え、歯も恐怖からかカチカチと音を立てる。
ほぼ全軍の一斉攻撃が効かない、それ所か先ほどより強大な力を感じる。そして一瞬で敵や味方の兵や機動兵器が消失。
此処で初めて彼は・・・否、彼らは後悔した・・・・・『してはいけない事をした』と、そして恐怖した、圧倒的な力の前に。

一斉砲撃の時に発生した爆煙が晴れる。其処にいたのは傷一つない彼・・・・・否『光の騎士』
彼は周囲を見下すかのように見つめた後、一度溜息をつく。そして抜き取った剣を構えると同時に、小さく呟いた。


                 『愚か者共が』


その力に恐怖し、戦意を喪失した者、勇敢にもその力に抗おうとし、消された者。命令しか聞けない機動兵器は蒸発し、形が残っても鉄屑となって地上にばら撒かれる。
一騎当千を誇っていた王はたいした抵抗も出来ずに斬り捨てられ消滅。
高い指揮能力を駆使し、兵を導いていた王は、兵と自らが乗る戦船諸共大地へと落下し爆散。
屍を自らの駒として戦わせる王は全ての兵を消され戦力を失う。
そして、一際巨大な戦船『ゆりかご』に乗った王は、自ら戦いを挑むも敗北し、ゆりかごと共に地上へと伏した。

その後、永遠に続くかと思われたベルカの戦はその日をもって終焉を迎えた。理由は簡単、戦える者がいなくなったからだ。
生き残った殆どの王が、兵が、光の騎士の力の前に戦意を失った。
その後、生き残った兵や王はそれぞれの道を歩み始めた、力を捨てた者、自ら眠りに入った者、ただの荒地となったベルカの地を捨て、新たな世界に旅立った者。
そして突如現われ戦いを終焉に導いた光の騎士を神と崇める者。

正直彼にはどうでも良い事だった、自分は自分の仕事を行っただけ、崇められる事などをした憶えは無い。
殲滅させなかったのも、戦う戦意を失った事や、愚かさに気付いたから生かしているだけ、決して下僕にするわけでも、奴隷にするわけでもない。
『もし奴なら・・・・・この者達を皆殺しにしていただろうか・・・・』
次元世界を守るのなら、バロックガンの考えの様に、様に此処にいる全員を皆殺しにするのが一番だろう。だか『彼』には出来なかった・・・・人間が好きだからだ。

387高天 ◆7wkkytADNk:2009/10/17(土) 21:45:26 ID:dgveZ8nE
どんなに愚かな行為をいていても、反省したり、戦意を喪失した人間を殺すことなど彼には出来ない。むしろ二度と同じ過ちを犯して欲しくないと心から願う。
無論、そのように相手の心を弄る事など彼には簡単に出来る。だがそれではただの洗脳だ、生き残ったこの者達の考え出した結果ではない。
彼は人間という種族が好きであると同時に、その可能性にもかけている。再び争いを起こすか、手を取り、平和な時を生きるか。
『賭けだな・・・・所詮神になろうとも、出来ることは限られる・・・・か』

もう、この世界に用は無いと結論付けた彼は跪く王達を一瞥、そして後ろを向き、ゆっくりと天に向かって上昇する。
「お・・・お待ちを!!」
だが、跪く群集の中心にいた王、『聖王』が彼を引き止めた。
彼女は彼にすべての民を治める人物、『王』になって欲しいと願った、今のベルカには指導者が必要、それはこの戦を瞬く間に収めた『彼』しかないと。
だがその聖王の願いに一言も答えず、彼は天に上がる。だが、何かを思いついたのか、ゆっくりと振り向き聖王を真っ直ぐに見つめる、そして彼女にある助言をした。
その言葉を聞いた聖王は深々と頭を下げる事で同意の意思を示す、そして彼女に続くように、周囲の兵が、民が、王が彼に頭を垂れた。

その後、ベルカの王の一人『聖王』は戦後のベルカを見事収めた。死後もその功績から長く進行の対象となり、後の『聖王教会』の誕生に繋がる。
そして同時に、この戦を終焉に導いた彼も聖王同様に信仰の対象となった。


                 その騎士の名は十二神の1人『黄金神スペリオルドラゴン』



             魔法少女リリカルなのはStrikers 外伝 光の騎士 第一話


ナイトガンダムがラクロアに帰還してから二年後

ラクロア城・王座の間


スダ・ドアカ・ワールドに存在する数多の王国の内の一つ『ラクロア王国』
二年前に起きた巨人事件の爪跡は既に無くなり、今では以前よりも豊かさと人々の活気に恵まれてる。
その中心に聳え立つラクロア王国のシンボルともいえる城『ラクロア城』その中に存在する王座の間で今、ある儀式が執り行われていた。
王座の間にいるのは5人、戦士ガンキャノンと僧侶ガンタンク、そしてラクロア王国の姫であるフラウ姫、
王座の間に唯一ある椅子に座るのは彼女の父であり、この国の王であるレビル王、
そして、王座の間の入り口から王が座る椅子を繋ぐ赤い絨毯の中心で跪き、真っ直ぐに王を見つめる白き甲冑に身を包んだ一人のガンダム族

「伝説の名を持つ騎士、ガンダムよ・・・その方に、すべての騎士の上に立つ者としてバーサルナイトの照合を与える」

『バーサルナイト』それはスダ・ドアカワールドの騎士に贈られる、最高の名誉ある称号。
『騎士の中の騎士』『最高の騎士』を指し、その照合を得た騎士は、すべての騎士の憧れ、そして目指す存在へとなる。
ちなみにバーサルの称号授与決定権は、歴代のラクロア王、同じバーサルの称号を持つ騎士、そして『神』にある

純白の甲冑に身を包んだガンダムは、一度深々と頭を下げた後、王の宣言に答えた。
「・・・・名前以外、記憶を持たぬ私に・・・・どこの者かも分からぬこの身に、もったいなきご好意の数々・・・・・
その上、バーサルナイトの称号まで・・・・・」

388高天 ◆7wkkytADNk:2009/10/17(土) 21:46:24 ID:dgveZ8nE
ここに来ても尚、ガンダムはバーサルの称号を受取ってよいのか躊躇ってしまう。
自分はこの国の民ではない、名も分からぬMS族の自分にこの様な栄誉ある称号をいただいてよいのかと?
だがレビル王も決して形だけの無能な王ではない、ガンダムの表情から、彼が何を思っているのか直ぐに理解する。

「なに、その方の修行の賜物じゃ。そして、どこの者であろうと国を救い、国のために尽くしてくれたそなたの行動に偽りは無い。
ガンダムよ、そなたがこの国の者でなかろうと、何処の誰てあろうと関係は無い。そなたはラクロアの・・・否、
スダ・ドアカ・ワールドの勇者となるものじゃ・・・・この称号、受けてもらわねば困る」

『バーサルナイト』の称号を断ろうとした自分を説得するかの様に語りかけるレビル王。
その言葉は王の本心だという事は直ぐに理解できた、だからこそ、ガンダムは内心で湧き上がる感謝と嬉しさを吐き出すかの様に感謝の言葉を述べた。

「ははっ!!つつんで、お受けいたします!!!」



 ラクロア王国 城下町

「改めておめでとう、騎士・・・いや、今はバーサルナイト様かな?」
「様つけはよしてくれガンキャノン、どうにも落ち着かないよ」
キャノンの冗談をガンダムは軽く笑って返す。キャノン本人もその気は無いのだろう、軽く笑いながら先ほど出店で購入した串焼きを頬張りはじめた。
今二人が歩いているのはラクロア王国城下町の市場通り、まるで祭りでも行われているかの様な活気が辺りを支配し、市場を、そして国を自然と盛り上げる。
その光景を笑顔で見ながら、ガンダムはつい2年前までは此処が瓦礫の山だった事を思い出した。

自分があの世界から帰還しラクロアに戻った時、そこには繁栄していた王国は無く、瓦礫とけが人、放心したレビル王だけ残されていた。
正にただの荒地となっていたラクロア王国、だがそれも昔の話、僅か2年という歳月で此処まで回復し、以前の活気を取り戻していた。
品を値切る人、世間話をする人、屋台の出し物にはしゃぐ子供達、ふとその子供達を見た瞬間、彼はあの世界の事を思い出す。
「・・・・そうか、もう二年になるのだな・・・・」

必ず戻ると約束してから今年で二年目、時期が過ぎるのは本当に早いと思う。
彼女達は自分を待っていてくれるだろうか?元気でいるだろうか?彼女達の事を考えると、いつも頭に過ぎる思い。

「しかしあの瓦礫だらけだったラクロアも見違えたもんだ・・・・・今では昔以上の大国になってる・・・・あっ食うか?鳥モモの塩焼き」
「いや、遠慮しておくよ。だけどあの荒地を此処まで再建させる・・・・この国の民は本当に強いとい思う。キャノン、君もそう思うだろ」
「ングッ!・・・・其れは同意だ。俺達は戦うとは出来るが、国を潤したり活気づかせることは出来ない。それを行ってくれる民がいるからこそ、
こうして楽しく平和を満喫でき、上手い串焼きを食うことが出来る。俺達は敵から民を、民は俺達に平和で楽しい日常を、それぞれ守り守られて暮らしている・・・だろ?」
慌てて串焼きを喉に流し込みながらも、キャノンは自分なりの考えを述べた。
それはガンダムが思っていることと同じ、守ろうとする人達に助けられてるという事実、それはあの世界でも経験した事。
守ろうとした二人の少女に助けられた、今でもあの光景が目に浮かぶ。
「(・・・ふふっ、未練だな、何かとあの世界の皆に繋げてしまう・・・・・恋しいのだな)」

二人が向かう先は鍛冶屋テムの家である。
今ガンダムが装着している鎧『バーサルアーマー』は数ヶ月、ラクロアを襲ったモンスター『ファントムサザビー』によって破壊された霞の鎧と力の盾を元に作れている。
本来修復不可能といわれている神器を新たな鎧として作り直したのが、ラクロアきっての名鍛冶屋(本人曰く)鍛冶屋のテムである。
本当であったら直ぐにでもお礼を良いに伺いたかったのだが、鎧を貰った後もモンスターやジオン騎士の襲来など色々ゴタゴタがあり、満足にお礼を言えなかった為、こうして彼の家へと赴いていた。
「だけどなぁ、あの飲んだくれに酒なんて、しかも目玉が飛び出るほどの名酒・・・・・・考え直せ、ガンダム!感謝の気持ちは言葉で十分、むしろ友である俺にくれ」
途中から不気味なほどに真面目に尋ねるキャノンを乾いた笑いと共に軽く流しがら、さりげなくテムに渡す名酒を隠す。

389高天 ◆7wkkytADNk:2009/10/17(土) 21:47:20 ID:dgveZ8nE
その動作に、自分の思いは叶わないと確信したのだろう、わざとらしく舌打ちをした後、交渉決裂の悔しさをぶつけるかの様に残った串焼きにかぶり付いた。
「・・・・・まぁ、酒に関しては後でテムの所で頂くとして諦めよう」
「キャノン・・・意地汚いぞ」
「まぁ言うな、何だかんだで俺もあの飲んだくれのおっさんの腕は認めてる。その酒を丸々飲む権利が十分あることは認めるしかない・・・・ただ俺は毒見をするだけだ」
「・・・・・後で奢るからやめてくれ。まぁテム殿の腕は確かに見事なものだよ、あの神器を新たな鎧として作り直してくれるのだから」
それにはガンダムも心から同意する。
復元不可能なほどに焼け焦げ、砕け散った力の盾と霞の鎧を新たな鎧として作り直した程の腕前、
並の職人には到底出来ない行為だ。

「だがな、今回に限ってはそうでもないぞ。これはテムのおっさんから直接聞いたんだが、
さすがに今回の仕事は行き詰ったらしい、まぁ獲物が三種の神器だからな、だからあの魔道師に助けを借りたそうだ」
「あの魔道師・・・・それは一体?」
キャノンの言う魔道師に対し、心当たりが全く無いガンダムは問いただす。
そんな彼の態度にキャノンは一瞬考える様に沈黙、だが直ぐに納得した様に『ああ』と声をあげながら話し出した。
「そうか、お前は巨人事件後も修行やジオン族討伐などで周囲の村へ行く事が多かったからな、知らないのも無理は無い。俺達が巨人討伐のためにラクロアを離れた後
森でタンクが保護した親子だ。発見当時、親がやたら薄着だったり、子供が裸でやたら大きなガラス容器に入っているという不可思議な状況だったが、
魔道師は瀕死、子供は魂が抜けた状態に酷似した状況だったらしい。だか今では二人とも回復して使い魔の女性と暮らしている・・・・ああ、丁度良い、見て見ろよ」

立ち止まり、キャノンはある方向へと指を刺す。ガンダムは自然と彼が指した方向を見るとそこにあったのは工事現場。
人やMS族が汗だくになりながら、それぞれの仕事を行っている風景、その中に溶け込むように一体の機械人形が動いていた。
人間や並みのMS族では持てない資材を軽々持ち上げる機械、それはつい最近までラクロアには無かった風景。

「あの機械もあの魔道師の作品さ、確か『傀儡兵』というらしい、ラクロアの急速な復興はこいつらのおかげでもあるのさ、
あんな高度な技術を持っている上に魔術師の腕もタンク以上、おっさんが協力を依頼するのも納得がいく」
腕を組み、うんうんと頷きながら納得するキャノンをよそに、工事作業を行う『傀儡兵』をガンダムはただ呆然と見ていた。
当然である、形は多少違えどあの機械は自分はよく知っている。あの世界で敵として表れ、何体も破壊したのだから。
それにキャノンの話からして、この技術を齎したという魔道師にも不審な点がある、もしかしたらあの世界で自分が言われた『次元漂流者』なのかも知れない。
「ん?おーい、何ぼっとしてるんだー?」
キャノンの声で現実に引き戻される、いつの間にか考えることの集中してしまったのだろう。
だから気が付かなかった、自分が今立っているのは店の入り口で

                「ありがと〜!おまけしてくれて〜!!」

其処から嬉しそうに出てくる少女の存在に


                              ドン

                             「ん?」
                          
                            「ふにゃ!?」

当然二人は見事にぶつかったが、尻餅をついたのは少女の方、ガンダムは驚きはしたものの直ぐに少女の方へと向き、尻餅をついた少女を起こすべく手を差し伸べるが、
「ああ、ごめんね、だ・・・・い・・・・・」
ガンダムは言葉を出す事ができなかった。手を差し伸べた状態で固まり、まるで幽霊を見るかのような顔で少女を見る。
思考が追いつかない、自分は何を見ているのだろう・・・・・・否、それよりなぜ『彼女』が此処にいるのだろう。

390高天 ◆7wkkytADNk:2009/10/17(土) 21:48:03 ID:dgveZ8nE
「・・・いたたた・・・ごめんなさい、前を見てなくって・・・・」
お尻を摩りながら少女は謝る、そして顔を上げ、自分がぶつかった人物をはじめて見た。
この顔には見覚えがある・・・・・否、この国に住んでいる住人で彼を知らない方がおかしい、それ程の有名人。
「(うわ〜、初めて見た、確かガンダムさんって言うんだよね)」
話などでは聞いていたが、こうして生で見るのは初めて。確かに他のMS族とは違うし、とても強そうに見える。
自分と同じ位の男の子も「おおきくなったらガンダムみたいな騎士になるんだ!!」と胸を張って自慢していたが、それも今では分かる気がする。

とりあえず、手を差し伸べてくれた事にお礼を言った後、その手を取ろうとするが、どうにも様子がおかしい。
自分の顔を見た瞬間、硬直したかの様に固まり、まるで幽霊を見るかのような瞳で自分を見つめている。
もしかしたらぶつかった事に怒っているのだろうか、そう思い咄嗟にもう一度謝ろうとしようとした瞬間

           「・・・フェイト・・・・・フェイトじゃないか!どうして君が!!」

人目も憚らないガンダムの大声によって遮られた。

「あっ!?」
自分でも何をやっているのだろうと思う、転んだ少女を助ける事もせずに大声を出すなんて。
確かに目の前で呆気に取られている少女はフェイト・T・ハラオウンに良く似ている・・・・・・否、瓜二つと言っても良い。
だが彼女が此処にいることなどありえない、冷静に考えれば分かる事だ。それなのに自分は何をしているのだろう。
とりあえずは呆然としている少女を起こし、いきなり大声を出した事について謝るのが今第一にする事、だが
「ごめんね、いきなり大声を(なんで・・・・・」
途中で言葉を遮られる、その声は先ほどの無邪気な声ではなく、歳相応とは思えない冷静な声。
そして飛ぶように起き上がると、抱きつく様にガンダムに詰め寄った。
「どうして!どうして知ってるの!!あった事があるの!!」
突如顔色を変え、言い寄る少女にどうしていいのか分からず言葉を詰まらせてしまう。
何故そのような事を聞くのだろうか?なぜこの少女はフェイトの事を知っているのだろうか?
こちらも色々と聞きたい事はあるが、今は彼女を落ち着かせることが最優先。だが、目に見えて必死な彼女は全く聞く耳を持とうとしない。
そんな状況を見かねたキャノンが、二人の間に割って入ろうとしたその時
「どうしたのですかアリシア?そんな大声を出して!?」
聞き覚えのある声に名前を呼ばれた少女『アリシア』はようやく我に返り、後ろを向く。
其処には両腕に買い物袋を抱えた薄茶色の髪の若い女性が不思議そうに二人を見つめ立っていた。

突然のアリシアの大声に驚き、素早く買ったものを袋に入れ外に出た女性『リニス』が見たのは、ガンダムに詰め寄るアリシアの姿だった。
一瞬何事かと思ったが、困惑しているガンダムの表情を見てある程度は理解できた。
アリシアは好奇心が旺盛な子供だ、フェイトと違い、アルフと同じ位活発な元気な少女、
店内や市場の賑わいから、店の中では何を言っているのかは聞き取れなかったが、おそらくこの国で一番の有名人である騎士ガンダムに色々を我侭を、
それこそ『一緒に遊んで』『色々お話を聞かせて』とせがんでいるに違いない。
「(やれやれ・・・・・困ったものです)」
内心でつぶやきながらも、行動力旺盛なアリシアの姿に自然と顔から笑みがこぼれる。
とにかく先ずは困惑している騎士ガンダムを助けるのが優先だろう、
もしこの後、時間があるのなら家に招待するのも良い、自分の主も快く迎えてくれるだろう。
自分の中で今後の行動をある程度固めたリニスは、早速二人の間に割って入ろうとする。だが

              「リニス!!ガンダムさん、私を見てフェイトって言った!!フェイトの事知ってるんだよ!!!」

数秒後、ガンダムに詰め寄る人が一人増えた。

391高天 ◆7wkkytADNk:2009/10/17(土) 21:48:39 ID:dgveZ8nE
 テスタロッサ邸

「す・・・すみません・・・・取り乱してしまって・・・・」
「いえ、お気になさらないでください」
その後、キャノンの介入といち早く冷静さを取り戻したリニスによってその場はどうにか収まる事ができた、
だがアリシアは無論、リニスも説明を求める視線でガンダムを見つめる。
そんな二人の気持ちに答えるかの様に、ガンダムはフェイトの事について話す事を申し出た。
彼女達が説明を求めている事、そして何故ラクロアにいる彼女達がフェイトの事を知っているのか、自分自身も知りたかったからだ。

キャノンに説明をした後、ガンダムは二人に連れられ、一軒の家に招かれる。
早速、『アリシア』という少女からフェイトについて色々聞かれたが、ガンダムは知っていることはすべて話した。
元気で暮らしている事、心強い仲間に囲まれている事、持てる力で皆を助けている事。
彼の回答にとても満足したのか、アリシアは終始ご機嫌だった。だが、最後の質問の時には、何かに恐れるように俯いた後、躊躇するかのように声を絞り出しながら尋ねた。

                  『フェイトやアルフは私を恨んでいないのか』

その質問の意味が正直理解できなかった。だが、フェイトが誰かを憎んだりしている事など無かったし、
そんな素振も見せたことは無い、むしろ他者を恨むとう行為が出来るのかも怪しい。
自己の判断から結論を言うのはどうかと思ったが、彼女の正確や仲間達を思う心を信じ結論を出した、「彼女は誰も恨んでなんかいないよ」と。
その言葉にとても安心したのだろう、アリシアは心からほっとすると椅子に力なく座った。

「そうですか、貴方がフェイトとアルフの師、そしてバルディッシュの製作者なのですね」
「ええ、でも安心しました。あの子達が元気に生きていて、バルディッシュがあの子の力になっていて」
その後、眠そうにするアリシアを寝室まで運んだリニスは、ガンダムとフェイトについての話で盛り上がる。
リニスもフェイトの事を忘れた事は無かったが、もう会えることは無いだろうと諦めていた。
だが、今自分は最近の彼女と行動を共にした騎士から話を聞くことが出来ている。
新たに命を与えられた時、主から今までの経緯を聞いたときは不安で仕方が無かったが、今ではアリシア同様途轍もない安心感に包まれてる気分だった。

話が一区切りつき、リニスがお茶のお代わりを持ってこようとした時、ドアが開く音と共に一人の長い黒髪の妙齢な女性が入ってきた。
「ああ、プレシア、お帰りなさい」
「ただいま、リニス・・・・あら、貴方は・・・・バーサルナイト」
笑顔でリニスに答えたのは、この家の主であり、リニスのマスターであり、アリシアの母親である女性『プレシア・テスタロッサ』
彼女はリニスと席をはさんで座っている意外な客人に少し驚いた表情になる。
そんな彼女をよそに、ガンダムは椅子から立ち上がるとプレシアの目の前で跪き、頭を垂れた。
「はい、申し送れました。私、ラクロア騎士団所属、バーサルナイトガンダムと申します。プレシア殿、この鎧の製作に助力をして頂き、誠にありがとうございました」
「顔をあげなさい。いいのよ、そんなに畏まらなくても。私は私が出来ることをやっただけなのだから、でもその言葉は受取って解くわ。あと、ついでになってしまうけど
騎士ガンダム、バーサルナイトの称号授与おめでとう。貴方に相応しい称号よ」
バーサルナイトの称号を祝われた事に、ガンダムは再び頭をさせ、感謝の意を示す。
その時、今まで会話に口出ししなかったリニスが、真面目な顔でプレシアに近づき、ガンダムが此処に来た理由を話し始めた。
その内容に、プレシアは驚きを顔に隠さず表しガンダムを見つめる、そして直ぐに表情を隠すかの様に俯いた。
同じく立っているリニスには分からなかったが、跪いているガンダムにはその表情が見て取れた、
何かに懺悔すかの様な、後悔に満ちた表情に。


今はリニスも席を外し、リビングにはガンダムとプレシアだけになってから約5分、今まで続いた沈黙を最初に破ったのはプレシアだった。
「・・・・・私や・・・・・私達の事・・・・何か聞いている?」
「・・・詳しくは・・・・」
「・・・そう、なら話すわ・・・これは・・・償いきれない私の罪よ・・・・」

392高天 ◆7wkkytADNk:2009/10/17(土) 21:50:20 ID:dgveZ8nE
リニスから聞いたのは、彼が約2年ほど前、自分達がいた世界に行き、其処でフェイト達と行動を共にしていた事。
行動を共にしていた以上、知っている筈である。フェイトの出生、そしてジュエルシードを巡ったあの事件の事・・・・・そして自分がフェイトに行った仕打ちの事。

今思っても自分はとても残酷な事をしてきた、『最愛の娘を生き返らせるためなら何をしても許される』それを何の疑いもせずに抱いていた。
自らの使い魔を一度消滅させた、なんの躊躇も無く。
フェイトを失敗作と罵り、散々道具として利用した。そしてつるし上げ、彼女が素直な事をいい事に散々痛めつけた。
アルハザードへ行くために次元震を起し、何の関係も無い世界を滅ぼそうとした。
そして、最後まで自分を信じたフェイトの手を掴む事をしなかった・・・彼女を否定したまま。



アリシアの保存ポットと一緒に時空の歪に落ちた後、自分は意識を失った。否、自分の体のことは良く知っている、むしろ死んだだろうと思った。
だが気が付いたときには知らない部屋のベッドで寝かされていた、生き返ったアリシアと共に。
「アリ・・・シア・・・・!!?」
一瞬見間違えかと疑った。だが、アリシアの顔色はよく、規則正しく寝息を立てている。
これが意味する事は一つしかない、アリシアは生き返ったという事。
目覚めた途端、叶える為に必死だった願いが叶ったとこ、そして目覚めたばかりで頭が上手く働かないために、プレシアは軽い混乱に陥った。
その時である、ノックと共に彼女を保護したMS族、僧侶ガンタンクが入ってきたのは。

出された水をゆっくりと飲み、プレシアは自身を落ち着かせる。そしてある程度グラスの水を飲み干した事を確認したタンクは、一度断りを入れた後、
今までの経由を離し始めた。
3日ほど前、自分達が森で倒れていた事、アリシアは魂が抜けた状態、そして自分は瀕死の重傷だった事、そのため保護し、治療を行ったこと、
目覚めたばかりで頭が回らないだろうと思ったタンクが、簡潔にプレシアに説明をする。

『正直信じられない』これがプレシアの感想だった。自分の体は次元世界では最先端の技術を持つミッドチルダの医療技術でも治療は不可能だった。
実際自分でも可能な限り・・・・・それこそ、非合法な方法を使っても不可能だったので嫌でも理解できる。
だが今まで体を蝕んでいた苦痛、激しい痛みを伴う喘息も一切おこらない、あの見たことも無い種族の話が本当だという事だ。

そして生き返ったアリシア、彼は『魂が抜けた状態』と説明していたが、一科学者としてその意見を受け入れる事は出来なかった。
そもそも自分を含めた魔道師が使う魔法は一種の科学の延長、簡単な話、一部のロストロギアなどを除けば人類の英知である『化学』で説明が出来てしまう。
だが、『魂が抜けた状態』というのはプレシアから・・・否、ミッドチルダや加盟している次元世界に住む住人から見れば立派な『オカルト』である。
だが結果としてその『オカルト』により愛娘は生き返り、今は可愛らしく寝息を立てている。

こんな事が出来るとなると・・・・此処は自分が行こうとしたアルハザードではないのか?そもそも、今説明をしてくれている人物?も、科学者であるプレシアでさえ見たことが無い。
自然と備え付けの椅子に座っているタンクに質問をする『此処はアルハザードなのか』と、だが返ってきたのは『違う』という回答。
「此処はラクロア王国という国じゃ、『アルハザード』という国や街は聞いたことが無い・・・・それよりお前さん達は旅の者か?それにしては格好などが不思議じゃが」
その質問にどう答えていいのか考えようとするが、ふとその質問内容に疑問が生まれる。『なぜ彼は自分達の事を知らないのだろうか?』と。
「・・・ごめんなさい、悪いけど先に質問させてくれないかしら?」
「ああ、かまわんが」
「ありがとう、貴方、『時空管理局』『ミッドチルダ』この用語に心当たりは無い?」
「『時空管理局』に『ミッドチルダ』・・・・・すまんな、全く聞いたことが無い、何かの街の名前か?」
「・・・・いいえ、ありがとう・・・・」
これで確定いた、此処が管理局が一切関与していない未発見の世界だという事が。だが、タンクに質問する前に、既に大体は予想が出来ていた。
自分は管理外の世界を次元震で滅ぼそうとした、これは十分極刑に値し、次元世界レベルで指名手配されていてもおかしくは無い。
仮にこの世界が、管理局が接触はぜずにただ監視している世界だったとしても、自分の様な犯罪者を野放しにしておく筈が無い。
その事から、プレシアは本当の事をこの恩人に言っても理解はしてくれないだろうと結論付けた、だから嘘をつくことにした、『旅人である』と。

393高天 ◆7wkkytADNk:2009/10/17(土) 21:51:01 ID:dgveZ8nE
プレシアはガンダムに包み隠さず話した、この国に来た経由、自分が今まで何を、そしてフェイトに何をしたのかを。
フェイトに対する仕打ち、地球を滅ぼそうとした事を聞かされた時は、ガンダムも怒りを隠す事が出来ず、自然と拳を握り締めプレシアを睨みつける。
だが彼女の表情、心から自分の罪を悔いているその顔を見た瞬間、彼が抱いていた怒りも一瞬で収まった。
「・・・・・一つ、お聞かせ願いたい」
「何・・・かしら」
「今の貴方は過去の出来事をとても悔いている。正直、私も怒りを感じたが、貴方の表情を見てその怒りも薄れた。
だが、先ほどの話を聞く限り、貴方は自らの意思で悪行を行った、そんな人物が過去を悔いる事などしない・・・・何が貴方を変えたのですか?」
真っ直ぐ自分を見つめるガンダムにプレシアは数秒沈黙、そしてゆっくりと自分の手を頬に当てた。

                            パチッ!!!

アリシアが目覚めた時、最初に行ったのはプレシアに抱きつく事でもなければ、彼女の名前を呼ぶことでもない、力の限りプレシアの頬を叩くことだった。
呆然とするプレシアに対し、アリシアは涙を浮かべ、声を荒げながら、フェイトにした仕打ちや今までの事を尋ねた。
「アリシア・・・何故、何故貴方が知っているの?」
「・・・・・・見てたんだよ、あの研究所の事故の後、私、ずっとお母さんの事を・・・・とても悲しかった・・・・やめてって何度もいった
でも、私を救うためにしてくれたんだよね・・・・・・それでも、フェイトに・・・・アルフに・・・・リニスに・・・・どうしてあんな事を・・・」

プレシアもまた、ただの気まぐれで二人にあの様な仕打ちをしたわけではなかった。あの事故でアリシアも、リニスも死んでしまった。
だから当時の自分は『プロジェクト・フェイト』の技術でアリシアを、使い魔としてリニスを生き返らせようとした。
だが生き返ったのは自分が知るアリシアでもなければリニスでもない。

認めるわけにはいかなかった。今いる二人を認めたら、自分は本物のアリシアを、リニスを否定することになる。
むしろ怖かった、姿が同じでも彼女達は自分が知っている子達ではない、このまま自分の思い出の中で生きるアリシアとリニスに取って代わるのではないかと。
だから二人を邪険に扱った、道具としてしか使わなかった、そうする事で『フェイト=アリシア』『使い魔のリニス=山猫のリニス』という考えを壊せるから。

「・・・・だったら・・・どうして二人を・・・フェイトを『アリシア』としてじゃなくて、一人の女の子として、リニスを『山猫のリニス』としてじゃなくて
一匹の使い魔として接してあげられなかったの・・・・・おかしいよ・・・・そんなの・・・おか・・・しい・・・よ・・・」
涙で顔をくしゃくしゃに汚しながら、アリシアはプレシアに抱きつく。
未だに愛娘に打たれた事にショックを隠すことは出来ないが、自然とアリシアを抱きしめ、心の中で彼女の言葉を繰り返し呟く、そして自問する

         なぜ自分はフェイトやリニスを代わりではなく、一人の女の子、一匹の使い魔として見なかったのだろう

                     なぜアリシアは自分の胸の中で泣いているのだろう

                         なぜ自分は愛娘にぶたれたのだろう

知らずに自分の瞳からも涙が溢れる、今流れる涙は自分の愚かさから来るものか?愛娘を悲しませたという罪悪感からか?フェイト達に行った懺悔からか・・・・否、その全てだろう。
答えは簡単だった、自分の心の弱さ。自分の心が弱いからアリシアとリニスの死を認められず、フェイトと使い魔のリニスを人や使い魔として見ず、道具として扱った。
結局は自分が原因、何て愚かだったのだろう。
「・・・・・ごめんなさい・・・・ごめんなさい・・・・ごめんなさい・・・・」
今更認めても遅い、自分が心から謝罪する人達は此処にはいないのだから、それでも謝罪の言葉は何時までも部屋に響き渡った。

394高天 ◆7wkkytADNk:2009/10/17(土) 21:51:56 ID:dgveZ8nE
「では、あのリニス殿は?」
「あの時、契約解除と共に消滅させる筈だったわ、だけど当時の私はまだ何かに使えると思った、だから一種の仮死状態にしてデバイスに閉じ込めていたのよ」
「そうですか・・・・・・最後に一つだけ聞かせてください、今の貴方は、フェイトを愛していますか?」
その質問に、プレシアは体を震わせ言葉を詰まらせる。だが、その表情は今までの嫌悪を表した物ではない。
「・・・・・その質問には・・・答えられないわ・・・いえ、私にはその資格が無い、フェイトを愛する資格なんて(それ以上言うのはよして下さい」
静かだが、明らかに怒りが含まれているその声に、プレシアは言葉を詰まらせた。
声を発したガンダムの表情は明らかに怒っていた。その怒りは先ほど『資格が無い』と言おうとした自分にむけられてる事は直ぐにわかる。
「以前にも、似たような人と会いました。その方は自分の子供達の不安に気付いてあげる事が出来ずに自分自身を攻めていました。自分は『母親失格』とも言いました。
ですが、その考えは間違っている。確かに自分の過ちに気付き、苦しむ事もあるでしょう、ですがそれで自分の価値を、資格があるか無いかを決め付けるのはいけないことです!!
プレシア殿、貴方は今までの行為を恥じてる、そして反省している、そしてあの子に・・・・フェイトに対して申し訳なく思っている・・・・もう答えはでているのではないのですか?」
「けど、フェイトは・・・・・あの子は私の事を・・・・(そんな事は決してありませんよ」
あれだけ酷い事をしたのた、そしてあのこの必死になって伸ばす手を掴まなかったのだ・・・・そんな自分を、あの子が良く思っているわけが無い。
だが、そんなプレシアの不安を、ガンダムは今度は先ほどとは違う、優しい声で否定する。
「・・・・私がこのラクロアに帰る時、あの子はある人の家の養子になりました。そして新たな姓を貰い、名前も変りました『フェイト・テスタロッサ』から
『フェイト・T・ハラオウン』という名に・・・・・途中の『T』が何を指すかわかりますか?」
突然投げかけれた質問に、プレシアは戸惑ってしまうが、直ぐにその答えを導き出す。だが不安が残る、もし間違っていたらという不安が
だが、そんな彼女の不安を消すかのように、ガンダムは直ぐに答えを話した。
「『T』は『Testarossa』の『T』、貴方達親子と一緒の姓です。初めて聞いたとき、疑問に思い尋ねました。どうして旧姓を残すのかと、
そしたらフェイトははっきりと答えました、『絆を失いたくないから』と。もうお分かりですよね、ですから改めて聞きます、フェイトを愛していますか?」
声が出なかった、嗚咽を漏らし涙をただ流す、心に残っていた重たいしこりが一気に抜け落ちた様な開放感、そして今までの不安を包み込むほどの安心感
がプレシアを襲う、まともに声など出ない・・・・・だが、ガンダムの質問には答えたかった、彼に気持ちを伝えるために
呼吸を整え涙を拭く、そしてしっかりとガンダムを見据え、答えた。

                          「・・・ええ・・・愛してるわ・・・・私の愛娘だもの」

その後、話の区切りを見越したリニスと昼寝から起きたアリシアも加わり、テスタロッサ邸では少し遅めの午後のお茶会が開かれた。
他愛も無い話をしながら紅茶と焼きたてのスコーンを頬張り、至福の一時を過ごす四人。その時である、ドアを叩く音に全員が振り向いたのは
「テスタロッサ殿!いらっしゃいますか!?」
『何かしら』と呟きながら、リニスは立ち上がり玄関へと向かう。扉を開けると、其処にいたのはラクロアの兵であるジムが二人。
だが彼らはリニスの顔を見た瞬間、言葉を詰まらせ、顔を仄かに赤くした。
リニスはその容姿、性格などから人間族、MS族にとても人気がある、当然その中にはテスタロッサ邸を訪れた兵二人も含まれており、
彼らの態度もリニス本人以外からしてみれば納得がいく。
だが彼らもラクロアを守る兵士、多少慌てた後、誤魔化すかの様に敬礼し用件を伝えた。
「お・・・お・・・おやすみ・・・ではく・・・あ〜と・・・」
「落ち着け馬鹿!!失礼しました!リニス殿!!今日もお美しく・・・ではなく、こちらにバーサルナイト様がいらっしゃるとお聞きしたのですか?」
二人の兵の態度に、悪いと思いながらもリニスは少し笑ってしまう。
そして直ぐにガンダムを呼ぼうとするが、リビングにも声が聞こえたのだろう、彼女の後ろからガンダムがゆっくりと歩いてくる。
その姿を見た二人の兵は直ぐに敬礼をする。まるで兵の見本になるほどの立派な敬礼を。

395高天 ◆7wkkytADNk:2009/10/17(土) 21:52:31 ID:dgveZ8nE
今の二人が感じているのはリニスの時とは違う憧れ、尊敬、信頼、このラクロアで誰もが彼に抱いている感情。彼らは常にそれらをガンダムに対して抱いていた。
「ご苦労様です、どうしました?」
二人の敬礼に対し、ガンダムもまた敬礼で返す、そして直ぐに顔を引き締め、報告を聞こうとする。
彼らがわざわざ出向くとなると、何かあったことは確か、もしジオン族が現われたのか?
最悪の状況も踏まえて彼らの報告を聞こうとするが、結果はガンダムの思っていた事とは逆であり、彼を喜ばせる物であった。
「先ほど、騎士アムロ殿が修行の旅からお帰りになりました、しかも凄い客人を連れて」
「アムロがですか!無事に帰ってきたのですね・・・・それで客人とは」
「はい、バーサルナイト様、貴方にそっくりな方達です。詳しいことはお城で、皆さんがお待ちです」

少し話してから行くといい、ガンダムは先に二人を帰らせえる。
そして改めてバーサルアーマーの御礼を行った後、ガンダムはプレシアの気持ちを知ってから思っていた事を話した。
「プレシア殿・・・・・・あの世界に帰ろうとは・・・・思わないのですか?」
今の彼女は昔とは違う、だからこそ元の世界に、フェイトに会いたいのではないかと思う・・・・・だが、プレシアの回答は『いいえ』だった。
「私はあの世界で多くの罪を犯したわ、だから仮に戻っても捌かれるだけ。無論私にはその覚悟はあるわ、だけどアリシアやリニス、そしてアルフやフェイトが
その巻き添えを受けるのは我慢できない・・・・・ふふっ、臆病者よね。そしてもう一つがこの国を気に入った事かしら」
彼女は誓った、何一つ疑わず自分達を救い、受け入れてくれたこの国の人達を持てる力を使い救おうと。
今でも忘れない、母を救った子供に言われた『ありがとう』という言葉を、忘れていた感謝されるとこの喜びを取り戻した瞬間でもあった。
だが、ガンダムが考えていたことをプレシアもまた考えていた、だからこそ尋ねる。
「貴方は、ジークジオンを倒したらあの世界『地球』に戻るのよね?貴方こそ、この世界に残ろうとは思わなかったの?
俗物的な言い方だけど、貴方は此処では地位も、名誉も、富も思いのまま、中には貴方を崇拝する人もいる、一般的に見ればどちらを取るかは一目瞭然よ」

確かに彼女の言う事は正しい、自分は望んではいないのだが、何度もラクロアの危機を救った自分を『伝説の勇者』と崇拝する者がかなりいる。
現に自分に『様』をつけて呼ぶ人は後を経たない。
そしてバーサルナイトの称号を王から与えられた、金銭に関しても『褒美』と称して金銀財宝を与えられている。

「・・・・・・プレシア殿、確かに貴方の言う事は正しい。ですが私はそられを手放しても共にいたい、守りたい人達がいます。
ですがこのラクロアも、共に戦った仲間も同じ位に大切です。ですから脅かす危機を取り除く、この国の民が平和に暮らせるように。私が旅立つのは、それからです」
真っ直ぐにプレシアを見据えてガンダムは答えた。
ラクロアに平和を、そして必ず帰るという二つの誓いを守る決意が瞳を見るだけで十分なほどに分かる。
その瞳を改めてみてプレシアは思う、「彼になら預けてもいいだろう」と
「・・・リニス・・・あれを持ってきて」
その意味を直ぐに理解したリニスは一瞬躊躇するが、直ぐに部屋の奥へと行き、ある小箱を持って来た。
「・・・プレシア・・・・いいのですか・・・・」
「貴方は私に異見することが出来るわ、それをしないという事は貴方も同じ気持ちなんでしょ?」
軽く微笑みながら、既に答えが出ているであろう問いをリニスに投げかける。
案の定、プレシアと同じ気持ちだったリニスは言葉を詰まられる、そして軽く溜息をついた後、ゆっくりとガンダムへと近づき、その箱を渡した。
不審に思いながらも、その箱を受取り、中身を確認する。
中に入っていたのは少し大きめの宝石だった。
宝石には詳しくは無いが、その輝きは純粋に綺麗だと思う。だが不思議に思ったのはその宝石の中央にある数字、
月村家の書物で見たことがあるが、おそらくローマ数字だろうか?
「・・・この宝石は一体・・・・ただの装飾品とは思えませんし、何かのアイテムでしょうか?」
「それは『ジュエルシード』というロストロギアよ・・・・・是非貴方に持っていて欲しいの」

396高天 ◆7wkkytADNk:2009/10/17(土) 21:55:14 ID:dgveZ8nE
『ロストロギア』という言葉に直ぐに反応する。確か過去に滅んだ超高度文明の異物、高度な科学技術や魔法技術の結晶。
危険な物も多く、見つけ次第厳重に保管、もしくは破壊し使えないようにするとクロノから聞いたことがある。
何故これをもっているのかと聞こうとしたが、彼女の今までの行為を思い出し、言葉を飲み込む、
おそらくその時に手に入れた品なのだろう。だが、なぜ自分に与えるのだろうか?

「ロストロギアの事は知ってるようね、確かにこれは途轍もないエネルギーを秘めてるわ。これ一つの力をほんの少し・・・それこそ何万分の1
だけで、小規模の次元震を起こせるほどの、だからこれはこうも呼ばれてるの『願いをかなえる石』と。
だからこそ、唯一残った一つを貴方に託すわ。貴方なら正しい事に使ってくれると信じてる」

会って間もない自分にこれほどの物を与えてくれる事に感謝の言葉を述べようとするが、
自分なりに考えた感謝の言葉は、信頼を寄せてくれる彼女の期待に答えることだと思う。
ゆっくりと箱を閉じ仕舞う。そして真っ直ぐにプレシアを見つめたと、跪き、頭を垂れた。

「この力!!平和のため、悪を滅するために使います!!このバーサルナイトの称号、そして勇者ガンダムの名にかけて!!」


ガンダムの背中に何時までも手を振っていたアリシアも姿が見えなくなると手を下ろし、家の中へと入っていく。
家では既に夕食の準備が行われており、アリシアは何か手伝う事はないかと、野菜を洗っているプレシアに尋ねた。
今の生活はとても楽しい、自然は豊かで、大好きなお母さんとリニスがいる。だが、アリシアはいつも思っていた、この中にフェイトとアルフがいればと。
あの時、フェイトが自分を恨んでいない事を聞いた時とても安心した。だが、失礼だとは思いながらも完全には信用できなかった。
だからこっそりと母とガンダムの会話に耳を傾けていた。

「フェイトは・・・・『私』じゃなく『フェイト』として、私の妹として生きてる」

フェイトも・・・フェイトの大切な人達と暮らしている・・・・・そして私達との絆を大切にしていた。
ふと手伝いをする手を止め空を見る、其処には夜空に輝く幾つもの星々
もしかしたら、この中にフェイト達が住んでいる世界があるのではないかと考える。
どうか元気でいて欲しい、幸せでいて欲しい・・・・・そう願いながら、アリシアは夜空を見上げていた。
「(・・・・・・元気でね・・・フェイト・・・・)」

その後、朝日と共に一つの光が天に昇っていった。皆がその光景を見ている中、僧侶ガンダンクは受け継がれている伝説の予言を自然と呟いた。


『星降る時現われし勇者、ガンダム。この世の終焉を問う空の裂け目が語る者を無くし、その口を閉じし時、一条の光と共に天に昇る・・・・・』




こんばんわです。投下終了です。
読んでくださった皆様、支援してくださった皆様、感想を下さった皆様、ありがとうございました。
職人の皆様GJです。
SDXスペドラ用に手袋買わねば
団長よりネオブッラックドラゴンですか
次は何時になるのやら

今更ですが誤字を発見しましたorz
×「ははっ!!つつんで、お受けいたします!!!」
○「ははっ!!謹んで、お受けいたします!!!」


代理投下、よろしくお願いいたします。

397monomima001:2009/10/17(土) 22:06:24 ID:4NCVQziI
「グレンラガンStrikerS」作者です。
代理投下確認させて頂きました。
ありがとうございます。

398魔法少女リリカル名無し:2009/10/17(土) 22:07:08 ID:jejauyIQ
とりあえず、天元突破リリカルなのはSpiral氏 の代理投下をしてきました。
あれでよろしかったでしょうか?
後、高天氏の方もお帰りなさいです。また氏のSS、楽しみにさせていただきますね。

とりあえず、高天氏の方の代理投下、どなたかお願いします。

399 ◆Yf6j8wsEUw:2009/10/17(土) 22:19:04 ID:4NCVQziI
トリップに#つけ忘れてる!? これじゃ本人確認できないじゃないかorz
改めまして、代理つかありがとうございます。

400魔法少女リリカル名無し:2009/10/18(日) 00:44:07 ID:Yx//koKo
宜しければ自分が高天氏の代理投下をさせていただいても宜しいでしょうか?

401魔法少女リリカル名無し:2009/10/18(日) 01:16:03 ID:Yx//koKo
高天氏の代理投下完了しました。
誤字の部分も置き換えて投下しておきました。
これからも氏の作品を楽しみにして待ってますね。

402高天 ◆7wkkytADNk:2009/10/18(日) 07:51:03 ID:992yb8jM
代理投下、誤字修正、本当にありがとうございました。

403 ◆e4ZoADcJ/6:2009/10/18(日) 09:36:57 ID:GXkMlglg
済みません。本スレの方で「ヤプール、ミッドへ行く」と言うタイトルの
ウルトラマンエースクロスSSを投下中にさるやさんに引っかかって
書き込めなくなってしまいました。どなたが代理をお願いしますorz

404ヤプール、ミッドへ行く 10 ◆e4ZoADcJ/6:2009/10/18(日) 09:38:24 ID:GXkMlglg
『ジュァ!!』

 エースはユリシムを縛り付ける光のワイヤーをさらに強く引き絞めて行く。そうなれば光のワイヤーは
ユリシムの身体に強く食い込んで行き、次の瞬間、ユリシムの身体はねじ切られ細切れにされていた。
ゆで卵を切る際には糸を使う事が良いとされているが、それを想像すれば分かりやすいだろう。

 ユーノもまたかつて巨大な触手をストラグルバインドによってねじ切ると言う芸当をやった事があった。
ならばウルトラマンエースとなった状態でそれを行えば、百合超獣の身体をねじ切る等造作も無い事だった。
あえて命名するとするならば『ストラグルギロチン』と呼ぶべきだろうか?

『フーン!!』

 ユリシムが倒れ、浮き足立つユリクロンに対してもエースは攻撃の手を緩めない。
エースが両腕を左側へ大きく振りかぶった直後、右腕を地面と垂直に立て、左腕を水平にした状態でL字を組む。
そうする事でウルトラマンエースの最も得意とする必殺技『エメリウム光線』が発射されるのだが…
今回はやや様子が異なり、まるで桃色に輝く光がユリクロンへ照射されて行く。

 そう。今度のそれはなのはのディバインバスターを反映させた物であり、あえて命名するとするならば
『ディバインメタリウム光線』と呼ぶべき超絶光線だった。

 無論、その直撃を受けたユリクロンが、直後に大爆発を起こして粉々に吹き飛ぶ事は言うまでも無かった。

 二大百合超獣は倒れた。しかし、戦いが終わったワケでは無かった。

『よくもやってくれたなウルトラマンエース!』
『ヤプール! ついに姿を現したな!』

 二大百合超獣が倒れ、痺れを切らせたのか空間を割ってそこからエースの宿敵、巨大ヤプールが姿を現した。
そして彼はこう言うのである。

『だが奴等など所詮は私の真の目的を成す為の時間稼ぎに過ぎぬ。』
『時間稼ぎだと!?』
『そうだ。そしてそれも既に完了した。集まれ! この世界に蔓延せし百合エネルギーよ!!』

 巨大ヤプールが両腕を天へかざし、そう叫んだ時だった。突如として周囲から未知のエネルギーが
巨大ヤプール目掛けて集まって来る。これこそヤプールが百合エネルギーと呼ぶ物であり、
これを使って一体何を成すと言うのであろうか?

『いでよ!! 百合究極超獣ユリキラーザウルス!!』

 その直後だった。巨大ヤプールの周囲に集まっていた百合エネルギーが物質化して行き、
巨大な何かを形作って行く。するとどうだろうか。それはウルトラマンエースの数倍とも
思われる巨大な百合超獣…百合究極超獣ユリキラーザウルスとなったのである!

405ヤプール、ミッドへ行く 11 ◆e4ZoADcJ/6:2009/10/18(日) 09:40:07 ID:GXkMlglg
『フゥゥゥゥ!?』

 ユリキラーザウルスはただの百合超獣では無かった。かつて『究極超獣Uキラーザウルス』と言う
超獣がいた。究極の名を冠する通り、超獣の範疇で考えても桁違いの強さを持つ超獣であり、
エースも数多くの仲間と力を合わせてどうにか立ち向かえた程の強敵だった。
ユリキラーザウルスがそのUキラーザウルスの百合仕様である事は間違い無く、
明らかにウルトラマンエース一人で立ち向かえる程の相手では無かった。

『凄まじい…凄まじいぞ……人間どもの百合エネルギーは想像以上に凄まじい物だ!
この私もまさかここまで凄まじいとは思わなかった………。』

 ユリキラーザウルスと融合し、その中枢となっていた巨大ヤプールは自身の身に溢れる
強大な力に感激を覚えていた。それだけ…それだけ百合の力は凄まじいと言うのだろうか!?

『やれい! ユリキラーザウルス!! この世界の百合化を進め、我等はさらなる力を得るのだ!!』

 ユリキラーザウルスもまた百合化ガスを噴出していた。それは先のユリクロン・ユリシムの
二大百合超獣のそれとは比較にならぬ程の高濃度ガスであり、クラナガンどころか
あっという間にミッド全域にまで広がって行く程の物だった。

『あ! み…みんなが…みんなが…。』
『ゆ…百合化して行く……。』

 ウルトラマンエースと一体化していたなのはとユーノも、ウルトラマンエースの目を通して
事の次第を見ていた。そして、エースの持つ超能力の一つ『ウルトラ千里眼(本作で勝手にでっち上げた
捏造技だけど、ウルトラマンならこういう事が出来てもおかしくないはず…?)』で、ミッド各地の
百合化の光景を垣間見ていた。

「テスタロッサ…。」
「シグナム…。」
「なのフェイの百合も良いけど、シグフェイも最高だよね!」

 ある場所では、フェイトとシグナムが白昼堂々抱き合い、それを他の男達がニヤ付いた目で見つめていた。

 それだけでは無い。時空管理局では何とレティとリンディが白昼堂々抱き合っていたでは無いか。
その余りにも衝撃的な光景の余り……

「うあああああん!! 母さんがおかしくなっちゃったよぉぉぉぉ!!」

 グリフィスまでもがショックでまるで子供の様に泣き出す始末。

406ヤプール、ミッドへ行く 12 ◆e4ZoADcJ/6:2009/10/18(日) 09:41:11 ID:GXkMlglg
 だがこれらの惨状も序の口に過ぎず、別の場所ではさらに恐ろしい事が起こっていた。それは……

「エロノとエロオと淫獣二号とハーレムオヤジをヌッコロセー!!」
「うわぁぁぁ!! 助けぇぇぇぇ!!」

 何と言う事だろう。クロノとエリオとザフィーラとゲンヤが、大勢の百合過激派と化した男達に追われ、
逃げ惑っていたのである。他の場所においても女性と何かしらの関係があったりした男が、百合過激派に
襲われ、晒し上げられ、公開処刑まがいな事をされると言う…まさに地獄絵図……いやこの世の地獄が
今ミッド全土で繰り広げられていたのである。

『そ…そんな…みんなが……。』
『ひ…酷い……。』

 あまりの惨状になのはとユーノは思わず涙が出て来た。それと同時にヤプールに対する怒りが
込み上げてくる。それに呼応する様にエースもまたユリキラーザウルスに対して構えた。

『フゥゥゥン!!』

 例え相手が絶望的なまでの強敵であろうとも…エース一人で勝つ事は無理であろうとも……
世の中にはそれでもやらねばならぬ事がある。だからこそエースはユリキラーザウルスへ向けて飛んだ。

『ジェァァ!!』

 エースはユリキラーザウルスに対して渾身の拳を突き立てる。しかし、その余りにも強固な外殻には
まるで通じる様子が無い。先の二大百合超獣とは耐久力の桁が違いすぎるのだ。そして次の瞬間、
ユリキラーザウルスの持つ先端に鍵爪の付いた触手が物凄い速度でエース目掛けて伸びると共に
エースを掴み上げ、軽々と振り回し、地面に叩き付けてしまった。なんと言う恐るべきパワーであろうか!

『デャ! デャァァァ!!』

 エースが地面に強く叩き付けられ、まだ起き上がらぬ内にユリキラーザウルスのさらなる攻撃が始まる。
それはユリキラーザウルスの肩等に見られるトゲ状の突起をミサイルとして発射する攻撃。
その火力はユリクロン・ユリシムの持つミサイルとは比べ物にならない。

『ディヤァァァァ!!』

 ユリキラーザウルスの大量のミサイルによって起こった大爆煙の中からエースが飛び出した。
そして再び両腕を左側に大きく振りかぶり、右腕を垂直に、左腕を水平にする事によるL字の構え。
そう、再び発射しようと言うのだ。ディバインメタリウム光線を!

407ヤプール、ミッドへ行く 13 ◆e4ZoADcJ/6:2009/10/18(日) 09:42:03 ID:GXkMlglg
『無駄だ! その程度の力でユリキラーザウルスを倒す事は不可能だ!』

 ユリキラーザウルスもまた百合エネルギーを集束した熱線をエース目掛けて放射した。
物質化してしまう程にまで高密度に凝縮された百合エネルギーはディバインメタリウム光線さえ
楽々押し返して行き…………

『デャァァァァァァァァ!!』

 次の瞬間、ユリキラーザウルスの百合エネルギー熱線の直撃を受けたエースは大きく吹っ飛ぶと共に
倒れ……動かなくなった。そして………その胸に輝くカラータイマーの光さえも…………

『どうだ! ユリキラーザウルスの前にはウルトラマンエースさえも無力なのだ!』

 力尽き、その場に倒れたのみで一切動かなくなったウルトラマンエースの姿を見つめ、ヤプールの笑い声と
ユリキラーザウルスの咆哮がミッド中に響き渡った。もうこうなった以上、何者をも止める事は出来ない。
このままミッドは百合の地獄と化してしまうのだろうか………そして……ウルトラマンエースと一体化していた
なのはとユーノの命も………?

 しかし………その時誰も……ある異変が起こりつつある事に気付いてはいなかった。

 ミッドチルダに恵みの光を与える太陽…同じく太陽の光を反射する事によって闇夜を照らす複数の月…。
ミッドチルダにおいて魔法の源となる魔力素………それら目に見えぬエネルギーが一つに集まって来る。

 そう。ヤプールが百合エネルギーを集め、自身の力へと変えた様に、エースもまた再び戦う為の
エネルギーを集めていた。しかしそれだけでは無い。なのはとユーノの二人と融合した事によって
二人の能力が反映される様になった事は既に説明されている通りだが、今まさにその真価が発揮
されようとしていた。

 ウルトラマンエースは頭部のトサカ状の部分に開いた一つの穴『ウルトラホール』によって
外部からのエネルギーを吸収して自身のエネルギーへと変換する。だが今エースが集めていたのは
ただ単純な太陽光エネルギーだけでは無かった。それはミッドチルダに存在する魔力素。
なのはが集束砲スターライトブレイカーを発射する際、周囲から魔力を集める事は知られている。
今まさにエースが行っていた事はそれだった。エース自身が持つウルトラホールの力に加え、
魔力までをも自身のエネルギーへと変換して行く。

『デャァァァァァ!!』

 エースは立ち上がった! そして頭部のウルトラホールから眩い光を発して行く。

408ヤプール、ミッドへ行く 14 ◆e4ZoADcJ/6:2009/10/18(日) 09:43:47 ID:GXkMlglg
『何!? 蘇ったと言うのか!?』
『女の子同士で仲良くする事は決して悪い事では無いけど、だからと言ってそれを他の人に
無理矢理押し付けたり、傷付けたりする事は間違ってる!!』
『だからこそ僕達は負けるわけには行かないんだ!!』
『黙れぇぇぇぇ!!』

 ユリキラーザウルスは今度こそウルトラマンエースの息の根を止めるべく、再び百合熱線を放射した。
恐るべき百合エネルギーが大地を抉り切り裂きながらエース目掛けて突き進んで行くが…

『フゥゥゥゥン!!』

 何と言う事だろう。エースはその恐るべき百合エネルギーを片手で弾き返してしまった。
あれだけの高密度エネルギーがその一振りによって拡散し、消滅してしまう。

『フン!! フゥゥゥゥ!!』

 ユリキラーザウルスが怯んだ隙に、エースは自身の両腕を天高く掲げる。そしてウルトラホールから
発する高エネルギーを一点に圧縮して行く。それはウルトラマンエースの持つ『スペースQ』と
なのはのスターライトブレイカーの融合………名付けて『ディメンジョンQ』

『デャァァァァ!!』

 ウルトラマンエースがそれをユリキラーザウルス目掛けて投げ飛ばした直後、
ディメンジョンQのエネルギーは…………ユリキラーザウルスを粉々に吹き飛ばしていた………。

『そ…そんな馬鹿な……ユリキラーザウルスが……。し…しかしこの私は滅びぬ!
また何時の日か…また何時の日か蘇ってくるぞぉぉぉぉぉ!!』

409ヤプール、ミッドへ行く 15 ◆e4ZoADcJ/6:2009/10/18(日) 09:45:12 ID:GXkMlglg
 ヤプールが倒れた事によりミッドの百合化は食い止められた。そして役目を終えた事により、
なのはとユーノはウルトラマンエースと分離し、その手のウルトラリングもまたエースの手に戻っていた。

「これで皆も正気に戻るのかな?」
「元々百合やってた人は変わらないだろうけどね…。」
『他者の手による強引な百合の押し付けと、そうで無い者に対する弾圧は決して許されない事だが、
各自の自己責任で百合を行っている者達まで否定するわけには行かない。』

 そう。エースが救ったのはあくまでもヤプールと言う外的要因による人為的な百合。
元々から百合だった者達との問題は、同じ人間の手によって解決させなければならないのだ。

「もう…行ってしまうのかい?」
『この世界における私の戦いは終わった。しかし、ヤプールはまたいずれ何処かで復活する。
私の戦いはこれからもまた続いて行くのだ。』
「そっか……頑張ってね…。」

 ついにエースとの別れの時がやって来た。この一連の不思議な体験はとても忘れられる物では無く、
無論エースとの別れもまたなのはとユーノの二人にとって惜しむべき物であったのだが、
エースは別れ際にこう言った。

『優しさを失わないでくれ。弱い者を労わり、互いに助け合い、俺嫁厨や百合厨、カプ厨とも
友達になろうとする気持ちを失わないでくれ。例えその気持ちが何百回裏切られようと…。
それが、私の最後の願いだ。』

 そしてエースはその言葉を最後に天高く飛び立った。

「エース! さようなら!」
「さようなら! そしてありがとう!」

 なのはとユーノはエースを追い駆けながら手を振って別れの言葉を叫んでいた。
エースの姿が完全に見えなくなってしまうまで……ずっと………


 遠く輝く夜空の星に 僕等の願いが届く時 次元連峰遥かに超えて 光と共にやって来る
 今だ 変身 なのはとユーノ いざ行け いざ行け ウルトラマンエース 僕等のエース
 戦え 戦え ウルトラマンエース 次元のエース


                      おわり

410 ◆e4ZoADcJ/6:2009/10/18(日) 09:46:34 ID:GXkMlglg
他にもウルトラマンは沢山いるのに、何故エースを選んだのかと言うと
男女合体によって誕生するエースが百合のアンチテーゼになるんじゃないかな〜なんて… 

当初は淫獣と叩かれる毎日に嫌気が差したユーノがヤプールにそそのかされてフェレット超獣になる話とか、
2期の夜天の魔導書にまつわる事件にヤプールとエースが介入するとか色々考えてたんですけどね…

次元連峰だの次元連邦だのは銀河連邦がスケールアップした物と言う事でお願いします。

――――――――――――――――――――――――――――――――――

ここまでどなたか代理をお願いしますorz

411 ◆e4ZoADcJ/6:2009/10/18(日) 10:16:46 ID:GXkMlglg
済みません。ある程度時間を置いたらさるやさんが解除されて書き込める様になりました
>>403-410は無かった事にして下さい。ご迷惑おかけして済みませんでした。

412人妻みさこ:2009/10/23(金) 17:33:21 ID:mdMc9diw
結婚して数年、旦那とのアレはなくなりました。
それでも性欲の塊のような私は外で男を漁り、SEX三昧の毎日です。
そんな私の日記的なページです。覗いてみて下さい。
いつか旦那にも見せてやろうかと思っています。旦那がどんな顔するか今から楽しみです。

wifelife.web.fc2.com/index.html

413レザポ ◆94CKshfbLA:2009/10/24(土) 09:54:40 ID:P.p.mRNc
 「そんな………そんなの嘘だ!!」
 「何言ってんの!私の言葉が信用出来ないの!!」
 「だって…メル姉は本当の姉――」
 「いい加減にしな!!!」
 
 ルーテシアは必死に否定の言葉を浮かべるがメルティーナは一喝すると、身を竦め動きが止まり言葉を紡ぐ、
 その行動にメルティーナは目を瞑り暫く沈黙すると、意を決した様に言葉を口にする。
 
 「血が何!確かに血は繋がっていないけど………アンタは私の“妹”なのよ!!」
 
 自分にとって大切な“妹”がその手を血に染め罪を重ねている、しかも誤った情報に踊らされて…
 罪は償わなければならない、だからルーテシアを止める、局員として姉として……
 
 凛とした表情でメルティーナは言葉を口にし、ルーテシアはその瞳に迷いも偽りも無い事を知ると、不意に涙がこぼれ始める。
 それは今まで押し殺してきた感情が溢れ出した結果であり、
 己が罪を認め今まで着込んでいた鎧を脱ぎ捨てた結果である。
 
 「ご…めんな………さいごめん…な……さい」
 
 そして何度も何度も声を引き付かせながら謝罪を口にすると、周囲に低い声が響き渡る。
 
 「…どうした?もう終わりなのか?」
 「ブッ!ブラッドヴェイン!貴方喋れるの?!」
 
 しかしルーテシアの質問に答えず同じ質問を投げかけると、小さく頷く。
 既にルーテシアは罪を自分の過ちに気づき、これ以上戦いを続ける理由はなかった。
 するとブラッドヴェインはルーテシアを睨みつけ、見下すような笑みを浮かべる。
 
 「そうか…ならば後は勝手にやらせて貰うぞ!!」
 「えっ?!」
 
 次の瞬間、ルーテシアのリンカーコアに接続されていたレリックが胸元から姿を現し
 レリック出現と共にルーテシアの全身から魔力が溢れ出し、レリックを刺激してエネルギーを放出し始めた。
 
 「はぁ!ああああああああああっ!!!」
 「まさか!暴走!!」
 
 ブラッドヴェインはルーテシアが使えなくなった事を知るや否や
 召喚における精神・魔力の繋がりを利用して自分の魔力を送り込みルーテシアの魔力を強制解放、
 そしてレリックを剥き出しにして魔力に晒す事で暴走させ、
 更に暴走し溢れ出たエネルギーをルーテシアを介して自分自身に取り込み始めたのである。
 
 「満ちる!俺の力が満ちていく!これならば!!」
 
 力を増加させたブラッドヴェインは雄叫びを上げると、ルーテシアの後方に巨大な召喚魔法陣を広げ、
 そこから半透明の膜上羽に強固な肉体を持ちヴォルテールとほぼ同じ大きさを誇る召喚虫を呼び出した。
 白天王、ルーテシアの究極召喚で管理外世界における第一種稀少個体である。
 
 だがその瞳には赤い血の涙のようなものを流していた、
 それもそのハズ、本来では契約者であるルーテシアの呼び声のみ反応するのであるが
 今回はルーテシアを媒介にしてブラッドヴェインが強制的に召喚してしまったからである。
 
 そして他の召喚虫達にも異変が起き始めていた、先程倒壊した施設が立ち並ぶ地域から場所を移し
 公園周辺でエリオと激戦を繰り広げていたガリューは急に苦しみ出し、
 地面に膝を付くなり丸く身を屈めると体のほぼ全ての武装を解放、その後に立ち上がりその瞳からは同じく血の涙を流していた。
 
 ルーテシアを媒介にした召喚の影響は白天王だけでは止まらなかった、
 ブラッドヴェインはルーテシアと召喚虫との繋がりに侵入して自分のモノにした事により、
 ガリューや地雷王すらも手中に収めたのである。

414レザポ ◆94CKshfbLA:2009/10/24(土) 09:57:12 ID:P.p.mRNc
 本来の主とは違う存在に使役される事、それはガリュー達にとっては屈辱以外の何物ではなかった、その屈辱さが血の涙として表していた。
 その涙を見たエリオはガリューの苦しみを救う方法は無いものか模索していた。
 
 一方でキャロは白天王の大きさに戸惑い不安の色を見せている中で
 メルティーナは一人、現状の分析と対策を考えていた。
 
 恐らくブラッドヴェインはルーテシアとの契約を利用して白天王達を、そしてルーテシアの魔力を操っていると考える。
 つまりブラッドヴェインを倒せば召喚虫達を解放され、ルーテシアの魔力も収まる事が出来る。
 
 しかしブラッドヴェインを倒すまで他の召喚虫、特にガリューは抑えなければならない、
 其処でガリューの相手は引き続きエリオが行う事となった。
 だが、レリックはもはやルーテシアの魔力とは関係無く暴走している。
 
 其処でメルティーナがレリックのエネルギーを拡散し、キャロがレリックを封印する事となったのだが、
 ルーテシアは白天王に護られており近付くのは容易ではない、其処で白天王の相手をヴォルテールに任せるという。
 
 「それじゃ、ブラッドヴェインの相手はどうするんですか?」
 「まぁ、見てなさい」
 
 キャロの疑問にメルティーナは軽く答えキャロの額にデコピンをすると
 ユニコーンズホーンを地面に突き刺し巨大な青い召喚魔法陣を広げ詠唱を始める。
 
 「大気と冷気の英霊よ!我橋渡しとなり願うは婚礼の儀式…汝ら互いに結びつき
  其の四方五千において凝固し、我前に姿を現せ!!魔狼召喚!フェンリル!!」
 
 すると魔法陣の中心に氷が集まり出し巨大な塊になると動物へと姿を変える。
 そして氷が砕け散ると中から青い毛に覆われ真っ赤な瞳が特徴的な巨大な狼が姿を現した。
 
 魔狼フェンリル、ミッドチルダ北部聖王教会から更に北に位置する雪に覆われた巨大な山に住む
 人々からその傲慢な態度により畏敬の念を持たれている狼である。
 
 しかし今のフェンリルはメルティーナの使役獣として契約を行っている為、
 逆らう事が出来ないようになっていると自慢するように説明を終える。
 
 「まぁ、それは良いとしてフェンリル!アンタの相手はあの不死者よ!!」
 「チッ!獣使いの荒い女だ……」
 
 一言だけ愚痴を漏らすとフェンリルは飛び出すようにしてブラッドヴェインの前に対峙する。
 そんなフェンリルの行動を皮切りにそれぞれは割り当てられた相手へと赴き作戦を実行し始めた。
 
 
 エリオは完全武装したガリューを目前に今のままではきついと考えエクストラモードを起動
 バリアジャケットの白いコートが電気化してエリオの身を包み込み、辺りを黄色い稲光で照らす
 そして右手にはシンプルに小型化されたストラーダが握られており、
 準備が整ったエリオは構え、右足に力を込めて地面を蹴る、
 すると身に纏っていた稲光が相まって黄色い閃光となってガリューに襲いかかる、
 
 そしてエリオの一撃が振り下ろされる瞬間、それを狙っていたとばかりに
 両掌を合わせ刃を受け止めるとそのまま地面に叩き付ける。
 エリオ地面との接触による衝撃で体が宙に浮く中、ガリューは追い打ちとばかりにエリオの腹部を踏み降ろす。
 
 「ガハッ!!!」
 
 エリオは口から血を吐き出して苦しむ中、更にガリューがエリオの頭部目掛けて踏み降ろそうとしたが、
 すんでのところで右に回転しながら回避、難を逃れると起き上がりジグザグ走行で再びガリューに迫る。

415レザポ ◆94CKshfbLA:2009/10/24(土) 09:59:04 ID:P.p.mRNc
 エリオのジグザグ走行は残像を生み出しガリューの周りでフェイントを掛けながら走り抜くと
 ガリューエリオを残像ごと叩き落とそうと攻撃を仕掛け続けていた。
 
 その中でエリオはガリューの異変に気が付いた、先程まで戦っていた際は相手を冷静に見つめ隙を付き戦法を投じていた。
だが今は目に映る全てに攻撃を仕掛けている、恐らく本来とは全く異なる命令などにより混乱もしくは暴走していると判断した。
 となれば気絶させる事で一時的に命令を遮断する事が出来るのではないか?
 
 「試してみよう!」
 
 エリオは速度を維持しながらカートリッジを二発消費、左手に黄色い稲妻を纏わせる
 そして行動と合わせるようにして紫電一閃を後頭部に打ち抜く。
 しかしエリオの攻撃は一撃には終わらず、右頬、背中、腰、鳩尾、最後に右胸と連続に打ち抜く
 
 エリオの攻撃によってガリューの体に黄色い稲光が立ち、至る所から黒い煙が立ち昇り
 意識を失ったかとエリオは不用意に近付くと、エリオの攻撃に耐え抜いたガリューが動き出し左拳を腹部に突き刺し
 
 吹き飛ばすと公園の中心に備え付けてある噴水に直撃、噴水は無残にも砕け散った。
 そして噴水から大量の水が吹き出ている中でエリオは立ち上がり、目の前にはエリオの下へ近づくガリューの姿があった。
 
 「くっ!紫電一閃じゃ届かないのか!」
 
 エリオの紫電一閃はオリジナルであるシグナムの技とは異なり雷による加速重視の技
 故に一発の威力ではオリジナルには劣るのであるが、
 
 連続的に攻撃を叩き込む事によりオリジナルと大差ない威力を誇るのである。
 だがそんな攻撃を耐え抜いたガリュー、今のガリューは暴走状態である為に肉体の耐久力が予想以上に高くなっている可能性がある。
 
 つまり紫電一閃では止められない、そう考えたエリオはカートリッジを二発消費させて魔力を高め
 黄色い稲妻が巨大化、辺りを黄色に輝かせると右足を踏み込み一気にガリューの懐に入る。
 ガリューはすぐさま右腕を振り上げるが既にエリオは攻撃態勢に入っており、ストラーダで一気に突き始める。
 
 その速度は刀身を確認出来ない程で黄色い閃光がガリューの体を幾重にも貫く。
 エリオの攻撃にガリューは動きを止め、その隙を狙って渾身の突きを貫く。
 
 その速度はエリオの姿すら見えぬ程に速く、ガリューを貫くように後方へと移動、
 その瞬間、強力な衝撃波が発生してエリオの髪を靡かせると
 
 ガリューは力無く膝を付き前のめりで倒れ、ガリューの武装が解除され辺りは沈黙に包まれる。
 その姿を目の当たりにして、ようやく気絶させる事に成功させたと実感するエリオであった。
 
 
 一方でフェンリルはブラッドヴェインと対峙している中、ブラッドヴェインが先手を打ち口から業火を吐き出す。
 しかしフェンリルは口から吹雪を吐き出して業火を相殺、辺りに水蒸気が舞う中で
 ブラッドヴェインが飛びかかるように襲い掛かり鋭利な爪が輝く右腕を振り下ろす。
 
 しかしフェンリルは不敵な笑みを浮かべると一瞬にして姿を消し、
 そしてフェンリルはブラッドヴェインの後ろに姿を現すと
 その口元は赤く染まり更には何かを食べているかのように動かし飲み込む。
 
 「…不味いな、ドラゴンってのは美味ってぇのが相場なんだが……」
 
 すると次の瞬間、ブラッドヴェインの左肩から大量の血が吹き出す、
 フェンリルは通り抜けた際にブラッドヴェインの左肩を噛み切ったのである。
 
 ブラッドヴェインは噛み切られた左肩をキュアプラムスで癒すと反撃とばかりにイグニートジャベリンを撃ち出す。
 しかしフェンリルは左前足を振り抜きイグニートジャベリンを叩き落とし、またもやブラッドヴェインに襲い掛かるが、
 
 ブラッドヴェインは右拳を振り下ろしフェンリルを地面に叩き付けると、先程と同様イグニートジャベリンを撃ち出す。

416レザポ ◆94CKshfbLA:2009/10/24(土) 10:03:27 ID:P.p.mRNc
 しかしフェンリルはすぐさま起き上がり右へと移動、イグニートジャベリンを躱すと
 
 大地を蹴り一瞬にしてブラッドヴェインの背後をとり、その強靱な爪で背中を切り裂く。
 だがブラッドヴェインも負けておらず、すぐさま振り向きファイランスを直撃させ、更に背中の傷を治療した。
 
 「ちっ!手強いな」
 
 ブラッドヴェインの肉体はフェンリルが思っていたよりも強靱で更には治療魔法によって傷口を癒してしまう。
 …となれば、傷口を癒せぬようにしてしまえばいい、
 
 そう考えたフェンリルは先程とは異なり全身に冷気を漂わせる。
 そしてブラッドヴェインの周囲を跳ねるように飛び回り攪乱させると左の二の腕を噛み切る。
 
 「舐めるな!この程度の傷など!!」
 「それはどうかな?」
 
 フェンリルは不敵な笑みを浮かべると左腕に違和感を感じ目を向け驚愕する。
 何故なら噛み切られた左の二の腕は凍結しており、再生出来なくなっていたからである。
 
 フェンリルは通常の攻撃では直ぐに再生されてしまうと考えた為、その身に冷気を纏うことによって凍結効果を持つ
 フロストベイトと呼ばれる攻撃方法に切り替え、傷口を凍結させる事で再生出来ないようにしたのである。
 
 「こんなモノ!すぐに溶かしてくれる!!」
 
 そう言ってブラッドヴェインは二の腕の凍結を解除する為、口に業火をため込むと
 その瞬間を突いたかのようにフェンリルは吹雪を吐き出し、ブラッドヴェインはすぐさま切り替え業火にて吹雪を相殺、
 先程と同様に水蒸気が発生して二体を飲み込み、視界が悪くなっていると
 
 フェンリルは鼻を頼りにブラッドヴェインの懐に入り左前足の爪でその身を切り裂き
 首元に噛み付くと、ブラッドヴェインもまたフェンリルの首元に噛み付き
 首を噛み切られると判断したフェンリルは牙を離すと、ブラッドヴェインは尾でフェンリルの腹部を強打、
 
 更に振り下ろしフェンリルを頭から地面に叩き付けた。
 そしてブラッドヴェインはフェンリルに向けて手をかざし詠唱を始める。
 
 「…闇の深淵にて重苦に藻掻き蠢く雷よ…彼の者に驟雨の如く打ち付けよ!!」
 
 そしてブラッドヴェインの目の前には巨大な黒い球体が姿を現し
 フェンリルは見上げる形でその物を見つめていた。
 
 「このまま散るが良い!グラビティブレス!!」
 
 ブラッドヴェインが撃ち放ったグラビティブレスは吸い込まれるかのようにフェンリルに迫り
 フェンリルはその場から避難しようとしていたのだが、
 地面との衝突の影響で頭がふらつき、起きあがるのが精一杯の状況であった。
 
 その為になす統べなくグラビティブレスに呑み込まれ
 着弾地点では驟雨の如く雷が打ち付けており、それを上空から見下ろし高笑いを浮かべるブラッドヴェイン。
 
 「フハハハハッ!!勝ったぞ!!」
 
 グラビティブレスが直撃した地点はクレーターとなり果て、
 それを目の当たりにしたブラッドヴェインは勝利を確信し、ゆっくりと地上に降りる。
 
 そしてその足でクレーターの元へ向かい始めた瞬間、地面から鋭利な氷の槍が姿を現しブラッドヴェインの体を貫く。
 突然の攻撃に動揺を隠せないブラッドヴェインの前に、クレーターからゆっくりとフェンリルが姿を現した。

417レザポ ◆94CKshfbLA:2009/10/24(土) 10:06:35 ID:P.p.mRNc
 「バカな!まさか生きていただと!?」
 「…流石に今の一撃はきつかったがな」
 
 フェンリルはグラビティブレスを回避する事が出来ないと考え、体の周囲に氷を張り防御に徹した。
 そして倒されたフリをしてブラッドヴェインを近づけさせて
 
 地面を介してハウリングハザードと呼ばれる攻撃でその身を封じたのである。
 そしてハウリングハザードは凍結効果も持っており、徐々にブラッドヴェインの身を凍らせ始める。
 
 「おのれぇ!この俺様がこんな奴に!!」
 
 ブラッドヴェインは憎まれ口を叩くも体は凍り続け、とうとう顔まで凍り付き、その顔は悔しさを浮かべていた。
 そしてフェンリルはブラッドヴェインに近付くと大きく口を広げ、その首元に噛み付き砕くと
 
 凍り付いた頭部が地面に落ちて砕け散り、それを合図に光の粒子となって消滅
 フェンリルはその場を後にし、場には氷の塊のみが静かに佇んでいた。
 
 
 場所は変わりフェンリルがブラッドヴェインを倒した事により、白天王の呪縛が解け温和しくなっていると同時に
 ルーテシアの魔力の暴走が止まったのであるが、レリックの暴走は未だ止まっていなかった。
 
 しかも今までは魔力の暴走が結果的に障壁となりルーテシアの身をエネルギーから皮肉にも護っていたのだが
 今はその魔力の暴走も停止し、魔力の障壁も無くなった為
 
 エネルギーをその身に浴びる事になり非常に危険な状態となり
 キャロ達は早急にレリックを封じなければならなくなったのだ。
 
 「ルーちゃん!今助けるから!!」
 
 暴走により生まれたエネルギーの渦の中心部にいるルーテシアの下へ向かう為、
 メルティーナはユニコーンズホーンを向け、レリックのエネルギーを拡散しつつ近付いていき
 その後ろにはキャロも一緒に近づいて来ていた。
 
 そしてルーテシアの目の前まで移動しエネルギーの渦の中心であるレリックを見つけると
 キャロはサードモードを発動、先ずはレリックとルーテシアのリンカーコアを繋ぐ術式を解除し
 
 次にレリックの周囲を強固な障壁、ブースデットプロテクションで囲みエネルギーを押さえ込む
 続いて外側をクリスタルケージで囲い、縮小させて掌サイズにすると
 最後に封印処理を施してレリックを一時的に凍結させた。
 
 本来であれば活動している物を封印させる事は不可能なのであるが、
 バリア、結界の力により外面上安定した状態にさせる事により封印処理が可能となったのである。
 
 そしてレリックから解放されたルーテシアは力無くキャロに寄りかかり
 ルーテシアの姿にメルティーナは駆け寄りキャロはルーテシアの体の具合を調べた。
 
 「大丈夫…体は何ともないようです」
 
 ルーテシアの体は疲労感が残っている程度で止まっており
 命の心配は無いと告げるとホッと胸をなで下ろすメルティーナ。
 
 すると次の瞬間、封印処理されてあるレリックの結界にひびが入り始める、
 どうやら中のエネルギーが面に出ようとしているようで
 
 メルティーナはキャロからレリックを受け取るや否や大空に投げつける、
 そしてユニコーンズホーンを天に向け魔法陣を広げた。

418レザポ ◆94CKshfbLA:2009/10/24(土) 10:08:58 ID:P.p.mRNc
 
 「この!消えて無くなれ!!」
 
 そしてユニコーンズホーンから直射砲が発射される、
その姿は細く鋭くまっすぐ伸びていき、レリックを貫くと一気に爆発、そして消滅した。
 
 暫くするとガリューを支え歩いているエリオとフェンリルが姿を現し更にルーテシアも目を覚まし、
 彼女の周りにはガリューと白天王が心配そうに見守っていた。
 
 そして彼女の目の前にはメルティーナが座り目を向けており、ルーテシアは動揺を隠せない表情を浮かべていると
 メルティーナはルーテシアを強く抱きしめ、その温もりに大粒の涙を零し何度もメルティーナの名を呼ぶルーテシア。
 そんな姿にエリオとキャロも涙を浮かべていると、円満な空気を断ち切るようにフェンリルは言葉を口にする。
 
 「…貴様の目的も果たしたようだな、では俺は帰るとするか…」
 「はあっ?……フェンリル、アナタの住処はもう無いわよ?」
 「なん………だと?!」
 
 此処へ来る途中でドラゴンオーブの砲撃に遭い、フェンリルの住処は無くなったと言う情報を聞いたと
 メルティーナは説明すると、流石にフェンリルも動揺を隠せずにいた。
 
 …何故ならこれから先も、この女について行かなければならない事を意味し
 頭を悩ませている表情を浮かべるフェンリルであった。
 
 
 場所は変わり北西に存在する森林地帯の上空では、未だにトーレの戦闘が続いていた。
 しかし戦況はトーレの劣勢である、しかしセッテの仇であるこの二体は命を懸けても倒さなければならない。
 
 トーレは顔を叩いて気合いを入れ直しライドインパルスを起動、セレスの後ろをとり左のインパルスブレードを振り下ろそうとしたが、
 逆にクレセントがトーレの後ろをとり、後頭部目掛けてシルヴァンスを振り下ろしており
 トーレはセレスからクレセントへ目標を切り替え右のインパルスブレードにてクレセントの攻撃を受け止める。
 
 するとセレスは半歩後ろに下がり刀身を魔力で覆い突撃、ミスティックファントムで攻撃を仕掛けてくる。
 しかしトーレは左手一本でセレスの攻撃を受け止めるが、今度はクレセントが半歩下がり下から上に切り上げる。
 
 そこでトーレはライドインパルスにて後方へと移動、同士討ちを狙うが寸でのところで止まり、
 トーレに向けて魔力のナイフ、サプライズスローとマジックロックを次々に投げつける。
 
 だがトーレは両手のインパルスブレードにて叩き落としていくが、先程右肩をやられた為か右腕の動きが鈍く
 そこに目を付けたクレセントはセレスに足止めをお願いしソニックムーブにてトーレの右に移動、刀を一気に振り下ろし
 
 このタイミングでは回避する事が出来ないと悟ったトーレは
 死を覚悟を決めた表情を浮かべながら歯噛みすると、突然クレセントの両脚が切り落とされる。
 
 クレセントの両脚を切り裂いた正体は十字に合わせたブーメランブレードで、
 トーレのピンチにセッテが最後の力を込めて投げた一撃であったのだ。
 
 突然の不意打ちを受けたクレセントは動揺を隠せずにいると、
 セッテの渾身の一撃によって生まれた隙を無駄にしないと、右のインパルスブレードでクレセントの首元を狙う。
 しかしクレセントはトーレの動きに気が付きシルヴァンスを振るい、刀身はトーレ右の二の腕を半分程斬りつけて止まる。
 
 「…このまま振るえば、アナタの右腕は切り落ちるわよ?」
 「右腕一本…貴様にくれてやる!!」
 
 トーレは躊躇なく振り切りクレセントの首を跳ね飛ばすと同時に、右腕が切り落とされる。
 そして切り落とされた右腕から血が夥しく流れ落ち、血を止める為に右腕の戦闘スーツの圧力を上げて
 流れ落ちる血液を止めると残りの一体セレスに目を向ける。

419レザポ ◆94CKshfbLA:2009/10/24(土) 10:10:27 ID:P.p.mRNc
 「よくもクレセントを!!」
 「次は貴様の番だ!!」
 「黙れ!片腕で何が出来る!!」
 「貴様如き…片腕で十分だ!!」
 
 トーレはセレスを挑発すると左のインパルスブレードの出力を上げ更には巨大化させる。
 その中でセレスはシルヴァンスを構えソニックムーブを起動、トーレの懐に入り左から切り上げるが
 
 トーレは攻撃を受け止め更にスムーズに攻撃を受け流し、
 逆にセレスの懐に入ると左拳を握り締め裏拳の応用でインパルスブレードを突き刺そうとする。
 
 しかしセレスはトーレ攻撃が直撃する寸でのところで後ろに逃げ込み難を逃れるが、
 トーレはライドインパルスにて追い掛け、追い討ちとばかりに胸元目掛けて左から右に振り払い
 セレスの騎士甲冑を切り裂くが本体は半歩下がっていた為傷は浅く、逆にセレスが半歩前に出て振り下ろす、
 
 だがトーレは右足を軸に右回転、セレスの刃を交わしつつ切り上げるようにして左腕を斬り落とした。
 
 だがセレスは怯むことなく振り下ろした刀身を切り返し、下から上へと切り上げ
 トーレはインパルスブレードにて受け止めるが、出力が上がらす砕け散り、胸元を深く切りつけられた。
 
 「…これでアナタの武器は無くなった!」
 
 確かにセレスの言う通り右腕を無くし左手のインパルスブレードも一回のみ形成できる程のエネルギーしか無い、
 更に胸元には深手、相手も左腕を失ってはいるがまだ余裕があるようにも思える。
 だが…だからといって引き下がるつもりもない、何か手はないか…
 
 そう考えている内にトーレはある案を編み出す、だがそれはとても危険な案で命に関わるものであった。
 だが既に此処まで深手を負っている以上、命の心配をするのは愚問かもしれない、
 
 そう自分に言い聞かせ自分が考案した案を実行するため、残りのエネルギーを左手一本に集中させる。
 それを見たセレスはこの一撃に全てを掛けていると判断し、シルヴァンスのカートリッジを消費すると魔力を帯び始め先手を打つ。
 
 魔力によって強化された速度は瞬時にトーレの懐に入り衝撃波を放ち、次に突きそして蹴り上げ、
 全身に帯びた魔力が刀身に集まり嵐のように吹き荒れそのままトーレに向けて振り下ろした。
 
 「奥義!ウィーリングリッパー!!」
 
 するとトーレを中心に竜巻が発生してその身を切り刻みスーツもボロボロになっていく。
 そして攻撃を撃ち終わったセレスは確信にも似た表情を浮かべていると、徐々に驚きの表情に変わる。
 
 何故なら目の前にはセレスのウィーリングリッパーを耐えきったトーレの姿があったからである。
 その姿に恐れを抱き半歩下がるセレスに対し、トーレは渾身の力を込めてセレスの胸元の傷を狙う。
 
 しかしトーレの渾身の一撃は致命傷とはいかずインパルスブレードは無惨にも砕け散り
 その代わりとばかりにセレスは大きく振り上げトーレの左肩に狙いを定めて振り下ろす。
 
 だがセレスはウィーリングリッパーの影響の為か思っていた程の力を出せず
 左肩の肉に食い込み止まるが、今のトーレにとって十分な致命傷であった。
 
 「どうやら此処までみたいね」
 「いや………まだだ!!」
 
 するとトーレは何を思ったか左手を胸元の傷口に突っ込み何かを引きずり出すように手を引き抜く、
 そして掌の中にはコードで繋がれたままのレリックが握られていた。
 
 「これで最後だ!!!」

420レザポ ◆94CKshfbLA:2009/10/24(土) 10:14:15 ID:P.p.mRNc
 トーレは正真正銘最後の力を振り絞り、拳を握ると、
 セレスはトドメを刺そうと刀身で押し切ろうとしたが微動だにせず
 その行動を後目にトーレはセレスの傷口目掛けて拳をめり込ませる。
 
 「ぐあああっ!!!」
 「このまま!消し去ってくれる!!」
 
 そしてセレスの断末魔を合図にトーレはレリックを暴走させて、その大量のエネルギーはセレスを中心にして徐々に広がり
 トーレは達成感からか少し微笑みを浮かべ光に包まれていくのであった。
 
 
 
 「…………姉………レお姉様…………トーレお姉様!!」
 (…………………セッテ?)
 
 まどろみの中…聞き覚えのある声を耳したトーレは、自分に意識がある事に気が付きゆっくりと目を開ける、
 するとそこはベッドの上で、自分の横にはヘッドギアを外し病院服を着たセッテが
 心配そうな表情を浮かべ自分の名を何度も呼ぶ姿があった。
 
 そしてトーレは自分の体に目を向けると戦闘スーツは脱がされ、セッテと同じく病院服が着させられており、
 上半身は包帯に巻かれ、体のあちこちにガーゼが張られ、右腕に目を向けると二の腕から先が無い為か裾が余り
 左手を自分の目線まで向けると手首から先が無くなっており、包帯が巻かれていた。
 
 そしてトーレはゆっくりと体を起こし始め辺りを見渡し、此処が医務室である事を確認すると
 二人がいる部屋の扉が開き眼鏡をかけた一人の女性が姿を現す。
 
 「流石は戦闘機人、もう目が覚めたのね?」
 「………貴様は?」
 
 トーレは目に力を込め睨みつけると、女性は笑顔で応え名を名乗る。
 彼女の名はマリエル・アテンザ、周りからはマリーと呼ばれている機動六課の一員で
 主にデバイスの整備などを請け負う整備員で、スバルやギンガの定期検診にも手を貸しているという。
 
 「では私達を助けたのは貴様なのか?」
 「私は処置を施しただけ、助けたのは――」
 
 そう言うと扉が開く音が聞こえ目を向けると、其処には二人を助けた人物シャマルが姿を現す。
 シャマルは思っていた以上に早く意識を回復させた二人に驚いていると、
 トーレは自分達が此処にいる説明をシャマルに投げかけると、快く応じ説明を話し始める。
 
 
 …時間は遡りナンバーズとエインフェリアが戦闘を行っている情報を耳にしたシャマルは、
 その地域へと向かうとエインフェリアの一体、クレセントの両脚が切り取られた状況に遭遇する。
 
 そして森の中にうつ伏せの状態で倒れているセッテを発見、治療を施し七割方治療を終える頃
 トーレはセレスのウィーリングリッパーを耐え抜いた時であった。
 
 そして眠りについているセッテから寝言でトーレの名を聞き、上空にいるナンバーズがトーレであると判断するが、
 トーレは自爆を行おうとしている事を察し急いで旅の鏡を準備
 そしてトーレの最後の攻撃の際に生まれた隙をついてトーレの背後に旅の鏡を配置し
 
 レリックのエネルギーが完全にトーレを包み込む前に引き寄せ、
 暴走したレリックを握った左手首を斬り落とすように旅の鏡を閉じて二人を救出、
 
 そして二人を病院に運び入れ、治療対象が戦闘機人であった為、
 マリーと連絡を取り、その後マリーの手によって治療を施したのだという。

421レザポ ◆94CKshfbLA:2009/10/24(土) 10:16:25 ID:P.p.mRNc
 「…そうか、だが何故敵である私達を助けたのだ?」
 「たとえ敵でも味方でも怪我人には違いないでしょ」
 
 医者として怪我人を放っておくのは矜持に関わる、故に助けたのだとシャマルは話を終えると、
 今度はマリーは二人に今の肉体の状況を説明し始める。
 
 先ずセッテであるが、胸元を大きく開けた傷口は、
 レリックのエネルギーを用いて強化した再生能力により、ある程度再生されていた。
 
 だが…その代償に肉体の細胞は劣化、戦闘行動に耐えられる肉体では無くなったと言う。
 しかし日常生活においては問題ないと説明を付け足した。
 
 寧ろ問題はトーレの方である、肉体の耐久力を超えるエネルギーの連続使用
 そして大きな深手に両腕の消失、更にはコードを繋いだままの自爆の影響で
 
 基礎フレームに亀裂と歪みが生じ修復するのはほぼ不可能
 現状では立つ事すらままならず、長いリハビリが必要であると告げる。
 
 「…そうか」
 「取り敢えずその両手から修理を―――」
 「いや、このままで良い」
 
 マリーの申し出を断るトーレ、幾ら意識を失っていたとはいえ敵に情けを掛けられ、これ以上掛けられる訳にはいかないと話す。
 だが両手が無いままでは生活に支障が出ると告げると、セッテがトーレの面倒を見ると志望する。
 
 今までずっとトーレに世話になりっぱなしであった、故に今度は自分がトーレの世話をする番
 自分の分まで動いてくれたトーレに少しでも恩返しがしたいのだという。
 
 セッテの決意を秘めた瞳にマリーとシャマルは折れた形で承諾すると、
 もう一つ伝える事があると言う、それは二人の処分である。
 管理局の意向は意識が戻り次第、ミッドチルダの混乱の関係者として逮捕すると言うものであった。
 
 「…そうか、では潔く捕まろう」
 「思っていたより素直ね、てっきり抵抗するのかと」
 
 シャマルの言葉にトーレは少し笑みを浮かべながら自分の考えを話し出す。
 今の状態で抵抗しても無駄である事は明白、しかしそれだけではない。
 敵とは言え治療を施して貰った恩を仇で返すのは、戦士としての矜持に反すると答えセッテもまた深く頷く。
 
 その言葉はマリーとシャマルを信用させるには十分足るものではあるが、一応規則である為に部屋の四方に結界を張り
 出られないようにしてからマリーとシャマルは別れの挨拶と共に部屋を後にすると
 トーレは少し頷きゆっくりと横たわりセッテもまた自分のベッドに戻り眠りにつく。
 
 
 
 …こうして二人の戦士は休息を得るのであった……

422レザポ ◆94CKshfbLA:2009/10/24(土) 10:19:59 ID:P.p.mRNc
 以上です、ルーテシア改心、トーレリタイヤなな回です。
 
 
 

 次はクロノ組等を予定しています。



 それではまた。

423レザポ ◆94CKshfbLA:2009/10/24(土) 10:24:20 ID:P.p.mRNc
PC規制、携帯さるさんで身動きとれなくなりました。

申し訳ありませんがどなたか代理投下をお願いします。

424レザポ ◆94CKshfbLA:2009/10/24(土) 10:57:01 ID:NiJZYCoY
代理投下確認しました

ありがとうございました。

425NZ:2009/10/25(日) 20:47:25 ID:Am3ybbYw
すいません
本スレのほうでGet Ride! リリカルドライバー
のタイトルで投下していたところ
さるさんにひっかかってしまったのでどなたか
代理投下おねがいします

426NZ:2009/10/25(日) 20:48:54 ID:Am3ybbYw
あとがき
このたびはこんな初心者作者の駄文ですがGet Ride! リリカルドライバーをお読みいただきありがとうございます
今回の話はテレビ東京系にて2004年4月5日から2005年3月28日にかて放送されたGet Ride! アムドライバーの
登場人物、出来事を魔法少女リリカルなのはStrikerSのキャラクターおよび世界に引っ掛けたものであります
なのでストーリーセリフはクロス元であるアムドライバーメインのためリリカルなのはファンの方の中には
内容に対し不満を持つ方もいらっしゃると思いますがそのあたりの事は黙認してくださるといいのですが。
さて、ここでどのアムドライバーのキャラクターにどのリリカルなのはのキャラクターを引っ掛けたのかを
番外編として追記しておくので読みたい方はどうぞ。

主人公
スバル・ナカジマ=ジェナス・ディラ
理由イメージカラーが両方共青でジェナスが熱血漢のためスバルに通ずるところがある

ティアナ・ランスター=ラグナ・ラウレリア
理由両者共射撃を得意としているため。性格は全く違いますが他に主人公と同期で相棒つったら他に誰がいる!!
と言うことで抜擢しました。

キャロ・ルシエ=セラ・メイナード
理由何処となく漠然としませんが、セラはジェナスやラグナと同じ14歳と言う事なのでロリファンの皆様には申し訳ありませんが
大人キャロを想像してお読み下さい

フェイト・T・ハラオウン=パフ・シャイニン
理由パフがセラのいたチームのリーダのため。というかキャロがセラになったのココのせいでしたねスイマセン

エリオ・モンディエル=ジュリ・ブルーム&ジュネ・ブルーム
理由セラのチームメイトのため本来は双子の姉妹って設定なんですがココはあえてエリオ一人にしました

シグナム=ダーク・カルホール
理由歴戦の戦士のため。ダークさんは兄貴分のおっさんなんですが歴戦の戦死が他になかったためとヴィータとの設定を
つりあわせるためにこういうふうにしました

ヴィータ=タフト・クレマー
理由シグナムとつりあわせるため。タフトさんはダークさんの相棒で言動と容姿から狂人と思われていますが
根はとてもやさしい良い人で自分のギア(武器)は自分で整備して子供好きと言う見た目と性格の不釣合いを
ヴィータと重ねましたがこちらも歴戦の戦士のため大人ヴァージョンを想像していただくとありがたいです

高町なのは=ガン・ザルディ
理由どちらも主人公の憧れの人だから。と言う基本を守ったら結局ああ言う結末に、
とはいえ作者は某氏の作品においてなのはさんは戦い続けた結果心がぼろぼろになり何も感じなくなって行き
ヴィヴィオと戦った時でさえ目の前にいる敵(聖王ヴィヴィオ)をどうやったら倒せるか、どうやったら滅ぼせるか、
どうやったら殺せるか、と無意識の内に考えていたと言う描写が頭に焼き付いて離れないため
最後のセリフは非常に合っていると思ったためこうしました

およびシーン・ピアース、ニルギース、シャシャはクロス元であるアムドライバー通りですので。

(シャシャのあの喋り方はアニメやゲームでの、フランス語交じりのカタコトと言う設定通りです

427NZ:2009/10/25(日) 20:50:44 ID:Am3ybbYw
いじょうです
どなたかお願いします

428NZ:2009/10/25(日) 21:11:18 ID:Am3ybbYw
何とか投下完了したので代理投下しなくても結構ですよ

429<削除>:<削除>
<削除>

430<削除>:<削除>
<削除>

431NZ:2009/10/31(土) 18:58:48 ID:Lo8fqE0E
どうやら、2ch全体で大規模な規制が行われているようなので
投下できる方にお願いしたく思い戸々に投下します。
以下本文です。

432NZ:2009/10/31(土) 19:06:06 ID:Lo8fqE0E
既に、まとめページでは編集済みですが、ロックマンRXプロローグと第一話を投下します
以下、本編です。

433ロックマンRXプロローグ:2009/10/31(土) 19:07:07 ID:Lo8fqE0E
*****************
ある時、戦いがあった。
『全てを捨てる』者と、
『全てを守る』と誓った「風」と「翼」の名を持つ者との戦いが・・・
この物語は、歴史に決して残ることのない「翼」の名を持つ者のもうひとつの戦いの物語である・・・
ロックマンRX始まります。
*****************

               THE NEW HERO

               ROCK. . .ON

               ロックマンRX
エール
「ロックオン!!」

434ロックマンRX第一話:2009/10/31(土) 19:10:38 ID:Lo8fqE0E
あたしは、セルパンを倒した、後ライブ・メタル達の力で、セルパン・カンパニー本社を脱出して、
サイバー・エルフになったジルウェと再会していた。
(運命ってモノは誰かに決められるものじゃない、文字通り『命』を自分の行きたい未来まで『運』ぶ事だ)
(エール、お前が世界を運べお前の行きたい未来までこの世界を、送り届けろ・・・)
(それがお前に託す最後の、運び屋の仕事だ・・・)
それっきりジルウェの声は聞こえなくなった。

第一話『全てを守る者』

気が付いたら、あたしは草原に立っていた遠くの方に街がある。
「エール!!」
!!
後ろを向いたら、ガーディアン・ベースから降りてガーディアン達が、並んでいた。
金髪で、ピンク色の帽子と服を着ているのは何時も通りだけど、
何時もは自分の席に大事においてある白猫のぬいぐるみを抱いている少女があたしの方に賭けて来た
「プレリー!!あたしやったよ、セルパンとモデルVを倒したんだ!!」
彼女はプレリー、ガーディアンにこんなあたしと同じような年の女の子がいるのはおかしいって?
それには、理由があるんだけどそれは後で。
「ええ、だけどもっと事態は悪い方向へと進んでいるの、フルーブから説明してもらうわ」
ガーディアン達のほうから青い服をきてヒゲを蓄えた小柄な老人が歩い来ようとした瞬間、
近くで爆発が起きた遠くの方を見れば、カプセル型のメカ二ロイド?が近付いているのが見えた。
数は、ザッと、10〜20倒せない相手じゃないけど、あたしもさっきの戦いで疲労している、あまり長引かせ分けには行かない。
「プレリー!皆を連れてガーディアン・ベースへ!!」
「分かったわ、貴女も気をつけてねエール・・・」
「さ〜て、行くわよ!モデルX、遠距離から片をつける!!」
(分かった!エール、ロックオンだ!!)
「うん!!」
あたしはモデルXを両手で目の前に突きつける様に構える。
「ロック!!・・・」
「そこを動かないで!!」
何処からか声がした、とても凛々しい、けど優しい声だった。
「何!!」と言おうとして後ろを向こうとした瞬間、桜色の閃光が飛んできたあたしは反射的に衝撃に備えたとてつもない爆風だ、
こんな衝撃なら、直撃したメカニロイド達は・・・・目の前には小さなクレーターが出来ていた、さっきの声の主がやったのは、
分かるので、後ろを向いた・・・そこには天使がいた・・・
その容姿は、髪をツインテールにしていて、まさに天使と言っていいものだった。
服は余りに戦場に不似合いな格好だった、そして宙を飛んでいる、靴からさっきの閃光とおなじ桜色の鳥の翼のような
ものが生えているがあんな物で空に浮いていられるはずがない、だけどジェットパックや、モデルHXのような
ビームによる翼を生み出すような物を身に付けている様子もないそして・・・
手には、さっきの閃光を放てるようには、見えない金色の紅い宝玉の付いた魔法の杖としか形容できないものを持っていた。
その人はゆっくりと降りて来た。
「大丈夫?」
「ええ、はい・・・」
「事情は聞きたいから、一緒について来てくれる?そこにいるあなたの仲間と」
どうも断れそうになさそうだ、それについていけば詳しい状況を聞けそうだ、よく考えればいくら、
ライブ・メタルの力を使ったからって、こんなに、街から離れられる分けはないし、
あの街にはどう見てもセルパン・カンパニー本社の残骸や、大型エネルギー供給装置も見当たらない。

435NZ:2009/10/31(土) 19:13:04 ID:Lo8fqE0E
以上、本編でした
できるだけ、迷惑をかけぬよう努力致しますので
どうか、暖かく見守ってください。

436NZ:2009/10/31(土) 19:21:50 ID:Lo8fqE0E
以上です。
何方か代理投下できるかたがいらっしゃればお願いします。

437シレンヤ ◆/i4oRua1QU:2009/10/31(土) 23:56:47 ID:MUG2zkJs
こんにちは。
本スレのほうにアクセス規制で投下できないので代理投下のほうよろしくお願いします。
本編はこの線の下から
──────────

マクロスなのは 第10話 『預言』

アルトとなのはが技研から帰還した翌日。
2人は報告書を読んだはやてに呼び出されていた。その理由はバルキリー配備計画についてだ。
「─────つまり、レジアス中将がこの計画を立案したんか?」
2日前からよく寝たのか、はやての顔色はよく、しっかりしていた。しかし彼女の顔は今、苦悩に歪んでいる。
「うん、そうだよ。はやてちゃんも聞いてなかったの?」
「そうや、ウチは聞いとらん。管理局の殉職者が12人ってのは知っとったけど・・・・・・」

重たい沈黙。

その時2人の背後のドアが開き、小人(こびと)が飛んできた。
「はやてちゃんそろそろ行く時間ですよぅ〜」
リインはなのはとアルトの頭上をしばらく旋回飛行していたが、アルトが振り返り見ると、なのはの肩に
どこかの〝竹を取る〟物語に出てくる小人のように〝いと美しゅうてゐたり(とても可愛らしい様子で座っ
ていた。)〟
「ああ、もうそんな時間か・・・・・・いきなりで悪いけど、これから2人ともちょっと付き合ってな。」
はやてはイスに掛けられた上着に袖を通しながら告げる。2人は事態か読めず、顔を見合わせた。
そこに新たに部屋に入ってきた者がいた。
「はやて、車は用意したから、いつでも行けるよ。」と、フェイト。どうやら彼女もこの件に1枚噛んでいるよ
うだ。
「フェイトちゃん、どこ行くの?」
「あれ?まだはやてから聞いてなかった? 昨日、聖王教会から連絡があってね。新しい預言が出て、つ
いでに『はやての友達に会いたい』って言われたんだって。」
「ああ、なるほど。えっと・・・カリムさんだっけ?」
「そうや、前々から会わせたいと思っとったんやけど、機会がなくてな。・・・ほな行こか。」
はやて達が部屋から出て行く中、アルトは話についていけず、ずっと頭を捻っていた。

(*)

フェイトの私用車に乗ったフェイト、はやて、なのは、アルトの4人は一路、高速道路を北上する。
窓の外の景色が近代的な街並みから森へとシフトしていく。
そんな中、3人からアルトに説明がされた。
まず聖王教会とは、聖王を主神とする宗教団体で、数多くの次元世界に影響力をもつ大規模な組織であ
ること。
教会はミッドチルダ国の領内にありながら独立しており、税金などの面においても名実共に聖域であること。
財源は基本的には寄付で成り立っており、その額はミッドチルダの国家予算の半分程度という莫大な規
模になっている。そのため自らがミッドチルダ政府に設立を要請した〝時空管理局〟の予算の半分近くを
握る最大のスポンサーであること。
このような歴史的事情から必然的に時空管理局と繋がりが強く、ロストロギアの管理、保管はそこが担当
しているらしい。
しかし今は教会自体は関係なく、そこに所属しているはやての友人であるカリム・グラシアという人に用が
あるらしい。
なんでも彼女は『プロフィーテン・シュリフテン』という未来を予知する古代ベルカのレアスキルを持ってい
るという。
「なんだそれ? 未来がわかるなら最強じゃないか。」
アルトはそう言ったが、そうでもないそうだ。
はやて曰く、カリムの預言はこの惑星を回る月の魔力の関係上、1年に1度しか使えず、表記も古代ベル
カ語の、さらに解釈の難しいことで有名な詩文形式で書かれている。
また、期間も半年から数年後のことがランダムに書いてあるため、実質的な信頼性は「よく当たる占い程
度」だという。
本局と教会はその内容を参考程度に確認するが、地上本部は当たらないとして無視するらしい。

438シレンヤ ◆/i4oRua1QU:2009/10/31(土) 23:58:07 ID:MUG2zkJs
「そんな胡散臭いもの信用できるのかよ。」
アルトも疑うが、はやては1歩も引かない。なのはやフェイトも〝はやてが信用しているなら〟と、まったく
疑いはないようだ。
そうこうしているうちに、100キロ近い距離を走破した車はそこに到着した。
教会はその名に恥じぬ壮大な造りで、一瞬アルトに中世の城をイメージさせたが、最新技術と見事に調和
したそれはよほど近代的だった。
車を駐車スペースに停めた4人に玄関から近づいてくる人影がある。
「お待ちしておりました。」
彼女は一礼すると品よく笑顔を作った。
「おおきに、シスターシャッハ。」
「はい。みなさんもお元気そうで・・・あら?そちらの方は?」
「彼は次元漂流者の早乙女アルト君。今は六課の隊員をやってもらっとる。」
はやての紹介にシャッハはアルトにプライスレスのスマイルを作り、「聖王教会にようこそ」と告げた。

(*)

その後シャッハに連れられて教会に入り、いくつもの装飾品の並ぶ玄関を横切り、廊下を歩いていく。
(なんか鳥関連が多いな・・・)
玄関に入ってすぐにあった床の塗装も鳥が大きく翼を伸ばした姿が描かれていたし、各種置物も翼を伸
ばした鳥という案配(あんばい)だ。
後でわかったことだが、聖王教会では鳥がモチーフになったシンボルマークが使われており、よほど好
きらしい。
(ん?・・・あいつら、なにやってんだ?)
続いてアルトが見たのは1組の男女。しかし男の方は前時代的な切断器具である〝ノコギリのように削ら
れた1メートル程の木の棒〟を女性に突きつけていた。
それで女性が恐怖に怯えているなら話は簡単であり、アルトも助け出すことを躊躇しなかっただろう。
しかし女性の方は喜んでいたようだった。
─────世の中には「殺してやる!」などと叫びながら相手を縛りつける〝遊び〟が存在するらしいし、
きっとこれもそんなSとMがつくような〝遊び〟の一種だろうと結論を出したアルトは、『嫌なもの見ちまっ
た。』と目を背けた。
(というか真っ昼間からやるなよ・・・)
アルトはそう思いながらどんどん歩を進めるシャッハ達を追った。

(*)

しばらく歩くとシャッハは1つのドアの前に立ち止まった。

こん、こん

広い廊下にノックの音が反響する。
『どうぞ。』
内から聞こえる女性の声。シャッハはドアを開けると直立する。
「時空管理局の八神はやて様ご一行がいらっしゃいました。」
『ありがとう。』
内から聞こえる女性の声にシャッハは一礼すると、はやて達を部屋に招き入れ、自分は出ていった。
部屋はなかなか広くカリムという人の重要さを物語る。
なのはとフェイトは部屋に入ると突然直立不動となり敬礼。アルトも慌てて続いた。
カリムという人物は『便宜上ではあるが、管理局の少将クラスの階級を持っており〝お偉いさん〟であ
る。』と、はやてが言っていたことを遅まきながら思い出す。
「失礼いたします。高町なのは一等空尉であります。」
「フェイト・テスタロッサ・ハラオウン一等海尉です。」
「早乙女アルト准尉です。」
3人が名乗る。
すると奥から、長いストレートな金髪に紫のカチューシャを着けた25歳ほどの女性が現れた。
彼女は「いらっしゃい」と告げると、名乗った。
「初めまして。聖王教会、教会騎士団騎士、カリム・グラシアと申します。どうぞ、こちらへ。」
カリムに周囲がガラス張りになったテラスへと誘導され、彼女とはやてはイスに腰を掛ける。
なのは以下3人は「失礼します。」と一礼してイスに腰を掛けた。
するとカリムはこれまた品よく笑う。

439シレンヤ ◆/i4oRua1QU:2009/10/31(土) 23:59:26 ID:MUG2zkJs
「3人とも、そんなに固くならないで。私たちは個人的にも友人だから、いつも通りで平気ですよ。」
「・・・と、カリムが言うてるし、いつもと同じで平気やで。」
カリムとはやての許可に、なのはとフェイトは即座に友人モードにスイッチングし、普段どうりの口調に戻
った。
「改めてこんにちは、私のことは〝なのは〟って呼んでください。」
「はい、なのはさんですね。ハラオウンさんと早乙女さんはなんとお呼びすれば?」
「私はみんなからフェイトと呼ばれています。」
「俺は、アルト─────」
「〝姫〟やろ?」
はやてに出鼻を挫かれ〝ガクッ〟となるアルト。
「ど、どうしてお前がそれを知って─────」
「なのはちゃんの報告書に書いてあったで。」
アルトはなのはに向き直る。すると彼女は少し面白そうに両手を合わせ「ごめ〜ん。あんまりにもぴったり
だったから・・・」と謝罪した。
「こんないいセンス持ったお友達ならウチともいい友達になれそうやわ。」とはやて。
(いかん・・・遊ばれるモードに入っている・・・)
しかしアルトは怒って否定するまねはしなかった。彼は〝大人〟になろうと努力していたし、彼の望む大人
像には短気は入っていなかった。
「・・・なるほどな。確かに〝チビダヌキ〟って愛称を持つお前ならアイツともいい友達になれそうだな。」
反撃に転じたつもりだったが彼のマニューバ(空戦機動)は稚拙すぎ、老獪なはやてには無力だった。
「やろ〜。タヌキってキツネよりもユーモラスやし、チビってのが愛嬌あるみたいで結構気に入っとるんよ〜」
(しまった・・・上手くかわされた・・・!)
青年は己の経験不足を嘆くしかなかった。
「えっと・・・とりあえず、フェイトさんにアルトひめ─────」

ジロリ

アルトの敗者の哀愁を漂わせる視線にカリムは空気を読んだ。
「─────コホン、アルトさん。これからもよろしくお願いしますね。・・・それから私のことはどうぞカリムと
呼んでください。」
全員の自己紹介が終わったところで、はやてが仕切り直す。
「・・・それじゃあいい機会だから改めて話そうか。機動六課の設立目的の裏表。そして、今後の事をや。」
極めて真面目な顔をして言い放った。

440シレンヤ ◆/i4oRua1QU:2009/11/01(日) 00:01:29 ID:SkuRKmNE

(*)

周囲のカーテンが閉め切られ、先ほどとはうってかわって密会の雰囲気が出たテラスではやては説明を
始める。
「六課設立の表向きの目的は、対応が遅く、練度の低くなった地上部隊の支援と治安維持。そして時代
の変遷によって不具合が出てきた管理局の非効率なシステムの刷新や。」
はやてが端末を操作し、ホロディスプレイを立ち上げていく。
「知っての通り、設立の後見人は騎士カリムとフェイトのお母さんのリンディ・ハラオウン総務統括官。そし
て、お兄さんのクロノ・ハラオウン提督や。」
アルトは隣のフェイトに念話で耳打ちする。
『(この前本部ビルにいたクロノって、お前の兄さんだったのか)』
『(うん。)』
『(へぇ・・・、あんまり似てないんだな)』
そこで少しフェイトに陰が落ちる。
『(・・・リンディ統括官もクロノ提督も義理のお母さんとお兄ちゃんなんだ。)』
『(え、あぁ・・・すまない・・・)』
ただならぬ雰囲気を感じたアルトはそれ以上詮索しなかった。
「─────あと非公式にレジアス中将も初期の頃から設立に賛成して、協力を約束してくれとる。」
はやての言葉に、なのは、フェイト、アルトの頭に〝?〟マークが浮かんだ。
『え? あの人は地上部隊の指揮官ではなかったの? なぜ本局所属の六課なんかに?』と。
今でこそガジェットの出現で六課の重要度は増すばかりだが、出現以前から賛成していたというのは理
解できなかった。
普通なら地上のことなのだから、身内(地上部隊)で解決しようとするはずだ。
3人の疑問に察しがついたのだろう、カリムがはやての説明を継ぐ。
「レジアス中将が設立に賛成したのには理由があります。それは私の能力と関係あるんです。」
カリムの説明によると、彼は優秀な部下として可愛がっているはやての勧めで、地上本部傘下にありなが
ら地上部隊最高司令官としてカリムの預言に耳を傾けているらしい。
しかしそれだけではまだ六課の味方をする理由がわからない。
そこで立ち上がり儀式魔法を展開。準備を始めるカリムに、はやてが補足する。
「最近のカリムの預言に、1つの事件の事が徐々に書き出されとるんや。」
どうやら準備ができたらしい。カリムが浮いていた紙の内1枚を手に取り読み始める。

『赤い結晶と無限の欲求が集い、かの翼が蘇る
閃光と共に戦乙女達の翼は折れ、中つ大地の法の塔は虚しく焼け落ちる
それを先駆けに善なる心を持つ者、聖地より〝鳥〟を呼び覚まし、
数多(あまた)の海を守る法の船も砕き落とすだろう』

その預言が聞く限り悪いことのオンパレードであることに、初めて聞いた3人が絶句する中、はやてが更に
補足する。
「ウチらはこれをロストロギア〝レリック〟によって始まる時空管理局地上本部の壊滅と、管理局システム
の崩壊だと解釈しとる。レジアス中将もそれを鑑みて、比較的自由度と拡張性の高い、六課の設立に賛成
してくれたんや。」
その説明に「なるほど。」と、3人は納得した。しかしはやての顔が優れない。
ここは喜ぶところではないとは思うが、失望したような表情をするところでもないはずだ。
そんなカリムを含めた4人の心配が伝わったのだろう。はやてが訥々と、理由を口に出し始める。
「・・・レジアス中将には、わかってもらえたと思ったんやけど・・・なぁアルト君、なのはちゃん、あの配備計画
は本当なん?」
突然話をふられた2人は驚きつつ頷く。
「すみません、〝あの配備計画〟ってなんでしょうか?」
カリムとフェイトが話についていけないので、なのはが速成で説明する。
「昨日レジアス中将が話してくれた計画で、『バルキリーを量産、低ランク空戦魔導士に配備して被撃墜率を
下げよう』って計画です。」
その話を聞いていなかった2人は「レジアス中将ならやりそうなちょっと強引な計画だ。」と納得した。
「・・・確かにちょっとギリギリな計画だとは思う。んだが、悪い計画じゃないんじゃないか。どうしてお前はそん
なに嫌がるんだ?」
そう言うアルトをはやては見つめると、1つの事を聞いた。

441シレンヤ ◆/i4oRua1QU:2009/11/01(日) 00:03:47 ID:SkuRKmNE
「アルト君、あなたの飛行機の通称は?」
「? なに言ってるんだ。〝バルキリー〟に決まって・・・あっ!」
言いながらアルトは気づいた。
〝バルキリー〟この読み方は英語式の〝ヴァルキリー〟に端を発し、日本語では〝ワルキューレ〟と
呼ばれる。
意味は昔の地球の北欧神話に出てくる半神の名で、戦乙女という意味だ。
確かアルトの調べた限りこの世界にも偶然か、はたまた必然なのか、その呼び名を持つ同じような神話
があった。
それではやての悩みは理解できた。預言の戦乙女の記述が、心配なのだろう。しかし─────
「バルキリーは戦乙女という意味だ。」
アルトの言にカリム、フェイトが驚愕する。しかしなのはは、わかった風に静かだ。どうやらなのはもアル
トと同じ考えに行き着いたらしい。
「ど、どうして2人は冷静でいられるん!? レジアス中将は戦乙女=バルキリーなんてわかってるはず
やのに!」
はやてが珍しく語気を荒げる。
「はやて、」
「はやてちゃん、」と、アルトとなのはの声がハモった。
2人は顔を見合わせ笑うと、なのははジェスチャーで「お先にどうぞ。」と送りだした。
「お前は、どうして六課があるか忘れてるんじゃないか?いや・・・俺たちの報告書がマズかったかもしれ
ないな。〝つまらん例外〟以外あれは客観的事実しか書いてなかったからな。」
その〝つまらん例外〟を書いた本人であるなのはは、投げられたアルトの視線に「テヘへ」と頭を掻いた。
アルトは続ける。
「─────んだがあの時中将は俺達に、『ミッドチルダをよろしく頼む。』って言ったんだ。今ならわか
る。あの重さが。」
座ったアルトに変わり、なのはが継ぐ。
「レジアス中将は私達に期待してくれてるんだよ。『きっと六課が、預言を阻止してくれる!』って。・・・それ
にね、戦乙女って六課とも取れるんだよ。」
そう、どちらかと言えばそちらの方が可能性としては高い。
昨日見た設計段階のバルキリーは、反応エンジン、航法システムなど武器以外は魔法や魔力結合に頼
らぬほぼ純正のものを踏襲していた。
そのためバルキリーはランカレベルの超AMF下でも十分飛行と戦闘が可能だった。
またその他の要因にしても、魔導士にあってバルキリーにない防衛機構などほとんどない。逆に優秀な
ものならいくらでもある。
大規模センサーなど電子機器しかり、魔力の回復の早い小型魔力炉しかり、圧倒的な馬力や装甲しか
り・・・
はっきり言って脆弱ななのは達魔導士方が簡単に、預言の文句と同じく〝翼は折れ〟た状況になるだろう。
「その時、誰が助けに来てくれるのかな?」
なのはの決め台詞はこれだった。
とりあえず現状の魔導士部隊には不可能だ。しかし、バルキリー隊なら?またこれは逆に、バルキリー隊
が危険なら六課は?とも言える。
両方無力化されるとは考えにくい。しかし、どちらかが機能すれば預言を阻止できる可能性は失われず、
助け合える。
レジアスの言っていた『君達1部隊に地上の命運を任せる訳にはいかない。』とはこの意味があったのだ。
「・・・じゃあ、レジアス中将はウチらの心配もしてくれてたんか・・・」
自らを犠牲にしてでも預言を阻止しようと決意していたはやては、感極まった様子で俯き、声に出さず呟く。
『ありがとうございますレジアスおじさん。言ってくれないだけで、ずっとウチらの事も心配してくれとったん
だね・・・』
はやてが再び顔を上げた時、一同は暖かい笑顔を彼女に向けていた。

442シレンヤ ◆/i4oRua1QU:2009/11/01(日) 00:04:59 ID:SkuRKmNE

(*)

「さて、実は新しい預言が出た話だけど─────」
 カリムの一言に、彼女を除く全員が〝あっ!〟と声を上げた。
「・・・そういえばそのために来たんだったね。」
「にゃはは〜完全に忘れてたのですぅ〜」
フェイトとなのはの会話が驚いた人達の気持ちを最も端的に表しているだろう。
「でもカリム、預言は1年に1回じゃなかったんか?」
はやての質問にカリムも困った顔をする。
「それが月とは関係ない、別の力が作用したみたいなの。」
彼女は言いつつ預言書を出し、読み上げる。

『月と大地の交わる所 運命(さだめ)の矢が放たれる』

顔を上げたカリムが、どういう意味がわかる?と一同を見渡す。
「運命の矢ってのは攻撃かな?」と、なのは。
「月と大地ってことは、宇宙か空だよね。・・・まさか衛星軌道兵器なんてことは─────」と、フェイト。
「どうやろう・・・戦時中の軍事衛星は耐久年度を超えてるか叩き落とされとる。それに軌道付近なら管理
局のパトロール艇が監視しとるはずや。この場合、まず悪いことなんかがわからんな・・・・・・」腕組みしな
がらはやてが言う。
「なんかどこかで聞いたような文句だな・・・・・・」とアルト。
その後議論を1時間近く続けたが結論は出ず、カリムの用事のためそのままお開きになった。

(*)

聖王教会から帰るとすでに日は落ち、ヴィータ教官率いるフォワード4人組も既に訓練を終え、宿舎に引
っ込んでいた。
「ほんならなのはちゃん、フェイトちゃん、それにアルト君、わかってもらえたかな?」
はやての声が広い空間を波紋する。
ここは六課の隊舎の玄関前にあるロビーだ。ここからははやての私室のある部隊長室と、なのは達の宿
舎とは反対方向となるのでお別れとなる。
「うん。」
「情報は十分。大丈夫だよ。」
2人は「じゃあ」と言って一時の別れを告げると、宿舎へと続く渡り廊下を歩いていく。
しかし、ラフに壁にもたれたアルトは動かなかった。
「・・・・・・どうしたん?」
「いや、『おまえが他に何か言いたそうだなぁ〜』って思ったから待ってるのさ。なのは達行っちまうぜ、い
いのか?」
はやては去っていく2人の後ろ姿を見て少し逡巡したが、すぐ首を「うん」と力強く縦に振る。
「・・・いや、ありがとうな。本当は言おうと思ったんやけど、よく考えてみれば2人には言わなくてもわかっ
てくれとると思う。」
2人を見送るその横顔は確信に満ちていた。
「・・・そうか。」
「でも、アルト君には確認しておきたい。」
「なんだ?」
アルトはもたれた壁から離れると、腰に手をあてがい聞き耳をたてる。
「六課が、これからどんな展開と結末を迎えるかわかれへん。だけどこのまま六課で戦ってほしいんやけ
ど、ダメ・・・かな?」
「・・・・・・そうだなぁ、六課設立の目的が最初聞いた時と圧倒的に違うからな・・・。実は『壊滅するかもしれ
ない?』『単なるテスト部隊でなく管理局の切り札だった?』。う〜ん・・・おまえの覚悟は立派だし、その気持
ちには同情するが・・・こんな〝危険〟なとこに俺らを引き込んだのか?」
アルトの口から出る痛烈な言葉にはやてはシュンとなる。
「・・・・・・やっぱり、いやなんか?」
「ああ、嫌だね。」
アルトはにのべなく切り捨てた。

443シレンヤ ◆/i4oRua1QU:2009/11/01(日) 00:06:12 ID:SkuRKmNE
「危険なのは俺だけじゃないんだ。ランカだって関わってる。もしアイツに何かあったら、アイツの〝兄さ
んズ〟に反応弾(物質・反物質対消滅弾頭)か重量子ビームでスペースデブリ(宇宙の塵)にされちまう
んだ。本当のことを知らされないで、そのことへ覚悟がないのに危ないのは御免被る。」
アルトの言葉にはやてはどんどん肩落とし、泣き出さんとまでになってきた。
「・・・・・・アルト君がそんなに嫌がってるなんて知らへんかった・・・気づけなくてごめんな。なんなら今す
ぐランカちゃんと一緒に─────」
部隊長室へ歩き出そうとしたはやてだったが、アルトの手が肩に触れて立ち止まり、彼を振り返った。
アルトは「やりすぎたか・・・」と胸の内で呟いた。こちらを見上げる小さな少女の目には大粒の涙が溜ま
っていたからだ。
「俺はそういう事を言ってるんじゃないんだ・・・・・・。つまりだな、危険な事でも下手(したて)に出て「ダメ
か?」とか頼むようじゃ人は着いてこない。たとえ俺たちのような〝友達〟でもな。そう言ってるんだ。」
ここではやてはアルトの真意に初めて気づいたようだった。
「いじわるだね、アルト君・・・・・・」
アルトは破顔一笑。
「ほんとにな。よく言われるよ。」
はやては涙をさっと拭うと大仰に決めていい放つ。
「じゃあ、アルト〝くん〟とランカちゃんに〝どうしても〟手伝ってもらいたいんや!いいんやろ?」
「仕方ない、付き合ってやるか。・・・お前もいいだろ?」
アルトは壁に話しかける。そこはロビーに隣接するように作られている自販機コーナーの入り口のドアだ。
気づけば、さっきアルトがもたれるのをやめた時、彼は何気なくそのドアを少し開けていた。
はやてがその行為にタヌキ・・・いやキツネに摘ままれたような顔をしていると、緑の髪した少女が「てへ
へ」と笑いながら出てきた。どうやら偶然最初からいたようだった。
「うん。もちろん。私、このみんなのいる街を守りたいの!」
彼女の赤い瞳には強力な意志の力がみなぎっている。
「こんな2人だが、これからもよろしくな。」
アルトとランカが手を出す。
はやては2人の手を掴み「ウチこそ!」と、100万W(ワット)の笑顔で応えた。

444シレンヤ ◆/i4oRua1QU:2009/11/01(日) 00:07:06 ID:SkuRKmNE

(*)

1週間後 国営テレビ放送

『─────現在〝35人〟もの尊い犠牲者を出してしまいました。それはガジェットと呼ばれる───
──』
テレビは本部ビル前の仮設会場を写し出している。そこではレジアス中将が記者会見を行っており、その
内容は管理局に殉職者が出たというものだった。しかし─────
『─────しかし皆さん、我々はこの事態を止める時が、止めることのできる時が来ました!すでに我
々にはその手段があるのです!』
レジアスがいままでの悲しい表情から一転、力強い顔と口調に変わる。
「・・・始まったな。」
食堂で昼飯を食べていたアルトが呟く。今ここには隊長、副隊長陣を含め、フォワード4人組やその他職
員が昼飯をつついている。しかし、皆レジアスの豹変にテレビに釘付けだった。
『・・・・・・私は時空管理局、ひいてはこの世界の存亡をかけた最後の防衛策として、〝ヴァリアブル・ファ
イター(VF)〟の導入、運用をここに宣言します!』
一斉に焚かれるフラッシュ。
そして一呼吸置くと、会見場に超大型のホロディスプレイが出現した。テレビはそのままホロディスプレイ
の映像に切り替わる。
『ヴァリアブル・ファイター配備計画とは、現在ミッドチルダの持つ工業力を最大限使って行われる、空戦
魔導士部隊の大規模装備改変計画です。ヴァリアブル・ファイター、略して〝V(ブイ)〟〝F(エフ)〟と
は─────』
ナレーターには落ちついた女性の声が当てられ、モニターにはVF−25を初め、VF−1やVF−11の映
像が流れる。
「隊長達はご存知だったんですか!?」
自らの上官達が驚かないことに気づいたティアナが席を離れ、こちらに詰め寄る。
「こんな質量兵器紛いの物を─────!」
「ティアナ、」
なのはの射るような声が届く。いつもと違う教官の様子にティアナは即座に黙らされた。
「私達は確かに聞いた。でもね、その時の殉職者は〝12人〟だったの。1週間前よ。これがどういう事か、
わかるよね?」
現在の殉職者数と、たった1週間前の殉職者数。その行き着く結論にティアナは「すみません!」と頭を下
げ、自らの席に戻っていった。
このやり取りのおかげで事態の緊迫性を理解した他全員は沈黙を守った。
『─────現在ヴァリアブル・ファイター、通称〝バルキリー〟は、汎用人型可変戦闘機としてVF−1
『ワルキューレ』。多用途人型可変戦闘機としてVF−11『サンダーホーク』の採用が予定されています。
このうちVF−11については用途によって搭載機器を、指揮特化型や量産型、そして重武装型などにそ
れぞれ特化して運用する予定です。』
(・・・なんとまぁ、設計だけでなく名称までもじってやがる。こりゃああっちの世界の開発元が聞いたら著作
権で怒るだろうなぁ。設計図を提供したL.A.I社の研究員は大丈夫なのかな・・・・・・)
アルトはそんな事を考えていた。そうしている内に映像が終わり、会見会場にカメラが戻った。
『皆さん、先ほどの映像からこの計画の概要を理解していただけたかと思います。しかし皆さんは「理念違
反だ!」と反対されるでしょう。かくゆう私も最初、この計画は考えてはいても、実行しようとはまったく考えま
せんでした。しかし私は、ある人物の遺言に心動かされてしまったのです。それは─────』
ホロディスプレイの映像が差し変わり、そのある人物の写真が映った。それはツーショットで、彼女と一緒に
写っているのは〝なのは〟らしかった。
まだ部隊に入りたての頃の写真のようだ。2人とも青白の教導官の制服はパリパリで新しく、まるでリクル
ートスーツを着ているような初々(ういうい)しさが漂っていた。
目の前にいたなのはは俯く。とても正視出来ないのだろう。
『この向かって右側の彼女は殉職者の1人、宮島栞二等空尉です。栞空尉はリンカーコア出力がAAラン
クという非凡な才能を生かし、4年ほど前から空戦魔導士の教導隊の一員として業務に就いていました。し
かし2週間前、海上で彼女の所属する教導隊が、新人の訓練を行っていた時にガジェットに襲われたのです。』
プレーヤーが再生される。どうやら襲撃時の通信記録らしかった。

445シレンヤ ◆/i4oRua1QU:2009/11/01(日) 00:08:17 ID:SkuRKmNE

──────────

『メイデイ、メイデイ、こちら第4空戦魔導士教導隊。至急救援を乞う!・・・ダメだ!ジャミングで妨害され
てる!』
『新人どもをどこかに逃がせ!邪魔だ。』
『逃がせってここは海上なんだぞ!』
『おい、ショーン・バノン二等空曹!なにやってる!?』
『じ、自分達も戦います!』
『バカ野郎!お前らヒヨッコはバリア張って身を守ってればいいんだ!頭出すな!わかったか!?』
『はっ、はい!』
『吉沢隊長、』
『ああ、栞二尉、助かる。私は右端から落としていくから、君は左端から頼む。』
『了解。・・・しかし隊長、このままではじり貧です。大規模転送魔法で安全圏への退避を。』
『だが新人はそう簡単に動けないぞ。』
『私が囮になります!その間に退避を。』
『しかしそれでは─────』
『こちら左翼。防衛ラインの維持は限界です!至急新人どもを退避させてください!』
『隊長!お願いします。やらせてください!』
『・・・・・・わかった。』

──────────

爆音と喧騒混じりに聞こえる無線達。それらは本気の戦場の模様を写し出していた。
『この後、部隊のほとんどが彼女のおかげで無事に戦域から脱出しました。しかし囮になった彼女には
逃げる隙がありませんでした。そんな彼女は最期に遺言を遺しています。今それを公開したいと思いま
す・・・・・・』
再びレコーダーが再生される。彼女の遺言は、その〝全て〟が公開された。
そしてその放送は世界を沈黙させた。
彼女を知らなくても、同じ人間としてその無念さと理性を失う程の死への恐怖を痛感し、彼女を知る者は
泣き崩れた。
なのはなど最後の方にあった自分の名が呼ばれるところでは、席から突然離れ、飛び出して行ってしま
った。
再生が終わるとレジアスは続ける。
『・・・私は、もうこのような犠牲者を出したくない・・・。それに、彼女達の仇をとってやりたい!栞君達殉職
者の遺影の前に立ったとき、「仇はとったぞ!」と言ってあげたいのです!どうか、皆さんのご理解をいた
だきたいと思います・・・・・・』
映像と会見は深く頭を下げたレジアスを映して終了した。
しかし食堂の誰もが動けなかった。それほどの衝撃をあの遺言は与えていた。
15分が経ち、なのはが帰ってきた。彼女はまたしても気丈に振る舞っているが、その目は痛ましいほどに
泣き腫らしていた。

プ、プ、プ、プーン─────

『こんにちは。午後1時のMHK(ミッドチルダ・放送・局)ニュースです。先ほど行われた記者会見の緊急
世論調査の結果は、もうまもなく集計が完了する予定です。』
時報と共に始まったニュースは各地の反響を伝える。
号外が配られる街頭を歩くビジネスマンや、会見をテレビで見たレストランの客など。それぞれ賛成、反
対などの意見を語っていた。
『─────今のは首都クラナガンの中央駅前からでした。次に、記者会見で名前の出た時空管理局地
上本部、地上部隊所属だった宮島栞、元二等空尉の実家と中継がつながっています。現場にはロバー
ト・ユレスキー記者がいます。・・・・・・ユレスキーさん?』
ニュースキャスターの呼び掛けに、ミッドチルダの古潟県という所にカメラが飛んだ。

446シレンヤ ◆/i4oRua1QU:2009/11/01(日) 00:09:33 ID:SkuRKmNE
「─────はい。こちらは先ほどの記者会見で名前の出た宮島栞、元二等空尉の実家前です。」
『ユレスキーさん、何か動きがあったそうなんですが、ご家族の方が記者会見について何か言われたので
しょうか?』
「はい。えぇー、ちょうど5分ほど前に家族の方が来られて、家に入って行かれました。」
映像が中継から録画された映像に切り替わる。
その家の玄関に乗り入れてきた車に、殺到する記者逹。そして車から出てきた2人の男女に、記者逹のフ
ラッシュと質問が殺到する。どうやら彼女の両親らしかった。
2人は記者の質問に応えず、無表情を保っていた。しかし母親はついに耐えかねたのか、とうとうその場
で座り込み、泣き出してしまった。
「どうして家(うち)の子が・・・・・・あんなにいい子だったのに・・・・・・どうしてなの!?」
父親が彼女をなだめて立たせる。しかし彼女は何を思ったのか、おもむろに記者逹が回すカメラのうち1
台をひっつかむと、こう懇願した。
「もう理念とか関係ありません!管理局の皆さん!なんでもいいから、家の大事な1人娘の仇をとってく
ださい!」
それだけ言うと、父親に半ば運ばれるように連れられた彼女はおろおろと泣きながら家の中に消えていった。
カメラが戻り、再びユレスキー記者を撮す。
「・・・・・・以上、実家前からでした。」
心なしかユレスキー記者の顔色は良くなかった。
この事件の加害者であるガジェットは、民間人にも容赦をしない。つまりこの事態は〝もしもの覚悟〟がで
きている自分自身だけでなく、明日には何の罪もない自分の家族や大切な人に起こるかもしれないのだ。そ
う思うと平静でいられないのが人間というものだった。
それを見た六課の隊長・副隊長陣は、瞳に焼き付けるようにじっと見つめながら毅然とした態度を維持。前
線の4人や他の職員逹も絶句しながらその放送に耳を傾けていた。
彼ら、彼女らの前にあるコーヒー、紅茶はすでに室温になっていた。
『ユレスキーさんありがとうございました。・・・・・・はい。』
ニュースキャスターに画面下から紙が回された。彼はそれを一読すると驚愕に目を見開くが、国営放送の
報道者として中立を守るというプロ根性が辛勝したのだろう。無表情を保った。
『先ほどから行われていた記者会見の緊急世論調査の速報が出ました。』
ニュースキャスターが、この世論調査の形態を『コンピュータで無作為に発生させた電話番号で────
─』などと説明すると、大きな見出しと3つの選択肢が現れた。
『まず、対応の遅れによって出してしまった殉職者について。〝憤りを感じる〟〝仕方ないと思う〟そして
〝どちらとも言えない〟の3回答の結果は─────』
画面が円グラフに切り替わり、赤と青、そして緑による色分けがなされる。しかし、青と緑は小さく、赤が圧倒
的で8割以上を占めた。
『赤が〝憤りを感じる〟で81%。青は〝仕方ないと思う〟で10%。緑の〝どちらとも言えない〟という解答は
9%に止まりました。続いて、ヴァリアブル・ファイター配備計画について。〝賛成〟〝反対〟〝どちらともいえ
ない〟の3回答の結果は─────』
ここはアルト達にも緊張の一瞬だった。なぜならこれを元に今後の方針が決まるからだ。仮に反対多数なら、
レジアスは職を追われるかもしれない。
果たして、3色に染まった円グラフは、赤がが半分以上を占め、次に緑。5分の1ほどが青かった。

447シレンヤ ◆/i4oRua1QU:2009/11/01(日) 00:10:40 ID:SkuRKmNE
『赤が賛成で58%。青が反対で18%。緑はどちらともいえないで24%でした。・・・今、時空管理局の歴
史について詳しい、ミッドチルダ大学の山本信雄教授におこしいただいております。よろしくお願いします。』
『いえ、こちらこそ』
『・・・・・・それでは早速ですが、〝これ〟はどういうことでしょうか?』
ニュースキャスターの単刀直入な問いに、山本教授は苦い顔をして一言言い放った。
『う〜ん・・・〝時代は変わった〟ということなのでしょう。』
その言葉は後の世が、これからのミッドチルダの変革を思い出す時の原点となるセリフだった。

(*)

賛成多数が決まった直後、はやての携帯端末にコールが入った。
「はい、はやてです。・・・レジアスおじさん!? ちょっ、どうし─────」
そこから先は声が小さく、アルトには聞こえなかった。そして周囲が心配の視線を向ける中、はやては携
帯端末を畳む。
「アルトくん、ちょっと来て。」
突然の指名にアルトは驚く。
しかし、はやてはそれだけ言って構わず行ってしまうため、追わざるをえない。
彼女は食堂を出て、廊下を抜け、結局立ち止まったのは部隊長室の自分のデスクだった。
「どうしたんだよ?」
しかしはやてはその質問には答えず、1枚の紙とペンをアルトに渡す。それを一読したアルトは驚愕した。
「・・・オイ、はやて、これはどういう事だ?」
その紙にはこう書いてある。〝退職届け〟と。
「俺は〝クビ〟って事か?」
はやては不敵な笑みを見せて首を縦に振った。
「お、おいおい!ちょっと待て!どうしてなんだ!? 俺が何をした!?」
「自分の胸に聞いてみ。」
「・・・・・・」
何も浮かばなかった。
「やっぱりわからん。それに退職届けってことは、俺がサインしなければ─────」
「それがダメなんや。もう上が決定したことやから、ウチでも撤回はでけへん。せめてものよしみで、退職
金が多い自主退職にしてあげようと思っただけや。もうあと12時間ぐらいで正式な辞令が下りるはずやで。」
─────どうやら根回しは済んでいるらしかった。
(どうして今さらこんな仕打ちを─────!)
泣く泣くアルトはサインし、毅然と振る舞う。
「おまえのこと、友達だと思ってたんだがな・・・・・・」
せめてもの抵抗に紙を放ってやる。しかし彼女は気を悪くした風もなく受け取る。
「人間て非情やな〜。今度はこっちや。」
アルトは渡された紙に、小さく悪態をつきながら文面も読まずサインし、また放る。
「よし。これで早乙女アルトは、本日付けで晴れて〝本局〟からクビになる訳や。」
彼女はそう言って2枚目をFAXする。
そして10秒待たずに送られて来た返信に彼女はサッと目を通すと、アルトに差し出した。
「? なんだ?」
「読んでみ。」
さっきとは違って今度は慈愛に満ちた笑み。
アルトは先ほどのレジアス以上のはやての豹変に戸惑いながらその紙を受け取り、目を通す。
─────どうやらはやてに1杯食わされたらしい。そこにはこう書かれていた。

──────────

入隊許可証
時空管理局 地上本部 地上部隊 試作航空中隊司令 レジアス・ゲイズ中将
我が中隊は、優秀なパイロットである早乙女アルトの入隊を許可し、階級を一等空尉とする。
なお、明日の1200時をもって本局の籍は剥奪される。それまでに貴官は人型可変戦闘機VF−25に搭
乗の上、『時空管理局 地上本部 技術開発研究所』に出頭すること。
また貴官の今後の任務は、我が試験中隊の実戦教官。及び、本局との連携強化のため、機動六課との
連絡役とする。

──────────

448シレンヤ ◆/i4oRua1QU:2009/11/01(日) 00:13:32 ID:SkuRKmNE
─────つまりメインが変わるだけで六課にも自由に出入り出来るし、なんら不利なところはない。おそ
らくこれは、はやての手回しの成果だろう。六課に残ることになるランカにいつでも会えるように。という配慮だ。
「なんだよ。驚かせやがって・・・」と呟きながら顔を上げたアルトの目に最初に入ったのは、満面の笑顔だった。
「昇進おめでとう!アルトくん。」
いつもの人の良い友人、八神はやてがそこにいた。

──────────

次回予告

アルトに迫る砲撃。
しかし彼には友軍はいなかった。
果たして地上部隊に勃発した争いとは・・・
次回マクロスなのは、第11話『地上部隊は誰がために・・・』
「それがな、今度アルトくん達とは〝敵対〟関係になることになったんや・・・」

──────────

投下終了です。ありがとうございました。

──────────
この線より上までどなたか代理投下願います。よろしくお願いしますね。

449レザポ ◆94CKshfbLA:2009/11/03(火) 18:09:04 ID:s8Y/hfRI
なんか繋がらないので此方に投下しておきます

450レザポ ◆94CKshfbLA:2009/11/03(火) 18:09:31 ID:s8Y/hfRI
 那々美がブーストアップ、バレットパワーをジェイクにかけ、
 それにより威力を高めたレストレインフレイムを撃ち放つ。
 
 するとイージスはバリアを張り対処しようとしたが、レストレインフレイムがバリアに触れた瞬間、大爆発を起こす。
 それを目撃したミトスはイージスの援護に向かおうとしたところ、復活したロウファに足止めを食らう。
 
 一方でクロノはイージスを先に仕留めるとばかりにスティンガースナイプを撃ち出すが
 イージスはバリアを張りつつクラウディアに目標を定め、ジェイクごと消し去ろうと強力な魔力砲を撃ち抜く、
 しかし那々美のオーバルプロテクションによってクラウディア全体を包み込みイージスの魔力砲を四散化させた。
 
 するとオペレーターである夢瑠から驚きの一報がクロノ達の耳に届く。
 それは先程、ドラゴンオーブの砲撃により、ミッドチルダ南地区アルトセイム地方が消滅したという知らせである。
 
 つまりこれはドラゴンオーブの攻撃を五発受けた事になり崩壊まで残り二発となった事を意味する。
 事態は急を要する、此処でいつまでも足止めを食らっている訳には行かない、
 
 早急にエインフェリア達を殲滅しなければならない、其処でクロノは念話を使って作戦を提案、
 メンバーはそれぞれ頷くとクロノの指示の下攻撃を開始する。
 
 先ずはロウファがミトスを足止め、その中でクロノはイージスの牽制に務めていた。
 一方でジェイクは那々美からブーストを再度掛けて貰うとカートリッジを三発消費
 デバイスをイージスに向けて構え足下にはミッド式の魔法陣が広がっていた。
 
 それを確認したクロノはイージスがジェイクを気付かないように此方に注意を逸らしながら誘導
 そして絶好のタイミングを見計らってジェイクは攻撃を仕掛けた。
 
 「これが!俺の最高の技だ!」
 
 次の瞬間、デバイスから高速の矢が放たれイージスに当たる度に爆発、
 更にその爆発により舞い上がりながら、尚ジェイクは撃ち抜いていく。
 そして止めとばかりに最後の矢に全魔力を乗せて狙いを定める。
 
 「奥義!ギルティブレイク!!」
 
 撃ち抜かれた最後の矢は吸い込まれるかのようにイージスに迫り見事に頭を打ち抜くと
 先程以上の大爆発を起こし、イージスは頭部を失い力無く落ちていき爆発したのであった。
 
 「おのれ!貴様よくもイージスを!!」
 
 仲間をやられ怒りに満ちた表情を浮かべる中でジェイクは続けて魔力矢を発射
 しかしミトスはバリアにて攻撃を受け止めていると
 
 ロウファが那々美の下に駆け寄りブーストアップ、フィールドインベルドとストライクパワーを指示、
 那々美はロウファにツインブーストを掛けるとすぐさまミトスに迫りカートリッジを三発消費する。
 
 「この一撃ですべてを断つ!!」
 
 ロウファは持っていた槍型デバイスでミトスに攻撃、ブーストの効果もあってか簡単にバリアを砕くと、
 引っかけるように引きずり見回し最後は強力な魔力の竜巻を起こす。
 
 「奥義!ジャストストリーム!!」
 
 ロウファが起こした竜巻はミトスの身を切り刻みながら上っていき結界を破壊
 更に立ち上り次元海に放り出されるのであった。

451レザポ ◆94CKshfbLA:2009/11/03(火) 18:12:33 ID:s8Y/hfRI
 
 しかしミトスは未だ起動しており、持っていた杖をクラウディアに向け構えると
 足下に巨大な魔法陣を広げ詠唱を始める、それを目撃したクロノもまた足下に魔法陣を広げ詠唱を始める。
 
 「虚空を伝う言霊が呼び覚ませしは…海流の支配者の無慈悲なる顎門!!」
 「悠久なる凍土…凍てつく棺のうちにて永遠の眠りを与えよ!凍てつけ!!」
 
 互いに強力な広域攻撃魔法の準備が整うと躊躇う事無く撃ち抜く。
 
 「ダイダルウェイブ!!!」
 「エターナルコフィン!!」
 
 そしてミトスが放ったダイダルウェイブは水流が竜を象り襲いかかる中で
 クロノのエターナルコフィンは周囲を白銀に染め上げ吹雪くとダイダルウェイブと激突
 
 激突した場所ではエターナルコフィンがダイダルウェイブを凍らせ、
 ダイダルウェイブがエターナルコフィンを押し返すという状況であった。
 
 戦局は五分と五分に見える状況であるが、徐々にではあるが確実にクロノが押し始めていた。
 そしてみるみるうちにダイダルウェイブが凍り付きミトスの目前で一気に勢いを増し、
 巻き込むようにして凍結、ミトスはダイダルウェイブごと氷のオブジェと化した。
 
 「…砕け散れ!!」
 
 クロノは一言呟きスティンガーレイで氷のオブジェを破壊する、
 そして感傷に浸る暇もなく夢瑠にエインフェリアの撃破を伝え
 夢瑠は本局に打診する中でクロノ達は何事も無かったかのようにクラウディアへと戻るのであった。
 
 
 時間は遡りクロノ達がエインフェリア撃破する前アルトセイムが消滅した頃、
 その一報を本局から伝えられたはやては、流石に焦りの色を見せていた。
 
 そして目前にはエインフェリアの一体、リリアが不敵な笑みを浮かべて対峙している。
 今現在はやては、リリアと戦闘を行っており、戦況は互いに実力を探るかのような状況であった。
 
 しかしドラゴンオーブの第五射により地表の振動は更に増し、海も荒れ果て、空は曇天と化し、
 これ以上の状況の悪化は防がなければならない、先ずは目先の問題から片づけよう。
 そう判断したはやてはシュベルトクロイツをリリアに向け宣言する。
 
 「…んじゃまぁ、時間も無いちゅう事でサクサクと終わらせたるわ!」
 
 そう言うなり体から大量の魔力が溢れ出し、シュベルトクロイツを剣に変えると
 両足にフェアーテを纏い背中のスレイプニールを羽ばたかせ一気に加速
 瞬時にリリアの背中を捕らえると一気に振り下ろし、背中をバッサリと斬りつける。
 
 余りにもの一瞬な為か驚きの表情と共に振り返ると既にはやての姿は無く、
 寧ろ後ろをとられており、剣からハンマーに切り替えたシュベルトクロイツが容赦無くリリアの右こめかみに直撃する。
 
 そして吹き飛ばされるリリアであったが、弓型デバイスをはやてに向けエイミングウィスプと呼ばれる聖属性の誘導弾を撃ち出す、
 しかしはやてはプロテクションとパンツァーシルトを合わせた二重魔法障壁を発動、エイミングウィスプを防ぎきった。
 
 「くぅ!話と違うじゃないか!!」
 「残念やったな、もう今までの私とは違うんよ」
 
 吹っ切れ真の夜天の王となったはやての実力は、既にエインフェリアでは相手にならない程までに至っていた。
 故に不敵な笑みでリリアを見上げる中、シュベルトクロイツをハンマーから剣に戻し

452レザポ ◆94CKshfbLA:2009/11/03(火) 18:13:54 ID:s8Y/hfRI
 刀身を炎で纏うと飛竜一閃を撃ち払い、リリアに攻撃するとリリアはバリアを張り攻撃を受け止める。
 
 するとはやては更に魔力を込め威力を高めるとリリアのバリアは砕け、 リリアは腹部に大きな穴を空ける。
 
 更にリリアの目の前に移動するとシュベルトクロイツを杖に変え左から右に振り払い
 続いて右から左下へと振り下ろし、下から上へ振り上げ、リリアを高々と吹き飛ばし
 そのまま杖を向けると魔法陣を広げ詠唱、投射面にはミッド式の魔法陣の姿もあった。
 
 「此で仕舞いや、かませ犬」
 
 そしてはやてはフレーズヴェルグを撃ち出し、リリアはまるで蒸発するかのように消滅した。
 はやての圧倒的な強さに地上の局員が唖然としている中、それに気が付いたはやては急かすように窘め
 
 局員達は急くように行動を開始、それを確認したはやては小さく頷くと
 ユニゾンしているリインが魔力を感知したとの知らせが入り
 はやては早速その方面に目を向けると、其処には決して忘れる事が出来ない人物の姿があった。
 
 「アイツは…レザード!!」
 
 どうやらレザードの行き先はヴァルハラの様で、
 まさか三賢人と手を組むのではないのか不安を感じたはやては
 現場を他の局員に任せ、気付かれないようこっそりと後を追うのであった。
 
 
 場所は変わり廃ビルの中では手を組んだティアナとウェンディがリディアと対峙をしていた。
 その中でティアナはウェンディに作戦と指示を与える、
 だが当のウェンディはふてくされた顔をする、どうやら仕切られるのが不満なようである、
 
 だがティアナは全く気にかけない様子を表していると、リディアがスターダストと呼ばれる四発の強力な衝撃波を発射、
 二人は左右に飛び回避、剥き出しの柱を背にすると、
 ウェンディが柱から飛び出しエリアルショットを撃ち抜き牽制、
 
 しかしリディアはフレークフラップと呼ばれる魔力の散弾で迎撃
 更に攻撃を加えウェンディに迫る中、ウェンディはライティングボードを盾にして攻撃を防ぐ。
 
 ウェンディがリディアの相手にしている頃、ティアナはリディアの後ろに回り込もうと移動していた。
 だがそれに気が付いたリディアが振り向き、フレイムシュートと呼ばれる炎の矢を撃ち抜くが
 ティアナは飛びかかるかのように柱に逃げ込み、フレイムシュートが撃ち抜かれた場所は大きく穴を空けていた。
 
 そしてリディアはティアナが隠れた柱に狙いを定めフレイムシュートを撃ち抜くと
 覚悟を決めたかのようにティアナが飛び出し、後方では撃ち抜かれた柱が砕ける中、
 手にはダガーモードに切り替えたクロスミラージュが握られており、リディアに迫る。
 
 しかしリディアは冷静に対応、弓をティアナに向けて魔力矢を撃ち抜き直撃する、
 …だが、ティアナは陽炎のように消え去ると、幻影のすぐ脇からオプティックハイドを解除し
 手にはダガーモードを握った低姿勢のティアナが下から上に突き刺すように襲いかかった。
 
 流石のリディアも此には驚きの表情を隠せないでいたが、ティアナの攻撃が直撃する刹那
 弓を盾にして間一髪ティアナのダガーを防ぎ、更にティアナの鳩尾辺りを右足で蹴り飛ばす。
 
 その衝撃はティアナが直撃した床にひびが入る程に強く、ティアナはその場にて痛みと苦しみに動けないでいると
 リディアは冷静さを取り戻し、弓を向け先程と同様フレイムシュートを撃ち出そうとした、
 
 だが次の瞬間、ティアナの後方からウェンディが対消滅バリアを張ったライティングボードに乗ってリディアに迫り
 リディアは咄嗟に左に回避、脇腹を掠める程度に終えるとウェンディに切り替えて矢を放つ。

453レザポ ◆94CKshfbLA:2009/11/03(火) 18:15:05 ID:s8Y/hfRI
 
 しかしウェンディはライティングボードの面の部分をリディアに向けて攻撃を防御、
 更に滑り込むように進みティアナに近づくと手を差し出す。
 
 「ティアナ!早く乗るッス!!」
 
 するとティアナは差し出された手を握りウェンディの背中にしがみつくと、
ウェンディはライティングボードを走らせ、更にフローターマインをばらまき廃ビルを脱出
 そのまま高々と上空に上がり廃ビルを見下ろした瞬間、廃ビルが爆発した。
 
 「……器物破損ね」
 「今はそんな事言ってる場合じゃ無いッスよ!!」
 
 あくまでも冷静なティアナに対しウェンディはつっこんでいると、破壊された廃ビルの中からリディアが姿を現し見上げていた。
 そして弓をこちらに向けるとカートリッジを二発消費、バスターシュートと呼ばれる完全威力重視の魔力矢を撃ち放つ。
 
 バスターシュートは見る見るうちにウェンディに迫り、ライティングボードに直撃、
 その衝撃に体を揺さぶられている中でリディアは大量のエイミングウィスプを撃ち放つ。
 
 「ウェンディ!避けて!!」
 「合点承知ッス!!」
 
 そう言ってライティングボードを縦横無尽に走らせ、アクロバティックにエイミングウィスプを回避していく
 それを見たリディアは更にエイミングウィスプを追加、
 
 するとウェンディは急降下して廃ビルの間を縫うように進むが、
 未だ多くのエイミングウィスプが追いかけてくる状況であった。
 
 「くぅ!振り切れないッス!!」
 「ウェンディ、そのままの速度を維持して」
 
 そう言うとティアナは後ろを向きクロスミラージュを構えると魔力弾を撃ち放ち、
 追ってくるエイミングウィスプを次々に撃ち落としていく、そして全てを撃墜させたティアナは前を向き
 
 ウェンディは横目で見ながらもティアナを賞賛していると、狭い廃ビルの出口に差し当たる場所に、リディアが待ち構えていた。
 どうやら今までの攻撃は此処に誘導させるものであったようだ。
 
 既に出口を塞がれ逃げ場のない状況の中、ティアナはウェンディに対消滅バリアを前方に集め更に加速するように指示
 ウェンディは早速前方にまるで両刃のような対消滅バリアを張り更に加速、
 そしてウェンディの後ろではティアナがカートリッジを二発消費してクロスミラージュを構えていた。
 
 そしてリディアからスターダストやフレークフラップなどが撃ち放たれる中
 ティアナはバリアブルシュートやクロスファイアなどで迎撃、次々に相殺させながら接近すると
 リディアはシールドを張りライティングボードの先端の刃がバリアと接触する、
 だが完全に受け止める事は出来ず弾き飛ばされたが、体勢を崩したまま反撃
 バスターシュートを撃ち抜き、二人に迫ってくる。
 
 「どっどうするんッスか!?」
 「任せて!」
 
 慌てるウェンディに対し力強く答えるとエクストラモードを起動、
 ティアナの黒いリボンが白く十字の部分は緑に染まり、バリアジャケットもまた同じく緑色に染まり始め、
 クロスミラージュは白く輝き、更に周囲には光り輝く粒子を纏っていた。

454レザポ ◆94CKshfbLA:2009/11/03(火) 18:18:32 ID:s8Y/hfRI
 そして立ち上がりバスターシュートと対峙するとクロスミラージュを平行に構え
 白く輝く粒子エーテルが集まり出し強力な直射砲、サンダーソードを撃ち出しバスターシュートを相殺
 更にはリディアの下へと迫りリディアは右へと回避、難を逃れた。
 
 「チッ!外したか…」
 「…つうかティアナ、その姿はなんなんッスか?!」
 
 急激に魔力が高まり姿も変わったティアナに質問を投げ掛けるが
 ティアナは「パワーアップよ」と一言だけ答えリディアに目を向けると、
 リディアもまたティアナの変貌に驚いた表情を浮かべていた。
 
 しかしすぐに冷静さを取り戻し弓を向けるとティアナは次の作戦を指示、
 ティアナはリディア目掛けてライティングボードから飛び降りると
 リディアが迎撃とばかりにフレークフラップを撃ち出す、
 
 だがティアナはクリティカルフレアと呼ばれるエーテルの散弾を撃ち出し相殺
 強烈な光が二人の間を分かち、リディアは目を凝らす中で
 
 ウェンディは前方に対消滅バリア製の刃を張ったライティングボードを振り下ろす
 しかし難なく避けられ寧ろ攻撃を仕掛けられそうになるが、
 ティアナが援護に入りリディアの出鼻を挫くと、ウェンディはエリアルキャノンを撃ち抜きリディアを吹き飛ばす。
 
 しかしリディアはゆっくりと起きあがりティアナに攻撃を仕掛けてくると
 ウェンディが盾となり攻撃を防御、ティアナはエーテル製のクロスファイアを撃ち抜くが、エイミングウィスプにて撃破される。
 
 正面では此方の攻撃は撃墜されてしまう、つまり不意な攻撃でないと倒すことが出来ない…
 そうティアナが呟きながら考えているとウェンディから一つの提案を持ちかけられる。
 
 「そんな!それじゃあアンタが!!」
 「大丈夫ッス!なんせ私は戦闘機人何ッスから!!」
 
 そう言って胸を張るウェンディ、ティアナは暫く考えその提案に乗ると早速作戦を実行する。
 
 「頼むッスよ!ティアナ!!」
 「…ティアでいいわ」
 
 親しい人物からはそう呼ばれているとウェンディに目を合わさずに
 ティアナは答えると、ウェンディは喜びに満ちた表情で返事をし、
 二人はライティングボードに乗りリディアの頭上を旋回、
 
 その中でリディアは幾つかの攻撃を仕掛けていくとライティングボードが急降下
 真っ直ぐリディアに迫り先端には刃が作られており、ウェンディ・ティアナの順に並び身を屈めていた。
 
 だがリディアは臆することなく攻撃を仕掛け続けライティングボードはリディアに接触するか否かの瀬戸際の場所を通り抜け
 リディアは過ぎ去ったライティングボードに仕掛けようとしたところ、
 
 後方に乗っていたティアナがリディアを通り過ぎるタイミングを見計らって飛び降りていたらしく、
 右手に持っていたダガーモードのクロスミラージュでリディアを斬りつける。
 
 ティアナの攻撃によりリディアは左上から右下にかけて大きな切り傷を付けられたが
 リディアは報復とばかりにティアナに向けてバスターシュートを撃ち抜く
 そしてバスターシュートがティアナに触れた瞬間、ウェンディへと姿が変わり驚く表情を浮かべるリディア。
 
 「ヘッ…私達の作戦勝ちッス!!」
 
 そう言って勝利を確信した表情を浮かべながら地面へと落下していくウェンディ
 そしてリディアの後方からライティングボードに乗りウェンディの姿を解除したティアナが、
 
 右手にダガーモードのクロスミラージュを握り締めリディアへと接近
 リディアはとっさに魔力矢を放つがティアナの右こめかみ左頬と肩をかすめる程度に終わり
 寧ろライティングボードの刃が腹部に突き刺さり更にティアナの渾身の一撃がリディアを首を捕らえ跳ねた。

455レザポ ◆94CKshfbLA:2009/11/03(火) 18:19:03 ID:s8Y/hfRI
 
 ティアナの幻術によりお互いの姿を変えウェンディに
 ダガーモードのクロスミラージュを一本渡す事で成立した作戦は成功したのであった。
 
 
 
 その後…ティアナはウェンディの下へ駆け寄り様態を調べ医療チームに連絡
 暫くしてマリーと共に医療チームが到着し、ディエチとウェンディを搬送する。
 その中、タンカーに運ばれているウェンディがティアナの名を呼びティアナはウェンディに駆け寄った。
 
 「私達…敵同士だったッスけど……親友ッスよね?」
 「…………えぇ」
 
 ティアナは小さく頷き答えると、安心したのかゆっくりと目を閉じ運ばれるウェンディ
 そして搬送を見届けたティアナはスバルの身を案じ、その場から立ち去るのであった。

456レザポ ◆94CKshfbLA:2009/11/03(火) 18:27:00 ID:s8Y/hfRI
 以上です、ティアナとウェンディな回です。
 
なんか色々グタグタですみません。 
 
出来る事なら代理投下(その103を)で埋めてくれると幸せです。


 次はゆりかご内とスバルがいけたらなぁっと考えています。



 それではまた。

457魔法少女リリカル名無し:2009/11/03(火) 19:33:19 ID:V5p98hwY
>>456
大将
現在は避難所進行らしいですぜ

458レザポ ◆94CKshfbLA:2009/11/04(水) 07:06:05 ID:OheRHJYY
埋め確認しました。

>>457
了解しました、以後は木枯らしで投下致します。

最後に代理投下ありがとうございました。

459R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/12/26(土) 20:31:47 ID:BuuC5QV.
30分を過ぎましたが、さるさんが解除されない為、代理投下をお願い致します







「模造品とはいえ、少なくともR戦闘機であるとの理解はできるTL-2B2と、見るからにヤバイ代物と判るバイド素子添加機体。十分な情報も無く、時間を掛けて細部まで調査する余裕も無い状況で、
どっちを選ぶかなんてのは火を見るより明らかだ。そんな処へ、無人制御が可能となる生体ユニットの材料が手に入ったときたもんだ。ここぞとばかりに、ランツクネヒトはパイロット不在機体の無人機化に取り掛かった。
その際に、対汚染防御、取り分けバイド体からの干渉対策については、BX-Tを始めとする4機種に対して重点的に施されたんだ」
「ところがそれらは元々、建造者であるベストラの研究員達によって厳重な対汚染防御が施されていた。それを知らないランツクネヒトは、バイドが模造したTL-2B2に対する対汚染防御を疎かにしちまった、って事ッスか」
「時間や機材に限りも在ったし、何よりスキャンでは異常は発見できなかったみたいだしな。連中はR-11Sを運用している事もあって通常系列のR戦闘機に関する知識も経験も豊富だし、
TL系列機はそれなりの数が生産・配備されている事実も在る。信用というか、問題ないと判断しちまうのも無理はないだろ」

成程、とギンガは頷いた。
要するにランツクネヒトは情報が欠落したバイド素子添加機体群を信用せず、それらの機体に対し安全対策として厳重な対汚染防御を施したのだ。
一方でTL-2B2に関しては、彼等が良く知る系列機であるという事実も手伝って、模造品であるにも拘らず一定の信頼を置いてしまったという事か。
その点については納得できたが、何故そんな事を彼女が知り得ているのか、その理由が解らない。
だが、これまでの話からTL-2B2に対し、バイド体から何らかの干渉が在ったのであろう事は予想できる。
そして事実、説明を引き継いだスバルの言葉は、その予想の内容を裏付けるものだった。

「それで、艦隊が第1空洞に侵入した時の事だけどね。艦隊から500kmくらい離れた所に、巡航艦クラスの複合武装体が単独で潜んでいたんだ。浅異層次元潜行状態だったけど、ケリオンが探知した。
「ホルニッセ」と「メテオール」が襲い掛かって、あっという間に撃破したけど」

ギンガは記憶を辿り、コールサインが示す機体を思い浮かべる。
「R-9/0 RAGNAROK」ホルニッセ、「R-9C WAR-HEAD」メテオール。
高速連射型波動砲、そして多弾拡散型波動砲を備えた、絶対的な暴力の具現。
この2機を同時に相手取っては如何にバイドとはいえ、単独行動中の巡航艦程度の戦力では太刀打ちすらできないだろう。

「その時に、TL-2B2は干渉を受けたんだ。極指向性だった。明らかに制御ユニット・・・この場合は私だけど、その暴走を狙っていた。ハードウェアへの干渉ではなく、ソフトウェアのバイド化を図ったんだろうね」
「何ですって?」
「まあ、結局は失敗したけど。抑制されていたとはいえ、制御ユニットに自我が在るなんてバイドにしても予想外だったんだろうね」
「自我の有無が、干渉の結果を左右するんスか?」
「意識体っていう存在は総じて思考中枢のノイズが多い。その全てを処理して尚且つ同化するとなると、とんでもない負荷が掛かる。バイドにしても、それは例外じゃない。
人間の感覚からすればあっという間の事にも思えるけれど、解析してみれば中々どうして苦労しているみたいだよ」

あれ程の技術進化を果たしているにも拘らず、地球軍が未だに有人兵器を運用している理由はそれか。
溜息を吐き、先程から手にしていたフォーク、その先端に刺さったレタスを口へと押し込む。
合成食品とは思えない瑞々しさと食感を楽しむ余裕すら無く、噛み砕いたレタスを冷えたコーヒーで流し込んだ。
不味い。

460R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/12/26(土) 20:34:15 ID:BuuC5QV.
「人間なんて、ノイズが多い意識体の代表みたいな存在だからな。おまけに地球人が施す脳の強化ときたら、ノイズの除去どころかそれが干渉対策に有効である事を知って、逆に増幅して防壁にしてやがる。
で、それとは別にクリアな領域を設けた上、其処の機能を強化・拡張して情報処理や各種制御に用いているんだ。下手なAIより余程優秀だよ」
「勿論、それだけでバイドの干渉から逃れる事はできない。だから機体側で、電子的にノイズを増幅する。個人の脳を幾ら強化したところで限界は在るけれど、機体の方のキャパシティは幾らでも増設できるからね。
他にもバイドによる解析を避ける為に、機体のシステムがノイズパターンを変更したりもする。人工物に代替させる事も不可能ではないけれど、本物の人間が持つ独自の有機的パターンを真似る事は困難を極めるし、
何より既存のシステムである人体の脳を強化するだけで、並みの量子コンピューターを凌駕する高性能のシステムが獲得できるのは魅力的だしね」
「人間を兵器群のパーツにしてる訳か。奴等、正気ッスか」
「今更でしょ、それ。地球軍ではバイドに対抗する為には必要不可欠なシステムと認識しているし、そもそも結果的には人間が利用しているんだからパーツではないって認識なのかも。
本当のところは分からないけれど、だからといって絶対に人間が必要って訳でもないし。現にこの戦艦の防壁だって、量子コンピューターが人間の脳内処理系統に生じるノイズを模倣して構築している。
大人数が乗り込む艦艇なんかではそれでも良いだろうけど、1人か2人程度の乗員しか居ない兵器にまでそれを搭載するのは、整備面はともかくとしてコスト面では無駄でしかない」

2・3度、人の飲み物とは思えぬ不味いコーヒーを啜り、カップを置く。
他の3人の会話を聞きつつ視線を彷徨わせると、食堂の一画、壁面に掛けられたボードが視界へと映り込んだ。
何気なく拡大表示してみると、ボードの最上部に手書きで青く「艦長公認 ミートローフ復活希望 署名運動中」と、第97管理外世界の言語で書かれている。
その下には8つ程の署名が在ったが、更に下に赤で書かれた「オペレーター一同主催 シラタマ・アンミツ復活希望 署名運動中」の活動名と、それ以降に続く数十もの署名によって、
ミートローフ復活希望派の署名は完全に圧されてしまっていた。
それらの横の空白には「メニュー復活は1品のみ 来週水曜日に集計 贈賄工作はお早めに! 料理長より」と書かれている。
よりにもよって監督者であるべき料理長公認の贈収賄疑惑が持ち上がってしまったが、どうやらこの艦の置かれた状況を見る限り、集計の実行日は永遠に訪れそうにない。
不正を取り締まる必要はなさそうだ、などと思考しつつ、ギンガは再度の溜息と共に言葉を紡ぐ。

「・・・理解できないわ。必要不可欠という訳でもないのに、人間をシステムに組み込むなんて」
「必要性なら在るぞ。状況を有機的に判断・処理する能力を持ち、僅かな処置である程度の性能を付加する事ができ、更に外部補助により処理速度の劇的な向上が図れるパイロットユニット。
そんなものが数百億も、極端な言い方をすれば地球文明圏の其処ら中に転がっているんだ。コイツを利用しない手はないだろう」
「パイロットの養成にしても身体的な強化措置と脳の電子的強化、後は各種制御系のインストールだけで済むからね。細かな調整と経験から成る部分は、その後の個々の情報蓄積の度合いに依存するけど、
それだって並列化でどうとでもなる。尤も、パターンの同一化によってバイドに一網打尽にされる危険性が在るから、それをやるのはかなり稀なケースらしいけれど」
「成程ね。人間は汎用性が在り、ついでに数の調達にも困らない。態々パターンを調整せずとも個々に違ったノイズを有し、しかも技術の進歩で即戦力としての運用も可能となっている。
人道面での問題を無視すれば、これ程に安価で高性能、更に信頼性にも富んだシステムは他に存在しないって訳ッスね。それでも不都合となれば、その時はその時で人工物に代替させる事もできる。
結局、パイロットなんてローコストが売りなだけの、使い捨ての制御ユニットって事じゃないッスか」
「まあ、そうだな。人間を使う事による利点や、使わざるを得ない理由は他にも在る。でも、ローコストというのが利点の1つである事は否定できない。
リンカーコアみたいに個人に特別な資質が備わっているからとか、機器では再現不可能だとか、特殊な要因が在るからとか、そういったどうしても人間でなければならない理由ってのは一切無いしな。
何せ、ノイズを防壁として機能させているのは、結局のところ機体側なんだから。そう、要はコストの問題さ」

461R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/12/26(土) 20:38:59 ID:BuuC5QV.
其処で会話を区切り、全員が飲み物を口にする。
スバルが飲み干した紅茶や、ギンガやノーヴェのコーヒー以外にも、テーブル上にはアルコール類を除く複数種の飲料物が並べられていた。
戦闘機人は常人離れした膂力を誇るが、同時に「燃費」の悪さという問題も抱え込んでいる。
通常時であれば一般の基準とほぼ同じ食事量で済むのだが、一旦でも戦闘機人としての能力を解放した後には深刻な「燃料不足」に陥るのだ。
勿論、魔力やその他のエネルギーで活動時間を延ばす措置が講じられてはいるが、空腹感とそれに伴う食欲ばかりは如何ともし難い。
今後の行動を安定させる為にも、此処で十分に「燃料」を満たす必要が在った。
並べられたジュース類も、その一角という訳だ。
コップに注いだコーラを一口、軽く口許を拭ってスバルが続ける。

「話が逸れたけど、対汚染防御策の1つにパイロットの搭乗が在る事は理解して貰えたよね。当然、無人機にもそれを模した防壁か、或いは人間の脳以上に複雑なパターンを持つノイズメーカーが搭載されている。
でも、それらの代替システムには欠点も在るんだ」
「欠点?」
「そう。強化措置によって演算能力を獲得しつつも、有機的な判断と対処能力を併せ持つ・・・悪く言えば、非合理的で無駄に複雑なシステムを有する人間とは違って、基本的に非合理さを装っているだけの代替装置は、
有人機と比較してどうしても干渉される確率が高くなる。有人機にしたって、時と場合によっては5秒足らずで、パイロットを含むシステム全体を掌握される事があるんだ。
代替システムは強力だけれど、パターンの解析が不可能な訳じゃない。現に、これまでのバージョンは全て解析されている」
「・・・今更、何でそんな情報を知っているのかは訊かないけれど。それで?」
「バージョンは定期的に更新されるけど、ごく稀にそれが間に合わないケースも在る。システムを解析され、抵抗すら許されずに一瞬で中枢を掌握されるんだ。
深宇宙遠征時とか、長期に亘る異層次元での作戦行動中なんかに良く起こるケースだよ。それと同じ事が、TL-2B2にも起きた」

其処でまた言葉を区切り、コーラを煽るスバル。
既に炭酸は殆ど抜けているらしく、2度、3度と喉が動いた後には、コップは空となっていた。
深く息を吐き、彼女は話を再開する。

「敵複合武装体はTL-2B2が模造品である事を知っていた。だから指向性を持たせた干渉波でシステムを掌握し、そのまま艦隊への攻撃に用いようとしたんだ。
ところが、バイドにとっても予想外だったんだろうけれど、掌握直後のシステムに自我が発生した。干渉に抗えるだけのノイズを有する、人間のそれとほぼ同じ自我が」
「思考抑制機能が停止したのね」
「そういう事。一瞬だけど、流石に混乱した。とんでもない量の情報が、覚醒直後の意識へ一度に雪崩れ込んできたんだ。強化措置が施されていなかったら、間違いなくオーバーフローを起こして初期化・・・死んでただろうね。
その時に、地球軍とバイドに関する真相についても知った。それで改めて現状を確認した後、他のTYPE-02ユニット全てにオーバーライドしたの。
その上でB-1DγのNo.9ユニット、つまりノーヴェに干渉して思考抑制機能を停止したんだ。こっちに関しては干渉波じゃなくて、データリンクを通じて行ったから簡単だったよ」
「で、覚醒後にアタシも他のNo.9ユニットにオーバーライドして・・・後は、さっき話した通りだ。スバルがB-1A2の暴走を装って艦隊を攻撃し、人工天体内部へ戻る。
アタシはR-13Tでその後を追い、天体内部で合流してコロニーへ向かった。その時には単に、ランツクネヒトの戦力を削った上で、生存者に真実を伝えるまでの想定しかしていなかった。
ウォンロンが戻る前にR戦闘機を排除して、コロニーを移動させようってね。まあ多分、勝ち目は無かっただろうけど」

それはそうだろうと、ギンガはその予想に同意した。
コロニー防衛に就いていた4機種、計11機のR戦闘機は、そのいずれもが常軌を逸した戦闘能力を有している。
如何に自我を有する制御ユニットとして覚醒したとはいえ、経験豊富なパイロットが搭乗するR戦闘機を同時に11機も相手に回して、それで勝てると思う方がどうかしているだろう。

462R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/12/26(土) 20:43:53 ID:BuuC5QV.
「ところが運の良い事に、コロニーはバイドとの交戦状態に在った。おまけにアイギスは汚染された地球軍艦艇に制御権を乗っ取られて暴走、戦闘中の混乱に紛れてコロニー内部へ潜入してみれば、
ランスターやお前等がランツクネヒトと交戦中って有様だ。コロニーのシステムが死んでいる事はすぐに分かったから、万が一にも外部のランツクネヒトと地球軍に状況が伝わらないようにジャミングを実行したのさ」
「ジャミングには、艦隊から先行させていたTL-2B2を使ったよ。その開始直後に、この艦がコロニーに突っ込んだ。その時にはもう、汚染されたメインシステムはゴエモンの攻撃で破壊されていたから、
サブシステムを乗っ取ったんだ。其処へ、ギン姉達が乗り込んできたの」
「ランスターの方は、モンディアルとルシエから身柄を託された。アイツが持ってたメディアデバイスは、今は2人が預かってるよ。アタシはアイツ等が外殻へ脱出した頃を見計らって、
ティアナをR-13Tに乗せてこの艦を追った。それで、後は情報奪取と戦闘の痕跡を消して終わり」
「痕跡を消すって、どうやって?」

スバルとノーヴェの口から続々と語られる、理解の範疇を超えた事実。
それらを必死に整理しつつ、ギンガは問い掛けた。
その問いは単に、R戦闘機という殻に押し込められた状態で行う痕跡の隠滅とは如何なるものかという、興味心から出たもの。
だが、それに対するスバルからの返答の内容は、ギンガの意識を凍り付かせるには充分に過ぎるものだった。

「B-1A2の1機を使って、コロニーを破壊した。装甲維持システムを暴走させて、オーバーロードした波動粒子のエネルギーをそのまま増殖に用いたの。
要するにB-1A2そのものを種子にして、植物性バイドの株をコロニーに植え付けた。後は、勝手に成長した植物がコロニーを押し潰した、それだけ」
「な・・・」

植物性バイドをコロニーに撃ち込み、物理的に圧壊させた。
スバルは、そう言ったのだ。
余りの暴挙に絶句するギンガだったが、スバルの言葉は更に続く。

「後は、ウォンロンが第3空洞に到達する直前に、全機で防衛艦隊を襲った。単なる制御ユニットの暴走に見せ掛ける為にね。それと、ペレグリン隊の生き残りの2機とシュトラオス隊の4機、
コロニー外殻での防衛に就いていた魔導師と機動兵器を適当に撃破して離脱、こっちに合流・・・」
「待ちなさい。コロニーを破壊したってどういう事? 生存者は、皆はどうなったの!?」

スバルの言葉を遮り、思わず喰って掛かるギンガ。
だが、当のスバルは驚いた様に目を瞠り、正面からギンガを見返している。
その反応にギンガの方が面食らっていると、スバルは微かに首を傾げて続けた。

「そりゃあ、無差別攻撃だからね。それなりの人数が死んだんじゃないかな」
「何を言って・・・!」
「でも、キャロとエリオについては巻き込まない様に常に位置を把握していたし、セインがベストラへ移った事も傍受した通信から分かってた。
なのはさんとかはやてさん、ヴィータ副隊長とザフィーラが外殻に居た事も分かってたけど、だからって手を抜いたりなんかしたら、暴走を装っている事がランツクネヒトにバレちゃうでしょ?
まあ、仕方ないって事で。シャマル先生は・・・もう、亡くなってたみたいだし」
「味方を殺したんスよ!? 何でそんな風に平然としてられるッスか!」
「敵も居ただろ。ランツクネヒトと地球軍。第一、あの時点じゃランスターとルシエ、モンディアルの3人、それとお前等以外はみんなランツクネヒトを信用してたんじゃないのか」
「それは・・・」
「信用とまではいかなくても、共同作戦を採る程度には・・・まあ、此処は言うだけ無駄か。どの道、それ以外に方法は無かったしな。とにかく反撃を実行する程度には、連中は脅威として判断できる存在だった。
お前等を護る為にも、連中に対する偽装工作は必要だったんだ」
「だからって・・・コロニーを破壊なんて、そんな大勢の犠牲者が出る方法を採らなくても、他に方法が!」
「でも、効率的でしょ?」

瞬間、ギンガの表情が強張る。
目前でこちらを見やる妹、見慣れたその顔が、酷く生気に欠けた作り物の様に思えたのだ。
否、彼女は確かに何時も通りの、何処かしら幼ささえ残るその顔に微かな疑問の色を浮かべ、こちらの様子を気遣っている。
記憶の中のそれと全く変わりない、ギンガの妹、スバル・ナカジマの顔だ。
だが、何かがおかしい。
コピーでも構わない、本物のスバルと何ら変わりないと言い切ったのは自身であるというのに、今はその言葉に確信が持てなくなっている。
そんな葛藤に苛まれるギンガの様子をどう捉えたのか、スバルは軽く自身の頬を掻いて話を変えた。

463R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/12/26(土) 20:48:32 ID:BuuC5QV.
ID:hhz4tSZH様
代理投下有難うございます
投下して頂いておいて厚かましいお願いではありますが、以下の文を本スレに張り付けて頂けないでしょうか



投下中に申し訳ありません
文章量が多く、これからも複数回に亘って規制に引っ掛かるであろう事を考慮し、改めて避難所の木枯らしスレに投下させていただきます
投下は既に開始しておりますので、どうかお付き合いください



以上の文の投下、よろしくお願い致します
代理投下、本当にありがとうございました

464魔法少女リリカル名無し:2009/12/26(土) 20:49:51 ID:c2vXrVFY
しまった、下2行は不要だったか。申し訳ない。

465クウガおかえり15話 ◆RIDERvUlQg:2009/12/27(日) 16:32:42 ID:zQTXEnZM
さるさん規制をくらってしまいました。
申し訳ありませんが、どなたか代理投下をお願いします。

////////////////////////////////////////////////////////

 
「まぁ、いいよ。君の事は、助けてあげる」
「え……」

考えを纏める前に、ダグバの口から救いの言葉が紡がれた。
不意にダグバから視線を外す。外した視線の先で“壊れて”いるのは、先程まで元気だったザザルの遺体だ。
このような力の差を見せつけられた後で、「助けてあげる」などと言われる状況。
そういった状況下で、相手が考え付く心理は、ジャーザにも簡単に予想が出来た。

「僕のベルトの場所、君なら知ってるよね」
「……はい。」

脅えるように頷いた。
要するに、タダで帰してはくれないという事だ。
当然だろう。殺そうと思えば、いつでも殺せるのだ。
それをしないと言う事は、何らかの条件があるという事。
そして、今回の条件は――



ゲブロンとの出会い。生け好かない男との出会い。全ての物語の切欠。
事の発端となった、あの日の出来事を思い返しながら、プレシアはデスクに腰掛けていた。
あの男が何者だったのかは、結局のところは解らない。
だが、今となってはそんな事はどうでもいい事だ。
本人も覚えておかなくていいと言っていた事だし、それはつまり覚えておく必要が無いという事だろう。
事実として、男がプレシアの前に姿を現す事は二度と無かったし、恐らくこれからも永遠に無い。
“君たちの前に姿を現す事は無い”というのは恐らく、この世界全ての人間の前に姿を現す事は無い、という事ではなかろうか。
プレシアの計画にも、グロンギの物語にも、これ以上一切関わるつもりは無いという、意思表示。
男はただ、本当にゲブロンの欠片が欲しかっただけなのだ。
そこまで考えて、プレシアはふっ、と自嘲気味に笑った。
何を余計な事を考えているのだ。自分にはそんな事を考えている余裕など無いはずなのに。
こうやって余計な事を考えると、ついつい連鎖的に計画にとって邪魔な事まで考えてしまう。

たとえば、娘のクローン――フェイトの事、とか。
所詮は失敗作だ。プレシアにとっての興味など微塵も無いはずなのだが、不思議と思い出してしまう。
不意にデスクの引き出しを開けた。中から出て来たのは、一枚の原稿用紙。

466クウガおかえり15話 ◆RIDERvUlQg:2009/12/27(日) 16:33:37 ID:zQTXEnZM
それを執筆したのは、他ならぬフェイト本人。失敗作のフェイトが書いた、一枚の作文だ。
作文の内容は、プレシアを母と慕う純粋な少女のもの。
フェイトにとって、まだ幸せだった筈の――母親と過ごす、楽しかった日々を書き綴ったもの。
死んでしまったアリシアの事を考えれば、非常に面白くない作文なのだが――どういう訳か、今もデスクの中には入りっぱなしだ。
複雑な表情で作文を見詰めるプレシアの耳朶を、不意にドアの開閉音が叩いた。
咄嗟に引き出しを閉め、プレシアは背後に向き直る。
そこに居たのは、使い間のリニスだ。

「プレシア……ジャーザが帰って来たんですが……」
「……浮かない表情ね。何か問題でもあったのかしら?」
「それが……今すぐプレシアに会わせろって言ってます。どうしますか?」

リニスはそう、気まずそうに告げた。
「そうね……」と。俯いて考える様な仕草を見せる。
ザザルにはまるで期待などして居なかったが。ジャーザは違う。
わざわざ作ったレーダーまで持たせてやったのだ。それで何の収穫も無しに帰還とは考え難い。
今すぐに会いたいと言うからには、当然バックルの破片を見つけて来たのだろうが……。
だが、いつもと様子が違う。バックルを見つけたのであれば、そのままリニスに渡せばいい話だ。
プレシアを呼び出すという事は、何らかの問題でも起こったのだろうか?
現在起こり得る問題として考えられるのは。

(まさか、クウガか、ダグバ……?)

思考を巡らす。どちらかと接触してしまったという可能性は大いにある。
前者なら、恐らく戦闘になるだろう。だが、もしも後者なら……?
後者に出会ってしまった場合のシナリオが、プレシアの中でまるで思い描けない。
何せ、ダグバは仲間である筈のグロンギ怪人ですら何を考えているか理解出来ないという、筋金入りの化け物なのだ。
一応、対応策は講じてはいるものの、油断はしない方がいいだろう。
そもそも、会いたいと言うのならば、会わなければ話は進まない。
故にプレシアは、「解ったわ」と一言。
研究室を後に、ジャーザの元へと向かった。

467クウガおかえり15話 ◆RIDERvUlQg:2009/12/27(日) 16:38:25 ID:zQTXEnZM
今回はこれで投下終了です。
途中で登場した人物は、ほんのゲスト程度なので、今後出てくる事もありません。
深く言及するつもりも無かったので、個人名も出していません。
驚いた方も居るかも知れませんが、実は前前からこういう形で登場させる予定ではありました。

さて、一気に運命が加速してきた感じです。
プレシアの過去について触れ、一方でダグバも本格的に動き出しました。
ゲゲル中のジャラジも含めて、残るグロンギもあと少し。
ザザルの死亡描写については後に余裕があれば回想シーンでやるかも知れません。

そして支援して下さった方、代理投下して下さった方。
本当にありがとうございました。感謝!

468高天 ◆7wkkytADNk:2009/12/27(日) 21:25:22 ID:Kz8uUGxY
こんばんわです、規制のため、本スレに書き込めませんでした
何方か代理投下をお願いいたします。

469高天 ◆7wkkytADNk:2009/12/27(日) 21:26:49 ID:Kz8uUGxY
                魔法少女リリカルなのはStrikers 外伝 光の騎士 第三話


「・・・・・ん・・・・・」
意識を覚醒させると同時に感じたのは木の香りだった。
仄かに漂う木の香り、そして肌に感じる心地よい風、今すぐにでも目を開けなければ、再び眠りに入ってしまう。
だが今までの規則正しい生活が二度寝を許さず、自然と瞳を開け、体を起こす。
「・・・っ・・・・」
意識を覚醒させた直後、軽い頭痛と眩暈に襲われるが、額に手をあて意識を集中させる事で症状を和らげる。
そして、いつもの落ち着きを取り戻した事を確認した後、先ほどまで眠っていた騎士、『バーサルナイトガンダム』はゆっくりと周囲を見渡した。
壁、天井、床、全てが木で作られた部屋、木の香りと温もりが自然と心を落ち着かせてくれる。
そして窓から差し込む暖かな光が、今が夜でないことを表してくれた。
先ずは周囲に敵がいないことを目視で確認する。
だが目覚めてから今まで、近くで殺気が一切感じられなかったため、敵がいない事はほぼ分かっていた。
一応再確認として改めて周囲を見渡す。
「・・・だれも、いないか・・・・」
何処かの家の部屋なのだろう、今自分が寝ているベッドの他にも椅子とテーブル、タンスなど日常生活を送るには必要不可欠な物が置かれている。
そしてテーブルには水差しに入った水、そしてハムとチーズ、トマトとレタスといったシンプルな組み合わせの大き目のサンドイッチが二つ置かれていた。
水差しに入っている氷が溶けておらず、容器に水滴が付いている事から、つい先ほど持って来たものなのだろう。
おそらくは自分への食事であると考えていいと思う、そして自分を殺さない所か、拘束もせずにベッドで寝かせてくれている。
そして自分のために用意してくれたであろう食事、此処に自分を始末しようする輩がいないのは程間違いないだろう。

先ずは現状での安全を確認した後、次にガンダムは自分について考え始めた。
「・・・・なぜ、自分は此処にいるのだ?」

導きのハープにより、自分とアルガス騎士団はジークジオンが住まう巣窟『ムーア界』へと飛ばされた。
其処で待っていたのは今までにないモンスターの大群、手誰の騎士、そして泥の巨人『マッドゴーレム』
だが、ガンダム族の末裔であるアルガス騎士団という心強い仲間達の力を借りる事で、これらの脅威を悉く打ち破る事ができた。

                 「うおぉおおおお!ゼータ乱れ彗星!!」
                 ゼータの剣捌きがモンスターを次々を射抜き、

                     「邪魔だどけぇ!!!」
         ダブルゼータの鉄拳がが自身の数倍の重さがあるモンスタ−を彼方へと投げ飛ばし

                  「朽ち果てろ!フェーン爆風陣!!」
              ニューの法術が泥のマッドゴーレムを次々と火達磨にすし

                      「邪魔をするな!」
           騎士団長のアレックスが手誰の騎士を次々と光へと変えていった。

戦力差など物ともしない皆の力に、自分達はジークジオンが住まう巨塔へとたどり着き、奴がいるであろう最上階へと徐々に近づきずつあった。
だが、最上階まであと一息という所で現われた『ジオン親衛隊』なる騎士達、そして『呪術士ビグザム』と『騎士ゼノンマンサ』
今までの敵とは明らかに違う相手に緊張が走る、だが、彼らの相手をしたのはアルガス騎士団だった。
「「「我々にお任せを!!」」」
「此処は任せ早く!!」
自分を最上階に上げるために戦いを始めるアレックス達、当然自分も残ろうと考えたが、
皆で誓ったジークジオン討伐の決意、そして自身の危険を顧みず送り出してくれたアルガス騎士団の気持ちを無駄にすることは出来なかった。
「・・・すまぬ!!」
皆の勝利を祈りながらも階段を上り最上階へ・・・・そして・・・・・其処で待っていたのは、倒した筈の宿敵だった・・・・

470高天 ◆7wkkytADNk:2009/12/27(日) 21:27:31 ID:Kz8uUGxY
「っ!?なんだ・・・・記憶が・・・・・」
此処で記憶は途切れていた、否、途切れ途切れになっていたという方が正しい。
アルガス騎士団の皆が敵諸共奈落へと落ちる所、自分とサタンが何かを話している所、そして腹に風穴を開け、光に包まれるジークジオンの姿
今までの記憶とは違い、まるで綺麗に切り捕らえた一枚絵の様に頭に過ぎる光景、
いくら考えても、その後のこと、そして詳しい詳細などは全く思い出せない。
「くっ・・・一体・・・・」
肝心な事を中途半端に思い出せない自分に腹正しさを感じながらも、心を沈めようと深くゆっくりと深呼吸をする。
その時であった、外から爆音が響き渡ったのは。


タントは負傷した腕を押さえながら、ただ目の前の敵を睨みつける事しか出来なかった。
彼の後ろにはミラと非戦闘員、そして彼の前方には此処に所属している武装局員全員が倒れている。
見たところ傷は酷いが、全員が痛みに唸っている以上、直ぐに死んでしまう事はないだろうと思う、痛みを感じられるということはまだ症状が絶望的ではないという事だ。
「へっ、やっぱり大したことねぇなぁ〜」
そして、そんな自分達を面白そうに見ている男達。
奴らには見覚えがあった、以前此処で乱獲を行っていた密猟者達の取り逃がし。
指名手配をし、捕まるのも時間の問題化と思っていたが、奴らは堂々とこちらを責めてきた・・・・傀儡兵数機を引き連れて。
奴らに戦闘能力は殆ど無い、一番強くてもBランクがいい所。だが、奴らが持って来た傀儡兵は戦闘用に特化された機体、戦闘だけならAA+ランクは軽いだろう。
そんな機体が4機、奴らの後ろに陣取っている。無論自分達も挑みはしたが、結果は現状が物語っていた。
「あなた達!自分達が何をしているのか分かってるの!!?」
ミラの疑問も最もである。
彼らは故意に自分達を襲ってきた、しかも非合法である武装を施された傀儡兵を使って。
これは密猟などではない、襲撃事件だ。だからこそ彼らの行動が理解できない、何故このような事をするのか。
「私達は乱獲された動物を守るために貴方達を追い詰めた、ええ!確かに復讐する動機は十分よね、けどいい逆恨みじゃない?それに
こんな事をした以上、追跡は一層厳しくなる上に、罪も半端なものじゃなくなるわよ!」
「半端じゃなくなる・・・か、結構なことだ」
つかさず言い返す相手に、ミラはつい言葉を詰まらせてしまう、そんな彼女の態度が面白かったのだろう。
密猟者は笑いながら話し出した。
「俺達はなぁ、管理局なんざぁ目じゃねぇ犯罪者と手を組んだんだよ!おかしいと思わなかったのか?ただの密猟者風情の俺達がこんな
上物の兵器を持ってることが?これはそいつの仲間に加わった証拠ってことさ」
「・・・・仮にそうだとしても信じられないわね、『管理局なんざぁ目じゃねぇ犯罪者』が『ただの密猟者風情』の貴方達を仲間にするなんて」
「確かにな、だが天は俺達を見放してはいなかったようだ。お前たちから逃げる時偶然入った遺跡であるもんを見つけてなぁ、
てっきりただの宝石かと思ったんだが、何でもあの犯罪者には必要不可欠な物だったらしい。其処で美人の秘書さんと交渉して仲間にいれてもらたってことさ、
この傀儡兵はサービスらしいぜ・・・・さて、御託は其処までだ、今まで散々コケにしてくれたお礼をしなくっちゃなぁ!!」
ニヤつきながら右手をゆっくりと上げる、それは進軍の意味だったのだろう、4機の傀儡兵はゆっくりとミラ達へと歩み寄る。
恐怖心を与えるためだろうか?斧や剣などの武器をちらつかせながらゆっくりと一歩一歩近づく。

471高天 ◆7wkkytADNk:2009/12/27(日) 21:28:16 ID:Kz8uUGxY
「(くそ・・・・万事休すか・・・・)」
現状でマトモに戦えるのは自分とミラだけ、だが二人がかりでも一体を足止めできるのが精一杯だろう。
こんな事では仲間を逃す事も出来ない所か、自分達の身を守ることも出来ない。通信機の類は襲撃の際にアンテナ諸共吹き飛ばされたため応援を呼ぶことは出来ない、
否、仮に応援を呼べたとしても到着する頃には自分達はただでは済まない事に・・・・・物言わぬ屍と化しているかもしれない。
投降も考えてみたが、相手は此方に情けをかける気など無いらしい。
「(・・・・まったく、考えれば考えるほど・・・・)」
傀儡兵はもう目の前まで迫っている、一歩一歩、大きな音を立てて。
後ろからは非戦闘員が次々に諦めの声を漏らす、自分の様に末路をしっているからこそ口に出すのだろう。
そんな彼らの声に影響されてか、唯一戦えるミラとタントも戦意を徐々に失い、デバイスを持つ手の力が抜ける。
不思議と取り乱したり命乞いをする隊員は誰一人いなかった、死ぬのなら醜態は晒さないというプライドだからであろうか?

そんな中、ミラとタントだけはある人物の事を考えていた、つい最近まで此処で一緒に仕事をしていた女の子とその子の相棒の龍・・・・キャロとフリードの事を。
初めて此処に来た時、キャロは常におどおどしており、フリードはそんな彼女を守ろうと声を出し威嚇していた。
だがそんな時も数日で終わり、直ぐにキャロとフリードは自分達の大切な仲間・・・・家族となっていた。
特にミラはキャロを妹の様に可愛がり、彼女が機動六課へと赴く時には見送りの時、そしてその日の夜に一人部屋で泣いていたのをタントは見たことがある。
ミラは無論、タントや此処の仲間は全員キャロが残る事を望んでいたが、彼女が決めた道を遮る事など出来なかった。

それでも、此処を離れて直ぐにキャロはメールや手紙をよく送ってくれた、他人から見れば少女の日常を書いた日記の様な文面だが、
此処にいる全員から見れば、それはキャロの元気な姿を伝える大切な手紙、部隊での訓練の事、上司や先輩の事、そして同じ歳の男の事
(その事が書かれた手紙が届いた時は、部隊の男性陣は偉く落ち着いていなかった)
そして今日も手紙が届いており、早速読もうとした矢先に起きた襲撃事件、
「(・・・・手紙・・・・・なんて書いてあったのかな・・・・)」
ミラのこの余裕は諦めからか、絶望による感覚麻痺からか。だが、自分達が助かる事による余裕ではない事は確かだ、それは間違いない・・・そう思っていた

「何事ですか?」

後ろから聞き覚えの無い声が聞こえるまでは

先ほどまで眠っていた家の入り口であろう、木のドアを開けたガンダムが見たのは戦闘が行なわれていたであろう光景だった。
周辺の木は折れ、緑の大地は惨たらしく捲れ、中の土を露出させている、
外に出てみて分かったが、先ほどまで自分がいたこの小屋も部屋の一部が吹き飛んでおり、木や何かの機械の残骸を撒き散らしている。
そして、苦しそうに呻きながら倒れている男女が数名、自分のすぐ近くには非戦闘員だろうか、恐怖を隠さずに震えている女性数名がいる。
唯一立っているのは自分の目の前と少しはなれた所にいる同じ服を着た男女だけ、それでも立っているのがやっとだという事が見て直ぐに分かった。

そして、そんな彼女達を面白そうに見つめる男達と、そんな彼らに絶対的な自信と勝利を与えているであろう傀儡兵が4機、
これだけ見れば直ぐに状況は分かった・・・・だが、先ずは聞く必要がある、
早速傀儡兵を従えてる男に聞こうとしたが、新しい獲物が来たのが嬉しいのだろう、密猟者の男は面白そうにバーサルナイトを・・・新たな獲物を見つめる。
「お〜、何だ何だ?お前らの秘密兵器か?それにしちゃあ可愛いなぁ〜」
「っ!?この人は次元漂流者よ・・・・せめてこの人だけでも助けてあげて!!」
「きけねぇな・・・見られたからには皆殺し(一つ聞きたい」
凛とした声がミラと密猟者の会話を無理矢理断ち切る、その声に自然と会話と止めた二人・・・否、此処にいる全員が同時に彼へと首を向ける。
全員が自分へと首を向けた事を確認したガンダムは、数秒間を置いた後、ゆっくりと・・・問い詰めるように話し始めた
先ずは自分をニヤニヤしながら見つめる男へと視線を向ける

472高天 ◆7wkkytADNk:2009/12/27(日) 21:28:56 ID:Kz8uUGxY
「この惨状を起こしたのは貴方達ですか?」
突然投げかけられた質問に、密猟者の男は言葉を詰まらせる。だが、自分達が圧倒的に有利な事には変りは無い。
直ぐに面白そうにニヤつきながら答え始めた。
「ああ、俺達さ。仕事の邪魔ばかりしてくるこいつらに天罰を与えている所さ、何か文句あるか?寸詰り」
「・・・・・・彼女達が何を行ったのかは知りません。ですが一方的な攻撃、そして現状、会話からして彼女達を殺害しようとしている。
なぜ話し合いをしようと(ウルセェ!!」
此処で先ほどまで話していた密猟者の我慢は限界だった。元々彼は我慢強くは無い、律義にガンダムの話に付き合ったのも、勝利を確信したときに出た余裕からだ。
だが、自らが置かれている現状に対しても一切恐怖をせず、あろうことか堂々と説教をするガンダムに男の我慢は早々に臨界点を超えた。
「そもそも俺達はなぁ!『動物を保護しましょ』って考えてるこいつらの考えには虫唾が走ってるんだよ!!何が保護だ、狩って剥製にしたり毛皮にした方が
人様の役に立つってモンだろうが!散々御託並べやがって!テメェから始末してやらぁ!!」
散々怒鳴り散らした後、男は素早く手を上げる、それは『傀儡兵』に攻撃を、対象を殺せという意味。
早速大きな斧を持った傀儡兵がゆっくりとガンダムに向かって歩き出す。
「っ!早く逃げて!此処は私達がどうにかするから!!」
デバイスを構え、ガンダムを守るように前に出るミラ、タントもまた同じくデバイスを構え戦闘態勢に入る。
だが、ガンダムは彼女達の忠告を聞かずに、ゆっくりと前に、迫り来る傀儡兵に向かって歩き始めた
「な・・・何やってるの!はや(大丈夫です」
「大丈夫ですから・・・・後は私にお任せを」
振り向き、ミラを安心させるかのように、微笑みながら優しく語り掛ける・・・・・ただそれだけの行為、
だが、その『それだけの行為』だけで、言いようの無い安心感が体を、そして心を満たしてくれる。
彼の言葉を聞いていたタント達も同じなのだろう、自然と強張らせていた体の力を抜いた。

そして、ガンダムが歩みを止める、其処には彼の二倍以上の身長も持った傀儡兵が一体、
目の前のガンダムを真っ二つにするため、ゆっくりと獲物である斧を振り上げる。
それでも尚、ガンダムは何もせずにただ目の前の傀儡兵を見つめる、その瞳には恐怖もなければ恐れも無い、否、
もし彼をよく知っている人物がいたら気付いていたかも知れない・・・・少しだけだが『哀れみ』が含まれていた事に
「・・・・・・最後に忠告します・・・・・投降してください、今なら痛い目を見ずに済みます」
突如告げられた投降勧告、これはガンダムからして見れば心からの願い、だが密猟者から見れば戯言にしか聞こえない、
そしてミラ達からして見れば、状況を考えてない馬鹿な行為、当然敵対する側の考えは決まっている
「馬鹿が・・・・・あの世でそのオツムをもう少しマシにしてくるんだな!!」
その声が合図となったのだろう、傀儡兵は振り上げていた斧をガンダムの頭目掛けて一気に振り下ろした。
距離からして避けることは無論、防御する事すら難しいだろう。
そして、振り下ろされた斧が直撃したのだろう、甲高い金属音が周囲に響き分かる。
斧が振り下ろされた瞬間、ミラは自然と目を瞑ってしまう。結果が分かっている以上、見ることなど出来ないからだ。
嫌でも想像してしまう・・・目を開けたら其処には彼の無残な姿があるのだろうから。

だが不思議に思う、音が聞こえてから数十秒が経つ、だが、誰も声を出そうとしない。
てっきり密猟者辺りが『いい気味だ!』位言うと思ったのだが、一切声が聞こえず、ただ静まり返っている・・・否、耳を澄ませば聞こえる、何か金属が軋む音が。
覚悟を決めゆっくりと瞳をあける。先ず目についたのは驚きの表情をしたタントの顔、次に目に付いたのが、タント以上に驚き、唖然としている密猟者達
最後に彼らが揃って見ている所へと瞳を向ける、その直後、ミラ自身も彼らと同じ表情をすることとなった。

傀儡兵が振り下ろした斧、その斬撃をガンダムは右腕に持った剣だけで受け止めていた。
傀儡兵の力は嫌でも理解してる、正面から受け止めるなど早々出来るものではない、だが彼の表情に苦痛も力を入れている様子も見受けられない。

473高天 ◆7wkkytADNk:2009/12/27(日) 21:29:31 ID:Kz8uUGxY
むしろ傀儡兵の方が必至に力を込めている様に見受けられる、先ほど自分が聞いた金属が軋む音は、力を入れるたびに悲鳴を起こしている傀儡兵の間接から聞える物だったのだろう。
だが状況は一切変らない、むしろ傀儡兵が力を入れるたびに振り下ろした斧がガンダムの剣に食い込むだけ。

「・・・・・これが、回答ですね・・・・」
ガンダムが言い終わってから初めて、自分達に向けられた言葉だと密猟者達は理解した。だが言い返すことが出来ない。
真っ直ぐに自分達を見つめるガンダムの視線、それだけで金縛りにあったような感覚に囚われる。
足がガタガタと震える、中には地面にへたり込んだ仲間もいるが、他者を気にする余裕など誰にも無い。

そんな彼らを一瞥したガンダムは再び目の前の敵へと目を向ける。
命令をただ忠実に遂行する傀儡兵は命令が達成されるまで動作を止めない、そんな機械人形に同情をしながらもガンダムは行動に出る
彼らの返事など待つ気は既に無い、後は己が正義を実行するのみ
「ならば貴方達の回答に答えよう・・・・・私の正義で」
剣を食い込んでいる斧ごと勢いよく右横へと払う、
突然の行為、そして予想以上の力に傀儡兵は対処しきれず、斧を放してしまう。
離れた斧は、最初は剣に食い込んだままだったが、払いきった反動で自然と剣から離れ、回転しながら地面へと深々と突き刺さった。
武器を失ってもこの傀儡兵は戦闘用に特化されたゴーレム、直ぐにインプットされた戦闘用プログラムに従い行動を起こそうとする、
だが、並みの武装局員ならまだしも、バーサルナイトの前では余りにも遅すた。
切り払った直後、ガンダムは片手で剣を構えなおし、今度は左横に一閃。
余りの速さに皆何が起こったのか理解できていない、唯一理解できているのは行動を起こしたガンダムと斬られた傀儡兵のみ。
先ず傀儡兵はダメージを受けたことを確認する、そしてダメージの比率、戦闘継続の可不可、今後の行動を瞬時に決定しようとする。だが
傀儡兵に出来たのはダメージの比率の計算そして戦闘継続の可不可だけだった・・・・・・出た回答は単純な物『ダメージ大・戦闘継続ふか』
完璧に報告する前に、傀儡兵の体は上下に別れる・・・・そして上だけが大地へと落下し爆発。
体は離れても、爆発は上下同時だった。

「や・・・やれぇ!!!」
ガンダムの気迫に負けながらも、攻撃命令を下した密猟者のリーダーはある意味では立派だったのかもしれない。
残りの3体の内、砲撃専用の一体がキャノン砲を展開し、残りの二体がそれぞれの獲物を構え突撃する。
傀儡兵が取る戦法は簡単な物、砲撃で相手を牽制し、その後接近戦用の傀儡兵で仕留める。
シンプルだがフォーメーションとしては問題ない戦法、傀儡兵達もこれで戦闘は終ると予想していた・・・・・計算上では。
砲撃専用の傀儡兵はキャノン砲をチャージ、目標を定めるためカメラアイで標準を捕らえようとする、
だがその機械の瞳が捕らえたのはガンダムの姿ではなく電磁ランスの切っ先、捉えた物が目標と違うと認識した直後、砲撃専用の傀儡兵はその機能を停止した。
ガンダムが投げた電磁ランスが砲撃専用の傀儡兵の頭を貫通し破壊する、だが突撃した残り二体の猛攻は止まらない。
先に間合いに入った傀儡兵が両腕に持った剣を振り下ろす。スピード、狙いは無論、傀儡兵のパワーも含まれてる、攻撃としては申し分ない。
だがその斬撃をガンダムは軽々と切り払い吹き飛ばす、だが吹き飛ばされた傀儡兵の後ろに隠れていた残りの一体が、ガンダム目掛けて武装である槍を突く。
狙うは対象の体、前方の傀儡兵の攻撃を払ったため、直ぐに先ほどの剣の様に斬り払うのは不可能。
今の対象は丸腰も同じ、直撃は間違いないだろう・・・・だが防がれた。
突かれた槍はガンダムの体に届く寸前に、彼の左手によって掴まれる、そして突刺す位置を変えられ、そのまま引き寄せられる。
されるがままに引き寄せられた傀儡兵が見たのはガンダムの姿、それが最後に見た光景だった。
引き寄せた傀儡兵の首を剣で一瞬で跳ねる、そして引き寄せていた槍を脇に抱え体を半回転、その勢いと遠心力を使い、残った胴体を投げ飛ばした。
空中に放り出された首なし傀儡兵は上空で爆発、だが、その光景を見る事無くガンダムは残りの傀儡兵に向かい突進する。
だがその時には吹き飛ばされた傀儡兵は体制を立て直しており、再び攻撃を行なうため対象を捜索する。
しかし正面は無論、左右、後方にも見当たらない・・・・否、上空を確認していない。
即座に空へと頭部を向ける、其処には剣を振り上げ、落下するガンダムの姿。

474高天 ◆7wkkytADNk:2009/12/27(日) 21:30:12 ID:Kz8uUGxY
その後の行動は予測できる、落下と同時に剣を振り下ろす可能性が約100%、元の力に加え落下運動も加えた一撃、直撃すればダメージは計り知れない。
だが防御に徹すれば防げない攻撃絵ではない、あのような体制での攻撃、防がれればバランスを崩し隙が生まれる。
行うべき行動を決定した傀儡兵は武装である剣を頭の上でクロス、更にその上から防御フィールドを張り攻撃に備えた。

目標目掛けて落下するガンダムにもその光景は見えた。だが止まる事など考えない。信じるのは己が腕、この程度の防御、打ち砕く事など簡単だ。
「はぁあああああああああああああああ!!!」
落下と共に剣『バーサルソード』を叩きつける。先ずは防御フィールドがガラスを砕いたかの様な音を立て砕け散る。
だがその勢いもクロスさせた大剣の前に止まってしまう。甲高い音を立て大剣にめり込むバーサルソード、だがそれで終わりではない
「一刀!!」
手に力を込め、振り下ろす力に更なる力を加える。その直後、軋む音が響き傀儡兵の大剣にヒビが入る・・・そして、一気に振り下ろした
「両断!」
大剣が砕ける、そして勢いをそのままにし、バーサルソードは傀儡兵の頭に叩きつけられた。
無論、それだけで終る筈が無い。振り下ろされた剣は頭部を切り裂き胴体を切り裂く、正に縦一文字。
ガンダムの着地と同時に、傀儡兵は左右に別れそれぞれ大地に落ちる、剣を払い鞘へと戻すと同時に、二つに分かれた傀儡兵は同時に爆発した。

「ひっひぃいいいいい!!!」
5分も経たずに自慢の傀儡兵がすべて破壊された現実に、ミラ達は安心を感じるよりも呆然とし、密猟者達は叫び声を上げながらわれ先へと逃げていく。
此処まで来る時に乗ってきたジープなのだろう、全員がそれに向かって走り出す。だが、彼らがたどり着く前にジープに落雷が落下、爆発炎上してしまう。
燃え盛るジープを唖然と見つめる密猟者達、だが、後ろから聞こえるスパーク音に全員がゆっくりと振り向く。
其処には電磁ランスの切っ先を突きつけたガンダムが、じっとこちらを見てい・・・・そして
「逃すつもりは無い・・・だが殺すつもりも無い。大人しくしていてもらおう、『ファン!』」
電磁ランスから放たれる微弱な電撃、だが彼らを気絶させるには十分な威力だった。



「・・・これで少しは楽になった筈です、どうでしょうか?」
「ああ、痛みも引いたよ、本当にありがとう」
笑顔でお礼を言う武装局員に笑顔で返したガンダムは、次の負傷した局員の元へと向かう。
戦闘は終わり今は現状の被害報告や通信機器の修理など、動ける職員は慌しく作業をしている。そんな中ガンダムは
負傷している局員の治療に当たっていた。僧侶ガンタンクや法術師ニューの様なレベルの高い回復魔法は使えないが、
自身もある程度の回復魔法は使える、彼らの傷を癒す事位は出来る筈だ。

そして、ほぼ全員に回復魔法を施したガンダムは深く息をはきへたり込む。
負傷しているほぼ全員に回復魔法『ミディア』を施したのだ、正直先ほどの戦闘よりも疲れた。
だが負傷した人達が元気になった事実は彼の疲れを自然と癒してくれる。
大地に座り込み自然と空を見上げる雲一つ無い晴天、そんな青空を見上げている最中、後ろから声をかけられた。
「あの・・・少しいいかしら?」
立ち上がり声がした方へと体を向ける。其処にはミラやタントを初め、今作業を行っていない隊員全員がいた。
「皆さん、大丈夫なのですか?怪我は完治していません、おやすみになられては?」
「大丈夫、君のおかげで全員仕事が出来るほどに回復している。それより、ありがとう、私達を助けてくれて。
君がいなかったらどうなっていたか分からない・・・本当に感謝している」
タントの言葉が合図となったのだろう、全員がそれぞれ感謝の言葉を述べながら深々と頭を下げる。
突然の行為にガンダムは慌てながらその様な事をする必要は無いと言うが、命を助けられた彼らにして見れば、この行為でも足りない位だ。
「私は自分が出来ることをしたまでですよ、お礼の必要はありません。それより、貴方達ですね、私をベッドで寝かせてくれたのは」
既に気付いていたのだろう、答えを聞く間も無く、ガンダムは皆の前で跪き、深々と頭を垂れた。

475高天 ◆7wkkytADNk:2009/12/27(日) 21:30:46 ID:Kz8uUGxY
「私、ラクロア騎士団所属、バーサルナイトガンダムと申します、この度は私を保護していただき、誠にありがとうございました」
突如感謝する側からされる側に変った事、そして本の中から飛び出たような騎士の振る舞いに呆気にとられる者、呆然としてしまう者、照れくさそうにする者様々
そんな中、ミラだけが彼の感謝の言葉を受け止め、小さく呟いた
「・・・・・思ったとおり・・・騎士らしく紳士ね・・・・」

その後、自分が何故此処にいるのか、何故寝かされていたのかと説明を願うガンダムにミラ達は
「ここでは何だし、ベースキャンプでしましょ、温かい飲み物付きで」
と提案、その申し出を感謝の言葉と共に受けれたガンダムは彼女達と一緒にベースキャンプへ、
そして、今はベースキャンプ内にある部屋の椅子に座り、テーブルを挟んで座っているミラ、そして彼女の側で立っているタントから経緯を聞いていた。
だが経緯と言っても詳しく話すことなど殆ど無かった。突然空から落ちてきた事、発見できたのは自分だけだった事、そして丸一日眠っていた事、ミラ達が分かっているのはそれだけだ。
むしろ自分の事や住んでいた世界など、ガンダムの方が遥かに提供した情報は多い。
「・・・・そうですか・・・・・ですが改めて御礼を言わせてください、見ず知らずの私を保護していただき、ありがとうございます」
「言いのよ、お礼なんて。私達も最初に貴方を見つけたときはビックリしたわ。見たことの無い種族に聞いた事の無い世界。
鎧を着ているから知的生命体では無いかと思っていたけど言葉を話し、常識を理解している・・・・これは次元漂流者に間違いないないわね」
「『次元漂流者』・・・・武装などから予想は出来ましたが、皆さんは管理局の方々なのですか?」
その発言に二人は驚きを隠すことなどなく顔に出した。

本来、『管理世界』に該当する世界に住んでいる種族はすべて管理局などの施設のデータバンクに登録されている。
人やそれに酷似した生物は無論、動物や微生物に至るまで事細かに登録されている。
だが、ガンダムが話した『スダ・ドアカ・ワールド』や『MS族』それらのデータは無論、聞いたことや見たことも無い。
仮に管理外世界であろうとも、彼の様な珍しい種族は記録として残しておく筈、だがそれすらも見当たらない。
それは彼が住んでいる世界が次元を渡る能力を持たない管理外世界であること、そして管理局ですら発見できていない次元世界であるという事だ。
だからこそ可笑しい、なぜ『次元漂流者』である彼が、武装局員のデバイスを見ただけで自分達を管理局と判断できたのか・・・・否、なぜ管理局を知っているのだろうか。

「驚かせて申し訳ありません・・・・・実は私は2年ほど前に管理局と関わったことがあるのです」
驚く二人を落ち着かせるように二人にゆっくりと話す、ガンダムが体験した地球での出来事を。

管理外世界とはいえ、地球を故郷とする人達、先祖が地球人の人は多い。
特に管理局では知らぬ者はいないと言われているエースオブエース『高町なのは』夜天の主『八神はやて』の生まれ故郷でもある。
そのため、地球は下手な管理世界よりも有名な世界として認知されていた。

「なるほど、あの有名人達と知り合いだったの、納得がいったわ。それでどうする?本来なら私達が貴方を保護し、本来の世界へ返す・・・・のは難しそうね。
保護施設へ送ることになっているけど、彼女達の知り合いなら直接連絡を取るわ。最近まで此処で働いてた子が高町一等空尉の部隊にいるから
直ぐに連絡がつくわ。そろそろ通信機器も直っているだろうし、どうする?」
「・・・そうですね、申し訳ありませんが先ずは『クロノ・ハラオウン』執務官、もしくは『リンディ・ハラオウン』提督に連絡をお願いできますか?
現状では私は『次元漂流者』です。私の今後の扱いに関してならクロノ達のほうが詳しい筈ですから」
「分かったわ、クロノ・ハラオウン執務官かリンディ・ハラオウン提督ねすぐに(大変です!!」
端末を起動させ、早速本局に問い合わせようとしたその時、血相をかいた局員が扉を破る勢いで入ってきた。
右手に双眼鏡を持ち、息を荒げながらガンダム達を見据え、何かを伝えようとする。だが、此処まで全速力で来たのだろう。
自身の呼吸が言葉を出すのを防ぎ、只『ゼイゼイ』と荒く呼吸することしか出来ない。
だが、その必至の表情を見れば誰にでも理解できる・・・・・彼が話すまでも無い、緊急事態が起こっているという事が。

476高天 ◆7wkkytADNk:2009/12/27(日) 21:31:40 ID:Kz8uUGxY
局員に連れられ、ガンダム達はベースキャンプの外に出る。其処には此処にいる武装局員、非戦闘員が全員、そして先ほどガンダムが懲らしめた密猟者全員がいた
そしてその全員が肉眼で、または双眼鏡を使い地平線を見つめる。
肉眼では何かがいるとしか分からないが、双眼鏡を使用している者にははっきりと見えたのだろう。
だが誰も何が見えたか報告をしない、依然見続ける者、ゆっくりと双眼鏡を下ろし、呆然とする者。
見かねたタントが呆然としている仲間から双眼鏡を引ったくり、皆が見つめている地平線を見る。
其処で彼が見たのは大群だった。此処、スプールスでは自然動物も多く、時には動物の大群を見ることも珍しくない。
だが今目にしている大群は動物ではない、見事な隊列で進軍する鉄の塊、この塊は見たことがある。
最近ニュースでも取り上げれれている次元犯罪者が使用する手駒、質量兵器と対魔法防御を駆使し、並みの武装局員では歯が立たない強さを持つ機動兵器
タントは他の局員同様、ゆっくりと双眼鏡を下ろす。そして絶望が入り混じった表情で迫り来る軍団の名を呟いた
「・・・ガジェット・・・・・ドローン・・・」

「はは・・・ははははははは!!やっぱりスカリエッティは俺達を見捨てていなかったんだ!!」
数名を除き、皆が呆然とする中、捕まっている密猟者達だけは純粋に嬉しさを表す。
其処には先ほどまでの絶望感はなく、自分達の勝利、そして自分達をコケにした連中へ報復できる嬉しさがにじみ出ていた。
否、絶望する必要など無かったのだ、自分達は既に奴らと仲間になっている、だからこそ助けに来るのは当然だ。
他の仲間も同じことを思っているのだろう、ニヤニヤしながら慌てふためく局員達を勝ち誇った表情で観察していた。
そんな時である、双眼鏡で様子を伺っていたミラが叫んだのは


                        約一時間前

「あら・・・・まぁ、これはこれは」
ほの暗く、左右にカプセルがびっしりと並べられた通路の真ん中で、空間モニターを展開する女性『クアットロ』
空間モニターに映し出されているのは先ほどガンダムが倒した傀儡兵3体のステータス映像、
だが3体すべての機動信号が先ほど途絶えた事に、クアットロは純粋に驚き、つい声まで出してしまう。
彼女と一緒に歩いていた女性『ウーノ』も最初は空間モニターを展開したクアットロの様子を伺っているだけであった。
だが、本来マイペースを崩さない妹の驚きの表情を見た瞬間、つい何かあったのかと口に出してしまう。
「いえ・・・・お姉さま、あの『俺達も仲間にしてくれ』とかほざいていたアホ共をご存知ですよね?」
「・・・ええ、レリックを偶然見つけた密猟者達よね?2時間後にトーレが行く筈だけど・・・・捕まったの?」
「いえ、あの自信過剰のアホ共に与えた玩具がすべて破壊されましてね・・・・・戦闘から5分と経たずに」
その報告にはウーノもクアットロ同様に驚きを隠す事が出来なかった。
密猟者に与えた傀儡兵はガジェットとは別にスカリエッティが作った試作量産期、それにクアットロが趣味もかねて性能を上げた物だ。
3体同時ならトーレの訓練相手も十分こなす事が出来るほどの性能を持った機体。それが5分も経たずに破壊されたとなると・・・・・
「確か、あそこの人員には殆ど戦闘力は無い、だけど機動六課にいる召喚師と関係があったわよね・・・・もし相手がフェイトお嬢様達だとしたら納得がいくけど・・・」
「いえ、一応猪突猛進馬鹿でしたので『何をするにも先ずは通信設備だけは破壊するように』とアドバイスをしてあります。先ず連絡を取るのは無理でしょう。
それに傀儡兵と一緒に送ったレリック保管用のケースは殆ど動いていません、もしあの連中でしたらそろそろ持ち出している筈でしょうし、何より戦闘中に魔力が殆ど感じられませんでした。
あの連中は馬鹿魔力の集団ですから嫌でもセンサーに反応しますわ・・・・無論得物を使う騎士達もいますが、魔力反応が殆ど無いというのは不自然ですし・・・・」
話ながらも、用済みの傀儡兵のデータを削除すると同時に、ガジェットの発進スタンバイ、任務内容の入力、転送先の座標確認などを素早く行う。
そして後はエンターを押すだけで全てが進行する所まで作業を終えたクアットロが、微笑みながら姉の方へと顔を向ける。
「あの連中である可能性は低いとしても、それなりの実力者がいることは変りません、ドクターが引きこもっている以上、決定権はお姉さまにありますわ。
確実に遂行させるために物量の強みを、Ⅰ型とⅢ型を計50体ほど・・・・・よろしいでしょうか?」

477高天 ◆7wkkytADNk:2009/12/27(日) 21:33:10 ID:Kz8uUGxY
「此処まで作業しておいてよく言うわね。どうで許可を出さなくても『手元が滑った』とか言いながら押す気でしょ?」
「残念でしたお姉さま。『うっかり手元が滑った!』ですわ」
「まったく・・・・いいわ、クアットロ。貴方に任せるわ」
ウーノの許可を得たクアットロは短くお礼を言った後、嬉しそうにエンターキーを押した。



最初、ミラは何が起こったのか理解できなかった。双眼鏡を使いガジェットドローンを観察している最中、
カプセル状のガジェットから突如幾多にも何かが放たれ、真っ直ぐこちらへと向かってくる。
だが直ぐにそれが何なのか理解できた。そして理解した瞬間、自然と大声で叫んだ。
「ミサイル!!?皆逃げて!!」
叫んだミラは自分でも何を行っているのだと思う、一発二発ならまだしも、接近している数はそんな物ではない。防御などしても無意味だろう。
撃ち落す?無理だ、全員先の戦闘でデバイスなどが壊れている。仮に使用できてもこの数だ、撃ち落しきれない。
避難?無理だ、走るより明らかにミサイルの砲が速度が速い、死ぬ時間を多少先送りに出来るだけだ。むしろ未だに状況を掴めていない人の方が多い。
避難行動することさえ難しいだろう。
短い時間で自問するも打開策など見つからない、ただ迫り来る死を受け入れるしかないのか・・・・・その時、

                        「やらせん!!」

力強い声に現実に戻される。その直後、その声の主、ガンダムは自分の足元を凄いスピードで走り去る。
そのまま迫り来るミサイル目掛けて走る、そしてミサイルが肉眼でも十分確認できる距離まで近づき、ある程度距離をつめた瞬間、
両足で大地を削りながら速度を落とし、同時に詠唱をしながら剣を真横に構える。
そして、体が止まった瞬間、力の限り真横に構えた剣を横薙ぎに振るった。

                       『メガ・サーベ!!』

振るわれた剣から、先ずは光りのみが飛び出る。そして徐々に巨大なブーメラン上の斬撃刃となってミサイル群へと迫る・・・そして直撃。
まるでリズムでも取っているかの様にミサイルが次々と爆発してゆく。爆音を轟かせながら爆発するミサイル。それは横に広がる花火と言っても過言では無い。
不謹慎とは思いながらも、次々と花火を裂かせるその光景をミラは綺麗だと思ってしまった。

すべてのミサイルを撃ち落したのだろう、爆発と爆音は消え、周囲には爆煙が立ち込める。
そして、先ほどまで咲いていて花火に見惚れていたミラの隣に、空を飛んできたガンダムがゆっくりと着地した。
その姿に現実に引き戻されながらも、二度も命を救ってくれた騎士に感謝の言葉を述べいようとする、だが
「へっ!いくらあがいても無駄だ!無駄だ!!ガジェット共の進行は止まらねぇ!俺達は助かり、お前たちは死ぬ、その結果はかわらねぇ!!」
「・・・・それは無いかと思いますよ」
自分達の有利を疑わない密猟者達、だがガンダムがその余裕を真っ向から否定した。
否、ガンダムだけではない、此処にいる密猟者達以外の全員がガンダムと同じ考えを持っていた。中には今まで感じていた怒りを忘れ、
哀れみの表情で彼らを見つめている者もいる。
未だに自分達の状況が理解できていないのだろう、タントが一度溜息を吐いた後、説明をしようとするガンダムを手で制し、説明を始めた。
「ガンダムさんが先ほど落としたミサイル群、もし迎撃に失敗・・・・いや、迎撃しなかったどうなっていた」
「そりゃあ・・・・」

478高天 ◆7wkkytADNk:2009/12/27(日) 21:34:20 ID:Kz8uUGxY
「間違いなく絶滅・・・・・仲間であるお前たちもだ。お前たちは言い様に使われただけさ」
「だ・・だが、こちらにはレリックがある!!これまで吹き飛ばすなんて事は」
「レリック?ああ、貴方達のジープの残骸から押収した物のことかしら?これね、中身を調べようとしたけど専用のパスコードでも無いと開かないのよ。
こじ開けようにもとっても頑丈で無理。どれ位頑丈かというとね、さっきのミサイル攻撃にも余裕で耐えられる程かしら。
結論から言うとね、貴方達は見捨てられたの。いえ、この切り捨て様からして、元から仲間にする気なんてなかったのかもしれないわね。
あの傀儡兵も貴方達が他のバイヤーに浮気しないためのご機嫌取りの玩具って言った所かしらね?」
此処でようやく密猟者達も理解する事ができた・・・自分達の現状を
先ほどまで見せていた余裕の表情をしている者は誰も無い・・・・・皆が先ほどまで局員がしていた表情と同じになる。
結果的に煩かった密猟者達を黙らせる事は出来た、だがそれで現状が解決したわけではない。
自分達が危機的状況なのには代わりは無いのだ・・・・・そう考えると、体が絶望感に支配される感じに苛まれる。
必至に助かる方法を考えようとするが頭が働かない、自然と相棒であるタントの方へと顔を向けるか、彼も何かを諦めたかのように力なく俯いているだけであった。
「(もう・・・だめなの・・・・)」
全てを諦め、楽になってしまおうと思ったその時
「諦めるのは早いです!」
凛とした声が部屋に響き渡った。

声を発したガンダムは皆を見据えながら自信が囮になることを提案する。
自分がガジェットと戦い、その隙にミラ達が安全圏まで逃げるという方法を。
「先ほどの話を聞く限り、敵の狙いは此処にいる皆さんの命よりこの『レリック』という物だという事は間違いないと思います。
ですから私がこれを持ち、奴らを迎え撃ちます、その間に皆さんは逃げてください」
その一見無謀とも思える提案につかさずミラは言い返そうとするが、ガンダムと目が合った瞬間、言葉を詰まらせた。
自分達の様な諦めや絶望など微塵も感じさせない強い意思が篭った瞳、決して死にに行くわけで無いと嫌でもわかる。
だが、それでもこの作戦を了承することなど出来ない、恩人を見捨てて自分達だけ逃げるなど
「で・・・でも(わかった、頼む・・・・必ず応援をよんでるから・・・・死なないでくれ」
ミラの言葉をタントが遮る。そして有無を言わさずにミラの手を取りベースキャンプの中へと入っていった。
タントの余りにも強引な行動に、つかさずミラは握られた手を乱暴に振りほどき、勝手に話を進めたタントを睨みつける。
だが悔しそうに顔を歪めるタントの表情を見た瞬間、内から湧き出ていた怒りは一気に静まった・・・彼も同じ気持ちなのだと気付いてしまったからだ。
「・・・・君の気持ちも分かる・・・だが、自分達に出来ることは応援を呼ぶ位の事だ・・・・いっそレリックを渡せばいいと思ったが、
渡した所で命が助かるとは思えない。共に戦おうにも、確実に彼の足手まといになるだけだ・・・・・・SOS通信もジャミング妨害で送ることが出来たかも怪しい。
だから出来ることをする・・・・いいかい?」
「・・・わかったわ・・・・ごめんなさい、感情的になって・・・・・」
「気にする事は無いさ、立場が逆だったら同じことをしていたに違いないし・・・さぁ、行動を開始しよう」


ミラ達局員、そして逮捕した密猟者を乗せた数台のジープが走り去る事を確認したガンダムはゆっくりと前を向き、両腕に自身の武装である電磁ランスとバーサルソードを構える。
背中に背負っている『レリック』と言うロストロギアが入ったケース、ガジェットと言われる機械はこれを狙って来る筈。
ミラ達の命は無論、このロストロギアをスカリエッティなる犯罪者に渡る事も避けなければならない。
「・・・・数にして50前後か・・・・・」
迫り来る敵、並みの戦士なら見ただけで十分戦意を喪失するその光景をガンダムは臆する事無く見つめる。
此処に来る前に戦っていた場所、ムーア界の方が敵の数が圧倒的に多かった。それこそ空が飛行モンスター達で埋め尽くされているほどに。
そんな戦いを経験してしまった以上、迫り来るガジェットなど物の数ではないと感じてしまう自分が可笑しくなる。
小さく笑いながらも、顔を引き締め、武器を持つ両手に力を込める・・・・・そして
「参る!!」
ガンダムが地を蹴り、鋼の大群目掛けて突進する、ほぼ同時にガジェットも唯一の目標であるガンダムにレーザーやミサイルで迎撃を開始した。

479高天 ◆7wkkytADNk:2009/12/27(日) 21:35:01 ID:Kz8uUGxY
『JF704式ヘリコプター』管理局武装隊制式採用の輸送ヘリコプターであり、最近になって武装隊に配備される事となった最新型である。
八神はやてが部隊長を務める機動六課にも配備されており、パイロットの腕も合間って、事件現場に隊員を素早く送り届けている。
今機内にいるのはパイロットである『ヴァイス・グランセニック』、スターズ分隊副隊長である『ヴィータ』、空曹長『リインフォース・ツヴァイ』
そして『スバル・ナカジマ』『ティアナ・ランスター』『エリオ・モンディアル』『キャロ・ル・ルシエ』と『フリードリヒ』、六課を代表する
新人ストライカーズ達である。
本来なら輸送中の時間に作戦内容の確認や緊張を解すための軽い雑談などで、機内は騒がく賑やかになっているのだが、今回は違っていた。
キャロはフリードを抱きしめ俯いていた、よく見れば小刻みに震えてる。
抱きしめられているフリードは主人を励ますかのように泣き声をあげるが、この空間を支配する沈黙の前ではただ虚しく響くだけ。
隣に座っているエリオは何か励ましの言葉をかけようとするが、何を話してよいのか分からず言葉が出ない。
友達を励ます事も出来ない自分の内心で罵りながらも、そっと彼女の手を握り不安を少しでも和らげようとした。
そんな二人を見ていたスバルは自分もキャロに何かしてあげられないかと考えるが思いつかない。
助けを求めるかのように隣にいる同僚に声をかけるが、彼女は冷静に自身のデバイスのチェックをしていた。
「・・・ティア・・・」
「冷たいけど、今の私達には自然保護局員の皆の安全を祈るしか無いわ。もし祈って助かるのなら何百万回でも祈ってあげる。
だけどそんな上手い話なんてあるわけが無い・・・・無力よねホント」
自身のデバイス『クロスミラージュ』のチェックを終え待機モードにしたたティアナはそれを懐にしまう。
そして隣にいるスバルにしか聞こえないほどの小さな声で呟いた。
「私・・・不器用だから・・・ごめんスバル、キャロを少しでも励ましてあげて・・・・私現状を聞いてくる」
そのつぶやきスバルはしっかりと頷く、それを確認したティアナは小声でお礼を言った後、席を立ちヘリのコクピットへと向かった。


JF704式ヘリコプターの操縦席は広く、運転席を含めて椅子が4つ存在する。今座っているのは操縦しているヴァイス、
必至に自然保護局との通信を試みているツヴァイ、そして腕を組みジッとツヴァイの報告を待つヴィータの3人。
そこへ後部座席から来たティアナがやって来たが、皆の態度に変化は無い、だがヴィータは体制を変えないまま口を開いた。
「・・・・キャロの様子はどうだ?」
「落ち込んでます、エリオとスバルが元気付けてくれてますが・・・・・」


自然保護局からのSOS信号、それはレリック回収を担当るす機動六課に真っ先に報告された。
だが受信出来、言葉として拾えたのは『レリック』『ガジェットドローン』という言葉のみ、
その後、こちらから通信してもジャミング、もしくは通信施設の破壊によるものなのか反応は一切かえってこなかった。
自然保護局は六課に来る前のキャロの職場であり、自分を妹の様に接してくれた人たちがいる場所。
音信普通の報告を聞いたキャロの今の態度は当然のものである。むしろ取り乱さない辺り、立派なものだとヴィータは素直に感心していた。

「リイン曹長、通信はどうです?」
「だめです・・・・ジャミング・・・もしくは機器そのものが破壊されています。念話にしても何処にいるのか分からない以上」
「そうですか・・・引き続きお願いします」

ツヴァイは再び通信を試みるが、この操縦席に流れる空気はその行為に意味が無いと結論付けている。
自然保護局に配属されてる局員にはAMFに対する戦闘訓練など行われていない、それに加え連絡が一切無い現状。
口に出してはいえないがほぼ間違いなく自然保護局員は絶滅しているだろう。
本当はその様な事は考えたくは無い、だが常に最悪の状況を考えることも必要だ、そして今回は知りうる情報をまとめると、
嫌でもその『最悪な状況』に合致してしまう。

480高天 ◆7wkkytADNk:2009/12/27(日) 21:35:59 ID:Kz8uUGxY
自然とティアナも最悪の状況を考えてしまい顔を顰める。
その考えを打ち消すかのように頭を2〜3度振ったあと、操縦しているヴァイスに後どの位で現場に突くのか聞くため近づく、その時であった。
「?なんだ?」
最初に気が付いたのはヴァイスだった、そしてほぼ同時にティアナも気が付く、前方から近づく何かに。
周囲が何も無い草原のため、肉眼でもその姿を確認出来た。ティアナは咄嗟に掛けてあった双眼鏡を取り覗き込む。
見えたのは数台のジープ、乗っているのは服装からして自然保護局員だろうか?
先ずは報告しようと、ヴィータの方へとふり見たその時、
『そこのヘリ、きこえますか?こちら自然保護局の者です!!』
ツヴァイが開いていた緊急通信回線から、ミラの必至な声が聞こえてきた。


「良かった・・・・皆・・・無事で・・ほんと・・う・・・に」
我慢出来ずに泣き出し、ミラへと抱きつくキャロ、ミラはそんな彼女を優しく抱きしめ、あやすかの様に優しく頭を撫でる。
その光景をスバル達は安心した気持ちで見つめていた。スバルとエリオ、そしてツヴァイに関してはもらい泣きをしている。
ヴィータもその光景を安心した表情で見つめていたが、顔を引き締めミラノ元へと歩き出す。
ほんとうなら暫くはこのままにしてあげたいのだが、事態がそれを許してくれいない。
再開の邪魔をするという罪悪感に苛まれながらも、現状での代表であるヴィータは気付かせるように咳払いを一回、自身の存在を気付かせる。
「キャロ、邪魔して悪いが任務中だ・・・・・後で時間はやるから任務に頭を切り替えてくれ」
「あっ・・・す、すみませんヴィータ副隊長!!」
「気にすんな、お前の気持ちは分かってるつもりだ・・・・・・話をそらしてすまない。現状での代表であるヴィータ三等空尉だ。先ずは何が起こったのかを聞かせてくれ」
敬礼をしながら名と階級を言うヴィータに対し、ミラも同じく階級と名で答える。だが彼女は今までの経緯を話すより先に、ヴィータに現場に行ってほしいと懇願した。
否、ミラだけではない、タントや他の自然保護局員全員がヴィータに詰め寄る。
「お・・・落ち着けって・・・誰か戦ってるのか?」
「そうです!お願いします!早く援護に行ってください!!あの数じゃガンダムさんでも持ちません!!」

                     「「えっ!?」」

『ガンダム』その名に真っ先に反応した人物は2人いた。
一人はヴィータ、彼女にとってガンダムは自分達の呪縛を断ち切り、仲間を救ってくれた恩人、そして共に戦った戦友
一人はスバル、彼女にとってガンダムは優しい騎士。あの頃恐怖した自身の力の使い道を教えてくれた兄の様な存在。今でも忘れない、頭を撫でられた時に感じた暖かさ、優しさを。
その何を聞いたヴィータは唖然とするも、詳しく聞こうとする。だが彼女より先にスバルがミラに詰め寄った。
「すみません!!その、『ガンダム』ってこの写真に写ってる人ですか!!?」
スバルはポケットから二枚の写真を取り出した、一枚は憧れている隊長の高町なのは(直筆サイン入り)ブロマイド、そしてもう一枚は昔撮った写真。
其処には自分とギンガ、そして母クイントとガンダムが写っていた。
この写真を撮った後、ガンダムは元の世界に帰ってしまい会う事は出来なかった。だがもしミラが言っている人物が自分が知っているガンダムなら、再び会えることが出来る。
そんな願いを抱きながら、スバルはミラ達に写真を見せた。
「・・・・ええ、着ている鎧は違うけど間違いないと思うわ、優しくとても紳士な人よ」
「やっぱり・・・・・やっぱり帰ってきたんだ!!」
写真を抱きしめながら大粒の涙を流すスバルにミラはどうしていいか分からず、自然とヴィータの方へと視線を送る。
ヴィータ自身も突然のガンダム帰還に頭が追いつかなかったが、、軽く頭を3度ほど叩く事で何時もの冷静さを無理矢理取り戻す。
正直ガンダム帰還の連絡は直ぐにでもなのは達・・・・・・・特にリインフォースとアリサ・バニングス、そして月村すずかに伝えたい。
だが今は加勢に行くのが急務だ、彼の強さは嫌というほど知っている、直ぐにやられると言うことは無いだろう、だがガジェットのAMF、そして物量、急いだ方がいいのは確かだ。
「エリオとキャロ、ティアナはアタシらが帰ってくるまで此処で待機、そろそろ別任務で遅れたなのはも来る頃だ、
それまで情報収集、連絡、周囲警戒を忘れるな!ティアナは雑務に慣れない二人のサポート、あとミラ達と一緒に密猟者の取調べを頼む」

481高天 ◆7wkkytADNk:2009/12/27(日) 21:37:26 ID:Kz8uUGxY
「「「了解!!!」」」
「スバルはアタシと来い!!待機命令出しても突っ込んでいきそうだから仕方ねぇな、アタシが担いでいく。ツヴァイ、ユニゾン後一気にかっ飛ばす。
此処まで来ればフルに飛ばしても戦闘に影響が出るほど魔力は減らない・・・スバル、目回すなよ!?」
「「了解(です!)」」

「はぁ!!」
ガジェットⅢ型のカメラアイ目掛けて電磁ランスを突刺す、そして間髪いれずに体内に電流を流し込み、直ぐに引き抜く。
機能を停止した事を確認する事もせずに、ガンダムは先ほどのⅢ型を踏み台にしジャンプ、上空でバーサルソードを振り被り、落下と同時に振り下ろした。
目標は真下にいる別のⅢ型、だがガジェットも直ぐに巨大なケーブルアームを頭上で交差し、受け止める体制をとる。
だがガンダムはそんなガジェットの行動を気にする事無く、剣を振り下ろした。
バーサルソードはケーブルアームにぶつかり、甲高い音を響かせる。最初は剣の猛攻を停止させるがそれも一瞬、
直ぐにケーブルアームはガードしていたⅢ型諸共真っ二つに切り裂かれた、その直後、先ほど電磁ランスで突刺したⅢ型、そして今真っ二つにしたⅢ型、その二体が同時に爆発した。
その結果、至近距離にいたガンダムは二体分の爆煙と爆風に包まれることになる。突如目標が煙に巻かれたため、Ⅲ型の後ろで待機していた多数のⅠ型がガンダムの姿を捉えることができない。
そのため、数機のⅠ型が爆煙に包まれている爆心地へと近づく、そしてある程度距離をつめた直後、接近していたⅠ型全機全てが、
ガンダムが爆煙の中から振るった大降りの横一文字の一閃により綺麗に上下に分断された。

振るった直後襲い掛かるレーザーの雨、その攻撃を咄嗟に力の盾で作られたショルダーシールドで防ぎながら
後方へと飛び、レーザーの射程外まで距離をあける。
着地直後、体の力を抜き呼吸を整える。だが、その僅かな休息も与えまいと、ガジェットは武器の射程内まで距離をつめ始めた。
その光景にガンダムは渋い表情をしながらも、直ぐに武器を構え、迎え撃つ体制を整える・・・だが、
「・・・・多いな・・・・」

この数、流石にすべてを接近戦で相手にするのは骨が折れる、だが魔法が無効な以上、接近戦で戦うしか方法は無い。
現に数回『ムービーサーベ』を放ったが、AMFなる防御手段で無効化されてしまった。
それでも『ファン』や『ファンネル』などの魔力によって雷を作り、それで攻撃をする戦法は効果があった、攻撃する方法が魔力の塊ではなく、雷そのものだからであろう。
だが、敵もそれらに対して対策を施しているのだろう。装甲表面に耐電対策を取っているらしく中に直接流すのならまだしも、正面からの攻撃では効き目が薄い。
『メガファン』や法術士ニューの様な魔法スキルがあれば問題は無いのだろうが、自分の魔法はサポートや牽制程度の能力しか無い。

「(熱そのもので攻撃するソーラ・レイなら・・・だめだ発動までの隙が多すぎる。広範囲に攻撃が出来、魔力攻撃では無い攻撃方法・・・あれしかないな)」
右手に持ったバーサルソードを腰の鞘に仕舞い、代わりに左腕に持っていた電子ランスを右腕に持ち帰る。
今ガンダムがやろうとしているのはソーラ・レイと同等・・・・否、それ以上の必殺技。使用後の体力の消耗が激しいため、
そして敵の援軍の可能性も視野に入れていたため、使おうととはしなかったが、半分近く数を減らしても増援は見受けられない。
正直このままでは戦い続けてもキリが無い、ならば一気に全てを破壊するまでだ。
「はぁああああああああああああ!!!」
体中の魔力を一気に高める。ガンダムの体があふれ出る魔力で光り輝き、彼を中心に風が吹き荒れる。
そして正面、迫り来るガジェットの大群を見つめながらゆっくりと電磁ランスの切っ先を向ける。
電磁ランスからはまるで大量の雷を溜めているかの様に彼方此方から激しいスパーク音が響き渡る。
そして徐々に電磁ランスの周りには風が集まり、包み込むかの様に荒れ狂いながらも定着する。まるで雷で荒れ狂う電磁ランスを抑え込むかの様に。
電磁ランスをゆっくりと引き、衝撃に備え、下半身に力を入れる。
その直後、射程圏内に入ったのだろう、進行していたガジェットが攻撃を再開した
迫り来るレーザーの嵐、だがガンダムは怯まない、逃げない、ただ冷静に前方を・・・目標を見つめる。
そして、ガジェットの群れ目掛けて雷と風で荒れ狂った電磁ランスを突き、そして放った、自身の必殺といえる技を。
「トルネェエエエエエド!!スパァアアアアアアアアアアアアアアアアアアク!!!!」

482高天 ◆7wkkytADNk:2009/12/27(日) 21:38:20 ID:Kz8uUGxY
「そうか・・・・お前、すすかさんと知り合いだったのか・・・・それにガンダムにも会ってたとはな」
「はい、ガンダムさんはなのはさんと同じ位、私の中では憧れ、そして目標です・・・ああ!勿論ヴィータ隊長達もですよ!!」
「・・・・・後付け設定ありがとな。まぁ、気を取り直して、さっさとガンダムの助太刀に・・・!!?」
話しきる前にヴィータは突如止まり、何か様子を伺うように前方を見つめる。
突如止まったヴィータにスバルは何事かと思いながらも、理由を聞こうと口を開いた瞬間、二人は突如発生した強風に襲われた。
「ん・・・なろぉ!」
直ぐにバラスを取り体制を立て直す、そして突然発生した強風の正体を探るべく、前を見る。その瞬間3人は目を疑った。
「な・・・なんだありゃ」
「たつ・・・まき・・・?」
「(す・・・すごいですぅ・・・)」
全てを飲み込むかの様な巨大な雷を含んだ竜巻、それは突如現われ、その存在を嫌でも周囲にアピールする。
竜巻の予兆など全くなかった、そうなると故意に・・・・魔力により作られた者だろう。
そんな事が出来るのは彼しかいない、今から助けようとす騎士にしか。
「ガンダムの仕業か?・・・スバル、頼む」
「わかりました!」
早速スバルは瞳を戦闘機人モードに変更、望遠レンズを駆使し、竜巻が発生している周辺を検索する。
先ず目に付いたのが竜巻に飲み込まれるガジェット達、スバルがその姿を確認した直後、次々と爆発を起こした。
中の機械系統をズタズタにされ爆発する機体。竜巻内の加速により互いにぶつかり粉々になる機体、破壊され方は様々だが、行き着く先は機能停止という所は共通している。
そして次に周囲を捜索する。もうガジェットの絶滅は時間の問題だろう、それならガンダムを探す事に専念できる。
だがその必要は無かった、直ぐに見つかったからだ。
自然と目を見開き、その姿を思い出の中にいるガンダムと照らし合わせ確認する。
だが後姿なので完全に確認する事ができない。せめてこちらを向いてくれればと願うが、その願いは思ったより直ぐに叶った。
周囲に敵がいないか確認しているのだろう、左右を見渡した後、後ろを・・・・・ヴィータ達から見れば正面を向く。
その表情を、瞳を見た瞬間、スバルは確信した、彼が自分の知っているガンダムだと。そうなるといてもたってもいられない。
「ヴィータ副隊長!すみません!!」
「っておい!スバル!!」
ヴィータに謝しながら彼女の手を振りほどき、地面へと着地。直ぐにマッハキャリバーを起動し、砂煙を上げながら自分が出せるスピードで駆け抜ける。
早く会いたい。今の自分を見てもらいたい。今のスバルはその気持ちだけで動いていた。自然と顔も綻び、瞳からは嬉しさのあまりか涙も流れる。
だがそんな顔は見せたくは無い、手で荒く顔を拭き、顔を引き締めた。
「飛ばすよ!マッハキャリバー!!」『All right』

「これで・・・・終わりか?」
自身が起こした竜巻が消えたのを確認したガンダムは改めて周囲を見渡す。そこにあるのはガジェットの残骸のみ、
機動をしている機体所か、満足に原型を留めている機体すらない。
何度か周囲を見渡したが残骸が散らばっているだけであった
「・・・・・この大地を汚してしまったな・・・・」
広範囲に撒き散らされたガジェットの残骸を見つめながら申し訳無さそうに呟く。
もう少しマトモな撃退方法があったのではないかと内心で反省しているその時、二つの接近する魔力反応に気が付く。
一つなそれなりに離れた距離にあり、此処では『魔力を持った何か』としか分からない。
だがもう一つはそれなりに高い魔力だというとは分かる、それはこちらへ猛スピードで接近しており、肉眼でも近づくその姿を確認する事が出来た。
「敵か・・・・いや、違う」

483高天 ◆7wkkytADNk:2009/12/27(日) 21:41:29 ID:Kz8uUGxY
敵だと思ったが殺気や敵意をまったく感じない、だが、真っ直ぐ自分目掛けて突っ込んでくる。
あの速度からするに自分目掛けて突撃でもする気なのだろうか?だがやはり敵意も殺気も感じられない。
そう考えている内に、徐々に近づいている人物の姿がはっきりと見えてくる。体系などからして10代前後の少女だろう・・・否、この少女はどこかで見たことがある

         そうだ・・・・初めて会ったのは本局の廊下だった、一人迷子で泣いていたあの時の少女・・・その名は

「・・・スバル・・・・・スバル・ナカジマ!?」
その呟きが聞こえたのだろう。スバルは嬉しそうに微笑みながらスピードを落とさずにガンダムに抱きついた。
ちなみにスバルはスピードを一切落としてない。それはすなわちガンダムに抱きつくと言うよりガンダムに強烈な体当たりを食らわしているのと同じだった。
もしガンダムが身構えていなかったら二人は抱き突いたまま大地を豪快に滑っていただろう。
だがガンダムは抱きつかれる瞬間、自身に強化魔法を掛けると同時に両足に力を入れる。
その行為が結果的に『二人で仲よくスライディング』という笑えない状況を作り出さずに済み、『再開を祝う少女とMS族』という状況を作り出した。

「ガンダムさん!!ガンダムさん!!」
何度もガンダムの名を叫びながら彼を抱きしめるスバル。
ガンダムもまた、突如現われたスバルとの再開を喜ぶように、ゆっくりと彼女を抱きしめた。
時間にして一分弱、ゆっくりとガンダムがスバルの体を話し正面から彼女を見つめる・・・見違えるほどに成長した彼女を
「・・・スバル・・・・・本当に大きくなったね・・・・・逞しく、そして美しく成長した」
『美しく成長した』といわれた瞬間スバルは顔を真っ赤にし、てれを隠すかの様に視線を下に向ける。
彼女もストライカーである以前に一人の少女、その様な事を言われて嬉しくない筈が無い・・・・だが、
「だが、本当に大きくなった・・・・・僅か2年でここまで・・・」
その発言にスバルは現実に戻される、ガンダムなんと言った?二年?そんなはずは無い、彼が旅立って絡もう既に・・・・
スバルは少し怒りながらガンダムの間違いを指摘する、そして、あっさりと真実を話した。

               「何言ってるのガンダムさん!!ガンダムさんが旅立って、もう10年経っているんだよ」





こんばんわです。投下終了です。
読んでくださった皆様、感想を下さった皆様、ありがとうございました。
職人の皆様GJです。
さて、SDXバーサルとactstaスバルで遊ぼう
次は何時になるのやら

長くて申し訳ありません、代理投下、お願いいたします。

484魔法少女リリカル名無し:2009/12/27(日) 21:48:13 ID:ZvZOL9Lg
これが…さるさんか…
ID:4RiDx0PLですが考え無しにやってたらさるさん食らいました
見てる方おられましたら>>479から続きお願いします

485魔法少女リリカル名無し:2009/12/27(日) 22:56:13 ID:ZvZOL9Lg
間が開いてしまいましたが、代理投下の方終了です。

486高天 ◆7wkkytADNk:2009/12/27(日) 23:36:01 ID:Kz8uUGxY
>>485
代理投下、ありがとうございました。

487レザポ ◆94CKshfbLA:2009/12/29(火) 18:28:51 ID:ZgCeEqU6
今晩は、なんか規制されているのでこちらに投下しておきます。

488レザポ ◆94CKshfbLA:2009/12/29(火) 18:30:48 ID:ZgCeEqU6
 ゆりかごに突入した機動六課フォワード陣はそれぞれ割与えられた任務をこなす為に分散した頃、
 一足先にゆりかごに戻っていたレザードはモニター越しに機動六課の動きを確認していた。
 
 一方スカリエッティもまたモニターで機動六課の動きを把握してると、自分の下へフェイトが向かって来ている事を確認、
 徐に席を立ちデバイスに手を伸ばしフェイトを向かい入れる準備を始めるのであった。
 
 
                     リリカルプロファイル
                       第三十六話 命
 
 
 フェイトは地図を頼りに通路をひたすら飛び進み、その間に防衛用のガジェットIII型の猛攻に会うが、
 バルディッシュをハーケンフォームに切り替え縦横無尽に飛び回りつつ次々に撃破、
 何事も無かったかのように先に進む中で先程の戦闘で体に異変を感じるフェイト。
 
 「体が……軽い?!」
 
 ゆりかご内は高濃度のAMFで満たされており、普通の魔導師では魔力を使用するのが困難な程の濃度なのであるが、
 フェイトの体、主に魔力に掛かるハズの負荷がまったく無く、本来の魔力のまま移動出来ているのだ。
 
 その事に疑問を感じるフェイトであったが、今はスカリエッティを確保する事を優先しようと考え、
 先に進むフェイト、その腰には神から貰った杖が淡く水色に輝いていた。
 
 暫く先に進み大きな広場に辿り着いたフェイトの前に、目的の人物であるスカリエッティが姿を現す。
 その右手には魔剣グラムが握られており、左手には指先が鋭いグローブ型のアームドデバイスを付けられていた。
 
 「よく、ここまで乗り込んできたね」
 「ジェイル・スカリエッティ!アナタの野望もここまでです!!」
 
 大人しく逮捕されれば悪いようにはしない、そう警告するがスカリエッティは不敵な笑みを浮かべて首を横に振る。
 計画は既に引き返す事が出来ない所まで来ている、それに管理局に媚びを売る事など出来ない、
 
 故に最後まで抵抗を続ける、そう言って刀身をフェイトに向けて構えると、
 フェイトもまたバルディッシュを構え対峙し始め、暫く静寂が辺りを包む。
 
 先ずはフェイトが先手を打ちソニックムーブを起動させてスカリエッティの右後ろを取り躊躇無く振り抜く、
 だがスカリエッティは既にフェイトと目線が合っており、フェイトの一撃を右の刀身で軽々と受け止める。
 
 その反応にフェイトは驚く表情を浮かべていると、スカリエッティはそのまま振り抜きフェイトを吹き飛ばすが、
 フェイトは姿勢を立て直し床を滑るように着地、すると目の前にはスカリエッティが既におり、
 刀身を横に左に薙払うような姿勢を見て、フェイトはブリッツアクションを用いて手の振りを早めスカリエッティの一撃を受け止めた。
 
 バルディッシュの魔力刃から魔力素が火花のように散り鍔迫り合う中で、このままだと先程と同様に弾かれると考えたフェイトは、
 自ら後方へと飛び距離を開けると左手を向けてサンダースマッシャーを撃ち鳴らす。
 
 ところがスカリエッティは悠々と右に回避して難を逃れると、三日月型の衝撃波を撃ち出し、
 フェイトはディフェンサーを張り衝撃波を受け止めると、その隙に後ろへと回り込み、
 背中に衝撃波を浴びせ上空へと吹き飛ばすが、フェイトは姿勢を立て直し踏みとどまる事で天井との激突を免れた。
 
 そしてフェイトはスカリエッティが思っていた程以上の実力者に甘く見ていたと反省し、
 ハーケンフォームからザンバーフォームに切り替え身の丈以上の魔力刃を肩に構えると、
 
 ソニックムーブにて接近、唐竹割りのようにして振り下ろすが、スカリエッティは刀身を横にして受け止め、
 そのまま薙払い吹き飛ばし更に衝撃波を放つが、衝撃波は真っ二つに切り落とされる。
 
 そしてフェイトの左足が床に着地すると間髪入れずに突きの構えで襲い掛かるが、スカリエッティは左手をフェイトに向け、
 指先から赤い魔力糸を作り出しザンバーの魔力刃を縛り付けると、そのまま魔力刃を破壊する。

489レザポ ◆94CKshfbLA:2009/12/29(火) 18:31:57 ID:ZgCeEqU6
 
 この魔力糸はレザードが使用するプリベントソーサリーをヒントに、AMFに近似したエネルギーを纏わせる事により、
 魔法を阻害もしくは拡散させる効果を持ち破壊するには、
 魔力拡散能力以上の魔力か鋭利な物理攻撃などが必要とされる代物なのである。
 
 話は戻り魔力刃を破壊されたフェイトであったがすぐに刃を形成、その場で右回転しながら振り抜こうとした、
 だがスカリエッティは引き裂くように左手を振り下ろし、その軌道には魔力糸が張られフェイトの魔力刃を防ぐと、
 
 すぐさま右の刀身での振り下ろしで魔力刃を破壊、更に切り替えて右からの薙払いによってフェイトを吹き飛ばす。
 だがフェイトは足を踏ん張り衝撃に耐えると、驚いた表情を浮かべつつ睨みつけていた。
 
 「くっ…まさかここまで出来るなんて……」
 「当然、何せ初期のナンバーズの三人を鍛えたのはこの私なのだから」
 
 初期のナンバーズとはウーノ・ドゥーエ・トーレの三名で、ウーノの冷静な判断と情報処理能力、ドゥーエの冷酷で残忍で狡猾な性格、
 そしてトーレの戦闘能力とセンスはスカリエッティの指導により齎らされたモノで、
 
 これらの能力は元々からスカリエッティ自身が持ち合わせていたのである。
 つまりスカリエッティは三人のナンバーズの師匠という立場でもあったのだ。
 
 「そんな…一介の研究者が――」
 「何を言ってるんだい?君を“造った”あの女も相当な実力者だったと聞くよ?」
 
 プレシア・テスタロッサ、確かに彼女は研究者になる前は優秀な魔導師であった、
 それはフェイト自身“身を持って”体験した為に理解は出来ていた。
 だがそれを踏まえてもスカリエッティの実力は相当なものである、それこそ今のフェイトに対応できる程に…
 
 その事を踏まえて改めてフェイトは気を引き締めカートリッジを一発使用して魔力刃を復活させて対峙、
 まずはソニックムーブでスカリエッティの懐に入ると下から上に切り上げるが、
 
 スカリエッティは左手で受け止め、指先から赤い魔力を放ち魔力刃を破壊すると、
 右の刀身で左から右へ薙払い衝撃波を放つが、フェイトはその場で前宙して衝撃波を躱すと、
 ザンバーフォームをライオットブレードに切り替えそのままの勢いに乗り唐竹割りを振り下ろす。
 
 しかしスカリエッティは右の刀身に魔力を込めてフェイトの唐竹割りを受け止め、鍔迫り合いにより魔力素が火花のように散る中、
 スカリエッティは左手を床に向け魔力糸を突き刺し床を介してフェイトを囲うようにして糸を張り巡らせ檻を造る。
 
 そして一定の距離を開けフェイトを縛り付けようと左手を向けて五本の糸を伸ばしたのだが、
 フェイトはライオットブレードを振り抜き檻を細切りにして更に糸も切り裂き脱出、
 上空に上がるとスカリエッティに左手を向けてカートリッジを二発使用、トライデントスマッシャーを撃ち抜くが、
 
 スカリエッティは魔力糸を螺旋を描くのように伸ばし巻き付かせると、
 トライデントスマッシャーは拡散して消滅、するとフェイトは床に降りてスカリエッティに迫るが、
 
 床から現れた魔力糸に阻まれライオットブレードにて糸を薙払い切り裂いていると、
 スカリエッティはフェイトの後ろをとり刀身を振り下ろした。
 
 だがフェイトはすぐさま振り向きスカリエッティの一撃を受け止めるのだが、
 その一撃は誘導で本命の魔力糸が床から姿を現しフェイトに巻き付き、
 
 フェイトを振り回し壁や床、天井などに叩き付け、そしてもう一度床に叩き付けると、
 壁や床が崩れ辺りには土煙が舞い、その中で土煙の中から魔力糸を断ち切ったフェイトが飛び出し、
 
 スカリエッティは再度魔力糸を五本放つが、次々に断ち切られ更にフェイトが押し迫りカートリッジを二発使用、
 フェイトは強化された右袈裟切りを放つが、スカリエッティは右の刀身を盾にして受け流しながら右回転、その後下から上に切り上げる。

 だがフェイトは半歩下がってこれを回避、逆に左の袈裟切りを放つが、
 今度はスカリエッティが半歩下がって回避し、突きの構えで襲いかかる。

490レザポ ◆94CKshfbLA:2009/12/29(火) 18:33:02 ID:ZgCeEqU6
 
 ところがフェイトは右に回転しながら回避して後ろをとりそのまま左に切り払うが、
 スカリエッティは左手でライオットブレードを受け止め、指先が赤く光り出し、
 魔力刃が破壊されると考えたフェイトはとっさにソニックムーブで後方へと回避、
 だがスカリエッティは左手を床に向け糸を張り巡らせフェイトの後を追いかけるかのように次々に床や壁から魔力糸が姿を現し、
 フェイトはソニックムーブで縦横無尽に回避しつつライオットブレードにて糸を切り裂き難を逃れていた。
 
 だが魔力糸は更に数が増えまるで蜘蛛の巣のように張り巡らしており、
 動きに不自由さを感じていると、後方から三本の魔力糸が襲いかかり、
 フェイトは振り向き細切りにするが左右からの糸には気がつかず、
 ライオットブレードごと体を縛り付けそのまま床に落下していった。
 
 「無様だね」
 「くっ……」
 
 そう一言漏らして狂気に満ちた笑みでフェイトを見下ろすスカリエッティに対し、
 苦虫を噛みしめるかのように険しい表情を浮かべながら睨み付けるフェイトであった。
 
 
 場所は変わり、フェイトがスカリエッティと戦闘を始める頃、はやて・ヴォルケンリッターチームは、
 押し寄せるガジェットの波を押し退けて一路動力室へと進み続けていた。
 
 そして動力室に辿り着きその大きさにヴィータは目を丸くして見上げていると、
 はやては急かすようにして動力炉を破壊しようとした、
 すると目の前からベリオンが立ちふさがるようにして姿を現し、
 その周りにはガジェットが四体おり、その風貌にヴィータの目の色が変わる。
 
 「あっアイツらは!!」
 「知っているのか?ヴィータ」
 
 シグナムの問い掛けにグラーフアイゼンを握る手が震え、奥歯を噛み締め答えるヴィータ、
 忘れるハズがない…八年前なのはが撃墜されたあの事件、その際になのはに深手を負わせたあの兵器の事は…
 あの頃とは若干容姿が変わってはいるが、基本的な部分は変わってはいない為直ぐに判断出来たのだ。
 
 ガジェットIV型、ガジェットの元型を利用して造られたガジェットで、元型のバリアシステムに加え接近・射撃共に強化された代物である。
 そんなガジェットIV型の姿を見たヴィータは、右のこめかみに血管を浮かばせて、
 グラーフアイゼンをラテーケンフォルムに変えると大きく振りかぶり襲い掛かった。
 
 「テメェェェェェラァァァァ!!」
 
 飛び出したヴィータを制止しようとシグナムは手を伸ばしたが届かず、四体いるガジェットの内の一体に目掛け振り下ろすが、
 ガジェットはバリアを張り攻撃を防ぐ、するとグラーフアイゼンから薬莢が一つ飛び出し、
 先端のドリルが回転し始めバリアを削り火花を散らせていると、
 ベリオンがヴィータに迫りマイトブロウが掛かった右拳が直撃、
 ヴィータはまるで弾丸のように吹き飛ぶが、その後方で待機していたザフィーラの手によって受け止められる。
 
 「大丈夫か?」
 「…クソッ!!」
 「…コレヨリ、侵入者ヲ排除シマス」
 
 ベリオンの機械音のような声が辺りに響き渡り構え始めると、はやて達も構え対峙、
 するとベリオンは四体いるガジェットの丁度中心に陣取り、
 まず前方に配置されているガジェット二体からエネルギーの弾丸がマシンガンのように次々に撃たれ、
 
 ザフィーラが前に躍り出て障壁を張り攻撃を防ぐと、ザフィーラの右からシグナム、左からはヴィータが飛び出し、
 後方にいるはやてがフリジットダガーで援護射撃を行った。

491レザポ ◆94CKshfbLA:2009/12/29(火) 18:35:05 ID:ZgCeEqU6
 すると後方二体のガジェットがフリジットダガーを撃ち落とし、
 前方で撃ち鳴らしているガジェットと共にバリアを張りシグナムとヴィータの攻撃を受け止める。
 
 一方攻撃を受け止められた二人は高々と上空へ距離を置くと、四体のガジェットに向けて、
 シグナムは連結刃によるシュランゲバイセン・アングリフ、ヴィータは巨大な鉄球によるコメートフリーゲンを撃ち出し、
 鉄球は砕け拡散してバリアを打ち付け、魔力の乗った連結刃は這うようにしてバリアを切り裂こうとしていた。
 
 するとバリアの中心にいたベリオンが飛び出し二人の間に立つと、ヴィータを左の裏拳で吹き飛ばし、
 シグナムの連結刃を使う際に生じる動く事が出来ないという弱点をついて床に叩き付けるように右拳を振り下ろした。
 
 しかしシグナムは途中で体を捻って姿勢を正し足から床に着地、
 ヴィータもまた足にフェラーテを纏い、踏ん張るようにして止まり壁との激突を防いだ。
 
 一方ではやてはシュベルトクロイツを剣に変えて本来の目的である動力炉に向けてに飛竜一閃を撃ち出すが、
 ベリオンが行く手を塞ぎバリア型のガードレインフォースを張り防いだ。
 
 「そう甘かないか……」
 
 はやては一言漏らして舌打ちを鳴らしベリオンの防御能力を分析していた。
 ベリオンのバリアは飛竜一閃程度の威力では亀裂を生じさせる事すら出来ない程に強固、
 恐らくはザフィーラの障壁と大差はないだろう、それを踏まえて新たな作戦を練り始める。
 
 その頃ヴィータとシグナムはシャマルの下へ向かい、フィジカルヒールにて体力を癒し次の戦いに備え、
 互いに能力を分析・対策を練り上げながら第二陣を開始し始めた。
 
 
 一方で捕縛されたフェイトは必死に糸からの脱出を試みていたが、
 スカリエッティは魔力糸に力を込め動きを封じ、自分の目線まで持ち上げると狂気に満ちた表情を浮かべた。
 
 「流石の君でもこの状態では大した抵抗も出来ないようだね」
 「アナタは…新たな世界を創り出してどうするつもりです!まさか神にでもなるつもりですか!!」
 「私が神に?フフッ…フハハハハハ!!!!!!」
 
 スカリエッティは高笑いを上げてフェイトの指摘を一蹴する、
 自分はあの評議会のような愚考など持ち合わせてはいない、
 他の目的があり、その目的を果たす為にはミッドチルダは邪魔な存在であると語る。
 
 「なら…アナタの目的って!?」
 「シンプルなものだよ、“私”が“私”として生きられる事さ…」
 
 スカリエッティの別名は無限の欲望、評議会が手にするアルハザードの技術で造られた存在、
 つまりは彼等の“道具”その為に様々な研究を行って来た、自分の身体能力もその副産物に過ぎないと。
 
 だが自分は考え始める、なぜ自分だけこれほど理不尽な扱いを受けなければならないのか…
 生まれが違う…ただそれだけで造られた“者”はただの“物”扱いになる…同じ“命”なのに…
 
 「君だって経験あるだろう?理不尽な扱いを…」
 
 スカリエッティの言葉に顔を曇らせるフェイト、彼女もまた母から理不尽な扱いを受けていたからである。
 造られし者は“平等”に不当な扱いを受ける、だからこそ自分は立ち上がった、造られし者が普通に生きられる世界を構築する為に、
 
 しかし…もし世界を構築したとしても管理局は黙ってはいないだろう、彼等は目的の為ならば管理外世界すら足を運ぶ存在、
 そして管理局は評議会が創り出した組織、スカリエッティにとっては枷と言っても過言ではなかった。
 
 つまり評議会そして管理局と言う枷を断ち切る事で真の自由を手に入れられる…それが今回の目的、
 そしてレザードの手によって三賢人…否評議会は抹殺された、
 後はこの世界を媒介に新たな世界を構築するだけであると高々と語る。

492レザポ ◆94CKshfbLA:2009/12/29(火) 18:36:14 ID:ZgCeEqU6
 
 「そんな事が本当に可能だと――」
 「可能さ、レザードによって齎されたこの魔法技術を扱えば!!」
 
 そう言って刀身を掲げると頭上から巨大な球体型の魔法陣が姿を現す、
 この魔法陣はレザードの世界に存在する世界樹の名を取ってユグドラシルと言う。
 
 本来、世界創造には莫大な魔力と強力な媒介を必要とし、
 レザードは世界を支える四宝の一つグングニルを媒介にした事により世界を構築した。
 だがこの世界にはグングニル程の物が存在しない為にそれに準する物、
 つまりはこの世界ミッドチルダが必要という訳なのである。
 
 だがこれだけでは世界を創る事は出来ない、これを実行する者が必要である、
 その役目がチンクである、だがそれを実行するには先ずベリオンがゆりかごを融合してミッドチルダを破壊、
 
 次にチンクがこの魔法陣で原子配列変換能力を強化させて魔力素に変え、更にマテリアライズにて新たな世界として再構築する、
 こうして新たな世界、ベルカが完成すると説明した。
 
 「これによって私達の――楽園が完成する!!」
 
 其処にはクローンだから人工生命体だから戦闘機人だからなどの生まれによる差別など無く、等しく生きられる世界であるのだという。
 そう言って両腕を大きく広げまるで崇めるようにして、天を仰ぎフェイトに背を向けて宣言するスカリエッティ。
 
 「そう私は造られた者の為に戦っているのだ!現状を素直に受け入れた君とは違うのだよ!」
 
 管理局に縛られその苦しみから逃れる為、自分と似た境遇の人達を集める事で癒し、
 あまつさえ彼等を駒にする事により、自分の不満や欲求を解消する。
 
 それはまさに自己満足による今の状況からの逃げであるとフェイトに左人差し指を向けて、
 断言するスカリエッティ、一方でフェイトは俯き何も答える事が出来ないでいた。
 すると―――
 
 『そんなことはありません!!』
 
 二人の重なった声をきっかけにフェイトのモニターが突然開き、
 其処にはフリードリヒに乗ったエリオとキャロが力強い瞳で見つめていた。
 
 「フェイトさんは逃げてはいない!今も必死に戦っています!!」
 
 確かに今の世界の情勢は造られた者達にとってつらい世界である。
 だがフェイトはそれと真正面に向き合い必死に模索してきた。
 
 結果、自分と似た心境の人達を集め少なくとも今を生きる事が出来るようにしていこうと言う考えに至り、
 いずれ造られた者達も安心して暮らしていける世界を共に歩んでいく、
 その考えに賛同したから今の自分とキャロがいると力強く断言するエリオ。
 
 「今の世界に絶望して…自分の思い描く世界に逃げ込む、逃げているのはスカリエッティ!アナタです!!」
 
 現状を受け入れず、類い希なる頭脳がありながらも変えようともせず、
 ただ非難し否定し消し去り新たな世界に縋る、まさに負け犬ともいえる発言であるとキャロが答える。
 するとスカリエッティはモニターに目を向けて話始めた。
 
 「では君達は楽園に興味がないと?」
 「当然です!僕達は既に自分の“拠り所”を見つけたんですから!!」
 「ふむ…それは残念だ」

493レザポ ◆94CKshfbLA:2009/12/29(火) 18:36:50 ID:ZgCeEqU6
 話は平行線のままスカリエッティは肩を竦め理解しがたいといった表情を浮かべる中で、フェイトは二人の言葉が心に響いていた。
 …二人は十分に成長している、機動六課の隊舎が無くなった時、落ち込んでいた二人がここまで力強い意志を持った、
 恐らく共に苦難を乗り越える事により、鍛え上げられたのだろう…
 今まさに二人は一人前として自分の足で立ち歩み始めたのだ。
 
 そんな二人の姿を見たフェイトはこのまま無様な姿を見せ続ける訳にはいかないと自分を奮い立たせ、
 真ソニックフォームを起動、溢れ出した魔力で魔力糸を綻びさせると、
 両手に握られているライオットザンバー・スティンガーにて糸を細切れにして呪縛から逃れた。
 
 「まだそれだけの力を宿していたとはね」
 「…私はもう迷わない!!」
 
 まるで揺らいだ自分を叱咤するように決意を口にするとスティンガーを水平にして突きの構えをとると一気に加速、
 一瞬にしてスカリエッティの懐に入ると右のスティンガーを振り下ろす。
 
 だがスカリエッティは振り下ろしに合わせて後方へ飛ぶように回避、前髪を掠める程度に終わらせると、
 反撃とばかりに左手から魔力糸を伸ばし捕縛しようとしていた、
 がしかしフェイトは左のブレードで魔力糸を細切れにしながら徐々に迫って来た。
 
 「もはや魔力糸は意味を成さないか……」
 
 するとスカリエッティは左のデバイスの出力を上げ始め、先端部分に赤い魔力による鋭い爪が形成、
 それはまるでドゥーエの持つピアッシングネイルを彷彿とていた。
 
 そしてフェイトに押し迫り左爪で右のブレードを掴み魔力刃を破壊すると、フェイトはすかさず左のブレードで左に払うが、
 スカリエッティは右の刀身を逆手に持ち替えフェイトの攻撃を受け止めつつ後方へ飛ぶようにして下がり、
 右足で着地した瞬間、スカリエッティは高速移動にてフェイトの背後をとると右の刀身を元に持ち替え振り下ろす。
 
 しかしフェイトはソニックムーブにて加速して回避、スカリエッティの一撃が空を切ると、
逆にフェイトが背後をとり、再形成した右のブレードを振り下ろすが、
 スカリエッティは振り向きながら下から上への切り上げに切り替えフェイトの攻撃を防いだ。
 
 すると今度はスカリエッティの持つ刀身に魔力が覆われ、力強く振り抜きフェイトを上空に吹き飛ばすが、
 フェイトは空中で姿勢を立て直し二本のブレードを交差させて再びスカリエッティに攻撃を仕掛ける、
 
 だがスカリエッティは左の爪でフェイトのブレードを掴み取り魔力刃を破壊しようとしたが、
 フェイトはカートリッジを一発使用して魔力刃を強化させて破壊を防いだ。
 
 一方で魔力刃を破壊出来ないと判断したスカリエッティは魔力刃を掴んだまま床に向けて投げつけるが、
 フェイトは宙を一回転して足から床に着地して、スカリエッティに向けて構えていると、
 既に後ろに回り込んだスカリエッティがフェイトの背中に右の回し蹴りを叩き込んで吹き飛ばし、
 続けて左の爪から魔力糸を作り出しフェイトを縛り付けようと迫っていた。
 
 だがフェイトは動じる事無く左のブレードを逆手に持ち空中で回転、魔力糸をバラバラに切り裂くと、
 床に着地してそのままスカリエッティ目掛けて直進、一気に払い抜けるとスカリエッティはその衝撃で宙を舞った。
 
 ところがスカリエッティは錐揉みしながらも的確にフェイトに向けて三発衝撃波を放ち、
フェイトは左のブレードを元に持ち替えて衝撃波を撃ち落としていると、スカリエッティは床に着地、
 
 それを見たフェイトはすぐさま近づき左のブレードを振り払うが左の爪で受け止められてしまう。
 するとフェイトは右のブレードを左のブレードに合わせライオットザンバー・カラミティに切り替え威力を高めるが、
 
 今度は魔力を込めた右の刀身を盾にして攻撃を受け止め、
 お互いの攻撃により魔力素が火花のように散る中でスカリエッティは言葉を発する。

494レザポ ◆94CKshfbLA:2009/12/29(火) 18:38:43 ID:ZgCeEqU6
 「速度は互角…ならば!!」
 
 するとスカリエッティは刀身に力を込め徐々にフェイトを押し始める、
 一方でフェイトはスカリエッティの押しを必死に堪えていたが、
 その勢いは止まらず床を削りながら追いやられ始めていた。
 
 「くぅぅぅぅぅ!!」
 「さあ!そのデバイスごと砕け散るがいい!!」
 
 そう言って更に押し始め魔力刃にも亀裂が生じ始め歯噛みするフェイト、
 …このまま負けてしまうのか…この戦いに負けると言う事は即ち全てを否定されると同義である。
 すると頭の中からエリオやキャロの姿が浮かび上がる、二人は自分を信用してここまで来てくれた。
 自分を“拠り所”にしてくれた、そんな二人の思いを踏みにじる訳にはいかない!
 
 「負ける訳には…いかないんだぁぁぁぁ!!!」
 
 フェイトの魂を振り絞るような叫びと共に力を込め始める、
 すると腰に添えてあったアポカリプスが輝き出し全身に青白い魔力が纏うと、
 途端に体が軽くなり流石のフェイトも戸惑いを見せる。
 
 そして青白い魔力はライオットザンバー・カラミティにまで包み魔力刃を強化し始め、
 勝機と睨んだフェイトは両足を踏ん張り腰をひねり大きく振り抜いた。
 
 一方でスカリエッティはフェイトの攻撃を受け止めようと両方のデバイスの出力を最大にした、
 だがフェイトの強化された魔力刃には適わず、左の爪とデバイスは無惨に砕け散り
 その身にフェイトの渾身の一撃を受け壁まで吹き飛ばされ、その場は砕け散り砂塵と化した瓦礫に覆われていた。
 
 そしてフェイトはゆっくりとその場に足を運ぶと土煙が落ち着き始め、
 両足を大きくひらいて座り込み頭を俯かせているスカリエッティの姿があった。
 するとスカリエッティの左指がピクリと動き出し意識がある事に驚くフェイト。
 
 「まさか…意識があるなんて」
 「……この剣の…おかげだが…ね……」
 
 そう言って右手に握られている魔剣グラムを見せる、
 魔剣グラムは神の力を受けた一撃に耐え抜き、折れるどころか傷一つついてはいなかった。
 
 「流石は…神の金属と言うべきか……」
 
 一方で左手に填められたデバイスは無惨にも砕け散りその姿すら確認が出来ない程であった。
 神の金属、オリハルコンを模した金属を材料にしたのだが、やはりオリジナルとは程遠いものであると痛感する。
 そして一通り自分の状態を確認したスカリエッティはモニターを開き、其処にはレザードの姿が映し出されていた。
 
 「どうしましたか?ドクター」
 「負けて…しまったよ……もう…動くこと…すらまま…ならない」
 「そうですか……」
 
 レザードは小さく答えるとその反応に少し笑みを浮かべるスカリエッティ……
 そして―――
 
 「私はもう…ここまでだ……」
 「そうですか…ならば――さようならです“スカリエッティ”」
 「――あぁ…さようならだ、レザード」
 
 そう言うとお互い軽く笑みを浮かべモニターを閉じそして目の前に立つフェイトを見上げる。
 一方でフェイトはスカリエッティの罪状を述べようとした瞬間、
 スカリエッティが刀身を振り上げ、警戒したフェイトは間を空けて対峙する。
 
 「まだ…抵抗する気ですか!」
 「あぁ…君達の思い通りにはならないよ!!」
 
 そう言って狂気に満ちた笑みを浮かべると刀身を逆手に握り返しそのまま自分の心臓を貫く。
 突然の行動に唖然とするフェイトであったが、直ぐに立ち直りスカリエッティに突き刺さる刀身を引き抜こうと近づくが、
 既に手遅れで口から大量に血を吐き出すと、狂気に満ちた笑みのまま力無く永遠の眠りについた。
 
 「何故…こんな事を……」
 
 フェイトはその場に座り込み、まるで自問するように問い掛ける。
 あれだけ命に拘った人が何故自害をしたのか…だ。
 
 
 
  …だがその問い掛けに答える者などいなかった……‥

495レザポ ◆94CKshfbLA:2009/12/29(火) 18:40:02 ID:ZgCeEqU6
以上です、スカリエッティ暁に死すってな回です。

今まで日の目に当たらなかったフェイトが大活躍!!
…いや、忘れていた訳ではありませんよ?


次はベリオン辺りを考えています。


それではまた。

496ラッコ男 ◆XgJmEYT2z.:2009/12/30(水) 19:02:07 ID:P5GXSkd.
遅れながら代理投下いってきます。

497ラッコ男 ◆XgJmEYT2z.:2009/12/30(水) 19:15:37 ID:P5GXSkd.
代理投下いってきました。ご確認ください。
最後の部分で改行エラーが出たので、勝手にいじってしまいましたが、
大丈夫でしょうか? おかしな部分がありましたら申し訳有りません。

498レザポ ◆94CKshfbLA:2009/12/30(水) 20:17:26 ID:zpnKXQEc
ラッコ男氏、代理投下確認いたしました。

お手数をおかけしました、ありがとうございます。

499レザポ ◆94CKshfbLA:2010/01/01(金) 01:40:38 ID:sFttdLCg
あけましておめでとうございます。

規制が掛かっているので外伝を一つ投下させて貰います。


終わったら上げておきます。

500レザポ ◆94CKshfbLA:2010/01/01(金) 01:42:39 ID:sFttdLCg
  ※この物語は本編とは一切関係無く、キャラの崩壊が著しく見られる為、
  苦手な方は閲覧しないことをお勧めします。
 
 
 
 1/1AM7:00
 …瞳に光が当たる、そう感じいつの間にか眠っていた事に気が付いたレザードは、体をゆっくりと起こして腱延びを始める。
 レザードが眠りについていた場所は食堂を改造して造られた居間の“ような”場所にあるコタツの中、
 何故このような場所が存在するのかというと原因はスカリエッティにあった。
 
 
            リリカルプロファイル外伝
              宴会…そして
 
 
 それは昨日の丁度今頃の時間帯であった、彼は何かを考えながら食堂で食事をしていたところ、
 ふとテレビに目を向け画面には正月行事の特集が取り上げられていたのだ。
 
  「 コ  レ  ダ  ! ! 」
 
 スカリエッティは目を輝かせ早速ウーノを呼び出し情報を収集、次にガジェットII型を使って材料の確保、
 その後ガジェットI型によって食堂を改修、人海戦術もとい機械戦術により一面は畳張り、
 各所に大小様々なコタツ、そして襖が敷居の様にして並び、
 
 各所のコタツの前にはブラウン管を装ったテレビ、そして何故かカラオケセットまで置かれていた居間を完成させる。
 いや…その風貌は何処かの大きな居酒屋か宴会場としか思えない造りであった。
 
 自分の予想の範疇を越えた造りに流石のスカリエッティも顎に手を当てて考え込む。
 この造りで他に出来る事といえば――あの行事があるじゃないか!!と考え、
 目を輝かせながら大きく頷くスカリエッティであった。
 
 「さあ!ここで一年を締め括ろうじゃないか!!」
 
 その日の夜、スカリエッティは襖を勢いよく開け其処には各コタツの上に鍋が置かれてあり、既に食べ頃といった様子で煮えていた。
 逆に他のナンバーズとルーテシア達そしてレザードは唖然とした表情を浮かべていた。
 どうやらスカリエッティは一年の締め括りとしてこのような場所を用意したのだという事らしい。
 
 「…相変わらず無駄な事に努力を惜しみませんね」
 「有り難う、それが私たる所以さ」
 
 レザードは皮肉を放ったつもりであったのだが右の親指を立て満面の笑顔で返され、
 やれやれといった表情で肩を竦めるとそれぞれ足を運び始める。
 
 そしてトーレとセッテ、チンクとノーヴェが正面から見て右側のコタツに入り、
 オットーとディード、ゼストとディエチが左の堀コタツへ、
 
 セインとウェンディとアギトが右奥のカラオケセットがある席に、
 ウーノとクアットロとスカリエッティ最後にレザードが丁度中央と呼べる席に座った。
 
 すると左奥にある襖がゆっくりと開き其処から御盆を持ったガジェットI型達が現れ、それぞれに飲み物を手渡し、
 全員に行き渡ったところでスカリエッティがガラスのコップを片手に立ち上がった。
 
 「では日ごろの感謝を込めて…乾杯!!」

501レザポ ◆94CKshfbLA:2010/01/01(金) 01:44:04 ID:sFttdLCg
 スカリエッティの手短い挨拶を皮きりにそれぞれ手に持ったコップを掲げ挨拶を交わすと飲み始める。
 
 
 
 
   …そしてナンバーズは勢い良く口に含んだ飲み物を吹き出した。
 
 
 
 
 ディエチの目の前にはルーテシアが座っていた為に、
 飲み物を顔に浴びルーテシアは小さく「冷たい…」と口にすると、ゼストと共に拭き始めるディエチ。
 一方でコップに接がれていた物に対し抗議する為、スカリエッティの目の前にはチンクが立っていた。
 
 「ドクター!これはどう言う事ですか!!」
 「何のことだね?」
 「トボケないでください!お酒!お酒ではないですか!!」
 
 宴会の席でお酒は付き物であると肩を竦めながら答えるスカリエッティであるが、
 チンクの言い分ではアルコールを大量に摂取して酔ってしまえば、万が一の時に対処出来ないと強く主張する。
 
 だがスカリエッティは何も問題は無いと簡単に答える、何故ならばこの日の為にナンバーズの体内には
 特殊な酵素をこっそりと備え付けてあり、緊急時の際にはその酵素によってアルコールを20秒で分解すると、
 まるで何処かの公安のサイボーグ辺りが採用していそうなシステムが設けられてあるのだという。
 
 「だから遠慮なく飲みたまえ!!」
 
 そう言ってスカリエッティは手を叩くと奥の襖からガジェットIII型がケースを運んでガジェットI型が次々にお酌を薦めるのであった。
 
 
 ――暫くして
 
 ルーテシア達はテレビに映っている大晦日の番組の一つバライティに釘付けとなっていた。
 その内容はある設定の中、様々な罠が仕掛けられていて、引っかかってしまうと尻を叩かれるという内容である。
 そして今回の題名は“笑ってはいけない機動六課”と言うものであった。
 
 《…と、このように死体なので何度叩いても大丈夫なのです》
 
 画面にはシャマルが両手にスリッパを持ってレジアスの顔を何度も力強く叩いている姿が映し出されていた。
 そんな中、ルーテシア達の中で酒を飲んでいるのはゼストただ一人で、
 かなり酒に強いのか次々にとっくりが空になっていったのである。
 
 一方で他のメンバーはオレンジジュースや炭酸飲料を嗜み、ディエチは鍋を取り分けていた。
 その中でディードとオットーはテレビにかじりつくかのように見入っており、
 オットーに至っては持っている箸が宙に浮いたままであった。
 
 「オットー、冷めちゃうよ?」
 
 ディエチの優しい言葉にオットーはゆっくりと取り分けて貰った具材の中から肉団子を摘み、
 口に運ぼうとした瞬間手が止まり、肉団子がコタツの上を転がっていく。
 
 奇しくもこの時テレビにはMASSIVE WONDERSを歌う水木一郎の姿が映し出されていた。
 歌詞の所々に「ゼェーーーッッ!!」とつけて歌う様は煩わしい部分がある。
 それはさておき、どうやらこの中でオットーが一番楽しんで見ているようであった。

502レザポ ◆94CKshfbLA:2010/01/01(金) 01:45:06 ID:sFttdLCg
 一方ウェンディとセインとアギトは終始カラオケ大会と化していた。
 その発端は彼女達が見ていた番組である、毎年大晦日恒例の紅白歌合戦を見ていたところ、
 
 声がフェイトと良く似た女性歌手が歌い始め、その歌声を切っ掛けに
 誰が一番巧いのかという方向に発展、いつの間にやらカラオケ大会と化したのだ。
 
 …とは言え彼女達の歌うジャンルは別々でセインは歌謡曲、ウェンディはアニソン、アギトは演歌と
 比較する事が出来ず結果、歌えれば何でもいいやという事になり現在に至ったのである。
 
 …ちなみに彼女達の部屋は襖で隔離されてあり襖には防音機能が備え付けてある為に
 外部に音が漏れないようになっているのであった。
 
 
 続いてトーレ達は格闘番組を見ているようでその戦いっぷりに興奮の坩堝と化していた。
 特に引退を表明した拿乃覇とパトリック・サワーによる因縁の対決は目玉らしく応援にも熱が入る。
 
 「ローだ!ローで崩せ!!」
 「間合い!間合いが重要だ!!」
 「だぁかぁらぁ!!お前はアタシと同じ蹴り型だろう!一気に足使えって!!」
 
 トーレ、チンク、ノーヴェの順に次々に檄や身振り手振りでアドバイスする中で、セッテは黙々と鍋をつついていた。
 そして更に上記三人は酒も入っている為かテンションは更に上がりヒートアップ、

 トーレの右拳が思わずノーヴェの左こめかみにヒットし、
 その痛みに報復とばかりにノーヴェの右ローキックがトーレの左すねを直撃
 トーレは倒れ込むと其処にいたチンクの頭部にトーレの肘が直撃した。
 
 「何するだぁーーーっ!!」
 「トーレ姉が殴ったのが悪いんだろ!!」
 「…いいからトーレ姉……どけ!」
 「うわぁチンクの目が据わったぁ?!」
 
 ここからはもうどんちゃん騒ぎ、それぞれこの狭い空間の中で戦い始め、
 どたばたする中で一人セッテはコタツの中で引き続き鍋をつつきながらテレビを観戦していた。
 
 「この子は……伸びるわ!!」
 
 そう言って目を光らせ、春菊を頬張るのであった。
 
 
 
 「隣は大丈夫なのですか?部屋壊されそうですけど……」
 「心配ないよウーノ、これも計算のうちさ」
 
 一方でトーレ達のいる部屋を締め切ったウーノは心配そうな顔で問い掛け、スカリエッティがウーノの問い掛けに簡単に答え始める。
 この部屋は改修の際に耐衝撃性性能を高めてあると、何だか後付けのような説明で終えた。
 
 「流石ドクター!素晴らしい判断です!!」
 「ハハハッ!だろうだろう!!」
 
 恋は盲目とはよく言ったもので二人のやりとりを細い目で見つめながら白菜を頬張るレザード、
 一方でクアットロは一升瓶片手にテレビにかじり付いていた、今放送されている番組は未来から来た猫型ロボットの話…つまりはアニメである。

503レザポ ◆94CKshfbLA:2010/01/01(金) 01:46:11 ID:sFttdLCg
 なぜこのような番組を見ているのかというと番組に登場する道具の中で、
 実際に再現出来そうな物を模索しているそうで、現在は扉型の移送装置が実現可能ではないかと考えられていた。
 
 だが実際にこれを実現するには移送先のタイムラグ、エネルギー問題などがあるのだが、
 エネルギーはレリ―――もとい高エネルギー結晶体を用いり、タイムラグは移送方陣を用いれば可能であるのだという。
 だが起動までに時間が掛かり“どこでも”行ける訳でも無い為、改良の余地があるのだという。
 
 それはさておき、テレビをまじまじと見つめていたクアットロが突然レザードの方を向きしがみついてきた。
 その行動に流石に焦るレザード。
 
 「はぁぁかぁせぇぇぇ〜〜!!」
 「な…何ですかクアットロ」
 
 どうやら激しく酔い始めていたらしくピークを通り過ぎて暴走し始めたようである。
 するとクアットロは徐に眼鏡を外し口付けを要求してくる。
 
 これには流石のレザードも焦り始める、何故ならばレザードの唇はチン―――もとい“愛しき者”の為にあるからだ。
 だがクアットロは更にレザードに馬乗りになるとレザードの顔を両手で押さえ込み徐々に近づいていく。
 
 「くっ!このままでは!ドクター!あの特殊な酵素とやらはどうやって起動させるのですか!!」
 「え〜?そんなの嘘に決まっているじゃないか」
 「そんな嘘だったなんて!ドクターは私を酔わせてどうするつもりなのですか?!」
 「それは勿論、ウーノ……君を――」
 
 バカップルシネ!!そう心で響きながらも現状の対策を考えるレザード。
 そして―――
 
 
 
 
 クアットロはレデュースパワーとガードそれにプリベントソーサリーで、簀巻きにされたのであった。
 
 
 
 
 時間は11時30分を周り、隣でイチャついていたスカリエッティは急に立ち上がりし切り分けていた襖を開きそれぞれ呼び出すが、
 オットーだけはジッとその場から動かずテレビに見入っており、半ば諦め掛けているとディードが録画を始めそれに折れるようにして集合する。
 
 そして全員が集まると徐にスカリエッティは手を叩き始める。
 すると左奥の襖が大きく開き其処にはカウンター席が置かれた厨房があり、中にはガジェットが存在していた。
 どうやらここで年越し蕎麦を作るようである、そこでそれぞれは席に座り注文を始める。
 
 トーレ・セッテ・ルーテシアは掛け蕎麦を、セイン・ウェンディ・チンク・ノーヴェが天ぷら蕎麦を、
 オットー、ディード、ゼストが鴨南蛮を、チンク・ノーヴェ・ディエチ・アギトがざる蕎麦を
 最後にスカリエッティ・ウーノ・レザード・クアットロが月見そばをそれぞれ注文すると、
 厨房の中で調理が開始、先ずはガジェットIII型がそば粉をこね、II型が生地をのばし
 VI型が刻んでII型が茹でてIII型が盛りつけを行いI型が配っていた。

504レザポ ◆94CKshfbLA:2010/01/01(金) 01:48:19 ID:sFttdLCg
 そしてそれぞれ注文した物を受け取り、手を合わせ一斉にすすり始めると、
 カウントダウンが開始されカウントを読み上げていき新年を迎えたのであった。
 
 それから暫くして蕎麦を食べ終わった面々は先程までいた場所まで赴き、
 オットーは録画した続きを食い入るように見続け、トーレ達は暴れ回ったせいか、すっかり酔いは醒め今度は格闘番組の内容に対して話し合っていた、
 そしてセイン達はカラオケ大会を続行、レザードは一人コタツに戻り朝までテレビを見ていた。
 
 
 
 
 「そうか…このまま眠り付いていたのか……」
 
 頭を掻き大きくあくびをして昨日の事を思い出していると後ろの襖が威勢良く開き、
 レザードがゆっくり振り向くと其処には上半身は白の着物、下半身は黒の袴を着たスカリエッティが佇んでいた。
 
 「あけましておめでとう!今年もよろしく頼むよ!!」
 「……何ですか?その格好」
 「正装だよ正装!正月の」
 
 そう言って一回りして腰に手を添えて構えるスカリエッティ…女子高生か!とつっこみたくなるのは気のせいだろうか、
 話は戻り他のメンツはどうしているのか訪ねると簡潔に答え始める。
 
 先ずはトーレとセッテは臼と杵で餅をついているのだという、二人はノリノリでついているらしい、
 次にオットーとノーヴェとディードは徹夜でゲーム、まぁ戦闘機人だから問題ないだろうと、
 
 一方でディエチはルーテシアを寝かしつけている内に一緒に寝てしまったらしく
 扉の前ではゼストが胡座を掻いて寝ていたらしい、何でもスカリエッティ対策………らしい。
 
 「全く…失礼だと思わないかい?私には―――」
 「あぁそれはいいです、それで他の方はどうしたのです?」
 
 のろけ話は飽き飽きといった表情で先に進めるように進言すると、一つ咳払いをして話を続ける。
 セイン・ウェンディ・アギトはあれから歌い続け、今いる部屋の右奥の部屋で爆睡しているという、
 そして話し終えた頃にはレザードから見て左の位置にスカリエッティは座っていた。
 すると―――
 
 「ドクター、博士よろしいでしょうか?」
 「あぁ、入って来たまえ」
 
 スカリエッティの返事と共に目の前の襖が開き其処には花が刺繍されてある帯に薄紫の着物を纏ったウーノが現れ手にはお盆が握られており、
 レザードとスカリエッティにお茶を差し出しコタツ中心にはカゴに山積みされたミカンを置くと、
 玉飾りが付けられたガジェットI型が姿を現しウーノはお盆を渡しウーノはスカリエッティと同じ位置に座り込む。
 
 この玉飾りはガジェット全て、更にはゆりかごの先端部分にも飾られているのだという、
 どうやらガジェットI型が一晩でやってくれたらしい……
 
 …そう言えば先程のガジェットに付けられていた玉飾り、
 ミカン部分のところをガジェットの中心部分のセンターパーツで模されていたような気が…
 
 「…で何をしに?」
 「ん?」
 
 スカリエッティは首を傾げながらみかんに手を伸ばし皮を剥き始め、
 まぁ別に…そう口にしながらミカンの小袋を破き身を食べる。
 
 その言葉に首を傾げミカンに手を伸ばし皮を剥き始めると、袋ごと口に運び考え始める。
 この時期で彼が考えそうな事、それは恐らく羽子板や福笑いなどの対決などではないかと考えるが、
 当のスカリエッティはウーノと共にミカンの食べ合いをしており、若干腹が立つレザード。

505レザポ ◆94CKshfbLA:2010/01/01(金) 01:49:26 ID:sFttdLCg
 結局本当に何にも考えていなのではないかそう考えていると、スカリエッティは徐にテレビをつけ始めテレビでは漫才が始まっていた。
 そして暫くすると後ろの襖が開き其処からは胸元をサラシで隠し白い褌を付けた
 トーレとセッテが出来立ての餅を大量に持って現れその姿に若干引くレザード。
 
 「なんと…いう格好しているんですか貴方達」
 「餅つきの正装はこうだと聞いたもので」
 
 トーレの言葉に呼応するようにセッテも頷く…とはいえその格好にヘッドギアはどうかと思うが…
 それはさておき、出来上がった餅は奥の調理室に運ばれていくと、奥ではガジェットが一生懸命調理を行っていた。
 
 そして暫くテレビの雑音が部屋を賑わせていると後ろの襖から銀の刺繍が目を引く帯に白い着物を纏ったチンク、
 金色の鳥の刺繍が美しい帯に赤い着物を纏い金のかんざしを付けたノーヴェが恥ずかしそうに現れ
 黒い帯に気金の刺繍が印象的な黒い着物を纏っているディードに何故か袴姿のオットーが姿を現す、
 どうやら本人の言い分では格好いいからだそうで、人の美的センスは分からないものである。
 
 「どうでしょう?この格好」
 「えぇ良く似合っていますよ」
 
 チンクの問いにレザードはそう答えると満面の笑みを浮かべ、
 その笑顔に心が揺さぶられる頃、未だに恥ずかしがっているノーヴェ。
 どうやらこういう女の子らしい格好は気恥ずかしいらしい。
 
 それはさておき、右奥から物音が聞こえ寝ていたセイン達が起きたらしく、
 襖が開き其処からボサボサな髪を掻き大きなあくびをしながら三人が現れ、
 アギトに至っては腹を掻きながらウェンディの肩に乗っかっていた。
 
 「三人とも!何という姿で!」
 「いや…そっちも中々のもんッスよ?」
 
 …というより状況が全く読めない三人に対し、とにかく顔だけでも洗ってくるようにと急かすウーノ、
 そして渋々と歩き始めていく中で入れ替わるようにして可愛らしい蝶の刺繍がされてある帯に薄ピンクの着物を羽織ったルーテシアと、
 
 袴姿のゼストに派手な銀色の帯と着物を纏ったクアットロ、そして何故か通常の戦闘スーツ姿のディエチが姿を現す。
 理由としては置いてあった着物を来てみたのだが、どうみても巫女姿にしか見えないからだそうで……
 
 それはさておき、他に来ていないのは寝坊助三バカトリオだけである、 暫くして――
 
 「ウーーーッスおはようッス」
 「なんか動きずらいんだけど……」
 「アタイは飛びにくい……」
 
 ブツクサ文句を言いながら水色の帯と波の絵が描かれている水色の着物姿のセインと、白い帯と濃いピンクの着物を纏ったウェンディ、
 そして赤い帯と赤い刺繍が炎を見立てている黒い着物姿のアギトが順々に姿を現す。
 
 そして全員が揃ったところでガジェットが現れコタツの上に突き立ての餅が入った雑煮を配り、
 更に様々な味付けがされた餅も次々に並ばせていく。
 
 「では諸君!今年もいい年でいこう!」
 
 スカリエッティの相変わらず短い挨拶が終わり一斉に食べ始める一同、
 そんな中トーレとセッテは餅をうどんのようにすすっていた、何でもこれが一番美味い食べ方だからとか何とか……
 
 一方でチンクは磯部焼きノーヴェは辛み餅を選びお互いに食べ比べおり、オットーとディードはきな粉餅、ルーテシアとアギトは餡ころ餅を、
 ゼストとセインとウェンディは納豆餅を選び餅と共に糸も伸ばしていた。
 
 そしてスカリエッティとウーノは枝豆をすりつぶして餡にした、ずんだ餅を選びお互いに食べ合いをしていた。
 一方でクアットロとレザードは餅には手を伸ばさず雑煮のみを食べていた。

506レザポ ◆94CKshfbLA:2010/01/01(金) 01:50:23 ID:sFttdLCg
 するとディードがオットーの異変に気がつく、どうやら喉を詰まらせたらしく見る見るうちに青くなっていく、
 それを見たトーレがオットーの背中を思いっきり叩くと、口からきな粉餅が吐き出され難を逃れた。
 
 どうやら話を聞くとトーレの真似をしようとして、きな粉餅で試したところ喉を詰まらせたのだという。
 それもそのハズ、トーレ達の芸は突き立てで、しかも何も味付けもされていない餅だからできる芸当、
 それを味付けされた、ましては水分を奪われるきな粉餅でやれば喉を詰まらせるのは必定である。
 
 とは言え危険な行動をとっていたことも事実であり、
 トーレとセッテはオットーに謝ると手を指し伸ばしてきた、……どうやらお年玉が欲しいらしい。
 トーレとセッテはお互い目を合わせると一目散に逃げ出した、……駄目な姉達である。
 
 一方でスカリエッティは一人一人にお年玉を配っていた、どうやら正月最大の行事であるのだという。
 そして配り終わると一斉に蜘蛛の子を散らすかのように部屋を出ていき、
 部屋にはゼスト・レザード・スカリエッティ・ウーノの四人だけが残されていた。
 
 「……まぁ取り敢えずレザード、君はどうするんだい?」
 「暫く此処でテレビでも見ていますよ」
 
 そう言いながらミカンに手を伸ばして皮を剥き始めるレザード、すると手を振り部屋を後にするスカリエッティ・ウーノ・ゼスト、
 部屋の中ではテレビから笑い声が流れたままであった。
 
 
 その後、ディエチは新しいRPGをやり始めチンクとノーヴェとゼストとルーテシアは初詣へ、
 クアットロは自室でPCゲームを、トーレとセッテは未だに餅をついていた。
 
 セインとウェンディとアギトは同じ部屋同じベッドで二度寝、オットーとディードは外でガジェットII型ソックリの凧を上げており、
 スカリエッティとウーノは二人で研究の纏めと今回の皆の反応を報告書のようにして書き綴っていた。
 
 
 
 「……この芸人は―――売れませんね」
 
 レザードはテレビに映っている銀色の服を着たアイドルもどきに対し、
 痛烈な一言を浴びせながらミカンを平らげていった。
 
 
 
 
  ……今日も平和である……

507レザポ ◆94CKshfbLA:2010/01/01(金) 01:54:36 ID:sFttdLCg
以上です、大晦日〜元旦までな回です。


新年って事でこんな感じなのを


次こそ本編に戻る予定です。

今年もよろしくお願いします。

それではまた。

508レザポ ◆94CKshfbLA:2010/01/01(金) 01:56:11 ID:sFttdLCg
どなたか代理投下して貰えると有り難いです。

509魔法少女リリカル名無し:2010/01/01(金) 13:58:52 ID:se5ptHqM
じゃあいってみる。

510魔法少女リリカル名無し:2010/01/01(金) 14:13:47 ID:se5ptHqM
投下終了

511レザポ ◆94CKshfbLA:2010/01/01(金) 16:25:57 ID:sFttdLCg
代理投下確認しました。

>>509
代理投下ありがとうございました。

512魔法少女リリカル名無し:2010/01/15(金) 12:45:10 ID:jTRkPB7w
誰か本スレの新スレたててください。

513魔法少女リリカル名無し:2010/01/15(金) 13:37:53 ID:MfI.Xbbc
やってみます

514魔法少女リリカル名無し:2010/01/15(金) 13:41:15 ID:MfI.Xbbc
駄目でした

ここはリリカルなのはのクロスオーバーSSスレです。
型月作品関連のクロスは同じ板の、ガンダムSEEDシリーズ関係のクロスは新シャア板の専用スレにお願いします。
オリネタ、エロパロはエロパロ板の専用スレの方でお願いします。
このスレはsage進行です。
【メル欄にsageと入れてください】
荒らし、煽り等はスルーしてください。
本スレが雑談OKになりました。ただし投稿中などはNG。
次スレは>>975を踏んだ方、もしくは475kbyteを超えたのを確認した方が立ててください。

前スレ
リリカルなのはクロスSSその104
ttp://changi.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1261319294/


規制されていたり、投下途中でさるさんを食らってしまった場合はこちらに
本スレに書き込めない職人のための代理投稿依頼スレ
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/anime/6053/1231340513/


まとめサイト
ttp://www38.atwiki.jp/nanohass/

避難所
ttp://jbbs.livedoor.jp/anime/6053/

NanohaWiki
ttp://nanoha.julynet.jp/

R&Rの【リリカルなのはStrikerS各種データ部屋】
ttp://asagi-s.sakura.ne.jp/index.html

515魔法少女リリカル名無し:2010/01/15(金) 18:15:44 ID:tflE.j7.
じゃあちょっと行ってきます

516魔法少女リリカル名無し:2010/01/15(金) 18:19:33 ID:tflE.j7.
行ってきました

リリカルなのはクロスSSその105
ttp://changi.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1263547058/l50

517レザポ ◆94CKshfbLA:2010/01/19(火) 18:15:28 ID:84pxI/GU
今晩は、なんだかまだ規制されているみたいなんで、18:20頃にこちらに投下しておきます。

518レザポ ◆94CKshfbLA:2010/01/19(火) 18:20:39 ID:84pxI/GU
では行きます


 動力室での第二戦、はやて率いるヴォルケンリッターは、苦戦を強いられていた。
 その大きな要因は二つあった、一つはガジェットVI型のバリアの強度である。
 
 彼等のバリアは単体でザフィーラ程の強度があり、複数で張られた場合はその相乗効果によりまさに鉄壁ともいえる代物と化していたのだ。
 次にバスターモードのベリオンの実力である、ルーンを組み替えることで発動させる事が出来るスキル能力、
 
 マイトブロウを中心に一撃の威力を大きく高めるトゥルーシーイングや、再生能力であるリジェネーションヒールなどと、
 強力なスキル能力に悪戦苦闘の状態が続いているのであった。
 
 
                    リリカルプロファイル
                     第三十七話 使命
 
 
 とは言え此方の目的は動力炉の破壊である、つまりベリオン及びガジェットを動力炉から遠ざける、
 もしくは抑えればいいのであって無理に相手をする必要はないのだ。
 
 其処ではやては次の作戦を練り出す、それはベリオンの相手をザフィーラとシグナムが、ガジェット四体をヴィータ一人に任せ
 がら空きとなった動力炉をはやてのフレースヴェルグにて破壊するというものであった。
 ヴィータにガジェットをあてたのはヴィータの気持ちを考慮した為である。
 
 だが作戦を始める前にまずシャマルがヴィータにストライクパワー・フィールドインベイドのツインブーストを、
 シグナムとザフィーラにはディフェンスゲインとアクセラレイションのツインブーストを掛けて強化させると、
 一斉に動き出しヴィータはグラーフアイゼンをギガントフォルムに変え、四体いるガジェットのうち前方にいる一体に狙いを定め攻撃を仕掛ける。
 
 だがガジェットはバリアを張り攻撃を受け止めると、受け止めている一体を中心に三方向、遠目で見ると三角形に見える位置を陣取り、
 光弾がまるでマシンガンのように撃ち鳴らされる、ところがヴィータはパンツァーヒンダネスにて攻撃を防ぎ、
 
 上空へと逃げ込みシュワルベフリーゲンを八発撃ち下ろして牽制、相手の動きを止めると
 四体のガジェットの中心に潜り込み先程仕掛けたガジェットに横殴りでギガントハンマーを振り抜き吹き飛ばす。
 すると対角線にいたガジェットからロケット弾が発射され、ヴィータは左手を向けてパンツァーシルトを張り難を逃れた。
 
 一方でシグナムとザフィーラはベリオンの相手をしていた、だがベリオンのマイトブロウは強力で、
 此方は回避を優先といった状況が続いていた、するとシグナムはカートリッジを一発使用して
 刀身を炎で包み込み右に薙払うようにして紫電一閃を放つが
 
 ベリオンはバリア型のガードレインフォースを張り吹き飛ばされるも受けきり、左手をシグナムに向けて光弾を連射、
 ところがベリオンとシグナムの間にザフィーラが割り込み障壁を張りこれを防いだ。
 
 しかしベリオンは攻撃をやめず、続けて攻撃を仕掛けザフィーラを足止めすると
 右手を向けてエネルギーをチャージし始める、するとザフィーラの頭上から飛びかかるかのようにしてシグナムが姿を現し
 
 予め用意していた紫電一閃で一気に振り下ろす、ところがベリオンは右手をシグナムに向け始め、
 エネルギーの直射砲を撃ち抜きシグナムは紫電一閃の威力を利用して直射砲を相殺、
 
 直射砲は真っ二つに分かれシグナムの後方で爆発を起こしていると、ベリオンが目の前に現れ
 マイトブロウが効いた右拳を振り抜き、シグナムはとっさに刀身の面をを盾代わりにして攻撃を受け止める。
 
 しかし衝撃全てを受け止める事が出来ず吹き飛ばされ、今度はザフィーラが入れ替わるようにしてベリオンに迫り、
 魔力を乗せた右拳を頭部目掛けて振り上げ更に左拳の振り下ろし、続けて縦回転からの右のかかと落としが直撃しその巨体を揺らす。
 
 ところがベリオンは何事も無かったかのようにザフィーラを見上げると、右拳をアッパーのように振り上げ、
 ザフィーラは障壁を張って攻撃を受け止めるが、一瞬にして亀裂が走って砕け散り、拳が目の前に迫る中
 顎を引くようにして半歩下がり紙一重で躱すと、反撃とばかりに左拳をベリオンの頭部に直撃させる。

519レザポ ◆94CKshfbLA:2010/01/19(火) 18:22:14 ID:84pxI/GU
 しかしこの攻撃も余り効果無く、逆に右の裏拳が迫る中でザフィーラは先程と同様に障壁を張り、
 砕け散る瞬間の間を利用して頭を下げて回避、頭頂の髪がこすれるギリギリのところで躱すが、すぐさま左の拳がザフィーラの顔目掛けて迫っていた。
 するとザフィーラは右拳に先程以上の魔力を乗せて左拳を狙い打ち、辺りに衝撃波が爆音となって響き渡った。
 
 その頃シグナムはある程度距離をとり刀身を鞘にしまい居合いの形で構えるとカートリッジを二発使用、
 一気に引き抜き魔力と炎を纏った連結刃、飛竜一閃をベリオンに放ち、それを確認したザフィーラは
 すぐさま後方へと下がりベリオンは飛竜一閃に飲み込まれていった。
 
 「主はやて!今です!!」
 「分かっとるわぁ!!」
 
 はやては二つ返事で答え予め用意してあったフレースヴェルグを動力炉に向けて撃ち放つが、
 ガジェットVI型四体がフレースヴェルグを防ごうと飛びかかろうとしていた。
 
 だがヴィータがフェラーテを用いて目の前に立ちふさがりギガントハンマーにて次々に床に叩き付ける、
 幾ら強化されたガジェットであっても今のヴィータでは相手にはならない、それ程までに実力に差があったのだ。
 
 「これなら直撃や!!」
 
 はやては勝利を確信した表情を浮かべ、フレースヴェルグは動力炉に直撃、動力炉は土煙に包まれ
 姿が見えない中、徐々に土煙が晴れ始めると其処には虹色の光に包まれた無傷の動力炉が存在していた。
 
 「んなアホな!何でや!?」
 「あの光……カイゼル・ファルベか! ?」
 
 シグナムの放った言葉、それはつまり聖王の鎧が発動している事を指し示している、
 だがカイゼル・ファルベ、つまり虹色の魔力光は聖王のみの能力であり、現状ヴィヴィオだけが使える代物のハズであった。
 
 何故動力炉にそのような能力が備わっているのだろう…そうはやては疑問を感じ、ふと何気なくベリオンに目を向ける、
 其処には動力炉と同様に虹色の魔力光に包まれ二周り巨大化したベリオンの姿があった。
 
 「危険レベル更ニ上昇、サードモードカラミティヲ起動サセマシタ」
 
 サードモード・カラミティ、体を巨大化させるだけではなく体内に存在する聖王の遺伝子に、
 魔力を介する事で通常の魔力を聖王の魔力に変え、聖王の鎧の使用が可能となるベリオンの最終形態である。
 
 しかもベリオンはゆりかごを起動させる為に動力炉と接続しており、それによってベリオンは動力炉の出力を
 動力炉はベリオンの能力を共有する事になり、これによって動力炉を聖王の鎧で覆う事が出来たのである。
 
 つまりは今のベリオンは動力炉と一心同体、ベリオンを破壊しない限り動力炉を破壊する事が出来ない、
 その事実にはやては一つ舌打ちを鳴らし睨みつけているとベリオンははやてに襲い掛かり、
 右拳に虹色の魔力を纏わせて更にトリプルエッジと呼ばれる一度で三度の攻撃効果を持つスキルを加えた一撃を振り抜く、
 
 一方ではやては、それに合わせて三重の魔法障壁を張るのだが次々に破かれ直撃、
 弾丸のように吹き飛ばされていく中で、はやての内側ではリインによる治療が開始されていた。
 
 一方でヴィータはベリオンの変化に驚き更に、はやてが吹き飛ばされていくのをこの目で見て、
 かつてのなのはの時と状況が被り目の色を変えてベリオンに襲い掛かろうとした。
 だが、行く手をガジェットVI型が立ちふさがりヴィータは睨み付けながらギガントハンマーを振り抜いていく。
 
 「邪魔を!するんじゃあ…ねぇぇぇぇ!!!」
 
 振り抜いたギガントハンマーは次々にガジェットのバリアをまるで煎餅でも叩き割るかのように砕き本体に直撃、
 ガジェットは大きくひしゃげ、一部は亀裂が入りその後大きな爆発を起こし残骸となった。

520レザポ ◆94CKshfbLA:2010/01/19(火) 18:23:07 ID:84pxI/GU
 だがヴィータは見向きもせずベリオンに向けてコメートフリーゲンを撃ち抜き、
 砕けた鉄球がベリオンに迫る中で、ベリオンはガードレインフォースを張り攻撃を防ぐと、
 その攻撃に合わせてザフィーラの右拳がベリオンのガードレインフォースを砕き、
 
 更に続けてシグナムによる右袈裟切りの紫電一閃を振り下ろすのだが、ベリオンは聖王の鎧にて攻撃を受け止め、
 右手をシグナムに向けて虹色の直射砲を発射、シグナムはとっさにパンツァーガイストを自身に張り
 直射砲に飲まれながらも辛うじて致命傷だけは免れた。
 
 ベリオンの能力は確実に高まっており、それを身に滲みる程実感したはやて達は、
 新たな作戦を練り始め、ベリオンと対峙するのであった。
 
 
 一方でスバル達はナンバーズの最後の一人であろう女性、チンクの逮捕の為彼女を探し続けていた。
 そしてある広場へと辿り着く、其処はだだっ広くヴォルテールすら召喚出来そうな程天井が高く造られていた。
 すると何処からともなく声が聞こえ始めていた。
 
 「…其は忌むべき芳名にして偽印の使徒、神苑の淵に還れ…招かざる者よ……」
 「これって……」
 「詠唱!!」
 
 スバルの問い掛けにティアナが即答え声が聞こえる上空を見上げると、
 其処には既に甲冑姿をしたチンクが左手を向けており、手には光が集まり出していた。
 
 「マズイ!全員散開!!」
 「セラフィックローサイト!!」
 
 ティアナの指示の元、速やかに散開し先程までいた場所はチンクのセラフィックローサイトに包まれ、
 入り口を吹き飛ばすとチンクはゆっくりと浮遊間があるように床へと着地する。
 
 「先手必勝……とはならなかったか」
 
 チンクは残念そうに見つめる中で警戒するスバル達、特にスバルはチンクの姿を見て一際警戒の色を宿していた。
 何故ならば、この中で唯一チンクと戦闘した事があり、また敗北を喫しているからである。
 
 彼女チンクが作り出す物質はスバルの振動破砕ですら破壊する事が出来ない、
 その事を念話にて皆に伝えているとチンクがゆっくりと腰に携えていた剣を抜き出す。
 
 「ならば…正攻法で行くまでだ!」
 
 そう言って斜に構え対峙すると、スバル達もまた構えを取り始める。
 暫く対峙していると先にチンクが動き出し斜に構えていた刀身をスバル目掛けて振り下ろす、
 
 するとスバルは右手を向けてプロテクションを張り攻撃を防ぐと、
 それに合わせてエリオがスピーアシュナイデンにて攻撃を仕掛けチンクに迫るが、
 
 チンクは左手をエリオに向けてマテリアライズを行い三つ叉に分かれた槍を生成してエリオの攻撃を防ぎ、
 更に後方へと飛ぶようにして下がると、それに合わせたかのようにスバルはナックルダスターを振り下ろす。
 
 ところが既にスバルの行動を右目で予測していたチンクは、更に後方へと飛びこれを回避、
 スバルのナックルダスターは床を瓦礫にして終えるとチンクは槍を捨て変わりに跳び舞う瓦礫を三つ左手で掴み取り、
 その場で左に一回転すると左手には装飾が美しいダガーが三本握られており、それをスバル目掛けて投げ飛ばす。

521レザポ ◆94CKshfbLA:2010/01/19(火) 18:25:41 ID:84pxI/GU
 だが、チンクの投げたダガーはスバルに届く前に、ティアナのクロスファイアによって撃ち落とされ
 続いてキャロのツインブーストを受けたエリオがカートリッジを二発使用、魔力刃による突進メッサーアングリフにて攻撃を仕掛ける。
 
 するとチンクは左手をエリオに向けてカートリッジを一発使用、丸みを帯びた中型の盾を形成し攻撃を左に受け流すようにして防ぎ
 更にエリオに向けて斧の役割も担うハルバード型の槍を生成してエリオに投げつけようとしたが、
 キャロによるアルケミックチェーンがチンクの周囲から現れ、チンクは一つ舌打ちを鳴らし
 
 持っていたハルバードでアルケミックチェーンを薙払い更にキャロに向けて投げつける。
 だがハルバードはキャロの前に躍り出たスバルのプロテクションにて弾かれまたもや舌打ちを鳴らすチンク。
 
 「この眼も万能では…ないか」
 
 チンクが持つ右目、ユーミルアイは見た対象の動きを予測する事が出来るのだが、
 あくまで“見ている”対象のみで見ていない対象の行動を予測する事は出来ないのだ。
 
 その為にチンクは大きく距離をあけて四人全員を見渡す位置を陣取り対峙する、
 一方でチンクの一通り行動を目撃したティアナは、チンクの能力を分析しながら対抗策を練り始めていた。
 
 
 場所は変わりなのははレザードがいるであろう場所に向かい続けていた。
 その道中、多数のガジェットの攻撃に会うが此方も次々に破壊して何事も無かったかのように進み、
 目的地である広場に辿り着くと、其処にはモニターを開き戦況を把握しているレザードの姿があった。
 
 「…貴方もしつこいですね、二度ある事は三度あると…確か貴方の世界の諺でしたよね」
 
 なのはは既に二度もレザードに敗北を期している、その事を踏まえなのはの世界の諺を使って
 皮肉を口にするが、肝心のなのはは不敵な笑みを浮かべレザードの諺に対して反論する。
 
 「確かにそんな諺もあるけど、三度目の正直って言う諺もあるんだよ」
 
 そう言ってなのはは左手に携えたレイジングハートをレザードに向ける。
 一方でレザードはなのはの言葉に…捉え方如何で様々な言葉が存在するのだな…と顎に手を当て考えていた。
 
 「ならば私の言葉が正しいか、貴方の言葉が正しいか…決着をつけましょう……」
 
 そう言ってネクロノミコンをグングニルに変え右手で携え構えると、なのはもまたブラスターシステムを発動させて構える。
 この時なのはは自分の体の異変に気が付く、それはブラスターシステムの際に生じる負荷を感じ無いのだ。
 
 すると腰に添えてあった杖が急に気になり目を向けるとミリオンテラーは淡く輝いていた。
 恐らくこの杖によって体への負荷が無くなったのであろう、
 つまりそれは全力全開で立ち向かう事が出来る事を意味していた。
 
 「これなら……いける!!」
 
 そう確信したなのははA.C.Sドライバーを起動させてストライクフレームをレザードに向けてすぐさま突撃、
 しかしレザードはバリア型のガードレインフォースを張り攻撃を受け止めた。
 
 するとなのははストライクフレームの魔力刃からディバインバスターを発射、
 バリアごとレザードを飲み込み天井へと直撃させる。
 
 そして天井は瓦礫と化して降り注ぐ中、左手を向けたレザードの姿があり、ダークセイヴァーを三本撃ち抜いていくと、
 なのはは床へと着地、迫り来るダークセイヴァーを左に移動して回避、
 難を逃れるとすぐさま右の人差し指を向けてアクセルシューターを五発螺旋を描くようにして発射、

522レザポ ◆94CKshfbLA:2010/01/19(火) 18:27:03 ID:84pxI/GU
 だがレザードはリフレクトソーサリーを張りアクセルシューターを受け止め更になのはに向けて跳ね返し、
 跳ね返ってきたアクセルシューターをなのはは同じくアクセルシューターを撃ち放ち相殺した。
 
 「ほぅ…以前にも増して威力が上がっているとは……」
 
 恐らくその影響は腰に添えてある杖の効果であると踏み、そしてまた力を得たという事は
 以前のようにはいかないと考え、三賢人よりかは楽しめるであろうと不敵な笑みを浮かべるレザードであった。
 
 
 一方でベリオンと対峙していたはやては作戦を練り終えそれぞれに念話にて指示を送る。
 そしてまずザフィーラとシャマルが合わせて鋼の軛を放ち動きを封じようとしたが、
 ベリオンは上空に逃げ難を逃れていると、その後方にはヴィータが位置付けており、右手に携えたギガントハンマーを振り下ろす。
 
 しかしベリオンは左手にシールド型のガードレインフォースを張りヴィータの攻撃を受け止め、
 逆にマイトブロウとトリプルエッジからトゥルーシーイングにスキル効果を切り替えた右拳でヴィータを吹き飛ばす。
 
 一方でベリオンを見上げる位置では右側にはやて、左側にはエクストラモードを起動させているシグナムが佇み、
 はやては剣に切り替えたシュベルトクロイツに炎が纏い、シグナムの左手には炎で作られた剣が握られ構えていた。
 そして―――
 
 『剣閃烈火!!火龍一閃!!!』
 
 放たれた二発の火龍一閃は吸い込まれるかのようにベリオンに迫り飲み込むとそのまま壁に激突、
 瓦礫となった壁落ちていく中、着弾点では巨大なシールドと聖王の鎧を纏い攻撃を耐え抜いたベリオンの姿があり、
 
 反撃とばかりにベリオンは加速して二人に迫り右拳を振り抜こうとした瞬間、
 エクストラモードを起動させたザフィーラが割って入り自身の最大数である五重魔法障壁を張り攻撃に備えた。
 
 しかしベリオンの拳にはマイトブロウに加えトゥルーシーイング更には聖王の魔力を纏っている為に次々に砕け散り、
 ベリオンの拳を自分の肉体で受け止め抑えつけていると、ザフィーラが声を荒らげる。
 
 「シグナム!ヴィータ!!」
 『応っ!!』
 
 ザフィーラに呼応するようにして左からシグナムが、右からエクストラモードを起動させているヴィータが飛び出し、
 シグナムは紫電一閃をヴィータはラテーケンハンマーをベリオンの胴体に打ち込み吹き飛ばした。
 
 そしてベリオンは壁に激突し瓦礫が散らばっていく中で徐々に姿を現し、その胴体は深い切り傷と大きなへこみ痕が残されていた、
 だがベリオンはトゥルーシーイングをリジェネーションヒールに切り替え徐々に傷口が治療されつつあった。
 
 一方でザフィーラによって守られていたはやてはすぐさまヴィータと入れ替って距離を置き、
 足下と目の前にベルカ式の魔法陣を張り、詠唱を始めると目の前の魔法陣から黒いスフィアが形成し始める。
 
 そしてシグナムとヴィータの攻撃により壁に激突したベリオンの姿が現れると、
 対面上にいた二人に離れるよう注意を促し、退避した事を確認するや否や杖をベリオンに向けた。
 
 「遠き地にて…闇に沈め……デアボリックエミッション!!」
 
 次の瞬間、黒いスフィアであるデアボリックエミッションはベリオンへと向かっていき直撃するハズであった、
 だがベリオンは左手から虹色の魔力弾を連射させてスフィアの動きを鈍らせると、
 右手にチャージされていた虹色の直射砲を撃ち放ちスフィアに直撃、暫くしてスフィアは砕け散った。
 
 「んなアホな!!あの直射砲はあんだけの威力があんのか!?」
 
 ベリオンのエネルギーは動力炉と繋がっている為に無尽蔵とも言えるほどのエネルギーを使用することが出来る、
 だがそれだけではない、ベリオンはオブサベイションと呼ばれる一定の時間が経過する度に、能力が上昇するスキルを用いていた。
 故に広域攻撃魔法に対抗出来る程の威力を誇る事が出来たのである。

523レザポ ◆94CKshfbLA:2010/01/19(火) 18:28:13 ID:84pxI/GU
 ベリオンの実力にはやて達は警戒し一点に集まっていると、足下に巨大な複数の環状で構成される
 多角形の魔法陣を張り、両手の平を広げてはやて達に向けると詠唱を始めた。
 
 「闇ノ深淵ニテ重苦ニ藻掻キ蠢ク雷ヨ…彼ノ者ニ驟雨ノ如ク打チ付ケヨ!!」
 「なぬ!?広域攻撃魔法やと!!」
 
 そしてベリオンが向けた両手の間から黒いスフィアが形成され徐々に大きくなり、
 両手を今度は頭上に掲げ更に巨大化、スフィアの中では稲光を発し飽和状態となった稲妻がベリオンの周囲に落ち床を砕いていく。
 そして詠唱を終えたベリオンは掲げた黒いスフィアを力一杯はやてに投げつけた。
 
 「グラビティブレス!!」
 
 ベリオンの放ったグラビディブレスは吸い込まれるかのように迫りはやて達は飲み込まれ、
 はやて達を中心に驟雨の如く雷が打ち続けていた、そしてグラビディブレスが消え去ると
 其処にはザフィーラを前方にして巨大な全方向型の五重のパンツァーガイストを全員で張り巡らせて耐え抜いたはやて達の姿があった。
 
 「ぬぅ…シャマルの支援がなければどうなっていた事か……」
 
 そう言ってザフィーラを始め全員がバリアを解除する、実際シャマルの支援魔法であるがなければ
 立っている事は出来なかっただろう…それ程までにベリオンの広域攻撃魔法は強力であったのだ。
 
 相手は無尽蔵のエネルギーを持つ存在、しかもベリオンのスキルにより攻撃の威力は更に上がっていくだろう…
 このままではいずれ手に負えなくなり世界すら破壊する存在になりかねない、
 
 そこではやてはベリオンを速やかに破壊する為に精神リンクによる夜天の書の魔力を共有を提案、
 これによってヴォルケンリッターもまた夜天の書の魔力を使用する事が出来る為に全員は頷くと
 
 早速はやて達は気持ちを合わせて集中、すると夜天の書が力強く輝き出し
 はやて達は強い魔力光に包まれるとそれぞれ構え始めベリオンと対峙した。
 
 「いくでぇ!!」
 
 はやての掛け声を合図にヴォルケンリッターは拡散するとベリオンに向かってはやてが飛び出し、
 その動きに合わせてベリオンは右拳に虹色の魔力を纏わせマイトブロウとトゥルーシーイングの効果がある一撃を振り抜く、
 
 だがはやては足に渦状の白いフェラーテと背中のスレイプニールを用いて右に急速旋回、
 見事ベリオンの後ろをとるとシュベルトクロイツをハンマーに変え更に巨大化させてギガントシュラークを背中に打ち込む。
 
 しかしベリオンは聖王の鎧を纏い辛うじて防いだのだが、はやては足を踏ん張り両腕に魔力を込めて強化させ
 更に鎚とは対称の位置から魔力を大量に噴射、推進力にしてベリオンごと右回転をし始める、
 そして回転速度が最大になるとそのまま天井を打ち砕くかのように振り上げた。
 
 「ヴィータ!!」
 「よっしゃあ!!」
 
 上空には巨大なドリルが特徴的なツェアシュテールングスフォルムで構えていたヴィータの姿があった。
 すると体に纏う雷が輝き出しドリルを覆うと回転し始め、けたたましい音を奏でる。
 その中で鎚が柄から放れ間を強力な雷で繋がれており、更にその場で回転し始めるヴィータ。
 そして最高速度に達したヴィータは迫ってくるベリオン目掛けて鎚を振り下ろした。
 
 「食らえ!!ミョルニル!ハンマァァァァァ!!!」
 
 振り下ろした鎚は見事にベリオンの腹部に直撃し、まるで雷が落ちたかのような音を奏でて床に激突した。

524レザポ ◆94CKshfbLA:2010/01/19(火) 18:35:59 ID:84pxI/GU
 そしてベリオンが落ちた場所は土煙に覆われ姿を消し去っていると、土煙の中へはやてが飛び込み
 シュベルトクロイツを剣に変えてベリオンの姿を探っていると虹色の光弾が幾つも襲いかかり、
 はやては剣やパンツァーシルトで次々に弾いていると目の前にベリオンが姿を現しその右拳を振り下ろした。
 
 だがはやてはパンツァーシルトをベリオンの拳に向け砕ける一瞬の隙をついて後方へと回避、
 土煙から脱出するとベリオンが追いかけてきており、その行動に不敵な笑みを浮かべるはやて。
 
 すると次の瞬間、ベリオンの周囲から鋼の軛が姿を現れベリオンの動きを封じ込めた。
 はやては前もってシャマルに鋼の軛の用意を念話で指示し、自らが囮となってベリオンをおびき寄せその後鋼の軛を発動させたのである。
 
 「シグナム今や!!」
 「了解です」
 
 上空ではレヴァンティンをボーケンフォルムに変えて構えているシグナムの姿があり、
 ベリオンに狙いを定めるとシュツルムファルケンを撃ち放ち貫くと衝撃が辺りに響き渡る、
 
 だが未だベリオンは動きを見せており、右手をシグナムに向けて直射砲を発射、
 シグナムは飛び出すように左へと回避、直射砲は天井に直撃し瓦礫が降り注いでいると
 はやてがブラッディダガーを大量に撃ち放つのだが、ベリオンはシールド型のガードレインフォースを張ってこれを防ぐ。
 
 ところがはやてはすぐさまベリオンの懐に入り、剣に変えたシュベルトクロイツによる紫電一閃を右に薙払いシールドを破壊、
 その場で一回転するとシュベルトクロイツがハンマーに変わっており、続けてラテーケンハンマーを撃ち抜いて聖王の鎧を破り、
 シュベルトクロイツを杖に戻すとそのままフレースヴェルグを撃ち抜きベリオンを吹き飛ばした。
 
 「そっちへ行ったで!ザフィーラ!!」
 「承知っ!!」
 
 其処には八枚の刃を浮かばせて構えているザフィーラの姿があり、ベリオンの姿を目撃すると刃を飛ばし
 ベリオンの体を次々に切り裂き最後にザフィーラの右腕に一直線に集まると一気に振り下ろした。
 
 ザフィーラのグリムマリスはタイミング良くベリオンに直撃して床に巨大なクレーターを作り出し
 更にはベリオンの巨体を跳ね飛ばす程の衝撃を与えたのだが、ベリオンはゆっくりと起きあがり未だに動ける状態であった。
 
 だがダメージがあるのは明白で、動きは鈍く体の至る所に凹みや亀裂が走っていた、
 その為はやてはとどめとばかりに足下に円状のミッド式魔法陣を目の前には三角状のベルカ式魔法陣を広げ
 三角状の魔法陣の各頂点上に三種のそれぞれ異なる性質の魔力がチャージされていく。
 
 一方でベリオンもまたスキルのマイトブロウを魔法威力を高めるスキル、オーバーロートへと切り替え
 足下に巨大な魔法陣を広げて詠唱しながら両手を広げると黒いスフィアを形成、
 
 更に両手を上へと掲げ黒いスフィアを巨大化させて先程と同様の広域攻撃魔法を準備し始める、 
 そして双方の準備を終えると一斉に掛け声をかけた。
 
 「響け終焉の笛!!ラグナロク!!!」
 「グラビディブレス!!」
 
 次の瞬間、三種の魔力砲が放たれ一方で黒いスフィアが投げられ両者の間にて激突、
 はやては足を踏ん張り衝撃に耐えながら必死に抵抗、ベリオンもまた両手から魔力を衝撃波に変えて抵抗していた。
 
 その為に両者の攻撃は暫く均衡していたのだが、徐々にではあるがはやてが床を削るようにして押され始め、苦虫を噛むような表情を浮かべる。
 一方でヴォルケンリッターは主の為に何も出来ない今の事態に歯噛みしていた。

525レザポ ◆94CKshfbLA:2010/01/19(火) 18:38:39 ID:84pxI/GU
 その時である、シャマルから一つ提案が浮かぶ、それは精神リンクを介してはやてに魔力を分け与えると言うものである。
 はやてヴォルケンリッターは精神リンクによって夜天の書の魔力を共用する事が出来る、これは言い換えれば魔力を通す道や管で繋がっているとも言える。
 だからこそその逆が可能ではないのか?これがシャマルの言い分であった。
 
 「なるほど…試してみる価値はありそうだ」
 
 シャマルの提案にシグナムは乗り他の二人も頷くと自分の中に存在する精神リンクを探りそれぞれ見つけると、はやてにその旨を伝え魔力を込め始める。
 そして自分達の魔力を精神リンクによって伝えはやての魔力、更には夜天の書の魔力を強化させていった。
 
 「コイツなら…コイツならいける!!私らの絆…なめんなやぁぁぁぁぁ!!!」
 
 はやてはみんなから託された魔力を使いラグナロクを威力を高めグラビディブレスを打ち砕き、
 そのままベリオンに迫まるが、ベリオンはシールドと聖王の鎧を張り耐えようとした。
 
 だが威力を高めたラグナロクはシールド並びに聖王の鎧を打ち破り胴体に直撃すると
 その巨体を浮かばせて動力炉に直撃、更には胴体を貫き動力炉にまで及び大爆発を起こす。
 
 
 
 その影響で部屋全体は土煙に覆われ、はやて達の姿を覆い隠し暫くして土煙が落ち着き始めると
 動力炉は破壊され両腕と頭部のみを残したベリオンの姿が現れ、
 はやて達は当初の目的である動力炉の破壊を果たしたのであった……
 
 
 
 
 以上です、いよいよ佳境ってな回です。
 
 
 
 ベリオンのスキルですがオリジナルでは不可能な組み合わせがありますが、
 オリジナルに合わせるとスキルが限定されるのでこのような形を取りました。
 とは言え最大三つしか同時にスキルを発動出来ないんですけどね…
 
 
 次はチンク辺りを考えています。
 
 
 それではまた。

526レザポ ◆94CKshfbLA:2010/01/19(火) 18:40:16 ID:84pxI/GU
どなたか代理投下お願いします。

527魔法少女リリカル名無し:2010/01/19(火) 19:33:53 ID:Luy5W9V.
代理投下して来ました。

528レザポ ◆94CKshfbLA:2010/01/19(火) 19:45:46 ID:84pxI/GU
>>527
投下確認しました。
ありがとうございました。

529魔法少女リリカル名無し:2010/01/25(月) 16:44:54 ID:ndlRG8ZY
2ちゃんでauもDoCoMoの鯖を無くして
見る事も書き込む事も出来なくなるって未確認情報が

530魔法少女リリカル名無し:2010/01/27(水) 23:33:20 ID:9YmJUHM6
どうでもいいネタなんで代理投下しなくていいです。

嘘予告ネタ


早朝の住宅街に響く、銃声!
郊外の道路に投げ出された、悲鳴!
爆破される、漁船!
平穏な生活を脅かす、過去!

――これらがすべて――

「ベネット!?殺されたんじゃ…!?」

――『トリック』なら――?

「残念だったなあ……。トリックだよ……!!」

 ミッドチルダ首都防衛隊司令官麾下特殊作戦分遣隊『コマンドー』から身を引いた
ジョン・メイトリックス元大佐(現1等佐官相当)はエルセア地方の山荘で静かな生活を送っていた。
 しかし、彼の元上官であるカービー将軍の腹心であるカリム少将が訪ねた時から、
幾何級数的に状況が変化していく……。

陰謀に巻き込まれる、男!

「あたしたちに協力しろ!OK?」「OK!」

道中で出会う、協力者!

「私ギンガよ。あなたは?」「今日は厄日だわ!」

介入する、第三勢力!

「全隊員へ、三階で非常事態や。容疑者は男性、190cm。髪は茶。
筋肉モリモリマッチョマンの変態や」「見て来い、ティアナ」

そして始まる――……

「何が始まるんです?」「第三次大戦だ…!」
       コマンドー×魔法少女リリカルなのは 近日公開未定!

531riko:2010/01/28(木) 10:54:55 ID:S1rQcEZY
おぉぉぉ〜 無料で観れる映画がイッパイあるネットを見つけたわ。
邦画、洋画、アニメ!毎日新しく映画を追加更新中!!www.jpnetmovie.com
超素敵です。是非、是非、見てくださいね〜

532黒い雨:2010/01/30(土) 11:20:37 ID:5moxdEf6
前回よりかなり(それもウ〜ンと^^;)間が開いてしまいましたが・・・

今夜19:00前後にリリカル×「事件記者コルチャック」の第二話を投下したいのですが。

OKでしょうか?

533黒い雨:2010/01/30(土) 17:34:57 ID:5moxdEf6
 すいません忘れてましたorz

投下は本スレの方へです。

534魔法少女リリカル名無し:2010/01/30(土) 19:02:21 ID:zRTLvRVQ
まぁなんだ、予告も本スレに投下しなおしてみてはいかがか?
もう19時過ぎちゃった訳だけどもさ

535黒い雨:2010/01/30(土) 19:26:20 ID:.JVVwQuY
すいません・・・

規制に引っ掛かったせいで今は本スレへ投下できない状態にあります(泣)

んで取りあえずこっちに投下しますので、どなたか代行を御願いします。

536N2R捜査ファイル〜第二章:2010/01/30(土) 19:35:03 ID:.JVVwQuY

では投下を始めます。

クロス元は70年代に日本でもう放映され、今でも元祖X-FILESという事で隠れファンの多い米のTVシリ
ーズ「事件記者コルチャック」です。

また作中に若干グロ描写が含まれてますので、どうかご注意のほどを・・・

537N2R捜査ファイル〜第二章(1):2010/01/30(土) 19:35:51 ID:.JVVwQuY

 それは突然のことだった.......

 それまで静まり返っていたマンションの廊下で突如ドカドカドカ!という、大人数が踏み鳴らす大きな足音が響いた。 
 
 かと思えば、廊下のほぼ中央に位置する部屋から、警察と思しき制服や鑑識官と思しき作業服を着込んだ男女が幾人も口々に悲鳴
を上げながら飛び出し、そのまま階段やエレベーターを目指して走っていく。
 その中には廊下の途中で足を縺れさせて倒れ、その場で当日の食事を床に向かってブチ撒ける者や、慌てて階段を下るあまり途中
で足を滑らせて派手に転げ落ちた挙句、踊り場で大の字になって気を失う者が続出した。

 その様子を目の当たりにしたマンションの住人たちは飛び上がらんばかりに驚き、そのまま自分の部屋へと引っ込んで鍵を掛けるか
あるいは突然の事に腰を抜かし、その場にヘタり込んでガクガクと震え上がるばかりだった。

「……ヤッてくれるじゃネェか」

 皆が飛び出した部屋......先の事件で凄惨な犯行現場となったマンションの部屋......そこのキッチンでは鑑識課の主任と思しき
年配の男性が一人、コンロの上で湯気を立てる圧力鍋の前の前でEXスキャナを手に苦々しげな表情で呟いた。

 その彼の後ろでは気を失ったのか、鑑識ユニットの制服姿をした新人と思しき若い女性が、床の上にバッタリと倒れていた。

「あぁ〜クソ!まさか俺まで吐いちまうとは」

 そう愚痴っぽくこぼしながら、部屋の奥にあるトイレの方から制服を少し着崩した男性が一人、いまだキッチンで圧力鍋を睨む鑑
識課主任の下へとやってくる。

「こんな事なら、俺もギンガと一緒に外へ・・・・・・」

「やめろカルタス坊や!こんな時に現場のリーダーが、さっさと逃げ出してどうする!?」

 鑑識主任は相変わらず圧力鍋を睨んだまま、横に並んで立つ制服の男性ことカルタス二等陸尉に向かって釘を刺した。

     
            *リリカルxクロス〜N2R捜査ファイル 
          
           【 A Study In Terror ・・・第二章 】



 騒ぎの顛末はこうだった...... 
 

 現場で捜査に当たる陸士第108部隊からの連絡を受け、ミッドチルダの犯罪史上類を見ない惨殺事件の舞台となったマンションの部屋へと
到着した鑑識ユニット8名は、早速犯人の痕跡を求めて検証を開始した。
 そうして調査が進む中で部屋のキッチンへと足を踏み入れた鑑識主任がコンロの上で、しっかりと留め金を掛けて蓋をされた大きな圧力鍋から
仄かに湯気が立ち上っているのを見つける。

538N2R捜査ファイル〜第二章(2):2010/01/30(土) 19:39:15 ID:.JVVwQuY

 彼と同じように湯気に気づき蓋を開けようとする陸士を止めるや主任は、先に気分を害したギンガ・ナカジマ准尉に付き添って外へ出た新人
の女性鑑識官へ危険物チェックに使用するEXスキャナを持ってくるよう連絡する。

 そうして彼女が持ってきたスキャナを使用し、陸士そして鑑識を含むメンバー全員が息を呑んで見守る中で圧力鍋のスキャンが行われた

 ......のだが
 
 その結果がモニター上に表示された時、それを見た鑑識主任が鍋の蓋を開けコンロの傍に置かれていたトングで中身の一つを掬い上げた瞬間
それを目の当たりにした全員がショックのあまり口々に大声で叫びながら部屋を飛び出して行き、捜査主任のカルタスまでもが口元を押さえな
がら部屋のトイレへと駆け込み新人に至っては、その恐怖に思わず気を失ってしまったのだ。

 皆がパニックに陥るのも無理はなく、未だ弱火に掛けられコトコトと音を立てるスープの中から主任が掬い上げたのは、野菜やソーセージ等
といった様々な食材とともに、じっくりと手間暇をかけて煮込まれた人間の......それも明らかに事件の被害者である部屋の主ジョルジュ・ベ
ナデッドの”心臓”だったからである。

「このイカれた殺人狂は料理が得意で・・・・・・」

 そう吐き捨てるように呟きながら鑑識主任は、その口元をハンカチで覆って恐る恐る鍋の中を覗き込んだ。

「おまけに食材は”産地直送”って事か?フザけやがって」

「やめて下さい!ったく、お陰で暫くスープの類が食えませんよ」

 後ろでボヤく”若造”の言葉を聞き流しながら鍋の中を注意深く掻きまわす内、何かに気付いたのか”ハッ!”とした表情を浮かべるや主任は
すぐさま持っていたトングを置き振返ってキッチンの中央に置かれたテーブルへと目を向ける。
 そこには先に別の場所で殺害された被害者の妻ミシェルが、いや正確に言えば彼女の切り落とされた頭部が、まるで高価な花瓶でも飾るよう
にしてテーブルのほぼ中央に置かれていた。

 ......そのパックリと割られた頭頂部に赤いバラの花を活けられた状態で。
  
「他に何か、有るんですか?」
 
 彼の行動を見て少し驚いたのか同じように口元をハンカチで押えながらカルタスが尋ねた。
 
「なぁカルタス坊や・・・・・・あれを見て、なんか気付か無ぇか?」

「気付くって、あの首が何か?」

「違ぇよ!そうじゃなくてテーブルの方だ」

 テーブルを見詰めながら幾分か厳しい口調で主任が隣に立つ彼に釘を刺し、その言葉を聞いたカルタスは視線をテーブル上へと移した。

「あのテーブルが、どうかしたんですか?」

「よく見ろ。血塗れの生首が置かれてるってのに、あのテーブルの上・・・・・・やけにキレイじゃねぇか」

 そう言うと鑑識主任は徐にコンロの近くにある流し台の方へと足を向け、そこに置かれていた食器洗浄機に手を掛けると、その蓋を注意深く
開きながら中を覗き込んだ。

539N2R捜査ファイル〜第二章(3):2010/01/30(土) 19:42:48 ID:.JVVwQuY

「・・・・・・やっぱりな」

「やっぱりって、何が?」

 彼の呟きを聞き後に続く様にして食器洗浄機を覗きこんだカルタスの眼に、その中でピカピカに洗浄された一枚のスープ皿とワイングラスが見えた。

「見ろ。イカれ野郎めが!ちゃんとテメぇの料理を喰ってやがる」

 苦虫を噛み潰したような表情で鑑識主任が吐き捨てた言葉を聞いた時、そこでカルタスの記憶はふっつりと途絶えた。
 
「ったく若造が」

 あまりの恐怖に失神し、彼よりも先に気を失った鑑識課の新人と並ぶようにして、キッチンの床に倒れ込んだ”若造”を見下ろしながら鑑識主
任が幾分か呆れた様な口調でつぶやいた時、倒れたカルタスの上着のポケットから小型無線機の呼び出し音が響いた。

『主任!カルタス主任!応答願います・・・・・・』  


 
       ******************************


「ちょ!ちょっと待って、つまり撥ねられた人より・・・・・・」

 もう既に陽が落ちてかなりの時間が立っていた為か辺りが薄闇に包まれる中、制服姿の陸士達が誘導する一般車両が行き交う道路上に少女の驚
きの声が響いた。  

「えぇ、そうです。撥ねた車の方が大きかったんです、被害が・・・」
 
「”車の被害が”って、そんな事が」 

 説明された事故の状況に驚きを隠せぬままギンガ・ナカジマは、自分と同じ制服姿の少女に案内されながら事故現場を歩いていた。
 
 それはマンションでの騒ぎよりも前のこと......

 自らの閃きに導かれる様にして事件現場となったマンションを後にし、そこから数100m離れた幹線道路へとやってきた彼女は、その眼前に広が
る事故の想像を絶する惨状を前に愕然とする。
 
 彼女が来た時には4車線の道路は、既に到着していたクレーンやレッカーといった作業用車両のお陰で辛うじて、片側二車線のみ通行で
きるようにまで整理されていた。
 だが、それでも路上のあちこちには千切れ跳んだ車のパーツが幾つも転がっており、路肩へと目を向ければもはや原形を留めぬ程に大破した事
故車両が、何台もブスブスと煙を上げて燻ぶっているのが見えた。
 まだ焼け焦げたオイルの臭いが立ち込める事故現場へと足を踏み入れたギンガは、そこで交通課や応援で駆け付けた警備課の陸士たちと共に
集まった野次馬や渋滞の整理を行っていた妹二人......その日は遅番だったディエチとウェンディの姿を見付ける。

 そして彼女は今、説明を聞きながらディエチとともに事故現場に立っていた。
 
「その時に何らかの術式とか、何かの装置を使って回避したって事は?」

「それが、何も無かったんだそうです」

「無かったって・・・・・・何も?」

「えぇ事故を目撃した方たちの証言だと、そんな様子は全く見られなかったって言うんです」

 妹の口から語られる事故の状況は、これまで先のJS事件を含め様々な修羅場の中で闘い続け、今や地上本部きっての猛者とまで言われる様にな
ったギンガですら困惑せざるを得ないものだった。 

「分かってるのは事故の起きた原因が、横断歩道の無い道路を黒い服の男性が無理に渡ろうとして」

「それで、事故に?」

「はい。その時に、この車が猛スピードで・・・・・・」

540N2R捜査ファイル〜第二章(4):2010/01/30(土) 19:47:00 ID:.JVVwQuY

 そこまで話すとディエチは立ち止まり、そのすぐ目の前に置かれた一台の事故車を右手で指し示した。

「アッと云う間の事、だったそうです」

 それは鮮やかなブルーのボディーを持つセダン......だった物の残骸。

 まるで巨大な鉄柱に激突したかの如く、グリルを始めとするフロント部分が真ん中から凹型に大きく潰れ、そこに収まっていたエンジンが車
体内側の仕切りを突き破り、それが運転席にまで押し出されていた。
 既に回収された後だった為か遺体こそなかったものの、砕けたリヤウィンドウや運転席のシートにベッタリとこびり付いた鮮血と肉片を目にし
た途端、再び込み上げる吐き気にギンガは思わず口元を押さえながら顔を背けた。

「あ、あのギンガ、さん?あまり無理は・・・・・・」 
「大丈夫、ありがとう、もう平気」

 心配気な表情で横から覗きこむ妹に小さく頷きながらギンガは、何とか気を取り直すと目前に横たわる無残な鉄の塊へと顔を向け、その事故
が起きた際の衝撃の凄まじさと、そこに乗っていたドライバーの断末魔を物語る状況に身も凍るような恐怖を感じた。

「じ、じゃあ渡ろうとしたって言う、黒い服の男は生身だけで、これを?」

「えぇ証言だとぶつかる直前に、こんな感じで軽く体の向きを変えて、こう右手を突き出す様な動作をしただけで」

 さり気無く身振り手振りを交えながらディエチは、今だ驚きを隠せずにいる姉に向かって説明を続ける。

「後は、事故を避けようとした他の車が、次々に・・・」

「その黒服の男は、どうなったの?どこか怪我とかはしてなかったの?」

「聞いた限り、ですが・・・その、そのまま落ちていたバッグを拾って、あちらの方へ歩いてったそうです」

 妹が示した方角へと目を向けると、その先には薄暗く何処か寂れた雰囲気が漂う古風な街並みが見えるばかりだった。
 そうしてギンガは黒服の男が立ち去ったという方角を数分ほど見詰めた後、その視線を再び妹の方へと戻そうとした。

 ......っとその時、彼女の目に奇妙な物が映った。

「ねぇディエチ・・・・・・その男性って、確かに黒い服を着てたのね?」

「はい確か黒くて大きな、そうコートかマントの様な上着の下に、同じ色の背広を着ていたそうです。それと帽子も」

「帽子、って?どんな・・・・・・」

「鍔(つば)が狭くて天辺の丸い、なんか古風な感じのする帽子だったそうです」

 妹の返事を聞きながらギンガは瞬きもせずに、目の前に置かれた事故車へと顔を向けたまま上着のポケットから待機状態のデバイスを取り出し
それを通信モードに切り替えた。

「主任!カルタス主任!応答願います」

 そうして何度か彼女が呼びかけると、そのデバイスから返事が聞こえた。

『その声はナカジマの嬢ちゃんかい?悪いがお宅の上司は今、あぁ〜手が離せないんだ』

 聞こえてきたのは彼女の上司であるカルタス陸尉ではなく、同じく現場で検証にあたっていた鑑識主任の声だった。

541N2R捜査ファイル〜第二章(5):2010/01/30(土) 19:49:16 ID:.JVVwQuY

「ではすいませんが、至急こちらへ来るようお伝えください」

『こちら、って今どこに?』

「マンションを、そこの玄関を出て、右に30分ほど歩いた所にある幹線道路です」

『幹線道路!?一体全体なんで』

 無線機の向こうで驚きの声を上げる鑑識主任に対し、自らも震えがちになる声を抑えつつキンガは落ち着いた口調で応えた。

「とにかく、すぐ来るようにお伝え願えませんか?」

『・・・・・・何か見付けたのか?そっちで』

「はい、多分これは・・・・・・」

 気が付けばデバイスを持つ彼女の周りにはディエチだけではなく、もう一人の妹ウェンディとともに他の陸士たち数名が集まり、ある一点を皆でジッ
と見詰めていた。

「ギン姉・・・・・・これ、何ッスかぁ?」

 皆の視線を集める物それは、まるでキャンディのようにグニャリっと曲がった事故車両のバンパー部分......その端に引っ掛かり、時折現場に吹く
風でひらひらと揺れる黒い衣服の切れ端だった。

      
       ******************************


「・・・こりゃタマげたっ!」

 その声はミッド地上本部の、その建物内にある研究室......現場で採取された証拠品を分析する為の研究室の中に響いた。

「バカ野郎!何いきなり大声出してんだ」

「あぁすいませんどうも。でもまさか、ここで現物に出会えるとは思わなかったもんで」

 いきなり素っ頓狂な声を上げた白衣姿の若い分析担当者を、近くに居た制服姿の鑑識主任が叱り付けた。

 事件から二日後の昼過ぎ、ギンガは自身が見付けた遺留品......犯人の者と思しき衣服の切れ端の分析結果を確認するため鑑識主任の立ち会いの元
白い壁と天井に囲まれ、様々な分析機器や器具が雑然と並べられた研究室を訪れていた。

「な、何か分かったんですか!?」 

「ナカジマ准尉が見付けた例の布切れ。あれを色んな衣服に関するデータと照合してみたんですよ」

 突然の事に驚く彼女を後目に分析担当者は、証拠品を受け取ってから今日まで徹夜続きだったのか、少し眠たげに目を擦りながらモニター画面に表
示された分析結果について説明を始めた。

「でもミッドやベルカだけじゃ埒が明かなくて、それで他の次元世界での民族衣装なんかとも照合したら、一致したのが・・・・・・」

 薄らと隈の浮いた眼で顔を向ける彼に促されるまま、その画面へと目を向けたギンガの口から、およそミッドでは聞き慣れぬ単語が零れ落ちた。

542N2R捜査ファイル〜第二章(6):2010/01/30(土) 19:52:03 ID:.JVVwQuY

「・・・・・・”カシミア”って」

「なんだおい、そりゃまた随分と上等な遺留品じゃねぇか」

 ここクラナガンで育った彼女にとって滅多に聞く事の無い単語に少し眉を顰めていると、その横で同じモニター画面を見ていた鑑識主任が口を開いた。

「主任はその、これが何なのか御存じなんですか?」

「あぁ、確か嬢ちゃんの親父さんが第97管理外世界、えぇっと”地球”の出身だったけかな?」

「いえ地球出身なのは父ではなく曾祖父ですが、それが何の・・・・・・」

「このカシミアってのは、そこのイギリスって国で古くからスーツや、コートなんかの素材に使われてきた布地の事なんだよ」 

 興味深げな様子で耳を傾けるギンガの前で、その手に持ったコーヒーをすすりながら鑑識主任が説明を始めると、その横から少しふざけた調子で分析
担当官が口を挟んだ。

「それもウ〜ンっと高級なね♪この布地で3ピースの紳士服を1着仕立てれば、ここの通貨に換算して・・・・・・ざっと5万ミッドってとこかな?」

「7万だろ!ったく人の話に割り込みやがって」

 話を邪魔されて腹を立てながら相手を叱る鑑識主任の言葉を聞き、彼女は思わず目を丸くして驚くや、すぐ近くに有った椅子の上へ、尻もちを付く様
にして腰を落とした。

「そんなに!? い、1着で7万ミッドもするスーツなんて・・・・・・」    

「それだけ上等で高価な素材なんだよ。だからこの生地は英国や欧州の王族とか貴族、あと大企業の社長さんや財閥の会長なんかに重宝されてる」

「それは、つまり・・・・・・」

「ま、早い話がブルジョア連中の必需品ってとこだ」

 ”カシミア”に関する彼の説明を聞いたギンガは少し視線を落とすと、その細い顎の下に軽く手を添えながら判明した事実から浮かび上がる犯人像に
ついて考え始める。

「じゃあ、この事件の犯人は何処かの王族か、その関係者?」

「または・・・・・・」

 考えを巡らせ事件を推理する彼女に分析担当者が、ピンセットで摘まんだ証拠品の布切れをヒラヒラさせながら、またもフザけた調子で口を挟んだ。  

「オシャレ好きでブランド志向の伊達者、ってとこでしょうか♪」 

「「・・・・・・」」

「すんまっせん。言い過ぎでした」

 白けた様な視線でジィーっと睨まれ恐縮したのか彼は、持っていた布切れを元のシャーレに戻しながら二人に詫びを言い、それを聞いた鑑識主任は軽
く溜息を付くと傍で苦笑いをするギンガに改めて説明を続けた。

543N2R捜査ファイル〜第二章(7):2010/01/30(土) 19:55:10 ID:.JVVwQuY

「とにかく今日の夕方ぐらいには嬢ちゃんの上司に、この事件に関する報告書を提出するから詳しく知りたければ、よかったら嬢ちゃんも目を通すと良い」

「あ、はい分かりました。お待ちしてますので」

「それと、後は分析班の方だが・・・・・・」    

 そう言いながら彼がゆっくりと顔を向けると、ガブ飲みしたコーヒーに少し咽ながら分析担当者が調査の途中経過を説明する。

「こりゃ失礼!こっちも夕方ぐらいには結果を提出できます。残りは香りに関する調査だけなんで、あと小一時間もすれば済みますし」

「香り?って・・・・・・」

 彼に言う”香り”についてギンガが尋ねると分析担当者は、証拠品の布切れを入れたシャーレを手にとるや、それを落とさぬよう気を配りながら二人の
方へ差し出す。

「どうです、嗅いでみますか?」

 シャーレを受け取とるとギンガはそれを顔に近付け、その布に染み込んだ匂いを注意深く嗅いだ。

 それは初めて嗅ぐ、だがどこか懐かしさを感じる様な奇妙な香りだった...... 

 何となく柔らかな潮風を思わせ、それでいて何処か特徴のある上品で爽やかな香りが彼女の鼻腔の中で、ゆっくりと広がっていくのが感じられた。

「・・・・・・これは、香水か何か」

「あぁ〜確かに、こりゃ香水だな。それも高そうで気取った感じのする」

 先に嗅いだ彼女からシャーレを受け取り、その香りを吟味しながら鑑識主任が率直な感想を述べると、またもや分析担当者がおどけた口調で皮肉を言う。

「でしょ?これが犯人の物だとすれば、俺達から見りゃあキザを通り越してイヤ味に思えますよ」
 
 そう言うと彼はカップに残っていたコーヒーを一息に飲み干し、そして”謎の香り”について二人が話し合う様子を見ながら疲労感たっぷりに溜息をついた。 

 
           ******************************


    Unftorgettable, That's What you are,〜♪

Unftorgettable, though near or far,〜♪


 薄暗く香木の煙が仄かに立ち込める店内で異世界の歌声が静かに響く中、そこだけが外の世界から切り離され時代が止まっているかの様な、そんな奇妙な雰囲
気が漂っていた。
 店の奥へと目を向ければ主人と思しき少し年配の男性が、カウンターの上に置かれた年代物のレジの前に座り、広げた新聞の記事へと見入っていた。

 新暦82年5月11日の午後16時ちょうど

 クラナガン北地区の下町で、小さな店を持つ古美術商ヴァンサン・フィデルの元に、その日なんとも奇妙な客人が訪れた。
 
 ・・・・・・まさかそれが主人にとって、今世で最後の接客になろうとは、彼自身すら知る由もなかっただろう。
 
 店の主人ことフィデルが何時もの様に新聞の株式欄を読み始めた時である。
 入口の方から響くドアベルの音に彼が読んでいた新聞から顔を上げると、コツコツという足音と共に落ち着いた足取りで背の高い男性が一人その姿を現した。

544N2R捜査ファイル〜第二章(8):2010/01/30(土) 19:58:22 ID:.JVVwQuY
 
 その客は店内に陳列された様々な時代、文化そして民族が生み出した美術品や小物の数々を丹念に品定めするかの如く、ゆっくりと時間を掛けて眺めている様に
見え、そんな彼の様子をフィデルは新聞に目を向けつつ時折、チラチラと視線を店内へ向けながら用心深く伺っていた。

 主人が注意深くなるのも無理はなく、彼が店舗を構える下町の周辺は廃棄地区ほどでは無いにせよ市の中央に比べ、お世辞にも治安が良いとは言い難く、それに
加え最近では店の近辺を含む地域一帯を縄張りにする、凶悪なベルカ人ギャング三人組が出没するとの噂が流れていたからだ。
 とはいえ今フィデルが様子をうかがう中で客は、まるで店内のノスタルジックな空気を楽しむかのように振舞った。
 しかも良く見れば彼の姿は店の雰囲気に合わせたかの様に、前近代的ともいえる服装......優雅に着こなしたトラッド系の黒い紳士服の上から、あまり長居はし
ないつもりなのか折り返しの襟が付いた黒い外套を羽織り、山高帽を少し目深に被ったまま時折ベストの胸ポケットから取り出した片メガネで陳列された美術品の
数々を楽しげに眺めており、その様子はギャングどころか一般庶民ですら及びも付か無い様な身分に思えた。
 その優雅で紳士的な佇まいと無駄一つない動作や仕草からは、何処か貴族的な気品さえも感じられた。
 主人が注意深く見守る中で、その黒服の紳士は店内の中央まで来ると立ち止まり、そこに置かれていた品物をゆっくりと手に取った。

「・・・・・・見事だ」

 その品物を見詰めながら男性は良く通る深みを持った声で静かに呟き、それを聞いたフィデルは読んでいた新聞を畳んで置き、ゆっくりと椅子から腰を上げ接客
の為にカウンターを離れ客の元へと歩み寄った。
 
「お気に召しましたかな?」

 親しげに彼が声を掛けると、その男性が手に持った品物がフィデルの眼に映る。
 それは美しい青く艶やかな石で出来た小さな、だが巧みな職人技で生み出された女神の彫像だった。

「これは瑪瑙(めのう)、いや翡翠ですかな?」

「よくお分かりで、それは上質の青翡翠で出来ております。 どうやら、かなり目が肥えてらっしゃるようで」

「ハハハッ♪まさか。ただ人より少しばかり、好奇心が旺盛なだけですよ」

「いやいやご謙遜を」

 他愛の無い会話に弾みが付き始めた為か、二人の間に何処か和やかな空気が生まれる。

「どうやら色々とお詳しい方の様ですが、どちらからお越しに?」

「私ですか?本来なら御教えしたい処ですが、なにぶん色んな世界に行っては、そこの現地人と交渉したりする仕事ゆえ、詳しく御教えすることは・・・・・・」

「なるほど、それはまた失礼をば」

「いえいえ御気になさらずに。それよりも、この女神・・・・・・ですかな?見た限りでは、さぞ値打ちのある物だと御見受けしますが」

 さり気無く世間話を交えつつ黒服の紳士が、その手に持った翡翠の彫像に関してフィデルに尋ねると、それを聞いた彼は”待ってました”とばかりに、その商品
に関する説明を始めた。

「勿論ですとも♪これは古来よりベルカ民族の間で、深く信仰されてきた聖王の彫像でしてな。今から何年か前に古い遺跡から発掘された物なんですよ」

「ほぉ確かに、それはまた。だが発掘された物という事は、何か色々とマズいのでは?例えば所有権云々とか・・・・・・」

「その点は御心配無く。うちで扱う商品は、全て合法的に仕入れた物ばかりなので」

「・・・・・・全て、合法的?」

「えぇ合法的に・・・・・・ちゃんと管理局からも許可を頂いておりますので」

545N2R捜査ファイル〜第二章(9):2010/01/30(土) 20:02:16 ID:.JVVwQuY

 商品の仕入れ先に関して質問をする客に対し少し間を置いてフィデルは、その声を幾分か潜め気味にしながら仕入れの内訳を仄めかし、それを聞いた紳士は”なる
ほど”と云わんばかりに小さく頷きながら聖王像を見詰める。
 っが感嘆の息を漏らしながら次に紳士の口から出た言葉を耳にした時である、フィデルは思わず自身の耳を疑った。

「それはつまり、発掘された遺跡からの出土品や逮捕された次元犯罪者より押収された美術品を、時空管理局に居られる貴方のご友人から裏のルートを使って秘密
 裏に仕入れ、それをこの店で扱っておられる。っと云う事ですかな?」

「・・・・・・今、何と」

「そして貴方の云う”合法的”というのは、そのご友人が・・・・・・」

 グレーの瞳を持つ目を細めながら自身がひたすら隠していた事実を、さり気無く淡々と語り始める紳士を前にフィデルは、その張りつめた緊張感からか手にジット
リと汗をかいていた。

「そのご友人が管理局や、遺跡の発掘を管轄とするスクライア一族に気付かれぬよう、出土品や押収品に関する書類やデータに細工を施したうえで、仕入れた”商品”
 を特定の顧客に対しネットを通じて高値で取引している、っという事ですな」

「・・・・・・き、今日は、も、ももう店じまい、です、な」

 その空気に耐え切れなくなったのか彼は声を震わせながら、それとなく遠まわしに立ち去るよう紳士に向かって伝える。
 
 ......っが 

「それは大変結構。そうして頂ければ、こちらも邪魔が入らずに済みますからな」

「し、失礼ですが、も、もう帰って頂けますか?」

「そうは参りませんな。今日ここへお伺いしたのは貴方に、幾つかお聞きしたい事があるからですよ、Mrヴァンサン・・・フィデル」

「出てってくれっ!さもないと・・・・・・」

「”さもないと”通報しますかな?だがそれでは、困るのは貴方だと思いますが」 

 我慢の限界が来たのかフィデルは、飽くまで居座ろうとする不気味な訪問者に対し厳しい口調で大声を出すが、しかしそれでもなお紳士は、その落ち着いた姿勢を
崩す事は無く、それどころか相手の反応を楽しむかの様に、わざと勿体ぶった動作で左手に持つ聖王像を、近くに有った丸いテーブルの上へと置きながら、怯えた表
情を浮かべる店主の前へと迫っていた。

「云っておくがうちの店は、法に触れるような事はしていない!なんなら出る処に出て・・・・・・」

「勘違いして貰っては困りますな。言っておきますが私は警察の、いや管理局の者では御座いませんので」

「じ、じゃじゃあ誰だ!一体なんの目的で・・・・・・」

「何より今こうして御邪魔しているのは、あくまで私の個人的な用件からお伺いしたまでです」

 ついに店のへと追いつめられたフィデルはこめかみに冷たい汗が滲むのを感じ、恐怖に顔を歪めブルブルと身体を小刻みに震わせながら後ろのカウンターに凭れか
かると、そこに置かれていたペーパーナイフへと手を伸ばす。
 だが彼の震える指先がナイフの柄に届こうとした瞬間、チーン!という鈴の音にも似た軽い金属音がフィデルの耳に響いた。

「あ、あ、あああ、あアンタは、い、いい一体・・・・・・」

546N2R捜査ファイル〜第二章(10):2010/01/30(土) 20:05:25 ID:.JVVwQuY

 その時フィデルは見た。

 今まさに自身の上へ、のしかかる様にして迫り来る長身の”死神”が姿を。

 研ぎ澄まされた刃の如き鋭い視線で、怯えきった自分を見据える黒衣の”怪物”が本性を。

 そしてなにより、その右手に握られた刃渡り10㎝以上はあろうかという”凶器”を。

「さてMr、私の質問に是非・・・ お 答 え 頂 こ う か 」

 ウィンドウから射す黄昏時の夕日が薄暗い店内をオレンジ色に染める中、物静かな、それでいて威圧的な言葉が紳士の口から紡がれると同時に彼が右手に持つ
象牙のグリップで装飾された異様に大きな”剃刀”が、薄闇の中で不気味に輝いた。


         ********************************


「おい店の明かりが消えた。例のオッサン、そろそろ出て来るみたいだぜ」

「ったくヨォ。どんだけ粘ってんだ?あのオヤジ・・・」

 まだ人通りが多いとはいえ、日も暮れて辺りに夜の帳が下りはじめた北地区のメインストリート。
 その片隅で見るからに派手な服装の若者が二人、通りの向かいにある古美術店の様子を伺いながら、ヒソヒソ声で言葉を交わしていた。

 古美術商フィデルの元に、黒服の紳士が訪れてから約2時間近く経った午後17時49分ごろ

 北地区一帯を自分達のテリトリーにする札付きのベルカ人ギャング......リーダーである通称”ジョー”ことヨセフ・グリーンを筆頭にスタン・ベリー、そし
てダニー・ヒルの三人組は今夜の獲物に目を付け、今まさに彼らの十八番である『強盗ビジネス』に取り掛かろうとしていた。

 まさか、その行動が元で全員揃って”地獄行の片道切符”を手にする事になろうとは、その時の三人は気付くことすら無かっただろう...... 
 
「ジョー兄貴は今どこに?」

「とっくに先回りして、いつもの路地裏ん前で待ってる!あとは俺ら二人で獲物を追い込むだけさ♪」 

「でもさぁ・・・・・・何か、おかしくねェ?」

「おかしい、って?」

 これから皆で取り掛かる仕事について、その手筈に関し最後の打ち合わせをする中で、やや大柄でスキンヘッドの青年ダニーが口にした疑問に、その相棒で小
柄な体格に襟元まで伸ばした長髪をオールバックにした男スタンが聞き返した。

「だってよぉ、さっき店に入って行った客・・・・・・なんか変な恰好してたし」

「どぉ〜でもイィじゃん!どんなカッコしてよ〜が」

「でも考えて見ろよ。もうとっくに春だっつぅに、あいつデッかいマントみたいな服着てたしよォ。それに雰囲気もどっか……」

「あんさぁ〜、お前もう細けぇ事気にし過ぎんだよぉ!ったくぅ。まぁ確かに雰囲気はおかしかったけどよぉ、でもオッサンが着てた背広とか持ってるカバンと
 か見たろ?ありゃきっと相当金目のモン持ってるに違い無ぇって感じだったぜ」

 未だ煮え切らぬ態度を引き摺る相棒に対しスタンが、かなり腹を立てたのかイラついた声で喝を入れた時である。
 軽やかなドアベルの響きと共に明かりの消えた古美術店のドアが開き、彼らの目当てである暗がりの中から”最後の客”が姿を現した。

547N2R捜査ファイル〜第二章(11):2010/01/30(土) 20:08:14 ID:.JVVwQuY

「おい、オッサンが出てきた」

「よっし!行くぞ、いつもの手筈通りだ」

 暗闇の中で二人の”ハイエナ”が今宵の獲物を見付けるや、一瞬の間を置く事もなく仕事に取り掛かる。
 まずスタンが通行人を装って道路を渡って店から出た獲物の後方へと回り込むと、そのまま相手との距離に注意しながら後から尾行し、そして相棒のダニーは
向かい側を歩く相手と並行するようにする様にして歩道を行き、丁度キツネを追いかける猟犬の如く”獲物”を、リーダーの待つ路地裏の方向へと追い込んでいく。

 どれくらい歩いただろうか......

 背後から尾けてくるスタンと、通りの向かい側を歩くダニーの気配に薄々感付いているのか今夜の獲物は、時折そっと肩越しに後ろを振返りながらも決して怯
えた素振りすら見せずに一定の速さで歩いて行く。
 そうして歩き続ける内に、やがて皆が人通りの少ない区画へと差し掛かった時である。
 何処から現れたのか”獲物”の前にガッシリとした体格を持ち、青いバンダナを頭に巻いたドレッドヘアーの男が一人、派手なペイントを施した皮ジャケット
姿で近付いてくる。

「すんませ〜ん。火ィ貸して貰えますか?」

 そう言うとドレッドヘアの男はポケットから煙草を1本口に咥え、それを見た”獲物”は小さく頷きながら持っていた医療カバンを下に置くと、その懐から小
さな時計が嵌めこまれた、見事な銀のライターを取り出す。
 そのライターが灯す火が暗がりを照らし出す中、煙草に火を付ける為にドレッドヘアの男が顔を寄せた時である。
 薄闇の中で彼が獣の様に眼をギラつかせ、それに相手が気付いた瞬間!その首筋に何か堅く冷たい物が押しつけられる感触が...... 

「おっと!妙な気を起こすんじゃ無ぇぞ、オッサン」

 背後から聞こえたのは気取った口調の、だが凄みをタップリと効かせた脅し文句だった。

「素直に従えば、悪い様にはしネェよ♪」

 そう云うとドレッドヘアの男ことヨセフ・グリーンは、目の前に立つ相手からライターを取り上げ自分のポケットへと押しこむ。
 横を見れば手に狩猟用ナイフを握りしめた、三人目の男ことダニーが足早に道路を渡り皆の元へ近づいてくるのが見えた。

「どうしたよオッサン、エェッ!?なんか言ってみろよ♪それとも、ビビって縮み上がってんのか?」

 その背後から銃身の短いリボルバー......ここミッドでは所持するだけでも重罪となる危険な質量兵器を突き付けながら、相手の反応を楽しむかのようにスタン
が幾分か浮かれた調子で挑発の言葉を口にする。

 ......っとその時

「もし、ここで御誘いを断ったりすれば、皆様は如何なさいますかな?」

 深みのある物静かな声で、彼ら三人が目を付けた今宵の獲物......黒服の紳士が口を開いた。 

「決まってんだろ?そん時は……」

 そういうとヨセフは上着の内側から、柄の部分に派手な髑髏の装飾を施したマシェット(山刀)を抜いたかと思うと、その鏡の如くピカピカに磨き上げられた刃
を相手の喉元へと突き付けた。

「断った代償にSTEEL(鋼)をくれてやるよ!」

「おやおや♪それはまた、困りましたなぁ」

 普通ならば震え上がり、ともすれば失神してその場に倒れ込んでしまうような状況、凶悪な武装ギャング達に三方を取り囲まれているにも関わらず黒服の紳士は
怯えた素振りは一切見せず、それどころか落ち着いた様子で苦笑いを浮かべるほどの余裕を見せた。

548N2R捜査ファイル〜第二章(END):2010/01/30(土) 20:10:19 ID:.JVVwQuY

「なに余裕ブッこいてんだテメェ!!」 

 あくまで落ち着いた姿勢を崩さぬ紳士の態度に苛立ったのか、その背後に立つスタンが大声で怒鳴りながら、突き付けた拳銃を更にグイ!っと押しつけた。

「ウダウダ言ってネェで、さっさと面(ツラ)貸せやオラっ!」

 ドスの利いた声でヨセフが凄むと、相手の背後からスタンが足元のカバンを、また横に居たダニーが紳士が左手に持っていたステッキ......握り部分に黄金色の
ドラゴンの彫刻が施された黒く長いステッキを取り上げた。

「んじゃ、ちぃと付き合って貰おうか」

「良いですとも……」

 ギラついた眼でニヤ付きながら凶悪なギャング・グループの頭ことヨセフ・グリーンは、他の二人に目配せで合図をすると皆で取り囲んだまま、その黒服の紳士
を彼らの”仕事場”へと連れていく。

「……皆さんが是非、と言うのであれば」

 薄暗い路地裏へと向かう間、三人は気付く事は無かった......凶悪な武器を突き付けられているにも拘らず、その紳士が不気味な笑みを浮かべている事に。

                 ......それが夜のクラナガンを震撼させる『惨劇の輪舞(ロンド)』の幕開けだった。



                                      ・・・・・・Until Next Time

549黒い雨:2010/01/30(土) 20:14:20 ID:.JVVwQuY

今夜の投下は以上です。

次回は・・・まあ今は忙しい合間にチマチマ書き溜めてる状態なんで、また幾分か間が
開いてしまうことになりますが(苦笑)

とりあえず次回はナカジマ姉妹(数の子含む)の内5人が、いよいよ”黒服の怪物”と
邂逅しますので。

では今夜はこれにて

550リリカルトリーズナー ◆j1MRf1cSMw:2010/01/30(土) 20:45:35 ID:QeYbHlqc
すいません、途中で私も規制くらってしまったので、どなたか残りの方を代理投下お願いします。


後、黒い雨氏、途中で改行が多すぎるってエラー出たので、適当な部分で分けて投下したんですが構いませんでしたか?

551リリカルトリーズナー ◆j1MRf1cSMw:2010/01/30(土) 21:15:59 ID:QeYbHlqc
規制解除されたので、残りも投下しておきました。
ご確認の方、お願いいたします。

552黒い雨:2010/01/30(土) 21:18:45 ID:5moxdEf6
>>550リリカルトリーズナー氏

代理投下ありがとうございます。

>適当な部分で分けて投下したんですが構いませんでしたか?

いえいえ結構ですよ・・・ってか本来なら自分で修正したり削ったりするところを代わ
りに対応して頂きまして申し訳ないですorz

553レザポ ◆94CKshfbLA:2010/02/01(月) 19:47:44 ID:jifm23tw
今晩は未だに規制を受けているので第三十八話を此方に投下させて貰います。

554レザポ ◆94CKshfbLA:2010/02/01(月) 19:51:21 ID:jifm23tw
 時間は遡り、なのはとレザードの戦いは端から見れば拮抗していると思われる程の戦いぶりを見せていた。
 だがレザードの表情には未だ余裕があり、全力を出してはいないであろうと感じるなのは。
 
 一方でなのはは既にブラスター3を発動している状態、このまま拮抗が続けばいずれなのはが敗北するのは必死である。
 しかしなのはの顔には焦りを感じている表情は無く、寧ろそれに不気味さを感じるレザードであった。
 
 
                      リリカルプロファイル
                       第三十八話 覚悟
 
 
 そんな戦況の中でなのははレザードにレイジングハートを向けてディバインバスターを発射、
 しかしレザードは旋回しながらこれを回避し、左人差し指を向けてライトニングボルトを放つ。
 
 するとなのははラウンドシールドを張りこれを防ぎ、続いてアクセルシューターを撃ち放つが、
 レザードはアイシクルエッジにて相殺、拮抗が徐々に破られつつあった。
 
 すると其処に一つの影が姿を現す、その正体はフェイトであった。
 フェイトはなのはが戦っているこの広場へと足早に向かっていたのだ。
 
 「なのは!助けに来たよ!!」
 「フェイトちゃん!スカリエッティは逮捕出来たの?」
 
 なのはの質問にフェイトは口を噤み下を向いて影を潜む表情を醸し出し、その表情に困惑するなのは。
 すると対峙していたレザードがその理由を語り出す、スカリエッティはもし自分が管理局に捕らわれる事になったら、
 自らの意志で自らの命を絶つ覚悟を持っていたという、つまりはスカリエッティは自害したのだろうとフェイトに代わって答えた。
 
 「そんな………何故!?」
 「…それ程までに管理局が気に入らなかったのでしょう……」
 
 肩を竦め小馬鹿にした表情を浮かべながら語るレザード、だが理由はそれだけではなかった。
 逮捕されれば懲役を受ける事は明白である、だが管理局には協力を約束する変わりに懲役を減らす制度がある。
 
 管理局は十中八九その制度を用いて交渉をしてくるだろう、スカリエッティは管理局からの脱却が目的である、
 それ故に管理局に尻尾を振るぐらいならいっそ自分の手で幕を閉じると言う覚悟があったのだ。
 
 しかしこの事を二人に話したところで理解は出来ないだろう、
 レザードはスカリエッティの覚悟を胸の内にしまうと、改めて二人と対峙する。
 
 「まぁ、いいでしょうそんな事は…今重要なのは私の邪魔をする者が増えた…という事実ですから」
 「……ずいぶんと余裕ですね」
 「それはそうでしょう」
 
 女小娘が二人になったからと言って自分の方が優勢である事は変わりはしない、左手を眼鏡に当て不敵な笑みを浮かべるレザード。
 その表情に不快感を現す二人であったが、寧ろ余裕のあるレザードの度肝を抜こうと考え、
 フェイトはライオットザンバー・スティンガーを水平に構え、なのはもまたレイジングハートを向けて対峙する。
 
 先ずはフェイトが先行しレザードの懐に入ると左の刀身を振り下ろすのだが、
 レザードは右手に持つグングニルで受け止め、フェイトは続けて右の刀身を水平に構え突く。
 
 だがレザードは滑るようにして後方へと回避、更に左手を向けてクロスエアレイドを放つ、
 しかしクロスエアレイドはなのはのアクセルシューターによって撃ち落とされ更にレザードに向けてショートバスターを放つ。
 
 するとレザードは急降下してショートバスターを回避し床すれすれを滑走、なのはに向けて衝撃波を放つ。
 だがフェイトが間に割り込みスティンガーにて衝撃波を切り裂き、後方ではなのはがアクセルシューターを撃ち放った。

555レザポ ◆94CKshfbLA:2010/02/01(月) 19:53:09 ID:jifm23tw
 しかしレザードはリフレクトソーサリーを張りアクセルシューターを跳ね返したのだが、間髪入れずにフェイトが接近
 左の刀身を左へ薙払うようにして振り抜くがレザードはグングニルにて左の刀身を受け止める。
 
 するとフェイトは右の刀身を左の刀身に合わせ一つにし、ライオットザンバー・カラミティに変えて一気に振り切り
 レザードはその衝撃に耐えきれず吹き飛ばされるがすぐさま着地、するといつの間にか上空に移動していたなのはが、
 レイジングハートをレザードに向けており、ディバインバスターを撃ち鳴らした。
 
 一方レザードは依然として冷静で左手に青白い魔力をたぎらせると、直射砲のようなライトニングボルトを撃ち放ちディバインバスターと激突、
 そして見る見るうちに押していく中、なのははカートリッジを一発使用、出力を上げ
 ライトニングボルトを押し返し始め、最終的に相殺という形で終えた。
 
 一方でフェイトはレザードからかなり離れた後方に移動しカラミティをスティンガーに変えソニックムーブを発動、
 金色の一筋と化してレザードに迫るがレザードは全方向型のバリアを張り攻撃を防ぐ。
 ところがフェイトはお構いなく何度も切りかかり、まるで無限の剣閃ともいえる程の動きをしていた。
 
 そんなフェイトの攻撃によりバリアに亀裂が走りそれを見たフェイトは更に速度を上げて攻撃、右の振り下ろしが決め手となりバリアを破壊、
 するとフェイトはスティンガーをカラミティに変えてとどめとばかりに下から上へすくい上げるかのように振り上げた。
 
 だがレザードはフェイトの攻撃のタイミングに合わせてシールドを張り攻撃を受け止め更に前宙のような動きでフェイトの頭上を舞い床に着地、
 攻撃から難を逃れたかに見えたが、レザードの左上空にはなのはが陣取っており、
 レイジングハートのカートリッジを三発使用、先端から環状の魔法陣が張られていた。
 
 「ディバイン…バスタァァァ!!」
 
 撃ち放たれたディバインバスターがレザードに迫る中、左手で大型のシールドを張り攻撃を受け止めると、
 なのははカートリッジを一発使用、ディバインバスターを強化させ、更に威力が増すとシールドに亀裂が生じ始める。
 その後暫くしてシールドが砕け散りレザードはディバインバスターに飲まれていった。
 
 ところがレザードは上空へと移動しており、足下には五亡星の魔法陣が張られていた。
 レザードは常に準備してある移送方陣を発動させてディバインバスターの驚異から逃れたのである。
 
 なのはは悔しそうにレザードを睨みつけている中、レザードは驚いた様子で左手の感触を確かめていた。
 先程張ったバリアに加えシールドすら破壊された…三賢人の時のように相手を油断させる為にわざと強度の低いシールドやバリアを張った訳ではない。
 
 十分な強度で張っていたのだが彼女達は実力でバリアやシールドを破壊した、それ程までに彼女達の攻撃には威力がある…
 つまり彼女達は既に三賢人以上の能力を持っている事を指し示しているのであった。
 
 「ふむ…その杖の影響とはいえ、これ程の力をつけていたとは……」
 
 レザードは素直に二人の実力を賞賛する中、なのはの下にシャマルからの連絡が届く。
 それは今し方はやてがベリオン及び動力炉を破壊したというものであった。
 
 しかし動力炉を破壊したというのにゆりかごは依然として動いたままである、
 それはゆりかごに存在する自己防衛モードによるもので、本体自体に残されている魔力によって飛行を維持されているのであった。
 
 しかしベリオンの破壊…その内容にフェイトはスカリエッティと対峙した時の事を思い出す。
 彼はベリオンとゆりかごを使ってミッドチルダを破壊するという計画があった、
 
 だがベリオンは破壊されゆりかごも既に機能としては不完全と化している、
 つまりこれはスカリエッティの計画は失敗に終わったという事を指し示しているのであった。
 
 一方でなのは達の報告を小耳に挟んだレザードは眼鏡に手を当てていると、
 不敵な笑みを浮かべたなのはがレザードを指差し声を上げた。

556レザポ ◆94CKshfbLA:2010/02/01(月) 19:54:06 ID:jifm23tw
 「ゆりかごもベリオンも無くなった!これで貴方達の計画は失敗に終わったの!!」
 「失敗?まさか…確かにゆりかごは使い物にならなくなりましたが、計画そのものは支障ありませんよ……」
 「どうゆう事?!」
 
 レザードは肩を竦め小馬鹿にした表情でなのはの問いに答え始めた。
 世界を崩壊などレザードが本気を出せば簡単に導く事も可能である、だがレザードはそれをしなかった。
 
 理由はスカリエッティにあった、スカリエッティは自分の手で枷を外そうとしていた、
 その気持ちをくんで敢えてレザードは前に躍り出て行動をせず、知識を与え準備を手伝うまでで止まったと、
 結果スカリエッティはゆりかごを復活させ更にレザードから得た魔法技術によってユグドラシルと呼ばれる魔法陣まで造り上げたという。
 
 「何故そこまでスカリエッティの計画に荷担するの!!」
 「そうですね……興味があったから…ですかね」
 
 そう言ってレザードは眼鏡に手を当て不敵な笑みを浮かべる、もとより深い理由など無かった、
 最初に出会ったのがスカリエッティであっただけ、そして彼の計画に興味がわいた…それだけであると、
 尤も今はレザード自身にも目的が生まれ、それを実行に移すには管理局という存在は邪魔であると語った。
 
 「貴方の目的って何ですか!!」
 「シンプルなものですよ…誰しもが望む事……」
 
 しかし自分の目的は他の者達と違って管理局を敵に回す為に対峙する事となった…それだけであるという、
 そしてレザードはゆっくり深呼吸をして一度上を向くと瞳を閉じて黙り、なのは達は固唾をのんでいると暫くして瞳を開きなのは達に目を向け目的を口にする。
 
 「“愛しき者”と一緒になる…それだけですよ」
 「…………………えっ?!」
 
 レザードの目的を聞いた二人は暫く固まっていると、レザードが意気揚々に語り出す。
 スカリエッティの技術とレザードが御守りとして大事にしていた神の毛によって生まれた存在チンク。
 
 彼女は戦闘機人にしてレザードが愛する神のクローン、彼女と添い遂げる事が目的であり、
 それを実行するには規制を促している管理局が邪魔な存在となる、結果スカリエッティと利害が一致した為に協力したのだと語る。
 …そんなレザードの身勝手過ぎる理由に二人は睨みを利かせ激怒した。
 
 「狂ってる……そんな理由で世界を破壊しようとしているんですか!!!」
 「そうですか?私にとっては意味のある理由なのですがね……」
 
 “愛しき者”と一緒になりたいと言う気持ちは誰しもが持っている感情、だがそれを許さずまた反対する者を裁けるだけの力があれば
 誰もがそれを行うであろう…そうレザードは言葉を口にするが、なのははレザードの意見に真っ向から反対する。
 
 なのはにも“愛しき者”がいる、だがもし彼の生まれが特殊であったとして、
 自分に反対する者を裁けるだけの力を持っていたとしても行使する事は無いと語る。
 
 「偽善…ですね……」
 「そう捉えられるかもしれないけど、少なくとも貴方の意見には賛同出来無い!!」
 「それは残念だ……ならば此処等で御退席して貰いましょうか」
 
 するとレザードの足下から青白く光る五亡陣が現れ、青白く光るレザードの魔力が白く輝く魔力に変わり、
 レザードの全身は光の粒子に包み込まれ、次に右手に持っていたグングニルがネクロノミコンに戻りレザードの目の前で浮かび光を放つと、
 
 一枚一枚ページが外れ白く輝く魔力に覆われレザードの周りを交差しながら飛び回り、
 そしてレザードのマントは浮遊感があるようにふわふわと漂い、レザードの体も同様に漂うと足下の魔法陣が消え去った。

557レザポ ◆94CKshfbLA:2010/02/01(月) 19:56:01 ID:jifm23tw
 モードIIIカタストロフィ、大きな破滅または悲劇的な結末と言う意味を持つこのモードは
 レザードが自ら掛けたリミッター全てを外し愚神の力を解放した状態である。
 
 「まさか…ここまで魔力を強化出来るなんて……」
 「……何か勘違いしているようですが…これが本来の私の力です」
 
 レザードの放った言葉は二人を動揺させるには充分過ぎる言葉であった、今目の前で放たれている魔力は二人のようにデバイスをリミットブレイクさせた
 もしくは自己ブーストしたものであると思っていた、だが実際は何て事無い能力リミッターを解放させただけに過ぎないと言うのだ。
 しかもレザードの話ではこの力は神から手に入れたのだという。
 
 「そんな……貴方も神の力を手にしているなんて…」
 「貴方達のような微力な力と一緒にして欲しくはありませんが……」
 「なっ何ですって!!」
 「何なら試してみてはどうです?」
 
 そう言ってレザードは二人を挑発すると、二人はその挑発に乗りデバイスをレザードに向けて構え始め、
 先ずはなのはがアクセルシューターを八発撃ち出し攻撃を仕掛ける、しかしレザードは舞うようにしてこれを回避、
 
 一方でフェイトはソニックムーブを用いてレザードに接近、依然として回避しているレザードの背後を取り
 手に握られたスティンガーをカラミティに変えて絶好のタイミングで振り下ろす、
 だが魔力刃はレザードの体をすり抜け、すり抜けた所は光の粒子を化しており暫くして肉体に戻っていった。
 
 「どっどうなっているの?」
 「ふっ…貴方達ではこのアストラライズされた肉体を傷付ける事など出来はしないという事ですよ」
 
 そしてレザードは右人差し指をフェイトに向けるとレザードを覆う光の粒子の一部がグングニルに変わり発射、
 フェイトはカラミティの魔力刃を盾にしてグングニルを防ごうとしたが、呆気なく刃は砕け散り腹部を貫き通した。
 
 一方でなのははレザードに向けてエクセリオンバスターを発射、放物線を描くようにしてレザードに迫っていくが、
 レザードは肉体を光の粒子に変えてこれを回避、更になのはの足下を光の粒子による爆発を起こし、しかも離れた距離に移動していた。
 
 一方で床に伏せ腹部を貫かれたフェイトは痛みに耐えていると、光の粒子の爆発に巻き込まれ高々と舞い上がるなのはを目撃、
 すぐさま近づき安否を心配するとなのははゆっくりと立ち上がり、遠くでほくそ笑んでいるレザードを睨みつけた、どうやら命に別状はないようである。
 
 「くぅ………此処まで…差があるなんて…」
 「ふっ…やっと理解出来ましたか」
 
 ほんの少し戦闘を行っただけではあるのに、レザードとの圧倒的な差を痛感する二人。
 此方の攻撃は一切通用しない、魔力も身体能力も遥かに向こうが上回っている、どうあがいても“二人”では勝ち目がなかった。
 ならば最後の手段を執るしかない、なのはとフェイトはお互いに見つめ合うと小さく頷き腰に添えてあった杖に手を伸ばす。
 
 「ほぅ…まだ何かする気なのですか?」
 「…私達は…諦めが悪いんだよ!」
 
 なのはは一言口にして右手に持つ杖に魔力を、フェイトは左手に持つ杖に魔力を込める。
 するとなのはの足下に赤い三角形が三つ均等に並ぶ魔法陣が、フェイトの足下にも同じ模様の青い魔法陣が張られ、
 杖が力強く輝き出すとまるで祈るようにして瞳を閉じ二人同時に杖を魔法陣に突き刺す。
 
 すると魔法陣は更に強く輝き出し光の柱となって辺りを照らし始めると、二人の頭上から
 黒いローブを纏い背中にそれぞれ赤と青の計六枚を翼を生やし、頭には天使の輪がついた
 
 流浪の双神を呼び出し光が落ち着いていくと、突き刺した杖がまるで灰のようにして跡形もなく消えていった。
 一方でレザードは二人が呼び出した者が分かったらしく流石に驚きの様子を隠せずにいた。

558レザポ ◆94CKshfbLA:2010/02/01(月) 19:57:09 ID:jifm23tw
 
 「まさか…神を召喚するとはな……」
 「ほぅ…成る程、我々の力を借りたいと言うのがよく分かる」
 
 イセリアクイーンはレザードの肉体に宿る力を感じ、なのは達が協力を仰ぐ理由を理解する、
 それほどまでにレザードの能力は常軌を逸していたのだ、そして流浪の双神は右手に杖を携えレザードに向ける。
 
 「貴方には悪いが、これも契約なのでね…」
 「神が二体…少々楽しめそうだ……」

 流浪の双神を目の前にしても未だ余裕のある様子を浮かべるレザード、その反応になのはとフェイトは不安感を覚える中、
 戦闘が開始され先ずはレザードが牽制としてアイシクルエッジを二人目掛けて撃ち出すが、
 二人は手に持つ杖でいとも簡単に防ぎ、次にガブリエセレスタが杖を振り下ろす。
 
 ところがレザードはグングニルを形成しガブリエの攻撃を受け止める、するとイセリアが時間差でレザードに攻撃を仕掛け
 貫くようにしてレザードの腹部を狙い撃ち直撃、勢いよく吹き飛ばされるレザードであるが、
 右手を向けてクールダンセルを放ち氷人形が二人の前で襲いかかる、だが二人は冷静に対処に当たり杖で氷人形を打ち砕いた。
 
 「流石に神の前ではアストラライズは意味をなさないか……」
 「当然だ、肉体を幽体にする事など造作もない」
 
 レザードを一目見た瞬間から幽体化している事を見抜いた流浪の双神は、同じく肉体を幽体に変えて対処に当たったようであり、
 これはレザードのアストラライズを無効化された事になる、だがレザードの表情には焦りの様子が無く
 その表情を遠くで見上げているなのは達には不安を募らせていた。
 
 
 一方場所は変わり此処スバル達とチンクが戦闘を繰り広げている広場では、
 スバルのナックルダスターをマテリアライズで形成した左の盾で防ぐチンクの姿があった。
 
 「くぅ!やっぱ堅い!!」
 
 スバルはカートリッジを一発使用してナックルダスターの威力を高めるが、一向に砕け散る様子がない盾。
 一方でエリオは距離を離しストラーダを向けてカートリッジを二発使用、先端部分から魔力刃が形成されると一気に突撃、
 まるで弾丸を思わせるような速度でチンクに迫っていく、一方でエリオの存在に気が付いたチンクは
 
 スバルの攻撃を流すようにして盾を傾け見事に受け流すと、その場で一回転しエリオに目を向け、
 右手に携えた刀身を振り上げ魔力刃ごとエリオを高々と吹き飛ばした。
 
 だが上空にはキャロが待機しており、フリードリヒに指示を促しエリオを回収、更にブラストレイをチンクに放つ、
 ところがチンクはブラストレイを既に読んでおり既に移動して回避、カートリッジを一発使用すると脇差しのような小型の刀を二本生成、
 勢い良くキャロに向かって投げつけるが、脇差しはティアナのクロスファイアによって撃ち落とされた。
 
 するとチンクを囲うようにしてクロスファイアが六発向かってきており、チンクは盾を使って弾こうとしたところ盾は光の粒子となって消滅、
 一つ舌打ちを鳴らし悔しそうな表情を浮かべるも、クロスファイアを右往左往しながら回避し更に右手に持つ刀身にて三発打ち落とした。
 
 ところがクロスファイアは更に五発追加されて迫ってきており、チンクはまたもや一つ舌打ちを鳴らすと、
 左手で床の一部を掴み取り、原子配列変換能力を用いて長刀の刀を形成し、右の刀身と左の刀によって次々にクロスファイアを撃ち落としていく。
 その時である、チンクの後方からスバルが勢い良く右拳を振り上げており、拳には衝撃波が纏っていた。
 
 「リボルバァァ!キャノン!!」
 
 だがスバルの気配に気が付いたチンクは左の刀を盾代わりにして攻撃を受け止めると、
 今度はスバルの拳のカートリッジを一発使用してスピナーを高速に回転させて衝撃波を撃ち出すリボルバーシュートを撃ち抜き、
 左の刀は二つに折れ衝撃波はチンクの胸元に突き刺さり吹き飛ばされていく。

559レザポ ◆94CKshfbLA:2010/02/01(月) 19:58:07 ID:jifm23tw
 だがチンクは吹き飛ばされながらも自身のISであるランブルデトネイターを用いて刀を爆破、
 スバルは爆発に巻き込まれ周囲は土煙が舞い散り、暫くして落ち着いていくと
 其処には全方向型のプロテクションを張り爆発から逃れたスバルの姿があった。
 
 「やはり…間に合っていたか」
 
 チンクは一つ舌打ちを鳴らしスバルと対峙している中、攻撃後オプティックハイドを発動させて
 姿を隠しているティアナが今までのチンクの戦闘を基に分析を行っていた。
 
 先ずスバルから予め聞いていたチンクの能力であるが、マテリアライズは魔力を原料として生成、非破壊効果を持つが三分程度で消滅する、
 一方で原子配列変換能力は物質などの媒介を魔力によって変換させる為に消滅する事は無いが非破壊効果を持たない、
 
 しかしあの爆発能力であるランブルデトネイターにより爆弾に変える事が出来るようなのだが、
 確かな威力を誇るには三分以上時間を要するようで、マテリアライズで生成した武具では時間的にも非破壊効果的にも不可能である可能性が分かった。
 
 そしてチンクは動きを先読みすることが出来るようで、此方の攻撃や行動の先の動きを行っていた。
 しかし先読み出来るのはチンクが見た対象のみ目線から離れた若しくはティアナのように隠れた対象の動きは先読み出来無いようである。
 
 つまり背後もしくは目の届かない場所からの攻撃が有効なのであるが、
 チンク自身も危機察知能力が高い為か、中々思うようにいかないのが現状である。
 
 「でも今はこれしか打開策が無いか……」
 
 結局のところこれ以上の有効な対策が無い為に引き続き指示を送るティアナであった。
 一方でスバルと対峙しているチンクは先手を取りスバルに攻撃を仕掛ける、
 だがスバルは依然として全方向型のプロテクションを張り巡らせたままでチンクの攻撃を受け続けていた。
 
 「成る程…考えたな」
 
 どうやらスバルに攻撃の目を向けさせる事により、他のメンバーの行動を先読みさせないよにする作戦のようである。
 一方でエリオはフリードリヒの背中にてキャロからフィジカルヒールを貰い体力を回復させると、
 フリードリヒから飛び降り床に着地、ストラーダをチンクに向けてカートリッジを三発使用、
 メッサーアングリフを放ち見る見るうちにチンクに迫る。
 
 「甘いな、その程度の動き先読みしなくても分かるわぁ!!」
 
 チンクはエリオの攻撃を半歩体をずらして容易くかわし不敵な笑みを浮かべるが、
 エリオは急速停止し左足を滑らすようにして反転、左の裏拳による紫電一閃を打ち抜こうとした。
 
 ところがチンクは腰を素早く下ろし裏拳を回避、更にスライディングキックにてエリオを迎撃、
 するとエリオの攻撃に続けとばかりにスバルが飛び出し、右手にはスピナーの回転により螺旋状と化した振動エネルギーを纏っていた。
 振動拳と呼ばれるスバルのISである振動破砕を用い、持てる技術を尽くし完成させた必殺の一撃である。
 
 一方でスバルの拳を目撃したチンクは危機感を感じマテリアライズにて大型の盾を生成し備えた。
 そして激突、辺りには振動拳の衝撃が伝わり床を削るようにして破壊、チンクもまた盾とともに床を削りながら吹き飛んでいく。
 だが盾を破壊する事は出来ず盾が消滅すると無傷のチンクが顔を覗かせていた。

560レザポ ◆94CKshfbLA:2010/02/01(月) 20:00:24 ID:jifm23tw
 
 「これでも…駄目なのか……」
 
 スバルは絶望の淵に追いやられたかのような表情を浮かべている中でチンクに異変が訪れる。
 それはチンクの表情が痛みに耐えているような顔つきで更に左膝をついたのだ。
 
 今までとは異なる反応にティアナは一つ確信する、マテリアライズされた武具は破壊する事は出来ない、
 だが武具に受けた衝撃全てを受け止められる訳ではない、本来であれば破壊される程の衝撃を受ければ
 その衝撃は武具を通し本人に伝わり、そのままダメージを負うという事であると。
 
 つまりは強烈な攻撃であればたとえマテリアライズされた武具でもダメージを与える事が出来る訳である。
 そしてチンクを撃破するに当たって一番要なのが一撃の威力に定評があるスバルであった。 
 
 一方でチンクは自分が受けたダメージが思っていた以上である事に驚きを感じ、またスバルに警戒を浮かべていた。
 これ以上攻撃を受ければ敗北するのは必死、憂いは経たなければならない…そう考えたチンクは真っ先にスバルを始末する事に決めた。
 
 「貴様から先に叩いてくれる!!」
 「そうはさせない!!!」
 
 するとエクストラモードを起動させたエリオが割って入り、左拳に雷を纏わせ自身最速のソニックムーブにてチンクの懐に入る。
 一方でチンクはエリオの行動を先読みし、攻撃を避けられないと悟るや否やマテリアライズにて大型の盾を形成した。
 
 しかしエリオはお構いなく盾の上から何度も紫電一閃を連打しチンクを釘付けにする、
 そして更にカートリッジを全て使用して右手に持つ小型化したストラーダに魔力を込め何度も盾を突き刺した。
 
 「奥義エターナル!!レイド!!!」
 
 最後に魔力と雷を込めた突きが盾に響き、その衝撃により盾ごと吹き飛ばされるチンク
 しかしエリオの攻撃を防ぎきったチンクは反撃を行おうと睨みつけるとエリオが声を荒らげた。
 
 「今です!ティアナさん!キャロ!!」
 
 チンクは辺りを見渡すと右上空にはエクストラモードを起動させ、フリードリヒの胸元に存在する竜紅玉に魔力を溜め込みいつでも撃てる用意があるキャロと、
 少し離れた左側にエクストラモードを起動させクロスミラージュを水平に構え、その中心を軸に巨大なエーテルの球を作り出し、いつでも放てる用意があるティアナがそこにいた。
 どうやら二人はエリオの攻撃の最中に準備を始め、エリオの攻撃が終わる頃を見計らって攻撃出来るように準備を整えたようである。
 
 『奥義!!』
 「ドラゴンドレッド!!」
 「エーテルストラァァァイク!!」
 
 エリオの合図の下、間髪入れず撃ち放たれた二つの強力な一撃がチンクに迫る中で、
 もう一度マテリアライズを行い、同じ大きさの盾を用意して防御に当たるチンク。
 
 そして激突と同時に大爆発を起こし、辺りには衝撃波が走り巨大な土煙がチンクを覆い隠す中
 土煙が落ち着き始めると其処には巨大な盾に身を守られていたチンクの姿があった。
 
 「そんな…効いてないの?」
 「………いや!効いてる!!」
 
 盾が光の粒子となって消滅した瞬間、チンクは左膝をつき表情に曇りの色を見せ、ティアナは最後であるスバルに目を向け指示を送る。
 だがその一方でチンクの足下には多角形の魔法陣を幾重にも張り巡らせており、何処からともなく声が聞こえ始めた。
 
 「汝…其の諷意なる封印の中で安息を得るだろう…永遠に儚く……」
 「いけない!広域攻撃――」
 「セレスティアル!スタァァァ!!」
 
 チンクを中心に輝く羽が舞う複数の光の柱が立ち上り、更に広がっていくとティアナ・エリオ・キャロそしてスバルを飲み込んでいく。
 そして辺りは光に包まれ暫くして光が落ち着いていくと其処には床に這い蹲ったエリオ・キャロ・ティアナの姿があった。

561レザポ ◆94CKshfbLA:2010/02/01(月) 20:01:25 ID:jifm23tw
 
 だがその中で全方向型のプロテクションを張っていたスバルだけがチンクの攻撃耐え抜いた姿があり、
 スバルの姿を見たチンクはカートリッジを全て使用、足下に白い五亡星の魔法陣を張り
 全身を白く輝くまるで白金を思わせる魔力で包み込むと、半身を開き構え素早くスバルの懐に入る。
 
 そして矢のようなスライディングで足下を攻撃し後ろを取った瞬間に振り下ろし、間髪入れず振り上げスバルの体を浮かせる。
 更に右からの袈裟切り、左からの払い、そして下から切り上げ更にスバルの体を宙に浮かせると、
 
 巨大な槍が三本スバルの左右の脇腹から肩にかけて、脊髄から腹部にかけて突き刺す。
 そして剣を納めスバルの頭上まで飛び上がると背中から光の翼を生やし、翼が光の粒子となって右手に集うと巨大な槍に変化した。
 
 「これで終わりだ!奥義!!ニーベルンヴァレスティ!!!」
 
 そう叫ぶと槍は白く輝く鳥に変わりスバルを貫く、そして白色の閃光は大きな粒上に変化
 スバルを中心に集い圧縮され暫くして大爆発、辺りには爆音と共に衝撃波が響き渡り土煙が覆われていた。
 
 「す………スバルゥゥゥゥゥゥ!!!」
 
 ティアナの悲痛な叫びが辺りに響き渡る中でチンクは静かに着地、だが連続のマテリアライズに広域攻撃魔法、
 更にはカートリッジ全てを使用したニーベルンヴァレスティと魔力を大量に消費した為、
 
 かなりの負荷が体にのしかかったらしく左膝をついて肩で息をしていた、だが憂いでもあったスバルは倒れ他の仲間も床に伏している、
 チンクは勝利を確信した表情で顔を上げると、土煙の中から腕をクロスに構え、チンクの攻撃に耐え抜いたスバルの姿があった。
 
 「ばっバカな!!私の最大の奥義を耐え抜いたというのか!?」
 「次は……コッチの番だぁぁぁ!!!」
 
 スバルは両拳を握り締め足を肩幅まで開き構えると両腕のカートリッジを全て使用、大量の赤い魔力が炎のように溢れ出し
 両拳には螺旋状と化した振動エネルギーを纏い、両足には赤い翼のA.C.Sドライバーが起動していた。
 
 そして一気に加速し一瞬にしてチンクの懐に入るや否や、右のナックルダスターがチンクの胸元に突き刺さり、
 続いて両拳からの上下のコンビネーションであるストームトゥースにマッハキャリバーとの息のあった拳と蹴りのコンビネーション、キャリバーショット
 
 そして左のナックルバンカーがチンクの顎を捉え跳ね上げると、右のリボルバーキャノンが腹部に突き刺さってめり込み
 更にスピナーの衝撃を放つリボルバーシュートにてチンクを高々と舞い上がらせる。
 
 すると今度はウィングロードを伸ばして滑走、チンクに追い付くと環状の魔法陣が二つ張られ
 加速された赤い魔力球が握られた右拳をチンク目掛けて振り下ろした。
 
 「奥義!ブラッディィ!カリスッ!!!」
 
 振り下ろされた右拳はチンクの腹部に突き刺さり九の字に曲げると、そのまま垂直落下とも言える角度のウィングロードを滑走、
 床に大激突し辺りに激しい衝撃が走る中でその中央ではスバルの拳をきっかけに、赤い魔力と混ざった振動エネルギーが波のように溢れ出しチンクの身を何度も叩きつけ
 甲冑や兜は砕け散りスカートはボロボロ、そして左耳に取り付けてあったデバイスは砕け散ったのであった。
 
 母のシューティングアーツに機動六課での特訓、リボルバーナックルの性能にエクストラモードの能力、
 更にはスバルの今までの戦闘経験やセンス最後にISによって完成されたブラッディカリスはまさに一撃必倒と呼べる威力を誇っていた。
 
 そして放たれた赤い魔力が落ち着くと其処には眼帯を失い、至る所が切れてボロボロの戦闘スーツ姿に戻ったチンクが仰向けの状態で倒れており、
 チンクの姿を見たスバルは勝利を確信したと同時に両膝を付き肩で息をしていた。
 するとスバルの勝利を祝ってかティアナ達が集まり激励を送るのであった。

562レザポ ◆94CKshfbLA:2010/02/01(月) 20:02:21 ID:jifm23tw
 時はチンクが撃破される前まで遡り、イセリアは女王乱舞にてレザードを攻撃、
 だがレザードはシールドを張って攻撃を全て防ぎその中で詠唱を始め、ファイナルチェリオをイセリアに向けて反撃した。
 
 だが一方でガブリエが接近し右手に持つ杖を振り下ろすがレザードはグングニルで防ぎ難を逃れる、
 その間に攻撃に耐えたイセリアが背後を取り杖を振り抜きレザードを吹き飛ばすが、
 レザードは右手を向けて直射型のライトニングボルトを放ち、イセリアはシールドを張ってこれに対抗した。
 
 一方なのは達はレザードと流浪の双神の熾烈な戦いに唖然とした表情を浮かべていた。
 するとなのはの下へティアナからの連絡が届く、それは今し方スバルがチンクを倒したという内容であった。
 
 一方なのはの報告に小耳に挟んだレザードは動きを止め驚愕な表情を浮かべすぐさまモニターを開くと、
 其処には仰向けで倒れているチンクの姿が映し出されていた。
 
 「バカな…私の“レナス”が………」
 
 レザードは頭を押さえ、まるでこのような結末を望んでいなかったと思わす表情を浮かべ、うなだれていた、
 一方でなのは達は勝利を確信した表情を浮かべていた、戦況はこちらが優勢
 しかもフェイトから聞いていた計画の要でもあったチンクは此方の手中にある、そして他のメンバーも此方に集うであろう。
 
 そして流浪の双神も存在する、もはやレザードは袋の鼠状態、これ以上の抵抗は無意味であるとなのはが伝える中、
 微動だにせず依然として俯き頭を手で押さえ、うなだれてるレザードの姿にフェイトが声を荒らげる。
 
 「何か言ったらどうです!!」
 「…………………」
 
 しかしレザードは答えず長い沈黙が続き動きが一切無い中、レザードの体から金色の砂のような物が次々に垂れ出し、
 それは床に落ちて徐々に広がり部屋全体を覆い輝かせる。
 
 「なにこれ?!」
 「術式………かな?」
 
 それはよく見ると文字のようで部屋全体に書かれたのだろうと言うのがフェイトの見解である、
 すると今まで沈黙していたレザードが静かに言葉を口にし始める。
 
 「…たかが一介の魔導師が私の計画を潰し、あまつさえ我が“愛しき者”を傷付けるとは……」
 
 次の瞬間なのは達の体に異変が起きる、それは今までとは異なり体に負荷がのしかかり、
 それはまるで能力リミッターを掛けられた時と同じような感覚を覚えていた。
 なのは達は自分の体の異変に戸惑っていると、レザードが振り返り押さえていた手を降ろしその表情は怒りに満ち鬼の形相と化していた。
 
 「――許せん!!!」
 
 自らのお気に入りであり“愛しき者”であるチンクを傷付けた罪は重い、そう口にすると左手を掲げるレザード
 そして―――
 
 「跪け!!」
 
 左手を振り下ろした瞬間、何かがのし掛かったかのように全身が重くなりなのは達は床に伏し、その光景はまさに跪いているかのようであった。
 その中でイセリアがゆっくりと立ち上がりレザードに向けて杖を振り払い衝撃波を生み出す。
 だがレザードは迫ってくる衝撃波をまるで埃でも払うかのようにして右手を払いかき消した。
 
 「どっどうなってるの?!」
 「なる程な……」
 
 なのはは戸惑う中イセリアが説明を始める、レザードの体から放たれたこの術式により
 肉体・魔力更には攻撃の威力まで十分の一以下にまで押さえつけられているのであろうと語る。

563レザポ ◆94CKshfbLA:2010/02/01(月) 20:05:25 ID:jifm23tw
 一方でレザードは再び左手を掲げなのは達を浮かばせると左右の壁、上下の床や天井に次々にぶつけ更に叩き落ととすようにして床に激突させた。
 
 「殺しはしない!死んで楽になどさせるものか!!」
 
 すると今度は大量のイグニートジャベリンを用意して一斉に発射、なのは達の身を次々と貫いていく、
 だがレザードの攻撃は終わらず続いてダークセイヴァー、アイシクルエッジ、プリズミックミサイルなどを次々撃ち抜き
 
 必死の形相で回避またはバリアやシールドなどで防ごうとした、しかしレザードの放った魔法の威力はそれらを簡単に打ち砕きその身に浴び次々に倒れていくなのは達。
 そして最後にレザードは詠唱を破棄してファイナルチェリオを撃ち放ち、その衝撃により床壁などを吹き飛ばした。
 
 「どうしましたぁ!?この程度で終わりですかぁ!?」
 
 レザードは尚も挑発を促しなのは達を立たせていく中、なのは達の表情は絶望に支配されていた。
 此方に攻撃を仕掛ける暇も与えず、もし攻撃出来たとしても大したダメージを与える事が出来無い、
 
 更には流浪の双神すら手玉に取られている状況、正に今のレザードは“破壊を求める者”といっても過言ではなかった。
 そんな状況になのはとフェイトは塞ぎ込んでいると二人の下へ流浪の双神が駆け寄り二人に話しかけた。
 
 「一つだけ…奴に対抗出来る手段がある……」
 「えっ?それは一体?!」
 「私達との融合…ユニゾンと置き換えてもいい」
 
 二人のどちらが流浪の双神と融合する事により一時的にレザードと対等の力を得ることが出来るという、
 だが神とのユニゾンは大きなリスクを伴い、下手をすれば器となった存在の魂が消滅する可能性を秘めていた。
 
 つまりレザードとの実力差を埋めるにはそれ程までのリスクを背負わなければならないと言う事である。
 すると神の話を聞いたなのはが覚悟を秘めた表情を浮かべ言葉を口にし始める。
 
 「だったら私が―――」
 「私を器にして下さい!!」
 「―――フェイトちゃん?!」
 
 なのはの決意を遮るかのようにフェイトは言葉を口にし困惑するなのは。
 するとフェイトが説明を始める、なのはにはユーノやヴィヴィオなど大切な人がいる、その人達を泣かせる訳にはいかない、
 だからなのはの代わりに自分が器になると告げるとなのはは反発した。
 
 「何言ってるの!フェイトちゃんにもエリオやキャロが―――」
 「二人なら私がいなくても大丈夫だから」
 
 先だってのスカリエッティとの戦いで見せた二人の決意、それを耳にしたフェイトは二人が自分の下を巣立ったのだと確信した
 それになのはは自分の命を救ってくれた、その恩を返す為にも今ここで自分が器になる、そう覚悟を決めたのだという。
 
 「なのは……みんなの事をお願―――」
 
 次の瞬間なのははフェイトに当て身し気絶させると、悲しい表情でフェイトを見つめるなのは。

564レザポ ◆94CKshfbLA:2010/02/01(月) 20:05:49 ID:jifm23tw
 いくらフェイトの願いであってもそれを受け取ることは出来なかった、何故ならレザードとは自分の手で決着をつけたかったからだ。
 
 ホテル・アグスタを始め地上本部での二度の敗北、そしてヴィヴィオを誘拐され絶望の淵に追いやられた。
 それらを払拭する為にも自分の手で行わなければならないと覚悟を決めていたのだ。
 
 「……良いのだな?」
 「覚悟はもう…決まってるの!」
 
 なのはの決意ある瞳を見た流浪の双神は小さく頷き、気絶するフェイトから離れ三人はレザードに近づくと、今度は流浪の双神がなのはとある程度距離を置く、
 そして足下に巨大な三角形が三つ均等に並ぶ魔法陣を張り巡らせると、今まで沈黙を守っていたレザードが見下ろす形で言葉を口にする。
 
 「まだ悪足掻きをするつもりですか?」
 「言ったの…私は諦めが悪いって!!」
 
 するとなのは足下に流浪の双神と同じ桜色の魔法陣が張られ輝き始めると、それに呼応するように流浪の双神の魔法陣も力強く輝き出す、
 そしてその輝きは一種の壁となり三人は声を合わせて言葉を口にした。
 
 『ユニゾンイン!!』
 「何ぃ?!」
 
 流石のレザードも驚きの表情を浮かべていると、流浪の双神はそれぞれ赤と青のエネルギー体になり更に球体に変化、
 魔法陣ごとなのはに近付き胸元に吸い込まれていくようにして収まると、次の瞬間大量の桜色の魔力が天井を突き破るかのようにして溢れ出し魔力がゆっくり収まっていく。
 
 其処には背中に桜色の六枚の翼を生やし胸元の黒い部分は透けて谷間が強調されたロングスカート型のバリアジャケット
 足下は金で装飾された金属製のハイヒール型の具足に変わり外側の両足首部分からは桜色の翼が生え、
 結っていたリボンが無くなり髪型はストレートヘアー、更に桜色の天使の輪が浮かんでいた。
 
 そしてレイジングハートは力強くまるで冷え切っていない溶岩のように赤いクリスタルが輝き、
 ストライクフレームから現れる魔力刃は鋭く分厚く左右からは四枚の小さな翼が生えていた。
 
 なのはの変貌にレザードは依然として唖然した表情を隠せないでいると、
 今まで瞳を閉じていたなのはの瞳が開き、金色に輝くその瞳でレザードを突き刺すように睨みつけた。
 
 「覚悟っ!!」
 「一介の小娘が神とユニゾンだと……いいだろう相手をしてやろう!!」
 
 するとレザードは、まるで北極星を思わせるようにして力強く輝いて魔力を高めていき、
 一方でなのはは自分の体を確かめるかのようにして体を動かし、レイジングハートの先端をレザードに向けて対峙する。
 
 
 
 
 いよいよ戦況は最終局面を迎えるのであった………

565レザポ ◆94CKshfbLA:2010/02/01(月) 20:07:13 ID:jifm23tw
 以上です、チンクがやられレザードがブチ切れ、なのは神とユニゾンってな回です。
 
 
 
 やっと此処まで来たって感じです、結局なのはがレザードに対抗するには神とユニゾンするしかないと思ってこうなりました。
 無限書庫の知識を基にレナスを召喚して融合ってのも考えては見ましたが、王呼の秘法とかで分捕られそうなので止めときました。
 
 
 
 次はいよいよ決戦ってな感じです。
 
 
 それではまた。

566レザポ ◆94CKshfbLA:2010/02/01(月) 20:08:44 ID:jifm23tw
申し訳ありませんが何方か代理投下お願いします。

567魔法少女リリカル名無し:2010/02/02(火) 20:13:42 ID:UHR93E/6
代理投下終わりました

568レザポ ◆94CKshfbLA:2010/02/03(水) 06:47:29 ID:gH62xC.2
代理投下確認しました。
ありがとうございました。

569高天 ◆7wkkytADNk:2010/02/14(日) 01:41:18 ID:YldzdhHo
こんばんわです。未だ規制を受けているのでこちらでラクロアを投下いたします。
どなたか、代理投下をお願いいたします

570高天 ◆7wkkytADNk:2010/02/14(日) 01:43:10 ID:YldzdhHo
魔法少女リリカルなのはStrikers 外伝 光の騎士 第四話


「っておい!スバル!!」
突然自分の手を振り解き地上へと降りたスバルに、ヴィータは咄嗟に叫び彼女を止めようとする。
だが、ガンダムを前にしたスバルの耳には彼女の叫びは届く事は無く、マッハキャリバーで砂煙を上げながら真っ直ぐに駆け出した。
「ったく・・・あの馬鹿・・・帰ったら敷地30週だ!!」
既に彼方へと走り去ったスバルに向かってヴィータは叫びながら怒りを露にする。
だが、露になった怒りも直ぐに消え、歳相応に相応しい笑みへと変っていった。

スバルの話を聞いていて分かってはいた、彼女も自分達と同じく、ガンダムによって救われた一人なのだろうと。
本当なら独断行動をした以上、追いかけてぶん殴って正座させて説教のフルコースなのだが、今回は仕方が無い。
「(・・・・はぁ。まぁ、昔のあたしだったら間違いなくスバルと同じ行動をしていただろうし・・・大目に見るか)」
今回は大目に見ようと思った。

『ふふ、何だかんだいっても、ヴィータちゃんも嬉しいんじゃないんですか』
ユニゾンを解き、本来の姿に戻ったリインフォース・ツヴァイはヴィータの表情を覗き込みながら訪ねた。
否、尋ねる必要など無い。ユニゾンしていたため、彼女の気持ちは既に分かっている。
ガンダムという騎士に会える事をどんなに楽しみにしているのか、そして、どんなに嬉しいのかが十分理解できた。
「まぁな、嬉しい反面、帰ってくるのが遅すぎた事に腹も立ってる。まぁ帰るっていう約束は守ったから許してやるか。
そういやリインは話は聞いてるだろうがナイトガンダムに会うのは初めてだよな?まぁ当然か、生まれる前だもんな」
「はいです!お姉ちゃんやはやてちゃん達から聞いたことがあるです!優しく強い騎士、皆を救った勇者、背中を安心して預けられる好敵手!」
「・・・・・最後は間違いなく戦闘馬鹿(シグナム)だろうな。まぁ間違ってはいないな。あいつがいなかったら今のアタシらは間違いなくいなかった。
あいつ自身は『過剰評価』って言っていたが誰もそんな事は思ってない、アタシもそう思ってる一人さ」

今思い出すだけでもゾッとする。あの時、ガンダムがいなかったら自分達は愛する主を殺していたに違いない。
否、それ所がなのは達、そして海鳴市そのものも奴の餌食になっていた筈だ。
そんな絶望的な状況から主や仲間、そして自分を救ってくれたのはナイトガンダムだった。
皆を闇の呪縛から救い、家族の一人であるリインフォースから闇のみを取り除き、共にいる時間を与えてくれた騎士。
自分は共にいた時間でなら、彼を知っている中では一番少なかった方に入るだろう。それでも彼の評価に間違いは無いと自身を持って言える。
「でしたら、はやてちゃんに早く連絡をしましょう!とても喜ぶ筈です!」
「いんや、もしかしたら別人って可能性も無くは無いから一時保留だ、先ずは会ってみないとな」


「ス・・・スバル・・・それは・・・本当なのか・・・・」
スバルが何気なく言った10年という歳月、到底信じられるものではない、だからこそ聞き返す。
驚きのあまり声が震えてしまう、頭が理解に追いつかない、「嘘であってくれ」と願う自分がいる。

そんなガンダムの表情にスバルもまた驚き、声を詰まらせる。
『冗談を言っているのではないのか?』一瞬その考えが頭を過ぎったが直ぐに打ち消す。
ガンダムの表情を見れば嫌でも理解できる、彼が現状を信じられないという事が。
だが黙っているわけにもいかない、今の自分に出来る事はガンダムの問いに嘘偽り無く答えるだけだ。
「・・・・・うん、そうだよ。ガンダムさんがスダ・ドアカ・ワールドに帰ってから10年が経ってる・・・それは間違いないよ」
ガンダムから体を離し、真っ直ぐ彼を見つめながらゆっくりと答える。
彼女の瞳を見据えその言葉を聞いたガンダムは確信した・・・・・彼女が本当の事を言っているという事を。
否、スバルの姿を見た時点で可笑しいとは気付いていた。いくら何でも2年であそこまで成長する筈が無い、相応の年月が経過しなければ不可能な事だ。
「・・・ありがとうスバル、教えてくれて・・・そしてすまない、みっともなく慌ててしまって」
「謝る必要なんて無いよ!!だって、ガンダムさんには2年前の出来事なのに、此処では10年も経っていたんだよ!慌てない方が可笑しいよ!
だから・・・ガンダムさんは悪くは無いよ・・・・帰ってくるって約束を守ったガンダムさんは悪くない!!」

571高天 ◆7wkkytADNk:2010/02/14(日) 01:43:49 ID:YldzdhHo
スバルは再びガンダムに抱きつく。まるで自分を慰めてくれるかの様な暖かな抱擁に、ガンダムは自然と身を任せてしまう。
ガンダムにとって、今は彼女の暖かさが何よりの救いだった。

「おっ!いたいた!」
上空から二人の姿を確認したヴィータは嬉しそうに声をあげながらツヴァイと共にゆっくりと降りる。
そして改めてスバルの隣にいる騎士を見据えた後、多少緊張気味に声を掛けた。
「あ〜・・・・・・・オッス!!久し振り・・・・だな」
「ああ、また会えて嬉しいよ、鉄鎚の騎士ヴィータ。本当に久し振りだね」
微笑みながら挨拶を返すガンダムに、ヴィータは内心でホッとする。
この感じ、間違いなく自分達が知っているナイトガンダムだ。先ほどまでの緊張が自然に解けてゆくのを感じながらも、ナイトガンダムへと歩み寄る。
そして右手にグラーフアイゼンを展開、彼の隣にいるスバルの方を向き、ゆっくりを振り上げた後
「スバル、罰だ」
軽くスバルの頭をごついた。
「この馬鹿、勝手に行くなっていっただろ!罰として帰ったら敷地30週だ!!」
「あ・・・・あはは・・・・わかり・・・ました」
流石に自分でも悪いと思っていたのだろう。観念し、力なくうな垂れるスバルに満足した笑みを浮かべた後、再びナイトガンダムへと顔を向ける。
だが、いざ再開したものの、彼との会話や共にいた時間が極端に少なかったヴィータは先ず何を話していいのか迷い、言葉を詰まらせてしまう。
「(あ〜・・・・まいったな、世間話でもしたいんだがガンダムと一緒にいた時間って極端に短いからな・・・・・話題が・・・・・)」
もしも目の前にいる相手が仕事での付き合いだけの人物なら、適当に言葉を並べればいいか
彼にそんな事はしたくはない・・・・正直に、思ったことを話したい。
数秒考えた結果、とりあえず先ず目に入った彼の姿について尋ねることにした。
「しかしお前は鎧が変ったな・・・こう、カッコよくなったな」
「ああ、この鎧のことかい?向こうで色々あってね、昔着ていた鎧と霞の鎧、そして力の盾を組み合わせて作った物だよ。
バーサルの称号を貰ってからは『バーサル・アーマー』と名付けられたんだ」
「(あの神器を使いこなしてるのか・・・・さすがだな)バーサルの称号?何だそれ?」
「ああ、『騎士の中の騎士に送られる称号』だそうだよ・・・ん?そのこは・・・リインフォースに似ているけど・・・・」
恥ずかしいのか、それとも緊張しているのか、ユニゾンを解除してからずっとヴィータの後ろでこそこそと様子を伺っていたツヴァイ。
だがナイトガンダムに見つかり目が会った瞬間、怒られたかの様に体をびくつかせ、ヴィータの後ろへと隠れた。
「ったく・・・なに緊張してんだお前は・・・」
「だって〜・・・緊張しますよ〜」
弱気な声をあげならもツヴァイはゆっくりをヴィータの後ろから姿を現す。
目の前にいるのは皆が心から信頼して止まず、主や騎士達、そして姉であるリインフォースを救ってくれた騎士。
ツヴァイからして見れば、本の中から突如現われた勇者の様な人物である、緊張するなという方が無理があった。
そんな態度を取るツヴァイをガンダムは純粋に可愛いと思いながらも、慌てる彼女を見据えると同時に跪き、頭を垂れた。
「お初にお目にかかります。私、ラクロア騎士団所属、バーサルナイトガンダムと申します」
「あ・・・あわわわわわ!!?わ・・・私は八神家の末っ子・・・じゃなくて・・・いえいえそうでもありますけど!!?!
じっ時空管理局本局!古代遺物管理部!!機動六課所属!!リインフォース・ツヴァイ曹長でございますですぅ!!」
舌が回らずに声が裏返りながらも、ヴィータの前に出て敬礼をし、大声で自己紹介をする。
そんな彼女の姿を微笑ましく思いながらも、彼女を見た瞬間に感じた疑問をぶつけてみた。
「よろしくおねがします、リインフォース・ツヴァイさん。所でリインフォース・ツヴァイさんは彼女、リインフォースにそっくりですが・・・・・」
「はいです!ガンダムさんの事はお姉ちゃん・・・じゃなくて姉であるリインフォース・アインから聞いています。
それと敬語なんて使わなくてもいいですよ、私の事もリインと読んでください。ですけど本当に聞いたとおり、皆が認める騎士様ですね〜、
こう言う紳士な所はヴィータちゃんもみなら(ゴン!!」
ヴィータの拳がツヴァイの脳天目掛けて振り下ろされ、鈍い音が辺りに響き渡る。

572高天 ◆7wkkytADNk:2010/02/14(日) 01:44:21 ID:YldzdhHo
頭を押さえ、悶絶するリインを一瞥した後、唖然とするガンダムとスバルを無視し何事も無かったかのようにヴィータは一度咳払いをし、無理矢理場の空気を誤魔化した。
「悪い、手が滑った、許せ」
「そんなわけないじゃないですかぁああああああああ!!」
まだダメージが残っているのだろう、頭を抑え、涙目になりながらも突然の暴挙に出たヴィータに抗議をするツヴァイ、
だがヴィータは最初から聞こえていないかの様に無視を決めこむ。
「まぁ、リインが言ったことに間違いは無いな」
「ヴィータちゃんが紳士じゃないって所ですかぁ〜?」
先ほどのお返しなのだろう、挑発するように言い放ッた後、直ぐにガンダムの後ろへと隠れる。
流石にガンダムを押しのけてまで鉄拳制裁をする気にはなれないのだろう、悔しそうにガンダムの後ろからニヤニヤと様子を伺うリインを睨みつけた後、
諦めたかのように深く溜息を一回、自身の怒りを仕舞い込んだ。
「皆が認める騎士って所さ、それに関しては間違っていないとはっきり言えるな」
「そんな事は無いよヴィータ、私はまだまだ未熟、皆が思っているような騎士ではないよ。このバーサルの称号も私にはもったいない位だと今でも思っている」
その発言に真っ先に噛み付いたのはスバルだった。誰が見ても分かるほどに口をへの字に曲げながら抗議を開始する。
「そんなこと無いよ!ガンダムさんは騎士の中の騎士だよ!誰がなんと言おうと・・・・・ガンダムさん本人がそうで無いと言っても私は曲げないよ!ガンダムさんがバーサルナイトだって事実は!!」
「スバルの言う通りだ、お前はもう少し偉ぶってもいいぞ・・・つーか少しは偉そうにしろって。
だけどそうなると今度は『バーサルナイトガンダム』って呼ばなきゃ駄目か?・・・・・・うん、長いから却下だ。だけどシグナムが黙って無いだろうな。
お前の今の姿、そしてそのバーサルの称号の由来、ガチの模擬戦は覚悟した方がいいぞ」
「ははは・・・でも彼女も元気そうでよかった。シグナムとは一対一での戦いを約束しているからね、一人の騎士として彼女との戦いは楽しみだよ」
「ああ、出会って早速申し込まれるかもしれねぇな、『いざ勝負!』って。なんたって10年ぶりなんだから・・・どうした?」
『10年』、その言葉が出た途端スバルとガンダムは押し黙ってしまう。
何か不味いことでも言ってしまったのか?ヴィータは慌てて会話の内容を思い出すが、ガンダムは無論、スバルも押し黙ってしまう様な事は言ってはいない。
考えても分からない以上、聞くしかない。早速ヴィータが聞こうと口を開こうとするが、それより先にスバルがヴィータを見据え、話し始めた。


「・・・・そうだったのか・・・・・ごめんな、ガンダム。辛いのに無神経で」
「謝らないでくれヴィータ、話を切り出さなかった私に非がある」
「・・・そう言ってくれると助かる、だがお前の世界では2年でこちらでは10年・・・・・・此処まで時間の流れが違う世界なんて聞いたことが無いぞ。
まぁお前の世界そのものが未だに未発見の次元世界だ・・・・常識なんかが通用しないのかもしんない・・・ああ、めんどくせぇ話は後だ!」
帽子に守られていない後頭部を乱暴に書きながら無理矢理話を終らせる。
先ずは『何故ガンダムが来たのか』より『ガンダムが帰ってきた』という報告をする方が優先順位(関係者限定)としては圧倒的に先だ。
だからこそヴィータは空間モニターを開き通信を開始した、自身の主『八神はやて』が指揮する後方支援隊『ロングアーチ』へと

・機動六課管制室

ほの暗い機動六課管制室に鳴り響く通信音、オペレーターの一人アルト・クラエッタは即座に対応、
直ぐに後ろで指揮をしている、部隊長・八神はやてへと回す。
「八神部隊長!現場に向かったスターズ02・ヴィータ副隊長から通信です!」
「ありがと、直ぐに回して」

時間からしてそろそろだと思っていた。
おそらく・・・否、間違いなくうちの子達と自慢のストライカーズ達は任務を成功させてくれているに違いない。
だが、万が一という事もある、特に今回は急な出撃、現場で活動できたのは結果的にストライカーズ達とヴィータ、そしてリインだけの筈だ。
その上今回はガジェット殲滅だけではなく自然保護局員達の救出も含まれている。正直戦力的に完遂は難しいと思う、ある程度の被害は覚悟した方がいいかもしれない。
色々と頭の中で被害の予想を立ててしまうが、予想を立てた所で結果は変らない。
「(・・・あかんな、ネガティブな考えは・・・・・部隊長が隊員を信じなくてどうするんや)」

573高天 ◆7wkkytADNk:2010/02/14(日) 01:44:51 ID:YldzdhHo
少しでも部下や家族を信じなかった自分に自己嫌悪しながらも、直ぐに気持ちを切り替え、画面に映るヴィータに瞳を向けた。

結果から言えば、ヴィータが報告した内容は心配した自分が馬鹿らしく思える程完璧な内容だった。
ガジェットはすべて破壊、保護対象だった自然保護局員達は無論、ストライカーズやヴィータ達にも怪我は無い、オマケにレリックも回収、
文句のつけようの無い完璧な結果を齎してくれた。
「さっすがヴィータ副隊長とリイン曹長!!そして六課が誇るストライカーズ!!」
指を鳴らし、皆の心境を代表するかのように歓喜の声をあげるシャリオ・フィニーノにグリフィスは満足そうに頷き、
アルトとルキノは互いを見据え嬉しそうに微笑む。
はやてもまた、早速モニターに移るヴィータに労いの言葉を掛けようとしたが、ふと彼女のバツが悪そうな表情に言葉を詰まらせた。
「・・・?ヴィータ?どないしたん?」
『あ〜・・・・いや、実はアタシらが来た時にはすべて解決してたんだ。ガジェットを全滅させたのも、
自然保護局員達を助けたのも、レリックを守りきったのもアタシらじゃない』
歓喜に包まれたロングアーチが一瞬で静かになる。否、固まったといった方が正しい。同時に皆が疑問に思う、『誰がやったのか』と。
「(ヴィータ達やない?・・・・・せやけど此処までの事をするとなると相当腕の立つ人に間違いは無い。それに人命救助やレリックを大人しく渡した以上、
こちらの敵ではないと見るべきか?もし怪しい人物ならヴィータが黙ってるはずが無いし・・・・・一応警戒はしとこうか)ヴィータ、詳しい報告を。
出来ればその人にも会ってみたい・・・・お願いできる?」
隊長であり、主でもあるはやての頼みに、ヴィータは『まってました!』と言いたそうな表情で答える。そして
『経緯なら直接聞いてくれ、10年ぶりに帰還したアタシらの勇者に!』
『えっ!?ヴィータ!!?何を!?』
ヴィータに無理矢理空間モニターの前に引っ張られたため、ナイトガンダムは慌てた声をあげながらその姿を映像越しにロングアーチの前に晒す事となった。
突如現われた小さな傀儡兵の様な物体、皆が言葉を詰まらせるは当然だ・・・・一人を除いて

                        ガタッ!!

沈黙するロングアーチに響き渡る物音、全員がその音がした方向へと振り向く。
クリフィスにいたっては近場にいたため、その音が何なのかが直ぐに分かった。はやてが急に立ち上がった結果、座っていた椅子が後ろへと倒れた音だ。
そして全員がはやての表情に驚いてしまう。目を見開き、心から驚いている表情。この様な表情は此処にいる誰もが見たことがない。
だが唯一分かる事がある、それはははやてが今映し出されている傀儡兵の様な者を知っているという事。
そんな皆の予感は的中する。内から湧き出る驚き、懐かしさ、嬉しさを必至に堪え、はやては名を呼ぶ・・・・・その騎士の名を
「ガン・・・ダム・・・さん・・・・・なんか」

『ガン・・・ダム・・・さん・・・・・なんか』
空間モニターに移る女性に名を呼ばれたガンダムは、直ぐに返事をすることが出来なかった。
自分を驚きの表情で見据える女性・・・・・自分は彼女の事を知っている。
あの時は車椅子が無いと動くことも出来なかった少女、だがそれも10年という歳月の前では過去の出来事だ。
今ではで二本の足でしっかりと立ち、美しい女性へと成長した夜天の主
「・・・・はやて・・・・八神はやて・・・・本当に久し振りだね・・・・」
驚くはやてとは対象に、ナイトガンダムは笑顔でその女性の名を呼んだ。

「ほんまに・・・ほんまにガンダムさんなんやな!!?嘘付いたら承知せんよ!!?」
『ああ、君たちにとっては10年ぶりだね・・・・・けどスバル同様、元気に、美しく成長した』
世辞などの感情が一切感じられない心からの言葉に、はやては顔を赤くし、てれを隠すかのように俯く、
だが、ふとガンダムが呟いた言葉に引っ掛かりを感じたため、再び顔を上げ彼を見据えた。
「ちょいまって!?ガンダムさん、さっき『君たちにとっては10年ぶり』って・・・・どういう事や!?」
『横から失礼するぞ、それについては後で話すよ。あたしやスバルは無論、ガンダムでさえあたしらと同じ・・・いや、それ以上に不可解に思ってるからな。
とりあえす、積もる話は六課に戻ってからで・・・』
横から割り込み、話に区切りをつけたヴィータに、はやては高ぶる感情を抑えこむと同時に、今後の指示を簡潔に伝える。

574高天 ◆7wkkytADNk:2010/02/14(日) 01:45:57 ID:YldzdhHo
そしてもう一度モニター越しに写るガンダムの姿を名残惜しそうに見つめいた後
「それじゃ、六課でまっとるから・・・なのはちゃんの台詞を取るけど、色々おなはしきかせてぇな・・・」
通信を切った。

「・・・ふぅ〜・・・」
通信を終えた後、はやては深く息を吐くと同時に既にグリフィスが起こした椅子に倒れこむ様に座る。
だがその表情は心からの嬉しさがにじみ出ている笑顔、常に顔を合わせているグリフィスでさえ、その笑顔に自然と心を奪われ見惚れてしまう。
「なんや〜グリフィス君?私の顔じっと見てぇ〜?」
既にグリフィスの視線に気が付いたのだろう、はやては悪戯心満載の笑みで隣にいるグリフィスを見つめる。
目が合った瞬間、グリフィスは面白いように慌てふためき、後ろへと下がりながら必至に否定しようとするが、根が真面目な分、言い訳の言葉が出で来ない。
そんな幼馴染を可哀想に思ったのか、シャリオが『自分も混ざってからかいたい』という感情を押し殺し、助けに入った。
「ですけどはやてさんはあの・・・・人?のことをご存知なのですか?」
「私も気になります!?見たことも無い種族でしたし・・・それに八神部隊長の凄く嬉しそうな表情・・・是非教えてください!」
シャリオに加え、アルトもまたガンダムについての説明を求める。ルキノも声には出さないものの、気になっているのだろう、二人と一緒にはやての方へと顔を向けた。
「う〜ん、詳しい事は本人の紹介と一緒でな。まぁ簡単に言うと、私や守護騎士の皆、そんでなのはちゃんやフェイトちゃん達を救ってくれた勇者様って所やな」
「み・・・・皆さんを・・・ですか?」
ようやく我に返ったグリフィスを含め、はやて以外のロングアーチの面々はその言葉に只唖然とする。
外見で判断してはいけないのだが、見た感じではどう見ても強そうには見えない。
だが、ヴィータの報告からして今回の事件を解決したのはそのガンダムという騎士だ、はやての言葉は嘘では無いのだろう。
「なんや?皆疑っとるんか?まぁ、初めてガンダムさんを見たら強そうって印象は抱かないかもしれない・・・・・私も可愛いっておもっとったし。
せやけどな、ガンダムさんは強いでぇ〜。ちなみに分かりやすく言うとな、シグナムが好敵手と認め、私達と本気の戦いが出来る程度って所や」
余りにもわかりやすい例えに、皆は唖然としながらもガンダムの評価を改める、同時に『見かけで判断してはいけない』と言う事を再認識した。


「・・・・・(バーサルナイト・・・ガンダムさんか・・・)」
ストームレイダーの嵌め殺しの窓から空を見ながら、ティアナは楽しそうにスバルと会話しているガンダムの姿を瞳だけを動かして見つめる。

副隊長であるヴィータが現場に向かってから数十分、彼女は見たことも無い種族と一緒に帰ってきた。
先ず彼らを迎えたのは自然保護局員の皆だった。全員が彼の無事を喜ぶと同時に助けてくれた事への感謝の言葉を贈る。
その中にはキャロの姿もあった。彼女からしてみればこの異邦人の騎士は家族も同然の自然保護局員達を助けてくれた恩人だ、当然といえば当然の行動だと思う。
その後、キャロとエリオのライトニング組はこの場に残る事となった、名目は『襲撃時の事情聴取のため』
本当は既に事情聴取は終了しており、その様な事をする必要など無かった。だがヴィータ副隊長が気を利かせたのだろう。

       「久し振りに会えたんだ、ゆっくり、じっくり話をしてこい・・・・・・でも夜までには帰ってこいよ」

つまりは『久し振りにゆっくりして来い』という事だ。ちなみにチームでの行動という事でもあり、エリオも一緒に残る事になったのだが、
彼を見た瞬間、女性の自然保護局員達からは好奇の視線、一部男性の自然保護局員達からは妙な敵意を感じたのは気のせいだろうか?
そのため、今ストームレイダーに乗っているのはヴァイス陸曹とリイン曹長にヴィータ副隊長、スバルにバーサルナイトガンダム、そして私、ティアナ・ランスターだ。

「はじめまして皆さん、私、ラクロア騎士団所属バーサルナイトガンダムと申します」
自分達の前で跪き頭を垂れるという初対面の挨拶の仕方に度肝を抜かれながらも、彼はストライカーズの面々とは直ぐに打ち解けていた。
彼の態度は無論、スバルやヴィータ副隊長の説明(スバルにいたいっては思い出話全開だった)もあったからだろう。
だが私はそれだけではなかった、私が自分の名を紹介した時だ、あの時
「ティアナ・ランスター・・・・もしかしてディータ殿の妹君ですか?」
兄の名が出たときには正直驚き、声を詰まらせた。そして、それが引き金になったかの様に昔の出来事を思い出す。

575高天 ◆7wkkytADNk:2010/02/14(日) 01:46:37 ID:YldzdhHo
それはまだ兄が生きていて・・・・・そう、十年前の誕生日の時。
あの時自分は貰ったプレゼントに夢中になって兄の話を余り聞くことは無かった、だが『やさしい騎士に会った』という言葉は覚えていた。
そして数日たった日のあの夜、物音に起きた自分が見たのは、自身のデバイスを持ち出かけようとする兄の姿だった。
どう見ても遊びに行くような格好ではない事は当時の自分にでも十分理解できた、だからこそ聞いた、何処へ行くのかと。
兄は自分を起こしてしまった事を謝りながら、腰をお降ろし、自分と同じ視線で答えてくれた。
『友である騎士を助けに行く』と、そして明日には帰ってくるといい出かけていった。

おそらく・・・・いや、間違いなくあの時兄が言った『優しい騎士』そして『友である騎士』というのはガンダムで間違いないだろう。
時間の経過、そして彼が私の名前を聞いただけで兄の妹だと分かった事、疑いようが無い。
正直、兄が言っていた騎士に会って見たいとは思っていたし、兄もまた自分を紹介する予定だったらしい。
だが彼は一ヶ月も経たずに自分の世界に帰り、兄も帰らぬ人となった。

「(その騎士が目の前にいる・・・・神様も面白ことをしてくれるわね)」
兄は無論のこと、ヴィータ副隊長やリイン曹長、そしてスバルの態度からしてあの騎士がどんな人物なのかは大体予想が付いた。
簡単に言うと『とてもいい人』だと思う、そうでなければ皆の接し方に納得がいかないからだ。
「(・・・・・今度・・・お兄ちゃんの事聞いてみようかな・・・・・)」
いつの間にか視線だけではなく顔そのものを窓から見える風景から楽しく話す二人へと向けていた。そんなティアナの視線を感じ取ったスバルが
楽しそうに手招きをし、自分を誘う。
本当ならスバルの誘いに乗りたい。だが、自分が会話に参加するとなると、必ず伝えなければいけないことがある、兄『ディータ・ランスター』の死を。
もしこの事を伝えたらスバルは無論、おそらくバーサルナイトガンダムも自分の事の様に悲しむだろう。そしてこの場の空気を濁してしまうに違いない。
今の同僚の気持ちを駄目にはしたくは無い。この事を伝えるのはいつでも出来る。
だからこそ、ティアナはわざと空間モニターを出現させ、事後報告書を入力し始める・・・参加しない事を表すために。
「挨拶は済ませたから私は後にしておくわ。それに、今のあんたの事だから事後報告書とか忘れそうだしまとめてやっておく・・・・後で苺パフェ奢りなさい」
「ティア・・・・うん!ありがと。ジャンボサイズ奢るね」
「アンタの言う『ジャンボサイズ』はやめてね・・・・普通でいいわ・・・・・ん?」
スバルが言うジャンボサイズを想像した瞬間、顔を引きつらせながらも律義に通常サイズを頼むティアナ、
そんな彼女の瞳が偶然、ガンダムの後ろの嵌め殺しの窓から、ある光を捉えた。

青空と白い雲しか映さない窓、その中に現われた一つの桃色の光。何も知らない人なら警戒などをするだろう。だが、知っている側からすれば警戒をする必要など無い。
あの光・・・魔力光を放つのはあの人しかいないからだ。
おそらく既に着艦することを伝えたのだろう、後部ハッチが開き、強風がガンダム達を襲う。
そしてその風に先導されるように一人の人物が降り立った。
ティアナにとっては完璧とも思える隊長
スバルにとっては憧れの存在
そしてバーサルナイトガンダムにとっては10年ぶりに再会する強い意思を持った少女

降り立った女性は、スバルの隣にいるガンダムを見つめると同時に瞳に涙を溜めながら笑みを浮かべる、そして
内から湧き出る思いを抑えきれずに駆け出し、ガンダムに抱きついた。
突然の隊長の行為にスバル達は唖然とする、だがそれ以上に抱きつかれたガンダムは突然の事に何が起こったのかさえ分からない。
だが直ぐに冷静さを取り戻し、何が起こったのがを瞬時に整理する。
自分は先ほどヘリコプターに入ってきた女性に抱きつかれている。そして、自分はその女性に見覚えがある。
あの時はまだ少女だった、真っ直ぐな気持ちと強い心をもった魔法使い。その身からは信じられないほどの魔力を秘めながらもその力に溺れる事無く、皆のために振るった。
はやて同様彼女も大きく、そして美しく成長した・・・・そんな彼女達を見るたびに自分が時間に取り残された感じに陥るが
それ以上に彼女達が元気に成長した嬉しさの方が遥かに大きい。
「(フェイトやユーノ、クロノにギンガ、アリサにすずか・・・・彼女達と出会うたびに驚くのだろうな・・・・)」

576高天 ◆7wkkytADNk:2010/02/14(日) 01:47:26 ID:YldzdhHo
そんな事を思いながら、ゆっくりと彼女の体を離し、顔を見据える。そして指でそっと流れ落ちそうな涙を掬う。
「・・・・駄目だよ、隊長がベソなんかかいては」
「ガンダムさんが・・・悪いんだよ・・・皆を待たせるから・・・心配するから・・・」
「・・・すまない・・・でも、これだけは言わせてほしい・・・・ただいま、なのは」
「うん、お帰りなさい、ガンダムさん」


「そっか・・・・ヴィータちゃんが驚くなって言っていたけど・・・そんな事が・・・」
「ああ・・・・・だけどすまない、こんなに時間が経つとは思っていなかった・・・・」
「ガンダムさんが謝る必要なんて無いよ、約束を守って、無事に帰ってきてくれたんだから」
邪魔をしてはいけないと思ったのだろう、ガンダムとなのはの会話をスバルはティアナの隣でニコニコしながら聞いており
ティアナは視線を窓から見える街の景色に向けながらも、その瞳は街ではなく窓に映るガンダム達の姿を、そして両耳でしっかりと会話の内容を聞いていた。
正直な所、ティアナは驚いていた。
自分は隊長である『高町なのは』を『完璧な人間』だと思っていた。
魔法の才能、若くしての今の地位、そして誰もが認めるカリスマ性、どれをとっても遠い存在、自分とは住む世界が違う人間だと思っていた。
だが今の彼女はどうだろうか?
楽しそうに微笑み、驚いた表情をし、声を出して笑う、其処には自分が感じていた『高町なのは』は微塵も感じられない、友達と話す只の少女だ。
そう感じると同時に自分自身の視野の狭さに情けなくなる。
確かに『高町なのは』は自分が思っている様な『完璧な人間』だという考えは変らない。だがそれだけではないのだ。
彼女は優秀な魔道師であると同時に自分達と同じ女の子、決して仕事や戦いの世界だけで生きる人間ではない。
もしそんな人間なら、この様に心から楽しく笑ったりすることなど出来る筈が無いからだ。
「(・・・楽しそう・・・なのはさんも普通の女の子だったんだな・・・・)」
強さや功績などが原因で彼女を『強い魔道師』として見る者は多い、自分もその一人だった。
だがいざ戦いから離れれば、自分達とそう歳が変らない女の子なのだ。
「(今度・・・・スバルと一緒に誘ってみようかな・・・・・・)」
最近見つけた美味しいケーキを出してくれるお店、今度の休みになのはを誘ってみようと思う。
仕事や訓練の話しは一切無し、、一人の女の子として高町なのはという人物と話してみたい。
数時間前の自分だったら『図々しい』『すむ世界が違う』などと理由をつけてそんな事考えもしなかっただろう。
だが今はそんな気持ちは微塵も無い、今まで自分が無意識に隔てていた壁を崩したい。だたその気持ちで行動しようとしている自分がいる。
「まったく・・・・・馬鹿スバルの猪突猛進振りが移ったのかしかね?」
「・・・ん?なんかいったティア?」
最後の言葉だけは自然と口に出してしまった。
小さな呟きだったのだが、近くにいたスバルには聞こえたのだろう、キョトンとしながら自分を見つめるスバルに、
ティアナは誤魔化すかのように軽くデコピンを一回、そして
「スバル、やっぱりパフェじゃなくてケーキにするわ、一人前多くね」
デコピンをされたオデコを抑えながら何が起きたのか混乱しているスバルをよそに、ティアナは予定変更だけを良い再び視線を窓の外に戻す。
その視線の先には、これからストームレイダーが降り立つであろう自分達の本部、機動六課本部隊舎が見えてきた。


ヘリポートにゆっくりと着陸したストームレイダーを待っていたのは、待機していた整備員数名、そして
「来たわよ!ザフィーラ!!」
「気持ちは分からんでも無いが落ち着け」
白衣を羽織った女性と蒼い毛並の大きな狼、傍から見れば妙な組み合わせだが、そう思うのは彼女達を知らない者だけ、
此処に配属されてる以上、待機している整備員達は無論知っている、
夜天の主にして此処の部隊長『八神はやて』の守護騎士『湖の騎士シャマル』と『盾の守護獣ザフィーラ』
此処では無論、管理局の中でも知名度は高い。

577高天 ◆7wkkytADNk:2010/02/14(日) 01:48:04 ID:YldzdhHo
そんな二人が仕事(シャマルは医務官、ザフィーラははやての警護)を中断してまで此処に来ることに疑問を感じるのは当然である。
だからこそ緊張する者、そして「誰かが大怪我をしたのか?」「凶悪犯を捕まえたのか?」などと、こそこそと小声で話したりする者達がいても可笑しくは無い。

ヘリの後部ハッチと操縦席が開く、先ず出て来たのはスバルとティアナ、そして操縦席からはヴィータ。
整備員達が『お疲れ様です』と敬礼で労うと同時に後部ハッチから部隊長のなのは、そしてバーサルナイトガンダムが出てきた。
隊長であるなのはにも挨拶をしようとしたのだが、彼女の隣にいる小型の傀儡兵のような者を見た瞬間、敬礼をしようとした手を止め、言葉を詰まらせてしまう。
ナイトガンダムに関しても、傍から見れば変った傀儡兵にしか見えないだろう。だがそう思うのは彼を知らない者だけだ。
当然今固まっている整備員達は彼の事を知らない、だからこそこの態度も当然といえば当然である。
中には「何だ?」「秘密兵器か?」など、好奇の視線を向けながらヒソヒソを話し出す者も出てきた・・・・その時

             「言いたい事があるならはっきりと言え!!(言いやがれ!!)」

ザフィーラとヴィータの怒声が周囲に木霊し、ヒソヒソ話をしていた整備員達と一気に黙らせた。
一気に押し黙りうな垂れる整備員を他所に、シャマルとザフィーラは小走りにナイトガンダムへと近づく、10年ぶりの再会を祝うために。
「おかえりなさい・・・ガンダムさん。本当に久し振り」
「よく無事に戻ってきた、騎士ガンダム。主共々、お前の帰りを心待ちにしていたぞ」
「ああ、ただいま、湖の騎士シャマル、そして盾の守護獣ザフィーラ・・・・二人とも変らず元気でよかった」
シャマルが一歩近づき、腰を下ろす。そしてゆっくりと優しくガンダムを抱きしめる、突然の彼女の行動にビックリしながらも、
自然とガンダムも彼女を抱きしめる、互いに再開の喜びを分かち合うかの様に。

「ごめんなさい・・・整備員達の態度に不快な思いをさせてしまって」
「気にしないでくれ、MS族が確認されていないんだ、彼らの態度は当然だよ」
「ったく、相変らず甘いって言うか易しいって言うか・・・・まぁ、それがお前のいい所でもあるんだけどな・・・だけどこの視線はどうにか何ねぇのか?
こんなんじゃ体がもたないだろう?」

ヘリポートでの再開の後、ガンダムはヴィータとシャマルに連れられ六課本部隊舎の中を歩いていた。
やはり自分という種族が珍しいのだろう、その上此処では有名な守護騎士達と歩いているのだ、すれ違う人々は整備員達が向けたような視線を向ける。
だが仕方が無いと思う、自分の様なMS族は珍しいし、10年前も本局でこのような体験はした。言ってしまえば慣れてしまった。

「心配してくれてありがとうヴィータ、やはり君は優しい子だね」
「なっ・・ば・・馬鹿!!何言ってんだよ!!あ・・あたしは報告書書かなきゃいけないから行くぞ!!あとはシャマルに連れて行ってもらえ!!!」
純粋に褒められた事に、ヴィータは顔を真っ赤にしながら怒鳴り散らした後、機械の様な動作で回れ右、全力疾走でその場から逃げるように離れた。

あっという間に視界から消えたヴィータをポカンとした表情で見ていたガンダムはゆっくりとシャマルの方へと首を動かす。
「・・・私は・・・彼女を怒らせるようなことをしたでしょうか?」
「ガンダムさん、世の中には恥ずかしくて素直な気持ちを表せない子もいるのよ。ちなみにああいうのを『ツンデレ』って言うらしいわ」
「『つんでれ』・・・・・ですか」
「そう『ツンデレ』。ちなみにティアナとアリサちゃんが該当するわね・・・・・あとシグナムもかしら・・・何でも『萌え属性』に必要不可欠だとか」
もしこの場にシャマル以外の人物がいたら『変な知識を与えるな』の声と共に彼女を殴り倒しても喋らせる事を止めただろう。
だがこの場にいるのはガンダムとシャマルだけ、彼女の知識の供給を止める者は誰もいない。
その結果、二人が部隊長室に付くまでの数分間、ガンダムの頭の中に無用な知識が幾つも加わる事となった。

578高天 ◆7wkkytADNk:2010/02/14(日) 01:48:38 ID:YldzdhHo
「さっ、此処よ、中に八神部隊長・・・はやてちゃんが待ってるわ」
二人の前の前には部隊長室の扉、その扉は自動式であり、あと一歩踏み出せば空気が抜ける様な音と共に自動で扉が開くようになっている。
だが直ぐに入ると思っていたシャマルの予想に反し、ガンダムは踏み出そうとはしない、扉をジッと見据えている。
不審に思いながらも、自分が先に入ろうと一歩踏み出そうとする・・・・だが
「・・・・お待ちを」
静かに・・・だが否定を許さない声でガンダムは右手を差し出し、彼女の動きを止める。
そして差し出した手を腰に回し、バーサルソードの剣柄を握った。
ゆっくりと引き抜かれるバーサルソード、その突然のガンダムの行為にシャマルは一瞬唖然とするも、説明を求めるため尋ねようとする。
だがそれより早く、ガンダムは一歩踏み出した。自動ドアのセンサーが反応し扉が開く

                                ガキッ!!

シャマルが聞いたのは扉が開くときに聞こえる空気が抜けるような音ではない、何か金属が激しくぶつかり合った音。何が起きたのか分からず唖然としてしまう。
結果的に状況を理解するのに数秒を要した・・・・・とても簡単な答えだ。入り口にいるシグナムが扉が開くのと同時にガンダム目掛けてレヴァンティンを振り下ろしたのだ。
正に不意打ちと言っても良い攻撃、だが彼女が振り下ろしたレヴァンティンはガンダムのバーサルソードによって受け止められていた。
「・・・・・よく気が付いたな、殺気は無論、気配すら消していたのだがな」
「周りと違って扉の前が静が過ぎた・・・・まるで故意に場の空気を消したかの様に・・・それで怪しいと思っただけさ」
「ふっ、その腕、衰える所が磨きがかかっている、さすがは我が好敵手だ」
「ありがとう・・・といいたいけど、さすがに手荒すぎる気がするな」
流石に今の行為は度が過ぎてると思ったため、ガンダムはさりげなく指摘する。
指摘されたシグナム本人も流石にやりすぎたと思ったのだろう、声を詰まらせた後、素直に謝罪した。
そして謝罪後、ゆっくりと腰と落とし、シャマルやなのは同様ガンダムを優しく抱きしめた。
「よくぞ帰ってきた、騎士ガンダム。好敵手として、共として、帰還を心から祝おう」
「ありがとう、そしてただいま、烈火の将シグナム。貴方の美しさは変らず、強さにはより磨きがかかった」
「ふっ、お前にそう言われるとこそばゆいな・・・だが悪くは無い」

『積もる話は中に入ってからしましょう』というシャマルの言葉に3人は部隊長室へ。
流石に機動六課を取り仕切る部隊長の専用室、部屋の広さは指令室並、はやてとリインフォース・ツヴァイの机の他に、
来客用の大型テーブルと数人は軽々と座れるソファーが備え付けられている。
そのソファーに座り、今か今かとガンダムの到着を待っていたはやては、彼の姿を確認するないなや立ち上がり駆け足で近づく
そして皆と同様に抱きつき、心から再開の喜びを表した。
「あ〜!やっぱりガンダムさんや!ほんまお帰り!!」
「ああ、改めてただいま、はやて。もう走れるほど歩けるようになったんだね、本当によかった」
「当たり前や、もうあれから10年たってるん・・・・・・そうやな、早速で悪いんやけど先ずはそれについて教えてくれない?」

途中遅れてきたなのはとツヴァイも加わり、今部隊長室には重要な会議を行えるほどの人物が揃っていた。
それぞれがソファーに座り、シャマルが入れてくれたお茶を味わいながらひと段落着く。
そして頃合を見計らったところではやてが話を切り出した。
皆が沈黙し、注目する中、ガンダムはゆっくりと10年前、皆と別れてからの出来事を話し始めた。
伝説の巨人との戦い、ガンダム族の末裔達との出会い、そしてなぜか記憶が途切れ途切れになっているジークジオンとの戦い。
時間にして約一時間、静まり返る部隊長室にガンダムの声だけが響き渡った。
「・・・・これが私がスダ・ドアカ・ワールドから帰り、今この時までに体験した事です」
「・・・色々聞きたいこともあるけど、先ずは時間の流れやな。ガンダムさんはスダ・ドアカ・ワールドに戻ってから再び此処に来るまでに要した時間は2年。
せやけど私達が再びガンダムさんに会うまでに10年かかっとる・・・・ぶっちゃけありえへん」

579高天 ◆7wkkytADNk:2010/02/14(日) 01:49:12 ID:YldzdhHo
次元世界同士が近い場合(航行艦を使わない程度)時間の流れに変化は無い、だが航行艦を使う距離を、転移に関する特殊な能力が無い人間が次元間移動をすると
時間の歪み(俗に言う浦島太郎の様な効果)が発生することは確認されている。
それでも『往復したら数十年経過していた』という事は無く、精々数分程度の歪みなのは実証されていた。

「次元航行、次元間移動での時間差は確認はされているけど精々数分程度、それにガンダムさんの話からしても私達の世界とスダ・ドアカ・ワールドの
時間軸はほぼ変り無い・・・・もしかして此処へ次元間移動する時に何かが起きたとしか考えられへんな」
「ありえない話しでありませんね、そのスダ・ドアカ・ワールド自体が未だに見つからない次元世界、我々の常識が通用しないのかもしれません。
それに手掛りが無い以上、ガンダムが体験した時間の歪みを解決する事は・・・・無理かと思います」
シグナムは遠まわしに結論付け、この話を切り上げ様とする。この話題には興味があるが原因を解明する材料が不足している。
それ以前に彼が無事に帰ってきた、それで十分ではないか?この場にいる全員がその意見に無意識に同調した。

「だけど、伝説の巨人にガンダム族・・・そしてムーア界、向こうでも色々とあったんだね。でもガンダム族か。
その『アレックス』って言う騎士もガンダムさんと同じガンダム族なんだよね?何か知らなかったの?」
「いや、アレックス殿もガンダム族の末裔は自分を含めたアルガス騎士団のみといっていた。だがラクロアにもガンダムの伝説があった以上、
スダ・ドアカ・ワールドの何処かにその末裔がいても可笑しくは無いとは言っていたよ・・・・・ただ」
突然言葉を詰まらせ、俯くガンダムに皆が視線を向ける。
おそらく話そうか話すまいかと迷っているのだろう。彼らしくない言動に先ほどまで話していたなのはが切り出す
「?・・・・どうしたの?」
「これは・・・・『何となく』という曖昧な感覚なんだが・・・・・最近、自分は元々、スダ・ドアカ・ワールドの者では無いような気がしてきたんだ。
いや、今ではそんな気がしてならない・・・・・何故だか分からないが・・・すまない、忘れてくれ」
「それって・・・ガンダムさんが次元漂流者って事でしょうか?」
「う〜ん・・・・そないな曖昧な感覚なら気のせいやと思うんやけど・・・・・発言者がガンダムさんやからな。気のせいで終らすには出来んな。
スダ・ドアカ・ワールドにも地球に来た時同様、次元漂流の結果とかやったらガンダムさんの『何となく』も解決するんやけどな。
何より『気付いたら記憶が無く、景色に全然見覚えが無い』って事自体、次元漂流者の症状そのものやからな。せやけど・・・・ガンダムさん」
「いや、仮に自分の事や住んでいた世界が分かっても今更帰るつもりは無いよ・・・ただ、自分の正体が不可解なのは気持ちのいいものじゃないから・・・・・それに」

頭の中に過ぎったのはあの光景、最初に自分を保護してくれた人達。
そして涙を流し、帰るなと言ってくれた少女、自分はあの時約束したのだ・・・必ず帰ると。
彼女はどうしているだろうか・・・元気だろうか。

「他の・・・・皆は元気なのかい?」
「勿論や!フェイトちゃんとリインフォースは今は用事でこの場にはおらへんけど連絡はいっとる筈や。
ユーノ君は無限書庫ってとんでもない図書館の司書長をやっとる。女性から見ても妙に美人さんに育っとるからおどろくなや〜。
あとクロノ君はエイミィさんと結婚したんよ。今では二児の父!あとで連絡をいれとかんとなぁ」
はやての楽しそうな話し方からするに、皆無事に成長し、日常生活を送っているのだろう。今は会えずとも、それを聞けただけで安心感に満たされる。
「(プレシア殿に関しては・・・・フェイトとアルフに最初に話そう)皆無事でよかった・・・それで(あ〜まちまち!!!」
そして、必ず帰ると約束した子達の事を聞こうとするが、それより早くはやてが大声を上げ手を差し出す。まるで自分の発言を遮るかのように。
「実はな〜、ガンダムさんにお願いがあるんや、今度うちらとスバル達ストライカーズが聖王教会からの任務で、ある世界のある場所に数日滞在する事になったんや」
ガンダムは突然の会話変更に要領をつかめないが、それ以外の人物ははやてが何をしたのかが直ぐにわかり、笑みを浮かべる。
「そんでガンダムさんにはその世界でお世話になる人のところへ行って挨拶をして来てもらいたいんや・・・・頼めるか?」
「えっ?ああ、構わないけど。でも私が言っても余計混乱するだけじゃないかな?六課の誰かが行った方がいい気がするのだけれど」

580高天 ◆7wkkytADNk:2010/02/14(日) 01:50:40 ID:YldzdhHo
「それなら心配あらへん、なんたってガンダムさんにぴったりの任務やからな・・・・ちなみにその場所というのはやな」
机から身を乗り出し、ガンダムに顔を近づける。そして目が会った瞬間悪戯を成功させた子供の様に微笑んだ。

          「場所は第97管理外世界『地球』。日本の街『海鳴市』在住の現地協力員『月村すずか』のお宅や」


・月村邸裏庭

転送を終えたガンダムはゆっくりを瞳を開ける。
目に映るのは10年前、この家で庭師の仕事をしていた時にいつも見ていた光景。
まるで森の様に木々が生い茂げ、風がふくたびに揺れてさわさわと音をたてる。
これが一家庭の庭だと聞いたら誰もが驚くだろう・・・・現に自分も始めて聞いたときは驚いたものだ。
あの時、この場所で過ごした事を思い出しながらゆっくりと歩み始める。
転送ポットから半分ほど歩いただろうか・・・・いつの間にか周りには自分と一緒に歩くかの様に猫が数匹ついてきていた。
「此処は変らず猫達の楽園なのだな」
庭で仕事をしている時、剣の鍛錬をしている時、そしてリビングで寛いでいる時、そのすべての時に必ずと言っていいほど猫が一緒だった。
気まぐれといわれている猫にしては主人やここに住む住人には忠実であり、共にいることはあっても、何かの作業をしている時に邪魔をされた事は一度も無かった。
「案内をしてくれるのかい?」
その問いに数匹いる猫の内の一匹が元気よく鳴き、小走りに前へと進む。
返事をする様に鳴いたあの猫、あの時月村家で保護された時に自分を起こしてくれた猫によく似ている。
もしかしたら子供なのかもしれない。その子にまた導かれると思うと妙な運命すら感じてしまう。

暫く歩くと森を抜け、開けた庭へと出る。先ず目に付いたのはこの森とも思える庭の持ち主が住む月村邸。久し振りに見るその外観に改めて驚き、そして懐かしさを感じる。
そしてその近くから聞こえる歌声にガンダムは和らいできた緊張が一気に元に戻った感覚に襲われた。
今いる位置から聞こえる歌声、あそこは自分がすずかのために花壇を作った場所だ。其処に誰かがいる・・・否、もう聞こえる歌声で分かったしまった。
拳を力強く握りしめ、無理矢理緊張を打ち砕く。
だが不安に思う、彼女は自分の事を覚えているだろうか、待っていてくれているだろうか、緊張に続いて襲い掛かる不安に狩られながらも
ガンダムはゆっくりと歩き出す・・・そして


「これでよしっ」
日課の水遣りを終えたすずかは如雨露を両手で持ち直し、先ほどまで水をやっていた花々を見つめる。
10年前、とても大切な人が作ってくれた花壇、今では季節ごとに色とりどりの花を割かせてくれる。
何時見ても心を穏やかにしてくれる。そんな花々を見つめながらも、ふと今後の予定を思い出し腕時計を見る
「たしか・・・・はやてちゃんの部隊から挨拶に来る人がそろそろ来る頃かな、今はファリンもイレインもいないし、お茶の準備をしなきゃ」
お茶とお茶菓子は何がいいだろうと考えてる最中、後ろから聞こえる猫の鳴き声に自然と振り向く・・・そこには


歌声が聞こえていた方へと向かったガンダム。角を曲がり正面を見つめる、其処で見たのは花壇に水をまく一人の女性だった。
あの頃とは違い、大きく、美しく成長した・・・・今も昔の様に紫のロングヘアーがよく似合う。
記憶にある十年前の姿と重なったがそれも一瞬、ガンダムの目の前には美しく成長した一人の女性『月村すずか』がいる。

「えっ・・・?」
目の前の光景に頭が追いつかない、如雨露を落とし、中に入っていた水が足に盛大にかかるが今はそんな事気にもならない。
夢なのか?幻なのか?それとも本当の出来事なのか?
10年前とは違い、鎧が変ってはいるが瞳を見れば分かる間違えるはずが無い。
怯えていた自分を勇気付けてくれた、再び会うことを約束してくれた、あの強く優しい瞳を。
情けない事に未だ頭が混乱し、声を上手く出す事ができない。話したい・・・名前を呼びたい・・・そんなことも出来ない自分に腹が立つ
だが、彼女が言葉を発するより先に、彼が自分の名を呼んだ

                        「すず・・・・か」

それだけで十分だった、目の前にいるのは幻ではない、自分が見ている夢でもない。
彼は約束を果してくれた、かえって来てくれたのだ、それが分かっただけで無意識に体が動き走り出す。
突然走り出した自分に彼が驚いた表情をしている、だが10年も待たせたのだ、驚かせたって罰は当らないだろう。

581高天 ◆7wkkytADNk:2010/02/14(日) 01:52:18 ID:YldzdhHo
そして、スバルの時の様に走り出した時の勢いそのままに、ガンダムに抱きついた。

「うわっ!?」
走る勢いを殺さずに抱きついてきたすずかに、ガンダムは彼女を受け止める事が出来ずに後ろへと倒れてしまう。
スバルの時は勢いやマッハキャリバーのスピードなどから、受け止められるように体に強化魔法を施していたが、今回は何もしていない。
無論、掛ける暇はあったのだが、女性だから大丈夫だろうと思ってのが間違いだった。
すずかも夜の一族の血を色濃く引いているため、通常の力は人間の比ではない、勿論日常生活を送る時には自然とリミッターを掛けてはいるが
今回はそんな物を無視してしまうほど感情が高ぶってしまい、結果、ガンダムを押し倒す形となった。
「ガンダムさん!ガンダムさん!!本当に・・ほんと・・・う・・・・」
名を呼びながらまるで絞め殺す勢いですずかは抱きしめる。だが、名前も徐々に嗚咽に変り、抱きしめる力も緩んでくる。
ガンダムも最初はすずかの行動に驚き、抱きしめるとは程遠い絞めつける行為にも顔を顰めた。
だが同時に思う、今彼女が泣いているのは自分が原因だという事だ。
一度目を瞑り、心を落ち着かせる。そして両手を彼女の背中に回し、優しくすずかを抱きしめた。
泣きじゃくる彼女の背中を優しく叩き落ち着かせる。それだけで泣き声は嗚咽へと変り・・・・・次第にそれも収まってゆく。
そして、完全に収まった後、すずかは体制はそのままでゆっくりと体を起こした。
至近距離から互いを見つめる二人・・・互いに何を話していいのかわからない・・・だが言いたい事は互いにあった。それは只の挨拶

                       「ただいま・・・・すずか」

                    「おかえりなさい・・・・・ガンダムさん」

あの別れから10年・・・・少女と騎士は再び再会を果した。




こんばんわです。投下終了です。
読んでくださった皆様、感想を下さった皆様、ありがとうございました。
職人の皆様GJです。
インフルエンザには気をつけましょう
SDXは法術師ニュー・・・・最高です!!
次は何時になるのやら


長くて申し訳ありません、どなたか代理投下をお願いいたします。

582高天 ◆7wkkytADNk:2010/02/14(日) 19:34:45 ID:PY9Lgzh.
代理投稿、誠にありがとうございました。

583黒い雨:2010/02/18(木) 02:57:14 ID:xrTu9xUQ
すいません・・・また最後の最後で猿さんに捕まってしまいました(溜息)

どなたか申し訳ありませんが、締の文章の代理投下をお願いしたいのですが

    ↓    ↓    ↓

今回は以上です。

前回の時に「ナカジマ姉妹(数の子含)vs黒衣の怪物」を予告したのですが、いざ執筆を始めて
みると思ったより、その前段階の部分が長くなってしまい、やもう得ず対決は次回へと持ち越し
にせざるを得ない結果になってしましました。

申し訳ないです。orz

とにかく次回こそは、なんとか初戦にまで持ち込めるよう努力しますので。

では、また次回まで・・・

584黒い雨:2010/02/18(木) 03:12:50 ID:xrTu9xUQ
なんども申し訳ないです。

あとがきの文章は無事に投下できました(苦笑)

それで先の代理投下の依頼はキャンセルします・・・

どうもお騒がせしてすいませんですorz

585来てね♪:2010/02/19(金) 14:47:35 ID:8m.beHVw
とってもおもしろいブログだよ♪

たまに更新もしてるから見に来てください☆ミ
ちょっとエッチなプライベートブログです(*^^*)

ttp://stay23meet.web.fc2.com/has/

586レザポ ◆94CKshfbLA:2010/02/22(月) 19:14:15 ID:kbLelN1A
今晩は、いつもの如く規制を受けている為此方に投下しておきます。

587レザポ ◆94CKshfbLA:2010/02/22(月) 19:16:03 ID:kbLelN1A
 夢現…微睡みの中に漂うフェイト、彼女の耳に音が小さく響いてくる、
 煩わしい…最初はそう感じていた、だがその音は徐々に大きくなっていき最後には大きな爆発音となって脳天を貫く。
 
 その音により自分が気絶していた事に気が付き目を覚まして体を起こすフェイト、
 辺りを見渡すと壁や天井の残骸が山のように築かれており、ふと上空を見上げると其処には白金の魔力光と桜色の魔力光が幾重にもぶつかりあっていた。
 その光の正体がなのはとレザードであると気付いたのは、そう遅くは無かった…
 
 
                 リリカルプロファイル
                  第三十九話 黄昏
 
 
 フェイトは目の前で起きている激戦を見て呆然としていた、何故ならば二人の戦いは既に一線を越えた戦いであったからだ。
 なのはから繰り出されるディバインバスターをレザードは詠唱破棄したセラフィックローサイトにて迎撃、
 一方でレザードはダークセイヴァーにて追撃するが、なのははディバインシューターを用いて相殺、
 
 変わってなのはがアクセルシューターを撃ち放つのだが、レザードはグングニルを振り払い、弾き飛ばして周囲の壁を瓦礫に変えると、
 再度グングニルを振り払い衝撃波を放つが、なのははA.C.Sドライバーを起動させて左に回避、先程までなのはがいた場所は衝撃波により瓦礫と化した。
 
 「逃さんっ!!」
 
 ところがレザードはとっさに左手をなのはに向けてレデュースガード、レデュースパワー、プリベントソーサリーの三種のバインドで縛り付け、
 その光景を目の当たりにしたフェイトは、なのはが危機に陥っていると判断して、なのはを救い出す為に向かおうとした。
 …だが――
 
 (こないで!フェイトちゃん!)
 (なのは?!)
 
 突然のなのはの念話に驚きの表情を浮かべるフェイト、だがすぐさま真剣な表情に戻し自分も手伝うと伝えるが、頑としてなのははフェイトの要求を断っていた。
 何故ならば、レザードの実力に対抗出来るのは神とユニゾンした自分のみであり、
 言い方が悪いがフェイトの実力では足手まといがオチであると、凛とした声でハッキリと伝えた。
 
 (…それじゃあ、私はなのはの為に何も出来ないの?)
 (…ゆりかごから脱出してくれるだけでいいよ)
 
 そうすれば自分は全力全開で戦えると今度は優しい声で答え、暫くフェイトは黙り込みその後すぐ、意を決しなのはに背を向けてこの場から立ち去り
 フェイトの後ろ姿を横目で確認したなのはは小さく微笑むと、すぐさま険しい表情に変わりレザードを睨み付けるのであった。
 
 
 場所は変わり此処動力室では、魔力を使い過ぎて暫く休憩をしているはやての姿があった。
 すると其処にフェイトから連絡が入り、その内容に驚きの表情を浮かべる。
 
 「何やて!?撤退ってどう言う事や!!」
 「細かい事は後で伝えるから今は!!」
 
 フェイトの必死な態度にただ事ではないと感じたはやてはすぐさま了解し、ヴォルケンリッターに撤退の指示を送ると
 ザフィーラははやてを背負いシグナムを先頭に動力室から避難した。

588レザポ ◆94CKshfbLA:2010/02/22(月) 19:17:14 ID:kbLelN1A
 一方でスバル達はチンクを引き渡す為に突入口に向かって進んでおり、
 スバルはティアナを背負い、フリードリヒにはエリオを騎手にチンクを抱えたキャロの姿があった。
 
 すると此方にもフェイトからの連絡がティアナの下に届く、その内容とは突入口を出たらそのまま、もう引き返す必要は無いというものであった。
 そしてフェイトもまた突入口とは違う場所からの脱出を試みると告げ、それを聞いて一つ疑問を抱いたスバルが問い掛けてきた。
 
 「ところでなのはさんは?」
 「…なのはは一人でレザードと戦ってる」
 
 フェイトの思わぬ答えに困惑するスバルであったが、取り敢えず今は外に出る事を優先するようにとフェイトは促し
 スバルは納得のいかない表情を浮かべている中、ティアナが了解して、一同は急いで突入口へ向かっていった。
 
 
 時間は遡りフェイトが部屋を出た直後、三種のバインドで縛られている状態のなのはが其処にあったが、
 体に力を込め容易くバインドを吹き飛ばし、その光景を見てレザードは当然か…といった表情を浮かべていた。
 神とのユニゾンは魔力だけではなく本人の身体能力も向上させる事が出来る、つまりバインドではもう捕らえる事が出来ないのだ。
 
 「面倒な相手になったものだ……」
 
 賞賛とも不満ともとれる言葉を放つレザードの前にA.C.Sドライバーを起動させて突進して来たなのはが現れ、レザードはグングニルを盾にして攻撃を受け止める。
 だがなのははお構い無しに尚も突進、レザードを押し遣り壁を突き破り更に幾重も突き破って最後にディバインバスターを撃ち放った。
 
 それによって更に壁を突き破り大きな風穴を作り出すと、風穴から直射型のライトニングボルトがなのはに迫り
 なのはは上昇して回避するが更なる上空に移送方陣にて先回りしていたレザードと出くわし、グングニルを振り払らわれ衝撃波を撃ち出される、
 ところがなのはは衝撃波を受け止める為ラウンドシールドを張るのだが、受け止めきれずに押し遣られ次々に壁を突き破っていった。
 
 しかしレザードの顔には手応えを感じたしたという表情が浮かび上がっておらず、ジッとなのはが押し遣られて作り出された風穴を見ていると、
 其処から桜色の光が瞬時にレザードの前に現れ光が消えると無傷のなのはが姿を現し、
 その姿を見たレザードの表情には驚きの様子は無く、寧ろ当然といった表情を浮かべていた、そしてなのはを見下ろす目線で言葉を口にする。
 
 「そろそろ貴様の仲間が脱出した頃だろう」
 「気づいていたの?」
 「当然だ」
 
 神の力を得た存在があの程度で倒されるハズもなくまた、この程度の力ではない事は重々承知している。
 故になのはの本気を見る為邪魔な存在である彼等が脱出するのを見逃しまた様子を見ていた、その言葉に意外といった表情でなのはが言葉を口にする。
 
 「随分と余裕なのね…それとも自信?」
 「紳士的と言って欲しいものだ、だが…もうその必要は無い…私の全てをお見せしましょう!」
 
 そう言って両腕を大きく広げ、まるで十字架のように見える形で構えると、
 魔力を高め白から白金へと変化し目を見開いて、まるで劇を終わらせるかのように高々と宣言した。
 
 「さあ!フィナーレだ!!!」
 
 
 
 場所は変わり此処はミッドチルダ宙域に待機しているクラウディアのブリッチ、
 其処には周辺地域の変化をモニタリングしている夢瑠が脳天気に大欠伸をかいていた。
 
 すると其処に本局からの通信が届き、その内容に驚いた表情を浮かべながら対応する夢瑠。
 その内容とは今し方隕石が七つ、ミッドチルダに向かっているのを捉えたと言うものであった。
 
 「えっ?!それってどういう事――」
 
 夢瑠は本局に詳細な情報を求めようとしたところ、クラウディアを掠めるようにして七つの隕石が通り過ぎミッドチルダに降りていった。

589レザポ ◆94CKshfbLA:2010/02/22(月) 19:18:21 ID:kbLelN1A
 それを肉眼で確認した夢瑠はすぐさまスタッフに着弾ポイントを予測させる、そして出た結果がゆりかごに向かっている事が判明した。
 この結果に脳天気な夢瑠であっても危機感を感じ、すぐさま上司であるクロノと連絡を取るのであった。
 
 
 「てめぇらの顔も!!」
 「見飽きたぜぇぇぇ!!」
 
 時間は遡り、ゆりかご周辺上空ではアギトとユニゾンしたアリューゼが広域攻撃魔法と化したファイナリティブラストにて
 次々にガジェット及び不死者を飲み込み爆発もしくは光の粒子と化して消滅させていた。
 
 他にもフェンリルに跨り次々に不死者を凍結させていくメルティーナや、白天王に指示を送りガジェットを次々に破壊しているルーテシアの姿があり
 地上では気だるそうな顔をしながら猟犬を使って攻撃するヴェロッサと、ヴェロッサを窘めながらもヴィンデルシャフトを振り抜くシャッハの姿があった。
 
 その中で現場責任者であるクロノは、戦況を確認しながらも次々にガジェット及び不死者を撃破していた。
 此方の戦力は全地上魔導師及び教会騎士団の七割を投入、その為ガジェット及び不死者は順調に数を減らしつつあるが、
 依然として先の見えない戦いが現状であった、一方で残り三割の戦力はミッドチルダの全住民の避難を完了させ更に怪我人への対応に勤しんでいた。
 
 戦況は悪くはない、だが打開策が無い以上ジリ貧は必死である、すると突入口からウィングロードが伸び其処からスバル達が姿を現し、
 それを皮切りにゆりかごの後方部分から火龍一閃と思われる炎が立ち上り、
 
 其処からシグナムを先頭にヴィータ・シャマルそしてはやてを背負ったザフィーラが現れ、クロノの下へ近づいていた。
 更にライオットザンバー・カラミティと思われる魔力刃が外壁を切り裂き其処からフェイトが姿を現し同じくクロノへと近付いてきていた。
 
 「はやてフェイト!レザードはどうしたんだ!?」
 「今なのはが相手をしている」
 「それや!どう言う事か説明してな!!」
 
 するとフェイトは今までに起こった一部始終を余すこと無く伝え、その有り得ない内容に頬に冷たいものが伝う二人、
 神とのユニゾンしたなのはの実力は測りきれない程であり、その力に真っ向に対抗出来るレザード
 
 最早ミッドチルダの命運はなのはの手に掛かっている、そう判断しているとクロノの下に夢瑠からの連絡が入る。
 その内容とはゆりかごに向かって隕石が七つ向かってきているというもの、その内容に困惑するクロノ達に対しフェイトは断言するように言葉を口にした。
 
 「レザードだ…」
 「バカなっ!何でもかんでもアイツのせいにするのは――」
 「それはクロノがレザードの実力を目の当たりにしていないからだよ!」
 
 レザードの実力は隕石すら操れても可笑しくないとフェイトは答え、それに真っ向から反対しようとしたクロノの窘めるはやて。
 今は兄妹喧嘩をしている場合ではない、レザードの仕業であろうとも無かろうとも隕石が迫ってきている事実は揺らぐ事はない。
 そんなはやての言葉に我に返った二人は小さく頷くと、クロノは現場責任者として今この場に集っているメンバーに早急に指示を送った。
 
 「各隊員に告げる!今此処に隕石が迫って来ている!今すぐこの場から退避せよ!!」
 
 クロノの指示に隊員は蜘蛛の子を散らすかのようにして次々に退避、だが中にはガジェットや不死者に阻まれ退避出来ない隊員も多くいた。
 するとクロノはアリューゼ達や突入組に救護並びにしんがりを要請、これによって孤立しかけた隊員達は救い出されなんとか退避を完了させた。
 
 そしてクロノ達もゆりかご全体が確認できる位置まで退避を完了させると大して間も無く、空から摩擦熱により赤く輝く七つの隕石が
 ゆりかごに次々に突き刺さっていき大きな七つの風穴を作り出すと、ゆりかごは音を立てて崩れ始めた。
 
 「ゆりかごが……」
 「崩壊していく……」
 
 その光景を目の当たりにしていたはやてとクロノは言葉を口にし、中で戦っているなのはの生存は絶望的であると痛感していると、
 崩れ落ちる瓦礫の間を飛び交う白金色と桜色の魔力光が目に映り、フェイトは思わず身を乗り出すかのように一歩前に出て桜色の光を指差した。

590レザポ ◆94CKshfbLA:2010/02/22(月) 19:21:00 ID:kbLelN1A
 
 「なのはだ!!」
 「何だって?!」
 
 クロノは驚きの表情を浮かべつつ、それを確認する為にモニターを開くと
 其処には神々しい姿に変わったなのはの姿が映し出されていた。
 
 
 一方で落ちていく瓦礫の間を飛び交いながらレザードに向けてアクセルシューターを撃ち抜くなのは、
 だがレザードは瓦礫をグングニルで砕き吹き飛ばしてアクセルシューターを防ぎ、代わりに誘導性を付け加えたプリズミックミサイルを撃ち放った。
 
 ところが此方もレイジングハートの先端部分に存在する魔力刃にて目の前の瓦礫を砕き吹き飛ばしてプリズミックミサイルを防ぐと、
 瓦礫が無くなった目先にレザードの姿があり、すぐさまA.C.Sドライバーを起動してレザードを串刺しにしようと迫った。
 
 だがレザードはシールドを張って攻撃を防ぐが、なのはは先程と同様に尚も突進、それによりレザードは更に上空へと追い遣られていき
 レザードは左手を引くや否やグングニルを振り払いシールドごと攻撃を相殺した。
 そんな中、崩れ落ちていたゆりかごの残骸が積み重なり地上に瓦礫の山が築き上げられた。
 
 
 その頃上空ではレザードが不敵な笑みを浮かべ右手をかざすと、直径数十メートルの巨大な火球を五つ作り出し火球は真っ赤に燃え中心は黄色に近い色まで熱を帯びていた。
 一方でなのはも右手をかざし足下に環状の魔法陣を広げるとレザードの火球と同等の大きさと数の桜色の魔力弾を作り出した。
 そして―――
 
 「カラミティブラスト!!」
 「アクセル…シュータァァ!!」
 
 撃ち放たれた二種の魔法は激突するやカフェオレのように混じり合い収束していくと一気に解放
 大爆発を起こし、まるで花火を思わせるかのように無数に散らばり、その画は風流とすら思えた。
 
 …だが無数に散りばめられたレザードの炎となのはの魔力が混じったソレは、消えること無く地上に降り注ぎ
 二人の足下に広がる森は炎の海と化し木々を燃やし続けていた。
 そんな光景の中レザードは距離を置きなのはを見上げる位置に立ち、右手でグングニルを握り締めると右腕に揺らめく赤い魔力をたぎらせ始める。
 
 「マイトレインフォース!!」
 
 すると赤い魔力は拳からグングニルに伝わり刀身を赤く染め上げると、天を貫くかのようにしてなのは目掛けて投げつけた。
 マイトレインフォース、レザードが持つ武器と一撃の威力を1.5倍高める効果を持つ支援魔法である。
 
 一方なのはは右手にラウンドシールドを張り巡らせ受け止めようとするが、抑えきれずグングニルと共に高々と上昇
 ミッドチルダを覆う黒い粉塵と混じった灰色の雲を貫き大穴を開け、其処から夜明けが近いと思わせる夜空を覗かせた。
 
 一方更に上昇していくなのははシールドを傾け、その場で右に回転してグングニルを受け流す。
 ところがなのはの頭上にはいつの間にか移送していたレザードが、マイトレインフォースを纏わせた右手でグングニルを掴み取り更にそのまま大きく振り上げた。
 
 「貫け!グングニル!!」
 
 そして刀身を赤く染め上げると勢い良く投げつけグングニルはなのはの胸元に突き刺ささり、そのまま加速し一瞬にしてなのはごと姿が消え去り、
 レザードはグングニルが向かった方向を確かめると移送方陣にて移動を開始した。

591レザポ ◆94CKshfbLA:2010/02/22(月) 19:23:00 ID:kbLelN1A
 場所は変わり此処はドラゴンオーブの攻撃により消失した地域から程近い北の山岳地帯、深々と雪が降り積もり山々が雪化粧をしているこの地域に異変が起きる。
 それは灰色の雲を穿つ赤い光が突然現れ山に衝突、山は一瞬にして吹き飛ばし変わりに大きなクレーターが姿を現したのだ。
 
 するとその上空に移送したレザードが現れ右手をクレーターに向け右手にに魔力がたぎると
 クレーターを中心に囲うようにして炎が包み込み、近くの山の雪を溶かしていくと最後にレザードは指を鳴らした。
 
 「イフリートキャレス!!」
 
 次の瞬間、囲んだ炎が大爆発を起こし高熱を帯びた爆風は、山岳地帯に積もる雪を瞬時に溶かし尽くし山々は岩肌が剥き出しな状態と化した。
 その発端であるクレーター中心は炎と熱により一部がまるで溶岩のように真っ赤に染まっており、その光景にレザードが不敵な笑みを浮かべていると
 一筋の桜色の光がレザードの腹部に突き刺さり、それがなのはの魔力刃であると認識した瞬間に一気に急降下、岩肌が剥き出しの山に激突しその存在を吹き飛ばした。
 
 「貴様!あの攻撃に耐え抜いたのか!!」
 「お生憎様、ユニゾンしたお陰で丈夫なったの!!」
 
 なのはに突き刺さったかに思われたグングニルであったが、外側に小さなシールド、内側…というより内臓にフィールドを張った為、貫かれる事は無かった、
 そしてレザードの攻撃に耐え抜き油断したところをA.C.Sドライバーにて攻撃現在に至ったのだ。
 しかしなのはの攻撃はまだ終わってはおらず追って突撃し、次々に山々に大穴を空けていき後に山々は音を立てて崩れていった。
 
 なのはの突撃の勢いは西地区にまで及び消失したエルセア地方まで辿り着くと、レザードはグングニルを形成しなのは目掛けて薙払って吹き飛ばして難を逃れる。
 だがなのははある程度吹き飛ばされる程度で止まり、足下に環状の魔法陣を張りレイジングハートの先端部分に存在する魔力刃をレザードに向けカートリッジを三発使用する。
 一方でレザードもまた足下に魔法陣を張り右手をなのはに向けると稲妻が走り、それが後に巨大な竜骨と化した。
 
 「エクセリオン!バァスタァァァ!!」
 「ブルーディッシュ!ボルトォォ!!」
 
 放たれた二つの魔法は激突して相殺、それによって生み出された衝撃波は残されていた建物を吹き飛ばし海岸線に至っては大波を作り出していた。
 そんな衝撃が走る中でレザードは、移送方陣を用いてなのはの後方上空をとると、左手には巨大な稲光が走る黒いスフィアが存在していた。
 
 「押し潰れろ!グラビティブレス!!!」
 
 振り下ろされたグラビティブレスはなのはを容易に飲み込みエルセア地方から南東へと移動、ポツポツと家が並ぶこののどかな風景が広がる地区へと衝突する。
 ところがグラビティブレスに異変が起き亀裂が走ると、桜色の直射砲がグラビティブレスを打ち砕いた。
 
 一方で後を追っていたレザードは先程起きた光景を目の当たりにして歯噛みしていると
 A.C.Sドライバーの加速を用いて上空に移動したなのはがレイジングハートをレザードに向け足下に円状の魔法陣を張り巡らせ、
 先端には桜色の魔力が収束し巨大な魔力の球体を作り出すと大きく振りかぶった。
 
 「スターライトブレイカァァ!!」
 
 撃ち出されたスターライトブレイカーはレザードが瞬時に張ったシールドに直撃、その瞬間スターライトブレイカーは膨れ上がるようにして広がり周囲を飲み込んでいった。
 このスターライトブレイカーはかつて闇の書であった頃のリインが使った広域攻撃型の魔法である。
 
 そして魔力光が落ち着いていくと、のどかな風景が一転荒れ果てた大地へとその姿を変え、なのははその風景を眺めつつも依然としてレザードの姿を探っていた。
 あの程度で倒せる存在ではない、あの程度で倒せるのであればこれほど苦労は無い…
 すると後方で瓦礫が崩れるのを耳にして、すぐさま振り向き螺旋を描く八発のアクセルシューターを撃ち抜くが其処にレザードの姿はなかった。
 
 だが次の瞬間、なのはを中心に青白く輝く五本の光の柱が突如現れ更に五亡星の魔法陣を描き
 なのははオーバルプロテクションを張り攻撃に備えると光の柱が消え去り、それと同時に衝撃が走って周囲を照らしていく、
 そして光が消え去ると中心にいたハズのなのはの姿が無かった。
 
 
 場所は変わり此処はミッドチルダ南方のアルトセイム地方から遠く離れた海域上空、此処に突如として光が溢れ
 其処から先程まで南東地区で戦っていたなのはが姿を現す、なのははアストラルメイズと呼ばれる転送魔法で跳ばされたのだ。

592レザポ ◆94CKshfbLA:2010/02/22(月) 19:24:10 ID:kbLelN1A
 辺り一面は海である、だがこんな所に用がないなのははすぐさま移動しようとしたところ上空に気配を感じ見上げると、
 其処には右手を向けて詠唱を終わらせたレザードがおり、彼の頭上には巨大な槍の矛先がなのはに向けられていた。
 
 「この距離では逃れられん!ファイナルチェリオ!!」
 
 なのははとっさにバリアを張ろうとしたが間に合わず、ファイナルチェリオは空しくなのはに突き刺さりそのまま吸い込まれるように海へと沈んだ、
 だがレザードの攻撃は終わっていなかった、激しく水柱を立てた直後レザードはアブソリュートゼロを発動、瞬間的に凍り付かせ海には即席の氷の島が生み出されていた。
 
 「幾ら神と融合したといってもこの距離で―――」
 
 しかし氷の島は揺れ始め振動が徐々に大きくなり島の周辺は波立ち、氷に亀裂が走るとレザードに向かって桜色の直射砲が伸び
 一歩下がってギリギリでレザードは躱すと直射砲は雲を貫き夜空を覗かせ、砕け散った氷の島は粉雪のように舞い散り
 直射砲が放たれた場所には右の口端から血を流したなのはがレイジングハートを向け不敵な笑みを浮かべながら睨み付けている姿があった。
 
 「おのれぇ!図に乗るなぁ!!」
 
 レザードは海水を引き上げ更に凍り付かせて巨大な氷の塊を三つ作り出しなのはに向けて投げつけ、レザードのデルタストライクがなのはに迫る中
 なのははアクセルフィンにて加速、氷の塊の一つに自ら近づくとグリップを深く握り先端の魔力刃を振り下ろし氷を真っ二つに切り裂く。
 
 続いて左に迫ってくる氷の塊に対しそのままレイジングハートを向けディバインバスターを放って撃ち砕くと、
 休む暇なく右に迫ってくる氷の塊に対して今度は、環状の魔法陣を二つ右腕に纏わせ拳の先には加速された魔力球が存在しており
 
 力強く氷の塊に拳をめり込ませた瞬間、魔力球を解放させる事により発生した、巨大な直射砲で内部から氷の塊を打ち砕いた。
 スバルが考案したゼロ距離ディバインバスターとインパクトキャノンを応用したなのは式ゼロ距離ディバインバスターである。
 
 一方でその光景を目の当たりにしたレザードは歯噛みし更に氷の塊を増やし、その数は12を数え次々に投げつけていく。
 だがなのはも負けてはおらず、A.C.Sドライバーを起動させて最初に迫ってくる氷の塊を打ち貫き、続いて右から迫ってくる氷の塊を
 未だに張られている右腕の魔法陣で魔力球を作り出し魔力球が触れた瞬間に先程と同様に打ち砕く。
 
 ところが三発目の氷の塊が既に迫って来ており、なのははカートリッジを一発使用するとその場で右回転、
 それと同時に右のハイヒール部分に魔力を込め、かかとに魔力刃を宿すとそのまま回し蹴りによって氷の塊を蹴り砕いた。
 
 だが左右から氷の塊が迫って来ており、なのはは一つ舌打ちを鳴らすと今度は逆に左回転、
 左手に持つレイジングハートの魔力刃にて薙払い斬り砕くと、更に目の前に氷の塊が押し迫る。
 
 しかしなのははA.C.Sドライバーを起動させて瞬時に上空へと回避し難を逃れると、すぐさまレイジングハートを向けストレイトバスターを発射、
 氷の塊に直撃すると反応炸裂効果により周囲の氷の塊を巻き込み結果五つの氷の塊を撃ち砕いた。
 
 残りの氷の塊は二つ、するとその二つが押し迫って来ており、二つの氷の塊に対して更に上昇して回避するが、氷の塊は依然として追ってきており、
 なのはは舌打ちを鳴らして縦横無尽に飛び回っているとレザードと氷の塊が延長上に繋がる箇所を発見、すぐさま誘導を仕掛けレザードを見上げる位置で立ち止まると、
 案の定氷の塊が一列に襲い掛かりA.C.Sドライバーを起動、更にカートリッジを三発使用して魔力刃が桜色から真っ赤に染まった瞬間に加速、
 赤い弾丸が氷の塊を次々に貫きレザードに直撃すると、今度はレイジングハートをレザードごと海に向け更に残りのカートリッジ全てを使用した。
 
 「エクセリオン!バスタァァァァ!!」
 「ぬぅ!!」
 
 撃ち放たれたエクセリオンバスターはレザードごと海に直撃、海水を押し遣り海底にまで直撃させると
 今度は竿を引き上げるようにしてレイジングハートをゆっくり持ち上げ、未だ発射されているエクセリオンバスターにより海を二つに割りつつレザードを押し遣った。

593レザポ ◆94CKshfbLA:2010/02/22(月) 19:26:12 ID:kbLelN1A
 なのはが撃ち放ったエクセリオンバスターはクラナガン中央区画まで及び、海から一直線上に削られた跡が残されていた。
 その先端には仰向けの状態で倒れているレザードの姿があり、レザードはゆっくりと起き上がり汚れた衣服を軽く払うとふわりと体を浮かせ
 周囲に建ち並ぶビルより更に上空まで上昇すると右手を地上に向け詠唱を始めた。
 
 「其は汝が為の道標なり…我は頌歌を以て汝を供宴の贄と捧げよう!!」
 
 するとレザードの前方からビルを押し遣って巨大な火山が生まれると、其処から熱く燃えたぎる溶岩が噴き出しビル街を次々に飲み込んでいった。
 一方でなのははカートリッジを交換した後レザードの様子を知る為、エクセリオンバスターを撃ち抜いた跡を道標に進んでいた。
 すると目先にビルを押し遣って巨大な山が姿を現し、其処から帯び立たしい程の溶岩が流れて来ているのを確認する。
 
 「なっ?!何なのあれ!!」
 
 流石のなのはもこれには驚き戸惑いの様子を見せていると、流れ出た溶岩が次々に街並みを飲み込んでいき、更になのはの下へと押し迫っていた。
 しかもこの溶岩はまるで自分の意志でも持っているかのような動きをしており、上昇すれば津波のようにしてなのはの行く手を塞ぐのである。
 
 「やっぱり、これってレザードが!!」
 「その通り!このカルネージアンセムに飲み込まれるがいい!!」
 
 周囲にレザードの声と笑い声だけが響く中、逃げ場を失ったなのはの前にカルレージアンセムが襲い掛かり飲み込んでいった。
 暫くして…辺りは流れ出した溶岩が冷え始め固まりつつある中、レザードは不敵な笑みを浮かべながら見下ろしていた。
 
 そんな中である、冷え切った溶岩に亀裂が走り其処からオーバルプロテクションを張り巡らせたなのはが浮かび上がってくる、
 どうやら飲み込まれる瞬間にバリアを張り出来るだけダメージを抑えたようである。
 
 だがそれでも相当なダメージは受けているようで表情を曇らせるが、悟られないよう直ぐに隠し何でもなかった表情に変え上空すると
 今度は此方の番といった様子でカートリッジを三発使用、なのはの周囲に現存するビルが次々に桜色の魔力に覆われていき
 
 まるで引き抜かれていくように浮かび上がると、なのはの周囲に張られている巨大な環状の魔法陣の上を周回し始める。
 その数は15を数え先程レザードが用意した氷の塊の数を更に超える量を用意し、十二分に加速して発射準備を終えたビル群は、なのはの合図を待ち望んでいた。
 
 「いくよぉ!スタァァダスト!フォォォル!!」
 
 最早星屑とは呼べない代物と化したスターダストフォール、先ずは二つ放たれレザードに迫ると、マイトレインフォースを纏わせたグングニルを右手に持ち
 一気に下から上へ切り上げビルを真っ二つ、続けて左手を向けて直射型のライトニングボルトにて分解した。
 すると今度はビルが三つ襲いかかってきており、レザードはグングニルを振り払い衝撃波にて迎撃、すぐさま急降下して姿を隠そうとした。
 
 「逃さない!!」
 
 だがなのははレザードに向けてビルを二つ飛ばし行く手をふさぐと、今度は五つレザードに向けてビルを放つ。
 一方で行く手をふさがれたレザードは、足下に巨大な魔法陣を張り魔力を込めていた。
 そしてビルがレザードに迫り直撃しようとした瞬間、魔法陣から巨大な骨の両手が現れ次々にビルを払い、砕くと魔法陣から巨大な骸骨が姿を現したのだ。
 
 なのははその姿に脅威を感じ残りのビルも次々に投げ飛ばすが、巨大な骸骨ペトロディスラプションはいとも簡単に防ぎきり
 むしろなのは目掛けて襲い掛かり、まるで虫でも払い落とすかのようにして右手を振り下ろし、なのはは弾丸のように地上へと叩きつけられた。
 
 なのはが叩きつけられた場所は大きなクレーターと化し、なのははうつ伏せの状態から起きあがろうとしていたところ
 目の前にあの骸骨が姿を現し、その巨大な両拳が餅でもつくかのよう何度も振り下ろされていく。
 しかしなのはは大型のラウンドシールドを張って攻撃を防いでいたが、攻撃の嵐は一向に収まらず、クレーターは更に大きくなり周囲の建物はその振動により崩れていった。
 
 その時である、骸骨の動きが止まり大きく口を開けると灰色の煙を吐き出し、周囲を包み込んでいく
 煙には魔力による衝撃波が混じり合っており、触れたもの包まれたものを破壊する作用を持っていた。
 
 その為なのはのシールドは限界を超え無惨にも砕け散り、その身に何度も衝撃が走り膝を付いて苦しんでいると
 なのはの脳に一つの詠唱が浮かび上がり、痛みに耐えながらゆっくりと確実に立ち上がるや躊躇する事なくその詠唱を口にした。

594レザポ ◆94CKshfbLA:2010/02/22(月) 19:27:18 ID:kbLelN1A
 「十戒の鼓動…喜死の召雷、幻妖の棲烈が齎せしは御滅による安息と知るがよい!!」
 
 すると骸骨の頭上に光の魔法陣が現れ、其処から幾重にも光が降り注いで骸骨の身を貫いていき、それが終えたと同時になのはは右手を向けた。
 
 「ファントム!デストラクション!!」
 
 次の瞬間、骸骨は魔法陣に飲み込まれ暫くすると大爆発、周囲を眩しい光で包み込み、暫くして落ち着くと其処に骸骨の姿はなかった。
 ファントムデストラクション、本来ではミリオンテラーを用いて放たれる光の広域攻撃魔法なのであるが、
 なのはは神とユニゾンしている為に特別に使用する事が出来たのである、だが当然魔力の消費も激しい為、おいそれと扱える代物ではないが…
 
 それはさて置き、なのはのファントムデストラクションを目の当たりにしたレザードは威力もさることながら
 その広域攻撃魔法の正体を瞬時に理解した事により、苛立ちとも言える表情を浮かび上がらせていた。
 
 「貴様のような小娘が…神の魔法を扱うとはな!!」
 
 不届き…一言で表すのであればこれ以上の言葉が見つからない、それ程までになのははレザードの怒りを買っていた。
 一方でなのはは自分の体の調子を調べ、まだイケると判断し構え始めレザードと対峙するのであった。
 
 
 
 「なっ……何なんだ…この戦いは………」
 
 一方此方はミッドチルダ宙域で待機しているクラウディアと、全地域からの情報が集うアースラを利用して戦況をモニタリングしているクロノ達の姿があった。
 だがなのはとレザードの戦いは一同を驚愕させるどころか、フィクションなのではないのかと錯覚してしまうほどであった、それ程までに二人の戦いは常軌を逸していたのだ。
 この時フェイトはゆりかごでなのはが言った言葉を思い出していた、…確かにこれ程の戦いに自分達が参加しても、ただ足手まといになるだけであると。
 
 一方ではやては二人の戦いにおけるミッドチルダへの影響を懸念していた、二人の攻撃はあのドラゴンオーブの砲撃と大差無いと感じていたからである。
 だが…だからといって二人を止める手立ては無く、更にレザードに対抗出来ているのは今のなのはしかいない…そう実感している時である、クロノの下にクラウディアからの連絡が届く。
 
 その内容とは本局からの入電で、現在ミッドチルダ宙域に大規模な次元振の予兆を感知、
 早急に手を打たなければミッドチルダは次元断層に飲まれ消滅すると言うものであった。
 
 この次元災害は恐らくなのはとレザードの戦いによって引き起こされたものと考えられる、
 だがこの場にいる全員で、もしくは全戦力にて二人の戦いを止めようとしても不可能、まさに無駄の一言である。
 このまま滅びをただ待っている事しか出来ないのか…一同は奈落に突き落とされたかのような表情を浮かべている中、クロノが一石を投じる一言を呟く。
 
 「…手が無い訳じゃないんだ」
 
 場の沈黙を破るこの一言にクロノは説明を始める、十年前ジュエルシード事件のおり中規模の次元振が起きたことがあった、
 その時提督であったクロノの母リンディは次元振の進行を抑えつけていた事があり、今回はそれを全員で行う事により進行を抑えつけるというものであった。
 
 「しかもこの場には指折りの魔導師に騎士が複数いる、試してみる価値は十分にあるハズだ!!」
 
 それに今ここで動かなければどのみち二人の戦いにより確実に滅ぶ、ならば少しでも次元振の進行を抑え、なのはがレザードを倒す事に賭けた方が無難であると。
 するとこの場にいる更に通信を聞いている全員がクロノの案に賛同し早速クロノの指示の下、
 
 機動六課メンバー、クラウディアチームを中心に魔導師達や騎士団達が一斉に移動または転送していき、
 ミッドチルダ全域に広がるとアースラ及びクラウディアから齎された情報を基に魔法陣を張って一気に魔力を解放、次元振の進行を抑え始めたのであった。
 
 
 管理局または教会騎士団が必死に次元振の進行をくい止めている頃、なのははレザードに対して肉弾戦を仕掛けていた。
 なのはの持つレイジングハートは常にA.C.Sドライバーを起動させている状態に近く、先端の魔力刃も相応な威力を誇っているからである。
 それにあの手の存在は肉弾戦を苦手としているハズ、かつての自分もそうであった為の決断であった。
 
 だがレザードも負けてはいない、グングニルという強力な槍に周囲を飛び交う本のページも相当な威力があるからである。
 それに神の力を得た為、肉弾戦においても十分な実力を発揮する事が出来るようになっていた。

595レザポ ◆94CKshfbLA:2010/02/22(月) 19:30:37 ID:kbLelN1A
 そんな戦力の中でなのはは再度接近して魔力刃を左上に突き上げるように攻撃、レザードの左頬を掠めるが、がら空きとなった腹部にレザードが右手に持つグングニルの突きが襲い掛かる。
 
 しかしなのははすぐさま半歩下がりながらレイジングハートを下ろし柄を使ってグングニルを防ぎ、更に前転して左のハイヒールによるかかと落としでレザードを蹴り
 かかとの鋭利な部分がレザードの右鎖骨に突き刺さるが、レザードは攻撃に耐えながら左手で抜き取りなのはごと押し飛ばすと、本のページを飛ばしてなのはに斬り掛かる。
 
 一方なのはは空中で体勢を立て直しレザードに目を向けた瞬間ページが次々に襲い掛かり、一枚一枚がなのはの身を切り裂き頬に血が垂れるが動じる事無くレザードに押し迫り
 そのまま魔力刃で心臓を貫こうとしたところ、レザードはグングニルにマイトレインフォースを纏わせて魔力刃を防ぎ
 更に右に薙払いなのはを吹き飛ばそうとしたが、前宙の形で防がれ頭上からなのはの魔力刃が振り下ろされるかに見えた。
 
 だが既になのはの行動を予測していたレザードは柄を逆手に持ち替え切り上げて魔力刃を受け止めた。
 なのはは歯噛みしながら一端距離を置き更に攻撃を仕掛け、接近するや否や何度も突き刺そうとしたが、
 
 レザードは滑るようにして後方へ躱しつつ躱せぬ攻撃をグングニルで防ぎ、更にレイジングハートを引いた瞬間に合わせて振り上げなのはの胸元を深く傷つけた。
 血が溢れ出し痛みも相当なものであるハズなのになのは臆する事なく、先程傷付けた右肩を狙って魔力刃を突き刺し更にディバインバスターを発射させてレザードを吹き飛ばすが、
 レザードも負けず吹き飛ばされ痛みに耐えつつもクロスエアレイドを放ち、なのはの両肩や腿を撃ち貫いた。
 
 最早二人の攻撃には非殺傷設定などされておらず殺られる前に殺る…そんな骨肉の争いを続けていた。
 そして瓦礫を背にして身を隠したなのはは深く傷つけられた胸元や肩腿などにフィジカルヒールを施し治療をしていた。
 だがキャロやシャマル程の回復力は無い為、応急処置程度過ぎないのだが放っておくよりはマシである。
 
 そんな治療をしている中で今までの戦いを振り返るなのは、此方の攻撃はレザードに通じているハズ…神とユニゾンした事によりアストラライズが可能となった。
 だがレザードのポーカーフェイスは此方の精神力を著しく削る、何故なら今までのように効果が無いという不安感を掻き乱すからだ。
 
 「そんな事は無い…絶対に通じているハズだ……」
 
 それに余り時間も残されてはいない、ユニゾンには一定の時間が決められている、しかも今は神との強制的なユニゾン、
 体に対する負担も半端ではない、だからこそ早急にレザードを倒さねばならない。
 …迷っている時間はない、そう心の中でなのはは覚悟を決めると立ち上がりレザードを姿を確認すると対峙し始めるのであった。
 
 
 一方でレザードはなのはの実力に舌を巻いていた、今まで二回ほど対峙してきたが、その中でもダントツの実力を誇っていた。
 それは神とユニゾンしているから…最初はそう考えていた、しかし幾度か交えてなのはの気迫が尋常ではない事に気がつく。
 恐らくは此処で全ての終止符を打つ覚悟で戦いに望んでいる、だがそれは此方にも言えた…
 
 「巡りに巡る因縁…此処で決着を付けよう……」
 
 アグスタ…いや本人は知るハズがないであろう八年前の撃墜事件からの因縁にケリを付ける、その為にレザード自らが封印していた魔法…それを用いる覚悟を決め
 レザードは飛び出し宙に浮くとなのはが瓦礫から姿を現しその姿を見据えながら対峙した。
 
 「頃合いでしょう…」
 「そうね…」
 
 お互い覚悟を決めた表情を浮かべ対峙していると、先になのはが動き出しレザードの懐に入るや否や右のインパクトキャノンをレザードの頭部目掛けて撃ち抜いた。
 だがレザードはその場から動かずなのはの攻撃に耐えていると続けてアクセルシューター更にショートバスターを撃ち放つ、
 
 しかし尚もレザードは攻撃を耐え続けており、不安感を抱く表情を浮かべるなのはであったが、
 逆にチャンスではないかと発想を変えてレザードの胸元目掛けてディバインバスターを撃ち抜く、すると―――
 
 「カオティックルーン!!」
 
 レザードはなのはのディバインバスターに耐えながら左手をなのはに向け足下に魔法陣を張ると、
 魔法陣は一気に広がりを見せてクラナガン全地域は、環状の魔法陣が帯のように幾重にも張られているドーム状の結界に包まれた。
 カオティックルーン、レザードが自らの意志で使用する事を禁じた魔法の一つで、この結界にいるだけで身体能力を20%減少させる結界魔法である。

596レザポ ◆94CKshfbLA:2010/02/22(月) 19:32:49 ID:kbLelN1A
 
 その効果によりなのはの身体能力は低下、何かが全身にのし掛かっているのような…まるでかつて施されていた能力リミッターと同じ感覚を覚えていると、
 目の前にいるレザードがグングニルを振り下ろしなのはは地面へと叩きつけられるが、そしてゆっくりと立ち上がりレザードを睨み付ける。
 
 「この程度で…私を倒せるとでも―――」
 「まだ、この程度で終わるものか!スペルレインフォース!!」
 
 次の瞬間レザードの足下に黄色の魔法陣が現れ、レザードを黄色く照らし始めると、レザードの体から溢れる白金の魔力が更に輝き出し周囲を照らし始める。
 スペルレインフォース、レザードが自らの意志で封じた魔法の一つで、魔法陣内に存在する者の魔力を1.5倍に高める切り札であり、
 レザードにとっての希望の一手、この世界にとっては絶望の一手とも言える支援魔法である。
 
 だがレザードの魔力強化はそれだけでは終わらなかった、今度はレザードに向かってまるで流星のように魔力が集まり強化していく、
 その光景になのはは目を丸くする、何故ならばそれはなのはが良く知っている方法で魔力を集めているからだ。
 
 「まさか…私の収束技術を!!」
 「フフフッ貴様にとってこれほどの屈辱はないだろう!!」
 
 地上本部での戦いの折になのはが見せた収束技術を用いて魔力を高め、更にそれによってミッドチルダを崩壊させる。
 この収束技術こそ、この世界で収穫した技術の中で最高の利であり、またなのはの技術を使わざるを得ないと言う最悪の害でもあった。
 それ程までプライドの高いレザードが使わざるを得ない相手、なのはは其処まで強くなりまた、驚異と感じていたのだ。
 
 「だが…それももう終わる!」
 
 するとレザードは右手を天にかざし魔力が右手を介して天を貫くと、詠唱を始める。
 
 「我招く無音の衝裂に慈悲は無く!」
 
 辺りはレザードが放つ光に包まれなのはは右手で光を抑えながらもレザードを睨みつけていた。
 そしてレザードから放たれた光は次元海にまで及び、続いて光を中心に移送の魔法陣が7つ張られ光が伸びていた。
 
 「汝に普く厄を逃れる術も無し!!」
 
 すると魔法陣から直径数百メートルの隕石を呼び出す、スペルレインフォースに収束技術を用いた魔力強化により本来の大きさの隕石より巨大な隕石を召喚する事が出来たのだ。
 そんな巨大な隕石の一つが引き寄せられるようにしてミッドチルダに落下、なのはの下へ迫っていた。
 
 「この世界ごと消滅するがいい!メテオスウォーム!!!」
 
 曇天の空を打ち破るように巨大な隕石は真っ赤に燃えながら迫っていた。
 その光景を目の当たりにしたなのははカートリッジを全て消費、自身にオーバルプロテクションを張り、
 続いて目の前に自身最大の直径数十メートルあるラウンドシールドを張り攻撃に備えた。
 
 そしてシールドと隕石が接触した瞬間に爆発、激しい爆音と共に衝撃波が走り、なのはの周囲を吹き飛ばし高速道も薙ぎ倒した。
 だがそれだけには止まらす衝撃波は尚も広がりを見せて海岸線に到着、大波を生み出し海は更にうねりをあげ始めた。
 
 そうこうしている内に二発目が直撃、先程と同じ規模の衝撃波が走り更には大きなクレーターが形成、
 続いて三発目が直撃するとクレーターに巨大な亀裂が走り、その亀裂は地割れとなって周囲の倒壊した建物などを飲み込んでいき、
 四発目には地割れは更に悪化、しかも海では津波が発生し海岸線は壊滅的な被害を被っていた。
 
 
 場所は変わり此処は首都クラナガンから南方に位置する海上上空、周囲には次元振の進行を止める為に局員が必死に行動しており、
 その中心ではクロノがモニターを通し二人の戦いを観察しつつ同じく次元振の進行を必死に阻止していた。
 
 現在ミッドチルダ全域には管理局魔導師及び教会騎士団が陣を張って次元振の進行を抑えており、
 二人の戦いに局員達を巻き込まれないよう注意・指示を送っていたのだが、その考えは既に終わりを告げていた。

597レザポ ◆94CKshfbLA:2010/02/22(月) 19:34:01 ID:kbLelN1A
 レザードの放つメテオスウォームの威力はクロノの予想を遙かに超えた威力で、最初の一発目でクラナガン付近で陣を張っていた局員達は全滅、
 そして二発三発と続き四発目の際に生じた津波においては、クロノとその周囲は難を逃れたのだが、他の局員は波に飲まれて姿を消し去ったのだ。
 
 「悪夢だ……」
 
 夢なら覚めて欲しい…そう心底思いながらモニターに目を通すクロノ、このまま局員達の数が減り続けば次元振が起きる可能性が高い、
 いや…事態はもっと深刻である、レザードのメテオスウォームによる影響によりミッドチルダの地軸が歪み始め先程まで微弱だった揺れが大きくなってきているのだ。
 
 その直後である、五発目の隕石が直撃し地軸の振動に更なる激しさが加わり、レザードが岩肌を顕わにした山岳地帯が音を立てて崩れ落ち、
 近くで作業を行っていた騎士団の連中が山崩れに巻き込まれその光景をメルティーナやルーテシアが目の当たりにして思わず目を背けた。
 
 そして六発目が直撃すると、西地区上空では衝撃波に巻き込まれバラバラになった魔導師が雨のように降り落ち、その雨の中で必死に進行を押さえつけようとしているエリオとキャロ達、
 地上東地区ではスバルの目の前で建物が倒壊、近くにいた騎士団を押し潰しスバルは作業を中断して助け出そうとしたが、
 今回の作戦の要である事を自覚させるようにティアナが説得、苦しみ後ろ髪を引っ張られているかのような表情を見せながらも作業を続ける姿があった。
 
 
 一方北地区ベルカ領で作業しているはやては空を見上げていた、上空には黒い雲、海は荒れ狂い、山は崩れ、森は激しく音を立てて燃え続け、町並みは潰れていった…
 局員達も疲弊している、それは機動六課の面々も例外ではない、だがレザードのメテオスウォームは
 まるで世界を繋ぎ止めようとしている軛を外そうとしているように思えた、それ故か小さくぽつりと言葉を口にする。
 
 「終焉ってこんな光景を指すんやろうな……」
 
 誰もが絶望するであろうこの状況、しかし局員達の目にはまだ敗北の色を宿してはいなかった、
 何故ならば彼等の前にあるモニターには、攻撃を耐え続けているなのはの姿が映し出されていたからだ。
 
 今も尚なのはは戦い続けている、決して諦めず不屈の意志、心で…
 それが彼等の支えとなりまた、支えようとする意志となっているのだ、だからこそ諦めない!
 
 はやては弱気になりそうになった自分を恥じるように、頬を強く叩くと気合いを入れ直して作業を続けるのであった。
 
 
 一方終焉を演出している発端では六発目の隕石に耐え抜いているなのはの姿があった、
 …しかし張られているシールド・バリアには亀裂が走りなのはも立っているのがやっとと言った様子を見せていた。
 だがメテオスウォームは七つの隕石で攻撃する広域攻撃魔法、後一つ耐え抜ければ此方に勝機が見えるとなのはは判断していた。
 一方レザードはなのはの様子を確認後、右手を高々とかざし見下ろすような目線でなのはに語りかけていた。
 
 「貴様の仲間が必死になって次元振を抑えているようです、健気だと思いませんかぁ?!」
 
 だがそれも無意味になる…レザードの意味深な言葉を合図に頭上に存在する雲から直径数キロの、今まで類を見ない程の巨大な隕石が姿を現し息を呑むなのは。
 レザードはこの世界ごとなのはを消し去ろうとしている、結界これ程の大きさの隕石でなければ不可能であると判断した為だ。
 
 「貴様ごときになぁ!我を倒す事などなぁ!!不可能なのだよ!!!」
 
 そう言ってかざした手を振り下ろし、隕石は加速を続けながらなのはと接触、今までとは比べ物にならない程の大爆発を起こし
 生まれた衝撃波が土煙と混ざり合って走り海を越えると大津波を作り出しまた
 衝撃波自体も山や森を吹き飛ばしながらミッドチルダ全土に響き渡った。
 
 その為、作業を行っていた騎士団及び局員達は為す術なく衝撃波、もしくはそれによって引き起こされた災厄に飲み込まれ、
 この未曾有の災害の発端となった地クラナガンは、建物の残骸は砂地と化し草木すら生えそうもない更地と言う名のクレーターとなって消滅したのであった。
 
 「フフフ…フハハハハハハハハハ!!!」
 
 この地で響き渡るのはレザードの笑い声のみ、既に勝利は確信しており、そろそろこの世界も終わりを告げるであろうと考えていると
 辺りに響いていた振動が小さくなっていることに気がつく、だが世界崩壊への予兆だろうと考えていると体に不調を感じた。

598レザポ ◆94CKshfbLA:2010/02/22(月) 19:37:32 ID:kbLelN1A
 
 「くっ!やはり…やりすぎましたか……」
 
 いくらレザードが神の肉体と魔力を持っているとは言え先程のメテオスウォームは十分にレザードの体力を削るものであった。
 だが憂いであったなのはを消し去る事が出来た以上、問題はないだろうそう判断した時―――
 
 《Restrict.Lock》
 
 突然の電子音が耳に入るや否や体中を桜のバインドで縛られ、それを行った正体がブラスタービットであると分かった瞬間
 更地の一部が盛り上がり其処から右の袖が半袖左に至っては肩から失った上着に、
 スカートも左の部分膝まで失い更に腰までスレットのように破れたバリアジャケットを羽織るなのはの姿があった。
 
 「ありがとうレイジングハート」
 《No.problem》
 「貴様…あれに耐え抜いたと言うのか!!」
 
 流石のレザードは驚愕の表情を隠せないでいると、なのはは一歩前に出てレザードを睨みつける。
 …自分一人では耐えきれなかったかもしれない、だがあの時自分を応援してくれる仲間の声が聞こえた、
 それを聞いたから自分の心は折れる事もなく、また守られ支えられた為にレザードの攻撃にも耐え切れたのだと、凛とした表情で答えた。
 
 「バカなっ!そんな事が!!」
 「あなたには分からないでしょう」
 
 人を蔑み他人を見下し他者を踏み台にし自分しか賞賛しない…そんな性格の“人間”では一生理解する事は出来ないであろう。
 当然レザードはなのはの言葉に耳を貸さなかった、他人の思いが自分を強くするなどありえるハズがないのだと自負しているからだ。
 
 「たとえ貴様がそうであっていたとしても、この崩壊した世界では無意味だ!見ろ!!」
 
 人と呼ばれた存在はいなくなり、文明も消滅したと言っても過言ではない程に崩壊している、
 恐らくこの世界で存在しているのは自分と貴様のみ…そんな世界の中で貴様の戯言が通じるハズがない、
 レザードはバインドに縛られたままであってもなのはを挑発していた。
 
 「…私はみんなが生きているのを信じる!」
 「現実を見よ!この荒廃した世界を!貴様の役目は終わったのだよ!!」
 《―――まだ終わっていない!!》
 
 突然の通信に驚くなのは、それがユーノであった事に気が付くとユーノの言葉の真意を確かめる、
 なのはが必死に攻撃を耐え続けている頃、ユーノはクラウディアに赴きあるプログラムを配信したという。
 
 それは無限書庫に存在する石のエネルギーをクラウディアの魔導炉で増大させてから使って攻撃を防ぐというものである、
 だがこの作戦は石自体を犠牲にしなければならない、当然その中に含まれる情報も失われる事も指す。
 
 しかし司書長であるユーノは人命救助を優先にして石を提示、起動させて見事みんなを守ったのだという。
 するとなのはの下に次々に連絡が入る、フェイトを筆頭にはやて・スバルやティアナ、ヴィータ、シグナム、シャマルに
 ザフィーラを真ん中に置き右にエリオに左にキャロと機動六課メンバーが次々に連絡を送り最後にはクロノの姿もあった。
 
 「なのは、後は頼んだ!」
 「任せて!!」
 
 みんなからの連絡を受けて元気を取り戻したなのはは、そのままレザードを見上げレイジングハートを向ける。
 
 「今度は…こっちの番!!」
 
 そして一歩前へ踏み出すと足下に巨大な三角形が三つ均等に並ぶ桜色の魔法陣を張り巡らせ更に目の前にも同じ魔法陣を張り巡らせる、
 続いて背中の六枚の翼が巨大化して更に足元のくるぶし辺りにある翼は地面に突き刺さっていた。

599レザポ ◆94CKshfbLA:2010/02/22(月) 19:39:48 ID:kbLelN1A
 すると目の前の魔法陣に桜色の魔力が集い始める、だがその光はなのはの周囲だけではなかった、
 北地区、南地区、東地区、西地区と次々に使用された魔力がなのはの下へ向かい、ドラゴンオーブが放たれた場所からも魔力が集い始めミッドチルダ全土の魔力が集った。
 その為に収束された魔力は魔法陣の面積を大きく越え更に環が出来ており、まるで土星を彷彿としいた。
 …そして完成された魔法を前になのははレイジングハートを大きく振りかぶる。
 
 「全力!全開!!スターライト……ブレイカアアアアァァァァ!!!」
 
 渾身の力を込めて放たれたスターライトブレイカーは容易くレザードを飲み込み巨大な直射砲となって天を貫き次元海に到達、更に上昇して二つの月の間を通り過ぎていった。
 そして地上では撃ち放たれたスターライトブレイカーの影響により雲が晴れ、夜空や二つの月が垣間見え、
 二つの月の間から桜色の光を確認、するとその延長上に黒い物体を発見し、黒い物体は静かに地上へと落ちていった。
 
 一方でなのはは勝利を確信した様子を浮かべるが、体に掛かる負担により、膝を付きレイジングハートを支え棒に肩で息をしていた。
 すると其処にグングニルを杖にして近付くレザードの姿があった、どうやらここまで歩いてきた様子である。
 そしてなのはを睨みつけるとグングニルを大きく振りかぶり、なのはに向かって突き刺す構えを見せた。
 
 「貴様のような小娘に…我が力が負けるハズがないのだ!!」
 
 そして振り下ろされたグングニルはなのはの腹部に迫り貫く…ハズであった。
 だがグングニルはなのはに触れる手前で崩壊した、流石のオリハルコンも威力に耐えきれなかったようである。
 この結果に歯噛みし苦虫を噛んだ表情を浮かべる中でなのは凛とした表情でレザードを睨みつけ一言告げた。
 
 「いくら貴方が世界を滅ぼす力を持っていても…私の心を折る事なんて出来ない!」
 「なんだと?!」
 「心は…魂から生み出されるもの…だから心を支配出来る存在なんて何処にもいないんだから!!」
 
 それはこの体になった事でハッキリ解ったことがあり、力で魂を支配する事が出来ないように
 力で心を屈服させる事など出来はしない、心は心で魂は魂とでしか触れ合うことが出来ないと…
 
 そんななのはの言葉を聞きレザードはある二つの影と重なる、それはかつて自分と対峙した王女、そして自分が愛した愛しき者レナスである。
 自分がこの世界に来る間際に放たれた言葉の意味、恐らくこれが答えなのだろう…
 だから他者が所有する事が出来ない、たとえ世界を滅ぼす力を持っていても、神の力とは万能では無いのだから…
 
 レザードは全てを悟った瞬間、体が青白く光り出しまた少しずつ光の粒子と化していた。
 それはレザードが全てを受け入れた意味であり、そして全てが終わりを告げる合図でもあった。
 
 「私の…負けです……」
 
 静かに…だがハッキリとした口調で敗北を宣言すると、レザードの体は加速度的に粒子化していき、その中で振り返るようにして目を瞑る、
 …悪くない人生であった、自分の本能に任せたまま、やりたい事を好きなだけ行った、だが…惜しくらむは初恋の存在を手中に収める事が出来なかった事ぐらいか…
 だがそれでもレザードの心は晴れた気分であった、恐らくそれは心から悟り死を受け入れたからであろう。
 
 レザードは自分の意志が微睡みの中に溶けていきながら広がっていく死の感覚を堪能していると、
 体は完全に光の粒子となり静かに音も無く崩れ去り消滅したのであった。
 
 
 
 レザードの死を見届けたなのはは、緊張が抜けたのかその場に座り込む、すると体が輝き出し光と共に二つの魂が解放される。
 その時である、なのはの周囲から転送用の魔法陣が現れ其処から次々に機動六課のメンバーが姿を現す、その中にはユーノの姿もあった。

600レザポ ◆94CKshfbLA:2010/02/22(月) 19:40:42 ID:kbLelN1A
 「ユーノ…」
 「なのは…お疲れ様」
 
 ユーノはなのはに近付き手を差し伸べるが、どうやら体が思うように動かないようで差し伸べられた手を触れるだけで止めるなのは。
 するとなのはの状態を察したユーノは膝を付き、なのはと同じ目線に座る中で二人は流浪の双神に目を向けた。
 
 「有り難う流浪の双神…」
 「我等は力を貸したに過ぎない、奴を倒したのはなのは、貴方の“不屈の心”よ」
 
 イセリアクイーンは優しい笑みを浮かべながら激励を送ると、続いてガブリエセレスタが言葉を交わす。
 今回の戦いによりミッドチルダの地軸はズレたまま、今は崩壊前の予兆として静かであるがすぐさま崩壊が始まるであろうと。
 其処で流浪の双神が力を使って地軸だけでも修復するという、流石にあれだけの戦いを行った為、かなりの力を消費してはいるが地軸を修復するぐらいであれば可能であると告げられた。
 
 「お願い出来ますか?」
 「あぁ、任せておけ」
 
 ユーノの言葉に力強く答えると早速流浪の双神は足下に魔法陣を張り右手で触れる、
 すると魔法陣から一筋の優しい光が延び地面と接触すると地上全体が光に包まれ、そして暫くすると
 光が落ち着き始め一同は辺りを見渡すと全土を覆っていた灰色の雲は晴れ、荒れていた海も落ち着きを取り戻していた。
 
 「では我等は行く、もう…会う事もないだろう」
 「…さようなら、我等を従わせた強き心の持ち主達よ……」
 
 流浪の双神は軽く別れの挨拶を交わすとそれぞれ赤と青の光の玉に変わり上空を上っていき暫くして音も無く消えていった。
 それを見上げながら本当に全てが終わったのだと実感し始めるなのは達であった。
 
 
 
 暫くしてユーノはなのはの左肩に手を回し、続いてフェイトが右肩に手を回して優しく立ち上げると
 東の空が徐々に明るくなり始め夜明けが近いことを告げていた。
 
 「なのは、夜明けだよ…」
 「うん、とっても綺麗だね…ユーノ」
 「これは…この風景はなのはが守った景色なんだよ?」
 「うん…ありがとうユーノ、そして―――」
 「…なのは?何か言った?」
 
 ユーノの問い掛けに小さく首を振るなのは、そして朝日を見つめ笑みを浮かべていた。
 一方でクロノは朝日を眺めながらこれからの事を考えていた。
 
 「…これからが大変だ」
 
 ミッドチルダの再興、管理局の立て直し、魔法に対する対策など問題は山積みであるとクロノは朝日を見つめながら話し、
 その言葉にはやては頷き他のメンバーも同じく頷いていた、そしてフェイトはなのはに目を向けながら言葉を口にした。
 
 「頑張ろうね、なのは―――」
 
 だが…なのははフェイトの言葉に一切反応せず、眠りについたかのように瞳を閉じていた…
 
 
 
 しかし…なのはの表情は安らぎに満ち溢れており、優しい笑みを浮かべたままであった………

601レザポ ◆94CKshfbLA:2010/02/22(月) 19:43:35 ID:kbLelN1A
 以上です、さらばレザード、変態よ永遠にってな回です。
 
 
 
 悪役は散ってこそ花、散らぬ悪は悪で非ず…ってのが持論なのでこうゆう形になりました。
 因みに好きな悪役はシャドームーンとテッカマンエビルです。
 理由としては強え怖えぇかっけぇぇ!ってな感じです。

 …本編とは全然関係ありませんが……
 
 
 次はいよいよ…と言うよりやっと最終回です。
 
 
 もう少しお付き合い頂けると有り難いです、それではまた。
 
 
 どなたか代理投下お願いします。

602魔法少女リリカル名無し:2010/02/24(水) 18:15:32 ID:1WqtCsUc
代理投下終了しました。途中、改行が多い、本文が長いのエラーが出ましたので、
勝手ながら、1レスごとの区切りとは変更しています。土壇場でやったので、
申し訳ありませんが、抜けがないかチェックをお願いします。不備がありましたらすいませんでした。

603レザポ ◆94CKshfbLA:2010/02/25(木) 07:47:26 ID:.RtmQ4SA
>>602
代理投下確認しました。
此方こそお手数をお掛けしました、ありがとうございます。

604レザポ ◆94CKshfbLA:2010/02/26(金) 17:59:42 ID:iAhtY5N6
今晩は、いつもの如く規制を食らっているので此方に投下しておきます。

605レザポ ◆94CKshfbLA:2010/02/26(金) 18:01:00 ID:iAhtY5N6
 …今回ミッドチルダに起きた未曽有の災厄、それは二人の天才の手によって齎された事件であった。
 
 …世界は崩壊し全てが次元振に飲み込まれて消え去る、人々は恐怖し絶望していた。
 
 …だが此処に世界を救わんと立ち向かう一人の女性がいた。
 
 ―――その女性の名は…高町なのは、管理局が誇るエースオブエースである―――
 
 
                リリカルプロファイル
                  最終話 後継
 
 
 今回の事件、後に人々は二人の首謀者の頭文字をとりJ・L事件、または神々の黄昏ラグナロク大戦と呼び、ミッドチルダの歴史に深く刻まれ未来永劫、忘れ去られる事の無い事件となった。
 また首謀者の一人と対峙し、文字通り命を懸けて戦ったなのはも、英雄として崇められその名を歴史に刻まれる事になった。
 
 
 …時はラグナロク大戦が終わって間もない頃、本局は避難した住民をミッドチルダに解放、また同時にミッドチルダの復興を宣言するが人々からはあまり賞賛される事は無かった。
 何故ならば大戦中の本局の対応が余りにも保守的であり、また住民への対策・対応も杜撰であった為だ。
 
 其処で本局は失った信用を取り戻す為、更には本局への憂いを払拭する為に今回の事件の功労者を表彰する事を決定、
 そして地上本部所属機動六課部隊長八神はやて二佐、本局所属クロノ・ハラオウン提督の両名を呼び出し
 はやては二階級特進の少将、クロノは今まで不在であった大将を与え大いに賞賛した、しかし二人の表情からは喜びの色を読みとる事は出来なかった。
 
 更に本局は今回の実績を踏まえ、はやてを本局に戻すという試みを行ってみたのだが、
 はやてはミッド復興並びに地上本部の立て直しを優先と考え受け入れを拒否、引き続き地上本部に残る事を選んだ。
 
 一方でクロノは新たに得た地位を利用してある法案を提出する、その名も魔導師及び魔法技術独占禁止法である。
 今回の事件で魔導師という存在を改めて考えさせられる事となり、また魔法技術の独占が世界を崩壊する引き金になるきっかけの一つと判断、
 魔導師と魔法技術更にロストロギアの集約を防ぐ一つの抑止力として、この法案が考え出されたのだ。
 
 その内容とはAAランク以上の魔導師に対して能力リミッターを義務つけ、更に能力リミッター前つまりは元々のランクを基準とした規定数以上魔導師の保有の禁止、
 またアルカンシェルや収束技術などの一部の魔法技術を禁止すると言うものであった。
 
 結果、この法案は受理され管理局並びに聖王教会はこの法により幾つかに分断、管理機構または準ずる会社などが設立する事になった。
 だが、そうなると管理局を含め魔導師や魔法技術などの管理状態を調査する組織が必要となり、クロノは魔導師や魔法技術並びにロストロギアに関する調査機関を設立、
 メンバーには聖王教会からアリューゼを管理局からはヴェロッサを抜擢し、二人を中心としてシグナム、シャッハ、ヴァイス、アルト、ルキノなどを組み込み更に民間からの人材も採用した。
 
 一方で今回の法案によって設立した機構や会社または調査機関なども含め、
 上層部の殆どが管理局並びに聖王教会で構成されている為に、一部マスコミメディアから天下り先との痛烈批判を受けるが、
 調査機関は後の功績や対応などにより批判を払拭、寧ろ周囲から高評価を受ける事となっていった。
 
 
 一方機動六課はミッドチルダ復興並びに新たな法案などによって解散、それぞれの別の道を歩む事となりスバルは本人の夢であった特別救助隊に配属、ミッドチルダ復興に一躍を担っていた。
 ティアナはフェイトの抜擢を受け執務官補佐として部下になり、自分の夢を叶える為に管理局本局に滞在する事となった。
 一方でキャロは元にいた自然保護隊に戻りエリオもまた同じ自然保護隊へと希望配属、キャロと共に竜騎士となって密猟者の摘発や自然保護業務に勤めた。
 
 ヴィータは現役を引退、そして元々から持つ戦技教官の資格により、管理局を退社後教官として民間の訓練学校に就職する事となる。
 …だが彼女の訓練は熾烈を極め“赤鬼の教官”と呼ばれる事になるが、同時に彼女に指導された者は例外無く優秀である為、“エースを育てる者”と言う二つの名で呼ばれる事になる。

606レザポ ◆94CKshfbLA:2010/02/26(金) 18:05:54 ID:iAhtY5N6
 
 続いてシャマルであるが大戦後すぐ管理局を退社、聖王教会がかつて保有していた聖王医療院に再就職しカウンセラーとして大戦中に受けた住民や局員などのトラウマのケアを承る事となり、
 ザフィーラは聖王教会に戻りカリムの思いを受け止め、今日も小犬となって膝の上で過ごしていた。
 
 一方でフェイトは大戦後のショックにより仕事に手が付かず暫く籠もる毎日が続いていたが、
 …このままではいけない、こんな姿を見せれば怒られてしまうだろう…そう考えを改める事で
 踏ん切りが付いたのか現役に復帰、早速ティアナを抜擢して執務官としての仕事を黙々とこなす日々を送っていた。
 
 
 続いて今回の事件に関わった者達の処分である、今回逮捕されたナンバーズの内、トーレとセッテのみ更正プログラムを拒否、更に捜査協力による刑期短縮も拒否した。
 理由として共に「敗者には敗者なりの矜持がある」と言うものであった。
 
 しかもトーレにおいては戦闘で失った両腕の治療すら頑として拒否しており、結果的に妹であるセッテに自分の身の回りの世話をして貰う事となった。
 だがセッテもまたトーレの身の回りの世話を率先して行っていた、理由として今まで姉であるトーレに目をかけてくれた為、今度は自分が恩返しと言う意味で世話をするとの事であった。
 
 一方で他のナンバーズは姉であるセインとディエチがまとめ役となって更正プログラムを承諾、かつての“姉”であったギンガがナンバーズの指導員を買って出た。
 その後、ギンガが指導員を請け負った為か更正プログラムを無事に完了、ナンバーズはそれぞれの道を歩む事となる、セインは一度聖王教会に配属したが、
 後の妹達の行動を再確認して充分に世間に馴染みまた、自立したと思えるようになり踏ん切りが付いたのか聖王教会を離脱、今は一人の“人間”として生活を送っている。
 …とは言え数年後、彼女に身に途轍もない大きな転機が起きると言うのはまた別の話である…
 
 次にオットーとディードは更正後同じく聖王教会に配属、カリムが保護責任者として名乗りを上げ、聖王教会で幾度かの事件仕事をこなしていく事となる。
 続いてウェンディであるが、更正後は一度聖王教会に配属するが保護責任者で父でもあるゲンヤのアドバイスもあって地上本部に移籍、
 スバルと同じ特別救助隊に配属が決まり暫く滞在していたが、またもや異動、本局の執務官しかもフェイトの部下として世界を飛び回る事となった。
 
 そしてウェンディは相棒にティアナを希望、二人の相性はよい為かそれからは長年のパートナーとして様々な事件を解決する事となる。
 …その事に対して姉であるスバルは複雑な心境を浮かべていたようであるが……
 
 
 さて…そして残りのナンバーズのノーヴェ、ディエチ……そしてチンクのその後であるが、
 彼女チンクは運ばれてすぐに様態を調べられ、結果スバルの振動エネルギーを含んだ攻撃をその身に浴びた為か
 リンカーコアとレリックが破壊されていたがそれ以外は異常が無いと、この時点では判断された。
 
 そして治療後眠りについたままのチンクを暫くナンバーズのノーヴェが付き添っていたのだがその後に目を覚まし、
 この時丁度よく周囲には見舞いに来たナンバーズがおり、安堵の表情を浮かべるがすぐに豹変する、
 何故ならばチンクは自分の名前以外は一切記憶を持ち合わせていなかったからだ、恐らくはスバルの攻撃による後遺症であろう。
 
 一方でこの結果を耳にしたゲンヤは、自分の娘によって起こされた悲劇を償うかのようにチンクの保護責任者を買って出るがノーヴェが拒否、
 寧ろノーヴェがチンクを自分の“妹”として面倒見ると宣言した、今までチンクから受けた恩を返す為のようである。
 
 だが記憶を無くしてもチンクの罪は当然消えることは無い、するとノーヴェはチンクの分まで任務を全うとすると宣言しディエチもまた賛同、
 二人でチンクの分まで刑期短縮を行い、数年後三人は“姉妹”として一緒に暮らす事となったのだった。
 
 一方ルーテシアであるが、年齢・経歴を考慮して死罪は免れたが大量に人々を殺害した事実は揺るが無い為、当然の如く禁固数百年の刑を処される事となった。
 だがクロノ大将が管理局に協力すれば刑を減らす事が出来る制度を持ち掛け暫く考えた後に了承、
 それ以降管理局に身を捧げる事となった、だが本局には母であるメガーヌ、無限書庫では義理の姉メルティーナも会える為余り苦では無さそうであった。

607レザポ ◆94CKshfbLA:2010/02/26(金) 18:08:55 ID:iAhtY5N6
 …今回の法案の成立によって管理局、特に本局の体制も変わり特に変わったところと言えば無限書庫が独立の機関となった事である。
 無限書庫の司書長を勤めるユーノはこの法案をきっかけに、以前から暖めていた独立機関案を成立させたのだ。
 その為、民間企業となった無限書庫の情報を提供してもらう際にはそれ相応の金額が必要となり、また危険な情報や魔法技術を封印するという役職も担っていた。
 
 …数年後、無限書庫の存在は世に知れ渡りその後超法規的処置を受け、唯一魔法技術の集約を許された機関となる。
 だが無論、世論は目を光らせており、調査機構にもまた目を付けられている為複雑な心境のようであるが…
 
 
 
 ……大戦から十三年後の春、此処は第97管理外世界に存在する海鳴町、中心部はビルが建ち並ぶが周辺は海や山に囲まれ自然が多く残されていた町である。
 そんな町の高台には霊園があり、周囲は桜が咲き乱れ目の前には海を覗かせており、大小様々な墓石が連なるその場所で一つの墓石に目が向けられる。
 墓石には高町家と名が刻まれており、側面には葬られた人の名と日が刻まれてあり、桜を模した花と線香が手向けられていた。
 
 その墓石の前に一人の女性が祈りを捧げていた、服装は桜色のシャツに白を基調としたパーカーを羽織り
 首元には赤く丸い水晶が付いたネックレス、下は黒いジーパンで髪の両端を紺のリボンで結われていた。
 
 女性はゆっくりと瞳を開くと翡翠と紅玉のオッドアイが特徴的で、見る者を惹き付ける印象が見受けられた。
 彼女の名は高町ヴィヴィオ一等空尉、此処に眠る高町なのはの娘で管理局が誇るエースオブエースである。
 
 「今年も来たよ…母さん」
 
 墓を見つめながらそう呟くヴィヴィオ、毎年この時期になると必ず休暇を取り墓参りをしている、何故なら今日はなのはの命日、奇しくも地球では桜が満開に咲く時期である。
 今ヴィヴィオの年齢は母と同じ十九歳、管理局の地位も同じ位置まで上り詰めている、母と少し違うとするならば教官資格を持っていない程度であろう。
 何故教官資格を手にしていないというと、母が護ったミッドチルダを自分の手で護りたいという強い意志があるからだ。
 
 今から十三年前…母なのはは眠るようにして息を引き取った、現場にいた誰しもがミッドチルダを救った偉大な英雄の死を悔やんでいた。
 その後、葬儀は身内のみで行い告別式会場はかつての機動六課隊舎にて執り行われミッドチルダ全土は悲しみに包まれた。
 
 葬儀の翌日…外は雨で空も悲しみに暮れていた、葬儀の場にはユーノそしてヴィヴィオが参列しており、家族はなのはの早すぎる死に涙を流していた。
 そしてユーノは父士郎の前に赴き一つの許しを乞う、それはヴィヴィオに高町の姓を名乗らせるというものだ。
 
 
 …なのはの死後、ヴィヴィオの引き取り手の話になりフェイトが名乗り出ようとしたが、先にユーノが名乗りを上げた。
 
 「自分が愛した女性が大切にしている存在〈ひと〉を守りたいんだ…」
 
 その言葉は同情でも傲慢でも無い、ユーノ自身の本心でありヴィヴィオに目を向けるとヴィヴィオはじっとユーノの瞳を見つめる。
 すると何故だかなのはの優しい微笑みがヴィヴィオの脳裏に映り、ユーノもまたなのはの強い意志をヴィヴィオの瞳から感じ取っていた。
 
 「いいかな?ヴィヴィオ」
 「うん……ユーノパパ」
 
 自然に発したヴィヴィオの何気ない一言にユーノは大粒の涙を流しながらヴィヴィオを抱き抱え、ヴィヴィオもまたユーノに抱き抱えられながら大粒の涙をこぼしていた。
 そしてヴィヴィオの影になのはの姿を見たユーノは、高町の姓を名乗らせる事を心に決め今に至るのである。

608レザポ ◆94CKshfbLA:2010/02/26(金) 18:11:04 ID:iAhtY5N6
 …ユーノの話に父士郎はヴィヴィオの瞳を見つめる、確かに其処には父が知るなのはの凛とした強い意志が滲んでいた。
 
 「なのはの意志を引き継ぐ子か……」
 
 士郎は微笑みを浮かべ優しくヴィヴィオの頭を撫でてやるとユーノの願いを了承、ヴィヴィオは高町の姓を引き継ぐ事となった。
 それから暫くは無限書庫にてユーノと勉強をしていたのだが、ある時ヴィヴィオ自身が学校へ行く事を望み
 ヴィヴィオの望みを聞き届けたユーノは手続きを済ませ聖王系列の学校ザンクト・ヒルデ魔法学校に進学、中等部まで進み首席で卒業すると父であるユーノに相談を持ち掛ける。
 
 それは母と同じ道を歩むと言うもので、最初はユーノは反対していた、何故なら母と同じ道と歩くと言う事は結末も同じなのではないかという憂いがあったからだ。
 だがヴィヴィオは母と同じく強い意志の塊、一度決めた事は頑として動かない為、結果的にユーノが折れる形で認め
 そのままヴィータが所属する民間の訓練学校に入学、僅か三ヶ月で卒業を果たし管理局に入局、陸戦魔導師となった。
 
 この時周囲はヴィヴィオの事を“英雄の遺児”と持ち上げていたが、当の本人はそんな言葉に耳を貸す事は一切なかった。
 それからは空戦魔導師となって航空武装隊に異動、1039航空隊またの名をミッドチルダ首都航空隊に所属してからは目まぐるしい戦果を挙げ一等空尉にまで上り詰め現在に至る。
 
 「母さん、今日もミッドチルダは平和だよ」
 
 母が護ったミッドチルダを今度は自分が護る、幼い頃そう心に決めた時には既に自分の道は開かれていた。
 だが此処からは自分の足で歩まなければならない、だが覚悟はある…自分には母と同じ“不屈の心”があるのだから…
 ヴィヴィオはなのはの墓の前で決意を改めていると、二つの気配に気が付く。
 
 「あれ?ヴィヴィオちゃんやないか」
 「あっ八神少将…それにフェイト執務官も」
 
 其処に現れたのはひしゃくが入った手桶を携えた八神はやて少将と花束を携えたフェイト・T・ハラオウン執務官である。
 彼女達もこの時期になると必ずお参りをしていた、かつての仲間として友人として……
 ヴィヴィオは二人に向かって敬礼をすると、はやては休ませ二人は墓に近づき両手を合わせた。
 
 「そう言えば…ユーノはいないの?」
 「父は一仕事を終えたらすぐさま向かうと連絡がありました、それよりも二人はいいんですか?」
 
 ヴィヴィオの心配をよそに二人は目を合わせると縦に首を振る。
 あれからミッドチルダははやての監修の下、目まぐるしく復興が進み重要な箇所は既に完了したと、だがそれでも傷跡は深く残っているようではあるが…
 一方多忙のフェイトであるが、かつての優秀な執務官補佐だった彼女が見事に自分の夢を実現させ、今は彼女とその相棒と一緒に共同捜査を行っている為、暫くの間は彼女達に任せてあると答える。
 
 「あれ?二人とも、久し振りだね」
 「父さん?」
 
 ヴィヴィオは振り返ると其処にはスーツ姿のユーノの姿があった、一仕事を終え息つく暇もなく此処に来た様子が垣間見えていた。
 二人も軽く挨拶を交わすと親しげにユーノとの会話を楽しむ、毎年此処には来てはいるが三人が一挙に集うのは稀である為だ。
 
 「それじゃ父さん、私先に行くね」
 「ん?もういいのかい?」
 「うん、私はもう済んだから…後は“四人”で楽しんでね」
 
 そう言うと一礼して後にするヴィヴィオ、するとその場に優しい風が吹き桜の花びらが舞い散る、
 まるでそれはヴィヴィオに「また逢おうね」っと手を振って送っているような――そんな印象を三人は受けていた。

609レザポ ◆94CKshfbLA:2010/02/26(金) 18:12:13 ID:iAhtY5N6
 場所は変わり此処はミッドチルダに存在する各世界と繋ぐ橋ターミナルの一角、地球から戻ってきたヴィヴィオは道なりを歩き進んでいた。
 街並みはすっかり立ち直りむしろ復興前より賑やかとすら感じるほどである。
 それもこれもミッドチルダの住人が復興に意欲を注ぎ込んだ結果なのかもしれない。
 
 そんな事を考えながら歩いていると一枚の映画のポスターが目に入る、その映画は今から十年前に始まり今年で十周年になる作品である。
 映画の名は006と言うスパイ映画で、主人公である006はある特殊能力で建物に侵入、情報活動を行い時にはターゲットを始末するといった内容である。
 
 主演はあのセイン、彼女は今から約十年前に街でスカウトされエキストラで出演したのがきっかけで映画業界に入り
 第三作品目にこの006の主役を勤め上げ数々の賞を受賞、現在はコメディからシリアスまで何でもこなせる実力派女優として名を馳せていた。
 
 「まさかあのセインが…ね……」
 
 今では誰もが知っていると言っても過言では無い程の女優に成長したセイン、人生何がきっかけ二なるか分からない…
 そんな事を考えながらヴィヴィオは歩いているといつの間にやら、かつて存在していた地上本部に辿り着く。
 
 今此処は平和公園として立て直され、公園中心には天に向かってレイジングハートを向けて構える巨大ななのはの像が佇んでおり、待ち合わせなどに有効活用されていた。
 今像の前には献花台が設けられており、台は一面花に覆われ英雄の人気を伺えた。
 
 そんな光景を横目にやりつつ先に進み、噴水広場に辿り着くと設けられているベンチに座り天を仰ぐ。
 今日は晴天、日差しも暖かく木々の葉が眩しく光を反射させヴィヴィオの目に突き刺さる。
 
 ヴィヴィオは右手で光を遮り改めて平和である事を実感する、あれから小さな事件が幾つか起きてはいるが、
 世界が滅亡する程の大きな事件は起きてはいなかった、皆あの大戦に生き残り二度と起こさないようそれぞれが努力した結果なのかもしれない。
 
 「次は何処に行こうかな?」
 
 特に予定は無かった、休暇の目的は既に済んでいる、取り敢えずヴィヴィオはその場から移動しようと立ち上がり一歩前に歩き出した瞬間、
 左から小さな衝撃を受け目を向けると、其処には白を基調とした胸元にある赤いリボンが特徴的な服に白いスカート、
 そして栗色の髪を左右の白いリボンで結っている十歳程の少女がしりもちを付いていた。
 
 「大丈夫?」
 「これくらい平気なの」
 
 少女は差し伸べられたヴィヴィオの手には触れずに一人で立ち上がりスカートに付いた土を払いのける。
 そんな少女の姿にヴィヴィオは目線を逢わせるようにしてしゃがみ込み頭を撫でた。
 
 「強いのね…」
 「そうなの!だってこんなことで泣いたら笑われちゃうの!!」
 「お母さんに?」
 「ううん、えいゆうになの!」
 
 少女はそう言うとなのはの像を指差す、英雄なのはは転んだ程度では泣かない…どんなに辛くてもそれを見せないのが英雄なのはであると、
 そして自分も英雄の名を貰った以上、転んでも泣かないと胸を張って少女は答えた。
 
 「じゃあアナタの名前って…」
 「なのはなの!」
 
 そう自慢げに答えるなのは、その姿にヴィヴィオは微笑みを浮かべ、再度頭を撫でてやると照れ臭かったのかなのはは頬を染めながら走り出し、
 ヴィヴィオと距離をあけると振り向いて手を振り、ヴィヴィオもまた手を振って答えるとなのはは笑みをこぼして走り去っていった。
 
 あの大戦から先、自分の子になのはの名をつける事は珍しくは無い、管理局にも何人かなのははいる。
 恐らくあの子も英雄なのはのような“不屈の心”を持って生きて欲しいという両親の願いが込められているのだろう。

610レザポ ◆94CKshfbLA:2010/02/26(金) 18:16:05 ID:iAhtY5N6
 
 ヴィヴィオは含み笑いを浮かべ公園を後に先に進む、次に向かった場所は元機動六課が存在していた土地、今は臨海公園として立て直されていた。
 そしてそのまま海岸線まで足を運び海と分かつ柵に手を伸ばす、潮風が心地良く髪を揺らし風景を演出していると、ふと海に浮かぶ建物に目を向ける。
 
 はやてが考案した新たな地上本部、管理局ミッドチルダ臨海本部である、大戦前地上本部が崩壊した際周辺住民や街中も被害を被った、
 威厳を保つ…それだけの為に区画の中心に建設するのであれば周辺の安全を考慮した方がよいと臨海に建設する事となった。
 だがその代わりに交通機関が今までと異なる為に迅速な対応が難しくなったが、暫くして交通機関においても新たな滑走や線路などを設け迅速な対応が可能となった。
 
 しかし一番こだわり、また力を注いだのは臨海本部に設けられた食堂のメニューである。
 和洋折衷は勿論の事ミッド・ベルカ、更には他の次元世界の料理すら取り込み、まるでバイキングを思わせる程の品揃えとなった。
 そんなはやて自慢の臨海本部を背にして海岸線を歩くヴィヴィオ、設けられたベンチでは若い二人組が愛を語っている姿を横目にしながら臨海公園を後にする。
 
 続いて向かった先は快速レールウェイで北に一時間ほどで辿り着く郊外、様々な家が建て並ぶこの地にはかつてヴィヴィオが通っていた学校
 ザンクト・ヒルデ魔法学校があり、卒業して久しく、せっかくの休暇なので母校でも見に来たのである。
 
 今現在学校は春休み中のようで、人気は無く静かな雰囲気を醸し出していた。
 ヴィヴィオは学校の校門前にある許可申請所に赴き、見学の許可を貰いにいくと快く承諾、学校内を見学する事が出来るようになった。
 
 「懐かしい…」
 
 一通り校内を歩き巡り図書室に入ると昔より本が増えた印象を受けるヴィヴィオ。
 昔はよく図書室で暇を潰していた、今でも本を読む事は日課となっており、彼女の部屋は本が溢れていた。
 
 ヴィヴィオは一つの本に手を取り暫く本を読みふけっていた、暫くして読み終えると本を戻す。
 すると―――
 
 
 「失礼ですが…高町ヴィヴィオさんでいらっしゃいますか?」
 「ハイ?」
 
 振り返ると其処にはザンクト・ヒルデの制服を羽織り制服の胸元から白のシャツを覗かせ、青を基調としたズボンを履いたメガネの少年がいた。
 ヴィヴィオは少年の問い掛けに頷いて答えると、少年は左手に持つ本の中表紙を見せる。
 
 「管理局のエースオブエースに会えるとは光栄です、サイン貰ってもよろしいでしょうか?」
 
 少年は年相応とは言えない程大人びた口調で話し懐からペンを取り出して頼み込むと、
 ヴィヴィオは快く応じて本に自分のサインを書き、その本を渡すと小脇に抱えメガネに手を当て笑みを浮かべて感謝する少年。
 
 「ありがとうございます、これは励みになる…」
 「励み?」
 「えぇ、そうです」
 
 少年はメガネに手を当てたまま言葉を口にし始める、彼の夢は無限書庫の司書長になる事、
 その為に知識を高め、またその為ならば努力を怠らない、しかも目標である司書長の娘でエースオブエースのサインを手に入れた。
 これ以上の励みなど存在しない、そう少年は答え本を大事そうに左手で抱えていた。

611レザポ ◆94CKshfbLA:2010/02/26(金) 18:17:35 ID:iAhtY5N6
 「じゃあその為に学校へ休みなのに?」
 「えぇ、近くに図書館や静かに勉強出来る場所が無いので…」
 
 少年は肩を竦め両の手の平を返し首を傾げて答え、蛍光灯の光がメガネのレンズに反射し胡散臭さを演出していた。
 一方でヴィヴィオは少年の話を聞き…自分もこれくらいの時に自分の道を決めたな…っと感傷に浸っていた。
 そんなヴィヴィオの呆けた表情を目の当たりにした少年は、首を傾げ不思議そうに見上げていると、その目線に気が付き我を取り戻したヴィヴィオは少年に言葉をかける。
 
 「そうなの…それじゃあ君が無限書庫の司書長になるのを応援しているよ」
 「ありがとうございます、無限書庫に就職出来たらその時はよろしくお願いします」
 
 少年は礼儀正しく挨拶を交わすと意気揚々にその場を立ち去る、一方で少年の後ろ姿を見たヴィヴィオもまた図書室を抜け学校を後にした。


 …暫く道なりを進みレールウェイ近くの人通りの少ない路地を歩いていると背後に二つの気配を感じたヴィヴィオ。
 しかしヴィヴィオはその場で振り返る事無く、は背後に感じる二つの気配に声をかけた。
 
 「オットーとディードね…」
 「休暇中に申し訳ありません…陛下」
 
 其処には部下であるオットーとディードがいた、二人は聖王教会に配属しているのだが、
 ヴィヴィオが管理局に入る事が決定すると、二人は管理局に出向という形でヴィヴィオの下につき今も働いている。
 二人はヴィヴィオの事を陛下と呼び最初の頃は嫌がっていたが、その内に慣れ始め今では自然に反応するまでに至った。
 
 「…任務ね」
 「ハイ」
 
 ディードは返事すると内容の説明を始める、今から数十分前、此処から更に北に位置するベルカ領との中継地点を担う街、
 其処にあるビルで火災が発生、すぐさまスバル率いる特別救助隊が対応し周囲の人々の避難を済ませたのだが、未だ火の勢いは止まらず燃え続けており、
 現在懸命に消火作業に当たっているが人手が足りないのだという、其処で比較的現場に近いヴィヴィオに白羽の矢が立ったのだ。
 
 「分かった、それじゃあ行こうか」
 『了解です』
 
 オットーとディードの合わさった返事を期にヴィヴィオは左ポケットから小さい水晶型のデバイスを取り出す。
 セイクリッド・ハート通称クリスと呼ばれるシャーリーの手によって作られたデバイスである。
 
 このデバイスはなのはの愛用のデバイスであるレイジングハートを模しており、
 レイジングハート自体は機能不全により役を終えたが、情報のみが辛うじて残っていた為、
 
 セイクリッド・ハートに情報を継がせる事により遠距離に対してはミッド式、接近戦に対してはベルカ式を使用するハイブリッドなデバイスとなったのだ。
 因みにヴィヴィオの魔法適正はベルカ式で接近戦タイプではなく純粋魔力射出・放出タイプである。
 
 それはさておきヴィヴィオはセイクリッド・ハートを起動させて上に羽織るコートは白く他は黒いバリアジャケットを纏い、
 そして臨海本部に飛行の許可を貰うと、部下を引き連れ現場へと急行した。
 
 
 
 ―――今日もヴィヴィオは空を駆る、母が護ったミッドチルダの空を―――
 ―――母から受け継がれた意志“不屈の心”と共に……―――
 
 
 
             リリカルプロファイル ―完―

612レザポ ◆94CKshfbLA:2010/02/26(金) 18:19:33 ID:iAhtY5N6
 以上です、最終回ってな感じです、参考はVP2の隠しエンドです、
 なのは生存も考えましたが、やっぱりこっちの方がしっくりくるので此方に決めました。
 
 
 やっと終わりました、携帯で何処まで行けるか分かりませんでしたが、なんとなってよかった。
 全部で四十(外伝を含めると四十五)一年とチョット…よくぞ此処まで書いたと思います。
 
 
 でもこういう文を書くのはこれが初めてだったので、自分の文章力のなさに何度筆を折ろうとしたか…
 とは言え始めた以上責任取って書き続け何とか終わって一安心です。
 因みに一番辛かったのはセラフィックゲート編です。
 
 
 最後に読んで下さった方、感想をくれた方、コメントを下さった方、
 指摘してくれた方、支援してくれた方、代理投下してくれた方、本当にありがとうございました。
 
 もしかしたらちょくちょく手直しにくるかもしれません…
 
 それでは。

613黒い雨:2010/03/31(水) 20:47:45 ID:B8hTby06
 すいませんが最後の「あとがき」で猿さんに捕まってしまいましたorz

 っでお手数ですが、どなたか「あとがき」部分だけ代理投下をお願いします。



 今回は以上です。

 途中で順番の表記をミスってしまいまして(9)が二つになってし
まいました。
 申し訳ないですorz

 あとナカジマ姉妹(数の子含)vs黒服の紳士は、まだ続きますので・・・

 では今夜はこれにて失礼します。

614黒い雨:2010/03/31(水) 21:04:26 ID:B8hTby06

なんども申し訳ないです・・・「あとがき」の投下が出来ましたorz

それで代理投下はキャンセルです。

御迷惑おかけしてホント申し訳ないです。orz

この猿さんは、どれくらい待ったら解除されるんでしょうか?

615魔法少女リリカル名無し:2010/04/01(木) 00:15:28 ID:QySi8yvg
>>614
板によって違いがあるのかもしれないけど、アニ総は10レスで規制。
毎時00分で解除です。

616BLASSREITER LYRICAL  ◆ySV3bQLdI.:2010/04/03(土) 11:27:01 ID:4jqWt0lw
BLASSREITER LYRICAL投下します。長々とすみませんでした、今回で4話終わりです。
大規模規制中のようですが、どなたかできましたらお願いします。




 混乱が渦と巻く街で、ジョセフは一人ガルムを走らせる。道路は恐慌状態の市民で埋まり、慌てて逃げようとした車同士の事故が
パニックを助長していた。この上道路を行けば、火に油を注ぐだけ。ガルムの後部スラスターを噴射し、ビルの上を跳ねるように飛んだ。

「融合体は二体。それにしても、どうして堕ちるまで誰も気付かなかったのかしら」

 エレアの疑問は尤もだった。いくらデモニアックに堕ちるすべてを把握できないとしても、こうも容易く街中での出現を許すのは
違和感があった。隔離が追い付いていないとも聞くが、それにしてもおかしい。
 精神に異常をきたしていても、或いは死んだとしても、誰にも気付かれない人間がいるとしか思えないのだ。もし推測が正しければ、
それはAIのエレアでは想像の及ばない、この社会に受け入れられなかった者達。人が人であるが故の犠牲者。
 即ち異民である。

「今はあれを止めるのが先だ。すぐに終わらせる」

 この状況で、彼女を一人にするのは危険だった。かといって、連れてもいけない。
 同行者を待たせて、デモニアックの対処に向かう途中、ジョセフは思い出す。彼女は悔しさからか、声を殺して泣いていた。走る間も、
何故だか彼女の涙が頭から離れなかった。
 約束したファミレスにヴァイスはいなかった。店員に聞くと、朝までは確かにいたらしいのだが。戻らないので、探しに行ったのだろう。
危険を承知で、ミッドチルダ東部のジル邸付近に戻る途中、エレアが融合体を感知した。耳を澄ますと、遠くでは悲鳴が上がっていた。
 ジョセフは逃げ惑う人波から隠れ、ガルムと融合。ティアナは、隣で所在なげにしていた。

「お前はここに隠れていろ」
「でも……」
「足手纏いだ」

 付いてこようとするティアナを、ジョセフはぴしゃりと遮った。はっきり言ってやらないと、責任を感じている彼女は止まらない。
 去り際に一度振り向くと、ティアナは待機状態のデバイスを握り締めて泣いていた。その涙はおそらく、ジョセフの言葉より何より、
戦えない自分が許せなくて流した涙。

「ジョセフ、近いわ」

 エレアの声で我に帰ったジョセフは、右手にシミターを握り、デモニアック目掛けて走る。
 真下には、街のど真ん中で獲物を物色するデモニアックが二体。片手に融合したナイフは既に赤く染まっていたが、
近くには死者も生者も見当たらない。死者はまだ出ていないのか、見えないだけか、どちらにせよ邪魔が入ることはなさそうだ。
 ビルの屋上から、ガルムを躍らせる。急降下するガルムを、二体のデモニアックが察知した時には、既にジョセフはシミターを振り上げて迫っていた。
 気勢を発したりはせず、迅速に接近し、斬ることのみに専心する。その一瞬、意識はデモニアックに集中しており、周囲には完全に無警戒となった。
それ故、気付けなかった。ビルよりも上から急襲する、もう一つの気配に。
 狙いを定めたデモニアックの隣、もう一体のデモニアックが視界の隅に入る。その視線はジョセフではなく、上空で固定されていた。
 僥倖というより他なかった。もう一体を視界の隅に捉えたことも、鋭敏なブラスレイターの聴覚が音を拾ったことも。
 冷たく鋭い殺気と、風を鳴らす音。何かが落ちてきている。ジョセフはシミターを振り下ろすことなく、咄嗟にハンドルを切って軌道を変えた。

617BLASSREITER LYRICAL  ◆ySV3bQLdI.:2010/04/03(土) 11:30:05 ID:4jqWt0lw
 地面を滑りながら距離を取った直後、デモニアックの背後に何かが墜落。重力に更に加速を加えた、凄まじい速度。
コンクリートが砕け、同時に横目で捉えていた目標が"割れる"。胴体に赤い線が交差して走り、四分割された身体からは、
デモニアックの血に染まった真紅の双剣が突き出た。
 
「また会えた……ジョセフ・ジョブスン」

 聞こえたのは甘く、陶酔に似た響き。
 赤い流星の如く墜ちてきたのは、茶色く長い髪をなびかせた少女。崩れ落ちたデモニアックを一瞥もせず、
茶髪を掻き上げながら顔を見せた。
 それは昨日、この街で出会った戦闘機人。名前は確か、ディード。 
 顔を上げたディードは笑っていた。憎悪を内に秘めていながら、それを包んでいるのは紛れもない歓喜。
狂気を帯びた凄絶な笑み。
 あの時感じた、凍てつく炎そのもの。
 ジョセフが剣を構えると、ディードから一瞬で表情が消えた。ただし両目だけは細く、視線だけで射殺す気かと思うほど強く、
感情を表す。抑えきれない殺気が、幾千の言葉よりも雄弁に、彼女の目的を語っていた。
 ディードの身体が跳ね、双剣が正面から振り下ろされた。一瞬で懐に入った速さの割に、大振りな一撃。
まずは小手調べといったところか。
 ジョセフも正面から受け止め、鍔迫り合いになる。顔がぶつかる距離で、二人は睨み合った。

「何のつもりだ!」
「分かりませんか? オットーの仇……取らせてもらいます!」

 丁寧な言葉遣いながら、剣捌きからは感情がありありと感じ取れる。
 押し込まれる双剣を、あらん限りの力で弾き返す。ディードはバックステップで距離を取ったかに見えたが、
地面を蹴って跳ね返り、再び距離は詰まる。
 右手の剣は斬り下ろし、左手の剣は斬り上げ、それぞれの剣がまったく違う動きで攻めてくる。一本の剣では、
とても太刀打ち出来ない。片手で捌きながら後退するジョセフの目に、残ったもう一体が、巻き添えを避けるように離れていくのが見えた。

「止めろ! お前に構っている暇はない! 戦う理由も!!」
「あなたの剣がオットーの血を吸った! 私の理由はそれで十分です!!」
「なにをっ……!」
「デモニアックの出現する場所に、あなたは必ず現れると思っていました。やはり、あの女狐の言うことは正しかった!」

 ディードは喋りながらも、剣筋に一切の乱れはなく、勢いも衰えない。多弁になることで闘争心を自ら煽り、
饒舌になればなるほど加速した。防御フィールドは、いとも簡単に切り裂かれ、とうに用を為さなくなっている。
 必死にかわしながら考える。自分の存在を知り、目的を知っている、女。
この条件に当てはまるのは、知る限りで一人しかいない。
 ベアトリス・グレーゼ、あの女のやりそうなことだ。美貌と甘言で懐に入り込み、毒を植え付け、
植えつけられた人間は毒を周囲に撒き散らす。躍らされていることにも気付かずに。
 確信に近い疑惑だった。戦闘機人の製作者、スカリエッティとやらを抱き込んだか、ディード個人かは分からないが。

「あなたがどれだけ正しくても、私はあなたを認めない! オットーは何も悪くなかった! 悪いのは……悪いのは全部私だったのに!!」
「知ったことか!」

 言い捨てて、ジョセフはガルムを発進させた。下半身も安定しない状態では不利。
正面からの打ち合いも分が悪いと、スラスターを噴射、炎を噴いて空へ昇る。

618BLASSREITER LYRICAL  ◆ySV3bQLdI.:2010/04/03(土) 11:33:10 ID:4jqWt0lw
 距離を取って態勢の立て直しを図ろうとする。が、真紅の双剣がそれを許さない。
加速するガルムと同速で、ディードが追い縋る。
 地を駆ければ、ガルムに追いつける相手はまずいない。しかし、噴射で強引に空を滑空すれば機動力は激減。
小回りも利かない。
 理解していても空を選んだのは、まだ避難中の市民を考慮してのことだった。逃げるにせよ、戦うにせよ、
周囲に気を配る余裕はなくなる。街中を走り回れば、巻き込む可能性が大きかった。
 ディードはガルムと並行して飛びながらも、攻撃の手は止めない。袈裟斬りに襲い掛かる左の剣を受け止めれば、
右の剣が斬り込む。左右から繰り出される乱撃。加えてディードは、剣のリズムに合わせ、言葉でジョセフを抉る。
 
「他人を巻き込むのが怖いなら! 最初から戦わなければいいのに! この偽善者!」
「お前はそれでいいのか! まだデモニアックは残っている! 放っておけば、また人が死ぬ! 昨日のように!」
 
 左を弾いて、すぐさま右と切り結ぶ。弾かれ、僅かに身体を仰け反らせたディードの目が光る。
 今が好機とばかりに左が振り下ろされ、身体が浅く切り裂かれた。傷口を押さえながら思う。
 言葉が軽い。
 彼女から放たれる斬撃、言葉、どちらと比べても反撃が軽いと感じていた。どんな大義名分があろうと、
彼女の大切な存在を殺したことに変わりはない。
 覚悟はとうに出来ている。恨まれようと、偽善者と呼ばれようと構わない。己のやり方を変える気もない。
たとえ誰に理解されなくても。
 それは彼女も同じなのだろう。だからこそ、どんな言葉を以てしても、ディードは止められない。
止めるなら、力を以てしか止まらない。

「そんなこと、私にはどうでもいい! あなたが断罪者を気取るなら、私も斬ってみなさい! 今、ここで!」
「断る! あの女に何を吹き込まれた!!」
「それこそ、あなたの知ったことではありません!!」

 ジョセフ自身、自覚していた。手数は劣り、武器の威力は互角。最も大切な戦う意志で、自分は大きく劣っていると。
 戦闘機人は厳密には人と呼べるのか。それは分からないし、関係ない。重要なのは、事実ではなく真実。
ジョセフには彼女が人としか思えなかった。そして、人である彼女は殺せなかった。
 ディードもそれを察しているのか、攻撃は激化するばかり。防御は二の次になっている。両足を地面につけて戦えば、
まだ戦いようもあるのだが。ディードが戦いながら、互いの位置取りを操作している為、それも難しい。
着地して融合を解除する余裕を与えないのだ。
 切欠が必要だった。せめて、彼女の注意を一瞬でも引ければいいのだが。
 ジョセフの思いが通じたのか、サイレンが間近まで迫ってきた。無論、この程度では足りない。これで、
逃げてもデモニアックの処理はXATがやってくれるだろうが、その為にはまず、ディードを剥がす必要がある。
 ディードの思惑に乗せられる風を装い、通りの中央に出る。継続して噴射できる時間は長くない、後は時間との勝負。
そして、時は来た。
 見通しのいい場所で戦っていれば、必ず発見してくれる。それも、融合体より先に。戦闘中、しかも場所が空なら、
スナイパーによる狙撃は困難。ならば、XATが取る行動は一つ。
 一台のアタッカーバイクから、ミサイルが放たれた。白煙をたなびかせて、目指すは融合体と戦闘機人。
 五発、六発、まだ来る。飛来する多数のミサイルに、ディードの顔色が変わる。それこそ、ジョセフが待ち望んだ瞬間。
 広げた右手から伸びる光の鞭。気を取られているディードの左手に巻き付き、剣を絡め取った。ジョセフは、それを手元に戻さない。
右肩を大きく回し、ディードの剣ごとミサイルを薙ぎ払う。瞬間、右肩に激痛が走った。
 すべての撃墜はできずとも、数発斬り落とせば誘爆で落ちてくれる。いくつ弾があっても、こちら一点に向かってくるなら、
迎撃は容易だった。
 爆煙が立ち込め、視界が塞がれる。右肩はティアナを助けた際の傷が開いたらしい。上げるだけで辛かったが、今なら逃げる隙がある。
ガルムを着地させようと煙を抜けた、その刹那、

「この程度で逃げられるとでも?」

 目の前に現れたディード。右手の剣は、真っ直ぐに突き出されている。瞬間的な加速で回り込んだのだろう。
彼女もまた、チャンスを狙って切り札を温存していた。

619BLASSREITER LYRICAL  ◆ySV3bQLdI.:2010/04/03(土) 11:34:55 ID:4jqWt0lw
 咄嗟に、避けられないと悟る。ディードは構えているだけでも、こちらは突っ込むしか出来ない。
 身体を捩り、胸を避け、なんとか左肩に狙いをずらす。直後、左肩を灼熱の痛みが襲い、
ブラスレイターの強固な身体を貫いた剣が、肩の後ろに突き出る。声にならない叫びが喉を突き上げた。
  ディードは肩を抉りながら、剣を抜こうとする。ここで墜ちれば、待っているのは無防備な自分への追撃、そして死。
 まだ死ねないという意志。それをはるかに凌駕する本能が身体を動かし、内なる獣を呼び覚ます。
封印している悪魔が、憤怒の形相で理性を喰らった。
 ジョセフの右目が赤く光を放つ。
 おそらく、これが最後。限界まで炎を噴射し、ガルムを持ち上げる。ジョセフは右手を左肩に伸ばすが、
それは剣を抜く為ではない。抜こうとするディードの腕を掴んで、逆に引き寄せた。

「がぁあああああ!!」

 それは戦士の雄叫びと言うよりも、猛り狂う獣の咆哮。ジョセフは態勢を崩したディードの横面を、
渾身の力を込めた裏拳で殴り飛ばす。何かが砕ける音と共に、ディードの首が捻じれた。
 ブラスレイターの持てる全力で殴られれば、常人なら首の骨が折れているだろう。だが、この時は手加減する余裕などなく、
追い詰められたジョセフは何もかも忘れ、ただ湧き上がる怒りに任せてディードを殴った。
この一瞬、確かにジョセフは、真にデモニアックと化していた。
 ディードの身体が吹っ飛ばされ、剣が肩から抜ける。衝撃の直後、垣間見えた彼女の目は焦点を合わせていなかった。
おそらく意識が飛んでいるのだろうが、彼女は殴られた瞬間も、そして墜ちていく間も剣を手放さなかった。
 ジョセフは手近なビルの屋上に転がるように着地。融合も変異も解除して、膝をつくと荒い息を吐く。地面に着地するまで、
ガルムを安定させる余裕がなかった。それほどまでに追い詰められていたのだ。
 両手で頭を押さえた。両の肩よりも、頭と心臓の痛み、熱が上回っている。極限の状態で、危うく理性を放棄する寸前だった。
 ディードはどうなっただろうか。死んでいてほしいという気持ちと、生きていてほしいという気持ち、相反する感情が同居している。
これ以上続ければ、あとは自分が死ぬか、ディードが死ぬかの二択。たとえディードを殺したとて、正気を保っていられる自信もなかった。

「ジョセフ、早く逃げた方がいいんじゃなくって?」
「ああ……」

 満身創痍で立ち上がろうとするジョセフ。ガルムに手を掛けると、

「どこへ行こうというんですか? ジョセフ」

 背筋が震えた。凍てついた、刺すような声。燃え盛る炎の如き殺気。ガルムから離れ、唇を噛む。どうしても、やるしかないのか――。
 振り向くと、屋上の縁にディードが舞い降りんとしていた。鼻と口に赤く、血を拭った跡。右手に同じ色の剣を携えて、彼女は笑った。



 現場に駆けつけたヴィータが最初に見たもの。それは、空中を飛び回りながら剣戟を繰り広げる融合体と戦闘機人の姿だった。

「あれは……ブルーか!?」

 ブルーは禍々しい造形のバイクに跨り、空を飛び回っている。背部にロケットでも付いているのだろう。
激しい炎を噴射させ、陽炎が揺らめいている。
 他とは違う姿の融合体であり、融合体を殺す融合体、ブルー。しかし今、ブルーが戦っているのは、茶色のロングヘアーの戦闘機人。
想定外の事態に数秒間、ヴィータは固まった。
 ブルーはまだしも、戦闘機人は積極的な戦い方からして、望んで仕掛けている。両者にどんな因果関係があるのか、想像もつかない。
 戸惑うヴィータを余所に、XATのアタッカーバイクからミサイルが発射された。煙の尾を引くそれに目を見張る。追尾するミサイルは、
ブルーが掌から生やした光の鞭で撃墜。しかし、背中を向けていた戦闘機人は回避が遅れたらしく、
ブルーが止めなければ命中していた可能性が高い。

620BLASSREITER LYRICAL  ◆ySV3bQLdI.:2010/04/03(土) 11:37:19 ID:4jqWt0lw

「何やってんだXATは……! 戦闘機人は極力殺さず逮捕が命令だろうが!」

言ってから、XATには関係ないのだと思い出す。ならば何故、こちらに何の連絡もなかったのか。
その他にも疑問は尽きなかったが、とりあえずXATのバイクに近付いて釘を刺す。

「六課の魔導師だ! ブルーと戦闘機人はあたしがやる。XATは逃げた融合体を追ってくれ!」
「でも……」
「戦闘機人は元々六課の管轄だろうが! それに空戦ならこっちが適任だ!」
「……了解!」
 ヘルメットで顔は分からなかったが、声は女のものだった。彼女も命令で攻撃を許可されただけに
判断に迷ったのだろうが、長考するまでもなく頷く。
それでいい、ややこしい線引きは裏方がやってくれる。今は迷っている暇がないのだ。出動していたのは確か、
XATの二班。二班は腕利き揃いだと聞いていたが、噂通りらしい。
 空を仰ぐと、いつの間にかブルーも戦闘機人もいない。たかが二十秒か三十秒でどこへ行ったのか、
空に上がって姿を探すと、二体はすぐに見つかった。四階建て程度のビルの屋上で、戦闘を続けている。
ただし、ブルーのバイクとの融合は解け、双剣使いの戦闘機人は剣が一本になっていた。
ブルーはかなり疲弊しているのか、遠目から見ても、形勢は明らかにブルーの不利。どうしたものかと考えていると、

「(スターズ2、こちらロングアーチ、応答願います。ヴィータ、私や)」
「はやて、ちょうどよかった。あれはどうすんだ? あのままじゃブルーがやられる」
「(市街地での戦闘を止めるんが第一や。戦闘機人は撃退ないし無力化、ブルーも可能なら捕獲。
もしも会話できるようなら、指示に従うよう呼び掛けて)」
「会話? あれと会話出来んのか?」
「(ものは試しや。攻撃に移る判断は任せる。頼むな)」

スターズ2了解、と通信を終えたヴィータは二体に向き直る。時間はあまりないが、戦闘の状況から割って入るタイミングを探る。
戦闘機人は防御を捨て、攻撃のみに専心。反対にブルーは戦う気があるのかないのか、消極的で防戦一方だった。
あれなら遠からず決着がつく。となれば、
 
「まずは戦闘機人から動きを止めるか……!」

 グラーフアイゼンを構えて、赤く発光する三発の砲丸を浮かべる。シュワルベフリーゲン――まずは、これで牽制する。
ハンマーを大きく振り被り、まさに撃ち出そうとする瞬間、

「ディードの邪魔はさせないッス!」

側面からピンクのエネルギー弾が飛来した。ヴィータは飛び退りながら、確認するより先に、一発を声に向けて撃つ。
 赤い魔力を帯びた鉄球が、爆発音を立てて直撃。それでも構えは解かず、気も緩めない。爆発音に紛れて微かに聞こえた鈍い音、
爆煙が晴れると、そこにはボードに乗った赤髪の戦闘機人。彼女の乗っているボードは、盾と砲と乗機を兼ねた武器だ。

「ちぃ! もう一体いやがったのか!!」
「あんたには、あたしと遊んでもらう! IS発動、エリアルレイヴ!」

 赤髪の戦闘機人は、ボードの周囲に魔法陣状のテンプレートを展開。その色は、エネルギー弾と同色のピンク。
掛け声に合わせて、ボードが加速した。
 遊んでもらうという言葉通りに、戦闘機人は遊んでいるような軌道を取った。周囲を旋回しながら、ちょくちょく軽い射撃を寄越してくる。
いずれもバリアで問題なく防御できる程度だが、たまに強力な射撃を織り交ぜてくるので厄介だった。
その都度、強力な砲弾をセレクトしているのだろうが、見た目での判別はつき辛い。

621BLASSREITER LYRICAL  ◆ySV3bQLdI.:2010/04/03(土) 11:43:03 ID:4jqWt0lw
 そのくせ、こちらが追おうとすれば逃げ、無視してもう一体――ディードとブルーに向かおうとすれば、
強力な射撃と弾幕が行く手を阻む。自分の最も嫌いな部類に入る戦法。イライラすること、この上ない戦い方だった。
 
「てめぇら戦闘機人が何で融合体と戦ってやがる!」
「あんた達には関係ない話ッスよ!!」
「仕事がやりにくくなるんだよ!」

 駄目だ、話にならない。この戦闘機人の目的は時間稼ぎ。ディードとブルーの一騎打ちに、
他人を交えたくないのは確かなのだろう。尤も、理由など知ったことではないが。
 エネルギーを節約しているのか、赤髪は牽制染みた攻撃しかしてこなくなった。機動力では相手が上、
逃げに専念されるとやり辛いが、方法はないではない。逃げに回っていても、こちらが決定的な隙を見せれば、
まだ乗ってくるはず。
 ヴィータはこれ見よがしに砲丸を四発、宙に浮かべる。一度に撃てる数は四発、往復で八発。止まって行えば、
かなりの隙を晒す。そして、ヴィータは足を止めてアイゼンを振り被った。
 赤髪は、案の定チャージを始めた。前衛のいない一対一では、溜めが必要な強力な砲撃は行えないだろうが、
敵が動きを止めれば話は別。そう読んだのだろう、赤毛の動きが鈍る。だが、それはヴィータも同じだった。
 敵はフリーゲンが誘導弾と知っている。逃げ回る相手を捕まえる為に足を止めたと思っているかもしれない。
 十分に魔力を込めた砲丸を四発。ヴィータが叩き出した直後、目の前から巨大なエネルギーの奔流が放たれた。
四発の砲丸はすべてが砲撃にぶつかっていくが、盾としての役目は果たせず砕け散る。太い光の束がヴィータを呑み込むのと、
追加の四発を射出したヴィータが前に飛び出したのは、ほぼ同時だった。
 
「アイゼン!!」
『ラケーテンフォルム』

 グラーフアイゼンの柄が伸び、魔力を噴射。独楽のように回転しつつ、加速を開始する。
 四発の砲丸とヴィータ、砲撃が衝突。爆発が起こり、爆煙が立ち込め、視界を奪う。
八発のフリーゲンは最初から囮と、精々が砲撃の威力を和らげる役目しか持たなかった。

「ラケーテンハンマァァァァァァ!!」

 煙を突き抜け、鋭く回転しながら迫るヴィータ。本命は自分と敵を直線で結び、最短距離を持てる最速で突っ切るラケーテンハンマー。
 戦闘機人が回避行動を取るが、間に合うはずもない。遠心力を加えたハンマーが横腹を打ち、彼女はボードもろとも回転しながら落下、
地面に叩き伏せられた。ピクリとも動かないが、あの程度で死んではいないだろう。
 騎士服はあちこちが焦げ、全身が痛い。尤も動くのに支障はなく、ダメージも予測の範疇ではあったが。
 意表を突いて正面突破で急接近、一撃で落とす。強引だが、早々に終わらせる戦法が他に思いつかなかった。

「ったく、鉄槌の騎士を舐めんじゃねぇぞ……!」

 グラーフアイゼンと一体になった自分の打撃が、砲撃とはいえ簡単に押し負けるわけがない。ましてや、
一対一でも惜しみなく強力な砲撃を撃ってくる相手と、何度も戦っているのだ、耐性は付いている。
 赤毛はピクリとも動かない。さて、これで邪魔は入らなくなった。改めてブルーを探すと、二体は未だ戦いを続けていた。
 しかし、それもじきに決着がつく。端に追い込まれたブルーの剣をディードが弾き飛ばし、飛ばされた剣は、落ちて地面に突き立った。

「やばい! ブルーが!!」

 跪くブルーに、ディードは躊躇せず剣を振り上げる。ヴィータには、ブルーに人の姿が重なって見えた気がした。
 抵抗する術はまだ残っている。野性を解放し、死に物狂いで足掻けば、ディードを殺して生きる糸口もあるのに、
それを忌避しているかのように、彼の立ち振る舞いは人間らしかった。

622BLASSREITER LYRICAL  ◆ySV3bQLdI.:2010/04/03(土) 11:44:39 ID:4jqWt0lw
 ヴィータは愕然とした。まさか、融合体が観念して死を受け入れるとでもいうのか? それじゃ、まるで人間じゃないか。
 どんな疑問を抱こうと、時間を掛け過ぎたと悔やもうと、もう遅い。ブルーは死ぬ。
ヴィータの位置からでは、どう足掻いても間に合わなかった。

 瞬間、この時戦闘を見ていた全員が目にしただろう。遠目からでも分かる、天を貫く一条の光を。

 薄緑の光線が地面から空へ向かって一直線に伸び、ディードの手を撃ち抜く。
剣は弾かれ、ビルから落下。ブルーの剣の横に突き立った。
 ディードは手を押さえて苦悶しているが、その手は吹き飛ぶことなく残っている。
非殺傷設定――魔力射撃に間違いなかった。
 ヴィータは光の放たれた方を見た。そこにいたのは、一体の融合体。
ブルー達のビルから見て、対角線上の建物の陰に半身を隠し、ライフルを構えている融合体に、ヴィータは叫んだ。

「ヴァイス!!」

 迷彩柄の身体に、輝く三つ目。フェイトの持ち帰った映像で確認した、ヴァイス・グランセニックの融合体としての姿。
構えているライフルは彼のデバイス、ストームレイダー。
 ヴァイスも感付いたのか、身を隠した。逃がすわけにはいかない、彼には聞きたいことが山ほどあるのだから。
 追おうとするヴィータの注意は、完全にヴァイスに向かう。その為、背後からの音、光、何より気配に気付けない。
 ピンクの光は無防備な背中に吸い込まれ、そこで爆ぜた。

「うぁああ!? てめぇ……まだ……!」

 背中を襲う衝撃、熱を伴う痛みに身体を丸める。振り向くと、気絶していたはずの赤髪の戦闘機人が、
叩きつけられた建物を背に、ボードを構えていた。
 しまった――そう思いながらも、痛みで硬直する身体はどうにもできない。
 その間に、ブルーがバイクと融合して真っ先に離脱。赤髪は剣を拾い、ブルーを追おうと暴れるディードを捕まえて、
逆方向に逃げた。ヴァイスもいつの間にかいなくなっている。
 ヴィータは飛び出そうとして躊躇した。自分は誰を追うべきなのだろう。かつての仲間であるヴァイスか、
傷つき捕獲も容易なブルーか。それとも、同じく傷ついており、スカリエッティの情報を握る二体の戦闘機人か。
 指示を仰いでいる時間はない。感情に従い、ヴァイスがいた辺りに飛ぼうとするヴィータだったが、強い語気がそれを遮った。

「(待ちぃ、ヴィータ! XATが逃げた融合体をそっちに追い込んでる。今はXATの援護が先や!)」

 はやてから入った通信は、追跡対象を指示するものではなく、どの対象の追跡も許さないものだった。

「ああ、分かってる……!」

 了解と答えながらも、ヴィータは歯噛みする。これでは昨日のフェイトと一緒だ。
 急ごしらえだが、封鎖は行われている。ブルーや戦闘機人はともかく、ヴァイスは引っ掛かるかもしれないが、
そうなった場合、戦いになるかXATに捕縛されるか。どう転んでもはやての、自分達の望む形にはならない。
 募る悔しさと、ままならない苛立ちを融合体にぶつけるべく、ヴィータは残った融合体の掃討に向かった。

623BLASSREITER LYRICAL  ◆ySV3bQLdI.:2010/04/03(土) 11:46:12 ID:4jqWt0lw



 クラナガンといえども、夜になれば人通りは激減する。取り分け、最近の世情を考えれば当然のことと言えた。
 静まり返った夜の街で、ジョセフは一人、未だ冷めやらぬ戦いの興奮を冷ましていた。両肩の痛みは和らいだものの、
完治には暫く掛かるだろう。
 あの場から逃げる際、ヴァイスにティアナを託していかなければと、今にも倒れそうな身体を推してガルムを走らせた。
射撃の向きと気配から、見つけるのは簡単だった。驚いたのは、彼の傍らに既にティアナがいたことだ。あの射撃を見て、
彼女もすぐに走り出したらしい。

「やっぱり、あんただったか。世話んなったな、こいつのこと」

 そう言って笑うヴァイスは、あの日別れた時と同じ笑顔。ティアナはヴァイスと再会して気持ちが昂っているのか、
泣きながらただ頭を下げていた。二人の姿は微笑ましく、やはり少しだけ羨ましく、ジョセフも笑う。

「しっかりと面倒を見ておけ」
「俺の分とこいつの分、借りが二つになっちまったな」
「気にするな、十分過ぎるほど返してもらった」

 交わした言葉はそれだけだった。互いに追われる身、悠長に話している時間はなく、これ以上の言葉も必要なかった。
 それからティアナを乗せたヴァイスと別れ、今は何をするでもなく、空を仰いでいる。
 手元には彫りかけの聖母子像。彫っていると心が安らぐ、それはティアナにとってのヴァイスと同じ、ジョセフの心の拠り所であった。
 ジョセフが木彫りの像を握り締め星を眺めていると、不意に横から声がした。

「あの……ちょっとよろしいですか?」

 振り向くと、栗色の髪を横で束ねたサイドポニーの女性が歩いてきていた。年は若く、ティアナと同じか少し上。
管理局の制服だが、パトロールや職務質問には見えない。

「突然で申し訳ありません。オレンジの髪を頭の両側で括ってる女の子って見ませんでしたか?
私より少し年下で……こんな顔なんですけど」

 彼女が携帯端末から宙に浮かべた写真は、ジョセフも知っている、少女の顔。すぐに察しはついた、ティアナの同僚か友人。
不安げに胸に手をやり、本気でティアナを心配しているのが窺えるが、ティアナは居場所を知られては困るだろう。どうしたものかと考え、

「オレンジ色の髪……」
「知ってるんですか!?」
「ああ……東からここへ来る途中に、ほんの少し話しただけだが。今どこにいるかは知らない。すまないが、ミッドの地理には明るくないんだ」
 
 曖昧に答えた。嘘は教えに反するが、言葉が足りないのは嘘ではない。
 そこで話を打ち切ってもよかったのだが、平静を装う彼女が垣間見せた落胆が、ジョセフに続きを語らせた。

ただ……二日前にも同じことを聞かれた」
「そう……ですか。多分……それも私の知り合いです。彼女、何て言ってましたか?」

 二日前の雨の夜、濡れながら、泣きながら、友達を探していると言った少女。きっと、ずぶ濡れになるまで街を必死になって駆け回っていたのだろう。
印象に強く残っており、一言一句まで覚えていた。

624BLASSREITER LYRICAL  ◆ySV3bQLdI.:2010/04/03(土) 11:47:56 ID:4jqWt0lw

「パジャマ姿で裸足の友達。今は会わせる顔がないが、どうしても話したい。放っておけない、と……」
「青い髪の娘ですよね。まったく、自分もずぶ濡れのくせに……」

 そう言った彼女は、どこか寂しげな微笑みを浮かべる。悲しみを誤魔化すような儚い微笑みに、ジョセフもつい訊ねる。

「友人なのか?」

 彼女は、んー、と口に手を当てて考える。やがて苦笑し、遠い目をした。ジョセフを通り越して更に先、
空の星に視線を彷徨わせ、彼方に想いを馳せている。

「友人……ではないですね。でも、なんでしょう……部下、同僚、教え子、仲間――不思議ですね、どれも正しいはずなのに、
言葉にするとあやふやになってしまう……でも、私にはどっちも大事な娘なんです」

 ヴァイス、ティアナ、ザーギン。自分にとってどんな存在か、問われても明確な答えは出せない。人と人の関係なんて、
名前がある方が稀かもしれない。ふと、そんなことを思った。

「そんなものかもしれないな……」
「え? 今、何か?」
「いや、なんでもない……」

 彼女は怪訝な顔で首を傾げたが、ジョセフが話す気がないと知ると諦めたのか、軽くお辞儀をした。

「ご協力ありがとうございました。ここらは大丈夫ですけど、最近は物騒ですので、夜の外出は控えた方がいいですよ。では……」

 彼女の姿が完全に見えなくなると、傍に立てていたガルムからエレアが映る。ずっと出る機会を待っていたのか、
彼女は剣幕と言っていいほど一気に喋り出した。

「皮肉ね。あなたがどれほど人の為に命を懸けたとしても、人は認めない。いつ、誰があなたに感謝したの? 
あなたがデモニアックというだけで、XATや魔導師は狙ってくる。あまつさえ、あなたが名前も知らない誰かの為に殺した
デモニアックの逆恨みで、あの戦闘機人はあなたを殺そうとしている。空しくならない?」

 ヴァイスの再会したティアナを見た時、自分は間違っていなかったと思えた。
 反面、ディードの顔が今もチラついているのだ。姉妹を殺され、復讐に燃える少女。彼女は、自分がティアナを助けたと知ったら、
どう思うだろうか。どんな顔をするだろうか。
 助けたティアナと助けなかったオットー、程度の差はあれ、自分が命を選別したことに違いはない。
助けるか否かの線を、勝手な基準で引いたことも。

「あなた、昨日今日で何回死に掛けたの? らしくないわね、余計なことにまで首を突っ込んで。あの戦闘機人は必ず、
またあなたを狙うわ。彼女を殺さないと生き残れないわよ」

 らしくないのは自覚している。あの時、ディードを殺せと叫ぶ本能を必死で抑え込んでいた。ヴァイスの助けがなければ、
間違いなく死んでいただろう。
 しかし、人を殺した自分は、果たして人でいられるのだろうか?
 デモニアックといえど、元は人。その意味で、自分は既に教えに背いているかもしれない。
 だが、たとえ御許へ行けず、地獄の業火に焼かれようと、踏み越えてはいけない一線がある。そんな風に思えてならなかった。

625BLASSREITER LYRICAL  ◆ySV3bQLdI.:2010/04/03(土) 11:50:14 ID:4jqWt0lw

「ジョセフ、あなた迷っているわ。惑っては駄目。揺らいでは戦えない。戦えないあなたは美しくなくてよ」

「迷っているつもりはない」

 それは半分嘘で、半分は本当。今の今まで、先ほどの女性と、そしてエレアと話すまでは確かに迷っていた。
 目的を果たすまで、死ぬわけにはいかない。しかしどの道、心まで堕ちてしまえば目的は果たせないのだ。
ならば、最後まで人の振りをして生きたい。
 故にディードは殺さない。何度、彼女が襲ってこようとも。それが、たった今、ジョセフが出した答え。

「俺達ブラスレイターに、揺らいでいる暇はないんだからな」
「あの二人を羨んで、自分の生き方に迷いを覚えたように見えたわ」

 羨んでいる? 
 勿論、それはある。だからこそ、ザーギンの目指す世界は認められない。人の中で人として生きていくことを望んでも、
彼の創る世界に人はいないのだから。彼が疫病と獣により人々を死へと追いやり、黙示録の預言を成就させた後の世界には。

「いや、あんな奴らがいるからこそ、俺は戦える。それに、俺にはお前がいる」
「……美しくないジョークね。あなた、センスないんじゃなくて?」

 当然、彼女が考えているような意味ではなく、彼女の冷徹で合理的な思考に助けられているという意味なのだが、まあいい。
時に言葉を以てしても、考えは伝わらないものだ。逆に言えば、想いを伝える為に、言葉は不要な時もあるのだろう。
 ジョセフは呟く。エレアにではなく、自分自身に言い聞かせるように。

「あの二人が今後どう生きようと、俺にできることはいくつもない。俺はただ……信じたいだけだ」

 そう、信じたいだけなのだ。あの二人が自分達の、ブラスレイターの希望になってくれるかもしれないと。
 独りでは耐えられなくとも、二人なら。
 自ら孤独を選び捨てたものを、戦いと追跡の旅路を行く自分が決して果たせないものを、あの二人なら。
 他者と触れ合うことも愛し合うこともできない、この呪われた身体でも、もしかしたら。
 失った、人並の幸福を望めるかもしれないと。



 ティアナは思い出していた。ヴァイスと再会してから、これまでのことを。
 天を貫く光を見た時、居ても立ってもいられず、バイクを走らせていた。ヴァイスの顔を見た瞬間、涙が溢れて止まらなかった。
みっともなく、彼の胸にしがみついて泣きじゃくった。
 冷静になって思うと、かなり恥ずかしい。でも、あの時感じた気持ちに嘘偽りはない。全部が真実、心からの感情。
 ただ、あの気持ちの正体は何だろう。愛には四種あると言うが、恋慕、親愛、友情、どれも正しくて、どれも違う。
無償、神の愛――ではないか。どんな言い訳をしても、見返りを求めているのは事実なのだから。考えても分かるはずもなく、
ティアナは早々に思考を切り替えた。
 それから未完成な封鎖の隙を突いて脱出し、ひたすら走った。何時間も走って、走り続けて、どこまでも逃げられるなら、
それもいいかと思えた。思うままにならぬ身体も、心も、もうたくさんだ。
 ようやく落ち着く場所を見つけた時には、既に夜になっていた。ささやかながら食事ついでに情報交換をした。
 この身体はブラスレイターと呼ばれる存在。ジョセフは何らかの目的があって、融合体から人を守りながら旅をしている。
昨夜、ゲルトに襲われた恐怖から自分は暴走、身体を張って止めてくれたのがジョセフだった。これらの出来事、必要な情報をすべて伝えた。

626BLASSREITER LYRICAL  ◆ySV3bQLdI.:2010/04/03(土) 11:52:29 ID:4jqWt0lw
 ヴァイスは終始冷静だったが、唯一暴走に関しては僅かに渋い表情を見せ、難儀だったな、と頭を撫でられた。
 ヴァイスの口から語られたのは、主に昨夜のフェイトとのやり取りと、ゲルトとの出会い。
 自分達は戻らない。昨夜、ヴァイスはフェイトに告げた。それは二人で話し合って決めた上での結論だった。
 一つは、戻れば確実に迷惑を掛ける。体面上の問題もあるが、最大の問題は力の制御不安にある。暴走した時、
ヴィータやシグナムなら止めを刺してくれるだろうが、もしアルトやルキノだったら?
何の戦闘力も持たない、ヴィヴィオやアイナだったら? 想像するだけで恐ろしい。
 もう一つは、そんな姿を見られたくなかった。どこかで出会っても気付かず、ただの融合体として処分してくれればいい。
せめて人の記憶にだけは、人としての姿で残りたかった。ブラスレイターの特別な外見では、最早叶わぬ願いとなってしまったが。
 本当は帰りたい。スバルにもエリオにも謝らないといけない。でも帰らない、帰れなかった。だから彼らとは、これで終わりなのだ。
 ゲルトとは、融合体発生を知った時点で別れたらしい。彼との会話の情報で得られたものは案外少なかった。彼もまた、
翻弄されているだけに過ぎなかった。
 分かったのは、自分の時同様、人をブラスレイターに変える薬を持った女の存在。ジョセフは何か知っているようだったが、
彼は何も語らなかったので、何物かは知りようもない。結局、これも考える材料が少な過ぎる。
 ティアナはくすんだ古い壁を見つめて、溜息を一つ。
 そして今、隣のベッドにはヴァイスがいる。ここは安ホテルの一室、ベッド脇の薄汚いスタンドがおぼろげな光を放つ。
 時刻は二十一時を回った頃だろうか。寝るには早い時間だが、昨日、一昨日に引き続き、激動の一日で疲労は溜まっている。
おまけに昨日はまともに寝ていないのだ。
 いくら安いとはいえ、限られた軍資金は節約する必要があるので、部屋はツインである。防音とは程遠い薄い壁からも、
今は何の音も聞こえない。夜の静寂が、かえって五感を冴えさせていた。
 自分で真っ暗は嫌だと言っておきながら、光に背を向けている為、ヴァイスの様子は確認できない。
 頭に浮かぶのはゲルト・フレンツェンのことばかり。考えるなと意識すればするほど、想像してしまい、身震いを誘う。
かれこれ三十分はそうしていた。
 ティアナは意を決して、寝返りを打つ。偶然にも、ヴァイスもこちらを向いていた。一瞬視線がぶつかり、咄嗟に逸らす。
 こんなにも勇気が要ったのは初任務以来か、初めてかもしれない、それでも。
 どれだけ鼓動が激しくなろうとも、顔に火が点こうと言わなければならなかった。

「あの……ヴァイス陸曹、そっちのベッドに行ってもいいですか……?」
「はぁ!?」

ヴァイスが思わず素っ頓狂な声を上げそうになった。というか半ば上げてから口を抑えた。
予想した通りの反応に、両手をパタパタと振って、慌てて訂正する。

627BLASSREITER LYRICAL  ◆ySV3bQLdI.:2010/04/03(土) 11:54:22 ID:4jqWt0lw

「あ、いえ、違うんです。目を閉じると昨日、今日のことばかり思い出してしまって。話しましたよね? 
あたし、昨日もおかしくなりかけて……だから、意識を失うのが怖いんです。一人になったら、
また暴走するんじゃないかって……」

 今朝、ジョセフの傍で眠っていても、夢の中では独りきりだった。何度も悪夢に苛まれて覚醒した。
 暗闇の中、顔のない何かから必死で逃げ続ける。最後には必ず捕まり、次は自分が鬼になって、
顔のない誰かを追いかける。その薄気味悪い鬼ごっこは、己の未来を暗示している気がしてならなかった。

「駄目……ですか……?」

 上目遣いで遠慮がちに問う。図らずも、媚びるような仕草。もしも拒絶されたら、不安が顔にまで表れていた。
 
「分かった分かった! 分かったから、そんな……捨て犬みたいな目で見んな」
「すみません……」

 捨て犬――言い得て妙だと思った。
 雨に濡れて階段下に蹲り、独り途方に暮れていた。近づく人間すべてを恐れ、牙を剥いた。
二日前から何も変わっていない、生き場をなくした捨て犬。
 家族は死に、夢は潰え、帰る場所も友もなくし、生きる目的もない。
それでも死にたくないと望んでいる、滑稽だった。
 そこへ、救いの手を差し伸べてくれたのがヴァイス。拾ってくれた彼の隣なら、安心して眠れる。
夢でも独りではなくなると思えた。
 じっと答えを待つ。これは許可と受け取っていいんだろうか。しかし、今更聞き返すのも恥ずかしい。
 固まっているティアナに溜息を吐くと、ヴァイスは寝返りを打って背中を向けてしまう。落ち込みそうになったところに、

「まぁ……好きにしろ」

 曇ったティアナの顔が、ぱぁっと明るくなる。いそいそとベッドを出て、隣のベッドに歩み寄った。

「……失礼します」

 いざ入るとなると躊躇われたが、後には退けない。彼の匂いがするベッド、身体を滑り込ませると、心臓が一際跳ね上がった。
 ベッドは二人では少々狭い。ヴァイスが詰めてくれたものの、胸の鼓動まで聞こえるほど密着する距離。
 高鳴る鼓動を誤魔化しつつ、緊張を紛らわそうと、気掛かりだった質問をしてみる。

「あたし達……ミッドチルダから逃げなきゃいけないんですか?」
「確実に生き残りたいなら……そうするしかねぇだろうな。明日ならまだ、空港のガードも甘い。俺達の存在も非公式だ、
なんとかして出られるかもしれねぇ。けど、明後日からは絶望的だろう」

 ヴァイスは背を向けたまま言った。
 ただでさえ、ミッドチルダを離れる市民は日に日に増すばかり。検疫も厳しくなっている。
ミッドチルダ全体が破綻するのは時間の問題と言えた。明日を過ぎれば、僅かなチャンスすら消え去ってしまう。

「ここは、あたしがずっと暮らしてきた世界で……兄さんや両親のお墓もあって……」

 去ってしまえば、二度と戻れないかもしれない。スバルやなのはにも、もう二度と。
 加えて、自分達は感染源である。危険を外の世界にばら撒くのは、元局員としてあまりに無責任な行為。
 瞳に涙が滲む。ティアナは、ぐしゅっと鼻を鳴らし、震えた声で呟いた。

「ヴァイス陸曹、あたし……強くなりたいです。……今日だってあたし、何もできなくて。ジョセフが戦ってるのに、
クロスミラージュを起動するのが怖くて……もどかしくて、悔しくて……」

 ずっとクロスミラージュを握り締めて震えているだけだった。

628BLASSREITER LYRICAL  ◆ySV3bQLdI.:2010/04/03(土) 11:56:00 ID:4jqWt0lw
 初めて意識を持った融合体、ブラスレイターと出会った日からずっとそうだ。迷い、惑い、いつも何かに翻弄され続けている。
何かある度に揺さぶられ、生きる意味すらも曖昧で、目標も何一つはっきりしない。
 失明しては揺らぎ、ブラスレイターになっては揺らいだ。戦えない自分にも、ヴァイスの真意を知った時も、
それから離れ離れになり、そして今日も。
 昨日、寸でのところで踏み止まれたのは、ジョセフの血のお陰である。手を染めた血から連想したのは、エリオとの戦い、罪の証。
もし思い出さなければ、今度こそ終わりだった。
 もう、揺らされたくなかった。己の中に確固たるものを打ち立て、今度こそ生きる為に強くなりたいと心から願った。しかし、
その為に何をすればいいのか、答えはやはり闇の中。明日のことも分からない。

「あたしも……いずれ、ゲルトみたくなってしまうんでしょうか?」

 ゲルトも今は正気を保っている。しかし分かるのだ、ブラスレイターは常に堕ちる恐怖と闘わなければならない。
 それでも、"あたし達"とは言わなかった。もしも自分が三度暴走したなら、その時はヴァイスに止めて欲しかったから。

「今、そんなこと気にしてもしょうがねぇだろう。今はとにかく休め、な」
「はい……おやすみなさい」

 従って目を閉じると、全身が心地良い眠気に包まれる。不思議なものだ、さっきまでは眠ろうとしても眠れなかったのに。
 今、求めていた優しい温もりが、両手の届く距離にある。逃がさないように、そっと背中のシャツを摘まむ。
代わりでもいい、傍にいることを許してほしい。
 こんな穏やかな気持ちで眠るのは久し振りだった。ヴァイスが殉職する以前だから、実に2週間ぶりになる。これまで、
眠りに就くのが、こんなに幸せなのだと忘れかけていた。
 緩やかに薄れていく意識。完全に眠りに落ちるまで、ティアナは祈り続けた。

 願わくば、ヴァイスも同じ気持ちで眠れますように。



 数分か数十分かした頃、背中から小さく規則正しい呼吸が聞こえた。背中のシャツを摘まんでいる細い指を、
そっと解いて仰向けになる。見ると、傍らの少女はようやく、くぅくぅと小さな寝息を立てていた。
 これでも若く、健康な成人男性である。相手がティアナであるとはいえ、完全に理性を制御して、
野性を封じ込められるとは断言しかねる。
 がしかし、捨てられた子犬のような顔をしたかと思えば、今は安心しきった子猫を思わせる寝顔。そう思うと、
背中を小さく丸めている姿勢も、どことなく愛らしい。
 困ったもので、眺めていると、どうにも男性より父性が先立ってしまう。いや、別に困りはしないのだが。
 ふと考える。自分にとって彼女はどんな存在なのだろう、と。
 元同僚。妹の代理。なけなしの人間性を保つ為の依存先。
 或いは自分を映す鏡。己の半身。どれでもあり、どれでもない。
 名前のない関係、名前の付けられない存在。
 でも、かけがえのない大切な娘。唯一、それだけは確かだった。
 あえて名付けるなら、運命共同体だろうか。しかし、それも違う気がする。

「俺だって余裕なんかねぇ……でも、それをこいつの前で言えるかよ」

 浮かぶのは狂乱したゲルト。あれが未来の姿かもしれない。いつまで、自分は自分でいられるのだろうか。
 ティアナとまったく同じ疑問を抱く。
 いや、もしかしたら今だって、眠っている間にひとりでに起き出して、人を襲っているかもしれないのだ。

629BLASSREITER LYRICAL  ◆ySV3bQLdI.:2010/04/03(土) 11:57:45 ID:4jqWt0lw

「まさか……な」

 昼は温厚な紳士が、夜は凶暴な怪人ヘ、そんな古典文学じゃあるまいし。軽く自嘲して、脳裏に浮かんだ
馬鹿馬鹿しい妄想を振り払う。芽生えてしまった一抹の不安と共に。
 以前からそうだった。不安の正体を探る為、記憶を辿ろうとすると、頭の奥深くがズキリと痛んだ。それが、
ティアナのことを案じている間だけは忘れられた。彼女の世話を焼くことで精神の均衡を保っている自分を、改めて自覚する。
 今だけは何も考えない方がいい気がした。天井を眺めて、大きく欠伸をする。今はこのまま、睡魔に身を任せていたい。
 もう一度背を向けようとすると、解いたはずのティアナの手は、いつの間にか再びシャツを握っている。
解こうかとも思ったが、止めておいた。こうしておけば、勝手に起き上がった時、真っ先に彼女が気付いてくれるだろう。
 ヴァイスは、傍らで寝息を立てる少女の頭を撫でて、そっと祈りを込めた。

 せめて、今だけは安らかに。



 天然の光の届かない、冷たい通路。長時間いれば、否応にも不安と寂しさを掻き立てる空気。
カツン、カツンと靴音を響かせ歩くなのはの胸に、様々な想いが去来する。
 朝の時点で潰れる寸前だったというスバルが、ヴィータとの会話で何を思い、どう変わったのか。ヴィータと、
ほぼ入れ違いに六課を出た為、その内容までは知らなかった。
 気分転換を兼ねて、少し遠くから街を歩きながらここまで来た。ここまで来たのだが
 スバルにどんな顔をして会えばいいのか、

(もし、スバルがここで潰れるとしたら、スバルを追い詰めたのは私。ティアナとスバル……直属の部下二人を潰すことになる)

 スバルは強い。身体は勿論、心も。しかしスバルは、ティアナの失明の責任が自分にあると気に病んでいる。
現に一昨日の夜と昨日の朝、スバルは、普段の彼女が見る影もないほど打ちのめされていた。
 スバル一人が気に病む必要はない――何度そう言っても、気休めにもならなかった。ティアナの負傷を招いた責任は、
計略にはまって散り散りにされた自分達、隊長陣にある。それでも、スバルはティアナに庇われたことを、十字架として背負っていた。
 次々入る辛いニュースを聞いていることしかできず、地下の空気は孤独感を煽る。よほど強い意志を持っていなければ、
スバルだって心が折れても不思議はない。

(最悪リタイアもあり得る。けど、ティアナと戦うことを思えば……)

 仕方ないのかもしれない。
 覚悟が決まらなければ、この先の戦いは切り抜けていけない。感染経路が未だ特定出来ていない以上、
魔導師にも伝染する可能性は否定できない。今後、同じ犠牲者が出ないとは誰にも断言できなかった。
 最も疑いが濃い血液感染の対策に、BJのフィールド機能をより強化させることで、返り血程度なら問題はなくなる。
空気感染もフィルターで防護可能。但しダメージを負いBJが破損、傷口と血液が接触した場合は、その限りではない。
そうなれば、魔導師とて感染、デモナイズする。

(中途半端な気持ちでティアナとの戦いに臨めば、死は必定。生きていたとしても、取り返しのつかない傷が残る。身体か、心か、或いはどちらにも……)

 それならいっそ、ここで降りるのも一つの選択肢。その方がずっといい。死ぬよりは、ずっと。

630BLASSREITER LYRICAL  ◆ySV3bQLdI.:2010/04/03(土) 11:59:35 ID:4jqWt0lw
 スバルの隔離から四十七時間経過時点でデモニアック化の兆候はなく、感染の疑いはないとXATの研究班は判断した。
その為少々早いが、解放の許可も出ている。つまり、後はスバル次第。
 地下にいる時間は一分にも満たないのに、冷たく重い空気は口から心の隙間まで入り込んでくる。
それがスバルの独房に近づくにつれ、違和感を覚えた。
 周辺の空気は明らかに変化し、熱気が漂ってさえいる。はぁ! だの、たぁ! だのと、時折聞こえる掛け声は静けさを切り裂き、
むしろうるさいくらいだ。
 覗き窓から中を覗き込むと、揺れる青い髪が最初に目に入る。フットワークも軽やかに拳を打ち下ろし、
腰を捻って足を蹴り上げるスバルがそこにいた。

「スバル、もうすぐ時間だよ」

 声を掛けると、激しく動く身体が、頭の高さまで足を蹴り上げた状態で静止する。
汗を散らしながら振り向いた表情は清々しく溌剌として、昨日の朝見たスバルとはまるで別人。いや、なのはの知る本来のスバルの顔だった。
 
「あ、なのはさん!」
「元気そうだね、スバル……何やってたの?」
「トレーニングと、それからシューティングアーツを基礎から復習してました。一人でできることってこれくらいですし。
無駄にした三十八時間を少しでも取り戻そうと思って」

 三十八時間ということは、もしやこの型を昼からずっと続けていたというのか。休憩を挟んだとしても、かなりの長時間。
全くもって恐ろしい体力だと感心する。同時に、自分の心配は杞憂だったかと胸を撫で下ろした。
 
「ふふっ、ここだと随分窮屈そうだね」

 彼女が明るさを取り戻したことが嬉しくて、なのはは小さく笑った。しかし、これから話すことは、和やかな雰囲気ではできない。
 なのはが真面目な顔を作り直すと、スバルも足を下ろして身を正す。ドアを挟んで、二人が向かい合った。

「今が二十一時五十五分だから、もう少ししたら出ていいよ。でもその前に……昨日の話の答えを聞かせて」



「はい、あれからいっぱい考えました。シグナム副隊長、ヴィータ副隊長、フェイトさん、キャロ……色んな話を聞いて、
色んな想いがあるって知りました。なのはさん、あたし……やっぱりティアを諦めたくありません」

 スバルはまず、結論から話した。なのはの表情が僅かに険しくなる。だからといって臆することは何一つない、怯まず、正面から視線を受け止めた。

「それが、仲間や民間人を危険に晒すとしても?」
「……あたしはこれまで、融合体が元は人であるってことを、あんまり考えてきませんでした。分かってて考えないようにしてました。
融合体の被害者や周りの気持ちも、こんな風に直接受け止めたのは初めてです」

 シグナムの言う業、自分達の仕事の重み。フェイトの言う、傷つけられた者の痛みや苦しみ。目を背け続けてきた現実を突きつけられた。
苦しんで、狼狽して、醜態を晒して、受け入れたつもりだ。

「傷つけられるのは怖い。でも、独りになるのも同じくらい怖いし、誰かに追い立てられるのも、やっぱり怖い。
あたしは、そんな誰かを助けたいから入隊したんです」
 
 たったあれだけの時間でも、何もできず独りきりになる苦しさは、嫌というほど味わった。だからこそ過去の贖罪や償いではなく、
今この瞬間も苦しんでいるであろうティアナを、見捨ててはおけなかった。

631BLASSREITER LYRICAL  ◆ySV3bQLdI.:2010/04/03(土) 12:01:13 ID:4jqWt0lw

「ちゃんと分かってる? 自分より確実に強い相手が殺す気で向かってきて、それを殺さずに制する。
その上で自分も他人も守るっていうのが、どれだけ難しいのか」
「それは……」

 すぐに答えられなかった。何故なら、そんなことは不可能だからだ。そんなものは最強と同義である。
 それが一人ならば。
 恥知らずな行為だとしても、助けを求めなければ実現はできない。スバルは軽く言い淀んでから、
その先を口にする。

「分かってます。だから望めるなら、みんなに力を貸してほしい」
「ティアナを止める為に、誰かが犠牲になるかもしれない。スバル一人の我が儘に、みんなを巻き込むつもり?」
「誰かがティアを斃そうとしても、あたしは止めろなんて言えません。エリオもキャロもみんな大事です。
あたしは……エリオもキャロもなのはさんにも、みんなに死んでほしくない。でもティアだって死んでほしくないんです」

 どんな姿になってもティアナは友達であり、仲間。これが偽らざる本音。ヴィータの言った、ありったけの気持ち。

「だから、あたしが真っ先にティアに辿り着きます。戦うことになっても、なのはさんやヴァータ副隊長に教わったやり方で、
ギリギリまで話したいんです。あたしが先頭に立って、命懸けでティアを止めて見せます。ティアに人を殺させません」
「命懸けなんて軽々しく言わないで。それに、命を懸けるなんて最前提の条件だよ。私達は、
これまでだって命懸けだったんだから。スバル……もしかして、まだ"自分が悪い"って引きずってるんじゃないよね? 
もし自己犠牲や罪の意識で、ティアナや誰かを救うなんて思ってるなら、そんなこと絶対認めないよ」
「あたしも死にません、絶対に死ねませんから」

 なのは達を守るなんて、自惚れにもほどがある。だが、自分も含めた六課の人間を一人でも殺せば、
彼女はもう人に戻れないと思った。だから、何としても止めて見せる。命を賭してでも。

「もう、自己満足を優先したりなんかしません。あたしの罪悪感なんて、いくらでも積もればいいんです」

 きっとそれも自己満足なのだろう。そんなことは百も承知だった。どんな綺麗事で飾っても結局は、
"親友だから助けたい"、この気持ちを否定できはしないのだから。
 なのはは何も言わない。黙して目で続きを促した。

「本当のティアの望みを見極めたい。融合体になった人を何人も殺しておいて、ティアの力になりたい、本当の願いを聞きたい。
そんな我が儘言うんだから、恨みでも罪悪でも……泥だって何だって被るつもりです」

 嗚呼、駄目だ。
 考えれば考えるほどに、自分の言っていることは穴だらけだ。
 戦場において、死なない、殺さない、仲間もそうでない人間も守る。
 あれほど強く固めた決意は、口にしただけで酷く薄っぺらいものに感じられた。
 だから、言葉を尽くすのはこれで最後にしよう。

「傲慢だね。それに偽善」

 数時間悔やんで悩んで出した決意は、たった一言で切り捨てられた。なのはは変わらず、冷たく鋭い矢のような視線を向けてくる。
 スバルは何も言わない。ただ真っ直ぐに、瞳でなのはに答えを返した。

632BLASSREITER LYRICAL  ◆ySV3bQLdI.:2010/04/03(土) 12:03:09 ID:4jqWt0lw



 なのはは黙してスバルの答えを待った。しかし、数十秒待っても続きは語られない。その目で力強い視線をぶつけてくるだけ。

「それが答えってことか……」

――ティアナを殺せるのか否か。

 スバルは沈黙を以て答えとした。元々正解のある問いではない。だが、沈黙は正解に近い答えだった。
 決意を言い淀むのは困る。しかし堂々否定するようでは、正しく理解しているのか疑わしい。
 今はどうあれ、ティアナは凶暴化する可能性を秘めている。それはゲルトの例を見るまでもなく明らか。
彼女が凶暴化しても助けたいということは、自分だけでなく、仲間や無関係な民間人の危険を意味する。
 この沈黙の意味は否定。が、局員として、口にすることが許されないのは自覚しているのだろう。些かずるい方法ではあるが。
 もしも他の誰の犠牲も厭わず、ティアナが大事だと公言するなら、スバルは隊を辞めて一人で追うべきだ。
もしも彼女がそう言っていたら、自分はどうしただろうか。
 だが、スバルがここをティアナとヴァイスの帰る場所だと思うなら。それを、二人も本心では望んでいると考えるなら。
 スバルはここで、スターズ03の役割を果たさなければならない。スターズ04の席を確保しておく為に、たとえ石にかじりついてでも。
 それすらも、一縷の望みに賭ける為の前提条件に過ぎない。
 戻ったところで、ティアナが復帰できる可能性はゼロに等しい。それこそ、地上も本局も含めた管理局すべてが
ひっくり返りでもしない限り。
 XATや地上本部にどう対応するかなど、問題は山積している。その上で、戦うとスバルは言った。
それは言うなれば命を"懸ける"というより、命を"賭ける"行為。
 賭け金すらままならず。
 この上なく分の悪い賭けの為に。
 果てしなく険しい綱渡りをする。
 つまりはそういうことだ。代価も支払わず、身の丈に余る望みを口にするなら、とどのつまり命を賭けるしかない。
命を天秤に掛けざるを得ない状況で、どちらも取るということは、どちらの重さも背負うこと。その重さは、彼女が背負っていた十字架の比ではない。
 それだけの無茶をするのに、死ぬわけにはいかないなどと、矛盾もいいところだ。そんなものは、自分が最も嫌う類の行為。
 だが、叱る気にはなれなかった。叱っても変えられないという確信があったから。誰の助力が得られなくても、スバルは一人でも実行する。
 いつぞや彼女らの無茶を叱ったが、きっとスバルは、今こそが無茶の使い時だと考えているに違いない。
いっそ、どちらかを選んでしまえば楽になるだろうに。
 なのはは深々と溜息を吐いた。まったく、この頑固さには根負けしそうになる。

「うん、合格」

 なのはがにっこり笑うと、スバルは目を瞬かせ、ぽかんと口を開けた。
もとより覚悟を聞いたまで。彼女の本気を確かめられれば、それでよかった。彼女が本気で険しい道を行くと言うなら、それもいい。

633BLASSREITER LYRICAL  ◆ySV3bQLdI.:2010/04/03(土) 12:06:02 ID:4jqWt0lw
 いざと言う時、気持ちを固めておかなければ、迷いが生まれてしまう。それを危惧してのことだった。
 緊張の糸が切れたスバルは、胸を押さえて大きく息を吐き出す。呼吸すら止めて緊張していたらしい。

「スバル、大丈夫?」
「なのはさん……あたし、もしヴァイス陸曹がティアを支えてなければ、たぶんマッハキャリバーと一緒に逃げてました。
罪悪感に囚われて、ティアのところに行こうとしてたかも……。でも、それじゃ駄目なんですよね……」

 それでは、間に立つ人間が一人増えただけ。ティアナの孤独を癒すことはできるかもしれないが、
一時の感情に任せて突っ走って、本当に彼女の望みを叶えられるとは思えない。
 あの模擬戦の時とは違う。スバルがそこまで理解しているなら、本当にやり遂げられるかもしれない。

「あたしは、ここで出来ることをしなくちゃ……ティアが戻りたいと望んだ時、こっちから引っ張れるように」

 スバルは誰に言われるまでもなく道を選び取った。むしろ迷っていたのは、弱かったのは自分の方。
今の今まで彼女を見くびっていた。

「ごめんね、スバル……私は自分で信じようって決めたのに、まだスバルを信頼できてなかった……」

 無鉄砲で、頑固で、真っすぐで。心と力を尽くしてぶつかれば、壊せない壁も、切り開けない道もないと信じている。
 幼い頃は確かに持っていた、がむしゃらな気持ち。最近は忘れかけていたそれを、スバルは思い出させてくれた。

「私だってスバルみたいに、自分の気持ちに真っすぐに走ってた。諦めるなんてできなくて、必死に足掻いて、押し通してきた。
変ったことを間違ってるとは思わないし、後悔もしてない。けど……」
「私……なのはさんの根っこは、いつだって変わってないと思います。あたしの命を助けてくれたのは、
あたしに諦めないことを教えてくれたのは、なのはさんですから」
「うん。だから分かるよ。スバルの気持ちは本物だって。そんなところも、私と同じだから……」

 なのははロックを外して、独房のドアを開く。そこには、立ち上がったスバルが気をつけの姿勢で立っている。
今ようやくドア越しでなく、ありのままのスバルと向き合えた気がした。

「私の考えは変わらないよ。あくまで、状況次第ではティアナとヴァイス君を討つ。でも……」

 スバルにそれだけの覚悟があるなら、乗っかる意味はある。独りでは背負えなくても、二人なら背負えるかもしれない。
二人なら、生まれる力は倍以上。
 ティアナとヴァイスだって、必ずしもゲルトのように暴走するとは限らない。まだ、希望は残っている。

「民間人の安全が最優先。指揮には絶対に従うこと。それが守れるなら、私の責任の範囲内でスバルの行動を認める。
はやてちゃん、フェイトちゃん、副隊長二人にも分かってもらう。それと……」

 なのはは、ドアの外からスバルに手を差し出す。これは単なる解放ではない。闇に張られた一本綱への第一歩。
待ち受けるのは最悪、ティアナとの戦い。

「他のみんなが何て言っても、私はギリギリまでスバルの我が儘に付き合ってあげる。命懸けでね」
「はい!!」

 スバルは迷わずなのはの手を握った。なのはも、スバルの手を固く握り返す。
 外に待ち受ける困難のすべてを承知の上で、スバルは胸を張り、顔を上げる。そして大きく一歩を踏み出した。

予告

 蠢く悪夢。力なき者の嘆きは怨嗟に塗れ、街を濁らせる。彼らは人であるが故に弱く、人であるが故に醜い。

第5話
迷える者たち

 ならば人を捨て、他者を喰らえる強さとは美しさなのか。

634BLASSREITER LYRICAL  ◆ySV3bQLdI.:2010/04/03(土) 12:08:24 ID:4jqWt0lw

おまけ:悪魔講座

・バルバトス

 ヴァイス・グランセニックのブラスレイターが象徴する悪魔。
 ソロモン72柱の序列第八位。30個軍団を率いる、地獄の公爵、或いは伯爵。
 太陽が射手座の位置にある時、四人の王を従えて、銃を持った射手や狩人の姿で現れる。弓の名手であるとも。
 友人同士の争いを力ずくで調停、友情を修復させる能力を有する。過去、未来に通じ、財宝の位置を知らせ、
動物の言葉を理解させる能力も持っている。
 
ヴァイス・ブラスレイター
 銃を持つ狩人の姿、友人の争いを力ずくで調停という点から。
 本作オリジナル。緑ベースの迷彩柄で目が三つ。アルビンブラスレイターを塗装して、目を一つから三つに増やせば出来上がり。
アルビン同様、ブラスレイターとしての固有武装はなく、武器はストームレイダーのみ。
 ティアナのブラスレイターは、黒と白、人(魔導師)と融合体を上下にはっきり分けた容姿、紋章の刻まれた右手と、
クロスミラージュを握った左手(2話)という風に、境界線がはっきりしているのに対し、ヴァイスはまだら模様。
境界がなく混在している。これらの特徴はストーリー上においても同様。

・フェニックス
 ゲルト・フレンツェンのブラスレイターが象徴する悪魔。
 ソロモン72柱の序列第三十七位。20個軍団を率いる地獄の侯爵。燃え盛る鳥の姿で現れるが、人間の姿も取れる。
 召喚者に科学の知識を授ける能力。詩歌に通じており、子供のように優しい声で歌い、話す言葉が自然と詩となる。
 元はエジプトの霊鳥とも伝えられ、死と再生を繰り返し、自らの身体を炎で焼いて復活する。
 中国の鳳凰と混同されることも多いが別物。

ゲルト・ブラスレイター
 主な武器は両肩に付いた小型の鎌のような刃。これはブーメランや鎖鎌のようにも使え、肩に付いている時は小さな翼にも見える。
その他、ゲルトは両足の先からも光の刃を伸ばしており、両手と合わせて、四肢のすべてからの攻撃が可能。
 ゲルトの所属するチーム名も『Phoenix』であり、半身不随の負傷から華々しく復活した様も、フェニックスの再生を表している。

参考文献:図解天使悪魔辞典(幻冬舎)、他

635BLASSREITER LYRICAL  ◆ySV3bQLdI.:2010/04/03(土) 12:14:40 ID:4jqWt0lw
以上です。
一応、なんと言うんでしょう、相似?を意識して書いてるつもりですが、気が向いたら、そんな感じで読んでみて下さい。
群像劇のつもりなのですが、出てないキャラも多いですので、次回は今回書けなかった
エリオ、キャロ、六課脇役陣、XATの面々、ディードとスカリエッティ組、ゼスト、ザーギン様の話も交えつつ書いていこうかと思います。



以上どなたかできましたらお願いします。無理でしたら規制解除後、自分で投下してもいいんでしょうか?
それとも、ここに投下すれば本スレに投下し直す必要はないんでしょうか?

636魔法少女リリカル名無し:2010/04/05(月) 11:30:00 ID:wn4p7eAI


637魔法少女リリカル名無し:2010/04/05(月) 13:17:49 ID:oLGXH0.Q
規制が終わらん…

638魔法少女リリカル名無し:2010/04/06(火) 22:53:44 ID:4vYdB8iA
ミッドチルダ=復興したダストワールドという電波が、
だから超戦士が最初に現れた廃棄都市区画が無くならない。

639魔法少女リリカル名無し:2010/04/07(水) 12:31:12 ID:caDpFfII
俺はヴィヴィオ誘拐兼襲撃の時、糖衣嬢が居たらとか思う
火があんだけ出てれば時間切れで戻ってもすぐに極導糖衣嬢に復活できるし
何気にチートキャラだから逆転勝ちも夢じゃねえ

640魔法少女リリカル名無し:2010/04/07(水) 15:50:53 ID:IqMCWBVw
>>638、639
ここは代理投下依頼スレ。木枯らしででもやれば?

641639:2010/04/07(水) 19:36:15 ID:Ql6arlbw
スイマセン

642魔法少女リリカル名無し:2010/04/08(木) 19:16:43 ID:gUxaHLf6
てか、なにこのえろいツイッター
ttp://twurl.nl/u187ev

643638:2010/04/09(金) 01:20:22 ID:GnC75WqE
遅ればせながらすいません、お目汚し失礼しました。

644魔法少女リリカル名無し:2010/04/09(金) 18:15:49 ID:X1pkEey2
>>635
一応代理投下しておきました。ご確認お願いします。

645魔法少女リリカル名無し:2010/04/10(土) 15:35:18 ID:E.UYb5F2
>>644
確認しました。ありがとうございました。

646高天 ◆7wkkytADNk:2010/04/11(日) 21:37:25 ID:TyXyqWZY
こんばんわです、凄くお久し振りです。
規制のため、どなたかラクロアの代理投下をお願いいたします。

647高天 ◆7wkkytADNk:2010/04/11(日) 21:38:30 ID:TyXyqWZY
魔法少女リリカルなのはStrikers 外伝 光の騎士 第五話


すずかがガンダムを押し倒し、抱きついてから数分後、彼の温もりを感じながらも徐々に何時もの冷静さを取り戻す。
そして何時もの冷静さを完璧に取り戻したすずかは、今の『ガンダムを抱きしめ押し倒し、至近距離から彼の表情を見つめている』という状態を
冷静に受け入れる事が出来た。その結果、今まで全身を満たしていた嬉しさが一気に恥ずかしさに変る。
「ごっ・・ごごごごめんさい!?!?!!」
飛び跳ねるようにガンダムから離れ、回らない口で謝罪をする。
いくらなんでもあの行動は大胆すぎた、嬉しいからといっていきなり抱きつき、押し倒すなど『女性』が『男性』にやっていい行為では・・・・
「(・・・あれ?私、ガンダムさんを・・・・)」
「・・・?すずか、どうしたんだい?」
謝罪した後、突如考え込むように大人しくなったすずがにガンダムは心配そうに尋ねる。
その彼の気遣い・・・否、声にすずかは雷に撃たれたかのように体をびくつかせながら反応し、再び回らない口で何でもない事を伝え、自身の健全さをアピールした。
「・・・・・そうかい?だけどビックリさせてすまない、突然現われてしまって、てっきりはやてから話を聞いているものだと」
「ううん、確かにびっくりはしたけど、それ以上にまたガンダムさんに会えてよかった・・・・・信じていたから・・・必ず帰ってくるって。
さて、立ち話も何だしお茶でも飲も。そろそろイレインとファリンも帰ってくる頃だから、二人ともビックリするよ」

中庭の日当たりの良い所に備え付けてあるテーブルと椅子、時間帯的に暖かな日差が照らすその場所で、ガンダムとすずかは午後のお茶を楽しんでいた。
二人とも話すことは沢山あった、それこそ時間を忘れ、出された紅茶に手をつけることも忘れる程に。
そうして、互いに最低限話しておきたかった事を話した後、二人はようやく出されたお茶に口をつけた。
「そうか・・・・・忍殿は恭也殿とご結婚し、今は異国で生活を」
「うん、ノエルも一緒にね。お姉ちゃん達にも後で連絡入れなきゃ、きっと喜ぶよ・・・・だけど私達にとっては十年、
ガンダムさんにとっては二年か・・・ふふっ、大きくなっていて驚いたでしょ?」
「うん、最初に会ったのはスバル達だけど、皆大きくなっていて驚いたよ。すずか、君も立派な女性になった、最初に見た時は見惚れてしまったよ」

世辞などが一切感じられない純粋な言葉に、すずかは恥ずかしく感じながらも微笑み、嬉しさを隠す事無く表す。
だがやはり恥ずかしかったのだろう。俯き、視線をカップに満たされている紅茶に向けた。
そんな行動を可愛いと思いながらも、再び自分の紅茶に口をつけようとしたその時、背中から人の気配を感じた。
本来なら警戒などをするのだが、此処が平和な場所であること、そして殺気を放たず、気配を消すなどの行為を一切行っていない事から、
ガンダムは特に身構える事無く、ゆっくりをカップを置き後ろを向いた。

彼の目に入ったのは両腕に買い物袋を抱え、自分の姿に驚く月村家のメイド『ファリン』の姿
彼女はガンダムの姿を見た途端、目を見開き買い物袋を落とす。その表情は目の前の現実が信じられないとい言いたげな表情
だがその表情も直ぐに心から湧き出る嬉しさを表す笑みとなり、体も自然とガンダム目指して駆け出していた。
「ガンダム様!!ガンダム様!!!お帰りなさい!!」
スバルやすずかの様に抱きついてきたファリンをガンダムは優しく受け止め、そしてゆっくりと抱きしめる。
「だたいま、ファリン、遅くなってしまったね」
「・・・いいんですよ!無事に帰ってきてくれただけで私達は十分です・・・でも、本当に良かった」
すずかの時の様に優しく背中を叩き、彼女の高ぶっている感情を落ち着かせる。
そしてある程度落ち着いた所でゆっくりを体を離し、正面から彼女を見据え笑顔を向けた。

648高天 ◆7wkkytADNk:2010/04/11(日) 21:41:05 ID:TyXyqWZY
涙で濡れた顔でその笑顔に答えたくは無かったのだろう、両腕であふれ出る涙を拭った後で、満面の笑みでその笑顔に答える・・・・その直後

                       「XXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXX!!!!」

響き渡る様に聞こえる何かの声。遠くから聞こえるため、聞き取る事が出来なかったが、何処から聞こえてくるのかは分かった、自分から見て正面からだ。
自然とファリンの瞳から目を離し、彼女の後ろへと瞳を向ける。
ガンダムが目にしたのは誰かが叫び声をあげながら自分目掛けて走ってくる姿、そして突如、速度をそのまま維持した状態でジャンプ、両足を突き出した状態で猛スピードで迫り来る。
突然の行動に驚きながらも、ガンダムは目の前にいるファリンを優しく横へと押しのけると同時に、迫り来るメイドの名を呼んだ。
始めて会った時は敵同士だった、だが今では月村家のメイドであると同時に家族の一人である少女を
「イレイ(この・・・・・馬鹿ぁ!!!!!」
ガンダムの声はイレインの怒声によりかき消される。
そして返事の変わりにイレインの強烈な蹴りがガンダムに襲い掛かった。

「・・・・・・・イレイン、いきなり何をするの?、いくらなんでも酷すぎるよ」
「・・・ごめん・・・」
「そうですよ、いくら口より手が先に出たり、猪突猛進だったり、何時まで経っても猫に好かれなかったりする貴方でも、その行動は酷すぎますよ」
「・・・ファリン、後でおぼえてろ」

ガンダムの帰りを待っている人達、その全ての人達は少なからず彼の遅い帰還、そして安否の心配などの理由から多少なりと『怒り』を感じていた。
だが、その殆どが彼が無事帰還したことへの喜び、そして彼に起こった時間差の事情などの理由から、その感情を彼にぶつけるという事にはならなかった、イレインを覗いては。
十年という歳月、そしてその間に自分や仲間、主であるすずかを心配させた事への怒りが自然と体を動かし、その結果、顔を見た瞬間彼に強烈な蹴りを放つという暴挙に出る事となった。

「いや、いいんだ。イレインも私を心配してくれた結果、起こした行動だったわけだし。現に皆を心配させたという事実は変わりないよ」
イレインの蹴りを咄嗟のガードで受け止めたガンダムがつかさずフォローを入れる。
だが流石に不意打ちでの攻撃は効いたのか、蹴りを受け流した時に使った左腕を時々摩る。
その光景を横目で見たイレインは、申し訳無さそうに頭を下げ反省をした。
そんなイレインの態度、そしてすずかもファリンも彼女が暴挙に出た気持ちが分かるため、それ以上『ガンダム蹴り飛ばし事件(ファリン命名)』
に関しては追求するのをやめ、再び午後のティータイムを再開することにした。

「その・・・手、大丈夫?凄く思いっきり蹴ったから・・・・」
感情に任せていたとは言え自動人形(しかもイレインは戦闘タイプ)の容赦の無い飛び蹴り、直撃すれば間違いなく只では済まない。
そのため、避けられない(むしろ避けたら月村家の壁に大穴があく)と考えたナイトガンダムは空いている左腕の手甲で受け止めると同時に
力点をずらし受け流すという行動に出た。
それでもダメージを受けた事には変わり無く、手が痺れるという痛手を負ったのだが、ダイレクトに直撃、もしくは月村家破損という被害よりは軽い物だと彼は思っていた。
「心配ないよ、受け流したからダメージは殆ど無い。それにさっきも言ったけどイレイン、君があんな行動に出たのは私が原因だ、むしろ不快な思いをさせてすまない」
「(・・・・まったく・・・・十年前と本当に変らないわね)」
自分より他者を労わる・・・そんな彼の性格は初めて出会ったあの時から変ってはいない。
あの時、ガンダムは無論、月村家の人々すら殺めようとしていた自分を炎の中から助けてくれたあの時と。
そんな変る事のないガンダムに妙な安心感を感じながらも、『ガンダム専用メイド』という役職を全うすべく、彼の空のカップに新たな紅茶を注いだ。
紅茶が満たされた事を確認したあと、お礼をいい口をつけようと瞬間、今度はかすかにだが聞こえる車のエンジン音にガンダムはカップを持ったまま正門の方へと首を向けた。
すると、そのエンジン音は徐々に大きくなりこちらへと近づいてくる、流石に何事かと思ったガンダムはカップを置き、皆に様子を見てくると伝え席を立った。
もしその時、一度でも此処にいる誰かの顔を見たのなら、誰が来るのかを理解できたかもしれない。
皆が、悪戯を成功させた子供の様に笑っているのだから。

649高天 ◆7wkkytADNk:2010/04/11(日) 21:42:05 ID:TyXyqWZY
ガンダムが正門が見える所まで来ると同時に、一台の車が勢いよく正門を通過しガンダムの数メートル前で華麗にドリフト、
砂煙を上げながらも綺麗に停車する。
何事かと思いながらも急停車した赤い車(ちなみに車種は『フェラーリ・カリフォルニア 』お値段数千万は軽いスーパーカー)
に近づこうとしたその時、車のドアが勢いよく開き、乗っていた人物がゆっくりと姿を現した。
歳はおそらくすずかと同じ位だろう、金髪のショートカットにすずかとは正反対な勝気な顔の美しい女性、
彼女は車から降りると直ぐにナイトガンダムをジッと見つめる。そして足音を立てながら早足で近づいてくる。
もし近づいてくる女性が見覚えの無い人物であったのなら、身構えるなり声を掛けるなりするのだが、ガンダムには出来なかった・・・その女性を知っているからだ。
成長した姿に加え、特徴でもあった長い金髪は短くなっていたため、すずか達の様に直ぐに気が付くことが出来なかった。
だが自分を見つめる勝気な表情、心当たりがある人物は一人しかいない。


             『まったく・・・・・とにかく分かったわ、私も帰りを待ってるからね!!』


あの時の彼女の大胆な行動を思い出すと恥ずかしい気持ちでいっぱいになる。
いつも持ち前のリーダーシップを発揮し、同級生である皆を引っ張っていた、そしてお転婆ではあるが皆を気遣い、心から友を大切にしていた少女。
「アリサ・・・アリサ・バニングっ!?」
すずかの時の様に勢いよく抱きついてきたため、名前を最後まで言う事が出来なかった。
突然の行為ではあったが、大人の体になったとは言え、普通の人間であるアリサに押し倒されるような事はなかった。
だが締め付けられる様に抱きしめられているため、多少苦しさを感じる。
「ア・・アリ(馬鹿!!!」
落ち着いてほしいと言おうとしたが、彼女の罵倒がそれを許さない。
更に力強く抱きしめ、大声で叫ぶように言葉を発した。
「馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿!!!!!!この馬鹿ガンダム!!!どれだけ心配したと思ってるのよ!!
向こうで死んじゃったかと思ったじゃないの!もう・・・二度と・・会えない・・・と・・・・・」
言葉が徐々に嗚咽となり、今では只子供の様に泣きじゃくるだけ。何時もの強気な彼女からは想像できない態度。
そんなアリサを落ち着かせようとするが、それより先に『彼女を悲しませてしまった』という罪悪感に襲われる。
今彼女が流している涙、原因は間違いなく自分にある。そんな自分がアリサを慰める資格などあるのだろうか?
否、資格など関係ない、自分が原因なのは間違いないのだ、ならば先ずやることは一つだ。
泣きじゃくるアリサの頭をそっと撫でる。彼女が落ち着くように優しく何回も・・・・
そんなガンダムの思いが通じたのか、アリサの泣き声も徐々に止み、落ち着きを取り戻したかのように静かになった。
「・・・・アリサ、心配を掛けてしまった事、そして遅くなってしまった事、本当にすまなかった・・・・私には謝る事しか出来ない」
「・・・・そうよ、本当に心配したんだからこの馬鹿ガンダム!!・・・でも・・・でも・・・約束は・・・・必ず帰るって約束は
果してくれたから・・・・・特別に許してあげる・・・・だからもう泣くのも愚痴を言うのもこれで御終い!!」
アリサはゆっくりと体を離し、手で多少乱暴に涙を拭く。涙を拭った後に見せるその笑顔は、あの時の面影を残しながらも、美しく、そして女性として成長した姿。
そんな彼女を見ると、皆と出会うたびに感じる自分だけが置いて行かれた様な間隔に襲われる。
だが、既に何度も経験した事、直ぐに頭を切り替える。そしてその笑顔に答えるべく、正面から彼女を見据え微笑んだ。
「・・・お帰りなさい、騎士ガンダム・・・私達の勇者」
「ただいま・・・アリサ・バニングス」


その後、アリサも混ざり再開されたお茶会、皆がすずかとファリンが焼いた焼き菓子と紅茶を堪能しながら話に花を咲かせていた。
途中『皆の成長過程見たくない?』という何気ないアリサの話に、ファリンが即座にすずかのアルバムを持って来た時には
一騒動(恥ずかしいと言いながら身体能力をフル活用しアルバムを取り上げる程度)あったが、ガンダムの『見て見たい』という発言に瞬く間に沈静化、
今ではテーブルの上にすずかの思い出が詰まった写真が多数置かれていた。

650高天 ◆7wkkytADNk:2010/04/11(日) 21:43:14 ID:TyXyqWZY
「え〜っと、これは小学校の卒業式の写真。ふふっ、リンディさんが突然撮ったからフェイトちゃんがビックリしちゃってね」
「これは忍さんの結婚式の写真、ほんと、何時見ても綺麗よね〜」
説明されながら見てくれといわんばかりに次々と渡される写真の数々。
皆が制服で並んでいる写真、花嫁衣装に身を包んだ忍の写真、家族ぐるみで旅行に行った時の写真など。
どれも時間を掛けて見ていたい物ばかり、だが皆が次々と進めてくる写真を断るわけには行かず、後でじっくり見ようと思いながらも、
先ほどまで見ていた写真を丁重に置き、アリサが差し出した写真を受取る。
「これは中学生の時、皆と卒業旅行に行った時の写真ね。でもあの時はビックリしたわよ、出発した時からずっと尾行されてたんだから」
「『尾行されてた?』大丈夫だったのかい!?」
「大丈夫も何も、なのはとフェイトとはやてがいるのよ、あっという間にコテンパンにしたわ。結界って言うのを張って隔離した後に、
バインドっていう拘束魔法で動きを止めて攻撃・・・・だったんだけど」
此処でアリサはなぜか苦笑い。いや、アリサだけではない、すずかもファリンも同じ表情をしており、なぜかイレインだけがムスッとした表情をしていた。
「犯人はイレインと恭也さんと士郎さん、そして我がバニングス家のSPがどっさり、ちなみにシャマルさんのサポート付き・・・・動機は・・・言わなくてもわかるわよね?」
アリサの言う通り、彼らがこのような事をした動機は直ぐにわかった・・・・『ただ心配だった』からだろう。
いくら管理局で有数の魔術師であるなのは達でも、親族からしてみれば成人にも満たないただの少女、しかも旅行先は海外ともなれば
彼らの行動も理解は出来る。
「まったく、最初から私やリンディさんは大丈夫って言ったんだけどね、でもあのメンツを抑えるなんて自動人形の私でも無理だわ・・・・はぁ」
イレインやリンディは尾行に関しては反対派だったようだ。だが管理局の提督、そして戦闘用自動人形ですら、彼らの『娘が心配で仕方が無い』の前には無力だったらしい。

                「ほんまや、心配してくれるのはうれしかったんやけど、あれはやりすぎやって」

イレインの発言に乗るように聞こえる声、全員がその声が聞こえる方向、ガンダムが現れた転送ポートのある森へと首を向ける。
否、姿を確認せずとも月村家の転送ポートを使える事、そして声は無論、柔らかな関西弁での喋り方をする人物は一人しかいない。
「はやてちゃん!!」
「はやて、それにシグナムさん達も!!」
すずかとアリサは席を立ち、森の中から出てきたはやて達へと駆け寄った。
連絡は取り合っていても、こうして再開するのは本当に久し振りなのだろう。互いに手をとり、再開の喜びを分かち合う。
「ほんまひさりぶりやなすずかちゃん!アリサちゃん!元気やったか?」
「うん!元気元気!!」
「当然よ!!だけどはやて、随分サプライズな事してくれるじゃない!!」
その意見にはすずかも同意だった。『機動六課から隊員が挨拶に来る』とだけ聞いていたのに、実際来たのは待ち焦がれていたナイトガンダム。
おそらく初めてナイトガンダムと出会った時と同じ位の驚きを、そして今まで生きてきた中でも上位の喜びをはやては与えてくれた。
「ふっふ〜ん、名前を伏せていたのはお茶目な悪戯心や」
「もう、はやてちゃんったら・・・・でもお二人ともますます美人さんに・・・・・あら?この台詞はもうガンダムさんが言っちゃったかしら?」
「「はい!!」」
声を揃えて返事をする二人に、ガンダム以外の全員が笑いを漏らす。当のガンダム本人は何事かと思いながらも楽しそうに笑っている姿に
自然と笑みを浮かべた。


「?そういえばはやて、ザフィーラとリイン姉妹はどうしたの?」
一通り皆と挨拶を済ませたアリサがふと残りのメンバーについて尋ねる。
アリサとしては他のメンバーにも会いたいことは勿論、獣形態のザフィーラの毛並を堪能したいという欲望もあった。
「ああ、リインとザフィーラはなのはちゃんと一緒に行動しとるよ、そんでリインフォースは」
まるでタイミングを見計らったかのように森からゆっくりと人影が姿を現す、銀の髪と赤い瞳を持った少女、見事なプロポーションに誰もが見惚れるほどの容姿、
はやてと同じ制服を着たその少女はガンダムの姿を見た瞬間、走り出し、驚く彼を無視して抱きついた。
「丁度今、到着や」

651高天 ◆7wkkytADNk:2010/04/11(日) 21:44:22 ID:TyXyqWZY
女性に突然抱きつかれる、このような体験を短時間に何回もしたため、冷静に対応するとが出来た。
自分に抱きつく少女、スダ・ドアカ・ワールドに帰る時もこうして自分を抱きしめてくれた事を良く憶えている。
照れや恥ずかしさなどもあったが、それ以上に彼女の暖かさと温もりに心が癒された。
「ガンダム・・・・・・約束を・・・守ってくれたのだな・・・・」
「ああ・・・だけど遅くなってしまった」
「そんな事問題ない!もう一度・・・会えたのだから・・・」
ガンダムを抱きしめている少女は一度体を話し、彼の顔を至近距離から見据える。
あの時はつい見惚れてしまったその容姿、だがあの時とは違い、表情に余裕がある様に見える。
もう闇の書の管制人格などではなく、はやての騎士、そしてはやての家族として生きている証拠だ。
自然と彼女の頬に手を優しく添える、突然の行動に少女は驚きはしたものの、ガンダムを信用しているのだろう、彼の行為に身を任せていた。
「(はやて達と楽しく暮らしているのだな・・・・よかった)良い表情になったね、リインフォース」
「当然だ、優しい皆と暮らしているんだ・・・・出会った頃の面影など・・・・無いだろう?」
「ああ、だけど今の君は暖かさと優しさに溢れている・・・・守護騎士として、そして一人の少女として、大きく成長したね」
褒められたことが嬉しかったのだろう、満面の笑みで答えたリインフォースは再びガンダムを抱きしめた。
その抱擁は再開の喜びを、そして互いの温もりを感じるための行為。
本当ならもう暫くこうしていたい。だがこれ以上は主や皆が見ているまでは流石に恥ずかしさが勝る。
リインフォースは名残遅しうにガンダムから離れる、そして彼を再び見据え、笑顔で遅れてしまった挨拶をした。
「おかえりなさ、騎士ガンダム、私に生きる道を与えてくれた勇者」
「ああ、ただいま・・・・・祝福の風、リインフォース」


再会の喜びを分かち合っている二人を、はやて達は温かな目で見つめていた。
特にはやてからして見れば、家族であるリインフォースの今の表情を見るだけで暖かな気持ちに包まれる。
だが、見ているだけの自分達でもこの気持ちなのだ、当の本人はどれほどの幸福感に包まれているのだろう。
「・・・・ほんと、ガンダムって皆に好かれてるわね」
そんなアリサの呟きに皆が自然と同意する、だがはやてだけはそれだけに留まらなかった。
何気にアリサの顔を見ると多少ムスッとした表情をしている、この表情の意味を彼女はすぐに理解する。
本当なら見て見ぬふりをする、もしくは「ヤキモチかぁ〜アリサちゃん?」と『内心』呟くのが空気を読む行動、
だが『久し振りにアリサをからかいたい』というはやての欲求を止める事ができなかった。
「なんやぁ〜、アリサちゃんジェラシーかぁ〜?まぁファーストキスをあげたガンダムさんが他の女の子ってイタイイタイ!!!ギブ!ギブやぁ!!!」
ニヤニヤしながら早速アリサをからかうはやて。だが、直ぐに報復のヘッドロック(割と本気)が襲い掛かった。
「ぎゃあぁあああ〜!!これが噂のヤンデレかぁ〜!!シグナム〜主がピンチや〜!!」
割と本気で苦しかったため、近くにいるシグナムに助けを求める・・・だが
「自業自得です」
あっさりと断られた。
「ヴィータ〜!!!月村家のメイドのみなさ〜ん!!!」
直ぐに目に付いたヴィータとノエル、イレインに助けを求める・・・だが
「ヴィータちゃん、このクッキーどうですか?」
「めっちゃギガウマ!!隊の連中にも持っていっていいですか?」
「ああ、ファリンとアタシが焼いたんだ、感謝しながら味わいな!」
見事に無視され、三人とも館へと消えていった。
「シャ・・・・シャマル〜!!マイフレンドすずかちゃ〜ん!!」
そろそろヤバイ、かなり本気で焦りだしたはやては、シャマルとすずかに助けを求める・・・だが
「シャマルさん、車使いますよね?今ガレージから出してきますね」
「ありがとうすずかちゃん、あっ、私も一緒にいいかしら?月村家が保有するスーパーカーの数々、是非とも目の保養にしたいわ」
同じく無視され、車庫へと消えていった。

652高天 ◆7wkkytADNk:2010/04/11(日) 21:46:25 ID:TyXyqWZY
こうなったら最後の神頼み、勇者様頼み!!
「リ・・・リイン・・・フォース〜!!ガ・・・・ガンダァアアアアアアアアアアアアアアアムさぁあああああああああああん!!」
どこぞのパイロットの様にガンダムの叫ぶはやて・・・だが
「あの・・・リインフォース、そろそろ離れてくれないか?」
「・・・・もう暫く温もりを感じさせてくれ・・・・・・お前は・・・・迷惑か」
「いや、こう・・・女性に抱きしめられていると流石に恥ずかしい・・・・君は恥ずかしくないのか?」
「最初はそう思ったがな・・・・・嬉しさの方が勝った・・・・だから問題ない」
無視された上に、未だに抱きしめあっていた。

誰も助けてくれない、その事実にはやては項垂れる、今度からからかう時は『多少』空気を読もう、そう心に誓った。
そして、自業自得とはいえ、助けてくれなかった皆に向かって、恨みの思いを大声で叫んだ。
「は・・・はくじょうものぉおおおおおおおおお!!!!!!!!!!・・・・ぐえ」


その後、先に現地に着いたなのは達と合流するため、シグナムとアリサの運転の元、イレインとファリン以外のメンバーは移動を開始、
最初までは一緒だったが、途中はやて達は既に着ているなのは達と合流するため、すずかとアリサは食料などの買出しを行うために分かれることとなった。
ガンダムも何が手伝える事は無いかとはやて達に尋ねたが、現状では只の捜索作業のため大丈夫と言われた事
そしてガンダム自身『検索魔法』などの補助魔法が使えない事から、大人しくはやての行為に甘える事にした
今はアリサが運転するスーパーカーの後部座席できっちりシートベルトをしながら彼女の運転に身を任せていた。
「やっぱり、なのは達は今は地球には住んでいないのかい?」
「うん、管理局のお仕事や訓練を本格的にするために、中学校を卒業したら3人ともミッドチルダへ、はやてちゃんの家も今はミッドチルダにあるんだよ」
「だけど管理局の仕事や住んでいる世界が違うってなると、会う事も中々出来なくてね、特に皆が揃うってなると更に確立が低くなっちゃう。
まぁ電話やメールはほぼ毎日しているし、私達もリンディさん達の計らいでミッドチルダに行く事もあるから寂しくは無いわ」
「そうか・・・時が経っても皆の友情に揺らぎは無いんだね」
時が経過し、住む場所も進むべき道も違っているにも拘らず、彼女達の友情には一切の曇りも無い。
その事にガンダムは自分の事の様に嬉しい気持ちになる。
「当然よ!!・・・・そういえばガンダム、やっぱり・・・・暫くはミッドチルダにいるんでしょ?」
何気ないアリサの問いに助手席に乗っていたすずかは驚くが、直ぐにその意味を理解し、俯いてしまう。
彼女達もなのは達より次元世界や管理局のルールに関する知識が無いとは言え分かっている事はある、『異世界人のガンダムが地球に住めるのか』という事だ。
一応海鳴市ではガンダムは月村忍が作ったロボットという事で認知されているが(当時の忍曰く『海鳴市じゃそんなの日常茶飯事だぜ!!』)
次元世界の秩序を守る管理局がそれを許すとは思えないからだ。
だが、それでも問題なく地球に住めた人物はいた、フェイトとはやて(正確にはヴォルケンリッター)である。
フェイトは経緯が複雑ではあったが出身世界がミッドチルダであった事、そして管理局で働くという理由から問題は無かった。
ヴォルケンリッターに関しては、彼らの主であるはやてが地球出身であった事、早期にミッドチルダに移住する事を決めていた事、そしてフェイトと同じく管理局で働くという理由から問題は無かった。
(はやて本人の耳には入っていなかったが、審査官の中にヴォルケンリッターを人ではなくストレージデバイスの様な『主の命令を聞く只の道具』としてしか見てない人物もいた結果、
地球での移住が思ったよりもスムーズに出来たという裏事情もあった)

だが、ガンダムは現状では完璧な異邦人、はやてやフェイトの様に簡単にいくとは思えない。下手をすれば向こうの施設で生活という結果もありえるかもしれない。
そう思うといても立ってもいられない、だがガンダムから帰ってきた答えは彼女達の不安を打ち消す物であった。

653高天 ◆7wkkytADNk:2010/04/11(日) 21:48:33 ID:TyXyqWZY
「うん、アリサの言うとおりだよ。手続きなどで長くても1ヶ月程度ってはやてが言っていた。それでも海鳴市で私が『ロボット』であることが認知されている事、
そしてリンディ殿やクロノ、グレアム殿(管理局を退職はしてはいるが発言力や独自のパイプは未だ健在)の推薦などで本来の予定よりも早いらしいよ。でもそれまでは極力地球に来る事は禁止らしい、だから暫くは機動六課でお世話になる事になったんだ」
「そっか、はやて達の所でね。それなら安心ね、変な施設で実験なんか洒落にならないし」
「それにはやてちゃん達の所なら私達のほうから行く事ができるし、いつでも会えるね・・・・・よかった」
約一ヶ月の間は満足に会うことが出来ない事に不満はあるが、待った十年間に比べればあっという間に過ぎてしまう時間だ。
それにその間会えないわけではないのだ、そう考えると先ほどまで二人が感じていた不安が一気に抜けていった。
「よし、今日の晩御飯はなのはの生徒達の歓迎会、そしてガンダム帰還パーティーも含めて、量、質、共に奮発しましょ!!」
「賛成!皆お腹すいているだろうから準備して待ってよ。あっ、でもスバルちゃんは勿論、皆沢山食べそうだったから用意していた材料じゃ足りないかもしれないね」
「そうと決まれば先ずは買出しね!!ガンダム!好きなもの食べさせてあげるから荷物もち、お願いね!」
「畏まりました、お嬢様」
恭しく頭を垂れるガンダムに車内は笑いに包まれる。
なのは達同様、時が経ってもこの三人の関係には一切の曇りは無かった。


買出しを終えて宿泊所であるコテージについた三人、だが既に一台の車が止まっていた。
車種やナンバーで直ぐにすずかが貸したワンボックスカーだということが分かる。なら今いるのはその車を借りたはやて達だろう。
「おっ、はやて達に先を越されたか〜?まぁギガウマ料理人の助けが借りられるから一番乗りをしたことは許してやろう!」
腕を組み、胸を張りながら威張るアリサをよそに、ガンダムとすずかは買って来た大量の晩御飯の材料をコテージへと持っていく。
そんな二人に無視された事に不満げは表情をするが、流石に二人だけに荷物持ちをさせるわけにはいかないと思ったのだろう、
表情は以前ムスッとしたままだが、車に残っている買い物袋を持ち、二人の後を追った。

「はやてぇ〜!!いるんなら開けて〜、皆両腕塞がってるから〜!!」
3人とも両腕が塞がっているため、ドアを開けることが出来ない。そこでアリサは中にいるであろうはやてにドアを開けてもらうために大声で彼女の名を呼ぶ。
すると「ちょっとまってぇ〜」の声と共に扉が開き、はやて、ヴィータ、シャマルが現われた。
「うわぁ〜仰山買い込んだなぁ〜!、シャマル、ヴィータ、持ってあげて」
アリサ達が買って来た量に目を丸くしながらも、直ぐに荷物を受取るようにシャマルとヴィータに指示を出し、自身もすずかから重そうな袋を受取る。
「うわ、重!?随分こうてきたなぁ〜って、どう見てもお値段がトンデモな肉やら魚介類があるんやけど・・・・一人いくら出せばええ?」
「何ケチ臭い事言ってるの、皆の歓迎会にガンダム帰還パーティーもやるからね、これでもマイルドな方よ。
まぁはやてには調理担当としてこき使いまくってあげるから覚悟しておいてね」
「ふっふっふ〜望む所や!これだけの食材を調理できるなんて料理人としては魂揺さぶられるわ!」
「ガンダム、楽しみにしとけよ〜!はやての料理はギガウマだからな、感動して泣いても良い様にハンカチ用意しておけ〜!」
今持ってる袋から見える材料から、作られる様々な料理の想像しているのだろう。ヴィータは重い買い物袋を軽々と持つと、
楽しそうに鼻歌を歌いながらコテージのキッチンへと向かった。
「さて、それじゃあ下準備にとりかかりましょうか、荷物はこれで全部かしら?」
「あっ、助手席のグローブボックスの中に調味料がまだあったわ、一応ビン物だから別にしておいたのが仇になったわね」
「それなら私が取ってくるよ、グローブボックスというのは助手席の正面にある引き出しの様な所だよね?」
念のためにグローブボックスの場所を聞いたガンダムは、アリサから車のカギを受取り外へと出た。

調味料の回収をガンダムに任せたアリサ達はキッチンへと向かい、買い物袋から次々と材料を取り出す。
そして機動六課部隊長にして現総料理長八神はやての元、早速料理の下拵えが開始された。

654高天 ◆7wkkytADNk:2010/04/11(日) 21:49:57 ID:TyXyqWZY
「そういえばはやて、先に到着したのってはやて達だけ?・・・・シャマルさん、玉ネギお願いします」
「ああ、あとフェイトちゃんも来とるよ。時間があったから周囲を散歩してる筈や・・・・シャマル、下味はええから次は人参や」
「フェイトちゃん、直接会うのは本当に久し振りだよ、今から楽しみだな・・・・・シャマルさん、生地作りは任せてください、次はキャベツをお願いします」
「もしかしたら今外にいるガンダムとばったり再開してるかも・・・・シャマル、混ぜるのはいい、次はピーマンな」
「フェイトちゃんもガンダムさんに会うのは十年ぶりですから、嬉しいでしょうね・・・・・だけど何で私は野菜を切る作業だけなの?」

                      「「「「・・・・・・・・・・・」」」」

その頃、ガンダムは四苦八苦をしながらも、どうにかグローブボックスの開閉に成功した所だった。
「まさか取ってを押した状態で引かなければ開かないとは・・・・・見事に騙されたな」
グローブボックスのあけ方に心から感心しながらも、皆が待っているコテージへと早足で戻ろうとする、その時

                 「ガン・・・ダム」

ふと後ろから名を呼ばれたため、無意識に振り返った。
其処に立っていたのははやてと同じ管理局の征服を来た長い金髪の女性、瞳に涙を浮かべながら自分をジッと見つめている。
やはり十年という歳月は人を大きく成長させてしまう。目の前にいる女性も十年前までは幼い少女だった。
少しすずかに似て引っ込み思案な所があったが、常に強い意志と揺ぎ無い勇気、そして強い心を持っていた少女。
ハラオウン家の容姿となり、新しい家族と共に幸せな時を過ごしているのだろう、そうでなければあのような美しい表情など出来る筈が無い。
彼女には話すことがある、もう一つの家族のことを・・・だが、今は素直に再開を喜ぼう。
「フェイト・・・・・久し振りだね」
その言葉がスイッチとなったかの様にフェイトは走り、ガンダムに抱きついた。
「ガンダム・・・・・・連絡は聞いていたけど・・・本当に・・・本当に帰って来たんだね・・・・」
「ああ・・・遅くなってすまなかった」
「ううん、貴方が無事なだけで十分だよ・・・・・ほんとうに・・無事で・・・良かった・・・・・」
ゆっくりと体を離したフェイトは瞳を濡らしている涙を拭いながら満面の笑みでガンダムを見つめる。
その笑顔を見た瞬間思い出すあの少女の顔、やはり姉妹、微笑み方も良く似ていた。
「ただいま・・・フェイト・T・ハラオウン。大きく、そして美しく成長したね」
「貴方に言われると照れるけど、とても嬉しい・・・・・・お帰りなさい、騎士ガンダム、貴方の帰還を心から待ち焦がれていました」


その後、間をおかずに残りのメンバーも合流、そしてアルフ、エイミィ、美由希も飛び入り参加に近い状態で参加することなった。
特にアルフとエイミィは皆の挨拶もそこそこにガンダムの所へと向かった。
「ガンダム君おかえりなさい!!ほんと、無事でよかったよ」
「はい、エイミィ殿もお変わりなく・・・それと、ご結婚、おめでとうございます」
「あはは〜、流石に耳に入ってたかぁ〜、ありがとう。今では二児の母でクロノ君の奥さんですよ〜」
「母になったのですね・・・・十年前と比べると親としての強さ、そして暖かさを感じます・・・美しく、そしてお強くなられましたね」
「やだなぁ〜もう、ガンダム君に褒められると照れくさくって叶わないよ。あっ、主人にも連絡は行ってると思うから会ってあげてね、何か魔法でも使ったんじゃないかって位成長してるから」

「そうだぞぉ〜!くろのったらかいぞうしたみたいにおおきくなってるからびっくりするなよ〜」
飛びつく様に抱きついてきた少女にガンダムが驚きながらも、誰なのか顔を見るため優しく体を離す。
年齢からすればおそらく十年前のなのは達と同じ位だろう、だが犬の様な尻尾に耳、どう見ても只の人間ではない
否、この毛の色、そして少女の顔、見たことがある・・・・・もしかしたら・・・・・彼女の
「・・・アルフ・・・」
「あったりぃいいいい!!」
「の子供かな?」
「ちがぁああああああああああああああああう!!!」
頬を膨らませ、いかにも『怒ってますよ』と言いたげな表情でガンダムを見つめるアルフ、だが当のガンダムは未だに信じられずにいた。

655高天 ◆7wkkytADNk:2010/04/11(日) 21:51:26 ID:TyXyqWZY
「えっ、でも十年前は今のフェイト位の身長だったと思うけど・・・・」
「そ〜れ〜はぁ〜!ふぇいとのまりょくしょうひのふたんをへらすために、こどものすがたになってるだけ!!ほら、こいぬふぉーむってあったでしょ、あれのおうようばんだよ。
あ〜も〜、ならこれならどうだい!、ふぇいと〜すこしもらうよ!!」
主の許可を貰う前にアルフは魔力パスを通じ、フェイトから昔供給されていた程度の魔力を貰い、光に包まれる。
そして光が消えた後、其処にいたのはラフな格好をしたグラマラスな少女、十年前の姿のアルフだった。
「どうだい?これで信じたかい?」
「あ・・・ああ、疑ってすまなかった。てっきりザフィーラと結婚したものかと」
「あのねぇ、私の今現在の生きがいはフェイトの側にいる事、フェイトや大事な家族、仲間を守る事、カレルとリエラと遊ぶ事なんだ、だから恋愛とかは全然。
だけどザフィーラって・・・ねぇ、仲間ではあるけど、あんな『朴念仁』で『むっつり』が恋人ってのは御免だよ」

どこからが『ゴン』という音と共に「ザフィーラー!!死ぬなぁ!!」「衛生兵〜!!衛生兵〜!!!」「ザフィーラこぼしちゃいけないですよ〜」
「まぁ間違ってはいないけどな」「・・・哀れだ」「ほんと何も進展なかったんかぁ〜」などの聞き覚えのある声が聞こえるが、あえて無視しようと思う。

「う〜ん・・・・でもねぇ〜」
突然何かを企んだかのようにニヤ付いたアルフは前かがみになり、ガンダムと同じ目線になる。
ちなみに今のアルフの服装は、前かがみにでもなると彼女の胸の谷間がとてもよく見える。間違いなく健全な男子なら彼女の顔よりその谷間に目がいってしまうだろう。
無論、アルフもそれを狙ってわざわざ前かがみという体制を取ったのだが、生憎女性の価値観は人間の男性と同じとは言え、
ド真面目なガンダムの視線は胸の谷間に行く事は無く、しっかりとアルフの瞳を見据えていた。
「・・・まぁ、候補ならユーノやアンタがいいけど、生憎そういうわけにも行かないからね、気長にいくさ、フェイトありがとう」
再び光に包まれるアルフ、光に包まれていたその身体は徐々に小さくなり、あっという間に子供形態への変身を完了した。
「まぁそういうことだから、こんどからはこどもけいたいあるふをよろしくな!!あと、おくれたけどおかえりなさい、がんだむ!!」
「ただいま、そしてこれからもよろしく、フェイトの守護者、アルフ」


皆がそろっている事、そして広域探査の結果に時間がかかるという事から、皆が任務を一時的に頭の隅に遭いやり、食事と楽しい会話で盛り上がる事となった。
途中初めて顔を見せる面々もいるため、自己紹介などをし盛り上がる。なのは達の普段のギャップの差に緊張と同時に困惑するフォワード組(なぜかティアナだけは平然としていた)
そんなスバル達に構う事無く、子供の頃に戻ったかのように大笑いしながら会話を楽しむなのは達、そんな楽しい時間は瞬く間に過ぎていた、そして数時間後・・・

食事を終えた皆は、サーチャーの様子を監視しつつお風呂を済ませる事となった。だがこのコテージには『一応』お風呂はあるものの、この人数のため断念
その結果、海鳴市にあるスーパー銭湯『海鳴スパラクーアⅡ』へと向かう事になったのだが、

「え〜!!!ガンダムさんは行かないの!?」
皆が手早く着替えを持ち、いざ向かおうとしたその時、ガンダムは自分は残ると言い出した。
その意見にスバルは不満を隠す事無く抗議する。なのは達も彼女と同じ表情をしてはいたが、理由を知っているため、皆が直ぐに諦めた表情をしていた。
「いや・・・スバル、一応私はこの世界では『ロボット』ということになっているから・・・・そんな私が行くわけには行かないよ?
それにアリサから聞いたけど、このコテージにもお小さいけど風呂はあるらしいからね、其処を使わせてもらうよ」
「でも・・・・ガンダムさん・・・・」
一緒に行けないという不満のほかに、ガンダムだけを除者している様な感じに申し訳ない気持ちになる。
そんなスバルの優しさに嬉しい気持ちになりながらも、ガンダムはやはり行くようにと進めた。
「スバル、君その気持ちだけで十分だ、だから楽しんでくるといいよ。一応、今は任務中だ、英気を養うのも君の仕事だよ」
「・・・・・うん、わかった。ガンダムさんの分までたっぷり英気を養ってくるね!」
彼を連れて行くことを諦め、純粋に皆と楽しんでくる事を表すかのように、スバルは笑顔でガンダムに答えた。
そんな彼女の表情に安心しながらも、ガンダムは『皆が出かける』というこのチャンスを早速使う事にした・・・・・フェイトとアルフに『あの事』を離すために。

656高天 ◆7wkkytADNk:2010/04/11(日) 21:54:16 ID:TyXyqWZY
『・・・フェイト・・・・アルフ・・・・・いいかい?』
突如念話でガンダムに呼ばれたため、二人は自然と声をあげてしまいガンダムの方へと向いた。
そんなフェイト達の行動に、近くにいたエリオとキャロはどうしたのかと尋ねるが、フェイトは直ぐに笑顔で「なんでもない」と言い、その場を濁す。
『・・・突然すまない・・・できれば・・・念話で会話を』
『どうしたんだ〜とつぜん?』
『うん、いきなり念話でなんで・・・・なにかあったの?』
『・・・・実は、君達二人にとても大切な話があるんだ・・・・だから申し訳ない、私と共にこの場に残ってほしい・・・・』
一体どうしたのだろうと二人は同時に思ったが、『他言無用な念話での会話』そしてガンダムの真剣な声と表情にフェイト達の答えは直ぐに決まった。
『・・・・その話しって、なのは達には聞かれちゃマズイ?』
『いや、別に大丈夫だよ。ただ、先ずは二人に話しておかなければいけないと思って・・・・・』
『うん、わかった。直ぐに理由を考えて残るようにするよ』

適当に理由をつけてフェイトとアルフは残る事となった。
フェイトとアルフが残る事に、エリオとキャロはスバルの時の様に不満な表情をしていたが、
仕事関係と言うと、実年齢以上に物分かりがいい二人は残念そうな表情をしながらも直ぐに納得。
はやてにいたっては二人をからかおうとしたが、
「フェイトちゃ〜ん!!周りに民家が殆ど無いコテージでガンダムさんと二人っきり・・・ふふふ、もうおした(ドゴ!!」
アリサの手刀で悶絶し、再起不能となった。

皆がいなくなったため、数時間前の賑やかさが嘘の様に静まり返ったコテージ、
その室内に備え付けてあるテーブルに、アルフとガンダムが向かい合って座っていた。
「お待たせ、ガンダムはコーヒー飲める?」
「ああ、ありがとう」
「アルフはキャラメルミルクね」
「わ〜い!ありがとうふぇいと!」
台所から人数分のカップを持って来たフェイトが、皆に暖かな飲み物を振舞う。それぞれがフェイトに礼を言った後、カップを受け取りアルフは早速口をつける。
幸せそうにキャラメルミルクを飲むアルフに自然と笑みを浮かべながらも、フェイトは自分の飲み物が入ったカップを持ちアルフの隣へと座った。
「・・・それで・・・話って・・・・・何」
ガンダムを正面から見据えながら尋ねるフェイト、同時に今になって自分が思った以上に緊張していることに気が付いていた。
自分はガンダムには絶大な信頼を寄せているし、彼の性格も知っているつもりだ。そんな彼が自分とアルフにだけ話がある、
しかもその事を誰にも聞かれない様に念話で伝えているという事は、よほど重要な内容なのだろう。軽い内容で無いことは確かだ。
このような緊張感は執務官試験での面接以来だ、カップを持つ両腕に自然と力が入る、隣で美味しそうにキャラメルミルクを飲むアルフの余裕を分けてもらいたい位だ。
フェイトの問いに、ガンダムは何も答えずに、コーヒーを口にする。
ガンダム自身も内容がフェイト達に大きく関わるため、とても緊張していた・・・・だが話さないわけにはいかない。
再びフェイトが淹れてくれたコーヒーを飲み、自分の中に燻る緊張感を和らげる。そしてゆっくりと話し始めた。
「・・・・・一応だけど確認したい、フェイト、君のデバイス『バルディッシュ』だか」
突然自身のデバイスについて質問されたフェイトは驚きながらも、無意識にポケットから待機状態のバルディッシュを取り出す。
一見三角の形をした金色の宝石にしか見えないが、ガンダムに対し『お久し振りです』と挨拶をする辺り、立派なインテリジェントデバイスだという事が分かる。
「そのデバイス・・・・そして君やアルフに魔法や戦う術を教えた人物の名はリニス・・・山猫の使い魔で間違いないね?」
『リニス』その名が出た瞬間、フェイトは誰もが見て分かるほどに驚き、体を震わせる。アルフにいたっては驚きの余り喉を詰まらせ咽てしまう。
そしで同時に思う、どうしてガンダムがリニスの事を知っているのかと?
そもそもリニスに関して知っているのは、自分とアルフだけだ。特に聞かれるようなことも無かったため、周囲は無論、なのはやはやてにも話した事は無い。
だからこそガンダムが彼女の名は無論、自分の魔法の師であること、そしてバルディッシュを造った事を知ってる筈が無いのだ。
もしかしたら会った事がある・・・否、それは絶対にありえない。幼い頃の自分でも薄々は気付いてた・・・・・リニスは契約解除され、消えてしまった事を。

657高天 ◆7wkkytADNk:2010/04/11(日) 21:56:43 ID:TyXyqWZY
「な・・・ななななんで・・・・なんでしってるんだよ!!おかしいだろ!!」
どうにか呼吸を落ち着かせたアルフがフェイトの気持ちを代弁したかの様にガンダムに食って掛かる。
アルフも同じ気持ちなのだろう、自分達しか知らないリニスの名が出たのだから。
「・・・・それについてはこれから話す・・・・・君達からしてみれば信じられないことだろうか、落ち着いて聞いてほしい」
二人を落ち着かせるためなのだろうか、多少声に強みが入り混じった彼の言葉に、二人は高ぶる感情を無理矢理押され、ガンダムを見据えた。
二人の準備ができたことを確認したガンダムはゆっくりと話す、リニス、アリシア、プレシアの事を

ラクロアでの出来事を包み隠さず話し終えはガンダムは、喉を潤すために、温くなったコーヒーに口をつける。
そして、話を聞き終えたフェイトはどうしていいのか分からなかった。
消えてしまったリニス、既に死んでいたアリシア、そして虚数空間へと消えた母であるプレシア。
だが現在ではリニスとアリシアは蘇生し、プレシアの病気も完治しており、今ではラクロアで幸せに暮らしているという事実。
夢物語としかいえないこの話を信じることなど出来ない、だがガンダムが話したのだ、真実に間違いはないだろう。

「・・・ふざ・・けるなぁあああああああああああああああああ!!!!!!」
雄叫びと共に、アルフはテーブルを叩きつける。カップが倒れ、中身がこぼれるが知った事ではなかった。
叫ぶアルフを落ち付かせようとフェイトが歩み寄ろうとするが、アルフは構わずに怒鳴り散らす
「あんだけ・・・あんだけふぇいとにつらくあたったのに・・・・・・かなしませたのに・・・ふざけるなよ・・・・あのおにばばぁ!!!」
母であるプレシアの悪口はフェイトからしてみればいい気分ではない、だが発言者がアルフである事、
そして自分のために怒ってくれているため、注意しようとした言葉を飲み込んでしまう、
だが、フェイトの心配とは裏腹に、アルフの中の答えは決まっていた。
「・・・でも・・・でもなぁ、あいつがはんせいしていること、そしてふぇいとやあたしのしんぱいしてくれていることはじじつなんだ・・・
あたしはゆるしてやる、あのおにばば・・・・・ぷれしあ・てすたろっさをさ・・・・・だからふぇいと、さいごにいわせてね・・・・このおにばばぁああああああああ!!!!!」
アルフは最後に大声をだし、内に溜まっていた怒りをすべて吐き出した。
深呼吸をし、心と体を落ち着かせた後、アルフは何時もの表情でフェイトを見つめた、心配する主を安心させるために。
フェイト自身もわかっていた、アルフはアルフなりに気持ちの整理をしたのだ・・・・・だから次は自分の番だ。
「・・・・・私は元々憎しみとかは無かった・・・・・だからガンダムの話を聞いたときに感じたのは安心感だった。だけどそれだけじゃない
プレシア母さんが私達を心配してくれている事、私を娘と言ってくれた事、
アリシアが、私が『アリシアの代わり』ではなく『アリシアの妹であるフェイトとして生きている事』に喜んでくれた事、今はとても幸せな気持ちだよ」
フェイトは席を立ちガンダムに近づく、そして再開の時の様にガンダムを抱きしめた。
今でも心のシコリとして残っていた自分の家族の事、それを良い知らせとして取り除いてくれたガンダムに只感謝の言葉を述べる。
「ありがとう・・・・ガンダム・・・・・ありがとう・・・・ありがとう・・・」
本当ならもっと言葉が出るのだが、感情が高ぶっている今の自分には、ただお礼をいうことしか出来ない。
だがガンダムはそんなフェイトの心境を悟ったのだろう、何も言わずに抱きしめると同時に、落ち着かせるかのように彼女の背中をやさしく叩いた。

落ち着きを取り戻したフェイトは再び自分の席についた。ハンカチであふれ出た涙を拭き、心を落ち着かせる。
そして、彼女の表情からある程度落ち着きをを取り戻したと感じ取ったガンダムは、背中にある布袋からあの箱を取り出した。
「フェイト・・・・これを」
突然差し出された箱に戸惑いながらもフェイトはそれを受取り開いた。
今日は何度驚いた事だろうと思う、ガンダムのこと、プレシア母さんの事、そして今度は開いた箱に入っている見覚えのある宝石の事。
似ている物?否、見間違える筈など無い・・・・プレシア母さんの指示で地球で集め始めたロストロギア、なのはやクロノ達と出会う切っ掛けとなった蒼い宝石『ジュエルシード』。
その上、今目の前にあるのは自分が初めて手に入れたナンバーだ、見間違える事など無い。

658高天 ◆7wkkytADNk:2010/04/11(日) 21:59:24 ID:TyXyqWZY
「プレシア殿が、残った一つを私に託してくれたんだ・・・・・だけど、フェイト、これは君が持つべきだと思う」
「えっ・・・でも・・・」
「スダ・ドアカ・ワールドに行く術が無い以上、このジュエルシードは君とプレシア殿を繋ぐ絆の様な物だ、だからこそ、君が持つのに相応しいと思う」
身を乗り出したガンダムはフェイトの手を取り、ゆっくりとジュエルシードが入った箱に添える。
今時分の手にあるジュエルシード、確かにこれは母であるプレシアとの絆を繋ぐ物だ、正直な所、ガンダムの言葉に甘えたい自分がいる。
だが二つの思いがそんな彼女の気持ちにブレーキを掛けた。
このジュエルシードはロストロギア、遺失物だ。立場上あるべき場所へと保管するのが一番だと考える局員としての自分。
そして、母の思いを無駄にしたくない、そしてガンダムになら安心して託せると思う、一人の人間としての自分。
内心で決断を終えたフェイトはゆっくりと手を前に押し出す、ナイトガンダムに返すために。
「・・・・・ううん、ガンダム、これは貴方が持っていて・・・貴方が持つことを母さんも望んでいるから」
「でも、今思えばこれはロストロギア、局員の君なら立場的にどうにかなるかもしれない、だが現状次元漂流者の私が持っているのなマズイのでは」
「大丈夫、そもそもこのジュエルシードは虚数空間に落ちてしまったから実際には存在しない事になってるから・・・・・今更報告書を書き直す事なんて出来ないしね。
それに貴方が持ち、使ってくれた方が保管庫で保管するより安心だよ・・・だがらガンダム、貴方が持っていて」
ウインクをしながらゆっくりと自分の手を離し、ジュエルシードをガンダムの手の中に残した。
フェイトの行動に戸惑いながらも、手に残ったジュエルシードを一度見つめる。先ほどまでプレシアの思いが込められたこの宝石、
今は彼女の娘であるフェイトの思いも込められている。
ならば答えよう、信頼してくれた彼女達の思いに。
「・・・・・・わかった、フェイト。このジュエルシード、確かに受取った・・・ありがとう」
深々と頭を下げたガンダムは、ジュエルシードの入った小箱を再び仕舞う・・・・・その力を使う時が何時来るのかと考えながら・・・だが

            その時は思ったより早く訪れる事を、ガンダムはまだ知る由も無かった。










おまけ

任務も無事に終わり、今コテージでは任務終了後の軽い打ち上げが行われていた。
皆が楽しむ中、ガンダムはふと溜息をついているヴィータを見つける。
「どうしたんだい?ヴィータ?」
「ああ・・・ガンダム・・・なんでもねぇ」
心配そうに自分を見つめるガンダムに、ヴィータは作り笑いで答えた後再び溜息をついた。
実際深刻(ヴィータから見れば)な悩みなのだがガンダムには無論、主であるはやてにも話すことなどできない・・・胸の事など
皆と行った『海鳴スパラクーアⅡ』は確かに楽しかった・・・・・・だがそれ以上に劣等感にぶちのめされた。
はやてやなのは達は無論、自分が知ってる女性陣は胸が大きい・・・そりゃあもう。
その圧倒的物量を『海鳴スパラクーアⅡ』で嫌と言うほど見せつけられた・・・・自分としては結構なダメージだ。
無論その気になれば変身魔法でどうにも出来る、だが、それでは勝ちにならない、ドーピングで金メダルを取るのと同じ行為だ。
もう何度目になるのか分からない、だが自然とヴィータは自分の胸を見つめて再び溜息をつく。
「・・・・これは・・・もしかして」
ヴィータのその行為をガンダムは見逃さなかった、『胸を見て溜息』彼女がこのような事をする場合、どうすればいいのかを聞いたことがある、
いまこそそれを実戦する時!
「ヴィータ、聞いてくれ」
ガンダムの真面目な声を顔に、ヴィータは驚きながらも自然と彼の瞳を見据え、言葉を待つ・・・そして

                「ヒンニュウハステータスナンダヨ」

後にティアナ・ランスターは自分の日記帳にこのように書いていた『初めて場が凍りつく音を聞いた』と


賑やかだった打ち上げの会場が一瞬にして静まり返った、固まっている者、驚きと困惑の表情でガンダムを見つめる者、飲み物を盛大に噴出す者
何がなんだか分からずおろおろする年少組とアルフとリイン。
その言葉を言われたヴィータは俯き、持っていたコップを握りつぶし、アイゼンを起動させようとする。

659高天 ◆7wkkytADNk:2010/04/11(日) 22:01:22 ID:TyXyqWZY
だが彼女も自身にブレーキを掛けられるほど成長はしていた、咄嗟にアイゼンの起動をやめ、冷静になろうと大きく息を吸う。
『気持ちが高ぶる時ほど、冷静になれ』と教えてくれたシグナムに内心で感謝の言葉を述べると同時に、多少落ち着いた頭で彼の発言について考える。
不審な点は二つ
1・あのガンダムが『貧乳はステータス』など言うとは思えない。それこそ今すぐ地球に巨大隕石が落下するよりありえない。
2・彼が言った言葉が棒読みだった事が気になる、もしかしたら意味など理解できてないのかもしれない。
「・・・・・ガンダム、お前、意味分かって言ったのか?」
有無を言わさぬヴィータの問いに、ガンダムは観念したかのように頬をかきながら答えた。
「すまない・・・『ヴィータが胸を見て溜息をついた時、この言葉を送れば元気が出る』って聞いたから・・・そういえば『ヒンニュウ』って何だい?何かの褒め言葉かな?
あと教えてもらったんだけど、意味が分からない物もあるんだ、『ツンデレ』『オオキイコトハイイコトダ』『オフィスラブ』『ウホッヤラナイカ』・・それに」
「いや、むしろ忘れろ、今すぐ忘れろ!二度と使うな!!教えてもらった事頭から消去しろ!!!・・・で、その言葉を教えたのは・・・・・どいつだ」
ヴィータの次の行動は決まっていた、ガンダムに変なことを吹き込んだ奴をボコボコにするという事。
その思いは皆同じなのだろう、なのは、フェイト、はやて、シグナム、リインフォース、皆がいつの間にかバリアジャケットを身にまとい、戦闘態勢に入っている。
スバルもバリアジャケットを装備し、リボルバーナックルを移転させながら「サンドバックになるのは誰かな〜」と不気味な事を呟いていた・・・瞳は金色だった。
一般人のアリサも顔を引きつらせながら手をポキポキと鳴らし、すずかにいたっては瞳が一切笑ってない笑顔で犯人を待つ・・・・瞳は真っ赤だった。

ガンダムにこの言葉を教えた人物は心の中で神に祈りまくっていた・・・黙っていてくれ、言わないでくれと・・・・
だが、ガンダムとしては彼女を『褒め言葉を教えてくれた親切な人』と解釈している、隠す必要性など無い、むしろ親切な彼女の名を出したい。
だからこそ堂々と言った。

                            「シャマルだよ」


後にティアナ・ランスターは自分の日記帳にこのように書いていた『自業自得とはいえ・・あれは惨すぎた』と




こんばんわです。投下終了です。
読んでくださった皆様、感想を下さった皆様、ありがとうございました。
職人の皆様GJです。
誤字多いな〜orz
もう少し執筆スピードを上げなければ
次は何時になるのやら

どなたか代理投下をお願いいたします。

660魔法少女リリカル名無し:2010/04/12(月) 01:01:00 ID:mCwMgRFE
高天氏
代理投下いって参りました
確認お願い致します

661高天 ◆7wkkytADNk:2010/04/12(月) 21:19:01 ID:wxU60YOc
確認いたしました。
代理投下、ありがとうございました。

662りりかるな黒い太陽:2010/04/17(土) 21:25:32 ID:bCBvOH/w
お久しぶりです。
規制のためどなたか代理投下をお願いいたします。

663りりかるな黒い太陽:2010/04/17(土) 21:27:45 ID:bCBvOH/w
りりかるな黒い太陽19話

セッテがRXと再会した翌日から、調査は開始された。

六課は捜査対象のスカリエッティの情報を欲しており、スカリエッティの所から脱出してきたセッテは情報を期待されていた。
セッテの扱いをRXの兄妹分とするか、スカリエッティの生み出した戦闘機人とするか……意見が分かれていることについてもどの程度協力的であるかで大きく変わる事になるだろう。

予定されていた時間より少し早く、RXの部屋になのはが入ってくる。
セッテでなければ他の人間が行うのだが、AMFの影響を受けないISと強化された肉体を持つ戦闘機人が相手では、六課の施設ではなのは達しか適任者がいないと判断されたからだった。
と言っても、なのは自身にはセッテを危険視する気持ちは全くないのかバリアジャケットさえ身につけいなかったが。

セッテは、自分の実力にそれ程自信があるのだと取って微かにスカリエッティの面影を感じさせる薄笑いを見せた。
『流石管理局のエースオブエース。そこにシビれる憧れるッ!!』とスバルがいたら拳を握ってくれたことだろう。

ちなみにフェイトも担当候補には上がっていたが、RXとの関係を考慮して止められた。

セッテより余程緊張した様子の光太郎がなのはを迎え入れ、セッテに飲み物を出させて……その後すぐに事件が発生したことを知ってそわそわとする。
なのはとセッテはそれを見て揃って出撃を勧めた。

「慌しい人だよね」

ゲルが完全に室内からなくなったのを見届けてからなのはが笑いかけると、セッテも釣られるように笑みを見せた。

「それで何をお話しすればいいでしょうか?」
「うん、まずはどうして私達に協力してくれる気になったか教えて欲しいの」

その雰囲気のままセッテは尋ねられたことに答え始めた。

「お兄様が協力されているからです。私はこれからも仕事を手伝っていきますから」
「そっか……信じるよ。じゃあセッテ。貴方が知ってることを『お話して欲しいの』」

満面の笑みを浮かべるなのはになんとなく圧迫感を感じたもののセッテは口を開いた。

「ええっと……何から話せばいいんでしょうか……?」

一番最初に浮かんだのは、六課のメンバーは凄いんだよと言っていた話で、『私もまだお目にかかったことはないが、なんでも彼女は1秒間に10回もSLBを連射しつつ『お話して欲しいの』発言が出来るらしい』だったが。
無論セッテも暫く光太郎やウーノと暮らした身。なのはの清らかな笑顔を見て思ったことをそのまま口にするのはグッと堪える位には人生経験を積んでいた。

「知ってることはなんでも教えて欲しいの。セッテにとって当たり前のことが私達にとっては重要なこともあるから……」

なのはの説明に、セッテは困ったような顔をするとなのはは子供を相手にするようにセッテに尋ねた。

「じゃあ、スカリエッティの目的や、計画。現在の居場所とかについて知ってることはある?」
「それなら。ドクターの目的や、計画していることの一部や、再改造された場所についてはお教えできます」
「本当!! ぜひ教えて」
「ウーノ姉さまから聞いた話になりますが、ドクターの目的は自由になることです。どうやってそれを実現するかについては私は教えられていません」
「え……ごめん。ちょっと気になったんだけど、今も自由にやってるよね?」
「スポンサーが煩わしい……だったような」
「そ、そんなことで!? 「え? はい」……それが誰かわかる?」
「いいえ。確か、ご老人方と呼んでいるのを何度か聞きましたがそれが誰かは……」
「ふ〜ん……」

考え込むなのはに構わずセッテは言う。

664りりかるな黒い太陽:2010/04/17(土) 21:28:42 ID:bCBvOH/w
「ドクターの計画の一部と再改造を施された場所ですが」
「あ、うん。じゃあ、先に場所を教えて……ありがとう。ちょっと待ってね」

求められるままセッテは知っていることを書き出し、なのははそれをはやて達に伝える。
同じ戦闘機人の姉妹や、作成者のスカリエッティを売るような行為は躊躇うかと思っていたはやて達は少し拍子抜けしていた。

その場所へは直ぐに手のつけようのない発光するゲルに襲われるだろう。何か残って入ればの話だが。
情報を伝え終わったなのははモニターを切って再びセッテに尋ねた。

「お待たせ」
「私が聞いたのは、今後スバル・ナカジマかギンガ・ナカジマを確保するために私を投入するつもりだということです」
「スバルを!? ど、どうして……」
「それは私には……念のためにと言っていたくらいです」
「そう………………」
「お役に立てず申し訳ありません」
「ううん。すっごく助かるよ。あ、そうだ。セッテ。後、スカリエッティはRXさんに拘ってるようなところがあるけど、それはどうしてかわかる? 
コレまでスカリエッティが関わっていた事件から自己顕示欲が強いのは知ってるけど、最近はRXさんに興味津々だよね」
「私もそれについてはあまり詳しくは……機能に好奇心を持っているのは確かですが、姉さまによると今は本人に親近感を持っているとか」
「どういうことか、詳しく話してくれる?」
「…………お兄様の経歴がドクターの目的と重なっている、と考えているのかも……? とか。すいません、適当な事を言って。忘れてください」

自分でもあまり信じられないようなことなのか、途切れ途切れにセッテは言う。

「ううん……でも、RXさんはスカリエッティの事を敵だと思ってるのに、どうしてそう思ったのかな?」
「? ドクターはお兄様と復縁可能だと思っていますよ」

申し訳なさそうにしていたセッテが、そこだけは不思議そうに言った。
今度はなのはが困惑したように眉を寄せる。

「それは……どうしてなの?」
「私達が曲がりなりにもお兄様に受け入れられているからです。ドクターにとっては、本人がどう仰るかは分かりませんが、私達はドクターの一部ですから」

なのはが意味が理解できていないらしいことを見て取ったセッテが考えながら言う。

「ドクターは、……自分の作品が認められる事が自分が認められることだと思っている節があります。他に手段がないからだろうと姉さまは言ってましたが。
ですからドクターの作品である私達をお兄様が受け入れている限り、ドクターはお兄様が口ではどう言っても『自分のことは幾らか認められている』と考えるらしい、です」

他の情報と同じく、セッテ本人の考えではないようだが、これまでの内容を信じるなら同じくある程度信用出来る話になるのだろう。
なのはは、スカリエッティがそんな風に考えているとは思っても見なかったし、常識的に言えばなんとも嘘くさい理由だとしても。

「勿論そういう意味では、プロジェクトFの残影を使っている管理局に対しても同じような事を考えている節がありますが」

セッテの話を聞いたなのはは、それ以上の質問は止めた。
ちょうどはやてから連絡が入り、他の施設で検査を行う手続きができたことが伝えられる。
なのはは手続きが早すぎると感じたものの、セッテを誘って部屋を出た。

セッテは姉から聞いた話でしかスカリエッティについて知らないようだ……
その姉が最もスカリエッティについて知っているのかもしれないが、本当なのだろうか?

外へ連れ出すと、おかしなことに陸の方から手配された車がわざわざ迎えに来ていた。
ゆったりとした車に乗った快適な状態でセッテは移動し、施設ではいつもギンガとスバルを担当している者達と今回陸の方から追加で派遣された人員と機材が、セッテの到着を待っていた。
昨日依頼したばかりだというのに、人員も機材も揃いすぎていた。
同行していたフェイトが、気味が悪く感じる位に協力的な体勢が用意されていた。



665りりかるな黒い太陽:2010/04/17(土) 21:30:49 ID:bCBvOH/w
同じ頃、機動六課課長の八神はやて二等陸佐は108部隊の部隊長ゲンヤ・ナカジマ三等陸佐と顔をつき合わせていた。
ミッドチルダ北部に所在する、陸士108部隊。その部隊長室で、二人は応接用のソファーに座って向かい合っていた。

「新部隊、中々調子いいみたいじゃねぇか」

自分の部隊を褒められたはやては、嬉しそうに微笑み謙遜してみせた。
以前ゲンヤの元で研修を行った際に親しくしていた二人は師弟関係のような間柄だった。

「RXのヤツもいるって噂だが、そこんとこどうなんだ?」
「ふふっ。師匠のことやから知ってるんとちゃいます?」
「さあな、あの野郎最近俺のとこにあんまり顔ださねぇからな」
「お! 師匠が時々会ってるって噂は本当やったんですか」
「まあな……、娘たちには内緒ってことにしといてくれよ」

思った以上に食いつくはやてに微苦笑を返して、ゲンヤは尋ねた。

「しかし、今日はどうした? 古巣の様子を見にわざわざ来るほど、暇な身でもねぇだろうに」
「愛弟子から師匠への、ちょっとしたお願いです」

そこで来室を知らせるブザーが鳴る。
ゲンヤが砕けた姿勢でソファにもたれかかったまま返事をすると、扉が開きはやてのデバイスでもあるリィン曹長が顔を出した。
次いで、急須と湯飲みを載せたお盆を持って、ロングヘアに大きな紫色のリボンをつけた少女が入ってくる。
部下のスバルと良く似た容貌を持つ彼女とは顔見知りの間柄であるはやてが嬉しそうに名を呼んだ。

「ギンガ!!」
「八神二佐、お久しぶりです」

ゲンヤの娘でスバルの姉、ギンガ・ナカジマ一等陸士。
ギンガは挨拶とお茶汲みを終えると、ゲンヤとはやての話の邪魔にならないよう、すぐに退室していく。
扉が閉められるとはやては直ぐに要件に入った。

「メガーヌ・アルビーノって言う人のこと知ってはります?」
「……うちのカミさんの同僚だったからな、よく知ってるぜ。彼女がどうかしたのか?」
「はい。実は先日、メガーヌさんとその娘さんをうちで保護することができたんです」
「ほぉ、詳しく教えてくれや」

ソファから身を乗り出したゲンヤに、はやてはメガーヌを保護することになった経緯を説明した。
その間に落ち着きを取り戻したゲンヤはまたソファにもたれかかり、神妙な顔つきで口を閉じた。

「そのセッテって子には礼を言わないといけねぇな」
「彼女の身柄は、陸の方へ移送されることになってます。それでなんですけど、師匠にお願いしたいことの一つ目は」
「二人のことか」
「はい」

ゲンヤは陸に身柄を移すことになった経緯は尋ねなかった。
陸で保護しているはずのメガーヌのことを頼まれる理由も含め、なんとなく察しはつく。

「八神の仲間が調べてるって件か……いいだろ。彼女らのことは引き受けた」
「それと………………私としてはこっちが本命というか、とても言いづらいことなんですけど」
「なんでぇ?」
「今朝、機動六課にスカリエッティがスバルとギンガを捕まえようとしているっていう情報が入ったんです」

メガーヌのことを快く引き受けたゲンヤも、それにはすぐに反応を返すことが出来なかった。
シワの刻まれた顔、ソファに食い込んだ指には汗がにじみ出ていた。

「…………あの子たちの元になった技術を生み出した野郎だったな」
「はい」

スバルとギンガの二人が戦闘機人であることをゲンヤははやてに話したことはない。
恐らく捜査の途中で戦闘機人について調べる内に自然と耳に入っていたのだろう。

「で、お願いしたいことって言うのはなんだ?」
「私がお願いしたいんは、密輸物のルート捜査なんです」
「お前んとこで扱ってる、ロストロギアか」

言いながらはやてが表示させたモニターには、ロストロギア・レリックが大きく映し出されていた。
ゲンヤは湯気の立ち上るお茶をちびちび飲みながら、データに目を通してゆく。

「それが通る可能性の高いルートが、いくつかあるんです。詳しくはリインがデータを持ってきてますので、後でお渡ししますが」
「ま、ウチの捜査部を使ってもらうのは構わねえし、密輸調査はウチの本業っちゃあ本業だ。頼まれねぇ事はねえんだが……」
「お願いします」

ゲンヤは言葉を続ける。

「八神よぅ。今になって、他の機動部隊や本局捜査部じゃなくてわざわざウチに来るのは、苦しくねぇか?」
「密輸ルートの捜査自体は彼らにも依頼しているんですが、地上のことは、やっぱり地上部隊が一番よく知ってますから」

666りりかるな黒い太陽:2010/04/17(土) 21:31:33 ID:bCBvOH/w
滞りなく答えるはやてに、ゲンヤはデータを見つつ一時考え込む。
実のところをいうと、ゲンヤの率いる108部隊の管轄は既に上の指示で調査を行っている。
この10年足らずで二度もレリックの暴走による災害が起きたためだ。だが……要請内容自体に問題はない。
はやてのお願いしたいことというのは、この捜査協力を承諾することだったらしい。

「ま、筋は通ってるな。いいだろ、引き受けた。捜査主任はカルタスで、ギンガがその副官だ」
「はい。うちの方は、フェイトちゃんが捜査主任になりますから、ギンガもやりやすいんじゃないかと」
「はやて……頼んだぜ」
「任せてください。なのはちゃんもやる気でしたし、ギンガ用の新デバイスもスバル用に作ったのと同型機を調整して用意しますから」

複雑な表情で二人は視線を交わした。
お茶を出した後、はやてを待ち続けるリィンから出向の話を聞かされたギンガは歓声を挙げるのを堪えて声を抑えた。

「これは、凄く頑張らないといけませんね……RXさんもいるし!」

嬉しそうに付け加えるギンガに、リィンは彼女を真似して声量を抑える。

「はい!! あ、そうだ!! 捜査協力に当たって、六課からギンガに、デバイスを一機プレゼントするですよ」
「え? デバイスを?」

壁に張ってある数年前の、自分達が助けられた事件に関する記事の切り抜きを見つめていたギンガが、我に返ってリィンを見る。
費用対効果的に言って、陸では殆どの人間が安価なデバイスを支給されている。
そのため、スバルとほぼ同じタイプの魔道士であるギンガは、スバルと同じように母親の形見で、元々は両手用で1対2個だったリボルバーナックルの左手用と自前のデバイスを使っている。
(母の死後、スバルは右手用を使用している)

近代ベルカ式・陸戦Aランクの認定を受けているギンガでもそうなのだから、推して知るべしである。

「スバル用に作ったのと同型機で、ちゃんとギンガ用に調整するです」
「それはあの、凄く嬉しいんですけど……いいんでしょうか」

周囲に対して申し訳なさそうにギンガはリィンに尋ねた。
スバルがローラーブーツが壊れたのを機に、ローラーブーツ型のインテリジェントデバイス「マッハキャリバー」を受領したとメールで聞かされた際に少し羨ましく思っていたが、同僚を見ると素直には喜べなかった。

「だーいじょうぶです!! フェイトさんと一緒に走り回れるように立派な機体にするですよ」
「ありがとうございます。リィン曹長」



「戻っていたのか」

事件を解決して宿舎に戻ってきたRXは、通路でシグナムに呼び止められて足を止めた。
部屋に戻ろうとしていた所だったが、RXの方にも彼女に尋ねたいことがあった。

「ああ。シグナムはセッテの処遇がどうなったか聞いてるかい?」
「うむ。主はやての話ではお前と同じような扱いにする予定だ。ただ……外部の動きに不審な点があるらしい」
「?」
「機動六課は突っ込み所がありすぎるからな」
「そうなのか?」
「ああ。陸にこれだけの戦力を貼り付けておくなんてことはないが、何より各部隊で保有できる戦力の合計は決まっている。本来なら主達が同じ部隊にいることさえできん」
「ちょっと待ってくれ。それだと、どうやって六課が出来たんだ?」

一つの部隊で沢山の優秀な魔道師を保有したい場合は、そこに上手く収まるよう魔力の出力リミッターをかけるのだとシグナムは言う。
はやて4ランク、隊長はだいたい2ランク程ダウンさせているとのことで、話を聞いたRXは理解はしたようで頷いた。
だが時折自分もフェイトの仕事を手伝っていたことを考えると、納得しがたいものはあるようだった。

レジアスから陸に戦力が足りないということも聞いている。
そしてミッドチルダは第一世界とされているのだが、レジアスが辣腕を振るう以前は現在よりずっと治安も悪かったという。
そんな状況があったにも関わらず今聞かされた裏技が認められているということは、管理局は既に活動範囲を大きくしすぎて処理能力の限界を超え破綻しかかっているのではないのかと感じられるのだ。

「"こんなことをしてるから陸の戦力が足りないんだ"か?」

考えていることそのままとは行かないが、かなり近いことを言われ返答に窮するRXにシグナムは笑いかけた。

「一応は私も陸の所属だからな。私の口からは言えんが、もちろんこんなことが許されるのにはそれなりの訳がある。それで、だ」

身振りで促しながら、シグナムは歩き出す。
方角が一致していたのでRXは黙って共に歩き出した。
理由について気にならないわけではなかったが、尋ねなかった。

667りりかるな黒い太陽:2010/04/17(土) 21:32:23 ID:bCBvOH/w
今言ったことだけではなく、他にも突っ込みどころがある部隊にはそれだけの後ろ盾もついている。
そのお陰で面白く思っていない者たちも公然と非難できないようにしてあるのだが、その後見人はRXも知っているクロノ提督とリンディ総務統括官。
フェイトの家族である彼らは、同時に過去に難事件を何度も解決して管理局内でも影響力のある派閥でもある。
それに聖王教会の騎士カリムと、他にも非公式に何名か協力を約束してくれている方がいるらしい。
RXはカリムも他の非公式の人物も全く想像できないでいた。
RXより幾つも年若い彼らは、年数においてはRXの何倍も働いていることを実感させられる。

ちなみにRXは喫茶店を任されたり、叔父の会社でパイロットをした経験しかない。
こちらに来てからはバイトのみだった。

後見人の事についての知識がないものと思ったのか、シグナムは聖王教会について歩きがてらRXに教えてやった。

「だが陸の方はあまり伝手がなかった。何せレジアス中将閣下が主を嫌っているのだからな」

それなのに今回セッテの処遇に寛容的な態度を見せている。
検査などについても協力的で、六課が申請するつもりだった事が優先して処理されているらしい。

「レジアスが気を回してくれたんじゃないか?」
「(お前にはまだ教えてなかったことだが、)近く六課に陸の査察が行われる予定があったが、それも取り消されてな。流石に主達も気味悪がっていた」

そう言われるとRXも返す言葉がなかった。
レジアスがはやてを嫌っており、六課にもいい感情を持っていないのは間違いないのだ。
それがまさか『元々粗捜しだし嫁に脅されたから取り下げることにした』などと言うことになっているとは思いもよらなかった。
返答に困るRXに気づいて、シグナムは苦笑する。

「すまない。お前に言っても仕方ないことだったな」
「……確かにレジアスらしくはないな。わかった。今度会ったら俺からも聞いておくよ」
「頼む」

シグナムはそう言って足を止めた。
話し込んでいる間に二人はRXの部屋の近くへ着いていた。

「ではまたな。ああそうだ……いい忘れていたが、先程アルビーノ親子の件についても連絡が届いた。二人とも意識が戻ったらしい……身柄は陸の方に預けられることになったそうだ」
「そっか……」

短く言葉をかわして、二人は別れた。
部屋に戻ると、セッテはもう戻っていて部屋を片付けているようだった。

RXは変身を解いて自分がいなくなった後の尋問の様子や、検査の結果を尋ねた。
セッテは何を尋ねられたか素直に伝えたが、検査結果については言葉を濁した。

「ご相談したい事があるのですが、お時間いただけますか?」
「勿論さ」

遠慮がちに言うセッテに水臭いと思いつつ、光太郎は頷いて話を聞こうとした。

「実は、今日検査を受ける事が出来たのですが……今後段階的に変身が出来なくなっていくかもしれません」

訝しむRXにセッテは説明する。
光太郎はそれをベッドにもたれかかりながら聞いた。

今日検査を行ったのは陸で戦闘機人についての知識・経験の深い人物で、諸々の事情で管理局の戦闘機人計画が頓挫している今局内ではこの分野については間違いなくトップにいる。
その理由に、スバルとその姉ギンガが関係しているであろうことは過去に二人を救助した際、二人が戦闘機人であることに気付いた光太郎には察しがついたが、口は挟まなかった。

生命活動については何の問題もないことはすぐに分かった。
だが同時にセッテに組み込まれた変身機能・再改造で新たに埋め込まれたレリックと思しき超高エネルギー結晶体は確認はされたものの、現状手の施しようがないことも分かった。

他のエネルギー結晶体ならまだ幾つかの方法を試して対策を練られるのだが、レリックが大規模な災害を起こした第一級捜索指定ロストロギアであるため、対処はより困難になっている。

その為、今確かだと言えることは、セッテが普通に暮らしていくことに何の問題もないということ。
変身についてはよくわからないし、レリックにつていはもっとよくわからないので、セッテの同意の下に研究するしかないということ。
レリックのエネルギーを利用する能力については衰えていくだろうということの三つだ。

基本的な性能も向上しているが、再改造されたセッテの最も大きな違いは体内に埋め込まれたレリックのエネルギーを利用することが出来るという点だ。
だがその能力については調整を行わなければ徐々に衰えていくだろうと予想されている。

668りりかるな黒い太陽:2010/04/17(土) 21:33:00 ID:bCBvOH/w
この調整を行うことが出来る者は現在の管理局にはいない。
戦闘機人について表立って研究を行うことが出来ない管理局は、戦闘機人が持つISについてさえ十分なデータを持っておらず、
RXのデータから生まれた変身の機能や体内に超高エネルギー結晶体を埋め込み、そこからエネルギーを供給するという方法も今まで考えられていなかった。
変身する種も戦艦の魔力炉から魔力供給を受ける魔導師も存在しているが、魔力を使わず人体に機能として埋め込むという手法は他に同じような効果を生み出す手段が既に存在している為存在しないのだ。

「話はわかったが、セッテの体は本当に大丈夫なのか?」
「勿論です。この話も殆どの人間には伝えられていません」

セッテ自体を危険に考える人間が出てくる可能性も当然あるが、その最有力であるレジアス中将が動いておらず情報は理解のある関係者の間だけに留まっている。
話を聞いたRXは少し考えて、「解決策にはならないが、『バイタルチャージ』っていうやり方がある」と言った。

「キングストーンの力を引き出すための動きがあるんだ。スイッチがついていれば楽なんだけどね……スカリエッティが俺を元にセッテの機能を考え付いたのなら同じような事ができるかもしれない」

光太郎の話を聞いて、セッテは納得したように頷いた。
脱出してトーレに襲われた時自然と使おうとしていたが、確かに力を引き出すための動きがあった。
スカリエッティは力を引き出すための動きをセッテに覚えさせている。

「あ!! それです。心当たりあります」

セッテがその動きを頭に思い描いているとそこにフェイトから通信が入った。
モニターが空中に開き、フェイトの顔が映る。背後には彼女の部屋と何らかのフィルターが掛かっているのか内容の見えないモニターが一つ開いていた。

「光太郎さんいますか?」
「ああ。どうしたんだい?」
「あ、こんにちわセッテ」
「こんにちわ」

セッテにも挨拶をしたフェイトは、彼女の周囲に開かれているモニターと光太郎の顔を交互に見ながら、躊躇いがちに口を開いた。

「ええっと……私も先程確認したばかりなんですけど、光太郎さんの所にも母から連絡が来てませんか?」
「ああそのことか!! アクロバッターを持ってきてくれるって話だろ?」
「はい。そのことなんですが、当日ヴィヴィオも一緒に来るみたいなんです」
「ヴィヴィオが!?」

それを聞いて、光太郎は困ったような顔を見せた。
予想していたのか、フェイトは驚きもせずに釘を指すように言う。

「……光太郎さん。楽しみにしてるみたいだから、会ってあげてくださいね」
「…………分かった」

暫く返答に迷った末に、光太郎は了承した。
その際に他の局員にも人間の姿を見せることになるのかもしれないが、共に行動するうちに警戒心が弱まったのかもしれなかった。
ヴィヴィオのことをよく知らないセッテが言う。

「ヴィヴィオというのは誰の事ですか?」
「ああそうか。ヴィヴィオは昔俺が助けた子だよ。フェイトの家に引き取られて元気にしてるらしい」

光太郎は助けた時のことを思い返して、つらつらとセッテに話していった。
その時にフェイトとも知りあったのだと言う光太郎がフェイトと一瞬目を合わせるのをセッテはじっと眺めていた。

「フェイトさん」

話が終わる頃に、セッテが口を開いた。
不意に呼ばれたフェイトは瞬きをしながらセッテに苦笑を返す。

「(前から思ってたんだけど、)呼び捨てにしてもらっていいよ」
「フェイトさん。少しお聞きしたい事があるのですが、後でお伺いしても構いませんか?」
「え、ええ。今日はこの後特に用事もないから、いつでもいいですよ」

すぐにフェイトの部屋に行こうとするセッテは、同じく立ち上がろうとしていた光太郎を手で制した。

「あ、私だけで。お兄様がいると話しづらいことですから」

一旦動きを止めていた光太郎は頷くと飲み物を取りに行くためにまた動き出した。
セッテはそれを少し見ていたが、部屋を出てフェイトのところへと向かっていった。
フェイトの部屋と光太郎の部屋はかなり近い場所に配置されていて、スカリエッティの手によって宿舎の詳細なデータも持っているセッテはすぐにそこへたどり着いた。

扉には鍵がかかっておらず、光太郎の部屋と全く同じように開いてセッテを迎え入れた。
フェイトは上着を脱いだだけの姿で二人分の飲み物を用意してセッテを待っていた。

「いらっしゃい。適当に座って」
「ありがとうございます」

促されるままにセッテは床に置かれたクッションの上に座る。
程なくお盆にクッキーと紅茶を載せてやってきたフェイトはその隣に腰掛けた。

669りりかるな黒い太陽:2010/04/17(土) 21:34:09 ID:bCBvOH/w
「ちょうど良かった。私も聞いておきたいことがあったの」
「なんでしょう?」
「協力してくれたことにお礼がいいたかったし、セッテがどうしたいか聞いておきたくって。私達は出来る限り貴方の意向に沿う形になるように協力したいの」
「……以前と同じように活動したいと思っています」

そう言うと、クッキーを一かじりしてフェイトが言う。

「そうなんだ。じゃあ近くに泊まる所、早めに用意するね」

同じクッキーを一口で食べてしまいながら、セッテはそっけなく答えた。

「お構いなく。お兄様と同じ部屋を使いますから」
「それは、あそこは一人部屋だし、難しいんじゃないかな。ベッドだって一つしかないでしょ」
「はい。今度ソファベッドを探してきます」
「でも、ちょっと問題があるんじゃない? 光太郎さんはいつでも出かけちゃうし……」
「私もそれについていくつもりですから」

子供に言い聞かせるように言うフェイトに少し険のある顔をしてセッテは答えた。
今日も、検査などで拘束されていなければ共に向かうつもりだったのだと。

「そ、そうなんだ」

あまり強く言うつもりがないらしいことを感じたセッテは、自分の要件を言う。

「私の用件ですが、貴方とお兄様の関係について聞かせてもらえますか?」
「え? どうしてわかっちゃったのかな? わ、私と光太郎さんは……そ、そのお、お付き合いすることになったの」

照れながら言うフェイトの様子をセッテは紅茶を飲みながら観察する。
そのせいで少し間を開けたものの、先ほどと同じ調子でセッテは言う。

「そうでしたか。私も妹分として見守らせていただきますね」
「う、うん。よろしく……何か困ったことがあったら私にも相談してくれると嬉しいな」
「はい。フェイトさん」

それから他愛ない話を少ししてから、セッテはフェイトの部屋を後にした。
扉が閉まり、部屋から離れてからセッテは小さな声呟く。

「ドゥーエ姉様の情報どおりですね」

今日の検査を行った人員のうち、陸から新たに回された人間の一人はISで姿を変えたドゥーエだった。
ドゥーエはうまく二人きりになる時間を作り、セッテにどうするつもりなのかと尋ねた。

セッテが生まれた時には既にドゥーエの任務は始まっていて、直接顔を合わせる機会は殆どなかった。
それにドゥーエは……先日殴り倒してきた誰かとは姉妹の中で一番縁が深い。

『トーレから機械的過ぎるなんて言われてたあのセッテがこんなことするなんて、皆驚いていたわよ』
『申し訳ありません』
『いいことじゃない。今度暇ができたら遊ぶ場所色々教えてあげるわ』
『……それは、ウーノ姉様に止められていますので』
『クアットロは私が教育係をしてたんだけど』

セッテの言葉を遮ったドゥーエの横顔をセッテは見た。
それは姉を見る目ではなく、必要なら排除することも躊躇わない強い意志を宿していた。
向けられたドゥーエはどこかスカリエッティやクアットロと似た笑みを浮かべた。
姉の表情を伺う妹が、突如として戦士の顔つきをしていた。

『そう。今レジーと暮らしてるのよね』

唐突に男女関係を明らかにする姉に、セッテは戸惑いを見せた。

『?』
『彼に頼んで、貴方達にとっても都合が良さそうな場所にセカンドハウスを用意してもらっちゃった。その時にその部屋も教えてあげようと思ったんだけど』
『ウーノ姉様には秘密ですよ』

姉の差し出した餌にあっさり食いつく妹の髪をドゥーエは撫でた。

『もちろんよ』
『そうだ。話は変わるけど今RXとフェイト・T・ハラオウンが付き合ってるらしいわ』
『……そうですか』
『…………? んん……まさか、セッテ………………』

ドゥーエから視線をはずし、少し険のある顔をするセッテをドゥーエは面白そうに眺めた。

『セッテ、ハラオウンは放っておきなさい』
『私には彼女に何かする予定はありませんが』
『彼女って積極的なのか奥手なのかよくわからないけど、どうせ海所属の執務官でしょ。ドクターを捕まえたら半年もせずに別の世界に行ってしまうわ』
『なるほど……ですが』
『RXは基本的にこっちにいるんだから、勝手にいなくなるもの。陸所属の人間の方が後々面倒よ』

部屋へと向かい歩き出していたセッテは、前方に長い赤髪を見つけて回想から立ち戻った。
RXの部屋はもう当の昔に通り過ぎている。
引き返そうと足を止めたセッテは、前方の赤髪の人物が自分を見つめている視線に気づき、見つめ返した。

「セッテか。こんなところでどうした?」
「部屋に戻るつもりだったのですが、考え事をしているうちに通り過ぎてしまったようです」
「そうか。それなら、私と模擬戦をしていかないか?」

670りりかるな黒い太陽:2010/04/17(土) 21:35:15 ID:bCBvOH/w
何がそれならなのかバトルジャンキーではないセッテにはわからなかったが、もう少し行くと訓練施設があることはセッテもデータで知っていた。
しかもたった今シグナムがそちらからやってきたこともなんとなく察したが、セッテは頷いた。
シグナムは実に嬉しそうに笑いながら元来た道を戻り始める。

「シグナムさんは最近もお兄様と訓練をされているのですか?」
「うむ。奴はああだし、私も仕事で機会が減ってしまっているがな」

残念そうに語るシグナムに、セッテは何度も頷きながら言う。

「そうですか。よろしければ今度から私もご一緒して構いませんか?」
「勿論だ」
「よろしくお願いします」
「ああ」

セッテはそうして、シグナムと手合せをするようになった。
記念すべき一回目から、バトルジャンキーという褒められているとは言えないあだ名をつけられるシグナムと、直情的な所のあるセッテは上手く噛み合いすぎて熱くなり過ぎるほどで、
セッテが持っている情報が六課に吸い出され、セッテが自由に六課内で過ごすようになるとその回数は少しずつ増え、内容の濃さも深くなっていくことになる。

つまり、何回目かには『どうしてこうなるまで放っておいたんだ……!!』と強盗や傷害、殺人犯達を精神的肉体的に後遺症が残りかねない程ぶん殴って帰宅したRXが言いだし、反省した六課の隊長達はそんな二人を程々で止める人手が必要とする羽目になり、
手の空いていて二人に比する実力を持つという条件を満たす誰かが求められることになるのは早速必然だった。

もう少し率直な言い方をするならRXを轢く簡単なお仕事から解放された座敷犬が一匹監督につけられ体を張る羽目になるのだが、そうなるだろうなと容易に想像がつく第一回戦を見た者達は、教育に悪いから新人達の目には入れないようにしようとしか思わなかった。
手続きを終え、陸士108部隊から合流したギンガが、自分を歓迎する人々の中に一人包帯を巻いているザフィーラを見て、六課も日々危険な任務に身を投じているのだと心で理解して気を引き締めるのもまた誰も気にしなかった。

以上です。
今まで説明とかあんまりしてなかったせいで今になって長い説明を入れたりする羽目になっております(´・ω・`)
スカの行動理由についてはもっといい明かし方もあったような気がするのですが、いるのに聞かないのも妙な話ですので
なのはに対してセッテがちょっと妙な評価をしていることについては
スカの悪ふざけ&噂に尾ひれがついているだけなので実際に連射したりはしないと思います。多分、恐らく……

671魔法少女リリカル名無し:2010/04/19(月) 19:09:31 ID:cBPdJBQQ
>>670
代理投下、終了しました。ご確認お願い致します。
改行が多いとエラーが出たので、勝手ながら1レスの区切りを短くしました。
演出的意図がありましたなら、申し訳ありません。
それと僭越ですが、代理希望の際はageた方が気付かれやすいかと思います。

672りりかるな黒い太陽:2010/04/19(月) 22:47:58 ID:vbm2iGdc
>>671
確認しました。
代理投下ありがとうございました。

仰る通りですね。なんでかsageた方がいいような気がしてしまったんですが……
次からはそうさせていただきます。

673見て^^:2010/04/21(水) 13:28:17 ID:FFfh5C0g
一見、普通の女の子の日記ですが、
ある事をした後に更新しています。
かなり中毒性が高いので注意が必要かもしれないです。

ttp://stay23meet.web.fc2.com/has/

674LB ◆ErlyzB/5oA:2010/04/21(水) 15:49:02 ID:nSUHMSds
さるさんくらいますたorz ここで続き投下します

「えと、そういえばさ……それ、どう? 面白い?」
「あ、これですか?」
 話題を変えようと問うてきたなのはに、白衣金髪の少女が傍で浮かぶ立体映像ディスプレイへと振り返る。
 現在、セラは今いる次元航行艦“アースラ”のデータベースにアクセスし、魔法について色々と調べている。
 リンディ提督から直々に許可をもらい、操作方法をある程度まで教わり、翻訳方法も教わったそうだ。
「時々分からない言葉が出てきたりするんですけど、結構面白いですよ」
 こんなことを始めたのはつい先日。何でも、魔法について興味が湧いたとか。
「ところでユーノさん、この昇格試験の内容って、どんなのがあるんですか?」
「ああ、それはクロノ執務官に聞いてみないと詳しいところは分からないけど……」
 早速分からない部分があったらしく、幾つかの操作をしてからユーノへ聞いてくる。
 質問への回答に合わせて、こちらに顔を向けるセラの表情を注意深く伺う。
 無邪気と好奇心のままに、眉間を細めながらも細かく頷く金髪碧眼の少女。
 こんなか弱いごく普通の少女が疑われているだなんて事実には、未だ現実感が湧いてこなかった。
 ――あの子の行動に妙な所があったら、教えて欲しい。
 迷子の少女は、既に管理局からの監視を受けている。執務官からそう知らされた時のショックは大きかった。
 確かに、幾つかの不審点については自分だって気づいている。例えば今、データベースはミッド語で表記されているのに、翻訳機能を使っていないこと。
 リンディへそれを教えたのは、他ならぬ自分だ。それでも、ここまで深刻に事態が進んでいるとは思わなかったのだ。
 局員が近くにいる場合、少女は警戒して尻尾を出してこない。加えて、ジュエルシード事件により人手の足りないという状況。
 そしてなのはをジュエルシード封印の主力として前線に引き出し、万全の状態を保つために精神面の問題を出させたくないとなれば、消去法により支援役のユーノへ白羽の矢が立つことになる。
 ――友人を疑うというのは、とても辛いことだと理解しているわ。
 愕然としていた自分へ、険しい表情で語りかけた女提督の言葉を思い出す。次の言葉を聞かなければ、ユーノは監視役を断っていたに相違ない。
 ――けれど……彼女の真意を確実に聞き出す方法は、これが一番なのよ。
 迷子の少女から悩みを聞き出すことが、自分やなのはでは不可能であると。
 セレスティ・E・クラインの抱えているものが、異世界の友に話せるほど軽いものではないのだと。
 そう断じられた時。なのはのやろうとしていることが、徒労にしかならないと理解した時。
 セラが何らかの力を持っている場合、自衛のためにこちらへ牙を向けてくるかもしれないと知らされた時。
 彼女は決してそんなことはしない、と。なのはにできないというのなら、自分が代わりに証明しようと決めた。
 彼女がそんな事をするはずがないと、自分もなのはも信じている。だから、自分がやる。
 ユーノの代わりに、なのはがジュエルシードを封印してくれる。それに対する、これは些細な恩返しにすぎない。
 事実を知ったら、彼女はきっと怒るだろう。嫌われてしまうかもしれない。
 それでも、なのはのために何とかしてあげたいと思ったから。どんなに汚い手段でも、どれだけ自分が損をしようと、少女の為ならば安いものだ。
 友の誤解を解くために、友の悩みを聞き出すために。
 それぞれ別世界から引き合い巡り合った自分達、そのしがらみを解きほぐす為に、友を監視する。
 恐らくは自分にしかできないであろう、あまりにも残酷な命令のままに。
 短い日々の中、ユーノ・スクライアは今日も碧眼の奥を見定める。
 ――取り残されたように硬直した少女の存在に、気がつかないまま。
「おーい、そこの三人組ー」
 不意に、後ろから暢気な声。
 ユーノとセラが怪訝な面持で振り返ると、片手を上げて駆け寄ってくる十代後半の少女。
「あ……え、エイミィさん」
 最後に後ろを向いたなのはが口を開き、三者三様に反応する。
 エイミィさんもお昼ですか、と少女じみた少年が微笑み、茶髪の少女が大きな黒い瞳をぱちぱちと瞬かせ、金髪碧眼の少女が小さく首を傾げて後ろからポニーテールを覗かせる。
「っ……その通りなんだけど、一緒に食べてかない? 後でクロノ君や艦長も一緒になるんだけど」
 何故か一瞬硬直し、すぐに人のいい笑みを浮かべる若き女性オペレーター。
 その様子に、ユーノとセラだけが内心で小首を傾げるものの、やはりというべきか誰も気に留めない。
 三人揃って顔を合わせた後、代表してユーノが答える。

675LB ◆ErlyzB/5oA:2010/04/21(水) 15:49:38 ID:nSUHMSds
「構いませんよ」
「よし、決まり! それじゃ、先に行ってるね!」
 ひとつ大きく頷くと、そのまま早歩きで廊下を歩いて行く。その後ろ姿にどこか不吉なものを感じたのは、残念なことにユーノただ一人。
 何の前触れもなく身の毛がよだったことに、少年は驚いた。
 まるで、やってはいけないことをやってしまったような――
 ……気のせい、だよね?
 余計な思考を振り払い、エイミィが現れる前と同じ状態へと会話が戻っていく。
 悲しいかな、三人とも致命的に鈍かった。

 ……気のせいじゃ、なかったのかな?
 食事中に辺りを見回し、初めてユーノは不吉な予感を確かなものと認識した。
 L級巡航艦の最大搭乗人数に合わせて、広大な面積を誇る食堂。その端でぽつんと昼食を取っているのは、合流した執務官と提督を合わせても六人。つまり自分たちだけ。
 これだけならまだいい。局員たちにも見張りなどのスケジュールがあるため、必ず昼休みに全員が集まることは滅多にない。
 今のように、艦長とオペレーターと執務官だけがブリッジやオペレーター室から離れていることだって不思議でも何でもないだろう。
 昼食を食べ終えた後の空き時間を使って、今のように団欒を楽しむことにも別段違和感は感じない。
 だがしかし、『檻の中に閉じ込められた雰囲気』が漂っているのならば話は違ってくる。
 年長の女性二人から流れる、ただならぬ気配。なのはとセラはそれに気付いていないようだが、周囲の空気には流石に感じ取っているらしく、言葉少なになっている。
 そして、この六人の中で一番よく喋っているのがリンディとエイミィである辺り、尚更怪しかった。
「そーいえばさあ」
 さり気無く、そして唐突に、エイミィが口を開く。
「セラちゃんって、ちょっとだけフェイトちゃんに似てる気がするんだよね」
 唐突な話題に、え? と目を見開いたセラへ、
「ほら、金髪だし。顔立ちも整ってるし」
「あ! わたしも同じこと考えました!」
「お、ホント? なら話は早いね」
 挙手した少女の黒い瞳が好奇心に輝かせる一方、青い瞳は困惑に揺らぐ。
「そ、そんなに似てますか?」
「これからそれを確かめてみようかな、って思って」
 最初から畳み込むような雰囲気だった会話が、予想外ななのはの協力によって更に勢いづいていく様子を、ユーノは不審に思った。
 こういう時は彼に聞いてみようと、特定個人に向けて密かに念話を使用する。
(あの、何なんですか?)
 対象は、クロノ・ハラオウン執務官。セラの監視を約束した直後から、彼とは連絡を取り合う相手として念話の許可が降りている。
 未だ我関せずの姿勢を貫いている執務官が初めてこちらと視線を合わせ、
(ほんの息抜きだ。ここは流れに身を任せた方が得策だぞ)
(はあ……)
 何か裏があると予想した矢先の意外な返答に、拍子抜けした返事を返す他ない。
 というか、そもそも誰の息抜きなのか。ユーノは思案するが、皆目見当がつかなかった。
 考え出したのは結託している二人組なのだろうから、幼い自分には理解しろという方が無茶なのかもしれないが。
(いずれにしろ、君まで巻き込まれないことを祈るとするよ)
 聞き捨てならない言葉に目を剥き、それはどういう意味なのかを聞こうとして、
「き、着せ替えですか?」
 迷い子の少女が上げた平生より大きめの声に意識を持って行かれた。
「そ。フェイトちゃんと似たような服を着せて、なのはちゃんと向き合わせて」
「フェイトちゃんとどこが似ているのかを調べたり、わたしがフェイトちゃんと向き合った時のイメージトレーニングとして相手してもらうんですね?」
「あ、あの……イメージトレーニングって……」
「別に模擬戦するってわけじゃなくて、ちょっと向き合ってもらうだけだから。もしフェイトちゃんそっくりだったらどうしよっか、なのはちゃん?」
「んー、バリアジャケットをつけて、戦ってるときの状態を再現してみてもいいでしょうか?」
「いいねそれ、如何ですか艦長?」
「ええ、構いませんよ」
「ホントですか? やったぁ!」
「えと……あの、その……」

676LB ◆ErlyzB/5oA:2010/04/21(水) 15:50:25 ID:nSUHMSds
 エイミィとなのはの二人だけで進んでいく会話に、当人であるセラは話題についていけず狼狽えている。
 表情からして会話の中に入ってきそうな雰囲気だったリンディはといえば、先程と同じニコニコ顔のまま、一歩引いた状態で成り行きを見守っている。止めるつもりは毛頭なさそうだ。
 というか、こんなことで自分が巻き込まれないよう祈らなければならないのだろうか。クロノの言葉に内心で首を傾げた。
 そんなユーノの思索を余所に、事態は進み続ける。
「ぃよしっ! 早速やってみよう! こんなこともあろうかと、食堂の隅に設置しておいたんだよ!」
「い、いつの間に――?」
 立ち上がり、がらがらとローラーの転がる音を立ててエイミィが持ってきたのは、なんと四方をカーテンで囲んだ巨大な試着室。何故こんなものが次元航行艦に載っているのか。
 八〜十歳の少年少女達三人が揃って目を剥いたところで、三人に中が見えるよう試着室の真っ白なカーテンを開かれる。
 一体どこから持ってきたのか、整然と服が積まれてあった。……隅っこに鬘らしきものが見えるのは気のせいだと思いたい。
「リボンもこの通り用意してあるから、遠慮は無用ですよ」
「サイズはちょっとずれちゃうかもだけど、そのくらいは我慢してねー!」
 エイミィの代わりとして提督が直々に発し、やはりエイミィが続ける。
 幼いユーノにも分かる連携プレーだ。やはりグルなのかこの二人は。
 唖然とする三人のうち、有無を言わさずセラの手が引かれていく。
「さあセラちゃん、ちゃっちゃと試着してみよう!」
「え、あ、あの――」
「ほら、早く早く!」
 明朗快活な姉貴分に、半ば無理矢理試着室へ連れて行かれるセラが、試着室のカーテンが閉まる直前でこちらを向く。困惑の表情ながら、瞳が助けを求めているのは至極明快。
 十代の少年少女三名は勿論気付くものの、揃って苦笑しながら手を振ることしかできなかった。
 この時、ユーノ自身も少しだけ興味があったことをここに明記しておく。
 孤立無援となってしまったセラの表情がカーテンの裏側に隠れると、執務官は大きな溜息を吐く。
 半目で見事に呆れの感情を露にしているところを、ユーノは念話で問うてみる。
(いいんですか? こんなことしても)
(いいんじゃないか? こんなことしても)
 認めていいのか。というか疑問で返されるとこちらが困るのだが、それでも執務官なのか。
(なんか投げやりになってませんか?)
(気のせいだろう)
 さりげなく眼を逸らしている辺り、確信犯である。
 これ以上の追及は無駄だろうと判断し、ユーノも溜息を吐いた。
 ふと試着室へ顔を向けてみると、白い仕切りの向こう側から微かに話し声が聞こえてくる。
 多少は何か聞き取れるだろうかと耳を澄まそうとして、肩を指で突かれた。
 見やると、くりっとした丸い瞳を真っすぐに向けてくるなのはの顔は既に目の前。
 あまりに近いためユーノの心臓が僅かに跳ね上がるものの、対する彼女は全く気に留めていない様子。
「ねえユーノくん、セラちゃんどうなるのかな?」
 エイミィのテンションに多少遅れども、乗り気であるところはそのままのようだ。
「まあ、実際に見てみないと分からないね」
 何とか冷静さを保ちつつ、正直に意見を述べる。
 確かにセラはフェイトに似ているような気はするものの、何所が似ていて何所が違うのかが判然としないのだ。
 外見の一部なのか、それとも内面的部分から来ているのか、それすらまだ分からないまま。どう転ぶにしろ、それもここで判明することだろう。
 口元をへの字にして考え込むなのはを余所に周りを見てみると、ハラオウン親子は手元の紅茶を静かに飲んでいる。
 執務官はブラックのままなのに対し、提督は砂糖四杯ミルク入りであることは置いておくとして、二人からのほほんとした雰囲気は感じ取れない。
 動作はいつもと変わりないのに、静謐さが伝わってくる。恐らく、結果が返ってくるのを冷静に待ち続けているのだろう。
 セラの人となりを、もう少し調べるつもりなのだろうか。だとすれば納得がいく。
 こんな時でもセラの事を去りげなく調べようとする辺り、どうやら自分となのはよりも真面目に考えているらしい。流石は時空管理局か。
 こうしてはいられない。あの少女が危険ではないことを証明するために、自分も目を光らせなければ。
 感心しつつも気持ちを改めるユーノの余所で、ただ一人だけ別の意味で真面目に考えている少女の事を、この時は誰も見ていなかった。

677LB ◆ErlyzB/5oA:2010/04/21(水) 15:51:27 ID:nSUHMSds

「な、なんだか……はずかしい、です……」
 やがて移動型の巨大試着室から現われたセラは、随分と様変わりしていた。
 ここで思い出してみてほしい。
 セラをフェイトに似るよう着せ替えをしてみたのはいいとして、ここまでの時点で管理局側……つまり自分たちの知るフェイトの服装とは如何なるものだっただろうか。
 そう。バリアジャケットただ一択。私服なんて一度も見たことがないのだ。
 つまり、黒いリボンによって編まれたツインテールに、体を覆うような黒いマントに、腰のベルトにヒラヒラのついたこれまた黒い以下略である。
 結果はどうなのかというと、ある意味成功ではあった。
 フェイトとは身長に差があるものの、年齢が近い分体格も近い。似合わない筈がない。
 さっきまで白を基調とした服装だったのに、今は真逆の黒を基調としたものである辺り、ある種の新鮮さすら感じられた。
 何より、大きなリボンで括られていたポニーテールがツインテールになったところが大きい。
 そして肝心のセラはというと、こういった露出度の高い黒服は着たことがないのだろうか、遠目でも分かるくらいに顔を赤くしながら俯いている。
「え、えぇっと……どう、ですか?」
 上目づかいに蚊の鳴くような声で聞いてくる、二つに分けて梳いた金髪に大きな碧眼の少女。うん、可愛らしい。
 そのテの子供好きならば一目で悶絶する……のだろう。
 現に、エイミィは試着室の壁に手をついて口元の辺りを手で押さえ、リンディはテーブルに顔をくっつけたまま握った両拳諸共震えている。
 出会った時のフェイトは殆ど感情を露にせず、まだ『お人形らしい』で済んでいた。フェイトほどでないにしろ、無論セラもその類である。
 その『お人形みたいな』少女が、こんな羞恥心全開の表情を見せてくるのだからたまったものではない……要するにそういうことなのだろう。
 年長者二名のそんな心情を察しているのは、当然ながらクロノ一人。呆れ混じりに溜息を吐いている。
 一方なのはとユーノはというと、セラの顔と服に何度も視線を行き来させている。
「似合ってることは似合ってるんだけど……」
 たっぷり時間を掛けてから口を開いたなのはだが、その歯切れは悪い。
「彼女に似てきたか、と言われると微妙だな」
 基本的に率直なクロノが、微妙な空気を無自覚に破って評価した。
 問題は髪の毛である。フェイトと同じ『長い金髪』と言っても、個人によって微妙な違いがある。
 フェイトの場合は真っ直ぐで癖のない金髪。対してセラの場合は意外と癖のある金髪。
 髪の毛を一つに纏めようが二つに分けようが、結んだ先の毛髪はばらけるのだ。
 そういうわけで、クロノの感想が結論となる。
「んんー、なら今度は内面的な方向で……そうだね、せめてフェイトちゃんらしく演技とか」
 首を傾げつつ、漸く復活したエイミィが次善策を提示するも、
「っていっても、彼女のことはよく知らないし……」
「あ、そっか……」
 口を吐いたユーノの言葉に項垂れる。
 最優先(?)である『フェイトに似せる』という念願(?)は、これにて潰えることとなった。
「まあ、いいんじゃない? 何れにしろ可愛いんですもの」
「ですよねー!」
 場を和ませつつ、さりげなく感想を述べる艦長。
 鶴の一声でぱああっと顔を輝かせ、コクコクと頷くオペレーター。
 相棒のさまを見て、器用なものだと言わんばかりに疲れたような溜息を吐く執務官。
 『可愛い』に反応して、既に赤くなっていた真っ白なお肌を更に紅くする次元漂流者。
 周囲の真意に気付くことなく、オペレーターと同様に微笑みながら首肯する民間協力者(前衛)。
「――確かに彼女にも似てるとは思うけど、ぼくはなのはにも似てると思います」
「え?」
「ふぇ?」
 そして、完全不意打ち気味に爆弾を投下する民間協力者(後衛)。
「ちょっと、二人を並べてみましょうか」
 珍しく、リンディが眼の色を変えて指示を送る。
 早速二人を横に並べて見比べると……

678LB ◆ErlyzB/5oA:2010/04/21(水) 15:52:17 ID:nSUHMSds
「ほら、見かけよりも雰囲気とかが」
「ん……まあ、分からないでもないが」
「「え? え?」」
「じゃあ、今度はどっちかをどっちかに似せてましょうか」
「「え、えぇ――?」」
「さっきはセラちゃんだったから、今度はなのはちゃんにやってもらおっか!」
「わ、わたし――? ……ってセラちゃん! なんでそんなさわやかに笑ってるの――?」
「がんばってください、なのはさん」
 ユーノの意見・クロノの同意・リンディの提案・エイミィの指名・トドメにセラの賛同。
 二人の少女が首を傾げ、驚き、そして意見が分かれるまで十五秒と掛からず。
 あれよあれよと話が進み、セラはさっさと元の服&元の髪型へ戻るためエイミィと試着室に入っていく。
 ツインテールにしていると、髪の長さで大きく差異が目立ってしまう。よって、二人ともポニーテールにしてみようという案で纏まったからだ。
 この間、なのはは勿論逃げられなかった。逃げなかったのではなく、逃げられなかった。
 無理もない。爽やかな笑顔で見つめ続けるリンディと、さりげなく後方に控えるクロノの二人がかりで、無言のプレッシャーをかけてくるのだ。
 自分より実力が上の人間が二人がかりでこれなのだ、抵抗など無意味だろう。
「に、にゃうう……」
(ユーノくん、助け――)
(ごめんムリ)
(即答――?)
 既にクロノから釘を刺されていたユーノは、諦観を含んだ笑み。
 涙目になるなのはだが、項垂れてから何も言わなくなった。
 ユーノの事情を察するなんて器用な真似が出来る筈はない。単に落ち込んでいるだけだろう。そう判断したユーノは、本格的な密談を開始した。
(フェイトと、『ディー』さんの捜索はどうですか?)
(……正直、芳しくない。フェイト・テスタロッサは使い魔のサポートもあって足取りは掴めないし、『ディー』の手掛かりもさっぱりだ)
(じゃあ、セラの調査は?)
 ここで、クロノは複雑な表情をして見せた。なのはの後方なので気付かれる心配はない。
(……なのは以上の戦闘能力を保有している線が濃くなってきた、とだけ言わせてもらおう)
 流石のユーノも、執務官に驚愕の眼差しを向けた。何の魔力もなしにそれだけの力を持っているなど、俄かには信じ難い。
(彼女の言動から、最悪の場合は力ずくで強行突破する可能性すら出てきている)
(な――幾らなんでも考え過ぎでは!)
(僕でもそう思うよ。ただ、こう考えなければ彼女の不審点に説明がつかないんだ)
 頭では理解できても、心までは納得できない。クロノも同じなのだろう、その表情は険しく歪められている。
 彼女は悪人などではない。年齢より達観している程度の、ごく普通の少女である。
 敵の少女だって似たようなものかもしれないが、自分達は現在セラの人となりを『理解して』いるからこそ、そう言い切れる。
 嘘を吐くのがなのはと同じくらいに下手なのだ。もし演技なのだとしたら、名子役としてどこかで賞の一つや二つを軽く手にしているかもしれないくらい。
 見た目よりずっと年齢が高いなら、身体検査の時点で脳以外にも異常が見つかるはず。
 よって、演技の可能性は皆無。少女は必死で真実を隠し通し、行方不明の少年と共に元の世界へ帰ろうとしている。
(とはいえ、幾つか誤解されてると思しき部分もある。そこを何とか説明できれば、戦闘だけは回避できる筈だ)
(何とかって……言えないんですか?)
(一つは、彼女の異常性に対する確証がないこと。もう一つは、ちゃんと話せるような状況かどうか)
 そこまで念話で話すと、意味ありげになのはへ視線を向ける。
(あ……)
 フェイトの事でいっぱいいっぱいのなのはに、この話を聞かせるのはまずい。精神的問題で、戦力低下にさえ繋がりかねないからだ。
(まあそういう訳だ。あと、なのはが着替えている間にセラを借りていくよ。個人的に話したいことがある)
 管理局やセラの複雑な状況を知ったユーノには、頷くのがやっとだった。
 その直後に、試着室のカーテンが開く。向こう側で真っ先に見えたのは、何がそんなに嬉しいのか、ものすっごい満面の笑みを向けるエイミィの姿だった。
「はーいなのはちゃーん、準備はいーい?」
 ぶんぶん首を振っているなのはをよそに、クロノが無造作に着替え終わったセラへと歩み寄り、耳打ちする。
 一瞬で顔を強張らせて尚気丈に頷く漂流者を確認して、ユーノは漸く視線をなのはへと集中した。

679LB ◆ErlyzB/5oA:2010/04/21(水) 15:52:58 ID:nSUHMSds
「期待してるよ、なのは」
「ユーノ君もああ言ってるんだし、ファイトだよ!」
 サムズアップしながら少女の手を引くオペレーターと、最初の時点から変わらずにこやかに微笑み続ける提督を背景に。
 執務官と次元漂流者が、食堂から静かに立ち去る足音をBGMに。
 半ば引き摺られている形で、試着室に連れ込まれる魔導師の少女と。
「ふぇ〜……」
 少女らしくも、色気や情けの一切ない声が、カーテンの向こうに消えた。

                   *

「それで……お話って、何ですか?」
 次元航行艦の廊下は、落し物を視認できる程度には明るい。
 しかし、それまで照明の下にいた生き物にとって例外なく暗いと感じられる場所でもある。
 今は、物理的な意味だけで暗いとは言えないだろう。食堂からの光が差し込むそこは、どこかの演劇にある舞台裏のようだった。
「現在捜索中の、『ディー』という少年についてなんだが――」
「何か分かったんですか――?」
 言い終わる前に、それまで警戒気味だった少女の雰囲気が一瞬で崩れ去る。
 やはり、セラの演技は下手な方だ。過剰な反応に動揺しつつ、その事実を再確認する。
「い、いや、そういうことじゃない。念のために、君の覚悟を知っておきたくてね」
「え……?」
 詰め寄ったところで、予想を違える話に碧眼を瞬かせる少女。
 無防備だな、と心の中で呟くと同時に、これから話す内容の過酷さに罪悪感を募らせる。
 自分はこれから、このか弱い次元漂流者に揺さぶりをかけるのだから。
「ロストロギアなどによる突発的な次元転移は、同時に起こったとしても同じ場所に転移されるとは限らない。これは知っているね?」
「はい、です」
 神妙な顔で、正直に頷く。
 二人の人間が同種の次元転移を受ける際、別々の位置でそれが発動した場合、位置や転移所要時間の微妙なズレが転移先に大きく関わる。
 しかし『同時』且つ『ほぼ同所』にて起こったとなると、双方の転移先にそこまで大きな差異はない。
 どんなに遠くても、並の魔導師が到達できる近隣の次元世界までしか転移のズレが発生することはないだろう。
 問題は、近隣の次元世界がどういうものなのか。
「近いとは言っても、世界の形は様々だ。文明の滅んだ世界、未発達の世界、環境の汚染された世界……魔導師のように力を持っていなければ倒せない、巨大生物が生息している世界もある」
 話しているうちに、セラの表情はみるみる変わっていく。
「それなりに文明の進んだ世界であっても、優遇されるとは限らない。危険分子とみなされたりしたって、なんら不思議ではない。何より、僕らにも立場がある」
 念のため、言葉の裏にさりげなく『餌』を撒くが、流石に釣られない。
 どんな世界でも大丈夫だと思っているのか、それとも真逆か。中途半端な方を賭けてみたのだが、反応がない辺りはハズレのようだ。
「……ディーくんが見つからないまま、捜索をあきらめることもありうる、ってことですか?」
「見つかったとしても、捜索対象が無事かどうかは保証しかねる、と解釈してもらってもいい」
 ついに少女が絶句する。
 次元世界の住民によっては相応のルールがあるし、時空管理局の腰は常に重いまま。少女の状況が良くなったとは限らない。
 最悪の状況は、まだ回避しきったわけではないのだ。
「誤解しないでもらいたい。聞きたいのは、あくまで君の覚悟だ。どんな真実が待ち構えていようと、君はそれを受け入れられるのかどうか」
 本当は、捜索を始めた時に伝えたったんだけどね。と付け加え、俯いてしまった迷い子を見つめる。
 もしも第三者がいたら、薄暗い廊下でか弱い少女には余りに重い話をする今の自分を、どう見るだろうか。
「わたしは……」
 この提案を持ちかけた時、提督が起こした反応は、ただ大きく溜息を吐いて許可しただけであった。
 あの一瞬で、上司はどのような深謀遠慮を考えていたのか、今の自分には分からない。
 なんにせよ、これが不器用な自分の……彼女にしてやれる、自分なりに精一杯の気遣いだ。
「時間をかけてもいいから、これだけはしっかり考えてくれ」
 言い残し、背を向ける。
 そろそろなのはが着替え終わる頃だろう。彼女に怪しまれるのは些か面倒だ。

680LB ◆ErlyzB/5oA:2010/04/21(水) 15:53:37 ID:nSUHMSds
「――わたしは!」
 いつもと違う、強い叫びに足を止める。
 そのまま身動き一つせずにいると、クロノにとってある意味予想通りの言葉が放たれた。
「わたしは……ディーくんを信じます」
 一番、返ってきて欲しくない答えだった。
 そんな覚悟はいらないと。
 待ち人が来ない筈がないと。
 自分の戦いに、バッドエンドなど訪れないと。
 彼女はたった今、断言してのけたのだ。
「その、根拠は?」
「ディーくんのことをちゃんと知ってるのは、わたしだけなんです。だから……」
 声が時々震えても。瞳が時々揺らいでも。
 それでも、どれだけ悩もうと、これだけは絶対変わらないのだと。
 少女の中に確かな決意は既にあった。
「わたしがディーくんを信じなくなったら、誰も信じなくなると思うんです」
 だから、わたしは信じます。
 そう締めくくった迷い子に、振り返らずして唇を噛む。
「……そうか」
 湧き上がる全ての感情を押し殺し、辛うじて呟く。
「なら、僕からはもう何も言わない。すまなかったな」
 何が、何も言わないだ。何も言ってやれないだけじゃないか。
 クロノは自分を罵倒した。自分のかけた余計な気遣いは、迷い子の悲壮な決意を更に固めるだけに終わってしまったのだ。
 ……やはり、一筋縄ではいかないか……
 分かってはいたのだ。少年との合流を第一に考えているというリンディの推測が正しければ、こういう決意をしているということぐらい。
 もしかしたら、リンディはこうなることを半ば予想した上で、セラとの密談を許可したのだろうか。
 何れにしろ、この結果は報告せねばなるまい。
 試着室にいるであろう少女も、そろそろあのカーテンの裏側から現れるはずだ。
 若き執務官は、廊下という舞台裏から、食堂という表舞台へと足を踏み入れる。
 声をかけてやることも、振り返ることさえもできなかった。

 廊下の隅、食堂の明るさにより最も強く影が差すその場所で。
「……ディーくん……」
 少年が先に立ち去った直後、誰にも聞こえぬ言葉が静寂を彩った。

                   *

「え、えぇーっと……どう、かな? ユーノくん」
 ロングスカートの白い制服を、より真っ白なミニスカートの私服へ。
 大きな白基調のリボンを、頭の上にちょこんと乗せて。
 セラと同様のニーソはデフォルトなので問題なし。
 そこへ、髪を後ろで一つに纏めてしまえば。
 あら不思議、顔と髪色を除外さえすれば予想以上にセラへ近づいてしまった。
 思わず硬直するユーノより先に、年長の女性陣から感嘆の溜息が漏れる。
「やっぱりなのはさん、セラさんと同じように白が似合うみたいですね」
「こうして見るとお人形さんだよねー」
「う、うん。よく似合ってるよ」
 遅れてユーノも、端的に感想を漏らしたところで。
 ぴょんっ。
 正体不明の効果音に、三人揃って頭の上に疑問符を飛び出させる。
 いや、出所は何となく分かってはいる。しかし、初めは誰もが気のせいかと思った。

681LB ◆ErlyzB/5oA:2010/04/21(水) 15:54:13 ID:nSUHMSds
「にゃはは、うれしいな」
 ぴこぴこっ。
 そして、同じ事が二度続いたなら流石に見過ごせなくなる。大きなリボンに隠れて少々見え難いが、絶対にアレだ。間違いない。
「クロノくんはどうかな?」
 何気なく、なのはの視線が真っ黒い少年の席へ向けられる。
 ちょうどクロノが自分の定席へ戻ったところであり、クロノが一時席を離れたことには気付かれていない。
 因みに、クロノはなのはの視線を避けて席へ座るのに夢中で、一連の異常は知らないままだったりする。
「ふむ、その髪型も結構似合って――」
 ぴくっ。
 だから、感想を言いかけたところで動揺してしまい、口が完全に止まってしまう。
「あ、なのはさん、それ――」
 ぴこんっ。
 廊下から現われたセラも、努めて見せようとした笑顔を凍りつかせた。
 微妙な間が、感想を述べるには気まずい雰囲気を作りだす。
 その時間を以て、全員が我に返ったことこそがせめてもの僥倖なのだろうか。
 さて問題です。なのはに内容を気取られずに、この状況で他とコミュニケーションをとるにはどうすればいいか?
 念話だったらエイミィとセラが加われないし、後ろに下がって内緒話なんてことをすれば目立ちすぎて怪しまれるかもしれない。
 結果として全員がとった行動は、アイコンタクトである。ここで、全員の心の声を挙げてみよう。
(今、動きましたよね?)
(ああ、動いたな)
(動いたね)
(艦長、これはやはり……)
(ええ。新発見だわ)
 約二名が全く場違いな事を考えているようだが、分かっているのは執務官一人。スルーしているのは最早聞くまでもなし。
「えと……?」
 皆で集まって内緒話ならまだ分かる。念話を行っているにしては、念話が使えないセラが参加しているのは不自然。
 話題の当人としては、首を傾げて当惑する他ない。
(ど、どうしましょう?)
(当り障りの無いことを聞いてみるしかないんじゃないか?)
(じゃあ、ここは僕が代表して)
(どうしてくれましょうか、艦長)
(うーん、流石に悩むわね……)
「なのは、以前その髪型になった事ってある?」
 ふぇ? と目を瞬かせると、正直にユーノへ返答を送る。
「なったっていうより、昔はこうだったけど……」
「じゃあ、何で髪型変えたんですか?」
「えと……少し伸ばし始めたら、お母さんが『こっちの方が可愛い』って……」
 納得。だからツインテールか。というか、あの状態でも時々大きく跳ね上がっていたのが少し気になってもいたのだが、原因はこれだったのか。
 意外なエピソードに何度も頷く少年少女達。一方のなのはは絶賛クエスチョンマーク発生中だ。
 その間にもぴこぴこと動いているのは御愛嬌だろうか。
「なのはちゃん、セラちゃん、早速二人で並んでみてくれるかな?」
 流石に堪りかねて疑問を言葉に表そうとしたなのはだったが、エイミィの指示によりそれも中断。
「「あ、はい」です」
 二人揃って、言われた通りに並んでみる。
 互いを見やる勇気もなく、僅かに顔を紅潮させながら、緊張の面持ちで立ち尽くす二人の少女。
 まさかの完全同時で瞬きをしているなど、予想だにしていないだろう。
 一方の観客側はと言うと、またまたアイコンタクト。しかも、今度は全員の表情が同じだった。

682LB ◆ErlyzB/5oA:2010/04/21(水) 15:54:51 ID:nSUHMSds
「……あっち向いて、ほい」
 何故か今度はエイミィが代表して口を開く。
 オペレーターの指さした方向に、勢いよく顔を向けてみる。
「ほい」
 反対側を指せば、素直にそっちも向いてみる。
 はい、じゃあこっち向いて。と言われた通りに首から上を元の位置に戻した時は、既に緊張感が半ば薄らいでいた。
 全く訳が分からないままのなのはと、リラックスさせるためなのだろうかと考えているセラ。違いはあれど、とりあえずこのまま流されてみようという判断は同時。
 そして、セラの推測は思いっきり的外れである。
「首傾げて」
 きょとっ。
 綺麗に同じ方向へ首を傾げる。よく頭をぶつけないものだ。
 二人の後頭部に結わえられた髪が、重力に従って真下を向いたままである。
「反対側」
 きょとっ。
 ここで、女性陣年長側が揃って深呼吸。心を落ち着け、衝撃に備える。
「……繰り返して」
 きょとっきょとっきょとっきょとっきょとっ……
 ――それでも、即陥落。
 オペレーターと提督が同時に仰け反り、少年二人は顔を赤くしたまま呆然と見入る。
 一番厄介なのは、肝心の二人。エイミィの指示通り、『指を振る』ように右へ、左へ。これを繰り返し。
 凄まじい破壊力だ。そのテの人種なら悶え苦しんでいることは相違ない。
「ス、ストップストップ!」
 慌ててユーノが叫ぶことで、漸く終了。
 仰け反っていた二名は、両手で顔の中心辺りを押さえている。
 クロノはと言えば、何故か頭を抱えていた。
「えーっと……」
「ど、どうなんですか? 感想は」
 なのはとセラの視線に対し、残りの女性二人は答えられる状態ではなく。
 酷い体たらくの二人を見た男性陣は、深く溜息を吐いて結論を出した。
「……危険だな」
「うん。これを衆目に見せたら、どうなるか……」
 この一連の騒動で着せ替えられたセラとなのはの姿は、こっそりオペレーターの端末に画像データとして保管されることとなった。
 言うまでもないことだが、提督権限の最重要機密である。

683LB ◆ErlyzB/5oA:2010/04/21(水) 15:56:27 ID:nSUHMSds
投下終了。

リンディさんをカリスマブレイクしました。このようなギャグ分を入れたのは完全にこちらの都合です。
これまでの雰囲気が好きな方、真面目な方、そしてウィザブレファンの方々はもしかすると気分を害されたかと思います。
ただ、次回はちゃんと元に戻ります。というか、素直にふざけられるのは大体ここまでなので。
あと、セラちゃんの服装が諸事情により三度変わってしまいました。ニーソ以外真っ白です。以後これで固定とさせてもらいます。
ユーノがクロノに敬語使っているのは、まだ無印だからということでこのような判断を取らせていただきました。

今回は第六章・アースラ側の回でした。アレな回でした。40KB以内で納まるかと思ったら60KBを超えやがりましたorz
30KBちょっと超えるかという書き始めの予想を大幅に裏切って、まさかの倍加。
プロット立てた頃は20KB程度かと思ったら結果三倍でしたとか、どこの赤だよと昔の自分に突っ込みたいです。

編集される方は、是非とも前後編で分けちゃって下さい。
一応途中で区切り線付けましたので、その辺りを基準にお願いします。あそこでほぼ半分にあたりますので。

で、今回大変久々の投下でした。言い訳させていただきますと、
完成した後、予告から読み直すと矛盾した箇所や描写不足が黒歴史レベルなので投下中断、急遽改訂版制作を開始
→意外な所で頑張るセラちゃんや七巻の設定をどうするかとか、シーン追加はどうしようとか悶絶した末に漸く改訂作業が軌道に乗る
→と思ったらもう八巻発売だよどうしよう、ええいこれ以上投下延ばすのもなんだしいっそのことやっちゃえ(←今ここ
……という経緯です。後悔は色々な意味でし て ま す(ぇ
あと、予告は改訂が終了しているのでこちらで編集……しようと思ったら一部未完成でしたのでまた今度にします。

さて、お茶会の次は舞踏会。『剣と魔法と庭園モノ(嘘)』とか『人間ダブルオーライザー(ぉ』とか変な単語浮かんだけど気にしない。
以上。

684魔法少女リリカル名無し:2010/04/22(木) 00:05:38 ID:MTQThemA
>>683
代理投下してきました。確認をお願いします。
が、さるさんは毎時00分解除なので、ここに落とすより待った方が早いかと。
ご存知でしたら申し訳ありません。

685LB ◆ErlyzB/5oA:2010/04/22(木) 01:57:50 ID:wfJrjqlQ
>>684
確認しました。代理投下ありがとうございます。
残念ながら一身上の都合により、こちらへ投下せざるを得ない状況に立たされてしまいました。この場を借りてお詫び申し上げます。

686魔法少女リリカル名無し:2010/04/22(木) 23:00:22 ID:LlODBYGI
約一か月ぶりの登場の「TRANSFORMERS」クロス作者です。
投下しようと思ったのですが、規制に引っ掛かって投下不能でしたので、代理
依頼いたします。
代理の方の都合のいい時間で構いませんので、どなたかお願いいたします。

687魔法少女リリカルなのは TRANSFORMERS:2010/04/22(木) 23:08:25 ID:LlODBYGI
ひと月ぶりになります。
ようやく続きの話が出来上がりましたので投下いたします。

「敵GD部隊、完全に沈黙!」
砲手と各車両から同じ報告を受け取った部隊長は満足げに頷く。
「ここからもっとも近い戦場はどこか、本局に問い合わせてくれ」
指示を受けた通信士が本局と連絡を取り始めた時、運転士のモニターに突然“未確認
車両接近中”という警告が表示された。
「隊長、前方より所属不明の車が一台近付いて来ます」
運転士は自分のモニターの映像を、部隊長のところに転送する。
そこには、危険物処理や災害現場の後片付け用に陸士部隊へ配備されている大型特殊
車両が、ドローンの残骸を掻き分けながら近付いて来るのが映っていた。
「こちらは機動一課 第89師団 陸士209部隊所属の重魔導車両部隊である、貴方
の所属を知らせよ」
EW−TTからの問いかけに返答せず、特殊車両は無言のまま近付いて来る。
「全車、ディバインシューターセットアップ!」
指示を受けたEW−TT全車の足元に、ミッド式魔方陣が再び展開される。

「撃て!」
ディバインシューターが発射されると、特殊車両は弾道を予測したかのように、反対
車線へ移動して、魔力弾の直撃を避ける。
先程だったら、直撃しなくとも衝撃波で吹き飛ばされる筈だが、特殊車両はそんな
ものなど存在しないかのように、悠然と走っている。
「なにっ!?」
その様子を見ていた部隊長が驚きの声を上げる。
まるでそれを合図としたかのように、特殊車両は急加速してEW−TTとの距離を
瞬く間に詰めてくる。
「全車後退!」
部隊長がそう怒鳴るのと、特殊車両が変形を始めて“デストロン軍団破壊兵ボーン
クラッシャー”の正体を現したのは同時であった。

688魔法少女リリカルなのは TRANSFORMERS:2010/04/22(木) 23:11:00 ID:LlODBYGI
ボーンクラッシャーは、今や巨大な拳と化した障害物及び危険物除去用のアームを上から
叩き付け、一両目のEW−TTをまるで蠅でも叩くかのように苦もなく潰す。
潰した車両を掴み上げると、左側のEW−TTに叩き付けて横にひっくり返し、次に正面
の三両目に投げ付けて擱座させる。
「ディバインバスター準備!」
目まぐるしく変わる状況に、部隊長は覚悟を決めた表情で指示を下す。
四両目を撃破したボーンクラッシャーが隊長機を掴んだ瞬間、部隊長は攻撃命令を出した。
「撃て!」
零距離で撃ち出された砲撃がボーンクラッシャーを直撃、まばゆいばかりの閃光と埃が舞い
上がり、辺りを覆い尽くす。
車内の全員が固唾を呑んで見守る中、埃が晴れて来ると、EW−TTの必死の反撃を嘲笑う
かのようにボーンクラッシャーが悠然と立っていた。
「そんな…!」
部隊長が絶句すると同時にボーンクラッシャーが再びEW−TTを掴んで軽々と持ち上げる。
車内の乗員は全員シートベルトを付けていたので放り出される事はなかったが、突然天地が
ひっくり返った事に恐慌を来たす。
ボーンクラッシャーは車両を軽々と持ち上げると、路上で民間人を退避させていた陸士部隊
目掛けて放り投げた。
「こちらボーンクラッシャー。邪魔者は総て片付け―――」
結果は見るまでもないと判断して報告を始めたボーンクラッシャーは、いつまでも重車両が
路上に激突する音が響かない事に不審を抱き、途中で報告を止めて振り返った。

689魔法少女リリカルなのは TRANSFORMERS:2010/04/22(木) 23:15:49 ID:LlODBYGI
先程までドローン達と戦っていた魔導師部隊は、EW−TTが後を引き継いで以降通りに
残って戦闘を眺めていた民間人の避難誘導を行っていた。
ボーンクラッシャーが車両部隊を潰し始めると、隊長は民間人の避難と同時に、手の空いた
陸士達を、破壊された車両の乗員の救助に向かわせようとするが、その暴れっぷりに近づく
事すら出来ない。
このままでは自分達もやられる。
そう判断した隊長は民間人の避難が完了次第、陸士達も退却するよう、断腸の思いで命じる。
最後の家族連れを連れて隊長達が退避しようとした時、ボーンクラッシャーが放り投げた
車両が、こちらへと飛んで来るのが見えた。
「逃げろ!」
呆然として動けない家族連れと部下達に怒鳴りながら、我が身を犠牲にする覚悟で隊長
はプロテクションを展開する。
その時、彼の横を猛スピードで人影が横切り、跳び上がるとEW−TTに飛び付いた。
路上に十数メートルの擦過痕を残し、重戦車並の重さのEW−TTを人影は一人で受け
止めながら、隊長達の眼前で停止する。
白のジャンパーと短パン型のバリアジャケットに、ローラーブーツにハンドガード型の
デバイスを装着した人影は、隊長に振り向いて尋ねる。
「機動五課 第58師団 陸士556部隊所属のスバル・ナカジマです。怪我はありませんか?」
問い掛けに隊長が頷くと、スバルはモニターを開く。
「シャマル先生、スバルです。第11区ホルテンマルス通りで民間人数名と陸士部隊を救助。
負傷者もいる模様です。至急後方への搬送をお願いします」
「分かったわ。今、そちらに向かうから」
モニターから声がすると同時にスバルの横で緑色に輝く鏡が出現し、中から緑のロングドレス
仕様のバリアジャケットを着たシャマルが出て来た。
「次元部局タイコンデロガ医務官のシャマルです。皆様、こちらから避難して下さい」
シャマルの指示に従って家族連れは鏡の中へと入って行き、一方スバルはEW−TTのドアを
力任せに引き開ける。
「大丈夫ですか?」
スバルの呼び掛けに、部隊長がシートベルトを外しながら答える。
「私は大丈夫だ、だが、部下が…」

690魔法少女リリカルなのは TRANSFORMERS:2010/04/22(木) 23:17:50 ID:LlODBYGI
スバルと部隊長が怪我をした乗員を外へ運び出していた時、砲弾が頭上のビルの壁を穿ち、
破片が擱座したEW−TTの車体に降りかかる。
攻撃のあった方をスバルが見ると、新たにやって来たドローンたちが、砲撃しながら
近付いて来るのが見えた。
「シャマル先生、敵GD部隊は私が食い止めますので、怪我人をお願いします」
スバルがそう言うと、シャマルがEW−TTの所へ駆けて来る。
「言っとくけど、危険と判断したら即座に撤収しなさい」
シャマルの言葉に、スバルは敬礼で返した。

EW−TTからこちらへ向かって来るスバルに、ドローン達は砲口を向ける。
雨あられと撃ち込まれる砲弾をスバルはジグザグ運動で回避し、通りの左端に立っていた
スィンドルの足元に蹴りを入れて仰向けにひっくり返す。
隣にいたドロップキックが砲撃するが、スバルは跳び上がってそれを回避し、弾は倒れた
スィンドルを木っ端微塵に吹き飛ばす。
スバルはそのままドロップキックの肩に飛び乗ると、背中をナックルダスターで殴り付ける。
後ろからいきなり強く突き飛ばされる形になったドロップキックは、砲を乱射しながらグル
グル回り、周囲のドローンを次々とスクラップにしていく。
背中にいるスバル目掛けて、ドローン達が一斉に飛び掛かる。
レッゲージがドロップキックの背に飛び付き、ニ体は縺れ合って路上に倒れる。
しかし、その時にはスバルは再び宙を舞っており、スィンドルの頭上に降り立つと脳天に
リボルバーキャノンを叩き込んで粉々に粉砕する。
火花を放ち、身体を小刻みに震わせながら倒れたスィンドルの上に、スバルは悠然と降りる。

691魔法少女リリカルなのは TRANSFORMERS:2010/04/22(木) 23:21:30 ID:LlODBYGI
後方から別のドローン達がやって来て砲口を開いた時、ボーンクラッシャーがその内の
一体を拳で殴り倒す。
“手を出すな! こいつは俺の獲物だ!!”
ドローン全員に無線で命令すると、ボーンクラッシャーはスバルへ挑むように、真正面
から対峙する。
ドローンを殴った事と威圧感たっぷりに睨み付ける姿。
相手をガジェットドローンと同様の自動兵器と考えていたスバルは、そのあまりに人間的
な行動に違和感を覚える。
と、ボーンクラッシャーはスバルに考える暇を与えさせないかのように、足元に転がって
いたドローンの残骸を持ち上げて投げ付けてくる。
スバルは盛大なスキール音と共に急発進して残骸を避けると、走りながらカートリッジを
再度装填する。
次々と投げられて来る残骸を左右やジャンプして避け、時には真正面に来たものを殴り落とし
ながら、スバルはボーンクラッシャーへと迫る。
ボーンクラッシャーの方も路面の舗装を盛大に巻き上げながら急発進する。
進路上にある残骸や瓦礫を弾き飛ばしながら、ボーンクラッシャーは鉤爪をスバル目掛けて
振り下ろす。
スバルは左にステップして回避するが、そこへボーンクラッシャーの右拳が襲ってくる。
それに対してスバルは拳の来る方向に身体を捻らせて攻撃を受け流し、勢いを殺さずに
裏拳を肘の辺りに叩き込む。
勢いを流された上に攻撃をまともに受けたボーンクラッシャーは、バランスを崩して横向きに
倒れ、その際拳が左側にあるオフィスビルの壁面を破壊する。スバルは後退して、降って来る
建物の残骸を避ける。

692魔法少女リリカルなのは TRANSFORMERS:2010/04/22(木) 23:23:16 ID:LlODBYGI
埃が濛々と巻き上がって姿が見えなくなったボーンクラッシャーに向けて、スバル
は警告する。
「こちらは時空管理局陸上部局機動五課第778師団陸士71部隊所属のスバル・
ナカジマです。
当該大型GDに搭乗しているパイロットに警告します、直ちに武装を解除し、GD
より降りて降伏して下さい」
次の瞬間、土煙の中からボーンクラッシャーが飛び上がり、スバルの目の前に降り
立つ。
「クソ喰らえだ! 止められるもんなら止めてみやがれ!」
中指を突き立て、ミッド語で挑発するボーンクラッシャーに、スバルは面食らった
表情で素っ頓狂な声を上げる。
「しゃ、喋った!?」
ボーンクラッシャーは、唖然とするスバルを嘲笑う。
「お前らの言葉で話した事がか? 俺に言わせれば、手前ェら単純な炭素生物が言葉
や道具を使う方が驚きだがな!」
スバルはその挑発には乗らず、相手がどんな動きを見せてもすぐ対応出来るように、
構えを取る。
そんなスバルの様子に構わず、ボーンクラッシャーは言葉を続ける。
「スバル・ナカジマと言ったな? 冥土の土産に教えてやるぜ、俺はデストロン軍団
破壊兵ボーンクラッシャーよ! よぉーく覚えとけ!!」

693魔法少女リリカルなのは TRANSFORMERS:2010/04/22(木) 23:25:38 ID:LlODBYGI
今回はここで終了です。
B級SF映画のオリキャラを出そうと思ったのですが、間に合いませんでした。
次はサンダークラッカーやスカイワープなどの“ジェットロン部隊”の登場を予定しております。
お楽しみに!

694魔法少女リリカル名無し:2010/04/22(木) 23:26:24 ID:LlODBYGI
内容は以上で終了です、なにとぞお願いいたします。

695魔法少女リリカル名無し:2010/04/23(金) 00:51:09 ID:jZ5yzDBc
じゃあ行きます。

696魔法少女リリカル名無し:2010/04/23(金) 08:37:07 ID:MsAM9ygM
>>695
確認いたしました、投下していただきありがとうございます。
早いところ規制が解除されるといいのですが…。

697シショチョウガタリ:2010/04/25(日) 11:06:20 ID:5a.e9KkA
司書長メインの化物語とのクロスです。どなたか代理投稿よろしくお願いいたします。

698シショチョウガタリ:2010/04/25(日) 11:08:53 ID:5a.e9KkA
シショチョウガタリ 

ゆーのフェレット



快晴。

無限に澄み渡る空のことを指すのなら、間違いなく今日の空は快晴なのだろう。

落ちる日差しは穏やかで、眼下の海がきらきらとはね返す。

海鳴の海が一望できる丘の上。

弟子であり友人であり幼馴染でもある彼女が幼いころ、毎日魔法の練習をしていた公園だ。

ここは、変わらない。

なら他に変わったものがあるのか、と問われれば、ある、と答えざるをえないけど。

――そこへ、子どもたちの笑い声。

横目で確認すると一組の家族が僕が座るベンチの後方を歩いて行く途中だった。

こちらの世界には曜日というものがあり、日曜日は休日という属性を含んでいる。

僕、ユーノ・スクライアはこの世界――第97番管理外世界の人間というわけではないが、

幼少のころのある期間をこちらで過ごしていたため、その辺の知識は最低限持ち合わせている。

『そんなんだから――』

まただ。

また彼女の言葉が脳裏で再生された。

弟子である彼女じゃなくて、もう一人の、幼馴染である彼女の言葉だ。

金色の髪を持つ、おせっかいな彼女の言葉は僕がここに来てから――ここに来る前からも不意に再生され、気を滅入らせていた。

「……確かに……だったかもしれないけどさ」

思わず漏れた言葉は若干の後悔だ。ただ僕は僕に全面的に非があるとは思わない。

それでも――それでもだ。

「そうは思えないんだから仕方がないじゃないか……」

不満はこの青い空と蒼い海が吸収してくれることを願いつつ、僕はベンチを立った。

699シショチョウガタリ:2010/04/25(日) 11:10:03 ID:5a.e9KkA
今日はもう帰ろう。

友人である彼女には悪いが、この埋め合わせはどこか違う形で行うことにしよう。

――と振り返り、公園の出口の方へ踵を返したときだ。

円形のゴミ箱の横に立てられた海鳴観光マップを一人の少女が眺めていることに気付いた。

少女は髪を頭の左右で二つに分け、大きな――ぱんぱんに膨れた大きなリュックサックを背負い、

ブラウスにスカートという格好。

髪型が幼馴染の昔の髪型に似ている気がしないでもない。

それだけなら特別気にすることもない光景なのだが、その少女は僕がここを訪れたときも

そのマップをくいるようにして見ていた。

それですぐにどこかに行ってしまったのだが、またここに来て見ているということは。

「……迷子、かな」

だとすれば、放っておくわけにはいかないだろう。

僕は息を吐いて、小さな笑みを造る。

そして少女に近づき、彼女の肩を叩いた。

「ねえ、君、もしかして、迷子?」

「うっうわぁあ、たったすけてぇえ、おまわりさーん」

おまわりさん――警察を呼ばれてしまった。

僕ってそんなに不審者にみえるのだろうか。

「って、君、落ち着いて。怪しいものじゃないから」

おや? といった表情で少女は振り返る。

僕の顔を確認するや頭を下げた。

「あ、ごめんなさい。てっきり知り合いの男子高校生かと思いまして」

どんな知り合いなのだろう。

肩を叩かれただけで警察を呼ぶほどの知り合いとは。

「会うたびに抱き締められ、頬ずりされ、スカートの中をまさぐってくる普通の知り合いですよ」

「それ普通じゃないよ! ただの変態だから!」

海鳴の街はいつからそんな変態が現れるようになったのだろうか。

それも時代の流れ、という奴だろうか。

……嫌な流れだ。

「それで、今度はこちらから攻めていこうと思いまして、おまわりさんを呼んであせらせようと思ったんです」

……なかなか知能犯だな、この少女も。

僕が変なところに関心したのに気付いたのか、少女は胸を張って、

「この街の今月の標語は『ロリコンどもに社会的な死を!』ですからね」

社会的抹殺。

末恐ろしいことである。

海鳴も変わったなぁ……と遠い目でこの街のことを想う。

前髪をくしゃっとつかみ、

「この場合は迷子だから、というより、別件で警察に行ったほうがいいのかな……」

それこそ、その知り合いに社会的な死を与えるべくだ。

「あっいえ、大丈夫ですよ」

それなのに被害者である少女は健気にも笑ってみせた。

「あれも、あの人とのコミュニケーションの一環ですから」

嫌なコミュニケーションの取り方である。

「そんなことより」

少女はささいなことだとでも言うようにその話題を切り捨て、大きな瞳をこちらに向けた。

「お兄さん、もしかして家に帰りたくなかったり、します?」



     ★     ☆     ★

700シショチョウガタリ:2010/04/25(日) 11:12:17 ID:5a.e9KkA
先ほどまで座っていたベンチに再び腰をかける。

今度は一人ではなく二人でだ。

「えー、私の名前は八九寺真宵と言います」

「どうも。ユーノ・スクライアです」

「外国の方なんですか?」

「外国、といえば外国だね」

正確には異世界なのだが。

「それで、スクライアさんはどうして家に帰りたくないんですか?」

あれから、真宵ちゃんはいきなり「私が人生相談に乗ってあげますよ、ふっふー」と

僕の了解承諾その他もろもろを得ずに、僕の手を引っ張って先のベンチに無理やり座らせたのだった。

僕としても意気揚々とした彼女の好意をむげにするのは、子どもの善意を否定する後ろめたさがあったので、

こうして人生相談に乗ってもらったという形を取ったわけである。

子どもの遊び。

人生相談ごっこ。

時間が許す限りは、乗ってあげるのが大人というものだ。

「うーん、ちょっと人と口論してね」

本当は口論と呼べるほどのものではなく、一方的に言われっぱなしだったけど。

「ふむふむ。口論ですか」

相槌を入れる真宵ちゃん。気合いの表れだろうか、と思いつつ口を開く。

「僕には幼馴染の女の子が三人いてね」

「日本男児の敵ですね」

……どうして三人の幼馴染がいるだけでこの国の敵になるのだろう。

「この国では、幼馴染の女の子という存在は希少ですべての男子の憧れですからね。

毎朝起こしに来てもらったり、一緒に通学したり、お風呂に入ったり、いったいどれだけの

男子が渇望していることか! それを三人もだなんて……あなたは今この国の男性すべてを

敵に回しました」

「そっそうなんだ……」

それをなぜ女の子である真宵ちゃんが憤るのかは謎であるが。

この分だとお風呂の件については黙っていたほうがいいのかもしれない。

進んで言うようなことでもないし、そもそもあのときの僕は人間じゃなくてフェレットだったし。

701シショチョウガタリ:2010/04/25(日) 11:13:02 ID:5a.e9KkA
「で、その中でも特に大切な幼馴染がいるんだけど、他の幼馴染が

どうも僕と彼女をくっつけようとしているらしいんだ」

「男女の仲に、ということですか?」

「そうらしいね」

とある悪友の奥さんも会うたびに彼女との仲を聞いてくるわけだけど、

「僕としては本当に、大切な、大切な幼馴染なんだ。それなのに……」

彼女は言う。

『そんなんだからユーノは――』

「顔を合わせるたびに『好きなんでしょ?』とか『付き合わないの?』とか聞かれてね――」

彼女は言う。

『そんなんだからユーノはいつまでたっても――』

「今日もちょっとしたパーティーでこちらに来たんだけど、そこでも彼女に言われて――」

JS事件も終結し、高町家で行われたパーティー、というより宴から。

「いい加減うんざりしてしまって、――逃げてきたんだ」

逃亡者。

脱落者。

どちらでも同じことだ。

僕は間違いなく、逃げてきたのだから。

どこから?

執務官である彼女のもとから。

そして、教導官である彼女のもとからも。

「ここに来たのも心を落ち着かせるためなんだ。少し一人になりたかった、というか。

結局、自分の心の狭さが嫌になっただけなんだけど」

笑って言えばよかったんだ。

君の言う通り――だね、と。

それなのに、どうして僕は――。

吐息し、先ほどから黙っている真宵ちゃんをうかがう。

「こんな感じの悩みなんだけど、何かいい方法はあるかな?」

「思った以上に深刻な悩みで小学生な私はドン引きです」

引かれてしまった。

それもドンを冠するぐらいに。

小学生に相談するにしては内容が複雑すぎたと思い、すぐに否と考え直す。

問題は至ってシンプルで、あくまでもロジカル、どこまでもリアルだ。

答えは出ているわけで、僕がそれに対し、盲目的なだけなのだ。

「要するに、好きなんでしょ好きなんでしょ言ってくる幼馴染がうざくて、

逆ギレしてしまったと」

遠からずとも近からずだ。

逆ギレ、と捉えれても仕方がない。

「――うん、だいたいそんな感じだね」

真宵ちゃんは顎に指をあて、目を閉じ、

「私の経験から言わせてもらえば――」

目を開けた。

702シショチョウガタリ:2010/04/25(日) 11:14:12 ID:5a.e9KkA
「その好きなんでしょ好きなんでしょと言ってくる幼馴染の方も

スクライアさんのことが好きだったりしますね」

「……いやいや、それはないよ」

彼女が僕のことを好きって?

ありえない――それこそありえない。

仮にそうだとしても、僕にとって彼女もまた大切な幼馴染だ。

そういう――仲になることはない。

「どうです? いっそのこと、三人目の幼馴染の方も含めて全キャラ同時攻略というのは?」

「あははは、僕はそこまで器用な男じゃないよ」

社会的にも物理的にも殺されそうだ。

僕だって命は惜しい――まだ死にたくない。

「ですが、中には本命の彼女さんがいるのに、他のキャラに手を出している人もいますよ。

彼女の後輩とか、クラスの委員長さんとか、妹の友達とか、妹とか――」

「最後の何? 倫理的にまずい気がするよ?」

「ぼん、きゅっ、ぼんの小学生とか――」

言って、なぜか真宵ちゃんは両頬をおさえ、ぼんきゅっぼんだなんて……と身悶えていた。

と、僕の視線に気づいたらしく、こほんと咳をして姿勢を正し、

「失礼。ちょっと浮かれすぎました」

「沈んでくれて嬉しいよ」

「嬉しいといえば」

真宵ちゃんは僕の言葉尻を捉え、一度うなずく。

「女が喜ぶと書いて嬉しい。――これってなかなか意味深だと思いません?」

「そうなの? 僕にはよくわからないなぁ」

「あっそうでした。スクライアさんは外国の方でしたね」

やや不満げに真宵ちゃんが腕を組む。会心のネタを袖にされたのが不満なのだろう。

「――話を戻しますけど」

脱線した車輪がようやくレールに戻る。

「スクライアさんはその幼馴染の方々をただの、と言ってはなんですが、

大切な存在として認識しているわけですよね?」

「うん、そうだよ」

それだけは臆面もなく照れもなく言える。

「ですが、脳科学的にみれば男女間に永遠の友情なんてものは存在しないそうですよ」

「いずれは恋愛感情が芽生えると?」

「ええ。まっとうな思春期を迎えてなくてもです」

なぜだろう。その一言はピンポイントで僕に向けられている気がした。

「ですから、今は友達以上恋人未満、友情以上恋愛未満だとしても、その幼馴染の方々を

女性として認識――恋愛感情を抱くときが来るはずですよ」

恋愛感情、か。

そんなふうに彼女を思える日が来るのだろうか。

だが、来たとしても。

「……僕は、彼女をそんな風に思っていいのかな?」

「――と、言いますと?」

いい相槌を打ってくれる子だな、と思い、どうせ冗談として処理されるだろう、と予測。

これぐらい許容範囲だろう、と自分の正体を告げた。

703シショチョウガタリ:2010/04/25(日) 11:15:11 ID:5a.e9KkA

「実は、僕――魔法使いなんだ」

「とても三十代には見えません!」

えっ何、そのリアクション……?

「まだ十九です」

「ならもうすぐ妖精さんですね」

これもこの世界独特の言い回しなのだろう、とメガネの位置を直して、

僕はその意味を追求せずに話を進める。

「僕が彼女に出会ったのもそれゆえなんだけど、そのせいで彼女は――」

雪景色に染まる赤色。

包帯を多重に巻かれた彼女。

難航したリハビリ。

「――重傷を負ってしまってね。それもまだ……そうだね、君と同じぐらいの歳だった」

台無しになった11歳時の半年間。

僕と出会わなかったら、と会わなかった可能性を考えた。

「僕と出会わなかったら彼女は大けがを負うことはなかった」

僕と出会わなかったら、彼女は普通の人間としていられた。

今でこそ彼女には青い空が似合う。空こそが彼女の居場所だとはっきりと言えるわけだけど。

「出会いがもたらした負の可能性を考えると、自分には、彼女を大切な幼馴染以上に

思う資格がない気がするんだ」

守りたいがゆえに、それ以上の感情を抱いてはいけない。

それがあの子の目には――。

彼女にとっては。

彼女を。

「……いらいらさせるんだろうね」

「……複雑ですねぇ」

真宵ちゃんと二人、しみじみと空を見上げる。

あの青い空のように、広い心を持ちたいな、と半ば現実逃避。

真宵ちゃんはぽつりと言う。

「代替性理論、バックノズル……」

その呟きに視線を横に向けると、真宵ちゃんが少し真剣な瞳をこちらに返していた。

704シショチョウガタリ:2010/04/25(日) 11:16:07 ID:5a.e9KkA
「いえ、京都で会った狐のお面を被った男の人が言ってたことなんですけど……」

ここは突っ込みどころ、なのかな?

「スクライアさんは、代替性理論、バックノズルという言葉をご存じですか?」

「いや、初耳だよ。どんな理論なの?」

「代替性理論というのは、別名ジェイルオルタナティブといって――」

真宵ちゃんはわかりやすい解説を述べた。

「全ての事物には代わりがあるという理論ですよ」

「代わり?」

もしくは替わり、か。

「例えば、ここでスクライアさんが私と出会わなかったとしても、違うとき、違う場所で、違う誰かと

同じような会話をしたことでしょう。というのが代替性理論、代用可能――ジェイルオルタナティブです」

「代用可能……ジェイルオルタナティブ」

「そしてバックノズル。私たちはこうして出会ったわけですけど、しかし、もしここで

出会わなかったとしても、違う場所で出会っていた。時間の前後はどうあれ、

出会っていたことでしょう。つまり、起きることはいずれ起きる、ということです」

起きることは、いずれ起きる。

彼女のけがも?

「スクライアさんの場合でみれば」

真宵ちゃんは言う。

「その幼馴染の方と、そのとき、その場所で出会わなくても、いずれ違う場所で出会っていたはずです。

また幼馴染の方も、スクライアさんと出会わなかったことによって、その大けがを負わなかったとしても、

違う誰かと出会ったことによって、同じような大けがを負ったかもしれません」

それは――その可能性は、ありえる話だった。

もともと高い魔力値を持っていた彼女のことだ。

PT事件に遭遇しなかったとしても、闇の書事件には巻き込まれていたかもしれない。

そこから魔導士としての道を歩み始めた可能性もある。

そして、蓄積した無理と疲労によって……。

「…………」

それが彼女の運命だったとでも言うのだろうか。

「とまあ、結局は――」

眉間のしわを深くした僕をよそに、真宵ちゃんは悪戯めいた笑みを見せた。

「――戯言なんですけどね」

705シショチョウガタリ:2010/04/25(日) 11:18:07 ID:5a.e9KkA
     ★     ☆     ★




拍子抜けした僕に真宵ちゃんは続ける。

「所詮は可能性の問題ですよ。それに起こったことは起こったことして揺るがないじゃないですか。

今さら気にしても仕方がないです」

「……ポジティブだね」

「そうかもしれませんね……」

言って、顔を俯かせる真宵ちゃん。

どことなくシリアスな雰囲気に僕は首をわずかに傾ける。

「さきほど、全キャラ同時攻略を身をもって実行している人がいると言いましたよね?」

「うん、言ってたね」

「実はその人、冒頭でお伝えした知り合いの高校生なんです」

「…………」

思わず絶句してしまった。

世の中というのは、こう、……よくできているよなぁ。

「私は迷子だったところをその方に助けられたわけなんですが、助けてくれたのが……」

706シショチョウガタリ:2010/04/25(日) 11:18:49 ID:5a.e9KkA
真宵ちゃんは照れを含んだ笑みを造り、

「その方でよかったと思います。あのとき、声をかけて、助けてくれたのがあの人で良かったと、

そう思っています」

都の条例に引っ掛かりそうな好意や行為は勘弁ですが、と続く言葉には苦笑を浮かべるしかない。

「ですから、そのけがをした幼馴染の方もスクライアさんに出会えて――スクライアさんで良かった、

と思っているはずですよ。スクライアさんは、その好きなんでしょと言ってくる幼馴染の方がくっつけようと

するぐらいの人なんですから」

根拠としては希薄なのだが、説得力は抜群にあるような気がした。

「起こったことは起こったことして割り切ることも必要ですよ。それとも、スクライアさんは

その幼馴染の方に出会ったのが別の男の人でも良かったとでも?」

なぜ男の人に限定しているのか不思議に思ったが、彼女の横に僕じゃない別の男性が

立つところを想像してみる。

「……」

それは――それは、なんかくやしいや。

「……そうだね」

彼女に出会えたのが、彼女を魔法の世界に導いたのが。

「僕で、良かったよ」

僕じゃないとダメ、とまでは言わないけど。

彼女に出会ったのが僕で、本当によかった。

「――本当に」

目を細め、風を感じる。

海からの穏やかな風が頬をやさしくなで、山々へと突き抜けていく。

そこへ。

「はぁーちぃーくぅーじぃー」

風とともに届いた声に真宵ちゃんが身を震わせた。

姿は見えないが、声の主はどうやら真宵ちゃんを探しているようだ。

「もしかして……例の人?」

「ええ、そのようです」

「警察、呼ぼうか?」

「いえ、さすがにそれは本気で傷つくと思うので、またの機会に」

真宵ちゃんは再度響いた彼の声に困ったような笑みを浮かべた。

「今日はちょっとした観光でこの街を訪れたんですけど、あの人、いつの間にか

迷子になってしまって、あの観光マップであの人がいきそうなところを探してたんです」

それは自分が迷子になったのではないという主張そのものだった。

そういうことにしておこう。

「あんまり焦らすと後が怖いですから、もう行きますね」

「そう、色々とありがとう」

「いえ、私は何もしてませんよ。……スクライアさんが、一人で勝手に助かっただけです」

どこか突き放した言い方だったが、僕にはそれが好ましく感じられた。

笑みを造り、笑みを見せ、笑みを送る。

「それでも、話せたのが君で良かったよ」

「そっそうですかぁ」

真宵ちゃんは顔を赤くしてベンチから降りると、満面の笑顔を咲かせた。

「それでは、友愛と息災と再会を」

707シショチョウガタリ:2010/04/25(日) 11:19:57 ID:5a.e9KkA
     ★     ☆     ★




公園を出て高町家に戻ると、門のところに人影が見えた。

そこにいたのは上背のある女性――幼馴染の一人であるフェイトだった。

何か言いたそうな顔をして、目線を下げたり、上げたりしている。

「ユーノ……」

そう呼びかけ、一度躊躇い、それでも意を決したらしく彼女は言葉を紡いだ。

「さっきはごめんね」

さっき。

『そんなんだからユーノはいつまでたっても――』

「……別に、気にしてないよ」

わずかに間があったのも、彼女の言葉がリフレインしただけで深い意味はない。

「私、ユーノがあんなに傷つくとは思ってなかった」

まさか、と彼女は言い、脳内でも彼女の言葉がリピートされた。

「――ヘタレと言われるだけで、あんなに傷つくなんて」

『そんなんだからユーノはいつまでたっても――ヘタレって言われるんだよ』

「…………」

「あっ、ごめん、また言っちゃった」

フェイトのことだから悪気がないとは思う。

思うが――そう思わないとやっていけないのが本音だ。

「もういいよ、ヘタレでもなんでも……」

若干あきらめ口調で言い、気持ちを切り替えてフェイトに尋ねる。

「なのはは、どこ?」

「たぶん、台所、かな」

「わかった。ありがとう」

礼を述べ、高町家の敷地に入る。

なぜかフェイトは嬉色の笑みを見せ、

「えっ、もしかして――」

「もしかして?」

「んん、なんでもないよ」

そう、と納得し、ふと思い立ってフェイトの方に半身を向けた。

708シショチョウガタリ:2010/04/25(日) 11:21:32 ID:5a.e9KkA
「フェイト」

「うん、なに?」

「なのはの友達になってくれて、ありがとう」

えっいきなり何言ってんだこいつ、といった目になるフェイトに構うことなく玄関に入る。

ちょうど彼女がいた。

高町なのはがいた。

エプロンを着た彼女は僕に気づくと首を傾けて自然な笑みを造り、

「お帰り、ユーノくん。どこに行ってたの? 散歩?」

「うん、ちょっとした異文化交流をね。ただいま。……あれ、ヴィヴィオは?」

「中庭でアリサちゃんやすずかちゃんたちと遊んでる。アリサちゃんもあれで子ども好きだから」

そうは見えないけどねー、と笑い合う。

望むは本人が聞いていないことばかりだ。

笑いを止め、彼女の目を見て口を開く。

「ねえなのは」

僕は想う。

「もしよかったら、今度一緒に食事でも――」

ユーノスクライアが出会ったのが高町なのはで本当に良かったと。

709シショチョウガタリ:2010/04/25(日) 11:25:28 ID:5a.e9KkA
                               END



以上です。
おまけとして、

「フェイト。もしよかったら今度一緒に食事にでも行かない?」

「……は?」

何言ってんだこいつ、といった目になるフェイト。

「あっ、はやて。もしよかったら今度一緒に――」

「ええで。どこ行こか?」


                      ハーレムエンド

というオチも考えたのですが、こちらはあくまでIFということで。

710シショチョウガタリ:2010/04/25(日) 11:29:04 ID:5a.e9KkA
SS本文は以上です。
ここ数日本スレの方で投下をためしたのですが、全然投下できそうになくて……代理投稿よろしくお願いいたします。

711魔法少女リリカル名無し:2010/04/26(月) 10:11:40 ID:8NGP6Gok
代理終了しました。
勝手ですが、長いレスは分割させていただきました。
したらばと本スレでは1レスの限界が違うので。申し訳ありません。

712魔法少女リリカル名無し:2010/04/26(月) 11:53:08 ID:Q0QrMnyk
規制されたんで感想をここに投下する愚をお許しください。



シショチョウガタリ氏、代理投下した方、GJでした!

久し振りの戦闘無し作品でしたね。しかも短編。

雰囲気が出ててタイトルも上手いなと思いました。文章のレベルも高く、楽しませていただきました。


次回作を期待しております! GJでした!

713シショチョウガタリ:2010/04/26(月) 12:33:59 ID:3rdukH5E
代理投稿ありがとうございました!

もうここ一週間何度も投下を試したのですが、規制、規制、規制の嵐でして、
全然書き込める気配がなく困っておりました。

お手数をおかけいたしましたが、楽しんでいただけたようで何よりです。

暖かいご協力に感謝したいと思います。


それとクロス元の作品名を書き忘れたのでここで明記しておきます。

クロス元は西尾維新という作家の化物語という小説です。
その他の氏の作品にも関連させてみたりしていますが。

今回は本当にありがとうございました。

714レザポ ◆94CKshfbLA:2010/05/03(月) 07:00:33 ID:djO6d3Gs
おはようございます、そしてお久しぶりです。
新作でも小ネタでも無くifですが規制されているので此方に投下させて貰います。

時期としては二十一話の崩壊の後です。
自分なりに意見を参考してみたり取り入れてみましたが……どうなるかわかりません。
それでもよかったらよろしくお願いします。

715レザポ ◆94CKshfbLA:2010/05/03(月) 07:03:11 ID:djO6d3Gs
 ――旧い結晶と歪みの神と無限の欲望が交わる地――
 
 ――死せる王の下、聖地にて彼の翼が甦る――
 
 ――不死者達は踊り、中つ大地の奉の剣は折れ、法の塔は虚しく焼け落ちる――
 
 ――法の塔が焼け落ちし時、彼の地より神々が先兵を引き連れ現れん――
 
 ――神々と死せる王が相対する時、神々の黄昏を告げる笛が鳴り響く――
 
 ――それを先駆けに数多の海を守る法の船は龍の咆哮により砕け落ち、彼の地は焔に包まれん――
 
 
 
                  リリカルプロファイルif
                       破滅
 
 
 地上本部は落ちた…スカリエッティが率いる戦闘機人ナンバーズとレザードの手によって…
 しかも戦力である機動六課も同時に失った…最早ミッドチルダに戦力など無いに等しい…そう思われた矢先、この機に乗じて最高評議会が神の三賢人と名乗り出し
 エインフェリア及び彼等の次元船であるヴァルハラによる破壊と新たなる秩序を宣言、奇しくもスカリエッティの行動は彼等の口実を与えてしまう事になった。
 
 それから一週間後…スカリエッティは自分のラボでゆりかごの最終チェックを行っていた。
 現状のゆりかごではミッドチルダを壊滅させることは不可能、だがレザードのゴーレム・ベリオンと聖王の鍵であるヴィヴィオを融合させる事により
 聖王のゆりかごは“鎧”を手にする事が出来る、そうすれば攻防ともに強力な次元船へと生まれ変わるのだ。
 
 既にヴィヴィオはレザードの手によってベリオンと融合を果たし、ベリオンの体の中にはかつてヴィヴィオであった“モノ”がしまわれている。
 更にゆりかごにおける動力炉には強奪したレリックを使用する事により動力源を確保した、動力炉にある非常に大きな赤い結晶体がそれだ。
 
 続いて先日手に入れたタイプゼロである、レザードが強力で甘い毒である“順応”という洗脳方法により此方側の戦力となった。
 しかもタイプゼロは他の戦闘機人とは大きく異なり、ホムンクルスと呼ばれる、
 生きた金属とも呼べるフレームで構成された成長出来る肉体である事が判明した。
 
 「この技術を用いれば“娘達”を成長させることが出来るのではないか」
 
 そんなスカリエッティの小さな呟きを耳にしていたレザードは自身のラボで考え込み、
 暫くして意を決したかのようにタイプゼロの下へ向かい、骨格フレームの金属とナンバーズの細胞を採取、
 培養と共に形成することにより見る見る内に成長していき見事な肉体、ホムンクルスを短期間に完成させた。
 
 だがこの肉体は簡易版で臓器はあっても機能しておらず、ましてや意識や“魂”など存在しない血と骨と肉で構成された只の“器”である。
 しかしそんな“器”だからこそ意味があり、ナンバーズの肉体と融合させるには十分であった。 
 次に融合方法であるがレザードがかつて神の肉体を奪った時と同じ方法を用いることになり、
 早速ナンバーズはレザードの監修の下“器”との融合を果たし、成長する肉体を得る事となった。
 だがこの肉体は簡易版を用いた為に成長する事が出来るようになっただけで肉体自体の強化には至らない、
 其処でレザードはナンバーズにレリックを与えレリックウェポン化させる事で強化に至ったのであった。
 
 それから一週間が経ちスカリエッティはレリックウェポン化したナンバーズ及びタイプゼロの報告書に目を通していた。
 対象の実力は目を見張るもので上級の不死者程度では相手にならない程、対エインフェリアとして十二分に対応出来ると言っても過言ではなかった。
 
 「此方の戦力は充分に充実している…動くなら今かな?」

716レザポ ◆94CKshfbLA:2010/05/03(月) 07:05:13 ID:djO6d3Gs
 その時である、スカリエッティのラボにレザードが姿を現す、目的はベリオンの最終チェックの報告である。
 ヴィヴィオと融合を果たしたベリオンは更に動力炉との連結を済ませ、いつでも使用可能だという。
 
 「ふむ…」
 「まだ何か憂いが?」
 
 計画は最終段階に進み、全ては整い後はスカリエッティの宣言を待つばかりだが、
 当の本人は踏ん切りの付かないようでその反応にレザードは質問を投げかけると小さく頷く。
 スカリエッティの憂い…それはヴァルハラの居場所である、既に管理局が捜索に手を回しているが未だ手がかりはつかめていない様子、
 更に地上本部壊滅の際、ヴァルハラの姿を見せたはいいがそれ以降一切表に出ていない…
 
 恐らくは此方と同じく準備が完了していないという事をし指し示すもの。
 だがそれだけではない、あの慎重な三賢人がヴァルハラをああも簡単に見せた…それが気がかりであると。
 
 「切り札だと思われるヴァルハラを敢えて見せる事で真の切り札を隠す…そう感じずにはいられないんだよ……」
 「…………………………」
 
 そんなスカリエッティの疑問に眼鏡に手を当て考え込むレザード、確かにスカリエッティのいうことも一理ある、
 しかし…だからといって手を拱いている場合でもない、既に準備は終えているのだから…
 とその時である、ラボに一つの暗号通信が届く、それは管理局に潜伏しているドゥーエからである。
 スカリエッティは届いた通信を開くと其処にはドゥーエの姿が映し出された。
 
 「お久しぶりですドクターに博士…」
 「珍しい、一体どうしたんだい?」
 「ドクターに有益な情報を届けようと思いまして……」
 「有益な情報?」
 
 その情報とはズバリ、ヴァルハラの現在位置と構造図である、ドゥーエは既にガノッサを利用してヴァルハラに潜伏し有益になる情報を集めた。
 先ずはヴァルハラの位置であるがミッドチルダから南に離れた海上であり、既に進軍の準備が滞っているとの事。
 そしてエインフェリア及びアインヘリアルの詳細な情報、そして最後に三賢人の真の切り札についてである。
 
 神の三賢人の真の切り札、それはドラゴンオーブと呼ばれる魔法兵器で現在ミッドチルダ宙域に漂っており、
 二つの月の魔力を使って次元海から精密砲撃を行い、更には転送魔法を用いた次元跳躍砲撃も可能な代物であるという。
 
 「成る程…それが奴らの切り札か……」
 「しかしまだ砲撃を準備を終えてない様子、叩くなら今かと」
 
 砲撃を行うには二つの月の魔力を増幅・圧縮・加速させる必要があり、いつでも自由に砲撃が可能という訳ではない、
 それを伝える為に危険を冒してまで通信したドゥーエ、一方でスカリエッティはドゥーエの情報に踏ん切りがついたのか
 意を決したように…または機は熟したと言わんばかりに狂喜に満ちた笑みを浮かべていた。
 
 「素晴らしい!流石だよドゥーエ、これならイケる!!」
 「お褒めに与り光栄です、其れでは私は三賢人の始末に――」
 「――お待ちなさい」
 
 ドゥーエの通信に割って入るようにレザードが止めに入る、確かに有益な情報であった、だがまだ三賢人を始末しに行くのは早計であると警戒を促す。
 何故ならば三賢人はドラゴンオーブと言う切り札を隠し持っていた、だがそれもまた囮であり他にも切り札を持っている可能性があると指摘する。
 
 「確かに…レザードのいうことも一理ある」
 「あくまで推測にすぎませんが念には念を……です」
 「…では私は一体どうすれば?」
 「今暫くは姿を隠していた方が良いでしょう…あの“老害”を盾にすれば目立たないハズです」
 
 ガノッサは既にドゥーエの魅惑の呪に掛かっている為、ドゥーエの命令ならば犬や豚にすらなれる、
 道具としては最も有効的な代物である、故に今暫く使用していた方が良いと告げた。

717レザポ ◆94CKshfbLA:2010/05/03(月) 07:06:32 ID:djO6d3Gs
 
 「分かりました、博士の指示に従います」
 「ドクターもそれでよろしいですか?」
 「あぁ、懸命な選択だしね」
 
 スカリエッティは肩を竦めレザードがよく行うポーズを取り、その姿に眼鏡に手を当て怪しく光るレザード。
 そんなやり取りの中、ドゥーエとの連絡を閉じたスカリエッティは両手を大きく広げゆりかごの起動を宣言した。
 
 …場所は変わり此処はクアットロが所有するラボ、其処には全裸姿のクアットロがベットに横たわり周囲には人工魔導師を手がける際に使われる器具が並べられていた。
 クアットロは自身を賭けてある改造を行っていた、それはリンカーコアを自身に取り付けるもの、全てはレザードの寵愛を受けたい一心で行っていた。
 
 「私は…生まれ変わるのよ……」
 
 …思えば十年前、初めて博士と出会った時、戦慄と共に胸の高鳴りを覚えた。
 …博士の比類無き魔力、知能、技術に加え残忍で冷酷で自信家、自分にとってこれ以上の人は存在しない。
 …博士に近付きたくて眼鏡を掛けてみた、博士の寵愛を受けたかった…だけど博士は私よりチンクを選んだ。
 
 …博士に認められたくて無茶をした事もあった、博士に叱られる覚悟していた、だがドクターの粋な計らいで助手にしてくれた。
 …そして……博士に相応しい女性〈ひと〉なる為、今度は力を手にする事を決めた。
 
 「博士…私を見て……下さい」
 
 クアットロの囁かな願いを漏らししつつ手術を始め、暫くして手術を終えると其処には髪の色も赤く変化、顔色も変化した“生まれ変わった”クアットロの姿があった。
 早速クアットロは目を閉じ静かに魔力を解放すると、妖艶な輝きを放つ熟成した赤ワインのような色の魔力光が放たれていた。
 
 「成功したのね…これで……」
 
 クアットロは自分の体を確かめるように頷き一つの場所に目線を向ける。
 其処には妖美なバリアジャケットと頭蓋骨をモチーフとした禍々しい杖が置いてあった。
 
 
 スカリエッティの宣言を機にベリオンからは虹色の魔力が溢れ出し、逸れが座席に存在する起動スイッチを動かすと動力炉は唸りを上げて起動を始める。
 するとゆりかごが眠っていた地は盛り上がり、長い年月をへて聖王のゆりかごは今此処に目を覚ました。
 目的の地はヴァルハラ、しかしその道中で不死者及びガジェットを放ちながら突き進んでいった。
 
 
 一方で管理局は大した対策もないまま不死者及びガジェットの迎撃に勤しんでいた。
 その時である、南方の海上からヴァルハラが出現、エインフェリア及びアインヘリアルを放ちながらゆりかごに向かっているとの事であった。
 この情報に部隊長であるはやては歯噛みしていた、只でさえ忙しい状況であるのにそれに加えてヴァルハラの出現
 友人であるカリムから教会騎士団という戦力が加わって入るが、現状では不死者の対応に手が放せないと言った状況であった。
 
 「マズい…このままやと予言通りになってまう!」
 
 機動六課のメンバーも万全では無く、なのはに至っては立つことすらやっとの状態、
 つまりは現状を打破する対策がない事になり、はやては己の無能さに腹が立っていた。
 
 一方ゆりかご内ではスカリエッティが現状の把握に勤しんでいた、不死者及びガジェットの操作はウーノに一任してある。
 ナンバーズは対エインフェリアとして温存せねばならない、ゼストとルーテシアはゆりかご内の護衛として温存しておきたい。
 管理局は放って置いても良いだろう、既に対した戦力も残されてはいない。
 
 「今は三賢人共との決着に専念しよう」
 
 となると誰をヴァルハラに突入させるか、スカリエッティは顎に手を当て考え込んでいると、
 何処で聞いていたのかチンクにトーレ更にクアットロから通信が入り自分達が向かうと伝える。
 その理由とは自分達の手で姉であるドゥーエを助けたいというものである。
 すると三人の言葉の後に思わぬ人物レザードが同じくヴァルハラへと向かうと口にし、スカリエッティは目を見開き驚きの表情を隠せないでいた。

718レザポ ◆94CKshfbLA:2010/05/03(月) 07:09:20 ID:djO6d3Gs
 レザードの言い分はこうだ、ドゥーエの情報が正しければヴァルハラの外装は強固で、多少の攻撃ではびくともしない
 つまり三人だけでは火力不足なため自らが赴くというものである、しかしレザードの目的はそれだけではなかった。
 
 「この目で確かめてみたいと思いましてね…“人の身”でありながら“神”を名乗る三賢人の姿を……」
 
 眼鏡に手を当て不敵な笑みを浮かべながら答えると、スカリエッティは頷き了承するが、
 一つだけ条件があるとスカリエッティは述べる。
 
 「私もついて行く」
 「ドクター…自身がですか?!」
 
 この発言に流石のレザードが目を丸くする、スカリエッティ曰わく自らの枷である三賢人が討たれる姿をこの目で確かめたい
 あわよくば自分の手で三賢人という枷を断ち切りたい、その為の道具も用意してある、
 魔剣グラムとグローブ型のアームドデバイスである、これを使うのは今しかないと強い決意でレザードを見つめるスカリエッティ。
 
 「…分かりました、貴方の覚悟聞き届けましょう」
 「ありがとう…レザード」
 
 レザードは眼鏡に手を当て了承すると待ち合わせ場所を指定、スカリエッティは頷くとモニターを消しウーノに命令を下す。
 それは、もしゆりかごが危機に陥った際ゆりかごの力を行使しても良いと言うものである。
 
 「使い方は分かるね」
 「ハイご安心下さい」
 
 ウーノは力強く答えるとスカリエッティは二つのデバイスを手にしてレザードが待つ場所へ赴いた。
 
 
 「…それで、何故セッテが此処に?」
 「どうしても…と聞かないもので……」
 
 此方ヴァルハラ突入組にはレザード、トーレ、チンク、クアットロ…そして何故かセッテがトーレにしがみついていた。
 セッテはトーレと離れ離れになるのが嫌らしく、自分も行くと聞かないのである。
 だがセッテもまた大事な戦力である、これ以上の戦力の分散は避けたいもの、
 しかし頑として譲らないセッテ、トーレは仕方なくセッテを連れて今に至るのである。
 
 「すみません、博士」
 「…まぁ仕方がありませんね」
 
 セッテのトーレ好きはノーヴェのチンク好きに匹敵する、今回はたまたまノーヴェが近くにいなかったから良かったものの
 チンクの近くにノーヴェがいたら十中八九ついて行くと聞かないであろう、それ程までに姉妹の絆は深い。
 
 「おや?私が最後だったかな」
 「来ましたねドクター…」
 
 眼鏡に手を当て迎えるレザード、早速突入方法を説明する。
 先ずはレザードの移送方陣にてヴァルハラの近くまで接近、続いてクアットロのシルバーカーテンにて接触すると
 当初の方法ではレザードによる広域攻撃魔法によって風穴をあけ突入するつもりであったが、
 チンク、トーレ、セッテの三人とレザードの魔法さえあれば風穴をあける事は可能と考え其方に変更、
 突入後は三手に分かれレザードとスカリエッティは三賢人の下へ、クアットロとチンクは動力炉へトーレとセッテはドゥーエと合流する事となった。
 
 「では準備はよろしいですね」
 「あぁ、頼むよ」
 
 スカリエッティの返事を皮切りにレザードは移送方陣を発動、足下に五亡星の魔法陣を張ると突入組は移送した。

719レザポ ◆94CKshfbLA:2010/05/03(月) 07:10:46 ID:djO6d3Gs
 
 此処はヴァルハラは少し離れた海上上空、突如五亡星の魔法陣が現れ其処からレザード達が姿を現した。
 だがスカリエッティとチンクは空を飛べない為チンクはクアットロが、スカリエッティはレザードが抱える形であった。
 
 「済まないねレザード…」
 「…私としてはチンクの方が良かったのですが…」
 
 ボソリと一つ愚痴をこぼすレザードであったが、スカリエッティは気に掛けることなくクアットロに命令を下し
 クアットロのシルバーカーテンが発動すると姿を消したままヴァルハラへと足を運んだ。
 
 ヴァルハラの周囲にはアインヘリアルの姿があったがエインフェリアの姿は見受けられなかった。
 取り敢えず作戦通りに行動を開始、チンクのランブルデトレーターとレザードのバーンストームが折り重なり爆発を演じると
 セッテのブーメランブレードが焦げた外壁を切り裂き傷を付けるとトーレのライドインパルスによる蹴りによって破壊、大きな風穴をあけた。
 
 「さて…此処からはノンビリしていられませんよ」
 
 レザードは急かすと一気に突入、三手に分かれて移動することとなる。
 トーレとセッテはドゥーエに連絡を取る、今はガノッサと一緒に部屋に閉じこもっている様子、
 早速向かっているとアインヘリアルが姿を現し二人に襲いかかってきた。
 
 「邪魔をするな!!」
 
 だがレリックウェポン化した二人の攻撃は瞬く間にアインヘリアルを撃破し、二人が通った後には残骸だけが残されていた。
 そしてトーレ達はドゥーエが待つ部屋の前に辿り着きインパルスブレードにて扉を細切れにして押し入った。
 
 「ドゥーエ姉さん迎えに!―――来た…よ???」
 「あらトーレ、早かったわね」
 
 其処には四つん這いになったガノッサを椅子にして足を組んで座るドゥーエの姿があった。
 どうやら二人が来るまで退屈だったようでガノッサに命令を下し暇潰しをしていたようだ。
 一方二人は思わぬ状況に目を丸くしていると、ドゥーエは手を叩いて二人を正気に戻し二人は気が付くと、
 ドゥーエは不敵な笑みを浮かべて立ち上がる、すると今まで椅子になっていたガノッサがドゥーエを見上げていた。
 
 「どっ何処へ行くのですか女王様!!」
 「もう此処には用が無いの…アナタにもね……」
 「そんな!アナタ様がいなければ私は……!!」
 
 まるで捨てられた子犬のような眼差しで見上げるガノッサ、一方でドゥーエは冷たい目線でガノッサを見下ろしていた。
 だがその目線も今のガノッサにとっては幸福の一途のようで、恍惚な笑みを浮かべているとその姿を見て顎に手を当て考え込む仕草を取るドゥーエ。
 
 「…とは言っても今まで尽くしてくれた感もあるし、一つご褒美を差し上げよう」
 「本当ですか!女王様!!」
 
 まるでお預けを解かれた犬のように目を輝かせて見上げるガノッサ、一方ドゥーエは懐から錠剤が入った小瓶を取り出す。
 そして一粒取り出すとガノッサの口に向かって投げ込み、ガノッサは躊躇無く飲み込む。
 暫くしてガノッサの体から白い煙のようなものが立ち上り始める。
 
 「はぁあ…ぬぉあああ…はぅぅ…ぅぅうぬぁぁあ……」
「 そのまま快楽に溺れていなさい…」
 
 ガノッサはのたうち回り体の中では鞭で叩かれているような衝撃が走る中、
 頬を赤く染め上げ口から涎を垂れ流し恍惚な笑みを浮かべており、その姿はまるで絶頂へと階段を登り上がっている様であった。
 
 一方でガノッサの反応を目の当たりにしたトーレとセッテは汚物でも見たかのような表情を浮かべていると、
 先に部屋を出たドゥーエに促され三人は部屋を後にした。

720レザポ ◆94CKshfbLA:2010/05/03(月) 07:12:29 ID:djO6d3Gs
 
 「…ドゥーエ姉さん、何を飲ませたんだ?」
 「ん?グールパウダーよ」
 
 グールパウダーとは体内のリンカーコアに作用して無尽蔵に魔力を生成、それに合わせて肉体も変化させ不死者にする薬なのだが、
 ドゥーエの持つそれは肉体を魔力素に変えリンカーコアで魔力に変換、魔力の塊と化すと爆発する、まさに魔法爆弾に変える作用を持っているのだ。
 
 「相変わらず残酷な……」
 「私にとってその言葉は何よりもの褒め言葉だわ…それより――」
 
 ドゥーエはセッテに目を向けるとセッテはトーレの影に隠れ、その姿に頬を掻き困惑の様子を見せる、
 これが私の妹…何だか頼りがいが無いような…それとも只の人見知りなのかしら……
 そんな事を考えていると目の前にアインヘリアルが大量に姿を現し、ドゥーエは戦闘スーツに変え構え始めたが
 トーレとセッテが瞬く間に撃破、ドゥーエの出番無く片づけ終えていた。
 
 「へぇ〜やるじゃない」
 
 セッテの実力に先ほどの考えを改め賞賛するドゥーエ、
 一方で姉に誉められ顔を赤くし頭を掻くセッテ、その様子に頬を掻き困惑した様子のトーレだった。
 
 
 此方レザードとスカリエッティはドゥーエから得た情報を基に三賢人の居所へと向かっていた。
 当然道中ではアインヘリアルの猛攻に会うがレザードはネクロノミコンをグングニルに変え、振り抜く度に衝撃波が走り次々にアインヘリアルを残骸に変えていく。
 スカリエッティもまたグラムを振り抜き次々にアインヘリアルを両断していく、その実力にレザードも驚きの表情を隠せないでいた。
 
 「まさかドクターが此処まで戦えるとは……」
 「当然さ、あの三人を鍛えた私だよ?」
 
 あの三人とはウーノ、ドゥーエ、トーレである、レザードがこの世界に来る前は自分が三人に戦闘の基本などを教えていた。
 だからこそ、この程度の動きが出来ないハズがないと狂喜に満ちた笑みで答える。
 思わぬ戦力に両手を広げ肩を竦めるレザード、そんなこんなで二人は三賢人が待つ広場へとたどり着く。
 其処には延命処置が施されたカプセルに浮かぶ脳髄が三つ並んでおり
彼等は肉体を捨て去り脳髄のみを残して延命しながら過ごして来たようである。
 
 「よもや無限の欲望…貴様自身が乗り込んで来ようとは……」
 「…これが…神の三賢人…否、最高評議会だと?!」
 
 三賢人の姿にスカリエッティは大きなショックを受けていた、自分を創り出しまた自分を駒にしていた存在が脳髄であった…
 此ほどの屈辱は無い、また此ほどの憤りも無い、スカリエッティは怒りで震える手を抑えきれずグラムを振り抜き
 一瞬にして延命カプセルを破壊、脳髄は宙を舞いその後ベチャっと音を立てて床に落ちた。
 
 「こんな存在に私は踊らされていたとは……」
 
 スカリエッティは左手で頭を抱え信じられないと言った表情を浮かべ頭を横に振る、
 暫くしてスカリエッティは冷静さを取り戻しレザードと共にこの場を立ち去ろうとした。
 その時―――
 
 「愚かな我々がこれで終わりだと思ったか…」
 
 突然声が辺りに響き渡り天井から三人の魔導師が姿を現す、その姿は黒を基調としたクロークにそれぞれ赤・青・黄色のラインが入っており、
 その中で赤いラインが入ったクロークを着た老年の人物ヴォルザが話し始める。

721レザポ ◆94CKshfbLA:2010/05/03(月) 07:15:36 ID:djO6d3Gs
 
 「貴様等が消したその脳髄はただの影武者…本物は此処にある」

 そう言って自分の頭を指し不敵な笑みを浮かべる。
 三賢人は神になるためには今の延命処置方法では不完全と考え模索していたところ、
 戦闘機人の情報、更にはホムンクルスの情報に目を付け両者の情報を基にエインフェリアを作成し、
 最終的には三賢人の遺伝子を使用して戦闘機人のフレーム、ホムンクルスの肉体、エインフェリアに使われているルーン技術
 そしてレリックによる安定した魔力の供給、それらが合い重なって作成されたのが今の三賢人の肉体であるという。
 
 「つまりこの体は神に成る為の器……そうだな、“神の器”とでも云うべき代物なのだ」
 
 そう言って次々と高笑いを浮かべている中で苦笑いを浮かべているレザード、
 何故ならば神の三賢人の姿はまさにディパンの三賢人の写し代わり、それが滑稽でたまらないのだ。
 一方でレザードの反応に小馬鹿にされていると悟った三賢人は怒り心頭と言った様子であった。
 
 「貴様…神の力を手にした我々を愚弄する気か!」
 「神の力?愚弄?愚かな…神の力とはこういうものを指すのだ!!」
 
 するとレザードの足下から青白く光る五亡陣が現れ、青白く光るレザードの魔力が白く輝く白金の魔力に変わり、
 レザードの全身は光の粒子に包み込まれ、次に右手に持っていたグングニルがネクロノミコンに戻りレザードの目の前で浮かび光を放つと、
 
 一枚一枚ページが外れ白金の魔力に覆われレザードの周りを交差しながら飛び回り、
 最後にレザードのマントは浮遊感があるようにふわふわと漂い、レザードの体も同様に漂うと足下の魔法陣が消え去った。
 
 モードIIIカタストロフィ、大きな破滅または悲劇的な結末と言う意味を持つ
 レザードが自ら掛けたリミッター全てを外し愚神の力を解放した状態である。
 
 「成る程…これがレザードの中で眠っていた力か」
 「その通り…とは言えこの力を見せるのは初ですが……」
 
 愚神オーディンの力はこの世界において無敵の力、わざわざこの力を使用しなくとも大抵の相手は片が付く。
 なのに何故使用したか?それは三賢人の余りにもな愚考に虫唾が走り、また天狗の鼻を叩き折る為に敢えて使用したのだ。
 一方でレザードの規格外な魔力と力に恐れおののく三賢人、だがその中の一人ヴォルザが意を決してレザードに挑む。
 
 「おのれぇぇ恐れるものかぁ!食らえぇぇぇい!!」
 
 ヴォルザの全身全霊を込めた直射砲がレザードに迫り襲いかかるが、レザードの体は光の粒子となって攻撃を受け流した。
 アストラライズ、肉体を幽体に変える能力で幽体となった肉体には物理攻撃はおろか魔法攻撃すら通用せず、
 傷つけるには同じく幽体化して攻撃するか幽体に効果がある技術が必要となる。
 
 だがこの世界では幽体関する…即ち魂の研究が全く研究されていなかった、当然である前例が無いからだ。
 つまり今のレザードを傷つけることは皆無であるのだ。
 
 「さて…無駄な足掻きである事は理解出来たようですね」
 
 たった一撃の魔法で全てを悟り、自分達では適うことが出来ないと悲願した表情を浮かべ
 その表情を見たレザードは不敵な笑みを浮かべながら右手を向けると三賢人をレデュースパワーとレデュースガードにて縛り上げ動けなくする。
 すると今度はスカリエッティが右手に持つ魔剣グラムにて三賢人の両腕脚を切り落とした。
 
 「ぐおおぉぉぉあああ!!!」
 「流石紛い物の体だ、この程度では死なないようだね」

722レザポ ◆94CKshfbLA:2010/05/03(月) 07:17:56 ID:djO6d3Gs
 脳以外は作り物な為か幾ら傷つけても三賢人には対したダメージとは至らない、
 だが痛みは別である、何故ならば痛みとは肉体が行う危険信号であり、痛みが分からなければ肉体の限界を超えて行動してしまうからだ。
 それはさておき…スカリエッティはまるで達磨を思わせる三賢人の姿を見下す目線で見つめ、ヴォルザの顔側面を踏みつける。
 
 「無様だな…最高評議会……」
 「き…貴様!!」
 「さぁトドメをドクター…」
 「……済まないレザード、君の手で始末をつけてくれないか?…興が冷めてしまった」
 
 最早興味も価値も無い…自らの手で裁きを下す事自体が愚行であった、いっそレザードの玩具としての方が価値があるのではないか?
 スカリエッティはそう考えレザードに促すがレザードは首を振る、神を気取った人間を神の力で罰を与える…
 だが“コレ”には天罰を与える価値など存在しない、寧ろ天罰など与えれば自分の価値に傷が付くと両手を広げて肩を竦め小馬鹿にした表情で答えた。
 
 「それに念願であった最高評議会にトドメを刺す…これはドクターにこそ相応しい」
 「イヤイヤ、神を気取る者に対して天罰を与える、レザードにこそ相応しいよ」
 
 互いが互いに遠慮し会う二人、これでは埒があかないと考えていた。
 
 「仕方ない…放っておきますか」
 「……そうだね、どちらにしろ用が無いわけだし」
 
 とは言えぎゃあぎゃあ騒がれるのも目障りだと考えたスカリエッティは、三賢人ののどを切り裂き声帯を潰し、
 レザードはモードIIIを解除した――その時である、レザードの下にクアットロから動力炉に辿り着いたとの連絡が入る。
 
 「…ふむ、では此方の指示があるまで待機していて下さい」
 
 そう一言告げると通信を切り次にヴァルハラの端末にアクセスする、理由はドラゴンオーブの此方の戦力に加える為である。
 端末から起動方法を探索しているとドラゴンオーブの起動させるには三賢人の右腕が鍵であり更に彼等の魔力素が必要不可欠なようであった。
 この事実にレザードとスカリエッティは振り返り、手足を無くし芋虫が這いつくばっているかのように暴れまわり無音の叫びを上げている三賢人に目を向けた。
 
 「ふむ…まさか彼らが鍵になるとは、良かったですね殺さずに」
 「こう言うのを諺で何て言うんだっけ?」
 「さぁ?ですが…どちらにせよ“アレ”が役に立つだけでも良かったです」
 
 レザードは不敵な笑みを浮かべながらそう答え、早速スカリエッティは懐から水晶を一つ取り出す。
 すると水晶が輝き出し医療セットへと姿を変える、スカリエッティはいつでも治療・解剖出来るように常に医療セットを持ち歩いていた。
 
 …それはさておき早速スカリエッティは三賢人の右腕を手早く端末に繋げ、次に右腕のケーブルを伸ばし体から剥き出しにしたリンカーコアと直接接合、
 次にレザードがリンカーコアに呪印を施すとレザードの合図でリンカーコアが強制的に活性、魔力が放出され
 魔力は右腕を通じて起動スイッチに流れ込み無事にドラゴンオーブの起動を果たした。
 この間の手術に麻酔など一切使用しておらず、全ての痛みを与えたまま施し涙を流し声無き断末魔の叫びを上げる三賢人であった。
 
 「…こんなところかな」
 「流石ですねドクター」
 「人体の事ならお手のものさ」
 
 スカリエッティは左親指を向けて答える、だがレザードは一つ問題があった、何故何時も医療セットを持っているのか…
 レザードはスカリエッティにその事を問い掛けてみると簡単に答える、
 どうやらスカリエッティが愛読している顔に大きな傷を持つ医者免許は持ってはいないが腕が立つ医者の影響であるという。
 
 …相変わらずよく漫画に影響されるものだ…そんな風な目線をスカリエッティに向けるレザードを後目に
 スカリエッティは続いて起動したドラゴンオーブの操作関連をゆりかごに移行できないか調べ始める。
 結果的に操作関連を移行することは可能だが、容量が大きく完全移行するまで三時間近く掛かるとのことであった。

723レザポ ◆94CKshfbLA:2010/05/03(月) 07:19:08 ID:djO6d3Gs
 
 しかし他にも問題がある、それはドラゴンオーブの護衛としてエインフェリアのイージスとミトラが付いていたのだ。
 このままではドラゴンオーブを乗っ取ったとしてもエインフェリアに破壊される可能性がある。
 するとレザードから大胆な提案を提示される、それはイージスとミトラを此方の戦力に加えると言うものである。
 
 「可能なのかい?」
 「エインフェリアの主な操作はこのヴァルハラで行われているようですから」
 
 エインフェリアが起動しているという事は証文は既に済んでいる、ならば此方で操作すれば問題は無いと。
 だが万が一の事も備えバックアップとして此方のデータも移行しておく手筈を整えておくと眼鏡に手を当て不敵な笑みで答えた。
 
 この結果を受けスカリエッティは早速ウーノと連絡をとり準備に取りかかる中、ウーノが一つある許可を貰いたいとのことが伝えられる。
 現在ゆりかごにエインフェリアが予想以上の速度で向かってきておりそれに対抗する為、ナンバーズの参加許可を貰いたいのだと
 するとスカリエッティはあっけらかんとした表情で了承した。
 
 「さて他のエインフェリア相手に何処まで行けるかな?」
 「…………」
 
 スカリエッティの無意識な問い掛けに対し無言の表情を向けるレザードであった。
 
 
 時は少し遡り…此処はゆりかご内に存在する制御室、此処ではウーノが戦況を確認していた。
 此方の戦力は不死者及びガジェット、管理局側は機動六課及び教会騎士団、三賢人側はエインフェリア及びアインヘリアルの三つ巴となっている。
 だが管理局側は人数が少ない為か目立った動きは無く、此方の戦力と三賢人の戦力の対立が主であった。
 
 「戦況は五分五分…と言いたいですが……」
 
 エインフェリアの実力は目を見張るもので次々に不死者及びガジェットを殲滅させていた。
 これ以上の戦力低下は思わしくない、そこでウーノはスカリエッティに連絡しナンバーズの投入の許可を得た。
 だが…ナンバーズは戦力が揃っている訳ではない、要であるトーレとセッテにチンクはドクターと共にいる…残りはセインを除きギンガを加えても六人。
 一方現在エインフェリアの数は八体、この差をどう穴埋めするか考えていると突然ルーテシアからの連絡が入る、どうやら外の様子が気になっているようだ。
 
 「なら…私達も加わる…何もしないよりマシだから」
 「本当ですか?助かります」
 
 ルーテシアは召喚虫に不死者召喚も兼ね備えゼストにはユニゾンデバイスであるアギトが付いている、戦力としては申し分無い。
 ウーノはルーテシアの申し出を受け入れナンバーズと共にエインフェリアの撃破に取り組むことを命じた。
 その時である、一人ナンバーズの中で納得の様子を見せない人物が抗議の為ウーノに連絡を入れる、その人物とはセインだった。
 
 「ちょ?!ウーノ姉!何で私が戦力外なの!!」
 「だって貴方は偵察型ですし…」
 「でも私だってレリックウェポン化してパワーアップしたよ!!」
 
 今回のレリックウェポン化によってナンバーズの能力は向上、更に能力が追加されていった。
 トーレはインパルスブレードの出力強化、チンクはヴァルキリー化の際の能力向上
 セッテはブーメランブレードをクロスに重ね手裏剣のような形で投げれるようになり、更に回転速度・精密度などの向上
 オットーは更なる広域攻撃化と結界の強化、ノーヴェは地上本部壊滅の際に失った右足の強化と
 両足に加速用のエネルギー翼を広げる事でA.C.Sドライバークラスの突進力を実現させた加速装置
 
 ディエチは超遠距離の精密射撃の実現と物流エネルギー双方の弾頭の軌道操作能力に

724レザポ ◆94CKshfbLA:2010/05/03(月) 07:21:25 ID:djO6d3Gs
 ウェンディはフィールド効果を応用した対消滅バリアをライディングボードに張る事が出来るようになり
 ディードはツインブレイズのエネルギー刃を伸ばすことが出来るようになり、四階建てのビルなら両断出来る程の能力を
 そしてセインにはウェンディと同様の対消滅バリアを追加、バリア・フィールドに覆われた場所もダイブする事が出来るようになり、
 また更にそれに合わせて格闘能力を向上させてあり対消滅バリアを用いた格闘が可能となっていた。
 ……だが
 
 「……でもセイン、貴方って確か戦闘のカリキュラム、サボっていたじゃない」
 「うっ…でも!動作データ継承とかデータ蓄積の共有とかあるじゃん!!」
 
 確かにナンバーズにはデータを共有・再編し自分にフィードバックさせる能力を持つ、
 この能力を用いれば常人よりも早く得る事が出来るようになり、生きた経験と動作感覚を蓄積出来るのはナンバーズの特権である。
 だがこれらの能力は戦闘タイプにこそ有益であり、幾ら強化したとはいえ肉体自体による能力が劣る偵察型のセインではたかが知れていた。
 
 「と言う訳、分かった?」
 「………………………」
 
 ウーノの答弁に何も答えられないセイン、心なしか涙目である。
 そんなセインの反応に流石に言い過ぎた感を覚えるウーノであった。
 
 
 
 その頃ナンバーズとルーテシアは一挙に集まりエインフェリア撃破の為の戦力分けを行っていた。
 現在暴れまくっているエインフェリアの内訳は接近戦型のエーレンと高速戦型のクレセントのツーマンセルが一組、
 接近戦型のアドニスと広範囲攻撃型のカノンに遠距離戦型のリディア、
 高速戦型セレスに広範囲攻撃型のゼノンと遠距離戦型のリリアのスリーマンセルが二組である。
 
 そこでギンガはエーレンとクレセント組にはゼストとディードを、アドニス、カノン、リリア組にはルーテシアにディエチとオットー、
 最後にセレス、ゼノン、リディア組に対しては自分とノーヴェ、ウェンディが担当する事になった。
 
 「各員油断しないように相手はあのエインフェリアだから」
 
 今現在この場を仕切っているのはあのギンガである、しかも気難しいルーテシアですら彼女に従っている。
 どうやら彼女から醸し出される姉というプレッシャーに圧されている様だ。
 それはさておきギンガの合図の下それぞれは現場に赴き始めた。
 
 
 エインフェリアとゆりかごの距離はそう遠くは無かった、それほどまでにエインフェリアの進行が進んでいた。
 …だが彼等の進行も此処までである、ゆりかごから放たれた対エインフェリアであるナンバーズにルーテシアと言う戦力が相手だからだ。
 エーレン・クレセント組は次々に敵を薙ぎ倒し快進撃を続けていた、だが其処にゼストとディードが姿を現す。
 
 「エインフェリアだな、これ以上は行かせん!!」
 
 意を決したかのようにゼストは槍を構え呼応するようにディードもまたツインブレイスを構え、
 ディードはクレセントの相手をゼストはエーレンの相手をそれぞれ決め攻撃を開始する。
 
 「成る程…大した実力だ…だがしかし我々には及ばん!!」
 
 ゼストの初撃を受け止めエーレンはゼストごと弾き返し更に突進、大きく振りかぶると
 身の丈程ある刀身をゼスト目掛けて振り下ろし二つに切り裂こうとした。
 
 「甘いっ!!」
 
 だが其処は歴戦錬磨のゼスト、すかさず持っていた槍を水平に保ち攻撃を受け止めると、
 左に受け流し体勢を崩したエーレンの脇腹を槍の柄にて貫くように突き飛ばした。

725レザポ ◆94CKshfbLA:2010/05/03(月) 07:22:31 ID:djO6d3Gs
 その間にディードとクレセントは空中戦を行いなっていた。
 クレセントのスピードはディードよりも速く、ディードを囲うようにして攻撃を仕掛け続けていた。
 
 だがディードには然したるダメージを受けてはいなかった、何故ならばクレセントの攻撃は
 一撃に対する重みが軽いためである、恐らくは速度優先の攻撃なのだろう。
 とは言えこのまま攻撃を受け続ければ不利になるのは必死、其処でディードは相手の動きを見切る為音を頼りに攻撃をしかける。
 一振り二振り三振りいずれも当たらず空を切る中、四振り目でクレセントの左腿に掠り傷を追わせる事が出来た。
 
 「この程度の傷を負わせただけで勝てると思うの?」
 
 確かにクレセントの言葉にも一理ある、幾ら音を頼りにしたところであの程度では焼け石に水
 もっと確実な打撃を与えなければ効果が無い、其処でディードはクレセントの動きを把握する為、動きを止めジッと防御の態勢を始めた。
 
 「どうしたの抵抗しないの?抵抗して貰わないと…おもしろくないじゃない!!」
 
 クレセントは攻撃の手を緩めず更に加速、その姿を嵐に変えて何度も攻撃を仕掛けるが
 依然としてディードはその場から動かず身を守る、だがその瞳には焦りの色が伺えなかった。
 
 一方でエーレンを突き飛ばしたゼストはアギトとユニゾン、全身に魔力をたぎらせると一気に加速、
 エーレンを追い越しそのまま振り返りつつ薙払うかの様に槍を振り抜く
 だがエーレンは振り向いて体制を立て直し突き飛ばされた勢いを利用して再度刀身を振り下ろし辺りに大きな音を奏でた。
 
 その大きな音を合図に二人は攻撃を仕掛けゼストの槍の振り上げを受け止め、切り返しからの柄の攻撃を交わし右から切り払おうとするエーレン、
 だがエーレンの巨大な剣を柄だけで捌き胸元ががら空きになったところを深く切りつけるゼスト
 更にアギトが援護として轟炎を撃ち抜き巨大な火球が迫るが次の瞬間エーレンの刀身に赤い光の炎熱を帯び始め
 轟炎をいとも簡単に切り裂く、その熱は周囲を歪ませ蜃気楼を生み出すほどであった。
 
 「私にこのソウルエボケーションを発動させるとは!」
 
 ソウルエボケーション、三度程切りつけた後で赤い光の炎熱を帯びた一撃を放つ魔力付与攻撃でありエインフェリア固有の強力な必殺技である。
 エーレンは炎熱を放つ刀身を振り上げて突進、ゼストに襲いかかるがアギトの烈火刃によって炎を纏った槍にて防ぎ
 周囲は赤く燃えたぎる二つの熱の前に蜃気楼が生み出されていた。
 
 「やるな!だが私のソウルエボケーションに何処まで耐えうるかな?」
 「……貴様の思い通りにはならん!アギト!!」
 「合点でぇダンナぁ!!」
 
 ゼストの掛け声を合図にアギトは炎熱消法を用いてエーレンの刀身の炎熱を消去、
 するとすぐさまゼストは駆け抜けながら槍を振り抜きエーレンの右腕を切り落とした。
 
 「ダンナ!やったぜ!!」
 「いや…まだだ!!」
 
 ゼストはすぐさま振り向きエーレンに目を向けると、
 エーレンは既に左手に剣を携え振り向いており更に刀身を向けて突進を開始していた。
 
 …このタイミングで回避することは不可能、槍を盾にしたとしてあの攻撃を防ぎきる事も出来ず二つに切り裂かれるであろう…
 …自分は既に死んだ身しかも目的を果たし悔いは無い…
 …だがこのままではユニゾンしているアギトにまで死をもたらす、それは避けなければならない…
 
 ゼストはアギトとのユニゾンを強制的に解除、背中から押し出される形でアギトが排除されると
 入れ替わるようにしてエーレンの刀身がゼストの腹部に突き刺さり背中へと突き出した。

726レザポ ◆94CKshfbLA:2010/05/03(月) 07:25:30 ID:djO6d3Gs
 「ダンナぁ!!」
 「ぐはぁあ!!」
 
 ゼストの口から大量血が吐き出され傷口からもおびただしい程の血が滲み出し致命傷であるのは明白、
 一方でエーレンはデバイス故の特性か右腕一本とられたからといって然したる影響はなかった。
 
 「人の身でここまで戦えるとは…だがここまでだ!」
 「………あぁ…そう…だな――だが只では死なん!!」
 
 既に死を悟ったゼストは最後の力を振り絞りフルドライブを起動、右手に持つ二つに切られた槍の矛先にてエーレンの首を瞬時に切り落とした。
 だがフルドライブの影響がゼストの致命傷を受けた肉体にのし掛かり、
 再度吐血、全身の骨筋肉が崩壊する音を奏でるとそのまま地面に落下、その後をアギトが全速力で追いかけた。
 
 「ダンナぁ!!しっかりしてくれよダンナぁ!!」
 
 地上では涙をこぼしながらその小さな手でゼストの体を揺らすアギト、だがゼストはアギトに目を向けることが出来なかった。
 何故ならばフルドライブの影響により既に視力は失われていたからだ。
 
 「ア…ギ…ト……」
 「ダンナぁ!!」
 「私は…もう…此処までだ……後は…お前の好きなように…生きるんだ」
 
 それがアギトに対するゼストの最初で最後の願い、死にゆく者は自分一人でいいという思いがそんな言葉を紡がせたのだろう…
 ゼストはその言葉を最後に静かに目を閉じる、その顔は安らぎに満ち笑みを浮かべているようであった。
 一方でゼストの胸で泣きじゃくるアギト…暫くして静かに立ち上がり涙を拭くと天を仰いだ。
 
 
 上空では依然としてクレセントの攻撃に耐え続けるディードの姿があった。
 既に何度も攻撃を受けている為か戦闘スーツは切り刻まれ素肌が見え隠れし、中には切り傷も除かせていた。
 
 「無様ね、そのまま何も出来ずに切り刻まれるがいいわ!!」
 「…分析…終了」
 
 クレセントの耳に聞こえない程小さく呟きクレセントに目を向け迫ってくる攻撃を受け止める。
 驚いたのはクレセント、今まで一方的に与えていた攻撃を受け止められた、
 …だが只の偶然だろう…そう考え再度攻撃を仕掛けるがその事如くを受け止められていく。
 
 既にクレセントの動きを分析したディードはクレセントの僅かな隙・癖を見逃さず機械的な、
 しかし正確な判断で動きを捉える事が出来るようになっていた。
 
 「やるわね!けどこの程度に動きについてこられるからって!!」
 
 クレセントは更に速度を上げてそのまま加速を維持、タイミングを合わせて上から下へと刃を振り下ろす。
 だがそれでも左の刀身で刃を合わせる、どれだけ加速しようとも攻撃時の癖つまりはタイミングを見切られている以上
 攻撃を防げない道理はない、更にタイミングも掴まれている為に右の反撃がクレセントの顔を切り裂いた。
 
 「きっ貴様!よくもこの私の顔に傷を!!」
 「…“人形”も傷つけられると怒るのね……」
 「貴様だって“人形”でしょうがぁ!!」
 「残念だけど私は“人形”じゃない」
 
 ディードの言葉に疑問視するクレセント、何故ならば戦闘機人もまた造られた存在“人形”と同義である。
 しかしディードは自信に満ちあふれる瞳で睨みつける、自分とどう違うのだろう?だが今はディードを消すことが優先

727レザポ ◆94CKshfbLA:2010/05/03(月) 07:28:08 ID:djO6d3Gs
 クレセントは刀身に魔力を込め左に携えた盾をディードに向けて突進、
 盾で強く殴打するとすくい上げるように切り上げ、続いてトライクルセイドと呼ばれる
 一度に三カ所切り上げる攻撃を仕掛けディードはツインブレイスにて捌こうとしたが、刀身は弾かれその身を更に上空へと運んだ。
 
 怒りのクレセントの攻撃をその身を受けたディードは流石に焦りの色を見せていた。
 確実に一撃一撃の威力が上がっている、たとえタイミングを合わせても威力に負けて弾かれてしまう。
 レリックウェポン化しても勝てないのか…その時である、地上からアギトが全速力でディードに向かってきた。
 
 「ディード!あたしとユニゾンしろ!!」
 「アギト?!でも調整が――」
 「それはあたしに任せろ!!」
 
 当初、ゼストとのユニゾンは厳しく常に調整を行う程で、無理矢理といっても過言ではなかった。
 何故ならばアギトは烈火の剣精と呼ばれる通り剣による斬撃と炎熱が相性が良く
 ゼストが扱うデバイスは槍でしかも炎熱も使えない、当然の結果である。
 だがアギトはゼストの動きに合わせる事で徐々に調整、今でも少々のズレはあるにせよ十分に対応出来るまでに至った。
 
 その経験を基にすればディードとユニゾンする事も可能、しかもディードは双剣の使い
 少なくともゼストよりは調整がしやすい、其処まで踏んでの決断であった。
 
 「…分かった、お願い」
 「よぉぉぉし!行くぜぇぇぇ!!」
 
 アギトの気合いを合図にディードはユニゾン、その姿は彩度の低い茶色の髪、紫色の戦闘スーツは青紫色に変わり瞳は紫、背中からは二対の四枚の羽が生えていた。
 早速ユニゾンしたアギトは烈火刃を発動、ツインブレイスのエネルギー刃に炎が混じりその刃は熱せられた金属のような輝きを見せていた。
 
 「…行くよアギト」
 「応っ!!」
 
 ディードは左の刃を伸ばしながら瞬時に左に振り払い、まるでレーザーが薙払うかのように迫りクレセントに襲い掛かる。
 だがクレセントは左に携えた盾で受け止めるが勢いは止まらず吹き飛ばされた。
 そして刃を元の長さに戻すと何かを確かめるように握りしめた拳をじっと見つめた。
 
 「…エネルギーの出力が上がっている」
 
 戦闘機人は魔力と異なるエネルギーを使用している、だがアギトは自身の魔力とエネルギーの似た特性を合わせる事により
 出力を調整、更にアギトの魔力も重なり合う事により出力・威力共に強化されたのである。
 
 「ったりめぇだ、誰とユニゾンしてんと思ってんだ!それより早く追い打ちを掛けな!!」
 
 幾ら調整可能とはいえ付け焼き刃であることは変わりない、長時間ユニゾンする事が出来ない。
 アギトの見立てでは三十分が限界、それを超えると強制的に解除しなくてはならなくなるとディードに告げる、
 とその時である、吹き飛ばされたクレセントがすごい剣幕でディードに迫っていた、どうやら怒り心頭らしい。
 
 「アンタぁ!やってくれたねぇ!!」
 「…其方から来るなんて都合がいいわ」
 
 早速ディードは加速してクレセントの懐に入り右の刃を左に振り抜くがクレセントは左の盾で受け止める。
 すると間髪入れず左の刃を右に振り払い挟むような形となるが今度は右の刀身で受け止められ、
 逆にクレセントがその場で背後を向き右のかかとで顎を蹴り上げられた、オーバースピンと呼ばれる技である。
 
 一方蹴られたディードはある程度距離を離れ姿勢を正してクレセントに目を向けると、
 クレセントは逆さまのままシャドウスナップと呼ばれる黒いナイフ型の魔力刃を次々に投げつけ、その数二十を越えていた。

728レザポ ◆94CKshfbLA:2010/05/03(月) 07:29:22 ID:djO6d3Gs
 「くっ弾き返す!」
 「いや此処はあたしに任せろぉい!!」
 
 アギトはディードの周囲に火炎を発生させるやすぐさま撃ち出しシャドウスナップに直撃すると爆炎を起こす。
 ブレネンクリューガーと呼ばれる着弾時に高温で燃え上がる魔法である。
 その炎はクレセントとディードの間を分かつ壁となり、クレセントは警戒するが、
 ディードは炎の壁を突き抜けそのままクレセントに押し迫り双剣を合わせて一気に頭上に振り下ろす。
 …がクレセントは左の盾で攻撃を受け止め、逆に右手に携えた刀身でディードを切り裂こうと袈裟切りを放つ。
 
 「うあああああっ!!!」
 
 ディードの滅多に出さない気合いを込めた叫び声を上げ、双剣の刃と共に盾を打ち砕いた。
 …だがクレセントの凶刃は止まらず空しくもディードの左肩に深く斬り込まれ、胸元まで達成して刃が止まった。
 
 「くっ動かない!!」
 「“人形”に…負ける訳にはいかない!!」
 
 ディードは右の剣の刃を形成しクレセントを貫こうとしたが、いち早く察知したクレセントは
 斬り込まれた剣から手を離し間一髪串刺しから逃れ逆にシャドウスナップを二本投げつける。
 だが投げつけたシャドウスナップはとっさに投げた為か急所に当たらず、心臓となる部分の丁度左の脇腹と左こめかみを掠めるだけに終わり、
 寧ろディードは突き出した形の右の刃を伸ばしクレセントの腹部を貫いた。
 
 「えっ!?嘘?」
 「これで…終わり!」
 
 その言葉を最後にディードは容赦なく斬り上げ縦に真っ二つに切り裂き、
 クレセントは火花を散らせながら落下、地面に辿り着く前に大爆発を起こし消滅した。
 
 その光景を静かに見つめユニゾンを解除したディードは胸元まで到達した剣を引き抜き傷口に手を当てると、
 小さく溜息を吐き彼女の右肩にはアギトがチョコンと乗っかっていた。
 
 「…終わった――――そう言えばアギト、ゼストは?」
 「………旦那は――」
 
 アギトは天を仰ぎ見暫く沈黙する、アギトの反応に疑問視するディードだが
 その後暫くしてアギトはディードに応急処置をしながら静かに…しかし力強くゼストの最後を報告した。
 
 
 ディードが激戦を繰り広げている頃、ギンガ率いるノーヴェとウェンディは高速道路を疾走していた。
 とその時である、目前にエインフェリアの一体セレスの姿を確認、早速ギンガはノーヴェに指示を送り先行、セレスに攻撃を仕掛けた。
 
 「うりゃああああ!!」
 
 ノーヴェはエアライナーをセレスの頭上まで伸ばして滑走、気合いと共に右のかかと落としが襲い掛かる、
 だがセレスは冷静に右手に携えた刀身で受け止め逆に弾き返し
 ノーヴェは空中で回転しながらも足から道路に着地、セレスを睨みつけると左前方に光るものを確認
 ノーヴェは目線のみ向けると其処にはリリアが狙いを定めて弓を射抜き矢が迫っていた。
 
 「ウェンディちゃん参上ッス!!」
 
 だがウェンディが滑り込むようにノーヴェの前に躍り出てライディングボードを盾にして矢を防いだ。
 更にウェンディは間髪入れずにライディングボードをリリアに向けエリアルショットで攻撃を仕掛けるが

729レザポ ◆94CKshfbLA:2010/05/03(月) 07:32:50 ID:djO6d3Gs
 ゼノンの巧みな操作による魔力弾にてエリアルショットを相殺した。
 
 その間ウェンディの後ろで待機していたノーヴェはA.C.Sを起動、ノーヴェの両足の外側の踝辺りに二対の四枚の翼が広げられ加速
 黄色い弾丸と化したノーヴェの蹴りが顔面に直撃してセレスを吹き飛ばした。
 
 「ヨッシャアどうだ!!」
 「なんつうか…何時もながら猪突猛進ッスね」
 
 常に全力で迷い無く突っ込んでいくノーヴェ、その姿を細目で見つめ呆れるウェンディだった。
 一方ギンガはゼノンと対峙、先に動いたのはゼノン誘導性の高い魔力弾を八つ撃ち放ち
 ギンガは最小限の動きで回避しつつウィングロードを上空へと伸ばし滑走
 更に先には上に向かって螺旋が描がかれたウィングロードを伸ばし滑走することにより八つの魔力弾を防ぐ。
 
 「次はコッチの番!!」
 
 ギンガは切り返して急降下、落下速度を加えたバイルバンカーをゼノン目掛けて振り下ろす、だが難なく回避され高速道路のアスファルトを砕くのみで終わった。
 一方で回避したゼノンは杖を向けて魔力弾を放つと、今度はギンガがディフェンサーを張って魔力弾を弾き飛ばした。
 
 「成る程…かなりの実力のようだ」
 「貴方もね」
 
 互いの実力を確認したギンガとゼノンは肩慣らしであった今までの戦いを変え、
 ギンガはA.C.Sを起動、ゼノンもまた杖から青い稲光が走り第二回戦の準備を終えた。
 
 その頃…ノーヴェとウェンディはセレスとの戦闘を続行していた。
 ノーヴェが描くエアライナーの軌道は周囲のビルや道路を巻き込み
 不規則で縦や横斜めとまるで迷路と化していた、リリアからの攻撃を防ぐためである。

 その姿はまさにノーヴェの巣、その中心にはセレスが閉じ込められており、一方的な戦いを強いられていると思われていた。
 だが…ふたを開けてみればセレスはノーヴェ達の動きを見切っており、攻撃を開始するタイミング、フェイントの全てが読まれ
 ウェンディのエリアルショットにも対応、それらに合わせて反撃を受け、ノーヴェ達はボロボロの姿となり
 寧ろ巣に掛かったのはノーヴェ達ではないのか、そんな錯覚を覚える程に圧されていた。
 
 「クソッ!最初にA.C.Sを見せたのが仇だったか!!」
 
 エアライナーの上で膝をつき口端から覗かせる血を指で拭き取るノーヴェ、
 相手の実力を考えず先手必勝と言わんばかり放った最初の蹴りはセレスにとって加速・威力を知るには最も適した一撃であった。
 故にセレスはその一撃を基にノーヴェを解析し、更に繰り出される攻撃一つ一つも冷静に解析にかけたことによって
 圧倒的、また一方的な展開が広げる事が出来たのだ。
 
 「このままで…終われるかよ!!」
 
 自分の過信が招いた事とは言えこのまま一方的にやられる訳にはいかない何としても一矢報いたいところ、
 そんな時ノーヴェの脳裏にチンクがよく言う言葉を思い出す。
 
            ――冷静になれ!!――
 
 常に怒っているような荒々しいノーヴェの性格、それは戦闘的な性格を表しているのであるが、
 戦場では冷静な判断がとれない者は実力を出し切れず下手をすれば死んでしまう。
 ノーヴェの実力は本物である、だが彼女の荒々しい性格がその実力を押し殺していると言っても過言ではない、現にこうして追いつめられているのだから。
 
 「…冷静になれ……か」
 
 ノーヴェは目を閉じ大きく息を吸い、そしてゆっくり吐息を吐き落ち着きを取り戻すと
 脳裏にウェンディからの連絡が入ってきた。

730レザポ ◆94CKshfbLA:2010/05/03(月) 07:35:13 ID:djO6d3Gs
 「やっと繋がったッス!いくら何でも頭に血上り過ぎッスよ」
 「うるせぇ!何か用かよ」
 「ヒドいッスね〜折角秘策があるッスのに」
 
 ウェンディの秘策、それは即ちライディングボードによる接近攻撃である。
 レリックウェポン化したウェンディには対消滅バリアをライディングボードに張る事が可能、
 更に応用として先端に一点集中、エネルギー刃を作り出す事が出来るという。
 今まではウェンディが援護に入りノーヴェが隙をついて攻撃するスタイルであったが、
 今度はノーヴェ自身が囮となって注意を逸らし、その隙を狙って一撃離脱を目指す算段であった。
 
 「上手くいくのかよ?!」
 「大丈夫ッスよ、奴さん私の攻撃の全てを知っている訳じゃないッスから」
 
 今まではノーヴェがトドめ要員であった為にウェンディは砲撃のみに費やしてきた、対消滅バリアを張る事はあったがそれを武器にはしていない、
 その為、充分通用するハズであると胸を張って答えた。
 だがウェンディのその態度に一抹の不安を覚えるノーヴェ、だが他に方法が無い…仕方無くノーヴェはウェンディの作戦に乗り攻撃をしかけた。
 
 「来やがれ!“人形”!!」
 
 右手のガンナックルの水晶体から機関銃のように大量のエネルギー弾を放つノーヴェ
 そのけたたましい音を立てての攻撃がセレスに迫るがその事如くが盾で弾かれる、または回避されていた。
 
 「チィィィィまだまだぁぁ!!」
 
 ノーヴェは臆する事無く引き続き光弾を発射しながら接近、間合いを詰めると右のハイキックを繰り出し頭部を狙う、
 が左に携えた盾にて防がれ、セレスはニヤリと表情を浮かべるがノーヴェの表情に焦りの様子はなかった。
 
 「このぉっ!砕けやがれ!!」
 
 ノーヴェが身に付けているジェットエッジの踵部分に設けられている噴射口から勢い良くエネルギーが噴射、
 蹴りの威力を高め受け止めていた盾に亀裂が入り破壊、再度頭部を狙うが顎を引いて掠める程度に終わらせると
 今度はセレスが剣を両手持ちに変え突進、ノーヴェの背後を狙うがノーヴェは攻撃を切り替え蹴り上げ踵で刀身を弾いた。
 
 「くっ貴様!」
 
 セレスは剣を拾う前にノーヴェの両腿にナイフを突き立て動きを止めてから剣を拾い
 再度突きによる攻撃を仕掛けてくる、だがノーヴェは臆する事無く冷静に見つめ
 脇を閉め小回りを利かせた右のガンナックルにて叩き落とし、更にその勢いを利用して顎に直撃させた。
 
 セレスの顎は跳ね上がり後ろに仰け反り、勝機を見たノーヴェ右のジェットエッジを点火、加速させたハイキックが今度こそ直撃した。
 ぐらりと体を揺らし体勢を崩したセレスの反応に間髪入れずウェンディに指示を送る。
 
 「行け!ウェンディ!!」
 「うおりゃゃゃッス!!!」
 
 ウェンディは気合いと共に低飛行、ライディングボードの先端に対消滅バリアのエネルギー刃を作り出してセレスの胴体に直撃
 体を横に真っ二つに切り裂きその後爆発して残骸に変えた。
 
 「ヨッシャアァァッス!!」
 
 雄叫びをあげ右腕を高々と掲げて勝利を物にしたウェンディ、一方でウェンディの反応に呆れ果てた様子のノーヴェ。
 ウェンディの判断は正しかった、だがノーヴェの今まで大振りであった動きを細やかな的確な動きに変えた事により
 引きつけ役としては十分過ぎる程の働きを見せたのも勝利の一つであった。

731レザポ ◆94CKshfbLA:2010/05/03(月) 07:37:14 ID:djO6d3Gs
 ノーヴェはエアライナーの巣を解除し高速道の真ん中に立ち尽くしウェンディはライディングボードにて上空を滑走周囲を確認していると
 ビルの屋上に光るものを発見、目を凝らしてみると其処にはノーヴェに向けて弓を射るリリアの姿があった。
 
 「ノーヴェ!危ないッス!!」
 「もう遅い!クランブルガスト!!」
 
 ウェンディの忠告も虚しく無数の矢がノーヴェに迫り逃れられないと悟ったノーヴェは目を瞑り覚悟を決めた。
 耳元に矢が通り過ぎる音、体に突き刺さる音を確認するが体に痛みが無く不思議に思いゆっくりと目を開くと
 ライディングボードを盾に、だが血が滴り落ちているウェンディの姿が其処にはあった。
 
 「うっウェンディ!!!」
 「ヘッ…ヘヘ…バリア張る暇が…無かった…ッス……」
 
 ノーヴェを守る為とっさの判断で前に立ちはだかった為に対消滅バリアを張る事が出来なかった。
 その為ライディングボードは貫かれ、その矢はウェンディの背中に、肩に、股に、至る場所に深く突き刺さっていたのだ。
 するとウェンディの体がゆっくりと…身を預けるかのように倒れ始め、ノーヴェは抱き抱えると
 その手にはベットリと血付いており、致命傷である事は明白であった。
 
 「おっオイ!しっかりしろよ!!」
 「いやぁ〜……もう無理ッスよ……でも…ノーヴェ…が無事で…よかっ…た……ッス―――」
 
 この言葉を最後にウェンディはゆっくりと目を閉じ、まるで眠りに付いたかのように息を引き取る
 ノーヴェはウェンディの体を強く抱きしめ大粒の涙を流し、胸の奥から湧き上がる熱いモノを感じていた。
 
 …戦いはまだ終わってはいない、ウェンディを殺したリリアというエインフェリア
 奴だけは絶対に倒さなければならない、ウェンディの仇は必ず取る!
 
 覚悟を決めたノーヴェは涙を拭い立ち上がるとその瞳はリリアに一点に集中していた。
 そしてゆっくりと確かめるように前傾姿勢で構え足元にA.C.Sを起動しエアライナーを前面に張り滑走、
 真っ直ぐリリアに迫る中で、リリアは再度クランブルガストを放ち無数の矢でノーヴェを襲うが、
 ノーヴェは冷静にエアライナーを縦の螺旋状に変えて回避、更に回避出来ないモノは右の手甲で弾いた。
 とはいえ全てを回避または弾く事は出来ず頬や肩を掠め左腕には矢が二本突き刺さっていた。

 だがノーヴェには臆する事無く突き進み矢の雨を突き抜けリリアの目の前まで到達するとブレイクギアで強化させた右蹴りが胴体を捉え、
 次に左足を軸にした後ろ回し蹴り、更に右の踵落としを決めて最後に右足を軸に右に一回転
 ブースターを点火させた左のミドリキックがリリアの右わき腹を捉え吹き飛ばしビルに直撃させた。
 
 「この程度で終わると思うなぁ!!」
 
 ノーヴェは激突させたビルを睨み付けながら真っ直ぐ突き進み追い討ちを掛けようとしたところ、
 激突して土煙を上げている風穴から誘導性のあるエイミングウィスプと呼ばれる光弾がノーヴェ目掛けて襲い掛かり
 とっさに急転し左に飛び出しエアライナーを再発動させ空を舐めるように走り光弾を回避、
 すると風穴からリリアが姿を現し身晴らしの良い高速道付近に移動すると更に光弾を立て続けに撃ち抜き、計二十一発の光弾がノーヴェの行く手を塞ぐ。
 
 「この程度で!!」
 
 起死回生にエアライナーを上空に向けて伸ばし逆さまのまま滑走、
更に後ろを向き光弾が接近したところを一つずつ丁寧に撃ち落としていき全弾撃ち落とすと
 Uターンして頭上から踵落としで襲い掛かるが、リリアは後方へ飛ぶようにして回避、
 ノーヴェの一撃は高速道路を破壊するほどの威力があり辺りは瓦礫と土煙が舞っていた。
 
 だが土煙から飛びかかるようにノーヴェが現しリリアはシングルショットと呼ばれる矢を撃ち抜き左肩を貫くが
 ノーヴェの勢いは止まらず右の蹴りがリリアの土手っ腹に深く突き刺さった。

732レザポ ◆94CKshfbLA:2010/05/03(月) 07:40:53 ID:djO6d3Gs
 「きゃあああああっ!!!」
 「これでどうだ!!」
 「…くそぉ!こう…なっ……たら!!」
 
 リリアは最後の力を振り絞り弓を引き出しノーヴェは逃れようと右足を抜こうとするが一切抜ける気配がなかった。
 リリアは最後の一撃を掛けて全力で締め付け逃れないようにしていたのだ。
 
 「てめぇ!往生際がわりぃんだよ!!」
 
 ノーヴェは右腕を向けて光弾を何度も発射、目、耳、頬、腕、胸、肩など至る所を撃ち貫くが一向に止まる様子を見せなかった。
 そして…ノーヴェの銃口がリリアの喉に向けられると呪詛ともとれる言葉を口にした。
 
 「私と共に…死ねぇ!!」
 
 この言葉を合図にバスターシュートと呼ばれる橙色の炎熱を帯び威力を重視した最後の一撃を放ちノーヴェに直撃
 大爆発を起こし周囲は一瞬にして炎と熱が包み込み、その衝撃はビルの窓ガラスを叩き割り破片が光を反射させながら落ちていった。
 その中央、爆心地には両者の残骸すら無く正に木っ端微塵、拾う骨すら無いと思われていた。
 だがその上空に位置する場所で風を切る音が奏でられ、日差しを遮るモノが一つ、
 それは回転しながら落ちていき、まだ破壊されていない高速道路に直撃、物体の正体…それはノーヴェの右腕だった。
 
 
 場所は変わりギンガとゼノンの対決は、突進力が増したギンガの攻撃に対しゼノンは広域攻撃魔法で対抗、
 ゼノンの広域攻撃魔法はその範囲を小規模に、変わりに威力を高めており一撃一撃は十分過ぎる程の威力を保っていた。
 戦況はギンガが劣勢、幾ら驚異的な突進力を持っているとはいえ距離を取られてはギンガが攻撃する術がないのだ。
 
 さて、どう対抗するか…そんな事を模索していると、今まであったウェンディとノーヴェの反応が途絶える。
 それはウェンディとノーヴェが戦死したと言う意味を指し、ナンバーズの中で最初の犠牲者、
 しかもノーヴェは同じ遺伝子から生み出された妹も同様であり、ギンガは信じられないと言った様子を浮かべていた。
 
 「そんな…ウェンディ…ノーヴェ……」
 「…どうやらリリア達は一矢報いたようだ」
 
 ギンガの反応を後目にゼノンは冷静に戦況を判断する。
 ゼノンにとって他のエインフェリアは仲間である、だが其処に特別な感情など無い。
 必要無いのだ、ゼノンにとっては仲間は任務をこなす為の道具と変わりがない、故に悲しむ必要も無い。
 …だが一つ思うことがあるとすれば、戦力低下は否めない…その程度の存在でしかなった。
 
 「…仕方無いな、早くコイツを倒して次に進むか」
 「……そうはさせない!!」
 
 ギンガの体から藍紫色の魔力光が放たれ瞳は金色、両足からはA.C.Sが発動した証である二対の翼、左腕には螺旋を描く振動エネルギーを纏っていた。
 IS振動破砕、妹であるスバルと同じISであるが妹とは異なり、振動エネルギーを直接両腕から放つのでは無く
 左腕のリホルバーナックルに搭載されているナックルスピナーを回転させる事により
 負担を抑え左腕を破壊すること無く使用する事が可能となったのだ。
 
 「砕けろ!!」
 
 加速したギンガは瞬時にゼノンの頭上へと辿り着き左拳を振り下ろす。
 ところがゼノンの前髪を掠める程度に終わり逆にゼノンの雷の広域攻撃魔法であるサンダーストームが襲い掛かる
しかしギンガはウィングロードを起動させて左に移動、サンダーストームを辛うじて回避すると
 ゼノンは炎の広域攻撃魔法エクスプロージョンを放ちギンガに直撃、大爆発を起こし煙が充満、バラバラに吹き飛ばされたと思われたが
 ギンガはシェルバリアとディフェンサーを用いて耐え抜き、煙を突き抜けゼノンの目の前まで接近

733レザポ ◆94CKshfbLA:2010/05/03(月) 07:47:03 ID:djO6d3Gs
 左の拳にてゼノンが持つ杖を破壊すると続いてローキックにより体勢を崩した。
 
 「しまった!!」
 「これで!終わりよ!!」
 
 勝機を見たギンガは左拳を手刀に変え更に高速回転リボルバーギムレッドへと変えると、そのままゼノンの腹部を貫いた。
 そして左手に纏っている振動エネルギーがゼノンの体に響き渡り回転しながら分解、
 ゼノンを細かな残骸に変え四散、ギンガの体に破片を浴びるが気にすることなく歩き始める。
 だが…負担を抑えたとはいえ振動エネルギーに相手の攻撃、体には疲労が溜まり膝をつくギンガだった。
 
 
 場所は変わりルーテシア達はカノン達を相手にしていた。
 既にウェンディとノーヴェの件は知っており、更にその後にゼストが亡くなった事もディードから伝えられていた。
 
 弔い合戦…オットーとディエチはそう考えているようで二人はカノンとリディアを相手にする事となった。
 だがそれだけでは忍びないとルーテシアはガリューを召喚、ガリューは先陣を切り二人が後方支援または援護を取る形となった。
 とその時である、ルーテシアの前にエインフェリアの一体、アドニスが不気味な笑顔を見せながら姿を現す、どうやらルーテシアを先に片付ける様であった。
 
 「旨そうなガキだ、さぞかしいい声で泣き叫ぶんだろうな!!」
 「……何?この変態人形」
 
 ルーテシアは嫌悪感剥き出しの表情浮かべたまま左手をアドニスに向け鳥や魚型の下級の不死者を大量に召喚、
 数で押し迫りアドニスを襲わせるが、アドニスはその巨大な刀身を振り回し、いとも簡単に殲滅、圧倒的な実力差を見せた。
 
 「オイオイオイ!こんなもんじゃ俺のいきり立ったモノは満足しねぇぞ!!」
 「……気持ち悪い」
 
 ルーテシアは汚いモノでも見たかのように目を細め何度も下級の不死者を大量に召喚し襲わせるが、
 その都度その都度殲滅され鼬ごっこと化していた。
 
 「ハハハァ!こんなんじゃ感じねぇよ!もっとビンビン来る奴じゃねぇとな!!」
 「…数では無理ね」
 
 ある程度予測は出来ていた、寧ろ数で攻めたのは相手の疲労を狙っていたためである。
 だがアドニスは大して疲労を感じている様子は無かった、体力が異常なのかそれとも表立って出さないだけなのか…
 ルーテシアの魔力はレリックウェポン化して増大してあるとは言えこのままでは埒があかないことは明白、ならば数では無く質で勝負に出るルーテシア。
 
 「邪竜召喚……ブラッドヴェイン!!」
 
 ルーテシアは不死者召喚の最高峰ブラッドヴェインを呼び出すと、邪竜の肩にチョコンと乗っかかる。
 一方アドニスはブラッドヴェインの巨体に不気味な笑顔を浮かべ興奮した様子で見上げていた。
 
 「いいじゃねぇか、いいじゃねぇか!!こんなデカい奴とヤり合えんなんてなぁ!!」
 「……ブラッドヴェイン、あの気持ち悪い変態人形を容赦なく破壊して……」
 「……貴様にしては、随分と感情的な物言いだな」
 
 ルーテシアは人やモノを破壊する時、一切躊躇する事無く行う、それは常に冷静…いや感情が無いからこそ出来る所業である。
 だが今のルーテシアは明らかに目の前のアドニスに敵意を剥き出しにしている。
 
 ウェンディとノーヴェ、そしてゼストの命を奪った同じエインフェリアという存在に怒りを覚えたのか…
 それともただ単にアドニスの発言に苛立ちを覚えただけなのか?ブラッドヴェインには分からない。
 分からないが今は目の前の“敵”であるアドニスを片付ける、それだけはハッキリしていた。
 
 「まぁいい、俺は暴れられればそれでいいからな!!」
 
 ブラッドヴェインはその強靭な爪でアドニスに襲い掛かり引き裂こうとしたがアドニスは上空に逃げこれを回避、

734レザポ ◆94CKshfbLA:2010/05/03(月) 07:49:02 ID:djO6d3Gs
 反撃としてソニックエッジと呼ばれる大きく振りかぶり、全体重を乗せて振り払う攻撃を急降下しながら仕掛ける。
 だがブラッドヴェインは口から高熱の炎を放ちこれを迎撃、周囲に高熱を響き渡らせると
 翼を広げ飛翔、だがアドニスは炎に耐え抜き再度ソニックエッジを振り払いブラッドヴェインの胸元を深く切りつける。
 
 だがブラッドヴェインは引く事無く右の爪を振り払いアドニスは長い刀身を盾に防ぐと
 本命である尻尾による殴打がアドニスの頭部に見事直撃、大地に叩きつけられ巨大なクレーターを作り出した。
 
 「くたばったか?」
 「この程度で殺れれば苦労はない…」
 
 ルーテシアの言葉通りクレーターの中心からアドニスが立ち上がり雄叫びのようなモノをあげていた。
 そしてアドニスは目の前に存在する圧倒的な力の前に興奮の坩堝と化し最後の一撃とばかりに大きく振りかぶり、
 足下に魔法陣を張ると刀身は赤く光る炎熱に包まれた、それはエーレンが使用したソウルエボケーションの構えだった。
 
 「このソウルエボケーションで地獄に叩き込んでやるぜぇ!!」
 
 アドニスは躊躇無く飛び出し真っ直ぐブラッドヴェインに突っ込んでくるとイグニートジャベリンを撃ち抜き牽制
 アドニスは刀身を振り抜き撃ち落とし更に押し迫り、ブラッドヴェインは続いてファイアランスを放ち
 更に牽制を仕掛けるがその事如くを撃ち落としていく。
 そして目の前まで到達すると大きく振りかぶり振り下ろす体勢をとるアドニス。
 
 「てめぇの死を受け入れろ!!」
 
 だがピタリと動きを止めるアドニス、その腕にはレデュースパワーで縛られており
 目の前、ブラッドヴェインの肩に乗るルーテシアが左手を向けていた。
 
 「てってめぇの仕業か!!!」
 「気付かない変態人形が間抜けだっただけ…」
 
 ルーテシアは見下ろす目線で毒を吐くと今度はブラッドヴェインがプリズミックミサイルを発射、
 今度は弾かれずその身につき刺さるとアドニスの顔色が紫に変化し全身は電気を撃たれたかの様に麻痺
 一部鎧も凍結していた、どうやらプリズミックミサイルの状態異常効果によるモノである。
 
 「ヤベェ、イっちまう!イっちまうぜぇぇ!!」
 「………早く…とどめを刺して、気持ち悪いから」
 「そうだな…」
 
 ブラッドヴェインは早速巨大な魔法陣を張り詠唱を始める、
 その間ルーテシアは再度アドニスにレデュースパワー更にレデュースガードを使用し、
 ブラッドヴェインのグラビディブレスの効果を高める処置を行った。
 そして―――
 
 「グラビディブレス!!」
 
 放たれたグラビディブレスの前にアドニスは矮小に等しく簡単に撃ち込まれ周囲を巻き込んで地面へと激突、
 大きなクレーターを形成すると、その中心にいるハズのアドニスは姿を確認できない程破壊されていた。
 
 「ご苦労様、ブラッドヴェイン」
 「まぁ、楽しめた方か…」
 
 だがアドニスのあの性格には正直ついていけないと思うブラッドヴェイン。
 それに対しては同感であると感じざるを得ないルーテシアだった。
 
 
 …カノンはオットーが張った結界に閉じ込められていた、ディエチの巧みな誘導でビルに追い込み、ガリューの格闘がカノンの行動を制限させた結果である。

735レザポ ◆94CKshfbLA:2010/05/03(月) 07:50:50 ID:djO6d3Gs
 オットーの結界には魔力の動きを阻害する効果がある、しかしカノンは未だ余裕に満ちた表情を浮かべていた。
 
 「この程度の結界で私を止められるとでも思っているとはな…」
 
 カノンは動じる事無く魔力を解放、周囲に稲光が走り床を砕き壁ガラスを破壊し始める。
 サンダーストームと呼ばれる雷の広域攻撃魔法で結界を内側から破壊、ビルは瞬く間に瓦礫と化し崩れていく。
 
 その瓦礫が舞う中でガリューはカノンに近付き、両手肘を刃に変え接近戦を仕掛ける。
 ところがカノンは魔法障壁を張って猛攻を防ぎ、右手をガリューに向けると炎の広域攻撃魔法であるエクスプロージョンを発動、
 大爆発と共にガリューを吹き飛ばし対角線にあったビルに叩きつけた。
 
 その頃ディエチはリディアと牽制し合っていた、弓と銃の違いはあるが共に遠距離支援型、
 リディアはカノンの支援、ディエチはリディアの支援の妨害を行い、リディアはディエチに切り替え攻撃、
 するとディエチもまたリディアに照準を絞り込み、互いに一歩も譲らない攻防戦であった。
 
 「こっちに狙いを絞られたのはいいけど…」
 
 超重量のイノーメスカノンの振り回すのは流石にキツく幾ら誘導性の高いエネルギー弾を撃ち放っても限界がある。
 となれば小回りが利く銃に切り替えた方が無難…そう考えた矢先、リディアの猛攻を受け左肩、右足を貫かれ
 右こめかみと頬、左わき腹を掠める、これ以上の被害は被る訳にはいかない、
 
 そう考えたディエチはイノーメスカノンを盾にして追撃を防ぎ、
 更に破棄して腰に添えた銃、スコーピオンに手を伸ばし取り出すとすぐさま撃ち鳴らす。
 弾丸は実弾を使用、しかし自身のISであるヘヴィバレルを用いて弾丸に薄いエネルギーの膜を張る事により操作が可能となり
 誘導性のある実弾としてリディアが放った矢を迎撃、更には肩や足を撃ち貫いた。
 
 「これならイケる!!」
 
 勝機を見たディエチは次に徹甲弾が詰まったマガジンに切り替え、ストックを伸ばし足を肩幅ぐらいに広げ脇を絞め構え撃ち始める。
 周囲にけたたましい音を奏でながら撃ち出された徹甲弾はリディアを完全に捉え手足、胴体、頭を貫き蜂の巣と化していた。
 
 だがそれでも動けるようで、その頑丈さに呆れ果てるディエチ、
 しかしリディアの体から稲光が走りショートしている様子を見せており致命的である事は明白
 ところがディエチはリディアの姿を見て一抹の不安を覚える、…そしてその不安は現実のモノとなった。
 
 「今の攻撃で…倒せなかった事を…後悔なさい!!」
 
 リディアは決意を胸に弓をオットーに向けグランブルガストを撃ち放つ、
 それと同時にオットーに狙いを変えた事に気が付いたディエチもまたリディアに向け残りの徹甲弾を撃ち
 頭部を直撃、完全破壊したが間に合わず二十本の矢がオットーへと迫っていた。
 
 「オットー!逃げて!!」
 
 ディエチの悲痛な叫びが辺りに響き渡る中、それをかき消すかのようにリディアは爆発して消滅、
 一方狙われたオットーはディエチの叫びを耳にしたのかレイストームを放ち迎撃するが、
 全てを迎撃する事が出来ず左肩胸、右股腕、咽を貫かれ串刺しと化し前のめりで倒れその儚い命を失った。
 
 「オットー……」
 
 アドニスを撃破しブラッドヴェインと共に後を追っていたルーテシアはオットーが倒れていく姿を目撃
 共に暮らし長く過ごしてきた親友ともいえるオットーの死、それはルーテシアの凍り付いた感情を溶かすには十分であった。

736レザポ ◆94CKshfbLA:2010/05/03(月) 07:58:42 ID:djO6d3Gs
 だがこの感情、ぶつける相手は既にディエチの手によって葬られた、
 とその時であるルーテシアの目にカノンの姿が映りビルに激突していたガリューの下へ向かおうとしていた。
 
 「ガリュー!起きて戦って!!」
 
 ルーテシアは怒りのままガリューに武装化を命じ、ビルからガリューが飛び出す姿を目撃すると、
 牽制としてルーテシアはカノンの足下付近に攻撃範囲が広いバーンストームを次々に撃ち
 カノンが動ける範囲を狭めガリューがバーンストームに合わせる形で接近戦を仕掛ける。
 だがカノンは魔法障壁を張りガリューの猛攻を防ぐとグラシアルブリザードを放ちガリューを逆に追い詰め、
 撃ち放たれたグラシアルブリザードの氷の刃はガリューの身を突き刺し見る見るうちに凍結しオブジェと化した。
 
 「砕け散るがいい!!」
 
 続いて撃ち放ったエクスプロージョンによってガリューは粉砕、その光景を目の当たりにしたルーテシアは大粒の涙を零す。
 …ルーテシアにとってガリューはただの相棒では無い、共に戦ってきた戦友であり、
 母の温もり、残り香を感じるルーテシアにとって無くてはならない存在であった。
 
 だがそのガリューが無惨にも砕け散りその姿を嘲笑うカノン、怒り…いやルーテシアの中に憎悪という今までに無い感情が生まれ
 その感情はルーテシアにある召喚虫を使わせる引き金となった。
 
 「白天王!!!」
 
 呼び出された召喚虫白天王、色は白く背中には半透明の膜状羽を持ち、その大きさはブラッドヴェインと並ぶ巨体の持ち主である。
 ルーテシアは容赦なく白天王に命令を促しその巨腕が振り下ろされ、カノンはバリアを張って攻撃を受け止める。
 
 その周囲は大きくへこみクレーターを作り出す中、白天王は何度もバリアの上から叩き付け
 クレーターは亀裂が走り地割れとなって周囲の建物を飲み込んでいく。
 
 「こんなモノで終わりだと思わないで!ブラッドヴェイン!!」
 
 白天王が一歩引くと今度は命令を受けたブラッドヴェインが襲いかかり、クレーターを削るように下から上へと引き裂き
 宙には削れた大地と共にカノンが投げ出され、姿を確認したルーテシアはブラッドヴェインに命じ瓦礫と共にその巨大な尻尾で薙払った。
 その破壊力は強大で薙払った瓦礫は周囲の建物や木々を破壊し、その一つにカノンの姿もあった。
 
 「燃え尽きるがいい!!」
 
 ブラッドヴェインの高熱を帯びた炎が周囲を巻き込みながら迫り来るが、カノンは立ち上がり威力を高めたエクスプロージョンで相殺、
 巨大な炎の壁が立ちふさがりブラッドヴェインを覆い隠すと、カノンは足下に巨大な魔法陣を張り右手を炎の壁に向け詠唱を始める。
 
 「絶望の深遠に揺蕩う冥王の玉鉾、現世の導を照らすは赤誠の涓滴!!」
  
 そしてカノンの最大広域攻撃魔法であるグローディハームが発動、魔法陣の中心部分から毒々しい液体が伸び炎の壁を貫きブラッドヴェインにまとわりつく、
 次の瞬間受けた魔法の部分とルーテシアを振り払うように吹き飛ばした、すると受けた場所が徐々に溶けていき一部は白骨化し始めていた。
 
 「このまま溶けて消えるがいい!!」
 「ブラッドヴェイン!!」
 「来るな!…奴の相手はこの俺様だ!!」
 
 ブラッドヴェインはルーテシアに制止を促し徐に魔法陣を張り詠唱を始める。
 すると魔法陣から黒い球体が姿を現し中では稲光が走り更に巨大化、
 広域攻撃魔法の準備を整えると自身の最後の一撃を放った。
 
 「グラビティブレス!!」
 
 ブラッドヴェインは最後の一撃を放った後に完全に白骨化、音を立てて崩れ去っていく中、カノンは結界を張り防御に備える。

737レザポ ◆94CKshfbLA:2010/05/03(月) 08:00:02 ID:djO6d3Gs
 だがブラッドヴェインの渾身の魔法はカノンの結界を破壊し飲み込まれ黒い球体の中では稲妻が四散しカノンの身を驟雨の如く打ち付けていた。
 
 「ブラッドヴェイン……白天王!トドメをさして!!」
 
 撃ち放たれ消えていったグラビティブレス、だがその中心にはカノンが辛うじて立っている姿があり、
 ルーテシアはその身を確認するや間髪入れず白天王に命令、爆発的な加速と共に右拳を振り下ろし更に左拳、
 そして何度も叩き付け巨大なクレーターを生み出すと上空へと飛翔
 腹部に存在する水晶体から強力な魔力砲を発射、クレーターを吹き飛ばしその周囲を瓦礫に変えカノンは跡形も無く吹き飛んでいった。
 
 その上空、白天王の肩に乗るルーテシアは涙を拭き気丈を振る舞う。
 日に使役を二体失う…しかもその一体はルーテシアにとって大切な存在、
 ルーテシアは白天王を送還した後、ただ一人…空を向いて佇んでいた。
 
 
 場所は変わり此処ゆりかご内では一人の不死者が彷徨いていた。
 名はグレイかつてレザードに捕縛されグールパウダーを飲まされ不死者となったが
 その類い希なる精神力により自我を持つ不死者となったのだった。
 
 外の様子はおおよそ見当はついている、ナンバーズとエインフェリアの戦いは熾烈を極めるだろう。
 管理局は戦力が整っていない為ゆりかご、そしてヴァルハラを落とすのは困難、
 だがヴァルハラにはレザード達が向かった、落ちるのも時間の問題だろう。
 
 「今、俺が此処で出来る事それはゆりかごのコントロールを奪う事」
 
 今現在ゆりかごにはめぼしい戦力が無いウーノと呼ばれるナンバーズはどう見ても戦闘型では無い、
 ならば今動くべきなのだろう、此処を逃す手はない、そう考えコントロールルームに向かうグレイ。
 とその時である、壁から突然右拳が現れグレイのこめかみを打ち抜き、その勢いで壁に叩き付けられた。
 
 「なっなんだいったい!?」
 「ウーノ姉の所には行かせない!!」
 
 其処には壁をすり抜けて睨みを利かせたセインの姿があった。
 セインはゆりかご内を捜索していた所、不審な動きをする不死者を発見、
 興味本位で向かっていたのだが、ゆりかごのコントロールを奪うと言う言葉を耳にした為、攻撃を仕掛けたのだ。
 
 「どけ!!」
 「そう言って退く奴なんていないでしょ!!」
 
 グレイは仕方なくデバイスを起動、その長い刀身を右手に持ち一気に振り下ろすが
 セインは壁をすり抜けて回避、切り傷を壁に残すだけに終わると今度は反撃とばかりにグレイの後ろに回り込んで攻撃、
 後頭部に狙いを定めて打ち込むが既に読んでいたのか回り込みながら回避しつつ刃を薙払った。
 
 「あぶなぁ!対消滅バリアを張っておいて良かった」
 
 セインはウェンディと同じく対消滅バリアを全身に纏う事が可能で
 この際に攻撃を仕掛ければかなりの火力を持った一撃を放てるのである。
 だがそれを活かせる技術は無く荒々しさが目立っていた。
 
 しかしディープダイバーを用いた奇襲作戦は成功しており、苦戦を強いられるグレイ。
 何処から姿を現すのが分からないのである、今の所相手の攻撃が大振りな為何とか凌いでいるがいずれこの均衡も崩れていく。
 
 「どうにかしないとな…」
 
 何かヒントになるモノはないのか…グレイは静かに構え周囲に緊張が走る。
 セインもそれに気付いたのか今までとは事なり慎重になり始める。

738レザポ ◆94CKshfbLA:2010/05/03(月) 08:02:06 ID:djO6d3Gs
 
 暫くして静かに構える中、周囲に違和感を感じるグレイ。
 表現するとしたら無音の中に一つの波、とても小さく本来なら気付かないものだが今はそれが大きく違和感の波に襲われていた。
 
 恐らくあの戦闘機人が何かを仕掛けようとしているのか…
 一つ…また一つ波を感じる、それは徐々に感覚が狭まっていた、仕掛けるのが近いのだろう。
 とその瞬間大きな波紋を感じた、グレイは迷わずその波紋に刃を突き刺す。
 
 「カハッ!!な…なん…で」
 「貴様が姿を現すとき小さな波紋を感じた」
 
 どうやらディープダイバーの際に起きる物質を通り過ぎる時に起こる微小の音に反応した結果のようで、
 この結果を串差し状態のまま聞かされるセイン、刃は心臓を貫き命が消えていくのを感じていた。
 
 「このまま…死んだら…みんなに…合わせる顔が…無い!!」
 「なんと!!」
 
 セインは鬼気迫る顔で左手でグレイを掴み続いて右拳に対消滅バリアを張り真っ直ぐ胴体を貫く。
 その瞬間拳に纏っていた対消滅バリアのエネルギーを解放、グレイを中心に直径十メートル間は高密度のエネルギーに満ちその後消滅
 二人がいた場所は大きく…そして綺麗に削られ姿を確認する事は出来なかった。
 
 
 一方コントロールルームではウーノが戦況把握に勤めていた。
 正面のモニターには命を賭けてエインフェリアを撃破し死んでいく妹達の姿が映し出されており、
 近くでは爆発音が聞こえモニターを向けると大きく削れた傷跡が映し出されていた。
 
 恐らくはセインが自爆でもしたのだろう…そしてこの光景はウーノにとって目も当てられない惨事だった。
 だが自分の任務はガジェット及び不死者の指揮統率、それに長女である自分が妹達の死に目を逸らす訳にはいかない。

 ウーノは妹達の死を必死に受け止め仕事に集中、モニターではドラゴンオーブの操作情報の移行が続けられていた。
 その後暫くして移行が終了しスカリエッティにナンバーズの状況も含め報告した。
 
 「そうか…外はそんな事になっていたのか……」
 「いかがなさいます?ドクター」
 
 モニターに映るスカリエッティは静かに目を閉じ考える様子を見せると、
 何かを決意したかのように目を開けウーノに命令を下す。
 
 「ドラゴンオーブを発射したまえ、彼女達を弔う為にも…ね」
 
 それが出来るのは長女であるウーノしかいない…と静かに伝えウーノは頷き映像を切る、そしてドラゴンオーブの発射準備を開始した。
 一方ヴァルハラ内で待機しているスカリエッティは閉じたモニターを見上げながらジッと佇んでいた。
 近くにはレザードが同じく佇んでおり、静かに見守っていた。
 
 「命とは儚いものだね…こうも簡単にこぼれ落ちていく」
 「…………」
 
 レザードは答えず静かに佇む、するとスカリエッティは自分の感情を覆い隠すように言葉を続ける。
 命とは生物が生きている限りもち続け、すべての活動の源泉、だがナンバーズは造られた存在、
 しかしレザードの手によって“魂”を持ち肉体も成長する事が出来るホムンクルスと融合していた。

739レザポ ◆94CKshfbLA:2010/05/03(月) 08:04:55 ID:djO6d3Gs
 いわば普通の“人”と何ら変わらぬ存在、それ故に命の終着点、生き物が持つ絶対なる出来事、死を得た事にもなる。
 
 「彼女達は満足だったのだろうか…」
 「…それは聞いてみない事には分かりませんね」
 
 苦労して手に入れた命が理不尽に奪われる、憤り悲しみ…そして虚しさがこみ上げてくるスカリエッティ。
 だが彼もまた理不尽に他者の命を奪ってきた、これは報いなのかもしれない。
 そして…死の先を知るレザードはただジッと黙り込み、その時を待っていた。
 奇しくもこの時エインフェリアであるイージスとミトラのデータ書き換えが終了した頃であった。
 
 
 場所は変わり此処次元海に存在するドラゴンオーブに火が入り、その矛先がある方向へと向けられる。
 その方角の先には本局が存在しており、周囲には多数の次元船が並びアルカンシェル隊も其処にはあった。
 
 「目標補足、周囲の警戒を怠るなよ」
 
 エインフェリアであるミトラが反撃に備え警戒を促す頃
 ドラゴンオーブは呻き声のような音をかき鳴らし、二枚の翼から二つの月の魔力を吸収、
 それを皮切りに砲身の前に赤い巨大な転送用の魔法陣が張られ、
 中心の赤い水晶体の中では魔力が増幅・収束されていき臨海点を超えると、その長い砲身にて加速されて発射
 転送用の魔法陣によって魔力砲は本局に運ばれ次元船を次々に破壊、待機していたアルカンシェル隊を一瞬にして藻屑に変えた。
 
 
 場所は変わりゆりかご内ではドラゴンオーブの威力を目の当たりにしたウーノが目を丸くしていた。
 ウーノの予想を遙かに越えた威力、三賢人が切り札とした理由も頷ける…
 この一撃が妹達の弔いになってくれれば…そんな事を思っているとこの結果を報告する為スカリエッティに再度連絡を取った。
 
 一方で此処ヴァルハラの制御室ではスカリエッティにレザード、そして合流したトーレ、セッテ、ドゥーエの姿があった。
 外の状況をスカリエッティが隠すこと無く伝えナンバーズも戦死した事を伝えると、
 トーレは左手で頭を押さえ信じられないといった表情を浮かべセッテは無表情ながら悲しみに暮れていた。
 
 …そしてドゥーエは未だ見ぬ妹達の死に実感がわかない様子を見せていた。
 だが見ずとも妹…その死は十分に心を痛める出来事である、暫くは呆けておりいずれ実感へと結ぶには、そう時間はかからなかった。
 すると其処にウーノからの連絡が入る、今し方ドラゴンオーブ撃ち、結果次元海に展開された次元船を壊滅することが出来たのだという。
 
 「なるほど…大した威力だ」
 
 そしてゆりかごでドラゴンオーブの操作が出来ると言う事を実証出来た事にも繋がり、ヴァルハラは用済みであることを指し示す内容でもあった。
 早速スカリエッティは待機中のチンクとクアットロに連絡をとった。
 
 
 動力室…部屋の中では動力炉が音を立てて動き、その目の前には待機中のチンクとクアットロの姿があった。
 二人はレザードの待機命令から三時間以上、何もする事が無くその場で呆けていた。
 すると其処にスカリエッティからの連絡が入る、それはヴァルハラの動力炉を破壊してもいいというものであった。
 
 「了解しました、では早速開始します」
 「気を付けて行ってくれたまえ」
 
 スカリエッティは簡単に通信を切ると改めて動力炉を見上げる二人。
 デカい…これほどのものを破壊するにはチンクが持つランブルデトレーターですら骨が折れる。

740レザポ ◆94CKshfbLA:2010/05/03(月) 08:05:56 ID:djO6d3Gs
 そんな事を考え徐に髪を掻き上げ、左耳に付けられているイヤリング型のデバイスが姿を見せる。
 
 「どうするの?」
 「手ならあるさ…ヴァルキリーセットアップ!!」
 
 次の瞬間、デバイスが輝き出しチンクを飲み込むと其処には甲冑姿のチンクがそこに存在した。
 チンクは他のナンバーズと異なりリンカーコアを持つ唯一の戦闘機人…
 ……であるはずであった。
 
 「へぇ〜それが博士から貰った力なのね…だったら私も、J.Dセットアップ!!」
 
 するとクアットロが持つデバイスは起動、シルバーカーテンはフードの付いた妖美なバリアジャケットとなり、
 髪の色も赤く変化、顔色も変化し手には頭蓋骨をモチーフとした禍々しい杖が握られていた。
 
 「クアットロ!?その姿は!!」
 「チンクちゃんだけがリンカーコアを持っている訳じゃ無いのよん」
 
 クアットロもまたリンカーコアを手に入れその力を使う事が出来るようになった。
 当然この事はレザードもスカリエッティも知らずクアットロの独断で行ったもの
 がしかし戦力としては申し分なく、思わぬ戦力も事実であった。
 
 「まぁ〜それはいいとして、早く破壊しましょう」
 「……そうだな」
 
 一人より二人の方がより確実、二人は足下に巨大な広域攻撃魔法用の多重多角形型の魔法陣を張り
 瞳を閉じるとチンクは左手を動力炉に向け、クアットロは右手を上へかざし詠唱を始める。
 
 「…其は忌むべき芳名にして偽印の使徒、神苑の淵に還れ…招かざる者よ……」
 「我…久遠の絆断たんと欲すれば、言の葉は降魔の剣と化し汝を討つだろう…」
 
 チンクの左手の前には光が集まり強烈な光を放ち、クアットロの頭上では巨大な槍が音を立てて回転し矛先が動力炉に向けられると
 それに合わさるようにチンクの広域攻撃魔法の準備が整い、両者は目を見開きしっかりとした目線で動力炉を睨みつけた。
 
 「セラフィックローサイト!!」
 「ファイナルチェリオ!!」
 
 二つの広域攻撃魔法が放たれ巨大な槍が動力炉に突き刺さると同時に圧縮された光の直射砲が動力炉を貫き
 音を立てて崩壊、するとヴァルハラ全体が振動を始め亀裂が走り一部が崩れ始めた。
 
 「これ以上は長居は無用だ、脱出する!!」
 
 チンクの一言を皮切りに脱出を始め、クアットロはその道中でレザードに報告、
 向こうもまた脱出を急ぎ突入口に向かっていると告げられた。
 
 突入の時とは逆の道をひた走り、落ちてくる瓦礫をクアットロはファイアランス、チンクは原子配列変換で短剣に変えて処置、
 すると目の前に巨大な瓦礫が道をふさぎチンクは立ち止まるとヴァルキリーを抜きカートリッジを二発使用、
 マテリアライズを実行させ左手には身長を遙かに超える巨大な槍を携えた。
 
 「時間が無い!押していく!!」
 
 手に持つニーベルンヴァレスティを目の前の瓦礫に投げつけ破壊、周囲にエーテルが輝く中、先へと進む。
 その後レザード達と合流し突入口まで一直線をひた走り突入口に辿り着き飛び出すように脱出
 すると間髪入れず突入口が崩壊しそれを皮切りに次々に崩れていき、最終的に瓦礫の山と化してヴァルハラは終わりを告げた。

741レザポ ◆94CKshfbLA:2010/05/03(月) 08:08:12 ID:djO6d3Gs
 
 
 此処はミッドチルダ中央区画ヴァルハラは既に此処まで進軍していたようで、脱出したメンバーが立ち並ぶ中、
 チンクとクアットロにレザードが現在の様子を伝えるとチンクはノーヴェが戦死した事に納得いかない表情を浮かべ
 クアットロに至っては何も動じていない様子を見せていた。
 
 「そんな……あのノーヴェが戦死したなんて有り得ない!」
 「ならば確かめてみてはどうです?」
 
 レザードの意味深な言葉にチンクは首を傾げると説明を始める。
 チンクのマテリアライズは魔力を消費して武具を具現化させる能力がある。
 武具の具現化にはその武具の情報が必要となる、そしてそれは魂にも活用可能で
 魂の情報…記憶を読み取り肉体を再構築することが可能、更に精神集中すれば魂の選別する事も可能となる。
 つまりマテリアライズとは“魂を選定する者”に相応しい能力であるのだ。
 
 「物は試しです、精神を集中しなさい」
 「はい、博士」
 
 早速チンクは目を閉じ深い深呼吸を行う、落ち着いてきたところで自分の感覚の視野を広げ始める。
 一つ…また一つ魂を感じる、だが望む魂ではない、一つ一つの魂の色は違いその輝きも違って見える、
 とその時、耳に微かな聞き覚えのある声が聞こえる、それはよく耳にする声、親しい声…
 
   ―――知っている…この声は…私の妹達!!――
 
 確信したチンクは声にあわせて魂を引き寄せ始める、暫くするとチンクの周りに光が集まり始めた。
 その色は緑・桜・黄色に輝きフワフワと親しみすら感じていた。
 
 「成功ですね」
 「これが…魂?」
 「さぁ、早くマテリアライズを」
 
 魂は脆く儚い…このまま放っておくと自然に消滅してしまうとレザードに促されマテリアライズを開始するチンク、
 両の手のひらで水をすくうように構え、手のひらから白く輝く魔力を放ち、その光は優しさを秘めていた。
 
 そして魔力と魂が重なり合うと強く輝き出し膨れ上がるように大きくなると形を成し始め、
 人の姿には成ると徐々に光が消え其処にはオットー、ウェンディ、ノーヴェが姿があった。
 
 「あっアレ?どうなってるんッスか?」
 「…確か、エインフェリアに倒されたハズ……」
 「チンク姉?」
 「どうやら巧くいったようですね」

742レザポ ◆94CKshfbLA:2010/05/03(月) 08:08:44 ID:djO6d3Gs
 
 魂に刻まれた情報を基に再構成された三人、だがマテリアライズの効果は三分程度、長時間は不可能である、
 其処で三人の魂をチンクの体内に取り込む事で保存する事が可能であるとレザードは説明を終えた。
 
 「取り敢えず魂の具現化は可能であると実証出来ただけでもよかったです」
 
 眼鏡に手を当て答えるレザード、一方でもう二度と会えないと思われていた妹達と再会を果たしチンクは勿論の事、まだ見ぬ妹達をこの目で確かめたドゥーエ、
 命に関して重さを知り命を得て、また奪われた者の答えを知りたかったスカリエッティなどメンバーは喜びに満ちていた。
 その中で一人レザードだけが顎に手を当て静かに考えていた、
 チンクの成果はこの後に行われる行動の実証に繋がった…と。
 
 「ところで…他の者達はどうしているのでしょう?」
 「そうだね…ウーノに聞いてみるよ」
 
 レザードに急かされる形でスカリエッティはウーノと連絡を取る。
 ウーノの説明ではアギトと負傷したディードは自力で行動、既にゆりかご内に移動している
 ギンガもまた手傷を負っているがゆりかごへと戻っている最中であると
 だがルーテシアはガリューを失った反動かその場でうずくまり落ち込んだまま一歩も動かずにおり、
 ディエチもまた深手を追い、自力で戻るのが困難であるとのことだった。
 
 「ふむ…ではチンクはルーテシア達の下にギンガの下にはトーレとセッテが向かいなさい」
 
 ルーテシアの悲しみはチンクの能力によって癒す事が可能であり、
 ギンガは自力で戻っているとはいえ怪我を考慮してトーレとセッテを向かわせるというものであった。
 
 「ではその手筈で…残った我々は戻るとしましょう、計画も終わりに近付いていますしね」
 「あぁ、ではみんな、ゆりかごに戻ろ―――」
 
 とその時である、スカリエッティの言葉に呼応するように桜色の直射砲がレザードに迫り、
 レザードはとっさにガードレインフォースを張って攻撃を受け止める。
 そして直射砲の先を見つめるとはなのはがレイジングハートを向けて睨みつけており、
 周囲にはヴィータ、フェイト、はやてなど機動六課最高戦力が集いその中にはアリューゼとメルティーナの姿もあった。
 
 「これはこれは…対した面子で……」
 「見つけた……レザード・ヴァレス!!」
 
 なのはの力強く、そして怒りに満ちた瞳をレザードに向ける中、
 レザードは余裕のある表情を浮かべ、見下す目線にてなのは達を見下ろしていた。

743レザポ ◆94CKshfbLA:2010/05/03(月) 08:17:32 ID:djO6d3Gs
以上です、レザード編第一話、無駄に長く駆け足ってな話です。
一応こっちの話は二話で終わらせる予定です。


それではまた。




お手数ですが代理投下の際にはR-TYPE氏にぶつからないようにしてもらえるとありがたいです。

744レザポ ◆94CKshfbLA:2010/05/04(火) 08:07:37 ID:674uFjE.
おはようございます規制されているのでササっと投下しておきます。

745レザポ ◆94CKshfbLA:2010/05/04(火) 08:09:39 ID:674uFjE.
 ――歪みの神より生まれし異形の巨人は死せる王の血肉を喰らい彼の翼を獲ん――
 
 ――翼を獲し巨人は彼の地を滅し、機械仕掛けの女神が地を産み、無限の欲望は法を創り、楽園へと到る――
 
 ――楽園に至りし時、歪みの神は女神と共に翼を駆り天を目指す――
 
 
                  リリカルプロファイルif
                       創造
 
 
 時は遡り、ミッドチルダ全土を巻き込む今回の戦い機動六課陣はヴァルハラとゆりかごの動きに注意しつつ
 ガジェット及び不死者並びにアインヘリアルとの戦いに勤しんでいた。
 ゆりかご周辺ではナンバーズとエインフェリアが激戦を繰り広げ、ヴァルハラは既に中央区画まで進軍しており、
 地上本部壊滅の際の傷跡が未だ残るこの地でヴァルハラからの一斉放射を確認、周囲は瓦礫と化した。
 
 今回の作戦の指揮を任されている機動六課部隊長八神はやて、彼女の下に信じられない情報が届く。
 その情報とは本局に展開されていたアルカンシェル隊が一瞬にして全滅、
 同時に二つの月の軌道ポイントに巨大な建築物が発生、アルカンシェル隊の全滅はこの建築物からの攻撃ではないかと推測、
 更に建築物にはエインフェリアのイージスとミトラの姿が目撃されており十中八九、神の三賢人の仕業と推測された。

 本局はヴァルハラの壊滅を優先とし機動六課陣の最高戦力を投下を要望、
 はやてはこれを受け入れ暫くしてヴァルハラの姿を肉眼で発見すると、ヴァルハラは音を立てて崩れ去り瓦礫の山と化した。
 その上空にはナンバーズらしき者が存在しその中にレザード、そしてスカリエッティの姿があり、
 ヴァルハラを破壊したのは両名と判断、早速ターゲットを二人に変え現在に至る。
 
 瓦礫の山を中心に広げられた機動六課陣、一方この状況に対しレザードは手筈通りの行動を促し
 それぞれは割り当てられた行動を行うため分散した。
 
 「逃げる!?」
 「そうはさせない!!」
 
 フェイトはなのはの言葉に合わせるように行動スカリエッティに狙いを定め迫るが、
 レザードが立ちふさがりフェイトは苦虫を噛み締めながら後退りした。
 
 「残念ですが…ドクターの後を追わせる訳には行きません」
 「くっ!!」
 
 レザードから放たれる圧倒的な威圧感はこの場にいる生き物を凍り付かせるには充分すぎる圧力があった。
 誰もが動けず冷や汗を垂らす中ただ一人、なのはだけが力強くレザードを睨み付け声を荒らげた。
 
 「ヴィヴィオは!今ヴィヴィオはどうしているの!!」
 「ヴィヴィオ?あぁ、あの“鍵”の事ですか…そんなに姿を確認したいのならお見せしましょう」
 
 レザードは大画面のモニターを全員が閲覧できる高さで浮かび上がらせる。
 そしてモニターを起動、画面にはゆりかご内の起動室が映し出され其処にはベリオンが佇んでいた。
 すると徐にベリオンの腹部に映像が寄り音を立てて外装が開き扉のように開き始める、その中身に一同は絶句した。
 
 「こっこれは……」
 「貴方が望んだモノですよ」
 
 其処にはかつてヴィヴィオと呼ばれた“者”が、ベリオンの体内に存在する生体ポットの中に仕舞われていた。
 いや…最早“者”として取り扱う事が出来ない程の姿形を成しており、
 裸の状態に両腕両足は消失し変わりに金属の管の束が繋がれ、
 頭部の後頭部分は開かれ脳は剥き出し状態、脳には赤や青のコードが幾つも繋がれていた。
 胸元も大きく開かれリンカーコアが剥き出し状態、しかもレリックと融合しているようで赤く輝き活性化していた。

746レザポ ◆94CKshfbLA:2010/05/04(火) 08:10:46 ID:674uFjE.
 
 その扱いはまさに“モノ”の一言、大きく変わり果てたヴィヴィオの姿に周囲は目を逸らしまたは隠し
 エリオとキャロ、それにフェイトに至っては口に手を当て、込み上げてくるモノを必死に押さえつけていた。
 
 …そしてなのはは、瞳を見開き幾つもの脂汗をかき、右手で丁度心臓に位置する部分を掴み、抑えきれない衝動を必死に抑え込もうとしていた。
 一方でレザードは周囲の反応に眼鏡に手を当て不敵な笑みを浮かべ楽しんでおり意気揚々に説明を始める。
 
 ヴィヴィオはゆりかごを起動させる為の鍵、両手足は起動スイッチに用いられ
 二つのレリックと融合させたリンカーコアをポット内の延命・増強・安定を兼ね備えた液体に晒すことで
 活性化を促し起動に必要な魔力を確保、失った手足に繋がれている管を通って配給、
 更に脳細胞に直接情報・命令を流す事によりスムーズにそして安定した攻撃を行えると説明を終えた。
 
 「まぁ、細胞を基にした起動システム確保も考えましたが、少々面倒であったので…」
 
 細胞を用いる際はベリオンに積載されているリンカーコアとレリックを用いるが確実性が無い為、此方を選んだという。
 レザードのこの説明はまさに人を命を弄ぶ行為、フェイトは怒りのまま声を荒らげた。
 
 「貴方という人は…どこまで人の命をバカに―――」
 「人?命?何を言うのかと思えば…これはただの鍵…言うなれば“モノ”です」
 
 人の形、人の言葉を話せばそれは全て生命体であると言う発想は滑稽であり、また無知であると力強く断言するレザード。
 実体を持つ生命体とは肉体…いや物質のマテリアル、魂と言い変えれる幽体アストラル、
 そして精神…この世界では記憶または情報と置き換えられるメンタルの三要素を含んだ存在、
 ほとんどの生命体は各要素を持ち、神のような実体の無い存在はアストラルとメンタルを一つずつ持っている。
 これはレザードが住んでいた世界では生命の三要素と呼ばれ、術者ならば常識と言える知識である。
 
 「そっそんな言葉信じられる訳―――」
 「だから無知だという、それに貴様等も目撃している、例えば……不死者」
 
 不死者はグールパウダーによってリンカーコアを暴走、その際に肉体が耐えきれるように変化した存在、
 その際に精神も抑えつけられてしまうのだが、稀ではあるが強靭な精神により意志を持つ不死者も存在する。
 レザードの説明にティアナはピクンと反応する、何故ならその稀である存在を知っているからだ。
 
 更に説明は続く、レザードの世界に存在する神の器は神が地上に降りる際、または神の精神が消滅するような事態に用いられる肉の器で、
 その際に器を管理していた魂と精神は消滅するようになっていると。
 
 「言うなればエルフ…いや神の器はコレと近しい存在、だが器は神によって造られた代用品、そしてコレはその代用品以下!」
 
 ヴィヴィオは肉体と肉体に宿る記憶のみの不確か不完全な存在、それもそのハズ、
 レザードは神の器であるエルフを参考にした訳ではなく、エルフと人を材料にして造られるホムンクルスを参考に造られているからだ。
 当然この世界のホムンクルスとは名ばかりの異なる存在、だが共通点があるそれは魂が存在しないと言うところ。
 
 「つまり其処にいるホムンクルスもまた魂の無い器に過ぎん、同じ意味で残滓である貴様等も、プログラムである貴様等もだ」
 
 レザードは次々にスバル、エリオとフェイト、そしてヴォルケンリッターの面々を指さす。
 如何に知識を得ても如何に知能があっても、造られた物である事には変わりがない。
 それだけではない、能力有無によって人々は簡単に手のひらを返す、コロコロ変わる変わり玉のように。
 
 「だから解放しやろうというのだ、貴様等も人間として生きる事が出来るのだぞ?その意味…分かるであろう……」
 
 レザードの言葉に静かに佇む一同、フェイトはオリジナルとは異なる為に母親から虐待を受け育った。
 エリオは代用品として造られあっさりと手放された、その後の周囲の物珍しい目線を受けて育ってきた。
 スバルも同じだ、医療センターで検査を受ける度に嫌な思いをしてきた、真摯に対応してくれたのは一人だけだ。

747レザポ ◆94CKshfbLA:2010/05/04(火) 08:13:34 ID:674uFjE.
 ヴォルケンリッターの面々は今まではやて以外は例外無く道具として扱われてきた、
 割り切ってきていたが…やはり気持ちのいいものではない。
 
 「そして…同時に能力の有無による差別も消え去る!」
 
 この言葉に更に静かになる、なのはは重傷を負った際、最初に放たれた言葉が罵声であった。
 当時の上司は魔法が使えない人物でよくヴィータと口論していた、魔導師を快く思っていなかったのだろう。
 キャロは類い希なる才能を疎まれ、また制御出来ない巨大な力の存在に周囲から冷ややかな目線を受けていた。
 ティアナは兄の死を上司達に貶された事があった。
 皆は多かれ少なかれ蔑まれてきていた、故かスカリエッティがそう思うのも無理はない…
 …そう思った矢先、一人の男が言葉を口にした。
 
 「誰もそんな事、頼んじゃいねぇぞ」
 
 アリューゼである、凛とした…そして一切動じない瞳でレザードを睨みつける。
 人生、生きていれば嫌なことなど一つも二つも…いや幾つもある、それはこの先にも幾つもあるだろう、
 だからといって道を外してまで逃げる必要があるのか?そうまでして逃げないと、いけないものなのか?
 
 「確かに辛いときはあるわ…でも逃げてるだけじゃ進めはしない」
 
 次に言葉を発したのはメルティーナ、ありきたりな言葉であるが人は一人ではない、
 頼れる仲間、友人、隣人、恋人、動物だっていい、一人で悩むより遙かにまし。
 
 「それに魂があろうとなかろうと、そんな小さな子供にあんな仕打ちをするアンタの方がよっぽど信用できないわ!!」
 
 メルティーナの一言に目を覚ます一同、あの可愛らしかったヴィヴィオがあんなむごい姿となった。
 それを実行したのは誰でもないレザード、結局彼も造られた者を軽視している。
 詭弁…自分の罪を正当化したい、ただそれだけの為にあんな事を口走っただけに過ぎない。
 機動六課陣は先程とは打って変わって目つきが変わり、威圧感が周囲に充満し始め、その様子に呆れた表情で見下すレザード。
 
 「なるほど…誰も賛同しないという事か……ならば――」
 
 眼鏡に手を当て不敵な笑みを浮かべ佇むと、今度は一歩前に足を突き出し右手に持つグングニルを水平に構える。
 
 「我はひたすら、欲望の赴くままに…行動するのみ!!」
 
 今此処に…最後の一戦の火蓋が切って落とされた。
 
 
 その頃、落ち込み体育座りで茫然自失しているルーテシアの下にチンクが姿を現していた。
 ルーテシアの瞳に生気は無く生きた屍状態、その痛々しい姿にチンクはそっと肩に手を置く。
 
 「チンク…ガリュー死んじゃった……」
 
 それだけではない、目の前でオットーも命を失った…親友と形見、両方を同時に失った故に絶望と言う奈落の底に叩きつけられていた。
 チンクはそんなルーテシアの気持ちを汲み取りゆっくりと膝を付き同じ目線で立つと優しい声で言葉を紡ぐ。
 
 「大丈夫、ガリューはルーテシアを護るために一緒にいる」
 「気休めはよして」
 
 死んだ者が身を守る事など出来ない肉体が無いから…失った命をすくい上げる、そんな事は不可能…ルーテシアはチンクに目を合わせずに言葉を紡ぐ。
 とその時である、ルーテシアの耳に聞いた事がある声を耳にする、それはルーテシアがよく知る声だった。
 
 「ルールー、ボクなら此処にいる」
 「オットー!!――――?!」
 
 振り返ると其処にはチンクの体からひょこんとオットーが顔を出しており、目を丸くするルーテシア。

748レザポ ◆94CKshfbLA:2010/05/04(火) 08:15:30 ID:674uFjE.
 チンクの話ではオットーだけでは無くノーヴェ、ウェンディの魂も存在しており、
 精神集中によって魂を選別、具現化させる事が可能であると説明した。
 
 「だから今此処でガリューの魂を具現化させる」
 
 そう言うやチンクはその場で目を閉じ静かに回転し始め精神集中を行う。
 するとルーテシアの周囲に紫色に輝く光の球体が姿を現す、それはまるでルーテシアを守っているように思えた。
 
 「これがガリューの魂だ」
 「これが……」
 
 ルーテシアはガリューの魂に触れその暖かみを感じる、死してもルーテシアの事を思い護るという意志それが暖かさの正体なのかもしれない。
 そして…チンクはマテリアライズを開始する、魂は更に輝き周囲を照らすと形を成しルーテシアの前にガリューが姿を現す。
 
 「ガリュー!!」
 
 復活したガリューの姿を目の当たりにしたルーテシアは飛びつくように抱き付き、ガリューもまたルーテシアを優しく受け止める。
 ルーテシアの瞳からは大粒の涙が零れ落ち大きな声で泣く、それは歓喜にも安心にも似た光景であった。
 そんな光景にチンクの中ではウェンディが止め処なく涙を流して感動、ノーヴェも安心した表情を浮かべ、チンクもまた静かに佇んでいた。
 
 
 一方自力でゆりかごに戻ろうとしているギンガ、だが戦いのダメージが蓄積している為か思うように体が動かず帰還には苦労していた。
 すると其処に上空からトーレとセッテが姿を現しギンガの肩を取る。
 
 「二人とも……」
 「放って置く訳にはいくまい」
 
 基礎は違えど同じ仲間であり義理の姉妹を放って置く事は出来なかった。
 ギンガは二人に感謝の弁を伝えると安心したのかそのまま意識を失い、自分の身を二人に預けた。
 その寝顔は幼く見え二人は苦笑いを浮かべながらそっと飛び立ちゆりかごへと向かった。
 
 
 いち早くゆりかごに戻ったスカリエッティとクアットロ、そして久し振りに会ったウーノと握手を交わすドゥーエ。
 モニターにはゆりかごに向かっているチンク組とトーレ組、
 それにドラゴンオーブの攻防戦が映し出されており、スカリエッティは腕を組んで見守っていた。
 
 現在ドラゴンオーブは次元跳躍攻撃により各管理局支部を破壊し始めていた。
 一方で管理局側は早急にドラゴンオーブの破壊を指示し隊を派遣するが、
 スカリエッティ側の戦力となったエインフェリアのイージスとミトラの防衛力に成す術が無い状況が続いていた。
 
 「ふむ、ドラゴンオーブもエインフェリアも十分な成果を上げているようだね」
 「そういえばウーノ姉さん、ディードの様子はどうなのよ?」
 「今は治療カプセルに入っているわ」
 
 ドゥーエの質問に簡潔に答えるウーノ、自力で辿り着いたとはいえ傷口は深く
 到着後すぐさま治療カプセルに入れ、今現在はアギトが見守っているという。
 
 そんな報告の中、スカリエッティはモニターをある映像に切り替える、其処にはレザードが機動六課陣と対峙している様子が映し出されていた。
 だが未だ開戦している様子はなく、威圧感が画面越しからでも感じるほど静寂に満ちていた。
 
 「彼女達の相手はレザードに任すとして、此方はそろそろ行動を開始しよう」
 
 スカリエッティは映像を映したままウーノに指示を促し、ウーノは了解すると早速ゆりかごの能力を発揮させるコードを起動させた。
 これによりベリオンの体内に保存されているヴィヴィオから幾つか気泡が浮かび上がり、リンカーコアから虹色の魔力光が発生、
 虹色の魔力光はベリオンを包み込み彼のリンカーコアを刺激、今度は動力炉を包み、
 それを皮切りに魔力光はゆりかご全体に伝わり全体を覆い込んだ。

749レザポ ◆94CKshfbLA:2010/05/04(火) 08:16:37 ID:674uFjE.
 聖王の鎧、ヴィヴィオが持つ固有資質で攻防一体の能力である。
 だが起動はともかくレリックウェポン化したとはいえヴィヴィオの魔力だけではゆりかごを聖王の鎧で包み込む事は出来ない、
 其処でベリオンと融合させる事で体内に搭載されているリンカーコアと、ゆりかごの動力炉の出力を合わせる事で使用可能となったのだ。
 
 「起動確認しました」
 「ではこの世界を新たな世界へと創り変えよう」
 
 スカリエッティの宣言を機にゆりかごは砲撃を開始、虹色の直射砲が山を海を大地を雲を空を貫き破壊が始まった。
 そしてゆりかごを警護するガジェットもまた行動を活発化、森を林を家をビルを街を破壊し始めた。
 まさに終焉と呼べる光景、避難所に集った住民は互いに抱き合いながら恐怖に震え絶望の淵に叩き込まれていた。
 
 
 時は少し遡りレザードと機動六課陣が対峙し膠着状態が続く中、先に動いたのはシグナムとアリューゼ、
 左右から正面に向かいカートリッジを二発使用、レヴァンティンは炎に包まれバハムートティアは熱せられた金属のように真っ赤に染まり出す。
 
 「紫電一閃!!」
 「ファイナリティブラスト!!」
 
 振り下ろされた二つの強力な一撃、だがレザードはグングニルを水平に保ち両端の刃にて、いとも簡単に受け止める。
 必殺の一撃を容易く防がれシグナムは苦虫を噛む表情を浮かべる中、
 アリューゼは動じる事無くカートリッジを一発使用、刀身に黄色い付加魔法チャージを発生させて再度振り下ろす。
 これには流石のレザードも押され地面スレスレで止まり上空を見上げると、今度はシグナムが飛竜一閃の構えをとっていた。
 
 「飛竜―――」
 「そうはさせん!!」
 
 レザードは勢い良くグングニルを投げつけシグナムの腹部を貫き、呻き声を上げながらうずくまり、苦しみ悶えているシグナム。
 一方でアリューゼが再度突撃し突きの構えのまま襲いかかるが上空へと回避、攻撃は大地を削るだけに終わり
 上空へと避難したレザードは不敵な笑みを浮かべ、アリューゼに向けてダークセイヴァーを撃ち放つ。
 
 だがアリューゼの前にザフィーラが立ちふさがり渦を巻く強力な障壁を張ってコレを防ぎ、
 ザフィーラに合わせるように地上からメルティーナのスティンガースナイプ、ティアナのクロスファイアをそれぞれ二十近く撃ち放ち
 計四十前後の誘導性がある魔力弾がレザードに襲い掛かるがリフレクトソーサリーにて全てを跳ね返した。
 
 二人は跳ね返された魔力弾を必死に相殺する中、シグナムに突き刺さったグングニルを呼び戻し
 そのままザフィーラに投げつけて障壁を打ち破り、ザフィーラの右腕を貫き串焼き状態に変えた。
 
 その頃スバルはレザードに向けてウィングロードを伸ばし滑走、
 カートリッジを一発使用してリボルバーキャノンの準備を始める。
 
 一方レザードがいる位置より更に上空ではフリードリヒに乗ったキャロとエリオの姿があり
 キャロの支援魔法を受けたエリオはフリードリヒから飛び降り垂直落下の姿勢でカートリッジを一発使用、
 刀身に稲妻が走り落下速度を維持したままレザードに迫る、奇しくもこの時スバルの攻撃も準備を終えており互いにタイミングを合わせ攻撃を仕掛けた。
 
 「リボルバァァキャノン!!」
 「サンダァァレイジ!!」
 『ストライクドライバァァァ!!』
 
 スバルのバリア破壊とエリオの斬撃が交差するストライクドライバーがレザードに襲いかかるが、
 当のレザードは移送方陣にてこの場を移送、二人の攻撃は虚しく空を切った。
 
 「シャマル!!」
 「出ました!此処から二時の方向です!!」
 
 だが既に先を読んでいたはやてはシャマルに予めレザードの移送先を検索を指示、
 シャマルは自信ありげに結果地点を指し暫くして魔法陣が現れ始め、
 はやてはヴィータとフェイトを派遣、レザードの姿を確認するや間髪入れず攻撃を仕掛ける。

750レザポ ◆94CKshfbLA:2010/05/04(火) 08:19:56 ID:674uFjE.
 
 「うりゃあああ!!」
 「はあぁぁぁぁ!!」
 「何っ!?」
 
 移送後いきなり、右から来るヴィータのラテーケンハンマーと、左から来るフェイトのライオットザンバーにレザードは戸惑う姿を見せるが
 すぐに冷静さを取り戻し両手にシールド型のガードレインフォースを張り攻撃を受け止め魔力素が火花のようにチリチリと散る。
 
 『なのは!!!』
 「準備完了!いつでもいけるよ!!」
 
 二人の合わさる声の先には地上からレイジングハートを向け足下に魔法陣張り巡らせたなのはの姿があり、
 レイジングハートの先端と末端部分に環状の魔法陣が張られていた、これはなのはがもっとも得意とする魔法である。
 
 「ディバイン!バスタァァァ!!」
 
 放たれた桜色の直射砲ディバインバスターは真っ直ぐレザードに向かい、
 鍔迫り合いをしていたヴィータとフェイトはタイミングを合わせて離脱、レザードに直撃するハズであったが
 既に張られた右のガードレインフォースをディバインバスターに向けてコレを防ぎ難を逃れた。
 
 「まだまだ詰めが甘いですね」
 「それはどうかな? 」
 
 なのはの意味深な言葉にレザードは周囲を確認すると、遙か上空でははやてがフレースヴェルグの準備を終え今まさに撃ち放とうとしていた。
 
 「こん時を待っとった!!いくでぇぇぇ!!」
 
 撃ち放たれた銀色の矢、レザードは険しい表情を浮かべる中、左のガードレインフォースを向け攻撃に備える。
 そしていざ直撃するとレザードが考えていた以上の威力があり、衝撃が辺りに響き渡る中、レザードのシールドに亀裂が走り始める。
 
 「…ほぅ、これほどの威力があるとは」
 
 レザードがはやての攻撃を評価する中、シールドが砕け散りフレースヴェルグはレザードを飲み込み大地に激突した。
 辺りは土煙に覆われ姿を隠す中、レザードはゆっくりと土煙から姿を現し上空へと上っていった。
 
 「…思っていたより、やる」
 
 素直に評価するレザード、実際のところ他のメンバーの手を借りたとは言えレザードのシールドを砕くのは容易ではない。
 一致団結、彼女達のレザードに対する怒りが力を増しているのかもしれない。
 とは言え全力を出せば彼女達の団結力も稚技に等しい…そうレザードは考えていると、ゆりかごからの連絡が入る。
 
 今し方ゆりかごは聖王の鎧を起動させ各地の破壊を開始、現在は南下しているという。
 一方はやての下にも連絡が伝わっており、他の局員が対応するがガジェット及び不死者に阻まれ
 またはゆりかごの砲撃に苛まれ思うようにいかないのが現状であった。
 
 「仕方ない、ゆりかごを止める為に此方の戦力を―――」
 「我が…それを許すと思うのか?」
 
 はやての作戦を耳にしたレザードは魔力を解放、ザフィーラの右腕に突き刺さるグングニルを手元に戻し
 本型のネクロノミコンに変え一枚ずつページが飛び回りふわりと宙に浮く
 すると白金に輝く魔力光が辺りを照らし威圧感は先程以上、モードIIIカタストロフィを起動させた。
 
 「これが…レザードの本気!!」
 「その通り、さて…暫くの間、相手をしてやろう!!」
 
 その威圧感は今までとは比較にならない程、蛇に睨まれた蛙とはまさにこの事である。

751レザポ ◆94CKshfbLA:2010/05/04(火) 08:21:40 ID:674uFjE.
 誰もが一歩も動けず威圧されている中、レザードは左手をなのはに向け親指と中指でパチンッと音を奏でる。
 
 次の瞬間、足下は大爆発を起こし爆発に巻き込まれたなのはが宙を舞い、
 なのはを助ける為にフェイトが向かい、一方でヴィータが目の色を変えカートリッジを二発使用、
 グラーフアイゼンをギガントフォルムに変えてレザードに突撃する。
 
 「ギガント!ハンマァァァ!!」
 「ガードレインフォース!」
 
 だがいとも簡単にシールド型のガードレインフォースで防がれ、魔力素が火花のようにチリチリと散り
 ヴィータは更にカートリッジを更に使用して威力を高めるが一向に砕ける様子を見せていなかった。
 しかもレザードは涼しい表情を浮かべて見上げており、目の当たりにしたヴィータはさらに怒りがこみ上げていた。
 そんな状況のレザードから思わぬ言葉がヴィータの耳を貫く。
 
 「ふっ…八年前の再現には至らなかったか…」
 「て…テメェ!あの時の事知ってんのか!!」
 「当然だ、あの仕掛けを仕掛けたのは我だからな!」
 
 ヴィータの手が震える、あの時の惨劇、手についたなのはの血…そしてなのはを傷つけたあの兵器…
 …全てはレザードが仕組んだ事…ヴィータは怒りの感情に満ち溢れ感情のままカートリッジを全て使用、
 大きく振り上げグラーフアイゼンのリミットブレイクであるツェアシュテールングスフォルムに切り替え
 特徴的な巨大なドリルが音を立てて回転し勢いが乗ると一気にレザード目掛けて振り下ろした。
 
 「ツェアシュテールングス!!ハンマァァァァ!!!」
 「グングニルよ!あの鎚を貫け!!」
 
 迫り来るヴィータの一撃に対し左人差し指を向けレザードの周囲で輝く光が集まり出しグングニルに変わると、
 横回転しながら加速し一陣の矢の如く迫りその先端と激突、その衝撃は周囲の建物を揺らす程強力であった。
 
 「ほぅ…流石はアームドデバイス、中々の硬度…だが我は言ったハズだ、材質が違うと!」
 
 次の瞬間ツェアシュテールングスは砕け散りヴィータの手には柄の部分のみ残された。
 グングニル…いやネクロノミコンはオリハルコンと呼ばれる材質で出来ている、
 レザードの世界でも神の金属と呼ばれる物で、軽く…そして硬度のある金属なのである、故にヴィータのグラーフアイゼンは砕け散ったのだ。
 ヴィータは一瞬の出来事に呆然としていると、その隙をついたレザードがヴィータの右隣に位置付け魔力を纏った右手を向けていた。
 
 「こうなってしまえば鉄槌の騎士も形無しだな!」
 「ヴィータ!逃げ―――」
 
 シグナムの叫びも空しくヴィータはライトニングボルトの前に消え去り、地上に向け雷鳴が木霊する。
 そして跡地にはバリアジャケットの一部が黒く焦げ、体の至る所から白い煙を放ち白目を向いたヴィータの姿があった。
 
 この光景にシャマルの治療を受けているシグナムが立ち上がる、先程の攻撃の痛みは完治していないが、
 目の前で仲間が倒れ何もしない事が出来る程、今のシグナムは冷静になる事は出来なかった。
 
 「待ってシグナム!まだ――」
 「これだけ痛みが取れれば十分だ!」
 
 そのまま飛び立とうとした時、レザードの下に一人の人物が迫る。
 アリューゼであった、しかしその姿は二重に見え分裂しているように思えた。
 そしてレザードの頭上で刀身を振り下ろすが、何時の間にか戻っていたグングニルに押さえ込まれた。
 
 「ほぅ…レヴェリーか」
 
 レヴェリー、自身の分身を造り動きをトレースさせる幻術であるが、分身もまた本体の30%の威力を誇り幻術としては高度な魔法である。

752レザポ ◆94CKshfbLA:2010/05/04(火) 08:22:43 ID:674uFjE.
 それを一撃受けただけで見抜いたレザード、だがアリューゼは気にする事無く再度攻撃を仕掛け
 左払い、突き上げ、振り下ろしと次々に打ち出すがその全てをグングニルで防がれてしまう。
 
 「対した剣圧だ」
 「よく言う!簡単に受け止めやがって!!」
 
 アリューゼの腕はレザードより遥かに逞しく本来であれば容易に防ぐ事は出来ない、
 だがレザードの肉体は特別、神の器たるハーフエルフの肉体しかも神王の器である為か、
 または自身の力を存分に振るえるよう調節されている為か、本来の肉体とは異なる力を持っていた。
 
 とは言え元々魔導師である為、魔力で戦う事を得意とし槍や接近戦に疎いレザード、
 すると其処にシグナムが加勢し流石のレザードも達人二人の剣捌きに防戦一方、バリアを張って攻撃を受け止めた。
 
 「流石だ…貴様等ならばこの力存分に振るえようぞ!」
 「なっなんだ?!」
 「レザードから赤い魔力だと!?」
 
 湯気のように赤い魔力が立ち上り戸惑いの色を見せるアリューゼとシグナム、
 そして赤い魔力はグングニルにまとわりつくと光を放ち、刀身は赤く染められていた。
 マイトレインフォース、レザードが持つ武器と一撃の威力を1.5倍高める効果を持つ支援魔法である。
 
 「さて…反撃と参りましょう!!」
 
 レザードが不敵な笑みを浮かべる中、騎士の本能かグングニルに危険を察したシグナムはカートリッジを三発使用、
 紅蓮の炎に満ちた紫電一閃を振り下ろしバリアを破壊、そのままレザードに迫るが
 グングニルを振り上げレヴァンティンと激突、一瞬にして砕きガラクタに変えた。
 
 だがレザードの攻撃は終わりではない、次にアリューゼ目掛けてグングニルを投げつけ
 今までとは異なる程の加速された凶刃は心臓に突き刺さり、アリューゼごと地面に激突した。
 一瞬の事で呆気にとられていたシグナム、その顔に右手を向けアイシクルエッジを唱え
 突き刺さる氷の刃を中心に凍り付きそのまま自然落下、地面と激突すると粉々に砕け散った。
 
 「脆い…騎士とは名ばかりか……」
 
 瞬く間に三人を撃破したレザード、既に彼の魔法には非殺傷設定などされて無く受ければ良くて即死、悪ければ致命傷を負うことになる。
 目の前に突きつけられた絶対の恐怖…死、スバルは副隊長達の死を前にして震えが止まらなくなり
 また自分の無力さを噛みしめ嘆いていた、すると其処にレザードが静かに降り真っ直ぐスバルの下へ歩み寄る。
 
 「くっ……来るな…来ないで!!」
 
 レザードが一歩歩み寄る度にスバルは一歩後退りする、それ程にまでスバルは恐怖をしていた。
 一方レザードはスバルの恐怖でひきつった顔を目にし、含み笑いを浮かべるも姉との違いに呆れた様子を見せていた。
 
 「やれやれ…今の貴様の姿を見たら姉は悲しむ……いや嘲笑うだろう」
 「姉……ギン姉!?」
 「そうだ、今は我々の処にいるのは知っているだろう」
 
 ギンガの誘拐、その現場に居合わせていたスバル、あの時の悲しみは今でも胸に潜めている。
 今ギンガは元気にしており、スカリエッティの配下としてナンバーズと暮らしているという。
 
 「そんな…ギン姉が……」
 「何故ならナンバーズの中には貴様の妹もいるからな」
 「いっ…妹!?」
 
 ナンバーズの一人ノーヴェ、彼女の細胞はスバル、ギンガと同じクイントの細胞で造られた存在、

753レザポ ◆94CKshfbLA:2010/05/04(火) 08:25:17 ID:674uFjE.
 言うなれば腹違いの妹、ギンガはノーヴェを妹として可愛がりノーヴェもまた新たな姉として受け入れているという。
 
 「貴様だけ蚊帳の外と言うわけだ」
 
 だが、今此処で仲間達を裏切り此方に付く気があるのなら喜んで向かい入れ、
 また魂が欲しいと言うのなら与えてやると優しい口調で言葉を並べるレザード。
 その言葉にスバルは心が揺れる、最初はスカリエッティからギン姉を助け出すつもりであった。
 だが目の前で起きている現実、自分より遙かに強い副隊長達の死、それを容易く行ったレザードの実力、
 適わない…どれだけ自分を鼓舞しても震えが止まらない、本能で恐怖しているのだ。
 
 「さぁどうする?この手を取るかスバル…」
 「わっ私は………」
 
 差し伸べられたレザードの左手、これをとればギン姉…そして妹であるノーヴェと仲睦まじく暮らせる。
 だがそれはミッドチルダを機動六課の仲間を見捨てると同義、
 どちらも捨てられない選択にスバルは戸惑いを見せているとレザードの背後を橙色の魔力弾が螺旋を描いて襲いかかり
 レザードはバリアを張ってこれを防ぐ、その先にはティアナが銃を構えていた。
 
 「スバル!気をしっかり持って!!」
 「ティアナ………」
 
 レザードの言葉が全て真実であったとしてもレザード達が行おうとしている事を正当化させる理由にはならない。
 それにギンガは洗脳されている可能性もある、だとすれば洗脳から解放出来るのは真の妹たるスバルしかいない!っと力強く答えた。
 
 「絆はそう簡単に断ち切れないんだから!!」
 「っ!!そうか…その髪の色、その武器、技、何処かで見た事があると思えばあの時の男と似ている」
 「なっなに!?」
 
 五年前、ある不死者が研究所から逃げ出しレザード自らが赴き抹殺した。
 その時目撃者として管理局の局員がいた、ティアナと同じオレンジの髪に二丁拳銃を扱う男、
 少々…そう不死者抹殺より少々手間取ったが、その男の抹殺も一緒に行った事があったと手のひらをポンっと叩き思い出す。
 
 「そう言えば、集団暴行に見せかける為に遺体を切り刻んだ記憶があるな…」
 「アンタが…アンタが兄さんを!!」
 
 今まで仇などいないと思っていたティアナの前に突然現れた仇討ちに、
 髪をふわりと立たせ持っているデバイスが振るえるほどに握りしめ
 今までスバルにも誰にも見せたことのない瞳に怒りを宿したティアナ、
 …いや最早怒りでは無く殺意、その感情はカートリッジ全てを使い、足下に魔法陣を張りファントムブレイザーの構えをとらせた。
 
 「兄さんの仇ぃぃぃぃ!!!」
 
 感情のまま怒りと殺意が込められたファントムブレイザーは放たれ激流のようにレザードに迫る、
 だがレザードは涼風を感じるかのように動じることなくバリアを張り攻撃を受け止め、
 また自身の足下に広域攻撃魔法特有の多重環状魔法陣を張り巡らせた。
 
 「セラフィックローサイト」
 
 右手を向けた先に光が集まり巨大な光の直射砲に変わるとティアナの渾身の一撃を掻き消し
 そのまま吸い込まれるようにティアナを飲み込み、遠くにそびえ立つ山に激突、山は一瞬にして消え去り
 またセラフィックローサイトが通った場所は大きく削られ草木一つも残らない更地と化していた。
 
 「兄妹揃って愚か者めが……」
 
 レザードの放った何気ない一言、それはスバルを恐怖から解放させた。

754レザポ ◆94CKshfbLA:2010/05/04(火) 08:27:03 ID:674uFjE.
 スバルはティアナの決意を知っている、兄の死を意志を引き継ぐ事により乗り越えた。
 それはまたティアナに大きな試練を与える事にもなるが、決意を胸に秘めていれば乗り越えられた。
 
 スバルもそうだ、決意を胸に秘めていればギンガを救う事だって出来る、その障害が例え大きくても乗り越えられるハズ。
 だが奇しくもそれに気付かされたのはティアナの命を懸けた特攻、無駄には出来ない…例え自分の腕が使い物にならなくても…
 
 「私は…」
 「ん?」
 「私はもう迷わない!!」
 
 決意を秘めたその瞳は金色に輝き全身から魔力が溢れ出しカートリッジを三発使用、
 A.C.Sドライバーを起動させ更に右拳には自身のISである振動破砕が発動していた。
 そして突撃、躊躇無く拳を振り下ろすがレザードのバリアに苛まれる。
 ところが振動破砕による振動エネルギーがバリア全体に伝わり亀裂が生じ暫くして砕け散った。
 
 「なんだと?!」
 「イケる!!」
 
 振動破砕は四肢から衝撃波を放ち共振現象を起こし相手を粉砕する、“物質”においてはまさに一撃必殺な技。
 そしてがら空きとなった腹部、それを見逃す手は無いスバルは再度振動破砕を行い躊躇無く振り抜きレザードを腹部を直撃した。
 
 ……だが直撃した腹部は光の粒子と化し貫くと言うより通り抜けた感触を得て拳はレザードの背に出ていた。
 しかもレザードの口元が徐々につり上がり、全く効果が無い事を証明していた。
 
 「なっなんで!?」
 「残念だが…アストラル体の我の体には通じん!」
 
 振動破砕は魔法の源である魔力素に働きかけ結び目を解くことで魔法障壁をも砕く事が出来る強力な攻撃である。
 だがそれは物質での話、アストラル体である今のレザードの肉体には効果が無い、ミッドチルダでは幽体が研究されていないからだ。
 
 つまりこの世界でレザードを傷つける者は誰もいない、そんな絶望な事実にスバルの瞳孔が開く頃、
 張本人であるレザードは不敵な笑みを浮かべながら左手でスバルの右腕を掴む。
 
 「なっ何を!!」
 「知れた事…その右腕についているデバイスを貰う!」
 
 次の瞬間、右手にグングニルを携え大きく振り下ろし、右肩ごと切り落とし
 スバルは左手で傷口を押さえてうずくまり、傷口からは稲光がショートしているように放っていた。
 その姿に高笑いを浮かべ移送方陣にてスバルの右腕をゆりかごに転送、終えるとうずくまるスバルに右手を向けた。
 
 「では死んで…いや、壊れて貰おう!」
 
 スバルは最後の抵抗にレザードを怒りの眼で睨み付け悔しがる表情を浮かべていると
 後方の空間に円上の鏡が現れ糸が二本飛び出しスバルに巻き付くとそのまま引きずり込まれ、次に現れたのはシャマルの腕の中であった。
 
 旅の鏡にてスバルを引き寄せた結果である、そしてシャマルの前にはザフィーラが立ちふさがり障壁を張りつつ
 右拳を振り下ろし鋼の軛を打ち出しレザードを縛り付けようとするが、
 レザードはグングニルで薙払い衝撃波が走り一瞬にして鋼の軛を振り払いザフィーラの障壁も打ち破った。
 
 「では、今度こそ死んで貰おう――」
 
 とその時、上空から金色の閃光と地上から黄色の閃光が走り、
 それに気が付いたレザードはザフィーラに向けていたグングニルを上空に左手を地上に向けシールドを張り閃光を受け止める。

755レザポ ◆94CKshfbLA:2010/05/04(火) 08:28:09 ID:674uFjE.
 閃光の正体、それはエリオとフェイトであった、フェイトはなのはをキャロに任せ
 真ソニックフォームとライオットザンバー・スティンガーを発動させ
 エリオはバリアジャケットの上着を脱ぎ足下を電気で覆う事で加速を促していた。
 
 「ふっ…そんなに死に急いでいるのならば先に残滓達を片づけるとしよう」
 
 余裕のある表情でフェイトを見上げるレザード、その態度に二人は苦虫を噛むような険しい表情を浮かべ、一度レザードから離れ再度攻撃を仕掛ける。
 上空からのフェイトの攻撃、地上からのエリオの攻撃、二人の息のあった攻撃にレザードは全方型のガードレインフォースに切り替え攻撃を防ぐ。
 だが二人の怒濤の攻撃は止まらずエリオの紫電一閃、フェイトはスティンガーを合わせたカラミティに切り替え一気に振り払った。
 
 この攻撃によりバリアは破壊され二人の攻撃がレザードに直撃するが、アストラル体であるレザードの肉体には効かず、受けた場所は光の粒子と化していた。
 するとレザードは右手をフェイトに左手をエリオに向け三種のバインド、レデュースパワー、レデュースガード、プリベントソーサリーで縛り上げ、
 そしてプリベントソーサリーの効果によりバリアジャケットが強制解除、二人は制服姿となった。
 
 「くっ!こんな事で!!」
 「無駄だ…貴様等如きにこのバインドは外せん」
 
 そのまま二人を置いてザフィーラ達に歩み寄り右手を向けると足下に多重環状魔法陣を広げ
 雷が発生し徐々に大きくなると竜骨の形を象っていた。
 
 「ブルーディッシュボルト」
 
 放たれた雷の竜骨はザフィーラの盾を瞬時に砕き、ザフィーラの身スバル、シャマルを飲み込み天高く上り
 雲に直撃すると強力な稲光を放ち辺りを照らし雲を晴らし消滅した。
 
 続いてフェイト達に体を向ける二人の目には絶望の色は無く、その瞳が気に入らないレザード、
 どうにかして絶望の色に染められないものか…とその時一つの案を思い出し不気味な笑みを浮かべる。
 
 「まずはその小さい方だ」
 
 レザードは右人差し指を向け刃と化したページを飛ばしエリオの両腕脚を斬りつけエリオに激痛が走る中、
 今度は突き刺しエリオの体を浮かせフェイトが覗ける位置に付ける、そして一枚ずつ急所を外しながらページを飛ばしていく。
 その度に刻まれ貫かれ激痛が走りその都度叫び声を上げるエリオ。
 
 「うぁああああああ!!!」
 「良い声で鳴く、楽器としてはまずまずだ」
 
 更にページを飛ばし両肩・頬・右目・左わき腹・耳を切り裂き、とうとう左手首と右足首が切り落とされる。
 激痛に大量出血、致命的な傷…制服は黒ずんでいるかのように血で染まりあげ、既に声を上げる事すら困難、いわゆる瀕死である。
 
 それを目の前でまざまざと見せつけられるフェイト、顔や服はエリオの返り血を浴び赤く染まり
 エリオの変わり果てた姿に真っ青と血の気の引いた表情に瞳は絶望の色を宿していた。
 
 「そうだ!その表情が見たかったのだ!!」
 
 レザードはフェイトの顔に指を指し喜びに満ちた表情を浮かべる、
 その表情こそレザードが求めるもの…そしてそれを堪能した以上、用が無くなりグングニルにて腹部を貫き
 更に縦に回転、エリオは二つに分断され溢れ出した血はフェイトを染め上げた。
 
 「あ……ぁあ………ぁあああああああ!!!」
 「壊れたか…まぁいい」
 
 既に興味を無くしたレザードは先程と同様に魔法陣を広げフェイトを中心に炎が囲むように走る。
 
 「灰も残さん、イフリートキャレス」
 
 次の瞬間、指をパチンッ鳴らし炎はフェイトに迫り巨大な火柱となって燃え上がる。

756レザポ ◆94CKshfbLA:2010/05/04(火) 08:28:32 ID:674uFjE.
 その炎の勢いは痛み熱さを感じさせてくれる暇を与えない程で強烈な熱は周囲に充満した。
 暫くして跡地は大きくくぼみ、地面は溶岩のように真っ赤に染まり陽炎が立ち上る中、
 フェイトの姿を確認する事は無くエリオの遺体も確認出来なかった。
 
 「焼却処分と言ったところか」
 
 レザードは高笑いを浮かべ自分の行動を賛美している様子を見せている中、
 次々に部下がやられていく様を見ていたはやては恐怖にうち震えていた。
 一瞬まさに一瞬の出来事、手を貸す事も割って入る時間も出来ない、そしてレザードの殺意がはやての動きを鈍らせていた。
 
 「何が部隊長や……」
 
 部下であるエリオがあんな目に遭っているのに肝心な時に動かないこの体、歩くロストロギアと呼ばれた自分が何も出来ていない、こんな惨めな事は無い。
 そんな不甲斐なさが仲間の死がはやての心を揺さぶる、だがそれでも体が動かない。
 
 ―――お願いや!動いて私の体!!―――
 
 必死に願を掛けるように自分を奮い立たせ恐怖心と戦い、報われ始めたのか徐々に体が動き始める。
 そしてはやてはリインとユニゾンを行い魔力を高め足下にミッド式目の前にベルカ式の魔法陣を広げた。
 一方ではやての動きに気が付いたレザードは不敵な笑みを浮かべ見上げると足下に魔法陣を張り右手を向ける。
 すると其処に黒い球体が姿を現し徐々に大きくなり中では稲光が多数走っていた。
 
 「響け、終焉の笛!ラグナロク!!」
 「フッ…グラビティブレス」
 
 撃ち放たれたグラビティブレスとラグナロクがぶつかり合い鍔迫り合う中、徐々に均衡が崩れ押され始めるはやて。
 現在はやてが放つラグナロクは夜天の書のページを使い相当な威力を高めた代物、
 だがそれでもレザードの魔法には対抗出来ず押されてしまうのが現状であった。
 
 「フッフハハハハ!!消えてし―――」
 
 言葉に割って入る桜色の直射砲がレザードを捉え、流石に驚き直射砲が放たれた方向へ目を向けると
 其処にはなのはが息を切らしながらもレイジングハートを向けている姿があった。
 なのはは先日の地上本部での戦いで心身ともに疲弊し立つ事がやっとの状態、
 それでも戦場に赴いたのはヴィヴィオを助け出す為…であったのだが、今はレザードに対する憎しみで立っている状態であった。
 
 ヴィヴィオは幼く記憶も定かではない、だからこそ守る者が必要、それを買って出たなのはだが
 現実は残酷でヴィヴィオは連れ去られ鍵として長らえる事になった。
 それもこれも…あの時ヴィヴィオを守れなかった自分のせい…そしてヴィヴィオを連れ去った奴のせい…
 
 「レザード・ヴァレス!貴方を許さない!!」
 
 体は既にボロボロ…だがそれでも奴をレザードを倒したい一心でブラスターシステムを起動、
 一気にブラスター3まで発動させ、なのはの周りにはブラスタービットが四基現れその全てが収束を行っていた。
 
 「チャージなどさ―――」
 「迎撃なんてさせない!!」
 
 レザードはなのはに向けてグングニルを飛ばそうとしたところ無数の魔力弾に苛まれる。
 その方向にはメルティーナが杖を向けておりカートリッジを一発使用する度に二十を超える魔力弾を発射させていた。
 
 「チッ!うっとうしい!!」
 
 次の瞬間グングニルがメルティーナの心臓を貫き更に乱雑に回転、
 一瞬にしてなます切りにされ叫ぶ声も無くボトボトと鈍い音を立てて崩れていくメルティーナ。
 そんな中―――
 
 「龍騎召喚………ヴォルテェェェェェェル!!!」
 
 現れたのは上空で召喚を果たしたキャロのヴォルテール、しかも既に臨戦状態のようで合図があればいつでも攻撃を仕掛ける事が出来た。
 その頃はやては夜天の書のページを更に使用、ラグナロクの威力を高め手に持つシュベルトクロイツに無数の亀裂が走っていた。
 だがその甲斐があってかグラビティブレスを打ち破り、それが合図になってなのはとキャロが一斉に攻撃を仕掛ける。
 
 「全力全開!!スタァァライトォォブレイカァァァァ!!」
 「ヴォルテール!!ギオ・エルガ!!!」
 
 放たれた必殺の一撃に加えはやてのラグナロクも混ざり、その威力は街を一瞬にして吹き飛ばしかねない強力なものとなった。

757レザポ ◆94CKshfbLA:2010/05/04(火) 08:30:17 ID:674uFjE.
 そしてそのエネルギーは上空へと向けられ巨大な光の柱と化しその後に爆発、巻き上げられた粉塵はその場にいる者全てを覆い隠した。
 
 「ハァ…ハァ……やった…の?」
 
 なのはは誰に言うでも無く疑問に満ちた独り言を呟く、レザードは物質魔法その両方が通じない存在、
 そして…これだけの魔法を受けても耐え抜いたとしたら、それはまさに悪魔の一言である。
 暫くして粉塵が落ち着き始め周囲の物陰を確認する事が出来る頃、
 軋む体に鞭を打ちながら歩くなのは、すると其処に人影らしき物が現れ警戒すると、其処にははやての姿があった。
 
 「はやてちゃん!!」
 「なのは!無事やってんな!!」
 
 お互いの生存を確認し喜び合っていると辺りに獣が絶命したかのような激しい唸り声が響き渡り
 その方向に目を向け上空であることを確認すると、突然液体らしき物が頬に付き手に取ると、ぬるぬるとヌメリを持っていた。
 
 「これって……」
 「血や!!」
 
 液体の正体に気が付き二人は上空へと飛び立ち粉塵を突き抜けると、
 其処にはファイナルチェリオによって背中から串刺しになっているヴォルテールと、
 グングニルを腹部に受け口元から血を流すキャロの姿があった。
 
 「き…キャロ!!」
 
 なのはの叫びも空しく一切答える事の無いキャロ、恐らくは即死であったのであろう、
 そして…そんなキャロに目を背けるなのは、するとレザードは不敵な笑みを浮かべ見下す。
 
 「先ほどの攻撃…中々だ、だが我には移送方陣がある事を失念していたようだな」
 
 あの一斉攻撃を受ける手前、移送方陣にて遥か上空へと移動し粉塵が届かぬ場所で見下ろし
 ヴォルテールの肩に乗るキャロの姿を目撃するや否やファイナルチェリオを撃ち放ち、更にグングニルを投げつけたのだという。
 
 「両方とも即死…呆気ないものだ……」
 「アンタっちゅう奴は…何処まで命を馬鹿にするんや!!」
 
 みんな必死に生きている、命は大切なもの、なのにレザードはそれをいとも簡単に奪っていく。
 罪悪感も殺意も無くただ淡々に…咲いた花を摘むように命を刈り取っていく。
 
 「自分神にでもなったつもりか!!」
 「つもりではない…神なのだ」
 
 愚神オーディンの力と魔力、賢者の石が齎した魔術に知識、この世界においては技術や情報などを得た。
 今のレザードに出来ない事は無い、魂も肉体も記憶のコピーによる精神の復元も世界の創造すら可能、
 このような者を神と呼ばずしてなんと呼ぶ…三賢人のような紛い物ではなく真に神と呼べる存在。
 
 「何なら今この場で死んだ者を生き返らせてやろか?」
 
 魂を持つ者であればレザードはエヴォークフェザーと呼ばれる蘇生術にマテリアライズも可能である、
 無くとも肉体を再生させる事も可能であると含み笑みを浮かべるレザード。
 この言葉を聞いたはやてはカリムの予言の一文を思い出す。
 
 …歪みの神…レザードの歪んだ心、強大な魔力、まさに名を体で現した存在、
 神…そんな存在とどう太刀打ちすればいいのか、そして予言は覆す事は出来ないのではないか…
 はやては暗く落ち込む表情を浮かべている頃、レザードはゆりかごとの連絡に勤しんでいた。
 現在ゆりかごは順調に月の軌道ポイントへの進路を順調に突き進み、暫くすれば衛星軌道上まで到達するとのことであった。

758レザポ ◆94CKshfbLA:2010/05/04(火) 08:31:43 ID:674uFjE.
 
 つまりこれは計画が終了に近付きこれ以上彼女達に関わる必要が無いという事を指し示す。
 それを見計らったレザードは自らの意志で使用する事を禁じた魔法の一つを発動する為、足下に魔法陣を張ると、
 魔法陣は一気に広がりを見せ中央区画全地域は環状の魔法陣が帯のように幾重にも張られているドーム状の結界に包まれた。
 カオティックルーン、この結界の中にいるだけで身体能力を20%減少させる強力な結界魔法である。
 
 「本来貴様等に見せる必要は無いのだが、折角だ…神の力という物がどれほどの物か見せてやろう!!」
 
 続いてレザードは広域攻撃魔法に使用する多重環状魔法陣を足下に張り
 右手を天にかざし詠唱を始め、その姿をただただ見つめるなのはとはやて。
 
 「我招く無音の衝裂に慈悲は無く…」
 
 辺りはレザードが放つ白金の光に包まれなのは達は右手で光を抑えながらもレザードを見つめ怯えていた。
 そしてレザードから放たれた光は次元海にまで及び、続いて光を中心に移送の魔法陣が7つ張られ光が手を伸びていた。
 
 「汝に普く厄を逃れる術も無し!!」
 
 すると魔法陣から直径数十メートルの巨大な隕石を呼び出す、
 そして隕石が一つずつ引き寄せられるようにしてミッドチルダに落下、なのは達の下へ迫っていた。
 
 「さぁ!神の力を堪能するがいい!!メテオスウォーム!!!」
 
 上空から姿を現す七つの隕石、それは摩擦熱により真っ赤に染まり轟音が辺りに響き渡り地上に激突、
 降り落ちた隕石の周囲は激しい爆音と衝撃が走り、周囲を吹き飛ばし地上は荒れ果て七つの巨大なクレーターが生み出されていた。
 そんな光景にレザードはゆっくりと地上に降りる、瓦礫と化した街並み木々も根元から吹き飛びその威力を物語っていた。
 
 「我ながら中々の威力ですね」
 
 レザードはカタストロフィを解除し左手にネクロノミコンを携え周囲を見渡す。
 とその時である、ゆりかごにいるスカリエッティから吉報が入り、
 内容を確認しているところ、瓦礫が崩れる音を耳にしレザードは目を向ける。
 
 すると其処には白いバリアジャケットを赤く染め髪を結うリボンは消滅し、
 額から血が滴り落ち右目を覆い隠し左腕と共にデバイスを無くしたなのはの姿があった。
 
 「ほぅ…辛うじて生きていたか」
 
 流石のレザードも驚きの表情を隠せない、何故ならレザードが放ったメテオスウォームは常人では立つ事…いや跡形も無く消え去る程の威力を持っていたからだ。
 それに耐え抜いたには訳がある、メテオスウォームが直撃する前なのははオーバルプロテクションにて身を守る用意をしていた。
 だがなのはの前にはやてが立ちふさがり夜天の書の魔力を全て使い込み強力な防御障壁を張り巡らせたのである。
 
 「はやてちゃん!!」
 「これは私の意地や!これ以上部下の死を見たない!!」
 
 自分の目の前で次々に友が仲間が部下が死んでいった、これ以上の死は見たくない!
 そしてこれ以上部下を仲間を友を死なせる訳にはいかない!
 はやての意地、それはメテオスウォームを四発弾き周囲に着弾させたが、五発目にて亀裂が生じ
 六発目では完全に崩壊、辛うじてなのはに当てることはなかったが既に最後の七発目が迫っていた。
 
 「はやてちゃん!これ以上は!!」
 「だったら私がなのはの盾になる!!」
 
 すぐさまなのはに抱き付き強く…力強く抱き締め身を守った。
 背には真っ赤に燃えた隕石が迫りなのはは覚悟を決めた頃、なのはの意識はそこで途絶えた。
 
 …次に意識を取り戻したのは瓦礫の中、必死に瓦礫から抜け出そうとレイジングハートを起動させようとするが
 違和感を感じふと目を向けると左腕を失い夥しい血が流れていた、この時になのはは左腕を無くした事に気が付き、

759レザポ ◆94CKshfbLA:2010/05/04(火) 08:32:39 ID:674uFjE.
 また命があったのは、はやてが命を懸けて守ってくれた為であると理解する。
 
 「はやてちゃん…自分が死んじゃったら駄目だよ」
 
 一人ぼそりと言葉を口にするなのは、友を無くしたくない一心で守っても、死んでしまえば友を無くした事と同義
 はやては自分が望まない事を友に押しつけただけだったのかも知れない、それが本人自身が望んでなくても…
 その後なのはは傷口に簡易な治癒魔法を施し血だけを止め、瓦礫を右腕一本で退かし表に出て現在に至る。
 
 「レザード……貴方…だけ…は……」
 「虫の息…といった状態ですね、ですが此方には貴方と戦う理由がもう…ありませんので」
 「それは…どう…いう事……」
 
 なのはの問い掛けにレザードは眼鏡に手を当て不敵な笑みを浮かべ説明を始める。
 …たった今入って来た情報によればドラゴンオーブによる次元跳躍攻撃により本局は崩壊、
 それを皮切りに次々に支部を破壊し回りドラゴンオーブを破壊する為に派遣された隊も
 派遣される度にイージスとミトラの手により壊滅され、今し方最後の支部の破壊を終え管理局は崩壊したとの事であった。
 
 「そ……そんな………」
 「貴方がいた管理局は…もう無い」
 
 そして管理局員でも何でもない只の怪我人を相手にする程暇では無いと断言、
 だがなのははレザードの言葉が信用出来ず何度も否定を繰り返し、その痛々しい姿にレザードはモニターを開き現実を見せる。
 
 其処には破壊された本局、管理世界に設けられた施設、無人世界に存在する軌道拘置所などが次々に映し出され
 ドラゴンオーブの軌道上には無数の次元船の残骸が浮き中には人の姿もあった。
 
 「これで理解出来たであろう…管理局は壊滅したのだ」
 「あ…………あぁ……………」
 
 なのははレザードに突きつけられた現実を目の当たりにし力無く膝をつき、
 その反応に不敵な笑みを浮かべマントを翻し移送方陣の準備を始めるレザード。
 
 …あとは計画の最後を飾るだけ…既に邪魔者は存在しない、有意義に事を進められる。
 暫くして…足下に五亡星の魔法陣を張り準備を終えるとなのはに目を向けた。
 
 「此処で自分の無力さを噛み締めてなさい…」
 
 レザードはなのはにトドメを指すこと無く移送し、なのはは一人残された。
 …辺りは無音、時々吹く風が耳をざわつかせ髪を揺らす、賑やかであった街並みは崩れ瓦礫と化し大きな爪痕を残していた。
 
 
 何もない、誰もいない…全ては終わった…何もかも失った…友も仲間も部下も愛する者も…そして相棒も…
 
 
 全ては夢…そう考えたい、だが失った左腕の傷がそれを許してくれない。
 
 
 現実を直視出来ない、己の無力を呪いたい、己の無能さに腹が立つ、自分の弱さに打ちひしがれる。
 
 
 折れる…心が、自分を形取る、自分を支える、自分の中に確かにあった中心、不屈の心が……
 
 「ぅ…………うぅ…………」
 
 前のめりでうずくまり、静かに涙を零し酷く矮小な自分を噛み締め誰も耳にする事が無い小さな声で泣く…
 静かに…ただ静かに時だけが刻み、日が陰り辺りは黄昏に包まれた。

760レザポ ◆94CKshfbLA:2010/05/04(火) 08:35:20 ID:674uFjE.
 現在ゆりかごは月の軌道ポイントに着々と突き進み、暫くしてドラゴンオーブを確認、
 周囲に散らばっていた残骸はエインフェリアの手によって清掃、ゆりかごが横付け出来る空間を作り出した。
 丁度その頃、レザードは移送を終え目の前にはスカリエッティ達が出迎えており、レザードはスカリエッティと挨拶を交わしていた。
 
 「いや…ヒヤヒヤしたよ」
 「…私があの程度の相手に後れをとるとでも」
 「レザードの心配じゃないよ」
 
 スカリエッティが案じていたのはミッドチルダの安否である。
 カタストロフィを起動させたレザードの広域攻撃魔法は街を…いや区画を瞬時に壊滅させる威力を持つ、
 それ程の威力を誇る魔法であるとミッドチルダはおろか、次元が綻び次元震が起きる可能性がある。
 実際次元震の兆しが確認されており、あれ以上戦闘が続けば次元震が発生するところであったと説明を終える。
 
 
 「そうですか、少々やりすぎたようですね」
 「まぁ何にせよ無事でよかった」
 
 計画に必須であるミッドチルダが無事であれば先に進める事が出来る、後はゆりかごとチンクの力を行使するだけである。
 とその時である、今この場にはスカリエッティを中心に右にウーノ、ドゥーエ、クアットロ、左にトーレ、セッテ、チンク、ルーテシアがおり、
 ギンガ、ディエチ、ディードは治療ポットに入り、アギトはディードの付き添いの為に此処にはいない、
 ノーヴェ、オットー、ウェンディ、ガリューは魂だけの存在となりチンクの中にいる。
 
 「……?セインの姿がありませんね」
 「ヤッホーーー!私は此処だよ」
 
 声と共にチンクの体から飛び出すセイン、ゆりかご内における内乱、反逆の不死者と戦闘になり肉体を失ったと、
 そしてゆりかごに戻ってきたチンクの手によってマテリアライズされ、現在はノーヴェ達と共に体内にいるという。
 
 「それにしても…魂だけで生きてるって変な感じ」
 「……実際は生きている訳ではないのですがね」
 
 それはともかく彼女達の肉体を再構成して輸魂の呪を行えば復活する事が可能、
 本人が望めば今までとは異なる肉体に輸魂する事も出来るように説明すると
 次々にチンクの体から魂が現れレザードに群がり要望を告げる、その光景に頬を掻き呆れる様子を浮かべていた。
 すると其処にルーテシアが現れレザードを見上げ小さな声で要望を告げた。
 
 「ガリューも…復活させて……」
 「やれやれ…千来万客とはこの事ですね」
 
 だが今は計画を完了させることを優先、肉体の再構築はその後でも可能であると告げチンクに目を向ける。
 
 「ではチンク、そろそろ本来の力を手にしましょう」
 「本来の…力ですか?」
 「そうです、貴方の胸の内に潜む力、それをレリックによって引き出すのです」
 
 やり方は精神集中と変わらない、それに魂をマテリアライズさせる事が出来た今のチンクならば可能であるとレザードは力強く説明、
 早速チンクは精神集中を行う、静かに淡い光がチンクを包み込みゆっくりと回転を始める。
 
 徐々に光は強く輝き出し完全に体を包むと、人の形を象った光は徐々に大きくなる。
 それは手も足も胸も確認出来る程に成長を遂げ、光が消えていくと其処には23歳位の女性が立っていた。
 
 「こっこれは一体!?」
 「ホムンクルスの肉体が功を奏したようですね」
 
 ホムンクルスは生きた金属で構成されたフレームを使用している、チンクはホムンクルスと融合する事により
 成長するフレームを獲得、そしてレリックのエネルギーがチンクの奥底に眠る力を引き出し
 それを最大限に使用出来るよう肉体も併せて成長したのである。

761レザポ ◆94CKshfbLA:2010/05/04(火) 08:36:19 ID:674uFjE.
 チンクの姿はまさに“愛しき者”の生き写し、故にレザードはチンクにもう一つの名を与える。
 
 「本来の力に目覚めた以上、チンクにはこの名が相応しい…“レナス・ヴァルキュリア”」
 「レナス・ヴァルキュリア……」
 
 …数多の戦場を駆け抜け魂を選定する者、戦乙女ヴァルキリーの名、レザードが恋い焦がれ思いを寄せた愛しき者の名。
 そして…世界崩壊ラグナロクの折り世界を創り護った創造主の名、今まさにチンクは神の名を引き継いだのだ。
 だがそれだけではない、チンク――いやレナス本来の力を得たという事はマテリアライズの際の制限時間三分も無くなった事も意味し
 レナスの能力であれば永続的な生を受ける与える事が出来るようになったのだ。
 この結果に魂組は喜びを隠せないが、やはり魂として生きるより肉体を選び、マテリアライズされる事は無かった。
 
 「まぁいいでしょう、この事は…今我々に必要なのは―――」
 「分かっている、すぐに向かおう」
 
 はやる気持ちを抑えながらも狂喜に満ちた表情を浮かべ歩き出すスカリエッティ。
 それに呼応するかのように次々に歩き始めレザードの隣にはレナスがついて回り、
 クアットロはそれをジッと見つめその光景を目の当たりにしたドゥーエが寄り添い佇んでいた。
 
 「いいの?クアットロの気持ち伝えなくて…」
 「いいんです〜、所詮は叶わぬ恋だったんですぅよ」
 
 クアットロはレザードに振り向いて貰いたく様々な行動を行ってきた。
 認められたくて無茶をした事もあった、側近になってからもレザードを陰から支え立てていた。
 だがレザードの目は常にチンクに向けられていた、その事に歯噛みする事もあったが今回でやっと理解した。
 レザードにとってチンク――いやレナスはもっとも大切な存在、自分が割って入れる仲では無かったのだと。
 
 「それに初恋は実らないって言うじゃないですかぁ」
 「………」
 
 ドゥーエは何も答えずジッとクアットロに寄り添う、暫く二人は佇み沈黙が包む中、
 クアットロは突然ドゥーエの胸に顔を埋めか細い声で泣く、誰にも悟られないように…自分の心の内を知るドゥーエだけに聞こえるように……
 ドゥーエもまた黙って胸を貸す、クアットロの胸の内を知る者として…姉として……
 
 
 
 此処はゆりかご内のコントロールルーム、現在頭上には巨大な球体型の魔法陣が姿を現していた。
 この魔法陣はレザードの世界に存在する世界樹の名を取ってユグドラシルと言い
 世界創造に必要なデータとレナスの力である原子配列変換能力を強化しミッドチルダを魔力素に変え、
 更にマテリアライズにて新たな世界として再構築させる際にも必要な重要な魔法陣である。
 
 「だがその前にミッドチルダを砕かなければ」
 
 世界を創るにはまず媒介が必要、だがまるごとでの世界創造にはかなりの魔力が必要となり、なにより良いものが出来ないらしい。
 その為にまず破壊し残骸にしてから再構成させる、そうした方がより良い物が出来上がるらしく
 レザードの話では折れた武器の法則と呼ぶらしい、なんだか胡散臭い話である。
 
 だがスカリエッティはまるっきり信じ、ゆりかごの主砲と当初の予定では無かったドラゴンオーブの砲撃の同時攻撃、
 これほどの出力があれば一瞬にして崩壊を見込めると狂喜に満ちた表情で語るスカリエッティ。
 
 「では、そろそろ終幕としよう」
 
 スカリエッティの一言を合図にゆりかごとドラゴンオーブは二つの月から魔力を吸収、

762レザポ ◆94CKshfbLA:2010/05/04(火) 08:36:37 ID:674uFjE.
 ゆりかごはその魔力を鍵によって聖王の魔力に変換、聖王の鎧の効果を持った虹色の魔力砲となって撃ち放たれた。
 一方ドラゴンオーブも吸収した魔力を中心の赤い水晶体の中で増幅・収束し臨海点を超えると、その長い砲身にて加速させて発射
 二つの巨大な魔力砲は折り重なるように合わさり螺旋を描きながらミッドチルダに直撃、中心核まで到達していた。
 
 この一撃により粉塵を巻き起こし全土を黒い塵で覆い天変地異が引き起こされ
 地震、雷、津波、噴火、嵐、竜巻、吹雪などが至る区画で被害を被り、その後世界を切り裂く地割れが発生、
 三種に分断され磁場を失い自軸も失ったミッドチルダは巨大な瓦礫と化した。
 
 続いてスカリエッティはレナスに指示、ユクドラシルの中心に位置するレナスは原子配列変換能力を発動、
 魔法陣が力強く輝き出し、月の魔力を吸収して変換、白金の魔力に変わり主砲で発射される。
 それにより瓦礫は魔力素に変化、宙域は濃い魔力素に覆われる事となった。
 
 「よし!これでフィナーレだ!!」
 
 最後の指示にマテリアライズを開始、魔力素は形を成し建物などが構築化されユクドラシルによる記憶、情報の改竄・変更・保守・改良により生物が構成され始める。
 ユクドラシルには世界を構築する為に世界の粗方の情報が詰まっている。
 情報と言っても平均を示す一般的な生物や建物や植物など情報、改良や変更による幻獣や魔法生物などの情報
 物によれば構成するべきではない改竄した方がよい情報、例えば評議会などレナスの負担を軽微させる為の補助効果を持っている。
 
 …そして出来上がった新たな世界、それは中世を思わせる造りと近代が入り混じった世界、
 しかも一つでは無く幽体を主とした二つの幽界も存在し、それはかつてレザードが済んでいた三重世界に構成は似ていた。
 
 「これは………」
 「レザード…君と出会って十年、思い描いていた世界がやっと実現したよ」
 
 思えば十年前…レザードから聞いた世界に胸の高鳴りを覚えた、そして十年後…念願であった魂が交差する世界が生まれた。
 スカリエッティの持論である物と人を分かつ絶対条件が確立した世界である。
 人は死に魂となって彷徨うのであれば、魂は一体何処へと返るのか…
 スカリエッティは彷徨える魂を救う為に二つの世界を用意した。
 
 造られし者が人として生きられる世界と共に彷徨える魂に安らぎと苦痛を与える世界、
 これがスカリエッティが望んだ世界なのである。
 
 「レザード…君のおかげでこの世界が生まれた…礼を言うよ」
 「…いえいえ、それよりこの新たに生まれた世界に名を付けませんと」
 「それなら既に決めてあるよ」
 
 両手を広げ力強く…新たに生まれ変わった世界の名を口にするスカリエッティであった。

763レザポ ◆94CKshfbLA:2010/05/04(火) 08:38:25 ID:674uFjE.
 神々の黄昏ラグナロクにより生まれ変わった世界、ベルカは人と魂が交差する三重世界である。
 数年前…世界構築後スカリエッティはかつてミッドチルダと関わりある世界に向け宣伝した。
 
 「悪政を引いた管理局はもう無い!我々は自由なのだ!!」
 
 そして造られた者もそうでない者も、全ての人が等しく生きられる世界の獲得…その謳い文句は人々を造られた者の心を揺さぶった。
 宣言から数日、造られた者の移住が始まり暫くして普通の人も移り住むようになった、人とは逞しいものである。
 
 それから数年後の現在、三重世界の一つ人間界であるミッドガルド、中央都市であるクラナガンは今日も人で賑わい
 中央ターミナルには多数の来客を迎え入れ、新たに生まれた世界に胸を躍らせていた。
 
 郊外に目を向ければ風情のある街並みが続きレンガの建物が印象的なクレルモンフェラン
 北に目を向ければ田舎町を思わせ小川には水車が回るコリアンドル、
 南のアルトセイムにはフレンスブルグと呼ばれる首都があり神学や魔術学など魔法学校が建ち並び魔導師の楽園と呼ばれている。
 
 東にはパークロードや娯楽施設が並び、小さな子から大人まで時間を忘れて遊ぶことができ
 更に東の島国は倭国と呼ばれる独特の文化が根付く、何処となく日本文化を思わせる国も存在した。
 
 そして西地区の一角に深い森が存在し精霊の森と呼ばれ森の住人が日夜森を守護している。
 更に奥には巨大な木が存在しており中を潜ると新たな別の世界への門が存在する。
 門には二人の門番、イージスとミトラが常に見張っており、門を潜ると其処には虹色の橋が続く。
 名はビフレストといいミッドガルドともう一つの世界を繋ぐ橋である、この道を通れば肉体は幽体に変わり幽界に向かう事が出来る。
 
 その幽界の名はアスガルド、主神が統治する神々が住む世界であり、また魂が安らぐ世界でもある。
 広さはミッドガルドとほぼ同じく光が満ち溢れ美しさが際立った場所、中には森も存在し幻獣や妖精などが住んでいる。
 そんな世界の中心に存在する宮殿には一人の王が住む、その姿は肩を露出したゆったりとした服装にガントレットのような部分甲冑を身につけ
 金色の長い髪に左右が紅玉と翡翠色をしたオッドアイの少し垂れ目でおっとりとした印象を持つ女性、
 かつてヴィヴィオを名付けられた存在と同じ存在、オリヴィエ・ゼーゲブレヒトである。
 
 無論オリジナルではなく更に言えばヴィヴィオが成長した存在でもない。
 彼女はヴィヴィオと同じ遺伝子から再構成させた存在で、その体は幽体だが魔力は王の証明たる虹色の魔力光、
 その強さは神界の頂点に立ち、輸魂の呪とアストラライズも習得したレザードの弟子である。
 無論師匠たるレザードに逆らわずレナスに崇拝している、彼女の役割は魂の選定、仕分け、回帰などが主である。
 
 人が死に魂となるとアスガルドへと運ばれオリヴィエと彼女の後ろに存在するユクドラシルにて査定、
 公平な判断の下、闇に落とされる者、此処に留まる者、人間界に返す者と振り分けられる。
 
 そして強い魔導師、騎士においてはエインフェリアとして暮らす選択もを与える事もあった。
 エインフェリアは神界を護る盾の役割だけでは無く、ベルカに侵略する者に対して排除する剣の役割も担っていた。
 
 だが神は彼女だけでは無い、自分の意志で側近となりアストラライズ化したオットーとディードに
 トーレとセッテ、二人はエインフェリアの指揮者として此処に暮らしている。
 
 アギトはディードをマスターに此処で暮らしているが妖精達と遊んでいる事が多い、最近はどうやら男が出来たともっぱらの噂である。
 他にも右目が紺で左目が青い存在、炎と雷を得意とした存在、個性的な魔法を使用する存在など多種に分けて存在する。
 
 
 …そして選定され咎人となった者の魂は闇に落とされ罪を償わされる。
 名はニブルヘイム、世界は闇に包まれ人の不安を掻き立て罪の意識を再確認され、
 至る場所には不死者が渡り歩き罪人を裁く要因としても用いられていた。
 そんな世界の一角に存在する城、その中にはヘルと名を変えたクアットロが移り住んでいる。
 彼女はこの世界の統治者にして不死者を操る者、そして咎人に刑を抗し償いし者を帰す役割を持っている。
 
 彼女には信頼出来る姉ドゥーエがおり、彼女と二人三脚で役割を抗ししていた。
 因みに闇の森の中には不死者達が一目置く存在ブラッドヴェインが住んでいる。

764レザポ ◆94CKshfbLA:2010/05/04(火) 08:39:20 ID:674uFjE.
 世界は大きく変わり他の世界とも交流を深め、また侵略者に対しては確固たる態度で応戦し治安を護っている。
 全ては順調スカリエッティが立てた案により安全が約束されレザードの手による魂の獲得により、
 造られし者達は命を得て生きている、中には結婚を成し子を持つ者もいた。
 
 スカリエッティもその一人である、ウーノと結婚し二人の子を設けている。
 現在彼は人間界の倭国に移り住み、小さな医療院を立ち上げ家族四人で平和に暮らしている。
 今日は休業日、家族団欒…水入らずでUNOで遊んでいた。
 
 「ドロツー」
 「ドロツー!」
 「ドロツー、ウノです」
 「………仕組んでない?」
 
 二人の子のドロツーの後にウーノが赤のドロツーを出し、スカリエッティに六枚のカードが行き渡る。
 そんな三人のテンポの良さに仕組まれているのではないのかと疑いの念を抱くスカリエッティ。
 
 「まさか…どうやって仕込むんですか?」
 
 ウーノは呆れた様子で肩を竦め、そんなやり取りが続けられていた。
 存外にもスカリエッティは子煩悩であり、家事を手伝うのも屡々、時とは人を変えるものである。
 
 変わったといえばルーテシア、かつての面影は無くなり明るく気さくな存在となっていた、人との繋がりが彼女を変えたのかもしれない。
 そんなルーテシアは現在、母メガーヌ、相棒のガリューと共に建築デザインや設備設計などで生計を立てている。
 
 だがいずれは自分の設計の下宿泊施設を立ち上げると言う野望を胸に秘めていた。
 因みにセイン、ディエチ、ウェンディも従業員として滞在しており、こき使われている。
 一番の悩みはセインがよくサボり、そのとばっちりが二人に掛かり減給され給料が少ない事である。
 
 それはさておきノーヴェ、ギンガはスバルと共に一つ屋根の下で暮らしていた。
 スバルはレザードの手により右腕から再構築されその時に魂を注入、記憶も一部改竄され現在は二人の末っ子として暮らしている。
 
 現在は道場を立ち上げシューティングアーツにおける護身術を学ばしており、
 三人とも綺麗どころなのか人の入りは重畳、告白される事も屡々だが、やんわり断っているようだ。
 かつての仲間達は自らの役割・使命・希望を選び、この世界で暮らしている、自由気ままに誰にも縛られずに……
 
 
 
 …それから長い年月がつき、レザードとレナスと名を変えたチンクは月の軌道ポイントにある、ゆりかごの中で暮らしていた。
 世界創造後レザードはスカリエッティと共に地上におり世界を見渡し、二人で様々な案を出し合いニブルヘイムの女王にする為クアットロに輸魂の呪を教え
 スバルと同時にオリヴィエを製造、その後オリヴィエはレザードの弟子となり、ゆりかご内で鍛え上げられ
 
 輸魂の呪と共にアストラライズを学んだオリヴィエは肉体を捨てレザードと同じ存在となりレザードからアスガルドの統治者に任される事になる。
 それまではレナスがアスガルドを統治していたのだが、オリヴィエと交代する事によりレザードの下に戻り一緒に暮らすようになったのである。

765レザポ ◆94CKshfbLA:2010/05/04(火) 08:39:37 ID:674uFjE.
 
 「レザード、お茶です」
 「あぁ、ありがとうレナス」
 
 レナスから手渡されたお茶を口にしジッと世界を見つめる。
 アスガルドはオリヴィエに一任してある、彼女のカリスマ性、実力、性格であれば愚神と同じ道を歩む事はない。
 だからこそユクドラシルを渡しドラゴンオーブの制御も開け渡した、それに自分に逆らう事はまず無い。
 
 地上は平穏そのもの、時々小競り合いがあるがそれは人としての業、介入する必要はない、
 第一、力で押しつければそれは過去の体制と同じそれでは意味がない。
 
 まぁ、尤もレザードにとって過去の体制などどうでもいい話、
 今必要なのは世界が安定し順調に生と死が混じり合い魂の循環が行われているという事
 最早干渉は無粋、寧ろ干渉する事こそ無粋といえる。
 
 「頃合いだな…」
 「何がです?」
 「旅立ちだよ」
 
 いずれは決断しなければいけない事、全てが終わり計画も成功した以上留まる必要も…もうない。
 
 「ではドクターに別れの挨拶でも?」
 「いや…必要無いだろう」
 
 スカリエッティはスカリエッティとして人生を全うしようとしている、無限の欲望としてでは無く…人として……
 モニターに映し出されたスカリエッティの映像を目にした感想である。
 
 …であれば一刻も早く此処を立ち去る事を決め、ベリオンに指示を送り暫くぶりにゆりかごが起動始める。
 そして転送用の魔法陣が張られると最後の確認のようにスカリエッティを見つめた。
 
 「さらばだ…我が友スカリエッティ……」
 
 レザードはモニターを閉じマントを翻しレナスを傍らに置き奥へと歩き始める。
 それと同時にゆりかごは転送され歪みの神はベルカを後にした……
 
 
 
 
 此処はミッドガルドの東の島国…名は倭国、縁台にはスカリエッティが一人座り空を見上げていた。
 そこに小さな少年が現れスカリエッティの手を取る。
 
 「じいちゃん?なんで空を見上げてるの?」
 「ん?それはね…私の友が去ったからだよ……」
 
 少年は首を傾げ疑問に満ちた顔を浮かべスカリエッティはそんな顔に笑みで答え頭を撫でてやる。
 すると少年は恥ずかしかったのか、はたまた嬉しかったのか顔を赤く染め上げその場を後にする。
 それを見送ったスカリエッティは目線を空へと向けて小さく言葉を紡ぎ出す。
 
 
 
 
          ―――さらばだ…私の友レザード・ヴァレス―――

766レザポ ◆94CKshfbLA:2010/05/04(火) 08:41:14 ID:674uFjE.
以上です、暴力的表現があったかもしれません。

これで本当に終わりです。


それでは。

767魔法少女リリカル名無し:2010/05/04(火) 19:01:19 ID:Ua2m0TKY
じゃあ行きますか。

768魔法少女リリカル名無し:2010/05/04(火) 19:21:22 ID:Ua2m0TKY
規制されますた。

769魔法少女リリカル名無し:2010/05/04(火) 21:53:20 ID:ZkUhoC36
また規制…

770魔法少女リリカル名無し:2010/05/08(土) 22:30:28 ID:Ni5VH4lI
逆に管理者の方を規制してやりたい気分

771リリレッド ◆zn6obdUsOA:2010/06/10(木) 20:59:28 ID:m3rC6mSU
皆さん前回からかなり間が開いてしまいましたがお久しぶりです。前回も数々のGJをありがとうございました。
実は自分も数日前に投下しようとしたのですが規制されてしまって…

こちらに投下致しますのでどなたか代理投下をお願いします。
ちなみに今回は小ネタ集で、サンレッドの単行本にある1ページネタの詰め合わせみたいな感じです。(後半はウェザースリーみたいな読み切り風ですが)

772リリレッド ◆zn6obdUsOA:2010/06/10(木) 21:28:18 ID:m3rC6mSU
すいません下げ忘れてしまって…
それと申し訳ありません、急用が出来てしまったので投下は10:00以降になりそうです。

なのでもし他に投下する方がいらっしゃいましたらお先にどうぞι

773「天体戦士リリカルサンレッド・短編」 ◆zn6obdUsOA:2010/06/10(木) 22:21:07 ID:m3rC6mSU
それでは改めて投下させて頂きます。

尚、今回は後半部分にネタ要素を多分に含み、不快に感じる方もいらっしゃると思いますのでNGワードを作りました。ワードは『ミッドを貫く伝説の杖』です。
それではよろしくお願いいたします。


「天体戦士リリカルサンレッド短編集」

『果て無き進化』

「いったいさっきのは何だったんだ…」

XL級次元航行艦『クラウディア』艦長、クロノ・ハラオウン提督は艦内にある執務室の椅子に腰掛け先程の出来事を思い返す。

クラウディアで航行中、突如転移して現れた小型のアンノウン。高速で移動していた為に姿を捉えることは出来なかったソレは最初、「新型のガジェットか?」と思ったがAMF反応は無かった。
そしてソレはクラウディアに向けて二発のミサイルを放った。センサーにも反応せずに突然現れ、高速で放たれるミサイル。
その電撃的な襲撃にクロノやクラウディアのクルーは迎撃が追い付かない。誰もが「やられる」と覚悟したその時、ミサイルの初弾がクラウディアの前で爆発、空間に穴を開けたのだ。その開いた穴に次弾、そしてアンノウン自身も吸い込まれるように入り反応は途絶えた。

敵対組織による挑発行為、はたまた単なる愉快犯か?憶測が脳内で駆け巡るが答えが見出だせない。唯一の手掛かりは、穴に入る直前に一瞬見えた『緑色の鳥』の姿だけだった…

〜所変わりミッドチルダ支部(仮)〜

「あれ?Pちゃん、このミサイルいつもの(核)と違うね。」

「んっとねぇねこ君、これ『ESミサイル』って言うんだって!!僕もどんなのかは難しいからわかんないや…」



『スカ家の掟』

「ウーノ姉ぇ買ってきたッスよぉ〜」
「ありがとうウェンディ」

お使いに行ってきたウェンディ、ウーノは袋を受け取り夕飯の支度を始める。

「あら?…ちょっとウェンディ!!ウチでお酢と言ったら『米酢』じゃなくて『穀物酢』よ!?」



『スカ家の掟2』

「ウーノ姉ぇ買ってきたッスよぉ〜」
「ありがとうウェンディ。袋はそこに置いてちょうだい」

またお使いに行ってきたウェンディ、ウーノは袋を開けて夕飯の支度を始める。

「あら?…ちょっとウェンディ!!ウチで味醂と言ったら『味醂風味』よ!?」

774「天体戦士リリカルサンレッド・短編」 ◆zn6obdUsOA:2010/06/10(木) 22:38:17 ID:m3rC6mSU


『セインとノーヴェ』

「ねぇノーヴェ〜」
「何だよセイン?」

部屋でプロレス雑誌を読んでいた所を話しかけられたノーヴェは面倒臭そうにセインの方を向く。

「J○のホームにある自販機のゴミ箱でさぁ〜一つの箱にカン、ビン、ペットボトルって捨てる穴が別れてる白いのがあるじゃん?
でもアレって中は一つの袋になってるから結局は分別出来てないんじゃないかなぁ〜って思ってね。」

「いや、それなら何故わざわざ3つの穴に分けるのか…」

ノーヴェはセインの疑問を聞き流し、食堂の方へと移動した。


『回答』

「やっぱりゴミ袋かな」
暗闇の中で椅子に腰かけているヴァンプ将軍は、唯一の光源である真上からのライトに照らされながらある質問に答えている。

「ちゃんと分別をしていなかったり、専用のゴミ袋に名前シールを貼っておかないと業者の人が回収してくれないのは当然だと思うの。だって環境のことを考えたらそれぐらい厳しくしていかないと…袋が10枚で800円ってちょっと割高けど決められたことだしね。
でも…………そのゴミ袋が10リットルのしかないのはどうかと思うの、私!!一人暮らしだったら問題ないけど二人以上の家庭だと小さいし、本当に環境の事を考えたらやっぱり大きい方のが袋も使いすぎなくて良いと思うの、私!!」

(もっと他にもあるだろうが、何でこんなにゴミ袋にこだわんだよ…)
ヴィータの出した「ミッドに来て何か不満な所ってあるか?」と言う質問にたいして熱弁するヴァンプであった。




『ミッドを貫く伝説の杖』

「フロシャイムの怪人たちよ、時は満ちた!!」

ミッドチルダ山岳部にそびえる巨大な塔をバックに、ヴァンプ将軍は声高らかに言う。その姿は満月に照らされ、普段よりも影や威厳が増していた。

「この塔より発せられる電波でミッドチルダ全域のメディアを掌握し、『フロシャイムが支配者』というテロップを瞬間的に流す。それを繰り返せばサブリミナル効果により、人間共は無意識にフロシャイムの支配下となるのだ…さぁ、今宵我らは「そんなことさせへんよ!!」む、貴様は!?」
ヴァンプの前口上を遮るように響く凛とした声、その先には満月をバックにフロシャイムと対峙する5つの影があった。

775「天体戦士リリカルサンレッド・短編」 ◆zn6obdUsOA:2010/06/10(木) 22:43:06 ID:m3rC6mSU


「夜天の王、はやて!!」
「烈火の将、シグナム!!」
「鉄槌の騎士、ヴィータ!!」
「湖の騎士、シャマル!!」
「盾の守護獣、ザフィイィラァァッ!!」

「空を覆うは白き雲…」

「「「「「蒼・天・戦・隊!!ヴォルケンジャーッ!!」」」」」

「フロシャイム!!今日こそ皆まとめてお縄になりぃやっ!!」

はやて、シグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラの五人が騎士甲冑を身に纏い、背後にある五色の爆発と同時に名乗りとポーズを取る。

「えぇい忌々しいヴォルケンジャーめ…怪人たちよ、今日こそ奴らの息の根を止めるのだっ!!」
対するヴァンプは号令を送りそれに呼応するように怪人達が飛びかかる。だが彼女達ヴォルケンジャーの対応は速かった。

「飛竜一閃!!」
「ぶっ潰せ、アイゼン!!」
「旅の鏡発動…リンカーコアをぶち撒けろっ!!」
「縛れ、鋼の軛!!」

レヴァンティンが
グラーフアイゼンが
シャマルの腕が
光る柱が

はやてを守る様に斬り、潰し、穿ち、貫き怪人たちを蹴散らす。そして空いた場所をはやては突破し塔との距離を詰める。

「一気にカタをつけるで…響け、終焉の」
「そこまでです。」

はやてが塔を破壊せんとした瞬間、塔のそばにある謎の大型装置の影から男性の声が響く。すると発動中だった魔法陣、飛行魔法、魔力球が力を失い、さらにはデバイスから火花が散り出した。

「なっ!?レヴァンティン!!」
「どうしたんだよアイゼン!?」
「力が、俺の魔力が砕かれていく…」
「AMF?そんな…」
「いや、それだけや無い。これは…」

「いやぁ何とか範囲内に入ってくれましたね」


ヴォルケンジャー達が声に反応し大型装置の影から現れた人物、それは何とも場違いなごく普通の青年だった。
ベージュのチノパンに黒いネクタイをした水色の半袖Yシャツ、その上に白い袖無しのサマーセーターと言った清潔感のある服装。そしてその服装と違わない、爽やかな表情で彼は右手に持っている何かのスイッチと傍らにある機械を見せた。

776「天体戦士リリカルサンレッド・短編」 ◆zn6obdUsOA:2010/06/10(木) 22:46:33 ID:m3rC6mSU

「これは高密度AMF発生装置ですけどちょっと改良しましてね…強力なEMP(電磁パルス)発生機能も追加したんです。魔法と言えどデバイスも結局は精密機器ですからね…代わりに効果範囲が半径20m以下となってしまい、貴方達が全員範囲内に入ってくれるかどうかは賭けでしたが…効果はご覧の通りです」

「フッフッフッ、その冴え渡る知性…流石はフロシャイムが誇る頭脳よ」
「いえ、そんな…これは既存の技術を組み合わせただけですし。僕は只『こういう手もあるんじゃないか』って考えただけで…さっきも言った様に半分賭けみたいな物でしたから、確実とは言えませんよ」

「そう謙遜するでない。現に結果は出ている…その型に捕らわれぬ発想こそ誉れと言えよう。

さて、待たせたなヴォルケンジャーよ…今のお前たちは宛ら翼をもがれた鳥、その爪や嘴で抗うことはありとて最早恐るるに足らず。魔導とはいずれ滅びるが運め、それは地球の歴史が証明している…
そして今宵こそ、お前たちの滅びる時だっ!!」

まるで研究発表を行う学生と教授の様なやりとりの後、ヴォルケンジャーに向き直ったヴァンプは槍を掲げ宣告をする。残りの戦闘員と怪人達が全面に立ちはだかる中、はやては杖を強く握り直し怪人たちを見据えた。
魔法が使えない?ベルカの騎士は本来近接特化型だ。デバイスをシグナムは剣に、ヴィータは鎚に、シャマルだって鋼糸として、ザフィーラに至っては元から徒手空拳で戦える。そして自分とてシュベルトクロイツを槍や棒として振るえば戦えなくもない。だが正直な所あのAMFは厄介だ。敵の言う通り範囲こそ狭いものの、身体強化は使えずデバイスもショートしてバリアジャケットが通常の衣服程度の強度にまで阻害されている。唯一、範囲内で使える可能性があるとすれば炎や氷の様な発生効果だろうが、術者本人がAMFの範囲内にいれば結局は意味を為さない。
だが諦めるつもりは微塵も無い。自分達はミッドチルダの守護を担う魔導士だ。ただいつもより骨が折れる戦いである。たったそれだけ、そして先陣を斬るのはリーダーである自分だ。
はやて達は覚悟を決め、怪人達へ進もうとする。だがそこで上空から二つの声が聞こえた。

「ちょっと待つです!!」
「ったく私らが来るまで待てなかったのかよ?ま、今回はそれが良かったかもしれないけどな」
「ム、誰だ!?」

777「天体戦士リリカルサンレッド・短編」 ◆zn6obdUsOA:2010/06/10(木) 22:56:48 ID:m3rC6mSU


まだ幼さの残る涼やかな声と活発さを感じる声、その声のする上空へとヴァンプは顔を上げるがそこにはいない。ただ満月が宵闇の空で輝いているのみ。
だがはやては気づいていた。あの声を聞き違える筈は無い。それに目を凝らせば見えてくるのだ、満月をバックに空に浮かぶ小さな家族の姿が…

「銀の翼に祝福乗せて」
「灯せ烈火の焔火を」
「祝福の風、リィンフォース・ツヴァイ!!」
「烈火の剣精、アギト!!」

「「ご期待通りにただいま参上!!」」

「早速だけど一気に行くぜ、まずはあの機械だ。タイミング合わせろよバッテンチビ!」
「むぅ〜だからその呼び方はやめて下さいと言ってるですよ。それにタイミングの話はこっちが言いたいくらいです!!」

二人は喧嘩の様な掛け合いをしながらも腰を低くして構えを取る。するとリィンの右手に冷気が、アギトの左手からは炎が噴き出す。

「行くですよ…吹けよ氷雪!!」
「燃えろ灼熱!!」

「「バアァァニングブリザァァドッ!!」」


二人の手から放たれた氷と炎が龍を形作り螺旋を描くように直進する。そして線上にあったAMF兼EMP発生装置をその爆発ごと二つの鰓が飲み込んだ。

「しまった!?おのれヴォルケンジャーの新たなる戦士め…」
「よし、今がチャンスやザフィーラ!」
「承知っ!!」

ヴァンプが忌々しげに見る中、はやては勝機と見てザフィーラに合図を出す。ザフィーラははやての合図に呼応し、青い光に包まれながら上空へと飛び上がる。そして光が弾けた後に現れたのは普段の青狼とは異なる、メタリックなコバルトブルーとホワイトて彩られた機械の体を持つ鋼の獣がいた。

「システム、チエェンジッ!!」
声を聞けばザフィーラだとわかる、鋼の獣はそのボディーを犬の伏せに近い形にして、巨大な砲へと変形する。尾は下部へ向けてスライドし、後足は折り畳まれそれぞれの前足からは砲身がせりだす、口は何かをくわえる様に開かれ凹の形となり背面と臀部、腹部にはマウントラッチが展開された。

「グラーフアイゼン!!」
「レヴァンティン!!」
「クラールヴィント!!」

778「天体戦士リリカルサンレッド・短編」 ◆zn6obdUsOA:2010/06/10(木) 22:59:12 ID:m3rC6mSU

ヴィータ、シグナム、シャマルの三人はEMPの影響から再起動したデバイスを上空にいる巨砲となったザフィーラへと投げる。するとギガントフォルムとなったグラーフアイゼンが柄部分を砲身にして腹部に、ボーゲンフォルムとなったレヴァンティンがくわえられる様に口部へ、リンゲフォルムとなり更に1つに纏まったクラールヴィントがターゲットサイトとして臀部にマウントされる。

「とぉっ!シュベルトクロイツ!!」
次にはやてが跳躍し、シュベルトクロイツを背面に添える。そして尾が変形した巨砲のグリップを掴みながら地上に降り真下をヴィータが、右側をシグナムが、左側をシャマルが支えて構えた。
「「これで仕上げです(だ)!!」」
最後にリィンとアギトが光に包まれ水色と赤色の宝玉に変化し、アイゼンの鎚部分に現れた穴へと装填される。
「魔力玉、装填。完成…ヴォルケニックキャノン」
はやて達はヴォルケニックキャノンの照準を塔と怪人たちに絞り引き金を引く。

「「「「「ヴォルケニックキャノン、ファイヤーッ!!(テェオアァーッ!!)」」」」」

全員の力を合わせたヴォルケニックキャノンは氷と炎、そして紫、紅、緑、白の魔力を放出させながら、ヴァンプを含める怪人と塔の全てをその奔流で吹き飛ばした。

「終わったんやね…」
崖の上に佇む七人は夜が明け白み始めた空を眺める。今回は辛くも勝利を納め、遂にヴァンプ将軍を倒した。だが敵は更なる策を用いて立ちはだかる。ヴァンプ将軍を倒せどまだ知将ヘンゲル将軍は健在だ。そしてまだ見ぬフロシャイムの首領、キングフロシャイムの正体とは?
彼女達の戦いはまだ続くのだ。頑張れヴォルケンジャー、次元世界の未来は君達の杖にかかっているのだ!!

『蒼天戦隊ヴォルケンジャー〜ミッドを貫く伝説の杖〜』
<続く>

779「天体戦士リリカルサンレッド・短編」 ◆zn6obdUsOA:2010/06/10(木) 23:00:27 ID:m3rC6mSU



「っと言った感じで今度の対決、どうかお願いします。」
六課の応接室にて説明が終わったヴァンプ将軍ははやてたちの前で深々と頭を下げる。

「いやいやいや、色々と無理があるやろコレ」
「そうですよ、それに私ぶち撒けるだなんて物騒なこと…」

「そこをなんとか!!この通りタイザくんもヤル気満々ですので…」
「ン〜ヨォユゥヨォユウ」
「いや、そんな菓子溢しながらサムズアップされてもよ…しかもこいつさっき出ていなかったろ?だいたい菓子折り持って頼み込んでも無理なもんは無理なんだよ。とくにザフィーラ何か物理的に…なぁ、お前からも何か言ってやれよ」

ジト目でタイザに突っ込むヴィータはヴァンプ達が持ってきたミッドチルダ地上本部名物、『レジちゃん饅頭』の箱を玩びながらザフィーラに意見を求める。するとはやての足下で獣形態のまま、ずっと黙していたザフィーラはいつもと変わらぬ落ち着いた様子で答えた。

「…………主、今度シャーリーと相談してみます」



『天体戦士リリカルサンレッド』この物語はミッドチルダにて繰り広げられる善と悪の壮絶なる闘いの物語である―――


続く

780リリレッド ◆zn6obdUsOA:2010/06/10(木) 23:15:53 ID:m3rC6mSU
これにて投下終了です。

今回は色々と受信して書き貯めたネタを詰め合わせてみました。
ちなみにラストの戦隊ネタは勇者ネタも含めて色々と混ざってます。

それと前回のWiki更新直後、コメント欄でタイトルの致命的な誤字を教えて頂きありがとうございました。
他にも誤字などを発見致しましたら皆さんご指摘お願いします。時間があるときに修正しますので…

次回はいつになるかわかりませんが今後ともよろしくお願いいたします。

781魔法少女リリカル名無し:2010/06/12(土) 01:40:18 ID:vYBXUQDE
リリレッド氏GJでした

782魔法少女リリカル名無し:2010/06/12(土) 22:35:05 ID:y/DE5L3Q
>>780
リリレッド氏GJ!!
短編集、原作とアニメのネタが、違和感無くて面白かったです。

・果て無き進化
Pちゃんですからねぇ。

・スカ家の掟、セインとノーヴェ
このスカ一味なら、フロシャイムどころか六課とも友好的敵対関係を築けますね。

・回答
ミッドのゴミ袋は割高で小さいのか…。

・ミッドを貫く伝説の杖
ヴォルケンリッターで戦隊ネタ、こういうノリ大好きです。
青年の正体…一瞬スカリエッティかと思ってしまいました。
タイザ君の満月時限定の天才ぶりは、スカとも張り合えそう…。
最後のオチで「ああ、やっぱり」って感じですが、ヴァンプ将軍らしいです。

783魔法少女リリカル名無し:2010/06/13(日) 22:40:36 ID:RP1bn7AA
>>780
規制解けたので代理投下行きます。

784リリレッド ◆zn6obdUsOA:2010/06/13(日) 22:59:53 ID:NhLGqH.6
>>783さん、確認致しました。自分の代わりに投下して下さり本当にありがとうございます。

Wikiへの保管は後日時間があるときに行いますので。

785高天 ◆7wkkytADNk:2010/06/20(日) 22:29:15 ID:r48Wgjd.
こんばんわです、凄くお久し振りです。
規制のため、どなたかラクロアの代理投下をお願いいたします。
(いつもより長くなりましたorz)

786高天 ◆7wkkytADNk:2010/06/20(日) 22:29:54 ID:r48Wgjd.
             魔法少女リリカルなのはStrikers 外伝 光の騎士 第六話


 とある無人世界、空はどんよりと曇り、周囲には森や水源は一切無くゴツゴツとした岩しかない殺風景な景色。
そんな殺風景な場所に、明らかに場違いな建物があった。
巨大なコンクリートの様な素材で出来た建物、周囲にはその建物を守るため・・・否、中の者を逃さないために高圧電流を流した策で覆われている。
その施設は時空管理局の研究施設、だが何故このような場所にあるのか?答えは簡単、『違法』と言われている研究を行なっているからだ。
時空管理局も一枚岩ではない、中には地位によって手に入れた権力を駆使し、様々な悪行を起こなっている人物も少なからずいる。
管理外世界の住人の誘拐、違法な実験、質量兵器の密売など様々。無論、このような輩を野放しにするほど管理局も無能ではない。
だがそれなりの権力を持つ者が行えば、権力という見えない壁により中々動く事が出来なかった。
ここにある研究所もその権力を持つ者が命じて立てた施設だった。
建前では『観測基地』として建てられたこの施設、丁度良い事にこの施設が建っている次元世界は特有の鉱物が多数取れる事、
そしてデータを常に転送している事から、『観測基地』という建前は十分通用した。
だが実際行われているのは非人道的な実験の数々、動物は無論、管理外世界から誘拐した、人に酷似した生物などを使って行われていた。
『独自に開発した新薬の効果実験』『魔法による人体の抵抗力の変化』『新たな兵器の開発』など様々
常に聞こえてくる阿鼻叫喚の悲鳴、だがその悲鳴を聞いても此処で働く局員は何も感じなかった。
当然ではある、此処で働く者すべては望んでこの場に来ている、すべてが己の研究位欲を満たすために研究や実験を行っている。
だれも罪悪間などを感じない、むしろギャーギャー五月蝿いとすら思っていた。

            だが、今研究所で阿鼻叫喚の悲鳴をあげているのは研究者達の方だった。

一人の女性研究員が仲間の死体を踏みながらも必至に逃げていた。だが突然足の感覚がなくなったため転んでしまう。
「あ・・・ああああ・・・・」
感覚が無くなったのは気のせいでも痺れたからでもない、右足の膝から下が無くなっているからだ。
なぜか痛みは感じない、恐怖は痛みすら感じさせる余裕すら与えてくれない。そしてその恐怖をまき散らしている悪魔が目の前にいる。

本当に突然の出来事だった、突然現われた傀儡兵の様な物と仮面を被った成人女性は、有無を言わさず自分達を殺し始めた。
この施設にも実験体の暴走などを考慮し、金で雇った傭兵や、同じく金で縛った武装局員が数名いる、だが彼らはたいした抵抗など出来ずに全滅し、
此処にいた研究員も傀儡兵の手により次々と殺されていった。、頭が吹き飛んだ者、上下分断された者、完全に吹き飛ばされた者、黒焦げになった者。
そして、仮面を被った成人女性の手に掛かった者は男女問わず、その女性と同じ姿になっていった。
女や年寄りなども平等に殺された。命乞いをしても聞き入れてもらえず、助けを呼ぼうにも全く応答が来ない。
正に此処は地獄だった・・・・否、此処は最初から地獄だった、ただ研究員達が実験体という立場に変っただけだ。

全てが絶望的な状況、そんな絶望の渦に飲まれている女性に『サタンガンダム』はゆっくりと手を翳す。
「た・・・たすけ・・・・・・」
女性は顔を涙と鼻水でグチャグチャにしながらも助かりたい一心で許しを請う。
恐怖のためか失禁してしまっているか今の彼女にそんなことを気にする余裕など無い。
そんな彼女の願いを、サタンガンダムは鼻で笑う、そして
             
                 「汚い女だ」

という言葉と共に攻撃魔法『バス』をプレゼントした。
女性の頭は粉々に吹き飛び、骨や肉片、脳の一部を壁や床に撒き散らす。その光景をつまらなそうに見つめるサタンガンダムの隣に、
仮面をつけた成人女性が、自身と同じ姿をした者達を連れ近付いて来た。
「主サタンガンダム、遺体の損壊が激しい、これではマリアージュが造れない」
「ふっ、脆すぎるカス共に文句を言え・・・・・」

偶然とは言えマリアージュを下僕にしたサタンガンダムは、早速この世界や時空管理局について調べる事を命じた。
そして分かったのが管理局の圧倒的戦力だった。サタンも自分の力には圧倒的な自身はあるが過信はしていない。

787高天 ◆7wkkytADNk:2010/06/20(日) 22:30:40 ID:r48Wgjd.
だがらこそ先ずは兵力を集める事『マリアージュの量産』に力を注ぐことにしたのだが、此処で問題が発生した。
マリアージュを量産するためには人間が必要だが、行動をおこせば騒ぎは免れない。
現状で管理局と事を構えるのは得策ではないが、人間を調達する時点でそれは避けられないだろう。
(現にマリアージュが最初に殺戮を起こした刑務所は、今では『行方不明事件』として大々的に取り上げられていた)
チマチマ1人2人を誘拐して造るという手もあるが、それでは時間がかかってしまう。
そんな時に、マリアージュが提案したのがこのような研究施設の存在である。
古代ベルカでもあったが、このような違法研究をする場所は外界から切り離されており、騒ぎが起きても
秘密を厳守するために施設は無論、中の人間諸共斬り捨てることが決まっている。
『時が経過しても人のやることに変わりない』そのマリアージュの考えは見事に的中していた。

「此処に残っている試験体はどうしたしましょう?・・・マリアージュには出来ませんので始末を?」
「面倒だ、この施設を出るときに管理局に通信でも入れておけ、奴らに任せればいい」
命令を下しながらもサタンガンダムは檻や培養液に満たされたポットに入る人間の様な生物を見つめる。

見た限りでは、この中には人間とさほど変らない知性を持つ者もいるようだ、
だが人間共は自身の欲望を満たすためにこの様な下劣な行為を行っている。
サタンガンダムも自身は外道ではあるが鬼畜ではないと思っている。一度は不要な人間を滅ぼそうと考えたが、素直に従う者、
戦えない者に関しては手を出した事は一度も無い。
だが今回は別だった。ここを訪れ、行われている光景を見た瞬間、ここの人間共は皆殺しにしようと決めていた。
「因果応報ということだな・・・・ゴミ共が(主サタンガンダム」
マリアージュに呼ばれた事によって、自分は物思いにふけっていた事に気付かされた。
普段はそんな事をしない自分に苛立ちながらも乱暴に返事をし、自分を呼んだ理由を尋ねる・・・すると
「まだ生き残りがいます・・・・この先です」


「なんだ・・・何なんだ?あれは?」
普段ロクに運動をしていないため、多少走っただけでも息があがる、だが命は助かった。
真っ先に逃げ出し、途中仲間を盾にし、どうにかこの『最重要研究室』へと辿り着く事ができた。
そこにあったのは2メートルほどのポットが3つ、だがそれぞれにカバーがかけられている為、中身を確認する事が出来ない。
「はっ・・ははははは・・・こいつらを目覚めさせれば・・・あの化物どもも!!」
震える手でコンソールを操作する、するとカバーが外され、ポットの中身がさらけ出された。
三つのポットに入っていたのはどれも裸体の少女、年齢から見れば9〜10歳位だろう、どの少女も眠っているかの様に目を閉じ、カプセルのなかに満たされている培養液の中を漂っていた。
「ふふふふふ・・・・肉体的には問題ない・・・いけるぞ!!」
そんな少女達の裸体をいやらしい目で見つめながらも、彼女達を起こすためにコンソールを操作し、最終安全装置を解除。
その時、鉄を叩きつけるような爆音が男の後ろから鳴り響く、先ずは一回、そして二回目と同時に強化扉が粉々に吹き飛んだ。
男は飛び散る破片から身を守るために頭を抱えて蹲る。そして破片が飛ばなくなった事を確認するため、ゆっくりと顔をあげる、
此処に保管されてる『者達』は特別であるため、周囲の壁や入り口には特殊な合金を使用している、だが入り口は粉々に吹き飛び跡形も無い。
そして其処からゆっくりと、この研究所を地獄に変えた悪魔、サタンガンダムとマリアージュがその姿を現した。
だがその悪魔達の姿を見ても、男は逃げる事もせず命乞いもしない、だた余裕のある笑みを浮かべていた。
「やぁ、何処の誰だかは知らないが好き勝手やってくれたね・・・でもこれまでだ」
男の後ろでは着々と目覚めの作業が行われていた、体に刺さっていたチューブが抜け、培養液がすべて排出される、
そして彼女達を囲っていたカプセルの蓋が重い音を立て開かれた。

788高天 ◆7wkkytADNk:2010/06/20(日) 22:31:36 ID:r48Wgjd.
「・・・?この男、裸体の小娘で何をする気だ?」
「いえ、主サタンガンダム、彼女達はただの少女ではありません。此処のデータバンクをハッキングした時に情報を得ました。、
あれはマテリアル・・・・闇の書の残滓が生み出した構成素体です」
「闇の書・・・だと、だがあれはカスが・・・・ナイトガンダムが滅した筈だ」
「過去の記録からでは誰が倒したのか詳しい情報はありませんでしたが10年前、リンディ・ハラオウン提督の指揮の下、
第97管理外世界での闘いにおいて消滅したのは確かです。ですが主や守護騎士、管制人格は残っており、現在では管理局に所属しています。
彼女達は闇の書消滅から数ヵ月後に同じく第97管理外世界で起った事件で確認されています。ですがその事件も同じくリンディ・ハラオウン提督の指揮の下解決、
彼女達も消滅した筈です」
「律義に説明ありがとうお嬢さん、彼女の言う通り、この娘達は闇の書の残滓が生み出した構成素体さ。また彼女達を作るのは大変だったよ
リンディ・ハラオウン達が残滓を律義に、徹底的に消滅させたからね。それでもほんの僅かに残った残滓や闇の欠片使って生き返らせたってわけさ。
でも成長スピードが人間と変らなくてね、ようやく元の姿に戻ったというわけさ」
「ふっ、それでこいつらを手懐けて戦力とし、後々は闇の書の様な物を作り出そうというわけか」
「話しがわかるねぇ〜、その通りさ。これほどの兵器をみすみす消滅させるなんてナンセンスさ。
本当なら主である八神はやての力を借りたかったのだけれども、話しを切り出した途端、顔面ストレートをお見舞いされたよ。
その上、前いた研究所も摘発されて・・・なぜわかんないんだろうね〜」
本当にはやての気持ちを分からないのだろう、腕を組んで考え始めた男にサタンガンダムはゆっくりと杖の切っ先を向ける、戯言は終わりといわんばかり。
明らかに自分を殺そうとしているサタンガンダムに、男は慌てて後ろに下がり近くにいた栗色のショートヘアーの少女を盾にした。
「待ちたまえ、君達の相手はこの子達がするさぁ。お前達、あの(出来ません・・・」
命令を出す前にきっぱりと少女に断れた男は唖然とするもそれも一瞬、直ぐに怒りに満ちた表情で少女をにらみ付けた。
男にとっては作った物は製作者に絶対服従、逆らう事などありえない、だが目の前の作り物は自分に逆らった・・・お仕置きが必要だ
「今の私・・いえ、雷刃と王のリンカーコアがまだ安定していません、そしてデバイスもバリアジャケットも無いのでは戦えな・・・・(ウルセェ!!」
栗色の髪を乱暴に掴み、地面に叩きつける。そして加減などを一切せずに少女の体を蹴りだした。
その光景を見ていた二人の少女は男に向かって罵声を浴びせる、本当なら掴みかかりたいが目覚めたばかりの体では満足に動く事も出来なかった。
「お前らは俺の命令をきいていればいんだよ!!盾になればいいんだよ、奴隷になっていればい(パンッ!!」
何かが弾ける音が木霊した・・・・その音と共に男の暴挙は止まる。
痛みに顔を顰めながらも、少女『星光の殲滅者』は恐る恐る男を見る、そして直ぐに短い叫びをあげた。
そんな彼女の叫びに驚いたかの様に、首から上が無くなった男はゆっくりと、冷たい床の上に倒れた。

「・・・・・マリアージュ、生き残りは?」
「お待ちを・・・もう存在しません、残るは実験体とこのマテリアル達だけです」
自分達の事を言われたマテリアル達は、それぞれが違った表情をしていた。
「こ・・・こわくないぞ!」と強気を装いながらも、サタンガンダムの圧倒的な力と恐怖の前にただ震える事しか出来ない『雷刃の襲撃者』
恐怖など一切見せず、ただサタンガンダムを無言で睨みつける『闇統べる王』
そして痛む体を起こし、既に全てを諦めた表情で現実を受け入れようとしている『星光の殲滅者』
そんな彼女達の表情を品定めをするかのようにサタンガンダムは見つめる。

789高天 ◆7wkkytADNk:2010/06/20(日) 22:32:26 ID:r48Wgjd.
そして3人は無論、マリアージュでさえ予想しなかった言葉を口にした。
「貴様ら、生きたいか?」
その問いに3人の少女は唖然とした表情をする、サタンガンダム以外の誰もがこの後殺されるかと思っていたからだ。
雷刃と星光は互いを見つめ、どう答えるべきがと考える。その時
「ふざけるなよ・・・下郎!!」
王の明らかな怒りと殺意が篭った声が響き分かった。
だがサタンガンダムは特に怒りもせず、手を出そうともしない、ただ彼女の返答に興味が出てきた。
「我らを駒にするか・・・奴隷にするか・・・舐めるな!!我らは束縛などされぬ!!気に食わ無いのであれば殺せばいい!!
洗脳するのであれば舌を噛み切って自決する!!だがいいか、殺す前に憶えておけ!!我が名は闇統べる王!貴様に服従しなかった王だとな!!」
「・・・・・確かに王の言う通りですね、今の私達では貴方には勝てないので脱出は不可能、ですが慰み者になる気もありません・・・どうぞ殺してください」
「う・・・王も星光も・・・ああああもう!!殺さば殺せぇ!!!僕もいいなりにならないぞぉおおお!!!」
3人とも覚悟を決めた表情、これでは仮に脅しても命乞いなどせずに死を受け入れるであろう。
その覚悟、そしてプライド、サタンガンダムは心からこの3人が気に入った。
「勘違いをするな、我は貴様らを奴隷にも駒にもせん、無論慰み者にもだ・・・ガキには興味はないからな、ただ貴様は目的があるのだろう?
マリアージュから聞いたが、闇の書の残滓の意思を継いでいる以上、『砕け得ぬ闇』の復活が貴様らの目的の筈だ、そのために我を利用すればいい?」
「貴方を・・・利用ですか?」
「我も従わない者を部下にする気など無い、だが貴様らの力は消すには欲しい・・・だからこそ、我は必要な時に貴様らを駒として使う、
貴様らも我が必要な時に我を使えばいい」
その提案に雷刃はどうしていいものか分からず、、慌てながら二人の仲間に助けを求める、だが星光も王も彼女の助けを無視し考え込んでいた。
『がーん』と言いたげな表情で二人に「無視するな〜」「僕も考えるから混ぜろ〜」と騒ぐがやはり無視、だが雷刃は諦めずに騒ぐが
「静かにしろ」
というサタンガンダムのドスの聞いた声により、一瞬で静まり返った。
「・・・・・わかりました、私達の目的の為、その提案を受け入れたいと思います」
「まぁ、何時裏切るか分からんからな、精々寝首をかかれないように注意するといい」
考える必要など初めから無かったのかも知れない。この気を逃せば自分達は殺されるだろう、
あの悪魔も従わない相手をみすみす見逃すとは思えないからだ。
しかし、王のあの態度に発言、星光は正直どうにかして欲しいと思った。自分達ならまだしも目の前の様な相手にそのような態度では
殺されても文句はいえない、王の性格上仕方が無いのだが、そこは気を利かせて欲しい所だ。
「我の寝首をかくか・・・ふふっ・・・はっはははははは!!面白い!!楽しみにしていよう・・・いくぞ」
だが彼女の心配とは裏腹に、サタンガンダムはその態度を気に入っていた。
媚び諂わず、力の差があると分かりながらも、己が態度を崩さないプライドの高さ、そして誇り・・・実に面白い奴だと彼に思わせた。

勝手に結論がでた事、そして自分を徹底的に無視した事に、雷刃は不満を遠慮なくぶちまけるが、全員が無視しその場を去ろうとする。
だが目覚めて間もない体は未だ自由に動いてはくれない、それ所か星光に関しては男に痛めつけられたダメージも加わり苦痛が体を支配していた。
そんな彼女達の姿にサタンガンダムは一度舌打ちをし杖を掲げる、そして回復魔法『ミディアム』と唱え、彼女達の体のコンディション、そしてダメージを回復させた。
「あとは貴様らの服と杖か」
「それならこの施設の中にあると思います、私達を復活させ、使おうとしていたのですから造られている筈です。
それと・・・ありがとうございます、回復をしていただいて。とても楽になりました」
「足手まといでは困るからだ・・・行くぞ」

790高天 ◆7wkkytADNk:2010/06/20(日) 22:33:20 ID:r48Wgjd.
デバイスや衣類、その他に使えそうな機械類や金品を回収したサタンガンダム達は研究所を後にする。
そして、マリアージュは早速次の研究所に行くために次元転送を行おうとするが、その行為ををサタンガンダムは止める様に命令した。
「当面はやる事が出来た、暫くは適当な無人世界に駐留する。マリアージュ、お前も『製作』は我の用事が終るまで控えろ、それ以外の自由行動は許す」
「了解しました、主サタンガンダム・・・・・・・主は何を?」
「何、こいつらに戦い方を教えるだけだ・・・・資質はすばらしいが経験は浅いと見える・・・貴様らにとってもいい提案だと思うが?」
その提案のは正直嬉しいと星光は想った。確かに自分たちには力がある、だが経験が圧倒的に不足していた。
十年前の闘いもそれが勝敗を分けたのだと想っている。力があっても、その使い方が『頭にある』だけではどうしようもない。
あのサタンガンダムという魔道師に鍛えてもらえば、自分たちは更に強くなる。
さっそくお願いしようしたが、それより早く、王がサタンガンダムへと近付き、彼をにらみ付けた。
「ふっ、よかろう、貴様の技術、ありがたくもらってやる。まぁ期待などしてはいないがな、精々事故でくたばらん事を心配していろ」
「我も貴様らがついて来られるとは期待しておらん、まぁ死なぬ程度に加減はしてやる。精々地べたを這いずり回り反吐を吐きながらもついて来る事だな」
互いに一歩も引かない罵りあいに雷刃は
「あ〜・・・・僕は控えめがいいな〜・・・でも技名を考える事なら自身があるよ!!」
と張り切り、星光は溜息をついた後
「似たもの同士ですね」
と小さく呟いた。

後にマテリアルの少女達は再びなのは達と合間見えることになる、それ程時を得ずに。


新暦71年 4月29日ミッドチルダ臨海第八空港


その爆発は何の前触れも無く訪れた。火は瞬く間に燃え広がり、
つい先ほどまで賑わいを見せていた空港内部は悲鳴と怒号、子供の泣き声に支配された阿鼻叫喚地獄へと変化する。
だが幸い爆心地が無人で管理していた物置だった事、そして避難誘導を行った係員が優秀だった事もあり、
空港内にいた客の『殆ど』の避難はスムーズに完了した、だが炎に包まれた空港内には未だ取り残された客数十名が残されていた。
災害担当局員は火災の沈下、そして客の救出に戦力を注ぐが規模が大きいため対応しきれず
近隣の陸士部隊や航空隊にも緊急招集を掛け対応に全力で当るが、それでも炎の勢いは留まる事を知らず、救助活動も満足に行うことが出来なかった。

「・・・・うぅ・・・・・・おとうさん・・・おかあさん・・・おねえちゃん・・・・」
激しい炎に包まれた建物の中、一人の少女がさ迷っていた。
此処に来た時は初めてということもあり、物珍しい物や沢山のお店があったため、好奇心に負け自分勝手に行動し、一緒に来ていた姉とはぐれてしまった。
それでも周りを探検しながら探そうと思い、「はぐれたら係員にいいなさい」という姉の忠告を無視して少女『スバル・ナカジマ』は探検を楽しんでいた。
そんな時に起こった大爆発と火災、彼方此方から聞こえる怒号と悲鳴にスバルは何もする事が出来なかった。
我先に逃げる大人に突き飛ばされ、爆発が起こるたびに恐怖から耳を目を塞ぐ、それでもどうにか見覚えのある出口に辿り着きはしたものの、
運命の悪戯なのか、スバルの前にいた人が通った瞬間その出口は天上から崩れ落ちた瓦礫によってふさがれてしまった。

行き場をなくしてしまったスバルは、初めて感じる絶望という感覚に襲われ心が砕けそうになる。
だがそれでも再び家族に会いたいという感情だけが彼女を突き動かしていた。
涙を流し、家族の名前を呟きながら当ても無くさ迷い歩く、だがそんな彼女を助ける者は此処にはいない。
激しい炎が彼女を取り囲むように燃え盛り、突如起こった爆風がその小さな体を吹き飛ばす。
床に体を打ちつけらた痛みに、とうとうギリギリまで堪えていた心にヒビが入り始める。歩く事をやめ蹲り、ただ家族の名を呼びながら泣く事しか出来なくなった。
「もう・・・いやだ・・・・よ・・・・」
全てを諦め、目の前の現実に身を任せようとしたその時、自分の声ではない誰かの泣き声が聞こえた。
その声にスバルは閉じていた瞳を開き、顔をあげる。気のせいだと思ったが確かに聞こえる・・・・・・子供の泣き声が。

791高天 ◆7wkkytADNk:2010/06/20(日) 22:34:32 ID:r48Wgjd.
その姿は直ぐに見つかった。自分から約100メートルほど離れた所に子供がいる。何故今まで気付かなかったのだろうか、
おそらく自分の事で頭が一杯だったからだろう、そしてあの時全てを諦めたことにより、自分の中に無駄に余裕が出来た結果、目の前の少女を認識できたのだろうと思う。
見た感じ自分より子供だ、先ほどの自分の様に蹲り泣いている。耳を澄ますとお父さんお母さんと呟いているのが聞こえる。
同じ境遇の子が出来たからだろうか、それとも、年上として泣いている子をほって置けないからだろうか、スバルはゆっくりと立ち上がり
袖で涙を乱暴に拭く。そして目の前で泣いている子に声をかけようと一歩歩みだしたその時、爆発音が辺りに響き渡った。
突然の爆音にスバルは瞳と耳を塞ぎ、女の子は叫びながら蹲る。その直後、爆音とは違う音と共に天上が崩れだした。
先ず最初に気付いたのはスバルだった。天上から落ちてくる瓦礫に只呆然とする。だが彼女の場合、そのまま呆然としても被害は一切無い
崩れ落ちる瓦礫が向かう先は蹲る少女なのだから。
「あ・・・・ああ・・・・・」
声をかけようにも先ほどの爆発の恐怖からか口が上手く開かない、仮に『逃げて』と叫んでもあの恐怖に震えた少女が動けるとは思えない。
だからこそ、目の前の少女が助かる事は無い、無残に瓦礫に押しつぶされその生涯を終えるだけだ・・・・・スバルが普通の少女だったなら

もし自分が戦闘機人としての力を使えば、あの少女を助けることが出来る・・・だが怖い、力を使う事が
この力はいつかは人を傷つけてしまうのではないか?大切な者を奪ってしまうのでは無いか?それが怖い。
ならば使わないほうがいい、臆病と弱虫といわれても構わない、自分はおねえちゃんの様に強くはないのだから。

          『・・・確かに、ギンガやスバルは普通の女の子じゃない、それは認めなくちゃいけない事だ。
           だけど、それが原因で他者が不幸になることも、そして君達姉妹が不幸になることは決してない』

突然心に響き渡る声・・・・・その声にスバルはハッとし、諦めかけた現実を打ち消す。
そうだ、あの時お姉ちゃんも今の自分の様に悩み苦しんでいた、自分が普通の人じゃない事に・・・・そんな時あの人は言ってくれた。
優しく暖かな声で自分達の事を受けいれなければいけないと、だがそれに絶望してはいけないと。

      『それでも、君達の事を蔑む人はいるだろう、化物と言う人もいるだろう・・・・・・だけどね、気にする必要は無いんだ。
         君達は特別な力を持ってはいるけど、化物なんかでは決して無い。君達は、優しく、暖かな心を持った女の子だ。
  母であるクイント殿を慕い、皆に笑顔を振りまき、私との別れを惜しんで涙を流してくれる、それらの行為はね、優しく暖かな心を持っていないと出来ない事なんだ』

今なら分かる気がする、自分を化物と思うなと、あの人は言ってくれていたのだ。そして私達姉妹を化物を罵る相手と出会っても決して落ち込んではいけない、
折れてはいけないと言ってくれた・・・・・自分達に強さを与えてくれた。そして

    『いいかい、力というのは、確かに物を壊したり、相手を傷つけたりなどに使われる、だけどね、その力で大切な人を助ける事も出来る。  
                 瓦礫を破壊し道を作ってあげたり、悪人を懲らしめ皆の平和を守ったり。
        スバルやギンガなら、その持っている力を皆の平和と幸せに、そして大切な人を守るために使えると、私は信じている
                    だから恐れないで欲しい、その持つ力に、そして自分自身に』

持つ力を恐れるなと言ってくれた・・・・・そして、その力を私達なら間違った方向へと使う事は無いといってくれた。
今は自分の世界へと帰ってしまった優しい騎士、だが、彼は自分達に大切な事を与えてくれた、持つ力、そして自分達に勇気と自身を。
「ガンダムさん!!力を貸して!!」
瞳を金色に染め、スバルは駆け出す。自身の力を使い少女を助けるために。
力をセーブしていない為、あっという間にスバルは少女の近くへと辿り着く事が出来た。そしてそのまま彼女を抱え、その場を退避すればいいのだが
彼女の持ち前の性格からだろうか、それとも今から行う行動しか頭に無かったのだろうか。
ある程度距離をつめた後、地面を蹴り飛び上がり右手を振り被る、その直後、振り被った右腕が振動を始めた。

792高天 ◆7wkkytADNk:2010/06/20(日) 22:35:15 ID:r48Wgjd.
『振動破砕』スバルが持つ必殺技ともいえる攻撃方法、初めてこの力の存在を知り、面白半分に使った時の恐怖を今でも忘れない、だが、
その力が今は必要だ、目の前の命を助けるために
「おりぁあああああああああああああああああああ!!!!!」
叫びと共に必殺の拳を瓦礫に叩き付けた、瓦礫は粉々なりながら吹き飛び、床や壁に叩きつけるように散らばる。
その破砕行為を自分が行なったかと思うと怖い気持ちになるが、今は少女が無事だったという安心感と
自分が少女を救ったという誇らしさがその気持ちを直ぐに打ち消した。
「ふぅ・・・・もう大丈夫だよ」
危険が去った事を教えようとするが、少女は依然、蹲り怯えていた。
そんな彼女の態度も仕方が無いと思う、自分ももしナイトガンダムと出会っていなかったら彼女の様に恐怖や目の前の現実に怯え、動く事すら出来なかった。
おそらく自分がどんなに励まそうとも、この子は聞いてはくれないだろう、自分自身を保つだけでそんな余裕は無い筈だから。
「・・・・そうだ・・・・」
とにかく今はこの子を安心させたい、その思いが自然とスバルを動かした。
自分が迷子で泣いていたあの時、ナイトガンダムがやってくれた様にスバルは少女の頭を優しく撫でる、優しく何度も。
最初は体を震わせいた少女も、あやされる様に撫でられる安心感からか、徐々に泣き声が小さくなる。そして完全に泣き止んだ後、ゆっくりと顔をあげた。
「もう・・・だいじょうぶだらね、直ぐに助けが来るから・・・・それまで・・・おねえちゃんが一緒にいてあげるから・・・」
自分を励ましてくれるスバルの笑みを見た少女は再び泣き出した、だが今度は恐怖からではなく、安心感から出た涙。
そんな少女をスバルは抱きしめ、落ち着かせるように、ゆっくりと背中を叩く

                             メリッ

何かがひび割れる音を聞いたスバルは一瞬で現実に戻される。そして自然と顔を音がした方向・・・真正面に向ける。その直後、
砕ける音と共に、ロビーのオブジェの一つとして飾ってあった十数メートルはある女神像がゆっくりと落下してきた。
スバルは咄嗟にあの時の瓦礫の様に破壊しようとするが、今になって体に力が殆ど入らないことに気が付いた。

後に分かる事だが、スバルが陥っている症状は自動人形に起こる『機動酔い』と似たような症状だった。
初期のイレインの様にメンテナンスをロクにおこなっていない自動人形に起こる症状なのだが、本来メンテナンスなどをきっちり行っているスバルにこの症状は起きない。
だが、全く使っていたなった振動破砕の動作シークエンスの緊急発動、そして未だ幼く、肉体的に鍛えていない状態で使ったための疲労、
さらに火災が起きてからの孤独感や恐怖感から来る心労、これらが重なった結果、スバルは攻撃も逃げることも出来無くなった。
スバルは残った力を振り絞り、少女を真横に突き飛ばす、突き飛ばされた事、そして地面を転がる痛みに何が起きたのか理解できないだが、
突き飛ばしたスバルを見た瞬間、何故自分を突き飛ばしたのか直ぐに理解できた。

「・・・よかった・・・」
力の加減など出来なかったため、怪我をしたのではないかと不安だったが、自分に向かって何か叫んでいる。
何を叫んでいるが上手く聞き取れない、だが叫ぶほどの元気があるのだ、このまま助けが来るまで頑張ってほしい。
だが自分は此処までだろう、何故だか恐怖も恐れも感じずに、冷静にそれを受け入れる事ができた。
せめて最後に家族に会いたかった、そして初めて自分の力を恐れずに使った事を、ガンダムに教えたかった・・・・自慢したかった。
「お父さん・・・お母さん・・・お姉ちゃん・・・・ガンダムさん・・・・私・・・がんばったよ・・・・」
女神像が崩れ落ちる、そしてその巨体がスバル目掛けて崩れ落ちる・・・・・だが

                       『Restrict Lock』

数本の桃色をしたバインドがその行動を強制的に停止させた。

793高天 ◆7wkkytADNk:2010/06/20(日) 22:37:07 ID:r48Wgjd.
自分目掛けて崩れ落ちる筈だった女神像、それが寸での所で停止している・・・否、バインドで拘束されている
その光景をスバルは只呆然と見つめていた、何が起こったのか中々理解できない・・・その時
「はぁ・・・はぁ・・・よかった・・間に合った・・・・・」
女神像にバインドを施した魔道師が、息を切らしながらも間に合ったことに安堵する。
そしてゆっくりとスバルの元へと下り、助けに来た事を伝えた。
「よくがんばったね・・・えらいよ・・・もう、大丈夫だからね」

         これが、スバル・ナカジマと高町なのはの最初の出会い、そして、スバルが己の力の使い道を決めた時の出来事。


新暦75年6月13日 起動六課部隊寮


「・・・ん・・・」
瞳をゆっくりと開け意識を徐々に覚醒させる。
そして上半身を起こし、意識と体を完全に覚醒させるために体を大きく伸ばした。
「ん〜〜〜〜〜・・・・夢・・・・か・・・・・」
ブラインドの僅かな隙間からはまだ朝日の光が漏れてはいない、まだ夜かと思ったが時計を見ると早朝と言っていい時間だ
何時もより一時間ほど早く起きてしまった事を理解したスバルは、再び寝ようと考えるが直ぐにこの行動を取り消す。
「だめだ・・・絶対遅刻する」
今日の訓練教官はヴィータ副隊長だ、遅刻したら・・・・考えるだけでも恐ろしい。
だがこのままぼーっとしていても時間の無駄、ならば残された手段、自主トレをするのみだ。
「軽くランニングした後、シャワーを浴びで冷えた牛乳でクールダウン・・・よし、決まり!!」
早速着替えるため、下で寝ているティアナを起こさない様に二段ベットの上からゆっくりと下りる。
そして下りた後、着替える前に未だ眠りについているティアナの寝顔を見つめた。
「胸を揉んで起こしたかったんだけどな〜」
セクハラ上等(スバルはスキンシップと考えている)な方法を躊躇無く行動に移そうと思ったが、
起床時間までまだ一時間はある、それなら寝かせてあげるのが優しさというものだ。
あの起こし方はまた今度にしようと諦めたスバルは、素早くランニングウェアに着替え、部屋を後にした。


六課周辺のランニングコースを二週ほど回った後、徐々に走る速度を落としていく。
そして歩みを止めた後、軽くストレッチをして体を念入りにほぐした。
「時間は・・・よし、丁度いいね」
汗を拭きながら時間を確認する、起床時間まで残り約30分、汗を流した後の冷えた牛乳を想像しながら、スバルは寮に向かって歩き出す。
早朝の涼しい風が火照った体を冷やし、心地よい気分にしてくれる。だからだろう、自然と鼻歌を歌ってしまうのも仕方が無い事だ。
「〜♪〜〜♪〜〜〜♪・・・・ん?」
遠くからから聞こえる音に、スバルは鼻歌をやめ立ち止まった。
耳を澄ますと、その音が金属と金属がぶつかる響きに似ていることが分かる。
「確か・・・あの先は芝生があるだけの広場の筈・・・なんだろ?」
こんな早朝に、しかも訓練所でない所から聞こえてくる音に不審感を感じたスバルは、
その音の正体を確かめる為、歩みを帰るべき寮から音が聞こえる広場の方へと変えた。

近付くにつれて音がはっきりと聞こえる、同時に誰かの声も聞こえてくる。
それは掛け声、此処からでもそのはっきりと、そして勇ましい声が聞こえてくる。
そして、目的地に着いたしたスバルが見たのは、剣を振るう二人の騎士の姿だった。
一人はシグナム、何時もの管理局の制服に身を包み、愛刀のレヴァンティンを振るう。
それなりの時間行っていたのだろう、上着は既に脱いでおり、額には汗がにじみ出ていた。
もう一人はバーサルナイトガンダム、常に装着している鎧は着ておらず、赤を主体とした貫頭衣を着ている。
そして、シグナム同様愛剣のバーサルソードを振るい、レヴァンンティンと激しくぶつけ合う。
鎧を着ていないガンダムを始めてみるスバルにとっては、その姿はとても新鮮に映る、だがそれ以上に二人の姿に自然と目をうばわれた。
魔力を一切使用していない、それぞれの獲物だけを使い訓練をしているだけ、だが二人ともとても楽しそうに行っている。
そして訓練ではなく剣舞と思えるほど、動きがとても軽やか、まるで踊りを踊っている様だ。
互いの技量が同じでないと出来ない芸当、それも相手があのシグナム副隊長だ、並みの相手ならすぐに熨されるか、ただのチャンバラで終ってしまうだろう。

794高天 ◆7wkkytADNk:2010/06/20(日) 22:38:01 ID:r48Wgjd.
だからこそ、この剣舞の相手を務めているガンダムがどれほどの実力者なのか、今のスバルには十分に理解する事ができた。
「(そういえば私、ガンダムさんの実力、まだ見たこと無いんだっけ・・・)」

幼い頃の自分なら、今の姿を見て『強くてカッコイイ』という感想しか抱かなかっただろう。
だが今は違う、一人の魔道師としてナイトガンダムの強さに興味がある。
今見ている剣舞は無論、隊長達の話からして彼の強さは部隊長・隊長クラスだ、もし今目の前で行われている剣舞が本気の戦いだったらどうなるのだろうか。

自分は無論、この戦いに興味が沸く人は沢山いるはずだ、そんな自分を含んだ沢山の人の願いが、今日実現される。
今日の正午頃、烈火の騎士シグナムとバーサルナイトガンダムの模擬戦(一部では決闘といわれている)が行なわれる事になっている。
互いが別れの時に交わした約束を果すため行われる真剣勝負、純粋な試合として、そして戦闘における接近戦の見本として、見る価値が十分にある戦いだ。
(一部では賭け試合として裏で色々行われていたらしいが、主犯の某ヘリパイロット共々なのは達の大岡裁きの餌食になった)
ガンダムの戦いが見れらえるのは無論だが、副隊長でもあり、フェイト隊長以上の戦闘力を持つといわれているシグナム副隊長の本気を見ることが出来る事にも興味がある。
まさに始まる前から興味が尽きないこの戦い、数時間後が今から楽しみで仕方が無い。

「ん?スバルじゃないか、どうしたんだい、こんな朝早く?」
声をかけられた瞬間、体を震わせ我に返る、自然と目の前の剣舞に見入っていたのだろう。
同時に体が思った以上に冷えていることにも気が付く、汗を拭かないまま見入っていたのだ、体が冷えても仕方が無い。
「少し早く起きちゃって時間があったからランニング、だけど寮に戻る途中で二人が訓練している所を見つけて、見入っちゃった」
「訓練ではない、軽い撃ち合いだ。だがスバル、見入る程の物でもないだろう」
ガンダムの後ろからシグナムが額の汗を拭きながら近付いてくる、程よい運動をした爽快感に満たされているのだろう、
いつも通りの口調からは機嫌のよさが伺える、表情も笑顔だ。
「そんな事無いですよ!もう録画して訓練用の映像資料にしたい位ですよ!あ〜今から楽しみです今日の試合、ガンダムさん!がんばってね!」
目の前に上司であるシグナムがいるにも拘らず、ガンダムに向かってエールを送るスバル、
それに対しガンダムは笑顔でお礼をいい、シグナムは軽く溜息をついた。
「まったく、少しは上司も応援しろ、まぁ、お前のそんな真っ直ぐな所は好きだがな・・・・」
「えっ・・あ!・・・じゃあ・・・シグナム副隊長も頑張ってください!!」
「・・・いや、もういい・・・」
本気でうな垂れるシグナムをスバルは不思議そうに見つめる。その光景を、ガンダムはただ乾いた笑いで流す事しかできなかった。


時刻は午後12時頃、天候は晴天で雲は一つも無い、市街地からそれなりに離れている為、街などから聞こえる喧騒は聞こえず、
空を飛ぶ鳥の鳴き声、そして湾岸地区であるため、耳を澄ませば波の音もかすかに聞こえてくる。
それらの音に加わる様に聞こえてくる走行音、その音源である一台の車が、起動六課玄関前でゆっくりと止まった。
助手席が開き、中から出てきたのは管理局の制服に身を包んだ美しく、大人びた印象を持っ少女、紫のロングヘアーが風になびく。
街で見かけたら誰もが視線を向けるであろう。
その少女は一度六課を見つめた後、運転席へと顔を向けた。
「ありがとうございました。わざわざ送っていただいて」
「同僚の頼みだ、気にする事は無いさ。さぁ、中で妹さんが待っているんだろ」
「はい、ありがとうございます!!」
運転席にいる自身の上司『ラッド・カルタス』に頭を下げた少女『ギンガ・ナカジマ』は、顔を綻ばせながら駆け足で玄関へと向かった。
「だけど、あのギンガを夢中にするなんて・・・どんな人物なんだろうな、ガンダムという人は」
運転席から遠ざかるギンガの後姿を見つめながら、カルタスはふと呟く。
ギンガはその容姿、人の良さから人気があり、男性隊員からの誘いなどもよく受けることがある。

795高天 ◆7wkkytADNk:2010/06/20(日) 22:38:46 ID:r48Wgjd.
実際、仕事で共に行動をしている時に、自分が隣にいるにも拘らず彼女に声をかけてきた男性隊員はそれなりにいる。
(ちなみにカルタスはギンガを恋愛対象ではなく頼りになる同僚として見ている)
だがその気がないのか、それとも純粋に興味がないのか、彼女がそれらの誘いを受けたことを自分は見たことが無い。
そんな彼女があんな嬉しそうな表情をし、会う事を楽しみにしている人物、相手が彼女の家族ではない以上、興味がないといえば嘘になる。
それとなく車内で聞いては見たが、ガンダムという人は『ずっと帰りを待っていたとても大切な人』らしい。
「まぁ、いきなりだったから半休しか取れなかったが、せめて非情召集が来ないことを祈るよ・・・さて私は仕事だ」
地上本部で行われる会議、それが終っても書類整理などのデスクワークが待っている、自然と溜息が出るのは当然だと思う、だがこれも平和のため、生活のためだ。
『せめて仕事漬けの自分に変り、楽しんできてくれ』と内心でギンガに願ったカルタスは、周囲の安全を確認した後、車を発進させた。


「ギン姉〜」
「スバル〜!ごめん、」
六課内で待ち合わせをしていたスバルと合流したギンガは、挨拶もそこそこに訓練場へと向かう。
ナイトガンダムとシグナムの試合に関してはスバルから既に聞かされていた。本当なら試合が始まる前に到着したかったのだが、
途中渋滞に捕まってしまった結果、開始時刻を過ぎてしまった。
「スバル、試合はどうなってるの?」
「もう、すごいよ!開始早々もう・・・・・とにかく早く早く!!」
手をつかまれ、引っ張られながら試合会場でもある訓練場へと向かう。そして、訓練場についたギンガが見たのは、
「・・・・・すご・・・・い」
まさに激闘だった


「はぁあああああああああ!!」
「おおおおおおおおおおお!!」
互いの剣がぶつかるたびに甲高い音と衝撃が周囲を襲う、時に唾競り合いの力比べ、時に何度も剣をぶつけあう。
どちらも相手に未だ決定打を与えていない、互いの技術、技、技量が自分自身を守っている証拠だ。
共に剣という武器である以上接近戦は必至、だが時には相手の出方を、そして隙を伺うために離れることもある。
だがこの二人にとっては距離を置いても出方や隙を伺うようなことは無い。そのような事、攻撃をしながらでも十分に出来るからだ
「穿空牙!!」
「ムービー・サーベ!!」
鍔競り合いを解き距離を空けると同時に双方が斬撃破を連続して放つ。
互いの斬撃破の威力は略互角、ぶつかると同時に打ち消しあい、飛び散った魔力の塊が周囲の建造物の壁を削る。その結果、
今までの戦闘でダメージを負っていた建造物の幾つかは、けたたましい音をたて倒壊を始めた。
爆煙があたりに立ち込め、互いの姿を隠す、だがそれにも構わずシグナムは直ぐに行動に出た。
「レヴァンティン!」『Schlangeform 』
カートリッジをロードし、レヴァンティンを蛇腹剣であるシュランゲフォルムに変化、そしてそれを
爆煙の中にいるであろうナイトガンダムに向かって振るった。
魔力を纏った一匹の蛇の様に撓りながら、喰らいつく相手に向かって突き進む。途中瓦礫と化し落下するビルの一部が行く手を塞ぐが、
それをまるで砂の塊を崩すかの様に軽々と打ち砕く。
その光景を見るだけで、どんな人物にもナイトガンダムに襲い掛かろうとする必殺技『シュランゲバイセン・アングリフ』の威力が嫌でも理解できる。
不規則な起動は回避を難しくし、防御をしようにもこの技そのもに強力なバリア破壊効果があるため、無意味に等しい。
技の使用中には防御も移動も不可能という致命的とも言える欠点があるが、いざ動けないシグナムに対し接近戦を仕掛けようものなら
瞬く間に空間をのたうつレヴァンティンの餌食となる、逆に長距離砲を放とうものなら、チャージ中は無論、狙おうと動きを止めた瞬間、
同様にレヴァンティンの餌食となる(ちなみになのはは『抜き打ちの砲撃』という傍から見れば卑怯とも言える方法でこの技を破った)
ならば、受ける側となった相手に残された方法は何がるだろうか?

796高天 ◆7wkkytADNk:2010/06/20(日) 22:39:56 ID:r48Wgjd.
バリアやシールドを徹底的に強化し、少しでもバリア破壊の効果に耐え、使い手であるシグナムが疲れるのを待つ。
超スピードで避けきり、一気に懐に潜り込む。(フェイトは主にこの戦法を使っている)
なのはの様な例外を除いて、方法は主にこの2つに限られているが、ナイトガンダムは以前シグナムと戦った時に
『電磁スピアの突きで勢いを一時的に殺し、その隙に絡め取り電流を流す』という器用な方法で打破した事がある。
だが今回はその方法は出来ない、その行動に必要不可欠な電磁ランスは接近戦の時にシグナムに切り払われてしまい、瓦礫の中に埋もれてしまったからだ。
それでも『召喚』などの方法で回収することは出来た、だがナイトガンダムはそれをしなかった。

シグナムとの闘いで分かった事、それは剣とランスの二刀では負けてしまうということだ。
獲物が二つ、しかもそれぞれが別の物である場合、戦闘で使い分けながら戦うのは至難の業、それでもナイトガンダムの技量からすれば問題は無いのだが
今回の相手に関してはそうも言っていられない、接近戦が必須な相手、しかも剣術に関しては互角が自分以上、そんな相手に攻撃を防ぐ盾ならまだしも、
使用も特徴も違う武器を交互に駆使しながら戦うとなると状況は明らかに不利になる。
この経験はスダ・ドアカワールドで行った騎士アレックスと剣士ゼータとの試合で痛いほど実感させられた。
だがらこそ、ナイトガンダムは電磁ランスを弾かれた瞬間、回収することを辞め、バーサルソードのみで戦う事にした。

だがその選択肢は迫り来る脅威を打破する方法を無くしてしまった事になるのだが、攻撃を行なっているシグナムは余裕など一切見せない。
ナイトガンダムにはフェイトの様な速さもなければなのはの様に精密な砲撃が出来るわけではない。
以前防がれた方法も、電磁ランスを失っている今では出来はしないだろう。
普通なら直撃と考えていい・・・だがシグナムはそうは思えなかった。
「何かしてくるだろう」という不安と「ナイトガンダムなら切り抜けてくるだろう」という期待感がこの攻撃の失敗を感じさせる。
そして、その思いは現実の物となった・・・・・・とても簡単な方法で
迫り来る『シュランゲバイセン・アングリフ』、それに対しナイトガンダムは臆する事無く、ゆっくりと剣を両腕で構える・・・・そして
「はぁ!!」
その刃が自身に叩きつけられる瞬間、ナイトガンダムはバーサルソードでレヴァンティンを切り払った。
「なっ!!?」
何となくではあるが期待はしていた、だがその答えが余りにも単純だったため、一瞬唖然としてしまう。
無論『切り払う』という選択肢もあるがこれは一番難しい。不規則な高速移動をするレヴァンティンを捕らえるだけではなく、
切り払える距離まで誘わなければいけない、この時点で並みの使い手は脱落だろう、仮に上手く獲物をレヴァンティンに当てる事ができたとしても、『シュランゲバイセン・アングリフ』
状態のレヴァンティンは魔力で包まれているため、固さそのものも強化されている。切り払おうとした獲物が逆に弾かれる・・・程度ならまだ幸運だ、
最悪その獲物が砕けてしまう事すらある。

だが彼は易々をやり遂げた、そして目標を自分に定めて接近してくる。
唖然としたのも一瞬、直ぐに攻撃を再開する。それ程驚きが少なかったのは、内心で『防がれるかもしれない』と思っていたからだ、
それでも戦闘中唖然としてしまったのは仕方が無い事だと、誰にでもなく言い訳をしたい。

接近してくるガンダムに対し、シュランゲバイセン・アングリフで再度攻撃を再開する、だが
前方、後方、左右、上下、ありとあらゆる方向からの攻撃、しかも何度もフェイントをかけているにも拘らず、その全てが切り払われる。
おそらく僅かな空気の流れ、振動、周囲を未だに漂う微量の砂煙の動きなどから迫り来る方向を感じ取っているのだろう・・・そして
「詰めたぞ!」
何度目かになる攻撃を切り払ったナイトガンダムは、シグナムとの距離を接近戦が出来るほどにまで縮める、
そして素早く振り被り重い一撃を与えるために一気に振り下ろした。
だが、振り下ろした瞬間にナイトガンダムはシグナムの行動に疑問を感じた、彼女はレヴァンティンを戻さずに、左腕の手甲でその斬撃を防いだのだ。
この行動はあの砂漠での戦闘を思いださせる、この直後、自分は彼女の鉄拳を受け吹き飛ばされた。
だがなぜ『防御』という行動、しかも防御魔法も(手甲にフィールドが張ってあるとは言え)レヴァンティンも使わずに手甲を使用したのだろうか?

797高天 ◆7wkkytADNk:2010/06/20(日) 22:40:31 ID:r48Wgjd.
特に手甲にフィールド以外の細工をしてあるわけでもない、現に徐々にひび割れ、更なる力を加えれば手甲を砕き、シグナムに致命的な一撃を与える事が出来る。
それはシグナムも分かっている筈だ、むしろ彼女ほどの騎士が防がれると分かっている攻撃を何度も行うのは可笑しい。
レヴァンティンを戻し、自分の攻撃に対処する行動に出るのが普通だ、だがレヴァンティンは未だシュランゲフォルムのまま・・・・
「!?」
妙な不審感、それは手の隙間から伺えるシグナムの瞳を見た瞬間確信へと変った・・・その直後
シュランゲバイゼン・アングリフはナイトガンダムの背中に直撃、決定打ともいえるダメージを受けることとなった。

『避けられるのなら動きを止めてしまえばいい』
その考えにたどり着いたのはシュランゲバイセン・アングリフが3回切り払われた時だった。
おそらくこのまま何度やってもナイトガンダムに当る可能性は低い、ならば再び剣による斬撃戦に持ち込むしかない。
だが自身の技が破られたのだ、その代価としてせめて一撃は与えてやらなければ気がすまない
「肉を切らせて骨を絶つ・・・・・やってみるか!」

左手の手甲に剣がめり込んでいる、同時に左手に激しい痛みが生じるが、おそらくガンダムのダメージはこれ以上だろう。
現に彼は俯き、手甲にかかる力も徐々に弱くなっていく。
「このまま・・・もう一撃うけてもらう!!」
再びレヴァンティンを操りもう一度シュランゲバイセン・アングリフを放とうとする。だが、手甲から・・・否、
バーサルソードから突如感じる魔力に、先ほどまで感じていた攻撃が直撃した事への嬉しさ、そして満足感が一気に消し飛んだ
目を見開き正面を見据える。その瞬間、まるでタイミングを見計らったかの様にナイトガンダムがゆっくりと顔をあげた
「肉を切らせて骨を絶つ・・・・・・流石だ、烈火の将・・・・・ならば、私もそれに習おう!!」
「くっ!?レヴァンティ(ムービー・サーベ!!」
レヴァンティンを振るうより早くナイトガンダムはバーサルソードに魔力を込める、周囲を漂い獲物であるガンダムを狙おうとするレヴァンティンに対し、
バーサルソードはシグナムの手甲にめり込んでいる、まさにゼロ距離、どちらが早いかは一目瞭然。
「零距離斬撃!!」
そのままナイトガンダムは斬撃魔法「ムービー・サーベ」を発動、同時に力任せに剣を振り下ろした。
ムービー・サーベの魔力刃に押し付けれるようにシグナムは落下、途中高層ビルを貫通しながら地面に叩きつけられた。
無茶な事をしたものだと反省する、だが自分と同じくらいのダメージは与えられた、先ずは良しとしよう。
「はぁ・・・・・はぁ・・・・このままで終るとは思えないが・・・・・」
シグナムが落下した方向へと首を向けようとするが、背中に感じる痛みに顔を顰めてしまう。
だが落下地点から突如発生した強大な魔力が、ナイトガンダムから無理矢理痛みを引かせた。
「はやりな・・・・ならば、答えるだけだ!」
爆煙が一気に晴れる、其処には左腕の手甲は無論、バリアジャケットも彼方此方が破けており、男性から見れば目の保養になる事間違いないしの格好をした
シグナムが、鞘に入れたレヴァンティンを高々に構えていた。
その構え、彼女が何をするのは直ぐにわかった。だからこそ、此処から接近戦を仕掛けるなど自殺行為、あの時の様に自分も大技で対応する他道は無い。
剣を逆手に持ち、ゆっくりと目を閉じる。呟くように詠唱を開始すると同時に剣に魔力が集まり、白く輝きだした。
あの時とは違い、威力も射程も上がっている、だがそれは向こうも同じだろう。
威力に大差があるとは思えない、シグナムも今から放つ技で決着がつくとは思っていないだろう。
おそらくこの技を放った後、再び斬撃戦が始まるに違いない。だからこそ、これはある意味では闘いの合図の様な物だ。
そして、まるで打ち合わせをしたかの様に、二人の騎士は同時に再会のゴングともなる大技を放った。
「飛竜一閃!!」
「メガ・サーベ!!」

798高天 ◆7wkkytADNk:2010/06/20(日) 22:41:10 ID:r48Wgjd.
「あ〜・・・・訓練所もつか?」
「ははは・・・どうだろ?あっスバルにギンガ、こっちこっち!!」
その声にスバルとギンガはハッとし、入り口で自分たちが見入っていた事に気が付いた。
見学スペースについた途端、目に入った二人の空中戦、まるで催眠術に掛かったかの様に見入ってしまった。
おそらくなのはが声をかけてくれなければ試合が終るまでそのままだったかもしれない
「あっ・・し、失礼しました!高町なのは一等空尉、ヴィータ三等空尉、ギンガ・ナカジマただ今到着いたしました!!」
「おう、ってお前今は半休扱いだろ?堅っ苦しい挨拶は無しだ無し、今はバトルマニアと勇者の試合を観戦しようぜ」
その言葉に素直に甘える事にしたギンガは、近くにいたティアナ達に軽く挨拶をした後、スバルの隣に座り観戦を再開した。
二人が大技を放った後、再び再開された斬撃戦、互いに一歩も引かないこの攻防は嫌でもシグナムの本気の強さ、そしてナイトガンダムの強さを思い晒される。
おそらく此処に自分が介入しても直ぐにあしらわれてしまうだろう、この闘いを見れば嫌でも結論が出る。
「シグナム副隊長の本気もすごいけど、それに真っ向から戦えるガンダムさん・・・・・やっぱりすごいなぁ〜」
「ああ、まったくだ。シグナムもうれしいだろうな、こうも互角の戦いが出来て、あいつに付き合える奴なんか今の所いないからな〜」
その何気ない言葉にギンガとフォワード組が食いついた。皆何か言い足そうな表情でなのは達を見る。
だが我慢できなかったのだろう、エリオが皆を代表するかのように疑問を口にした。
「あの・・・シグナム副隊長と渡りあえる人って・・・・・・此処にはそれなりにいると思いますよ?八神部隊長や隊長・副隊長の皆さんとか」
「あ〜、言葉が足んなかったな、そういう意味じゃねぇんだ、シグナムと接近戦が出来る奴が今の所いないって事だ」
その言葉に納得したのはギンガだけだった。自然と手を叩き理解をしたことを示す。だがフォワード組は未だ難しい顔をし答えを手探りで探していた。
そんな必至な生徒達を可愛いと思いながらも、なのははアイコンタクトでヴィータに許可を得た後、説明を始めた。
「そうだね・・・例えばエリオとキャロ、今『此処』で二人が戦った場合、どちらが勝つかな?」
突然質問されたエリオとキャロは互いを見据えながら考える・・・・答えは思ったより早く出た。
「・・・・・僕だと思います」
「それは何故かな?」
「僕は機動力生かした突撃型、スバルさんと同じ接近戦主体です。ですかキャロは補助系魔法が主体です、勿論召喚術やフリードによる攻撃など出来ますが
それは相手との距離が離れていて、詠唱時間が十分確保できるからこそ、もしくは誰かの援護があるからこそ出来る事だからです。
もし逆に距離が離れている場合でしたら僕の負けは確実だと思います。
キャロに近付く前にフリードや召喚魔法の攻撃でやられてしまいます、今の僕にはそれらを捌ききる能力はありませんから」
「うん、正解。よくできました」
なのはは褒めながらエリオの頭に手を載せ、優しく撫でる。
そのなのはの行為にエリオは恥ずかしさで一杯になるが、俯きながらもその行為に身を任せていた。
「まぁエリオの言うとおり、アタシらもタイマンでシグナムとはガチで戦える。だけどもし接近戦限定の場合、優位に立てる奴は
今戦っているガンダムが万能タイプのリインフォース・・・・あとギリギリでテスタロッサ位だろうな」
「ですがヴィータ副隊長?副隊長も接近戦主体ですよね?ならガンダムさんの様にいい勝負になる気がすると思いますが?」
ヴィータのデバイス『グラーフアイゼン』を想像しながらティアナは早速疑問をぶつける。
あのハンマーを模したデバイスなら接近戦でも無類の強さを発揮する筈だ。むしろ逆にそのパワーで吹き飛ばすことも出来るのではないか?
だがティアナの考えに反して、ヴィータは直ぐに首を横に振る。
「いんや、無理だな。元々アタシはデカイ奴や固い奴担当だ。人型の相手より、フリードとかの大物相手や固い外装を持った相手の方が相性がいい。無論出来なくはないが
アタシはパワーで押し切るタイプだからな、並みの相手ならまだしもシグナムやガンダムクラスの相手じゃ分が悪いな、軽く受け流されて痛い目を見るだけだ」
「えっ、それじゃあヴィータ副隊長はシグナム副隊長やガンダムさんに勝てないんですか?」

799高天 ◆7wkkytADNk:2010/06/20(日) 22:41:42 ID:r48Wgjd.
「違うわよ、スバル。それは接近戦限定の場合だけよ。闘いの場合、訓練でもない限りわざわざ相手に有利なリーチで攻撃を仕掛けることはしないわ。
さっきなのはさんがエリオ君に質問した内容と同じよ。スバルだってティアナさんと戦う場合、わざわざ距離を置いて戦ったりしないでしょ?」
「あ〜・・・うん。距離を置いたらティアナの射撃でボコボコされる・・・・あっ!そう言う事か!!」
ようやくヴィータの言いたかった事を理解したスバルはギンガの時の様に手を叩き、嬉しそうに理解できたことへの喜びを表した。
「皆それぞれ戦い方を持っている。強さは勿論だけど、先ずは自分の戦い方を生かすことが必要だね。ヴィータちゃんがシグナムさんと戦う場合は」
「かく乱した後に重い一撃、これに尽きるな。はのはの場合はどうにかして距離を取るか動きを封じて砲撃で仕留める、あの戦術披露会はある意味じゃ壮絶な追いかけっこだったな。
距離を取ろうとするなのはに対して、喰らいつこうとするシグナム・・・ってなのは、お前途中でバリバリ接近戦やってなかったか?」
「非常手段だよ、うちの剣術を少しね」
「あれが非常手段かよ・・・・・『神速』だっけか?あれはもう・・・・・」
突然消えたと思ったら真後ろにいたのだ、一番驚いたのはシグナムだったに違いない、だがそのトンデモな技に直ぐに対応したシグナムも十分トンデモないと思う。
「テスタロッサはなのはに似た攻撃スタイルだな、違う所といえばなのはの『防ぐ』に対してテスタロッサは『避ける』だな」
「あとフェイトちゃんは持ち前のスピードによる『ヒット・アンド・アウェイ』がメインの戦い方だね、バルディッシュ・ザンバーによる斬撃戦もするけど
それがメインじゃないね、現にシグナムさんと模擬戦をする時は接近戦には縛られない様に注意してるね」
「シャマルとザフィーラは戦闘というよりキャロと同じサポート的な役割が多いな、そんではやては広域が専門だ。
一対一でも十分強いが、本当に力が発揮されるのは多数の敵を相手にした時だな。そんでリインフォースはそれらのいいと取りな感じだ、
だけどどれかが抜きに出て強いってわけじゃないからぶっちゃけ誰とでもいい勝負止まりだな・・・まぁそれでも無茶苦茶強いがな」

なのはとヴィータの説明に全員が耳を傾ける。そしてティアナは心の中で感じていた間違いに気付かされた。
確かになのはたちは強い、だが完璧な強さではないのだ。己が特徴を最大限に生かすことでこそ、その強さを発揮できる。
彼女達は強く、魔力が高いだけではない、戦い方を熟知しているのだ。どんな不利な状況、そしてどんな強い敵に対しても戦えるスキルを彼女達は身に着けている。
「(・・・そうか、だからなのはさん達は私達の訓練の時に長所を重点的に)」
今までなのは達の訓練に多少なりと疑問を抱いていたティアナは同時に自分が抱いていた疑問も解決した。
なのは達が自分たちの長所を伸ばす訓練を重点的に行っているのもそのためだろう、先ほどの話の様に勝利確率を高くするためだ。
無論、短所の強化も必要不可欠だ、だが今の自分たちではエリオの言った様に短所に対する対応は難しい・・・否、対応する以前にやられる可能性もある。
「(・・・そうか、そのためのチームでの戦闘!)」
今の自分達『単体』では精々ガジェットの相手が関の山だろう。もしそれ以上の相手が出てきた場合、勝利所か自分の戦闘スタイルに持って行く事すら出来ないかもしれない
だが皆とならそれも可能だ。それぞれ得意とする戦闘スタイルは違う、だからこそ、それぞれが短所を補い、長所を生かすことが出来る。
時々行われてるチーム戦もそれを想定しての事だったのだろう。
対戦する相手がそれぞれ違っていたのは自分達個人の長所や短所を分からせ、素早く的確に行動させるため、
そうする事で自分たちはより強い敵に有利に戦うことが出来る。そして生き残る事、勝利を得られる可能性を高く出来る。
ようやく訓練の意味を理解出来た自分に嫌気が差してくる。多分エリオは質問の回答からして訓練の意味を理解していたに違いない。
否、おそらく自分も変な理屈や不審感を抱かなければ当の昔に気付いていただろう。余裕の無さ、素直じゃない自分に溜息が出てきた。
「ん?とうしたのティア?」
「・・・なんでもないわ、ただアンタの素直さを少しは見習わないといけないって思っただけよ・・・・・・あっ!?」
ティアナの発言に疑問が残るが、普段は聞かない彼女の驚きの声の前にはそんな疑問も直ぐに忘れてしまう。

800高天 ◆7wkkytADNk:2010/06/20(日) 22:43:09 ID:r48Wgjd.
どうしたの?と聞こうとしようとしたが、ティアナは無論、此処にいる全員が同じ方向へと顔を向けていた。
当然スバルもまた、皆の真似をするかのように首を向ける。
其処でスバルが見たのは、斬撃戦を終え再び離れた二人、その姿を確認した直後、今まで感じたことが無い強大な魔力が二人の騎士から発せられた。


「ふふっ・・・・楽しいなレヴァンティン」『Ja』
「こうも長く、真剣に剣を交わった事など・・・・無いな、初めてだ」『Ich merke mich damit es auch』
「出来ればまだ戦っていたい・・・ふっ、ヴィータが私に名付けたバトルマニアという称号、ぴったりかもしれん」『Es ist bestimmt Eignung』
「まったく傷つくな、もう磨いてやらんぞ」『Entschuldige mich』
自身のデバイスとの会話を楽しみながらも、距離にして数十メートル先にいるガンダムの姿には目を放さない。
この距離ならムービー・サーベなどの魔法も届く筈、牽制目的で撃っても可笑しくは無い、だが彼はそれをせずにジッと此方の様子を伺っている。
いや、恐らく体力と魔力の残量からして軽々しく撃てないのだろう、もしかしたらこれ以上の斬撃戦すら難しいのかもしれない。
だがそれは自分も同じだ、ダメージの蓄積、残りの体力に魔力量、そしてカートリッジの残り、もう長期戦は出来ない。
そうなると方法は一つだけ、恐らくナイトガンダムもおなじ結論に辿り着いている筈だ。
そう考えた瞬間、ナイトガンダムから突如膨大な魔力が噴出した、残りを一切気にせずに放出した魔力を、召喚魔法で呼び戻した電磁ランスに纏わせる。
「召喚で落とした武器を呼び戻したか・・・便利な事だな。その上お前のその行動・・・やはり私と同じか」

ナイトガンダムもシグナムと行き着く先は同じだった。これ以上の戦闘継続は難しい、早々に決着をつける必要がある。
ならば手段は一つ、残りの力を振り絞り、大技で一気に決着をつける事だ。
早速魔力を放出すると同時に召喚術で電磁ランスを呼び戻し、即座に残った魔力を纏わせる・・・・だがその直後、シグナムも行動に出た。
レヴァンティンとその鞘をぶつける様に繋げると同時にカートリッジロード、一つの弓に変換させる。そして矢を出現さ番え、ゆっくりと魔力で出来た弦を引く
「あれはシュツルムファルケンの構え・・・・・・彼女も勝負に出たか」

双方にとって今から放つ技は最大の威力を持つと同時に、最後の攻撃となる。
小細工など一切無い残りの力を振り絞った一撃、どちらに勝利の女神が降りても不思議ではない。
むしろ両者とも、初めから勝利や敗北などという考えは持っていなかった。
自身の実力を試したい、そして好敵手に見せてやりたい、ただそれだけだ。そしてこの技が好敵手に己の強さの見せる最後の演目となる。
どちらからの攻撃が勝れば、負けたほうは昏倒するだろう、仮に勝った方も全てを使い切るのだ、立っている事すら難しいかもしれない。
だが勝っても負けても双方に残るのは『全力を出した』という満足感だろう、だから後悔は無い、全力を持って放つことが出来る。
双方の魔力も極限にまで高まる、荒れ狂う魔力風を電磁ランスに纏わせ、切っ先をシグナムに向け、ゆっくりと引く
シグナムもまたギリギリまで弦を引き、矢に魔力を纏わせ、照準をガンダムへと向ける・・・・そして
「翔けよ、隼!!!」『Sturmfalken』
「トルネェエエエエエドスパアアアアアアアアアアアク!!!」
最大限まで集積した魔力を保持し飛翔する矢、そして雷光を纏った強大な竜巻
互いの必殺技が空を駆け、そしてぶつかり合う・・・・・その直後

                   「駄目!限界!!」

けたたましい警報音と共に、訓練場は大爆発を起こした。


「・・・・まさかな、私達より先にこの場が根を上げるとは・・・・」
「す・・すまない、この場を壊してしまった」
「気にするな、誰も予想していない事だし私にも非がる・・・・・むしろ訓練に耐えられない訓練場など聞いた事が無い、
シャマルが補助として結界を張っていなかったらもっと早く壊れていただろう・・・・・だが、楽しかったな」
「ああ、全力を出したよ、もうマトモに動けない・・・もし勝ち負けを決めるのなら、今動ける方が勝ちかな?ちなみに私は当分は起き上がれないな」
「ならば引き分けだろう、私も動けん。これは間違いなくシャマルの世話になるだろうな・・・・だが本当に満ちたりた闘いだった、正直このまま眠りたい気分だ」
「同感だよ、今の疲れた体にはそよ風が心地いい、それに空がこんなにも綺麗なんだ、眠りたいと思うのは誰でも同じさ」

801高天 ◆7wkkytADNk:2010/06/20(日) 22:44:17 ID:r48Wgjd.
二人は仰向けの状態で空を見ながら会話をしていた。
双方とも誰が見てもボロボロで地面に大の字で寝転がっている。だがその表情は苦しみや悔しさは感じられない。
何かを成し遂げた満足感・・・否、思いっきり遊び、満足した子供の様な笑顔だった。
二人とも、雲が漂う空を見ながら、会話などで時を費やす。
そして会話も切れ、ただ疲れを癒すだけの二人に、徐々に睡魔が忍び寄ってきた。
「・・・・・ガンダム・・・一つ・・・提案があるのだが・・・」
「『先に眠った方が負け』かい?・・・・はは、自身が・・・・無い・・・・な・・・」
「私もだ・・・いかん・・・な・・・もしか・・・した・・・ら・・・先ほどの・・・戦い・・・よ・・り・・・そう・・ぜ・・・・つ・・・」
「こ・・・の状・・況・・で・・・眠る・・・な・・・と言う・・・・方が・・・・こ・・・くな・・・・・」
会話が途切れ途切れになり、徐々に声も聞こえなくなる。
心配したなのは達が駆けつけた時には、二人は見事に睡魔に敗北し、寝息を立てていた。


「なのはさんからの報告です、二人とも疲れて眠ってしまった様です。大きな怪我は無いようですが一応医務室に運ぶそうです」
「了解や。シャマル、一応メディカルチェック、御願いな」
『わかりまして、でもごめんなさい、結界だめでした』
「そんなことない、シャマルの結界やからあの程度ですんだんや。でもこれは訓練所の強化が必須やな・・・こなんじゃうちらも本気で訓練できへん」
『ははは・・・・・私も自分を鍛えないといけませんね、結界の質をあげないと、では、今から医務室ヘ向かいます』
通信を切り、軽く息を吐いた後、はやてはゆっくりと背もたれにもたれた。
二人の戦いをこの場で見ていたが、正直興奮しっぱなしだった。この興奮はなのはとシグナムの戦術披露会以来だろう。
純粋な騎士同士の決闘、シャーリーやアルト、ルキノは無論、生真面目で礼儀正しいグリフィスでさえ声を出し観戦していたのだ
興奮しなかった者、楽しめなかった者などいなかっただろう。
「シャーリー、この試合の録画パッチリやろな〜」
「もう万全ですよ!ですけど本当に凄い試合でした!楽しめるだけでなく訓練用の教材にもばっちりですよ!!」
「それにガンダムさん、本当に見かけで判断していた自分が馬鹿でした、あのリミッターを解除したシグナムさんと互角に戦えるなんて、ルキノさんもそう思うでしょ?」
「ええ、シグナム副隊長相手に一歩も引かない闘いだった。純粋な戦闘ランクならガンダムさんはSクラスは固いですね」
「せやから言ったろ皆、ガンダムさんはむっちゃすごいんやって」
信頼している相手が褒めれるのはとても気分がいいものだ、ついニヤニヤしながらもシャーリーが流してる記録映像に目をやる。
「あ〜・・・接近戦やったら私瞬殺かもしれへんな・・・・で、シグナムのライバルその2のフェイトさん、感想はいかがでしょうか?」
急にレポーターの様な態度で隣で試合を観戦していたフェイトに質問をぶつける。
突然質問を投げかけられたフェイトは、驚きながらも、素直に自分の感想を述べた。
「うん、本当につよいよ・・・・仮に戦う場合ならシグナムと戦う時の様な戦法で行かないと危ないね。見た感じ最大リーチが中距離に絞られてるし
長距離攻撃は少ない、尚且つ発動に時間がかかるだろうから、長距離砲撃による牽制、其処から攻めるかな。スピードによるかく乱も考えたけど
『シュランゲバイセン・アングリフ』を見事に切り払った胴体視力に反射神経の良さ、スピードに自信が無いわけじゃないけど捕らえられる可能性があるかもしれない。
兎に角、長時間の接近戦は絶対避けるね」
はやての質問に即答している事から、おそらく試合を見ながらも頭の中で『自分ならどう戦うだろうか』と考えていたのだろう。
むしろ握りこぶしを作りながら説明している時点で、直ぐにでも試合を申し込みに行きそうな感じがする。
「あ〜フェイトちゃん、今のフェイトちゃん「次の相手は私だ!!」って言いたげな表情やよ。止めはせんけどすこ〜し間を空けような」
おそらく・・・否、完璧に図星だったのだろう、言葉を詰まらせると同時に顔が一気に赤くなる。
そんな素直すぎる親友を可愛いと思いながらも、はやては次に隣で同じく観戦をしていたリインフォースに質問を投げかけた。

802高天 ◆7wkkytADNk:2010/06/20(日) 22:44:52 ID:r48Wgjd.
「ではでは、最近行われた戦術披露会でシグナムを負かしたリインフォースさん、貴方はどちらを応援していましたかぁ〜」
フェイトと同じ質問をされると思っていたリインフォースからしてみれば、この以外は質問は彼女を混乱させるには十分だった。
「えっ・・・主はや(さぁ〜どっちやぁ〜!?」
否定をする事を許してはくれない、むしろこの『人をからかう事を楽しんでいる表情』をしている主から逃げる事は出来ない
ならば正直答えよう・・・・だが、
「(・・・言えない・・・烈火の将を『一切』応援していなかった事など)」
無論、『双方応援していましたよ』といえば丸く収まる。
だが自分は嘘を付くのが苦手だ、それ以前に愛する主に嘘をつく事などできない。
それを分かった上で質問をしているのだろう・・・・・タチの悪い事この上ない。
「(予想はしとったよ・・・・ていうか、もうバレバレやって)」
リインフォースのあたふたした表情を見れば答えなど聞かなくても分かる、現に此処にいる全員が笑いを堪えるのに必至だ。
面白いから暫くはそのままにして置こうと結論付けたはやては、再び記録映像に目を向ける。
そして、フェイトと同じく『自分ならどう戦おうか』と考え始めていた。



「・・・ん・・・・あ・・・・」
先ほどまで安らかな寝息を立てていたナイトガンダムはゆっくりと目をあけ上半身を起こし周囲を見渡す。
今自分がいる部屋には見覚えがあった、此処にきた時リインフォースに案内された部屋だ、確か医務室の筈
シャマルがこと細かく機械や設備の説明(途中から自慢全開)をしてくれたからよく憶えている。
ふと、頭が完全に覚醒したためか、今になって自分の隣のベッドからも寝息が聞こえている事に気が付いた。
「・・・シグナムか、となると、あの後自分たちは寝てしまった事になる。誰が運んでくれたんだろうか?」
規則正しい寝息を経てるシグナムを何気なく見つめる。先ほどまでの激闘が嘘だったかのような寝顔だ。
今此処にいるのは勇ましく強い烈火の将ではない、ぐっすりと眠っている一人の美しい女性だ。
「・・・・起こすのは酷だな・・・とりあえず此処から出よう」
そっとベッドから抜け出す、周囲に鎧や武器が見当たらないとなると何処かで保管されているのだろ
その場所を聞くためにも先ず誰かに合う必要がある、だがナイトガンダムが出口に向かおうと一歩歩みだしたのと同時に
医務室の扉が開き、シャマルが入ってきた。

「・・・・うん、大丈夫ね、体に異常話し、多少疲労が残ってるけど問題は無いわ。でもMS族って内臓器官関係は人間とさほど変らないから助かるわ」
「そうですか・・・ありがとう、シャマル」
深々と頭を下げお礼を言うナイトガンダムに、シャマルは笑顔で答える。
そしてガンダムの体を調べていたライトの様な機械の電源を切ると専用のケースに終い、展開していた空間モニターをすべて閉じる。
突然機材の後片付けを始めたシャマルをガンダムは慌てて止めに入った。
「あの、シグナムの方は大丈夫なのですか?一応起こしたほうが」
「ん?ええ、大丈夫大丈夫、シグナムの方はガンダムさんが寝ている時にぱぱっとやっちゃったから。
ガンダムさんは一応MS族って事もあるから起きるまで待っていただけ・・・・・だけどシグナムったらね、可笑しいのよ」
あの時の光景を思い出したのだろう、堪えきれずにシャマルは笑ってしまう、そんな彼女を困惑した表情で見ているナイトガンダムの
視線に気だついたのだろう、軽く謝罪した後、『あの時の光景』について話した。
「あのね、二人が此処に運ばれて寝ていた時なんだけどね、直ぐにシグナムは起きたの。
それで隣で寝ている貴方を見た途端嬉しそうに『ふっ、勝った!!』って叫んだ後、また寝ちゃったのよね、
恐らく無意識に行った事みたいだけど・・・・全く、妙な所で子供っぽいんだから」
「そんな事か・・・・私は凛々しく、忠義を重んじる誇り高き騎士のシグナムしか知りませんでしたから新鮮です」
「そんな設定初期よ初期設定、今じゃ弄られキャラがやお色気担当が板についてるわ・・・っと、これ以上の失言は前回の様な悪夢を呼びそうだから止めましょう」
あの地球での惨事・・・今でも『自分はよく生きてたな〜』と心から思う。本当に手加減がなった・・・マジで死ぬかと思った。
今思い出しても震えが止まらない、だからこそ忘れようと思う・・・いっそ自分の頭を弄ってみようかと本気で考えもした。
「あの・・・シャマル、大丈夫ですか?凄く顔色が悪いのですか」

803高天 ◆7wkkytADNk:2010/06/20(日) 22:45:36 ID:r48Wgjd.
「ええ・・・・・ちょっとね、トラウマを思い出したのよ。ふっ、ハーブティーでも飲んで心を癒してこないと、昔の様に暗黒面に・・・・・ってネガティブは駄目ね!!
さて、一人で問答してごめんなさいね、私は行くわ。一様疲労は残ってるからまだ横になっている事をお勧めすわ」
ゆっくりとパイプ椅子から立ち上がり、医務室の出口に向かう、途中『ケーキもつけよっと!』と呟きながら部屋を出ようとするが、ふと扉の前で立ち止まり
振り返る、表情は笑顔だったが、なぜかナイトガンダムには『何かを企んでいる』笑顔に見えた。
「そうだ、ガンダムさん。貴方に会いたいって人が来てるのよ。一応部屋の外で待たせているけどどうする?今日は疲労も残っているだろうし、断っておく?」
「私にですか・・・いえ、大丈夫ですよ。何方ですか?」
その問いにシャマルは答えない、ただナイトガンダムを見据え微笑んだだけだった。
その意味が理解できないガンダムはどうしていいのか分からす、おなじ質問を繰り返そうとしたが、それより早くシャマルは医務室から出て行ってしまった。
質問する相手がいなくなってしまったため、どうしようかと考えようとするが、それよりも早く再び医務室の扉が開き、
新たな訪問者・・・シャマルが言っていたナイトガンダムに会いたい人物が入ってきた。

入ってきたのは管理局の制服の身を包んだ一人の少女だった。歳はスバルと同じ位だろう、長い紫の髪を持った少女が瞳に涙を浮かべながらこちらを見ている。
普段だったら何故泣いているのか?何があったのかと聞く所だが、ナイトガンダムは問いを投げかける事はしなかった。
その顔を見た瞬間思い出す、いつも自分と会う時は妹であるスバルを姉として嗜めていたしっかりした少女。
だが自分の姿に、備わっている力に妹以上に恐怖していた、だからこそあの時、自分は彼女達に力の使い方、そしてその持てる力を恐れないでほしいと伝えた。
その答えが今の彼女の姿・・・スバルと同じ時空管理局なのだろう。

「ギンガ・・・・ギンガ・ナカジマ、本当にひさしっ!?」
再会の挨拶をしようとしたが、無言で抱きついてきたギンガによって無理矢理中断させられてしまう。
流石にこのような展開は短い期間で何度も体験してしまったため慣れてしまった。
だが、自分が原因で泣かせてしまっているという罪悪感に慣れなど無い。
申し訳ない気持ちで一杯になりながらも、落ち着かせるために、優しく震える彼女の背中を叩いた。
「・・・・・ほん・・・とうに・・・・ほんとう・・に・・・また会えて・・・よかった・・・・」
肩を震わせ、てしゃくりあげながら喋るギンガだったが、ナイトガンダムの思いが通じたのだろう、
体の震えも止まり、泣き声も聞こえなくなる。
そして震えも、泣き声も聞こえなくなった所で、ナイトガンダムはゆっくりと口を開いた
「ギンガ・・・・十年ぶりだね、大きく、そして美しく成長した」
「うん・・・・成長した姿、そして貴方に教えられた事・・・・自分の力を恐れず、人のために、正しく使う。
それが出来るようになった自分の姿を見てもらいたかった・・・・だから嬉しい、今の姿を貴方に見せられて・・・」
ゆっくりとガンダムから体を離す、瞳に溜まる涙を乱暴に擦った後、泣き顔を隠すかのように、正面から満面の笑みでガンダムを見据えた。
「でも、ガンダムさんに『美しい』って褒められると本当に照れます・・・・だけどそれ以上に一人の女性としてとても嬉しい。
色々話したい事は沢山あるけど、先ずは・・・・・おかえりなさい、ガンダムさん。私達に道を示してくれたナイト様」
ふたたびギンガはガンダムを抱きしめる、だが先ほどとは違い、温もりを感じるための抱擁。
その暖かさに、ナイトガンダムも自然と彼女を抱きしめていた。

積もる話は沢山あった、特にギンガは自分やスバルが進んだ道を詳しくナイトガンダムに話したかった。
だが医務室で長話は何だと思ったギンガは、ナイトガンダムの体調を聞いた後、皆もいるであろう食堂へと向かった。
途中起動六課で働いている隊員と出くわすが、その誰もがナイトガンダムに先ほど行った試合の感想を口にする。
単純に『凄かった』『かっこよかった』などの褒め言葉や『今度一緒に食事でもどうですか?』などの誘い、そして『奇妙な目で見て申し訳なかった』などの謝罪など様々、
それらをナイトガンダムは聞き流さずに足を止め、感謝の言葉や誘いの返答、『自分は珍しい存在だから気にしないでほしい』など、一人ひとりに律義に対応をしていった。

804高天 ◆7wkkytADNk:2010/06/20(日) 22:46:30 ID:r48Wgjd.
その結果、医務室から歩いて数分でつく食堂への道のりに数十分という時間を要してしまう結果となったが、
付き添っていたギンガは『やっぱりガンダムさんね』と内心で納得しており、待たされた事への苛立ちや不快感などは一切感じておらず
ナイトガンダムと話した人物やその光景を見ていた人達は彼の人柄や律義に対応する真面目さに、全員が好印象を持つこととなった。
「まさかこれほどの人が、私とシグナムの戦いを見ていたとは思っても見なかったよ。観戦者はなのは達だけだと言っていたから」
「私も見学していましたけど、あの闘いは沢山の人が見るべきだと思いますよ。純粋な観戦としても、訓練の教材用としても素晴しかったですから。
あとはやてさんが何も言わなかったのは、事前に『沢山の人が見る事になっている』って聞かされていたら、ガンダムさんが落ち着いて戦えないと思ったからだと思います」
「確かに、大勢の観衆の前で戦うのはどうにも苦手だな。気を使ってくれたはやてには感謝しないと」
「ふふっ、でも約束は破っているんですから、少しは怒ってもバチは当たりませんよ・・・さて到着です。みんなガンダムさんを待って」

                  ALERT ALERT ALERT ALERT ALERT

突如、けたたましいサイレンが鳴り響き、『ALERT』という文字が周囲に表示される。
それは事情事態が起きたことを意味し、ナイトガンダムとギンガの休息の終わりも意味していた。

・起動六課司令室

「東部海上に、ガジェットドローンⅡ型が出現しました!」
「機体数、現在12機、特に市外に向かう様子はなく、海上で先回飛行を続けています」
オペレーターのルキノとアルトが報告をし、詳細なデーターをグリフィスとはやてが展開していている空間モニターにリアルタイムで最新の情報と一緒に送信する。
二人ともガジェットの動きを監視しながらも周囲を検索し、怪しい者が無いか探し出すが、今の所漂流物の一つも見つかっていない。
「レリックの反応は?」
「・・・現状では付近に反応はありません・・・・・・船もありませんし・・・・漂流物も浮いていません」
「海上を先回しているだけで、街や付近の施設に向かう気配も無いのですが・・・・このガジェットⅡ型、今までのデーターと検証しても機体速度がだいぶ・・・いえ、かなり早くなっています!」
己の存在意義を示すためか、新たな性能を実感したいのか、それとも自分達を監視している相手を挑発しているのか、
ガジェットはまるで自慢するかの様に海上をすれすれに飛んだり、直角飛行を繰り返していた



「どうですウーノ姉様、ちょこっと玩具のエンジンを弄ってみましたの」
はやて達と同じ映像を見ている人物は他にもいた、戦闘機人No.4クアットロと戦闘機人No.1ウーノ
今映し出されているガジェットを解き放った張本人達である。
鼻歌を歌いながら嬉しそうにキーボードを叩いているクアットロに対し、ウーノは冷静な視点でガジェットを観察する。
確かにクアットロの言うとおり、今海上を飛んでいるⅡ型の性能は上がっている。特に飛行速度は並みの航空魔道師を軽々追い抜くほどの速さだ。
だがレリックの反応はおろか、周囲に特別攻撃を行なう施設など無い・・・否、同じ空域で先回飛行を続けている時点で襲撃や回収などの目的は最初から無いのだろう。
だとすると目的はおそらく
「Ⅱ型の動作テスト・・・はオマケかしらね。メインは六課の魔道師の戦闘データー収集が目的かしら?海上、しかもこの性能なら隊長クラスが出てくる可能性が高い、確かによいデーターは取れるわ」
「ふっふ〜ん、お姉さま40点。確かにお姉さまの言うとおりですが、それは今回の目的の一つに過ぎません・・・・メインは、これです!」
ウーノが展開していた空間モニターにデーターを転送する。そこに移されたのは見る限りでは最もポピュラーなガジェットⅠ型だった。
だがクアットロのあの表情、間違いなく何かがあるに違いない。
「この子は空の玩具とは別に海中を進んでいます、今回のメインはこの子ですからね、気付かれないように慎重に行かないと」
「随分慎重ね?このⅠ型にどんな隠し玉があるのかしか?」
「それは見てからのお楽しみですわ・・・・ただ言えることは2つ、1つは今飛んでるⅡ型はこの子から目を逸らさせるためのデコイにしか過ぎませんわ。
そしてもう1つは、今回の目的はデーターの改修ではなく『捕獲』を目的としている事ですわ」

805高天 ◆7wkkytADNk:2010/06/20(日) 22:47:50 ID:r48Wgjd.
「航空Ⅱ型、4機編隊が3体、12機編隊が1体、以前先回飛行を続けています!」
相変らず先回飛行を続けているガジェットの編隊、だが一向に目立った行動は起こさないでいた。
部隊長であるはやては補佐であるグリフィスと二言三言軽い意見の出し合いをした後、ルキノ達が送ってくるリアルタイム更新のデーターに目をやる。
結論から言えば、このガジェットの編隊は自分達を誘っている事にほぼ間違いない。
海上で、しかもスピードを強化されたガジェットを使っているのは、飛行でき、あのスピードに対抗できる隊長クラスの人間を引っ張るためだろう。
確かに今のフォワード組では空中戦は難しいし、他の武装局員ではAMF戦のスキルでもない限り、ガジェットの相手という時点で難しいだろう。
「さて・・・テスタロッサ・ハラオウン執務官、どう見る?」
彼女がフェイトをこう呼ぶ時は、友という関係から上司と部下という関係に変更になった時である。
今は一人の優秀な執務官として、そして危険な現場で常に最前線で戦ってきている彼女の意見をはやては聞きかかった。
「犯人がスカリエッティなら、間違いなくここの動きや航空戦力・・・私達の戦闘データーを探りたいのだと思う。この状況なら
高町教導間の超長距離砲撃か八神部隊長かリインフォース一等空尉の広域魔法で一気に殲滅、という手段がベストなんだろうけど・・・・お勧めは出来ないね」
「正直どれも未だにリアルタイムでは披露していない物ばかり、見す見す新鮮で新しいデーターを披露するのはサービスよすぎやな。
正直、この程度で隊長達のリミッターを解除できいるとは向こうさんも思っとらんやろ・・・・高町教導間はどう思う?」
次にこの任務に最適であるなのはに意見を求める、
だが長い付き合いだ、恐らく考えている事は同じだと思う、だがはやては『戦術教導間』であるなのはの意見を聞きたかった。
「此方の戦力調査が目的なら、なるべく新しい情報を出さずに片付ける・・・・・かな?一応ガジェット・・・スカリエッティにある程度
情報を出した人が適任だと思う・・・私とテスタロッサ・ハラオウン執務官・・・それに」

                             「私も同行させてください」

司令室の扉が開き二人の人物が入ってくる、一人は此処へ半休を使い遊びに来ていたギンガ・ナカジマ
そしてもう一人は此処では客人としての扱いになっている騎士、バーサルナイトガンダム、彼は司令室に入って早々、自分も同行させてほしいと申し出た。
「・・・すみません、聞き耳を立てる気は無かったのですか、どうにも入るタイミングをつかめずに・・・・つい外から内容を・・・」
はやてが何故作戦内容を知っているのだろうかと聞くより早く、ギンガが申し訳ない表情をしながら理由を話す。
確かにギンガなら扉の向こうからでも自分たちの話は聞こえる、それを隣にいるガンダムに詳しく話したのだろう。


「ガンダムさん」
「私の戦闘スタイルはシグナムと同じ剣術、皆の様に凄い技を出すわけではないから相手も満足な情報を得られないと思う。
それに私がここにきた時に行ったスプールスでの戦闘、この時にある程度の技を出してしまったらね、私から得られる情報は殆ど無い筈だよ」
はやては無論、なのは達からしても彼のこの申し出は是非受け入れたかった。
シグナムとの模擬戦を見ていたグリフィス達も、ナイトガンダムの実力を知った今でははやて達と同じ気持ちだった。
皆が期待した表情でナイトガンダムを、そして決定権がある八神はやてを見つめる。
「(・・・・せやけど・・・・駄目や)」
もし彼がこの任務に加わってくれたらどれだけ助かることだろう、だがはやては首を縦には振らなかった。
その回答になのはとフェイトは『やっぱり』と言いたそうな表情をし、シャーリー達は『何故?』といいたげな表情ではやてを見つめる。
そしてその理由を凛とした声ではっきりと答えた。
「理由はガンダムさん、貴方が此処の部隊員で無いこと、それで十分や。確かに戦力としては魅力的ではある、せやけどお客さんに戦ってきてもらうわけにはいかへん」
これはは部隊長『八神はやて』としての理由。だが一人の少女『八神はやて』としての理由は別にあった。
全てを終らせ、再び此処へと帰ってきたのだ。もう彼には安息だけでいいのではないかと思う。
このままこの場所で地球での永住が受理されるまでゆっくりしていてもらいたい。
それに彼を任務やレリック、スカリエッテイ関係の事件には巻き込みたくは無い。

806高天 ◆7wkkytADNk:2010/06/20(日) 22:49:42 ID:r48Wgjd.
ナイトガンダムは闘いに此処へと来たのではないのだ、地球にいるアリサやすずかの思いを裏切りたくは無かった。
なのはとフェイトもおなじ気持ちなのだろう。はやての意見に口を出す事はしなかった。
だが、ナイトガンダムははやての言葉を受け止めた後、彼女の瞳を見つめ跪き、頭を垂れた。
「はやて、確かに君の言う通りだ、部外者である私が出るのは図々しい事だ、だが私も一人の騎士としてみんなの力になりたい。
私の力はそのためにあるのだと思うから。それに、これはアリサとすずかの願い出もあるんだ」
「アリサちゃんと・・・・すずかちゃんの・・・願い・・・」
「『もしはやてや皆が困っている時には力を貸してあげて』と言われたよ。だから・・・・部隊長八神はやて、もし私の力が不要だったら直ぐにこの場を去ろう。
だが少しでも私の力が必要だったら是非使っていただきたい」
ナイトガンダムの決意と思いを受け止めたはやては席を立ち、跪くナイトガンダムの正面に立つ、一度左右にいる親友へと顔を向けるが
二人ともおなじ表情をしていた・・・恐らく自分も同じ、『嬉しさから出る笑み』で彼を見ているに違いない。
「バーサルナイトガンダム、面をあげて」
「はっ!」
「起動六課部隊長、八神はやての名において、貴方に強力を求めます。これから現場に向かい、起動六課隊員と共に敵の迎撃、
そして、何より無事に帰還する事を必ず守ってください」
ゆっくりとしゃがみ、跪いているナイトガンダムの両肩にそっと両手を置く、そして正面から彼を見据え、言葉を続けた
「これは部隊長八神はやてからの命令と同時に、月村すずか・アリサ・バニングスの友である八神はやての願いです・・・・聞き入れてくれますか?」
「御意!八神はやて、我が力、存分にお使いください」
「(ほんまカッコええな・・・・)それととても大事な事があります、けっして聞き逃さないでください」
そう言い、突如、笑みから否定を許さない表情になったはやてに、ナイトガンダムも自然と身構えてしまう・・・そして

            「お給料は出ないから、ボランティア精神全開で頑張ってきてぇな〜!」

ナイトガンダムはこのとき確信した『どんなに地位が高くなろうとも、彼女はやはり皆の親友の八神はやて』なのだと


こんばんわです。投下終了です。
読んでくださった皆様、感想を下さった皆様、ありがとうございました。
職人の皆様GJです。
次回は、ドゥーエに保護されたあの騎士メイン・・・かも
次は何時になるのやら

代理投下、よろしくお願いいたします

807魔法少女リリカル名無し:2010/06/21(月) 20:18:04 ID:XeOceo02
おお!撃墜回避した!さすがだぜガンダム!

808高天 ◆7wkkytADNk:2010/06/26(土) 21:24:13 ID:UT.BKJK.
代理投下をして頂き、ありがとうございました。

809レオンハート:2010/07/01(木) 22:09:28 ID:UzaOFgeE
~Prologue~「壊れた日常」
FF8inなのは~Prologue~「壊れた日常」



アルティミシアとの戦いから2ヵ月後。
スコールはSEEDとしての任務を全うしていた。
(これも、愛すべき日常か…)
そう思い、現れた敵をG.F.(ガーディアンフォース)で蹴散らす。
「エデン!!!」
そう言って彼はG.F.を召喚し、エデンの技、「エターナルブレス」で敵を消し去る。
ここまではよかった。
だが次の瞬間、彼の日常は、突然変わる。
(…ん?)
エデンが彼の中に帰った後、突然エデンのもといた場所に光の渦が出来ている。
そして、彼を、吸い込んでいく――――――
「なにっ!?」
突然加わった力に逆らえず、吸い込まれていくスコール。
そして意識は、闇の中へ――――――――




そしてそのころ、なのはたちの世界では…
「なんでこう、一度にたくさん出てくるかなあ…」
時空管理局のフェイト・T・ハラオウンは一人つぶやいた。
今回の任務は、突然現れたガジェットの一掃であった。
まずは、目的地に急ごう。そう思って、スピードを上げて目的地にたどり着いた。
でも、彼女は知らなかった。
もう、そこにいたガジェットの3分の2は「彼」によって倒されていたことを――――――




さて、ところ変わってスコールの側。
彼が目覚めたとき、廃棄されたような居住区にいた。
起き上がり、手の中にあるガンブレードを見る。
リボルバー。彼のガンブレードの名前だ。
(それにしても、ここは……どこだ?)
彼がそう思った瞬間、無数のガジェットが襲ってきた。
「!?」
戦いの本能が目覚めたのか、ガンブレードを強く握る。
(味方でもなさそうだ)
そう判断した彼は、ガンブレードを握り、ガジェットの群れに突っ込んでいく。
その瞬間から、彼の戦いは始まった。

810レオンハート:2010/07/01(木) 22:10:19 ID:UzaOFgeE
第一話「start」
フェイトが現場に駆けつけたとき、ほぼ戦いは終わっていた。
「な…何、コレ…」
そこには、無数のガジェットの残骸。
そして、妙な剣を抱えた青年が一人。
その青年は、次々にガジェットをなぎ倒していく。
呆然と立ち尽くすフェイト。
気づいたら、戦いは終わっていた。
「すごい…」
その言葉が聞こえたのか、青年が振り向く。
「アンタはあの変な機会の仲間か?」
青年が尋ねる。
「いいえ。このガジェットを排除に来た時空管理局の魔道士です」
青年は訝しげな顔をする。
…もしかして、ガジェットを知らない?
だったら、この人は次元漂流者か。
「だったら、ここは何なのか教えてくれないか?」
青年がそういった。
「わかりました。詳しいことは本部でお話します。」






機動六課本部――――
「俺の名はスコール。スコール・レオンハートだ。」
どうやら、青年の名はスコールと言うらしい。
「わたしは、フェイト・T・ハラオウンです。フェイトと呼んでください。」

--------------------------------------------------------------------------------

…どうやら、彼は任務の途中に何かしらの方法でここに飛ばされたらしい。
「それで、俺はこれからどうすればいいんだ?」
スコールがたずねる。
「それなら、しばらくはここで過ごしてもらうことになります。あなたの世界の座標がわかり次第、転送します。」
「わかった。そうさせてもらう。」
無愛想な人だがなぜか、フェイトの胸は少しときめいていた。






「なんや、かっこいい人やなあ。」
はやてに報告をしてなぜか、はやてがスコールを人目みたいと言い出した。
確かに、彼はカッコイイ。
アクセサリーはライオンの形をしていて、なんだか彼そのものの雰囲気がライオンだと思った。
「何か用か?」
ぶっきらぼうに尋ねる。
「いや、一応次元漂流者の人たちには、挨拶しとかんとなあ。」
…見たいだけのクセに。
「そうか。俺の名はスコール。アンタは?」
そういえば、彼には名前を教えていない。
「あたしの名前は、八神はやてや。よろしゅう!」
握手を求めてくる。
スコールは少しきょとんとすると、微笑して握手してきた。
…私もしたかったな。と思ったら、
「…」
スコールは私に手を伸ばして握手を求めていた。
ちょっと驚いて握手し返す。
「それじゃ、うちらはこのへんで〜」
といい、はやてが退室する。
私もそれにならって
「じゃあね。スコール。」
と言い、退室する。
扉が閉まるとき、
「……じゃあな」
と聞こえた気がした。
なぜか、少し嬉しかった。






(さて。エデン、どうする?)
心の中でエデンとスコールが会話する。
(さあな。まだわからん。だが、力はこれまで通り貸してやる。)
彼が強いのは、主にG.F.のおかげでもある。
彼が本気になると、エデンを自分にジャンクション(接続)させる。
その力を使って、彼は強くなるのだ。
(さて、本当にどうするか……)
そう思った瞬間、爆音が聞こえた。

811レオンハート:2010/07/01(木) 22:20:18 ID:UzaOFgeE
第二話「move」
爆音がした。しかも、意外と近い。
「なにっ!?」
すぐそこで火事が起きているのが確認できた。
とりあえず何が起こったのか、確認しに行くためにスコールはフェイトの素へ走った





「なんや、このアンノウン。きもちわるいなぁ。」
モニターには、芋虫やハエのような変なモンスターが現れていた。
大至急、これらを排除しにいかなければならないのだが、少々問題があった。
今待機しているのは、ティアナ、スバル、エリオ、キャロ、フェイトの四人だった。
何が問題かというと、モニターに映っているモンスターたちは、結構グロテスクだ。
そんなものを女の子や年端も行かぬ少年少女にみせるわけにはいかないのであった。
実際、はやてもちょっと鳥肌が立っている。
(…仕方ない。フェイトちゃんに行ってもらうか。)
ちょっと気が進まないながらも、フェイトに排除を指令したそのとき、スコールが部屋に入ってきた。
そして、モニターを見て絶句する。
「!?」
スコールは一瞬我を忘れた。
何故、俺の世界のモンスターがこんなところにいるのか?
しかも、見積もって80体はいるだろう。その全てがスコールの戦ったことのあるモンスターだった。
ケダチクやバイトバグ、さらにはアルケオダイノスまでいる。
こいつらのことを何も知らずに他の人が戦うのは危険だ、そう判断したスコールは
「こいつらの排除を俺に行かせてくれ。」
と頼んだ。
だが、スコールの実力を知らないはやては彼を最前線に出すのを渋った。彼は次元漂流者で、その漂流者を無事に帰すのは自分の役目なのだから。
「でもなぁ…」
スコールは少しいらだっていた。彼は昔から弱い者のように扱われるのは嫌いなのだ。
そんなはやての心情を察したのか察してないのか、スコールはあまり語ろうとしない。
そうこうしている間にも、少しづつ被害は広がっていく。
スコールはもう待たなかった。
「わかった。俺一人で行こう。」
そういって部屋を飛び出し、モンスターのいるところに走って駆けつけた。
「あっ!!ちょっと!」
フェイトがあわてて追いかける。しかし、スコールは意外に早い。
幸か不幸か、現場はすぐ近くだった。
そして、スコールの戦いの日々が始まった。





現場にいち早く到着したスコール。
これだけ敵が多いと、単体を狙った攻撃は不利だ。なら、範囲攻撃か、魔法か。スコールは後者を選んだ。
(魔法で一気に片付ける!)
心の中でそうつぶやいた後、ストックしていた魔法をつかった。
「トルネド!」
唱えた瞬間、大きな竜巻が多くの敵を飲み込む。中では雷も起こっており、強い魔法の一種だった。
不意に竜巻が消え、飲み込んでいた敵を地面へとたたきつける。これで大抵の敵は片がつく。
問題は、アルケオダイノスだ。こいつはなかなか体力が多い。なので、スコールの十八番、連続剣でしとめることにした。
「ハァッ!」
気合の一声とともに駆け出し、アルケオダイノスに近づく。そして、目にも留まらぬ速さで8回ほどの連続攻撃を叩き込んだ。
十中八九、生きてはいまい。
そして、残る敵の殲滅に向かった。





フェイトが着いたときは、ほとんどの敵がいなくなっていた。ほとんど戦う余地もなかった。
ここまで強いとは…と感嘆するフェイトであった。
なので、後ろから襲ってきた敵に気づかない。気づいた瞬間、


何かが、 走り抜けた。


よく見ると、スコールがフェイトの背後の敵を斬っていた。スコールの得意技のひとつ、ラフディバイドを使ったのだ。
このスピードにはフェイトも、彼の戦いをモニターで見ていたはやても驚いた。しかも、息切れひとつない。
まさか、これほどとは…と二人は驚く。
呆然とするフェイトを傍目にスコールはぼそりと呟いた。
「……任務完了(Mission Complete)……」

812レオンハート:2010/07/01(木) 22:21:34 ID:UzaOFgeE




それから程なくして二人ははやての事務室に呼ばれた。
そこには、文字通り‘小さな少女’がいた。
「あら、三人ともおかえりです〜!」
とにっこり笑ってはやての肩に降りた。
スコールが意味不明そうな顔をすると、フェイトが説明が説明を入れた。
「この子はリインフォース。はやてちゃんの融合機で彼女の、大切なパートナー。」
ちょっとわからない単語が入ったが概ね理解できた。
「ん?誰ですか、あなた。」



……………………



「なるほど。というわけで、ここにいると。そういうことですね。」
フェイトとはやてがリインフォースに説明した。
「では、これからよろしくです〜」
リインフォースがハイタッチを求めてきた。それに黙って答えてやる。
その微笑ましい行為を見届けた後、はやてが話を切り出した。
「スコール。アンタの戦力は並大抵の物やない。その力、うちに貸してくれへんか?」
遠まわしに機動六課に入隊しないか、という勧誘である。
本来なら、スコールはSEEDに属しているのでさすがにダメだが、この世界にはSEEDはない。
それにスコールには知りたいことがあった。
「……わかった。本入隊は無理だが、仮入隊ならしよう。」
そう告げた瞬間、三人の顔がとてもうれしそうなものに変わった。
「オッケーや!じゃ、個室に案内するから、ついてきてーな!」
満面の笑みで個室に案内するはやて。スコールをじっと見つめて、視線を合わせると頬を染めて視線をそらすフェイト。
そして、少しポーっとしながらスコールを見つめるリインフォース。
この三人に友情と恋の試練が襲い掛かると言うことをまだ誰も知らなかった。








--------------------------------------------------------------------------------

玉座。それは王のみが座ることを許された椅子。
そこに、一人の女性が座っている。
妖艶、ともいえる容姿を持ちながら、冷たい笑みを宿して。
ある意味では、彼女は女王に見える。
「伝説のSEED……スコール。アナタは私の手のひらの上で踊っているに過ぎない。」
彼女が見ているのは、スコールが戦っている様子だった。
感情のない瞳でその姿を見据える。
―――私が用意した余興に付き合ってもらう。 だからこそ……―――
その先を彼女ははっきりと口にした。




「言ったでしょう?全ての存在を否定すると……」

813レオンハート:2010/07/01(木) 22:22:22 ID:UzaOFgeE
第三話「A new life」
JS事件から2ヵ月後。被害状況も調査終了し、復興活動をしている。機動六課も順調に任務をこなしている毎日。
平和とはいえないが、しばらくは普遍の毎日。その普遍の毎日を変えたのは、一人の次元漂流者、
スコール・レオンハート。



第三話「A new life」



「と、いうわけでここに配属されることになったスコール・レオンハートさんです。よろしく。」
高町なのはがティアナらに説明する。
こちらもなのはの事や、スバルたちのことはフェイトからすでに聞いている。
管理局のエース・オブ・エース、高町なのは。デバイスはレイジングハート。
「スコール・レオンハートだ。スコールでいい。」
あくまで簡潔に説明する。
「じゃあ、こっちからも自己紹介ね。それじゃ、スバルから!」
みんなテンションが高い…とスコールは思う。
そんなクールな思考とは裏腹に、スバルが元気よく自己紹介をする。
「はい!私はスバル・ナカジマっていいます!えっと、スバルって呼んでください!!」
「私は、ティアナ・ランスターです。私のデバイスはクロスミラージュって言います。」
「エリオ・モンディアルです。スピードには自信があります!」
「キャロル・ル・ルシエです。えっと…こっちは、私のパートナーの、フリードです。」
なんだか、転校生の紹介みたいである。
まあ、それはさておくことにしよう。
「じゃ、今日も練習始めるよー。」
「「「「よろしくお願いします!!」」」」
気合のこもった挨拶が「ロングアーチ」に響く。
「今日は、スコールも一緒にやってくれるから、スバル、ティアナはスコールと模擬戦。キャロとエリオはフェイト教官についていって。」
「「「「ハイ!!!!」」」」
「それじゃあ、三人ともこっちについてきて。」
スコールはそのまま、なのはについていった。




「模擬戦、といっても何をすればいいのか俺はよくわからないんだが。」
今まで黙っていたスコールがたずねる。
「簡単だよ。今からこの二人を相手に戦ってもらうの。死なない程度にね。勝負がついたと判断した時点で終了。いい?」
なのはが簡潔に説明する。
死なない程度に、という言いかたが少し引っかかったが…
「今日は、スコール対ティアナとスバル!レディ……スタート!!」
始まった瞬間、スバルが殴りかかってくる。
それを紙一重で交わした瞬間、10mほど離れたところからのティアナの援護射撃がきた。
(なるほど。チームワークがいい。…が)
魔力で出来た弾が当たる瞬間、スコールはスバルの体を引っ張り、ティアナの援護射撃に当てた。
「ぐあっ!!」
弾は命中。ギリギリを狙ったのが仇になったようだ。
「スバルごめん!一旦、距離をとって!」
すぐにスバルがティアナの元へ飛んでいく。
そして、身を隠したようだ。この一連の動きになのはは感嘆する。
(やるね。ちゃんと頭を使った戦い方をしてる。その上、実力も相当なものだから、はやてちゃんが気に入るわけだ…)
心の中でそう呟く。はやてが気に入ってるのは事実だが、そういう理由ではないとは思う。
そのころ、スバルとティアナはプランを練っていた。
「スバル、あの人はおそらく、接近戦のスペシャリストよ。なるべく、遠距離で相手を狙うようにして!」
「OK!あと、ティアはクロスファイアーシュートを使って、敵をスコールさんに確実に当てて!!」
「よし!いくわよ!」

814レオンハート:2010/07/01(木) 22:22:54 ID:UzaOFgeE
一分ほど経っただろうか、背後からスバルが奇襲を仕掛けてきた。
「リボルバーシューーーート!!!!」
スバルの右腕から高密度の魔力が放出される。
だが、スコールはそれを軽くかわす。
その瞬間、後ろから弾が飛んできた。ティアナのクロスファイアーシュートである。
つまり、スバルは全面的におとりだったのだ。
仕留めた!と確信する二人だったが、次の瞬間、スコールはガンブレードを突き出して一回転した。
ガンブレードから赤い泡のようなものがでてきて、スコールを囲む。
そして、スコールはガンブレードのトリガーを引きながら、叫んだ。
「フェイテッドサークル!!」
トリガーを引いた瞬間、泡が爆発しリボルバーシュートとクロスファイアーシュートを打ち消した。
これには、なのはもスバルとティアナも驚いた。次の瞬間、青いオーラをまとってスコールが突っ込んできた。
ラフディバイドを使ってスバルとに距離を一気につめる。スバルは防御をしようとしたが、スコールが早すぎる。
「ぐああっっ!!」
結果、スバルはラフディバイドに直撃、壁に全身を打ちつけ戦闘不能。
そして、スコールはクロスファイアーシュートの来た方向を元に魔法を放つ。
「ファイガ!」
そう言った瞬間、ティアナのいるところが爆発する。
「くっ!!」
とっさにローリングするが、そこにはガンブレードを構えたスコールがいた。そして、ティアナに峰打ちを叩き込んだ。
「ぐはっっ!」
ティアナも、戦闘不能。結果、スコールの圧勝である。
「そこまで!」
なのはが模擬戦終了を告げる。そして、スバルの回収に向かう。その間、スコールはティアナの元へ向かった。
「大丈夫か?」
とりあえずたずねる。外傷も特に目立ったものはない。いたって無事だ。
「はい、ありがとうございます。」
峰打ちとはいえ、大ダメージに変わりはない。とりあえず、スコールはティアナにケアルラをかけた。
「あれ?痛みが引いて…それに傷も…」
驚いてるようだ。そのまま手をつかんで立つ手助けをする。
「クロスファイアーシュートとかいったか?あれは直線的過ぎる。もう少し機動を変則的な物にしてから撃ったほうがいい。
それに、撃ち終わった後もボーっとしていないで、他の遮蔽物に身を隠せ。」
スコールは的確な指示と改善する方法を提示する。ここまで見抜いていたとは、と驚くティアナ。それから、いつものティアナに戻って、
「はい!ありがとうございました!!」
と、礼を述べる。こういうところは、彼女は律儀なのだ。
「じゃあ、スバルのところに行こう。なのはが行ったから大丈夫だとは思うが。」
こうして、彼にとっての最初の模擬戦は彼の圧勝で幕を閉じた。




「それにしても、驚いたなー。スコールの技。だってギリギリまで使わないんだもん。」
練習が終了して、なのはとフェイトは並んで廊下を歩いていた。
「私も見たかったな、スコールの戦いぶり。」
ちょっと残念そうにフェイトが呟く。
「じゃあ、見せてあげよっか?録画しといたから。」
……いつどこで録っていたのだろうか。
「じゃあ、また今度見せてね。」
興味がありそうな目でフェイトが言ってきた。
「へ〜。そんなにスコールのことが好きなの?」
そうからかうなのはにフェイトは、
「そっ…そうじゃなくって!!」
思いっきり赤面して否定する。それが思いっきり肯定を示していると知らずに。
「アハハハハッ。ジョークだよ。」
…………こうして新たな日常のハードな朝は過ぎていった。

815レオンハート:2010/07/01(木) 22:24:37 ID:UzaOFgeE
第四話「The rest time」
………なんで今、自分はこうなっているのだろう。
「何でスコールさんはそんな強いんですか!?」
「スコールさんの武器はなんていうんですか?」
「どうやったら、そんなに速く動けるんですか!?」
「何を食べたらそんなに背が大きくなりますか?」
………怒涛の質問ラッシュである。
ちなみに質問した順番は、スバル、ティアナ、エリオ、キャロの順だ。
今手にしているこのパスタを食べさせないようにしているんじゃないかとも疑うことの出来るスピードだ。
「まあまあ、皆落ち着いて…」
フェイトが助け舟を出す。そもそも、この状況もおかしい。なざフェイトやなのはやはやてが一緒に昼食を食べているのだろうか。


それを説明するには30分ほど前にさかのぼる。―――――

--------------------------------------------------------------------------------




「スコールさん、一緒にお昼食べませんか?」
そう言い出したのはスバルだった。普段どおり一人で食べたいと思っていたので、断ろうと思ったときであった。
「あ、じゃあ私もご一緒していいですか?」
とティアナがいった。それに続くように、エリオとキャロも
「僕もいいですか?」
「私もいいですか?」
とたずねた。しかも、そこになのはがやってきて、
「あ、なんか楽しそうだね♪ついていこーっと。」
「なのはが行くんだったら、私も。」
「あ、みんなずるいな〜。こうなったら、私もついてったる!」
といった感じでみんながスコールと食事をしたいと言い出したのだ。
一人二人ならどうにでもできたが、ここまで広がってはどうしようもない。仕方なく、みんなと昼食をとることにした。
そして、「食事回」が「質問回」と変わるのはそう時間はかからなかった。




フェイトが助け舟を出した後、一人ずつ質問をしてきた。
「スコールさんって何でそんなに強いんですか?」
「元の世界でSEEDという傭兵部隊にはいっていたからだろう。訓練もしていたからな。」
「スコールさんの武器の名前はなんていうんですか?」
「これは、ガンブレードと呼ばれる武器のひとつでこいつの名前はリボルバーだ。」
「どうやったらそんなにはやく動けるんですか?」
「日々の鍛錬の中で速く動く、という意識を持つことだ。」
「何を食べたら、そんなに背が大きくなりますか?」
「………さあな。」
こうやってひとつずつ質問を消化していく。ここで、なのはとフェイトが質問をしてきた。
「さっき使ってた不思議な魔法は一体何なの?」
この説明は長くなりそうだ。

816レオンハート:2010/07/01(木) 22:26:30 ID:UzaOFgeE
「この魔法は擬似魔法だ。本当の魔法は俺たちの世界で言う「魔女」だけが使える。魔女の魔法は俺たちの魔法の5から6倍はいくだろう。
 この技術はある魔女を研究対象にして生まれた。これは基本はG.F.をジャンクションさせないと使えない。」
「G.F.って何?ジャンクションって?」
「G.F.というのは……そうだな。お前たちの世界で言う「召喚獣」に近い。召喚獣を体内に取り込んでいるといった表現がわかりやすいか。
 ジャンクションと言うのは、そのG.F.と意識をリンクさせることだ。そうすることで、G.F.を召喚できたり、そいつの能力を使えるようになる。
 ちなみに、俺のG.F.はエデン、と言う名前だ。」
「「「「「「「へぇ〜〜」」」」」」」
全員が納得の表情を浮かべる。ちなみに、エデンはスコールのガンブレードを強化することができ、そのガンブレードの名を「ライオンハート」という。
ライオンハートにすることで、スコールの最強の技、「エンドオブハート」が使えるようになるのだが、ここでは黙っておく。
「でも、擬似魔法にしてはずいぶん威力が高かったよねぇ〜。」
「うん。それに、ラフディバイド…だっけ?かなり威力高かったし、クロスファイアーシュートとリボルバーシュートをかき消されたときは
 さすがに、呆然としちゃったな〜。」
などと会話しているうちにさっさとパスタを食べる。
………麺が少し冷たい。さっさと食べ終えて、質問を待った。
が、質問はどうやら終わりのようだ。
などと思っているとき、ふと時計を見た。休憩時間はもうそろそろ終わりのようだ。
………またあのハードな練習をやるのだろうか。なにはともあれ、とりあえずまた「ロングアーチ」に向かうのだった。





また訓練をやるのかと思いきや、どうやらスコールだけは違ったようだ。どうやら、任務があるらしい。
任務内容は、ある人物の護衛だそうだ。その人物を目的地まで無事に護衛できれば任務完了だとの事。
並みの魔道士には難しいかもしれないが、SEEDを甘く見てはいけない。どちらかと言うと、スコールはこういうのは得意なほうだ。
スコールは早速その護衛する人物に会いに行った。が、その人物はなんとフードをかぶりサングラスをしてマスクをしていた。
どう見ても変質者、あるいはそれに類するような人物の格好だ。
「俺があんたの護衛をするわけだが、そのまえにひとつ。顔を見せてくれ。」
と言ってみても何もする気配がない。それどころか、何もしゃべろうともしないのだ。話しかけても無視される。
嫌なやつである。まあ、そういう私的感情を任務に持ち込むわけには行かないので、深呼吸をして心を落ち着かせた。
「さて。時間だ。行くぞ。」
そういって彼らは目的地までの道のりを歩いていった。
通るルートは旧市街地。見晴らしがよくないので、奇襲にあうかもしれない。なので物陰には十分な注意を払っていた。
30分も歩いただろうか。このまま行けば大体15分くらいで目的地に着くくらいのときだった。




バシッ。

817レオンハート:2010/07/01(木) 22:27:50 ID:UzaOFgeE
突然スコールの足元に何かが当たった。その正体を確認する前に依頼主を壁に押し付ける。
こうすれば背後から突然さらわれる、といった事態は回避されるからである。どうやら、あの廃墟の物陰からなにかが放たれたらしい。
確認しようと依頼主の手を握りながら物陰の確認をする。手を握るのはさっきも説明したとおり、さらわれないためだ。
物影を一気にのぞいた瞬間、その何かから突然攻撃を受けた。ガジェットである。しかも一機や二機ではない。見積もって十機。
とりあえず、一旦その場から離れる。依頼主を抱えて走る。とにかく走る。
そして目的地に近い見晴らしのいい土地に来る。ここから戦いの始まりだ。
相手は機械。なら、水にぬらしてやれば事足りる。スコールはエデンとジャンクションし、魔法を放った。
「ウォータ!」
唱えた瞬間、ガジェットの群れの中心部あたりから水が溢れ出し、多くのガジェットを飲み込んでいく。
そして水が消えたときにはもう、ガジェットは物言わぬ残骸と化していた。
残るは二、三匹。一気に片を付ける。刹那、依頼主の姿を見失った。探してみると、なんとまたもやどこからか現れたボム、というモンスターに捕まえられていた。
だがここでスコールは違和感を感じる。依頼主は暴れることもなく浮いている。
一瞬考えてその答えが出た。
――――なぜ、敵に連れ去られていると言うのにあんなにもおとなしいのか?――――
その答えがわかったので、さっさとガジェットを切り倒し、ボムにブリザドを当てた。
そしてお姫様抱っこで受け止める。
もう依頼主のペースにあわせて歩くのはめんどくさいのでそのまま抱えて目的地まで移動する。
目的地に到着し、依頼主をおろす。そろそろいいだろう。彼が感じた違和感に対する答えを確認するためにも。
スコールは一気にフードを引きはがす!そして現れたのは、…



「いや〜。ばれてもうたか。やっぱりかなわへんなぁ。」
なんとはやてだった。と、同時に周囲に人の気配を感じる。ここでスコールは彼の推測を述べた。


「最初に違和感を感じたのは、ガジェットの奇襲を受けたときからだ。普通の人ならば、戦闘が起こると思ってどこかに逃げ出すなり怯えるなりする。
 だが、アンタはずっと無反応だった。それにボムに連れて行かれそうになったときも無反応だった。
 つまり、アンタは何らかの理由で無反応をし続けないといけなかった。それは恐らく、いや。俺の任務遂行能力を試したかったんじゃないのか?」
一点の曇りもない推測を述べる。
「さすが。正解や。」
笑顔で肯定するはやて。
「そして、もしもはやてに何かあった場合、または異常事態があった場合はアンタが出てきて直ちに任務を中断させるつもりだった。
 さらに、俺の任務を恐らくどこかで見ているんだろう?エリオやスバルたちがな。」
そういってスコールは背後の廃墟になった建物の二階の窓を見る。そこには確かに人がいた。
「さすがスコール。全部見破られちゃってたか。」
といいながらフェイトが出てくる。つまりは、この任務自体が「お芝居」だったのだ。恐らくではあるが、スコールの実力を見て、
隊長たちはスコールを見習わせようとしたのだろう。
「でもちょっとはやてが羨ましいな…」

818レオンハート:2010/07/01(木) 22:28:27 ID:UzaOFgeE
フェイトが小声でそうつぶやく。スコールたちには聞こえないように。なぜ羨ましいかというと、
スコールははやてと手をつなぎ、半ば抱きしめられ、お姫様抱っこまでされたのだ。フェイトはスコールが好きなので妬むのも仕方がない。
一方のはやてもほんのり頬が赤い。そりゃあ、お姫様抱っこされて恥ずかしくない乙女はいない。
はやてもこれを機にスコールのことを意識し始めるだろう。フェイトのライバルは増え続けるばかりである。
任務の話に戻るが、スコールはふと疑問を思いついた。
「さっきのボムだが、一体どこから出てきたんだ?」
そう尋ねた瞬間、任務を見ていた一同も静かになり、次の言葉を待った。答えたのはフェイトだった。
「それが、突然空中に異次元への穴が開いてそこから出てきたの。それと、声も聞こえた。」
スコールは何かをつかんだ気がした。スコールが知りたかったあること、それがわかるかもしれない。


「何ていってたんだ?」
「よくわからないんだけど、フィーオス、ルーセック、ウィーコス、ヴィノセックとかいってたような・・・」
言葉を失った。Fithos Lusec Wecos Vinosec.これはアナグラムだ。
並べ替えると、「Succession of Witches Love」。
スコールの世界である魔女をテーマにしたアナグラムだ。その魔女は未来からやってきた思念に体をのっとられ、未来にいる魔女に操られてしまう悲劇をたどった。
スコールは、その未来から来た魔女の正体を知っている。かつて倒した最強の魔女。
全ての時間を圧縮し、全ての存在をも消し去ろうとした魔女。
アルティミシア―――――





スコールが知りたいことを知った直後、真の敵が見えてきた。
そしてこれから時間と空間を利用した戦いに巻き込まれることをここにいる人たちはまだ誰も知らなかった。

819レオンハート:2010/07/01(木) 22:28:59 ID:UzaOFgeE
第五話「Battle start」
スコールが真実を知って三日が経った。いつもと変わらぬ日常がそこにあった。ティアナたちの訓練に付き合って、任務に行って…・
たまに、スバルたちもモンスターの排除に行くようだ。しかも、大抵の敵は片付けられるようになっていた。
ルブルムドラゴンが出てきたときはさすがにスコールに任せたが。
ところで最近マリエルと言う女性に出会った。なんでも、G.F.に興味がわいたんだとか。研究させてほしいと言われたのだ。
別にいいが…、と答えかけて止めた。オダイン博士を思い出したからである。オダインは、作者たちの世界で言う「おじ〇る丸」の劣化版のような人で、
その人が擬似魔法とかG.F.とかのジャンクションを見つけたのだが、彼はリノアを閉じ込め彼女を研究していた。
魔女になってしまい仕方なかったとはいえ、やはり許したくない。
ということで彼女からの申し出は断ったが、簡易転送装置と無線をもらった。簡易転送装置を使えばリボルバーをどこからでも取り出すことが出来るので、便利だ。
そして、スコールは満足して転送装置の転送先と転送するものを設定した。
そんなこんなで彼らの幕開けの朝は過ぎていった。



今日も訓練があるのかどうか知らなかったのでリボルバーを持ってロングアーチに来た。ふと、前方に人が見える。
ピンクの髪をポニーテールにまとめた美しい人であった。その人がこちらに気づくと、歩いてよってきた。
「お前が主の言っていた次元漂流者か?」
「そうだが、アンタは誰だ?」
あくまでもクールにたずねる。
「失礼した。私は、シグナム。ライトニング分隊副隊長で、主はやての守護騎士、とでも言っておくか…」
「それで、用件は何だ。」
「主やテスタロッサが言っていた実力が見たくてな。手合わせ願いたい。」
そういってシグナムはバリアジャケットに着替え、刀の形をしたデバイス、レヴァンティンを抜いた。
会話の中にわからない単語が混ざっていたがここではスルーする。
スコールは少し心躍った。最近は雑魚とスバルたちの相手でうんざりしていたところだ。
そこに、シグナム、という見るからに強者が俺の前に立っている。気をひき締めるにはちょうどいいだろう。
「……いいだろう。だが、ボロボロになっても知らんぞ。」
「フッ。私は負けるつもりなどない。」
そうして二人は剣を構える。魔法はなしで行くつもりだ。剣術と技術だけで勝負するようである。



少しの間、にらみ合いが続く。そしてどこからかガサッ、と言う音が聞こえた。それが合図になったようだ。


キィィィィィィン


レヴァンティンとリボルバーが交錯する。二人はそのまますれ違い、もう一度突進しようと身構えたそのときだった。


「スコール!応答して!!」
と言う声が聞こえ、勝負をとめる。
「こちらスコール。何だ?」
「こちらはやて。またモンスターが現れたんやけど、今回は一味ちがうんや。とにかく、モニタールームに来て!!」
そうして無線は切れた。何かが起こったらしい。
「すまないが任務が入った。」
「それなら仕方がないな。勝負はお預けにしてやる。」
軽く説明をしてモニタールームに向かう。シグナムは自分の手を見た。痺れている。自分は機動六課の中で一番剣術に自信があった。
その彼女の手を絶った一回の衝突で痺れさせるとは。
「……恐ろしい男だ。」
シグナムは一人そうつぶやいた。



「何があったんだ?」
モニタールームに入りながらたずねる。
「スコール!今回はこいつ一人みたいでなウチの魔道士もことごとくやられてるんよ。」
そういってはやては「そいつ」をモニターに移す。あの龍のような姿には見覚えがあった。
(バハムート、にしては体が黒い………まさか!!)
スコールはバハムートより厄介なドラゴンをおもいだした。


ティアマト。


スコールたちが戦ったダークフレアを使うかなり強かったドラゴンである。コイツは何故ここにいるのだろうか?
だが今は考えても仕方がない。今は、こいつを速く倒さなければ居住区に被害が及ぶ。それだけは避けなければ。
スコールはティアマトのいる旧居住区へと向かった。

820レオンハート:2010/07/01(木) 22:29:29 ID:UzaOFgeE


そこにティアマトはいた。翼を大きく広げながら。
「来たか。愚かな青年よ。」
「何故だ。何故、お前がここにいる!?」
「それが愚かだと言うのだ。自分では何も知ろうとしない。他人に答えを求めてはその答えの意味を考えようとしない。そんな愚か者には裁きを下してやる。」
そういってティアマトは飛び上がり、魔力をため始めた。







ダークフレアのカウントダウンが始まった。何としてもよけるかとめなければ。








そこに、スバルとティアナがやってきた。
「スコールさーん!!」
「大丈夫ですか!?」







「くるな!!逃げろ!!!」
スコールはそう叫ぶが届かない。






ティアマトの魔力が非常に大きくなっている。これは本当にまずい。






「スコールさん、大丈夫ですか!?」
「敵はどこに!?」
この状況を理解していないのか。
「チッ。間に合え!!」
俊足で二人に近づき、浮遊魔法「レビデト」をかけて二人を空へ投げ飛ばした。重力はかなり軽くなっているので投げ飛ばすのは容易かった。





そして、黒い炎の塊がスコールに当たったように見えた。そして辺り一帯は黒い炎に包まれる。そこで二人はやっと状況を把握した。
つまり、自分たちがスコールを窮地に追い込んだのだと。誰もが絶望したときだった。
煙の中で青いオーラが見えた。煙が少しづつ晴れてゆく。そこにはスコールが立っていた。彼はエデンをジャンクションし、自分にシェルをかけて
ダークフレアを凌いでいた。ただ、シェルごときで無傷でいられるはずはない、が彼は無傷だった。その理由は他にあった。
彼が握っているガンブレードはリボルバーではない。

821レオンハート:2010/07/01(木) 22:30:05 ID:UzaOFgeE
「ライオンハート」が握られていた。柄の部分にライオンの彫刻、刀身は美しい蒼だった。スコールはライオンハートとリボルバーを
簡易転送装置を使って入れ替えたのだ。そしてダークフレアをエデンの力とライオンハートとシェルの力で無力にした。
「これで終わりか?」
「強がってはいても、ここまで攻撃が届くまい。」
そういった瞬間、スコールはにやりと笑った。スバルとティアナには見えないように。
「あのときはコイツをつかってなかったからな。」
そういってスコールはライオンハートをおもむろに天と掲げた。そして、
「ブラスティングゾーン!!」
と叫んだ刹那、ライオンハートの刀身からオレンジ色のエネルギー波が天を貫く。そしてライオンハートを振り下ろす。さすがにこの攻撃は予想しなかったのか、
直撃して地面にたたきつけられる。だが、ティアマトもヤワではない。また、飛び上がろうとしたときスコールはあるものをティアマトに投げた。
ティアマトはそれを確認する前に天へと屹立する光の柱に貫かれた。スコールが投げつけたのはホーリーストーンだった。
ティアマトはその場に倒れ伏す。
「さて。吐いて貰うぞ。お前はどこから来た?」
「お前たちのいた世界だ…。私はお前たちに敗れ、闇の中をさまよっていたところをあの方が助けてくださった。…そしてお前を殺すよう命じられた。」
そこまでいって、スバルとティアナが降りてきてスコールの元へ駆け寄る。
そのとき、ティアマトが少しずつ消え去っていった。ティアマトは最期にスコールへ言葉を残した。
「あの方をなめるな。お前はあの方の…「アルティミシア様」の手のひらの上で踊っているだけに過ぎないのだ……。」
そういい残してティアマトは跡形もなく消え去った。



「本当にすみませんでした…。」
スコールがティアマトの言っていた意味を考えているときにスバルが話しかけてきた。しょんぼりした顔をしながら。
「私たちのせいでライオンハートを使わざるを得ない状況になってしまって…すみません。」
とティアナも謝ってきた。スコールはそんな二人に激励をのべた。
「それがわかっているんだったら、いいさ。戦場ではそういった冷静な判断が出来れば上出来だ。むしろ、生きていられるだけ、いいと思おう。」
そんな言葉を掛けられるとは思っていなかったのか、きょとんとして二人はお互いの顔を見た後、
「「はいっ!!ありがとうございました!!」」
と敬礼しながら言ってきた。それを見てスコールはほんの少し微笑みながらフェイトやなのは達のいるところへ帰っていった。




………そのあと、はやてとフェイトがスコールが帰ってきたことを知って迎えにいき、はやてが勢いのあまりスコールに抱きついてしまい、
フェイトがちょっと羨ましそうにこっちをみていた。実はスコールの戦いを見ていた二人はとても心配そうな顔で(フェイトは泣きそうな顔で)
ずっとモニターを見ていて、ダークフレアが来たときに映像が途切れたのだから、二人はず〜〜っと心配でいてもたってもいられなかったのは
スコールは知らなかったし、知ろうとも思わなかった。

822レオンハート:2010/07/01(木) 23:38:35 ID:UzaOFgeE
第六話「cool face,heat soul」
ティアマトの襲撃から2時間後。スコールはティアマトの言った意味を考えていた。
「自分で知ろうとしない。それが愚かなのだ。」「お前はあの方の手のひらの上で踊らされているに過ぎない。」
そして、散り際に言った一言。アルティミシアの存在。全てはアルティミシアが背後に潜んでいる。
「一体何をするつもりなんだ…」
一度は倒したあの敵。俺たちには到底理解できない悲しみを抱えた魔女。悲しみゆえか狂気ゆえか時間圧縮で全ての世界を圧縮し、自分が王になろうとした女。
一体、何故…。何故、この世界にまでやってきて俺を殺そうと言うのか。しかも、自分では手を下さずしもべたちの手で。
だが、たった一つだけわかることがあった。
――――コイツとの闘争は避けられない。――――



無線がかかってきた。
「こちらスコール。何のようだ?」
「スコール?こちらなのは。ちょっと用があるから、モニタールームに来てくれる?」
「わかった。そっちへ行く。」
言い終えて即座に無線を切りながら、モニタールームへと足を運んだ。
そして、モニタールームに到着。扉を開ける。
「それで?用、というのは?」
「今、はやてちゃんが時空管理局本部に出かけちゃってるから、ここの指揮をお願いしたいの。」
「なぜ?」
「あなたは、私たち以上にモンスターに詳しいわ。だから、いつ、何が出現しても対応できるようにしておきたいの。」
「……わかった。そうしよう。」
確かに、スコールが指揮をとればここら辺の敵は大抵は排除できる。これほどの適任はいない。
そうして、モニタールームでしばらく過ごすことにした。




少し時間は飛ぶ。なぜなら、スコールはモニター班からも質問攻めを受けてしまい、モニターを見る暇がなかったうえに、ティアマトを倒した直後だ。
疲労がたまっている。なので少し眠らせてもらうことにした。
そして、その眠りは警報によって覚まされる。
「スコールさん!モンスターを確認!今からモニターに移します!」
そういってモニターに現れたのは、スフィンクス。コイツは自分でケリを付けなければいけない、と思い、スコールはメモを残してスフィンクスを倒しに言った。

823レオンハート:2010/07/01(木) 23:42:08 ID:UzaOFgeE
そこには、一歩も動かないスフィンクスが一体。こちらをじっと見ている。
「スコール。伝説のSEED。わが主のために、ここで死んでもらう……。」
「フッ。俺がお前に負けたことがあったか?」
クールな顔で相手に辛辣な言葉を浴びせる。話は終わりだ、と言わんばかりにリボルバーを掲げて突進し、スフィンクスに叩きつける。
仮面が割れて、アンドロが現れる。前戦ったときと同じで、コイツ自体は弱い。
「じゃあな。」
スコールはそういい残して、アンドロの首を切った。血もなくその場で消えつつあるアンドロ。それを見届けるスコール。
だが、スコールは誤算をしていた。それは、「敵はこの一体だけではない」と言うこと。
振り返って帰ろうとした瞬間、左肩に何かが当たった。そして左肩から血が噴出し、その場にうずくまる。すると、光線が2本3本と地面に当たって
地面をえぐっては消える。一体なんだ、とスコールは物陰に身を潜める。そこに現れたのは、
ドルメンとウルフラマイター、そしてカトブレパス。3体同時に現れたのだった。ちなみに、スコールの肩を撃ったのは、アリニュメンのプチ波動砲である。
「チッ。」
スコールは舌打ちをする。傷自体は浅いものの、これではケアルも使えない。突然、カトブレパスがサンダガを使ってくる。スコールはギリギリでこれを避けた。
このままでは埒があかない。一旦距離をとってケアルをかけ、リボルバーを構える。
すると、なんとドルメンとカトブレパスが同時に攻撃を仕掛けてきた。使ってくるのは恐らく、召雷とメガ波動砲。防ぎきるのは難しいだろう。
仕方がなく、スコールはエデンをジャンクションする準備をした。
(エデン。ジャンクションするぞ。あと、召喚する準備もしておけ。)
(わかった。)
心の中でエデンと会話を交わし、スコールは攻撃が来るのを待った。ギリギリまでひきつけてから、避ける選択をした。
そろそろ、来る。そう思って、避ける準備をしたが、スコールの目の前に突然人が現れた。逆光で見えなかったが、その人物が誰なのか一瞬でわかった。
そして、攻撃が来る。


スドォォォォォォン!!!!!!



ここまで大きな音がするとは思っていなかった。だが、地面には攻撃の跡が見当たらない。なぜなら――――
「間に合ったね。スコール。」
「大丈夫?もしかして、動けなかった?」
二人の空に浮いている女性がシールドをはって助けてくれた。なのはとフェイトである。
「さて。あの光線撃って来たやつ、私が相手するね。ちょっと興味あるし。」
「私は、さっき雷を撃って来たあのモンスターにするね。」
「なら、俺はウルフラマイター、あの巨体を相手する。」
なのは対ドルメン、フェイト対カトブレパス、スコール対ウルフラマイターという3対3のバトルが始まった。


「あの攻撃、なかなかよかったけど威力がお粗末だね。まだまだだよ。」
そういって突然ドルメンにアドバイスをするなのは。ドルメンはいささか気分を害したようである。
「私のメガ波動砲を止めたのはほめてやる。だが、それだけでは私は倒せない。」
そう言い、メガ波動砲のチャージを行う。なのははその隙を見逃さなかった。レイジングハートを変形させ、構えを取った。
「ディバイン…バスターーーーーッ!!!!!」
レイジングハートから高密度の魔力を照射する。それがギリギリで放たれたメガ波動砲とぶつかり、相殺する。
だが、ドルメンの攻撃は終わってはいなかった。アリニュメンを背後からプチ波動砲を照射した。
普通なら、ここでプチ波動砲に当たるのだがドルメンが戦っているのはエース・オブ・エース。なめてはいけない。ラウンドシールドで防ぎきってしまった。
「そんな攻撃、効かないよ。」
そういって高く飛び、アリニュメンとドルメンが一直線上になるように位置を調整する。そしてレイジングハートにカードリッジを読み込ませた。
「全力全開!!スターライト………」
なのははアレを使うつもりである。ドルメンはメガ波動砲とプチ波動砲を一気に使って威力をあげた波動砲を放つつもりだ。
そして、
「ブレイカーーーーーーーーーッッッ!!!」
二つの攻撃が同時に発射された。少しの間ぶつかり合い、波動砲が押されていく。ドルメンは必死に波動砲の威力を強める。だが、止まらない。止められない。
そのまま、ドルメンとアリニュメンはスターライトブレイカーに飲み込まれ、消え去った。

824レオンハート:2010/07/01(木) 23:42:41 ID:UzaOFgeE


ところ変わって、フェイトの戦いである。カトブレパスは一瞬でデッドリーホーンをフェイトに突き出した。フェイトは軽々それを避け、
「プラズマスマッシャー!!」
光の弾を確実に当てていく。そこでカトブレパスは動きを止めた。攻撃を誘っているのだ。
(なるほど。なら、本気で行かなくちゃ!!)
フェイトはバルディッシュにカードリッジを読み込ませる。
「ジェットザンバー!!!」
ザンバーフォームに切り替え、相手の突進攻撃を待つ。
……………………
(今だ!!!)
心の中で叫び、デッドリーホーンとジェットザンバーがぶつかる。勝負を決したのは…スピードだった。デッドリーホーンがフェイトに当たらなかったのである。
そして、カトブレパスはその場に倒れる。終わった、と思ったフェイトだが、終わってはいなかった。突然空間がゆがみ、まるで地球の上に立っているような
幻覚を見せられる。そして、上から無数の隕石(メテオ)が。カトブレパスは死に際にメテオを放ったのだ。
(ばかなっ!?)
驚くフェイト。そしてメテオは次々と降り注ぐ。文字通りのメテオシャワーが終わった。何とフェイトはメテオを切り裂いていた。
一個一個には莫大な質量があったと言うのに。さすがは隊長、といったところか。カトブレパスの悪あがき(?)は無駄に終わったのだった。




そして、スコール。彼はウルフラマイターを手玉にとっていた。たしかに、こいつは硬くて強い。が、その攻撃も当たらなければ意味がない。
そして、スコールは新たな準備をしていた。
「コノ、チョコマカトメザワリナヤツダ!!」
ギガントソードをかわしながら、準備を整える。そして、
「そろそろか…」
立ち止まる。ウルフラマイターがこちらを見てギガントソードを振り下ろす。その瞬間だった。
「出て来い!!ディアボロス!!」
突然、あたりが暗くなる。そして、上から大きな黒い球体が降りてきた。その中からは、彼のG.F.のうちの一体。ディアボロスが現れた。
そう。スコールはG.F.を召喚したのだ。ディアボロスは黒い球体をウルフラマイターに投げつける。これは巨大な重力球であり、どんなに装甲が硬かろうが
必ず決まった大きさのダメージを相手に与える。ウルフラマイターは驚き、たじろいだ。
「ディアボロス!!コレデハマケテシマウ!!」
「残念だが、もうお前の負けだ。」
スコールはディアボロスの攻撃でウルフラマイターがひるんでる間に連続剣を叩き込んだ。
「グオオオオオオオオッッ!!」
そうしてそのままウルフラマイターは消え去ろうとしていた。だが、ウルフラマイターも悪あがきをした。
「コレデモクラエ!!」
そういってギガントソードを投げようとしたそのときだった。…後ろから、何かのチャージ音が聞こえる。嫌な予感がして、横にすばやくとんだ。
それが正解だった。突然ウルフラマイターもろとも黄色い光が突き抜けてきたのだ。スコールが避けていなければ、確実に当たっていた。
光に当たったウルフラマイターは完全に消え去った。そして、そこにいたのは――――――――

825レオンハート:2010/07/01(木) 23:43:23 ID:UzaOFgeE
「アルテマウェポン……!!」


そう。そこにいたのはアルテマウェポン。上半身はかろうじて人の形、下半身は獣。そして、手には大きな大剣。こいつはリヒト・ゾイレを放ったのだ。
「何故、お前まで!!」
「私は力を求める…だからこそ、あいつに協力し、私を倒したお前に挑みに来たのだ。」
そしてアルテマウェポンは剣を振り下ろす。コイツは完全に勝負に取り付かれている。倒すしかないようだ。そこにフェイトが助けに来た。続いてなのはも。
「コイツは…何?…半端じゃない力…なんでこんなのが…」
二人とも、アルテマウェポンの気迫にのまれていた。フェイトがジェットザンバーを叩きつける。
「でやぁぁぁぁぁぁっ!!」
だが、アルテマウェポンの剣はジェットザンバーもろともフェイトを吹き飛ばした。コイツの強さは半端じゃない!!
「クッ…ディバイン…」
そういったとき、アルテマウェポンはなのはを剣で吹き飛ばしたのだ。こいつはスピードも半端ではない。
そして、スコール一人になった。スコールは決めた。「あの技」を使うことを。
簡易転送装置を使い、ライオンハートを装備する。持ち前の反射神経と、すばやさでアルテマウェポンの攻撃を確実に避けていく。そして、連続剣を叩き込んだ。
上半身に強い衝撃を受けて、アルテマウェポンは倒れこむ。その隙にスコールは、ライオンハートにエネルギーをチャージした。
フェイトもなのはもわけがわからずスコールを見ている。アルテマウェポンが起き上がり、リヒト・ゾイレを放った。
しかし、スコールには当たらない。エネルギーをチャージし終えたライオンハートを握り、ありえないスピードでアルテマウェポンの懐につく。
そして、アルテマウェポンを打ち上げた。
「うおおおおおおおおっ!!!」
スコールは空中でアルテマウェポンに攻撃を当て続ける。ほとんど、剣の動きどころか体のこなしすら見えない。
スコールが相手を何度も叩ききった後、また空中でエネルギーをチャージする。そして動き出した瞬間、


キィィィィィィィィン


目にも映らない速さでアルテマウェポンを斬っていた。一瞬の静寂、そして美しく広がり、轟音を放つ爆発がとどろいた。
アルテマウェポンはなすすべもなく、地面に叩きつけられる。そして、何も言わずに塵のように消え去った。
これが、スコールの最強の技。「エンドオブハート」。
スコールの本当の力を見せ付けられた二人はあまりの強さに、ただ、呆然としてスコールを見つめていた。




なのはとフェイトは一応、軽傷ですんだ。バリアジャケットが守ってくれたのだろう。なのはとフェイトは六課に帰るまで一言も発することができなかった。
スコールははやてにこのことを報告し、自分の部屋に帰った。もう、夜になっていた。
(アルティミシアめ、こんなやつまで手なずけているなんて…)
スコールはこのとき確信した。自分は今以上に強くなる必要があると。明日から、本格的に修行をしようと心に刻んで、彼は眠りに落ちた。


はやてはスコールの戦いをアルテマウェポンあたりのところから見始めており、スコールが帰ってくるまでリインが
「そろそろ寝たほうがいいですよ〜」
といっても、スコールが帰ってくるまで寝ない、と言い張ったのだ。
その後、報告を終えたスコールが部屋から出ると緊張が解け、一気に眠りに落ちたのは言うまでもない。





--------------------------------------------------------------------------------

「フン。さすがは伝説のSEED。こいつをも倒すとは。」
玉座の上で魔女が笑う。
「あともう少し。私の手下を倒したら、お前のほしい真実とやらを教えてやろう。…もっとも、それまで生きていたらの話だがな。」
そう独り言を呟いた彼女は高らかな笑い声を上げ、全てのしもべ達を集めてこういった。
「私の名はアルティミシア。永遠の存在である私を崇めなさい!」
全てのしもべ達はその言葉にひれ伏した。そして、彼女の笑い声が玉座に響いたのだった。

826レオンハート:2010/07/03(土) 13:32:02 ID:Nhl.CtPg
第七話「Squall`s lesson」
スコールはアルティミシアと戦ったときのことを思い出していた。
あいつは、グリーヴァを召喚して、ジャンクションした。そして、真っ暗な世界になったと思ったら、もはや怪物と化したアルティミシアがいた。
戦っていくうちに、アルティミシアは悲しげな声で俺たちに語りかけてきたんだ。
「思い出したことがあるかい。子供のころを。」「その感触、そのときの気持ち。」「大人になっていくにつれて何かを残し、何かを捨て去っていくのだろう。」
「そして……」
あの後、アルティミシアは何を言いたかったのだろうか。それは誰にもわからなかった。ただ、スコールは今回の事件は、アルティミシアを倒しただけでは
終わらないのでは、と考えていた。やつは倒したところで、封印でもしない限り、またこのような事件を起こすだろう。
そもそも、アルティミシアに魔女の能力を受け継がせたのは誰だ?そいつが咎を受けるべきではないのか?いや。そいつもその前のやつから力を
受け継いで、苦しみから逃れたかったに違いない。そうやって何代も何代もさかのぼっていく。
たどりいついたのは、世界が出来たころの話。その世界に「ハイン」という絶対の存在がいた頃の話。
ハインは人間を道具として扱った、それに反発してハインと戦った人間はハインの半身を手に入れた。資料では、人間にやらなかった半身こそが、
魔女だと考えられているらしい。…なら、こう考えられないだろうか。アルティミシアは、ハインの意識をジャンクションしてしまった。
だから、時間圧縮を行い自分が絶対の世界を作ろうとした。かつて、ハインのいた世界のように。
そう考えると、アルティミシアがますます悲しい存在だと思うようになって来た。そして、アルティミシアに魔女を受け継がせた人物を少し憎んだ。
こんなめんどくさいやつを魔女にしやがって、とも思ったが、苦しみから逃れたかったのだろう。
だが、自分の痛みを他人に受け継がせる。その痛みがどんなものかは知らないが、スコールはとても気に入らなかった。
そういうやつが、まま先生やリノアのようないい人に受け継がせるのだ。自分の痛みを、苦しみを。
考えただけで嫌気が差す。戦う理由も考えていると、消えそうだ。…待てよ。
(俺の戦う理由?)
自分は何のために戦っているのだろうか。それまで、全く考えなかったことだ。もしかしたら、ティアマトはこのことを言いたかったのでは。
理由を求めようとしない、だからこそ、与えられた理由にしがみつく。
スコールはそんな人を見るのが嫌いだったが、昔の自分もそうであったことは否定が出来ない。俺は、俺の戦う理由は何だ。
そう悩んでいたら、バハムートが助言をした。
(お前は私と戦ったとき、戦う意義がわからないから戦い続ける、といった。確かに、それもいい答えだと思う。
 だがな、理由だけはお前が見つけろ。他人に縛られたく何のなら、な。)
それを聞いてスコールは深く悩んだ。このもやもやをどうにかしようとロングアーチで訓練をするためにリボルバーを持って外に出た。





ロングアーチの中を森林に設定して歩き回っていた。悩みが解決するわけでもないのに、こんなことをするのもどうかしている、と自嘲するスコール。
ふと、背後に人の気配を感じる。しかも、どことなく殺気を漂わせているようだ。
そして、背後の人物が動いた。とっさにリボルバーを構え敵の攻撃をはじこうとする。
攻撃を仕掛けたのは、シグナムだった。彼女はレヴァンティンをリボルバーにぶつける。スコールも負けじとはじき返そうとする。
お互いが剣をはじいた後、シグナムが突然構えを解いた。
「何を悩んでいる?」
唐突にそう聞かれる。心臓が大きく跳ねたが、悟られないようにクールな顔を装う。
「俺が何に悩んでいても、関係ない。それに、知ったところでどうと言うこともない。」
「嘘だな。お前は悩みを解決したいと思っているのに、他人には聞きたくないと思っている。違うか?」
その通りだ、とは言わない代わりに黙っておく。
「俺は他人に答えを求めるのを止めた。他人にこれ以上惑わされたくない。だが、「戦う理由」が見つからなくてな。
 何のために戦うのか。その意味もわからなくなりつつある。
「それは、戦いながら見つけるといい。」
何のことかと彼女を見たが、彼女はレヴァンティンを構えていた。
「あのときの決着、今つけることができるかどうか知らないが、やってやる。」
その言葉に微笑しながら、二人は戦い始めた。

827レオンハート:2010/07/03(土) 13:32:34 ID:Nhl.CtPg
キィン、バシッ。二人の攻防は続く。
「どうした!その程度で終わりか!」
スコールを挑発するシグナム。スコールもそれに答えて思いっきり渾身の一撃を叩き込む。
生じた激しい衝撃で二人は吹っ飛ばされる。
「シュランゲバイセン!!」
そういった瞬間、レヴァンティンが伸びた。そして、リボルバーごとスコールを捕らえこちらに引き寄せる。
そのまま斬りつけられると思った瞬間、スコールはラフディバイドでカウンターを行った。
シグナムはまともにくらって吹っ飛ぶ。煙で、向こうが見えない、と思っていたとき、
「いくぞ、レヴァンティン。」
本気のシグナムが見えた。気づいたら、彼女の武器が弓矢のようなものにかわっていた。
矢の部分に膨大な魔力がたまっていくのがわかる。
「シュツルムファルケン!!!」
そして、矢が放たれた。―――――



スコールは矢が放たれた瞬間、なぜか子供のころを思い出していた。
雨の中で泣いていた俺。あの時何故ないていたのだろう?
そうだ、エルオーネが突然いなくなってしまったからだ。あのときを境に、強くなると決めたのだ。
何故?
エルオーネを守りたかった?
違う。
一体、……。
そうだ。俺はあの頃、―――――


「おねえちゃん。どこへいったの?」
幼いスコールが誰もいない空に向かって話しかける。帰ってくるのは、雨のしずくばかり。
「寂しいよ・・・」
幼い少年は孤児院にいて、仲間もいたのだが一番慕っていたのはエルオーネだった。
そんな彼女が突然いなくなったことで、幼い彼は心に深い傷を負った。
「もう、おねえちゃんが戻れないんだったら、僕がおねえちゃんに会いにいく!」
無邪気な子供のただひとつ目指したものだった。
「僕は、強くなるんだ!そして、―――」



「こんな悲しい思いをしないようにどこまでも強くなるんだ!!!」



――――――答えが見えた!!!
気がつくと、シュツルムファルケンはすぐそこまで迫っていた。不思議と、避けきれる感じがした。
そして、体を最大限にひねって避けた。
「!?」
一瞬驚いたシグナムだが、キッと戦闘中の顔に切り替える。
いつものレヴァンティンに戻して、魔力を集中させる。一撃の下に、斬り飛ばそうと言う魂胆だ。
スコールもそれに答えた。リボルバーを転送して、ライオンハートを取り寄せる。そして、ブラスティングゾーンの応用でライオンハートに力を送る。
「「うおおおおおおっ!!!」」
そして、激突する二人。ロングアーチが壊れるのではないかと思うくらい強い衝撃波が生じた。
つばぜり合いをする二人。シグナムはスコールの瞳に決意が浮かんだのを見た。

828レオンハート:2010/07/03(土) 13:33:04 ID:Nhl.CtPg
ズドォォォォォン!!



結局二人とも吹っ飛んだのだが、スコールは至って無事であった。シグナムを探すと、
「私ならここだ。」
と声がした。結構外傷が多い。勝負はスコールの勝ちのようだ。とりあえずシグナムにケアルラをかけて、こういった。
「お前のおかげで答えがわかった。礼をいう。」
スコールは戦う理由を得た。悲しい思いをしないように強くなる。それが答えだ。
だからこそ、戦う。もう、「守りたいものを失わないように」――――――



スコールはそのまま部屋へ帰った。そこにはリボルバーが立てかけてある。
これは、俺の強さに対するこだわりだった、と懐かしく思い出す。
反動が強くて扱いづらいガンブレード。それを使い続けることが強さのこだわりだったのだ。そして、
「お前も、な。」
そういって、首のアクセサリーに手をやる。グリーヴァ。こいつの名前であり、俺の強さの象徴。
スコールが最も強く思うもの。このアクセサリーを見て思い出した。俺はこのライオンのように強くなると決意したときのことを。
その全てが懐かしく思えた。





そのとき、モニタールームでは、またモンスターの襲撃が起こっていた。
トライエッジとコキュートス、ガルガンチュアのお出ましだ。本来なら、スコールに知らせるべきであろう。
だが、今回は新人の四人に行かせた。スコールには今日は休んでもらおう、というはやての心遣いの結果だ。
本当に大丈夫か、と思ったが考えがあったのでとりあえずその四人に行かせたのだ。
とにかく、その場にメモを残してはやてはある場所へ向かった。



「うおおおおおっ!!!」
スバルがトライエッジの突進と張り合っている。そこにティアナの援護射撃がトライエッジに当たる。
そのときだった。
「うわああああっ!?」
「スバル!」
スバルが感電した。トライエッジはカウンターでトラインスパークを放つ習性がある。
スバルはその場に膝を着く。だが、これでトライエッジがカウンターでトラインスパークを放つのはわかったらしい。
「ティア!!もう一度突っ込む。援護して!!」
そういい残し、トライエッジにもう一度突っ込む。ティアナも援護するために魔力をためる。
「ディバィィィィン………」
トライエッジが突進してきた。今だ。
「バスターーーーーーーっ!!」
スバルがディバインバスターを放つ。それにあわせてトライエッジの背後に魔力弾を当てる。
トライエッジの正面にひびが入る。
「うおおおおっ!!!」
トライエッジは前方と後方から力を受け、耐えられなくなったのかバキバキと割れていく。
そして、粉々になった。スバルとティアナの勝利である。



「くっ、コイツ、硬い…」
一方、エリオとキャロはガルガンチュアと戦っていた。キャロのサポートを使ってフルドライブで突進してこのざまである。
ガルガンチュアはエリオをはじき飛ばす。
「ぐわあっ!!」
「エリオ君!」
キャロがエリオのもとに駆け寄る。
「許さない。大切な仲間を、友達を傷つける相手は!絶対に許さない!!!」
キャロが叫び、ヴォルテールを召喚する。ヴォルテールはガルガンチュアを踏み潰そうと、足を上げたが、ガルガンチュアのイービルアイを喰らい、
動けなくなる。そして、ヴォルテールを殴り飛ばした。そのとき、エリオがまた突進攻撃を仕掛けた。それを右手で受け止める。
「言っただろ!!仲間を傷つけるやつは許さないって!!!」
エリオはぶつかった状態でさらに加速する。すると、ガルガンチュアの右手が砕けた。ついで、体や左手も砕ける。
恐らく、ヴォルテールを殴り飛ばしたときに体にひびが入っていたのだろう。
そのまま、ガルガンチュアは崩壊した。

829レオンハート:2010/07/03(土) 13:33:35 ID:Nhl.CtPg
四人は忘れていた。ここに来たのは、二体だけではないことを。
コキュートスが四人の背後から忍び寄り、爪で刺し殺そうと思ったとき、何かが、コキュートスに当たった。
「ナンダ!!」
「悪いが、うちの子たちに手出しせえへんでくれるか?」
この一言で四人が一斉に振り返った。コキュートスの存在を忘れていたことに気づき、はやてがここにいることに驚いた。
「ナメルナ!!」
片言でそういったとき、コキュートスははやてに爪を突き出していた。その速さに驚いたが、難なくガードされる。
「悪いが、こちとら遊んでる暇はあらへん。一瞬で終わらせてもらうで。」
はやては、杖を構え、一気にこう叫んだ。
「響け、終焉の笛!ラグナロク!!!」
はやてはコキュートスを粉々に消し飛ばした。が、コキュートスは最後の悪あがきを行った。
「アルテマ!!!!」
なんと、究極魔法を放ってきたのだ。はやては咄嗟に後退するが、四人が間に合わない。やられる!と思った瞬間、何かが四人をはやてのところまで
連れ去っていった。それがとても大きな竜だと気づくには少し時間がかかった。そして、向こうのほうですさまじい音がする。アルテマが発動したのだ。
「どうやら、間に合ったようだな。」
そこには、スコールがいた。何故いたかというと、モニタールームにこんなメモが残されていたのだ。
―――なのはちゃんとフェイトちゃんへ あの四人の様子見てきます。それまで、指揮をお願い!! はやて――――
これをなのはやフェイトが見る前に見つけてしまったので、急いでスコールはここに駆けつけたのだ。
もう、ほとんど戦闘は終了しており、やることは四人の脱出だけだったが、四人が動かないのでバハムートを召喚して四人をここへ連れてきたのだ。
「強くなったな。お前たち。」
スコールが四人にそう伝える。四人が始めてみるであろう微笑を浮かべながら。
四人はその表情に驚き、自分が成し遂げた功績に気づき、歓喜した。
「さ、みんな帰るで。」
「「「「ハイ!!!!」」」」
「ああ。」
そうして、四人は機動六課へ帰った。





アルティミシアは考えていた。これで私のしもべはほぼやられてしまったわけだが、こいつがいる。
私でさえ手なずけるのにてこずったこの無敵のモンスター。
こいつを使えば、少なくともあの部隊の三人以上は殺せるだろう。
「さあ。行きなさい…………」
それは、殺戮兵器に近かった。古代の知識と力を持つ絶対のモンスター。


そいつの名は――――



オメガウェポン。

830レオンハート:2010/07/03(土) 21:25:29 ID:QqjUME.k
以上、投下終了です。また、一気に7話も投下していて
本当に申し訳ないのですが、代理投下、お願い致します。

831TIBET:2010/07/04(日) 20:45:31 ID:a6EDhirI
★日本人女性が中国人に集団で暴行されてる映像!

「悲鳴に振り向くと」←で検索するとヒットします。

日本の新聞やテレビが隠して報道しない事実。

まだ日本人の1/1000しかこの動画をみてません。

(少しでもコピペ協力感謝します!(-人-;)(;-人-) ユルセ管理の人)

下記リンクからでも見れます。
ttp://www.youtube.com/watch?v=ABVU5hnJvqw

832魔法少女リリカルなのは TRANSFORMERS:2010/07/14(水) 22:56:25 ID:PQwT/8Tk
約三か月ぶりの登場になります。
新しく話を作りましたが、アクセス規制に引っかかって投稿できない状況に
なっております。
よろしければどなたか代理投稿をお願いできますでしょうか?

本文は以下の通りになります。

833魔法少女リリカルなのは TRANSFORMERS:2010/07/14(水) 23:03:00 ID:PQwT/8Tk
約三か月ぶりの投稿になります、話を上手く作れずに、グダグダと時が経ってしまいました。
ようやく出来上がりましたので、投下いたします。

「ボーンクラッシャーが管理局の魔導師と本格的に戦闘を始めたそうです」
スタースクリームの報告を、メガトロンは大聖堂のてっぺんで腕を組み、目を閉じながら聞いていた。
「デモリッシャーもチビ三匹に手こずっている様ですし、戦車部隊に紛れて動いているブロウルでも
増援に送りますか?」
その提案に対し、メガトロンは目を開いて答える。
「いや、手こずってはいるが倒される心配はあるまい。それより、サンダークラッカーとスカイワープ
を呼べ」
それからしばらくして、青を下地に何箇所か白と赤のラインが走る、単座型で翼がないずんぐりした
機体の戦闘機と、黒と紫のストライプに色分けされたY字型の戦闘機の計二機が飛んできて、メガトロン
の眼下でロボットに変形して降り立つ。
「お呼びでございますか、メガトロン様」
青色のデストロン航空兵“サンダークラッカー”が尋ねると、メガトロンは彼らに指示を下す。
「ドレッドウイング共を率いて空より攻撃をかけろ、奴らの航空戦力がどれ程のものか見極めるのだ」
黒と紫の航空兵“スカイワープ”がそれに答える。
「仰せのままに、メガトロン様」
二人は恭しく頭を下げると、すぐに戦闘機に変形して再び空へと舞い上がって行った。

834魔法少女リリカルなのは TRANSFORMERS:2010/07/14(水) 23:08:38 ID:PQwT/8Tk
本局ビルNMCCで空の動きを監視していた、二つの巨大な眼に鯰のような口をしている
レーダー担当の士官たちは、クラナガン市街周辺の未開発区画から、突如として未確認の
航空機を示す赤の輝点が大量に表れたのを見て驚愕の表情を浮かべた。
「市街近郊の遺跡区域より、大量の未確認飛行物体が出現!」
大急ぎで報告すると、黒い瘤らだけの肌に骸骨顔の、翼竜の羽を持った将官が文字通り
飛んでくる。
「数は?」
士官たちはレーダー上に映る赤色の塊の数を見極めようと、必死で目を凝らす。
「推定一千と見られます!」
それを聞いた将官は絶句するが、すぐに気を取り直して奥にいる長官以下の幕僚達へ報告
の為に準備を始めた。

将官からの報告に、幕僚たちは将官と同じように愕然となった。
只でさえ地上は大変な状況だというのに、今度は空からの脅威に対応しなければならないのだ。
「今動ける航空隊は?」
グーダとは別種の、髭と髪が肩下まで伸びた、三白眼に巨大な口と黒緑色の皺だらけな肌
をした半魚人生物の幕僚が気を取り直して尋ねると、事前に部隊のチェックを行っていた
将官は即座に答える。
「クラナガン市内の航空隊ならば、どこの部隊でもすぐに。
一番近いのは機動一課第19師団256航空隊と五課第978師団24航空隊です」
少し離れた場所にいたシグナムとアギトが、互いに顔を見合わせて頷く。
「ただちに出動させろ。それと他の部隊もすぐに増援に出せるようにしておけ」
将官が敬礼して立ち去るのと入れ替わりに、シグナムとアギトが幕僚の前に進み出る。
「256航空隊は私の指揮する部隊ですので、復帰の許可を頂きたいのですが」
「分かった、急ぎ戻ってくれ」
幕僚に敬礼して踵を返した二人に、ゲラー長官が声をかけてきた。
「君達、ちょっと待ってくれ」
シグナムとアギトがこちらに来ると、長官はモニターを開いて連絡を始める。
「ギーズ一佐、シグナム三佐の援護を頼めるかな?」
「了解致しました。本局ビル屋上で落ち合う…という事でよろしいでしょうか?」
長官は考え込むように顎に手を当てる。
「…うむ、そうした方がいいだろう」
話を終えてモニターを切った長官に、シグナムが尋ねる。
「本局ビル内での魔力使用は厳禁されているでは?」
「今は非常事態だ、一々下に降りてる暇はあるまい?」
シグナムはそれを聞くと、長官に敬礼しながら改めて言った。
「かしこまりました。シグナム三等空佐、本局ビル屋上でギーズ一佐に合流の後、本隊に
戻ります」

835魔法少女リリカルなのは TRANSFORMERS:2010/07/14(水) 23:15:14 ID:PQwT/8Tk
シグナムは本局ビルの屋上に上がると、既に到着していたギーズ一佐に敬礼する。
「援護にご協力、感謝いたします」
ギーズが返礼を返しながら言う。
「急ごう、敵はすぐそこまで迫っている」
「はい!」
シグナムは頷くと、首に吊下げている剣のアクセサリーみたいなデバイスを取り出し、
ギーズも制服の内ポケットから龍が彫られたコイン型のデバイスを出す。
「レヴァンティン!」
「羅龍盤!」
それぞれデバイスの名を呼んで上に掲げると、デバイスから強烈な光が溢れ出、光の球
となって周囲を覆う。
最初に掲げられたデバイスは宙へ浮き上がると変形を始め、レヴァンティンは大剣へ、
羅龍盤はサーベルへと変形する。
二人がそれを取ると同時に制服が光の粒子となって四散し、シグナムの適度に鍛えられた
均整の取れている奇麗な、ギーズの細身ながら筋肉質な裸身が露となる。
拡散した光の粒子は、再び二人の体を覆い、シグナムは白いジャケットにミディアム
ヴァイオレットの騎士甲冑へ、ギーズは足元まである長いマントにダークシーグリーンの
軍服風バリアジャケットとなる。
光球が弾けると同時に二人は空高く舞い上がり、既に戦闘が始まっている方へと飛び
去って行った。

“ドレッドウィング”という名を持つドローンは、六枚翼の戦闘機から一つ目の人型
ロボットに変形すると、こちらに向かって来る三人の空戦魔導師目掛けてビームを
撃ちまくる。
魔導師たちはシールドを展開して弾を防ぎながら散開する。
身長五十センチほどの、口から牙が生えた黒人魔導師がドローンの周囲を旋回飛行し、
アクセルシューターを撃ち込みながら大声で挑発する。
「おい、どうした! その程度か!?」
挑発が効いたのか、ドレッドウィングは数発ミサイルを発射する。
最初の二〜三発は避けたものの、次のミサイルが魔導師を直撃し、文字通り木っ端微塵
に吹き飛ばされる。
続いて、白色の鱗で全身を覆う両生類型生物の魔導師がスピア型デバイスを突き出して
真上から突っ込んで来るが、右腕でそれを殴り落とす。
と、いきなりドレッドウィングの腹部を、ディバインシューターが突き抜ける。
ドローンは痙攣し、火花と炎と吹きながら墜落する。
人間と類人猿の合いの子のような顔立ちをした、身長一メートル弱の猿人魔導師が煙の中
から突き抜けた次の瞬間、別のドレッドウィングによるビームを数発喰らって、後を追う
ように落ちて行った。

836魔法少女リリカルなのは TRANSFORMERS:2010/07/14(水) 23:23:17 ID:PQwT/8Tk
「フェニックス47がやられた! もう持ち堪えられない!!」
モニターから上がる悲鳴に近い救援要請に、後方で部隊の管制を行っている、白い肌に三つ
の突き出た目が特徴的な魔導師が脂汗をかきながら必死に指示を出す。
「フェニックス16は47のバックアップに回れ! フェニックス23と98は一旦後退しろ!」
そこへ、シグナムとギーズがやってくると、魔導師はホッとした表情になった。
互いに敬礼を省略(戦闘中の敬礼は敵の格好の標的になるので厳禁されている)し、早速
シグナムが魔導師に質問する。
「状況は?」
魔導師は戦闘の概略図を表示させながら答える。
「芳しくありません。敵GD一体に対して魔導師三名で戦っていますが、攻撃力に差がある
上に数が多すぎて…」
「ヴィータ達が増援に駆け付けるまで、まだしばらく時間が掛かるな…」
手を顎に当てて考え込むシグナムに、ギーズが言う。
「ならば、到着まで我々が直接抑えるしかあるまい」
シグナムは頷くと、肩に乗っているアギトに言った。
「聞いての通りだ。アギト、ユニゾンで行くぞ」
それを聞いたアギトは、飛び上がって指を鳴らす。
「待ってました! 一丁派手に大暴れしてやるぜ!!」
シグナムとアギトは眼を閉じて呼吸を整えると、互いの意識をリンクさせる。
“ユニゾン―――”
唱和を始めるのと同時に二人の周囲に光の粒子が溢れ出し、それが繋がって一つの流れとなる。
“―――イン!”
唱え終わった途端、強烈な光の奔流が二人を覆う。
それが収まった時、インディゴカラーの騎士甲冑と背に四枚の炎の翼を持つ、ピーチパフカラー
の髪に変わったシグナムが居た。

ドレッドウィングに背後を付かれた、シアン色の肌をした翼竜型生物の空戦魔導師は、左右に
ジグザグ運動する事で追撃を必死にかわそうとしていた。
しかし、ドローンの速度は魔導師よりも遥かに上で、とても振り切ることが出来ない。
「駄目だ、逃げ切れない! 誰か助けてくれ!」
悲鳴に近い叫びを上げながら逃げ惑う魔導師を、ビームを撃ちかけながら追い詰めていたドレッド
ウィングが、突然爆発を起こしてバラバラの破片になった。
「!?」
いきなりの事に唖然としていると、魔導師の眼前にギーズとシグナムが現れる。
「大丈夫か?」
シグナムに問い掛けられると、魔導師は気を取り直して頷く。
「よし、直ちに部隊へ戻れ」
魔導師が原隊に復帰するのを見届けてから、シグナムは念話で部隊へ呼び掛ける。
“こちらはフェニックス1、シグナムだ。敵GDの主力は私とギーズ一佐が引き受ける。
全部隊員は、こちらのフォローと周辺の敵を頼む”
念話で部隊に呼び掛てるところを狙って、一機のドレッドウィングがシグナムを撃ち
落とさんと迫ってくる。
と、その前にギーズが現れ、羅龍盤で機体を縦一文字に斬る。
「淑女の話の邪魔をするとは、紳士の風上にも置けぬ愚か者め」
シグナムはギーズの言葉に首を捻りながら、レヴァンティンを構える。
「私は単なる夜天の書のプログラムです、それにこんな機械人形に性別などありますまい」
そう言いながら人型に変形してビームを撃ってくるドレッドウィングを、横への一閃で
斬って捨てる。
「何であれ礼儀を失した者には、相応に指導をせねばならん。ただそれだけの事」
カートリッジを装填し直しながら、シグナムはニヤリと笑みを浮かべる。
「確かに…人の話が分からぬ者には、鞭が必要ですからな」
まるで、その言葉を合図としたかのように、レヴァンティンを青白い炎が包む。
「では、これからやって来る愚か者共に、一つ教育的指導と行くか?」
そう言ってギーズが顔を向けた先には、迫り来るドレッドウィングの大群が見えた。
「喜んで」
牙をむき出しにした虎のような、凄みのある笑みを浮かべて、シグナムは答える。
ユニゾン中のアギトは、引きつったような笑いを浮かべながら呟いた。
“二人とも怖えぇ…”

837魔法少女リリカルなのは TRANSFORMERS:2010/07/14(水) 23:28:50 ID:PQwT/8Tk
高級ブティックが建ち並ぶ第18区アナベア通りは、ドローン軍団対EW−TTと陸戦魔導師
の混成部隊による攻防戦の舞台となっていた。
人だろうが物だろうが片っ端から砲弾を撃ち込んで来るドローンに対して、部隊はEW−TT
が展開する強力なシールドと装甲を盾に、ディバインシューターや魔導師によるアクセル
シューターの連射で対抗する。
激しい戦闘によって崩れた建物の瓦礫の中から、人の指先が一つ現れると周囲を見回す様
にクルクル回る。
“セイン、状況はどう?”
アクアブルーの色にセミロングの髪が特徴的な、ハイティーンの少女のような容姿の
“セイン・オケアノス”は、指先に取り付けられたペリスコープアイで周囲を見回し
ながら、ティアナの質問に答える。
“状況は互角ですね、特に私達の助けが必要な感じはないです”
“スバルやチンク達が遭遇したような、自己意識を持った指揮官タイプは?”
“ええと…”
少しの間、セインは指を回して周囲の状況を再度確認する。
“それらしいのは見当たらないです、全部かつてのGDみたいにプログラミングされた
動きしかしてません”
しばらくの沈黙の後、ティアナは再び話を始める。
“そちらは部隊任せで大丈夫そうね。セインは引き続き指揮官クラスのGDを探索―――。”
突然、セインはティアナの言葉を遮った。
“ちょっと待って下さい!”

突然、後方にいたEW−TTの一両が大爆発を起こして擱座した。
「な、何だ?」
部隊長を務める、頭頂部以外に毛のない真っ白な猿みたいな容姿に四本の腕を持つ魔導師が、
面食らいながら後方へモニターを切り替えると、一台のEW−TTがこちらへ砲口を向けて
いる映像が映し出される。
「最後尾は何をやっとる!? 味方を誤射してるぞ!」
部隊長が怒鳴り付けるが、車両からは何の返事もない。
それどころか、EW−TTは再び砲口を別の車両に向けて、もう一発砲弾を発射する。
「砲弾!?」
ニ台目が炎上して倒れた時に部隊長は気が付いた。
あの車両が撃ち出しているのは質量弾であって攻撃魔法ではない、という事は―――。
「全部隊、最後尾の車両は敵だ!」
部隊長が血相を変えて怒鳴るのと同時にEW−TTが変形を始める。
砲身が引っ込み、最前の脚と車体前部が腕に、後部開いてが足に変形し、中から機械の頭と
胴体が出現し、分かれた車体は手と足に変わる。
砲塔部分は後退しながら回転し、中から顔と胴体が出現する。
それはEWーTTから“デストロン軍団 狙撃兵ブロウル”となって立ち上がった。

838魔法少女リリカルなのは TRANSFORMERS:2010/07/14(水) 23:32:02 ID:PQwT/8Tk
「前方のGDは放っておけ! 後方が本命だ!!」
部隊長はそう怒鳴ってEW−TTの砲搭を回転させると、全車がそれに倣ってブロウルに
狙いを定める。
ディバインシューターが一斉に撃ち出されるのと同時に、ブロウルも両肩に搭載された
ミサイルや両手の機銃などを一斉に発射する。
砲撃魔法と質量弾は、丁度両者の中間辺りでかち合って爆発し、辺り一面煙と埃に覆われる。
その中からブロウルがゆっくりと歩きながら姿を現す、ボディには傷一つ見当たらない。
ブロウルは肩のポッドからミサイルを発射し、三両目のEW−TTを血祭りに上げる。
「くそっ!」
部隊長が毒づいた時、いきなりブロウルの背後で爆発が起こり、俯せに倒れ込む。
「!?」
訝しむ部隊長の眼前に、空間モニターが開いてティアナの顔が現れる。
「こちらは次元部局第三艦隊、第783機動部隊1348強襲揚陸隊所属、ティアナ・ランスター
執務官補佐です。
こちらの敵は私の方で対応します」
話を受けた部隊長は一瞬“若造め”という苦い表情になるが、それを声に出す事なく、努めて
平静を装いながら返答する。
「了解しました、後はお願いします」
モニターを消すと、部隊長は小さく舌打ちする。
「全部隊、後方の敵は執務官補が引き受ける。我々は前方のGDを掃討しながら前進するぞ!」
不機嫌な部隊長の声に対して、車内の乗員達は皆一様にホッと安堵の表情を浮かべた。

起き上ったブロウルは振り向くと、機銃が装備された腕をティアナに向ける。
銃弾が身体を引き裂くよりも前にティアナはバイクを急発進させると、自身のデバイス
“クロスミラージュ”をブロウルに向ける。
立て続けに撃ち出されたディバインシューターは全弾ブロウルに命中し、二・三歩
後退させる。
「さあ来なさい、あなたの相手は私よ!」
態勢を立て直したブロウルに、ティアナは大声で挑発した。

839魔法少女リリカルなのは TRANSFORMERS:2010/07/14(水) 23:36:59 ID:PQwT/8Tk
今回はここで終了です。
次は…スバル対ボーンクラッシャーの続きとかを書いてますのでお楽しみに!
出来れば、はやて登場までやりたいですね。

今回の元ネタ集。
オリキャラ
●二つの巨大な眼に鯰のような口をしている昆虫のような姿をしたレーダー担当の下士官
:ジオノーシアン『スター・ウォーズ エピソードⅡ クローンの攻撃(2002 アメリカ)』
●黒い瘤らだけの肌に骸骨顔の、翼竜の羽を持った将官:『ギャラクシー・オブ・テラー
 恐怖の惑星(1981 アメリカ)』ポスターより
●グーダとは別種の、髭と髪が肩下まで伸びた、三白眼に巨大な口と黒緑色の皺だらけな
肌の半魚人生物:『モンスター・パニック(1980 アメリカ)』
●身長五十センチほどの、口から牙が生えた黒人魔導師:ラットマン『ラットマン(1993
イタリア)』
●鱗肌のアルビノの両生類型生物:スロース『アリーナ(1989 アメリカ)』
●人間と類人猿の中間の顔立ちをした、身長一メートル弱の猿人魔導師:トロル『トロル
(1986 アメリカ)』
●部隊を管制する、白い肌に三つの突き出た目が特徴的な魔導師:リー=イーズ(マラステア人)
『スター・ウォーズ エピソードⅥ ジェダイの帰還(1983 アメリカ)』
●シアン色の肌をした翼竜型生物の空戦魔導師:バピラス『ドラゴンクエストⅡ 悪霊の神々
(1987 エニックス)』
●頭頂部以外に毛のない真っ白な猿みたいな容姿に四本の腕を持つ魔導師:猿の化け物
『火星のプリンセス(1917 エドガー・ライズバローズ 創元推理文庫刊)』

デストロン軍団
●サンダークラッカー:Aウイングファイター
●スカイワープ:Yウイングファイター
●ドレッドウィング:ARC170スターファイター

840魔法少女リリカル名無し:2010/07/15(木) 21:57:30 ID:H/KaHroY
じゃあ、いってみます。

841魔法少女リリカルなのは TRANSFORMERS:2010/07/15(木) 22:12:38 ID:V0kht952
>>840
只今確認いたしました。
投下してくださいました方、どうもありがとうございます。

842りりかるな黒い太陽:2010/08/05(木) 22:36:59 ID:p01vHF9Q
また間が空いてしまいました;
22話の投下を行ないたいのですがアクセス規制中のようです
お手数をかけて申し訳ありませんがどなたか本スレへの投下をお願いします
本文は以下になります

843りりかるな黒い太陽 二十二話:2010/08/05(木) 22:39:26 ID:p01vHF9Q
ミッドチルダの至る所で稲光が弾けていく最中、機動六課も迅速に動き出そうとしていた。
管理局の対応が決まるにはまだ時間を要するのは誰の目にも明らかだった。
はやて達のいた会場は混沌とし、すぐに意見を取りまとめられるような状態ではない。

聖王を取り戻したいのは勿論だが、今まで教会や自分達を謀っていたのかという教会関係者と次元犯罪者の甘言に動かされた者達を睨む本局の代表者達は、この事態を収集しようというつもりがないかのようだった。
それを取り巻く他の管理世界の代表者達も、幾らかはライダーを部下に持つことも出来るようになるという誘惑に心惹かれているらしい態度を隠そうともしていなかった。

地位故に、まだまだ混沌としていくであろう会場の隅に追いやられていたはやて達は、そんなものに付き合ってはいられなかった。
会場に入る為に預けていたデバイスを受け取って出て行く彼女らを、会場の何名かが流し目で見送った。

会場を出るとすぐに街のどこかで発生した閃光が周囲を真っ白に染めて、余波が道路を、立ち並ぶ建造物を揺らす。
それが収まるより早くに次の一撃が、本部の空気を僅かに帯電させた。

「サンダーレイジO.D.J…母さんが、使った魔法。二人共ごめん、私もすぐに出るよ。ヴィヴィオを助けないと…」
「勿論や。あの有様のお陰で私達に与えられてる任務には何の変更もあらへん、次元犯罪者の要求には屈しへんし誘拐された被害者も保護する。両方やらなあかんのが私らのツライとこやね」

焦りを見せるフェイトを落ち着けようと、軽い調子ではやては言う。
なのはも頷いてフェイトの手をとった。

「はやて隊長、いい作戦はある?」
「う〜んそやねぇ…まずは、シャーリー。無限書庫のユーノ司書長に繋いでもらえる? なのはちゃんからアレについての情報を集めてもらいたいんよ」

はやてが空中に通信画面を開き、待機していたシャーリーへ指示を出す。

『それならもうやってあります。最優先でやってくれたみたいで、先程情報が届きました』
「流石や、シャーリーもユーノ君もほんまに頼りになるわ」

誉められたシャーリーは、眼鏡の奥で嬉しそうに目尻を緩ませた後、ミッドチルダの上空へと浮かび上がっていく『聖王のゆりかご』の情報を六課の隊員たちの前に表示させた。
そこには内部の構造や、配備されている兵器についてもある程度の事が書かれており、皆を驚かせ、はやてを考え込ませた。
内容を確認していく隊長二人を余所に、はやては難しい顔をする。

「……皆、ちょっと聞いてくれる?」

はやて達と合流しようとしているヴォルケンリッターや、新人達との通信画面も開いてから、はやては言う。

「賭けに出たいんや。特に、なのはちゃんには負担を賭けることになると思う。悪いけど、付き合ってもらえんやろか」

尋ねるはやてに最初に頷いたのは勿論ヴォルケンリッターだったが、それに押されるように皆、元気よく返事を返した。
ありがとう、と言って説明を始めようとするはやて。そんな彼女に通路の先から親しみの篭った声がかけられた。

「ほぅ、一体どんな悪巧みを思いついたんでぇ?」
「な、ナカジマ三佐!?」

驚いて、通信画面を脇にやったはやて達に、ゲンヤは手を挙げて挨拶する。
その隣には、どういうわけかヴェロッサが立っており、二人はゆっくりとはやて達の元へと歩いてきた。

「ヴェロッサまで。こんなとこでどないしはったんです?」
「レジアスの旦那に頼まれてな。コイツの随伴よ」
「忙しいところ悪いけどちょっと時間をもらっていいかい?」
「まぁ、ちょっとやったらええけど。なんであんたがナカジマ三佐と…」
「ある人物…」

ヴェロッサは声を潜めた。

「レジアス中将の頼みでね……と言っても、立場上積極的に協力したとは言えないから、責任はこちら持ちになっちゃうけどね」

844りりかるな黒い太陽 二十二話:2010/08/05(木) 22:40:37 ID:p01vHF9Q
意外な名前が挙がり、ますます用件が見えなくなるはやて達にヴェロッサ達も苦笑を深くする。

「彼女の協力を取り付けたから、君の指揮下で使って欲しい。責任は、僕らも掛け合ってなんとか三提督が取ってくださることを期待してくれ」

そう言ってヴェロッサは身を引き、後ろに連れていた親子をはやてに紹介した。

「こうして話をするのは初めましてですね。私はメガーヌ・アルビーノ。この子は」
「ルーテシア・アルビーノ。どうして欲しいの?」

母親と手を繋ぎ、感情の薄い瞳で見上げてくるルーテシア。
メガーヌは、まだ自由に移動することが出来ないのか車椅子に乗り、報告書で見たガリューが椅子を押していた。

「ブランクの長い私は、戦うことは出来ませんがこの子一人を行かせるわけにもいきませんから」

戸惑いが抜けきらないはやてにゲンヤが説明する。

この事件を解決する為に現状戦力となり得るものを総動員するしかないということは誰の目にも明らかだったが、
報道された内容に、他の管理世界は勿論だがこのミッドチルダの現場でも戸惑いの声が強く、今いる責任者達では押え切れない状態と化していた。
動揺を抑えこみ、正常化させた上で緊急時の対応を取ることが出来る人物は他でもない、会場の中にいる代表者達だった。

だがその代表者達も前述されたとおり混乱し、未だ動き出すのに時間がかかる。

そこで既に動き出した六課に協力するよう、陸で保護されていたアルビーノ親子へ要請がかかったのだった。

「外は安全とは言えないからね。僕がここまでお連れすることになったんだけど、僕だけじゃお二人に信用してもらえなくてね。ナカジマ三佐にお願いしたってわけさ」
「ははは、ええっと……そら助かりますけど、いいんですか?」

スカリエッティに酷い目に合わされ、どうにか生還したメガーヌ。
管理局の手でスカリエッティに引き渡され、彼女を目覚めさせる為に辛い人生を送っていたルーテシア。

ルーテシアの能力はとても有り難いが、彼女らに協力を要請することは戸惑われた。
戦わせることにも倫理的な問題は付きまとうが、その上はやて達の今後の予定には、ゼストをもう一度殺したRXを手助けすることも含まれているのだ。

二人はあっさり頷いた。

「ゼストのことは、私達が招いたトラブル。強盗を手伝ったら、反撃されるのは当然のことだった」

ルーテシアもゼストも、探す途中結果的に殺してしまった人間はいる。
恨みがないと言えば嘘になるが、自分達が逆に倒されたことが今の親子の生活より優先されることはないのだった。

「そう、わかった。じゃあ遠慮無くお願いするわ。ルーテシア…そう呼んでもええ? ありがとう。ルーテシアは細かい指示は追ってするけどまずは前線メンバーと合流してもらうわ。ヴェロッサ、悪いんやけど連れて行ってあげてな」
「わかった」

ヴェロッサは直ぐに承諾した。
スカリエッティの居場所を突き止めたり、管理局の不正を暴き改革を行なおうとしていたがこうなってしまってはヴェロッサに出来ることは余りなかった。

「その後、ルーテシアの一番強い召喚獣の…「白天王?」そう! それを呼んでもらいたいんよ」
「あの船を攻撃するの?」
「そうや! ルーテシアの白天王とキャロのヴォルテール。戦船と張り合うには、使うしかないやん?」

通信画面越しに皆に指示を出し、はやては作戦開始時間を定める。
突然指名を受けたキャロが、ヴォルテール…ルーテシアにとっての白天王に当たる召喚獣の使用に抵抗があるようだったのもあるが、フォルテールと白天王は、強力な召喚獣だが都市で使うには不都合が多い。
二体が召喚される付近の住民を違う避難場所へ移動してもらう時間が必要だった。

「フェイトちゃん、悪いんやけど新人達と一緒にキャロを落ち着かせといて。他の皆は準備が済み次第交代でちょっと休憩しといてな」

相変わらずミッドチルダ中を対象に降り注ぐ稲妻を黒い影が防ぎ続けていたが、焦りを抑えてはやては解散を命じる。
ここまでの移動だけでも消耗していたのだろう、ゲンヤがメガーヌを連れて行く。はやて自身も、少し休むため休憩所に移りソファに腰掛けた。
準備の為にフェイトが、それになのはが付いて行きヴェロッサとはやての二人が残された。
緊張を解すため、力を抜きながらはやては尋ねた。

845りりかるな黒い太陽 二十二話:2010/08/05(木) 22:41:43 ID:p01vHF9Q
「ヴェロッサ……誰からも、待機命令とかは着てないんやね?」
「ああ。皆、誰かがスカリエッティ一味だけ取り押さえてくれないかなって思ってるからね」

聖王とゆりかごは聖王教会に取って非情に重要な、重要すぎる聖遺物だ。
だから教会の信者を多数抱える本局も聖王教会との関係をこれ以上悪化させない為には、聖王とゆりかごについては大半の者が譲るのも仕方ないと考えている。

だがスカリエッティは、(教会に取っては遺産と偉人を教会へ取り戻した功績者であっても)管理局に取ってはただの犯罪者だ。
それも今では評価は更新され、スカリエッティは管理局では禁忌とされる技術の第一人者であり、管理局の醜聞を他にも幾つも知っているであろうという……見過ごせない程重要すぎる犯罪者と化している。

これが光と闇が両方そなわり最強に見える、ということかと言いつつ現実逃避したくなったが、はやてはため息をつくだけに止めた。

「伝説になるような戦船なんやろ? そこに突入してスカリエッティを取り押さえて聖王の保護って、成功したら奇跡やね」
「それでも、遂にこうなるまえに彼らを捕まえられなかった僕らは期待せずにはいられないのさ。保護出来ればヴィヴィオちゃんの処遇に付いては希望が出てくるはずだしね」

苦々しく思っているのか、声に力のないヴェロッサにはやては目を開け力付けるように微笑んでみせた。

「やってみせるから、時間が来たら起こしてな」
「それくらいなら僕にも出来そうだ」

はやては再び瞼を閉じた。



同じ頃、六課よりも早くRXの手助けをしようと動き出していたセッテは空へ飛び込む為の助走を開始していたバイクを止めた。
普通の人間なら不可能なことだが、肉体を強化されたセッテならそう難しいことではなかった。

「クアットロ。用があるなら後にしてもらえますか?」
「そうはいかないわ。今じゃないと邪魔が入るじゃない」

立ち塞がったクアットロは、ガジェット・ドローンの上に座りスカリエッティそっくりの笑顔を浮かべていた。

「お姉さまにお願いされたから聞いてあげるけどぉ、セッテちゃん。今素直にごめんなさいしてドクターに協力するなら許してあげなくもないわよ」

あまりの言い草にセッテは呆れて、返事を返さないどころか無視するように浮上を続けるゆりかごへと視線を移す。

「ドクターの要求が通れば、あそこで痺れてるのも公に認められて、私達は生まれを隠さずに表立って外を歩き回れる。いい事尽くめじゃないかしら」

楽しげに話すクアットロ。
それにセッテは仮面の奥から機械然とした…情を絡ませていない視線を向けた。

「それとも、タイプゼロみたいなつまんない生き方の方がお好み? ドクターが動かなければ、ああなってたに違いないわよ」
「……確かにタイプゼロのような情けない生き方はごめんですが」

クアットロの言葉にセッテは初めて同意した。
タイプゼロとはギンガとスバルのことだ。
呼び名が示すとおり、二人は初期に生み出され、ゼストの部隊が救出した後、部隊に今は亡き妻が所属していたナカジマ夫妻に引き取られ、育てられた。
二人共そのことは極一部の人間を除いて秘密にしているのだが、RXは能力によって、ナンバーズはスカリエッティを通じて知っていた。

それ以後、真っ当な暮らしを営んできた二人の生き方についてセッテとクアットロの意見は、簡単に言えばウザい、で一致していた。

戦闘機人としての生まれを隠して生きることに反感を覚えるのだ。
セッテは、差別を受けることになるだろうということは理解できるが、例えるなら一人だけ黙って動力付き自転車でマラソンに参加しているようなもので、姑息だと感じていた。
もっとチート臭いなのは達がいるわけだが、フェイト等は生まれによる不利益と向き合っている。
利口なやり方だという考えは理解できるので態度に出ないよう接触はしないようにしているが。
クアットロの方は、単純にスカリエッティや姉妹への敬意から敵意を持っていた。

「ですが、ドクターのやり方は賛同できません。ライダーが改造人間だということが知られていき、ドクターが普通の人間にも機械を埋め込むことに成功すれば、それで我々の認識を改めさせることは可能でしょう」

846りりかるな黒い太陽 二十二話:2010/08/05(木) 22:43:21 ID:p01vHF9Q
セッテは、ブーメランブレードを喚び出し、両手に構えた。
バイクはセッテの意思で自在に動き、足を固定する為の装置も備わっている。
ハンドルを握っているのは普段はその方が便利だからだ。

「今回の事件は必要なかった。ヴィヴィオを巻き込むような方法を敢えて取るなんて……大人のやることじゃありません。クアットロも一緒に殴られたくなければこちらに協力してください」
「そう♪ 良かったわぁ、これで貴方にやり返してもお姉さま達も文句は言わないわよね」

そう言って、二人は動いた。
バイクを駆り、突進するセッテ。
クアットロはその場を動かずに周囲にガジェット・ドローンを呼んだ。

ガジェット・ドローンがどこからか現れ、クアットロの壁となる為に集まっていく。
それを見てセッテは何か嫌な感じがした。
ガジェットのの配置が完了する前にクアットロをひき殺すことは容易いことなのに…

そう気持ち悪いものを感じつつも、突進したバイクがクアットロに接触し、そのまま通り抜けた。
このクアットロは、クアットロのISが生み出す幻だったのだと理解した直後、集まっていたガジェット・ドローンが放つ無数の光線にセッテはさらされた。
再改造を受けてより頑丈になったセッテへカプセル型の1型が特攻し、新たに放たれた光線がガジェットは高価な爆弾となって破片を撒き散らす。

「セッテちゃんも一騎打ちだとか思ってないわよねぇ……これは狩りよ」

爆発と破片の嵐にさらされたセッテの周囲を同じくISで隠されていたらしいガジェット・ドローンが取り囲んでいく。
カプセル型、球体…そして一撃加えようとしたセッテを撃墜した刺々しい、羽根の生えた多脚生物の群れ。

多脚生物型は、データでは知っていたが、セッテも初めて見る。
ガジェット・ドローンⅣ型…8年前になのはを撃墜し再起不能寸前の大怪我に追い込んだ「アンノウン」でもあり、ゼスト隊による戦闘機人生産プラント制圧戦において、クイント、メガーヌを取り囲んだタイプだ。

警戒していなかったわけではない。
だが、Ⅳ型の魔力探知も避ける事ができる完全なステルス性能、RXが雷撃を受け続けている状況、それを助けようとする自分に横槍を入れるクアットロの薄笑い。
クアットロの顔に残る傷跡へ、セッテは無意識に視線を向けた。

どうもカッとなってクアットロを殴りつけたお陰で、厄介な状況に追いやられてしまったようだ。
機械的に過ぎると言われた頃には思いもよらぬ状況だが、セッテは仮面の中で笑みを浮かべながら、周囲に自分が操る事のできるブーメランブレードを全て配置していった。

視線に気づいたのかクアットロは顔に手をやっていた。

「ほんと、お馬鹿さんよねぇ…この私を殴って逃げ出したり、お話してる間に取り囲まれちゃったり」

Ⅳ型は本来ゆりかごの内部に配置されているもの。
Ⅰ〜Ⅲ型も今周囲に確認出来ている数なら、他の場所には殆どないはずだ。
嘲笑うクアットロには悪いが、それを察したセッテは敢えてクアットロの相手だけに専念することを決め、ガジェットを迎え討とうとしていた。



847りりかるな黒い太陽 二十二話:2010/08/05(木) 22:43:54 ID:p01vHF9Q
RXを襲う魔法の威力はいよいよRXへとダメージを与え始めるようにまでなっていた。
一発毎に精度を増し、改良を施される稲妻にRXの皮膚からは煙が上がり、稲妻が走った場所は点々とひび割れた皮膚の欠片がこぼれ落ちていく。

「ク……ッ」

膝を付いたRXに、スカリエッティが言葉をかける。

「RX、そろそろ降参してもいいんじゃないかな。教会は私の提案を受け入れてくれる方向で管理局と話し合いをしているし、管理局にそれを跳ね除けることなど出来はしないんだからね」
「ふざけるな……っ」
「では、我々が手を結ぶまでそのままの君でいてくれたまえ」

言い捨てて、攻撃が再開される。
子供を見捨てられないRXは雷へと何度も身を投じていった。
更に威力を増していく魔法に、RXの肉体は傷つけられていく。

駆け寄ろうとする市民や、陸士達をRXは手で制した。

そして一瞬の好機が生まれることを願い、ゲル化して盾となりに行く。

その時、不思議なことが起こった。

「危ない、RXッ!!」

RXを庇い、オレンジ色の壁がRXの代わりに雷を受けた。
最初にRXが受けていたものよりずっと周囲の破壊は少ない。
だが確実にRXを攻撃し、痛手を与えるはずの光の蛇は文様を刻むように、金属鎧のような皮膚の上を走っただけだった。

『え?』

雷が一瞬止む。
誰もが皆、間抜けな顔を晒していた。
ポルナレフ状態に陥ったミッドチルダを嘲笑い、正に独自の時間を生きているらしい創世王達は腕を組んでいた。

「ロボライダー!!」

RXが全幅の信頼を込めて自分の別の形態の名を呼ぶ。
涙が赤い跡を残した仮面が、頷きながら親指を立てて己を指さした。

「過去のお前がやられると、未来の俺が困るからな!!」
『え?』

二人以外の皆が互いの顔を見合わせ、目と耳を疑っていた。
何故あんなのが二人もいるのか、その光景を見た全員にとって、とてつもなく酷いジョークだった。

そんな中で、いち早く我に帰ったゆりかごの中の聖王が新たな雷を降らせようと口を開く……だが必要な言葉を言う間も与えられず、もっと酷い事態が起こり彼女の口は言葉を忘れた。
空へと昇っていくはずの聖王のゆりかごが傾いていた。

「危ないッ、ロボライダー!!」
「バイオライダー!!」
「過去のお前達がやられると、未来の俺が困るからなッ!!」

ゲル化して現れた三人目のRXらしいバイオライダーが、ゆりかごの中へと侵入していた。

「スパークカッターッ!!」

蜻蛉切の上に置かれたトンボのように、ゆりかごは二つに割れていった。
どう反応すればいいか困り切った周囲から、何かを期待するような視線がはやてに集まるのをカンジタ。
はやては、周りの人間と同じように引きつった笑顔を見せながら言う。

848りりかるな黒い太陽 二十二話:2010/08/05(木) 22:44:33 ID:p01vHF9Q
もう全部アイツ一人でいいんじゃないかな……………………………………………………………………………………………………………………………………「はやて。そろそろ時間だよ…はやて!」ハッ」

ヴェロッサに肩を揺すられて、はやては顔を上げた。
傍には戻ってきたなのは達もいて、慌ててはやてはソファから立ち上がる。

「はやて隊長、皆準備できたよ」
「ううん……夢、やったんよな?」
「悪い夢でも見たの?」
「悪夢っちゅうか……ま、まぁ気にせんといて。ほな、行こうか」

セッテがクアットロが率いるガジェットの群れと戦闘を開始したことは、直ぐにはやて達の耳に届いた。
だがはやては、そのことをシャーリーの報告だけでなく、通信でゲンヤからも聞かされても動かなかった。

「うちの連中から援護に参加してぇって嘆願が一緒に届いたみてぇだが、あの様子じゃあ直ぐには下りねぇだろうな」
「(一応関係はオフレコやから)普通でも下りんところをこの状況ですから……二人には悪いけど、ウチらは…ウチらの仕事をします」
「そうか。まぁ頑張りな。うちの娘達のことも頼んだぜ」
「はい。それで圧力を減らせばこっちの勝ちですから」

ゲンヤとの通信を切り、ヴェロッサと別れたはやてはバリアジャケットを纏った。
リィンとも融合し、空へと飛び立つ。

はやて達の戦いは、これからだ。
ミッドチルダに降る雷の雨は夢の中ほど凶悪ではないらしく、今も降り注ぎはやて達の目を眩ませる。
その雷に特に心を揺さぶられているようだったフェイトの様子をチラリ伺い、はやては時間を待った。

不規則に落とされる雷が遠くへ放たれた間だけ、はやて達の視界は正常に戻る。
チカチカする目で浮上していくゆりかごを、ゆりかごとはやての間で雲母の如き数で襲いかかるガジェットに呑まれまいとするセッテを睨みつけ……作戦は開始された。

突如ビルをその周辺で戦っていたセッテとクアットロ・ガジェット等ごと幾つか飲み込むほどの巨大な魔法陣が二つ浮かび上がった。
単機でAMFの展開を行うガジェットも、建造物さえ丸っきり無視して回転を始める魔法陣が何を目的としたものか、巨大さから察したクアットロが逃げ出し、遅れて指示を出されたガジェット、ガジェットの群れを切り裂きながらセッテが逃げ出す。
セッテが逃げ出そうとしていることをシャーリーに確認させてから、はやてが合図を送る。

魔法陣から角が伸びた。
空へ向かって徐々にそこから先がせり出していく様は、今のはやて位の距離を取っていなければ直ぐには角の生えた虫と竜が召喚されようとしているとは信じがたいだろう。

キャロのヴォルテールとルーテシアの白天王…資料で知っていたはやても驚かざるを得ない程巨大な、人型に羽根の生えた竜と虫は逃げそこねたガジェットを弾き飛ばし、避難が完了し誰もいなくなったビルを破壊しながらその全身を魔法陣から抜け出させた。
召喚を終えた魔法陣が消え、途端に重力に囚われたように二体は地面に足を付ける。

小さな地震を起こしながら、現れた二体は直ぐに召喚者達の命令に従って行動を起こす。
二体は上昇を続けるゆりかごへ向かって、砲撃を開始した。

戦艦の砲撃かと見紛うばかりの砲撃だった。
衝撃波だけで周囲でうろちょろしていたガジェットは吹き飛ばされ、多すぎる数のせいで衝突を引き起こす。
どうにか逃れていたセッテも翻弄されながら、防御魔法を使ってどうにかやり過ごす。

延長線上にあった雲もちぎれ飛び、雲一つない快晴を作り出して砲撃の余韻が収まっていく。
予想よりも強すぎたと思わずはやては顔を青くしたが、それは杞憂に終わった。

聖王のゆりかごは健在だった。
ちょっとした艦船位なら今ので落とせそうな砲撃だったのだが、どこかが欠けているわけでもなく、煙一つあがっていない。
完全に破壊されていても困るが、効果が無いのも困るとはやては複雑な顔をした。

迎撃がされないのは大助かりだ。
だが、幾ら何でも硬すぎるでしょう?
他の艦船の性能を知るはやてはツッコミを入れたくて仕方がなかった。

『ダメッ!、ヴォルテール…!!』
「ん?」
『はやて隊長っ……ゆりかごを見たヴォルテールが興奮して、抑えきれません!!』
『白天王、やっちゃえ』
「ちょ、ちょっと……待っ」

当の召喚獣達もその結果に痛くプライドを傷つけられたのか、それとも単にある程度ダメージを与えろと命じられたのか。
あるいは過去に聖王のゆりかごと何かトラブルがあったのか。
はやてが止めようとする間もなく再び力を溜め、もう一度砲撃が行われた。

「いやいやいや、待ってって……!!」

849りりかるな黒い太陽 二十二話:2010/08/05(木) 22:47:31 ID:p01vHF9Q
はやては通信画面に召喚者二人を映して大声を張り上げた。
普通の犯罪者の船なら大いにやってもらって結構なのだが、聖王のゆりかごは聖王教会の超重要な聖遺物だ。

本局の上……六課の後ろ盾となっている三提督当たりの意向だろう、仕事で他の命令が来ていないから行動をしているが、現在もそれは変わっていない。
対応を協議しているのか隠していた件などの醜聞をつつかれているのかは知らないが、攻撃を開始しただけで更に揉めているはずだ。

やり過ぎられると笑えない事態になるのだが、はやての呼びかけも虚しく更に砲撃は続けられた。
慌てるはやてにフェイトから通信が入る。

『はやて。大丈夫みたいだよ?』

はやてには眩しいわ余波でゴミまで飛んでくるわで確認どころではないが、違う場所に待機したフェイトにはゆりかごが確認できるらしい。
怪獣の砲撃でもビクともしないと言う報告など聞きたくもないが。

「ほんまに!? フェイトちゃんほんまにそうなん!? 『う、うん…』それもちょっと……ううんかなり困るんやけど」
『八神隊長…どうやらアレでも少し一撃の威力が足りないようです。エネルギー量などに付いては、言うまでもなくあちらに分がありますから、埒があきませんね』
『あ、今砲撃の間を使って戦闘機人が数人ゆりかごから出てきたみたい』
「そ、そう……えーっと、予定通りやから」

シャーリーの説明を聞いてやっと落ち着きを取り戻しつつあるははやては、周囲をチラっと見た。
案の定、RXに的を絞る為に周囲への影響を抑えているとはいえ雷は降り続けていたミッドチルダは、砲撃の余波も加わり秒単位で被害が増えていいく。
周囲の風景が砲撃の度に一歩一歩廃棄都市区画と区別がつかなくなっていくことに気付かないふりをしてはやては言う。

「ザフィーラ・シャマル。ティアナ・スバル・エリオは私とキャロとルーテシアを守りつつ、戦闘機人の迎撃や。キャロとルーテシアはくれぐれもやり過ぎんように召喚獣を制御することを優先。どうしても無理やったら返してな!!」
『ガリューは?』
「ガリューもルーテシアを守ったって……なのはちゃん。そっちのタイミングは任せるわ」
『わかった』

はやてから任されたなのはは、周りでなのはの一撃を待つフェイト・ヴィータ・シグナムの三名と視線を交わし、怪獣の砲撃に晒され続けながら相変わらず地上へと雷を落とし続けるゆりかごを見つめた。

四人とも能力限定は解除され、なのはは強力な射撃と大威力砲撃に徹底特化したエクシードモードになり、槍型になったレイジングハートを構える。
フェイトは大剣型のバルディッシュを。シグナムとヴィータは見た目に変化はなかった。

「私等も手を貸すつもりだったけど、これじゃあいらねーわな」
「壁抜きは高町の専門だからな」

軽口を叩くヴィータとシグナムに、なのはは誤魔化すような笑顔を一時見せた。

聖王の雷と二体の砲撃で使用された魔力は、今までなのはが扱ったことがないほど莫大な量だ。

深く深呼吸して、レイジングハートのテンカウントが始まる。

まるで流星のごとくなのはの…否ミッドチルダ郊外まで含めて周囲の魔力が集束していく。

術者がそれまでに使用した魔力に加えて、周囲の魔導師が使用した魔力をもある程度集積することで得た強大な魔力を、一気に放出するなのはの切り札。

ガジェットにさえ搭載されているのだ。
ゆりかごにもAMFが用意されているのかもしれないが、一定以上の出力に加え、これは結界機能を完全破壊する性質も持ち合わせている。
逆に言えばこれが防がれれば、次は普通に侵入するしか無いのだが。
なのはの負担から言っても二度三度と出来るようなことではない。

しかし、皆二体の砲撃にビクともしないゆりかごを目の当たりにしても欠片も防がれるとは思っていなかった。
なのはを知る者達に取って、それだけの信頼と実績の破壊光線だった。

最後の数字をレイジングハートが紡いだ。
本能的に、ガリューが、ヴォルテールが、白天王が恐れてガクガクブルブルと震える中…なのはが叫んだ。

「受けてみて、これが私の全力全開!! スターライトブレイカー!!」

850りりかるな黒い太陽 二十二話:2010/08/05(木) 22:48:02 ID:p01vHF9Q
桜色の光が、ミッドチルダを照らした。

ユーノによってゆりかご内部の構造は把握している。

なのは達の目的のため、ヴィヴィオを助ける為にヴィヴィオがいるであろう艦首付近の「玉座の間」の傍を狙って放たれた桜色破壊光線がゆりかごを貫く。
二体の砲撃は止んでいた。ヴィータが歓声をあげ、シグナムに抱きついた。
だがその一撃の負担にフラつくなのはの体をフェイトが抱える。
体を心配するフェイトに大丈夫だよと、なのははやせ我慢をして笑いかけた。

「大丈夫、今はヴィヴィオを迎えに行こうよ。ヴィヴィオが待ってるの」

躊躇いを降りきって、フェイトはシグナムの体も掴んだ。

「皆行くよ!!」

『Sonic Move』

なのは達の体は、次の瞬間には玉座の間にあった。
壁抜きをされて床と天井に穴の空いた玉座の間は、強風が入り込み彼女らの髪を勝手気ままに流していく。
玉座の傍で、虹色の光を薄く纏った聖王がその影響を退け、何事も無かったかのようにミッドチルダに雷を降らせるための魔法を展開していた。

「ヴィヴィオ!!」

フェイトが妹の名を呼んだ。
仮面を被り、肉体もフェイト達と遜色ないサイズまで成長していたが、確かにヴィヴィオだと彼女たちにはわかった。

ヴィヴィオは、雷を降らせながらフェイトに手を向けた。
身構えるなのは達の中で、転送魔法の光がフェイトだけを包み、移動させる。

「フェイトちゃん!?(テスタロッサ!!)」
「一人は動力部にって。あなた達はそこでゆっくりしてて」

そっけない口調で言うヴィヴィオはなのは達を見ようともしなかった。
虚空へと向けられた目は、その先で雷を受け止めるRXへ向けられていた。



「!? …ここが。スカリエッティ!! 姿を見せろ!!」

転送されたフェイトは、周囲へ視線を走らせ、スカリエッティの姿を見つけた。
形と色だけはレリックそっくりな宝石が浮かぶ部屋の中、宝石を背にしてスカリエッティは挑発的な笑みを浮かべていた。
歓迎するよとでも言いたげに手を広げたスカリエッティへ、フェイトは大剣を突きつける。

「ごきげんよう。フェイト・テスタロッサ執務官。予定ではちゃんと入り口から入ってもらうつもりだったんだがね…まぁいいさ、歓迎するよ」

ここまでは、はやての予定通りだった。
フェイトは作戦開始前のはやての言葉を思い出しながら、すり足で距離を詰めていく。

(スカリエッティは絶対に私達を侵入させるはずや)
(ユーノ君から、ううん。どっかからゆりかごの情報は六課に入る。見てみ、ゆりかごは動力部と玉座の間が離れてるんや。だから、スカリエッティにはもっと人質が必要になるはずなんよ)

「すぐにゆりかごを停止させ、投降しろ」

スカリエッティが何かする間も無く逮捕出来る距離まで。
それまでは、少しでも気を逸らすために話にも付き合おう。

(マスクド・ライダーがレリックを消滅させた事件はスカリエッティも知ってる。動力部だけ消滅させられたら、スカリエッティの作戦はそこで失敗や)

「それはできないな。せっかく招待したんだ。ゆっくりしてくれたまえ」
「お断りだ…ッ!!」

(RXとの関係から言って、多分フェイトちゃんかシグナムが動力部に誘われる。そこにつけこんで、残りの皆でヴィヴィオを押さえたら、私等の勝ちや)

はやてはそう言っていたが、フェイトはスカリエッティも逮捕するつもりだった。
おどけるような口調に嫌悪感も顕にするフェイトが詰め寄ろうとしても、まだスカリエッティは余裕の態度を崩さなかった。

「だってさ。君達がいないと何時かのレリックみたいに、また不思議なことをされてしまうかもしれないじゃないか。幾らコピーを用意したとはいえ、まだ消滅はゴメンだよ」
「コピー…?」

おや?とスカリエッティは不思議そうな顔をする。

「想像してなかったと言うのかい? 君と私の因縁から言って、当然想像していると思っていたんだが」

851りりかるな黒い太陽 二十二話:2010/08/05(木) 22:52:30 ID:p01vHF9Q
フェイトは必要ないと判断して知らなかったことだったが、アルハザード時代においては記憶転写型クローン技術を用いて自身の予備を用意しておくことが権力者の間では常識だった。
スカリエッティは既に、フェイト達を生み出した技術(プロジェクトFの技術)を用いて、新しい自分を用意してある。
数ヶ月もすれば、新たなスカリエッティが生まれるのだ。

だからこそフェイトを今呼んでおいたのだが……憤るフェイトに、スカリエッティは心底がっかりしていた。

「貴様は、また人の命や運命を弄んで……!!」
「ん? ……その反応は、もしかしてまだ何もわかっていないのかね」
「今も地上を混乱させてる重犯罪者だとわかっていれば十分だ。コピーのことも全て教えてもらう」

凄むフェイトにスカリエッティの興味はどんどんと薄れていくようだった。
歓迎ムードで広げていた手は下げられ、呆れたような半眼になってフェイトに注いでいる。

「てっきり、君のお母さんを殺したのが私と言えなくもないから追ってたんじゃないのかい? ちょうど今の私ももう必要ないし、ここで盾になってくれたらお礼に仇討ちさせてあげるつもりだったんだが」
「っ…………何の、ことだ?」
「え?」
「え……」

予想外の肩透かしを食らったらしいスカリエッティは隙だらけだった。
今なら、一瞬で逮捕できる。
だがフェイトは動かなかった。

「いいだろう! もう諦めて…君にあわせよう。少し『お話』しようじゃあないか」

母の仇で、仇討をさせるつもりだった…?
気を逸らすつもりだったフェイトは、問い質さずにいられないような気持ちに駆られていた。

「私の人生で最も予想外だったのは、私がプロジェクトFに推薦した後任のプレシア・テスタロッサが余りにも斜め上に狂っていったことさ(但しRXは除く)」

以上です。
某劇場版風展開の夢オチに付いては少しふざけすぎたかなと思わなくもなかったりしてます
ですからもし余りにも不快に思われる方が多いようなら、この部分だけはまとめの方では番外として別個に登録するなど対処しようかなと思います

戦闘やスカとフェイトの会話については次話で。そんなに目新しいことはないですけどw
それでは失礼します

852魔法少女リリカル名無し:2010/08/07(土) 09:47:43 ID:w7cyBGTA
すいません、本スレで代理投下をしていたのですが
急用が出来たので、不可能になりました
>>847

>「ロボライダー!!」

>RXが全幅の信頼を込めて自分の別の形態の名を呼ぶ。
>涙が赤い跡を残した仮面が、頷きながら親指を立てて己を指さした。

ここまで出来ましたので、どなたか変わりにやっていただけないでしょうか
申し訳ありませんが、お願いします

853魔法少女リリカル名無し:2010/08/07(土) 14:11:24 ID:3n5fldQs
俺も規制中なので無理だ…

854<削除>:<削除>
<削除>

855りりかるな黒い太陽 二十二話:2010/08/08(日) 23:27:46 ID:hoqOM.q.
代理投下をしていただきありがとうございました

856FE ◆lJ8RAcRNfA:2010/08/20(金) 16:23:03 ID:WlG/W2Q6
投下終了のしらせを書き込もうとした瞬間に規制が来ました。
みなさん、どうもすみません、とだけ本スレにお伝えください。

857<削除>:<削除>
<削除>

858LB ◆ErlyzB/5oA:2011/01/20(木) 20:04:08 ID:aXj0WSV2
Ⅷ中記念、LBです。
規制中の為、こちらに6-Dを投下します。

注意事項
相変わらずの大容量、45KBオーバー
かなりのオリ設定詰め込み
そしてD無双

859LB ◆ErlyzB/5oA:2011/01/20(木) 20:05:52 ID:aXj0WSV2
 其は、魔を討つ魔にして一人の騎士。
 其は、数多を斬って乱舞する狂戦士。
 其は、ただ一人だけを守る優しき少年。
 其は、全ての敵を殲滅する冷たい兵器。
 “双剣の騎士”、“戦いを嫌う臆病者”、“規格外の怪物”、“任務の出来ない落ちこぼれ”、“出来損ないの人形”。
 僅か二年の間に呼ばれた、彼の者の代名詞が数々。
 されどもそれは昔の話。怯えも迷いも失敗もない。
 最強となる筈だった騎士剣の力と、決して揺らがぬ信念を備えた彼は、確かに騎士として完成したと言えるだろう。
 “双剣の騎士”、“規格外の怪物”、“虐殺の狂戦士”、“生きた殲滅兵器”、“理不尽の権化”、“賢人会議の最終兵器”。
 嗚呼、しかしてそれは喜ぶべきことだろうか。彼が強くなったことを賞賛する者は、知人を含め誰一人として存在しなかった。
 一人殺せば犯罪者、百人殺せば英雄。しかして数百の人間を虐殺し、尚も世界から犯罪者と叫ばれる者。
 優し過ぎるが故に、ある意味相応しくもある意味相応しくない力を生まれ持つ者。
 ――今、双子の騎士剣が振るわれる。

           第六章:D-side 舞う者たち 
             〜Dream or Real〜

 天井から突き刺さる照明を見上げ、ディーは眩しさに眉を顰めた。
 時の庭園内で最も広いフロア。段差の無い床を複数のシャンデリアが照らしている。
 視界を前方に戻せば、壁に程近い場所でこちらと向き合うプレシアの姿があった。
 一方のディーも、数メートル後方には反対側の壁が存在する。
 周囲は既に、不自然な空間の揺らぎが広がりつつある。これはプレシアが結界を作っている為だ。
 プレシアの右手には杖型のデバイス、左側には立体表示されたコンソール。ディーの腰には鞘へ収まった二振りの騎士剣が既にある。
 これから行うのは紛れもない模擬戦。プレシアの提案に対し、百聞は一見にしかず(Seeing is believing)ということでディーも合意したのだ。
 情報制御と魔導に関してはお互いに情報交換はできるものの、魔法士or魔導師相手の効果は試してみないと分からない。戦闘もまた然り。
 ディーとしても早めに対魔導師の感覚や対策を練っておきたかったので、願ったり叶ったりである。
 因みに、お互いの“魔法”は情報制御と魔導に区別する事で話が纏まった。

860LB ◆ErlyzB/5oA:2011/01/20(木) 20:07:34 ID:aXj0WSV2
 前者は元々正式名称なので兎も角として、後者は過去の呼称とのこと。
 今では魔力素によるエネルギー運用技術そのものを“魔導”、完全個人運用の技術を“魔法”と区別しているらしい。
 魔導師と呼ばれるのはその名残なのだとか。
「……展開完了。これで結界自体が破壊されない限り、何を壊しても問題ないわ」
 不定形に揺らいでいた空間が前触れなく整った直後、コンソールの操作から顔を逸らしたプレシアの声が響く。
 そこまで派手な破壊能力など、ディーは持っていない。しかし突っ込んだら睨まれるので口には出さない。
「さて、早速始めるとしましょう」
(大規模情報制御を感知)
 言葉と共に、床下から次々と“何か”が浮き出てくる。それらは見る間にディーの身長を追い越し、西洋に近い巨大な全体像を顕とした。
 掃除ロボットや自動警備システム等は見た事こそあるものの、こういったものは魔法士の世界に無かった。
 資源やエネルギー関係の問題は勿論、技術面の違いもよく分かる代物である。
「傀儡兵、ですか」
「誰も私だけとは言ってないわよ?」
 妖艶さすら含んだ腹黒い笑みに、苦笑で答える。この人物、やはり一筋縄ではいかない。
 というか、物を壊すのは傀儡兵の方が上ではなかろうか。突っ込んだら睨まれるのでやっぱり口に出さない。
 決して出せない訳ではない。決して。
「ところで……例のあれ、解析できましたか?」
 模擬戦の提案後、ついでとばかりに頼んだ事がある。
 自分とセラが転移させられた、謎の現象。唯一の手掛かりは、表示されていたデータのみ。
 賢人会議の参謀に伝わるよう砂浜に書き記しはしたものの、巻き込まれた自分がこのまま手を拱いている訳にはいかない。
 違う技術を持っている魔導師達なら、何か別の事が分かるかもしれないとディーは考えた。
 幸いプレシアは魔導師であると同時に研究者でもあったため、これまた願ったり叶ったりである。
「模擬戦の準備で忙しかったけれど、一目で大体分かったわ。もう少し暇な時に詳細なものを渡すから、待って頂戴」
「ありがとうございます」
 期待以上の返事に安堵する。そういえばそんなこと言ってたわね、とでも言われたらどうしようかと思っていた。
 最近になって人となりを把握し始めたものの、何やら精神的に追い詰められている様子。
 娘に強く当たるのも関係しているのだろうが、原因が隠されていると思しきプレシアの研究室は立入禁止区域。

861LB ◆ErlyzB/5oA:2011/01/20(木) 20:09:37 ID:aXj0WSV2
 迂闊に危ない橋を渡る訳にはいかない。
「ルールは簡単よ。これらの防衛を突破して、私に一撃当ててみなさい。敗北条件はそちらも同じ。制限時間は十五分。何か質問は?」
 律儀に説明と質問タイムを送ってくれる。
 普段の態度からしてちょっと意外だが、実験である以上ちゃんと成果が出なければ納得しないのだろうと考える。
 何にせよありがたい為、遠慮なく問う。
「プレシアさんへの直接攻撃は、どの程度まで有効ですか?」
「バリアジャケットを傷付ける程度」
「傀儡兵は壊してもいいんですか?」
「胴体を破壊されなければ数日でスペアと交換できるから、胴体の破壊だけは禁止よ」
「プレシアさんは戦うんですか?」
「ええ。こんなお人形ではできない事もあるから」
「わかりました」
 それだけ聞ければ十分だ。
 手にしてから既に二年ばかり、実質自分とほぼ同い年の騎士剣を掴み、両腰の鞘から引き抜く。
 頭の中でスイッチを叩くのも、また同時。
(I-ブレイン、戦闘起動)
 思考の主体を大脳新皮質上の生体コンピュータ――I-ブレインに移行。
 五感の神経パルスだけでなく、自分を含めた周囲状況までもが数値データ化。
 脳の通常部分へ余計な負荷がかかる事を防ぐため、フィルター処理を施されて漸く神経に戻される。
 その思考速度、実に十億分の一秒(ナノセカンド)単位。何もかもを置き去りにする圧倒的な演算速度が、物理法則を超越する。
(「身体能力制御」発動)
 発動するのは騎士能力の基本。体内の物理法則を改変して高速行動を可能とする能力。
 ディー自身も騎士としての能力は非常に高く、騎士剣の補助がなかろうと七倍速で行動できる。
 魔導師の感覚で言うなら、バリアジャケットを装着する作業に近いかもしれない。相違点を挙げるなら、あちらが防御でこちらは加速というところか。
 次に、数と体格差を考慮し、音速をも凌駕できる出力を調整。敵数は二十。個体の大きさは前述の通り。
(運動速度、知覚速度を十五倍で定義)
 周囲の全てが倍率分の一に減速し、自分だけがスローモーションの世界で極普通に動けるようになるという状況が作り出される。
 正確には、周りが遅くなったのではない。自分が速くなったのだ。
 ……このくらいでいいかな?
 出力は、自分より二段下の並以下――第三級(カテゴリーC)の騎士が発揮できる程度。
 少し加減し過ぎかもしれないけれど、相手は“条件つきの”保護者。

862LB ◆ErlyzB/5oA:2011/01/20(木) 20:10:11 ID:aXj0WSV2
 敵でも味方でもない以上、手の内を隠すに越したことはない。いざという時も、後で出力を引き上げれば済むだろう。
 それに、模擬戦の目的は勝利や瞬殺などでは断じてない。
 互いに情報交換を行い、騎士の能力もある程度説明こそしたものの、能力の応用法や奥の手については伏せた。
 プレシアも同じようなもの故、おあいこである。
 細い両腕を、小振りな双子の騎士剣と共に翼の如く広げる。一対多、二刀流で全方位に注意を向ける構えだ。
 準備完了。まずは後の先で迎え撃つ。
「――いつでもどうぞ」

                   *

 構えた少年に対し、プレシアは強い違和感を覚えた。
 ハスキーなアルトの声。思わず性別を間違えてしまいそうな声。今発したそれは、余りにも泰然として乱れがない。
 銀色の瞳。人形染みた顔の中で唯一意志の強さを表していた瞳。今輝くそれは、冷たく鋭く尖っている。
 全体的に頼りなさが――人間らしさが存在しない。まるで機械人形と入れ替わったかのようだ。
 平常からのギャップを感じるその冷たさが、鋭利な刃物を連想させる。
 ……これは……
 異様な雰囲気に、プレシアは狂気の瞳を鋭く細めた。
 生まれて二年で任務続きだったとは聞いている。しかし、昔からこうだったのだろうか。
 それとも短期間における非常識な戦闘経験と、それに伴って築き上げた精神が、少年を限りなく冷徹なものへと変えているのか。
 後で聞いてみなければと心に留めつつ、情報交換で得た騎士・魔法士関連の知識を思い出す。

 記憶・演算・出力。多少の違いはあれど、魔法がその三竦みによって発揮される技術でしかない点は、魔導も情報制御も全く同じだった。
 大きな違いと言えば、魔力を媒介としているか否か。どうも魔法士の場合は演算のみでゴリ押ししているらしい。
 能力発動の際、イメージは愚か詠唱も予備動作も不要と言えば、理不尽さも少しは分かるだろうか。
 ミッドチルダの最新鋭CPUですら足元にも及ばない、圧倒的な演算速度。その数値を聞いた際は流石に頭を抱えた。
 魔力に演算を施して何らかの効力を持たせられるなら、別の物も理論上可能なのではないか。
 過去にそう考え、そして挫折していった者達はどうやら間違っていなかったようだ。
 では何故魔力だけが操作できるのかを少年に問えば、情報強度の問題ではないかと返ってきた。

863LB ◆ErlyzB/5oA:2011/01/20(木) 20:12:06 ID:aXj0WSV2
 如何に出鱈目な演算能力を持つ魔法士でも、変質出来ない物は存在する。人間やコンピュータなどの“考える物体”がそれだ。
 自身の肉体ならまだしも、他者の情報強度は非常に堅い。
 物体に魔力を通してからだと演算出来ないのは、その魔力が既に対象の所有物となっている為ではないか。
 無機物制御を例としたこの仮説がプレシアの研究意欲に火を点けたのは、また別の話。
 何にせよ、“I-ブレインを備えぬ人であっても変質させることのできる唯一の物体”こそが魔力だった。

 立体コンソールの操作を開始。二十を数える傀儡兵達をそれぞれの指示を与える。
 配備されている傀儡兵は全六種類。この模擬戦で扱うのは、大型と空兵型を除く四種類。
 杖を手にした魔導師型が四体、弩弓と翼と尻尾が特徴的な弓兵型が二体、剣や斧、盾等を装備した歩兵型が十三体。
 残る一体は各フロアのボス役を務める中型である。
 歩兵型・弓兵型は主に物理、魔導師型は魔導、陸戦AAランクに匹敵する中型は物・魔の併用で攻撃と防御を行う。
 防衛時の自律行動では反応が良くても頭は悪い。よって、今回はプレシア自らが手動操作する。
 庭園の駆動炉からエネルギー供給を受けて動いているため、傀儡兵のエネルギー切れを心配する必要はない。
 ただし魔導の発動には別途で魔力が必要な為、予め貯蓄してある。
 中型はプレシアの傍で待機、弓型はフロア上空から狙撃ポジションを取り、魔導師型を後衛・歩兵型を前衛に置く。
 まずは歩兵を進める所だが、今回は模擬戦という名を借りた実験。魔導師型を先に動かす。
 小手調べやその他の意味合いを込めて、四体中一体に高速直射型の魔力弾を生成させる。勿論演算は傀儡兵頼りだ。
 発動魔法はフォトンランサー三発。一つは頭部、二つは胸部へ照準。
 傀儡兵の前方に、逆三角形の並びでスフィアが出現。その上で傀儡兵の補助動力とされる魔力が固められ、弾殻が作られる。

864LB ◆ErlyzB/5oA:2011/01/20(木) 20:12:34 ID:aXj0WSV2
 魔力弾に関して講義を受けた際、騎士の少年は「炎使いみたいですね」と評していた。
 分子運動制御特化型魔法士“炎使い”。
 名前通り周辺の分子運動に干渉し、熱量や運動量を操作することであらゆる物質を銃弾・盾・槍、材料次第では爆弾にすら変える能力である。
 対して魔導師が射撃や防御に使っているのは、魔力唯一つ。
 空気分子などを直に操れないため、魔力そのものを分子運動制御の材料にしているようなものだ。
 比較すれば魔導師の方が劣っているように聞こえるかもしれないが、伊達にミッドは汎用性を求めていない。
 魔法士が持ち得ていないのは、運用する物質に別途で付加効果を追加する事だ。
 所謂ウイルスのようなもので、ブースト魔法や防御魔法等が代表例として挙げられるだろう。
 だからこそ、たった今形を整えた青紫の魔弾には非殺傷・非物理破壊設定という“ウイルス”が入っているのだ。

 術式完成。スフィア・魔力弾生成完了。残るはトリガー唯一つ。
 少年の隠してきた力を垣間見る。それは、閉ざされた箱の中身を覗く行為だ。
 無論、空である事は決してない。ありとあらゆる方面からその証拠は挙がっている。
 問題は、中身の価値が魔導師にとってどれ程のものなのか。
 今や禁忌とされる人造魔導師や戦闘機人に次ぐ新たな可能性に、研究者としての好奇心が擽られる。
 故に、躊躇も恐怖もありはしない。
「ファイア」
 たった一つの号令を合図に、中身にも軌道にも一切の捻りなく、弾丸は少年へ牙を剥いた。

                   *

(攻撃感知)
 先端の尖った魔弾が動き始めたのは、額の裏側に浮かぶI-ブレインからのメッセージと同時だった。
 魔力の色に関しては既に学習済みなので、動揺は皆無。注視するべきは弾丸の形状・速度・性質である。
 速度は実弾にこそ劣るものの、殺傷設定時の威力は弾体の大きさで補って尚余りあるだろう。
 恐らく、単純な高速直射型。誘導性皆無の初歩的な魔力弾だ。引っ掛けは無いと見ていい。
 突き進むは三発。うち二発はディーの胸部を、残る一発は額目掛けて迫る。
 十五分の一に減速して見える魔の弾丸を冷静に見つめ、ディーは一歩踏み込んだ。

 魔導師ならば、この時点で選ぶ選択肢は基本的に回避か防御である。
 高い移動能力で躱すか、障壁を作り出して防ぐか。もしも魔弾を無力化できる攻撃手段があるのなら、“迎撃”を選んでもいい。

865LB ◆ErlyzB/5oA:2011/01/20(木) 20:13:35 ID:aXj0WSV2
 しかし、既に相手が弾丸を射出してきた時点では、同じ飛び道具による迎撃は難しい。
 更に指定した方向へ一直線に向かう高速直射弾を三発も、完全同時に撃ってきたのだ。これでは武器を振るって撃ち落とすのもままならない。
 並の人間でも、並の魔導師やあのフェイトであっても、この状況では回避優先が関の山。次点として防御に迷うだろう。
 だがしかし、標的としてそこに佇んでいるのは誰だろうか?
 只の人間? それとも魔導師? 何の力も持たない非力な少年? 手に持つ双剣を脅しにしか使えない憐れな優男?
 答えは、全て否。
 魔法士である。そして騎士である。魔法士を倒す為に作られた魔法士であり、魔法士達から化け物呼ばわりされる程の規格外である。
 たった一人の少女を守るために満身創痍の身体を引きずり、二千の敵兵に単身立ち向かった騎士である。
 両の剣を縦横に振るい、その戦いで何百もの兵を切り伏せ、“近接攻撃のみで敵を殲滅する兵器”と化した魔法士である。
 そんな彼の思考からは、回避も防御も浮かばずに。
 1+1=2を記述するように、迎撃を選択した。

 非殺傷設定だろうとはいえ躊躇なく額を狙った一発を、僅かに屈み込むことで直撃軌道から外れる。
 次に、この体勢だと両肩に命中するであろう残りの二発を照準。翼で身を隠すように両腕を折り畳む。
 腕は脇の下を通り、剣は元々収めてあった鞘の上を通過し、更に後ろへ。
 これから行う“実験”が失敗しても確実に受け流せるように軌道を調整し、迎撃。
 完璧なタイミングと精度でバツの字に振り上げた双剣が、二つの魔力弾を過たず捉える。
(「情報解体」発動)
 同時、騎士が所有する二つ目の能力を発動。
 その能力は、騎士剣に接触した物体の存在情報に直接干渉し、消去するというもの。
 情報の側から存在を全否定されれば、対象は物理的にも存在を維持できなくなり、原子単位に分解されて砂の如く崩れ落ちるのだ。
 両肩を打ち据える筈だった青紫の弾丸は騎士剣によって軌道を逸らされつつ、形状をも崩される。
 ディーの後ろを通り過ぎた時には、解体された魔弾は青紫の粒子――魔力素と化して散っていた。
 一方、頭上を通った弾丸は勢いを止めず、後方の壁に着弾。
 非殺傷・非物理破壊設定にしてあったのか、元から綺麗だった壁には傷一つ付いていなかった。
 青紫の輝きを放っていた魔力の残滓は、空気に溶けて色を失う。

866LB ◆ErlyzB/5oA:2011/01/20(木) 20:14:18 ID:aXj0WSV2
 遅れて、大魔導師の表情が僅かに揺らいだ。能力は既に三つ目まで簡潔に話してある為、一驚以外の理由である事は確かだ。
 対してディーは、確かな手応えを感じていた。
 生まれてから二年。それはそのまま、ディー自身の戦闘経験とほぼ等しい。
 チタン合金や電磁射出の銃弾、軍用フライヤーや単分子ワイヤー、窒素結晶や荷電粒子、時には捻じ曲がった空間まで。
 普通の人間なら短いと言い切れる時間の中、それなりに色々な物を解体してきた。
 その上で、内心に浮かぶ感想はただ一つ。
 ……やっぱり、脆い。
 騎士剣を介して知覚した、魔力弾の情報強度が、呆れる程低い。ここまで情報強度の低い物質を解体したのは流石に初めてだった。
 同時に、これはディーの予想を全く覆さない結果でもあった。
 何せI-ブレインを持たない人間でも演算で運用できる物質だ。それ程までに変質しやすいなら、情報側で“堅い”道理など存在しない。
 ディーが構え直し、配置されていただけの傀儡兵達も一斉に得物を構える。
 両者にとって、魔弾と剣の衝突こそ開幕のゴング。お互いの拳と拳を突き合わせただけの、ただの挨拶だ。
 ここからが、本当の小手調べ。炎使いと同じ、という先入観は以ての外。
 魔導師側の手札は、大まかな分類を見ただけでも非常に多彩である。最初は眼を白黒させたものだ、と心の内で苦笑する。
 パッと見の為まだ明言こそできないものの、既知の魔法士で最多の手札を持つカテゴリ“悪魔使い”よりも多いだろうとディーは踏んでいる。
 数日程度しか学んでいない事も相俟って、油断は禁物。一つ一つ、対象の形から情報制御のパターンまで隈なく観察する必要があるのだ。
 身構えるディーに対し、向こうも動く。杖を持った傀儡兵四体に、プレシアまでもが魔力弾の生成を開始する。
 I-ブレインで視力を補正し、形作られていく総数二十以上の弾体を見やったディーは――
「……うわぁ……」
 思わず顔を引き攣らせ、呻いた。
 物量は脅威に値しない。第二級(カテゴリーB)の炎使いでも桁一つ多く氷の槍を展開できる。つまり、看過すべきでないのは質だ。
 先程と一見してあまり変わらない槍状の高速弾は勿論の事、近い形で言うなら片刃の剣や球、果てには回転し続けるブーメランまで浮遊している。
 これ程多種の魔力弾を一度に生成するのは、実戦において“無駄”の筈。

867LB ◆ErlyzB/5oA:2011/01/20(木) 20:17:13 ID:aXj0WSV2
 あらゆる飛び道具でこちらの反応を探り、効果のある魔力弾を探すつもりなのだろう。
 勿論ディーも、プレシアがそういう考えで仕掛けてきた事は理解できる。できるのだが。
 ……これ、全部射撃……?
 数が多いのではなく、種類が多い。デュアルNo.33、初めての体験である。
 怯懦はない。ただ、余りの多彩ぶりに少々辟易しただけだ。
 しかして相手は待ったを知らない。何とも言えない感慨を抱いている中、全体の三分の一を占めていた魔弾群の一角が射出され始める。
 高速弾の群れに、幾つか別の弾体が混じった混成射撃。その上空で、弓兵型が弩弓を引き絞る。
 遅れて歩兵達も前進開始。外見に似合わぬ俊敏性でフロアを駆ける。
 気を取り直したディーは、更に前へ。騎士に防御の選択肢が存在しない以上、ここで後退など論外である。

                   *

 湖の上を風が凪ぎ、視界の下半分を占める青が揺らめいた。
「フェイト……駄目だ、空振りみたいだ」
 後方から声をかけてきたのは、狼の姿になっている使い魔。
 水面から突き出た岩の上で、フェイトは短く「そう」とだけ返した。
「やっぱり、隠れながら探すのは難しいよ」
「うん。でももう少し頑張ろう」
 ジュエルシードに管理局が関わり始めて、既に数日。
 上辺は落ち着いていても、フェイトの内面は確実に焦っていた。
 身を隠しながら何とか集めているものの、向こうは三つに対しこちらは二つ。芳しいとは冗談でも言えない。
 だからと言って引き下がるつもりは毛頭ない。残る六つを一気に回収すればまだ何とかなる筈だ。
 このまま一つずつ集めていったら、幾つかを管理局側に取られてしまう可能性が高い。それを防ぐなら、多少の無茶を覚悟しなければならない。
 まずは地上に残っている青の宝石を探し、残りが全て海中にあると判断した場合、海に魔力を流して強制発動。そのまま一網打尽とする。
 言葉にすると簡単だが、今まで一つ一つ封印してきたのを複数相手にするのだ。難易度は想像を絶している。
 それでも、自分達にはこれしか方法が残されていないのだ。
「ところでフェイト、左腕はもう大丈夫かい? 大丈夫なら、外していいからね」
「うん。ありがとう」
 使い魔の言葉に頷き、その場で左腕の包帯を勢いよく抜き取る。痛みは全くなかったので、もう問題ない。

868LB ◆ErlyzB/5oA:2011/01/20(木) 20:20:10 ID:aXj0WSV2
 問題だったのはその直後。何の前触れも無く突風がフェイトを襲い、その手から包帯を奪い去っていった。
 解けた純白は風にのって飛び、青空の中へと溶けていく。
 青に混じる白が、フェイトの中で一人の人間を思い出させた。
 ……あの人、今頃どうしてるかな。
 雲になって掻き消えてしまいそうだった、銀髪銀眼の優しそうな少年。そういえば、昔の母も同じ位優しかった。
 アルフはまだ完全に心を許した訳ではないらしいが、悪い人でない事に変わりはない。
 寧ろ、最近の母に怒られていそうだ。後ろの使い魔に見えないよう、フェイトはこっそり頬を緩めた。
 少年の言った通り、地上を探し終わったら一旦休もう。体力と魔力を回復して、万全の状態で海に魔力を打ち込むのだ。
 多少疲れている時よりは、まだ封印出来る可能性もグッと広がるのだから。

 それぞれに思い、それぞれに考え、それぞれに心を配り、それぞれに心を痛める。
 己の疲労を測り切れていない魔導師には、隠された真実など知る由もない。
 無知とは即ち、自由にして罪。この罪を償うことに必要なものは何なのか……今は、誰も知らない。
 少女が持つ心配は正当であり杞憂。使い魔が持つ警戒は正解にして不足。
 理由など、唯一つ。
 少年は余りにも優し過ぎ、同時に余りにも危険過ぎる存在だった。唯それだけの話である。

869LB ◆ErlyzB/5oA:2011/01/20(木) 20:31:08 ID:aXj0WSV2
                   *

 ――模擬戦開始から、どれだけ経っただろうか。
 今のプレシアに、マルチタスクで時間を計る余裕など欠片も無かった。
 気を抜けば少年の姿を見失いかねない。リアルタイムに兵達へ指示を与え続けなければ、あっという間に戦線が崩壊してしまう。
 知る事と理解する事は、決して同義ではない。実体験の方が実入りが多い以上、分からない事は幾らでも存在する。
 それでも、少年が未だ本気を出していないのは分かる。自己領域を使わないのが何よりの証拠だ。
 でありながら、プレシア側は予想を上回る不利に陥っていた。

 まず、飛び道具が通用しない。
 手数と速度を重視した直射弾で一時的な弾幕を張っても、全て回避と迎撃のみで捌かれる。
 秒速二百メートルの弾丸も、今の少年には時速五十キロメートルという子供が投げた石ころ程度にしか見えないだろう。
 弾幕の中に誘導弾は言わずもがな、形状を変えて魔力刃やブーメラン等を混ぜたものの効果は無し。
 最後のブーメランに至っては、態と避ける事で戻って来るかどうか確認する程の余裕を見せてくれた。
 本当に戻ってきた際、少年はどう思ったのだろうか……いや、聞かないでおこう。
 弓兵の矢で狙撃も試みたが、殆ど不意打ちでありながら視線も向けず弾いて見せた。後ろに目でもあるのか。
 多少体勢は崩れたものの、隙を突かんと待機させていた歩兵は見事に反撃されてしまった。
 次に、速過ぎる。小回り的な意味で。
 加速自体は大したことでもない。高速移動魔法を使えば魔導師の方がもっと速いだろう。
 問題は、それが永続効果であるという一点に尽きる。
 一挙手一投足、体勢の立て直しや移動から攻撃への移り変わりも含め、全てノンストップ加速状態。
 攻撃前後の僅かな隙も十五分の一に縮められては、迂闊に手も出せない。
 優秀な高速戦魔導師でない限り、真似できない芸当だ。できても連続高速移動は負担が掛かるし、その状態で攻撃するとなったら高等技術。
 ついでに言うなら、歩兵の攻撃も受け流していた。
 話が違う。何が“加速してるだけで膂力は上がらない”だ。反作用打ち消しの効果だけで十分乗り切っているではないか。
 三つ目に――情報解体。
 剣の刀身に一瞬でも接触さえしていれば、持主の意思一つで発動できる物理防御無視の対象破壊能力。
 飛び道具が通用せず、傀儡兵達が次々と脱落していく最大の原因。

870LB ◆ErlyzB/5oA:2011/01/20(木) 20:31:53 ID:aXj0WSV2
 反則である。並の魔導師相手ならこれだけで有利に進めるだろうと思える位反則である。
 歩兵が張った防御魔法もあっさり解体していた。早急に対処法を考えねばなるまい。
 何より、これでまだ自己領域という奥の手が存在するのだから恐ろしい。
 この時点で、プレシアの内心には陸戦AAA+以上という評価があった。

 跳びかかった歩兵達をあろうことか踏み台にして上へ登り、見事弓兵にとりついた銀の少年を見上げる。
 辿り着けないだろうと高を括っていた矢先、狙撃手への接近を許してしまった。
 しかし、弓兵はまだ一体残っている。片方を仕留めた所で、足場の無い空中では二体纏めて仕留める事など不可能だろう。
 それは同時、攻撃回避の困難も意味する。勝機があるとしたら、今しかない。
 すぐさま周辺の魔導師型に指示を送りつつ、自身も魔力弾を生成する。
 魔力弾による支援射撃は、これで三度目。特殊弾体はプレシア自身が生成・射出している。
 それを除けば全く変わらないように見えるが、前回と前々回を比較すれば対処の難易度は全体的に上がっている。
 全スフィア中三分の一から放ってきた第一波、射出数を倍に増やした第二波、全スフィアから容赦なく撃ち出された第三波。
 速度も威力も順に割増しており、特殊弾体もきちんと難易度を上げている。
 足場や状況の悪さ、第一波以来号令をトリガーにしなくなった分も含めれば、流石に厳しくなってきた筈。
 特殊弾体として、誘導操作型多重弾殻弾一発と直射型反応炸裂弾三発を選択。魔導師型達の魔力スフィアに混ざって生成を開始する。
 狙いは上空、戦闘不能となった弓兵の上。
 加速状態のまま、「これからどうしようか」と言わんばかりに頬をかいて“いた”、銀髪白衣の少年騎士。
 こちらの魔力弾に気付いた瞬間気を引き締める辺り、油断はまるで見られない。
 いや、特殊弾体の底が知れないからこそ油断できないのか。
 こっちはそろそろネタ切れだというのに。マルチタスクで行われた余計な思考を中断しつつ、誘導弾一発のみを撃ち出す。
 未だ弾丸を開放しない魔力スフィアの群れから、孤独に標的へ向かう特殊弾。
 足場に制限がある上、誘導操作弾ときては回避不可能。迎撃以外術はない。
 遠慮なく構えた少年の瞳――今や同一人物のものとは思えない程鋭利な銀の両眼が、更に鋭く細まる。
 次の瞬間。多少の期待が込められた魔力弾は、一刀の下斬り捨てられた。

871LB ◆ErlyzB/5oA:2011/01/20(木) 20:32:59 ID:aXj0WSV2
 ……これも駄目か!
 多重弾殻弾ならばあるいは、と思った矢先の結果に舌打ちを抑え切れない。
 斬撃時に連続発動させたのだろうか、外殻と中身を順に解体されたようだ。
 やはり生半可な射撃で仕留められる相手ではない。まずは何としても動きを止めなければ。
 無論、その為の次善策は既に用意してある。
 残りの炸裂弾を纏めて射出し、一拍遅れて魔導師型の弾丸を一斉に解き放つ。
 足場こそ限られていながら、対する少年は回避を考えずに迎撃態勢である。
 プレシア製の魔弾が特殊である事は、少年も認知済み。
 だからこそ避けない。情報解体の通じない物がないか、確認する為だ。
 しかし多重弾殻弾の次に期待していた炸裂弾は、当然の如く解体される。
 予想通り。迎撃という一瞬の隙が、少年から退避の時間を奪った。
 ディーに割り当てた炸裂弾は一発だけ。残り二発は狙い違わず、弓兵の両翼に着弾。
 物理破壊設定で着弾した魔弾はそのまま炸裂。弓兵を空中へ留める為のパーツを破壊すると同時、粉塵を撒き散らして少年の視界を奪う。
 無事な方の弓兵までもが覆い隠された直後、本命の直射弾幕が煙の中へ殺到した。
 身体能力制御の弱点が一つ、飛行不可能。足場が落下していては、満足な体勢などとれる筈がない。
 数も速度もこれで最大。如何に十五倍加速といえど、回避も迎撃もままならずに被弾するだろう。
 もう一体の弓兵に飛び移る可能性も考えて、予想跳躍軌道に合わせてきっちり弾幕も張っている。
 一発でも被弾すれば、此方の勝利。例え突破できたとしても、翼をもがれた弓兵の真下には歩兵達が集まりつつある。
 現在、動ける歩兵八体の内、着地際を狙えるのは五体。
 というのも、先程ディーに飛びかかった三体がディーに踏み台扱いされた時、無理に空中で対応しようとしてそのまま体勢を崩してしまったのだ。
 結果として、仰向け・うつ伏せを問わず“頭から不時着(ヘッドスライディング)”した噛ませ犬三体のできあがりである。
 それでも五体あれば十分。容赦も着地も許さない一斉攻撃で、この模擬戦を終わらせる。
 まず落ちてきたのは、頭部と翼を無残に失くした弓兵。粗大ゴミよろしく床に叩きつけられる。
 もし弓兵に取り付いた少年が隠れているなら、人形達は即座に反応している。それがないなら、次に少年が落下する筈だ。
 反撃にも対応できるよう全機が身構え……そのまま二秒経過。

872LB ◆ErlyzB/5oA:2011/01/20(木) 20:34:39 ID:aXj0WSV2
 落ちて来るにしては遅い、と疑問に感じ始めた時、弓兵の不時着音がもう一つ。
 両腕・頭部・両翼を無くしたもう一体の弓兵が、少年諸共別地点に落ちて来たのだ。
「な――」
 予想の斜め上を行く展開に、流石のプレシアも虚を突かれた。
 ……何をしたの?
 まさか、“使った”のだろうか。
 もし使用したなら、既にこちらの懐へ潜り込んでいる筈だ。隣の弓兵に乗り移る程度で済ませる訳がない。
 態々此方の視界に入らない状態でやってのけたのだ。“あれ”はそもそも視認できない以上、隠す必要性を感じない。
 兎も角、此方に見せられない事は確実。タネは後で調べるとしよう。
 一秒と掛からず冷静さを取り戻したプレシアは、全傀儡兵に対し新たなコマンドを下す。
 “時間を稼げ”と。
「……煌きたる天神よ、今導きの下降り来たれ……」
 マルチタスクにより、既に詠唱中。できるだけ規模は大きく、駒達も巻き込む範囲でなければ素で回避されかねない。
 無論、二重三重なれど策はある。しかし同時に懸念もある。
 一つ、策が通用するか否か。
 二つ、少年はどこまで“使う”のか。
 三つ、この攻防に、自分自身は保つのか。
 それでも、撃たねばなるまい。自分以外に誰がやるというのか。
 律儀に残りの歩兵達を相手取る、少年騎士。機動力に任せて兵達を振り切り、こちらへ向かう事も可能だろうに。
 ならば、その余裕を敗因にしてみせよう。
 直後、騎士と人形達が拘束機能を備えた紫の雷光に照らされる。鋭く保っていた少年の銀眼が、初めて驚愕に見開かれた。
 ただし、拘束されるのも攻撃を受けるのも少年のみ。こと制御に関し、この魔法は元々性能が高い。
「――サンダーレイジ」
 予想通りに拘束機能を破壊した少年へ放つは、非殺傷の巨大雷撃。
 如何なる加速能力を以てしても、光速で飛来する広域攻撃は回避不可能だ。
 紫の稲光に目が眩み、状況を視認できなくなったその時。
 ――“それ”は来た。

                   *

(運動速度、知覚速度を十五倍で再定義)
 周辺の時間が、先程より約数倍速く流れる。
 取り付いていた弓兵から降り、十数秒ぶりの床へ着地。そのまま残りの敵兵達へ向き直る。
 既に狙撃の心配はなく、残る脅威は後方支援を残すのみであった。

873LB ◆ErlyzB/5oA:2011/01/20(木) 20:36:05 ID:aXj0WSV2
 あの時。上下左右前後と足場の不確かな粉塵の中、ディーが何をしたかというと。
 “鬼の居ぬ間の洗濯(While the cat is away, the mice will play)”よろしく、銃弾を足場代わりに隣の弓兵へ乗り移ったのだ。
 言うまでも無く、簡単ではない。対象となる足場は亜音速の魔力弾。接触しただけでもダメージを受ける可能性は残っていた。
 とはいえ、元々後者を確かめる為の個人的実験。
 その場の思い付きな上に本気も出せないとくれば、大魔導師に見せる訳にもいかなかった。
 要は目撃されなければいい。視界を遮られるものの、こちらの位置を把握できなくなる点では相手も同じ。
 出力を最大値にすれば、亜音速の弾丸も時速二十キロメートル超の移動物体である。
 失敗した場合は、三つ目の能力を惜しみなく使って元の位置に戻ればいい。
 問題は一メートル先も見えない中、どうやって魔弾の位置を正確に把握するかというと、一流の魔法士なら案外できたりする。
 粉塵が撒き散らされる前の弾幕から速度と軌道をトレースしてしまえば、タイミングを合わせて飛び移るだけで済む。
 幸い、敵後衛はもう一体の弓兵近辺にも弾幕を張っていた為、ありがたく使わせて貰った。
 結果は大成功。最早魔力弾を警戒する要素は、八割以上ないと見ていいだろう。

874LB ◆ErlyzB/5oA:2011/01/20(木) 20:37:23 ID:aXj0WSV2
 歩兵も残り八体。開始から三分の二近くまでその数を減らしている。
 ……多いなあ……
 対するディーは、うんざりしていた。
 それもその筈、魔法士の騎士とは対魔法士・対個人戦を想定して設計された能力である。
 ディーの切り札こそ例外ながら、一対多には全くと言っていい程向いていない。
 しかも加速は十五倍と完全に手加減。本来の出力なら、数十体位秒殺出来る。
 その気になればプレシアに直接攻撃こそできるものの、魔導師が持ち得る大量の引き出しは出来るだけ見ておきたい。
 挙句現在の加速倍率でも十分倒せるときては、現状に甘んじる他ない。
 次はどんな隠し玉が出るのやら。第四波を予感し、ディーは双剣を握り直す。
 漸くプレシアからの指示を受けたか、歩兵型だけでなく、魔導師型までもが一斉に動き出した。
 既に半数近くが腕や武器を失っている歩兵。通用しないのに捻りの無い直射弾を生成する魔導師兵。
 黒衣の大魔導師ただ一人だけが、詠唱を始めていた。
 これについても既知の情報。イメージ上昇と演算補助を兼ねた、大技の準備だ。
 少し考え、兵達の相手を続ける事にする。魔弾と突進と格闘攻撃を躱し、壊し、受け流し、只管待つ。
 待てば待つ程、人形達は犠牲となった。
 挟みうちの突進を回避され、正面衝突から派手に倒れる者。
 交錯時の情報解体で片足を失い、両手をバタつかせて抗うも、結局は倒れる者。
 攻撃を受け流されたと思ったら退避され、真上から落ちてきた追撃役のもう一体に踏み潰される者。
 魔導師型のサポートも虚しく、見る見るうちに戦える歩兵の数が減っていく。
 やがて残り歩兵が三体となった頃、真上から紫の光が空間を差した。
 同時、ディーの身体が縫い止められたように固定される。あっさり動きを止められた事実に、ディーは驚愕した。
 捕縛魔法、という単語が頭を過ぎる。鎖や輪状、ケージ型などは知っていたが、こんなものもあるのか。
 しかし、対処法は事前に幾つか考案してある。早速情報解体を発動し、拘束機能の解除に掛かった。
(情報解体成功)
 予想通り、解体成功。しかし動かせるのは両肘から先。
 より広範囲へ行わなければ、自由の身にしてくれないようだ。
 ……それなら!
(身体能力制御終了。情報解体発動)
 身体能力制御に充てていたリソースを、情報解体に上乗せして何とか成功。全身の束縛が解ける。

875LB ◆ErlyzB/5oA:2011/01/20(木) 20:39:21 ID:aXj0WSV2
 本気を出せばこんな必要ない。これも手加減だとばれない為の工夫である。
 しかし、あまり悠長にしていられない。周辺を隈なく照らす光を消しても、頭上の光が未だに潰えないのだ。
 ……雷?
 見上げた第一印象が、それだった。天井に浮遊する巨大な魔力光から、文字通りの紫電が走っている。
 魔力変換資質・電気を使った、広域攻撃だろうか。まもなくこちらへ降り注ぐ事は疑いない。
 非殺傷かどうかは不明、というよりできればそうであって欲しいのはともかくとして、電気である。
 その攻撃速度を予想するに、魔法関係である以上多少誤差が出る事を踏まえても、亜光速ぐらいは超えてのけるだろう。
 即ち視認=ほぼ直撃を意味する。指向性もまばらだろうから、ほぼ面の攻撃と見て良い。
 現在発揮しているI-ブレインの出力では、情報解体による迎撃も、身体能力制御による回避も不可能。
 攻撃範囲外へ退避しようものなら、その前にあれを撃ってくるのも容易に想像できる。
 向こうもそれを見越しているのだろう。ある意味、大魔導師からの合図でもあった。
 三枚目のカードを切ってみろ、と。
 しかしディーは、此の期に及んで自分より相手の心配をしてしまった。
 言うまでもなく事前に能力を伝えてはいるものの、果たして対処できるのだろうか。
 相手に対する不安を押し殺し、I-ブレインの回転数をこの模擬戦内で初めて“引き上げる”。
(騎士剣「陰陽」完全同調。光速度、プランク定数、万有引力定数、取得)
 物理定数の中でも根幹を担う、三種のパラメータに干渉。
 発動する為の、必要最低条件は二つ。
 一、第一級(カテゴリーA)騎士の中でもある程度以上能力が高いこと。
 二、己の能力に耐え得るだけの高性能な騎士剣を備えていること。
 第三次世界大戦において、対魔法士戦闘において、騎士が圧倒的優位に立った最大の原因。
(「自己領域」展開。時間単位改変。容量不足。「身体能力制御」強制終了)
 直後、半透明の膜がディーを包んだ。

 自己領域。“使用者にとって都合のいい時間と重力が支配する空間”を作り出す、もう一つの移動能力。
 使用者を中心に展開された球状フィールドの内外では、時間の流れが決定的に違う。重力も自由自在に変えられる。
 今回は出力を抑えている為、客観的に観測できる移動速度は秒速約十万キロメートル。
 最大で、光速度の約八十パーセントという完全な亜光速移動が可能。

876LB ◆ErlyzB/5oA:2011/01/20(木) 20:41:33 ID:aXj0WSV2
 何れにせよ、肉眼での捕捉は不可能である。

 解体直後で空気中に漂う魔力素が未だ紫色を示す中、ディーは一直線に走る。
 攻撃が来る前に安全圏へ逃げてしまえば、如何なる攻撃だろう脅威と成り得ない。
 限りなく静止状態に近い世界の中、予想される攻撃範囲から難なく逃れ、それでもまだ両足を動かす。
 周囲の兵も、前方に立ち塞がる兵も、仁王立ちしている一回り大きな兵も素通りして、目標はプレシア・テスタロッサ。
 更に後ろへ回り込み、一切の妨害を受ける事無く背後をとった。大魔導師がこちらの移動に気付いた様子はない。
 現実時間にして、発動から五百万分の一秒以下の出来事である。
(「自己領域」解除)
 ――この時点からの長い一秒間が、勝敗を分けた。
 半透明の膜が消え去り、観測できる外界の時間経過速度が約一千万分の一倍から一倍まで加速する。
 自己領域から身体能力制御までの、能力起動状態変更時に発生する僅かなタイムラグ。
 騎士が持ち得る唯一の弱点。しかし、その隙は余りにも短い。魔法士ですら、突く事自体困難なのだ。
 I-ブレインも無ければ知覚関係の強化も行っていない魔導師に、果たして対応できるのだろうか。
 直後、巨大な落雷がディーのいた空間を叩いた。迸る雷光が思った程強くないのは幸いか。
 後は一撃与えればいい。バリアジャケットで守られているなら、騎士剣で斬りつけてもダメージにはならない。
 実戦なら情報解体で壊してもう一撃というところだが、これは模擬戦である。
(「身体能力制御」発動。運動速度、知覚速度を十五倍で定義)
 漸く、自分以外の時間が十五分の一まで減速。
 右の騎士剣を振り上げる。既に対策されていなければ、これを袈裟がけに下ろして終わり。
 ――と思った次の瞬間、攻撃対象が不意に崩れ落ちた。
「え――」
 演技とは思えない。そこまで己の銀眼で見定めたディーは、全身を硬直させた。
 それは、嘗ての光景。
 戦闘中に発作を起こし、力無く倒れたあの人の姿。
 娘の為、病の身体に鞭打って戦い続けた、母親の姿。
 マリア・E・クラインの、姿。
 ――どうして、おかあさん死んじゃったんですか?
 重なる姿。重なる状況。重なる光景。そして、重なる躊躇。
 コンマ単位の空白は、魔法士どころか一流の魔導師相手でも十分命取り。それでも、ディーは止まってしまった。
 それこそ、ディー最大のトラウマであるが故に。

877LB ◆ErlyzB/5oA:2011/01/20(木) 20:43:38 ID:aXj0WSV2
 彼女を傷付けたのは、他でもない自分なのだから。
「……ぁ……」
 我に返った時には、捕縛魔法で拘束されていた。
 首・両手首・両足首・腰。それぞれディーを空間に縫い止める、魔力製の輪状拘束具。
 後の先で反応した訳ではない。恐らく、指定した空間に侵入すれば自動で機能するトラップとして準備していたのだろう。
 本来なら幾つか迎撃していたかもしれないが、トラブルにより手首から足首まできっちり拘束。
 遅れて、こちらに気付き振り向いた黒衣の大魔導師。狂気に塗れた瞳には、少なからぬ驚愕が見える。
 差し出した掌には、拳大の魔力弾。
(情報制御感知。回避不能。防御不能。危険)
 離脱不可能。敗北確定。そして最後の追い打ち。
 正確に鳩尾へ直撃した魔弾は、拘束の解かれたディーを数メートル先へ吹き飛ばした。
「っと……!」
 先程の精神状態ならともかく、騎士剣も所持したまま。すぐさま空中で体勢を立て直し、何とか着地。
 模擬戦の最中だとか、傀儡兵がどうとか、今のディーには関係ない。
「プレシアさん――!」
 脇目も振らず、全速力でプレシアのもとへと急いだ。

878LB ◆ErlyzB/5oA:2011/01/20(木) 20:44:50 ID:aXj0WSV2
-------------------------------------------------------------------------
                   *ここで前編と後編を区切って下さい
-------------------------------------------------------------------------

 模擬戦結果、プレシア側の勝利。勝因が勝因の為、甚だ不本意であった。
 自分と少年のどちらかが攻撃を受けた瞬間、傀儡兵の動作は停止するようプログラミングしてある。
 余計な事をされる前に見た目だけでも復帰の形をとり、傀儡兵達の自動修復作業を開始。
 相手側からの強い要請で壁にもたれたまま、互いに質疑応答の時間。
 それも終わって少年を個室へ戻し、自らも研究室に入ったところで、プレシアは呟いた。
「……まずいわ」

 騎士が持つ三種類の能力について、ここで纏めてみよう。
 身体能力制御。半永続の加速能力。反作用処理機能付属。
 五感の数値データ変換まで備えている為、視覚・聴覚への攻撃は不意打ちでもなければ通用しない。
 痛覚の遮断も凶悪だ。本人は非殺傷設定を羨んでいたようだが、痛覚感知の是非は魔導師にとって大きい。
 例え気絶しなくても、痛覚によって体の動きに支障を出せれば、確実に戦闘能力の低下へ繋がる。
 それがないとなれば必然、昏倒させる難易度が跳ね上がるのだ。相対する場合、殺傷設定で挑んだ方が楽だと断言できる程。
 途中から半ば殺すつもりで攻撃してませんでしたか? と問われた通り、半分は半殺しにするつもりだった。
 もう半分は少年へ答えた通り、あの位でも何とかしてしまうだろうと予想していたから。終盤までは自己領域すら使ってなかったし。
 自己領域。特殊フィールド形成に伴う、超高速移動能力。
 具体的な速度は測れなかったものの、身体能力制御で対応できない広域攻撃等には非常に有効と分かった。
 とはいえどちらも一長一短と聞いた通り、とりあえず弱点は存在する。
 更に“並どころか世界最強の騎士でも”この二つは同時起動不可能ときた。
 ここまではいい。ここまでなら許せる。
 問題なのは情報解体だ。はっきり言って凶悪過ぎだ。
 対象の存在情報に直接干渉し、物理強度無視で破壊する能力。
 物理強度無視の魔法も此方に存在するものの、発動速度は決して早くない。

879LB ◆ErlyzB/5oA:2011/01/20(木) 20:46:48 ID:aXj0WSV2
 いや、そんな事は問題にもならない。魔力製物質も瞬時に解体できる事実こそ、最も重要なのだ。
 魔力弾や防御魔法の破壊、拘束魔法も接触さえすれば解除可能。
 多重弾殻弾やバリアジャケットまで無力化できる辺り、ある意味アンチ・マギリング・フィールドより質が悪い。
 実際に見ていて、生物に通用しないのは本当なのかと疑った程だ。
 何故出来ないのかと聞けば、情報強度の問題になるらしい。
 例えるなら、相手に与えた魔力を制御できないのと同じ、だそうだ。
 言われてみればそうだ。リンカーコアへの直接干渉でもしない限り、相手の魔力を直接操るなんて出来っこない。

880LB ◆ErlyzB/5oA:2011/01/20(木) 20:53:08 ID:aXj0WSV2
 特定の例外を除き、情報解体を始めとした情報制御の直接干渉を、生物に対して行うのは至難の業。ほぼ不可能に近い。
 理由は、対象の情報強度――情報制御そのものに対する防御力――にある。情報の側にも、物理強度と同様に“変質のし難さ”が存在するのだ。
 特定の例外を除けば、物理強度と情報強度は決してイコールにならない。
 物理的に強固なチタン合金は情報の側から見れば非常に脆弱であり、影響を受けやすい。
 物理的に脆弱な人間や魔法士は情報の側からすれば非常に強固であり、他者からの情報制御を受け付けない。
 故に、生身の敵本体には情報解体ではなく物理攻撃で叩く他ない。だからこその“騎士専用剣型デバイス”なのだ。
 与える魔力に最初からプログラムが入っているブースト魔法。防御魔法のプログラムに干渉するバリア破壊効果等も似たようなものである。

 そもそも魔力とは、次元空間という壁を凌駕し、次元転移をも可能とする唯一のエネルギー。
 無論、次元空間から流れてくる魔力という存在そのものに環境が適応していない世界もある。ジュエルシードの落ちた地球などが典型例だ。
 魔力を運用するリンカーコアの全容は未だ未知の部分が多く、地球等の魔法文明が存在しない世界でも備えている生物が稀に現れる。
 何にせよ、魔力の存在を認知した一部の人類は時に独占し、時に広め、短い繁栄と衰退を繰り返した。
 中でも二つの文明、汎用性を選んだミッドチルダと対魔導師戦を選んだベルカが大きく発展したのは決して不自然と言えないだろう。
 何より、次元世界間の戦争でミッドチルダが生き残れたのは、この汎用性があってこそ。
 射撃・防御・広域攻撃・砲撃・捕縛……挙げればキリがない。
 これについて、少年は多彩と評価。ただし移動と格闘に関しては何も言わなかった、というより言えなかったのが正しいか。
 ――移動と格闘を忘れてもらっては……ああ、あなたにこれを言っちゃ駄目ね。
 ――いえ、そんなことは……ええっと……。
 分かり易くて宜しい。
 とりあえず何が言いたいかというと。この魔力が、汎用性の高さが、これ以上ない位少年に有利な方向へ働いている。
 だからこそ、プレシア・テスタロッサは険しい視線で模擬戦の映像を見直していた。
 フロア内の天井や壁際に設置してあった無数のモニター用サーチャーで記録された映像。

881LB ◆ErlyzB/5oA:2011/01/20(木) 20:53:52 ID:aXj0WSV2
 何か見落としはないのか、何か弱点は発見できないかと探せば探す程、思い知らされる。
 吊るされしシャンデリアの下、端の廊下から静かに闇の差し込む大広間で、巨大な人形達を相手にたった一人で戦う、銀髪銀眼の若き騎士。
 細い体躯から生み出される運動曲線には淀みがなく、決して狭いとは言えないホールの中を縦横無尽に駆け巡る。
 襲い来る巨兵に対し振るわれる双剣は、敵と比べればあまりにも小さく、しかし外見からは想像もつかない程の鋭い孤を描く。
 その一つ一つが、敵兵達の武器を、腕を、脚を、そして魔法を、一閃の下に粉塵へと帰していく。
 最終的に存在を否定された魔弾は、魔導師に与えられた速度をある程度維持しつつ、空中で魔力素と化し霧散する。
 本来金属だった物質は、霧散した状態から空中で再結晶し、床に落ちて暫くカラカラと転がり、やがて静止する。
 幻想的で、交響的で、それでいて限りなく洗練された、銀(しろがね)の剣舞。
 銀光が閃く度、プレシアに理解を促させる。
 ……これが、魔法士……!
 知れば知る程、見れば見る程、“それ”が異常な力だと思い知らされる。
 速い強いでは済まされない。剣を以て魔法を壊し、詠唱を許さずに懐へ入るなど、まるで、
 ――まるで、魔導師を殺す為だけに存在するような――
 想像するに堪えない、いつもの自分らしくもない考えに、思わず唇を噛んだ。

 奇しくも、プレシアの想像は当たっている。
 魔法士の騎士が持つ能力は本来、個人戦・接近戦・そして対魔法士戦に特化している。
 簡潔かつ語弊の無い言い方をすると、魔法士とは“異能を持つ人間”である。
 魔導師も、簡潔かつ語弊の無い言い方をすると、“異能を持つ人間”である。
 魔力やI-ブレイン等といった専門用語さえなくなれば、“魔法”を恐れる人間にとって大した違いがないように。
 騎士にとっては、“騎士を含めた例外を除く多数の魔法士”と“あらゆる次元世界に存在する魔導師”に大した違いがないのである。

「本当に、まずいわ」
 映像を再生していて、分かった事がある。
 完全には把握できないものの、少年は間違いなく手を抜いていた。
 身体能力制御も、どこまで本気だったか不明瞭。
 魔導師との相性を始めとした実験の意味合いが強かったため、傀儡兵と対等に戦えるよう加減したのだろう。

882LB ◆ErlyzB/5oA:2011/01/20(木) 20:55:39 ID:aXj0WSV2
 それはつまり、裏を返せば傀儡兵ごとき相手にならないと断言しているようなもの。まるで底が見えなかった。
 騎士能力は三種類のみ。それしかないと少年は断言したし、嘘とも思えない。
 しかしまだ何か隠している……何を隠している?
 右の剣にある結晶体については、聞いてもはぐらかされた。
 奥の手だから滅多に使う事はないと言われたものの、それでなければ“あれ”はどう説明するのか。
 足場の悪い空中、粉塵と弾幕の只中、隣の弓兵へ移動してみせたあの芸当は。
 少年の発言が確かだと仮定するなら、既存の能力と手加減からして、消去法により身体能力制御で何かを起こしたとしか思えない。
 計算上、不可能だ。対十五倍速の反作用処理では、亜音速で直進する銃弾の上を歩ける訳が――
 ……十五倍じゃ、ない?
 研究者、プレシアの閃き。前提が間違っているのか。
 数十倍、予想するに三十倍近い加速を発揮し、魔力弾を足場に空中を移動したと仮定すれば、辻褄は合う。
 対策の内に考慮せねばならない事は、他にもある。
 模擬戦後の質問から得た重要な情報が二つ。
 一つ。情報の側から魔法士に“干渉”できる魔法士は常識的に考えてまず存在しない、という事。

 数ヵ月後に“特定の例外・一番目”の二名に遭遇するなど、この時のディーには知る由も無い。言わずもがな、敵側の魔法士である。

 二つ。身体能力制御は反作用処理付きの加速であり、加速ではなく肉体強化を行う魔法士は聞いた事も無い、との事。

 その事件から更に二週間後、言った通りの能力を持つ“特定の例外・二番目”と戦う羽目になるなど、この時のディーには知る由もない。
 あげく大苦戦させられる。想像もつくまい。

 更に更に、肺結核の事まで知られてしまった。
 気遣う声ばかりの少年に、何も聞かないのかと問えば。
 ――疑問には思ってました。何故貴女自身が行かず、フェイト達に任せるのかと。……時間が、ないんですね?
 治す術はないと。余命はもう殆ど残っていないのだと。
 病気で動けないからですか、という言葉を通り越して突かれるその核心に、肯定の意を示せば。
 ――分かりました。フェイト達には言いませんので、安心して下さい。その代わり、どういう病気か位は教えて下さいね?
 前にもこんな経験があったと言わんばかりの対応。
 しかし詮索した所でメリットがあるとは到底思えない。結局聞かなかった。

883LB ◆ErlyzB/5oA:2011/01/20(木) 20:58:04 ID:aXj0WSV2
 次に、本人の自己評価。曰く、“騎士という範疇でもかなり高い方”。
 手加減しておいて高いと評価――いや、バレている事を前提に話しているのだろうか。
 更に高いだけで最高とか最強とか言わない。上がいると理解しているのか、ただの謙遜か。
 自惚れがない事はいい事である。本当に謙遜だとしたらどう反応しろと言うのか。
 一番扱いに困るのは、少年の信念そのものだ。
 組織や契約の枷を全く気にせず、必要なら敵対する、そんなスタンス。
 部外者故に犯罪者にも管理局にも属さない為、半中立と言っても過言ではない。
 更にこちらは、少年を元の世界へ送るつもりも余裕も無い。用が済んだらさっさと管理局に丸投げする気満々だ。
 緊急用武力貸与と衣食住で成り立っているだけの、薄い関係。
 探し人の少女を見つけたなら、どんな手を使ってでも合流を図るだろう。
 プレシアとの契約を、切ってでも。
 一応、根底への揺さ振りはかけてみた。
 共に巻き込まれた少女が、安全な場所へ転移しているとは限らないと。
 見つからず終いかもしれないし、見つかった所で無事ではないかもしれないと。
 硬直の時間は如何程だったか。ご心配なくと騎士は前置きした。
 ――セラは、強い子ですから。
 戦闘能力か、性根の問題か。その寂しげな笑みからは、真偽すら読み取れなかった。
 自分も藁へ縋るように信じているものがある以上、これまた理由を聞けなかった。
 結論。どうやら自分は、あらゆる意味でとんでもないものを拾ってしまったらしい。
 個人戦……特に対魔導師戦において、絶大な戦闘能力を発揮できるということ。
 敵に回った際は非常に危険な存在となるが、味方になってこれ程有効な駒はまず考えられない。
 念入りに対策を打っておかねば、Sランク魔導師であっても勝ちの目はまずないと見ていい。
 というか、このまま対策を練らずにいると限定SSの自分でも負けてしまう。
「何か……何か方法は……」
 戦闘や魔導、デバイスなどのデータから脳内で対策を練り、次々と棄却されていく。
 確実な有効策が見つからずに焦る中、ある一つのデータが目に留まった。
「これは……」
 何の事はない、計器の観測データだった。研究の為には重要な代物、しかし少年から勝利をもぎ取るには関係がないとしか思えない代物だった。

884LB ◆ErlyzB/5oA:2011/01/20(木) 21:00:35 ID:aXj0WSV2
 有り得ない反応。有り得ない数値。記録されたそれらは、もう少し引き上がれば危険域を突破していたと容易に語っている。
 一体いつ、どんな理由で?
「――まさか」
 不意に浮かんだ、心当たり。同時に見出した、一筋の光明。
 直後、飛びつくようにそれを調べ始めた。
 フェイトが持ち帰ってきた、ジュエルシードを。


おまけ
対魔法士の騎士その1:空間トラップ
 空間発動型のバインドや機雷など。視認されないバインドがお勧め。
 相手にばれないよう仕込めば、並騎士の対策は万全。ただし、カテゴリーA騎士相手だと強引に突破されてしまう。
 この場合、空戦に持ち込む等で自己領域を使わせるのが得策。
 身体能力制御への切り替えタイムラグも手伝って、あっさり仕留める事ができる。
 引っ掛かったとしてもバインドの幾つかは破壊しかねない為、多めに設置するべし。
弱点1:設置の際、微かに情報制御の反応はある為、気付かれる可能性はある。
弱点2:仕掛けられた空間そのものを情報解体されると、トラップ自体無効化される。

 無論、並列処理発動中のディーには素で通用しない。


///
投下終了。

というわけで、初の魔法士戦闘&設定擦り合わせ回でした まる
六章は海上戦までの空白期に相当しますので、全っ然話が進みません。

理詰めの結果とはいえディー有利になった感は否めませんが、後悔なぞ皆無です。
ディーは存在が出鱈目、それがデフォルト。そうじゃないディー君なんて只の優男ですから(ぉ
七巻ディーの惚気発言には2828した。状況次第では賢人会議にも敵対しかねないと断言したも同然なディー君ぱねぇです。

因みに、開始数十秒分の戦闘シーンなら、手元にテキストがあります。長過ぎるので省略しました(←執筆が長引いた原因)
まあ、今まで戦闘書けなかった鬱憤は晴らしたので良しとします(ぉ

当初の予定だとこの後に幕間が入る筈だったのですが、改訂作業の副次効果で省かれました。
よって次回は第七章。
……まだ七章……しかも前にある程度書いて消えてたやつだorz
以上。



BGM:(妖)広有射怪鳥事 〜 Till When?




ここまで。どなたか代理お願いします

885ラッコ男 ◆XgJmEYT2z.:2011/01/30(日) 19:02:49 ID:WT/6oFS2
今更で恐縮ですが……orz
代理行ってきます。

886ラッコ男 ◆XgJmEYT2z.:2011/01/30(日) 19:38:15 ID:WT/6oFS2
案の定さるさん喰らいましたorz
申し訳ありませんが、前編の残り部分(868-877)の代理を
お願いします。後編部分は翌日投下したいと思います。

887りりかるな黒い太陽:2011/02/01(火) 23:27:22 ID:wwsuxjA2
さるさん食らいましたorz

恐縮ですが残りの代理をお願いします
誰か、誰か頼む…

888りりかるな黒い太陽:2011/02/01(火) 23:28:05 ID:wwsuxjA2
>>160 コピペミスして画面二回ひらいてます。すいませんOTZ

床に降りながらRXは血を振り払うようにリボルケインを振るう。
杖に残った破壊エネルギーがほんの僅かな間虚空に残り、RXと署名して消えた。

署名が消え、RXを内部に残したまま『聖王のゆりかご』は爆発した。

突然光を放ちだした『聖王のゆりかご』を見上げていた人々は突然の強い光に目を閉じ、爆発が収まるのを待とうとした。

どうなるか予想していたはやてとそれに習った者達が、サングラスをして見続ける中…RXらしき点が、爆発の中から落ちていく。
はやてのサングラスから光る何かが零れたような気がしたが気にする者は一人としていなかった。

まだ爆音が響く中で誰かがRXを呼んだ。
巨大な怪獣達が手を伸ばし、フェイトがいつかのようにRXを抱えるために飛び出した。

だが―RXの体は突如出現した何かに挟まれて、次元の壁を突き破って姿を消した。

「「「「「「「え…っ」」」」」」」

何が起こったか見えた者達は、すぐに気をとり直して呆れたり怒ったり、様々な反応を見せる。

『はやてごめん! 私、RXを助けに行ってくるから!』
『いや、アカンて。後始末あるんやから』
『そんな…セッテ!! 貴方はわからない!?』
『どうでしょうか…?』
『んもう…!』







幾つかの次元を突き抜けてから、ライドロンはアゴを緩めてRXを開放した。
加えられていたRXが、連行されたことなどに悪態をつきながら車内に乗り込む。

「拾ってあげたし、情報も教えてあげたでしょ。感謝の言葉は?」
「こんな真似が必要だったとは思えないぞ。ライドロンもだ! なんでウーノに協力してるんだ!?」

運転席にはウーノがいた。RXがドアを閉めるとウーノはライドロンを更に加速させ、更に追跡を困難にするために別の管理世界へとライドロンを走らせようとする。
南光太郎の姿に戻りながらRX・光太郎はライドロンの車内を叩いた。

「あのままあそこに残っていた方が面倒なことになるんだから、よかったでしょう?」
「それは否定しないけどさっ」

シートにもたれ掛かる光太郎に、ウーノが勝ち誇ったような顔で言う。

「予め『ゆりかご』からデータは取っておいたわ。ギリギリだったし、まだどれがどれだかわからないけど多分貴方の故郷に行くのに必要なデータもあるはずよ」
「どうして、そんな用意がしてあるんだ」
「退職金代わりに色々なデータを貰っただけよ。貴方との取引にも使えそうなデータが他にもあると面白いんだけど…」

889りりかるな黒い太陽:2011/02/01(火) 23:30:12 ID:wwsuxjA2
ハンドルを握ったまま、ウーノは光太郎に流し目を送った。
光太郎は返事を返さずに座っているシートを後ろへ倒そうとしていた。
車内にため息が漏れる。ライドロンが次元の壁を超える。
次の管理世界は時間が少しずれているのか、辺りは暗く、静かだった。

「……セッテや六課のお友達のことを確認したくても、教会と管理局の反応を待ってからにするのね」
「わかった。わかってるけど、何かあれば俺は皆を助けに行くぞ!」
「チッ………それは諦めてるわ」

舌打ちがやけに大きく車内に響き、そこで会話は途切れた。
空気を読んでライドロンは静かに走り続ける。
故郷の地球へ向かうデータを探しながらの逃亡生活を考えて光太郎は少し憂鬱になった。

無表情でウーノは運転を続け、光太郎は早々と目を閉じていた。
車内は暖かく、微かな振動が二人の体を揺さぶった。少しすると、光太郎の寝息が聞こえ始めた。ため息がまた漏れた。

落胆からではなかった。
こうなるとわかっていてやったとはいえ落胆するかと思っていた自分が、奇妙な気持ちにウーノは襲われたことに対して、ウーノはもう一つため息をついた。
元々ライドロンが自走することも出来る為運転を任せてウーノは視線を向け、次に手を向けて助手席の光太郎が眠っているのを確認して唇を開いた。

「ホントに世話がやけるんだから………」

寝具を取ってやろうか迷って体が動いたが、それを決める前にウーノは不思議なことを思った。
普段なら考えもしないことで、後でかなり長い間後悔することは確実だったが、どういうわけかウーノはもう一度光太郎が眠っているかどうかを確認した。
念入りに手で肩に触れて、顔を近づけても寝息が変わらないことや反射的に顔を顰めるだけだということを確かめ…耳元に唇を寄せた。

「…………〜〜……………っ……………………………………………………あ……………………………………………………………………………愛してるわ」

車内灯は付いておらず、顔色は誰にも見えなかった。
ライドロンがふざけて蛇行し、ウーノが叱った。

光太郎の眠りが薄くなる前に彼女は運転に戻った。
目覚める頃には、窓から入る光に照らされた顔も普段どおりの白さに戻さなければならなかった。

「…? 今揺れなかったか?」
「道が、悪かっただけよ」


ED

以上でりりかるな黒い太陽は完結とさせていただきます
もう少し引き伸ばす予定だったけど間が開くばかりで進まないし内容的には増えるわけでもry

拙作にも関わらず投下時感想を下さった方やまとめページにコメントしていただいた皆様に感謝を
どうにか投下出来たのは皆様のお陰です。最初は創世王とか出てもっと酷い事になる分岐も考えていたので……内容についてもかなりいい意味で影響されたと思います

RXの性格が変わったことについては考えた上でのことだったのですが、最終話も含めなのは側のキャラをちゃんとかけなかった点については申し訳ありません
クロスなのになのは勢はスカが調子に乗っただけだったような…

890 ◆e4ZoADcJ/6:2011/02/06(日) 12:58:11 ID:m0ni/rec
本スレの方が規制でしばらく書き込めないのでこっちに書きます。

ハートキャッチプリキュアの完結と、スイートプリキュアの開始を記念して
プリキュアクロス(でもクロスと言えるのかな? これ…)をやりたいと思います。

ユーノが色んな意味で壊れてるので注意(ユーノスレに投下すると九分九厘アンチ扱いされる位)

891ユーノが鬱病になりました ◆e4ZoADcJ/6:2011/02/06(日) 13:00:04 ID:m0ni/rec
 ある月曜日の朝、ユーノが鬱病になって入院した。その報告を聞いたなのはは思わず飛び出し
ユーノが入院されていると言う病院へ走った。

「ユーノ君!」
「やあ…なのは……。」
「え…ユーノ君…なの……………?」

 病室のベッドに横たわるユーノの姿を見た時、なのはは絶句してしまった。鬱病と話には聞いていたが
何があったのかユーノは別人の様にやつれ痩せこけてしまっていた。あらかじめユーノであると聞かされていなかったら
なのはですらユーノとは気付かない程。もはや鬱病と言うレベルの話では無い。一体何が彼をここまで追い詰めてしまったと言うのか…。

「ユーノ君どうしてこんな事に…。まさかアンチの誹謗中傷!? それとも男好きの司書からのセクハラ!?」

 ユーノをここまで追い詰めてしまった原因に関して、なのはの頭ではその二つしか思い付かなかった。
なのはに最も近い男として嫉妬したアンチからの根強い叩きと、一方でユーノを嫁にしたがる男好きの司書からのセクハラと言う
二重の攻撃にユーノの精神は限界に達し、ここまで追い詰められたと考えたのだが…

「ははは…そんな事くらいで僕がへこたれるわけないじゃないか…。」
「えぇ!? じゃ…じゃあ…どうしてこんな事に…。」

 アンチの叩きでも司書からのセクハラでも無いとユーノは言う。なのはは分からなかった。
ならば一体何がユーノをここまで追い詰めてしまったと言うのか?

「ハートキャッチプリキュアが……。」
「え? ハートキャッチプリキュア…確かにうちでもヴィヴィオがストライクアーツの
参考になるとか言って毎週楽しんで見てたけど、それがどうかしたの?」
「ハートキャッチプリキュアが完結しちゃったよ〜……僕はこれから一体何を
楽しみに生きていけば良いんだ〜? もう希望も何もあったものじゃないよ〜…………。」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッッッッッッ」

 なのはの全身に衝撃が走った。何と言う事か、ユーノは大友…つまり大きなお友達だったのである!!
そしてユーノは息も絶え絶えながらに語り始めていた。

「だって考えても見てご覧よ…。キュアマリンもキュアサンシャインもキュアムーンライトもキュアフラワーも
皆僕の嫁だったのに……彼女達とはもう二度と会えないんだ……そう思うと……生きていくのが辛くて……。
僕の心の花はすっかり萎れる所か完全に枯れてしまったよ…。今の僕がデザトリアンにされたら多分無限シルエットにも勝てるね…。」
「……………………………。」

892ユーノが鬱病になりました ◆e4ZoADcJ/6:2011/02/06(日) 13:01:26 ID:m0ni/rec
 悲しみの余りなのはの目に涙が零れ落ちた。しかしそれは決してユーノが大友だった事実に呆れたわけでは無い。
ここ数年におけるユーノを取り巻く環境を考えればこうなってしまう事も無理な話では無いと考えたのだ。

 モンスタークレーマーのごときアンチの激しい叩きと、それに屈してユーノの本編登場を自粛した公式。
まるでウルトラセブン第12話の様に、語る事自体が禁忌にも等しい事にされてしまった今と言う状況を考えれば
ユーノがプリキュアに逃避…もとい心の支えを見出すのも仕方の無い事だとなのはは考えていた。

「笑うなら笑うが良いさ…所詮タンパク質とカルシウムの呪縛に縛られた俗人に今の僕の気持ちは分からないのさ…。」
「そんな…元気出してよユーノ君! 来月の三月には映画もあるし、フィギュアーツだって発売されるじゃない!」
「来月の三月…ね……。僕はその時まで果たして生きていられるかな…。と言うか、フィギュアーツも本当なら
1月に発売されていなければならない物だったんだよ…。それを三月に延期するなんて………うぅぅぅ………。」
「ユーノ君! ユーノ君しっかりして!」

 呻き声を上げ苦しみ始めたユーノ。なのはは思わず駆け寄りユーノを支えようとしていたが、
ユーノはまるで枯れ枝の様に細く痩せこけた腕を小刻みに震わせながら天井へと伸ばしていた。

「ディ……ディケイドォォォ〜〜〜……お願いだから僕のこの命の炎が尽きる前に……どうか僕を
ハートキャッチプリキュアの世界に連れてっておくれぇぇぇ〜〜〜………。そこで僕は
キュアマリンもキュアサンシャインもキュアムーンライトもキュアフラワーも皆僕の物にするんだ〜……。」
「………………………………。」

 なのはは涙しながらユーノの延々続くプリキュアに関しての想い語りをずっと聞いていた。
こうして聞いてあげる事が今のユーノにとっての何よりの薬になると考えたのだから。

 なのは病院を出た後、本屋で売れ残っていたハートキャッチプリキュアの絵本や、玩具屋で
在庫処分セールが始まっていたハートキャッチプリキュアの玩具等を探しては買い集めユーノに送り、
時には自分自身がその絵本を読み聞かせたりもしたが…焼け石に水。ユーノは日に日に衰弱していく。
なのはは今回程自分の無力さを思い知った事は無かった。かつて世界を救うとすら言われた事のある
彼女だが、こうして目の前にいるユーノ一人救えないじゃないかと………悔やんだ。

 しかし翌週の月曜日、そこには何事も無かったかの様に元気に無限書庫へ出勤するユーノの姿があった。
九十歳以上の老人と言われても信じるであろうと思われる程にまでやつれ痩せこけていたはずのユーノの身体は
かつての様な若々しく瑞々しい健康さを取り戻し、はつらつとしていた。

「ユーノ…君?」
「おはようなのは! どうしたんだい?」

 確かにユーノが元気になったのは良い事だが、こうまであっさり元気になり過ぎるのも何処か不気味さを感じた。
一体彼の身に何が起こったと言うのだろうか?

「ユーノ君…元気になったんだね…。」
「うん。何時までもくよくよしていられないしね。今まで無限書庫の皆に迷惑をかけてしまった分バリバリ働くつもりさ!」
「そ…そう…頑張ってね…?」

 こうして、元気に無限書庫へ向け走り去るユーノをなのはは呆然と見つめ見送っていた。
だが、このユーノの変わり様は一体何故…と、やはり気になっていたなのはは
昼休みを利用してユーノのいる無限書庫を訪ねてみる事にした。

893ユーノが鬱病になりました ◆e4ZoADcJ/6:2011/02/06(日) 13:04:08 ID:m0ni/rec
 昼休みの無限書庫。そこでなのはは驚愕の事実を垣間見る事になる。

「ユーノ=スクライア司書長はいらっしゃいますか〜? って……うぇぇぇ!!」

 なのはは思わず叫んでいた。そこには昼休みを利用して弁当を食べながらニヤニヤしながらビデオ録画していた分を
再生する形でアニメを見るユーノの姿があったのである。しかもそれはただのアニメでは無かった。

「あ…あ…あれは…昨日ヴィヴィオが見てた…確か…スイーツプリキュア!」
「違うよ! スイートプリキュア!」
「あ…ごめん…。」

 アニメ視聴をしながらもなのはの存在に気付いていたユーノに指摘され、思わずなのはは謝っていた。
そう。ユーノが見ていたのはハートキャッチプリキュアの後番組、スイートプリキュアだったのである。
そしてユーノが弁当を食べ終わると共に、スイートプリキュアの方も次回予告が終わった所だった。

「まさか…ユーノ君が元気になった原因…。」

 ユーノが鬱病になった原因がハートキャッチプリキュアの完結によって生きる希望を失った事にあった様に、
彼を回復させたのもまたその後番組に当たるスイートプリキュアの開始によって生きる希望を見出したからであった。

「はっ! そ…そう言えば…去年やその前にも同じ事があった様な…。」

 なのははここである事実を思い出していた。それは、去年の今頃にもフレッシュプリキュアが終わったとか言って
キュアピーチもキュアパッションも僕の嫁なのに〜とかうわごとの様に呟きながら鬱病になるも、後番組の
ハートキャッチプリキュア開始と共に元気になっていたし、さらにその前年の今頃にもプリキュア5GOGOが
終わったとか言って、キュアドリームは僕の嫁、ココは氏ねとかうわごとの様に呟きながら鬱病になるも
後番組のフレッシュプリキュアの開始と共に元気になっていた。この繰り返しだった事に今更気付いていたのだった。

「なのは…。キュアメロディこと響ちゃんは僕の嫁って事で良いよね? なのははどうしたら良いと思う?」
「仮面ライダー響鬼の音撃でも喰らって死んでしまえば良いと思うの。」
「ハハハハハ! 冗談キツイねなのはも!」

 ユーノは笑っていたが、そんな時…ふとフェイトが彼の前に現れていた。

「あ、フェイトちゃん。」
「ねえユーノ…誰か一人忘れてない?」
「え? 別に忘れ物はしてないよ。」
「いや、大切なのを一人忘れてる。」
「?」

 現れて早々に変な事を訪ねるフェイトにユーノもなのはも首を傾げる。しかし彼女の目は真剣だった。

「いや絶対忘れてる。ほら、最初に『ブロッ』って付く人がいるでしょ?」
「ブロッケン伯爵? それともブロッケンjr?」
「なのは…私も堪忍袋の尾を切っても良いかなぁ?」

                         END

894 ◆e4ZoADcJ/6:2011/02/06(日) 13:05:03 ID:m0ni/rec
やっぱりこのネタはこのタイミングじゃないとダメだと思いました。
ちなみに今も以前予告したディケイドクロスをちまちまと書き溜めてる最中なんですけど、
現在喰らってる規制がかなり長引きそうなのでp2の導入も視野に入れて色々考えたりしてますorz

895 ◆e4ZoADcJ/6:2011/02/07(月) 10:21:41 ID:ZRXwkr0c
>>890-894は自分でセルフ代行出来たのでもう良いです。
全ては規制が悪いんですよ……orz

896リリレッド ◆zn6obdUsOA:2011/03/16(水) 01:04:27 ID:zBNx85Xo
今回の災害で亡くなられた方々に哀悼の意をそしてご冥福をお祈りいたします。


ここで良いかどうか判断しかねますが、本スレが混雑の影響のためか繋がらないのでこちらにて生存報告をさせて頂きます。

幸い、一応都心住まいでしたので自室が初期の無限書庫並みに混沌とした以外に大きな被害や停電も無く無事でした。



次話の方も遅筆ですが半分は書きましたので近いうちに投下出来るかと思います。

保管庫住人及び他の職人の方々の無事を祈り、これにて失礼いたします。

897魔術士オーフェンStrikers:2011/05/11(水) 21:33:20 ID:U2e4SfQ.
サルサン食らってしまいました。どなたか代理投稿をお願いします。
タイトルの所は「幕間・地人弟の憂鬱」でお願いします

正直行きたくはないのだが、どの道断るわけにはいかないのも事実だ。
この不揃いな面子に拾われてから何だかんだで「食」だけは賄ってもらえているのだ。
この程度の頼みを断っては後々に遺恨を残しかねない。
不承不承といった風で立ち上がり、荷物袋の中を漁って先端にレンズのはめ込まれた棒状の機器を取り出す。
「じゃあ行ってくるね」
「おう。バカ兄貴はあたしが見張っといてやるから早く帰って来いよな」
すでに焚き火の中のスープしか目に入っていない兄を指し示しながら、アギトが言ってくる。
良かった。これなら兄から目を離しても夜食にありつけるかもしれない。
そう少し安堵すると、ドーチンは先ほどルーテシアの消えていった方向に適当にあたりを付け、森の中へ足を踏み出した。
「あ、そうだ。さっき旦那がこの辺野犬が出るかもって言ってたから気を付けて行けよ」
「……………………」

何とも言えず、とりあえず大声は出さずに見つけないとなぁ…などと思いながら、ドーチンは一気に重くなった気分を吐息に乗せて吐き出した。



◆   ◇    ◆    ◇    ◆    ◇    ◆    ◇    ◆    ◇


背の高い木々の中、円形の光が照らす道を黙々と歩いていく。
道幅はそれなりに広いが、いかんせん足場が悪い。さっきから地面から突き出た石や木の根に何度も蹴躓いている。
視界ゼロで歩くよりは遥かにマシであるが、溜息を止めさせてくれるほどの慰めには程遠かった。
手に持った携帯型の光源に目をやる。こんな技術はキエサルヒマ大陸では見た事がない。
(やっぱり大陸の外まで飛ばされちゃったのかなぁ…。だから天人の遺跡なんかに寝泊りするのは止めようよって言ったのに…)
妙な事になったと、今更ながらにうな垂れる。

898魔術士オーフェンStrikers:2011/05/11(水) 21:34:21 ID:U2e4SfQ.
事の起こりは一月ほど前。当てもなく兄と共に大陸を放浪している最中、一夜の宿とした遺跡の中で起こった。
火事場泥棒みたいな真似をしたのがそもそもの間違いだったのだろう。―――――誓って弁解させてもらうがやったのは兄である。ボクは止めた。
元々大陸中の遺跡は大陸魔術士同盟の魔術士達によって粗方掘りつくされているのだ。
素人がどんなに一生懸命探った所で、食器の一枚も見つかりっこない…。
(…と、思ってたんだけどなぁ…)
そこがたまたま手付かずの遺跡だったのか、はたまた探索した魔術士が見落としていただけなのかは定かではない。
だが結果として兄は見つけてしまった。床に彫られたとある小さな『文字』。複雑に絡み合うように描かれたその文様には見覚えがあった。
『魔術文字(ウイルドグラフ)』。
かの『天なる人類』ウィールド・ドラゴンが用いたという「魔術」である。
効果の程は多種多様で、それこそ文字の数だけあると言われている。
加えて一時的な効果しか望めない人間の音声魔術と違い、魔術文字は媒体となる文字を傷つけられない限りその効果は、それこそ永続するものさえあるとかなんとか。
更に、魔術文字の最大の特徴は、条件さえ満たせば『誰にでも扱える』という事。
それが加工された特殊な道具ではなく、ただの魔術文字ならば、ただ軌跡をなぞるだけで効果を発揮するものさえあるという――――――


……ここでうっかり顔馴染みの魔術士のウンチクを思い出してしまった事、保身よりも好奇心が勝ってしまった事が運の尽きだった…。

文字をなぞった後の事はもうよく分からない。
ただなぞった文字が光だし、、次第にその光の文字が部屋全体に伸びていって最終的には目を焼かれるかと思うほどに発光しだした時点でもう後悔の極地に達していたのは覚えている。
逃げ出そうにも眼球が潰れそうなほどの白光にただただ両目を押さえてうずくまるしかなく…。
そして一瞬の振動の後、自分達が立っていたのは遺跡の石畳の上ではなく、満天の星空が輝く草原だった…。

899魔術士オーフェンStrikers:2011/05/11(水) 21:35:42 ID:U2e4SfQ.
…今思えばあの魔術文字はきっと転移の魔術だったんだろう。前にレジボーン温泉にあった遺跡で見たのと同じヤツだ。
その事自体はまぁいい、というか今更どうしようもない。命にかかわる類の魔術じゃなくて良かったと思うしかない。
問題は転移させられた場所がまったく見知らぬ土地だったという事だ。
いや、それだけならまだ楽観視していられただろう…。本当の問題は、「ここがキエサルヒマ大陸ですらない」という事だ。
アギト達に連れられて街に下りた時、本当に驚いた。
キエサルヒマ大陸に築かれていたモノとは桁違いなまでに進歩した文明の姿がそこにはあった。
(ルーテシアに聞いても「そんな所知らない」の一点張りだしなぁ。きっと大陸の外まで飛ばされちゃったって事だよなぁ…。参ったなぁ…。ちゃんと帰れるのかなぁ)
愚痴は抑えられてもため息までは止められない。
そういえば外の世界じゃ人間なんてとっくに絶滅してるみたいな事を誰かが言ってたけど
、あのクラナガンという街一つ見ても繁栄を極めているのは疑いようがない。
(まぁ実際に見てもいない人の話よりも自分の目で見た物を信じるべきだよね、普通は)
なんとも釈然としないが、現状で特に不利益を被っているわけでもないので無理やりにでも納得するしかない。
少なくとも聞き及んだとおりの無人の荒野に投げ出されるよりは百倍マシなのは確かなのだから。
と、ちょうど思考に一通りの区切りがついた所で、ふと気付いた。どこからか小さな音が鳴っている。
それが何なのか疑問に思うよりも早く、アギトの言葉が頭を過ぎった。


『旦那がさっきこの辺野犬が出るかもって言ってたから気を付けて―――――』


野犬が出るかもって……出るかもって……出るかも……


ぶわぁ…と一気に冷や汗が吹き出てくる。
唐突に震え出した指で慌てて懐中電灯のスイッチを切り、息を殺し、音の出所を探ろうと必死に耳を澄ます。

900魔術士オーフェンStrikers:2011/05/11(水) 21:36:25 ID:U2e4SfQ.
…今思えばあの魔術文字はきっと転移の魔術だったんだろう。前にレジボーン温泉にあった遺跡で見たのと同じヤツだ。
その事自体はまぁいい、というか今更どうしようもない。命にかかわる類の魔術じゃなくて良かったと思うしかない。
問題は転移させられた場所がまったく見知らぬ土地だったという事だ。
いや、それだけならまだ楽観視していられただろう…。本当の問題は、「ここがキエサルヒマ大陸ですらない」という事だ。
アギト達に連れられて街に下りた時、本当に驚いた。
キエサルヒマ大陸に築かれていたモノとは桁違いなまでに進歩した文明の姿がそこにはあった。
(ルーテシアに聞いても「そんな所知らない」の一点張りだしなぁ。きっと大陸の外まで飛ばされちゃったって事だよなぁ…。参ったなぁ…。ちゃんと帰れるのかなぁ)
愚痴は抑えられてもため息までは止められない。
そういえば外の世界じゃ人間なんてとっくに絶滅してるみたいな事を誰かが言ってたけど
、あのクラナガンという街一つ見ても繁栄を極めているのは疑いようがない。
(まぁ実際に見てもいない人の話よりも自分の目で見た物を信じるべきだよね、普通は)
なんとも釈然としないが、現状で特に不利益を被っているわけでもないので無理やりにでも納得するしかない。
少なくとも聞き及んだとおりの無人の荒野に投げ出されるよりは百倍マシなのは確かなのだから。
と、ちょうど思考に一通りの区切りがついた所で、ふと気付いた。どこからか小さな音が鳴っている。
それが何なのか疑問に思うよりも早く、アギトの言葉が頭を過ぎった。


『旦那がさっきこの辺野犬が出るかもって言ってたから気を付けて―――――』


野犬が出るかもって……出るかもって……出るかも……


ぶわぁ…と一気に冷や汗が吹き出てくる。
震える指で慌てて懐中電灯のスイッチを切り、息を殺し、音の出所を探ろうと必死に耳を澄ます。

901魔術士オーフェンStrikers:2011/05/11(水) 21:37:31 ID:U2e4SfQ.
「……こっち」
「え?」
悩んでいると、ルーテシアが無造作にある方向を指で示し、そちらに向かってテクテクと歩き出した。
慌てて懐中電灯のスイッチを入れて、彼女の隣に並ぶ。
「道、覚えてるの?」
「違う。教えてくれるの」
囁きながらルーテシアが前の方を指差す。
「?」
首を傾げつつ懐中電灯を向けると、何か紫色の小さな光が導くように自分達の前を先行していた。
あれについていけばいい、という事だろうか…。
「………………」
「………………」
サクサクと、無言のまま草を踏み分ける音だけが辺りに響く。
なんとなく気まずさ覚えて、ドーチンはチラリと自分の背丈とそう変わらない位置にある横顔を盗み見てみる。
白光に照らされた横顔は、相変わらず感情というものを全て削ぎ落とされたとしか思えないような無表情。
いや、あるいは比喩ではなく本当に感情というものを失っているのかもしれない―――そんな馬鹿げた考えが浮かんでしまうほど、この少女には人間的な部分が欠けているように思える。
なにせ食事をしている時も、アギト達と世間話に興じている時も、いや、思えば最初の出会いからこっち、自分はこの表情以外の彼女を見た覚えが無い。
「…なに?」
「え!?あ、あ〜…えーと、その…」
ぼー、と顔を覗きこんでいた所にいきなり声をかけられて思わず顔が赤くなる。
別にやましい気持ちは無いのだが、ただ単に顔を見ていたというのもなんとなく気持ちが悪く、別の事を口にした。
「その…ホラ、今日はずいぶん時間がかかったなぁって思ってさ」
「…?なにが?」
「何って…。定時連絡だよ。さっきの人との。いつもはワリとすぐ済むじゃない」
「…今日は、またドクターにお手伝いを頼まれてたから…」
「お手伝い?」
聞き返すと、ルーテシアは軽く頷き、繰り返してきた。

「おつかいの『お手伝い』だって…」



幕間「地人・弟の憂鬱」  終

902魔術士オーフェンStrikers:2011/05/11(水) 21:38:26 ID:U2e4SfQ.
これにて投下終了となります。お目汚し失礼しました。
十三話の落とし所がどーーーーしても上手くいかないので、先に出来上がったこちらの方を投下させていただきました。
…本当はこの話は十三話の次に投下するつもりだったのですが…。前回の投下からずいぶん経ってしまったのでやむおえず…。
内容としては地人兄弟の現状確認と酷く分かりにくい伏線だけで大して進んでません。
あと、実はこの話半年前にはもう書き上がっていました。なんかもうほんと色々すみません。

903リリカルトリーズナー ◆j1MRf1cSMw:2011/05/12(木) 21:23:34 ID:0O2lXUi2
最後の最後でさるさんくらった……
申し訳ありませんが、気づかれた方代理の方をお願いします



 それによって切り裂かれた以上は、マトモに済む筈もない。プラズマは何ものも例外なく切り裂き、その傷口そのものを焼いてしまうのだ。
 後から振り返っても、それはえげつのない武器だったと、八神はやては正直に述懐する。
 言いようにこちらをボコボコに蹴り飛ばしてくれたとはいえ、それでもこれは気の毒以前にやり過ぎだ。
 殺す気でやったのか、とその下手人に思わず怒鳴りつけたかったはずだ。
 ……尤も、当人からすればそれこそが愚問だと、歯牙にもかけずに切り捨てたのだろうが。

「喧しい。喚くな」

 自分でそれだけのことをなしておきながら、のた打ち回る東風へとその相手が吐き捨てるように告げたのは、冷酷そのものとすら思えるそんな短い一言だった。

「ス……ッ……スト……ッ……ライダァァァ………ッ!」

 足を斬り飛ばされ、地面にのた打ち回る東風が、それでも最後の意地のように涙と汗とその他もろもろの、激痛と屈辱と怒りに満ちた表情で、その相手を見上げながら言葉を発する。
 そこにいる相手――それこそ見たままの忍者そのままのような格好をした、はやてとそう年齢も大差ない青年は、しかしそんな東風の怨嗟に満ちた態度すら何ら歯牙にもかけはしなかった。
 度胸が据わっているのか、それこそ本当にこれくらいのこと何とも思っていないのか、はやてには正直その判別がつかない。
 鉄のような無反応の無表情。その青年は既に東風など見てはいなかった。
 恐らくは、不意打ちで彼女の足を飛ばしたのも、決して殺されようとしていた八神はやてを助けようとしてしたわけではあるまい。
 事実、それがありありと分かるくらいに、結果的に助けたことになったであろうはやてにすら一瞥さえくれずに、そのまま真っ直ぐに奥へ――重力制御室へと向かっていく。
 はやてはハッと正気に戻ると共に、とにかく青年を呼び止めようと口を開こうとしたその瞬間だった。

「阿呆……がっ! あのお方に……ッ……まだ逆らい続ける……ッ……つもりかッ!?
 貴様などに……ッ……あのお方は……決して、斃せんッ!」

 先んじて、東風がそんな嘲笑も顕にその背中へと向かって叫びかける。
 そんな気力がまだ残っているのかと、それこそはやてが驚いたほどだった。

「世界は……あのお方の……ッ……ものだッ!
 あのお方に逆らった……ッ、貴様……などに……ッ……未来はない!」

 まるで断言するとでも言うように。後悔しろと言わんばかりに。
 青年の背に向かい、嘲笑と罵倒をまるで妄執するかのように続ける東風。
 怨嗟の篭るその挑発の数々は、正直まるで関係ないはやてですら聞いていて思わずにゾッとしたほど。
 この女がそれほどまでにグランドマスターに畏怖し、そして忠誠を誓っているのだということが、薄っすらとだがはやてにも察せられた。
 しかし、そんな東風の罵詈雑言に対しても、それを言いたい放題に言われていた青年の方はといえば。
 ただ静かに振り返ってきて、まるで蟲でも見るような目で、倒れ伏している東風へとたった一言。


「だから貴様は飼い犬なのさ」


 たった一言。されど痛烈とも言える、皮肉の篭った斬り返し。
 傍らのはやてですら、これは効くと思ったのだ。恐らくは忠誠心の塊とも思われる東風が、その侮辱同然の物言いを許せるとは思えなかった。
 事実――

「飼い…犬……ッ……だとッ!?」

 私の忠を。私のあのお方への献身を。
 これまで誇りを持って続けてきた私のその全てを。
 度し難くも、薄汚い、愚かな死に損ないに過ぎぬストライダー風情が。

904リリカルトリーズナー ◆j1MRf1cSMw:2011/05/12(木) 21:26:01 ID:0O2lXUi2
 ――飼い犬、だと?

「ふざ……ッ……けるなぁぁぁぁぁぁ!」

 殺す! 絶対に殺す! 必ず殺す!
 許さん! 許してなるものか!
 新世界に居場所を許されぬ、古き神の遺物ごときが。
 あのお方の第一の臣たるこの私を飼い犬呼ばわり。
 万死すらも生温い。絶死を下し、来世すらも許さん。
 否! 今この瞬間、もはや一秒たりともその存在が永らえ続けること自体が冒涜だ。
 故に殺す! 疾く殺す! この眼前の身の程知らずの不届き者を、私のあのお方への忠が完殺する!

「ストライダァァァァァァァァァァ!!」

 故に躊躇も何もありはしなかった。
 右足が無いなど関係ない。勝ち目云々そのものなど視野にも入れていない。
 狂的なまでの忠誠と、そして怒りに支えられた東風は、地面についた両手をばねの様に叩きつけ、その反動で片足のみで宙へと跳んだ。
 そしてそのまま、その残った足にプラズマを纏わせながら、眼前の絶死を誓った怨敵目掛けて容赦なく迫る。

 そんな鬼気迫る突撃を敢行してくる相手に、飛竜は――


 ただ無言でサイファーを構え、迫り来る相手を見据えながら、その蹴りを直撃寸前で、難なく見切り、躱す。
 そして相手が驚愕や次手を打つことすらも許さずに――

「犬の茶番に付き合っている暇はない」

 そんな一言を無情に告げると同時に、一閃。
 最後まで屈辱と憤怒にその表情を歪めながら、東風のその切断された首が宙を舞った。




以上、投下終了
ミッドナイト氏、支援入れてくださりありがとうございました。
まだまだ長いので今回はここまでにしときます。久しぶりの投下で色々と不備が出てた場合は申し訳ありません。
まぁそんなわけでクロス元は『ストライダー飛竜2』。若干のナムカプアレンジ設定も使わせていただいています。(後、根も葉もない捏造設定もありますが)
マヴカプやナムカプでお馴染みとは言えやはり元ゲーがマイナー過ぎるかと危惧もしたんですけど……よくよく考えれば某界隈ですっかり汚い忍者呼ばわりで有名だから、そうでもないんですかね。
……ストライダーは忍者じゃないんだが
久しぶりに元ゲーとナムカプ再プレイして、マヴカプ3でまさかのリストラにあった腹いせで書いたんですけど、本当は3レス程度の嘘予告で書いてたつもりがいつの間にか短編ssになってました。
そんなわけでもう暫しお付き合いしていただければ幸いです。それでは、また

905魔法少女リリカル名無し:2011/05/13(金) 11:15:49 ID:vsm4wUs6
ネットショップサイトが開店です、コスプレ、着ぐるみ、ファション服、全身タイツなどの商品が備えております、 www.chinazonejp.com

906リリカルトリーズナー ◆j1MRf1cSMw:2011/05/14(土) 21:22:03 ID:BVHKn/D.
またさるさん引っかかってしまった……
何度も申し訳ないですが、気づかれたどなたか代理投下お願いします


『Thunder Rage』

 瞬間、今度は上空からカドゥケウスへと目掛けて叩き込まれたのは黄金の雷。
 何事かと振り仰いだ時にはしかし既に遅く。
 カドゥケウスの頭部――そこを目掛けて己がデバイスの矛先を向けていたのは二人の魔導師。
 既に排除したも同然。そう高をくくり捨て置いたはずの死に損ないの小娘ども。

「やめろ……やめろぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 これ以上のダメージを与えられれば、それこそ本当にカドゥケウスは停止してしまう。
 それが分かっていたから冥王は絶叫と共に二人の射線上へと何とか立ち塞がろうとするも――



「大型だ。防御も固い」
「うん……でも私とフェイトちゃんの二人なら」

 かつて交わした憶えのある言葉を奇しくも今再び交わしあい、なのはとフェイトはそれぞれ構えるレインジングハートとバルディッシュの矛先を標的へと向ける。
 チャンスは一度きり。これで押し切れなければ後はない。本当に負けだ。
 だが彼女たちの表情には、不思議と焦りや不安の類はない。
 当然だ。だって一緒に戦ってくれるのは他の誰よりも信頼できる――

「――いくよ、なのは!」
「――うん、フェイトちゃん!」

 先に仕掛けたのはフェイト。三発のカートリッジロードと同時、先端に集束した雷撃を全力で解き放つ。

「サンダァァァ……スマッシャァァァァアアアアアアアアア!!」

 黄金の雷撃。それは狙い違わずカドゥケウスへの頭部に迫り――

「やめろ……やめろぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 割り込むように現れた冥王が展開する障壁が、それをさせじと全力で受け止める。
 驚くフェイト。そして防御ごと撃ち抜くべく更なる魔力を込めるも、流石に相手も次元世界屈指の巨魁。猛然と展開する障壁はそれを撃ち砕かれんと必死に踏ん張る。
 ベストコンディションのフェイトならいざ知らず、今の彼女は消耗激しい重傷の身。余力の総てを振り絞ろうと足掻くも、それでも貫けない。
 ――そう、彼女一人だけならば。
 だが――

「ディバィィィン……バスタァァァァァアアアアアアアアア!!」

 彼女は一人ではない。
 肩を並べ、一緒に戦ってくれる仲間が、友がいる。
 全力を振り絞る高町なのはの加勢。桜色の砲撃がフェイトの黄金の雷撃と並行するように合わさって、冥王の障壁へと迫る。

「おのれぇぇ……ッ……おのれぇぇぇぇッ!!」

 亀裂が走る冥王の障壁。
 それでも尚、諦めることなく弾き返そうと迫る執念は、並々ならぬものである。
 だがそれでも――

 想いの強さならば、決して彼女たちも負けてはいない。

 否、むしろ……

「なぁ……にぃ……ッ!?」

907リリカルトリーズナー ◆j1MRf1cSMw:2011/05/14(土) 21:23:04 ID:BVHKn/D.

 ありえぬと押されるように段々と亀裂が致命的になっていく冥王の障壁。
 Sランクレベルの砲撃を二つ同時に相手取る驚異的なその力も……だがやはり、それはたった一人のものに過ぎない。
 己を唯一絶対の神、そう信じて疑わぬ、他者を見下し道具のように利用するだけのただ一人の王。
 けれど相手取る彼女たちは違う。そう、二人。互いを信じ合える強い絆で繋がった仲間であり友である二人だ。
 それは例え個々の力において冥王に劣ろうと、

「なのは……ッ……行くよッ!」
「うんッ……せぇぇぇの――――ッ!!」

 二人束ねたその力なら、決して冥王を相手にすら劣るものではない。
 その事実を証明するように、黄金と桜色は合わさりあい、遂には巨大な極光となって冥王の障壁を穿つ。
 最後に信じられぬと冥王が目を見開いたのは、いったい如何なる理由でか。
 己が絶対と謳ったはずの力が破れたことか?
 取るにも足らぬと捨て置いた相手にこうして破れたことか?
 或いは――

「認めん……認めんぞぉぉぉおおおおおおおおおおお!!」

 このような結末、敗北など断じて認めん。
 そう叫びながらも、そのまま極光の渦へと貫かれ、背後の最高傑作たる被造物諸共に、冥王は吹き飛ばされた。



 飛竜のブーストを用いたサイファーでの猛攻。
 そしてなのはとフェイトの二人によるSランクレベルの集束砲撃。
 弱点たる頭部にあらんかぎりのダメージを与えられたカドゥケウスは――

「―――――――――――――!!!」

 生物として叫びにもならない……しかし明確な絶叫を上げながら、遂にその頭部が砕け散る。

「……余のカドゥケウスが……星への道が………」

 中枢を司っていた頭部を破壊され、機能停止へと陥ったカドゥケウスはそのままその異形の巨体を制御を失ったように虚数空間への海へと沈めていく。
 同じように砲撃で吹き飛ばされながら、外縁部に辛うじて引っかかりその場にしがみ付いていたグランドマスターは、そんな絶望の呟きを漏らしながら最高傑作の沈没を呆然と見ている他になかった。
 神へ至る……そのために必要だったはずの最後の鍵。次元世界を制覇するために創り上げた無敵の生物兵器。
 それが無残にも敗れ、撃ち砕かれていく。
 その光景は冥王自身の二千年にも及んだ見果てぬ夢の終わりでもあり。

「貴様らにそんな玩具は必要ない」

 その明確な幕引きを実行すべく、今死神がここまでやって来ていた。



 振り返るグランドマスター。
 絶望と恐怖と憤怒と憎悪……混沌とした感情の渦と彩られた老獪の視線が捉えたのは一人の男。
 ゆっくりと歩くような速度で絶死を告げる死神の鎌を構えながら近づいてくる暗殺者。

「飛竜……ッ!?」

 男の名を呼ぶ冥王のその声には、余人には凡そ測り知れぬ混沌とした感情が込められていた。

908リリカルトリーズナー ◆j1MRf1cSMw:2011/05/14(土) 21:24:15 ID:BVHKn/D.
 グランドマスターの脳裏に瞬間的に過ぎったのはある一つの光景。
 “今”ではない“かつて”。
 同じようにこの場所で。
 一つの終止符を打ったはずの戦いがあった。
 その時、冥王は確かにそれに勝利した。その結果を持って今を創り上げ、不完全ではあるが神の座へと至ったのだ。
 憶えている……ああ、憶えている。
 忘れない。忘れるものか。
 あの光景を。あの勝利を。あの男を――――!
 今でも勝利の愉悦と、そして相反する消し去れぬ恐怖と共にハッキリと憶えていた。
 故に――

「貴様は本当に……“あの”飛竜なのか?」

 問い質さなければならない。ハッキリさせなければならない。
 あの日の勝利は、あの日の栄光は。
 本当に己を永遠の神として祝福するものであったのか……

「二千年の昔。余の前へ立ち塞がった……」

 飛竜の歩みは止まらない。
 歩みながら鋭利に絞り、研ぎ澄まされていく殺気も。
 何一つ窺え知れないその感情を消し去った眼は、何も告げることはなく――

「あの時果たせなかった任務を果たすため、今ここで余を殺そうというのか――!?」



 ――ただ……一閃!



 己が身体を両断する刃の感覚。
 二千年前に跳ね除けたはずのそれが、今回遂に逃れられなかったことを冥王は悟った。
 言葉にならぬ呻きを搾り出しながら、それでもグランドマスターは残る執念で己を滅ぼした怨敵へと手を伸ばそうとするも……

 しかし、それは届くことなく。


「飛竜より本部へ、任務――――完了」


 神の頂に上り損ねた魔人がその生涯最期に聞いた言葉は、二千年越しの達成を告げる宿敵の総てを終わらせる呟きだった。



以上、投下終了
後はエピローグというか後日談というか、そういうのが少しだけで終わりです。
短編ssなんだからこんなに長くしてどうすんだって話ですが……兎に角、次で終わりです。
それでは、また

909魔法少女リリカル名無し:2011/05/20(金) 12:23:53 ID:o2X7CKBE
ネットショップサイトが開店です、コスプレ、着ぐるみ、ファション服、全身タイツなどの商品が備えております、 www.chinazonejp.com

910FE ◆lJ8RAcRNfA:2011/05/20(金) 22:58:03 ID:Snuhsig.
投下中にさるさんを食らってしまいました。
申し訳ありませんが、代理投下をお願いいたします。

911FE ◆lJ8RAcRNfA:2011/05/20(金) 22:58:37 ID:Snuhsig.
……ここは、何処だ。
 アイクは真っ先にそう思った。何せ、自分が立っているのは真っ暗な森の中。

 少しづつ、記憶がはっきりしてきた。確か、ここは親父と漆黒の騎士が戦った、因縁の―――――

そこまで思い出した瞬間、重苦しい金属音が聞こえてきた。
 まるで、これからがショーの始まりだと言わんばかりの、鈍い音が。
 アイクはその音に反応し、音のした方へと駆け出していく。

 まさか、自分の考えていることが正しいとしたら―――

 アイクは無我夢中で森の中を駆けていく。
 あの悪夢を繰り返さぬために。大切な人が奪われる前に。



 アイクがたどり着いた場所は、すでに戦場と化していた。
 父、グレイルと漆黒の騎士が剣と斧をぶつけあっている。
 グレイルがどれほど斧をぶつけようと躍起になっても、漆黒の騎士にはかすりもしなかった。

 誰の目から見ても、グレイルは押されていた。かつての力、かつて使っていた武器を失い、「老い」が今のグレイルを見るも無残な姿に変えたのだ。

跪き、乱れた息を整えるグレイル。そんな彼に、漆黒の騎士は先ほどまで使っていた神剣「ラグネル」を投げて、グレイルの前に突き刺した。

「…何のつもりだ。」

「貴殿との戦いを楽しみにしていた。まともな武器で手合わせ願いたい。」

そう伝え、腰に差してあったラグネルと瓜二つの剣、神剣「エタルド」を抜く。
そして、グレイルに突きつける。

「…神騎将、ガウェイン殿!!!!」

912FE ◆lJ8RAcRNfA:2011/05/20(金) 22:59:35 ID:Snuhsig.
その名はアイクが聞いたこともない名だった。
 その名は、かつてグレイルがデイン王国に勤めていたころの二つ名。

 デインを抜けた今となっては、その名を知る者はほぼいないと思われていた。

 そんな、ほぼ機密事項扱いにも等しい名を知り、超人的な剣の腕を持つ。

 その男が、この戦いを楽しみにしている、と言った。
 それほどまでに、アイクの父親は強かったのだ。

「…昔、そんな名で呼ばれたこともあったな。」
 ラグネルを地面から引き抜く。

「だが…」
と続け、ラグネルを投げ返す。

「その名はとうの昔に捨てた。今の相棒は…これだ。」
ガウェイン、いや、グレイルはこの世でたった一つの斧、「ウルヴァン」を構えなおす。

だが、その言葉を発した瞬間にグレイルは死を覚悟するべきであった。
騎士にとって名を捨てるということは、それまでの自分、それまでの戦いのすべてを否定することになるのだから。

そんなことを思いつつ、漆黒の騎士は、

「…死ぬ気ですか。」
 と冷たく言い放つが、グレイルはそんなことは気にしていなかった。
 そして、次に彼の口から出た言葉は意外なものだった。

「…その声、覚えているぞ。たった10数年で師であるこのわしを追いぬいたつもりか?…フン、若造が…」

 さっきまで昔を懐かしむ表情が、突然こわばる。
 神騎将としての本能が目覚めたのか、それともただ単にキレただけか。

「これでも、食らうがいい!!」

913FE ◆lJ8RAcRNfA:2011/05/20(金) 23:00:05 ID:Snuhsig.
グレイルが斧を持って突進する。

 今思えば、これが父を救う唯一のチャンスだったかもしれない。

だが、アイクは戸惑っていた。

 今ここで出ていけば、確実に殺される。要するに、死ぬのが恐かったのだ。

 だが、ここで躊躇っていればグレイルが死ぬ。

 命を賭して身内を守るか、それとも未来を生きるために今ここで父を見殺しにするか。
 それは、非常に残酷な問いだった。

(俺は…)

 腰に差してある剣に手をかける。だが、抜くことができない。
 自分の命と他人の命を天秤にかけるには、このころのアイクは幼すぎた。

 そして、答えを出せぬまま―――静寂が訪れる。

 エタルドに貫かれ、驚愕に目を見開くグレイル。
 親父の生命は急速に失われつつあった。

「親父!!」
 アイクは父親のもとに駆け寄る。抱きとめた父親の体は、ぞっとするほど冷たかった。

 そして、そのまま二人は倒れこむ。

 そして、何処からか声が響いてきた。あの少女の声で。

「あなたは、また見殺しにするつもり…?」

914FE ◆lJ8RAcRNfA:2011/05/20(金) 23:02:31 ID:Snuhsig.
「ッ!!!」
 飛び起きたアイクはぐっしょりと汗をかいていた。
 トラウマの記憶をリアルに、そして鮮やかに思い出した自分に対して舌打ちをする。

 原因は言うまでもなく、先日ルーテシアから言われた言葉だ。

「あなたはまた見殺しにするつもり…?」

 頭の中でその声がはっきりとリピートされる。
 本日のアイクの寝ざめは、最悪のようだった。



第14章「罪の意識」

 そのころ、教会ではちょっとした事件が起きていた。
 それは、先日保護した少女の姿が無い、というものであった。

「状況は?」
 なのはが状況をシャッハから聞き出す。

 なんでも、検査の合間に係員の目を盗んで脱走したとか。
 「ただの」少女ならそこまで問題は無いのだが、それならば係員が退避したり魔法の感知をするわけがない。

 魔力が十分にある(といっても、子供のレベルでそれなりの量である)ので、もしかしたら、の状況を考えて聖王教会は実質閉鎖状態にあった。

「早く見つかるといいですけど…」
 シャッハがつぶやく。
 実際、ここら一帯は隠れることができるようなものはほとんど何もないので、楽と言えば楽である。
「では、手分けして探しましょう!」
 なのはのその一言を合図に、なのはとシャッハ、そして運転役でついてきたシグナムは少女を探しに行った。

 案の定、一番最初に見つけたのはなのはだった。
 だが、幸か不幸か懐いてしまった。

 それもそうだろう。少女が怯えているときに優しい女性が手を差し伸べる。
 それだけで、子供というものは懐いてしまうのだ。…もっとも、それに加えて外見が良ければ、の話だが。

915FE ◆lJ8RAcRNfA:2011/05/20(金) 23:04:53 ID:Snuhsig.
その少女は、名前をヴィヴィオと名乗った。そして、母を探していることも。

 それを見かねて、起動六課まで連れてきて、フォワード陣に相手をしてもらおうという魂胆だったが、それはいささか傲慢だったようだ。

「うぇぇええーーーん!!行っちゃやだーーーー!!」

 駄々っ子のように(というかむしろすでに駄々っ子である)泣き叫ぶヴィヴィオ。
 その様子をモニターしていたフェイトとはやてが、なのはとフォワード陣の所にやってきた。

 無論、アイクとセネリオもいたのだが、二人はあえてヴィヴィオに近づかないでいた。
 それを変と悟ったのか、スバルがこっそりと耳打ちする。

「アイクさん、セネリオさん、どうしてこっちに来ないんですか?」
「俺らが行ったら、泣くだろう。」
「右に同じです。」

 つまり、ゴリラの様なムキムキの筋肉を持つ男と、人見知りで冷徹な物言いしかしない人物がヴィヴィオに接したら、泣いてしまうと思ったのだ。

 と、そこになのはの声が入る。

「それじゃ、ライトニングの二人はヴィヴィオのこと、お願いね。スターズは、そろそろデスクワークの時間だから、行くよ。」

 そう言ってティアナとスバルが部屋を出ようとした時だった。

「ティアナ、少しいいか。」
「……?」
 アイクがティアナを呼びとめる。心なしか、その時のアイクの表情は迷っているような、苦しんでいるような気がした。

 その雰囲気を察したティアナは、アイクの瞳を真正面から受け止める。
 いまだに、じっと見つめられると頬が赤くなるのだが、この時ばかりはそうは言ってられなかった。

916FE ◆lJ8RAcRNfA:2011/05/20(金) 23:05:30 ID:Snuhsig.
「………ティアナ。仮に、自分の犯した罪が誰にも裁かれないとしたら、お前は…どうする?」

 その言葉の意味を真に理解することができるのは、あの時にルーテシアの言葉を聞いた者だけだろう。
 だが、あの言葉がもたらす苦痛と苦悩はアイクにしか理解できなかった。

 それを知ってか知らずか、ティアナが答える。
「うーん…私だったら、罪のことを忘れて生きるか、ひそかに償いながら生きると思います。」
「具体的に、どう償うんだ?」
「えと、例えば…人を殺してしまったときとかは、その人のことを忘れないようにして二度と殺人をしない…とか、です。」

 それは、果たして正しいのか。それを尋ねたかったが、神ならぬ人の身にそんな抽象的な答えが出せるわけではない。
「ありがとう、ティアナ。」

 素直にお礼を言っておく。
「いえ、どういたしまして。」
 ティアナも笑顔で返す。

 さて、と一息ついてティアナが立ち去ろうとした瞬間だった。


 ドサッ

 アイクとセネリオが倒れ始めた。
「アイクさん!?セネリオさん!」

 ティアナとエリオ、キャロが駆け寄って体を揺らすが意識はない。
 その様子をおびえた目でヴィヴィオが見つめていた

917FE ◆lJ8RAcRNfA:2011/05/20(金) 23:06:18 ID:Snuhsig.
(ここは…)
 暗闇の中。だが、意識がある。この感覚には覚えがあった。

(また女神ですか。)

――――――その通り。

朗らかな、しかし優雅な声でアスタテューヌが受け応えした。

――――――アイク、あなたの加護を封印しようと思って。

(封印?どういうことだ?)

――――――あなたの中に、女神の力を封じ込めるの。これで、女神の加護同士の反発は起こらないと思うけど…

(何かあるんですか?)

――――――これは、あくまでも封印。あなたがその封印を解きたいと願えば、いつでも簡単に解けてしまう、脆いもの。強い心でまたそれを封じ込めればいいんだけどね。

 そういって、アスタテューヌは女神の加護の封印を施す。

――――――これでよし。あとは、何か聞きたいこととかある?

(…罪を償うには、どうしたらいい?)

 先ほどの問いを、女神に尋ねる。その姿は、さながら懺悔のようだった。

――――――じゃあ、あなたは何の罪を許されたいの?

 穏やかな声で尋ねる。
(俺は…?)
 何を許されたいのだろうか。
 父を見殺しにしたことか。それとも、戦争で多くの命を奪ったことだろうか。
あるいは、その両方か。

(…人殺しの罪だ。)
 全てをひっくるめた、アイク自身の罪だった。

――――――…そうね。今は、まだ答えはあげられない。それは、私から与えるものではないわ。

(そうか…)

――――――でも、ヒントくらいならあげられるわ。「その罪で苦しんでいる人は、あなただけではない。」

(なんだって?)
 そう尋ねるが、それがアスタテューヌに届くことは無く、視界は光に包まれた。

918FE ◆lJ8RAcRNfA:2011/05/20(金) 23:07:35 ID:Snuhsig.
目覚めた場所は、先ほどのヴィヴィオ達がいた部屋だ。
 どうやら、壁にもたれかかって寝ていたようである。
「あっ!目が覚めましたか!」

 そう言って、エリオとキャロがヴィヴィオを置いて駆け寄ってくる。

「突然どうしたんですか?」
「どこか悪いところでもあるんですか!?」
 目覚めた二人に質問を浴びせる。
 その様子をおびえながらヴィヴィオが見ていた。

「…大丈夫です。ところで、あなたたちは何を?」
「え…と、なのはさんたちが、この子のことよろしくって…」

 ずいぶんと災難な話だった。
「………もしかして、それは僕たちもですか?」

 冷たい声でセネリオが聞く。
「えっと…そうしてくれると、ありがたいん、ですけど…」

 苦笑を浮かべ、冷や汗を流しながら頼み込む。特にすることも無かったので、
「まあ、いいでしょう。」
 と意外に乗り気であった。

 だが、それで彼の人見知りは治るわけもなく、アイクの見た目が変化するわけでもないので、ヴィヴィオが彼らに懐くまでに2時間の時間を有したのだった。

919FE ◆lJ8RAcRNfA:2011/05/20(金) 23:08:12 ID:Snuhsig.
目覚めた場所は、先ほどのヴィヴィオ達がいた部屋だ。
 どうやら、壁にもたれかかって寝ていたようである。
「あっ!目が覚めましたか!」

 そう言って、エリオとキャロがヴィヴィオを置いて駆け寄ってくる。

「突然どうしたんですか?」
「どこか悪いところでもあるんですか!?」
 目覚めた二人に質問を浴びせる。
 その様子をおびえながらヴィヴィオが見ていた。

「…大丈夫です。ところで、あなたたちは何を?」
「え…と、なのはさんたちが、この子のことよろしくって…」

 ずいぶんと災難な話だった。
「………もしかして、それは僕たちもですか?」

 冷たい声でセネリオが聞く。
「えっと…そうしてくれると、ありがたいん、ですけど…」

 苦笑を浮かべ、冷や汗を流しながら頼み込む。特にすることも無かったので、
「まあ、いいでしょう。」
 と意外に乗り気であった。

 だが、それで彼の人見知りは治るわけもなく、アイクの見た目が変化するわけでもないので、ヴィヴィオが彼らに懐くまでに2時間の時間を有したのだった。すっかり暗くなった景色に浮かぶ満月と街のネオン。
 それらをいつもの河原で眺めながらアイクは傍らにあるラグネルを握り締め、アスタテューヌが言ったことを考えていた。

―――――「その罪で苦しんでいる人は、あなただけではない。」
 冷静に考えれば、その意味はおのずと理解できた。

(俺が共に戦った人たちは、この罪を抱えているんだよな…)
 人殺しの罪を抱えて、なお生きる。誰がどこで暮らそうと、その事実は消え去ることはない。
 それでも、あいつらは生きている。
 ミカヤ、サザ、傭兵団の皆、クリミアの王宮騎士団――――
 挙げたらきりがない。
 彼らは罪と向かい合うなり、逃げるなりしているのだ。もしかしたら、答えを出していないのは自分だけではないか、と俯きながら思う。

(やはり…殺人の罪は…)
 アイクの中に一つの答えが浮かぶ。償うでもなく、逃げるでもなく。
(「死」によって償われるのか?)
 それはよくあること。多くの人を死に追いやった人物は死によって償われる。
 そんな考えが頭をよぎった瞬間だった。

「アイクさん、またここにいたんですか。」
 ティアナがやってきた。バリアジャケットを着ている姿からして、夜の訓練が終わったところだろう。

「なぜ俺がここにいると思ったんだ?」
「だって、前にもここに来たじゃないですか。」
 笑顔でそう答える。そして、アイクの隣に座る。

「まだ…悩んでるんですか?」
「俺の罪はそう簡単には消えない。そこで、償う方法を考えていてな…」
 なぜか、ティアナにはこの悩みを打ち明ける。
 心のどこかで彼女を許している証拠だった。
「俺は、「死」をもって償うべきなのか…」

920FE ◆lJ8RAcRNfA:2011/05/20(金) 23:09:14 ID:Snuhsig.
すみません、>>919はミスしました。
無視してください…

921FE ◆lJ8RAcRNfA:2011/05/20(金) 23:10:22 ID:Snuhsig.
 すっかり暗くなった景色に浮かぶ満月と街のネオン。
 それらをいつもの河原で眺めながらアイクは傍らにあるラグネルを握り締め、アスタテューヌが言ったことを考えていた。

―――――「その罪で苦しんでいる人は、あなただけではない。」
 冷静に考えれば、その意味はおのずと理解できた。

(俺が共に戦った人たちは、この罪を抱えているんだよな…)
 人殺しの罪を抱えて、なお生きる。誰がどこで暮らそうと、その事実は消え去ることはない。
 それでも、あいつらは生きている。
 ミカヤ、サザ、傭兵団の皆、クリミアの王宮騎士団――――
 挙げたらきりがない。
 彼らは罪と向かい合うなり、逃げるなりしているのだ。もしかしたら、答えを出していないのは自分だけではないか、と俯きながら思う。

(やはり…殺人の罪は…)
 アイクの中に一つの答えが浮かぶ。償うでもなく、逃げるでもなく。
(「死」によって償われるのか?)
 それはよくあること。多くの人を死に追いやった人物は死によって償われる。
 そんな考えが頭をよぎった瞬間だった。

「アイクさん、またここにいたんですか。」
 ティアナがやってきた。バリアジャケットを着ている姿からして、夜の訓練が終わったところだろう。

「なぜ俺がここにいると思ったんだ?」
「だって、前にもここに来たじゃないですか。」
 笑顔でそう答える。そして、アイクの隣に座る。

「まだ…悩んでるんですか?」
「俺の罪はそう簡単には消えない。そこで、償う方法を考えていてな…」
 なぜか、ティアナにはこの悩みを打ち明ける。
 心のどこかで彼女を許している証拠だった。
「俺は、「死」をもって償うべきなのか…」

 その言葉に、ティアナは激怒した。
「そんなことあるわけないじゃないですか!!」
 いきなりの怒号に、アイクは目を丸くする。
「死んで償うなんて、そんな悲しいこと、言わないでください…」
 そして、涙目になっていく。

「ティアナ…」
「お願いです、死なないで…」
 どうやら、慰める立場と慰められる側が入れ変わってしまったようだ。
 アイクは、最初の方こそ驚いたものの、少しづつうれしさを感じていた。
 これまで傭兵として生きていたアイクにとって、ここまで自分の心配をしてくれることがありがたかったのだ。
 
「落ち着いたか」
「はい……」
 アイクに泣きついて、8分ほどが経過した。
「すみません…」
 顔を真っ赤にして謝るティアナ。対して、アイクは穏やかな気持ちになっていた。
「でも、とにかく死んで償うのはなしですよ?」
「わかったさ。」
 ぶっきらぼうに告げる。
 そして、戦いの中で見せる微笑とは正反対の柔らかい微笑みを浮かべた。

「ティアナ…ありがとう。」
 その言葉と微笑みを受け取り、ティアナはさらに真っ赤になる。
「はい…」
 俯きながらも、その顔はとても嬉しそうだった。



「さて、そろそろ戻るか。」
 そう言って、アイクが立ちあがる。
 それに続き、ティアナが立ちあがろうとしたところ、
「ッ…」
 ぐらり、と体が揺れる。立ちくらみだろう。
「おっと…」
 その体をアイクが抱きとめる。とっさにティアナは離れようとするが、立ちくらみが抜けきっていない。
「あ…」
「部屋まで送ってやろう。」
 そういって、ティアナをお姫様だっこする。また顔が真っ赤になったが、アイクはそんなことには気づかない。
 
 そうして送り届けられたティアナは数日の間、スバルにその手の話題でいろいろとつつかれることになるのだった。




  時は少し前にさかのぼる。


 デイン王城:王室

「サザ、ベグニオンに行くわよ。」
「ミカヤ、何を―――」
「ひとつ、確かめたいことがあるの。」

 To be continued……

922FE ◆lJ8RAcRNfA:2011/05/20(金) 23:11:07 ID:Snuhsig.
以上、終了です。
本当に申し訳ありませんが、どなたかお願いいたします。

923リリカルTRIGUN ◆jiPkKgmerY:2011/05/22(日) 00:36:26 ID:dwvNoeCc
書き込み規制がされていた為、こちらに投下します。
申し訳ありませんが、どなたか代理投下して下さると助かります。

924リリカルTRIGUN ◆jiPkKgmerY:2011/05/22(日) 00:36:59 ID:dwvNoeCc
明朝、桜台登山道。。
まだ陽も昇りきっていない時刻の中、高町なのはとヴァッシュ・ザ・スタンピードは相対していた。
なのはの手中にはレイジングハート。
ヴァッシュの手中には無銘のリボルバー。
互いの手中にはそれぞれの得物が握られていた。

「いきますよ、ヴァッシュさん」
「お手柔らかに」

両者は僅か2メートル程しか離れておらず、殆ど手を伸ばせば届く距離だ。
静けさが場を包む。
僅かに汗ばんだ手でレイジングハートを握り締め、なのはが動いた。
まるで槍を扱うかのようにレイジングハートをヴァッシュへと突き立てる。

―――カチン

が、レイジングハートの矛先は横殴りに叩き付けられたリボルバーにより、横へと流される。
代わりとして、なのはの眼前へと突き立てられるリボルバーの銃口。
なのはは体勢を整え、再度レイジングハートを振るう。
金属音が鳴り、今度はリボルバーが横へと流れた。
そこからは断続的に金属音が鳴り続ける。
カチカチカチと、レイジングハートとリボルバーとが火花を散らし、互いの射線を奪い合う。
小気味よいテンポで繰り広げられる応酬は、とてもゆったりとしたもの。
まるで舞踊の如く緩やかで、だが本人からすれば全力全開の攻防が、一定のリズムで続いていく。
なのはの額に雫が溜まり、足元へと垂れ落ちる。
流れる汗はそのつぶらな瞳にも侵入するが、なのはは拭う事すらしようとしない。
高まる集中力が、行動を一本化させていた。


それは近接戦闘をイメージした訓練。
なのはの苦手とする、近接の間合いでの砲撃戦の訓練であった。
近接戦闘での『砲撃を当てる方法』をなのは風に考えた結果が、この訓練である。
相手の武器を払いのけて射線を取り、砲撃を撃ち込む。
先の模擬戦でヴァッシュがなのはにしてみせた攻防が、発案の切欠となっていた。
とはいえ、近接戦を不得手とするなのはには、この訓練は過酷の一言。
中距離、遠距離での訓練は順調な経過を見せているにも関わらず、近距離を主とするこの訓練は遅々として進展していなかった。

「はい、ここまで。なかなかやるようになったじゃん、なのは」

ヴァッシュの一言になのはの動きが止まる。
時間にして十分ほど続けられた射線の取り合いが、音もなく終わった。
金属音が鳴り続けていた周囲に、久方振りの静寂が舞い戻る。

「うー、何で上手くいかないんだろ。イメージではもっと早く動かせるんですけど」
「焦っても仕方無いって。こういうのは慣れと経験だよ」

滴る汗を拭いながら、なのははレイジングハートをスタンバイモードへと戻す。
紅色の宝玉と化したレイジングハートを首に掛け、ヴァッシュの方へと視線を向けた。
疲労の欠片すら見せず、飄々と笑顔を浮かべてタオルを差し出すヴァッシュがそこにいた。
差し出したタオルを受け取り、更に汗を拭うなのは。
動作による疲労というより、極度の集中状態からの疲労が主といったところか。

「それに相当よくなってきてると思うよ。訓練を始めてまだ何日と経ってないんだ。これだけできりゃあ凄いもんさ」

ヴァッシュの言葉に偽りはなかった。
あの模擬戦から数日しか経過していない今、それでも目に見える成果が上がっているだけでも驚嘆に値する。
天才の一言では語りきれない才覚が眼前の少女には眠っている。
そうヴァッシュは確信していた。

「そうですか? そう言われると嬉しいですけど……ヴィータちゃん達がいつ現れるか分からないからなぁ」

なのはは、守護騎士達を止める力が欲しいと言っていた。
世界に崩壊をもたらす魔導書・『闇の書』。
『闇の書』を完成させる為に活動する守護騎士達。
守護騎士達の活動は世界の崩壊をもたらし、数多の命を呑み込んでいく事となる。
そんな守護騎士達を、止める。
倒すでも、殺すでもなく、止める。
心中に宿る優しさが、その言葉を選択させたのだろう。

925リリカルTRIGUN ◆jiPkKgmerY:2011/05/22(日) 00:37:34 ID:dwvNoeCc
「……最近は探知にも引っかからないしね。蒐集活動もどうなってる事やら」

しれっと語りながらも、ヴァッシュはなのはに虚言を飛ばした。
結局、ヴァッシュと守護騎士達との繋がりも断裂してはいない。
相変わらず敵意まるだしの守護騎士達だが、実質弱味を握られている現状ではヴァッシュを無視する事ができない。
何度か蒐集活動に参加し、それなりの戦果はあげている。
どさくさ紛れに攻撃される事も多々あったが、そこら辺はヴァッシュにとって慣れた物。
飄々と受け流して無事に帰還を果たしていた。

「……ヴァッシュさんは、どうしてヴィータちゃん達が『闇の書』の完成を目指しているんだと思います?」

ボンヤリと道場を眺めていたヴァッシュへと、なのはが唐突に問い掛けた。
守護騎士達の戦う理由、『闇の書』を完成させたがる理由。
ヴァッシュはその問いの答えを知っていた。
八神はやて。
それが守護騎士達の戦う理由にして、全てであった。
強大な力を持つ管理局と対立してでも、過酷な蒐集活動をこなしてでも、救いたい存在。
守護騎士達には引けない理由がある。
そして、引けない理由はなのは達にも、管理局にもある。
ヴァッシュはそのどちらの事情も知っていた。

「どうしても引けない理由が、あるんだと思う。彼女達の覚悟は相当なものだ。そりゃもう世界を敵に回す覚悟だってあるだろうね」
「ヴァッシュさんも……そう思いますか」

こう見えてなのはは中々に鋭いところがある。
薄々、守護騎士達の覚悟の度合いも察していたのだろう。
顔を俯かせながら、少し物思いにふけるなのは。
なのはが何を思考しているのか、何となくではあるが、ヴァッシュにも予測がつく。

「世界を敵に回してでも守りたいものって、何だと思います?」
「……難しい質問だね」
「私も、そう思います。でもヴィータちゃん達の気持ちを知るには必要な事だと思って」
「世界を敵に回してでも、か……」

世界を敵に回してでもという言葉に、ヴァッシュはふと仇敵であるナイブスの姿を思い出す。
世界を敵に回して同種の解放を目指す男。
ナイブスはこの世界に於いても人類の滅亡を望んでいる。
ヴァッシュにすら分からない強大な力を使用して、そして世界を滅ぼす力を持つ『闇の書』を利用して、人類を根絶やしにしようとしている。
絶対に止めなければいけない敵であった。

「質問の答え、考え付きました?」
「そうだね……僕だったら、できるだけ誰とも対立しないような道を目指したいな。守りたい人も守れて、世界も敵に回さないような道をね」
「それが出来なかったらって、前提があっての話なんですけど。……でも、ヴァッシュさんらしいかも」
「そうかい? なのはだって同じ道を目指すと思うよ」
「そうですかね?」
「そうさ」

闇の書、八神はやて、守護騎士、ナイブス、時空管理局。
様々な要因が組み合わさって引き起こされた今回の事件。
世界の滅亡を賭けた、余りに大規模な戦い。
あの砂の惑星で繰り広げられた銃撃戦とは、何もかもが違う。
しかし、ヴァッシュは誰も死なない魔法のような解決を望む。
誰もが幸福となる奇跡のような解決を。

「……なのはは、守護騎士達が戦う理由を知りたいかい?」

朝日が差し込み始めた道場にて、ヴァッシュはなのはへと視線を向けて問い掛けた。

「知りたいです。まずは話を聞かなくちゃ、話を聞いて貰わなくちゃ、何も始まらないと思うから」

問い掛けになのはは微塵の迷いもなく答えた。
紡がれた答えに、ヴァッシュは笑顔を浮かべる。

「話を聞かなくちゃ、聞いて貰わなくちゃ、か。うん、そうだ。そうだよ、なのは」

ヴァッシュはなのはの言葉を嬉しそうに反唱し、立ち上がった。
何処か晴れ晴れとした表情でヴァッシュはなのはに振り返る。

「今日の放課後、またここにに来てくれないか。大事な話があるんだ」
「大事な話?」
「そうだな、出来ればフェイトも連れてきて欲しいな。大事な……本当に大事な話があるんだ。必ず来てくれ」
「えと、分かりました」

ヴァッシュはそう言うと練習場から去っていった。

926リリカルTRIGUN ◆jiPkKgmerY:2011/05/22(日) 00:38:44 ID:dwvNoeCc
「大事な話かあ。何だろう?」

赤色のコートを朝風にたなびかせて歩き去るその背中を見詰めながら、なのはは笑顔で呟いた。
ヴァッシュ・ザ・スタンピード。
優しく、お調子者で飄々としていて、でも数え切れない傷を心身に負ってきた男。
なのはにとってヴァッシュは憧れに近い存在であり、そして守ってあげたい人の一人であった。
とある世界にて深い深い悲しみを背負い続けてきたヴァッシュ。
とある世界にて最強のガンマンとして君臨し続けたヴァッシュ。
その全てが、話に聞いたに過ぎない。
実際にヴァッシュがどのような生活を送ってきたのか、なのはは見たこともないし、想像するにも限界がある。
でも、分かる事だってある。
ヴァッシュが傷ついているという事実だけは、なのはにも理解できていた。
初めて出会った時のボロボロな様子、時折見せる暗く儚げな表情、そして―――ある一定のライン以上に他人を踏み込ませる事のない心。
なのはは、気が付いていた。

「……もっと人を頼っても良いんですよ、ヴァッシュさん」

呟きは誰に聞こえる事もなく消えていった。
大事な話とやらに僅かに心を踊らせながら、一抹の寂しさに心をくすぶらせながら、なのはは家路に付いた。







シグナムは八神家のソファに腰掛けて、暗闇に染められた世界を眺めていた。
深夜の蒐集活動を終えたばかりという事もあって、身体は膨大な疲労感に包まれている。
だというのに、眠れない。
疲労に満ちた身体とは裏腹に、意識は鮮明に覚醒していた。

(闇の書の完成が世界を滅ぼす……か……)

シグナムは考えていた。
数日前、ヴァッシュから伝えられた言葉。
闇の書が完成すれば世界を滅ぼしかねない力が暴走するという事。
主の死と共に幾数の転生を繰り返してきた『闇の書』。
確かにこれまでの主の死が如何なるものだったかの記憶は薄い。
『闇の書』の覚醒の時は覚えていれど、それ以上の記憶があやふやなのだ。
その空白の記憶が疑惑に信憑性を持たせる。
信じられない、信じたくない言葉であった。

「シグナム、起きてたのかよ」

思考に没頭しているシグナムに声が投げ掛けられた。
声のする方に視線を飛ばすと、そこには片手にうさぎのぬいぐるみを握った鉄槌の騎士の姿があった。
彼女も蒐集活動から帰還したばかりだというのに、寝付けずにいるようであった。
幼い顔には僅かにくまが浮いていた。

「……早めに寝ておけ。日中の生活に支障をきたすぞ」
「人のこと言えねーだろ。シグナムも早く寝ろよ」

ヴィータは言いながら、シグナムの横へと腰掛ける。
ポスン、という音が響きソファが僅かに沈んだ。
隣に座る、という事は何らかの会話でも求めてきたのだろうが、ヴィータが口を開く様子はない。
ヴィータは主から貰ったぬいぐるみを抱き締めながら、険しい顔で床を睨んでいた。
何かを考えているようであった。
沈黙が続く。
ヴィータは視線を下に向け、シグナムは視線を上に向け、沈黙する。

「……なぁ」

どれ程の時間が経過したのであろうか、ヴィータがポツリと呟きを零した。
視線は動かさず、床を見詰めたままに放たれた言葉。
シグナムは無言で先を促す。
既にカーテンからは淡い朝日が差し込んできており、空は白み始めていた。

「シグナム……何か、私たちに隠し事してねえか?」

続いで出たヴィータの言葉に、シグナムの心臓が跳ね上がった。
愕然の表情で、シグナムはヴィータの方へと顔を向ける。
床を睨んで言葉を紡ぐヴィータの姿が視界に映った。

「最近、なんか変だ。落ち込んでるっていうか、ふさぎ込んでるっていうか、悩んでるっていうか……とにかく変なんだよ、シグナム」

一度動き始めた口は止まらない。
溜め込んだ想いを吐露し続ける。

927リリカルTRIGUN ◆jiPkKgmerY:2011/05/22(日) 00:39:32 ID:dwvNoeCc
「シャマルも、ザフィーラも、ナイブスも……はやてだって心配してた。あん時からだ。お前がアイツと二人きりで喋ったあの時から、何か変だ」

語尾が段々と荒がっていく。
理性の歯止めが効かなくなってきていた。

「どうしたんだよ、シグナム……どうして何も言ってくれねえんだよ!」

そして、爆発する。
シグナムへと振り返ったヴィータの顔には、怒りと悲しみがない交ぜになった不思議な表情が張り付いていた。

「私達は家族だろ。何で相談しねえんだよ、何で一人で背負い込もうとしてるんだよ!
 シグナムがアイツに何を言われたのかは分かんねーよ。でも、一人で背負い込む事はねえだろ! 少しは私達を頼ってくれよ! アタシ達はそんなに頼りねえのかよ!」

語りきったヴィータは、瞳に涙を溜めながらシグナムを睨んでいた。
その瞳をシグナムは呆然と見詰める。
再び、沈黙が流れ始める。
重い、重い、沈黙が。

「……ごめん、感情的になりすぎた」

沈黙を破ったのは、やっぱりヴィータであった。
涙の溜まった瞳を下に向け、ゴシゴシと手で擦る。
ヴィータはそれきりシグナムに背中を見せて、寝室の方へと歩き去ってしまう。
その背中に声を掛けようとして、だが掛けるべき言葉が浮かばない。
ヴァッシュから聞かされた『闇の書』の事実は、絶対に語る訳にはいかない。
真実かどうかも怪しい所だし、聞いた事でヴィータもこの苦悩を味合わう事になる。
それだけは嫌であった。
だが、此処まで自分の事を心配してくれたヴィータをこのまま見送るのは嫌であった。
何か言葉を掛けてあげたい。
だがしかし、考えれどシグナムの脳裏に気のきいた言葉は浮かばない。
沈黙のまま、ヴィータはドアノブへと手を掛ける。
そして、ドアノブを下げる。
ガチャリという音が、いやに大きく響いた。

そこで―――何かを叩くような軽い音がなった。

音はリビングの一角にある窓から聞こえたものであった。
誰かが窓を叩いている。
こんな時間に、玄関からでなく裏窓の方から現れた時点で、怪しさは全開であった。
ヴィータの動きが止まり、不審気な表情で振り返る。
シグナムも警戒態勢に入り、レヴァンティンを発現させ装備する。
窓からはノックの音が鳴り続いていた。
シグナムが窓へと近付き、カーテンを引き上げる。

「や、おはよう」

其処には、鮮やかな金髪を天へとトンがらせた男・ヴァッシュがいた。
片手を上げ、親しげに挨拶を飛ばす男に、思わずシグナムの理性が吹き飛びかける。
このまま窓越しから、斬り伏せてしまいたかった。
それだけで頭痛の種の半分は消化できるように思う。

「……何の用だよ」

ヴァッシュへと声を投げたのはヴィータであった。
嫌悪の感情を隠そうともせず、敵意に満ちた瞳でヴァッシュを見ている。
手中の人形には指が食い込んでいた。

「伝えたいことがあってね」

ヴァッシュの視線がヴィータからシグナムへと移る。
シグナムの姿を見たヴァッシュは一瞬、目を細めた。

「……夕方、そうだな4時位にでも桜台の登山道にある広場へ来てくれ。この事はシグナムとヴィータとだけの秘密にして欲しい。待ち合わせにも二人できてくれ」

その時ヴァッシュの瞳に宿った感情が如何なるものなのか、相対しているシグナムにだけは理解できた。
恐らくは、謝罪の念。
口には出さねど、瞳は語っていた。済まない、と。
その瞳がどうしようもなくシグナムを苛立たせる。
謝るくらいなら、知らせなければ良い。
知らねば何も苦悩せずに済んだのに。
何も苦悩せず、主の救済に専念する事ができたのに。
思わず心が沸騰する。
心中を占めるその感情は、久しく感じていない『  』であった。
レヴァンティンを握るシグナムの手が震えていた。

「頼む、大事な話があるんだ。絶対に、絶対に来てくれ」

シグナムは感情を隠そうとしなかった。
『  』を表情に張り付けて、シグナムはヴァッシュを見る。
ヴァッシュにもシグナムを占める感情がひしひしと感じ取れた。
感じ取れて尚、口を動かす。

「……頼む」

シグナムもヴィータも、返答はしなかった。
ヴァッシュも返答を期待していなかった。
ヴァッシュはそれきり無言で歩き去っていく。
二人の守護騎士を、痛いくらいの静寂が包み込んでいた。

928リリカルTRIGUN ◆jiPkKgmerY:2011/05/22(日) 00:40:10 ID:dwvNoeCc




「……やはり動き出したか」

そして、とあるビルの屋上にてナイブズが一人呟いた。
徐々に活動を始めた海鳴市。その全てを見下ろすような形でナイブズは立ち尽くしていた。
表情に感情はない。無表情でただ海鳴の街を見下ろす。
何処へ向かうのか、車を走らせる人間。
携帯で誰かと会話しながら街を歩く、スーツ姿の男。
わらわらと人々で溢れかえる。
人々は時間の経過と共に、急激な勢いで増えていく。
まるで害敵の到来に巣穴から飛び出す虫螻のようだ。
ナイブズの表情が僅かに険しくなる。

「分かっているな。先に伝えた通りに動け」

次の呟きは決して独白ではなかった。
何時の間にやらナイブズの後方には二人の男が立っていた。
男達の姿は瓜二つで、顔に装備した奇妙な仮面が印象的な男達である。
男達はナイブズの言葉に無言で頷き、蒼色の発光現象に包まれて消えた。
転移魔法であった。

「……ヴァッシュ、お前の足掻きももう終わりだ」

そしてまた、独白が続く。
人々を見下ろし、人外の種は呟く。

「知れ。そして絶望しろ」

終焉を告げる宣告がなされた。
無表情の鉄仮面は愉悦の色へ。
ナイブズは歪んだ笑みを浮かべながら、訪れる未来に思い出してを馳せていた。







同日、昼過ぎの喫茶店・翠屋。
平日という事もあってか客はまばら。
現在、そんな翠屋のレジに高町士郎は立っていた。
とはいえ客もいないので行う事はない。
クリスマスに向けてのケーキ仕込みも順風満帆で、特別昼の時間を削ってでも行わねばいけない事などなかった。
現状を端的に現すならば『暇』の一言である。
監視役の桃子も今は買い出し中だ。
客入りが激しくなる午後まではノンビリ過ごそうかと考えながら、士郎は視線を窓の外へと向ける。
そこでは箒を持った箒頭が欠伸をしながら、店先を掃除していた。
彼が高町家に来てから既に1ヶ月程が経過している。
付き合った時間はそう長くはないのに、彼は面白いほどに周囲に溶け込んでいた。
身体を傷だらけにしながらも、地獄のような世界を旅してきた男。
『人間台風』の異名で、国家予算並みの懸賞金をその首に懸けられた男。
今の彼からは想像もできない、というのが士郎の正直な感想であった。

「士郎さ〜ん、店先の掃除終わりました〜」

間の抜けた声が響く。
温和な笑顔で入店するヴァッシュが目に入った。
そんなヴァッシュに士郎はハァ、と溜め息を吐く。
思わず呆れ顔で士郎は口を開いていた。

「ヴァッシュ君。君、また何か思い詰めてるだろう?」

虚を突かれたヴァッシュはポカンと口を開けてその言葉を聞いていた。
そんなヴァッシュに構わず、士郎は言葉を続ける。

「君は楽観的に見えて、中々に悩み易いようだね。せっかく良い表情になったと思ったのに、最近また何かに悩んでる。今日は特に、だ」

言葉を区切り溜め息一つ。
首を左右に振って、両手を掲げる。
やれやれ、とその動作が語っていた。

「……今日、何かを決心したんだろう? 僕には何も分からないけどさ、でもアドバイスくらいは出来る。
 ―――自分が後悔しないようにすると良い、それだけさ」

そして、満面の笑みで士郎はヴァッシュに言った。
その言葉はヴァッシュの心に、どのように届いたのだろうか。
ただヴァッシュは茫然と士郎を見ていた。

「応援してるよ。全てが終わったらまた酒でも飲もう、月でも見ながらね」

ヴァッシュの表情が徐々に変化していく。
茫然に段々と感情の色が灯る。
表情を覆う感情は喜びだった。
いつもの満面の笑みとは違った、薄い薄い微笑み。
でもそれは、士郎が今まで見て来たヴァッシュの笑顔の中で最も中身の籠もったものに思えた。

「楽しみにしてるよ」
「僕も……楽しみにしてます。ああ、楽しみだ」

男二人の昼過ぎはこうして経過していく。
魔法少女と守護騎士との約束の時まで、あと数時間であった。

929リリカルTRIGUN ◆jiPkKgmerY:2011/05/22(日) 00:40:42 ID:dwvNoeCc




「……大丈夫、これで上手くいく筈だ」

そして、夕刻の桜台登山道。
毎朝、魔導師の練習場として活用されている場所に、ヴァッシュ・ザ・スタンピードはいた。
ベンチの一つに腰掛け、祈るように手を組みながら前方を睨む。
魔法少女と守護騎士との邂逅の場は整えた。
全てを知り合う邂逅の場。
互いの気持ちを通じ合わせ、誰もが助かる道を歩む。
八神はやても、この平穏な世界も救える、そんな魔法のような道。
それを、歩む。
魔法少女と守護騎士、全員でだ。
その第一歩、最初の邂逅を此処で成す。
ぶつかり合うだろう。苦悩もさせるだろう。明確な対立すら起こるだろう。
その道を歩むという事は苦難の連続なのかもしれない。
でも、それでも、この選択がエゴでしかないとしても―――その道を歩みたい。
それがヴァッシュ・ザ・スタンピードの選択であった。

「や、待ちかねたよ」

来訪者の登場に、逡巡と謝罪の念を胸の奥へと仕舞い込む。
ヴァッシュは朗らかな笑みを浮かべて、前を見た。
来訪者に視線を合わせて、ヴァッシュは軽い挙動で立ち上がる。
白銀の拳銃が陽光に照らされ、光った。

「来ると思ってたよ、ナイブズ」

淡い夕焼けを背に登山道から現れた者は、ナイブズであった。
人類の滅亡を夢見る、ある意味では至極純粋な心を持った男。
ヴァッシュとナイブズ、二人の人外が対峙する。

「此処でシグナム達を懐柔される訳にはいかんからな。少しの間、眠っていて貰うぞ、ヴァッシュ」
「ご自由に。俺も全力で抵抗させて貰うけどね」

返答と共にヴァッシュが拳銃を抜いた。
ナイブズも溜め息混じりに左手を掲げる。

「……考えを改めるつもりはないようだな」
「もちろん」

ナイブズの言葉にヴァッシュは笑みで応える。
ヴァッシュの言葉にナイブズは失意をもって応える。
次元を越えた世界にて対峙する二人の兄弟。
一世紀半にも及ぶ因縁に終わりを告げるべく、ヴァッシュは拳銃を握る。
此処で倒れても構わない。
この男さえ止めれば、彼女達は自らの足で先に行ける筈だ。
少なくとも高町なのははそうだ。
必ず最良の道を歩んでくれる筈だ。
そう信じられるから、ヴァッシュは拳銃を握れる。
ナイブズという底知れぬ強敵とも立ち向かえる。

「いくぞ」
「ああ―――」

自分は、命に換えても、この男を倒す。
何があろうと絶対に。
ヴァッシュは自身の右手に全ての神経を集中させる。
勝利を託すは、何千何万と引き金を引き続けてきた右腕。
数多の危機を救ってくれた早撃ちに全てを賭ける。


そして、ヴァッシュは右腕を動かそうとし、


「―――だが、今日お前の相手をするのは俺じゃあない」


直前、光が発生した。
白色の光の輪っか。
唐突に出現した光の輪が、ヴァッシュの四肢を空間に縫い付ける。
驚愕に染まった顔で見詰めるヴァッシュに、ナイブズは一言だけ告げた。

「眠っていろ、ヴァッシュ」

バインドから逃れようと必死に身体を動かすヴァッシュへと、衝撃が走った。
後方からの一撃であった。
身体の芯から力を抜き取られるような薄気味悪い感覚が、ヴァッシュを襲う。
脱力と共に意識が遠のいていく。
薄れる意識の中でヴァッシュは見た。
身体を貫通したかのように生えたる誰かの右腕と、右腕が握り締める光球。
この光景をヴァッシュは見た事がある。
闇の書の蒐集活動だ。


「目を覚ました時、そこは既に―――」


首を回し後方を覗くと、其処には見知らぬ男が二人いた。
顔に被った仮面が印象的な、瓜二つな二人組の男。
その内の一人が伸ばした手が、リンカーコアを抜き取っていた。


「―――終わりの始まりだ」

ヴァッシュは漆黒に染まる意識の中、ナイブズの言葉を聞いた。
彼の言葉通り、終わりの始まりが、始まった。

930リリカルTRIGUN ◆jiPkKgmerY:2011/05/22(日) 00:42:58 ID:dwvNoeCc
これにて投下終了です。
タイトルは「始まりの終わり」です。
前回はご指摘ありがとうございました。
細かい設定がちょくちょく抜けちゃいますね…気をつけるようにします。



申し訳ありませんが、どなたか代理投下をお願いします。

931R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2011/05/29(日) 14:15:17 ID:.jmCVDEE
お久し振りです
1年振りとなりますが、R-TYPE Λ 第三十三話を投下させて頂きます
それでは、宜しくお願い致します



約15分。
衝突警報の発令、そしてコロニー全体を強烈な衝撃が襲ってから、これまでに経過した時間だ。
警報音が鳴り響き、赤と黄色の回転灯の光に埋め尽くされた、ベストラ内部セクター間連絡通路。
其処を、居住区シェルターより脱したなのはを含む数名の魔導師達は、自身等が発揮し得る最高速度で以って翔けていた。
大型車両での通行を想定して建造されているのであろう通路は、魔導師が飛翔魔法によって高速飛行するに当たり最適な空間である。
構造物が崩落している地点は多々在れど、それらもなのは程の技量を有する空戦魔導師の前には、全く障害たり得なかった。
しかし、物理的障害は存在しないも同然であるとはいえ、彼女達の飛行経路は平穏という表現から程遠い状況である。

『一尉、これは・・・』
『考えるのは後だよ。飛行に集中して』

戸惑う様に発せられた念話に、なのはは鋭く応答した。
彼女の視界には、崩落した構造物の残骸と共に散乱する無数の肉片と、床面から天井面までを赤黒く染め上げる大量の血痕が映り込んでいる。
そして、壁面に穿たれた無数の弾痕、明らかに砲撃魔法によるものと判別できる大規模な破壊痕。
何らかの恐ろしい力学的干渉により無惨にも引き裂かれた、人体であったものの成れの果て。
それら全ての周囲に散乱する、ランツクネヒト装甲服と多種多様な衣服の一部、質量兵器とデバイスの破片。

『しかし、一尉。明らかにこれは、ランツクネヒトと魔導師による交戦の跡です。これまでに確認した痕跡から判断できるだけでも、間違いなく数百人は死んでいる』
『我々が察知し得ぬ内に、ランツクネヒトと被災者の間で大規模な衝突が在った事は間違いない。此処に来るまでランツクネヒトは疎か、魔導師の1人とさえ遭遇しなかった事も異常だ。一体、戦闘要員は何処へ消えたんだ?』

前方から後方へと過ぎる、破損した大量の臓器と骨格が積み重なって形成された、肉塊の小山。
通路上に数多の血流を生み出すそれを明確に視認してしまったなのはは、腹部より込み上げる嘔気を必死に堪える。
周囲の魔力残滓と構造物の損壊状況から推測するに、恐らくは非殺傷設定を解除した近代ベルカ式による攻撃を受けた人間達の成れの果てだろう。
これまでに幾度となく向き合い、時に敵対し、時に教え導き、時に良き戦友であった者達が有する戦闘技術。
敵対すればこの上なく恐ろしく、味方であればこの上なく頼もしい、近代ベルカ式という近接戦闘主体魔法体系。
気高く義に満ちたその技術が、非殺傷設定という制約を解いた、唯それだけの事で目を背けたくなる程に凄惨な殺戮を生み出したというのか。
或いは、あの肉塊は魔導師によって生み出されたものではなく、逆にランツクネヒトが運用する質量兵器群によって殺戮された魔導師達のものなのだろうか。

『きっと、外殻に出ている。衝突警報が出たって事は、要因は外に在るんだもの』
『其処に誰かが居たとして、それは本当に味方なのか? 次元世界の連中ならば未だしも、敵対を選択したランツクネヒトだったら?』

余計な思考を振り払おうとするかの様に発した念話は、更なる疑問によって上塗りされる。
果たして、外殻には誰かが居るのか。
何物かが存在したとして、それはこちらにとって味方か、或いは敵対する者か。

なのはとて最悪の事態、それに遭遇する可能性を考えなかった訳ではない。
外殻に展開する勢力がランツクネヒトであり、彼等がこちらに対し明確に敵対を選択しているとすれば、魔導師達は忽ち質量兵器による弾幕に曝される事となる。
際限が無いと錯覚する程に魔導資質が強化され続けている現状でさえ、ランツクネヒトが有する携行型質量兵器群、そして何よりR戦闘機群は、未だ魔導師にとって絶対的な脅威そのものなのだ。
散弾と榴弾の暴風に呑み込まれる事も、波動砲の砲撃によって跡形も無く消し飛ばされる事も、どちらも御免であった。

しかし現段階では、外殻の様子を知る術が無い。
如何なる理由か、こちらからの指示に対し、システムが全く応答しないのだ。
システムが沈黙した訳でない事は、鳴り響く警告音と明滅する回転灯群の光が証明している。
汚染の可能性も考えはしたが、それを確かめる術すら無かった。
そして如何なる理由か、居住区シェルター内部からの指示ならば、システムは正常に応答するのだ。
この事実が意味するものとは、何か。

932R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2011/05/29(日) 14:16:01 ID:.jmCVDEE
『何で、私達はあそこに居たんやろうな』
『・・・はやてちゃん?』

はやてからの念話。
呟く様に放たれたそれに、なのはは問い掛ける様に彼女の名を呼ぶ。
B-1A2によるコロニー襲撃時、はやては自身の左前腕部と共にザフィーラを失った。
その直前にはシャマルまでもが死亡しており、彼女の精神が危うい処まで追い詰められている事は、誰の目にも明らかだったのだ。
だからこそ、なのはは彼女にシェルターへ残るよう言い聞かせた。
この場に残る被災者達を護って欲しいと頼む事で、負傷者であるはやてを可能な限り前線から遠ざけようとしたのだ。

だが、そんななのはの願いは、当のはやてによって拒絶された。
広域殲滅型魔法の行使に特化した自身が、戦線に加わらないという訳にはいかない。
バイド、又は地球軍を相手取るならば、手数は少しでも多い方が良い。
そう主張し、はやてはなのは達と共にシェルターを発った。
リインと融合し、夜天の書を胴部に固定した上で、残された右腕にシュベルトクロイツを携えたその姿。
そんな鬼気迫るはやての様相に、なのはは圧倒されていた。
幽鬼の様な無感動さで戦場へと赴かんとする彼女は、思わず目を背けたくなる程の鬼気と、今にも崩れ落ちそうな危うさに満ちている。

『ヴィータは、シェルターに居らんかった。キャロも、エリオも、セインも』

続いて放たれる念話。
唯、事実のみを続けるその内容に、なのはは疑問を覚えた。
一体、はやては何を謂わんとしているのか。

『魔導師にせよ兵士にせよ、あのシェルター内に居った戦闘要員の数は100名足らずやった。そして、そのほぼ全員に共通する点が在る』
『共通の・・・?』
『皆、ランツクネヒトとの協調体制に肯定的やった』

瞬間、後方のはやてを見やるなのは。
前方認識はレイジングハートに一任している為、障害物へと激突する心配は無い。
彼女の視界の中央には、シュベルトクロイツを携えて宙を翔けるはやての姿。
虚ろな紺碧の双眸がなのはを、或いはその先に存在するであろう何かを、射抜く様に見詰めていた。
なのはの身体を奔る、冷たい感覚。
はやては、続ける。

『この場に居るのは、ランツクネヒトと・・・延いては、第97管理外世界との敵対を選択する事に、否定的な見解を示していた人間ばかりや』

数瞬ばかり、なのはは思考へと沈んだ。
そうして、はやての言葉が正しいものであると気付く。
確かに、この場に存在する面々は協調体制を重視し、被災者達の間に蔓延していた第97管理外世界に対する強硬論について、否定的な立場を取っていた者達だ。
結論に至るまでの経緯は各々に異なってはいるであろうが、第97管理外世界との戦端を開く事が事態の解決に結び付くものではない、との思想は全員に共通している。
だが、それだけでは理解できない点も在った。

『アンタ等はどうなんだ。少なくとも、第97管理外世界に対する強硬論に反対している様には思えなかったが』

1名の魔導師が、なのはが抱いていた疑念そのものを念話として放つ。
はやての推察が正しいのならば、何故なのはと彼女までもが、あのシェルターに「隔離」されていたのか。
当たっていて欲しくはない推測が、なのはの思考を占めてゆく。
だが、はやては無情にその答えを述べた。

『私達が、第97管理外世界の・・・地球の出身者だからやろ』

知らず、唇を噛み締めるなのは。
聞きたくはない言葉、認めたくはない推測。
だが、はやての言葉は続く。

『このベストラで「誰か」が「何か」をしようと企んだ時、私達はソイツ等の目に邪魔な存在として映ったんや。ランツクネヒトと地球軍を肯定的に見ている人間、地球を故郷とする人間・・・だから、あのシェルターに私達を隔離した』
『邪魔っていうのは、どういう意味での事だ。護る為に手間が掛かるという事か、それとも潜在的な脅威となるって事か』

言うな、聞きたくない。
そんな声ならぬ声が、念話として紡ぎ出される事はない。
なのはの意思の外、交わされる念話が無機質に、淡々と事実を浮き彫りにしてゆく。

『前者なら「誰か」はランツクネヒトね。なら、後者は・・・』
『シェルターに居た連中を除く被災者達か。じゃあ「何か」ってのは何なんだ?』

933R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2011/05/29(日) 14:17:36 ID:.jmCVDEE
前方、新たな肉塊の集合体。
その周囲に大量の薬莢が散乱している事を確認し、なのはは叫び出しそうになる自身を必死に抑える。
自身達が知り得ぬ間に、このベストラで発生した「何か」。
なのはは既に事態についての推測、その内容に対する確信を得ていた。
だからこそ、自身の後方にて交わされる念話を、何としても遮りたかったのだ。

『この死体の山を見れば解るやろ? 結論を出したんや・・・私達の、知り得ないところで』

轟音が、振動となって肌へと響く。
レイジングハートを強く握り締め、通路の先を睨むなのは。
振動は更に大きくなり、防音結界を突破した騒音が微かに鼓膜を震わせる。

『結局、連中は私達と・・・』

その瞬間、なのはの前方約100m。
構造物の全てが崩落し、床面下へと呑み込まれた。
顔面を襲う、強烈な風圧。

『止まって!』

咄嗟の制止。
危うく崩落地点へと突入する、その寸前で一同の前進が止まった。
唐突に眼前へと現出した惨状に、なのはは唖然と周囲を見回す。

「何が起こったの・・・?」
「おい、あまり近付くな」

崩落跡は、惨憺たる有様だった。
連絡通路に沿う形で数十m、更に両側面方向へと100m以上もの範囲が完全に崩壊していたのだ。
デバイスを用いての走査により破壊の規模は判明したものの、粉塵が周囲を覆い尽くしており、視覚的に崩落箇所の全貌を捉える事ができない。
そして数十秒ほどが経過して、漸く破壊痕を詳細に観察する事が可能となった。

「上は・・・何も見えないな。真っ暗だ」
「何処まで続いているの?」

ベストラは居住型に見受けられる様な、円筒形型の構造を有するコロニーではない。
17層もの層状構造物が重なる様にして構築され、更にそれらの間隙を埋める様にして無数の各種構造物が配されている。
外観的には、巨大な箱型構造物という形容が最も相応しいだろう。
第1層上部より第17層下部まで15.8km、最小規模である第4層の面積が291.6平方km、最大規模である第12層の面積が543.4平方km。
表層部の至る箇所に無尽蔵とも思える数の防衛兵装を配し、各種センサーを始めとする機能構造体が無数に突出した、一見するとデブリの集合体にも見える軍事コロニー。
なのは達の現在位置は、第4層のほぼ中央だ。
第1層上部から現在位置までは、3km前後もの距離が在る筈である。

「外殻から此処まで貫通してる・・・なんて事は、ないよね・・・?」
「だとしたら、その原因なんて考えたくもありませんね」
「おい、あれ!」

何かを見付けたのか、1名の魔導師が声を上げた。
見れば、彼は足下に拡がる空間、崩落した構造物が積み重なる其処を覗き込んでいる。
なのはは彼が指し示す先、其処彼処から白い煙が立ち上り続ける地点の中心へと視線を移した。
そして、それを視界へと捉える。

「・・・戦闘機?」
「R戦闘機か」
「いや、違う・・・見た事も無いタイプだ。バイドの新型かも」
「待て、待ってくれ・・・目標、魔力を発しているぞ。何だ、これは?」

崩落跡の最下部に横たわる、白に近い灰色の装甲。
損壊した表層の其処彼処から内部機構を露にし、大量の火花を散らす金属塊。
無惨に折れ飛んだ三角翼が、数十mほど離れた地点で業火を噴き上げている。
形状からして、明らかに戦闘機類に属する機動兵器であると判るも、しかし何処か確信する事を妨げる半有機的な外観。
そして何より異常な点、その戦闘機から膨大な量の魔力が検出されているという事実。

「例の、クラナガンの機体と同類か?」
「何とも言えませんが・・・何だ? 振動して・・・」

更に、異常な点。
灰色の機体が、微かに霞んで見える。
見間違いかとも思われたが、そうでない事はすぐに解った。
落下した構造物の破片が機体に触れるや否や粉砕され、一瞬にして細かな粒子となって消失したのだ。
機体表層部、超高周波振動。
良く見れば、機体下部の構造物も徐々に粉砕が進んでいるのか、機体は少しずつ瓦礫の中へと埋没してゆくではないか。
その光景を目にしたなのはの脳裏に、在り得る筈のない可能性が浮かぶ。

934R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2011/05/29(日) 14:18:12 ID:.jmCVDEE
「・・・振動破砕?」
「あれを知っているのか?」

先天的固有技能「振動破砕」。
即ち、なのはにとって嘗ての教え子であるスバル、彼女が有するISである。
四肢末端部から接触対象へと振動波を送り込み、対象内部にて発生する共鳴現象によって目標を破壊するという、実質的に防御不可能とも云える格闘戦特化型ISだ。
それによって為される破壊の様相と、眼下の不明機によって構造物が粉砕される様相。
双方が、余りにも似通っていた。
片や戦闘機人とはいえ魔導師、片や所属不明の戦闘機。
共通点など在ろう筈もないというのに、何故こんな事が思い浮かぶのだろうか。

「ランツクネヒトと地球軍の連中が、スバル達の解析結果を流用して作り上げた機体、とは考えられんかな」
「まさか。こんな短期間の内に?」
「在り得ない事とは思わんけどな。連中の事なら、何をやっても不思議とは思わへんよ。寧ろ・・・」
「足下、退がれ!」

突然の警告。
反射的に後方へ飛ぶと同時、数瞬前まで立っていた床面が、呑み込まれる様にして階下へと消えてゆく。
なのはは驚愕に目を見開きつつ、20mほど後方の地点へと降り立った。
そして、新たな崩落地点を見据える。

奇妙な感覚だった。
崩落の前兆となる振動どころか、崩落の瞬間でさえも衝撃を感じなかったのだ。
宛ら流砂の如き静かさで、床面は下方へと呑み込まれていった。
通常の破壊ならば、断じてあの様には崩れまい。
一体、何が起こったのか。
その疑問に答えたのは、警告を発した者とは別の魔導師だった。

「あの崩落際・・・何なんだ?」

その言葉に、なのはは気付く。
崩落地点周囲の破壊された構造物、その断面が飴細工の様に溶け落ちているのだ。
状況からして高熱による融解かと思われたが、しかしこれといって熱は感じられない。
ならば何故、構造物が溶解しているのか。
其処彼処から白煙の立ち上る崩落跡を見つめつつ、一同は焦燥を含んだ言葉を交わし始める。

「どういう事だ、未知の攻撃か? これも、あの不明機がやったのか」
「あの煙は炎じゃありませんね。もしかすると、酸かも」
「酸か。酸で溶ける様な材質なのか、此処の構造物は?」
「知りませんよ。波動粒子か何かが関係しているのでは?」

なのはは周囲で交わされる言葉を意識の片隅へと捉えつつ、白煙を上げ続ける崩落跡を見据えていた。
何をどうすれば、この様に奇怪な様相の破壊を齎す事ができるというのか。
粉砕とも、消滅とも異なる、溶解という余りにも異常な破壊。
魔導師がこの様な破壊を起こすとは考え難く、よって地球軍かランツクネヒト、或いはバイドが関わる攻撃の結果であろう。
そんな事を思考しつつ、彼女は視線を天井面へと投じる。

其処で漸くなのはは、天井面へと拡がりつつある染みの存在に気付いた。
5mほど前方、不気味に泡立ち始める構造物。
新たな崩落か、と身構える彼女の眼前、天井面が4m程の範囲に亘って溶け落ちる。
そして、その異形は姿を現した。

「え・・・」

衝撃。
穿たれた穴から零れる様に落下したそれは、前方の床面へと叩き付けられた。
溶解した構造物の成れの果てに塗れ、生々しい音と共に構造物から跳ね返る異形。
床面で弾んだ後に静止した落下物を視界へと捉えたなのはは、その余りにおぞましく醜悪な全貌に言葉を失う。

それは、巨大な胎児にも似た存在だった。
母親の胎内、人間としての姿を形作る途上のそれ。
しかし、そうでない事はすぐに解った。
先ず、その異形には四肢が存在しない。
両腕部が存在する筈である箇所からは、抉れた表層部の下より電子機器の集合体らしき金属部位が覗いているのみ。
両脚部も同じく存在せず、下部からは蛇腹状の尾らしき器官が延びていた。
胎児ですらない、発生初期の胚としか形容できぬ異形。
だが、その存在は更に、胚としても在り得ぬ奇形を有していた。

前後へと不自然に伸長した2mは在ろうかという頭部、その至る箇所へと埋め込まれた金属機器。
胚には在る筈のない口腔、無数に並んだ鋭く歪で不揃いな歯。
前側頭部に穿たれた巨大な眼窩、本来は其処に存在していたであろう眼球が消失し、今は黒々とした闇だけが満ちている。
そして何より、眼窩より40cmほど離れた位置に穿たれた貫通痕、20cm程も在るそれが実に6箇所。
止め処なく噴き出し続ける赤黒い血液、脳漿らしき液体に圧され流れ出る肉片。
異形は、既に絶命していた。

935R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2011/05/29(日) 14:20:51 ID:.jmCVDEE
済みません、行数を計算しておりませんでした
次のレスより、改めて投下を開始します
ご迷惑をお掛けしてしまい、申し訳ありません

936R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2011/05/29(日) 14:22:33 ID:.jmCVDEE
お久し振りです
1年振りとなりますが、R-TYPE Λ 第三十三話を投下させて頂きます
それでは、宜しくお願い致します



約15分。
衝突警報の発令、そしてコロニー全体を強烈な衝撃が襲ってから、これまでに経過した時間だ。
警報音が鳴り響き、赤と黄色の回転灯の光に埋め尽くされた、ベストラ内部セクター間連絡通路。
其処を、居住区シェルターより脱したなのはを含む数名の魔導師達は、自身等が発揮し得る最高速度で以って翔けていた。
大型車両での通行を想定して建造されているのであろう通路は、魔導師が飛翔魔法によって高速飛行するに当たり最適な空間である。
構造物が崩落している地点は多々在れど、それらもなのは程の技量を有する空戦魔導師の前には、全く障害たり得なかった。
しかし、物理的障害は存在しないも同然であるとはいえ、彼女達の飛行経路は平穏という表現から程遠い状況である。

『一尉、これは・・・』
『考えるのは後だよ。飛行に集中して』

戸惑う様に発せられた念話に、なのはは鋭く応答した。
彼女の視界には、崩落した構造物の残骸と共に散乱する無数の肉片と、床面から天井面までを赤黒く染め上げる大量の血痕が映り込んでいる。
そして、壁面に穿たれた無数の弾痕、明らかに砲撃魔法によるものと判別できる大規模な破壊痕。
何らかの恐ろしい力学的干渉により無惨にも引き裂かれた、人体であったものの成れの果て。
それら全ての周囲に散乱する、ランツクネヒト装甲服と多種多様な衣服の一部、質量兵器とデバイスの破片。

『しかし、一尉。明らかにこれは、ランツクネヒトと魔導師による交戦の跡です。これまでに確認した痕跡から判断できるだけでも、間違いなく数百人は死んでいる』
『我々が察知し得ぬ内に、ランツクネヒトと被災者の間で大規模な衝突が在った事は間違いない。此処に来るまでランツクネヒトは疎か、魔導師の1人とさえ遭遇しなかった事も異常だ。一体、戦闘要員は何処へ消えたんだ?』

前方から後方へと過ぎる、破損した大量の臓器と骨格が積み重なって形成された、肉塊の小山。
通路上に数多の血流を生み出すそれを明確に視認してしまったなのはは、腹部より込み上げる嘔気を必死に堪える。
周囲の魔力残滓と構造物の損壊状況から推測するに、恐らくは非殺傷設定を解除した近代ベルカ式による攻撃を受けた人間達の成れの果てだろう。
これまでに幾度となく向き合い、時に敵対し、時に教え導き、時に良き戦友であった者達が有する戦闘技術。
敵対すればこの上なく恐ろしく、味方であればこの上なく頼もしい、近代ベルカ式という近接戦闘主体魔法体系。
気高く義に満ちたその技術が、非殺傷設定という制約を解いた、唯それだけの事で目を背けたくなる程に凄惨な殺戮を生み出したというのか。
或いは、あの肉塊は魔導師によって生み出されたものではなく、逆にランツクネヒトが運用する質量兵器群によって殺戮された魔導師達のものなのだろうか。

『きっと、外殻に出ている。衝突警報が出たって事は、要因は外に在るんだもの』
『其処に誰かが居たとして、それは本当に味方なのか? 次元世界の連中ならば未だしも、敵対を選択したランツクネヒトだったら?』

余計な思考を振り払おうとするかの様に発した念話は、更なる疑問によって上塗りされる。
果たして、外殻には誰かが居るのか。
何物かが存在したとして、それはこちらにとって味方か、或いは敵対する者か。

なのはとて最悪の事態、それに遭遇する可能性を考えなかった訳ではない。
外殻に展開する勢力がランツクネヒトであり、彼等がこちらに対し明確に敵対を選択しているとすれば、魔導師達は忽ち質量兵器による弾幕に曝される事となる。
際限が無いと錯覚する程に魔導資質が強化され続けている現状でさえ、ランツクネヒトが有する携行型質量兵器群、そして何よりR戦闘機群は、未だ魔導師にとって絶対的な脅威そのものなのだ。
散弾と榴弾の暴風に呑み込まれる事も、波動砲の砲撃によって跡形も無く消し飛ばされる事も、どちらも御免であった。

しかし現段階では、外殻の様子を知る術が無い。
如何なる理由か、こちらからの指示に対し、システムが全く応答しないのだ。
システムが沈黙した訳でない事は、鳴り響く警告音と明滅する回転灯群の光が証明している。
汚染の可能性も考えはしたが、それを確かめる術すら無かった。
そして如何なる理由か、居住区シェルター内部からの指示ならば、システムは正常に応答するのだ。
この事実が意味するものとは、何か。

937R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2011/05/29(日) 14:23:49 ID:.jmCVDEE
『何で、私達はあそこに居たんやろうな』
『・・・はやてちゃん?』

はやてからの念話。
呟く様に放たれたそれに、なのはは問い掛ける様に彼女の名を呼ぶ。
B-1A2によるコロニー襲撃時、はやては自身の左前腕部と共にザフィーラを失った。
その直前にはシャマルまでもが死亡しており、彼女の精神が危うい処まで追い詰められている事は、誰の目にも明らかだったのだ。
だからこそ、なのはは彼女にシェルターへ残るよう言い聞かせた。
この場に残る被災者達を護って欲しいと頼む事で、負傷者であるはやてを可能な限り前線から遠ざけようとしたのだ。

だが、そんななのはの願いは、当のはやてによって拒絶された。
広域殲滅型魔法の行使に特化した自身が、戦線に加わらないという訳にはいかない。
バイド、又は地球軍を相手取るならば、手数は少しでも多い方が良い。
そう主張し、はやてはなのは達と共にシェルターを発った。
リインと融合し、夜天の書を胴部に固定した上で、残された右腕にシュベルトクロイツを携えたその姿。
そんな鬼気迫るはやての様相に、なのはは圧倒されていた。
幽鬼の様な無感動さで戦場へと赴かんとする彼女は、思わず目を背けたくなる程の鬼気と、今にも崩れ落ちそうな危うさに満ちている。

『ヴィータは、シェルターに居らんかった。キャロも、エリオも、セインも』

続いて放たれる念話。
唯、事実のみを続けるその内容に、なのはは疑問を覚えた。
一体、はやては何を謂わんとしているのか。

『魔導師にせよ兵士にせよ、あのシェルター内に居った戦闘要員の数は100名足らずやった。そして、そのほぼ全員に共通する点が在る』
『共通の・・・?』
『皆、ランツクネヒトとの協調体制に肯定的やった』

瞬間、後方のはやてを見やるなのは。
前方認識はレイジングハートに一任している為、障害物へと激突する心配は無い。
彼女の視界の中央には、シュベルトクロイツを携えて宙を翔けるはやての姿。
虚ろな紺碧の双眸がなのはを、或いはその先に存在するであろう何かを、射抜く様に見詰めていた。
なのはの身体を奔る、冷たい感覚。
はやては、続ける。

『この場に居るのは、ランツクネヒトと・・・延いては、第97管理外世界との敵対を選択する事に、否定的な見解を示していた人間ばかりや』

数瞬ばかり、なのはは思考へと沈んだ。
そうして、はやての言葉が正しいものであると気付く。
確かに、この場に存在する面々は協調体制を重視し、被災者達の間に蔓延していた第97管理外世界に対する強硬論について、否定的な立場を取っていた者達だ。
結論に至るまでの経緯は各々に異なってはいるであろうが、第97管理外世界との戦端を開く事が事態の解決に結び付くものではない、との思想は全員に共通している。
だが、それだけでは理解できない点も在った。

『アンタ等はどうなんだ。少なくとも、第97管理外世界に対する強硬論に反対している様には思えなかったが』

1名の魔導師が、なのはが抱いていた疑念そのものを念話として放つ。
はやての推察が正しいのならば、何故なのはと彼女までもが、あのシェルターに「隔離」されていたのか。
当たっていて欲しくはない推測が、なのはの思考を占めてゆく。
だが、はやては無情にその答えを述べた。

『私達が、第97管理外世界の・・・地球の出身者だからやろ』

知らず、唇を噛み締めるなのは。
聞きたくはない言葉、認めたくはない推測。
だが、はやての言葉は続く。

『このベストラで「誰か」が「何か」をしようと企んだ時、私達はソイツ等の目に邪魔な存在として映ったんや。ランツクネヒトと地球軍を肯定的に見ている人間、地球を故郷とする人間・・・だから、あのシェルターに私達を隔離した』
『邪魔っていうのは、どういう意味での事だ。護る為に手間が掛かるという事か、それとも潜在的な脅威となるって事か』

938R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2011/05/29(日) 14:24:50 ID:.jmCVDEE
言うな、聞きたくない。
そんな声ならぬ声が、念話として紡ぎ出される事はない。
なのはの意思の外、交わされる念話が無機質に、淡々と事実を浮き彫りにしてゆく。

『前者なら「誰か」はランツクネヒトね。なら、後者は・・・』
『シェルターに居た連中を除く被災者達か。じゃあ「何か」ってのは何なんだ?』

前方、新たな肉塊の集合体。
その周囲に大量の薬莢が散乱している事を確認し、なのはは叫び出しそうになる自身を必死に抑える。
自身達が知り得ぬ間に、このベストラで発生した「何か」。
なのはは既に事態についての推測、その内容に対する確信を得ていた。
だからこそ、自身の後方にて交わされる念話を、何としても遮りたかったのだ。

『この死体の山を見れば解るやろ? 結論を出したんや・・・私達の、知り得ないところで』

轟音が、振動となって肌へと響く。
レイジングハートを強く握り締め、通路の先を睨むなのは。
振動は更に大きくなり、防音結界を突破した騒音が微かに鼓膜を震わせる。

『結局、連中は私達と・・・』

その瞬間、なのはの前方約100m。
構造物の全てが崩落し、床面下へと呑み込まれた。
顔面を襲う、強烈な風圧。

『止まって!』

咄嗟の制止。
危うく崩落地点へと突入する、その寸前で一同の前進が止まった。
唐突に眼前へと現出した惨状に、なのはは唖然と周囲を見回す。

「何が起こったの・・・?」
「おい、あまり近付くな」

崩落跡は、惨憺たる有様だった。
連絡通路に沿う形で数十m、更に両側面方向へと100m以上もの範囲が完全に崩壊していたのだ。
デバイスを用いての走査により破壊の規模は判明したものの、粉塵が周囲を覆い尽くしており、視覚的に崩落箇所の全貌を捉える事ができない。
そして数十秒ほどが経過して、漸く破壊痕を詳細に観察する事が可能となった。

「上は・・・何も見えないな。真っ暗だ」
「何処まで続いているの?」

ベストラは居住型に見受けられる様な、円筒形型の構造を有するコロニーではない。
17層もの層状構造物が重なる様にして構築され、更にそれらの間隙を埋める様にして無数の各種構造物が配されている。
外観的には、巨大な箱型構造物という形容が最も相応しいだろう。
第1層上部より第17層下部まで15.8km、最小規模である第4層の面積が291.6平方km、最大規模である第12層の面積が543.4平方km。
表層部の至る箇所に無尽蔵とも思える数の防衛兵装を配し、各種センサーを始めとする機能構造体が無数に突出した、一見するとデブリの集合体にも見える軍事コロニー。
なのは達の現在位置は、第4層のほぼ中央だ。
第1層上部から現在位置までは、3km前後もの距離が在る筈である。

「外殻から此処まで貫通してる・・・なんて事は、ないよね・・・?」
「だとしたら、その原因なんて考えたくもありませんね」
「おい、あれ!」

何かを見付けたのか、1名の魔導師が声を上げた。
見れば、彼は足下に拡がる空間、崩落した構造物が積み重なる其処を覗き込んでいる。
なのはは彼が指し示す先、其処彼処から白い煙が立ち上り続ける地点の中心へと視線を移した。
そして、それを視界へと捉える。

939R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2011/05/29(日) 14:26:04 ID:.jmCVDEE
「・・・戦闘機?」
「R戦闘機か」
「いや、違う・・・見た事も無いタイプだ。バイドの新型かも」
「待て、待ってくれ・・・目標、魔力を発しているぞ。何だ、これは?」

崩落跡の最下部に横たわる、白に近い灰色の装甲。
損壊した表層の其処彼処から内部機構を露にし、大量の火花を散らす金属塊。
無惨に折れ飛んだ三角翼が、数十mほど離れた地点で業火を噴き上げている。
形状からして、明らかに戦闘機類に属する機動兵器であると判るも、しかし何処か確信する事を妨げる半有機的な外観。
そして何より異常な点、その戦闘機から膨大な量の魔力が検出されているという事実。

「例の、クラナガンの機体と同類か?」
「何とも言えませんが・・・何だ? 振動して・・・」

更に、異常な点。
灰色の機体が、微かに霞んで見える。
見間違いかとも思われたが、そうでない事はすぐに解った。
落下した構造物の破片が機体に触れるや否や粉砕され、一瞬にして細かな粒子となって消失したのだ。
機体表層部、超高周波振動。
良く見れば、機体下部の構造物も徐々に粉砕が進んでいるのか、機体は少しずつ瓦礫の中へと埋没してゆくではないか。
その光景を目にしたなのはの脳裏に、在り得る筈のない可能性が浮かぶ。

「・・・振動破砕?」
「あれを知っているのか?」

先天的固有技能「振動破砕」。
即ち、なのはにとって嘗ての教え子であるスバル、彼女が有するISである。
四肢末端部から接触対象へと振動波を送り込み、対象内部にて発生する共鳴現象によって目標を破壊するという、実質的に防御不可能とも云える格闘戦特化型ISだ。
それによって為される破壊の様相と、眼下の不明機によって構造物が粉砕される様相。
双方が、余りにも似通っていた。
片や戦闘機人とはいえ魔導師、片や所属不明の戦闘機。
共通点など在ろう筈もないというのに、何故こんな事が思い浮かぶのだろうか。

「ランツクネヒトと地球軍の連中が、スバル達の解析結果を流用して作り上げた機体、とは考えられんかな」
「まさか。こんな短期間の内に?」
「在り得ない事とは思わんけどな。連中の事なら、何をやっても不思議とは思わへんよ。寧ろ・・・」
「足下、退がれ!」

突然の警告。
反射的に後方へ飛ぶと同時、数瞬前まで立っていた床面が、呑み込まれる様にして階下へと消えてゆく。
なのはは驚愕に目を見開きつつ、20mほど後方の地点へと降り立った。
そして、新たな崩落地点を見据える。

奇妙な感覚だった。
崩落の前兆となる振動どころか、崩落の瞬間でさえも衝撃を感じなかったのだ。
宛ら流砂の如き静かさで、床面は下方へと呑み込まれていった。
通常の破壊ならば、断じてあの様には崩れまい。
一体、何が起こったのか。
その疑問に答えたのは、警告を発した者とは別の魔導師だった。

「あの崩落際・・・何なんだ?」

その言葉に、なのはは気付く。
崩落地点周囲の破壊された構造物、その断面が飴細工の様に溶け落ちているのだ。
状況からして高熱による融解かと思われたが、しかしこれといって熱は感じられない。
ならば何故、構造物が溶解しているのか。
其処彼処から白煙の立ち上る崩落跡を見つめつつ、一同は焦燥を含んだ言葉を交わし始める。

940R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2011/05/29(日) 14:26:53 ID:.jmCVDEE
「どういう事だ、未知の攻撃か? これも、あの不明機がやったのか」
「あの煙は炎じゃありませんね。もしかすると、酸かも」
「酸か。酸で溶ける様な材質なのか、此処の構造物は?」
「知りませんよ。波動粒子か何かが関係しているのでは?」

なのはは周囲で交わされる言葉を意識の片隅へと捉えつつ、白煙を上げ続ける崩落跡を見据えていた。
何をどうすれば、この様に奇怪な様相の破壊を齎す事ができるというのか。
粉砕とも、消滅とも異なる、溶解という余りにも異常な破壊。
魔導師がこの様な破壊を起こすとは考え難く、よって地球軍かランツクネヒト、或いはバイドが関わる攻撃の結果であろう。
そんな事を思考しつつ、彼女は視線を天井面へと投じる。

其処で漸くなのはは、天井面へと拡がりつつある染みの存在に気付いた。
5mほど前方、不気味に泡立ち始める構造物。
新たな崩落か、と身構える彼女の眼前、天井面が4m程の範囲に亘って溶け落ちる。
そして、その異形は姿を現した。

「え・・・」

衝撃。
穿たれた穴から零れる様に落下したそれは、前方の床面へと叩き付けられた。
溶解した構造物の成れの果てに塗れ、生々しい音と共に構造物から跳ね返る異形。
床面で弾んだ後に静止した落下物を視界へと捉えたなのはは、その余りにおぞましく醜悪な全貌に言葉を失う。

それは、巨大な胎児にも似た存在だった。
母親の胎内、人間としての姿を形作る途上のそれ。
しかし、そうでない事はすぐに解った。
先ず、その異形には四肢が存在しない。
両腕部が存在する筈である箇所からは、抉れた表層部の下より電子機器の集合体らしき金属部位が覗いているのみ。
両脚部も同じく存在せず、下部からは蛇腹状の尾らしき器官が延びていた。
胎児ですらない、発生初期の胚としか形容できぬ異形。
だが、その存在は更に、胚としても在り得ぬ奇形を有していた。

前後へと不自然に伸長した2mは在ろうかという頭部、その至る箇所へと埋め込まれた金属機器。
胚には在る筈のない口腔、無数に並んだ鋭く歪で不揃いな歯。
前側頭部に穿たれた巨大な眼窩、本来は其処に存在していたであろう眼球が消失し、今は黒々とした闇だけが満ちている。
そして何より、眼窩より40cmほど離れた位置に穿たれた貫通痕、20cm程も在るそれが実に6箇所。
止め処なく噴き出し続ける赤黒い血液、脳漿らしき液体に圧され流れ出る肉片。
異形は、既に絶命していた。

異形の死骸、その余りに凄惨な様相。
なのはは、無意識の内に後退っていた。
彼女が怯んだ要因は、何も視覚的なものばかりではない。
死骸より漂う鼻を突く刺激臭、酢酸臭と死臭を混ぜ合わせたかの様なそれ。
眼窩の奥に泡立つ漆黒の液体、強酸に蝕まれた傷口の様な口腔。
それら全てが生理的嫌悪感を煽り、物理的とすら思える不可視の圧力となってなのはを遠ざける。
しかし直後、それらの嫌悪感はより現実的な脅威となり、なのは達へと襲い掛かった。

「う・・・!?」

知らず、声が漏れる。
死骸が、痙攣を始めていた。
否、痙攣などという生易しいものではない。
宛ら何かに突き動かされているかの様に、四肢の無い胴部を中心として繰り返し床面から跳ねているのだ。
反射的にレイジングハートを構えるなのはの背後で、他の面々が同じく各々のデバイスを構えた事が分かった。
総員が警戒する中、異変は更に進行する。

941R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2011/05/29(日) 14:27:41 ID:.jmCVDEE
「ぐ、うっ!?」
「今度は何だ・・・?」

死骸の胸部から、大量の血液が噴き出したのだ。
分厚い肉質を内側から「何か」が突き上げ、腐肉の塊にも似た表層部が裂け始めていた。
死骸の胸部が不自然に膨らむ度に、何かが千切れる異音が周囲へと響く。
そんな事が数度に亘って続いた後、卵が割れる様な音、そして噴き上がる大量の血飛沫と共に、死骸の胸部を喰い破ったそれが遂に姿を現した。
鮮血と肉片を纏い、死骸の内より現れた、それは。

「ッ・・・! 退がってッ!」



死骸のそれをも凌駕する異形、もうひとつの「頭部」だった。



「ひ・・・!」
「あの化け物、寄生されていたのか!?」
「警戒を・・・ッが!?」

直後、死骸より現れた頭部が、鼓膜を破らんばかりの絶叫を上げる。
それは猛獣の咆哮にも似て、しかし同時に女性の金切り声にも似たものだった。
断末魔の悲鳴、或いは赤子の産声とも取れるそれは、頭蓋の内を反響しているかの様になのはの意識を蝕んでゆく。
防音結界など、何ら用を果たしていない。
一瞬でも気を緩めれば即座に意識を奪い兼ねない絶叫が、崩落跡を中心とする一帯を完全に支配していた。
掌で耳部を押さえ、必死に耐えるなのは。
そんな彼女の視界に、こちらへと向けられた異形の頭部が映り込む。
瞬間、全身の血が凍ったかの様な錯覚。

胸部より現れた寄生体の口腔、並んだ歪な歯牙の間から、赤黒い泡が溢れ出している。
吐血しているのか、との思考は一瞬にして掻き消えた。
血泡の量が数瞬の内に膨れ上がり、死骸の周囲を埋め尽くしたのだ。
漆黒の泡は、成長する細胞群の如く爆発的に増殖、瞬く間に周囲の構造物を侵蝕し始める。
異様な刺激臭を放ちつつ、恐るべき速度にて溶解してゆく構造物。
その光景になのはは、崩落の原因は眼前の異形であると悟る。
異形の口腔より溢れ返る血泡は、恐らくは未知の極強酸性液体なのだ。

無数の血泡が弾ける音と共に、異形の口腔を中心として赤黒い塊が膨れ上がる。
前進の血が凍ったかの様な悪寒を覚え、なのはは2歩、3歩と後退さった。
レイジングハートの矛先は、血泡を吐き出し続ける口腔へと向けられている。
彼女には、予感が在った。
異形が何らかの攻撃行動を起こすという、確信めいた予感が在ったのだ。
そして、その予感は直後に的中する。

『起きた・・・化け物が起き上ったぞ!』

死骸が、その体躯を起こしていた。
頭部に穿たれた貫通痕から夥しい量の血液と脳漿を溢しつつ、尾のみを床面へと接した状態で佇んでいる。
否、それは立っているのではない。
何らかの方法、恐らくは重力制御によって、3mは在ろうかという巨躯を浮かばせているのだ。
だが、その現象は明らかに、死骸の意思によって制御されているものではない。
死骸の胸部に宿る、異形の寄生体によって操られているのだと、なのはは確信していた。

寄生体の口腔より溢れ返る血泡が、更にその量を増す。
赤黒い奔流は、今や通路の床面を覆い尽くさんばかりに拡がっていた。
そして数瞬後、血泡に覆われた範囲の床面が、音も無く溶解し崩落する。
反射的に身を強張らせるなのはの眼前で、微かな音と振動のみを残し、床面が跡形も無く消失したのだ。
その下の構造物を含めた何もかも、破片さえも残さずに全てが溶け落ちてしまった。
異様な光景を前に、湧き起こる怖気を抑え込もうと腐心するなのはだったが、新たに視界へと飛び込んできた異変が彼女の意思を挫く。

942R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2011/05/29(日) 14:28:33 ID:.jmCVDEE
血泡が、球状に膨脹していた。
口腔より零れ落ちる事なく、その前面に止まり膨れ上がる、赤黒い球体。
注視すると、その球体は赤黒いだけでなく、黄金色にも似た色彩の水泡をも含んでいる。
それが、宛ら魔力集束時に形成される魔力球の様に、異形の口腔前の空間に浮かびつつ膨張しているのだ。
異形が、何をしようとしているのか。
この場に存在する誰もが、恐らくはなのはと同様の結論に至った事だろう。

『逃げて!』



砲撃だ。



『壁を!』

なのはを含めた数人の叫びと念話が、総員の間を翔け抜ける。
咄嗟に放ったショートバスターと、同じく他の面々が放った砲撃が壁面を破壊。
一同が飛翔魔法を発動させ、壁面に穿たれた穴へと飛び込むとほぼ同時、背後の通路を赤黒い奔流が埋め尽くす。

轟音、衝撃、異形の絶叫。
恐怖に抗うかの様に歯を食い縛りつつ、なのははベストラが幾度目かの悪夢に襲われている事を理解する。
飛び込んだ隣接する連絡通路、その薄闇の中に外殻へと続く扉の存在を願うも、視界へと映り込むは延々と続く通路壁面のみ。
背後、何かが蠢く異音。

『追ってきた・・・!』
『構えて! 此処で迎撃するよ!』

崩壊した壁面跡へと振り向き、レイジングハートの矛先を突き付ける。
壁面に穿たれた穴の奥から近付く、排水口が詰まった際にも似た耳障りな異音。
なのはは掌に滲む汗ごと、レイジングハートの柄を固く握り締める。
闇からの脱出口は、未だ見出せなかった。

*  *  *

4体目の異形、その胸部にストラーダを突き立てた時、エリオはそれを目の当たりにした。
矛先に貫かれた寄生体の頭上、異形の頸部から胸部に掛けて、虫食い痕の様な無数の穴が開いている。
これまでに得た情報から推測するに、恐らくは極強酸性の体液を噴霧する為の器官であろう。
エリオはストラーダを引き抜く為の動作を中断し、即座にサンダーレイジを発動。
瞬間、ストラーダの矛先を中心として、雷の暴風が吹き荒れる。
否、それはもはや暴風などという生易しいものではなく、雷光の爆発と呼称するに相応しいものだった。
時間にすれば、僅か3秒足らず。
巨大な紫電の球体が掻き消えた後、其処にはエリオとストラーダを除き、何物も存在してはいなかった。

『Watch your back』

ストラーダからの警告。
エリオは咄嗟に、矛先を頭上へと向けて魔力噴射を実行する。
ブースターノズルより噴き出す圧縮魔力の奔流、視界の一部を埋め尽くす金色の閃光。
急激な加速により、弾かれた様に頭上方向へと移動するエリオ。
その足下の空間を、背後より飛来した2条の赤い奔流が貫いた。
泡状極強酸性液体による砲撃。

サイドブースター推力偏向、作動。
瞬時に後方へと振り向くエリオ、その視界に映り込む2体の異形。
四肢の無いそれらが、もがく様にして宙空を漂っている。
そして発せられる、聴く者の鼓膜を破壊せんばかりの絶叫。
金切り声と呼称するに相応しいそれを聴くエリオは、何をするでもなく無表情のまま。
彼の視界は既に、異形の背後より振り下ろされる巨大なハンマーヘッドを捉えていた。

943R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2011/05/29(日) 14:29:32 ID:.jmCVDEE
直後、異形の1体が風船の如く弾け飛ぶ。
加速された大質量の鉄塊は、対象を吹き飛ばすだけに止まらず、その存在を微塵に打ち砕いたのだ。
大量の血飛沫と肉片とが、無重力の宙空内へと花火の如く拡がってゆく。
残る1体が背後の敵の存在に気付いたか、相も変わらず緩慢な動きで前後を入れ替えんとしていた。
だがそれよりも、ハンマーヘッドが横薙ぎに振るわれる動作の方が、圧倒的に早い。
1体目の異形に続き、2体目もまた鮮血の爆発となって消失する。

遠心力によってハンマーヘッドから振り払われる、大量の血液。
伸長した柄の先、それを振るっているであろう人物までを視界に捉える事なく、エリオは頭上へと視線を移す。
彼の視界に映るは、ベストラ第5層側面、外殻構造物。
表層には数十機の機動兵器が展開し、絶え間なく誘導型質量兵器と長距離砲撃とを放ち続けていた。
それらの攻撃はエリオ達から幾らか離れた空間を突き抜け、彼の足下に拡がる広大な闇の中へと消えてゆく。
その数瞬後、彼方にて無数の閃光が炸裂するのだ。
機動兵器群による長距離迎撃は、順調に機能している。
そして、エリオを始めとする魔導師達の任務は、迎撃を掻い潜って接近してきたバイド体の撃破だ。

『E-11より応援要請。複数のバイド体が外殻に取り付いている』

念話を受けた直後、エリオは金色の閃光と化した。
ブースターノズルより圧縮魔力を噴射、一瞬にして最大推力へ。
推進機関に火の入ったミサイルの如く、緩やかな曲線軌道を描きつつ加速する。
2秒と掛からずに音速を突破したエリオが向かうは、応援要請を発した外殻E-11。

ベストラは完全独立型自己推進機能を有する、超大型の宙間軍事施設である。
通常艦艇とは比べるべくもない鈍足ではあるものの、搭載された102基もの大規模ザイオング慣性制御システムにより、あらゆる空間中に於いて柔軟な機動を実行する事が可能だ。
施設内外に対して偏向重力場を発生させる機能をも有しており、施設中心から80km以内の空間に於ける重力作用は完全制御下となる。
更に、外殻には各種長距離迎撃兵器が無数に設置されており、それらの弾薬についても核弾頭を始めとする各種弾頭が供給されていた。
そして、施設は通常航行時に前方となる側面を北として、東西南北に区画が設定されている。
応援要請を発した部隊の位置は、第11層の西部区画だ。

目標地点到達までの所要時間、約60秒。
サイドブースターの間欠作動により進路を微調節するエリオの視界に、自身の後方より現れた複数の白い影が映り込む。
それらの影は一瞬にしてエリオを追い抜き、輝く青い粒子の尾を引いて彼方へと消えた。
一拍ほど遅れてエリオの全身を襲う、衝撃と轟音。
体勢を崩すという事はなかったが、当初の進路より僅かに軌道が逸れていた。
すぐさま進路を修正し、彼方へと消えた影に思考を巡らせる。

影の正体は、所属不明の機動兵器だ。
殆ど白に近い灰色の装甲に覆われた2機種の戦闘機、ランツクネヒトとの交戦中に突如として出現したそれら。
流石に警戒を解く事こそないものの、エリオ達がそれらを敵ではないと判断するに至るまで、然程に時間は掛からなかった。
戦闘機群は先ず地球軍とランツクネヒトが有するR戦闘機群へと襲い掛かり、圧倒的な物量を背景とする濃密な弾幕、そして魔力素と波動粒子とを用いた砲撃の一斉射によって、波動砲を放つ暇さえ与えずに潰走させたのだ。
恐らくは、ほぼ同時に被災者達がアイギスとウォンロンの制御を奪取した事も影響してはいたのであろうが、R戦闘機が為す術も無く逃亡する様は、俄には信じられない光景であった。

所属不明戦闘機群は更に、ベストラからの脱出を図るランツクネヒトと第88民間旅客輸送船団の艦艇、及び強襲艇群への攻撃を開始。
被災者達に奪取されたウォンロンに対する攻撃を阻止し、更に敵艦および敵機を瞬く間に殲滅して退けた戦闘機群は、その後もベストラ周囲に留まり続ける。
明らかにベストラを守護せんとするそれらの行動に、被災者達は不審を覚えつつも頼らざるを得なかった。
何よりも、蜂起に際して最大の障害となっていたR戦闘機群を排除した事実が在る為、味方であると断ずるには到らないが明確な敵でもない、との認識が被災者達の間に定着している。
更には不明戦闘機群が有する武装の性能が、被災者達が有する如何なる戦力のそれをも凌駕していた事も、判断に大きな影響を齎していた。

944R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2011/05/29(日) 14:30:48 ID:.jmCVDEE
数千機の所属不明戦闘機群という、圧倒的な物量による強襲で以って排除された、ランツクネヒト及び地球軍艦艇、そしてR戦闘機群。
ウォンロンの制圧とアイギスの制御権奪取、更にはベストラ内部に於ける第97管理外世界人員の殲滅に成功した事も在り、状況は順調に推移しているかに思われた。
しかし、比較的優位であった状況は、実に呆気なく崩れ去る。
中央管制室に立て篭もっていたランツクネヒト隊員が、最後の抵抗として非常推進系を稼働させた上でシステムをロックしたのだ。
設定された進路は、あろう事かシャフトタワーを通じ、人工天体の更に深部へと向かうものだった。
自身等の敗北を悟ったらしきランツクネヒトは、被災者達をベストラ諸共バイドに喰らわせんと試みたのだ。

無論、被災者達は状況の打開を図った。
システムの再掌握、更にはウォンロンによる推進系の破壊まで、ベストラの航行を止める為にあらゆる手段を模索。
だが、それらの試みは、全て失敗に終わった。
システムの制圧は成らず、全102基ものザイオング慣性制御システムの内21基を破壊したところで、航行に微塵の支障も生じはしなかったのだ。
遂にはシャフトタワー侵入口の破壊による物理的阻止すら試みたものの、衝突の際にベストラが崩壊する可能性が在る為、結局は断念せざるを得なかった。

その後、ベストラは第4層を通過、第4空洞へと侵入。
更に第5・6・7・8・9層を通過した時点で、汚染された機動兵器が徐々にベストラへと群がり始めた。
だが、ベストラの航行阻止に際しては無力であったウォンロン、そして不明戦闘機群がそれらの接近を見落とす筈がない。
敵の大半が全領域対応型機動兵器「CANCER」を中核とした集団であった事もあり、迎撃は比較的容易に進行した。
敵機動兵器群による防衛線突破は成らず、ベストラは脅威を乗り切ったかに思われたのだ。
しかし、第12層通過直後。
シャフトタワー構造物が途絶え、ベストラが広大な空洞内部へと侵入した瞬間に、それは現れた。

彼方より放たれた無数の砲撃、瞬く間に400機前後の不明戦闘機を撃墜したそれら。
即座にウォンロンが反撃を開始し、闇に潜む何者かへと魔導砲撃を撃ち込む。
更に不明戦闘機群の砲撃が放たれ、彼方にて無数の閃光が炸裂した。
強烈な光を背に浮かび上がる、無数の小さな影。
そして、砲撃の合間を縫う様にして、それら影の内1つがベストラへと取り付いた。

四肢の無い胎児、奇怪な形状の頭部。
醜悪という言葉以外に表現する術の無い、おぞましい外観。
悲鳴の様な咆哮と共に極強酸性の体液を撒き散らし、更には胸部に宿した寄生体の口腔から、同じく極強酸性体液による砲撃を放つ異形。
周囲の構造物を溶解させつつ、のたうつかの様に荒れ狂うその異形の姿に、エリオは見覚えが在った。
今は無きリヒトシュタイン05コロニーにて、ランツクネヒトより提示された情報の中に、その存在についての報告が在ったのだ。

「BFL-011 DOBKERADOPS」
22世紀の地球に於いて対バイドミッションが発令された後、地球人類が最初に遭遇したA級バイド。
環境適応力および進化多様性に富み、これまでに14もの変種が確認されている。
無機物を素材として短時間の内に発生した個体も在れば、既に死滅した細胞群を再活性させた上で、腐食したまま活動を再開した死骸そのものの個体も在った。
そして、更には地球軍により撃破された個体の残骸を回収し、蘇生させた上で戦略級機動兵器として重武装化と機動力の付加を施された個体まで存在するという。
なのは達と交戦したという個体、即ち「ZABTOM」だ。
ベストラへと取り付いた個体もまた、大きさこそ3m程度とはいえ、外観の特徴からしてドブケラドプスの一種である事は疑い様が無かった。
施設に残されていた研究記録から、現在はドブケラドプスの幼体であろうと看做されている。

外殻へと取り付いた個体は19、その全ては機動兵器群および外殻へと展開した魔導師達によって、瞬く間に排除された。
しかし、その後も敵性体の飛来が止む事はなく、それどころか飛来数は秒を追う毎に増加し続けている。
必然的に、防衛線を突破し外殻へと到達する個体数も増加し、魔導師達と機動兵器群は休む間も無く戦闘を続行する事となった。
ベストラ外殻に配備された防御兵器群の起動に成功した事で、一時は窮地を脱したかに思われたものの、敵性体の飛来数が更に増加した事で結局は危機的状況が続いている。
不明戦闘機群とウォンロンも凄まじい迎撃戦闘を展開してはいるのだが、しかし全方位より飛来する敵性体群の殲滅には至っていない。

945R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2011/05/29(日) 14:31:37 ID:.jmCVDEE
一方で、ベストラ内部では朗報も在った。
施設機能の完全奪取を模索していたチームが、コロニー航行機能の掌握に成功したのだ。
彼等は即座に航行設定を破棄し、ザイオング慣性制御システムを用いてコロニーの減速を開始した。
これ以上、人工天体内部へと進攻する事態を避ける為に。
しかし、その努力も完全に報われた訳ではなかった。
漸く減速を開始した矢先、進行方向上にて網目状に張り巡らされた、巨大有機構造体の壁面が確認されたのだ。

ベストラに搭載されたザイオング慣性制御システムは、大規模施設に搭載されるタイプとしては極めて柔軟かつ、大出力による機動を可能とするものである。
しかし、飽くまで大型艦艇にも及ばぬ機動性であり、当然ながらR戦闘機群のそれとは比較にもならない。
況してや、瞬間的な減速や静止など不可能である。
余りにも巨大な質量より発生する慣性を、瞬時に0へと引き戻す事など出来得る筈もない。
よってベストラは、衝突によって致命的な損傷を受ける速度ではないものの、北部区画より有機構造体へと突入する事態となってしまったのだ。

突入後に判明した事実だが、壁面はニューロン状の巨大有機構造体、腐食した肉塊の如き色のそれが無数に連なって形成されたものであり、更に幾重にも折り重なる様にして分厚い層構造を構築していた。
数十から数百mもの穴が至る箇所に開いてはいるものの、それらの奥には網目状に拡がる有機構造体、そして迫り来る無数のドブケラドプス幼体以外には何も確認する事ができない。
すぐにでも離脱したいところではあったが、しかし信じ難い事に有機構造体は既に外殻へと侵食を始めており、ザイオング慣性制御システムの最大出力を以ってしても引き剥がす事は叶わなかった。
そして、有機構造体は柔軟性と耐久性に富み、膨大なベストラの質量をいとも容易く受け止める程に強靭である。
更には常軌を逸した再生能力を有しているらしく、不明戦闘機群とウォンロンが幾度となく砲撃で以って破壊せんと試みてはいるものの、それらは損傷する端から高速増殖を繰り返しては、数十秒程度で構造体の修復を成し遂げてしまうのだ。

前方へと突破する事もできず、後方へと離脱する事もできず。
ベストラの機動を完全に封じられたまま、被災者達は決死の迎撃戦を展開する事となった。
際限なく押し寄せる敵性体の群れを前に、徐々に沈黙してゆく防御兵器群。
魔導師を始めとする人員の被害も、既に40名を超えた。
このままでは徒に戦力を消耗するばかりであり、何らかの方法で状況を打開せねば生存は望めないだろう。
しかし現状では、有効な打開策を見出すに至っていない。

『E-11、バイド体の殲滅を完了した。不明戦闘機群による攻撃だ』
『第1層上部外殻中央付近、敵性体と不明戦闘機が施設内部に突っ込んだ。約200秒前だ。仕留め損ねたのかもしれん』

状況の変化を伝える念話を受け、エリオはE-11へと向かう進路を変更、第1層を目指す。
現在位置から最大速度で向かえば、40秒程度で不明戦闘機の突入地点へと到達できるだろう。
ストラーダの矛先を足下へと向け圧縮魔力を噴射、再加速。
弓形の軌道を描き、金色の魔力残滓による軌跡を曳きつつ空間を引き裂くエリオ。
そして、第1層へと到達するや否や身体の上下を反転させ、足下を外殻へと向ける。
ストラーダを介し、不明機体突入地点を視界へと拡大表示。

第1層上部外殻中央付近、直径20mを超える歪な形状の穴が穿たれている。
不明戦闘機は高速かつ、何らかの方法で構造物を破壊しつつ突入したのだろう。
穴の縁は工作用機械で以って切り取られたかの如く、不自然なまでに整然としていた。
突入した不明戦闘機とは恐らく、特殊突撃機能を備えたタイプなのだろう。
三角翼と鋭利な針にも似た砲身を備えたその機体が高速で敵性体へと突撃し、体当たりで以って目標を完膚なきまでに粉砕する様子が、これまでに幾度となく確認されている。
その映像を確認した技術者達による解析結果は、機体表層部を高速振動させる事により攻撃対象の構成材質を分解しつつ破壊しているのであろう、との事であった。
そして、その報告こそがエリオに、とある確信を抱かせるに至ったのだ。

946R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2011/05/29(日) 14:32:40 ID:.jmCVDEE
あれは、あの不明戦闘機群は、スバル達だ。
彼女達は見付けたのだ。
自身本来の肉体を奪われ、R戦闘機という歪な戦略級戦闘特化個体へと変貌させられながら、バイドと地球軍を打倒する術を見出したのだ。
不明戦闘機群を建造した存在とはバイドでも地球人でもなく、双方が有する技術を吸収したスバル達である可能性が高い。
突撃時に観測される機体表層部の高速振動は、恐らくはスバルのISである振動破砕を応用した技術であろう。
そして、不明戦闘機群の砲撃は波動粒子のみならず、それ以上に大量の超高密度圧縮魔力を用い放たれている。
間違いない。
彼女達は遂に、次元世界が生存する為の糸口を掴んだのだ。

『管制室よりライトニング01、現在位置を知らせよ』
『ライトニング01より管制室。現在位置、第1層上部外殻。不明機体突入地点へと向かっている』
『ライトニング、其処に魔導師の一団が居ないか? 厄介な連中が迷い出たかもしれん』

管制室からの念話。
エリオは突入地点の周囲に、複数の人影を認める。
不明戦闘機の突入跡から次々に現れ、20名前後にまで数を増すそれら。
魔導師だ。

『・・・確認した。第2シェルターの人員だ』

集団の中になのはとはやての姿を認め、居住区シェルターに隔離されていた一団が現状を認識したのだ、と判断するエリオ。
接近する彼に気付いたのだろう、集団の中の1名がこちらを指し、何事かを叫んでいる。
エリオはストラーダの矛先を後方へと向け、メインノズルより圧縮魔力を噴射。
自身の全身運動に急制動を掛け、集団から50m程の距離を置いて宙空に静止する。

『エリオ、聞こえてる? これはどういう事、何が起こっているの?』
『あの化け物と戦闘機は何だ? バイドの襲撃を受けているのか!』
『下に在った死体の山は、あれは何や! エリオ、答えんか!』

自身へと向けて放たれる複数の念話、その悉くを無視しつつ眼下の集団を見下ろすエリオ。
質問に答える暇も、状況を説明するだけの猶予も無い。
何より、説明を行ったとして、彼等がそれを受け入れるという確証すらも無い。
最悪、地球人に対する殲滅を実行したこちらに反発し、敵対を選択する事も在り得る。
此処は彼等からの呼び掛けを無視し、敢えて何も知らせぬまま敵性体との戦闘に引き摺り込む事が、最も望ましい展開だろう。

『エリオ!』
『エリオ、答えて! 聞こえているんでしょう!?』

眼下の一団から視線を外し、エリオはストラーダを介して周辺域に対する索敵を行う。
ドブケラドプス幼体は極強酸性体液による砲撃こそ脅威ではあるものの、それを除けば霧状体液の散布以外には、取り立てて見るべき攻撃手段を有してはいなかった。
不用意に接近すれば、噛み付かれるか尾に打たれる事も在り得るのであろうが、当然ながら無意味にそんな事を実行する者は居ない。
精々、エリオを含むベルカ式魔導師が、近接攻撃を繰り出す為に接近する程度のものだ。
そして、彼等が標的への接近に成功したのであれば、既に戦闘の趨勢は決している。
幼体は満足な迎撃も反撃も行えぬまま、アームドデバイスによる一撃を受けて絶命するのだ。
形勢は未だ予断を許さないものの、幼体に対する攻略法は既に確立しつつあった。

周囲に敵性体が存在しない事を確認し、エリオは再び眼下へと視線を落とす。
飛翔魔法を発動したなのは達が、すぐ其処にまで迫っていた。
その場より離脱すべく、エリオは幾度目かの魔力噴射を実行せんとする。
直前、管制室より念話が飛び込んだ。

『管制室より総員、緊急! 新たな敵性体と思しき複数の反応が接近中、北部区画外殻到達まで80秒!』

エリオは咄嗟に、ストラーダの矛先を北部区画の方角へと向け、メインノズルより圧縮魔力の爆発を推進力として解放。
驚愕の表情を浮かべるなのは達を置き去りにし、瞬時に音速を超え北部区画を目指す。
そんな彼の視界へと、ストラーダを介して表示される映像。
其処には、網目状に拡がる有機構造体の間を縫う様にしてベストラへと迫り来る、巨大な異形の全貌が映し出されていた。

947R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2011/05/29(日) 14:33:29 ID:.jmCVDEE
未知の敵性体、全長200m前後の多関節生物型。
長大な体躯先端および尾部に、頭部らしき部位が存在している。
左右へと鋏状に位置する巨大な牙、上下に位置する複眼らしき一対の巨大な器官。
体躯側面には極端に小さな、多足類の脚にも似た器官が無数に並んでおり、その数は優に1000を超えるだろう。
蛇の如く身体を捩りつつ宙空を進むそれは、しかし然程に高速ではないらしい。

『バルトロより管制室、敵性体の排除に向かう』
『管制室よりバルトロ、攻撃は不許可。目標の詳細不明につき、接近を禁ずる。総員、現在位置にて待機せよ』

管制室からの指示。
妥当な判断だと、エリオは内心にて納得する。
バイド生命体の異常性には、これまでにも幾度となく辛酸を舐めさせられてきた。
確固たる対策も無いまま迂闊に手を出せば、こちらが多大な犠牲を払う事となる。
先ずは敵性体の特性を見極め、それを熟知してから反撃に臨むのだ。

約30秒後、第1層上部外殻北端付近へと到達するエリオ。
彼の視界には既に、網目状有機構造体の奥より接近する、複数の敵性体の全貌が映り込んでいた。
個体毎に大きさが異なるのか、全長30m程度の個体も在れば、優に400mを超える個体も存在している。
2箇所に位置する頭部の内1つをこちらへと向け、徐々にベストラへと接近してくるそれら。
自己保存など微塵も考慮していない突撃、施設への体当たりによる突入か。

『目標、体当たりを仕掛けてくる模様。遠距離攻撃手段を用いる様子は無い』
『接触時に特殊な攻撃手段を用いる可能性も在る。外殻への接触を待ち、攻撃行動を観察せよ』

周囲に現れる、複数の魔導師の姿。
後方を見やれば、其処には1km程の距離を置き、魔導師と機動兵器が続々と集結を始めている。
今頃は第17層下部外殻北端、そして東部および西部区画外殻にも、同様に魔導師と機動兵器が集結している事だろう。
更には、無数の白い影が周囲の空間を飛び交っている。
不明戦闘機群もまた、有機構造体の周囲へと集結しているのだ。
準備が整った事を確認し、エリオは前方へと視線を戻す。
敵性体は、数秒で外殻へと到達する位置にまで迫っていた。

『目標、接触!』

敵性体群の一部が、有機構造体に面した北部区画外殻へと喰らい付く。
僅かに遅れて届く、衝撃と振動。
上部外殻末端部はエリオの足下から緩やかな斜面となっており、其処彼処に各種センサー群を始めとする構造物が存在していた。
現在、迎撃機構は意図的に停止されており、兵器群は外殻内部へと収納されている。
それらは敵性体に対する情報収集が完了した後に展開され、一斉砲火による弾幕を浴びせ掛ける事だろう。
外殻装甲および封鎖されたハッチ等の上、数十体の異形が牙を突き立てている。
膨大な質量を活かした突撃は、しかし外殻を突破するには至らなかったらしい。
無数の鋭い脚による攻撃も、僅かに装甲を傷付ける程度だ。
予想外の光景に我知らず眉を顰めるエリオ、交わされる念話。

『何をやっている?』
『外殻装甲を突破できなかったんだろう・・・多分。こいつら、失敗作か?』
『こちら管制室。目標に特異な変化は見られるか』 
『管制室、見ている通りです。連中、這いずり回るだけで特に何もしてこない。攻撃しますか?』

即答は無い。
管制室にしても、判断を下し難い状況なのだろう。
事実、エリオ個人の思考としても、眼前の光景は理解し難いものが在った。
これまでに遭遇してきたバイド生命体は、外観こそ醜悪なだけの歪な存在であったものの、一方で単一機能面を徹底的に突き詰めた非常に合理的な脅威でもあったのだ。
スプールスにて交戦した生命体群を例に挙げれば、攻撃を受ける事によって体内に存在する無数の寄生体を散布し、それらの物量で以って周囲の生命体群を圧倒し汚染するといった具合である。
よって、眼前にて外殻上を這い回る敵性体についても、何らかの特性を有していると思われた。
しかし、その特性が発現する様子、それが無い。
無様に外殻へと張り付き、牙と脚を忙しなく動かすだけのそれらは、とてもではないが脅威であるとは思えなかった。

『外殻に重大な損害は確認されない。目標、低脅威度と認識。距離を置き、長距離砲撃にて攻撃を実行せよ。管制室より総員、攻撃を許可する』

948R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2011/05/29(日) 14:34:17 ID:.jmCVDEE
管制室、攻撃許可。
エリオの左右、砲撃魔導師達が自身等のデバイスを構える。
甲高い異音と共に集束する魔力素、魔法陣の中心へと形成され肥大してゆく魔力球。
様々な色の光球が膨れ上がる様を暫し見つめ、エリオは眼下の敵性体群へと視線を戻す。
相変わらず単なる蟲の様に這い回るそれらは、こちらへと接近するでもなく外殻への攻撃、意味の無いその行動を継続していた。

『・・・呑気な奴等だ』

エリオの右隣、念話にて呟きながらも照準を定める砲撃魔導師。
彼が手にしているデバイスの先端では、白色の光球が破裂せんばかりに膨れ上がっている。
視界の殆どが複数色の閃光に染め上げられる中、エリオの意識に攻撃の引き金となる言葉が木霊した。

『撃て!』

閃光。
衝撃と轟音が壁となって襲い掛かり、左右からエリオを圧迫。
思わず細めた目、狭められた視界の中で、胴部中央に砲撃の直撃を受けた敵性体が、体躯を半ばから切断される。
直後、砲撃そのものが分散炸裂し、無数の魔力爆発が外殻上を覆い尽くした。
外殻そのものを破壊せぬよう、貫通力に特化した砲撃魔法ではなく、範囲殲滅型のそれを選択したのだ。
数秒ほど爆発が続き、それらが発する閃光と轟音が掻き消えた後には、光り輝く魔力残滓のカーテンのみが残されていた。
業火の如く立ち上るそれらはエリオの視界を覆い尽くし、その先に拡がる光景を完全に遮断している。
だが、これ程の規模での一斉砲撃を受け、その上で敵性体が生存しているとは考え難い。
暫し無言のまま、眼前の光景を睨み据えていたエリオであったが、やがて緊張を解くと息を吐く。

『反応消失・・・敵性体は全滅だ。皆、良くやってくれた』

周囲の砲撃魔導師達が、大きく息を吐いた。
彼等もまた、緊張に曝されていたのだ。
構えていたデバイスの矛先を下ろし、周囲を見渡す。
幾ら索敵を実行しても、生存している敵性体を発見する事はできなかった。
僅かな痕跡すら残さず、消滅してしまったのだろう。

『管制室より総員、所定防衛地点に戻れ。北部区画外壁への配置については追って連絡する』
『第2シェルターの連中はどうする?』

自身の意識へと飛び込んだ問いに、エリオは後方の一団に紛れ込んだ、嘗ての上官達を見やる。
断片的にではあるが、状況を理解し始めているのだろう。
彼等は、困惑と猜疑の滲む表情を浮かべ、周囲を見回していた。
管制室は、其処に居るキャロ達は、如何なる対処を取るのか。

『管制室より総員、連中には手を出すな。状況説明も不要だ。ウルスラ、彼等をW-01物資搬入口へ誘導せよ』
『始末するのか? 今なら格好の状況だが・・・』
『いや、こちらから部隊を向かわせる。説得は彼等が行うそうだ』

説得とは何とも可笑しな話だと、なのは達を見据えつつエリオは思う。
その様な生易しい状況でない事は、誰の目にも明らかである。
デバイスの矛先と質量兵器の銃口、そして迎撃兵装の砲口を突き付けて行う状況説明を説得などとは、平時であれば口が裂けても言えはしまい。
だが今は、それが必要とされる状況なのだ。

『ライトニング01より管制室、S-04に・・・』
『管制室よりライトニング01、W-02へ向かえ。不測の事態に備え、指定地点にて待機せよ』
『・・・了解』

自身の所定防衛地点に戻ろうとするエリオへと、新たな指令が下される。
どうやら管制室は彼を、なのは達に対する説得時の保険として配備する心算らしい。
魔導資質強化の結果、現時点でエリオはオーバーSランクに匹敵する魔力保有量、瞬間最大出力、変換効率を備えるまでに至っている。
とはいえ、元々がオーバーSランクである上、極めて強力な砲撃魔法を有する魔導師が2名以上、それらを同時に相手取るのだ。
果たして、近代ベルカ式を用いる自身の戦術が、何処まで通じるものか。
冷静に思考しつつ現在位置を離れんとするエリオだが、すぐに動作を中断し有機構造体の方角を見やる。
危機的状況は、未だ過ぎ去ってはいないらしい。

949R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2011/05/29(日) 14:35:11 ID:.jmCVDEE
『管制室より総員、警告! 新たな敵集団が接近中、警戒せよ!』

有機構造体の遥か奥、視界へと拡大表示される蠢く影。
また、あの敵性体だ。
多足類そのものの体躯を波打たせ、徐々にこちらへと接近してくる。
視認可能総数、約30体。

『またか。管制室、敵性体総数は?』
『総数183体。余り多くはないな、各地点に於いて多くても30体前後の計算だ』
『迎撃する』
『いや、こちらで高出力光学兵器による狙撃を行う。総員、現在位置にて待機せよ』

外殻各所にて、警告灯の黄色の光が明滅を始める。
開放されてゆくハッチ、迫り出す迎撃兵器群。
一見するとミサイルコンテナの様にも思える形状のそれらは、複数種の大出力光学発振機を内蔵している。
砲口となる前部装甲板上に照射用の力場を形成する事により、脆弱な内部機構を外部へと曝す事なく砲撃を可能とした超長距離狙撃型純粋光学兵器群。

そして数瞬後、有機構造体の方角へと向けられた兵器群の力場形成面に、微かな光が灯った。
超高出力光学兵器の砲撃は、余りにも強烈かつ一瞬である。
砲撃が実行された、その瞬間には焦点温度1400000Kの光条が目標を貫いているのだ。
砲撃対象は疎か、距離を置いて観測する第三者であっても、光条そのものを視認する事は不可能に近い。
攻撃照準波を検出する、或いは予測回避を実行する等の対策は存在するものの、実質的に完全な回避を確約する手段は存在しないのだ。

尤も、目標装甲素材の耐熱限界値が焦点温度を上回っていた事例、各種障壁からの干渉により光条が拡散してしまう欠点などが存在する為、今や純粋光学兵器の殆どは主力兵器の座から転落している。
事実、このベストラ外殻に配置された迎撃兵器群の主力は、純粋光学兵器ではなく電磁投射砲だ。
純粋光学兵器群が有する問題としては、アンチレーザー・コーティングが施されている目標に対しては殆ど無力、空間歪曲を用いた防御手段に対しては全く為す術が無いという点が挙げられる。
発振または集束時の触媒に波動粒子を用いる事で各種干渉手段の突破は可能となるものの、そんな対策を取るよりは初めから波動兵器を用いた方が効率も良い。
更に付け加えるならば、光学兵器による攻撃に波動粒子を付加するよりも、実体弾頭に対してそれを実行する方が遥かに容易かつ実用的である。
例外として、フォースを介しての出力増幅を用いるR戦闘機群が存在するが、あれらが実装する光学兵器は他のそれらとは根本的に異なる代物だ。
光としての性質そのものが変容する程の波動粒子を内包した光条と、通常の純粋光学兵器群より照射される光条が同一のものである筈がない。
ほぼ回避不能という攻撃能力を有しながらも複数の対策が存在し、それらを実装している目標に対しては徹底的に無力となってしまう兵器群。
それが、純粋光学兵器群だった。
だが、今回の様な有機敵性体に対しては、絶大な威力を発揮する事だろう。

『射線上からの人員離脱を確認。砲撃まで5秒』

背後に出現した砲台を一瞥した後、彼方の敵性体群を見据えるエリオ。
それらがベストラへと到達するまで、あと15秒というところだろうか。
どうやら、先程よりは速力を増しているらしい。
迫り繰るそれらが蒸発する様を観測せんと、エリオが微かに目を細めて。

『照射』



瞬間、後方へと弾き飛ばされた。



「ッ・・・!?」

肺より圧し出される空気、瞬間的に麻痺する感覚。
直後、更なる衝撃。
視界が赤く染まり、全身が激しく打ち付けられる。
四肢を引き裂かんばかりの強大な力、エリオの身体を翻弄するそれ。
数瞬か、或いは数秒か。
2度に亘り襲い掛かった衝撃を経て、エリオは漸く自身が静止した事を認識した。

950R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2011/05/29(日) 14:36:14 ID:.jmCVDEE
視覚が、聴覚が機能していない。
身体の何処かしらを動かす事もできず、声を発する事すらできない。
唯、痛覚だけは徐々に回復していた。
全身を襲う、痺れにも似たそれ。
漸く回復した感覚に従い、エリオは身体を動かそうと試みる。
瞬間、全身を奔る激痛。

「ッぎ・・・!」

零れる呻き。
自身の声を認識した事で、エリオは聴覚の機能が回復した事を知る。
視界が閉ざされているのは、瞼を閉じている為だろう。
顔面の筋肉を引き攣らせつつ、エリオは閉ざされていた瞼を徐々に見開いた。

先ず、視界へと映り込んだものは、赤黒い液体。
視界の殆どを埋め尽くす、血溜まりだった。
何処からか溢れ返る血液は、黒に近い鈍色の構造物上にて不気味に波打っている。
自身が外殻上に、うつ伏せの状態で張り付いている事を、エリオは漸く理解した。
そして、身体の右側面に感じる、冷たく硬質な金属の感触。
外殻上に突出した、何らかの構造物か。
恐らくは、衝撃によって弾き飛ばされ外殻装甲へと打ち付けられた後、宙空へと放り出される途中で突出した構造物に衝突し、それが幸いして外殻上に留まる事ができたのであろう。

「ぐ、うッ!?」

外殻に手を突き、軽く力を込めるエリオ。
僅かな力ではあったが、低重力下ではそれで十分だった。
反動で身体を浮き上がらせると同時に、球状となった血液が周囲へと拡散する。
右手に、金属の感触。
視線を右手へと落とせば、其処にはストラーダの柄が確りと握り締められていた。
どうやら、衝撃に翻弄されながらも、自身のデバイスを手放す事態は避けられたらしい。
その事実に僅かな安堵を覚えつつ、エリオは周囲へと視線を巡らせる。
そして、絶句した。

「何だ・・・」

外殻が、抉れている。
否、抉れている等という、生易しい程度の破壊ではない。
外殻が、完全に崩壊していた。
クレーターに酷似した巨大な穴が其処彼処に穿たれ、それら全てから異様な白煙と、破壊された構造物の残骸が噴き上がっている。

視界を巡らせるも、人影は無い。
全員が退避したのか、或いは吹き飛んだのか。
周囲の空間は漂う無数の残骸に埋め尽くされており、それらの中を飛行できる状態ではない。
人間の頭部ほどの大きさも在るそれらは明らかに、飛翔魔法発動時に展開する障壁程度で弾ける代物ではなかった。
無論、それはエリオにとっても同様であり、現状ではストラーダによる高速移動など望むべくも無い。
そんな真似を実行に移せば、彼の身体は瞬く間に挽肉となる事だろう。

「くそ・・・!」

何が起きたのか。
全身を襲う激痛に呻きつつ、思考を加速させるエリオ。
新たに出現した敵性体について脅威度は低いとの判断が下された事、管制室により超長距離狙撃型純粋光学兵器群を用いての砲撃が実行された事は覚えている。
だが、其処までだ。
その後に何が起こったのか、全く理解できないのだ。
砲撃の瞬間、彼の身体は一切の前兆もなく、唐突に吹き飛ばされていた。
その事象が、強烈な衝撃波によって引き起こされたものであるとは理解しているが、では何処からそれが発生したのかが解らない。
何らかの攻撃が外殻に着弾したのか、或いは光学兵器群の異常か。

951R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2011/05/29(日) 14:38:54 ID:.jmCVDEE
エリオは咳込みながらも、ストラーダのノズルより微弱な魔力噴射を行い、外殻へと降り立つ。
構造物表層から僅か2mの作用域とはいえ、外殻上には0.2Gの人工重力が存在していた。
エリオの脚部に掛かる荷重は、通常の20%程度。
しかし、明らかな重傷を負っている彼の身体にとっては、その程度の荷重でさえ危険なものであった。

「ぐ、あ!」

接地の瞬間、自重に耐え切れずによろめく身体を、咄嗟に突き出したストラーダの柄を杖とする事で支えるエリオ。
荒い呼吸を繰り返す彼の頭上を、衝撃波を撒き散らしながら通過する存在。
何とか持ち上げた視線の先、闇の奥へと消えゆく複数の白い影。
不明戦闘機群だ。
少なくとも数機は、先程の状況を掻い潜る事に成功していたらしい。
その光景を認識し安堵の息を漏らすと同時、エリオの意識へと飛び込む念話。

『・・・応答を・・・聴こえるか・・・誰か・・・』
「・・・管制室か?」
『被害状況・・・駄目だ、応答が無い・・・呼び掛けを・・・』
「こちら、ライトニング01・・・管制室、聴こえるか?」
『・・・応答せよ・・・状況不明・・・』

応答せよとの言葉、こちらからの呼び掛けに対する無反応。
エリオは、管制室が外殻の状況を把握していないと判断する。
先程の衝撃、恐らくは爆発によるそれが発生した際に、外部観測機器の殆どが沈黙したのだろう。
他方面の外殻でも、同様の事態が発生しているのだろうか。

「誰か、誰か居ないのか? 聴こえるなら応答を・・・」

エリオは自身の傍らへとウィンドウを展開し、音声にて全方位通信を試みる。
受信の確立を少しでも高める為、念話ではなくこちらを選択したのだ。
だが、ウィンドウ上に表示されるはノイズのみであり、音声に関しても正常に接続される様子は無い。
当然ながら、未だ呼び掛けを続ける管制室が、エリオからの通信に気付く様子も無かった。
回線は、受信のみが辛うじて機能している。

エリオは震える手で暫しウィンドウを操作し、やがて諦観と共にそれを閉じた。
管制室からは、変わらず呼び掛けが続いている。
恐らく彼等は、外殻の人員が全滅したのでは、との危惧を抱いているのだろう。
こちらの存在を知らせる術が無い以上、このまま現在位置に留まる事に意味は無い。
軽く外殻を蹴り、身体を浮かばせ重力作用域を脱した、その直後。

『撃つな!』

突如として意識へと飛び込んだ全方位通信に、全身を強張らせるエリオ。
知らず、彼は周囲を見回す。
人影は無い。
他方面の外殻より発せられたものか。

『攻撃中止! 攻撃中止だ! 総員、撃つな!』

再び飛び込む、全方位通信。
殆ど絶叫と化したその様相に、エリオは再び身体を強張らせる。
様子がおかしい。
攻撃を中止せよとの指示は、如何なる理由により発せられたものか。
恐らくは繋がるまいと思考しつつも、エリオは状況確認の為に呼び掛けを試みる。

「こちらライトニング01、応答を・・・」
『撃つなと言ってるんだ、撃つな! あれは生体機雷だ!』

952R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2011/05/29(日) 14:40:08 ID:.jmCVDEE
唐突に意識中へと飛び込んだ聞き慣れない名称に、エリオは続く自身の言葉を呑み込んだ。
生体機雷。
言葉通り、生体組織を用いて形成された、炸裂式の範囲制圧兵器なのであろうか。
彼の思考に浮かぶ疑問を余所に、通信は続く。

『W-12、サルトンより警告! 敵性体、有機質機雷としての性質を有している! 起爆条件は頭部に対する攻撃だ!』

通信越しに放たれる、緊迫した叫び。
エリオは反射的に、そして無意識に周囲へと視線を巡らせている。
敵性体、視認できず。

『まるで地雷だ! 1発でも頭部に着弾すると、次の瞬間には体節が砲弾みたいに突っ込んでくる! 速過ぎて視認も回避もできない!』
「・・・畜生」

悪態を吐くエリオ。
彼方を睨む彼の視線の先に、複数の長大な影が蠢いていた。
先程の敵性体が群れを成し、三度ベストラへと接近しているのだ。

『射撃および単純砲撃による攻撃は避けろ! 範囲殲滅型魔法か、空間制圧型兵器による攻撃で消滅させるんだ! 体節の1つでも残ったら、それが突っ込んできて爆発するぞ!』

敵性体群、加速。
同時に、エリオの遥か頭上を翔け抜ける幾つかの光条、白亜の光を放つ砲撃魔法。
それらは高速にて敵性体群へと突入し、直後に閃光を放ち炸裂した。
無数の魔力爆発が連なり、空間を埋め尽くしてゆく。
恐らくは、古代ベルカ式直射型砲撃魔法、フレースヴェルグ。
少なくとも、はやては無事であったらしい。
かなり後方まで吹き飛ばされた様だが、直射型砲撃を放てる程度には健在なのだろう。

「流石・・・」

無数の白亜の爆発、瞬く間に視界を埋め尽くしたそれに、エリオは微かに声を漏らす。
はやても、先程の警告を受信していたのだろう。
その内容を直ちに理解し、範囲殲滅型砲撃魔法を放ったのだ。
指揮官という立場上、前線に出る事は稀である筈の彼女ではあるが、咄嗟の状況認識力と判断力は突出しているらしい。
しかし残念ながら、敵性体の殲滅には至らなかった様だ。
消えゆく魔力爆発、その先より迫り来る数十体の影。

「くそッ!」

悪態をひとつ、エリオはストラーダより魔力噴射を実行。
軋む身体を無視し、瞬時に200mほど上昇する。
眼下を見回すものの、周囲に他の人員は見当たらない。
遥か彼方で閃光が瞬いているが、あれらは不明機体群が敵性体との戦闘を行っているものであろう。
後方から砲撃が放たれる様子も無い。
はやてが砲撃を連射できる訳ではない事はエリオも承知しているが、なのはは何をしているのだろうか。
もしや、戦闘への復帰が不可能な程に負傷しているのか。

圧縮魔力再噴射、敵性体群へと向け加速を開始。
比較的小型の1体に狙いを定め、軌道修正と共に更に加速。
迫り来る異形の頭部、不気味に光を照り返す巨大な牙と複眼。
左右に開閉を繰り返す異形の顎部を見据えつつ、エリオは思考する。

頭部への攻撃は、致命的な反撃を誘発してしまう。
極めて強力な範囲殲滅型の攻撃で以って、跡形も無く消滅させてしまえば問題は無いが、自身はそれに分類される長距離攻撃手段を有していない。
しかし、後方から新たな戦術級砲撃が飛来する様子は無く、周囲に他の人員の存在を見出す事もできない。
不明戦闘機群は遠方にて大規模な戦闘を展開しており、こちらに対する支援は望むべくもないだろう。
だが、それでも眼前の敵性体群、それらとの交戦を回避する事はできない。

953R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2011/05/29(日) 14:41:05 ID:.jmCVDEE
施設外殻は先程の爆発によって既に、其処彼処に巨大な穴が穿たれている。
それらの内の幾つかは、施設内部の大規模アクセスラインにまで達している事だろう。
其処に敵性体が侵入すれば、どれ程の被害が発生するであろうか。
間違い無く、凄惨な事態となるだろう。
仮に、敵性体の侵入後に施設内の戦闘要員が迎撃に当たったとして、攻撃が敵性体の頭部へと直撃してしまえば、更に凄惨な被害が齎される事となる。
最悪の事態を回避する為にも、自身が此処で敵性体群を排除せねばならない。

策と呼べる程のものですらないが、考えは在った。
頭部への攻撃が起爆の条件であるのならば、胴部へのそれはどうか。
1箇所を切断した程度で、バイド生命体が活動を停止する等という甘い思考は有していないが、ならば絶命するまで斬り刻むまでだ。
胴部の切断が起爆の条件を満たしてしまう虞は在るが、眼下の外殻上に人影が認められない以上、大して問題は在るまい。
精々、自身が消し飛ぶ程度のものだろう。

ブースター、出力最大。
メインノズル、最大推力へ。
対空気抵抗・対衝撃魔力障壁、展開。
あらゆる感覚が研ぎ澄まされ、急激に引き延ばされる体感時間。
加速する思考の中、エリオは改めて敵性体の胴部中央に狙いを定める。
「着弾」まで、1秒。

「・・・ッ!」

衝撃。
視界を埋め尽くすまでに接近した敵性体の体表面が、紫電を纏ったストラーダの矛先によって穿たれる。
異形の強固な体組織を瞬時に気化させ、分解してゆく鋼の牙。
瞬間、最大出力での放電。
リンカーコアの強化に伴い、劇的に増大した魔力容量および瞬間最大出力、機械の如く精密化した制御能力および変換効率。
それら全ての機能を限界まで発現させ、発生した膨大な電力を破壊槌と成し、敵性体へと打ち込む。
メインノズルより噴出する圧縮魔力は業火を発し、更に高圧の電流を帯びる破壊的な奔流と化していた。
エリオに纏い付くそれは周囲のあらゆる存在を瞬時に焼き尽くし、更に超高速機動に伴い発生する衝撃波が全てを粉砕する。
今やエリオは、標的へと向け飛翔するミサイルそのものであった。

防音障壁により無音となった意識の中、視界を遮る存在が消滅してなお、エリオが速度を緩める事はない。
急激な軌道修正を行い、魔力残滓による放物線状の軌跡を描きつつ、次なる標的へと向かう。
全身の負傷など、既に意識外へと追い遣られていた。
エリオの思考を埋め尽くすは、敵性体の排除という目的のみ。
業火と紫電を撒き散らし、往く手を阻むもの全てを滅ぼす、金色の魔弾。
巨大なバイド生命体でさえ、その進攻を止める事は叶わない。
全長数十mにも達する異形の体躯、それらの中央部を次々に貫き、蒸発させてゆくエリオ。
時に弧を描き、時に稲妻の如く折れ曲がる軌跡。
荒れ狂う雷撃による無慈悲な蹂躙が終焉を告げたのは、敵性体の全てが体躯を分断された直後の事であった。

「・・・ッく!」

ストラーダの矛先を進行方向の逆へと向け、メインノズルより圧縮魔力の噴射を行うエリオ。
急激な減速と共に、彼の全身を覆っていた魔力の暴風、業火と紫電によって形成されていたそれが、凄まじい衝撃波と化して拡散する。
膨大な量の圧縮魔力、極限まで凝縮されていたそれが一瞬にして開放され、炸裂したのだ。
エリオを中心として巻き起こる、巨大な魔力の爆発。
周囲に浮かぶ構造物、或いは敵性体の残骸が残らず消し飛び、後には高熱に揺らぐ大気のみが残された。
虚無と化した空間の中心、エリオは荒い呼吸を繰り返す。

手応えは在った。
ストラーダは確実に敵性体を穿ち、その体躯の一部を消滅せしめたのだ。
確認した敵性体の総数は34体。
その全てを貫き、引き裂き、焼き払った。
衝撃波による周囲への副次効果も考慮すれば、敵性体が生命活動を維持している可能性は極めて低い。
恐らくは、体躯の両端に位置する2箇所の頭部、その周辺を除く殆どの部位が消失している事だろう。

「ストラーダ!」
『Impossible to detect』

954R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2011/05/29(日) 14:42:13 ID:.jmCVDEE
ストラーダに索敵を命じるエリオ。
しかし、高密度の圧縮魔力が炸裂した余波か、生体探知機能が動作しない。
魔力素を介して索敵を行うデバイス類に対し、魔力爆発は最も効果的な撹乱効果を発揮するのだ。
舌打ちをひとつ、エリオは周囲を見回し索敵を行う。
ある程度ベストラから離れた為か、周囲は薄暗く視界が利かない。
それでも彼は、無駄とは理解しつつも、敵影を探さずにはいられなかった。
せめて、自身が撃破した敵性体の残骸、その程度は確認したかったのだ。

「駄目か」

だが、それは叶わない。
先程の様に其処彼処に光源となる爆発が発生している訳でも、ベストラから照明弾が放たれている訳でもない。
外殻から2kmも離れてしまえば、其処はもう漆黒の闇の中だ。
現在位置からは外殻上の各種光源を薄らと視認する事が可能だが、更に500mほど離れれば完全にベストラを見失う事だろう。
これ以上の単独行動は危険であると判断し、エリオはストラーダの矛先をベストラへと向ける。
だが、直後。

「・・・これは?」

エリオの意識へと飛び込む、奇妙な異音。
鋏の刃を打ち鳴らしているか様な、金属的なそれ。
微かではあるが、その音が幾重にも連なり、周囲の空間に響いている。
デバイスによる集音機能が、微かな音を拾い上げているのだ。
咄嗟に周囲を見回すが、それらしき異音の発生源は見当たらない。
だが、この瞬間も耳障りな金属音は、確かに発せられ続けている。
そればかりか、徐々にその音量と数を増し続けているのだ。

「誰か・・・この音が聴こえるか? 誰も居ないのか!」

全方位通信。
だが、応答は無い。
闇より迫り来る音は、更にその数を増している。
湧き起こる焦燥感に圧され、知らず声を荒げるエリオ。

「こちらライトニング01! 誰でも良い、何か・・・!?」

しかしエリオは、その呼び掛けを中断した。
せざるを得なかったのだ。
彼の意識は、視界へと映り込んだ何かに集中していた。

「今のは・・・」

その輪郭を、明確に捉えた訳ではない。
だが、確かに見えたのだ。
闇の奥に蠢く、奇妙に歪んだ無数の影。
ベストラ外殻上より発せられる光、それを微かに照り返す褐色の生体表層。
金属音が更に数を増し、音と音の間隔までもが徐々に短くなる。
音源、接近中。

「ストラーダ!」
『Sonic move』

迫る危険を察知し、エリオはソニックムーブを発動。
下肢に奔る、微かな痺れ。
一瞬にして加速し、僅かに4秒前後で外殻へと到達する。
推力偏向ノズル稼動、逆噴射実行。
エリオは両脚部を進行方向へと突き出し、接地に備えた体勢を取ると同時、それに気付く。

955R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2011/05/29(日) 14:43:47 ID:.jmCVDEE
「あ・・・」



彼の右脚、膝部から先が無かった。



『Watch out!』
「ッ!?」

ストラーダからの警告。
意識中に生じた空白は、瞬間的ながら致命的なものであった。
接地まで1秒、姿勢制御が完了していない。
最早、手遅れだった。

「ッ・・・ガ、ァ!」

残された左脚、そして左腕を突き出し、最低限の接地体勢を整える。
だが、それも衝撃を軽減するには、貧弱に過ぎるものだった。
接地の瞬間、エリオの全体重を受けてしまった左脚部は、一瞬の内に捩れて折れ曲がる。
足首が捩れ爪先と踵部の方向が入れ替わり、張り裂けた皮膚と筋肉から噴き出す血液。
三箇所で折れ曲がった下腿部、皮膚下から飛び出す骨格と筋組織。
膝部までもが可動範囲を大きく超えて捩曲がり、断裂した筋組織と粉砕された骨片が四散。
そして、瞬時に崩壊した左脚部を支点として、速度を保ったままにエリオの身体が前方へと倒れ込む。

突き出された左腕部。
左脚部の接触によって幾分か速度は落ちたものの、エリオの身体は未だ高速にて移動している。
そんな状態下で構造物へと接触した左腕部が、やはり左脚部と同様に折れ曲がった。
否、折れたのではない。
エリオの左腕部は、肘部から先が失われていた。
外殻表層に突出した無数の構造物、その内の1つへ接触すると同時に千切れ飛んでしまったのだ。
その際の衝撃により、エリオの身体は錐揉み状態へと陥る。
回転する視界、消失する平衡感覚。
直後、全身を粉砕せんばかりの衝撃。
数瞬か、或いは数秒か。
エリオの意識が、確かに闇へと沈んだ。

「う・・・」

開ける視界。
意識が、急速に浮かび上がる。
だが、身体を動かす事ができない。
仰向けのまま、全く動かせないのだ。
両脚部、左腕部が存在するべき箇所には微かな痺れが奔り、それ以外の一切の感覚が抜け落ちている。

「あ・・・」

しかし1箇所だけ、エリオの意思に従い稼動する部位が在った。
右腕部だ。
最早、痛覚とも呼べない微かな痺れに支配されたそれは、辛うじて未だ彼の制御下に在った。
震えるそれをぎこちなく動かし、掌部を構造物に突いて身体を傾ける。
鋭い痺れが全身を貫いたが、エリオは最早それを意にも介さなかった。
感覚の異常など、気に留めるだけ無駄である事は、既に理解していたのだ。
頭部から出血している事にも気付いてはいたが、無視して瞼を押し上げる。
低重力下である事が幸いし、血液が眼球上へと伝う事は無かった。
そしてエリオは、薄らと霞む視界の中に、無数の蠢く影を見出す。

956R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2011/05/29(日) 14:44:39 ID:.jmCVDEE
「・・・蟲?」

放たれた呟き。
エリオの視界に映り込む存在について表現するならば、正しくその言葉こそが適当であった。
微細な脚部を無数に蠢かせ、高速かつ不規則な軌道を描く無数の生命体。
余りにも醜悪な外観を周囲へと見せ付けながら、巨大な顎部を打ち鳴らしつつ群れるそれら。
エリオは唐突に、その正体に気付く。

あれは、先程の敵性体だ。
自身は、致命的な反撃を誘発する敵性体頭部への攻撃を避け、目標の胴部を切断。
それでは飽き足らず、放電と推進炎による焼却までも実行した。
一連の攻撃により、敵性体群は残らず絶命したものと判断していたのだ。
甘かった。
敵性体は、生命活動を停止してなどいない。
胴部を幾箇所にも亘って切断され、それらの内の殆どを消滅させられてなお、生命活動を維持していたのだ。
そして今、敵性体群は信じ難い程におぞましい外観へと化し、自身の視界を埋め尽くしている。

「ッ・・・! 化け物が・・・!」

切断された敵性体は、絶命したのではない。
体節毎に複数の個体へと分裂し、1個の長大な個体から群体へと変態したのだ。
先程に自身が切断した敵性体、恐らくはそれらの内の殆どが。

「くそ・・・この襤褸め」

悪態を吐くと同時に右腕部に込められていた力が霧散し、エリオは身体を支え切れずに再び背を外殻上へと預けた。
見上げる彼の視線の先、切断された敵性体の一部が無数に、宛ら蜂の群れの如く密集している。
牙を有する個体、切断面から体液を撒き散らす個体、生体機能の維持限界を超えたらしく唐突に群れから遊離する個体。
既に痛覚すら麻痺した身体を横たえたまま、呆然とそれらを見つめるエリオ。
彼は自身が置かれた状況を客観的に、そして冷徹に分析していた。

自身がやれる事は、全てやり遂げた。
恐らくは他方面でも、敵性体の特性に気付いた事だろう。
これ以上にできる事は、何も無い。
キャロの事は気掛りだが、最早どうしようもないのだ。
自身の生命維持機能は、既に限界を迎えつつある。
今更、何をする程の事もない。
後の事はキャロが、彼女に賛同する者達が、上手く片付けてくれる事だろう。
考えてみれば、彼女と自身が離れる為にも、丁度良い機会だ。
このまま、意識を失ってしまえば良い。

体温が急速に失われていく事を、エリオは自身の感覚で察していた。
出血が激し過ぎる。
無数の小さな傷はともかく、四肢の内3箇所が失われているのだ。
今更、止血をしたところでどうにかなるものではないという事も、彼は既に理解していた。
幸運にも味方に発見され、AMTPへと搬入される事が在れば、或いは生き長らえる事も可能かもしれない。
だがエリオは、そんな幸運が起こる事を期待する程、楽観的な思考を有してはいなかった。
吐血混じりの激しい咳を繰り返しつつも、徐々に静かになってゆく呼吸音。
その変化を自身で認識しつつ、彼は静かに瞼を下ろす。
しかし、直後に意識へと飛び込んだ通信音声は、彼が安息の眠りに就く事を許しはしなかった。

『・・・展開を完了した。味方の姿は確認できない・・・外殻は酷く破壊されている』
『ライトニング02、我々は現状維持を?』
『こちらライトニング02。現在S-02第1予備アレイ・ハッチ、作業員運搬リフトにて移動中。外殻到達まで40秒です』

957R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2011/05/29(日) 14:45:40 ID:.jmCVDEE
途端、エリオは瞼を見開く。
開かれた視界の中に、敵性体群の影は無い。
あれ程に群れていた蟲共が、1体すら残さずに姿を消していたのだ。
軋む身体に鞭打ち、頭部を回らせて南部区画方面へと視界を向ける。
渦を巻く様に蠢き、遠ざかりつつある異形の群れ。
敵性体群、南部区画へと向け進攻中。

「・・・馬鹿な!」
『こちらデニム、了解した・・・呼び掛けに対する反応が無い。誰も居ないのか』
「何を・・・何をやって・・・!」
『誰か応答を・・・聴こえますか? こちらライトニング02、外殻の状況を・・・』

咄嗟に右腕部を動かそうとするも、それが実行される事はない。
エリオの身体は、微かに揺れ動いただけだ。
霞み始めた視界は、彼に残された時間が余りにも少ないという事実を、雄弁に物語っている。
敵性体との交戦など、望むべくもない。
だからこそ、せめて敵性体の情報を伝えようと、エリオは念話の発信と共に声を振り絞る。

ベストラ内部から新たに展開したのであろう、キャロを含む友軍部隊。
考えたくもない事ではあるが、彼等は敵性体の特性を知り得ていない可能性が在る。
光学兵器群による狙撃実行後に発生した、敵性体の拡散と自爆。
それ以降、管制室が外殻からの情報を遮断された状態に在った事は、想像に難くない。
そして状況を確認する為に、キャロを含む新たな部隊が外殻へと展開する事も、予想されて然るべき事態であった筈だ。
だがエリオは、その可能性を失念していた。
敵性体の排除に意識を傾け過ぎ、外部情報を遮断された内部の人員が如何なる行動に出るか、その予測を怠ったのだ。

「来るな・・・来るんじゃない! 敵が向かってるぞ!」
『もうすぐ外殻です・・・こちらライトニング02、外殻の状況を・・・』
「来るなと言ってるんだ! 駄目だ、戻れ!」
『外殻に到達・・・ヴォルテール?』
『散れ!』
「ライトニング! 応答してくれ、ライトニング・・・キャロ!」

通信越しに飛び込む、ヴォルテールの咆哮。
記憶の中のそれとは異なり、明らかに苦痛の色を含んでいると判る。
続いて、困惑した様に自らの守護竜の名を叫ぶキャロの声、他の隊員達の絶叫。

『くそ、何なんだ! 総員、警戒せよ! 高速飛翔体多数、完全に包囲されているぞ!』
「撃つな、撃つんじゃない! 駄目だキャロ、逃げろ! 逃げてくれ!」
『信じられん、こっちの機動に・・・』
「交戦するな、逃げろ!」
『大型敵性体、接近!』
『頭部を狙え!』
「止せぇッ!」
『撃て!』

攻撃を止めるべく、エリオは絶叫する。
だが、その叫びは届かない。
轟音とノイズ、それらを最後に途絶える通信。

「あ・・・う、あ・・・!」

零れる声は、意味を成さず。
闇により視界が閉ざされゆく中で、エリオは全てが手遅れであった事を理解する。
キャロ達は敵性体への攻撃、何としても避けるべき頭部へのそれを実行してしまったのだ。
その結果として何が起きるか、起こってしまったのか。
エリオは、身を以って知り得ている。

「キャロ・・・返事を・・・キャロ・・・!」

958R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2011/05/29(日) 14:46:39 ID:.jmCVDEE
救えなかった。
もう、手遅れなのだ。
衝撃波と異形の破片、襲い掛かるそれらの瀑布に、何もかもが呑まれて。

「畜生・・・畜生・・・ッ!」

呪いの言葉。
傷という傷から生命の証を止め処なく溢し続けながら、エリオは嗚咽と共に絶望の声を吐き続ける。
怨嗟の念を叫ぼうにも、最早それだけの力など残されてはいない。
死が、すぐ其処にまで迫っている。

「畜生・・・!」

闇に満たされゆく視界の中、虹色の光が弾けた様な気がした。
エリオはそれに対し、何ら関心を見出せない。
彼は、出来得る限りの事をやり遂げた、との納得を得たままに逝ける筈だった。
だが今や、その様な感情は欠片さえも残されてはいない。

「役立たずめ・・・!」

自身を罵倒しつつ、エリオは宙空を仰ぎ見る。
視線の遥か先、闇を引き裂く複数の白い影。
恐らくは不明戦闘機群だろうと、エリオは焦点が定まらぬ思考の片隅で推測する。
今となっては如何でも良い事と、その情報を意識の外へと押し遣らんとした、その時。
眩い2条の光線が、宙空より闇を切り裂いた。

「・・・っ!」

閃光は一瞬。
外殻の彼方、数瞬ほど遅れて噴き上がる、巨大な爆炎の壁。
約1秒後に到達した衝撃がエリオの身体を舞い上げ、続けて襲った轟音が聴覚と意識を苛む。
そのまま数十mを吹き飛ばされ、外殻上へと戻る事なく宙空を漂うエリオ。
彼の思考は既に、状況の変遷を理解していた。

奴等だ。
遂に、戻ってきたのだ。
地球軍。

先程に目にした白い影は、不明戦闘機群などではなかった。
あれは、R戦闘機だ。
不明戦闘機群の強襲により、ベストラから逃亡したR戦闘機群。
それらがバイドを、被災者達を殲滅すべく、この施設へと戻ってきたのだ。

「お終いか・・・」

無重力中を漂いつつ、エリオは瞼を下ろす。
地球軍が戻ってきてしまった以上、事態の好転など望むべくもない。
一時は状況を支配したかに思えた叛乱も、結局はバイドという強大かつ不確定な要素によって瓦解してしまった。
その後の混乱を打開する事も出来ず、しかもバイドの殲滅を旨とするR戦闘機群の襲来。
既にパイロット達にとっては、被災者の殲滅など二の次に過ぎないのかもしれない。
この場に存在するバイド生命体群の殲滅に成功したのならば、その時にはベストラなど塵も残さず消滅している事だろう。

深く息を吸い込み、ゆっくりと吐き出す。
失われた四肢からの激痛は、既にその殆どが薄らいでいた。
大量の失血に伴う、痛覚の麻痺だろう。
自身に残された時間は長くはないと、エリオは他人事の様に思考する。
そんな彼の意識へと、微かな音が飛び込んできた。
聴き慣れた魔力噴射音。
そして、エリオに残された唯一の四肢である右腕に、冷たい金属の質感が接触する。
そちらへと視線を遣り、エリオは息を呑んだ。

959R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2011/05/29(日) 14:47:31 ID:.jmCVDEE
「・・・ストラーダ?」

其処に在ったそれは、彼の相棒。
先程の衝撃によって吹き飛ばされ、主から引き離されて尚、自らの意思でエリオの許まで戻ってきたのだ。
天体内部への転送以降、度重なる違法改造を経た鈍色のそれは全体に無数の傷が刻まれてはいるものの、機能に障害は生じていない。
そして、寡黙なそのデバイスとしては極めて珍しく、ストラーダは自ら言葉を発した。

『Watch this』

その言葉と共に、エリオの傍らへと展開されるウィンドウ。
其処から更に、ベストラの立体構造図が投影される。
恐らくは、ウォンロンのシステムを介しての、超広域魔力走査。
ベストラの異常に気付いたウォンロンが、自らの危険をも顧みずに直接支援を開始したのだろう。
そして、投影されたベストラ構造図の各所、表示される無数の魔力反応。
それらは不規則に、だが極めて激しく明滅を繰り返している。
エリオは双眸を限界まで見開き、友軍の魔力反応を示す光点、青色のそれらに見入っていた。

「生存者・・・まだ、残って・・・!」
『Watch』

再度に言葉を放つストラーダ。
拡大表示される画像、外殻S-02。
新たに生存者のコールサインが複数表示される中、その見慣れた名称が在った。

「キャロ・・・!」

ライトニング02。
他1名の反応と共に高速で以って移動しつつ、周囲に無数の直射弾を放ち続ける光点。
周囲では複数の反応が高速機動と攻撃を継続しており、更にそれらの反応は徐々に同一点へと集結しつつあった。
彼等は、まだ戦い続けている。
彼女は、今この瞬間も生きて、そして戦っているのだ。
ならば自身にも、まだやるべき事が在る。

『Get up Master. Go』
「ああ・・・行こう、ストラーダ」

その言葉と共に、エリオの右手がストラーダの柄を掴む。
相棒へと呟く彼の目には最早、諦めの色は無い。
既に痛覚が麻痺している事実でさえ、今となっては好都合とすら思えた。
ストラーダのサイドブースターを作動させ、姿勢を安定状態へと推移させる。
先程まで、僅かばかり身体を動かしただけでも全身を襲っていた激痛が、嘘の様に消え失せていた。
死が近付いている事の証明かとエリオは思考するが、それでも残された右腕、そして肘部から先が失われた左腕の名残は、異常など無いかの様に軽快に動く。
脚部も同様で、大腿部のみが残された右脚、膝部以下を粉砕された左脚も、残存する部位は問題なく動かす事ができた。
独りで立つ事も、満足に物を掴む事も不可能だが、どちらの行動も無重力中では然程に必要あるまい。
身体機能の確認を終え、エリオは独り宣言する。

「ライトニング01、これより生存者救援に向かう!」

960R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2011/05/29(日) 14:48:40 ID:.jmCVDEE
爆発。
金色の魔力光が炸裂し、エリオとストラーダが雷光と化す。
光の尾を引き、魔力光の残滓を闇へと飛散させつつ、護るべき者の許へと突き進む金色の流星。
その往く手を阻む敵性体群が、雷光に触れるや否や欠片さえも残さずに消滅する。
身体、そしてリンカーコアに対するあらゆる負荷を無視し、闇を引き裂き翔けるエリオ。
微かな希望に、意識を奪われた彼は気付かない。



失われた四肢の断面からの出血が、既に止まっている事実に。
肘部が、膝部が、半ばまで再生されている事実に。
今この瞬間でさえ、リンカーコアの出力が増大している事実に。
生存者の情報を齎したウィンドウが、ウォンロンからの干渉によって展開されたものではないという事実に。



雷光の騎士にも、その相棒たる鉄槍にも気付かれる事はなく。
緩やかに、しかし確実に。
「現実」が、歪み始めていた。

*  *  *

光学兵器群による狙撃を実行した直後、管制室を襲った微かな振動。
その瞬間から、外殻との連絡は完全に途絶えた。
回復を試みはしたものの、システムは沈黙したまま。
復旧には時間が必要であると判明した際に、偵察を目的とする部隊の編成が提案された事は、実に自然な流れであった。
そして、今回の武装蜂起に於ける事実上の指揮官であるキャロもまた、自身の外殻上への展開を望んだ。

無論の事、反対の声は大きかった。
指揮官が自ら前線に出る事は、可能な限り避けるべきであると。
それらの意見に対しキャロは、今となっては自身が指揮官たるべき理由は無い、と反論した。

武装蜂起は成功し、地球人とバイドの真実は生存者のほぼ全てに知れ渡った。
自身が担うべきは其処へと至るまで、そして至った後の責任を負う事であり、生存者全体の指揮を執る事に関しては自身以上の適任者が幾らでも居る。
そして自身は竜召喚士であり、絶大な火力を有する使役竜および真竜を使役できる、現状に於いては唯一の人材である。
その火力を死蔵するべきではなく、その余裕も無い筈。
外部に如何なる脅威が存在しているかを観測できない以上、現有の最大火力で以って事態の収拾に当たるべきではないか。

そうして反対の意見を封じたキャロは、すぐさま部隊を編成し南部区画へと向かった。
S-02外殻へと通じるアレイ・ハッチ、其処へと直結する大型リフト。
外殻への移動手段として其処を選択した理由は、ヴォルテールを外殻上に展開させる為だ。
ベストラ内部に待機していたヴォルテール、それを外部へと移動させる為には巨大なハッチが必要となる。
直径90mを超える、巨大な非常用星間通信アレイアンテナ。
それを外殻上へと展開させる為の大型リフトとハッチは、正にヴォルテールの移動に最適な設備だった。
他方面については、既に16名の魔導師から成る別動隊が、W-07外殻へと向かっている。
彼等はキャロ達よりも先に外殻へと到達し、外部状況に関する報告を齎す筈であった。
更にはフリードが、キャロの命によって彼等の援護に就いている。
いずれにしても、偵察隊としては規格外の戦力だ。

アクセスラインを通じてヴォルテールを移動させ、大型物資搬入口を通じてリフトまで誘導。
アレイアンテナ未搭載のリフト上、ヴォルテールを配置。
だが此処で、予想外の問題が発生した。
リフト上に防護服を着用していない人員が存在する状態で上昇を実行すると、システム全体が強制的にシャットダウンされてしまうのだ。
アンテナからの輻射による健康被害を避ける為の措置なのだろうが、バリアジャケットを纏った魔導師達からすれば無用の措置でしかない。
仕方なく、キャロ達はヴォルテールのみを大型リフトで外殻上へと運搬させ、自身等は隣接する作業員運搬用リフトへと移動した。
幾分かは簡潔であるこちらのシステムへとオーバーライドし安全回路をキャンセル、先行して上昇中のヴォルテールを追い掛ける形で上昇。

961R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2011/05/29(日) 14:49:45 ID:.jmCVDEE
既に外殻への展開を終えた別動隊からは、味方の姿が確認できないとの報告が齎される。
キャロもまた、自身の声と念話で以って呼び掛けを行うも、ウィンドウ越しに返されるのは沈黙のみ。
最悪の事態を想像しつつも、彼女は外殻への展開を止めようとはしなかった。
止めた処で、事態が好転する訳ではない。

「もうすぐ外殻です・・・こちらライトニング02、外殻の状況を・・・」

そしてヴォルテールに遅れる事4秒、キャロ達は外殻上へと到達した。
リフトを降りエアロックへと侵入し通過、次いで外殻上へと繋がる耐爆扉を開放。
鼓膜へと突き刺さる真竜の咆哮、同時に彼女達の視界へと映り込んだそれは。

「外殻に到達・・・ヴォルテール?」



怒り狂う「右前部翼の無い」ヴォルテールの姿だった。



「散れ!」

誰かが叫ぶと同時に、キャロの身体は抱え上げられ、強制的に移動を開始していた。
回転する視界、金属の構造物を削る凄絶な異音。
何が起きているのかを理解するよりも早く、全方位へと放たれた念話が意識中へと飛び込む。

『くそ、何なんだ! 総員、警戒せよ! 高速飛翔体多数、完全に包囲されているぞ!』

其処で漸く、キャロは気付いた。
自身等の周囲、無数の「何か」が渦を巻く様にして飛び交っている。
それらは高速かつ不規則な機動で飛翔している為、その姿を鮮明に捉える事はできない。
だが、少なくとも敵性存在である事だけは確かだ。

『蟲だ、蟲共が・・・!』
『信じられん、こっちの機動に喰らい付いてくる! 』

散開した隊員達より飛び込む、緊迫した様相の念話。
彼等は、飛翔体からの攻撃を受けているらしい。
すぐさまキャロは、自らの使役する真竜へと呼び掛ける。

『ヴォルテール! 空間制圧、無制限!』

400mほど離れた地点、爆発する紅蓮の光。
ヴォルテールによる砲撃、ギオ・エルガ。
閃光が宙空を埋め尽くし、一瞬ではあるが周囲に存在する異形群の影を浮き上がらせた。

「何、これ・・・!」

多過ぎる。
砲撃の瞬間、ヴォルテールの周囲に位置していた無数の影が、魔力爆発の余波によって跡形も無く消し飛んだ。
しかし、ヴォルテールを中心とした約200m以内を除く、ほぼ全ての空間が飛翔体の影によって埋め尽くされていたのだ。
そして、断続的に鳴り響く、無数の金属音。

『来やがった!』

キャロを抱える隊員、彼が念話を発するとほぼ同時、再度に視界が激しく揺さ振られる。
急激な加速、回避行動。
慣性により上下左右へと振り回される感覚の中で、キャロは自己の内に沸き起こる焦燥を抑え込む事に必死だった。
ヴォルテールが上げる苦痛の咆哮が、彼女の内で絶え間なく響き続けているのだ。
そして、その咆哮はヴォルテールの身に起きている異常を余す処なく、詳細にキャロへと伝えていた。

962R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2011/05/29(日) 14:50:33 ID:.jmCVDEE
ヴォルテール、右前翼部喪失。
更に右脚部および左腕部切断、脱落。
直立姿勢保持不可、宙空浮遊状態へと移行。

『大型敵性体、接近!』
『頭部を狙え!』

至近距離から響く金属音の破壊音、ほぼ同時に飛び込む念話。
キャロは必死に視界を廻らせ、周囲の状況を把握せんとする。
輪郭を鮮明に捉える事はできないが、何やら蟲にも似た異形が飛び交っているらしい。
更に遠方へと目を凝らせば、薄闇の奥からはより大型の異形が接近中であると判る。
だが既に、散開した隊員達は迎撃態勢を整えていた。
そして、攻撃。

『撃て!』

直後、一切の前触れ無く襲い掛かってきた衝撃に、キャロの身体は木の葉の如く吹き飛ばされていた。
強烈な圧力により、肺の内より圧し出される空気、暗転する視界。
微かに意識へと響いた念話は、自身を抱える隊員のもの。

『畜生!』

どうやら彼は、あの衝撃の中でもキャロの身体を離す事なく、吹き飛ばされるままに回避行動へと移行したらしい。
身体に掛かる圧力の方向が、不規則かつ連続的に変化している事を認識しつつ、キャロは反射的に閉じられていた瞼を開く。
眼前、凄まじい速度で以って視界の下方へと流れゆく、外殻構造物の壁。
回避行動継続、高速飛翔中。

『今のはやばかった! 何だ、何が爆発しやがった!?』
『クリン03より全調査隊員! 誰か、無事な者は居る!?』

爆発。
意識中へと飛び込んできたその言葉に、キャロは何が起きたのかを悟る。
敵性体からの反撃、広範囲爆撃だ。

『こちらライトニング02。クリン03、敵による攻撃がどんなものだったか、分かりますか?』

キャロは、念話を発した隊員へと問い掛ける。
彼女の位置からは、反撃の詳細が掴めなかったのだ。
しかしながら、ある程度の予想は付いていた。

『ライトニング02、これは自爆攻撃です! 敵は攻撃を受けた直後に外殻へ突入、爆発しました!』

そして報告の内容は、彼女の予想と殆ど違わぬもの。
では、起爆条件は何か。
直前までの情報を纏めつつ、総数16もの高速並列思考によって、キャロは瞬く間に解へと辿り着く。

『起爆条件は、頭部への被弾である可能性が高いですね』
『恐らくは。大型の敵性体は、生体機雷の様な役割を果たしているのでしょう』
『待て、小型の奴と大型の奴は、同類じゃないのか? 全長が異なるだけで、外観もそれ以外のサイズも殆ど同じ・・・』
『前方、敵性体14!』

念話を交わしつつ、進路上に敵性体を確認したキャロ。
咄嗟にウイングシューターを放ち、敵性体の撹乱を試みる。
しかし、彼女の意思の下に放たれた直射弾幕は、当人の想定をも超えた閃光の瀑布となって敵性体を呑み込んだ。
小型敵性体14、殲滅。
自らが為した事ながら、俄には信じ難い光景に唖然とするキャロ。
霧散してゆく魔力残滓の中心を貫いて飛翔した後、確認の意味を込めて念話を発する。

『また、出力が増大している・・・何処まで上がるの?』
『有り難い事じゃないか、バイドの仕業でなければ』

963R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2011/05/29(日) 14:51:26 ID:.jmCVDEE
念話を返しつつ、キャロを抱える隊員が更に飛翔速度を上げた。
外殻壁面が視界中を流れゆく速度が増し、自身等を覆う対風圧障壁が更に堅固となった事を実感するキャロ。
そんな彼女の意識に、自身の守護竜と使役竜からの念話が飛び込む。
ヴォルテール、部位欠損の重大損傷を受けるも、戦闘継続に問題なし。
フリードリヒ、友軍と連携し周囲の敵性体を殲滅中。
そうして念話を交わす間にも、多方面から次々に報告が飛び込んで来る。

『やっぱりだ、小さい奴は起爆しない。自爆するのは大型だけだ』
『ニンバニより総員、緊急! ウォンロンが此方の事態に気付いた! 不明戦闘機群の増援と合流、ベストラへ急行中!』
『良い知らせだ、気付いてくれたか!』
『こちらメレディン02、生存者との合流に成功しました。総数17名、現在は敵性体群と交戦中です』
『ボルジア、負傷者を収容した。現在、最寄りのハッチへ向かっている。此処に来るまでにも、幾つかのグループと遭遇した』
『良いぞ、生存者の数は予想より遥かに多い。大多数が爆発から逃れている』

遠方、巨大な魔力爆発。
ヴォルテールが再び、ギオ・エルガを放ったのだ。
闇の中、照らし出される敵性体群の影。
周囲に群がりつつある無数の小型敵性体を確認し、キャロは直射弾幕を間断無く展開し続ける。
その間にも乱れ飛ぶ、無数の念話。
並列思考の半数を念話の傍受、そして分析思考へと傾けつつ、キャロは戦闘を継続する。

だが、それらの論理的思考とは別に、どうしても削除できない感情的思考が在った。
ともすれば、他の並列思考をも喰い尽くしかねない、半ば制御下を離れつつある思考。
キャロは冷静を装いつつも、しかし全霊を以ってしてその思考を抑え付けていた。
暴走させてはならない、そんな事を考えている暇は無い、現状でそんな思考を持つ事に意味は無いのだと、必死に自身へと言い聞かせる。
だが、唐突に飛び込んできた1つの念話が、そんな彼女の努力をいとも容易く打ち砕いた。

『第1層上部外殻、生存者と合流。爆発の直前まで同地点に居た、ライトニング01の消息が不明との事だ』

瞬間、キャロの意識を支配した思考は、唯ひとつ。
エリオ・モンディアル。
自身にとって最大の理解者、唯1人のパートナー。
何物にも代えられず、他の何よりも大切な存在。
彼は無事なのか、生きているのか。

「ライトニングは・・・!」

思わず口を突いて出そうになった言葉、それを強引に中断し呑み込むキャロ。
辛うじて、周囲から敵性体の影が消えた事を確認すると、彼女は我知らず俯いて唇を噛み締める。
微かに震える、固く握られた小さな拳。

キャロとて、疾うに理解している。
エリオは、彼女のパートナーであった少年は、その言葉が発せられる事を望んではいない。
彼女が彼の身を案じる事など、欠片も願ってはいないのだ。
否、或いは心の内で、それを望んでいてくれるのかもしれない。
だが、少なくとも表面的にはそれを窺わせず、更には彼の身を案じるキャロに対して憤りを、それ以上に不快感を抱くのだろうと。
彼女は、そう確信していた。

スプールスを襲った、バイド生命体種子の落着に端を発する悪夢。
醜悪な汚染生命体へと成り果てたタントとミラ、そして彼等の子供、未だ胎児であったそれを含む3人。
彼等であったものを殺めた彼に対し、理不尽な恨みと憤りを抱き、歩み寄る事を拒んだのは自身だ。
一方的に距離を置き、道を分かったのも自身である。
それでも彼は、自身への批難は疎か、弁解さえもしなかった。
自身が突き付けた心無い無言の拒絶を、ただ静かに受け入れたのだ。
そうして、漸く自身の間違いに気付いた時には、既に2人の間には歩み寄りなど望むべくもない距離が存在していた。
歩み寄ろうと試みる自身を、今度は彼の方から拒み始めたのだ。

964R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2011/05/29(日) 14:52:17 ID:.jmCVDEE
分かっている。
彼が自身の心を気遣う余り、傷付けまいとして距離を置こうとしている事も。
恐らくはタントとミラ、更にその子供を殺めたとの自責から、自身と距離を置こうとしている事も。
武装蜂起直前にセインへと語った通り、彼は此方への配慮と自責の念に基き、更に自身から離れてゆく事だろう。
以前の様に共に歩む事など決して望みはせず、自身とは完全に異なる道を選択し歩んでゆくのだ。
分たれた線は、二度と交わりはしない。
交わる事すら、望んではいないのだ。
一方の線がそれを望んでも、残る一方はより離れる事をこそ望んでいるのだから。

『・・・生存者の探索を続行。大型敵性体に対しては、範囲殲滅型の攻撃のみで対処を』

だからキャロは、彼の名を呼ばなかった。
彼がそれを望まない、望んではいけないと考えているからこそ、呼ばないのだ。
キャロの為であれ、或いは彼自身の為であれ、それが彼の選択であるからこそ尊重する。
彼女にとって他の何物よりも彼が大切であるからこそ、彼女と離れる事を選んだ彼の意思を尊重するのだ。

パートナーとして、或いは家族として。
そして、彼に対して好意を寄せ、叶うならば未来を共に歩みたいとまで望んでいた、最も近しい異性として。
彼が何よりも救いを必要としていた時期、自身にはできる事が、すべき事が幾つも在った筈だ。
それにも拘らず彼を避け、その心を癒すどころか引き裂いてしまった自身に、彼の選択を批難する権利など在りはしない。
どれ程までに狂おしく想おうとも、自身が彼の傍に寄り添う事はできない。
それは決して叶わない望み、それ以前に許される事のない望みなのだ。

エリオが、自身に望んでいる事。
それはパートナーとして共にある事ではなく、有能な指揮官として状況の推移を掌握し続ける事だ。
生存者を導く者として、敵対勢力に損害を与える者として。
エリオは自身に、有能な「機構」たれと望んでいるのだ。
それ以外には、何も必要ない。
必要とされてはならない。
彼の本意がどうであろうとも、自身は「それ以上」を望んではならないのだ。
そんな事を望む権利は疾うに、自ら放棄してしまったのだから。

『良いのか?』
『何がです。それより周囲を警戒して下さい。敵性体は、まだ残存しています』

キャロを抱える隊員、彼が気遣う様に放した念話。
彼女は即座に、それを刎ね付ける。
その思考に迷いは、既に存在しない。

『ヴォルテールを、敵性体の密集地に移動させます。各員、周囲の状況を確認後・・・』
『逃げろ!』

それは、突然の事だった。
キャロの念話は、味方の発したそれによって遮られ、次いで閃光と衝撃が全身を襲う。
全身が硬い物質に叩き付けられる感覚、激しく揺さ振られる脳と臓器。
数瞬ほど意識が闇へと沈み、次いで覚醒する。
何も見えず、何も聴こえない。
だが、全身を襲う激痛と共に回復した感覚から、自身が中空を漂っている事だけは理解できた。
視覚および聴覚、未だ回復せず。

『誰か・・・おい、誰か! 聴こえるか? 今の爆発を見たか!?』
『ミサイルだ、今のはミサイルだぞ! ウォンロンのじゃない、速度が速過ぎる! 敵性高速誘導弾、S-04に着弾!』
『E-08、レーザーの連続照射を受けている! 現時点で東側外殻の47%が融解、爆発!』

飛び込む念話、加速する思考。
回復しつつある視界の機能を確かめつつ、キャロは現状の把握に努める。
バイドの新手が出現したのか、或いは。

『バイドじゃない、地球軍だ! R戦闘機を視認した! R-11Sだ!』
『有機構造体、爆発炎上中! ヤタガラスです! R-9Sk2 DOMINIONS、確認!』

965R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2011/05/29(日) 14:53:28 ID:.jmCVDEE
地球軍。
その名称を認識すると同時、全ての感覚機能が正常化される。
再び、全身を襲う激痛。
身体を見下ろせば、バリアジャケットの其処彼処が赤く染まっている。

そして彼女の胴部、抱え込む様にして回された右腕。
バリアジャケットの一部を掴む掌から上部へと視線を辿らせれば、その先には上腕部の断面が露となっていた。
恐らくは先程の衝撃によって、キャロを抱えていた隊員の腕部が千切れてしまったのだろう。

鮮血を噴き出す腕部の断面を、暫し呆然と見つめるキャロ。
次いで彼女は、何時の間にか自身の傍らへと展開されていたウィンドウ、その存在に気付いた。
反射的に目を凝らせば、視界を通じて飛び込んでくる生存者の位置情報。
恐らくはウォンロンから直接、ケリュケイオンへと干渉し表示されたものだ。

生存者を示す無数の光点、そしてコールサイン。
それらの内、自身を抱えていた人物のバイタルが健在である事を確認し、キャロは知らず安堵の息を吐いた。
しかし直後、別の疑問と焦燥が彼女の思考を支配する。
1度は完全に抑制した筈のそれ。
未だ燻り続け、ともすれば容易く燃え上がる感情。
それに流されるがまま、キャロはその言葉を口にせんとして。

「エリオ君・・・ライトニング01は・・・ッ!?」

直後、キャロの身体は紙の如く吹き飛ばされた。
彼女の華奢な身体に掛かる、明らかに負荷限界を超えた風圧、そして遠心力。
突然の事態に思考が停止するも、視界の端に映り込んだ光景がそのまま記憶へと焼き付く。
青白い閃光の爆発、恐らくはR戦闘機の波動砲による砲撃。
キャロは、その砲撃の余波を受けたのだ。
そうして数秒、或いは後十秒後。
飛翔魔法により漸く身体の回転が収まった頃、キャロの身体は其処彼処に深刻な損傷を負っていた。

右上腕部、感覚麻痺。
胸部に鈍痛、呼吸困難。
咳込むと同時に口部へと当てた掌には、瞬く間に鮮血が溢れ返る。
臓器損傷、それもかなり深刻な度合いらしい。
折れた肋骨が、肺に突き刺さっている可能性が高い。

「は・・・あ、が・・・!」

言葉を口にしようとするも、声を出す事ができない。
そればかりか呼吸を繰り返す度、徐々に胸部が内側より圧迫されてきている。
間違い無い。
肺に開いた穴から空気が胸腔内へと漏れ出し、他の臓器を圧迫しているのだ。
緊急性気胸。

再び咳込むキャロ。
その際の苦しさは、先程の比ではなかった。
呼吸ができない。
喉の奥から血が溢れ、赤黒い飛沫となって無重力中へと吐き出される。
苦しさの余り、何時しかキャロの双眸からは、涙が止め処なく零れていた。

明確に迫り来る、死という終焉。
だが状況は、彼女がショック死するまでに要する僅かな時間、それすらも与えてはくれなかった。
閃光に照らし出される闇の奥、群れを成し渦と化した、数十体もの小型敵性体の影が浮かび上がる。
巨大な挽肉機と化したそれが、キャロを呑み込むべく徐々に迫っていたのだ。
彼女はしかし、十数秒後には自身を微塵と化すであろう刃の壁を、回避する素振りすら無く諦観と共に見詰めていた。
キャロは冷徹に、回避の為の行動を起こすには、既に手遅れであると判断。
飛翔速度は負傷により大幅に減ぜられ、縦しんば回避を実行したとしても、敵性体群は軌道を僅かに修正するだけで事足りる。
逃れる術など、もう残されてはいない。

966R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2011/05/29(日) 14:54:18 ID:.jmCVDEE
「エリオ、君・・・」

期待に、応えられなかった。
共に在る事が許されないのならば、せめて期待された役目は果たさねばと誓っていた。
なのに、それさえも果たせなかった。
何処までも惨めで、無意味で、愚かしい。
笑える程に滑稽な最期だ。
パートナーに対する裏切者には、相応しい終わり方かもしれない。

でも、これだけは。
せめてこれだけは、祈らせて欲しい。
大切な人に全てを押し付けてしまった、馬鹿な自分に残された、たった1つの願い。

どうか、幸せになって欲しい。
全てが終わったならば、役立たずの事など忘れて。
今度こそ、本当に信頼できるパートナーと共に。
そして、出来得るならば直接、自らの口で伝えたかった言葉。

「ごめんね・・・」

眼前まで迫った、敵性体群の渦。
キャロは咳込みながらも、静かに瞼を下ろす。
そして衝撃、閉ざされた視界の内に白い光、次いで雷鳴の様な轟音。
自身が吹き飛ばされている事を実感し、考えていた程のものではないな、と訝しく思うキャロ。
身体は、まだ激しく揺さ振られている。
だが、胸部と背面に何かが触れている事を感じ取れた。
知らず安堵を覚える温かさを備えたそれは、宛ら人の身体であるかの様に感じられた。
流れ出た血液の温度を誤認しているのかと、キャロは僅かに瞼を押し上げる。

「・・・え?」

そして、開かれた視界に映り込んだもの。
見慣れたバリアジャケットの肩口、鮮血に塗れ、黄金色の魔力残滓を纏ったそれ。
自身が目にしているものを信じられず、キャロは驚愕に目を瞠った。
同時に、心底より湧き上がる仄かな期待と、それを遥かに上回る恐怖。
相反する2つの思考が、彼女の意識内で鬩ぎ合う。

これは、きっと彼だ。
本当に、そうなのだろうか。
このバリアジャケット、間違いない。
彼が来る筈がない。
来てくれた、嬉しい。
共に在る事など許されないと、そう自身に誓った癖に。
もう一度、最期にもう一度だけ、彼の顔を。
止めろ、見るな、もし彼でなかったら。

「キャロ」

その声が聴覚へと飛び込んだ瞬間、其処が限界だった。
堪え切れず、キャロは顔を上げる。
果たして其処には、此方を見下ろすエリオの顔が在った。
声にもならぬ震えた吐息を漏らすキャロに、エリオは感情に乏しい眼差しを向けている。
そして、続く言葉は。

967R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2011/05/29(日) 14:55:40 ID:.jmCVDEE
「ごめん」



直後、キャロの胸部には、ストラーダの矛先が突き立てられていた。



「エリオ・・・」
「ごめん、キャロ」

軽い衝撃、そして胸部から拡がる鈍い痛み、鉄の臭い。
だがキャロは、安堵と共にエリオの名を呼び、その顔に淡い笑みを浮かべる。
同時に彼女は、エリオが満身創痍としか形容できない、余りにも凄惨な傷を負っている事に気付いていた。
左右の脚部が半ばから切断、或いは原形すら残さずに破壊されている。
背面に回されている左腕も、感触からするに半ばより先が失われているのだろう。
それに気付いたからこそ、彼の行動を僅かな疑問すら無く受け入れる事ができたのだ。

エリオは、これ程までに傷付きながらも、自らの任務を放棄しなかった。
なのに、自身は役目を果たせず、こんな処で死の淵に瀕している。
そんな役立たずは、必要無いという事だろう。
否、彼の事であるから表層は兎も角として、内心はそうではないだろう。
恐らくは此方を放っておけず、しかし救う手段も無い事から、せめて苦しまずに逝かせるべきと考えたのかもしれない。
どちらにせよ、有り難い事だ。
バイドや地球軍に殺される事に比べれば、何と幸せな最期だろうか。
どうせ、数分の内に消える生命なのだ。
報いを受けられた事は、望外の幸運である。
このまま、意識を閉じて、そのまま。

「もう大丈夫」

エリオの声。
ふと、キャロは違和感を覚えた。
胸腔内部より生じていた圧迫感が、唐突に消え失せたのだ。
胸部の鈍痛こそ残ってはいるものの、既に呼吸の際に伴う苦痛は大分に薄れている。

「・・・手荒なやり方でごめん。ストラーダで胸部穿孔をやったんだ。大丈夫、臓器は外してる・・・素人治療だけど、他に方法が無かったから」
「何で・・・」
「喋らないで、まだ胸に穴が開いてる・・・小指くらいの。医療魔法で、傷を塞いで。今なら瞬きする間に治る」

エリオの言葉に従い、霞み掛かった意識ながらも医療魔法を発動させるキャロ。
但し、医療対象は自身ではなかった。
彼女が対象と定めた存在は、満身創痍のエリオ。
キャロは自身の治療よりも、エリオの負傷を癒す事を優先したのだ。
だが、その結果は全く予想外のものとなった。

「あ・・・」
「凄いな」

エリオ単体に対して発動した筈の医療用結界が、完全に2人の周囲を覆ってしまったのだ。
結果、完治はしないまでも、急速に癒えてゆく双方の身体。
やはり、異常な治癒速度だ。
数秒の内に胸部の鈍痛、そして違和感までもが消え去り、全身の細かな傷までもが忽ちの内に癒える。
リンカーコアの出力が増大している、それだけでは説明の付かぬ現象だ。
だが、如何なる理由であろうと、身体の違和感が大幅に減じた事だけは確かである。
微かに咳込み、口許の血を拭うと、キャロは改めてエリオを見やる。
自然と零れる、疑問の言葉。

「どうして・・・此処に?」
「管制室との連絡が途絶えてから、外部の状況が其方に伝わっていない可能性を考えたんだ。あの敵性体の情報も伝える必要が在る、と思ったんだけど」

968R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2011/05/29(日) 14:56:56 ID:.jmCVDEE
エリオは言葉を切り、視線を上げる。
つられて彼と同じ方向を見やれば、闇の彼方に浮かび上がるベストラの外殻。
闇の中で巨大構造物を照らし出す光源は、外殻の至る箇所より撃ち上げられる直射弾と魔導砲撃、更には無数の質量兵器群が放つ砲火、そして無数の爆発。
その中でも一際巨大な紅蓮の閃光は、ヴォルテールが放つギオ・エルガだ。

だが直後、外殻から幾分手前の空間で、紫電の光が爆発する。
衝撃、そして防音結界が意味を成さない程の轟音。
エリオがストラーダによる姿勢維持を行っている為か、2人は僅かな距離を吹き飛ばされる程度で済んだ。
再度に視線を向けた外殻上では、撃ち上げられる攻撃の密度が明らかに低下している。
先程の閃光、恐らくは波動砲による砲撃であろうが、外殻を狙ったものではなかったらしい。
しかし、その余波は外殻上に展開する此方の戦力、それらを害するには十二分なものであったのだろう。
直接的に狙われたのであろう敵性体群は、文字通り塵すらも残されてはいまい。

「思い上がりだったみたいだ。これ以上なく上手くやっているよ・・・地球軍さえ出てこなければ、もっと良かったんだけど」
「どうして?」
「だから、情報を・・・」
「どうして・・・?」

其処で漸く、エリオも気付いたのだろう。
キャロが、今にも泣き出しそうな表情をしている事に。
余程に想定外の事であったのか、戸惑いの表情を浮かべるエリオ。
だがキャロには最早、彼の動揺を気遣うだけの余裕は無かった。

どうして、来てしまったのだ。
共に在れないから、傍には居られないから、自らの意思で歩み寄る事を諦めたというのに。
どれ程に望んでも叶わぬ願いだから、二度と陽の当たらぬ奥底へ封じ込めてしまおうと思っていたのに。
彼と共に在れない事を考えるだけで、彼の心を踏み躙ってしまった事を思い出すだけで。
それだけで、死んでしまいたいとまで思った事すら在るけれど。
それでも、如何なる形であれ、彼が自身に生きる事を望んでいるのだから。
せめて、彼の望むキャロ・ル・ルシエとして。
自身の生命すら秤に掛ける事のできる、優秀で冷徹な指揮官であろうと誓ったのに。

「キャロ・・・?」
「どうして・・・っ!」

今なら、間に合う。
一言、たった一言。
自身が望む言葉を、言ってくれるだけで良い。
否、同じ意味なら、どんな言葉でも良い。
指揮を執れ、味方と合流しろ、竜達を動かせ、迎撃を続行しろ。
此処に居るな、戦場に向かえ。
そう言ってくれれば、1人でも戦える。
彼がそう言ってくれるのならば、たった独りでも歩んでいける。
彼が、そう願うのならば。

「どうしてッ!」
「キャロ」

969R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2011/05/29(日) 14:58:12 ID:.jmCVDEE
頭頂部に置かれる手。
エリオの右手だ。
思わず言葉を止めるキャロの目前、困った様な笑みを浮かべているエリオ。
そして、彼が告げた言葉。



「間に合って、良かった」



滲み、ぼやけるエリオの顔。
もう、耐えられなかった。
大粒の涙が頬を伝い、零れ落ちている事を感じながら、キャロは声を上げて泣く。
戦場の直中に在りながら、周囲は異様なまでに静かに感じられた。
無数の閃光が爆発し、リンカーコアに異常な負荷が掛かる程の魔力の余波を感じ取りながらも、それら全てが存在しないかの様に泣き続ける。
自身が何かを叫んでいる様にも思えたが、如何なる言葉を紡いでいるのかは当のキャロにも分からない。
ただ、胸中に渦巻いていたあらゆる感情、その全てをぶつけているのだという事だけは理解していた。

エリオは、何も言わない。
彼は無言のまま、自身の胸に顔を埋めて叫び続けるキャロ、その髪を撫ぜ続けていた。
何時かのスプールス、タントやミラと共に過ごした優しい時間。
その時に触れたものと寸分違わぬ、優しい手。
だからこそキャロは、更に声を上げて叫び続ける。
彼の表情、彼の目、彼の言葉、彼の声。
其処に込められた真意を理解してしまったからこそ、更に増す涙と共に泣き続ける。

彼は、自身が指揮官である事など、望んではいない。
殺し合いの直中に身を置く事など、望んではいないのだ。
彼が望んでいる事は、余りにも優しく、しかし余りにも残酷な事。

生きていて欲しい。
それがキャロに対する、エリオの願い。
出来得るならば戦いの場を離れて、幸福に生きて欲しい。
何ともありふれた、しかし如何にも彼らしい、優しく温かい願い。
何時か2人が共に願った、何時か未来に訪れるであろう日々を想う、幸せな祈り。
嘗てと同じそれを、彼は今も願い続けていてくれたのだと、キャロは悟った。
だが、その願いは優しくも、同時に最も残酷な形へと変貌を遂げていたのだ。

エリオが思い描く、自身の幸福。
その傍には、彼が居ない。
彼の存在が、何処にも無いのだ。
此方の幸せを願いながら、その隣に彼自身が寄り添う事など有り得ないと、そう結論付けてしまっている。
それが、此方を疎ましく思っての結論ならば、どれ程に救われた事か。
此方を見やる、彼の目。
その眼差しは嘗てと何ら変わり無く、未だに自身を、護るべき人、大切な人として捉えているそれ。
それ程に此方を想ってくれている癖に、此方が彼を想っている事すら知っている癖に。
彼を傷付けてしまった事を悔いている事にさえ、疾うに気付いている癖に。

彼は、それを受け入れられない。
彼は、恐れている。
共に在る事を受け入れてしまえば、二度と槍を振るう事など出来ぬと。
タントやミラ、その子供の生命を奪いながら、それを悔いる事も出来ぬ自身。
家族同然であった人々の死を悼む事すらできぬ自身が、大切な人の想いを受け入れる事が出来ようか。
縦しんば想いを受け入れ、自身が彼等の生命を奪った事を悔いてしまったならば、それ以後に槍を振るう事など出来る訳がない。
そうなれば自身は、間違い無く過去の罪に押し潰される。
自身の槍を振るい、大切な人を護る事すら出来なくなる。
その恐怖に、彼は全霊を以って抗っているのだ。

970R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2011/05/29(日) 14:59:48 ID:.jmCVDEE
だからこそ、彼は。
護る為に。
只管に、護る為に。
「キャロ・ル・ルシエ」を護る槍、それを振るい続ける意思を失わないが為に。
「エリオ・モンディアル」はいずれ、自分の傍から消える心算なのだ。

「・・・ごめんね、キャロ」

優しい声。
これまでの距離を埋めようとするかの様に、キャロはエリオの胸で泣き続ける。
不思議と彼女には、今のエリオの胸中が我がものであるかの様に理解できた。
そして同時に、エリオもまた自身の心を覗いているのだと、そう確信している。
理由は解らないが、知ろうとも思わない。

離れていた心は繋がった。
だが、其処に浮き彫りとなったものは、決して共に歩む事の出来ぬ未来だけ。
2人が離れる未来を、エリオは納得尽くで受け入れているのだ。
だが、キャロはそうではない。
納得などしておらず、する心算もない。
2人の想いは、擦れ違ってなどいないのだ。
ならば何故、離れなければならないというのだ。
そんな答えなど、納得できる筈がない。

だからこそ、彼女は誓う。
波動粒子にも似た青い光の粒子が舞い踊る中、言葉にならない嗚咽を零しながらも、涙に濡れた目で以ってエリオを睨み据えるキャロ。
そうして、驚いた様な表情を浮かべる彼に向かい、宣言する。
声と、念話と、繋がった心と。
それら全てで以って「宣戦布告」を行うのだ。

「槍なんて振るわなくていい! 護る事だってしなくていい! ただ傍に居てくれれば、それだけでいい!」
「キャロ・・・?」
「エリオ君は何も悪くない! タントさんやミラさんの事だって、誰の所為でもない! 何もかもみんな、あの星と管理世界から始まった事なのに! ずっと未来の、まだ生まれてもいない人達から始まった事なのに!」
「キャロ、落ち着いて・・・!」
『離れなきゃ護れないのなら、護らなくていい! そんな幸せ要らない! 貴方を傷付けながら生きて往くくらいなら、此処で死んでしまった方がいい!』

双方の声は次第に、音とは異なるものへと変貌してゆく。
だがキャロは、気付かない。
熱に浮かされた様に叫び続ける彼女は、周囲の空間そのものが歪み始めた事ですら、知覚の外へと追い遣っている。
急激に高まる、空間中の魔力密度。
火花の如く弾ける、青い魔力素の光。

『そうでなければ駄目なの!? 誰かが戦わなければ、他の誰かが幸せになる事すら許されないの!?』
『キャロ、止めるんだ!』
『そんな世界なんて要らない! 誰かが不幸にならなきゃ存続できない世界なんて、護りたくない! そんな世界、私は絶対に認めない! そんな、そんな・・・!』

其処で、何かに気付いたのだろう。
エリオは、その表情に焦燥の色を浮かべ「両手」でキャロの肩を掴んだ。
彼が目にしている光景、それはキャロにも「伝わって」いた。
彼の視覚が、聴覚が、意識が。
余りにも鮮明に、宛ら我がものであるかの如く、キャロの意思へと投影されている。

より広範囲に亘り可視化する空間の歪み、キャロの周囲へと集束する青い光の粒子。
何らかのエネルギーが、彼女を中心として集束を始めていた。
周囲を埋め尽くす、青白い光。
その光景は、余りにも似過ぎている。
波動砲、波動粒子の集束。
此処だけでなく、背後のベストラ外殻上、その其処彼処でも同様の現象が起こっているらしい。
外殻上の数十ヶ所で、青白い光が膨れ上がっている。
異常な光景を視界へと捉え、驚愕と焦燥の念を抱くエリオ。
そしてキャロもまた、エリオの意識を通じて、その光景を認識していた。

971R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2011/05/29(日) 15:01:28 ID:.jmCVDEE
それでも、彼女の言葉は止まらない。
彼女の「願い」は止まらない。
そして、極限まで圧縮された魔力素、無数の青い魔力球が周囲の空間を埋め尽くした、その瞬間。



『そんな世界、壊れてしまえばいい!』



閃光と共に、世界が「壊れた」。

*  *  *

閃光と共に消滅する、ドブケラドプスの幼体。
自身の背後に位置していたその個体は、遠方より放たれた直射魔導砲撃の直撃を受け、僅かな塵すら残さずに消失したのだ。
光条が消え去った後、残されたものは僅かに漂う魔力素の粒子のみ。
僅か1秒にも満たぬ事態の推移を、彼女は咄嗟に背後へと振り返ろうとした姿勢のまま、呆然と見つめていた。

『・・・大丈夫だったか?』

意識へと飛び込む念話。
砲撃を放った魔導師からのものだ。
此方を気遣いつつも何処かしら戸惑いの色を含んだそれに、彼女もまた若干の混乱を滲ませた念話で以って返す。
ただ、その内容は問い掛けに対する返答ではなく、相手に対する新たな問い掛けだった。

『どうやって、気付いた?』

それが彼女、ヴィータの脳裏に浮かんだ疑問。
急激な魔力出力の上昇、それに伴う一時的な感覚の混乱。
その現象は、彼女に致命的な隙を生じさせるには、十分に過ぎるものであった。
そうでなくとも、ベルカ式魔法の使い手であるヴィータは、高速にて飛翔する小型敵性体群への対処に手間取っていたのである。
僅かな集中の乱れは、遂に最悪の事態を招いてしまったのだ。

背後、排水口が詰まった際のものにも似た、不快な異音。
頭部を廻らせ、視界の端にそれを捉えた時には、既に事態は手遅れだった。
ドブケラドプス幼体、背後に占位、砲撃態勢。

しかし、極強酸性体液の奔流が、ヴィータを襲う事はなかった。
突如として空間を貫いた、直射魔導砲撃。
なのはのディバインバスターにも匹敵するそれが2発、僅かに数瞬の差異を以って飛来したのだ。
幼体は先ず下半身を、次いで残された上半身を消し飛ばされて消滅。
そうして、ヴィータは砲撃が飛来した彼方へと視線を遣り、今に至る。

気付く筈がないのだ。
ヴィータは念話を発しつつ戦闘を行っていた訳ではなく、咄嗟に援護を求める事など不可能であった。
そして、周囲の其処彼処で戦闘が行われてはいたものの、混乱の中で味方との連携など保たれてはいなかった。
偶然にヴィータの危機を目にしたのだとしても、それこそ彼女と殆ど同時に敵性体の存在に気付かなければ、あのタイミングでの砲撃など不可能である筈だ。

だが、彼は気付いた。
信じ難い事ではあるが、彼はヴィータとほぼ同時に敵性体の存在を察知し、反射的に砲撃を放つ事で彼女を危機的状況より救い出したのだ。
本来であれば、戦闘の最中に起こった幸運な偶然で片付けられる、その程度の出来事。
しかし、それが決して偶然などではない事に、ヴィータは気付いていた。

『お前、さっき「避けろ」って言ったか?』
『アンタ「ヤバい」って叫ばなかったか?』

972R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2011/05/29(日) 15:02:35 ID:.jmCVDEE
双方より同時に発せられる問い。
その内容に、ヴィータは独り納得すると同時、驚愕を覚える。
やはり、気の所為などではなかった。
砲撃の主はヴィータの意識を読み、ヴィータもまた相手の意識を読み取っていたのだ。

『何だ、こいつは。念話の術式が暴走でもしたか?』
『そんなの聞いた事も無い。やっぱり、この青い魔力素が原因か』

念話を交わしつつ、ヴィータは周囲へと視線を奔らせる。
自身の周囲へと纏わり付く、青白い光を放つ魔力素の粒子。
何時からか身体へと帯び始め、次第に密度を増しゆくそれに対し、しかし何故か警戒感を抱く気にはなれなかった。
それどころか、密度が高まるにつれリンカーコアの魔力出力は更に増大し、更には全身の傷までもが癒え始めたのだ。

『本当に何なんだ、コレ・・・リンカーコアの出力増大も、ひょっとしてコイツが原因なのか』
『知るか、そんな事。大体、悪影響どころかこっちが有利に・・・敵機、接近!』

瞬間、またしても混濁した意識中に映り込む、白い機体の影。
「R-11S TROPICAL ANGEL」
ランツクネヒトの機体、ヴィータの背後から突進してくる。

「くそッ!」

悪態をひとつ、反射的に飛翔魔法を発動、瞬時に20m程を移動し衝突を回避するヴィータ。
巨大な風切り音と共に、宙空を突き抜けてゆくR戦闘機。
ヴィータは衝撃に吹き飛ばされながらも、咄嗟に鉄球を構築しグラーフアイゼンを叩き付ける。
シュワルベフリーゲン。
常ならば4個までである鉄球の同時構築数は、瞬間的な生成にも拘らず30を優に超えていた。
それらの鉄球はハンマーヘッドが打ち付けられるや否や、ライフル弾の如き速度で射出されR戦闘機を追う。

R戦闘機群の機動は、妙に鈍い。
真相は定かではないが、何らかの制約が掛かっているかの様に、以前の常軌を逸した機動性が鳴りを潜めている。
しかし、如何にR戦闘機群の機動性が異様なまでに落ち込んでいるとはいえ、鉄球の速度はR-11Sへと追い縋るまでには到らない。
瞬間的に亜光速へと達するような異常極まる機動こそ行わないものの、閉所ですら音速の数倍で飛行可能という信じ難い速度性は未だに健在なのだ。
鉄球が苦も無く引き離され、瞬く間に振り切られた事を確認するや否や、再度ヴィータは悪態を吐いた。

「くそったれ!」
『諦めろ。あれを撃ち墜とすには最低でも極超音速クラスのミサイルを用意するか、さもなきゃクラナガンみたいに砲撃魔法の乱れ撃ちでもするしかないぜ』
「じゃあやれよ! お前も砲撃魔導師だろうが!」
『たった1人で乱射なんぞできるか。こっちは機械じゃないんだ、タイミングを合わせるのだって一苦労なんだぞ』
「だからって・・・ああ、クソ!」

またもや、闇の彼方に白い影。
防音結界をも無効果する程の轟音が周囲を埋め尽くし、至る箇所で波動粒子と魔力素の青い光が爆発、明滅を繰り返している。
どうやらR戦闘機群は有機構造体の奥より押し寄せる無数のバイド生命体群を殲滅しつつ、折を見てベストラへと攻撃を加えているらしい。
詰まる所、此方との交戦は片手間で事足りると判断されているのだ。
その事実が、ヴィータには面白くない。

「畜生どもめ・・・」

忌々しげに呟き、自身の頭部を上回る大きさの鉄球を構築する。
コメートフリーゲン。
炸裂型の大型鉄球を打ち出し、制圧攻撃を行う中距離射撃魔法。
だが、嘗てはあらゆる敵に対し暴威を振るったこの魔法も、R戦闘機が相手では分が悪い。
幾らリンカーコアが強化されていようとも炸裂範囲の拡大には限界が在り、それこそ超高速性と高機動性の双方を有するR戦闘機群に対しては、半ば運任せで起爆する以外には運用の手立てなど無いだろう。

「もっと派手に吹っ飛ばせりゃあ・・・」

知らず、零れる呟き。
更なる爆発力、効果範囲が欲しい。
巨大な、それこそ空間を埋め尽くすほどの爆発を起こせるのならば、撃墜には到らずとも1機か2機の敵機に損害は与えられるだろうに。

973R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2011/05/29(日) 15:04:32 ID:.jmCVDEE
「え・・・?」

瞬間、自身の周囲、膨大な量の魔力が集束する感覚。
突然に襲い掛かった異常な感覚に驚き、ヴィータは周囲を見回す。
何も変わりは無い、阿鼻叫喚の戦場。
今の感覚は何だったのかと、視線を正面へと戻す。

「何だ・・・」

それは、気の所為であったのか。
宙空に浮かぶ鉄球、自身が生成したそれが、青白く発光していた様に見えたのだ。
しかし、それも一瞬の事。
幾ら凝視しても、其処には何の変哲もない黒々とした鉄球が浮かんでいるだけだ。

「まさか、だよな・・・?」

恐る恐る、自らが生み出した鉄球へと触れる。
冷たい。
その単なる鉄球からは、自身が込めたそれ以外には魔力を感じ取る事ができなかった。
次の瞬間、頭上から襲い掛かる爆音。
反射的に上を見やれば、どうやら第17層外殻周辺にミサイルが着弾したらしい。
外殻上から噴き上がる業火、散発的な魔導弾の応射。
そして、外殻上を舐める様にして飛行し、次いで離れゆく白い影。
その光景を目にし、ヴィータは自身の迷いを強引に振り払う。

「あの野郎ッ、逃がすか!」

瞬時に鉄球から距離を置きつつ、グラーフアイゼンをギガントフォルムへと移行。
闇の奥に浮かび上がるR戦闘機の機影は、再び外殻上へと接近しようとしている。
此方の行動に気付かない事など有り得ないのだが、特に回避行動へと移行する様子は無い。
直撃などする筈もなく、縦しんば炸裂型であったとしても、効果範囲に捉えられる虞は皆無。
そう、判断されたのだろう。
ヴィータの意識を塗り潰す、憤怒と殺意。
彼女は、その負の感情に駆られるがまま、圧倒的質量の鉄槌を振り被る。
そして、咆哮。

「くたばれぇぇェェッ!」

魔力により強化された渾身の力で以って、巨大なハンマーヘッドが振り抜かれる。
大気を押し退けて空を引き裂いたそれは、鉄球を打撃面の中心へと的確に捉え、火花と轟音とを撒き散らしつつ砲弾の如く打ち出した。
ヴィータの魔力光による赤い光の尾を引き、闇の彼方へと消えゆく鉄球。
しかし、質量兵器の弾速には到底及ばぬ速度のそれを、R-11Sらしき影は苦もなく回避し、更に爆発効果範囲より容易に脱してしまう。
判り切っていた結果とはいえ、悔しさに表情を歪めるヴィータ。
その、直後。

「な、うあッ!?」



核爆発もかくやという閃光が、ヴィータの視界を完全に覆い尽くした。



「うあああぁッ!」

意識を破壊せんばかりの爆音、襲い来る巨大な衝撃と圧力の壁。
ヴィータは数百mに亘って吹き飛ばされ、漸く姿勢の安定に成功する頃には、既に意識が朦朧としていた。
だが、その意識を覆う霞さえも異常な治癒速度によって、身体異常と共に数秒で拭い去られてしまう。
そうして、再度に覚醒したヴィータは、改めて眼前に出現した爆発の残滓へと意識を向けた。
其処で、気付く。

974R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2011/05/29(日) 15:06:36 ID:.jmCVDEE
「おい、まさか・・・」

視界を覆い尽くす、爆炎の残滓。
それは、想像していた様な紅蓮の炎ではなく、波動粒子にも似た青白い炎によって形成されていた。
そして、物理的な痛覚すら伴ってリンカーコアを圧迫する、余りにも膨大に過ぎる量の魔力素。
時折、残された業火の間を奔る紫電の光は、炎と化した青白い魔力素が結合して発生した魔力性の放電らしい。

そして、何よりも信じ難い事実。
周囲へと拡散する爆炎の一部、青白い光を放つ魔力残滓。
それらは紛れもなく、ヴィータ自身の魔力を内包していた。
青白い光を放つ粒子が消えゆく際に、明らかにヴィータの魔力光と判る、赤い光の残滓が拡散しているのだ。

「アタシが・・・やったのか? あの爆発が?」

呆然と、周囲を見回すヴィータ。
明らかに混乱していると分かる念話が間を置かずに飛び交い、現状を把握しようと各方面から報告が押し寄せる。
全方位へと発せられるそれらを拾いつつも、ヴィータは行動を起こすでもなく硬直していた。

『今の爆発は魔力か、誰がやったんだ!?』
『R戦闘機が爆発に巻き込まれたぞ! 誰か、敵機の状態を!』
『報告! R-11S、1機の撃墜を確認! バラバラだ、跡形も無い! もう1機が爆発に巻き込まれた様だが、そっちは逃げられた!』

R-11S、1機を撃墜。
その事実が、混乱へと更に拍車を掛ける。
だが状況はヴィータに、何時までも呆けている事を許しはしなかった。

『後ろだ、馬鹿!』

三度、意識の混濁。
ヴィータの背後、R-11S接近中。
相も変わらずの高速性だが、先程と比較すると幾分か遅く感じられる。
装甲の破片を撒き散らしている事から推測するに、恐らくはコメートフリーゲンによる爆発に巻き込まれたという、もう1機のR-11Sなのだろう。
幾分か速度が落ちている事から、回避は可能であろうと思われた。
だが、飛翔魔法を発動した直後に、予想外の衝撃がヴィータを襲う。

「あ、がッ!」
『おい!?』

電磁投射砲だ。
R戦闘機に標準装備されている、機銃型兵装。
波動砲への警戒が先行し、この兵装の存在を失念していたのだ。
そう思い至った時には、ヴィータの背面はバリアジャケットごと切り裂かれていた。
直撃ではなく、弾体通過の余波によるものだ。
縦しんば弾体が直撃していれば、今頃ヴィータの身体は粒子にまで細分化されていた事だろう。

「う・・・う・・・!」
『後ろに飛べ!』

念話での警告。
ヴィータは背面の激痛に呻きながらも、警告に従い咄嗟に後方へと飛ぶ。
直後、眼前を掠める、余りにも巨大な青い砲撃。
轟音に聴覚が麻痺し、撒き散らされる衝撃波によって更に後方へと弾かれつつ、ヴィータはそれが波動砲による砲撃であると判断する。
しかし、違和感。

何故、R-11Sとは反対の方向から、波動砲が放たれたのか。
他のR戦闘機による砲撃であったとして、波動粒子弾体が突き進む方向には、先程ヴィータを攻撃したR-11Sが飛行中である。
これでは、宛らR戦闘機を狙っての砲撃ではないか。
心中に浮かんだ疑問にヴィータが行動を起こすよりも早く、その答えは味方からの念話によって齎される。

975R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2011/05/29(日) 15:08:25 ID:.jmCVDEE
『R-11S、更に1機の撃墜を確認! 今の砲撃は何だ、誰が放ったんだ?』
『さっきの爆発と同じ魔力光だ!』
『魔力残滓が緑色よ。爆発の時とは別人だわ』

それら念話の内容にヴィータは数瞬ほど呆け、次いで砲撃が飛来した方向へと視線を向けた。
その方向には、先程からヴィータとの間で意識の混濁を生じている砲撃魔導師、彼が居る。
推測ではなく、確信だ。
意識の混濁は続いており、半ば混乱している彼の思考までもが、この瞬間もヴィータの意識中へと流入しているのだから。

『・・・今の、お前の砲撃か?』
『その言葉からすると、さっきの爆発はアンタで間違い無いんだな?』

交わす念話は、それだけで済んだ。
同時に互いが、一連の現象について確信を得た事を知る。
コメートフリーゲンの爆発も、先程の砲撃も。
第三者からの介入によって、本来ならば有り得ない爆発力の付与、射程および破壊力の増大が為されていたのだ。
あの大量の魔力素、誰のものでもない青白い魔力光。

『・・・もう退がった方が良い。背中をやられてるんだろ? 治癒能力が向上しているとはいえ、医療魔法も無しじゃ遠からず死ぬぞ』
『要らねえよ。アタシは他人とは、ちょっとばかり身体の造りが違うんだ』
『成る程。ヴォルケンリッター、魔法生命体か』

自身の正体に関する発言。
だが、ヴィータは動じない。
意識の混濁が更に深部へと及び始めている現状、いずれは知れる事と予測していたのだ。
更に言えば、相手の素性もまた、ヴィータの知る処となっている。
隠蔽しようと望めば、恐らくは可能なのだろう。
だが、相手は特に隠す処も無く、情報を曝け出している。
ならばヴィータも、自身に関する情報を隠す気にはならなかった。
何より、この状況下で互いの素性を知った処で、其処に何の意味が在るというのか。

『そういうお前は、反管理局組織か。潜入工作とは恐れ入るぜ』
『元、だけどな。今となっては宿無しだよ。それよりアンタの身体、今じゃ殆ど人間と同じになってるんだろ。さっさと戻って治療を受けろよ』
『要らねえって言って・・・おい、どうした?』

突然、相手の意識がヴィータから逸れる。
互いの意識が剥離した事から推測するに、どうやら高次元での意識共有を維持する為には、常に互いの存在を認識しておかねばならないらしい。
そして数秒後、再度に意識が共有される。

『ああ、その・・・たぶん、問題発生だ』
『何がだ・・・いや、いい。こっちにも見えてる。確かに大問題だ』
『だろ?』

ヴィータは背後へと振り返り、巨大有機構造体の壁を見やった。
共有される視界、総合的に齎される各種情報。
無数の念話が、慌しく奔り始める。

『あれは・・・嘘だろ、何でこんな時に!』
『警告! 総員、直ちに北部外殻近辺より退避せよ! 未確認大型敵性体、接近中!』
『未確認? 新種の敵性体か?』

闇の中に蠢く、赤い光。
鋼色の異形が時折、構造物の陰より覗く。
ヴィータは、確かにそれを見た。
何かが、此方を覗き込んでいる。
有機構造体の奥、得体の知れない存在が、此方の動きを窺っているのだ。

976R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2011/05/29(日) 15:09:45 ID:.jmCVDEE
『おい、何なんだ!』
『分からない。だが、あの奥に何かが居る・・・くそ、幼体だ! 幼体の群れが出やがった!』
『私達にも見えています! 砲撃が来る!』
『射線上の連中、こっちの考えは通じているよな? 其処を退け、撃つぞ!』

無数に交わされる念話、それらの内容。
やはり其処彼処で、味方間での意識共有が発生しているらしい。
そして、外殻上より放たれる、無数の魔導砲撃。
それら全てが青白い光を放ち、Sランクの砲撃魔導師ですら在り得ない程の、魔導兵器による砲撃にも匹敵する魔力の奔流となって、敵性体群へと襲い掛かる。
更に数秒後、着弾した砲撃が連鎖的に炸裂。
信じ難い範囲での魔力爆発が、有機構造体すらも細分化してゆく。
その光景を前に、ヴィータは堪らず叫んでいた。

「何なんだよ、これは! アタシ達に何が起こってるっていうんだ!?」
『知らねえよ! クソッたれ、身体が魔力炉にでもなった気分だ!』
『敵性体、更に接近中・・・駄目です、多過ぎる!』

魔力爆発によって殲滅された幼体群。
だが構造体の奥からは、更なる敵性体群が迫り来る。
その総数は、これまでに撃破した敵性体の総数、それすらも上回るだろう。
バイドが有する、無尽蔵の模倣能力。
その脅威が、眼前へと迫り来る。
R戦闘機群は2機が撃墜された事により、バイドと此方を潰し合わせる方針へと移行したのか、何処かへと消え事態を傍観しているらしい。
魔導資質が強化されているとはいえ、既に状況は生存者の手による対応が可能な範囲を逸脱していた。

『退却だ! 総員、ベストラより離脱しろ!』
『それで何処へ行けっていうんだ? ウォンロンはどうした、外部からの救援は?』
『ウォンロンは後方より出現した敵性体群と交戦中、外部艦隊による救援は絶望的だ!』
『おい、聞いてなかったのか? 向こうは駄目だ、挟み撃ちになってしまう!』
『それなら何処へ!?』

ヴィータは、ハンマーフォルムとなったグラーフアイゼンを肩に担ぎ、深い溜息を吐く。
彼女は、疲れていた。
これからどうすべきかと思考し、主の許へと戻ろうかと思い立つ。
事態が好転する様子など無く、この場を生きて切り抜けられる可能性は限りなく低い。
ならば最後くらいは、はやてと共に在ろうかと考えたのだ。
だが、その思考は思わぬ声によって中断する事となった。

「随分と悲観的な考えですね、副隊長」

背後から響いた声に、ヴィータは咄嗟に振り返る。
其処に、彼女は居た。
無重力中に漂う、赤味掛かった栗色の髪。
右手には拳銃型のデバイス、白と黒の配色が施されたバリアジャケット。
醒めた様に此方を見つめる、紺碧の瞳。

「気弱になっているんですね。似合いませんよ」



嘗ての部下、ティアナ・ランスターが其処に居た。



「ティアナ、お前・・・」
「ああ、キャロから聞いているんですね。御蔭さまで無事、戦線に復帰できました」

ヴィータの声に対し、身動ぎすらせずに答えるティアナ。
彼女の素振りに重傷を負っている様子は無く、キャロから聞かされていた負傷は既に完治しているものと思われた。
だが、それとは別の違和感が、ヴィータの胸中へと生じている。

977R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2011/05/29(日) 15:11:14 ID:.jmCVDEE
「お前、何で・・・」
「私の意識が読み取れない理由ですか? 簡単です。この現象を起こしているのは、他ならぬ「私達」だからです」
「私達?」

轟音、絶叫。
有機構造体の方向へと振り返るヴィータ。
先の砲撃によって構造体の一部が千切れ、其処から無数の敵性体が此方へと押し寄せて来る。
宛ら洪水の様に迫り来る敵性体群の影に、ヴィータは他の念話を全て無視してティアナへと叫ぶ。

「訳の解らない事ばかりだけど、話は後だ! とっとと此処からずらかるぞ!」
「いいえ、その必要は在りません」

思い掛けない否定の言葉。
思わずその場に留まり、ティアナの顔を見つめるヴィータ。
相変わらず、感情の読めない瞳で以って此方を見やるティアナは、何処かしら作り物めいて見える。
余り愉快ではない想像を振り払おうとするヴィータに対し、ティアナは続けて言葉を紡いだ。

「そうですね、ある意味では作り物といえるかもしれません。私自身はもう、これがハードウェアという訳ではありませんから」
「お前、さっきから何を言ってるんだ? 良いから逃げろ、死にたいのか!」

此方の思考を一方的に読みつつ、現状を無視するかの様な発言を繰り返すティアナに、ヴィータは苛立ちと不安感を募らせる。
目前の人物は、本当に自身が知るティアナ・ランスターなのか。
そんな疑問が、脳裏へと浮かんでは消えてゆく。
だが、彼女はそんな思考を振り払うと、強引にティアナの腕を掴んだ。

「来い! はやて達と合流して逃げるぞ!」
「ですから、必要ないと言っているんです。救援は、もう到着していますから」

救援は到着している。
その言葉を耳にし、ヴィータは一瞬ながら動きを止めた。
ティアナの言葉、その意味する処を理解する事ができなかったのだ。
そして直後、視界の全てを埋め尽くす、白光の爆発。

「があッ!」

全身が砕けんばかりの衝撃。
奪われる視界、麻痺する聴覚。
数秒、或いは十数秒後であろうか。
漸く視覚が回復してきた頃、ヴィータは目元を覆っていた手を退かし、周囲を見渡す。
そして目にしたものは、信じ難い光景。

「何が・・・どうなってんだ?」



ベストラの周囲を埋め尽くす、100隻を優に超えるXV級次元航行艦。



「言ったでしょう。「救援」だって」
「まさか・・・救援要請は・・・」
「ええ、成功しました。彼等は本局の防衛に就いていた、管理局の艦隊です。救援要請を受けて、被災者を救助する為に此処まで来たんです。本来は合流まで、あと数時間は掛かる筈でしたが」

完全に消失した巨大有機構造体、そして敵性体群。
つい先程までそれらが存在していた空間を見据えつつ、ヴィータは何が起こったのかを理解した。
先程の閃光、恐らくはアルカンシェルによる戦略魔導砲撃だ。
あんなものを受ければ、バイド生命体とて一溜まりも在るまい。
接近中であったドブケラドプス幼体群は、文字通りに塵も残さず消滅したのだ。
飛び交う念話、歓喜に満ちたそれら。
だがヴィータには、喜びを分かち合う事よりも、更に気に掛かる事柄が在った。

978R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2011/05/29(日) 15:14:17 ID:.jmCVDEE
「ティアナ。お前、アタシ達に何が起こっているのか、知っているのか」
「ええ」
「それは、お前がやっている事なのか」
「はい。「私達」がやっている事です」
「「私達」ってのは、誰の事だ」
「私とスバル、ノーヴェの3人・・・「3機」の事です」

ティアナへと視線を移すヴィータ。
彼女は相変わらず、無表情のままに其処に在る。
歯軋りをひとつ、ヴィータは更なる問いを投げ掛ける。

「艦隊の到着は、本来ならあと数時間は掛かると言ったな。あれはどういう意味だ」
「そのままの意味です。彼等はまだ、第10層を通過している最中だった。それを、貴方達が此処へ「呼んだ」んです」
「・・・さっきから訳が解らない事を。呼んだってのはどういう事だ、何を意味してる? お前等は私達に、いいや・・・「何に対して」何をしたんだ!?」

ティアナの眼を正面から鋭く睨み据え、幾分か声を荒げるヴィータ。
ティアナとスバル、そしてノーヴェは「何か」をしている。
その「何か」は個人の魔導資質および魔導機関を無差別に強化し、魔法技術体系にとって有利な状況を作り出しているのだ。
だが、如何にしてそれを成し遂げているのか、そして「何か」とは具体的にどの様な事なのか、核心たる情報が一切に亘って齎されていない。
心強さよりも不信感が勝る事は、自然な成り行きと云えた。
だからこそ、自身の胸中に蟠るそれを払拭しようと、ヴィータは更に問いを投げかけようとして。

「少し、世界に干渉しただけです。皆の「願い」が叶う様に」

ヴィータは、続く言葉を呑み込んだ。
「願い」。
そのティアナの発言に、彼女は呆気に取られて黙り込む。
だが、続くティアナの言葉は、忽ちの内にヴィータを覚醒させた。

「ジュエルシードって、御存知ですよね?」
「・・・ああ、勿論」
「所有者の「願い」を叶える宝石。スクライア族が発掘し、次元航行艦の事故によって第97管理外世界へと拡散した後、次元犯罪者プレシア・テスタロッサ・・・フェイトさんの実母によって奪取されたロストロギア」
「お前・・・ッ!」

何故それを、何処まで知っているのか。
激昂し掛けるヴィータであったが、何とか今にも掴み掛かろうとしていた自身の手を下ろす。
無駄だと悟ったが為の、諦観を含んだ抑制。
恐らくティアナは、此方の記憶を仔細漏らさず把握しているのだろう。
ならば、何を知っていても不思議ではない。

「プレシアは、娘であるアリシア・テスタロッサの死体を蘇生する為に、ジュエルシードを欲した。彼女の「願い」を叶えようとしたんです。結局は邪魔されて、実現されなかったけれど」
「・・・アイツ等が間違っていた、とでも言うのかよ」
「まさか。どんな要因が絡んだのであれ、プレシアは制御に失敗した。それだけが事実です」

ティアナが頭部を傾け、背後の管理局艦隊へと横目に視線を投じる。
同じくヴィータも其方を見やれば、XV級に紛れた数隻の支局艦艇から無数の魔導師が飛び立ち、此方へと向かっていた。
その中に、見慣れた黒いバリアジャケットと赤い髪を見出し、彼女は僅かな安堵と共に息を吐く。
接近する魔導師達へと視線を固定したまま、言葉を紡ぐティアナ。

「僅か9個のジュエルシードでは、直接的に彼女の「願い」を叶える事はできなかった。では逆に21個のジュエルシード、その全てが彼女の手元に在ったのなら? 彼女の「願い」は、問題なく叶えられたと思いませんか?」
「・・・いい加減に黙れよ、テメエ。それとも」
「全てのジュエルシードが在れば、リインフォースを救えたとは思いませんか」

瞬間、ティアナの頭部付近から、甲高い衝突音が響く。
無表情のまま微動だにしないティアナ、驚愕に眼を瞠るヴィータ。
ティアナの左側頭部を狙って振り抜かれたハンマーヘッドが、一切の前触れ無く空間中に現れた、青い薄層結晶構造体によって進行を遮られていた。
衝突音は、結晶構造体とハンマーヘッドが接触した際に発せられたものだ。
想定外の事態に硬直するヴィータを余所に、ティアナは表情を変えないまま左耳部に掌を当てる。

979R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2011/05/29(日) 15:16:36 ID:.jmCVDEE
「非道いですね。鼓膜が破れましたよ」
「お前っ、それ・・・!」
「気付きましたか。そうです、これはジュエルシードですよ」

言いつつ、ティアナはグラーフアイゼンによって砕かれた薄層結晶構造体の一部、指先ほどの大きさとなった欠片を手にした。
それを、ヴィータへと差し出す。
呆然と、思考すら殆ど停止したまま、それを受け取るヴィータ。
次いで、自身の手の内に在るそれへと視線を落とし、彼女は背筋に怖気が奔った事を自覚する。

間違い無い。
オリジナルより遥かに小さく、また不格好ではあるが、紛れも無くジュエルシードだ。
この瞬間でさえ、自身のリンカーコアへと圧力を掛ける、指先ほどの大きさしかない青の結晶体。
ティアナはジュエルシードの薄層構造体を「発生」させ、それを防御壁としてグラーフアイゼンの一撃を防いだのだ。
そして、彼女の一連の発言。
その意味が、不鮮明ながらも理解できた。
彼女は、彼女達は、恐らく。

「お前等、ジュエルシードを・・・!」
「はい、複製しました」

どうやって、という問い掛けは発せられなかった。
その問いを発する以前に、ヴィータは現状に対して答えを導き出してしまったのだ。
そして、そんな彼女の思考を読んだのか、ティアナが言葉を繋げる。

「私達のシステムが本格的に起動した直後、誰かがこう願った。「地球軍のインターフェースに匹敵する、瞬間的な情報通信技能が欲しい」と。システムはその「願い」が有用であると判断し、それを叶えた」

2人の周囲、幾人かの魔導師が集まり始めた。
ヴィータを含む、それら全員の意識が共有され始める。
これが「願い」の結果。

「次に、彼女が願った。「大切な人が傷付く世界なんか要らない、壊れてしまえ」と。不利な制約を壊して再構築する事は既に始めていたので、システムは負傷者の治癒能力を例外なく向上させる事で、別方向からその「願い」を叶えた」

自身の肩に手をやるヴィータ。
背面の負傷は、何時の間にか痛覚が消失していた。
感覚が麻痺したのではなく、完全に治癒してしまったのか。
これも「願い」の結果。

「そしてこれは、魔法技術体系に属する、あらゆる人々が願った。「もっと出力を、容量を、射程を、威力を」。既にシステムはそれを成すべく活動していましたが、更にジュエルシードの魔力を供給する事で「願い」を叶えた」

波動粒子にも似た、青い光を放つ魔力素。
だがそれは、波動粒子などではない。
ヴィータは気付く。
これは、ジュエルシードの色だと。
これもまた「願い」の結果。

「それでも、押し寄せる敵性体群を前に絶望した人々が、救援の手を求めた。「救援を、1秒でも早く救援の到着を」。システムは緊急性の高い案件と判断し、人工天体内部の管理局艦隊をベストラ周辺にまで転移させる事で「願い」を叶えた」

周囲の管理局艦隊を良く見やれば、全ての艦艇が青い光を放つ魔力素の残滓を纏っていた。
恐らくは転移の際に、ジュエルシードより供給される魔力によって、機関最大出力を数十倍にまで増幅されたのだろう。
艦隊に纏う魔力素は、その際にバイド及び地球軍からの干渉を避ける為に展開されたのであろう、大規模次元障壁の残滓らしい。
この信じ難い現象もまた「願い」の結果。

「一体・・・どれだけのジュエルシードを・・・」
「数を訊いても、意味は在りません。恒久的に動作する「願い」を叶え続ける為のシステムですから」
「その、システム・・・ってのは、ジュエルシードの事じゃないのか?」

ヴィータは、それが気になっていた。
周囲の魔導師達も、同様なのだろう。
疑問が渦となり、共有された意識へと浮かび上がる。

980R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2011/05/29(日) 15:18:13 ID:.jmCVDEE
「少し違います。全てのジュエルシードを統括する存在、世界への干渉を制御する中枢機構です」
「その、中枢ってのは、何処に?」
『後ろだ!』

突然の念話、警告。
ヴィータは周囲の魔導師が、一様に此方へとデバイスを向けている事に気付く。
だが、彼等の狙いはヴィータではない。
彼等は彼女の背後、其処に忽然と出現した「何か」に驚愕し、各々のデバイスを向けているのだ。

そして、ヴィータの背後より叩き付けられる、余りにも強大な魔力。
徐々に呼吸が乱れ、全身の感覚が麻痺してゆく。
視界の端で明滅する、青い光。
ティアナが右腕を上げ、徐にヴィータの背後を指した。

「「それ」が、システムの中枢」

錆び付いた機械の様に緩慢な動きで、ヴィータは背後へと振り返る。
徐々に視界を埋め尽くしてゆく、青く眩い魔力光。
そして数秒後、漸く「それ」を視界の中心へと捉えた瞬間、ヴィータの意識へと膨大な量の情報が流入する。
その結果、彼女は眼前の存在、その「異形」の正体を、正確に理解した。
理解してしまった。
否、させられたのだ。
青い魔力光を放つ、その巨大な結晶体。
余りにも異様かつ、決して許容できぬ存在としての外観を備えた、その「異形」。

「「それ」が、皆の「願い」を叶える宝石です」



ジュエルシードによって構築された、R戦闘機。



「そして、今の「私達」の中枢でもある」

反射的に、ティアナへと振り返る。
同時に、空間中へと響く、異様な咆哮。
全ての人員が視線を前方へと投じる中、ヴィータはティアナと向かい合ったまま、ガラス球の様に無機質な彼女の瞳を見つめていた。

怖いと。
恥じる事もなく、ヴィータは思う。
今のティアナは、怖い。
恐ろしく無機質、恐ろしく冷徹、恐ろしく希薄。
その身に纏うのは、人間としての温かみではなく、機械の様な冷たさ。
しかし圧迫感を感じる訳ではなく、それどころか眼前に佇んでいるというのに、其処に何も存在していないかの様に希薄な気配。
実態ではなく、立体投射画像であると言われれば納得してしまいそうな、得体の知れない存在。
それは僅かに視線を上げ、実際の発声であるのかすら疑わしい、音としての言葉を紡ぐ。

「私達は、この奥へと進む必要が在ります。其処に、バイドの中枢が在る」
「バイドの?」
「ええ。バイドが宿る殻、単一個体として完成された存在「R-99」が」

飛び交う無数の警告。
艦隊の全艦艇が、一斉に魔導砲撃を放つ。
青と白の光の奔流が、轟音と共に「何か」へと殺到。
だが、ヴィータは振り返らない。
砲撃が着弾したのか、魔力爆発の光が周囲を埋め尽くし、爆音が響く。
支局艦艇からの報告、攻撃失敗。
大型敵性体、健在。
目標、急速接近中。

981R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2011/05/29(日) 15:20:25 ID:.jmCVDEE
「此処は、バイドにとっての最終防衛線です。此処を突破すれば、空間歪曲を利用して一気に中枢まで肉薄できる」
「正念場、って事か」
「ええ。当然、バイドも必死です。此処を通過する為には、防衛の要となっている敵性体を撃破する必要が在る」

ティアナが、視線でヴィータを促す。
徐に振り返り、魔力爆発の中心を見やるヴィータ。
そして、その異形を視界へと捉えた。
息を呑むヴィータ、無感動に言葉を紡ぐティアナ。

「可能かどうかは、また別の話ですが」

異形が再度、咆哮を上げる。
コロニーで提示された記録映像、なのはのレイジングハートに記録された映像。
いずれの外観とも異なる、更なる進化を遂げたらしきそれ。

節足動物のそれと酷似した下半身は脚部を取り払われ、慣性制御機構らしき5基のユニットが連なった、昆虫の幼生の如き外観へと変貌している。
片部から背面に掛けては、後方へと伸長する3連ユニット。
肩部からは前上方へと伸長する、左右対称のポッド型構造物。
主腕部の他に追加された、胴部に2対、脚部ユニットに1対の副腕。
上半身と下半身の接続部左右側面、突き出した1対の砲身。
修復された頭部装甲、更に巨大化した額のレリック。
周囲に纏う、虹色の魔力の暴風。
聖王の鎧、カイゼル・ファルベ。
此方を見据えるかの様に、空間中の一点へと留まる、その存在。

「今度ばかりは、データは在りません。全てが未知数ですので、其処は覚悟して下さい」



「BFL-011 DOBKERADOPS TYPE『ZABTOM』」



「・・・クソッたれが」

吐き捨て、グラーフアイゼンをギガントフォルムへ。
ザブトムの周囲、転移によって無数のドブケラドプス幼体が出現する。
恐らくザブトムは、同種生命体群の中枢として機能しているのだろう。
推測に過ぎないが、これまでに得られたバイド生命体群に関する情報を基に判断すれば、的を射ている可能性は高い。
バイドの適応能力を考慮すれば、中枢たるザブトムを撃破したところで種全体の絶滅には到らないであろうが、数時間に亘ってドブケラドプス種の戦力を大きく殺ぐ事ができるだろう。
数十名と共有された意識の中、結論は下された。
この場に於いて、ザブトムを撃破する。
それ以外に、選択肢は存在しない。

「やるしかねえんだろッ!」

982R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2011/05/29(日) 15:21:06 ID:.jmCVDEE
咆哮。
2個の大型鉄球を生み出し、宙空へと放る。
そうして、グラーフアイゼンを振り被り、ヴィータは叫んだ。
共有意識を塗り潰す、壮絶な殺意。
それによって突き動かされるがまま、彼女は叫ぶ。

「要は、アレをぶっ殺すしかねえって事だろ!? ティアナ・・・いいや!」

その叫びに込められた、漆黒にして激烈なる感情。
諦観、嫌悪、哀情、憎悪。
視線の先の存在、そして背後に位置する存在。
巨大なバイド生命体、そして嘗ては「ティアナ」であった存在に対し。
ヴィータは、あらゆる負の感情を込め、絶叫した。



「この「化け物」め!」

983R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2011/05/29(日) 15:39:45 ID:.jmCVDEE
以上で投下終了です
代理投下して下さった方、支援して下さった方
有難う御座いました

ティアナ「あなたも私も、後悔するような発言をしたことは事実です。でも、お互いの意見の相違は、この際、水に流しましょう。次元世界のためです・・・この人でなし」
ヴィータ「お前が言うな」

という訳で、1年振りの投下となりました
何とか怪我の回復も良好で、震災も切り抜ける事ができました
余震で納屋の天井が落ちてきた時は死ぬかと思いましたが、流石に我がスタンド(松葉杖)の防御を抜く事はできませんでした
松葉杖△
という訳で、今回の敵紹介です

『ドブケラドプス幼体』
読んで字の如くドブケラの幼体で『TACⅡ』にて登場
成体をそのまま小さくしたような外観ですが、何と毎ターン広範囲かつ長射程のチャージ攻撃を乱射してくるという、最終鬼畜胎児
ジャミングが切れた瞬間にあの世行き確定という無理ゲーです

『ムーラ』
『Ⅰ』で初登場、以降のシリーズでも亜種を含めて数回登場
やたらと長く、シャクトリムシの様に画面中を動き回り、しかも耐久性はそこそこというウザい雑魚
高難易度では発狂した様な速度で画面中を這い回りますが、本当に恐ろしいのは撃破時
作中での描写の通り、頭部を破壊すると当たり判定の大きい体節が高速で飛び散り、胴部をぶっちぎると残された頭部や体節が更に高速かつ、ランダムっぽい動きで画面中を蹂躙するという鬼畜使用
どっちに転んでも絶望なので、時には見逃す事も大事

『Λ』
常時発動状態のジュエルシード
使用回数無限のドラゴンボールみたいなものですが、システム側で願いを捨取選択されるのが玉に傷
選択してるのはあの3人ですが

という事で、漸くクライマックスの頭辺りに突入です
それでは、また次回




それでは、代理投下をお願い致します

984R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2011/05/29(日) 17:32:21 ID:.jmCVDEE
ただ今戻りました、作者です

済みません、現在代理投下して下さっている方
投下の際は、専ブラを使用する事をお勧めします
未使用の状態では全部を投下するのはほぼ無理だと思いますので

それと、やはり長いので本スレには投下せず、数日後に保管庫に入れる事も考えております
感想等は本スレか保管庫に書いて戴ければ良いと思いますので、無理を押して本スレへの投下に拘る必要はないかと

考えが足りず、御迷惑をお掛けする事となってしまいました
本当に申し訳ありません

985リリカルミッドナイト ◆mhDJPWeSxc:2011/05/30(月) 15:40:29 ID:afTvLgkA
終了のあいさつ書こうとしたところでさるさんくらいましたorz

ひとまずここまでです

今夜にはLv2になるはずなのでもちっと書き込める量が増えると思いますが…アワワワ

986魔法少女リリカル名無し:2011/06/08(水) 10:04:55 ID:TQRxVuo.
ネットショップサイトが開店です、コスプレ、抱き枕、着ぐるみなどの商品が備えております、 www.chinazonejp.com

987FE ◆lJ8RAcRNfA:2011/06/08(水) 22:29:57 ID:5KXKWOXk
投下しようとしたら、規制されたうえにスレの容量がオーバー…
なので、次スレへの代理投下を依頼したいのですが、このスレも終わりに近付いている…
大丈夫…かな…?

988FE ◆lJ8RAcRNfA:2011/06/08(水) 22:30:30 ID:5KXKWOXk
「ミカヤ、なんだ?確かめたいことって。」
 サザが問いただす。唐突に、ベグニオンに言われてしぶしぶではあるが、支度を始めた。
 その隣でミカヤもかつての魔道書と杖を取り出し、サザにとって予想外の言葉を告げた。

「…死体よ。ベグニオンに行って死体を調べるの。」

 …今、なんと言っただろうか?
「ま、待ってくれ!死体を調べるだと!?」
「私だって、こんなことはしたくないわ。でも…もし、この予想が現実のものだったら、早く手を打たないととんでもないことになるわ。」
「…一体、何が起こるって言うんだ?」
「私も…よくは分からないの。でも、断言はできるわ。アイクとセネリオが異世界にいてしまったことと、確実に関係がある。」
 そこまで言う以上、それは真実なのだろう。
 「暁の巫女」ミカヤは幾度となく、神使としての力を使い未来を言い当てていた。今回も、おそらくそうだろう。

「それじゃ、行くぞ。」
「ええ。」
 支度を終えた二人が王城から外に出る。一応、しばらくの間留守にすることは地方の貴族たちにも伝えておいた。
 その間に何か起こしたら、あんたの秘密をこの国中にばらまいてやる、とサザが脅していたが、それは余談だろう。
「ところで、ミカヤ。今から行ってもベグニオンまでは数日かかるぞ。」
「いいえ、セフェランが去り際に残してくれた「リワープ」があるわ。」
 そう言って、ミカヤは先ほどから握っていた杖を見せる。
「サザ、捕まって。」
 その言葉に素直に従い、リワープの杖につかまる。
 その時だった。

「あれ…ミカヤ?」
「…ペレアス?」

 意外なところで再会を果たした。

「ペレアスか。済まないが、しばらくの間俺達はデインを留守に――――」
「ちょうどよかったわ、ペレアス。この杖につかまって。」
 いきなり、旅のお供に連れて行こうとした。
「ミカヤ!?」
「仲間は一人でも多い方がいい。違う?」
 そう言って、ミカヤはサザに微笑む。夫としては、それで許さないわけにはいかなかった。
「あ、少しいい?」
 唐突にペレアスが口を開く。

「旅のお供だったら、それなりの装備を整えてくるよ。そうだな、5分くらい、そこで待ってて。」
 と言い、二人を残して装備を整えてくる。


ペレアスは傷薬や、魔道書をポーチに放りこむ。もちろん、闇魔法最強クラスと言われた「バルベリト」も持参する。
「…これを使う事態だけは、避けたいけどな。」
 ポツリと呟いたが、いざという時のために念には念を入れる。
「さ、国王達を待たせちゃ、いけないな!」
 そう言い、ペレアスは家を飛び出す。
 その表情には、前の戦のときには無かった「楽しい」という感情が浮かんでいた。


「いい?行くわよ。」
 ミカヤが合図し、杖が光り始める。
 杖の光は3人を包み込み、ベグニオン帝国まで飛ばして言った。
 この瞬間から、二つの世界で起こっている事件がくっきりとつながることになった。

989FE ◆lJ8RAcRNfA:2011/06/08(水) 22:31:11 ID:5KXKWOXk
第15章「新たな局面」




 リワープによって一気に、ベグニオン帝国の皇居に転移した3人。
 そこには、サナキ以外に人がいた。
「む、姉上!」
 部屋に入るなり、マントを引きずりながらサナキがやってくる。
 その背後には、しばらく見ていない顔があった。

「お久しぶりです、皆さん。」
 そこに立っていたのは、
「セフェラン―――――」
 ベグニオン帝国元老院議員議長にして宰相、セフェラン。別名、「エルラン」。
 かつて、ベオクと呼ばれる人に近い人種と、ラグズと呼ばれる獣に近い人種が争いを起こし、人に絶望した人。
 絶望のあまり、この世界からベオクを、ラグズを抹消するために、女神アスタルテを起こすという大きすぎる過ちを犯した、「元」ラグズ。
 今では、セリノスの森で静かに暮らしているはずだったが。

「ところで、皆さんはなぜ、ここに?」
 穏やかな物腰でセフェランが尋ねる。
 その言葉を聞いて、ミカヤが切り出す。
「実は――――――」


 話はこうである。
 死んだはずの漆黒の騎士。それが異世界で生きている。では、これまで導きの塔で倒した相手たちはどうなのだろうか。
 彼が生きている以上、他の人間たちも生きている可能性がある。
 ならば、今生きている人間は誰なのか、そして、死んだはずの人間を「生き返らせた」のはだれか、を突き止めるためだった。

「なるほど…」
 口元に手を当てて、セフェランは考える。
「確かに、ゼルギウスが生きている以上、他の人たちが生きている可能性も否めない…」
「それに、異世界には団長たちが行ってしまった。これは、何かあると勘ぐるべきじゃないか。」
 サザがそう言って死体の調査を依頼する。
「………いいじゃろう。」
 皇帝が直々に、許可を下した。
「じゃあ、導きの塔の最下層へ行きましょう。」
 そう言って、一行は導きの塔へと歩き出す。



 女神の事件で死んだ兵士たちは、導きの塔の最下層に安置されていた。
 女神のために戦い、殉職した者たちへのせめてもの配慮なのだろう。
 その死体を一つ一つミカヤとセフェランが調べていく。
 死んだ兵士を見るたびに、ミカヤは思った。
(あまり、気持ちのいいものではないわね…)
 聖職者だろうと、なんだろうと、人の死体を見て気分がいいという人はいないだろう。
 しかも、自分たちが殺した人間ならば、なおさらだ。
「ミカヤ、恐れてはいけません。」
 ふと、セフェランから声がかかる。
「罪と向き合うのです。つらいことでも、受け入れることが大切なのですから。」
 そう言って、セフェランは作業に戻って行った。
(そう、目を逸らしちゃいけない。)
 それこそが、償い。少なくとも、ミカヤはそう思っている。
 どんな殺人も正当化はされない。なら、私は全てを受け入れる。
 受け入れること。それが、ミカヤの示した償いだった。
 それはさておき、奇妙なことにミカヤは気付き始める。
(………?)
 小さな違和感。
 それがまだ確信に変わることはなかったが、その違和感の正体は理解できた。
(この死体、外傷が無い…?)
 傷の無い死体。では、なぜこの兵士は死んだのだろうか?
 他にも外傷はあるが、どれも致命傷にはなりえない傷を負って死んでいる者もいた。
 これは、どういうことなのだろうか。



 そのことをセフェランと皆に説明した。そうしたら、セフェランから意外な言葉が返ってきた。
「光魔法か、闇魔法の影響ですね。」
「え?」
「外傷がないから、物理的攻撃ではない。と言っても、理系の魔法でもない。恐らく、光か闇の力で生命力に直接ダメージを与えられたのでしょう。」
「そんなことが…」
「あり得るのですよ。その証拠に、「リザイア」という魔道書があります。これは相手の体力を奪って自分を回復させる魔法ですから。」
 筋は通っている。すると、彼らは光か闇魔法で殺されたのだ。
 そして、次の問題。
「じゃあ、彼らは何のために殺されたんだ?」
 ペレアスが尋ねる。さらに、サナキも続けた。
「そもそも、こ奴らを殺したのは誰なのじゃ?」
 そう、この二つが問題だった。
「そう、それが問題です。誰が何のために彼らを殺したのか。それがわかれば…」
 その時だった。

990FE ◆lJ8RAcRNfA:2011/06/08(水) 22:32:16 ID:5KXKWOXk
 バン!!と大きな音が鳴り響く。その場にいた人々は、その音がドアを開けたものだと即座に気付いた。
 ただの開け方ではない。そう、乱暴に開けたような。
 基本、この塔は立ち入り禁止である。それは女神がここで眠っているからだ。
 それを承知で来るには、皇帝直々の許可がいる。今はミカヤ達意外に許可を出していない。
 とすれば――――――――――――――――――――
「奇襲!?」
 そうミカヤがつぶやいた時、「それ」が降りてきた。
 丸型のロボット―――向こうの世界では、ガジェットドローンと呼ばれるものだが、今のミカヤ達がそれを知っているはずはない―――が、約6体。
 先行する1体をサザが相手する。
 サザは、腰から短剣「ペシュカド」を抜き、ガジェットめがけて投げる。
 それを難なくかわし、ガジェットは光線をサザに向かって放つ。
「っ!!」
 それをサザは、ガジェットめがけて飛ぶことでかわす。
 刹那―――1人と1つがすれ違う。サザはすれ違いざまに叩き込まれた触手を、もう一つの短剣「スティレット」で切り落とす。
 ガジェットが着地し、ミカヤににじり寄る。
 ミカヤが光魔法「セイニー」を唱えようとした時だった。
 サザがガジェットの頭上からペシュカドを突き立てる。動力炉をやられたらしく、そのガジェットはその場で機能を失い、停止する。サザはミカヤに寄り添い、ペシュカドを構えなおす。
「ミカヤ、安心しろ。俺がいる。」
 その言葉だけで、ミカヤはどこか安らぐ気持ちになれたのだった。
 だが、戦いはまだ終わっていない。

「機械であろうと、女神の祝福があらんことを…」
 セフェランが光魔法「クライディレド」を唱えた。
 無数の光がガジェットを包み込み、幻想的な風景を作り出した。
その光がひときわ大きな輝きを放ち、辺り一帯が光で明るく照らし出される。
無数の光からの攻撃を浴びたガジェットは、もはや原形をとどめぬほど粉々にされていた。
その隣では、ペレアスが善戦している。
「くっ!」
 ガジェットの放つ光線に苦戦しながらも、闇魔法を唱える。
「ウェリネ!」
 闇魔法「ウェリネ」を解き放ち、周囲の物体ごと闇に引きずり込む。
 闇にのまれまいと必死に抵抗するガジェットだったが、機械ごときが抵抗してどうにかなるものではない。
 「ウェリネ」はそのガジェットを飲み込み、何事も無かったかのように消え去った。

「ぐぅっ!」
 その声を聞き、全員は振り返る。そこには、人質にされたサナキがいた。
「このッ、放せ!放すのじゃ!!」
 じたばたするが、あまり効果が無い。すると、残り2体のガジェットがサナキの方を向く。
「サナキ様!!!」
 セフェランが今まで出したことの無いような大声を出すが、それらは止まらない。
 もう駄目だ、そう覚悟してサナキは固く目を閉じた。


だが、その瞬間はやってこなかった。
 サナキを捕まえていたがジェットは、横一文字に綺麗に『切られていた』。
 1体は白いブレスに貫かれ、もう1体は何かにより壁まで吹っ飛び、動かなくなった。
「誰だ!!」
 サザがペシュカドを構え、爆発したガジェットの後ろにいる者を凝視する。
 その様子を察したのか、
「安心しろ、私たちは皇帝に用があるだけだ。」
と発する。
 次第に煙が晴れ、その姿があらわになる。
「ソーンバルケさん!?それにニケさんにナ―シルさんも!!」
 そこにいたのは、先の戦いで戦力として大いに役立ってくれた猛者ばかりだった。
「先ほど彼が言ったように、私たちは皇帝に用がある。」
 ニケが化身を解きながらサナキに向き直る。そして、ナーシルが続けた。
「私の方は主に、王子の代理です。正式にクルトナーガ様が王位を継承されたので。そちらの二人は、新たな国の建設に当たっての承認を得に来た、と言ったところでしょう。」
「その通りだ。私は「印付き」の国を、彼女は「ハタリ王国」を立ち上げようと思っている。どうか、承認を頂けないだろうか。」
 ソーンバルケがそう言うと同時に3人は片膝をつき、頭を下げる。幸いなことに、彼女は命を助けられてその願いを無下にするような冷たい皇帝では無かった。

991FE ◆lJ8RAcRNfA:2011/06/08(水) 22:32:48 ID:5KXKWOXk
「よかろう。3人の言い分を受け入れようぞ。ところで…」
 サナキが先ほどのガジェットに視線を移す。
「これは一体なんじゃ?なぜ我らを狙った?」
 その場にいる全員が一番聞きたいことを言う。

「それは異世界の文化。容易に触れてはいけないものよ。」

 その声の主は――ミカヤだった。だが、様子がおかしい。
「ミ、ミカヤ?」
「これはアイク達のいる世界にある兵器。あなたたちはまだ、この兵器の構造を知ってはならない。」
「ま、まさか…女神?」
 セフェランが恐る恐る尋ねる。
「そうよ。久しぶりね、エルラン。」
「ああ…女神よ…」
 感慨深そうにセフェランがつぶやく。しかし、彼らには干渉にふけるよりほかにやることがあった。
「女神。アンタに聞きたい。コイツを「異世界の文化」と呼んだか?」
 女神に対してもいつもの口調を崩さない。サザは、女神がミカヤの体を使うことをあまり快く思っていないからだ。
 先の戦いでも、恐らく、これからも。
「ええ。これらは異世界から来たもの。アイク達がいる世界から。」
「だとするとおかしくないか?」
 ソーンバルケが疑問をぶつけた。
「私は、彼らが異世界に行ったなどとは一言も聞いていない。恐らく、彼女と彼も同じだろう。」
 そう言ってニケとナーシルに目を合わせる。
 無言でうなずき、それが真実であると肯定した。
「なのに私たちはこれらに襲われている。こいつらとは何の接点も無いというのに。」
 よくよく考えてみればおかしい話だった。
 自分たちの利害に関係の無いを人物を襲うなど、ましてや、何の関わりも持たない人物を襲うなど、狂っているとしか言いようがない。
「次に。こいつらはこの世界とは全くと言っていいほど無関係だ。私たちも道中ではこんなものを見たこともない。…なのに。なぜ、ここにいる?」
 ソーンバルケは、先ほど壊したガジェットたちに目を向けた。
「魔道の理など私にはわからんが、少なくとも時空をゆがめるような魔法はリワープだけではないのか?」

 それらの二つの問いに、ミカヤ(の姿をした女神)は答えた。
「私にも、まだわからない。でも、あなたたちを襲った理由は見当がつく。」
 女神はサザを見つめる。
「この子は「ある予想」をしていた。恐らく、これらを送り込んだ人たちは彼女を消したかったのよ。その予想を、誰かに話してしまう前にね。」
 
 ちょっと、待て。それじゃあ――――――――
「その「誰か」は、もしかしたら、異世界からミカヤを暗殺しようとしたのか!?」
 その言葉で一同に動揺が走った。女神はそれを肯定するかのように、硬い表情のままだった。
「だからこそ、私がここに来たの。この塔の中なら私も力を発揮できるから。今から、ここに「扉」を作るわ。アイク達の世界につながっている、ね。そこへ数人を送り込んで、アイク達の手助けをしてもらうつもりよ。…さあ、誰が言ってくれる?」
 サザが真っ先に名乗り出た。
「俺が行く。俺は密偵だし、それなりに―――――――」
「いや、今のお前は国王の夫だ。いざという時にいなければ困るだろう。」
 ニケが釘を刺す。と、なれば行けるのは。

「私が行きましょう。」
「僕も、行きます。」
 ペレアスとセフェランが手を挙げた。
「なら、私も付いていくことにしよう。どうせ、私たちの国はオルグとラフィエルしかいないのだからな。」
 ニケも賛同した。
「私は遠慮します。王子…王にお教えすることが、嫌というほどありますので。」
「じゃあ、この3人ね。」
 そう軽く言葉を告げると、大きな光の扉が現れた。
「健闘を祈るわ。」
 女神のその一言を背に、3人は光の扉をくぐった。
 後々、彼らは、いや、2つの世界にいる人物たちは思い知ることになる。

生きるということの「罰」を、死ぬということの「罪」を。
そして何より、「人」はどれほど愚かで、脆いかということを――――――――――――。




To be continued……….

992FE ◆lJ8RAcRNfA:2011/06/08(水) 22:34:32 ID:5KXKWOXk
以上です。
今回はちょっとした伏線をはったりいろいろと考慮した結果、完全にFE回となってしまいました。
次回からは、なのはの世界へ戻ります。
それでは、申し訳ありませんが投下をお願いいたします。

993<削除>:<削除>
<削除>

994<削除>:<削除>
<削除>

995なのマギ5話 ◆bv/kHkVDA2:2011/07/04(月) 17:38:03 ID:nmwzFrgQ
さるさんを喰らってしまいましたので、どなたか代理投下をお願いします。

996なのマギ5話 ◆bv/kHkVDA2:2011/07/04(月) 17:38:39 ID:nmwzFrgQ
 一連の空間の変化から、マミは魔女の正体はピンクの人形であると判断したのだった。

「折角の所悪いけど、一気に決めさせて貰うわよ!!」

 標的を見定めたなら、後は攻撃するだけだ。マミの行動は迅速だった。
 一足跳びにピンクの人形が鎮座した長椅子の根元まで飛び込んだマミは、両手で構えた
マスケット銃を、鈍器の要領で振り抜いた。全力で放たれたマスケットの打撃攻撃は、人
形が座る長椅子を容易に叩き折って、それまで座っていた場所を失った人形は自由落下を
始める。
 抵抗する事なく落下して来た人形を、同じ要領でマミはもう一度殴りつけた。ホームラ
ンバットとなったマスケットの打撃は、本来の使い方とは違っているとはいえども強力だ。
 殴られた人形は、その小さな身体を思いきり凹ませて、半円の壁まで吹っ飛び、叩き付
けられた。初動から、ここまでの連続攻撃に掛かった時間はほんの数秒。瞬く間にマミは
先手を取り、抵抗する間すらも与えずに圧勝しようとしていた。
 今なら、どんな敵にも負ける気がしない。
 その確信が、マミの動きを速く、鋭く変える。

(身体が軽い……こんな幸せな気持ちで戦うのは初めて)

 今のマミは、一人ぼっちではない。
 損とか得とか、そういう打算無しで、これからもずっと一緒に居てくれると言ってくれ
た仲間がいる。一緒に肩を並べて戦ってくれるパートナーが、今、マミの勝利を信じて後
ろで待ってくれている。負ける事など許されない。カッコ悪い姿など、見せられない。
 マミを孤独から連れ出してくれた鹿目まどかの為にも、この勝利はまどかに捧げる。そ
して、終わったら一緒に最高の魔法少女コンビ結成を祝して、パーティをするのだ。美味
しいケーキを食べて、美味しいお茶を飲んで、それから、それから――。
 家族を失ってからというもの、ずっと一人ぼっちだったマミにも、ようやく生きて帰る
理由が出来たのだ。なればこそ、こんな魔女なんかにこれ以上割いてやる時間などはない。

(もう、何も怖くない!)

 突き付けたマスケットの銃口は、寸分の狂いなく人形を狙い定めていた。
 怒涛の勢いで、マミは激しい弾丸の嵐を見舞った。一発撃ったマスケットはすぐに投げ
捨て、次のマスケットを掴んでは撃ちを繰り返す。人の常識で計れる速度を遥かに超えた
圧倒的な速度の射撃は、人形の小さな胴を蜂の巣へと変えた。
 それでも魔女は魔女。回復能力は生物の比ではなく、落下するまでに穿たれた穴は大抵
塞がってしまう。だけれども、そんな事はお構いなしにマミは歩を進め、身動き一つ取ら
ずに落下した人形の頭にマスケットを突き付け、ゼロ距離で弾丸を発射した。
 人形の頭に気持ちがいいくらいの風穴が空いて、そこから溢れ出した金色の魔力が、無
数の帯となって人形を締め上げ、遥か上方へと吊り上げた。全身を拘束魔法に縛られた魔
女に回避など出来る訳もない。マミは最後の一撃を放つ為、巨大な大砲を作り出した。
 大砲から放たれた必殺の一撃は、狙い過たず人形の胴をブチ抜いた。
 マミの持てる最高威力の砲撃魔法を受けた人形に、これ以上の戦闘は不可能。そう思わ
れたが、身体を潰された人形は、その小さな口から、巨大な何かを吐き出した。
 人間の体よりもずっと大きく長い。胴は黒く、ウツボのようにしなっていた。
 何かが出て来た。目の前で起こった事象をそう捉えた時には、既に黒い何かは、マミの
眼前に迫っていた。巨大な身体からは想像もつかない程の速度で、しかしそいつは特に変
わった戦法を用いる事もなく、至って普通な動作で、ただマミに接近したのだった。

「――え?」

 時間が止まったように感じたのは、どうしてだろう。勝利を確信していたマミの眼前ま
で迫った黒い魔女は、白塗りの顔でマミを見下ろすと、大きな口を開いていた。口の中に
は白く輝く牙がびっしりと並んでいて、その奥に見える舌は、唾液にぬめっていた。
 まるで、これから好物のお菓子を食べる子供の舌のように。
 反射的に、直感的に、本能的に。食べられる、と思った。

997なのマギ5話 ◆bv/kHkVDA2:2011/07/04(月) 17:42:16 ID:nmwzFrgQ
 身動きなんて取れる筈もなくて、マミはただ立ち尽くすだけしか出来なかった。目の前
で大口を開く魔女に意志の全てが集中していたマミは、魔女の遥か後方、チョコレートの
闇に覆われたドームの天井部分で、星々が煌めいた事にも気付かなかった。
 魔女の牙がマミの頭を飲み込もうとしたその刹那。夜空に輝く星々の如き輝きの中でも、
一際大きく、そして美しく輝く桜色の星が、人が知覚出来る光量を越えた閃光となって、
地へと降り注いだ。
 閃光は、今まさにマミを食い殺そうとしていた魔女の身体を猛烈な勢いで抉り、その巨
体を地へと縫い付ける。凄まじい轟音は、マミの耳を劈かん勢いで唸りを上げて、閃光が
伴った衝撃波は、マミの身体を吹き飛ばさん勢いでこの身を煽った。
 最も至近距離でその衝撃を受けたマミが感じたのは、痛みさえ覚える程の衝撃。それは
一瞬思考停止したマミの意識を、急速な勢いで呼び覚ましてくれた。

「一体、何が……!」

 見上げたマミの瞳を、眩い輝きが強く刺した。
 思わず目を背けたくなる思いを堪えて、それでも空を凝視する。チョコレートで出来た
闇は、最早夜空ですら無くなっていた。眩し過ぎて白銀にしか見えない夜空は、夜を引き
裂いて訪れた夜明けのようであった。
 やがて夜明けの光の中心から、何かがゆっくりと舞い降りてくる。
 純白の翼は、強い光を伴って美しく瞬いていた。眩しいくらいに輝いて見える白のロン
グスカートは、風に振られてふわりふわりとはためいて見える。優雅に舞い降りるその人
影は、光の天使のように思われた。

「高町……さん?」

 舞い降りた天使は、マミの良く知る高町なのはであった。
 良く見れば、胸元や腕は、機械の装甲のように見える。持っている杖だって、魔道師の
杖というよりは、赤い宝玉を金属の穂で覆い、それを白と青の機械の装甲で武装した槍の
ように見えた。だけれども、なのはが携えるソレの柄には青いグリップと引き金が付いて
いるようだし、それが杖なのか槍なのか銃器なのかは、マミにも検討は付かなかった。
 それ以前に、何故なのはが空を飛んでいるのか。何故なのはが魔法少女に変身している
のか。いくつもの疑問が濁流となって押し寄せて、思わずぽかんと見上げてしまうマミで
あったが、そんなマミの表情を見るや、なのはは満足そうに微笑んだ。

「良かった、マミさんが無事で……本当に良かった!」

 喜びも束の間だ。天使のように笑いかけるなのはの背後で、巨大な魔女がゆっくりと鎌
首をもたげた。魔女の表情は怒りに歪んで居るように見えたが、トゥーンコミック風の白
塗りの顔の所為で、些か滑稽に見える。だけれど、それはある意味では余計に不気味さを
引き立てるスパイスにも成り得る。
 なのはの危機に誰よりも早く気付いたマミは、状況の整理は後回しにして、まず叫んだ。

「高町さん、後ろっ!」

 それから、即座にマスケット銃を取り出し構えるが、マミの出る幕ではないようだった。
 何の警戒も示さないなのはを喰らおうと、魔女は大口を開けて迫る。だけれども、魔女
の牙がなのはに触れるよりもずっと早く、魔女の頭が爆ぜた。それから、胴、尻尾と、爆
発は次々と連鎖して、赤黒い爆煙を発生させた。先程のなのはの砲撃による魔力爆発とは
明らかに異なった、質量を持った兵器による爆発のように見えた。
 魔女は堪らず姿勢を崩し、ぐったりと横たわる。目の前の事実を認識し、なのはの無事
にマミが胸を撫で下ろした時には既に、もう一人の魔法少女がそこにいた。
 なのはの白とは対になる、黒の衣装を身に纏い。艶やかな黒髪を優雅に靡かせて佇む彼
女の名は、暁美ほむら。先程確かに、この手で拘束し動きを封じた筈の女だった。
 なのはは笑顔。ほむらは無表情。表情は全く違っているけれど、背中合わせに並んだ二
人は、同じ目的の為に手を組んだ仲間のように思われた。

「どういう事!? どうして二人が……まさか、高町さんまで!?」
「にゃはは……これには深い訳があって……えーっと、後できちんと説明しますから」
「その必要はないわ。もうこれ以上、巴マミに出る幕はないから」
「もう、ほむらちゃん……そういう言い方は良くないよ?」

998なのマギ5話 ◆bv/kHkVDA2:2011/07/04(月) 17:44:22 ID:nmwzFrgQ
 
 例え魔法少女の姿をしていても、高町なのはは高町なのはのままであった。
 いつも通りの優しいなのはのままである事が分かって、マミは少しだけ安堵する。だけ
れど、状況がさっぱりわからない事に変わりはないし、マミの教え子であったなのはがい
つの間にか魔法少女になっていて、しかも敵である筈の暁美ほむらと共に現れたとなれば、
これはどうあっても納得の行く説明が必要だ。
 ちらと後ろを見れば、物陰に隠れていたさやかとまどかも、どう反応していいのか分か
らないといった様子で、ただ見ているだけしか出来ないようだった。

「あなたはそこで見ていなさい。あの魔女は、私が狩るわ」
「私達が、の間違いでしょ、ほむらちゃん?」

 ほむらは一瞬だけ、不服そうな表情でなのはを見遣るが、しかしそれ以上は何も言わず
に、その姿を掻き消した。何処かへ飛んだとか、移動したとか、そういう事では無く、本
当の意味で消えたのだ。不可解な現象に眉を顰めるマミを後目に、なのははにゃははと苦
笑いをした。
 それから、なのはのブーツから光の翼が現出して、なのはも飛び上がった。
 まるで大空を飛び回る鳥のように、自由自在に宙を飛び回るなのはを見ていると、魔女
が生み出したこの広大な空間でさえも、小さく狭い箱庭のように思われた。
 空を自由に駆け回るなのはを捕らえようと、魔女はその長い身体を屈伸させてなのはに
襲い掛かる。だけれども、どんなに魔女が空を飛び回っても、なのはの速度には敵わない。
捕捉する事など出来はしないし、追い付く事さえも出来てはいない。
 それでもなのはを追い掛けていると、魔女の身体が突然爆発した。もんどりうって苦し
む魔女の脇のテーブルに、涼しい顔をしたほむらが着地した。
 今回も、ほむらが何処から現れたのを見極める事は出来なかった。突然現れて、突然消
えてゆくのだ。あれがほむらの能力で、ほむらが敵に付くというのなら、あの瞬間移動の
トリックを見極めない事にはマミに勝ち目はない。
 今度こそほむらの動きを見極めようとするが、そんなマミの目を奪ったのは、桜色の閃
光だった。先程の閃光よりも小さいが、しかしまるで意志を持ったかのように空を飛び回
る光は、今度はほむらに襲い掛かろうとした魔女の眼前を横切って、翻弄する。
 そうしていると、いつの間にか消えていたほむらが、また別のテーブルの上に現れて、
同時に魔女の身体が派手に爆ぜる。だけれども、魔女はしぶとい。先程ピンクの人形が、
口から魔女を吐き出したのと同じ要領で、黒い魔女は再び口から自分を吐き出した。再生
された魔女は、先程までに受けたダメージなどは忘れたように元気そうに飛ぶ。
 だけれど、結果は同じだ。今度は、魔女が数メートル飛んだところで、爆発した。
 顔が、胴が、尻尾が爆発して、魔女は再び口から新たな身体を吐き出す。何度なのはの
砲撃を受けても、何度ほむらの爆発―恐らくほむらの攻撃だと思う―を受けても、魔女は
幾らでも再生する。これではキリがないと思った、その時であった。
 なのはが放った砲撃が、魔女を飲み込み、焼き払った。同時に、ほむらが空間の中心の
テーブル席に現れて――そこに座っていた小さな人形を、真上から踏み潰した。
 ぷぎゃ、と音が聞こえて、魔女の再生は止まった。

999なのマギ5話 ◆bv/kHkVDA2:2011/07/04(月) 17:53:02 ID:nmwzFrgQ
 
 気付いた時には全てが終わって居た。マミの耳に入って来るのは、爆発音でもなければ、
破壊音ですらない。遠くから聞こえる自動車の走行音と、何処かで鳴く鴉の声だけだ。
 お菓子だらけの異質な空間なんて何処にもなくて、マミの目の前にあるのは大きすぎる
病院と、等間隔で並べられた色取り取りの自転車だけだった。
 高町なのはも暁美ほむらも、既に見滝原中学の制服姿に戻って居て、つい数十秒前に遡
れば、ここで魔女と魔法少女の戦いが繰り広げられていたなんて、信じられないと思える
程だった。
 魔女に勝ったのだという実感は、ない。
 事実として、マミは魔女に負けたのだ。命こそ助かったものの、これはなのは達がたま
たま駆け付けてくれたから、今こうしてここに立って居られるというだけの話だ。
 自分で倒すつもりで挑んだ魔女だって、いつの間にか彼女らに倒されて居たのだから、
この戦いでマミが成し遂げた事など、実際には何一つない。
 あまりにもあっけなさすぎる結末だと思う。命が助かったのは喜ばしい事であるが、そ
れを素直に喜べる程マミは能天気ではない。だけれども、なのはとほむらに対して負の感
情を抱くのも何か違う気がして、マミは気まずそうに俯いた。
 後ろを振り向けば、さやかとまどかも、怒っていいのか喜んでいいのかわからない、と
いうような複雑な表情をしていた。多分、今の自分も後ろの二人と同じような表情をして
いるのだと思う。
 だけれど、どんなに気分が良くなくても、何かを言わなければ始まらない。今はまず、
なのはとほむらの二人から話を聞く事が先決なのだと思う。マミは顔を上げて、真っ直ぐ
になのはを見据えた。

「……どういう事なのか説明して貰えるかしら、高町さん」

 なのはは嫌な顔一つせずに頷くが、ほむらはマミ達にそれ以上の興味などない様子で、
落ちていたグリーフシードを拾い上げた。それから、ちらとマミ達を見渡したほむらは、
何も言わずに立ち去って行った。
 なのははほむらを呼び止めようとしたようだったが、結局、何も言わずにその口を閉ざ
した。だけれども、そんななのはの表情は、どうにも釈然としないマミとは違っていて、
とても満足そうだった。
 なのははマミの無事を素直に喜んでくれた。その言葉にも、その笑顔にも嘘はないのだ
と思う。それは分かっているのに、分かっているからこそ、そんななのはの笑顔を見てい
ると、自分一人だけが惨めな気持ちになっている気がして、マミは誰にも気付かれないよ
うに緩く歯噛みをした。


今回はここで終了です。
最近の悩みはwikiで「* * *」がきちんと表示されない事くらいでしょうか。
……それから、wikiのコメントログとやらの実相についても少し悩んでいたりします。

海鳴と見滝原の設定を無理くり合わせてみたり、なのはが変身したり、今回は割と急展開です。
動きがあるSSというのはどうにも難しいもので、今回もまたいい勉強になったかと思います。
全体的に稚拙で見苦しい文章かとは思いますが、今後もよろしくお願いします。
それでは、また次回お会いしましょう。

1000魔法少女リリカル名無し:2011/08/26(金) 13:59:42 ID:6ZOSIo2A
復活しているぞ




掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板