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中・長編SS投稿スレ その2
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「ルメイ閣下。いらっしゃいますか?」
「いるとも。でなければ呼んでいない。」
崩壊した講堂の真ん中から声がした。
カーティス・ルメイ「合衆国海軍臨時作戦本部 臨時作戦参謀代理」は、不機嫌な顔を地面に描かれた10メートルほどの巨大な世界地図に向けながらエンライトを手招きした。
「他の方は?」
「ヴァンデンバーグ閣下はテキサス軍と協同するという名目で西海岸へ飛んでいった。ほかの海軍士官も似たり寄ったりだな。戦艦『モンタナ』艦長という名の老人を除けばもう君しか残っていない。」
昨日のうちに無理にでも逃げ出した方がよかったか、とエンライトは内心舌打ちした。
もともと生き残った海軍士官と予備役の連中を集めて作った作戦本部は、シカゴ市街戦時に大ダメージを受け、現在はサンディエゴの太平洋艦隊司令部が機能を代行しているような状態だった。
ここが今維持されているのも、アクロンの海軍航空隊基地やノーフォークの残留小艦隊、そしていくらかの航空機群を指揮するためでしかない。
だからこそ、陸軍航空隊の指揮官だったヴァンデンバーグ「大将」を本部長に据えていたのだった。
そしてエンライトは、サンディエゴからの連絡士官として飛んできたためにここに留め置かれてしまっていたのだった。
それには――
「君の妻子だが。」
ルメイが口を開いた。
「次の定期便でサンディエゴに送るように手配しておいた。」
「ありがとうございます。」
エンライトは素直に礼を言った。
この元陸軍航空隊の指揮官は、得体のしれないところがあるが、時折こうした優しさを見せることがあると彼は知っていた。
「その代わり。」
語調が強まる。
「君には、潜水艦に乗ってもらいたい。」
「はぁ?」
「ノーフォークに、『ノーチラス』が待っている。君はそれに乗り、命令書の航路を目指してもらう。突貫作業だが、改装は完了済みだ。」
「ちょ・・・ちょっと待ってください!」
「なんだ。」
「『ナーワル』級のノーチラスですか!?改装したとはいえそんな旧式艦で何を――」
「機密だ。計画はロング前大統領の頃から進んでいてな。戦局がここまで至ってしまった今となっては、これを実行するしかないのだ。」
ルメイは、暗い笑みを浮かべた。
「君の細君が乗る飛行機のガソリンだって、この計画のために用意されていたものなのだぞ。君は、従う責任と義務があることを忘れるな。」
――1943年4月6日 北米東部軍管区 ノーフォーク軍港
B−17は、そのまま引き返して行った。
鼻をつく悪臭の中、エンライトは顔をしかめた。
滑走路の傍に積み上げられていたのは、大量の瓦礫に加え、おびただしい数の死体だった。
焼却しようとしたらしく黒こげになってはいるが、燃料不足のためかハエや野犬が群がるままになっている。
周囲は見渡す限り無人である。
あの津波が持ってきたらしいヘドロや何やかやが堆積し、かわりにこの町のあらゆるものを持ち去ってしまったためだった。
機内で聞いた説明でも、ここには海軍関係者が500名ほど残っているだけだということだった。
ほかは、皆が押し流されるか寒さで凍え死ぬか、あるいはアパラチア山脈を越えたのだ。
合衆国海軍大西洋艦隊という名の存在は、もはやない。
津波の難を逃れた残存艦はすでに本土決戦準備の一環としてサンディエゴに移動しており、ここには辛うじて哨戒艇数隻と潜水艦が2隻ほどいると聞いている。
書類上は戦艦「モンタナ」が就役しているが、ドック内に巨大な砲塔を据え、半分だけ艦橋構造物が作られた戦艦として鎮座する以外は何もできない。
かつて世界第2の巨大海軍として大西洋を威圧していた合衆国海軍のなれの果ては、このざまだった。
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