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それは連鎖する物語Season2 ♯2
684
:
数を持たない奇数頁
:2015/07/19(日) 21:36:47 ID:.TclDJl20
夕焼けがにじむ旧校舎に生徒の影は無く、ただ木々の陰が少しだけ触れていた。
窓ガラスから入り込む夕日が、教室の静けさの中に混じっていく。
揃えられていない机だけが少し賑やかな、そんな風景だった。
しかしたったひとつだけ、夕暮れを拒むかのように、カーテンに閉ざされた教室が最上階の隅にあった。
電灯も点けられていない暗い教室ではあったが、揺れるカーテンが何かの存在をにおわせている。
まったく夏休みだというのに。
男は困ったように微笑み、大きな欠伸をしながらゆっくりと歩き出した。
弦楽器の音色が薄暗い空気を震わせる。
やがてそれは音楽となり、誰もいない廊下を駆け抜けていった。
「えらくご機嫌な音色だ。踊っているようでもある」
どこからともなく低い声がした。
「ふふ……揃ったようだね」
弦楽器を弾いていた者はそれを構えたまま語りかける。それはしっとりとした女性の声であった。
「集まってくれてどうもありがとう。さっそくだが我々へ幾つかの依頼が来た」
「どれでもいい。どれにしろ、面白いことにするのだから」
話を割った声の主は、前髪を払う素振りをして気取る。声の調子も独特で、その抑揚には何らかの自負があった。
「私は全部承っても構いません。丁度新しいものが出来上がったところですので」
その口調はお淑やかながら、少女のような高い声だった。
それに答えるかのようなタイミングで弦がゆっくりと引かれる。
「君たちには悪いが……実はもう決めてある。“薔薇”からの依頼にね」
静寂の中に微かなざわめきか生まれた。
やがてそれはそっと消えて、笑い声や机を叩く音に変わった。
「気に入らない……が、それ故面白くもなる。気に入った」
「かつてない大仕事になりますね。きっと、そういう人です」
奏者は曲に思えないような奇妙な演奏を始めながら、残る一人に尋ねる。
「貴方も踊りませんか?」
どこからかしっかりと声がした。
「愚問」
「誰かいるのかい?」
男が教室の戸を開くと真っ赤な夕陽が遠くに見えた。
夕日を反射してきらきらと光る教室の中には、男しかいなかった。
男は髪を掻き分けながら教室を後にする。
「おかしいなぁ。たしかカーテンは閉まっていたはずで、楽器の音もしてたのに」
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