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0さん以外の人が萌えを投下するスレ

1名無しさん:2010/05/07(金) 11:07:21
リロッたら既に0さんが!
0さんがいるのはわかってるけど書きたい!
過去にこんなお題が?!うおぉ書きてぇ!!

そんな方はここに投下を。

9120-534,535続き 生徒視点1/3:2011/02/15(火) 04:07:26 ID:.g1TcCO.
先生の第一印象は覚えてない。多分気にも留めていなかった。
あの頃の俺は、とにかく自活するだけの金を稼ぐので精一杯だったから。
高校に入学した当初はまだ勉強とバイトの両立ができていた。
でも授業の内容が難しくなりだすと、元々出来のよくない俺の頭は早々に音を上げた。
学校でダウンする時間が大幅に増えたのは二年に上がった頃だ。
元来チャラい見た目に加えて、英語は一番苦手だったから睡眠時間に当てられやすいこともあり、先生の俺への心証は最悪だったと思う。
俺を見る目はすごく不機嫌そうだったし、俺もそんな先生が苦手で避けるようにしていた。

それが変わったのがいつかははっきり覚えている。
夏になる少し前、ドジをして怪我をしたせいで予想外の出費をしてしまい、いつも以上にバイトに追われていた頃だ。
一応学校には来ていたけど、もうヘロヘロで、授業を聞くどころかしゃんと椅子に座ることすら出来ていなかった。
昼休み、いつも一緒にバカばっかやってるクラスメイトが心配するくらい俺の様子はひどかったらしい。
「お前顔色悪くね? さっきの英語もずっと寝てたじゃん」
「しゃあねえだろーバイトよバイト。もー今バイトが一番大事だもん」
言いながら廊下に出たらパンを抱えた先生と鉢合わせした。
聞かれた。やべえ。
真面目そうだし俺のこと嫌ってるだろうし、バイトなんかやる暇あるなら勉強しろとか言われる。
俺は身構えた。
でも先生はふっと笑ったんだ。
「あんまり無理するな」
すげえ優しい声だった。一瞬幻聴かと思った。
「明日の俺の授業、今日みたいに青白い顔するなら来るなよ。来たら強制的に保健室行きだからな」
そう言って俺に向かって缶ジュースを投げてきた。
受け取ったらあったかいおしるこだった。
「甘いものは頭の働きをよくするんだ。間違って買ったからやる」
その瞬間、俺はトスッという音を聞いた。
キューピッドが俺の心臓めがけて矢を放った音だ。
もう暑いのにおしるこ? とか間違って買うとか意外とドジ? とか色々思うところはあったけど。
何より先生が本当に俺を心配してくれてるんだって感じたら、俺は先生が堪らなく好きになっていた。

9220-534,535続き 生徒視点2/3:2011/02/15(火) 04:08:47 ID:.g1TcCO.
その日から俺は先生に猛烈なアタックを開始した。
英語の授業はなるべく寝ない。
休み時間は先生の準備室に押しかける。
愛の言葉は惜しまない。
彼女がいない、三人兄弟の次男など周辺へのリサーチもばっちりした。
当然隠す気は微塵もなかったから俺の気持ちはバレバレだ。
だけど先生は、最初こそ戸惑っていたみたいだけど、すぐに慣れて右から左に受け流すようになった。
「先生おはよう今日も可愛いね!」
「おはよう上村、お前の頭は今日も残念だな」
「先生聞いてよ俺今月リッチだよ、遊園地デートしようよ奢れるよ!」
「あーありがとよ。代わりにその金で参考書買って自習ノート提出してくれ」
「先生マジ好き愛してる! 先生は俺のことどう思ってる?」
「若干頭が残念な可愛い生徒。以上」
こんな感じ。
俺がボールを投げまくっても先生は素知らぬ顔でカンカン明後日の方向に打ちまくる。
当然俺は焦れまくったけど、先生は全然態度を変えなかった。
俺がアホなこと言えば張っ倒して、授業のわからない部分があればそれが担当外でも真面目に丁寧に教えてくれた。
でもそうやって半年ぐらい過ぎた頃、俺は先生が時々すごく優しい目で俺を見ているのに気がついた。
問題がわかんねーと呻いてるとき。
好きだって言っても相手にしてくれなくてへこんでるとき。
疲れ果てて教科準備室のソファで寝ちゃったとき。
先生は静かに目元だけ柔らかくして俺を見るんだ。
それが他の人の前ではそうそう出ないってことは知ってる。
俺、四六時中先生のこと見ていたから。
そのとき、俺は先生が俺のことをどう思っているかわかった。
でも喜ぶより恥ずかしくなった。
先生は言葉にするだけが方法じゃないって知ってるんだ。
俺のこと、本気で考えてくれてるから。
先生は大人だ。先生はカッコイイ。
それに比べて俺はどうだ。
先生に見合う男になりたい。
先生が胸張って隣にいてくれるような、カッコイイ男になりたい。
本気でそう思った。

9320-534,535続き 生徒視点3/3:2011/02/15(火) 04:11:10 ID:.g1TcCO.
英語以外の授業でも寝なくなった。
バイトをやめることはできなかったから、遊びをばっさり切り捨てた。
予習復習をできる限りやって、わからないところがあれば先生以外にもクラスメイトや他の先生に教えてもらいに行った。
試験順位が二桁前半に食い込んだとき、皆驚いたけど先生だけは「頑張ったもんな」と笑ってくれて、マジ嬉しかった。
一校だけ受けた滑り止めの私立に受かって、前の俺なら逆立ちしても無理だった本命の国立もA判定が取れて、先生は自分のことみたいに喜んでくれた。
全部昨日のことみたいに思い出せる。
先生、先生、好きだよ。俺、先生の隣に並べる男になれたかな。
着古した学ランを今日ばかりはキッチリ第一ボタンまで閉めて、卒業証書を肩に俺は歩きだした。
目指すのはもちろん英語準備室。
ドアを開けたら先生が眩しそうに俺を見る。
その顔を見てたら堪え切れなくて気がついたら叫んでた。
「隆文さんマジ好き愛してる!」
「いきなり名前かよ!」
いつもどおりの色気のないツッコミを入れられたけどいいんだ。
抱きしめたら耳を真っ赤にして俺もだよって返してくれたから、俺、それだけでいいんだ。

9420-599 まるで妖精のような君:2011/02/22(火) 01:26:30 ID:GfgekUjw
君と初めて出会った日のことを今でもはっきりと覚えている
母親に無理やり連れて行かれた、あの春の日の体操教室
同い年なのに俺よりずっと小柄で華奢な君を女の子と間違えて怒らせたよな
でも、動き出すと小さな体が俺よりずっと大きく見えた
マットの上を軽やかに飛び跳ねる君は、まるでアニメで見た妖精のようだった
君みたいに飛んでみたくて、俺も体操教室に通い始めた

だけど、君みたいに飛ぶのは簡単じゃなかった
6歳にしてすでに体操歴2年半の君との差はそう簡単に縮まらなくて
何度もくじけそうになって、それでもあきらめきれなくて
いつも必死に君の背中を追いかけてた


あれから、15年
俺はもうすぐ世界選手権に出場する
でも、君はここにはいない
高校生の時まではいつもいっしょだったのに
何度もいっしょにジュニアの日本代表に選ばれたよな
だけど、君は、ある日突然体操をやめた

難しい病気だったんだって後で聞いた
すぐに治療をしないと、競技を続けるどころか命すら危なかったって
それから2年半、君の入院生活は続いた

退院した後、リハビリを続けていたと聞いた
ようやく競技に復帰したらしいことも
俺は見に行けなかったけど、君らしい演技だったって


オリンピックまでは、まだ少し時間がある
君ならきっとやれるよ
俺はその2年半を埋めるのに倍以上かかったけど
君ならもっと早くたどりつけるだろ?

俺も頑張るから
誰かにこの位置を奪われたりしないように

本当は君が立っていたかもしれないこの場所で
まるで妖精のように飛び跳ねる君とまた逢える日をずっと待ってる

9520-619 慣らす:2011/02/23(水) 22:33:43 ID:KM8FELxI
ぎりぎりに投下しようとしたら板がおかしい(´・ω・`)
その上時間も過ぎちゃった(´・ω・`)
なのでこっちで。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

「ここが今日からお前の部屋だ」
背負ったままのリュックをぽんと軽く叩くと、細い身体が大袈裟に跳ね上がった。
直接触れたわけでもないのにこれほど大きな反応を示すのは、親戚中をことごとくたらい回しに
されたその過程で何度か虐待を受けたからだろう。目で確認したわけではないが、季節外れの
長袖の下にはいくつも痣が隠れていると聞いている。
俺は気づかれないようにため息をついて、小さな部屋を見回した。
簡素なベッド、勉強机、押し入れにすっぽりはまっている小さな箪笥。それがこの部屋の家具の
全てだ。
「悪ぃな、テレビも本棚もなくて。必要なら揃えてやるから、しばらくはこれで我慢してくれ。
 押し入れに箪笥が入ってるから、好きなように自分で収納しな。荷物はそれで全部か?」
リュックを指し示すと、ゆらりと頭が前後する。頷いたのか揺れただけなのか、判別が難しい。
無言で半歩身を引く。カケルはこくんと唾を飲み込み、恐る恐る部屋に一歩踏み込んだ。
俺とカケルの縁戚関係ははてしなく遠い。俺の名が出る前に施設が選択肢に挙がっても不思議で
ないほどだ。事実、今日が二度目の対面だったりする。
カケルはリュックを背中から下ろし、お腹のところで抱えなおした。
「……カケル」
名を呼ぶと小さな肩が震え、吊りぎみの目が伺うようにこちらを見上げた。警戒心で眉間の皺が
深い。
近づくと後ずさろうとするのも構わず、俺はカケルの痩躯を抱き寄せた。
「っ……!」
肩のところで息を飲む音がする。早鐘を打っているだろう鼓動は、リュックに遮られて届かない。
心の中でゆっくりみっつ数えて、俺はそっとカケルから離れた。
カケルはリュックをちぎれそうなほど抱きしめ、荒い息をなかなか整えられずにいる。
「カケル。これからうちでは、これが挨拶だ」
ぱっと上げられた顔には、様々な感情がないまぜに浮かんでいる。
「朝起きた時。夜寝る前。出掛ける時。帰った時。できないなら、無理にお前からはしなくても
 いい。俺から一方的に抱きしめるから、拒まずに慣れろ」
カケルは唇をふるわせ、なにか言いかけてやめ、潤んだ瞳を隠すようにうつむいて背中を向けた。
俺はその後ろ頭を撫でようと手を上げかけて、結局触れることなく下ろした。

96探偵と○○:2011/03/01(火) 21:46:49 ID:f7n0mcz.
探偵というものは、概ね殺人事件に巻き込まれたりはしない。
旦那の浮気調査が一番多い。探偵にとっても金をよどみなく出してくれる美味しい仕事だ。
今日も俺は男の後をつけ、写真を撮り、報告書を作成する。奥さんが沢山慰謝料をとれるように。

「浮気しているかどうかはわかりません。でも怪しいんです」
その女性はやつれた顔で事務所に来た。おとなしそうな控えめな人だった。
短い爪の少し荒れた手だった。微かに見えたカバンの中身は整理され無駄なものはなかった。家事をきちんとしているタイプだ。
女性としての魅力もないようには思えない。こういう女性でも幸せになれないというのは残酷だなと思った。
「お恥ずかしい話ですが夫婦生活も全然なくて…。このまま私の人生が終わっていくのかと思うと悔しくて…」
「わかりました。全力をつくします。それでご主人の行動で怪しいというのは」
「外でシャワーを浴びていて…ホテルの領収証もありますし…」
「ああ、なるほど」
「でも、おかしいんです。いけないとは思いつつも携帯をみてしまったんですが、形跡がないんです。
事務的なメールばかりで…。女の匂いがしないんです」
「上手な人はいますから」
「主人はそんなに完璧な人間ではないんです。でも何かがチグハグで」
話をひとつひとつ確認しながらメモをとった。
取りながら俺は自分の体温が背中から下がっていくのがわかった。

「これが主人の写真です。よろしくお願いします」
差し出された写真には俺のよく知っている男が写っていた。ただ妻帯者だとは知らなかったが。
「では、また追ってご報告しますので」
彼女を送り出してからため息をついた。
そりゃあ女の匂いはしないだろう。浮気相手は男なんだから。

さあ、どうする。何も言わずに証拠を揃えて破滅に追い込もうか。それとも救い舟を出して続けるか。
タバコを吸いながら思案した。携帯に何も知らない男からの電話が来るのはもうすぐだ。

9720-709(716の補完):2011/03/07(月) 21:16:16 ID:vHC0dALY
ある日、801板にこんなスレが立つ。


『腐女子助けてwwww』
1 :風と木の名無しさん:2010/11/13(土) 16:21:09.11 ID:motonoNke0
男を好きになりました\(^o^)/
しかもヒトメボレwwwwおれヤバスwwwwwwwww

2 :風と木の名無しさん:2010/11/13(土) 16:21:11.59 ID:motonoNke0
あ、俺も男な\(^o^)/


スレが立った当初は、出張VIPPERの釣りだと疑う者、3次元お断り、
他版への誘導などで大混乱したが、次第にスレ主の真剣さが伝わり、
親身にアドバイスを書き込み始める腐女子達。

『腐女子助けてwwwwPART2』
304 :風と木の名無しさん:2010/11/17(水) 23:50:10.05 ID:YaOISaIK0
一緒のゼミかサークル入ってみなよ

『腐女子助けてwwwwPART8』
716 :風と木の名無しさん:2011/03/07(月) 19:09:54.33 ID:xFUjoSHix0
ケツは洗ったか?

『腐女子助けてwwwwPART11』
801 :風と木の名無しさん:2011/03/20(日) 11:55:16.49 ID:or2blKfjn0
報告はまだか!スレが終わってしまうぞ


その後、腐女子直伝の801ファンタジー知識を駆使したスレ主の決死の頑張りや、
貴腐人達の暗躍などなんやかんやてんやわんやで 、やおいスレの本気により、カップル成立。

『腐女子助けてwwww最終章』
1000 :風と木の名無しさん:2011/03/20(日) 02:32:46.12 ID:fuDANshiX0
栄光に向かってやおれ!


電●男ならぬ、やおい男の誕生である。めでたしめでたし。

9820-699 3対3:2011/03/09(水) 12:34:40 ID:OSOXsxOE
「推進派の意見は甚だ単純、理性ある人間として耳を傾けることはできません。
 そのような本能に基づくだけの拙劣にして愚昧な行動を私は許さない。
 そもそも社会的、道徳的にどうなんだ。
 友人、それも同性にこのような気持ちを抱くだけでも異常なのに、みだらな行為まで欲するというのは?
 社会人として、まともな大人として、軽挙は厳に慎むべきだ」
「なんちゅー頭の固さ! 本能上等じゃねーか。
 欲望、イズ、パワー! だ! ゴチャゴチャ言っても結局はこれだよ!
 どんなにすましててもちんちんついてるだろ? 男だろ?
 やりたいやりたいやりたいやりたい! そう思う何が悪いんだ?
 あいつとやれたら死んでもいい! あー舐めたいしゃぶりたい入れたい!
 あいつと気持ちよくなりたい! あーもう考えるだけで」
「まあまあ、そうは言ってもさー。
 ……まあ、わかるよ? 情熱とかってさ、この、熱ーい気持ち? 燃える衝動、まあ、わかるよ。
 正直好きすぎるっていうか、俺、もうあいつがいないと無理。大好き。
 けどさ、あいつは中学からの長いつきあいなんだ、ちょっと照れるけど、親友なんだよ。
 今でも、自転車で一緒に帰ったなぁ、とか、部活を地味にに頑張ったなぁ、とか、
 悩み聞いてもらったな、あんときは好きな女の子の話だったけど……なんか嘘みたいだね。
 いまでもこんなことになって、一番戸惑ってるのは僕なんだ。
 あいつのことが好きだ。親友なんだ。
 だからこそ大事にしたい、そう思うのは別におかしくないだろ?」
「でも、だからこそ、見たい知りたいってのあるよね? どうよ正直? おりゃおりゃ。
 未知の世界、知らないあいつ、その全てを手に入れたい!
 そう思っちゃうよね?健康な男の子だもん、なんて。
 そもそもー ぶっちゃけー、声を大にしてー……『目指せ! 童貞卒業!』ぱふぱふぱふー!
 うじうじ考えるのはお互い深く知り合ってからでもいーじゃん!
 あー、あいつどんな顔するだろう、って考えるともうたまらん感じー」
「いやいやいやいや……それ、怖いだろ?
 だって嫌われるかも知れないよ、っていうか、嫌われるよ普通。
 親友だと思ってた奴が好きだとかやっちゃうとか……
 このままだと無理矢理、なんてことになりそうじゃん、やりたがってるお前ら、すでに暴走気味だし。
 あいつも怖いだろうし、俺だって自分が怖すぎる。
 嫌われたらもう二度と友達に戻れないよなぁ……そうなったら俺……」
「怖い、とか言ってるうちにあいつに彼女でもできたらどーするの?
 なんでそんなのんびりやってられるかな、俺はもう気が気じゃないのに。
 心配だなー、最近格好良くなってきてないか、あいつ、とか考えるだけで走り出しそう。
 メール待っちゃったり! 速攻返事したり! でもキモイから10分待ったり!
 あーもう早く! 俺だけのものに! そもそも童貞も捨てたいし!
 というのは置いといても、でもそこも重要だし! 毎日なんも手につかない感じ!」

意見は、今日も3対3にきっかり分かれてしまう。
皆が俺をふりかえり、声をそろえて言った。
「お前はどう思う? お前が決めろ。お前はどうしたいんだ?」
この幾度となく重ねられた未だ結論のでない議論。
意見を戦わせるのは、良識、性欲、友情、好奇心、恐れ、焦り。
3対3に分かれて、延々と平行線な論争を繰り広げた末、皆が最後に俺に尋ねる。
俺はどうしたいのか? と。
結局、自分がキーなのだ。わかってる。わかってるが決められない。
理性が止め、性欲に悶え、友情に泣き、好奇心を秘め、恐れ、焦る。
そのすべてが俺のせいだ。わかってる。俺がきめなければいけないんだ。
俺の名は、あいつへの愛情。
きっと許されない存在。でも、ひょっとしたら受け入れられるんじゃないか。
葛藤につぐ葛藤。眠れない夜。もうそろそろ限界だ。
決着はそう遠くない。

9920-729友人だからこその気持ち:2011/03/10(木) 01:17:06 ID:8ClD9ipk
好きだ。
お前のことが、好きだ。
何より大切で、側にいたい。
お前の事を考えると苦しくなって、でも、考えると幸せになって。





「…なんて、言えれば楽になれるだろうになぁ…」
「何が?」
「んー…別に。何でもない」
ふと呟いた言葉を聞かれてしまったらしく、隣で本を読んでいた昌也が顔をあげる。

「何でも無い事あるか 今何を言ったんだよ」
「聞こえてなかったなら気にすんなよ」
「気になる」
「気になるな」
特に目も合わさず、声も荒げる訳でもなく、ただ淡々と言葉を交わす。
アイツだって別に聞きたい訳ではなく、単なる言葉遊び。

好きと言葉を伝えれば、この苦しい思いは楽になれるだろうけれど、その代わり、失う物もあるかもしれない。
もしも、この想いを拒否されれば、今のこの時間すら失う。
それは怖い。
今の友人という立場を失うのは、怖い。

何気なく君がいるこの空間がなくなるのは、耐えきれない。

「言えないな」
「悪口か」
「さあね」
悪口だったら、どんなに楽だろうか。

10020-749 当て馬同士の恋:2011/03/11(金) 19:57:47 ID:9b0KrQDU
俺は祐樹に告白しようと決断した。

その恋は一目ぼれだった。
7歳のとき、転校してきた祐樹を見て何かの病気じゃないかと心配になるほど心臓が動いたことを思い出す。
おでこを出して笑う祐樹の顔を見るたびに息ができなくなった。
「僕、転校したばかりで不安だったけどまこちゃんがいてよかった。まこちゃんの傍って安心する」と言われてなんと返したのか覚えていない。
ただ、その後歳の離れた姉に泣きじゃくりながら病気で死んでしまうかもしれないと言った日のことを昨日のことのように思い出せる。
この気持ちが恋だと気づくのに結構な時間がかかった。

小学生高学年になってから祐樹がスポーツの中で1番バスケが好きだということを知った。
そう知った俺は、興味のもてなかったバスケを始めた。
祐樹が好きだといったり興味を持った選手はビデオを何度も見直して真似た。
対校試合で負けたとき、顔に悔しさをにじませ体育館の床をたたいていた姿。勝ったときの満面の笑み。全てが俺の気持ちを高揚させた。
喜ぶあまりに抱きつかれた時も頭の中が真っ白になって何の対応もできずにいた。
監督が笑いながらガシガシと音を立てながら俺と祐樹2人の頭を撫でてようやく現実に戻ってきたくらいだ。
その日の夜抱きつかれた記憶が、感触が甦って眠れなくなった。そのときは、こんな時間になっても勝ったことに興奮していて眠れないんだ! なんて思っていた。
まだこの気持ちが恋だってことに気がついていなかった。

自覚しかけたのは中学のフォークダンスの時だった。
学校の女子の数が足らなかったから、身長が低かった祐樹が女子側に行って「やってらんねー。信じらんねーよな、真」とぼやきながらも俺と手を繋いで踊ってくれた。
「だよな」なんて返しながらほかの女の子に感じない気持ちがこみ上げてくるのを不思議に思った記憶がある。
ほかの子に変わったときも俺の意識は祐樹に向いていた。
当たり前だけど前と後に踊った女の子に比べて、握った手は意外と大きくてゴツゴツしていた。
ダンスが終わった後、キャンプファイアーが灯す薄暗い中、見慣れた自分の手をジッと見つめた。

完全に自覚したのは祐樹と聡が付き合い始めてからだった。
それまでは自分の気持ちが本当に恋なのかまだ疑っていた。頭の中でまさか、でも……と繰り返して考えているうちに出遅れてしまった。
聡の隣で幸せそうに笑う姿に胸が痛くなったけど、まだ諦めきれなかったけど、恋人の隣で「俺、変かな?」と聞く祐樹に「別にいいんじゃない? 男同士でも」とだけ返しておいた。
「お前が誰と付き合っていたとしてもさ。俺、お前の友達だし」と付け足しもした。
コレでいいんだと自分の気持ちを取り繕うたびに、どうしようもなくなるくらい、自分が情けなくなった。

聡と祐樹は高校で初めて会ったわけじゃないらしい。
小学1年までずっと一緒に過ごしていたらしく、引っ越す前日には結婚の約束もしていたらしい。
自慢そうに言ってくる聡に相槌を打ち、「結婚なんてできるわけないのになー」と笑う祐樹に聡がちゃちゃをいれ、いちゃつく姿を見て早く昼休みが終わればいいのになんて考えていた。
3人で過ごしているうちに、聡のきな臭い噂や中学時代の同級生の嫉み混じりの「遊び人」と言う声が耳につくようになった。
本当かどうか走らないが噂の内容に対して胸騒ぎがした。祐樹が聞いていないか不安だ。

祐樹に告白しようと思ったのは聡が浮気をしていると知ったときだ。
聡の浮気相手は和弘というらしい。そしてそいつに聡と別れるように要求されたらしい。
泣きながら「もう、俺……どうすればいいのかわかんねー」と相談してくる祐樹の姿を見て、隠していた思いが胸の内に広がる。
俺は祐樹に告白しようと決断した。
「あんな奴やめろよ」と言ったら泣くのをやめてこっちを見た。涙の跡が頬に残っていた。
ハンカチで涙をふき取りながら「好きだ」と言った。

「ごめん……俺。あいつは浮気するし性格は俺様だし最低な奴だけど、それでも……好きなんだ」
ごめん、ごめんと繰り返した後へたり込む俺から目を離しその場を発った。
なんでそんな奴がいいんだろう。……なんで俺じゃだめなんだろう?
偏頭痛と震える足に悩まされながら家に帰った。晩御飯を食べずに眠った。夢で祐樹と笑っていた。
どうしようもなかった。

そして11年の恋が終わった。
結局祐樹は聡の隣に居て今も交際を続けている。それでも諦められない俺が居る。
そしてなぜか聡と浮気をしていた男を慰めている。
「俺は本気だったんだ……本当に好きで、ぐずっ……ううっ」
なんでこいつ慰めてるんだろう。俺だって泣きたいのに。
ただ、失恋して泣く姿を見て放っておけないと思った。

10120-809 同情でもいいから:2011/03/30(水) 16:35:44 ID:SNbrrI72
キッチンというほど広くもないけど、それでも部屋とはガラス戸で区切られている。
けどもちろん鍵なんかかかってないから、結局のところ言い訳でしかない。
その証拠に、戸を開け、薄い布団に潜り込んで取り出したものは、さわる前から立ち上がっている。
「甲野君、駄目。来ないで」
固い声が俺をたしなめるけど、構わず握る。
本気で駄目だと思ってるんなら、蹴り飛ばせばいい。

戸川がいたから俺は駄目になった。
失恋というには客観的にだってひどい仕打ちだったから、だから立ち直れないという甘えに身をまかせた。
半ば当てつけだった。ひとりだったらちゃんと何とかしたんだ。
こいつが俺を病院に連れて行ったり、飯を食わせたり、無くした金をくれたりしなければ。
部屋にひとりにならないよう、と布団を持ち込んでこなければ。
馬鹿じゃねぇの、と罵倒すれば、もう何かを無くすのはいやなんだ、と言った。
それはお前の彼女でしょ? 俺はお前の彼女じゃない。
むしろ憎しみしかない、お前の彼女にも、一緒に消えた俺の彼氏にも。
そう怒鳴りつけたら、戸川は小さな声で「誰かと一緒にいたい」と言った。
何か騙されてるんじゃないか、俺。
この世に、いいひとってのがいるんだろうか。

戸川なんか信じてないから、わざと嫌がることをする。
戸川だって本当は嫌じゃないから、黙って俺にこんなことされてるんだろう。
目を閉じる顔が誰を思い浮かべてるかなんて、簡単に想像がつく。
彼女の腹は俺の彼氏のタネだという。だってこいつら、やってなかったらしいから。
「俺、戸川さんに同情してるの。可哀想な童貞ちゃんだもんね」
わざと強くしごきたてた。確かに経験豊富ではないらしい戸川はあっさりいく。
気持ちよくいったくせに「こんなことは、もう……」と俺の手から逃げる。
「……甲野君は、好きでこんなことしてるんじゃないでしょう?」
ずっと年上のくせに、いつまでも崩さない丁寧な話し方がカンにさわる。
「そんな同情とか僕はもういいから。もう、しないでほしい。お願いだ」
さんざんさせておいた後で、素に戻って説教かよ。
「俺、好きでしてるの。こうしてると彼氏のこと思い出すんだ」
わざと哀れっぽくうつむいてみせると、戸川の顔はこわばった。
俺が同情といい、戸川もまた、俺を憐れむ。
戸川は俺を恐れてしたいようにさせているに過ぎず、俺はただ、彼を追い詰めて逃げ道を塞いでるだけだ。
「……いいじゃん、気持ちいいでしょ?」
冷えた背中を合わせ、苛々と目を閉じる。
最初からあきらめはついてる。

102黒い騎士と白い騎士:2011/04/02(土) 21:45:20 ID:gJF1BcF2
忠誠を誓わないかわりに、紋章の入った盾と鎧を黒く塗りつぶす。
俺は黒騎士と呼ばれるただの雇われ傭兵だ。
金がないから金を稼ぐために兵になる。だが決して忠誠は誓わない。
戦うのは名誉のためでもなく主のためでもなく自分のため。
王直属の騎士達は俺達を蔑み、国王も俺達を捨て駒として使う。
俺達も死にたくはないからより一層腕を磨く。そうして力でねじ伏せていく。

ある日、俺達の戦場に若い銀髪の騎士が来た。その美貌は見るものすべての心を奪うほどだった。
代々国王の近くで仕えてきた貴族の跡取りだという。
ただ彼は果てしなく潔癖で、傭兵達の秩序の無さを非常に嫌った。
ただでさえ傭兵は争いで気が立っているというのに、ことあるごとに叱責されてはたまらない。
次第に黒騎士達は彼に反発心を抱くようになった。「白騎士さん」と彼を揶揄して呼ぶものもいた。
しかも女っ気のない所に、そこらの女よりも各段に美しい人間がいるのだ。
怒りと邪が増幅し、ある日、黒騎士たちが彼のテントに押しかける事件が起こった。
悲鳴が聞こえ、俺はすぐに彼のテントに向かったが、そこには予想に反して、黒い鎧を着たものたちが血まみれになって累々と倒れていた。
顔面蒼白になった彼の手には、真っ赤になった剣がぶら下がったままだ。
「落ち着け…。俺は敵じゃない」
「はっ…はぁっ…はぁっ…」
全身で拒否する彼をなだめ、何があったのかを確認した。
初めは心を閉ざしていたが、次第に口をひらき、複数の男たちに抑えつけられ犯された事。
そのうちに興奮が高まり、命も奪われそうになった事を俺に語った。
「私を汚した者は絶対に許さない…」
震える声で怒りを口にする彼は美しかった。
なんて崇高で美しい騎士だろうかと俺は思った。

年月が経ち、俺はまたその国の傭兵として雇われることになった。
最初の仕事として命じられたのが、国王を裏切り敵に重要な情報を流した騎士の処分だった。

今、目の前にいる騎士は、昔の俺に「国王に忠誠を誓わない者は騎士ではない」と言っていた者だ。
「一つ聞きたい。何故、お前はそんなことをしたのだ。この世で最も崇高で潔癖な騎士だったのに」
俺は剣をかまえながら彼に聞いた。
「国王が私を汚したから」
その一言で何があったのかはわかった。
彼は静かに目を閉じた。
本当は彼に会ったら言いたい事があった。
もしお前が一緒に戦いたいと望んでくれるなら、俺は国王に形だけの忠誠を誓ってもいいと。
だが、もうそれは遅かった。
俺はそのまま剣を振り下ろした。

10320-878受けさんはずるい大人です 1/3:2011/04/06(水) 22:49:09 ID:Qi2JM4nc
結城さんは、こわい人だった。
高校の剣道部で出会った一つ年上の彼は、それはもう他の部活動の生徒の間でも噂になるようなスパルタで、当時からヘタレを体言したような根性なしだった俺はたっぷりとしごかれた。
そのあまりの容赦のなさに、入部当初の俺は密かに彼に“鬼”とあだ名を付けて、決して面と向かっては言えない愚直や悪口を心の中で吐き出したものだった。

だけど、そんな鬼のような彼が実はホラー映画が大の苦手だったり、ストイックな見た目に似合わず風呂上がりの楽しみはよく冷やした牛乳プリンだったり。――ちなみにこの牛乳プリンをこっそり他人が食べてしまうと世にも恐ろしい事態になるのだが、それはまた別の話である――
“先輩と後輩”という枠の中で交わされる他愛ない会話から時折覗く、そういう可愛い一面を見つける度に、俺は彼を好きになっていった。
そうして。俺がただの後輩から一歩踏み出して、いや、踏み外して、男で先輩の、そしてスパルタで有名な彼に告白をするまでにそう時間は掛からなかった。

10420-879受けさんはずるい大人です 2/3:2011/04/06(水) 22:51:17 ID:Qi2JM4nc
結城さんは、かわいい人だった。
男から、それもヘタレの後輩から愛の告白をされて、彼は怒るでも軽蔑するでもなく、うろたえた。ただただうろたえて、「返事は少し待ってくれ」とか「気持ちはありがたいけど」とかごにょごにょ呟いて、ものすごく気まずそうに背中を丸めて去っていった。
――それからどうしてだか、返事を保留にしたままひたすらにぎくしゃくした気まずい三ヶ月間を経て、俺が諦めかけた頃に彼は俺を受け入れたんだ。
高校二年の春、彼と出会って一年の季節に、俺は晴れて結城さんの恋人になった。

それから四回の春を、俺たちは一緒に過ごした。
三年生の引退を前にした最後の大会、団体戦の準決勝で負けて初めて彼の涙を見た。高校を卒業するなり、イメチェンだとか言って金髪に染めてしまった彼を見て俺は肝を抜かしたっけ。
綺麗な黒髪の方が彼に似合っていたけど、傷んだ髪が汗でしっとりと湿るのを指で撫でるのも好きだった。
彼より一年遅れて俺が高校を卒業して、二人で安いアパートを借りて一緒に住んだ。結城先輩、じゃなくて結城さん、と呼ぶようになったのもこの頃だ。
俺が好きなビートルズの曲を彼が口ずさむようになった。真っ暗じゃ眠れないと言う彼に合わせて、俺は就寝前に部屋の明かりを弱く灯すことを覚えた。――抱き締めると、同じシャンプーの匂いがするようになった。
そうやって、俺たちはお互いのスタイルを少しずつお互いに馴染ませていった。そんな変化が楽しくて、愛しくて、これから何年だってずっとこうして居たかった。

10520-879受けさんはずるい大人です 3/3:2011/04/06(水) 22:53:41 ID:Qi2JM4nc
結城さんは、ひどい人だった。
終わりは唐突で、説得や懐柔の余地すらなかった。
「もう飽きたんだ、別れよう。」
ありがちなセリフを涼しい顔で突き付けて、彼は荷物をまとめて出て行った。
昨晩までなんにも変わりなかったのに。数時間前ベッドの中で俺が欲しいといやらしくねだったのと同じ唇で、あんな、まるで壊れたテレビを捨てに出そうという風にあっさりと酷い言葉を口にして、彼は居なくなってしまった。
なにかの冗談かと思ったが、結局一日待っても帰ってこなかった。
着替えやこまごました日用品だけが持ち出され、二人分の家具がまるまる残された部屋で俺は途方に暮れた。
そのうち電話もメールも通じなくなって、そうしてようやく、俺は捨てられたのだと思い至り、遅れて押し寄せる怒りと悲しみで荒れに荒れたんだ。
一緒に暮らした日々は夢のようで、俺は彼の居ない日々を暫くバカみたいにぼんやりして過ごした。大学の単位落としたのはあなたのせいですよ、って毒づくくらいは許して欲しい。


――そうして、今日。
彼と別れて二年、出会ってから七年後の今日、手紙が届いた。

『あんな別れ方になって、ごめん』
『病気で、もう長くない』
『会いたいよ』
『まだ好きだ、ごめんな』
『もう、新しい恋人できたか?』

懺悔のように切々と綴られた長い手紙の内容は、飛び飛びにしか頭に入ってこない。
後悔と悲しみと、色んな感情が溢れ出しそうに詰め込まれた彼の言葉。彼が綴った言葉。

結城さんは、ずるい人だ。

――昨日、あなたの葬式でした。
棺桶の中の彼は痩せ細って高校時代のしなやかな身体は見る影もなくて、それでも二年間病魔と闘い切ったんだって、彼の母親は泣きながら気丈に笑ってた。
――ねえ、あなたはそれで満足ですか。俺から隠れて一人で闘って、それで良かったんですか。
友人に頼んで死んだ後なんかに俺に宛てて懺悔を送り付けて、そんだ回りくどいのはあなたらしくない。
どうして、傍に居させてくれなかったんですか。

聞きたいことも言いたいことも幾らでもあって、けれど彼がいってしまってから数日遅れで届いた手紙への文句は行き場がない。

結城さんは、ずるい人だ。

『思い出は、俺が持っていくから』
『俺を忘れて、幸せになれよ』

いっそこんな手紙欲しくなかった。いっそ、彼が死んだことなんて知りたくなかった。
そうすれば、俺はずっと彼を恨んだまま、あの幸せな夢に半分浸かっていられたのに。

彼とあまのじゃくと、俺のしつこさ。もしそこまで計算した上でのこの最後の言葉ならタチが悪すぎる。
――そうしてあなたは、俺の一生をゆるやかに縛り付けるんだ。

「……あなたは、ずるい人だ。」

呟いた言葉は、あの日と似た暖かな春の陽に溶けていった。

10620-899 俺が君を壊しました1/2:2011/04/10(日) 09:36:36 ID:xn461tg2
すえた臭いが鼻について離れない。悪いのは洗うつもりもなくおざなりにシンクに重ねた食器か、30分前にしこたま掻いた俺の汗か、それとも腹に絡んでかぴかぴに乾いた白いアレだろうか。
白昼から不健全に締め切った狭い密室だ。空気が淀むのは無理もない。
 あるいは、この酷い臭いは俺達の内側が腐り落ちている証拠なのかもしれないな。

 俺は汗で湿ったシーツに背をつけて、白い粉を鼻から吸って束の間の天国にトリップする男の白い背中を眺めていた。
 くたびれて色褪せた若草色のカーテンがずれて、昼下がりの陽光が光の柱となって裸の背に降り注ぐ。太陽に暴かれた部屋の埃がキラキラと反射して、むき出しの肩甲骨の輪郭を曖昧に照らしている。
「……天使の羽だ」
 ぼんやり呟いた言葉は、俺のやさぐれた精神状態を反映してか意図せず嫌味っぽい響きになった。
 腕を伸ばして、骨の浮くうなじをくすぐると気だるい瞳が鬱陶しげにこちらに振り向く。
「羽なんてもんが有ったら、とっくに神にもぎとられてるさ」
 ……ああ、ごもっとも。
 お前はジーザスも真っ青な悪事ばかり働いた。浮気にクスリ、盗みにエトセトラ、挙げ句は男と逃避行。そう仕向けたのは俺だ。
 まっとうの更に上を行く、完璧な人生を謳歌していたお前がこうなると誰が予想できただろう。今隣にいるのが生涯を誓い合ったマリアのようなあの女ではなく、ケツの穴にザーメン引っ付けて汚れたベッドに寝転ぶやさぐれた男だなんて。

10720-899 俺が君を壊しました2/2:2011/04/10(日) 09:38:55 ID:xn461tg2

 会話になるだけ今日のこいつはまだマシだ。この間なんて酒と睡眠薬をバカみたいに煽って本当に天に昇りかけて、こっちが冷や汗掻いた。
吐瀉物まみれのキスをして、お前の焦点ブレブレのいっちまった目を見たら、俺は哀れな男のありさまを笑うべきか悲しむべきか分からなくなって、半笑いでベソ掻いたままその痩せこけた身体を抱き締めたよ。

 一つ言わせてくれ。
 あの完璧な男が地位も家族もかなぐり捨てて禁忌の恋に落ちること、ここまでは俺の予想の範疇だった。
 男の瞳の奥で燃える情熱の炎に、気付くなという方が無理な話だ。
 けれど俺は忘れていた。ここはおとぎ話の世界じゃない。永遠に続くハッピーエンドなんてものは存在しなかった。
 ジーザス!お前が燃やしていたそれは愛の炎じゃない、猫をも殺すという何とやらだなんて。

「お前と出会ったのが間違いだった。ここは煉獄ですらない。何もない」
 そうだ、神を裏切って妻を捨てるようお前をそそのかしたのは俺。安い薬で最悪な現実逃避の仕方を教えてやったのも俺。
 ……だけど、ああ、そんなこと言うなよ。俺を選んだのはお前だ。
たとえ俺がどんなに汚い手でお前を誘惑してこの甘い地獄に引きずり込んだからって、最終的な選択権はお前にあった。

 なあ、良家に生まれたサラブレッドのおぼっちゃんよ。ちょっと冒険してみたかったんだろ?道踏み外した気分はどうだよ?
楽しかったのは初めだけ、なんて言わせないさ。
別れを告げて解放なんかしてやるもんかよ。

「お前が、お前が俺を……」
「……なあ、もう一回セックスしようぜ。最ッ高に気持ちいいヤツ」
 俺は、男が最後まで言葉を続けることを許さなかった。
 うつろな目なんか見ない振りで、呑気に嘯くなり力の抜けた男の腕を引き寄せて強引にキスを。
 宗教画か何かのように麗らかな陽光の中で、唇で触れた唇は血の気が抜けて冷たかった。マリファナ臭いキスは長く続かない。
「お前は悪魔だ」
「……愛してるよ」
 ――死が二人を分かつまで――
 抱き寄せた裸の腰をまさぐりながら、薄っぺらい愛の言葉に続けて冗談っぽくささやく。意味を理解しているのかいないのか、男はひどく投げやりな顔で小さく笑った。

10820-949 そんなつもりじゃ無いんだけど:2011/04/18(月) 12:00:02 ID:8qJINpj.
「だから、そんなつもりじゃ無かったんだってば」

さっき二人で歩いている時、不意に女の子を目で追った。追ってしまった。
何も意識は無かった。多分。

「……お前さあ」

つりあがった目をさらにつってギロリと俺を睨む

「お前さあ、俺に無いモノ求めるのやめてくれる。じゃあ、女にすればいいじゃんってさあ」

思うじゃん。
バツが悪いのか、はたまた俺の目もつりあがったのが判ったのか、
うつむいたまま絞るように付け足した

「だから、そんなつもりじゃなかったって言ってるだろ。町中の人間誰も見ちゃいけねーのかよ」
「そんな事……」

大きな声で半ば逆ギレみたいになった自分をひそかに反省する。
判っている。俺は男も女もいけるクチだから、俺もこいつも何か焦ってるんだ。
二人とも黙ってしまう。
何て言えば、ナカヨくできるのか。こんな変な喧嘩、早く終わらせたい。
だって――

「お前が好きなんだよ」

先に言われてしまい、何も言葉が出なくなる。

「女なんてさあ、勝てねーよ。俺おっぱいとか無いしさあ。髪とか……やわこく、ねえしさ」

さっきとは違う意味でうつむいたこいつに両手を伸ばす。
きつく抱き締めて、ぴょんぴょん跳ねる猫っけに頬を寄せた。

「俺も、お前が好きなんだよ」

低い嗚咽が聞こえる。
こんなヤキモチやいて、こんな事で泣くこいつが時々すげえ面倒だけど好きで、俺は、

「お前が好きで、女とか男とかそういう事じゃなくて、すっ……好き、で、
 それから、どうしようもなく好きで、好きで……好きで、俺……どうすればいいのかな。
 俺、頭悪くてさあ」

相手のすすりに合わせて俺の目にも涙がにじんだ。
――しばらくこのままで居ればいいんだよ。このバカ。
そう答えられた時には、ひと粒ふた粒こぼれていたけど。

10921-9 敬語ガチホモ×関西弁ノンケ:2011/04/22(金) 23:51:15 ID:.3YfQWKU
「栖本さん、お願いですよ」
「いやです」
できるだけそっけなく言ったつもりだったが、彼はひるんだ様子もない。
むしろ、どこかうっとりとも見える表情で小さなため息をついて、
「まあ、そういう……ね、そんなところも、また」
と意味のわからぬことを言った。

坂下さんのお願いは何度もされたからわかっている。俺の「大阪弁」が聞きたいというのだ。
「大阪弁じゃないです、兵庫のほうですから。それも、俺のは相当おかしいですよ」
俺の母は、兵庫を離れこの地に嫁いでも関西弁を忘れなかった。
その言葉で育てられた俺は、酔った時だけ関西弁になるらしい。
「忘れられないんですよ、あの夜の栖本さん」
坂下さんが耳元でささやくように声をひそめる。
なんだかやらしい雰囲気に、耳がこそばゆい。

関連会社の坂下さんとは、先般一緒になった企画の懇親会で初めて飲んだ。
それまでも気が合う人だなという気がしていたが、飲む相手としてはまったく申し分なかった。
もう一杯、もう一軒、と飲みすすむうちに人数も減り、気安いカラオケになって。
「ええやん、歌うてよ。俺、坂下さんの美声がもっと聞きたいわぁ」
「もう歌いましたよ、栖本さんこそ何かどうぞ」
「俺もう喉がらがらやもん、さっきの坂下さんの平井堅めっちゃよかったわ、アンコール! アンコール!」
「ネタ切れです、あとは下手ですよ」
「じゃ、おんなし曲で許したるよ。聞きたいなー! 坂下さん、ものすごタラシっぽい歌い方なんやもん」
……思い出せばまさに傍若無人な酔っぱらいっぷりに顔が熱くなる。
でも、そのときは許される雰囲気につい気を許してしまったのだ。
坂下さんは「しょうがないなぁ……」と苦笑いして、
「栖本さんにそんなふうに言われたら断れませんよ」
と2回目の『POP STAR』を入れてくれた。

「栖本さん、お願いがあります」
翌々日、仕事で顔を合わせた彼が切り出したのが「僕には大阪弁で話してほしい」というものだった。
「酔ったときしか出ないんです。それにずいぶんおかしな関西弁ですから恥ずかしいです」
そう断ったのだが、なかなか引き下がらない。
しばらくは仕事で夜が遅いものだから、もう一度飲みに行くことも当面はない。
打ち合わせをしながら、原稿をチェックしながら、仕事の合間にコーヒーを飲みながら。
気づくと、探るような目で見られていて、期待されている。
……なんでそんなに俺に関西弁をしゃべらせたいんだろう。

いつの間に。いったいいつの間にこんなことになったのか。
坂下さんはとても手慣れていて、明らかに初めてではなかった。
もともとこういう嗜好の人だったのだと、俺は今更ながらに気がついた。
「成功です」
距離の近い人だと常々思っていたが、今はもっと近いところで俺の耳に唇をおしあてる。
「なにが?」
身じろぎしようにも、汗にぬれた体は密着してくっついてしまって。
「成功って言われても俺、もう最後のほう、ようわからんようなってたけどあれでよかったんやろか……」
「やっと俺の手に落ちてくれた、ってことですよ」
「なにそれ! そんなんちゃうよ!」
「栖本さん、今可愛い関西弁じゃないですか、それが成功の証です」
「そんなん……俺、変やからいやや。大丈夫、元に戻します」
「ああ、そんなのだめ、だめです、苦労したんですから」
とがめるような小さなキスが降りてきて、俺を黙らせた。
「……ずっとコンプレックスだったから、家族以外には話し慣れてないんだ」
実際、しゃべれと言われてしゃべるのもおかしなものなのだ。どうしても言い訳してしまう。
でも。
「……でも、おかしくてもええよって坂下さんがゆうてくれるのが、俺、ちょっと、ほんま、なんていうか」
「おかしくないですよ、可愛いですよ」
坂下さんは何度もキスをくれながら言った。
「気づいてませんか? あなたの関西弁は、心を許してくれてる証拠です」

11021-39 ノンケのイケメン→ハイテンションなオカマ1/2:2011/04/24(日) 21:50:02 ID:nMXjMxHg
彼女と別れてヤケ酒。二日酔いでガンガンする頭を抱えながら出勤退社。
その後ブラック・アウト。記憶なし。

気付いたらベッドの上で、傍らには短い黒髪にガタイの良い男。
意識が落ちる瞬間、誰かに抱えられた気がしたが、なるほどこの男なら有り得そうだ。
黒いタートルネックセーターとベージュのパンツで実にシンプルな装いだが、派手では無いがそれなりに整った顔立ちと長身とがあいまって、同性から見ても凄く良い男に見えた。―――その時は。
「あれ…俺、ここは…。」
「あ、気が付いたの?覚えてるワケないと思うけど倒れてたんだよ君。ここは俺の家。」
「倒れたって…。」
「インフルエンザで。凄い高熱だったけど自覚なかったの?」
確かにヤケ酒する前もなんだかムカムカしてた気がするけど、まさか出勤停止命令が出るほどの病にかかっているとは思わなかった。聞けば、既に病院に連れて行ってもらった後らしい。有難い。
「すみません…、初対面…なのに、ご迷惑…おかけして。」
「気にしないで〜あ、そうだ。まだダルイだろうけど食後のお薬貰ってきてるし、何かお腹に入れとく?」
お世話になりっぱなしで悪い気がしつつも、確かに腹は減っていたのではい…と答えるとものの5分程度でお手製の卵粥と卵酒が出てきた。病人に酒…と若干及び腰になったが
「ええ〜、いいんだよ〜卵酒!身体あったまるし、ぐっすり眠れるんだよ!」
俺はダウンした時はいつもコレ!と、ストイックな見た目に反して朗らかに笑う彼についつい頷いてしまい、結局どちらも美味しく頂いてしまった。
その後は卵酒のお蔭か薬のお蔭か本当にぐっすり眠りに落ちたようで、朝目覚めると全快とまではいかなくても起きて歩ける程度には回復していた。とりあえずお暇しようと、丁重にお礼を言い是非お名前と連絡先を、とお願いすると
「名前は薫。えーと、連絡先は…あ〜、仕事用の名刺しか無いわ。」
ま、いいかコレで…と渡された名刺を見て俺は仰天した。それもそのはず。名刺右上には可愛らしいピンクの丸ゴシック体でショーパブ・KAMAKAMA姫とあり、そして真ん中には黒の明朝体でドデカく…
「源氏名はカオ☆リンっていうの。君可愛い顔してるし良いカラダだったから、むしろ楽しくお世話させてもらっちゃって、こっちが有難う〜みたいな〜!?本当に今回のことはお礼とか全然気にしなくてもらって良いんだけど、良かったらお店の方に顔出してくれると嬉しいかなぁ〜なんて!」
勿論可愛いお友達もいたら一緒にネ!と朝早くからテンション高く巻くしあげられてあっけにとられた俺は、あいさつもそこそこに茫然としたまま薫さん宅を後にした。

11121-39 ノンケのイケメン→ハイテンションなオカマ2/2:2011/04/24(日) 21:50:52 ID:nMXjMxHg
―――カランカラン♪
「アラ〜〜〜〜!いらっしゃい!キャアアア可愛い子!」
「ホントだわ〜!ハンサムだわ〜ハンサムがきたわ〜!しかもタッパもあるしマッチョよぉ〜!」
キャッキャと薫さんと同じ人種の方々に手厚い洗礼を受ける。肉厚な腕や脚に阻まれて前に進むことすらままならない。いきなりの激しいスキンシップに涙目になり踵を返しかけた矢先
「あら、ヤダ…その子!」
聞き覚えのある朗らかな声色。彼だ、薫さんだ!
俺は期待に胸を膨らませ顔を上げた。
そこに立っていたのは、ブロンドの長い髪にブルーの瞳の背の高い美しい人だった。
「薫…さん…?」
「ここではカオ☆リンって呼んで欲しいな〜。ちょっとそこのオンナども、この子はもう私がツバつけ済みだから散りなさいよ〜!ほらシッシッ!」
俺を取り巻いていた人々はなによぉ〜またカオルの新しい客ゥ?と口ぐちに文句を言いながら離れて行った。そしてすぐに俺の腕にスルリと絡まる新たな腕。
「…一カ月ぶりかぁー。もう忘れられたのかと思っちゃった。来てくれたのね〜嬉しいわ。」
「そんな…ずっと忘れられませんでした…、薫さんを…。」
俺の瞳の奥に映った熱を感じ取ったのか、薫さんは少し目を細め、それからニコッと営業スマイルを浮かべた。その切り返しは玄人のソレだった。
「やぁ〜〜〜だぁ〜〜〜!アタシ口説かれてるゥ〜!?」
その大声に周囲から、「調子にのんな〜一見専門!」「ハンサム君〜!そのオンナ元警官のバリタチだから気を付けなよぉ〜!」とそこらかしこから罵声が飛び交う。
その罵声を背にクスクスと笑いながら、薫さんは俺の腕を引きながら店の奥へと歩を進める。俺より体格が良く、今はヒールも履いているせいで更にリーチの長い薫さんの歩幅になんとか付いて行く。
「薫さん…俺…。」
「フフッ、アタシ人気者だからすぐ嫉妬されるのよネ〜!見苦しいわよね〜オンナの嫉妬って!」
「あの…俺…!」
俺が次の言葉を紡ごうとした瞬間、グイッ!と強い力で腕を引かれ俺の身体は個室のソファに深く沈んでいた。息つく間もなくその上から薫さんが少し大胆な格好で俺に覆い被さってきた。
緊張の汗でソファの背もたれに全身がくっ付くような心地がしてくる。
「薫さ…。」
「和男。俺に惚れたら…抜け出せなくなるよ。」
いいの?と耳元に寄せられた薄い唇からの息遣いを感じて全身の力が抜けて行く気がした。

11221-39 ノンケのイケメン→ハイテンションなオカマ:2011/04/24(日) 22:00:13 ID:nMXjMxHg
コピペミス。2/2の冒頭に
−−−−−−−−
でも、気付いたら。俺は居た。
例のショーパブの前に。
ここ一カ月ほど、俺の中ではあの日のことを悪い夢だと思って忘れるか否かという葛藤があった。でも無駄だった、あの強烈な印象を残した薫さんの魅力の前では。
薫さん、あなたにもう一度会いたいです。そのためなら―…勇気を出して扉を開く。
−−−−−−−−
という文章が入ります。
スレ消費申し訳ありません。

11321-69 本屋の店員×BL本を買う常連 1/2:2011/04/27(水) 14:15:54 ID:PTZorNgw

「……これをお探しですか?」

勇気を振り絞って声をかけると、棚の前にいた男性は驚いた顔をこちらに向けた。

「そう……だけど」
「やっぱり。今、そこの平積みスペース空になってるでしょう。実は午前で完売しちゃったんです。これは、慌てて取り寄せた補充分で」
「なんで分かったの?」
「え?」

男性の目には、戸惑いの表情が浮かんでいた。
その視線に、今更ながら我に返る。
そうだ、確かに、書店のたかがバイト店員が客の買う本をここまで熟知しているのはおかしい。
……この店員が彼の買った本をあとから追いかけて読んでしまうぐらいに、この客に思いを募らせてでもいなければ。

「えーと、それは」

思わず目が泳ぐ。どうしよう、何か納得のいく理由を探さなければいけない。
好かれなくてもいい、せめて不審に思われずに、嫌われずにこの局面を乗り切るアイデアを。
アイデアを……

「……僕も、この人の作品が好きだからです」

言ってしまった。
その言葉に、男性は「えっ」と呟いたまま硬直する。
無理もない。なぜなら、お客さんが探していたこの本は、自分が今堂々と好きだと言ったこの本は、ボーイズラブだからである。

11421-69 本屋の店員×BL本を買う常連 2/2:2011/04/27(水) 14:17:42 ID:PTZorNgw
「……毎月この人の作品が載った雑誌を買って行かれますよね。新作が出たら、それも必ず。僕もこの作家さんが好きだから、ちょっと印象に残っていたんです。ほんとに、それだけです」

ほとんど嘘は言っていない。強いていえば、この客の顔を覚えるのとこの作家にハマるのと、その順番が違うだけである。
実際、「一目惚れの相手が何を読んでいるのか知りたい」という好奇心から読み始めたものだったが、今では自分から新刊を予約するぐらいにはのめり込んでいた。

「だって、なかなか引き込まれるものがありますよ、この人の文章。心理描写が巧みで、設定にもリアリティがあって……」
「そうかな」
「そうですよ。特に、最新刊の書店員と客の話!同じ書店で働いてる身としては、尚更臨場感があってドキドキさせられました」
「それは、うん……よかった」
「他にも……」

と、そこまで話してから、ふと男性の顔が見たこともないぐらい赤くなっているのに気が付いた。
僕は息を呑む。
しまった。またやりすぎた。
元々、レジに人が少ない時を狙ってこっそり本を持ってくるような人だった。
同好の士とはいえ、こんなコーナーの真ん中で長々とこんな話に付き合わされたら相手だってたまったものじゃないだろう。

「ご、ごめんなさい、少し喋り過ぎました。これ、お探しのものはお渡ししておきますので、あの、よろしければ、また……」

単行本をぐいと押し付け、その場を離れようとする。
と、何故かその腕を男性の手が掴んだ。

「ここで」
「え?」
「ここで、こんな話ができるとは、思ってなかった。……あなたとも」

遠慮がちに掴まれた腕に、湿った体温がほんのり伝わる。
男性は耳まで赤くしながら、すがるような視線をこちらに向けた。

「こんなことを言うと、おかしいかもしれないけれど……また、来てもいいだろうか」

僕がこの急転直下の超展開に、どう答えたかは覚えていない。
ただ、嬉しさで頭がパンクして、持っていた伝票の束をばさばさとぶちまけたことだけは確かに記憶している。



それから、彼は前よりも高い頻度でこの店に現れるようになった。
彼と僕が、実はお互いに片思いをしていたことを知るのは、この少し先の話である。
それから、巧みな心理描写とリアリティ溢れる設定で僕をすっかり虜にしたBL作家が、
実際は口べたで照れ屋な書店の常連客だったことを知るのも、また先の話である。

11521-79 某トキ保護センターのトキ(♂)×トキ(♂):2011/04/30(土) 01:41:43 ID:FpaaWojA
「貴方が好きだ」
「やめろ。忘れたのか。我々には一族の復興という指名が」
「では貴方は愛してもいない女との間に無理に子を成すつもりなのか」
「違う。私も君もいつか愛する女性と」
「無理だ」
「何故」
「第一に、僕は一生貴方しか愛せないだろうし、
 第二に、貴方は僕を誰にも渡したくないだろう」
「な、私は」
「交尾なら僕とすればいい。僕は下でじっとしているから、貴方の良いようにしたらいい」
「そんなのは非生産的だ」
「愛が有る」
「使命は」
「種を残すことだけを目的として生を終えるつもりか」
「・・・」
「僕たちにだって誰かを愛する権利があるはずだ」
「・・・」
「僕は貴方が好きだ」
「・・・」
「・・・貴方に、・・・貴方に拒絶されたら、僕は、衰弱して死んでしまうよ、・・・」
「・・・仕方ない。私の負けだ。こっちにおいで」

***

「あの2匹、仲良いッスね、先輩。交尾して卵産んでくれると良いですね」
「あー・・・卵は無理かな」
「?」
「両方、オスなんだ・・・」

本来なら、あの2匹を別のゲージに引き離すべきだろう。
しかし、俺にはあの2匹の気持ちが痛いほど解ってしまうのだ。
鳥が人間のような恋愛感情を持っているのなら、の話だが。
後輩の微妙な表情を眺めながら、俺は途方に暮れた。

116ヤンキー君とメガネ君 1:2011/05/05(木) 19:07:02 ID:bTBpqkNg
屋上に来たのは初めてだった。
「げっ風紀??、何で」
多分彼、沢良(さわら)が壁際の死角にでも座り込んでいて、そういう事をしてるだろうと
今まで殆ど接触も無かった僕にすら想像出来る形で、やっぱり彼はそれをしていた。
「未成年の煙草は厳禁+校則違反レベル10因って」
「消す消す消す!ってか、何で品行方正なお前がこんな所いる訳?」
「今のは見なかった事にする・・・今そんな気分じゃないから」
溜息を吐きながら当初の目的だった彼に近づいた。
彼女のあんな告白を聞きさえしなければ、僕はこうして正反対のタイプの彼に会いに来る事なんて無かっただろう。
初めての屋上で感じる風はかなり冷たく、頭を冷やすには丁度良い場所だった。
「ふうん、じゃあまあ美味い空気でも吸っていけよ」
どこが美味い空気なんだか。沢良の周りは咽返るような煙草の匂いで充満している。
少し息苦しく感じ、手すりに凭れる形で壁際の沢良と少し距離を置いた。
彼は黙ったままで、相変わらず風紀委員の僕の前で煙草を吸い続けている。
沈黙に促される様に僕は、整理出来ないままの気持ちを呟き始めた。
「同性を好きになる気持ちって、分からないんだ全く」
風と一緒に煙が流れていく。一瞬だけ視線をこちらによこし彼はふう、と煙を吐き出した。
「両想いになれるなんて思ってない、クラスには男らしいヤツも多いし、僕には高嶺の花だって
事は分かってた。でも」
「ま、さ、か、女に取られるとは思ってなかったって訳だ」
新しい煙草に火を点けながら沢良が急に口を開いた。
「え?・・・それどうして」
「さっき言ってたじゃん、同性を好きになる云々。因みに相手はミサキでお前の好きなのが都築だっけか」
「ちょ!何でそこまでっ」
「マジ?当たり?さっすが俺!」
「・・・流石、ホモ」
僕が呟いた瞬間沢良が地面で乱暴に煙草の火を消し、立ち上がった。
「あんな、ホモじゃなくてもそれくらい分かる。俺ナリはこんなだけどその分、ガッコの勉強だけして
んな分厚い眼鏡かけてるお前より、酸いもしょっぱいも経験してんの!
・・・後俺ホモじゃなくてバイってか両刀」
ヤニ臭い息がかかる程顔を近づける沢良に、僕は仰け反るような格好になる。
「指指すなよ、後目が悪いのは遺伝、それから・・・え?両刀?!」
「そ、男女問わず気に入ったらカモーン。人呼んで恋愛の達人様だ、何ならお前の」
「茶化すなよ!」
思わず感情を吐露してしまった自分がとんでもなくみっともない。
いくらコイツが自分で周囲にもカミングアウトしてる奴で、気の迷いで会いに来てはみたものの、
やはり僕との共通点なんか無い。立ち去ろうと踵を返し始めた時、
「で、お前は、何に悩んでるんだ?都築に告る事か?それとも、自分が好きな相手が同性愛者(レズ)
だったと言うショッキングな事実か?」
いつの間にか真横に来ていた沢良が、急に声のトーンを低くして僕に視線を合わせそう言った。
「え?・・・そ、それは」
「前者なら俺は迷わず今からお前を都築の元に連れて行く、んで強制的に告らせる」
「こ、後者なら・・・」
相手の剣幕に負けじと、自分を落ち着かせる為に僕は眼鏡のフレームを押し上げた。
その瞬間分厚いレンズのすぐ前に映ったのは初めて見るクラスメイトの姿。
「好きになっちまったんなら仕方ねえじゃん。同性であろうと何であろうと」
僕を真っ直ぐ見てそう言う沢良の表情は少し泣きそうで、それを誤魔化すかのような
悪戯っぽい作り笑いは、反対に僕の疾しい気持ちごと胸をぎゅっと押え付けた。
今の一瞬の顔で、少なくともコイツが今までどれ程自分の性癖で辛さを味わって来たか
それを僕は分かってしまった。

117ヤンキー君とメガネ君 2:2011/05/05(木) 19:08:01 ID:bTBpqkNg
「・・・ごめん」
「何が?お前まさか同情してる?やめやめ、少なくともお前が俺と同じおオホモダチ
にでも目覚めたら、俺の方が同情してやるよ」
「それは、無い」
「だろ、じゃあ悩む事じゃねえ。都築もミサキも良いオン、いや俺と違って立派な人間だ。
お前はその片方に惚れてる。ほら頑張んねえと、この立派なモンで証明してやれって!」
そう言って沢良の片手が俺の然程立派とは思わないモノを、一瞬掴んだ。
「ちょ、このセクハラ変態両刀使い!!」
「だからぁ、恋愛の達人様だっつ」
そう言いながら沢良は満足そうにまた煙草を咥え始めた。
いつの間にか胸のつっかえが取れ、僕には空を見上げる余裕が戻っていた。
だから歩き始める直前足を止める。お前も立派じゃなくはないと言う代わりに。
「おい両刀沢良」
「にゃい(何)?」
「煙草本当に身体に悪いから、控えろよ。それにそんな不味いモノよく口に」
最後まで注意し終われない内に腕を捕まれ、唇越しに煙を吸わされていた。
初めて予期せぬ形で吸わされた煙草は予想以上に肺に苦味と苦痛だけを広げ、
ゲホゴホと何度も咽返り涙と鼻水でレンズが滲んで前が見えない。
「講習料。泣けるくらい良い話だっただろ」
「ば、ゴホっ馬鹿やろっ!は、初めゲホっ初めてだったんだぞ!!それに、風紀がこんなに
煙草臭くて・・・もう色々どうすんだ!」
ハンカチを取り出しレンズを拭く。裸眼では焦点が合わないかも知れないが睨まずにはいられない。
「お前・・・」
「何だよ変態」
「いや・・・・・・・・・やべぇ、かも」
「今度そんな姿見つけたらペナルティ倍だからな!」
そう言い聞かせ僕は屋上を後にした。多分立派に玉砕しに行く為に。

直後、今度は屋上に残り未だ赤面した沢良が悩む番になる。
「初めてって・・・煙草、だよな?でもあの表情は・・・それにキスした事は嫌がってたっけ?
え・・・マジやべ、てか俺既に玉砕??」

11821-139 ヤンキー君とメガネ君 2:2011/05/05(木) 19:10:52 ID:bTBpqkNg
>>116>>117です。
すみません21-139です。番号付け損ねてしまいました。

11921-139 ヤンキー君とメガネ君:2011/05/05(木) 19:46:19 ID:S1xKuA2M
「ァンダマェ! ォンクアンノカゥラァ!」
「え、何? 僕? 僕に向かって言ってるの? うわ、目があっちゃった……参ったなぁ……」
「オゥ! ガンツケトンノカワレァ! ァニミトンジャコラァ!」
「おいおい、僕は何もしてないよ……ほーら、僕は君のことなんか見てません」
「ァニツッタッテンダコラァ! サッサトムコウイケヤッテンダォラァ!」
「はーいはいはい、大丈夫、見てないからね……っしゃ、捕まえた!」
「ウッコラキサッ……ッニシヤガルンダハナセ! ハナセッテイッテンダロガゴラァ! ナメトンノカ!」
「おーよしよし、大丈夫だからね……あー……やっぱり怪我してる、けんかしたのかな」
「タッ、タッ……ッテェーヨサワンナボケェ! テメェニハカンケーネーヨ!」
「泥が入り込んでる洗わなきゃだめだよ、よしよし」
「ッテェー! ツメテッ! ヤメ! コノ!」
「あいた!……もう、手当てしてやってるのに、悪い子だな、仕方ない、無理矢理するよ?」
「アッ、バカ、ハナセッテンダロ……アッ、アッ……テメエ、バカ、イテェ! バカヤメロ!」
「傷をよく見せてね……」
「バカ、ミンナ、ミンナヨ、アッ、サワンナッツッテ……アッ!」
「よし、これで大丈夫、はい、もういいよ」
「アッ……コッコラ、ザ、ザケンナコラナメンナヨコラ! ナグンゾコラ、ナメタマネシテット……」
「真っ赤になっちゃって。怒ってるの。それとも照れてるの?」
「……ッ! オ、オ、オボエテヤガレゴラァ!……」
「……あーあ、逃げちゃった。いじめたわけじゃないんだが。
 弱って怪我してる生き物はほっとけない悪いくせ、いい加減治さなきゃ。もうこれ以上犬も猫も飼えないもんね。
 しかし……荒んじゃって赤い毛並みもボサボサだけど、磨けば光る予感? なんてね……人間まで拾っちゃったら、洒落にならない」

12021-139 ヤンキー君とメガネ君:2011/05/05(木) 20:59:28 ID:U7sl5gLA
「わりぃな。すぐ返すから」
嫌がるメガネ君の懐から無理やり財布を抜き取り、金を抜く。
返した事は一度もなかった。アイツはいつも何も言わずに泣いていた。男のくせに。
***
「またメガネ君から金とったのかよ。悪い奴だね」
ギャハハと笑って煙草の火をつけながら東が言った。
「だってアイツうぜえし。金もってるし」
俺の手にはビール。堂々制服です。はい。
「メガネ君、家に金なんかねーだろ」
「んな訳ねーだろ。現に持ってるぜ」
「いや、その金ってさあ…」
東が何か言いたそうにしていたが、
道路の向こう側に先公が見えたので俺はすぐに立ち上がった。
「こら!お前ら!」
「うわっ、北野だ!やべっ!」
逃げようとしたが、東は悠然と座って俺をひきとめた。
「平気、平気。北野センセエお疲れ様でーす」
ニヤニヤしながら東は手に持った携帯を北野に振りかざした。
北野は苦い顔をして何もいわずにその場を去った。
「ほらな」
「すげえ。なんか弱みでも握ったの?」
「へへ。そりゃあすげえネタよ」
「なんだよ、すげえネタって」
「おまえには見せちゃるか、ホレ」
携帯を差し出された。そこにはゲイバーで痴態をひけらかす北野の姿があった。
「マジ?コレ北野?」
「いとこが新宿二丁目でバーやってんだよ。アイツ、ホモなんだぜ。しかも、かなりの変態」
「ゲーッ」
「サドッ気があるから、他の客が逃げるって、いとこが嫌がっててさぁ」
「…やべ、想像しちった」
「で、さっきのメガネ君。北野によく呼び出されてんじゃん。部屋から出た後、執拗にうがいしてるっしょ」
「あー…」
「内申点目当てだと思ってたんだけど、金持ってるなんておかしくね?
メガネ君体育休むことも多いし。見せたくないもんが体にあるんじゃないのお?」
「ヒョロだからだろ」
「マジ援交の金だったらどーすんの?」
「男だし。お前の妄想につきあってらんねーし」
「メガネ君かわいそー」
ゲラゲラと東は笑っていた。
***
数週間後、俺は目の前の携帯の画像を見ながら、ない頭で考えている。
なんで俺はふたりの後をつけていったんだろう。
なんで、二人の情事を写したんだろう。

メガネ君はいつもの通り校舎裏に来た。
袋に入った金を渡したら驚いて顔をあげた。
借りた金だと言ったら、自分が渡した金より多いと言った。利子付きだと言って押し付けた。
***
「おまえ、最近メガネ君に声かけないねえ」
「かける理由がないし」
「北野は飛ばされちゃったし。
いい気味だけど、水戸黄門の印籠が効果ある奴がいなくなったのは痛いなぁ」
「まーな」
「新しいカモ見つけないんか?」
「いらねえ。北野で最後」
「もったいねー」
「そろそろ堅気になろうかなぁ」
「らしくねぇこと言うなや」
東がまた笑った。
「おまえメガネ君泣かせんのが好きだったんっしょ?」
「妄想好きだな、お前」「本当に泣かせたのは失敗…」
それ以上言わないように、俺は東にヘッドロックをかけていた。

12121-149 *9×*8:2011/05/06(金) 17:33:04 ID:dArqL44A
時間内だけど書き込めないのでこちらで…


「君はどうしていつも僕に尽くしてくれるんだい?何の得もないのに」
「か、勘違いすんなよな!俺は別にお前の為にしてるんじゃない。単にMなだけだ!」
「でも、初めてだったり、ちょっと不安そうにしてたりするじゃないか」
「プレイの一環だ。ちゃんと女王様キャラの時もある」
「僕の為にいつも踏み台になってくれる君を見るたびに、僕は…」
「やめろ!お前は自分の欲望を晒け出しながら、俺を踏めばいいんだ!」
「君はルールの中でしか自分を解放出来ないんだね…わかったよ」
「ふん、わかればいいんだ。さあ、さっさと踏め。いつものように欲望をぶちまけろ」
「*9×*8」
「なっ…」
「これならいいんだろう?」
「お前…何考えて…」
「今度こそ、君は僕のものだ」

12221-239 メントス×コーラ:2011/05/14(土) 01:50:45 ID:eyePq64A
「なあ、メントスロケットやってみねぇ?」
ずいぶん長いこと飲料コーナーを見つめていると思ったら、南条はそんなことを言い出した。
昼休み、このクラス一馬鹿な男に「頼むこのままじゃ赤点一直線なんだわ何とかしてくれ」と泣き付かれ、
学校帰りに塾へ行く代わりに奴の家で勉強を教えてやることになってしまった。
そして奴が「甘いモノ無かったら勉強できない」と主張するので、二人してコンビニに寄ったところである。
「何だよメントスロケットって」
見るからに「いい悪戯を思いつきました」という顔をしているし、どうせ碌なことではないのだろうと思いながらも、俺は一応聞き返した。
「なんか、コーラにメントスいれて振りまくってから地面に叩きつけたらメチャクチャふっ飛ぶんだって。
 これって化学実験じゃね? 勉強にならね? 四宮もやってみたくね?」
やはりというか想像以上にくだらないことだった。
「そんな食べ物で遊ぶようなことをしていいと思うのか」とか「お前はそんな阿呆なことしか考えてないのか」とか
「俺はお前と遊ぶために塾サボったつもりじゃない」とか、言いたいことが一瞬で沸き上がってくる。
だが、やつがあまりにも期待に満ちた眼差しを向けてくるので、
結局「コーラもメントスもお前が買えよ」としか言えなかった。

南条曰く「さすがに住宅街でこれやる度胸はねーわ」とのことで、俺達は南条家近くの河川敷に足を伸ばした。
かなり河口に近い場所で、横を見れば遠くに水平線が見える。キラキラと光る水面、その上を渡る鳥たちの声。ああ、なんか、
「いい場所だろ?」
ハッと振り返ると、南条がニヤニヤしていた。随分呆けた顔をしてしまっていたのだろう。
「うん、まあ……俺んちの近所、川とかないし」
顔が赤くなるのを感じながら答えると、奴は何故か満足そうに頷いた。
「やっぱり! 四宮ぜってー自然見てねぇだろうなーって思ってたし! だからそんなに疲れちゃったんじゃね?」
「え?」
頬の紅潮が一瞬で止まる。俺の変化を見て取ったのか、南条もなにやら気まずげな表情になる。
「わりぃ、何でもねぇわ。――それより早くロケットやろうぜ。お前振る係な、ちょい待ってて」
ことさら明るく言って、南条はレジ袋をあさり始めた。

12321-239 メントス×コーラ 2/2:2011/05/14(土) 01:51:39 ID:eyePq64A
俺が疲れていると南条は言った。
親にも教師にも他の友人にも言われたことがなかったし、自分でもつい最近まで思ってもみなかったことだ。
馬鹿のくせにこういう勘はやたら鋭い奴だ。
勉強だとか優等生キャラでいることだとかは、学校生活の上では必要なこと。不満なんてない、あってはいけない。
そう信じて過ごしてきた。
なのに、南条と同じクラスになって、何かと話すようになって、
いつの間にか不満とか欲とかを抑えるのが、前よりキツくなっていた。
塾をサボったのは、南条のせいじゃない。俺がサボりたかっただけだ。いや、間接的には奴が原因かもしれない。
悪い仲間に誘われて云々ではないが、俺を変えたのは間違い無く南条だから。

「さー振って振って!」
既にシュワシュワと泡が吹き出しかけたペットボトルを渡される。ボトルの内側、コーラの中でメントスが暴れまわる。
このひと粒ひと粒が泡を生み出しているのか。俺の精神状態を無茶苦茶にしている、南条みたいに。
無心になってシェイクしていると、その南条が「さすがにもういいんじゃね?」とボトルを取り上げた。そしてわずかに蓋を緩めると、
「どりゃあっ!!」
思いっきりその場に叩きつけた。
次の瞬間、ペットボトルが宙を舞った。大量の泡とコーラを撒き散らし、一瞬のうちに斜め前方の土手に突っ込んでいった。
「ぎゃははははは!! マジで飛んだよ、見たよな四宮!」
コーラまみれで心底愉快そうに笑う南条を見た途端、胸を締め付けられるような感覚に襲われ、俺は思わず俯いて眼を閉じた。
これ以上、奴を見ちゃいけない。声を聞いちゃいけない。奴に関わっちゃいけない。
これ以上奴を心のなかに入れてしまえば、俺は全て溢れさせてしまう。
無視したかった感情も隠したかった本性も、何もかもを吹き出しながら、あのコーラみたいにどこかへ飛んでいってしまう。
そして何より、そうやって南条に飛ばされてしまうことを何処かで期待している自分が怖い。
「あー、コレ動画撮っときゃよかったな――って、あれ、四宮?」
ひとしきり笑い終えた南条が、こちらを向いた気配がする。けれど顔を上げられない。
今もし奴の顔を見たら、きっと俺は泣いてしまう。
「あ、制服……わりぃ、まさかここまでヒドいことになるとは思ってなくて……」
俺のびしょ濡れのシャツを見たらしい南条は、我に帰って謝ってきた。
この馬鹿とは違って薄々予想はしていたが、俺と南条の全身は噴射されたコーラまみれだった。さっきからベタついてしょうがない。
「マジごめん。俺んちで洗う? あ、その前にペットボトル回収しねぇと、あー結構大変だなコレ」 
こいつに関わっちゃいけない。こいつを受け入れてはいけない。頭ではそう分かっているのに、
「――制服乾くまで、みっちり勉強してもらうから」
奴に背を向けながらもそう言ってしまったのは、俺達にまとわりついたコーラの甘ったるい香りのせいだと、信じたい。

12421-249 何が不満か理解できないよ:2011/05/15(日) 11:39:37 ID:AYLxorG2
わからないんだ。何故君が、そんな顔で首を振るのか。
ずうっと悲しそうな顔をするのか、ぼくには。
「どうして?」
そう訊くと君は後ろめたそうに俯いた。ああ違う、そんな顔をさせたいわけじゃない。
「責めてるわけじゃないよ…」
単純な話で。ぼくは君に笑っていてほしいんだ。それだけの理由でぼくはここにいる。
「何にもいらない。ぼくはただあげるだけ。捧げるだけ」
ぼくは君にできることすべて、してあげたいと思う。愛したいと思う。
愛されたいとは、思わない。
君には日の光のように愛情を受けていてほしい。世界で一番愛されるものであるべきだ。
君は負担に思うことなど何もない。ぼくがしたいだけなんだから。
「君は、それを受け取るだけでいいんだ」
なんなら打ち捨ててくれて構わない。それで君が笑うなら。
愛させてほしい。君が愛するのがぼくでなくても。
笑ってほしい。それがぼくのためでなくても。
「だから君を愛することをゆるして」
ぼくはぼくの夢を君の足元に広げるから、どうかそれを踏んでくれ。
必要なのはそれだけだ。君は愛されてくれるだけでいい。
「だめだ、いけない」
なのに君はぼくの愛情を拒む。そんなに顔を曇らせて。
…何が不満か理解できないよ。
ただ、君が今苦しそうなのがぼくのせいだってことは痛いほどわかる。
ぼくは君に、笑っていてほしいだけなのに。

12521-269 俺様とおぼっちゃま:2011/05/17(火) 14:29:08 ID:nBtGux6Q
投稿しようとしたら規制で書けなかったのでここに!

「あーぼっちゃん、待ちくたびれましたよ」
校門の前に黒のリムジンが止まっている。父親の運転手が帽子を扇ぎながら立っていた。
「何で君がいるの?」
「お父様が久しぶりに一緒に食事したいと。乗ってください」
僕の今日の予定は、この後着替えて友達とカラオケに行くつもりだ。
「断ってください」
意味分かんないし、と言う前に彼は僕をはいはいと座席に押し込める。
恥ずかしい。これじゃまるで僕が愚図る子供みたいに見えてしまう。
「せめて校門の前に止めるのやめてくれないかな。皆が見てるよ、みっともない」
「何が? むしろ自慢でしょう。イケメン運転手付きベンツのリムジンに乗れる高校生はそういない」
車は有無を言わさず走り出す。
帰宅中の奴らが狭い路地を滑らかに進むベンツを、目を丸くして見ている。
「あーあつまんねー!」
わざとらしく呻いてみた。少しは申し訳ない気持ちになってくれるかもしれない。
「ガキじゃないんだから、かんしゃく起こすのやめてください」
「うるさい。僕にだってつきあいってものがあるんだよ」
「ないです。というか、どうでもいいです」
何その口の訊き方、と思ったけど、今始まったことじゃない。
どちらにしろ彼の雇い主はあくまで親父だ。
「自由が欲しいなああ! 親父無視して、このまま二人で海でも見に行こうよ」
投げやりな気分。
「お断りします。仕事を失いたくないんで。夏休みにはバハマの海に行くつもりなんで」
無性に腹が立って後ろから運転席を蹴ると、バックミラー越しに睨まれた。

レストランに着くと、慣れた動作でドアを開けられる。僕は動かないぞ。
「今日はフレンチって気分じゃない」
彼は笑顔だったが、胸ぐらを掴まれ車から引っぱり出された。
危うく倒れ込みそうになったじゃないか。
「ここ駐車禁止なんですよ。さっさと出る!」
ヨロヨロと歩いていく僕の後ろで、あっという間にベンツが去っていった。

まあ、いいけど……ね。

12621-269 俺様とおぼっちゃま:2011/05/17(火) 16:08:18 ID:AuWuqrEM
五分間に合わなかったのでこちらに


深窓の、ときたら、普通その後に続くのは「麗しき御令嬢」であるべきだと
誰でも思うだろう。
幼い頃の俺ももちろんその例にもれず、ある夏俺は町外れの大きな屋敷へと
忍び込んだ。誰もが一度はやってみたくなる冒険ごっこだ。
獰猛な魔犬…という設定の、その屋敷で飼われていた愛らしいスピッツをおやつで
従えて、こっそり潜り込んだ、別荘地でも一番上等な家の、一番上等な窓の下。
そこにいるはずのお姫様は、あろうことか、生意気でこまっしゃくれた、
同じ年くらいの餓鬼んちょだった。
あんまり癪に障ったから、つまらなさそうに本を読むそいつを無理やり外に
連れ出して、それから毎日のように、日が暮れるまで野山を引きずりまわしてやった。
そうして遊んだ懐かしい夏休み。

今じゃどこでどうしているんだか、もう会うこともないだろうと思っていた。

そして立派な一社会人になった俺は今、久しぶりに地元の別荘地を訪れている。
時代の流れに沿うように、ここでも古きは取り壊され、どんどん新しい屋敷が
建つ一方だ。
俺が昔忍び込んだあの家も、もうとっくになくなって、妙にこじんまりした
ログハウス仕立ての別荘が建てられていた。
それはどこか昔落書きをした「俺たちが考えたさいこうの秘密基地」の
イメージによく似ているような気がした。
俺らしくもない干渉に浸りながらその別荘の前を通り過ぎたとき、俺は
ふと足を止めた。
白いスピッツが吠えている。窓の向こうから「どうも」と声がかかる。
見覚えのある目つき。
返事ができずにいる俺に、そいつは生意気にも「…また、僕のことを
連れ出しに来たんですか?」と言って笑った。
だから俺もつい笑ってこう言い返す。
「当たり前だ、バカ。早くこっちに来やがれ」

12721-280 時々酷く幼いから:2011/05/18(水) 06:58:31 ID:EBfyOlio
せっかくなのでこっちのも書いてみた。
もし違反だったらごめんなさい。



先生はずるい大人だ。

「おお、来たじゃん」
「いきなり放送で呼び出しといて開口一番それか。走ってきたんだぞ、もっとねぎらえよ」

いつもいつも、自分では行動しないで俺に選ばせる。
いつでも俺がどこかへ行けてしまうように。
あんたを捨てて、他の道を選ぶ日がくるのだとわかっているかのように。

大人の役目だかプライドだか知らないけどさ、俺の行く末勝手に決められんのむかつくんだよね。
むしろあんたが俺を嫌になったって、しがみついて離れてやらないつもり満々なんだ。
みくびってもらっちゃ困るんだよ。
あんただって本当は俺を手放す気なんてさらさらないくせに。
それでもそのスタンスは崩さないんだから大人ってのはずるい。
でも。

「で?急になに、どうしたの」
「さっき、なんか田中くんとみょーに親しげにベッタベタしてたので。……邪魔してやろうと思ったんだよ。悪いかっ」

こうして時々ひどく幼いから、俺もほだされてやろうかな、なんて気にもなっちゃうわけですよ。

「全っ然。悪くない」
ほんとずるいんだから、まったくこの男は。

12821-359 三味線奏者:2011/05/25(水) 02:45:58 ID:xVn8SlRk
割れんばかりの拍手は、銀幕が上がると同時にぴたりと止み、ホールが静まりかえった。
暗い客席は老若男女問わず、ぎっしりと人で埋め尽くされ、満員御礼と書かれた垂れ幕。
それを目に焼き付けて、俺は三味線を抱え直す。

舞台の中心では、客席に背を向けた主役が、目を閉じて俺の演奏を待っている。
この緊張感は、何物にも代えがたい。

ひとたび弦を弾き始めれば、彼は変貌する。
男の影は消え、女へ。

艶やかな着物は細身の体に似合い、真っ白な肌と紅は端正な顔立ちを引き立たせる。
計算し尽くされたしなやかな動きは、女以上に妖艶で
一寸足りとも狂いはなく、完璧なまでに女形を演じる。
そんな彼の舞に、客席からは感嘆の声があがる。

そんな二人三脚での巡業も、今日で最後。




「ちょっと、いい?」

もう使うことはない三味線を丁寧に手入れし、ケースに仕舞う頃。
開けっ放しの楽屋の扉をこんこんとノックし、彼は言った。
振り返って見れば、彼はもうすっかり元の男の姿。

「おお、もう着替えられたんですか」

そう言うと、彼はニコリと笑うだけで、何も言わずに楽屋へ足を踏み入れる。
長期に渡る巡業中に、彼が俺の楽屋へ来る事はなかったから多少驚きつつも、散らかってますがどうぞとソファーを差し招き入れた。

きっと、俺の契約が今日で終了するのを知って、挨拶にでもと出向いたのだろう。
俺より一回り以上年下でありながら、代奏者である俺にも気を使って優しく接してくれた日々を考えると、当然ともいえる。
しかしトップスターの名を欲しいままにする彼と、差し向かいで話をするのは初めてで少し緊張した。

「……」

「……?」

向かいのソファーに座る彼は、何だかうつ向き加減で表情が暗い。
沈黙が重く感じ、言葉を探した。
今日もお疲れ様でした、等の労いの言葉はさっき舞台裏で使い果たしている。

「………今日、寛三さんがご覧になられてましたよね」

本来の奏者である寛三さんは、急病の為入院治療を続け回復し、先週退院したと人づてに聞いた。
次回の舞台からは寛三さんが、奏者として再び舞台へ戻る。

「……もうお元気そうでしたね。早く奏者として」

「ねぇ、宋介さん」

彼の目が、話を遮った。
女のように綺麗な黒い瞳がまっすぐに俺を見る。

12921-359 三味線奏者 2:2011/05/25(水) 02:49:20 ID:xVn8SlRk

「俺ね、宋介さんの三味線、ずっと聴いていたい」

「……」

「ずっと宋介さんの弾く音で、踊っていたい」


―――すごくありがたい、言葉を頂けた。
奏者冥利に尽きるというもので、もう胸に沁みて沁みて仕方がなかった。
そして口下手な俺は、ますます言葉に詰まる。

「…ありがとうございます。本当に嬉しいですが寛三さんが……」

「わかってる。…けど宋介さんに会えなくなるのは嫌だ」

ドクドクと脈が早くなる。
この状況はいかがなものか。
これは願望が作り出した夢なのかとまで思ってしまいそうになる。
それくらいに、彼は悲痛の表情で俺に訴えてかけている。
もじもじと指先を弄りながら顔を赤らめて。

「俺……そのう…宋介さんが……」

ああ、これ以上彼に言わせてはいけない。

「…見に行きます!」

考えるまもなく咄嗟に出てきた俺の言葉に、彼はびくりとして何事かと俺を凝視した。

「これからずっと、地方行ってもどこ行っても、あなたの舞台を見に行きます。奏者としてでなくとも、勝手に付いていくつもりでした」

「……本当?」

「…はい。惚れてるので」

「……」

「あなたに、惚れてるので」

彼は目を丸くして驚き、そして嬉しそうに笑った。
ずっとそばに居る事は今後も、変わる事はない。

13021-389 元正義の味方×現正義の味方:2011/05/29(日) 21:51:19 ID:zSgE0FNA
ツウカイダーこと本城隆二は、ヤンナルナー総帥クーゲル・シュライバーに捕えられた。
「ふははは!にっくきツウカイダーめ。お前の命もあとわずか…」
逆さまに吊られた隆二は、屈辱に顔を歪め目を閉じる。
次の瞬間、派手な爆発音と共に秘密基地の壁が吹き飛んだ。

「時空刑事 ゴウカイダー!」

ポーズと台詞を決めたゴウカイダーの後ろに七色の煙が舞う。
「げえっ、ゴウカイダー!!なぜここに…っ!」
シュタイナーは青い顔で後ずさった。
その言葉に、ゴウカイダーは顔の前で人差し指を振る。
「チッチッチ…神が見逃す悪い奴、ゴウカイダーは見逃さない!お主らの真っ黒な悪事は、俺が真っ白に染めてやるぜ!」
3方向からのカメラワークで片足を高く上げ、ジャンプ一発。ゴウカイダーは華麗に着地した。
流石初代、決まったぜ。液晶テレビの向こうにいるちびっこたちの歓声が聞こえるようである。
血湧き肉踊るその主題歌は、ビートの効いた串田アキ〇だ。
「ふ、ふふふ…飛んで火にいる夏の虫とは貴様の事よ!」
「なにぃ!?」
「ゴウカイダー!俺の事は構わず、今すぐここを逃げるんだ!!」
隆二の胸元には時限爆弾が仕掛けられていたのだった。

軽快な音と共にアイキャッチが入った。

途端にゴウカイダーの口調がくだける。
「まあ……俺もそろそろいい歳だしさー、あんまり無茶はしたくないよね」
苦笑いを含んだその言葉に、シュライバーはちぎれそうな程 首を縦に振った。
なにしろ先代の地球区域担当組織・ナンダカナーは、最終戦においてゴウカイダー1人に対し、残党工作員100名と首領が散っている。
ゴウカイダーの101人斬りと称され、宇宙悪人商工会から最速通信で全会員に通達が廻っていた。
曰く、『お天道様に逆らっても、ゴウカイダーには逆らうな』
幸い二代目と目されるツウカイダーは、行動に甘さが目立つため油断していたのに。
なのになぜお前が来る、ゴウカイダー。
内心を隠しプライドを捨てた総帥は、揉み手をせんばかりに下手に出ることにした。
「ゴウカイダー様、この番組は後10回ほど放映が残っております。どうぞよしなに…」
まるで悪代官に金の菓子箱を差し出す越後屋のごとく、上目使いでにじり寄る。
「判ってるって…テコ入れにオッサン引っ張り出すとは、そっちも大変だな」
顔の熱着を外し手を横に差し出すゴウカイダーに、さっと煙草が差し出され、すぐさま怪人ボンゴファイヤーが触覚から火を付けた。
吸った煙を吹きかけると、隆二は激しくむせた。
「……大丈夫か、ツウカイダー?」
真っ赤な顔でツウカイダーが顔を背ける。ま、元々逆さ吊りだしな。
「ゴウカイダー様に向かって、その態度はなんだツウカイダー!」
電気鞭を振り上げたシュライバーは、振り向いたゴウカイダーの目付きに凍りついた。
「……別に俺は、悪人退治の自己最高レコードを更新したっていいんだが?」
「ととと、とんでもございません!な、何がお望みでらっしゃいますか」
「とりあえず、ツウカイダーを下に降ろせ」
急いで隆二は降ろされ、拘束具を外そうとする工作員にストップがかかった。
「いや、拘束はそのままでいい。Vも止めたままで」
総帥の兜で煙草の火を消すと、ゴウカイダーこと本間健一はそのまま吸殻を手渡し言った。
「もっと主人公たる心得を、こいつに教えてやらなくっちゃならん…お前らは一旦出てけ」
蜘蛛の子を散らすように、その場の悪人共は姿を消した。
「お前なぁ……なんであんな奴らに捕まったんだよ。甘ちゃんでも、弱かねー癖に」
ため息をつくその目元が優しく歪む。もごもごと俯いたままの呟きは、健一に届かない。
「何?」
「……あんたが…………捕まって瀕死だ…って」
その言葉に吹き出した健一は、ひとしきり笑ってから、嬉しそうに拘束されたままの隆二の首筋に顔をうずめた。

危機一髪!時限爆弾は無事、解除に成功した。
その後、怪人ボンゴファイヤーに苦しめられたゴウカイザーは、ツウカイダーに救われる。
今日のツウカイダーの技に、いまいちキレがないのは気のせいだ。
最後は二人の合体技、ツイントルネードブリーディングにボンゴファイヤーは倒され、地球の平和は守られたぞ!
これぞ伝説の神回と呼ばれ、以後のシリーズの礎を築いたと言われた、前ヒーローと現ヒーローのタッグの始まりである。

Go!Go! ツウカイダー!がんばれツウカイダー!
ちびっこ達の曇りなき まなこに、負けるな!ツウカイダー!!

13121-389 元正義の味方×現正義の味方:2011/05/30(月) 02:26:09 ID:AYuV0Gjg
ワロタw
迷ったけど私もお題に萌えたので投下しちゃってもいいかな






どうも僕の住むこの星は、よその星から侵略されやすいようで、定期的に異性人がやってくる。
空から攻撃される事も、地上で異性人が大暴れしても、僕らにはヒーローがいて必ず守ってくれた。
ピンチになった時に、必ず現れて敵を倒していくヒーロー。
僕たちの住む星は、その一人のヒーローによって守られている。
僕は、そんな強くて無敵でかっこいいヒーローに憧れていた。
でもヒーローは、完璧人間なんかじゃなかった。





「起きてーー!遅刻しますよ!」

剥ぎ取った布団を投げ、耳元でそう叫ぶと彼はようやくもそもそと起き上がった。
髪はボサボサ、よれよれのTシャツをめくり腹をポリポリ掻きながら、
顎外れるんじゃないかというくらいの大あくびをかましているこの彼が、
ひと昔前まで、この星を守るヒーローだったなんて誰が想像するだろう。

「もう!遅刻しちゃいますよ!」
「……だって〜昨夜は君が寝かせてくれなかっ」
「わーー!朝から何言ってんすかバカ!」

思わず菜箸を持つ手に力が入る。
大口開けて笑いながら浴室へ向かっていく彼を睨み付けてから、台所へ戻った。
くそう、顔が熱い。

13221-389 元正義の味方×現正義の味方 2p:2011/05/30(月) 02:27:37 ID:AYuV0Gjg

過去に憧れのヒーローに危機一髪のところで助けてもらい、それから色々あって深い仲。
憧れてたヒーローとは言っても、もう良い年したおっさんで。
ヒーロー業はすでに引退、今では町の土木作業員として働くフツーの人。
僕ももう、夢見る年頃でもない。

朝食用のトーストをセットしたところで、早々に身支度を終えた彼が台所へやってきた。

「おっ、今日は海苔弁か」
「はい。コーヒーがいい?それとも…」

次の瞬間。
体に衝撃と耳をつんざく音。
一瞬気を失っていたのかと思うくらいに、あっという間に状況が一変した。
大きく穴のあいた天井からは空が丸見えで、
我が物顔で飛んでいる飛行物体からは、無数のビームがあちこちに放たれている。
今年に入ってから3度目の襲撃。

「く……大丈夫か」

ハッとした。
彼はいつの間にか目の前で、僕をかばい天井の瓦礫を自らの背中に受けていた。
僕は慌てて隙間から這い出ると、彼の背中に乗る瓦礫をどかそうと……したが、
彼は「ふぬおおおっ」とか言いながら自慢のバカ力で自分で起き上がれた。
背中に傷は、古傷は、と僕が確認する間もなく、彼は一目散で走って瓦礫を登り、空を見上げ叫んだ。

「くそっ!あの帝国軍め!また来やがったな!」

ドカンドカンとあらゆる所が爆発したりして人々が逃げ惑っている。
そんな町の様子を、彼は苦虫を噛み潰したような顔で見ていた。

―――ああ、やっぱり
本当は自分の力で守りたいんだ
自分の無力さに、本当はすごく悔しがっている

13321-389 元正義の味方×現正義の味方 3p:2011/05/30(月) 02:28:22 ID:AYuV0Gjg
僕は彼に近寄り、彼の握り拳にそっと手をやり、優しく握った。
強張った表情は少しだけ弛み、僕を見ると少し悲しげに、でも優しく微笑んだ。

「また、君を危ない目に合わせてしまうね」
「いいえ。あなたが僕を守ってくれるから、僕もみんなを守れるんです」

そうしてキスを交わす。
いつまた攻撃されるかわからない状況で、
バカみたいだと笑われるかもしれないけど。
いつも直前にキスをすると不思議なもので、みるみる内に力がみなぎるのだ。
だって、これが最後だとは思いたくない。

「…さあ行ってくれ。気をつけてくれよ!」

「はい、行ってきます!」

彼から引き継がれた変身ベルトをひっさげ、僕は家を飛び出した。

134名無しさん:2011/05/30(月) 11:39:09 ID:uMqYklnM
0以外130
キレのない動きのツウカイダーw笑い萌えたよGJ!

0以外131
優しくてほんのり切ない・・・このお題でこんな気持ちになるとは。
新鮮でしたGJ!

みんなを守る現ヒーローが元ヒーローに守られるって萌えポイントだよね
タイプの違う二つのSSが読めて楽しかった!ありがとう

135名無しさん:2011/05/30(月) 11:40:29 ID:uMqYklnM
GJスレと間違えました。申し訳ない

13621-409 出来の悪い兄貴:2011/05/30(月) 23:24:46 ID:d9oEiszY
「愛だね」

潤二がはっきりとそう口にした時この酒豪とうとう酔い潰れたかとうとう酔い潰してやったぜハハハ、って具合で
多分俺が相当酔っていた。
俺は自分のこの酒に痺れた脳味噌と口が何を喋っていたかだって結構曖昧なのに。
ああ、そうそう、あの出来があんまりよろしくない兄貴分の話だっけ。

そーほんとヒデ兄どうしようもない。
こないだもクラブで酔い潰れて俺が部屋に運んだし、ちょっとでも目を離すとへらへらと誘いに、
そうあれだよ、こうなんていうの?セックス?そう、セックス!
その誘いにだって乗りかねないし、あーもーほんとどうにかしてくれよ、って。
ごめんユキちゃん、俺もーしないからーなんてあのおっさん、絶対思ってないんだ。
いや、思ってんだろうけど忘れちゃうんだろうな。馬鹿なんだよ多分壊滅的に。酒で記憶なくすし。
いっそアル中になれ。アル中になったら面倒みてやる。どこにも行かせないで俺の部屋で浴びる程酒飲ませてあげるよ。
……っておい。うわ、今一瞬考えて怖かった。無し無し。今の無し。そんなの冗談じゃない。
そうやって否定するように頭を振る。

「行雄病んでるねー」

……お前楽しそうだな、なんか。
じゃあさ、行雄はどこが好きなの。英隆さんの。とか。何だそれ、どこのふざけたインタビューだよ。答えられるかそんな事。
だってヒデ兄は、さっきも言ったけど酒を飲めば絡み酒だし、スキンシップ過剰だからたまにすげーーーうっとーしいし、
最近は軽くいびきなんかもかくし、こないだ寝てる時エルボー喰らわされたし、ユキちゃんユキちゃんってうっさいし、
その癖最近随分忙しそうで、全然……って。おい。

「ほら、愛でしょ」

にっこりと潤二が笑った。あー俺、お前と付き合ったらよかったなーと一瞬言おうか迷ったけどやっぱり止める。

137名無しさん:2011/05/30(月) 23:25:17 ID:d9oEiszY
えーっと、なんだっけ。あーそー、あのおっさんのどこが好きかって。
好き、好き、好き……。ふわふわしてるし、ちょっと考え無しだし、ああ、でも。

「……笑った顔」

俺がもごもごと呟くのを、まあ潤二が聞き逃す筈もない。
お前ほんと怖いよな。いいけど。その笑顔とか特に怖いよな。別にいいけど。
そう、あのくしゃくしゃの顔で、俺の事呼んで、ユキちゃんユキちゃん、俺ユキちゃんの事好きだよーって。
そう言われると一瞬、俺の中に澱んでいる全ての黒いものがどうでもよくなるような気がする。
いや、気がするだけなんだけど。しかも一瞬。
……でも、まあどうしようもない兄貴だけど。
あの笑顔、好きだな。

「潤二、お前ぜってー馬鹿だって思ってるだろ」
「思ってないよ」

まあ、なんていうかほんと、愛だよね、と潤二がにっこり笑いながら俺のグラスに焼酎を継ぎ足した。

13821-419 まわし:2011/05/31(火) 15:10:48 ID:rBYZUisM
「お前の親父、化粧まわし作ってたんだって?」
「そうだよ」
「あの相撲取りの?」
「うん。脳梗塞で入院してからやめたけど」
「え? そうなの? 大変だな」
「今はだいぶ良くなったから大丈夫」
「じゃあ、今はどうしてんの? お前が作ってんの?」
「そんなわけないだろ。俺は不器用だし性にあわなかった」
「お前、頭がいいからなあ。職人じゃもったいないよな」

 それどういう意味?とちょっとだけ反論したかったが、やめておいた。
どうせ他人に言ってもわかるわけがないので。

「なら親父さんの代で終わりなんだ」
「大丈夫。将ちゃんがいるから」
「将ちゃん?」

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 規則正しく機を織る音が作業所に響く。
 俺は彼の手が止まる瞬間を見て声をかける。
「将ちゃん」
 将ちゃんがやっと振り向いて俺を見た。
「ああ、真吾さん。飯ですか? ありがとうございます」
「昨日も寝てないんじゃない? 少しは休まないと親父みたいになるよ」
「作業が予定より遅れてて。あとで少し横になりますから大丈夫です」
 将ちゃんはこうなるともう言う事をきかない。俺は嫌みでひとつため息をつき、その場を離れた。
 
 将ちゃんは、いつの間にか親父の弟子になっていて、いつの間にか親父のような職人になっていた。

 将ちゃんが来る前は、俺は跡取り息子としての無言のプレッシャーがあり、
『まわし職人になんかなりたくねーよ』、などとはとても言えるような環境ではなかった。

 だが、将ちゃんが来てからは、親父は将ちゃんにやたらと入れ込むようになり、
そのうち、俺に跡を継がせるということは、親父の頭からはなくなったようだ。
 そんなわけで俺は将ちゃんにとても感謝している。

 『将ちゃんってどこの人? 何をしていた人?』と、
無邪気に聞いた事があったが、大人の事情があるらしく、あまり教えてもらえなかった。
 まあ今時、親父に弟子入りしようなどという若者なので、多少訳ありなのは仕方ないと思う。
 実際、家に来たばかりの将ちゃんはちょっと怖かった。

 親父と言い合いをしていることは四六時中あったし、
親父も職人気質だったので、とっくみあいのケンカになることもしばしばだった。
 だが、そのうちに、将ちゃんは親父を尊敬するようになり、
将ちゃんを慕っていた俺は、将ちゃんを通して親父に対しての認識を改めたのだ。

『相撲取りの見栄の為にそんなに熱くなってバカみたいだと思わないの?』
と聞いたこともある。
 将ちゃんは作業を黙々と続けながら
『絹は蚕が自分の命とひきかえに紡ぐものだから、こちらも命をかけないと』
と言った。その後で『親父さんの受け売りですけどね』と笑った。
 ああ、将ちゃんは、本当にこの仕事にかけているんだなあと思った。

 最近は、スポンサーであるタニマチが自社の宣伝になるような
化粧まわしを作ることや、話題になるようなまわしの制作が多い。
 職人としてはどう思っているんだろうか。
 相撲自体、不祥事ばかりで、人気も低迷しているのに、
このまま続けていて不安はないんだろうか。

「宣伝用のまわしですか? それはそれで作っていて面白いですよ」
「そういうもん?」
「まあ、オリジナルの図案で横綱の化粧まわしを
いつか作れるようになったらいいなと思ってますけど……」
「将ちゃん」
「はい?」
「俺いつか社長になって、横綱のスポンサーになって、
将ちゃんに全部まかせて、思い切り好きな化粧まわしを作らせたげるよ」
「……」
「あ、本気にしてないだろ」
「いえいえ」
「ほら、本気にしてない」
「違いますって」
 機の音が響く。将ちゃんの機の音はいつも優しい。
いつの間にこんなに優しい音になったのか忘れたけれど。
「期待してますよ」
「おう。まかせとけ」

13921‐509 人恋しい夜 1/2:2011/06/11(土) 10:52:27 ID:MmsP4mig
疲れた体でベッドに寝転がる。今すぐ眠りに落ちたいんだけど、一人きりのベッドが酷く寂しかった。
いつもの事なのにたまにあるんだよなあ、こーゆーの。
寂しいっていうのもセックスしたいとかじゃなくてただ単純に寂しい。
ベッドにもぐりこんだ時にシーツが冷たいとか、帰ってきた時に部屋の電気が真っ暗だとか、
そんなのもうずっと前からの事なのになあ。
年食うと涙もろくなるっていうけど、これもその一種類なんかなあー。俺、寂しいなあー。
枕に埋めた顔をのろのろと上げながら、一度だけ迷って携帯を手に取った。
……真夜中だ。まあ、何回か鳴らして、出なければそれで。そしたらまあ諦めもつくってもんでしょ。
寂しい気持ちが、以前だったら耐えられなかったけれどそこに諦めがつくようになったのも年取ったって事なんかなあ。

履歴に残りっぱなしの番号を探し当てて、発信ボタンを押した。
向こう側に繋がるまでの少しの隙間は今俺が寂しいと感じる原因が詰まっているようで少しだけ体が強張る。
もそもそと体をベッドの上で丸めながら携帯を耳に押し当てる。
一回、二回、電話の鳴る音。もう一回で応答が無ければ切ろう、そう考えていた時。

『……今、何時だと思ってんの』

無愛想な声はそれでも多分眠ってはいなかった。それくらい、声だけでわかっちゃうんだよ俺。
なーすごい?って聞きたいけどぐっと我慢する。声と一緒に表情まで浮かんできて思わず声に出さずに笑った俺に、
秀幸はまるでこっち側が見えるみたいに何笑ってんの、と呟いた。

「いやー、秀幸だなあって」
『……当たり前でしょ。どこに電話したつもりだったの』
「ん?お前んとこ……」
『それで俺以外が出たらおかしいじゃん』
「そーだねえ」

耳からじんわりと暖かさが広がっていく。あー俺ほんと寂しかったんだなー。ちょっと涙ぐみそう。どうしよう。

『で、どーしたのこんな時間に』
「え?えー……教えてほしい?」
『……うっぜえ、直哉』
「なんだよお前、酷いな……」

口と裏腹に秀幸の声は優しい。声だけだから余計にそう感じるのかな。俺の希望的観測だったりして。

「ねー秀幸、俺さあ、」
『……ん』
「お前の事、やっぱ好きだなあ」

お前の声とか、お前のそういうちょっと優しいとことか、優しいって見せたがらないとことか、
何だかんだ言ってこーやってつきあってくれるとことか。多分今、ちょっと呆れた顔してでっかい目細めてそうなとことか。

『……酔ってんの?』
「んー、ちょっと飲んだけど、酔ってはないなあ」
『じゃあ、どうしたの』

どうしたんだっけ。そうそう、俺、寂しかったんだよねえ。でも多分まー誰でもいいって事じゃなくて、
真っ先に浮かんだのがお前で、ほんとは会いたいんだけどさすがにちょっと無理だしだから電話してみたっていうか。
そしたらお前が出てくれたっていうか。そういう事なんだけどうまく言えない。
少しだけ頭の端がとろとろと、眠りに落ちそうになってシーツが体温にあったまってきて、あ、やばいなって思った。

「ひでゆきぃ、」

只寂しかったってのはほんとだよ。ちょっと人恋しいなっていうだけだったんだ。
俺がいくら貞操観念があんま無くってもさあ。そういうだけの時だってある訳で。
元々はそうだったんだけどおかしい。眠気が変質していくのがわかる。閉じかけた瞼の裏にゆらゆら、何かが揺れている。
なんで俺今こんなちょとヨクジョーしちゃってんだろ。
……あーそっか。電話の声って耳元だ。セックスに似てるな、とか思わず考えた俺の負け。

14021‐509 人恋しい夜 2/2:2011/06/11(土) 10:55:30 ID:MmsP4mig
『……変な声』

そして俺の、そろそろぐずぐずになりかけた理性を秀幸は敏感に察する。
察せられた事に少しだけ浮かれる俺は結構な能天気で、片手で電話を、もう片手を自分の下半身に滑らせた。

「ひでゆき、俺さあ、」

なるべく平静を装って、何か話を続けようとしたけどもう無理だった。
意識はもうすっかりそっちにすっ飛んでしまっていて
秀幸がはぁ、と吐いた重い溜息すら耳元で呆れて吹きかけられた錯覚を起こして腰が疼く。

『何してんの……』
「……何だとー、思うー?」
『あんま考えたくない事』
「……秀幸、俺の事なんでもお見通しだねえ…」

疲れてるくせに元気な俺のそこは、手で握りこんで少し上下させるとすぐに勃ちあがった。
ぐっと上向いたそれを扱きながら、秀幸の呆れた声に耳を澄ませる。
目閉じて、手が動く度に静かに鳴るシーツの音のやらしさに肌が震えた。

「あ、……なー、ひでゆき、何か喋ってー…」
『あんたの変態プレイに俺巻き込むのやめてよ、ほんと』

秀幸が結構真面目な声で言う。あ、それ、それやばい。なんか罵られてるみたいでぞくっとした。
おかしいな、俺別にMじゃないのになあ……まあ疲れてるから、そういうのも、あんのかなあ……。

「それ、いー、ね、お前の、そーゆーの……」
『ほんと変態』
「んっ、そー、かも、……へへ、」

あーやばい。両手使いたい。っていうか、ほんとは後ろ弄りたくなってるんだけど、丸まった体勢で上手くいかない。
そのくせひくひく動いてて、そのもどかしさも俺を加速させて、
荒くなっていく息にそれでも秀幸が電話を切らないのを愛だなーなんて余計に嬉しくなっていく。

「ひでゆき、さ、」
『………』
「聞ーて、る?」
『………すこしだけ』
「ひでゆきはぁ、俺のこーゆーの、興奮しないの…」

俺は物凄く興奮するんだけどなあ。
先走りに濡れた手でぐちゃぐちゃと扱きながらそう呟くと、秀幸が急に押し黙った。
いや、さっきから黙りがちではあったんだけど。
それでも止まらない俺のどうしようもない手は、どんどんと快感を加速させていく。
あ、あ、と小さく声を漏らして、さすがにやばいかなと枕になるべく口を押し付ける。

『俺は、』
「……ん、…、何?」
『あんたと違って変態じゃないから、目の前にいる方がいいけど』
「……ひでゆきさあ」
『何』
「お前、スケベぇー…」

でも、お前のそれ、俺、ヤバイかも、もう。
体と心は別物だけど、一体になる瞬間みたいのがあって、その瞬間背骨あたりから通り抜ける快感にびくりと震えた。
秀幸の言葉はそれだけの何ていうか、俺の中の起爆剤的な所があって、もうどうしようもなかった。
ひでゆき、ひでゆき、と名前を呼ぶと、秀幸が三回に一回くらい面倒そうに返事をする。
ぐちゃぐちゃと手が濡れて、頭の中もぐちゃぐちゃになって、
耳元の声は遠い筈なのに今すぐここで耳たぶ噛まれたりしてるくらいにまでバーチャルな感覚が襲ってくる。

「あ、あー、ひ、でゆきっ、俺もー…イくっ…」
『……一人でさっさとイくの』
「ちょ、だって…お前の声っ……」
『自分勝手だよねほんと』

俺の気持ちも考えてよ、だって。お前、今言うなよ。ぐっと丸めた体が自然と更に丸くなる。
あ、あ、やばい。もうイきそ。
そういえば後ろ使わないでイくって久しぶりかもしれない、とかごちゃごちゃと考えてなるべく引き伸ばそうとしたのにもう無理。

「あっ、…っ、んんっ……!!!」

強く握ったそれがどくどくと、何かを押し上げていく感触。
詰めた息が肺から勝手に飛び出していって、それと一緒に俺の手にどろりと生温い精液が伝い落ちた。
丸めていた体が自然と伸びていて、ぴく、ぴく、と小さく痙攣するみたいに動く。
はぁ、はぁ、と何度か落ち着かせようとしても荒いままの呼吸にあわせて、ひでゆき、と小さく呟いた。

『……うん、ちゃんと聞いてるから』

思いもしなかった答えに俺は半分閉じて縫い付けられたみたいに動かなかった瞼を開く。

「……んな事言われたら、俺、もっかい勃っちゃいそーなんだけど……」

本当に馬鹿じゃないの、と呟いた秀幸の後ろで、孝之の部屋の重いドアががちゃりと閉められる鍵の音に俺は思わずまた目を瞬く。

『我慢してよ直哉。待て』

犬じゃないんだから、と笑いながら、俺はとりあえずどろりと濡れた手をそこから離して、
待ってるから早くねえ、とのん気に秀幸の耳元に囁いた。

14121-479 おっとり義父×どスケベ息子 1/2:2011/06/12(日) 02:07:54 ID:pgVRec52
義父が、黙ってしまうことがよくあった。
世間では仲の良い婿、舅の間柄もあるらしいが、その頃俺と義父は、「娘の男」と「娘をとられた父」の微妙な雰囲気のまま、あたりさわりのない会話を交わすくらいだったから、ふっと訪れる沈黙は不自然だった。
早くに妻を亡くし、一人娘を嫁がせてしまった義父は、孫を切望していた。
そのことに触れようか、触れまいか、迷う気持ちが沈黙となるらしかった。
うしろめたい気持ちもあって、その沈黙にあえて触れなかったが、一度だけ、言い訳めいた会話にしてしまったことがあった。
半ばやけ、半ばいたずら心だった。
「僕は『好き』なんですけど……仕事も忙しいし時間も合わないけど、僕の方はね」
婿の性癖など聞きたくもなかったろうから、義父は落ち着かない表情になった。
「あちらは……ね。まあ、女性はいろいろデリケートなんでしょう」
「……その、夫婦には、まあ、大切なことだよ」
ふだんおっとり、というよりはぼんやりした風情の義父が、精一杯人生の先輩らしい顔をした。
親しくはない義父だったが、あまり偉そうじゃないその雰囲気は嫌いじゃなかった。
「そうですね、困りますよ、正直僕は、どスケベなんです」
「……そいつは大問題だね」
軽く苦笑したその顔も、嫌いじゃなかった。

妻の死は突然だった。これから子をなし、育て、ふたりともにゆっくり老いていく、そんな平凡な幸せが当たり前に続くと思っていたのに。
仕事、仕事で妻や生活を大切にしなかった報いのように俺には思えた。俺は荒れた。
義父もさぞ無念だったろう。しかし義父は、一度も俺を責めはしなかった。
「私も妻を先に行かせた身だから、君の気持ちはわかると思う」
そう言って、悲しみにのたうちまわるような俺を支えてくれた。
義父のたっての希望で、位牌は義父の家に置かれた。
法事のたびに義父の家に通ううちに、すこしずつ、妻によく似たまなざしにつらさよりも慰めを見るようになって、いつしか義父はとても近しい人となっていった。
妻の死から6年が経っていた。

14221-479 おっとり義父×どスケベ息子 2/2:2011/06/12(日) 02:09:36 ID:pgVRec52
「これで一段落ですね」
七回忌の法要に集まった人々が帰って、また静かになった義父の家で、俺は義父にビールをつぐ。
お疲れ様でした、と互いにグラスを合わせて、残った折りの料理で腹をふさいでいると、
「次は、智聡君はもういいんじゃないか」
と言われた。
「それ、三回忌の時にも言いましたね」
「もう美月のことはいいから、君はさっさと再婚しなさい」
義父はほほえみを浮かべている。
「前も言いましたよ、再婚する気はありません」
「いい若い男が、もったいないじゃないかね」
「もう若くもないですよ、四捨五入したら40才です……ってうわ」
自分で言って軽いダメージを受けると、
「ほらな、自分では若いつもりなんだよ、君は。男盛りだよ、男の四十なんて。若い子がキャアキャア言ってくるだろう」
「今はオジサンのほうが受けますからね、うちの若い子はお義父さんくらいの部長に『かっこいい、お父さんになってほしいー!』なんて言ってますよ」
「君がもったいないんだよ、私なんか枯れたもんだ」
そういえば、とえくぼを作って、
「きみは枯れていそうにないな、何しろどスケベなんだったな」
俺の肩をポンポン叩くものだから、むせた。
「何言い出すんですか、そんな昔の──」
「よく義理立てしてくれたと思うよ、美月も喜んでるだろう。僕もうれしい。何しろどスケベな君が再婚もせずこうして七回忌までも弔ってくれたんだから」
「その、どスケベ、ってのやめ」
「うん、うん、男はスケベくらいでないとな、そうでないと仕事も力が出ないもんだ」
「ちょっ、お義父さ」
「スケベをな、パワーに変えてこそグーッと何につけてもエネルギーになるって昔からな」
「お義父さん! もう!」
「もう、な」
義父は、晴れ晴れと笑った。
「君が美月のためと……私のために、この家に来てくれるのは嬉しい。しかし、本当に、若い君を縛る権限は、もう美月にも、私にもないんだよ」
ずっと避けてきたその時が来てしまったことを俺は知った。
来るなと言われれば、この人にはもう会えない。
俺の親が再婚をせっつくのも、この人の耳には入ってるんだろう。
位牌を引き取ったのも、最後に俺を突き放すためだ。すべて、最初から。
「さあ、もう、新しい人生を生きなさい。美月は僕が見ていくから、安心してくれ」
再婚するなら、元妻の父親とじゃ友人にもなれない。
……妻を失ったときのように、いままたこの人を失うことに耐えられそうもないのに?
「もし、君にいい人が現れたら……できることなら、見たいな、君の子供が」
「……その時は見せに来ます。僕はお義父さんの息子ですから」
そんな時がくるはずもない。
何もかもが遅い。取り返しがつかない。
俺は今更ながらに歯がみした。
──この人の血を引く子を生みたかった。

14321-569 穏やか若隠居受け:2011/06/19(日) 10:52:21 ID:bWD0H00I
「あきれたね、本当に隠居しちまうのかい、喜さん」
「いいじゃないか、清さん、これで心おきなく遊べるってもんだ」
 喜之助……喜さんは文机の前で泰然としたものだ。
「せっかくだからね、寮のひとつも作ってもらおうと思うんだよ。そこで戯作でもしようか。人情物かな。芝居の台本もいい。
 そうだな、寮の名前は喜詩庵、喜文庵、それとも喜雨庵、さて……」
 何をのんきな。ぼんやりした人だとは思っていたが。
 手前のお店には何の未練もないのか。心配したのがだんだんばからしくなってきた。

 喜さんは隠居して、弟にお店を継がせる。
 弟と言っても死んだ先代の後添いの子だ。後妻が、後見の伯父に通じてうまいことやりやがった。
 もっとも、喜さんも逆らわなかったようだ。
 争いは好まない人だし、おもしろく噂にでもなればお店の評判に傷がつくと考えたんだろう。

「だからね、清さん、庵に遊びに来なさいよ、隠居すればみな友達がいもないだろうからね。
 清さんだけは幼なじみのよしみで、後生だよ」
 私に煙草盆を勧めながら、口ほどに切なそうでもないこの男がはがゆい。
「ちっとは伯父さんに逆らっちゃどうだ、何が病弱で素行悪し、だ。
 遊びといえば芝居見物っくらいで、そうそう吉原がよいもしないような人をつかまえて、見え透いてやがる」
「いいんだよ」
 自分でも煙草を詰めながら、喜さんは言った。
「隠居は私から申し出たんだ」
「本当かい?」
 それは初耳だった。てっきりあの性悪女が仕組んだものと思ったが。
「おっかさんもね、そりゃあなんにも言わなかった訳じゃない。でももともと私はお店を継ぐ気がなくなっていた。
 伯父もこんな気概のない私じゃ旦那は無理だと思ったんだろうね」
 熱心に店に立ってるものと見えていたが、胸の中はわからない。
「気がない、って、そりゃあ、どうしたわけだい」
 喜さんはうーんと煙管を吸って、
「……隠居して、気楽な寮住まいで、たまにお前さんが訪ねてくれる。私にとっちゃ極楽だよ。おまけに、そうしてさえいりゃあ……」
 おっかさんも文句はない、か。
 結局のところ、跡目争いなんてのにはなっから加わる気がなかったってことだ。
 長男でなければまだほかの道があったのかね、行き所がなけりゃあやっぱり隠居するしかない。

 どうにもやるせない思いで煙管をふかしていると、喜さんが独り言のように言った。
「それにね、私は嫁をもらう気はもとよりなかったのさ、女はこわい、意気地がねえが、そう思えてね。所帯も持たないんじゃ旦那は無理さ」
「そいつはあのおっかさんのせいかね。……しかしそれじゃ妾も囲えめえよ、せっかくの若隠居が寂しかろう」
 喜さんはため息のように笑うと、障子の方に顔を曲げて
「寂しいのはお前さんが来てくれりゃ平気だ、私がお前さんの囲われものさ」
 急に芝居がかって袂で顔を隠しながら
「旦那さま、必ず来ておくんなましね、お待ち申しておりますよ」
 くれた流し目のすごいこと。

14421-599 充電器×携帯:2011/06/21(火) 02:11:57 ID:U/.nhfUM
「……待ってくれ……頼むから」
 プライドを捨てて懇願した声は、大抵は聞き入れられない。
 それでも、彼の前に連れてこられ秘められた部分を露出させられると、拙い抵抗を試みずにはいられなかった。
「今更純情ぶらないで下さいよ。一日一回は喰ってるって言うのに」
 冷やかにつきつけられるのは見たくもない真実だ。
 体を辱められ、言葉で詰られる瞬間は、何回経験しても慣れることはなかった。
「わかってるだろう? 今日は――」
「ええ。見ればわかりますよ。電池マークがまだ2本残ってますね」
「電源が切れるまでとは言わない! せめて……マークが1本の時にしてくれないか」
「ダメです。明日早いんでしょう? それに――」 
 ――ぎりぎりまで我慢すれば、その分受け入れる時間は長引くことになりますよ?
 ことさらゆっくりと続けられた言葉に、これ以上反抗することは許されなかった。

×    ×    ×

 体をぴたりと密着させられて、いやでも相手の存在を感じさせられる。
「ほら、電気が流れ込んでるの、わかります?」
「あ、あ、あ……」
 繋がっているところから体が満たされていく感覚に、もうまともに思考することができなかった。
 いつもこうなのだ。ひとたび彼自身を埋め込まれると、数時間は抜くことを許されない。
 その間は、一方的に流れ込んでくる快感にひたすら耐え忍ぶことになる。
「ねえ、気づいてますか? だんだんと充電の切れる時間が早くなってること」
「それ、は……っ」 
「そりゃそうですよね。あなたと俺がこういう関係になってから、もう随分と時間がたった。
 充電を繰り返せばあなたの電池は消耗し、より一層、俺を求めるようになる」
 ――わかっていた。
 だから今日も、ぎりぎりまで充電を拒んだのだ。 
「あなたは俺なしではいられない体になるんですよ。あなたの意思とは関係なくね」
 心が壊れることが、体が浅ましくなることが、もう充分過ぎるほどわかっていた。
「ああ、大丈夫ですよ? あなたの電池パック、使いすぎてダメになっちゃっても新しいを入れればいいだけの話ですから。
 そのときは初物に戻ったあなたの体をまた最初から調教してあげますよ。嬉しいでしょ?」
「な、ぜ、」
 ひとり言のように零れ落ちた言葉を、笑う声が聞こえる。
「なぜ、とは?」
「俺は、どのみちあんたなしではいられない体だ。なのに、あんたは、なぜ必要以上に俺を貶めようとする?」
「楽しいからですよ」
 彼から告げられる言葉は、その酷薄さと裏腹に、どこか秘めごとを打ち明けるような親密さを孕んでいて、時折俺を混乱させる。
「誰もに必要とされ、最先端の技術とデザインを与えられ、生活と娯楽の頂点に君臨するあなたは、俺なしでは生きていけない。
 プライドの高いあなたが屈辱に耐えて俺の元へやってくるのを見るのが、たまらなく好きなんです」

14521-599 充電器×携帯:2011/06/21(火) 06:52:44 ID:/gp2ohQQ
「よろしく」
そう言って笑いかけてきたのが初めてだった。
よろしく、なんて人間みたいな挨拶だなと思ったのをよく覚えてる。
なんだか口にした事の無いそのよろしく、という言葉を真似て返すと彼が笑った事まで俺の中には残っている。
彼と俺とはいわゆる多分仲間、というやつなんだろうか。仕事仲間、とか?
まあきっとそういう感じに呼ぶんだろう。人間だったら。
俺は携帯で、彼はその俺を充電してくれる充電器で、俺にとって彼は必要不可欠だった。
ぐったりとしている俺に力をくれるのはいつも彼で、
「お疲れ」
「大変そうだねぇ」
「俺がいるからもう大丈夫」
だなんてそんな事を言う。
俺は充電器って言ったら彼しか知らなかったし、もしかしたら他の充電器もそうなのかもしれないけど。
でも彼のあのゆったりとしたトーンでそうやって声をかけられると熱を持った俺の体からすうっと力が抜けてすごく心地いいんだ。
これは多分、彼でなければ駄目なんだと思う。彼が、あの姿であの声で、あの笑顔で俺をそうやって満たしてくれるからだ。
だから俺もまた頑張ろうって思えるっていうか。

だから俺はもう電池もギリギリの状態で今日も彼の前に来た。
ぺたりと座ると、今にも目を閉じてしまいそうだった。やばい。もうほんとギリギリ。
「おーお帰り」
「ただいま…」
彼とのやり取りはいつもこうで、本当に人間がしてるそれと一緒だ。でもそれがすごく落ち着く。
俺が座り込んだそこに、彼が近寄ってきて俺の方へ手を伸ばしてくるから俺は少しだけ顔を彼の方へ向けて突き出した。
「あー疲れてるねえ」
ゆっくりと彼の手が俺の頬を包み込む。じわりと俺の中が満たされようとしていくのがわかる。
クタクタの体に、温かいものが流れ込んでくる、その熱が俺の体の隅々に染み渡るように俺はゆっくりと力を抜いた。
彼にもたれかかるように。
「でも大丈夫。俺がちゃんとフルに充電してあげるから」
そう言って、彼は俺の額に額をくっつける。さらに温かいものが流れ込んできて、気持ちいい。
多分人間が眠ったり、そうするような安心感ていうのはこれに似てるんだろうな。
「よろしく……」
「寝てていいよ、明日の朝にはちゃーんとフルになってるから」
彼の優しい指先が、俺の頬をゆっくり撫でた。それに一度だけ、俺のどこかがびくりと震えた。え?何だ、これ。
思わず目を見開くと、すぐそこにある彼の目と目があった。
「ん?」
「あ、うん。よろしく」
何だろう、これ。俺もしかして不具合でも出た?
ゆっくりと彼から伝わってくる温かいものに満たされていく、
心地よさに包まれて一瞬感じた不安が何だったかわからなくなっていく。
ああ、もういいや。明日覚えてたら自分でチェックしてみよう。今はもう、彼に任せて眠ろう。
「おやすみ」
彼がそう声をかけてきたけど、俺にはもうそれに返事ができたのかどうか。
ゆっくりと全てのシステムをオフにして、俺は彼にもたれて目を閉じた。

14621-619 愛さないでください:2011/06/22(水) 19:13:13 ID:PkxPXjRA
規制されていて本スレに書けないのでこちらに投稿。


 ひとつだけお願いがあるんです、と青年は静かに言った。
――私を愛さないでください。
 烏色の髪が風に撫ぜられて蒼ざめた頬にかかり、ただでさえ感情を内に秘めがちな青年の表情を一層読み辛くしていた。
 けれども、日頃から禁欲的な彼が、そうして一陣の風の中に無防備に身を置くさまを見るのが、私は存外に気にいっていた。
 だからたびたび夜になると、青年を連れて、この静かな湖畔を訪れた。
 ここに吹く風は無粋な障害物に遮られることはなく、ただ穏やかにさざ波の上をやってきた。
 そして、私と青年に沈黙が訪れると、その間を優しく風が通り過ぎていくのがわかるのだった。
 青年もまた、この時間を好んでいた。
 明るい日差しの中では人目を集める彼の容姿は夜の帳にしっくりと溶け、湖畔に吹く水気を含んだ風は彼の故郷の風にどことなく似ているのだと言う。
――私を愛さないでください、私を愛さないでください。
 彼の言葉をそっと胸の中に反芻する。最初は小さなさざ波だったそれは、終いには思いがけない大波になって私の感情を揺らした。
 私と青年の間に、大きな断絶を感じるのはこんなときだ。青年の生まれた国では、言葉とは大事な時にだけ使うのだと言う。
 けれども、その言葉が聞こえた通りの意味を持つとは限らないのだと。
 今このときも、青年の言葉は重く、危うい。
 こんな使い方を、私は知らない。
「何故、」
 纏まらない感情で発した言葉はひどく稚拙で、そのことに私は苛立つ。
 私と青年が同じ国の人間だったら、私と青年の国がけして争うことがなければ、私がこの国の軍人でなかったら、私達は分かりあうことができたのだろうか。
「どうしてあなたは何も言わないのだ!」
 子供のようになりふり構わず叫ばずにはいられなかった。もともと感情を抑えるのは得意な方ではない。
 青年の顔に一瞬だけ困惑の表情が浮かび、そして消えていった。
 さぞかし呆れているに違いない。そう思ったが、もはや自分の衝動を抑えることができなかった。
「……愛しているんだ」
 呻くように言った言葉は、沈黙の中に落とされた。青年は私に背を向けると、湖を眺めている。
 拒絶されるとわかった愛の味は苦い。それでも、白痴のように次の青年の言葉を待っている。
――月が綺麗ですね、と水面に俯いた青年が消え入りそうに言う。
 繊細に揺れる水の上に、大きな月がその姿を映しているのだ。
 月光が象牙色に青年の肌を輝かせる様を、食い入るように見つめていた。
 失意が胸の内に広がり、表情の見えない青年にじょじょに苛立ちが募る。はぐらかされるにしても、その顔が見たかった。
 たまらずに、立ち尽くす青年の腕を強く引くと、はっと息を呑む音がした。
 無理やり振り向かせた彼の顔は、今にも泣き出しそうな顔をしていて、思いがけないその事実に私は呆然と立ち竦む。
――ああ私達は分かりあえない。

14721-619 愛さないでください:2011/06/22(水) 20:11:14 ID:hMoRTwDE
規制で書き込めなかったのでこっちへ


「……そんなに嫌われることもないのに」
「え?俺?」
「あ、いえ、えっと」
ぼそっと口をついて出た言葉だったが、黒川さんにはしっかりと聞こえてしまったようだった。

黒川さんのスーツにピンマイクを付ける俺をじっと見つめる黒川さん。
テレビ画面の中からでも鋭いとわかる視線が直接俺に向けられているものだから沈黙など十秒ともたず、仕方なく俺は続きを話し始めた。
「いえ、あの、黒川さんてその、番組の中じゃ悪役、っていうかどうしても嫌われる……あ、すみません失礼ですよねすみません!」
「いいよ別に。そういう風に見られてるのは知ってるし、愛されキャラとか似合わないだろ」

「……そんなこともないと思いますけど」
お世辞でなく、そう思う。きつい感じの顔立ちだけれどその辺の俳優に負けないくらい整ってはいるし、こうして俺と普通に喋る分には優しい声をしている。

「うーん、ていうか、俺っていう嫌われ役がいることで番組が盛り上がってんだからさ、俺は全然気にしてないんだよね。むしろ愛されちゃったら失敗だと思ってる。元はプロデューサーに言われて始めたキャラだけどさ」
「でも変な嫌がらせがきてるとか聞いてますけど……」
「いいよいいよ。嫌がらせくらいタレントだったら多かれ少なかれあることだし。愛されたら駄目なの、俺は。そういう仕事なんだからさ。
……あー、喋りすぎたわ。とにかく俺は気にしてないんだから、こんなおじさんの心配する必要ないよ、瀬川君。キャラ崩れちゃうし。むしろ愛さないで?」

一スタッフでしかない俺の名前をしっかりと覚えてくれていた彼は、「あ、キャラって言ったのはオフレコで」と、ひどく魅力的な笑みと共に言った。
……絶対プロデューサーは彼の売り出し方を間違えていると思った。

14821-639 言ってることとやってることが違う:2011/06/25(土) 23:54:52 ID:FozlRjUw
触られるのはあんまり好きじゃなかった。
触りますよいいですかいいですよ、くらいのやり取りを経て触られるのらまだしも、
急に触られるのは本当に好きじゃない。
俺の体は俺の物だから俺の物に触る時は俺の了解を取るべきだし、
実際そんな事言われたらキモいので断るに決まってるけど、
まぁ一応聞いてみてくださいよ触っていいですかって。
……と言うような事を男の胸に頬をべったりくっつけたままブツブツ言っていた。
男は俺の頭の上で、そっかー、と愛想のない相槌を打ちながら俺の伸ばしっぱなしの髪の毛を弄っている。
俺は男の背中に回した手でTシャツの背中を弄りながら、そうなんだよ、と愛想のない返事をした。
それ以上会話も続かないので、俺は男の硬い胸に頬をべったり押し付けたままそっと目を閉じる。
静かな鼓動に耳を澄ませていると、男の指が髪の中にもぐりこんでくるので、俺も男の服の中に指先を滑り込ませた。
なめらかな背中の感触を何の他意もなくただ擦りながら、きっとあんたの優しさが俺を駄目にしているのだろうな、と思った。

14921-649 両片思い:2011/06/27(月) 02:44:00 ID:pFHd31A.
大城と出会ったのは大学の入学式の時。俺は一目惚れだった。
天然というか頼りないというか、大城は都会に慣れていない田舎もの丸出しで、
気になって何かと世話をやいていたら、俺を慕ってくっついてくるようになった。
俺に気がつくと嬉しそうに俺の所にかけよってくる。誇らしかった。
でも、男同士なんて保守的な田舎育ちのコイツにはありえない。一緒にいられればそれでいいと思ってた。
だが、こいつと同郷の女が同じ大学にいて、俺と親しくなるよりも明らかに早く大城と親密になってから、何かが狂った。
俺のわからない方言で早口で話す二人。俺といない時はほとんどその女といる。俺は面白くなかった。
「俺といる時と別人みたいだな」と嫌みを言ってしまったり。
女に取られるなら、酒に酔わせてやっちまおうという気にさせた。
もう親友なんてどうでもいいという自暴自棄になっていた。

翌日、俺の腕の中で抱き枕になっている大城がいた。
状況がわからずパニックになりながらも、酒に酔ってグダグダになった所までは思い出した。
予想外に大城が酒に強くて俺が先につぶれたのも思い出した。でも、それ以上の記憶がない。
「おはよう…」と大城が目を開けた。俺は慌てて手を離した。
傷ついた顔を見せたから、確実に何かやばいことをしたのだろう。
大城を帰した後で、背中に赤い線を見つけた。
キスをしたような感覚も戻ってきた。俺は血の気が引いた。

翌日、即座に謝った。
「酒に酔ったらキス魔でゴメンな」とごまかすしかなかった。
こうなるとどうでもいいと思っていた親友の座がどうにも惜しかった。
「大丈夫」という大城の顔が全然大丈夫じゃないと言っている。だが、まだ俺は側にいたい。
友情の一線は越えるわけにはいかないのだ。

15021-649 両片思い〈大城視点>:2011/06/27(月) 03:48:33 ID:pFHd31A.
清水君と初めて会ったのは大学の入学式だった。
芸能人みたいな人がいるので、さすが東京だと思った。

東京の人はみんな冷たいと聞いていたけれど、清水君はそうじゃなかった。優しい人だなあと思った。
清水君は方言で話す俺が好きじゃないらしくて、香苗ちゃんと話していると機嫌が悪かった。
香苗ちゃんは自分達を田舎ものだとバカにしているのだと言った。
それは違うと思ったけれど、彼に嫌われるのが怖くて方言を使うのはやめた。
香苗ちゃんは怒っていたけれど、やっぱり清水君が嫌なことはしたくなかった。

清水君が久しぶりに飲みに誘ってくれたので、俺は嬉しくて、ペースを考えずに飲んでしまった。
清水君は意外と酒に弱かった。ほとんど意識がなくなっていて、ベッドまで連れて行こうとしたけれど、俺より一回り大きくて大変だった。
清水君は俺ごとベッドに倒れこんだ。
「大丈夫?」と最後まで言い切るまえにキスをされた。驚いた。
口をこじ開けられて、舌を求められた。何度も何度もキスされた。
こんなことがあっていいんだろうか。酔っていてわからなくなっているんだろうかと不安になって、
「俺のこと好き…?」と聞いてみた。
「好きだよ」と返ってきた。
嬉しくて「俺もずっと前から好き」と答えた。
彼の舌が首筋から下に移っていくのを体に感じた。こんなに幸せでいいのかなと思った。
自分からも体をからませた。彼の背に爪の跡をつけた。口を吸い、体を舐めた。

翌日、彼の腕の中で目が覚めた。
服は着ているような着ていないような状態で、明るい所ではやっぱり少し恥ずかしかった。
「おはよう…」と言ったら、手を即座に離された。しまったという顔をされた。
俺は泣きそうになったけれど、これで離れていかれるのはもっと嫌だったので我慢した。
彼は何も覚えていないと言う。ベッドに運ぼうとして途中で力尽きて倒れたまま寝てしまったのだと嘘をついた。
昨日の事は俺だけが覚えていればいいと思った。
次の日、「酒に酔ったらキス魔でゴメンな」と頭を下げられた。
なんでそんなことをわざわざ言ってくるんだろう。わかってるのに。
俺とお前は友達なんだとそんなに言い聞かせなくてもいいのに。

「大丈夫」と答えたけれど、今度も泣かずにいられただろうか。自信がない。

15121-649 両片思い:2011/06/27(月) 22:13:45 ID:oK0mvRWY
「気持ち悪いって思われるかも……」とか
「離れられるくらいならいっそこのまま」って思っているのもよし。

「どうしてこんな風に思っちゃうんだろう。攻め(受け)は友達なのに」とか言う無自覚なのもよし。
こういった場合相手に惚れている、もしくはそう見える女や男(だいたいは当て馬)と仲良さそうにしていて初めて気がつくとかもよし。

まあね、見てるこっちはヤキモキしまくりですね。
お前らとっとと告白しろよ、両思いだからさ。なんて思わず呟いてしまいそうになりますね。

勇気を出して告白して実るもよし。
何年かして同窓会を開いたとき2次会で酔った拍子に「実は〜」なんて言っちゃうもよし。
結局最後まで実らなかったり、襲われて「俺ってセフレ程度にしか思われないんじゃ……」なんて思うもよし。

まあ受けも攻めも相手の行動1つ1つにドギマギすればいいと思うよ。
誤解とかすれ違いを乗り越えるたびに信頼しあえる良い関係になればいいと思うよ

15221-679 次どうぞ:2011/06/30(木) 16:50:32 ID:M3fAhskA
「風呂あがりました。次どうぞ」
「あのさ、お前とルームシェアしはじめてから、いつか言おう言おうと思ってたんだけどさ。
何かがおかしいだろ? わかるか?」
「なにがですか?」
「お前が今言っているのは「lt's your turn」だ。だが、お前は年下だ。
本来、お前が言うべきなのは「after you」なんじゃないのか?」
「英語にされたので、余計わかりません」
「つまり「次どうぞ」じゃなくて、「お先にどうぞ」って言うべきってことだよ」
「ああー、なるほど」
「年上に対する敬意が足りない」
「敬意ですか。じゃあ「Next please」」
「お前は医者かよ。それは「お次の方どうぞ」だ」
「俺、文系なんで、英語って苦手なんですよね」
「ああ、そう。俺は英語が得意なんだよね」
「怒ってます?」
「いや、別に」
「The moon is beautiful.」
「なんだ、いきなり」
「日本語に訳してください」
「月が綺麗?」
「意味わかります?」
「今日の月みたいな感じ?」
「もういいですよ」
「素直に「I love you」って言えばいいのに」
「直接的すぎて味気ないんで」

15321-669 達観してる人×往生際の悪い人:2011/07/02(土) 00:45:31 ID:bBnyAFdY
「受け君、どうやら僕は君を愛してしまっているようだ」

いや、俺ももうずっとそんな感じではあるんだがな。

「もしかするとこの想いは秘めたるべきものであるかもしれない。
 しかしそれゆえに秘めるべきではないのだ、受け君。
 なぜなら君が僕の心を知る術など一欠けらほども存在しないのだから」

うん、まあ、告ってくれたことには素直にありがたいと思うんだよ。

「そして愛するものに触れ抱き締め悦ばせたいと思うことは真理であるのだよ、受け君」

そりゃそうだ、俺だってそうだよ。

「受け君、僕らが男同士であることに君が戸惑っているのならば、そこに根拠は何もない。
 なぜなら僕らは男同士である前に人間同士であるのだから。雌雄の区別などない肉の器なのだ。
 愛すると共に愛さないということは不可能なのだよ、受け君」

俺だってお前のことは好きだしセックスもしてえけど、俺は俺のケツを守りたいんだ。

154慣れていく自分が怖い:2011/07/05(火) 16:02:07 ID:6SHaV2bs
「面白いものを撮りに行く」
とかバカなことを言って、お前が日本を発ってから5年。

「友達できた!」
って現地の子供達とお前の、すごい笑顔の写真が届いてから3年。
何の連絡もないってのは、どういう了見だ?

「待ってて欲しい」
出発の日にお前はそう言って俺に土下座したよな?
勝手なこと言うなって怒り狂う俺に、
「絶対に帰ってくるから」
って約束したよな。

遠いどっかの国で紛争が始まってから3年。
お前の携帯が、ずっと圏外になってから3年。

連絡がない腹いせに、お前の置いていった歯ブラシ、トイレ掃除に使って捨ててやった。
帰ってきたら一緒に買いに行こうと思ってたのに、俺の歯ブラシの隣は今も空いたまま。

ベッドももう右半分空けずに、ど真ん中に寝てるからな。
帰ってきたら、俺に蹴落とされるのは覚悟しとけよ。


お前が最後に寄越した写真、前は毎日取り出して眺めてたのに、
…今日見たら、うっすら埃が積もってた。

なあ、早く帰ってこいよ。
お前がいないことに、慣れていく自分が怖い。

155慣れていく自分が怖い:2011/07/05(火) 16:09:07 ID:BqWr0QDY
シラフでも酔ってても欲情しててもとにかく祥吾さんは俺の体に触りたがる。
伸ばされた細い指先が俺の顎を。

「伸びたねえ、髭。」

手のひらで、肩を。

「お前、分厚いよこれ、どうすんの?格闘家にでもなんの?」

腕が体ごと俺を引き寄せて。

「お前可愛いねえ、ちっさいねえ。でもなんかすごいでかくなった?」

……どっちだよ、と。

いくら俺が髭を伸ばそうが筋肉つけようが、祥吾さんにとって俺は可愛い存在らしい。
どんなに仏頂面して払いのけてみても、というか逆にそうすると祥吾さんは何だよお前つれないなあとか何とか言って余計に手を伸ばしてくるのだった。
俺は自分のテリトリーに人が入るのも、俺自身に触れてくるのもあまり好きではないから正直な所初めはかなり閉口したんだこの人には。
祥吾さんは、するりと人の懐に入ろうとする。
だから俺ももはや人生最大の過ちといってもいいこの勘違いの恋をはじめてしまったし、いつの間にか、慣れてしまっている俺がいる。
慣れって怖い。おかしな筈のこの世界にも、嫌いなはずのこの世界にも、祥吾さんのこの過剰なまでのスキンシップにも。
いつの間にか慣れて当たり前のものになっている。当たり前になって、しょうがないななんて思っている。附抜けた俺。
そしてそれは、少しだけ世界の終わりの階段の端っこに足をかけたままぐらぐらしている事に似ていると、俺は思う。
ここはもう終着点で、そしてここから落ちたらもう終わりなんだよ、とどっかの誰か知らない奴がにやにやと俺を見ている。
うるせー誰だよお前、お前に俺の何がわかんだよ、と俺はいつもそいつに悪態をつくけれども俺自身もわかっているのだ。
ここに到達してしまったのは俺で、ここから落ちてしまったら。
落ちて、しまったら。

「…大介ー?どした?お前何か固まってる?」

再起動ー。とか言って、祥吾さんは俺のほっぺたに、髭面のそこに構わず唇を押し付けた。
うわー毛だらけ。と笑ってもう一度。顔の向きを変えさせて、反対に。俺はされるがままに大人しくしていた。
祥吾さんの唇は案外柔らかくて、ついでに言えば最近少し太り気味なので頬擦りしてくる頬も前より柔らかかった。
気持ちいいななんて俺は、ちょっとだけ胸をときめかせて祥吾さんのそのやりたい放題の一連の仕草を黙って受け入れている。
……ああ、もう終わってるな俺。

散々俺の顔中にキスして頬擦りして、その手で俺の頬を挟んで真正面で視線がぶつかった。
祥吾さんの目は蕩けるみたいに細められて愛しそうに俺を見ている。

「……あんたさ」
「んー?」
「最近、太った」
「んー……酒飲みすぎだからかなあー?」

どうもちょっと自覚があるらしい。
ヤバイよなあ、なんてそれでも男前の顔がふにゃりと笑ったので俺はもうどうしようもなくなってしまった。

ああこれはもう、この人は。俺を困らせるだけの存在だ。
ぐらぐらと揺れる足元は、俺が祥吾さんをもう失えない証拠に思えた。
この笑顔も、この手も、この声も全部、いつの間にかそこにある事に慣れきってしまっている。
触られて閉口するのだってその一つだ。慣れて、当たり前のものだと思っている。
嫌がる俺も、笑う祥吾さんも、全部がいつの間にか日常に溶け込んでしまった。
慣れって恐ろしい。俺は一瞬、そこからまっさかさまに落ちて全てを失う瞬間にまで意識を飛ばしてぞっとした。背筋がざわっと粟立つ。
慌ててそれを振り払うように手を伸ばして、祥吾さんがするのと同じように祥吾さんの頬に触れた。ちょっとだけ柔らかい。

「……やばいよこれ」

顎のあたりに鼻先を摺り寄せながら俺が呟くと、じゃあ食べていいよーと大して気にもしてない声で祥吾さんが笑った。
あのね、もうちょっと危機感持ちなさいよ。この三十路。

「……胃もたれしそうだからやだ」
「えー…そっかあ……」

じゃあとりあえず、運動する?と祥吾さんは、実におっさんくさい発想でもってやっぱり俺の頭を悩ませてくれるのだった。

15621-729 ずっと好きだった幼馴染みが結婚:2011/07/07(木) 19:13:36 ID:iaveeW4M
※幼馴染みは男の子で

家が隣同士で、親同士も中がよかったため、小中高校、一緒に通う仲だった。
幼馴染みは優しくて、おっとりした質なので、自然と彼の兄貴分のようにふるまうようになり、幼馴染みにも、「頼りにしてる」と言われる程だった。

そんなある時、幼馴染みから、女の子に告白されたと相談される。
何故か必要以上に動揺しながらも、笑って幼馴染みの背中を押すが、何となく心に穴が空いてしまう。

その理由がさっぱり分からないまま、何人かと付き合っては別れてを繰り返した。
大抵は、「何で幼馴染みの話しかしないの?」と問い詰められ、曖昧に答えているうちに振られるのだ。
次第に、なぜか幼馴染みの顔を見れなくなっていき、衝動的に違う土地に引っ越した。

時が流れ、幼馴染みから母親経由で結婚式の招待状が届く。
懐かしい名前に顔を綻ばせながらも、隣に並ぶ見知らぬ女の名前に激しい嫉妬を感じた瞬間、今まで幼馴染みに向けた思いが恋心だったと気付く。

呆然としながらも、抱いた思いを確認したくて、式への参列を決意する。
花婿として微笑む彼は、全く知らない人のように見えた。
最後に顔を合わせた日から遡っていくと、自然と涙が溢れてきた。

ところが、隣の席から聞こえてきたすすり泣きが気になり、思わず顔を向けた。
すると、身も知らない青年が、顔をぐしゃぐしゃにして泣いていた。
その余りの泣きっぷりに、己の涙は一粒になってしまった。

席位置から、花嫁の友人であろうと推測し、彼も自分と同じであろうと知ったとき、思わずハンカチを差し出していた。

「よかったら、どうぞ」
「す、みませ、あ、りがと、ございます」




本スレ730です。
本当は、幼馴染みが男の子の話と女の子の話で両方思いついたのですが、父親より号泣する主人公に萌えたので、本スレでは、女の子の方をあげました。
この後の展開は、みた方に委ねます。
では。

157名無しさん:2011/07/08(金) 10:07:06 ID:d//BjaXI
本スレ740
こういう仕掛けがある話が大好きだ!
なにより亮治さんにもアキラさんにもめちゃ萌えました
上手いし、もう、やられたって感じです GJ!

158名無しさん:2011/07/08(金) 10:08:17 ID:d//BjaXI
うわーグッジョブスレと間違ったorz 書き込み直してもいいでしょうか……

15921-749 デリケートな攻め×デリカシーのない受け:2011/07/09(土) 00:39:50 ID:eNdLGCDo
 野上はデリカシーのない男だった。そんなところも魅力に思えていたが。
「いいよ、つきあっても」
 クシャッと目を細めて笑い、俺を驚喜させたあと、
「彼女できるまで、な。男同士とか『遊び』よ? あくまで」
 こともなげに言い放ったような奴だった。

 人より小柄なくせに態度がでかくて、言いたいことを我慢したことなんかない、その竹を割ったような性格が可愛いとか思っていた。
 念願叶って、暗くした部屋でようやく抱きしめれば、
「え? 何? 抜きたいの? 溜まってるの?」
 ──抱きたいんだ、愛し合いたい、と告げれば
「マジで!? 俺を?」
 ぎゃはは、とばかりに爆笑して
「ま、いいけどさ」
 とゴロリと寝っ転がる。
「やっぱ俺が掘られるほう? 林田より俺のほうが小さいもんな」
 と大きく伸びをして、でも、と首をかしげ、
「俺の方が大きくね? 比べてみる? ほらほら」
 パンツから取り出したものをブラブラさせた。
 とうとう俺は立ち直れなくなり、念願の初夜はお流れとなった。
 『結果』も俺をうちのめしたが、そもそも俺はデリケートなのだ。
「ドンマイドンマイ、よくあることだって! 気にするな、初めてだしな!」
 さっさと尻を向けていびきをかいたような男の、どこが可愛かったというのだろう。

 今となってはわからない。それでも3年はつきあった。
 俺は本当に野上を愛していたし、何のかんのと言いつつ奴もまんざらではなかったはずだ。
「愛してるって!? 男同士で気持ち悪い、何言ってんの、ウケルし!」
 口ではそっけなかったが、笑いかけてくる目が冗談だよ、と、俺も同じ気持ちだよ、と、語っていたはずだった。
 なのに、卒業式の夜、すべて壊れた。
「だって、一生ホモなんてできないでしょ。お互いすっぱり忘れて、いい女見つけて結婚して子供作って幸せになろ」
 俺は、就職してもつきあっていきたいと言ったのだ。
 幸いふたりとも地元に残れることになっていた。支障は大きくなかったと思う。
 無駄な3年を過ごしたと思った。俺の学生時代をこんな男に捧げてしまった。
 再び人を愛するまで1年もかかった。
 奴の言うとおり、俺は普通の結婚をした。
 幸せになった。

「おお、林田じゃない! 久しぶりだなぁ。お前、ちょっと太ったよ、すっかりオッサンになっちゃって!」
 片手を上げる小柄な姿は、目尻の笑いジワが深くなった以外変わっていないように見えた。
「……野上」
 会う気なんかなかったのだ。ずっと避けてきた。たまたま居酒屋で隣り合わせた席に野上がいるなんて。
「職場の? 飲み会?」
「うん、送別会」
「こんな時期に?」
「うち、7月と10月なんだよね」
 衝立越しに十数年ぶりの会話を探していると、野上のテーブルから勢いよく声がかかった。
「野上先輩のお友達ですか!」
 あいまいにうなずくと、そのノリの良さそうな野上の後輩は衝立から首を伸ばし、俺の左手に目をとめて
「あ、先輩のお友達はちゃんと指輪してるじゃないですか。ほらね、野上先輩もそろそろ本気で相手探さないと」
 野上の左手をつかんでひらひらさせた。
「独身?」
「まだ、ね」
 クシャッと笑った。ああ、あの笑顔だ。

 野上は、学生時代かなりもてたのだ。
 背こそ低かったが、愛嬌ある二枚目半に憎めないさばけたところが女の子に人気だった。
 むろん、俺もそんな野上だから惚れたのだった。実は結構な競争率を勝ち抜いて得た恋人だった。
 その野上がいまだに独身? 信じられない気がする。

「なんだ、じゃ、卒業してもつきあってられたんじゃないか」
 こっそり耳打ちすると、野上は鼻で笑った。
「何言ってんの、さっさと結婚したくせに」
 クックック、と野上は堪えられないように、笑いに背を丸めた。肩をふるわせながら、
「お前みたいなデリケートな奴はな……ま、いいや。幸せそうで安心したよ」
 笑いジワに溜まった涙をぬぐった。
 ぬぐいきれない涙が、ツッと笑顔に流れた。

16021-749 デリケートな攻め×デリカシーのない受け:2011/07/09(土) 17:04:38 ID:0CCBWGfk
デリカシーがない、と突き付けられたのは俺が部屋にこっそり隠していた薬だった。
今の俺には必要不可欠なもの。チューっと注入することもサッと塗ることもできる万能なアレ。

「痔なの?」

デリカシーがないと言った口が躊躇いもなく問う。
デリカシーって何だっけ。
俺が部屋にこっそり隠していたにも関わらず、痔に〜は♪のCMでお馴染みのあの薬を発見したのはまあいい。
仕方のない事故だと考えよう。たとえ意図的に探さないと見つからない場所に隠していたはずだとしても、だ。
問題なのはその後の言動。
何故、それを見なかったことにしてくれなかった。

「デリカシーがないのはどっちだ!俺の恥部に簡単に触れやがって!」
「ハァ!?いっつも恥部触ってんのはお前だろ!触るどころか指もナニも突っ込んでんのはお前だっつうのに、
何で痔になってんだよ!デリカシーがない!」
「お…!おまえ…!」
「大体、俺のどこがデリカシーがないっつうんだ。失礼な奴だな」
「そういうところだよ!」

16121-799 正義の味方×マッドサイエンティスト:2011/07/14(木) 22:09:25 ID:wJhNQS5M
「おい」
「ん? おはよー」
「おはよう。で、おい。今度は俺の腕に何つけた」
「エロゲ見て作った触手君プロトタイプ。俺特製801媚薬も出てきます」
「朝目覚めたら突然正義の味方に改造されてたのは許そう。でもこれは外せ」
「えー」
「正義の味方に触手つけたところで誰が得するんだよ。敵も野郎だらけだし、大きなお友達も喜ばないだろ」
「え? なんで敵にいい目見させてやることになってんの?」
「は?」
「俺に使わせるつもりでつけたんだけど」


「ふっざけんな!!! なんで夜の生活のためにこんな魔改造されなきゃならないんだ!
 しかもこれ触っても感覚ないから俺がいい目見れないだろうが!」
「ちょっとだけなら801媚薬舐めてもいいから! お前勃ち悪かったり急に萎えるときがあるし!」
 悪の軍団もこれ欲しさにやってきたぐらいの逸品だぞ!」
「うるせえ!!てめえががセックス中に萎えるようなことするからだろ!
 ……ってちょっと待て。あいつらこれが目的なの? なんで?」
「だってこれ特許とったらそれなりの金にはなるし」
「じゃあ幼稚園に穴を掘って罪なき園児を転ばせたり、川の水を干上がらせてりしてたのは?」
「ああ。あれは801媚薬の調合書を探してただけ」
「まじで? 俺今まで町のためとかじゃなくて媚薬のために戦ってたの?」
「町のためとか。……正直ないわ」
「もういい! 本当に外せ! ガチで外せ! じゃなきゃこの腕切り落とす!」
「本当にやめて! ガチでやめて! それ作るの苦労したんだから!
 それつけたお前かっこよくて惚れ直しちゃうからああ!!!」
「……本当か」
「へ」
「その、本当に惚れ直しちゃうか?」
「まあ……一応」
「ふーん……。まあどうでもいいけど、終わった後にちゃんと外すなら、1回ぐらいは叶えてやる」
「まじで!」
「というか一刻も早く外したいから今から始めんぞ!」
「まじでか! この顔面レッド脳内ピンク!」
「よしそういうこと言うから萎えるんだ! いくぜ合体ぃぃぃぃ!!!」


(どっちかっていうとそういうお人よしなところに惚れ直すんだけど、それは黙っとこう)

16221-470 思ってたのと違う:2011/07/16(土) 00:29:24 ID:jS0Kc7yk
とんでもなく今更ですが、本スレ470の続編です。
続編というか、元々「更に思ってたのと違う」的な二段オチにしようと思っていたけど長すぎたのでカットした分です。
折角なので置いておきます。

++++++

「そぉーいえばさあ」

服を脱がせていると、昭仁がいきなり声を上げた。
俺は昭仁のシャツを脱がせて放り投げながら、何?と目線だけで先を促す。
昭仁はふざけて俺のシャツに手をかけて脱がせようとする。
あのさあ、今俺が昭仁脱がしてるんだから邪魔しないでよ。

「今さぁ、お前と会った時のこと思い出してたんだけどさー」
「はあ」

昭仁、足浮かせて。
ん。
と俺達は間抜けにも服を脱がせ合いながら会話を続ける。
昭仁が腰を浮かせるので俺はズボンをそのまま下ろして足首から抜くと、今度は昭仁が俺の服に手をかける番。

「懐かしいよなぁー。昔さあ、和志、俺の事さー、」

……なんか嫌な予感がする。そして、昭仁がにやにやとだらしなく緩ませた顔を見れば
多分俺のこの予感は8割方当たっているんだろう。ああ、もう。

「……昭兄、なんて呼んでたよなー?」

あんた基本スポンジ頭の割にそういう事だけちゃんと覚えてるよね。……ちくしょう。
そしてあの頃の話は恥ずかしいからやめてほしい。俺は本気で昭仁が好きすぎて眠れなかった事まであるし、
……この能天気さが途方もなく懐の広い優しさに見えてた時だったからもう今考えたら死にたいくらいの勢いで甘えてたし、
……。……やめよう。しにたくなる。今既に叫んで転がり回りたいくらいだ。

「……そうだっけ?」

知らないふりした俺のズボンを半端に脱がせたまま、昭仁は俺の股間をまさぐり始める。ちょっとやめてくんないかな。
昭仁のそういうところ、隠されてた訳でもないのに何で俺は勘違いしてたんだろう。
恋は盲目ってやつか。何が恋だ俺は乙女か。

「もっかい位呼んでもいーよー?てか、呼んでみねぇ?和志」

体を起こして、俺と膝立ちで向かい合う。俺のボクサーパンツの中に手を無遠慮に突っ込んで撫で回す手。
形を確かめるみたく掌でやわやわと輪郭を辿る。

「……やだよ」
「なんでだよー。ほらーあきにぃ?って。あきにー。さんはい」
「何がさんはい、なの馬鹿昭仁」

くすくすと俺の反応を楽しそうに笑い、尖らせた唇が俺の唇を柔く噛んだ。
それは昔と変わらず甘くて、何度か繰り返される内にやっぱり俺この人の事好きなんだろうなあなんて思わせる。
……なんか呪いとかじゃないよなこれって。

「もう黙ってよ雰囲気出ないから」

尖らせた唇に噛み付くと、すぐそこで細められていた昭仁の目が待ってましたとばかりに色を帯びた。
ああ、俺は罠にかかっている獣の気分だ。実際は昭仁の方が獣みたいなのにな。

16321-809 近所のお兄さん×近所の悪ガキ:2011/07/18(月) 02:44:50 ID:rEa85UEc
字数制限もきちんとしたつもりだったのですが、書きこもうと思ったときに、なんだかすごくかきこめなかったので、こちらに。

-------------------

「なあ、あんたさあ。男の人が好きってマジ?」
背中合わせでの真剣ポケモンバトル中にかけられた一言は、ボタンを間違って押すぐらいの衝撃を僕にもたらした。
「…どういうこと、それ」
「言葉通りの意味。隆クンは昔っから男が好きなヘンタイだから近づくなって、裕二んちのおばさんが言ってたからさ」
ほんとかと思って、というあんまり直裁な彼にちょっと頭を抱えそうになる。
「なあなあ、どうなの。どうなの?」
「ちょっと静かにしてなさい。今僕のターンでしょう」
「ちえー」
しばらく、かちかち、かちかち、とボタンを押す音だけが響く。
そらをとぶを無効化するために違うタイプのポケモンに入れ替えるか、というタイミングになって、僕はすこしだけ目を瞑る。
そうして再び開いた視界は、何も変わることがない。
だから、彼の疑問に応えてやることにした。
「…すきだよ。男の人。女の子なんかより、ずっとね」
 …ヘンタイだって、言う人もいるよ。そう続けてやれば、ぴくり、と背中から彼の振動が伝わってくる。
「…へえ。そうなんだ」
「うん」
「…へえ」
ほー、ふーん、と、明らかに動揺を押し隠そうとして全然隠せていないので、手早くバトルを終わらせるべく、ボタンを押すスピードを早める。かちかち、かちかち、かちかちかち。
「…じゃあさあ、あのさあ」
あと一匹で彼をノックアウトできる、というところで、また彼が口を開く。いったいなんだっていうんだろう。
「好きな奴とか、いるのか? それか、好きなタイプ。教えろよ」
…そうきたか。
「好きな人は、いるよ」
答えれば、背中からまた強い揺れが伝わってきた。実にわかりやすい対戦相手である。だからすぐ負けるんだと、どうして気づかないのだろうか。
「…どんな奴」
僅かに緊張を孕んだ問いが投げかけられる。それにまた、ため息をつきたくなった。
敵の最後の一匹の体力は半分。あと少し。きゅうしょにあたりでもすればイチコロだ。
「…そうだなあ、顔はちょっといかつめでさ。髪の毛も短く刈り込んでる。
 性格はちょっといたずらっぽいかんじかなあ」
「…へえ」
背後の彼が動く。じり、と背中に感じる感触が少しだけ、回転する。

――そして、僕の上に、その影が落ちる。
「うん。たまにすごく、憎らしくなるぐらいで、そんでね。
 ――今時、ポケモン金銀しか持ってないんだ」
そう告げた瞬間、ぎゅるり、と視界がひっくり返った。ぼすん、と今まで座っていたベッドに押し倒されて、声を上げる暇もなく、彼が馬乗りになってきた。そしてそのまま、僕の両手を抑えつけてきたので、僕は更に言ってやる。
「中古屋さんで金銀探すの、結構大変だったんだからね」
「ああ」
「お小遣いはそこまできつくならなかったけど。安かったから」
「…そうか。それにしてもあれだな。毎度毎度ポケモン強すぎんだろ」
「まあね」
手の中からゲーム機が滑り落ちる。こつん、と音を立てて床に落下したそれの画面に映る金色の鳥の体力ゲージは、もうほとんどひんしに近い。
「ねえ、康宏さん。貴方、ヘンタイだね。僕みたいな子供を押し倒して。男なのに、男が好きなんだね――」
「黙れ」
この、悪ガキが。
そう言いながら彼に似合わない、悲壮な顔が近づいてきたので、僕は静かに目を閉じて、手を伸ばす。
イヤホンが外れてしまったらしい。床に落ちて拾いあげることも出来ない筐体から、電子音が鳴っている。
ポケモンバトル、もう少しで勝てたのになあ、なんていう、どこか遠くで呟くような思考は、やがて唇への柔らかい感触と、どちらのものともわからない熱に溶けて消えてしまった。

16421-839 「ずっと一緒にいようね」なんて:2011/07/20(水) 21:34:01 ID:4lsphYOk
もう何年が経ったんだろうなあ、なんて思う。
隣で眠ってるこいつに、初めて会った時はこっち見るのか俯くのか迷っているような目で
割と面倒くさそうによろしくお願いします、なんて。
それが面倒だったんじゃなくて人見知りだったってわかるのに大した時間はかかんなかったけど。
愛しい恋人の寝顔を見ながら一服なんて悪くない気分だ。
充博の寝顔はあどけなくて、それが余計に昔の事を思い出させる。

「お前さあ、すっごい緊張してたよなあ」

本当は緊張してたんです、なんて言ったのは三度目くらいに会ったときだっけ?
俺のがお兄ちゃんだからしっかりしなくちゃ、なんて普段は割と年上に可愛がられる事が多い俺をそう思わせた充博が
俺は可愛くてしょうがなくて、何でもしてやりたくて。

「今でも結構そう思ってんだよー?俺はー」

寝顔を覗き込む。きっと起きてたらお前は、まあ俺のが世話焼いてるけどね。とか言うんだろうけど。
まだ半分も吸わない煙草を消して、覗き込む。生意気な俺の可愛い恋人。

「なーみつひろー」

短い髪を撫でてやると、うるさそうに払われてその手を掴まれた。
え、起きてんの?と口を開く寸前、充博からは変わらず寝息が聞こえてくるので思わず肩を竦めてしまう。

「これからもずーっといようなあー」

きっとお前は起きてたら、まあ善処しますよ、位しか言わないんだろうから。何となく悔しいから今しか言わないでおくからな。
充博に握り締められた手をそっと解きながら、俺はその手でもう一度ゆっくり頭を撫でてやった。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

「ずっと一緒にいようね」なんて、口にするのは何となく嫌だ。
そんな事口に出さなくても、いたけりゃいるだろうし、駄目になるときはなるだろ。
俺はそう思ってたし、別にそれが特別な事じゃないのもわかってる、ただ皆信じたいだけだろ。
本当に永遠とか、あるかわかんないもんの存在をさ。

だからたまに拓馬さんが、お前大きくなったねぇなんて親ですかあんたはって事を言う時が一番好きだ。
拓馬さんは一緒にいようとか、そういう事言いたいかどうかなんてのは知らないけど、俺の前で口には出さない。
ぽんぽんと子供にするみたいに俺の頭を撫でて、あー俺ガキじゃないんですけどって言うと目じりに皺を浮かせて笑う。
あんたのその顔、一番好きだな。
多分その皺が増え続けるのを見るのも、悪くないんじゃないかなと俺は思う訳だけど。
……まあ、絶対口には出すつもりは無いけどね。

だから真夜中、俺が寝てると思って拓馬さんが、
「これからもずーっといようなあー」
そんな風に囁いたのも聞かないふりをして。
まあつまり、口に出さなくてもまだ離れるつもりは無いって事くらい、きっと拓馬さんに伝わってるはずだってのは、
一応自惚れだって自覚はあるけどね。
でもきっと、わかっててくれてんだろ?あんたの事だからさ。

16521-860 二人暮らし 1/2:2011/07/25(月) 07:11:22 ID:IV1E9ms2
ただいま、という言葉は酷く馴染みが薄かった。おかえり、という言葉は酷く座りが悪かった。
どこか照れくさくて、続くただいま、の言葉を口にしきれない。そんな時、いつだって目の前で彼はまだ慣れないんだ?と笑ってくれた。

「おかえり、智」
とはいえ、時間が不規則な仕事をしている夏樹が常に智の帰宅する時間に部屋にいる訳ではない。
逆も然りで、だからたまたまタイミングが合う度に智は玄関で彼の靴を見ては少しだけ口端を上げる。無意識の内に。
そしてむずがゆくなる。自分を迎えてくれる人がいる事に、そしてそれが夏樹だという事に。
「あ。……智、また困ってる?」
「いや、驚いただけだって……ただいま」
子供みたいな顔をして楽しそうに近付いてくる夏樹に、智は微笑む。一体この時間を何と呼べばいいのだろう。未だに智にはわからなかった。
幸せ、という一言ではとても足りる気がしない。
「だって、朝俺と変わらないくらいに出たじゃん。珍しくない?」
「うん、運良く早く終わってさ」
そっかあ、と智は笑う。単純に嬉しかった。
「だからさ、飯作って待ってたんだ。食おうよ。俺腹減ってんだ」
ほら早く、と近付いた夏樹からふわりと甘い匂いが掠めた。ゆっくりと気付かれないように息を吐き出した後、智はうんと言葉少なく頷いた。

夕食をとって、シャワーを浴びた。髪を拭きながらリビングへ戻ると、夏樹は膝の上にノートパソコンを乗せてその画面に見入っていた。
おそらく持ち帰りの仕事なのだろう、モニターを見つめる彼の視線は真剣だ。智はその表情に一瞬見惚れる。
「夏樹、風呂入る?」
あいたよ、と一言。すると真剣な目が緩やかに温かくなって智を見た。
「んー、ここまで終わったら」
智は夏樹の横、少し距離を開けて座った。真剣な顔で仕事をする夏樹を邪魔したくない気分が半分、少しでも傍にいたいなんて気持ちが半分。
まだ少し慣れない同居に、戸惑いと嬉しさは半々だ。まだ少し濡れている髪からこめかみへ、雫が垂れ落ちてゆっくりと顔の輪郭を辿っていく。
キーボードを叩く硬い音が聞こえる。またふわりと、鼻腔を擽る匂いに、智は振り切るように緩く頭を振った。
「うわ、どーしたの」
雫が飛び散ったのか、夏樹が驚いて智を見た。
「あ、いやっ、なん、でもない」
俺、変だね、と笑って誤魔化す智に、夏樹がまるで見透かしているように笑う。
それは智の勝手な思い込みでしかないかもしれなかったけれど、思わず赤くなった頬を隠す為に智はタオルで髪を拭くふりをして顔を隠した。

16621-860 二人暮らし 2/2:2011/07/25(月) 07:12:11 ID:IV1E9ms2
「智、俺風呂は入ってくるけど?」
声をかけられるまで智はぼんやりとタオルを頭に引っ掛けたままでいた。声をかけられて初めて自分がぼんやりとしていた事に気付く。
「え、あ、うん」
冷静を装って夏樹の方を見ると、夏樹は智をじっと見つめていた。心臓が跳ね上がる。
優しいけれど芯の強そうな目が、窺うようにこちらを見るのは智にしてみれば心臓に悪い。
「どーしたの、智」
智の開けた距離を夏樹が軽く座りなおして縮める。覗き込むようにして下から夏樹の目線がゆっくりと智を見上げた。
「な、なんでもないって!」
「ふーん?」
なーんかさっきから変なんだよなあーと夏樹が言うのも当たり前だ、と智は自分の落ち着かなさを思い起こして思わず溜息を吐きたくなる。
その間にも、まとわり付くようにふわふわと柔らかな匂いが漂う。普段ならあまり気にならない筈だと智は自分に言い聞かせた。
偶然のタイミングで、偶然にこうして一緒にいる時間が長くなればなるだけ、最近は自分がどうしても夏樹を意識しすぎる事に気付いていた。
以前からそうだったけれど、暮らし始めて例えば朝起きた時に、眠る時にいなかった筈の夏樹が隣にいた、ちょうど互いの出かける時間と帰って来る時間が交差したり、
そんな風にして顔を合わせたりその短い時間に互いに触れる事で感じるのはただ優しい充足感だけで、今こうしている状態の気分とは少し違う。
「いや、その……夏樹、さ、香水変えた?」
「え?香水?」
唐突な問いに夏樹は目を幾度か瞬きする。智はそれだけでもう既に口にした事を後悔しはじめたのだけれど、それでもなんとか言葉を続けた。
「なんていうか、なんか甘い匂いするからさ…」
最後の方は口の中で漸く呟くようにして言うと、智はやはり夏樹の顔が見れなくなって顔をそらした。
けれどそれを夏樹の手が阻んで、ゆっくりと自分の視線とあわせるように顔を向きなおさせる。
「なつき、」
「智からも甘い匂いするけど?」
首を傾げるようにして、夏樹が囁く。耳元に鼻先が擦れて智はその感触を瞬時に肌を震わせた。心臓に悪い。
「ていうか、これシャンプーの匂いだと思うし」
「シャンプー?」
「だから、智も俺と同じ匂いしてるよ」
ほら、と夏樹は耳元に触れていた顔を智の髪に押し付けた。そう言われれば、そうなのかもしれない。この間、シャンプーが切れたから夏樹が買ってきたばかりだ。
同じ甘い香りを纏わせた夏樹と自分。その香りに右往左往しているなんて酷く間抜けだ。
「俺、うわ…なんか勘違い……ていうか思い込みしてたかも…」
さすがに隠せない程真っ赤になった顔を両手で覆いながら智が呟くと、夏樹の手がぽんぽんとその頭を優しく叩いた。
「智、結構思い込むたちだもんなー」
立ち上がり、もう一度夏樹は智の頭に手を置く。柔らかな体温がじわりと染み込む。
「じゃー俺、風呂入ってくる」
夏樹がそう言って鼻歌を歌いながらリビングから消えた。智は頭を抱える。慣れてない。本当に、慣れてない。心臓がまだ飛び出しそうだ。
「あー、もー俺、心臓持たない……」
慣れていない、おかえりもただいまも、同じ香りを纏う人がいる事も。それが想っている人だという事も。
幸せの一歩先。
それを表現する言葉を智は未だ持っていない。だからただ頭を抱えてソファーに体を預けた。

16721-889主人公×ラスボス 1/2:2011/07/25(月) 22:05:52 ID:hFuBx3HI
ラスボス「よくぞここまでたどり着いた勇者よ」
ラスボス「我が右腕となれば世界の半分をくれてや…」
勇者「お前が欲しい!!!!!!!」
ラスボス「え?」
勇者「ラスボスたんラスボスたん本物のラスボスたんktkrハァハァハァァアあああああ!!!」
勇者「結婚してくれラスボスうぅうううううう!!!」ガバッ
ラスボス「ひぃっ!!」
女戦士「バインド!!」ビシィッ
勇者「ハァン!」
女戦士「すまないラスボス。勇者はこちらで抑えておくから続けてくれ。」
ラスボス「いや、ちょっと状況がよくわからないんだが」
女魔法使い「とりあえず〜、"断られた"ってことでぇ〜、すすめて?」
ラスボス「あ、ああ…」ゴホン「では」
ラスボス「我が誘いを断るとは愚かな!では力づくでかかってくるがよ…」
勇者「 力 づ く 頂きましたあぁあああああ!!!!やだもう奪われるのがお好きなのねラスボスたん!!僕ら気が合うね結婚しようそうしよう今すぐぅうううう!!」ガバッ
女戦士「ダブルバインドォッ!!」ビシビシィッ
勇者「アゥン!!」
ラスボス「…あの、やはり説明を求めてもよいか?」
女戦士「ああ。では簡潔に説明しよう。女賢者!」
女賢者「勇者は、あなたに首ったけ。」
ラスボス「え?」
女賢者「?」
女戦士「…あー、つまりな、勇者はラスボスたる貴殿に懸想しているのだよ。…いささか病的なまでに、な」
勇者「恋の病だからあぁぁぁあ!!ラスボスたんにしか癒せない恋の病だからああああ!!ラスボスたんにお注射したらなおるからぁああああ!」
女戦士「脱ぐな」バシッ
勇者「ウホォウ!!」
女魔法使い「ちょっと〜、特殊な性癖の持ち主ってとこかな〜?」
ラスボス「…ちょっとか?」
男格闘家「理解できない性癖はない、そう思っていた時期が俺にもありました!」

勇者「ラスボスたん!ラスボスたん!ラスボスたん!ラスボスたぁんんぅぅうううわぁああああああああああああああああああああああん!!!あぁクンカクンカ!クンカクンカ!スーハースーハー!スーハースーハー!いい匂いだなぁ…くんくんんはぁっ!ラスボスたんの緑色ヌメった頭をクンカクンカしたいお!クンカクンカ!あぁあ!!
間違えた!ハムハムしたいお!ハムハム!ハムハム!爬虫類の角角ツンツン!ハムハムツンツン…きゅんきゅんきゅい!!
序盤に出てきたラスボスたんかわいかったよぅ!!あぁぁああ…あああ…あっあぁああああ!!ふぁぁあああんんっ!!
途中まで正体ばれなくて良かったねラスボスたん!あぁあああああ!かわいい!ラスボスたん!キモかわいい!あっああぁああ!
第二形態もグロかわいくて嬉し…いやぁああああああ!!!にゃああああああああん!!ぎゃああああああああ!!よく考えたら…
ラ ス ボ ス た ん は 仲間 じ ゃ な い?にゃあああああああああああああん!!うぁああああああああああ!!
そんなぁああああああ!!いやぁぁぁあああああああああ!!はぁああああああん!!ぁああああ!!
この!ちきしょー!やめてやる!!勇者なんかやめ…て…え!?見…てる?第一形態のラスボスたんが僕を見てる?第二形態のラスボスたんが僕を見てるぞ!ラスボスたんが僕を見てるぞ!第三形態のラスボスたんが僕を見てるぞ!!最終形態のラスボスたんが僕に話しかけてるぞ!!!よかった…世の中まだまだ捨てたモンじゃないんだねっ!
いやっほぉおおおおおおお!!!僕にはラスボスたんがいる!!やったよ神様!!ひとりでできるもん!!!ううっうぅうう!!俺の想いよラスボスたんへ届け!!ラスボスたんの深部へ届け性的な意味でぇぇええ! 」ハァハァハァ

16821-889主人公×ラスボス 1/2:2011/07/25(月) 22:07:13 ID:hFuBx3HI
ラスボス「…貴様ら、よくこの勇者と組んでいられるな…」
女戦士「今みたいに理性が飛んでいなければ、普通の好青年だ。残念ながらな」
女魔法使い「国民にもぉ〜、割と好かれてるみたいよぉ?」
女戦士「だが、この勇者には一つ欠点があってな。」
女賢者「"ラスボスたんが居ない!"と、定期的に錯乱する。」
女魔法使い「ちょっと〜、困りもの?みたいな?」
男格闘家「この人、錯乱するとメテオとか打つんすよ!?」
女戦士「近頃、錯乱するサイクルが短くなってきてな…」
男格闘家「俺らだけじゃ、もう抑えられなくて!マジ世界ヤバかったっす!」
女賢者「…だから来た。この変態に匹敵する力を持つのは、真の魔王たるあなただけ」
女戦士「世界を守るには、もうこの方法しかないのだ」
女魔法使い「貴方も一緒にぃ、犠牲になってぇ?」

ラスボス「え?」
勇者「えへっ?^^」

女戦士「トリプルバインドォッ!」ビシビシビシィッ
ラスボス「えっ!?儂!!?」ギュッ
勇者「はにゃあぁぁぁぁああん!?ラスボスたんが縛りプレイされてるぅうううう!!!」ビクンビクン
ラスボス「!!は、離せ!!この縄を外してくれぇええ!!」ジタバタ
女戦士「勇者を拘束するために極限までに鍛えた技だ。そう簡単には解けぬ。許せ。」
男格闘家「あ、これ、俺らからの心づくしです!国の粋を尽くした最高級羽毛布団!」ファサッ
ラスボス「え?え?」
男格闘家「ちゃんとラスボスさんサイズで作らせたっすから!結構重かったっす!」
女賢者「国中の鳥、しめた。」
男格闘家「血反吐吐いて修行して決死の覚悟で鍛えた筋肉の使い道の終着点が"勇者&ラスボスたん愛の新婚初夜布団"の運搬になるとは思わなかったっすわ!」
ラスボス「なにそれこわい」
男格闘家「でもまあ、いまからラスボスさんの身に起こることを思えば、俺のズタボロのプライドなんて安いもんっす!」
女賢者「大丈夫。万が一この変態のおイタが過ぎて、あなたの身になにかあっても」
ポウ
女賢者「わたしがこの"癒しの手"で治してあげる」
ラスボス「儂のどこが負傷するの!?」
女賢者「…具体的には、あなたの(ピー)が変態の(ピー)で(ピー)されて(ピー)」
勇者「いやぁああぁぁん!そんな嬉しいことラスボスたんにできちゃうのぉぉおおおう!!?」ビクンビクンビクン
ラスボス「あああああ!!聞きたくないぃぃいいいい!」
女魔法使い「ほらぁ〜、怯えてるじゃない勇者ぁ?ごめんねぇ〜、不安だよねぇラスボスちゃぁん?」
ラスボス「!!そうじゃよ!儂こわい!!お願い助けて魔法使い!」
女魔法使い「せめてムードだけでもぉ、盛り上げてあげるからねぇ」パアァァァアアアア
ラスボス「だれか儂の意思を聞いてぇえええええ!」
男格闘家「グッドラック!」グッ
勇者「間接証明のようなロマンティックな明かり!!ふっかふかのお布団!!仲間の祝福!!いい!!!僕らの初めての夜にふさわしいねラスボスたぁあああああん!!」ガバァッ
ラスボス「いやあぁぁぁぁああああああ!!」

16919-629 中学生の告白 1/2:2011/07/27(水) 14:38:54 ID:A3kXSK/w
随分昔のお題&曲解ですが妄想が止まらなかったので。
大人と子どもの性行為を匂わせる表現があるので苦手な方はご注意を。



母さんを殺した。そう告白した彼を私が引き取ることは随分前から考えていたことだった。

彼はひょろりと背が高く、一見すると中学生に見えないほど大人びていた。
ろくでなしに捨てられた男好きの腹から生まれ、物心つく前から親に頼ることを許されなかった環境は、彼の稚気を奪ったらしかった。
一歩引いたところから他者を見つめるその目は静かに荒んでいた。
そのくせ、箸の握り方や言葉の使い方は小学生並というアンバランスさ。成績も惨憺たるものだった。
およそ世間の常識に疎い彼の、悪癖のひとつひとつを時間をかけて正していった。
彼は優秀な生徒だった。
渇いた土に瞬く間に水が吸われるように、より多くの知識を求め、私が教えた以上の働きを見せた。
笑顔が増えた。不満もこぼせるようになった。胸を張ってテストを見せた。友人ができたと嬉しそうに報告した。
ただ、成り行きとはいえ、男を抱くことも教える形になったのは不本意だった。
言い訳がましく聞こえるかもしれない。
けれど、男と睦み合う場に彼が偶然居合わせなければ、あれほど強く彼に懇願されなければ、決して彼にそんなことを教えるつもりはなかった。

夜、薄っぺらい胸に顔を寄せて眠ると、時折そこが引き攣れた。
ごめんなさい、ごめんなさい、おかあさんゆるして。
すすり泣きながらのたどたどしい謝罪を彼は知らない。
だから私は眠る彼の目尻をそっと舐める。頭を抱き寄せる。
彼が目覚めて恥ずかしがっても離してやらない。
何も気にしないで眠れ。私の言葉にはにかみながら、素直に目を閉じる彼の姿を見るのが好きだった。

17019-629 中学生の告白 2/2:2011/07/27(水) 14:39:24 ID:A3kXSK/w
数年後のある日、彼は私を好きだと言った。
私は錯覚だと一蹴した。その態度が彼の怒りを爆発させた。

子供扱いするな。錯覚なんて言うな。
俺がどれだけのものをあなたに与えられたと思ってる。
好きなんだ。あなたが好きなんだ。

初めて出会ったあの日、男と行方をくらませた母親を慕って泣く彼に、そんな親は殺してしまえと言ったのは私だった。

あれはお前に何も与えなかった。お前は害ばかり被った。
あれに捨てられたんじゃない。
お前があれを捨てるんだ。
殺してお前の中から消してしまえ。

引き金を引いたのは彼でも、弾を込めたのは私だ。
母さんを殺した。まだ中学生だった彼の、暗い目をした告白を私は忘れることができなかった。
光を知ってほしかった。
早朝の光の、一番真っ白な部分だけを浴びるように育ってほしかった。
これからの彼の人生に一点の曇りも許したくはなかった。
私への、男への恋情など、いまだ幼さを拭えない彼の障害以外になり得ない。
私を憎めばいい。親を捨てた彼の罪悪感より私への憎悪が大きくなればいい。
そして歪んだこの家から巣立ち、全てを忘れるのだ。

しなやかで臆病で、いくらでも強くなれる彼を私は愛していた。愛している。
だというのに、私を抱きしめる腕を振りほどくことができず、どうしようもなく視界が歪んだ。

17121-909 舞台はスラム:2011/07/28(木) 01:14:36 ID:C5xz4g9k
本スレの方まだ*9継続中だけど
*0以外で12時間後に投下されるかたいるみたいなんでこっちに



荒廃した街の片隅。
泥と埃、血と汗にまみれて今にも呼吸をやめそうな少年が横たわっていた。
本来なら白く柔らかい肌には殴打された痕が無数に散らばり、身につける衣類はもはやぼろきれでしかなかった。

少年の目は天に広がる空をまっすぐ見つめていた。
澄み渡る青を憎むかのように、もしかしたら憧憬するように、徐々に光を失っていく瞳で睨みつけていた。
「死ぬのか?」
青空を遮るようにして少年の視界に男が顔を出した。仕立てのいいスーツに身を包んだ男だった。
後ろには屈強そうな男を2人従えている。
右腕にはめられた時計は、貧乏人には死んでも手が届かない代物だ。
物心ついたころよりこの街で育った少年にもそれは理解できた。
「君、死ぬのか」
男がもう一度訊ねる。少年は答えない。
「わかった。質問を変えよう」
泥と血が固まってこびりついた頬に、男は躊躇いなく触れた。
「君は、生きたいか?」
少年は痛みに震える腕を持ちあげて、頬に優しく当てられた手を、残す力の限り握った。
「……家にくるといい。その前に医者だな。おい、この子を車に、?」
握る力は弱々しいものだったが、少年は男の手を離そうとはしなかった。
男はゆるやかに微笑むと、スーツが血に汚れるのを気にも留めず少年を抱えあげた。

失われつつあった光が再び灯りだす。
握る手に、わずかに力がこめられた。
「その調子だ。君は生きるんだ」
男の細められた目に、少年は空の青を見た気がした。

17220-769 空振りだけどそこがいい 1/2:2011/07/29(金) 13:19:41 ID:7aWkQAfE
彼の姿勢はあまりよくない。
後ろから見るとその背には緩やかな山ができている。肩を起点にして肩甲骨が峰。
肩をつかみ、その峰を両手の親指で押してやる。分厚い肩だがあっさり動き、山は谷になる。
でも手を離せばぐにゃりと元通り。くらげのようだ。
「何だ、どうした」
彼が微笑む。雑誌からは目を離さず、顔を俯けて。
眉の上、短い前髪がぱさりぱさりと揺れる。低い笑い声が耳に心地好い。
俺は答えず、もう一度彼の肩を開いた。
どうせなら肩を揉んでくれよ、と彼は身をよじったが、やがて気にしないことに決めたらしい。また黙々とページを繰りはじめた。
彼の部屋に来たときは大体いつもこんな感じだ。ふらっと立ち寄る俺に、気にせず自分の時間を過ごす彼。
大学の講義さえなければこうして二人で過ごすのは最早習慣になっていた。
だが、毎回俺が行こうか行くまいか散々悩み、彼恋しさのあまり足を運んでいることを彼は知らない。
ふとした拍子に不安になる。
この時間を心底望んでいるのはきっと俺だけだ。
無骨な横顔をぼんやり眺めながら、気がつけば口を開いていた。

17320-769 空振りだけどそこがいい 2/2:2011/07/29(金) 13:21:50 ID:7aWkQAfE
「なあ」
「ん?」
「俺、この部屋に来てて大丈夫か?」
質問の意図がわからない。俺を見る彼の目はそう言っていた。
俺は何気ないふうを装いながら、渇く唇を湿らせた。
「俺がいつもいたら困ることもあるだろ。ほら、彼女とかさ」
言ってから心臓が常にない速さで脈打ちはじめた。
じゃあ遠慮してくれ。そうなんだ彼女ができたんだ。好きな奴がいる。いい加減鬱陶しい。悪い予想はいくらでも涌いて出た。
彼はじっと俺を見つめていた。
その視線の圧力に俺が目を逸らしかけたとき、小さく笑った。
「お前ならいい」
えっ、と声が漏れた。短い言葉には、何となく含みがあるように感じられた。
先ほどまでとは違う意味で鼓動が速くなっていく。
「どういう意味?」
「言葉どおりの意味」
さらりと口にされたその答えを聞いて顔が熱くなった。一瞬で脳が混乱しかける。
が、ふと冷静に考えて、肩の力が抜けた。
「ああ、そうか、なるほど、『親友』だもんな」
目の前の健全な男なら大方そんなところだろう。ふつう、男同士であんなことを『そういう』意味で言うまい。
赤くなった頬をごまかしたくて、親友、親友と言い聞かせるみたいに何度も呟いた。
こっちの気も知らないで、どこまでも掴み所がない奴。
だがそんなところもいいと思えるんだから、俺も相当こいつにやられているらしい。

そんなふうに俺はひとり物思いにふけっていた。
なので、彼が俺を見ながらため息を吐き、苦笑していたことになどこれっぽっちも気づいていなかった。

17421-919 犬猿の仲:2011/07/29(金) 16:09:02 ID:IpFcjZfs
「細かい事にうるさいな。このくらい認めろよ」
「全然、細かい事じゃない。こんな高額経費は認められない」
「俺達はこれが仕事なの!」

 営業の人間は本当に金にルーズだ。
 なんてコストパフォーマンスの悪い人間達なんだろう、と話をする度に思う。
 特にこいつはうるさい。我が物顔で道路を歩く大型犬のようだ。

****************

 後日。その大型犬が二人だけで話がしたいと俺の所に来た。

「お前……。C社の常務と知り合い?」
「なんで?」
 嫌な予感がしたが、二丁目で顔を見たことがあるだけで、知り合いな訳ではない。
「常務がさ。何故か、お前と俺の仲がいいって誤解していて」
「それは凄い誤解だな」
「俺も……なのかって聞かれたんだけどさ……」
 ばらしたのか。よりにもよってこいつにか。頭が痛い。
「お前って、そうなの?」
「そうだよ」
「あっさりしてるな、お前」
「だって、ばれたものは仕方ないし、向こうだって立場上ばれたくないだろうし、
ばらさないだろ」
「まあ、確かに……。それでな。断ってくれていいんだけどさ」
「何を?」
「食事でもどうかって」
「俺と?」
「いや、大丈夫だぞ! 安心しろ! 俺がうまく断っておくから!」
「断るって……。もったいないじゃん。5億の仕事だろ」
「俺を馬鹿にするな。そんなやり方で納得出来るか!」
 いつもの接待三昧の方法とどう違うんだと思ったが、言うとまたうるさくなりそうなのでやめた。
「別にいいよ」
「え?!」
「一度でいいんだろ?」
「ええええ?!」
 飲み食いくらいは常務が払いそうだし、あっちの経費になるなら高い酒を頼んじまえ。
「なんだ、そのルーズさは! 金にはうるさいのに!」
 一番言われたくない奴に言われてカチンときたが、とりあえず耐えた。
「金にはうるさくないとダメだろ。金は使えば減る。体は減らない」
「ダメだ! よく考えろ。お前が会社の犠牲になる必要はない!」
「いや、別に犠牲になってるつもりは……」
 何かに似てるなあと思ったら、家の近所にいる郵便局員にもワンワン吠えている馬鹿犬だった。
 別にいいから。番犬いらないから。近所迷惑だから。
「俺はお前の事が正直嫌いだ! 嫌いだが、それとコレとは話が別だ! 俺はお前を守る! 俺にまかせろ!」
 俺の話も聞かず、奴は部屋を出て行った。

*****************

 更に後日。

 商談は他社に持って行かれたらしいと他の部署から聞いた。
ああ、あの時に俺のいう通りにしていれば、何の問題もなかったのに。
本当にコストパフォーマンスの悪い奴だ。

「また、ずいぶんと高額の領収証たちで……」
「これが仕事なんで」
「5億の取引、棒にふったくせに」
 ボソッと嫌みを言ってみた。だが、奴はニヤリと笑って俺に言った。
「猿知恵って知ってる?」
「はあ?」
「お前はうまく立ち回ってるつもりかもしれないけどな。生意気で本当に思慮が足らない。
経費の事だって、重箱の隅をつつくような事……、あ、今はそんな話じゃないか」
「ああ、そう。猿知恵で悪かったね」
「人間はそんなに捨てたもんじゃない。人間は、情もあるし、理性もあるし、
悪い事は悪いってちゃんと判断出来るんだ。そして会社は人間が動かしているんだ」
「だから?」
「5億はとられた。でも50億をとってきたんだから文句ないだろ」
「え?」
「酒っていうのは人間関係を作るんだよ。ちゃんとその領収証、落とせよ。経費だから」
「……え?」

 得意げに立ち去っていくアイツの後ろ姿に、大型受注の成功をたたえる言葉があちらこちらから聞こえた。
 ああ、本当にアイツには腹がたつ。

175本スレ978です:2011/08/02(火) 14:42:43 ID:zjozy7po
窓越しの暗い空を、鮮やかに花火が染め上げる。
月の灯りと、時折差し込む花火の光だけが暗い部屋の中を照らしていた。

「たーまやー っと」
低く、呟いて部屋の隅で酒を飲んでいた影が笑う。
手の中の杯には、上弦の月が細く光っている。
「…祭り、行かなくて良かったのか?」
部屋の反対側。
窓の外の花火を見上げ、もう一つの影が顔を上げた。
「もう、祭りではしゃぐ年じゃねえしな」
杯に映った月ごと酒を呑み。ことりと床に置くと窓を見上げる影ににじり寄り、後ろから抱き締めた。
「なあ…雄次」
「サカってんじゃねえ馬鹿」
抱き締めて、胸元に滑り込んでくる手を叩いて、肩越しに睨みつける。
「そう固い事を言うな」
「ふざけんな」

抱いてくる腕が。首にかかる息が 熱い。
「いい加減にしろ・・弘樹」
「俺はいつだって本気だけど」
「余計タチが悪いわ」
抱き締めてくる腕を抓り、拘束から逃げだし少しだけ離れ、また空に浮かぶ花火を見上げる。

「お前、そんなに花火が好きだったか?」
「お前のむさ苦しい顔よりはな」
「愛が見えねえ」
ほうと溜息が落ち、次の瞬間、膝の上に重量を感じた。

「…………弘樹。何をしている」
「これなら、お前は花火が見えるし。俺はお前にくっつける。何か問題でも?」
「…問題以外の何が」
いい年したオッサンの膝枕の何がそんなに楽しいのか・・

「今から寝るから。花火が終ったら起こしてくれ」
「はぁ?!お前何のために俺を呼んだんだ!!独り身同志暇だろう祭り行こうぜって呼んだんだろうが!!」
「気が変わった」
「ってめえ…」
「お前が側にいれば何でもいいや」
「…馬鹿が…」
「じゃあ、起こしてくれよ」
目を閉じて、本当に眠りに入ろうとしている・・

「…弘樹」
「…んー…?」
「一人で花火を見てもつまらん」
「…じゃあ、別のことをするか?」
「………勝手にしろ」
「おう」

花火の音にふと見上げ、夏の空に浮かんだ月に笑われたような気がした。


++++++
二つに分けて投下しようと思ったんですが、よく考えたら979もお題になることを忘れていました
本当に申し訳ありませんでした
すいません

17621−969 花火大会:2011/08/02(火) 15:20:04 ID:bzyOrvKk
今夜の花火大会にアイツを誘った。
他の奴と行くって言われたら諦めようと思ったけど二つ返事でOKもらえて、俺は花火の下での告白も決心する。
夜空に輝く花火に映し出されながら、好きだって言ってやる。
のはずか、何でオレラ人混みの屋台に並んでんの?
アイツいわく、「先に買っとかないと売り切れる。この屋台の粉は他と違ってメチャうまで。揚げ物はやっぱり揚げた手が一番」とのこと。
お前は何処の食いしん坊だ!
両手に食い物の袋ぶら下げて、やっと土手に上がった。
ちょっと計画はズレたが、クライマックスの連発に間に合ったぜ。
色とりどりの花火が開く中アイツの前に回って、真っ正面から見つめて告白するぞ!
意気込んでたらポツポツと雨が・・・・。
あれ?と思う間もなく、土砂降りで2人ともずぶ濡れだ。
「天気予報で所により雨って言ってたけど、すごかったな」
のんきに言うアイツは、しっかり袋の口握り締めて食べ物濡れないようにしてたよ。
いや、もう・・・、なんか、もういいや・・・。
「だな。オレ、もう帰るわ」
予定ガタガタで、気力も無くなって帰ろうとしたオレの腕をアイツが掴んだ。
「オレンチで着替えてけよ」
あー、そういえば家ここから近かったよな。
深く考えず付いて行って、シャワーとマッサラな着替え借りて人心地。
アイツがシャワー浴びてる間ボンヤリ室内見回してると、窓際に蚊取り線香とライターと線香花火が置いてあった。
おっ、これいいジャン。
アイツが出て来てから、ベランダで線香花火に火をつけた。
最後の一本はオレが持って、アイツが寄り添って覗き込んでる。
儚げだけどいいよななんて言ってたら、アイツもそうだなって頷きながら
「けど、記念日にしてはちょっと地味かな」
と言ってオレの肩を抱いた。
えっ?と聞き返す間も何をって問う間もなく、好きだと言われてキスされた。 
なんでこんなことにと思ってると、少し顔を離したアイツはニコッと笑い、
「派手な計画より、情報収集と準備が大切だぜ」って。
同じ気持だって、思いが通じてるって判った嬉しいけど、何かオレの予定と違うんだけど。
でも、まぁいいか。

本スレの流れにハラハラして・・・
走り書き+出しゃばってゴメン

17721-979 無口×カタコト:2011/08/03(水) 00:57:09 ID:EKDxGZ/Y
「ユウキ、つめたい」
膨れ面をしたハルに名前を呼ばれて、初めて彼が俺に話しかけているのだと気づいた。
昼下がりのカフェテラス。午後の気だるげな眠気は目の前の留学生に邪魔されている。
習いたての日本語で一生懸命話そうとしている様子は、どこか子犬を連想させる。珈琲色の瞳でころころとこちらを追いかけてくるゴールデンレトリバーの子犬だ。
と、考えている内にじっと彼を見つめていた。お国柄だろうか、目が合っても動じずに笑い返し、ハルはまたぎこちない一方的な会話を再開させる。しかし。
(どう考えてもミスチョイスだろう・・・)
ハルと知り合ってからというものの、何故か彼は俺を見る度に話しかけてくるようになった。
本人曰く、未だ不自由している日本語の勉強のため、らしいが、黙りこくっている俺を相手にしてもしょうがないだろうに。
人と話すことは嫌ではない。が、人には得手不得手というものがあり、俺にとって会話はなかなかに難しいことなのだ。
めまぐるしく分かれ、派生し、変化する言葉を追うのは大変で、まるで異国語のようだ。だから適当に流してただ頷いているだけにしないと、だんだん頭痛がしてくる。話す気が無いわけではない。・・・多分。

17821-979 無口×カタコト:2011/08/03(水) 00:57:41 ID:EKDxGZ/Y
「ねぇ、ユウキ、ユウキ、きいてる?」
今日のお題は日替わりランチについて。lunchの発音が良いなぁ、流石だとか考えていると、またも名を呼ばれた。
小さく頷く。だがハルは不満らしい。赤い頬を膨らませて抗議しようとしている姿は幼子のようだ。
「だからね、ユウキ・・・あぁもう、えーごではなしていい?」
もう一度頷く。
『ユウキは冷たい。反応が薄い。俺の話、聞いてるの?』
なんとか聞き取った内容は、まるで我が侭な彼女のようで、噴出してしまった。きょとんとした目でハルが見ている。だが、すぐにしゅんとしてしまう。
『俺の話、楽しくない?・・・日本語、もっと上手になれば、ユウキと喋っても良い?』
はたして、なんと答えたものか、と考える。我が侭な彼女には包容的な彼氏が必要だろうか。
口を開こうとしたが、自分はほとんど英語が話せないことに気付き、ペンとペーパータオルを手に取る。
『ごめん。話すのが苦手なだけ。ハルの話を聞くのは楽しいよ』

17921-979 無口×カタコト:2011/08/03(水) 00:58:16 ID:EKDxGZ/Y
今度は目に見えて表情が明るくなる。本当によく表情が変わる奴だ。
「じゃあ、ねぇ、ユウキ!」
次に出た言葉は日本語だった。拙い発音だが、先程よりも幾分か楽しげだ。
「おれ、もっとにほんごを、べんきょうする!だから、またつきあってね!」
頷く代わりに笑みを浮かべて、このくらいの会話なら、俺でも話せるかなぁと思った。
あぁでも、いつまで経っても日本語が不自由なままじゃ、愛の言葉も囁けない。「I love you」は恥ずかしすぎる。
今度からは、ハルに付き合って俺も意見してみよう。その方が上達も早い筈だ。
これからの会話授業の予定を立てつつ、こみ上げて来る感情をアイスカフェラテと一緒に飲み込んだ。

18022-49 長針と短針と秒針:2011/08/12(金) 10:35:09 ID:VClVp4DA
ごめんね、また来ちゃった。1分って短いよね。
僕と同じ職場のチームである短針と長針が、最近特別に仲良くなったので、僕はとても気まずい。
同じライン上を3人でぐるぐる回るこの仕事が恨めしい。
嫌でも気づくよね、いかにも怪しい雰囲気出してもんね、あのふたり。

短針は、もともとおっとりのんびり屋。
どっしり構えて物に動じないタイプだから、ともすれば焦りがちな長針をなだめて支えてあげてるみたい。
長針はスラリとスマートで、仕事もできる奴だけど、短針にべた惚れなのは見てておかしいくらいだ。
ふたりが仕事ですれ違う瞬間、それこそが彼らの待ってる時。
それはほぼ1時間と5分くらいの間合いで訪れる。
12時ちょうど。その次は1時5分27秒。2時10分54秒。3時16分21秒。4時21分49秒……そして11回目にまた12時ちょうど。
短針が数字と数字の間のほんの少しの距離を進む間に、長針は出来る限りのスピードで一周してきて追いつく。
待っていた短針に後ろから駆け寄ると、そっと寄り添うんだ。
僕たちの職場が、昔風のカッチカッチとひと目盛りずつ進む時計でなくて良かったね、と思う。
長針の動きはなめらかで、だからとても短い時間、ふたりは重なることができる。
それは本当に短い逢瀬だ。長針はすぐに進まなきゃいけないし、短針は長針について行けないから。
それでもふたりはその瞬間をとても大切にしていて、うっとりしちゃって、見ているこっちはいたたまれない。

……そう、見てるんだよね、僕。だってここ僕の仕事場でもあるわけで。
1分にひと回りするのが僕の仕事だ。決して僕は悪くない。
ふたりのわずかな大切な時間を、僕だって邪魔したくない。
だけど僕は、どうしてもふたりの上を通りすぎてしまうことになる。

そりゃ、なるべく見ないようにしてるよ。そんなときはふたりも「あくまでこれは仕事上のやむを得ないスタイルなんです」って風を装ってるし。
でも恋人同士のあれやそれは止まんないよね。
特にこんな暑い夜ふけなんかはやっぱその気になるんだろうね。
さっきなんか。
(あれ、絶対やってるよね……)
……ごめん、見るつもりなかった。暗くてわかりませんでした、うん、はっきりとは。何となく。
ため息が出るよ。ほんと悪いっつうか、もう僕、仕事やめよっかなって感じ。
最近なんか、ふたりが一緒でない時ですら、僕なんかが1分ごとに来てごめんなさいとか思ったりして。
秒針やめてストップウォッチとかに転職しようかなぁ。あれ確かひとりの職場だよね。
それともどうせ3人切っても切れない仕事仲間なんだから、僕も仲良くさせて? なんて。
言えないよなぁ。
僕、どうせ早いしなぁ。

18122-69 女装が似合う攻め×女装が似合わない受け 1/2:2011/08/16(火) 05:39:07 ID:B5kauskA
「お帰りなさいませ、お嬢様」
薄く整った唇から、甘く蕩けるような声が流れる。
フリフリのスカートを摘んで、軽くお辞儀をすれば、女子の黄色い声が教室に広がった。
「玲様可愛すぎるー」
「可愛いっていうより美人系!」
きゃあきゃあと騒ぐその女子達に微笑みかけて席へと案内する。
「凄えなあ…」
そんな玲也を見ながら、ぼんやりと呟いた。
「おい健太、ぼーっとしてないでこっち手伝えよ!お前どうせ暇だろ」
「うるせえ」
頼まれた力仕事をするには動き辛いが、そうも言ってられないと段ボールを持ち上げた。

文化祭の出し物でメイド喫茶しようなんて提案があったときは、こんな事になるなんて思ってなかった。
クラスの可愛い女子のメイド服やらコスプレやらが見たいからと、クラスの男は皆賛成してた。
俺も大賛成だった。
でも、お菓子やら料理やらの担当が出来る男が少なくて、
ただでさえ男女比のおかしなうちのクラスのホールには男子ばかりが残ってしまった。
それなら執事喫茶でもいいだろうに、面白がって女装喫茶になってしまった。
何人かの女子はホールでメイド服着てくれているけど、うちのメインは、もう、あいつで決まりだし。

「れ、玲様、お写真いいですか?」
「写メはお一人一回まで。当店のポラロイドでの撮影は、こちらの萌え萌えセットご注文の方へのサービスとなっております」
メニューを開いて淡々と説明しているだけなのに、女の子はうっとりとした顔で見つめている。
須籐玲也、生徒会副会長で長身美形。
今日の為に少し伸ばした髪は色素が薄くてサラサラで。
下級生にはファンクラブもいるような典型的な王子様。
去年の文化祭で付き合いたい男No.1に選ばれるし、男子に聞いた抱かれたい男No.1抱きたい男No.1のダブル受賞。
まずそんな投票しようなんて言い出した生徒会の頭がおかしいとは思うけど。
「ど、どっちもで!」
「ありがとうございます。健ちゃん、写真お願い」
「へ、お俺?」
棚の後ろでコソコソ働いていた俺を目敏く見つけた玲也に呼ばれた。
けど、行きたく、ない……なあ。
「ほい、ポラロイド」
近くのクラスメイトがにやにやしながらカメラを渡してきた。
くそ、こいつら…くそ。
「く、お…お呼び、ですか……」
短いスカートの裾を抑えながら席に向かう。
教室中の視線を感じる。
「ちょ…クク、先輩、それはないっすわ」
「な、なんで来てんだよお前ら!」
席についてパフェを食べてた部活の後輩の声をきっかけに教室中から笑い声が聞こえて、顔が熱くなった。
あいつら、今度の部活覚えてろよ。
「ほら、健ちゃん。早く撮って!」
キラキラした笑顔の玲也が俺の太い腕を掴む。
やめてよ、お前と比べられたら本当目も当てられないんだって。
小さいときは体格に差なんてほとんどなかったのに。
高校に入った途端ぐんぐんとゴツくなった俺。顔だけはどんどん綺麗になった玲也。
今日もお笑い要員でこんな格好させられてるけどさ、もう服ピッチピチだし。
絡めた腕は太さも違えば、色も。俺、日焼け凄いし。
ヘッドドレス付けた頭も、短髪で真っ黒でゴワゴワだし。同じシャンプー使ってるのに。
部活のおかげですね毛が薄かったくらいだ、いいところなんて。
「はい、こちらになります」
玲也しか目に入ってないような女の子に撮れた写真を渡し、逃げるように裏へ引っ込んだ。

18222-69 女装が似合う攻め×女装が似合わない受け 2/2:2011/08/16(火) 05:39:56 ID:B5kauskA
「……ったくもう、いつまでこれ着てなきゃいけねえんだよ…」
積み上がった段ボールの裏に隠れて一息つく。
「あ、健ちゃん!こんなとこ居たんだ」
俺を見つけた玲也が嬉しそうに隣に座る。
「ホール居なくていいの?玲也人気者なんだから」
「えー、もういいよ疲れた。ああいう爽やかな笑顔とか向いてねぇもん俺」
自分の引き攣った頬を揉みながら、俺の肩へ頭を置く。
「そんなに似合うのに?」
「え?ホントに?健ちゃん、俺似合う?」
「うん」
頷くと嬉しそうにヘラヘラと笑い、腕に抱き着いてきた。
顔はどんどん綺麗になったけど、中身はずっとこんなんで。
「えー、でもぉ健ちゃんも可愛いよぉ!凄ぇいい!」
ファンクラブの子たちのイメージ通りのキリっとした喋り方なんてしないし、あと何故か幼なじみの俺にデレデレだし。
「……どこが…」
「えー!絶対俺より可愛いって!つかさっきさあ、この格好のまま生徒会行って下さいとか言い出した奴いてさあ、マジ意味解んねぇし」
生徒会長は玲也よりは劣るけどまあまあ男前で、
「お似合いだとか思われてるんだろ」
俺もそう思うんだけどな。
「うえぇ、もう健ちゃんまでそういうこと言うなよ。気っ色悪ぃ!アイツに抱かれるとかマジ女子って意味わかんね。
 ……あ、そういえば健ちゃんさ、なんでずっとスカート抑えながら歩いてたの?」
「え、や、だって…恥ずかしいだろ、その……見えたら…」
「……え?あ、え、健ちゃん…もしかして」
玲也の手が勢いよく伸びてきて、
「…あ、止めろ!」
抑えようとしたが間に合わず、俺のスカートは見事に捲られた。
「ちょ、ば、止めっ見んな!」
スカートを下ろそうとするが、玲也にしっかりと押さえられて全然動かない。
「……わぁ、健ちゃん、エっロぉ……」
玲也がうっとりとした表情で俺の股間を見つめている。
女物の下着を身につけた俺の股間を。
「ホントに、履いたんだ…」
小さな布地で、しかもその殆どがレースで出来たそれに収まりきるはずもなく、
それでもどうにか押し込めた俺のモノは生地の上からでもはっきり解る程浮かび上がって、
「って、え!ホントにって!え!お前?え、お前履いてないの?」
この服に着替えるときに一緒に渡してきたこのパンティを。え、履かなきゃいけないんじゃないの?
「え、てか、え?皆は?え、俺、え?俺だけ?」
パニクる俺のスカートから手を離し、スカートを捲った玲也は、グレーのボクサーパンツを履いていた。
「えええ!?お前!お前、皆履いてるからって!履かなきゃダメって!」
「ゴメンね健ちゃん。あれ、嘘」
背景に咲いた花が見えそうな程の笑顔で言われる。
「マジ…かよ……」
騙されたショックと羞恥心に顔を伏せる。
「健ちゃん、ゴメンて。いやあ、でもいいもん見れたぁ」
楽しげな声がムカついて顔を上げると、幸せいっぱいな顔をした玲也が、ギラギラした目で俺を見つめていた。
「健ちゃん、俺…我慢出来ない……」
「ちょ…おい、ここは、さすがに……」
「…じゃあ、トイレ行こ」
「っ、で…でも」
「おーい、玲也ぁ!あれ?玲也知らね?」
「え?アタシ見てないよ?」
「んだよ混んできたのにどこ行ったんだよ」
段ボール越しにクラスメイトの声が聞こえて竦み上がる。
「……ほら、もう行かないと」
「えー、嫌!」
「駄ぁ目!」
「そんな可愛く言われたら、言うこと聞くしかないじゃん」
「…だから、俺のどこが可愛いの?これだって、似合って…ないだろ」
「うん!」
「即答?!」
「似合ってないから可愛いんじゃん!そのピチピチの服に収まり切らない筋肉、恥ずかしそうな顔、もうホント堪んない!
 健ちゃん昔っから可愛かったけど、最近もうホントに可愛くなってきて…」
「ん?玲也くん?居るの?」
段ボールを向こう側からどんどんと叩かれる。
「あ。あー、今行きますよーっと」
残念そうな声を上げて立ち上がる。
「あ、健ちゃん、今日も家来るよね?」
「えー……俺、明後日練習試合あるんだけど…」
「もう今日人前でなくていいから!俺ごまかすから!」
「あ、それは助かる」
「まあ、これ以上こんな可愛い健ちゃんを他の人に見せたくないしね」
俺も見せなくないな、こんなお前。
「じゃあ、最後にこれだけ」
ちゅ、と軽く唇が触れ合う。
「よーし、いってきまーす!」
見せたくないよ、他の人には。ファンクラブの女の子とか、クラスメイトとかには。
キリっとした喋り方なんてしなくて、まあまあ変態で、つかガっチガチのホモで、バリバリのタチで、
あと何故か幼なじみの俺にデレデレのことなんて。
俺だけの秘密だ。

18322-99 スマホ×ガラケー:2011/08/19(金) 22:30:55 ID:NlGXqeGo
私の主人、すなわち私の所有者は、近頃新入りにお熱だ。
「で、今は何の用事だったんだ?」
「道順の確認。いやーあの人ほんと方向音痴だねえ。僕が来る前はどうしてたんだか、心配になるよ」
「私にもナビアプリは搭載されている」
「へえ? まあ、そんなチンケなディスプレイとチャチなアプリじゃあ、さぞ苦労してたんだろうねぇ」
まただ。この生意気な新入りは、自分のスペックを鼻にかけているのか、やたらと嫌味な物言いをする。
「ああ、私は小柄だからな。虚弱体質な割に図体だけはデカい誰かさんと違って」
それにつられて、こちらもつい刺々しくなってしまう。カチンと来たらしい新入りがなにか言いかけたとき、
「っ!!」
私の身体が震えた。すぐに主人の手が私を取り上げ、身体を開き、耳元へと押し付ける。
『もしもし? うん、今向かってるとこ。ちょっと迷っちゃってさー……』
すぐ側で聞こえる主人の声が心地よい。あいつが来るまで、私はいつも主人の側にいた。
あいつとは比べものにならないかもしれないが、自分なりに主人に尽くしてきたつもりだった。
そう、私は自分から主人を奪ったあの新入りに嫉妬している。認めたくも、ましてや知られたくもないことだが。
やがて主人は通話を終え、私は鞄の中へ放り込まれた。しばらくして、新入りの様子がおかしいことに気づく。
いつもならすぐに絡んでくるのに、今はやけに憂鬱そうに押し黙っている。
「どうした。もうバッテリー切れか?」
沈黙に耐えかね、からかうように尋ねると、
「……僕らってさぁ、本来誰かとつながる道具じゃん」
奴は独り言のようにつぶやいた。
「僕は君よりずっと多くの仕事をこなせるのに、あの人と誰かをつなげる役目は君のものなんだなー、って」
そういえば、主人がこいつで誰かと話しているところを見たことがない。
メールのやり取りも、大抵私を通して行っている。だが、
「お前だってそういう機能がないわけじゃないんだろう?」
「勿論あるさ。けど、なんか電波とかアドレスとか色々事情があるっぽくて、使ってもらえない」
悔しさと寂しさが入り交じった声に、胸を衝かれた。優越感とも親近感ともつかない奇妙な何かがこみ上げてきて、
「無念だな」
何とはなしに、そんな言葉が出た。言ってみてから、それは私自身の心持ちだったのかもしれないと思った。
新入りはしばらく私の真意を測りかねていたようだが、哀れまれたと判断したのだろう、
「君みたいな旧式に、分かったようなこと言われたくないね」
ことさら突っぱねるように吐き捨てた。
いいや分かるさ、誰かの一番になれない痛みなら。
そう告げようとしたとき、再び鞄に主人の手が伸びてきた。今回はどちらが選ばれるのか、私も奴も身構える。
しかし、予想外のことに、主人は私達をいっぺんに掴み上げた。
右手で新入りの大きな液晶を撫ぜて、左手で私のボタンを押す。体内でコール音が鳴り響く。
『もしもしー? ゴメンやっぱり道分かんなくなって――うん、だから地図見ながら直に教えてもらおうと
 ――そう、スマホ見ながらガラケーでかけてる。やっぱり二台持ちにして正解だったわー……』
暫くの間、主人は新入りの画面と周囲を見比べつつ、私越しに道案内を受けて歩き続け、
ようやく通話相手らしき人と合流した。
仕事を終えた私たちは、再び鞄の中で隣り合わせになる。顔を見合わせると、どちらからともなく笑いがこぼれた。
「全く、手のかかる主人を持ったものだ」
「ほんとにねぇ。こんな調子じゃ、僕のスペックを持ってしても手に余るよ」
今までずっと、私の力だけで主人を助けたいと思っていた。
でも、この新入りが一緒なら、もっと主人の役に立てるというならば。
「共にあの人を支えていくしかないか」
「……まあ、ご主人サマのためなら仕方ないよね」
そう、全ては我らが主人のため。それだけのことだ。
だから、奴が台詞の割にどこか嬉しげだったのも、それを見て何故かほっとしたのも、きっと気のせいだ。

18422-109:2011/08/21(日) 11:40:35 ID:PDGJB1tI
アイツは人に甘えるのが苦手のようだ。
家庭の事情が複雑で、児童相談所に世話になったこともある。
何故そんなことを知っているかと言えば、俺が隣の家の住人だからだ。
隣の夫婦げんかは内容まで知っているし、物が倒れる音がしたと思うと
翌日あざの出来たアイツに会うという事は日常茶飯事だった。
通報があって一時保護が決まった時には、さすがのアイツも嫌そうだったので、
俺の家に来てもいいぞといったが無視された。
まあ、保護決定してるんだから来られる訳もなかったけど。
借金の督促もたくさんあった。郵便物がポストから溢れていた。
「親に死んで欲しい」と物騒な事をアイツが言っていたら、本当に事故で亡くなった。
自殺じゃないかと近所で噂になったが、自殺するような夫婦ではないという両親の火消しで
なんとか沈静化した。自殺するなら夜逃げだと俺も思う。そんなにしおらしい夫婦じゃないし。
アイツは冷静だった。学生なのに事務的にすべての物事をこなした。
葬儀も密葬で、知らないうちに全部終わっていた。
何か手伝える事はないかと聞いたが、すげなく断られた。
でも、一人で生活をしているアイツを心配して両親が強引に自宅に連れて来たのでホッとした。
うちの親はおせっかいで暑苦しいが、こういう時には便利だ。
長年のつきあいなのにはじめて家に来たお客さんのように他人行儀だったけど。
「お前さあ、家の手伝いなんかすんなよ」
「そういう訳にいかないだろ。世話になってるんだから」
「お袋にお前と比べられるから困る」
「そんなこと知らねえよ……。ま、いいや。俺、すぐに出てくし」
「え? え? そうなの? 家の買い手決まったの? いつ?
どこ行くの? もう引っ越し先決まったの? これからどーすんの?
金大丈夫なの? 一人で? 働くの? 連絡どーすればいいわけ?」
「いっぺんに聞かれても……」
「もう少しうちにいてもいいじゃんか」
「お前んちって、昔から苦手なんだよね」
「なんで?」
「なんか俺がいちゃいけないような気がする」
言葉につまった。そんなことはないと言いたかったけれど、
届かない気がした。
テレビからは芸人のハイテンションな声がしている。
「あのさあ」
「うん?」
「もう少し、こっちに寄りかかってもいいんじゃない?」
「なんでだよ。暑苦しいし、俺がヤダよ」
とアイツは俺から一歩遠のいた。
「そうじゃなくてさ」
「……気持ち悪。俺、もう寝る」
俺が言わんとすることは伝わっていたような気がするが、
無理矢理終わらされてしまった。
俺の部屋でアイツは胎児のように丸まって先に寝ていた。
凍えているようにも見えた。
俺は自分のベッドに横たわりながら、
「たまには甘えたって罰は当たらないぜ」
と隣の布団に寝ている奴に聞こえるように言ったけれど、
わざとらしい寝息をさせてアイツは目を覚まさなかった。

18522-109 甘えるのが苦手:2011/08/21(日) 11:49:28 ID:PDGJB1tI
タイトル入れ忘れました。失礼しました。

18622-249 権力者の初恋:2011/09/09(金) 23:32:24 ID:HSjYhJyQ
仕事も一段落した昼時。
快晴を喜ぶかのように小鳥達が歌いながら窓に映る空を横切るのを見送ってから、穏やかな気分でコーヒーをすする。

「大統領、私の話、聞いてましたか?」
「…ああ、すまないね。もう一度言ってくれるかい?」
私の言葉に秘書はため息をついた。
先程から口うるさくスケジュールを述べ続けていた彼女の顔が、仕事モードから急に“子供を見守る親”のようになった。
「…ええ何回でも言いますとも、しかし今日のあなたは私の話を聞いてくれるとは思えない」
ごもっともな答えだ。
私はしばらく考えて、彼女を見上げる。
「…信じられるかい?今夜の事を思うと心が浮き立っていて食事もままならないんだ。この私がだよ」
お昼に出された大好物のラム肉でさえもなかなか喉を通らなかったのだ。
俗にいう、胸がいっぱいというところだろうか。真意はわからない。
何せ初めて体験する気持ちだから。
「…しかし大統領、今夜は緊急の会議が…」
私は彼女の言葉を遮るように人差し指をたて、横に振りながら「ノー」と言った。
「多忙である彼のスケジュールをやっと押さえたんだ。そうだろう?」
「ええ」
「キャンセルだなんてとんでもない。会議は別の日だ」
「わかりました」
そう、彼は今やおしもおされぬ大スター。
毎日何かしらテレビに出ていると言っても過言ではない世界的スターの夕食時を、我がハウスに招く事ができる日が来たのだ。
大統領の特権とも言えよう。
少しの間だけでも彼の時間を手にした悦びは計り知れない。

18722-249 権力者の初恋2:2011/09/09(金) 23:33:03 ID:HSjYhJyQ
そして夜。
スーツに身を固め、手土産に花束なんて持ちながら彼はやって来た。
世界の名だたる役人が集まる会議なんかよりも緊張している私に、彼は笑顔でこう言った。
「大統領、お目にかかれて光栄です。心から尊敬しております」
彼は笑うと可愛いらしいえくぼが出来る。
小さな事だがテレビを通して何度も目にしてきたそのえくぼが、肉眼で確認できる。
夢ではない。
「ヘイミスター、なにを言うんだね君、こちらこそだよ全く」
私の言葉に彼は照れたように笑い、私の瞳をじっと見た。
「この花は、大統領の誕生月の花です。花が好きと伺ったもので…。今夜はお招きありがとうございます」
ああ、実物はなんてクールでナイスなタフガイなんだ。何もかもがまるで予想通りだ。
私は天にも昇る気持ちで、花束を受け取った。

18822-269 甘党な男前受け 1/2:2011/09/12(月) 08:43:43 ID:y6uzqi62
ヤツがどでかいパフェをうまそうに食うのを、
コーヒーを飲みながら眺めるのは嫌いじゃない。
「うげえ、いっつもなんでそんな食えんだよ」と俺が言うと
「欲しいんだったら言えばいいのに」ヤツがスプーンを差し出すので
「別に欲しくないけど」と言いながら一口もらうのがお約束。

そんなヤツは少しでも休みがあると、バイクに乗ってすぐどこかへ出かける。
俺も誘われはするが、俺は青空のもと太陽の光を長時間浴びると
干からびて死んでしまう(気がする)ので、大抵応じない。
この前なんとなくヤツに電話をしたら和歌山県まで行っていた。
「東京から?信じらんねえ」と言うとヤツは
「3徹でゲームする方が信じられない」と言ってきた。

俺たちの趣味趣向は全くもって合わないが、まあ気が合うので
そんなかんじで仲良くやっている。

しかし、ひとつ気の合わなそうなことがある。
いや、趣味趣向がひとつだけ合ってしまったというべきか。
何の事かというと、情事の際の立場のことだ。
まだそれに至ってはいないが、最近の悩みの種になっている。
俺はヤツを抱くつもりだか、何となくヤツも俺を抱く気でいる気がするのだ。


俺とヤツの背丈はそう変わらないのだが、ヤツは外で遊ぶのが大好きなだけあって、
力で俺が勝てる見込みが欠片もない。
ジムに行ったりもする男に、家でゲームしかしてない男がどうやったら勝てるのか。
格ゲーなら勝てる。でも実践では無理だ。
だがなんとかして情事のときは優位に立ちたい。
だって抱かれるのってよくわかんないしなんかちょっと怖いし。
これは、先手を打つしかない。
考えた結果、俺はそのままを告げることにした。
よし、決めたなら今言ってしまえ! 言ったもの勝ちだ!

18922-269 甘党な男前受け 2/2:2011/09/12(月) 08:44:24 ID:y6uzqi62
「抱かせて下さい」

ヤツはチョコレートケーキを頬張っているところだった。
不意打ちに驚いたのだろう、ケーキを喉に詰まらせそうになって
慌ててキャラメルマキアートを口に流し込んだ。
まさかそんなに驚かれるとは思っていなかったので
ゲホゲホと咳をしているヤツの背中をさすりながら俺は「ごめん」と謝った。


「いいよ」

一呼吸置いて、ヤツは緩く笑う。

それがどっちの言葉への返答なのか俺は判断がつかない。
だからといってもう一度聞けないでいると、
「なんで敬語?」と笑いながらほっとした顔でヤツは話を続けた。

「なんか最近思いつめてると思えば…
 欲しいんだったら言えばいいって言ってるだろう。
 ほんとうはおれが抱くつもりだったんだけどさ。
 おまえが欲しがってくれるんならくれてやるよ、なんでも」


ちゅっ、と口づけられたそれは、ひどく甘い味がした。

19022-289 博奕打ちの恋:2011/09/16(金) 00:10:03 ID:E16dp1lo
「負けたらどうなるか、判ってんだろうな」
「ああ」
 目の前で凄む男に、オレは軽く頷く。
 適当に遊んで来たつもりだが、負け無しのオレが気にいらないらしくついにルーレットでサシの勝負。
 イカサマ防止で玉を入れてからオレが賭けて、その逆を奴が賭けるいたってシンプルな方法だ。
 ルーレットが回り玉が入ると、いつものようにフッと脳裏に数字が浮かぶ。
 今回は19。
 オレは迷わず黒にチップを置き、奴は赤に置いて後は勝負を待つだけ。
 スピードの落ちてきた玉はコツンコツンと音をたて、赤の19に収まった。
 瞬間、奴の顔が笑顔になる。
 そりゃ嬉しいだろう、初めてオレに勝てたんだからな。
 奴は笑顔のままオレを見て、
「約束どおり、今までの分体で返してもらうぜ」
「好きにしろ」
 奴の言う取り立てがタコ部屋送りか、臓器を抜くのか、それとも言葉通りか……。
 正直どれを指しているのか判らない。
 が、オレは今まで賭けに負けたことは無いんだ。
 そしてこれからも、負ける気はねぇ。
 だからオレは、欲しかったモノを手に入れられるはずだ。


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