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仮投下スレ

1名無しさん:2015/07/15(水) 00:22:03 ID:YFA/rTa20
作品の仮投下はこのスレでお願いします

725 ◆WqZH3L6gH6:2016/08/01(月) 06:54:33 ID:Ac9S5Cso0
仮投下します。

726ろうたけたる ◆WqZH3L6gH6:2016/08/01(月) 06:55:05 ID:Ac9S5Cso0
拾い上げると、それはサングラスをかけた中年男の魂が封じられた白カードであった。


「……桂さん」
「ああ……」


足早に南方を目指していた桂小太郎とコロナ・ティミルが橋を渡ろうとした際。
水面に浮かぶ光るものを発見したのはつい先程。
それは長谷川泰三の白カード。
桂と親交があり、コロナも桂から話に聞いた男。
1回目の放送に名を呼ばれ彼の死を受け入れているが、
いざ死の事実を目の当たりにすると、度合いは異なれど2人ともやるせない気分に陥らざるを得ない。



「どうしますか?」


コロナの問いを聴きながら、桂は周囲を見渡すが長谷川の遺体は容易に見つけられそうにない。


「先に急ごう」


桂は一先ず捜索を諦めると、カードを懐に仕舞いコロナを促した。
淀んだ気持ちを少しずつ吐き出すかのように、両者は南西の島へ繋がる橋へと走って向かった。



「……カードの絵って固定されているんですかね?」
「……証明写真のように至極普通に写っているから、そうだろう」


白カードは死亡者それぞれの感情をまったく写さない。
参加者の誰々が死んだという証にしかなり得ないように思えた。
実際は各地に点在するパソコンを使えば情報を得られるが2人には知る由もない。


「友奈さんと犬吠埼さんのカードも拾えばよかったですかね……」
「……」

結城友奈と犬吠埼姉妹のカードはそれぞれの遺体の下に置いてきている。
2人は無言になり、並走を続け橋を渡る。
空は赤く染まり始めていた。

727ろうたけたるおもい ◆WqZH3L6gH6:2016/08/01(月) 06:56:16 ID:Ac9S5Cso0
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「どうしたんですか桂さん」

コロナは息を切らせながら問いかけた。
桂は黒カードを変化させたスマートフォン素早く効率よく操作している。
それは斃れた勇者の遺品であるスマートフォンだった。
いま2人がいる場はE-4南西のある民家。
桂の提案で休息を取る事にコロナも異論はなかった。
放送ギリギリで目的地に着くのは避けたかったから。
好奇心もあり彼女は桂が操作するスマートフォンを覗き込た。
彼の慣れた手つきに軽く感動を覚えながら、コロナはある一文を見て声を上げる。


M:『東郷美森は犬吠埼樹を殺害した』


「それは……」
「……騙りかも知れん」


友奈を単独行動へと駆り立てたチャットの一文。
桂も樹の事は聞いているが、あえてそれのみに囚われず、他の記録をチェックしていく。


D:『犬吠埼樹を殺したのはホル・ホース』


「あれ?」
「順番通りならMの後に送信された文だが……」


桂は表情を変えず思考する。


「今は置いておこう。コロナ殿、三番目の文に心当たりはないか?」
「……はい。覇王はアインハルトさんだと思います」
「単純に捉えるとRはアインハルト殿の協力者と言う事になるな」
「せめて発信者が誰か解ればいいんですが」
「姓か名の頭文字か、あるいは本名か……うむ」
「?」

桂はコロナに顔を向け、スマホを手渡した。


「コロナ殿、発信して確認を取ってくれ」
「え、桂さんの方が」
「いや、もし俺の名からだと確認が取りづらい。下手すれば二つ名でさえ同じになってしまう」
「……解りました、やってみますね」

728ろうたけたるおもい ◆WqZH3L6gH6:2016/08/01(月) 06:57:10 ID:Ac9S5Cso0
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チャットに書き込みして30分が経った。
新しい書き込みはまだない。


「コロナ殿、このゲームに見覚えは無いか?」
「ウィクロスっていうんですか。ないです」

コロナはスマホの画面に映るカードゲームを見て答える。
まったく心当たりがない。


「そうか……どうしたものか」
「そのゲームが何か?」
「ゲームはこれだけなんだ」
「?。桂さん、遊びたい訳じゃないですよね?」
「……まあそうだが。ゲームを入れるにしてももっと知名度の高いのを入れるべきではと思うのだが」
「……現実逃避でゲームにする人はいてもおかしくないとは思いますが……。そう言えば」

疑問に思うコロナ。桂はスマホを操作しWIXOSSのゲームの説明を読み、プレイ画面へと進める。
そしてゲームスタートとは別の項目をクリックした。

「ん。ランキングがあるだと?」
「え」

ランキングは得点が表示されるものではなく、どれだけ運営が用意した対戦相手を倒せたかが表示されるものだった。


「……7人か」
「プレイする人が本当にいるなんて」
「名無しか……特定できんな」


桂は先のゲームプレイヤーの推理を諦めつつも更に操作を続ける。
やがて画面にプレイヤーキャラにあたるルリグの姿が現れた。
桂は質問するかのように顔をコロナへ向けたが、彼女も首を振って否定。
ルリグの姿は頭にターバンを巻いた、肌の色がダークグレーの、白のレオタードのような衣装を着た少女だった。
それは桂達は知る由もないが、数時間前勇者の力を行使したウリスに似ていた。


「この子がクロ……」
「……何かあるな」
「参加者でこの子を……このゲームを知ってる人はいるんでしょうか……」
「いたら手がかりになりそうではあるが」


もし2人が勇者の姿を見ていなければ、注目まではしなかっただろう。
興味を引いた理由の1つはクロの雰囲気が勇者か、あるいは少々繭に通じる幻想的なものがあったからだ。
桂の指が震えた。

「…………」
「桂さん」


コロナはプレイをさせないように咎めるように言った。
だがその口調はゲームセンター行きを止めた時のように強くない。

729ろうたけたるおもい ◆WqZH3L6gH6:2016/08/01(月) 06:58:11 ID:Ac9S5Cso0

戦闘者の役割を忘れていない桂の姿を見て、コロナは思わず視線を落とした。
時間にして18時間未満経過。DIOらとの戦いに敗走を余儀なくされた上に、これまで協力者や仲間も少なからず喪っている。
にも関わらず主催打倒に繋がる情報は現状何一つ得られていない。
今のままではゲームに翻弄され、流されているだけだとコロナは実感した。
アプリWIXOSS。クリアしても殺し合いの打開にはならないだろうが、少々なりとも興味を出せるものをここに来て発見したとなれば。


「わかりました桂さん。もう止めません」
「そうか」


桂は柔らかさを感じる声を上げ、画面を切り替えた。
コロナはそのままプレイをすると思っていただけに少々呆気にとられた。
けど続ける。


「桂さん」
「?」
「後で皐月さん達にそのこと伝えましょうね。他の人にもですけど」
「む」
「こんな状況でゲームを勧めるなんて、普通は不真面目に見られちゃいますから」


----------------------------------------------------------------------------------------

放送まで1時間を切った。
2人はスマホの機能は大体チェックした。
もっとも肝心な機能のも、今。
実体を伴わない花弁が舞う。
緑色の桜の花びらと、どの花とも判別できぬものと。


勇者スマホの力を行使した桂は羽織を着用していた。
その羽織は勇者の戦闘服に酷似している。
それ以外は先程までの服装と容姿のまま。


勇者スマホの力を行使したコロナは、友奈の勇者服と同じデザインのものを着用していた。
ただその色彩はコロナのバトルジャケットと同じ紺色を中心としたものだった。
容姿は髪の色以外に違いはない。その色はアインハルト・ストラトスと同じ緑がかったもの。



「友奈さんの口ぶりだと他の人は変身できなさそうだったのに……」
「……」


戸惑うコロナと若干厳し目の表情をする桂。
黒カードの裏の説明文を見て、疑問に思った2人が試しにと使ってみた結果がこれだ。
コロナは掌を開いては握りを繰りかえす。
2人の感想は多少の違いはあれど共通していた。
未知の力が自らの肉体を増強させていると。


「…………桂さん」
「どうした」
「ちょっと手合わせ願えませんか?」

730ろうたけたるおもい ◆WqZH3L6gH6:2016/08/01(月) 06:58:48 ID:Ac9S5Cso0
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2人は走る。先程とは明確に早い速度で。


「魔法は強化されない?」
「ええ、他の能力はかなり強化されてはいるんですが……」


申し訳無さそうにコロナ。
桂はコロナのいう魔法や魔力をあまり理解はできないというか、しきる事はできない。
だが彼女が得意とする技術は勇者の力と同時に扱うのは困難なのは手合わせしたからか理解はできた。


「DIOのような相手と戦っても単独では……」
「僅かな隙を狙われては、か」
「……アインハルトさんならもっと上手く扱えると思うんですが」
「強いんだな」
「……はいっ」


桂のその言葉は自分とアインハルトに向けられたもののように聞こえた。


「……ところで桂さん、神威と針目縫と、あとアザゼルって人と交渉するって本気ですか?」
「奴も、皐月殿から聞いた針目縫も、多分アザゼルという男も性格的に主催に反感を持つのは予想できる」
「だけど……」
「それ以上、殺し合いを加速させるつもりはない」
「それは分かるんですけど」


コロナからしてもこれだけゲームが進行しているだけに足止めの意味でも、
対主催戦の準備という意味でも、あえて敵対戦力と部分的に協力するという行動は否定できない。
だが、神威とアザゼルはまだしも針目縫と交渉となると不安が強かった。
コロナも皐月から針目縫に関して情報を聞いている。
会話は可能だが、交渉は無理な性分だと。
アザゼルに至ってはもっと情報が少ない。

勇者の力はコロナ同様に桂の身体能力も強化できている。
だが、その強化はコロナのと比べて明らかに見劣りするもの。
コロナから見て単独で神威やDIOと戦っても勝ち目はないと思えたし、桂も否定はしていない。
彼女の心は不安で占められていた。


「……なに。直接面前に出て会話しようとは思わん」
「え?それなら、いいんですが……」
「それも皐月殿と、放送後に連絡してからのつもりだ」
「解りました」


一先ずコロナは安心した。



「まあこの力、移動には便利だろう」
「……ですね」

たなびく桂の長髪を見ながら、ようやくコロナは笑った。

731ろうたけたるおもい ◆WqZH3L6gH6:2016/08/01(月) 07:00:26 ID:Ac9S5Cso0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

【F-7/万事屋銀ちゃん付近/一日目・夕方】

【桂小太郎@銀魂】
[状態]:胴体にダメージ(小) 、勇者に変身して移動中
[服装]:いつも通りの袴姿
[装備]:風or樹のスマートフォン@結城友奈は勇者である
    晴嵐@魔法少女リリカルなのはVivid 、
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(17/20)、青カード(17/20)
    黒カード:鎖分銅@ラブライブ!、鎮痛剤(錠剤。残り10分の9)、抗生物質(軟膏。残り10分の9)
    長谷川泰三の白カード
[思考・行動]
基本方針:繭を倒し、殺し合いを終結させる
1:万事屋へと向かう。
2:コロナと行動。まずは彼女の友人を探し、できれば神楽と合流したい。
3:神威、並びに殺し合いに乗った参加者や危険人物へはその都度適切な対処をしていく。
  殺し合いの進行がなされないと判断できれば交渉も視野に入れる。用心はする。
4:スマホアプリWIXOSSのゲームをクリアできる人材、及びWIXOSSについての(主にクロ)情報を入手したい。
5:金髪の女(セイバー)に警戒
[備考]
※【キルラキル】【ラブライブ!】【魔法少女リリカルなのはVivid】【のんのんびより】【結城友奈は勇者である】の世界観について知りました
※ジャンヌの知り合いの名前とアザゼルが危険なことを覚えました。
※金髪の女(セイバー)とDIOが同盟を結んだ可能性について考察しました。
※勇者に変身した場合は風か樹の勇者服を模した羽織を着用します。他に外見に変化はありません。
 変身の際の花弁は不定形です。強化の度合いはコロナと比べ低めです。


【コロナ・ティミル@魔法少女リリカルなのはVivid】
[状態]:胴体にダメージ(小) 、勇者に変身して移動中
[服装]:制服
[装備]:友奈のスマートフォン@結城友奈は勇者である
    ブランゼル@魔法少女リリカルなのはVivid 、
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(16/20)、青カード(17/20)
     黒カード:トランシーバー(B)@現実
[思考・行動]
基本方針:殺し合いを終わらせたい。
1:みんなの知り合いの話をしたい。
2:桂さんと行動。アインハルトさんを探す
3:桂さんのフォローをする
4:金髪の女の人(セイバー)へ警戒
[備考]
※参戦時期は少なくともアインハルト戦終了以後です。
※【キルラキル】【ラブライブ!】【魔法少女リリカルなのはVivid】【のんのんびより】【結城友奈は勇者である】の世界観について知りました
※ジャンヌの知り合いの名前とアザゼルが危険なことを覚えました。
※金髪の女(セイバー)とDIOが同盟を結んだ可能性について考察しました。
※勇者に変身した場合は友奈の勇者服が紺色に変化したものを着用します。
 髪の色と変身の際の桜の花弁が薄緑に変化します。魔力と魔法技術は強化されません。


[全体備考]
※結城友奈、犬吠崎風の死体の周辺に散らばっていた黒カードは回収されました。
桂及び皐月・れんげの所持するスマホが風か樹のどちらであるかは次以降の書き手に任せます。
※勇者スマホにアプリゲームWIXOSSがインストールされています。内容は折原臨也のスマホのと同一です。
※桂とコロナが少しばかり模擬戦をしました。
※友奈か風か樹のスマホでチャットに書き込みをしました。
 内容は次回以降の書き手さんにお任せします。

732 ◆WqZH3L6gH6:2016/08/01(月) 07:03:04 ID:Ac9S5Cso0
仮投下終了です。
チャットの書き込みは丸投げなので、まずかったら今晩追記します。
タイトルはおもいが付いている方です。
問題点や疑問点がありましたら、ご指摘をお願いします。

733名無しさん:2016/08/01(月) 17:57:55 ID:qMgSr6kc0
仮投下乙です
勇者ヅラと勇者コロナで戦力は大幅にアップしたけど、肝心の散華を把握出来てないのは怖いなぁ
友奈が黙ってたのがここで響いてくるとは…
チャットについては個人的に問題はないかと思います

一つ指摘ですが、>>727で「いま2人がいる場はE-4南西のある民家」とありますが、C-6からF-7を目指してる桂達がE-4にいるにはあり得ないかと思います

734 ◆WqZH3L6gH6:2016/08/01(月) 23:17:21 ID:Ac9S5Cso0
>>733
感想とご指摘ありがとうございます。
E-4をE-7に訂正して本投下します。

735 ◆WqZH3L6gH6:2016/08/01(月) 23:34:21 ID:Ac9S5Cso0
投下しました。
仮投下の際、ヅラの方針4を裏付ける文が抜けていたので、本スレの>>667に投下しました。

736管理人:2016/08/04(木) 23:47:55 ID:???0
■第三回放送案募集テンプレ

アニメキャラ・バトルロワイヤル4thの第三回放送案(リレーSS)を募集します。
以下をよく読んだ上で第三回放送案を仮投下スレで投稿してください。
他の人の投下に割り込まないように気をつけて下さい。
後に修正要求される可能性があるのでトリップをつける事をお勧めします。

今回は死亡者と3エリア分の禁止エリアの発表を行います。

放送案の内容に企画の進行に問題がある内容の場合は修正要求されます。
問題の度合いによっては修正要求の前に破棄になる可能性もあります。
もし修正作業が修正期間までに間に合わないと本編投稿作品も含めて自動的に破棄になるのでご注意下さい。


【募集期間】08/05(金)00:00〜08/18(木)23:59の14日間。
      修正期間は08/19(金)00:00〜08/20(土)23:59までの2日間の予定です。
      募集作品と本編投稿作品の修正の有無によっては修正期間無しとし、前倒しで投票を行う可能性があります。
      修正期日の翌日の00:00から23:59に投票を行います。
      投票で1位になった作品がアニメキャラ・バトルロワイヤル4thの第三回放送SSとして採用されます。

      募集期間中の放送前のパートの予約投下は08/05(金)00:00〜08/11(木)23:59まで可能です。
      修正は二日間までです。
      
      
     
※補足
第三回放送話は参加者残り24名という事もあり終盤一歩手前、
とはいえクライマックスにはまだちょっと遠いというという後半ながらやや不明瞭な局面です。
主催サイドの新キャラを出すのは構いませんが、現在のゲーム・参加者達の状況をよく把握した上で
今後の進行の阻害になりうる扱いに困るキャラ、設定等を出してしまわないようご注意下さい。

放送前の本編パートの投稿も内容次第では放送案投稿の支障になってしまう恐れがあるので、慎重にお願いします。

737 ◆WqZH3L6gH6:2016/08/18(木) 23:40:54 ID:fIO4wV760
放送案を投下します。

738第三回放送 ◆WqZH3L6gH6:2016/08/18(木) 23:41:25 ID:fIO4wV760
白い部屋と多数の大きな窓に覆われた部屋。
朧気な少女――繭は頭上にある巨大な時計を見上げていた。
午後5時58分。舞台となる会場の上空の陽は殆ど落ちており、夕日は端っこで消えかけの炎のようになっている。
陽光に弱い人外も外出が可能だろう。
そして繭が主軸となり回っているゲームはいよいよ佳境に入った。
今しがた一人が命を落とし、場合によっては5名以上の死者を出すであろう集団戦が部隊の南方で起こっている。
楽しみだ。懸念は定時放送中に決着が着いてしまう場合くらいであろう。
繭はためらわず、放送を開始した。


『今晩は。三回目の定時放送の時間よ
 忙しい方もいるでしょうけど、最低でも名簿と禁止エリアの確認はしておいた方がいいわよ。
 繭、つまらない結末は見たくはないもの。
 まずは禁止エリアの発表よ』


【B-7】
【C-3】
【G-7】



『午後9時になったら、今言ったエリアは禁止エリアになるわ。
 エリア内に留まっている子は時間までに離れなさい。
 それから、自分の支給品確認や禁止エリア予定地を調べてみるのもいいかもね。
 それじゃあ次は死んでしまった参加者の発表を始めるわよ』


【衛宮切嗣】
【東郷美森】
【リタ】
【結城友奈】
【犬吠埼風】
【アインハルト・ストラトス】
【ジャック・ハンマー】
【神楽】
【本部以蔵】
【ファバロ・レオーネ】
【坂田銀時】
【ホル・ホース】
【宇治松千夜】
【東條希】
【香風智乃】

739第三回放送 ◆WqZH3L6gH6:2016/08/18(木) 23:42:18 ID:fIO4wV760


『全部で15人よ。残り24人。
 ふふ……ここまでやる気があるなんて驚いたわ。今夜中に決着がつきそう。
 でもね、決着がいつになるにしても優勝した子にはご褒美を上げるから心配しないで。
 次は正子――午前0時に放送を始めるわ』




放送が終わった。


「……」


繭は一息をつくと、椅子状になった窪みに腰を下ろし考える。
放送数分前に協力者の一人から忠告された繭自らによる白カードの確認と黒カードの確認。
繭は遅くとも優勝者が決まる瞬間までに、カードに封じられた参加者の魂を手元に集めなければならない。
でなければゲーム終了後、予定していた取っておきの遊びができなくなる。それではつまらない。
黒カードに関しては自分の力がちゃんと支給品に影響を及ぼしているかの確認である。
ひとつ妙な動きをしているのがいる。所持者が死んだこともあり放っておこうかと思ったが。
枷を外す所謂、意思持ち支給品が増えても難儀だ。
密かに手を打つか、もしくは臨時放送でもするか。もしくは……。


「……まあ、9時を回ってからでいいわよね」


繭は歩く。協力者たち、ヒース・オスロとテュポーンらの元へ。



「クロがそののままで、シロもシロのままでいてくれればよかったのだけど……」



足取りは重い。まだ身体は健全とまではいかないようだ。
でもヒースらの協力があってこその肉体。このまま時間が経てば……。
そう奮い立たせ、繭は未練を打ち切り、さらにそれを強調するかのように呟く。


「あのシロはタマ、クロはユキ……。
 わたしの知るシロとクロじゃないもの。
 ねえ……もうひとりの繭……。あなたはいまどうしてるの?
 わたしはね、呪いながらしあわせになるの。
 シロとクロが消えてしまった代わりに動けるようになった、このわたしで。
 バハムートといっしょに」

740 ◆WqZH3L6gH6:2016/08/18(木) 23:42:58 ID:fIO4wV760
放送案投下終了です。
タイトルは明日までに。

741第3回放送  ◆DGGi/wycYo:2016/08/19(金) 00:00:06 ID:l6AyPUO.0
「…………」

白い部屋。
男は静かに、グラスに注いだワインを口にする。

「随分と早いペースだ」
「…………」

少女は苦虫を噛み潰したような顔を浮かべ、そっぽを向いている。

「開いていた71の窓は、今や24まで減った。それに……」

男――ヒース・オスロは、個人的に目をかけている見知った参加者――風見雄二の窓を注視する。
あくまで目をかけているだけだ。特に優遇しているわけではないが、彼が今置かれている状況は――

「いや、君には関係のない話だったね」
「…………」

「この世の中は3割の悪意、1割の善意、6割の偽善で出来ている。そして、偽善は簡単に悪に変わる」
「……何が言いたいの?」

ようやく少女――繭がその口を開く。

「君は私を信用していないんだろう?」

繭は再び、その口を閉ざす。

「まあいい。さて、そろそろ時間だ」

オスロは読み上げる内容を大雑把にまとめた紙を手渡し、繭はそれを引っ手繰るように受け取る。

そして、窓の向こうへと言葉を投げかけた。





『――午後六時、三回目の放送よ。まずは次に禁止エリアになる場所の発表からいきましょう』






『午後九時を過ぎたら、何度も言うけれどそこには入れないわ。死ぬつもりなら知らない。次は脱落者の発表よ』



【衛宮切嗣】
【東郷美森】
【リタ】
【結城友奈】
【犬吠埼風】
【アインハルト・ストラトス】
【ジャック・ハンマー】
【神楽】
【本部以蔵】
【ファバロ・レオーネ】
【坂田銀時】
【ホル・ホース】
【宇治松千夜】
【東條希】
【香風智乃】


『――全部で15人、残りは24人よ。次はまた6時間後、深夜0時。今度は私の声を聞ける人は何人かしら、検討を祈るわ』






「随分と手短だったじゃないか」
「あなたには関係のないことでしょう」

二人は対峙する。もっとも、オスロの傍にはもう一人、白髪の青年が立っているが。


(しかし……目を付けられるのが思いのほか早かったようだ)

オスロが思い出すのは、数時間前に掛かってきた一本の電話。

「安心したまえ、君の目的は果たされる」

少しばかりの挑発を含んだ声。
それに対し、繭も口を開く。


「――――――」

742第3回放送  ◆DGGi/wycYo:2016/08/19(金) 00:01:14 ID:l6AyPUO.0
時間オーバーしてましたね。
もし通るのでしたら修正版で禁止エリアの追記をします。ダメでしたら破棄します。

743名無しさん:2016/08/19(金) 00:13:05 ID:WF1wRqz.0
お二人共投下乙です

◆DGGi/wycYo氏の投下については、ほんのわずかですが募集期限を超過しているので通しというのは難しいと思います

744 ◆WqZH3L6gH6:2016/08/19(金) 23:58:16 ID:Rb.Xymeg0
第三回放送案のタイトルは修正前と後も変わらずタイトルは
『第三回放送 -あの思いは漂着-』です。
明日に修正版をここで投下させていただきます。

745 ◆WqZH3L6gH6:2016/08/20(土) 17:22:23 ID:TNaq16Tg0
修正版投下します。

746第三回放送 -あの思いは漂着- ◆WqZH3L6gH6:2016/08/20(土) 17:24:24 ID:TNaq16Tg0

朧気な少女――繭は素足のまま白き砦の中を歩き、時折口元に笑みを浮かべながら思い出し考える。
彼女の殺し合いの第一回放送より少し前、第二回放送より少し前と同じく死んでいった参加者の事を考える。


魔術師殺しは愚かだった。
参加者の中でも最強格の怪物相手にあれだけ渡り合える底力がありながら、
自らの悪謀に足元を掬われ、情けない痕跡を残すのみの最期を遂げたのだから。
その上、優秀な支給品に分類されるWIXOSSルリグデッキ『ブルーリクエスト』を
自らの好悪から持て余してしまうとは。
ルリグに与えた力に興味を持ち、どう立ち回るか少々注目していただけに拍子抜けだ。
正義の暗示を持つルリグを引き当ててあれだとは。あの願いを持っていて……嗤う。


車椅子の勇者は油断が過ぎた。
想定した通りの動きを見せ、途中までプレイヤーとして期待以上の働きを見せていたのにも関わらず
一度の油断から力を奪われ、強奪者に対しまともな抵抗もできないまま、セレクターに引き摺られ、呆気ない最期を向かえたのだから。
もし優勝に積極的なプレイヤーらしく、黒カードをよく確認しカード裏の説明の意味を理解できていれば、
もう少し有利に動けただろうに。
とはいえ彼女はよかった。特に力を奪われてからの焦りはこちらにも伝わり、心に響いた。
今際に銀の勇者に対し何も言い残さなかったのはちょっと不満だったけれど。


ゾンビの魔法少女は不運だった。
同行者に恵まれず、同行者を全て喪った後に親愛の情を抱いていた騎士の躯を見つけてしまったのだから。
彼女も焦りに支配されず所持カードを念入りに調べていれば、あの最期は回避できていたに違いない。
とはいえ、どこか達観していてつまらなそうだった彼女が必死になる様はそれはそれで良かった。
それに彼女の体質は一参加者として見たら懸念があっただけに、不具合が生じ参加者にそれを見られる事がなかったのは
こちらにとっては少しばかり幸いだった。


桃色の勇者は無力なはずだった。
彼女は優秀なプレイヤーとなった二勇者とは逆の、無能なゲーム破壊希望者として想定していた通りの動きを見せ、
こちらはおろか、プレイヤーに対してもほとんどダメージを与えることなく、何も成せずに死んだと思えた。
なのにどういう訳か、優秀なプレイヤーのひとりを自死に追いやる影響を与えていたとは。
彼女の本意ではないにしろ、残った黒カードの行方を考えればこちらにとっては望まない結末だった。
それにあの戦いはどこか違和感を感じた。調べる必要があるかも知れない。


元隻眼の勇者、魔王ゴールデンウインドはサプライズの塊だった。
彼女は車椅子の勇者と違って、当初は積極的なプレイヤーになるのは期待していなかった。
だけどいざ蓋を開けてみればプレイヤーとなってからの働きはこちらの予想をはるかに超えたもの。
彼女の妹の死の影響は実にこちらに有利に働いていてくれている。
悪魔化の薬を入手していた事も含めてサプライズの連続。
大半の参加者とは別の意味で有意義な存在であった。
桃色の勇者を殺した直後自ら命を絶った事を除いてだが。


覇王はちょっと力の強い反ゲーム派の一人として、ただ殺されて終わると思っていた。
武術家にも関わらず彼女の嘆き、苦悩は大半のセレクターと同質のもの。
意外ではあったが、それだけに嫌いでは決してなかった。
最初の放送で暴走したのもプラス材料。今頃いいカードになっているだろう。

747第三回放送 -あの思いは漂着- ◆WqZH3L6gH6:2016/08/20(土) 17:25:17 ID:TNaq16Tg0
ピットファイターも不運であった。
支給品に恵まれず、目標を早々に喪った影響がマイナスに働いていたのは、早くに伝わっていたから。
にも関わらず彼はゲーム進行によく貢献してくれた。彼もまた良かった。


夜兎の少女は面白くない意味で滑稽だった。
兄と和解できたと勘違いして満足気に逝ったのだから。
友人の死を知る事がなかった事もあり、面白みのある参加者ではなかった。


柔術家は最後まで道化だった。
修業によってついたらしい過剰な自信が徐々に確実に崩される様は、セレクターの苦悩を見ているのと同様にこちらから見て痛快なもの。
ただ、予想外の動きをした時は面白くなく、素直に良いと思える参加者ではなかった。


アフロ男は拙速に過ぎた。
あの緑のルリグの急かしに完全に流されなければ、あんな最期は避けられたのに。
追跡するにしてもゾンビの少女の遺品くらいは回収すると思っていたのに。
賢い男だと思えていたけれど、結局は初見通りのばかだったのだろう。


白夜叉と皇帝のスタンド使いは力尽き、斃れただけ。
彼らの行動と感情は最初から最後まで、出した結果を含めてもこちらを楽しませる類のものでは決してなかった。
殺し合いではなく、ただの人間観察として見れば人によっては面白かっただろうけど。
どの道、死んだ今これ以上思いを馳せることはない。できれば忘れていたい男達。


甘味屋の弱い方は命を無駄に捨てた。
あれだけあの柔術家が身も心も削って守ろうとしていたのに。
でもあそこで死んでくれたのはこちらにとって好都合。
反ゲーム派の回復役が一人いなくなってくれたのだから。
イレギュラーのセイクリッド・ハートに対し調査できる余地も生まれた。


あのアイドル巫女も不運だった。死ななかったら反ゲーム派内に混乱が広がっていたのに。
彼女は非力だったけどこちらにとって非常に都合のいいプレイヤーだった。最後の最後まで。
友達を見殺しにした時開き直れば良かったのに、実に残念。


「ふふ」


死んだ参加者を一通りに思い出した繭は上機嫌で目的の部屋に向かう。


「……」


今、繭の心に湧き出る感情は他者の不幸を喜ぶ愉悦ばかりではない。
愉悦とは真逆の特定の参加者に対する不快な感情も
そして彼女もよく分からない得体の知れない感情もあった。
だが、それらは繭の喜びを上回るものではない。
故に繭はこのゲームを止めるつもりはない。
憂さ晴らしをし、生を謳歌できるようにする為に。

748第三回放送 -あの思いは漂着- ◆WqZH3L6gH6:2016/08/20(土) 17:27:06 ID:TNaq16Tg0

繭は顔を少し上げた。視線の先は開いた窓一つ。
彼女は立ち止まる。ゲームの一場面を鑑賞する為に。



「あら?」


その声は驚きと興味に彩られていて。

-------------------------------------------------------------------------------------------------



白い部屋と多数の大きな窓に覆われた部屋。
朧気な少女――繭は頭上に浮かぶ巨大な時計を見上げていた。
午後5時59分。舞台となる会場の上空の陽は殆ど落ちており、夕日は端っこで消えかけの炎のようになっている。
陽光に弱い人外どももこれなら外出が可能だろう。
そして繭が主軸となり回っているゲームはいよいよ佳境に入った。
今しがた一人が命を落とし、場合によっては5名以上の死者を出すであろう集団戦が舞台の南方で起ころうとしている。
楽しみだ。懸念は定時放送中に決着が着いてしまう場合くらいであろう。
繭の口端がわずかにつり上がっていた。


「……」


うさぎ小屋の少女は迂闊だった。
もっともあの場で殺されなくても、あの不安定な状態だとそう遠くない時期に命を落としていただろう。
協力者いわく元より最弱クラスの参加者。生きていても死んでいても大して影響はなかったと思える。
毒にも薬にもなれなかった、そんなちょっと面白い程度の参加者だったなと繭は位置づけた。

繭は放送を開始した。


『今晩は。三回目の定時放送の時間よ
 忙しい子もいるでしょうけど、最低でも名簿と禁止エリアの確認はしておいた方がいいわよ。
 繭、つまらない結末は見たくはないもの。
 まずは禁止エリアの発表よ』


【B-7】
【C-3】
【G-7】


『午後9時になったら、今言ったエリアは禁止エリアになるわ。
 エリア内に留まっている子は時間までに離れなさい。
 それから、自分の支給品確認はきちんとやっておいた方がいいわよ。
 あと時間が来るまでに禁止エリア予定地を調べてみるのもいいかもね。
 思わぬ所で得るものがあるかも知れないのだから。
 これは繭からのアドバイスよ。
 次は死んでしまった参加者の発表を始めるわよ』

749第三回放送 -あの思いは漂着- ◆WqZH3L6gH6:2016/08/20(土) 17:28:29 ID:TNaq16Tg0
【衛宮切嗣】
【東郷美森】
【リタ】
【結城友奈】
【犬吠埼風】
【アインハルト・ストラトス】
【ジャック・ハンマー】
【神楽】
【本部以蔵】
【ファバロ・レオーネ】
【坂田銀時】
【ホル・ホース】
【宇治松千夜】
【東條希】
【香風智乃】


『全部で15人よ、15人。残り24人。
 ふふ……ここまでやる気があるなんて驚いたわ。今夜中にも決着がつきそうよね。
 でもね、もし長引いて決着がタイムリミット寸前になったとしても、優勝した子にはご褒美を上げるから心配しないで。
 次は正子――午前0時に放送を始めるわ。また放送が聞けるといいわね』




放送が終わった。


「……」


繭は一息をつくと、椅子状になった窪みに腰を下ろし考える。
放送一時間前に協力者の一人から提案された繭自らによる黒カードの確認と白カードの確認。
繭は遅くとも優勝者が決まる瞬間までに、カードに封じられた参加者の魂を手元に集めなければならない。
でなければゲーム終了後、予定していた取っておきの遊びができなくなる。それではつまらない。

黒カードに関しては自分の力がちゃんと支給品に影響を及ぼしているかの確認である。
黒カードは参加者の枷である腕輪と白カードと比べて、仕様上及んでいる力は少ない。
だが、それでも強弱に関係なく意思持ち支給品の自由を奪う事には成功している。
ただひとつ、高町ヴィヴィオの支給品でパートナーであったセイクリッドハートを除いて。

繭は参加者の意思と力が及ばない範囲での支給品の自律行動はできないようにしている。
なのにあのデバイスは単独で助けを呼び、つかの間だが宇治松千夜の救命に成功していた。
千夜がどう転ぶか解らなかった事もあり、これまであえて介入はしなかったが。
さらに枷を外す意思持ち支給品が出てくるか解らない今、参加者への干渉を極力避けつつ
何とか原因を調査する必要があるだろう。
能力制限が解除されると厄介な支給品もある。


そして腕輪と白カード。
腕輪については第一回放送前にある懸念が生じたが、今は放置していいだろう。
あれから何の変化もない。

750第三回放送 -あの思いは漂着- ◆WqZH3L6gH6:2016/08/20(土) 17:30:01 ID:TNaq16Tg0

白カードについて気がかりが2つある。
1つは開始時に見せしめとしたアーミラの白カードが、会場のどこかに落ちて行方が解らなくなっている事。
もう1つは魂喰いとやらを行ったキャスターの白カードの詳細。

アーミラの白カードは今は無くても、今後特に大きな影響はないがあって困るものでもない。
形式上非参加者である彼女の白カードは回収するに躊躇する理由はない。捜索は協力者に頼むか。

そしてキャスターの魂喰い。協力者の一人からどういうものか聞いている。
そうなってしまったものだったら諦めるしかないが、キャスターが死んだ後も聞いた通りのままだと困る。
死んだ参加者は生前の強弱経歴に関わらず、等しく非力な魂になって封印されなければいけないから。
よって同化とやらをされた魂2つの有無と、自らの能力の欠点を知る為にもできるだけ早く調べておきたいが、
当のカードは参加者の一人が所持している。
よりにもよってこちらの秘密の幾つかを知る反ゲーム派のセレクターが。


繭も少々のイレギュラーは覚悟していたが、シロが支給品にされたことも含め、
これだけ積み重なると何もせず放置する訳にも行かない。
密かに手を打つか、臨時放送でもするか。もしくは……。


「……まあ、9時を回ってからでいいわよね」


3つの区域が禁止エリアとなり、南方での大戦の決着が付いていると想定される時間帯。
強豪含め消耗した参加者が多数になった現状なら、隙はある。


「……」



繭は歩く。協力者たち、ヒース・オスロらの元へ。



「……クロの」


それはシロと対になる原初のルリグの名前。
繭は自らの長髪を手で撫で、髪の色を見た。


「……クロがそののままで、シロもシロのままでいてくれればよかったのだけど……」


髪の色は昔と違って薄緑。足取りは重い。
寝たきりだった頃よりはずっとましだけれど、身体はまた健全とまではいかないようだ。
能力とバハムート無しで敵対者と遭ったらと思うと寒気がしてしまう。


「早く健康になりたいのに、あの人は……。あんなことを……!」

751第三回放送 -あの思いは漂着- ◆WqZH3L6gH6:2016/08/20(土) 17:35:27 ID:TNaq16Tg0
やや強く踏みしめる。
ほとんど力が入ってないはずなのに地面が一部陥没した。それは繭の異能がなせる現象。
そしてこれは協力者に対する不満の表れ。でも強く叩くようなことは考えていない。

繭の今の身体と増強された異能はヒース・オスロの協力があってこそのもの。
恩義もあるが、生き続ける為にも彼の存在は必要。
このまま時間が経ち、健康になるまでは。
そう奮い立たせ、繭は不満と未練を打ち切り、さらにそれを強調するかのように呟く。


「あのシロはタマ、クロはユキ……。
 わたしの分身で大事で必要な子達だけど、わたしの知るシロとクロじゃないもの」


ヒース・オスロと会ってから、しばらくして繭の知るシロとクロは消えてしまった。
繭は最初こそ小さい喪失感を覚えるのみだったが、日に日にその思いは強くなり、
やがて行動に支障が出るほどの大きなものとなった。
それは協力者の一人の提案が実行されるまで続いた。


「でもいいの。わたしの目に届く所で居続けてくれれば、それで」


その提案は別のシロとクロを攫ってくる事。
繭はそれで自らの欠落を埋められるか不安だったが、杞憂だったようだ。
ここに原初のルリグがこの世界に連れられた時、繭の欠落感はほぼ消えていた。
それどころか2人のルリグの記憶も一部流れ込んできたくらいだ。
もっともそれは現状ゲーム開催への少々の助力にしかなってないが。


「ねえ……もうひとりの繭……。あなたはいまどうしてるの?」


その呟きは別の繭に問たものではなく、行方を知ろうとするものでもなく。
自虐を込めた、別の自分への哀れみの言葉。
繭は1枚のカードを出す。ドラゴンの寝顔を写している、バハムートのカードを。
繭がカードを凝視する。ドラゴンの両眼が開き、繭は黒い物体に包まれる。
それは実態を伴わない、ドラゴンの肉体。
だが、もしここに繭以外の誰かがいれば感じ取れるであろう。トップクラスのプレイヤーからも絶大と認識されるだろう力を。


「いい子ね……。もう少ししたら出られるからね。それまで辛抱よ……」


繭は実体の無いドラゴンの体を撫でた。
バハムートはどこか満足気に顔を歪ませるとカードへと戻った。
万が一、敵対者がここに入り込んでもこれなら……。
繭は薄く笑う。

「わたしはね、呪いながらしあわせになるの。
 むかしのシロとクロが消えてしまった代わりに動けるようになった、このわたしで。
 バハムートといっしょにねえ」

そして――

752 ◆WqZH3L6gH6:2016/08/20(土) 17:36:52 ID:TNaq16Tg0
遅くなりましたが修正版投下終了です。
まずい箇所があったら削ります。
修正しきれなかったら修正前の方を投下します。

753 ◆WqZH3L6gH6:2016/08/20(土) 17:40:59 ID:TNaq16Tg0
あと本投下は明日中にする予定です。

754名無しさん:2016/08/20(土) 18:09:11 ID:GxaeVx1k0
大幅な加筆修正乙です!
そりゃ旦那の魂喰いは繭にとっても予想外だよなぁ
そしてアーミラの白カードですか、これは驚きの新事実ですね

修正前版の九時を回ってから云々というのはイレギュラーへの対処も含まれていただ
のですね
繭は魂を集めて一体何を企んでいるのやら…

放送後の南の決戦にも注目が高まる中、その後に起こるであろう主催側のアクションも気になりますね

一つだけ質問なのですが、原初のシロとクロを奪われたもう一人の繭というのは、所謂パラレルワールドのようなものという認識で大丈夫ですか?

755 ◆WqZH3L6gH6:2016/08/20(土) 20:42:00 ID:TNaq16Tg0
>>754
感想ありがとうございます。
もう一人の繭についてはその認識で大丈夫です。

756 ◆WqZH3L6gH6:2016/08/21(日) 10:23:27 ID:KXZLuLqE0
第三回放送、微修正し本投下しました。

757 ◆WqZH3L6gH6:2016/09/05(月) 05:04:44 ID:IoUHUwsQ0
仮投下します。

758distract ◆WqZH3L6gH6:2016/09/05(月) 05:05:49 ID:IoUHUwsQ0
――の命が尽きてからも彼女は■■を叩いていた。

-------------------------------------------------------------------------------------------------


ラヴァレイは黒カードを猫車に戻すと、担いでいた少女 小湊るう子をそのままそっと乗せた。
るう子は未だ気絶しており目覚める気配はない。
それに対し、今しがた協力者となった浦添伊緒奈――ウリスは疑念を含んだ眼差しを彼に向けた。


「さっさと起こせばいいじゃない」
「……加減を間違えたようだ。しばらくはそのままにしておいた方がいいだろう」
「はあ?貴方がやった癖によく言うわね」
「いやまったくだ」


嫌味を簡単に流すラヴァレイに、ウリスは不満気だったが気持ちを切り替え一旦黙る。
今のるう子の状態は良くない。何より治りかけた風邪も再発し発熱もしている。
放置してもすぐ死ぬことはないだろうが、尋問するにしても思考が纏まらない状態では情報を聞き出しにくいだろうし、
いざ人質として使う時に不便が生じかねない。だが、この状況は一方で好都合でもあった。

ラヴァレイがるう子を起こさないのは人質として気遣っただけではない。
彼がウリスを協力者として誘ったのは嗜好が共通する同類の匂いを嗅ぎとったのもあるが、主因ではない。
一番の理由はゲームの主催 繭と何かしら関係があり、なおかつ殺し合いに乗った者である人物であった事。
ウリスが自分にとってどれだけ有益であるか観察する為だ。
可能であれば一対一で対話それが彼の目的である。


「で、北に行くって言ってたけど、何処に出入り口があるのかしら?」
「地下闘技場だ」
「ふぅん、人はあまりいなさそうね」



ウリスは皮肉げに顔を歪ませた。彼には彼女も体調は思わしくないように思えた。
これまでアザゼルの攻撃を受け続けたダメージが見て取れたから。
ただ、るう子と違うのは痛みに意を介してないように振舞っている事。
所々不満を滲ませながらも、何だかんだで楽しくて楽しくてしょうがないという様子。

ラヴァレイは戦力としては期待できないなと分析し、せめて足手まといにならぬようどうしようかと思った。
ウリスは彼の胸中を他所に軽い口調で続ける。


「ねえ、南東に向かうってのはどうかしら」
「……市街地に出るとしても距離がありすぎる、あまり意味は無いな」
「でも、私の知り合いがいる可能性が高いわよ」
「……紅林遊月か」


アザゼルが繭打倒の手札として注目しているセレクターで、ラヴァレイの協力者である針目縫も少なからず執着している少女。
ウリスもるう子を尋問した際に行き先はラビットハウスだろうと見当をつけている。
ウリスは遊月に対して興味のない対象だが、それでもおおまかな性格は把握していた。
迷惑をかける方向性でのまっすぐな性格。
遭遇したとされる桐間紗路亡き後も、罪悪からかよほどの事が無ければあの家に留まっているだろうと想像できた。
だが、ラヴァレイの方針は変わらなかった。

759distract ◆WqZH3L6gH6:2016/09/05(月) 05:07:46 ID:IoUHUwsQ0
「やはり止めておこう」
「ち」


今のウリスの提案はあくまで軽口、ゆえに彼女も未練はない。
だが、そのままウリスを伴って北へ向うとしたラヴァレイは、それがきっかけである可能性に気づいた。
彼は猫車を操作し逆方向へ向いた。


「あら、止めるんじゃなかったの?」
「気にかかることがあってな」


彼は黙ったまま南へ移動を始め、ウリスも追った。


「気にかかる事って?」
「……闘技場の近くの通路に特別な施設がある。放送局の近辺にも可能性はあるだろう」
「へえ」
「説明せずとも見れば解る」


ゲームの脱落者の情報が提示されている施設『死の瞬間を捉えた道』をウリスに伝えるのは抵抗があった。
しかし有能ではないにしろ折角できた協力者、ある程度でも足並みを揃える必要ありと判断し遠回しに告げた。
どの道、単独行動を取らせる気はないし邪魔になったら処理する腹づもりではあるからこその選択だが。
そして放送局近辺に施設があると思ったもう1つの理由は北東にある『ジョースターの軌跡』の存在。
施設が2カ所確認できていたからこそ向かう。

当初の方針ではゆっくりと北に向かい、放送直後に『死の瞬間を捉えた道』での更新情報を集め。
地下闘技場でしばし休憩しながら駅に向かうつもりであった。
3人は南東へと進む。
しばらくして遠くから何かが崩れる音がした。

-------------------------------------------------------------------------------------------------


3人の男女が無言で地下通路を進んでいる。るう子はまだ目覚めていない。
通路の左右の壁には映像。六時間ほど前ヴァニラ・アイスが通過していた通路。
『万事屋の軌跡』という映像が設置されている場所。
映像を鑑賞したウリスが嫌味たらしく呟く。


「邦画にしては良くできてるわねえ」
「……君の提案を聞いた甲斐があったな」
「嫌味のつもり?」
「まさか」


映像はそこで途切れた。
ラヴァレイが気は良くした様子で猫車を転換させ、ウリスも従う。
思った以上の収穫があった。るう子から強奪した定春は万事屋メンバーと親しい仲。
いざという時の取り引きにも使えるだろう。
彼等が次の放送まで生きてるかはまだ不明だが、死んでいたとしても無駄ではない。
それに神威という男。アザゼルに匹敵するかも知れない力量を持つ彼の存在を知れたのが大きい。
少なくとも警戒が可能となった。

760distract ◆WqZH3L6gH6:2016/09/05(月) 05:08:48 ID:IoUHUwsQ0

「ところでこれから何処に向かうのかしら?」
「……」


腕輪を操作し歩きながらウリスはラヴァレイに問う。
白カードには地下通路についての最新情報が記されている。
崩れる音がして数分後。ウリスがライト代わりに腕輪を操作した際、発見したのはたまたま。
放送局にあった地下通路出入り口が使用不可となったとの通知。
更に放送後に放送局に代わる出入り口が開通されるとの通知もあったのだ。
南東は遠方により選択肢にない。

あるのは地下闘技場と代わりの出入り口。
放送局の代わりなら、元の出入り口とはそう離れていない場所にあるだろう。
場所が放送局と同エリアならアザゼルがいる可能性が高く、地上に出ようとは思わない。
だが、もし別エリアに開通するなら出るのも選択に入れようかと彼は思う。
知り合った参加者の大半が死に、物資も心許ない状況。
放送局へ向かっている参加者との接触や、脱落者の遺品を入手する機会が生まれるかも知れないのだから。


「着いたわね」

そこは放送局の地下にある出入り口だった場所。
ラヴァレイは五感を研ぎすませながら慎重に階段を登る。
ドアに手を当てる。動かない。いつのか定かではないがそこに書かれた文章を彼は確認する。


『この出入り口は使用不可となりました。放送後またの確認をお願いします』

-------------------------------------------------------------------------------------------------

彼女達が斃れていく光景が繰り返される。
それを見るに連れ、自らの至らなさを痛感させられる。
最低。
その言葉よりも下回るものがあると夢の中で、現実の中であるのを少女は悟った

-------------------------------------------------------------------------------------------------

ここは地下通路C-2とD-2の境目。
ラヴァレイとウリスはここで休憩を取っていた。

「つまりアザゼルの、セレクターバトルを利用しての策は無意味と言いたいのかね」
「ええ、繭単独だろうが協力者がいようがそれに変わりはない。
 無限少女になっても繭に支配されるルリグになるだけだし、
 仮に逆らえてもあの竜や協力者をどうこうできるとは思えないしね」
「しかしアザゼルはタマというルリグを利用すれば突破口を開けるみたいな事を言ってたが」


ラヴァレイの疑問にウリスは嘲りの色を見せ答える。
手にはるう子から奪った黒カード。それを元の形に戻し見下しつつ。


「ぷっ、ハハハハハハ。繭は何やら執着していたみたいだけど、コイツにルリグ以上の力も度胸もないわ。
 だってあたしが使っていて観察していたから間違いない。ねぇ、クソッタレさん」

761distract ◆WqZH3L6gH6:2016/09/05(月) 05:10:11 ID:IoUHUwsQ0
「……っ」


ウリスの嘲笑に対しカードの中のルリグ タマは泣き出しそうな顔で頭を下げ何も言えなかった。


「第一、他にルリグデッキが支給されているかも解らないしね」
「……あの竜、バハムートについて何か知らないかね?」
「知らないわ。ああいうのって神話や創作では珍しくないみたいだけど」
「……」

ラヴァレイはその神話についても聞き出そうと考えたが、その辺に詳しく無さそうと察し止めた。

「るぅ……」

タマが見つめる先は未だ意識を回復しないパートナー るう子。


「薄情なヤツね、るうは」
「……ウリス!」


タマは泣き叫ぶ一歩手前まで声を荒げる。
ウリスはそれに怯むどころか愉しげに顔を歪めながら悪意を向け続ける。

「だって、あの子あれほどあんたを取り戻したいって言ってた割には、あたしに達に捕まった時戸惑って何もできないでいたわ」
「そんなのっ」
「嘘じゃない。それにあんたの事頭にないって感じでもあったわ」
「……!」

タマはウリスを睨みつける。だがそれ以上アクションを取ろうとはせず黙る。
ウリスは畳み掛けようとするが、それはラヴァレイに止められた。


「まだ私の質問が終わっていないぞ、ウリス君」
「……はいはい。あんたも楽しんでいた癖に」
「……」

ウリスは弾を黒カードに戻し悪態を付き、ラヴァレイは彼女の肩に置いた手を引っ込めた。
彼の目は笑っている。
苦笑しながらウリスが黒カードを仕舞おうとしたその時だった。


「!」


突如起き上がったるう子の両手がウリスの右腕を掴んでいた。

762distract ◆WqZH3L6gH6:2016/09/05(月) 05:12:15 ID:IoUHUwsQ0
「こ、こいつ」


ウリスはとっさに引き剥がそうとするが動けない。


「タマを、タマを返して……!」
「何今更、いい子ぶってるの?」


殴りつけ離そうとするができない、ウリスはダメージもあり逆に押し倒される。
堪りかねたラヴァレイが事態の収拾に当たろうとする。

その時、放送が始まった。

-------------------------------------------------------------------------------------------------

 次は正子――午前0時に放送を始めるわ。また放送が聞けるといいわね』

放送が終わった。
るう子は黒カードをしっかり手にしながらも項垂れていた。

――アインハルト・ストラトス


桐間紗路に続き、あの時集った仲間がまた逝った事による衝撃は大きかった。
その上、結城友奈や宇治松千夜といった仲間の大切な人が次々と亡くなったのも悲しかった。
両眼からは涙がポロポロと落ちる。

「――」


ウリスがこちらを罵倒しているが、まともに聞こえない。
るう子は顔を上げる。一瞬、ウリスは怒りを滲ませたが、すぐに嘲るような笑顔でこちらに対する中傷を再開した。
しかし、るう子の心には大して響かなかった。
頭痛がし、発熱していることも一因だった。
ふともう一人の同行者へ顔を向ける。
髭面のドレッドヘアーの騎士風の男は、気味の悪い視線をこちらに向けながらも、忌々しげに口を歪めている。

「ねぇ!こいつから取り上げないの?!」
「……」

ウリスの非難に構わず、彼は今後の計画に思いを馳せる。
ラヴァレイにとってるう子の放送への反応は見ものだったが、同時に放送の内容は彼にとっても不都合であったから。
ファバロ・レオーネ、リタ、本部以蔵、坂田銀時、宇治松千夜の死。
そしてアザゼル、三好夏凛の健在。
前の放送の時はこういう事もあると納得させていたが、ここまで変身対象やコネが絶たれてくると、
決して楽観視できる状況ではない。それに脱落者の出るペースが未だに早い。
こうなると情報操作の効果も存分に発揮できなくなってくる。
一刻も早く未知の参加者の情報を収集し、物資も集めなければ。生存できる選択肢がなくなってしまう。
ラヴァレイはゆっくりと2人の少女へ顔を向けるや少女達にとって思いがけない事を言った。


「今は彼女に持たせておこう」
「はあっ?!何考えてんの?」

763distract ◆WqZH3L6gH6:2016/09/05(月) 05:14:11 ID:IoUHUwsQ0
「タマ君が何もできないと言ったのは君だ。ただしこれ以上返す気は無いがね」
「……ラヴァレイ……さん、あなたがるうを……!」
「悪いが、私にも立場というものがある」


咳き込みながら彼を糾弾するるう子に対し、彼は悪びれない態度で返す。


「……君の持ち物を全て没収しなかった理由が解るかね?」
「……」

るう子は睨みつけたまま黙る。カードを握っているのは両手だが痛みに意を返さない。
ウリスは不満タラタラで2人を交互に見つめる。

「君には人質としても、情報源としても我々に協力してもらう」
「……!」
「見返りとしては悪くはないだろう」


るう子はルリグカードだけでなく腹巻きも没収されていない。


「アンタ、優勝を目指すんじゃなかったの?!」
「……」

ウリスの叫びにラヴァレイは虚勢からの笑みを浮かべる。
繭に対し、ゲームのルールに対し、何ら手がかりや抜け道が見当たらなければ、僅かな可能性にかけてでもそのスタンスを取り続けていただろう。
しかし事態は彼の予想を大きく超えて終息に向かい、優勝も不確実なものに思えてきた。
今のアザゼルや針目、DIOには勝機は見当たれれど、神威が健在だった場合遭遇すれば勝ち目はほぼ無い。
機会を失う前に挑戦する必要が出てきた。だから問う、もう一人のセレクターに。


「アザゼルのセレクターバトルを利用しての策は無意味なのかね?」
「…………」

るう子は即答できなかった。
東郷美森から救出されてからのるう子はアザゼルの策に対し、微かな希望を持った。
だが同時に漠然とした不安も抱いている。捕らえられるまでその不安は成功の是非からによる不安と思っていた。
しかし先ほどのタマの悲痛な声とウリスの中傷を聞き、それは違うんじゃないかと思った。
それは桜色の甘い夢の様な――


「すぐに答えられないなら、ホワイトホープは……」
「そのままでは意味はないと思います」
「ほう?」
「るう達セレクターは肉体的には普通の人間。
 だからそのまま繭、もしくは別の犯人の所に行っても倒すとかはできないです」
ウリスが反論するかのように口を挟みかけるが、ラヴァレイが手を振るとウリスは気絶し沈黙した。

「……」

るう子はそれに怖気が走ったが、負けずに続ける。

「だけど交渉はできると思います。ゲームをやめさせるとかじゃなく、多分クリア条件の一つとして」

764distract ◆WqZH3L6gH6:2016/09/05(月) 05:15:52 ID:IoUHUwsQ0

あの時のるう子には言えなかった、心の奥に秘めたカードゲームユーザーとしての推理。


「つまりセレクターバトルは主催のルールの範疇だと」
「そうだと思います。るうが知る限り繭はゲーム崩壊に繋がることは簡単に許容したりしません」


ラヴァレイは得心し密かに歓喜した。
少なくとも闇雲に優勝を目指すよりは生存できる可能性が見えてきたから。
ただそれは皆殺し行為への回避から来る安堵ではなく、こちらが有利になる状況からの喜びに過ぎないが。

るう子は黒カードをホワイトホープに戻すと、ルリグカードを取り除き、デッキを彼に向けた。
吐く息はこれまで以上に荒い。


「何かね?」
「ラヴァレイ……さんの目的はあなたも含めた全参加者の……破滅ですか」


ラヴァレイは一瞬、何世迷い言を言ってるのだと思ったが、その言葉はウリスの事を指しているのだろうと判断し返答した。


「いや、私は元の居場所に戻れればそれで構わない」


嘘は言っていない。だが真実を伝えきってもいない。
彼は元の世界の帰還が目的だが、それは世界を滅ぼすバハムートの力と共にだ。
もし、この舞台でバハムートを得られれば間違いなく殺戮に力を行使するだろう。


「……」
「もし、余裕ができれば君達の目的を手伝うのも吝かではないが」


るう子はラヴァレイが悪党だと思っている。
しかし自己含めた全ての破滅が目的なウリスと違い、自らの保身が目的なプレイヤーなら話が通じると思った。
タマの救助も交渉に踏み切った理由でもある。これ以上、翻弄され何もできないでいるのが嫌だった。
るう子は黙って頷く。言葉には出さない。

「次の質問いいかね?」
「はい」
「セレクターは誰にでもなれるものかね?」
「ルールを覚えればなれます。無限……少女になれるかは人それぞれですけど」
「他のゲームでは代用はできないのか」
「るうが知るかぎりでは無理ですけど、ここではどうだろ?」


ラヴァレイはタマ除くルリグデッキをるう子から回収する。
そして、先程気絶させたウリスを猫車に乗せる。


「ウリス君の事聞いていいかね」
「……いいですけど」

765distract ◆WqZH3L6gH6:2016/09/05(月) 05:17:46 ID:IoUHUwsQ0

気が進まない。ウリスは心はともかく肉体はるう子が好感を抱いた浦添伊緒奈本人のもの。
いくら悪党とはいえむざむざ命を奪わせさせるような行為は許容したくなかった。

「何、悪いようにはならないと思うよ、ウリス君も賢いからね」
「……」


殺されないようにまともな返答をしてほしいとるう子は思った。
るう子は思うままを説明する。
ラヴァレイはそれを聞き、そのままでは使えないなと思った。
3人は向かう、ある地点へ。


「あの竜について心当たりはないかね?ああ、別に似ているものでもいいんだ」
「……ドラゴンならウィクロスにもいますし、あれだけ不思議な現象があったらどこかで同じような存在はいてもおかしくない、かな?」
「……時空を超える力はあるか?」
「カード内の設定、たぶん創作ですけどあってもおかしくないような……」
「伝承だが、私のいた世界のバハムートは時空を超える力があるのだよ」
「えっ」
「恐らく繭はその力を使って我々を拉致したと思われる」
「……何で知ってるんですか?」
「私というか我々はバハムート対策が任務だったからね。ある程度知っていてもおかしくはないだろう」

嘘は言っていない。真実も伝えきっていないが。
るう子も鵜呑みにはしてない。

「そうですか……」
「セレクターバトルはいつから始まったか解るかね」
「何年も前から行われています……ごほっ……」
「……るう子君、水でも飲んではどうかね。このままでは見ていられん」
「……はい」

るう子は足を止め、青カードと黒カードを使い風邪薬を服用する。


「君の思惑が叶うといいな」

一息ついた彼女に掛けられたのは優しい言葉。
上辺だけの、見透かそうとする悪意の込められたもの。
るう子はそれにしぶしぶ頷くと、これまで忘れていた参加者の事を思い出す。

池田華菜と神代小蒔。
宮永咲いわく友人の一人と、直接試合しなかった対戦チームの一人。
池田はまだしも、小蒔については咲さんからどうこうしたいとは言われていなかった。
だが、おおまかな特徴は伝えられていたし、咲さんを喪った直後はなんとか合流し協力しあいたいと思っていた。

なのにるう子はついさっきまで彼女達の事を忘れていた。
タマの事にしても、元いた世界での目標 全ルリグの救出にしてもそう。薄っぺらな物になりかけていた。
少女はウリスを見る。
今のるう子にしてみれば確かに最低と言われても仕方のないたいらく。
だから忘れない。虐められたタマを前にようやく湧き上がった思いを。
こちらが悪く思われてもいい。これ以上何もしない選択を選ばないためにも。
他者の悪意を抑える為にも。たとえ不可能に思えても。

766distract ◆WqZH3L6gH6:2016/09/05(月) 05:19:49 ID:IoUHUwsQ0

るう子はウリスの腕輪を見た。傷一つ無いように見える。
ラヴァレイの腕輪を見た。こちらも傷一つ無いように見える。
最後に自分の腕輪を見る。何度か叩いたはずなのに傷一つ無い。


「ラヴァレイさん」
「?」
「タマが見えるんですよね」
「普段は見えないのか?」
「はい」
「セレクターバトルもセレクターとルリグ以外は感知できない」
「……」

ラヴァレイは興味深げに見るが、これ以上の反応はなく。
様子から推理に行き詰まったと判断し、興味を失い視線を逸らす。
目的地までもうすぐ。
先は『死の瞬間を捉えた道』か未知なる出入口か。


半ば朦朧とした意識の中、彼女は考えた。
白カードは無効化できないけど、腕輪は腕輪を強い力をぶつければ壊せるんじゃないかと。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




【D-2/地下通路/一日目・夜】

【ラヴァレイ@神撃のバハムートGENESIS】
[状態]:健康 、上機嫌、セレクターバトルに強い興味
[服装]:普段通り
[装備]:軍刀@現実、定春@銀魂、ホワイトホープ(タマ除くカードデッキ)@selector infected WIXOSS
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(9/10)、青カード(9/10)
    黒カード:猫車@現実、拡声器@現実
[思考・行動]
基本方針:手段を選ばず生還し、可能ならバハムートの力を得たい。
0:地下闘技場に向かうか、新しい地下通路出入り口に向かうか。
1:るう子を利用し勝者になるべく立ちまわる。 それが無理なら即座に殺し、優勝狙い。ルリグデッキを探す。
2:ウリスが目覚めれば質問をし、その反応で今後の扱いを決定する。
3:アザゼルと夏凜と神威は殺したいが無理はしない。
3:セルティ・ストゥルルソンか……一応警戒しておこう。
5:本性はるう子とウリス以外には極力隠しつつ立ち回るが、殺すべき対象には適切に対処する。
[備考]
※参戦時期は11話よりも前です。
※蒼井晶が何かを強く望んでいることを見抜いていました。
※繭に協力者が居るのではと考えました。
※空条承太郎、花京院典明、ジャン=ピエール・ポルナレフ、ホル・ホース、ヴァニラ・アイス、DIOの情報を知りました。 ヴァニラ・アイス以外の全員に変身可能です。
※坂田銀時ら銀魂勢の情報を得ました。桂小太郎、神威等の変身が可能です。

767distract ◆WqZH3L6gH6:2016/09/05(月) 05:20:27 ID:IoUHUwsQ0
【小湊るう子@selector infected WIXOSS】
[状態]:全身にダメージ(小)、左腕にヒビ、風邪気味(服薬済み)、体力消費(中)、精神的疲労(中)
[服装]:中学校の制服、チタン鉱製の腹巻 @キルラキル 、タマのルリグデッキ@selector infected WIXOSS
[装備]:
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(8/10)、青カード(7/10)
    黒カード:黒のヘルメット、宮永咲の白カード、キャスターの白カード、花京院典明の白カード、ヴァローナの白カード
          風邪薬(4錠消費)@ご注文はうさぎですか?
[思考・行動]
基本方針:自分が悪く思われてもいいから、これ以上被害を出したくない。繭の思惑が知りたい。
0:どこに向かっているんだろう?
1:悪事を働かない分にはラヴァレイに協力する。ラヴァレイとウリスによる被害を防ぎたい。
2:ゲームの打開方法を模索する。
3:白カードを集めたい。
4:遊月と夏凛さんが心配。あとアザゼルさんも。
5:死んでしまった人の事は忘れない。
[備考]
※チャットの新たな書き込み(発言者:D)にはまだ気付いていません。
※セレクターバトルは主催のゲームの一部と推測。



【浦添伊緒奈(ウリス)@selector infected WIXOSS】
[状態]:全身にダメージ(大)、疲労(中)、気絶、ラヴァレイに対する不満(大)
[服装]:いつもの黒スーツ
[装備]:ナイフ@現実
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(17/20)、青カード(17/20)、小湊るう子宛の手紙
    黒カード:うさぎになったバリスタ@ご注文はうさぎですか?、ボールペン@selector infected WIXOSS、レーザーポインター@現実
         宮永咲の不明支給品0〜1(確認済、武器ではない)
[思考・行動]
基本方針:参加者たちの心を壊して勝ち残る。
0:…………………
1:使える手札を集める。様子を見て壊す。
2:"負の感情”を持った者は優先的に壊す。
3:使えないと判断した手札は殺すのも止む無し。
4:可能ならばスマホを奪い返し、力を使いこなせるようにしておきたい。
5:それまでは出来る限り、弱者相手の戦闘か狙撃による殺害を心がける
[備考]
※東郷美森が犬吠埼樹を殺したという嘘をチャットに流しました。
※変身した際はルリグの姿になります。その際、東郷のスマホに依存してカラーリングが青みがかっています。
※チャットの書き込み(3件目まで)を把握しました。

768 ◆WqZH3L6gH6:2016/09/05(月) 05:22:26 ID:IoUHUwsQ0
仮投下終了です。
指摘等があればよろしくお願いします。

769名無しさん:2016/09/05(月) 16:27:33 ID:Hk86HAcI0
>>768
るう子が腕輪を壊せるのではないかと推測していますが
確かるう子は咲の死に際に腕輪を壊そうとして失敗していませんでしたっけ

770名無しさん:2016/09/05(月) 21:06:45 ID:jq4GB8Qk0
自分の力じゃ無理だったけど他の超常の力を使えばあるいは、ってことなんじゃないでしょうか

771 ◆WqZH3L6gH6:2016/09/05(月) 22:18:46 ID:tpqMz1XU0
>>769
>>770さんの超常の力をという〜そんな感じです。解りにくくてすいません。
その辺を含めていくつか微修正し、明日の朝に本投下したいと思います。

772 ◆X8NDX.mgrA:2016/09/08(木) 21:25:22 ID:mah/nPlc0
仮投下します

773Nothing But a Dreamer ◆X8NDX.mgrA:2016/09/08(木) 21:29:06 ID:mah/nPlc0

 瀟洒な印象の部屋がある。
 入り口から見て正面奥に位置する大きな机、それと同じデザインの椅子に、その男は腰掛けていた。
 男は左腕にした時計をちらりと見やると、わずかに目を細めた。

「ふむ、そろそろゲームの開始から十八時間か。
 駒の数も随分と寂しくなったものだ……そう思わないか、ユウジ?」
「……」

 ワイングラスを傾けて、ヒース・オスロは傍らの青年に訊ねた。
 日本人離れした銀色の髪と赤色の瞳が目立つ青年は、表情を変えず無言のまま。
 そのことに気を悪くした様子もなく、オスロは言葉を続ける。

「彼女……繭の知り合いは、まだ三人もいるらしい。
 よほど幸運なのか、はたまた手心を加えているのか……まあ、知ったことではないがね」

 オスロはある目的の元で、このバトルロワイアルをお膳立てした。
 しかし、繭とオスロの目的は同一ではない。
 そもそも、オスロにとって繭は一つの道具に過ぎない。
 異なる世界線から招かれた参加者たちで、開かれるバトルロワイアル。
 そんな、言わば「お遊戯会」の主催者に相応しい者として、繭が選ばれたというだけの話。

「この盤上から、どうゲームが展開していくか……。
 『彼』は生き残ることができるかな?どう思う、ユウジ。はははっ」
「……」

 愉快そうに笑う主人と、能面を崩さない従者。
 ゲームの進捗状況を肴に、オスロはつらつらと話し続けるだろう。
 バトルロワイアルが終局に至るまで、このやり取りは続くに違いない。

「……談笑とは余裕ですな」

 ――第三者がここに訪れない限りは。




774Nothing But a Dreamer ◆X8NDX.mgrA:2016/09/08(木) 21:30:12 ID:mah/nPlc0

「おや、ミスター時臣。お勤めご苦労様」

 男性はドアから悠然と歩き、オスロのデスクへと近づいた。
 その立ち居振る舞いは、誰が見ても紳士であるその男性――魔術師・遠坂時臣は、渋い顔でこう告げた。

「なぜ私に連絡を取らないのです?」
「連絡とは?」

 とぼけた返答をするオスロに、時臣は渋い顔のまま返した。

「この島を隠匿する結界についてです。
 結界の基盤は既に二か所が破壊されています。すぐにでも修復作業に取り掛かりたい」
「ああ、そのことか……」

 面倒くさそうに視線を逸らすオスロ。
 その姿を見て、時臣は更に眉間に皺を寄せたが、何かの言葉をかけるよりも速く、オスロが弁解を始めた。

「連絡をしなかった理由は、その必要がないと判断したからだよ。
 結界は四つの基盤から成り立つのだから、一つや二つ壊れたところで、完全に崩壊するわけではない。
 それにまさか、簡単に崩壊しかねない程度の結界を構築されたわけでもないだろう?
 由緒ある魔術師一族の当主様ともあろうものが」

 あからさまな嘲りを入れるオスロに、時臣は厳しい視線を向けた。
 年齢は四十近いと推察される目の前の男と、時臣が出会ったのはつい数日前のこと。
 数週間前、遠坂家と古くから交友のある、言峰璃正から連絡が来たのだ。



『急にお呼びだてして申し訳ありません』
『いえ、構いませんよ。それで、用件というのは』

 遠坂の私邸にて、時臣と璃正の二人は監視や盗聴にも配慮した上で会談を開いた。

『まず、この件に聖堂教会は関与どころか、認知すらしていない。
 あくまでも、言峰璃正という個人からの頼みだと理解して頂きたいのです』
『承知しました。……わざわざ人払いまでする内容なのですか?』
『ふむ、どう話したものか……』

 いかにも話しにくそうに、老神父は頭をひとつ掻いてから、意を決したように口を開いた。

『数年後の聖杯戦争に際して、準備を進めておられることでしょう。
 その目的は無論、根源への到達を成すこと――だが、もしもの話。
 “聖杯の力を得ずとも根源に到達できる”と聞いたなら、どう思われますかな?』
『な、それは――』

 時臣は瞠目した。
 根源。およそ全ての魔術師の悲願であるはずのもの。
 万物の起源にして終焉、この世の全てを記録し、この世の全てを創造できる座標だ。
 始まりの御三家とされる遠坂、マキリ、アインツベルンは、聖杯を再現することでその奇跡を成そうとしていた。
 時代は流れ、今や根源への到達を真摯に求めるのは、遠坂家だけとなってしまったが。
 その手段の話となれば、どうしても無視はできない。

『私の古い知人に、とある依頼をされたのです。優秀な魔術師を紹介してほしいとね。
 依頼自体は一端の魔術師なら簡単にこなせるものです。ただ、根源への到達の手段を示唆していた辺り……』
『神父が遠坂家と懇意にしていると、知った上でしょうね』

 根源への到達というエサをちらつかせて、璃正神父に遠坂時臣へと話を持ち掛けさせる。
 璃正神父の知人が、時臣が依頼を受けることを望んでいるのは間違いなかった。
 聖杯も無しに根源への到達を成せるなど、眉唾物の話ではあるが。

『……いいでしょう。話の真偽を確かめたい。
 璃正神父、話を通しておいてもらえますかな』
『ではそう伝えておきましょう。くれぐれもお気をつけて。依頼主の名前は――』

775Nothing But a Dreamer ◆X8NDX.mgrA:2016/09/08(木) 21:31:07 ID:mah/nPlc0

(ヒース・オスロ……。魔術結界を張ることを依頼してきたのは其方だというのに、どういうつもりだ?)

 その後、オスロと出会い依頼内容を確認した時臣は、その容易さに拍子抜けした。
 依頼とは、殺し合いを隠蔽するための装置、すなわち結界を張るだけだったのだ。
 それ自体は当然だろう、と時臣は感じていた。
 魔術は秘匿されるべきもの。魔術師の鉄則を厳格に守る身としても、遊戯の隠蔽自体はなんら不自然に感じない。
 しかし、その結界を張り終え、殺し合いが本格始動してからが問題だ。

(セイバーの『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』により病院は倒壊。
 それに、度重なる戦闘の結果として放送局は崩落。
 結界の基盤とした四か所のうち二か所が、既に修復が必要な状態だというのに……)

 確かにオスロの言う通り、結界は基盤の全てが壊されるまで効力を持ち続けるが、それでも限度がある。
 危うい状態で放置するのは、隠蔽という本来の意図を外れている。
 時臣は目の前で悠然と構える男を観察した。
 魔術回路の脈動を感じることはない――つまりは、魔術的素養を全く持ち合わせていない。
 油断のない物腰から、完全なる一般人ではないと見受けられるが、それでも魔術とは無縁の生き方をしてきたに違いない。

(……この男は魔術を軽んじているのだろう。
 大方、結界の重要性もそれほど考えていないに違いない)

 魔術のいろはも知らずに、上からの命令を聞いているだけ。
 結界の修復は頼まれていないからする必要がない――時臣には、オスロがこう考えている怠慢な人間に見えた。

(となると、根源への到達もいよいよ信憑性が薄くなる)

 オスロ自身が殺し合いの主催者に利用されるだけの存在ならば、その口から出た根源への到達はおそらく虚言。
 全ては時臣を釣るための文句だったと考えられる。

「そう睨まないで欲しいな、ミスター時臣」
「これは失敬。しかし、私は魔術師として不十分な結界を放置するというのは看過できない。
 依頼された仕事であれば猶更のこと。それは理解して頂けるでしょう?」

 時臣は半ば高圧的に、結界の修復作業を認可させようとしていた。
 オスロに説いた意図も確かにあるが、それ以上に時臣自身の矜持が、おめおめと退室することを拒んだのだ。
 すると、ため息をついて、オスロは椅子に深くかけた。

「……少し話し合おうじゃないか。今後のことも含めて」
「ありがとうございます」

 時臣はオスロに促されて、机の前にあるソファに腰掛けた。
 オスロが傍に立つ青年に「お飲み物を差し上げなさい」と命じると、青年は時臣に一礼し、足音も立てずにドアから出て行った。
 まるで御三家の一角、アインツベルンのホムンクルスを思わせるアルビノ。
 オスロと同じく魔術の脈動は感じないものの、何か妙な雰囲気を漂わせている。
 時臣の直感は、青年は単なる執事役ではないと告げていたが、今は指摘する理由も必要もない。
 そうこう考える内に、オスロが改めて話を切り出した。

「さて、ご協力には感謝しているよ、ミスター時臣。
 この殺し合いには魔術に関わる参加者もいる以上、君のように優秀な魔術師の存在は不可欠だった。
 とはいえ結界を張り終えた時点で、君から得たい力添えは充分。
 あとは結果を待つだけだ。君の求めるものが、いずれ掌中に収まるときが訪れるだろう」

 暗に結界の修復作業は不要だと告げたオスロ。
 話をはぐらかして終わらせるつもりだと時臣は察知して、別の問いをぶつけた。

776Nothing But a Dreamer ◆X8NDX.mgrA:2016/09/08(木) 21:32:11 ID:mah/nPlc0
「ところで、そもそもこの殺し合いは何が目的なのでしょう。
 集めて殺し合わせるという形態は蟲毒のようにも思えますが、それにしては実力差に幅がありすぎる」

 殺し合いの情景は、時臣も“窓”から観察していた。
 無垢な女子高生から『セイバー』のような英霊まで、多種多様な人選には些か驚いたものだが、殊更それを嫌悪することはなかった。
 魔術や呪術といった世界に足を踏み入れていれば、外の世界から見て残酷に思われる儀式も多く存在する。
 根源への到達の手段としては疑わしいが、この殺し合いも何らかの儀式の側面があると時臣は考えていた。
 ただし、それにしては力の優劣があまりに大きすぎるとも感じていた。

「フ、フフ……」

 問われたオスロはニヤニヤと笑う。
 何を馬鹿なことを質問するのだとでも言うように。

「どれだけ実力に差があろうとも、殺さなければ殺される状況下なら、人は誰でも殺せるさ」

 言われて時臣は、今までに見た死者の姿を思い出した。
 スクールアイドルが麻雀少女を殺した。
 神樹に選ばれた勇者が槍の英霊を殺した。
 喫茶店の店員が快楽殺人鬼(シリアルキラー)を殺した。
 この殺し合いにおける死者は、必ずしも強者に蹂躙された弱者ばかりではない。

「極限状態の中で殺し殺される、その過程に意味がある。
 なぜなら、この殺し合い自体が、根源へと至るための手段なのだから」
「根源へと至るための手段……?」

 唐突に出た核心の言葉に、時臣は疑念を隠せなかった。
 結界の重要性を無視するような無知な男を信用していいのか、と。
 虚言や妄言の類ならば即座に一蹴するつもりで、オスロが続きを語るのを待った。

「不思議に思わなかったかい?参加者が一様に嵌めた“腕輪”を。
 理不尽な殺し合いに従わせる抑止力としてなら、毒物や爆弾でも事足りる。
 それなのに、用意する時間も手間もかかる“魂を吸い取る腕輪”を使う理由はなんだ?」

 一呼吸置いて、オスロは天気について話すかのような気軽さで言った。

「答えは簡単。魂を封じ込めたカードが、根源へと至る鍵となるからだ」

 根源へと至る鍵。
 時臣はオスロの言葉を反芻する。
 遠坂家が追求してきた願望の手がかりが、そこにあると感じて。

「魂とは意志。死ぬ間際のそれはとても強く光り輝いている。
 その強い意志のエネルギーをカードに封じ込める。ここまでは分かるかい?」
「……えぇ」

 この説明を、時臣は簡単に理解することができた。
 魔術師の備える魔術回路は、通常時は普通の人間と同様の神経として存在しており、精神面のスイッチにより反転して機能する。
 つまり、精神と魔力の間には関係性があるのだ。
 わざわざ殺し合わせる理由も、精神を平常時と異なる状態で封じ込めるためだと言われれば納得できた。

「そうして出来た参加者のカードが重要な鍵となり、根源への道筋は開かれる。
 もちろん、その鍵を使用できる者は選ばれている。少なくとも優勝者は確実だろうね」
「……その鍵の使用には資格がいるという訳ですか」

 時臣は冷静に相槌を打ちながら、心中では油断なく思考を巡らせていた。
 必要な資格と、それを得る方法を暗に聞き出せれば、根源への到達ができるのか、と。

777Nothing But a Dreamer ◆X8NDX.mgrA:2016/09/08(木) 21:32:56 ID:mah/nPlc0
「時に、ミスター時臣。WIXOSSという遊戯を知っているかな?」

 とはいえ、全ての思惑が上手くいくとは限らない。
 オスロの唐突な話題転換により、それ以上の追及は難しくなった。

「ウィクロス?いえ、世俗の遊戯には疎いものでして」
「ならば、教えてあげよう――」

 そして、オスロが時臣へと告げたのは、世間の大半が三流芝居と酷評するだろう物語。
 たった一人の少女が、新たな世界を創造して、現実世界にその原理(ルール)を持ち込むなどと。
 しかし、今しがた殺し合いの意味を聞いた時臣は一笑に付すことができない。

「……俄かには信じがたいですな」
「しかし事実なのだよ。信じるか信じないかは別にして、ね」

 オスロは口元に笑みを浮かべている。
 話は一応理屈が通っているので、虚言や妄言と一蹴できないのがもどかしい。
 まさしく「信じるか信じないか」は時臣に委ねられているというわけだ。
 結局、時臣は適当な相槌を打ちながら話を聞くしかなかった。

「そして、その遊戯を創造した少女というのが――おや、ようやくお茶が来たようだ」

 いよいよ核心に迫るタイミングで、話の腰を折るようにオスロは時臣から目を逸らした。
 時臣が反応するよりも早く、銀髪の青年はソファの横に居た。
 気付けなかったのは、魔術師としてオスロの話の続きに興味を引かれていたからだ。

「……おっと、ミスター時臣。ここは一旦退室願おう」

 しかし、青年にティーカップを配ろうとする様子はない。
 オスロの言葉で、時臣は第三者が訪問してきたことを察した。
 改めて振り向けば、やはりドアのそばには幼気な少女が立っている。
 薄緑の色の髪をした少女――オスロが「繭」と呼んでいるその娘の詳細を、時臣はまだ知らされていない。

(あるいは、この少女が?……まさかな)

 この薄幸な雰囲気の少女が、根源へ至る資格を持つのだろうか。
 否定しつつも断定はできない状況に、時臣は再びもどかしさを覚えた。

「やあ、繭。放送は無事に終わったかい?」
「ええ……それより、いくつか相談があるの。
 まずはアーミラの魂が封じられたカードのこと……」

 少女には似合わない事務的な会話に後ろ髪を引かれながら、時臣は部屋を去る。
 最終的に結界の修復は許可されなかったが、それはもはや二の次だ。
 根源への到達、その手段が未だ抽象的であるにせよ明かされた。
 自らの手で悲願を達成するためにも、時臣はその手段をどうにかして知らなければならない。

(白いカードが鍵となる、か……)

 しばしの黙考の後、魔術師が向かった場所は――。




778Nothing But a Dreamer ◆X8NDX.mgrA:2016/09/08(木) 21:33:25 ID:mah/nPlc0


「ふう、繭のお陰で助かったよ」

「なんのこと?」

「此方の話さ。気にしなくてもいい」

「……まあいいけど。とにかく、よろしく頼むわよ」

「もちろん、協力は惜しまないさ」

「それならいいの。それじゃ」

「一ついいかな、繭」

「なに?」

「このゲーム、楽しんでいるかい?」

「――ええ、とても」



※島には結界が張られており、結界の基点が四つ、どこかに存在します。
 既に病院と放送局の二つの基点が破壊されています。

779 ◆X8NDX.mgrA:2016/09/08(木) 21:41:04 ID:mah/nPlc0
仮投下終了です。
指摘等あればよろしくお願いします。

780名無しさん:2016/09/08(木) 21:49:19 ID:sJ4CwdYY0
仮投下乙です。
ゲーム破壊に必要な条件が一つ明かされましたか。
腕輪の謎にも一歩踏み込んだ内容で名実ともに終盤になってきた感じでよかったです。
それだけに今回の繭が不気味。あとどれだけ共犯者がいることやら。
本投下に問題はないと思います。

781 ◆X8NDX.mgrA:2016/09/09(金) 07:00:14 ID:WPRQ5LUg0
>>780
ありがとうございます。
仮投下終了時刻より一日待って、なんらかの指摘も来なければ本投下します

782 ◆WqZH3L6gH6:2016/09/15(木) 05:42:21 ID:zUQ.LMKE0
仮投下します。

783タイトル未定 ◆WqZH3L6gH6:2016/09/15(木) 05:43:28 ID:zUQ.LMKE0
ここはC-5 駅。
神威は電車から降りた後、駅構内のベンチに腰掛けていた。
手元には絢瀬絵里に渡された黒カードが数枚。
彼は黒カードを順に元の形に戻し、DIO討伐の前準備を進めていく。

あの時、セイバーからDIOは日没後にDIOの館と落ち合う約束をしていると聞いた
DIOとセイバーが約束を守るなら、セイバーは神威にとって邪魔者になる可能性が高い。
数刻前の彼ならセイバーと再会後すぐに必滅の黄薔薇を折って呪縛を解放していたに違いない。
DIOと彼女との2対1の戦闘に持ち込まれる可能性が見えたとしても。
だが、今の彼にとってDIO討伐は最優先事項であるからして、セイバーとの戦闘は今は望んでいない。
ゆえにどうやってセイバーに対処しようかと考えたが答えは出そうもなく、
黒カードに対多人数向けの武器が確認できたもあって、その時になってから考えようという
いつもの彼らしくもある結論を出し、その考えを打ち切った。

ある1枚の黒カードを戻すとそれは数冊の本に変わる。
本にはいずれもウィクロスカード大全と記されていた。全5冊。そのウィクロスという単語には見覚えがあった。
12時間近く前セイバーに譲渡したカードの束、ウィクロス ルリグデッキ『レッドアンビジョン』。
神威はあの時、有益とは思えなかったから詳しく確認せずにいた。

何気なく初巻を手に取り流し読みしていく。
ざっと内容をみるとカードのイラストと内容が書かれている簡素なものだった。
内容がただそれだけなら、神威は飽きて次の黒カードの点検に移っていただろう。
だが巻末に近いページでのある項目を見つけた時、それは彼の興味を引いた。


『参加者様に支給されたルリグカードについて その1』


それには4ページに渡り、『花代』というルリグの利用方法について書かれていた。
花代というルリグに関連するカードについては別の項目でも扱われていたが、
今読んでいるページはそれまでの遊戯のルールのとは違い、今ここで行われている殺し合いについてのもの。


「スペルは本ゲームでは扱えませんが、形だけならほぼ再現する事は可能です……か」


ルリグの必殺技扱いであるアーツと異なる補助カード スペル。
漠然としか把握していないものの、スペルはカードゲームの範疇にしかない記号と判断しそれ以上考えるのをやめる。
問題はアーツの方。他の巻も開き、読むと花代とは別の支給ルリグの説明があった。
彼女らのアーツは神威から見て、どれも参加者が殺し合いを勝ち抜くのに有益なものと判断できた。


「……って、あの時の友奈ちゃんの技なのかなぁ?」


本能字の乱戦時、いきなり強くなって少なからず神威にダメージを与えた少女 結城友奈。
花代のアーツにはあの時の彼女の変容を髣髴とさせるような説明があった。
セイバーは殺し合いに乗った参加者。余程の事がなければ先程別れた絢瀬絵里らの脅威であり続ける。
意図せずとしてセイバーに切り札を与えてしまった神威はしばし考えこむ。


「……」

784タイトル未定 ◆WqZH3L6gH6:2016/09/15(木) 05:44:29 ID:zUQ.LMKE0
先の事は解らないし、切りがないと結論付け読書を再開する。
乗っていない参加者とあったら伝えようかなと思いながら。


「……ルリグって沢山いるんだなあ」


その数は軽く50を超えていた。カードゲームの形式上プレイヤーの分身の役割を持つルリグは多種でない方が商品としてもゲームツールとしても扱い易い。
なのにその数は多く、専用カードのないルリグも珍しくなく、その全容はアンバランスそのものに思える。
ゲーム自体ほとんど興味のない神威から見てもそれは異常に見えた。
彼はある事に思い至り、ルリグ達の名称を確認しつつ腕輪を作動させる。
白カードに参加者名簿が映し出された。


「……紅林 遊月と浦添 伊緒奈(イオナ)かあ」


ルリグ一覧で確認できた名前2つ。そして参加者名簿にも確認できる名前2つ。
支給ルリグではないが、もし他の参加者が大全を読めば主催絡みで2人に興味を抱く事はほぼ間違いないと思える。
神威は絵里から離れる前に黒カードを一通り確認すればよかったかなと思った。
聡明そうな彼女になら面白い感じに推理をしてくれそうと期待できたから。
彼は本を閉じ黒カードに戻し、次のカードを検分する。程なくして渡された黒カードは最後の1枚になった。


(これは)


絵里が強調しながら渡していたから覚えがある。
妹 神楽の支給品で遺品となった血痕が多く付着した黒カード。
空っぽに限りなく近いはずの自分に何かが流れるのを感じる。
彼は素早くその黒カードを元の形に戻した。

-------------------------------------------------------------------------------------------------

駅から出て、すぐ近くにベンチがいくつかあった。
神威は真夜中にそこで眠り続ける栗色髪の短めのツインテールの少女がいたのを覚えている。
彼は意識してそちらに足を運ぶ。あの少女の姿はなかった。
だが少女がどうなったかはベンチに残された大量の血痕が答えを出していた。


「あのまま殺されるとはね」


最後に見た時は路上で眠る姿。
血痕の位置から察するに一度目覚めて他のベンチに移動したか、あるいは他の参加者に気遣われて運ばれたかしたのだろう。
もう少し先の方にも大量の血痕が確認でき、壁に落書きのような跡もあった。
どちらにせよ眠り姫は抵抗すること無くあのまま殺されたのだろう事は見て取れる。
信じがたいが最初から生を放棄していたとも取れる有様であった。

「はぁ……」

神威の口からため息が漏れる。そのまま去って目的地へ行こうと思った。
しかし先ほどの黒カードの検分の際、己と妹の不足を認識させられたこともありもう少し調べる事にする。

785タイトル未定 ◆WqZH3L6gH6:2016/09/15(木) 05:45:09 ID:zUQ.LMKE0

調べれば発見した血だまりの周囲には目立たないが、移動痕と見れる少量の血痕が見つかった。
それを辿ることにする。


「見つけた」


駅前の掲示板の影にそれらは隠されるように安置されていた。
半日前に発見した眠り姫の両断死体とやや小柄な少女の首なし死体が一つ。
そしてそれぞれの遺体の脇に置かれた2枚の白カードと1枚の黒カード。
遺体を移動させた者の意図は人道的なものであるのは神威にも理解はできた。


「……」


次に彼が興味を持ったのは白カード。それぞれには死亡者の顔が映し出されている。
人道的な理由ではないにしろ一度は纏流子の魔の手から助けた少女。
眠り姫の無残な死体に対し哀れみや憤り、嘲りなど自分を揺るがすほどの情は湧かない。
ただどういう人物だったのかというちょっとした好奇心は湧いていた。
それは妹へのささやかでひねくれた対抗心から来たもの。


神威は番傘とは別の支給品を神楽が一度目に止めていたのは知っている。
軽く調べただけで遊具品と判断し、それ以降使おうとしなかったのも。
彼はそれを推測できたからこそ、そっち方面では一歩先を行ってやろうかとぼんやりとでも思った。
骨組みか、殻のみになったバカ兄貴の意地にかけて。


神威は白カードを2枚拾い上げると、黒カードにも手を伸ばす。
黒カードを元に戻すとそれは動物を模したポーチだった。彼はそれは置いていく事にした。
もう1枚はついでだが、眠り姫の白カードがあれば他の参加者から情報を聞き出すには充分かと思ったから。


「そう言えば」


参加者の事を知っているのは何も他参加者や主催のみとは限らない。
人並みの知能を持った支給品なら知っていてもおかしくはないはず。
神威は遺体から離れると神楽の形見の黒カードを変化させる。
その黒カードにもう血は付いていなかった。

-------------------------------------------------------------------------------------------------

「あっ待って。そこに誰かいるみたいだよ」

DIOの館へ走る神威は神楽の支給品であった青のルリグ――ミルルンに呼び止められた。
彼は速度を落とすと、指さされた方向へと向かう。
横切る風景は超常の力を用いた戦闘痕が散見される。ミルルンは驚嘆の声を小さくあげた。


「墓標か……」

786タイトル未定 ◆WqZH3L6gH6:2016/09/15(木) 05:45:45 ID:zUQ.LMKE0


神威の目前には墓が2つあった。墓前には赤カードと青カードが備えられている。


「藪蛇かなあ……」


ミルルンのバツの悪そうな声を聴きながら、彼は一方の墓が誰なのかを確かめた。


「友奈ちゃんか」


周囲の破壊跡は彼女の力によるものと推測できるもの。
ミルルンは、トーンはさっきと比べ落としたまま神威に言う。

「さっきと比べて強い気配が3つある」

白カードの事かと神威は判断した。
ルリグには同属以外にも魂が封じられた白カードを朧気ながらも察知できる力がある。
先ほどの2枚より強い力があるということなのだろう。
だがどうしたものか。白カードは土中に埋められた状態のようである。
それを掘り起こすのはマズいのではという迷いが少々ながらもあった。それはミルルンの表情にも表れている。
神威は素面で繭のゲーム開始前の説明を思い出していた。


(死んだ人の魂は白いカードに閉じ込められ、永久の孤独を強いられる、か……)


墓とは死んだ人を弔うのに必要なもの。
しかし真の安らぎとやらを与えるには白カードから魂を解放せねばならない。
となると墓が本来の効用を発揮するには、魂の解放が不可欠となってくる。
ミルルンの方を向く、彼女はどちらの選択を強いることもなく神妙な顔で墓を見ている。

神威は墓前の青と赤のカードを丁重に脇に退け、スコップを出して発掘を始めた。
ミルルンから驚きの声が上がるが非難はない。

「……」


実の所を言うと今の神威に主催から死者を救いあげたいという明確な意思はない。
しかし支給品からの提案とはいえ、取るに足る行動理由を与えられれば何もしないと言う訳には行かなかった。
ルリグはそっぽを向いた。神威はあっという間に2人の少女の遺体と3枚の白カードを発掘する。


「おや?」


白カードの1枚。3人の中で一際幼い少女の顔写真にある異変を神威は発見する。
切れ込みが入ったままの白カードを。
彼は白カードを仕舞い、簡単に遺体の検死を済ませると再び遺体を素早く埋葬した。

787タイトル未定 ◆WqZH3L6gH6:2016/09/15(木) 05:46:41 ID:zUQ.LMKE0
-------------------------------------------------------------------------------------------------

ここはC-7 DIOの館玄関前。
神威は保登心愛の白カードを宙に浮かせると、その端を指で弾く。
カードの端が破れ散った。だが次の瞬間に破損した箇所が音もなく元に戻った。
彼はなおも2度指でカードを弾いた。またもカードを大きく破損させるがまた元に戻る。
彼は次にカードを片手に取り、中心部分を指で弾いた。
音を立ててカードに大穴が空いた。だがそれも同じように復元された。
彼はルリグカードに視線を移した、やろうとする事を察したミルルンはノーセンキューのゼスチャーをし拒否。
神威は手を止めた。


「はー。どーいうことなんだろうね?」
「俺はDIOを倒せればそれでよかった筈なんだけどな」


黒カード確認からここまで神威がやった事と言えばアイテム集めとその考察。
柄にもないと彼は思った。現実から目を背き続けた男が。


「……」


ミルルンは言葉を続けない。今の神威の本質を理解し始めたからこそ。
地下闘技場での一戦が無ければウィクロスカード大全に対し、今と同じくらい注目はしなかっただろう。
もし坂田銀時らによってわずかでも自分を取り戻せなければ、神楽の支給品の価値に気づく事はなかっただろうし、
妹への細やかな対抗心からくる探究心も目覚めなかっただろう。
もし探究心が芽生えなえれば結城友奈ら勇者たちの白カードの異変を発見できなかっただろう。
かつて神威は最終的に主催を屠るつもりで行動していた。その為、参加者で唯一破壊された橋の修復現場にも立ち会えている。
客観的に見ずとも今の彼は対主催に関しかなりの有力者になっていると言える。しかし。


「だったら」
「先約があるんだ。まずはそっちを守らなきゃね」
「うーん。そこまでなら仕方ないかな」



それらの事実は空虚を埋めずに適わず、彼の長所を多く含める残った部分も絢瀬絵里ら対主催サイドとの共闘を拒んだ。

気が付けば日が暮れようとしている。セイバーやDIOがやって来る気配はない。
神威は玄関の方へ向くと館内部に入っていった。
休憩と情報整理がてらにミルルンにウィクロスカード大全を読ませる為に。


-------------------------------------------------------------------------------------------------

神威は館の最深部、DIOの部屋にてミルルンと繭についての情報交換をしていた。


「灰色の服なんて着て、イメチェンしたのかなあ?」
「ひょっとして俺が見た彼女とは雰囲気が違うのかな?」
「幻想的で幼気なとっても大きいカリフラワーみたいな髪をした女の子でしょ。その辺は共通してるけど何か違うんだよねー」
「君はルリグになる前に繭ちゃんとあった事はあるのかな?」
「……遭ったことはないけど、その辺は聞かないでほしいな。言うなと言われたの」

788タイトル未定 ◆WqZH3L6gH6:2016/09/15(木) 05:47:35 ID:zUQ.LMKE0
「……それはこのゲームでの事かな」
「その前から」
「解ったもう詮索はしないよ。君の正体は俺が思っている通りで間違いは無さそうだし」
「……」


ミルルンは神妙に頷き、神威も納得したように話題を変える。
ウィクロス大全のルリグリストからして彼女も元人間なのだろうと神威は結論づけた。


「違うって言うのは姿じゃないんだろ」
「うん。前は詐欺同然なゲームで女の子を引っ掛けて、それを眺めて楽しんでるって感じだったけど
 話聞く分だと別の人が色々やっちゃってるって感じ。同じ子が計画したとは思えないの」
「俺はウィクロスを作った組織が今回のゲームを始めたと思っているんだけど」
「それ私も考えた事があるけど違うと思う。セレクターバトルが始まる前からウィクロスあったみたいだし。
 バトルが始まった頃から大ヒットした位だから、むしろ繭ぴーが会社を乗っ取ったってパターンが自然かなあ」
「…………彼女の協力者については手がかりなしか。
 君が初めて繭ちゃんに出会った時と、最後に出会った時と違いは無かったかい?」
「う〜ん。髪の色がちょっと濃くなったかもってくらい、かなあ?」
「元は何色だった?」
「白に近い緑だったよ」


別人という線は無さそうだねと神威は推測した。
神威が繭の容姿について尋ねたのはゲーム説明を受けた時は繭から大分離れた位置にいたから。
そのせいか、彼女の顔や髪の色にいたるまで光源の具合によって不鮮明だったからだ。
カードから出てきた竜についてもよく解らないでいた。



「次はこっちからいいかな?」
「……質問内容にもよるよ」
「私が指差している所に何があるか確かめてほしいの?」


部屋には照明などは機能しておらず。光源は腕輪から。
ミルルンが指差した先は神威が座っている寝台よりかなり高い位置にあった。
お安い御用とばかり神威は指の力だけで張り付いたように壁を登っていく。
指したその箇所には棒状の様なものの置き場所、更に上の方にもそれらは確認できた。



「既に持ち去られた後みたいだね」
「えー残念」
「……」



館の探索は神威と流子が半日前にすでに済ませてあった。
よってもし調達するに値する物品があればとうに回収しているはず。
だからミルルンが発見した置き場には元から何も置かれていない。それが事実。
神威とミルルンは興味をなくし、今後について話をしようとする。
どんな物が置かれていたとか、支給品になっている可能性とか、どこかにあるとかいう可能性は考えずに。

789タイトル未定 ◆WqZH3L6gH6:2016/09/15(木) 05:48:34 ID:zUQ.LMKE0
『今晩は。三回目の定時放送の時間よ』

「!」
「……!」


そして放送が始まった。

-------------------------------------------------------------------------------------------------

放送から30分を大きく過ぎた、館外には未だにDIOの姿もセイバーの姿も見えない。


「まいっちゃうね」
「ああ」


日は完全に落ちた。


「そろそろ俺はこっちに行こうと思うんだけど異論はないかい?」
「ここまで待たせる方が悪いと思うしぃ、いいんじゃない」


ミルルンは異論があっても変える気はないのに?っていうからかうような小言を発するが、
神威はごく自然にスルーすると黒カードの1枚を武器に変える。
彼は武器を片手に館の方を指差すと言った。


「この建物壊そうと思うんだけど、いいかな」
「……。さんせーい」

両者の声には苛立ちがあった。
待たされた事もあるが、神威にとって一番腹立たしいのはそれではない。


――宇治松千夜。

先ほどの放送で呼ばれた黒髪ロングの少女。本部以蔵に保護されていた無力な参加者。
千夜の人物像に関して言えば、彼女は神威にとって心打つ存在では決してない。
恩人を救うべく助けを呼びに行く選択も、そう特別珍しいものでもない。性格的にも相容れないだろう。
だが彼女は神威が知るだけでも多くの人の命によって生かされていたはずの少女だった。

千夜が周辺に救助を呼びかけたのも、元はといえば彼女を助けた本部以蔵を助けるためであったし、
それらに応えた銀時、神楽、ファバロも自分という障害を廃除あるいは無力化するために全身全霊で挑んでいた。
なのに千夜は命を落とした。
あれだけの犠牲を出し、力も出しきった後がこれか?とやり場のない感情の波が神威の全身を駆け巡った。

神威は早足に館へ向かう。館を最後に一目見渡す。
DIOの威圧がなければ贔屓目に見てもリアルお化け屋敷。
悪く見れば猟奇要素のある娼館辺りにしか見えない。
半壊したDIOの館に神威の攻撃が繰り出された。
非力な少女でも持てば超人を殺し得る強力な武器を携えた神威に対し、館が長く持ちこたえられる道理は無く。
5分もしない内にDIOの館は倒壊した。

790タイトル未定 ◆WqZH3L6gH6:2016/09/15(木) 05:50:11 ID:zUQ.LMKE0

-------------------------------------------------------------------------------------------------

「アーツは使える、それで間違いはないね」
「だいじょうぶ」
「そう」
「……」

神威が向いた先にあるはB-7にあるホテル。
彼が日中推測した通りならあそこにDIOがいるはずだ。
遭遇できるかどうかは自信がない。待機している間時間を大幅にロスしてしまったから。


「……休んでいい?」
「……」


神威はミルルンの要求に黙って頷く。
彼女の表情は沈痛の色が見て取れた。
彼の手にはカードデッキ。一部分が神楽のミスか何かでひしゃげたもの。

「カード大全続き読ませてね」

ミルルンの言葉とともに神威はルリグデッキをカードに戻す。

「ばいばいるーん」
「……」


うるさい子だなと神威は思う。けれど嫌いにはなれない。
軽薄で煩わしく見えたがそれは演技ではなく素なのだろう。
彼に対し悪意のようなものも向けられなかったのも悪印象を抱かなかった一因。
彼は知る由もないが、地下闘技場での一戦がなければ友好関係は築けなかっただろう。
邪念がほぼ失せた現状で対面できたのもお互いにとって幸いだった。


「異能は事前に察知できるか……」


ミルルンはアーツ アンチスペルの能力の一部で発動直前の異能を一つのみ察知できるという。
それに加え アンチスペルは大全の説明通りならどんな異能も一度は無効化できるとの事。
DIOとの戦いの際、彼女のアーツは彼の異能に対するカウンターになり得る。
しかしもしその機会で撃ち漏らしてしまうと、今度はミルルンが標的になる可能性が高い。
なので自分ではなく違う複数人で行動する参加者に持たせるべきと思うが、あいにく参加者の姿はない。
どこまでもままならないなと彼は苦笑した。


「……」


放送後、神威はミルルンに参加者名簿を見せゲームについても教えた。
その結果、パートナーの死を知ってしまい少なからずショックを与えてしまったのだ。
参加者名簿を見せた際にはパートナーである蒼井晶に対して悪態をいくつか付いていたが、
嫌い抜いていた訳ではなかったようだ。ミスだった。

791タイトル未定 ◆WqZH3L6gH6:2016/09/15(木) 05:53:09 ID:zUQ.LMKE0
神威はさっきのカードデッキの形と元の所持者の事を思い出す。
ミルルンいわく一度元に戻され、カードが何枚かめくられたが自分に気づく間も無く黒カードに戻された。
その際、元の所持者は何かを呟いていたがそれはよく聞こえていなかったとの事だった。
もし仮に神楽がルリグカードの効力に気づいていれば、もっと上手く事を運べただろうか?
自分が妹を殺す羽目にならなくてすんだだろうか?答えはない。
なのでせめて妹と同じミスもしないと心がけようと思った。


「まったくしょうがない奴だなあ……」


ひしゃげたカードデッキの形を思い浮かべ、神威は泣き笑いに似た笑顔でそう呟いた。
彼はホテルへと急いだ。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

【C-7/一日目・夜】

【神威@銀魂】
[状態]:全身にダメージ(小)、頭部にダメージ(小) 、宇治松千夜の死への苛立ち(無自覚、小)
    よく分からない感情(微)
[服装]:普段通り
[装備]:王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)、ブルーデマンド(ミルルンのカードデッキ、一部カードがひしゃげてる)
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(24/30)、青カード(24/30)、電子辞書@現実
    黒カード:必滅の黄薔薇@Fate/Zero、不明支給品0〜2枚(初期支給)、不明支給品1枚(回収品、雁夜)
    黒カード(絵里から渡されたもの) :麻雀牌セット(二セット分)、麻雀牌セット(ルールブック付き)、トランプ(ゲームルールブック付き)
                      ウィクロスカード大全5冊セット、アスティオン、シャベル、携帯ラジオ、乖離剣エア
    白カード:蒔菜、ココア、友奈、風、樹(切れ込みあり)
[思考・行動]
基本方針:俺の名前は――
0:DIO打倒の為、ホテルへ向かう。
1:見どころのある対主催に情報や一部支給品を託したい。
2:眠り姫(入巣蒔菜)について素性を知りたい。けど執着はしない。
[備考]
※DIOおよび各スタンド使いに関する最低限の情報を入手しました。
※「DIOとセイバーは日が暮れてからDIOの館で待ち合わせている」ことを知りました。
※DIOの館は完全に倒壊させました。
※ホテルにDIOは潜伏していると思っています。
※大まかですがウィクロスのルールを覚えました。
※ルリグは人間の成れの果てだと推測しました。
※樹の白カードに切れ込みがあるのを疑問に思っています。

※白カードは通常は損壊、破壊する事は不可能です。すぐ復元されます。
 (ジョジョ6部の各種DISCみたいな感じ)
※友奈、風、樹のカードは他参加の白カードより強い力を発しているようです。


・支給品説明
【ブルーデマンド(ミルルンのカードデッキ)@selector infected WIXOSS】
神楽に支給。
蒼井晶の二代目ルリグ、ミルルンが収納されたカードデッキ。
ロワに関する説明はあまり受けていないが、アーツについては聞かされている。
外見は黒猫の髪飾りを付けた団子状の髪型をした、ノースリーブの水色ドレスを着た青髪の少女。
性格は気ままで明るい性格でマイペース。口癖は語尾にるん。
蒼井晶との関係は一見険悪だが、実のところ悪態をつきつつもそれなりに気にかけていた。
参戦時期は2期でウリスがルリグに戻る以前。

792タイトル未定 ◆WqZH3L6gH6:2016/09/15(木) 05:55:40 ID:zUQ.LMKE0
※アーツ『アンチ・スペル』について。
ゲームにおいてはコストを2払う事によって発動する。
スペルならどんなに強力でも効果を打ち消す事ができる。アーツに対しては無力。

当ロワに置いては最小コスト2払う事によってアーツ以外の異能を事前に打ち消すことができる。
ただし異能のレベルが高いと払うコストが増大していく(最大6)。
エナコストは一時間休憩すると1回復する。
コストが支払えないと消費はせずに住むが、効果も発揮しない。
完全に(累積6)消耗すると、以後六時間は使用できない。
エナが万全(6)ならどんな異能も一度は打ち消すことができる。
ミルルンは使用アーツの特性上、ある程度異能を事前に察知することができる。



【麻雀牌セット(ルールブック付き)@咲-Saki- 全国編】
カイザル・リドファルドに支給。
本部以蔵に支給された麻雀牌セットとは別物。
違いは麻雀について詳細かつ解りやすい良質のルールブックが付属されている。



【トランプ@現実(ゲームのルールブック付き)】
坂田銀時に支給。
材質はそこそこ上等なものが使われている。
すぐに遊べるようルールブックまで付属している。
所有していた人が人なだけにいたずら書き等があるかもしれない。



【ウィクロスカード大全5冊@selector infected WIXOSS】
リタに支給。
初出はinfected3話より。書籍は実在しており旧シリーズ5巻まで発売されている。
ただしこれはアニメ世界でのカード大全で、しかも当ロワ仕様に変更されている。
内容はspread終盤でユキが登場する直前までのウィクロスのカードのデータが収録。
市販のカードのみならず人間が変じたルリグまで記録されているので、内容はとってもカオスである。
一冊ごとに当ロワで支給されたルリグ一体(?)の詳細(正体以外)が書かれてもおり、
アーツの効果やルリグを活用する上でのヒントが書かれている。
現在は花代、緑子、ピルルク、エルドラ、ミルルンの詳細が確認されている。
支給ルリグ タマヨリヒメやセレクターバトル、夢幻少女、原初ルリグに関する情報は記載されていない。


※レッドアンビジョン(花代のカードデッキ) アーツ『背炎の陣』について
ゲームにおいては手札を三枚捨てることにより、敵味方すべてのシグニを消し去ることができる。
使い方次第ではエナを貯める事ができる強力なアーツ。

当ロワにおいては花代がコストを3消費し、セレクターが行動後感覚の一つを失う事により発動させることができる。
いわゆる勇者の満開を再現させるアーツ。効果の詳細は使用キャラによって異なる。
消費したコストは1時間休憩する事により1回復する。



※エルドラのデッキ(ブルーリクエスト 補足)アーツ『ハンマー・チャンス』について
ゲームにおいてはライフクロスがゼロになった時のみ使用できるアーツ。
1レベルにグロウするだけで使用可、コストなしでライフクロスをに2回復させる効果がある。

793タイトル未定 ◆WqZH3L6gH6:2016/09/15(木) 05:56:14 ID:zUQ.LMKE0

エルドラが手にしたピコピコハンマーで叩けば発動。
当ロワにおいては致命傷以上のダメージを受けた存在に対してのみ効果を発揮する。
エナコストはなし。一度使用した対象には二度と使用できない。一度使用すると6時間は使用不可になる制限が課せられている。
回復はダメージ(大)までが現界だが、対象がどんな状態であろうと生きていれば確実に戦闘可能状態にまで救命・回復させる事ができる。
使用条件はルリグに解るようになっているので、エルドラはある程度ダメージの度合いが解るようになっている。


※支給ルリグ共通
花代、緑子、ピルルク、エルドラ、ミルルンには繭から新しい力を与えられている。
その為アーツ(最低一種使用可能)が単独で使用可能となっている。他にも未発動の力があり?

794 ◆WqZH3L6gH6:2016/09/15(木) 05:58:01 ID:zUQ.LMKE0
仮投下終了です。
ご指摘等がありましたらよろしくお願いします。
タイトルは本投下までに考えます。

795名無しさん:2016/09/16(金) 01:00:10 ID:lmkcAJRc0
仮投下乙です

アーツの詳細が分かったことでルリグの価値がぐんと上がったなぁ
完璧なDIO様キラーと化したミルルンといい空気気味だったエルドラといいルリグ勢がどう戦闘に関わってくるかが楽しみ

二点ほど指摘ですが、冒頭で「ここはC-5 駅」とありますが駅の位置はC-6です
もう一点は、同じ参加者に2度使用出来ないとはいえ、瀕死状態からの回復が6時間に1度使えるエルドラのアーツ、満開が3コスト(3時間に1回)で使える花代のアーツは少し制限が緩いというか強力すぎるなと思いました

796 ◆WqZH3L6gH6:2016/09/16(金) 09:14:21 ID:vlNGjTew0
>>795
ご意見ありがとうございます。
以下の修正をした上で問題がなければ、今夜11時くらいに本投下させていただきます。


アーツ『ハンマー・チャンス』の再使用は12時間後に変更。
アーツ『背炎の陣』の再使用には6時間経過が条件を追加。
駅の位置を始めとする誤字を訂正。
デッキの破損理由を水たまりに落としたに変更。
トランプを不明支給品(武器)に変更。

797 ◆WqZH3L6gH6:2016/10/03(月) 08:45:47 ID:kY30gObg0
仮投下します。

798ヤツの時間がきた ◆WqZH3L6gH6:2016/10/03(月) 08:46:20 ID:kY30gObg0
『今晩は。三回目の定時放送の時間よ』


三回目の放送が始まった。
ホテルにいる吸血鬼主従 DIOとヴァニラ・アイスにもそれは告げられる。


『繭、つまらない結末は見たくはないもの』


日光に弱点とする我々に対する当て付けか?とDIOは内心毒を吐いた。


『まずは禁止エリアの発表よ』


今いるエリアのB-7が選ばれる事はあるまいとDIOは高をくくる。
地下通路への出入口があり、殺し合いに乗り気である2人がいる施設、殺し合いの進行の加速を願う主催者がここを塞ぐ筈がないと。


【B-7】
【C-3】
【G-7】


「……!?」

何ィ!?
DIOの胸中がざわめく。隣にいるヴァニラ・アイスかも僅かながら動揺が感じられた。


『それから、自分の支給品確認はきちんとやっておいた方がいいわよ。
 あと時間が来るまでに禁止エリア予定地を調べてみるのもいいかもね。
 思わぬ所で得るものがあるかも知れないのだから
 これは繭からのアドバイスよ』


既にホテルの探索は充分にしてある。まだ何かあるというのか?


『次は死んでしまった参加者の発表を始めるわよ』
「……」


脱落者の発表は情報不足な事もあり、今のDIOにとって内容よりも数の多さが重要である。


【衛宮切嗣】


……死んだか。先程視聴したDVDからして予想しにくい悪辣な策を用いる男でまともに相手にしたくない類の敵であったが
個人としての戦闘力はそれほどでもなかった事から脱落自体は驚くほどではない。むしろ朗報。


【東郷美森】
【リタ】
【結城友奈】
【犬吠埼風】
【アインハルト・ストラトス】
【ジャック・ハンマー】


読み上げられていく脱落者の多さにDIOの気が少々晴れていく。


【神楽】
【本部以蔵】
【ファバロ・レオーネ】
【坂田銀時】



一方で従者であるヴァニラ・アイスは神妙な面持ちで放送を聞いている。

799ヤツの時間がきた ◆WqZH3L6gH6:2016/10/03(月) 08:46:41 ID:kY30gObg0

【ホル・ホース】


「……」


奴も死んだか。一度不審な行動こそあったが、このゲームにおいても上手く立ち回っていたと取れる優秀な部類の部下だった。
死んでしまったのは仕方がない。今後の計画にも組み込まれていなかった駒……未練はない。


【宇治松千夜】
【東條希】
【香風智乃】


『全部で15人よ、15人。残り24人。
 ふふ……ここまでやる気があるなんて驚いたわ。今夜中にも決着がつきそうよね』


DIOとしても夜明け前にゲームの決着を付けるつもりだった。


『でもね、もし長引いて決着がタイムリミット寸前になったとしても、
 優勝した子にはちゃんとご褒美を上げるから心配しないで』


「…………」


DIOの困惑は強くなる。
もし追加の禁止エリアにホテルが含まれていなければ戯言と一蹴しただろうが。



『次は正子――午前0時に放送を始めるわ。また放送が聞けるといいわね』


放送が終わった。
DIOとヴァニラ・アイスは言葉を発さず、沈黙を続ける。


「……」


自尊と好奇と殺意に彩られていたDIOの心に疑問という感情が広がっていく。
今回の放送以前に感じられたゲーム推進という主催のスタンスを否定する放送をしたのは何故か。
DIOはホテルに愛着を持っている。まさか嫌がらせの為にB-7を禁止エリアに指定したのか?
地下通路の『ジョースターの軌跡』の内容からして主催がDIOを舐めているのは否定できない。
しかしそれでもだ、ゲームに忠実で優秀な我々を不利にする事にメリットはあるのか?
このホテルは夜明けまでに決着がつかない場合、引続き拠点として使える施設であるにも関わらず。
訳が解らない。
DIOは目標はそのままに今後の計画の見直しをせざるを得なかった。
主催がこちらに更なる害意を持っているなら、単純に動くのはまずいと思ったから。

800ヤツの時間がきた ◆WqZH3L6gH6:2016/10/03(月) 08:47:00 ID:kY30gObg0


「…………」


彼は熟考の末、傍らの部下の方を振り向く。
ヴァニラ・アイスは顔を少し上げ、主の命令を待った。


「執務室に行こうか。ああそれと、君の身にこれまで起こった出来事も詳しく話してくれないか?」


そう言うDIOの声は少しばかり掠れていた。

-------------------------------------------------------------------------------------------------


D:『すまないが故あって例の場所に行けなくなった。
   契約は続行するので、可能ならまたこちらから連絡する』


先ほど自分が書き込んだのも含めたチャットの文章を確認しながら、DIOは部下から提供された情報……事実を噛みしめる。


――坂田銀時


己に多大な屈辱を与えた3人の内1人。
名は地下施設『万事屋の軌跡』を確認したヴァニラ・アイスによって知らされた。
先程の放送で死が判明した、銀髪の寝ぼけ眼の口減らずな侍。


「……」


あの実力から脱落はしないと思っていたが、それでも命を落とした。
予想外であった。予想できなかった自分に対しても得体の知れない悪感情が湧いてくるのをDIOは悟った。
彼に報復する事はもうできない。その事実からもDIOの唇が怒りに歪んだ。


「戻りました」
「セイバーはこちらに来ていないようだな」


素面に戻ったDIOの問いに、ホテルの外を確認してきたヴァニラが頷く。
DIOが席を外すと、ヴァニラ・アイスはパソコンに向かい文章を打ち込む。


I:『一番目のMと、五番目のD。地下闘技場で話がある』


それはヴァニラ・アイスの策。主の許可は取ってある。
これから自分らが向かう方角に参加者を集める為のと、チャットでの頭文字を確認の為の。
DIOはその文章を見て満足そうに口元を歪ませた。

801ヤツの時間がきた ◆WqZH3L6gH6:2016/10/03(月) 08:47:44 ID:kY30gObg0

「行こうか」
「はっ」


放送前はチャットを確認してからDIOの館に向かい、そこで待っているだろうセイバーを殺害するつもりだった。
しかし放送をきっかけに、冷静さと用心深さを強くしたDIOはその選択を少々の逡巡の後切り捨てた。
セイバーにも制限が掛けられている可能性にも気づいたし、
神威のようなセイバーと同等の危険性を持ち得る未知の参加者がいる可能性にも思い至ったからだ。
地下施設『モンスター博物館』でヴァニラ・アイスが人外の情報を得たのも大きい。




2人は地下を降りていく。
行き先は地下通路 地下闘技場方面。
4箇所あると思われる地下施設の、唯一未確認の施設を確認する為に。
優勝を目指すにしても情報を得る事は有益に違いない。そのまま主催の思惑の多くをそのまま乗るのも癪だった。


ヴァニラ・アイスとの緻密な情報交換の結果、得られたものは非常に大きい。
更なる地下施設の存在やヴァニラ・アイスのスタンドの制限なども。
そして主催に対する警戒心も。
2人は程なくして地下通路出入り口に着く。扉にはこう書かれていた。


『一日目 午後9時にここは通行禁止になります
 新しい出入口は本能字学園 本校舎内になります』


最初に見た時なかった文章に2人は書き込んだ第三者の存在を警戒したが。
痕跡は見当たらない。元から遠くから書けるような細工がしてあったのだろうか。
どこまでもコケにしやがって。
2人は眉間に皺を寄せながら扉をくぐった。
時間は放送から一時間は過ぎていた。

――しばらくして出入り口に白と黒の蝶がどこからともなく現れた。

802ヤツの時間がきた ◆WqZH3L6gH6:2016/10/03(月) 08:47:58 ID:kY30gObg0
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



【B-6/地下通路/一日目・夜】
【DIO@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】
[状態]:健康、桂、コロナと主催への屈辱と怒り(大)
[服装]:いつもの帝王の格好
[装備]:サバイバルナイフ@Fate/Zero
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(9/10)
[思考・行動]
基本方針:とりあえず他参加者を10人以下になるまで始末する。それと同時に主催殺害への準備を進める。
0:地下通路で地下闘技場方面に向かい、その近辺にあると思われる施設を確認し、それから今後の進路を決定する。
1:長髪の侍(桂)、格闘家の娘コロナ、三つ編みの男(神威)は絶対に殺す。優先順位はコロナ=桂>神威。
2:セイバーの聖剣に強い警戒。もし遭遇すればヴァニラ・アイスと共に彼女を殺す。 捜索はしない。
3:情報収集をする。
4:言峰綺礼への興味。
5:承太郎を殺して血を吸いたい。
6:一条蛍なる女に警戒。
[備考]
※参戦時期は、少なくとも花京院の肉の芽が取り除かれた後のようです。
※時止めはいつもより疲労が増加しています。一呼吸だけではなく、数呼吸間隔を開けなければ時止め出来ません。
※車の運転を覚えました。
※時間停止中に肉の芽は使えません。無理に使おうとすれば時間停止が解けます。
※セイバーとの同盟は生存者が残り十名を切るまで続けるつもりです。
※ホル・ホース(ラヴァレイ)の様子がおかしかったことには気付いていますが、偽物という確信はありません。
※ラヴァレイから嘘の情報を教えられました。内容を要約すると以下の通りです。
 ・『ホル・ホース』は犬吠埼樹、志村新八の二名を殺害した
 ・その後、対主催の集団に潜伏しているところを一条蛍に襲撃され、集団は散開。
 ・蛍から逃れる最中で地下通路を発見した。
※麻雀のルールを覚えました。
※パソコンの使い方を覚えました。
※チャットルームの書き込みを見ました。
※ホル・ホースの様子がおかしかった理由について、自分に嘘を吐いている可能性を考慮に入れました。


【ヴァニラ・アイス@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】
[状態]:健康、怒り
[服装]:普段通り
[装備]:範馬勇次郎の右腕(腕輪付き)、ブローニングM2キャリバー(68/650)@現実
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
    黒カード:双眼鏡@現実、不明支給品0〜1(確認済、武器ではない)、悪魔化の薬(勇次郎の支給品)、ブローニングM2キャリバー予備弾倉(650/650)
[思考・行動]
基本方針:DIO様の命令に従う。
1:DIO様に土を付けた参加者は絶対に殺す
2:腕輪を解除する方法を探す。
3:セイバーの聖剣に強い警戒。可能な限り優先して排除する
4:日差しを避ける方法も出来れば探りたいが、日中に無理に外は出歩かない。
5:自分の能力を知っている可能性のある者を優先的に排除。
6:承太郎は見つけ次第排除。
7:白い服の餓鬼(纏流子)はいずれ必ず殺す
[備考]
※死亡後からの参戦です
※腕輪を暗黒空間に飲み込めないことに気付きました
※スタンドに制限がかけられていることに気付きました
※第一回放送を聞き流しました
 どの程度情報を得れたかは、後続の書き手さんにお任せします
※クリームは5分少々使い続けると強制的に解除されます。
 強制的に解除された後、続けて使うには数瞬のインターバルが必要です。

803 ◆WqZH3L6gH6:2016/10/03(月) 08:48:53 ID:kY30gObg0
仮投下終了です。
指摘等がありましたらよろしくお願いします。

804 ◆WqZH3L6gH6:2016/10/04(火) 08:22:08 ID:JCwwpR/Y0
異論がなければ今深夜に本投下します。
その際に悪魔化の薬についての本編での言及や、状態表にチャット関連の追記をします。

805 ◆WqZH3L6gH6:2016/10/05(水) 02:45:59 ID:27Xxo2pg0
本投下の際、加筆修正しました。
悪魔薬、状態表におけるチャット関連の追記はカットしました。

806 ◆WqZH3L6gH6:2017/01/28(土) 17:21:16 ID:SJmPatgU0
急用ができたので調整できた分だけ仮投下します。

807【紡ぐ者】 ◆WqZH3L6gH6:2017/01/28(土) 17:22:44 ID:SJmPatgU0

――第四次聖杯戦争と繭のセレクターバトル
  どちらも各々の願いの為に行われた大規模かつ、それでいて世間からほぼ秘匿された闘争劇
  いずれも願いを叶える資格があるは参加者のみ
  その二つの要素を含めたゲームに置いてもそれは――

-------------------------------------------------------------------------------------------------


何年も前のある日。その日は晴れ。
ある広い古びた館に何人もの大人が慌ただしく作業をしていた。
そこは廃屋。大人達――白衣を着用し顔を隠した何人もの男女とは対象的に、
喧騒の中心にいる点滴を打っている灰色髪のパジャマ姿の少女は
落ち着いた様子で金髪の男と作業をしていない白衣の1人と対面している。
金髪の男が作業中の白衣の男を一瞥した。それに気づいた男は他の白衣達に声をかける。
短いやり取りの後、少しして彼を含めた男女は俊敏かつ丁寧に作業を中断し居た部屋を去っていった。

残されたのは灰色の少女と金髪の男と性別の解らぬ白衣ひとり。
退屈げな表情をしていた少女は辺りをきょときょとと見回し、眉をひそめる。
そして苦笑しつつも何かを肯定するような感想を漏らした。

金髪の男は満足気にそれに返答し、懐から冊子を取り出す。
少女は落ち着いた様子で冊子を受けとり読んだ。
金髪の男は期待混じりの声で少女に問いかける。
冊子に書かれていた事は実現できるか?と。


少女は灰色の髪を揺らしつつ顔を上げ思い巡らせる。
目の前の2人は自分の恩人の様なものだから、ここで恩返ししても良いかも知れないと。
沈黙が訪れた。他2人も黙ったまま解答を待つ。その最中、電話が鳴った。
白衣の顔が金髪の男へ向く。金髪の男は自らの電話を取り、向こうの相手と会話しながら苦笑浮かべた。
彼は多少の未練を残しながら少女に挨拶をしその場を去った。


そして、金髪の男が去ってしばらくして少女の思考は纏まり、残ったひとりに告げる。
それを聞き白衣は初めて口を開く。喜びとそれが入り交じった問いが少女へと飛んだ。

少女は釣られたような病からの咳をしながらも、脇に置かれた遊具を手に取る。
白衣はそれに見覚えがあった。少女の異能の発生源でもあるカードゲーム ウィクロスのカードデッキ。
少女はそのデッキを手渡そうと寄って来た。
速やかな返答を期待していた白衣はその反応に当惑し、少女に疑問を投げかける。
少女は心外といった表情をし立ち止まり、挑発の混じった笑みを浮かべ言った。


「説明するより、手に取って考えた方が簡単よ」


白衣は口を噤み、多少迷いを見せつつも少女の手からカードデッキを受け取る。
ふと見ると少女の肩から小さな人の顔が見えた様な気がした。


――灰色の少女にとってもその無人だった館は薄気味悪い事この上なかった。
後で調べてみるとそこは有名な怪奇スポットやらだったという。
あの大人達の何人かは後日病にかかったらしい。初めここに長く居たくはなかった。
でも白窓の部屋を彷彿とさせる神秘的な所でもあったので暫くここに居るのも悪くないと思った。

808【紡ぐ者】 ◆WqZH3L6gH6:2017/01/28(土) 17:24:11 ID:SJmPatgU0
-------------------------------------------------------------------------------------------------


大きな窓と百近い小さな窓が果てしない高所、人の手で容易に届く位置にある小窓が五十以上ある大部屋。中心には針時計が備えられてる柱が一つ。
大窓から今しがた死んだ騎士王と呼ばれた英雄の魂が大部屋に入り込んだ。
その魂はこれまで小窓に封じられた他の魂の中でも大きい。
けれどこれまでのと同様に区別なく吸い寄せられるように小窓に引き寄せられる。
閉じた窓の向こうから女の苦痛の呻きが漏れた。
それとほぼ同時に生来の歪みを抱えた神父の魂が大部屋へと入り込む。
大きさは騎士王と比べ一回り小さい。だがその輝きは多少の歪さを感じさせるものだったが騎士王のそれと比べ鮮やかだった。
そして彼の魂も小窓に封じられる。声はなかった。
今閉じた小窓は2つ。柱から微かに鈴の様な音が鳴る。
部屋の主たる繭は今其処にはいなかった。


-------------------------------------------------------------------------------------------------

セイバーの胴がスタンド 星の白金の拳に貫かれる。
少しして空条承太郎は今倒したサーヴァントへ何かを言い捨て、この場を去った。
セイバーは後悔の念を顔に表しながら息を引き取る。
その直前、腕輪から青白い光が発せられ彼女の魂を絡め取りカードに封印した。

「……」

ヒース・オスロは相変わらず貼り付けた様な笑顔を崩さなかったが、両眉は困ったかの様に一瞬歪んだ。
繭はそれに気づいた様子だったがそれについてはあえて何も言わなかった。

放送直前に行われたエリアH-5の大戦。
それは風見雄二と纏流子の追走劇と、空条承太郎と言峰綺礼対セイバーの2つの戦に分かれた。
それらを観察するは繭とヒース・オスロとその従者 テュポーン。
三者の居る場はヒース・オスロの部屋。
遠坂時臣が一先ず去った後、繭はオスロからゲームの感想を求められ返答した直後にある懸念に気づき、
会話を延長して今度はそれについての対策を求めようとしていた。
だが、遠見の窓に承太郎らとセイバーの戦闘が白熱しつつあったのを認め、それの観戦に徹する事に決めて中断していた。


「……南ことりと満艦飾マコの白カードの事なのだけれど」


繭は他の生存者が映し出された窓を一通り見渡すと、オスロが言い出す前に新たな問題を伝えようとする。



「アザゼル達の様子からして彼女達の白カードには異変は無かったようだが?」


参加者の魂が封じられたカードについてはオスロも注意を払っている。


「白カードが剥がれた後と誤認したのでしょ、解りにくいものね。
 本当は腕輪にくっついたままなのに」


その声にはさっきまでの会話で自分の要望がほぼ却下された不満の色が明らかに含まれていた。
オスロは顎を手に当てると低い声で呟く。

809【紡ぐ者】 ◆WqZH3L6gH6:2017/01/28(土) 17:26:21 ID:SJmPatgU0
「しかし腕輪の破壊方法に気づき得る参加者は現時点では……」
「窓はすべてを把握できる訳じゃないわ。基地の一部や、変な仕掛けをしている四つの施設の一部。
 地下道に至っては音声をほとんど拾えない上に映像も不鮮明な事が多いのよ。注意を払えって言っていたのは貴方じゃない?」

不機嫌からかテュポーンの眉間に皺が寄る、オスロは苦笑しつつ片手で従者を宥めると真剣な面持ちになった。

「埋葬されているが、気づかれると拙いか……」
「私でも参加者と繋がっていない白カードはコントロールできないわ。
 それに腕輪の破壊は生存者のより簡単よ。早く何とかした方が良いと思うけど」
「……」
「禁止エリア侵入以外の理由でで私が参加者を殺す訳にはいかないんでしょう?」


オスロの目つきが一瞬鋭くなるが、すぐ平素に戻った。
繭は気づいてるのか気づいてないのか曖昧な様子で喋り続ける。

「私ルール違反以外でお仕置きはしたくないのよ。何とかして」


すうっとオスロが深く息を吸った。


「次放送でE-1の禁止エリア化を向こうに伝えて置こう」
「あら?それだけで間に合うかしら」
「……」
「起こる筈の無い事は、ここでも何度か起こっているのに」
「……?」
「そう例えば、宮永咲っていうセレクターによく似た感じの麻雀使いだったかしら。
 参加させるあの娘の知り合いって本当は違う子が選出される手筈だったんでしょ」
「……何故そう思うのかね?早期の全滅はともかく選出はだいぶ前に行われたと……」
「だって他のコミュニティと比べてあまりにも関係が希薄だもの。ミスしたとしか思えないわ。
 私だってゲーム開始前に幾つかの世界は見てきてるのよ」
「?!」


オスロはそれに対し僅かにだが驚愕し、そして苦笑した。
繭には聖杯戦争関連を含め自分達に不都合な情報は伝えない様にしている。
理由の一つとして繭の不安定さに危惧を抱いていたというのがある。
オスロはゲーム開始前までは関係悪化をしないよう振る舞って来たが、安全に確証を持てる程の材料が無かった為、
主にここにはいない協力者と共同で防護策を練っていたのだ。警戒はしていたが、最近の浅薄な様子から見くびりすぎたか。


「……伝えてくれないとは人が悪い」
「伝える必要がある程の事かしら。白窓の部屋の性質の事、あの人から訊いてなかったの?」
「聞いてはいたが、実感がね……」


あの人か……なるべく関わりたく無いお方の、それも更なる超常に慣れていなかった時期での情報だったからか頭に入り切らなかったようだ。
既に数年前にオスロは『あの方』から白窓の部屋は稀に時空を超えた映像や音声が発生すると伝えられている。
だからこそ有力な協力者と同じく、時間こそ掛かったが白窓の部屋と似た機能を持ち、より強大な超常を持った『ここ』を含めた別の部屋を利用できていたのだ。


「さっき言った事、まともに聞いていないみたいだし。そんなので貴方達の目的が達成できるの?」
「悪い、解ったよ繭。今すぐには無理だが君もよく知るあの人と相談した上で放送前に対策を取ろう」
「……」

810【紡ぐ者】 ◆WqZH3L6gH6:2017/01/28(土) 17:28:53 ID:SJmPatgU0
オスロは繭に気を使って接していた。だがそれは長く共にいた事と同様ではない。
テロリストという立場に加え、異世界に関わってからは強大な敵が増え、構ってやる事ができなくなっていたのだ。
加えて繭自身はオスロの嗜好から程遠い人物で便利な道具としてしか見れなかった。
本来あるべき道を歩んだヒース・オスロ同様に参加者ではない方の風見雄二に傾倒していたのも大きい。
故に融和より、警戒の方へ舵切るのは仕方のない面があった。
かと言って繭を必要以上に軽く扱う事はできない。不用意に危害を加える事は自分の利益にも反し、他の協力者の反発も必至だから。


「あの人ねぇ」
「人手がいればすぐに対策はできるのだが」
「あの2人じゃいけないのね」


オスロは2人は正確では無いなと胸中で呟く。
主催には名目上は管理者である繭を除けば、いくつもの立場の者で分けられている。
オスロや『あの人』など身内で凌ぎを削って、願いを叶える手段を勝ち得た権利者。
運営に欠かせない人材でありながら拘束と警戒をせざるを得ない能力と反抗心を持つ要人。
願いの権利を巡る権力闘争に参加できなかった、又はしなかったが故に、権利を持たないことさえ知らぬ者さえいる遠坂時臣を含めた所謂外様。
一旦参加者として運営によって選ばれ拉致されてきたものの、ゲームには参加させられず半ば弄び気味に幽閉されている捕虜。
運営者の意思持ちアイテム。
そして運営には必要とされているがゲームの性質上、最低限の役割と能力しか与えられていない制約の厳しい駒がいる。
いずれの立場の者は各数名しかいないがこれが運営の陣容である。


あの2人とはいわば駒。
これまでは地下通路の更に隠された通路と繭のサポートで、橋の修復や地下通路の新たな出入り口の開通の作業をこなしていたが。
既に埋葬された腕輪の発掘回収やタマヨリヒメ回収になってくると無理があった。
駒は参加者への攻撃はおろか直の接触さえもゲームによって禁止されている。
純粋な参加者であるならそこそこ以上の力を持っているだけにあの2人を使えないのをオスロは惜しんだ。
挑発するかのように繭は甘い声で囁く。


「別の方法はなかったの?」
「……」


無い。身内が繭を発見できなければ願いを叶える力なんて間違いなく発見できなかった。
白窓の部屋を別にすれば、代替になるものは十を超える異世界においても聖杯しかない。
最低でも白窓の部屋に連なる力と聖杯システム両方がなければゲーム開催など不可能。


「!」
「……あらあら、また始まったわよ」


戦況の変化にいち早く気づいたはテュポーン。
少し遅れてほぼ同時にオスロと繭。
3人の上方の窓に映るは鬼龍院皐月と宮内れんげ、そして針目縫。
運営の3者は会話をまたも中断し、観戦する。


「……っ」


針目縫脱落というの結末に、表情こそ変えなかったがテュポーンの声が漏れる。
繭は薄ら笑いをしつつ身をかがめてオスロを覗き込んだ。

811 ◆WqZH3L6gH6:2017/01/28(土) 17:31:26 ID:SJmPatgU0
とりあえず以上です。
残りは今深夜か朝に投下する予定です。
重ね重ねすみません。

812 ◆WqZH3L6gH6:2017/01/29(日) 13:03:04 ID:u./WxJ8Y0
続きを投下します。

813【紡ぐ者】 ◆WqZH3L6gH6:2017/01/29(日) 13:03:47 ID:u./WxJ8Y0


「タマを支給品にしなければ良かったのにね」
「……」
「……」


繭の嫌味にオスロと従者は表情を変えずただ沈黙を続ける。
その様子に繭は不満げに口を尖らせた。
この主従、表面こそ平静を保っているが心中は穏やかではない。
テュポーンは主を侮辱する繭に対し少々ではあるが怒りを抱いていたし、
オスロは危機感を否応なしに自覚させられていた。
繭の怒りと不信は未だ治まっておらず、現状ままだとこちらへの協力が望めないという事実に。

彼が知る限り、ゲームに乗り気である参加者は現時点で多く見積もって残り5名程度。
内DIO、ヴァニラ・アイス、ラヴァレイは窓からの様子からしてスタンスを変えた可能性が感じ取れた。
オスロして見ればラヴァレイと平常時のDIOは彼等の経歴を知っている事もあり最も油断ならない部類の参加者。
前者は立ち回りが非常に上手く、後者は行動が読みにくい。ヴァニラ・アイスは主に従うだろう。
よってその3名はそれぞれの敵対者以外の参加者減らしに期待できる人材と見れなくなった。
残る現・浦添伊緒奈ことウリスは参加者の中では非力で不用心な傾向が強くもっと当てにできない。
となると有望な参加者は纏流子のみとなるが、こちらは少なからず消耗しいつ脱落しても不思議でない状態。
このまま行けばゲーム進行が停滞する可能性が高く、まともに繭の協力が得られなくなるのは拙かった。
白カードの問題もある。


「……」


繭は無表情で呆れたような視線を2人に向けた。不遜な態度。
もしこの場にオスロの部下が多数いればこれ以上大人しくしようとは思わなかっただろう。
それだけにゲームの制限により部下の殆どを連れて来られない現状はむしろ幸いしたと言える。
精神を乱される事無くオスロは現状の最適解を考え、顔を僅かに伏せ表情は少しばかり悲痛に歪ませ口を開いた。



「タマヨリヒメを保護すれば、私を許してくれるか」
「!?」
「…………ええ、そうよ話が早いじゃない」


オスロの明らかに遜った態度にテュポーンは身を震わせ、繭は戸惑いつつも喜色を浮かべる。


「私はどうすればいい……」
「……」


繭は態度を変えたオスロを気味悪そうに見つめつつ問いた。


「何でタマを支給品の中に混ぜたの?」
「……」

814【紡ぐ者】 ◆WqZH3L6gH6:2017/01/29(日) 13:04:55 ID:u./WxJ8Y0

その質問が来るのは予想していた。先程は適当に言葉を濁したが、次そんな態度を取ればもう必要最低限以上の協力は望めない。
セイバー、針目縫といった優秀な殺戮者が脱落した今、繭にも言っていない願いを叶える方法のノルマが達成できない可能性が高くなっていた。
繭いわく協力者であるあの人がまだここにいない以上、ゲームの盤面に介入できうる切り札はまだ切れない。
厳しいこの状況を打開できうる手段が繭にあるなら、何としてもそれを使わせる。
よってあの人……いや『奴』との協力関係はこの際破棄する事をオスロは決めた。


「君も知るあの人から頼まれたのだよ」
「……っ」
「理由はタマヨリヒメを詳しく知らない私には大凡しか見当がつかないがね」


オスロがタマヨリヒメについて詳しく知らないのは事実である。
白窓は全てを見れるものではない。見れる情景には個人差と運が絡む。
オスロはセレクターやルリグの過去は見れず、逆に『奴』は多くを知れた。
それが大きな違い

「何で断らなかったの?」
「断ったら、タマヨリヒメに直に危害を加える可能性があると思ったからだ
 君もあの人の経歴……危険性は知っているだろう?」
「……」


嘘である。オスロがホワイトホープを支給品の山に加えたのは、仮に繭がこちらに刃を向けた場合、
有力な参加者にタマヨリヒメの力を抑止力して発揮させてもらう狙いがあったからだ。
その点に置いては『奴』とオスロの思惑は一致している。
繭は収まらぬ怒りを含めた眼差しを彼へ向け冷たく言い放った。


「貴方怖いから、あの人に従ったんでしょ」
「……」
「……!」


真っ向からの侮辱に部屋に痛い程の沈黙が訪れる。
部屋にいる3人は能面のような表情で立ち尽くした。


「…………まぁ良いわ、あの人が悪かった事にしてあげる」
「……助かるよ」


繭は後ろを向き部屋から立ち去ろうとする。
テュポーンはその動作に微かに殺気を発するが、これもオスロが宥めた。
繭は振り向かない。


「タマは保護するわよ」
「さっきも言ったが、参加者の所持品を運営が没収するのはバランス的に良くないのではないか?」
「もしタマと接触できそうだったら別のルリグカードと交換するよう説得させるわ」
「……」

815【紡ぐ者】 ◆WqZH3L6gH6:2017/01/29(日) 13:05:41 ID:u./WxJ8Y0

オスロは落胆した。繭への抑止力の一つを失ってしまう事に。
彼はゲームでの元の所持者であったアザゼルの顔を思い浮かべる。
繭とタマヨリヒメと小湊るう子の関係を自らの推理で言い当てた高位の悪魔。
彼と遭った対主催傾向の参加者はその高い頭脳と実力に彼に期待をしたが、オスロはそれに値する人物ではないと思った。
アザゼルの残忍な行動はるう子とタマヨリヒメを萎縮させ、三好夏凛に多大な負担を強いたからである。
肝心要のタマヨリヒメ――全ルリグもそうだが力を発揮させるためには精神的な成長が必要であると『奴』から聞いている。
進化がどうこう言ってた割に目立つ行動は自衛以外は基本他者への嫌がらせ。あれでは何も成せないなとオスロは心中で悪魔を嘲った。


「アーミラのカードは?」
「しばらく様子を見るわ。吸血鬼コンビが拾いそうだし」
「……」


マイナス2か。オスロは沈痛さを表に出さずまたも落胆する。
バハムートへの抑止力が高い確率で此方に強い敵意を抱いているだろう凶暴な吸血鬼に渡るのだ。
気落ちしないほうが無理がある。
ファバロ・レオーネがアーミラの白カードを回収していたのは繭より先に知っていた。
オスロが知る限り、アーミラから神の鍵を分断させたとかいう話は聞かない。
よってあえてこれまでアーミラのカードを放置したのは白のルリグデッキと同様の理由だった。


「じゃ行くわね」
「何処へだい?」
「中核に」
「……解った」


ゲームのシステムについて独自に調査するつもりなのだろう。
繭が暴走した場合取れる手段が更に限られるという意味ではこちらにとって不都合な流れ。
だがゲームが破綻するよりはと自らを納得させそのまま見送った。
繭の姿が見えなくなると同時にオスロは従者に命令を下した。
他の運営者の様子を見てきなさいと。
テュポーンは頷くと、そのまま主の元を離れる。
従者の姿が見えなくなるや、オスロは青カードを取り出しそれをワインへと変化させた。
彼はソファへ深く座り込み深く息を着いた。疲労が一気に押し寄せて来て思わず顔をしかめた。

816【紡ぐ者】 ◆WqZH3L6gH6:2017/01/29(日) 13:06:08 ID:u./WxJ8Y0
-------------------------------------------------------------------------------------------------


「……」


遠坂時臣は運営基地の外にいた。
場所は地図のすぐ外の海辺。時臣が基地に出向いた時は船に乗り乗船員もいたはずだった。
待機を命じたにも関わらず、船と乗員は姿を消していたのだ。
時臣自身、目的を果たすまでは帰還するつもりはなく、一旦外出したのも船を帰す為であったが。
かといって無断でやられると面白くない。
渋面で慣れない手つきで通信機を操作し雇った乗員と連絡を取ろうとする。

連絡はすぐ取れた。勝手に出航した乗員へ叱責をする。
向こうは要領を得ない様子で気がついたら出航していたと言った。
まるで意思操作の魔術に掛かったかのようだ。
人払いは済ませてあるというのに、これは。
時臣は再度こちらに来るよう伝えようと考えたが、今度は行方不明になる可能性に気づき一旦帰還するよう向こうに伝えた。

時臣は船着き場に足を運び、魔術が使われた痕跡がないか調べる。
基地全体および島から妙な力が働いているのは確認できたが、魔力の残渣のようなものはなかった。
少なくともあの乗員は自分が知る魔の力によって惑わされたのでは無いという事か。


「……成る程、結界の破壊を危惧しなかったのはこれが理由か」


この島には結界とは別に、固有結界……あるいは空想具現化に似た力が働いている可能性があると時臣は推測する。
己の心象をそのまま異界として発現操作するという、どちらも人の範疇を大きく超えた高位の吸血鬼や英霊のような存在しか扱えないような力。
これだけの事ができるなら自動で人の認識を術者の望む方向で惑わさせる現象を作り出すのは容易だろうと時臣は納得し口を歪めた。
とは言え、人工衛星など超長距離からの監視には対応できるかは疑問である。
こちらに結界を張るのを依頼したのはカバーできない部分を補う為だと時臣は断定した。

関わった事態の大きさから、重圧から来る冷や汗が全身から滲み出るのを感じつつ、時臣は運営基地の門を見据える。


「……」


数時間前、白窓から観察したあの吸血鬼達が見たあの聖杯戦争の映像からして冬木の聖杯は使い物にならない。
つまり遠坂家の悲願である根源への到達はこのままでは実質不可能という事だ。
あの映像が虚偽の可能性も浮かんだが、ゲーム内の間桐雁夜の様子からして恐らく真実だろう。
なら目的を成すには今行われているゲームに賭けるしかない。

「……」

時臣は眼を瞑り、拳を強く握りしめた。
瞼に浮かぶは親交ある神父の息子で、本来なら聖杯戦争の共闘者になっていた筈の若き屈強なる神父の姿。
未来の自分を裏切り殺めた言峰綺礼。先程死んだ彼との親交はここの時臣にはない。
よって何もと言う程でもないが彼個人への感傷や憎悪の念はない。未来の己への不甲斐なさはあったが。
ただ別個体とは言え、息子を喪い生来からの苦しみを理解してやれなかった父である言峰璃正の心境を思うと気の毒になってくる。
今はそれが気がかりだった。

時臣は門へ向かった。
悲願を達成する第一歩として、言峰璃正と最近知り合ったここに来ているだろう運営の一人と会い、今後の為の作戦を練る為に。

817【紡ぐ者】 ◆WqZH3L6gH6:2017/01/29(日) 13:09:01 ID:u./WxJ8Y0
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大窓からついさっき死んだセレクターの魂が大部屋に入り込んだ。
その魂はジャケットを着たポニーテールの少女の形をしていた。
空いた窓の一つから発せられるは強力な引力。
魂はそれに抵抗を試みる。他の魂よりは粘れたが、すぐ疲労した。
もう逆らえそうもない。
封印を悟った魂は覚悟を決め自嘲の笑みを浮かべ顔を下げた。


「!?」


その時、視界に入ったのは勘違いではあるが少女の魂を驚かせるもので。

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紅林遊月の脱落と封魂を確認した繭は大部屋をウロウロ歩きながら不思議に思った。
封印される直前何に驚いていたのだろうと、こちらを見た訳ではないのに。
繭は手にしたカードの絵を見た。疑問は程なくして解けた。
多分マフラーを巻いたあの娘にそっくりだったから勘違いしたのだろうと。
得心した繭はカードから目を離すと、高所にある無数の窓を見上げる。


犬吠埼姉妹、南ことり、満艦飾マコ、キャスターの魂を封じた筈の窓。
今からこれらをじっくり調べ上げなければならない。
繭はカードを遠くに投げつけ、そちらに向かって何やら指示を出すと、
今度は竜の絵が描かれたカードを取り出す。
巨大な竜の身体が一瞬で現出し、繭の身体を天井近くまで押し上げた。


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――彼の人生は最初から定められていた。
『あの方』の理想を粗方だが実現させるだけの能力と身分が生まれた時から彼に与えられていた。
その生き方に疑問を持っていたかどうかまではもう覚えていない。
彼はその理想に一定の共感を覚えながらも、『あの方』の理想の範疇を逸脱しない程度に好き勝手に悪どく生きている。
彼の名はヒース・オスロ。
一説によればそれは彼の所属する組織、ひいては彼を生み出した『あの方』の名前でもあったという――

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オスロはスマホで地下通路にいる2人の駒に指示を出すと、壁に立てかけてあった武器を手に取った
剃刀のような剣の手入れをしながら、彼はワインボトルを眺める。
青カードか変じたもの。赤カード同様に一種の聖杯によって生み出された奇跡の産物。


彼はスマホが振動しているのに気づき画面を見る。紅林遊月の脱落の情報が載っていた。


(思うように行かないものだ)


スマホアプリウィクロスは、原初のルリグたるユキを参加者に協力させる足がかりにさせるつもりで導入したツールだった。

818【紡ぐ者】 ◆WqZH3L6gH6:2017/01/29(日) 13:09:51 ID:u./WxJ8Y0
紅林遊月がゲームに気づく前に退場してはクリアできないでは無いかと肩を落とす。
ユキ(名前は植村一衣に仮に付けてもらったらしいが)には繭の異能に抗する力がある。
このゲームにおいてもそれは健在で、黒カードの呪縛程度なら解呪できるくらいの力を持っていた

(新しい策をまた考えないといけないのか)


「……」


(『あの方』の命で自分を繭と認識しているあの娘を救出をしてもう何年にもなる。
  あの館のある町で発生した怪奇現象発生源でもあった彼女は救助されしばらくしてからお礼がしたいと言ってきた。
  それは白窓の部屋にあった未知なる力。彼女はそれを用いて礼をしたいと言ってきたのだ。
  セレクターバトルの実在を確認していたからか『あの方』を含め、その力には期待を持った者は多かった。
  我々はまず意識を別のものに移すシステムを望んだ。その願いはすぐさま叶えられ、我等は大いに喜んだ。
  欲に駆られた一部の連中は更なる願いを求めて彼女に頼み込んだ、だがそれは叶えられかった)


オスロはグラスにワインを注ぎ香りを嗅いだ。


(力を使い果たしたからだ。我々はその力に頼るのを止め。彼女の力と当初の研究に注力した)


グラスの柄を強く握った。まるで苛立ちを表すように。


(……我々は正確ではないな。私はあの日を境に彼女とは疎遠になっていったのだから)


ドンッとグラスの柄が強く机を叩く。


(思えばあの時からだった『奴』のような規格外といえる連中がどこからともなく集まってきたのは。
 セレクターバトルが拡大するにつれ彼女を取り巻く超常現象も頻度を増していった。
 同時に白窓の部屋の未知の力が蓄え始められ、それに比例するかのようになぜか彼女の容態は悪化していった)

オスロはワインを一口口に含んだ。美味いはずのワインは苦く感じた。

(我々と『奴』は彼女の延命を試みると同時に、蓄えられた未知の力を有効活用する術を考えた)

ワインを更に二口飲む。

(結果的に『あの方』のお陰もあってか彼女は死なずに済んだ。
 二度目の願いを無理に叶えたのが原因で、その叶える力は使えなくなってしまったが……)


オスロは空になったグラスを宙にかざす。


(我々は願いを叶える力を扱える代わりの技術を発見し、彼女にそれを実現させるように頼みこんだ)

819【紡ぐ者】 ◆WqZH3L6gH6:2017/01/29(日) 13:10:41 ID:u./WxJ8Y0
グラスを指で弾いた綺麗な音がした。


(聖杯の再現)


グラスにまた液体が注がれる。今度は水だった。
オスロは苦々しい顔で過去を思い出す。


(聖杯は出現したものの我々の思っていたのと異なりまともに起動させる事はできなかった。
 なのにそれを今は滅びたあの連中がそれを強く欲し、それがきっかけで内紛が始まった)



オスロは左足で右足を踏み、苛々するかのようにその動作を繰り返した。


(……あの勢力を相手によく生き残れたものだ。回復後の繭がバハムートのカードを得ていたのが幸いだった。
 ……まぁ『奴』が味方にいたのも大きかったがね)


今度は右足で左足を踏む。


(『奴』主導で異世界における白窓の部屋の増築と拡大が行われ。
  私は敵対勢力への繭の隠匿。本性を隠しての異世界の有力組織との交渉を担当した)


オスロは2つの窓を見る。
地下道を行くDIOとヴァニラ・アイス、ラヴァレイと小湊るう子とウリスの姿が映し出された。

(結果。今は神樹の一部や『あの方』が命を捨てて聖杯――『システム』の一部になってくれたお陰で
 私はこうして生きている)


右足を左足から離す。
オスロの顔には歪んだ笑みが浮かんでいた。


(連中や『奴』を含めた力と勢力が制限されたお陰でな)


オスロは水を飲み干した。
彼の笑みは余裕のあるものに既に変わっている。


(とはいえ、このままでは私の組織も機能せずに朽ちてしまう。
 何としてもこのゲームで決着を付けなければ)

820【紡ぐ者】 ◆WqZH3L6gH6:2017/01/29(日) 13:11:35 ID:u./WxJ8Y0

オスロは2グループの様子を眺めた。
主従は急いだ様子もなく神妙な面持ちで何やら会話をし、もう一方もラヴァレイとるう子が真剣に会話をしている。
放送前とは明らかに様子が違う。





従来の聖杯は魔術師を呼び水に英霊を呼び込むものだ。
だが情念と因縁渦巻く白窓の部屋の力を無理やり聖杯の形にした『システム』は求めるものが違う。


『システム』が求める参加者という生贄を選出する方法は三種類ある。
一つ目は『システム』が身近にいるコミュニティを指定して選ぶ、オスロや『奴』のようなケース。
二つ目は繋がった世界の中から参加者となりうる人物を『システム』がそれに関わる者に知らせるケース。
三つ目は一つ目と二つ目での選出者がある程度増えた場合、可能となる方法で既存の参加者と縁のある者を繋がった世界から無理やり召喚するケースである。


(三番目のシステムには実に奇妙だった。ない知識や力を持った者がいたし、一部参加者の選出も異常だった。
 どの時期に呼ばれたのか『システム』でも把握できない奴もいたくらいだ)


本来ならオスロを含めた権利者はゲームに参加しなければ願いを叶えることができない。
しかしオスロら権利者はその資格を持っている。
その理由は内戦を生き残った彼らを『システム』が勝者と見なしたからだ。
『システム』は願望機として作動することはなかった。
理由は広範囲に渡り戦闘を繰り広げたため力を集めることができなかったから。


内戦が終わっても制限と権利を失わなかった彼らは今度は範囲を狭めたゲームを開催すると決めたのだった。
四次聖杯戦争も参考の役に立った。

「……」


オスロはスマホを取り出し操作した。映った画面にオスロは安堵と苦悩の入り混じった妙な表情を形作る。

(蓄えられた力は予想より随分多い。しかし現状だと願望機能発動させる最低限の力が収集できるか不透明だ)

 
願望機を起動させる方法は2つ、願望機に力を充分蓄えさせた上で参加者が残り1人になる事。
その方法でゲームが終わった場合、権利者全員が願いを叶えることができる。
本当の勝者の数は1+α人である
それは権利者にとってベストケース。

もう1つは願望機を起動させるのに最低限の力を蓄えさせた上で、システムが設定した管理者を倒す事。
それだと叶えられる願いは2つになってしまう。
これはオスロが許容できるベターパターン。


「……」

そろそろテュポーンは戻ってくるだろう。
腕輪の製作者である酒の神の元から。
仮に介入が実現できたとしても展開次第では戦力的に不安が残る。
外様の中には戦闘に秀で状況次第では神威や皐月を倒しうる実力者がいる。
そして直接の戦闘では及ばずとも異能で強者相手に賢しく立ち回れる者もいる。

821【紡ぐ者】 ◆WqZH3L6gH6:2017/01/29(日) 13:12:55 ID:u./WxJ8Y0
オスロは顔を上げた。視線の先に映るは天々座理世の姿。
あるいはあえて非戦闘者を投入するのも効果的かもしれない。
非力さと無知さを抱えた一般人は下手な敵よりも危険だ。



その時、オスロのスマホが振動すた。


「……」


オスロは応対すべくスマホを取った。
-------------------------------------------------------------------------------------------------


「……」

一通り小窓の点検を終えた繭の表情は険しかった。
南ことりと満艦飾マコの小窓に魂は入っていない。
犬吠埼風の魂は封印済。
キャスターの窓は何かが封印されているのは確認できたが正体不明。
窓から聞こえる声はなく、キャスターとしての自我は残っていないと推定できる。
そして犬吠埼樹の窓は壊されていた。

破壊された窓に手を触れるが亀裂の中に手を突っ込む事はできない。
これ以上調べるには白カードを調べる必要があった。」


(魂のエネルギーは少しだけど感じ取れる。そうなると魂はカードの外側に居る?)


繭自身、結城友奈と犬吠埼風の戦闘後に犬吠埼樹の白カードは窓を通じて存在を確認していた。
生前の樹同様の姿が再現された一枚絵。
つまり樹の魂はカードから脱出できるにも関わらず留まっている事になる。



「……やってくれるわね」


繭は呻くが、どうすることもできない状況と悟りあえて放置する事にした。


「一番の問題は2枚の白カードよね」


白カードは参加者と腕輪が揃って初めてその強制力を発揮できる。
白カードのみが参加者の手に渡るのは拙い。
白カードは白窓への大部屋へと通じる通路そのものでもある。
無論そのままでは入り込む事などできはしない。
だが白カードの原理とセキュリティは腕輪や黒カードと比べて単純で。
仮に魔術の知識を持つ者に渡れば短時間で解析されてしまう。
桂小太郎やDIOといった柔軟な思考の持ち主に渡るのも危険だ。


「そういえばオスロって腕輪を欲しがっていたわよね
 埋められたあの二着を渡したら喜ぶかもしれないわよね」



淡々と繭はとぼけたような口調で呟きながら柱に右掌を当てた。
そして言峰綺礼の最期の戦いを思い浮かべる。
繭の右手が柱に吸い込まれていく。
腕に小さな痛みを幾つか感じるや、ゆっくりと繭は腕を引き抜いた。
腕には切り傷のような入れ墨が6つ刻まれていた。それは令呪だった。

繭は不敵な笑みを浮かべると、駒が待機する場所をイメージ。
彼女の身体から白と黒の幻想的な蝶が何羽も現れる。
そして一枚のカードを翳すと赤光で縁取られた次元の穴が開いた。
無数の白と黒の蝶の中にいつしか真紅の蝶が現れ始める。
繭は高熱による大気の歪みを纏いながら次元の穴へと消えた。

822【紡ぐ者】 ◆WqZH3L6gH6:2017/01/29(日) 13:13:43 ID:u./WxJ8Y0

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通話は終わった。
ヒース・オスロの側には腕輪を数着包んだ袋を持ったテュポーンがいる。
通話相手は『奴』の息がかかった運営者。
オスロはソファに腰掛け手を組んだまま考え込んでいた。
あくまで介入の許可を取るに留める積もりにだった。
繭への嫌がらせをネタに交渉を有利に進めようとした矢先、
『奴』ははっきりと伝えた。


――第四回放送前に運営全員で話し合おうと


(覚悟はしていた。だがいざ『奴』がここに来るとなると平静を保つことすら難しい)


オスロの自尊心は一度完膚無きまでに潰されている。天導衆と鬼龍院財閥との抗争によって。
『システム』によって能力に制限が掛けられていたにも関わらず。

「……」


オスロの手を組む力が自然と強くなる。彼は繭以外にも用心を重ね対策を取っている。
テュポーンに願いの権利を持たせているのもその一環だったし、邪魔者に繭をぶつける作戦をも構想してある。

現ヒース・オスロはテロリストだ。ある程度の品位こそ持ち合わせているが、指揮官としての矜持も、
時として死をも恐れぬ勇猛さも持たない悪趣味な重犯罪者。
強さを示し続けられなければただの屑に過ぎないと抗争のさなかに彼は思い知った。
今は亡き開祖の理想を自分なりに実現し続け、ヒース・オスロであり続けるが為に策を巡らせる。


(『奴』はこのゲームで殺す)

ヒトの形をした心身ともにバケモノの『奴』の姿がオスロの脳裏に浮かぶ。
『奴』への恐怖心は既に消えていた。

823 ◆WqZH3L6gH6:2017/01/29(日) 13:15:43 ID:u./WxJ8Y0
仮投下終了です。
この度は長期に渡ってパートを拘束し多大な迷惑をお掛けしてしまいました。
誠に申し訳ありませんでした。

824 ◆3LWjgcR03U:2017/01/29(日) 21:37:10 ID:OopqJsko0
投下乙です。
主催の内幕の詳細がかなり明らかになってきましたね。色んな人物が関わっているようですが、捕虜もいたりするようで一筋縄ではいかなそう。
参加者の選出方法や時臣の時間軸といった細かい点も出てきて興味深いです。そして過去の鬼龍院財閥VS天導衆が気になる。
本投下に問題ないと思います。ただ、封印された参加者の魂にどの程度意思や行動力があるのかについては今後議論の余地があると思うので、留意しておいた方がいいかもしれません。(現時点での加筆等の判断はお任せします)
改めて、投下お疲れ様でした!


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