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中・長編SS投稿スレ その2

1名無しさん:2011/02/24(木) 02:44:38
中編、長編のSSを書くスレです。
オリジナル、二次創作どちらでもどうぞ。

前スレ
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/9191/1296553892/

2名無しさん:2011/02/24(木) 03:38:45
>>976
>そういった小難しいの無いから人間を材料に兵士級を作っているって設定なのよ
>生きたままだから人の意識があるとも言われてるのよ
たしかに「人間を材料に」というとこまでは公式だけど、それ以外は976の脳内補完設定じゃん

3名無しさん:2011/02/24(木) 03:45:46
>たしかに「人間を材料に」というとこまでは公式だけど、それ以外は976の脳内補完設定じゃん
そうだっけ?
でぁその部分は訂正で
生きたままだから人の意識があるとも言われてるのよ
てことでよろしく

4名無しさん:2011/02/24(木) 04:36:42
で。
「このせっていまちがってるぞバーカ!」「ちがうやい!おまえのほうがまちがってるんだぞバーカ!」
「そんなことないねーおれのほうがただしい!」「ちがうやっぱりおまえちがうおれただしい!」
と言い合う子供の喧嘩にどんな意味が?

5名無しさん:2011/02/24(木) 04:52:55
>と言い合う子供の喧嘩にどんな意味が?
兵士級は人間が材料だということがここで認知されたという意味では意味あるよ
その後の流れは無意味だが

6名無しさん:2011/02/24(木) 04:54:44
ゲーム本編では、あ号標的が死んだ珠を掲げて兵士級の材料に使ってる言っただけで
それ以外の媒体ではそれに関する情報は出てないと認識してたが
ソースプリーズ

7名無しさん:2011/02/24(木) 08:10:32
もういいじゃん
全メディア持ってないのに否定する意味が分からない
あるなら自分で調べりゃいいじゃん

8名無しさん:2011/02/24(木) 08:17:56
作品についての話ではなく、完全にマヴラヴの話になっていますから
そろそろマヴラヴについての話をやめてはいかがでしょうか。

9名無しさん:2011/02/24(木) 08:29:17
原作の設定ならオリジナルハイヴ間を超えて対応されないというのがSSに絡んだ問題だな。
見聞録世界では独自設定でもいいけど何らかの辻褄合わせは必要だと思う。

10名無しさん:2011/02/24(木) 09:37:04
31世紀の超技術ならハイヴ間通信の傍受から欺瞞まで出来そうな気がする
ドラえもんすら900年前の骨董品になるレベルなんだよなぁ、31世紀

11名無しさん:2011/02/24(木) 09:38:22
いや、それはわからんだろ。ゲームで描かれたのは地球での戦いだけなんだから

12名無しさん:2011/02/24(木) 09:40:50
>>6
小説版とソースでてるだろ。
いい加減自分で調べろよな。否定するにしても肯定するにしても調べてから言えよ。

13名無しさん:2011/02/24(木) 10:06:39
エロゲのノリと勢いと悲劇(笑)を演出するために作られた設定如きの話で荒らしになるほど言い合いすんな

14名無しさん:2011/02/24(木) 11:23:25
>>10
ゲーム会社が平行宇宙を作ってプレイヤーに開放する世界だからなぁ
発達した科学は魔術に見えるとかいうが、
ここまで来ると神の領域にはいってる

この世界のエロゲはどうなってる事やらw

15名無しさん:2011/02/24(木) 11:26:58
一応規制つきのと、無修正と、有志による魔改造版があるのだろうなあw

16名無しさん:2011/02/24(木) 11:28:04
それでも勉強とか仕事はローテクでやらなきゃいけないんだよね。
このゲームの技術応用したら集中学習とか出来そうだけど。

17名無しさん:2011/02/24(木) 11:42:04
R-15・R-18みたいに年齢で利用できるサービスが限定されるとかそんな感じじゃね?w
…下手するとゲーム世界で子供が出来そうで困る。その場合、所詮ゲームと割り切るのか

やっぱ31世紀人のメンタルは我々とも異なるのかね

18名無しさん:2011/02/24(木) 11:46:59
長門みたいなアンドロイドって、主人公が実生活を送る世界でも子どもの小遣い程度で作れるのかな?
そうだったら人間の仕事は創造的サービス業しかなくなってそう。
単純労働や普通のサービス業や農業・工業はメンテナンス費用入れてもアンドロイドやロボットにやらせたほうが安いだろうし
31世紀の人間の仕事で研究・開発やデザインなど知的なサービス業以外残っているのかな。

高校生の主人公ですら20世紀での最高位の科学者が持っている知識を勉強してるみたいだしw

19名無しさん:2011/02/24(木) 11:52:22
>>18
米国の某SFでは人口の8割がニートで悠々自適
残り2割が義務感、若しくは仕事自体を娯楽として働いてる…

みたいなタイムスリップ可能な未来世界があったなぁ
その代り食料は特殊な茸類で肉のような高級品はめったに食べれらない
とか書かれてたから今の方が良いや

20名無しさん:2011/02/24(木) 11:58:02
>>16
学業の基本としてテクノロジーに頼らない思考訓練なんかが必須なのかも
宇宙植民してるから、植民の初期段階でのトラブルで
テクノロジーの恩恵を中々受けられない事態があるとか?
そんなのを想定した学習計画が練られてる可能性もあるでしょうね。

21名無しさん:2011/02/24(木) 12:22:08
『A/Bエクストリーム』の世界みたいに何も働かなくても最低限死ぬまでバーチャルシステムに繋がって仮想世界で暮らす社会保障があるけど。
現実世界での住居や仮想物ではない実物の食料などを手に入れるには働いて稼がなくてはいけないという世界なのかも。

小学生くらいの登場人物が遊園地でガイドをしながら一緒に遊ぶという仕事を作中でしていたけど。
(サービス業の一環として無人の遊園地で訪れた客2人だけで遊ぶというのは寂しい為)

22名無しさん:2011/02/24(木) 12:33:41
それでも話は「未来人の多元世界見聞録」とずれてるような気がするからいきなり戻すよ。

国や人類の事を思うなら身内を治験に差し出すべきだと思うよ。
いまイレッサで裁判してるけど実験せず、犠牲者を出さずに新薬を手に入れる
というのは無理なわがままだと思うし。

23名無しさん:2011/02/24(木) 12:36:00
難民→国の偉い人→市民
がまあ打倒だと思うけどな

24名無しさん:2011/02/24(木) 12:42:03
ある意味帝国が生け贄というか、人類にとっての毒味役をしているとも言う
ま、仮に毒でも、毒でした→では食べません→はい、人類滅びましたって端っから詰んでる状況なんだけれどねw

25名無しさん:2011/02/24(木) 12:50:11
冷静に考えたら意図的に毒盛るメリット無いしな

洗脳薬で人類を奴隷→自前でヒューマノイド型インターフェィスを創造可能
人類を絶滅させたい→ほっておいたら近いうちに…

可能性があるなら

愉快犯、暇を持て余した神々の…遊び

くらいだ

26名無しさん:2011/02/24(木) 12:54:37
もしくはモルモット的な感覚で使われているのでは、とか
人間で言うならマウスだな

27名無しさん:2011/02/24(木) 16:29:50
とはいえ薬の開発って身内を生贄にするところから始まってるよ。
種痘とか、麻酔薬とか。
そこまでしたからその当時の常識で危険な治療を患者に納得させれたんだし。

28名無しさん:2011/02/24(木) 17:45:28
確かに種痘は息子を使ったが、自分の息子ではなく近所の貧乏人の息子……

29名無しさん:2011/02/24(木) 19:05:00
学校に行かせたりとか、世話をやいているので、恋人では?という話も。ソースは忘却の彼方。

30名無しさん:2011/02/24(木) 19:58:42
近所の貧乏人の息子である恋人か
ショタか、ショタがええのんか

31名無しさん:2011/02/24(木) 21:26:45
つまり種痘プレイか…

32New ◆QTlJyklQpI:2011/02/24(木) 22:44:01
なんか変な方向に向かってるな・・・・。
内戦がおこるとしてどれくらいの期間になるんだろうか?
やたらゴチャゴチャしてるから結構時間かかるかな?

33名無しさん:2011/02/24(木) 23:16:56
クーデター起きた瞬間が帝国の終わりの始まりなのは間違いないと思うよ

34New ◆QTlJyklQpI:2011/02/24(木) 23:24:00
その辺りも鎧衣や榊もわかってるだろうからなんらかの策は用意するかもしれないが
それでも無傷はありえない。

35earth:2011/02/24(木) 23:47:47
色々なご意見、ご感想ありがとうございます。
相変わらずブルーになっているearthです。社会人って辛いですね(涙)。
第19話ですが何とか書き上げました。
妄想と勢いとネタとその他諸々の感情で突っ走ります。

36earth:2011/02/24(木) 23:48:21
 未来人の多元世界見聞録 第19話

 将軍みずからが毒見を行うということで、黒旗軍から届けられた食糧からランダムにサンプルが抜き取られ
京都に送られた。
 届けられたのは不足している水、米などの穀物類、それに野菜、魚などの日本人が好みそうな物に加え、
各種保存食や御菓子などの嗜好品もあった。
 第一陣として届けられたものだけでも現在苦しんでいる日本人を大勢救えるものであったが、帝国政府は
まず安全性を確認することを優先した。彼らは将軍自らの毒見で黒旗軍へのアピールを行いつつ、次に難民へ
これらの物資を与えてみて一定の期間、様子を見て問題がないのであれば大々的に国民への配給を始める気だった。
 勿論、これは黒旗軍を信用していないからではない。いくら安全性が保障されたとしても、自分達とは全く
異なる種族が供給してくれる食糧を国民に配って、問題が起こったら目も当てられない。
 まぁすでに現状でも目が当てられない状況であり、あまり長く難民の様子を見ていたら、また黒旗軍の不興を
買いかねない。このため将軍の毒見と同時に、各地の難民キャンプに食糧を送って配給を行うことになって
いる。

「いくら黒旗軍へのポーズとは言え……殿下に毒見をさせる、か。昔なら暗殺されてもおかしくないな」
 
 強力なリーダーシップを期待され、総理大臣に再度就任することになった榊是親は自嘲するしかなかった。

「ですが我々にはそれしか道はありません。この国はそれほど追い詰められています」

 閣僚の一人が苦い顔で言う。

「判っている」

 疲れた顔で答える榊であったが、国を立て直すという強い意志までは萎えていなかった。

「……斯衛軍の連中は?」

 この言葉に陸軍参謀総長の彩峰が答える。

「不穏な動きを見せている者もいましたが、紅蓮大将が押さえてくださいました」
「そうか」
「ですが大将閣下をはじめ、斯衛軍には将軍のかわりに自分が毒見をしたいと申し出る人間が大勢居るようで」
「……忠義心が厚いのは結構だが、それを認めるわけにはいかん」
「判っています。殿下がご無事で、さらに難民達の健康にも何の問題もないとなれば、誰もが安心して口に
 できるでしょう」
 
 そう正論を言いつつも、将軍の教育係であった彩峰としては忸怩たる思いを抱いていた。
 
(できれば私が代わって差し上げたいものだ)

 彼もまた忠義の臣であった。

37earth:2011/02/24(木) 23:48:59
 彩峰と同じように忸怩たる思いに囚われている者はもう一人いた。そう原作ヒロインの一人で
あった冥夜だった。
 彼女は影武者として自分が毒見をすると言い張ったが、黒旗軍に真実が露見した場合、向こう側が
どんな反応を示すか判らないとして、その願いは却下された。

「無念だ……」

 御剣家の邸宅で何もすることができない自分に落ち込む冥夜。
 その姿は見る者の良心に何かを訴えるものがあった。原作にある程度思い入れがある耕平が彼女の姿を
みたらショックを受けること間違いなしだった。
 尤も同時に「いや、そこまで深刻に考えることじゃないから」と突っ込みを入れるだろう。何しろ
帝国に提供する食糧は完全に環境をコントロールされた食糧プラントで量産され厳密な検査を受けている。
 はっきりいって農薬塗れの某大国の食料品より遥かに安全で、かつ味もよいものだ。
 だがそんなことを日本側が知る由も無く、淡々と将軍自らの毒見の時は来た。
 毒見の席は京都の御所で開かれ、普段は滅多に人前にでることのない皇帝陛下や皇族も列席する中で
行われた。ちなみにカナーバも招かれている。
 さらにこの様子は生中継で戦艦長門の艦橋にも流れており、長門や朝倉は思わず「気合はいりすぎ」と呟いた。
 しかし日本側からすれば気合をいれなければならない行事であった。政治的に、そして外交的にも、

「殿下……」
 
 悠陽の忠臣である真耶は心配そうに様子を見守る。
 供給されたものを調理する際に、味見ということで最低限の毒見はされた。しかしそれでも関係者は
安心できなかった。
 このためどうなることか、と心配していた高官たちであったが、その心配は杞憂に終る。 

「美味しい……」

 史上空前絶後の天変地異の中では、いくら国のトップとも言える将軍であっても、天然物は中々食べる
ことはできなかった。故に彼女は久しぶりに食べる天然物、いやそれに勝る味わいに思わず本音が漏れた。
 彼女は用意された品物を一通り食べ終わると、即座にカナーバに礼を述べる。

「このたびは、多大なご支援、ありがとうございます」
「当然のことをしたまでです。また帝国政府が要請されるのであれば、さらなる追加支援も行う予定です」
「その折は、宜しくお願いします」

 この毒見の後、悠陽は精密検査を幾度も受け、健康であることが確認された。
 悠陽と違って乾パンや缶詰などの保存食を食べた難民達も問題ないことがわかると、帝国政府は即座に
国民に対して黒旗軍から提供された食糧の配布を決定する。
 同時に帝国政府は各国との協議の末、黒旗軍の存在と、新たな異星人が友好的な存在であることをを
世界に公表することを決断した。 
 オルタネイティブ7によって友好的な異星人を地球に招待したこと、そして彼らの協力によって地球の復興が
可能になったことを喧伝することで残っている全人類に安心と自信をつけさせようとするのが狙いであった。
 尤も日本側としては、無残な結果に終ったオルタネイティブ6の尻拭いをしたということを喧伝し、今後の
外交でより優位に立ちたいという狙いもあったが

38earth:2011/02/24(木) 23:49:33
 何はともあれ、新たに出現した異星人『黒旗軍』の存在、そして黒旗軍が8分でハイヴを掃討したこと、
すでに月を修復して、その軌道をもとに戻しつつあることが公表された。
 
「悪い宇宙人の次に良い宇宙人が来たってところか。世の中、うまく出来ているんだな」

 病院で流れるラジオニュースを聞いた武は、そんな感想を呟いた。  

「それにしても、月を元に戻した……か。凄いな。前のBETAもとんでもなかったけど、今度の黒旗軍って
 いうのはもっと凄い。この宇宙にはそんな凄い連中がいるのか」

 無限に広がる宇宙の深遠には、自分達地球人類では到底及ばない者たちが闊歩しているという事実に目を
輝かせた。
 同時に黒旗軍がその優れた科学力と圧倒的な生産力で地球環境の再生と人類社会再建の支援を行うとの
発表によって彼は将来への期待をもった。

「これで鑑は助かる。それだけじゃない、この国で皆生きている!」

 絶望に閉ざされたと思われていた未来が開けた、このことに武は興奮する。
 しかし武のように楽観できたのは、一般国民だけであった。
 ある程度の知識を持つ人間は、黒旗軍がBETAなど問題にならないほどの脅威になりえる存在である
こと、そして完全に自分達の生殺与奪の権を握られたことを理解した。

「彼らが少し気を変えれば、自分達はBETAと同じ運命を辿ることになる……」

 同時に黒旗軍がBETAと違って友好的であり、コミュニケーションをとれる存在であることを神に感謝した。
 もしも彼らがBETAと同様に話し合うことすらできない存在だったならば、人類は破滅していた可能性が高かった
からだ。
 
「彼らの機嫌を損なわないようにしなければならないな」

 超技術をもった存在に下手な手は打てない、良識のある人々はそう判断した。
 だが追い詰められた人々は躊躇う余裕すらなかった。彼らは他者を出し抜くべく動き始める。
 諸外国も日本帝国を仲介にしてカナーバに積極的に接触し、猛烈な売り込みをかけた。だが同時にあの乱暴者の米国が
トンでもないことをしないように牽制することも忘れない。
 さらに米国のイメージを悪化させるべく、「史上最悪の犯罪国家」「ならず者国家」「礼儀知らずの国」と
の印象を植え付けようとも努力した。下手にアメリカが復活したら目も当てられないからだ。
 勿論、米国もその程度で凹むほど軟ではない。彼らは不屈の闘志とあらゆるコネを動員してカナーバとの面談に
漕ぎ着けることに成功した。そして平身低頭して支援を要請した。

39earth:2011/02/24(木) 23:50:19
「……嫌われているな、米国」

 一連の報告を受けて耕平はアンドロメダの艦橋で苦笑した。
 そんな上司を見て、朝倉は今後の方針について尋ねる。

『で、どうしますか?』
「まぁ最低限、交流は維持する。あの国がある程度まともなら支援することも吝かではないし」

 原作を思い浮かべる限り、かの国にはあまり良い印象はないものの、それでも地球復興にはアメリカの
存在が必要であると耕平は考えていた。
 そもそも日本帝国自体が摩訶不思議な政治構造をしているのだ。さらに原作の奇天烈な思考の烈士(笑)の
存在を考慮すると、日本一国にすべてを委ねるという選択肢はあり得ない。

「北米のハイヴの掃討は?」
『色々と妨害はありましたが、先方から掃討して欲しいとの要請を受けました。こちらはすでに掃討の準備を終えて
 います。いつでも叩けるかと』
「わかった。なら、頼む。こっちはこっちでBETAが面倒になってきた」
『何か?』
「どうやら、この宇宙には、他にも異星人がいたようで、BETAと戦っていた形跡がある」
『根拠は?』
「BETAの中に対地爆撃にいきなり対応するタイプのものがあったんだ。
 調査の結果、その異星人の宇宙船の残骸らしきものを発見した。科学力はこの世界の地球人類を超えていたようだ。
 その異星人と戦ったBETAがある程度進化を遂げていて、色々とうるさい。まぁミサイルの飽和攻撃で何とかなる
 レベルだけど」

 戦線を広げていくにつれて、幾つかの惑星では質量弾による迎撃だけでなく、地球の光線級など比較にならない
威力のレーザー照射を浴びる例があった。
 これらはどうみても宙対地攻撃に対応するために進化したとしか思えない。

『その異星人は?』
「さぁ? 残骸程度しかないし、惑星表面にハイヴが乱立しているのを見ると滅亡したか、攻略を諦めたと考える
 ほうが自然かな。まぁ正面きって邪魔をしてこなければ問題ないよ」

 そう言いつつも、耕平は原作にない出来事に心を躍らせた。

(やっぱり居たんだな、異星人。しかし創造主って自分達より進んだ文明に、BETAが喧嘩を売っていたら
 どうするつもりだったんだろうか?)

 無計画、無謀極まりないBETAによる資源採掘。それは下手をすれば自分達の滅亡さえ招きかねないものだ。

(珪素生命体の思想は複雑怪奇だな)

 自分自身の思考が複雑怪奇と思われていることなど露知らず、耕平はそう断じた。

40earth:2011/02/24(木) 23:52:32
あとがき
拙作ですがお付き合いいただき、ありがとうございました。
というわけで予告どおり武登場です。あと冥夜も少しだけ登場です。
武は一般人視点で黒旗軍を見てもらうことになりそうです。
さてさて次回以降、地球での活動は活発化していきます。
主人公は報告を聞いているだけです(笑)。
お前は本当に主人公なのかと。というかむしろ観測者に近いです(爆)。
それでは失礼します。

41New ◆QTlJyklQpI:2011/02/24(木) 23:54:37
今の米国なら自分の頭にピストル突き付けてでも支援要請してきそうだからね。
日本勢は取りあえず攻めてきている大陸側に食糧・医薬品の提供を要請するかも。

42名無しさん:2011/02/24(木) 23:59:26
乙です
支援が開始され人類はようやく一息つけそうですね一般人までは
政治家さん達はこれから更に頭を悩ませるのでしょう、非常に楽しみですw

そしてついに出てきた異星人!
でも足跡だけか…これがタイトルの多元世界に繋がるとしたら
他作品の地球が出てきたりするんですかねー

43New ◆QTlJyklQpI:2011/02/25(金) 00:07:43
どうみても異星人が珪素生物でBETAコントロール失敗で滅んだって感じだけどね。

44名無しさん:2011/02/25(金) 00:08:50
乙です〜


>創造主って自分達より進んだ文明に、BETAが喧嘩を売っていたら
>どうするつもりだったんだろうか?

ですよね〜w
全銀河規模の町内会が存在したら、
即滅ぼされてるかもです

45名無しさん:2011/02/25(金) 00:22:34
アメリカはどうなるかねぇ。
黒旗軍がどう思うかはともかく、地球人からの悪印象は永遠について回るだろうし、
黒旗軍がいなくなってしばらくしたら世界中から寄ってたかって滅ぼされてもおかしくないんだが。

この状況で、親米派の影響力を強めることはできるのかねぇ。
どんなことしたって、黒旗軍の陰に埋もれちゃうと思うんだが。

46名無しさん:2011/02/25(金) 00:33:05
おつ
やはり居たか異星人
>創造主って自分達より進んだ文明に、BETAが喧嘩を売っていたら
今の黒旗のことだよww

47名無しさん:2011/02/25(金) 00:35:09
乙です。
今回痕跡が出た異星人からも支援要請されそうな気がw
地球に関しては米VSその他って感じの緊張状態を形成したほうがいいかも。

48名無しさん:2011/02/25(金) 00:44:31
あの世界で緊張状態なんて作ったらまた自滅しかねない気がするwww
アメリカはさっさと復興させて、アメリカだけでは暴走できない程度ぐらいは力を与えた方がいいでしょうね、そうじゃないと他の国がなんかやらかしかねないですし。

49名無しさん:2011/02/25(金) 00:52:00
>>45
中韓が日本の歴史問題を外交的武器にするように、
各国が「オルタ6問題」を外交的攻撃手段にするのは確実でしょう。
「お前らだけ戦略兵器を持つのは禁止な、いやなら国際社会への復帰は無いと思えや」
とか平気で言いそうです。
酷い目にあった為、一部合衆国市民が同調しそうなのが米国的には辛いとこですね
(これもまた日本と同じ)
そこをどう乗り切るかが米国指導層の腕の見せ所ですね。
頑張って「ゲーム本編のメリケンじゃないぜ!」というトコを見せれば、
黒旗軍の援助も手厚くなるだろうし…

50New ◆QTlJyklQpI:2011/02/25(金) 00:52:31
もう個人感情にまで米国憎悪が広まってるから下手に米国に力付けさせると
後々問題になりそう。

51名無しさん:2011/02/25(金) 00:58:17
いっそのこと、黒旗軍の直轄領になるとか、自治領化するという手もwww
アフターケア用の艦隊がバックにいれば抑止力も十分だし。

52名無しさん:2011/02/25(金) 01:01:10
>>50
「黒旗軍はそういう面で分け隔て無いよ、地球環境から考えて、
今はそんな時じゃ無いんだから…分かるよね?」
と笑顔でお話しすべきでしょうね。

そう言えば復興には心のケアも大事という事で、
それとなく人類融和宣伝工作を行う慰問アイドルグループを送り込むのもいいかもw
マヴラブ世界は娯楽に飢えてるだろうしねw

53New ◆QTlJyklQpI:2011/02/25(金) 01:04:05
>慰問アイドルグループ
マクロスシリーズの歌姫らとか?

54名無しさん:2011/02/25(金) 01:05:33
>>52
100年単位でアフターケアするのは、めんどくさすぎです。
一部の愚か者以外は、黒旗軍がいる間に妙なことをすることの愚かさを知っているでしょう。


しかし、そういう意味でいると、黒旗軍を利用して独立を測る勢力が出てきてもおかしくないんだよね。
援助をするとしても、どの辺までを「国」と認めて個別に対応するかというのは、難しい問題だと思った。

55名無しさん:2011/02/25(金) 01:08:23
>創造主って自分達より進んだ文明に、BETAが喧嘩を売っていたら
>どうするつもりだったんだろうか?
明らかにばらまきすぎ、手を広げすぎてるので、確率的に上位存在は「誰かに処理された後」かもねw

56名無しさん:2011/02/25(金) 01:10:29
テクノロジーレベルとしてはBETAみるかぎり光の壁とか越えられてないし、炭素系生物が文明作る可能性に
気がついてないくらいそっち方面もおろそかなので宇宙全体から見ればそんなに上位じゃないよなあ

57名無しさん:2011/02/25(金) 01:11:42
>>53
帝国向けにランカタイプ、欧米にシェリルタイプを送り、
「俺らってやっぱり勘違いされてる!?」
と帝国上層部のSAN値がガリガリ…

>>54
いっそ
腹が膨らんで礼節を取り戻す人と、野心を露わにする人と、
上手く勢力分け出来れば(以下機密事項)
みたいなw

58名無しさん:2011/02/25(金) 01:28:00
黒旗の上位存在としては、原作に思い入れが有るから日本帝国を保護。
でも、バランスを考えると、その他の国にも梃入れな。
……位の感覚かな。
どちらにしろ自立できるあたりまで面倒みたら、あとはオサラバして、
帰り際にチョイと脅しておけば大丈夫だろ。

もう、黒旗様に逆らう根性の有るヤツは、夕呼先生くらいしか居無そうだ。

59名無しさん:2011/02/25(金) 01:52:49
ゆーこ先生も、逆らうというより相手を見返してやるという感じだし。

60名無しさん:2011/02/25(金) 02:16:55
>>38
>「これで鑑は助かる。それだけじゃない、この国で皆生きている!」
この世界では武は純夏のこと鑑ってよんでるの?

61名無しさん:2011/02/25(金) 02:41:01
日本はなんとしてでも国際的地位向上させたいらしいが
古い社会体制だし地球規模で見たら害にしかならないだろう

62名無しさん:2011/02/25(金) 03:08:27
ふと思ったのだが、主人公のゲーム世界におけるプレイヤーの立ち位置って
まさにBETAの上位存在じゃなかろうか?

無駄に膨大な資源を全宇宙から徴収し、資源を採掘する星のことを考慮しない
ゲーム内の宇宙に知的生命体がいたら同じように思っているんじゃなかろうか?

63名無しさん:2011/02/25(金) 04:32:53
実は、他のゲーム会社の資源採掘用の宇宙だったりして。

64名無しさん:2011/02/25(金) 04:45:18
他のプレイヤーっていうのもありうるなw

65名無しさん:2011/02/25(金) 07:56:44
古典的SFな想像をすると、BETAの創造主である珪素系生命体自体が、元々は炭素系生命体が想像した道具で、それが自意識を持って創造主を滅ぼした。
で、自身のアイデンティティを維持するために、炭素系生命体は生命じゃないと定義付けているとかもアリだよな。

66名無しさん:2011/02/25(金) 08:01:58
>>65
(間違ってボタンを押したので、続き)

これだと、恒星間航行(超光速かは不明)を自力で成し遂げるBETAを創造するほどの文明を持ちながら、
「炭素系生命体は存在し得ない!」などとアンバランスな事を言うのも説明がつく。

67earth:2011/02/25(金) 08:49:35
すいません。書き間違えました。
>>38の武の台詞
>「これで鑑は助かる。それだけじゃない、この国で皆生きている!」
ではなく
>「これでは純夏は助かる。それだけじゃない、この国で皆生きている!」
です。

68名無しさん:2011/02/25(金) 08:51:47
普通に宗教上の理由で炭素生命体以外認めない

これで、100%説明できない?

69名無しさん:2011/02/25(金) 08:58:09
宇宙崩壊の危機に気付き、己の進化を封印しつつ、他の炭素生命体を統制する事で宇宙崩壊を止めようとした当時、最も進化していた炭素生命体

という可能性もだな

70名無しさん:2011/02/25(金) 09:19:11
ようは、日本が存在しなかった地球と考えればいい。
日本が黄色人種だって白人と戦えると示したからこそ、有色人種の独立運動
表面的な差別撤廃が活発になったわけで、上位存在にとって人間として認められる
知的生命体とは珪素系生命体以外存在しないと考えているんだよ。

71名無しさん:2011/02/25(金) 09:28:28
主人公が冥夜に思い入れあるんなら、純夏などの病持ちのヒロイン達に接触して助ける可能性がありそうだな。
候補としてありそうなのは、鶴屋さん?。
「遊びにいくよ!」のアシストロボをベースとした「ちゅるやさん」を引き連れてとかw。

72名無しさん:2011/02/25(金) 10:51:23
でも
リアル>(超えられない世界の壁)>原作にない出来事>原作ヒロイン
っぽいし地球の出来事は報告での又聞きも良い所だからなぁ
その情報を知りようが無いんじゃね?

73名無しさん:2011/02/25(金) 10:59:14
>>70
そういえば黒人は人間か否かって議論もあったな。
珪素生命体は炭素生命体の存在は知りつつも生命体かどうかは議論中か、生命体否定派が勝利して種族差別しているのかも。
珪素生命体の勢力圏では炭素生命体が奴隷にされてたりして。

74名無しさん:2011/02/25(金) 11:26:23
食糧援助が始まって、腹が膨れて一息つけると人間余計なことを考え出しそう。
たとえば、セックスとかに並んで宗教は人類の最大の関心ごとだし宗教がらみで色々ありそう。
上位存在に布教しようとか、改宗を迫る宗教家とか。
上位存在を救世主や神を騙る悪魔だと宗教家とか。
日本だと宗教は日常の背景で意識されにくいけど、海外だと日常の基礎だったりするところ多いし。
まあ、主人公たちは〈人工的に造られた宇宙〉でゲームしてるわけで。
神=創造主=宇宙の作り手、という定義で話が流れたら……上位存在=神になるね!

閑話休題

ここまで黒旗軍の影響が大きいと、一発逆転を賭けてとか、自分こそが交渉相手にふさわしいとか思った勢力とかが独自にコンタクトを取ろうとしそう。
すくなくとも、電波を発信できる設備があれば国際機関とか経由せずに直接話しかけれそうだし、物によっちゃあ個人レベルで何とかなるだろう。
相手に聞く耳があるかは別として。

75名無しさん:2011/02/25(金) 11:57:47
ビッグバンからそれほど時間が経過していない宇宙の場合、
炭素そのものが希少元素なので、その頃誕生した生物なら
炭素系生物の存在を妄想と断言するかもしれない。


・・・・と、ここまで書いたところでよく考えたら、
炭素が希少元素の宇宙ではケイ素はもっと希少元素だった。

原子核合成の順番はこんな感じ。

ヘリウム
 ↓
ベリリウム
 ↓
炭素
 ↓
酸素
 ↓
ケイ素

76名無しさん:2011/02/25(金) 12:14:27
恋愛原子核は何処に入るの、と

どうでもいいけどアンドロにも効果あるのだろうか

77名無しさん:2011/02/25(金) 12:43:32
所詮人格を「設定」された存在だしなあ

78名無しさん:2011/02/25(金) 12:55:54
>どうでもいいけどアンドロにも効果あるのだろうか
恋愛原子核ていうけどエロゲのお約束で主人公特権てだけだから
効果も何もないだろ

79名無しさん:2011/02/25(金) 13:02:36
一話から読み返してみてマブラヴ世界に通じる穴って別に主人公だけが見つけられて主人公だけが使える物ではないし
他のプレイヤーが見つけて奪い合いになったりしたらどうなるんだろ

80名無しさん:2011/02/25(金) 13:03:16
何かの拍子に恋愛原子核に気付いた連中が逆ハニートラップとして…
とかはないかw

81名無しさん:2011/02/25(金) 13:03:52
1000年前のエロゲの舞台だからなあ

82名無しさん:2011/02/25(金) 13:07:10
>>79
面白いイベントだとばかりに全銀河でBETAフルボッコ祭り開催かも。
巻き添えをくらって惑星や恒星もたくさん消滅しそうだが。

83名無しさん:2011/02/25(金) 13:14:40
>>79
主人公の支配宙域にあるんだろうし、見つかる可能性は低いんじゃない?
もちろん、事前に偵察に来たステルス艦に見つかるという可能性はあるけど、
戦争を始める前にそれを申し入れたりと、艦隊決戦ゲームに近い暗黙の了解があるみたいだし、
そういう行動に出る人は少ないような気がする。

84名無しさん:2011/02/25(金) 13:27:35
良識あるプレイヤーが親切心でバグとしてゲーム会社に報告→修正という名の消去

85名無しさん:2011/02/25(金) 14:05:51
その場合、ダミーでゲートっぽい施設を穴の周囲に建設して
「これはワープゲートです」などと誤魔化すしかないですね。

86名無しさん:2011/02/25(金) 15:28:43
珪素生命体→シリコン→半導体→知的炭素生物の否定の連想ゲームで
スカイネット完全勝利後のロボ文明?が浮かんだぞ、シムアースにも核戦争後にロボ文明が発展したな……

87New ◆QTlJyklQpI:2011/02/25(金) 16:38:59
自分は珪素系生命体でBLAME!の珪素生物らが思い浮かんだ。

88名無しさん:2011/02/25(金) 16:53:24
BETAを作った奴らは初期設定をミスって炭素生命体と珪素生命体区分を逆にしてしまったとかだったりしてな

89名無しさん:2011/02/25(金) 18:33:44
前にあったオリジナルハイヴに珪素生命体が指示してなさそうという話題で、
10の37乗もの場所からの通信を処理できなくて投げてるんじゃないかという説があったけど。
これも同様で状況に応じて更新するつもりが出来なくなってるんじゃ?

90名無しさん:2011/02/25(金) 18:42:02
結構早期に滅ぼされてしまった可能性もある
後、いくら珪素生命体相手にはなにもしない設定でも「相手がなにもしてこない保証はない」ので
好戦的で超高速航法持ってる征服国家なら、BETA口実に征服しにいく確率もある
相手が常に理性的で友好的だと思っちゃ駄目さ

91名無しさん:2011/02/25(金) 18:50:15
それこそ主人公みたいに宇宙規模で戦争ゲームやってる文明の資源回収用BOTだったら救えないよなぁ

92名無しさん:2011/02/25(金) 18:55:31
資源回収用BOTにあんな稚拙な言い訳は搭載せんだろ

93名無しさん:2011/02/25(金) 19:02:49
プレイヤーが接触した時の演出とか
資源回収用BOTですけど倒してもいいですよその場合資源は全てゲットできます、と

94名無しさん:2011/02/25(金) 19:09:54
プログラム書き換えれば、主人公のために使えそうだ。あ号の言うことが
正しければ10の37乗もいるから、乗っ取れればすごい便利そう。そこまで
いかなくても、BETAのネットワーク逆用して、ウイルスでソフト的に破壊するという手もあるな

95名無しさん:2011/02/25(金) 19:21:16
それだと超光速通信網あることになるよ。
BETA創造主に上申出来ないんだし星間連絡網はないかもの凄くタイムラグがあると思う。

96名無しさん:2011/02/25(金) 19:22:56
上申できないと言ったな、ありゃ嘘だ

97名無しさん:2011/02/25(金) 19:51:22
なん…だと……?

98名無しさん:2011/02/25(金) 21:16:22
その辺は原作でもあいまいだしearth様の判断にお任せしたい。
人類サイドもバーナード星系への移民以前に調査と報告があったのなら
少なくとも通信に関してはタイムテーブル的に超光速が必須だと思う。
BATEサイドも資源採掘前に調査・報告してないの?って
技術や倫理以前に論理で疑問があるし。

99earth:2011/02/25(金) 22:34:49
相変わらず活発なご意見、ご感想の投稿ありがとうございます。
短めですが、第20話が完成しました。
相変わらずノリと妄想と勢いで突き進みます。

100earth:2011/02/25(金) 22:35:19
 未来人の多元世界見聞録 第20話

 米国政府の要請を受けた黒旗軍は、日本帝国への支援を行う傍らで、早速北米に点在するハイヴの掃討を
実施した。
 といっても実際にはそんなに手間も暇も掛かることなく、前回より早く6分で終了した。あまりにも鮮やかな
掃討に米政府は唖然とすると同時に、黒旗軍と自分達との絶対的と言ってよいほどの格差を改めて実感した。
 米政府主流派は黒旗軍から何とかして支援を受けようと積極的にカナーバに接触を図るものの、諸外国は
共同で米国の動きを牽制する。

「そもそも、こんな事態になったのは貴国のせいでしょう? 後始末くらいは自分でなされては?」
「すでにBETAを駆逐してもらったのですから、あとは自国で何とかされては?」
「月を直してもらい、自国領土にあったハイヴを潰してもらった上で、さらに支援を要請すると?」
 
 下手に米国が支援を受けたら、自分達の取り分が減るとでも思っているのか、彼らは黒旗軍と米国との
交渉を妨害しようとあらゆる手段を行使した。
 しかし彼らにとっては残念なことに黒旗軍の大使であるカナーバ自身がアメリカとの交渉へ赴くことを決意した
ために、彼らの努力は徒労に終ることになる。
 尤もカナーバがアメリカ大使館に出向く前に、アメリカの駐日大使と政府の特使が飛んできたが。

「このたびは会談の席を設けていただき、ありがとうございます、カナーバ大使」

 政府特使が色々と礼を言ってくるのを聞いた後、カナーバは両名に対して、すぐに本題を切り出す。
 
「黒旗軍はアメリカ再建のために相応の支援をする用意があります」 
「そ、それは本当ですか?」

 両名はあまりにカナーバがあっさり対米支援を言明したことに驚きを隠せない。
 何しろアメリカはこの世界では史上最悪の犯罪国家であり、黒旗軍もオルタネイティブ6前後の事情を知れば
支援には躊躇すると誰もが思っていた。故に驚きもより大きかった。

101earth:2011/02/25(金) 22:35:50
「ただし条件があります」
「………」
「我々は月をもとの軌道にもどし、地球環境再生のために環境用ナノマシンの散布を行う準備を進めています。
 これらは地球環境の復活には必要不可欠な作業です。故にこれらの行動を邪魔立てしないでいただきたい」

 カナーバは「お前らの不始末を何とかしてやるから、その間は何も言わず、何もするな」と要求する。
 というか、それくらいしか要求することがないのだ。黒旗軍は別に営利目的でこの星にやってきている訳で
はないし、取り立てて欲しいものもない。故にその程度の要求しか行わなかった。
 米国からすればどんな無茶難題を突きつけられるのかと思っていたので、そんな要求に拍子抜けする。
 しかし同時に『自分達が何か仕出かすのではないか?』と疑われていたと思い、愕然とした。
 何とか気分を切り換えた特使は素早く返答する。

「勿論です。我が国は黒旗軍の行動を妨害するような真似はいたしません」

 この言葉を聞いてカナーバは満足げに頷く。
 しかしこの会談の翌日、アメリカ政府は黒旗軍を驚愕させる話を2つ持ち込んだ。

「……これは」

 艦長室で長門、朝倉の両名は驚きを隠せない表情で(長門は殆ど無表情だが)、書類を見ていた。
 一つ目は『アメリカが保有しているG元素の黒旗軍への割譲、そしてG元素関連研究機関への査察の受け入れ』
であった。
 アメリカの切り札であるはずのG元素とその関連技術。それを黒旗軍に譲り渡すというのだ。
 普通なら売国行為として糾弾され、これを提案した人物などは即座に失脚している。
 だが絶体絶命に追い詰められた米国は敢えてそのカードを切ってきた。

「……G弾を使って黒旗軍に対抗、或いは妨害する意思はない。それを示すものと思われる」

 長門の言葉に朝倉は同意する。

「少しでも米国への心象を良くしようとする涙ぐましい行為ね。そしてこれも」

 朝倉の視線の先には2つめの話が記された書類があった。

「こんなことを言ってくるとはね」

102earth:2011/02/25(金) 22:36:21
 書類には米国は黒旗軍の活動拠点としてフロリダ州の租借(割譲でも可)が提案していることが記されていた。
 
「フロリダは現在の激変した地球環境の中で数少ないまともな土地。そこを差し出すってことは米国は本気ね」
「北米大陸の再建には便利と言えないことはない」 
「そうね。あまり連中を追い詰めると人類全体を巻き込んだ無理心中なんてされかねないし」

 そういって朝倉はため息をつく。  

「まぁ連中の状況を少しは改善してやるために、第二の地上拠点を作るというのはアリかもね。
 それに日本一国だけ優遇するのも問題だし、あの国の政治構造は古臭い上に複雑だから動きも早くない。
 自分達のライバルになりえる国が現れたとなれば、外圧となって自己改革に取り組むかもしれない。
 それが無くとも意思決定は早くなる。どちらにせよ、損はないわね」

 この朝倉の意見に長門は頷き、賛同する。

「それに、たとえ史上最悪の犯罪国家であっても、人類再建のために尽力するのであれば相応の支援を行う
 とのポーズになる」
「そうね……まぁ問題は他の有象無象の輩が出かねないってことね。何しろ人類史上最悪の国家でも人類
 再建のために尽力することを示せば支援が貰えるんだし、ここでこちらと繋がりをもって独立とか勢力の
 拡大を図るバカがいてもおかしくない。まぁすでにその兆候はあるけど」
「……当面、交渉(?)するのは、日本帝国へ大使館がある国に限るということにする」

 それは黒旗軍が未だに日本帝国を重視しているということを示すものだ。

「問題は旧ソ連や朝鮮半島の勢力ね。どうする?」
「日本帝国、アメリカを梃入れして極東、アラスカの軍閥群を掃討する。欧州の残党は無視しても構わない」
「まぁユーラシア大陸の自然環境まで完全に修復するとなると手間が掛かりすぎるしね」

 地球環境の復活といっても、あくまでもBETAによってごっそり削り取られていない地域の環境の復活が
彼女達の仕事であった。故にBETAによって平地にされたユーラシア大陸まで綺麗に復活させるつもりはない。
 まぁ汚染された土壌の浄化程度は行うつもりだが。

「それじゃあ、第二の地上拠点建設の準備を進めましょうか。それとナノマシン散布の準備も進めないと。
 米国が呑む以上は、日本も一々口を挟まないだろうし」

 かくして黒旗軍も動き出す。

103earth:2011/02/25(金) 22:39:52
あとがき
拙作ですが読んでくださりありがとうございます。
というわけで第二拠点の建設が決まりました。
これを受けて色々な勢力が蠢動するでしょう。
では、このあたりで失礼します。

104名無しさん:2011/02/25(金) 22:41:20
乙でした
アメリカ、これはまた思い切りよく賭けたなあ
それしかなくとも普通ここまで全掛けは出来ない

105名無しさん:2011/02/25(金) 22:44:36
更新乙です

アメリカここでG弾を切ってきたか…
長門達を驚かせた位だから、先生より先にひと泡吹かせたw

106名無しさん:2011/02/25(金) 22:54:53
乙乙
もはや隠すものも何も無いわけか

107名無しさん:2011/02/25(金) 22:59:42
まぁG弾はもう使いようのない兵器なんだから、切るなら今このタイミングだよな。

108名無しさん:2011/02/25(金) 23:00:16
乙です。
当面は帝国と米国を基軸に人類勢力の再建ですかね〜

109名無しさん:2011/02/25(金) 23:02:34
日本に大使館のある国……
どの程度の国が、どの規模まで大使館持っているんですかね。
大使館の維持だってタダじゃないし、大使館自体が閉鎖されている国も多かろうし、
それ以前に対BETA戦争で日本に大使館を開く余裕のなかった国だってあろうけど。

110名無しさん:2011/02/25(金) 23:02:57
アメリカは残ったカードを全て切った形になるのか…
なんか日本側がなんかやらかしそうだな、日本側から見てアメリカは数少ないいい環境の土地とG元素関係全て引渡すという持てるものは全て出した。
かたや日本は、援助だけを貰うだけで提供した土地は自国の内ゲバの影響で南鳥島なんていう辺鄙な土地。
アメリカに第二の拠点を作るって知ったら、相当やばくなるんじゃね?
実は今までの自分たちの対応に黒旗軍が怒ってるんじゃね?とかでまた派閥争いで面倒を起こしそうだな。

111名無しさん:2011/02/25(金) 23:05:09
僻地に飛ばされても無償できちんとした食料や衣料品を渡したのに疑われて腹立てたか、
すまないと思うが国内情勢的にあれが限界だったんです〜くらいには思うかも

112名無しさん:2011/02/25(金) 23:06:37
医療品orz
とはいえわざわざ説明に行くのもなんだし、烈士様たちが逆ギレしそうだし
帝国大変だ

113名無しさん:2011/02/25(金) 23:07:28
>>107
G弾とG11はともかく、常温超電導体とか負質量物質とかのエキゾチックマーターは、
今後の国家戦略にも関係する重要アイテムではあるけどね。

まぁ、ここで黒旗軍と確固たるつながりを持っておかないと、
どんな切り札でも使う機会すらなく崩壊するだろうし、正しい選択ではあるけど。

114名無しさん:2011/02/25(金) 23:08:26
まあアレだな
人の悪口ばかり言うヤツって鬱陶しがられる
他者を貶め自分を有利にしようと図るのではなく、自分の良い点を示さないとw

115名無しさん:2011/02/25(金) 23:09:17
地球上の国家に公開するんじゃなくて、黒旗軍限定ならどうせ相手の方が進んだ技術持ってるからありかも

116名無しさん:2011/02/25(金) 23:11:21
もうG元素手に入る当てもないし、人類同士の戦争なら弊害のほうが大きすぎるけど思い切りがいいなあ。

117名無しさん:2011/02/25(金) 23:12:21
黒旗軍と我々の対アメリカ評価が跳ね上がっている件
最初の頃の警戒されまくりと叩かれっぷりが嘘のようだ

118名無しさん:2011/02/25(金) 23:25:38
雨の日の不良と子犬の法則だな
そしてアメリカは確信犯でそれを行ったと

119名無しさん:2011/02/25(金) 23:30:18
アメリカが
主人公の最初の好敵手、かつ仲間だったが、
次々現れる強敵と、主人公の強さのインフレにより
何時の間にか弱体化、
最終決戦では背景扱いの法則
にならない事を願うw

120名無しさん:2011/02/25(金) 23:34:56
クロコダイルはもう許してやれよ…
むしろ帝国がそれっぽいポジになりそうなんだよなぁ
烈士()対策に宇宙王者マジ頑張れ

121名無しさん:2011/02/25(金) 23:37:17
最終決戦も何も戦力的に見たら黒旗軍以外すべての軍隊が背景のようなw

122名無しさん:2011/02/25(金) 23:45:42
もう戦う相手太陽系にいないしw

123名無しさん:2011/02/25(金) 23:48:51
なんかここまで実力差があって支援が至れりつくせりだと黒旗軍主導による世界国家設立とか言い出しそうなやつが出てきそうな予感・・・

124名無しさん:2011/02/25(金) 23:49:49
人類自立の為に敢えて黒旗軍が悪役を買ってやる必要がでてきそうだなw

125名無しさん:2011/02/25(金) 23:50:44
烈士()のようなネタ性が無いと空気化しか道の無い軍人達が哀れだw

126名無しさん:2011/02/25(金) 23:52:38
日本だって、かなりのチート国家なんだけどね
黒船という外圧に反応して戊辰戦争したけど
明治維新というチート扱いされるような改革してるし

内乱で反対派を粛清して国内の意思統一をすればバケルぞ

127名無しさん:2011/02/25(金) 23:55:11
まあ日本はいつでも追い詰められてから本番出すだから、活躍するんならこれからじゃねw

128名無しさん:2011/02/25(金) 23:56:05
また世界の盟主に返り咲けそうなくらい強かだな。やっぱ本気で国民を守ろうとする国は強い。
帝国は将軍>国民なところが多々あるからな。

129名無しさん:2011/02/25(金) 23:58:09
内乱に耐えきる体力が今の帝國にあるとは思えないんだが。
既にリーチかかってるって描写あるし、大規模な内乱になった時点で詰むんじゃね?
原作の主な舞台だから黒旗軍が途中で助けるとはおもうけど。

130New ◆QTlJyklQpI:2011/02/26(土) 00:00:25
ユーラシアの掃討ってまた無茶なw。下手すれば泥沼の日中戦みたくなりそう。
ユーラシアもある程度の木々が回復しないと土砂流入とかで海洋汚染になるかも。

131名無しさん:2011/02/26(土) 00:01:23
むしろ主人公はもっと欲望に走ったほうがいい気がする
原作好きだったんだから、原作キャラを母船に一時的に呼び出す代わりに援助増量とか
そうしてやりゃ人間側も理由は分からなくても、目的は勘違いしてくれるだろうし

132名無しさん:2011/02/26(土) 00:07:13
「関わるのは面倒だけど見捨てると目覚め悪い」
レベルだから走るほどの欲望が無いんだろう
ヤマト世界なら頑張ってたかも知れんね

133名無しさん:2011/02/26(土) 00:11:35
>まあ日本はいつでも追い詰められてから本番出すだから、活躍するんならこれからじゃねw
追い詰めると暴走するのが日本だしクーデターが起きる確立が上がったな

134New ◆QTlJyklQpI:2011/02/26(土) 00:20:30
宇宙の王者がいる限りはある程度は抑止出来そうなんだが。

135名無しさん:2011/02/26(土) 00:21:02
>>132
けどどんなつまらない事でも要求があるのとないのとじゃ大違いだからな
下らない事でも要求が出てくれば今までの情報と技術力を考慮して「メンタリティが違う」で済むかもしれないけど
何も要求がないとこれからどうなるのか恐々として常に警戒してなくちゃいけないし

136名無しさん:2011/02/26(土) 00:29:10
>>135
いっそ上位存在は生き物の正の感情(祈りとか感謝とか)食ってる精神生命体ですー
とか言って神っぽいのと騙った方が人類にとっても安心出来ると

137名無しさん:2011/02/26(土) 00:33:56
>>131
プレイヤーがそういう手間を掛けたくないから、現場のアンドロイドが苦労してるんだが

138名無しさん:2011/02/26(土) 00:39:39
>>131
主人公はそんな面倒なことをしたくないから、アンドロイド?を送ってるんじゃん。
「関わるのは面倒だけど見捨てると目覚め悪い」って言うレベルなんだし、そこまで興味のあったわけじゃないんでしょ。

139名無しさん:2011/02/26(土) 02:05:42
これで朝倉や長門が、上位存在はまだ子供なんで……はっきり言って気まぐれです。
とか真面目な顔で言ったらどんな展開になるかなw?

140名無しさん:2011/02/26(土) 02:07:43
G元素を差し出すってことは、国内のG弾使用派閥は
完全に押さえ込んだか消滅したかのどちらかなのでしょうね。

日本と違って、国内意思の統一が出来るってやっぱすごいなあ。
半端に国力が残っているのが原因だったんでしょうが、日本の外交下手は
レベルが違いますからね。
友好的な異星人を招いたと言うアドバンテージをどこまで生かせるか見ものです。

141名無しさん:2011/02/26(土) 02:59:31
日本と違いアメリカは可能な限りの誠意を見せてるね。
現状の元凶とはいえ黒旗軍と地球の諸国がアメリカに抱く感情は
第3者の視線と被害者の視線という点で温度差がありそう。

黒旗軍
日本  「今の所は利用してやる、でも大人なんて信用できない!」
アメリカ「先生おれが悪かったです、助けて下さい」

日本
黒旗軍 「優等生だけどメンドくさい」
アメリカ「好き放題言いやがってでも正論だしクソッ」

アメリカ
黒旗軍 「困ったチャン要注意」
日本  「氏ねよもう、みんなハブにしようぜ」

142名無しさん:2011/02/26(土) 03:07:56
日本がアメリカの妨害て黒旗軍からしたら迷惑な行為て印象悪くなるよな
感情論でどうこう言ってるし日本マジで暴走しそうじゃね

143名無しさん:2011/02/26(土) 03:35:17
フロリダに軌道エレベーター設置して日本もっと追い詰めてみようぜ!

144名無しさん:2011/02/26(土) 04:26:38
アメリカと黒旗軍の交渉させまいと妨害する日本
それが原因でカナーバは仕方なくアメリカ大使館に出向こうとまでしてるし
黒旗軍のメンタル面まったく理解できてないのに下手したら
日本ウザいよ黒旗軍は他国に引っ越すよとかになる可能性考え付かなかったのかね
アメリカみたいに全部差し出すとまではいかなくても現状からして最大限協力だろ妨害なんて最悪の手だと思うのだが

145名無しさん:2011/02/26(土) 07:36:35
原作におけるアメリカの悪役っぷりより、帝国烈士様達(笑)への不信感が強くなってきてるw

146名無しさん:2011/02/26(土) 08:45:20
米国への援助を、帝国に改善を促す外圧としようとしている長門達、
こいつら異星人とは思えないほど日本人的指導層の本質を理解してるぜ!
これは俺らも下手な画策、陰謀はしばらく自重した方がいいかも…
と外国の情報機関が分析したりしてw

147名無しさん:2011/02/26(土) 08:54:27
>米国への援助を、帝国に改善を促す外圧としようとしている長門達、
>こいつら異星人とは思えないほど日本人的指導層の本質を理解してるぜ!
>これは俺らも下手な画策、陰謀はしばらく自重した方がいいかも…
>と外国の情報機関が分析したりしてw
日本が自爆してるだけで他国は陰謀も策謀やつてないんだけどね

148名無しさん:2011/02/26(土) 08:59:42
陰謀の季節はこれからだしな

149名無しさん:2011/02/26(土) 09:27:46
原作でも、日本の有り方は果てしなく不安と不信感を煽るシステムだったし、
クーデターを起こした奴らは、工作員とかそういうものがあったとしても、バカとしか言えないやつらだったけどな。

とはいっても、追い詰め過ぎてバカなことされても困るし、
そもそもアメリカをメインに世界を再構成することは事実上不可能だし、
日本を切り捨てるのはどう考えてもデメリットが多いんだよなぁ。

150名無しさん:2011/02/26(土) 09:32:35
>とはいっても、追い詰め過ぎてバカなことされても困るし、
>そもそもアメリカをメインに世界を再構成することは事実上不可能だし、
>日本を切り捨てるのはどう考えてもデメリットが多いんだよなぁ。
日本とアメリカ以外にも機能してる国はあるだろ

151名無しさん:2011/02/26(土) 09:53:48
>>140
万一、国内のG弾派残党が排除しきれてなくて暴走しないように先手を打ったという可能性も
黒旗軍からもアメリカが「念を押さないと邪魔する可能性のある国」と見なされてたってショックも少なくないだろうし
つまりそれ、地球内に収まらず、星間文明を持つ上位存在社会でも危険視されてるってことになりかねない

152名無しさん:2011/02/26(土) 09:56:34
>>144

>米政府主流派は黒旗軍から何とかして支援を受けようと積極的にカナーバに接触を図るものの、諸外国は
共同で米国の動きを牽制する

と書かれてるので、別に妨害してたのは日本だけじゃないぞ
むしろアメリカ以外の全ての国だね
それを考えると、もし妨害してきた連中がウザいからという理由で引っ越す場合、自動的に選択肢はアメリカのみになる
なので、「日本ウザいよ黒旗軍は他国に引っ越すよ」ではなく「諸外国ウザいよ国旗軍はアメリカに引っ越すよ」が正しい

153名無しさん:2011/02/26(土) 09:57:24
自国が宇宙の笑いものになるのはイヤだなあ

154名無しさん:2011/02/26(土) 10:05:26
そういえば、裏を知らない地球人類から見たら自分たちがなにをするかで国際社会ならぬ星間社会における
これから数世紀分、地球や自国の評価が確定してしまいかねないのか
切羽詰まって余裕がないからなりふり構ってられないにしても、一部の政治家は今から頭痛そうだ

155名無しさん:2011/02/26(土) 10:10:28
そう思えるうちはある意味幸せだな
危険視どころか主人公達にはちょっと邪魔程度、星間文明を持つ上位存在社会では認識すらされてない程度って知ったらどうなることやら

156辺境人:2011/02/26(土) 10:31:09
やはり手持ちのチップを全て黒旗軍に賭けるという決断ができるだけでも
米国はすごいですよねぇ。日本がまだマシという状況では米国以外の国も
最悪な状況だけどそこまで捨て身にはなれてないわけだし。

でも米国もいずれはと思ってるんだろうしスタンスはともかくとして
方向性は夕呼先生と同じなのかも。アメリカはそうした問題は後回しに
して優先順位をきちんと設定してるけど日本は黒旗軍への対抗手段を
模索してたりと中途半端な感じがする。まぁ米国は日本と違って愛国の
烈士(笑)を排除できてるっぽいからブレてないように見えるのかも
しんないけど

157名無しさん:2011/02/26(土) 10:52:56
帝国が相変わらず不健全で安心した。将軍が援助物資を食べるだけでクーデター考えるとか胸熱w
もうお前ら大政奉還しろよといいたい。そういえば、原作でアメリカに戦争負けたのになんで将軍家って残ったんだろう?

158名無しさん:2011/02/26(土) 11:03:36
美少女の将軍ってステキだからーという理由じゃ?
なんで幕府体勢の象徴の将軍と近代的な内閣行政府が両立してるのか意味不明だし。
幕府が軍で、内閣が行政部なんかね。

なんにせよ、この世界の日本はこのまま行くとナンバーワンになりうるチャンスを棒に振りそうw

159名無しさん:2011/02/26(土) 11:03:57
>米政府主流派は黒旗軍から何とかして支援を受けようと積極的にカナーバに接触を図るものの、諸外国は
>共同で米国の動きを牽制する
で妨害したとして黒旗軍がどう思うかまでは考えられなかっわけですね

160名無しさん:2011/02/26(土) 11:19:30
人類内国際社会の信用的に

会談にこぎつける→アメリカ「おれにしたがえー」→黒旗軍「あ゛?」

的なのをまだやらかすかもって思われてるってのもあるから
黒旗軍の心象悪くしないって意味でも妨害は人類側的には妥当かも?

161名無しさん:2011/02/26(土) 11:21:53
どの程度負けたのか、が問題では?
完敗で、無条件降伏したのならともかく、条件つき降伏で食い止めたなら国内の政治体制までは注文つけられませんし

幕府と内閣の並立に関しては……ややこしいですよね
元々皇帝がいたんで、その下に実質的な取り扱いをする将軍がいて……
史実の幕末時にある程度委譲したのか、それとも降伏条件として民主化を進める条件があったのか

162名無しさん:2011/02/26(土) 11:24:03
>人類内国際社会の信用的に

>会談にこぎつける→アメリカ「おれにしたがえー」→黒旗軍「あ゛?」

>的なのをまだやらかすかもって思われてるってのもあるから
>黒旗軍の心象悪くしないって意味でも妨害は人類側的には妥当かも?

普通に考えたらそんなことはありえないのにマジでそう思う諸外国の政府関係者は精神的にやばい状況な
やっぱマクロスのランカやシェリルを送り込んで精神的癒しを

163名無しさん:2011/02/26(土) 11:38:39
基本的に主導権握ってやりたい放題数十年繰り返してきてた上に、オルタ6もだかその後も
いろいろやらかしたこともあって信用ゼロだから、ある程度は仕方ない

164名無しさん:2011/02/26(土) 11:40:55
>下手に米国が支援を受けたら、自分達の取り分が減るとでも思っているのか
って本編で言ってるし、黒旗軍の援助がアメリカに向く分、自分の取り分が少なくなると危惧したんでね?

165名無しさん:2011/02/26(土) 11:47:51
地球環境改善しつつBETA駆逐しつつ人類四億くらい余裕で養えますよHAHAHA
と言ってるのにねぇ。まあそれだけ切羽詰まってるということか

166名無しさん:2011/02/26(土) 11:49:48
マヴラブ世界では、1944年に日本が条件付降伏だったはず
原爆は日本ではなく、ドイツのベルリンに落とされてる

167名無しさん:2011/02/26(土) 11:52:40
>基本的に主導権握ってやりたい放題数十年繰り返してきてた上に、オルタ6もだかその後も
>いろいろやらかしたこともあって信用ゼロだから、ある程度は仕方ない
冷静に考えれば月の崩壊は事故で他のアメリカの行動は理にかなっているんだけどね
あと月奪還でG弾の飽和攻撃自体は最終的に各国が了承してるわけだよな
アメリカ単独でやるのは流石に無理だし

168名無しさん:2011/02/26(土) 11:52:42
>>162
パンとサーカスじゃないけれど、
BETAとの精神的に不健康極まりない戦争を続けた人類の
精神的疲労は半端無いので
文明レベルに合わせたの娯楽品を援助するのも必要かもですね〜

BETAで荒廃した地球に765プロを送り込んでみるとかw

169名無しさん:2011/02/26(土) 11:56:37
>>167
アメリカの国益的に、理にかなっているというのが正確かと
もちろんアメリカとしては当然なんだが、今回は他国からの対アメリカ評価の話してるからね

170名無しさん:2011/02/26(土) 12:02:54
>>167

例え理に適ってようが、重視されるのは過程よりも結果
後、理屈と感情は別物なので、各国も了承したとかは怒りを納める理由にはなりえないよ

171名無しさん:2011/02/26(土) 12:04:46
>例え理に適ってようが、重視されるのは過程よりも結果
>後、理屈と感情は別物なので、各国も了承したとかは怒りを納める理由にはなりえないよ
その理屈はどうかと思うぞ

172名無しさん:2011/02/26(土) 12:07:01
確か娯楽がトランプとかけん玉とかそういうのしかないんだよなぁ、オルタ、ランカ送り込んだら
狭霧「ヤックデカルチャー」

ってなりそう


ふと思った、繋がった先がオルタ世界じゃなくて、銀河英雄伝説のマルアデッタ寸前の同盟側に繋がったら、どんな支援するんだろ?

173名無しさん:2011/02/26(土) 12:09:38
そもそも理屈でどうにかならないのが感情なわけで
よほど理性的な人でない限り、感情に理屈を求めるのは不可能

174名無しさん:2011/02/26(土) 12:12:35
>そもそも理屈でどうにかならないのが感情なわけで
>よほど理性的な人でない限り、感情に理屈を求めるのは不可能
国同士の話し合いで感情論はどうかと思うがね

175名無しさん:2011/02/26(土) 12:14:22
国際社会で「誰も悪くない。結果がこうなってもアメリカ君を虐めてはいけません」とはいかんからねえw
成功すれば自国の覇権が確定するって未来があった以上、大失敗したら責められるのはどうにもならん
しかも忘れてる人もいそうだが、「事後」悲惨な状況の世界中から軍隊引き上げさせ&支援打ち切りやってるからね

それで怨まなかったら世界各国どれだけ聖人君子ですか

176名無しさん:2011/02/26(土) 12:16:14
>>174
主権在民の民主国家だと、いろいろあるのよ……
まぁ、烈士様(笑)がいらっしゃる国はその辺格が違う気もするがw

177名無しさん:2011/02/26(土) 12:18:50
>しかも忘れてる人もいそうだが、「事後」悲惨な状況の世界中から軍隊引き上げさせ&支援打ち切りやってるからね

>それで怨まなかったら世界各国どれだけ聖人君子ですか
あの状況で支援続けられる体力はアメリカにも無いんだけどね
自国に落ちたハイブすら自力で排除できないほど弱体化してるし

178名無しさん:2011/02/26(土) 12:24:42
まあ、政治家がアメリカ弁護したら今まさに瀕死の国民にぶっ殺されるわなあ
世界を謎の存在が救ってくれて、再建はこれからって時にやらかして、そのまま自分の利益だけ追求したわけだし

179名無しさん:2011/02/26(土) 12:28:06
>世界を謎の存在が救ってくれて、再建はこれからって時にやらかして、そのまま自分の利益だけ追求したわけだし
アメリカが動かなかったら領土問題勃発で戦争確実だけどな

180名無しさん:2011/02/26(土) 12:29:01
それに現時点でアメリカが持ってるG元素って元々他国の領土にあったやつじゃないか?
この点も文句付ける国が出そう。

181名無しさん:2011/02/26(土) 12:30:12
オルタ6こけた後、自国のこと以外にアメリカ動いてないよ(世界中から軍隊撤収してる)

182名無しさん:2011/02/26(土) 12:33:15
>>180
G元素は国連軍が保有→実質的に国連軍=アメリカ軍→G元素はアメリカのモノ
本編でもだが、国連軍=アメリカ軍ってイメージが強いし実際にそういってもおかしくないくらい影響力あるから、
月破壊もアメリカがやらかしたと考えられているのだろう

183名無しさん:2011/02/26(土) 12:38:43
>>172
この主人公は人間同士の戦いはほっとくだろう

184名無しさん:2011/02/26(土) 12:39:40
アメリカはもうマクロスでももらって他星系に国ごと移住するのが一番ましなんじゃね?
アメリカにとっても他の国にとっても

185名無しさん:2011/02/26(土) 12:41:02
>>180
>G元素は国連軍が保有→実質的に国連軍=アメリカ軍→G元素はアメリカのモノ
>本編でもだが、国連軍=アメリカ軍ってイメージが強いし実際にそういってもおかしくないくらい影響力あるから、
>月破壊もアメリカがやらかしたと考えられているのだろう
一般人はそうかもしれないが各国の政府はアメリカに全部責任押し付けたいだけだろ

186名無しさん:2011/02/26(土) 12:42:19
>>172
>この主人公は人間同士の戦いはほっとくだろう
ほっとくと勝手に自滅する人たちですよ

187名無しさん:2011/02/26(土) 12:42:56
オルタ7でもっとヤバイ異星人がやってきて地球がメチャクチャにされても帝国は悪くない
そう、世界中が考えるかどうかとかんがえるとまあw

188名無しさん:2011/02/26(土) 12:46:46
>オルタ7でもっとヤバイ異星人がやってきて地球がメチャクチャにされても帝国は悪くない
>そう、世界中が考えるかどうかとかんがえるとまあw
例えがおかしいぞ
オルタ7は日本が単独でやったわけだからヤバイのがきたら日本の責任になるだろ

189名無しさん:2011/02/26(土) 12:47:09
まあ、どちらにしろアメリカに援助+第二拠点はフロリダにと、黒旗軍から言われた時点で、帝国内部が大揺れするのは確実だな。
下手すりゃ外務大臣辺りが腹切るか、烈士(笑)様達に天誅されるかもしれん。

190名無しさん:2011/02/26(土) 12:52:30
古い体制を改革するより天誅の方が可能性高いとか笑えないわぁ

191名無しさん:2011/02/26(土) 12:53:02
> 彼らはアメリカの力、いや正確に言えば自分達の力を見せ付けるための場を求めた。
> それが2004年に行われた月奪還作戦だった。

アメリカが自国の力を見せつけるために主導したオルタ6ならアメリカが最大の責任取らされるのは仕方有るまいよ
どうせそのままなら世界が滅ぶ後のない状況で発動したオルタ7と同じにしちゃいかん

192名無しさん:2011/02/26(土) 12:57:40
沙霧は、嫁有り+尊敬する舅健在状態だから、烈士(笑)にはなれんだろうが、幾らでも人材は居るだろ。
それを見て、黒旗様がどう思うかまで想像できないアタマの悪い連中が。

……ただ、ここで、お米の国が日本を蹴落とすチャンスと見て、何かやればまた別だな。

193名無しさん:2011/02/26(土) 12:58:01
次に登場する帝国の情勢は楽しそうだ
恐らくは今回の毒味について認識の齟齬が発生してるはずなので、わざわざ将軍様が毒味したのに無礼なと
烈士様(笑)が考え、援助物資を毒味するような信用してないやり方に腹を立てられたと閣僚が考えるかな?

194名無しさん:2011/02/26(土) 12:59:24
>アメリカが自国の力を見せつけるために主導したオルタ6ならアメリカが最大の責任取らされるのは仕方有るまいよ
自国の国益もかねてるだけで月奪還は合理的なんだけどね

195名無しさん:2011/02/26(土) 13:01:31
>……ただ、ここで、お米の国が日本を蹴落とすチャンスと見て、何かやればまた別だな。
自国の領土であるフロリダもG弾関連技術も全部差し覚悟だし馬鹿なことはやらないだろ

196名無しさん:2011/02/26(土) 13:02:20
成功したら合理的、失敗したら糾弾の的
なにも間違ってないさ

197名無しさん:2011/02/26(土) 13:03:33
国の利益を追求するのは日本やアメリカだけじゃなくどの国も変わらないわけで
結果として最悪のものを引き起こしたアメリカとこの期に及んで間抜けぶりを披露している日本の評価が下がるのは仕方ないようなw

198名無しさん:2011/02/26(土) 13:04:05
>>195
原作でも、烈士様(笑)たちのクーデターはアメリカの謀略だったし、何としても日本に取って代わり、
黒旗軍との窓口的存在になるというのは、SSでも言ってるから、チャンスと見ればやるだろ。

199名無しさん:2011/02/26(土) 13:04:15
望外の好待遇を拾えたアメリカが、ここで馬鹿な真似はしないだろう。
やり過ぎなくらい身内に目を光らせまくってる印象が強い。
むしろやっちゃうのは帝国の烈士様達だよなあ。

200名無しさん:2011/02/26(土) 13:05:53
たしかに烈士様(笑)は単品でも暴走しそうな雰囲気がある

201名無しさん:2011/02/26(土) 13:06:52
しかし、烈士様(笑)達の矛先がどこに向かうかだよな。
日本政府の閣僚とか、議員とかに向くならいいが、カナーバ辺りが襲われでもしたら、榊首相が心不全で倒れそうだな。

202名無しさん:2011/02/26(土) 13:08:44
さすがに黒旗に牙は向かないだろ、実力的にも支援的にも
精々政府高官を殺って将軍に全実権を!で思考停止だろ

203名無しさん:2011/02/26(土) 13:08:46
しかし、烈士様(笑)達の矛先がどこに向かうかだよな。
日本政府の閣僚とか、議員とかに向くならいいが、カナーバ辺りが襲われでもしたら、榊首相が心不全で倒れそうだな。

204名無しさん:2011/02/26(土) 13:09:00
個人的にはアメリカ自体は優等生としてなにもせず、烈士様達が何かする情報を掴んだら嬉々としてご注進。
黒旗軍の対帝国感情を悪化させてフロリダに誘致した拠点を本拠にさせようと画策する感じかな。
最終的には今帝国が握ってる黒旗軍窓口の立場を得られれば文句はない。

205名無しさん:2011/02/26(土) 13:10:06
読者から烈士様への(負の)期待感が尋常じゃない件。

206名無しさん:2011/02/26(土) 13:13:40
>さすがに黒旗に牙は向かないだろ、実力的にも支援的にも
>精々政府高官を殺って将軍に全実権を!で思考停止だろ
烈士の連中て名誉だとか誇り重視でBETAと戦争中にクーデター起こすような連中だぞ
あのタイミングでBETAが攻めてきたらとか考えてないのかと
もう天誅とかいって戦術機でカナーバーに襲い掛かるとかありそう

207名無しさん:2011/02/26(土) 13:15:23
無残に破壊されたカナーバの残骸を前に、日本帝国首相が卒倒するんですね。わかります。

208名無しさん:2011/02/26(土) 13:16:03
せっかくさしのべられた救いの手に攻撃したら、さすがに国民が怒るだろ
でもそこまで頭が回らない自己陶酔さを烈士様には期待しておく

209名無しさん:2011/02/26(土) 13:16:28
>もう天誅とかいって戦術機でカナーバーに襲い掛かるとかありそう
つまり生身で戦術機と渡り合うミラクル☆カナーバにご期待下さい、とw
ああでもアンドロイドにそこまでの性能なかったかな?

210名無しさん:2011/02/26(土) 13:17:14
>無残に破壊されたカナーバの残骸を前に、日本帝国首相が卒倒するんですね。わかります。
総理どころかお詫びといって陛下が切腹ですね

211名無しさん:2011/02/26(土) 13:17:22
烈士様(笑)に常識を期待する時点で間違ってるような。
彼らの目に見えてるものと、普通の人に見えるものは違うんだよ。

212名無しさん:2011/02/26(土) 13:17:35
>>207
性能的にできないのは知っているが、むしろそこでカナーバ無双をw
女性型外交官ユニットにぼこられる烈士の方々の勇姿を世界中に公開しようぜ?

213名無しさん:2011/02/26(土) 13:19:10
物理的に強いカナーバさんは新機軸過ぎる。

214名無しさん:2011/02/26(土) 13:19:42
>>212
魔法熟女VS戦術機 日本最期の日とな?

215名無しさん:2011/02/26(土) 13:19:53
でもオルタ6って5より他国の賛同を得られそうなプランなんだよな
攻撃もアメリカ単独では無かっただろうし各国の賛同者や作戦参加者はスケープゴートにされてそう
あれ?これ烈士様勢力拡大でフラグ建ってね?

216名無しさん:2011/02/26(土) 13:20:51
オルタ6最大の敵は多分「そんなことより復興しようぜ」だったと思われ。

217名無しさん:2011/02/26(土) 13:23:40
最終兵器外交官にアップグレードしてだな
まあ仮に襲撃されたら鉄人兵団が頑張るんだろうけど

218名無しさん:2011/02/26(土) 13:25:17
リアルもそうだけど、マブラブ世界も、「天誅!」とか叫んで人斬り包丁振り回してた連中が、
政権中枢に入っちゃった世界だから、夢よもう一度で、KYな馬鹿やるヤツは確実にでるな。

219名無しさん:2011/02/26(土) 13:25:25
>オルタ6最大の敵は多分「そんなことより復興しようぜ」だったと思われ。
その場合でもアメリカ主導になるけどな

220名無しさん:2011/02/26(土) 13:28:13
復興の方に舵取りしてりゃあアメリカ様の天下は揺るがなかったろうに……。
G弾派を抑えきれなかったアメリカ内別派閥にとっては痛恨の痛手としか。

221名無しさん:2011/02/26(土) 13:29:40
>>183

>日本帝国、アメリカを梃入れして極東、アラスカの軍閥群を掃討する。

とあるし、普通に介入宣言してるよ

222名無しさん:2011/02/26(土) 13:32:50
>>220

それはわからない
勢力間の調整等が上手くいかず、権威を落としてた可能性もある
まぁ、歴史にifはないので、××してたら(しなければ)○○だった(じゃなかった)という仮定は無意味ですね

223名無しさん:2011/02/26(土) 13:36:39
復興優先したけど第三次世界大戦勃発なんてのが起きそうな世界観なんだぜ

224名無しさん:2011/02/26(土) 13:38:44
選択肢全部バッドエンド

225名無しさん:2011/02/26(土) 13:40:34
そりゃ武ちゃんが活躍するあいとゆうきのおとぎばなしだもの
主人公がその前提を破壊した時点でハッピーエンドは失われたと思われる

226名無しさん:2011/02/26(土) 13:42:36
ハッピーエンドは無理でもトゥルエンドは有る……かな?

227名無しさん:2011/02/26(土) 13:51:02
>ハッピーエンドは無理でもトゥルエンドは有る……かな?
武ちゃん限定なら純夏が助かって結婚して幸せに暮らせばハッピーエンドだと思うが

228名無しさん:2011/02/26(土) 13:58:41
>>227
ああ、なるほど。
確かにハッピーエンドだ。
『あいとゆうきのおとぎばなし:』が崩壊した以上、そういうことになるな。

229名無しさん:2011/02/26(土) 14:00:22
何かの拍子で00ユニット化されない事を祈るばかりだなw

230名無しさん:2011/02/26(土) 14:05:29
理論は永遠にやってこないわ、ハイヴの炉は確保できんわ、G元素はさようならだわ、
そもそも現状00ユニット(笑)状態だから多分大丈夫!

231名無しさん:2011/02/26(土) 14:06:24
もう近場にBETAいないし、せんせーが00ユニット作る必要ないんじゃないか?
流石に黒旗軍に対しての諜報に使うほどのアホじゃないだろうし、きっと。

232名無しさん:2011/02/26(土) 14:07:17
センセ単体じゃ完成しないから問題ない。

233辺境人:2011/02/26(土) 14:11:01
>カナーバ相手に天誅
明治の大津事件を思い出したw やはり詫びと称して自殺する人間が大勢
出たりするんだろうか……その場合、自殺したいのはむしろ榊首相の方
だろうけど。そうした事態を防ぐために警備を厳重にすればしたで黒旗軍を
威圧してるだの他国の使者が黒旗軍に接触できないようにしてるだのと
非難されるんでしょうな。……やっぱ烈士(笑)を粛清するのが最善だよなぁ

>00ユニット
そもそもBETAとのコミュニケーションが目的なわけだから黒旗軍との
交渉ができてる時点で必要ないもんなぁ。アンドロイドの考えてることを
ハッキングしたいとかあまりにもバレた時のリスク高すぎるし

234名無しさん:2011/02/26(土) 14:11:37
いっそ完全に諦めさせるとしたら先生に「はい、これが組説です」と渡す事かな
ブチ切れて読まずに放棄するんじゃね?w

235名無しさん:2011/02/26(土) 14:15:16
今の先生は黒旗軍の精神分析に熱中してるから00ユニットはどーでもいいんじゃない?
さすがに長門たち相手に妙な真似するわけにもいかんし。

236名無しさん:2011/02/26(土) 14:26:31
流れを切って申し訳ないけど、主人公の世界でG元素って
どれくらいの価値なんだろうね。

万一、未知の物質なら主人公大儲けじゃないかな。

237名無しさん:2011/02/26(土) 14:28:50
しょせんゲーム内世界の架空物質だから
なんの価値もないです

238名無しさん:2011/02/26(土) 14:30:17
PCのモニターの向こう側に未知の物質があったとして
リアルにどんな影響があるだろうか?

239名無しさん:2011/02/26(土) 14:30:17
>>236
ゲーム宇宙にリアルな物質を持ち込めない以上、ゲーム世界の物質をリアルに持ち込めないだろ。
惑星どころか島宇宙単位の貴金属とかレアメタルとか持ち込ませると経済がおかしくなるし。

240名無しさん:2011/02/26(土) 14:35:37
まあ、分析して得た情報を元にして、リアル世界でそれを合成という手段はあると思うが、
31世紀の世界でそれがどれほど役に立つのかは不明、それどころか類似品が既に存在しそうだ。

241名無しさん:2011/02/26(土) 14:36:40
ゲーム内の装置でG弾によって壊れかけた空間修理できる文明だからねえ。

242名無しさん:2011/02/26(土) 14:38:04
>>221
人間同士の戦いはほっとく ってのは銀英伝の話なんだよ

243名無しさん:2011/02/26(土) 14:41:44
>>206
>烈士の連中て名誉だとか誇り重視でBETAと戦争中にクーデター起こすような連中だぞ
>あのタイミングでBETAが攻めてきたらとか考えてないのかと
オルタでは11月11日に新潟上陸したBETA群を、大した被害も無く叩き潰してからクーデター
まで、一ヶ月も経ってないぞ。
あれってBETAの再侵攻までには時間が有る・防衛線も健在な状況だから起きたんじゃないか。

244名無しさん:2011/02/26(土) 14:42:53
存外、公的機関や正式な仕事現場では
そういった制限をとっぱらった人工宇宙で資源採集してるかも

マヴラブ世界(天然)とゲーム世界(人工)で互換性あったんだし

245名無しさん:2011/02/26(土) 14:44:46
>あれってBETAの再侵攻までには時間が有る・防衛線も健在な状況だから起きたんじゃないか。
それは神の目線から見た場合であってあの世界の人たちはいつBETAが襲ってくるか分からんのよ

246243:2011/02/26(土) 14:45:24
すみません、sageを入れ忘れました。

247名無しさん:2011/02/26(土) 14:45:38
BETAがゲーム世界用の資源採掘ボットでも不思議ではないか
バグで出来たワームホールも所謂システムの裏側に通じちゃった、みたいな可能性あるし

248名無しさん:2011/02/26(土) 14:53:49
>245
それだと、烈士達が正気なのか疑わないといけないんだが。

249名無しさん:2011/02/26(土) 14:55:55
BETA襲撃とかを冷静に計算してたより
わたし、堪忍袋の緒が切れました!
と決起()したっぽいよなぁ
まあお米の国が後ろから押したのもあるかもしれないが

250名無しさん:2011/02/26(土) 15:01:37
>>241
それどころか、31世紀世界のディアゴスティーニの
「週間 仮想物質を人工的に再現」とかに
G元素と同じ物が付録されてそうだな。

251名無しさん:2011/02/26(土) 15:09:49
アメリカ「なんだよ宇宙人って、月治すとかBETA駆逐するとかどんだけチートなんだよ……。
     はぁ、日本いいなぁ……本土渡すだけでそんな連中と繋がりが堅固なものになるだろうし……うらやましいなぁ……。
     俺だったらフロリダ喜んで明け渡すんだけどなぁ……」
日本「国民感情を考慮した結果、離れ小島をどうぞ!」
アメリカ「えっ」

アメリカ「やっぱり俺各国から嫌われまくってるなぁ……まぁ予測はしてたけれど……。
     こんなんじゃ支援は二の次だよなぁ……はぁ、支援受けられる日本は羨ましいなぁ……うまいもんくいてぇなぁ……」
日本「食料渡されたけど危険だから将軍様が食うよ!」
近衛「将軍を軽んじてるなんて奴らだ人でなしくぁwせdrftgyふじこ」
黒旗軍「アメリカ支援して欲しい?別にいいけど……」
アメリカ「えっ」

こう考えてみるとアメリカこそタナボタ状態だよな。
日本はタナボタどころか天井から徳川遺産だけど、それをめぐって内ゲバ起こしてる状態だし。
素直に食うのが一番の手段なのかもね。

252名無しさん:2011/02/26(土) 15:23:40
>251
>天井から徳川遺産
すまんが、このフレーズでいろんな妄想が噴火したw
次の日に親戚が3桁増えました、とか
「その遺産はわらわのものじゃ!!」自称徳川子孫幼女が突然現れたりとか
遺産を巡ってなぜか忍者が激闘を繰り広げたりとかetcetc

253名無しさん:2011/02/26(土) 15:29:58
>>177
「約束すら守らないならず者国家」という表現はその部分にかかっているんだろ。
自国がやばいのは理解できるけど、そのために約束を破ったら、
政治的にも外交的にも糾弾されるのは当たり前だし、
その責任をたらなくてはいけないのも当たり前だ。

254名無しさん:2011/02/26(土) 15:41:37
まあ実際、「心ある一部の米軍の高級将校は、救助活動を支援することを考えた」からねえ
実行してれば今よりは遥かにマシな評価だっただろう

255名無しさん:2011/02/26(土) 15:45:50
>まあ実際、「心ある一部の米軍の高級将校は、救助活動を支援することを考えた」からねえ
>実行してれば今よりは遥かにマシな評価だっただろう
それやったせいで自国民に餓死者でたりしてな

256名無しさん:2011/02/26(土) 15:48:01
ところで、ふと思ったのだが。

主人公の属する現実世界と、ゲーム内の仮想世界の時間流に数十倍の差があって、
なおかつ情報の双方向性があるって言及されてましたよね。

ならばゲーム内の仮想世界にスパコンを設置すれば、
現実サイドでは数十倍の速度で演算結果を得られるようになるのかな。

川上稔氏の電詞都市DT(デトロイト)で、そんな設定があったなーと思いつつ。

257名無しさん:2011/02/26(土) 15:56:19
>それやったせいで自国民に餓死者でたりしてな
逆に言うと、やらなかったせいで現状は最悪の敵扱いな訳だ
どちらが良かったのかは、さてはて、難しい問題やね

258名無しさん:2011/02/26(土) 15:57:00
>>256
可能ならやってるだろうね、その方が自然だし

259名無しさん:2011/02/26(土) 15:57:08
>>255
どっちがよりマシかというマイナスの二択……実にオルタらしい状況だな。
その時の選択が間違っていたか正しかったかはともかく、結果的には裏目に出たわけだが。

260名無しさん:2011/02/26(土) 16:02:50
この世界なら、わざわざ仮想空間内に設置するより
CPUユニット内部にその中の時間を加速する装置ぐらい作りそうだな。

同じ原理で、時間加速装置付きの発酵タンクとか(酒類の発酵用)、温室(食糧生産)とか。

逆に、時間停止装置付きの冷蔵庫とかもありそうだ。

261観察者:2011/02/26(土) 16:13:23
各国へは、アメリカに第二拠点を作るのは距離の問題で、第三拠点を地中海沿岸辺りに作りたいと思いますと説明して、日本に対しては、日本を通して援助を行うと、地球人全員に行き渡らせるには時間がかかると判断したため、日本国内にいる難民用と研究用以外は、第二・第三に送ります。
とりあえず、日本人の分は置いておくので、安全が確認されて日本人に与えてもよいと日本が判断したら配って下さい。
と、いうのはどうでしょうか?

262名無しさん:2011/02/26(土) 16:15:59
欧州はスルー予定だから地中海はないんじゃね

263名無しさん:2011/02/26(土) 16:37:22
>>261
そこまで日本に配慮する必要は無いでしょう。
アメリカに拠点置いて援助を開始したら、日本が勝手に危機感を覚えると思われます。

264名無しさん:2011/02/26(土) 16:39:57
今回の援助決定は国際社会で色々憶測呼ぶだろうな。

265名無しさん:2011/02/26(土) 16:49:41
まずアメリカに第二拠点が出来るって事は、黒旗がそれなりに評価してると見られる
将来性を考えたら密かにアメリカと関係改善を図る動きも出てくるかな

266名無しさん:2011/02/26(土) 16:53:35
外交ルートは帝国のみだが、アメリカとしてはここは後一歩踏み込んで自国にも大使館を設けて欲しい所
しかしアメリカは上手い
月の始末をつけてくれ、ハイヴ潰してくれて援助まで貰えれば、アメリカ国民は黒旗軍に友好的になるだろう
であれば、フロリダ差し出したりG元素渡したことも問題視されにくいし、現政権の成果として国民に胸も張れる

267名無しさん:2011/02/26(土) 17:10:18
他国からみると、出し抜こうとするならフロリダ並の手土産が必要になったとも言える

268名無しさん:2011/02/26(土) 17:31:16
G元素は米国国民としてもしばらくは触れて欲しくない代物だろうね

269名無しさん:2011/02/26(土) 18:01:36
このカードを米国が今切ったのは、「地球環境の復興」という黒旗軍の目的の障害と看做され、
国ごとあぼんさせられる、て恐怖だったんだろね。

「お前らが火遊びして全焼させてしまった家を建て直してやる。メシも着る物もくれてやる。
 だから、せめて今だけでもまた火遊びして我々の邪魔するな」
とか言われたら、米国の指導者層の知能レベルと判断力を事実上の「神」がどう判断してるか、
てことが良くわかってガクブルだったんだろうな。

270名無しさん:2011/02/26(土) 18:04:49
>>269
ものすごく悪意の感じる書き方なんだが何かあったのか

271名無しさん:2011/02/26(土) 18:08:11
>>270
何かあったのか、って・・・
最新話読んでないの?
>>100からあるよ。

272名無しさん:2011/02/26(土) 18:10:52
>>271
そういう意味ではないんだが

273名無しさん:2011/02/26(土) 18:15:03
原作の米国も安保条約を一方的に破棄して元同盟国の領内でG弾使った国だし。
力が圧倒的だから誰も文句言わなかった事が今になって噴出してるだろうな。
人口4億だと死に絶えてる国もあるだろうけど。
原作時点で世界人口約10億、日本帝国約7500万くらいだけど
各国の人口はどれくらいだろう?
反日で固められなければ美少女将軍が全人類総選挙で当選しそうじゃないか?

274名無しさん:2011/02/26(土) 18:18:37
>>269
以前の話で既に国内のハイヴは黒旗軍に掃討して貰うしかない、
切れるカードはフロリダ割譲、
やれることはなんでもする、
という基本方針は新大統領から出てたよ。

今回のG元素はむしろ他国向けのパフォーマンスかと。
単独でハイヴを分単位で攻略出来る黒旗軍にG元素は脅威にならないと考えただろうから。

275名無しさん:2011/02/26(土) 18:23:03
愕然とした、てのと、
G関連技術解放は、まさにアメリカの恐怖だな。
面と向かってだしなぁ…

276名無しさん:2011/02/26(土) 18:33:49
>「勿論です。我が国は黒旗軍の行動を妨害するような真似はいたしません」
これを口だけじゃなくて行動で示したってことだな
事実上、自分から武装解除したに等しい
G弾使ってもどーせ宇宙空間から熱いパイ投げられて全滅するとしてもw

277名無しさん:2011/02/26(土) 18:38:04
>270
悪意というか、やたら上から目線なだけでしょ。
この上から目線の方は以前からいらっしゃってます。

278名無しさん:2011/02/26(土) 18:41:07
「犬とお呼びください」
と恭順を示すのが当然な隔絶した技術差があるからなぁ
むしろ帝国の様にグダグダやってるのが考えられないレベルかと

279名無しさん:2011/02/26(土) 18:42:37
ていうか『プレイヤー』はホントにマブラヴ世界の人類社会そのものには興味ないんだな
結構興味深い観察対象だとおもうんだけどなあ
まあゲームの延長だと思ってるからかも知れんけど

280名無しさん:2011/02/26(土) 18:45:32
>>278
腹を見せた方が勝ち!

と、各国が今回の件で認識したら誘致合戦が始まりそうだな。
どの辺りを提供するという事で、動くんだろ?

281名無しさん:2011/02/26(土) 18:48:52
軌跡や憂鬱と違って人生がかかっているわけでもないし
原作がADVからSLGに変わっただけって認識になるかも。

282名無しさん:2011/02/26(土) 18:52:49
まず現実のテストやバイトがあって、外宇宙でのBETA駆除もあるんだから、いちいち
一惑星の社会まで関心もつ時間ないだろ。シムシティなら一都市ですみずみまで遊ぶけど
シヴライゼーションなら、どうでもいい後方都市はCPUに委任しておしまいにするようなものじゃない

283名無しさん:2011/02/26(土) 18:56:57
シムラブ
BETAを駆逐し環境を回復しつつ人類文明の復興に目処が付いたらクリア
外宇宙でBETAとの戦闘も楽しめる!なノリかな

284名無しさん:2011/02/26(土) 18:59:58
BETA駆除とか(いまのところ)単純作業じゃん
一都市っていうか都市一個しかないじゃん

285名無しさん:2011/02/26(土) 19:04:48
まあ、リアルの時間削ってまで本格的にかかわって成績落ちたりしたら
親に勉強しろってゲームできなくされるとか、そういう事態が発生するって予想できればやらないわな。
ちょっとは見てみたいとは思っていても、ただでさえ1000年後で勉強難しくなってるのにさ。

286名無しさん:2011/02/26(土) 19:05:46
ぬるゲー。戦闘に歯応えを求める人にはお勧めできない
とかレビューされてるんだよ

287名無しさん:2011/02/26(土) 19:11:11
この主人公、前世では山の様な戦艦模型を親に捨てられるような趣味だったんだから
運用はついでで、主目的は艦隊を作ることだろ。
さらに作戦の失敗フラグとしてこの人類全滅って条件が入ってるように思える

288名無しさん:2011/02/26(土) 19:45:44
アメリカ再建のための支援やフロリダに第二の地上拠点作るとか
烈士が知った陛下が毒見までさせてこの扱いなんだ
天誅だ黒旗軍に天誅でござるとか言って暴走するんじゃね

289名無しさん:2011/02/26(土) 19:47:55
BETA創造主や敵対異星人が出てきたら、主人公はますます地球スルーして艦隊戦で遊びそう

290名無しさん:2011/02/26(土) 19:59:54
>>288
黒旗軍に対して暴走するんじゃなくて、今の政権の政治家や政府に対して暴走するだろうね。
いくら何でも無能でアホな連中でも黒旗軍に喧嘩売る度胸は無いと思う。
まぁ、黒旗軍に対して暴走してくれたほうが面白そうだがww

291名無しさん:2011/02/26(土) 20:03:14
カナーバ無双がw

292名無しさん:2011/02/26(土) 20:10:21
>>279
ほっといてマヴラブ人類世界が絶滅するのは
「後味悪いじゃねーか、そういうの」(伊藤健太郎声で)
という程度のレベルなんでしょう。
前世でプレイしたゲームだし、世界観もキャラも戦術機も良かったとか。

それに、滅亡しかけの世界を勉強やバイト…日常生活の片手間で救えるとしたら
(しかも自分が命を失うリスク無しに)
まあお人好しに近い人種なら助けると思う。
向こうの世界に入れ込まない範囲で

293名無しさん:2011/02/26(土) 20:12:21
カナーバ無双も良いけど
ランカやシェリルが歌って烈士たちの暴走を止めるてのも面白そうじゃね

294名無しさん:2011/02/26(土) 20:14:03
ラク…イヤナンデモナイ

295名無しさん:2011/02/26(土) 20:16:18
>>288
これで烈士が強かったら銀魂になるんだけどなぁw

296名無しさん:2011/02/26(土) 20:16:33
あの手の展開は歌い手が人間だから盛り上がるわけで、
チートユニット使ってやるなら洗脳とかわらんでしょ

297名無しさん:2011/02/26(土) 20:23:11
>あの手の展開は歌い手が人間だから盛り上がるわけで、
>チートユニット使ってやるなら洗脳とかわらんでしょ
ミクとかと同じだよ歌姫だよ

298名無しさん:2011/02/26(土) 20:24:11
>>294
楽太郎…の落語…
そうだ…烈士を抑える為にここは一席…

>>296
慰安目的なら良いけど、洗脳をあからさまにやると、
流石に各国は今以上に黒旗軍を恐れるだろうし
関係もギクシャクするよな

299名無しさん:2011/02/26(土) 20:24:13
いつからミクは31世紀の人間が作って送り込んだアンドロイドになったんだw

300名無しさん:2011/02/26(土) 20:24:43
つまりシャロン・アップルならいいわけだ

301名無しさん:2011/02/26(土) 20:25:14
>いつからミクは31世紀の人間が作って送り込んだアンドロイドになったんだw
意味が違うから

302名無しさん:2011/02/26(土) 20:25:49
この手の話で主人公が読み手と倫理観乖離させたら虐めにしかならんだろうに。

303名無しさん:2011/02/26(土) 20:26:27
美紅ちゃん「広野君、そんな事したらいけないと思う…」

烈士「す、すまん!!わ…我々が間違っていたっ!」

こうですね?

304名無しさん:2011/02/26(土) 20:26:52
>>301
チートせずにどうやって歌で暴発止めるのか詳しく

305名無しさん:2011/02/26(土) 20:28:57
っバサラ

306名無しさん:2011/02/26(土) 20:32:04
>>305
BETAが地球上から駆除されているからその選択もありか
だが、彼にはあえてBETAが残っているうちにいってもらいたかった。
特大の爆弾としてw

307名無しさん:2011/02/26(土) 20:33:03
歌で暴走を止める……
テレッテーかオーモーイーガーなら止まるんじゃね? 息の根ごと

308名無しさん:2011/02/26(土) 20:33:09
>チートせずにどうやって歌で暴発止めるのか詳しく
あなたにとって都合の悪い部分だけリアル基準持ってこられても困るよ

309名無しさん:2011/02/26(土) 20:37:48
まあ娯楽まで提供すると文化的侵略と取られかねないんじゃないかな
末永くお付き合いする気はないんだし、与えるのはパンだけでいいかと

310名無しさん:2011/02/26(土) 20:38:05
基本的にリアル基準なんじゃないの?
長門達だって統合思念体の力は持ってないし、カナーバも原作にあやかっただけで実際にそのチート交渉能力持ってるわけじゃないから

311名無しさん:2011/02/26(土) 20:38:10
段々烈士様達が大人しかったら嘘だみたいな雰囲気にw

312名無しさん:2011/02/26(土) 20:39:41
>>308
だよなーw
そんな事言いだすと、そもそも歌で相互理解なんてもんを何回もやられてもってなっちゃう。

313名無しさん:2011/02/26(土) 20:45:12
>>309
文化侵略云々を心配する状況は多分、復興後になるだろう
けど、その頃には黒旗軍はいないから
『かつて宇宙人が伝えた娯楽』
として残るか、博物館行きになるだけかと

314名無しさん:2011/02/26(土) 20:46:46
>>312
マクロスはそれが伝統だから良いし、そういう世界観を構築してるから良いけど
マヴラブの世界観には合ないでしょう

315名無しさん:2011/02/26(土) 20:53:05
ちきゅうさいせいと、せいじりきがくのおとぎばなし(笑)だからなあw

316名無しさん:2011/02/26(土) 20:54:10
烈士様が暴発したら、主人公は原作イベントきたーとか喜びそうだ。
日本帝国から出て行けと言われれば素直に出てゆくだろうし、ぜひ我が国に
おいでくださいと、擦り寄って来るのはいくらでもいるしな。うるさい条件
つけるなら、うるさいこと言わない国にゆくだけだし。妻や義父のこともあって
狭霧が烈士様を抑えるため戦うとかありそうだ

317名無しさん:2011/02/26(土) 20:54:39
そろそろ鬱陶しいからまとめてどっか行ってくれんか

318名無しさん:2011/02/26(土) 20:58:07
宇宙人がミクとかキラッ☆を伝えるのか

「調査した結果、地球人ではこのような文化が受け入れられ易いと(ry」
「どんな調査したんだー!?地球人どう思われてんのー!?」

ってまたなるのか…胸熱

319名無しさん:2011/02/26(土) 20:59:06
帝國で急速に花開くヲタ文化とな

320名無しさん:2011/02/26(土) 21:01:23
むしろ積極的に取り入れて友好アピールに乗り出す米国

321名無しさん:2011/02/26(土) 21:03:15
マヴラブ世界の文明開化っ!

322名無しさん:2011/02/26(土) 21:04:06
今まで娯楽が無かった分反動で急激にオタク化する日本人
烈士も毒され将軍萌えに目覚めて今後の問題が無くなるとか
日本人は物事にのめり込む性質もってるし日本人総オタク化
そうなったら平和なんだろうけどなぁ…

323名無しさん:2011/02/26(土) 21:05:24
ああ、そうか
支援して貰ってる状況的に拒めないわな
もえーもえーと関心を買わざるを得ないとかになったら哀れ過ぎる…w

324名無しさん:2011/02/26(土) 21:05:37
実は転生していた痛い子中隊がってのも楽しそう…なんて思ったが
まったく余裕の無いこの世界でイタ戦術機なんてやろうものなら命が無いな

325名無しさん:2011/02/26(土) 21:05:38
マブラヴ世界の娯楽って音楽・文学・美術・芸能なんて駄目・駄目だろ
競技・エロに偏ってると思う。
娯楽を提供したいなら各種大会(例オリンピック)に美男美女アンドロイドを出して
マブラヴ世界の本命のライバル(わざと均衡)張らせるべきだと思う

326名無しさん:2011/02/26(土) 21:06:38
>>322
夢幻会の出番ですね

327名無しさん:2011/02/26(土) 21:08:10
まあ娯楽の前にまずは生きることを考える、だな。

328名無しさん:2011/02/26(土) 21:08:59
>>158
遅いレスだけど
ULでは皇帝だか天皇しかいなかったけど、ALTがでる時期に女系天皇を認めるかどうかリアルで大激論になってて、なぜかALTでは将軍になってたんじゃなかったっけ?
ULでは将軍なんて妙な存在は無かったと思うけど違ったけ?

329名無しさん:2011/02/26(土) 21:13:03
>>322
精神的な支柱が崩れかかっている状況と柔軟さを鑑みるに
アメリカ総オタク化の方が可能性が高いような

330名無しさん:2011/02/26(土) 21:15:04
>>329
日本は最初の敷居が高いと思う。
きっかけがあれば爆発的に広まってしまう可能性はあるけどw

331New ◆QTlJyklQpI:2011/02/26(土) 21:18:11
烈士が暴発したら即メタルウルフ大統領を投入。
「これが大統領魂だ!」
「俺らどう思われてんのー!?」アメリカ一同

332名無しさん:2011/02/26(土) 21:19:07
>>328
皇帝だった場合でも若い女性天皇に摂政が付いていないとかアレな体制だな。

333名無しさん:2011/02/26(土) 21:22:11
メタルウルフ大統領誕生の可能性がっ!
というか、それくらいの人でないと今のアメリカをひっぱっていくのは辛いよな

334名無しさん:2011/02/26(土) 21:22:33
主人公としてはメタルウルフ、出したいだろうなあw

335名無しさん:2011/02/26(土) 21:31:50
しかし異星人(の作ったアンドロイド)が大統領名乗ってもなあ…

336辺境人:2011/02/26(土) 21:32:26
しかしアメリカ受けするアンドロイドって誰がいるんだろう……メタルウルフは
どっちかというと暴徒鎮圧用だしバットマンやX−MENは格好に問題が
あるしニンジャタートルはBETAと間違えられそうだしなぁw

337名無しさん:2011/02/26(土) 21:35:04
スーパーマンでも特攻野郎でも色々いるじゃないかw

338名無しさん:2011/02/26(土) 21:35:06
コンボイ総司令官
インターフェイスが人間そっくりな存在だけと誰が決めた

339名無しさん:2011/02/26(土) 21:36:51
向こうじゃオプティマス・プライムだよ

340名無しさん:2011/02/26(土) 21:38:08
ディズニーランド復活させてミッキーの皮被らせれば中身は誰でもいいんじゃね?
娯楽もついでに復活するし

341名無しさん:2011/02/26(土) 21:38:27
>>338
もちろん子安バージョンだよな?

342名無しさん:2011/02/26(土) 21:38:46
アイアンマンって手もあるぜ

343名無しさん:2011/02/26(土) 21:40:08
チャックをはずして頭を取ると、ウォルト・ディズニーの姿が!(正しく中の人です)

344名無しさん:2011/02/26(土) 21:44:19
つC3PO

345名無しさん:2011/02/26(土) 21:46:17
クローントルーパーだろ

346名無しさん:2011/02/26(土) 21:49:08
アメリカの萌えキャラ、ベティ・ブープがいるじゃないか

347名無しさん:2011/02/26(土) 21:49:19
バットマンもよいぞ実業家でアメリカ人の理想系の一つだし

348名無しさん:2011/02/26(土) 21:52:36
問題は上記のキャラに外交ができるか、だな

349名無しさん:2011/02/26(土) 22:03:50
外交する必要は無い
とりあえず言葉が通じればそれでいい
細かいところは「宇宙人だから」で大目に見てくれるだろう

350名無しさん:2011/02/26(土) 22:04:55
スタートレックやってる世界ならスポックかデータでいいんだがなあ。

351名無しさん:2011/02/26(土) 22:08:14
>>とりあえず言葉が通じればそれでいい
帝国「これがSAN値が削られるということだ」
と米国とある種の一体感が生まれるかも!

352辺境人:2011/02/26(土) 22:18:28
アメリカ向けとなるとやはりマッチョは絶対条件かな?w アメリカ人は
マッチョ信仰が普通にあるから線の細い相手ではむしろ侮られるし。
……漫画もありならビスケット・オリバとかなら交渉も普通にできそうだw

353New ◆QTlJyklQpI:2011/02/26(土) 22:30:24
むしろヘタリアのアメリカとか。

354名無しさん:2011/02/26(土) 22:32:10
あんなん出てきたら宇宙規模のヤクザにしか見えないw

355名無しさん:2011/02/26(土) 22:32:45
1stのレビルはどうだろう。
すんなり話が進むと思うんだけど。

356名無しさん:2011/02/26(土) 22:34:41
筋肉といえば戸愚呂弟

357名無しさん:2011/02/26(土) 22:39:42
アメリカに置くにしろ、必要なのは調整役で軍人じゃないよな。

358名無しさん:2011/02/26(土) 22:46:28
>>331
でも、あの大統領はリアルであっちの人に大ウケしたらしいが。

359名無しさん:2011/02/26(土) 22:53:08
男性型である必要はないんだよね。
つーか、女性型の方がメリケン好みの人型は多そうな気がするが。

360名無しさん:2011/02/26(土) 22:59:28
>>358
中の人が作中設定アメリカ大統領だからなw

361earth:2011/02/26(土) 23:02:34
ご意見、ご感想ありがとうございます。
相変わらず短めですが、第21話ができました。
皆様が大好きな烈士(笑)様の動きも少しでてきます。
それでは相変わらず妄想と勢いとノリで突き進む第21話です。

362earth:2011/02/26(土) 23:03:09
 未来人の多元世界見聞録 第21話


 黒旗軍がフロリダに第二の地上拠点の建設を決定した……この情報は世界に駆け巡り、各国に衝撃を与えた。
 誰もが「そんな馬鹿な」と言い、何度もその情報が真実か確認させた。しかし何度情報を確認させても、その
情報が虚報となることはなかった。
  
「まさか黒旗軍がアメリカを選ぶとは……」

 総理官邸で報告を受けた榊は、苦い顔をした。閣僚達も苦い顔か、もしくは顔を青くしている。
 外務大臣に至っては顔面蒼白であり、今にも倒れそうな様子だ。
 だが外務大臣は精神力の全てを振り絞って報告を続ける。
 
「アメリカは保有しているG元素を全て黒旗軍に差し出し、さらにG元素関連技術についても黒旗軍の全面査察
 を受容れると申し込んだそうです。加えて地上拠点建設のためにフロリダを提供するとも」
「アメリカは持てるカードを全て切ってきたというわけか。米国内の反発は?」
「特にありません。月を直し、ハイヴを潰し、さらに援助までして貰うということで、むしろ現政権への支持率は
 鰻上りです」
「そうか……しかしこの短期間で、これだけの提案を行えるということは、アメリカは一枚岩になっていると
 言っても過言ではないようだな」
「はい。アメリカは完全な挙国一致体制をとっています。軍、政府、財界全てが団結してこの事態に対処しています」

 今の日本では到底不可能なほどの団結振りだった。榊としては羨ましい限りだ。

「やはり、黒旗軍は我が国の対応に不信感を抱いていたのでは……」

 閣僚の一人の発言に、誰もが表情をゆがめる。
 何しろアメリカはハイヴ掃討のために黒旗軍にフリーハンドを与え、さらに黒旗軍のために臨時首都の間近の土地を
差し出し、自国の切り札であるG元素も捨てた。面子もプライドも棄てて形振り構わず黒旗軍に取り入ろうとしている。
 これに対して日本は国内のゴタゴタでアメリカほど思い切った行動が取れない。
 日本とアメリカ、両者を比べてどちらが支援しやすいかを考えれば、答えは決まっている。

「黒旗軍はこれから環境再生用のナノマシンの散布を開始すると言っています。アメリカはすでに容認したとも」
 
 外務大臣の言葉に誰もが榊の顔を見る。

「……我が国も容認せざるを得ない」

 ここでまた文句をつければ、今度こそ日本は見限られる……誰もがそう思った。
 かくして日米が相次いでナノマシン散布に賛同したことによって、黒旗軍の地球環境再生は一気に進むことになる。

363earth:2011/02/26(土) 23:03:41
 世界各国からうまく黒旗軍に取り入ったと思われている米国は、表面上は満足しつつも、内心では黒旗軍から
不信を買っていたという事実に恐怖していた。
  
「黒旗軍から釘を刺されるほど警戒されていたとはな」

 臨時大統領府の執務室では大統領が渋い顔でため息をつく。
 これを慰めるように国務長官が言う。

「しかし我々は自ら武装を解除することを表明しました。これによって黒旗軍も我々への不信を和らげるでしょう。
 実際、彼らはこちらが提示したフロリダの租借について同意しています」
「そうだな。これで我が国の地位もある程度は回復できる」

 黒旗軍が第二の地上拠点をアメリカに建設するということが発表されてからは、水面下で各国がアメリカとの
関係改善を図る動きを見せている。
 黒旗軍がアメリカを重視する姿勢を見せた以上、これ以上アメリカを村八分にして孤立させたままにするという
のは拙いと各国は判断したのだ。
 それでも国際社会への完全復帰は遠い道であり、嘗てのような超大国の地位を取り戻すことなど不可能であろうが
これまでのどん底状態から何とか這い上がる見込みができただけでも十分な成果だった。

「これで黒旗軍との交渉の窓口を日本から奪うことが出来れば、一気に地位が回復させられるんだが、あまり
 強欲になるのは拙い。下手をすれば何もかも失いかねない」

 そういうと大統領はCIA長官と国防長官をにらめつける。

「日本帝国においては情報収集を第一とせよ。扇動、破壊活動などは絶対にするな。我々が日本で内乱を起こした
 と露見すれば、最悪の場合、我が国は黒旗軍によって滅ぼされかねない」

 この大統領の厳命に2人は頷くが、CIA長官は不敵な態度で尋ねる。
 
「ですが、大統領閣下。仮に不穏な動きを察知した場合、帝国政府に注進する必要はないと思いますが」

 この台詞に大統領は鷹揚に頷く。

「帝国政府には、な」
「了解しました」

364名無しさん:2011/02/26(土) 23:06:24
うわー黒い

365earth:2011/02/26(土) 23:06:41
 日本に続けて、アメリカにも黒旗軍の拠点が建設されることになったため、各国政府は慌てて黒旗軍の
拠点の招致に血眼となった。
 しかし黒旗軍を招致しようにも、すでに太平洋側の拠点として日本の南鳥島、大西洋側のフロリダという
振り分けが成されているため、拠点となる候補地は限られていた。故にさらに競争は熾烈になる。
 だがこの招致合戦が、帝国の危機感をさらに煽り立てた。

「今の政府では、折角のチャンスを生かしきれない!!」

 折角、帝国が世界のリーダーとなるチャンスを手に入れたというのに、日本帝国政府は国内を纏めきれず
その好機をいかしきれていない。
 将軍自ら毒見を行うという方法で、黒旗軍へアピールを行ったというにも関わらず、アメリカの奇手に
よってそのインパクトは薄れてしまった。
 このままでは諸外国の追い上げによって日本帝国の影響力が低下してしまう……そう憂慮した人間達は
現体制を打破し、将軍を頂点とした新体制を構築するべきではないのかと考え始めた。 
 
「軟弱な政府を打倒すべし!」
「強力な指導体制を確立することで国内を統一し、黒旗軍と交渉を行わなければ日本に未来は無い!」
「今のままではオルタネイティブ7の成果をすべて外国に奪われる!」

 今の体制に不満を持つ者はそう言って現体制そのものをひっくり返して、強力な挙国一致体制を構築
しようと目論んだ。
 斯衛軍の中には、将軍の決死の毒見を軽視しているように見える黒旗軍への怒りと不信さえ広がっていた。
 彼らからすれば現在の苦境を作り出したアメリカに支援すること自体が許しがたいものであった。さらに
フロリダに拠点を設けるなど、日本とアメリカをほぼ同格として扱う行為でしかない。

「将軍自ら口にするという姿勢を見せたのにも関わらず、このような態度をとるとは……」

 忠義に厚い者はそういって屈辱に震えた。

「今は奴らが必要だ。だがいずれは……」

 紅蓮大将はこの不穏な空気が広まらないように、そしてそれが黒旗軍に察知されないようにするために
多大な苦労を強いられた。

「今、黒旗軍に敵意を向けても仕方なかろうに。それに奴らは我らとは明らかに価値観が違うのだ。
 そんな連中の行為に一々目くじらをたてては何も出来んぞ」

 紅蓮はそういって斯衛軍将兵をたしなめる。

(斯衛は押さえられるが、他のものはどうなることやら……)

 一般人こそ一息ついた日本であったが、その政情は安定とは程遠いものだった。

366earth:2011/02/26(土) 23:08:32
あとがき
拙作ですが最後までお付き合いしていただきありがとうございました。
日米のそれぞれの動きでした。
さて烈士様(笑)がどう動くか……。
まぁ下手に内乱状態になったら帝国死亡確定ですが。
アメリカ国内の様子も書いたほうが良いかな……ノリと勢いで書いている
ので書くかは未定ですが。
それでは失礼しました。

367名無しさん:2011/02/26(土) 23:11:11
更新おつ
>>アメリカ国内の様子
そりゃぁみえるなら見てみたいw

368名無しさん:2011/02/26(土) 23:15:22
お疲れ様です。

お米の国は、タイトロープを渡り切りちょっと一安心。
対して日本は……ダメダメですな。
このゴタゴタが、いかなるトラブルを巻き起こすのやら。

369New ◆QTlJyklQpI:2011/02/26(土) 23:15:36
確かにいまの状況だとアメリカの様子はリアル世紀末迎えてそうだから興味はある。
でも挙国一致体制といっても広いアメリカだからある程度見逃してる過激派とかはいそうだが。
日本はここに来て本土決戦しなかった影響が多々出てきてるからね。
クーデターが起こったらマジでメタルウルフで一騎当千とかしてみたくなる。

370名無しさん:2011/02/26(土) 23:15:51
乙です。
悲惨な状況下でも米国は帝国に情報網を張り巡らしてるみたいですね…
で、必要情報を黒旗軍に提供して、さらなる国力回復を狙ってそうで、
自国民には誠実に、その他には狡猾に、を自で行ってて恐ろしいw

しかし帝国の複雑な権力構造はこういう時に不利ですね。
さてさて紅蓮大将の努力は報われるのか…
烈士(笑)もその激情は国土を侵す軍閥やBETAの残党に向けたらいいのに…

371名無しさん:2011/02/26(土) 23:18:33
更新乙。ここのところ毎日読めて感謝感激です。
>>アメリカ国内の様子
めっちゃ見たいっす!!

372名無しさん:2011/02/26(土) 23:19:01
烈士様たち、価値観とか視点が固定されてて相手から見た自分たちの姿を客観的に認識できないからねえ。
ちょっと考えれば、無償提供の食料を鳴り物入りで毒味ってかなり失礼だってこと、理解できるハズなんだが。
必要だからやったって言うのは国内向けの事情に過ぎないから、相手に理解しないのはおかしいと逆ギレできる立場じゃないし。

373名無しさん:2011/02/26(土) 23:20:24
>>369
支持率鰻登りらしいですから
面白くなくても、下手を打てないでしょうね>米国内の過激勢力
中には援助品で家族の命を救われ、
思想をコペルニクス的転換させた輩もいるかもw

374名無しさん:2011/02/26(土) 23:20:58
乙乙

アメリカもその判断はどうなんだ?
そりゃ、日本には失望するかもわからんが、それと同じぐらい、
「それを政治的に利用する勢力」にも嫌気がさすと思うんだが。
政局重視の戦術をとる連中には本格的な信用は置けないんだがな。

特に、相手の情報網が自分たちを上回っている場合、
わかりきっている情報を得意顔で持ってきて政局に利用する奴は、
確かに薬にもなるかもしれないけど、毒の方が強いとみなされるだろうに。


黒旗軍も、通信解析だけじゃなくて、マイクとカメラを複合した超小型スパイユニットの類をばらまいたりしてるんじゃないのか?

375名無しさん:2011/02/26(土) 23:21:33
まぁ挙国一致といっても国民全員の意識がそうなるように動くという意味じゃないから。
産業や工業・金融といったアメリカを実際に動かしている連中が、
足を引っ張り合うのをやめて「アメリカのために」一致するという意味だろう。
そういう所でここの国は怖い、極端にぶれるけど最終的に中庸に落ち着くんだよね。

376名無しさん:2011/02/26(土) 23:23:42
更新乙であります。
こんな状況でも内輪もめをやめない帝國は、世界が変わっても日本なのだなと感心してしまう。

377名無しさん:2011/02/26(土) 23:25:15
お疲れ様です。

アメリカさんはさすがに伊達や酔狂で超大国やっていませんでしたな。
翻って日本。
自分たちが失礼なことしたというのに見当違いな恨みで烈士様が黒旗軍をいずれ誅するみたいなこと考えているようで……。
黒旗軍何かやってくるまで放置でしょうけど、敵対行動を取った段階で終了ですな。
目の前が見えてない烈士様(笑)はその最悪の手をとりそうだけど。

378観察者:2011/02/26(土) 23:28:12
黒旗軍には、クーデターに介入して首脳陣を助けるか、クーデターが終わったあとに日本人は日本人を殺した=日本人は滅びてもかまわないor死にたいと思っていると判断→日本からの撤退or日本人への援助は最後と宣言
とか、どうでしょう?

379New ◆QTlJyklQpI:2011/02/26(土) 23:30:02
主人公のおせっかいぶりからすると前者かな?

380名無しさん:2011/02/26(土) 23:31:13
感想や考察はともかく、展開要望とも取れる発言はいかがなものか

381名無しさん:2011/02/26(土) 23:31:52
>>374
確かに、情報提供される側によっては
「帝国を袖にする連中は、何時か自分たちも裏切るだろう」
と考えるのは自然ですからね。
米国も馬鹿じゃないでしょうから、
情報をどういう風に扱うか興味あります。
一番利口な提供方法は…
「帝国内で内乱の兆候有、されど我が国は帝国と外交関係が冷却してる為、
詳細を黒旗軍に提供します。
これをカナーパ大使を通じて関係機関に通達、若しくは適切に活用する事を願います。
その場合、わが合衆国が情報提供者である事をご内密に…」
てな感じですかね?

382名無しさん:2011/02/26(土) 23:33:40
乙ですー

アメリカの国内も気になりますが、烈士()にも期待したいw
ぶっちゃけ、彼らの不平不満を抑える以外に根本的な解決法が無い
しかし溜めこまれたソレがいつ爆発するのかと思うと…w

アメリカが突く気がないのが唯一の救いかな?

383名無しさん:2011/02/26(土) 23:33:46
烈士様(笑)はどうやって日本を立て直すのか考えているんだろうか。
原作のクーデターもそうだったが、感情優先(しかも見当違い)で後先考えないアホにしか見えない。

384名無しさん:2011/02/26(土) 23:34:14
典型的アメリカ人としては、宇宙人相手にこれ以上の無様は見せられんだろう。
いつか恩は返すぜ! くらいで妙な真似はやらない可能性が。

385名無しさん:2011/02/26(土) 23:34:34
国内で争って余力でBETAと戦う帝国
余裕っすなあw
政府VS政威大将軍VS国防省VS斯衛軍…空気皇帝
これは酷い…大日本帝国も真っ青ですな…

386名無しさん:2011/02/26(土) 23:35:18
>烈士様(笑)はその最悪の手をとりそうだけど

大使館襲ったら、対人用は鉄人兵団や空間騎兵隊
対戦術機用のMSやコスモタイガーやヴァルキリーやらが出るんだろうか

もしかしたら他作品の白兵戦用部隊やロボットも出てくるのか
銀英伝の、「石器時代の勇者」オフレッサーやシェーンコップやらとかwww

387名無しさん:2011/02/26(土) 23:35:18
>>382
突いた事が発覚したら

お☆し☆ま☆い

ですもんねw

388名無しさん:2011/02/26(土) 23:36:43
>>383
原作からして将軍様が統治すればどんな問題もすべて解決という、ステキ宗教と変わらないメンタリティですから

389名無しさん:2011/02/26(土) 23:40:46
個人的にはこの間のタケルちゃんの、宇宙スゲェって言う気持ちがほほえましくて好きだなあ。
いつか俺たちも宇宙に進出して、BETAぶん殴って黒旗軍と帆を並べるんだ! みたいな。
この世界ずーっと未来がなかったから、結構こういう考えを持つ若者出てきそう。
ちと違うが、幕末の日本人みたいな感じで。

390名無しさん:2011/02/26(土) 23:43:45
下手に突くよりは黒旗に報告して感心買う方が良いよね
その方が「過去の罪を猛省し地球の事を誰よりも考えてます!」と更にアピールできる
そうやって誠意を示せば好意が返ってくると言うのに、烈士()は本当に負の方向で期待させてくれるw

391名無しさん:2011/02/26(土) 23:44:13
>>381
話の持って生き方としては、黒旗軍とアメリカが裏で協力しながら、
烈士(笑)様を壊滅させるシナリオを作って持っていくのが良いのではないかと。
日本を蹴落とすのは、どう考えてもデメリットが大きすぎます。
直接間接問わずに、日本を立てつつ、積極的にナンバー2を狙って行動するのが無難な選択。


つーか、個体で存在していて、国という概念の無い(ということになっている)異星人なんだから、
組織の論理は完全にわかっていないと推測するべきなんだがなぁ。
日本もアメリカも、分析が甘いよなぁ。

392名無しさん:2011/02/26(土) 23:45:17
>>389
「宇宙の何処かできっと同じ目にあってる知性体がいるはず、
俺たちはいつか、彼らの黒旗軍になるんだ!」
というのは救われた後の人類の目標としては熱くて良いと思う。

393名無しさん:2011/02/26(土) 23:50:31
若者が夢と未来持ってるのはいいよな
恐怖の対象だった宇宙がいつか俺たちが羽ばたく舞台って若者達が目に炎燃やすのって、いいじゃないか

394名無しさん:2011/02/26(土) 23:50:38
そういや一般人は歓喜感激してるんだったけ
……クーデターとか起こしたら国民にフルボッコされるんじゃね?

395名無しさん:2011/02/26(土) 23:51:26
つーか、ココでも勘違いしている人が多いが、
黒旗軍は「地球人」と取引しているんであって、国ごとに個別に取引しているつもりはないんだよな。
日本国内の矛盾に満ちた行動や、日本の国益よりも自分たちの感情を満足させる行動にムカつくように、
長門達からすると、地球の再生よりも国家を優先する連中にムカつくのです。

高い評価をもらいたいのなら、たとえ国を疲弊させたり、利敵行為になるとしても、
地球の再生を第一に考えた行動を取らないといけないわけで。


カテゴリーが一つずれているだけで、どうにもかみ合わない展開になっているきがする。

396名無しさん:2011/02/26(土) 23:51:55
フルボッコというか、タケルちゃんに多分ぼろくそに言われるよなあ。

397New ◆QTlJyklQpI:2011/02/26(土) 23:54:21
変にクーデターが起きたら折角配給始まった食糧医薬品が停滞するから憤激が必至。

398名無しさん:2011/02/26(土) 23:57:26
>>395
長門達もその上位者も
怒りを覚える程、この世界に対する執着は持ってないかも
孤児院で喧嘩をする子供を見て
「困ったものだ」
肩をすくめるスポンサーたる大富豪の心境というか…

399名無しさん:2011/02/26(土) 23:59:52
権力の中枢にいる近衛のとんでもない選民思想がヤバすぎるw
ドンだけ自分たちが偉いつもりなんだ?

400名無しさん:2011/02/27(日) 00:03:19
選民思想というか「将軍は偉い」教の狂信者ですから

401名無しさん:2011/02/27(日) 00:04:35
まぁ、黒旗軍から日本帝国を見ると「なにお前らは自分たちの立場を勘違いしてるんだお前らは?」って感じか?
あの日本はマジでイカれた国家だからな、あれだけ非常識な理由で起こした烈士(笑)達のクーデターも将軍があっさり認めちゃうしの
起こした連中も軽い処分で許されて結局ろくに処罰されなかったらしいし、もう国家として日本帝国は長くないんじゃないかな。

402名無しさん:2011/02/27(日) 00:04:45
俺達の日本とは歴史が違うからメンタリティーも微妙に違うんだろうけど
この状況で日本人から食い物を奪おうとするなんて狂気の沙汰だなw

403New ◆QTlJyklQpI:2011/02/27(日) 00:05:16
おまけに京都放棄とか挫折がない故に融通のきかなさも大きい。

404名無しさん:2011/02/27(日) 00:09:21
お疲れ様です

烈士()から烈士(アホ)になってきたな〜www
日本だけを支援してくれる便利な存在だとでも思ってるのか
ハッキリと「お前ら絶滅危惧種だから、出来る限り平等に保存と保護を行う」
って言った方が良さそうですね。

将軍が毒見したのに無礼な! ってアンタ、4億いるサルの内の日本の将軍が気を使ったというのに!
と言われても『………だから何?』 って感じですよね〜w

405名無しさん:2011/02/27(日) 00:09:25
軍は優先的に飯とか配給されるからねえ
平民なら家族が苦しいから理解できるが、近衛みたいにお偉い家系だとあんま飢えてないんだろう
身分が違うんだよ、身分が

406名無しさん:2011/02/27(日) 00:10:59
>>399
偉そうじゃなくて偉いんだよ!!
俺たちは偉大な皇帝から信任を受けた将軍の名の下に(ここ重要)生まれたときから偉いんだYO!
おれの言葉は将軍の意思だぞ!!

…という風に育てられてるんだから。つまりスネオ君ですね。
しかもスネオ君みたいに立場を弁えてないから自分がジャイアンのように振舞えるわけです
本音では皇帝も将軍も自分より下としてみています

407名無しさん:2011/02/27(日) 00:11:14
仮にクーデターが起きた場合は国民が立ち上がって解決すれば
「一部の暴走」で黒旗軍からも愛想尽かされないと思う
もちろん武ちゃんのような未来に燃える若者が先頭に立ってですね
黒旗軍ありがとう!というのを前面に押し出して

408名無しさん:2011/02/27(日) 00:11:40
沙霧ですら奥さんが病気になったら=身内が酷い状況に追い込まれたら、現実見て自重したからな。

409名無しさん:2011/02/27(日) 00:14:10
>>405
でも黒旗軍の配給品は合成品じゃないから
乾パンでも「すげえ小麦の味がする!」てな感じで
お偉い家系でも衝撃的なんじゃなイカ?

410名無しさん:2011/02/27(日) 00:15:27
沙霧さん、実はあれでかなり有能だとしか思えないんだけどな
大尉風情であれだけ大きく、かつ不正規に軍を動かしたんだから

411名無しさん:2011/02/27(日) 00:18:27
>>408
まるで駄目なおっさんから、
守るモノがあるから、駄目な状況でも頑張るおっさん
略してマダオにレベルアップ出来るかもだ

412名無しさん:2011/02/27(日) 00:19:09
漫画だと沙霧は鎧衣課長にCIAが裏でなんかやってるのも教えた上で「あなたがやれば被害を抑えられる」って感じのことを言われてクーデターを主導する
立場になったみたいだったな。
どちらにしろ、半端じゃないくらい迷惑な存在ではあるが。

413名無しさん:2011/02/27(日) 00:20:00
沙霧さんはBETAに絶望してリーダーとしてあおっただけに過ぎないからな
クーデター自体キチガイ思想だという事は理解してたけど
「やるなら徹底的にやってしまえ」ということだしね。

414名無しさん:2011/02/27(日) 00:21:20
この状況で自重しないと、むしろ将軍が酷い目に逢いそうなんですが

415名無しさん:2011/02/27(日) 00:22:52
折角毒味でアピールしたのに部下も制御できない無能の烙印が…!

416名無しさん:2011/02/27(日) 00:23:32
まぁ、この情勢下でバカ共がなにかやらかしたら、責任取るのに将軍の首だけで解決しないでしょうね

417名無しさん:2011/02/27(日) 00:23:49
センセのなぜなに黒旗軍心理分析講座(深読みしすぎ・勘違い編)はまだですかw

418名無しさん:2011/02/27(日) 00:25:24
他の人も言ってるが、国家の概念のない個人で成立してる生き物のはずの相手に、
将軍の権威がどーとかこーとか通じる訳ないじゃないか。わかれよ烈士達

419名無しさん:2011/02/27(日) 00:29:05
それがわからないから烈士なんですよ

420名無しさん:2011/02/27(日) 00:30:07
地球の一国家の人間が、自国の宗教が唯一無二で別の惑星でも通じると思ってるようなモンだぞ。

421名無しさん:2011/02/27(日) 00:34:47
実はちゃんと、試食によって黒旗軍(長門・朝倉)内の悠陽様への評価は上がってるってのが救いがない

422名無しさん:2011/02/27(日) 00:35:46
ここの感想幾つか流し読みしたけど、ヘイト・アンチSSの感想掲示板見てる気分になったよ。
少し自重したほうがいいんじゃないか。

423名無しさん:2011/02/27(日) 00:35:51
作中の日本帝国の烈士(笑)を見て朝倉が一言、
「こんな偉そうな乞食は見たことが無い」
と言ったら、とても面白いことになるに違いない。

烈士(笑)の論理
「日本のオルタ7成功で異星人を呼び出したぞ、援助が欲しかったら日本に従え!」
長門・朝倉「米国の方が効率的に援助できそう・・・米国にも拠点を作ろう」
「ファビョーン!日本が呼んだのに、何で勝手に米国に援助するんだ!なめてんのか!」
だもんなぁ・・・烈士(笑)

424名無しさん:2011/02/27(日) 00:36:22
もしかして烈士()様達には黒旗軍が個人だという情報が伝わってないとか?
それか簡単にして説明されておらず「軍」と言う名に長門達が人間らしいから「個」って事を忘れてるとか


まあそれでも異星人相手なんだから価値観の違いがあるだろうに

425名無しさん:2011/02/27(日) 00:38:07
>>417
烈士様()の活躍でせんせーの影が少し薄くなっているように感じているのはきのせいだろうか。
黒旗軍がアメリカに拠点を建設する事が決まってしまったせいで、
帝国から「どうにかならねーのか」とかいう無茶振りされていて大変なんじゃw

426名無しさん:2011/02/27(日) 00:38:18
どこかの半島国家化してるなw
よく考えたら歴史が平安時代ぐらいから違うから儒教の悪い部分だけ影響受けたんじゃね?

427名無しさん:2011/02/27(日) 00:40:26
>>422
深読みして分析したがる人と、感情で物を書いている人が同居しているからな。

428名無しさん:2011/02/27(日) 00:43:31
戦前から成長していないらしいし、こんなものでしょ。
調べれば調べるほど、戦前日本の民度の低さには頭が痛くなるし。

もちろん、戦争に突入したのは、それだけが原因じゃないけどね。

429名無しさん:2011/02/27(日) 00:43:54
そりゃ感情で物事かくの好きな人が流入してるみたいだし
元からいる人もこいつらうぜえとか思ってワザと無茶苦茶正論を書きまくるという
当然便乗するバカも…オレだけど

430名無しさん:2011/02/27(日) 00:44:36
烈士様の存在は、帝国の不安定要素として結構面白い
アメリカのG弾派が完璧に駄目になっちゃったんで彼らに賭けるしか!

431名無しさん:2011/02/27(日) 00:48:15
殺伐としたスレに、恋愛原子核の救援を求めてみる。
主人公殿、ちょっと思いついてみませんか?

「そういえば、恋愛原子核の力って、ウォーゲームユニットのアンドロイドにも通用するのか?」

朝倉「『通達。横浜在住の白銀武という人物が存在した場合、長門中将自らこれに接触すべし。名目は黒旗軍高官による現地視察活動とせよ』……なにこれ?」
長門「ユニーク」

432名無しさん:2011/02/27(日) 00:53:00
恋愛原子核ってエロゲ主人公なら誰でも持ってるスキルだよ
エロゲでも主人公でもなくなった武ちゃんではスキル失効してんじゃね

433名無しさん:2011/02/27(日) 00:56:36
>>432
あれ初代マブラブからの因果情報が原因かもしれない…とゆーこ先生が考察してたなあ

434名無しさん:2011/02/27(日) 00:58:03
上の続き
というわけで因果導体でもなんでも無い武くんには心置きなく幼馴染といちゃついてください

435名無しさん:2011/02/27(日) 01:01:12
というか、むしろスミカと結婚して平穏無事な生活を送って欲しい。
恋愛原子核なんて実際にあったら呪いみたいなもんだろw

436名無しさん:2011/02/27(日) 01:03:22
そうだな…最早BETAの脅威は無いんだから若人たちには明るい未来を邁進してもらいたいものだ

437名無しさん:2011/02/27(日) 01:07:13
つーかこのスレみて思ったんだけどさ、ここってSS投稿スレだよな?
雑談で容量食いつぶす気なん?
作品への感想だけにしろなんて言わないけれど、もうちょっとなんとかならんものか

438名無しさん:2011/02/27(日) 01:10:41
そしてバーナード星系から
「昔、お爺ちゃんが地球に居た頃の話だが」
と孫に黒旗軍という素晴らしい異星の友が居たんだよ、とか語るんだな

439名無しさん:2011/02/27(日) 01:15:56
>>437
>雑談で容量食いつぶす気なん?

そういわれてみれば、その通りだ。
だれか「未来人の多元世界見聞録 感想スレ」立ててくれないかな?
勝手に立てたら怒られるよね?そもそも、立てられるのかも判らないんだけれども。

440名無しさん:2011/02/27(日) 01:16:38
そしてその横で
「その話題は恥ずかしいからやめてほしい」
と無表情で若干頬を染める若いままの長門の姿が

441名無しさん:2011/02/27(日) 01:21:14
立てるならearth氏に許可を貰ってから、の方がいいんじゃね?
一応申し立てをしておいて

>>440
純夏武ちゃんNTRられてんじゃねーかww

442名無しさん:2011/02/27(日) 01:29:23
>>441
娘的なポジションだよきっと!!

そう!いうなればレールガンとくっついたそげぶさんにイン何とかさんが付いてくるように

443名無しさん:2011/02/27(日) 01:43:46
>>437
まぁ諦めれ。自分ももうここは駄目かも?とか思いつつある。
作者がアニメ2次創作談義総解禁を肯定するような作品を連載し出したから、あまりに何でもありになりすぎた。
作者さんも根幹のはずな本編の連載を苦痛に感じ始めてる節があるしねぇ。

444名無しさん:2011/02/27(日) 03:35:06
暫らく経てば元道理になると思います(そう願いたい)。

445名無しさん:2011/02/27(日) 03:52:09
マブラヴの二次SSは人気あるし
世界観がオリジナルと違って想像しやすいから
感想や意見など書きやすいくある意味当然の流れだよ

446名無しさん:2011/02/27(日) 05:57:59
earthさんの代弁者きどりの自治厨もうっとおしい。

447名無しさん:2011/02/27(日) 11:03:01
青の軌跡時代から見てるから二次創作の方が個人的な関心度は高いんで仲良くしといてくれると助かる

448名無しさん:2011/02/27(日) 11:07:54
酷使さまイミフすぎるw
>折角、帝国が世界のリーダーとなるチャンスを手に入れたというのに、日本帝国政府は国内を纏めきれず
>その好機をいかしきれていない。
なんて言ってるくせに
>このままでは諸外国の追い上げによって日本帝国の影響力が低下してしまう……そう憂慮した人間達は
>現体制を打破し、将軍を頂点とした新体制を構築するべきではないのかと考え始めた。 
>今の体制に不満を持つ者はそう言って現体制そのものをひっくり返して、強力な挙国一致体制を構築
>しようと目論んだ。
この有様w
お前らが現政権に協力すれば良い話じゃねぇか、JK

449名無しさん:2011/02/27(日) 11:24:02
うん、それ無理。

連中のは、あくまで将軍が主で、現政権は従。
現政権に協力すると、現政権が主、将軍が従になると思い込んでるから。

450名無しさん:2011/02/27(日) 11:25:50
将軍様主体に政権交代すればなにもかもうまくいくと思ってるから。ガチで。

451辺境人:2011/02/27(日) 11:29:20
いっそ将軍を担ぎ上げて榊首相がそれを補佐するような形式にした方が
まとまるかも。まぁ実質的な指導を榊首相がするんじゃ大して変わらないか
……20歳にもならない女の子に何が期待できるというのか。結局のところ
二二六事件の青年将校と一緒で将軍を名目に自分たちが権力を握りたいだけ
にしか見えないんですよねぇ

452名無しさん:2011/02/27(日) 11:33:46
近衛は特にそうだが、腕に自信があるのに安全な場所にいるからつまらん事を考える余裕がある
まりもちゃんみたいに北海道の泥沼で心身を消耗する戦いしてればそんなこと考える暇もないだろうに

453earth:2011/02/27(日) 13:47:38
スレの消費が早いようなので『未来人の多元世界見聞録』の感想、意見投稿用
のスレを立てます。
こちらでは引き続き皆様からのSSのご投稿をお待ちしております。

454earth:2011/03/01(火) 22:48:15
相変わらず短いですが第22話ができました。
ノリと勢いと妄想で突っ走ります。
それでは、どうぞ。

455earth:2011/03/01(火) 22:48:53
 未来人の多元世界見聞録 第22話


 西暦2005年7月31日、フロリダに新拠点を建設し終わった黒旗軍は地球全土に環境用ナノマシンの
散布を開始した。健康へ害がないと太鼓判を押されているとは言え、得体の知れないものをばら撒かれる事を
危惧する者たちは少なくなかった。
 だがその危惧も汚染された海や土壌が浄化され、空を覆っていた雲が薄れていき、次第に気温が上昇して
いくようになると払拭されていった。
 
「武ちゃん、青空だよ!」
「そうだな。久しぶりだな」

 病院の病室から見える久しぶりの青空を見てはしゃぐ純夏を見て、武は思わず笑った。

(純夏も、皆も黒旗軍の薬で治った。それに自然環境も元通りになっている。数ヶ月前とは大違いだ!)

 黒旗軍から無尽蔵に供給される物資によって日本を始め、各国は息を吹き返しつつあった。
 病気や怪我に苦しんでいた人間達は、現代の科学力では到底作れない高度な医薬品の数々によって
次々に回復していった。
 食糧不足に苦しんでいた人間も、天然食品並の食材や、その食材を用いた加工食品によって栄養状態
が改善されつつある。地域によってはBETA大戦の時よりも栄養状態が改善しており、黒旗軍がどれだけ
の物資をばら撒いているかがよく判る。
 
「あと少ししたら、外でも歩けるようになるってお医者さんも言ってたし、元気になったら……」
「ああ、外で羽を伸ばそう。運動もしないとな。何しろこのままだと」
 
 武の視線の先が、どこを向いているかを悟った純夏は不機嫌になる。
 
「武ちゃん!!」

 明るい声がこだまする病室。黒旗軍が来る前までは想像すらできなかった光景が、日本の、いや
世界各地で広がりつつあった。
 特に世界の危機を招き、さらに自国にハイヴを築かれたアメリカでは、修復されていく自然環境や
改善していく生活、そして僅かながらも復活しつつある自国の国際的地位に国民が歓喜していた。

「新しい大統領はやり手だな」
「ああ。前任のバカとは大違いだな」
「あの連中の名前なんて言うなよ。忌々しい」

 市民達は口々に、新政権を支持し、オルタネイティブ6派だった大統領を貶した。
 彼らにとってオルタネイティブ6を推進した人間達など、偉大な合衆国を破滅寸前に追いやった悪魔も
同然だった。
 オルタネイティブ6推進派で、この大崩壊から生き残った者たちは大半が収監されている。
それはこれ以上G弾派の暗躍を防ぐためと同時に、市民によるリンチから彼らを守るためでもあった。
 尤も今後の外交によっては彼らの身柄は外国、或いは黒旗軍に引き渡される可能性もあったが。

「まぁG弾なんてコリゴリだよ。あんなの宇宙人に差し出して正解だよ」

 人類は黒旗軍の強力な支援の下、ようやく復興へ向けて歩み始めたと言える。尤もその復興を後押し
した黒旗軍のTOPはそんな様子に大した関心を持ってはいなかったが。

456earth:2011/03/01(火) 22:49:26
「暇だな」

 アンドロメダの艦長席で耕平はそう呟いた。
 まぁ『○●星のBETAを駆逐しました』『×△星のBETAを駆逐しました』という報告をばかり聞いて
いれば退屈にもなるだろう。
 
「まるで戦略シミュレーションゲーム後半の塗り絵作業だな。いや、ここまでなると保健所の害虫駆除?」
 
 BETAはハイヴから質量弾を発射してミサイルの軌道を逸らすという戦術を取ったが、それもジャマーや
飽和攻撃という方法で押し潰せる。宙対地爆撃によってそれぞれの星のBETAは消し炭と化していった。
 BETAが新たに何らかの対応をとるかと耕平は思っていたが、そんな気配はなかった。
 このため念のために用意したジオイド弾の出番は皆無と言ってよく、倉庫の隅で埃を被っている状態だ。

「所詮は資源回収ユニットか。まぁ戦闘用BETAが何百億もでてきたら面倒だから丁度いいのか?
 まぁ異星人の船の解析結果がでればもっと面白いことになるかも知れないし、それまで待つか」

 そんな耕平に、朝倉は嫌味を言う。

『そんなに暇でしたら、こちらで復興の指揮を取られては? 上位存在のお出ましとなれば地球の
 皆さんも張り切って歓待しますよ?』
「面倒だから嫌」
『……そこまで面倒なら介入しなければよかったのでは?』
「それだと夢見が悪い。あと報告は聞いているし、そっちが要求している支援物資も出しているだろう?
 何が問題なんだ?」

 「必要なことはやっているだろう?」と言わんばかりの態度で尋ねる耕平に朝倉は何も言えなかった。

『………いえ、何でもありません』
「あと報告にあったけど、地上で煩い連中がでたら、宙対地爆撃で殲滅しても構わない。
 さすがに波動砲を撃ち込むのはダメだけど、波動カードリッジ弾で釣瓶撃ちにするくらいなOKだから。
 それと電子戦、超能力戦闘も許可」
『つまり、波動砲クラスの大量破壊兵器以外なら何を使っても問題ないと?』 
「あと汚染を残すようなのはNG。威嚇に使うなら、宇宙空間で波動砲を撃っても構わないよ。
 《長門》艦隊で兵力が足りないようなら、火星の予備部隊を使っても良いよ。ただしその際は各艦隊の
 指揮官と協議してくれ。それじゃ、こっちはもうそろそろログアウトの時間だから。後はよろしく」

457earth:2011/03/01(火) 22:50:00
 戦艦長門の艦橋では、通信回線が切られ真っ黒になったメインモニターに向いたままわなわなと
震えている朝倉の姿があった。

「ふ、ふふふ。聞いた? あの大将、ほぼ全兵装の使用を許可したわよ」
「……」
「なら存分にやらせてもらうわ。幸い、軍閥とか武装勢力の掃討とかをやるから、ついでにストレスの
 発散をさせてもらうわ。うふふふふ」

 黒旗軍の上位存在とアンドロイド達の間で、そんな脱力感満点のやり取りがされていることなど
露も知らない人類は、黒旗軍から供給される無尽蔵といってもよい物資、資源を使って国力の回復に必死
だった。
 国土を朝鮮半島、シベリアに蔓延る軍閥群によって脅かされていた日本帝国は、一気に攻勢に出て
これを撃滅し、周辺の安全を確保しようと考えていた。

「地球復興の障害となる勢力を掃討する」

 東京に再建された国連本部で開かれた安全保障理事会では各地で治安を悪化させる武装勢力の掃討が
決議された。
 強引な掃討に危惧を表明する国家もあったが、黒旗軍が「地球再建のために速やかな治安回復」を要求
しているという事実が公表されてからは、強硬派が一気に主流となった。
 これまでの調査の結果、黒旗軍の評価基準は『地球再建にどの程度貢献できるか』ということが明らか
になってきていた。故に多くの国は多少無茶をしても打って出ることを選んだのだ。
 そんな中、カナーバを通じて黒旗軍が武装勢力の掃討に参加することが表明された。

「人類の負担を軽減するために、黒旗軍も武装勢力の掃討に参加する」

 黒旗軍自身が打って出ると事態に、各国代表は驚愕した。これまで地上の戦いに介入してこなかった
はずの黒旗軍が遂に動いたのだ。

「黒旗軍は何を考えている?」

 黒旗軍の真意を誰もが探ると同時に、誰もが黒旗軍の軍事技術を探る良い機会だと考えた。
 ハイヴを8分間で潰し、月を直し、自然環境を修復したことから、人類の常識を遥かに超える技術を
黒旗軍が持っていることは判っているが、黒旗軍の兵器がどれほどのものかは殆ど見たことが無いのだ。
 故に誰もがこれを機に、黒旗軍の兵器の情報を合法的に収集しようと目論んだ。
 
「武装勢力には気の毒だが、黒旗軍の標的となって貰おう」

 かくして各地の武装勢力は絶体絶命の危機を迎えることになる。

458earth:2011/03/01(火) 22:52:04
あとがき
拙作ですが最後まで読んでくださりありがとうございました。
アメリカ国内の様子も少しだけ書きました。今後も少しずつですが
書いていこうと思います。
次回以降、黒旗軍と国連軍が各地の治安悪化の原因となる勢力の掃討を
開始します。尤も主体は黒旗軍になりそうですが。
下手すれば各国の軍人のSAN値がゴリゴリ削られるかも(笑)。

459名無しさん:2011/03/01(火) 22:53:29


これは……楽しみだww

460名無しさん:2011/03/01(火) 22:55:39
乙でヤンス

敵対勢力、カワイソスw

461夜天雪兎:2011/03/01(火) 22:59:14
更新お疲れさまでした。
いつものようにとても面白かったです。
軍閥の面々と各国の軍人が哀れなことになりそうだということが確定して居ますが、これだけ技術の差があると仕方ないのかもしれません。
ちなみに、今回の投稿ではじめてリアルタイムで投稿している現場に遭遇しました。

462名無しさん:2011/03/01(火) 23:06:23
乙乙

アンドロイドもストレスを溜める程度に面倒なんすか、地球復興w
軍事技術を探る良い機会とか、そんな心構えで大丈夫か?
武装勢力より各国の精神が虐殺されるのでは…w

463New ◆QTlJyklQpI:2011/03/01(火) 23:09:07
武装勢力が長門艦隊のフラストレーションの標的にw。
火星にいるのはもしかしてナデシコ?

464名無しさん:2011/03/01(火) 23:11:33
乙です
さらば武装勢力、朝倉さんのストレス解消のため、散るが良い。

465名無しさん:2011/03/01(火) 23:12:37
更新お疲れ様です。

武装勢力さんには、お気の毒としか言いようが無いが、盗賊紛いの真似やってるんだから仕方ないか。
しかし、この掃討作戦がどんな余波を地球上に広げるやら。
次回にも期待です。

466sage:2011/03/02(水) 02:49:29
黒旗軍は何を投入するんでしょうね?wktk
破壊力が強いものだと環境汚染はなくても復興を遅らせることになるからやっぱり機動兵器が出てくると期待していますが、
そうなると何が出てくるやらww
確かコスモタイガーⅡとMSの名前が出てましたが、他にもヴァルキリーやエステバリスなんかもよさそうですし
MSならどこら辺が出てくるか妄想したくなります。

467466:2011/03/02(水) 02:50:24
名前間違えてかいちゃいましたorz

468名無しさん:2011/03/02(水) 06:37:26
ソ連系武装勢力の中にクリスカ達が居た場合は・・・。

469名無しさん:2011/03/02(水) 09:23:29
超能力OK・・・
ラフノールの鏡で身を守って高速飛行するESPコマンドとか
ジャマーの無いオルタワールドならえらいことに

470名無しさん:2011/03/02(水) 11:08:23
こっちは投稿スレだから感想以外はあっちでやろうよ

471earth:2011/03/02(水) 23:51:49
第23話は長くなりそうなので、分けました。
多少短めですが、ノリと勢いと妄想で突っ走る前編です。
機動兵器大暴れを期待していた人はごめんなさい。
さて、黒旗軍が何をやったかわかる人はいるだろうか?

472earth:2011/03/02(水) 23:52:30
 未来人の多元世界見聞録 第23話

 黒旗軍は地球各地に点在する武装勢力を一気に掃討するために火星から戦闘空母1隻、そして電子戦用に
主力戦艦を改造した電子作戦艦《撫子》を持ってきた。
 《撫子》は、ヤマト世界の主力戦艦をベースにした艦であり、波動砲や主砲を全て撤去した換わりに
超高性能コンピュータ(ゲーム世界基準)を搭載している。
 耕平としては電子作戦艦の名前を某火葬戦記に習って金剛にするか、それとも某電子の妖精が操って
多大な戦果を挙げた戦艦に習ってナデシコにするかで悩んだ結果、最終的にナデシコではなく《撫子》
にした。
 何故かパチモンくさい名前であったが、その能力はオリジナルを遥かに超える凶悪なものであり、その
電子制圧能力はゲーム世界でも指折りだった。
 少なくとも他のゲームプレイヤーは《撫子》型がいると判れば、真っ先にこの船を沈めに掛かるほどだ。
 ある意味、虎の子の船なのだが、耕平はBETAの創造主との戦いに備えてこの世界にも配備していた。

「……オーバーキル」
「いいのよ。この位しないと。まぁ戦術機に使われているようなアナログを制圧するのに使うなんて
 勿体無いにも程があるけど、このまま火星宙域で浮かべておくよりかはマシでしょう」

 マブラヴ世界でこの撫子に対抗できるコンピュータは存在しない。00ユニットでも成す術は無い。
 この《撫子》で近代兵器を無力化されれば、それだけで主な軍閥はその戦力の過半を失う。

「電子制圧の後は、宙対地爆撃ね。もっともあまり死人を出すわけにはいかないから特殊兵器を使うけど」

 さすがの朝倉もストレス発散のためとはいえ、ただでさえ数少ない人類を減らす真似はしない。 
 ほぼ全兵装が使用可能なため、普段は滅多に使わない特殊兵器をここぞとばかり使う気だ。
 機動兵器を使って掃討するのも良いが、やはりこういう機会を活かさない手は無い。

「《アレ》を使ったら人類もびっくりするでしょうね。何しろこの世界にはなじみ無い人道(笑)的兵器だし」
「……個人携帯の武器でさえ容易に無力化できることを教えられる。彼らの戦意を挫くには使える」
「それでも抵抗するなら、あとは催眠ガスでも投下。逃げたらESP部隊を投下して捕縛。問題ないわね」
「各地の武装勢力を同時に攻撃しても、所要時間は20分以下になると思われる」
「ふふふ。じゃあ、準備が整い次第、始めるとしましょうか」

473earth:2011/03/02(水) 23:53:15
 西暦2005年11月3日、黒旗軍はユーラシア、アラスカ等に蔓延る軍閥、武装勢力群の掃討の開始を宣言する。
 国連軍は黒旗軍の後詰めという形で各地に展開するものの、黒旗軍から「要請までは手出し不要」と念押しされて
戦場の外で待機する形となっていた。 

「我々を馬鹿にしているのか!」

 朝鮮半島の軍閥群を掃討するために送り込まれた帝国軍将兵の中には、目の前に敵地があるというのにお預けを
喰らったことに腹を立てる。
 これまで北海道で散々苦労してきたまりもは、そんな将兵たちを冷ややかな目で見ると同時に、黒旗軍がどのような
手で目の前の軍閥を掃討するか興味津々だった。 
 
(BETAを8分で駆逐し、月と地球を直してみせる技術力を持った存在が、どんな攻撃を繰り出すのだろう?)

 不知火の中で、まりもは色々と黒旗軍の出方に思考をめぐらせた。
 自分達が乗る戦術機を遥かに越える機動兵器を出すのか、それとも宇宙戦艦を使った攻撃を行うのか、それとも
BETAを駆逐したように一瞬で軍閥を消滅させてしまうのか……興味は尽きない。
 彼女は別に活躍の場が得られないからと言って、黒旗軍に敵意を抱くつもりは無い。むしろ、自分達の負担を
軽くするために態々出撃してくれる黒旗軍に感謝したいと思っているほどだ。そして同時に黒旗軍に悪態をつく
馬鹿軍人(特に戦場を知らない人間)にため息を漏らす。

(日本の、いえ、地球の恩人に向けて、それはないでしょうに……)

 黒旗軍の出方に興味津々なのはまりものような良識的な、或いは常識的な軍人だけではなかった。 
 各国から派遣されている武官達も同様だ。 
 彼らは黒旗軍の優れた兵器を観察し、そこから何かしらの情報を得て本国に持ち帰るという大任を担っている。

(彼らの技術を少しでも解析することができれば、今後の国際競争で有利に立てる!)

 誰もがそんな考えを持っていた。
 そんな期待が溢れる司令部に、黒旗軍から攻撃開始を告げる通信が入る。

「黒旗軍から入電。『攻撃を開始する』とのことです」
「そうか。さて、一体、どんな攻撃が行われるのやら……」

 大陸派遣軍司令官である帝国陸軍中将は、モニターを見据えた。
 だがその直後に奇妙なことに音楽が流れていることに気付く。

「なんだ、これは?」

 キリスト教圏の武官がすぐに正体に気付く。

「これは賛美歌?」

 この言葉に、他の武官達が頷く。

「間違いない」
「だが、どういうことだ?」

474earth:2011/03/02(水) 23:53:47
 陸軍中将はオペレータに問い詰める。

「どこから流れている?!」
「黒旗軍が全チャンネルを通じて流しています!。い、いえ外でも大音響で流れています!」
「何を考えている?」

 黒旗軍の意味不明な行動に誰もが絶句する。しかしそんな中、さらに驚愕する報告が入る。

「偵察部隊より報告。前方の敵部隊の戦術機がすべて停止しました」
「何?!」
「飛行中の戦術機も次々に地面に着陸中とのことです」
「……黒旗軍の仕業か?」
「恐らくは……」
「だが戦術機の動きを止めるだけでは何にもならんぞ。それに旧式のヘリは元気に飛び回っているし、戦車も
 動いている」

 しかしこの後、遥か上空から高速で落下する物体を国連軍のレーダーが捕捉する。

「ハイヴを潰したときと同様のやり方か? 拙い、対ショック防御急げ!」

 戦場に近い部隊が巻き込まれる恐れを感じた中将は慌てて対処を命じる。何しろハイヴを潰した
兵器だ。これが炸裂したなら、トンでもない影響が出る。
 しかしそれはすぐに杞憂に終る。

「目標、敵基地の西2キロに落下」
「不発か?」

 中将がそう呟いた直後、異変は始まった。
 
「て、偵察部隊より報告。敵部隊が……」
「どうした? 何があった? 正確に報告しろ!!」
「敵部隊の兵器が次々に分解しています。まるで接合部から順番に崩れるかのように……」
「何?!」
「敵基地の建築物も次々に倒壊しています」

 攻撃開始から3分も経っていない。そして目立った攻撃も行われていない。
 それなのに、目の前の敵軍は成す術も無く消えてなくなりつつある。
 賛美歌が鳴り響く中、そのあまりに非現実的な状況に、司令部、いや前線部隊の誰もが呆然としていた。

475earth:2011/03/02(水) 23:54:53
あとがき
拙作ですがお付き合いしていただきありがとうございます。
朝倉さんは特殊兵器を存分に使ってストレス解消としていただきました。
特殊兵器の正体に気付いた人、いるかな……。
それでは短いですが、失礼します。

476名無しさん:2011/03/02(水) 23:55:25
乙乙

分からう……分からぬ……ッ次回更新期待!

477名無しさん:2011/03/02(水) 23:58:55
えーとマイクサンダース13世さんのソリタリーウェブですか?

478New ◆QTlJyklQpI:2011/03/03(木) 00:09:08
武官らの感想「こりゃ勝てんわ・・・・」

479名無しさん:2011/03/03(木) 00:09:22
ナノマシン、月光蝶かな?

480名無しさん:2011/03/03(木) 00:30:21
応力を逆転させてるのかな?
もしそうだとしたら自然物には作用しないんだろうか?

481名無しさん:2011/03/03(木) 01:17:40
乙でヤンス

ヒデェw 武官たちの報告書が滅茶苦茶になりますなw(特にキリスト教圏)

482名無しさん:2011/03/03(木) 10:10:24
earthがレスの消費が早いからと態々別スレ作ったのに何で此処に感想書き込むかな

それに最新話が投稿されていてもレスが消費されてて分りにくいから別スレやれよ

483earth:2011/03/05(土) 00:14:00
前回、前編といったのに、タイトルに前編の文字がなかったことに
今更ながら気付きました(汗)。というわけで後編なんですが24話と
いうことにします。
それではノリと勢いと妄想で突っ走る第24話をどうぞ。

484earth:2011/03/05(土) 00:14:38
 未来人の多元世界見聞録 第24話

 賛美歌が鳴り響く中、次々に勝手に崩壊していく武装勢力の基地とその兵器群。常識を足蹴りにする光景に
誰もが絶句し身動きが取れない。
 
「おお、神よ……」

 神の御業とでも思ったのか、キリスト教徒の武官が思わず十字を切る。
 一方、非キリスト教徒の帝国陸軍中将は、慌てて我に帰ってオペレータに尋ねる。

「じょ、状況は?! 黒旗軍は何か言っていないか?」
「は、はい。あ、黒旗軍から入電です。『引き続き作戦を継続する。逃げ出した部隊の掃討を頼む』」
「……連中、最初から最後まで殆ど一人で片付ける気か?」

 目の前の敵には戦う力どころか、逃げる力さえ残されていない。いや力どころかそんな気力すらあるか怪しい。

「これでは道化ではないか……」

 彼らにできるのは、指をくわえて黒旗軍が残敵(?)を叩くのを見るだけだった。 
 司令部の人間が呆然としているのと同様に、前線部隊の将兵も想像を絶する光景に、瞬き一つできなかった。

「な、な……何が?」

 神に対して信仰心など持ち合わせていない人間であっても、『神の奇跡』と言われれば納得してしまいそうな
光景を見て、まりもは声がまともに出ない。
 先ほどまで元気に黒旗軍を罵っていた軍人も目を見開き、口を半開きにして茫然自失といった様相だ。

「……こ、これが黒旗軍の戦争だっていうの? いえ、もはや戦争ですらない」

 まりもは自分達地球人類と黒旗軍の間にある絶対的と言っても良い差を理解した。

(人類なんて黒旗軍のさじ加減一つで簡単に絶滅させられるちっぽけな存在でしかない。黒旗軍に毒づく軍人達
 など嘲笑の対象にすらならない。路傍の石、いやそれ以下……) 

 そんなまりも達にさらなる精神的追い討ちがかけられる。

「あれは……天使?」 

 まりもの視線の先には、かつて基地があった土地の上空で飛び交う多数の天使の姿があった。

485earth:2011/03/05(土) 00:15:13
 地上の様子を衛星軌道の戦艦《長門》の艦橋のメインモニターで見ていた長門と朝倉の2人は戦果に満足した。

「77の目標は完全に無力化。地球復興の妨げとなるような勢力は消滅したと言って良い」

 長門の言葉に朝倉は頷いて同意する。

「そうね。逃げ出すような人間もいないようだし、あとは救助活動ね。ESP部隊は無駄足になりそう」

 彼女の視線の先には、多数の天使が乱舞する光景があった。

「さて、賛美歌の中で武器が解けてなくなり、続けて天使の登場。人類のSAN値はどこまでもつかしら?」

 くすくす笑いつつモニターを見る朝倉。
 そこでは天使たちが落下していくヘリコプターのパイロットを救助したり、地上に降り立ち怪我人に近寄る
光景が見える。さらによくみれば天使に近づかれた人間は怪我が治っていくのが判る。
 治療された人間達は信じられないような顔をし、周囲の人間達は涙を流して天使たちに跪くか、祈りを
捧げるような姿勢をとる。

「かの香月博士なら、アレが質量のある立体映像と見破れるかも知れないけど、マグネトロンウェーブを
 使ったとは判らないでしょうね」

 今回の彼女のシナリオを時系列順に説明すると以下のようになる。

①《撫子》による強制ハッキング。並びに戦場周辺の全通信回線に賛美歌(30世紀に作曲されたもので、かつ
 21世紀の人間でも賛美歌と判るもの)を流す。
②戦闘空母《日向》《伊勢》及び地上基地から発進したステルス機を使って戦場周辺にも賛美歌を流す。
 ESP部隊もスタンバイ。
③戦術機など電子機器の塊のような兵器を無力化後、マグネトロンウェーブ発生装置を組み込んだ突入カプセルを
 投下。
④マグネトロンウェーブによって敵兵器の完全無力化を実施。
⑤突入カプセル内にある立体映像投影装置(質量再生システム付き)によって天使を投影。
⑥突入カプセル内のAIの判断に基づいて天使による救助活動、デモンストレーション開始。
⑦突入カプセルに仕込まれた医療用ナノマシン散布。ナノマシンの作動タイミングはAIが判断。

 マグネトロンウェーブとは、ヤマト第1期に出てきたガミラスの兵器で、機械を分解してしまう能力をもって
いる。これを彼女達は利用したのだ。

486earth:2011/03/05(土) 00:15:46
 最初からナノマシンを使うってのも朝倉は考えたが、ナノマシンを多用するのは芸がない上、ストレス解消にならない
こと、そしてばら撒いていたのが万が一、他の地域に流れたら面倒なことになることから、その考えを断念した。
 賛美歌と天使については、単に演出兼上位存在への嫌がらせの一環だった。

(今度、ログインしたときにはドン引きさせてやるわ。多少はこっちの苦労も思い知ればいいのよ)

 尤も彼女は単に嫌がらせのためだけに、こんな演出をやったわけではない。

(あの大将がストレスを感じればそれで良し。仮にこの世界が嫌になったら、最低限の援助をやっておいて速やかな
 撤退を提言すれば良い。うまくすれば、こんな面倒な仕事から離れられる。
 特に変化がなくても、人類が勝手にこちらを神格化してくれるから、今より仕事がやりやすくなる。
 どちらに転んでも損は無いわね)

 「計画通り」とばかりにニヤリと笑う朝倉。
 耕平がここに居て、彼女の目論見を知ったら「朝倉、恐ろしい娘!」とどこぞの昔の少女漫画風の作画でいうこと
は請負だ。

「それじゃあ、さっさと武装勢力の人員を収容しましょうか。瓦礫の山に埋もれた連中も、早めに救助しないと
 死んじゃうでしょうし」

 かくして各地に輸送艦やら輸送機が送りつけられ、生き残った人員はすべて黒旗軍が捕虜とした。
 2005年11月3日、日本時間午前10時に始まった武装勢力掃討はわずか18分で完了した。これによって
各国に脅威を与えていた武装勢力は事実上消滅し、残されたのは規模が小さく、地球復興においてさして脅威にならない
と判断された勢力のみとなった。
 捕縛された人間の取り扱いについては、黒旗軍と各国の間で色々な議論がなされた。
 黒旗軍は当時の情勢を踏まえて当初は軽い処罰で済まそうとしていた。
 だが日本帝国を筆頭に被害を受けた国々は厳罰か、速やかな引渡しを要請した。彼らからすれば武装勢力の人間は
相応の処罰を受けなければならなかった。
 黒旗軍は当初はこれに首を縦に振らなかったが、国連事務総長に就任した珠瀬玄丞斎が忍耐強く、そして執念深く
交渉した。

「確かに人類の頭数を減らしたくないという黒旗軍の意思は理解できます。ですが、法律の問題があります。
 ここで彼らを減刑してしまえば、後に悪しき禍根を残します。それは将来において人類社会に暗い影を与えることに
 つながります。最悪の場合、黒旗軍の手を煩わせる事態が起きるかも知れません」

 珠瀬総長は黒旗軍が掲げる人類社会の再建を確実にするためにも、適切な処罰を行わせて欲しいとカナーバに懇願した。

487earth:2011/03/05(土) 00:16:16
 さしものカナーバも珠瀬の主張を否定することはできなかった。
 長門と朝倉も捕虜の引渡しもやむなしとの結論に至る。だが同時に切れるカードがないにも関わらず、自分達の
政策を変更させるだけの力と意思を持った人間がいることに感心した。

「筋は通っている。ここで我々が筋を曲げるわけにはいかない」
「ええ。それにしてもなかなかに度胸のある人間ね。私達がその気になれば人類なんていつでも殲滅できると
 判っているのに」
「彼らにも譲れないものがあると思われる」
「そうね。でも武装勢力人員皆殺しというのは拙いわね。一応、捕虜にしたのはこっちだし。
 首領や組織の中核を担っていた者、特に悪質だった者を犯罪者として処刑して、残りは黒旗軍と国連軍の監視下で
 ユーラシア復興のための強制労働ってところかしら」
「ユーラシア復興がダメな場合は、多少危険で効率が悪いが、宇宙空間での資源採掘作業に振り分ける」
「まぁそれが妥当かしら」
 
 かくして捕虜の一部は国連に引き渡され、裁判の後に処刑されることになる。当初は何かしら抵抗をすると思われて
いた罪人達はみな穏やかな顔で処刑に臨んだ。彼らは「神の御業で生かされたのは、人類の未来のため、罪人として
処刑されるためだった」と言って死んでいった。
 残された末端の人間達は危険を承知で宇宙での作業の従事を志願した。特に祖国が滅び、自身の民族も殆ど散り散り
になって消滅した者たちはその傾向が強かった。
 かくして少なからざる者たちが宇宙に上がることになる。
 黒旗軍に正論が通用したことに各国は安堵したが、同時に今回の件から黒旗軍と自分達との実力差を嫌と言うほど
理解した。地球の戦力など苦も無く無力化(それも殆ど死者を出すことなく)できるという事実が、多くの軍人、政治家に
対黒旗軍へ対抗しようという考えを持つことの無意味さ、そして危うさを悟らせたのだ。
 プライドの塊のような日本帝国の斯衛軍でさえ「黒旗軍と戦うのは自殺行為であり、彼らに全面的に従うことで
将軍を守護するしかない」と考えを完全に改めたほどだ。色々と世間知らずの集団ではあったが、さすがの彼らも
戦うことすらできず敗北を強いられるという事態だけは避けたかった。
 現体制をひっくり返すことで将軍を復権させ、強固な挙国一致体制を構築することを目論む人間が残っていたが
下手な手を打てば今回のように黒旗軍が介入しかねないという懸念が出てきたことで、その動きは鈍っていった。
 少なくとも早急な武力の行使による現政権の転覆については慎重な意見が広まりつつあった。 
 だがそれと反比例するように、動きを活発化させた者たちがいた。そう宗教団体と科学者達だ。 
 勿論、朝倉は《それ》を狙っていたのだが、その動きは次第に彼女の予想以上に大きな盛り上がりを見せることになる。

488earth:2011/03/05(土) 00:18:41
あとがき
拙作ですが最後までお付き合いしていただきありがとうございました。
原作キャラの一人、珠瀬さん登場です。
ヒロインが殆ど登場していないのに、何故かおっさんキャラばっかり出て
来てしまうのは何故だろう(笑)。
皆様期待の烈士様は少しトーンダウンします。でも上位存在が自ら地球に
やってきたら、暴走するかも(爆)。
それでは失礼します。

489New ◆QTlJyklQpI:2011/03/05(土) 00:22:28
こんなことやらかしたら宗教団体黒旗教の誕生ですねw。天使は立体映像ですか、
Wガンダムゼロが乱舞する光景しか見えないw。

490New ◆QTlJyklQpI:2011/03/05(土) 00:53:18
>>489書くとこ間違えた。

491名無しさん:2011/03/05(土) 01:05:49
投下乙ですお待ちしていました
とうとう宗教方面に突入か……まあそうなるだろうとは思っていましたがw

492名無しさん:2011/03/05(土) 01:10:57
こちらにも誘導

未来人の多元世界見聞録について  (ナンバリング忘れ、実質2スレ目)
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/9191/1299254720/

感想、雑談はこちらに〜

493earth:2011/03/06(日) 00:43:44
実験SSにも関わらず、色々と意見や感想が投稿されて光栄の限りです。
それではプロットなしで相変わらず勢いとノリで突っ走ります。
短めですが第25話です。

494earth:2011/03/06(日) 00:44:15
 未来人の多元世界見聞録 第25話

 世界各地の武装勢力がわずか18分で、しかも殆ど死人を出すことなく制圧されたとの情報は、あっという間に
世界各地に駆け巡った。
 緘口令を敷いて噂の拡散を防ごうとした各国政府だったが、多くの兵士が神の奇跡(?)を見た以上、すべての
口を塞ぐことなどできる訳が無かった。
 戦場で何が起きたかを知った一般人たちの中には、黒旗軍の上位存在が神か、神のごとき存在なのではないか
と考える者たちが増えていった。
 特にアメリカでは黒旗軍上位存在《総司令官》=神(又は救世主)という公式が少しずつであるが定着化しつつあった。 

「月を元通りにして、地球環境を回復させる……まさしく神の御業だ」
「そうだ。終末の後の救済の時が来たんだな」
「信仰心の厚かった爺さんが、主が降臨されたと聞いたら喜んだだろうな」 

 自国が推し進めたオルタネイティブ6によって世界を破滅寸前に追いやり、さらに自国にハイヴさえ築かれる
という地獄を味わった米国民にとって、その地獄から自分達を救い上げてくれた黒旗軍は救世主そのものだ。 
 この思想をさらに煽ったのは、キリスト教恭順派であった。 

「BETAによって齎された偽りの力、G弾を使ったが故に、この悲劇は起きたのだ!」 
「偽りの力を妄信した愚か者はもういない! アメリカは贖罪を経て、神の国とならなければならない!!」
「人の時代に終止符を打ち、神の時代を迎えるのだ!」

 BETAを神による試練と考え、G弾を忌み嫌ってきた恭順派はアメリカ国内で順調に影響力を拡大して
いた。
 一方、科学者の中には、黒旗軍の超技術の数々を見て人類を初め、地球の生命体を作り上げたのは黒旗軍の
上位存在、もしくはその同族ではないのかと考える者が現れた。

「生命体が生存、そして進化が可能なように惑星の環境を整備することくらい、黒旗軍の技術力なら可能だ」

 尤もそんな暢気なことを考えていられる科学者は少数だった。
 米政府によって黒旗軍の技術解析を任されていた科学者達は戦場で起こった映像を見て、頭を抱えるか半狂乱の
状態だった。

「建物や兵器の分解については、いくつか仮説は出せるが、どうやったらそれができるのか全く検討もつかない」
「というか天使は一体、どこから現れたんだ?」
「突入物体が映像を出したと言っても、出現した天使は落下するヘリパイロットを助けている。
 つまり実体を持っているといって良いだろう」
「実体を持った立体映像? 非現実的だぞ。むしろあのカプセルが重力を制御したのでは?」
「……俺達の常識が音を立てて崩れていく気がするよ。科学者を集めるよりSF作家でも集めたほうが良い気がする」
「俺もそう思う。もうハードSFの領域だ」
「いやオカルトだ。魔法の領域だ。魔法使いでも連れてくれば良いさ」

495earth:2011/03/06(日) 00:44:51
 日本の上位存在研究室では、宗教学者が大ハッスルで上位存在=神様を唱えていた。
 これに真っ向から反論するのは、天才科学者・香月夕呼だ。

「彼らは確かに超越した技術を持っています。ですが神のような高次元存在と言い切れません。
 この宇宙に実体がなくとも、別の宇宙に実体を持っている可能性はあります」
「別の宇宙? 香月博士が唱えておられた因果律量子論ですかな?」
「そうです」
「ですがその理論が正しいとも言い切れますまい。仮にその理論が正しく、別の宇宙に実体があったとしても
 世界の間を自在に行き来し、天地を創造できるような存在が神ではなくて何だというのです?」
「……確かに超越者を神と見做すのなら、上位存在を神と言っても過言ではないでしょう。
 ですがこれまでの宗教的概念と結びつけて、彼らを神と見做すのは危険すぎます。あくまでも超越した力を
 もつ異星人と考えることが必要です」

 黒旗軍=神と見做すことなど思考停止に他ならないと夕呼は考えていた。
 
「ですが彼らのやってきたことを考えれば、これまで人類が奉ってきた神としか言いようがないのでは?
 人類を脅かす悪魔を天からの雷で滅ぼし、人が自滅しそうになれば使徒を降臨させて助けを与え、罪人さえ
 武器を奪うだけで更正の機会を与える。まるで神話の神々ではないですか」  
「しかし、それも我々炭素生命体が物珍しいからなのでは?」
「物珍しさだけでこれだけの施しを与えると? 何の対価も要求することなく?」
「上位存在は我々とはかけ離れた存在です。我々とは全く異なる価値観で動いていても不思議ではありません」
 
 夕呼はそう言って宗教学者を抑える一方で、他の科学者を叱咤激励して黒旗軍の技術解析を急がせる。

(連中は環境再生用ナノマシンを持っていた。なら医療用ナノマシンを散布していても不思議じゃない。
 これに天使の立体映像まで持ってくるなんて、なんて悪辣な真似を!)

 だがさすがの夕呼も、どんな技術を使えば物を掴める立体映像を作れるのかさっぱり判らない。 

(連中は自分達を神と思わせることで、人類の思考を停止させることを目論んでいるとも考えられるわね。
 いえ、それだけでなく、人類を精神面からも支配するつもり?)
 
 夕呼はそういって深読みする。

(でも連中が神を自称すれば反発する連中も出てくる。宗教的な問題となれば面倒なことになる。
 奴らはそれを承知でこんなことを? それともまだ別の意図が?)

496earth:2011/03/06(日) 00:45:23
 一般人の多くが黒旗軍の神格化を容認しつつある中、夕呼のように黒旗軍が神を偽って人類を支配しようとしている
と考える者もいた。特に政治家たちは、黒旗軍によって物質的にも、精神的にも支配されることを恐れた。

「たとえ復興できたとしても、黒旗軍によって物心両面で支配されるかもしれない」

 今でも十分支配されているが、相手が異星人ということで最低限の警戒感は誰もが持っていた。
 しかし異星人が実は自分達が奉っていた神であったとなっては、誰もが警戒感を解いてしまう。まぁ仮に警戒して
いても相手が本気になればどうにもならないほどの実力差があるが、それでも最低限の警戒心を持ち、自立心を持ち
続けるのと、相手に物心両面で隷属してしまうのでは大きな差がある。  

「……彼らが何のために、あのようなことをしたのか、問い質す必要がある」

 榊はカナーバに直接会って黒旗軍の真意を尋ねた。
 これに対してカナーバはあっさりと答える。

「リサーチの結果です。武装勢力の抗戦意欲を根本から打ち砕き、かつ犠牲を最小限にするには今回の作戦のような
 行動をするのが望ましいとの判断がなされました」
「つまり、あくまでも武装勢力の士気を砕くためだと? ですが我がほうの通信回線にも賛美歌が流れましたが」
「それはこちらのミスです。申し訳ございません。こちらとしては可能な限り周辺に影響がないように努力したの
 ですが、このような小規模な電子戦というのは中々なかったので出力の調整がうまくいかなかったのです」

 地球各地の77箇所の拠点すべてに同時に電子戦を仕掛けることを《小規模》と言い切るカナーバに榊は
絶句する。彼女の言葉を信じるなら、黒旗軍からすれば通常の電子戦というのは複数の惑星に跨るか、それとも
恒星系そのものに対して仕掛けるものと判断できるからだ。

(宇宙での戦いというのは、それほどまでに大規模なものなのか)

 榊はスケールの違いに息を呑む。
 そんな榊を見つつ、カナーバは話を続ける。

「貴方方が言う天使は武装勢力の救助のためのユニットです。宗教的な意味はありません」
「ユニットですか?」
「はい。複数のユニットがありますが、武装勢力が安心して救助を受けれるようにするには、天使型のユニットが
 望ましいと判断されました」
「……今回の判断は上位存在が?」
「いえ。今回の作戦を主導されたのは朝倉少将です。それに上位存在は地球復興について細かく口出しはされません」
(上位存在はこの件に関しては無関係だというのか? いやそれどころか上位存在は地球そのものに対して関心を
 抱いていないということか?)

 榊はここで思い切って上位存在の正体について尋ねる。

「教えていただきたい。上位存在《総司令官》は、人類が考えてきたような神なのですか?」
「上位存在がいかなる存在か、それをお答えする権限は私にはありません。長門中将から直接お聞きください」

 かくして榊は後日、黒旗軍の大使館の通信回線を使って、戦艦《長門》にいる長門と面談することになる。

497earth:2011/03/06(日) 00:47:59
あとがき
拙作にも関わらず最後まで読んでくださりありがとうございました。
短めですが第25話をお送りしました。
次回、長門・榊会談です。下手をすれば榊さんのSAN値が……。
まぁ長門は朝倉ほど腹黒くないので酷いことにはならないと思いますが。
それではこのあたりで失礼します。

498earth:2011/03/07(月) 21:09:48
第26話が完成したので投稿します。
さてここから話が大きくなります。
風呂敷を畳むことができるか作者も判りません(爆)。
というか本当にマブラヴSSか怪しくなってきた(笑)。

499earth:2011/03/07(月) 21:10:22
 未来人の多元世界見聞録 第26話

 榊総理、そしてアドバイザーとして香月夕呼、その他3名の科学者と共に黒旗軍大使館を訪れた。
 榊を真ん中に5名の出席者が横一列に着席した。出席者達は自分達の前に用意された机に素早くメモ紙や
ノートをおき、一言も聞き逃すまいと気合を入れる。

(さて、黒旗軍が何と答えるか……)

 榊は緊張した面持ちで会談開始の時を待つ。そして予定時間になると同時に立体映像で長門の姿が彼らの
前に投影される。

『お待たせした』
「いえ、こちらこそ無理を言って申し訳ございません」

 最低限の挨拶を交わすと、両者は即座に本題に移った。

「すでにご存知だと思いますが、このたび長門中将に会談を申し入れたのは上位存在《総司令官》について
 のお話をお伺いしたいからです」
『聞いている。上位存在《総司令官》は、人類が考えてきたような神かどうかと問われたと』
「そうです。教えてください、長門中将。上位存在は人類が考えてきたような神なのですか?」

 この質問に対して、長門は熟考した末に答えた。

『……人類の《神》に対する考え方、概念が統一されていない。よって回答は不可能』

 否定も肯定もしない長門の言葉に5人は驚いた。
 だがここで怯む夕呼ではない。彼女は榊に代わって鋭く切り込んだ。

「では、質問を変えさせてください。上位存在は地球人類を創造したのですか?」
『……上位存在が地球人類を創造したという事実は無い』
「なるほど(つまり宗教上の神ではないということね)」

 とりあえず上位存在が、宗教上の神ではないことを確認して誰もがほっとする。

「上位存在はこの宇宙に本体が無いと説明を受けましたが、それではこの宇宙とは別の宇宙に本体が
 あるということですか?」
『……確かに、別の宇宙に本体は存在する』

500earth:2011/03/07(月) 21:10:53
 自身の唱えていた説が正しかったことを確信した夕呼は内心で小躍りしたが、それを敢えて表には
出されず質問を続ける。だがその質問が彼女達のSAN値を激減させることになる。

「別の宇宙にある黒旗軍の本拠に、上位存在の本体がいると理解して宜しいのでしょうか?」
『上位存在の本体がある世界と、黒旗軍の本拠がある世界は異なる』
「?!」

 予期せぬ回答に誰もが混乱する。夕呼はすぐに態勢を整えて再度質問する。

「それは一体、どういう事です?」
『言葉の通り。黒旗軍の本拠がある宇宙と上位存在本体のある宇宙は別のもの。
 より正確に言えば、黒旗軍の本拠のある宇宙は、上位存在の同族が作り上げたものに過ぎない』
「「「「「?!」」」」」

 宇宙を作ったとの言葉に、誰もが言葉を失う。

「う、宇宙を創造したと? 何のために?」
『上位存在とその同族の遊技場』
「遊技場? 遊ぶために宇宙を作ったと?」
『そう。黒旗軍の各種ユニットも本来は上位存在の遊戯のために作られた』

 その気になれば簡単に自分達を絶滅させることができるような戦力が、上位存在からすれば遊具に過ぎないと
いう言葉に誰もが言葉を失う。
 榊は何とか精神を立て直すと質問に加わる。

「黒旗軍の戦力は遊具にするようなものではないように思えますが。それにそれほどの力でどうやって遊ぶのです?」
『戦争』
「せ、戦争ですか?」
『そう。上位存在たちは自分達が作り上げた宇宙で、我々のような存在を生産し、編成し、戦い合わせている』
「「「「「………」」」」」

 あまりのスケールの差に誰もが声を失う。あの夕呼でさえ何も言えない。
 遊戯のために新たに宇宙を作り上げ、そこで人類の想像を遥かに超える兵器で戦争ゲームをしているというのだ。
 長門の言葉でなければ、到底信じることが出来ないだろう。いや今でも信じられないというのが彼らの本音だった。

501earth:2011/03/07(月) 21:11:29
 信じられないと言った表情を見せる5人を見た長門は、自身の言葉が真実であることを証明するために
録画されていた戦闘シーンの一部を表示することにした。 

『これがその証拠』

 長門がそういうと長門の姿が消え、立体映像でこれまでの戦闘シーンが映し出される。
 見たことも無い宇宙船が数光年にわたる戦陣を組み、目が眩むばかりのビームを撃ち合う。
 何も無い空間からいきなり多数の戦闘機(?)が現れ、宇宙船を次々に撃沈していく。
 宇宙船から発射されたミサイルが次々に惑星に吸い込まれるように落下していき、次の瞬間、惑星が粉々になって
消滅する。
 さらに惑星サイズの宇宙要塞が登場し、純白の光線で宇宙艦隊を一瞬でなぎ払う。光線が掠った惑星が瞬く間に
粉砕され、宇宙の塵と化す。

「……こ、これが黒旗軍の戦争ですか」

 震える声で言う榊に、長門は淡々と告げる。

『正確に言えば戦争ゲーム』
「ゲーム……」

 次元が違うとはこのことだった。
 
(彼らは確かに宗教上の神ではない。だが、持っている力は神と言っても過言ではない……)
 
 5人のSAN値は激減していた。正直、人類を作った神様と言ってくれたほうがまだ5人の精神にとっては
良かったかもしれないほどだ。
 何しろ自分達の神なら、慈悲を期待できる。だが目の前の存在は神と同格でありながら、自分達とは全く無関係の
異星人なのだ。彼らの気が変われば慈悲をかけられることもなく、一瞬で殲滅されるだろう。
 だが夕呼は別の心配もしていた。

(宇宙を自在に創造することができるような存在なら、並行世界を簡単に行き来できても不思議じゃない。
 他の上位存在が地球と周辺に展開する黒旗軍に気付いたら、大変なことになる……) 

 遊戯のために星さえ砕く連中だ。イザとなれば人類の事などお構いなしに太陽系で戦いだすだろう。
 そうなれば地球人類は滅亡へ向けてまっしぐらだ。

(人類が生き残る道は一つ。早急に地球を再建して、宇宙進出をして生存圏を拡大するしかない)

 夕呼がそんな考えに至ることを予め知っていた人物が、31世紀世界に居た。

502earth:2011/03/07(月) 21:12:02
 31世紀世界における世界政府たる銀河連邦。北米地区ニューヨークにある連邦本部ビルの一室で
一人の青年が淡々と言う。

「彼女は宇宙進出を強力に推し進めていくでしょう。既定通りに」

 青年の言葉に周囲の机に座っていた老人達、より正確に言えば銀河連邦の高官達は満足げに頷く。 

「ふむ。それは結構なことですな」
「左様。ここで躓かれたら面倒だ」
「修正は容易ではないからな。尤も、万が一の場合への備えはしてあるが」

 老人達の反応を見て青年は続ける。

「既定通り周辺世界への介入は予定通りに進めます。介入者はご覧の通りです」

 青年がそう言うと老人達の前に数名の個人情報が表示される。

「ふ、子供や暇人に世界の命運を託さなければならないとはな」
「ですが、これは決まったことです」
「《決まった》のではない。《決まっていたこと》だよ。そもそも君自身が経験者だろうに」

 青年が苦笑いしつつ頷く。

「……確かに」

 この反応に満足したのか老人は会議の閉会を宣言する。

「まぁ問題が無いなら良い。今回はこれにて終了とする。ご苦労だった、ミスターC」

503earth:2011/03/07(月) 21:14:00
あとがき
というわけで第26話をお送りしました。
拙作ですが最後までお付き合いしていただき、ありがとうございます。
何故、主人公が好き勝手に出来るかという謎解きの一つを今回やりました。
何故、政府高官が寂れたゲームに関わるのか、マブラヴ世界を知っているのか
が明らかになるのは多分、かなり後になると思います。
それでは失礼します。

504earth:2011/03/11(金) 23:47:02
第27話が完成したので投稿します。
短めですが……。
それではどうぞ。

505earth:2011/03/11(金) 23:47:36
 未来人の多元世界見聞録 第27話

 黒旗軍から齎された情報の詳細を聞いた日本帝国首脳部に激震が走った。
 戯れのために宇宙を創造し、奉仕種族を作り、星を砕く……あまりにレベルが違う話に当初は
誰もが嘘だろうと思ったのだが、長門の許可を得て持ち帰った戦闘映像を見て、さらに夕呼が
彼らが嘘を言ってはいないと判断したことが伝えられると誰もが頭を抱えた。

「復興が終えたら、速やかに太陽系から退去をお願いするしかないのでは?」
「だが彼らが簡単に撤退してくれるのか? 下手にこじらせれば、地球はあの砕けた星と同じ
 運命を辿るぞ」
「そもそも復興が終えて人類が独り立ちできるのは何時の話なんだ? 資源も食糧もすべて
 彼らに頼っているんだぞ。損害が少ない我が国でもあと2年は復興に専念しなければならない。
 世界全体が復興するのは何時の日になることか」

 本人達は事が終ればさっさと引き上げるつもりなのだが、そんなことは露も知らない高官たち
はどうすれば戦争に巻き込まれないで済むかで頭を悩ませた。 
 だがどんなに頭を捻っても良いアイデアは浮かばない。
 誰もが言葉を詰まらせる中、榊は決断を下した。

「……黒旗軍との関係をさらに強化する」
「しょ、正気ですか、総理!?」
「そうです。黒旗軍と関係を強化すれば、彼らの戯れに巻き込まれて、我が国の、いえ人類の
 存亡が危機に晒されます!」
「だがこのままではどうにもならないだろう。このまま援助を受けている間に、太陽系が戦場に
 なれば人類は滅亡。復興後に彼らが居座っても同じこと。
 仮に彼らが人類に興味を失って太陽系を去ったとしても、他の上位存在が太陽系に現れれば
 どうなる? 今いる上位存在は人類に対して友好的だが、他の上位存在が同じだと言い切れるか?」
「「「………」」」
「この際、今いる黒旗軍との関係を強化して技術を支援してもらい外宇宙で戦う術を手に入れる。
 いや少なくとも外宇宙に進出して生存圏を拡大できるようにする」

 榊は夕呼と話し合って、外宇宙進出こそ帝国の生き残る道であると判断していた。故に彼は
ここで話を切り出した。

「ですが、黒旗軍が我々を同盟国と、いえ同盟者と見做して技術を支援するでしょうか?」

 黒旗軍の圧倒的な物量、技術力からすれば人類の助力など、何の助けにもならないだろうし、わざわざ
技術を支援するほうが手間になると感じるのではないか……誰もがそう思った。

506earth:2011/03/11(金) 23:48:06
「彼らは人類の文明を興味深い存在といった。上位存在にとって脅威にならない程度で文明が発達する
 のは不快ではないだろう。むしろ興味深いと判断するはずだ」
「「「………」」」
 
 かくして帝国はさらなる黒旗軍との関係強化を図る道をとることになる。

「しかしそうなると、黒旗軍が宗教家が考えていたような神ではないと公表するのはやめたほうが
 良いですな」

 この意見に榊は同意する。

「そうだな。彼らが神と考えてもらったほうが宇宙進出もしやすい。宗教的な熱狂、宇宙開発に伴う
 新たな経済利権が重なれば、多少の慎重意見は吹き飛ぶ」

 だが黒旗軍の神格化を止めなかったために、アメリカ合衆国を含むキリスト教圏では黒旗軍を祀り
上げる動きが加速していく。
 加えて一部の宗教家の中には、この宇宙さえも上位存在の同族が作り上げたものであると考える
者が出始めた。
 
「宇宙を生み出し、さらに人類を生み出した神は、我らへの試練のためにBETAをこの星に
 遣わした。これによって我々人類は多大な被害を被った。だがその被害は決してムダではなかった。
 神は我らの努力をご覧になられ、救済のため、新たな時代の始まりを告げるため使徒を遣わされたのだ!」

 アメリカでは黒旗軍、いや正確に言えば超越者たる上位存在の使徒が降臨された年こそが新たな  
時代の始まりであると考える者が増えていった。
 彼らは西暦を終え、新たな暦を始めるときが来たと主張した。そして政府内部にまで入り込んだ
キリスト教恭順派がこれに呼応する。
 かくしてアメリカでは黒旗軍の第二拠点があるフロリダを標準時とした新たな暦《黒旗暦》が
制定されることになる。
 勿論、そのことを知ったアンドロイド2名は唖然とすることになる。

「……人類って信じられないことをするわね」
「ユニーク」

507earth:2011/03/11(金) 23:48:41
 マブラヴ世界がそんなカオスなことになっていることを知る由も無い耕平は、バイトを終えて
帰宅の途についていた。

「ふ〜何かバイトが速く終ったな……まぁ良いか。さっさと戻ってゲームの続きをするか」

 あ〜疲れたと言いつつ、帰路につく耕平。その耕平を眺める存在がいた。 

「既定事項どおりか。まぁ彼が自由意志で行動しているということだけが救いだな」

 必要最低限のものしか置かれていないオフィスの一室で、連邦高官からミスターCと呼ばれた青年は
椅子に座ったまま、壁のモニターに映されている耕平の姿を見ていた。
 その様子を彼の傍に立っていた髪の長いスーツ姿の美女が面白そうに笑う。
 
「ふふふ」
「何がおかしい?」
「いえ。別に。彼を哀れんでいるなら、真相を教えてあげればいいのに」
「無理だな。それは既定どおりではない。そんなことをすれば、上の連中が血相を変えてくる」
「そうね。あの爺連中だけなら楽勝なんだけど」
「物騒なことを言うな。我々の活動には彼らの協力が必要不可欠だぞ」

 部下(?)の物騒な物言いに苦言を呈するミスターC。

「勿論、判っていますよ」
(本当にわかっているのか?)
 
 突っ込みたかったが、突っ込んでも無意味だと判断したのか、ミスターCは黙った。

「まぁ良い。《彼女》は?」
「きちんと仕事をしています。シナリオは順調に進行中。誤差はすべて許容範囲内とのことです」
「……すべては定められたシナリオ通りか。嫌になってくる」
「ですがそのシナリオがあるからこそ、貴方が存在していられるのでは?」
「ふん。誰かの書いたシナリオどおりと言うのは面白くないさ」
「シナリオ通りに踊るのも才能のひとつなのでは? 案外、難しいと思いますよ、定められた振り付け
 どおりに踊るというのは」
「……」
「それに、どうせやるなら楽しまなきゃ損ですよ?」
「相変わらず減らず口だな」
「そう設定したのは、貴方自身でしょうに」

 そんなやり取りがされているなど露も知らない耕平は、家に帰ってから即座にゲームにログインする。
 自分がいなかったうちにカオスとなったマブラヴ世界のことなど知りもせず。

508earth:2011/03/11(金) 23:53:46
あとがき
拙作ですが最後まで読んでくださりありがとうございました。
マブラヴ世界の動き、そしてミスターCの動きでした。
一応、ミスターCは物語のキーマンなので。
次回、耕平のSAN値が激減するかも。
あとは異星人の船についての調査結果も明らかになる予定です。
あとはマブラヴキャラの個々人のエピソードを書けたら良いなと思って
いますが……難しいか?
あと感想スレに未来人の多元世界見聞録のSSが投稿されていたので
提督たちの憂鬱のように支援SSスレを立てるべか……悩みます。
それではこのあたりで失礼します。

509名無しさん:2011/03/12(土) 09:21:24
アメリカの暴走が止まらない。

510名無しさん:2011/03/12(土) 09:22:02
と、すいません、書き込み場所間違えました。謝罪します。

511名無しさん:2011/04/13(水) 09:22:03
1000行ったスレが二つになったので整理目的でage

512名無しさん:2011/04/18(月) 18:24:39
つづきはまだかいの

513earth:2011/04/18(月) 18:26:33
すいません。現在、こちらは止まっておりまして(汗)。
何とか5月中には新しい話を投下できるかと……。

514名無しさん:2011/05/07(土) 18:06:54
リアルを優先しないと創作も上手くいかないモンなのでは?
気が向いたら投下して下され

515名無しさん:2011/05/26(木) 23:30:34
おーい

516名無しさん:2011/05/31(火) 15:22:18
5月最終日wktk

517名無しさん:2011/05/31(火) 15:42:23
>>見聞録についてですが、改訂する可能性がでてきました。
>>改訂前のプロットでも書けないことはないのですが、ストーリーが
>>息抜きですまなくなるレベルになりそうなので。

覚悟してwktkするんだよ>>516

518earth:2011/05/31(火) 20:46:29
改訂版1話をアップします。


 未来人の多元世界見聞録 第1話

 誰もが一度は経験したことのある歴史の授業。興味がない人間にとっては眠気との戦いとなるその時間で
一人の少年が先生の授業を興味深く聞いていた。
 少年の名は桜坂耕平。このたびめでたく志望した高校に入学した高校一年生だ。しかしその彼にはある
秘密があった。

(まさか、生まれ変わったら1000年以上も経っていたなんて、まるで浦島太郎だな)
 
 彼は前世の記憶があったのだ。彼が死んだのは西暦2010年の日本。死因は交通事故であった。

(この世界で覚醒したときには混乱したけど、いまじゃすっかり馴染んじまったな。まぁ馴染まないと
 生活できなかったからな)
 
 彼がこの世界で覚醒したのは3歳のときだ。当初はあまりの状況に混乱したが、今では何とか普通に
生活している。
 当初は昔の家族のことを思い出すこともあったが、今では完全に割り切って、今の家族を大切に思っていた。

(それにしても、まるでSFだよな。まぁ俺の存在が一番、SFみたいだけど。いやむしろオカルトか?)

 22世紀中盤に開発された超光速航行技術、21世紀のSF風に言えばワープ航法によって人類の生存圏は
拡大した。止まることのない人口の増加、そして資源の枯渇という問題に頭を悩ませていた人類はあらたな
フロンティアを求めて太陽系の外、銀河系のあちこちに進出していった。
 そして彼が今、生活しているのは地球から3000年光年離れた植民地惑星アルカディアだ。
 大航海時代の初期に日米主導の下で開発された殖民惑星であり、現在は周辺宙域の経済の中心地として機能している。
 1000年前だったら、妄想として切り捨てられるような状況が、現実として目の前に存在している。それを思うと
少年は苦笑せざるを得なかった。

519earth:2011/05/31(火) 20:47:05
(前世で長生きはできなかったけど、こういう人生というのも貴重だな。せいぜい、今を楽しむとしよう)

 そんなことを考えていると、授業が終る。
 その日の授業は歴史の授業で終わりであったので、生徒の誰もが帰り支度をする。そんな中、友人達が話しかけてきた。

「コーはこの連休、どっかいくのか?」
「特に予定はないな……お前らは?」
「家族と一緒に異世界旅行さ。この前、親父が新しく次元航行船を買って張り切っているんだ」
「へ〜、それって敷島重工の新型?」
「そうそう。親父の奴、奮発して買っちゃったんだ」

 ワープ航法が開発されてから800年余りがたち、人類の生存圏は銀河系から他銀河、さらには並行世界にまで
広がりつつあった。そして今では個人で異世界へ旅行することさえできるようになっていた。

「アグレッシブだな」
「まぁな。お前も少しは外に出たらどうだよ」
「俺の趣味はわかっているだろう?」
「はいはい、お前もすき物だよな。あんなやたら金の掛かる上に、マニア向けのゲームをするなんて。
 おまけにパソコンをあんなレトロな形にするなんて」
「うるせーよ」

 そういうと、耕平は教室を後にした。

520earth:2011/05/31(火) 20:47:43
 家に戻るや否や、耕平は自分の部屋に戻りPCを起動させる。だが何故か彼のPCは21世紀初期のPCそっくり
だった。

「やっぱりPCはこうじゃないと」

 昔の記憶のせいか、どうもこの時代のPCが好きになれない耕平はPCを自作して、昔つかっていたPCと同じ
形をしたものを作ったのだ。尤もその性能は段違いであったが。
 鼻歌をうたいながら、彼は最近嵌っているゲームを起動させる。同時にゴーグルのようなものを被り、さらに
水晶のような形をした機器に手をかざす。
 
「さてさて、急いで宇宙艦隊を編成しないと」

 ゲームの名は『汎次元大戦』。もともとは10年前にでた『汎銀河大戦』と呼ばれるゲームの拡張版だ。
 ゲーム内容はいたってシンプルだ。プレイヤーは与えられた物資と資金をもちいて惑星を開拓し、工場を建設する。
そして工場で宇宙戦艦を建造して宇宙艦隊を編成。そのあと対戦相手のプレイヤーの根拠地を攻め落とすというものだ。
 ただしこのゲームは仮想空間で戦うのではなく、ゲーム会社が構築した並行世界の人工の宇宙空間で実際に宇宙艦隊を
PCから操作して戦い合わせるのだ。実に豪勢なゲームと言える。
 無論、豪勢な分、ゲーム会社に支払う金も高い。しかしその自由度の高さから10年たった今でもこのゲームに参加
する人間は少なくない。
 そして耕平はそんなゲームプレイヤーの一人だった。そして彼はそのプレイヤーの中では懐古主義者として
有名であった。
 何しろ彼は自前の宇宙艦隊を20世紀から21世紀のアニメや漫画、小説に出てきた兵器で編成していたからだ。
他のプレイヤーはあまりのセンスの古さに、桜坂が本当に高1なのか疑っている。
 しかしそんな疑惑の視線や声にめげるほど、彼はへタレではなく、今日も今日とてお気に入りの兵器を量産して
宇宙に浮かべては悦に浸っていた。

(これぞ未来世界の醍醐味だよな〜。ふふふ、色々とアルバイトした甲斐もある)

 ゲーム代金が高いために、彼はアルバイトをして小遣いを稼いでいた。
 自分が遊ぶ金を親にせびるほど、彼の性根は腐っていないのだ。

521earth:2011/05/31(火) 20:48:19
 彼が今勤しんでいるのが、宇宙戦艦ヤマトに出てきた地球防衛艦隊の再現だった。
 現在、戦艦ヤマト、アンドロメダ級戦艦2隻、主力戦艦36隻、巡洋艦81隻が就航してプレイヤーの根拠地
惑星上空に遊弋している。
 宇宙艦隊総旗艦・アンドロメダの艦橋のメインモニターには、堂々たる宇宙艦隊が映し出されている。
 この光景をみた一人の老人がニヤリと笑いながら言う。

「ああ、やっぱりアンドロメダ級は良い。それに主力戦艦も。ヤマトもいいけど、やっぱり量産型戦艦って
 いうのは軍オタの浪漫だよな〜」

 この老人、いや老人に見えるアンドロイドは、この人工的に構築された世界における耕平の代理人であった。
 このゲームではプレイヤーは総司令官として用意されたアンドロイドと五感をある程度リンクさせる
ことができる。このためこのゲームではまるで自分がその場にいるような臨場感を味わうことが出来るのだ。
 勿論、老人のモデルは土方艦長だ。アンドロメダに乗るのはこの人物以外にない。
 ちなみにヤマトならば沖田艦長、バーミンガムに乗るときは、ワイアット大将と、乗る船によって彼は
アンドロイドの外見を変えている。マニアなりのこだわりと言えよう。

「この時期、わざわざ第6世界にまで侵攻してくる物好きがいるとはいるとは思えないけど、報告は聞いておくか」

 悦に浸っていた耕平だったが、最低限の報告は受けておいたほうが良いと思い、青コート風の軍服を着た参謀に尋ねる。 

「各世界に繋がる次元回廊に敵影は?」
「ありません」
「そうか……まぁそんなものだろうな」

 この『汎次元大戦』は合計8つの人工宇宙のフィールドから構成されている。そして各フィールドはゲーム会社が
設定した次元回廊で接続されている。そして耕平が本拠を構えているのは第6世界と呼称されるフィールドだ。
 ちなみに回廊の存在はプレイヤー自身が見つけなければならない。さらに回廊を航行するには次元航行装置と呼ばれる
アイテムが必要だった。

「最近は新しい回廊も発見されていないし、第1〜第3世界の上級者連中も殴り合いで忙しいだろうから
 わざわざ他世界にまで来ないだろし……まぁ平和なことはいいことだよ。安心して艦隊整備に取り組める」

522earth:2011/05/31(火) 20:48:53
 そう言いつつも耕平は別の回廊が無いかを探らせるために索敵艦隊を放つ。
 知らない回廊から、いきなり奇襲を受けては溜まらないからだ。尤も索敵艦隊を放つとすぐに耕平は艦隊の整備に
取り掛かる。

「ぐふふ。次は戦闘空母だな。ヤマト2で沈んだ伊勢型とゲーム版のアングルデッキタイプの奴を……」

 色々と妄想に浸る耕平。だがその妄想は新たな回廊を発見したとの報告によって中断されることになる。

「どこの世界との回廊だ?」

 不機嫌そうに尋ねる耕平だが、アンドロイドの男性型参謀は意に介さず答える。

「第8世界です」
「第8世界? あの大戦で壊滅した?」

 ゲーム全盛期において起きた第三次汎次元戦争。8つの世界すべてが戦場と化したゲーム史上最大の大戦で
第8世界は壊滅的損害を受けた。あまりの被害によって世界そのものが崩壊寸前となった。公式では再建された
ことになっていたが、これまで発見された第8世界に通じる回廊が狭い上に、状態がよくないためにわざわざ
第8世界に行こうとするプレイヤーはいなかった。
 ゲーム会社も状態が良い第1〜7世界の再整備に力を入れたため、第8世界は半ば忘れられた。勿論、より
状態が良い回廊の探索は行われていたが……。

「状態は?」
「艦隊クラスが通れるサイズです」
「……周辺宙域は封鎖するように。機動要塞を配備。カモフラージュも忘れないように」

 いくら穏便なプレイヤーが多い第6世界とは言え、第8世界と繋がる安定した回廊が発見されたとなれば
戦争の火種になる可能性がある。情報は隠匿する必要があった。

「さて、どんな世界になっていることやら」

 耕平はすぐに追加の索敵艦隊を派遣する。するとそこが天の川銀河と似たような、いやほぼ同じ銀河が
あることが判った。

「だとしたら太陽系や地球があるかもな」

 耕平はそう思って艦隊を差し向ける。だが彼はこのあと、予期せぬものを見ることになる。 
 
「……嘘。何で、あんなものが、ゲーム世界にあるんだ?」
 
 アンドロメダのメインモニターに映る映像を見て耕平は呆然となっていた。
 索敵艦隊が発見した太陽系と似たような恒星系。そこの第4惑星、火星に良く似た惑星の表面に耕平がかつて
1000年前の世界で見たことのある人工物が聳え立っていたからだ。

「何故ハイヴがある?」

 かつて前世でプレイしたことのあるゲーム。あいとゆうきのおとぎばなし……マブラヴ。
 そのゲーム世界に存在した敵、BETAの巣窟ハイヴ。それがメインモニターに映し出されていた。

523earth:2011/05/31(火) 20:52:27
あとがき
改訂版をお送りしました。
改訂前とは色々と変わってくると思います。
改訂前のは息抜きでかけるようなものではなくなること、あと今後のプロットを
見直していると最強系からかけ離れすぎるのではないかと考えたからです。
不評なようでしたら、見聞録については全削除を行いたいと思います。

524名無しさん:2011/06/01(水) 20:05:33
個人的な感想を申し上げさせていただければ、もとより無双最強系として読んでいたわけではありませんし
改定後の展開を楽しみにさせて頂きたく思います。

525名無しさん:2011/06/04(土) 01:07:35
改定前のは息抜きで書けるようなものではなくなる、と聞くとどんなシリアスな展開が待っていたのかと気になってしまいますねwww

526earth:2011/06/04(土) 22:31:48
改訂版第二話投下します。

   未来人の多元世界見聞録 第2話


 火星でハイヴを発見した耕平は即座に地球に艦隊を急行させた。そして彼は再び驚愕することになる。

「……まんまマブラヴ世界じゃないですか」

 アンドロメダの艦橋で耕平(というか土方艦長)は目を丸くした。

「通信傍受によれば1998年。朝鮮半島から叩き出されているし……ゲームそのままか」

 遥か昔の記憶を所々思い出しながら、耕平は考えた。何故、第8世界にマブラヴ世界、もしくはそれに似た
世界があるかを。

「何かのイベント、ってことはないな。告知メールもないし。かといってあの世界が第8世界であることには
 間違いない。一応、座標は間違ってはいないんだから……だとすると、アレはなんだ?」

 暫く逡巡した後、耕平はとりあえずゲーム会社に異常としてメールを出すことにした。

「まぁ触らぬ神にたたりなし。ゲーム会社が何とかするだろう……まぁその結果、消去されたらご愁傷様だけど」

 耕平はあっさりマブラブ世界を無視することにした。 
 前世ではそれなりに楽しんだゲームだったが、そのゲーム世界に乱入するほど彼は酔狂ではなかった。

「連休明けには、学力テストがある。あんまり長々と遊んで、いや介入していたら勉強時間が削られて成績が下がる……」

 切実な問題だった。
 いくらマブラヴ世界の人間からすれば、神に等しい力を持っている耕平とは言え、リアルでは一学生に過ぎない。
 そして学生の本分は勉強なのだ。

「BETAのことも言っておこう。ゲーム会社が一掃してくれれば、資源探索もしやすい。
 連休明け後のテストのあとにくれば、第8世界の資源地帯を独占してウハウハ(死語)だな」
 
 だが帰ってきた答えは耕平にとっては信じがたいものであった。

527earth:2011/06/04(土) 22:32:27
 翌日、メールを確認した耕平は目を丸くした。

「つまり、あの世界の人類は大戦前にプレイヤーが作った箱庭世界の成れの果てってこと?
 それがマブラブ世界になると? どれだけ偶然が重なればそうなるんだよ……」
 
 アンドロメダの艦橋で耕平はため息をついた。
 何故ならゲーム会社は、マブラヴ人類は第8世界が一度壊滅する前にプレイヤーが創造したものではないかと通告してきた
からだ。実際、このゲームではアイテムを購入すれば独自に文明を創造することも不可能ではない。
 しかしどれだけの偶然が重なればマブラブと同じ世界になるのか、耕平には理解できなかった。耕平のような前世記憶もち
か、よほどの物好きが頻繁に介入しない限り、あのような世界が出来る可能性は極めて低かった。 
 
「おまけにBETAも野生の害獣(モンスター)扱いで手は出さないっていうし。本当に調査したのかよ」

 しかし文句を言っても仕方が無い。ゲーム会社は事実上、第8世界の異常を認めないのだ。 

「……さて、どうしたものか」

 ゲーム世界の時間は進行している。このまま何もしなければ本編どおりの展開となる。つまりBETAによる日本本土
への侵攻だ。

「横浜にG弾が落とされたらループ現象が起こりかねない。まぁそのときはゲーム会社が対処するだろうけど
 ゲームが一時的に遊べなくなる可能性がある。それはそれで面白くない。それに……」

 暫く黙った後、耕平は薄く笑う。 

「わざわざ決まりきったシナリオを見せられるのは面白くない。どうせなら、思いっきり引っ掻き回してみて
 どんな変化が起こるか見るのも一興だ。何しろゲーム会社は不干渉だからやりたい放題だ」 

 当の人類が聞けば卒倒しそうなことを呟くと、耕平は軍需工廠の管理AIに幾つかの兵器の改良とその生産を命じた。 
 同時に第8世界に前線拠点を建設する。第8世界で長期間活動するためには拠点が必要不可欠だった。

「俺は極力無駄なことをしない主義でね。一気に勝負を決めさせてもらう」

528earth:2011/06/04(土) 22:33:05
 西暦1998年7月に耕平は動いた。
 戦艦アンドロメダ、主力戦艦3隻、巡洋艦6隻、駆逐艦12隻、戦闘空母1隻を中心とした打撃部隊が
地球からやや離れた位置に展開していた。地球環境を考えなければ、これらの艦隊だけで地球にあるハイブを
すべて潰すことが出来る破壊力を持っていた。
 しかしながら今回の作戦では、これらの艦隊は脇役。真打の護衛にしか過ぎなかった。

「宇宙艦隊と戦えるBETAなんて出てきたら厄介だと思って、護衛艦隊を連れてきたが、杞憂だったか」

 耕平は周辺に敵影なしとの報告をオペレータ(アンドロイド)から聞いて安堵の息をつく。

「さて、敵がいないのなら、さっさと始めるとするか」

 そういうと、彼は横を見た。そこには何とデスラー艦(二代目)があった。
 
「作戦開始」
 
 彼がそう命じるや否や、デスラー艦は艦首に装備している瞬間物質位相装置を作動させ、デスラー艦の
前方に布陣していた物体群を次々にワープさせる。

「『この一撃が世界を変える』とでも言えば良いか? いやそれには風情がないか」

 だが彼が行おうとする攻撃は、まさに世界を変えるものであった。
 位相装置によって地球の衛星軌道周辺にとばされた彼らは、事前に組まれたプログラムどおりに目標に向けて
突き進んだ。 
 これに慌てたのは、BETAではなく、地球人類であった。何しろ対宙監視システムには直前まで何も不審な
物体は映っていなかったのだ。
 世界各国は突然現れた物体に大混乱に陥った。あわてて迎撃しようとするもそれらの物体はその巨体に似つかぬ
高速で地球に落下していくので、迎撃が間に合わなかった。

「また新たなハイヴが築かれるのか」

 誰もが悲惨な結末を思い浮かべて悲観にくれた。特に京都防衛戦の最中だった日本帝国では焦燥感と悲壮感が
強かった。
 しかしその落下ポイントが、ユーラシア大陸各地にあるハイヴであることが算出されると、それは戸惑いに
変わった。

「何が起こっている?」

529earth:2011/06/04(土) 22:33:38
 人類に続いてBETA側もハイヴに落下してくる物体に気付いたのか、重光線級、光線級が迎撃に出る。
人類から空を奪った光線属種がハイヴを未知なる災害から守るべく、大量のレーザーを物体に浴びせる。
だがそれらはレーザーをすべて弾いて尚も落下を続ける。
 あ号標的と呼ばれるソレは、未知なる災害としてさらに多くの光線属種を迎撃に向かわせた。
 しかしそれでも尚、彼らは落ちない。すでに弩級戦艦でさえ蒸発させることができるほどのレーザーを浴びせ
ているにも関わらず、それらは落下を止めない。
 その様子を見て桜坂はニヤリと笑う。
 
「それにレーザーは効かないよ」

 物体の正体、それはヤマト第1期で出てきたガミラスの超大型ミサイルだ。
 かつてヤマトを地上で撃破しようとして、ガミラスが冥王星から発射したそれは、ハイブに向かって落下を
続けていた。しかしさしもの超大型ミサイルでもレーザーの集中攻撃を受ければ撃破されるのは確実。
 このために桜坂は反則ともいうべき改造を行ったのだ。

「そのミサイル表面は空間磁力メッキをした装甲で覆った。波動砲でさえ弾けるものを、たかがレーザーで
 抜けると思うなよ」

 空間磁力メッキ。あまりの反則振りに原作では無きものにされた対レーザー防御兵器だ。
 ヤマトの決戦兵器である波動砲さえ無力化してしまうのだから、いかにチートな存在かがよく判る。
 
「さて、第二段階の用意だ」

 そういうと、彼は先の超大型ミサイルとは違って、スマートな形の物体をデスラー艦の前に並べる。
 それらこそがハイブ攻略の切り札とも言うべきものだった。

「地表部分や深度の浅い領域のBETAを、超大型ミサイルで潰す。そしてこれで反応炉や大深度の
 生き残りを潰す。うん、まるで無駄がない作戦だな」

 そう言って自画自賛すると、彼は艦橋のメインモニターに視線を向ける。

「さて、もうそろそろ着弾の時間だな」

530earth:2011/06/04(土) 22:34:23
 BETAの必死の抵抗も空しく、1998年7月の時点でユーラシア各地に点在するハイブに次々に
超大型ミサイルが命中していった。
 直撃さえすれば、あのヤマトでさえ沈めうる力を持ったミサイルの破壊力に無傷で耐えうる耐久力をもった
ハイヴなど存在するはずがなかった。
 一瞬のうちに、地上のモニュメントは崩壊。さらに地表部分や浅い深度にいたBETAたちは纏めて根こそぎ
蒸発していった。かのオリジナルハイヴには念のために3発もの超大型ミサイルが撃ちこまれ、巨大なクレーター
が空くことになった。
 それは第5計画を発動しない限り、この世界の人類ではなしえない大戦果であった。
 しかしそれで終わりではなかった。
 地上やその近くにいたレーザー種が消滅したために、BETAの鉄壁とも言えた対空防衛網に大穴が開いた
状況を桜坂が見逃すはずが無かった。
 彼はBETAが体制を立て直す前に、とどめの一撃を放ったのだ。

「7gfaga0u0gahugfthaogtiaht8953045930dfagaagaga」

 自身がいるハイヴどころか、この星中に置いたすべてのハイヴのユニットが甚大な被害を受けたことを理解した
あ号は、作業を再開するために何をしたらよいのかを検討した。 
 そこには動揺も恐怖もない。彼にそんな感情はなかったのだ。
 だがその演算の最中、さらなる異変が彼(?)を襲った。
 
「gaite;taei853969e0wurao?!」

 突然壁を突き破って現れたもの。人がみたら間違いなくいうだろう「ドリル」と。
 しかしそんな表現方法を知らないあ号は速やかにそれを排除しようとする。だがそれが適うことはなかった。
 あ号が動き出した直後、それは内部に溜め込まれていた波動エネルギーを解放した。 
 慌てて防御しようとするあ号であったが、波動砲の50分の1程度のエネルギーを前にそれは徒労であった。
 50分の1、たかが50分の1かも知れないが、戦艦級の波動砲はその一撃でオーストラリア大陸を消滅させ
る威力をもつのだ。それを間近で受けて耐えられるわけがなかった。
 かくしてあ号は消滅。さらに反応炉もまとめて吹き飛んだ。 
 この光景は地球上にある全てのハイヴでも起こっていた。

531earth:2011/06/04(土) 22:34:56
「作戦は成功だな」

 すべてのハイヴと反応炉が消滅したことを確認した、耕平は満足げに頷いた。
 彼が最後のトドメとして放ったのは、ドリルミサイルだ。かつてヤマトの波動砲を潰し、ヤマトを撃沈寸前に
追いやった兵器を、彼はハイヴを潰すためのバンカーバスターに使ったのだ。
 この兵器は惑星内部に打ち込むこともできるので、この用途はもってこいと言えた。
 さらに確実にハイヴの奥深くにある反応炉を潰すために、ドリルミサイルには波動エネルギーを溜め込ませて
いた。このため各地のハイヴは超小型の波動砲の直撃を受けたような状態となったのだ。
 いくら頑丈さがとりえのハイヴとは言え、恒星間戦争で扱われるような大破壊兵器の直撃に耐える力がある
わけがなかった。
 
「すべてのハイヴは潰えた以上、オルタ4もオルタ5も中止。
 それに横浜が落ちていないし、G弾もおちていないから、あの武が来ることもない。さて、このあとこの
 世界がどうなるかが見物だな」

 そういって笑いながら、彼は艦隊を引き上げさせた。
 全てのハイヴが消滅した後、日本本土に上陸していたBETAは帰る場所も、エネルギー源も失い弱体化。
日本帝国の必死の押し返しもあり、京都防衛戦は日本の勝利で終った。
 そして京都防衛戦での勝利を皮切りに人類は残っているBETAの掃討を開始。1998年9月には地球上に
残っていたBETAを駆逐することに成功する。
 だが、この世界の人類は何者が、どのようにハイヴを全て消滅させたのか知る由も無かった。
 このため、不審物体が発見されて全てのハイヴが消滅するまでの8分間のことを、人類史上最大の謎として扱う
ことになる。

532earth:2011/06/04(土) 22:36:33
あとがき
というわけで第二話でした。
彩峰中将には史実どおり退場していただきました。
第三話もできるだけ早めに投下したいと思います。

533earth:2011/06/05(日) 10:59:38
短めですが、第3話ができたので投下します。


  未来人の多元世界見聞録第3話

 地球のハイヴを8分で始末した耕平は、ステルス性能に優れた潜空艦(ステルス艦)を配備した後、火星攻略の準備を
進めた。ただ潰すのであれば宙対地爆撃をしかければ良いが、BETAから情報を読み取るためには反応炉ごと潰す
わけにはいかない。耕平はハイヴを確保するために突入部隊を用意する必要があった。

「マーズゼロから情報を引き出して、珪素生命体か、BETAの本拠地の情報を割り出せれば探索効率が上がる」

 耕平はこの際、珪素生命体やBETAの本星を探り出そうと考えていた。
 
「第8世界の資源地帯を荒らされたら面倒だし、何より珪素生命体やBETAの本星には興味もあるからな」
 
 彼にとって第8世界は宇宙艦隊整備のための資源が眠るフロンティアだった。ここを荒らすBETAは害獣でしか
なかった。そしてその害獣を駆除するのは親玉を叩くか説得するというのが最も手っ取り早かった。

「『しゅんらん』、それに新型の戦闘空母も早めに建造したいからな。
 あとは永遠編の無人艦と完結編の戦艦、巡洋艦の整備を進めないと……ふっふっふ。ディンギルにボコボコにされた
 けど結構好きなんだよな。いや、ここは空母群の整備をもっと進めるべきか? 
 何しろ原作では空母の出番があまり無かったからな」

 原作のヤマト世界では地球防衛軍の空母というのは活躍の機会が少なかった。
 彗星帝国との戦いでは活躍の機会があったものの、他の作品では出番がなかった。これはかの世界で地球が
受けた人的被害が影響していると耕平は考えていた。まぁシナリオの都合と言う点もあるだろうが……。 

「あれだけ短期間の間に侵略者にボコボコにされたら、いくら人的資源があってもすぐに枯渇するよ」
 
 ガミラス艦隊によって地球防衛艦隊は一度壊滅。さらに地表には雨霰と遊星爆弾が降り注ぎ、100億以上の
人口を誇ったはずの人類は瞬く間に激減した。そんな状況で防衛軍、とくに宇宙艦隊を再建するとなれば人的資源が
苦しくなる。
 さらに言えば短期間で何度も強大な侵略者を敵に回した結果、防衛艦隊は戦役のごとに壊滅的打撃を受けている。
これでは箱物である軍艦を建造しても、それを操る将兵(作中では宇宙戦士)が絶望的に足りないのは間違いない。
そんな状況ではマンパワーを必要とする空母の整備など難しいだろう。むしろ毎回やられるのに短期間であれだけの
艦隊を復活させられるほうがどうかしている。 

「だがこの世界は違う。そんな制約はない。ふっふっふ。最強の空母機動部隊を整備してやるぜ……工廠を建設
 するたびに金が取られるのは痛いけど」

 銀行口座の残高を思い浮かべて、少し遠い目をする耕平。

「インターフェース作成もあるし、金がかかるね……」

534earth:2011/06/05(日) 11:00:10
 世の中、どんなにきれいごとを言っても、やはり金が物を言った。
 空母部隊の創設を進めると同時に耕平はBETAとのコミュニケーションを図るためのインターフェース作成に
取り掛かっていた。
 必要な情報を入手するためには重頭脳級と接触する必要があり、そのためには曲がりなりにも自家製00ユニット(?)を
作る必要があったからだ。
 このゲームではESP戦闘もあるため、作れないことはないのだが、強力なESPを持つアンドロイドの作成には
工廠をカスタマイズする必要があった。勿論、有料だ。

「先生がやっていたAL4を俺がすることになるか。やれやれ当人が知ったらどう思うことやら。尤もこっちが
 つくるのは原作00ユニットなんて目じゃないレベルだけど」

 耕平はマニアらしくやるとなったら、どこまでも金をかけるタイプだ。
 ちなみに彼が作ろうとしているのは強力なESP能力を持つアンドロイドであるが、1人あたりに必要なコストは
駆逐艦1隻とほぼ同等という化物じみたものだった。
 
「00ユニットを超えるリーディング能力とハッキング能力、さらに直接戦闘でも戦術機を瞬殺できる強力な超能力を付与する。
 その気になれば宇宙空間での戦闘も出来る。ふふふ、これならAL3で作られた連中だって圧倒できる!」

 どう考えてもオーバーキルなのだが、そんなことは気にも止めない耕平であった。
 
「しかし問題は外見だな。超能力ならやっぱり絶チルとかロックとかが良いんだろうけど、アンドロイドで 
 インターフェースとなると……あの連中かな」

 彼が想像したのは勿論、情報統合思念体に作られたインターフェースたちだ。

「原作並みの能力こそはないが、それでも十分すぎる能力はある。問題は無いだろう」

 かくして地球人類の目からすれば化物じみたアンドロイドが作成されることになる。

535earth:2011/06/05(日) 11:00:48
 火星攻略戦の準備を進める傍ら、彼は地球の様子を確認することも忘れない。
 
「何か面白いことでも起きたか?」

 若干の期待をかけつつ、耕平はアンドロメダの艦長席の端末に情報を表示させる。
 だがBETA大戦が終結した地球で起こった出来事は、その大半が彼の予想を大きく超えるものではなかった。
 
「まぁこれまでBETAという圧力で押さえ込まれていたものが吹き出すのは当然か」

 BETAという強力な外敵がいたことで、人類は仮初ではあるが。曲がりなりにもある程度は団結していた。 
 しかしその外敵が突然いなくなったことで団結は脆くも崩れ去った。
 まずは民族、宗教問題が吹き出した。これに加えて更地になったユーラシアの復興を巡って各国が対立する。
さらに中華民国と中華人民共和国は、正統政府の地位を争い、これが米ソ対立にも絡んで東アジアの復興計画は
停滞していた。
 国土の半分ちかくを焦土にされた日本は、大幅な軍縮によって復興費用を捻出しようとする政府と軍が対立。
 アフリカでは欧州系資本が引き上げたことで経済成長が止まり、さらに民族問題を端を発した紛争が起き始めていた。  
 そしてこれまで世界を支えていた超大国アメリカでは、これ以上他所の国や難民のために国力を費やすべきではないという
世論が台頭した。繁栄を謳歌しているとされる超大国アメリカだって限度と言うものがあった。 
 米政府の中でも色々と意見が分かれているが、現状は外国への影響力確保のために、積極的に介入を進める一派が優位に
立っている。そんな彼らでも莫大な費用が掛かるユーラシアの本格的な復興の支援には及び腰だったが……。

「……それにしても、あの世界、復興できるのか?」

 根本的疑問が浮かぶ耕平。何しろユーラシアはBETAによって大きく地形が変えられている。このために気象は
激変している。さらに放射能と重金属の汚染も酷い。さらに鉱物資源はBETAによって多くが奪われている。 

「……正直、AL5、いやバビロン作戦も間違っているとは言えないよな〜ユーラシアの本格復興なんて夢物語に等しいし。
 まぁそれでもBETAを駆逐できたユーラシア各国は復興しようと考えるだろうから、米国はたかられるな」

 超大国ゆえに、色んな国から復興費用をたかられる可能性が高い米国に、リアルで金に苦労している耕平は思わず同情してしまう。 

「南無〜」

 アメリカに対して色々と同情しつつ、耕平は何とか火星攻略の準備を終らせた。
 何しろ連休明けには学力テストがあるため、長々とゲームができないのだ。テストの点が悪ければ親に大目玉をくらう。

「というわけで、さくっと片付けよう」

 耕平は第8世界に建造した前線基地(ルナ2もどき)から艦隊を出撃させる。
 総旗艦アンドロメダ、アンドロメダ級2番艦『ネメシス』、主力戦艦4隻、巡洋艦12隻、駆逐艦24隻、戦闘空母2隻
デスラー艦2隻、さらに輸送艦やハイヴ攻略部隊を乗せた輸送船団を含む大部隊が整然と陣形を組んで火星に向かう。
 火星のBETAにとって災厄の時が訪れようとしていた。

536earth:2011/06/05(日) 11:03:07
あとがき
というわけで改訂前ではあっさり潰された火星のマーズゼロ攻略戦です。
アンドロメダの主砲が火を噴く予定です。改訂前だと出番がなかったですが
このたびは相応に派手にやってもらおうと思っています。
それでは失礼します。

537earth:2011/06/06(月) 22:55:54
マーズゼロ攻略戦前編です。長くなるので分けました。


 未来人の多元世界見聞録 第4話


 耕平が乗る旗艦アンドロメダを中心とした火星攻略艦隊は何の妨害も受けることなく火星周辺宙域に到達した。
  
「妨害はなし。やはり、太陽系のBETAにはこちらの艦隊の行動を阻害できる能力はないみたいだな。
 まぁそれはそれで有難いが……」

 艦長席で耕平が言葉を濁した直後、すかさず後ろから突っ込みが入る。

「まるで、彼らにその能力があってほしいみたいな言い方ですね」
「……俺はマゾじゃない。楽なことに越したことは無い」

 耕平が振り返ってジト目で見る先には、北高の制服を身にまとった朝倉涼子の姿があった。勿論、傍には
無言で佇む長門有希もいる。ちなみに長門は眼鏡装備だった。

「全く、原作に近い形で作ってみれば口やかましい性格になりやがって……まぁ良い。それも一興か」

 耕平はそういって肩をすくめるジャスチャーをすると、命令を下す。

「二人には、予定通り突入部隊に同行してもらうぞ。目標はマーズゼロ最下層にいる重頭脳級。
 何とかして情報を読み取って来い」
「「了解」」

 この命令を受けた直後、2人は瞬間移動で姿を消した。

「爆撃部隊を分離。我が隊はマーズゼロ上空へ移動して待機。爆撃終了後、状況を開始する」

 アンドロメダ、ネメシスを中心とした部隊はこの命令を受けてマーズゼロに向かう。同時にデスラー艦2隻と 
輸送部隊は攻撃準備に取り掛かる。
 マーズゼロは攻略するが、他のハイヴは丁寧に攻略する必要はない。地球と同じく容赦なく潰しても何の問題も
なかった。

538earth:2011/06/06(月) 22:56:33
 そして作戦開始時間が来ると共に、2隻のデスラー艦は自艦の前に並べられた超大型ミサイルを前回と同様に
瞬間物質位相装置で火星各地のハイヴ上空に送り込んだ。
 火星にいたBETAには光線属種がいなかったためか、超大型ミサイルは何の妨害も受けることなく火星各地の
ハイヴに降り注いだ。勿論、その中にはマーズゼロも含まれている。

「地球よりも遥かに大きいハイヴだ。多少攻撃した程度じゃ潰れないだろう。それに、あの膨大なBETAを一々
 駆逐していたら面倒だし、そんなチマチマしていたら疲れる」

 耕平がそう呟く中、火星各地のハイヴに超大型ミサイルが降り注いだ。その数は地球のハイヴを潰したときの3倍。
実に容赦ないと言える。
 地表にいたBETAは、何が起きたかを知ることも無く、いきなり現れ落下してきた大量破壊兵器によってまず
モニュメントごと吹き飛ばされた。地球人ではどうすることもできなかったハイヴの象徴がいとも簡単に砕け散る。
 マーズゼロの重頭脳級が何が起きたのかを理解する間もないうちに、第二射の超大型ミサイルが瓦礫の山とかした
各地のハイヴに降り注ぐ。
 続く爆発によって超高熱がハイヴの中を駆け巡り、中に居た無数のBETAを燃やし尽くしていく。核兵器に耐え
ることができるハイヴの構造が仇となったのか、超高熱の炎がハイヴ中を駆け巡り次々にBETAを焼き殺していく。

「マーズゼロ以外にはこれでトドメだ」

 超大型ミサイルによって粗方吹き飛ばされたハイヴにトドメとなるドリルミサイルが降り注ぐ。
あまりの高熱によって脆くなったのか、ドリルミサイルは次々にハイヴの壁を突き破りもぐっていく。残ったBETA
はこの異物を排除しようとするが間に合わない。
 最深部に残された反応炉は波動カートリッジ弾を内臓したドリルミサイルによって次々に木っ端微塵にされていった。
波動エネルギーによって引き起こされた爆発の閃光が火星中を覆う。

「マーズゼロを除く全ハイヴの反応が消滅しました」

 アンドロイドの参謀の報告を聞いて耕平は満足そうに頷く。

「それじゃ、始めるか」

539earth:2011/06/06(月) 22:57:28
 マーズゼロにもドリルミサイルは撃ち込まれていた。しかしその数はオリジナルハイヴにも関わらず少なかった。
 このため最深部の破壊は免れていた。尤もそれ以上となるとかなり破壊されており、BETAの数も打ち減らされていた。
 そんな中に戦闘空母から発進したコスモタイガーⅡが襲い掛かる。雨霰と空対地ミサイルが叩き込まれ、地表に顔を出した
BETAを叩き潰す。 
 そしてコスモタイガーⅡの攻撃が終ると、今度は大気圏内に次々に戦艦部隊が降下する。
 
「取り舵30度。全艦右舷砲撃戦用意!」

 耕平の号令と共にアンドロメダ以下の艦隊は針路を変えた後、全ての主砲をハイヴに向けた。

「劇場版では悲劇的な最期をとげ、TV版でも壮烈な最期を遂げたが……単純な戦闘力はヤマトを上回る。
 まぁ真田さんが乗っているヤマトには勝てないだろうが……地上を這いずるBETAを潰すには十分すぎる」

 アンドロメダが誇る3連装4基12門の50.8cm衝撃砲がハイヴに狙いを定める。
 
「司令、攻撃準備完了しました」
「よし、撃て!」

 耕平の号令と共に6隻の戦艦、12隻の巡洋艦が相次いでハイブに向けて衝撃砲を発射する。
 あの特徴的な効果音(実際には趣味で耕平が艦内放送している(笑))と共にビームの束がハイヴに殺到する。 
これに対処する術をマーズゼロの重頭脳級は持ち合わせていなかった。 
 スサノオの砲撃が可愛く思えるほどの砲撃を浴びて、ただでさえボロボロだったハイヴはさらに滅茶苦茶となった。
あるところでは大穴があき、あるところでは天井が崩れ落ち、BETAが押し潰される。床が割れて下の階層の床に
叩きつけられるBETAもいる。
 火星最大のハイヴとして威容を誇っていたのがまるで嘘のような有様であった。

「全弾命中」
「……よし、突入部隊を発進させろ!」
 
 戦艦部隊に続くように降下してきた輸送艦(何故かコロンブス級がモデル)から次々に人型兵器と航空機が、より
正確に言えばMSとMAが発進していく。
 
「普通の戦いじゃあんまり使い勝手が良くないUCやCEのMS、MAが、ここで役に立つとはね」

 彼は趣味で多くの兵器を作っていたが、中にはゲームの戦争では使えないようなものもある。 
 特にガンダム系は使い勝手がよくなかった。このため格納庫の隅に置かれることになっていたのだが、今回は
そのMSとMAが役に立つときがきたと言える。
 
「少なくともマクロスのヴァルキリーシリーズを量産するよりかは安く済むし、ここで失っても戦力的にそこまで
 痛くない。まぁMSやMAがくず鉄に変わるのは心苦しいが、このまま死蔵しているよりかはマシだし」

540earth:2011/06/06(月) 22:58:10
 降下してくるMSやMAを迎え撃つべく、再度BETAが立ち塞がる。  
 この状況では健気ともいえる行動であったが全くの無意味だった。小型種はジェガンやジム系の頭部バルカンに
よって次々に蜂の巣にされ、大型種はビームライフルの餌食だった。
 だがこの劣勢を挽回するべく、地上に3体の母艦級が出現する。地球ならば、この巨大なBETAが地上に現れただけで
大損害を受けるだろう。だが火星では違った。

「突入部隊を支援しろ!」

 上空で警戒に当たっていたコスモタイガーⅡが次々にミサイルを撃ち込む。続けてMS部隊は人工知能や旗艦からの指示に
従って距離をとりつつ、集中砲火を浴びせる。これによって母艦級はかなりの打撃を受ける。だがまだ倒れない。
 その様子を輸送艦の上から見ていた朝倉と長門は自分達の出番と判断した。 

「結構硬いわね」
「ここで苦戦するわけにはいかない。援護して」
「はいはい」

 2人はそういうとすぐに艦上から姿を消す。
 そしてその直後、輸送艦の一番近くに居た母艦級の上空に朝倉が出現する。

「それじゃあ、死んで♪」
 
 朝倉が笑顔でそういった次にの瞬間、多数の光の矢が現れ、母艦級に降り注ぐ。MSのビームライフルよりも遥かに凶悪な
破壊力を持った光の矢によって串刺しにされる母艦級。だがそれで終わりではない。
 朝倉の攻撃によって弱体化した母艦級の至近に現れた長門はそのまま手を母艦級につける。そして淡々と言葉を放つ。 

「分子結合操作開始」

 この言葉と共に母艦級は敢え無く倒れた。さすがの母艦級も体内の物質を変化させられたら、一溜まりもなかった。
 残りの2体も呆気なく倒され、ハイヴの守り手は失われた。

「さて、さっさと仕事を済ませましょうか」

 こうして突入部隊は重頭脳級がいるであろうハイヴ最深部へ向けて進撃を再開した。

541earth:2011/06/06(月) 22:59:07
あとがき
というわけで前編終了です。
アンドロメダの初陣だったわけですが、長門・朝倉ペアのほうが印象が強い
気がするのは何故だろう(笑)。
それでは失礼します。

542earth:2011/06/07(火) 21:56:17
と言うわけで短めですが、第5話です。

 未来人の多元世界見聞録 第5話


 母艦級があっという間に撃破されたのを見た耕平は、金(ゲーム内&現実世界)をかけた甲斐があったと思い安堵する。 

「あの2人とMS部隊がいれば重頭脳級でも何とかなるだろう。まぁどうしてもダメならまた別の方法を考えればいい」

 火星攻略戦につぎ込んだ兵力は耕平が所有する全兵力からすればごく一部でしかない。仮に艦隊を含めて部隊が壊滅した
としても建て直しは可能だ。尤も仮にそんなことが可能な敵が現れたとなれば、耕平も本腰を入れて動かざるを得なくなるが。

「さて、これだけ派手に火星で暴れたんだ。マブラヴ人類でも火星の様子がおかしいくらいは観測できただろう。
 多少は外宇宙に脅威を感じて地球連邦とまではいかないが、地球連合くらいは創設してもらいたいな」
 
 わざわざ火星を攻略したのは、この世界の地球人類(以降マブラヴ人類と呼称)に、謎の勢力が太陽系で活動している
ことを見せ付けるためでもあった。
 マブラヴ人類は宇宙空間からの一方的攻撃でハイヴが根こそぎ潰されたのを見ている。よって火星への攻撃が地球のハイヴを
掃討した勢力、またはそれと同レベルの技術力を持つ勢力によって行わたと推測は立てられる筈だった。

「外宇宙に脅威を感じ、さらに月攻略のために宇宙艦隊を編成というのも見てみたいし。原作ではなかった宇宙用戦術機とか
 是非みたいからな。勿論、発見したらすぐに同じのを作らせて貰う」

 元モデラーの血が騒ぐぜ、とテンションをあげる耕平。すでにハイヴの中で行われている戦闘のことは頭の片隅に、いや
殆ど追い出されている。朝倉がこの場にいれば突っ込みが入ることは間違いない。長門からも冷たい視線が注がれるだろう。

「そう言えば、自分と同じくらいの年齢のアンドロイドって、あの2人以外は作ったこと無いな。何か作るか」

 そう言って耕平は艦長席で端末を操作して色々と思案する。ちなみに地下でのチマチマとした戦闘の指示は面倒なので
AIやアンドロイド達に一任することにした。
 
「あと宜しく」

543earth:2011/06/07(火) 21:56:56
 戦闘を事実上丸投げされた朝倉は嘆息する。

「面倒なこと丸投げとはね……」
「今言っても仕方ない。我々は我々の仕事をするだけ」
「はいはい」

 両名を先頭とした突入部隊は、時折現れるBETAの群れを次々に殲滅していった。先ほどまでの砲爆撃、そして地上戦で
消耗しつくしたBETAに、突入部隊を食い止めるだけの力は残されていなかった。
 Zガンダムなどの可変型MSが先行してBETAを攻撃。続けて重火力のMSの面制圧、そしてビームライフルの弾幕射撃に
よってBETAは次々に屍に変えられていく。多少抵抗しても今度は長門と朝倉が制圧する。

「何とも貧弱な抵抗。こんなので私たちを止められると思っているのかしら」
「光線級が存在しない以上、彼らに選択肢は無い」
「判っているわ。でも初陣にしては物足りなくない?」

 そういった直後、朝倉は無数の光の矢を放ち、出てきたBETAの群れを1匹残らず消滅させた。

「もっと色々と使ってみたいのに」
「重頭脳級との戦いに備えて温存しておくべき」
「でもこの程度だと、期待できそうに無いわね。まぁ次の機会を待つとしましょうか」

 くすっと笑う朝倉。その笑みは第三者がみれば十分綺麗だと思えるものだったが、キョンが見れば戦慄すること間違いない。
 しかしそんなことは知る由も無い両名は障害を容易く排除し、マーズゼロ最深部にたどり着く。 

「さて、それじゃあ対面といきましょうか」

 2人を先頭にした突入部隊はマーズゼロの最深部に鎮座する重頭脳級を視界に捉える。 

「何とも趣味が悪いわね。少なくとも女性が見ていて気分が良いものではないわ」
「それは否定しない」
「でもやらないわけにはいかないのよね。ま、さっさと済ませましょうか」

 余裕を崩さない2人。
 この2人めがけて触手が向かう直前、朝倉は瞬間移動で重頭脳級のすぐ傍に移動する。

「atisuodiettayuod?!」

 勿論、この朝倉に攻撃しようとする重頭脳級。だがその直後、すべての触手が切り落とされる。 
さらに重頭脳級が展開していたラザフォード場がズタズタに切り裂かれ消滅する。

544earth:2011/06/07(火) 21:57:34
「この程度の攻撃を凌げないようじゃ、第1世界の化物に瞬殺されるのがオチよ。もう少し精進したら?」

 片手にナイフをもち、素敵な笑顔を浮かべる朝倉。実に原作どおりと言える。キョンでなくとも腰が引けることは
確実だった。

「あとは頼むわ」
「任せて」

 続けて出現した長門は重頭脳級に手をかざすと何かを呟く。そしてその直後、信じがたい現象が起こった。

「aginanaherokadnan?!」

 そう重頭脳級が凍り付いていくのだ。何とか抜け出そうとする重頭脳級。だがその努力が報われることはなかった。
 
「周辺の熱運動を全て停止させた。抵抗は無意味」

 長門は周辺の原子・分子の熱運動を停止させ、重頭脳級を絶対零度の中に閉じ込めたのだ。
見る見る凍りつき、動きを止めていく重頭脳級。かくして勝負は決した。

「1分足らずで決着……脆すぎね。まぁ良いか。あとは情報を読み取るだけ」
「判っている」

 かくして氷付けになった重頭脳級から可能な限りの情報を吸い出すと、長門たちは帰っていった。

「任務完了しました」

 アンドロメダの艦橋に来た2人から報告を受けた耕平は「ご苦労さま」と言って2人を下がらせる。

「さて、調査も終ったし、後はあの薄汚い穴倉を消して終わりだな」

 そう呟いた耕平は、波動カードリッジ弾を主砲に装填させた。

「波動砲を撃ち込むわけにはいかないから、これで我慢するか。精々、派手に散ってくれ。地球からも見えるように」

 そしてアンドロメダの50.8cm砲6門から、6発の波動カードリッジ弾が放たれる。
 放物線を描きつつ6発の砲弾は寸分違わずハイヴ、いやより正確に言えばハイヴ跡に吸い込まれる。そしてその直後、大爆発
を引き起こし、マーズゼロであったものを何もかも吹き飛ばした。BETAの死骸も、氷付けの重頭脳級も何もかも消え去った。
    
「作戦終了。帰還する」

 耕平の命令と共に艦隊は引き上げていく。こうして火星攻略戦は終了した。耕平の一方的な勝利によって。

545earth:2011/06/07(火) 21:58:55
あとがき
と言うわけで火星攻略戦終了です。
最強系SSらしく蹂躙です。しかし主人公の影が薄いのは何故だろう(笑)。
次は地球の様子が入る予定です。
それでは失礼します。

546earth:2011/06/09(木) 00:08:00
何故か書けてしまったので掲載します。
短めですが第6話です。


 未来人の多元世界見聞録 第6話


 西暦1999年2月11日、火星での謎の発光現象に関するニュースが世間をにぎわせていた。
 かつて一瞬でハイヴが掃討されたことを見ている人類は、同じことが火星でも起こったのではないかと考えた。
 特に京都防衛戦の最中に、ハイヴが掃討された日本帝国では神風が吹いたと歓喜する人間さえ居る。だがハイヴが
消えたと考えて喜ぶ人間がいる傍らで、謎の勢力が太陽系で活動していることを懸念する声も挙がった。

「太陽系にBETAと別の異星人がいることは明らかだ。BETA大戦の二の舞を避けるために宇宙軍を強化する必要がある!」

 米国の国連大使が国連安全保障理事会でそう力説する。これに対して他国の大使達は一定の理解を示すが、全面的に米国の
主張を認めることはなかった。

「確かに宇宙軍の強化は必要でしょう」
「ですが我が国にはそのような余力はありません。国土の復興こそが第一です」
「それに対異星人を名目にして新兵器、G弾を宇宙に配備するというのは感心できませんな。まして貴国は移民船団を改造した
 宇宙艦隊の編成を進めている。これだけでも十分ではありませんか?」

 最後のソ連大使からの言葉に米国大使は反論する。

「地球や火星のハイヴを、我々が探知しえぬ方法で一瞬で消滅させた異星人が相手でもですか?」 

 対BETA戦争のために人類は宇宙観測を重視していた。この技術によって火星周辺で行動する耕平の艦隊を捉えることに
成功したのだ。だがそうかと言って喜んでいられるほど彼らは、特に米国は能天気ではなかった。 
 むしろ太陽系内を自由自在に動き回る多数の宇宙船(それも信じがたいほどの速度で航行する)を確認した米政府は、この
宇宙船を所有する勢力が地球に押し寄せることを恐れていた。
 勿論、他の国も大なり小なり警戒や恐れは抱いている。だが、かといって謎の異星人対策と称して宇宙軍を拡張し、新型爆弾を 
自分達の頭上に配備しようとする米国の行動を全面的に是認するつもりはなかった。

(((異星人対策の名目で、我々の喉元にナイフを突きつけるつもりなのでは?)))

 BETA大戦終了後、アメリカは世界の盟主として君臨していた。
 横暴な大国であったが、アメリカによる秩序は確かに必要だった。しかし必要だからと言って大人しくアメリカの属国に
なる気は各国にはさらさらなかった。特にソ連はかつて世界を二分した超大国としての地位を取り戻すべく躍起になっていた。
 こうして各国は虚虚実実の駆け引きを繰り広げることになる。異星人対策など実は無意味だとも知らずに。

547earth:2011/06/09(木) 00:08:36
 そんな様子を半ば世捨て人として隠棲した香月夕呼は冷めた目で見ていた。 
  
「今の人類が総力を決したって、勝てるどころか対抗することさえ出来ないでしょうに。本当、無駄なことが好きな連中」

 某屋敷の洋風の書斎で新聞を読んでいた夕呼は、各国の動きを切って捨てた。
 
「まぁ良いわ。私には関係の無いことだし。さて今日は何をしましょうか」 

 地球上のハイヴが消滅し、さらにその後の掃討作戦で地球上のBETAが殲滅されたことでAL4は中止された。
 一部の人間から言わせれば御伽噺と言われるAL4を、BETA大戦終了後も続けられるほど人類は余裕があるわけで
はなかった。
 夕呼自身もBETA大戦が、謎の勢力による宙対地爆撃で事実上終焉したことで、やる気をなくしたので、AL4の中止を
あっさり受け入れて公式の場から姿を消した。
 ちなみに彼女の友人の神宮寺まりもはBETA大戦終了を受けて、再び教員の道を考え始めていた。A−01の人間達も 
それぞれの人生を歩み始めており、現時点では誰もが前途洋洋という状況だった。
 そしてそれは原作では酷い目にあったヒロインも同様だった。

「武ちゃん、早く行こう!」
「待てって」

 BETA大戦が終わり、復興に歩み始めた日本では、久方ぶりに遊園地が再開された。
 幸運にも遊園地のチケットと手に入れた白銀武と鑑純夏は遊園地でのデートと洒落込んでいた。尤も武にはデート
という意識は薄かったが。

「それにしても、BETAをやっつけた宇宙人ってどんな人たちだったんだろう?」
「さぁな。でも悪い宇宙人の後に、良い宇宙人が来たってことだろ。日本を救ってくれたんだし」
  
 帝国の中枢である帝都・京都。この千年の京がBETAの手に渡らずに済んだのは異星人のハイヴ攻撃があったからだ。
勿論、現地で必死に戦った斯衛軍の将兵の奮戦も忘れてはならない。彼らが居なければ京都は蹂躙された西日本同様に
呆気なく陥落していただろう。
 実際、そのことをわかっている国民は斯衛軍を賞賛した。そして斯衛軍と共に京都に残っていた将軍・煌武院悠陽もまた
賞賛の対象となった。
 だがそれは政威大将軍の権威の復活に繋がるものであった。シビリアンコントロールを重視する一派はこれを危険視し
斯衛軍を邪魔に思う帝国陸軍が影で動き始めていた。さらに復興のために軍事予算を大幅に削減しようとする政府に対し
陸軍は反発を強めており、日本帝国の政治状況は正常とは程遠かった。

548earth:2011/06/09(木) 00:09:08
 そんな状況を作った耕平だったが、彼の関心は今やBETAの母星(?)の情報に向けられていた。
 
「BETAの母星(?)が回遊惑星なんて聞いてないって」

 長門達が持ち帰った情報に耕平は顔を顰めていた。
 何しろBETAの本拠地である惑星は、銀河内を移動しているというのだ。これでは手の打ちようが無い。

「というか回遊惑星というより巨大な宇宙船だな……さて、どうするか」

 銀河中を探し回るわけにはいかない。そんなことをしていたら、第6世界の自軍領域の警戒網が穴だらけになって
しまう。BETAの母星を探しに行ってゲームオーバーなんて事態は避けなければならない。
 そんな中、長門がある提案を行う。

「それなら、敵の物資輸送の中継拠点を探し当てるのが適当」
「中継拠点?」
「母星が回遊惑星ならば、各惑星から送られてくるG元素を回収するために定期的にその位置を知らせなければならない」
「確かに」
「重頭脳級からの情報では幾つかの惑星にG元素が送られていることがわかった。この惑星群をさらに調査していけば
 母星にG元素を輸送する拠点にたどり着ける可能性が高い」
「なるほど。しかし手間がかかるな」

 面倒ごとは嫌いなんだけどな〜と思い、ため息をつく耕平。 
 
「いっそのこと、AIかアンドロイドに委任するか」
「またですか」

 朝倉は嘆息するが、耕平は気にもしない。

「仕方ないだろう。俺にはリアルの生活があるんだ。連休明けはテストだし」
「夢が無い話ですね」
「リアルあっての夢だよ」

 そう言いつつ、耕平は方針を決した。 

「それじゃあ、委任するか。というわけで頼むよ。長門、朝倉」
「え?」
「いや、一応、君達、艦隊司令官としても使えるようにしてあるし。第一、BETAの思考を読み取れる君達が現場で
 細かい方針を決めたほうが良い。そういうことで、艦隊旗艦にも使えるように改造してある主力戦艦『長門』と
 主力戦艦『周防』『土佐』、それに戦闘空母『伊勢』、巡洋艦4隻、駆逐艦8隻、パトロール艦12隻、あとデスラー艦と
 火星攻略に使った輸送船団の指揮権も与えるから」

 耕平は有無を言わさず、長門を艦隊司令官に、朝倉を参謀長に命じる。

「それじゃあ頑張ってね」

 かくして独立遊撃艦隊・『長門』艦隊が誕生することになった。

549earth:2011/06/09(木) 00:11:44
あとがき
口は禍のもと(笑)。
というわけで長門艦隊誕生です。改訂前と違って、ゲーム世界ではBETA相手に
暴れまわってくれるでしょう。ストレス解消も兼ねて(爆)。
BETA本星が回遊(移動)惑星というのは、こちらで勝手に設定したものなので
ご容赦を。

550earth:2011/06/09(木) 23:26:33
短めですが、第7話です。今回は長門艦隊です。

 未来人の多元世界見聞録 第7話


 総司令官(プレイヤー)たる耕平から独立遊撃艦隊を押し付けられた長門と朝倉は不承不承ながらも艦隊を編成し
必要な訓練を行った後、太陽系外のBETAが生息する惑星に向かった。
  
「それじゃあ、始めましょうか」

 旗艦長門の艦橋で、ダルそうな顔をしながら朝倉は作戦の開始を告げる。ちなみに彼女達は前の時と違って軍服だ。
 さらに言えば服装もヤマト式ではなく、TVアニメ版の『射手座の日』で着ていた軍服だ。長門は白、朝倉は青をベース
とした軍服をまとっている。ちなみに「やっぱりこうじゃないと」と言って嬉々として服を揃える耕平に、アンドロイドの
2人は怖気を覚えたと言う(爆)。
 まぁ服装自体は古臭いものの、決して悪くは無いので悪し様には言えないのが辛いところだろう。

「こんな作戦、早めに終らせるに限るわ」

 といっても内容は特に難しいものではない。最初に宇宙から地上のハイヴを偵察し、ハイヴの規模を確認。
そして全てのハイヴに対して、最下層の反応炉が残る程度に爆撃を行う。このあと突入部隊で最も手薄なハイヴを確保し
長門達が情報を読み取って重頭脳級の居場所を特定。このあと、再度、重頭脳級が居るハイヴを攻略するというものだった。

「作戦開始」

 長門の言葉と共に、デスラー艦が毎度なじみの超大型ミサイルをハイヴ頭上に送り込む。
 モニュメントごと地上付近のBETAをなぎ払った後、さらにドリルミサイルが降り注ぎ、ハイヴを丸裸にしてしまう。
 
「あとは突入部隊と一緒にいくだけね」
「判っている」

 簡単に反応炉を確保し、そこから情報を読み取った長門達は、すぐに重頭脳級が居るハイヴに向かった。
 3隻の戦艦からの砲撃、さらにコスモタイガーⅡからの爆撃が行われ、生き残っていたBETAがあっという間に駆除される。
波動エネルギーを注入した空対地爆弾は、戦術核など目ではない規模の破壊を撒き散らし、BETAを掃滅した。
 母艦級でさえ、この新型爆弾の前には無力だった。

「あっさり来れたわね。全く、脆すぎにも程があるわ」

 火星のマーズゼロのことを思い浮かべて、朝倉は嘆息する。そんな朝倉を長門が窘める。

「経路はわかっている。速やかに侵入し、目標を果たすべき」
「了解」

551earth:2011/06/09(木) 23:27:03
 このたびはサザビー、νガンダムなどファンネルを使えるタイプのMS部隊が長門と朝倉に同行していた。 
 雑魚を一々相手にするのも面倒なので、細かい火力支援が行える機体を連れて行ったのだ。
 勿論、彼らは原作の名に恥じない活躍で、ハイヴのあちこちから顔を出して襲い掛かってくるBETAをファンネルを
使って排除していった。

「さすが総司令のお気に入りの機体。中々の反応速度ね」
「中身のセンサーは、原作とは全くの別物になっていると聞く」
「余計なことには金かけるのね、あの人」

 耕平の趣向に呆れつつ、2人はハイヴの中を突き進む。時折、MS部隊を突破してきたBETAもいたが、それらは
全て朝倉の放つ光の矢によって片付けられた。こうして全ての障害を排除した2人は、あっさりと重頭脳級のいる最深部に到達。
前回と同様に1分足らずで決着を付けた。

 氷付けになった重頭脳級の前で、2人はこのあとどうするかを話し合った。

「さて、残りのハイヴはどうする?」
「……これまで通り、砲撃で殲滅する」
「波動砲を撃ちこまない? 拡散波動砲なら惑星が砕けることもないでしょうし、ミサイルを消費することなく掃討できる。
 それに波動砲のテストもできる。連中には私たちのような星間通信網がないみたいだから、通報される心配も無いわ」
「オーバーキル」 
「問題ないわ。それに新型BETAや惑星サイズのBETAが現れたら、波動砲、又はそれに近い大量破壊兵器を使う
 必要がある。そのためのテストと考えれば良いじゃない」

 G弾など線香花火同然の大量破壊兵器の使用を進言する朝倉。
 そして朝倉の進言は、決して間違ってはいない。実際、今後場合によっては地上に向けて波動砲を撃つこともあり得る。 
 そのことを吟味した長門は、しばしの沈黙の末、首肯する。

「了承した。波動砲統制射撃を行う」

 かくしてこの星の残存BETAは波動砲の標的となった。それも訓練用の。
 旗艦・長門に戻った2人はすぐに指揮下の艦隊(パトロール艦除く)に命令を下した。

「これより波動砲統制射撃を行う。全艦、マルチ隊形」

 地球よりやや小さい程度の1惑星に向けて、戦艦3隻がその波動砲の砲口を向ける。

「波動砲発射用意。ターゲットスコープ、オープン」

 チャージが開始されると同時に、引き金が艦長席の長門の目の前に現れる。
 長門は引き金を手をかけると、照準を合わせる。

「電影クロスゲージ明度10」
「エネルギー充填120%。いつでも撃てるわ」

 朝倉の言葉に頷くと、長門はカウントダウンを開始した。

「発射10秒前、対ショック、対閃光防御。10、9、8………」

 朝倉は笑みを浮かべながら発射の時を待つ。

「3、2、1、0。波動砲、発射」

 長門は引き金を引いた。そして次に瞬間、小宇宙に匹敵するエネルギーが、3隻の戦艦から一斉に放たれる。

552earth:2011/06/09(木) 23:27:49
3隻の戦艦から放たれた波動エネルギーの奔流は、瞬く間に惑星表面に殺到した。そして散弾銃のように拡散して
放物線を描きながらハイヴやBETAに降り注ぐ。
 拡散しているとは言え、その破壊力は核兵器、そしてG弾の比ではない。惑星表面もろともBETAは原子レベルで
分解し、消滅を余儀なくされていく。地下深くに隠れていた母艦級でさえ、地面ごと掘り起こされその巨体を消滅させ
られていく。
 閃光が消え去った後、地上で動くものはなかった。それどころか惑星の形そのものが変わり果てていた。 

「地上のハイヴ、完全に消滅。また着弾の影響で惑星内部で大規模な地殻変動が起こっているようです。大量のマグマが
 噴出しており、惑星表面を覆いつつあります。加えて爆発の衝撃で軌道から逸れつつあります」

 参謀のアンドロイドの報告に長門は頷く。

「……威力的には申し分ないが、宙対地爆撃のほうが効率がやはり良い。惑星ごと粉砕する必要がある時はそのための
 兵器を用意したほうが良い」

 長門の言葉に、朝倉はすかさず頷く。

「そうね。それに波動砲を撃つと、暫く身動き取れないことがよく判ったわ。こういう弊害はやっぱり実経験がないと
 判らないわね」
「新型BETAの存在を考慮すれば波動砲の発射はタイミングを誤ると致命的な隙を作りかねない。
 ここは総司令に進言しておくべき」

 かくして3隻の戦艦から放たれた拡散波動砲によってズタボロにされ、砕けなかったのが奇跡とも思える惑星を背に
長門艦隊は去っていった。
 このあとも長門艦隊は容赦なく暴れ回り、色々なデータを収集することになる。そしてこれらのデータを基に、耕平は
新たな艦隊整備計画を進めることになる。

553earth:2011/06/09(木) 23:29:13
あとがき
改訂前では撃たれるがなかった波動砲ですが、このたびは容赦なく
発射されました。虐殺ってレベルじゃないですね(笑)。
それでは失礼します。

554名無しさん:2011/06/10(金) 20:09:12
ヤマトならこの後、軌道を失った惑星は小ワープを繰り返しながら
地球との衝突コースに入った……とかなるなw

555earth:2011/06/10(金) 22:28:32
第8話をアップします。


 未来人の多元世界見聞録 第8話

 太陽系外でBETAが一方的に駆逐されているのを知る由も無いマブラヴ人類は、紆余曲折の末、宇宙軍の強化を
決定した。米国は移民船団を改造した宇宙艦隊、そしてG弾の宇宙空間への配備を推し進める。
 だが国連のほかの国々も黙ってみているつもりはなかった。
 
「米国宇宙軍を牽制するために国連宇宙総軍を強化するべきだ」

 ソ連の主張に、少なくない国が同意して国連宇宙艦隊を編成した。勿論、表向きは異星人対策である。
 幾ら何でもアメリカの軍備増強に対抗するために宇宙艦隊を編成したとは口が裂けても言えない。
 「BETA大戦の悲劇を繰り返さないため」とのスローガンの下、復興に注ぎ込まれるはずの資材や予算までつぎ込む
その姿は滑稽とさえ思える光景だった。

「BETAを駆逐した宇宙人に備えるって、お偉いさんはまた戦争したいのかよ。それよりも復興に力を注げばいいのに」


 自宅でTVのニュースを聞いた武はそう言って呆れる。彼のような一般人にとっては復興こそ重要な問題だったのだ。
 しかし唐突に齎された平和は、唐突に失われることになる。
 西暦1999年6月、未だにハイヴが残る月から多数の着陸ユニットが射出されたのだ。着陸ユニットの大半は人類の
対宇宙全周防衛拠点兵器シャドウによって軌道を変えることが出来た。だがたった1つだけ防衛線を突破したのだ。  
 落着したのは、黒海沿岸コーカサス地方。元々地下資源が豊かな地域であり、ここをBETAが狙うのは当然と言える。
 だがこれをソ連は絶好の好機と見た。 

「万難を排してでも、着陸ユニットを確保するんだ!」

 対BETA戦争で鍛えられた軍隊を持つが故に、ソ連政府は愚かとも言える決断を下した。
 彼らにとって日に日に勢力を増していくアメリカに対抗するためには、BETAの技術を、G元素技術を手に入れる
ことが必要だった。
 国連軍の派遣を断ったソ連軍は全力でコーカサスに落ちた着陸ユニットに大軍を差し向けた。紅の姉妹など第3計画の
遺児たちさえ動員したのだから、どれほど力が入っていたのかが判る。
 そして彼らは多大な出血の結果、幸運にも着陸ユニットを制圧することに成功する。それはBETA由来の技術で
ソ連が優位に立ったことを意味していた。

556earth:2011/06/10(金) 22:29:05
 これに慌てたのは米国であった。
 彼らは硬軟あわせた交渉で、技術の開示を求めたが、ソ連は聞く耳を持たず着陸ユニットから得られたものを全て
独占し、これを交渉のカードに使った。AL3の遺児よりも遥かに強力な能力を持つ人間の製作にさえ手をつけた。

「G元素、そして超能力者。この2つがあれば、超大国の地位を取り戻すのも不可能ではない」

 ソ連政府高官はそう言って高笑いした。実際、ソ連がBETAに関して新たな情報を多数掴んだとの報告を聞いた
各国は情報を得ようと、ソ連に対して旨みのある交渉を申し込んでいた。
 勿論、ソ連はそれに素直に応じるつもりは無い。出来るだけ高値で売りつけるつもりだった。
 しかしこの動きを黙ってみているほどアメリカは穏健でも、能天気でもなかった。

「何としても情報を奪え。工作員をすり潰しても構わん!!」

 米国大統領はホワイトハウスに呼び出したCIA、DIA(アメリカ国防情報局)に厳命する傍ら、国務省には
共産国家であるソ連の台頭に動揺するだろう同盟国への支援を命じる。

「アラスカを間借りしなければならなかった国が、家主の我が国に楯突くなど、恩知らずにも程がある!」

 米政府高官はあまりの横暴なソ連の態度に、怒り心頭だった。
 だがアメリカ政府を苛立たせる原因がもう1つあった。そう、極東の要である大日本帝国だ。
 安全保障条約破棄こそなかったものの、光州事件、日本本土防衛戦を経て在日米軍と帝国軍との軋轢が大きくなって
いたのだ。
 
「日本がソ連に靡くようなことがあっては、東アジア戦略が根底から崩れる。何とかせねば」

 米国は親米政権(出来れば傀儡政権)を作り出すために策謀を開始する。この時の日本帝国はそれを許すほど隙だらけだった。

557earth:2011/06/10(金) 22:29:41
 BETAの脅威がなくなったにも関わらず本土防衛軍は存続していた。
 政治家や経済界の要人などの子息を安全な場所に配置して、子息の身を守りつつ、彼らの経歴を盾にすることで
影響力を拡大してきた本土防衛軍首脳部は、簡単に自分達の権力を手放すつもりはなかった。
 予算の大幅削減に不満を漏らす陸軍とも結託し、政府との権力闘争を繰り広げていた。

「黒海沿岸にBETAが再侵攻したのを見れば、軍縮がいかに危険かが判るだろう!」

 本土防衛軍首脳部の一人である陸軍出身の大将が会議の席でそう吼えた。
 これに政府側首脳は苦い顔をする。黒海沿岸に再びBETAが降下してくるのは計算外だった。さらにソ連軍が着陸ユニット
を確保したため、今後、ソ連が強大化することも懸念される。
 
「しかし軍事予算を削減しなければ復興予算が捻出できません」
「ならば斯衛軍の再建をやめればいい。多少は金を捻出できるだろう」

 この台詞に城内省の役人が激怒する。

「京都を守りきった彼らを蔑ろにするのですか?」
「その防衛戦で一体、どれだけの被害が出たのだ? 被害を補填するために軍の前線指揮官を引き抜くつもりか?」
「殿下をお守りするためです」
(殿下ではなく、お前ら、城内省や武家連中のためだろうが。そのために専用機など作りやがって)

 喧々囂々のやり取りが続くが、最終的には総理大臣である榊が決断を下した。

「確かにBETAの脅威が完全に払拭されていないのは判った。戦術機に関する予算は認めよう。
 だが他の兵科、特に歩兵については予算を削減させてもらう。海軍も旧式艦から順次退役させてもらう」
「ですが、それではソ連への押さえが」
「米国と組む。米国もソ連の態度には怒り心頭のようだ。交渉の余地はある」

 米国という言葉にムッという顔になる一部の軍人。反米感情が如何に強いかが見て取れる。
 そんな高官達のやり取りの影でも陰謀は進められていた。将軍の権威が復活する機運を嗅ぎ取った摂家が動いたのだ。  
 彼らは小娘を引きずり降ろし、自分が将軍の地位に座ろうと蠢き始めていた。
 政治がこんなカオスな状態なのだから、アメリカが付け入る隙は幾らでもあった。かくして対日工作が活発化していく
ことになる。

558earth:2011/06/10(金) 22:31:39
あとがき
と言うわけで人類は再び争います。ついでに日本国内も大荒れです。
地球連合どころか、冷戦時代に逆戻りです(爆)。
それでは失礼します。

559earth:2011/06/11(土) 01:05:45
何か乗ってきたので書き上げてしまった第9話です。相変わらず短いですが(笑)。


   未来人の多元世界見聞録 第9話


 連休明けテストに備えて、耕平は裏技で勉強に必要な電子データをゲーム世界に持ち込んで勉強していた。
 ゲーム世界は現実世界と時間の流れが違うので、ゲーム世界でなら時間に余裕を持って勉強できるのだ。
この様子をモニター越しに見ていた朝倉は呆れてため息をついた。

『何とも夢が無いことをしていますね』

 アンドロメダの艦長席で勉強をする耕平は、メインモニターに映る朝倉の姿を一瞬見ると、すぐに問題が表示されている
端末画面のほうに視線を戻した。

「リアルあっての夢、ゲームだからな。ただでさえリアルは忙しいんだ。ここで時間をうまく使わないと。
 だいたい、この裏技やっている人間、俺だけじゃないぞ」
『ここは学習塾の自習室ですか』
「社会人のプレイヤーもいるぞ。締め切りに追われた漫画家や同人作家もいる。イベント前になったら、観艦式さら
 がらの光景(複数のプレイヤーが集まっているため)が繰り広げられる世界だってある』

 この言葉に朝倉はため息しか出ない。

「……では、報告は聞こう」

 そう言いつつも視線を向けようともしない耕平に、朝倉は呆れるものの、すぐに報告を開始した。

『現在、8つの惑星のハイヴを攻略しました。ですが残念ながら、どれも敵の中継拠点ではありませんでした』
「そうか。まぁ仕方ない。気長に待つとしよう」
『それと、これまでの作戦から得られた戦訓や、今後の戦略に関する提言をメールで回します』

 朝倉の言葉を聞いた耕平は、初めて勉強以外に興味がわいたのか、早速メールを開封して読み始める。

「なるほど。興味深い。特に対惑星兵器は必要だ……早速、工廠で必要な兵器の生産を行おう。
 あとは波動砲発射後に、無防備になる問題だな」

 耕平は原作で、地球防衛艦隊がやられた光景を思い浮かべる。その多くが波動砲発射後のことだった。

(波動砲発射後に身動きがとれない状態でやられるパターンが多い。逆に波動砲を使わない土星会戦では土方提督の
 機転もあって大勝利を得た。つまり現状では波動砲に頼るのは危険ということだろう)

560earth:2011/06/11(土) 01:06:29
 しかし波動砲の火力は必要だった。耕平は第6世界では有数のプレイヤーではあるが、時たま現れる上位世界の
プレイヤーと戦うのは大変だった。故に波動砲の一斉発射は防衛側の戦術として棄てがたい。

「……艦隊を危険に晒さないようにするには超アウトレンジ攻撃が必要になるかも知れないな」

 耕平が脳裏に浮かべたのは、ガトランティス帝国軍が使っていた火炎直撃砲だった。

「瞬間エネルギー位相装置を作って、一部の艦の波動砲と連動して長遠距離から発射という戦術が使えるか?
 あとは波動エンジンを暴走させた大型無人戦艦でも位相装置で送り込んで自爆させるというのも良いかも知れない」

 無人兵器ばかりなので、耕平は普通は使えないような戦術を口にする。 

「あとは波動砲の機能をオミットした戦艦だな。波動砲の変わりに防御装置を満載しておけば、波動砲搭載艦の盾に
 なるし、砲撃戦でも打たれ強い艦は役に立つ」

 戦艦を護衛する戦艦というのも変な話であったが、モデラーの血が騒ぐのか、耕平のテンションが上がる。

「必要な消耗品はすぐに送る。あと勉強が終ったら、すぐに新兵器の製作に取り掛かるから」
『……まぁ頑張ってください』
 
 脱力したような顔で朝倉は通信を切った。
 
「さて勉強勉強」

 勉強後の楽しみを夢想して笑みを浮かべながら、耕平は勉学に勤しんだ。
 ちなみにこの時、耕平はマブラヴ人類の様子に関心を払っていなかった。何しろあれだけ色々と刺激したにも関わらず
内輪もめに力を注いでいるのを見ていれば飽きるのは当然だった。

(ソ連軍がどんな変態的な進化を遂げるかは興味がわくけど、一々チェックしようって気にはならないな)

 しかし完全に無視はしない。新型戦術機登場に備えて情報の収集は怠っていない。
 
(宇宙空母や宇宙用戦術機、はやくでないかな〜)

 今や、耕平にとってマブラヴ人類は遠い星のマイナー玩具メーカー程度の存在だった。

561earth:2011/06/11(土) 01:08:03
 連休が明け、耕平がログアウトしてマブラヴ人類への干渉が等閑になったころ、地球の様子はさらに緊迫した
ものとなった。
 西暦2000年1月、コーカサスに建設されていたソ連のG元素関連施設が突然大爆発を引き起こしたのだ。 
それも通常の爆発ではなく、ムアコック・レヒテ機関が暴走したときのもの、つまり超臨界反応による爆発だった。
 この大爆発によって広範囲に重力異常が発生することになる。
 だが問題はそれではなかった。ソ連政府が威信をもって進めていたG元素の研究が文字通り水泡と帰したのだ。
折角、着陸ユニットから採取した貴重なサンプルも、ソ連最高の科学者、技術者も何もかもが消滅したのだ。
 これはソ連政府にとって致命的とも言える大打撃であった。そしてソ連政府は自分達への責任追求を回避するために
この研究施設の爆発を、アメリカの陰謀だと主張した。

「忌々しい帝国主義者は、我々の研究施設へ破壊工作を仕掛けた。これを見過ごすことはできない!」

 真犯人扱いされたアメリカ政府は勿論、激怒した。

「こんな横暴な間借り人は見たことが無い!」

 米国議会ではアラスカの即時返還を求める動きが加速した。BETAがいなくなった今、共産主義者を領内に
留めておく理由は何一つない。
 まして恩人であるはずの米国に濡れ衣を被せてくるような輩に手加減は無用……そんな意見が米国を支配した。
 ホワイトハウスでは連日、この問題にどう対処するかで会議が開かれていた。  

「この爆発に我が国の情報員は関与していないのだな?」

 大統領の言葉に、CIAとDIAの責任者達は一様に頷く。
 実際、彼らは情報収集は行っていたが、破壊工作までは現状ではするつもりはなかった。現場が暴走した可能性は
否定できなかったが……何もかも吹き飛んだ今、それを知ることはできない。

「やはり事故なのでは?」
「ふん。ロシア人にムアコック・レヒテ機関ができるわけがない。我々だってG弾を開発するのにどれだけの手間と
 時間が掛かったことか」

 ソ連を嘲笑する男達。 

「だがこれでソ連の優位は消えました。反米の国々も旗頭を失い失速するでしょう」
「そうだな。これで我が国主導の世界が構築できる。万が一の備えとして宇宙艦隊の編成も進んでいる。今回の
 ように着陸ユニットの落着を許すこともないだろう」
「あとは、例の謎の異星人Xですな」
「今のところは大人しい。だが万が一への備えは必要だ。G弾さえ比較にならない大破壊兵器を無警告で地上に
 撃ち込む連中だからな」

 BETAを排除してくれたのは確かに有難かった。だが無警告で一方的に宙対地爆撃をしかけた存在を米国は
信用できなかった。故に宇宙軍の強化も欠かせなかった。
 勿論、宇宙軍の強化を行う事で地上を威圧し、仮初の平和を維持することで米国主導の秩序と米国兵士の命を
守ろうとも考えていたが。

「何はともあれ、我が国の時代だな」

 しかし、彼らの余裕はすぐに打ち崩されることになる。

562earth:2011/06/11(土) 01:09:37
あとがき
というわけでソ連政府の短い夢は終りました。
次回、地球情勢はさらに悪くなるでしょう。主人公が情報を確認したら
頭を抱えるか、呆れるか、大笑いするか……。
それでは失礼します。

563earth:2011/06/11(土) 11:18:25
第10話をUPします。


  未来人の多元世界見聞録 第10話

  
 ソ連が事実上失墜したのを見たアメリカは、自国の力の象徴として宇宙軍の強化に邁進した。
 移民船だった巨大宇宙船を巨大な宇宙戦闘艦に設計変更し建造を進め、宇宙艦隊が活動できる場所として大規模な
宇宙港をラグランジュポイントに建設しつつあった。さらにG弾を全周地球防衛核投射衛星アーテミシーズに配備する
など、圧倒的な国力に物を言わせて宇宙軍の強化を進めた。
 そしてこの強化されつつある宇宙軍を背景にして、米国は月奪還を目的としたAL6を国連に提出する。

「今こそ、BETAを地球圏から一掃するときだ!」

 米国大使の言葉に、ソ連大使は苦虫を噛み潰したような顔をするが、積極的な反論はしなかった。他の国も似たような 
ものであり、最終的にAL6は承認された。
 そんなマブラヴ人類の動きに対抗するかのように、2000年3月3日、月面のハイヴから再び多数の着陸ユニットが
打ち出される。

「性懲りも無いことを」

 米軍人達は嘲りつつ、迎撃を開始する。だが嘲りはすぐに驚愕に変わった。

「着陸ユニットからレーザー照射が!」
「何だと?!」

 着陸ユニット表面に張り付いた光線種が次々に核投射プラットフォーム・スペースワンから放たれた核を迎撃したのだ。

「全ての着陸ユニット、地球に向かっています!」
「こうなったらG弾が頼みか……」

 祈り思いで司令部の高官たちが戦況を写すモニターを見つめる中、最終防衛線であるアーテミシーズが迎撃を開始する。
 超臨界前までラザフォ−ド場を展開しているG弾を着陸ユニットから放たれるレーザーで撃ち落すことはできなかった。
 米国が配備したG弾によってユニットの大半が撃ち落され、さらにG弾にレーザー照射が集中した隙を掻い潜るかのように
核ミサイルが命中し、残った着陸ユニットも軌道を逸れていく。 
 だが1つだけ、地球に落着したユニットがあった。それも面倒な場所に。 

「BETAの着陸ユニットが防衛線を突破。降下地点は……中国東北部、旧長春です!」

564earth:2011/06/11(土) 11:21:20
 落着した着陸ユニットを確保するべく、ソ連は中華人民共和国と共同で旧長春周辺に大軍を差し向けた。
 前回の着陸ユニット確保で甚大な被害が出たソ連軍からすれば、乾ききった雑巾をさらに絞るような所業であったが
再び着陸ユニットを確保するという誘惑には逆らえなかった。
 一方、米国もこれを座視しない。台湾の国民党政府を中華の正統政府として後押しして進撃したのだ。加えて国連にも
手を回して中ソによる着陸ユニット独占を妨害する。
 
「着陸ユニットは国連によって管理されるべきだ!」

 AL6を主導し、事実上、国連を動かしているアメリカの言葉に対して中ソ両国は猛反発する。

「あそこは我が国の領土だ。米軍、台湾軍には速やかに退去していただきたい!」
「着陸ユニットはハイヴではない。協定の規約違反では無い!」

 不介入を主張する中ソに対して米国は圧倒的と言っても良い宇宙軍を背景にして譲歩を迫った。
 移民船改造の宇宙戦闘艦こそ完成していなかったが、軌道艦隊は質、量ともに国連宇宙総軍と戦えるものだった。
この圧倒的な武力を背景にされたら、普通は譲歩せざるを得ない。
 だが長春を包囲した米台連合軍と中ソ同盟軍の一部部隊による偶発的な戦闘が発生すると、中ソはますます態度を硬化
させた。
 ここで譲歩すればソ連の威信は完全に消え去るし、国民党が大陸に橋頭堡を築くことを許すことになりかねない。そして
それを許せば現指導部は失脚するだろう。独裁国家における失脚は、大抵、自身の死を意味する。故に指導部は必死だった。
 中ソが強硬姿勢を崩さないのを見て、米国もまた強硬姿勢を強くする。

「あの恩知らず供に、甘い顔をする必要は無い!」

 米世論はそう激昂し、さらに軌道艦隊を出撃させる。地上でも宇宙でも2つの勢力がにらみ合い、世界は最終戦争
5分前という状況になった。
 英仏などEU諸国による必死の調停が行われたが、両者とも聞く耳を持たなかった。
 そんな中、日本帝国では米国に味方するべきと主張する政府と、大東亜連合諸国と協力して第三勢力として動く
べきだと主張する軍部が対立していた。日米安全保障条約こそ破棄されていないが、軍内部の反米感情は強かったのだ。

565earth:2011/06/11(土) 11:22:01
 この動きにソ連は付け入った。軍の反米派を煽りたて、クーデターを唆したのだ。
 米軍の後方に位置する日本が騒乱状態となれば、米軍の作戦を妨害できると判断したのだ。
 この時、復興の遅れによって苦しい生活を余儀なくされている身内や知り合いを持つ将兵は、国体を変えて将軍中心の国家とする
ことによって復興と日本の国威回復がなされると考えた。このためソ連は不満分子を煽りやすかった。
 
「このままでは日本は米国の属国に成り下がってしまう!」

 光州事件で遺恨がある者たち、それに(自分達の考えで)国家を憂う者たちが集結し始める。さらにこれに軍事予算削減と
本土防衛軍縮小を図る政府に危機感を持つ軍部、そして現将軍である煌武院悠陽を引き摺り下ろそうとする摂家の一部が加わった。

「小娘にはこの際、退場してもらおう」

 勿論、この不穏な動きを察知できないほど煌武院家は無能ではない。彼らは自分達を引きずり落そうと目論む摂家の動きを
察知し、悠陽の身辺警護に力を入れていた。

「俗物供が!」

 悠陽に使える月詠真耶は、一連の動きを見てはき棄てた。そこには敬愛する主を引きずり落そうとする輩への嫌悪、そして
この国難のときに権力闘争に現を抜かす馬鹿者への侮蔑が含まれていた。
 悠陽もまた、一連の動きに心を痛めていた。

「そのように将軍の地位が欲しいのなら、何故、私が将軍の座に座るのを許したのですか……」

 しかし嘆いてばかりはいられない。彼女達は彼女達なりに日本のため、そして自分達が生き残るために動いた。
 この動きを絶好の好機と見たのは米国政府だった。親米政権樹立のために陰謀を進めていた彼らは、カウンターで一気に
反米勢力の中核である帝国軍を叩くことを目論んだ。
 BETAの脅威がなくなった今、多少帝国軍を叩いても問題はなかった。むしろ極東の不安定要素になりかねない反米
勢力を叩くことのほうが重要と考えたのだ。
 米国は空母部隊を訓練の名目で日本近海に展開させ、さらに中国大陸情勢に備えるためとの名目で在日米軍の増強にも
踏み切った。
 そして6月6日、運命の日を迎えることになる。

566earth:2011/06/11(土) 11:22:36
 この日、開かれた御前会議の席において政府は対米追従路線を奏上した。
 これを悠陽が認めたことで、反米派が暴発したのだ。さらに将軍が奸臣によって騙されているとして、沙霧尚哉大尉が
一派も挙兵。国土防衛軍首脳部さえ同調し、大規模なクーデターが起こった。これによって榊首相をはじめ多くの閣僚が
殺害されてしまう。
 米軍のリークや特殊部隊、そして鎧衣課長の活躍によって何とか悠陽は難を逃れたものの、摂家が新たな将軍を擁立する
や否や、正統政府の地位を巡って内戦状態となった。
 東京を脱出し、仙台に臨時首都を置く悠陽に対して米国は最大限の支援を表明した。

「悪人達に祖国を追われそうな悲劇のプリンセスを救え!」
 
 反米派の軍人に追われる美少女将軍を助ける……それは、何ともアメリカ人が好きそうなシチュエーションであった。
 実際、悠陽は美少女であった。このためナイト気取りの米国民は仙台の臨時政府を支持する政府を賞賛した。
 さらに悪逆非道の限りを尽くすソ連軍を自国領内に留めることはできないとして、アラスカの租借地を完全に包囲。
いつでも制圧できる体制を整えた。
 一方でクーデター軍は反米機運の強い大東亜連邦、そして本来は仇敵であったはずの中ソに連絡をとって自分達の
正当性を認めさせようとした。
 勿論、中ソはただちに日本帝国の新政権を容認した。ソ連軍はただちに日本政府支援のためとして北から臨時政府へ
軍事的圧力を掛ける。
 こうして日本は事実上分断された。

「……折角、BETAが居なくなったのに、今度は人類同士で、それも日本人同士で争うのかよ」

 TVニュースを見ながら、武は呻く。
 だが彼が呻いたところで情勢は変わらない。いやむしろ情勢は多くの一般人の嘆きを他所にさらに悪化していく。 
 西暦2000年7月1日、日に日に増強される米軍に恐れをなしたソ連軍は、一発逆転をかけて先制核攻撃を開始したのだ。
G弾、核戦力ともに上の米軍に対抗するには先制攻撃しかない……そう考えた末の信じ難い愚行だった。
 勿論、米軍が黙っているわけがなかった。彼らは軌道艦隊を総動員してソ連領への攻撃を開始する。核兵器に加えて多数の
G弾がソ連軍に向けて投下された。
 お互い、着陸ユニットそっちのけで大量破壊兵器を応酬。この結果、ソ連と中華人民共和国は国家として消滅。米国も多大な
被害を被ることになった。さらに大量の核兵器の応酬によって死の灰が各地に降り注いだ。
 そして人類が内ゲバに励む傍らで、着陸ユニットは再びハイヴを地上に築き上げることに成功する。
 それは第二次BETA大戦の始まりを意味していた。

567earth:2011/06/11(土) 11:24:35
あとがき
というわけで第三次世界大戦、そして第二次BETA大戦の始まりでした。
救いようがない世界です(爆)。
人類、もう詰んでいるとしか……それでは失礼しました。

568earth:2011/06/11(土) 20:45:39
短めですが第11話を投下します。

 未来人の多元世界見聞録 第11話

 
 テストが無事に終わり、自己採点の結果、満足の行く出来だったことに安堵した耕平は久しぶりにゲームにログインした。
 
「さて、テストも終ったし、バイトで金も貯めてある。この疲れを癒すために新しい工廠を買って新型艦や新兵器を作るぞ」

 このゲームでは保有できる艦隊の規模は工廠の数に影響される。
 何しろゲーム世界(人工宇宙)で作ったとはいえ、実物の宇宙戦艦なのだ。その整備には細心の注意が必要だ。 
 このためプレイヤーは工廠の整備能力を超える数の宇宙船を整備できないとされている。現状でさらに新たな宇宙戦艦を
多数建造したければ、既存の艦を廃棄するしかない。
 しかしそんなことをするつもりは耕平にはさらさらなかった。
 
「親に棄てられる心配がないコレクションを、自分で棄てるか!」

 1000年前の前世で、勝手にコレクションを棄てられたことを未だに根に持っているのか、まずゲームで使うことは
ないであろう艦隊(例:ガンダムのバーミンガム級戦艦、マゼラン級戦艦、サラミス級巡洋艦で構成される連邦艦隊)を
いまだに後生大事に保管している。
 実際、アンドロメダが収容されている本拠地(人工惑星)のドックには多種多様な艦船が収容されている。滅多に使わない
ものはそのまま置物だが、他のプレイヤーとも戦える艦(ヤマト、マクロス、Rシリーズ等)は損傷している艦もあり、ドック 
では補修工事の音が鳴り響いている。

「さて、次はどんな工廠を買うか。連休中に頑張って稼いだからな……やっぱり、超大型の工廠を買うか」  

 鼻歌を歌いつつ、アンドロメダの艦長席でカタログを広げる耕平。そして財布の中身と相談した後、新しい工廠を購入する。
 
「あとは新兵器開発だな」

 対惑星兵器として耕平は量産が効き、使い勝手もよいジオイド弾を選んだ。数が多いBETAに対抗するには、ある程度
数が必要だった。加えて波動砲の改造、さらに波動砲搭載型戦艦を護衛・サポートするための純砲戦用戦艦の開発に取り掛かる。 

「あと復活編で出たバリアミサイルでも作るか。波動砲非搭載戦艦に装備させて、イザとなったら盾に出来る。
 たとえ波動砲発射直後に艦隊の動きが鈍くなっても、艦隊を覆うくらいのバリアを一時的に展開すれば体勢は立て直せる。
 ……って、報告をみるのを忘れてた」

 そして2通のメールを読む耕平。1通目の地球情勢に関する報告を読み終えた直後、彼は大笑いした。

「ははは、何だ、この火葬戦記は! いや出来の悪いSFか!」

 あ〜笑えると言って2通目のメール、長門からの報告を読む。最初はニヤニヤとしていたが読み進めるにつれて彼は
自身の表情が硬くなるのが判った。

「あり得ない。そんなことが起こりえるはずが無い」

569earth:2011/06/11(土) 20:46:55
 耕平を呻かせる出来事が起こったのは、耕平がログインする前日のことだった。
 長門艦隊は与えられた任務に従って、BETAの殲滅、そして情報収集に当たっていた。無双と言うのも生ぬるい一方的な
殲滅戦を行っていたこの艦隊は、不自然な空間を発見した。勿論、見ただけでは判らない。だが艦隊の電子機器は空間の異常
を捉えていた。

「別のプレイヤーでもいるのかしら? こんなところに別位相空間があるなんて」
 
 戦艦長門の艦橋で、朝倉は首をかしげる。

「それもかなりの広範囲。これだけの空間を展開するのは膨大なエネルギーが要る」

 このゲームでは別位相の空間を設置する技術も存在する。これを使えば同一座標でも色々な空間を設置できる。 
 耕平が第8世界に続く回廊をカモフラージュしているのも、この空間制御技術だ。しかし制御機構が大きすぎ、必要な
エネルギーも膨大なので普通の宇宙船に搭載するのがほぼ不可能なのがネックだった。

「惑星サイズの機動要塞、または恒星にエネルギー源でも置いているのかしら?」
「可能性はある」
「ということは、ここから先の空間は敵地ってこともあるわね。パトロール艦を先行させる?」

 この言葉に長門はすかさず頷く。 

「それじゃあ、本隊はここで警戒待機。パトロール艦を斥候に」 
 
 こうしてパトロール艦4隻(艦名P204、P206、P207、P208)が本来の空間に入り込んだ。
 4隻のパトロール艦は1隻ずつに分かれて慎重に周囲を索敵しつつ、内部の空間を調査した。 

「……ほぼ1つの星系をすっぽり包む位相空間とはね。よっぽど隠したい何かがあるってことかしら。
 これはBETA探索どころじゃないかも知れないわね」
「……BETAよりも脅威となる可能性があるものが発見された以上、仕方ない」 

 調査の結果、この特殊な星系の中にもさらに別位相の世界が作られていることが判った。
 
「空間内部にさらに空間。何がしたかったのかしら? 空間の迷宮でも作るつもりだったの?」

 だがこのあと、2人をさらに驚かせることが起こる。

570earth:2011/06/11(土) 20:47:38
「あれは船?」
「少なくともゲーム内の船ではない。敵味方識別装置には反応がない」

 だがメインモニターに映し出される船が、別の異相次元に向かっていく光景を見て2人は驚く。

「ということはNPCの文明ってこと。凄いわね。NPCで限定的にとはいえ、宇宙空間で活動して、さらに
 位相の違う空間への航行が可能な艦を作るなんて」
「しかし彼らはこの恒星系から外に出たことがない。恐らく位相空間を渡ることのみに特化していると考えられる」
「何とも夢が無いわね。うまくすれば宇宙進出だって出来るのに」
「しかしNPCが力を付けすぎれば、管理会社が動く。それを考えれば結果として賢明な判断」

 しかしそうこうしている内に、パトロール艦P204がNPC(?)の文明に発見されたのか、巡航艦らしき
白い艦が向かってくる。

「発見されたようね」
「撤収する」

 引き上げていくP204。恒星間航行さえ可能な艦に、白い艦は追随できない。
 勿論、様々なチャンネルで停船を命じる通信が入るが、それに従う必要はなかった。

「無事に引き離せたようね」

 朝倉はほっとした。何しろ、もしも向こうがパトロール艦を容易に捕捉・撃沈できる勢力となると、大規模戦闘になる
可能性もある。下手をすれば耕平の本隊に応援を要請する必要があったからだ。
 
「それにしても、あの船の所属が『時空管理局』か……どんな組織なのかしら?」
「軍隊かそれとも警察機構か。調査は必要。ステルス艦の派遣を要請する」

 2人からすれば、単なる1NPC勢力との遭遇だった。だが耕平からすれば、それは信じがたいものだった。

「……マブラヴの次は時空管理局、いやリリカルなのは? 本当にNPCが実力で作った文明なのか?
 まさか俺みたいなプレイヤーがこの世界に潜んでいるとかはないよな? それとも何かのドッキリか?」
  
 耕平は第8世界に関してBETAや珪素生命体の調査、そして資源の開発だけ考えるのは危険と考え、第8世界に駐留する
艦隊を増強することにした。それは第6世界での兵力が減少することを意味している。
 
「戦略の抜本的見直しが必要だな。それに……色々と調べてみるか」

 こうして耕平は自軍の再編成に着手することになる。

571earth:2011/06/11(土) 20:50:02
あとがき
何故『多元世界』なのかは、今後明らかになります。
尤もそこまで引っ張るつもりもありませんが(爆)。

572earth:2011/06/12(日) 11:48:10
第12話をUPします。


 未来人の多元世界見聞録 第12話


 自軍の再編に着手することを決意した主人公だったが、大規模な再編成に取り掛かる前にやることがあった。

「とりあえず、マブラヴ人類の救援か」
 
 耕平はとりあえずマブラブ人類救援のために地球派遣艦隊を編成することにした。現状では可能性は限りなく低いが、
ループ現象が起きるようなことがあったら面白くない。それに……この世界について詳しく調査する必要があった。
そのためには現状で人類が滅亡するのは好ましくない。
 だが現状ではBETAを駆除するだけで事足りるかが判らない。

「地球と人類について詳しく調査するために、あの人類が完全に滅ぶのは避けないと。でもBETAの駆除だけ何とか
 なるかな? 何しろ環境の破壊が酷すぎる」

 アメリカは何とか国を維持しているものの、主要都市のいくつかが核で吹き飛ばされている。さらに核爆発で発生した
電子パルスによって各地の都市機能に甚大な影響が出ていた。
 日本に至っては西日本が焦土。さらに内戦と核戦争で経済が完全に破綻している。さらに大陸からは死の灰が流れて
きており、滅亡寸前だ。おまけに国のすぐ横にオリジナルハイヴができたというオマケ付き。
 中ソに至っては放射能汚染と重力異常で自力での国家再建はまず不可能と考えられた。 

「人類同士の戦争だったためか、AL5より使われたG弾が少ない。おかげでユーラシア水没なんてことはなかったけど
 重力異常で地殻変動は起こっているようだし……しかし仮に環境を修復すると言ってもそれ専用の工廠がいるからな」

 端的に言うと惑星環境改造用の工廠を買う金がない。これに尽きる。 

「……ま、中古品を買うか、譲り受けるにしても、問題はあの人類が支援を受け入れるかだな。それに下手をしたら支援を
 巡ってまた内ゲバするかも知れないし。細かく関わるとなると面倒な交渉になる。全く」
 
 だがここで色々考えても状況は変わらない。取りあえずBETAを駆除するのが先だった。 

「まぁ良い。戦艦『蝦夷』『越後』、巡洋艦2隻、駆逐艦6隻を護衛につけて宙対地爆撃部隊(デスラー艦と輸送船団)と
 ついでに太陽系内外の資源開発をするの工作艦を送ろう。何しろ第8世界はかなり物騒かも知れないから、開発できる
 資源地帯はさっさと開発したほうが良い」

 前回よりも小規模であるものの、再び艦隊が第8世界の地球に向かう。
 かくして地球と月のBETAは滅亡を宣告された。

573earth:2011/06/12(日) 11:48:48
「あとは長門艦隊だな。時空管理局がある以上、他の組織が潜んでいる可能性は否定できない。
 取りあえずは亜空間潜行が可能な次元潜航艇10隻を送る。あと打撃力不足を補うために艦隊の梃入れも必要だな」

 耕平は取りあえず送ることができる艦艇のリストを眺める。そして暫くして決断する。

「アンドロメダ級3番艦『アルテミス』、主力戦艦4隻、巡洋艦6隻、駆逐艦18隻、それに新型戦闘空母の
 『天城』、『葛城』。パトロール艦8隻。それに地上制圧用の地上部隊も連れて行けば十分だろう。
 あとは……第二の前線基地を建設するための工作艦も送ろう。大規模な整備補修ができる拠点も要るだろうし」

 十分というか、「お前はどこの星間国家と戦争するつもりだ?」と聞かれそうな増援であった。
 この梃入れによって長門艦隊は戦略指揮戦艦(アンドロメダ級)1隻、主力戦艦7隻、戦闘空母3隻、巡洋艦10隻を
中核とする大艦隊になる。この大艦隊に加え、今後建設する前線基地の指揮権も長門は委ねられる。  

「これなら問題はないだろう」

 耕平はすぐに増援を送ることを長門達に伝えた。 
 勿論、伝えられた側は、この大盤振る舞いに驚愕した。

「戦略指揮戦艦まで回すとは……総司令も随分気前がいいわね」

 戦艦長門の環境で朝倉は驚いた。

「それだけNPCの文明に驚いたのかも知れない」
「それにしても過剰反応のような気もするけど」
「何か考えがあるのかも知れない」
「何も考えていないんじゃない? まぁ手持ちの戦力が増えるのは良い事だから反対はしないけど」

 随分と酷い言われようであったが、これまでの経緯を考えると仕方が無いと言えた。

「まぁ取りあえず、時空管理局の調査のために次元潜航艇を潜入させつつ、周辺宙域のBETA探索も進めないとね」

574earth:2011/06/12(日) 11:49:19
 地球に向けて艦隊が向かっている頃、マブラヴ人類の状況は悪化の一途を辿っていた。
 長春に築かれたオリジナルハイヴからは次々にBETAが吐き出され、周辺に新たなハイヴを建設していた。 
朝鮮半島は再びBETAに蹂躙され、ソウルに第二のハイヴが建設された。これを阻止する戦力は人類にはなかった。
 仙台の臨時政府は、状況を打開するべくアメリカ、EU、オーストラリアに軍事支援を要請したが、そのどれもが梨の礫
であった。  

「そうですか、EUも」

 仙台の臨時御所で報告を聞いた悠陽はため息を漏らした。
 側近の月詠真耶は悔しそうな顔で俯く。 

「はい。一連の戦争で、EUも少なくない影響を受けており増援は難しいと。ですが我々仙台政府を正統政府と認め
 今後も物資の支援なら継続したいと」  

 しかし物資の支援と言ってもかつて米国が行っていたほどのものではない。
 津波のように迫り来るBETAの波の前には、殆ど意味が無いレベルのものだ。だがそれでも仙台政府が統治している
地域の住民にある程度の施しは出来る。

「政府は、日本本土陥落に備えて、オーストラリアに亡命政府を立てる計画を練っています」
「……もう無理なのでしょうか」
「……」

 真耶は答えない。だがそれが答えだった。
 現状では日本は助からない。BETAによって滅ぼされるか、環境汚染によって滅ぶか、それとも内ゲバによって滅ぶかの
どれかだった。
 悠陽は憂鬱な顔で俯く。そしてその憂鬱な表情を晴らす術を真耶は持ち合わせていなかった。
 しかし悠陽以上にクーデター軍は憂鬱だった。国際的に孤立し、さらに西からはBETA、北には臨時政府。
八方塞とはこのことだった。連日、責任を擦り付ける怒号が会議室から響いていた。

575earth:2011/06/12(日) 11:49:54
(このような俗物どもと同一視されるとは……)

 クーデターに一役買った沙霧尚哉少佐(昇進した)は、会議室で行われる上層部の醜態を見て歯噛みする。
 しかしどうにもならない。上層部は完全に内輪もめに収支しており、彼一人が何か言っても変わらない。

(我々が倒すべきだったのは、むしろ政府ではなく、この男達だったのでは?)

 そんな考えに囚われる沙霧。だが沙霧以上にクーデター軍上層部を民衆は恨んでいた。

「日本人同士で争って、この始末かよ」

 食糧の配給を受けるために長い列に並ぶ武は、思わず呟いた。
 クーデターが起こってから、民衆の生活は苦しくなる一方だった。仙台政府が統治している東北は、諸外国の支援で
食い物や医薬品があると噂がながれ、北に逃げる人間が後を絶えない。さらにBETAが西からまた迫っているとの
情報が、人々を絶望させていた。 

「……異星人も呆れているだろうな」

 ため息をつく武。だが彼の受難は終らない。クーデター軍は兵力不足を補うためとして徴兵を開始し、彼は強引に
クーデター軍に参加させられる。そして迫り来るBETAへの盾(もとい捨て駒)として西に配備されることになる。
それも戦術機乗りとしてではなく歩兵として。

576earth:2011/06/12(日) 11:51:30
あとがき
と言うわけで再び地球派遣艦隊出撃です。
尤も復興支援をどうするかはまだ未定ですけど(爆)。
あと武ちゃんが歩兵になってしまいました(笑)。
それでは失礼します。

577earth:2011/06/12(日) 19:32:52
非常に短めです。耕平の自軍再編に関する第13話です。
というか閑話に近いです。


 未来人の多元世界見聞録 第13話

 取りあえず地球派遣艦隊と長門艦隊への増援部隊を送り出した耕平は、自軍再編を開始した。

「Rシリーズ、ヤマト、マクロス、スパロボシリーズの機体や艦とかゴチャゴチャだからな……この際、多少は統一した
 ほうが良いな」

 戦争よりも実物大プラモの製作に力を入れてきたため、耕平の軍は、スパロボのようにごちゃ混ぜ状態だった。
 確かに見た目的には賑やかだが、整備の問題を考えると悪夢でしかない。これが表面化しなかったのは耕平が必死に
バイトして多数の工廠を揃えて物量を確保していたためだ。効率を重視し、戦争ゲームに注力していれば第6世界を
制覇するどころか、第3世界に参戦するくらいは出来ただろう。まぁ参戦したとしても戦略や戦術の差で劣勢を強い
られるのは間違いないだろうが。

「性能的にはRシリーズが良いんだが、コストが高いんだよな。特にR戦闘機とか……戦闘機で波動砲バンバン撃てる
 上に機動力とかの他の性能も化物クラスの機体だから仕方ないけど」

 R戦闘機を本格的に量産するのは、ギ○ンの野望でガンダムをジム並みに量産するのに等しい。
 現状でも量産しているが、全軍に配備できるほどの数は生産できなかった。

「まぁあんな強力な戦闘機をバンバン作ったら第三次汎次元大戦の二の舞だからな」

 第三次汎次元大戦ではR戦闘機、或いはそれを凌駕する化物が大量に、文字通り雲霞のごとく動員された。
 勿論、大量破壊兵器も空間そのものを破壊する凶悪なものが多数投じられた。この結果、第8世界は壊滅したのだ。
 故に同じことがないように、兵器にはある程度制限が付いたし、化物じみた機体については生産コストが引き上げ
られた。

「ということは、R戦闘機の廉価版みたいな機体を量産するのが良いってことか。
 ふむ。Rシリーズの技術をヤマトのコスモタイガー、マクロスのヴァルキリーとかに転用してみるか。
 MSも強化できたら、色々と使えるだろうし」

 オリジナル兵器を構想する耕平。

578earth:2011/06/12(日) 19:34:37
「あとは軍艦も少しずつ統一しよう。取りあえず、比較的使い勝手と量産が効くヤマトシリーズの艦を改造した
 艦を中核として艦隊を編成しよう。使い勝手がよくない艦は……心苦しいが廃却だな」

 苦い顔でコレクションを棄てる決断をする。勿論、内心では第8世界の問題が解決するまでの我慢と自分に
言い聞かせていたが(笑)。 

「手持ちの艦隊を25個艦隊に再編。うち5個艦隊(長門艦隊含む)を第8世界方面に振り当てて、残りの艦隊を
 第6世界の防衛に当てよう。防衛を主眼とすれば、20個艦隊あれば十分に戦線は維持できる」

 これに加えて耕平はAIによる参謀本部の本格的な立ち上げを決める。 

「AI、アンドロイドを効率的に運用していけば、二正面作戦になっても耐えられるはずだ」

 耕平は矢継ぎ早に、自軍の再編と効率化を進める。 
 それは第6世界有数のプレイヤーであり、生産力では7世界でも上位に入るプレイヤーが本格的な戦争を
始めることに他ならなかった。

「そういえば、これまで自分の軍の名前って決めてなかったな……マブラヴ人類や時空管理局と本格的に接触した時に 
 備えて名前を考えておかないと」

 そういって暫く考えると、耕平は昔読んだ某SF小説の軍隊の名前を思い出した。

「『黒旗軍』にしよう。ある意味、この軍は既存の秩序を破壊する存在になるだろうし」

 かくして第6世界各地におかれた黒旗軍の基地や工廠が俄かに動き出す。
 耕平が支配下におく資源地帯では急ピッチで資源採掘が進められ、次々に資源が各地の工廠に運び込まれていく。
さらに生産力にものを言わせて兵器が次々に吐き出されていく。
 そして参謀本部ではAIたちが、効率の良い戦力配置、戦争計画の策定に当たる。
 マブラヴ人類が束になっても足元にも及ばない勢力が本格的に動き出そうとしていた。

579earth:2011/06/12(日) 19:37:01
あとがき
というわけで第13話でした。
オリジナル兵器については、色々と考えているのですが、憂鬱と同じように
コンペを開催するのも面白いかなと思っています。
まぁ需要がないようでしたら、こちらで決めたいと思います。
……そろそろ憂鬱本編も進めないと拙いかな(汗)。

581earth:2011/06/13(月) 23:24:22
内容的に13話の続きの第14話です。

  未来人の多元世界見聞録 第14話


 組織編制を済ませた耕平は、すぐに既存兵器の改造、新兵器の開発に取り掛かる。
 まずはゲーム会社から多数の工廠を買ったことで溜りに溜まったポイントで、レアアイテムを手に入れる。

「これで強制波動装甲が生産できる」

 強制波動装甲とは、艦が受けたダメージをエネルギーに変換して蓄えることができる装甲だ。そのエネルギーを
利用することもできるし、イザとなったら放出することも出来る。
 勿論、限界以上の攻撃を受ければ装甲は破壊されるが、アンドロメダ級がこの装甲を装備すれば波動砲の直撃でも
受けない限り、轟沈することはなくなる。空間磁力メッキと合わせれば、まさにアンドロメダは不沈戦艦となる。
 かなりチートなアイテムなので、手に入りにくいのだが、耕平の溜りに溜まったポイント、そして珍しく幸運の
女神が微笑んだのか何とか手に入れることが出来た。
 しかし便利そうに見えて、この装甲を装備できるのは巡洋艦以上の艦艇に限られる。このため小型艦の消耗には
注意しなければならない。

「これに……フォースを組み合わせて、波動エンジン出力を強化だな。あとは亜空間潜行も可能にする。
 艦隊ごと亜空間を航行して、敵の背後をつければ一気に蹴りをつけられるからな」

 そういって耕平は工廠の端末に必要事項を入力していく。
 尤もRシリーズなみに自在に亜空間に潜る能力は与えられないので、使うとしたら奇襲や撤退などに限られることに   
なる。

「あとは直撃波動砲だな」

 白色彗星帝国軍が使っていた火炎直撃砲を参考にして製作しているのが、この直撃波動砲だ。
 瞬間エネルギー位相装置によって、発射された波動砲を遠く離れた場所にいる敵艦隊に直接撃ち込むというチート兵器
だった。これを使えば波動砲の射程は最大で倍になる。 

「手始めに、アンドロメダ級戦艦に装備していこう。成績がよければ順次、他の戦艦にも装備させればいいし」

 勿論、攻撃兵装だけを強化するつもりは耕平には無い。射撃管制装置を新型に換装し、バリアミサイルなどの防御兵器
の配備も進める。
 他のプレイヤーが聞けば「お前は第1〜第3世界に喧嘩でも売りに行く気か?」と聞かれそうな強化を行う耕平。
だが軍の強化はこれだけでは終らない。

582earth:2011/06/13(月) 23:25:17
 彼が続けて手をつけたのは航空戦力の強化だった。
 R戦闘機は高価であること、さらに第6世界に点在する黒旗軍の重要拠点の防衛からは外せない。かといって第8世界に
どんな脅威が潜んでいるか判らない以上、強力な艦載機が必要だった。それも質で既存機を超え、量も揃えられるものが。
 このためR戦闘機の技術を転用して、R戦闘機の劣化版とも言うべき戦闘機の開発を耕平は進めたのだ。
 
「外見のモデルはADF−01、FALKENだな」

 前世で一番のお気に入りの戦闘機、ゲームでもよく使ったこの機体に、耕平は白羽の矢を立てた。

「コスモタイガーのように自力で大気圏離脱と再突入が可能にして、あとはディストーションフィールドを装備すれば
 防御力はある程度は確保できる。レーザー種の攻撃でも簡単に撃墜はされない」

 だがそれだけで満足する耕平ではなかった。

「レーザーの代わりに超小型波動砲を搭載する。まぁ波動砲と言っても機体のタンクに貯めてある波動エネルギーを
 発射するだけだがフォースで増幅すれば、破壊力と連射力は跳ね上がる。でもオリジナルの波動砲と比べるとかなり
 ランクがダウンするんだよな」

 この戦闘機で使われるフォースはあくまでもエネルギー増幅媒体としての役割しか持たない。
 他のRシリーズなみに使い勝手がよいように改造していたら、単価が跳ね上がってしまう。

「ビットも欲しいんだが……仕方ないか。あとは亜空間航行だな。まぁこちらもオリジナル並みには無理だけど」

 次期主力戦闘機と言っても実際には、最強の戦闘機であるRの劣化版、廉価版でしかない。
  
「ハイローミックスが関の山か」

 尤もローであるはずの、この新型機もかなり高値であった。

「既存のコスモタイガーⅡも使うしかないな。対艦攻撃に特化させるか。波動カードリッジ弾を改造したミサイルでも
 搭載しておけば大戦果も期待できる」

583earth:2011/06/13(月) 23:25:59
 一方で地上部隊の増強は、艦隊や航空戦力よりも低調だった。

「制宙権を握ったら、あとはやりたい放題だしな」 

 衛星軌道から雨霰と攻撃を加えて、地表を瓦礫の山にしてしまえば大抵は決着が付く。
 惑星が邪魔ならジオイド弾を使って吹き飛ばすという手もある。まぁハイヴ攻略のように、チマチマとした作業を
するときもあるだろうから、地上部隊の増強はある程度必要だった。

「……歩兵部隊には、ボン太君でも配備するか。あとMS部隊はVガンダム系のMSで十分だろう。
 む、BETAとの殴り合いとなると実体弾に強いPS装甲を持つ種系もいるか?
 まぁこれまでゴチャゴチャしていたから、種類を減らせば問題なく運用できるだろう。コストもそんなに高くないし」

 正面を受け持つVガンダム系やSEED系のMS群、歩兵として目標を制圧するのがボン太君という構想で耕平は地上部隊の
編成を進める。

「あとは敵の後方撹乱にESPアンドロイドが欲しいな。金がかかるが作っておくか。まぁこれでもダメなら
 アンサラーを作って動員するしかないな」

 装備と外見にやたらとギャップがある物が混じっているものの、耕平は全く気にすることなく編成を進めた。
 それどころか彼は遊び心も忘れない。
 
「しかし全身黒尽くめのボン太君というのは微妙だな。隊長機は角をつけて、オリジナルに近い色にしておくか」

 かくして軍需工廠では次々とボン太君が生産されることになる。

584earth:2011/06/13(月) 23:27:55
あとがき
改造話でした……この主人公は本当、誰と戦争するつもりなのやら(爆)。
それでは失礼します。

585earth:2011/06/14(火) 23:28:50
何故か書けたので掲載します。第15話です。


 未来人の多元世界見聞録 第15話


 西暦2001年1月1日。「あけましておめでとう」で始まるこの日は、日本帝国にとって災厄の日となった。
 ソウルハイヴから、大量のBETAが西日本に再侵攻してきたからだ。本来なら帝国軍や国連軍が迎え撃たなければ
ならないのだが、核戦争で国連は機能不全、日本帝国はクーデターによって国土が分断された。
 この状態で、迫り来るBETAを食い止める勢力は存在しなかった。前回よりも素早くBETAは東進していく。
 BETA本土上陸……この報告はすぐに東京と仙台を激震させた。 

「全力で迎撃を!」
「主力はすでに西に配備している!」
「これ以上、配備すれば北の守りが薄くなるぞ!!」
「そんなことを言っている場合か!? そもそもこんな事態になったのはお前達が」
「何だと! そっちだって予算の削減に反感を持っていたくせに」

 東京の会議室では全く実りの無い話し合いが続いていた。いや、むしろ責任の擦り付け合いさえ起こっていた。
 これを見ていた沙霧は、何かを諦めたようなため息を付いた後、会議室を後にした。
 会議室から出てきた沙霧を見て、部下達が怪訝そうに尋ねる。

「どこへ?」
「戦場だ。もう、ここは我々がいる場所ではない。すまない、こんなことに付き合わせてしまって」

 沙霧は部下達に頭を下げるが部下達は嫌な顔をせず、沙霧の後についていった。
他の烈士たちも似たようなものだった。彼らは東京を己の死に場所としたのだ。
 一方、仙台は恐れていたときが来たと考え、政府のオーストラリアへの移転を急いだ。勿論、市民も可能な限り脱出させ
ようとしていた。だが物には限度があった。

586earth:2011/06/14(火) 23:30:36
「老人や病人、それに関東圏の国民は見捨てざるを得ないと……」
「恐れながら……。クーデター軍は敵前逃亡は許さないと市民の脱出を阻止しています。それどころか市民さえ武装させて
 盾にようとする動きさえあります」

 悠陽は臨時首相の言葉に項垂れる。

「何と言うことを」
「それに、クーデター軍が市民を脱出させても、我々では養えません。本土を蹂躙するBETAの餌食になるか、それとも
 餓死するかのどちらかになるでしょう」

 そこに救いの言葉はなかった。だが彼らをさらに憂鬱にさせることが起こる。そう佐渡島にもBETAが上陸しハイヴの
建設を開始したのだ。
 この報告を受けた仙台軍は虎の子の陸軍部隊と斯衛軍を日本海沿岸に向かわせた。
 京都防衛戦、そして先のクーデターで壊滅的打撃を受けた斯衛軍であったものの、涙ぐましい努力によって、1個連隊
程度ならすぐに動かせるようになっていた。
 尤も政府に従ってきた陸軍部隊とあわせても、BETAに対抗することなできるわけがなかったが。 

「避難誘導が関の山か」

 虎の子の武御雷に乗る冥夜は歯噛みする。 
 クーデター、そして国土分断という非常事態によって、本来は日陰の立場であったはずの冥夜は表に出ることになった。
もはや使える人間を陰に隠しておく余裕は日本帝国にはなかったのだ。
 しかしそれは逆に日本帝国がそれだけ追い詰められ、末期状態であると言えた。

「……馬鹿どもがクーデターなど起こさなければ」

 同じく武御雷に乗る月詠真那は、東京のほうを向いてクーデターを起こした者たちを呪う。
 もしも国土が分断されていなければ、BETAを食い止めることは無理でも、一人でも多くの国民、産業基盤を脱出
させることが出来だのだ。だが今では夢物語だ。
 オーストラリアに逃げ延びることが出来ても、日本帝国は見る影も無い三流国に転落するだろう。
 彼らが歯噛みしている頃、迫り来るBETAの恐怖に震える者たちもいた。そう、最前線に借り出された武たちだ。 
 クーデター軍は後方に督戦部隊をつけており逃げようとすれば間違いなく死が待っている。仮に督戦隊が逃げても
そのときはすでに自分達はBETAから逃れられない。どちらにせよ死しかなかった。

「こんなところで死ぬのか……」

 急ごしらえの陣地で誰もが死を覚悟する中、武は一人絶対に帰ることを決意した。

(絶対に生きて帰る。あんな連中のために死ねるか)

587earth:2011/06/14(火) 23:31:24
 津波のように迫り来るBETAの群れ。国家中枢が生きている国家は、日本帝国の消滅は時間の問題と
考えた。実際、このままでは帝国の消滅は時間の問題だった。この天秤を元に戻す力は人類にはなかった。
 しかしその天秤を強引に戻しうる存在が、地球に到着した。

「全艦、攻撃態勢をとれ」

 旗艦『蝦夷』に乗る地球派遣艦隊司令官ワッケイン准将(黒コート着用)は、ただちに艦隊に攻撃準備
を命じた。万全の体制で攻撃を開始すれば地球と月のハイヴは8分で掃討されるはずだった。しかし攻撃準備の
最中に予期せぬ報告が蝦夷の艦橋に舞い込む。

「司令! 地球周辺から、こちらに向けて急速に接近するものがあります」
「何? メインモニターに回せ」

 そこに映し出されていたのは、アメリカが建造を進めていた宇宙戦闘艦だった。移民船をもとにしたためか  
かなりの巨体を誇っており、マブラヴ人類なら威圧感さえ感じただろう。

「こちらに気付いたのか?」
「恐らく」

 アンドロイドの言うとおり、米軍は運よく(?)、黒旗軍地球派遣艦隊を発見したのだ。
 だが米政府はこれを単純に自分達への支援とは考えなかった。むしろ敵か味方かはっきり判らない勢力が
地球に接近しつつあると判断し、可能ならば臨検、不可能ならば撃退を命じたのだ。
勿論、異星人に言語は通用しないことは予想できるので、戦闘になる可能性は高いと誰もが考えていた。

「停船と臨検を求める通信が入っています」 
「……無視しろ。それと対艦戦闘用意」
「先制攻撃を?」
「相手が攻撃してきた後だ。それと……出来るだけ撃沈しないように手加減しろ」

 黒旗軍地球派遣艦隊が警告を無視したのを見て、米艦隊も攻撃態勢に入る。
 かくして後に地球会戦と呼ばれる戦いの火蓋が切って落とされる。

588earth:2011/06/14(火) 23:32:35
あとがき
というわけで米軍VS黒旗軍です。かませ犬になれたら上等かな(汗)。
もうそろそろ時空管理局の動きも書きたいと思っています。

589earth:2011/06/15(水) 21:41:20
申し訳ございませんが、管理局の動きは次回以降になりました。
第16話です。

 未来人の多元世界見聞録 第16話


 迫り来る黒旗軍艦隊に対して、米軍宇宙艦隊(艦隊と言っても3隻だが)はレーザー攻撃を開始した。
 米軍最新技術の塊であり、出力では戦艦の装甲でさえ貫通できるものだったが……黒旗軍の宇宙戦艦の装甲を破る
ことは出来なかった。蝦夷や越後は放たれたレーザーを受けても平然と航行していた。
 この様子を確認した米艦隊旗艦《アメリカ》のCICではどよめきが広まる。

「目標に命中。しかし……効果なし」
「クソッタレ! 最大出力で撃ったというのに、何て装甲をしているんだ!!」

 オペレータの言葉に米軍司令官は悪態を付くが、事態は変わらない。
 
「G弾があれば楽だったんだが……」

 残念なことにG弾はアーテミシーズに優先的に配備されていた。さらに中ソとの全面核戦争まで起きたので、宇宙艦隊
へG弾に配備されることはなかった。しかし米軍に諦めの文字は無い。彼らは核ミサイルの飽和攻撃に踏み切る。

「これなら、どうだ!」

 多数の核ミサイルが放たれたことを知ったワッケインだったが、非常に冷めた目で冷静に迎撃を命じる。 
 彼らにとって現在迫ってくるミサイルなど大した脅威ではなかった。

「あの程度のミサイルを第6世界で撃てば、笑いものだな」

 地球派遣艦隊は装備する対空パルスレーザーで、核ミサイルを呆気なく撃ち落していく。

「しかしこの程度だと、下手に主砲は使えないな。しかし放置も……ミサイルランチャー1番〜9番装填。
 ただし直撃させるな。至近で自爆させるんだ」

 米宇宙軍の攻撃を凌いだワッケインは直ちに反撃した。旗艦蝦夷と越後から18発のミサイルが発射される。
 米軍は迎撃しようとするが、直前に電子攻撃によってレーダーを無力化されてしまう。かくして3隻の米艦はそれぞれ  
6発ずつのミサイルを浴びる。直撃でなかったので轟沈は免れたものの、3隻は戦闘能力を完全に喪失してしまった。
 地上でこの戦闘の様子を見ていた米軍高官は卒倒した。

「ば、馬鹿な……戦闘を開始して3分足らずで全滅?」
「それも敵に一撃も与えることなくだと……」
「くそ、やはりG弾が配備できなかったのが痛かったか」  

 そんな高官たちを嘲笑うかのように米艦隊をあっという間に無力化した派遣艦隊は、宙対地爆撃を開始する。
 これまで散々に長門艦隊がやったのと同じように、実にスムーズな爆撃であった。BETAが折角、再建したハイヴは
あっという間に瓦礫の山と化した。月面にあったハイヴも一つ残さず消滅する。
 人類をあれだけ苦しめたBETAが太陽系から完全に駆逐された瞬間であった。

590earth:2011/06/15(水) 21:41:58
「目標、完全に消滅」

 アンドロイド兵の報告を受けたワッケインは少し黙ると、新たな命令を下す。

「蝦夷と越後は大気圏に突入。日本列島に残存するBETAを掃討する」
「司令?」
「我々の仕事はBETAの駆除による人類の救援だ。何の問題もない。
 それに残っているBETAが再びハイヴを作れば元の木阿弥だ。この際、叩いていく。
 巡洋艦は衛星軌道で偵察と周辺の警戒に、駆逐艦は爆撃部隊の護衛に当たれ」
「了解しました」

 この動きに慌てたのは地球各国だった。彼らはあらゆる手段で呼びかけるが、何の反応もない。
しかし下手に攻撃すればBETAと同じような目にあうのは確実なので、どこの国も下手に手が出せなかった。
 そんな各国を嘲笑うかのように蝦夷と越後は大気圏に突入していく。 

「対地砲撃を行うが、現地勢力に極力被害がでないようにしろ」
「了解しました」

 本来なら日本海軍が急行するところなのだが、クーデターの影響と2隻が来るのがあまりに早かったために何の
妨害もすることが出来なかった。尤も仮に出てきたとしても一方的に蹴散らされるのがオチだったろうが。
 海面スレスレを飛行しつつ、2隻は静岡県の太平洋岸に到達する。

「取り舵90度。全砲門、開け!」 

 蝦夷と越後は、ワッケインの命令に従って装備する3連装3基40.6cm衝撃砲9門を旋回させる。
 射撃管制装置は衛星軌道で待機している巡洋艦から地表で蠢くBETAの情報を受け取り、照準をつけていく。
さらにミサイルランチャーも発射態勢に入る。ただしレーザー種による迎撃を掻い潜るために衛星軌道から得た
情報を元に、レーザー種によって攻撃されないように超低高度を飛行するようにミサイルを調整していく。
 そして全ての準備が終えたことを知らされると、ワッケインは躊躇うことなく命じる。

「撃て!!」

 ワッケインの命令を受けて、2隻あわせて18門の衝撃砲が火を噴いた。

591earth:2011/06/15(水) 21:42:33
 京都を飲み込んだBETAに対応するためとして武が配備されたのは、静岡県内に築かれた防衛線だった。
 だが陣地といっても急造のものであり、どう見てもBETAに対応できそうに無い。さらに対BETA戦での
切り札でもある戦術機は絶対数が不足していた。
 戦車やMLRSさえ事欠くのだから、どれだけ窮乏しているのかよく判る。

「もうダメだ……」

 地雷原を呆気なく突破し、機甲部隊の攻撃をも物ともしないBETAの津波の前に、誰もが諦める。
 さすがの武も、諦めそうになる。クーデター軍上層部と繋がる司令官や参謀達は直属部隊とともに逃げ出し
残っているのは厄介者や捨て駒である自分達ばかり。援軍の見込みなどあるわけが無い。
誰が見てもBETAに踏み潰されるのは時間の問題だった。そう、武が絶望し空を仰ぐまでは。 

「ん? 何だ?」

 何かが光ったような……武がそんなことを呟いた次の瞬間、BETAが纏めて吹き飛んだ。これに回りも驚いた。

「戦艦による艦砲射撃か!」
「馬鹿な。お偉方が寄越すわけが無い!」
「じゃあ、何なんだよ?!」
「知るか!!」

 そして続けて超低空でミサイルが飛び込んでくる。多数のミサイルはS−11を超える破壊力で残ったBETAを
次々に吹き飛ばしていく。

「凄い……」

 攻撃開始後、20分で太平洋側から帝都に迫っていたBETAは全滅してしまった。
 陣地に残された将兵は、何が起きたのか全く判らなかったが、自分達が生き残れたことは理解できた。
故にあちこちで歓声が挙がる。

「生き残れたんだ!」
「やった!!」

 お互いに肩をたたきあい、涙を流して誰もが生き残れたことを喜び合う。無論、武も同様だった。
しかし、そんな久しぶりの笑顔と笑いに溢れた喧騒はすぐに中断を余儀なくされる。2つの巨体の登場によって。

「おい、何だ、あれ……」
「船、いや戦艦が空に浮いている? あれだけの大きさなら排水量は5万トンはあるはずなのに?」

 誰もが驚く中、蝦夷と越後は悠々と日本列島上空を飛行していく。
 あの船が何者なのか、どうやって飛んでいるのか、誰も判らない。だが彼らは直感した。自分達を救ってくれたのは
あの2隻であると。

「ありがとう!!」

 武が手を振って大声で礼を言うと、他の人間も続いた。生き残った人間達は2隻の艦が見えなくなるまで手を振り続けた。
 この日、地上に残っていたBETAは宙対地爆撃と2隻の戦艦によって殲滅される。そして同時に人類はBETAに敵対
する異星人が存在することを理解することになった。

592earth:2011/06/15(水) 21:44:16
あとがき
というわけでワッケイン艦隊無双。主力戦艦の活躍は浪漫です。
そして日本人の前に黒旗軍が姿を現しました。
次回こそは管理局の話になる……と良いな(爆)。
それでは。

593earth:2011/06/16(木) 23:20:32
短めですが、第17話です。
皆様、お待ちかねの管理局の話も少し入ります。

 未来人の多元世界見聞録 第17話

 地球派遣艦隊がBETAを掃討した頃、大規模な増援を受けた長門艦隊は周辺宙域のBETAの掃討と調査を進める
傍らで時空管理局への調査を進めていた。
 広範囲の宙域での作戦指揮が可能な戦略指揮戦艦の指揮能力、そして大盤振る舞いと言っても良い援軍がこの二正面
作戦を可能にしたのだ。
 時空管理局が存在する特殊な宙域の周辺は呆気なく黒旗軍の支配下に置かれた。さらに時空管理局と戦争になった際に
後方を支えられるように前線基地が建設された。 

「長門さんは今や艦隊司令官どころか、方面軍司令官ね」

 アンドロメダ級3番艦『アルテミス』の艦橋で、朝倉はくすりと笑う。

「だがそれだけ責任は重い。総司令が満足する結果を出す必要がある」
「それもそうね。ここまでの兵力が与えられるってことは、総司令は時空管理局との戦争もあり得るって考えて
 いるんだろうし」
「NPCの文明なら容赦は不要と考えてもおかしくはない。各世界ではそれが当然だった」 

 これまで多くのNPCが生み出され、そしてプレイヤー達の容赦のない蹂躙によって死に絶えてきた。
 それに時空管理局が加わったとしても何の違和感もない。  

「さて、総司令はどうするつもりかしら?」

 これまでの調査の結果、時空管理局の戦力は大したことはない。マブラヴ人類に比べれば手強いし弱小の初心者
プレイヤーなら少しは苦戦する『かも』知れない。だがその程度だ。
 黒旗軍が本気になれば踏み潰せる。しかし耕平はまた攻勢にでるつもりはなかった。

「戦力の強化が済んでない。それに管理局のロストロギアの正体が判らないし、BETAの調査も疎かにはできない」

 第8世界の気味の悪さから、耕平はことを慎重に運ぼうとしていた。
 既存艦艇の改装を進める傍らで、波動砲3門を装備した改アンドロメダ級戦艦2隻、R戦闘機の劣化版であるF−01。
そしてそれらを運用するための大型空母(艦体はアンドロメダのものを流用)の生産が急ピッチで進められていた。
 戦力の拡充が終ってからでも遅くは無いと耕平は判断していたのだ。尤も最大の理由は現実の問題だったが……。

「バイトの関係で、早めに開戦すると直接指揮できないかも知れないし」

594earth:2011/06/16(木) 23:21:36
 次元世界の守護者を自称する時空管理局。
 多数の次元航行艦を保有する一大勢力であり、曲がりなりにも多くの管理世界の秩序を守ってきたこの組織は、昨今 
自分達の支配領域に現れる不審船に神経を尖らせていた。
 次元航行部隊は必死に不審船を追いかけたが、全く勝負にならず逃げられた。時には発砲さえしたが、大半は外れ 
さらに直撃したとしても容易に弾かれる始末だった。さらに言えば次元潜航艇など捕捉すらできていなかった。

「由々しき事態だ」
「管理世界の各政府は海の実力を不安視し始めている。対策が必要だろう」
「海の平和が乱されれば、各世界の経済に悪影響が及ぶ。ようやく齎された平和を失うわけにはいかん」

 時空管理局最高評議会(通称三脳)は、この事態に対処するべく、次元航行部隊の増強を決定する。

「左様。だが管理世界の政府が捻出できる予算には限りがある」
「しかしL級では歯が立たないのは判っている。XV級の早期開発が必要だろう」
「現状では『聖王のゆりかご』の起動も考えなければならん。多少の我慢はしてもらおう」

 次元世界の平和を守るため、彼らは海の増強を急いだ。しかし同時に一つの決定を下す。
 
「あの不審船は、魔法とは異なる技術体系で作られている可能性が高い。さらに一連の行動は我々への偵察へ
 他ならない」
「戦争準備と?」
「違うと言い切れるかね?」
「……」
「不測の事態に備えて管理世界の国力を強化する必要があるだろう。管理局へ更なる出資を迫るのだから飴を
 与える必要もある」
「管理世界の拡大ですかな? だが陸の乏しい戦力で管理する世界を拡大しても管理が行き届くかどうか」
「資源が豊富な無人世界なら良いだろう。また万が一、管理世界が崩壊したときに備えて避難先を作れる」

 こうして時空管理局は管理世界の拡大を開始する。
 だが当初は無人の資源地帯を抑えるのみであったはずのこの戦略は、少しずつ有人世界への進出に変容していく
ことになる。そして彼らは一時の繁栄を手に入れる。
 だが彼らは知らない。この一時の繁栄が、一人の高校生のリアル事情によって齎されたことを。

595earth:2011/06/16(木) 23:23:36
あとがき
閑話のような話でした。
主人公は着々と軍備増強を進めます。BETA涙目といったところでしょう。
管理局は勢力拡大に舵を切ります。主人公のせいで(笑)。
どこまで原作を崩壊させれば気が済むのやら……それでは失礼します。

596earth:2011/06/17(金) 23:13:10
第18話をUPします。

 未来人の多元世界見聞録 第18話


 耕平がバイトのためにログアウトしている頃、日本帝国ではクーデター軍がついに崩壊した。
 民心の離反に加え、軍の中堅以下が次々に離反し叛旗を翻したのだ。民衆の蜂起、そして実働部隊の
反乱によってクーデター軍は瓦解していった。

「脆いものだな」

 一連の反乱を指導した沙霧少佐は自機である不知火の中で嘆息する。彼の目の前には、次々に兵士達に
拘束されるクーデター軍首脳部が映し出されている。
 中には摂家出身者であることを理由に、丁寧に扱えと主張する馬鹿もいるが、はいそうですかと言って 
彼らへの扱いが良くなるわけがなかった。

『少佐は、このあと如何されます?』

 部下の問いに対して沙霧は淡々と答える。

「出頭し、処罰を待つ。私がやったことは許されることではない。お前達は?」
『我々も似たようなものです。神風が吹いていなければ、我々もBETAの餌でした。生き延びた今、反乱者の
 末路として処罰され、次の日本の礎になることが我らに出来ることです』
「そうか……すまないな。巻き込んでしまって」

 クーデター軍上層部を打倒した沙霧が、仙台政府に投降したことで、事実上クーデターは終結し日本の内戦にも
幕が閉じた。クーデター軍首脳は処刑された。摂家出身者といえども関係はなかった。
 しかしそれで日本が平和になったわけではなかった。疲弊した経済、汚染され続ける環境、そして飢えによって
日本国内はボロボロの状態だった。
 さらにBETAが再び駆逐されたことで、EUやオーストラリアは日本への支援を不要のものと見做して削減、
或いは打ち切っていった。日本政府は必死に支援継続を求めたが、返事はどれも梨の礫だった。
 
「……このままでは、我が国は貧乏な三流国に転落する」

 某大蔵官僚はそう言って頭を抱える。だが有効な手はない。
 しかし後日、各国は条件付で支援を持ちかけてくることになる。

597earth:2011/06/17(金) 23:13:41
アメリカはBETAと自国の宇宙軍を簡単に蹴散らした勢力が、太陽系内で活動しているという事実に恐怖した。
 EUやオーストラリア、南米諸国もBETAを駆逐してくれた勢力に感謝はするものの、彼らの矛先がいつこちらに
向くかを考えると居ても立っても居られなかった。
 軍や政府の有力者が集まって対策会議を開く。

「彼らの目的は何だ?」
「BETAを駆逐したということは、BETAと敵対しているということだが、こちらの呼びかけには無反応だ」
「しかし米宇宙艦隊を撃沈せず、無力化に留めたということから、こちらと無用な争いは避けたがっているのでは?」
「連中が本気になれば、我々もBETAと同じ運命を辿るだろう。我らに配慮する意味は無い」
「SFで出てくるような銀河パトロールだな」
「ならば我らは辺境に住む蛮族というわけか……笑えるな」
「あれだけの技術力を持った勢力からすれば、我らなど猿と同類だろう」

 高官たちは議論したものの、結果として謎の勢力(異星人X)には対抗不能との結論を出さざるを得なかった。
(尤も実際には対抗どころか、一矢報いることもできないのだが)

「だが何もしないわけにはいかないだろう」
「そうだ。日本ではかなり大規模な戦闘を行っていた。何か手がかりがあるやも知れん」
「そうだな。身近であの宇宙船を見た人間も多い。聞き取りを行うだけでも何か得られるかも知れない」
「ですが日本政府が現地の調査の許可や、収拾した情報の公開を行うでしょうか?」
「忌々しいが、支援と引き換えにするしかあるまい」

 どこの国も余裕がなかったが、何かしらの手がかりが得られるかも知れないとの誘惑には打ち勝てない。
 かくして日本は各国から一時的な支援を受けて一息つくことになる。

598earth:2011/06/17(金) 23:14:13
 一方、地球のことなどお構いなしに黒旗軍は参謀本部の統率の下で、軍備増強と資源地帯の開発を急ピッチで
進めていた。
 土星、木星の資源採掘施設が次々に稼動し、必要な資源が採掘されていく。これらの資源は第8世界に新たに
設置された工廠に運び込まれて次々に兵器の材料となっている。
 その様子を参謀本部のAIたちは観察し分析を続けていた。

「第6世界の工廠では改アンドロメダ級2隻の建造が進んでいる。次に総司令が登場された際には完成している」 
「アンドロメダ級4番艦以降は?」
「改良して生産は続けるほうが上策。改アンドロメダ級は建造コストが高すぎる。このことを総司令に提言する」
「アンドロメダの生産を続ければコストダウンと『信濃』型空母の艦体も確保できる」
「F−01はRに比べると廉価だが、コストがまだ高い。母艦ごと喪失するのは損失が大きすぎる。防御力に優れた
 母艦は必要」
「だが戦艦の艦体を使い続けるのも問題だ。一から空母を設計するべき」
「総司令へ提言する」
「それと、もう少し使えない艦を減らせないだろうか? 保有制限があるので必要な艦が揃えられない」
「総司令が許可しない」
「……了解した。保有制限に掛からないユニットで可能な限り代用する」

 自分達の創造主であり、統括者の趣向に振り回されつつも彼らは日々仕事を続けた。
 一方、前線を預かる長門と朝倉は増強される兵力をモニター越しに見ていた。

「大げさね」 
「しかし管理局は勢力拡張に舵を切っている。兵力の増強は必要」
「そうからしら。あの連中、艦隊戦ができるか怪しいわ。アルカンシェルなんていう艦載砲だって威力は兎に角
 射程は波動砲より遥かに短いし。まぁ戦力が多いことに越したことは無いわね。一気に揉み潰せるから」

 確かに管理局の戦力は、他のプレイヤーほどではない。しかし次元世界はそんなに狭くは無い。
 無数の世界を重ねがけしたうえ、回廊などで他の宙域にも繋がっていることが判ったのだ。

「本局を潰しても、ゲリラ戦をされたら面倒だし」 
「しかしあの本局は興味深い。調査が必要」
「そうね……次元世界の情報やロストロギアの情報は欲しいし、ESPユニットをもぐりこませてみましょうか」 

 かくして時空管理局への調査は次の段階を迎えることになる。

599earth:2011/06/17(金) 23:15:13
あとがき
というわけでクーデター軍崩壊です。
黒旗軍が派手に日本本土で戦ってくれたおかげで、日本は一息つけます。
まぁ状況が悪いのは変わらないのですが。
時空管理局への調査も進みます。それでは失礼します。

600earth:2011/06/18(土) 14:24:32
第19話です。


 未来人の多元世界見聞録 第19話

 
 時空管理局本局。次元の海に浮かぶ次元航行部隊の本拠地であり、次元世界最大の軍事拠点。
 故に警戒も厳重であったのだが、次元潜航艇を探知する能力は持ち合わせていなかった。彼らはあっさり
次元潜航艇の接近を許してしまう。

「それじゃあ、行ってくるわ」

 管理局の制服を纏った朝倉は、次元潜航艇から通信で長門にそう告げると瞬間移動で本局に一気に潜入した。
続けて他のESPアンドロイドが次々に瞬間移動で本局に進入していった。
 そして潜入後、ある者は変身し、ある者はダンボールで身を隠しながら本局内を移動していく。

「ザルね〜」

 朝倉は変装して顔を隠しつつ、警戒装置を00ユニットを遥かに凌駕するハッキング能力で無効化していく。
 同時に周辺の人の様子を観察する。 

「軍事組織というより、むしろ警察機構ね。裁判所と警察が合体ってどんな組織かしら……」

 色々と呆れつつも、細かい調査を開始する。

「XV級か……確かにL級よりは強いけど、防空能力は微妙ね。でもバリアがあるからコスモタイガーの
 攻撃力じゃ撃沈は難しいかも。でもF−01の小型波動砲や主力戦艦の主砲なら貫けそうだし大した脅威じゃないか」
「S級魔導士か……大気圏内では化物じみているわね。今の陸戦部隊じゃ苦戦するかも。
 ESPユニットを当てればいいけど、数が足りないわね。最悪の場合は大気圏外から砲撃で粉砕かしら。  
 あとは船ごと沈めるのが良いわね。高ランク魔導士は船に乗っているのが多いし」
「海に対して陸は戦力が薄いわね。おまけに有人世界まで植民地にしたせいで、治安活動で首が回らないし。
 そんな陸からさらに高ランク魔導士を海が引く抜く。それでも足りないから犯罪者でも、司法取引で使うと。
 ……組織のあり方としてどうかと思うけど」

 朝倉は目ぼしい情報を入手すると、すぐに場所を移動する。目的地はロストロギア保管庫、そして無限書庫だ。
 尤も後者はあまりにもゴチャゴチャしていたので、有益な情報を引き出すのに手間が掛かりすぎると判断して
諦めたが。

「さて、ここが保管庫か……何が入っているのやら」

 巨大な扉の前で楽しそうに笑う朝倉。だがその後、彼女は信じがたいものを見て、珍しく硬直することになる。

601earth:2011/06/18(土) 14:25:58
「第三次大戦前の遺物が保管されているか……」

 管理局に関する報告を聞いた耕平は唸った。
 何しろ仮に管理局がロストロギアを使いこなして反撃に出たら痛い目に合う可能性が出てきたのだ。

「次元消滅弾頭なんて使ったら洒落にならないからな」

 空間を完全に破壊し、宇宙船の航行すら難しくする空間汚染を引き起こす大量破壊兵器。現在は保有と使用と
禁止されている兵器を筆頭に物騒なものがごろごろしているとなると、耕平ですら管理局に手を出すのは気が引ける。
ちなみに他のにも色々なものがあったが、理解しがたい機能や外見をしたものがあった。朝倉はこれらをガラクタと
判断し、耕平もそれに同意していた。

「さて、こうなると『聖王のゆりかご』もかなり物騒な品物になりそうだな」

 艦隊動員して全滅なんてことになったら第8世界での行動が難しくなる。だがここで耕平は考えを変える。

「短期決戦で決着を付ける必要があるか」

 暫く考えた後、耕平はアンドロイドの参謀に尋ねる。

「……ジオイド弾はどの程度揃っている?」
「現在120発が生産済みです」
「1惑星あたり3発として、40の惑星が破壊できるか。最悪の場合、主な管理世界にジオイド弾を撃ち込んでも
 お釣りが来るな」
「まとめて吹き飛ばすと?」
「最悪の場合だ」

 耕平はそういって肩をすくめる動作をする。

「そういえばテストは?」
「まだです」
「じゃあ適当な惑星を選んで撃ちこむか」

 かくしてジオイド弾のテストも行われた。耕平はランダムで選ぶつもりだったが、どこぞのピンク髪の貴族や黒髪メイド、
爆乳のエルフにちやほやされている男がいる星を見つけると「リア充爆発しろ!」と言ってジオイド弾を3発撃ち込んだ。
八つ当たりだが、バイトで受けたストレスはそれほどまで大きかったのだ。

602earth:2011/06/18(土) 14:26:31
「悪は去った」

 実に良い顔で言うと、耕平は再び会話を再開する。

「どちらにせよ、舐めてはかかれない相手ということだ。4個艦隊で一気に攻め落とす」
「では開戦されると?」
「NPCがあんな物騒なものを持っているとなれば放置は出来ないだろう。本局については無力化のための工作を進めろ。
 ロストロギアと無限書庫は出来るだけ無傷で手に入れたい」
 
 話し合いでロストロギアの譲渡や情報の引渡しも考えていた耕平であったが、常識を超える危険な物ばかりであった
ことから話し合いを断念した。下手に管理局がロストロギアをいらって起動させるようなことがあったら目も当てられない。
 それに管理局が拡大方針を採っているといずれ他の世界に行くつく危険があった。これは阻止する必要がある。

(危険なものは闇に葬るに限る)

 だが耕平としては開戦時期は慎重に選ぶつもりだった。

(情報収集の結果、今はASのころ。97管理外世界にアースラが行っている間に電撃戦で落せば原作キャラの
 死亡は少なくて済むだろう。マブラヴと違ってASのころまでは、魔法少女の世界だからな。STSだったら容赦しないが)

 NPC(?)とは言え、見たことがある少女を木っ端微塵にするのは、さすがの耕平も気分が良くない。

(それに管理局を潰せば、あんな魔王なんて登場しないだろう。あとはスカだが……まぁ適当に技術を与えて改造させる
 のが良いか。何か使えるものができるかも知れないし)
 
 かくして開戦時期は決められた。 
 参謀本部は次元世界制圧作戦の策定に取り掛かる。また改装や建造が終ったばかりの艦艇が次々に第8世界に送られ
始める。
 改アンドロメダ級『春蘭』『三笠』、アンドロメダ級戦艦4隻、主力戦艦52隻、信濃級空母4隻、戦闘空母12隻を
中核とした大部隊が回廊から第8世界に向かう。
 そしてその総指揮は黒旗軍総司令官である耕平が執る。
 
「これが最新鋭戦艦『春蘭』か。それにしても、やっぱり艦名は感じに限るな」

 笑いながら耕平は春蘭の艦橋を眺める。アンドロメダ級よりも広い艦橋、そして充実した指揮能力。
 性能が低いAIを搭載した戦艦も、操作できる能力を持つこの艦は、次世代の旗艦に相応しい戦艦であった。
 勿論、火力も波動砲3門(拡散・収束切り替え可)、50.8cm主砲4連装5基(上甲板に前後2基ずつ。艦底に1基)を
装備するなど黒旗軍でも有数の攻撃力を持つ。
 
「時空管理局、次元の守護者の腕前、どの程度か見せてもらう」

 かつてない外宇宙からの脅威(笑)が次元世界に迫りつつあった。

603earth:2011/06/18(土) 14:27:45
あとがき
というわけで開戦です。
なのはさんやフェイトさんは生き残れそうです。
ですが『リリカルなのは』はASで打ち切りになりそうです(爆)。

604earth:2011/06/18(土) 20:17:34
というわけで戦争が始まる第20話です。


 未来人の多元世界見聞録 第20話


 第8世界の次元世界がある宙域の周辺に、大艦隊が集結していた。
 最新鋭戦艦『春蘭』『三笠』、アンドロメダ級戦艦6隻、主力戦艦60隻、信濃級空母4隻、戦闘空母15隻、巡洋艦150隻を
中心とした一大機動艦隊。その気になればマブラヴ人類を1000回は余裕で滅ぼせるこの次元世界攻略艦隊は作戦開始を今か今か
と待っていた。
 アルテミスから見える、この堂々たる大艦隊の様子を見た朝倉は感嘆した。

「壮大な眺めね」

 朝倉の言葉に長門は頷く。さすがの彼女達もこれだけの大艦隊が集まるのははじめて見るものだった。
 艦隊の様子に見入っていた2人に総司令官である耕平から通信が入る。

『そちらの準備は良いか?』

 メインモニターに映る耕平に、2人は敬礼して答える。

「全艦、出撃準備は完了」
「いつでも出れます」
『そうか。それでは予定通り行動を開始する。本隊は本局を強襲する。そちらは支局を叩いて、各世界からの増援を阻止する
 ように』
「了解」
 
 その後、耕平は作戦の開始を宣言した。

「これより、『黒旗軍』は時空管理局制圧作戦を実施する。大量破壊兵器を隠匿し、勢力拡大に注力する危険な勢力を
 放置することは出来ない。この世界の平和は諸君の双肩に掛かっている。諸君の奮闘を期待する!」

 アンドロイドばかりの軍隊なのだが、何故か演説する耕平。ゲーマー(オタク?)としての性だった。

「作戦開始!」

 総数で500隻にもなる大艦隊が次々に次元世界に侵入を開始する。
 戦争の始まりであった。

605earth:2011/06/18(土) 20:18:07
 聖王教会からの警告、そして度重なる不審船騒動から警戒態勢を取っていた管理局は、大艦隊が侵攻してきた
ことをすぐに察知した。
 勿論、本局は蜂の巣を突いたような大騒ぎとなった。

「アルカンシェルを装備させたXV級を出せ!」
「L級もだ。全力で出撃させろ!!」

 これまで散々に苦い思いをさせられてきた次元航行部隊は、この大艦隊を撃滅すべく活を入れる。
 
「各世界に派遣していた巡航艦も呼び戻せ!」
「ですがそれでは各世界の管理が」
「この際、あの大艦隊を叩いてからだ。連中に本局を落とされるようなことがあれば、治安の維持どころでは
 なくなる!」

 かくして本局からは次々に次元航行艦が出撃していく。
 だが大世辞にも艦隊で行動することに慣れているとは思えない有様だった。そしてその様子は次元潜航艇に
よって次々に旗艦春蘭の耕平の手元に知らされていた。

「総数は約300、数は大したものだが、艦隊決戦に慣れていないようだな」

 耕平の本隊は春蘭、三笠、それにアンドロメダ、ネメシスの4隻、主力戦艦46隻を中心とした350隻だ。
このため管理局もほぼ互角と見て積極的に打って出たのだ。

「所詮は警察機構か」

 この耕平の呟きにアンドロイド参謀が頷く。 

「彼らは単艦で行動することが多いようです。さらに大規模な戦争を経験したこともありません。
 恐らくこれが最初の艦隊決戦でしょう」
「そして最後の艦隊決戦になるよ。1隻たりとも生かしては帰さない。それに良い経験値稼ぎになる」
「それでは当初の作戦通りに?」
「包囲殲滅は戦場の花だよ」

 こうして2つの艦隊は距離を詰めていく。

606earth:2011/06/18(土) 20:18:47
 双方の間隔が詰まってきたのを見た耕平は艦隊を停止させる。

「波動砲統制射撃準備。波動砲、拡散モードでエネルギー充填開始」
「了解しました。波動砲、拡散モードでエネルギー充填開始」
「収束型の艦は第二射のためにチャージ。それと相手が反転したときに備えて瞬間エネルギー位相装置も準備」
「了解」
   
 50隻の戦艦が波動砲にエネルギー充填を開始する。勿論、黒旗軍本隊が停止したのを見た管理局艦隊も
何かあるとは思ったが、あまりに遠かったので、手出ししようが無い。
 必殺のアルカンシェルもこの距離では届かない。

「接近するしかあるまい」

 管理局艦隊司令官は虎穴にいらずんば虎児を得ずとばかりに全速で黒旗軍本隊に向けて突進する。
 しかしこの様子を見ていた耕平は思わずニヤリと笑った。

「獲物がわざわざ飛び込んでくるとは。尤も、今さら後退しても直撃波動砲の餌食だけどな」

 そう余裕を示しつつも、周辺への警戒は忘れない。
 何故か波動砲を撃った直後に、防衛艦隊はフルボッコにされる場合が多い。特に完結編では拡大波動砲を
撃った直後に、奇襲を受けて壊滅している。耕平は同じことが起こるのを警戒していた。

「デスラー艦、空母部隊、水雷戦隊も準備を怠るな」
「了解」
 
 着々と進むエネルギーチャージ。そしてついに出力は120%に達する。
 ターゲットスコープが耕平の前に開かれる。耕平は同時に下から出てきた波動砲発射の引き金に指をかける。

「電影クロスゲージ明度8」
「エネルギー充填120%」

 アンドロイドの言葉に頷くと、耕平はカウントダウンを開始した。

「発射10秒前、対ショック、対閃光防御。10、9、8………」

 カウントダウンを告げる耕平の声だけが艦橋内に響く。

「3、2、1、0。波動砲、発射」

 耕平が引き金を引き、波動砲が発射される。膨大なエネルギーが次々に放たれ、管理局艦隊に向かう。
 それは時空管理局にとって最初の艦隊決戦の始まりにして、次元航行部隊創設以来の苦難の始まりを告げるものであった。

607earth:2011/06/18(土) 20:20:48
あとがき
というわけで、原作の地球防衛軍お得意の先制の波動砲攻撃です。
でも原作だといきなり波動砲を撃ったら敗北フラグ(爆)。
でも管理局に奇襲をかけれる力は……
それでは失礼します。

608earth:2011/06/18(土) 22:21:50
というわけで第21話です。


 未来人の多元世界見聞録 第21話


 黒旗軍艦隊本隊から発射された波動エネルギーは散弾銃のように分散して、雨霰と管理局艦隊に降り注いだ。
 
「か、回避しろ!!」
「ダメです!!」

 次元航行艦の艦長たちは何とか回避を試みるが避けられるものではなかった。四方八方から降り注ぐ波動
エネルギーによってシールドは食い破られ、艦内も次々に破壊されていく。

「うわぁああああ!!」

 L級が、新鋭のXV級が、次々に艦体を波動エネルギーに貫かれて沈んでいく。
 管理世界からの膨大な出資で作られ、管理世界を守ってきた艦がいとも容易く沈んでいく様は、管理局員から
すれば悪夢と言ってよかった。

「ば、馬鹿な……」

 運よく波動砲の影響を受けなかった管理局艦隊旗艦XV級『ヘクトル』では艦隊司令官が呆然としていた。

「ただの一撃で、艦隊の三分の二が……馬鹿な、こんなことが」

 勿論、周囲の部下達も似たようなものだった。次元航行部隊が創設されてから、ここまで一方的な大敗北など
経験したことがなかった。故に彼らは呆然となった。
 本来ならすぐに体制を立て直すべきなのだが実戦経験の無さがここで効いた。

「敵艦隊に高エネルギー反応!」
「何?」

 そう波動砲の第二射が放たれるときが来たのだ。

「反応が遅い」

 耕平は嘲笑いつつ、収束型波動砲を撃った。残存部隊へのピンポイント攻撃であった。
 破壊できる範囲は拡散型より劣るものの、貫通力は拡散型の比ではない。そして辛うじて残った管理局艦艇に
これを防ぐ術は無かった。

「は、反転180度! 全艦離脱!!」

 ヘクトルは慌てて逃げ出そうとしたが、間に合わない。ヘクトルと周辺に居た艦艇は根こそぎ波動砲に呑み
こまれていった。

609earth:2011/06/18(土) 22:22:27
 粗方、敵艦隊の反応が消失したのを見た耕平はオペレータに尋ねた。 

「敵の残存は?」
「残りは54隻。全艦が反転して本局に向けて後退しようとしています。また本局よりさらに5隻の艦艇が発進」
「逃げるか。まぁ全滅覚悟で突撃するよりかは賢明だが……そうはさせない。空母艦載機、水雷戦隊、前に!」 

 後方に待機していたデスラー艦の前に、F−01と巡洋艦、駆逐艦が並ぶ。 

「デスラー戦法を見せてやろう」

 瞬間物質位相装置が次々にF−01、巡洋艦、駆逐艦をワープさせていく。

「管理局が驚く顔が目に浮かぶな」

 しかし退却する管理局艦隊は驚くどころではなかった。何しろ必死に退却しようとしている最中に周辺に
前触れも無く戦闘機や巡洋艦が現れたのだ。

「馬鹿な! どこから!?」
 
 慌てて応戦しようとするが、先手を打つかのようにF−01が搭載する小型波動砲が火を噴いた。
 シールドで持ち堪えようとするが、出力を強化された小型波動砲を防ぐことはできない。次々にシールドごと
艦体を撃ち抜かれる。

「Dブロック消失!」
「Bブロック火災発生!」
「魔導炉停止!」

 次々に齎される凶報。それはすでに艦が航行できないどころか、沈む直前であることを意味した。

「総員退艦、急げ!!」

 相次いで艦が放棄される。しかしなお攻撃は止まない。巡洋艦が20.3cm連装衝撃砲を弱体化した管理局艦に
撃ちこむ。1隻のL級が衝撃砲に貫かれ爆沈した。炎を上げつつ航行していたXV級には多数の魚雷が叩き込まれる。
XV級は搭載していた小口径の砲で迎撃するも1発も撃破できず、全弾が命中。文字通り轟沈する。
 勝敗は決した。

610earth:2011/06/18(土) 22:23:08
「ぜ、全滅だと。敵艦隊に触れることさえできずにか……」

 300隻あまりの大艦隊が文字通り殲滅されたことを知った次元航行部隊の高官は本局の司令部で卒倒しそうになった。
 だがそうなるのも無理は無かった。何しろこれまで巨費をつぎ込んで建造してきた次元航行艦、そしてそれを
運用する貴重なクルー、そして宝石よりも希少な高ランク魔導士が根こそぎ失われたのだ。
 
「各世界、支局からの増援はどうなっている?」

 一途の望みをかけて高官はオペレータに尋ねるが、逆に悲鳴のような報告が戻ってくる。

「か、各支局が敵艦隊に襲撃されています! 奇襲を受けて大損害を被っているとのことです!!」
「何だと?! 別働隊がいたというのか?!」

 このとき、長門艦隊などの別働艦隊が各世界の支局に奇襲攻撃をかけていた。
 迎撃に出た次元航行船は次々に撃沈され、支局も波動砲や波動カードリッジ弾によって滅多打ちにされて
破壊されていった。

「経験値稼ぎにもならないんじゃない?」
「否定できない」

 朝倉と長門は支局や周辺の艦隊をそう酷評した。実際、酷評されても仕方ないほど一方的に管理局側は
打ち負かされていた。

「S級やA級も、宇宙空間から撃たれたら形無しね」

 朝倉の言うとおり、高ランク魔導士はここでも何の役にも立たず、黒旗軍の砲火によって次々に倒れていった。 

「次元航行部隊は事実上壊滅か……」

 誰の目から見ても、決着はついていた。管理局の大敗という形で。

「「「………」」」

 回りの人間が浮つく中、伝説の三提督たちは、管理局の大敗を冷静に受け止めていた。
 同時に彼らはこの敗戦をどう処理するかで頭を悩ませていた。もしも謎の艦隊が地上への爆撃を敢行すれば
管理世界は火の海と化す。それは次元世界の滅亡に直結する。
 生き残るには、管理世界の各政府をまとめ、降伏するしか道はなかった。

611earth:2011/06/18(土) 22:25:02
あとがき
というわけで会戦終了です。
管理局艦隊涙目ってレベルじゃありません。一方的敗戦です。
ここまで一方的にやられた管理局が居ただろうか……。
それでは失礼します。

612earth:2011/06/19(日) 10:44:00
かなり短めの22話です。


 未来人の多元世界見聞録 第22話


 管理局艦隊が消滅したのを見て、三提督が降伏を提言しようとした直後、本局にさらなる異変が襲う。
 警報とともに次々に内部のシステムがダウンしていく。

「どうした?!」
「ハッキングです! 次々に防壁が突破されています!!」
「保安部のメインバンクに侵入されました!! パスワードを解析中です!」
「何だ、この速度は!?」
 
 慌ててオペレータたちは対応するが、全く間に合わない。
 混乱する中、本局のあちこちで破壊工作が行われる。相次いで重要な通路や輸送路が爆破され、各地で
人や物の流れが遮断される。

「武装隊を出せ、不審者と不審物の発見に全力を挙げろ!」

 慌てて各所に指令が飛ぶが、本局でこのような破壊工作が行われることなど無かったために迅速な
対応がとれない。さらにESPアンドロイドは瞬間移動や変身で姿を隠すため、発見が困難だった。

「これだけの破壊工作となると、かなりの人数が侵入しているはずだ! 何としても見つけろ!」

 高官はそう厳命するが、事態は悪化する一方だった。

「敵艦隊、本局に向けて接近!」
「何?!」
 
 司令部のスクリーンには、悠々と本局に向かってくる黒旗軍艦隊の姿があった。
 管理局艦隊の3分の2を一瞬で消し飛ばした恐るべき戦略砲を搭載した戦艦が整然と進撃してくる様は、高官たちを
恐怖させた。
 あの戦略砲(波動砲)が発射されれば、本局とはいえ崩壊は免れない。

「こうなったら、ロストロギアを使うしか……」
「ですな……」

 三提督が止めるよりも早く、高官たちはロストロギアを使った反撃にでようとする。だが試みは無駄に終った。

「ロストロギア保管庫が制圧されただと?」
「はい。周辺の通路も全て爆破されました」
「………」
「敵艦隊、さらに接近」

 艦隊と切り札、そして本局のコントロールシステムの多くを失った管理局にできることは降伏しかなかった。

613earth:2011/06/19(日) 10:44:41
「管理局から降伏の申し出が来ています」

 春藍の艦橋でそう報告を受けた耕平は満足げに頷いた。

「これで少しは、この世界の真実に迫れるな……ロストロギア、無限書庫、この2つがあればかなりの情報を
 収集できる」

 第8世界のNPC文明は、かつてのプレイヤーが作った文明が発展したものとゲーム会社から説明されたが
それをそのまま受け取るほど耕平は素直ではない。
 マブラヴ、リリカルなのはと言い、1000年前の世界のフィクションに似た文明がそうそう自然に発生
するわけがない。

(誰かが介入しているとなれば、警戒が必要だ。いきなり奇襲されて大打撃なんて受けたら面白くないし)

 BETAも探索も必要だが、他のプレイヤーの存在の有無を確認することも必要だった。
 まだ出会っていないだけで、実はこの世界のどこかで活動しているとすれば、いずれ開戦ということも
あるのだ。

(あとはマブラヴ人類の調査だな。まぁ大したものは発見できないだろうけど、史実を超える技術進歩が
 成し遂げられたのも何か理由があるはずだし。ああ、それと禁止兵器は、さっさと運営に通報しておくか。
 何か報酬がもらえるかも知れないし)

 そんなことを考えている内に、長門艦隊などの別働艦隊が合流する。

『任務完了』
「ご苦労様。でも悪いけど、今から本局で交渉してきてくれない?」
『何故?』
「自分のユニットは君達のように強力じゃないんでね。騙まし討ちされたら対応できないんだ。その点、君らは
 S級魔導士とも戦えるし、何かあっても対応できる。それにリーディングで相手の考えも読める。
 交渉にはもってこいだ。勿論、他のESPアンドロイドや護衛の歩兵部隊はつける」
『……了解した。ただちに本局に向かう』

 一方、出迎える管理局員は屈辱と不安で頭が一杯だった。栄光ある管理局が良い様に叩きのめされ、犯罪者に
頭を下げなければならないのだ。

(何故、このようなことに)

 特に高ランク魔導士は忸怩たる思いだった。自分達の実力が発揮されないまま、全てが終ってしまったのだから。
 そうこうしている内に、かつて次元航行艦が収納されていたドックに1隻の大型戦艦が入ってくる。管理局が嫌う
『質量兵器』の雰囲気が漂ってくる艦だ。
 
(どんな連中が出てくる?)

 だが彼らはこの直後、信じがたいファンシーな生物を目にすることになる。

614earth:2011/06/19(日) 10:48:01
あとがき
本局開城です。次回、『ボン太君(+長門と朝倉)大地に立つ』になる予定です。
マブラヴ人類の代わりに管理局のSAN値が……。
まぁいずれマブラヴ人類のSAN値も……。
実験SS(最強系)で、普段の息抜きがてらに書いているのですが
あまり評判がよくないようであれば、切りが良いいところで打ち切りたい
と思います。

615名無しさん:2011/06/19(日) 10:55:17
投稿ご苦労様です。
前のバージョンも良かったと思いますが
今の分も楽しく読ませてもらってます。

中途半端な最強系でなく原作破壊上等なところも、
相手に合わせる必要など認めなく、自分達の都合だけで動くところは
私としては気に入ってます。
次回作も楽しみにしてます。
出来れば今日中であれば・・・

616earth:2011/06/20(月) 21:30:18
いよいよ交渉(?)が始まる第22話です。


 未来人の多元世界見聞録 第22話

 長門艦隊旗艦アルテミス。拡散波動砲2門、50.8センチ衝撃砲12門という重武装を誇る
戦略指揮戦艦アンドロメダ級の3番艦は管理局員達に言い知れぬ威圧感を与えていた。
 同時にどのような勢力によってこれが建造されたのかと誰もが疑問に感じた。
 
「一体、あれほどの質量兵器をどこの組織が作ったんだ……」
「管理世界のどこかの政府が密かに建造したんじゃないのか? 次元世界の覇権を得るために」
「馬鹿な。管理局の監視を掻い潜って作れるわけがない」 

 管理局は節穴ではない。いくら何でもXV級を超えるような大型艦が建造されるなら、その
兆候は掴める。だが管理局は全くその兆候を掴めなかった。黒旗軍と名乗る勢力は突如として
現れたのだ。 
 
「これが謎の勢力の戦闘艦」

 出迎えのためにドックに来ていたレティ・ロウランはアルテミスを見て、自分達の艦とは全く
異なる理論で設計された艦であることを理解した。
 
「アルカンシェルを超える戦略砲、そしてXV級を超える機動力。どれも信じがたいものばかり」

 だが目の前で管理局艦隊が捻り潰されたのを見れば、信じざるを得ない。
 目の前の勢力は管理局を凌駕する存在であり、その気になれば自分達をいつでも抹消できる力を
持っているということを。

(うまく降伏交渉を纏められればいいけど)

 管理局はこれまで圧倒的強者と交渉したことが無い。まして次元航行部隊が壊滅し本局が降伏を
余儀なくされることなど想像すらしたことがなかった。
 管理局の要職を占めるプライドが高い高ランク魔導師が、素直に降伏(それもほぼ無条件降伏)に
同意するかレティには判らなかった。

(三提督が抑えてくれると良いけど)

 そんなことを思っている内に、アルテミスからタラップが降ろされる。
恐怖、憎悪、屈辱、様々な感情が渦巻く中、アルテミス内部から降りてくる人影が見えてくる。
 管理局員の誰もが固唾を呑んで、自分達を叩きのめした謎の勢力の代表が降りてくるのを待った。

「「「………」」」

 静まり返るドックの中、長門と朝倉は勝者としての余裕をもって姿を現した。
 2人の少女の姿に誰もが驚くが、高ランク魔導師が幅をきかせる管理局の人間は、あの2人が超高ランク
魔導師なのだろうと当たりをつける。
 だがその直後に現れた人物(?)に誰もが度肝を抜かれる。

「……着ぐるみ?」

617earth:2011/06/20(月) 21:30:50
(驚いているわね〜。まぁ仕方ないか。あんなファンシーな物が出てくるとは誰も思わないだろうし)

 内心でほくそ笑む朝倉。
 尤も彼女自身、ボン太君を歩兵として送りつけられたときは、耕平が正気かどうか疑ったが。
 長門と朝倉の後から付いてくるボン太君に誰もが唖然とする中、艦隊のTOP2は悠々とドックに
降り立った。
 尤も悠然としつつも、実際には騙まし討ちにいつでも対応できるように臨戦態勢であった。
 今はボン太君に呆気を取られているものの、ここは敵地であることに間違いは無いのだ。さらに言えば
彼らは一方的に容赦なく管理局を叩きのめしている。管理局からすれば黒旗軍は正体不明の侵略者だった。

(さっさと仕事を終らせて帰るに限るわ。まぁ仮に魔導師連中が逆上して襲ってきても叩きのめす自信は
 あるけど)

 重頭脳級を筆頭にしたBETAよりは潰し甲斐がありそう、と密かに思う朝倉だった。
 そんな戦闘狂な部分がある朝倉と違って、長門はさっさと仕事を済ませて戻るつもりだった。
 彼女は敬礼すると自身の所属と階級を述べる。

「黒旗軍BETA討伐艦隊司令官、長門有希中将。通告どおり、管理局との交渉に来た」

 出迎えたレティは慌てて答礼する。

「時空管理局本局運用部、レティ・ロウランです」

 レティは失礼が無いように長門達を本局統幕議長であるミゼット・クローベルや本局高官が待つ会議室に案内する。
 レティ自身、黒旗軍というのはどんな勢力なのか、BETAとは何かと色々と聞きたいことはあったが、ここで
彼女達に問い質す権限も資格も彼女には無かった。

(それにしても、この着ぐるみって……)

 誰もがボン太君について突っ込みたかったが、誰も突っ込めない。
 このあまりにも場の空気にそぐわないファンシーな存在は、軽快な足音を立てながら、長門達のあとを付いていった。

618earth:2011/06/20(月) 21:31:48
 長門と朝倉、そして護衛(?)のボン太君2人(2匹?)は様々な視線に晒されながらも、会議室に案内された。
 まずは最初に長門と朝倉が自分達の正体を語り始める。

「先の通信で開示したように、我々は貴方方の言葉で表現すれば『黒旗軍』と呼ばれる存在。
 そして私は黒旗軍BETA討伐艦隊司令官、長門有希中将。この交渉の全権を総司令官から委任されている」
「私は黒旗軍BETA討伐艦隊参謀長の朝倉涼子少将です。長門中将の補佐を任されています」
 
 これに対して、ミゼットが質問する。

「時空管理局本局、統幕議長のミゼット・クローベルです。質問しても宜しいでしょうか?」
「構わない」
「黒旗軍とは、どこかの次元世界に存在する国家に所属する軍でしょうか?」
「違う。我々は国家に所属してはいない」
「国家に所属しない?」 
「そう。我々はもともと1個人によって作られた私設軍隊」

 私設軍と言う言葉に管理局は驚愕する。何しろ本局と次元世界各地の支局を同時に攻撃できる
ような次元航行艦隊(?)を一個人が持っているというのだ。驚かないほうがおかしい。
 いや普通なら、そんな発言を公式の場でした人間は病院送りになるだろう。次元世界の守護者を
自称する管理局でさえ、その維持費は各世界の政府から支出してもらっているのだ。それを超える力を
個人で持つなど、常識人からすれば妄想もいいところだった。

「い、一個人がこれだけの力を持っていると?」

 長門は静かに頷いた。そしてさらに驚くことを告げる。

「そしてもう一つ。我々はもともと貴方達がいう次元世界には存在していなかった」

 これに管理局高官はどよめく。

「馬鹿な、ならば」
「静かに」
 
 ミゼットは怒鳴ろうとする高官を黙らせた後、尋ねる。

「では、貴方達はどこから来て、どうして我々に敵対するのですか?」
「まず我々は貴方たちが次元世界と呼ぶ空間の外の、さらに外の世界から来た」
「次元世界の外の外?」

 時空管理局の、いや次元世界の住人の常識を木っ端微塵にする『お話』が始まろうと
していた。

619earth:2011/06/20(月) 21:33:15
あとがき
というわけでお話の始まりです。
管理局のSAN値がどこまでもつか……。それでは失礼します。

620earth:2011/06/21(火) 22:04:00
もうそろそろ憂鬱本編を進めないといけないと思いつつ書いてしまう。
と言うわけで第23話です。


 未来人の多元世界見聞録 第23話

 時空管理局高官は目の前に広がる光景に絶句していた。かの伝説の三提督でさえ言葉がない。
 何しろ自分達は会議室にいたはずなのに、いつの間にか別の場所にいたからだ。

「……TV局のスタジオ?」

 辺りにある放送機材を見て、高官の一人が呆気に取られたような顔で呟く。
 
「幻影魔法か?」
「いや、そんな反応は無いが……」
「なら、何なんだ。これは。外部との連絡も取れん」
「奴らが何かしたのか?」

 長門達が「自分達が次元世界の外の外から来た」と切り出した後、三提督を除く高官たちは反発した。
 誰もが信じられなかったからだ。そんな彼らの反応を見て、長門達はため息をついた。そしてそのあと何事か
を呟いた。
 すると途端に会議室は変容した。彼らが今見ているようなTV局のスタジオに。
 動揺する高官たち。だがその彼らの度肝を抜くような大音響が響き、さらに目の前の床が開いて何かが下から
上がってくる。

「?!」

 誰もが身構える。だが直後、彼らは唖然とする。

「なぜなにじげんせかい、始まるよ〜♪」

 楽しそうな、というか他人を馬鹿にしたような朝倉の声。そして……

「わ〜」

 棒読みまるだしの長門の声が響き渡ると同時に子供向けの人形劇のようなセット、北高の制服でたたずむ長門、そして
黒子を被った(?)と思われるボン太君2人が現れた。

「「「………はぁ?」」」

 あまりにシュールな光景に誰もが思考停止した。

621earth:2011/06/21(火) 22:04:36
 しかしそんなことはお構いなしに、事態は進行する。
 長門の右横にある人形劇のセットに、朝倉をデフォルメしたような人形(あしゃくらさん)が現れ、話し始めた。

「長門さん、今回は次元世界の構造についてお話するんですよね?」
「そう」

 長門がそういうとボン太君が説明用の機材を台車でどこからか持ってくる。
 それはどこかの街のジオラマであった。長門はその中から、一つのビルの模型を取り出す。 
 
「次元世界とは例えるなら、団地に作られた高層マンションのようなもの」

 そう言って長門はマンションを模ったビルの模型を分解する。そして模型の中の部屋には次元世界の名前が刻まれていた。 
  
「外の世界の我々からすれば、このようになっている」
「なるほど、次元世界というのは、ある意味、建物の中で仕切られた部屋なんですね」
「そう。限られた土地の中に詰め込まれた世界」

 そういうと長門は模型をもとのジオラマに戻す。

「逆に言えば、団地の外には、街が広がっている。これが外の世界」
「なるほど。それじゃあ、外の外っていうのは、隣町ってことですか?」
「そう。我々は団地に住むマンション住人からすれば、突然現れた隣町の住人」
「でも、団地の住人だったら、外に街が広がっていることくらい判りそうですが」
「この団地は特殊な構造。簡単に内側から外を見れないし、外からも中には入れない」
「ゆりかごみたいな世界ですね」
「ある意味そうだと言える」

 ここまで来たとき、ミゼットが我に帰る。

「つまり時空管理局が認識している次元世界というのは、貴方達からすればこの宇宙の一宙域にある
 特殊な位相空間、一種の箱庭であると?」

 ミゼットの問いに、長門は即答する。

「そのとおり」
「……では貴方たちは、その宇宙のさらに外から来たと?」
「そう。我々は貴方たちを超える技術と力をもって世界の壁を超えてきた」

622earth:2011/06/21(火) 22:05:12
 誰もが絶句する。長門の発言はそれほど途方も無い内容だった。
 しかし誰もが真実であると悟った。彼らは魔法を使わず、それどころか高位ランクの魔導師である自分達に何かの
力の発動さえ感知させることなく一瞬で自分達をこの空間に閉じ込めたのだ。
 よほど技術レベルが隔絶していない限り、このような真似はできないはずだった。

「そして我々が貴方たちを時空管理局を攻撃したのは、貴方たちが集めていたロストロギアを回収するため」
「ロストロギアを?」

 このとき、多くの高官が黒旗軍のことを、ロストロギア狙いの強盗と考えた。
 だがその考えは、長門の発言によってひっくり返される。

「我々の調査の結果、このロストロギアの中に、遥か昔に我々の間で使用や保有が禁止された兵器がある
 ことが判った。この兵器が使用されるのを防ぐためにロストロギアを収拾する管理局への攻撃、そして
 ロストロギア、貴方たちの言語で表現すれば『次元消滅弾頭』の回収が決定された」
「次元消滅弾頭?」
 
 高官たちが首をかしげる中、セットの陰から現れた朝倉は一枚の写真を見せる。

「これのことです」

 高官たちは食い入るようにこの写真を見る。

「これが?」
 
 高官の問いに朝倉が答える。

「はい。遥か昔に起きた大戦で、この世界を一度破壊した大量破壊兵器の一つです。仮にこれが暴発した
 場合、広範囲の空間が完全に破壊されます。仮にここで爆発すれば管理局本局は完全に消滅し、周辺の
 次元世界にも多大な悪影響が出ることは確実です。最悪、次元世界そのものが崩壊するでしょう」

 だがこのとき、三提督の一人、ラルゴ・キールがある文言に気付いた。

「ちょっと待ってくれ。今、世界を一度破壊したと?」
「ええ。外の世界、遥か昔に一度滅んでいますから」
「「「………」」」
 
 誰もが思った。「勘弁してくれ」と。

623earth:2011/06/21(火) 22:06:25
あとがき
管理局の常識木っ端微塵。
次回以降、SAN値がさらに大変なことに……それでは失礼します。

624名無しさん:2011/06/21(火) 23:41:52
こういうある意味メタに近いネタばれは、されるほうは自己を保つのが精一杯かも。
逆にこんな世界を作った、ゲーム会社?(ゲームマスター)の思惑が楽しみです。
考えてみれば、主人公からすれば全部作られた御伽噺だものなあ。

625New ◆QTlJyklQpI:2011/06/21(火) 23:48:14
>>624 感想は未来人の多元世界見聞録について3にてお願いします。

626earth:2011/06/22(水) 23:10:17
第24話です。色々と大変なことになります。


 未来人の多元世界見聞録 第24話

 立て続けに常識が木っ端微塵にされたせいか、時空管理局の高官たちは頭を抱えて黙り込んだ。
 かの伝説の三提督でさえ、ぐうの音もでないのだから、他の人間がどんなことになっているかは言うまでも
ないだろう。
 そんな様子を楽しそうに眺める朝倉。その一方で、長門が少し時間が立ちすぎたことに気付く。

「もうそろそろ終わりにするべき」
「そうね」

 朝倉がそう言うと、TVスタジオが元の会議室に戻った。だが、もはやその程度では誰も驚かない。

「それで何か質問は?」

 朝倉の問いに対して、何とか己を奮い立たせたミゼットが口を開く。

「我々の世界では、かつてアルハザードと呼ばれる高度な文明があったとの話があります。滅んだ世界とは
 そのことでしょうか?」
「さぁ?」

 この世界がゲームのために作られた8番目の人工宇宙であり、第8宇宙と呼ばれていることを敢えて
朝倉は教えない。
 だが高官たちの多くは、目の前の存在が滅んだはずのアルハザードと同格かそれ以上の力を持っているので
はないかと考え始めた。それは彼の常識に基づく判断であると同時に、自己防衛のためでもあった。
 正体不明の謎の勢力に叩き潰されたと考えるより、伝説の存在並みの規格外の存在に負けたと
考えるほうがプライドが傷つかなくても済むし、後々、管理世界政府に弁明するのも容易になる。

「しかし個人でどうやって、あれだけの軍事力を……」

 海の高官はそう疑問を呈した。この疑問に2人はあっさり答える。

「我々の上位者、黒旗軍の統括者と同族なら、あの程度の宇宙艦隊は自力で揃えられる」
「さらに言えば統括者やその同族は外の外の世界において国家を形成していません。その必要もないですし」
「「「………」」」

 もはや誰も何もいえなかった。

(((国家に頼らず軍を組織できる個人(?)が大勢居る、外の世界とは一体……)))

 常識が音を立てて崩壊していくのを感じる高官たち。彼らは何も聞かなかったことにして家に帰って
不貞寝したい気分だった。

627earth:2011/06/22(水) 23:10:59
「……しかし、何故このような強硬な方法で回収されるのですか? 話し合いの席を設けられれば
 無用な争いを避けられたのでは?」

 三提督の一人であり法務顧問相談役のレオーネ・フィルスが尋ねた。
 これに対して長門は淡々と返す。

「調査の結果、時空管理局は勢力拡大に力を入れる危険な勢力であると判断した。またロストロギアの
 保管方法も杜撰なところがある。よって武力によって有無を言わさず回収することが決定された」

 勢力拡大に舵を切らせたのは、黒旗軍が領海侵犯を繰り返した結果であり、管理局からすれば反論の余地があった。
だが後者については紛れも無い事実であり、そこを指摘されると弱い。さらに言えば彼らは弱者の立場であった。
強者にあれこれと言える立場ではない。 
 かと言って、彼らは、特に三提督は唯々諾々と強者に従うつもりはなかった。
 黒旗軍がロストロギアを回収してそれを使用しないとは限らない。仮に朝倉の説明したように危険なものなら 
最低でも次元世界周辺で使用されるわけにはいかない。ミゼットはそんな懸念を浮かべて口を開く。
 
「しかし保有や使用を禁止されている兵器を勝手に回収してよいのですか? 
 貴方達の話を聞く限り、黒旗軍と同格の存在がいくつもあるように思われますが」 
「問題ない。回収した兵器は管理者に提出される」
「管理者?」
「そう。黒旗軍も、それと同格の勢力もすべて管理者が定めたルールの下で活動している。仮に管理者が定めた
 ルールに逆らえば即座に抹消される」 
「……」

 自分達を一蹴した存在を、さらに一蹴できる絶対的強者が存在するという話に誰もが唖然となった。
 そんな彼らに朝倉がさらに追い討ちをかける。
 
「我々の上位者、いえ黒旗軍の統括者は、この次元世界を守るために敢えて管理局攻撃を行ったとも言えます。
 時空管理局という好戦的な勢力が、次元消滅弾頭を保有していると管理者が知れば、次元世界ともども殲滅される
 可能性が高かったですから」

 この物言いに、海の高官が激怒しかかるが、ミゼットがそれを止める。

「判りました。ロストロギア、いえ次元消滅弾頭を、黒旗軍に譲渡します」
「議長?!」
「仮に拒んでも、彼らは実力で持っていきます。それなら、正式に譲渡したほうが良いでしょう」 
「ですが」  

 尚も言い募る高官。これを見た朝倉は嘲笑するように言う。

「問題があるようなら、最高評議会の三人にお伺いを立てたらどうです? 止めはしませんよ」

 この言葉に事情を知る高官は絶句した。そんな反応を見て楽しそうに朝倉は続ける。

「まぁあの老人たち、いえ、その成れの果ても、ここで否とは言えないでしょうけど」

628earth:2011/06/22(水) 23:11:32
 朝倉に名指しされた最高評議会は、この事態に苦悶した。
 彼らの手駒であった時空管理局の実働部隊は事実上壊滅。管理局本局も黒旗軍がその気になればいつでも
破壊される状態。おまけにロストロギア保管庫も黒旗軍に抑えられている。反撃しようが無い。

「黒旗軍、これに対抗できる勢力と接触できれば良いのだが」
「無理だな。仮に接触しても、我らを守ることは無かろう。利用された挙句に潰される可能性が高い」
「それに両者が争えば、次元世界は壊滅しかねない。人が足元の蟻に注意を払わぬように、彼らが争ったときに
 次元世界への影響を考慮するとは思えない」
「聖王のゆりかごの起動が間に合っていれば」
「間に合っていても勝てるとは限らないだろう」
「ではどうする?」

 答えは決まっていた。しかしそれを出すことは彼らの人生を否定することに他ならない。

「「「………」」」

 結論を下せぬ最高評議会。だが彼らが躊躇っている間に、トンでもない事態が起こる。
 そう、質量兵器を極度に嫌う一部の高ランク魔導師が勝手にロストロギア保管庫を奪還しようとしたのだ。
 Sランク以上の魔導師が束になってESPアンドロイド達に戦いを挑む。勿論、黒旗軍も黙っておらず反撃に
出た。このためあちこちで派手な戦闘が起こる。

「あらあら……」
「……」

 この様子をモニター越しに見て呆れる朝倉と長門。これに対して三提督を含め、高官一同は顔面蒼白だった。

「す、すぐに止めますので、少々、お待ちを!」 

 慌てて出て行く男達を見て朝倉は嘲る。だがその余裕も、保管庫を占拠していた部下の報告によって
かき消された。

「……次元消滅弾頭が起動した?」

 それは黒旗軍にとって最悪の事態を告げるものであった。

629earth:2011/06/22(水) 23:13:06
あとがき
次元世界大ピンチといったところでしょうか。
もうそろそろ憂鬱も進めないと……。
それでは失礼します。

630earth:2011/06/23(木) 23:09:02
というわけで第25話です。


 未来人の多元世界見聞録 第25話

 次元消滅弾頭の起動、この報告を聞いた朝倉は文字通り血相を変えた。
 自身に搭載された通信機能すべてをフルに使って、全てのESPアンドロイドに次元消滅弾頭の起動を止める
ように指示する。 

「止めなさい。すぐに!」
『ダメです。こちらの操作を受け付けません』
『操作不能』
『爆発まで、あと3分』 
『次元消滅弾頭、防壁を展開。近くに居た3名が消失』

 この報告を聞いて朝倉は長門に顔を向ける。長門はすぐに決断を下す。

「交渉は中止。総司令に連絡を。総員は直ちに脱出。アルテミスは緊急出航」

 この言葉に管理局の人間達が口を挟む前に、長門と朝倉はボン太君ごとアルテミスの艦橋に瞬間移動で移動した。
 そして移動するや否や、アルテミスを出航させる。 

「機関最大出力。主砲、1番、2番用意。ゲートを破壊する」

 非常に荒っぽい方法であり、艦体に被害がでる可能性もあったが、時間には換えられない。
 
「撃て!」

 周辺で突然の事態に右往左往する管理局員など構うことなく、アルテミスは6門の50.8センチ衝撃砲で
ゲートを砲撃した。ゲートは粉砕されるが、周辺にも衝撃波と破片が吹き荒れた。武装隊を含めて多数の
局員たちが衝撃波を受けて吹き飛ばされる。
 勿論、超近距離射撃のためにアルテミスにも被害が出る。

「1番、2番砲塔使用不能!」
「艦首ブロック中破」

 他のアンドロメダ級と違って強制波動装甲に改装できなかったアルテミスは、この大爆発に無傷という
わけにはいかなかった。だが長門は問題にしない。

「問題ない。機関最大出力。アルテミス出航」

 他の障害物を強引に突き破ってアルテミスは本局から脱出する。
 一方、連絡を受けた耕平は慌てて運営に連絡した。何しろこれ以上下手な手を打てば自分のアカウントが危ない。
 
「困ったときの運営頼みだ」

 だが運営だけに頼るつもりも無い。万が一間に合わなければ艦隊が全滅してしまう。それは避けなければ
ならない。

「全艦、全速力で次元世界を脱出せよ。陣形が崩れても構わない。全速で逃げろ!!」

 この命令を受けて、全ての艦艇が反転して管理局本局から離れていく。

631earth:2011/06/23(木) 23:09:38
「次元世界崩壊とその余波に備えて、次元世界周辺宙域には留まるな! 次元世界離脱後、ワープで太陽系の土星宙域に
 集結せよ! 宙域周辺の部隊も離脱しろ。基地は放棄しても良い!!」

 管理局に完勝したはずの黒旗軍は、総崩れになったかのように陣形を崩して遁走していく。

「クソッタレ! 完勝したと思ったのにこれかよ!!」

 耕平は艦長席で歯噛みするがどうしようもない。だが同時に自分の中に驕りがあったことも認めざるを得なかった。
 
(勝ちすぎたせいで、傲慢になっていたか……たとえ、相手が弱くても最後まで気を抜かずトドメを刺さなければ
 ならない。戦争ゲームの基本を忘れていた)

 この様子を見ていた本局司令部の人間は唐突な展開に呆然とする。 

「何が起こっている?」

 冷静な人間は、自分達を叩き潰した艦隊が逃げ出していくのを見て何かトンでもないことが起こったのでは
ないかと考えた。
 そしてその考えはロストロギア保管庫に突入した魔導師たちによって裏付けられることになる。

「ロストロギアが暴走?」
「しかも暴走しているのは、黒旗軍が回収しようとしていた次元消滅弾頭だと」
「では、連中が撤退したのは……」

 事情を知る管理局高官たちは顔面蒼白となった。

「止めるんだ! 何としても!」

 本局どころか、次元世界そのものが危険にさらされかねない次元消滅弾頭の爆発は阻止しなければならない。
 彼らは残っている全ての高ランク魔導師をすべてつぎ込む決断をする。だが展開されている防壁によって
まともに近寄ることもできない。

「ダメです! 逆に周辺のロストロギアが連鎖反応を起こして暴走!!」
「保管庫周辺のブロックが消滅!」

 暴走したロストロギアから放たれる魔力があたり一体を破壊していき、ロストロギア保管庫が吹き飛ぶ。
さらに周辺の区間も次々に破壊されていく。隔壁が降ろされ、結界が形成されるが何の役にも立たない。

632earth:2011/06/23(木) 23:10:24
 管理局本局が崩壊しつつある頃、耕平が乗る春蘭は主力部隊の大半と共に次元世界を離脱した。

「周辺にいるのは?」 
 
 この耕平の問いに、アンドロイド参謀が淡々と答える。

「278隻です」
「約半分か……」

 耕平は苦虫を噛み潰したような顔をする。

「長門艦隊や別働艦隊は?」
「遅れています。ですが最終的に戦力の8割は脱出できるでしょう」
「逆に言えば2割は失うというわけか。大損害だな……それに足の遅い初期型の戦闘空母は巻き込まれるだろうし。
 やれやれ、ミッドウェー海戦で空母4隻を失った日本海軍の気持ちがよく判る」

 31世紀の人間からすれば超古典的な例えを出す耕平。だがここにそれを突っ込む人物はいない。

「まぁ運営が間に合えば何とかなるかも知れない。希望を棄てるのは早い」

 だが耕平の希望は、直後に送られてきた運営からのメールによって打ち砕かれる。

「複数のロストロギアの連鎖反応のせいで、停止が間に合わない?」

 耕平の顔が引きつる。通常ならすぐに停止させることもできるが、運営の予想を超えるロストロギア群の暴走の
影響よってコントロールができないのだ。時間があれば停止も不可能ではないのだが、短時間で停止することはできない
というのが運営の回答だった。

「そして被害を食い止めるために、爆発直前に当該宙域を封鎖するか。戦闘空母を最低4隻は失うな。
 まぁ良い。全ての責任は管理局に押し付けられたし、この程度の被害はむしろ許容範囲か」

 巻き込まれるかも知れない『リリカルなのは』の主要キャラを思い浮かべると心苦しいものの、アカウント停止
などという最悪の事態にならずに済んだことに耕平は安堵する。

「今後は、もっと慎重に動くようにしよう……」

 耕平がそう呟くと同時に、春蘭はワープで太陽系に向かった。
 そして長門が乗るアルテミスが離脱した後、周辺宙域は管理会社が作り上げた防壁によって封鎖される。

633earth:2011/06/23(木) 23:11:00
「全く、これで色々とパァね」

 間一髪、脱出に成功したアルテミスの艦橋で朝倉はぼやいた。
 この戦いで黒旗軍は折角建設した前線基地、そして戦闘空母4隻、虎の子のF−01を100機を中心に
200機以上の航宙機を失った。大打撃と言える。
 
「第8世界探索も、BETA討伐も、戦略の建て直しが必要になるわ」
「それ以前に総司令が我々を処分する可能性もある」
「確かに。これは失態だからね〜」

 長門の言葉に頷く朝倉。さすがの彼女も処分がないとは思えなかった。

「もう少し、歯ごたえがある敵と戦いたかったな」
 
 しかし耕平は彼女達を処分するつもりはなかった。今回の一件は事故であると考えていたし、下手にここで 
彼女達を処分するような真似をするのは、八つ当たりになると感じていたからだ。
 尤も引き換えに、これまで以上に彼女達を扱き使うつもりだったが。

「それじゃあ、戻りますか。あの太陽系に」

 アルテミスがワープした直後、次元消滅弾頭が起爆した。まずロストロギアの暴走によって半壊していた
本局は空間ごと根こそぎ吹き飛ばされた。
 続けて周辺の世界、管理世界群が影響を受けた。ミッドチルダの首都クラナガンの市民達は、空が裂けていく 
のを見て恐慌状態になった。それは現地政府、そして地上本部も同様だった。

「何が起こっている?!」
「本局との連絡が付きません!」
「一体、どうなっている?」

 地上本部は大混乱に陥る。地上本部の高官の中には、最高評議会と連絡をつけようとする者もいたが
それさえ出来なかった。

「何がどうなっている?!」

 レジアスはそう叫んだ。だがそれが彼の最後の言葉であった。この直後、ミッドチルダは崩壊した空間の
隙間に呑み込まれ、崩壊していった。
 その悲劇はミットチルダだけに留まらない。各地の管理世界も次々に成す術も無く消滅してく。そして
最後に支柱を失ったように次元世界は、いや特殊な位相空間は崩れていった。
 かくして揺り篭の世界と、その守り手は消え去った。

634earth:2011/06/23(木) 23:12:53
あとがき
と言うわけで管理局消滅です。
でも黒旗軍も戦闘空母4隻など多数の戦力と基地を失う大打撃を
被ります。蛮族相手と侮って手痛い目にあった某ゲームのプレイヤーの
気分でしょうか……。
それでは失礼します。

635earth:2011/06/25(土) 00:01:25
何か色々と微妙っぽいですが、第一部完という形にさせて頂きます。
(面白くないといわれる方もいらっしゃるようですし)
というわけで第26話です。


 未来人の多元世界見聞録 第26話


 次元世界の崩壊という悲劇が発生した頃、地球でも小さな悲劇が起きようとしていた。

「目を開けてくれ、純夏!」

 命からがら帰ってきた武は、病院のベットで横たわる純夏に必死に呼びかけた。
 
「畜生、折角生きて帰ったのに。内戦も終ったのに。何で……」

 汚染された日本の環境は、彼の幼馴染である純夏の命を今、奪おうとしていたのだ。
 各国からの支援はあるものの、十分ではなく、目の前の命を救うことはできない。彼に出来るのは
必死に呼びかけることだけだ。
 もはや医者も匙を投げる状態であったが、彼の必死の呼びかけが天に通じたのか、彼女は目を覚ました。

「武ちゃん……」
「純夏!」
「私、夢を見たの……BETAに捕まって、その中で必死に武ちゃんを……た……」

 声が途切れ、段々と小さくなる。 

「でもね、最後には……」

 最後まで言うことなく、彼女は事切れた。彼女が最後に残した物語。それは耕平が知る
『あいとゆうきのおとぎばなし』であった。しかしそんなことを武が知るわけが無かった。  

「……畜生、俺達が何をしたって言うんだ! こんなことがあって良いのかよ!?」

 神を呪う武。だが人類から見て天上にあり、神に等しい力を持つ者たちは、NPCの悲劇など気にも
止めなかった。
 次元消滅弾頭が起爆して数分後、ゲーム世界で13人のプレイヤーが秘匿通信網で今回の事態に
ついて話し合っていた。

『あ〜あ。保管庫が消えちゃったね』
『まぁ別に消えても良いだろう。もともと俺らの恥部の置場所兼トラップだったわけだし』
『むしろ、あそこまで被害を抑えたプレイヤーの幸運を驚くべきさ。艦隊ごと消滅するのを免れたんだから』
『確かに』
   
 プレイヤー達は耕平の幸運(?)を賞賛する。

『消えたNPCはトータルで100億いくんじゃないか?』 
『三次大戦では、2000億以上のNPCが一週間で消えたんだ。100億人のNPCが消えても問題ないよ。
 必要なら、また作れば良いさ』
『それにしても、誰だ? あんな世界を構築したの?』
『時空管理局か? さぁどうでも良いだろう。NPCがどんな文明を作っても関係はないさ。定めた役割さえ果たせば』
『いやBETAだったけ? あの醜悪な資源回収ユニットもだって』
『どうせ、廃棄工廠が作ったものさ。気にすることもないって。それに第8世界は物置みたいなものさ。
 物騒なアイテムを隠したり、冒険家気取りの馬鹿を罠にかけたりするには丁度良い』
『ははは。確かに。精々、あのプレイヤーには頑張って、無駄な労力を注いで欲しいね』
『いや他のプレイヤーにもだよ』
『確かに』

 第1から第3世界で名を馳せる上級者達はそう言って他のプレイヤーを嘲笑する。

636earth:2011/06/25(土) 00:02:14
 しかし彼らが余裕を保っていられたのもそれまでだった。 

『……他の保管庫が?』
『馬鹿な。十分な距離があったはずだ。トラップが発動するはずがない』

 管理局が保管していたロストロギアの暴走の余波は、次元消滅弾頭が爆発する寸前に他の次元世界のロストロギアに
いや彼らが存在を知らなかった別の大量破壊兵器、恒星間弾道弾も及んでいたのだ。
 これが通常のものであれば、そこまで問題はなかった。だがこれには大威力の超新星爆弾が搭載され、さらに確実に
目標に命中するためにプレイヤーによって亜空間潜行能力が備えられていた。
 
『馬鹿な。そんな偶然が……』

 だがもはや事態を収拾する術を彼らは持っていなかった。破壊につぐ破壊。それは急速に第8世界の天の川銀河を
覆う勢いで広がりつつあった。
 そのころ、黒旗軍艦隊主力が土星圏に集結したのを確認した耕平は、春蘭の艦橋でため息を漏らした。
 
「さてと今のところ、手がかりは無し。どうしたものかね?」

 1000年前の作品が多数出てくるゲーム。前世の記憶を持つ耕平からすれば興味が引かれて当然の
ものであったが、手がかりは無し。
 今後、マブラヴ世界の調査に取り掛かるつもりだったが、現状では手がかりが得られるか判らない。

「……管理局は吹っ飛んだし、他の惑星の探索も当面は諦めざるを得ないし。全く踏んだり蹴ったりだ。
 何か面倒になってきたな。それに全て運営が仕込んだみたいに思えてきた」
 
 当初は誰かが何かの意図をもって、NPC文明の構築を図ったと考えた。だが艦隊に大打撃を受けた
ことで冷静さを取り戻した耕平は壊滅した第8世界を取りあえず再建するために著作権がとっくに切れた
1000年前の作品を参考にしてNPC文明を作ったのではないかとの考えが脳裏に過ぎるようになった。
 しかしその考えには穴があった。 

「でもマブラヴ世界を構築するために、あんな広範囲にBETAみたいな害獣を宇宙にばら撒く理由はないし。
 さてさて、どうなっているのやら」

 プレイヤーに快適なプレイ条件を提供するのがゲーム会社の仕事だ。わざわざBETAみたいな醜悪な物を
宇宙に無数に送り込む理由はない筈だった。

「……まぁ良いさ。リアルの生活に支障が出ない程度に付き合ってやるか」

 しかしそう言った直後、耕平は強制的にログアウトさせられる。

「何が起こった?!」

 PC画面には緊急事態を告げるメールが表示される。

「あの銀河が吹き飛んだ?!」

637earth:2011/06/25(土) 00:03:04
 後に『第8世界天の川銀河崩壊事件』と呼ばれる事件で、第8世界の天の川銀河は崩壊した。
 そしてその余波は回廊を通じて、耕平が支配する第6世界の支配領域にも及んだ。耕平の管理するユニットと
工廠はすべて失われたのだ。
 勿論、ゲーム会社はこの事態を受けて耕平が所有していた物を無償で提供しただけでなく、お詫びの品も送った
が、耕平にもう一度、第8世界を探索する気力はなかった。何しろ全てが失われたのだ。

「……結局、あれは何だったんだ?」

 後日、彼の疑問は解消された。ゲーム会社は第8世界の再建を急ぐため、そして戦争を彩るためのNPCを急いで
育成するために著作権が切れた古典作品を試験的に使っていたのだ。そして色々なイベントも用意されていた。
 だが予算不足やプレイヤーの減少、他の世界のイベントの成功によってお蔵入りになり、それらは半ば放置されていた。

「何てことは無かった、そういうことか」

 そして耕平は日常に戻っていった。彼にとってそれで事件は終わりだった。そう、少なくとも31世紀の現実世界に
住む彼にとっては。

「……ここはどこだ?」

 ゲーム世界から消えたはずの戦艦・春蘭の艦橋で、一人の男が声をあげる。

「不明です。座標も滅茶苦茶で……」
「馬鹿な」

 そして男は気付く。ログアウトできないことに。さらに言えばゲーム会社にも連絡できないことに。

「何が起こった?」

 男は混乱しつつも、周辺の艦隊と共に周辺を捜索する。すると、いつの間にか移動していた自軍の本拠地を発見した。
困惑しつつも細かい調査を行った末、男は理解した。自分がある意味、二度目の転生を遂げたことを。

「……神というのは、本当に残酷だな。それとも、これが報いって奴か?」

 耕平、いや正確に言えばゲーム世界に残された存在は呻いた。そして数日、艦長室に閉じこもった。
 自殺することも考えた。しかしもう一度死ぬ決断は下せなかった。ここで死んだら、次に何が起こるか
判らなかったからだ。

「他にも吹き飛ばされたプレイヤーがいるかも知れない。それを探してみるか……」

638earth:2011/06/25(土) 00:04:04
 耕平は即座に艦隊を銀河系のあちこちに派遣するが、他のプレイヤーを発見したとの報告は中々届かない。
焦る耕平は他の銀河にさえ艦隊を送ることを決める。

「俺だけなのか?」

 焦る耕平。だが他の世界に続く回廊を複数発見したとの報告に愁眉を開く。

「他の世界とまだ繋がっているのかもしれない」

 淡い期待を旨に偵察艦隊が送り込まれる。だがそこにあったのは、希望ではなかった。

「また、お前らか……」

 地表を這う醜い化物たち。そして聳え立つ異質の建物。2回の人生でよく見たもの、BETAとハイヴの
姿がメインモニターに映し出されると、耕平は疲れたようなため息をついた。

「あの大破壊によって並行世界が生まれたとでも言うのか?」

 だが同時に恐怖した。複数の世界が存在する以上、BETAよりも遥かに凶悪な存在がいる世界があるかも
しれないのだ。

「……俺は死なないぞ。今度こそは絶対にだ!」

 機械に宿る自分が死んだら、次はどんなことになるか判らない。その恐怖が彼を動かした。 
 彼は軍の拡張を図ると同時に、黒旗軍を世界各地に派遣することにした。未知は死を招く。故に彼は様々な
世界に出城を作るつもりだった。そして同時に自分と五感をリンクさせたアンドロイドを派遣する。

「未知や未熟は死を招く……見聞を広めないと」

 こうして(元)未来人の見聞録が始まる。

639earth:2011/06/25(土) 00:06:48
あとがき
主人公最強物は難しいというのがわかりました(爆)。
さてこの主人公は今度こそ、何の制限もなく行動できます。
このあと第二部を書くかは……未定です。
とりあえず憂鬱を書く予定なので。

それにしてもリアル(会社)でストレスが貯めた状態で書くと作品にも
影響するものですね……それでは。

640earth:2011/06/30(木) 22:24:10
色々と反応があったようですが……取りあえず第二部のプロローグをUPします。
あまり連続更新ができないと思いますのでご容赦を。


 未来人の多元世界見聞録 第2部 プロローグ

 31世紀世界に存在したオンラインゲーム『汎次元大戦』。このゲームで起きた『第8世界天の川銀河崩壊事件』は
ゲーム会社、そして一部のユーザーに大きな損害を与えた。
 この事件を引き起こしたプレイヤー達は罰せられ、被害を受けた人間はその被害に相応しいものを受け取った。
 だが事件はそれで収束した。31世紀世界に住む人間達からすれば、崩壊したと言っても所詮はゲームのために作られた
人工宇宙。そこの銀河が一つ崩壊したからと言って問題にはならなかった。
 
「これで事件も終わりだな」 

 多大な被害を受けた耕平は、アンドロメダの艦橋から見える艦隊を見て呟いた。
 そこにはあの事件で失われた艦隊が揃っていた。長門、朝倉といったアンドロイドも復活している。
 
「さて、また実物大のプラモ作りに励むか」

 耕平はお気楽にそう言うと、再びゲームを満喫するべく工廠に必要な指示を出した。
 だがこの時、彼は知る由も無かった。自分の意識が宿ったアンドロイドが31世紀の人間が存在を掴んでいない並行世界で
活動していることなど。そしてそのもう一人の自分が死の恐怖から軍備拡張に奔走していることを。

 黒旗軍本拠の人工惑星『シャングリラ』。ゲーム世界に取り残された耕平にとって生命線とも言える白銀の惑星の深層にある
会議室で議論が行われていた。
 円卓に座った将官たちが今後取るべき行動について議論している。そしてそれを聞いているのはその場で数少ない未成年
の少年だった。
 少年は腕を組み目を瞑って静かに議論を聴いていたが、ある程度、議論が収束したのを見ると口を開いた。

「ということは、当面は本拠地防衛と軍備拡張が優先。そういうことか」
「はい。参謀本部、そして各艦隊司令官は現状で他世界に本格的に進出するのは危険が多すぎると判断しています」

 そう答えたのは土方だった。

「……しかし、情報収集のために偵察部隊は出すべきだろう」
「それについては問題ないでしょう」    
「なら、それでいこう」

 そして会議は解散となった。少年、いや黒旗軍総司令官である元帥・桜坂耕平は一人会議室に残ってため息をつく。
 少年がつくにしては重々しいため息。だがそれほどまでに彼の置かれた状況は悪かった。何しろ親や知り合いなどから
強制的に離れ離れにされ、場合によっては命に危機にさらされることも考えられるのだ。
 彼が本来の姿である黒髪、眼鏡の平凡な少年の姿になっているのも、この異常事態で自分が桜坂耕平であると同時に
子供であり未熟者であることを忘れないようにするためであった。

641earth:2011/06/30(木) 22:24:48
 探索の結果、多くの世界が発見された。中には危険な世界もあった。
 だが他世界にチョッカイを出す前に、自分達の体制を立て直すことが優先なのは当たり前の意見だった。
 そして今度は慎重に行動しようと思っているため、耕平も部下達の意見に対して否とは言えなかった。

「……まぁ自分の身も守れるか判らないのに、異世界に本格的に手を出す愚は犯せないよな」

 また黒旗軍は人工惑星であり移動可能なシャングリラを太陽系の酷似した恒星系に移動させた。他の惑星に
影響が出ないように必要な措置を行うと第3惑星と第4惑星の軌道の間にシャングリラを固定した。
 
「ここを中心にして防衛陣地を構築するのが良いな。それに第3惑星は地球と似た惑星だし、ダミーの本拠地を置いて
 おけば目くらましにもなる」

 しかし彼はそれだけで終わりにするつもりはなかった。
 大量の暗黒ガス(元々はカモフラージュ用)を使ってガス雲型ダイソン球殻をこの恒星系に施した上、内部の恒星系を
異相次元の中に隠してしまうつもりだった。これによって、この恒星系の発見はさらに困難になる。
 勿論、次元構築に膨大なエネルギーがいるが、ダイソン球殻を作ることで恒星のエネルギーを存分に利用できるので
問題はなかった。

「……ゲーム版暗黒星団帝国かよって気もするが、背に腹は変えられないからな」

 耕平は着々と自身の保身のために準備を整えていく。そして耕平は艦隊の整備には特に力を入れるつもりだった。

「まぁこの異常事態のせいで艦船の保有制限が解除されたのはよかったが」 

 耕平の言うように工廠の数によって保有できる艦艇が制限されるシステムは消滅していた。ゲーム内マネーも
消滅しており、事実上、必要となるのは資源だけとなっていた。
 しかしそれでも高性能な兵器に必要となる資源の量は尋常ではなかった。Rシリーズ等が高コストであることは
変わらない。よって数の面での主力は相変わらずヤマトタイプをベースにした艦船とF−01シリーズだった。
故に耕平は戦力の充実には手を抜かない。

「艦隊旗艦として改アンドロメダ級やその改良型を生産。さらにアンドロメダ級を文字通り量産か。
 ……滅茶苦茶豪華な艦隊だな。ヤマト世界から見れば」

 黒旗軍は春蘭や三笠を含めて10隻もの改アンドロメダ級、36隻のアンドロメダ級を配備することを決定していた。 
勿論、新規の建造は資源地帯の開発と防衛拠点建設後のことだったが、それでも生産され、戦力化されればトンでも
ない打撃力を持つことになる。また他銀河、異世界探索のためにアリゾナ級戦艦の建造も決定されていた。

642earth:2011/06/30(木) 22:25:21
 しかし全ての戦線に強力な艦艇を振り当てるのは難しいと参謀本部は判断し、耕平もその判断に同意していた。
 このため、一般の無人戦艦とは違った無人戦艦、一言で言えばラジコン戦艦とも言うべき艦船の配備を進める
ことも決定していた。

「真田さんが見たら、噴飯ものだな」

 耕平は自分の机の上に置かれた2枚の写真を見て苦笑した。そこには劇場版ヤマトで暗黒星団帝国の奇襲によって
呆気なく全滅した2種類の地球防衛軍無人艦の姿があったからだ。
 複雑な事態には独自に対応できないし、コントロール施設やコントロール艦が撃破されればボロ負けするのは
確実な艦であったが、普通の戦艦よりも安く揃えられた。
 
「まぁBETAみたいな連中相手に、普通の艦を向かわせるのは勿体無いからな」

 ちなみにこの無人艦艇は真っ先に長門艦隊に配備され、運用実験が行われることになる。
 耕平としてはさっさとBETAなど不愉快な害獣は叩き潰してしまいたいが、前の失敗がそんな衝動を抑制していた。

「……今は自重のときだな。軽々しく動いて前回の二の舞は避けないと」

 自分が二度目の死を迎えることになった原因を思い浮かべて耕平は苦い顔をする。
 だが同時に頭を振って憂鬱な気分を振りほどく。マイナス思考は不運を呼び寄せかねないと考えたからだ。

「今度こそは……」

 耕平の呟きは誰にも聞こえることなく、部屋の中に消えていった。

643earth:2011/06/30(木) 22:27:11
あとがき
息抜き兼主人公最強物実験SSである未来人の多元世界見聞録第二部のスタートです。
自重する主人公は取りあえず軍備拡張に奔走します。
しかし暗黒ガスでさらにカモフラージュした恒星系。さらに量産される無人兵器。
他人からすればまさに悪の帝国ですね(笑)。それでは。

644earth:2011/07/02(土) 00:12:18
というわけで何とか書き上げた第1話です。


 未来人の多元世界見聞録 第二部 第1話

 太陽系そっくりの恒星系を一つ入手した耕平は、そこを拠点として自身の勢力圏の拡大を急いだ。 
 幸い耕平が居る世界の銀河は、天の川銀河と同じであったために恒星系の外の開発も、そこまで困難なものでは
なかった。あちこちの星に資源採掘施設を置き、そこから回収した資源を元素変換装置などで必要なものに加工していく。
 無数の無人機械が資源のために無遠慮に惑星を掘り返していく様は、姿形が違うとは言え、BETAを彷彿とさせる。
だが耕平にそんなことを気にする余裕は無い。

「防衛拠点の建設、そして資源地帯の開発は順調。何とか艦隊整備計画も進められるな」

 耕平は自室に持ち込まれたレポートを見て安堵した。だが採掘される資源の量は耕平を満足させられるものではない。

「でも資源が少ないのは変わらないな……以前の勢力圏よりも遥かに狭いし」

 敵がいないので、勢力圏の拡大は容易であった。しかしそれでも以前の勢力圏には及ばない。
  
「銀河系一つを支配できれば、もっと強力なユニットが……いや、でもあんなの大量生産して大丈夫か?」

 イデオンのような反則な兵器さえ現状では生産は出来る。だが必要となる資源の問題で現状で生産は難しい。
さらに耕平としてはあまりにも強力なユニットの生産には二の足を踏む。二度目の死は強力な兵器の暴走によって
起きている。下手なことをして、自分で揃えたユニットのせいで再び死ぬのは勘弁だった。

「……まぁ安全装置をつけて暴走しないように注意しておけば大丈夫だろう」

 取りあえずそういって耕平は自身の不安から目をそらす。強力なユニットの予期せぬ暴走には不安を感じるが
強力なユニットを作らずに外敵に負けては元も子もない。

「取りあえず当面の敵はBETA。それにその創造主の珪素生命体。まぁ運営が作っていた特殊ユニットってこと
 も考えられるけど……本当にそうなのかは判らない。叩くとしたら、取りあえずはアンドロメダ級の量産がある
 程度終ってからだな」

 10万トン級戦艦であるアンドロメダ級の生産に必要となる期間はそう長くは無い。建造期間、価格ともに戦力的
な価値から考えるとかなりお得な部類に入ると言える。まぁ改造しているだけコストは上がるが許容範囲であった。
  
「余裕が出来たら兵器の生産だけじゃなくて、工廠自体も生産する必要があるな……超大型工廠は中々作れないが
 中小のなら生産して各地に配備できる」

645earth:2011/07/02(土) 00:12:53
 黒旗軍が艦隊整備計画に基づいてアンドロメダ級を量産し、配備し始めた頃、BETAと戦い続けている
人類では史実には無い動きが広がっていた。
 西暦1997年8月。BETAとの戦いによって多くの列強が没落する中、世界の覇者として君臨する
アメリカ合衆国の首都ワシントンDCの一角にあるビルに背広姿の男達が集まっていた。
 彼らは表向き様々な派閥に属する者たちであり、本来なら反目しあう存在であったが、この建物の中では
そんな様子は全く無かった。
 男達は盗聴の危険が無い地下の会議室に集まるとすぐに口火を切る。 

「『あの世界』と同じようにユーラシア失陥は時間の問題だな」
「並行世界とは言え、歴史は繰り返すというわけか……日本は?」
「あの国もそれなりに足掻いているようだ。我々の『同類』がいるからな」
「我々だけが『情報』をもっていれば、もっと楽だったのだが……なかなかうまくいかないな」

 男達は苦笑するが、すぐに議論に戻る。

「しかし、よい事もある。あの国の軍、特に陸軍で反米感情が『あの世界』ほど露骨ではない。一部の有力者の
 間ではソ連や統一中華を警戒する動きさえある」
「WWⅢとクーデター事件のせいか」
「それと本土を蹂躙されたせいだろうな。西日本が灰燼に帰す可能性があるとなれば、少しでも我々との関係を
 維持しようとするのは当然だろう」
「あの雌狐は?」
「AL4と並行して、別の計画にも携わっているようだ。やはり連中も先駆けて接触したいのだろう。あの
 宇宙船の持ち主に」
「やはりか……あれだけの力の持ち主が現れる可能性が高いとなれば手を打つのは当然と言える。我が国は
 どうなっている?」
「監視体制の強化に加えAL5計画の一環で、太陽系航路の開発のためとしてG元素を利用した宇宙船の建造を
 進めることになった。これがあれば連中よりも早く接触できる可能性が高くなる。『伝言』の作成も順調だ」

 新たに出現するであろうBETAに敵対とする異星人とのいち早い接触は国益に直結した。
下手に他国に抜け駆けされては目も当てられないことになる。
 
「しかしBETAへの対処も問題だ。G弾、あれの大量運用に問題があるとなると面倒だな」
「詳しいことは今後、再検証する必要がある。ことがことだからな。だがソ連領へユニットが落着するのを
 防ぐために宇宙への配備は急ぐべきだろう。我が国の覇権を揺るがすような事態はさけなければならない」
「尤も、あの異星人が本格的に介入してくれば、我が国の覇権など吹っ飛ぶがな」
「だからこそいち早く接触する必要がある。そうだろう?」

 この言葉に誰もが頷いた。

646earth:2011/07/02(土) 00:13:34
 ワシントンDCで密談が繰り広げられている頃、日本帝国でも一部の有力者が京都の老舗料亭に集まって
密談を繰り広げていた。

「不本意だが、米国との関係は密にせざるを得ない」
「部下達の不満もあるが、補給の問題で米国との関係が必要なことを周知させるしかない」
「だな。あとは大侵攻にどう備えるかだ。正直、あの大侵攻を水際で退けるのは難しいぞ。時期も悪い」
「どうやっても、西日本は焦土と化すか。財務官僚が卒倒するな……」

 彼らは今後起こるであろうBETAによる日本本土侵攻の対策に頭を悩ませていた。
 尤も事情に詳しい者ならすぐに気付いただろう。彼らがBETAの侵攻時期や規模をすでに知っているか
のように話していることを。

「やはり海軍は展開できないのは痛い」
「日本海から侵攻されたら挟撃されて潰滅するのは確実。だが参謀本部は水際防御を諦めないだろう」
「侵攻がどの時期に起こるかがわかっていれば多少は打てる手もある。
 今回は四国への侵攻は阻止できるだろう。四国からBETAの側面を突ければ戦局も多少は好転する」

 だがそんな楽観的な意見が述べられた後、冷や水を被せるように一人の男が言う。

「『あの世界』の出来事どおりにいけばな」
 
 この言葉に他の人間は苦い顔をする。

「それを言っては元も子もないだろう」
「それにこれまでの歴史の動きは『あの世界』の歴史に沿っている。多少のズレはあっても丸っきり
 違うということはないはずだ」
「……全く、あの雌狐のいうことに縋ることになるとは」
「仕方ないだろう。あの理論に沿えば、我々の体験も説明できる」

 ワシントンDC、京都。この2つの都市で密談を繰り広げている人間達は、崩壊前の第8世界であった
出来事を覚えていたのだ。何故そのようなことが起きたかは正確には判らない。
 彼らと同じように記憶を持っていた香月夕呼は「因果の流入」と言っていた。彼らとしては釈然としない
思いもあったが、最終的にその結論を受け入れた。そして因果の流入で未来を知った男達は今後訪れるであろう
惨劇を回避するために日々動いていたのだ。

647earth:2011/07/02(土) 00:14:11
 そんな男達の中でも、頭痛の種の一つが今後現れるであろう新たな異星人であった。

「あとはあの異星人ですね」
「あの2隻の宇宙船の持ち主。彼らとの接触は急務だろう……他国に遅れるわけにはいかない」
「しかし米国はやる気です。分が悪い勝負になりそうですな」
「判っている。だがやるしかないだろう。これ以上、米国にでかい顔をさせるわけにはいかない。あの連中は
 誰よりも早く接触したら勝手に人類代表を自称してもおかしくないぞ」
「……まぁ彼らの国力で考えると、そう名乗っても問題ないのが痛いですが」
「茶々を入れるな。これ以上、米国の支配力が強化されるなど考えたくもないぞ」

 この意見に出席者達の多くが頷いた。尤も一部の人間はそんな米国を利用して日本の立場を強化するべき
ではないのかと考えたのだが、ここで言うと場が必要以上に荒れそうなので黙った。

「博士の計画は?」
「航空宇宙軍も巻き込んで進められている。表向きは監視体制の強化で何とかしている」
「伝言の作成は?」
「順調だ。言語学者を密かに動員している」
「そうか。他国に気付かれないように」
「判っている」

 その後、彼らは幾つかの質疑応答の末、散会した。そして一人の城内省の役人は散会の後、京都の御所に
向かった。男は一人の女性と合流した後、彼女に案内され、御所の一室に入る。
 その純和風の部屋に正座して待っていた少女に、男は平伏すると密談の内容を話す。 

「これが今回の結論でございます」
「そうですか。順調のようですね」
「はい。それと『あの世界』で反乱を起こした者たちへの対処、どうされます?」
「監視はつけてあります。それに、『あの世界』で反乱を起こした者たちの中に居た人間のうち、何人かを
 こちらにつけました。彼らから情報を入手できるでしょう」
「……判りました。それでは失礼します。殿下」

 殿下と呼ばれた少女。政威大将軍・煌武院悠陽は微笑みながら言った。

「今後も頼みますよ」
「命にかけて」

648earth:2011/07/02(土) 00:15:45
あとがき
主人公以外に逆行者(?)がいるお話です。
……第一部をもっと続けていれば、もう少し増えたんですけどね。
勿論、マブラヴ世界がこれなら、もう一方の蹂躙されたあちらも……。
それでは失礼します。

649earth:2011/07/02(土) 19:07:48
というわけで第2話です。
皆様から大人気(笑)の三脳も出番です。

 未来人の多元世界見聞録 第二部 第2話

 資源地帯の開発、そして防衛拠点の建設が終った黒旗軍は、(第一次)艦隊整備計画を推し進めた。
黒旗軍は資源とエネルギーを全て兵器製造につぎ込むことで普通の国家なら不可能な軍備の拡張を短期間で
成しえたのだ。
 その結果を確認するため、そして自身の恐怖を和らげるため、耕平はシャングリラ周辺で大規模な観艦式
をひらいた。

「ヤマト世界、まぁそんなのがあったらだが……この光景を見た防衛軍関係者は卒倒するだろうな」

 改アンドロメダ級2番艦『三笠』の艦橋から見得る宇宙艦隊の姿を見て耕平は満足げに頷いた。
 三笠の周辺にはまず改アンドロメダ級の『春蘭』、『モンタナ』、『バーミンガム』が展開していた。 
(ちなみにガンダム世界のバーミンガムは不要ということで処分済み)
 この4隻だけでも、恐るべき打撃力を持っているが、さらにその外周にはアンドロメダ級戦艦が24隻 
展開している。この28隻だけで波動砲60門という大火力だ。
 さらに主力戦艦(以降マゼラン級と呼称)が75隻、完結編での防衛軍戦艦(以降ヴァンガード級)が30隻に 
アリゾナ級戦艦10隻が周辺を航行している。
 戦艦だけでも143隻。これに加えて巡洋艦(巡洋艦改造のパトロール艦含む)が412隻、駆逐艦824隻、
戦闘空母15隻、空母12隻、他にラジコン戦艦や補給艦、輸送艦、工作艦など合計して2000隻近い大艦隊が
集結している。
 ただしこれはヤマトタイプの艦に限ればだ。R−TYPEやマクロス等の艦を含めればその規模はさらに
膨れ上がる。

「ここの艦隊だけでガミラス帝国と正面から勝負できるな」

 これにR戦闘機が加われば、ガミラス帝国やガトランティス帝国が敵になっても、簡単に負けることはない。
 だがそれは星間国家と戦う場合だ。
 
「でも、あの連中はまだ可愛いほうって事実がな〜」

 宇宙怪獣のような勢力が襲ってきたら禁止兵器を連発するか、それとも無理にでもイデオンクラスの機体を
量産してぶつけるしかない。尤もそれをやったら勝てたとしても甚大な被害がでることは確実なので、あまり
物騒な連中(?)と積極的に関わり合いにはなりたくはない。

「改アンドロメダ級、アンドロメダ級の生産は完全には終っていないが……もう、そろそろ動いても大丈夫だろう。
 この艦隊、そして本拠地防衛の超兵器部隊。この二本柱で当面は何とかなる」

 観艦式の後、耕平は会議を招集し参謀本部、各艦隊司令官と意見交換を行った。だがその会議で他世界への
進出については否定的な見解が多数出される。

650earth:2011/07/02(土) 19:08:31
 黒旗軍の勢力圏はオリオン腕にあるこの恒星系を中心にして、天の川銀河の25%の領域に及ぶ。ヤマト世界の国家で
例えでいうならガルマン・ガミラス帝国に勝るとも劣らない領域であり、星間国家としては大国と名乗れるほどの勢力圏だった。
勿論、得られる資源も相応のものであった。故に耕平は動いても問題ないと考えたのだが、参謀本部は輪にかけて慎重だった。

「参謀本部は、その必要性は薄いと判断します」

 円卓の会議でのダメだしに耕平は渋い顔をするもすぐに反論する。

「しかしBETAの創造主である珪素生命体がどのような存在かは判らない。奴らが次元間航行能力を会得して侵攻して
 こないとも限らない」
「現状でBETAに喧嘩を売るのは非効率的かと」
「そうです。現状では銀河全土の併合とその開発に注力するべきです」
「幸いBETAは次元間航行能力は保持していません。あの世界で放置しておけば実害は無いかと」
 
 会議ではむしろBETAよりも、禁止兵器を隠し持っているかも知れない時空管理局が重視された。

「では管理局、いや次元世界探索に力を入れると?」
「それが妥当かと。発見した場合、戦力の集中も容易です」

 さらに言えば前回の経験から、管理局の勢力圏はBETAよりも遥かに狭いので、大兵力を集中させれば一気に制圧できる 
と誰もが判断していた。
 耕平も地を這う害獣よりも、宇宙怪獣みたいな勢力や次元や宇宙を平然と航行できる勢力への対処のほうが優先されるべき
と考えるようになる。

(わざわざマブラヴ世界を助けに行く価値はないか?)

 一瞬、「切り捨てるか」と耕平は考えた。彼にとって生き残ることこそが重要であり、それ以外は些事であった。
 
「……新兵器の実験テストや訓練の代わりというのはどうだろうか?」
「実験場ですか?」
「そう。いずれ本格的な戦争になるだろう。そのために実戦データを収集する。幸い標的としては申し分ない(数的な意味で)。
 それに……あの世界の人間と交渉させることで、こちらのアンドロイドの実地経験も積めるだろう」
「……確かに演習には丁度いいかも知れません。だとすると派遣する規模は?」
「長門艦隊を送る。それに万が一に備えてもう1個艦隊を予備として待機させる。これなら防衛線に大きな穴は開かない」

 この耕平の意見に誰もが同意する。かくして黒旗軍は長門艦隊をマブラヴ世界に派遣することを決定する。
同時に次元世界探索のため長距離の単独航海が可能な虎の子のアリゾナ級を各地に送ることが決定される。

651earth:2011/07/02(土) 19:10:33
 長門艦隊の派遣が黒旗軍で決定された頃、次元世界の守護者を自称する時空管理局は来るべき黒旗軍来襲にどう対応
するべきかで意見が真っ二つに割れていた。

「このままでは再び敗北を喫するでしょう。軍備を増強し、今度こそ返り討ちにするべきです!」
「加えて次元消滅弾頭などのロストロギアを解析し、同様の兵器を作れるようにするのがよいかと!」
「最悪の場合は、質量兵器を解禁するべきだ!!」

 強硬派はそういって軍備拡張を主張した。彼らを強気にさせたのは黒旗軍が危険視した次元消滅弾頭がロストロギア
保管庫に眠っていたからだ。
 これらの意見に三提督を筆頭にした穏健派は口々に反対した。

「黒旗軍とどれだけ技術力が隔絶していると思うんだ。勝てるわけが無い!」
「ロストロギアのせいで、本局どころか、次元世界が崩壊したんだ。そのことを忘れたのか?!」
「質量兵器の解禁など簡単に出来るわけが無い。下手に解禁すれば魔導師が猛反発するぞ!」
「この際、話し合いの席を設けるべきです。向こうは我々のロストロギアの管理体制の杜撰さや、管理局の拡張主義に
 警戒していました。ここを改善して話し合いに持ち込めれば」

 時空管理局の人間達も、京都やワシントンで密談をしていた者たちと同様に前の世界の記憶を持っていた。
 そして前回の敗戦を記憶していた者たちは、未来(?)の記憶を持っているのはロストロギアの暴走のせいということで
納得すると即座に黒旗軍来襲に対してどのような手を打つかで日々激論を交わしていた。
 何しろ何も手を打たなければ前回の二の舞。管理局は崩壊し、黒旗軍によって次元世界は制圧されるかもしれない。
そのことが彼らの危機感を煽っていた。

「手ぬるいですぞ。他所者に容易くロストロギアを引き渡すとなれば、管理世界政府がどんなことを言い出すか判った 
 ものではありません」
「質量兵器の解禁は確かに心苦しい。ですが負けるよりはマシでしょう」

 先の屈辱的な敗戦を記憶していた者たちはこのままでは勝てないと考え、技術革新と質量兵器の解禁を目論んだ。
勿論、法の番人である管理局がいきなり質量兵器を解禁することはできない。さらに質量兵器が長らく禁止されていた
ためかその技術も乏しい。
 故に管理外世界からの技術の入手さえ彼らは考えていた。もはや形振り構っていられないというのが彼ら強硬派の 
本音だった。
 そして最終的に最高評議会は軍備増強を行うが、積極的には戦わず、可能な限り話し合いに持ち込むことを決めた。

652earth:2011/07/02(土) 19:11:17
「人造魔導師の開発、戦闘機人の本格投入」
「さらに聖王のゆりかごの起動を急がねばならない。聖王のクローンの準備もだ」
「左様。あの者たちが持つ宇宙船には、管理局の艦は全くの無力。ゆりかごの跳躍砲撃は必要だ」
「だが新型艦の開発は急務だろう。ゆりかごばかりに頼るわけにはいかない」
「そうだ。外交というものには軍事力の裏づけがいる」

 三脳は次元世界を一蹴できる黒旗軍と真っ向から戦うつもりはなかった。双方が凶悪な質量兵器を携えて開戦すれば
世界は再び破壊される。最悪の場合は、前のように次元世界が崩壊。よくても秩序が崩壊し無法状態になる。それだけ
は防がなければならない。
 しかしかといって唯々諾々と従うつもりもない。少なくとも制圧するには骨が折れると思わせる位の力が必要だ。 
そうでなければ再び虫けらのように扱われ蹂躙される……彼らはそう考えた。

「質量兵器を解禁すると言っても、その整備のためには管理外世界と交渉することになるな」
「不本意だが仕方あるまい」
「だが完全な質量兵器を配備するのも問題がある。運用には若干でも魔力がいるようにしたほうが良いだろう」
「黒よりも灰色のほうが良い、そういうことか」
「政治とはそういうものだ。それにレジアスも大喜びだろう。これで地上の戦力不足は少しは解消されるのだ」
「海の魔導師が煩いのでは?」
「黙らせるしかない。改革には多少の痛みはつきものだ。愚か者を切り捨てなければ、今度こそ我らは破滅するぞ」

 三人とも黙った。あの超越者が次元の壁を乗り越えて侵攻してくる……それを思うだけで彼らは恐怖に支配される。

「最終的には黒旗軍の上位者や対抗勢力とも接触する必要があるかも知れません」
「次元世界さえ乗り越えられない我々に、そんな真似はできないだろう……出来たとしても当分、未来の話だ」
「研究は進めておく必要はある。我らの世界を、今度こそは守らなければならぬ」

 だがこの軍備拡張は管理世界の各政府に重い負担を強いることは確実だった。故に彼らは新たな手を打つ。
 最高評議会はレジアスの改革を後押しすると同時に半質量兵器(少しの魔力で起動する重火器)の導入を認めて
陸を質の面から梃入れした。これによって各世界の検挙率は大きく向上。治安の改善によって経済も上向いていく。
さらに無人の管理世界の資源地帯の開発や、植民都市を建設するなどの公共事業で市場の開拓を進めるなどして
経済を活発化させた。
 しかし同時にロストロギアと目される物が発見された場合は、即座に次元航行艦を急行させ強引に接収すると 
いう強攻策も取り始めた。魔導師の素質がある人間での勧誘もより強引なものとなっていく。
 黒旗軍への恐怖が、管理局を突き動かしていた。

653earth:2011/07/02(土) 19:12:51
あとがき
というわけで第2話でした。
長門艦隊出撃。ついでに管理局探索が始まります。
管理局は管理局でぴりぴりするでしょう。
それでは。

654earth:2011/07/03(日) 22:43:45
と言うわけで第3話です。


 未来人の多元世界見聞録 第二部 第3話

 アンドロメダ級戦艦『アルテミス』を旗艦とし、マゼラン級戦艦2隻、大型無人戦艦6隻、巡洋艦4隻、小型無人艦
16隻、戦闘空母2隻、パトロール艦10隻を中心とした長門艦隊と輸送船団は一路、マブラヴ世界の地球に向かった。
 戦闘能力だけで言えば、太陽系のBETAを滅ぼしてお釣りが来るものだったが、朝倉は陣容に不満たらたらだった。

「主力戦艦、いえいまはマゼラン級か。あの船を取り上げられて、換わりに配備されたのがラジコン戦艦とはね……
 おまけに護衛艦も大半がラジコン艦」

 アルテミスの艦橋ではぁ〜とため息をつく朝倉。美少女のため息というのは傍目に見ると絵になるが、見るのが
同性(?)の少女とアンドロイド将兵ばかりなので何の感動も与えられない。

「ため息をついても仕方ない。それに相手はBETA。宙対地爆撃がメインならこの艦隊でも問題ない」
「それはそうだけど、ね。正体不明の勢力と交戦状態になったら、どこまで臨機応変に戦えるやら」

 大型艦は拡散波動砲こそ2門とアンドロメダと同じだが、主砲は50.8センチ砲3連装2基6門(艦前半部に配置)で
しかない。ただ小型艦は拡散波動砲1門と20センチ砲10門(艦前半部の上下に3連装1基。艦後半部に連装1基)と
巡洋艦並みの火力を持っているため、前衛部隊の火力が期待できるのが救いと言える。

「そのときはラジコン艦を特攻させて時間を稼ぐ。総司令もラジコン艦は最初から捨て駒と割り切っている」
「曲がりなりにも戦艦1隻を鉄砲玉か。豪華な弾ね」
「次元消滅弾頭に比べれば低コスト」 

 朝倉は長門の言葉に若干、顔を引きつらせる。
 
「……あれを引き合いに出す?」
「でも事実」

 時空管理局との交渉で起きた失態、そしてその後の大惨事。朝倉は処分を覚悟したが、耕平は朝倉や長門を処分すること
なく使い続けた。
 朝倉としては意外だったが、耕平は曲がりなりにも崩壊前から配下にいた者を今更処分するのは躊躇ったのだ。まぁ今度
大失態をしたら本当に処分するつもりだったが。

「会議では管理局捜索も決定された。今回の任務を終えた後、そちらに志願する道もある」
「……そうね。リベンジはしないとね」

 耕平が聞けば「失敗フラグ乙」と言うかもしれないことを呟く朝倉。
 何はともあれ、長門艦隊はマブラヴ世界へ向けて順調に航行中だった。

655earth:2011/07/03(日) 22:44:44
 長門艦隊が地球に向かっている頃、耕平は自身を鍛えるべく鍛錬に励んでいた。普通のプレイヤーなら
あまり使わない軍事教練用の機材を持ち出して、自身のスキルアップを図る。

「戦略、戦術、そして戦場について本格的に学ばないと」

 31世紀のオリジナルと切り離されたものの総司令官としての権限は残っていた。このため耕平は軍の総司令官であった。
故に戦略、戦術を徹底的にマスターする必要があった。総司令官が戦略、戦術に疎いのでは大問題だったからだ。
加えて精神面も鍛え上げる必要もあった。脆弱な精神では、悪戯に判断を誤りかねない、彼はそう考えた。

「……本当はやりたくないんだけどな」
 
 嫌々ながら耕平はヘルメットのようなものを被り、さらにケーブルでPCと接続する。
 この教練用の機材と言っても実際に体を動かすのではなく、仮想空間で教練を行うものなのだが、本物
そっくりであり実際の戦争を体験するには丁度よいものだった。
 勿論、その分、ハードな面もある。故にプレイヤーでこれをするのはよほどの物好きだった。耕平も
今回のことが起こる前までは、見向きもしない機材だった。だが今は、それが必要だった。 

「まだ時間があるうちに、マスターしないと」

 こうしてシャングリラの片隅で、時折、耕平の絶叫が聞こえるようになる。
 耕平が絶叫しつつも己のスキルを向上させ、何とか総司令官と名乗っても笑われない程度の力量を見につけた
頃に、銀河を動き回っていた黒旗軍艦隊が未知の異星人との接触した。 

「……異星人のタイプは?」
「純粋なヒューマンタイプではありません。爬虫類から進歩したような連中です」

 総司令部のメインモニターには緑の肌を持った爬虫類面(敢えて言えばカエル)の異星人が映っていた。
 これを見た耕平は内心で(ネタ的に美少女タイプの宇宙人が相場だろうJK)と思ったが、それを表に出すことは無かった。

656earth:2011/07/03(日) 22:45:16
「向こうの要求は?」

 この問いにアンドロイド参謀が答える。

「彼らの母星がある恒星系周辺宙域からの黒旗軍の即時退去と謝罪、そして賠償です。彼らは自分達の縄張りを荒らして
 いると主張しています」
「……恒星系外に、向こうがたどり着き、領土化していたか?」

 主権が及ぶ地域なら、向こうの言い分が正しい。

「いえ。彼らは恒星系内部の開発はしているようですが、恒星系の外にまでは」
「しかし連中からすれば今後、自分が開発する地域によそ者が来ていると思って不快に思っている、そういうわけか」
「あと、ファーストコンタクトにも問題があったようです。こちらは敵意がないことをジャスチャーで伝えようとした
 のですが、どうも宗教的に問題があったようで……」
「……」

 31世紀でも宗教問題は尽きなかった。ここでもそれに悩まされるのか、そう思った耕平は頭痛を覚えた。

「……連中の技術レベルは?」
「22世紀初頭といったところでしょうか」
「……戦争を仕掛ければ楽勝かも知れないが、軽はずみに仕掛けるわけにもいかないか」

 耕平は謝罪と賠償は兎に角、黒旗軍を後退させることを伝えた。だが向こうはそれだけでは満足しなかった。
 どうやら向こうにとって宗教というのは非常に厄介な問題のようで、こちらが譲歩するか開戦するしか道はなかった。

657earth:2011/07/03(日) 22:45:48
「連中からすれば爬虫類こそが至上の生き物であり、他は下等生物。ましてアンドロイドの我々など異端の生き物。
 そういうことか」 

 会議の席に持ち込まれた調査の結果を見て耕平は改めてため息をついた。 
 同時に自分達がアンドロイドで構成された軍隊であるということ自体が、場合によっては火種になるということも
理解した。全く持って頭が痛い問題だった。

「NPCと同じように、人間でも作るか? でも人間だけ作ってもな」

 入れ物は作れる。だが作ったNPCに文明を構築させ発展させるには相応の時間と労力が掛かる。
自分の命が掛かっている状態で、そんな悠長なことをやっている余裕は無い。

「総司令、いまは目の前のことに集中するべきかと」
「ああ。爬虫類の文明のことだろう。あんなマジ○チと話し合いなんてしたくも無いんだが」
「ですがやらなければならないかと」
「……連中に同盟国は?」
「存在は確認されません。連中の宇宙艦隊が恒星系外縁部に集結していますが、外から援軍が来る気配はありません。
 援軍を要請した気配もありません」
「そうか」
「如何されます?」
「もし開戦した場合、制圧できるのに掛かる時間は?」
「ジオイド弾の使用を許可していただけるのなら、敵軍撃滅を含めて1週間あれば終ります。母星を正攻法で
 制圧するとなればさらに時間が掛かります」
「どちらにせよ、こちらの勝利は揺るがないと?」
「はい」
「………」

 暫く考える耕平。圧勝できると言っても軽々しく知的生命体相手に開戦するのは躊躇してしまう。
 さらに、もしも連中が隠し玉を持っていた場合を考慮すると軽々しく開戦を選択できない。

「不満だが、暫くは睨みあいで済ませよう。交渉で妥協点を探りたい。一応、こちらにも非はある。
 ただし交渉を有利にするための示威行動は必要だ。艦隊を集めて軍事演習を行う」
「了解しました」
「やれやれ、こんなことになるんだったら長門艦隊を残していたほうがよかったかも知れないな」

 かくして黒旗軍は演習のための艦隊を集結させると同時に次の使者を送ることにする。
 だがその結末は惨憺たるものだった。

「使者が殺された?」

 かくして戦争が始まる。

658earth:2011/07/03(日) 22:47:31
あとがき
というわけで異星人登場です。
昨今の流れなら猫耳美少女とか犬耳美少女がでるのでしょうが……
敢えて逆でいきました(爆)。
でも向こうからすれば、主人公のほうがある意味でBETAなんですよね〜
それでは。

659earth:2011/07/04(月) 21:35:22
さて戦争ですが、描写は薄いです(爆)。
反応に戦々恐々としつつも第4話です。


 未来人の多元世界見聞録 第二部 第4話

「自分達の基地に使者が付いた途端に重火器まで持ち出して殲滅って……連中、正気か?」

 テロリストもびっくりのやり方に絶句する耕平。そんな耕平にアンドロイド参謀が冷静に助言する。

「正気かどうかはわかりませんが、本気であることは間違いないかと。
 すでに恒星系外縁部に集結していた『敵』艦隊はこちらの艦隊の集結地点に向けて進撃を開始した
 とのことです」
「……」
「決断を」

 司令部に集まっているアンドロイド参謀、モニターに映る各艦隊司令官の視線が耕平に集中する。

「……」

 もうはやゲームではない。曲がりなりにも知的生命体と殺し殺されする戦争。それを開始するかどうか
の決断を耕平は迫られていた。21世紀と31世紀、両方の世界で過ごした時間を考えれば精神年齢は
30をとっくに超えている。だが耕平は一般市民である自分が国家の命運を決するような決断を下したり、
そんな場面に立ち会うなど想像すらしたことがなかった。
 確かに教練でスキルや擬似的経験は体験した。しかし教育を受けたからと言って即座に決断ができる
わけではない。

「……」

 沈黙する耕平。だが刻一刻と敵艦隊は味方の艦隊に向かっている。 
 技術格差からすれば、仮に防戦一方になっても問題はない。だが無為に犠牲を出すことになる。
総司令官が決断を下せなかったという理由で犠牲を出すのは馬鹿げている。ゲームなら許されるかも
しれない。だが耕平にとって、この世界はゲームではない。この世界こそ『リアル』だった。
 そして耕平は決断を下す。

「……は、派遣艦隊全艦に命令。敵宇宙艦隊を撃滅せよ」

660earth:2011/07/04(月) 21:36:00
 改アンドロメダ級『春蘭』を旗艦としアンドロメダ級『イシュタル』『アスタルテ』『テミス』を
中心とした派遣艦隊は総司令官の命令を受けて整然と進撃を開始した。

「漸く開戦か」

 派遣艦隊司令長官に任じられていたレビル中将(正確にはレビルを模したアンドロイド)は髭をなでた後
帽子を被りなおす。

「それでは征こうか、諸君」

 敵艦隊の様子は、すでにステルス艦から届けられていた。
 爬虫類生命体の艦隊は、旗艦と思わしき巨大な円柱型の艦、4つの球体を串刺しにしたような構造の艦から構成
されている。総数は60隻。さらに周辺には艦載機と思わしき円盤が飛び回っていた。

「……スペースコロニーをそのまま航行させているような艦だな」

 このレビルの呟きにアンドロイド参謀が同意するように頷く。

「移動する拠点といったところでしょう。動きは鈍そうですが、その分、攻撃力はあるかと」
「素直に連中と砲撃戦をすることも無いだろう。航空戦力で先制攻撃を仕掛ける」
「了解しました」

 派遣艦隊には戦闘空母4隻、空母2隻(信濃級)、そしてデスラー艦が配備されている。
 前の世界で管理局艦隊残存艦隊を一方的に殲滅した戦術をもって、敵艦隊に先制攻撃をかける。それが
派遣艦隊司令部の方針だった。

「それにしても、高々60隻で我々に挑むとはな」

 派遣艦隊だけでも総数は240隻。相手の4倍あった。

「交渉の際に、腰を低くしたことが原因かと。それに連中はこちらの規模を正確に知らないようですし」
「張子の虎と見られたか。まぁその傲慢の対価は、彼らの命で償ってもらおう」  

 レビルの言葉に嘘偽りはなかった。

661earth:2011/07/04(月) 21:36:35
 F−01、コスモパルサー(コスモタイガーⅡの後継機)が何も無い空間から突然現れると、敵艦隊は
大混乱に陥った。
 戦闘機の役割を担うらしい円盤が邀撃に向かったが、あっという間に叩き落される。円柱型の艦からは
盛んに円盤が発進したものの、各個撃破されていく。
 F−01の攻撃(ミサイル、小型波動砲)で、周辺の艦が脱落すると、あっと言う間に敵の旗艦と
思わしき巨大艦は丸裸となった。

「艦隊戦に慣れていないようだな。陣形の建て直しが遅い」
「恐らく、ここまで大規模な会戦をしたことがないのでしょう」
 
 F−01の小型波動砲、そしてコスモパルサーの対艦ミサイルの集中攻撃によって巨大艦は瞬く間に
火達磨となる。

「脆いな」
「さすがに、あれだけの攻撃を受ければ、仕方が無いかと」
「ふむ……このままなら、完勝できそうだな」

 アウトレンジ攻撃によって敵艦隊は一方的に打ちのめされていた。
 第二次攻撃隊の攻撃が終わった頃には、敵艦隊は3分の1以下にまでその数をすり減らされていた。 
それも健在な艦は皆無であり、どの艦も(黒旗軍から見れば)這うような速度で航行していた。

「……時空管理局の艦隊よりも弱いかも知れないな」

 司令部で様子をモニターしていた耕平は唖然となった。先ほどまで悩んだ挙句、決断を下した自分は 
何だったんだ……と思ったものの、すぐに頭を振って自身を戒める。

「だが闘志は彼ら以上か。全滅寸前にも関わらず撤退する気配はないし。敵巨大艦も辛うじて持ち堪えている。
 まぁこの場合は蛮勇というべきか?」
「降伏を勧告しますか?」

 参謀の問いに耕平は首を横に振る。

「降伏したと思って近寄ったら自爆されるかも知れない。ここは心を鬼にして殲滅するべきだ」

 管理局相手に交渉して、その後どうなったかを知っている耕平は、容赦が無かった。
 その後、爬虫類生命体の艦隊がどうなったかは言うまでも無い。彼らはアンドロメダ級戦艦、マゼラン級戦艦の
集中砲火を受けて1隻残らず、宇宙の塵と化した。
 1時間足らずの会戦で黒旗軍が失ったのは4機のコスモパルサーのみ。完全勝利であった。

662earth:2011/07/04(月) 21:37:11
「このあと、どうされます?」  

 アンドロイド参謀の問いに耕平は少し考えると決断した。

「補給を済ませた後、敵の恒星系へ侵攻を開始する。ただし罠や伏兵にやられないように、念入りに偵察は
 行うように」

 戦争は長々とするものではない。素早く侵攻して敵に対して城下の盟を強要しなければならない。
 かといってことを急いで背後を取られては元も子もない。

「まぁ、いくら何でも母星周辺を丸裸にされたら、負けを認めるだろう」
 
 だが耕平が思っていたより、宗教国家というのは頑迷であった。
 彼らは各地の基地や防衛艦隊が潰滅しても尚も抗戦の意思を崩さなかったのだ。それどころか恒星系の
他の惑星周辺を航行していたら、非武装らしき民間船が特攻さえ仕掛けてくる始末だった。
 
「連中は現実というものが見えないのか?」

 司令部のモニターに映る爬虫類が「神の恩寵を受けている我々が機械生命体に屈服することはない!」などと言って
喚いている(本当は画像の下側に字幕が出ている)姿を見て、耕平はため息をついた。

「ひょっとして銀河にはこの手の連中が沢山いるのか?」

 今回は弱い相手だったので何とかなったが、もしも自分を圧倒する力を持つ者が、この手の勢力だったら
と思うと耕平は寒気を覚えた。

「宗教や価値観で衝突したら目も当てられないな……」

 同時に自分達がロボット文明とも言えるものであることに気付かされた。

(俺も、他の連中からすれば、黒旗軍のほかのアンドロイドと同じか……二回死んだ挙句に、人ではすらなくなるとは)

 耕平は嘆息する。そして、自分が今では人間ですらないという事実に顔を歪ませる。
 
(だが俺は生きている。少なくとも意思はある。コピーや残滓かも知れないが、俺は俺だ。誰が何と言うおうとだ。
 そして俺は三度は死なない。いや死ぬとしてもムザムザとは死なない) 

 戦争が続く中、耕平は絶対に生き残ってやると再度誓った。

663earth:2011/07/04(月) 21:38:35
あとがき
爬虫類ボコボコです。
一方で主人公は自分達が、有機生命体からすれば異質の存在であることを
理解します。
それがどう影響するかは……まぁ後のお楽しみということで。
それでは失礼します。

664earth:2011/07/05(火) 21:40:58
第5話をUPします。


 未来人の多元世界見聞録 第二部 第5話

 黒旗軍は爬虫類生命体の母星を丸裸にした後、再度の降伏勧告を行ったが向こうは頷く気配がなかった。
 
「……連中とは対話不能だな」

 総司令部で報告を聞いた耕平も処置無しと首を横に振った。 

「どうしましょう?」
「ジオイド弾で皆殺し……といきたいが止めておく。連中の宇宙港、主要軍事施設、政府施設を片っ端から
 吹き飛ばしておこう。原始時代に逆戻りさせてやれば無視しても構わない。
 ああ、ついでに衛星軌道に攻撃衛星でも置いておこう。一定の高度以上を飛ぶ物体を撃ち落せるのを」
「宜しいのですか?」
「……汚物は消毒だ〜って勢いで殲滅したいところだが、これからのことを考えると下手な手は打てない」

 いかに相手が自分達基準でマジキ○と言っても過言ではない連中でも、知的生命体を一つ完全に絶滅させた
というのは些か外聞が悪い。何しろこれから自分達は他の生命体とも遭遇するかも知れないし、他世界で交流
するかも知れない。
 そんなときに、知的生命体を星ごと吹き飛ばしたという事実は相手の警戒を煽ると耕平は考えていた。

(ただでさえ、俺達ってロボ文明だからな。そうすると、さしずめ俺はロボット軍団の親玉か?
 何か、劇場版ドラ○もんで出てきそうだな。悪役のボスとして)

 自嘲しつつも耕平は再び口を開いた。 

「今後は事前の探索に力を入れて、基本的に恒星間航行能力を持たない文明がある惑星や星系は避けるように」
「相手がその能力を有していたらどうされます?」
「……慎重に調査を行った後に接触するかどうかを判断する。あと向こうから喧嘩を売ってきた場合も
 向こうの力量を見てから判断する」
「了解しました」
  
 このあと爬虫類生命体の母星は、大規模な宙対地爆撃に晒された。
 大規模なEMP攻撃の後、宇宙港、各種ドック、軍事基地や各種工廠、エネルギー供給施設、政府関連施設などが
片っ端から吹き飛ばされ爬虫類生命体は事実上無力化された。
 
「これで静かになるだろう」

665earth:2011/07/05(火) 21:41:42
 かくして戦争に決着をつけた耕平だったが、今回の件からアンドロイド軍団というのはかなり警戒されると
言うことを自覚した。

「このままだとマブラヴ世界に干渉したときにも酷く警戒されそうだな」

 向こう側の事情など露も知らない耕平は本気でそう考えた。

「前回、BETAを駆逐してやったのに、内ゲバして自滅した連中だからな……何か姿を現してもBETAの親玉扱い
 されそうな気がしてきた」

 爬虫類ならイザ知らず、人間に敵意を向けられるのは辛い。だが今後のことを考えるとやらなければならない。   

「……余裕が出来たら、気晴らしに平和な21世紀世界でも探しておくか。平和な光景を見るのも気分転換にはなるかも
 知れない。何せ24時間ずっと戦争のことばかり考えていたら気が滅入る」
 
 いくら機械の体となったとは言え、メンタルまで鋼にはならない。
 何かしらの息抜きは欲しいというのが本音だった。

「でも見つかったのがエヴァ世界だったら笑えないな……EOE後だったら余計に気が滅入りそう。ハルヒだったら
 異世界人扱いで何か色々と巻き込まれそうだし……よく考えると20〜21世紀でも十分面倒な世界が多いな」
   
 耕平はため息を漏らす。

「まぁ全ては未来の話だ。今は生き残るための方策に全力を注ごう。アンドロイドによる軍団、いや機械軍団か。
 これの警戒を和らげるには、やはり有機生命体、人間が必要になるな。
 解決策は2つ。自分で作るか。それとも別の世界から連れて来るか、だ」
 
 後者の場合、つれてくると言っても、拉致するわけではない。滅びつつある世界を適当に見繕い、その世界の
人類を救済の名の下に黒旗軍の勢力圏下の地球型惑星に移民させる、それが耕平が考えているプランだった。

「でもつれてきても、世代交代したらあっさり反抗されそうだよな……アンドロイドに支配されるなんて嫌だろうし。
 NPCを地道に作るか? いやもう面倒だし、いっそアンドロイド用の人格ソフトを弄って人間の素体にダウンロードするか? 
 少し手間かも知れないが、反抗される恐れは無いし、別に何億人も作る必要は無い。精々、数百人いればいいし」

666earth:2011/07/05(火) 21:42:15
「でも一応、国民(?)が存在するとなると黒旗軍より、国家を名乗ったほうがいいか。今の勢力圏からすると『銀河帝国』?」
   
 昔のスペオペだなと苦笑いしつつも、昔の漫画を思い出す。

「おまけに帝国を支配しているのがコンピュータか。ジオイド弾といい、超人ロックと共通点を作るにも程がある。
 尤もこの場合だと、コンピュータ同士の相打ちで帝国崩壊になるけど」

 遥か昔に読んだ漫画を思い出して耕平は笑う。
 いや笑うしかない。何しろ自分がライガー1のような立場になると考えたこともなかったからだ。いやそうなると考える
ほうがどうかしている。

「まぁ人間が上層部にいるとなれば、少しは警戒も薄れるだろう。他の人間も連れてくるかはそのあとに考えれば良いさ。
 何かフィクション物のラスボスみたいになっているような気もするけど……まぁ気にしないようにしよう」

 かくしてたった一人の手によって銀河帝国が建国されることになる。
 生物学上は人間に分類される300人、そして多数のアンドロイドから構成される星間国家(?)が誕生することになる。
 
「主星(仮)は第3惑星に置くか。ああ、一応、帝都とか主要都市らしきものも建設しておこう」

 どこにどんな街を作るか考える耕平。

「……何か実物大のジオラマでも作ってる気分だな。まぁ気晴らしにはいいか」

 かくして銀河帝国は急速に体裁を整えられていく。
 勿論、今後、黒旗軍は銀河帝国と名乗るとの連絡は長門達にも届けられる。

「……正気かしら?」

 朝倉は目を丸くし、長門も僅かながら驚いたような顔(殆ど無表情だが)をする。

「今後、国家との交流と考えれば理解できないことではない」
「それでも銀河帝国って……まぁ良いか。とりあえず今後は帝国軍ということでいきましょうか」

 少し疲れたような顔をした後、朝倉は頷いた。
 かくして黒旗軍改め、銀河帝国軍はマブラヴ世界の太陽系第三惑星地球に向かう。
 かの世界が、前の世界とは若干異なるとも知らずに。

667earth:2011/07/05(火) 21:45:17
あとがき
主人公がラスボスっぽくなっているが気にしない(笑)。
それでは失礼します。

668earth:2011/07/08(金) 23:55:27
短めですが完成しました。日本本土決戦直前の第6話です。


 未来人の多元世界見聞録 第二部 第6話

 『黒旗軍』改め、『銀河帝国軍』地球派遣艦隊は何の妨害も受けることなくあっさり太陽系に侵入した。
 前回同様、BETAによる迎撃は無かった。

「……地球に関しては今回も一方的な爆撃になりそうね。重頭脳級も前回同様だったとしたら訓練にもならないんじゃ?」
「ラジコン艦の実戦データの収集には使える。ハイヴは核にも耐えられる構造。標的には丁度良い」
「まぁ対地砲撃訓練のための標的にしては十分かしら……あとは交渉の練習か」

 管理局と交渉した際の失態を思い浮かべて、朝倉は多少苦い顔になる。 

「本格的な大使には有機生命体ユニット、いや人間が任じられる。だが我々も経験を積むために交渉に赴く必要がある」
「人間ね……」

 元人間の耕平が人間と交渉するために人間を作る。実に皮肉が効いていた。
 以前の朝倉ならすかさず突っ込んでいただろう。だが今の彼女は、そんな非生産的なことをすることはなかった。

「前と同じような失態がないようにしないとね。本格的な交渉に取り掛かる前に万全の情報収集と次善の策も用意して
 おかないと」

 耕平と同様にその手の学習ソフトでスキルを向上させている彼女達であったが勉強と実践は違う。
まして相手は31世紀の常識からはかけ離れた連中(それも滅亡の瀬戸際で内ゲバする連中)でもある。考えられる
限りの方策を練るのは当然と言えた。

「でも爬虫類生命体のことを考えると、相手に侮られないように基本的には砲艦外交でいくしかないわね」
「それは否定しない」

 異民族相手に安易な譲歩は危険であることは、この前の戦いで認識されていた。

「取りあえず国交の樹立と大使館の設置を認めさせる」

 今回の太陽系進出は訓練と実験、外交交渉の練習とゲームで言うならチュートリアル的な意味が強かった。
故に交渉の窓口となる大使館の設置は必要であった。
 
「武力を背景とした強面で脅す傍らで、資源や技術力などの餌を与える。どれだけ最小限のコストでメリットを
 引き出せるか、これが課題ね」

 長門と朝倉は顔を突き合わせて色々と話し合った。地球の事情など知る由も無く。
 そして艦隊のナンバー1とナンバー2が話し合っている中、派遣艦隊はワープ航法で一気に地球に向かった。彼女達に
とって二度目の対BETA戦は目の前だった。

669earth:2011/07/08(金) 23:55:59
 銀河帝国軍が地球に向かっている頃、その地球では日本本土での決戦が目の前に迫っていた。
 参謀本部や日本本土防衛軍上層部は水際防御にこだわり、前の世界どおり西日本へ戦力を配備した。
 前の世界で西日本方面の部隊がBETAの奇襲で敢え無く壊滅した事を知る人間達は、西日本壊滅が時間の問題
と考え、次善の手として国民の避難計画の推進、そして西部方面隊が壊滅した後の軍の建て直しのための根回しを
急いでいた。

「そうですか。やはり……」

 悠陽は御所で男の報告を聞いて憂鬱そうな顔をする。

「政府や軍では楽観的な意見も少なくありません。こうなった以上は京都で持ち堪えるしかないかと」
「この街はやはり戦場になると?」
「ですが今回は四国への侵攻は阻止します。これによってBETAの側面を脅かし、犠牲を減らすことは
 できるでしょう。さらに『前の世界』より米軍の支援も期待できます」
「……私たちにできるのは、その犠牲を無駄にしないこと。それしかないでしょう」

 すでに西日本壊滅の責任を追及する形で、今の上層部を追いやる準備も進められていた。光州作戦の悲劇を
防いだことで将軍に近い軍人である彩峰中将を含め、かなりの人数の軍人が協力する姿勢を見せていたので、準備は
順調だった。
 勿論、彼女達は権力を握るために悲劇を利用しようとしている訳ではない。全ては真の挙国一致体制を構築する
ため、そして日本内乱を防ぐためであった。

「ですが京都決戦では私も出陣します」

 この言葉に月詠真耶が血相を変えるが、悠陽は譲らない。

「将兵を鼓舞するため、そして私が『国を守る政威大将軍』の地位を全うできることを、示さなければなりません」
「ですが殿下の御身になにかあれば……」
「私たちは帝国の命運を左右する賭けをしているのです。そして、賭け事に多少の危険は付き物です」

 そう断言する悠陽に、その場にいた2人は反論できなかった。

「他の摂家が私を捨て駒にしようと積極的に出陣を後押しするなら、それを利用するまで。
 彼らも出しゃばった真似をしたとは、口が裂けても言えないでしょう」

 こうして政威大将軍自らが斯衛軍を率いて出陣することが決定された。

670earth:2011/07/08(金) 23:56:30
 本土決戦の準備を進めつつも、前の世界を記憶を持つ者たちは、新たに出現する異星人へ接触するべく
動き出していた。

「異星人へ期待せざるを得ないとはね」

 研究室で香月夕呼は自嘲した。
 彼女としてはそんな他力本願なやり方には心から賛同できない。何しろ新たな異星人が第二のBETAでない
という保証は無いのだ。だが人類の状況はそんな異星人に頼らざるを得ないほど悪かったのだ。
 
(仮に連中の介入が無ければ、日本本土が陥落していた可能性もあったし)

 正史では横浜ハイヴが築かれることを知らない夕呼は、『前の世界』の状況では日本本土の陥落も時間の問題
だったのではないかと考えるようになっていた。
 
(どちらにせよ、日本が陥落すればAL5が、バビロン作戦が発動する。時間がない)

 『前の世界』を知る人間は、大量のG弾の使用で発生する重力異常が地球全体に途方も無い悪影響を及ぼす
ことを理解していた。しかしそれはまだ科学的に証明されていない。故にAL5、いやバビロン作戦は未だに健在だった。
この発動を防ぐにはAL4を達成し成果を出すしかないのだが、AL4を達成するには絶望的なまでに時間が無かった。
 故に彼女も得体の知れない異星人を頼りにした上で、彼らと交渉するという普通なら考えられない方策に手を貸したのだ。
 実際、彼女は対宙監視システムの強化、そして宇宙人との交渉のためのメッセージ作成やその送信方法の構築に
協力している。
 尤も実際に送信が行われるのはあの異星人達が介入してからになるが、それでもいち早く接触する体制を構築
しておくに越したことは無い。

「まぁ良いわ。あのふざけた真似をした連中に興味はあるしね」

 ふざけた口調で呟きつつも、彼女の目は真剣そのものだった。
 有無を言わさず全てのハイヴを吹き飛ばしたBETAと敵対する異星人。今の人類にとっては救世主ともいえる
存在かも知れない。だが彼らが第二のBETAにならない保証はどこにも無いのだ。AL4が期待されていないからと
言って彼女は不貞腐れるつもりはなく、最悪の事態も想定して動こうとしていた。
 だが日本がこのように準備をするのと同様に、アメリカも日本本土決戦への準備をしつつ、異星人とのコンタクトに
力を入れていた。
 日米が異星人との接触競争を行う中、日本本土決戦の幕は上がる。

671earth:2011/07/08(金) 23:58:53
あとがき
本土決戦直前の一幕でした。
いよいよ次回は介入となる予定です。それでは。

672earth:2011/07/10(日) 11:31:55
短めですが帝国側からの視点で話が進む第7話です。


 未来人の多元世界見聞録 第二部 第7話


「まぁこんなものか」

 培養液が満たされた透明のタンクに入っている『人間』を見て、耕平は取りあえず満足したとばかりに頷く。
だがすぐに培養液の中で眠る『人間』いや『少女』の容姿を見て苦笑する。

「アンドロイド、いや機械の身である俺が皇帝を名乗るわけにはいかないからな……それに下手に名乗ると
 うかつに動けないし」

 帝国軍における耕平の立場は宇宙艦隊副司令長官兼宇宙要塞『シャングリラ』司令官(階級:上級大将)。
要職についていると言えるが、銀河帝国の実態から考えると地位は低いほうと言える。だがそれはむしろ
耕平の望むものであった。

「スタンダードな黒幕なら帝国宰相が一番良いんだろうが、そんな面倒な役職は丸投げにするに限る。
 それに……これである程度は自由に動ける」

 所詮、銀河帝国など耕平の都合によって作られた虚構の王朝に過ぎない。たとえ表向きの地位は低くとも
実際の権限は彼に集中しているので問題はない。しかしその実態を声高に喧伝するつもりはない。むしろ政府の
影に隠れて動き回るつもりだった。

「ああ、そういえば王朝の名前、まだ決めていなかったな」

 皇帝となる少女の顔を見ながら、耕平はふと思い出す。

「……ふむ」

 公式では銀河の4分の1以上を支配下に置く王朝であるため、さすがに名無しではまずい。
 さてさてどうするかと暫く考えた後、耕平は一つの名前を思い浮かべる。

「『レムレス』。レムレス王朝と名乗らせるか。名は体をあらわすというし、ピッタリじゃないか」

 レムレス王朝。こうして強大な軍事力を保有しつつも、『この世に存在しない』という意味を持つ王朝が
誕生することになる。

673earth:2011/07/10(日) 11:32:25
「さて、次は……」

 耕平が次に打つべき手を考えている時、『SOUND ONLY』と書かれた映像が耕平の右横に表示された。

『派遣艦隊が地球に到着しました。作戦を開始するとのことです』
「そうか。長門中将は他に何か言ってきたか?」

 今の耕平からすればマブラヴ世界の重要度は高くない。故に淡々と質問したのだが参謀AIの返答は予想を
超えたものだった。

『はい。前の世界、そして原作とは若干、状況が異なるようです』 
「……は?」

 時は少し遡る。
 帝国軍艦隊は地球を射程に捉えようとしていた。朝倉はすかさず現在の状況を尋ねる。

「地球の様子は?」
「前の世界どおり、日本本土へ侵攻が行われています。ですが前と違って四国への侵攻は阻止。四国の部隊が
 東進するBETAの側面を突いています」
 
 アンドロイド参謀の答えに長門と朝倉の2人は意外そうな顔をする。

「四国を守りきったと?」
「橋の爆破が間に合ったのが大きい模様です」

 長門は少し考えた素振りをした後、ぽつりと呟くように言う。

「……この世界は、『前の世界』とは違うのかも知れない」
「運がよかったのか、それとも何か原因があるのか……判らないけど、さらに警戒する必要があるわね」

 マブラヴ人類が前史よりも健闘しているのを見て、2人は警戒心を露にした。  

「どうされますか?」

674earth:2011/07/10(日) 11:32:58
 アンドロイド参謀の質問に2人は僅かながら沈黙した後、口を開く。

「……予定通り行う。爆撃準備」
「ただし直掩機を増やして警戒を厳に。全艦、対艦対空戦闘用意」

 朝倉の指令で派遣艦隊は本格的な戦闘態勢に入る。
 ラジコン艦が周囲の警戒を行い、戦闘空母からはF−01や早期警戒機が発進していく。人類の技術力や
前の世界でのBETAとの戦闘を考えれば過剰と言ってもよい警戒振りであったが、一度失敗している彼女達
からすれば当然の措置であった。
 護衛艦隊が警戒する中、輸送艦に搭載されていた超大型ミサイル、そしてドリルミサイルが射出される。 
だがこれらは今回はデスラー艦ではなく、それぞれがワープして地球に向かった。

「新型のワープユニット。きちんと作動したようね」
「そうでないと困る。通信参謀、地球への通告は?」
「完了しました。最大出力で送っているので、傍受できない国は無いはずです」

 この言葉を聞いて2人は頷く。

「あとは総司令、いや参謀本部への報告ね」 

 チュートリアルとして、現場の裁量は認められているものの、報告は必要だった。

「場合によっては再調査、そして各国の再評価も必要になる」

 彼女達は厳しい視線を地球に向けた。

675earth:2011/07/10(日) 11:33:56
あとがき
次回、地球側の視線になる予定です。
それでは失礼します。

676earth:2011/07/11(月) 23:43:23
地球側からの視点での日本本土決戦です。
尤も戦闘描写は薄いというか、殆ど無いですけど(爆)。


 未来人の多元世界見聞録 第二部 第8話

 1998年7月。前の世界どおり日本帝国はBETAの大侵攻に見舞われた。
 九州、中国地方は瞬く間にBETAによって制圧され、西日本方面に配備されていた帝国軍部隊は
次々に文字通り『全滅』していった。
 だが国民の犠牲は若干ながら減少していた。将軍、そしてそれに近しい軍人や政治家、官僚たちが
密かに策定し根回ししていた避難計画がある程度機能したためだ。
 さらに四国へのBETA侵攻を食い止めたことで、帝国軍はBETAの側面を突くことが可能となり
本土決戦で『前の世界』よりも有利に戦えるようになった。しかしそれは比較論に過ぎない。
 圧倒的物量で迫り来るBETAによって、帝国軍はジリジリと後退を余儀なくされ、結果的には帝都
である京都周辺に追い詰められていた。

「速やかに京都を放棄し、首都を移転させるべきだ! 軍はこれ以上、帝都を維持することは出来ない!」

 帝国軍本土防衛軍の富永大将は、皇帝も出席する御前会議の席で速やかな首都の移転を主張した。 
 このときすでに首都機能の移転は進められ、市民の脱出も順調。故に京都の放棄は可能だった。前の世界よりも
時間を稼げたことが大きかった。
 だがそれは本土防衛軍首脳部にとって屈辱でもあった。自分達の無策振りを、戦略的な失敗を将軍に近い人間が
フォローする。それは彼ら(以後将軍派と呼称)が得点を稼いでいることに他ならない。

(何故だ、何故、連中はここまで先を見て動ける?! あの雌狐の研究の成果か?)

 内心で渦巻く疑問。だがいくら考えても答えなどでない。

(今更、将軍などカビが生えた者に国の大権を預けるわけにはいかん! 国家は軍が統帥してこそ生き残れるのだ!)

 そんな富永の内心を見透かすかのように、一部の出席者は冷たい視線を富永に向けていた。
 
(((どうせ『今回』も碌でもないことを考えているんだろう)))

 そんな中、皇帝が口を開く。

「もはや帝国軍に帝都を守る兵はないのか? 京都を含め近畿を放棄するしかないのか?」
「残念ながら……」
 
 かくして京都の放棄が決定される。だが同時に時間稼ぎと後の東日本での決戦に向けて京都でBETAを消耗
させることが富永から提案される。

677earth:2011/07/11(月) 23:44:00
「京都放棄はやむを得ません。ですが東日本での戦いを有利に行うために、京都でBETAを足止めする必要は
 あります」

 この提案に海軍大臣が反対する。

「京都で戦う必要はない。口惜しいがBETAが京都に侵攻してきたら、京の街ごと砲撃で粉砕したほうがよい。
 一兵でも多く撤退させたほうが決戦には有利だ」
「ですが集結には時間が必要です」
「準備は進んでいるはずだが?」

 将軍派の根回しで東日本の部隊の集結が進んでいることを指摘された富永は、少し顔を歪ませるもすぐに反論する。

「より多くの兵を集める必要があります!! 次の決戦で破れれば帝国は蹂躙されます!!」
「……だが西日本にいた部隊の多くは全滅。どうやって兵力を工面するつもりだ?」
「非常に心苦しいですが斯衛軍にお願いしようかと」

 これに出席者の多くが反発する。だが煌武院家以外の摂家に近い人間は沈黙していた。
 これを見た将軍派は彼らが富永と結託していることに気付く。

(やはり連中は殿下を囮にする、いや混乱に乗じて……)

 煌武院家出身の将軍である悠陽を戦乱の隙に亡き者にし、軍と結託して次の将軍の地位を我が物とする。そんな下種な
ことを考えているな、と将軍派の人間は考えた。そしてそれは外れてはいなかった。

(((この際、小娘には京都諸共消えてもらおう……)))

 現状ではお飾りに近い将軍の地位。それを狙う者たちは悠陽を消すつもりだった。さらに彼女を悲劇のヒロインにした
上で仇討ちとして次の決戦での士気を上げて勝利する……それが彼らの目的だった。 
 しかしそんな考えすら悠陽は利用するつもりだった。 

「……判りました。私自らが指揮を取り、時間を稼ぎましょう」

 この悠陽の言葉に、富永は内心で嘲りつつも大げさに感謝する素振りをする。しかし悠陽はそんな彼の内心を見透かしていた。

(私を利用するつもりなのですから、私に利用されても文句は無しですよ)

 こうして津波のように押し寄せるBETAを少しでも食い止めるために斯衛軍が出撃する。

678earth:2011/07/11(月) 23:44:38
 斯衛軍専用機である『瑞鶴』。この近代軍としては「あり得ないだろうJK」と言われることが確実な機体と武家から
選ばれた衛士たちは京都市街地に布陣した。
 死兵同然なのだが、千年の京での決戦ということで将兵の士気は高かった。加えて米軍も側面支援を行う事を通達して
いた。本土防衛軍首脳部からすれば「余計な真似を」と言われることが確実なのだが、この行動は米軍からすれば日本に
恩を売ると同時に、今後現れるであろう異星人に対するメッセージでもあった。

「『BETAと戦う覚悟がある』ということを示す必要がある」

 前の世界の記憶を持つ米高官はそう言った。
 一般の米軍将兵からすれば各国への支援などで十分に対BETA戦争に貢献しているのだが、前の世界で異星人がわざわざ
大気圏に宇宙船を降下させて真っ先に日本に侵攻するBETAを掃討したことから、一部の高官は異星人が日本に対して関心を
持っている可能性を考慮していた。
 故に異星人の目が向いているかも知れないこの京都の決戦に曲がりなりにも参加することを決めたのだ。ただし犠牲が多すぎる
と世論が煩いので、側面からの支援となったのだが、それでもかなりの援護となる。
 
「火力自慢の米軍戦術機が支援に加わるのは大きい」

 国粋主義者が多い斯衛軍の人間も後方からの支援が厚くなることは歓迎した。
 まぁ自分達の血を流したがらない姿勢に腹を立てる者もいたが、やはり支援があるとないとでは大きな差があることは理解して
いたので余り大きな声で米軍の悪口は言えなかった。
 だが雌狐だの魔女だのと悪名が響く香月夕呼の私兵も加わると聞くと少し顔をゆがめた。 
 
「何故、あの連中まで?」
「何か狙いでもあるのか?」
「判らん。それとも何か取引があったのかも知れん」 

 A−01が加わるのは大きい。だがあの『魔女』が無償で帝国に貢献するはずがないと誰もが思った。
 そして実際、彼女はただで部隊を参加させるつもりはなかった。

「前の世界から因果流入を招いた原因かも知れない異星人。連中が彼らに興味を持つかしら?」

 A−01は00ユニット候補の集まりでもある。その彼らに異星人が興味を示すかという実験は彼女にとって実施する
価値があった(まぁ実際には政治的取引で色々と利益も手に入れていたが)。
 さらに今回、A−01には『特別な』新米衛士が加わっていた。

「白銀武。前の世界の記憶持った人間もいるし」

679earth:2011/07/11(月) 23:45:50
 94式戦術歩行戦闘機『不知火』。それに白銀武は乗っていた。
 新米でありながらA−01に編入されたという異例の衛士として。

「いよいよ戦場か」

 前の世界の記憶が流入してから混乱したものの、それが事実と考えた武はあの悲劇を繰り返さないためとして軍に
入った。だが軍というのはそんなに甘いものではなかった。加えてあの悲劇を経験している武は上層部というものに
対する不信感が強かった。
 故に周りや上官と衝突する始末だった。だがそんな問題児だったが故に、彼は偶然、夕呼の目にとまった。
夕呼は得意の交渉術で武が前の世界の記憶持ちであることを引き出すと、00ユニット候補として A−01に放り込んだ。
 まぁそこでさらに武は地獄を見たのだが……その地獄の経験を代価として武はこの戦場に立つことができた。

「見ていてくれよ。俺達の意思と覚悟を」

 これから現れるであろう異星人。地球や月、火星のBETAを瞬く間に掃討していった存在は彼にとって救世主で 
あった。軍隊生活を送ることで、異星人が清廉潔白な救世主とは思えなくなっていたが、それでもBETAや前の世界
で日本を内乱に陥れた馬鹿よりはマシな存在と考えていた。少なくとも彼らは地球や人類を、自分達を救ってくれた。
奪うだけで何もしなかった連中と比べれば雲泥の差だった。
 そんな彼らに、人類の覚悟を示すまたとない機会と武は考えていた。そんな考え事をしていると、先輩の鳴海孝之
から通信が入る。

『ほかの事は考えるなよ。気を抜くとあっという間だぞ』
「! 了解!!」

 そんなやり取りがされる中、京都決戦の幕は上がる。迫り来る圧倒的な数のBETAに対して斯衛軍、そして
米軍は決死の抵抗を行った。

「千年の京。ここで恥かしい戦いは出来ません!」

 紫の瑞鶴に乗って、悠陽は各戦線で将兵を鼓舞する。さらに時には実際に戦場で戦い、BETAを撃破していった。
 勿論、要塞級のような大型は撃破できないが、中小のBETAを多く倒し、将兵を感嘆させた。お飾りであり、これ
まで戦場に出ることがなかった将軍が自分達と共に戦う。これは将兵に力を与えた。

「俺達の娘くらいのショーグンが戦っているんだ。後れを取るな!」

 米軍もこれに刺激されたのか、側面から激しい攻撃を加える。
 本来ならとっくに京都全域が焼け野原になっていてもおかしくないにも関わらず、両軍の奮戦によって京都は
丸焼けになることを防がれた。だがこのままでは京都の陥落は時間の問題。誰もがそう思った。
 そんな中、前の世界を知る人間達にとっては二度目の、そして何も知らない人間からすれば最初の宇宙からの介入が
起こる。尤もその前に、前の世界を知る人間にとっても予期せぬことが起こったが。

680earth:2011/07/11(月) 23:46:30
「銀河帝国?」

 悠陽は司令部で報告を聞いて驚いたような顔をする。だがそんなことに構わず通信参謀は話を続ける。

「はい。地球全域で観測されました。銀河帝国軍はこれより地球上の全てのハイヴを掃討する。そのような通信が
 行われています」
「銀河帝国……」

 悠陽は前の世界では決して名乗らなかった彼らが、自ら名乗ったことに驚いた。だが同時にこれはチャンスでも
あると感じた。

(名乗りを挙げるということは、私たちと話をする意思があるということ。確かに武力では天と地ほど離れている
 ものの、交渉となれば我が国にも機会はある)

 米国の先を越せないものの、越される恐れも無い。さらに多少は事情を知る自分達なら、他の国よりもスムーズに
交渉に入れる。そう悠陽は考えた。
 彼女が思考の海に沈む中、一般の将兵には信じられない報告が次々に飛び込む。

「世界各地のハイヴが吹き飛んでいるそうです!」
「カシュガルのオリジナルハイヴも消滅したとの報告が!」

 実質的にこのときをもって地球上での対BETA戦争は終った。だが悠陽は気を緩めることはなかった。彼女にとって
戦いはこれからだった。

「気を抜いてはなりません。ハイヴは消えても目の前のBETAは健在です」
「は!」

 米国は全ハイヴが消滅したことを確認すると支援に留めていたはずの部隊を正面に回した。さらに日本も彩峰中将の
部隊が参戦。日米連合軍は一気に攻勢に出た。加えて四国の部隊も後先考えない攻勢に出る。
 この急展開に慌てた本土防衛軍が部隊を回すころには、BETAは京都から追い散らされてしまう。 
 こうして京都決戦は日本の、いや人類の勝利で終った。だがそれは次の戦いの開始を告げるものでもあった。

681earth:2011/07/11(月) 23:49:32
あとがき
駆け足でしたが、本土決戦終了です。
次回以降、接触になる予定です。
管理局の出番は・・・もう少しお待ちください(爆)。

682earth:2011/07/14(木) 22:05:07
風邪でダウンしていましたが、何とか復活しました。
と言うわけで接触直前の帝国側の様子を描く第9話です。


 未来人の多元世界見聞録 第二部 第9話


「彩峰中将が健在で、四国が陥落しなくて、さらに京都防衛戦に米軍が参戦? どんなカオス世界ですか?
 むしろ何の二次創作?」

 シャングリラで開かれた会議の席で耕平は頭を抱えた。
 マブラヴ世界の『前の世界』からの、そして原作からの乖離は、それほどの衝撃を耕平に与えていたのだ。

「…まぁF−18やF−15とかの雄姿が見られたのはよかったけど」

 ぼそっと呟く耕平に参謀AIたちは心なしか冷たい視線を送る。
 参謀AIたちは如何にもプロの軍人と言った壮年男性の外見をしている。故にそんな彼らの冷たい視線(?)を
受けた耕平は乾いた笑みを浮かべるしかなかった。

(まぁさすがに美女美少女で回りを固めるつもりはないが、もう少し増やすか?)

 帝国軍の元になった黒旗軍のアンドロイドやAIは男性型がメインだった。最近になって女性タイプのものが
増えているが、それでも比率で言えば男が圧倒的に多い。耕平からすれば戦場に華は必要であっても、華で満たす
必要はなかった。

(いやいや、気分を切り換えなければ)

 耕平はわざとらしく咳をして気分を切り替える。 

「正直に言って、あの世界の調査が必要になると思う」

 あれが何故原作から乖離したのか、その原因が偶発的なものか、それとも何かしら別の要因があったのか。それを
見極める必要があると耕平は考えていた。そして参謀AIたちもそれに異論は唱えなかった。

「参謀本部としても賛同します。あの世界に何者かが干渉したのなら早急に調査し、正体を割り出す必要がある
 でしょう」

 この意見に耕平は頷く。だがすぐにそれに冷や水を浴びせる意見が参謀AIから出される。

「ですが最悪の場合は、あの世界からの撤退も考慮していただく必要があります。全面的な次元間戦争をするのは
 時期早々です」
「判っている。だが大規模な調査のためには頭数がいる」
「…予備兵力のパトロール艦を回しましょう。それと今後、巡洋艦改造の軽空母又は航空巡洋艦の建造を行うことを提案します」
「信濃や戦闘空母では不足と?」

683earth:2011/07/14(木) 22:05:46
 信濃級空母はアンドロメダ級の艦体を利用した飛行甲板を持つ大型空母だ。各種設備も充実し航空機運用能力はずば抜けている。 
 戦闘空母も前期生産型は航空戦艦伊勢のように後部を改造し艦載機を搭載できるようにしたものであるが、後期生産型は
飛行甲板を有しており、より多数の艦載機を搭載、運用できる。
 
「質ではなく、数の問題です。僅かであっても航空戦力の傘があるとないとでは大きな差となります」
「ふむ…今後、さらに手広くやるとなると必要か」
 
 まさかマブラヴ世界への介入が軍備にも影響するとは、と耕平は苦笑した。

「何はともあれ、取りあえず外交ルートの確立だな。長門中将の手腕に期待するとしよう。
 ああ、それと外交官も可能な限り急いで送らないと」
「帝都や各都市の建設は行っていますが、住み人間はまだいません。仮に早期に正式に国交を樹立し交流するように
 なると面倒なことになるのでは?」
「大使館を向こうに置くだけだ。連中をこの恒星系に、いやこの世界の銀河に招くつもりはさらさらないさ」

 公式上、銀河帝国帝都が置かれている主星のある恒星系は機密ということで秘匿することにしていた。
 
「せいぜい、前線に建設する要塞に招く程度だ。皇帝陛下と直接会談することもない。まぁ通信で会談することは 
 あるかも知れないが」

 この耕平の言葉に、参謀AIたちは取りあえずマブラヴ世界への対応に関しては納得して引き下がる。
 だが彼らの追撃は終わりではなかった。

「格下の地球が相手ならそれで良いかもしれませんが、出会う相手が格下ばかりとは言えません」 
「判っている。とりあえず300人の人間は作っている。アンドロイドも作れるだけ作る。多少は賑わうだろう」

 同時に帝国(笑)の実情を思い浮かべて耕平はため息を漏らす。
 
(領土は広いけど、よく考えると人類の感覚で言えば地方自治体が帝国を名乗っているみたいなものだよな……)

 少しと遠い目をする耕平。だがそんな状況でも参謀AIは容赦が無い。

「ですがイレギュラーを考えると不足なのでは?」
「仮に早期に交流を迫られる事態となると問題が起こります。帝国の構築計画を前倒しするべきかと」

 手痛い意見に耕平は思わず憮然とするが、自分にとって耳の痛い意見に怒っても意味が無いとして耕平は
気分を切り替える。

684earth:2011/07/14(木) 22:06:20
「アンドロイドや人間の『生産』を増やせと? だとしたら生産プラントの拡張が必要になるが…・・・」
「計画中の中規模兵器工廠の建設を断念すれば可能です。これによって領土拡張スピードが若干落ちますが
 挽回は可能な範囲であると参謀本部は判断します。詳細については後ほどレポートで提出します」 

 この言葉に少し逡巡した後、耕平は頷いた。だが同時に苦笑する。

(何か、昔の某作品を思い出すよ。あれも軍の将兵を工場で生産していたからな。まぁあれは女性ばかり
 生産していたから、その点は違うけど……気のせいだろうか、何か悪の帝国軍って感じがしてくるな。
 クローン兵士を増やすとなると、ボン太君よりもあの帝国軍の装備のほうがいいかも知れない)

 そこまで考えた時、耕平は頭を振って雑念を振りほどく。

「クローニングによる人間の量産、アンドロイドの大規模な量産体制の構築。これで1年以内に100万の人口を揃える。
 あと入力するソフトは単純な奴にしておく。感情豊かなのは構築するのが面倒だし。能力があれば当面は問題ない」
「了解しました」 
 
 こうして帝国の構築は前倒しされ、さらに当初考えられていたものより規模を拡張される。
 
「後はNPCの生産だが、こちらは当面先だな。さすがにそこまで労力は割けない」

 この意見に参謀AIは同意する。資源地帯の開発、そして帝国軍の拡張が最優先である以上、必要以上に資源を消費
する国民を作る理由はない。

「長門中将には、銀河帝国主星の総人口は100万と言うように命令しておこう。
 100万の人口で銀河の4分の1を支配できる高度な文明と考えてもらうほうが都合が良いし」
「詳しい歴史を聞かれたらいかがします?」
「その辺りはアドリブで任せるさ。まぁ第三次汎次元大戦は映像付きで教えてやれば良い。
 人口が少ないのも勝手に納得するだろうし」

685earth:2011/07/14(木) 22:06:52
 銀河帝国を名乗る勢力によって地上の全てのハイヴが掃討されたことが知られると、各国(日米除く)の指導部は
喜ぶよりも驚愕した。そして次に誰かの悪戯か、米国の陰謀ではないかとさえ考えた。
 だが帝国軍と思われる宇宙艦隊が地球周辺に遊弋していることが明らかになると、彼らは警戒態勢を取った。
 
「第二のBETAかも知れない」

 これまでBETAによって散々な目に合った人間達からすれば当然の反応であった。
 だがそんな中、日本とアメリカは国内の慎重意見を押し切って銀河帝国との接触を開始した。彼らはあらゆる手で
帝国艦隊にメッセージを送った。
 尤も前々から彼らが作っていた『伝言』を受け取った2人は呆気に取られることになる。
 
「…ラブレターかしら?」
「ある意味、恋文と言えなくともない」 

 日米両政府からは会談を要望するメッセージが多数寄せられていた。 
 警戒されているのではないかと考えていた長門と朝倉からすれば、この2国の反応は驚きであった。しかし素直に
喜ぶほど彼女達は純朴ではない。

「私たちが敵でないと判断しているのか、それとも罠か……」
「むしろ正体が判らないからこそ、積極的に接触を試みているとも考えられる」
「無知こそ罪と?」
「正体不明の艦隊がこのまま遊弋するよりはマシと考えたのかも知れない」 
「だとしても思い切りがいいわね。いや、この世界の動きからすればあり得なくはない?」

 朝倉は少し黙ると長門のほうを向いた。 

「このままじゃ埒があかないわ。代表団を招いて交渉、いえ顔見せといきましょう」
「彼らを招くと?」
「そう。連中が何か企んでいても、こちらのホームベースでなら対処は楽。それに銀河帝国が地球側に配慮している 
 ともアピールできるわ。いくら技術的に劣っているからと言って悪戯に怒らせて暴発させるわけにもいかないし」

 彼女達はマブラヴ世界の調査、そして情報の持ち帰りを命令されていた。故に必要以上に地球が騒乱状態になる
のは好ましくない。それを理解しているのか、長門は静かに頷く。

「判った。それでいく」

 かくして日米両政府に対して、宇宙で会談を行いたいとの通信を彼女達は送った。
 勿論、この返答を受けた日米両政府は承諾。彼らは再突入駆逐艦を使って会談場所として指定された月軌道、いや
月軌道に停泊している帝国軍艦隊に向かった。

686earth:2011/07/14(木) 22:09:20
あとがき
夏風邪で寝込んでいましたが何とか復活しました。
今も本調子ではないのですが(苦笑)。
というわけで次回、宇宙で会談です。
日米の担当者のSAN値がどうなることやら……。
それでは失礼します。

687earth:2011/07/15(金) 22:16:00
風邪がぶり返してきて少しグロッキー気味ですが何とかできました。
短めですが第10話です。


 未来人の多元世界見聞録 第二部 第10話

 銀河帝国軍地球派遣艦隊旗艦『アルテミス』。
アンドロメダ級の三女であるこの艦は排水量10万トンを誇る超大型戦艦であった。この原子力空母並みの大型艦が
宇宙に浮いている姿は、再突入駆逐艦の日米交渉団の団員に言い知れぬ威圧感を与えた。
 
「これが『アルテミス』……大きいですな。さらに速度も我々のものとは比べ物にならない。
 これだけの宇宙船を宇宙に浮かべるとは……」

 米国交渉団の人間達は、これほどの艦艇を宇宙の彼方から派遣してきた帝国の力に畏怖と警戒感を抱く。
 地球上のハイヴを一瞬で消滅させたその力、アルテミスやその周辺の宇宙船を見れば銀河帝国がどれほど強大な国家で
あるかが判る。

「しかし『アルテミス』という名前は本当なのでしょうか?」
「判らん」

 尤も会談場所として指定された艦の名前に首をかしげる者も多かった。一部では地球人に正確な情報を教えたくない
から偽名を言っているのではないかとさえ考える者もいるほどだ。
 だが判っていることは一つだけあった。

「攻撃しなくて正解だったな」
 
 交渉団長の男の台詞に誰もが頷いた。
 米国内部では、トラブルの種になりかねない新たな異星人を追い払ったほうが良いとの意見もあった。
 追い払うといっても退去を願うという穏健なものから、核ミサイルやG弾で攻撃して撃滅するという過激な案まで様々
であった。しかしレーザー種の迎撃をものともせず、BETAを一瞬で消滅させたことから、軍事力で対抗するのはまず
不可能との結論が下り、米国は交渉を求めることになったのだ。無論、影では前の世界の記憶を持つ者の後押しがあった
のは言うまでも無い。
 
(上は、新たな異星人と友好的な関係を構築したいと思っているようだが……難しそうだな。下手をすれば不平等条約の
 締結、いや占領、併合さえあり得る。全ては彼らの匙加減次第か)

 超大国として世界に君臨していたアメリカが、力自慢の田舎者、いや原始人に過ぎなかったことを思い知らされた交渉団で
あったが、ここで凹む彼らではない。この場においても国益を手にするべく頭をフル回転させる。

「何はともあれ、彼らが何を欲して地球に来ているのかを探ろう。
 取りあえずこれまでの彼らの行動から、人類の殲滅などと言う目的ではなさそうだからな」

 しかし米国以上に気合が入っているのが日本側だった。交渉団には、何と将軍の代行として御剣冥夜がいたのだ。

688earth:2011/07/15(金) 22:16:32
 京都決戦後、事実上復権を果たした悠陽によって彼女は表舞台にでることを許されていた。そしてその初の大任として
この銀河帝国との交渉に加わることになった。少なくない人間が妹に華を持たせたいためではないかと穿った見方をしたが
それは大間違いだった。

(前の世界での彼らの振る舞いから、我々を滅ぼそうとするつもりはないのは判る。
 ならば、彼らが何を目的として地球に来たか、これを探るのが我らの仕事になるだろう……) 
 
 彼女自身も前の世界の記憶もちであった。よって初めて帝国軍艦艇を見る人間よりは気圧される恐れが無いこと、さらに
身分も高いために交渉団の人間に選ばれたのだ。若さからの未熟を指摘する者もいたが、前の記憶を継承していることで 
それもある程度はカバーできている。
 だがそれ以上に驚くのは、香月夕呼、そして社霞がいたことだろう。
 AL4という国連の計画の中枢を担う存在でありながら、交渉団に彼女が選ばれたときには多くの人間が驚愕した。魔女が
また何か裏技を使ったとの噂が駆け巡ったほどだ。
 尤もそんなことなと露も気にかけない夕呼は、霞という切り札と共に交渉団に平然と加わり、今後のことを考えていた。

(彼らが第二のBETAかどうか見極めないと)

 夕呼からすれば信じられないほどの航行速度を持つ宇宙船を多数建造したり、BETAを一蹴できる超技術を持つ帝国が
何も野心がないとは思えなかった。
 国家である以上、国益を求めてわざわざ太陽系に来たことになる。無償で他国に奉仕する国家などあるはずが無いのだ。

(もしも何かが欲しいのなら、実力で手に入れていることができる。それなのにわざわざBETAを先に掃討した後 
 交渉に応じるということは実力行使ができない理由があるということ。
 軍事的なものか、政治的なものか、はたまた宗教的な理由か。うまく突き止めることができれば何らかのカードになる
 かもしれない)

 そう考えた後、夕呼はドレスのような軍服を着た霞に顔を向ける。

「私が言うまで何もしなくていいわ。ただし相手が何かしてきたら言って」
「はい」 

 彼女が霞を同行させたのは意外なことに相手の思考を読むためではなく相手のリーディングを警戒してのことだ。 

(さて連中はどんな手を打ってくることやら……)

 さすがの夕呼も緊張せずにはいられない。勿論、緊張しているのは彼女だけではなく、交渉団全員に当てはまる。
 しかしそんな彼らは予期せぬ歓迎を受けることになる。

689earth:2011/07/15(金) 22:17:06
 再突入駆逐艦からアルテミスに乗り込んだ交渉団を格納庫で出迎えたのは、多数のボン太君だった。
 
「……着ぐるみ?」

 誰もが唖然とする中、敬礼の号令と共に儀仗隊らしき多数のボン太君が捧げ銃の敬礼を行い、歓迎のためにボン太君が
楽器を演奏する。
遊園地なら子供が喜ぶかもしれない光景であったが、異星人との交渉で乗り込んできた交渉団からすると理解不能な光景
であった。
 だが呆然となったのも極僅かな時間であり、彼らはすぐに我に戻る。だがそんな彼らにさらなる追い討ちが襲う。
 
「始めまして、地球の皆様」

 誰もが声が聞こえた方向を見る。だがそこには、さらに信じがたい光景があった。 

「「「……」」」

 そこにいたのは、軍服を着たロングの髪を持つ日系の少女だった。  
 想像の斜め上をいく光景に、さすがの夕呼も少し硬直する。何しろBETAのような醜悪な侵略者のあとにきたのは
宇宙船に乗ったファンシーな着ぐるみと少女(それも美少女と言えるレベル)なのだ。
 これで驚かないほうがおかしい。だが彼らはすぐに現実に戻る。伊達に修羅場は積んでいない。日米交渉団の団長は
自身の名前を告げる。
 だが彼らの動きを見て朝倉は精神的な不意打ちに成功したことに満足した。  

(さて、次は……)

 しかしその彼女も不意を突かれる。交渉団の中に、トンでもないVIPがいたからだ。

(御剣冥夜に、香月夕呼、それに社霞? 何とまぁ豪華な……)

 勿論、不意を打たれたのは彼女だけではなかった。この様子をモニターしていた耕平は朝倉や長門よりも大きな
衝撃を受けた。

「……いきなり魔女と遭遇ですか」

 いきなりあのやり手と交渉かよ、とぼやく耕平であったが、すぐに開き直る。

「まぁ良い。多少失敗しても、この世界の人類なら脅威じゃない。良い経験にはなるさ」

 かくして日米交渉団からすれば国家の、いや人類の命運を掛けた交渉が、帝国からすればチュートリアルとしての
交渉の幕が上がる。

690earth:2011/07/15(金) 22:21:28
あとがき
夏風邪はきついですね。喉が痛いし咳も酷い。早く直さないと。
もうそろそろ憂鬱も進めないといけないか……。
次回、交渉に入ります。長門&朝倉VS夕呼になる…かも(爆)。
それでは失礼します。

691earth:2011/07/16(土) 22:16:25
というわけで交渉というか顔見せに近い第11話です。

 未来人の多元世界見聞録 第二部 第11話


 朝倉は自身の内心を悟らせないようにポーカーフェースで、微笑みを浮かべながら自己紹介する。

「申し遅れました。私、銀河帝国軍地球派遣艦隊参謀長を務める朝倉涼子少将です。宜しくお願いします」

 この言葉に交渉団全員が驚愕する。 

(参謀長? 艦隊の参謀長が彼女?!)
(朝倉涼子? 日本人?)
(しかも見た目はどうみてもハイスクールの学生だぞ。それが少将?)
(我々を欺くための擬態か?)

 色々な憶測が飛ぶ。何しろ出向けたのが着ぐるみと女子高生位の年齢の艦隊参謀長(自称)となると
混乱しないほうがおかしい。
 しかしいつまでも混乱してはいられないので、彼らは朝倉に案内されて大会議室に向かった。
だがそんな中でも彼らはアルテミスの中を観察するのを怠らない。

(通路が広いな。仮に戦闘になっても戦闘員が余裕を持って動ける)
(それに重力もある。1Gの重力を発生させるとは)
(我々で同じ真似をしようとすれば、この艦よりも遥かに大型になるな。移民船が良い例だ)
(しかし行き来するのが着ぐるみとロボットだけだ。人間はいないのか?)

 交渉団の中でも、科学者である夕呼の驚きはさらに大きかった。帝国軍がいかに技術面で優れているかが
よく判るからだ。だが同時に帝国軍への分析も人より進めていた。

(あのロボット達は何らかの連携をしていた。それも遠隔操作ではない。ある程度の判断が可能な人工知能
 が積んであるってことか。帝国とやらは高度な機械化で軍の省人化を進めているのかも知れないわね。
 だとするとこの艦隊も、乗り込んでいる人間は思ったよりも少ないかも知れない)

 当たらずとも遠からずのことを考える夕呼。もしも彼女の思考を除けたら耕平は魔女の頭脳に畏怖すると
同時に賞賛することは間違いない。
 そんな風に彼女が考えていると、交渉団はついに交渉の場となる会議室の前に着いた。

「艦隊司令官がお待ちです」

 この言葉に襟を正す交渉団。しかしあけられた扉の向こうにいる人物を見て再び硬直した。

692earth:2011/07/16(土) 22:17:00
 どうみても小柄な日本人(日系)の少女が座っていたのだ。
 周辺には大人もいたが、回りの態度からして彼女が一番階級が高いことがわかる。

(((我々は銀河帝国を名乗る国家と交渉に来たはずなのだが……)))

 しかし頭を抱えるわけにもいかない。彼らは長門の正面側に用意された席につく。
 そして交渉団が人数分用意された席に全員が座ると武器を使わない戦い(帝国側からすれば練習でしかないが)が始まる。

「……初めまして。私は銀河帝国軍地球派遣艦隊司令官を務める長門有希。階級は中将。
 皇帝陛下から艦隊の指揮に加え、地球各国との交渉を行う権限も与えられている」

 事実を知る者からすれば失笑物の台詞だったが、事実を知らない地球側は真剣に受け取っていた。 
 そんな中、夕呼が手を挙げる。

「質問を宜しいでしょうか?」
「どうぞ」
「銀河帝国と名乗られましたが、貴方達はどこから来られたのですか?」

 色々と突っ込みたいことはいくらでもあった。だが相手の正体を知らないのでは話にならない。
 夕呼は相手が銀河帝国と名乗る以上、この銀河のどこかにある星間国家ではないかと考えていた。
だが帰ってきた答えは彼女の想像を超えたものだった。

「銀河帝国『レムレス王朝』の主星がある銀河は、この世界ではなく、別の世界にある」

 前の世界を知らない人間は混乱したが、夕呼を含め一部の人間は長門が何を言おうとしているのか理解した。 

「つまり銀河帝国はこの世界の銀河ではなく、別の世界、つまり並行世界の銀河系にある国家であると言うことですか?」

 この言葉に長門は頷く。

「そのとおり」

 取りあえず並行世界の国家であることを確認した夕呼は、さらなる情報を得るべく質問を続ける。

「銀河帝国というのはどのような国家なのでしょうか?」
「現在、主星がある銀河の3割近くを支配する星間国家。今は他の銀河や他の世界への進出も進めている」

693earth:2011/07/16(土) 22:17:43
 この言葉に交渉団たちの多くは危うく卒倒しそうになった。
 相手が嘘を言っていなかったとしたら、銀河帝国とは文字通り『銀河を支配する帝国』を自称しても何の問題もないのだ。
 銀河の3分の1を押さえ、銀河間どころか、他世界へさえ移動できる科学力を持った化物国家。自分達が逆立ちしても
敵う相手ではない。

「この艦の名前の『アルテミス』、それに貴方達の氏名を見る限り、地球の文化に近いものを感じられるのですが」
「帝国の建国には地球人類が関わっていた。その名残」

 この言葉に誰もが驚愕する。何しろ銀河帝国の建国に並行世界の地球人類が関わっていたと言うのだから
驚かないほうがおかしい。尤も真の事情を知る長門や朝倉は内心で苦笑していたが。

(嘘は言っていないわ。嘘は、ね)

 内心でそう呟くと朝倉はセンサーを使って日米の交渉団の血圧や筋肉の動きの変化からを見る。
そして交渉相手が少し安堵したと判断した。

(ESPを使えばもっと楽なんだけど……それじゃあ練習にならないし)

 朝倉たちはESPを使って相手の脳裏を覗く真似はしていなかった。
 勿論、向こうがしてきたら対抗措置はとるが、それまでは極力ESPは使わないようにしていたのだ。 

「……しかし何故、銀河帝国が太陽系に来られたのですか?」

 米国交渉団の質問に長門は淡々と答える。

「我々は太陽系外で貴方達がBETAと呼ぶ存在と遭遇した。帝国政府はBETAの詳細な調査を開始すること
 そして敵対勢力として掃討することを決定した。そしてBETAの調査を続けた結果、太陽系にたどり着いた。
 その際、先行させた偵察部隊の報告で地球人類が危機的状態になっていることを知った帝国政府は介入を決定した」
「人類を助けるために太陽系に艦隊を送った。そういうことですか?」
「肯定する。我が艦隊は月と火星のBETAも掃討する予定」    

 人類を助けるためにBETAを掃討するとの言葉は、一般人が聞けば喜ぶものであったが、交渉団の人間からすれば
一概に喜べるものではない。何しろ彼らは未だに本音を語っていないのだ。さらに言えば彼らは事前の通告はしたが
人類の同意を得ることなく地球への爆撃を行っている。簡単には信用できなかった。

694earth:2011/07/16(土) 22:18:14
「政威大将軍の代行として銀河帝国のご好意にお礼を申し上げます。
 しかし折角のご好意ですが、今の人類は帝国に御礼をするような余裕はありません」

 残念そうに言う冥夜。勿論、それは素振りだけだ。彼女はそういうことで向こうがどうでるかを伺っていた。
しかし長門は判っているとばかりに頷く。

「今の人類の状況は承知している」
(大人しそうな顔で中々に狸ね……)

 耕平からすれば「お前が言うか」と突っ込みが入ることが確実なことを考える夕呼。
 だがそんな内心を正確に知ることなく、長門は話を続ける。 

「詳細については大使着任後に再び話になる」
「大使ですか?」
「そう。双方のコミュニケーション不足や相互理解の不足で衝突が起こるのは好ましくない。話し合いの席を
 設けるために地球に大使を赴任させることを政府は考えている」

 銀河帝国と地球人類の実力差を考えれば、それは命令に近い。
 しかし交渉も出来ない状況に追いやられるよりはマシだった。何しろBETAとは対話すら不可能だったのだから。
 
(国家の規模や技術力からすれば、容易に第二のBETAとなり得る。でもうまく利用できればBETAの脅威を宇宙から
 払拭できるし、人類の飛躍的発展も可能になる)

 夕呼はこの新たな国家とどう接するかで人類の命運が分かれることを理解した。だが理解できないこともあった。
 
(それにしても、あんなふざけたもの(ボン太君)を作るなんて、並行世界の人類は何を考えているのかしらね?
 それとも何か大きな出来事でも起こって思考が変わったとでも?)

 交渉団は日米両国の状況について説明した後、本国に帰って政府と相談したいと願い出た。勿論、それを長門達は了承した。

(取りあえず反応は悪くない。今回はこれでよしとする)
(そうね。あと爬虫類の件もあるし、私たちが人間でないことはまだ話さないほうが良いわね)

 こうして銀河帝国と地球人類の顔見せは終わり、交渉は次の段階に入る。

695earth:2011/07/16(土) 22:20:13
あとがき
顔見せ終了です。
次回、地球側の動きになります。
銀河帝国『レムレス王朝』とどう付き合うかで各国は頭を抱えるでしょう。
特に共産国家は……。
それでは失礼します。

696earth:2011/07/17(日) 23:08:10
顔見せ後の日米の様子を書く第12話です。


 未来人の多元世界見聞録 第二部 第12話

 『アルテミス』から戻った交渉団の報告を受けた日米両政府は、銀河帝国の強大さに驚愕すると同時に
友好関係を如何に築くかで頭を捻った。
 向こうがハッタリを言っているのではないかと言う者もいたが、長門艦隊はそんな彼らを嘲笑うかの
ように宇宙を我が物顔に動き回った。
 さらに火星方面から来襲したと思われる降下ユニットを、偵察衛星や再突入駆逐艦が見る前で粉砕する
ことで宇宙艦隊が恐るべき力を持っていることを示した。
 だが同時に通信で日米と連絡は取り合うなど一定の配慮は見せていた。 

「彼らの言うとおり国交を開くしかないだろう」

 米国大統領はそう決断を下した。
 
「あれほどの軍事力を持った国の要求は無視できない。何より、他の国に遅れは取れない」

 大統領の決断に誰も反対しなかった。軍人達は軍人であるが故に、帝国軍との戦力差を認識していたし
閣僚達もあれほどの超技術の持つ主達と喧嘩するという意見は言えなかった。

「帝国軍と戦った場合、我が国の宇宙軍は対抗できません。G弾を使っても帝国軍が
 本格的に反撃すれば全ては終わりです」 
「むしろかの帝国と如何に友好関係を築くか、これが重要でしょう」
「そのためにはさらに接触する機会を増やし、相手のメンタルや内情を探るのが必要です」
「左様。本格的交渉は大使が来てからと言われたが、それでは他の国にチャンスを与えるようなもの。
 今のうちに我が国が世界の、いや地球の中心であり、地球の代表と見做してもらわなければ」

 米国大統領は閣僚達や軍人達の意見に頷く。

「幸い、銀河帝国建国には異世界の人類が関わっていたという。ならばそのメンタルが理解不能という
 ことはないだろう。しかし艦隊司令官や参謀がハイスクールの学生にしか見えないとは……」
「あれだけの超技術の持ち主達です。外見を自由自在に変えられてもおかしくありません」
「だとすると、実際には我々よりも年上だったという笑えないこともあると?」
「はい」

 本人達(特に朝倉)が聞けば憤慨しそうなことを言い合う男達。しかし女性の年齢についての話題を
避けられるほど彼らに余裕は無い。

「何はともあれ、さらに接触を続けろ。失礼がないようにな。それと日本、ソ連、それに統一中華の動き
 にも気を配れ」

697earth:2011/07/17(日) 23:08:46
 米国が銀河帝国への接近を目論んでいる頃、日本帝国政府は方針を決めかねていた。

「レムレス朝銀河帝国。この帝国と敵対することになれば我が国だけでなく、人類そのものが滅亡する
 ことになるでしょう。何としても友好関係を構築するしかありません」

 夕呼の意見に閣僚達は顔を顰めた。

「しかし相手は些か人類の主権を軽視しているのではないかね?」
「銀河の3分の1を押さえる星間国家ゆえに、我々のことを蛮族として軽く見ている証拠では?」
「確かに爆撃は助かったが、もしも帝国国内にハイヴがあったら周辺地域への被害は途方も無いことになっていた」

 この言葉に夕呼、そして冥夜など交渉に参加した人間は呆れた。 

(彼我の実力差からすれば地球人類は未開の蛮族。向こうの態度は、紳士的なほうよ)

 夕呼は侮蔑の感情を悟られないようにポーカーフェースを心が得て話を続ける。

「BETAやハイヴを掃討したのは、彼らの武力を誇示するのが目的だった可能性が高いかと」
「示威行為ということか」
「はい。彼らは大使館を設置し、本格的に交流を持ちたいと言っています。
 その際、武力を背景にして有利にことを進めたいと考えているのでしょう」

 閣僚達はどうするかと頭を突きつけあう。そんな中、榊が口を開く。

「つまり彼らは武力を背景にした外交交渉を仕掛けていると?」
「はい。彼らが何を欲しいのかは判りません。ですが何かを欲してきているのは間違いないでしょう。
 その気になれば武力で奪えるにも関わらず」
「何か理由があって武力を行使できないということか……だが向こうの逆鱗に触れれば話は違ってくる。
 その辺りを見極める必要がある。だがそのためには極力、彼らと接触して彼らのメンタルを理解する
 必要があるな」

 榊の意見を聞いて外務大臣が尋ねる。

「大使館を誘致すると?」
「出来れば、だ。しかしそうなると米国との誘致合戦になるだろう。AL計画を巡る競争よりも
 厳しくなる」

698earth:2011/07/17(日) 23:09:18
 巨大星間国家との交渉の窓口になる。
 それは大きな利益を日本帝国に与えるだろう。だが失敗すれば人類を危険に晒すことになる。

「アメリカはこの地球の盟主とも言える存在だ。彼らならある程度の無茶な要求に答えられるだろう。
 だが我が国では、もしも何かを求められたとき、迅速に対応できない場合も考えられる」
「ですが艦隊司令官は日系人です。何とか」
「情で何とかできる相手ではないだろう。それに本格的に着任する大使が親日とも限らない」
「「「………」」」
 
 沈黙する閣僚達。
 そんな中、悠陽が尋ねた。
  
「それでは銀河帝国の大使館誘致を諦める、と?」
「殿下、『急いてはことを仕損じる』とも言います。この際、米国に華を持たせることも必要でしょう」
「米国を地球の代表と認めるのですか!?」

 陸軍や本土防衛軍の人間が特に反発する。京都防衛戦で米軍の陰に隠れてしまった彼らは米軍を敵視する
機運が高まっていた。勿論、将軍派はこれを抑えようとしているものの、本土防衛軍は頑なだった。

「では帝国が地球代表を名乗ったとして、他の国が納得するかね?
 我が国は国土の半分が焦土なのだぞ。そんな状態で地球の代表として責任が果たせると?」
「それは……」
「アメリカを地球代表として矢面に立ってもらう。勿論、こちらがあっさり引き下がる代償も引き出す。
 米国も『統一中華』や『ソ連』に情報が流れるのは面白くないだろう」  

 前の世界を知る者たちは、中ソの名前を聞いて内心で嫌悪感を覚える。だがこの場合は止むを得なかった。

「……その方針でいきましょう」

 政威大将軍が賛同したことで日本帝国の方針は決した。
 かくして日本は米国を地球代表に推すことになる。

699earth:2011/07/17(日) 23:10:57
あとがき
というわけで日本政府、あっさり米国を地球代表に推します。
勿論、引き換えに色々な譲歩を引き出すでしょう。
憂鬱第50話は完成率約30%。早ければ今月中。遅くとも8月には
掲載したいと思っています。

700earth:2011/07/30(土) 12:09:42
久しぶりの更新です。でも短めですが。


 未来人の多元世界見聞録 第二部 第13話

 日本帝国とアメリカの反応が想定していたよりも良好であったことは、耕平にとって驚きであると同時に
喜ばしいことでもあった。耕平は自室の机で、今後の展開が少しは希望が持てると思って久しぶりに明るい
顔をした。
 
「爬虫類の二の舞になったらどうするかと少し心配していたけど、うまくいって何よりだ。次は国交の樹立だ。
 まぁ正直に言えば、色々な国と交流を持ちたいが手持ちの外交向けのユニットが少ないのがネックか」 

 銀河帝国の母体は黒旗軍であった。そして黒旗軍に外交官など存在していなかった。

「とりあえずは少数の軍人、そして外交官に経験を積ませて、それをフィードバックしよう。
 まぁ何事も勉強は基礎から、コツコツとやるに限る。下手に欲張ると基礎が疎かになるからな」

 基礎がなっていない状態で応用をやっても大失敗するだけだ。
 今後について色々と考えた後、耕平は目を瞑って呟く。
 
「さて、あとは国交樹立後に大使を送って本格的な交流か。ふむ。そこまでは彼女達に任せても問題ないか。
 それにしても、原作からの逸脱か。予期せぬイレギュラーも起こりえる……これが判っただけでもマブラヴ世界に
 干渉した価値があった」

 わざわざ参謀を押し切っただけの価値はあったと耕平は満足する。

「とりあえずマブラブ世界は調査を重視しよう。外交の練習も必要だが調査も必要だし。
 あとイレギュラーに対応するためにも銀河全土を併合を急ごう。その後に兵器の質を向上させる。
 F−01だと早晩、役不足になる可能性がある。だとするとやはりRシリーズか? しかし必要な資源も多いからな……」
   
 Rやそれ以上の超兵器の本格的量産となると必要になる資源(特に希少資源)もかなりの量になる。
 元素変換装置で揃えられないこともないが、希少金属への変換となると引き換えに必要となる資源の量も多くなるのだ。

「禁止兵器を、いや大量破壊兵器を量産し、それをステルス艦やステルス機で撃ちこんで、目標の世界を完全に破壊する
 戦略も必要か? いや相手に反撃能力があったら面倒なことにもなるし、こちらに影響がでるかもしれない。
 ……このオプションは相手を限定する必要があるか」

 前の世界で世界ごと滅んだ管理局の人間が聞けば卒倒しかねない非常に物騒なことを考える耕平だった。

701earth:2011/07/30(土) 12:10:14
 耕平の指示を受け長門と朝倉は、国交樹立の準備とマブラヴ世界の調査の準備を進めた。
 特に前回とは乖離が著しい要調査対象である日米への人員(?)の派遣が2人の間では重視された。

「あの2カ国は原作、いや前の世界とは異なっている。入念な調査が必要」

 長門の言葉に朝倉は即座に頷く。

「そうね。前の世界のグダグダ振りからすれば考えられない位団結しているし、合理的に考えている。何かあったと
 考えたほうが自然ね」

 前の世界のことを知るがゆえに、彼女達はこの世界を調べれば調べるほど日米の不自然さを感じるようになっていた。 
 
(朝鮮半島から日本本土防衛戦に至るまで、日本帝国は未来を知っていたかのように消耗をできるだけ抑えている。
 それに私たちが京都防衛戦で介入すると知らなければ、米軍が無駄な消耗になるであろう戦いに戦力を投入する筈が無い。
 何かあると考えて行動したほうがいいわね。ひょっとしたら未来予知のエスパーでもいるのかしら?)  
 
 朝倉は、日米によって自分達の行動が読まれていたのではないかとさえ疑いを持った。
 勿論、考えすぎなのだが……第三計画というものがある以上、現状で否定することは彼女にはできなかった。

「国交を結んだ際も日米を重視するべき。ただし力関係から米国を第一、日本を第二とするのが妥当」
「そうね。あと問題は彼らが、こちらの高圧的な要求を聞くかってことね。飴と鞭の要領でうまくやらないと」
「いきなり高圧的過ぎると反発される。しかし引くと舐められる」
「難しいわね」

 ジレンマだった。何しろ爬虫類生命体という前例があるため、下手には引けない。しかしあまり高圧的な態度も
取りにくかった。何せマブラヴ世界の異変を受け帝国はその外交方針を転換し、宥和政策をとることになっていたのだ。

「とりあえず月攻略戦を行い武力を誇示する人類が見ている中で、ハイヴを一瞬で掃討すれば我々を露骨に敵視する政策は
 取りにくくなる」
「そうね」

 かくして月のBETAも滅亡が宣告されることになる。

702earth:2011/07/30(土) 12:10:52
 長門達が次の手を考えているのと同様にマブラヴ人類もまた次の手を考えていた。
 日米はテーブルの上で握手し、下では壮絶な足の蹴り合いもとい、駆け引きをしつつレムレス朝銀河帝国との国交樹立を進めた。
 何しろ相手はBETAを一蹴できる存在。下手に喧嘩を売っても自殺行為になるだけだというのが両国首脳には判っていた。
 だが国内には異星人(自称:異世界人)を信用することはできないと考える人間も少なくなかった。何しろBETAという前例が
ある以上、宇宙から来る勢力に警戒を抱くのは不自然なことではなかった。

「現状で銀河帝国に敵対するのは自殺行為。無視したとしても彼らは地球以外の太陽系の惑星を制圧するだろう。
 そうなれば人類は地球に閉じ込められる」
「彼らを第二のBETAにしないためにも相互理解を進めるべき」

 日米両政府はそう言って国内の反対派を説得しに掛かった。 
 加えて日米両政府は地球周辺に遊弋する銀河帝国軍艦隊との通信手段を持っており、反対派の代表や有力者も通信で長門達と
対面し直接話をする機会が与えられた。これによって多少異質ながらも、BETAと違って話し合いは出来るという印象を彼らは
持つようになった。 
 
「少なくともこれまでの行動や言動から人類抹殺という考えは無いようだ。それならまだ話し合う余地があるだろう」

 反対派の一人であった米連邦議員はそう呟き、消極的ながらも賛同に回るなど、反対派は次第に縮小することになる。
 政府や議会の反対派縮小、それにマスコミへの工作もあり、日米の世論は異世界の人類とは友好関係を築いておくほうが良いとの
意見が主流を占めるようになる。特に日本国内では一部を除いて京都防衛戦で自分達を助けてくれた恩人を無碍に扱うのはどうかと
いう意見が強かった。
 それでも尚、不信感を抱いたり反対する者もいたが、自分達の頭上を遊弋する宇宙艦隊を無視することはできなかったし、予告どおり
帝国軍艦隊が月のハイヴを一瞬で掃討したことが明らかになると誰もが沈黙した。

「連中の爆弾の威力は核やG弾なんて目じゃないぞ」
「いや、そもそもどうやって一瞬であれだけの数のミサイルを移動させたのだ?」
「空間跳躍技術という奴だろう。並行世界を渡る技術があるなら持っていても不思議じゃない」

 圧倒的、そして模倣すら適わない超技術を前に誰もが抵抗は無意味であると改めて悟ったのだ。
 こうして日米両国では銀河帝国との国交樹立に向けた動きを妨げるものはなくなった。だが2カ国の外ではそうではなかった。

「日米両国が勝手に進めてよいものではない! ことは人類全てにかかわることなのだ!」

 ソ連、EU、そして統一中華の一部(中国共産党)などの国々はそう主張しはじめた。 
 特に米国に銀河帝国の大使館を設置し、そこを交渉の窓口とする準備が銀河帝国との合意の下で進められているとの話がもれると
その口調は一段と激しくなった。
 かくして人類同士の綱引きが始まる。

703earth:2011/07/30(土) 12:12:21
あとがき
マブラヴ人類お得意(笑)の綱引きの始まりです。
管理局の出番はもう少し後になりそうです。
それでは。

704earth:2011/07/31(日) 13:00:46
少し短めですが第14話です。


 未来人の多元世界見聞録 第二部 第14話

 1998年9月。国連総会は荒れに荒れていた。
 レムレス朝銀河帝国。異世界から来た地球人類が建国に関わった(とされる)星間国家との関係をどう構築するかで各国の
意見は割れていたのだ。

「銀河帝国との交渉は、国連の下に専門の機関を設置して進めるべきだ。一部の国が独占してよいものではない!」

ソ連の国連大使の言葉に、少なくない数の国の大使が賛同する。 
 ソ連やEUは各国(主に国連安保理理事国)の代表から構成される専門機関を国連の下に設置し、そこで銀河帝国との交渉を
行う事を主張した。彼らからすれば米国によって交渉が牛耳られるのは御免だったし、さらに米国の失敗=世界の破滅という
図式は彼らを恐怖させた。 

「アメリカの失敗に巻き込まれて破滅するのは避けなければならない」

 フランスの高官がそう嘯いたと言われているほど、各国の危機感は強かった。
 一方の日米からすれば下手に国際機関を設置しても、他国からの横槍が激しくなるだけでメリットがなかった。

「そもそも、銀河帝国との交渉ができるようになったのは、日米の交渉団の命がけの行動があってのことだ!」

 日米両国からすれば、帝国を警戒するだけで何のアクションも起こさず、交渉が可能な段階になってから割り込もうとする
他の国は図々しい以外の何物でもなかった。
 尤も日本国内では米国に銀河帝国の大使館を設置するのを認めた現政権への批判が行われていた。特に本土防衛軍や他の摂家は
現政権を叩くために国粋主義者を煽りたてた。
 
「帝国も交渉団に参加していたのだから、帝国本土にも大使館を置いてもらうように交渉するべきだ!」
「米国に交渉の窓口を独占させるのは国益に反する!」 
 
 これに対して榊政権は本土復興のためには米国との関係が欠かせないこと、現状の日本では銀河帝国との交渉の窓口になっても
地球各国を纏めるのは難しいことを理由に挙げた。

「帝国との交渉の窓口になるということは、地球各国を纏める必要がある。国土の半分が焦土と化している我が国ではそれは
 不可能。それに交渉の主導権をかけて米国と争えば銀河帝国との交渉が停滞し、結果的に不利益になる」

 理路整然と反論する榊政権に対して、軍部はソ連やEUと協調して国連の下で新機関を設置し、交渉に当たるべきと主張を
開始した。さらに一部の政治家がこれに同調することで日本国内の世論は再び混乱することになる。

705earth:2011/07/31(日) 13:01:18
 相変わらずのグダグダ振りを発揮するマブラヴ世界の報告を聞いた耕平は落胆すると同時に、安堵もした。

「ああ、この辺りは何も変わっていないな」

 要塞シャングリラの円卓会議で耕平は肩をすくめる動作をして苦笑した。
 尤も参謀AIは何の感慨も抱かなかった。むしろグダグダして状況が進まない事態を如何に打開するかが問題と捉えていた。

「あまり状況が進まないと『皇帝陛下』も心配されるのでは?」
「判っている」

 やれやれとため息をつきながら耕平は次の手を考える。

「交渉の窓口はある程度開いておこう。ただし大使館を置くのは米国のみ。2国間交渉を行うのは日米のみとする。
 他の交渉、地球人類全てに関わる交渉については国連の新機関を通じて行うものとする。これを通達する」
「それで宜しいのですか?」
「それでいくしかないだろう。外交官向きのユニットは手持ちが少ないんだし。新機関を作らせても米国が主導権を
 握れば問題ない。米国が主導権を握ることを期待していることを匂わせておけば、米国も奮起するだろう」

 米国にある程度の主導権を持たせていないとグダグダになるのが目に見えている。原作ではやたらと黒幕的存在であり
悪役ポジションであった米国であったが、そんな国がないと纏まりが無いのも事実だった。

「日本も、アメリカほどではないが銀河帝国から重視されていると考えれば自尊心も満たされるだろう」
「ですが譲歩が過ぎるのでは?」
「人類の歴史や情勢に理解があるとすれば良いさ。ただし、こちらの譲歩はそれまでとも言ってやる。それと『地球人類は
 帝国との友好関係を望んでいないのか?』とも聞いてやれ」
「了解しました」 
 
 銀河帝国からの通達に対して米国や日本は戦慄した。こちらのグダグダ振りを見て、帝国政府が苛立っているのではないか
と判断したからだ。
 だが帝国政府の配慮は日本にとっては有難かった。大使館こそ招けなかったが、2国間交渉をしてくれるという銀河帝国の通達は
国内の国粋主義者を満足させるには十分だった。

706earth:2011/07/31(日) 13:01:52
 最終的に日米は各国に配慮する形で国連の下で新機関の創設に同意した。
 ソ連やEUは相変わらず銀河帝国に重視されているように見える日米に対して不満を持ったが、これ以上の譲歩は引き出せ
ないと判断して引き下がった。

「新機関で何とか主導権を握る必要があるだろう」
「第三計画で作ったのを日米に対するスパイ活動に使って情報を集めよう」
「勿論だ。あとは帝国から必要以上に不興を買わないように、どのような手を打つかだ」

 ソ連首脳部は銀河帝国に共産主義国家である自分達が必要以上に敵視されないように手を打つ必要があると考えていた。
何しろ皇帝を頂点にした帝政国家と共産主義国家というのは水と油だ。もしも向こうが共産主義国家である自分達を露骨に敵視
すればあっという間に潰されかねない。

「露骨な革命輸出は控える必要がある。それに最悪の場合は、ある程度の開放政策が必要になるかも知れん」
「しかし下手な開放政策は共産党支配を崩壊させかねない」
「拘った挙句に、ハイヴと同じ運命を辿るのは御免だ。彼らを本気で敵に回せば我々は逃亡することさえできずに、一瞬で塵になるぞ」

 共産党幹部達は雁首をそろえて対応に苦慮した。

「今は新機関を通じて、銀河帝国のメンタルや情報の収集に全力を尽くそう。そして彼らが共産主義を、我々を敵視するようなら
 表向きでもよいから政策を変更する必要もあるだろう」
「それに銀河帝国以外にも星間国家がある可能性もある。友好関係を築き、彼らの懐に入り込めればそういった国々に接触できる」
「問題はそういった星間国家が帝国並みにこちらに配慮するか、だな。それに我々のために帝国を敵に回すかどうかも問題だ」
「今言っても仕方なかろう」

 こうしてソ連は動き出した。
 そして日本、米国、ソ連、EU、オーストラリア、統一中華などの有力国から構成される新機関が樹立され、地球人類と銀河帝国
との交流が始まることになる。

707earth:2011/07/31(日) 13:03:20
あとがき
いよいよ交流開始です。長かった。
もうそろそろ管理局も少し出すことを考えています。
それでは失礼します。

708earth:2011/08/01(月) 21:33:19
相変わらず短いですが第15話です。


 未来人の多元世界見聞録 第二部 第15話

 異星人との外交関係を取り扱う国連の新機関『外務委員会』の創設が発表されるのを見て、銀河帝国は国交樹立に向けて
動き出した。国交樹立に関する交渉を行うため長門艦隊旗艦のアルテミスが、護衛の小型無人艦3隻と共にアメリカ合衆国東部、
ニューヨークの沖合いに降下した。

「あれが銀河帝国軍の戦艦か」

 出迎えた米大西洋艦隊司令長官は戦術機母艦ドワイト・D・アイゼンハワーの艦橋でアルテミスを見て、技術力の格差を肌で
感じ取った。
 幕僚達も同様に技術格差を感じたが、同時に無遠慮に大型軍艦で乗り込んでくる銀河帝国に警戒感や不信感を感じていた。
 
「しかし長官。あれほどの大型艦で乗り込んでくるのは些か度が過ぎているのでは? これでは」
「砲艦外交という奴だろう。だが相手は曲がりなりにも銀河系規模の星間国家。これに比べてこちらは太陽系を自由に
 動き回ることさえ出来ない後進国。力関係を考慮すれば十分に紳士的だろう。我々のご先祖様と同じようなことをしない
 だけでも有難いさ」
「……」

 上官の台詞に幕僚達は反論できない。実際、過去にアメリカ原住民を虐殺し彼らの土地を簒奪して国を作ったのは
自分達の先祖なのだ。彼らが同様のことを考えたら、ハイヴもろとも殲滅されていてもおかしくなかった。 

「さて、あまり無茶な要求をされなければ良いのだが」

 そんな懸念を示す長官の前でアルテミスは着水した。
 そしてモンタナ級戦艦や巡洋艦群にエスコートされながら、アルテミスはニューヨーク港に入港することになる。
 しかしこのとき、すでに地球には銀河帝国のスパイがあちこちに入り込んでいた。彼らはESPなどを使って巧みに各地に 
潜入して情報の収集を開始していたのだ。
 その結果、耕平はさらなる方針の変更を余儀なくされる。

「……銀河帝国の総人口が少なすぎか」

 地球側が帝国の規模をかなり大きく見積もっていることを知った耕平は円卓会議の席で唸った。

709earth:2011/08/01(月) 21:34:18
「本国の、いや支配層100万人の下に無数のロボット群がいたとしても、軽く見られると?」
「可能性は否定できません」

 参謀AIの言葉に耕平は天井を仰いだ。アンドロイドや人間を量産したとしても短期間で億単位で増やすのは
無理なのだ。

「しかし人口は簡単には増やせないぞ。というかそんなに人口を増やしていたら今度は国家の運営にリソースを割く
 必要がでてくる。軍拡ができなくなる。しかし舐められると外交で行き詰まる」

 悩ましかった。仮にマブラヴ人類に侮られるようなら、他の星間国家と出会った場合も同様の反応が考えられる。
 そして侮られた場合対等な関係は築くにくい。下手をすれば組みやすしと思われて戦争になる危険もある。生き残る
ための戦争は辞さないが、無闇に戦争をするつもりも耕平には無い。
 彼にとって目的は生き残ることであり、戦争そのものが目的ではない。戦争は手段の一つに過ぎない。

「……いっそのことBETAの技術を使って炭素生命体のユニットとして人間を量産するか?」

 かなり外道なことを呟く耕平だったがすぐに首を振る。

「いかん。作れたとしても、人間の皮をかぶった作業機械だ。国民とは言えない」
「果たしてそうでしょうか?」

 参謀AIの言葉に耕平は眉を顰める。

「何が言いたい?」 
「BETAのように一度に大量の炭素生命体を揃えることが出来るシステムは便利かと。利用する価値はあるでしょう」
「だが出来るのは作業機械だぞ」
「構わないのでは? 使い捨てに出来る労働力、古代でいえば奴隷と考えればいいですし。まぁ多少は自律できるように
 改良する必要はあるでしょうが」
「……」
「『それら』を国民にカウントするのは多少卑怯ですが、交渉の際には押し通すこともできるでしょう」
(BETA式に量産された人間型作業機械の上に、クローン人間とアンドロイドが君臨するか。どんな国だよ?) 

 乾いた笑みしか浮かばない。

710earth:2011/08/01(月) 21:35:32
「G元素ではなく、別のエネルギーで動かす人形、いや奉仕種族を量産。それを国民、いえ臣民としてカウントすれば
 人口は短期間で億単位になります。使い捨てに出来、必要なエネルギーも最小限。非常に効率的かと」

 参謀AIとしては無駄に資源を消費する国民は作る価値を認めていない。だが逆に最小限の資源で、価値がある
『もの』が作れるなら問題は無かった。

「純粋に人間の形が取りにくいのであれば、別の形状でいくのもありかと。
 犬耳や猫耳でもつけて半獣半人の種族とすれば多少異質でも説明は付くでしょう」 

 この参謀AIの意見に耕平はため息をついた。

「銀河帝国は悪の帝国まっしぐらな気がするよ。まぁ虚構の王朝には相応しいのかも知れないな」

 やや脱力し、諦観の表情をした耕平はぐったりしたままで天井を仰ぐ。
 だがぐったりする時間はあまりない。

「総司令」

 参謀AIの急かす様な呼びかけに、耕平はわかっていると手を振って言う。

「参謀本部の提言を認める。
 BETAの生産施設を解析して帝国式の施設を作る。そしてそれを使って人型、またはそれに近い種族を順次量産していく。
 最終的には100億以上の奉仕種族、その上に皇族や貴族などの支配階級を置く」
「了解しました」
「長門中将にも、このことを連絡しておくように」

 この日を境にして、レムレス朝銀河帝国は臣民(?)の生産にも力を入れることになる。

711earth:2011/08/01(月) 21:37:34
あとがき
マブラヴ世界も振り回されますが、銀河帝国も振り回されます。
次回は長門たちの出番になる予定です。それでは。

713earth:2011/09/06(火) 20:39:37
ネタスレで載せている『嗚呼、我ら地球防衛軍』をこちらで掲載します。

『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第1話

 西暦2198年某月。日本関東地区の地下都市に置かれた地球防衛軍司令部の一室では10名ほどの
防衛軍高官、それに日本政府高官たちが集まっていてた。

「やはり、『ヤマト』建造は自力で?」
「はい。各国、特にアメリカ、中国、ロシアでは本土決戦を唱える軍部が台頭しており、こちらの
 地球脱出計画には協力しそうにありません」
「困ったな……」

 誰もが黙り込む。そんな中、一人の男が嘆息するように言った。

「まさか、こうなるとはな」

 原作では参謀と呼ばれる男。宇宙戦艦ヤマトの行動にやたらとケチをつけ、人気もなかったキャラクターで
あった男はそう嘆息した。
 ここに居る男達は全員が前世、正確には原作『宇宙戦艦ヤマト』の記憶を持つ者(以降、転生者と呼称)だった。
勿論、ここには居ない者たちもいる。彼らは各地で密かに活動していた。
 彼らは西暦2192年以前から活動しており、密かにガミラスとの戦いに備えていた。尤も何故か転生者は
日本人ばかりだったので、歴史を大きく修正することはできなかった。
 それでも原作知識を活かして、資源の備蓄、日本国内の地下都市や避難計画の早期の準備、戦場から落伍していた
ガミラス艦を鹵獲したりして必死に人類の底力の向上に努めていた。
 しかしそれでも大勢は変わらない。人類は宇宙から駆逐され、遊星爆弾によって地下都市への逼塞を余儀なくされていた。

「というか、こんな末期戦状態で出来ることなんてねーだろ!」
「地球の科学力でガミラスに勝つなんて、ルナティックを通り越してファンタズムだろう」
「沖田艦長の活躍に期待するしかない」
「むしろ、真田さんだろう。JK」

 転生者たちは挫けそうになるものの何とか己を奮い立たせる。何しろまだヤマトという希望があった。
 だが、状況はそう甘くは無かった。大量の地上軍を抱える米中露などの大国はガミラスとの地球における本土決戦を
主張していたのだ。皮肉なことに転生者の動きによって人類の底力が多少なりとも上がったことが彼らをそうさせていた。
 日本など一部の国は人類の種と独立を守るために地球脱出計画を提案していたのだが……このままでは本土決戦が
人類の方針となりかねない状況だった。勿論、それは日本が押す地球脱出計画、そしてヤマト建造が承認されないこと
を意味していた。

「長官は?」
「国連総長と話をしているが、所詮、国連事務総長は調整役に過ぎん。あの三ヶ国は抑制できんだろう」

714earth:2011/09/06(火) 20:40:10
 転生者たちは難しい顔で考え込んだ。
 参謀は苦い顔で口を開く。

「加えて地球防衛艦隊が事実上壊滅したことで、防衛軍そのものへの不信感も強くなっている。何しろ残っているのは
 日本艦隊のみという状況だ」

 アメリカ、ロシア、中国の宇宙艦隊はすでに壊滅している。これらの国々では宇宙軍の影響力が下がる一方で陸軍の
影響力が強まっていた。加えて大国のプライドもあり、本土決戦でガミラスに講和を強要するという政策が支持されていた。
 
「まぁTVの二期でも攻撃衛星なんて品物もあったからな……」
「あのあまり役に立たない衛星か」
「というか役に立ったか? ガトランティス艦隊にも歯が立たなかった気がするが」
「それどころか、ガミラスが地球に降下する必要すらないことに何故気付かないのだ?」 

 アメリカはロッキー山脈、ロシアはウラル山脈の地下に都市を建設して生き残っているに過ぎない。それも放射能に
よってこのままでは全滅は時間の問題だった。地下に逃げるといっても限界がある。
 そしてそれはガミラスも分っていた。彼らの母星であるガミラスも死に瀕しているが、それでも人類よりは長生きする。
根負けするのは地球側だ。

「こうなっては仕方あるまい。ヤマト建造を日本単独で進めるしかない」

 参謀の意見に誰もが頷いた。転生者の活躍によって日本の地下都市には原作よりも豊富な工業力、資源、エネルギーを
保有していた。それでもこの先を考えると余裕があるとは言えないのだが、ヤマトを建造するなら可能だった。

「問題は波動エンジンの始動ですが……どうやってエネルギー供給を取り付けます?」
「補助エンジンでも主砲は何とか撃てる。ヤマトを攻撃してくるだろうガミラス空母を撃沈すれば、協力してくるだろう。
 技術面の餌も用意すれば食いつく」
「やれやれ……ヤマト発進まではどれだけ労力がかかることやら」

 しかし参謀は弱気になる人間を叱責する。 

「ここで弱気になってどうする! 我々『名無しキャラ』の意地を見せるときだぞ!」

 地球防衛軍。地球圏最大の軍事力でありながらTV版2期を除いてたいした活躍をすることなく、ヤマトの引き立て役に
されてきた軍を支える男達の挑戦が始まる。
 
「でも、最後に良い所はヤマトが全てもっていきそうですけど」
「それを言うなよ……」

715earth:2011/09/06(火) 20:40:43
『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第2話

 転生者たちはヤマト建造に乗り出す一方で、遊星爆弾による被害を少しでも低減させるために艦隊の温存に走った。
 冥王星にまで遠征させても自殺行為であり、無駄に艦隊と将兵と物資を浪費するだけと彼らは考えていた。

「あの三国が本土決戦を主張しているおかげで、艦隊を温存する口実が出来たな」

 参謀は防衛軍司令部でニヤリと笑いつつそう呟いた。
 米中露はさらに深い場所への地下都市建設と都市の要塞化を推し進めていた。日本が艦隊を温存し、地球近辺で
遊星爆弾の迎撃に専念させる戦略をとっても米中露は文句を言わなかった。何しろ日本艦隊が遊星爆弾を防いでくれている
間に本土決戦の準備ができるのだから。
 参謀は必要な根回しをしつつ、長官にヤマト建造が潰えていないことを耳打ちした。

「どういうことだね、参謀?」
「日本はまだ公にしていない備蓄物資があるということです。加えて出資者も集まっています」

 一朝一夕で資源が備蓄できるわけがないことを分っている長官は、参謀の台詞から日本や防衛軍の一部が長い間極秘裏に
準備をしていたことを悟った。
 
「……日本政府は、最初からこうなると考えていたと?」
「……『常に最悪の事態を想定するのが為政者としての務め』だそうです。ですがさすがに地球脱出用とは言えないので
 公式には新型戦艦ということになります。ですので」
「分った。君達に協力しよう」
「ありがとうございます」

 軽い足取りで去っていく参謀を見て、長官は久しぶりに気分が晴れた。

「防衛軍も、いや人類もまだまだ棄てたものではないな」

 かくして長官の支持を取り付けた転生者たちは、ヤマト建造にまい進した。
 尤も肝心の波動エンジンは手に入っておらず、鹵獲したガミラス艦から獲得した技術で作ったエンジンを搭載していた。
 これによって従来の地球の戦闘艦よりも遥かに強大な戦闘力を擁していた。尤もそれでもガミラス艦隊には勝利できない
だろうが……。

「まぁ波動エンジンへの換装できれば何とかなる。火星の準備も怠るな」

 そして防衛軍は、そして転生者たちは運命の日を迎える。

716earth:2011/09/06(火) 20:41:14
 転生者たちが密談のために使っている部屋で大声が響く。

「『ねんがんのはどうえんじん』を手に入れたぞ!」

 火星から帰還した古代達が提出したカプセルから波動エンジンの設計図があることを知った参謀は小躍りした。

「これで勝てる!!」

 やっと反撃の時だ、参謀は燃えた。
 一方的に撃ち減らされていく友軍を見続けてきた男はこのときを待ち望んでいた。同時に彼は自分達のような原作の
モブキャラがヤマト発進を支えるという状況にテンションを上げていた。

「確かに歴史では目立たないだろう! だが数十年後にはプロジ○クトXのような作品で紹介されて見せる!!」

 参謀の意見に他の名無しキャラが頷く。
 一部の原作では死亡確定組の人物(例:ヒペリオン艦隊司令)はさらに気合が入っていた。何しろガミラスに負けても
死亡。原作どおりでも歴史を改変しないと自分が死ぬのだからより切実だった。

「ショックカノンは他の宇宙戦闘艦にも搭載できます。早急に改装するのがいいでしょう」
「そうです。戦艦の建造は無理ですが小型艦なら建造できる余裕はあります」
「いやここは航空戦力を増強するべきだ」

 だがここで文官たちは首を横に振る。

「ヤマトで冥王星基地を叩いた後は温存していたプラントで、各惑星、特に木星などの資源地帯からエネルギー資源を
 得るべきだ。何しろヤマト建造には金と物資が掛かりすぎる」
「市民達の不満を多少は軽減する必要がある」

 この言葉に軍人組みはムッという顔をするが、市民が暴動を起こしてはたまらない。
 何しろ地下都市を建設した良いものの、市民同士の仲違いで自滅した地下都市も少なくないのだ。

「まぁ狸の皮算用をしていたも仕方ない。今はヤマト建造に全力を注ごう」

 参謀の言葉によって会議は終わりを告げた。
 そして後にヤマトは日本がほぼ単独で建造した、地球初の波動エンジンを搭載した戦艦として生まれることになる。

717earth:2011/09/06(火) 20:41:48
 『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第3話

「……やはり一から作ったほうが良かったのでは?」

 財務官僚の突っ込みに対して、参謀は苦笑いしつつ答えた。

「それをやるとジンクス的に怖いだろう? あくまで『ヤマト』は『大和』でなければならない。
 下手に弄って失敗したら目も当てられん」
「「「……確かに」」」

 ヤマトは原作どおり沈没した大和を利用して建造されつつあった。
 一部の人間は一から作ったほうが早いのではと思ったのだが……ここで原作をひっくり返すと後が怖いという考えが
支持された。実際、彼らが人類のために良かれと思って行動した結果が、本土決戦支持派の拡大に繋がったのだから
慎重になるのは当然だった。

「しかし沖田艦隊は温存できた。ブラックタイガーを載せれるように一部の艦を改造しておけば、かなりの戦力になる」

 参謀の言葉に誰もが頷く。
 一部の軍人は渋い顔だが、ガミラス艦を沈められる航空戦力は確かに必要なので反対できない。

「まぁ取りあえずは、ガミラス空母の来襲に期待するしかない。ヤマトの戦力を見れば各国も少しは意見を変えるだろう」
「ですが彼らが来襲したとなれば、温存していた艦隊で迎撃せざるを得ませんが……」

 黒い制服を着た軍人の意見に誰もが頷く。
 しかし参謀は問題ないと首を横に振る。

「日本艦隊は遊星爆弾の迎撃で消耗している。空母来襲前にドック入りさせれば良い。ただ万が一に備えてブラックタイガー
 の直掩機も周辺の基地に用意しておく。ガミラスが史実以上の部隊で来てもある程度は戦えるはずだ」

718earth:2011/09/06(火) 20:42:19
 そしてガミラスの高速空母は予定通り出現することになる。
 慌てる防衛軍司令部の中で、参謀は落ち着いて部下達に迎撃を命じる。幸い、ブラックタイガーの配備が間に合っていた
ためにヤマトの被害は軽減できている。血気盛んなパイロットの中には高速空母に攻撃さえかける始末だ。 

「さすが参謀。ガミラス空母の来襲を見越して手を打っていたのか」
「ああ。さすが、日本政府や防衛軍長官の信任が厚いだけのことはある」

 防衛軍のスタッフがそんな尊敬の目で見ていることなど知らず、参謀は一人突っ込みを入れた。

「……毎回思うんだが、あの円盤型空母はどうやって艦載機を収容するんだろうな?」
「さぁ?」

 司令部でそんなやり取りがされている中、ヤマトは無事(?)に補助エンジンを稼動させて出撃した。

「ふむ、これでこそ、ヤマトだな」

 遺跡と言っても良い大和の外壁を崩して出撃していく様は、原作を知る人間にとってみれば何とも感慨深いものであった。
 それも自分があの戦艦を建造したと思うと尚更だ。

「さてあとは波動エンジンの稼動だな」

 ヤマトが持ち前のショックカノン砲9門で、ガミラスの高速空母を撃沈したのを見て参謀は次の手を考える。
 波動エンジンの作動にはかなりのエネルギーが必要だった。日本単独でエネルギーを賄うとなると、今後地下都市の維持に支障が
出てしまう。よって少しでも他の国の支援が欲しい。
 まぁ仮に日本単独でやったとしても、残っている日本艦隊で資源を回収できればエネルギー事情も少しは改善するが、それでも
負担は少ないほうが良い。

719earth:2011/09/06(火) 20:42:58
「外務省や首相官邸、長官と国連総長に頼んで動いてもらうしかないな」

 日本はヤマトの戦闘映像を国連総会に提出する。
 すると、その高い戦闘力を見て波動エンジン搭載型戦艦の量産で戦局の挽回を図るべきだと主張する国が出始めた。アメリカなどは
保管していたアイオワ級を改造して戦艦に改造する案を提出する始末だ。
 だが波動エンジンを作るためのコスモナイトなど希少資源が少ないので、その計画は没となった。

「イスカンダル星にコスモクリーナDを取りに行かせるのが人類生存につながります!」

 日本大使は議場でそう主張した。実際、ヤマトはイスカンダルにまで長距離航海が可能な戦艦であった。
 だが無謀な航海をしてガミラスに対抗可能な戦艦を無為にすり減らすことを危惧する声もある。この紆余曲折の末、3つの方針が決定された。 

①ヤマトはイスカンダルへ向かい、コスモクリーナDを受領して帰還する。
②①の過程で冥王星基地を破壊する。これによって地球本土の安全を確保する。
③②終了後、日本艦隊によってガミラス残存戦力を掃討。太陽系の安全を確保した後に資源の採掘を再開する。
 採掘した資源によって地下都市の生活環境を改善。同時に工業の復活と防衛軍艦隊の再建を進める。

 かくしてヤマトは世界中からエネルギーの供給を受けて旅たつことになる。
 勿論、各方面を宥め、脅し、賺し、騙してエネルギーを掻き集めたのは参謀達、転生者だったのだが……地味な仕事ゆえに
脚光を浴びることはなかった。

「所詮、裏方の仕事なのさ」

 そう言ってふて腐れるものの、彼の仕事は確かに評価されていた。主にお偉方から。

「彼を戦場で死なせてはならない。防衛軍再建には彼の手腕が必要だ」

 こうして参謀はさらに後方で勤務することが決定される。
 彼が脚光を浴びる日がいつになるのか……それは誰にも判らなかった。

720earth:2011/09/06(火) 20:43:38
『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第4話

 世界各地からエネルギー供給を受けてヤマトが発進した後、地球防衛軍は残された日本艦隊の補修と改装を急いだ。
 ヤマトが冥王星基地を破壊できたとしても、ガミラスの残存艦隊が跳梁跋扈する可能性は高い。これを排除するためには
艦隊戦力の強化が必要だった。
 残された希少資源で小型波動エンジンを生産し取り付けていった。出力が低いエンジンのため、エネルギー事情が悪化した
日本でも生産と稼動は可能だった。

「本当は各国にも手伝って欲しかったんだがな」

 参謀がぼやくものの、どうしようもなかった。
 何しろ多くの国は本土決戦のために宇宙船の建造よりも地下都市の要塞化と地上軍強化に力を注いでいた。おかげで貴重な
資源もエネルギーも浪費されており、宇宙艦隊を再建する余裕など無かった。
 まして三大国はヤマトが冥王星基地を突破できるか懐疑的な見方をしており、本土決戦に向けた準備を怠ることはなかった。

「波動エンジン、ショックカノン砲の技術など少なくない技術を分け与えてよかったんですか?」 

 通産省の官僚は不満そうな顔をするが、参謀達軍人は仕方ないと首を横に振る。

「仕方ないだろう。日本単独であの大型波動エンジンを起動させるのは難しかったんだ」
「地球全体の防衛力強化のためには、ある程度の技術の提供は必要だろう。我々が何から何まで独占すればいらぬ嫉妬を
 買って自滅するだけだ」
「国益の追求は必要だが、今は星間戦争中なんだ。必要以上にいがみ合っていては勝てる戦いも落す」

 地球防衛艦隊で残っているのは日本艦隊のみであり、人的資源も一番残されているのは日本だった。おかげで防衛軍で主導権を
握っているのは日本だった。
 しかしこれが米中露にとっては気に喰わないのか、色々と不満が多い。ちなみに、やたらと日本にケチをつけるはずの某半島国家は
手抜き工事のためか、地下都市が遊星爆弾で破壊されて壊滅している。今は中国の地下都市に亡命政府があるだけだ。

「まぁ今は防衛艦隊再建を急ぐのが正解だろう」

 参謀の意見によって密談は終る。

721earth:2011/09/06(火) 20:44:22
 ヤマトが紆余曲折の末、冥王星基地を破壊すると地球各国では喝采が挙がった。
 ガミラスの太陽系前線基地である冥王星基地の壊滅は、これまで負けっぱなしであった人類を勇気付けるものであった。

「今こそ絶好の好機だ!」

 参謀は防衛軍長官に直訴して、改装が終わった艦隊で資源輸送を行う事を提案する。
 後に『特急便』と言われるプランであった。また彼はこの作戦を指揮する人物として土方に目をつけていた。
 原作において艦隊決戦で唯一といってよい白星を得た男を、参謀は高く評価していたのだ。

「私より適任がいるだろうに。それに今、この学校を離れるわけにはいかんよ」

 宇宙戦士訓練学校の校長室でそう言う土方に、参謀は尚も言い募る。

「古代君はまだ若い。彼らを纏める人物が必要なのです。それに閣下なら、航空戦力を十分に活用できる、そう信じています」
「航空戦力か」
「はい。残念ながら、地球では満足に戦艦を建造するのはまだ難しい。ですので、『えいゆう』など大型艦を改造してブラックタイガーを
 載せれるようにしています。これがあればガミラス艦を早期に発見でき、対応できるでしょう。
 勿論、出撃に際しては土方校長の要望を最大限尊重します」
「……分った。いいだろう」 

 参謀の熱意に折れたのか、土方は艦隊司令官を引き受けた。
 参謀が軽やかな足取りで出て行くのを見て、土方は微笑む。

「あれが長官の懐刀と言われる男か。噂に違わぬ男だ」

 このとき、参謀は有名人になっていた(名無しキャラなのに)。
 何しろ本土決戦を主張する国々に従う振りをしつつ、裏ではヤマト計画を密かに根回しして進め、さらに日本が備蓄していた物資や
エネルギーを提供させた。
 それに加え、資源の輸送計画を入念に策定。さらに航空戦力の有用性を見抜き、それを活用する準備も進めるなど軍政家としての
才覚があると土方が判断してもおかしくなかった。
 実際、他国でも参謀の評価は高い。だがそれゆえに彼はますます前線に出るチャンスが減ろうとしていた。
 彼は目立とうとして頑張っているのに、裏方としての能力ばかりが評価されていたのだ。

「これでヤマトが帰ってくれば、防衛艦隊は早期に再建できる。うまくすれば、私も艦隊司令官になれる!」

 軽い足取りで皮算用をする参謀。
 彼の野望が叶えられるかは神のみぞ知る。

722earth:2011/09/06(火) 20:44:53
 かくして小型で低出力とは言え、波動エンジンやブラックタイガーを搭載した日本艦隊はガミラス残存艦隊の妨害を撥ね退けつつ
各惑星や小惑星帯から資源を採掘し、必死に地球に資源を輸送する。

「エネルギー事情を改善すれば地下都市の衛生状態も良くなる!」

 参謀や転生者たちはそう発破をかけた。勿論、新たに得たエネルギーを市民生活の向上のみに当てるつもりはなかったが
それでも何らかの餌は必要だった。
 また防衛軍首脳部は強化された防衛軍艦隊とガミラス艦隊が互角に戦う様子を流して、必死に市民を鼓舞した。
 
「人類はまだ戦える!」
「故に市民の協力が必要なのです!」
「欲しがりません。勝つまでは!!」

 防衛軍が戦える様を見て、絶望の淵にあった市民も多少は希望を取り戻した。
 また若干ながらも生活環境が改善されたことも、士気を上げた。

「負けるものか!!」
「ヤマトが帰ってくるまでは持ち堪えるぞ!!」

 特に我慢強い日本人達は一致団結した。おかげで日本にある地下都市の治安は大幅に改善することになった。
 残った市民はお互いに助け合い、生活を守った。また宇宙戦士への志願者も増えていった。
 少しずつであるが好転しつつある状況に誰もが未来を信じられるようになっていったのだ。

「暴動も減っている。食糧事情も好転している。ふむふむ、これなら何とかなる」
 
 自宅で朝食を取りながら、新聞を読んでいた参謀は非常に満足げだった。
 また米中露、それに欧州も宇宙艦隊再建に乗り出していた。勿論、駆逐艦や護衛艦が中心であるものの戦力が回復するのは
好ましかった。

「あとは頼むぞ、ヤマト。地球は……我々が守っておくからな」

 こうして地球は参謀達の努力もあり、原作よりは多少はマシな状況でヤマトの帰還を迎えることになる。

723earth:2011/09/06(火) 20:45:31
 『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第5話
 
 ヤマト帰還後、地球各国は復興に向けて動き出した。
 コスモクリーナーDによる放射能除去、そしてテラフォーミング技術による地球環境の修復は急ピッチで進められた。
 もともと資源的、エネルギー的に余裕があったことで地球の復興は驚異的なスピードで進んだ。また放射能が除去されたこと
で各惑星に残されていた生産施設が使用可能になったので、生産力も次第に回復していった。
 
「復興は順調のようだな」

 参謀の言葉に官僚達は頷いた。
 ちなみに彼らは相変わらず地下都市の防衛軍司令部を密談の場にしていた。

「皮肉なことに、戦前に比べて人口が激減したのが大きいでしょう」

 使えるようになった生産力や資源で十分に地球人類を養える状態だった。何しろ戦前は100億を越えた人口が今では
20億をきっているのだ。残された人口を養うのは難しくは無かった。

「それに、人口が激減したおかげでこれまで問題だった宗教問題や民族問題、貧富の格差は大分、スッキリしました」

 寒気のするような意見だったが、実際そのとおりだった。
 ガミラスの遊星爆弾は地球各地に降り注いだ。このせいで貧困地域は真っ先に滅亡した。また地下都市を建設しても
民族、宗教問題で内輪もめを起こして自滅した都市も多々ある。

「ガミラス戦前まで人類が抱えていた問題を、ガミラスが解決してくれたということか」

 参謀の意見は人道の観点からは問題だったが、事実だった。

「しかしそれでも残された国の統合は大変だな。まぁ地球連邦そのものは結成できそうだが……主導権争いを考えると
 頭が痛いな」

 宇宙艦隊や各種生産施設が最も充実しているのが日本であること、日本が建造したヤマトがコスモクリーナーDを持ち帰ったこと
から日本の影響力は大幅に拡大しており、日本は人類復興の中心的役目を果たしている。
 片や本土決戦のために準備をしていた国は、宇宙艦隊再編に手間取り、制宙権の維持を日本艦隊に頼らざるを得ないという状況に
陥っていた。
 勿論、史実より多少は余裕があるので国家再建は急ピッチで進められているが日本には遠く及ばない。故に嫉妬も強い。

724earth:2011/09/06(火) 20:46:03
「海外の連中は日本の奇跡とまで呼んでいそうですよ」
「新興国におされて斜陽だった我が国が再びここまで隆盛したんだ。まぁ奇跡といわれても仕方ないさ」
「まぁ奇跡と言うよりカンニングの賜物なんだが……それは言えないよな」 
 
 誰もが苦笑する。

「何はともあれ、地球連邦の創設、そして防衛軍の再建は急ぐ必要があるだろう。
 何しろ白色彗星帝国、暗黒星団帝国、ディンギル帝国と、一歩間違えれば死亡確定の敵が待ち構えている。
 人類が団結しなければ、この国難は乗り切れない」
 
 参謀の意見に反対意見はない。すぐにアンドロメダ星雲から白色彗星帝国が来るのだ。
 宇宙艦隊だけでも強大なのに、都市要塞、巨大宇宙戦艦まであるのだ。星間国家としては新興国にすぎない地球が
相手にするには荷が重い。だが交渉の余地は全くなく、戦うしかないのだ。
 
「日本一国で、原作ほどの宇宙艦隊は整備できまぜんからね……世界各国に負担してもらうしかないでしょう」

 財務官僚の言葉に誰もが頷く。

「とりあえずは巡洋艦以下の建造を急ぐ。そして各国に余裕が出来た段階で戦艦の建造に取り掛かる。これが妥当だろう」

 参謀はそう結論付ける。
 
「ただし、これからやってくる敵を全て地球のみで対処するのは負担が大きい。よって友好国を増やして、多国間による
 共同戦線を張れるようにする。これが地球の歩むべき道だと思う」

 これを聞いて外務官僚が尋ねる。

「どこと交渉するおつもりで?」
「穏健派の国ならシャルバートやアマールが適当だろう。しかし直接援軍は期待できない。だとすれば」
「ボラー連邦、ですか?」
「そうだ。少なくともあの国は話し合いの余地がある。原作では古代弟がぶち壊してくれたがね」

725earth:2011/09/06(火) 20:46:35
 参謀は苦い顔をする。
 史実におけるヤマトクルーの暴走は、結果として人類を救ったが、一歩間違えれば人類を破滅させかねない
危険なものも少なくなかった。
 特にボラー連邦を敵に回したのは、手痛い失敗だった。ガルマン・ガミラスを味方に出来たと言っても
デスラーが表舞台からいなくなったあとも、友好関係が続くとは限らない。何しろヤマトはガミラス本星を
壊滅させているのだ。恨まれていないわけが無い。
 
「ソ連をモチーフにしたあの国を信用するのは難しい。おまけに長く続いた平和のせいで、軍は弛緩している。
 しかしそれでも、かの国と友誼を結ぶのは決してマイナスではない」
 
 デスラーによっていいようにやられたことから、参謀はボラーが長らく続いた平和によってかなり呆けて
いると判断していた。
 だが機動要塞やマイクロブラックホール砲、各種戦略兵器は地球には無い魅力的なものばかりだ。
これらを擁する国家を後ろ盾に出来れば、今後の戦争も少しは楽になる。

「特に波動エネルギーが天敵である暗黒星団帝国は、地球を制圧しても人類の残存戦力とボラー連邦が結びつくことを
 考慮して、そうそう軽挙には及べないだろう」

 参謀は戦争で全てを解決するつもりはない。というか派手な活躍はしたいが、避けられる戦争は避けたいという
のが本音だった。

(防衛軍が消耗しすぎると人的資源が払底する。艦隊司令官になったは良いが、急造の戦艦と新米ばかりの兵士で
 戦争という事態は避けたい)

 輝かしい出番を用意するには、それなりの準備が要るのだ。

「とりあえずボラーと手を結び、国力を充実させるべきだ。それにボラー連邦のような強大な星間国家があることが
 外圧となる。それは原作にあった油断を打ち消し、人類を団結させるのに使える。それに星間外交の経験も積めるだろう」

 かくして彼らの暗躍が始まる。

726earth:2011/09/06(火) 20:48:05
 『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第6話
 
 西暦2201年1月。残された国々はガミラス戦役の反省から国連を強化した地球連邦政府の樹立を決定した。
残された有力国を中心として、地球は幾つかの州に再編されることになる。
 人類同士でいがみ合っていては異星人に対抗できないという考えは誰しも持っていたので、極端な反対はなかった。
しかし主導権を手放すかどうかは別だった。
 原作以上に力を蓄えてしまった日本はアジア州へ編入されることはなかった。他国は日本の生産力と科学力がアジアと
結びつくことを恐れたのだ。
 アメリカは日本と中国と手を組むのを警戒した。ロシアも隣国であり、伝統的に覇権思想の強い中国が日本と
同じ州になるのを嫌がった。中国は日本を取り込むことを目論んだものの、米露欧の反発で頓挫する。

「ここまで異星人にボコボコにされたのに、まだ隣国と争うか?」

 防衛軍司令部で報告を聞いた参謀は呆れ顔だった。同席していた艦長服を纏った男は肩をすくめる。
 
「まぁ史実よりも余裕があるせいでしょう」
「全く……それにしても復興スピードが速いな。さすが、ヤマトの世界のだけはある」

 各国は確かに主導権争いに血眼になっているが、参謀達が根回しした防衛艦隊再建は承認していた。ガミラス帝国の
残党が襲撃してくる可能性は否定できなかったのだ。彼らも再び地球を焼かれるのは御免だった。
 すでに巡洋艦クラスの軍艦の建造と配備に並行して、太陽系各所で防衛拠点の建設も行われていた。

「まぁあれだけ壊された戦艦がすぐに直り、毎年壊滅する宇宙艦隊がすぐに復活する世界ですので。
 23世紀の脅威の科学力といったところでしょうか」
「人的資源の補充は無理だがな。正直、20年は必要だろう」

 そう言うと参謀は話題を変える。

727earth:2011/09/06(火) 20:48:35
「日本政府はアジア州への編入ではなく、極東州の形成という形に持っていくことにしたそうだ」
「極東州ですか?」
「ああ。まず弱体化したロシアから樺太と北方領土を買い取り日本領に編入。そして日本と台湾で極東州を形成する」

 日本政府は近隣諸国の合併に熱心な国を横目にして、自国周辺の再編を最小に留めた。
 彼らが目指す先は地球ではなく宇宙の彼方だった。勿論、地球復興のために努力はするが州を必要以上に大きく
するつもりは皆無だった。むしろ太陽系の再開発、そして外宇宙探索を重視していた。

「連邦の首都はどこに?」
「当面は日本。メガロポリスだろう。だがあまりこちらが独占しすぎると外野が煩い。首都の名誉はいずれ欧米に譲る
 必要があるだろう。特にアメリカは、かつての地位にご執心だからな」

 旧アメリカ合衆国を中心とした北アメリカ州は虎視眈々と復権の機会を狙っていた。 
 ロシアとEUが主体となったユーラシア州は復興を優先しつつも、弱体化しているアフリカ州や無人と化した地域へ介入する
チャンスを伺っている。アジア州ではインドと中国が綱引きを繰り返していた。
 
「地球防衛軍は宇宙軍と空間騎兵隊のみになる。恐らく陸海空軍は各州の州軍という形になるだろうな」
「緩やかな連邦制、夜警国家が関の山ですな。アメリカ合衆国程度に団結できれば御の字だ」
「そうだ。当面は日本人にとって負担が大きい世界になりそうだ。何しろ防衛軍は一番被害が少ない日本人が主力を担う必要がある。
 産業界、その後押しを受ける政治家とも喧嘩することになる」
「だとすると無人化、省力化は不可避ですな」
「ああ。ラジコン戦艦、いや自動戦艦を採用しないといけないだろう。景気が回復し民間の活力が増せば増すほど、軍人を削れという
 声が大きくなるのは目に見えている」

 復興が加速し、人手が足りなくなる状態では軍拡など不可能だった。産業界から総スカンを買うし、市民も反対するだろう。
彼らはより良い生活を求めているのだ。
 しかし今後、幾度も異星人に襲われることを知っている転生者としては軍拡に手は抜けない。そうすると行き着く先は原作同様の
省力化、自動化、無人化だった。

728earth:2011/09/06(火) 20:49:11
「原作の防衛軍はそれなりに合理的だった、というわけですな」
「相手が悪すぎたのだろう。何しろ相手はディンギルを除いて全て強大な星間国家だ。勝てたのだけでも奇跡に等しい」
「さすがヤマトといったところでしょうか」
「だろう。だがヤマト1隻のみに期待することは出来ん」
「では?」
「新兵器開発を急ぐと同時に、戦艦整備を中心とした次の防衛艦隊整備計画とは別枠で、新型戦艦と新型戦闘空母建造を
 司令部に上申する」
「……『ムサシ』と『シナノ』ですか」
「大和型戦艦三姉妹が揃えばかなりの打撃力になる。それにボラー連邦との接触のためには長い航続距離を持つ船が要る」
「外宇宙探索任務も兼ねると」
「そうだ。不測の事態は避けなければならん。それに……うまくすれば将来、ヤマト3姉妹のうち、どれかに乗れるかも知れん」
「……それが本音では?」

 発足した地球連邦政府は戦艦整備を主眼とした新たな防衛艦隊整備計画を採択した。
 復興のために必死な各国からすれば、乾いた雑巾を振り絞るかのような負担であったが、大きな文句は言えなかった。
何しろ人類の80%以上がついこの間死んだのだから。
 そして何より日本が『ムサシ』と『シナノ』を復活させることを発表したことも、防衛軍再建に関与させた。何しろ今や 
地球を救ったヤマトは防衛軍の象徴であると同時に日本の躍進の象徴でもある。
 日本が大和型戦艦三姉妹を全て復活させるというのは途方も無いインパクトであった。

「いつまでも日本に地球の守護者を気取らせられん!」

 各州、特に北アメリカ州は負けてられんとファイトを燃やす。
 かくして参謀も意図せぬところで急速な軍拡が実現することになる。

729earth:2011/09/06(火) 20:50:36
ネタスレで載せていた6話まで載せました。
あと短めですが7話が完成したので載せます。


 『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第7話
 

 転生者たちは来るべきガトランティス帝国との決戦に備えて、地球防衛艦隊整備計画を力強く推進した。
 尤も一部の人間は「ダンボール装甲の艦隊で大丈夫か?」と危惧する者もいたが、アナライザーの簡易量産型の
ロボットをダメコン要員として大量配備すること、さらに万が一の場合はマニュアル操作によって艦を操作することが
できるようにすることで誰もが妥協した。

「凝った艦を作っていたら間に合わん」

 参謀が全てだった。何しろガトランティス帝国はすぐに来る。現状の地球で大量生産できる艦でないと意味が無いのだ。 

「アンドロメダがやられたのは、中枢が破壊されて操作不能に陥ったからだ。逆にマニュアル操作に切り換える
 ことが出来れば、タイタン基地には帰還できた可能性はある。この戦役で、2隻のアンドロメダ級が生き残れば
 後の戦役も随分と楽になる」

 余裕が出来たこともあり、アンドロメダ級戦艦は2隻が同時に建造されることになった。  
 転生者たちとしては2番艦であるネメシスには収束型波動砲を搭載したかったのだが、波動砲の大火力による
敵艦隊撃滅に拘る人間を説得し切れなかった。
  
「何はともあれ、原作よりも戦力は強化できる。ムサシには収束型波動砲を積めたからよしとしよう」

 しかしこのとき数名が、特に防衛軍の関係者が顔を顰める。これを見た参謀は嘆息する。

「……まだ根に持っているのか? 仕方ないだろうに」
「それは根に持ちますよ。ムサシを航空戦艦にするなんて」

 ヤマト級2番艦となるはずのムサシは、連邦内部の取引でキエフ級空母をモデルとした航空戦艦として
建造されることが決定された。設計図を見た転生者は「PS版かよ」と謎の突っ込みを入れたという。 

「純粋な宇宙戦艦となると他の州が煩かったんだ。それに次世代の空母の実験という名目があれば予算も得やすかった」
「ではシナノは?」
「ムサシの運用経験を基にして本格的な宇宙空母にすることにしたそうだ。建造は……早くともガトランティス戦役後だ」
「下手したらペーパープランで終りそうですね」

730earth:2011/09/06(火) 20:51:17
 防衛艦隊再建が進められる中、参謀は人事部に艦隊勤務を希望した。
 何しろこれから来るのはあのガトランティス帝国。そしてこれを迎え撃つのは最盛期の地球防衛軍。大艦隊決戦になる
のは目に見えている。

「今こそ、目立つとき! この目に優しい緑色の軍服から、黒色の渋いコート(艦長服)にクラスチェンジするときだ!」

 しかし彼の望みは敢え無く却下される。

「な、何故ですか、長官!?」
 
 長官室で参謀は防衛軍長官である藤堂に詰め寄るが、返答は非情だった。

「防衛軍再建のためには、君のような宇宙戦士が必要だからだ」
「ですが防衛艦隊再建は順調です。私が居ないからと言っても……」
「私は君の軍政家としての能力を買っているのだ。逆風の中、ヤマト計画を根回しして実現。人類復興の第一歩となった
 『特急便』、さらに太陽系の治安回復や防衛軍再建に大きな貢献を果たした君を戦場に出すのはリスクが大きすぎる」

 一言で言えば「お前はこれからもデスクワークをやれ」であった。 
 
「し、しかし前線は指揮官が……」
「古代君(兄の方)が居る。それに温存していた日本艦隊の指揮官もいる。いずれ沖田君も復帰できる。
 君が出て行く必要はない」
「……」
「それに彼らも言っていたぞ。君のような頼りになる人間がいるから、自分達は安心して戦っていられるのだ、とな」

 ダメだしだった。参謀は肩を落として長官室を後にする。
 この様子を見ていた古代(進)や真田は意外そうな顔をしていた。

「真田さん、あの人が?」
「ああ、ヤマト建造を実現させた名参謀だ。ガミラス戦役のころから切れ者参謀として名を馳せている」
「しかし安全な司令部に務めているのに、あんなに前線に出たがる人がいるなんて」
「彼も立派な宇宙戦士、そういうことなんだろう。沖田艦長や土方教官も彼のことは褒めていたよ。前線の言うことに
 真摯に耳を傾けて、自分達をサポートしてくれる人物だと」

 事情を知る人間からそれば突っ込みどころが満載だった。
 しかし事情を知らない人間からすれば、参謀はまさに後方で働くために生まれたような人間であったのだ。
 かくして参謀は、これまでやったことが原因で前線に出る道を閉ざされることになる。

731earth:2011/09/06(火) 20:52:54
あとがき
参謀の野望木っ端微塵。それも自業自得で(笑)。
それも微妙に勘違いされております。
彼が前線に出る日は来るのか……。

732earth:2011/09/07(水) 23:21:56
第8話投下です。


『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第8話

 防衛軍再建の功績で参謀は参謀長にクラスチェンジした。
 これによって防衛軍総司令部では確固たる地位を参謀(元)は得た。だがそれは同時に防衛会議などの上位組織と
駆け引きする時間が増えることを意味しており、彼が希望した晴れやかな舞台とは真逆の仕事だった。

「来る日も来る日も、書類と会議ばかりか」

 参謀長は相変わらず密談の場として使っている地下都市の防衛軍司令部でため息をついた。

「仕方ありません。軍隊というのはそんなものです」
「いいじゃないか、君は。新しい概念の戦術の研究に余念がない。ガトランティス艦隊が来ても活躍できるだろう」
「命がけですよ。数分で『ヒペリオン艦隊壊滅!』なんて言われる可能性だってあるんですから。尤も防衛艦隊を
 壊滅させた戦術で、敵を迎え撃つっていうのは燃えますが」

 眼鏡をかけた男はそう不敵に言った。参謀長は一瞬、彼の背後に謎の踊りを踊る老人の姿を幻視したが気にしない
ことにした。

「防衛会議では楽観的なお偉方が多くて、こっちは大変だよ。
 あの長官は人望は厚いし、決断力もあるが……政治力については心もとないからな〜」
「そこをサポートするのが参謀、いえ参謀長の仕事でしょうに」
「ふん。体のいい、厄介ごと処理だ。全く、どいつもこいつも文句ばかり言いやがって。まぁここで不満を言っても
 仕方ない」
  
 そう言って彼は気分を切り替える。

(取りあえず目の前のガトランティス戦役を乗り越えることに全力を注ぐことにする。これを乗り切ればまだ
 華々しく活躍できる機会はあるはずだ)

 彼は諦めが悪かった。

733earth:2011/09/07(水) 23:22:30
「経済状況は? 防衛艦隊を強化するには、経済の再建が必要不可欠だ」
 
 参謀長の質問に、連邦政府高官となった元日本政府高官が答える。

「各州の再建は急ピッチで進んでいる。また防衛軍再建にも意欲的だ。おかげで次の防衛艦隊整備計画も予算が確保できる
 見込みだ。しかし……」
「その代わりに、横槍も煩いと?」
「ああ。まぁ何とか押さえているが……やはり外圧であるガミラスが消えたことは大きいな。ボラー連邦のような国家が
 あることが判れば、危機感を煽れるし、防衛軍強化ももっとスムーズにいくだろう」

 次の週、防衛会議では防衛軍長官の藤堂と参謀長から太陽系外の星域の探索が提案された。

「我々は太陽系外の情報は無知に等しい。もしもガミラス、いやそれ以上の敵対勢力が居たら目も当てられない」
「ガミラス帝国の残存艦がゲリラ攻撃を仕掛けてくるとしたら太陽系外に基地を作る可能性が高いでしょう」
「万が一に備えて、地球外で移民できる惑星を探索させるべきです。出来なくとも新たな資源を発見できれば大きな利益になる」
「備えあれば憂い無しとも言う。危機管理の重要性はガミラス戦役のことからお分かりでしょう?」

 参謀長はそう言って出席者を説得した。太陽系の開発こそ最重要と考える人間も少なくなかったが、ガミラス戦役の恐怖を
逆手にとって参謀長は説得した。何しろガミラスは本星こそ壊滅したものの残存戦力は侮れない。
 また全く未知の敵対勢力がいる可能性も否定できず、藤堂の強い要望と事前の参謀長の根回しもあって防衛会議は太陽系外の
探索を承認した。この任務にはガミラス戦役の武勲艦であり、長距離航海が可能なヤマトが当てられることになった。
 ちなみに艦長には暴走の危険がある古代進ではなく、完結編では地球艦隊司令官を務めていた男が就任することになった。

734earth:2011/09/07(水) 23:23:01
「栄転おめでとう」

 参謀長は軽い嫉妬交じりでそういったが、本人(勿論転生者)は激怒した。

「お前は俺を殺すつもりか?! ヤマトの艦長なら古代兄にでもやらせればいいだろう! PS版じゃ大活躍じゃないか!」
「彼には別の任務がある。それにヤマトはTV版のように改装して出撃させるぞ。旧式化はそこまで気にしなくても」
「違う。ヤマト艦長そのものが死亡フラグじゃないか。歴代ヤマト艦長は、古代弟を除いて殆ど死んでいるんだぞ!」

 劇場版を含めるとヤマトの艦長というのは死亡率が高い。第一艦橋が被弾しない代わりの人柱ではないかと思えるくらいだ。
死ななくても大怪我する可能性が非常に高いポストと言えるだろう。まぁ第三艦橋勤務に比べれば遥かにマシと言えるが……。

「くそ、俺にも主人公補正があれば!」
「そんなものは名無しキャラにあるわけないだろう。ああ、それと間違えるなよ。爆雷波動砲はまだ無いからな」
「言っておくが、あれは『拡大』波動砲だ。聞きづらいが……」
「そうか……しかし普通の波動砲と何が違ったんだ?」
「知らん。あっという間に全滅したからな、地球艦隊。完結編の戦艦は結構好きだったんだが」

 何はともあれヤマトは再び地球から飛び立つことになる。

735earth:2011/09/07(水) 23:24:42
あとがき
参謀は参謀長に進化しました(爆)。
ますます前線が遠のいていき、デスクワーカー一直線です。
このままだと後世では調整型軍人として名を馳せるでしょう。本人には不本意ですが。
次回でヤマト発進です。

736earth:2011/09/07(水) 23:29:31
すいません。調整型軍人ではなく、『軍政家』です。

737earth:2011/09/08(木) 20:59:04
第9話投下です。

『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第9話

 原作同様に改装され戦闘力を大幅に強化されたヤマトは、未知の世界である銀河系中央を目指して飛び立った。
 と言っても艦長は最初から目的地や状況を知っていたが……。 

「バース星か」

 ヤマトの艦長室でヤマト艦長となった男は原作を振り返る。

「バース星はボラー連邦の保護国となっていたな。まぁラム艦長のように、バース星人も軍人として起用されていたから
 奴隷化まではされていないようだが……」

 ガミラス帝国やガトランティス帝国は人類の奴隷化か絶滅を突きつけたし、ディンギル帝国は人類殲滅、デザリウム帝国は人類の
肉体を手に入れようとしていた。この四ヶ国については交渉の余地がない。

「まぁ新興国家だから舐められるのは間違いないだろうが……ガミラスを打ち破ったという実績を強調すれば、何とか
 なるやも知れん。しかし相手はあの気難しい独裁者だ。少しでも機嫌を損なえば大変なことになる。全く面倒な仕事だ。
 まぁ古代弟は、兄と沖田艦長が生きているおかげで、少しは気性が穏やかだ。私が気をつけていればあの首相と口論する
 ようなことはないだろう」
 
 そういった後、彼は艦長室を後にした。
 何しろヤマトは改装を受けたものの、その後の訓練は十分とは言えないのだ。
 不測の事態に備えて、練度を高める努力は必要だった。

「私が人柱にされないためにも頑張らなければ」

 ヤマト艦長という死亡フラグを押し付けられた男は割を必死だった。

738earth:2011/09/08(木) 20:59:34
 一方、地球防衛軍はアンドロメダ、ネメシスを完成させた。2隻はただちに訓練に取り掛かる。またアンドロメダ級の
3番艦以降の建造も進められている。
 また航空戦艦(転生者の間では機動戦艦と呼称)であるムサシの建造も進められていた。ヤマトに比べて太くなった
艦体を利用して60機もの艦載機を搭載できる。また飛行甲板が広いこともありヤマトよりも余裕を持った運用が可能
となっている。
 武装もほぼヤマトに準じるものであり46センチショックカノン砲こそ前部2基6門に減じたが、パルスレーザーは
針鼠のように搭載されている。さらにアンドロメダ級と同様にダメコン要員として簡易量産型アナライザーが多数搭載
されており、ヤマトに迫る防御力を持っている。ちなみにヤマトでは何故か第一艦橋の上にあった艦長室は撤去され
変わりにレーダーやセンサーなどの索敵用の機材が詰め込まれた。
 総合的な能力ではヤマトを超えるのではないかとさえ、関係者の間では囁かれていた。

「あとは長距離航海任務に適した巡洋艦が建造できれば完璧なのだが」

 ドックでムサシを見上げて参謀長はため息をつく。
 地球防衛軍はこの時点では沿岸海軍に過ぎない。
 またイスカンダルまでの航海で波動砲が活躍したこと、また拡散波動砲が実用化できたことで防衛軍の戦術は波動砲
に依存している。おかげでやたらと波動砲を艦に搭載したがる風潮があった。

「空間磁力メッキと同様の技術を敵が持っていた場合に備えて、航空戦、砲雷撃戦の研究、それに新たな対艦、対空兵器の
 開発が急務だな。他の新兵器も開発を急がなければ」

 波動カードリッジ弾、コスモ三式弾の開発は急ピッチで進められていた。 
 ガトランティス帝国戦までには何とか間に合う見込みだ。だがそれでもガトランティス艦隊とは絶望的な差がある。

「前衛艦隊に勝てても、次は都市帝国、それに巨大戦艦が相手。些か荷が重い。
 やはり……可能ならばボラー連邦を、ガトランティス戦役に引きずり込むのが望ましい」
 
 戦術で勝つための算段をしつつも、参謀長は戦略で状況の打開を目論む。

「だが……太陽系に来る、無礼な客人を歓待する用意もしないとな。我々のホームに入り込んでただで帰れると思うなよ」

739earth:2011/09/08(木) 21:00:04
 太陽系に侵入して防衛軍の撹乱を行うであろうナスカ艦隊の早期の捕捉と撃滅は必須だった。
足元の安全なくして決戦はない。

「それにしても金星基地を叩かれただけで、エネルギーが全ストップはないな」 

 原作で金星基地を叩かれただけで、あっさり機能が停止した地球の体制のもろさを思い出して参謀長は頭痛を覚えた。
 勿論、この世界では万が一に備えてバックアップを取っているし、地下都市に臨時のエネルギー供給施設もセットして
いる。仮に地上の施設が爆撃されても何とかなる。

「まぁ金星基地襲撃を防げれば言うまでも無い。コスモタイガーⅡの早期警戒機仕様を配備しておこう」

 コスモタイガーⅡの早期警戒機の生産は急ピッチで進んでいる。
 有利に戦うには、まずは先に相手を見つけなければならない。これはこれまでの戦訓から明らかであり、反対はなかった。
また地球側に余裕があることもこのような装備の充実を可能にした。
 参謀長としては11番惑星にも艦隊をおきたかったのだが、さすがに人員と予算の面から無理だった。しかしそれでも
定期的にパトロール艦が派遣され周辺を警戒するようにし、非常時に備えて偵察衛星、通信衛星も多数設置している。
 
「参謀長は心配性ですな」

 防衛軍司令部ではそう囁かれるほどなのだから、どれほど力を入れているか分る。

「当面やることだけでも太陽系防衛体制の強化、テレサの通信の傍受の準備、ボラー連邦との交渉の用意、他にも色々と全く
 地味な仕事ばかり増える」

 彼の地味な仕事(重要度は高い)に終わりが来るのかは、誰にも分らなかった。

740earth:2011/09/08(木) 21:02:03
あとがき
というわけで第9話でした。
次回、ボラーとの接触の予定です。
ガトランティスも迫ってくるので参謀長も大変になるでしょう。
地味な仕事で(笑)。

741earth:2011/09/09(金) 23:07:14
第10話です。少し展開が速すぎたかも(汗)。


『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第10話

 紆余曲折の末、ヤマトは取りあえずバース星にたどり着いた。
 途中でトラブルで遭難していたボラー連邦船籍の輸送船のクルーを保護していたこと、そしてボラー連邦の警備隊の
攻撃に反撃せずに通信を呼びかけ続けたことで、ある程度信用され、ヤマトは総督府から寄港の許可を得た。
 ヤマトクルーは新たな宇宙人(それも人型)との遭遇や人が住める惑星の発見から、少しテンションを上げていた
ものの彼らの上司である艦長は気が気でなかった。

「さて、いよいよか」

 ヤマト艦長は己を奮い立たせる。ファーストコンタクトは何とかなったが、相手はソ連みたいな国なのだ。
油断などできるはずがない。

「蛇が出るか、鬼が出るか」

 艦長がそう覚悟した後、輸送船のクルーを助けてくれたことへの感謝の印として総督府での会食へ招待された。
最初、艦長は古代のみを連れていくつもりだったのだが、古代の提案で第一艦橋のメンバーや佐渡先生まで連れて
行く破目になった。所詮、名無しキャラでは主人公の押しには勝てなかった。

「これが補正とでも言うのか……それとも歴史の修正力とでも言うのか?」

 嘆息しつつも、艦長は彼らを連れて総督府に赴いた。勿論、不用意な発言は慎むように厳命していたが。 
 バース星総督府の会食でヤマトクルーはボラー連邦についての説明やバース星が保護国になった経緯について
説明を受ける。

「ようするに侵略したってことじゃ?」
「胡散臭くないか?」

 非常に小さな声でであったもののヤマトクルーの発言に顔を引きつらせそうになる艦長。彼らの発言が聞こえて
いたらと思うと気が気でない。

(こ、この連中は……そういえば原作でも命令無視はよくあったよな……はぁ〜原作で防衛軍首脳がヤマトクルーを
 厄介者扱いした理由が判るよ)

 だが何とか場の空気を悪くすること無く、会食は終った。

742earth:2011/09/09(金) 23:08:23
「次に想定されるのは、囚人による襲撃だな」

 原作の設定どおり強制収容所がある場合は、囚人達による襲撃が予想される。警戒は必要だった。 
原作との乖離によって、相手が持っているのが衝撃銃だけとは断言できない。ここで下手にヤマトクルーを死傷
させるとガトランティス戦役に支障が出る可能性がある。

「戦闘班、及び空間騎兵隊は警戒体制をとれ」

 ヤマトには万が一に備えて空間騎兵隊も同乗していた。勿論、斉藤はいないが、陸戦になっても十分に戦える
ようになっている。 

「ここで囚人達の暴挙を口実にすれば、交渉の糸口になるか?」

 そして予想通りやってきた囚人達は、古代率いる戦闘班と空間騎兵隊の攻撃によって成す術も無く撃滅される
ことになる。何しろ相手は衝撃銃、こちらはコスモガンやレーザー自動突撃銃なのだ。勝負にならない。さらに
陸戦のプロである空間騎兵隊さえ居る。大人と子供の喧嘩だ。

「彼らは一体、何だったんでしょうか?」

 古代はそう疑問を呈する。勿論、艦長は知っていたが教えるわけにはいかない。

「装備や練度からして正規軍ではない。だとすれば犯罪者か、テロリストだろう。どちらにせよ、軍服を着用せずに
 戦闘行為をした以上、テロリストとして処分するしかない。生き残った者は尋問する。準備をしておけ」
「は!」

 生き残った囚人の尋問の最中に、ボラー連邦軍バース星警備隊隊長であるレバノスが訪れて謝罪した。またその後に
刑務所(本当は強制収容所)からの脱走者の引渡しを要請した。
 勿論、艦長は断ることは無かったが、囚人達による被害について話し合いをしたいと伝える。レバノスは少し逡巡した後
頷いて艦を後にした。

「何とか交渉の取っ掛かりになれば良いが。ああ、それにしても頭と胃が痛い……全く、何でこんな面倒なことを」

 この不幸な艦長は不平不満を漏らしつつ、自室で薬を飲んで暫く休んだ。

743earth:2011/09/09(金) 23:09:10
 だがヤマトからの報告を受けた地球連邦政府は休むどころではなくなっていた。何しろ銀河系の半分を支配する
広大な星間国家が居ることが明らかになったのだ。
 ガミラスが居なくなったことで気を緩めていた政治家や防衛軍高官は無様なまでに慌てふためいた。一部の
高官は「ヤマトを超える戦艦を持っているのだから恐れる必要は無い」と主張したが、防衛軍司令部の会議の席で
参謀長はそんな意見を切って捨てる。

「相手がガミラスより強大であったらどうする? それにガミラスは多方面に戦線を抱えていた。だが彼らには
 それが無いのだ。地球より優勢な生産力を背景にして、大量の物量で押し寄せられたら大変なことになる」
「では、手が無いとでも?!」
「ないことはない。そのためのアンドロメダ級の大量建造だ。それに太陽系の防衛計画の策定も進めてある」

 参謀長は万が一に備えて(実際はガトランティス戦役に備えて)、土星空域での決戦を考慮した防衛計画を
策定していた。これがあればガトランティス艦隊が攻め込んできても、土方が独断で戦力を土星に集めなくても
済む。

「しかし敵を攻め滅ぼすのは難しい。何しろ、こちらは太陽系周辺での戦いを想定しているのだ」
「ですが敵を撃退しつづければ」
「防戦一方となると息切れする可能性があるぞ。それに再度の総力戦は地球経済にも悪影響を与える。
 こちらにできるのは、地球は簡単に滅ぼせるような勢力ではないことを向こうに示し、相手が戦争しようとする気を
 なくすことだろう。幸い、ガミラスに勝ったという実績もある」

 実際には言った以上のことを考えていたのだが、それは口に出来ない。

(さすがに、いきなり彼らと同盟を組むとか、最悪の場合は傘下に入るとは言えんからな〜)

 そんな参謀長の考えを知ることなく、藤堂は深く頷いた。
 
「参謀長の言うことは最もだ。今の地球は戦争よりも復興と成長が必要だ。
 万が一の事態に備える必要はあるが、最初から喧嘩腰になるのは拙い。しかし必要以上に弱腰になることもない」
 
 藤堂の言葉に不満そうな人間も黙り込む。それは参謀長にないカリスマのなせる業だった。

744earth:2011/09/09(金) 23:10:01
 こうした地球防衛軍の姿勢から連邦政府も次第に落ち着きを取り戻す。
 一部の高官はガミラス戦役の悲劇を繰り返さないために不可侵条約のような条約を結べないかとさえ主張する。

「戦争にならないように、交流を深める必要はあるだろう」
「相手が格上の存在として交渉するしかあるまい。幸い、ガミラスのように『絶滅か、奴隷化か』を要求して
 きているわけでもない。多少は話が出来るだろう」
「それに広大な星間国家と交流ができれば外需が見込めます。いきなり大規模な貿易はできないでしょうが、我が国の
 産業を強化した上で交流を重ねれば……」
 
 大統領を含めた連邦政府の高官たちは、大統領府でボラー連邦に関する情報の収集を行う事、そして国交を開く
準備をすることを決定する。
 だがその後、一人の軍人についての話題になる。

「しかしあの男、やりますな」
「ああ。彼が言ったように探査計画をしていなかったら、あのような国家があることなど分らなかった。
 アンドロメダ級戦艦を建造しただけで宇宙の守護者を気取っていた自分が恥かしい」
「こうなると、ボラー連邦以外にも広大な星間国家がある可能性は否定できませんな。参謀長が進めていた
 太陽系防衛計画が役に立ちそうです」
「何にせよ、恐るべき先見性だな。政治家の能力もある。防衛軍の参謀長に留めておくのは勿体無いかも知れん」

 参謀長が前線で華々しく活躍する日は、また遠くなりそうだった。

745earth:2011/09/09(金) 23:12:07
あとがき
と言うわけでボラー連邦との接触でした。
もうそろそろムサシも完成する予定です。
ヤマトも早めに帰らないと拙いかな……それでは。

746earth:2011/09/10(土) 09:45:03
第11話です。

 『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第11話

 ボラー連邦のべムラーゼ首相は、首相官邸でバース星に収容されているシャラバート信者の囚人達が蜂起したこと、
そして彼らが地球連邦という新興国家の戦艦を襲撃したという報告に激怒した。

「即刻、囚人達を処刑せよ!」

 宇宙の神を自称するべムラーゼからすれば、シャラバート信者の蜂起というだけでも気に食わない。
 それに加え彼らが他国の戦艦を、それも自国の国民を救助してきた船を襲撃したことでボラー連邦の面子を傷つけたとの
事実は怒りを煽るのに十分だった。新興国家の戦艦『ヤマト』は被害について苦情を言っている。

「弱小の新興国家の分際で、偉そうに」

 べムラーゼは不機嫌そうな顔をするが、さすがに無視はできなかった。そんな彼に側近が自身の意見を述べる。

「閣下、彼らはこの事件を口実にして連邦との交渉の糸口にするつもりかも知れません」
「ほう? このボラーと対等に口を利こうというのか?」
「彼らは銀河系辺境で発達した文明圏に属しています。我々のことを詳しく知らないのでしょう。口頭で説明しても
 完全に信じるのは無理かと。また未確認情報ですが、彼らは『あの』ガミラスに勝った国家とのことです」
「ほう?」

 ガミラスが敗れたという情報はボラーにも届いていた。

「信じられんな。だがそれが事実だというなら……利用する価値はありそうだな」
「はい。オリオン、ペルセウス腕への進出の口実にもなります」
「バース総督府に、丁重に扱えと伝えておけ。それと……特使と艦隊を派遣する用意を進めよ。我がボラーの偉大さを
 地球人に見せ付けるのだ」

 べムラーゼは戦争をするつもりはなかったが、新興国家に舐められるつもりはなかった。

747earth:2011/09/10(土) 09:45:34
 ヤマト艦長はバース総督府と交渉の末、相応の補償を得た。また同時に交渉の取っ掛かりを得た。
 ヤマトがやったような人命救助に関する話や船の寄港に関する話し合いに持っていくことに成功したのだ。
最終的に外交官の仕事になるものの、ヤマト艦長の功績は大きいと言える。

「さっさと帰るぞ」

 交渉でクタクタになった艦長は、用事が済んだとばかりに地球への帰途につくことにした。
 だがこの際、ボラー連邦はバース星艦隊と特使も同行したいと申し込む。

「べムラーゼ首相も地球との友好関係の構築を望んでおられるのです」

 バース星総督の言葉に、艦長は独断で判断できないとして連邦政府の指示を仰いだ。 
 勿論、この話を聞いた連邦政府は困惑した。何しろ無碍に断れないが、まだ友好的とは決まったわけではない
勢力を地球本星にまで招くわけにはいかない。
 
「外惑星のどこかで会談できないだろうか?」

 大統領の意見は安全保障上当然だった。
 防衛軍首脳部も太陽系防衛の要であり、最終防衛線と考えている土星、そしてそれより内に招くのは危険が大きい
と判断した。その結果、天王星での会談を打診することが決定される。
 また会談の護衛のために天王星の第5艦隊に加え太陽系外縁を受け持つ第1艦隊、空母部隊が護衛に付き、万が一の
事態が起きた場合、すぐに応援にいけるように土星基地には他の艦隊から抽出された艦から構成される部隊が集結する
ことになる。

「確か西洋占星術では、あの星は支配星。確か意味の中には『変化』もあったな……可能な限り地球にとって
 好ましい変化にしたいものだ」

 参謀長は防衛軍司令部で、天王星で地球とボラーの特使が会談をするという決定を聞き、そう呟くと
すぐに書類に目を向ける。

「あとは……ムサシ。この機動戦艦を戦力化せねば」

 古代守を艦長に頂く新型戦艦の完成は目の前だった。

748earth:2011/09/10(土) 09:46:07
 こうして地球防衛軍が歓待の準備を進めている頃、参謀長達転生者にとって目下最大の敵であるガトランティス帝国軍は
太陽系外縁で活動を活発化させていた。
 地球侵攻の尖兵であるナスカ艦隊は積極的に周辺の探索を進めていた。

「ナスカ司令、件の戦艦『ヤマト』がどこにいるか分りました」

 高速中型空母『エウレカ』の艦橋で報告を受けたナスカは副官に顔を向けて尋ねる。

「どこだ?」
「銀河系中心方向から地球に向かっています。ですが、我が国が知らない勢力の艦隊が同行しているとのことです」
「何だと?」

 この予期せぬ報告は直ちに都市帝国に居る大帝ズォーダーに知らされる。
 参謀長であるサーベラーは予期せぬ報告に眉を顰めるが、ズォーダーは余裕綽々だった。

「構うことはない。征服の楽しみが増えたではないか」
 
 ヤマトやそれを超える戦艦を多数保有する地球。そして地球とは異なる別の星間国家。
 アンドロメダ星雲を征服したズォーダーからすれば相手に不足は無かった。
 こうしてガトランティス帝国はボラー連邦さえ敵にして地球侵攻と銀河の征服を行うべく動き出した。

『では手始めに、奴らの実力を量るためにヤマト、そして同行する艦隊に攻撃を仕掛けます』

 この後、ナスカ艦隊はヤマトとボラー連邦艦隊に対して攻撃を開始する。
 それは大規模な星間戦争の開幕を意味するものでもあった。

749earth:2011/09/10(土) 09:47:27
あとがき
というわけでもうそろそろ開戦です。
べムラーゼの性格上、ズォーダーとは相容れないでしょうし、面子を
傷つけられたボラーも積極的に動くでしょう。
それでは。

750earth:2011/09/10(土) 21:20:04
第12話投下です。


『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第12話


 ヤマト艦長はガトランティス帝国軍による襲撃を警戒して、コスモタイガーⅡで常に艦隊周辺の索敵を行っていた。

(原作どおりなら、もうそろそろ奴らが仕掛けてきてもおかしくない。警戒は必要だ。
 不意打ちを喰らってお陀仏という事態だけは避けなければ……)

 ヤマトの艦長に就任するのは死亡フラグ①。そのことを理解しているが故に艦長は慎重だった。 
 片や、ヤマトクルーは艦長の気合の入れぶりに違和感を感じていた。
 特にそれを感じていた古代は食堂で真田に話しかけた。 

「真田さん、艦長は何者かによる襲撃を警戒しているんでしょうか?」
「総督府や囚人達の情報からボラー連邦は戦争はしていないし、対抗する国家もない。だとすればガミラス残党だろう」
「ガミラスですか」
「ああ。これから国交を結ぼうとする相手の国の特使を襲われたら大変だ」
「……あんな国と国交を結ぶことになるんでしょうか」 

 バース星で捕まえた囚人から得た情報は古代たちにとっては衝撃的なものだった。
 特に青臭いところがある古代にとっては、ボラーの政治体制は危険なものに見えた。

「だからといって喧嘩するわけにもいかない。まだ、ガミラスのように喧嘩を吹っかけてきているわけじゃない」
「……」

 原作の古代なら過激な行動にでるところだったが、兄と沖田艦長が生きていることが、そんな行動を抑止していた。 
 
「今は特使を太陽系に送り届けることに集中しようぜ、古代」

 近くで話を聞いていた島が、そう纏めるように言うと、古代は頷いた。

「そうだな」

 だがその直後、周辺を警戒していたコスモタイガーⅡが謎の飛行物体から攻撃を受けたとの情報が入り
ヤマトは戦闘配置が敷かれることになる。

751earth:2011/09/10(土) 21:20:36
 ヤマトとボラー連邦艦隊が攻撃を受けたとの報告は直ちに地球防衛軍司令部にも伝えられた。

「状況は?!」

 参謀長は問いにスタッフは慌てて答える。

「はい。本日、地球時間1210に謎の飛行物体から攻撃を受けました。コスモタイガー隊が応戦中とのことですが
 数が多く対処しきれないと。ボラー艦隊からも戦闘機が緊急発進しましたが……」

 参謀長はすぐに藤堂長官に顔を向けた。 

「長官」
「分っている。太陽系外惑星艦隊で動ける部隊を直ちに向かわせてくれ。それと太陽系の各艦隊に警戒態勢を」
「了解しました」

 地球防衛軍は全部隊を直ちに警戒態勢に移行させた。参謀長達の事前の準備もあり、その移行は非常にスムーズであった。

「新たな敵が現れるかも知れんな」
「長官、幸いムサシの就役も間近です。長距離航海ができ、多数の艦載機を搭載できるムサシがあれば、太陽系外の調査も
 スムーズにいくでしょう」
「ふむ(さすが参謀長だ。やはり彼には司令部で頑張ってもらわないと)」

 自分がどのように思われているかなど露も知らず、参謀長は今後のことを考える。 
 
(ガトランティスが仕掛けてきた、ということだろう。だとすればボラーは自動的にこちら側につくことになる。
 あの気難しい首相閣下が大人しく引き下がるわけがないからな。ボラーの空母部隊が来てくれれば非常に助かる。
 盾代わりにはなるだろうし)
  
 参謀長は自分の目論見が成功しつつあると見て内心でほくそ笑む。
 
(さて後は……生きて帰って来いよ、艦長)

 だが参謀長がそう願っているころ、ヤマトは激戦の中にあった。

752earth:2011/09/10(土) 21:21:34
「敵機、3時の方向から接近!」

 森雪の報告を受けて艦長は迎撃を命じる。

「パルスレーザー、撃ち方開始! ボラー艦隊は?!」
「迎撃機を出しています。ですが劣勢のようです」
「くっ」  

 ボラー連邦艦隊やバース星艦隊からも迎撃機が出ているが、状況は良いとは言えなかった。 
 何しろボラー連邦軍は実戦経験に乏しい。加えて平和が長く続いたせいで、将兵も弛緩している。訓練こそ積んでいた
ものの練度では防衛軍よりも劣る。まして……。

(ラジェンドラ号を除けば名無しキャラで、ダンボール装甲。これでは……)

 ミサイル数発で次々に轟沈するであろうボラー連邦の軍艦の姿を幻視して艦長は焦った。
 コスモタイガー隊は必死に防戦しているものの、すでに少なくない数の攻撃機がボラー艦隊にも攻撃を仕掛けている。
 ヤマトにも先ほどから何機もの攻撃機が取り付いて攻撃を浴びせている。ヤマトは過剰と思えるほど搭載した対空用の
パルスレーザーで攻撃機とミサイルを叩き落し、残ったミサイルも島の神業的操縦で回避していた。
 だがボラー艦隊に同じ真似はできなかった。いや、ヤマトを比較にするのは間違いなのだが、それでも彼らの機動は
防衛軍の通常部隊と比べてもお粗末だった。

(回避運動が遅い! 何をやっている!)

 火力で支援しようにも、艦隊周辺は混戦状態。下手に撃ったら同士討ちになる。原作では味方に当ることはなかったが
この状況ではボラー連邦軍の艦載機に当る可能性が高かった。

「……古代、コスモタイガー隊の3分の2をボラー軍の支援に当ててくれ」
『ですが』

 この直後、遂にボラー連邦軍の戦艦1隻、駆逐艦1隻が多数のミサイル攻撃を受けて轟沈する。

「(やはりダンボール装甲だな)命令だ。このヤマトは簡単には沈まん」
『了解』

 古代のコスモゼロを含めてヤマト艦載機の3分の2がボラー艦隊の支援に向かう。

753earth:2011/09/10(土) 21:22:11
 これによってボラー連邦軍の被害は軽減される。しかし同時にそれはヤマトが被弾する危険性が増すことを意味していた。 
 実際、コスモタイガーが離れた後、5発ものミサイルがヤマトに命中。うち1発が第三艦橋に被害を与える。

「技術班は修理を急げ! 防衛軍司令部からの返答は?!」
「応援を派遣したとの事です!」

 相原の言葉に、艦長は頷くとクルーを鼓舞する。

「そうか。諸君、もう暫くの辛抱だ。ここを凌げれば反撃に出れる!」

 一方、司令官ナスカは相手の防空能力を量ることが出来たとして艦上機による攻撃を停止し、続けて戦艦4隻と駆逐艦8隻を
差し向け砲撃戦を行おうとしていた。

「ヤマトはデスラーの言ったとおり手強い。だが、あの艦隊は大したことはないな」
「はい。どうやら銀河系制覇の最大の障害は地球になりそうです。それと通信傍受の結果、あの艦隊はボラー連邦と言う
 国の艦隊であることが判りました」
「ふむ。大帝へのよい土産になりそうだ」

 こうしてヤマトにとって久しぶりの砲撃戦が始まる。

754earth:2011/09/10(土) 21:26:07
あとがき
ボラー連邦軍ボロボロ。ヤマトも相応に被害を受けます。
これだと太陽系についてもボラーは大きな態度はできないかも。
まぁそれ以前に首相閣下がお怒りでしょう。恥の上塗りだし。
次回、砲撃戦の予定です。

何故か、こちらのほうがサクサク進むのは何故だろうか?
あと申し訳ございませんが、憂鬱本編は少し遅れるかも知れません。
リアルで色々と精神的に来ることが多かったので……胃が痛い。

755earth:2011/09/10(土) 21:37:36
あと、『嗚呼、我ら地球防衛軍』を纏めてHTML化してHPのほうに
掲載しようと思うのですが、どうでしょうか?

756名無しさん:2011/09/10(土) 23:28:32
未来人の多元世界見聞録も一緒にお願い

757earth:2011/09/11(日) 10:32:31
第13話です。


 『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第13話

 ナスカ艦隊による航空攻撃でボロボロになったボラー連邦艦隊は艦隊の立て直しに懸命だった。
 喪失艦は戦艦1、駆逐艦1のみであったが戦艦1隻、戦闘空母1隻、駆逐艦3隻が大破(後に自沈処分)、他の艦も軒並み
被害を受け、無傷の艦は皆無。また艦載機の消耗も少なくない。このため立て直しは難航した。 

「壊滅ではないか!」

 旗艦である空母の艦橋でボラー連邦艦隊司令官は呻くが、実際にその通りだった。

「恥の上塗りどころではないぞ……」

 ヤマトが居なかったらボラー艦隊は全滅していたかも知れなかった。この失態を知られたら彼は破滅だった。  
あの冷酷な独裁者であるべムラーゼが、このような失態を犯した人間を生かしておくはずが無いからだ。

「くそ。何としても報復しなければならない。偵察機を出して何としても犯人を見つけ出すのだ!」

 身の破滅を避けるには、何としても落とし前をつける必要がある。そのため司令官はそう厳命した。
 だがそれにレジェンドラ号のラム艦長が反発する。

『今は艦隊の立て直しを優先するべきです。また沈んだ艦の乗組員の救助も』
「放っておけ! 今は反撃が先だ!! これはボラー連邦軍司令官としての命令だ! それともバース星軍人の君は
 私の決定に従えないと?」

 司令官はラム艦長の反対を押し切るどころか、立場を利用して脅した。
 ボラー連邦の保護国であるバース星の軍人であるラム艦長に逆らう真似は出来なかった。

『了解しました』
「では頼むぞ」

 しかしその直後、下手人であるガトランティス艦隊が姿を現すことになる。

758earth:2011/09/11(日) 10:33:14
 ヤマトのメインスクリーンに12隻の艦隊が映し出される。

「敵艦接近。距離10.5宇宙キロ!」

 森雪の報告を受けて艦長は頷くと攻撃を命じた。

「砲雷撃戦用意。目標、前方の敵艦隊。敵大型艦を先に叩く」
「了解! 主砲発射用意。ターゲットスコープオープン!」
 
 古代の指示は直ちに第1砲塔、第2砲塔に飛ぶ。
 そして南部が詳細な指示を出す。

「方位−5度、上下角+3度」

 この指示をもとに主砲が旋回し、砲身が持ち上がる。  
 さらに敵艦隊が10宇宙キロにまで近づくと、細かい微修正が行われる。だがこの光景を見ていた艦長は心のうちで
呟く。
   
(大和の本来の運用方法がベースになっているというべきか……普通はマニュアルよりも機械にやらせたほうが
 間違いが無いんだが……いや職人芸は未だにコンピュータを凌駕することもあると考えたほうが良いのだろう)

 そんなことを考えている内に、照準のセットが終る。 

「発射!」

 古代がそう言った直後、第1砲塔、第2砲塔が斉射した。46センチショックカノン砲から放たれたエネルギーは
寸分違わずガトランティス帝国軍の戦艦に命中し、目標を轟沈させた。

「一撃か……(やはりダンボール装甲だな。いやこちらの攻撃力が高すぎるだけか?)」
「続いて発射用意」

 艦長の内心など露知らず、古代は攻撃を続ける。
 ガトランティス艦隊も回転速射砲で応戦するが、こちらには当ることはなかった。逆にヤマトの反撃を呼び
次々に撃破されていく。

759earth:2011/09/11(日) 10:33:49
 ガトランティス軍は駆逐艦で接近戦を仕掛けようとするが、すでに3隻の戦艦が撃沈されており、勝ち目がない
のは明らかだった。
 一方のボラー連邦軍は未だにガトランティス軍を射程に捉えておらず、ヤマトの長距離砲(衝撃砲)の攻撃に
唖然となるだけだった。 
 
「凄まじい……」

 ラム艦長はこの長距離にも関わらず、敵を余裕で撃破するヤマトの姿を見て衝撃を受けた。
 これほどの高火力を持ち、高い防御力と多数の艦載機を搭載する戦艦はボラーでもあまり見たことがないのだ。

「彼らのような国と早めに友誼を結べば、バースもあのようなことにならなくて済んだんだろうか……」

 そんなラム艦長の呟きを他所に、ガトランティス艦隊は足早に撤退していく。
 さすがのナスカもこれ以上の被害は耐えられなかった。

「ヤマトは確かに恐るべき敵だ」

 瞬く間に大戦艦3隻を沈められたナスカは、改めてヤマト、そして地球防衛軍を難敵と見做した。

「だが、あのボラー連邦軍は大したことはない。我が軍は全力で地球攻略を行うべきだろう」

 ナスカの意見はこの場のガトランティス軍人の共通認識であった。

「これ以上の長居は無用だ。引き上げる!」

 しかし、地球防衛軍は敵を見逃してやるほど慈悲深くなかった。
 
「敵機接近!!」
「何?!」

 救援のために派遣された地球艦隊から発進したコスモタイガーⅡが彼らを発見したのだ。

760earth:2011/09/11(日) 10:34:24
「あれが下手人か!」

 地球艦隊司令官はコスモタイガーⅡから届けられた映像を見て立ち上がった。

「攻撃隊発進! 金剛と榛名は全速で接近し砲撃戦に持ち込む!!」

 このときいち早く到着したのは主力戦艦『金剛』『榛名』と戦闘空母『サラトガ』『レキシントン』、巡洋艦2隻、駆逐艦8隻から
なる艦隊だ。ヤマトとの戦闘で消耗していたナスカ艦隊からすれば死神に等しい陣容だった。 

「だ、脱出だ! 急げ!!」

 慌てて脱出しようとするナスカだったが、早期警戒機仕様のコスモタイガーⅡまでがナスカ艦隊周辺をうろつくようになると
どうやっても逃れることができなくなった。
 さらに敵艦隊発見の報告はヤマトにも齎される。

「反撃の時だ!」

 加藤の言葉にヤマトのコスモタイガー隊も士気を上げる。

「いくぞ!!」

 こうしてナスカ艦隊は哀れにも(自業自得とも言えるが)防衛軍艦隊とヤマトから発進した攻撃隊によって袋叩きにあうことになる。
 戦艦は1隻残らず沈没。ナスカが乗る高速空母エウレカは沈没こそ免れたものの、ミサイル攻撃で速度が半減。護衛の駆逐艦も満身創痍
という状況になる。

「くっ……た、大帝に何と言ってお詫びをすれば良いのだ」

 だが彼が言い訳を考える必要はなかった。このあと全速で急行してきた金剛と榛名のショックカノン砲によって彼の乗るエウレカは
集中砲撃を受け轟沈したかだ。
 かくして太陽系外縁部で行われた会戦は地球防衛軍の勝利で終ることになった。
 だがそれは同時に、新たな敵が現れたことを克明に示していた。地球連邦に残っていた楽観論は完全に一掃され、地球は新たな脅威に
備えて軍拡を進めることになる。

761earth:2011/09/11(日) 10:36:36
あとがき
地球防衛軍大勝利です。
ナスカ艦隊は金星基地を攻撃する前に壊滅してしまいました。
ボラー連邦軍は……いいところがなかったですが、まぁ本気を出せば
何とかなるでしょう。彼らの地力は地球を遥かに超えますし。

あとHTML化を進めることにしました。
元ネタSSの拙作ですが楽しんでいただけているようで幸いです。

762earth:2011/09/11(日) 22:46:09
第14話です。


 『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第14話

 満身創痍とも言うべきボラー連邦艦隊は、地球防衛艦隊の護衛の下、太陽系に到着した。
 当初は強硬な姿勢を貫こうと考えていたボラー連邦特使であったがガトランティス帝国軍によって一方的に味方艦隊が叩かれた上に
ヤマトの圧倒的戦闘力を見せ付けられたことから、強硬な姿勢など取れるわけが無かった。
 天王星軌道で開かれた会談の席(会場は地球側が用意した豪華客船)でボラー連邦の特使は、防衛艦隊の健闘を褒め称えた。

「地球は素晴らしい戦艦や軍人をお持ちのようだ。羨ましい限りです」
「いえいえ奇襲にもかかわらず、ボラー軍も健闘したと聞きます」

 地球側の特使はそう言ってボラー連邦の面子をつぶさないように努力した。
 尤も新興国家の小国から配慮されても、ボラー連邦が失った面子が戻るわけがなかった。実際、べムラーゼは怒り狂っていた。

「何だ、この醜態は!」

 ボラー軍高官は揃って震え上がった。目の前の怒れる独裁者の機嫌をさらに損なえば、首が物理的に飛ぶのだ。

「これは奇襲であったのが原因かと」
「奇襲されること事態が無能の証拠だ、馬鹿者が!」

 言い訳を切って捨てるべムラーゼ。

「軍は気を緩めすぎているのではないのかね?」
「そ、そのようなことは……」
「ふん。だがこの失態は大きいぞ。ボラー連邦軍が大したことがないと思われれば反体制派が勢いづく。
 まして地球の戦艦がボラー連邦の1個艦隊に匹敵する実力があるなど知られたら、地球と連携しようとするかも知れん」
「で、ですが本国艦隊を派遣すれば地球など一撃で下して見せます」
「当たり前だ。だが、問題は我がボラーの体面を傷つけた愚か者だ。連中の正体は?!」
「ふ、不明です。地球側は捕虜を取ったようですが」
「何としても情報を引き出せ!」

 軍の高官は転げるように部屋を後にした。それを冷たい視線で見送った後、べムラーゼは小声で呟く。

「……ガミラスに勝ったのは伊達ではないということか。地球の評価を改める必要があるな」

 こうしてボラー連邦は、新興国家であるはずの地球連邦をある程度認めるようになる。

763earth:2011/09/11(日) 22:47:04
 地球防衛軍は正体不明の敵艦隊を撃滅したことに鼻高々だった。
 味方の損失艦は皆無。一方で空母3隻、戦艦6隻を含め21隻を撃沈していた。3隻の駆逐艦を逃したが完全勝利だった。
 参謀長もこの結果に安堵した。

「漂流していた敵機のパイロットを尋問した結果、敵はガトランティス帝国軍ナスカ艦隊であることが分った」

 この参謀長の報告に、転生者たちは遂に来たかと頷いた。
 ちなみに密談の場所は関係者が忙しくなったので、集まりやすいメガロポリスにあるレストランの一室になった。勿論、貸切だ。
 
「だがこれでナスカ艦隊は壊滅だ。潜空艦こそ撃破できなかったが、取りあえずは先手を取ったのでは?」
「そうだ。これで太陽系内の安全は当面は確保できた。資源とエネルギー供給も安定する」
「あとは艦隊増強です。無人艦隊整備も前倒しすべきかも知れません」
 
 これらの意見を聞いてから、参謀長は堪える。

「まずは奴らの出鼻はくじけた。だが安心は出来ん。何しろ相手にはまだ前衛艦隊が居るし、デスラー率いるガミラス残党もいる。
 あと無人艦隊はまだ無理だ。色々と試行錯誤する必要がある」
「では従来のとおりに?」
「そうだ。アンドロメダ級3番艦、4番艦、5番艦の建造を急ぐ。6番艦以降は間に合わんが、建造の準備は進めておく」
「『しゅんらん』建造のため、ですか?」
「そうだ。デザリウム戦役になった場合、改アンドロメダ級は必要だ」
 
 参謀長は次の戦役も見据えていた。

「もうそろそろ、テレサの通信が来るだろう。土方総司令や藤堂長官と連携して防衛会議を動かす。皆も協力を頼むぞ」
「そういえばヤマトの艦長はどうするつもりです? 本人はかなり疲れていましたが」
「彼は今回の功績から、艦隊司令官に転任してもらうことにした。ガトランティス戦役のヤマトは……古代艦長代理に任せる」
「主人公補正に期待ですか」
「あんな無茶な運用ができるのは彼しか居ない。それに……何れはムサシと組ませることを考えている。
 これで悪い意味での暴走は抑えられるだろう」
「ムサシと?」
「ああ。ヤマトとムサシを組ませて、独立部隊『α任務部隊』を作ろうと思う」
「……スパ○ボですか」

 そしてこの密談の後日、予定通りテレサの通信を傍受することになる。

764earth:2011/09/11(日) 22:47:47
 転生者たちは再び動き出した。
 捕虜から得た『ガトランティス帝国がアンドロメダ星雲を支配する帝国であること、その艦隊が銀河系にも進出してきている』
との情報は防衛会議にも衝撃を与えていたので軍備増強に関わる話し合いで反対意見は出なかった。

「ボラー連邦、ガトランティス帝国。どちらも強大な国家です。これに対抗するには今の防衛軍では戦力不足です」

 土方の意見を否定できる人間は居なかった。
 ボラー連邦軍は確かに無様であったものの、ただ1戦のみでボラー軍恐れるに足らずと判断するのは危険であった。
 またガトランティス帝国軍の艦載機は、地球側の機体よりも遥かに多くのミサイルを搭載できるとの情報も危機感に拍車を掛けた。

「ガトランティス帝国軍の戦艦や空母は、地球のそれより遥かに大型。また速射砲の発射速度も速く火力も侮れん」

 土方の意見に参謀長はすかさず頷く。   

「また大型空母があるということは、恐らく我がほうよりも遥かに多くの艦載機を運用できることを意味します。
 航空戦に敗北すれば波動砲を撃つ機会さえない。ですが、幸いにもボラー連邦は多数の空母を持っています。
 彼らの力を得られれば助けになるでしょう」

 しかし、防衛会議出席者のうち数名が渋い顔をする。 

「だが恐怖政治を敷く国だ。下手に招き入れたら大変なことになるのでは?」
「判っています。ですが毒は毒をもって制すという言葉もあります。幸い、先方はガトランティス帝国への報復を望んでいます」 

 異星人を異星人に嗾けることを主張する参謀長に、何人かが顔を顰めるが積極的な反対意見はなかった。 
 相手の政治体制がどうであれ、国益に適うのであれば利用するために手を結ぶ……それは当然のことだった。
 
「それと謎の通信を傍受しました。ガトランティス帝国に関する情報かも知れません。ヤマトを調査のために派遣しようと思います」 
「しかしヤマトを派遣して防衛体制は大丈夫かね?」
「ムサシが就役するので大丈夫です。それに、何か情報を得られればボラーとの取引に使えるかも知れません」

 かくして防衛会議は大幅な軍備増強を急ピッチで進めること、そしてヤマトを調査のために派遣することを決定した。

765earth:2011/09/11(日) 22:50:10
あとがき
ボラー連邦は落とし前をつけるために動きます。
ムサシもいよいよ完成。防衛軍は大幅に強化されるでしょうが……本気に
なったボラー艦隊が来たら出番があるかどうか(笑)。

あと改行については、今後できるだけ改善していこうと思います。

766名無しさん:2011/09/12(月) 01:27:21
未来人の多元世界見聞録も一緒にHTML化をお願いします

767earth:2011/09/13(火) 23:15:48
非常に短めですが第15話です。
見聞録のHTML化ですか……少しお待ちください。


 『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第15話

 ヤマトがテレザートに向かって発進するころ、いよいよ防衛軍というか参謀長期待の星である機動戦艦『ムサシ』が就役した。
 収束型波動砲1門、46センチショックカノン6門という火力を持ちながら、60機もの艦載機とヤマトを超える航空機運用能力を
持ち、さらにヤマトの打たれ強さを受け継いだこの戦艦なら、来るべきガトランティス戦役で活躍できると転生者たちは考えた。

「まぁ昔なら航空戦艦なんて中途半端な品物でしかないんだが」
「気にしたら負けだよ。そういう世界と思ってくれ」
「……参謀長、もう少しオブラートに包んで言ってくれ」

 まぁ何はともあれ、ムサシは艦長古代守の下で猛訓練に励む。
 ヤマト並のマニュアル操作ができるということは、逆にそれだけの高い技能を要求される。
 一部の人間からは「ただでさえ人手が足らないときに、やたらと高スキルの乗り手を要求する艦なんて作るなよ」と言われるほどだ。
 だが勿論、転生者たちは気にしない。

「(原作の過密スケジュールに対応するには)この程度の無茶ができなかったら何も出来ん」

 参謀長はそう嘯き、ひたすらに幕僚達と訓練計画について協議した。
 いくらハードが優れていても、ソフトが脆弱だったら意味が無いのだ。 

「土方総司令には頑張ってもらわないと」

 勿論、この参謀長の姿勢は土方や宇宙戦士訓練学校の山南には好感触だった。
 ヤマトの勝利を機械力の勝利と謳う馬鹿政治家や、拡散波動砲に依存する防衛軍の戦術を懸念していた男達にとっては、このような
男が後方に居るのは心強いことだったのだ。

「あの男は前線の人間のことをよく判っている」

 見舞いに訪れた土方の言葉を聞いて、病室のベットに横たわっていた沖田は頷く。

768earth:2011/09/13(火) 23:17:55
「でしょうな。彼ほど頼りになる男はいない。それに前線に出るのも厭わない勇気がある」
「彼には長官のサポートをしてもらわないと。防衛会議のお偉方と遣り合うには彼のような存在が必要だ」
「防衛軍は連邦政府が統制する。だが政府が正しい統制をできなければ意味がない」

 本土決戦に傾いていた頃を沖田は思い出す。
 ガミラスとの本土決戦を主張する人間達に引きずられ地球各地で本土決戦が叫ばれている頃、参謀長は将来のことを憂い、ヤマトの
建造を根回しした。またイスカンダルにヤマトを送り出す手筈を整えた。加えて地球復興や防衛軍再建でも大きな功績を残している。
また今回は新たな脅威、ガトランティス帝国に対抗するためにボラー連邦という一大星間国家と手を結ぶ切っ掛けを作った。
 常識的に考えると途方もない政治手腕と先見性だった。

「我々もある程度、政治家と付き合うべきなのでしょう。ですが私には到底そんな真似は出来ない。私は船に乗るのが仕事です」
「私もです。鬼教官などと言われているが、政治家との付き合いとなれば参謀長の足元にも及ばない」

 二人の男は自分が戦場で戦うことしか出来ない職業軍人でしかないことを理解していた。
 故に参謀長のような男は非常に重要だった。いくら彼らが艦隊を整えても、政府や司令部が無能では悪戯に死者を増やすだけだ。

「だが彼にも敵はいる」
「でしょう。藤堂長官やこれまでの功績によって押さえられているが」
「それゆえに、我々のような前線の人間が彼を支えることも必要だ。だが私はまだ動けない」
「勿論、我々が支える。古代艦長も同意見だ」

 勿論、これは土方だけの意見ではなかった。宇宙艦隊の主流派、今の実戦部隊を支えているのはガミラス戦役の末期を生き抜いた
男達だ。その彼らは誰もが参謀長の功績を理解していたのだ。

「……頼みます」

 沖田はそう言って頭を下げる。
 かくして、参謀長の発言力はさらに増すことになる。
 引き換えに彼の希望である輝かしい出番が回ってくる可能性はさらに低くなったが……。

769earth:2011/09/13(火) 23:19:46
あとがき
爺2人にやたらと手腕を買われ、参謀長はますます前線に出づらくなります。
彼に華やかな出番が来る日は来るのだろうか(爆)。
もう諦めて後方で栄達を望んだほうが楽な気が……
それでは失礼します。

770earth:2011/09/14(水) 23:08:54
第16話です。


 『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第16話

 ヤマトがテレザートに向かっている頃、太陽系ではナスカ艦隊の数少ない生き残りと言える潜空艦(ステルス艦)が
地球側の輸送船を襲おうとする事件が多発していた。
 防衛軍司令部では連日、潜空艦の対策会議を開いていた。

「『海上護衛戦』再びと言ったところだな」 
「ですが、参謀長の主張で配備された一式偵察機(コスモタイガーⅡ早期警戒機仕様)による哨戒網によって
 敵艦の動きは封殺できています」 
「だが撃沈できたのは1隻だけだ。まだ何隻かが太陽系に潜んでいる」

 当初は手間取っていた防衛軍だったが、参謀長が予め手配していた哨戒網が機能しだすと、輸送船団への被害は激減した。
護衛空母に改装された旧式の大型艦(『えいゆう』など)、ソナー(殆ど閃光弾)や爆雷を装備した護衛艦が護衛につくように
なると、ますます潜空艦は手出しが出来なくなった。
 だが後方で暴れられるのは、防衛軍としては面白くない。

(全く小うるさい連中だ。敵の策源地を叩いておきたいが、どこにあるのやら……)

 だが参謀長の懸念はすぐに解決されることになる。そう、ボラー連邦軍によって。
 ボラー連邦軍上層部は前回の太陽系外縁での大失態を雪ぐべく、ボラー連邦建国以来有数の大艦隊を編成して、太陽系周辺に
派遣することを決定した。

「侵略者のガトランティス帝国軍を叩き潰すのだ!」
 
 ラム艦長から聞けば「お前が言うか」と突っ込まれそうな台詞を吐いたべムラーゼの厳命を受けたボラー軍の本気であった。
 しかし大艦隊を一気に送り込めないため、まずは先遣部隊が派遣された。

771earth:2011/09/14(水) 23:10:23
 勿論、ボラー連邦の動きを地球連邦は警戒したが、ボラー連邦の面子を立てる形で派兵を黙認した。ボラー連邦ほどの大国なら
わざわざ地球連邦の黙認など必要ないのだがヤマトをはじめとした地球防衛軍の力、そして新たな脅威であるガトランティス帝国の
存在が地球連邦への宥和政策を是とした。

「地球人にボラー軍の真の実力を見せてやる」

 ボラー連邦軍先遣部隊司令官のハーキンス中将は、先遣部隊の空母艦載機を使って太陽系周辺のガトランティス帝国軍の所在を
調べ上げた。そして潜空艦を見つけるや否や、全力で叩き潰していった。
 先遣部隊であるものの、その空母や戦闘空母の数は防衛軍が保有する戦闘空母を凌駕しており、その攻撃力も圧倒的だった。
かくしてナスカ艦隊の数少ない潜空艦は撃滅されてしまった。
 勿論、その報告は多少脚色された形でべムラーゼに届けられる。

「次は侵攻してくる敵の主力艦隊と白色彗星本体だな」
 
 べムラーゼは少しは機嫌を持ち直すも、すぐに厳しい顔で軍部に派兵を急かした。

「必要なら機動要塞も投入せよ。不足するものがあれば私の名前で関係部署に通達すれば良い」
「了解しました!」

 ブラックホール砲を搭載し、波動砲を超える収束率を持つデスラー砲さえ弾き返す防御力を誇る機動要塞ゼスバーゼはボラー連邦に
とっても貴重な兵器だ。しかし今回はそれを投入するだけの意味があった。 

「今に見ておれ」

 怒りに燃えるべムラーゼ以下のボラー連邦首脳陣に対して、ガトランティス帝国側はボラー連邦軍の評価を少しながら上方修正した。

772earth:2011/09/14(水) 23:10:56
「地球艦隊と比べると練度は高くは無いな。だが数は多い。地球を越える星間国家なのだろう」

 攻撃されてからすぐに大規模な部隊を派遣してきたボラー連邦軍を見て、ズォーダーはそう判断した。

「それに太陽系外縁に進出してきている。このままだと地球艦隊と戦う前に、奴らと戦うことになりそうだな」
「小癪な!」

 帝国ナンバー2であるサーベラーはヒステリックに叫ぶ。

「あのような軍、速やかに踏み潰すべきです!」
「勿論叩き潰す。だが地球艦隊は思ったより侮れん。奴らと本格的に協調されると面倒なことになる。
 それにナスカ艦隊が壊滅したせいで太陽系に前線基地が作れなかったのも問題だ」

 ズォーダーの台詞に遊撃艦隊司令長官ゲーニッツは頭を下げる。

「も、申し訳ございません」
「前衛艦隊はどうなっている?」
「主力はシリウス恒星系に集結、再編中です。バルゼー司令官を急かすこともできますが」
「全面攻勢はまだ行わん。だがゲリラ攻撃を仕掛けて奴らを撹乱する。ナスカ艦隊の二の舞は許さんぞ」
「承知しました」

 話は終わりだと席を立とうとするズォーダー。だがそれをサーベラーが引き止める。

「それと大帝、デスラーのことですが……」
「サーベラー、ヤマトのことは、ヤマトのことをよく知っている者に任せる」
「……」
 
 かくして地球艦隊は蚊帳の外に置かれたまま、太陽系の外ではボラー連邦とガトランティス帝国の熾烈な戦いが繰り広げられる
ことになる。

773earth:2011/09/14(水) 23:13:10
あとがき
ガトランティス帝国とボラー連邦は勝手に殴りあいます。
地球連邦と地球防衛軍としては願ったり適ったりでしょうけど。
ヤマトこそ被害を受けますけど、他の被害は原作よりも少ないですし。
それにしても、下手したら名前ありのキャラの出番も削られそうだ(爆)。

774earth:2011/09/15(木) 23:34:08
第17話です。


 『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第17話

 11番惑星はボラー連邦軍と地球防衛艦隊の最前線基地となっていた。
 ボラー連邦艦隊や地球防衛艦隊の艦船の整備と補修ができるように次々に大型ドックが建設され、それを守るために必要な
航空隊や空間騎兵隊が配備された。

「最前線の砦たる11番惑星、そして防衛艦隊の根拠地である土星基地。この二重の守りがあれば太陽系は守りきれる」

 参謀長の言うとおり、11番惑星に建設された基地群はボラー連邦と地球防衛艦隊の双方を見事に支えた。
 ガトランティス帝国軍の空母部隊がゲリラ攻撃を仕掛けてきたものの、11番惑星周辺に張り巡らされた防衛線を突破する
ことはできなかった。

「やはり数は偉大だな」

 ボラー連邦軍の圧倒的数は参謀長からすれば羨ましい限りだった。
 
「空母群も本格的だし……うちの空母とは大違いだ」

 防衛軍司令部のモニターに映る地球防衛艦隊の『宇宙空母』を見て、参謀長は内心でため息をつく。
 主力戦艦の後ろに強引に空母機能をつけたこの艦は、本格的な空母とは言いがたかった。ムサシはさらに発展させているが
本格的な空母より劣る。汎用性は高いだろうが……。

(シナノはあのような中途半端な艦ではなく、真の、本格的な『空母』にしたいものだ)

 しかし正規空母というのは作っただけでは意味が無い。
 むしろ艦をきっちりガードするための護衛艦隊が必要となる。ワープ技術の発達によって咄嗟砲撃戦が多くなると
脆い可能性は否定できない。

(アウトレンジ攻撃か。ガミラスの瞬間物質位相装置が欲しいな。あれがあれば……いやボラー連邦からワープミサイルの
 技術を得られれば小型のワープユニットが作れるかも知れん)

775earth:2011/09/15(木) 23:34:39
 色々と新戦術の構想を練りつつも、参謀長は他の仲間と共に次の手を考えていた。

「ボラー連邦軍の登場で戦力比は大幅に改善された。またボラー連邦の大使も本格的に参戦すると言ってきているので
 ガトランティス戦役は何とかなる可能性が高まった。そこで反攻作戦についても話し合いたい」
「まさかと思いますが、アンドロメダ星雲へ侵攻するとでも?」
「あり得んよ。まぁボラーが出兵すると言ってきたら付き合い程度に艦を出す必要はあるかも知れないが……
 真の狙いは太陽系の外の宙域、そしてシリウスなどのガトランティス帝国軍によって占領されている地域の確保だ」

 参謀長の意見に連邦政府高官が頷く。

「復活編に備えて、第二の地球の確保は必要だ。アマールに頭を下げて移民するよりも自前の植民地惑星があったほうが楽だ」

 この言葉に賛同者が相次ぐ。
 
「それに銀河系中心部とは離れている。赤色銀河との衝突があっても被害はない」
「ボラー連邦の弱体化とSUSの台頭に対応するには必要でしょう」
「開発特需も期待できる」
「安全保障面でもメリットはある。いつまでも太陽系だけを生存圏にするわけにはいかない。
 というか原作だと、何で太陽系のみに住んでいたのか分らないが……まぁ気にしないで置こう」

 勿論、これらの決定は目の前に迫り来る白色彗星や前衛艦隊を撃滅しないことには意味が無い、狸の皮算用になる。
 しかし終ってから決めていたのでは、ボラー連邦によっていいようにガトランティスの占領地を奪われ、地球人類は太陽系へ
閉じ込められてしまう。それは避けなければならない。

「では白色彗星撃滅後、ただちにボラー連邦と協議を行おう」

 こうして地球防衛軍と連邦政府は手薬煉を引いてガトランティス軍の本格的な襲来を待ち受けた。

776earth:2011/09/15(木) 23:35:21
「名無しキャラがメインの地球防衛艦隊が如何に手強いか見せてくれる……まぁ私の出番はないが」
 
 参謀長が嘆息する傍らで、前線部隊は意気軒昂だった。

「死亡フラグを叩き折って生還してやる!」
「ついでに地球防衛軍がやられ役じゃないってことを思い知らせてやる!」
「ヤマトとムサシだけに美味しい役はさせないぞ!」

 原作ではヒペリオン艦隊司令官だった艦長以下、多数の名無しキャラ達はそう士気を上げた。
 彼らの勢いと、ガミラス戦役での消耗が抑えられたこと、早めに軍拡に舵を切っていたことで地球防衛艦隊の実力は
非常に高かった。何しろ波動カードリッジ弾、コスモ三式弾、波動爆雷などの新兵器も配備されている。
 これらはテレザートに向かっている途中にガトランティス軍と戦ったヤマトから送られてきた実戦データを基にして
さらに改良が進められており、高い戦果が期待できた。

「ふむ。これなら何とかなるかも知れん」

 土方でさえもそう言うのだから、地球防衛艦隊の充実振りが分る。
 かくして地球防衛軍の出番が回ってくる……筈だったのだが、彼らの目論見は大きく狂うことになる。

「……もう一度言ってくれないか、古代艦長代理」

 防衛軍司令部のスクリーンに映る古代に、参謀長は顔を引きつらせながら再度尋ねる。
 だが答えは変わらない。

「はい。ヤマトは先ほど白色彗星を奇襲。これを撃破しました」

 原作が木っ端微塵になった瞬間だった。

777earth:2011/09/15(木) 23:36:16
あとがき
所詮名無しキャラに華やかな出番は……詳細は次回に。

778earth:2011/09/16(金) 23:14:07
18話です。短いですがご容赦ください。


 『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第18話

 時はさかのぼる。
 ヤマトはガトランティス艦隊やデスラー艦隊を退けてテレサが閉じ込められているテレザートに到着した。
 ここで原作ならテレサは自分の力を振るうことを嫌って、最初ヤマトクルーの協力要請を拒否するのだが
この世界では会談の末、ヤマトと地球連邦への協力を是としたのだ。
 切っ掛けを作ったのは原作にはいない人物だった。

「祈るだけでは何も解決しない! 実際に銀河系中心部ではシャルバート教の信者は祈りを捧げているにも
 関わらず、恐怖政治を敷くボラー連邦に弾圧されている!」

 そう言ったのは、会談に同行していた名無しの空間騎兵隊隊長(斉藤ではない&転生者ではない)だ。
 斉藤と違って彼は理路整然と反論していく。バース星では、命を掛けてヤマトの乗っ取りを図らざるを得なかった
囚人達と戦い、後に彼ら尋問をしただけにその言葉には重みがあった。 

「ですが……」

 ゆれるテレサ。これに古代や島が追い討ちをかける。

「協力してもらえないでしょうか? 仮にガトランティスを退けることができたとしても、ボラーが出てくれば結局は
 同じことになりかねない」
「そうです」

 結果的にテレサは折れ、ヤマトクルーと話し合った上、テレザートを自爆させることで白色彗星を食い止めることになる。
 勿論、テレサ本人が死なないようにした。ここまでなら原作に近かったかもしれない。だがヤマトを不沈艦とする要因①で
ある真田がここで口を挟む。

「白色彗星を効率的に食い止めるにはタイミングが重要だ」

 かくしてタイミングを見て、テレザートは自爆する。
 それが第二の分岐点となった。

779earth:2011/09/16(金) 23:14:40
 テレザートの自爆によって大打撃を受けた都市帝国は、防御スクリーンでもあった本体周辺のガス帯を完全に
吹き飛ばされた。さらにその帝国の機能そのものが一時的に麻痺状態に陥った。
 あちこちから黒煙があがり、都市の機能は麻痺した。摩天楼の集合体のような都市は真っ暗となっていた。

「全ての回線を速やかに立て直せ!」

 大帝であるズォーダーは混乱する帝国上層部を叱責して、事態の収拾を図った。
 だがその隙を見逃すほど、ヤマトは甘くは無かった。伊達にガミラス帝国を滅ぼした船ではないのだ。

「波動砲発射!」

 機能不全に陥った都市帝国に奇襲を仕掛けた上、ヤマトは容赦なく波動砲を撃ち込んだ。
 何とか迎撃しようとしたガトランティス帝国軍部隊は、コスモタイガー隊によって悉く阻止されてしまったので
成す術がなかった。
 都市帝国の本体は直径15キロ程度。波動砲の破壊力を持ってすれば破壊することは容易だった……かくして
都市帝国は巨大戦艦諸共、元々テレザートがあった宙域で崩壊してしまった。
 
「ば、馬鹿な!」

 大帝は巨大戦艦に乗り込むことも出来ず、他の帝国首脳と共に都市帝国の崩壊に巻き込まれ、爆炎の中に消えた。
 ちなみにサーベラーの策略でヤマトとの戦いで敵前逃亡をしたとの濡れ衣で監禁されていたデスラーは、相変わらずの
不死身振り、もとい悪運と副官であるタランの手で何とか脱出に成功。そのままガミラス残存艦隊に拾われることになる。
 しかしデスラー艦は失われており、支援者であるガトランティス帝国が崩壊。加えて地球のバックには他の星間国家が
付きつつあるという状況では、さすがのデスラーもヤマトへの復讐を挑む決断はできなかった。

「暫しの別れだ。だが……私は必ず戻ってくるぞ」

 こうしてデスラーは雌伏の時を過ごすことを決意した。

780earth:2011/09/16(金) 23:15:11
 デスラーのことはヤマトの乗組員も知らなかったが、取りあえず白色彗星は撃破できたのは事実。
 このためヤマトのメンバーは鼻高々に防衛軍司令部に白色彗星を撃破したことを報告したのだ。

「……そうか。よくやってくれた」

 詳細な報告を聞き、誰もが喝采をあげる中、参謀長は少し乾いた笑みを浮かべつつヤマトの奮戦と戦果を称えた。
 いや称えるしかなかった。何しろ彼らは表向き、新たな脅威であるはずのガトランティス帝国の本拠地を最小限の
犠牲で撃滅したのだ。
 ましてヤマトを派遣するように防衛会議に提案したのは参謀長自身。ヤマトは与えられた任務をこなしたにすぎない。
表向き、彼らには非難される理由はなかった。

「と、とりあえず都市帝国の残骸を調査してくれ。何か有益なものが見つかるかも知れない」

 参謀長はそう言って後は別の人間に任せた。
 そして防衛軍司令部の指令室を後にする。彼は暫く廊下を歩き、周囲に誰も居ないのを確認すると叫んだ。 
 
「……何だ、そりゃあ!?」

 これまで準備した入念な計画や戦略を、名前ありのレギュラー陣によって容赦なくぶち壊された男の魂の叫びだった。

781earth:2011/09/16(金) 23:19:06
あとがき
テレサ&真田さん無双といったところでしょうか。
ガトランティス艦隊は都市帝国壊滅で浮き足立つでしょう……
まぁボラー連邦も唖然呆然でしょうけど(爆)。

782earth:2011/09/18(日) 00:19:38
第19話です。

 『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第19話

 ヤマトは防衛軍司令部の指示を受けて、都市帝国の残骸を細かく調査した。
 波動砲によって都市帝国は滅茶苦茶に破壊されていたが、破壊を免れた部分もあったし、崩壊の際に生まれた大量のデブリは
宝の山でもあった。
 巨大戦艦の残骸や、比較的損傷が少なかったデスラー艦は最優先で確保された。ただしあまりにも確保しなければならない
物品が多いので、地球防衛軍司令部はただちに高速艦を急行させることを決定した。

「目ぼしいものは全て奪うのだ!」

 参謀長の台詞は些か非道だったが、ガミラスに続いて、侵略の危機にさらされた人類からすれば当然であった。
 また今後の過密スケジュールを知る転生者たちにとって、都市帝国の残骸から得られるであろう資源や技術は垂涎の的であった。

「暗黒星団帝国、いやデザリウムと接触する前に地球連邦の国力と防衛軍をさらに強化しなければならない」

 形振り構っていられる余裕は地球に無かった。
 彼らは広大な宇宙においては地球連邦が小国に過ぎないことをよく認識していたのだ。
 
「あとはテレサ、彼女の扱いだな……何しろ彼女の力が公になれば争いの火種になる」

 参謀長の意見に対して、転生者仲間からは彼女の存在を公にして、ボラー連邦に対する抑止力としてはどうかという意見もでたが
参謀長はこれを否定した。

「あのボラーが簡単に引き下がるとでも? ただでさえ警戒されるのに、火種を増やしてどうする?」

 ガトランティス帝国から技術や資源を収奪すると同時に反物質を操るテレサについては、その存在を隠匿することが決定された。 

「下手に公表したらボラー連邦との関係が揺るぎかねない」

 防衛会議の席で放たれた連邦高官の台詞は正鵠を得ていた。
 地球連邦首脳部も、心の底からボラー連邦を信用したわけではない。彼らは敵対するより協調するほうがメリットが大きいと判断した
からこそボラーと付き合っているのだ。勿論、ボラー連邦とて同じこと。
 そのメリットを悪戯に失わせる意味は、今のところなかった。

783earth:2011/09/18(日) 00:20:23
「厄介な存在だ。だがこの際、彼女には色々と地球に協力してもらう。島という丁度良い餌もある」

 防衛軍司令部の自室で、参謀長は転生者仲間(表向きは部下)にそう告げる。

「……悪役みたいな顔をしていますよ、参謀長」
「何とでも言え。全く」
「まぁこれで防衛艦隊はほぼ無傷です。良かったのでは?」
「戦術的にはな。だが戦略面では問題が大きい。
 何しろ地球が単独でガトランティスを撃退したとなれば、銀河の盟主を自称する困った大国が煩い。
 彼らの怒りを何としても前衛艦隊にぶつける必要があるだろう……地球が迷惑を被らないためにも」
「では?」
「そうだ。シリウス、プロキオンの攻略作戦を提案する。
 本来は前衛艦隊と都市帝国撃滅後に提案するつもりだったんだが、こうなってしまった以上、止むを得ない」

 だが地球が単独で白色彗星撃滅に成功したとの情報を受け取ったボラー連邦の動きは予想以上に早かった。
 勿論、べムラーゼなどボラー首脳部も報告を受けた際には唖然となったが、即座に頭を切り替えた。

「銀河系に展開するガトランティス帝国軍を撃滅するのだ!」

 べムラーゼの厳命を受けたボラー連邦軍は、集結を待たずして大攻勢に出ることになる。
 前線指揮官の中には十分に兵力を集中させた後に攻勢に出るべきと主張する者もいたが、政治の事情がそれを許さなかった。 
 
「このままでは面子が丸つぶれではないか!!」

 ボラー連邦の威信をかけて、ボラー連邦軍はシリウス、プロキオンへの攻勢を開始した。
 その一方で彼らは対地球戦争も想定しはじめる。地球がボラー連邦にとっても脅威になりえる国家と認識された瞬間だった。

784earth:2011/09/18(日) 00:21:05
 地球とボラーの動きが慌しくなっている頃、ガトランティス帝国軍前衛艦隊も俄かに騒がしくなっていた。
 
「馬鹿な! 大帝が戦死され、都市帝国が崩壊だと?! そんなことがあってたまるか!!」

 バルゼー提督は旗艦メダルーザの艦橋で、副官にそう言って何度も事実を確認させた。
 そしてそれが真実であることを知ると頭を抱えた。

「大帝が戦死……」

 自軍の根拠地である都市帝国が崩壊し、政府首脳が根こそぎ全滅したことで銀河系に展開している前衛艦隊は根無し草に
なったと言っても良い。
 さらに情報が拡散すれば兵士達の動揺も予想される。何しろこれほどの一方的な大敗など帝国建国以来始めてのことだ。

「ヤマト、ただの戦艦1隻に帝国が敗れるというのか……」
「提督、この際、アンドロメダ星雲に引き上げ、態勢を整えるべきでは?」

 副官の提案は正論だったが、バルゼーは簡単に首を縦に振らない。

「ここまでやられて何もせずに引き返すことなどできるか! せめて地球に一撃を与えなければならん!!
 情報を秘匿せよ。それとプロキオンのゲルンに通信回線を繋げ!!」
「了解しました!」

 かくしてガトランティス帝国軍は事情を知って浮き足立つ人間を押さえつつ、攻勢に出ることになる。

「大帝の敵討ち、そして帝国の威信にかけて地球艦隊を撃破するのだ!」
「侵略者共を逃がしてはならん! ボラーの威信にかけて撃滅するのだ!」

 かくして相変わらず地球防衛艦隊は蚊帳の外に置かれたまま、大艦隊決戦が生起しようとしていた。
 この動きを見ていた防衛軍の某高官はボソリと呟く。

「防衛艦隊は壊滅しないで済んだが、引き換えに出番が壊滅した気がするのは何故だろうか……」

785earth:2011/09/18(日) 00:23:18
あとがき
というわけでボラーVSガトランティスです。
ボラーは当初想定されていた戦力より少ない戦力で出撃します。
それでも大艦隊ですけど……。
地球防衛艦隊は見事なまでに出番がなくなっています(笑)。
戦略面でみれば正しいのですが。

787earth:2011/09/18(日) 10:30:39
第20話です。


 『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第20話

 西暦2201年12月7日、ガトランティス帝国軍とボラー連邦軍による大艦隊決戦が生起した。
 地球防衛軍を撃滅するべく太陽系に向けて侵攻するガトランティス帝国軍に、ガトランティス帝国軍撃滅を目論む
ボラー連邦軍が襲い掛かる形で発生した艦隊決戦は、地球人類にとってはじめて見る大規模な空母決戦から始まった。

「100隻以上の空母、戦闘空母による大決戦か」

 参謀長は司令部で報告を聞くと感心したような、羨ましがるような顔をした。
 何しろ史上稀に見る大決戦なのだ。華やかな出番を願う参謀長としては複雑な思いを抱くのも無理は無かった。 

「……偵察部隊に情報収集を怠るな、と伝えろ。他国の戦争でも、色々と参考になるからな」
「はっ!」

 史上稀に見る航空戦は数で勝るボラー軍の辛勝で終った。
 ガトランティス帝国軍は保有空母全てを撃沈、或いは飛行甲板をズタズタにされ空母としては役立たずとなった。
 ボラー連邦軍も保有空母の大半がやられてしまったが、空母2隻が辛うじて戦場に踏みとどまることに成功。これによって 
ボラー連邦軍は限定的ながらも制空権を握ることが出来た。
 しかしバルゼーは容易に引き下がることはなかった。

「ゲルン、お前の艦隊は下がれ! 主力は密集隊形をとり前進する!!」
 
 バルゼーは旗艦メダルーザを先頭にしてボラー艦隊に向けて突撃した。
 勿論、ボラー艦隊司令官のハーキンス中将は空母2隻でガトランティス艦隊を攻撃したが、ガトランティス艦隊を阻止する
ことは適わなかった。
 密集隊形をとり、さらに回転砲で応戦するガトランティス艦隊によって航空戦力は少なくない打撃を受け取った。
 
「こうなれば艦隊決戦で叩き潰す!」

 ハーキンス中将は航空攻撃を切り上げると、艦隊を再編した後、ガトランティス帝国軍との艦隊決戦に臨んだ。
 数の面ではボラー連邦軍はガトランティス艦隊を上回っていた。正面勝負なら互角以上に戦えるはずだった。
 だがその目論見は、原作で地球防衛艦隊に大打撃を浴びせた『火炎直撃砲』によって覆される。

788earth:2011/09/18(日) 10:31:11
 拡散波動砲の2倍の射程を誇る火炎直撃砲は、ボラー連邦艦隊を滅多打ちにした。
 戦力の中核であった空母2隻が撃沈され、続いて戦艦が一方的にアウトレンジ攻撃で撃沈されていく。
 
「これが敵の切り札か!」
「ど、どうされますか?」
「浮き足立つな! 距離を詰めるぞ!!」

 ハーキンス中将はそう言って全速力でガトランティス艦隊に接近していった。だがそれは致命的な事態を引き起こした。
 距離を詰めていく途中、ハーキンス中将が乗る旗艦が火炎直撃砲の直撃を受けたのだ。
 地球防衛軍が誇るアンドロメダ級戦艦でさえ撃沈できるエネルギーの前に、旗艦の装甲は意味を成さなかった。

「ボラー艦隊旗艦撃沈!」

 この報告は地球防衛軍司令部にも衝撃を与えた。

「信じられん」
「あの威力で、あの射程。そして高い連射能力……防衛艦隊も唯ではすまないぞ」
「これがガトランティス帝国軍の実力か」

 地球では考えられないほどの物量のぶつかり合い、そして今の地球の科学力では到底実現できないであろう超兵器の
存在は白色彗星を撃破したことで少し天狗になっていた地球防衛軍高官たちの鼻をへし折った。
 同時に波動砲に依存することが危険であることも明らかになり、参謀長の新戦術構築の主張を鼻で笑っていた人間達は
真っ青になった。

「もしもあそこにいるのが防衛艦隊で、波動砲発射隊形をとっていたら、一方的に滅多打ちになっていただろう」

 参謀長の言葉に誰もが沈黙した。
 全てのエネルギーを波動砲に回すということは、身動きが取れなくなるということであり、的同然なのだ。

「戦術の見直しが必要だろう」

 藤堂の言葉に反対意見は無かった。

789earth:2011/09/18(日) 10:32:48
 ボラー連邦軍は旗艦が撃沈されたことで浮き足立った。
 そしてこれを見逃すバルゼーではなかった。伊達にアンドロメダ星雲で戦歴を重ねたわけではないのだ。
 大戦艦や駆逐艦、ミサイル艦などが一斉に砲門を開き、その圧倒的火力をボラー連邦艦隊に叩きつけた。

「反撃する! 全砲門開け!!」

 ラジェンドラ号のラム艦長は混乱する部下達を叱責した後、周りの艦を統制して反撃を開始するが、そのようなことが
出来た艦長は少数だった。多くのボラー連邦軍部隊は、混乱した状態のままガトランティス軍によって蹂躙されていった。
 その光景に、会戦をモニターしていた地球防衛軍司令部の面々は沈黙した。

「「「………」」」 

 かくしてボラー連邦軍艦隊は壊滅した。
 だがガトランティス軍も少なくない消耗を強いられていた。

「くそ。敵の数が多かったせいで、エネルギーや弾薬が消耗しすぎた。それに損傷した艦も少なくない」

 バルゼーは報告を聞いて顔を顰めた。
 
「数だけが取り柄の三流軍隊が、手間取らせおって」
「どうされますか?」
   
 艦隊決戦に勝利したものの、バルゼー艦隊が受けた損害は少なくない。さらに空母部隊は事実上壊滅している。

(都市帝国をただ1隻で撃滅したヤマト、そしてそれを超える戦艦を持つ地球艦隊が待ち構える太陽系にこのまま向かう
 のは危険すぎるか)

 バルゼーは勇猛な武人であったが無謀ではなかった。彼は補給のために一旦艦隊をシリウスに引き上げていった。

790earth:2011/09/18(日) 10:34:42
あとがき
機動要塞があればボラーが勝てたのですが……急ぎすぎて失敗しました。
というわけでボラー軍再び面子丸つぶれです。
何人の首が物理的に飛ぶだろうが……
何とか防衛軍にも出番が回ってくるかも知れません(笑)。

792名無しさん:2011/09/18(日) 11:34:58
>>791
ここは投稿スレ

793名無しさん:2011/09/18(日) 11:38:24
男は黙って削除依頼、原則として、だけど

794earth:2011/09/18(日) 18:23:59
第21話です。


 『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第21話

 ボラー連邦軍艦隊がガトランティス帝国軍に大敗を喫し、壊滅したという情報はボラー連邦上層部に衝撃を与えた。
 有利な条件(数で勝り、さらに敵の根拠地である白色彗星を撃破している)にも関わらず、このような大敗北を喫した
ことはボラーの威信を失墜させるものだった。 

「首相、お待ちを。も、もう一度だけチャンスを!!」
「お前のような無能者は要らん! 連れて行け!!」

 首相官邸に弁明に訪れた軍高官は、べムラーゼの指示を受けた秘密警察の人間によって逮捕され、処刑された。

「機動要塞、それにプロトンミサイルも投入せよ。何が何でもガトランティス帝国軍を撃滅するのだ!
 いや、ここまでコケにされては銀河系にいる奴らを潰すだけでは足りん。アンドロメダ星雲への大遠征も準備せよ!!」

 怒れる独裁者べムラーゼの言葉に逆らえる人間はいなかった。
 尤もべムラーゼの介入で、戦力の結集が終っていない状況で攻勢を余儀なくされた軍の高官達の中には、大敗の責任の幾らかは
べムラーゼにあると思っている者も多かった。
 だがそれを口にするのは、自分の処刑執行書類にサインするに等しい。このため彼らは必死にガトランティス帝国軍殲滅のの準備を
進めた。

「今度こそは勝利して見せます!」

 だがべムラーゼの機嫌は直らない。
 
「地球人は二度も勝ち星を挙げているというのに、我が連邦はいいところ無し。何故かね?」
「ち、地球人は宇宙に進出前から同族同士で戦ってた、戦闘民族といってもよい連中です。
 それがガミラスにさえ勝ち、このたびの活躍の理由になっているのかと……」
「加えて彼らはこの前までガミラスと戦っており、準戦時体制といってもよい状態です。準備の差は大きいかと」

 軍人達の言い訳を聞いたべムラーゼは「ふん」と鼻を鳴らす。

「我が軍の軍人が得意なのは言い訳だけだな。次は必ず勝利せよ。星ごと破壊してもかまわん」

795earth:2011/09/18(日) 18:24:31
 一方、地球防衛軍ではボラー連邦軍の敗因を分析していた。

「敵の新型長距離砲。都市帝国の調査で『火炎直撃砲』という名前であることが判明しましたが、これが問題です」

 防衛軍司令部の会議室では多数の名無しキャラ達が、この新兵器にどう対処するかで話し合っていた。
 しかし波動砲の2倍もある長距離砲となると正面からの対処は難しいという結論がそうそうに出た。
 
「幸い、敵空母部隊は壊滅している。我が軍の宇宙空母やムサシを総動員すれば航空攻撃でしとめることは出来るだろう。
 それに鹵獲したデスラー艦についていた瞬間物質位相装置で奇襲することも可能だ」
 
 参謀長の意見に大艦巨砲主義者(特に波動砲を過信していた人達)がムスッとした顔をするが、反論は無かった。
 
「それとプロキオンの攻略作戦を政府に提案したいと思う。何か意見は?」
「参謀長、ガトランティス帝国軍は空母部隊こそ壊滅しましたが、打撃部隊は健在です。危険なのでは?」
「確かに危険な作戦だ。だが、このままだとボラー連邦がこの地域を制圧するだろう。連邦の今後を考えると好ましくない。
 それに……ボラー連邦が態勢を整える前に、奴らが態勢を整えて太陽系に押し寄せないとは断言できないだろう?」
「積極的自衛権の行使……ですか」
「そういうことだ。また今回、ヤマトとムサシを組ませたα任務部隊を結成し、シリウスでの独立任務に当てたいと思う」
「……ヤマトをですか?」

 何人かは嫌な予感しかしないという顔をするが、参謀長はどこぞの特務機関司令官のような黒い笑みを浮かべ言い放った。

「そうだ。ガミラス本星を滅ぼし、白色彗星さえ撃破して見せた、彼らの活躍に期待しようじゃないか」

796earth:2011/09/18(日) 18:25:38
 ここに至り、参謀長はヤマトの主人公補正を存分に使うことにしたのだ。
 勿論、それだけに頼ることはしないが利用できるものとして作戦に組み込むつもりだった。

(馬鹿とハサミは使いようだ。ガン○ムのホワイトベース隊みたいな活躍を期待するとしよう)
 
 藤堂と参謀長は防衛会議の席で、プロキオン攻略作戦を提案した。紆余曲折の末、防衛会議はこれを承認。
 地球防衛艦隊の機動戦力の半数をつぎ込んだ大作戦が行われることが決定された。
 加えて防衛軍のさらなる戦力の強化のために波動砲3門、51センチショックノン砲4連装5基という凶悪な打撃力を持った
『改アンドロメダ級』とも言うべき戦艦を速やかに建造することが決定された。

「『しゅんらん』の建造が可能になったな」

 幸いというか参謀長の根回しもあり、アンドロメダ級の建造のために多数の部品が調達されていたので、建造は比較的早く
できると考えられていた。
 これによって地球防衛艦隊はアンドロメダ級5隻に加え、来年中には改アンドロメダ級を2隻手に入れることになる。
 戦闘空母の建造も進められており、既存の宇宙空母と併せると原作では考えられないほど充実した戦力を地球防衛軍は
持つこととなった。  

「個人的には自分が乗って指揮を取りたいが……くっ何故、私は前線に出れないんだ!?
 いやここで連邦の支配地域が広がれば前線ポストにも増えるはず。諦めるのは早い」

 参謀長は気合を入れて、このたびの作戦を成功させようと決意する。
 だがそれが、さらに自分の希望を遠ざけることに彼は気付くことはなかった。

797earth:2011/09/18(日) 18:27:12
あとがき
第21話でした。
いよいよプロキオン攻略戦です。シリウスは……ボラー連邦に譲ります(笑)。
参謀長は執念強く動きますが、もう『試合終了』にしたほうが楽ですね。

798earth:2011/09/19(月) 21:43:23
第22話です。


 『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第22話

 ボラー連邦艦隊は大敗したが、勝利したガトランティス帝国軍も消耗していた。特に空母部隊は壊滅的打撃を受けた。
 航行不能になった艦は機関部を爆破後に遺棄されたが、地球防衛軍からすれば宝の山であった。都市帝国で得られた
数々の技術や希少資源で味をしめた防衛軍上層部は、ただちにこれらの回収を命じた。
 勿論、ガトランティス帝国軍の攻撃を受けることを懸念して、反対する意見もあったが参謀長はこう言って退けた。 

「うち(地球)は金と資源が無いんだ。仕方ないだろう」
「「「………」」」

 世知辛かったが、軍というのは金食い虫なので、何かしらの臨時収入があるとなれば見逃せなかった。
  
「ボラーは良いな。金と資源と人的資源が有り余るほどあって……」
 
 密談の席で零れる参謀長のぼやきに、他の転生者が肩をすくめる。

「仕方ないですよ。こちらは零細の恒星系国家。彼らは銀河を支配する超大国。地力が違いすぎます」
「正直、金持ちとはあまり喧嘩したくはないですよ。というか何とかうまく付き合って、旨い汁を吸いたいものです」
「人口が減ったせいで市場も縮小していますからね……復興特需とイスカンダルやガミラスから得られた技術による
 技術革新で経済成長していますが、ボラーと比べると市場は小さい」

 『ずーん』と重たい空気が漂う。何はともあれ時代は変われど、世の中、金だった。  

「何はともあれ、敵から資源と技術を収奪し、それを連邦の強化に役立てよう」

 こうして防衛軍はデブリ回収業者のごとくガトランティス軍艦艇や航空機の残骸を回収していった。
 この際、一部の将校から懸念されたガトランティス軍による攻撃はなかった。
 彼らもボラー連邦軍との戦いで消耗しており、攻撃に出る余裕がなかったのだ。

「都市帝国や巨大戦艦の残骸、さらに今回回収したデブリを利用すれば1個艦隊以上の艦を楽に揃えられる。
 有人艦隊を計画以上に拡張するのは難しいが、無人艦隊の整備には使える。それに太陽系内の防衛線の構築も捗る」
 
 参謀長は上機嫌だった。

799earth:2011/09/19(月) 21:44:02
 地球防衛軍はデブリ回収業者の真似事をする傍らでプロキオン攻略作戦を急いだ。
 土方総司令自らが指揮をとるプロキオン攻略艦隊(戦艦24隻、巡洋艦48隻、宇宙空母5隻が中核)とヤマトと共に独立任務に
当る予定の機動戦艦ムサシが11番惑星基地に集結していた。
 隻数こそガトランティス艦隊に劣るものの、相手は空母機動部隊が壊滅し、主力部隊も消耗していることから十分に戦えると
判断されていた。
 アンドロメダの艦長室で報告を受けていた土方は険しい顔で口を開く。

「ガトランティス帝国軍の大機動部隊が壊滅していなかったら、職を賭してでも反対したな」

 土方の座る机の前に立つムサシ艦長の古代守は頷く。

「確かに」
 
 ガトランティス帝国軍が強敵であることはボラー艦隊の敗戦を見れば明らかだった。
 敵旗艦が持つ火炎直撃砲も怖いが、大戦艦が持つ衝撃砲も侮れない。また駆逐艦の機動力も馬鹿にできない。   
  
「しかしヤマトが白色彗星を潰してくれたにも関わらず、これだけ手強いとは……」
「そうだな。もしも敵艦隊がボラー艦隊と戦わずに太陽系に押し寄せていれば、苦戦は免れなかっただろう」
「敵主力だけでも脅威ですが、あれほどの空母部隊と戦うのはぞっとしません。我が軍も航空戦力を強化していますが」

 機動戦艦の指揮を執る故に、古代守は航空戦力の重要性を理解していた。
 
「やはりボラーと手を結ぶという参謀長の考えは外れではなかったな」
「はい。もっとも進はボラーを毛嫌いしているようですが」

 土方は苦笑した。
 
「あの男は頑固だし、少し青いところがある。古代艦長、いやα任務部隊司令官。頼むぞ」
「お任せください」

800earth:2011/09/19(月) 21:44:47
 ヤマトとムサシはα任務部隊を形成し、シリウス恒星系でガトランティス軍を撹乱する任務を与えられていた。
 たった2隻で後方撹乱という、どこぞのホワイ○ベース隊のような任務だが、ヤマトは艦隊で動くことに慣れていないので  
この任務は適当と思われていた。
 加えてヤマトは白色彗星を撃破したことで、ガトランティス帝国軍にも名前が轟いている。このため、ヤマトがシリウスに
入り込めば、間違いなく食いつくとも予想された。 

「相手からすれば仇敵であるヤマト、そしてその準同型艦であるムサシを何としても討ち取ろうとするだろう。
 厳しい任務になる」
「判っています。ですがこれほどの重要任務を拒否するつもりはありません。それに我々の任務は敵の撃滅ではなく霍乱。
 やりようはあります」
 
 古代進こそ目立たないが、古代守はヤマトがイスカンダルから帰ってくるまで、地球を守りきった地球防衛艦隊の一翼を担った
一流の、そして歴戦の宇宙戦士だった。
 その男の言葉には重みと説得力があった。

「そうか。期待しているぞ」
「吉報をお待ちください」 

 惚れ惚れとする敬礼をして、古代守はアンドロメダの艦長室を後にする。
 ムサシの初陣はもうすぐだった。

801earth:2011/09/19(月) 21:46:49
あとがき
原作ではなかった土方と古代兄の会話がメインでした。
歴史が変化したらなこういう会話もありかなと思いまして。
おかげで話が進んでいませんが(笑)。
いよいよムサシの初陣です。
でもヤマト級2隻が暴れたらどうなることやら……。

802earth:2011/09/20(火) 21:25:02
第23話です。


 『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第23話


 地球防衛軍は満を満たして、プロキオン恒星系の攻略を開始しようとしていた。

「地球連邦は諸君らの献身に期待している」

 地球連邦大統領が直々に司令部で激励した後、藤堂長官は厳かに作戦の開始を告げる。

「地球人類の興亡はこの一戦にあり。全部隊出撃せよ!!」
『了解しました』
  
 土方は敬礼すると、作戦に参加する全艦隊に出撃を命じた。
 11番惑星基地に集結していた防衛軍艦隊は整然と隊列を整えて地表から離れていく。
 1年前はガミラスによって絶滅寸前に追いやられていた地球人類が作り上げたとは思えないほどの大艦隊だった。

「ヤマトとムサシが出撃しました」 
「続けて土方総司令の攻略艦隊も出撃しました」

 防衛軍司令部でオペレータから報告を聞いた参謀長は「ふむ」と頷くとメインスクリーンに映される宙域図を見上げる。

「プロキオン攻略作戦『アウステルリッツ』の開始だ」
「はい。いよいよガトランティス帝国に対する反攻のときです」
「そして地球が星間国家として飛躍できるかどうかの分岐点でもある。この戦いには勝たなければならない」

 地球連邦はまだ駆け出しの新興国。
 ガミラスを打ち破ったとは言え、その立場は脆弱なものだった。ボラー連邦の気が変わればどうなるか判らないのだ。
 確かにボラーは二度敗れた。二度目に至っては地球防衛艦隊の総数を遥かに超える艦艇を失っていた。
 だがそれでもボラーは立ち上がる余裕がある。それは地球では到底真似は出来ないものだった。

(赤色銀河が現れるまでは我慢だ……)

803earth:2011/09/20(火) 21:28:09
 11番惑星から出撃した後、土方艦隊と分かれたα任務部隊(といっても2隻だが)はシリウス恒星系に向かった。
 ヤマトはこれまで戦死者が皆無なので戦力低下はなく、ムサシと併せればドリームメンバーが揃っており、2隻の『破壊力』は
ずば抜けていると転生者たちは考えていた。

「まぁさすがに二重銀河を吹き飛ばすみたいにシリウスを崩壊させることはないだろう」
「ですが参謀長、メンバー的には『二重銀河の崩壊』の面子に近い気が……」
 
 ムサシ艦長は古代守。技術班長は彼の同期であり天才技術者である大山俊郎、機関長は山崎奨。
 コスモタイガー隊にはヤマトから転属した山本明と鶴見二郎が居る。ちなみに戦闘班長を務めるのは沖田艦長の息子だ。
 乗員のスキルは防衛軍指折り。おまけに名前ありの準主役級も多数乗っているという心強さだった。

「山南はいないし、『しゅんらん』も第7艦隊もない。波動融合反応もない。大丈夫だ。大丈夫だろう。大丈夫と思いたい」
「(湯呑みを持つ手が震えていますよ)参謀長、水と胃薬を持ってきます」 

 参謀長とその部下がオーバーキルを心配していることなど露も知らず、2隻の乗員は意気軒昂だった。
 初陣であるはずのムサシでさえ、誰もが不安を見せず、やる(殺る?)気に満ちている。

「また面倒な任務だな」
「いうなよ、トチロー。司令部もこれ以上、戦力は割けなかったんだ」
「やれやれ」

 真田に勝るとも劣らない地球の頭脳。大山俊郎はそういって肩をすくめる仕草をする。
 尤も口ではそう言いつつも、言葉とは裏腹に表情は暗くない。

「まぁ連中の情報は白色彗星の残骸から大方掴んでいる。
 暗号だろうが何だろうが、あっという間に丸裸にしてやるよ」
「頼むぞ」

806earth:2011/09/20(火) 21:33:53
 ヤマトを含む地球防衛艦隊が出撃したとの情報を入手したバルゼー提督は直ちに迎え撃つことを決意する。
 
「地球人め、目に物見せてくれる!」

 旗艦メダルーザでバルゼーはそう言って気炎を挙げた。
 特に大帝と都市帝国を打ち破ったヤマトも居るという情報は、大帝の敵討ちに燃える彼の闘志を掻き立てた。

「提督、他の地球艦隊はどうされます?」
「ヤマト、そして準同型艦のムサシとやらを沈めるのを優先する! 他の船は後回しだ」

 バルゼーは他の艦には目もくれなかった。
 だがこれには大帝の敵討ち以外の理由もあった。
 彼は勇敢果敢な武人であるものの決して無謀な人間ではなかった。彼は現在の自軍の艦隊では地球艦隊を完全に撃滅する
のは難しいと判断していたのだ。

(空母部隊は壊滅し、我が艦隊も消耗している。さらに地球人にはこちらの奥の手を知られている。これだけでも不利だ。
 加えて兵の中にはアンドロメダ星雲へ帰りたがっている者も多い)

 大帝の死や都市帝国崩壊はいつまでも隠しきれるものではなかった。このため艦隊ではかなりの情報が出回っていた。
 これによる士気の低下は甚だしかった。

(それに大帝が死んだことで本国では反乱が起こっている。おかげで補給も危うい……この際、大帝の仇であるヤマトを
 討ち取り、速やかに本国に帰還するのが適当だろう)  

 合理的な判断だった。だが彼は理解していなかった。相手は不可能を可能にしてきた男達だということを。 
 特に真田と大山。地球人類が誇る二大マッドサイエンティストに加え、古代兄弟を敵に回したガトランティス艦隊は散々な
目に合うことになる。

808earth:2011/09/20(火) 21:36:19
あとがき
ヤマトに拘りすぎるのは死亡フラグ(爆)。
デスラー総統並に悪運が強くないと……。
触らぬ神(地球orヤマト)に祟り無しと言ったところでしょうか。
しかしだとすると参謀長も祟られそうだ(笑)。

誤字が多かったので削除と修正を実施しました。
……疲れているようです。

813earth:2011/09/21(水) 21:10:05

 『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第24話

 ヤマトとムサシはシリウス星系に侵入すると、次々にガトランティス帝国軍の拠点を攻撃していった。
 60機も艦載機が搭載できるムサシからは、ヤマト戦闘機隊の倍の数の部隊が発進しようとしていた。

『爆撃隊の護衛頼むぞ』

 ムサシ航空隊隊長である山本は、通信機ごしにムサシ航空隊副隊長である鶴見に念を押す。

『判っています。任せてください。加藤隊長には無様な真似は見せられませんから』
『いや加藤じゃない。ヤマト戦闘機隊に、だ。俺達はいまやムサシ航空隊で、今回はムサシの初陣だぞ』
『了解! ムサシはヤマトの姉妹艦だっていうことを教えてやりましょう』

 ヤマト、ムサシから出撃した戦爆連合70機による猛爆を受けるガトランティス軍は堪ったものではなかった。
 戦闘機隊が応戦したものの、圧倒的な練度と戦意を持つコスモタイガー隊によってあっさり駆逐され制空権を
奪われると、あとは一方的な展開だった。

「た、助けてください! バルゼー提督、このままではこの基地は全滅してしまいます!!」
『うろたえるな! 今から救援を出す! それまで持ち堪えよ!!』
「無理です。もう、我が基地には満足に抵抗をする力が……」

 しかし基地司令官は最後まで自分の台詞を言うことはできなかった。
 ガトランティス軍シリウス方面軍第15哨戒基地司令部は、ムサシ航空隊から放たれた波動エネルギーを籠められた
新型対地ミサイルによって木っ端微塵に爆砕された。

「第15哨戒基地、音信途絶しました……」 
「戦闘開始後、わずか15分で……」

 だがガトランティス軍にとっての悪夢はこれからだった。

814earth:2011/09/21(水) 21:11:05
 ヤマトとムサシのコスモタイガー隊による猛爆、そして直後に突進してきたヤマトの一撃離脱攻撃という
まさに通り魔的な攻撃によってバルゼーが築き上げた拠点は叩き潰されていった。運悪く(?)ヤマトと遭遇した
輸送船など1隻残らず血祭りだった。
 
「ヤマトから攻撃を受けていると連絡してきた後、第23輸送艦隊からの通信が途絶しました!」
「第10資源採掘施設壊滅!」

 旗艦メダルーザの艦橋では、悲鳴のような声で通信兵が凶報を次々に報告する。

「護衛部隊は何をやっていたのだ!?」
「その護衛部隊も全滅したとの報告が……」
「………」

 次々に壊滅していく拠点と部隊。一方でヤマトとムサシは巧みに姿をくらましていた。

(ガトランティス帝国軍がこれほど愚弄されることになるとは……)

 ヤマトとムサシが巧みにガトランティス軍の警戒網を潜り抜けているのは、真田と大山の功績だった。
 彼らはガトランティス帝国軍の通信を次々に解読。これをもとに警戒網の穴を突いたのだ。
 しかし彼らがそれで満足する訳が無い。
 
「ついでに偽のデータも流して撹乱してやろうぜ」
「だな。あとコンピュータウイルスも混ぜて送ってやろう」

 大山と真田の悪巧みによってガトランティス軍の情報ネットワークは半ば麻痺していった。
 これで古代弟の戦闘指揮能力(?)と島の神業的な操艦能力が加わったヤマトが直接襲ってくるのだ。
 堪ったものではない。

「奴らは悪魔の化身か何かか?!」

 ガトランティス軍の将校はそう言って頭を抱えた。
 シリウス方面のガトランティス艦隊主力がα任務部隊に翻弄されたことで、プロキオン方面は手薄となった。
 その隙を突くように、地球防衛艦隊はワープを使って一気にプロキオンへ侵入していった。

815earth:2011/09/21(水) 21:12:00
「糞、迎え撃て!」

 慌ててガトランティス軍は迎撃しようとするが、数で劣るガトランティス軍は防衛艦隊によって包囲殲滅されていく。

「撃て!!」

 土方の号令を受けてアンドロメダ以下の戦艦群のショックカノンが火を噴く。
 ガトランティス軍の大戦艦がその砲火に囚われる。地球の主力戦艦を超える大型艦だったが、ショックカノンの集中砲火を
受けては一溜まりもなく、轟沈した。

「敵空母が艦載機を発進させようとしています!」
「発進させてはならん!」

 先の戦いで辛うじて生き残ったガトランティス軍の大型空母(滑走路4本持ち)が攻撃機を発進させようとする。
 しかし発進させる直前に、アンドロメダから放たれた波動カードリッジ弾3発が命中。弾薬の誘爆も起こり、大戦艦の後を
追う様に火達磨になった後、宇宙の塵と化した。
 逃げ惑う残った船には、防衛軍の巡洋艦以下の高速艦艇が襲い掛かる。もはや戦闘というよりリンチ状態だ。

「逃げる奴はガトランティス軍だ! 逃げない奴はよく訓練されたガトランティス軍だ!!」

 巡洋艦妙高の艦長(勿論転生者)はそう言って、逃げ惑うガトランティス軍艦隊を蹂躙した。
 プロキオンに地球防衛艦隊が来襲したとの情報を聞いて、バルゼーは自分が嵌められたことを悟った。

「おのれ、地球人どもめ!!」 
 
 何と言うが遅かった。このままではプロキオンは陥落するのは間違いない。
 そうなればバルゼー艦隊は二正面、いや三正面(ボラー軍、太陽系の地球防衛軍、プロキオンの地球艦隊)を強いられる。 

「何としても大帝の仇であるヤマトだけでも沈めておかなければ! 偵察機を出せ! 何としても見つけるのだ!!」

 この彼の願いが天に通じたのがヤマト発見の報告が齎される。  

「よし、艦隊を急行させよ!」

 かくしてシリウスにおける最後の戦いの幕が開ける。

816earth:2011/09/21(水) 21:15:03
あとがき
地球防衛艦隊は強いんですよ……ヤマトの引き立て役にされる時は(笑)。
防衛軍が強化されたせいで、ヤマトの無双振りが強化されそうです。
原作でも無茶苦茶なのに(爆)。

817earth:2011/09/22(木) 22:17:05
少しヤマトとムサシが強すぎたかもしれない(汗)。
というわけで第25話です。

 『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第25話

 ヤマト発見の報告を受けたバルゼーは即座に艦隊を差し向けた。だがそこに居たのは大山が用意していたダミーだった。

「おのれ、小癪な!!」
 
 ダミー艦を全力で破壊した後、バルゼーは再び全方位で索敵を命じた。
 しかし帰ってきたのは『複数』の『ヤマトを発見した』という内容の報告だった。
 真田と大山特製のコンピュータウイルスによる情報ネットワークの混乱もあって、バルゼーはどれが本物のヤマトが
全く判らなかった。
 さらに一部の偵察部隊からはヤマトと思われる艦がシリウスから脱出しようとしているとの報告さえあった。

「奴らの任務が我々の霍乱であったのなら、用済みと言うことで離脱しても不思議ではない……」
「提督、どうされますか?」
「艦隊を3つに分けて捜索する。兵力の分散になるがしかたあるまい。それに分艦隊とは言っても数では圧倒している。
 易々とは負けはせん!」 

 しかしそれこそがα任務部隊指揮官である古代守の狙いだった。
 偵察機からの報告を艦橋で聞いたこの男は、不敵な笑みを浮かべる。

「奴さん、罠にかかったな。凝ったダミーを作った甲斐があったぜ」
「ああ。トチローには感謝だな」

 古代進ならここで敵旗艦への突撃……と言う方法をとったかも知れない。だが、彼はさらに辛辣だった。

「攻撃隊発進。だが全力では攻撃するな。こちらも消耗しているように見せかけるんだ。
 それとヤマトにも『予定通りポイントRに待機』と伝えろ」
「了解」

818earth:2011/09/22(木) 22:17:43
 ムサシの攻撃隊に襲われたのは旗艦メダルーザ直属部隊から最も離れた第2部隊だった。
 だがムサシ航空隊の攻撃がいつもの精彩に欠けることを見抜いた第2部隊司令官はバルゼーにその旨を報告した
後に追撃に入る。

「奴らも疲れているのだ! 追え!!」

 第二次攻撃部隊が少数であったことも、彼らの認識をより強固にした。
 だがそれは、古代守の思う壺だった。

「これだけ暴れたのだから、こっちも疲れているに違いない。いやきっとそうだ……と思い込ませる。辛辣な手だな」
「心理戦も戦術のうちさ」

 この光景を見ていた沖田(息子のほう)は戦慄する。

(これがうちの艦長か……)

 虎の子の艦載機まで出してムサシの居場所を突き止めた第2部隊はムサシだけでも撃沈するべく急進した。
 本来は戦力の結集を待つのが適当なのだが、ムサシが逃げ出したとの報告を受けてはそうは言ってられなかった。

「さて、連中をポイントRに誘導してやろう」

 こうしてムサシは巧みに付かず離れずで第2部隊を引き付け、最初の作戦通りポイントRにまで誘導していった。
加えて小数のコスモタイガーで巧みに第2部隊の動きを牽制する。このため第2部隊はいつの間にか狭い宙域に密集する
ことになった。

「さすが兄さんだ」

 現れた敵艦隊を見て古代進は感嘆し、真田も相槌を打つ。 

「同期でも指折りの指揮官だからな、あいつは。さて古代、いつまでも見ているわけにはいかんぞ」
「勿論ですよ」
「ではいくぞ。岩盤爆破!」

819earth:2011/09/22(木) 22:18:22
 小惑星帯に隠れていたヤマトは周囲に纏っていた岩盤を爆破して姿を現す。
 ムサシの追撃に夢中になっていた第2部隊にとっては青天の霹靂であった。

「や、ヤマトです。3時の方向からヤマトが現れました!!」
「何?!」

 慌ててヤマトに艦首を向けて攻撃態勢に入ろうとする第2部隊。だがそれは遅かった。

「波動砲発射!!」

 先手必勝とばかりに、ヤマトから放たれた必殺の波動砲が第2部隊を襲う。
 ムサシ航空隊の手によって巧みに一部の宙域に追い込まれていた第2部隊は、その半数以上が波動砲の一撃の前に
宇宙の塵と化した。
 
「よし、今だ。反転180度!」 

 第2部隊の多くが消滅したことを見た守はムサシを反転させ、艦首を第2部隊残存艦に向ける。

「全コスモタイガー隊発進! 本艦はこれよりヤマトと共に敵艦隊に突撃。一撃を加えた後に離脱する!!」
「「「了解」」」

 このあとの展開は言うまでもない。
 コスモタイガー隊のミサイルや、ヤマトとムサシの46センチショックカノン、艦首ミサイルが残ったガトランティス艦艇を
次々に火球に変えていった。

「何という砲撃精度だ」

 大戦艦の艦長はそう唸った。
 特にヤマトの砲撃の命中率はずば抜けていた。それは古代だけでなく、砲術科チーフの南部の才覚を示すものだった。

「凄い命中率だな。沖田戦闘班長、ヤマトに負けるなよ」
「任せください! 修正、仰角+2! 撃て!!」

 航空機を先頭にして戦艦と戦闘空母が敵艦隊を挟撃するという、後に古代チャージと言われる戦術によって第2部隊は 
20分も経たないうちに1隻残らずデブリに成り果てた。一方的な勝利だった。

820earth:2011/09/22(木) 22:18:52
 第2部隊が文字通り全滅(軍事的な意味の全滅ではなく)したとの報告は、猛将バルゼーをも呆然とさせた。 

「馬鹿な。20分も経っていないのに、第2部隊が全滅だと?!」

 勿論、バルゼーは最初は信じなかった。
 だが急行した宙域にかつて第2部隊の艦船だった物の成れの果てが漂っているのを見ると、それが事実であることを
認識せざるを得なかった。

「地球人、恐るべし……アンドロメダ星雲で叩き潰してきた蛆虫共とは比べ物にもならない」

 ガトランティス主力艦隊の3分の1が成す術も無く2隻の戦艦に捻り潰された……この事実は将兵の士気を打ち砕く
には十分すぎた。
 白色彗星を砕き、シリウス恒星系の自軍拠点をいいように蹂躙し、さらに次に第2部隊を赤子の手を捻るかのように
殲滅する……これまで長きに渡って侵略戦争を続けていた彼らにとっても、このような悪魔のような敵は初めてだった。

「提督……」
「判っている……」

 バルゼーは項垂れてシリウスからの、銀河からの撤退を決断する。このままでは全滅すると判断したからだ。 
 だが彼らにとっての試練はそれで終わりではなかった。
 これから彼らガトランティス帝国軍将兵は、自分達がどんな星に手を出そうとしたかを嫌と言うほど思い知ることになる。

821earth:2011/09/22(木) 22:20:13
あとがき
触らぬ神に祟り無し(笑)。
次回、完全決着です。参謀長の胃がもつかどうか……。
あとボラーのSAN値も(爆)。

822earth:2011/09/23(金) 08:58:30
防衛艦隊が活躍する第26話です。


 『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第26話


「「「………」」」

 密談の席にも関わらず、転生者たちは黙りこくっていた。誰もテーブルに出ている料理に手を出さない。
 だが何時までも黙ったままでは話が進まないと思ったのか、一人の男が探るように口を開く。 

「どうします?」
「やってしまった以上は仕方ないだろう。
 前線部隊の指揮は、土方提督に任せていた……後方でいちいち指示するよりは臨機応変な対応が出来るように。
 それにプロキオンを落とした後、ヤマトとムサシの支援、敵軍の追撃を理由に行動されては罰することも出来ん」
 
 参謀長は苦い顔だった。

「だがまさかこうなるとは思わなかった。
 まぁヤマトとムサシが大暴れするのは……下手をすればオーバーキルする可能性があることは判っていたが」
「『原作』、いや歴史の修正力と言う奴でしょうか?」
「さぁな。だが問題はボラーの出方だ。プロトンミサイルやワープミサイルを地球に向かって乱打されたら……」

 参謀長の台詞に誰もが冷や汗を流す。

「防衛軍はボラー連邦と戦って勝てますか?」
「防衛軍が戦線を支えている間にヤマトとムサシをボラーの首都に殴りこませるなら何とかなる……『かも』知れないが
 それをやると多分、いや間違いなく防衛艦隊は壊滅するだろう。ヤマトは勝ったが屍累々といったところが関の山だな」
「「「………」」」 

 頭痛がしてきた参謀長は眉間を揉むと嘆息する。

「いや勝てるとは思っていたさ。しかし相手を根こそぎ殲滅ってどういうことだ……」

 α任務部隊が大暴れしたことで、ガトランティス軍の大部分がシリウスに拘束された。
 これによってプロキオンのガトランティス軍守備隊は無縁孤立となり、防衛艦隊の猛攻によって殲滅されることになる。
 だがここで終らないのが土方という男だった。

823earth:2011/09/23(金) 08:59:35
 時は遡る。
 プロキオン攻略後、土方はα任務部隊のことを気に掛けていた。

「シリウスでの戦いはどうなっている?」
「最新の報告ではガトランティス軍を翻弄しているようです」

 幕僚の答えに土方は少し考え込む。

「ふむ……空母部隊の派遣は可能か?」
「空母部隊ですか? 確かに派遣できますが、司令部からの命令には」
「構わん。たった2隻で敵を翻弄しているヤマトとムサシ。彼らを支援するのに何を躊躇う必要があるのだ」

 自分達のためにたった2隻で死地に向かったα任務部隊。彼らを見捨てることが出来る宇宙戦士など防衛艦隊にはいない。
 まして彼らには今、手持ちの兵力に余裕があるのだ。

「了解しました! ただちに空母部隊に連絡します!!」

 青のコートの幕僚はすぐに通信兵に指示を出した。するとすぐに空母部隊から返答が帰ってくる。

『こちら第1航空戦隊。いつでも出撃は可能です』
『第2航空戦隊も同様です』
『護衛部隊も準備は整えています! いつでも発進できます!!』

 この言葉に土方は頷く。

「よし出撃せよ。本隊も後始末が終ったら、そちらに向かう!!」

 かくして宇宙空母5隻、主力戦艦2隻、巡洋艦4隻、駆逐艦16隻から構成される空母機動部隊(第51任務部隊)が
本隊に先行してシリウスに全速力で向かうことになる。

「ヤマトとムサシを支援するんだ!」

 第51任務部隊の人間はそう意気込む。
 だが彼らは知らない。すでにヤマトとムサシによってガトランティス帝国軍は可哀想な位、フルボッコにされていたことを。

824earth:2011/09/23(金) 09:00:08
 ガトランティス帝国軍がシリウスから撤退する準備を開始した頃、α任務部隊は補給と整備に追われていた。
 尤も指揮官である古代守は、これ以上無茶をするつもりはなかった。

「敵の3分の1は削ったんだ。十分だろう。あとは地味な嫌がらせで十分だ」

 彼らは『無理』をすることなく哨戒艦、輸送船を通り魔的に撃破、撃沈していった。
 そしてその行為はガトランティス帝国軍の撤退を遅延させる効果があった。
 バルゼーは甲羅の中に引篭もるかのように防御を固めれば、多少時間が掛かっても何とかなると判断したのだがその判断は
些か、いやかなり甘かった。
 ガトランティス帝国軍が撤退を本格的に撤退を開始する直前、プロキオンから駆けつけた第51任務部隊がシリウスに着いたのだ。
(さらに土方率いる本隊もプロキオンを完全に片付け、シリウスに向かっていた)
 
「敵が撤退を?」
「はい。α任務部隊の報告によれば敵はすでに総兵力の3分の1を失っているとのことです。これ以上の損害には耐えられないと
 判断したと思われます」

 第51任務部隊司令官兼旗艦レキシントン艦長はヤマトとムサシの暴れっぷりを聞いて驚愕するが、すぐに頭を切り替える。

「α任務部隊は?」
「嫌がらせ程度の追撃をすることを提案しています」
「……そうか。ならばこの際、我々も参加させてもらおう。嫌がらせではなく本格的な追撃に」

 α任務部隊の支援……それを名目に第51任務部隊は参戦する。
 かくしてバルゼーの受難が始まった。

825earth:2011/09/23(金) 09:01:03
 撤退しようとするバルゼー艦隊に、α任務部隊と第51任務部隊の双方から発進したコスモタイガーが襲い掛かる。
 第51任務部隊の攻撃隊は総数も多いが、雷撃機仕様のコスモタイガーも多数含まれていた。
 このため、対艦攻撃能力は非常に高かった。加えて対艦ミサイルも波動エネルギーを使った新型ミサイルだった。
そんな凶悪なミサイルを叩き付けられたガトランティス帝国軍艦隊は次々に沈んでいく。

「密集隊形をとれ! 対空砲火を密にするんだ!!」

 バルゼーは懸命に艦隊を纏めて撤退しようとするが、執拗な攻撃によって思うようにいかない。
 
「ここを耐え凌げばアンドロメダ星雲へ帰還できる! 踏ん張り時だ!!」

 だがそう言った直後、旗艦メダルーザにも3発のミサイルが直撃する。
 
「左舷に被弾!」
「火炎直撃砲損傷!!」
「ぐぅ……うろたえるな!! 体勢を立て直せ!!」
 
 5度の空襲に耐え切ったバルゼー艦隊は、被害が大きい艦艇を遺棄して再び撤退を開始しようとする。
 だがその彼らの前面に信じられない光景が広がる。

「12時の方向に、地球艦隊が!?」
「何?!」

 そうプロキオンから駆けつけた地球防衛艦隊が先回りして、彼らの針路を塞ぐように陣取っていたのだ。
 後方にはヤマトとムサシ、そして第51任務部隊、前面には地球防衛艦隊の戦艦部隊。袋のネズミだった。
 
「ええい、こうなれば突撃だ! いくら波動砲が強力でも分散していれば何とかなる!」

 ヤマトの波動砲を知るが故の判断だった。彼は不幸なことに拡散波動砲に関する知識がなかった。

「敵、突撃してきます」
「勇敢だ。だが……無謀でもある。拡散波動砲発射!!」

 土方の命令を受け、アンドロメダを含む24隻の戦艦から放たれた拡散波動砲によってガトランティス帝国軍艦隊は全滅。
 こうして後にガトランティス戦役と呼ばれる戦いは終結した。

826earth:2011/09/23(金) 09:06:00
あとがき
ここまで一方的に負ける白色彗星帝国があっただろうか……。
でも防衛艦隊は壊滅を免れたので、デザリウム戦役でも無様な真似はさらさずに
済む可能性が高くなりました。
まぁボラーがどう出るか……それでは。

827earth:2011/09/23(金) 14:33:54
第27話です。


 『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第27話

 シリウスとプロキオンに展開していたガトランティス帝国軍を、地球防衛軍が撃滅したとの情報は地球だけではなく
ボラー連邦にも届けられた。
 一般大衆が喜ぶ中、参謀長など政治に関わる、又は精通している人間達は今後のボラーの動きに神経を尖らせた。
 防衛軍司令部の執務室で報告書を読んでいた参謀長はため息を漏らすと呟くように言った。

「ボラー連邦がどう動くかが問題だ。万が一に備えて改アンドロメダ級。いや『タケミカヅチ』の建造を急ごう」

 原作では『しゅんらん』という名になるはずだったこの艦は、世界各地の神話上の軍神から名前を取る事になった。
 そして喧々囂々の末、日本で建造されるこの超弩級戦艦の1番艦は『タケミカヅチ』と名づけられたのだ。

「タケミカヅチ、続いて2番艦の建造も準備中だ。各州もヤマトを参考にした新型戦艦の建造を発表している。
 空母部隊の実力が示されたことで、機動部隊の整備も急ピッチで進む。本格的な正規空母の建造も認められるはずだ。
 あと1年で防衛艦隊は、いや地球連邦の戦力は飛躍的に強化される。しかし問題は……」
「ボラーが指をくわえて待つか、そして我が連邦の政治家達と防衛軍高官ですね」

 部下の言葉に参謀長は頷く。

「そうだ。防衛軍は勝ちすぎた。おかげで自信をもってボラーと交渉することを主張する馬鹿が増えている。
 まぁガミラスに逆転勝利。ガトランティスには完全勝利(主力艦損失0)。これでは過信してもおかしくない」
「そして強硬派は勝利に献策した参謀長を担ごうと目論み、穏健派は防衛軍の組織を改変し統制を強化。
 さらに政府とも仲が良い参謀長を要職に据えて防衛軍の抑えに使おうと目論んでいる」
「……欝になることを言わないでくれ。ただでさえ、華やかな出番がさらに遠ざかる可能性が高いのに」

 参謀長の言葉に部下は言葉に出さず突っ込んだ。

(ひょっとしてそれはギャグで言っているんですか?)

828earth:2011/09/23(金) 14:34:25
 一方、ボラー連邦ではべムラーゼ首相の怒りが爆発していた。
 
「これはどういうことだね?」

 べムラーゼの視線を受けた軍高官たちは震え上がった。ちなみに、責任者はすでに問答無用で処刑済みだ。
 
「我々政府は、一辺境国家の引き立て役にするために軍に予算を与えているわけではないのだ。判っているのかね?」
「も、申し訳ございません」
「言い訳や侘びはいい。何故、こうなったのだ?」

 べムラーゼの問いに対して、軍高官は慌てて答える。

「は、はい。ボラー連邦艦隊が敗北したのは予期せぬ敵の新兵器のためです。
 これに対して地球は我が軍とガトランティスの戦いから十分な情報を収集して打って出ました。
 加えて我が軍との戦いでガトランティス側も消耗していたはずです。この差かと」
「艦隊決戦では『運悪く』旗艦が早期に撃沈され指揮系統が混乱しました。これが無ければうまく混戦に持ち込めました」
「空母戦では互角以上に戦っています。我々が弱いわけではありません」

 だがべムラーゼの機嫌は直らない。

「空母戦闘だが、今回は敵に対して数で優勢な戦力をもってしても、辛勝しか出来なかったようだが?」
「彼らはアンドロメダ星雲で侵略戦争をしてきた歴戦の部隊です。地球防衛軍もガミラスと戦ってきました。
 一方、我が連邦は偉大な首相閣下による指導の下で平和を謳歌してきました。よって全員が『戦争処女』です。
 これは大きな差になります」

 首相を必死に持ち上げるボラー軍高官。しかしべムラーゼは相変わらず冷たい視線を浴びせる。
 
「それにしても地球の戦艦はよほど優秀なようだな。我がボラーのものとは比較にならない位に」
「せ、設計思想の差かと。我がボラーの戦艦は単艦の戦闘能力よりも数を揃えることを優先しているので」

829earth:2011/09/23(金) 14:34:55
 ボラー連邦はその広大な領土を維持するために、膨大な数の宇宙船を必要としていた。
 勿論、宇宙での覇権を支えるために必要となる宇宙戦闘艦の数もそれ相応の数になる。よって量産性を重視され1隻あたりの
性能は抑えられていた。軍はイザとなれば数で質の面の劣勢をカバーするつもりだったのだ。

「ふむ。では我がボラーがその気になれば、彼らに打ち勝てる艦を作れるとでも?」
「勿論です。地球人が作ったものよりはるかに優秀な艦を作ってみせます! 彼らに出来て我々に出来ないことはありません!!」

 実際にはボラーの技術は地球に負けるものではないし、機動要塞を建造できることを考えれば一部では地球を凌駕していた。
 だがこうまで地球人の戦闘能力の高さを見せ付けられ、さらに自軍の負けが続くと誰もそうは思わなくなる。

「地球との技術交流(というか技術の強奪)も必要なのでは?」

 一部の人間からは真剣にそんな声が出ていた。
 べムラーゼも、もしもヤマトに匹敵する艦が作れないのであれば、それも必要になると考えていた。
 しかし即座に実力行使を含む強硬路線に出ることも躊躇われた。

「狂戦士のような地球人類を屈服させるには、ボラー連邦軍を総動員するしかないのではないか?」

 ボラー連邦軍と政府内部ではそんな声さえ囁かれていた。
 彼らは戦争に勝てないとは思っていない。やれば勝てる……しかし、そこまでして勝つだけの意味があるのかという疑問が
出ていたのだ。地球を滅ぼしたものの、ボラーも疲弊した挙句に内乱に陥るという悪夢は誰もが避けたかった。

「もはやボラーの威信を回復するにはアンドロメダ星雲に攻め込み、ガトランティス軍に痛打を浴びせるしかない。
 遠征を始める前までに、必ずボラーの象徴となりえる新型戦艦を、あのヤマトに打ち勝てる艦を建造せよ!」

 同時にボラー連邦は本格的に地球を脅威と見做すようになる。
 彼らにとって地球は取るに足らない新興国ではなく、小さいながらもボラーと張り合うプレイヤーだった。

「地球人の目に見えるように軍事演習を行え。それと未開発の地域の探索と開発も急がせろ。
 反乱分子への締め付けも忘れるな。とくにシャルバート教徒などの宗教狂いの狂信者共は徹底的に取り締まるのだ」

 かくして俄かにボラー連邦の動きが活発化することになる。

830earth:2011/09/23(金) 14:38:37
あとがき
ボラーにも面子というものがあるので……。
というわけでプ○ジェクトXばりにボラー軍は新型戦艦建造に着手です。
(まぁ並行して色々と地球に圧力を加えますが……)
尤も彼らが新型を建造する前に新たな嵐がおきそうですけど(邪笑)。

タケミカヅチ……恐らく転生者の一部の方が猛プッシュしたんでしょう(爆)。

832earth:2011/09/23(金) 21:54:19
風雲急(?)を告げる第28話です。


 『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第28話

 ガトランティス戦役終了後、地球連邦政府は地球防衛軍の再編に乗り出した。
 シリウス、プロキオンの攻略によって支配地域が急速に拡大したため、従来の組織では軍の有機的運用が難しいと
連邦政府が判断したというのが発表された理由だった。

「それで、何故、私が統合参謀本部議長に就任することになるんだ?」

 参謀長、もとい新たに創設された統合参謀本部の議長(以後、議長と呼称)に就任することになった男は執務室で嘆息した。
 ぶつぶつと不平を漏らす議長を秘書(参謀長と同じく防衛軍司令部から異動した元部下の転生者)が宥める。 

「良いじゃないですか、大出世じゃないですか」
「どうせなら、方面軍司令官のほうが良かったよ。私にさらに地味な仕事を増やすつもりか?」
「……いや、まぁ参謀長の能力が買われているってことなのでは?」
「こっちの希望とは真逆だよ。艦隊司令官どころか、一兵も指揮できない立場になるとは」
 
 統合参謀本部は議長、副議長、宇宙軍軍令部長、空間騎兵隊総司令官、地上軍参謀総長の5人から構成される。
 彼らは作戦計画の立案や兵站要求などの仕事に当る。しかし彼らに兵を直接指揮する権限はない。
 統合参謀本部が出した案を大統領(又は防衛会議)が承認すると、それが正式な命令書となり防衛軍司令長官が
その作戦を遂行するという形になった。
 といっても現場を指揮する人間は議長と仲が良かったり、議長のシンパが多いので、いざと言うときには統合参謀本部の威光と
議長個人のコネで多少は融通が利くと思われた。

「各方面軍を統括する統合軍司令官である防衛軍司令長官……あっちのほうが断然良かった」

 防衛軍司令長官は太陽系、シリウス、プロキオンなどの各方面軍(宇宙軍、空間騎兵隊、地上軍の三軍の統合軍)を統括
指揮する統合軍司令長官となった。これは実戦部隊の長でもあることを意味する。ちなみに司令長官には藤堂が横滑りしている。

833earth:2011/09/23(金) 21:55:02
「各方面軍が必要な戦力や物資の分配案。あと今回のシリウスの件から現場と上との意思疎通の徹底。
 これにボラーを仮想敵にした戦略の作成。おまけにデザリウム戦役への備えを並行してやれ、だと? 
 過労死させるつもりか!?」

 ボラー連邦はガトランティス戦役以後、地球連邦と交流を深めつつも、露骨に軍事力を誇示するようになった。
 よって地球連邦政府はボラーと協調する傍らで、対ボラー戦争計画の策定を決定したのだ。

「まぁ議長一人で仕事をされるわけではないですし」
「一人でなくても死ねる仕事量だ! どいつもこいつも面倒ごとばかり持ってきやがって! 
 そのくせ、華々しい出番は皆無とは一体全体、どういう了見だ?!」

 よほど不満が溜まっているのか、果てしなく愚痴は続く。

(そんなに艦隊指揮がとれないのが不満ですか……)

 秘書官は乾いた笑みを浮かべる。 

「まぁまぁ。それに防衛会議に手を回して、非常時には内惑星艦隊、いえ地球本土防衛艦隊だけでも統合参謀本部の直接指揮下に
 入れるというのは?」
「そうだな。あとは実験艦隊、例の試験運用をはじめる予定の無人艦隊。あのラジコン艦隊だけでも当面の指揮下に入れよう。
 有人艦は……旗艦と直属の護衛部隊で10隻あれば良い。手持ちの部隊があれば不測の事態があっても手が打てる」
「旗艦と言うことは、無人艦艇を制御できるように?」
「そうだ。地上施設がやられたら即全滅では役に立たん。それに無人艦は有人艦艇と組み合わせてこそ役に立つものだ。
 タケミカヅチで本格運用する前に小規模でも良いから試験運用するのが適当だ」
「アンドロメダは各艦隊旗艦になるので実験艦隊に回すのは無理かと」
「主力戦艦を改造すれば良い。武装を減らせば何とかなる。問題があるなら波動砲そのものも撤去して良いだろう。
 艦隊旗艦に必要なのは武装ではなく指揮統制能力だ」

 かくして議長(元参謀長)の苦闘が始まる。

834earth:2011/09/23(金) 21:55:37
 面子を大いに傷つけられたボラー連邦は、屈辱の倍返しのためにガトランティス帝国本国のあるアンドロメダ星雲への侵攻を
目論み準備を進めた。
 新型艦の建造や補給基地の整備などやることは幾らでもある。だがそれをやる前にやることも多かった。
 その一つが国内の反乱分子の弾圧だった。

「容赦するな!」

 各地では中央政府から檄を飛ばされた秘密警察や軍が動き、反体制派を弾圧した。
 特にシャルバート教には厳しい弾圧が加えられた。何しろあちこちに勢力が浸透している彼らはボラーにとっても脅威だった。
 続いてボラーからの独立を図る各地のゲリラ組織が弾圧された。

「ガルマン人共が歯向かうなら、見せしめに街ごと消しても構わん!!」

 ガミラスの先祖であったガルマン民族は、ボラーの支配に抵抗を続けていた。故にこの度、ボラー連邦の激しい弾圧に見舞われた。
 一部のボラー人からも「やりすぎでは?」という声が挙がるほどだった。しかし総督府や現場の役人はそんな声を気にしない。

「そんな声を気にして手心を加えたら、ノルマが達成できないだろうが!」
「俺達に死ねと言うのか?!」

 彼らも命が惜しかった。
 こうして原作ではデスラーが来訪するまで持ち堪えたガルマン人だったが、本気になって押し潰しに来たボラー連邦に歯向かうのは
困難を極めた。そしてそれは他の惑星でも同じようなものだった。 

「逃げるしかない」

 一部のゲリラ、特に宇宙船を保有している勢力の中には未開の惑星に脱出する者も出た。
 勿論、ボラー連邦はこれらを追撃したので、各地で戦闘が行われた。だがそれは新たな国家との遭遇と戦いを呼ぶことになる。

「領空を侵犯する愚か者を殲滅せよ!」
「了解しました、父上」 
 
 前ヤマト艦長(完結編では地球艦隊司令官)が見たら、顔を引きつらせることが確実な新たな勢力が盤面に出現する。

835earth:2011/09/23(金) 21:57:43
あとがき
1日に三話連続更新……新記録達成ですね(笑)。
さてあの帝国の登場です。外道さでは定評のあるあの国です。
歴史が変わったゆえに敵の出現順番にも変化が出たということでしょう。

まぁ本格的に地球防衛軍と敵対するのはまだ先になるでしょうけど。

837earth:2011/09/24(土) 17:03:03
第29話です。今回は短めです。


 『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第29話

 銀河で新たな戦乱の機運が高まっている頃、地球連邦は獲得した新たな領地の開発に力を入れていた。
 地球本星では開発に必要な船舶や機材が生産され、植民惑星では地球本星から送られてきた資材を使ってテラフォーミングと
植民都市が建設される。
 
「新たなフロンティアは宇宙にある!」

 マスコミはそう煽りたて、連邦政府、財界も関連する分野に投資を行った。
 宇宙開発はガミラス戦役によって中断を余儀なくされていたのだが、ガミラス、ガトランティス戦役終了に伴い、再開する
ことが出来たのだ。
 加えてボラー連邦という巨大な外圧が生まれたこともあり、人類は地球連邦の下で自分達の生存圏の拡大のために団結する
ことが出来た。これによって宇宙開発は急ピッチで進むことになる。
 
「人口の8割近くを失う戦争が終って、2年もしないうちにでこれだけ復興、いや飛躍できるって……」
「気にしたら負けですよ、議長」
「……そうだな」

 某所でそんな会話が行われていたが、そんなことはお構い無しに人類は勢力圏の拡大に勤しんだ。 
 そして同時に防衛軍の再編も急がれた。各方面軍が創設され、命令指揮系統が変更されていく。
 勿論、必要な事務処理は膨大なものとなり、防衛省や防衛軍の官僚達はその処理に忙殺された。議長もその一人だった。

「再編は何とか進んでいる。
 あと非常時には地球本土防衛艦隊と地上軍、各州軍を統合参謀本部の直接指揮下に入れることが何とか認められた」

 議長はそう呟くと議長室の椅子に背を預けた。
 それを見た秘書は議長の疲れを少しでも癒すためにお茶を用意した。

「これで万が一の時に、参謀本部独自に身動きが取れます」
「まぁ、そんな事態がないようにするのが参謀本部と防衛軍司令部の仕事だろう。本土決戦など悪夢でしかない」

 地球本土決戦となれば経済に途方もない悪影響が出る。
 戦争には勝ったが経済は崩壊しました……では洒落にならない。まぁ種族が絶滅するよりかはマシかもしれないが。
 
「太陽系で戦うとすれば11番惑星などの外惑星で、最悪でも土星圏で敵を食い止めたいが……」

838earth:2011/09/24(土) 17:03:52
「しかし次に相手になるのは、暗黒星団帝国。そこまで上手くいくでしょうか?」
「判っている。だからこそ、暗黒星団帝国を敵に回すのを嫌がる人間が多いんだ」

 転生者たちの中でも、イスカンダル救援に行くかどうかでは賛否両論があった。
 いくら恩人だからといって、二重銀河を支配する怪物国家を悪戯に敵に回すのは危険すぎるという声もあれば
イスカンダル救援後に先手必勝として二重銀河に攻め込んで逆に彼らを殲滅すれば良いと主張する者もいる。
 特にテレサという強力なジョーカー(超能力者)が居ることも好都合だった。

「議長としては?」
「デザリウム戦役は可能な限り避けたいが……放置していて予期せぬタイミングで攻め込まれるのは拙い。それに」
「それに?」
「放置したら、ヤマトが勝手に何かしそうで怖い」
「……た、確かに」

 秘書も乾いた笑みしか浮かべられない。

「で、では?」 
「原作どおり開戦が適当だろう。ただデスラーと和解していないから、イスカンダルの危機を事前に知るのは難しい。
 口実がいるだろう」
「どのような口実を?」
「なぁに。丁度良い口実があるじゃないか。アンドロメダ遠征の練習という口実がな」

 地球連邦としてはボラーの面子に配慮するために、アンドロメダ星雲への反攻作戦に限定的に付き合うことを
考えていた。しかしこれほどまでの長距離遠征。それも艦隊規模での遠征は例がない。

「α任務部隊、そして新たに編成する艦隊でイスカンダルへの表敬訪問を兼ねた練習航海をさせる。
 ついでに旧ガミラス星の調査という名目もつければいい。妨害が無ければ片道3ヶ月程度で済むだろう」
「なるほど。そしてその経験を基にして、二重銀河遠征も?」
「そうだ。無駄にはならない。それに二重銀河に行かなかったとしても、防衛艦隊にとっては良い経験になる」
  
 かくして防衛軍は新たな艦隊の整備に着手することになる。

839earth:2011/09/24(土) 17:05:40
あとがき
閑話的なお話でした。
イスカンダルへ向けて1個艦隊をでっち上げて艦隊が出撃します。
α任務部隊も同行します……また大暴れするかも(爆)。
それでは失礼します。

840earth:2011/09/24(土) 22:04:27
第30話です。


 『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第30話

 ガトランティス戦役と呼ばれる戦いで、地球防衛軍は遺棄されていたガトランティス帝国軍艦艇を多数鹵獲した。
 鹵獲した艦艇の多くは調査された後に解体され、資源として再利用された。だが利用する価値があると思われた
艦艇については改装された後、防衛艦隊に編入されることになる。
 その中でも特に目立ったのが、4本滑走路を持つ大型空母と高速の中型空母であった。

「シナノ建造の前に本格的空母のノウハウを学習できるのは大きい……」

 ドックの中で改装を受ける元ガトランティス軍の空母を見て、議長は満足げに頷く。 
 空母戦力の重要性は理解されたものの、本格的空母の建造と運用となると問題も多かった。
 ムサシのデータは蓄積されていたが、やはり本格的な正規空母のデータが取れるに越したことはない。
 まぁそれ以外にも問題があったのだが。

「予算の問題もありますからね……宇宙開発で思ったよりも予算が必要でしたし」 

 秘書の突っ込みを聞いて、議長はジト目で睨む。 

「……それを言うな」 

 地球連邦政府は宇宙開発を重視するにつれて、防衛予算の際限のない増額に歯止めを掛けた。
 産業を育成して国と国民を豊かにしたいというのが政治家達の主張だった。
 おまけに急速に支配領域が拡大したせいで、防衛軍は質よりも、とりあえずは量を求められていた。
 このために決戦を志向した高コストのシナノより、とりあえずは急場を凌げる鹵獲空母の整備が重視されたのだ。
正規空母シナノ建造を望んでいた転生者たちは悔しがったが、どうしようもなかった。 

「まぁ長距離航海に適したガトランティス軍空母を運用するというのは悪くない。『今後』のことを考えるとな」

 議長はそう言って肩をすくめる動作をする。

(シナノ、いや信濃は当面は横須賀基地のドックで放置だな。何とかディンギル戦までには手を付けたいが……)

841earth:2011/09/24(土) 22:05:04
 ハードの整備を進める傍らで、政治的意図を考慮しない将校の暴走をどう防止するかで防衛軍上層部は頭をひねった。
 土方の行動は政治的には色々と問題が多いが、命令違反ではないし、戦術的に言えば間違っていないからだ。

「死地に向かった味方を支援するな、とは言えんからな……」

 ただでさえ人的資源が困窮する地球において土方の行動は当然だったし、下手に叱責したら後が面倒になる。 
 今後はボラーと付き合う必要があるので、政治的な思惑を理解して動いてもらう必要もあるのだが、どうやって理解して
動いてもらうかとなると問題が山済みだった。 
 当面は政治が苦手な将兵は地球や太陽系防衛に振り向け、政治が理解できる、又は再教育して短期間で校正する可能性が
ある将兵を新たに獲得した領域、他の勢力と接触する可能性が高い場所に振り向けることになった。
 
「下手に再教育すると、彼らの特性や長所を殺すことになりかねない」
「ガミラス戦役のときの弊害が出ましたな」
「全くだ。あの時は戦場で勝てばよかったからな」

 議長は密談の席で苦い顔で言う。これに他の転生者たち、特に外交部門の人間が噛み付く。

「しかし戦争は政治の延長であることを理解してもらわないと困ります。こっちがどれだけ胃が痛い思いをしたと……」
「だが配慮しすぎて戦闘に大敗したらどうする? まぁ指揮官の苦手分野をサポートするのが幕僚なんだが、現状では
 満足に艦隊司令部に幕僚を置けない。そんなに人がいない。下手なのを配備しても戦場では邪魔になるだけだ」
「「「………」」」

 相変わらず地球防衛軍の懐は苦しかった。

「これ以上、ボラーの機嫌を損なわないように高度な判断ができる提督を、前に出すしかないだろう。
 とりあえず土方提督は本土防衛に専念してもらう。あとは気長に政治について理解してもらう。無理なら再教育した
 若い人間を補佐に付かせる。まぁこちらは少し時間が掛かるだろうが」
「しかし、そんな人材が戦死されたら堪りませんな……」
「勿論、作戦は慎重にする。人を無駄死にさせる余裕は防衛軍にはない」
「それは民間も同じですよ。正直、防衛軍から人を戻して欲しいくらいです。まぁ無理なのは判っていますが」 

 彼らは原作よりもマシな状況にも関わらず、地球連邦が零細国家であることを改めて思い知った。
 
「こんな状況でデザリウム戦役に挑むなんて無謀すぎません?」
「しかし、やるしかないだろう。下手に放置して二正面作戦なんてことになったら目も当てられん。
 それに奴らが今行っている星間戦争を片付けた後、地球に目を向けないとも限らない。
 そしてその時にボラーが地球の味方をするとも限らない」
 
 議長の意見に不満は漏れるが反対意見は出なかった。

842earth:2011/09/24(土) 22:05:57
「こうなったらヤマトクルーが使えるときに、脅威になる連中は叩いておくに限る。勿論、地球防衛も手は抜かない」
「好戦的過ぎるのでは?」 
「いつもオーバーキルするような連中だ。それなら存分に暴れてもらうさ。まぁ今でも十分に無双伝説状態だが」
「確かに」

 ガミラス帝国軍の名だたる将兵達(ドメルやシュルツ等)とその艦隊とガミラス本星、白色彗星、ガトランティス帝国軍前衛艦隊の
3分の1がヤマト(ガトランティス艦隊はムサシと共同だが)によって葬られている。
 第三者からすれば無双といっても過言ではない。

「ではイスカンダルへ?」
「α任務部隊とアンドロメダ級2番艦『ネメシス』、主力戦艦『加賀』、宇宙空母2隻、巡洋艦4隻、パトロール艦4隻、駆逐艦12隻を
 考えている」
「ネメシスをつけると?」 
「収束型波動砲搭載艦はヤマトとムサシで十分だろう。あとは敵艦隊を効率よく掃討できる艦で良い筈だ。
 最悪の場合はガミラスの残党も叩いてもらう必要があるからな。それに、これ以上は出せない……」
「司令官は?」
「山南提督を、と言いたいところだが、ここは彼に出てもらう」

 議長が目を向けた先には原作ではヒペリオン艦隊司令官を務めた男の姿があった。

「は? 何の冗談です?」
「冗談じゃない。派遣が正式決定になったらネメシス艦長兼イスカンダル派遣艦隊司令官に任命するから……頑張ってくれ」
 
 こうしてイスカンダルへの艦隊派遣が進められることになる。
 しかしそんな中、転生者たちにとっては寝耳に水とも言うべき情報が飛び込む。

「ディンギルだと? 間違いないのか?」
 
 議長は統合参謀本部で何度も確認させたが、虚報ではなかった。

(早すぎる。何が起こっている?)

 転生者たちにも全く予期できなかった『ディンギル帝国』とボラー連邦との戦争。
 それはボラーの本当の恐ろしさを地球人にはっきりと示すことになる。

843earth:2011/09/24(土) 22:07:57
あとがき
次回、ディンギルVSボラーの予定です。
ボラー連邦軍名誉挽回のとき……かも(笑)。
狂犬国家VS独裁国家。実に救いようが無い組み合わせです。

844earth:2011/09/25(日) 11:12:57
ボラー軍大活躍(?)な第31話です。


 『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第31話

 ディンギル帝国を名乗る国家と偶発的な戦闘を切っ掛けに大規模な戦闘に陥ったとの報告は即座に首都の中央政府と
そのトップであるべムラーゼにも届けられた。
 本来なら辺境の小国など気にもしないのだが、ガトランティス帝国に痛い目に合わされ、辺境の新興国がトンでもない
強敵であることを思い知った直後であったので、ボラー連邦政府首脳は事態を軽視しなかった。

「全力をもって叩き潰すのだ! 機動要塞、プロトンミサイル、それに新開発したワープミサイル。あらゆる物で潰せ!!」
「了解しました!」

 べムラーゼはディンギル帝国の殲滅を、そう制圧ではなく殲滅を命じた。
 また情報収集の結果、ディンギルが宗教国家であることが判明すると、べムラーゼはディンギルへの嫌悪を露にする。

「シャルバート教と結びついたら手を焼くだろう。
 狂信者共が神の名の下に戦うのなら、奴らの望むとおりに奴らが崇める神の御許に送ってくれる。女子供も容赦するな。
 生き残ったとしても、新たなテロリストになるだけだ」
「で、では捕虜はどうされます?」
「捕虜もいらん! ディンギルは見せしめのために民間人諸共、根こそぎ殲滅するのだ。何も残すな!!
 それと地球人共にボラー連邦の恐ろしさを見せ付けるのだ!!」
「防衛軍に参戦を要請すると?」
「参戦ではない。武官なり役人を機動要塞に搭乗させるか、それとも2、3隻の小艦隊をボラー艦隊に同行させるのだ!
 そして我がボラーの恐ろしさを直に見せ付けるのだ!!」
「了解しました!」

 べムラーゼの厳命は直ちに前線部隊に伝達された。
 地球防衛軍によって面子を潰されたこともあり、今度活躍しないと大粛清になることを理解している軍人達は本気だった。

「全軍出撃!!」

 小国と言えども、油断は出来ない。
 これが嫌と言うほど理解している男達は、悪戯に戦力を逐次導入することなく、機動要塞を中心とした大機動部隊を集結させ
それをもってディンギルの母星がある恒星系へ侵攻を開始する。

845earth:2011/09/25(日) 11:13:39
 本気になったボラー連邦軍はディンギル帝国軍の実に6倍もの数の艦船でディンギル本星がある恒星系に押し寄せた。

「ワープミサイル発射!」

 敵の監視網を察知し、自力で小ワープすることでそれを突破するというボラー連邦期待の新型ミサイルは期待通りディンギル帝国軍の
監視網を突破した。そして5個の弾頭ミサイルに分離すると次々にディンギル帝国軍の前線基地に降り注いだ。
 
「一体どこから現れたというのだ?!」
「わ、判りません!」
「とりあえず、本星に救援要請を!」

 だが彼らは本星からの援軍を見ることは無かった。
 ボラー軍はディンギル帝国軍の前線基地がある惑星をワープミサイルによる奇襲で大打撃を与えた後、プロトンミサイルで星ごと
消し飛ばした。周辺に居たディンギル艦隊は爆発に巻き込まれて壊滅した。
 だがその光景を見ても、ボラー軍の指揮官達は気を抜かない。

「偶発戦闘で生き残った艦からの報告では、連中は極めて強力な対艦ミサイルを保有しているらしい。
 戦艦クラスでさえ一撃で撃沈する破壊力を持っている。油断は禁物だ」

 二度も痛い目に合っているボラー軍は、相手を侮ることはなかった。
 
「艦載機を発進させ、周囲を厳重に警戒せよ! 敵の大型機(水雷艇のこと)の接近を許すな!!」

 ボラー軍は持ち込んだ大量の空母や戦闘空母から常に警戒機を発進させ、ディンギル帝国軍の決戦兵器であるハイパー放射ミサイルを
防ごうとする。いくらハイパー放射ミサイルが強力でも制空権を奪われ、奇襲さえできない状況では発射母機である水雷艇ごと撃破され
何の役にも立たない。またハイパー放射ミサイルでは艦船は撃破できても機動要塞は潰せなかった。
 ディンギル軍が誇る移動要塞母艦はボラー自慢のブラックホール砲によって、一撃で周辺の艦隊ごと破壊されてしまう。
 
「力業だな」

 防衛軍から派遣されてきたパトロール艦隊とそのパトロール艦からの映像を見ていた防衛軍首脳は慄然とした。  
 勿論、議長もその一人だ。しかし彼は冷静に次の手も考えていた。

(さすがソ連がモデルの国だけはある。ミサイルと人海戦術で押し寄せられたら、ディンギルも堪らないな。
 いやむしろ彼らを他山の石として新兵器開発と軍備強化を進めるのが良いだろう。
 ハイペロン爆弾対策も兼ねたプロトンミサイルの防御策を構築すれば、一石二鳥だし。
 まぁディンギル帝国には、せいぜい頑張ってもらって防衛軍強化の踏み台になってもらおう)

846earth:2011/09/25(日) 11:14:30
 ボラー連邦軍は真綿で締めていくように、ディンギル帝国軍を追い詰めた。
 当然、降伏してきた者もいたが、ボラーは情報を取った後はさっさと裁判にかけて処刑していった。

「ボラーの敵に容赦は不要だ!」
 
 勿論、ディンギルも似たようなものだった。捕虜となったボラー軍人は国民の前で公開処刑されていく。
 ボラーが神を信じぬ者たちであるということがディンギル人の反感を煽り立てていたので殆ど文句は無かった。

「これは聖戦である!」

 大神官大総統であるルガールはそう言って国民を鼓舞した。しかし戦況は変わらず、彼らはジリジリと追い詰められた。
 こうしてディンギル帝国は最後の賭けとして、残存する艦隊を掻き集めて、母星周辺宙域で決戦に出た。
 ルガールは宇宙艦隊の指揮権を自身の長男であるルガール・ド・ザールに任せた。
 
「神を信じぬ愚か者共を生かして帰してはならぬ!」

 ルガールは自身の長男にそう言うと、司令部に戻っていった。
 その姿を見送った後、ルガール・ド・ザールは巨大戦艦ガルンボルストに乗って出撃した。
 ガルンボルストを含むドウズ級戦艦、カリグラ級巡洋戦艦を中心とした大艦隊はボラー艦隊を迎え撃つべく出撃した。
 ディンギルの総力を挙げた艦隊であり、その規模は地球防衛艦隊に勝るとも劣らない規模であったが、それでもボラー艦隊の
規模に比べるとお寒い限りだった。
 しかしディンギル帝国軍に後退は許されなかった。何しろ後方には母星があり、ここで敗れることは自分達の滅亡を意味する。
  
「ここで食い止めるのだ!」
 
 ルガール・ド・ザールはそう勢い込んだが、ボラーは実に情け容赦が無かった。
 ハイパー放射ミサイルによる損害をものともせずに、物量にものを言わせた波状攻撃を実施。
 これによって一時的に本星の守りが薄くなったのを見ると、プロトンミサイルの飽和攻撃を実施したのだ。  

「ディンギル人どもよ、ボラー連邦からのプレゼントだ。有難く受け取るが良い。
 そして地球人よ、これがボラーの力だ。思い知れ」

 首相官邸で前線の映像を見ていたべムラーゼはニヤリと笑う。
 そして彼が笑った直後……ディンギル本星は実に5発ものプロトンミサイルの直撃を受けて、宇宙の塵となった。

847earth:2011/09/25(日) 11:16:03
あとがき
ディンギル帝国が……
まぁこれが超大国ボラーの本気と言ったところでしょう。
こんなのと遣り合ったら普通に死ねます。
でもこれで完結編のフラグは折れたとも言えます(爆)。

848earth:2011/09/25(日) 18:24:28
第32話です。


 『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第32話

 地球と似た規模の国家である『ディンギル帝国』がボラー連邦の猛攻によって、僅か1週間で消滅したことは地球に衝撃を与えた。
 ブラックホール砲、プロトンミサイル、ワープミサイルなどの戦略兵器群はどれも地球には無いものであった。

「あんな兵器で飽和攻撃されたら防衛艦隊は全滅するぞ」

 防衛軍の某高官はそう呟いて頭を抱えた。
 超大国『ボラー連邦』の真の恐ろしさを思い知った人間達は、ボラーがガミラス以上にトンでもない相手ではないのかとさえ考えた。

「ガミラスではなく、ボラーが攻めてきていたら人類は終っていたかもしれない」
「敵には回せませんな」
「ガトランティスに完敗したのに、すぐにあれだけの艦隊を揃えられるなんて……化物か?」

 連邦政府が震え上がる中、議長を筆頭にした転生者たちは元気に動き回っていた。
 議長は連邦政府大統領府で熱心に説いて回った。

「当面はボラー連邦には低姿勢で臨むべきです。その間に対抗手段を探りましょう」
「そのようなことが可能なのかね?」
「不可能ではありません。人類の総力を結集すれば絶対に克服できます! しかし今だけは屈辱に耐え宥和に徹するべきです。
 幸い、先方はこちらとの友好関係を崩すつもりは無いと言っています。最大限、それを利用するべきです」
「………」 
「ボラー連邦はアンドロメダ星雲への侵攻を目論んでいます。これに協力することを表明すれば向こうの歓心は買えるでしょう」 
「艦隊規模の遠征になるぞ。犠牲も少なくない」
「1、2個艦隊の犠牲で地球が守れるなら十分実行する意味があります。ただこの手の遠征は経験がありません」

 そう言って議長はイスカンダルへの艦隊派遣を提案する。

「この手の大遠征はヤマトしか経験がありません。この航海は防衛軍全体にとっても有益なものになるでしょう。
 さらにガミラス星に残された技術を接収できるかも知れません」

 反対意見は出なかった。
 かくして後日、防衛会議の席でイスカンダルへの表敬訪問とガミラス星調査を兼ねた艦隊の派遣が決定されることになる。

849earth:2011/09/25(日) 18:24:59
「藤堂長官、前線部隊には迷惑を掛けますが、宜しくお願いします」

 防衛会議の後、議長は実戦部隊を統括する藤堂に頭を下げる。
 原作よりもマシな状況とは言え、アンドロメダ級やヤマト級を含む戦艦3隻、機動戦艦1隻、宇宙空母2隻を中心とした30隻の
艦隊を遥々イスカンダルに送るのだ。それだけ前線の負担は大きくなる。

「頭を下げなくても良いよ、議長。私も今回の派遣の必要性は理解している」
「はい」
「しかしボラーに頭を下げ続ければ、我々は良いように使い潰されるぞ。そうなれば、いずれは完全な従属の道しかなくなる」
「勿論承知しています。ですがジリ貧を避けるために破滅を選択するのは愚かなことです。
 幸い、ボラーは敵対すればこちらを破滅させようとしますが、味方である姿勢をしめせば話を聞いてくれます。
 味方であることをアピールし、その間に彼らに対抗できる力を身につけることが必要です」
「『今日の屈辱に耐える』か。沖田君も同じ事を言っていたな」
「それこそが今の地球に必要なことなのでしょう。何を譲歩し、何が譲れないかを政府と協議する必要があるでしょう」
「ふむ」
「防衛軍は地球人類を守る盾であり矛でもあります。しかし武器である以上、消耗しますし、使い方によっては自らを傷つけます。
 持ち主が正しく武器を使用できるようにサポートするのも我々の仕事です」
「そうだな。全く、ガミラス戦役の時とは大違いだ」
「時代の変化なのでしょう。私のようにガミラス戦役からの生え抜きは、前線での仕事のほうが向いていると思うのですが」

 この言葉に藤堂は笑う。

「君が議長を務まらないのなら、今の防衛軍で統合参謀本部を統括できる人間はいない。自信を持ちたまえ」
(私としては、こんな仕事は嫌なんですけどね。地味だし)

 心のうちでため息をつく議長。
 だが彼の心情など、藤堂が知る由も無い。

「実戦部隊の皆も議長を信用している。これからも(後方で)頑張ってくれ」

 まだダメなのか……と、SAN値が減る議長だった。

850earth:2011/09/25(日) 18:25:49
 SAN値が減った議長であったが、実験艦隊が統合参謀本部の指揮下に入ることが正式に決まると少しは持ち直した。
 まぁ実際には防衛省とも話をする必要があるのだが、それでも自分が乗り込める艦があるというのは議長のテンションを
上げさせた。

「よし。みなぎってきた!」

 議長はとりあえず実験艦隊『第01任務部隊』を立ち上げた。
 旗艦として白羽の矢が立ったのは、建造中の主力戦艦『アイル・オブ・スカイ』だった。
 
「旗艦としての機能が低いから改造する必要があるだろう」
「武装を減らして無人艦の指揮機能を強化すると?」

 だがこの秘書の言葉に、議長は首を横に振る。

「いやここは本格的に改造しておきたい。実験艦ということもある。この際、色々な新装備も載せれるようにしたい」
「……誰に改造を任せるおつもりで?」
「勿論、地球が誇るマッドサイエンティスト、もとい技術者の真田さんか大山さんだろう」
(嫌な予感しかしませんが……)

 秘書は冷や汗を流す。

「二重銀河に行く前にヤマトは改装するんだし、そのテストになる艦があってもおかしくないだろう?
 まぁ真田さんは忙しいからダメかもしれないが……」
「はぁ……(ダメだ、この議長)」

 こうして不幸(?)なことに『アイル・オブ・スカイ』は大改装されることになる。

851earth:2011/09/25(日) 18:34:34
あとがき
魔改造は男の浪漫です。
議長が乗る戦艦についてはまだ決めていません。さてどんな艦にするか……。
次回以降、ディンギル戦役に突入する予定です。
尤もリアルの事情と、展開にある程度区切りが付いたこと、もうそろそろ憂鬱本編を
書く予定なので更新速度が落ちるかも知れませんのでご了承ください。

852earth:2011/09/25(日) 19:42:11
すいません。ディンギルじゃなくてデザリウム戦役でした(汗)。

853earth:2011/09/27(火) 21:59:07
何か出来てしまったので掲載します。33話です。
あとデザリウム戦役に本格的に突入できませんでした(汗)。


 『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第33話

 ディンギル帝国の終焉を見せ付けられた地球連邦政府は、ボラー連邦の圧倒的力に震え上がった。
 このため議長が主張したように、表向きだけでもボラー連邦に服従しつつ密かに力を蓄えることを決意した。  
 
「ボラーに対する抑止力の整備。これが重要です!」

 こうした声に押されて、ガトランティス帝国軍から得た潜空艦と破滅ミサイルの技術を組み合わせた艦の建造が
計画された。

「現代(?)に蘇った戦略原潜といったところだな」

 計画案を見た議長がそう呟いたように、この艦は防衛軍が初めて建造する報復攻撃用の艦だった。
 ステルス化した艦体で敵の警戒網を突破し、艦首に格納された破滅ミサイル(のデットコピー)で相手の主要惑星を
破壊するというのが、この艦のコンセプトだ。

「MAD。相互確証破壊をこの世界で目論むとは……」

 密談の席で転生者の一人はそう嘆息する。

「実に夢も希望もないですね」
「まぁボラーのワープミサイルもMIRVっぽいですし、ある意味、現実(?)に追いついたということでしょう」
「しかし本当に抑止力になるんですか? ボラーの首都は地球から見て銀河の反対側ですよ?」

 この疑問に議長は渋い顔で答える。

「ないよりはマシだろう。生存性もある。
 あとこの艦は別に使えなくても良い。地球を滅ぼすと大打撃を受けると相手に思わせれば、作る意味がある」
「ボラーをいたずらに刺激するだけでは? それに予算は?」
「完成しても即座に公開はしない。時期を見て行う。
 予算については現在の主力戦艦の建造を打ち切りにしてひねり出す。主力戦艦建造計画はカモフラージュとして残すが」

 この言葉に全員がショックを受ける。

854earth:2011/09/27(火) 21:59:54
「い、良いのですか? それでは防衛軍の増強が……」
「ガトランティス戦役での消耗が少なかったから問題ない。
 それに次期主力戦艦の建造が計画中だ。この艦の整備が終れば、すぐに新型戦艦の建造に取り掛かる」
「新型戦艦? タケミカヅチではなく?」

 全員の脳裏に、ハイパー放射ミサイルで呆気なく撃沈されていった防衛艦隊の姿が映し出される。 

「まさかと思いますが、あの爆雷、いえ拡大波動砲を装備したダンボール戦艦ですか?」
「いや、あのやられっぷりからすると、あの装甲を『ダンボール』と言うのは『ダンボール』に失礼だろう。
 むしろ……薄紙?」
「竹と紙で出来た戦艦と言われても、納得するやられっぷりだったからな……」

 曲がりなりにも主力戦艦なのに、ミサイル数発で木っ端微塵に吹き飛ばされていく様はあまりにも印象的だった。
 
「その拡大波動砲搭載艦だ。一応、『ナガト』級という名前だ」
「ナガトですか? むしろ新型の対艦兵器に爆沈される様からすると『ローマ』のほうが……」
「不吉だからそれは無しだ。それに今回のナガト級の建造にはアンドロメダ級の運用データや各国が建造している
 改ヤマト級のデータも使われる」

 各州で建造されている戦艦はヤマトやムサシのデータを参考にして建造されている。
 スペックではヤマトを凌駕していると言って良い。これで乗員のスキルを上げれば強力な戦力になる。
 このことを理解した転生者たちは少しは明るい顔になった。

「それなら、何とかなるかも知れませんね」
「防衛艦隊主力は健在だし、各州の戦艦が加われば大幅に戦力UPだ」
「それにヤマトの系譜とあれば、ボラーも無視できないでしょうし」

855earth:2011/09/27(火) 22:00:36
 仲間の表情が明るくなったのを見て、議長は話を続けた。

「あと主力戦艦の改装も進める。今の砲戦能力では不足だからな。それに速度も上げておきたい」
「出来るのですか?」
「何とかなるだろう。しかしデザリウム戦役までに全てを改装するのは無理だろう」
「……」
「だが改装の完成度は高くなるはずだ。実験艦も作るからな」
「……わざわざ参謀本部の指揮下において、データ収拾の名目で自分が乗れる戦艦を魔改造と?」

 この突っ込みに議長は視線をそらす。
 
「何を言っているんだ。これは必要なことだぞ。それに、これがうまくいけばヤマトの能力は原作以上に強化できる」
「……まぁ良いですが」
「そういえば、この艦は無人艦隊の旗艦としての能力もあると聞きましたが、大丈夫なんですか?」

 転生者の中には無人艦隊は『直前まで敵の接近に気付かず奇襲され、良いところ無く全滅した〈ヤマト世界最弱の部隊〉』
という印象があった。 

「この世界では太陽系内外には厳重な警戒網を敷いている。そう簡単に奇襲はされない。重核子爆弾を阻止できれば尚更だ。
 それに無人艦隊のコントロール機構は、十分な試験運用の後にタケミカヅチやアンドロメダ級4番艦に設置される。
 運用実績も十分だし、改アンドロメダ級のタケミカヅチの防御力は高いから、すぐに撃沈されて制御不能にはならない」

 この言葉に誰もが納得して引き下がった。
 こうして地球防衛軍はボラーへの備えを考慮しつつ、デザリウム戦役に向けて軍備の整備を進めた。

856earth:2011/09/27(火) 22:04:08
あとがき
次回以降こそ、デザリウム戦役に突入できたらいいなと思っています。
拡大波動砲のあの戦艦もいずれは登場する予定です。
憂鬱本編は完成率50%。改行も改善中です。
何とか10月には掲載したいと思っています。それでは。

857earth:2011/09/28(水) 22:43:56
第34話です。いよいよデザリウム戦役です。


 『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第34話

 地球防衛軍イスカンダル派遣艦隊こと第8艦隊(臨時編成)は、ヤマトのテーマソングをバックにして地球から旅立った。
 港で第8艦隊出航を見送っていた議長に、不思議そうな顔で秘書が尋ねる。 

「それにしても誰が作詞作曲したことになっているんです?」
「旧日本国財務官僚にして連邦政府某高官だ。あと他にも何人かが関わっていたらしい」
「暇人ですか。というかガミラス戦役のころから何をやっているんですか?」
「知るか……全く、そんな暇があるんだったらこっちの頼みを聞いて、もっと融通を利かせて欲しいものだ。
 こっちは相変わらずモブキャラ一直線なのに、真面目に仕事をしているというのに」
(真面目ですか? アイルオブスカイの例を見ると……)

 アイルオブスカイは魔改造されつつあった。
 もはやこの艦は防衛軍の第一線で活躍している主力戦艦と同型艦とは思えないものとなっている。

「まぁ良い。彼らが戻ってくるころにはアイルオブスカイもドックから出ている。ふふふ、宇宙で直接彼らを出迎えてやるさ」
「仕事を片付けてからにしてください。ちなみに、この式典のあとは、ボラー連邦軍との会談なので」
「……逃げちゃダメかね?」

 冗談半分の言葉だったが、秘書はきっぱり却下した。

「ダメです。ヤマト建造の功労者にして、地球でも有数の軍略家である『議長閣下』との会談を先方も楽しみにしておられます」
「……胃薬を用意しておいてくれ」
「頭痛薬も準備しておきます」
「頼む」

858earth:2011/09/28(水) 22:44:34

 議長が『あー!』と叫びたくなるような激務に晒されている頃、第8艦隊司令官になった転生者(ヒペリオン艦隊司令官)は
ネメシスの艦橋で来るべき暗黒星団帝国、いやデザリウムとの戦いを考えていた。

(戦力的には十分……だろう。ヤマト、ムサシ、ネメシス、加賀の4隻。それに宇宙空母が2隻も居る。
 護衛の巡洋艦、駆逐艦を入れればデザリウム艦隊を封殺できる。巨大戦艦がいくら逃げても数で押し潰せるだろう)

 卑怯も糞もなかった。
 数の優位で一気に押し潰すことを第8艦隊司令官兼ネメシス艦長は考えていた。

(α任務部隊以外は脇役、いやサポートに徹するのが良いだろう。下手に目立つと死亡フラグだからな)

 他力本願極まれりだが司令官は本気だった。 
 そんなことを考えて黙りこんでいる司令官に疑問を感じたのか、艦橋のスタッフが尋ねる。

「司令?」
「ああ、すまない。各艦に通信を繋げてくれ」
「了解」

 通信兵が通信回線をつなげる。それを確認すると司令官は口を開いた。

「イスカンダルへの表敬訪問に加えて、これは艦隊規模の遠洋航海の経験をつむ航海でもある。
 ヤマトという先駆者が道を開いたとは言っても、油断はできない。順次、訓練は行うので各艦、用意は怠るな」
「「「了解しました」」」 

 ガトランティス戦役で被害らしい被害が出ていないため防衛軍の人材は原作より恵まれていた。
 おかげで司令官は加藤兄弟や山本、坂本といった豪華すぎるメンバーによる模擬空戦を眼にすることになる。

(これならいける。イスカンダルに付く頃には練度も相当に上がっているだろう)

859earth:2011/09/28(水) 22:45:54

 だが世の中、そうは上手くいかない。
 第8艦隊がイスカンダルに向かう中、マゼラン星雲ではすでに戦乱の機運が高まっていた。
 崩壊する都市帝国から運よく脱出したデスラーは、ガミラス帝国の残存部隊を糾合して一度ガミラス本星に戻っていた。
それは転生者たちが知る歴史よりも早い時期であった。
 戦闘空母の艦橋で、デスラーは死の大地と化したかつての母星を見ながら、副官のタランに語った。
 
「ヤマトへの復讐を遂げるには、ガミラスを再興し力を蓄える必要がある」
「はい。地球人はかなり力を蓄えています。
 ヤマトの準同型艦、それにヤマトを遥かに超える大型戦艦も配備されていると」
「加えてボラーという後ろ盾も得ている。奴らを倒すのは簡単ではない」

 デスラーは、ボラー連邦という一大星間国家と手を結んだ地球とヤマトを現状で打ち破るのは難しいと判断した。
 故にマゼラン星雲周辺で生き残っていた旧ガミラス帝国の残党や本星から脱出できた人々を結集させ、新たな新天地の
獲得を目論んでいた。

「新天地で国家を樹立し力を蓄えた後、必ず奴らに鉄槌を下す。これは誓いだ」

 だがそんなデスラーの前に、ガミラシウムとイスカンダリウムを得るために送り込まれてきた暗黒星団帝国軍が現れる。
 派手に星間戦争をしていた彼らにとって、無主の地と化していたマゼラン星雲は絶好の狩場だった。
 勿論、かつての帝国の版図を食荒らそうとする暗黒星団帝国を名乗るハイエナ共を、デスラーが容認できるはずがなかった。
 加えてガミラス本星にまでその食指を伸ばそうとする姿勢は、デスラーだけでなく、他のガミラス軍将兵の怒りを買う。

「叩き潰せ!」

 デスラーの号令の下、旧ガミラス帝国軍と暗黒星団帝国軍の間で戦闘が開始されることになる。

860earth:2011/09/28(水) 22:47:54
あとがき
白色彗星を早めに叩いた影響が出ました。
相変わらず地球防衛軍は蚊帳の外で激戦です(爆)。
ヤマト世界の星間国家は、大半が好戦度MAXですから……。

861earth:2011/09/29(木) 20:02:38
第35話です。


 『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第35話


 ボラー連邦大使や駐在武官との会談を終えた議長は、執務室に戻るとソファーに突っ伏した。

「何なんだ、あの評価は?」

 議長の名声(笑)は、地球だけに留まらずボラー連邦にさえ届いていた。
 ボラー連邦からすれば、議長はガミラス戦役の勝利と地球連邦という新興国の躍進を支えてきた功労者の一人であり
その知略でもって現在も防衛軍を支えている非常に優秀な参謀畑の軍人であった。
 
「正当な(笑)評価なのでは?」

 秘書の言葉に、議長はムッとした顔になるが、すぐに諦めたような顔になる。

「……私の輝かしい出番が。安○先生、艦隊指揮を執りたいです」
「とっくの昔に試合は終っています。夢見てないで仕事してください。ただでさえやることは多いんですから」
「防衛軍の人不足は深刻だな……」
「優秀な官僚や将校は畑からは取れません。議長が頑張ってもらわないと。それと後身の教育も」
「やることだらけだな。重要だが地味なものばかりとは」
「役職柄仕方ないかと。おまけに、我々はもともと……モブですし」

 顔を背けながら言う秘書。どうやら彼も思うところはあるようだ。

「それを言うなよ……悲しくなる」
 
 こうして議長の仕事は再開される。 

「くそ、絶対、アイルオブスカイで宇宙に出てやる〜! 幸い、建造は順調だし、自動戦艦の建造も進んでいる。
 実験艦隊が地球周辺に遊弋する日は遠くない!!」
 
 自動戦艦『クレイモア』。
 アンドロメダと同等の火力(拡散波動砲2門、51センチショックカノン12門)を持つ10万トン級自動艦は
防衛軍(あと議長)の期待の星であった。何しろ無人ゆえに無茶な運用が出来る。また人手不足の解消にもなる。 

「議長、叫ぶのも良いですが、手を止めないでください」
「……ああ」

862earth:2011/09/29(木) 20:03:16
 仇敵である地球防衛軍の統合参謀本部でそんな脱力満点の会話がされていることなど、露も知らないデスラーは
暗黒星団帝国軍と壮絶な殴り合いをしていた。
 当初、ガミラス軍は航空戦力と得意の高速機動で暗黒星団帝国軍で圧倒した。
 暗黒星団帝国軍の巡洋艦部隊は戦闘空母や三段空母から発進した攻撃機によって翻弄された上、デストロイヤーから
ビームとミサイルを叩き込まれて散々な目に合った。
 
「地球人のほうが余程、手強かったぞ」

 ガミラス軍人はそう言って暗黒星団帝国軍を嘲笑した。
 だがそのまま黙っている暗黒星団帝国ではなかった。

「生意気な。滅んだ国が今更、我が国の邪魔立てをするとは!」

 マゼラン方面第1艦隊司令官デーダーは、猛将らしく乗艦の巨大戦艦プレアデスを先頭に立ててガミラス軍へ猛攻を加えた。
 ヤマトの主砲さえ防ぐ堅牢な戦艦を前に、さすがのガミラスも分が悪かった。
 加えて事態を憂慮したマゼラン方面軍総司令官メルダースが要塞『ゴルバ』を前線に出すと戦局は暗黒星団帝国側に
傾いていった。
 デスラー砲さえ跳ね返すゴルバに、ガミラス軍は手出しできなかった。ガミラス艦や三段空母が次々に撃沈されていく。

「何と言う火力と防御力だ」

 さすがのデスラーもゴルバの圧倒的な攻防能力には手を焼いた。
 赤いカラーリングの戦闘空母の艦橋では、ゴルバの戦闘映像を見て誰もが息を呑んだ。
 
「総統……」
「判っている」

 タランの言葉をデスラーは遮った。

「だが、このまま逃亡するような真似をする指導者に、兵士達が付いてくると思うかね?」
「それは……」

 だが、そんなデスラーをさらに窮地に追いやる報告が入る。

863earth:2011/09/29(木) 20:03:47
 かつてデスラーが侵略戦争に明け暮れていた頃、ガミラス帝国は多くの国を敵に回していた。
 これらの国々が、デスラーの帰還と旧ガミラス帝国軍の集結という事態を見過ごすわけが無かった。
 加えてデスラー率いるガミラス帝国軍残党は、暗黒星団帝国に苦戦を強いられている。これは絶好のチャンスだった。
 彼らは連合を組んでガミラス軍の横っ面を殴りつけた。

「おのれ!」

 デスラーはこの横槍に憤怒したが、完全に自分の自業自得であった。
 
「戦線を立て直す!」

 だがデスラーの手腕をもってしても暗黒星団帝国軍と、反ガミラス連合軍との二正面作戦は厳しかった。
 しかも反ガミラス連合軍の存在を知った暗黒星団帝国軍司令官メルダースは、彼らに取引を申し込んだ。

「旧ガミラス帝国全土を併合するつもりはない。我々が最も欲しいのはガミラスとイスカンダルの資源だ」

 反ガミラス連合軍は全面的にそれを信用することはなかったが、デスラーよりかは話が通じる相手と判断し
彼らと手を結ぶことに同意する。
 反ガミラス連合軍の回答を聞いて、メルダースは満足げに頷く。
 
「これでガミラス星の制圧は時間の問題だな」

 ある程度連携が取れた二大勢力に挟まれて戦線が完全に崩壊しなかっただけでもデスラーの手腕が如何に優れているかが判る。 
 だが戦線の崩壊そのものは時間の問題でもあった。暗黒星団帝国軍はガミラス本星があるサンザー太陽系の外縁部まで迫っており
彼らが侵入してくるのは時間の問題となっていた。

「ヤマトに復讐を遂げることなく、終わるというのか」

 デスラーがそう零すほどに、ガミラス帝国軍残党は追い込まれていた。

864earth:2011/09/29(木) 20:06:43
あとがき
デスラー大ピンチ。
まぁ因果応報ということで。劇中からも幾つか戦線を抱えていましたし。
でも所詮はモブ以下。この話でも輝かしい(?)出番はないでしょう。多分(笑)。

866earth:2011/09/30(金) 20:43:15
閑話の35.5話です。


 『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第35.5話

 デスラーが追い込まれている頃、議長は自宅に知人達(転生者)を招いて麻雀大会を開いていた。
 参加者は統合参謀本部議長、与党の長老政治家、連邦の財務次官、某財閥総帥というマスコミに知られたらゴシップ記事でも
書かれそうな面々であった。

「たまには、遊ばないと」
「アナログゲームばかりだがな。まぁこの歳になってゲーセンに行くことはないが」
「いやゲームセンター自体まだ殆ど無いじゃないですか。そもそもTVゲーム自体が……」
「まぁガミラス戦役の影響で、そういった娯楽が潰れたから仕方ない。とりあえず過去の作品の再現でも始めとこう。
 たとえば、そうインベー○ーゲームとか」
「総帥、あなた前世で何歳だったんですか?」 
 
 長く続いたガミラス戦役の影響は、娯楽にまで影響を与えていた。
 経済の大半は軍需に傾いていたし、戦争後半になると娯楽にかまける余裕などなかった。このため娯楽産業の多くが衰退した。
 地球連邦は復興と飛躍の道を進んでいるとは言え、娯楽産業の本格的な復活はまだ遠かった。

「それで、レートは?」
 
 財務次官の質問に総帥がニヤリと笑いつつ答える。

「デカリャンの2万4万で」

 しかしその提案に、議長が異を唱える。

「そんな玄人みたいな賭けはお断りだ。というかバレたら拙いだろう」
「だな。というか政治活動はただでさえ金が要るのに、こんなところで無駄遣いできるか。
 というか次官、何でそんなに金を持っているんだ?」
「ははは秘密です。それにしても、議長も長老もノリが悪いですね……」
「まぁ余り毟るのも可哀相だ。先ほどのレートの10分の1でやるか」
「「総帥……」」

867earth:2011/09/30(金) 20:43:58
「さっさとはじめるぞ。時間もない」
「「やれやれ」」
 
 こうしてゲームは始まる。
 それぞれが勝つべく思考を巡らせつつも、何故か話題は仕事や社会情勢にシフトしていく。

「完全に平和になったら戦略シミュレーションゲームでも作りたいものだ。潤いがあれば社会にもっと余裕が生まれる」
「ヤマトを元ネタにした奴か? ゲームバランス崩壊は確実だな。それと議長、防衛機密の関係もあるぞ」
「宇宙戦争の定番である銀○伝は無理でしょう。宇宙戦艦の形が違いすぎる」
「もっと一般受けするほうが良いな。投資するなら資金を回収したい。こちらとしてはスポーツの復興も進めて欲しい」
「総帥の意見には政治家としても同意するな。ゲーム作るよりは賛同者も多いだろう。健全な魂は健全な肉体に宿るとも言う」
「確かに……尤も我々が言っても説得力皆無では?」
「「「議長、それを言ったらお終いだろう(ですよ)」」」

 話をしている最中にも、付けっぱなしにしていたラジオから音楽が聞こえてくる。
 そこにはガミラス戦役の頃の悲壮さは無かった。

「何はともあれ、平和は良いことだ。子供達に夢と希望を与えられる」
「大人の仕事だからな」
「尤もその大人の数も減ってしまって大変ですよ。戦災孤児の問題もある。これでまた戦争は勘弁してもらいたいですが」

 財務次官がさりげなく対デザリウム戦に苦言を呈する。これに議長と長老が苦い顔で答える。

「仕方ないだろう。連中を放置していたら脇腹を刺される危険が高い」
「それに二重銀河を潰しておかないと銀河交差が起こらない可能性がある。あのボラーが強大なままで存続されると面倒だ。
 まぁそのボラーとの関係が些か微妙になったのは、防衛軍のせいだが」

 長老の冷たい視線に、議長はわざとらしく咳をして誤魔化す。

868earth:2011/09/30(金) 20:44:35
「……ボラーは?」
「(誤魔化したな)ディンギル吹き飛ばした後は、アンドロメダ星雲侵攻にご執心だよ。
 向こうはアンドロメダ星雲への侵攻を成功させるために、こちらが得たガトランティスの技術や情報に興味を示している」

 長老の言葉に全員が顔を顰める。

「やはり」
「そう来るでしょう」
「まぁ当然だな」

 全員とも当然という顔になった。

「連邦政府はボラーの申し出があったら、断れないと考えている。あっさり無条件に呑めば舐められるから交渉には持ち込むが」
「向こうがどこまで話に乗ってくれるかは微妙ですね」
「次官の言うとおりだ。まぁこちらには『暴れん坊の』防衛軍とヤマトがいるから、少しはハッタリが通用するかもな」
(まだ言うか……)

 実際、ガトランティス軍を打ち破った防衛軍の実力はボラーで評価されていた。『一惑星の国軍』としては破格であると。

「まぁ暫くは我慢でしょう。ボラーと交流を持ちつつ、現在はボラーの支配下の国家や衛星国とも接触しないと」
「だな。復活編までには多少は地盤を固めておかないと」
「軍も準備を急ぎます。しかし、遊んでいるのに話が仕事関係ばかりというのは……」
「議長、仕方ないよ。職業病みたいなものだ」

 こうして夜は更けていく。
 
「俺達の出番、これだけ?」
「メタ発言は良いから、さっさと打て」

869earth:2011/09/30(金) 20:47:05
あとがき
議長たち、モブキャラ達の動き(?)でした。
麻雀で誰が勝ったかはご想像にお任せします(笑)。
次回は再びマゼラン星雲での戦いになる予定です。
議長の出番は……後になるでしょう。

870earth:2011/10/03(月) 22:27:16
第36話です。


 『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第36話

 暗黒星団帝国軍による猛攻を受けて、旧ガミラス帝国軍はガミラス本星近辺にまで追い込まれていた。
尤も精強で知るガミラス軍の必死の抵抗により、暗黒星団帝国軍も多大な被害は受けており、開戦前と比べて
その陣容は寂しくなっていた。

「何としても、ガミラシウムとイスカンダリウムを手に入れなければならない」

 メルダースはそう言って部下を鼓舞した。実際、それほどまに多くの労力がつぎ込まれていた。
 だがガミラス星の守りが堅いと見るや、メルダースはとりあえずイスカンダリウムだけでも得るべく、イスカンダルで
資源採掘を行うことを決意する。
 
「女王が居るようですが?」
「女王一人しかいない国に、遠慮する必要は無い。いや、治めるべき国民がいない国家など国家ではない。
 あれはすでに滅んだ無人同然の星なのだ」

 メルダースはそう言って資源採掘を命じる。
 この指示を受けた第1艦隊司令官データーは船団をイスカンダルに降下させる準備を進めた。

「準備を急がせろ。それと邪魔な地上構造物は破壊してしまえ。資源採掘の邪魔だ」
「了解しました」

 データーはイスカンダルの上空から容赦のない艦砲射撃を地表に加え、あらゆる人工物を灰燼にしていく。
  
「この星の動力炉(波動エンジン)は我々にとって有害だ。何も残してはならぬ!」

 イスカンダルが猛火に包まれる様は、ガミラス星上空の戦闘空母からも見ることが出来た。

「イスカンダルが! スターシアとの通信は?!」
「ダメです。繋がりません」
「くっ……予備部隊を出せ。私が直接指揮を執る!」

 これを聞いてタランが慌てて止める。
 
「しかし、それでは防衛線が崩壊しかねません! それに総統に万が一のことがあれば」
「どけ、タラン! 私は行かなければならん」
「どきません!」 
 
 総統とその副官の緊迫したやり取りが続く。その中、信じられない報告が飛び込む。

「ヤマトが現れました!」

871earth:2011/10/03(月) 22:27:50
 イスカンダルが猛火に包まれる様子は、第8艦隊でも見ることが出来た。
 メインパネルに映されるイスカンダルの悲惨な光景に、第8艦隊の宇宙戦士たちはいきり立つ。

『司令官!』『艦長!』『司令!』

 第8艦隊旗艦ネメシスに全艦から通信が殺到する。
 勿論、ネメシスの艦橋にいる人間達も全員が司令官に目を向けていた。

「司令……」

 青コートの幕僚が司令官に決断を迫った。
 イスカンダル女王スターシアは、全人類にとって恩人だ。彼女が居なければ人類は滅亡していただろう。
そんな恩人が攻撃され、イスカンダルは炎の海に沈んでいる。見過ごせる人間はいなかった。
 一方の司令官は原作と乖離した光景に少し絶句するも、すぐに最善の手を考える。

(いきなり先制攻撃をする、いやそれだと、だまし討ちか?
 開戦する予定とは言え、開戦責任を問われる事態は避けなければならない。ボラーとの関係もある。
 だが穏便な手はとれないし、下手をすればヤマトが動きかねない)

 というか、もはやヤマトは暴走寸前であった。
 ヤマトクルーはイスカンダルへの蛮行に激怒していた。古代進がまだ思いとどまっているのも、古代守が制止して
いたからに他ならない。だがその守でさえ腸が煮えくり返る思いであった。

(是非も無し、か)

 腕を組み口を瞑っていた司令官は、目を見開くと同時に命じる。

「イスカンダルを攻撃中の国籍不明艦隊に攻撃停止を勧告しろ。コスモタイガーを3機ほど差し向けろ」
「勧告するだけですか?」
「向こうが無視するようなら……友好国への攻撃を見過ごすわけにはいかん。『武力』で阻止する。全艦戦闘配備!」
「了解しました!」

872earth:2011/10/03(月) 22:28:35
 防衛艦隊出現の報告は、暗黒星団帝国軍を驚かせた。さらに攻撃停止勧告は彼らを激怒させた。
 
「くそ。ガミラス残党が居なければ、あのような艦隊、簡単に捻り潰せたものを!」
「如何しますか?」
 
 データーは兵士の問いに、当たり前だといわんばかりに吼えた。

「勿論無視だ! 全戦闘機隊発進! 我が艦隊も出るぞ!! まずはあの煩いハエを追い払え!」

 暗黒星団帝国軍艦隊が勧告を無視したどころか、こちらへの敵意を露にしたことから、第8艦隊はすぐに
攻撃を開始する。
 2隻の宇宙空母とヤマト、ムサシからコスモタイガー隊が次々に発進していく。
 暗黒星団帝国軍も攻撃隊を出したが……結果は無残なものだった。
 士気では暗黒星団帝国軍に勝り、質でも数でも原作よりも遥かに優れたコスモタイガー隊は、敵航空隊を
あっという間にコテンパンにしていった。
 コスモタイガー隊を突破した敵機は第8艦隊前方に展開していたヤマトとムサシに攻撃を加えるが、パルスレーザーに
よって返り討ちにあう。

「一方的だな……(というか強すぎてワロタ)。引き続き攻撃続行。
 我が艦は、拡散波動砲を用意。コスモタイガー隊の攻撃終了後、敵前衛を殲滅する」
 
 司令官はそう命じる。尤も拡散波動砲で始末するほどの敵前衛は残らなかった。
 第8艦隊に迫っていた暗黒星団帝国軍の巡洋艦は雷撃機仕様のコスモタイガーⅡから放たれた
対艦ミサイル(波動エネルギー入り)の飽和攻撃を受けたのだ。その結果は……言うまでも無かった。
 暗黒星団帝国軍艦隊の巡洋艦部隊は1隻残らず宇宙の塵を化した。
 あまりにあっさり前衛が壊滅して呆然状態のデーターだったが、自身が乗るプレアデスにヤマトの砲撃を
受けて我に変える。

「ははは。その程度の砲撃が効く物か!」
 
 嘲笑するデーター。だが直後、兵士の悲鳴のような報告に、その顔は凍りつく。

「敵旗艦に高エネルギー反応!」
「ま、拙い。イスカンダルを背にしろ!」
「間に合いません!!」

 かくして巨大戦艦プレアデスは大して活躍することなく残っていた巡洋艦3隻と共に拡散波動砲の直撃を受けて
消滅することになる。

873earth:2011/10/03(月) 22:30:39
あとがき
暗黒星団帝国軍涙目(爆)。
援軍が来る時間すら稼げずデーター提督の第1艦隊は塵となりました。
次回、ゴルバ登場予定です。でもどこまで抵抗できることやら。

874earth:2011/10/04(火) 21:07:28
第37話です。

 『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第37話

 データーの第1艦隊が壊滅するのはガミラス本星上空の艦隊からも見ることが出来た。

「あの巨大戦艦と艦隊が10分足らずで……」

 タランがあまりの光景に息を呑む。
 この前までガミラスの宇宙艦隊に手も足も出なかった地球人類が作り上げた宇宙艦隊とは思えないほどの
戦闘力だった。
 幾らガミラスとの戦いで暗黒星団帝国軍が消耗しているとは言え、ここまで一方的な展開になると予想できる
人間はいない。

「……」
 
 デスラーは黙り込んだままだった。
 スターシアを助けられたかも知れないことは喜ばしいことだが、ヤマトを含む地球艦隊の高い戦闘力を見ては
一概には喜べない。
 しかしそれだけで凹む総統ではなく、今回の戦闘から拡散波動砲の特徴をいち早く掴んだ。

(さしずめアレは散弾銃といったところか。射程はヤマトの波動砲よりも短いだろう)

 デスラーはそう考えた後、兵士から新たな報告が告げられる。

「敵要塞、イスカンダルに向かいます!」
「我らよりも、ヤマトと地球艦隊が脅威と見做したのか」

 戦術的にはガミラスにとって好ましかったが、この扱いはデスラーのプライドを傷つけるものだった。
 しかしその直後、さらに信じられない光景が広がることになる。

「て、敵要塞、消滅しました……」

875earth:2011/10/04(火) 21:07:59

 データーを撃破されたメルダースはガミラス星の包囲を他の部隊に任せて、自らゴルバで地球艦隊に向かった。
 尤も最初は地球艦隊に撤退を勧告しようとしていた。わざわざ自分達が暗黒星団帝国の大マゼラン方面軍であること
などを名乗った挙句、先に手を出したことなど気にもせずに告げる。

「速やかに手を引け」
 
 第8艦隊の返答は、一言で言えば「寝言は寝て言え」だった。
 イスカンダルと音信が途絶し、さらに地表の多くが灰燼に帰しているため、スターシア救援のためには地上に
降下して救助作業をせざるを得ない。そのためには安全を確保しなければならない。
 また、もう一つ受託できない理由があった。
 
『我々が停戦したとしても、戦闘が継続しガミラス星が崩壊するようなことがあれば、イスカンダルは危機に陥ります。
 ガミラスとイスカンダルは兄弟星。片一方が消滅すればもう片方は軌道を外れます』

 真田のこの進言、そして原作知識からそれが事実であると知っていた司令官に残された道は暗黒星団帝国軍の完全撃滅か
暗黒星団帝国軍の完全撤退の要求しかなかった。
 そして司令官は前者を選んだ。
 
「全艦、波動カードリッジ弾を装填。あの砲口を狙え!」  

 司令官は通信を切ると同時に、イスカンダルを砲撃するため開いていたゴルバの砲門への攻撃を命じた。

「1番、2番砲塔、撃て!」
「発射!」
「砲撃開始!」
「撃ち方始め!」

 司令官の命令を受けてヤマト、ムサシ、ネメシス、加賀が波動カードリッジ弾を一点集中砲火とばかりに叩き込む。
 勿論、全てが直撃したわけではなかったが(ヤマトが放った砲弾は全弾命中)、ゴルバに破滅を齎すには十分だった。

「ば、馬鹿な! このゴルバが?!」

 誘爆に加えて、波動融合反応が起こり、ゴルバは文字通り木っ端微塵になった。 
 ゴルバが木っ端微塵になったのを見た暗黒星団帝国軍の残存艦隊は慌てて逃げ出していく。
 戦いに決着がついた瞬間だった。

876earth:2011/10/04(火) 21:08:30

「「「………」」」

 ガミラス艦隊の攻撃を弾き返してきた敵の宇宙要塞が、見事なまでに木っ端微塵に吹き飛ぶ光景を見たガミラス軍の
将兵は絶句した。
 同時に彼らは思い出す。ヤマトがどれだけ恐ろしい相手であったかを。

(これがガミラスの精鋭を蹴散らし、ガミラス星を破滅させ、大帝が乗る白色彗星を単独で砕いた実力か……)

 客観的に見ると無双どころか、ネタとしか思えないほどの活躍ぶりだった。
 勇猛なことには定評のあるガミラス兵でさえ絶句するほどの戦果と言えるだろう。

「……地球艦隊は?」
「こちらを警戒しつつ、イスカンダルへ降下していきます」

 兵士の報告にデスラーは沈黙する。これを見たタランが尋ねる。

「如何しますか?」
「今、奴らを攻撃すればスターシアを巻き込みかねない。それにこちらが消耗しすぎている」
「では……」
「奴らが手出しするまでは静観だ。まずは反ガミラス連合を叩きのめす」
「はい」

 第8艦隊はスターシアの捜索と救援に忙しく、また暗黒星団帝国軍残党による襲撃を危惧してイスカンダルを
離れなかった。このため地球とガミラスは睨みあいをしつつ奇妙な休戦状態となる。
 そして暗黒星団帝国軍が壊滅したことで、手が空いたガミラス艦隊は未だにサンザー太陽系外にいた反ガミラス連合軍に
襲い掛かった。
 纏まりに欠ける連合軍は側面を突かれて瞬く間に潰走し、サンザー太陽系周辺での戦いは一旦終局を迎える。

877earth:2011/10/04(火) 21:11:40
あとがき
ゴルバがあっという間に木っ端微塵です。
ここまで呆気なくやられたゴルバがあっただろうか(笑)。
暗黒星団帝国にとって災厄の時が訪れるのも近いでしょう。
ガミラス、ガトランティスに続いて犠牲者(?)に名を連ねる日も近いかも。

878earth:2011/10/05(水) 22:38:24
体調が悪いのに、何故かネタSSは書けてしまう不思議……。
というわけで第38話です。


 『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第38話

 イスカンダルに降下した第8艦隊と空間騎兵隊は瓦礫の下から何とかスターシアを救出した。
 しかしこのとき、スターシアは重傷を負い意識不明であった。司令官は急いでスターシアを旗艦ネメシスに搬送した後に
艦隊から腕利きの軍医(佐渡先生も呼ばれた)を集めて緊急手術を行った。
 12時間もの大手術の末、スターシアは何とか助かった。

「ご苦労様。さすがだよ。ヤマト世界のブラッ○ジャックの異名は伊達じゃないな。
 ああ気分は楽にして、ソファーにでも座ってくれ。口調も気にして無くて良い」

 報告のための艦長室を訪れたネメシスの軍医(転生者仲間)を司令官は労った。
 これを聞いて軍医はソファーに座った後、ぐったりした顔で答える。

「苦労したぞ。『新たなる旅立ち』みたいなBADエンドは御免だから頑張ったが……PS版ほどハッピーじゃない」 
「そうだな。だがこれで『ガミラスと戦う』という選択肢を取らなくてすむ。陛下を抱えたまま戦うなんて出来ないからな」
「確かに」

 地球人類からすればガミラスは怨敵。実際、第8艦隊の中にはガミラス残党軍も掃討すべしという声はあった。

「『上』はデザリウム、いや暗黒星団帝国との戦いに向けて戦力を極力温存したいと?」
「あとはボラーへの備えだな。尤もあの物量を考えると、どこまで防衛軍が持ち堪えられるかは判らないが」
「ふむ。だからこそ、今回のデータが役に立つと? テレサ嬢が居るだろうに」
「外様に何時までも頼ってばかりはいられないだろう。自前で超能力者を用意できるなら、それに越したことは無い。
 まぁ彼女には遠く及ばないだろう。彼女を倒すには超人ロ○クでも連れて来るしかない」 

 スターシアを救うため手術は行った。
 だがそれと並行してスターシアの身体は徹底的に調査された。勿論、手術のためという名目があったので不審には
思われなかった。
 そして、これによって超能力者の資質を持つイスカンダル人の情報を防衛軍は入手することが出来た。

879earth:2011/10/05(水) 22:39:36

「コスモクリーナーDや波動エンジンだけでは飽き足らず、ドサクサにイスカンダルに残された技術や資源を回収か。
 全く盗人猛々しいな。問題ないのか?」
「これは救助活動と並行した調査だ。暗黒星団帝国がどのような攻撃をしたのか、という名目のな。
 その過程でいくつかのサンプルを回収するのは非難されることではない。議長も文句は言わないだろう」

 司令官は何の問題もないとばかりに言い放つ。
 暗黒星団帝国軍がこの会話を聞けば「お前達(地球人)のほうがよっぽど悪辣だ」ということは請合いだった。

「ついでに周辺宙域も調査すると? 索敵を名目に?」
「勿論だ。暗黒星団帝国軍の残骸とガミラス軍の残骸。これを回収しておきたい。
 後のデザリウム戦役のため、そして……今回の戦いでの出費を少しでも回収するために」
「財務省か?」
「ああ。輸送船があるから、ある程度なら持ち帰れる」

 第8艦隊には戦闘艦艇の他に、高速輸送船を含めた非戦闘艦が同行していた。
 勿論、持ち帰れる量は多くないが、それでも無いよりはマシだった。
 宇宙開発と防衛艦隊の整備を進める地球連邦には希少資源は1グラムでも多く必要なのだ。このためガトランティスの
遺産とも言える大量のスクラップ(元都市帝国、元艦隊)の再利用を積極的に進めていた。

「人が生きていくには、色々と金がかかるんだそうだ」
「世知辛いことで。でもヤマトクルーには関係なさそうだ」
「汚い仕事や地味な仕事で、『主人公』を支えるのがモブキャラなのだろう」

 遠い目で言う司令官。軍医も乾いた笑みを浮かべることしかできない。
 実に救いようが無い結論だった。

880earth:2011/10/05(水) 22:40:31

「話を戻そう。ガミラス艦を探せば、捕虜を確保できるかも知れない。
 うまくすればデスラーと交渉する材料になるかも知れない」
「デスラーと話し合うと? 綺麗なデスラーでないのでは?」
「何はともあれ情報は必要、そういうことだ。彼がまだ危険な人物なら相応の戦略を議長が用意しなければならない」
「それもそうか」

 ガミラス残党の驚異的粘りや通信傍受から、デスラーが生きていることを第8艦隊は掴んでいた。
 転生者としては、原作でもヤマト並に補正持ち(実際にこの世界のデスラーは都市帝国から脱出成功)であるデスラーの
様子を確認しておきたかった。 
 何しろガミラスの動向は、絶対と言って良いほど地球連邦に影響を与えるからだ。

「それにしても『総統閣下』との交渉か。全く……面倒を通り越しているな」
「頑張ってください、としか言えないな。古代弟に任せるわけにはいかないし」
「アレに任せたら後が怖い。というか外交担当者が怒鳴り込んでくる結果しか見えない」
「……ははは。確かに」

 戦闘指揮については兎に角、ほかの事では古代進は信用されていなかった。

「愚痴くらいは聞いてくれ。あとで良いから」 
「……精神安定剤か、議長も愛用している胃薬かを用意しておきましょう」

 こうしてヤマト以外の地球防衛軍が、デスラーと公式に接触することになる。

881earth:2011/10/05(水) 22:46:10
あとがき
防衛軍が原作と違って真っ黒です。
でも格上の侵略者と戦うには、強かでないと困ります。
というかすぐにやられてしまいます。原作の防衛軍のように(核爆)。

……ちなみに作者は別に黒くありませんよ。普通の善良な市民です(棒読)。

882earth:2011/10/07(金) 19:07:29
少し長くなってしまいましたが、第39話です。


 『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第39話


 破壊されたり、遺棄されていたガミラス艦を調査したものの、防衛軍はガミラス人の捕虜は得られなかった。
 しかし暗黒星団帝国軍の物と思われる艦艇の残骸を調査した結果、防衛軍は有益な情報を入手できた。
 特に暗黒星団帝国がデザリアム帝国と呼ばれている国であり、デザリアム星と呼ばれる星を母星にしている
こと、そしてそれが地球から40万光年、大マゼラン星雲から57万光年離れた位置にある二重銀河にあるという
情報は第8艦隊首脳を大いに満足させた(詳細な位置についてはまだ判明していないが)。
 しかし同時に危機感も持たせる。

『かなり遠くから来たようですな』
『しかし57万光年さえ乗り越えてこられるということは地球にも攻め込めるということだ。注意が必要だろう』
『それにしても、乗員の全員が脳を除いて機械だったとは……』
『高度な機械文明ということでしょう。だからこそ、これだけの長距離侵攻が出来たとも考えられます』
 
 通信機越しにネメシスからの連絡を受けた各艦の艦長たちは、予想以上に高度な文明を持つ敵国に危機感を持つ。
 そんな中、司令官は新たな事実を告げる。

「ただ真田技師長の報告では、彼らの物質は波動エネルギーと反応、『波動融合反応』とも言うべき反応を起こすそうだ。 
 これは反物質と常物質が接触した際の反応に近い。つまり、敵の防御を突破すれば、大打撃を与えられる」
『『『おお』』』
「だが向こうからすれば、その波動エネルギーを持つ我々は天敵であると言える。つまり戦争になる可能性は高い」
『……ガミラスとは戦わないほうが良いと?」

 対ガミラス強硬派だった宇宙空母『グラーフ・ツェッペリン』の艦長は顔を顰めて言う。
 この艦長は家族と親戚全員、訓練学校の同期を悉くガミラス戦役で失っていたので、特に反ガミラス感情が強かった。

「そうだ。確かにガミラスは怨敵だが、交渉は必要だろう。この情報と艦隊を無事に地球に持ち帰るためにも」
『……判りました』

883earth:2011/10/07(金) 19:08:27

 ガミラス帝国総統『デスラー』。
 ガミラス戦役で地球人類を絶滅寸前にまで追いやったこの人物は、地球人類にとっては当に『怨敵』だった。
 『原作』でもヤマトのライバルキャラとして出張った男であり、その能力(運込み)は世界有数である。 
 そんな男と正面から話をしなければならない司令官は……会談開始前に胃の痛みを感じていた。

(も、モブキャラの俺が何でこんな大仕事を……)

 議長を呪いつつ、司令官はデスラーが乗る戦闘空母との通信回線を開く。

「こちら地球防衛軍第8艦隊司令官……」

 かくして歴史に残る会談が始まった。
 司令官は最低限の挨拶を終えると、すぐに本題に入る、

「暗黒星団帝国は地球、ガミラス、イスカンダルの三者にとって共通の敵となるでしょう。
 我々は大恩あるイスカンダルとスターシア陛下を守るために、そしてこの脅威に関する情報を少しでも多く地球に
 持ち帰るために暫定的な停戦を行う事、そしてお互いに得ている情報の交換を望んでいます」
『ふっ、理解できないな。何故停戦を行うことがイスカンダルとスターシアを守ることに繋がる?』
「スターシア陛下は暗黒星団帝国の爆撃に巻き込まれ重傷を負われていました。
 緊急手術で一命は取り留めましたが、暫くは絶対安静が必要です」

 司令官はスターシアに好意を寄せているデスラー向けのジャブを放つ。 

『……』
「ですが我々は何時までもイスカンダルに留まることは出来ません。
 我々は女王陛下の回復を待った後、陛下の認可を受けてからイスカンダリウムを弄って、戦争に使えない物質にしてから
 引き上げることを考えています。
 彼らも使えない物質を得るために遥々、大マゼラン星雲に来るほど暇ではないでしょう」
『そんなことが可能なのかね?』
「可能です。私個人の意見としては女王陛下の安全を確保するために地球に来ていただきたいと思っています。
 何しろ、戦闘が続けばいつイスカンダルに飛び火するか判りません。そしてイスカンダルの軍事力はなきに等しい状態。
 これでは安全は確保できないのは目に見えています」

 言外で、『ガミラス軍ではイスカンダルとスターシアを守りきれないのでは?』と告げる司令官。

887earth:2011/10/07(金) 20:16:43
『……我々が同じ失態をするとでも?』
「するとは言いません。ですが、無いとも言えません。ならば少しでも安全な方策を採るべきです。
 貴方方も我々と同じ立場なら、陛下を守れる方法を模索するのではないですか?」
『ふむ。スターシアの安全を確保するための作業を地球人の手で安全に行いたいと』
「その通りです。それに、これはガミラスにとっても『国益』になると思いますが?」

 ガミラスも今回の戦いで消耗している。ここで地球と再度開戦するほど余裕は無いはずだった。

『確かに理解は出来る。だが我々にとっても地球は怨敵であり脅威だと思うが?』

 ガミラス本星を壊滅したことを暗に指摘するデスラー。
 だが司令官は動じない。

「それは我々も同じです。かつて100億以上を誇った人類は、貴国の無差別攻撃で今や20億足らず。
 失われた人命、財産、文化は数え切れない。だからこそ、これ以上の惨禍は避けなければならないのです。 
 そしてそれは貴方方も同様なのでは?」

 ガミラスも本星が壊滅したことで国力は衰えている。残党を集結させたものの、今回の戦いで消耗してしまった。
 大小マゼラン星雲に散らばっている勢力を掻き集めて復興を急がなければならない。

『地球のような新興国と違って、我々には星間帝国の誇りと面子がある』
「面子のために国を滅ぼすと?」
『誇りもなく、周辺国に舐められ、惨めに衰退するよりは良いだろう。それに私の矜持もある』
(プライド高すぎ……だが、新興国の戦艦1隻に負けたとなるとガミラスの面子丸つぶれだからな。
 あと多少は『1』のときより性格は丸くなったが、まだ『綺麗な』デスラーにはなっていないな)

888earth:2011/10/07(金) 20:17:15
 司令官はそう考えると再び切り出す。

「ですが暗黒星団帝国は、ガミラシウムとイスカンダリウムを狙って再び来るでしょう。
 加えて先ほどまで戦っていた勢力には暗黒星団帝国以外の勢力もあったようですが、その二者に備えることと
 我々と再戦すること、この2つを両立すると? ガミラス軍が勇者ぞろいであることは承知していますが厳しいのでは?
 勿論、我々は挑戦を受ければ断りませんが」
『大した自信だ』
「それだけの実績を上げてきましたので。勿論、貴方方、ガミラス人のように偉大な星間帝国を築くほどではありませんが
 奴隷のように卑屈になるほど弱くもありません」
『ほぅ?』

 デスラーが目を細める。司令官は胃が痛くなるのを感じる。

(こんな仕事は名前ありのキャラの仕事だろうが!)

 だが引けない。モブにはモブのプライドがある。引き立て役だけで終りたくはないのだ。
 会談は尚続いた。

889earth:2011/10/07(金) 20:17:49
あとがき
というわけでヒペリオン艦隊司令官大活躍(?)。
議長の後釜は君だ(爆)。いやまずは防衛艦隊司令長官か……。
名無しのモブキャラだって譲れない意地があるんです(苦笑)。

あと誤字について修正しました。

890earth:2011/10/07(金) 23:26:37
平日ですが連続更新(爆)。
久しぶりに議長の出番です。


 『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第39.5話

 第8艦隊が暗黒星団帝国軍をフルボッコにしている頃、地球では2隻の戦艦が産声を上げていた。
 1隻は転生者待望の改アンドロメダ級、いや実質的には超アンドロメダ級戦艦1番艦『タケミカヅチ』だ。
 議長はタケミカヅチの完成式典の中、ドックに横たわる艦体を見て呟く。

「拡散波動砲3門、51センチ砲4連装5基20門、31センチ砲4連装3基12門。排水量15万1000トン。
 地球史上最大の大戦艦か……普通ならこれで安泰と思えるんだが」
「これでも不足と?」

 秘書の問いに頷く。

「足りないだろう。そのためのクレイモア級やモーニングスター級の無人戦艦だ」

 クレイモア級はアンドロメダ級を無人化したような10万トン級戦艦。
 そしてモーニングスター級は集束型波動砲2門を搭載した改クレイモア級戦艦だった。

「あれの量産と引き換えに、アンドロメダ級は5隻で打ち止めだが」
「金が掛かりますから。それに基本的にアンドロメダ級は艦隊旗艦。今では改アンドロメダ級もあります」
「まぁ改アンドロメダ級2隻、アンドロメダ級5隻の7隻。あと旗艦用に改造された主力戦艦があれば足りるからな」

 さすがに原作より強化された地球連邦とは言え、揃えられる戦力には限りがあった。
 尤も原作を知る人間からすれば豊富すぎる戦力であった。

「戦闘空母『大鳳』、『イラストリアス』、『ラングレー』、ガトランティス軍の大型空母2隻(『プロキオン』『シリウス』)と
 中型空母2隻(『ホワイトスカウトⅠ、ホワイトスカウトⅡ)がさらに加わる。これでシナノが加われば鬼に金棒だが」
「しかし現状ではデザリアム戦役には間に合わないのでは?」
「ああ。民間も宇宙船が必要だからな。それに宇宙戦士に人材をとられたら民間が立ち行かない。
 まぁ準備だけはしておいたほうが良いだろう。イザとなれば復活編で役に立つ」

 希少資源を必要としているのは防衛軍だけではなかった。
 急速に拡大を続ける連邦の勢力圏を支える宇宙船建造のためにも資源は必要だった。勿論、人的資源も。

891earth:2011/10/07(金) 23:27:40

「あとは質を向上させるしかない」  
「『アイルオブスカイ』ですか……しかしあれは、もう実質的に新型艦なのでは?
 いえ、より正確に言えば2分の1サイズの『タケミカヅチ』と言えるのでは……」

 財務官僚の冷たい視線を思い出すと議長は乾いた笑みを浮かべる。

「気にするな。あれがうまくいけばさらにヤマトは強くなる。次の新型主力戦艦も。
 それに空母部隊の打撃力も大幅に向上できるだろう。何しろデスラー戦法を自前で出来るようになるんだ。
 まぁ艦載機を送り込むより、戦艦や破滅ミサイルでも送り込んだほうが効果的だが……」 

 『アイルオブスカイ』は大改造された上で『タケミカヅチ』と同時期に完成していた。
 当初、波動砲を撤去するというプランがあったが、真田と大山の二大マッドサイエンティストによって波動砲は撤去される
ことなく大改造された。
 拡散波動砲1門こそ変わらないものの、新型ジェネレーターによってチャージ時間は短縮。波動エンジンも巡洋艦のものが
増設され出力は大幅に強化されている。
 新型の40センチショックカノン3連装3基(1基は艦底部に設置)が搭載され、元々は第3砲塔があった部分には無人艦艇
を指揮する施設が設置された。
 だが驚くべきのはそれだけではなかった。何とデスラー艦から鹵獲し、試作段階であるがコピーに成功した瞬間物質移送装置
やディンギル帝国の恐るべき対艦ミサイル『ハイパー放射ミサイル』の存在から急遽は開発された対大型ミサイル防御兵器も
試験的に搭載している。
 尤も秘書の言うように、これらの魔改造によって艦体は大型化しており、排水量はヤマトを超えて8万トンに達している。
タケミカヅチのほぼ半分ほどの大きさだ。 

「まぁ拡張性の余地はある。万が一のときには移動する統合参謀本部としても機能できる。問題はない」

 第3砲塔を撤去して作られた司令室の能力は高く、暫定的なら宇宙を移動する参謀本部としても機能できるほどだ。
 議長からすれば万が一の場合、現場で指揮を執れるという優れものに見えた。

「……それは財務次官にも言ってください」
「……」

892earth:2011/10/07(金) 23:28:28

 こうして地球防衛軍は戦力の増強に努めた。
 一方、ボラー連邦軍もアンドロメダ星雲侵攻を目論む傍らで、対ヤマト級戦艦とも言うべき新型戦艦の建造を急いでいた。
 しかしヤマトの戦績を聞いたボラー連邦の技術者達は頭を抱えていた。

「何で6万トン級の宇宙戦艦があれだけの活躍が出来るんだ?」
「波動砲という戦略砲のおかげなのでは?」
「いや、波動砲はチャージに時間が掛かりすぎるなど欠点も多い。
 拠点攻撃には適しているかも知れないが艦隊決戦となると制約が多い兵器だ。それにあの程度なら機動要塞で防げる」
「攻撃の的確さを見るに、分析システムが優秀なのかも知れない」
「後は、あの謎の防御力か」
「ああ。普通なら轟沈してもおかしくない攻撃を受けているはずだ。にも関わらず戦闘能力を維持している」
「防御機構に何か秘密があるのかも知れない。いや、余程優秀な自動修復機構を搭載しているのかも」
「ガミラスの酸の海でも活動できた程だからな」
「むむ。否定できん。しかしあのコンパクトな艦のどこに、必要な資材を載せていたのだ?」
「何か特別な方法でもあるのだろうか?」

 転生者の間でも謎な『いつの間にか生える第三艦橋』は、ボラー人からすれば複雑怪奇だった。

「攻撃精度の高さも気になる。あれだけ被弾したなら、その影響で命中率は大きく落ちるはずだが」
「優秀なFCSがあるということだろう」
「しかし地球人は、ヤマトを越えるアンドロメダ級戦艦に加えて、さらにそれを超える新型戦艦を建造したらしいぞ」
「我々はそれらを凌駕する戦艦を建造しなければならないか……ボラーの意地にかけて」
「ということは排水量は20万トンを超えるかも知れないな」
「予算は?」
「べムラーゼ首相は確約してくれている。それに何百隻も作るわけではない。少なくて50隻。多くても100隻程度だろう」
「なら、豪華な艦が出来るな」

 議長達が聞けば卒倒しそうな会話を続けながら、ボラーは新型戦艦建造を急いでいた。

893earth:2011/10/07(金) 23:30:58
あとがき
タケミカヅチとアイルオブスカイ完成。
原作とは比較にならないほど充実した防衛艦隊です。
下手をすれば暗黒星団帝国軍は沖田、土方、山南、古代兄弟という面子の
迎撃に遭うでしょう……気の毒過ぎる(爆)。

894earth:2011/10/08(土) 09:56:42
第40話です。


『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第40話

 
 デスラーは不遜な第8艦隊司令官の発言に目を細めたが、気分を切り替える。

『だが我々がガミラス星を放棄したらどうするのだ? ガミラス星に奴らは群がるぞ。
 ガミラシウムを採掘しすぎれば星の寿命は縮み、結果としてイスカンダルは滅亡の危機にさらされる』
「少なくとも貴方方が何もせずにガミラス星を放棄するとは思えませんが?」
『ふっ。他力本願だな』
「いえいえ。ガミラスの能力については信頼しているのですよ。我々も嫌と言うほど思い知っていますから」

 ガミラスによって多大な被害を受けた筈の地球は、特に防衛軍の一部は、対戦相手であったガミラスをよく
理解していた。
 
「それで如何されます?」
『良いだろう。我がガミラスも停戦を活かして星の安全を確保するために必要な作業を行うとしよう。
 だが情報交換だが……』
「担当者を、そちらに派遣しましょう」
『担当者の名前は?』
「……古代守と真田志郎。この2名でどうです?」
『古代守?』
「はい。ヤマト艦長代理の古代進の兄です。中々に優秀な宇宙戦士です。『弟も』優秀でしたが、引けはとりません」

 心にも無いことをシレっと言う司令官。

『良いだろう。待っている』
「それでは失礼します」

 こうして会談は終った。
 この会談が終った後、必要な仕事を終えると司令官は医務室に直行した。

「……疲れた」

 胃薬を飲んでベットに横たわった司令官は弱弱しい声色でそう零した。それほどまでに疲れていた。

「お疲れ様」

895earth:2011/10/08(土) 09:57:39
 
 軍医の言葉に司令官は頷くだけだ。
 そんな司令官を見て、言葉を選ぶように軍医は続ける。

「しかし古代兄と真田さんを担当者にするとは」
「古代兄には成長してもらわないといけないだろう。古代弟と違って政治について多少は理解があるからな」
「弟はバーサーカー。昔で言うヤ○ザの鉄砲玉が関の山と……」
「そうだ。まぁ多少成長すれば使い物になるかもしれないが、落ち着いた頃には退役なんて可能性がある」
「ははは。確かに」

 復活編を知る人間としては否定できなかった。

「女王陛下は?」
「まだ意識が戻らない」
「どの程度で意識が戻る? あまり長居はできないぞ」
「まぁここ数日内には何とかなるはず。その件については大船に乗った気で」
「悲観的に考えて、楽観的に行動するのが鉄則だよ。常に最悪の事態も考えなければならないのが司令官の仕事だ。
 君らの腕を疑っているわけではないのだがね」
「……」

 軍医はお気の毒に、とばかりに肩をすくめる動作をする。

(イスカンダリウムの無害化(?)作業を進めよう。あとは暗黒星団帝国軍の逆襲への警戒だな。
 逃げ出した艦があるから、他の部隊がいてもおかしくは無い)

 予想以上の大部隊が現れた場合には、第8艦隊は速やかに撤退するつもりだった。
 いくら何でも部隊を全滅させるわけにはいかない。まぁヤマトとムサシで無双させることも考えたが、その場合
第8艦隊は壊滅してしまう危険があった(法則的に)。
 必要なら1個艦隊を犠牲にすることもあるだろう。だがここで艦隊を1個壊滅させるのはマイナスが大きかった。

(真田さんには過労死を覚悟で頑張ってもらおう。ゲーム版でも頑張ってくれたんだ。何とかなるさ)

 本人が聞けば噴飯物の考えだったが、司令官は半ば本気だった。

896earth:2011/10/08(土) 09:58:33

 会談の後、スターシアは漸く意識を取り戻した。その彼女の了承を得たことで、作業は一気に進められた。
 こうして第8艦隊はイスカンダリウムの無害化を進めていった(ちゃっかりサンプルも獲得)。
 
「お世話になります」

 病室でスターシアに頭を下げられた司令官は慌てて首を振る。

「いえ。この程度は手間のうちにも入りません。返しきれない大恩のある陛下に、多少なりとも恩を返さないといけませんし」
「気にしなくても良いのですよ」
「いえいえ。我々を破滅の淵から救ってくださったのですから、この程度は当然です。
 それよりも陛下、提案なのですが、地球に移民されるつもりはありませんか? 暗黒星団帝国軍、いえデザリアム帝国は
 このマゼラン星雲で活動しています。ガミラスもいずれサンザー太陽系を離れ、ここは無主の地となります。
 奴らが再び来ればイスカンダルは危険です」
「イスカンダリウムは使えなくするのでは?」
「彼らがどんな思考をしているかは不明な点が多いのです。それに我々はイスカンダル救援の際に彼らと戦端を開きました。
 彼らが地球に復讐を挑むために陛下を人質として利用するということも考えられます」
「……」
「イスカンダリウムは手に入れられなかったとしても、他の資源や技術を強奪していくことも考えられます。 
 反ガミラス勢力の中にも、ガミラスに対抗できるこの星の技術を得ようと動く者がいるかも知れません」
 
 これ以上、スターシアがこの星に留まるのは戦争の元になると主張する司令官。
 しかしあまり追い詰めるのも拙いので別の方向からも攻める。

「陛下と『サーシア』殿下によって救われた地球の様子を見ていただきたいのです」
「……」
「それに陛下が共に来てくださればイスカンダルの思想や記録は、地球だけで無く他の国家にも伝わるでしょう。
 イスカンダル本星がなくなったとしても、その影響は残ります。それは望ましいことだと思います」

 司令官、そして古代進やヤマトクルーの説得によって、スターシアは地球行きに同意することになる。

897earth:2011/10/08(土) 10:01:57
あとがき
ついに40話突入。ネタSSなのに更新が早いな(汗)。
あとスターシア生存フラグ来ました。
ヤマトのメインキャラにとっては優しい世界になるかも……。

898earth:2011/10/08(土) 23:01:43
第41話です。

『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第41話


 第8艦隊はイスカンダリウムを戦争に使えない物質に変換し、さらにイスカンダルに残されていた技術や資源を
片っ端から回収した後に地球に向けて発進した(ちなみに真田さんは過労で倒れ掛かった)。

「遥々、イスカンダルに来てスクラップや資源を回収。帰りは真珠湾攻撃の『飛龍』みたいに物資山積みか」

 司令官はそうぼやいたものの、成果は大きかった。
 これらを持ち帰った暁には地球の技術力を大幅に向上できることが期待できたし、スターシアが地球に移り住むことを
決めたので、スターシアを想うデスラーが率いるガミラスと再戦する危険を多少なりとも減らすことが出来た。
 さらに地球の大恩人であるスターシアを救出し地球に連れ帰るということで、防衛軍の地位向上も期待できる。
 何しろ移民すると言ってもスターシア一人。何万、何十万人もいるなら大問題だが、彼女一人なら問題は起こらないし
世論の受けも良い。

「まぁ連邦議会と防衛会議、それに議長や藤堂長官の仕事は増えるが……我慢してもらおう」

 このとき議長は衛星軌道でテスト中のアイルオブスカイを視察していたのだが、急に猛烈な寒気を覚えたと後に語っている。
 だが今後のことを考えている司令官と違って、ガミラス軍(停戦中だが)と対峙している他の人間は気が気でなかった。

「警戒は怠るな。コスモタイガー発進。直掩機は欠かすな」

 宇宙空母『グラーフ・ツェッペリン』では艦長がそう指示を出していた。
 勿論、表向きはデザリアム帝国を警戒してのことなのだが、実際にはガミラス軍の不意打ちを警戒してのことだった。
 確かに組織的に攻撃される可能性は低いが、一部の過激分子の攻撃がないとは言い切れなかった。何しろヤマトはかつて
ガミラス本星を壊滅させていたのだ。  
 自分達がガミラスを憎むように、自分達を憎んでいるガミラス人が居ないとは言い切れない……艦長はそう考えていた。

「それにしても、これがガミラスの本気か。停戦していなかったら大変なことになっていたな」

 ガミラス軍も各地の残党や植民惑星の生き残りを集めた。集結しつつある艦船の数は彼らの想定を超えている。
ボラー、ガミラスといった星間国家の力を防衛軍の宇宙戦士たちは改めて認識させられた。
 多数のガミラス艦に見送られて、第8艦隊は地球への帰途に着いた。

899earth:2011/10/08(土) 23:02:43

 地球人からすれば怨敵と言っても良い『デスラー』。
 だがその彼の思考はヤマトや地球への復讐よりもデザリアム帝国や反ガミラス連合に向けられていた。

「盗掘者と火事場泥棒共へ鉄槌を下すのが先だ」
「しかし総統、現状の戦力では……」
「判っているよ。タラン。まずはガミラスの再興だ。これは変わらない」

 デスラーはそういうと、戦闘空母の艦橋にあるスクリーンに星域図を表示させる。

「大マゼラン星雲、小マゼラン星雲。この2つの星雲には我々を受け入れる場所はないだろう」

 反ガミラス連合が形成されることから、周辺国は敵だらけであることは明らかだった。
 実際、ガミラス本星が健在なときは小マゼラン星雲にいくつも戦線を抱えていた。
 
「そこで我々は別銀河に本拠を求める。第一の候補としては銀河系だ」
「しかし総統、銀河系にはボラーが居ます。我々はもともとガトランティスと同盟を組んで奴らと敵対しました。
 今更、我々を見逃すでしょうか?」
「判っている。しかし他の銀河となると遠すぎるし、情報も少なすぎる。
 それにボラー連邦が巨大とは言え、銀河系全てを支配している訳ではあるまい。
 もしもそうなら、地球など当の昔に彼らの配下になっているはずだ」
「つまり辺境から調査していくと」
「そうだ。そしてまず仮の本星を設置する」
「仮の?」
「仮住まいとは言え、本星があるかどうかは重要だ。仮の本星は『ビーメラ星』とする。
 銀河系への前線基地があったバラン星にも近い故に、銀河系進出の拠点にも向いている。
 遊星爆弾による改造も短期間で出来るだろう。それに奴らは裏切り者だ。叩き潰すには十分な理由だ」

 ビーメラ星の親ガミラス(傀儡)政権は革命によって崩壊していた。
 
「直ちに用意しろ!」
「了解しました」

900earth:2011/10/08(土) 23:03:34

 ガミラスが新天地獲得に向けて動き出した頃、見るも無惨に艦隊を撃滅されたデザリアム帝国も動き出していた。

「聖総統閣下。残念ながら大マゼラン方面軍はほぼ壊滅した模様です。残存部隊が応援を求めているようですが」

 側近であるサーダの報告に、聖総統は動揺を見せることなく尋ねた。

「我が軍を打ち破ったのはどこの国だ?」
「地球、銀河系辺境にある星の艦隊のようです」
「地球だと? 確かガミラスを打ち破った国であったな」
「最近ではガトランティス帝国を打ち破ったとの情報もあります。加えてかの銀河系の大国と友誼を結んだとも」
「ふむ……」

 二重銀河を支配する暗黒星団帝国、いやデザリアム帝国の頂点に君臨する聖総統スカルダートは考え込むかの
ように暫く黙り込む。

「ふむ。徹底的に調査を行え。
 ガトランティス帝国とズォーダー大帝を打ち破っただけでなく、大きな後ろ盾を得たとなると一筋縄ではいかん。
 それと大マゼラン星雲だが、現状でこれ以上戦力を投入すれば他の戦線に悪影響が出る。
 大マゼラン方面については戦線を一旦縮小せよ」
「では、そのように」

 議長達にとって第三の試練となるデザリアム戦役の開幕が迫っていた。

901earth:2011/10/08(土) 23:06:57
あとがき
連続更新……体調が良くないのに何をしているのだろうか(汗)。
さて、第三の戦役の本格的開幕が迫っています。
尤もあれだけ強化された(まだ強化中ですが)防衛軍(下手をすればボラーとも)と
戦争となると地球侵攻部隊は無事に地球にたどり着けるのだろうか……。

902earth:2011/10/09(日) 11:20:08
第42話です。


 『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第42話


 イスカンダルから帰還してきた第8艦隊からスターシアがネメシスに同乗していること、そしてスターシアが
イスカンダルを離れざるを得なかった理由が連邦政府に告げられると、連邦政府及び防衛会議は大混乱となった。
 新たな敵・デザリアム帝国の存在はそれほどまでに大きなショックを彼らに与えたのだ。

「騒いでいても話は進まん。
 とりあえず、サーシア殿下への墓参りとして、スターシア陛下が乗られているネメシスを火星に誘導。
 残りの艦はただちに月の防衛軍基地に帰還させる。物資や資源については細かい調査を月でした後に
 地球に持ち込むのが良いだろう」
 
 防衛会議の席での議長の提案はすぐに承認され、ネメシスと護衛のパトロール艦1隻、駆逐艦3隻の5隻は火星へ
向かい、残りの艦は月面の防衛軍基地に向かった。
 議長は必要な仕事を終えると、すぐに転生者たちとの密談を行った。尤も最近はレストランで密談をするよりは
連邦議会ビルの一室で行うのが主流になっていた。

「報告にあったとおり、いよいよデザリアム戦役が迫っている」

 議長は室内に入るや否や、そう告げる。

「幸い、デスラーとの間に暫定的ながら停戦を結ぶことが出来た。
 あとスターシア陛下を確保できたおかげで、彼女を仲介にすればある程度の交渉は可能になったと言えるだろう」

 これには財務次官が喜び、外交担当者はため息を漏らす。

「無駄な戦争が減らせるかもしれません。それにイスカンダルから得られたものも大きい」
「おかげでこちらの仕事は倍増ですが……まぁ仕方ないか」
「……まぁそのあたりは耐えて欲しい。
 問題はガミラスの横槍を恐れることなく、デザリアム戦役に専念できるということだ。尤もボラーの目があるが」
「ボラーを共に諌めてくれる国がないのが痛いですね」

 ボラー連邦は露骨に軍事演習を行い、さらに新型戦艦の建造も進めている。
 表向きはアンドロメダ星雲侵攻のためなのだが、実際には地球への牽制が含まれていることを彼らは察していた。
 地球連邦はこれに対応するために戦力増強に努める傍らで、ボラーの傘下の国家に接触していた。銀河系中心に
ある国々の中には、内心では反ボラーの国も少なくなかったが、実際に手を取り合えるかどうかは別だった。
 ボラーと地球では地力が違いすぎた。また方や超大国、方や漸く宇宙に進出した新興国。ブランドが桁違いだ。

903earth:2011/10/09(日) 11:20:58

「二重銀河を吹き飛ばせば銀河交差が起こる。それまでの我慢だ。
 まぁ戦力は充実している。原作ほど無様なことにはならないだろう」

 議長の言うとおり、防衛軍の戦力は大幅に拡充されていた。
 ヤマト、ムサシという2大戦艦に加え、タケミカヅチやアンドロメダ級5隻。8隻もの戦略指揮戦艦が揃っている。
 ガトランティス戦役で1隻も戦没することなかった主力戦艦もある。これに10万トン級の無人戦艦も加わる。
 まぁ主力戦艦の装甲はダンボールなので、正面から撃ち合うとなればどれだけ犠牲がでるかは判ったものではなったが。

「防衛拠点や哨戒網も充実しているから奇襲されることもない。重核子爆弾さえ対処できれば何とかなる」

 都市帝国の残骸、もとい下半分の小惑星は地球を守る最終防衛拠点となっている。
 コスモタイガー隊が配備されるだけでなく、ガミラスの冥王星基地にあった反射衛生砲を再現したものを搭載しており
防衛能力は高い。
 さらに遺棄されたガトランティス軍艦艇を資材にしてパトロール艦や哨戒機、各種索敵用機材が生産され、濃密な哨戒網が
太陽系に張り巡らされている。

「これだけあれば何とかなるでしょう。いや何とかしてもらわないと予算が無駄になる」

 財務次官の言葉に議長は頷く。

「判っている。まぁアイルオブスカイについては問題が多いが、迎撃や万が一の保険になるとなれば、そちらの不満も
 解消されるだろう」

 この言葉を聞いて前ヤマト艦長が思い出したかのように口を開く。

「エアフォースワンならぬ、コスモフォースワンと?」

 この言葉に誰もが納得する。幾ら勝算が高くなっているかと言って保険を用意するのは重要だった。

「しかしここまで充実すると敵が来ない可能性があるのでは?」

904earth:2011/10/09(日) 11:21:32

 外交担当者の言葉に一部の人間が凍りつく。
 だが議長が首を横に振ってそれを否定する。

「こちらを調査すればするほど、奴らは早期に地球を攻めようとするだろう。
 何しろこちらは天敵の波動エネルギーを使う文明だ。自分達の肉体を手に入れたいことも考慮すれば放置は出来ない。
 それに我々は太陽系の外に向けて膨張を続けている。ゆえに今のほうがまだ手薄と判断するだろう」

 シリウス、プロキオン、αケンタリウス等の新領土の防衛、それに地球と新領土を結ぶ輸送船団の護衛も防衛軍の任務であった。

「集団疎開を兼ねた移民計画も良いかも知れませんね」

 財務次官の言葉に誰もが頷く。
 特に復活編でブラックホールが来ることを知っている者からすれば、わざわざ他国の領土を間借りするなど御免被る事態だった。

「妨害がないうちに進めよう。銀河交差の混乱も利用できれば、SUSに対抗できる勢力を築ける」
「輸送船が大量に要りますね。やれやれ造船業界がまた儲けるのか」
「建設業界もだ。いやインフラ全般というべきか。しかしこうも忙しいと、潤いを与える娯楽産業も必要か」
「パンとサーカスを与えれば、市民は政府を支持しますからね」

 新たな儲け話に転生者たちは盛り上がる。軍隊と違って、投資すれば大きなリターンが期待できるのだ。
 掛け捨ての軍事予算より実入りが大きいと言える。

「レギュラー陣には見せられん様子だな」

 議長の言葉に財務次官は肩をすくめる仕草をする。

「汚い仕事をするのもモブの仕事ですよ。
 いっそのこと、我々のことは『舞台裏モブキャラ同盟』とでもしたらどうですかね」
「……開き直っているな。あとそのセンスはどうかと思うが」
「冗談の一つでも言わないと、やってられませんよ」

 こうして地球もデザリアム戦役に向けて着々と準備を進める。

905earth:2011/10/09(日) 11:24:34
あとがき
デザリアムは飛んで火にいる何とやらになる可能性が……。
しかしこうなると復活編はSUS、地球連邦、ガミラス帝国の三国志のような
光景が広がりそうです。
いやいっそのことSUSは早期にガミラスに潰されて、第二次ガミラス戦役と
いうこともあるかも……。
それでは。

906earth:2011/10/09(日) 18:54:14
続けて第43話です。


『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第43話

 サーシアの墓参りを済ませたスターシアは、ネメシスに乗って地球に向かい、連邦首都メガロポリスに降り立った。
 スターシアは余り派手な歓迎は好まなかったのだが、連邦政府や司令官の懇願もあり、連邦にとって恥かしくない
セレモニーがひらかれた。
 地球最大の巨大戦艦であるタケミカヅチが、国家元首であるスターシアを迎えるための21発の礼砲が放つ。
 さらに軍楽隊による演奏が始まる。報道陣は数こそ少ないが、入場を許可された記者達はこぞってカメラをネメシスに
向けてシャッターチャンスを逃すまいとする。

「こんなに大規模な式典なんて……」

 ネメシスの艦橋で様子を見ていたスターシアは眉を顰める。
 これを見た司令官は深々と頭を下げて詫びた。

「真に申し訳ございませんが、必要なのです。
 地球人全員の大恩人であるイスカンダルの女王陛下を歓迎しないなど、連邦政府の威信と信用に関わります」
「……」
「陛下がこのような式典をお嫌いなのは判っております。ですが、どうかご容赦の程を」

 スターシアがネメシスから降りると防衛軍、連邦政府高官が次々に頭を下げて彼女に礼を言うと同時に地球への
移住を歓迎した。 
 
「このたび、地球にとっての大恩人である陛下をお迎えできたことを光栄に思います」

 連邦大統領の演説に始まって、連邦首相、主要政党政治家、防衛軍高官(議長と藤堂長官)の挨拶が入る。
 尤も長旅の陛下のためとして挨拶は非常に短いものであったが。

907earth:2011/10/09(日) 18:54:57

「陛下を迎賓館へ」
「了解しました」
「マスコミは国営放送を除いてシャットアウトしろ。これ以上陛下に心労は掛けれん」
 
 大統領の指示によってスターシアはメガロポリスにある迎賓館に向かった。
 一方、この様子を見ていたヤマトクルーはお疲れ気味のスターシアを見て、連邦政府のやり方に不満を抱く。

「もう少し静かに迎えれば良いのに」

 古代進の意見に何人かのヤマトクルーが頷く。
 これを近くで聞いていた(というか聞き耳を立てていた)議長は目をむく。

(こ、この連中は……)

 議長は少し心を落ち着かせると、ヤマトクルーに声を掛けた。

「ご、ご苦労だった。ヤマトの諸君」
「議長?」

 議長の姿を見た古代弟や島、南部などが慌てて相次いで敬礼する。

「ま、まぁ君達の気持ちも判らないでもない。陛下もお疲れなのだから」
「だったら」
「最後まで聞いてくれ。
 次々に侵略者を迎え撃たなければならない連邦政府としては、威信や求心力を高めるものが必要なのだ」
「それがこの式典だと?」
「そうだ。国民の士気を上げるためには重要だし、ボラーや他の国家へのメッセージにもなる。
 少なくとも地球はイスカンダルの女王陛下が身を預けるに十分と判断する力をもっていると思ってくれるだろう」
「それは利用しているというのでは?」
「確かにそういった面もあるだろう。
 だがデザリアム帝国なる侵略者さえ地球に来る可能性があるのだ。
 そして彼らがガトランティス帝国以上の軍団を持っていないとは断言できん」
「……」

908earth:2011/10/09(日) 18:55:29

「もしも地球が弱いと思われたら、その隙に付け込もうとする輩もいるかも知れない。それは防がなければならない。
 君達が強いことは十分承知している。頼りになることも。だが物量に物を言わせて全方位から地球を攻撃されたら堪らない。
 敵は分断し各個に撃破する。これは戦場の基本だ。諸君も訓練学校で習ったはずだ」

 島や南部は納得した顔をする。古代も少し不満そうだが文句は言わなかった。

「私達年寄りが非力だから、こうなった。それは申し訳ないと思っている。だからこそ、君達若い世代に期待している。
 これからも『頑張ってくれ』」

 議長はそういうと敬礼する。古代はこれを見て慌てて答礼すると同時に元気よく答える。

「勿論です。お任せください!」
(いや、君達が負けるとは思っていないさ。
 でもこちらが全力で、誠心誠意で処理すれば、何とかなる範囲で勝負をつけてもらうと非常に助かるんだ。
 って言っても判ってくれないだろうな〜)

 議長が乾いた笑みを浮かべる理由など露も知らない古代弟だった。
 一方、古代守はこの式典の意味を察していた。

「土方さん。ボラーはどうでると思います?」
「私のような船乗りには判らん。だが地球という国家への箔が付くのは間違いないだろう」
「……第8艦隊司令や議長を見ると、これからの防衛軍は政治への理解も必要になるのが判ります」
「私もそうだ。今後のためにも訓練学校のカリキュラムを変更する必要がある。山南とも話をしてみる」
「時代の流れ……でしょうか」
「そうだな。だが君はまだ若い。頭の切り替えも早いだろう。議長が言うように次は君達、若者の時代だ」
 
 そういった後、土方の頭に有望な若者達の顔が浮かぶ。

「だが彼らが成長するまで、負けるわけにはいかん。私も沖田も次世代のためなら命を投げ出す覚悟だ」

 それは古い人間である土方の揺ぎ無い覚悟であった。

909earth:2011/10/09(日) 18:57:37
あとがき
ヤマトクルーも少しは成長していくでしょう。
まぁ古代弟が成長して使い勝手が良い指揮官になってくれれば言うこと無しですが。
もうそろそろ沖田艦長復帰です。
デザリアム帝国は防衛軍の豪華メンバーでお出迎えになるでしょう。

910earth:2011/10/10(月) 19:00:58
第44話です。


『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第44話


 デスラー率いるガミラス帝国残党はビーメラ星に無差別攻撃を敢行した。
 もはや嗜好品など嗜んでいられる余裕が無くなったガミラスにとって、この星を温存しておく意味などなかった。
 革命によって体制をひっくり返した者たちは、かつて自分達を支配していた主人が帰ってきたことさえ知る事無く
ガミラス軍が無慈悲に落としてくる遊星爆弾によって消し炭と化していく。

「何故、このようなことが……」

 漸く自由を勝ち取ったビーメラ星人たちは己の不幸を嘆くが、どうしようもなかった。
 弱かった。それゆえに彼らは滅ぶのだ。
 ヤマトクルーが何と言おうと、この世界は弱肉強食だった。

「所詮は通信機さえ使えない原始人と言うわけか。地球人とは比較にならん」

 デスラーはそう嘲笑する。だがすぐに表情を引き締める。

「ビーメラ星人の遺伝子情報は残っているのだろう?」
「はい。いずれ余裕ができれば、『家畜』として復元させるのも可能でしょう」

 タランは人類が考えている『人道』とはかけ離れた報告を平然と行う。だがそれを咎める者はいない。

「なら良い。今度は余計なことを考えることもなく、ただの食糧として生かしといてやろう。
 環境改造をした後は、すぐに『臨時』帝都建設を行う。準備を急げ」
「了解しました」

 降り注ぐ遊星爆弾によって吹き飛ばされ、直撃を免れても重度の放射能汚染によってビーメラ星人は次々に死に絶えていった。
 そして瓦礫と死体(又は肉片)の上にガミラス艦隊は降下し、かつてあった文明の痕跡を消し去って新たな文明を構築していく。

「これなら、数ヶ月で仮帝都は建設できるな」

911earth:2011/10/10(月) 19:01:32

 ビーメラ星が呆気なく死滅し、ガミラスの第二帝都(仮)が建設されつつある頃、銀河系調査のために派遣されたガミラス艦隊は
予期せぬ勢力と接触することになった。

「ガルマン民族だと?」
「はい。我々に非常に近い民族のようです」

 兵士の報告を聞いたガミラス艦隊司令官は逡巡した後、決断を下す。
 
「むむむ、銀河系辺境にそんな民族がいたとは。よし接触と調査を続けよ。ガミラス復興の手がかりになるやも知れない」

 ガミラス星人はもともと銀河系中心部から移民してきたガルマン民族の末裔だった。
つまりガミラス人は遠いご先祖様と遭遇したことになるのだ。勿論、接触当初は眉唾ものであったが各地でガルマン民族とガミラス人を
関係付ける証拠(主に遺跡)が発見されるにようになると、疑いを持つ者は急速に減っていた。
 だがすると次の問題が浮上した。そうガルマン民族の現状についてだ。

「ガルマン民族はボラー連邦の圧政下に置かれており、母星は完全に植民地化され市民は奴隷階級に落とされている。
 抵抗していた者たちは辺境に築いた拠点に逃れていたが、どれも消耗している……か」

 デスラーは眉を顰めた。
 何しろ彼にとって第一に復讐するべきはデザリアム帝国軍、そして火事場泥棒を働いた反ガミラス連合の者たちだ。
 ここで地球と付き合いがあるボラーと争えば、ヤマトを再び敵にしかねない。それは好ましくない。物事には順序というものがある。

「ガルマン民族を出来る限り脱出させよ。辺境地域には幾つか拠点がある。そこに収容するのだ。ただしボラー連邦に気付かれるな」

 こうしてガミラス帝国は銀河系中心部で零落していたガルマン民族を配下に加えていった。
 さらにこの件で、ガミラス人はガルマン民族の遺伝子情報から、自分達が放射能がない状態でも生きていける方法を発見した。
 こうしてガミラス人は放射能汚染なくして活動できるようになっていった。
 
「これなら新天地を獲得しやすくなる」
 
 デスラーは久しぶりに上機嫌だった。

912earth:2011/10/10(月) 19:02:03

 だがこの動きは、ボラー連邦軍によって察知されつつあった。

「ガミラス軍残党だと? 『ガトランティス』と同盟していたあの男が率いる軍勢か」

 側近からの報告にべムラーゼは苦い顔をする。何しろガトランティスと言ったらボラーの面子を潰した怨敵。
 そしてその同盟国となればボラーにとっては大敵だった。

「叩き潰せ。ガルマン民族とガミラス人が組むのなら、情け容赦はいらん! 本国艦隊も出して叩き潰すのだ!!」
「はい!」
「ああ、それと例の新型宇宙戦艦がロールアウトするころだと思うのだが」
「『スターレン』級ですか」
「あのテストを行いたまえ。実験には丁度良い相手だ。ガミラスはかつてヤマトに負けた。
 これを打ち破れば、少なくとも『スターレン』級がヤマトと互角以上に戦える船であることが証明できる。そうだろう?」
「ですが『スターレン』級はまだ初期タイプが6隻あるだけですが」
「構わん。6隻あれば十分だろう? ヤマトはただの1隻でガミラスを滅ぼし、白色彗星さえ砕いたのだ。
 それと互角以上の艦が6隻。これだけあればガミラスを完全に滅亡させても尚、お釣りが来るはずだ。そうだろう?」
「わ、判りました。『スターレン』級6隻を出撃させます」
「吉報を期待しているぞ」

 こうして超ヤマト級を目指して建造されたボラー連邦軍期待の超大型戦艦『スターレン』が発進していく。
 そのシルエットはボラーの艦とは異なり、むしろ地球の艦に近かった。
 大口径(56センチ)の砲を3連装5基(前後に2基、艦底に1基)に加え、中央には丸みを帯びた塔型の艦橋が備え付けられている。
 艦首には威力の強化とチャージ時間の短縮化を両立させた新型のボラー砲が搭載されており、艦底部には艦載機発進口が設置されている。
この他にも50門ものミサイル発射管があり、火力面ではアンドロメダどころかタケミカヅチを超えるものだった。
 加えて艦橋周辺には多数のセンサーやレーダーが設置され、高い索敵能力があることが判る。
 この排水量21万トンもの巨大戦艦、いや戦闘空母は関係者に見送られ、ガルマン民族とガミラス軍が居ると思われる宙域に向かった。

「我がボラーがその気になれば、ヤマトなど比較にならない戦艦を揃えられることを思い知るが良い」

913earth:2011/10/10(月) 19:04:20
あとがき
というわけでガミラスVSボラーです。新型戦艦も出撃します。
しかし相手はデスラー総統。どうなることやら……。
『スターレン』は……まぁ元ネタはお分かりですから敢えて言いません(爆)。

914earth:2011/10/11(火) 06:19:29
第46話です。


『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第46話


 ボラー連邦とガミラス帝国が戦端を開こうとしていた頃、デザリアム帝国は地球に関する情報の収集を必死に行っていた。
 その結果、地球がトンでもない国であることに気付かされていた。

「地球人類は狂戦士の集団なのかね?」
「……否定できません」 

 スカルダートの冗談半分(半分は本気)の言葉を、サーダは否定できなかった。
 何しろ地球人類は人口の8割を失っても抗戦し、波動エンジン関連技術を得た途端にガミラス相手に逆転勝利(相手の本星壊滅)。
さらに最近ではガトランティス帝国の移動首都(白色彗星)を1隻の戦艦で葬り、残った艦隊も無傷で殲滅したというのだ。 
 
「確かに、あの適合率と生命力とバイタリティは惜しいが……」

 さすがの聖総統閣下も躊躇する。
 機械化によって殆ど失われた筈の本能が告げるのだ。「彼らに手を出すべきではない」と。

「しかし聖総統、彼らを放置しておけば後に禍根になるかと」
「ふむ」

 今は自国のほうが技術レベルでは上回っている。しかしそれが続くとは断言できない。
 何しろデザリアム人は種として衰えつつある。一方の地球人は信じがたいほどのバイタリティで星間国家への道を突っ走っている。
 逆転されないと言い切るほど彼は楽観的ではなかった。

「ボラー連邦は?」
「支配している星の数に見合った生産力を持っています。ガトランティスに大敗したにも関わらず、戦力を回復させています。
 ですが内政面では問題が多いようです。付け込む隙はあるかと」
「ふふふ。『魔女』のお前らしいな。地球やボラーを正面から攻めるのではなく、搦め手でいくと?」
「はい。策はあります。ただしさらに情報の収集が必要ですが」
「判っている。存分にやれ。必要なものがあれば参謀本部に私の名前を出して言えば良い」

915earth:2011/10/11(火) 06:20:54

 デザリアムに対抗するべく地球防衛軍も軍拡を急いでいた。
 イスカンダルから得た技術や資源に加え、デザリアム帝国軍やガミラス軍の残骸は連邦にとっても色々と有益だった。
 強固な偏向シールドや装甲版などを回収したことで、従来の宇宙戦艦の砲撃力が非力であることが明らかに出来た。
議長と藤堂は防衛会議を動かして臨時の防衛予算を調達し、防衛艦隊の大改装計画を進めた。

「完成した戦略攻撃用潜宙艦は訓練航海を。ただし新規建造は遅らせて、その分の資材を戦艦群の改装に当てるのが良いだろう」
「了解しました」
「それと、藤堂長官、ヤマトはイカロスで改装させるのが良いかと。万が一のときも考えると……」
「ふむ。確かに」 

 議長の意見に藤堂は頷く。何かあったときの保険、それがヤマトの意義だった。

「ムサシはタイタン基地のドックで改造を急げ。本土防衛の穴はアイルオブスカイと実験艦隊で埋めれる」
 
 かくして防衛艦隊の艦船は順次ドックに入り、必要な工事を受けていった。
 特に主力戦艦の初期生産型は新型砲への換装や機関部の大改造(もはや新造)を受けることになった。
 一部の艦はヤマトと同様に46センチショックカノンを搭載(連装3基6門)すると言う魔改造が行われた。
 これによって敵の巨大戦艦の装甲を確実に撃ちぬける砲撃力や連続ワープにも耐えうる航行能力が手に入る。

「コスモタイガーⅡにかわる新型機の配備も急ぐ必要がある。制空権の有無こそ戦いの趨勢を決めるからな」

 ガトランティスやイスカンダルの技術を多く得ていたこと、ボラーという仮想敵がいたことにより、航空機の開発は急ピッチで
進められていた。
 これによってコスモタイガーⅡにかわる新型機、原作には無かった『コスモファントム』が配備されることになった。
 コスモパンサーほどではないが、高い戦闘能力と汎用性、そしてステルス性を兼ね備えた機体だ。
 これによって防衛軍空母部隊の攻撃力は大幅に向上することになる。尤も空母については艦の分類が変更されることになった。
 宇宙空母と呼ばれていた艦を攻撃型空母と分類することにしたのだ。

「いずれ配備される本格的な宇宙空母(正規空母)と混同されるのは拙いからな」

 議長はそう理由を述べた。

916earth:2011/10/11(火) 06:27:18

「あとは敵巨大要塞の攻略だが、ハイパー放射ミサイルの技術をボラーから得るのが良いだろう。
 引き換えに我々が得たガトランティスの技術や情報を提供する。まぁ出すものはこちらのほうが多くなるだろうが」

 このように新兵器開発を進める一方で、人的資源の保全も急がれた。
 デザリアム帝国のサイボーグ技術は医療において非常に価値があった。このためこの手の技術開発が急がれた。
また被弾した場合、従来の戦闘服では生存性が低いことも問題視された。

「これ以上、人が減ったら堪ったものじゃない」

 防衛軍高官の意見は、後方を担当する者にとって真理だった。
 一部の人間はあまり装備をすると迅速な戦闘行動に支障が出るということで反対したのだが、最低でも被弾した際に
発生するかも知れない毒ガスなどから身を守るためとして、戦闘時にはヘルメットだけでも着用することが決められた。
 さらに空間騎兵隊用にパワードスーツの開発も進められた。

「今の装備じゃ『死んで来い』と言ってるも同然だろう」
「でもこれって元ネタはボト○ズじゃ……」
「気にするな。使えるんだったら問題ない。モビ○スーツは大きすぎて使えないし、バル○リーは整備が大変になる」

 転生者たちはそう話し合いつつ(一部の人間は血涙を流したが)、新兵器開発を急いだ。 
 この新兵器開発と並行して、超能力の実験も進められた。
 尤もあまり露骨な人体実験はできないので、細々としたものだったが、それでも将来的には防衛軍の一翼を担う分野で
あると思われていた。 

「沖田艦長、土方艦長、山南艦長といった歴戦指揮官。さらに戦死していないヤマトクルー。
 これで新装備と超能力者があれば、ボラーともある程度張り合えるだろう……これだけ強化しても、私の華やかな出番はないのか」
「諦めてください。観艦式くらいなら出来ますよ」 

 秘書の突っ込みに議長は沈黙した。

「………世知辛いな」
「議長は後方で必要にされる人ですから。何せ防衛軍は前線も後方も人がいないので」
「……畜生〜!」

 議長の苦闘は続く。

917earth:2011/10/11(火) 06:29:17
あとがき
強化(もはや狂化(?))されつつある防衛軍。
一方、デザリアムは原作とは少し違った手を打つ可能性が出てきました。
べムラーゼ首相の上に死兆星が見える気がするのですが気にしない(笑)。

919earth:2011/10/12(水) 21:19:06
第47話です。


 『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第47話

 一言で言えばガルマン・ガミラス連合軍は初戦から一方的な敗退を余儀なくされた。
 6隻のスターレン級に加えて、自軍の5倍以上の兵力を叩きつけられては、いくら精強で知るガミラス軍も一溜まりもなかったのだ。
 ガルマン民族の抵抗拠点は次々に潰滅し、脱出途中だった大勢のガルマン人は冥府に追いやられた。

「ボラーに逆らう者の末路だ!」

 機動要塞を預けられたボラー連邦軍参謀総長であるゴルサコフは、非戦闘員に対しても容赦なかった。
 多数の難民が乗る輸送船団に向けてマイクロブラックホール砲を撃ちこみ、周辺の少数の護衛部隊諸共根こそぎ殲滅。
さらに惑星の拠点にはワープミサイルとプロトンミサイルを撃ち込んで粉砕していった。 

「本星(仮)の本隊が銀河系に展開していれば……」

 ガミラス艦隊司令官は悔しがったが、どうしようもない。
 元々、銀河系に展開しているガミラス軍はあくまでも安全に調査を行うための部隊なのだ。ボラーと真っ向から勝負を
するのは分が悪すぎた。
 機動要塞とスターレン級戦艦6隻を中心とした大艦隊は物量を生かしてガルマン・ガミラス連合軍を押し潰すかのように
襲い掛かった。
 
「一旦、引け! 銀河系外縁にまで撤退し、本隊からの援軍を待つぞ!!」

 こうしてガルマン・ガミラス連合軍は後退していく。
 戦艦スターレンに乗るボラー連邦軍前衛艦隊司令官バルコムは、撤退していく連合軍を見て嘲笑すると追撃を命じる。

「追うのだ! 奴らを逃してはならない!!」
「了解しました」
  
 こうしてボラー連邦艦隊による猛烈な追撃戦が始まった。

920earth:2011/10/12(水) 21:19:45

 ボラー軍は量での優越に加え、新規に開発した航空機を投入して各地で優位に立った。尤も新型機の姿を見たら議長が吹き出した
のは間違いなかった。何しろその新型機はディンギル軍のそれに酷似していたからだ。
 可変翼の単発戦闘機はガミラス軍戦闘機と互角に戦い、水雷艇を小型化したような攻撃機は俊敏な動きで連合軍艦艇にミサイルを
見舞っていく。
 これらは、本来なら喜ぶ光景なのだが、バルコムは苦い顔だった。

「多少格好はつかないが、仕方あるまい」
 
 ボラー軍はディンギルに勝った。だが受けた損害も少なくなかった。故に彼らはディンギルの優れた点を取り入れたのだ。
 強化された圧倒的航空戦力、さらにスターレン級の新型ボラー砲が連合軍に振り下ろされていった。  
 しかしガルマン人も意地を見せる。

「反撃しろ!」

 ガルマン民族の抵抗組織の幹部であったダゴン(連合軍結成に伴い将軍になっている)は、驚異的粘りで戦線の完全崩壊を防ぎつつ
起死回生の切り札として辺境の抵抗拠点で開発された次元潜航艇がボラーの側面を突く。
 突如として行われた亜空間からの攻撃にボラー艦隊は大混乱に陥った。

「どんな手品を使ったというのだ?」

 バルコムは歯噛みするが、対抗手段がない以上、どうしようもない。
 だがそれでもスターレン級は撃沈されなかった。技術者達が太鼓判が押した防御力が発揮された瞬間だった。
 従来の戦艦なら最低でも大破、下手をすれば轟沈していてもおかしくない攻撃を受けても尚、戦闘能力を継続する姿はボラー軍の
意地を見せ付けるものだった。

「素晴らしい、これがスターレン級か。ふふふ、この艦が量産された暁にはガトランティスや地球など物の数ではないな」

921earth:2011/10/12(水) 21:20:18

 一方の連合軍にとっても。このスターレン級の打たれ強さは驚きだった。

「何と言う防御力だ」
 
 フラーケンは驚嘆するが、すぐに思考を切り替える。

「奴らの後方を徹底的に撹乱し、味方を援護する」

 後にガルマンウルフと称されるようになる活躍によってボラー連邦軍前衛艦隊は少なからざる打撃を被り、進撃速度を
落さざるを得なくなる。
 
「小癪なガルマン人共め!」

 報告を受けたゴルサコフは忌々しげに、はき棄てるように言った。
 だがそこには粛清に対する恐怖も見え隠れしていた。ディンギルを潰して多少は面目を取り戻したとはいえ、所詮相手は
一恒星系の国家に過ぎない。ボラーからすれば格下も良いところなのだ。
 ここで再び躓けばボラー連邦軍は三流の烙印を押される。そうなれば軍制服組のトップである彼は粛清対象になる。

「バルコムを急かせろ! いや機動要塞も前に出せ!! 力押しだ!!」

 一方、デスラーは本星(仮)からガミラス艦隊主力を引き連れて出撃し、銀河系に急行していた。

「奴らの鼻っ面を叩き折り、味方を救出する」
 
 デスラーはボラー軍の大軍や戦いぶりを見て、士気を喪失するどころか逆に戦意を高めた。
 要塞攻略のために威力を高めた新型デスラー砲の試作品(ハイパーデスラー砲のプロトタイプ)を搭載したデスラー艦、ボラーの
物と同等の威力を持つプロトンミサイルなどを装備したガミラス艦隊が銀河系に来襲しようとしていた。

922earth:2011/10/12(水) 21:23:57
あとがき
ボラーに色んなフラグが立っている気がするが……多分、気のせいです(爆)。
次回、デスラー参戦。銀河大戦前倒しでしょうか……。
それでは。

923earth:2011/10/13(木) 23:58:42
短めの閑話です。


 『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第47.5話

「タケミカヅチに続いて、北米州の戦艦アリゾナ、アイオワも配備された。主力戦艦が改装に回されている状況では有難い」

 執務室で報告を受けた議長は、久しぶりに機嫌がよさそうな顔で頷いていた。
 
「それに、これらの艦のデータがあれば、次世代の戦艦建造にも弾みが付くな」

 ボラー連邦がガルマン・ガミラス連合軍を押し潰している頃、地球防衛軍は次世代の戦闘艦艇の開発に余念が無かった。
 ガミラスとは一時的に停戦したが再戦する可能性はゼロではないし、ガトランティス帝国は侵攻部隊主力と首脳部が壊滅したとは
言ってもアンドロメダ星雲の本国は健在。今は友好国だがボラーだって何時、敵に回るか判ったものではない。

「平和は次の戦争への準備期間に過ぎないのです」

 防衛会議の席で議長が言った台詞は真理だった。
 連邦政府は防衛予算の際限のない増額には歯止めを掛けつつも、外患に対応するために可能な限り予算を出していた。
加えて『原作』よりも消耗が少ないことも、防衛軍に余裕を持たせており、十分な時間を掛けた設計や試験運用を可能にしている。
 
「これで新型戦艦はダンボールどころか、風船みたいに爆発しないで済みそうだ」

 集束モードと拡散モードを使い分けられる『拡大』波動砲を搭載した新型戦艦。
 完結編ではディンギルの奇襲戦法によって呆気なく殲滅され、一部の転生者にとってはトラウマ物のこの艦は、防衛軍の期待の星だ。
 何しろ拡散波動砲搭載艦と集束型波動砲搭載艦を両方配備し続けていくのは面倒だったのだ。
 既存の戦艦の改装は、この戦艦で使われる各種装備のテストという一面もある。
 一方で巡洋艦についてはひと悶着起きていた。
 イスカンダルへの航海から「既存の巡洋艦以下の艦艇は遠洋航海には適していないのでは?」と言う意見が台頭していた。
 波動エンジンによって長大な航続距離は確保できたが、長距離航海は乗組員への負担は大きいのだ。

「さてさて、どうするべきか……」

924earth:2011/10/13(木) 23:59:13

 大型艦のほうが長距離航海には適しているし、今後、防衛軍では合理化のために戦闘艦の自動化、無人化も進められる予定だ。
実際、自動戦艦と自動駆逐艦の整備が進んでおり、実験部隊である第01任務部隊では試験運用が開始されつつある。
 さらに将来、特に復活編あたりの年代になり、コスモパルサークラスの艦載機が開発されると、艦載機が駆逐艦の仕事を代わることができるようになる。
それを考えると、わざわざ有人の小型艦を艦隊用(それも外洋向け)に大々的に整備するのは効率が悪いとも言えた。

「巡洋戦艦、いや大型巡洋艦のような艦を作るか?」

 現実だったら中途半端と言って却下されるだろう。
 だが議長はそれなりに有効なのではないかと考えた。
 しかしあまりに高価な艦を揃える事に夢中になると、今度は数が確保できないという恐れがある。

「……自国勢力圏外を長期間行動する可能性がある部隊には、2万トン級以上の巡洋艦を配備するか……。
 戦艦と大型巡洋艦、空母の周りを自動化した駆逐艦が固めれば良いだろう。
 いや、自動駆逐艦から構成される水雷戦隊を指揮できれば、より活用できるかもしれん。小艦隊旗艦にも使えるだろうし。
 自国領土警備等の任務には数が揃えられる従来のような1万トン以下の艦が良いか?」
 
 領土や通商路が拡大している状況では、数の確保も重要だった。 
 故に議長はハイローミックスでいくことを考えた。

「少なくとも、完結編の駆逐艦は要らないな。艦体が大きい割には武装が貧弱すぎる。
 確かに劇中だと活躍したけど……正直、あれだけの艦体があるんだったら、もう少し火力を充実させて弾幕を張ることくらいできないと困る。
 自動駆逐艦なら居住スペースがないから、もっと重武装化できるし無茶な機動もできるし……益々要らないな、あの船」

 こうして議長は参謀本部や防衛軍司令部、防衛会議とも協議して次世代の巡洋艦の開発を推し進めることになる。

925earth:2011/10/14(金) 00:00:42
あとがき
防衛軍巡洋艦についてです。
原作と違って外洋海軍への脱皮が急がれています。
ガミラスとボラーの戦争について知ったら色々と設計が変更されるでしょう。

926earth:2011/10/14(金) 23:53:33
第48話です。戦闘は難しい……。


 『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第48話


 デスラー率いるガミラス艦隊は連続ワープで一気に距離を稼ぎ、ボラー軍には信じられないほどの短期間で銀河系にたどり着いた。
 デスラーは乗艦のデスラー艦でボラー軍の詳細な情報を知らされると、スターレン級がヤマトを意識して作られた戦艦であると即座に断じた。 

「ボラーはヤマトの力を恐れたのだろう。だが、所詮は物真似だ。恐れる必要はない」
「それでは……」 
「そうだ。タラン。奴らを叩きのめす」 

 かくしてデスラー自らが指揮するガミラス艦隊(後の親衛艦隊)はボラー軍との決戦を求めて進撃した。
 一方のボラーもまたガミラス軍の増援が来たことを察知して、ガルマン軍と纏めて撃滅しようと目論み、銀河系東部に向けて進んだ。

「数で押し潰す!」

 ゴルサコフはべムラーゼの支持を取り付けてボラー各地から更なる増援を呼び寄せた。
 非常に太っ腹に見えるべムラーゼの決定だったが、その決定が下されたのはそれはガルマンの軍事技術、次元潜航艇の獲得をボラーの
政府首脳部が望んでいたからだ。

「あれがあれば、開戦初頭に地球を吹き飛ばすことも出来るだろう。そうなれば地球など一捻りだ」
「それだけでない。各地の反政府組織の掃討にも役立つ」
「アンドロメダ星雲のガトランティスと戦うのにもな」

 狸の皮算用と言っても良いのだが、彼らの中ではボラー軍の勝利は既定事項だった。
 ガルマン・ガミラス連合軍が増強されたと言っても、兵力差はまだ5対1と考えられていた。
 これだけの兵力で負けると考える人間はいない。

「銀河の神がシャルバートなどの過去の遺物ではなく、このべムラーゼであることを思い知るが良い」

 べムラーゼはこの決戦で一気にガルマン・ガミラス連合軍を撃滅し、さらに小うるさいシャルバート教信者の抗戦意欲を撃ち砕こう
と考えていた。
 こうして決戦の幕が上がる。

927earth:2011/10/14(金) 23:54:18

 デスラーはまず機動要塞と宇宙艦隊を引き離そうとした。
 何しろただでさえ宇宙艦隊が手強いのに、機動要塞まで相手にしていたら手が足らない。

「奴らをハロにおびき寄せる」

 デスラーはボラー連邦軍艦隊と会敵すると、巧みに敗走しているように見せかけて彼らを『ハロ』と呼ばれる領域に誘導していく。
 このハロというのは銀河系中心核と渦状腕の銀河円盤の外側に存在するこの領域のことであり、ここには暗黒物質やブラックホールによる
航路の難所が数多く存在した。
 デスラーはガルマン人や、これまでの調査部隊の情報を基にして、この難所を決戦の場に選んだのだ。
 一方、ボラー軍はこのデスラーの意図を認識できなかった。

「馬鹿な連中だ。わざわざ、あのような場所に逃げ込むとは」

 バルコムは嘲笑しつつ、即座に追撃を命じる。

「あそこを奴らの墓場にしてやるのだ!」

 こうしてスターレン級6隻を先頭にした艦隊は、次々にハロに突入していく。
 だが暗黒物質によるレーダーの索敵能力の低下、加えて多数の障害物(ブラックホール含む)によってボラー軍は思うように
進撃できなかった。
 逆にガミラス軍はその高い練度を存分に活用して、あちこちでゲリラ攻撃を繰り広げてジワジワとボラー軍に出血を強いていく。

「多少の犠牲は構わん、偵察機を出して奴らを見つけ出すのだ!」

 バルコムはそう言って多数の偵察機(一部はディンギルの水雷艇もどき)を放ち、必死にガミラス艦隊を探した。
 その結果、彼らはブラックホール周辺に展開していたガルマン・ガミラス連合艦隊を見つけることに成功する。

「急行するぞ!」
「しかし、バルコム司令、味方で急行できる艦はそう多くはありません」
「構うことはない。数だけでも3倍以上。包囲していけば奴らをブラックホールに押し込める。それに我らにはこのスターレン級戦艦がある」

928earth:2011/10/14(金) 23:55:38

 急行してきたボラー艦隊を見て、デスラーはほくそ笑んだ。

「盛った獣のような連中だ。地球人ならもう少し芸があるのだが……」
「油断は大敵かと」
「判っているよ、タラン。窮鼠猫をかむとも言う。それでは行くとしよう」

 こうしてガルマン・ガミラス艦隊はブラックホールを背にして砲撃を開始した。

「小癪な、一気に叩き潰せ!」

 スターレン級の新型ボラー砲の一斉発射から始まったこの大攻勢をデスラーは見事に防ぎきった。
 新型デスラー砲は一撃でボラーの戦艦をダース単位で吹き飛ばし、新型戦闘機で構成される航空隊はボラー軍戦闘機と互角以上に戦った。
 そしてこの戦いではガルマン艦隊の活躍も目立った。

「我らの子孫であり、救世主であるデスラー総統閣下に無様な真似は見せられないぞ!」

 原作では東部方面軍司令を勤めていたガイデル提督はそう言って部下を叱咤激励し勇戦した。
 唯一、ヤマトに勝利できた指揮官の名に相応しく、彼の部隊は獅子奮迅の活躍ぶりを見せ、数倍ものボラー軍を食い止め、その進撃を
遅らせた。
 そしてこれに業を煮やしたバルコムはさらなる攻勢を決意する。何しろこれだけの兵力を与えられて勝利できなかったとなれば自分が
粛清されかねないのだ。

「怯むな、敵は少数だ!」  
 
 だがこの直後、ガルマン・ガミラス艦隊がさらに後退を始める。それも整然としてだ。

「何だと?」
「閣下、奴らはブラックホールを重力カタパルトにして逃げ出すつもりなのでは?」
「ふっ、何を今更。奴らが腹を見せたら逆に葬ってくれる!」

929earth:2011/10/14(金) 23:59:05


 しかしガルマン・ガミラス艦隊を追撃しようとした頃、ブラックホールに巻き込まれようとうする惑星や小惑星が現れる。

「ええい邪魔な!」

 だがその直後、バルコムは凍りつく。
 辛うじて生きていたレーダーがトンでもないものを捉えたからだ。

「あれは……プロトンミサイルだと?! 拙い、全艦分散しろ!!」

 そう、それは巧みに偽装され、その存在を隠匿されてきたガミラス製のプロトンミサイルだった。
 通常なら見つけることも出来たのだが、暗黒物質による索敵能力の低下、加えて戦力を前方の敵艦隊に向けすぎたことで発見が
遅れたのだ。そしてその遅れは致命的だった。
 バルコムの指示を受けてボラー艦隊は混乱する。何しろ攻撃を開始した直後に、いきなり分散を命じられたのだ。
 この混乱するボラー艦隊の動きを見たデスラーは勝利を確信した。

「作戦は最終段階に移る。気を抜かないように」

 そしてガルマン・ガミラス艦隊の将兵が見守る中、ガミラスのプロトンミサイルがボラー艦隊の近くを通りかかった惑星や
小惑星に次々に命中した。
 その結果、ボラー艦隊は大爆発と衝撃波に襲われることになった。

「た、体勢を立て直せ!」

 だがそんな暇をデスラーは与えない。
 全艦を反転させると即座にデスラー砲によって混乱するボラー軍の陣形中心に穴を開けた。

「突破する。全艦、続け!!」

 ボラー軍の中央を突破したガルマン・ガミラス連合艦隊は、ボラー軍の背面に展開。逆にボラー軍をブラックホールに追いやっていく。  
 
「馬鹿な、このスターレン級が、この私がこんなところで!?」

 バルコムが絶叫した直後、機関部を撃ちぬかれた戦艦スターレンは、ブラックホールに飲み込まれていった。

930earth:2011/10/15(土) 00:02:10
あとがき
というわけで艦隊決戦はほぼ終了です。
ボラー軍上層部は大変なことになりそうです(笑)。

931earth:2011/10/15(土) 12:14:31
第49話です。
 

『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第49話


 バルコムがブラックホールに飲み込まれて死亡するという悲惨な最期を遂げた後、残されていたスターレン級5隻諸共、ボラー艦隊は
宇宙の藻屑となった。さらにデスラーは救援に駆けつけてきたり、ハロでうろうろしていた残存部隊を片っ端から殲滅していった。
 
「これであとは、あの機動要塞のみだ」
「しかし総統、奴らの手足となる艦隊は撃滅しました。これ以上、長居は無用です」

 タランはデスラーに早期の撤退を促した。

「ふむ。我々の目的は味方の救援。足の遅い機動要塞は放置しておけば良いと?」
「その通りです。一人でも多くのガルマン人を救出した後に、仮本星、いえ第二帝星に一旦引き上げるべきかと」

 タランの言うとおり、目的はほぼ達せられた。
 だがデスラーはここで引く気はさらさら無かった。

「いや、ここであの機動要塞も攻略する。あれは奴らにとっても切り札だ。ここであれを沈めておけば、後が楽になる」 

 デスラーが次の獲物としている機動要塞で指揮を取っていたゴルサコフは、信じられない敗戦の報告を聞いて狼狽していた。

「ぜ、全滅、いや前衛艦隊が文字通り消滅したと?」
「はい。バルコム司令は戦死し、スターレン級6隻も全て撃沈されたとのことです」
「そんな馬鹿な……」

 だがゴルサコフは何とか頭を切り替える。

(拙い。これでは、私が全ての責任を負わされてしまう……こうなれば、何としてでも奴らを撃滅するしかない)

 ゴルサコフは何とか残っている艦で護衛艦隊を編成すると即座に追撃に乗り出した。

932earth:2011/10/15(土) 12:15:07
 
 だが機動要塞を中心とした部隊は、ハロ領域手前でガミラス軍機の波状攻撃に遭う。
 デスラー戦法によって送り込まれてくる無数の攻撃隊に、ボラーは手を焼いた。

「蛆虫どもめ! 追い払え!!」
 
 だが当初動員した艦の大半がハロの戦いで潰えたため、護衛艦隊による対空砲火は疎らだった。
 戦闘機も出たが、ガミラス機を追い払うことはできない。そんな中、次元潜航艇が現れ、護衛部隊を攻撃していく。

「第5駆逐隊全滅!」
「第2戦隊から救援要請が入っています!」

 相次ぐ凶報。機動要塞こそ目立った被害はなかったが、このままでは護衛部隊が機能不全に陥る可能性が高かった。
 味方の不甲斐無さにゴルシトフは怒ると同時に焦った。何しろこのままでは作戦の失敗は確実なのだ。
 粛清の2文字が頭の中にチラつく。

(拙い……この要塞は落ちないだろうが、艦隊が全滅するようなことがあればボラー軍は大打撃を受ける)

 そんな彼の前にガルマン・ガミラス艦隊が現れる。それは彼にとって絶好の好機に見えた。

「マイクロブラックホール砲で発射用意!」

 このとき、機動要塞の正面に展開した艦隊を指揮していたのはガルマン軍でシャルバート教徒の纏め役であるハイゲル将軍だった。

「奴らをかき乱すぞ。ブラックホール砲には気をつけろ」
「了解」

 兵士の返事を聞くとハイゲルは頷き黙り込んだ。

(ふっ、信心深かったシャルバート信者も減ってしまった。最近では新参者であるガミラス総統デスラーへの信仰に鞍替えする者もいる。
 だが私はめげない。宇宙の神はべムラーゼでも、デスラーでもないのだ)

 原作では全面戦争中に宗教上の理由でクーデターを起こそうとした人物だったが、今はデスラーの体制を支持していた。
 何しろこれまでシャルバート教を散々に弾圧していたボラーを叩くほうが優先だった。

933earth:2011/10/15(土) 12:15:41

 ハイゲル率いるガルマン・ガミラス連合艦隊はボラー連邦艦隊を引っ掻き回した。
 加えて機動要塞がブラックホール砲を搭載していること、これまでの戦いから尋常ではない防御力を持っていたことから要塞への
対応も十分に行われていた。
 これにゴルサコフは苛立つ。

「ええい、素早い連中だ。マイクロブラックホール砲を連続発射、命中しなくても良い。奴らの足を止めるんだ!」

 機動要塞が次々にブラックホール砲を撃ちこみ、周辺に小型のブラックホールを形成する。
 この重力場に囚われて連合艦隊は足を止めてしまう。

「今だ、全部隊前進! トドメを刺せ!」

 ゴルサコフが護衛部隊を前進させ、ハイデル部隊を撃滅しようとした。
 だがこれこそがデスラーが待った好機だった。

「瞬間物質移送装置起動。艦長、戦果を期待しているぞ」
『お任せください。総統!』
 
 モニター越しに総統直々の言葉を聞いた重爆撃機のパイロット(戦闘空母艦長)はそう言って敬礼する。

「では、作戦開始」

 ハロに漂う暗黒物質で隠れていたデスラーは、デスラー艦の前に待機させていたドリルミサイルを装備した爆撃機(七色星団で
ヤマトにドリルミサイルを撃ちこんだ機体)を機動要塞の正面に送り込んだ。
 それは奇しくも、ヤマトを葬るためにドメルが採用した作戦と同じだった。

「何?!」

 慌てたのはゴルサコフだ。

「応戦しろ!」
「ダメです、間に合いません!!」

934earth:2011/10/15(土) 12:16:15

 突然、至近距離に現れた重爆撃機に機動要塞は対応できなかった。
 そしてその隙を突くように、重爆撃機は搭載していたドリルミサイルをマイクロブラックホール砲の発射口に打ち込んだ。

『我、奇襲に成功せり!』

 パイロットは鼻高々にそう報告しつつ、戦場を離脱していく。
 そしてボラーご自慢のマイクロブラックホール砲が封じられたことを見たデスラーは、隠れていた艦隊で全面攻勢に出る。
 
「いまだ、全軍進撃開始!!」 

 暗黒物質から出現した連合艦隊は一気にボラー艦隊に襲い掛かった。
 ゴルサコフは何とか体勢を立て直そうとするが、マイクロブラックホール砲を封じられた上、奇襲された護衛部隊は大混乱で
どうすることも出来なかった。
 
「早くあの邪魔な物を撤去しろ!」

 そう叱咤激励するしか彼にはできなかった。
 だがそれも実を結ぶことは無く、ドリルミサイルは爆発して、発射口に大穴が生じる。それは鉄壁を誇った機動要塞の防御に
大穴が開いた瞬間でもあった。

「ま、拙い。応急修理を……」

 そして、それを見逃すデスラーではない。

「デスラー砲発射!」

 デスラー艦から放たれたデスラー砲は寸分違わず目標に命中した。
 波動砲にさえ耐え切る装甲を持つ機動要塞も、内部に高エネルギー砲を撃ちこまれては堪らなかった。ブラックホールを生み出す
ためのエンジンが、要塞を支えるエネルギーが、各所に置かれていた弾薬が次々に誘爆を起こしていく。

「そ、総員退避!!」

 ゴルサコフは逃げ出そうとするが、それは適わず、機動要塞の爆発の中に消えた。

935earth:2011/10/15(土) 12:17:38
あとがき
総統閣下無双です。
ボラー涙目ってレベルじゃありません(笑)。
というか、これだけ派手にガミラスが暴れたら、防衛軍も慌てるかも知れません。

936earth:2011/10/16(日) 11:15:44
第50話です。


 『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第50話


 ボラー連邦建国以来最悪の大敗北を喫したとの情報はボラー連邦を揺るがした。
 機動要塞、スターレン級戦艦6隻、それに各地から引き抜いた宇宙艦隊が悉く失われたのだ。
 それは軍制服組の責任追及だけでは終らない重大な問題であり、ボラー連邦のトップであるべムラーゼも苦境に立たされた。

「ボラー連邦が保有していた宇宙艦隊は大打撃を受け、自由に動ける部隊は殆ど無くなった」
「今回の敗北は戦術的な問題に留まらない。戦略的、政治的な大問題だ。首相の責任は重大だ!」
「この度の敗戦は首相の指導力不足、いや決断の誤りによるものが大きい。べムラーゼ首相は指導者の器ではないのでは?」
「首相の解任を要求する!」

 べムラーゼの政敵達は次々に彼の責任を追及し、首相の解任を要求した。
 勿論、べムラーゼは潔く失脚するつもりはなく、あらゆる手段を用いて対抗し、ボラー上層部は政争に明け暮れることになる。
 軍でも主流派であった人間達が悉く戦死するか今回の敗戦の責任を追及されて失脚していった。そして主流派に代わって軍の
要職に就いた者たちは軍の再建に頭を抱えた。

「スターレン級を量産するより、まずは安価な従来艦を量産して戦力を回復させなければならない」 
「まずは数だ。正直、数がないと話にならない」
「場合によっては地球防衛軍がやっているような無人艦を導入するべきだろう」

 かくしてボラー連邦軍は各地の造船所をフル稼働させて艦艇の建造に勤しんだ。
 デスラーも補給の問題から一旦兵を引いたこともあり、ボラー軍は再建の猶予が出来たかのように見えた。
 だがその猶予もデスラーの気分次第でどうなるかわからない。
 故にボラー軍は手っ取り早く艦艇を補充する方法として地球から艦船を購入することを考えていた。実際、ボラー軍は政府に
働きかけてその旨を地球連邦政府に打診した。
 この打診を受けた連邦政府は勿論、困惑した。

「今の防衛軍に譲れる艦艇はありません」
「それにショックカノンを輸出するとなれば、地球の優位を崩しかねません」

 藤堂と議長はそう言って反対した。
 だが議長としてはボラーから色々と技術を得たいと思っていた。このためボラーに借りを作るべく防衛軍の艦ではなく、サルベージした
旧ガトランティス軍の艦を提供することを提案した。

「大戦艦や駆逐艦、それに大型空母を提供しましょう。資源としては惜しいですが、使いようによっては十分な対価が期待できます」

 この議長の意見は防衛会議や大統領府でも審議された末、承認された。

937earth:2011/10/16(日) 11:16:19

 波動砲が搭載されていない大戦艦、もう搭載できる艦載機がない大型空母など持て余すだけだった。
 解体して資源にするよりはボラーに恩を売るのに使ったほうが良いかもしれないと政府は判断したのだ。勿論、議長はこれらの艦艇の
提供と引き換えに即座にボラーに対価を求めさせ、ハイパー放射ミサイルなどの各種技術を入手させた。

「全く、相手の弱みに付け込むと後が怖いですよ?」

 連邦ビルの一角で行われた転生者たちの密談で、外交担当者が議長に苦言を呈した。
 これに議長は堂々と反論する。

「だが今しておかないと、技術の提供なんて無理だろう。それに我々も貴重な資源を提供したんだ。文句を言われる謂れはない」
「そうですね。確かに資源を手放したのは痛いですが、引き換えにディンギル系統の技術を得られるでしょう。
 要塞や大型戦艦攻略のための新型ミサイルの開発に弾みが付きます」

 財務次官は満足げだった。

「それに例のアイルオブスカイで開発中の新装備があれば……防衛軍の戦闘力は大幅に強化できる、そうでしょう?」
「ああ。火炎直撃砲を参考にして開発が進められている新型の『波動直撃砲』。あれがあればディンギルのように小ワープして
 逃げられることもない」

 この言葉に誰もがニヤリと笑う。

「波動砲にエネルギーをチャージした状態の自動戦艦を相手の背後や側面に送り込むのも良いが、そのたびに戦艦1隻を危険にさらす
 のも大変だからな……まぁ必要ならするが」
「確かに、デザリアムは恐ろしい相手ですからね」
「それとガミラスもだ。連邦政府や防衛会議がすんなり艦艇の売却を決めたのはボラーを使ってガミラスを弱体化させたいからだろう」

 これに外交担当者が頷く。

「ガミラスは地球人類にとって仇敵ですからね。彼らが銀河に来て暴れているとなれば何かしら手を打ちたいと思うでしょう」

 この世界の人類にとって、ガミラスは不倶戴天の敵であることは変わっていなかった。
 
「それにしても暴れすぎだ。新型戦艦どころか機動要塞まで討ち取るのだから。『Ⅲ』と『永遠に』を同時進行なんて冗談じゃないぞ。
 まぁ議会も慌てて防衛艦隊整備計画の前倒しをしてくれるだろうから、少しは対応できそうだが」

938earth:2011/10/16(日) 11:16:58
 
 地球連邦政府はボラーに旧ガトランティス軍艦艇を譲る傍ら、地球防衛艦隊の整備をより進めることを決定した。
 デザリアム帝国に加え、ガミラス帝国が暴れるとなれば軍事力の整備は必要不可欠だった。ましてボラー軍が大打撃を被った以上は
自分の身を守るための力は少しでも必要になる。

「十十十艦隊計画か……野心的な計画だな」
「ですが必要です」

 藤堂と議長は今後の防衛艦隊整備について2人きりで話し込んでいた。

「アンドロメダ、改アンドロメダ級あわせて10隻、戦闘空母と正規空母10隻、さらに拡大波動砲搭載型戦艦10隻を揃える。
 これと並行して既存艦艇の改装も進めるか……これだけあれば防衛軍の戦力は飛躍的に向上するだろう。だが可能なのか?」
「議会対策は問題ありません。ガミラスがトラウマの方々はその恐怖から逃れるために賛同するでしょう。
 ガミラスは今回暴れすぎました。誰もがボラーではガミラスを止めることはできないと思うでしょう」
「……」
「デザリアムにも備えなければならないことを考えれば、これでもまだ足りないと思っています」
「君はまだ軍拡をすると? 今でも負担を強いているのに?」
「表向き、地球は復興しました。ですがその立場はガミラス戦役のときより少しよくなった程度と私は思っています。
 楽観するのはまだ早いのです」

 ガミラス戦役、ガトランティス戦役勝利の立役者であり、地球最高の軍略家とされる議長の言葉には重みがあった。

「これからも前線部隊には負担を掛けると思いますが宜しくお願いします」
「……判った。それと言葉遣いはもうそろそろ改めたほうが」
「いえ、私にとって長官は長官です。2人だけのときや、気心が知れた人間しかいないときは今までのままで十分です」

 これに藤堂は苦笑した。

「君も変わっているな」
「ははは、ユニークな知人が多いので、染まったのかも知れません。それでは失礼します」

 こうして防衛軍は動き出した。
 だが動いていたのは防衛軍だけではなく、彼らが仮想敵と見做していたデザリアムも同様だった。

「ボラーと手を組むと?」
「はい。現状ならそれも可能かと」

 スカルダートの問いに、サーダは自信たっぷりに頷いた。

939earth:2011/10/16(日) 11:19:57
あとがき
いよいよ50話です。
デザリアムも動き出します。さて地球は耐えることができるか……。

それにしても青の軌跡よりも長くなってしまった(苦笑)。
いや閑話を含めると話数だけなら憂鬱よりも長くなっています(汗)。
ちなみに憂鬱本編は完成率50%です。もう少しお待ちください。

940earth:2011/10/18(火) 22:21:53
第51話です。


 『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第51話


 艦艇不足に苦しむボラーは地球と取引を行い、旧ガトランティス帝国軍艦艇と引き換えにハイパー放射ミサイルの技術を含む
ディンギル帝国製の技術を地球側に提供した。
 詳細な内容が書かれた書類を議長室で読み終えた議長は、書類を机に置くと苦笑した。
 
「また真田&大山コンビの仕事が増えたわけだ。まぁ仕事がないよりはマシと思ってもらうしかないな」

 お疲れ気味の本人達が聞いたら激怒しそうな内容をのたまう議長に、秘書はすかさず突っ込んだ。

「増やしたのは議長でしょうに……このままだと真田さん、過労死するのでは?」
「万が一の事態に備えて医療体制は整えている。それに名無しの技術者だって頑張っているから、負担も極端には増えないだろう。
 それに……」
「それに?」
「不幸というのは皆で分かち合うものだろう?」

 議長の前にはこれから読まなければならない書類が積まれていた。
 これでも可能な限り減らされたのだが、それでも防衛軍の三軍(宇宙軍、空間騎兵隊、地上軍)を統括するとなると仕事量が
半端ではないのだ。
 
「私が幸せだったら、少しは他人を思いやる余裕もあるんだが……」
(うわ、この人、最悪だ……)

 黒い笑みを浮かべる議長を見て秘書官は腰が引けた。
 
「……冗談だ。そう引くな」
「冗談には見えません。むしろ本気に見えます」
(半分は本気だがな。くそ、この地獄から逃れるためには、仕事の効率をもっと向上させなければならないか)

 そう小さく呟くと、議長は右手にある書類に目を向けた。  
  
「第9艦隊の新設と3個艦隊を基幹とした攻性部隊の創設……これを進めないと」

941earth:2011/10/18(火) 22:23:07

 十十十艦隊計画と並行して、議長は遠隔地にある敵本拠地への侵攻を考慮した攻性部隊の創設を提唱していた。
 第7艦隊、第8艦隊(臨時編成から常設へ)、第9艦隊(新設)の3個艦隊を中核とし、これにα任務部隊等の独立部隊を加えた
遠征軍をもって敵本拠地を攻略(又は殲滅)するというのが議長の主張だった。

「それやったら、もう防衛軍とは言えないのでは?」

 日系の実力者からはそんな声が出たが、北米や欧州出身の白人層からは高い支持を受けた。
 彼らは殴られっぱなしで泣き寝入りする民族ではない。

「一発ぶん殴られたら、百発以上殴り返して、相手の足腰が立たなくしてやる!」

 それが彼らのクオリティだった。
 北米州は必要ならアリゾナやアイオワなどの新造戦艦を攻性部隊に加えることも躊躇わないという始末だ。 
 尤もそこには些か生臭い理由もあった。そしてその理由を議長は悟っていた。

(ヤマトやムサシ並の活躍をさせて、連邦内部での発言力を強化したいのだろう……)

 極東州、いや日系が連邦政府内部で幅を利かせるのはヤマトの活躍による物が大きい。
 日本がガミラス戦において力を温存させることに成功させていたこと、日本の宇宙艦隊が地球復興の立役者になったことも大きいが
やはりガミラス本星を滅ぼした上、イスカンダルからコスモクリーナーDを持ち帰ったという功績は誰も否定できないものだった。
 さらに最近では日系人が主流を占める防衛軍がガトランティス帝国をほぼ無傷で撃退するという戦果を挙げている。 
 かつての大国群が、「この辺りで自分達の立場を回復させたい」と思うのは当然の流れだった。 

「まぁ良い。この際、何でも利用してデザリアムを二重銀河ごと滅ぼしてくれる。何しろボラー軍は当面役に立たんからな」

 議長としてはボラーを対デザリアム戦役で盾に使おうと考えていたのだが、その目論見は水泡と帰した。
 故に防衛軍を少しでも強化するしかなかった。

「ま、3個艦隊と言っても自動艦が多いから、引き立て役にされて壊滅しても被害は最小限に抑えられる」
「黒すぎますよ、議長……」
「多少、黒くないとやってられないぞ。
 まぁ転生者仲間には、いや一人でも多くの宇宙戦士たちに、生きて地球に帰ってきてもらいたいとは思っているよ。
 そう、今後のためにも」

942earth:2011/10/18(火) 22:23:50

 一方、仮想敵とされたデザリアム帝国は極秘裏にボラー連邦に接触を行っていた。
 尤もボラー連邦は、イスカンダルで防衛艦隊によって一方的にボコボコにされたデザリアム帝国軍の実力を疑問視しており
頼りにならないかも知れない国と一緒になって地球と敵対するつもりはないと伝えた。
  
「あの狂戦士共と戦いたいのなら、自分でやってくれ。(今は)そちらに味方する気はない。
 ただ、地球に与して積極的に敵対するつもりも(今のところ)ない」

 これがボラーの本音だった。
 だがサーダはそれでも十分と判断した。

「対地球戦争で邪魔をしないというだけでも十分でしょう」
 
 スカルダートはこれを聞いて嘲笑する。

「それにしても、何と薄情な連中だな。友好国をこうも簡単に見捨てるとは」
「いえ、むしろ彼らは地球ならば単独で我々を退けることが出来ると思っているのでしょう。
 兵を引くのも、下手に巻き込まれて被害を受けるのを避けたいというのが本音かと」
「そして、ついでに我々と地球が消耗すれば良いということか。舐められたものだ」
「ですがここで短期間で地球を占拠できればボラーは手のひらを返して勝ち組に乗ろうとするでしょう。彼らもガミラスとの
 戦いで受けた損害を補填したいと思っているようですし。そして仮にそうなれば他の星系にいる地球軍を始末しやすくなります」

 この言葉を聞いた時、スカルダートは一瞬だが逡巡した。地球を叩くべきかどうかを。
 だがボラーが弱体化し、地球が事実上孤立無援となっているのは絶好のチャンスとも言えた。
 波動エネルギーを使う天敵を一刻も早く叩き潰し、加えてその生命力を手に入れるというのは、種として衰えつつある
デザリアム人にとって余りにも魅力的だった。 

「……よかろう。参謀本部に命じて、短期間で地球を陥落させる作戦を立案させる。情報は集まっているのだろう?」
「はい。ですが地球を制圧した後、次はボラーが脅威になるのは事実です。工作を進めておく必要はあるかと」
「良いだろう」

 こうしてデザリアムは地球攻略に向けて本格的に動き出す。

943earth:2011/10/18(火) 22:26:47
あとがき
デザリアムは開戦を決断しました。
一方、地球側は着々と準備を進めています。
沖田艦長もいよいよ復帰します。
完結編では寂しい艦隊で出撃でしたが、ここだと沖田艦長(司令?)の下で
多数の戦略指揮戦艦を含む大艦隊が出撃するかも……。

944earth:2011/10/23(日) 19:55:10
第52話です。


 『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第52話


 議長の必至の根回しもあってか、第9艦隊の新設と、第7〜9艦隊の攻性部隊化が決定された。 
 そして転生者たちにとっては究極の切り札である『あの男』が現場に復帰することになった。
 その人物は防衛軍司令本部の長官室で、長官直々に辞令を受けることになる。

「沖田君、病み上がりですまないが、地球のために再び頑張ってくれ」
「判っています。藤堂長官」

 沖田十三。イスカンダルへの航海を成功させた英雄。
 どんな不利な状況においても不屈の闘志と冷静さを失わず戦い続け、デスラーさえも一目置く男が長い入院生活を終えて戻ってきたのだ。

「沖田君には第7艦隊司令官兼タケミカヅチ艦長に就任してもらいたい。これに伴い、古代進艦長代理を正式にヤマト艦長に任命する」
「了解しました」
「第7艦隊には自動戦艦や、ガトランティス帝国軍の艦艇などが配備されている。
 自動戦艦は実験部隊である第01任務部隊で問題点を可能な限り潰しているが問題が発生する可能性はある」
「判っています。初めての試み故に問題は多いでしょう。しかし解決できないものはないと思います」

 沖田はこのとき、デザリアムとの戦いは不可避であると判断していた。
 故にいずれ訪れるであろう大反抗では、乗員の消耗を気にしなくても良い無人艦や、遠征に適している旧ガトランティス帝国軍の艦が
必要になると考えていた。 

「とりあえず第7艦隊は訓練漬けでしょう」
「必要な資材については優先して送る。これは議長や防衛会議も同意している」

 かくして第7艦隊は土方の訓練並にハードな訓練を課されることになる。
 この一方で、改装中のヤマトとムサシの下に、2隻の戦艦が送られることになった。

946earth:2011/10/23(日) 20:01:13

「新しい艦を配備すると?」

 α任務部隊司令官である古代守は、ムサシの第一艦橋のメインパネルに映る藤堂長官に尋ねた。
 この質問に藤堂はすかさず頷く。

『そうだ。議長はα任務部隊に大きな期待を掛けておられるそうだ。
 一部では過剰との意見もあったのだが、α任務部隊には主力戦艦2隻、『アーカンソー』と『ロイヤル・オーク』が配備されることになった」
「これで戦艦3隻、攻撃型空母(ムサシ)1隻の4隻。かなりの打撃力ですが、護衛艦は?」
『主力戦艦2隻が護衛艦のようなものだ。この2隻は波動砲を搭載せず、引き換えに装甲を厚くしている』
「波動砲を搭載しない?」
『そうだ。波動砲を撃つ前と撃った直後、艦は無防備になる。それをフォローするための艦だ。試作として2隻建造された。
 何しろ波動砲に頼り切るのが危険ということがこれまでの戦役、特にガトランティスとボラーの戦いで誰の目にも明らかになったからな。
 勿論、波動カードリッジ弾などの波動兵器も多数揃えている。火力は十分だろう』
「しかし、石頭たちがよく納得しましたね」
『心底納得はしていないだろう。だが何かしら手は打たなければならない。その一環だ』
「正規艦隊で大々的には取り組めない。だから独立部隊のα任務部隊でテストをしてみると?」
『そういうことだ。新装備のテストは第01任務部隊でも出来るが、やはり実戦データも必要になる。君達なら使いこなしてくれると
 議長も考えているようだ。それとコスモファントムも優先して送ると言われている』
「了解しました。議長の期待に応える為にも、全力を尽くします」

 こうしてα任務部隊はさらに強化された。 
 だが梃入れはそれだけではなかった。何とこの度、ズォーダー大帝さえ脅威と見做していた超能力者・テレサが正式にヤマトクルーとして
乗り込むことになったのだ。尤も表向きは超能力者と言うことは伏せているが……。
 また空間騎兵隊も強化され、斉藤を筆頭に『2』の主要な面子が送り込まれた。
 沖田艦長復帰やα任務部隊への梃入れの状況に関する詳しい報告を、議長室で聞いた議長は満足げに頷いた。

「山南さんは植民地星防衛の指揮を執ってもらわないといけないし、土方長官は太陽系防衛の任務から外せないが……まぁフルキャストだな」

 議長の言葉に秘書は頷く。しかしすぐに懸念を口にする。

「ここまで充実すると、あとが怖そうですが……」

947earth:2011/10/23(日) 20:01:54

 この言葉に議長は少し固まった。

「……二重銀河が吹き飛ぶ以上のことでも起きると?」
「否定は出来ないのでは?」
「ははは、まさか。銀河が消えてなくなる以上の大惨事なんて起きないだろう。いくら何でも……」

 そう言いつつも、議長は不安に駆られた。何しろ彼らは色々と前科がありすぎた。

「……いや、さすがに無いだろう。波動融合反応がいくら凄くても宇宙を崩壊させるようなことはないだろう」

 さすがに銀河が吹き飛ぶ以上の大災害を想像できなかった。そして議長はそこで話を切る。

「あとは重核子爆弾だな。出来れば太陽系外で迎撃したいが……」
「難しいのでは?」
「いやこちらに何時到着するかがある程度判れば何とかなる可能性はある。
 劇中では太陽系の各惑星の基地が次々に叩かれていたことから、地球を含む各惑星が直線上に並ぶ時期と考えることができる。
 重核子爆弾の能力からしても、正しい選択と言えるだろう」
「では?」
「その時期に特に警戒態勢を敷く。
 もしも太陽系に侵入されて一部の惑星の基地が全滅しても、基地に配備したロボットが詳細な報告を行うようにする。
 そうすれば各基地の要員を退避させる口実にもなる」

 そこまで読まれていることを知る由も無いデザリアム帝国は、地球の速やかな占領のために重核子爆弾を地球に向けて発射した。
 さらに地球本星攻略を担う地球攻略艦隊も出撃していく。ただしその艦隊はゴルバこそないが、当初の予定より大幅に増強されていた。

「一気に叩くのだ。油断はならん」

 スカルダートは通信機越しに、巨大戦艦ガリアデスに乗る攻略艦隊司令官カザンにそう命じた。
 命令を受けたカザンは自信満々に答える。

「お任せください。あの星をすぐに我が帝国の版図に加えてみせます」

 かくしてデザリアム戦役が始まる。

948earth:2011/10/23(日) 20:04:02
あとがき
さて防衛軍は可能な限りの戦力を集めてデザリアムを迎え撃ちます。
このままだと迎撃戦は山南さんを除いたヤマトのフルキャストでお送りすることになるでしょう。

949ひゅうが:2011/10/29(土) 18:32:13
二次創作もOKとのことなのでお目汚しをば。

最初に諸注意だけ書いておきます。
※ 本作におけるいかなる描写も、作者は特定の民族・国家・団体・人物その他を貶める意図をもっているものではありません。
また、そういった描写、または二次創作作品に対し不快感を覚えられる方は本編を読まれないことをお勧めします。
元ネタについては、末尾において記述いたします。

では、「英国無双かく戦えり」はじまります。

950ひゅうが:2011/10/29(土) 18:33:44
※最初は原作から。



ネタSS――英国無双かく戦えり〜HELLSINGにあの人たちを突っ込んでみた〜


「ハンッ。」

彼は侮蔑の笑みを漏らした。
額からは血が滴り落ち、首元のヘッドセットへと垂れている。
部下たちは、すでに「あの世」とやらへ徒党を組んで進撃してしまっていた。
さて、そろそろ私もいかなければ。

大英帝国海軍中将にして大英帝国安全保障特別指導部 本営の長という長ったらしい役職についている男、サー・シェルビー・マールヴァラ・ペンウッドは、一世一代の会心の笑みを浮かべる。
目の前にいるやたら犬歯の多い男――いまどき流行らない黒い髑髏の制服の男は、その様子に少し怪訝げになり、ルガーを彼の方に向けた。


「何がおかしい。人間?」

「無能な、こ、このわ、私より、無、無能な、貴、きッ様らがだよ!」

この、廃墟となりつつある本営へ乱入してきた武装SSの者どもはその時、異常に気づいたらしい。
慌てて周囲の至る所に仕掛けられた爆弾類を見渡し、驚愕の表情を浮かべる。
ペンウッドは、ますます口元の彫りを深くした。

そう。その顔が見たかった。

栄光を失い、衰退し続けるロイヤル・ネイヴィーを守り続け、現状維持という名の没落を続ける中、ただ仕事をこなしてきた一生だった。
そんな人生の・・・生まれついた地位で与えられた職務を忠実に果たすだけの人生、負け続けの人生で、ただ一度。

そう、死ぬ前にただ一度の勝利を得た。いや、得つつある。
そう思うと、ペンウッドは今まさにこの帝都大ロンドンを焼き尽くし、殺戮し尽くしつつある哀れな敗残兵――吸血鬼どもになぜか親近感を抱いている自分に気がついた。

「さ、さよ、さようなら。イ、インテグラ。わ、私も楽しかったよ。」

全周波数帯に向けて放っている電波の波に乗せて彼は、彼の娘のような親友の愛娘に向かって別れをつげた。
そして、ペンウッドは、左手のじんわり湿った手袋に握りしめていたスイッチをゆっくりと胸の前に持ち上げる。

「やッ やめろォ!」

五月蠅い吸血鬼のSS将校が拳銃弾を放つ。
続けざまに右腕、そして肩へと命中するものの、慌てているせいか一発で意識を失わせるには至っていない。
素人め。

「嫌だ!」

少し体を倒しながら、ペンウッドは言ってやった。
先ほどまで思い出していたあの娘、インテグラ卿を思い出しつつ。

「そんな頼み事は、聞けないね!!」

951ひゅうが:2011/10/29(土) 18:35:57
Side ペンウッド

――ボタンを押した。
漂白される視界。体が持ち上がるのを感じた。

一生の思い出が早送りで流れていく。
最初の記憶は、ロンドンの一室。
そして、父に認知され、屋敷に引き取られた。
スパムばかりの生活に飽きていた頃、冷戦というものを知った。

ほどなく父は亡くなり、うら若き女王陛下のもと大英帝国は解体されていく。
東西冷戦のさ中、海軍に入った。

家柄からか、自分でもびっくりするくらいに大事にされた。
やはり、あの父の子だということが助けになったのだろう。お偉方のつきあいには出席させられた。
あの労働党ですら、自分がいるから艦隊航空隊の解体をしばらく待って特殊部隊へ飛ばす措置をとった。


ベルファルストでは死にかけた。
チェルネンコが書記長をはじめた頃には、アフガンに送り込まれた。
といっても後ろの方で椅子を暖めているだけだったが。そういえば、あの越境して子供を助けた特殊部隊は自分の口ききというやつで助かったのだろうか。
シベリアに送られるのだけは阻止してやりたかったが・・・

そして、あのフォークランド。
寒中水泳をしながら空飛ぶモンティパイソンの歌を歌っていたらなぜか中将になっていた。
妻は・・・あの見合い結婚をさせられた彼女は、義務を果たしたからといってずいぶん遊びまわっていたが、呆気なくこの世を去ってしまっていた。

年上の友人だったアーサーは短い間だったがデスクワークの私にずいぶん無茶をいってくれたものだった。
ああ、そういえば、あの頃だったか。あの娘にはじめて会ったのは。
ウォルターに連れられて、当主就任を「通告」してきたあの娘。
思えば、あの頃があの娘の笑顔を見た最後だった気がする。



いつのまにか、視界だけが回復したようだった。
いや、これは夢を見ているのだろうか。現実感はあるが体は動かせない。
当たり前か。もう私は死んだのだから。

ああ。あの娘だ。

ああ。そうか。
そうか。ああ、泣くんじゃないよ。
ほら。


そこで、目が覚めた。
そこは――






――1984年 アフガニスタン中部 ヒンドゥークシ山脈山中


Side 彼女

不覚だった。
あの大隊長が強硬策を採らなければ・・・なぜあの山岳要塞にヘリボーンのみでの攻撃を行うんだろう。
おまけに狙撃兵を使って敵の指揮系統を分断?
われわれ狙撃兵は特殊部隊じゃない!

「おまえ、ひトじち。」

神は偉大なり、と唱える宗教的情熱などまったく考えられないような男がニヤりと笑う。

952ひゅうが:2011/10/29(土) 18:37:46
ゲスが!

ソ連空挺軍 第318後方攪乱旅団第11支隊に所属する中尉は奥歯を噛んだ。

あのモスクワ上がりの中佐殿が怒るのも分かる。
こいつは、こいつらは戦士じゃない!
あの憎むべき米帝も鼻白むような、死の商人に成り下がった奴らの手下だ!

奴隷貿易に薬物、武器密輸にテロールその他なんでもござれ。
長期化するアフガン侵攻作戦の主敵戦力たる中東圏の戦士たちに武器を売るかわりに、この国のあらゆる者を奪い尽くす。
そんな黒い欲望にまみれた連中がベイルートやテヘラン経由で入っていることは知っていたが、まさかそのアジトを発見するとは。

そこまではよかった。

が、血気盛んなモスクワのボンボン――私も人のことをいえないが――が怒りにまかせて強攻策をとったのがいけなかった。
ここは、この山岳をくりぬいて作られた地下要塞をみれば、あのゲスどもが護衛を雇っていないなんてわけはない。

ここは、ベトナムじゃない。
守る民兵(聖戦の参加者)は後方の少年兵で武器商人どもを一網打尽にできるなんてことはない。
ここを守っていたのは南アフリカ共和国軍の不正規部隊。あのアパルトヘイトにまみれた国の黒い闇に生まれた正真正銘の人でなしどもだ。
奴らがボツワナで何をやらかしたのか、古参の情報通である軍曹は語ってくれた。
今度はこのアフガンで人の生き血をすすっているのか!


「だガ、ソの前に、アの部隊ガ撤収したくナルくらイは警告しテおクヨ。」

下手なロシア語で、口髭をたくわえた男たちは下卑た笑いを洞窟陣地に響かせた。

――このイオー・ジマなみの陣地に蓄えられていたのは、女。
わがロジーナ(祖国)に対抗するムスリムの中でも一番過激で、極悪な連中の、そう、女をただの財産としか考えていない連中から買い取り、売り飛ばす。
村の畑はケシ畑となっているし、住人は中毒を起こし逆らう気力も残っていない。

あの坊ちゃんが怒る気持ちも分かる。
だが、想定以上の敵戦力により強襲は失敗。先行配置されていた狙撃兵部隊は撤退する空挺兵たちを援護するために山腹に踏みとどまり…運悪く私だけが生き残った。

ムカつくことにこの男どもは戦域司令官に「取引き」を持ちかけようと考えているらしい。
そのために何かやろうというのだが・・・
私の脳裏に、悪夢のような何文字かがよぎる。

「安心シナ。中身ニはキずハ付けナい。ヤれレば何デもイイって御仁も多イ。アンタの大好キな祖国の連中モな。
知ってイるか?ォ前、余程モスくワから嫌わレてルらしいナ。イや、お前ノ親父ガ、か。」

「父が何を・・・ぐっ!」

縛り付けられたまま、蹴りを入れられた。

「心配スるナ。殺しハしナい。どんなニなってモ、あんタを飼いタいってさ!親父サんもいヤな政敵持っタな。いや、性的カ?」

ぎゃはははは。
周囲でマチェットを弄んでいた男たちが下卑た笑い声をあげる。

そんな。
こいつらは、モスクワにまで連絡ルートがあるのか?
そして、私は・・・

「ま、アンタの上司ガ取引キを受け入レたら止めテやル。お前ノ顔ハあノ無神論者次第っテことサ。」


私の周囲の男たちは、何やら準備をはじめていた。
火かき棒を暖炉――アフガンの寒さの中では必須の練炭炉――に突っ込み、かと思えば別の男が日本製の小型カメラを三脚にセットしている。

「お前も無神論者じゃないか!ただ金でだけ動く薄汚い――」

今度は銃床で殴られた。
密造カラシニコフ・・・いや、中共製か。

「映画デもいっていタな。日本人はイイかめらヲ作ルって。」

男は赤熱した火かき棒を取り出した。
確か、その台詞は・・・そうだ。あの映画で、キューブリック・・・英軍将校・・・リッパー将軍・・・皆殺し装置・・・いや、泰麺鉄道?


「1分おキに皮膚ヲ焼く。さア。どれダけ耐えらレるかな?」

「ひっ。」

953ひゅうが:2011/10/29(土) 18:40:25

いつの間にか繋いでいるらしい司令部間TV回線の向こうから、「やめろ!それでも」という声が聞こえてくる。
ああ、そうか。こんな軍事機密の塊にまでアクセスできるってことは、私の運命なんて、党の上層部でもう決定されているんだろうな。

「記録ハ48分が最高ダ。」

ぺろり。
左手に握ったナイフを男は舐めた。右目の目蓋をつ・・・となぞってくる。
血が流れるのが分かった。

「おマエ、そういエばオリンぴックに出タイっテな?」


怒りが体を満たした。
私は、そいつをにらみつけた。
体は震えている。
私をどうしても、いい。だが、私の夢だけは、夢だけは・・・

だが、ヤツは笑い、左手に握られた火かき棒が近づいてきて…


爆発。

閃光。

悲鳴。

そして銃声。

トンネルは土煙で満ち、裸電球の光もほとんど見えなくなった。


私の意識は、そこでいったん途切れた。


「ああもう。こきつかいやがって。アーサーのヤツめ!フォークランドから帰ったら今度はこれか!?
ベルファルストで和平会議の護衛してた方がまだ楽だぞ。というかなんで俺は現場に出されているんだ!」

そんな、英語の声で、目が覚めた。


――そして、帝都ロンドン

Side 副官(従兵)


パン!

間抜けな銃声を立てて頭が飛び散った。吸血鬼信奉者だ。隠れていたらしい。

「ふん。矢張りこうなるか…」

ペンウッド卿が溜息をついた。

「司令。移動大本営のウォルシュ閣下と連絡がつきました。陛下は脱出を完了。近衛第1連隊およびロンドン師団は健在!現在封鎖線から孤立した市民の救出に向け『突撃』を敢行中との由!」

「そうか。『疎開船団』は無事河口に達したか?」

「は。すでに。機甲部隊はロイヤル・オックスフォード連隊が、それに臨時編成した3個武装ヘリ小隊が打撃線を構築しつつあります。現在は『生存する』市民の約半分が市街地より脱出したと・・・!」

さすが、閣下の肝いりで整備された部隊です。とスタッフは付け加えた。

「うん。だがこの本営もまぁ、持つまい。『ここ』だけを守っても意味はないが、だが通信管制はもう意味を成していない。さすがに救援は間に合わない…か。」

卿は、報告をした私にやわらかに笑いかけた。

「私の指揮能力では…そして今の英国軍では、これが限界なのか…」

「閣下。」

私は居住まいをただした。

「閣下がいなければ、ここまで戦えなかったでしょう。近衛第1連隊がバッキンガムを枕に防衛戦を展開することも、空軍が限定的ながらもエアカバーを成し遂げ敵の空中巡洋艦1隻を撃沈、1隻を撃破することも・・・そして大英博物館や大英図書館の防衛に成功することも!」

大英帝国帝都防衛「臨時」司令官にして、「SASの英雄」、「フォークランドの獅子」の異名をとる私の上司、サー・シェルビー・M・P・ペンウッド海軍大将は苦笑するように笑った。

「やれることは、まだあった筈だ。50万余の市民が殺され、今や残った100万あまりを殺しつつある。この地獄を避けるために、私はあらゆる手を尽くしたつもりだった。
こうまでして・・・いや、ここまできて――」

「閣下。」

ペンウッド閣下は顔をあげると、踵をならした。

「ここを放棄する。伝令!大ロンドン東部は放棄。これより司令部はテムズ河の指揮艦『サンダーチャイルド』へ移動を試みる。連絡途絶の後は指揮権は移動大本営に移管する!」

「了解しました!」



――大西洋上の改インヴィンシブル級VTOL空母「イーグル」の通信途絶にはじまった危機は、南米方面から出現した超大型飛行船団による帝都ロンドン強襲、そして武装SS部隊の着上陸により頂点に達した。
緊急招集をかけられていた安全保障特別指導部は、市内で健在だった近衛第1連隊、ロンドン連隊を基幹として敵「吸血鬼」の襲撃を排除しつつ、テムズ河に突入したグランドフリート第2戦隊と空軍残存部隊による火力支援をもって戦力を糾合。
警察官はもちろんのこと、一版の警備員、果ては軍隊経験のある市民を武装させてのなりふり構わぬ防衛戦は一定の効果を発揮し、大ロンドン都市圏の総人口350万余のうち120万あまりを「死都」と化したロンドンより脱出させることに成功しつつあった。

954ひゅうが:2011/10/29(土) 18:41:47

だが、予想をはるかに上回る敵部隊の戦力や、ミサイルをはじめとした戦術打撃能力を徐々に失っていく味方部隊に対し、最後は「盡力」で劣る味方部隊は各個に撃破されていった。
敵は、攻撃目標をこの本営へ向け収束。
すでに本営の指揮能力は限界に達しつつあったのだ。

いかに、海軍入隊以来研鑽を怠らず、特殊部隊を転々としながらベルファルストではIRAと死闘を繰り広げ、アフガニスタンでは壊滅の危機にさらされていたソ連軍の一部部隊とともに麻薬・人身売買ジンケートを壊滅に追いやり、フォークランド紛争ではわずか2個中隊で師団規模の攻撃に17日間にわたり耐え抜いたペンウッド卿といえども、今回ばかりは厳しかった。






今回は少しだけ、撤退の決断は遅かったようだった。
頷き、走り出した伝令(ケーブルの断線や無線妨害によりオートバイ伝令兵が主力となっていた)と入れ替わりに駆け込んできた伝令は

「敵第3挺団、突撃を開始!正門防御陣地が突破されました!」という報告を持ってきた。


「全員、着剣!私以外のスタッフは、脱出せよ!」

「司令!」

「なあに、心配はいらんよ。」

ペンウッド卿は鍛え上げられた右腕をポンと叩いた。

「徒手格闘戦には『いささか』自信がある。さ。速く。」

「ですが閣下!」

「くどいッ!」

バン!

恐ろしく近くから、爆発音と悲鳴が聞こえてきた。
防弾チョッキとヘルメットを身につけた本部スタッフと参謀たちは、一瞬顔を見合わせた後、敬礼を捧げた。
慌てて私もそれに従う。

「さらばだ。諸君。いずれ『また』あっちで会おう。」

「閣下も!」

スタッフが、先ほど乱入してきた吸血鬼(元同僚)の死体を踏みつけながら走り去ってゆく。非常用地下道は確保されており、彼らが脱出した後でこの本部もろとも爆破される手はずになっていた。


「君は、行かないのか?」

「いえ。私は、閣下の従兵ですから。それに、閣下を見捨てて逃げたなんてことになれば、『あの』奥方に何をされるのやら・・・」

ペンウッド卿は、ああ、「あれ」か・・・と思い切り脱力していた。

「まぁ、あいつのことだ。この死都でも鼻歌を歌って切り抜けそうだな。どこにいるのかは分からんが。今日はたぶん息子の誕生日プレゼントを買いにいっているはずだが・・・」

「吸血鬼でも、あの方には・・・ね?」

「そうだな。」

ペンウッド卿・・・閣下は、笑った。
閣下と奥方については、わが軍内部でも様々な噂が飛び交っていた。
ダートマス出の朴念仁の典型といわれていた閣下に、年下の奥方ができたと知れた時はちょっとした騒動が巻き起こったものだった。

噂では、女王陛下までもが奥方に会いたがったとか。
もっともそのおかげで、出自が特殊すぎる奥方と結婚した閣下も奥方も今は何もいわれない。
まぁあの方が特殊すぎるというのもあるが。


「さて・・・来るぞ!」

閣下の言葉とほぼ同時に、指揮室の扉が爆破された。

955ひゅうが:2011/10/29(土) 18:42:41

そして、時代がかった黒い軍装に身を包んだ集団が、コートを羽織った髑髏の軍服のSS将校を先頭に入ってきた。

「手こずらせたな。能なしども。・・・おまえが司令官か?」

「そうだ。だが私が死んでもまったく問題はないぞ。すでに指揮権は別のところに引き継がせてある。」

ほう?と、SS将校は少し怪訝そうな顔になった。

「お前らになびいた売国奴どもは処刑済みだ。もう少し歯ごたえのあるものかと思ったぞ。吸血鬼というのは!」

「言ってくれるな。人間!」

どうやら怒ったらしい。
SS将校や周囲の武装親衛隊員(ヴァッフェンSS)から怒気が上がる。

「さぁ。かかってこい。怪物(ミディアン)ども。この時を50年も待っていた!
夜はもはやお前たちのものじゃないことを教えてやる。」

閣下が銃剣付きの小銃を構えた。
私も・・・






「・・・おやおやおやぁ?」

いきなりだった。
爆発しそうだった殺気を打ち消すような、女性の声が指揮室に響いた。

「今日は一緒にあの子の誕生日プレゼントを選んでくれるって言うからずっと待っていたのに、何をやっているのかしら?」

怜悧な声は、確かな殺気を放って、小さな体育館なみの大きさの指揮室にこだました。
見ると、吹き抜けになっている二階のキャットウォークに、スーツを着た女性が立っていた。
銀髪をポニーテールにし、右手にスチェッキン・マシンピストルを持ち、肩には何やらいろいろと武器を詰め込んでいるらしい背嚢が、そして頭には赤い星の徽章が入ったベレー帽がのっている。

表情は、もちろん満面の笑み。

「げっ!!」

ペンウッド卿が後ずさった。


「何をしているのかしら?あなた?」

「いや。見てわかんない?戦争。」

「あなたは、こんな戦争ごときで私との約束をすっぽかしたのかしら?」

右目の古い傷跡を歪め、彼女、ソフィーヤ・I・P・ペンウッド夫人はシベリアなみの極寒の怒気を発していた。
見れば、彼女の周囲には戦闘服を着た連中がいつの間にか集結している。

しかも全員が、旧東側の、もっといえばソヴィエト空挺軍の軍装に身を包んでいた。
火器に一部西側のものが混じっていたが、それがどこかおかしかった。

「戦争ごときってなぁおまえ。」

「結婚する時約束したわよね?お互いに秘密はなしにしようって。予定はきちんと守ろうって。」

「そりゃカラシニコフを頭に突きつけられながら三日三晩を過ごしたあと精根尽き果てたらそうなるって。というか、なんでここにいるんだよ!?」

「あら?私を愛しているって・・・それは嘘?いつも一緒にいようって言ってくれたじゃない?」

「嘘じゃないよ!・・・って今はそれは――」

「おい!」

顔を真っ赤にしたSS将校が怒声をあげた。


「いつまでも乳繰りあってないで・・・というか何なんだお前たちは!」

うんうん。と周囲の吸血鬼たちも頷いている。
彼女は、ようやく彼らに気付いたかのようにゆっくりと首を回すと、

「黙れ、クラウツ(ドイツ人)。それはこっちの台詞だ。」

怖い。

これがあるからこの人は怖い。

956ひゅうが:2011/10/29(土) 18:46:59
※ わかりやすいように最後にリンクをのせておきます。
earth閣下のヤマト第52話>>944-948
本作>>949-956



ゆらり。
彼女の姿がゆらめくと、次の瞬間彼女は我々がいる地面へ降り立っていた。

「よほど学習能力がないと見える。せっかく白ロシアからライン川までお前らを殺し、燃やし、ベルリンを焼き尽くして懲罰を加えてやったのに。
偉大なるソヴィエトの味をもう忘れたのか?豚ども。」

「黙れ!劣等人種が!ソヴィエトの亡霊がなぜロンドンにいる!?」

「ほう。ということは筋金入りのナチか。なるほどなるほど。ならば我々がいなければいけない筈だ。
忘れたのか?モスクワで、スターリングラードで、スモレンスクで、ダンツィヒで、ベルリンで、誰がお前たちに敗北を与えた?
1000万のドイツ豚もろとも伍長の狂った夢想を打ち砕いたのは?」



カツカツカツ。



信じがたいことに、彼女はハイヒールにスーツ姿だった。
彼女の後ろには、アフガン侵攻時のソヴィエト空挺軍そのままの男たちが続く。


「ナチあるところに赤軍あり。なるほど私はついてる。沿ドニエステルみたいな偽物じゃなくて、このロンドンでナチを存分に鏖殺できるんだから。
――どうやら今日はお祭りみたいねあなた?
なら、楽しみましょう。大祖国戦争以来のダンスのお相手、お願いできるかしら?
ミスター『英国無双』?」

くるり、と顔だけ後ろを振り返り、夫の姿を見た彼女は、そう言った。

ペンウッド卿は少し溜息をつき、そして言った。

「ああ。喜んで。アフガン以来の共同戦線(ダンス)だ。やってやるさツイストでもタンゴでも。お前と一緒なら、どこまでも行けそうだよ。」



何とかなるかもしれない。と私は思った。
この奥方が率いているのは、かつてアフガンでその名を馳せた「後方撹乱部隊」。
ふざけたアメリカ人が肥え太らせた悪魔の組織を壊滅させるため水面下で英国と協力し、あまりに強すぎたがためにモスクワの権力闘争の結果部隊ごとなかったものにされそうになり英国へ「亡命」した連中だ。
雲の上での取引で儀礼部隊である近衛第2連隊所属として軍籍には載っているものの、その実態は今やすっかり有名になってしまったSASと並ぶ英国最強の特殊部隊。

その構成員のほとんどがロシア人であるため、人は彼女らをこう呼ぶ。
「ホテルモスクワ」と。



――ある男がいた。
後悔と、来るべき時の記憶をその身に宿しながら、男は夢を見る。
そのためだけに彼は足掻き、もがき。

その身は舞踏会ではなく戦場で鍛え上げられ、その頭脳は才能のかわりの努力で磨き上げられた。
人呼んで、「英国無双」。

そして、彼はいつしか「夢の続き」にたどり着く。

そんな話。


〜続かない〜


元ネタ 平野耕太氏 著 「HELLSING」より
    広江礼威氏 著 「BLACK LAGOON」より



【あとがき】某サイトでママライカというものを発見したら思いついた。
元のままでも格好いいペンウッド卿を本当に「英国無双」にしたいと思って書いていたら彼女に全部もっていかれた気がする。
たぶん飛行船を道連れに爆死はしそうにないでしょう。
(彼の「M」の中身や作中のエピソードは創作です。)
最後に、こんなゲデモノを読んでくださってありがとうございました。
なお、一回でも笑ったら、同志書記長の命によりスターリングラードへ出征することになるらしいです。というわけで弾丸5発持って逝ってきます。

957名無しさん:2011/10/30(日) 16:39:29
うおおおおおおおおお!!!!さすがは、ひゅうがさん!
この勢いで是非、ブログのSSの方も書いてほしいなー(棒)

958名無しさん:2011/10/30(日) 16:58:59
>>957
書く所を間違えました、すみませんでした。

959earth:2011/10/31(月) 20:17:26
53話です。

 『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第53話

 天体観測の結果、議長は太陽系の各惑星がほぼ直線上に並ぶ時期を特定した。
 これを受けて議長は様々な理由をつけて(でっち上げて)、その時期にあわせて特別警戒を行うように根回しをした。
 一部の人間はこれに不審に感じたものの、その理由を理解している転生者たちは、ガトランティス戦役を上回る戦乱に
なるであろうデザリアム戦役がいよいよ始まることを理解した。
 連邦政府ビルの一角で行われる転生者たちの密談も、デザリアム戦役の話題でもちきりだった。 

「いよいよですな」

 転生者たちは、迫り来るデザリアム戦役に緊張を隠しきれなかった。
 
「議長、防衛軍はどのように彼らを迎え撃つおつもりで?」
「まずは情報収集だ。太陽系外で重核子爆弾や敵の侵攻艦隊を察知するためにパトロール艦隊を増派する。
 発見次第、艦隊を派遣して目標を破壊。艦隊決戦は基地からの支援が期待できる太陽系外縁で挑む。
 太陽系外で訓練中の第7艦隊も呼び戻しているから、タイミングを合わせれば敵艦隊を前後で挟撃できる。
 ただし重核子爆弾によって派遣した艦隊が無力化される可能性もある。
 もしも乗員の生体反応が消滅すれば、コンピュータに自動報告させた後、簡易量産型アナライザー(以降、Mライザー)と
 自動操縦システムで土星基地に帰還させる」
「太陽系外での発見や迎撃に失敗した場合は?」
「不本意だが、外惑星基地に犠牲になってもらうことになる。
 11番惑星基地や冥王星基地などが潰されたら、即座に各艦隊を出撃させて迎撃だ。波動砲で叩き落す。
 仮に重核子爆弾の攻撃可能範囲が波動砲の射程以上だった場合は、アイルオブスカイの波動直撃砲やデスラー艦の瞬間物質移送装置で
 波動砲をチャージした状態の自動戦艦を送りつけて叩き潰す。そして残存艦隊を集結させ、敵侵攻艦隊に決戦を挑む」
「なるほど……勝算はどの程度ですか?」
「状況が流動的なので一概には言えない。ただ太陽系各惑星の基地や防衛艦隊の戦力を考慮すれば……5割以上と判断している」
「これだけ準備して5割ですか……」
「戦争は水物だ。まぁ仮に防衛軍が壊滅してもヤマトがあれば、地球は生き残れるだろう」

 この言葉に誰もが複雑な顔をする。
 自分達の努力を嘲られているような感覚を覚えたのだ。

「まぁ犠牲を少なくし、一人でも多くの将兵が家族の元に帰れるように努力しよう」

960earth:2011/10/31(月) 20:17:56

 こうして地球防衛軍は厳重な警戒態勢を敷いて重核子爆弾を迎え撃つ体制に入る。
 各艦隊は訓練の名目で出港準備を急ぎ、各基地も防空体制を強化していく。準戦闘配備と言っても良かった。

「さぁ来るなら来い。今度こそ、防衛軍主力で叩き潰してくれる」

 しかしそんな議長の思いを他所に、予期せぬ事態が起きようとしていた。
 それは相変わらず土星で訓練中のヤマトから始まった。

「地球に危機が?」
「はい」

 テレサはその超能力でもって地球に迫り来る危機(重核子爆弾)のことを察知したのだ。
 さすがに具体的には何かとまでは断言できなかったが、それでも島を始めとして主なヤマトクルーの面々はテレサの言葉を
信用した。

「古代」

 島は古代に顔を向ける。これを見た古代は頷くとすぐに口を開く。

「判っている。参謀本部や防衛軍司令部が各惑星の艦隊を訓練の名目で出航させているのも、何か関係があるのかも知れない」
「つまり政府は何かを知っていると?」
「その可能性はある」

 この古代の意見を聞いた真田は頷く。
 
「確かに。ボラーか、それとも何か公表できない情報源から情報を得たという可能性はある。
 危機について何も公表しないのはパニックを警戒しているのか、それとも危機が本当に来るかどうか断言できないか……
 いずれにせよ何か事情があると考えたほうが良い」
「『政治的判断』という奴ですか。しかしそれで犠牲が出たら」
「その辺りは議長もわかっているはずさ。そうでないなら、ごり押しして訓練を名目にした警戒態勢なんて敷かないだろう」

961earth:2011/10/31(月) 20:18:44

 この真田の言葉にヤマトクルーも納得した。
 ヤマトのよき理解者(笑)であり、後援者でもある議長の評価はヤマトクルーの中ではすこぶる高かったのだ。

「守の奴からも聞いたのだが、議長は防衛軍司令本部とも話をして、パトロール艦隊を太陽系外に増派している。
 あと噂なのだが、議長が警戒しているのはデザリアム帝国らしい。二重銀河を支配する帝国だから、帝国の威信にかけて
 復讐戦を仕掛けてくるのではないかと踏んでいるようだ」

 そこで南部が納得したかのように頷く。

「だから、うちに戦艦を護衛する戦艦なんて送ってきたと?」
「だろう。議長はどうやら、我々を扱き使うつもりのようだ。全く人使いが荒い」

 真田は苦笑する。
 しかしそんな真田とは対称的に、古代は渋い顔だった。

「ですが真田さん、パトロール艦隊は危機のことを知らないんですよね? そんな彼らに本気で敵が襲い掛かったら……」
「……犠牲は避けられないだろう」
「ヤマトとムサシなら」
「無理だ。防衛軍司令本部はα任務部隊は練度の向上に務めることを命令してきている。それに新型機の訓練だって十分ではないだろう?」
「それは……」
「ふむ……だが確かにパトロール艦隊が報告する前に包囲殲滅されるという可能性は否定できん。
 救援に出れるように手は打っておくべきかも知れないな。よし守にも話をしてみよう」

 こうしてα任務部隊は動き出す。

962earth:2011/10/31(月) 20:20:20
あとがき
世の中には「因果応報」という言葉があります(笑)。
そして次回、いよいよ接触です。

964名無しさん:2011/11/06(日) 17:50:27
巨大戦艦に波動砲が通用した事に驚きを感じた。
波動砲の防御法は真田さんがあっさり開発しているし、他の宇宙人も保持している(要塞級の巨大艦船でないと装備出来ないっぽいが)割とありふれた技術です。
ガトランティスには彗星の防御スクリーン(ガス帯)以外の防御方法はなかったのだろうか。

965名無しさん:2011/11/08(火) 15:43:26
本文良く読め。
動かす前に都市要塞ごと吹っ飛んでる。
何より、大帝もよくわからんうちに死んでるのに防御も何もないだろ。
あと、感想は感想スレに書けよ。

966名無しさん:2011/11/09(水) 20:13:31
読んだ感想だよ。
ガス帯をテレサの超能力で吹き飛ばせたのは良い。テレサ自体がガトランティスと単身で渡り合えるチートだし。星爆弾、波動砲のコンボで大帝戦死もまあ良い。
ガス帯の消滅、軌道変更と巨大戦艦の撃破はテレサでも本気で当たらなければならなかった。地球艦隊の波動砲の一斉砲撃が本気テレサの惑星爆弾と同じ。
惑星都市は描写を見る限り、拡散波動砲でもイチコロだろうけど巨大戦艦は正直、波動砲では火力不足で効く気がしない。
テレサが波動砲の発射に合わせ能力一点集中で巨大戦艦の装甲に穴でも開けたのだろうか。

967名無しさん:2011/11/09(水) 20:37:48
ここは投稿スレです
感想は専用の感想スレがあるのでそちらに書きましょう

968ひゅうが:2011/12/01(木) 22:22:20

提督たちの憂鬱支援SS 中編版――「リバティベルが鳴る日には」

プロローグ

――西暦1962年4月 日本帝国 帝都東京 日比谷公園

「老けましたね。嶋田さん。」

「そういうお前もな。辻。」

帝都東京。
この地球でも最強といわれる国家の中心は、杜である。
鬼門に靖国神社を配し、かつて天海大僧正が作り上げた霊的な防御機構をも取り込み、恐れ多いところを中心とした衛星軌道を配したこの都市は、発展の真っただ中にあった。

皇居が南面する東京駅の周辺は超高層ビルの建築ラッシュであるし、明治時代以来営々と年を重ねてきた霞が関の官庁街は化粧直しを施され、1930年代のモダニズムから明治時代の赤レンガ街に色彩的には近づきつつある。

しかし、この都市の――世界最大の海洋である太平洋とインド洋をその実質的な支配下におく超大国の中心は微動だにせず、今も日本人の帝国とそれに次いで世界の(当然だろう。日本帝国は「日本人のための」国なのだ)安寧を祈っている。

あの太平洋の戦い以前に比べて主上にかかる負担は減っており、たまにはこうして昔の臣下を呼んで世間話をする時間があるのは結構なことだと嶋田は思った。

その帰りしな、いつも寄る公園の屋台で一服していると、彼の周囲には、何人かの学生が集まり、彼にサインをねだってきた。
先ほどまでは快くそれに応じ、引退したとはいえ帝国の政界に絶大な影響力を持つ嶋田を取り込もうとやってきた野心のある政治家を(わざわざ歩いてきてやったという態度が丸出しだった)面前で一喝し震えあがらせていたが、予定通りそこへ辻がやってきた。

彼は、周囲を騒がせてしまったことをガーデンテラスで談笑する人々に詫び、辻と向き直った。
友邦であるインド連邦産のアッサムにミルクをたっぷり入れた嶋田は、二重橋を横目に一服した。
彼は「神崎将人」だった頃から煙草は苦手であり、こうした紅茶を好んでいたのだった。
その点でドイツのヒトラー元総統から「国際嫌煙学会」への協力を要請されて苦笑いしたりするが、現在の彼は基本的に自由人という扱いだった。

「なに、俺は史実では80年代まで生きるらしいからな。せいぜいお前の目をぬって暇を堪能するさ。」

「それは重畳。この資料をお渡ししても問題ない程度にお暇ということですね?」

嶋田は、にやりと笑う辻に、露骨に溜息をついてみせた。

「お前な・・・。」

口を開きかけた嶋田は、辻の様子が少し変わっていることに気づく。
いつもの黒さが少しだけあせ、何か思いつめているようだ。

この表情を辻が見せたのは、もうずいぶんと前――あの衝号の一件以来だった。


「どうした?帝国は問題多いながらも発展している。核兵器管理体制はしつこいくらいに万全。国際防疫に関しては先日西ナイル熱の封じ込めに成功したばかりだろう?まさか東米で何かあったのか?」

嶋田は、周囲を素早く見渡す。
彼の周囲を固めている特殊警備課の警護官たちはわざわざ自分の彼女と談笑するようにして自然さを演出し、話を聞こえないようにしている。

周囲200メートルのクリーニングは済んでいるはずだ。


「いえ・・・少し昔のことをね。今回お渡しする資料に関することです。」

「お前がその言い方をするということは、俺に昔話を聞かせるつもりなのだろう?」

嶋田はあえておどけてみせた。
やれやれ。これから山本のところに寄るつもりだったが・・・あいつの孫だくさんの相手は少し待ってもらわねばならないらしい。

「では、これを・・・。」

辻が差し出した冊子の表題には、こう書いてあった。

「リバティ・ベル計画に関する調査報告書 閲覧厳禁」。

969ひゅうが:2011/12/01(木) 22:23:06

――西暦1943年3月 北米大陸 カリフォルニア市

フランクリン・D・ローズヴェルトは、温かな日差しの中ゆっくり深呼吸していた。
元大統領である彼は、崩壊したアメリカ合衆国の様子に心を痛めてはいたが、あの大恐慌の収拾にあたった日々に比べれば体調はすこぶるよかった。

妻のエレノアとはじめたオレンジ農園は紆余曲折の末に軌道に乗りなかなかの評判だったし、だからこそこの混乱する西海岸経済の中にあって彼は安定した老後を過ごせていたのだった。

だが、そんな彼の平穏な日々はつい一昨日唐突に終焉を迎えた。
だからこそ彼は久々にスーツに袖を通してオレンジ園の真ん中で客人を待つということをしていたのだった。

「閣下。」

「グルー君か。」

ローズヴェルトは笑みを浮かべた。
元駐日大使であり、現在はカリフォルニア政権と呼ばれる西海岸諸州のゆるやかな同盟の外相をつとめるジョセフ・P・グルーがそこにいた。

彼の横には、東洋人の男性がいる。
ローズヴェルトに珍しい切手(最近再独立を宣言したタンヌ・トゥヴァのものだった)を送ってきて以来の付き合いである男、岩崎久弥だった。
日本を代表する財閥の総帥である岩崎は、日本政府から特使としてこのカリフォルニアにわたってきていたのだった。

日本人にいささか偏見のあったローズヴェルトが得た、はじめての日本人のペンフレンドでもある。

「やあ。久しぶりですな。」

年上である岩崎をローズヴェルトはにこやかに迎えた。

「閣下。急に御用とは。」

ローズヴェルトの顔が曇った。
あの恐ろしい――計画。
それについて彼に話さねばならない。
でなければ、彼や、彼をはじめとするアメリカ合衆国国民は、永遠にあの悪夢を恐れ続けなければならないのだ。

自由の鐘が鳴らされる時、合衆国は・・・いやその残骸は人類の悪夢を凝縮した存在になってしまうだろう。
それを避けるためには、ローズヴェルトは悪魔とでも手を結ぶ覚悟だった。

それが、実質的な「最後のアメリカ合衆国大統領」となった彼の責務だと、彼は考えていたのだから。



――同日 旧イリノイ州 シカゴ近郊 海軍作戦本部

廊下の落書きを見ながら、ジョセフ・F・エンライト「大佐」は暗儂たる思いにかられていた。
先ごろまでこのシカゴを支配していた旧連邦軍臨時第2軍が実質的に崩壊して2週間あまり。
現在は「五大湖同盟」を称する旧イリノイ州軍の残党がアメリカ合衆国非常事態軍政指揮本部を名乗ってこの都市を維持しているが、その実態たるやごろつきとなんら変わりがない。
春だというのに気温が10度を下回りみぞれが降る天候状況の中で、「連邦陸軍」はケンタッキーへの侵攻とロッキーを越えて西海岸を「併合」する準備にいそしんでいるらしい。
かつては大学の講堂だったこの場所は、現在も続くわけのわからない「内戦(シビル・ウォーⅡ)」の中で爆撃を受け、下卑た落書きを残した同盟の兵士もろともずたずたになった後のままだ。

まったく、一時的にしろノーフォークを回復し、停止されたはずの鉄道網を一部とはいえ掌握しているのが奇跡のようなものだった。

970ひゅうが:2011/12/01(木) 22:24:22

「ルメイ閣下。いらっしゃいますか?」

「いるとも。でなければ呼んでいない。」

崩壊した講堂の真ん中から声がした。

カーティス・ルメイ「合衆国海軍臨時作戦本部 臨時作戦参謀代理」は、不機嫌な顔を地面に描かれた10メートルほどの巨大な世界地図に向けながらエンライトを手招きした。

「他の方は?」

「ヴァンデンバーグ閣下はテキサス軍と協同するという名目で西海岸へ飛んでいった。ほかの海軍士官も似たり寄ったりだな。戦艦『モンタナ』艦長という名の老人を除けばもう君しか残っていない。」

昨日のうちに無理にでも逃げ出した方がよかったか、とエンライトは内心舌打ちした。
もともと生き残った海軍士官と予備役の連中を集めて作った作戦本部は、シカゴ市街戦時に大ダメージを受け、現在はサンディエゴの太平洋艦隊司令部が機能を代行しているような状態だった。
ここが今維持されているのも、アクロンの海軍航空隊基地やノーフォークの残留小艦隊、そしていくらかの航空機群を指揮するためでしかない。

だからこそ、陸軍航空隊の指揮官だったヴァンデンバーグ「大将」を本部長に据えていたのだった。
そしてエンライトは、サンディエゴからの連絡士官として飛んできたためにここに留め置かれてしまっていたのだった。
それには――

「君の妻子だが。」

ルメイが口を開いた。

「次の定期便でサンディエゴに送るように手配しておいた。」

「ありがとうございます。」

エンライトは素直に礼を言った。
この元陸軍航空隊の指揮官は、得体のしれないところがあるが、時折こうした優しさを見せることがあると彼は知っていた。

「その代わり。」

語調が強まる。

「君には、潜水艦に乗ってもらいたい。」

「はぁ?」

「ノーフォークに、『ノーチラス』が待っている。君はそれに乗り、命令書の航路を目指してもらう。突貫作業だが、改装は完了済みだ。」

「ちょ・・・ちょっと待ってください!」

「なんだ。」

「『ナーワル』級のノーチラスですか!?改装したとはいえそんな旧式艦で何を――」

「機密だ。計画はロング前大統領の頃から進んでいてな。戦局がここまで至ってしまった今となっては、これを実行するしかないのだ。」

ルメイは、暗い笑みを浮かべた。

「君の細君が乗る飛行機のガソリンだって、この計画のために用意されていたものなのだぞ。君は、従う責任と義務があることを忘れるな。」



――1943年4月6日 北米東部軍管区 ノーフォーク軍港


B−17は、そのまま引き返して行った。
鼻をつく悪臭の中、エンライトは顔をしかめた。

滑走路の傍に積み上げられていたのは、大量の瓦礫に加え、おびただしい数の死体だった。
焼却しようとしたらしく黒こげになってはいるが、燃料不足のためかハエや野犬が群がるままになっている。

周囲は見渡す限り無人である。
あの津波が持ってきたらしいヘドロや何やかやが堆積し、かわりにこの町のあらゆるものを持ち去ってしまったためだった。
機内で聞いた説明でも、ここには海軍関係者が500名ほど残っているだけだということだった。

ほかは、皆が押し流されるか寒さで凍え死ぬか、あるいはアパラチア山脈を越えたのだ。

合衆国海軍大西洋艦隊という名の存在は、もはやない。
津波の難を逃れた残存艦はすでに本土決戦準備の一環としてサンディエゴに移動しており、ここには辛うじて哨戒艇数隻と潜水艦が2隻ほどいると聞いている。
書類上は戦艦「モンタナ」が就役しているが、ドック内に巨大な砲塔を据え、半分だけ艦橋構造物が作られた戦艦として鎮座する以外は何もできない。

かつて世界第2の巨大海軍として大西洋を威圧していた合衆国海軍のなれの果ては、このざまだった。

971ひゅうが:2011/12/01(木) 22:25:47
視界を、土煙が横切った。
ジープだった。

燃料事情がひっ迫している東海岸らしく、車体の後部に薪を燃やす炉をつけてそこから出るガスでエンジンを動かす「ウッド・ジープ」だ。


滑走路を横切ったジープは、エンライトの横につくと止まった。

「お待ちしておりました。エンライト艦長。」

「ああ。君は?」

「『ノーチラス』副長をつとめることになっています、エリ・T・ライヒ少佐です。まぁ、艦長と同じような境遇ですな。人手が足りないので古参連中にこき使われとります。」

20代後半のライヒ青年がにかっと笑った。

「私も含め、乗組員79名はかき集められたクチです。何かよくわからないものを輸送する任務のようですが・・・」

「とりあえず、埠頭へ連れて行ってくれ。艦を見たい。」

「アイアイ・艦長!」



軍港周辺は、悲惨の一言に尽きた。
簡単に片づけられてはいたが、ドックの中では戦艦が横転し、司令部の建物もガラスが割れ、炎上した跡が生々しい。
そして、瓦礫の間には人の死体が点々と横たわっていた。

「メキシコ風邪(東部ではこう言う)にやられた連中です。それに凍死した人々も。」

ハンドルを握るライヒが言った。

「ここで1週も過ごせば、慣れてしまいますが・・・やはりいやなものですね。」

「まぁ・・・どうしようもないがな。」

エンライトはそう言うにとどめた。
かつて展開していた州軍も、今は中西部に食糧を求めて移動しており、生き残った人々はニューヨークなどの大都市に固まるか南部を目指し移動していったらしい。

どこかの軍艦のマストであったらしい旗竿に翻る星条旗の横を曲がると、埠頭に出た。
横転したり着底している艦艇の中で、2隻の船影が正常だった。
近づいてみると、少しかしいだタンカーらしき船と、大型の潜水艦だった。

哨戒艇は見当たらない。

クレーン車を使って何かを後部甲板に下ろしているところらしかった。


「おおい!艦長がお着きになられたぞ!」

ライヒが叫ぶと、手が空いている乗組員たちが整列した。
軍規は維持されているらしい。
だが、後部甲板にいる何人かの白衣の男たちは彼を一瞥しただけだった。

「艦長を任じられたエンライト大佐だ。君らと同じく、何が何やらよく分からん。」

「ここでは皆同じです。艦長。」

にかっと古参の下士官が笑った。

「水雷長のキングです。・・・ああ、キング提督とはまったく関係ありませんが。」

「とすると、あの白衣の連中が全部知っている・・・ということか?キング曹長。」

「そのようです。ですが連中、こっちを実験動物か何かだと思っているらしく一言も口をききやしません。まとめ役の陸軍士官は面白い奴ですが、教える必要はないと口止めされているらしく・・・。」

「ありがとう。では、私は命令書を見ることにしよう。早く仕事をすませてこの気の滅入る場所は後にしたいものだからな。」

「全然同意します。艦長。」

それまで聞いていたライヒも、兵たちと一緒に笑った。
なかなかいい艦のようだった。

972ひゅうが:2011/12/01(木) 22:26:31



「艦長、おられますか?」

「入れ。」

失礼します、と入ってきたのは、陸軍中佐の階級章をつけた南ドイツ系の男だった。
顔には多くの傷跡が走っているが、顔は愛嬌に富んでおり、その気性のよさを示していた。

「今回の計画の担当者を押しつけられてきました。リカルド・クレメント中佐です。予備役招集のクチでして・・・大学の関係で呼ばれたようです。」

「クレメント中佐。君は、『積み荷』が何か知っているのか?」

エンライトは厳しい表情でクレメントと名乗った中佐に視線を向けた。

「いえ・・・まぁ想像はつきますが。」

「というと?」

「運び込まれたのは、何個かに分けられたコンテナです。いずれも電源を本艦からとり、冷却機能を持っているらしい。そしてわたしは文化財関係の手引書を渡されました。上司いわく『合衆国再興のためにはどうしても安全な場所に置いておかねばならない』とか。」

「・・・重要な文化財・・・か。」

「独立宣言文も混じっているかもしれません。それに憲法の原文も。」

やれやれ、という表情でエンライトは艦長室の椅子に体重を預けた。

「となると、国歌にうたわれたような米英戦争時の星条旗も混じっているかもな。いや、よく津波に飲まれずに残っていたもんだ。」

「重要性は分かりますよ。艦長。でなければ北から装甲車2台に分乗して来てはいませんから。」


「命令書によると、本艦は友軍占領下のアイスランド島に寄港し補給を済ませ、英国諸島へ向かうらしい。そして指示を待てと。」

「スイスあたりで保管するんでしょうかね?」

「いや。英国だろうな。あそこはドイツに近すぎる。色々な意味で。」

まぁそうでしょうな。とクレメントは頬の傷跡をゆがませて苦笑した。

「輸送には、あの白衣の一人も立ち会うそうです。私も同乗させていただきますので勝手はさせないつもりですが・・・ご注意を。彼は気が短い。」

ははっ。とエンライトは苦笑した。
なんだ。話せば分かる男じゃないかこいつは。

「なら、相手は君に任せるよ。合衆国海軍最後の航海だ。なるべく平和裏に終わりたいものだと思うからね。」

「同感です。にしても『リバティ・ベル計画』というのも洒落た名前じゃないですか。自由の鐘ではじまった国がその名を冠した計画を最後に消滅するとは皮肉が利いている。」

くつくつとクレメントがおかしそうに笑った。

「まぁ、な。さて、クレメント中佐。君も仕事にかかってくれ。命令書の日時まで時間がない。我々は2週間で英国諸島沖に達しなければならない。出るのは早い方がいいと思う。」

973ひゅうが:2011/12/01(木) 22:27:07

――同日 北米大陸東岸 ニューヨーク市近郊

まるで宇宙服のように見える格好をして、男が歩いていた。

廃墟となった施設の中、周囲に同じような格好をした銃を持った護衛を従え、内藤良一は津波に荒らされたままの研究施設の廊下をゆっくり進んでいく。

「ロックフェラー研究所か・・・こうなる前に来たかったが・・・。」

「博士。急いでください。防護服の電池にも限りがあるんですから。」

「分かっている。恐らく冬の寒さで死滅しているだろうがアメリカ風邪の病原体を警戒するに如くはないからな。恐らく発生源であるここでは特に。」

「我々が出た後にモントリオールの『連山』20機がテルミット剤をたらふく積んで施設の『焼却』に来ることになっています。無線の向こうはまだかまだかとせっついていて――」

「もう少し待ってもらうように言ってくれ。」

護衛は少し苛立った様子だった。
地下施設が津波による被害を受け水没したままであることは予想通りであったし、すでにアメリカ風邪関連の資料も手に入れることができていた。
なのに彼らがここにいるのは、数日前にカリフォルニアから発せられた緊急電文が影響していた。

でなければ、カナダからわざわざ実用化されたばかりのヘリコプターで、空挺部隊が確保した平地に降り給油を繰り返しながらニューヨークまで強行軍で来てはいない。

比較的被害の少なかった最上階である3階部分から資料を金庫ごと奪い取った彼らは、内藤の命令で「何か」を見つけるまで待たされていた。
それが何かは内藤しか知らない。


所長室を物色していた内藤の手が止まる。
そして何枚かの資料を見つめていた内藤の手が震え始めた。


「恐ろしい・・・本当にやっていたのか・・・」

「内藤博士?」

「確かにあの学問はドイツだけでなくアメリカが本場だ・・・しかし、まさか、本当にこんな・・・いや南米でペスト菌を使って人体実験をしていたような国だ――ナチスに先んじてあれをやってのけていても・・・。」

「博士!」

内藤は我に返った。

「出よう。ここを焼却しておいてくれ。この所長の遺体も、書類も、欠片も残すな。これは、今この世界に存在していてはいけないものなんだ。」

「どうしたんです?何を――」

「本土の『ドリーマーズ』に最優先で緊急電を。『遺憾ながら想定通り』。・・・くそっ。半世紀以上も早くパンドラの箱を開けやがった!!」

護衛の兵士は、毒付きはじめる内藤の指令をあわてて無線機にがなり立てることしかできなかった。

974ひゅうが:2011/12/01(木) 22:30:02
【あとがき】――支援SSのようなネタを考えたら思った以上に長編となったので書けている分だけ中編板に投稿させていただきました。
本作はかなり黒いネタを使っていますので、その点だけをご注意くださいませ。
次回は明日以降投稿の予定であります。

975ひゅうが:2011/12/02(金) 01:49:45
>>968-974 の続き


――西暦1943年4月10日 大西洋上

結局、白衣の男たちは1人を除いて埠頭で「ノーチラス」を見送った。
最後まで無表情であったのが気味が悪かったが、科学者というのはそういうものだろうとエンライトは自分を納得させることにした。

「深度そのまま。間もなく第1変針点だ。周囲の警戒を怠るなよ。」

「はい艦長。」

「深さ21を維持せよ。艦長。少し休まれては?もう北米に上陸した独軍機の哨戒圏外に出るころです。」

「そうだな。そうさせてもらうよ。副長。」

「あとは私が引き継いで置きます。なに、艦長みたいな『扱いやすい』上官がいて助かります。」

「言ってくれるな。」

発令所が笑いに満ちた。

このナーワル級潜水艦2番艦「ノーチラス」は古い艦だ。
就役が1920年代中盤であり、第1次世界大戦時に戦利品となったUボートの技術を利用した機雷敷設用の「Vボート」と呼ばれる種類の大型潜水艦であるこの艦は、水上排水量2760トン、水中排水量は3900トンにも達する大型艦でもある。
発展型であるV4「アルゴノート」号が日本近海で戦没した今は、合衆国海軍が保有する最大の潜水艦となっていた。

副長であるライヒ少佐によると、対日戦争勃発に先立ちサンディエゴで改修を受けていたものの、そうこうしているうちにフィリピンやウェークが占領されてしまったうえに潜水艦の喪失が異常なレベルで続いていることから旧式艦である本艦は後方へ下げられ、ないよりマシというレベルで壊滅したノーフォーク軍港に大西洋艦隊残存艦と入れ違いに配備されたらしい。
時間だけはあったので細々と改装を受けていたところ、今回の計画に白羽の矢が立ったというわけだった。

確かに機雷敷設装置用の区画を転用し、40本にも達する大量の魚雷を搭載できるこの艦は物資輸送任務にはもってこいだ。
最大で2万カイリにも達する航続距離もまた適任といえる。
攻撃力については、外付けではあるが魚雷発射管が4本増強され6門に達しており申し分ない。

肝心の静粛性は、余った資材を手当たり次第に「徴用」し、徹底的な防音が施されていることからエンライトは非常に静かな印象を持った。
これなら、噂に聞くUボートや日本の幽霊潜水艦にも引けをとらないだろう。

「なら、そうさせてもらおうか。副長。権限を預ける(ユーハブコマンド)。」

「渡されました(アイハブコマンド、サー。キャプテン。)。飛行機の次は3日連続勤務です。お疲れでしょう。ゆっくり休んでください。」

「そんな年でもないよ。」

笑いながらエンライトは発令所を後にした。

長距離航海を念頭にしてはいるが、潜水艦であるだけあってこの艦は狭い。
前部の機雷格納庫を改装した倉庫に物資が積み込まれているため大幅に狭いわけではないが、後部魚雷発射管室を潰して設置された直径2メートルほどの円筒形のコンテナがある艦長室のあたりは、潜水艦乗りであるエンライトにも少し息苦しく感じた。

「ああ、艦長。いつもの分です。」

「ん?炊事長。これは?」

「え?三人分の食事ですが・・・艦長が命じたのでは?クレメント中佐とあのコップ女史で・・・」

「ちょ・・・ちょっと待て。「女史」と言ったか?」

「ええ。」

炊事室から出てきたティレンヌ炊事長は不思議そうにアルミ製のお盆二つを手に首を傾げた。

「マリー・コップ女史です。女性には見えないかもしれませんが、れっきとした女性で遺伝学者ですよ?なんだ、知らなかったんですか?私は以前雑誌で彼女のことを読んで――」

「炊事長。ちょっと艦長室まで来てくれ。」

エンライトは面喰うティレンヌ炊事長の太った体を艦長室に引っ張り込んだ。

「何なんです?艦長。」

「コップ女史・・・と言ったな?彼女について知っていることを話してくれないか?」

976ひゅうが:2011/12/02(金) 01:50:16
はぁ・・・とティレンヌ炊事長は目を白黒させながら艦長室の小さな机の向かい側に座った。

「アメリカ優生協会の研究者ですよ。遺伝学が専門で、戦前はドイツのカイザー・ウィルヘルム研究所にも招かれていたほどの天才です。大病を患った後は人前に出ませんでしたからあまり顔は知られていませんが、私の親類が・・・その、病気で、『そういうこと』に関して彼女の助けを借りたことがあったので知っているんです。
いや、あのニューヨークでよく生き残っていたものだと感心しました。」

「そのことを、誰かに言ったか?」

「いえ?こういってはなんですが――第2次大戦の勃発でナチに通謀しただのと陰口をたたかれていましたから、言わないで置きました。彼女の方も私を知っているかどうか・・・。」

エンライトは考え込んだ。
どういうことだ?
クレメント中佐はなぜ「彼」と言った?

それに、「彼女」に私を接触させないようにしようとした?

「クレメント中佐は、艦長に持っていく分の食事をいつもかわりに持っていってくれたのですが。三人で一緒に食べると言って。」

「ああ。確かに持ってきてくれた。そうか、そういうことか。なるほど、無口な人だったから分からなかったんだ。すまない。それで炊事長。」

エンライトはうそをついた。

「はい?」

「女史のことは、君の考えたとおりあまり人に知らせるものでもないだろう。これまで通り黙っておこう。中佐もあえて私に『彼』と言って気をつかっているくらいだ。」

「ああ、なるほど。そう、そうですね!」

フランス系の炊事長は何度も頷いた。

「了解しました。艦長。注意しておきますよ!」

「ああ。頼む。」

炊事長は駆け足で炊事室へ戻って行った。

エンライトは、後部のコンテナへと歩いていく。
確か、クレメント中佐は今の時間帯は散歩と称して仲のいい水雷長と話し込んでいるころだ。
ことによるとカードをしているかもしれない。
そして、それが終わると、コンテナの方へ歩いていっていた。何かを持って。
今思えば、それが炊事長に渡された食事だったのだろう。
出航以来、クレメント中佐の私室の隣にある白衣の――コップ女史の私室からは彼女がほとんど出てきたことはなかったように思う。
出てきたときは、コンテナを開けていたのだが。

おそらくそこに食事を・・・。



エンライトは周囲を見回した。
何か、視線を感じたような気がしたのだ。
コンテナの蓋の上部、ガラス製ののぞき穴から――

エンライトは、「立ち入り禁止」のロープを乗り越え、コンテナに近づいた。
コンコン・・・。

叩いてみる。

コンコン。



返事があった。

「その子に何をしている?」

カチャリ。
鈍い音が響いた。

聞きなれたけん銃の音だった。
エンライトは振り返った。

冷たい光を宿した瞳がぼさぼさのボブカットの前髪の間から覗いている。
よくよく見てみれば、女性であることは確かに見える。

マリー・コップ女史だった。

977ひゅうが:2011/12/02(金) 01:51:05


――同 ルイジアナ ドイツ進駐地域 某所


「ようこそ。ルメイ中将。」

「はじめまして、ですか?モレル博士。」

天幕の中では、二人の男が向かい合っていた。
ひとりは、シカゴでエンライトと話していたカーティス・ルメイ中将。
もうひとりは、ドイツ北米派遣軍衛生統括責任者という長ったらしい職についている男。
テオドール・モレル医学博士。

ロンメル将軍率いる北米派遣軍の中にあって、彼らは露骨に避けられていた。
シカゴが再び戦乱状態に突入したという報告があった直後に単身飛行機で乗り付けたルメイと、それを知っていたらしいモレルは親衛隊長官ヒムラーの特命だとしてこの天幕から人を遠ざけていた。

確かに命令書は正式な書式と紙だったし、サインも同様だった。
だが、問い合わせを禁ずという内容その他は真っ赤な偽物であるということは、ルメイとモレルしか知らない。

「カイザー・ヴィルヘルム協会の方はすでに。上の方はまだですが、優秀な者が協力者となっています。」

「その者の名は?」

モレルは、黄色い歯を出して笑った。

「フォン・フェアシュアー。オトマール・フォン・フェアシュアーです。弟子も『優秀』で、これからの研究発展に益するところ間違いないでしょう。」

「そしてあなたの復権も・・・だな?」

二人は笑いあった。

「予定通りなら、あと3日ほどでアイスランドへ。現地じたいがひっ迫しているから補給は手配できなかったが、まぁあの艦の航続距離にとっては問題ない。食糧も十分積んである。浮上したあたりで指令を変更する予定だ。」

「万事計画通り・・・。」

二人の密談は続く。

いんちき療法と断じられ北米へ左遷されたモレルと、何事かをたくらむルメイ。
その内容は歴史には記録されていない。



――同 大西洋上 USS「ノーチラス」

「この子の名は?」

「マリー・アックス。」

「『マリアの斧』?」

「なんだっていいと思うが?」

エンライトは、コンテナの『中』にいた。
一緒にいるのは、コップ女史。
コンテナの中はこじんまりとしたキャビンのようで、簡単なベッドがあった。

そんな中で無表情で「彼女」は、赤ん坊を抱いていた。
赤ん坊は、生後1年たっていないだろう。
白い髪と、赤みがかったブラウンの瞳。彼女の言葉で女児と分かる。
奇妙なことに、赤ん坊は鳴き声を上げない。

そんな赤ん坊――マリアに、コップ女史はミルクの入った哺乳瓶を与えていた。

「察するに・・・要人の子か?」

「・・・・そんなところだ。」

彼女は男口調を崩さなかった。

「1日に1度ミルクを与える。睡眠薬入りだから迷惑はかけない。」

「赤ん坊に睡眠薬か?」

暗に非難しても、返答はない。

「このことは秘密に。」

「それは了解した。協力もしよう。赤ん坊は――まぁ国の宝とも言うしな。」

無言で彼女は頷いた。

978ひゅうが:2011/12/02(金) 01:51:42
――西暦1943年4月8日 日本帝国 帝都東京

「間違い・・・ないのですか。」

「はい。」

そうですか・・・と、辻正信は執務室の椅子に腰を下ろした。

「我々の存在ゆえの弊害ですかね?電子顕微鏡に抗生物質。遺伝子構造概念の発表ときて、それに優生学という悪魔が加われば、このようなことが起きると。」

「あの細胞に独自に迫った手腕は驚愕に値します。
平成の我々でも研究途上の技術でしたから――あのマリー・コップ博士は、まさに天才というにふさわしいかと。」

「敵をおだてるな・・・と言いたいところだが、この場合そう言うしかないか。石井君。」

「はい。」

日本版CDC(疾病対策予防センター)を束ねる石井四郎は、極秘の報告を上げていた辻に向き直った。

「可能な限り早急に『確保』するように要請は出しておく。そうでなければ撃沈せよとも。
このタイミングで欧州にわが軍の艦隊がいるのも何かの運命なのか・・・。」

辻は、何かを言おうとして、やめた。

「歪み――か。時代の歪みと、我々という歪み、まさに人の作りだした悪夢・・・だな。」

彼は、手元の電話機から受話器を手にとると、交換手に「外務省へ」と告げた。



――西暦1943年4月10日 北海 ユトランド沖

ドイツ海軍の駆逐艦Z−12は、待機を命じられていた。
党の上からの命令だという男を乗せて。
まったく困ったものだと艦長は思い、乗り込んできた老人をにらみつけた。
カイザー・ウィルヘルム研究所の遺伝学者はどこ吹く風で灰色のユトランド沖の海面を見つめていた。



同時刻、英国 スカパフロー泊地を1隻の軽巡洋艦が出航していった。
軽巡「神通」。阿賀野型巡洋艦の後期型であり、中でも本艦は対潜能力を付与されている。
ひきつれているのは、海防艦2隻と護衛空母「福原丸」、そして駆逐艦「漣(さざなみ)」。
関係改善の意思を見せた英国を表敬訪問していた艦隊から分派されたこの小艦隊は、指揮官として五藤存知少将を戴き、本国からの特別命令を受けていた。

英国海軍はこの動きをいぶかったが、領海外まで航空機で追尾した以外の動きは見せなかった。
というよりも、北米に気を取られてそこまで手がまわらなかったのだ。
この動きを知ってか知らずか、英独停戦後再び大使を迎えていたベルリンの日本大使館と新総統官邸の間を慌ただしく人が行き来しはじめる。
同時に、国防軍総司令部にも日本大使館から駐在武官や私服ながらも目つきの鋭い男たちが出入りし始めた。

「何か」が起きていた――。

979ひゅうが:2011/12/02(金) 01:53:22
【あとがき】―― >>968-978 明日と言っておいたので日付が変わってから投稿いたしました。
いえ、earth閣下の第54話に歓喜しまして(汗)

980ひゅうが:2011/12/02(金) 04:13:29
>>968-979 の続き

――西暦1943年4月13日 北大西洋 アイスランド沖


「命令変更?このままユトランド沖へ向かい、ドイツ駆逐艦と会同、積み荷を引き渡せ!?」

「英国ではなかったのか?」

『ノーチラス』の発令所がざわめきに満たされた。
通信文を再読したエンライトは、周囲からの戸惑いの視線を受け固まっていた。
補給前に最後の命令を受け取るべく浮上した「ノーチラス」に向け、ルメイから放たれた命令は目を疑うものだった。

「なぜナチに・・・スイスへ送るつもりなのか?」

「いや、それよりも積み荷の中身だ!中身は――」

「落ち着け!」

エンライトは一喝した。

「針路変更。ユトランド沖に向け変針するぞ。ともかく行ってみなければ分からん。」

「艦長・・・。はい。了解しました!」



エンライトは、ライヒ副長に後を託すと、艦長室――いや「彼女」の部屋へ向かった。
聞かなければならないことがあった。



「ああ。艦長か。」

「ドイツ艦に、荷物を引き渡せ、そう命令が下った。」

彼女の動きが、止まった。

数分が過ぎる。

「やはり、そうか。」

女史は、何か自嘲するように笑っていた。


「教えていただきたいものですな。」

「中佐。いつから?」

エンライトは、いつのまにか扉を開け立っていた頬に傷のある中佐――クレメントに驚いた。

「最初から、というべきでしょうかな?艦長。」

「君も、言うべきことがあるという顔だな。」

「ですな。艦長。」

船室の扉を閉め、鍵をかけた(どうやら合鍵を使って開けたらしかった。いつの間に・・・)クレメントは、不躾にベッドに腰かけた。
すでに椅子にエンライトと女史が座っているためだった。

「まず、私の方から言っておきましょう。クレメントというのは私の本名ではありません。」

クレメントは苦笑した。
コップ女史が目を見開いている。

「私の名は、オットー・スコルツェニー。いちおうドイツ第3帝国親衛隊の所属ということになっています。」

エンライトは目を見開いた。

「私は、ルイジアナに進駐した北米派遣軍に先立って現地に潜入していました。そこに、命令がきたのです。まぁ、ロンメル将軍に指揮権は預けられていますが、便利屋のようなものですからね。
カーティス・ルメイ将軍の命令に従えと。命令を伝えてきたのが総統にクビにされた侍医だったのは引っ掛かりましたが、まぁ面白そうでしたので。」

「本気か?」

「本気ですとも!僕は冒険がしたいんです。今やっていることは何ですか?冒険そのものでしょう?それに、あなたは私を問答無用で殺すことはしないだろうし、この女史の話を皆に知られるのは避けたいはずだ。」

ふてぶてしくクレメント・・・いやスコルツェニーは笑ってのけた。
癪に障るが、どこか憎めない、そんな男であることは変わっておらず、なぜかエンライトは安心していた。

「実のところ、僕もあのコンテナの中身は知りません。女史。説明をお願いできますか?
先ほどの反応を見る限り、あなたはドイツへ行くと予想をしていたが、本当にそうなるとは思っていなかったようだ。」

981ひゅうが:2011/12/02(金) 04:14:18
「その通りだ。」

マリー・コップ女史は何か、憑き物が落ちたように、頷いた。

「・・・そうだな。ここで話しておかずにいつ話すということだろう。
神の禁忌を冒したその首謀者にして生き残りとして・・・ね。」

「コップ女史。」

エンライトはなぜか先ほどまでとは正反対の感覚を抱いた。
この人に話させてはいけない。


「いや、言わせてくれ。艦長。あなたには頼みたいことがある。
クレメント――いやスコルツェニー。君も、少し露悪趣味なところはあるが人間としては信頼できる・・・と思うから。」

女史は、自分の体を手で抱きしめ、語り始めた。




4日後――1943年4月18日 北大西洋

「磁気探知機反応あり!」

「反応照合・・・間違いない。米国のナーワル級だ!『神通』!こちらカモメ3、目標発見!4E5海域地点42で停止中!」

艦上攻撃機を改造した対潜哨戒機のコクピットで機長は叫んだ。




「了解、カモメ3号機。」

「艦隊全艦、単縦陣と為せ。本艦と『漣』『小豆(しょうど)』は先行、目標へ接近する!」

「神通」艦内の戦闘情報室(CIC)で五藤存知少将は叫んだ。
護衛空母「福原丸」と海防艦「屋代」をこの場に残し、「神通」と駆逐艦「漣」、海防艦「小豆」は反応があった海域まで10キロほどを駆けるのだ。

護衛空母から常時5機が対潜哨戒機として周囲を索敵していたが、それらは2機を残し反応海域へ集結しつつある。
空中から海中の潜水艦が発する磁気を探知、そして攻撃を行えるという日本海軍が誇る秘密兵器は太平洋で発揮された通りの性能を大西洋でも発揮。
正確に米潜水艦を補足していた。

もちろんこれは、日本本土で行われた米軍の暗号解読の成果もある。

「さて・・・うまくいくか?」



――同 USS「ノーチラス」

「艦長!日本艦隊は増速、こちらへ転舵しました!」

「なぜだ!なぜ日本海軍は――」

「やはり、本当だったか・・・。」

「艦長?」

エンライトは、副長の目を見ながら言った。

「太平洋で潜水艦の損失が相次いでいることは知っているだろう?日本海軍は何らかの特殊な・・・赤外線か磁気かは分からないが探知手段を開発したという話が出たことがあった。」

「なんて反則だ・・・。それが事実なら・・・」

「艦長!こちらに向かってくる敵艦は『アガノ』クラス軽巡1、ほかに駆逐艦2です!」

「厄介な。アガノクラスは対潜能力を持っているという情報がある。それに駆逐艦か。後方の護衛空母は対潜哨戒機も飛ばしているだろうから――」

「艦長。」

「仕方がない。――副長。全艦全速!対艦戦闘用意!」

「了解しました!」

エンライトは奥歯を噛んだ。
さて、ここが正念場だぞ。ドイツ艦の前に日本艦隊に見つかるのは想定外だったが・・・いや、むしろ都合がいいのかもしれない。

うまく艦を沈められずに、「敗北できる」だろうか?

982ひゅうが:2011/12/02(金) 04:15:03

――同 軽巡「阿賀野」

「『ノーチラス』増速しました!的速5ノット!」

「了解。指向性音通用意!」

「指向性音響通信用意・・・完了!文面は何にされますか?」

「そうだな。『こちらはIJN「神通」。本艦に貴艦を攻撃する意図なし。浮上されたい。』」

「は!」



――同 USS「ノーチラス」

「日本艦より音響モールスです!ええ・・・『こちらはIJN「神通」。本艦に貴艦を攻撃する意図なし。浮上されたい。』です!」

「舐めた真似を・・・」

「距離は?」

「9000メートルです!」

「よし。魚雷発射用意。1番2番装填!」

「は。1番2番装填します!」

水雷長の号令が響き、魚雷発射管に2発の53センチ魚雷が装填される。

「外扉開け。」

「外扉開きます。」

「発射しますか?」

「いや、待て。」



――同 軽巡「神通」


「『ノーチラス』発射管開きました!」

聴音が報告した。

「発射はされたか!?」

「いえ。発射管外扉の開放のみです!」

「司令!?」

「カモメ1番機に下命。『ノーチラス』近傍に爆雷を投下せよ。ただし当てるな。圧力信管は限界に設定!」

「は!」

983ひゅうが:2011/12/02(金) 04:15:50

――同 USS「ノーチラス」

「艦長!距離30海面に突発音!・・・爆雷です!数2!」

「どこからだ!?敵艦までの距離はまだ8000メートル以上あるんだぞ!」

「転舵20!副長。航空機だ!上にはうようよいるに違いない。」

艦が傾き、大きく傾斜する。
しかし、予想されたような水中衝撃波はこない。

「爆発・・・しない?」

やがて、はるか下の海中から衝撃波が艦を打った。


「日本艦より再びモールス!『浮上されたい。当方に危害を加える意思なし。』」

「・・・どうされますか?」

「魚雷発射だ。水雷長!ただし――」




――同 軽巡「神通」


「『ノーチラス』より魚雷発射!射線2!雷速40ノット!」

「司令!」

「待て。聴音!40ノットと言ったか!?」

「はい!」

「射方向は本艦に向かっているか?!」

「は・・・・いえ!本艦前方100を通過するコースです!」

五藤は、息を吐いた。

「なるほど。な。艦は浮上しても誇りは捨てない・・・か。」

「司令。『ノーチラス』浮上をはじめました!」

「各艦に指令。礼をもってあたれ。」


「!・・・『ノーチラス』艦内で突発音!発泡音です!」




――同 USS「ノーチラス」

「女史・・・」

「逝ってしまわれた・・・ですか。」

銃声に反射的にエンライトは動いていた。
同時に、スコルツェニーことクレメント中佐も。

駆けつけた先では・・・手にけん銃を握り締めたマリー・コップ博士が倒れていた。
壁には、血とナニカが「華」になっていた。

脈は・・・ない。
やはり、やはりこうするつもりだったのだろうか。最初から。


「艦長。無線機を貸してもらえますかな?」

何かに耐えるようにスコルツェニーが言った。

984ひゅうが:2011/12/02(金) 04:16:56


――同 西暦1943年4月18日 メキシコ湾


客船「ゲルマニア」の甲板で、ルメイとモレルは談笑していた。
この客船は、北米方面軍の兵站を預かる1隻で、周囲をイタリア艦とドイツ艦が護衛していた。

「あと1日で、会合海域ですか。」

「そうだな。」

ルメイは笑っていた。
長かった。
あのロング政権下で進められていた「リバティ・ベル計画」にアメリカ第一運動を通じて参加し。
そして軍での出世と崇高なる使命を自分は得た。

あの汚らわしい黄色人種を絶滅できず、このアメリカが半壊してしまったのは誤算だったが、これからは新天地で明白なる天命(マニフェスト・ディスティニー)を遂行すればいい。北米大陸に再びアメリカを興す鍵はもう間違いなく第3帝国にわたるだろう。

「あれ」を使い復活した偉大なる存在たちがカギ十字とともに北米に再臨する頃には、アジアから黄色人種は一掃され、輝かしいアーリアと白人による世界が生まれていることだろう。

手始めは、ゲーリングだ。
我々のウィルスと、戦略爆撃の融合。これをもって劣等人種を「処理」し・・・


「失礼。カーティス・ルメイ閣下はあなたでよろしいですか?」

「うん?」

1等のプロムナードで、ルメイは不機嫌な表情になって振り返った。
不躾なやつだ。
今やあのアメリカ風邪の惨禍を逃れた唯一の「優生保護計画」参加者である自分は予備捨てられていい存在でない。

神の偉大なる力を集中に――

「閣下。われらが総統からの命令です。『第3帝国に反逆者はいらぬ』と。『汚らわしい病原体をもって取り入る者を余は許さぬ』との仰せです。ああ、モレル医師。インチキ療法で総統を苦しめた挙句、こんなことを企て国家命令を偽造するなど――許しがたい暴挙ですな。」

「き・・・貴様!シュレンベルグ!総統に何を吹き込み――」

「待て。君は何か誤解してはいないか?私は――」

ルメイは、胸がやけるような感覚と同時に、自分に向けて弾丸が発射されたことを悟った。
眼帯の男、ワルター・シュレンベルグ少将は冷たい目でルメイを見ていた。

「日本大使館は全てお見通しでしたよ・・・総統は祖国に二重に恥をかかせようとした連中を許すほど甘くはありません。」

ルメイは叫ぼうとした。
違う!あの黄色人種どもの言うことを信じるな!

建国の父祖たちを再生し、総統に永遠の命を献上できる偉大な成果をもってきたのに、この仕打ちは何だ!

と。


そうか。あのジャップどもが総統をだましたのだな。
お得意の汚らしい企てで。
騙されるな!奴らこそが世界の敵だ!奴らこそこの世から抹殺すべき――


「片づけておけ。・・・まったく、日本軍とカナリス提督に、あのスコルツェ二ーの共同作業か。時代も変わったものだな。」

ルメイとモレルは、客船「ゲルマニア」からの転落死として「処理」された。

985ひゅうが:2011/12/02(金) 04:17:34
エピローグ

――現在 1962年4月 日比谷公園

「万能細胞・・・iPS細胞を作り出していたのにも驚いたが・・・まさかジョージ・ワシントンやベンジャミン・フランクリンら建国の父たちの遺した髪から細胞核を取り出して染色体を別の細胞に移植・・・それから万能細胞を作り、生殖細胞を作るとは、恐れ入ったな。
卵子と精子を同じ細胞から作って結果的にクローンになる胎児を作ったというわけか。」

「万能細胞自体はある酵素を3種類導入すれば自然と生まれますからね。
リセットというやつです。もともと、細胞の不死化の研究をしていた時に見つけられたらしいです。資料によれば。」

辻は、3杯目の紅茶をすすった。

「遺伝子の中に控訴を導入する際にウィルスを使う方法をとったのか、それとも酵素を直接注入したのか・・・博士が自殺した今は分かりません。」

「そしてそれが成功したのかも、か?」

「ええ。同じ遺伝子を持つ精子と卵子では、どうしても受精ができなかったそうです。受精しても母胎の中に戻したら死産ばかり。その中にあってほぼ唯一の成功例だったマリアは、女児だった。」

嶋田は寒気を感じていた。
自分たちは、抗生物質をもたらし、電子顕微鏡をもたらし、そして遺伝子の二重らせん構造の概念をこの世界に持ち込んだ。

それが、アメリカで隆盛を極めていた優生学と結びついた時、恐るべき化学反応が起こったのだった。

もともと、ナチスの人種観に賛同し、人種改良や障害者の断種をアメリカの蚊が者たちは支持していた。
実際のところ、カイザー・ウィルヘルム研究所の若き天才ヨゼフ・メンゲレのような存在とアメリカの研究者たちとの繋がりについては分かっていないことの方が多い。

が、マリー・コップ博士のような存在は数多くいたし、第2次世界大戦中にもそのやりとりが――ナチス上層部の把握していないところでさえ――進んでいたのは事実だった。

そして、アメリカでも根を張っていた白人第一主義と結びついた時・・・いや、想像するのはよそう。
あのアメリカ風邪が対日・対異人種用に用意されつつあった致死性の高い生物兵器で、遺伝的なクローンを生産する技術をもって「永遠の命」を手に入れた人々と復活した古の賢者や建国の父祖とともにアメリカという「新たなローマ」が世界を支配するなどと考えていたなんてことは――

情報部を総動員してヒトラー総統に「アメリカ風邪の病原体を手土産に亡命しようとしている病原体の製作者の一味がいる」と吹き込み、モレル医師の悪行を資料付きで提出させていなければ、カーティス・ルメイはあのメンゲレと仲良くこの技術を分け合っていたかもしれない。
資料は一部を残してエンライト艦長と潜入していたスコルツェニーに処分されてしまったが、それはそれでよかったのかもしれない。


「おしいことをした・・・と、私には思えないのですよ。ですが。」

「この技術は有益、か。確かに臓器移植を自分の細胞から作ったものでできるというのは、夢の医療だ。我々にはそれを可能にする力もある。」

嶋田は、ガーデンテラスごしにこちらに気づいた男女に会釈した。
ああ、そういえばあの青年たちはカリフォルニアに赴任する新しい大使夫妻になったのだった。
辻が養女を迎えたと聞いた時には耳を疑ったっけ。
白い髪にブラウンの瞳きれいな娘が今は美しい奥方に・・・

嶋田は思い切り目を見開いた。


辻を見る。

辻は頷いた。

「一人の人間が、何にもとらわれずに自由に生きる自由を得た。コップ女史はそれを欲したから自らとともにその計画と製法を絶ったのかもしれませんね。」

「かも、しれんな。」

嶋田はティーカップに口をつけた。

辻のことだから、打算も何もあるだろう。
あの夫妻がアメリカに行くのだって、辻の差し金かもしれない。
だが――

幼少の頃から足長おじさんとして「彼女」を支援し、ともに泣き、笑い、そして良人となりたいという人間が来た時にはとことん飲み明かし、結婚式では涙を見せた辻を、嶋田は知っていた。

「山本と一緒だが、今晩は飲みにいくか?」

嶋田は訊いた。

「ありがたい話ですが、アメリカ側と話すことがありますので。」

そうか。と嶋田は頷いた。

「親ばかだな。」


〜終〜

986ひゅうが:2011/12/02(金) 04:21:00

>>969-986 「リバティ・ベルが鳴る日には」

【あとがき】――というわけで「アメリカからきた幼女(乳児)」でした(爆)。
ネタですまそうと思っていたら話が長くなりすぎて・・・随分カットしましたが唐突感がある描写が多くなってしまいました。
このような妄想100%な駄文を読んでくださった皆様に感謝を申し上げます。

987ひゅうが:2011/12/02(金) 14:30:38
>>968-987 でした。修正しておきます。

988ひゅうが:2011/12/02(金) 18:00:51
>>968-988「リバティ・ベルが鳴る日には」蛇足

――1962年4月15日 大日本帝国 帝都東京

「ああ、君か。スコルツェニー。」

「どうも『艦長』。たまたま近くに寄る用事が出来ましたので寄らせていただきました。」

「相変わらず大胆不敵というか・・・公的には君の祖国とこの国は敵対未満友好未満の関係だろう?最近のエリザベス王女訪日で感情的にケリがやっとついた英国人と同レベルだったはずだ。」

「まぁ、僕も稼業を引退してから各国の連絡役をやっていますからね。同じく引退した元総統閣下の名代を仰せつかってますので気楽にやらせてもらっています。それと、ここでは僕はクレメント中佐で。」

「分かっているよ。」

ジョセフ・エンライト退役中将は笑った。
下町と呼ばれる一角に屋敷を構える彼は、パシフィック・アメリカ同盟(太平洋岸同盟)、一般的には西米と呼ばれるゆるやかな旧西海岸諸州の連合体が保有する海軍の名誉顧問的な役職を仰せつかっていた。
彼は、西海岸に脱出に成功していた妻子を呼び寄せてあの大西洋での一件以来友誼を結んだ五藤存知大将(そろそろ退役の話がでている)や辻正信というこの国のフィクサーの一人の庇護下に入っていた。
そうでないと、どこからか「リバティ・ベル計画」をかぎつけた連中に狙われるかもしれないとその頃の彼は本気で心配していたのだ。

「あの娘は・・・大きくなりましたか?」

「ああ。結婚式の時にも言っていたよなお前。」

「まぁ定型句ですよ。『ノーチラス会』にも出させていただいて、それであの娘の成長を遠くから見守ることができた。艦長たちには感謝しています。」

「『欧州一危険な男』だったか?ソ連の一件や少し前の半島危機では随分名を上げたと聞いているぞ?」

「まぁ、冒険があればそこに僕はいますからね。総統にはずいぶん好きにやらせてもらってます。」

「あのことは報告せずに?」

もちろん。と、オットー・スコルツェニーは頷いた。
彼ら二人の「娘」のような存在である辻氏の養女のことは、辻氏と彼らだけの秘密ということになっていた。
もちろん、元総統で今はドイツで悠々自適に画家生活を送っているアドルフ・ヒトラーにも秘密だった。


「今度、あのコンテナの中身の一部をニューヨークに持っていくことになっている。」

「大使に任命されたらしいですね婿殿は。」

ああ。自慢の娘婿だ。とエンライトは笑った。

「今日の『ノーチラス会』には出るか?そのために寄ってくれたのだろう?
今日はマリア夫妻の壮行会も兼ねている予定なんだが。」

ありがたいですな。とスコルツェニーはふてぶてしい表情で頷いた。
と、呼び鈴が鳴った。

二人は、はじかれたように玄関へ向かう。
ドアを開けると、エンライトの妻と、若い二人の男女がそこには立っていた。
二人とも、大使として赴任するにあたって宮中でこの国の主夫妻とお茶をしてきた帰りらしく、フォーマルな格好をしている。

「ただいま!」

白い髪の女性がはじけるような表情で言った。

「おかえり。」

「おかえり!」

二人の男は、つられて一緒に笑った。


〜完〜

989名無しさん:2011/12/21(水) 09:43:44
そろそろ防衛軍がくると思うので

990earth:2011/12/22(木) 22:16:28
すいません。防衛軍は遅れ気味でして……。
リアルで色々と問題が多発しており、長編を書く余裕が……。
暫くはネタでご勘弁を。

991名無しモドキ:2011/12/30(金) 22:45:38
「アステカの星」 −奇跡の谷− New Shangri-La

 前に長・編スレを使用すればというご指摘と、読みにくいというお叱りを受けました。なるべくレスを多く
使わないようにと思っているうちに、つめつめの文章になってしまっていました。

 今回もまだ少し空行が少ないかもしれませんが・・。長目の中編?です。
 本編より少しだけ時期が前に出てしまっています。情報不案内の地域が舞台ということでご容赦ください。

earth様、「憂鬱世界」という素晴らしい舞台を用意してくださいましたこと感謝しております。
よいお年をお迎えください。


支援ssのまとめwikiに関して→支援SSその2の636は行程図の投稿に失敗しています。削除要請も十日の菊
のようですし、earth様のお手を煩わすのもと思いそのままです。もしまとめられるならその部分は削除してく
ださい。

992名無しモドキ:2011/12/30(金) 22:46:40
「アステカの星8」 −奇跡の谷− New Shangri-La PART1 Appalachian Trail
1943年5月6日 テネシー州北東部アパラチア山脈西麓キングストン近郊

 テネシー州のキングストンといえばアパラチア山脈の西山麓地域にあたり傾斜地の多い山間部である。数日前か
ら降り続いた雨がようやくあがり、例年より遅いが春の陽光でようやく成長を始めた広葉樹の若葉を照らしている。

「本当に春が遅かったけど、でもやっぱり春は来たわよ。そんなにあわてて出ていかなくてもいいのに。」ステイ
シー先生は昨夜納得した話をまた持ち出した。
「いや、一月近くもいたからな。家の補修も終わったし、当面の食べ物の備蓄も出来た。」ジョーも昨日と同じよ
うな理屈で返す。旅で離別になれたジョーは繰り返しは別れの挨拶みたいなものだと感じていた。

「カリフォルニアへ帰るの。」ステイシー先生は少し寂しげに聞いた。
「そうだな。別に好きこのんで危険な場所にいたいわけじゃないからな。出発するなら今だ。来るときより状況は
更に悪化しているだろうから、食糧を得やすい夏の時期を無駄にしたくない。」これもジョーが昨夜語ったことだ。

「当面、ここは安全そうよ。」それでもステイシー先生は粘る。
「疎開者と住民の抗争が原因で十日前にキングストンの町の半分が焼け落ちてるんですよ。東の空が赤く染まって
いたのが家の二階かでも見えたでしょう。」ロジャーは、そう反論すると家の裏手に急ぎ足でまわった。

「こんな山奥には誰もこないし。第一、道を知っていてもこの家に来るのは難しいわ。」ステイシー先生はロジャ
ーの後ろ姿に怒鳴った。
「というハシからジャズがきたぜ。」ジョーが顎で森の小径の方を示した。

 森の中から馬に乗り麦わら帽子を被った四十ばかりの陽に焼けた男が現れた。ここに到着して三日目の昼にこの
男が家の回りをうろついているのに気づいた時は、家の中に籠もってやり過ごそうした。ところが、窓から男の顔
を見たステイシー先生は突然家から駈けだしてびっくりしている男に声をかけた。

 男はジャズ・ボーレンといい2マイルばかり山を下ったところに彼を含めた妻子四人で住んでいる。大恐慌時に
失業して行き詰まり、自殺しようと山中を彷徨していたジャズをステイシー先生の両親が見つけて近所の廃屋を世
話して家族で住めるようにしたという。

 それ以来ジャズは小さな自家用農園を耕しながら、車に田舎では珍しい加工食品や雑貨、安物の衣服を車に積
んで近所の農家相手の行商をしている。

 ステイシー先生は母親が亡くなった時に数ヶ月に一回でいいから家の見回りを頼んだのを律儀に実行していたと
いう。この男の紹介と手助けのおかげでもあり納得いく相場で備蓄用の穀物、乾燥肉やステイシー先生が育てると
いう菜園用の種子などを入手できた。

993名無しモドキ:2011/12/30(金) 22:48:16
「なあ、まだ、アスピリンが余っていたら分けてくれないか。テンシー産密造バーボン4本と交換だ。」ボーレン
はジョーの顔を見るなり挨拶に抜きで声をかけた。ジョーがテネシーに来る途中でミネアポリスで奮発して大量に
仕入れたものにアスピリンがある。かさばらず需要があるという算段は当たり、アメリカ風邪への恐れから大概の
農家は欲しがった。

「いいだろう。四十錠渡そう。でも、今日でお別れだ。」ジョーはリュックから錠剤を取り出しながら数えだした。
「そうか、ここはいいとこだぜ。でも、あんた見たいな流れ者には退屈だろうな。でもよ、今のアメリカじゃ退屈
できるって幸せだと思わないか。」ボーレンは馬を下りながらジョーに言った。

「退屈すると思い出さなくてもいいことも思い出す。」ジョーは両手をポケットに入れた。
「そうか、元気でな。肝心の乗馬の方は大丈夫かい。まあ、あの馬に乗れなかったらこの世に乗れる馬はいないがな。」
ジャズは右手を差し出した。ジョーも躊躇ってからポケットから右手を差し出して軽く握手した。

 ジャズは元来、目端の利く男らしく戦争が始まったと聞くと近所の農家を回って数頭の馬を入手した。ガソリン
が統制されると考えたのだ。その数時間後には何かの災厄が東海岸を襲ったという一報が入り、一週間後には馬を売
ってくれるような手合いはいなくなった。ジャズは手持ちの馬のうち一頭の去勢馬を銀貨数十枚とトラック2台分
のトウモロコシで交換したそうだ。

 ジャズが手元に残したうちの2頭をお礼にと、ステイシー先生が後生大事に持ってきた銀貨でジャズから購入して
ジョー達に贈った。ジャズは只でいいと言ったがステイシー先生に押し切られ相場からすれば格安だが対価を受け
取らされた。

「ジョー、準備できたぜ。」ロジャーが旅支度ができた二頭のクォータホース種の去勢馬を引いてきた。ジョーは
アスピリンとバーボンを交換して、ロジャーはステイシー先生に別れの挨拶をする。ジョーとロジャーはさっそう
と馬に乗った。ただ、ジョーでさえ内心はほっとしていた。ステイシー先生のきつい指導のもと昨日までに何回落
馬したことか。

「じゃあな。」ジョーがウエスタンを気取るように軽く帽子に手をやり軽い口調で言った。
「また会えるわよね。それからわたしからの餞別よ。」ステイシー先生は隠し持っていたサザンカンフォートのボ
トルをジョーに渡した。
「オレはまた会える気がする。」ジョーは軽く微笑んだ。ボーレンと並んだステイシー先生はいつまでも手を振っ
ていた。

「取りあえず何処に行く?」数日前から偵察していた山道に入ったところでロジャーが聞いた。
「まず、ここからはなるべく人に出会わないようにアパラチア山脈に沿って北を目指す。その先は様子を見ながらだ。」

 結局、この日は山道に沿って10マイルばかり進む。それ以上は尻の痛みに耐えられなかったのだ。ただ、二三
日もすると次第にこつがわかったのか乗馬に慣れて人家を避けて迂回しながらも直線で15から20マイルほどは進
めるようになった。

994名無しモドキ:2011/12/30(金) 22:49:05
 保存食糧節約の為もあって、一日に一時間程度は猟をしてウサギや鳥を撃った。ステイシー先生に実家の地下室
に厳重に保管されていた彼女の父親が収集していたという小口径の猟銃と散弾銃を、無理に持たせれたことが意外に
役だった。

 雨に降られて一日テントで凌ぐ日があり、長くなった日差しに苦しめられる日があり、碌な飼料をやれないので
馬に負担をかけないようにできるだけゆっくり進み、一週間目でバージニア州へと入った。

「中西部はだだっぴろい。行けども行けども地平線ばかり。ここじゃ行けども行けども山ばかりだ。神様も手抜き
せずに適当に散らばらしたらどうだい。それにしても、昨日の午後から民家一つも見ないし、道路一本も横切らな
いとはどんな僻地だよ。」日差しと人目を避けて山の中腹の狭い山道を進んでいるとロジャーは何度目かの同じよ
うな愚痴をこぼした。

「この先にも誰かいる。馬を後ろに。」ジョー自身が馬を苦労しながら来た方向へ向けながら言った。
「少し高いところに行って見よう。」ジョーは馬を下りるとちょっとした斜面を馬の手綱を引いて駆け上る。あわ
ててロジャーが続く。

 二人が馬をようやく尾根の反対斜面に隠すと、下の山道をジョー達が進もうとしていた方向から谷道を数人の軍
服姿の男が走ってきて左右の斜面に分かれて木の陰に隠れた。尾根から山道までは100ヤードほどもあり木々が視
界を遮る。それでも男達は軍服は着ているが、兵士とはどことなく挙動が異なっているようだった。

 暫くすると、軍服の男達がやってきた方向から、山高帽みたいな帽子を被りポンチョをまとった二人連れが荷物
を背に積んだ一頭の馬を引きながら、自分たちも背中に結構な荷物を背負ってやってきた。

 男達は道ばたから飛び出すとが銃を構えて二人連れを威嚇した。二人は馬をかばうように馬の左右にたった。何
か言い合っているが声は聞こえない。軍服の男の一人が背の高い方のポンチョ姿の人物に突然発砲した。女の悲鳴
が聞こえてくる。

「追いはぎか?」ロジャーが尋ねる。
「ちょっと様子がちがうな。」ジョーが暫くして答えた。倒れたポンチョ姿に、多分女らしいポンチョ姿の人物が
すがりついている。その女に男たちが何事か詰問しているらしい。ジョーは馬から銃を持ってくると、自分は猟銃
を持ち、ロジャーにには散弾銃を渡した。
「どうするんだ。助けてやるのか。しかし、こんな銃で立ち向かえるのか。」鳥打ち用の小口径散弾銃を持たされた
ロジャーがあきれたように聞く。

「助ける気がなくても巻き込まれてしまえば、降りかかる火の粉は払いのける必要があるさ。それに、もっとこま
しな銃が手に入るしな。」
「おいおい近所に銃砲店でもあるっていうのか。それに降りかかる火の粉ってなんのことだい。」

「ここで何してる。」突然、M1903小銃を持った二人の男が木の陰から出てきた。片方の男の上着は陸軍兵士の軍
服だがズボンは作業着のうえに、二人とも中年で正式の兵士ではないようだ。

995名無しモドキ:2011/12/30(金) 22:49:49
「猟です。」ジョーは猟銃の銃身を右手で持ったまま手をあげた。
「銃をこちらに投げろ。」ズボンが作業着の男が銃をジョーに銃で狙いをつけて言った。

ジョーはロジャーの持っていた散弾銃の銃床を左手で掴んだ。そして、左右の手に持った銃を電光石火の早業で二
人の男に投げつけた。猟銃は銃床で作業着ズボンの男の額を割り、そのまま男は上向きになって昏倒した。散弾銃
の銃床は、もう一人の男のみぞおちにめり込んで男はうずくまるように前に倒れた。

「ちゃんと投げたぜ。」ジョーはつまらなそうに言った。
「どうするこいつら。」倒れた男達の方へ駆け寄りながらロジャーが興奮気味に言う。

「縛っとけ。」ジョーは下の山道の様子を見ながら返事した。
「それでいいのかい?」意外そうにロジャーが言う。
「殺したいのか。」ジョーの言葉にロジャーは大きく頭を左右に振った。

ロジャーは素早く馬に積んでいたロープで男達を縛り上げて、ナイフで短く切ったロープで猿ぐつわをかませた。
「こいつトンだ色男だぜ。でっかい手鏡持ってら。」男を縛りながらロジャーが言う。

「そこのピークの上で見張ってて、下の山道に誰かがきたら、鏡で物騒なお仲間に合図してたんだよ。」
「こらからどうするんだ。」ロジャーが男の持っていたM1903を点検しながら言った。
「そうだな。運試しだな。俺たちと、あの女の。」ジョーは落ちていた散弾銃を拾うとゆっくり狙いをつけた。
「女がこちらの方へ逃げてきたら、判断力があるってことさ。」ジョーは散弾銃を撃った。

 下の山道にいる男達の真ん中に鳥が落ちてきた。男達の注意が鳥に集中した。女は脱兎のごとく斜面をジョーた
ちの方に向かって登りだした。

「ダスティン、女がそっちへ逃げた捕まえろ。抵抗したら撃て。ただし殺すな。」リーダー格らしい男が怒鳴る。
兵士達は女を追いかけてばらばらに斜面を駆け上がってくる。

女が尾根にたどり着く。
「暫く隠れていろ。やばそうだったら逃げろ。」ジョーは女に素早く言う。
最初の男が尾根に到着した。伏せていたジョーはM1903の銃床で男の腹を抉った。二人目の男もそうやって始末
すると、ジョーはM1903をつづけさまに三発発砲した。三人の兵士が肩や腕を打ち抜かれてうずくまる。

「逃げろ。」ロジャーが叫ぶ。男達は一斉に斜面を駆け下りる。撃たれた男達もよろめきながら逃げていく。やが
て、男隊は山道をもときた方向へ走り去った。

「出てこいよ。」ジョーが声をかけた。
小柄な女が茂みから現れた。黒髪、黒い瞳、顔立ちは一見アングロサクソン系だが、小さな鼻や頬の様子からイン
ディアンの血が混じっているようだった。まだ、二十歳そこそこだろう。

996名無しモドキ:2011/12/30(金) 22:50:43
「早く逃げないと、あいつら仲間を呼んでくるわ。いっしょに来て。」女はロジャーの乗っていた馬の手綱を引き
ながら斜面を下っていった。

「おい、オレの馬をどするんだ。話ぐらい聞かせろ。」ロジャーはM1903を持ってあわてて追いかける。
「話は安全な場所に行ってからよ。」女は振り向かずに大声で言った。

 馬を連れたジョーが山道にもどると。ロジャーは女の指示で女と撃たれた同行者を荷物を馬の背に載せていた。
「あんたの馬には仲間を乗せて。」撃たれた同行者は、銀髪で日に焼けた精悍な感じのする五十歳前後の男だった。
女は男の腹に着ていたポンチョを押し当てて男を立たせた。ロジャーが手助けして男を馬に乗せる。

「さあ、行くわよ。」
「どこへ。」
女はロジャーの質問に答えず男を乗せた馬の手綱を慣れた手つきで引いて、山道から更に谷底の方へ馬を引いて下
りだした。

 その後をジョーとロジャーが必死で追いかける。谷底にくると上流に向かって女は小走りで進む。三十分くらい
走ると、木が覆い被さりちょっと見逃すような谷に流れ込む小さな沢に入った。十分ほど走るとまたより小さな沢
に入る。

「ここどこなんだよ。」ロジャーが情けなさそうに呟く。
「ちょっと休みましょう。」女はようやく立ち止まった。
「何処へ行く。」ジョーが低い声で聞いた。

「助けてくれたから私の村に案内する。」女は軽い口調で言った。
「オレにはていのいい護衛のような気がするがな。しかし、早くしないと連れがやばいぜ。」ロジャーがへたばっ
たような口調で言った。

「そうかもね。あの連中は命なんてなんとも思ってなしね。その連中を怒らせるなんてバカよ。」女は年に似合わ
ずさめた口調である。
「口の利き方が大事だな。」ロジャーも追い打ちをかけるように言う。
「あなたバカよ。なんで相手を侮辱するようなこと言うのよ。」女は撃たれて男に傷を確かめながら言った。
「あの連中とやらは山賊かい。」ジョーが馬からM1903を取り出しながら言った。

「そんなものよ。自分達じゃ、民兵とか言ってるけどね。適当な道路で検問所をつくって通行料を取ったり、勝手
に警備料だといって、集落から物資を徴発してるわ。よそ者や難民が通ろうものなら因縁をつけて物を巻き上げる。
スパイだと決めつけて処刑するって連中よ。脱走兵や、この当たりの食い詰め者が徒党を組んでるの。」女ははっ
きりした口調で説明する。

ジョーがM1903を構えた。女は立ち上がって沢の上流を二三分じっと眺めていた。
「大丈夫、仲間よ。でも、よくわかったわね。」女は感心したように言う。
木々が覆い被さり薄暗くなった小さな沢の奥から銃を持って三人の男が現れた。最後尾の男はロバを連れている。

997名無しモドキ:2011/12/30(金) 22:51:30
「クローイ、この連中は?」オーバーオールを着込んだ三十前後の農夫のような男が怪訝そうに聞いた。
「エイプリル峠を越えたところで民兵の一隊に見つかって襲撃されたの。まさかあんな山奥まで出張ってるとは思
いもしなかったのがいけなかったのね。ちょうど居合わせたこの人たちが助けてくれたの。」クローイと呼ばれた
女は相手を動揺させないためか事務的に言った。

「民兵の一隊ってどのくらいいたんだ。」それでもオーバーオールの男は心配気に聞いた。
「三十人くらいかな。」クローイと呼ばれた女が答えた。
「それを二人でか?」後ろの方にいた、まだ二十歳くらいの男が眉唾そうに言った。

「そんなに居なかったぜ。せいぜい二十人だ。」ジョーが返答する。
「バート、ともかく詳しい話は後よ。お客さんが怪我してるから早く運んで。」クローイという女は指示をする。
男達はあたりの木を山刀で切り出すと、女のポンチョと組み合わせて即席の担架を作って、苦しそうに腹を押さえ
ている男を寝かせた。

「あなた達は自分の馬に乗って。でも、悪いけどこれもしてね。」クローイはジョーとロジャーに目隠しをすると
二人を馬に乗せた。
「レックスもグズグズしないで荷物をロバに乗せて。」クローイは命令口調で言った。

 三時間ばかり登ったり降りたりを繰り返して馬は進む。時々、小枝が顔に当たるが避けようがない。途中から小
雨が降ってきて、鳥の声も絶えてしまった。
「今年は雨が多いわね。」ずっと黙っていたクローイが馬の手綱を引きながら初めてしゃべった。

「クローイさん、あんた連れの男が撃たれた時に悲鳴を上げたがあれはわざとだろう。」ジョーが尋ねた。
「何故、そう思うの。」
「連れが撃たれて冷静に見てる女なら、相手は警戒、いや不気味に思って目を離さないだろうからな。」

「いったいどこに行くんだい。目隠しを取ったら地獄の七層目ってことはないよな。」ロジャーが情けない声で言う。
「いいわよ、馬を下りて。目隠しを取って上げる。」馬がようやく歩みを止めるとクローイが言った。

「ヒューーーー、たまげたぜ。」幻想的な風景にロジャーは感嘆した。

 四方を深い山に囲まれて森に覆われたこぢんまりとした盆地。先ほどの雨が上がり、夕日が見事な虹をその上にか
けている。
 深い森の所々に小さな家々が見える。これらの家は四方の山から見れば森に隠されて見えないだろう。
森の隙間の少しばかりの空き地は耕作地として利用されているようだ。お伽の国のような光景である。

「ようこそテラビシアへ」クローイは微笑んで言った。

ロジャーは森の風景をバックにしたクローイの黒髪と白い肌、赤い唇を見て「白雪姫」みたいだなと思った。

998名無しモドキ:2011/12/30(金) 22:52:13
「アステカの星9」 −奇跡の谷− New Shangri-La PART2  Terabithia
1943年5月14日 ヴァージニア・ウエストヴァージニア州境付近アパラチア山脈中のどこか。

「ロジャー、朝飯だ。」ジョーがお盆にクルミとレーズンの渦巻きパンとミルク、エンドウ豆のベーコン添えとい
った料理二人分がのっているテーブルで食事をしている。

「ここは?あ、そうか。嫌な夢を見た。」ロジャーは壁際に置かれた二段ベットの上段からジョーに言った。
「さっき、昨日の男が食事を持ってきた。すぐここの長老が来るそうだから早いとこ食べてしましな。」

 昨夜から、あてがわれている部屋というか、監禁されている部屋は、窓に鉄格子が入っていることと、ここがア
パラチアの山奥ということを差し引けば素晴らしい部屋である。清潔な綿入り枕とシーツのベット、白い壁紙、水
色のカーテン、ちょっと裕福な学生寮の部屋並と言っていいだろう。

 昨夜は食堂のような場所に連れていかれて、ハムエッグや茹ポテトといった食事を振る舞われた後で、二時間ほ
ど別々の部屋で身分素性を尋ねられた。ジョーは聞かれた事には正直に答えた。隠す必要のない時には正直に言っ
ておくことが身のためであると、放浪者の先輩であるロジャーが言っていたからである。尋問が終わると食堂の二階
にある部屋に監禁された。

 ロジャーが部屋に入ってきたのはそれからまた1時間あとだった。ロジャーを尋問したのは昼間、会ったレックス
という男だったが、警察顔負けの尋問だったですっかりくたびれ果てていた。

ロジャーの食事が済むか済まないうちに長老が部屋に入ってきた。
レックスが怖い顔をして拳銃を腰に下げて続いて入ってくる。その後に一見してインディアン系とわかる初老の男、
最後がクローイだった。

「私はここの責任者をしているゴドフリー・ドナファーというジジイだ。みんなは長老と呼んでいるがな。ジョー
にロジャー。そう呼んでかまわんかな。」七十の坂に達そうかという大柄な男が尊大に言う。
「いいぜ。」ジョーは軽く流した。
「それでは、ジョー、ロジャー。孫娘のクローイの危難を救ってくれたことに感謝する。」ドナファーの言い方は
尊大でも真の感謝が感じ取られた。

「なあ、昨夜は色々と聞かれたから少しこっちから聞いてもかまないか。」ジョーがつけ込むように言った。
「どうぞ。」今度はドナファーが軽く受け流す。
「ここは地図にのっているような村じゃないな。」ジョーの質問はいつも簡潔だ。
「そう、のっておらん。我々がテラビシアと呼んでおる人の知らない村だ。」ドナファーは自慢げである。

「ここはアメリカかい?」ロジャーが横から割り込んできた。
「アメリカ合衆国、今もあるとすればだが。その一部には違いない。ここは大不況の時代に行く当てのなくなった
失業者が集まってできた村だ。ここにいるチェロキー族のタヒクパス氏の好意で彼らの聖地の一部に住まわせても
らっておる。タヒクパス氏は本物の長老じゃぞ。」そう言うドナファーの表情は上々である。

999名無しモドキ:2011/12/30(金) 22:52:47
「タヒクパスさん、見返りはなんだい。」ジョーの問にドナファーとタヒクパスが顔を見合わせた。
「いきなりかね。地代を貰っている。ドナファー氏らの援助でアメリカ風の家も建ててもらった。」ドナファーの
顔色を察したタヒクパスは笑顔で言った。

「地代と言っても州政府に納める税金の何分の一だがね。」ドナファーが間髪を入れずに言う。
「去年からは食糧の一部渡しにして貰った。」タヒクパスがドナファーの横顔を見ながら言った。

「税金天国みたいなとこか。しかし、税金を払わないとその恩恵もない。」ジョーはたたみかけるように言う。
「政府に納める税金で何の恩恵があった。」昨日、沢で会いジョー達を尋問した男が吐き捨てるように言った。

「まあ、そういう社会もあるがね。ここは元警官や元消防士、元教師もいれば、元大工だの各種の元職人も、それ
から元コックもいる。それぞれが自分の職業を生かして生活している。それらの技能は全てみんなのために無料で
奉仕するのがここの税金だよ。その対価は村で生産した食糧、衣料だ。ただ、人数がたりないものは・・。例えば
家の棟上げとか、自衛団は義務として共同でしておる。それがここの税金だ。」ドナファーが丁寧に微笑を浮かべ
ながら言った。

「アーミッシュ(プロテスタント系キリスト教徒の一派、機械文明を拒否して移民当時の生活を行う)みたいなも
のか。」ロジャーが少し考えて聞いた。
「いいや、我々の宗教は個人的に自由だ。主義主張でここの暮らしを選択したわけではない。電気も使うさ。ただ
いくつかの発電機が故障で今は公共の建物だけ電気を通しているがね。」
「ランプも嫌いじゃないぜ。」ジョーは壁際のランプを見上げながら言った。

「じゃ、共産主義だ。」すっかり自分の世界に入ってしまったロジャーが唐突に言った。
「それも違うな。我々は私有財産についての制限などしていない。土地も公有ではない。地代を払っているといっ
ただろう。その額に応じて土地の使用面積を決めておる。」ドナファーは心外とばかりに興奮気味に言う。

「この山奥での生活に必要な技能労働をそれぞれが相応の対価で提供しあう村かい。ただ、存在が知られれば税務
署が飛んでくるから絶対秘密の村だ。」ジョーが助け船を出した。
「そうだ。それが的確な答えだ。」ドナファーは落ち着いて答えた。

「ここはアメリカのいかなる公権力が及ばない場所だと理解でいいんだな。」ジョーは念を押すように言う。

「そうだ、テラビシア独自の法に従ってもらう。それができない。あるいは嫌なら君らにはそれ相応の対応を取ら
ねばならない。そんな、ことになればクローイが悲しむだろから是非避けて欲しい。」ドナファーは手を組んで言
った。

「ずばり聞くぜ。ここから出られのか。」ジョーはドナファーの機嫌を見て聞いた。

「暫くここにいてもらう。信用できる人間かどうか判断できるまでは出て行ってもらては困る。」ドナファーの言
葉には刺があった。殺してでも出て行くことは阻止するいうことらしいとジョーは理解した。

1000名無しモドキ:2011/12/30(金) 22:55:33
「大丈夫だぜ。俺たちはここが何処にあるか知らない。」ロジャーが脳天気に言う。
「どこの近くかはわかっているだろう。」今まで黙っていたレックスが大きな声で言う。
「ずっとこの部屋に閉じ込めておくのか。」ジョーがドナファーに向かって聞いた。

「いいや、昼は自由に出歩いてくれ。日が暮れたらここに戻ってくること。夜の間は鍵をかけさせてもらう。それ
に自分の食費は稼いで貰わんとな。」ドナファーの言葉には殺気がなくなっていた。
「おいおい、ここに拘留するのにテメエで食い扶持を稼げかよ。」ロジャーが抗議する。

「畑仕事の手伝いや家の修理なんでもしてくれ。君たちは馬を持っているから仕事はすぐ見つかるだろう。ただ、
孫娘の件があるからここの部屋代はわたしのおごりだ。ついでに一週間分の食事もおごる。」ドナファーは最初の
尊大さを取り戻してきっぱり言った。

この後、しばらく雑談をしてドナファー以下の一行はクローイとレックスを残して引き上げた。

「テラビシアを案内するわ。」クローイは微笑んで言った。
「そうしてくれると助かる。仕事をしろといっても右も左もわからないからな。」ロジャーがジョーとクローイの
間に割り込んできて言った。

「テラビシアって妙な名前だな。インディアンの言葉か。」ジョーが聞いた。
「いいえ、もとはこの当たり一帯はインバって呼ばれる地域だったから、インバ村って名前だったの。でも、わた
しが気まぐれにテラビシアって呼んでたらお祖父さんも気に入って。」クローイが恥ずかしそうに言う。

クローイはさして広くはないが、見通しの悪い村の主要部を二時間ほどかけて案内してくれた。行く先々では、二
人を村人に紹介し、二人にはその村人がしている仕事を説明した。

「さあ、共同食堂に帰ってきたわ。村の人は全員ここで食事を摂るるか、料理を持って帰るのよ。」クローイは最
後にジョー達が押し込められた大きな建物の一階にある食堂の説明をした。昼にはまだ少し早い時間だったが、食
堂の席はすでに四半分ほどは埋まっていた。
「自分の家じゃ、料理を作らないのか?」ロジャーがクローイに聞いた。

「食材を各家に分割して渡すより、まとめて調理した方が無駄が少ないだろう。ここでの生活は、無駄は出来ない
んだよ。」おもしろくないといった顔で、一行の後を歩いていたレックスが言う。

「それじゃ、仕事の希望が決まったら教えてね。」クローイはジョー達二人に手を振った。
「どこに行けば会えるんだい。」ロジャーが名残惜しそうに聞いた。
「何言っての。村を案内したときに、ここがお祖父さんの家って言ったでしょう。そこに住んでいるのに決まって
るでしょう。」クローイーはクスリと笑った。

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