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それは連鎖する物語Season2 ♯2

718数を持たない奇数頁:2015/08/01(土) 10:54:43 ID:vyrOqEag0
 背後から音速に達そう程の勢いで、竜爪が迫る。それは狙い過たずソウジの心臓を、背中から貫くには容易いだろう。
 時間にしてコンマ一秒にも満たない刹那。クロガネの対竜攻撃を今から行っても間に合うまい。ソウジは為すすべなく、死に至る以外の運命を選べない。
 ただし、それは。
 この場において、ソウジが一人で戦っている場合の話だ。
「なんつってな」
 己が命を削ってまで作り出そうとした未完成の合成魔法を、路傍に石を投げ捨てる様な気安さで放棄したソウジは、最後の力を振り絞り【傲慢】の膂力を以て背後からの攻撃を全力で回避した。ブチブチと無茶な機動を行った事で、全身の筋繊維や靭帯が千切れる音が聞こえてきた。
 ──如何に【傲慢】の効果で身体能力を強化しているとは言え、ソウジではそれを活かせる程、元の身体能力が高くない。故に背後からの一撃を避ける事など不可能な筈であった。
 それを理解していたからこそ、ベイバロンは最後の爪撃をかわされた事に驚愕を隠せない。
「馬鹿な……!」
 あからさまに、最後の攻撃ミスはベイバロンが原因であった。最後の最後で、全身の動きが鈍ったのを感じた。全身が重い……いや違う、動きが遅くなった。故に、ソウジは紙一重で回避する事が出来たのだ。
「いつからそこにいた、小娘ッ!」
「いつから? 馬鹿なのか、お前。あたしは最初から、テメェの最期まで、ずっとここに居たよ」
 ベイバロンの背後。朝の日差しを浴びて輝く長髪は雪原を想わせる蒼銀。冬の夜空の様に深く澄んだ紫の双眸に、それら全てと相反する要素である褐色肌が強烈な印象を与える少女。
 柳瀬川朝霞が、ほんの一瞬前までは誰もいなかった筈の場所に、まるで幽鬼の様に忽然と現れては、ベイバロンの背に触れていた。
「ぐぬ、この程度の、拘束など……!!」
 竜の膂力で正体不明の拘束を無理やり解除する。バキバキとベイバロンの全身から、何かがひび割れる音と共に、翼をはためかせて空へ飛び立つ。

 いつから、とベイバロンは問うた。ならばソウジはこう答えるべきだったろう。
 そんなの最初からに決まってんだろ! と。

 そもそも、理由をつけて劔をこの場から退散させたのは、注意を自分一人に引き付ける為であった。町の被害を食い止める事も理由の一つであったのは事実だが、それ以上に二人で戦闘を行うのはソウジにとって不利であった。
 まず、ソウジは劔と連携を取る事が出来ない。ベイバロンと劔の戦闘は、【傲慢】を起動させたソウジであっても付け入る隙のない高レベルなものである。むしろ、余計な手出しをして劔の足を引っ張る可能性すらあった。
 また、ソウジは対竜攻撃の為に隠密行動を取っているクロガネと連携を取れるのに対し、クロガネと劔の連携が取れない事もそうだ。竜をも破る攻撃性能を持つ二人が連携を取れないのは、乱戦において危険度が高すぎる。
 故に、ソウジはこの場で劔を撤退させ、ベイバロンと一騎打ちの構図に持ち込んだ。如何にドネルクラルと比べて見劣りするとは言え、ベイバロンとの戦力差は決定的に致命的でありながら、ソウジはその役を買って出た。


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