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それは連鎖する物語Season2 ♯2
714
:
数を持たない奇数頁
:2015/08/01(土) 10:53:02 ID:vyrOqEag0
楯一郎は人間という理解の範疇に留まる存在でありながら、理外の能力を宿した、人間を超越した人間である。
そも、楯一郎の一連の行動は魔法ではなく技術である。彼が唯一行った身体強化の操作魔法は、かつて太古の時代には「仙術」と呼ばれる森羅と肉体の調和による夢想の境地によるものだ。その強化率は、しかし、五界統合以後の八種魔法が確立した現在では不可能ではない──どころか他の魔法より一層劣る。
故に、楯一郎の超常じみた行動は魔法に起因しない。それは楯一郎という人間が、幼少より培ってきた技術である。
垂直跳びで、およそ五〇メートル。竜の群れが帯空している距離までまだ足りない。五〇メートルも跳び上がれる事自体が常識を超えているが、それでもまだ飽き足らず。
楯一郎は空中で再び足を打ち付けた。まこと有り得ない事に、楯一郎の体が更に上空へと跳び上がる。
彼は何をしたか。実に単純に、蹴って、跳んだのである。空気を。
気体や液体は粘性があり、つまり抵抗がある。この粘性はぶつかる速度が増す毎に圧力が強くなり、圧力を受けた流体は硬度を増す。高所から落下した物が水面にぶつかる時、水面がコンクリートの様に固くなるという話の正体がそれである。
楯一郎は超高速で空気の壁を蹴り、そこを地面として再度跳んだに過ぎない。故に、これは魔法ではなく技術である。例え楯一郎以外の何者にも再現できなくとも、これは決して魔法ではないのだ。
数度ほど空気を蹴って跳び続け、遂には竜群と同じ高度まで到達する。よもや、竜もこれほど化け物じみた化け物が、空を跳んでくるとは予想だにしなかっただろう。
最後の空中跳躍で竜の背に飛び乗った楯一郎は、振り落とそうとする竜が暴れようとも難なくバランスを取り続け、頸骨を軽く鳴らしてけたけたと笑う。
「さぁ、楽しく踊ろうぞ、羽蜥蜴ども。音頭はわしが取ろう」
「うん、日頃から化け物じみてるとは思っていたが、存外マジモンの化け物だな、あの人」
ベイバロンと睨み合う最中、集落の方から祖父が空を飛んで行くという飲み込み切れない事実を目の当たりにしたソウジは、もはや笑う事しかできない。いつの日か受けた祖父の拳骨の痛みが想起(フラッシュバック)するが、あれは楯一郎にとって万分の一以下の出力だったのかも知れない。もう全部アイツ一人でいいんじゃないかな。
「……面妖な男よ、伏神楯一郎め」
「面妖とかそんなチャチな存在(もん)じゃ断じてねぇ。もっと恐ろしい論外クラスだよアレは」
殺虫剤を喰らった蚊蜻蛉が如く、次々と墜とされていく竜群を呆然と眺めている二人の、何と滑稽な事か。二人に共通する感想は「もはや楯一郎なら何をしでかしても驚かない」である。
「口惜しいが、あれを相手に真っ向から攻める事は不可能じゃな。絡めとらねばならん。手数も時間も惜しい、貴様を喰ろうてさっさと目的を果たすに限ろう」
「そう言うなよ。宴もたけなわって時間でもねぇ。今なら大特価サービスだ、一瞬で焼き殺してやるぞ」
「くかか、ほだえるなよ、小童。楯一郎や劔ならいざ知らず、貴様ごときに討ち取られるわしではないわ」
「あっそ。人の親切心を無碍にする奴はロクな大人になれないぞ、聡理」
じり、と両者が踏み締める砂利が音を鳴らす。ベイバロンはどうやら、劔の時のように仔竜の援軍を呼ぶつもりはないらしい。そもそも空を周遊する竜群は楯一郎と死闘を繰り広げているし、町を襲った竜も何者かに阻まれ、戦力を割いていられないのだろう。
付け入る隙があるとすれば、ここだ。今、この瞬間こそが、ベイバロンを討ち取る絶好の機会なのだ。
卑小な人間を圧倒的に超越する質量(エネルギー)。高次元の存在だからこそ抱く事ができる、徹底的な、決定的なまでの傲岸不遜。
あとは手持ちの手札で、ベイバロンの身を一瞬でもいい、クロガネの対竜攻撃を確実に決める為の隙を作ればよいだけだ。
問題はそれが出来るかどうか。確かに、ベイバロンは油断していよう。ソウジを相手に心底から慢心し、意識の欠片ほどしか気にかけていないだろう。
絶対的強者。ドネルクラルに比べて、単体戦力としては数段は格が下がるだろうが、それでもなお余りある強大な存在。人間にとっては、獅子も虎もさほど変わりはない。どちらが強いか論じるのは大いに結構だが、しょせん人間ではどちらであっても太刀打つ事は出来やしないのだ。
故に人間は知恵を得た。己より巨大な、強大な存在を、如何に効率よく御す事ができるのか。
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