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それは連鎖する物語Season2 ♯2

717数を持たない奇数頁:2015/08/01(土) 10:54:16 ID:vyrOqEag0
 ベイバロンの言葉に軽口を返しながら、ソウジは左拳を握り、力なく開いた。
 ──試してみるか。
 自分の記した書記魔法、その最大級・最高級の術式を施したカード、七大罪。序盤から景気よく使い続けてきた為に、残り枚数は僅かである。
 そして、一撃一撃が如何に強力であろうとも、それは人間規格での話だ。七大罪単品ではベイバロンの防御力を超える事が出来ないのは既に承知の上。
 ならば、初の試みに賭けてみるのも悪くはない。その結果がどうあれ、仮に自分が死したとしても、問題ない。
 ソウジは本命ではない。ベイバロンを確実に無力化できる術を持つのはクロガネであり、そのクロガネは先ほどからずっと勝機を窺っている。
 ベイバロンの意識をこちらに向けたまま、隙を作る。ソウジの役割分担はそれだけでいい。せいぜい、派手に立ち回って派手に散れればそれで構わない。
「右手に【暴食】を、左手に【怠惰】を」
 今一度、【暴食】の槍を展開する。巨大な槍は渦巻く暴風の鎧を纏う様に、空中に鎮座する。
 同時に。ソウジの全身を、まるで鉄の処女(アイアン・メイデン)に貫かれた様な幻覚の激痛が襲いかかる。
 魔力の奔流。明らかなオーバーフロー。ソウジのキャパシティを軽く超えた合成術式は、内側から回路を食い破らんばかりに回転数を増していく。
 そもそも、ソウジが七大罪を一度に一枚までしか起動させない理由は、それ一つが己の魔力放出量の限界値に設定していたからだ。
 貯水タンクが満タンであっても、蛇口から出せる最大水量には限界がある。ソウジが七大罪を開発した際、一枚あたりの魔力量の設定を、自身の限界値ギリギリに指定したからこそ、同時起動を行えないのだ。
 限界という事は、七大罪以外のカードとの併用も行えないという事だ。正確に言えば、七大罪のカードを起動してから次のカードを起動させる為の貯水時間(タイムラグ)が発生するのだ。
 五界統合以後の解釈に言わせれば、魔法は学問であって奇跡ではない。筋肉を酷使すれば筋肉痛になる様に、魔法を過度に行使すれば魔力炉が損傷する。
 故に、七大罪は設定段階(デフォルト)で同時起動ができない。更にそれを合成するとなれば、激痛に耐えながら暴発しようとする術式を制御し続けなければならない。
「捨て身の特攻でもしようと言うのか?」
 だからこそ、この場ではただ漫然と戦うより価値がある。奥の手が通用しないなら、自棄を起こして無茶を通そうとする。傍目から見て、これ以上に派手なパフォーマンスもあるまい。
 尤も、それだけで終わらせる気はないのだが。
「ぐ、クク、ぅがッあああ!!」
「民の為、命を賭す。その意気や潔し、と言いたいところだが……で、わしがそれを黙って喰ろうてやるとでも思うておるのか?」
 合成が終了するより先に、ベイバロンが駆ける。その速度は人間の知覚を容易く凌駕する。【傲慢】の能力強化がなければ目で追う事すらままならない。
 手のひらに浮かばせた未完成の槍を横薙ぎに振るう。ソウジの最大級の攻撃力を誇る【暴食】は擦過するだけで地面を扇状に抉りとった。
 が、その先にベイバロンはいない。視界に影が差し、飛翔(うえ)から背後に回り込んでの奇襲であると気付くのに数瞬を有した。単純に知覚速度の差と、合成魔法のフィードバックダメージで思考が鈍化しているせいだ。
「く、そがぁ!」
「如何な一撃に全てを賭けようと、当たらなければどうという事もない。戦況を見誤ったな、若輩の戦士よ!」


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