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それは連鎖する物語Season2 ♯2

713数を持たない奇数頁:2015/08/01(土) 10:52:38 ID:vyrOqEag0
「よっこらしょ」
 間抜けな掛け声と共に、大型動物よりなお巨大な翼持つ竜が仰向けに倒れ込んだ。巨体は地面を抉り、クレーターと共に土埃を巻き上げる。
 竜が見に纏う強固な鱗はあらゆるダメージを軽減させる、鋼より硬質な素材である。ちょっとやそっとの事では傷一つ付くまい。地面に倒れたところで、その外装を貫通する事はできない。
 だが、衝撃は別だ。投げ飛ばされる速度は尋常ならざる、全体を高速で地面に打ち付けられた竜は致命傷とまではいかずとも、内臓や骨などの重要器官に重篤な振動を受け、その身を激痛が迸る。
 そして、激痛に耐えつつ起き上がるには、その身体はあまりにも巨大で、鈍重すぎた。
 尾を抱え込む様に投げ飛ばした張本人、伏神楯一郎は素早く回り込み、地面に仰け反る様に頭を垂らした竜の頭部に左手を添える。
 ──人外であっても、脳みそを鷲掴みにする様な圧迫感は理解できる。人間を木っ端の様に扱う超常の存在は、楯一郎を前に死を予感した。
 伏神無手流・万意穿孔浸通撃。浸透勁と呼ばれる、硬い外部から振動のみを全体に反響させる、伏神に伝わる内部破壊の拳技。
 鱗があらゆるダメージを軽減するというのであれば、鱗の内部を直接攻撃してしまえばいい。竜との遭遇直後、何手か試してダメージを殺してしまう鋼より硬質な皮膚を持つ竜を相手に、楯一郎はそう判断した。
 ストン、と。ともすればコミカルにさえ聞こえる軽快な音を鳴らし、楯一郎のゆったりと動く右拳が竜の頭部を打ち付けた。瞬間、竜の頭蓋の内部、脳や脊椎が衝撃を受けて爆発四散する。
 傍から見るならば、それは魔法の様に思えるだろう。この場に五界統合学院の研究室がいれば、どう判断を下しただろうか。
 が、現実には、楯一郎が使った魔法は肉体活性、賦活活性などの操作魔法一種しか用いていない。……と言ったならば、おそらくどんな魔法研究者も鼻で笑う事だろう。
 背後から迫る牙。楯一郎は今しがた殺害した竜の体を蹴って飛び上がり、巨大な竜よりなお高く、上空から地上へ打ち下ろす様に拳を振った。その拳は竜には到底届かぬ距離でありながら、鉄球重機(モンケーン)ほどもあろう巨大なハンマーを振り降ろされたが如く、首の伸びきった竜の頭部が圧し潰された。
 伏神無手流・大鵬点衝百歩撃。その名の通り、百歩の間合いにすら届く拳撃である。冗談でもなければ事実、楯一郎の拳は竜を圧殺したのである。
 竜の死骸に着地したと同時に疾走。魔界人の集落にある竜の姿は七頭。うち六頭が絶命し、残る一頭めがけて楯一郎は音を置き去りにする程の速度・脚力で駆ける。
 距離は至近とは言い難く、目測で二十メートル。それでも楯一郎にしてみれば一瞬だ。その程度の距離であれば、楯一郎の射程範囲に届いている。
 竜は大きく咢(アギト)を開き、全身全霊を持って慟哭を放った。人間の脆弱な肉体など、莫大なエネルギー量からなる衝撃波、魔竜の咆哮(ドラゴン・ロアー)を以てすれば弾け飛ぶ。
「こ・ざ・か、しいわッ!」
 弾け飛ぶ筈なのに、楯一郎は竜に匹敵する声量を発してこれを相殺した。仔竜が開けた大きな口が、呆れ果ててポカンと開いている様に見える。
 弾丸の様な速度で飛び上がり、生物であれば心の臓があるだろう位置に拳を当てる。外部から確認はできないが、内部ではダイナマイトが爆ぜる程の衝撃によって粉砕されている事だろう。
「よし。一丁上がり」
 轟音を立ててその場に倒れ込む竜の腹にどっかと腰を下ろし、空を見上げる。楯一郎は知る由もないが、ベイバロンと名乗る竜の眷属は未だ、空にも、本家にも、上伏町にも存在する。ようやっと半分ほどが討伐できた訳で、それでも上空を飛行周回する竜の群れは順次、上伏町を襲撃している。
「町には希口もおるし、そうそう心配する事もないじゃろうが。どれ、もうちっと数を減らすとするかの」
 上空をぼんやりと眺めながら、楯一郎は手を翳す。自分の手と竜の影を同時に遠近法で観察し、距離を測っているのだ。
 およそ五〇〇メートルと言ったところか。流石にこの距離では百歩撃も届くまい。百歩撃とは空気を打つ振動を百歩の間合いまで直線的に与える拳技である。距離が開くほど振動は拡散し、その威力は半減する。仮に届いたところで竜に致命傷を与える事は出来ない。
 竜が伏神山を降下する際に百歩撃で狙撃するという手もあるが、竜の行動に頼りすぎて積極性がないし、何より確実とは言えない。狙撃だのタイミングを合わせるだのと言った細かな作業は苦手なのである。
 そうなると、答えは一つしかない。実に単純で明快な話である。
 遠距離攻撃で撃ち落とすのが難しいのならば、直接出向いて討ち落とせばいいのだ。
「……こりゃあ、明日は筋肉痛じゃな」
 屈伸運動で軽く足腰を解した後、楯一郎は腰を落として力を溜め、全身の筋肉を爆発させるが如く跳び上がった。


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