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それは連鎖する物語Season2 ♯2

1数を持たない奇数頁:2014/09/05(金) 21:07:09 ID:LUyN3zHI0
つまりリレー小説なのだ

646数を持たない奇数頁:2015/06/29(月) 23:30:10 ID:fvOmScyI0
ついでにサプリも買おうぜ
帝国かガスライト

647数を持たない奇数頁:2015/06/30(火) 06:55:16 ID:9nYiFPGM0
兄さんCoCは持ってなかったっけ?

648零字:2015/06/30(火) 06:59:42 ID:uJeW5iYY0
クトゥルフなら2010もオススメ
ちなコレに収録されてるもっと食べたいならげーます出来ると思うで
俺経験あるし

649零字:2015/06/30(火) 07:00:06 ID:sVj48MvI0
連鎖とは関係なくてすまんな

650数を持たない奇数頁:2015/06/30(火) 11:55:54 ID:1c9oDOnA0
まさかのD20版だったり?

651数を持たない奇数頁:2015/07/02(木) 22:13:09 ID:t90hRRwc0
個人的にはアシュリーとエクリエルは犬猿の仲のだけど仕事上では手を取り合える(ただし全力で相手の手を潰そうと力を込める)関係だと思っている

652数を持たない奇数頁:2015/07/02(木) 22:18:47 ID:e5Iub5qc0
相手を潰すために、事態に対してオーバーキルレベルの策を張り巡らせそう

653数を持たない奇数頁:2015/07/02(木) 22:23:49 ID:t90hRRwc0
とりあえずパスされたところからの内容がてんで思いつかんから学院の閑話書いてるんだけど、何かサビ残して書類仕事してるサラリーマン的な哀愁が漂い始めている

654数を持たない奇数頁:2015/07/02(木) 22:47:29 ID:SScStpU60
お互いに喧嘩しつつの極限魔法合戦で敵勢を巻き込みながら気付いたら二人を残して敵を全滅させてた感じとか

655数を持たない奇数頁:2015/07/05(日) 21:21:56 ID:.Sfu8I8Y0
というかこれ学院の規模どうなんだろう? 何か俺が考えてるのって凄く……大き過ぎます……な感じがしてきた

俺はちょっとした学園都市(敷地内に学校を中心として生活に必要な施設、機関を詰め込んだ形)を想像してた
学校という意味では一校だけど各地区に校舎や各種施設があって、通学する生徒や職員を支える施設があって、それを動かす従業員がいて、街っぽくなってる感じで

656数を持たない奇数頁:2015/07/05(日) 21:27:14 ID:.Sfu8I8Y0
ああ、地区分けしてるのは専攻分野の問題と考えてる

657数を持たない奇数頁:2015/07/05(日) 21:28:10 ID:0elNkWcI0
俺のイメージとしてはホグワーツ+ダイアゴン横丁が一番近いかな
クソでかい学校+その周囲を覆うでかい森
+外縁部にそれぞれの世界の人間が馴染みやすいように作られた街みたいな

娯楽施設とか、購買に売ってないようなちょっとマニアックなものは外縁部の町に買いに行く、みたいな

658数を持たない奇数頁:2015/07/05(日) 21:36:17 ID:.Sfu8I8Y0
Oh……規模的には同じくらいで考えてるっぽいけど生活に関わる部分を内側か外側かで違うっぽいね

……明日にでも個人的イメージ図でも作って投げてみようかな。みんなの方向性から逸脱してるなら脳内イメージを訂正しないと

659数を持たない奇数頁:2015/07/05(日) 21:41:29 ID:0elNkWcI0
正直書いた人がちだと思ってる
俺はデカけりゃ後は何でもいいと思ってる

660数を持たない奇数頁:2015/07/05(日) 21:48:56 ID:.Sfu8I8Y0
とりあえず一つ言えるのは俺が考えているのだと初っ端の話し合いでたったりーんが提案していた規模の数倍規模程度の在学者数になってるわ

661数を持たない奇数頁:2015/07/05(日) 22:34:42 ID:KkSseZuU0
汝の欲すべきことを行うがいいと思うよ
某学園都市クラスの敷地があってもいい
リレーとはそういうものだ

662数を持たない奇数頁:2015/07/06(月) 21:28:32 ID:dJQ95ZLg0
ヒャッハー、もう面倒だからエクリエル、剛機ホオノキ・ダン十二式、九条泰生の閑話だけぶっこんじまおう

・エクリエル、サビ残で書類仕事をするサラリーマンの哀愁を知る
・【速報】剛機ホオノキ・ダン十二式氏、次回更新時も現行機を選択
・泰生は犠牲になったのだ……アシュリーの特技、その犠牲にな……
の三本立てでいく。おそらく13000〜15000文字程度になるはず

663数を持たない奇数頁:2015/07/06(月) 23:37:43 ID:urvvTaTQ0
ヒャッハー! 新鮮なKの人だ!
完成はいつ頃になりそうですかね?

664数を持たない奇数頁:2015/07/07(火) 09:28:43 ID:gf/UANAQ0
本音を言えば他キャラのも書きたかったけどネタが思い付かないのも相俟って断念。

とりあえず頑張れば今日明日中、特に頑張らなければ今週中。「今作は速さより堅さだよ、エンブレマー」ってなったら暗夜ハードやり直すから来週中かな

いや、マジで今作は速さで避けるよりも堅さで受けきった方が楽だわ。分隊組んで双方に天照らすとか回復着けてたらハンマー辺りを持ち出されない限りは突破される気がしない
(ただしすり抜け狐共を除く)

665数を持たない奇数頁:2015/07/07(火) 09:36:29 ID:cORJJCHw0
狐だけは許さない
エルフィいなかったら詰んでた

666数を持たない奇数頁:2015/07/07(火) 09:49:25 ID:gf/UANAQ0
すり抜けか、攻撃不可のどちらかだけなら良かったんだがな……

あ、俺はマイユニで無双した。試行回数は24回、マイユニに執事就けて敵陣のど真ん中に突っ込むだけという戦略もへったくれもないごり押しだった

667数を持たない奇数頁:2015/07/11(土) 08:08:54 ID:5.2W6hE60
インキン配信されて「成長吟味する理由は見つかったか? 相棒」とかそんなノリになったのでたぶん来週のパターンかな

668数を持たない奇数頁:2015/07/11(土) 17:25:20 ID:v1jyJ5Ek0
今気付いたけど二週間過ぎてたから、結局書き直して中途半端な上に予定よりも少なくなったけどぶん投げよう。

669剛機ホオノキ・ダン十二式 1/3:2015/07/11(土) 17:26:43 ID:v1jyJ5Ek0
 剛機ホオノキ・ダン十二式が、複数いた。
 厳密に言えば本人、もとい本機以外は剛機ホオノキ・ダン十二式ではない。同系列の別機だ。外装には所々に擦り傷が見られるが、致命的な損傷はない。
 ただし無事なのは機体だけだ。中身となる記憶領域は抜き取られており、他界人の表現をするならば、死体とでも呼べる存在だ。
 他界人であれば死体と接する事は望ましくない行動なのだが、機界人、特に生体部品の含有率が著しく低いないし生体部品を含まない個体にとっては、その限りではない。同系統の機体であれば破損原因を調べる事で自身が気をつけるべきことを理解出来るし、換装可能であれば再利用する事も出来る。
 死人を解体して再利用、と考えれば非常にグロテスク極まりない。しかし機界人にとっては、日常的と言える行為の一つでもある。友人が主要機関のベアリングが壊れたと言っていたのを聞き、自身の同規格かつ重要度の低いベアリングを貸し出す事もある。身体の物理的な貸し借りは、機会由来の部品ばかりの機界人にとっては極々当たり前の事であった。
 機械は壊れる。そして生体部品でもない限りは、一度壊れれば換えなければ直らない。逆に言えば壊れたところで、部品を換装すれば直るのだ。
 ただし、内部……多くは頭部や胸部に搭載された記録領域に限っては別だ。これに関しては、機界人の技術をもってしても、一度破損してしまえば二度と直すことは出来ない。
 その為に定期的なバックアップデータを保存し、その保存したデータの入った記憶領域を換装する事で、外面的には生を繋ぐ事は出来る。しかし一瞬でも継続性が断たれたという事は、死に変わりない。故に、剛機ホオノキ・ダン十二式は、十二式なのだ。厳密に言えば剛機ホオノキ・ダンと名乗る前に五回程度換装しているので、十二回だけ換装したという訳ではない。
 そもそも、機界人の精神、人格と呼べる物がどうやって完成したのか、それは機界人にもわからない。過去にはソースコードを読み解く事で起源を知ろうとした者もいたのだが、そういう者は、例外なく死んでいる。過負荷が原因、という訳ではない。バグと呼称出来る精神異常に苛まされ、発狂。やがて自身の記録領域やバックアップデータを物理的に破壊……自殺してしまう。
 故にソースコードを読み解く行為は禁忌とされている。それは五界統合後で自由意思という物を得てからも変わらない。むしろ、意思を得たからこそ誰もやりたがらない。誰だって、好き好んで死ぬような真似などしたくはないのだ。
 どこの世界にもタブーというものは存在している。機界人にとっては、自己の起源探究がそれであった。
 だから、剛機ホオノキ・ダン十二式が、態々同系列の機体を眺めているのは、自己の起源探究ではなかった。勿論、他界人に稀に見受けられる、死体に対して特別強い興味がある訳でもない。
 工作用に換装した腕で、眼前の死体《スクラップ》を解体していく。外装を剥げば機界人の血管や神経系である諸々のチューブや配管、配線が姿を見せる。更に奥には諸々の臓器に該当するポンプや冷却機なども存在している。
 暫く弄り回し、目的の物を見つけた剛機ホオノキ・ダン十二式の電子眼が鈍く輝く。破損しないように取り外し、眼前へと持っていく。
「――ふむ、見立て通り純正品ではないようだ」
 他界人で言うところの心臓、そこに程近い、とある部品だ。およそ他界人で言う所の成人の親指程度の大きさの部品であるが、文字通り心臓部に関わる部品である為に、重要度は高い。
 型番を確認しながら低い電子音で呟いていると、他の機体の陰から、同じ部品を手にした極彩色に塗装された機界人が姿を現す。
 ぱっと見た外見こそまるで別物だが、剛機ホオノキ・ダン十二式と同系列機だ。塗装もだが、外装の至る所に装飾が施された結果、最早別物と化している機体は、世代的には先輩と言える存在である。

670剛機ホオノキ・ダン十二式 2/3:2015/07/11(土) 17:27:03 ID:v1jyJ5Ek0
「こちらもだ、同志剛機ホオノキ・ダン十二式よ。型番を見る限りは粗末な廉売品のようだ。見よ、本来ならばSaw-CraftWarksとあるべき部分がSow-CraftWarksとなっている。発音は同じだがな」
「おお、素晴らしき発見だ、歌舞機ウキヨエよ。此方などはSaw-OraftWarksだぞ。ソウ・オラフトワークスか。単に刻印を失敗して繋がったのか、それとも本当にそういう風につけたのかは不明だが」
「しかし助かったぞ、同志剛機ホオノキ・ダン十二式よ。私は軍用機の気が強く、この手の作業は不得手でな」
「気にするではない、歌舞機ウキヨエよ。私と歌舞機ウキヨエは同系機ではないか。三年以内に製造された工作作業腕《エンジニア・アーム》で手を打とう。片腕で良い」
「相変わらず工作作業を嗜むのだな。良かろう、片腕で良いという謙虚さに感動した。安藤工業製の八一式工業工作腕を用意してやる」
「これは思わず小躍りしたくなる褒賞だ。人間であれば鼻歌でも歌いながら作業でもするのだろう」
「勿論、その分はしっかりと働いて貰うぞ。私達の様に機械由来の機界人には死活問題であるからな」
 勿論だとも、と、普段よりも波長の大きい声で返事をした剛機ホオノキ・ダン十二式は、解体を進めて行く。
 ――剛機ホオノキ・ダン十二式が解体作業に至った経緯などは、ある程度は形式に則って説明が出来る。元々五界統合学院へ在学、卒業後は機界人向けの部品流通管理機関へと就職した先輩に、日雇いのアルバイトとして雇われたのだ。
 機界人向けの機械部品は、各地の自治体が認可した製造所で作られた物だけが公に流通している。他界人で言うならば、行政が認可した薬や医療器具が流通しているのと近しい感覚であろう。
 所謂純正品と称される物は、例えば元々は人間界の金属加工業から発展して、各種換装品を手掛ける安藤工業や、精度が極めて高い、細々とした部品を扱う機界の老舗Saw-CraftWarksなどがある。
 純正品と称されるだけあり信頼性は極めて高く、アフターサービスも手厚い。ただし高価である。
 そこに付け入るように、認可されていない製造所で作られた廉価品も、裏では流通している。剛機ホオノキ・ダン十二式も、公言こそしていないが、重要度の低い幾つかの部品は廉価品を使っている。特に重要度の低さの割りに損耗しやすい箇所などは、一々純正品を使っていられない。身内含めて全て純正品を使っているのは、富裕層程度だろう。
 精度が悪いという理由で認可されていない製造所もあれば、作業環境が悪く公害の懸念がある為に認可されていない製造所もある。理由は何だって良いが、使い勝手の良い安価な部品というのは、機界人であれば誰だって欲する物だ。
 廉価品だと理解して扱う分には、まだ良い。信頼性が低い為、余程の貧困層でもなければ、重要度の低い場所にしか使わない為だ。
 ただし純正品を装った粗末な廉価品に関しては別だ。純正品だと思い重要機関で使っていたら、実は廉価品であり、致命的な破損を起こしたという事件は、決して少なくはない。
 場合によっては悪意を持ってわざと粗悪品を流通させ、誤作動や破損を目論む者だって存在している。
 その為に、流通状況を管理して純正品と、それ以外を明確に区別して取り扱える仕組みが必要とされた結果、そのような機関が生まれたのだ。

671剛機ホオノキ・ダン十二式 3/3:2015/07/11(土) 17:27:22 ID:v1jyJ5Ek0
「ふむ、目に付く限りではSaw-CraftWarksを騙った部品が多いな。細々とした部品が主である為に騙りやすい、というのもあるのだろうが」
「逆に言えば、ここ最近は信頼性が高く重要機関に用いられる部品に粗悪品が紛れ込む傾向にある、という事か」
「その通りだな、同志剛機ホオノキ・ダン十二式よ。上司への報告書には、この手の部品の監視強化を提案しておく事にする」
「それは私としても助かるぞ。私は生体部品を使っていないからな、歌舞機ウキヨエ達の仕事が、直接健康に関わってくるのだからな」
「それに関してだが、次回更新時は戦闘機ではなく、流行のアンドロイド型にすればどうだろうか? あちらなら、一々作業毎に腕部を換装する煩わしさもない。その上、省エネルギーかつ省スペース化が図られている」
 時代は他界人との共存を図りやすいアンドロイド型が主流になりつつあると、歌舞機ウキヨエは言う。単調な電子音ながら、どこか憂いの帯びた響きであった。
 人間ならば肩を竦めて見せるのだろうと思いながら、剛機ホオノキ・ダン十二式は首を振る。
「――確かに、総合的な利点、欠点を考慮すればそれが良いのだろう。……ただ、効率重視が最も良い選択ではないというのは、最近の機界人の思考パターンの傾向なのかもしれない」
「つまりは、次回更新時も現行のままで行くと」
「機界人の中で、特に私達のような機械部品で構成された機界人は、自身と他人の境界線が曖昧だ。例えば歌舞機ウキヨエと右腕を交換したとしよう。その腕は、果たして私の物か? それとも歌舞機ウキヨエの物か? 所有権の事を言うならば、勿論歌舞機ウキヨエの物なのだが、自分自身が、”自分”だと認識して良いのは換装直前部分までなのか? それとも換装後も含めた全身なのか? あるいは、換装時に取り外した所有権が自身の部品も含めてなのか?」
 腕が壊れれば腕を付け替える。規格さえ合っていれば、前の腕と同じ形式である必要はない。
 それと同じく、記憶領域の互換性さえあれば、他系列の機体に換装する事だって可能なのだ。
「この機体は、私が私だと胸を張って断言する為に変えられないのだ。主流だからと機体その物を換装してしまうと、いつか自己という物を失いかねない。機界には前例があるだろう?」
 各界において忘れ難い惨事という物は存在しているのだろうが、機界において忘れ難い惨事と言えば、大体の機界人は自己同一性喪失病と答えるだろう。
 かつて、各方面に優れた機体が開発された。今後の発展と規格統一化による手続き簡略化の思想の下、支援金を出してその機体への換装が政府主導で進められた事があった。
 当初こそは良かったのだが、自身と他人の境界線が曖昧となって行き、自己同一性を喪失。無気力化、及び注意力散漫となり、大規模な人災が相次いで発生した惨事である。また、規格統一化という思想の下で産業の多様性が失われ、多くの失業者が発生した事も、惨事の一部として語られている。
 その惨事を教訓として、今日では多様なあり方が認められている。本来ならば質実剛健さが求められる戦闘機である剛機ホオノキ・ダン十二式が工作作業に勤しんだり、歌舞機ウキヨエが派手な外装を纏っていたりと、行動面や外見に関して、機界人は互いに必要以上に口出しをする事はない。
「……すまなかった、どうやら失言のようだったな」
「ふふ、片腕分を両腕分にするか、八三式工業工作腕で妥協してやろう」
「ならば両腕分にしておこう。流石に、最新型は用意出来ない」
「存外の利益となったな。勿論、その分だけは真面目に働かせて貰おう。さぁ、作業の続きと行こうではないか」

672エクリエル 1/4:2015/07/11(土) 17:28:02 ID:v1jyJ5Ek0
 別段、空席だった風紀委員長の席に戻る事は難しい話ではなかった。
 元々は高等部への進学時に、乱層区画の調査及び研究が主となり、作業量的に過負荷傾向となる為に学院側が行った処置だ。本来ならば副委員長であった真川敦を委員長とし、適当な人材を補佐として、副委員長に宛がうという話だった。しかし真川敦本人が委員長となる事を拒み、空席としたいという意見を出した為、審議の結果に委員長を空席とする事になったのだ。
 当時は二進も三進も行かなかった為に承諾したのだが、現在ではある程度の余裕が出来た事。そして戻らねばならない程に、学院内での面倒事が増えてきた事から、一学期の後半からは仮として、風紀委員長へと戻っていた。二学期からは、正式に学院側から任命されるに違いない。
 各学区から上がってきていた先日の巡回報告の書類から視線を起こしたエクリエルは、風紀委員長室の壁に掛けられた時計へと視線を向ける。
 時刻は午後二時過ぎ。冷房が効いている空間である為に涼しいのだが、外の暑さは最高潮に達している頃であろう。窓の外を見やれば、雲一つない蒼穹に、太陽が燦々と輝いている。地表では陽炎が揺らめき、遠くの景色は歪んで見えた。
 幸い――いや、ある意味不幸ではあるのだが、まだ帰る訳には行かなかった。巡回報告で発見された施設や備品の破損に対する改善の提案書、来週の巡回人員と経路の指示書、室内の新設備の検証報告書という風紀委員長として作成しなければならない書類を作っていない。学生である為にしなければならない課題類も、少量ずつでもやらないと後半に苦しくなる。挙句、学院から指示されている乱層区画の調査報告書も作らなければならない。
 普段ならばそれだけで良いのだが、夏季休暇中の折り返す頃には、夏季執行部会が行われる。一学期の報告、二学期に執り行われる行事が議題となるが、それに対する資料や、事前に来ている質問等に対する回答の準備もしなければならない。
 具体的には各行事の警備体制案だったり、有事の対処マニュアルだったりだ。多くは例年の物から、人名や規模を調整するだけで済むのだが、一部は一から作り直す必要のある物もある。
 寮の自室でやらないのは、単に幾つかの書類が委員会室から持ち出し不可能な事と、冷房や照明の利用費が、委員長室では経費で落とせる事が大きな理由だ。もっと言えば、自室に備えている機材を使うよりも、委員長室に備えられた機材の方が性能が良いというのもある。紙類も、経費で落とせる。
 一般生徒からすれば職権乱用だと指摘されそうではあるが、相応の仕事はしている心算なので、苦情などは言わせない。苦情を言う者は、まずは仕事を一通りこなし、それでも苦情があれば言って欲しいものだ。勿論、そうした上で苦情があれば改善はする。尤も、風紀委員長……書類仕事の嫌いな副委員長も含めた、風紀委員会の上層部の仕事をこなした上で苦情を言える者がいれば、の話なのだが。
 学院は広い。苦情を言う余裕がある者は幾人かはいるだろう。ただそういう者達は、十中八九何らかの集団の上層部にいる者だ。指摘すれば自身の首を絞める事にもなる。
 そんな下らない事を考えながら、エクリエルは書類を作ろうとパソコンに向かう。キーボードへと手を乗せると同時、机上に置かれていた電話機から電子音が響き始めた。
 小さく息を吐き出し、画面の表示を見る。図書文化委員長室と表示されたそれを見れば、極々自然に眉間に皺が寄る。
 出来れば出たくはないのだが、出なければ、恐らく私用の携帯電話の方に掛けられる。無論、嫌がらせの為か一瞬だけだろう。それを此方からでは電話出来ないように連続して続けられる。非常に煩わしい。

673エクリエル 2/4:2015/07/11(土) 17:28:36 ID:v1jyJ5Ek0
「……風紀委員長だ。図書文化委員長、何の用だ?」
『何の用って、ナニに決まってるじゃない。禁書盗難、あの件って今はどうなってるの? あと一冊戻ってきてないんだけど』
 甘ったるいその声は、図書文化委員長のアシュリーの物だ。それを知覚すると同時、一層眉間に皺が深く刻まれる。
 思わず、私の知った事か、と返してやろうとも思うも、止める。脳内に関連する情報を上げていき、繋がるようにそれらを組み立てていく。
 あの一件は、結局は図書文化委員会に所属する人員によって引き起こされた物、というのが表向きに公表されている。その者には一週間の監視付き停学、という処分が下された。なお、盗んだ本は禁書と公表されていない。図書本館から持ち出し出来ない資料として軽度の処分としている。禁書盗難など、本来ならば退学処分がされても不思議ではない。
 表向きでない部分を突き詰めていけば、語られぬ者達と呼ばれる集団が関わってくる。そこで脅された結果、盗難に至った。その為、情状酌量の余地ありという事で、ある程度の虚偽を交えて、他方からの文句を言われない形で解決としたのだ。
 取調べによると犯人が盗んだ禁書は二冊。異界連結理論、そして生命変換法。組み合わせて運用すれば、五界統合時に等しい騒乱を生む原因となりうる。
 ただ残りの一冊に関しては関与を認めなかった。各種の自白を促す魔法や機材を利用しても口を割らなかった。狂人でもなければ、確実に関与しておらず、そもそも狂人であれば脅しに屈指ないだろう。故に、無関係だと断言出来るだろう。
 判明しているのは盗まれた事、という一点のみだ。監視を行う魔法を潜り抜けた事を考えれば、それなり以上に魔法に対する教養がある事は間違いない。しかし内部の人員などのように、構造の弱点を的確に突けるのならば、その限りではない。
 なお、”語られぬ者達”と呼ばれる者達を脅した犯人に関しては、校外に所属する者、という方向で結論付けられた。その為、外部機関への調査が依頼されている。
 エクリエルは、それを納得していない。校外の者が関与するには教師層以上の関与か、あるいは諸々の監視を抜けられる者でなければ不可能だ。前者はともかく、後者であれば、そもそも脅して盗ませるまでもなく、犯人自身で動く方が確実だ。
 委員長が納得していないのにそう結論付けられたのは他でもなく、教師層や生徒会から圧力を掛けられ、エクリエルの指摘事項が握り潰されたからだ。エクリエルとしては、失踪した伊庭甲子郎の件も合わせて疑うべきだ、というのが本音だ。しかし、圧力によって禁書盗難事件とは無関係とされてしまった。
 その事が脳裏を過ぎると、電話の相手が毛嫌いしているアシュリーである事と相俟って苛立ってくる。
「……調査中だ。そもそも、そちらが管理を徹底していれば起き得なかった事案だろう。大人しく報告を待つ事も出来ないのか?」
『あら、今日は随分と攻撃的ね。生理中かな?』
 くつくつと、鼓膜を叩く笑い声は、人によっては甘美な響きに感じられるのだろうが、今は非常に耳障りなだけだ。
 受話器越しでも聞こえるように、エクリエルは舌打ちを一つ吐き捨て、すっと目を細める。
「……用件はそれだけか?」
『クソ真面目なクソ天使なら何日前に、だとか、そういう事言うかと思』
 叩き付けるように……もとい、受話器を叩き付けて通話を終了とする。
 下品な上に不愉快極まりない相手に、いつまでも付き合う事程無駄な事は存在しない。
 溜息と共に胸中で渦巻いた黒々とした感情を吐き出す。多少は落ち着くものの、それでも、苛立ちは収まらない。
 拍車を掛けるかのように、再び電話機が鳴る。画面には、やはり図書文化委員長室の文字。拳を電話機に叩き付けそうになったが、止めておく。始末書の追加など、煩わしい事この上ない。

674エクリエル 3/4:2015/07/11(土) 17:28:58 ID:v1jyJ5Ek0
『冗談だよ、別に、貴女の生理周期なんて知っても……まぁ、多少は面白いように使えるけどね? 具体的に言』
「用件を言え。下らん戯言に付き合う心算はない」
『……ああ、そう。まぁ二学期からは風紀委員長に戻るらしいから、諸々の仕事で忙しいよね。うん、これは失敗失敗。弄るのは用件を済ませてからにするよ』
 こほんと、態とらしい咳払いの後、アシュリーの用件とやらが鼓膜を揺らす。
 正式な表明はまだだが、夏季休暇の何処かで夏季執行部会とは別に臨時部会が執り行われるとの事だ。どこで仕入れた情報かは不明だが、大方、彼女が”甘やかせた”相手を上手く使って、仕入れたのだろう。
 単純に図書文化委員長という事で一般生徒とは隔絶した人脈がある上に、独自の人脈を持つアシュリーからの情報は、それなりには信用出来る。
 尤も、彼女が嘘を吐いていないという前提の元に成りたつ信用ではあるのだが、委員会関係では互いに嘘は吐けない。信用しても良い。それ以外は、大体逆の事をすれば間違える事はない。
『夏季執行部会は例年通りの一学期の報告と二学期の行事に関して。で、臨時部会の方は一学期後半の諸々、って言えば通じるよね? エクリエルも、一応当事者だった訳だしね』
「なるほど。それで、禁書関係の報告を求めた、と」
『まだ未解決だからね、そういう所を突かれるのって嫌だからさ。それまでに、出来る限り身奇麗にしておきたいのよね』
「そういう事ならば先に言え。貴様との個人的な付き合いは畜生と交わる事と同程度には唾棄すべき事だが、委員会関係での付き合いならば私情は持ち込まない」
『獣姦並みに嫌って、どれだけ私の事を嫌っているのだか』
「普段の言動を完全な第三者に記録してもらい、それを確認すると良い。自身の欠点など、案外自身では気づけないものだ」
『ごめん、それそっくりそのまま貴女に返すよ』
「欠点など既に理解している。ただ、直す心算は現状ではない。……関係書類は、本館へ届ければ良いのだろうか?」
『……いや、図書文化委員長室でお願い。すぐに送れる?』
「まだ纏め終えていない。今日中に現状分は終わるだろう。……一七〇〇までには届ける」

675エクリエル 4/4:2015/07/11(土) 17:29:16 ID:v1jyJ5Ek0
『ん、五時ね。りょーかい。直接受け取るよ。学園祭は図書文化委員が関わるからさ、その関係で連日委員長室に缶詰だから』
 折角の夏休みなのに嫌になる、と、心底嫌そうな口振りで吐き出された愚痴には、不本意ながら同意しか出来ない。
 委員長というのは、どこも似たようなものだ。何らかの行事が近づけば、行事に関係する書類仕事や会議に忙殺される日々を送る羽目になる。特に自身が率いる委員会と密接に関わる行事となれば、私的に勉強をしどころではない。だというのに試験は待ってはくれない。そうして、委員長というのは、大体成績を落とす破目になる。
 風紀委員会は、大規模な催し毎に忙殺される。安全に対する体制や、有事の対処などは風紀委員会の管轄である為、どのような方向性の催しでさえ、密接に関わる羽目となる。
 文化祭で忙殺される図書文化委員長、体育祭で忙殺される保健体育委員長に比べれば、瞬間的な負荷は幾分か軽い。ただ継続して負荷を掛けられる為、どちらがましなのかは兼任するか、あるいは幾つかの委員長を体験しなければ分からない。
『……あ、こっちの用件は終わり。そちらからは何かある?』
「……特には、ない。強いて言えば禁書盗難に関して、もう一度監視系統の確認をしたい程度だ」
『あー……まぁ、委員達には、生徒会に睨まれると言えば多少は協力的に出来るかもね。正直、エクリエルと私的に関わるのは真っ平御免だけど、委員長同士なら、程々には付き合いたい人物だからさ。分かったよ、とりあえず案内の人員は用意しておく。……ところでさ、具体的に言うとエ』
 用事が済めば、そこまでで良い。アシュリーの思いついた碌でもない考えに耳を傾ける事もなく、受話器を戻す。
 数秒程電話機を注視したが、掛け直しはなさそうであった。その為、優先順位の上がった、禁書関係の報告書の作成の為、作りかけのデータを開く。
 二冊分の事件概要と経緯、結果に関しては既に作成済みであり、そもそも提出し、確認印が入った原紙は文書保管用の棚に収められている。
 残り一冊文に関しては、それの流用で殆どどうにかなる。結果の部分が書けないだけであり、調査段階で判明した諸々を纏めていけば、それで良い。
「――どこの阿呆だか知らんが、全く以って煩わしい」
 足元の鞄からファイルを取り出したエクリエルは、纏める為にそれを捲っていく。

676数を持たない奇数頁:2015/07/11(土) 17:30:53 ID:v1jyJ5Ek0
結局アシュリーの甘やかし方がちょっとエロスヴァティに関わりそうな雰囲気になりつつあったりなかったりして、まぁ、その、なんだ、とりあえず二学期で委員会関係の話に持っていきたいなぁ、という俺の欲望を駄々漏れにした結果の産物をぶん投げてパスするんだぜ

677数を持たない奇数頁:2015/07/11(土) 18:45:11 ID:QdcNOZpU0
Kの人乙!
さて、読むのだ

678数を持たない奇数頁:2015/07/11(土) 19:17:29 ID:QdcNOZpU0
漂うは中間管理職の哀愁

679数を持たない奇数頁:2015/07/11(土) 21:45:15 ID:kf0sTmi20

実は西口のところから読めてないため時間がかかるかパスになりそう

680数を持たない奇数頁:2015/07/11(土) 21:46:22 ID:QdcNOZpU0
正直俺のパートは無駄に長いだけだから斜め読みでよい

681数を持たない奇数頁:2015/07/11(土) 21:48:41 ID:kf0sTmi20
全部読む!
あらゆるやりたいことが溜まっていってどうしようもないことになってきた!
ああ今日の分の録画を撮るために溜まったアニメ消化してこないと

682数を持たない奇数頁:2015/07/11(土) 23:28:36 ID:9lt2jb4o0
Kの人乙ポニ
学園祭に関しては俺も個人的にやりたい事があったりするが、それをやる為にはソウジくんに対する朝霞好感度が低すぎることがちょっと懸念
ドネルケバブの件で一切関わらなかったから、今度こそ少しでも好感度上げようと思った矢先に革命が発生したというね

683数を持たない奇数頁:2015/07/12(日) 23:48:50 ID:Wg4dPbsA0
よし読み終わったぞ
ソウジつえぇ
エクリエル素敵
俺もこのまま学院編しようそうしよう

684数を持たない奇数頁:2015/07/19(日) 21:36:47 ID:.TclDJl20
 夕焼けがにじむ旧校舎に生徒の影は無く、ただ木々の陰が少しだけ触れていた。
 窓ガラスから入り込む夕日が、教室の静けさの中に混じっていく。
 揃えられていない机だけが少し賑やかな、そんな風景だった。
 しかしたったひとつだけ、夕暮れを拒むかのように、カーテンに閉ざされた教室が最上階の隅にあった。
 電灯も点けられていない暗い教室ではあったが、揺れるカーテンが何かの存在をにおわせている。
 まったく夏休みだというのに。
 男は困ったように微笑み、大きな欠伸をしながらゆっくりと歩き出した。

 弦楽器の音色が薄暗い空気を震わせる。
 やがてそれは音楽となり、誰もいない廊下を駆け抜けていった。
「えらくご機嫌な音色だ。踊っているようでもある」
 どこからともなく低い声がした。
「ふふ……揃ったようだね」
 弦楽器を弾いていた者はそれを構えたまま語りかける。それはしっとりとした女性の声であった。
「集まってくれてどうもありがとう。さっそくだが我々へ幾つかの依頼が来た」
「どれでもいい。どれにしろ、面白いことにするのだから」
 話を割った声の主は、前髪を払う素振りをして気取る。声の調子も独特で、その抑揚には何らかの自負があった。
「私は全部承っても構いません。丁度新しいものが出来上がったところですので」
 その口調はお淑やかながら、少女のような高い声だった。
 それに答えるかのようなタイミングで弦がゆっくりと引かれる。
「君たちには悪いが……実はもう決めてある。“薔薇”からの依頼にね」
 静寂の中に微かなざわめきか生まれた。
 やがてそれはそっと消えて、笑い声や机を叩く音に変わった。
「気に入らない……が、それ故面白くもなる。気に入った」
「かつてない大仕事になりますね。きっと、そういう人です」
 奏者は曲に思えないような奇妙な演奏を始めながら、残る一人に尋ねる。
「貴方も踊りませんか?」
 どこからかしっかりと声がした。
「愚問」
「誰かいるのかい?」
 男が教室の戸を開くと真っ赤な夕陽が遠くに見えた。
 夕日を反射してきらきらと光る教室の中には、男しかいなかった。
 男は髪を掻き分けながら教室を後にする。
「おかしいなぁ。たしかカーテンは閉まっていたはずで、楽器の音もしてたのに」

685数を持たない奇数頁:2015/07/19(日) 21:39:52 ID:dPvjMmtc0
以上
久しぶりに参加できたぞ
この戦いが終わった後にやりたいことやるためのキャラを
色々伏せながら出しただけという

これ連鎖って呼べるのだろうか

タタリん頑張れ!

686数を持たない奇数頁:2015/07/19(日) 21:41:41 ID:j7ZQS/zo0
クロタンオツタン

687数を持たない奇数頁:2015/07/19(日) 21:45:01 ID:j7ZQS/zo0
あれ、旧校舎ってクロガネの巣じゃなかったっけ?

688数を持たない奇数頁:2015/07/19(日) 21:46:36 ID:.TclDJl20
え?そうなの?
もう色々完全に忘れてるやばい

689数を持たない奇数頁:2015/07/19(日) 21:53:08 ID:v12c9Rgc0
乙ポニ

最後に出てきた男は見回りかなにか?

690数を持たない奇数頁:2015/07/19(日) 21:53:24 ID:mmjvdezk0
クロおっつおっつ

>>687
いつから旧校舎が一つだと錯覚していた……?

691数を持たない奇数頁:2015/07/19(日) 21:56:35 ID:.TclDJl20
旧校舎は二つあったッ!!

>>689
先生です

692数を持たない奇数頁:2015/07/19(日) 22:12:01 ID:v12c9Rgc0
とりあえず二連チャンで番外みたいな流れになってるし、俺は本編に戻そう
ベイバロンどうしようかな。今のところ誰もあの設定拾ってないし、当初の予定とはちょっと変わるがリサイクルしてみようかな

693数を持たない奇数頁:2015/07/19(日) 23:13:53 ID:M.hriPlk0
おじいちゃん視点も進展させようとして書いてみたら「これ書いた奴は頭おかしいな」ってくらい酷くなった
なんかおじいちゃん、空とか飛びだした

694数を持たない奇数頁:2015/07/19(日) 23:15:43 ID:j7ZQS/zo0
余裕だろ

695数を持たない奇数頁:2015/07/19(日) 23:17:25 ID:M.hriPlk0
そうだよな、おじいちゃん先々代当主だもん、空くらい飛ぶよな
よかったよかった

696数を持たない奇数頁:2015/07/20(月) 05:23:17 ID:.wmKhde60
伏神家当主は化け物じゃないと務まらないのか……

697数を持たない奇数頁:2015/07/20(月) 06:59:42 ID:/Cm263U20
札を空中に投げ、それを足場に空を走ってもらおうか

698数を持たない奇数頁:2015/07/20(月) 11:50:13 ID:2o8K/DBg0
じいちゃん論外クラス認定
これにはソウジとベイバロンも思わず苦笑い

じいちゃん書くのクッソ楽しいんだ

699数を持たない奇数頁:2015/07/20(月) 11:57:09 ID:otOzjMIs0
爺ちゃんは何かいても許される感ある

700数を持たない奇数頁:2015/07/20(月) 16:21:02 ID:JUx8h7iE0
ベイバロン「あいつが何をしても不思議じゃない」
ソウジ「もう全部じいちゃんだけでいいんじゃないかな」

こんな感じでちょっぴり仲良くなっちゃったわ

701数を持たない奇数頁:2015/07/22(水) 23:00:46 ID:ZOalySwE0
戦闘前の軽い会話を入れようと思ったら、なんか哲学というか宗教じみた話になってきた
なんだこれは、俺はどこに着地しようとしてるんだ

702数を持たない奇数頁:2015/07/22(水) 23:01:40 ID:cQUxZEWc0
最近だらしねえな

703数を持たない奇数頁:2015/07/22(水) 23:05:32 ID:ZOalySwE0
ていうか俺の中でソウジくんの煽りスキルはカンストしてるのかってくらい相手を怒らせる天才になってきた
誰だよコイツそげぶかよ

704数を持たない奇数頁:2015/07/23(木) 19:43:31 ID:V9ZQhPu20
ぶっちゃけ伏神家騒動がこんなに長引くとは思ってなかった。
竜関係がダークファンタジーなら、兄からの電話はラブコメだー! とか書いた本人としては、聡治の方に許婚云々とする心算だったりしたんだよなぁ。まぁ今の方が面白そうだから良いけど

705数を持たない奇数頁:2015/07/24(金) 00:16:12 ID:jy3OXdSs0
正直、俺は番外編がくるまで、伏神家アシュリー乱入ルートを諦めてなかった
番外編にちょろっと出たくらいなら、学院から空間移動する流れで登場させるつもりだった
で兄や祖父(無理やり)公認の次期妻みたいなノリにするつもりだった>つまりラブコメ

もうここまで来ると終わらせた方が早く思えるがなんで宗教じみた話になってんだろ
そういやドネルクラルの時も似たような事しでかしてたな俺…

706数を持たない奇数頁:2015/07/24(金) 23:24:05 ID:gSnu/HMA0
もうちょいで終わりそうではあるのだが、これ完全にドネルクラル戦の焼き増しでしかない気がする
俺がこういう種類の戦闘しか書けない馬鹿のワンパターン野郎である事を主張してる様にしか思えない

707数を持たない奇数頁:2015/07/25(土) 19:31:15 ID:3g4uIO0o0
七つの大罪って【傲慢】と【憤怒】以外の設定出てたっけ?

708数を持たない奇数頁:2015/07/25(土) 19:34:09 ID:UGLhPfJk0
【怠惰】が魔法の解除で、【暴食】が飢餓感と結びついた槍っぽい攻撃かな?

709数を持たない奇数頁:2015/07/25(土) 19:41:51 ID:73E3ha3Q0
ありがたや、ありがたや

710数を持たない奇数頁:2015/07/25(土) 19:43:50 ID:A62hPzRc0
聡治の厨二シリーズの事なら暴食もあるな

出した本人としては↓のような設定で書いていた

古びた軍用札に複雑な構成式を多重筆記(言語の圧縮や重ねる事で式密度向上、省スペース化)で書いてコーティング(劣化防止、導通良好化)した物。
普通は複数枚の札を組み合わせて作る書記魔法だが、聡治が無駄に頑張ったせいで一枚で発動できるようになった。そのせいで携行禁止の扱いに。
(規定枚数以上に機能を分散させた場合なら問題なかった、という経緯を個人的には考えていたりする。)

711数を持たない奇数頁:2015/08/01(土) 09:09:29 ID:L7bBEMxc0
できちゃったみたいなの…(///

問題は、つい勢いに任せてベイバロンを倒しちゃった事だ
倒したのはクロガネだが

712数を持たない奇数頁:2015/08/01(土) 09:28:35 ID:mu4J7z6A0
かまへんかまへん
正直風呂敷広げすぎた

713数を持たない奇数頁:2015/08/01(土) 10:52:38 ID:vyrOqEag0
「よっこらしょ」
 間抜けな掛け声と共に、大型動物よりなお巨大な翼持つ竜が仰向けに倒れ込んだ。巨体は地面を抉り、クレーターと共に土埃を巻き上げる。
 竜が見に纏う強固な鱗はあらゆるダメージを軽減させる、鋼より硬質な素材である。ちょっとやそっとの事では傷一つ付くまい。地面に倒れたところで、その外装を貫通する事はできない。
 だが、衝撃は別だ。投げ飛ばされる速度は尋常ならざる、全体を高速で地面に打ち付けられた竜は致命傷とまではいかずとも、内臓や骨などの重要器官に重篤な振動を受け、その身を激痛が迸る。
 そして、激痛に耐えつつ起き上がるには、その身体はあまりにも巨大で、鈍重すぎた。
 尾を抱え込む様に投げ飛ばした張本人、伏神楯一郎は素早く回り込み、地面に仰け反る様に頭を垂らした竜の頭部に左手を添える。
 ──人外であっても、脳みそを鷲掴みにする様な圧迫感は理解できる。人間を木っ端の様に扱う超常の存在は、楯一郎を前に死を予感した。
 伏神無手流・万意穿孔浸通撃。浸透勁と呼ばれる、硬い外部から振動のみを全体に反響させる、伏神に伝わる内部破壊の拳技。
 鱗があらゆるダメージを軽減するというのであれば、鱗の内部を直接攻撃してしまえばいい。竜との遭遇直後、何手か試してダメージを殺してしまう鋼より硬質な皮膚を持つ竜を相手に、楯一郎はそう判断した。
 ストン、と。ともすればコミカルにさえ聞こえる軽快な音を鳴らし、楯一郎のゆったりと動く右拳が竜の頭部を打ち付けた。瞬間、竜の頭蓋の内部、脳や脊椎が衝撃を受けて爆発四散する。
 傍から見るならば、それは魔法の様に思えるだろう。この場に五界統合学院の研究室がいれば、どう判断を下しただろうか。
 が、現実には、楯一郎が使った魔法は肉体活性、賦活活性などの操作魔法一種しか用いていない。……と言ったならば、おそらくどんな魔法研究者も鼻で笑う事だろう。
 背後から迫る牙。楯一郎は今しがた殺害した竜の体を蹴って飛び上がり、巨大な竜よりなお高く、上空から地上へ打ち下ろす様に拳を振った。その拳は竜には到底届かぬ距離でありながら、鉄球重機(モンケーン)ほどもあろう巨大なハンマーを振り降ろされたが如く、首の伸びきった竜の頭部が圧し潰された。
 伏神無手流・大鵬点衝百歩撃。その名の通り、百歩の間合いにすら届く拳撃である。冗談でもなければ事実、楯一郎の拳は竜を圧殺したのである。
 竜の死骸に着地したと同時に疾走。魔界人の集落にある竜の姿は七頭。うち六頭が絶命し、残る一頭めがけて楯一郎は音を置き去りにする程の速度・脚力で駆ける。
 距離は至近とは言い難く、目測で二十メートル。それでも楯一郎にしてみれば一瞬だ。その程度の距離であれば、楯一郎の射程範囲に届いている。
 竜は大きく咢(アギト)を開き、全身全霊を持って慟哭を放った。人間の脆弱な肉体など、莫大なエネルギー量からなる衝撃波、魔竜の咆哮(ドラゴン・ロアー)を以てすれば弾け飛ぶ。
「こ・ざ・か、しいわッ!」
 弾け飛ぶ筈なのに、楯一郎は竜に匹敵する声量を発してこれを相殺した。仔竜が開けた大きな口が、呆れ果ててポカンと開いている様に見える。
 弾丸の様な速度で飛び上がり、生物であれば心の臓があるだろう位置に拳を当てる。外部から確認はできないが、内部ではダイナマイトが爆ぜる程の衝撃によって粉砕されている事だろう。
「よし。一丁上がり」
 轟音を立ててその場に倒れ込む竜の腹にどっかと腰を下ろし、空を見上げる。楯一郎は知る由もないが、ベイバロンと名乗る竜の眷属は未だ、空にも、本家にも、上伏町にも存在する。ようやっと半分ほどが討伐できた訳で、それでも上空を飛行周回する竜の群れは順次、上伏町を襲撃している。
「町には希口もおるし、そうそう心配する事もないじゃろうが。どれ、もうちっと数を減らすとするかの」
 上空をぼんやりと眺めながら、楯一郎は手を翳す。自分の手と竜の影を同時に遠近法で観察し、距離を測っているのだ。
 およそ五〇〇メートルと言ったところか。流石にこの距離では百歩撃も届くまい。百歩撃とは空気を打つ振動を百歩の間合いまで直線的に与える拳技である。距離が開くほど振動は拡散し、その威力は半減する。仮に届いたところで竜に致命傷を与える事は出来ない。
 竜が伏神山を降下する際に百歩撃で狙撃するという手もあるが、竜の行動に頼りすぎて積極性がないし、何より確実とは言えない。狙撃だのタイミングを合わせるだのと言った細かな作業は苦手なのである。
 そうなると、答えは一つしかない。実に単純で明快な話である。
 遠距離攻撃で撃ち落とすのが難しいのならば、直接出向いて討ち落とせばいいのだ。
「……こりゃあ、明日は筋肉痛じゃな」
 屈伸運動で軽く足腰を解した後、楯一郎は腰を落として力を溜め、全身の筋肉を爆発させるが如く跳び上がった。

714数を持たない奇数頁:2015/08/01(土) 10:53:02 ID:vyrOqEag0
 楯一郎は人間という理解の範疇に留まる存在でありながら、理外の能力を宿した、人間を超越した人間である。
 そも、楯一郎の一連の行動は魔法ではなく技術である。彼が唯一行った身体強化の操作魔法は、かつて太古の時代には「仙術」と呼ばれる森羅と肉体の調和による夢想の境地によるものだ。その強化率は、しかし、五界統合以後の八種魔法が確立した現在では不可能ではない──どころか他の魔法より一層劣る。
 故に、楯一郎の超常じみた行動は魔法に起因しない。それは楯一郎という人間が、幼少より培ってきた技術である。

 垂直跳びで、およそ五〇メートル。竜の群れが帯空している距離までまだ足りない。五〇メートルも跳び上がれる事自体が常識を超えているが、それでもまだ飽き足らず。
 楯一郎は空中で再び足を打ち付けた。まこと有り得ない事に、楯一郎の体が更に上空へと跳び上がる。
 彼は何をしたか。実に単純に、蹴って、跳んだのである。空気を。
 気体や液体は粘性があり、つまり抵抗がある。この粘性はぶつかる速度が増す毎に圧力が強くなり、圧力を受けた流体は硬度を増す。高所から落下した物が水面にぶつかる時、水面がコンクリートの様に固くなるという話の正体がそれである。
 楯一郎は超高速で空気の壁を蹴り、そこを地面として再度跳んだに過ぎない。故に、これは魔法ではなく技術である。例え楯一郎以外の何者にも再現できなくとも、これは決して魔法ではないのだ。
 数度ほど空気を蹴って跳び続け、遂には竜群と同じ高度まで到達する。よもや、竜もこれほど化け物じみた化け物が、空を跳んでくるとは予想だにしなかっただろう。
 最後の空中跳躍で竜の背に飛び乗った楯一郎は、振り落とそうとする竜が暴れようとも難なくバランスを取り続け、頸骨を軽く鳴らしてけたけたと笑う。
「さぁ、楽しく踊ろうぞ、羽蜥蜴ども。音頭はわしが取ろう」


「うん、日頃から化け物じみてるとは思っていたが、存外マジモンの化け物だな、あの人」
 ベイバロンと睨み合う最中、集落の方から祖父が空を飛んで行くという飲み込み切れない事実を目の当たりにしたソウジは、もはや笑う事しかできない。いつの日か受けた祖父の拳骨の痛みが想起(フラッシュバック)するが、あれは楯一郎にとって万分の一以下の出力だったのかも知れない。もう全部アイツ一人でいいんじゃないかな。
「……面妖な男よ、伏神楯一郎め」
「面妖とかそんなチャチな存在(もん)じゃ断じてねぇ。もっと恐ろしい論外クラスだよアレは」
 殺虫剤を喰らった蚊蜻蛉が如く、次々と墜とされていく竜群を呆然と眺めている二人の、何と滑稽な事か。二人に共通する感想は「もはや楯一郎なら何をしでかしても驚かない」である。
「口惜しいが、あれを相手に真っ向から攻める事は不可能じゃな。絡めとらねばならん。手数も時間も惜しい、貴様を喰ろうてさっさと目的を果たすに限ろう」
「そう言うなよ。宴もたけなわって時間でもねぇ。今なら大特価サービスだ、一瞬で焼き殺してやるぞ」
「くかか、ほだえるなよ、小童。楯一郎や劔ならいざ知らず、貴様ごときに討ち取られるわしではないわ」
「あっそ。人の親切心を無碍にする奴はロクな大人になれないぞ、聡理」
 じり、と両者が踏み締める砂利が音を鳴らす。ベイバロンはどうやら、劔の時のように仔竜の援軍を呼ぶつもりはないらしい。そもそも空を周遊する竜群は楯一郎と死闘を繰り広げているし、町を襲った竜も何者かに阻まれ、戦力を割いていられないのだろう。
 付け入る隙があるとすれば、ここだ。今、この瞬間こそが、ベイバロンを討ち取る絶好の機会なのだ。
 卑小な人間を圧倒的に超越する質量(エネルギー)。高次元の存在だからこそ抱く事ができる、徹底的な、決定的なまでの傲岸不遜。
 あとは手持ちの手札で、ベイバロンの身を一瞬でもいい、クロガネの対竜攻撃を確実に決める為の隙を作ればよいだけだ。
 問題はそれが出来るかどうか。確かに、ベイバロンは油断していよう。ソウジを相手に心底から慢心し、意識の欠片ほどしか気にかけていないだろう。
 絶対的強者。ドネルクラルに比べて、単体戦力としては数段は格が下がるだろうが、それでもなお余りある強大な存在。人間にとっては、獅子も虎もさほど変わりはない。どちらが強いか論じるのは大いに結構だが、しょせん人間ではどちらであっても太刀打つ事は出来やしないのだ。
 故に人間は知恵を得た。己より巨大な、強大な存在を、如何に効率よく御す事ができるのか。

715数を持たない奇数頁:2015/08/01(土) 10:53:23 ID:vyrOqEag0
 ──人間の歴史は殺害の文化である。古来より、有象無象、生者死者を相手に、様々な殺害方法を際限なく模索し続けてきた。
「……ドネルクラルは、殺す事が出来た」
「む?」
「損傷(ダメージ)による機能停止。お前たちドラゴンと呼ばれる存在は、人間より遥か高次元に位置する存在でありながら、まるで生き物の様に死んでしまう」
 黒龍(ファブニル)によって亜空間に連れ去られた時、エクリエルの魔法で干渉する事が出来た。赤龍(アドライグ)や緑龍(ウロボロス)はあれほど超常の天災を巻き起こしながら、互いに蹴ったり受けたりと物理的な攻防を行っていた。ドネルクラルは【憤怒】で焼け爛れ、真の姿は白龍の腕で引き裂く事が出来た。ベイバロンは言わずもがな、楯一郎の手により次々と子飼いを失っている。
 ドラゴンは世界を構成する存在でありながら、あまりにも「世界の影響を受けやすい」事は、ドネルクラル戦以後ずっと疑問に感じていた事だった。
「詰まるところ、お前たちには、この世界に干渉する為のルールがあるんだろ?」
「……なにを言っている?」
「簡単な話だ。お前たちドラゴンは──この世界に干渉する為に、この世界の生命体(ルール)に縛られてしまう。それが高次元存在(ドラゴン)のルールだ」
 高次元の存在、それこそ神に匹敵する存在であると言うのなら、人間ごときが敵う相手ではない。そも、万能であると言うのなら端から人間に憑依し、欲望を満たし、征服する必要すらない。
 にも関わらず、ドラゴンと呼ばれる存在は、どいつもこいつも回りくどい。赤龍(アドライグ)は初対面で言った、「探すのに苦労した」と。「人間は不便である」と。
 神が箱庭を弄ぶように、ドラゴンがこの世界に干渉できるというのなら、絶対に出ない言葉だ。人間の欲望を満たして乗っ取るなど愚の骨頂。初めから人間の意思などアリを踏み潰す様に消してしまえばいい。
「……消してしまえばいい、のに。お前たちにはそれが出来ないんだろ?」
「貴様……ッ!」
「お前たちは世界に干渉する為に、自らの情報量を削って、生命体にまで身をやつして、初めてこの世界での行動が可能になる。だから、その器として、最も知性のある人間を選ぶんだ。自らの能力制限を、選んだ人間に補わせるんだ」
 赤龍(アドライグ)たちがソウジ以外に干渉しない、否、できないのはそれが原因か。奴らはどれだけ情報量を絞ろうと、人間には耐えられない程の質量を持つのだろう。それは白龍(ヴェイパー)と同化したソウジだからこそ、辛うじて会話が成立しているに過ぎない。
「わしを愚弄するか! 貴様ら人間風情が、わしらと同等と吐(ぬ)かすか!」
「同等? 勘違いすんな、羽蜥蜴。お前は人間よりずっと優れた『生物』だよ。有象無象の塵芥を相手に、何をムキになる必要があるんだ? 図星でも突かれたか?」
「貴様、貴様、貴様ァ!」
「だけどな、覚えとけ。──人間は、自分より遥かに強い生物を相手に、殺害する為の方法を模索し続けてきたんだ」
 同胞を守る為に、食料を得る為に、繁栄を築く為に。あらゆる外敵を殺す為に、木の枝を槍として、石ころを弾丸として、自然な地形を罠として、手段の限りを尽くしてきた。
 ──人類の歴史は、殺害の文化である。曰く、
「……この世界に干渉する為に、世界の生命体(ルール)に縛られた存在。だがそれが、元がどれだけ絶望的な存在であろうとな、生きているのなら神様だって殺せる筈だ!」
 芝居がかった調子で空を指差しながら、激昂するベイバロンへ一歩踏み出す。
「頭上注意だよ、ベイバロン!」
「ぬっ!?」
 ほんの半歩ほど後退しつつ、ベイバロンは上を見上げる。先ほど、ソウジがバラ撒いた迷彩魔符による攻撃への警戒心を解いてはいなかったろうが、それでもこの攻撃は感知できなかったのかも知れない。その焦りが、竜の思考を鈍らせた。
 それもそうだろう。ソウジが指差す先には、魔法の気配など一切ないのだから。
 突如、ベイバロンの足元が炸裂した。それは魔竜の装甲を吹き飛ばす程の威力こそないものの、地面を抉り、体勢を崩させるには十分な程度のものである。
「こんな初歩の初歩みたいな口車に引っかかってんじゃねーよ爬虫類!」
 ベイバロンを指さして笑いながら、間髪入れずソウジは足元の砂利を蹴たぐる。小さな礫は空中の符を通過し、爆発的に加速してベイバロンへ襲いかかる。一撃一撃が散弾銃にも匹敵するそれを、足元を掬われたベイバロンは避ける事ができない。

716数を持たない奇数頁:2015/08/01(土) 10:53:50 ID:vyrOqEag0
 両腕で頭部のみをガードする。百を超える礫のほとんどは硬い外骨格に阻まれるが、いくつかは装甲の隙間を縫う様にベイバロンへ突き刺さる。下手な鉄砲でも、数を撃てば当たるの典型である。
 ここで今一度、【傲慢】を再動する。身体能力を向上させたソウジは一気に駆け、ベイバロンへ肉薄する。その手には【憤怒】を持ち、拳を叩きつけるついでにベイバロンへ貼り付ける。
 指向性を持たせた爆発が、ベイバロンの体を横殴りに吹き飛ばす。その圧力は、人間形態の質量しか持たない今のベイバロンでは抑え切る事は叶わない。
「小童、風情がぁぁぁあああ!!」
 二度、三度と地面をバウンドしながら、ベイバロンは体勢を立て直す。驚異的な耐久性だ。散弾攻撃や【憤怒】によるダメージなど意にも介さない。翼を広げて推進力を殺し、尾を地面に叩き付けて上体を起こし、俺に追撃する隙を一向に与えない。
 足に力を込め、ベイバロンを回り込む様に走る。【傲慢】の効果が活きてるうちに勝負を決めたいところだが、いくら単体性能が低いと言っても竜は竜。そう簡単には足止めさせて貰えないらしい。
 尤も、それはそれで構わないのだが。ソウジは決め手ではない。あくまでも囮、本命本丸は今まさに対竜攻撃の隙を窺っているクロガネに一任しているのだ。ソウジの目的は、出来る限りベイバロンを引き付け、クロガネの攻撃を正確に当てさせる事に過ぎない。
 それは、最悪、相打ちであっても構わない。人間一人と引き換えに竜を殺せるのなら破格の勝利だ。
 ベイバロンの死角へ向かって走りながら、空中で腕を振るう。迷彩魔符の一枚に触れた瞬間、ソウジの姿が三重にブレた。虚飾符、空間に術者の残像を投影する伏神オリジナルの符術である。
「小賢しいわッ!」
 残像は、羽虫を払う様に腕を振るったベイバロンの衝撃波が、蜃気楼の様に歪むソウジの残像を明るみにした。
 やば、と。声を上げる暇すらない。ソウジの体が一拍遅れて、衝撃波に殴り飛ばされた。如何に【傲慢】で身体能力を強化していようと、形なき空気の圧力からは逃げられない。巨大な壁に圧し潰された様だ。
「劔ならば、この程度の攻撃、難なく耐えたぞ。やはり貴様では、わしを倒すには力不足じゃ!」
「……俺はもともと、戦える系の人間じゃねぇんだ。兄さんや爺ちゃんみたいな化け物と一緒にするな」
 すかさず立ち上がりながら、カードケースから札を一枚引き抜く。魔符はたちまち巨大な槍に姿を変え、ソウジの手のひらの上で浮遊する。全身を巻き込む様に捻り、反発させて射出。
 【暴食】の槍がベイバロンへ飛来するが、その穂先は前へ突き出された右手と衝突するや、弾かれる様に消滅した。
「……ふぅ。俺の最大級の攻撃力を持つ【憤怒】や【暴食】を真っ向から受けて、全く堪えてないってのはちょいとショックでかいな」
「如何に貴様が天才だ神童だと持て囃されたところで、所詮は人間に過ぎん。人間一匹が、災害を抑えきれんのと同様に、わしに対抗できうるものか」
 悪竜の力を借りた劔や、世界の悪戯じみた故障(バグ)としか思えない楯一郎ならいざ知らず、と言わんばかりである。先ほどの礫によるダメージはもはや窺えない。化け物らしい回復力で完治している。
「むしろ、わしとしては不憫で仕方ない。同情も覚えよう、賞賛も贈ろう。この程度の実力しか持たぬ貴様が、よもや劔の代わりに立ち向かい、ここまで持ち堪えた事自体が奇跡。これ以上、何を望む?」
「世界平和」
「呵呵」

717数を持たない奇数頁:2015/08/01(土) 10:54:16 ID:vyrOqEag0
 ベイバロンの言葉に軽口を返しながら、ソウジは左拳を握り、力なく開いた。
 ──試してみるか。
 自分の記した書記魔法、その最大級・最高級の術式を施したカード、七大罪。序盤から景気よく使い続けてきた為に、残り枚数は僅かである。
 そして、一撃一撃が如何に強力であろうとも、それは人間規格での話だ。七大罪単品ではベイバロンの防御力を超える事が出来ないのは既に承知の上。
 ならば、初の試みに賭けてみるのも悪くはない。その結果がどうあれ、仮に自分が死したとしても、問題ない。
 ソウジは本命ではない。ベイバロンを確実に無力化できる術を持つのはクロガネであり、そのクロガネは先ほどからずっと勝機を窺っている。
 ベイバロンの意識をこちらに向けたまま、隙を作る。ソウジの役割分担はそれだけでいい。せいぜい、派手に立ち回って派手に散れればそれで構わない。
「右手に【暴食】を、左手に【怠惰】を」
 今一度、【暴食】の槍を展開する。巨大な槍は渦巻く暴風の鎧を纏う様に、空中に鎮座する。
 同時に。ソウジの全身を、まるで鉄の処女(アイアン・メイデン)に貫かれた様な幻覚の激痛が襲いかかる。
 魔力の奔流。明らかなオーバーフロー。ソウジのキャパシティを軽く超えた合成術式は、内側から回路を食い破らんばかりに回転数を増していく。
 そもそも、ソウジが七大罪を一度に一枚までしか起動させない理由は、それ一つが己の魔力放出量の限界値に設定していたからだ。
 貯水タンクが満タンであっても、蛇口から出せる最大水量には限界がある。ソウジが七大罪を開発した際、一枚あたりの魔力量の設定を、自身の限界値ギリギリに指定したからこそ、同時起動を行えないのだ。
 限界という事は、七大罪以外のカードとの併用も行えないという事だ。正確に言えば、七大罪のカードを起動してから次のカードを起動させる為の貯水時間(タイムラグ)が発生するのだ。
 五界統合以後の解釈に言わせれば、魔法は学問であって奇跡ではない。筋肉を酷使すれば筋肉痛になる様に、魔法を過度に行使すれば魔力炉が損傷する。
 故に、七大罪は設定段階(デフォルト)で同時起動ができない。更にそれを合成するとなれば、激痛に耐えながら暴発しようとする術式を制御し続けなければならない。
「捨て身の特攻でもしようと言うのか?」
 だからこそ、この場ではただ漫然と戦うより価値がある。奥の手が通用しないなら、自棄を起こして無茶を通そうとする。傍目から見て、これ以上に派手なパフォーマンスもあるまい。
 尤も、それだけで終わらせる気はないのだが。
「ぐ、クク、ぅがッあああ!!」
「民の為、命を賭す。その意気や潔し、と言いたいところだが……で、わしがそれを黙って喰ろうてやるとでも思うておるのか?」
 合成が終了するより先に、ベイバロンが駆ける。その速度は人間の知覚を容易く凌駕する。【傲慢】の能力強化がなければ目で追う事すらままならない。
 手のひらに浮かばせた未完成の槍を横薙ぎに振るう。ソウジの最大級の攻撃力を誇る【暴食】は擦過するだけで地面を扇状に抉りとった。
 が、その先にベイバロンはいない。視界に影が差し、飛翔(うえ)から背後に回り込んでの奇襲であると気付くのに数瞬を有した。単純に知覚速度の差と、合成魔法のフィードバックダメージで思考が鈍化しているせいだ。
「く、そがぁ!」
「如何な一撃に全てを賭けようと、当たらなければどうという事もない。戦況を見誤ったな、若輩の戦士よ!」

718数を持たない奇数頁:2015/08/01(土) 10:54:43 ID:vyrOqEag0
 背後から音速に達そう程の勢いで、竜爪が迫る。それは狙い過たずソウジの心臓を、背中から貫くには容易いだろう。
 時間にしてコンマ一秒にも満たない刹那。クロガネの対竜攻撃を今から行っても間に合うまい。ソウジは為すすべなく、死に至る以外の運命を選べない。
 ただし、それは。
 この場において、ソウジが一人で戦っている場合の話だ。
「なんつってな」
 己が命を削ってまで作り出そうとした未完成の合成魔法を、路傍に石を投げ捨てる様な気安さで放棄したソウジは、最後の力を振り絞り【傲慢】の膂力を以て背後からの攻撃を全力で回避した。ブチブチと無茶な機動を行った事で、全身の筋繊維や靭帯が千切れる音が聞こえてきた。
 ──如何に【傲慢】の効果で身体能力を強化しているとは言え、ソウジではそれを活かせる程、元の身体能力が高くない。故に背後からの一撃を避ける事など不可能な筈であった。
 それを理解していたからこそ、ベイバロンは最後の爪撃をかわされた事に驚愕を隠せない。
「馬鹿な……!」
 あからさまに、最後の攻撃ミスはベイバロンが原因であった。最後の最後で、全身の動きが鈍ったのを感じた。全身が重い……いや違う、動きが遅くなった。故に、ソウジは紙一重で回避する事が出来たのだ。
「いつからそこにいた、小娘ッ!」
「いつから? 馬鹿なのか、お前。あたしは最初から、テメェの最期まで、ずっとここに居たよ」
 ベイバロンの背後。朝の日差しを浴びて輝く長髪は雪原を想わせる蒼銀。冬の夜空の様に深く澄んだ紫の双眸に、それら全てと相反する要素である褐色肌が強烈な印象を与える少女。
 柳瀬川朝霞が、ほんの一瞬前までは誰もいなかった筈の場所に、まるで幽鬼の様に忽然と現れては、ベイバロンの背に触れていた。
「ぐぬ、この程度の、拘束など……!!」
 竜の膂力で正体不明の拘束を無理やり解除する。バキバキとベイバロンの全身から、何かがひび割れる音と共に、翼をはためかせて空へ飛び立つ。

 いつから、とベイバロンは問うた。ならばソウジはこう答えるべきだったろう。
 そんなの最初からに決まってんだろ! と。

 そもそも、理由をつけて劔をこの場から退散させたのは、注意を自分一人に引き付ける為であった。町の被害を食い止める事も理由の一つであったのは事実だが、それ以上に二人で戦闘を行うのはソウジにとって不利であった。
 まず、ソウジは劔と連携を取る事が出来ない。ベイバロンと劔の戦闘は、【傲慢】を起動させたソウジであっても付け入る隙のない高レベルなものである。むしろ、余計な手出しをして劔の足を引っ張る可能性すらあった。
 また、ソウジは対竜攻撃の為に隠密行動を取っているクロガネと連携を取れるのに対し、クロガネと劔の連携が取れない事もそうだ。竜をも破る攻撃性能を持つ二人が連携を取れないのは、乱戦において危険度が高すぎる。
 故に、ソウジはこの場で劔を撤退させ、ベイバロンと一騎打ちの構図に持ち込んだ。如何にドネルクラルと比べて見劣りするとは言え、ベイバロンとの戦力差は決定的に致命的でありながら、ソウジはその役を買って出た。

719数を持たない奇数頁:2015/08/01(土) 10:55:06 ID:vyrOqEag0
 唯一、ソウジにとって劔に勝る要素は、ソウジの戦闘スタイルは持久戦、耐久戦に富んでいる事だ。勝つ事は出来なくとも、負けなければ良い。数年間もエクリエルに鍛えられた戦闘スタイルは、より強力で凶悪な攻撃力を持つ仲間に繋げる為の引き分けゲッターとしてのものである。
 そして、最後に一つ。ソウジは闖入前に周辺に張り巡らされた伏神の結界を解析して、この場に朝霞が隠れて事に気付いていた。避難した筈の彼女が何を思ってこの場に戻ってきたのかは知らないが、これを好機と見たソウジは、ベイバロンに気取られないよう彼女と一切のコンタクトを取る事なく、思い付きの計画を決行した。
 魔符を周辺にバラ撒いたのは、自分に注意を向ける事より「姿を隠す物」の存在を自然にする事だ。事実、迷彩魔符を警戒するために、実際に姿を消した朝霞には気付きにくくなった。
 言葉による挑発は、周囲を警戒するベイバロンの意識を削ぐためでもあるが、もう一つ理由がある。移動させたり回り込んだのは、朝霞に背後を取らせるため。
 そして、ここぞというところで朝霞はベイバロンを攻撃する事に成功した。熱奪、即ち凍結。魔法の拘束では容易く引きちぎられる可能性を危惧した朝霞は、ベイバロンの内部の熱を奪って凍結させ、動きを封じる作戦を取ったのだ。
 ──超常の存在であるドラゴンは、しかし、この世に干渉する為に生物としてのルールに縛られる。生物である以上、活動する為の熱量は必要となり、熱を必要とするなら雪女にとって格好の獲物でもある。そして熱を奪われた生物は、その身体性能(パフォーマンス)を著しく損なってしまう。
 ソウジの言葉による挑発は、朝霞に言い聞かせ、攻撃パターンを誘導する為でもあった。【暴食】ほどの攻撃力でも通じない例を提示したのもその為である。
 ソウジは全てを即興で計画して、実行に移し、そして成功させた。神童と呼ばれた陰陽師、その所以は単に魔法適性が高いだけでは務まらないのだ。
 自身を二重に囮とした計画の実行中、最大の問題は、ソウジと朝霞の意思疎通が一切なかった事ではあるが……。

「お前、よく俺の考えてる事が分かったな」
「馬鹿にしてんのか? テメェの浅知恵程度、猿以上の知能があれば悟れる」
 上空に避難するベイバロンを他所に、全身の筋繊維や靭帯を傷め、倒れたままのソウジは、朝霞を見上げながら悪態を交換した。
 ──その、次の瞬間。どこかから飛来した巨大な剣が、ベイバロンの体を射貫き、地面に串刺した。

720数を持たない奇数頁:2015/08/01(土) 10:57:53 ID:vyrOqEag0
以上である

書いてる途中で気付いたが、俺いつの間にか三人称で書いてた
たぶん前回はお兄ちゃん視点、今回冒頭はじいちゃん視点で書いたから、そのままソウジ視点も三人称にしてたみたい
書き直すのも面倒だからそのまま投下したけどな!

721数を持たない奇数頁:2015/08/01(土) 11:11:04 ID:.nxapyfE0
じいちゃん強過ぎワロチ

722数を持たない奇数頁:2015/08/01(土) 11:19:52 ID:mu4J7z6A0
乙!

723数を持たない奇数頁:2015/08/01(土) 16:49:30 ID:L7bBEMxc0
じいちゃんはギャグみたいな強さにしようと思ってたらバグじみた強さになった
遠くを見たら自分のじいちゃんが空飛んでてみ。自分の正気を疑うよ

724数を持たない奇数頁:2015/08/01(土) 18:30:01 ID:L7bBEMxc0
毎回これ言うの忘れてすまん、次どあにんぜ!

725どあにん:2015/08/01(土) 19:24:52 ID:BccLWpmM0
まさかぼくもじっちゃがこうなるとは思わなかった……。
後はパパッとまとめて、賢者の書(真)でオチ付けて終わりかな

726数を持たない奇数頁:2015/08/01(土) 19:30:26 ID:mu4J7z6A0
ちょっと待て
となるとまたもや俺が新章の口火を切るのかッ!?

727数を持たない奇数頁:2015/08/01(土) 19:32:25 ID:L7bBEMxc0
兄ちゃんが革命する時、じいちゃん戦を入れようと思ったのよ
で、兄ちゃんは辺りの雑魚(という名の強者臣下)を容易く蹴散らすのにじいちゃんの異次元の強さに負けるってする予定だった

誰だよこんな化け物にしたの…

728数を持たない奇数頁:2015/08/01(土) 19:36:49 ID:L7bBEMxc0
事件後の後日談みたいなのを一周入れてもいいんじゃないかな
みんなで仲良く帰る的なあれ

729どあにん:2015/08/01(土) 19:37:44 ID:BccLWpmM0
>>727
それも私だ(全ての悪意を引き受ける)

730数を持たない奇数頁:2015/08/01(土) 20:17:23 ID:etGa8LEA0
おっつおっつ。

とりあえず冒涜的に昼寝した勢いのままに現状まででメモ帳纏めたから、追々wikiの方にぶん投げとくよ
ちなみに現在の文字数は約24万(厳密に言えば23万9千程度)文字。9万幾らかが禁書騒動編で14万幾らが伏神騒動編。
(大体文庫本サイズの小説2冊分と言えば視覚的な部分で通じやすいと思う)

意外な事に、一番長い行が俺ではないというね(最長はが一行で412文字。俺は以外にも211文字)
誰の文かを探しながら読み直すのも面白いかもしれない

731数を持たない奇数頁:2015/08/03(月) 20:27:52 ID:sP5.srVE0
文庫2冊分とすると、みんなで文章寄せ集めてるにしては意外と適切な文量で展開できてるってことなんかな

732数を持たない奇数頁:2015/08/03(月) 20:36:25 ID:OMRemYww0
希望があれば土曜日にでも全編通しての文章量の割合を出すんだぜ?

多分だけど西口が一番だと思う。次点で俺、たたりん、どあにん、クロの順になるはず

733どあにん:2015/08/16(日) 23:17:31 ID:HIIzzawA0
VIPRPG 夏の陣作品提出がかなり遅れそうなので全力で作ってます
連鎖も遅れちゃいそう、ごめんね

734どあにん:2015/08/16(日) 23:43:53 ID:HIIzzawA0
ザクッと進めて次の人が頑張って!ぼくはもう一方を頑張る!


「がっ……はぁっ……!」

その口から真っ赤な塊がゴボリと漏れ、空色の鱗がドス黒い血で染め上げられて行く。
何が起きたのか教えてくれ、と言いたげな表情でベイバロンもソウジも朝霞も、突如飛来した巨大な剣を見やる。

『間に合ったようですね、ミスター。』

突如上空から知った声がする、何事かと思って上を見上げると、前時代的甲冑が空を飛んでいる。
背部に装着されたバックパックから青白い炎を吹かしながら機械甲冑《アギョー・スタチュー》がその場で静止しており、
舞い上がる砂埃を腕を防ぎながらソウジが吠える。
もしやクロガネが、クロガネが操るアギョー・スタチューが、こんな事をしたのかと。

「クロガネェ!お前、何のつもりだ!」
『申し訳ありませんミスター……私には、やるべき事があるのです』

それだけを言い放つと同時に空中で姿勢を変え、ベイバロンに向けて急降下する。
まさかと、ソウジが走りだすも視界は熱を帯びた爆風で塞がれ、鼓膜を痛い程叩く轟音が阻み続ける。
アギョー・スタチューがベイバロンに突き刺さった剣を乱暴に引き抜き、刀身に付いた血を払うと木々とソウジの服にその飛沫が付着し、ドロリとした感触が服越しに伝わる。
やめろ、やめろとソウジが反芻するもそれがアギョー・スタチューに届くはずが無い。

『往ね、蜥蜴』

刀身に青白い文字、大凡ソウジが知り得ない物であったが、それから発せられるのは魔力であると言うのは理解出来た。
振り上げ、一閃。
ベイバロンの巨体に頭頂から赤い筋が走る、断末魔を上げる間も無く竜の巨体はその中身をブチ撒けながら、真っ二つに別れた。
光が失われ鉄塊を思わせる無骨な剣の刃が根本から折れて地面に突き刺さる、奇しくもベイバロンの墓標となるかのように。

『"竜"一体に対しこの有り様ではコストパフォーマンスは最悪ですね、"竜の墓標"<ドラゴングレイヴ>の完成は程遠い、か』

その行為に対して怒りを顕にするのは、ソウジ。
拳を握り締め地へ降り立ったばかりのアギョー・スタチューの腰部を思い切り殴りつけると
小気味の良い金属音が辺りに響き渡り、拳に電撃を流されたような鋭い痛みが走る。
機械、総じて金属をカルシウムとタンパク質とその他諸々の微細な化学物質を入り混じった物<肉体>でどうにか出来るとは微塵も考えていない。
考えては居ない……が、ソウジはそれを忘れる程の怒りを、この前時代的甲冑型にぶつけたかった。

『ミスター、いきなり何をするんです? あぁ、トドメを刺す役割を取られて怒ってるんですか?』
「違う!そうじゃねぇ!コイツには聞きたい事が山ほどあった!何故殺した!?」

クロガネの明らかな疑問を抱いているような唸り声が聞こえる。
何故こんなにも怒るのか、憎き敵を殺して何が悪かったのか理解出来ていない様子が伝わってくる。

『ミスター、この蜥蜴は罪無き街の人々を虐殺したのですよ、今殺さずして何時殺すと言うのですか?』
「何故こんな事をしたのか色々聞いてからでも遅く無かっただろうが!コイツ……竜の目的が分からず仕舞い!それになんだ、あの巨大な剣は!?」

頭がグチャグチャになって、自分でも何を言ってるのか半分程分からなくなっているとソウジは自覚している。
だが、聞かずにはいられなかった。
竜を真っ二つに断つ程の武器を、誰が、何の目的を持ってしてクロガネに装備させたのか。
カメラアイがソウジを見据え、スピーカーからそれについて話そうとした、その時だった。

突如アギョー・スタチューがガクンと揺れたかと思うと、機械的な口調でそれが聞こえてくる。

『――セキュリティ・クリアランスに抵触、この情報の開示は認められておりません。
 情報の開示が認められるのは創造者、若しくは管理者の立ち会いの元のみとなっております――』


それだけ言うと、アギョー・スタチューは何も言わずに飛び去ってしまった。
何が何だか分からない、もはやもう何も物言わぬベイバロンを亡骸を殴りつける事でしか、やり場の無い怒りを発散出来なかった。

735どあにん:2015/08/16(日) 23:44:25 ID:HIIzzawA0


倉庫の奥。
光源魔法の頼りない光の元、三人は一冊の本を囲みながら生唾を飲み、入念に確認を行っている。
倉庫の戸締まりは完璧、傍らにティッシュを用意し、そして書記魔法:言霊視の準備も整っている。
表紙は風化して読めない、かなり年季の入った本に、三人の期待は否応なしに高まる。

「しっかしフィル……まさか一冊取り上げられちまうとは参ったな」

ジョエルが股間を膨らませながら、精力剤を流し込む。

「僕も驚きました、まさか賢者の書が"2冊"存在していようとは……」

フィルは息を荒げながら、ゆっくりとズボンを下ろす。

「なんだっていい、シコるチャンスだ!」

リョタは頬を思い切り緩ませながら、言霊視の呪文を唱える。
皆、思い思いの準備を整え、時刻は12時を回った。
三人は一冊の本をまるで聖地へ祈りを捧げる信者の如く、手を合わせてお辞儀、そして深く土下座をした。
それを2分程維持した後、三人は顔を見合わせ、ゆっくりと、そのページをめくった――



本には派手な色の服を来た道化師が玉乗りをしながらジャグリングを成功させるコツを事細かに説明する内容。
三人は顔を顰めながら次のページをめくると、次はこれまた道化師が人を確実に笑わせる仕草、話題運び等を説明している。
そこで三人は気付いてしまったのだ、賢者の書……もとい、伝説のエロ本の正体を。
伝説のエロ本では無く、伝説の……ピ"エロ"本であったのだと――


それに気付いてしまった三人はあまりのショックとこれまでの疲労も相まって、泡を吹きながら倒れた。
隙間風でめくれた最後のページには、伏神家秘伝の隠し芸集 著・伏神楯一郎の文字が、刻まれていた――

736どあにん:2015/08/16(日) 23:44:47 ID:HIIzzawA0
短くてごめんね!

737数を持たない奇数頁:2015/08/16(日) 23:45:49 ID:Moet43D60
どあにん乙
……よし、締めるか

738数を持たない奇数頁:2015/08/16(日) 23:49:20 ID:Moet43D60
……ん?
なんでベイバロンの隙突く為に戦ってたのに、ソウジくんキレてんだ?

739どあにん:2015/08/16(日) 23:56:33 ID:HIIzzawA0
まーたガバガバだよ(白目)

740数を持たない奇数頁:2015/08/18(火) 09:04:21 ID:15RC/tf.0
まぁ、クロガネに一撃を任すとは言ったけど、殺すとは聞いてないし、多少はね
クロガネの対応を見るに生死に関わらずベイバロンとの以後の接触は出来なさそうだし

741数を持たない奇数頁:2015/08/18(火) 12:32:03 ID:7fqiAjXk0
これはもはや劔兄ちゃんのケジメ案件なのでは?

742数を持たない奇数頁:2015/08/18(火) 12:35:38 ID:n2UTfxb60
そもそも妹斬れなかった時点で…

743数を持たない奇数頁:2015/08/18(火) 12:42:44 ID:NEr3UD5E0
妹斬れない・町は守れない・弟に死地を任す
リレー民(主に俺)による壮絶なお兄ちゃんイジメ

744数を持たない奇数頁:2015/08/18(火) 12:50:03 ID:n2UTfxb60
お兄ちゃん株回復の為にもう一波乱起こす心積もりぞ我は

745数を持たない奇数頁:2015/08/21(金) 10:14:14 ID:qNWH5InI0
長々と引っ張った後に言うのも迷惑かかりそうなんで、早めに言っておく
パスさせて下さい


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