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ローファンタジー世界で冒険!避難所

1フォルテ ◆VQ6.K6xqhE:2012/08/01(水) 22:34:34 ID:C0jNSB4Q0
有り得ないけどどこかにあるかもしれないもう一つの地球――

魔法と科学が混在する不思議な惑星で、世界を救う冒険が始まる!


【なりきりリレー小説】ローファンタジー世界で冒険!の避難所です。
展開の相談など本編以外の発言、規制時の代行依頼等にお使いください。

【なりきりリレー小説】ローファンタジー世界で冒険!
http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1342838770/l50

なな板TRPGまとめwiki
http://www43.atwiki.jp/nanaitatrp/pages/1.html

536装幀司書ヴェクス ◆xNodesigng:2015/08/03(月) 02:21:40 ID:u/02I.Ww0
ミリアが眠りに就いてから一日が経過し、病棟からも多くの入院患者が立ち退いた。
監視用の小部屋では、警備官と魔術師がモニターを眺めている。
彼らの目に映ったのは、緑の燐光が植物の繁茂を描く幻想的な光景。

「ありゃ何だい? CGじゃねぇよな?」

ウィムジーが目を細め、疑問を口にした。
超常の現象は彼の専門外なので、病棟の異変については魔術師から聞くしかない。

「睡眠中に無防備とならないよう、周囲へ防護結界を構築したって所でしょう」

ヴェクスが推論を口にした。
魔術師の彼とて、口に出来るのは推論しかない。

「結界ってこたぁ、あの中には入れねぇのか」

言いながら、ウィムジーは差し入れの朝食を置く。
ダブルチーズラスティックバーガーと、スエスモシュトゥ(林檎ジュースと炭酸水のブレンド)の紙コップを。
差し入れはファストフード店で買ったもので、若者はこういった物が好きだろうと、彼なりに気を利かせた代物だ。

「僕なら毒蜘蛛が巣を張る植物園には立ち入らない。
 肉体や精神を囚われる危険を考えればね」

「ああ……魅了って厄介なもんがあったんだったな。
 中には他の患者もいたはずだが、そいつらはどうしてる?」

「殆どは個室でおとなしくしてますよ。
 ただ、ミリアの部屋に近い何室かは、扉や壁を透過した光の蔦の浸食を受けてましてね。
 どうやら、あの光は速度こそ早くないものの、浸透力はかなり強いらしい。
 当然ですが、入室患者も関心を示して興奮状態だったり、逆に放心してたり。
 何も悪影響が無ければ良いんですが……さて、どうなるやら」

ヴェクスが紙コップのジュースを一息で飲み干そうとして、慣れない炭酸に顔を顰めた。
止む無く、口の中に溜まった炭酸を少しづつ喉に流し込む。

「どうにかして、特異病棟の患者を外へ出せないのか」

「グプッ……無理でしょう。
 此方から病棟内に足を踏み入れる事が出来ない以上は。
 そもそも、あそこの患者たちは準備も無しに外へは出せない」

「あんたも魔術師なら、どうにかならんのか?
 もう二人ほど魔術師がおった筈だが、昨日の奴らは何処へ行った?」

「ファラーとサーナでしたら、バニブルに戻しましたよ。
 状況が致命的な悪化を見る前に、対抗手段を持って来ると期待して。
 もし、ミリアがアイン・ソフ・オウルなら、通常レベルの魔術で対処するのは困難ですからね」

「アイン・ソフ・オウルってのは何だ? 異能者の種別か?」

「その前に警備官殿、この世界の仕組みは御存知ですか」

急に話題が飛んだので、ウィムジーは戸惑う様子を見せた。
しかし、何とか記憶の中から宇宙論や物理学の欠片を引っ張り出すのに成功したのだろう。
自信無さげにではあるが、自分の認識について喋り始める。

「あン? 世界の仕組みだと?
 うゥむ……あらゆる物質は原子で出来とるとか習ったな、確か。
 原子の構成は、原子核の周りを電子が回っとるんだったか?
 テレビ番組か何かで、他にダークマターってのがあるとも聞いたような……」

537装幀司書ヴェクス ◆xNodesigng:2015/08/03(月) 02:24:28 ID:u/02I.Ww0
「それも世界の一面ですが、魔術や哲学の分野では別の説で世界を捉えます。
 人は誰でも魂の奥に世界を内包していて、意志ある生命は一個の世界であると、ね。
 それらの小さな世界が他者の世界と溶け合い、雲のように重なり、砂のように混じり合って、我々の見る現象界が創られる。
 この考えを突き詰めれば、僕らの姿も一個の世界が人という形で表現されたものだと言えるでしょうね。
 そして、この内なる己の世界が巨大なものたちを、アイン・ソフ・オウルと呼ぶんですよ」

「分かったような……分からんような。
 つまり、心の中にデカい世界を持ってて、異能の力や魔力が強い連中って事か?」

ウィムジーはピンと来ない様子で、ヴェクスの言葉を単純化して消化する。
元より、神秘とは程遠い駐在の警備官に魔術師並みの理解力を期待するのは酷というものだ。
己の世界について、自らの心や感覚で実感した事が無い者では、理解するにも限界がある。
それは、今しがた解説を行ったヴェクスとて同様だ。

「彼らの力の源が一個の世界だと考えれば、発揮できる力の程は御察しの通り。
 別の世界のルールを使っているのなら、魔術の作法や物理法則を無視しているかのような超常の力も不思議では無い。
 いずれにせよ、アイン・ソフ・オウルたちは感情で世界を歪め、想いで奇跡を起こすそうです」

「感情で世界を歪める……ねェ。
 何とも物騒な響きだが、空間が歪むって事かい?」

「上司の受け売りですが、彼らが己の世界で現象界を浸食する事の比喩でしょう。
 適切に例えるのは難しいのですが、リバーシ(オセロ)にチェスのルールを持ち込む感じですかね。
 リバーシでの対戦中にチェスのルールであるキャスリングを使えば、リバーシというゲーム自体が揺らいでしまう」

「そりゃ、インチキめいとるなァ。
 病棟に蔓延った植物のような光も、異界的な力の産物かも知れねぇって事か」

「或いは、そうかも知れませんね。
 あの光の蔦が一種の異界と考えれば、ファラーの攻撃に不可侵を保ったのも納得が行く」

「そんじゃあ、今は打つ手無しって事か」

「残念ながら、とても強力な力でなければミリアに干渉するのは難しい。
 我々に出来るのは、彼女が目覚めた時に備えて逃走や足止めの手段を用意するのと、村民を避難させる程度。
 後はリンセル・ステンシィが人質として機能し続けるのを、神に祈るのみですかね」

「……うゥむ」

「警察側の進捗はどうでしょう?」

「お前さんたち魔術師が秘密主義なもんで、警察が抱える魔術師は絶対数が少ねぇんだわ。
 とは言っても、それなりに人員確保の手は打っとるぞ。
 特殊武装班に神魔コンツェルンだか何だかの武器を配備したって話だからな。
 まあ、今の所は死者も出てねェから、此処の優先度が低いってことには代わりねェが――――オイ、光が消えるぞ」

警備官が言葉を止め、モニターを注視する。
ミリアから現れた緑光の植物群は薄らぎ、陽炎のように揺れながら消えてゆく。

「結界で身を守る必要がなくなった……要するに、お目覚めなんでしょう。
 防護結界が無ければ食事くらいは運べるかも知れませんから、看護用のロボットでも入れてみますか?
 隔離施設の食事は、機械を遠隔操作して運ぶそうですからね。
 スピーカーとカメラを内蔵してるから、一応は会話も可能らしいですよ」

「俺が持ってくってのは駄目か?
 どうにも、遠隔ロボットだのドローンだのは好かん」

「……流石にそれは遠慮して頂きたい」

ウィムジーの提案にヴェクスは引き攣ったように笑んだ。

538ミリア ◆NHMho/TA8Q:2015/08/07(金) 02:45:51 ID:PPqgYxgE0
「此処は――――」

病室内で目覚めたミリアは、朦朧としながら上体を起こして周囲を見回す。
部屋には窓も時計も無く、四方の壁にも時間の経過を示すものは何も無い。
ただ、強い空腹感から、少なくとも数時間は経過しているように思えた。

「――――病室、か」

漸くミリアの脳が働き始め、置かれた状況を思い出す。
リンセルの安全と引き換えに自ら特異病棟の一室に入った事を。
ヴェクスと名乗る魔術師の本気度は不明だったが、少なくとも賭けをする気にはなれなかった。
治安行政に関わってはいても、相手は魔術師なのだ。

「蔦が無い……?」

視線を下に落とすと、今まで全身を覆っていた光の蔦が、いつの間にか消えている。
ミリアは確認の為に床を拳で叩いてみたが、衝撃と振動も薄い皮膚を通して骨まで響く。

(……ってことは、魔力の防護も働いていないってことか)

再び蔦状の光子が現れるように念じてみるものの、何も変化は起こらなかった。
ミリアは自らの心と知覚で、己の世界を感じ取り、内奥に触れた訳ではない。
従って、アイン・ソフ・オウル特有の力も自在には使えない。
そもそも、光の結界はミリア自身の世界を淵源としている訳ではないので、自らの意思で扱えないのも当然だ。

急に心許なさを感じて、ミリアは室内の確認を始めた。
手の届かない天井には、小型のエアコンと火災報知器、四つの埋め込み型の照明。
鉄の扉は二つあって、廊下に面したものと、部屋側面の浴室とトイレに通じるものがある。
廊下に面した扉はミリアが壊してしまっていたが、開閉用のコンソールは無事だ。
近くでコンソールを覗き込めば、小型スピーカーと豆粒程度のカメラレンズが設置されているのが確認できた。

(……こいつで、今までアタシを監視してた?)

「誰か見てる?」

ミリアはレンズの向こう側に聞く。

「もちろん見ているとも、ミリア君」

スピーカーからヴェクスの声が流れると、ミリアは心の中に獰猛なものを覚えた。
リンセルの奪還を考えるのなら、彼は放置出来ない存在だ。
可能なら、どんな手を使ってでも取り込まねばならない。

「ヴェクス……だったっけ?
 まあアンタの名前なんてどうだっていいけど。
 アタシが聞きたいのは一つだけ。
 今、リンシィは何処でどうしてる?」

「無事とだけ言っておくよ。
 君が檻の中に留まっている限り、危害を加える理由も無いからね」

「まだ、この病院にいるの? それとも救急車で何処かに移した?」

「詳細に答えられないのは分かっているだろう?」

「……卑怯者ッ」

「いやいやいや、ちょっと待ってよ。
 それを君が言うのかな?
 今まで、魅了の魔力で良いように人の心を操ってた君が」

539ミリア ◆NHMho/TA8Q:2015/08/07(金) 02:52:59 ID:PPqgYxgE0
ヴェクスがダブルスタンダードを突っ込むと、ミリアの表情に苛立ちが浮かぶ。

「別に良いように操ってたわけじゃないし!」

「隷属化の術と違って、対象の認識を歪めるだけの魅了の魔力は、そういった自覚も薄いのかもしれないね。
 でも、君は相手から事前に承諾を取ったり、公言はしてなかっただろう?
 後ろめたさや、反社会的な行為をしてる自覚はあったはずだ。違うかい?」

「間違った社会を変えるには、手段なんか選んでられない!」

「うんうん、御立派な覚悟だけど、それで傷つく人間も少なくないんじゃないかな?
 例えば、あの聖堂騎士。アレクサンデル・レシェティツキ。
 君を信奉する事と三主への信仰が釣り合う筈もないから、彼は信仰を棄てたに違いない。
 いや、魔力で価値観を変えさせられて、信仰を棄てるように強いられた。
 これで魅了の魔法が解ければ、どうなるだろう?
 彼は、他者を心の中へ踏み込ませてしまった自分に苦しみ、君に加担した事を後悔するに違いない。
 しかも、君を奪還しようとした際、命に関わるような怪我をした訳だけど、その責任は確り感じているのかな」

「勝手なことを! アレクの怪我は……アタシが治した!
 それに怪我させたのは、アンタたちだろ!」

「だが、怪我の原因を作ったのも君だ。
 ミリア君に振り回されなければ、今頃は彼も聖都で平穏に暮らせたかも知れない。
 まあ、直ぐに三主教が引き取りに来るとは思うけどうね。
 そうしたら、もう二度と君の元には戻らない」

「……そう」

(残念! 医師団の中にも三主教の中にもアタシが魅了した奴がいるから!)

あるかなしかの薄い笑みが、ミリアの口角に浮かぶ。
一連の会話で、ミリアの側も協力者がいた事を思い出したのだ。
あの小太りの男性医師が、アレクサンデルやリンセルを確保してしまえば存分に暴れ回っても問題ない。

(なんて名前か、忘れたけど)

魔術を使えば今すぐの脱出も可能だが、強引に病棟を抜け出てもリンセルに危害を加えられては無意味。
とは言っても、監視する相手の居場所を掴んで、魅了の魔力で捉えるような手立ては思いつかない。
結局は、人頼みで状況が変わるのを待つ方が好転の可能性も高そうだと思えた。

「シャワー浴びるからさ。朝御飯と着替えくらいは用意してくれるよね」

ミリアはそう言うと、不貞腐れたようにカメラレンズの前から踵を返す。
部屋の中を数メートル歩き、もう一つの扉を開けると、中には縦横五メートル程度の部屋があった。
小さなユニットバスと洋式便器が、ぽつんと寂しげに置かれている浴室だ。

「……誰か聞いてる?」

念の為に無人の浴室に向かって聞く。

「もちろん聞こえてるよ。
 残念ながら、人権上の問題から浴室にカメラは無いけどね」

返って来ると思わなかった応答は、直ぐ横の壁から流れて来た。
ミリアが音源に目を向けると、タイルと同色のスピーカーが壁に埋め込まれている。

「気持ち悪……」

見えざるヴェクスに悪態を吐くと、ミリアは汗や霧や戦豹の疑似体液を吸って汚れた服を脱ぐ。
程なく、広い浴室にはシャワー音が響き始めた。

540巡検司書アルサラム ◆FarahLxH6M:2015/08/09(日) 05:02:13 ID:x5JjfWiU0
図書国家バニブル・東ソプト区。
此処の図書保管センターは、バニブルの中でも特に現代的な印象を持つ。
金属製の書架は高い天井まで伸び、それは余りにも整然としていて、コンピューターの内部構造を思わせた。
館内は情報技術化が進められていて、本の貸し出しは蔵書検索や予約が行える機械を使い、返却は返却用のポストに投函する。
慣れた者ならば、カウンターの司書と顔を合わせずとも本を借りる事が可能だ。
改修や増築の容易い地上階層は、このように最新設備が整えられている。
そして、この先進化の著しい空間には不似合いな人物が二人、入口の辺りで佇んでいた。

「イアハート調査司書、此処から王の執務室に向かうのか」

アルサラムが隣に立つ女、ヴォルアナ・ヴァルン・イアハートに聞く。
彼女はラクサズの紹介で手配された案内人で、ダァトこと、フラター・エメトとの面会許可を持つ数少ない人物だ。
結婚してからは東ソプト区に居住し、家庭に入っていたのだが、少し前に調査司書の身分を得ている。

「ううん、地下書庫を一階ずつ突破する必要は無いわ。
 私はフラター王から転送の魔力を持つ霊符を頂いてるから、一気に執務室のフロアまで行けるの」

ヴァルンは得意げに答えた。
彼女の恰好は国章の刺繍を入れた赤いドレスと黒いコート。絹のベルト。頭部には白いヴェール。
アルサラムの方はバニブルの国章を刺繍された黒い丈長のコートとロングブーツで、暗赤色のベルトには儀礼短剣を吊るす。
いずれも古い時代の装いで、中世期から迷い込んで来たかのような印象を抱かせる。
無論、この時代錯誤の服装はフラター・エメトとの謁見に備えた礼装だ。

「そうか……頼む身分で悪いが急いで貰いたい所だ。
 俺は邪悪な存在を討つ為、一刻も早くアイン・ソフ・オウルの域にまで届く力を得なければならない」

「邪悪な存在?」

「魅了の魔力を使う魔女だ。
 他人の心を捻じ曲げ、自由意思を奪い、都合良く動かしては、労せずに上澄みだけを掬う」

「な、なんて女なの! それは許せないわねッ」

ヴァルンは魔術で夫の心を奪われた苦い経験を持つ事から、我が身の災難を重ね、我が事のように憤った。

「ああ、必ず罪の清算をさせねばならない。
 犯した罪には、相応しいだけの罰を」

「そうね、頑張って!
 イストリア条約では精神操作の刑罰は禁固三年以下で、規模が広くて封じる手段も無ければ終身刑も有り。
 操られた被害者が犯した罪も、基本的には術者へ加算。
 他者の精神を変容させて、自らの犯罪を実現した者は間接正犯となる。
 ただし、裁判で犯罪防止や自己防衛に使った事を示せれば、罰金刑で済む可能性もある……だったかしら」

「刑法について語るつもりは無い。
 王に謁見する必要性を納得して貰ったのなら、迅速に転送の準備を」

「ええ、分かったわ、アルサラム……って呼んでいいの?
 それとも、アゼルファージ司書って呼んだ方が良かったりする?」

「好きに呼んでくれ」

「それじゃ、貴方の事はアルサラムって呼ぶわ。
 私の事はヴァルンでお願い。
 アルサラムの準備が出来てるのなら、直ぐにでもフラター王の元へ行きましょう。
 少しだけ変わった見た目をしてるけど、くれぐれも非礼の無いようにね――――ペテ・エスタイ」

ヴァルンが魔力が込められた符を取り出すと、起動呪語を舌に乗せる。
次の瞬間、二人の姿は陽炎の如く掻き消え、一瞬きの間に地下深くの階層まで到達した。

541enchanter ◆FarahLxH6M:2015/08/09(日) 05:12:10 ID:x5JjfWiU0
書き手の世界構造に関する知識が不十分な段階で、限りなく全知に近いダァトと接触させれば基本設定との齟齬が出かねない。
拠って、本編の設定を整理して書き手の認識を再確認しておく。

◆世界の歪みに関して
造物主はネバーアースを創造した後は永遠に去り、一切の干渉をせず、観測者としてのみ存在している。
しかし、管理者の存在しない世界群体には歪みが生まれる。
最初の異変として、異質で強大な力を持つ個体が誕生した。
それこそが、原初のアイン・ソフ・オウルたる枢要罪と八大竜王。
彼らは世界の覇権を掛けて争い、戦いの果てに魂を散華させて互いを根絶し合った……とされる。
その際に生まれた世界の歪みが、アイン・ソフ・オウルとしての力を覚醒させる理由となっている様だ。
大いなる厄災が近づくに連れてアイン・ソフ・オウルの強大化や発生が起きるのも、世界の歪さが増しているから、で説明がつく。

◆アイン・ソフ・オウルへの覚醒について
設定には、世界の歪みがアイン・ソフ・オウルとしての力を覚醒させる理由となっている様だ、とある。
また、世界自身の防衛機構が世界の歪みを平定するべくアイン・ソフ・オウルを生み出す、とも。

1.人口過剰な地域や強大なアイン・ソフ・オウルが存在する空間は、世界の器に掛かる負担も高く、歪みも発生しやすいと仮定する。
2.アイン・ソフ・オウルが感情で世界を歪める存在である以上、強い意志と感情を覚醒の起点としても不自然ではなさそうでもある。
3.無論だが、感情の強度だけを覚醒の条件にしては、アイン・ソフ・オウルでない一般人は強い感情を持たない事になってしまう。
 (強い感情を持った時点で、誰でもアイン・ソフ・オウルになってしまう訳はないので)
4.世界の歪みが発生する場所で使命感や殺意、生命への危機感などの強い感情を持つこと……が覚醒条件の候補と考えられる。
5.大量の魂(世界)を取り込む、という方法でも自分だけの世界の規模を大きく出来そうではある。
6.前提からして間違っていた場合、以上の仮説は全て崩れ去る。
7.小宇宙《コスモ》を燃やせ。

542装幀司書ヴェクス ◆xNodesigng:2015/08/13(木) 04:58:48 ID:n/j7HWKE0
ミリアが浴室に消え、監視用モニターに映るのは無機質な部屋だけとなった。
浴室とトイレにはカメラを設置されていないので、ミリアの様子も音でしか分からない。

「警備官殿。
 アクノス市警に連絡して医師団の全員を拘束できますか?」

ヴェクスはスピーカーでシャワー音を聞きながら、ウィムジーに話しかけた。

「アクノスに向かった医者の中にスパイがいるってことか、魔術師」

警察関係者だけあって、ウィムジーも相手の真意に気付いたようだ。

「ええ、聖堂騎士を三主教に引き渡すと言った時、彼女の表情には余裕が見えました。
 つまり、聖堂騎士が三主教の管理下に移される状況も、さして都合が悪くない。
 要するに外部協力者が存在するのでしょう。
 ミリアの魔力で魅了され、手先として動くものがね。
 おそらく、それは聖堂騎士を拘束している医師団か、引き渡される先の教皇庁の中にいる」

ミリアの反応を観察していたヴェクスは、彼女の表情に嘲笑うような余裕を感じていた。
魔術師も警備官も、世慣れていないミリアが簡単に出し抜けるほど甘い相手ではない。
それなりの洞察力を持ち、相手の出方を考え、手を打つという当然の事を行う。

「なるほど、話は通しておこう。
 上にも管轄が違うなどとは言わせん。
 しかしな、三主教の方はうちでも手が出せんぞ。
 教皇庁に要請して動いてもらわんと、どうにもなるまい」

「すぐに対処して貰いたい所ですが、確実に信頼できる相手を選んで話さなければ、悪化しかねないのが難点ですね。
 聖堂騎士の一人を魅了した事実がある以上、精神汚染の規模も思ったより広がっているかも知れませんし。
 ミリアがエヴァンジェルに滞在した時間を鑑みると、魅了被害者は最大で数十から百人以上の規模と考えるのが妥当かな。
 そこまで魔力が持つかという問題は、厄災の種が解決する」

「ううむ……信奉者が数十から百人か。
 ちょっとしたカルト教団だな。
 魔術ってのは、つくづく厄介なもんだ」

警備官は苦虫を噛み潰したような表情で吐き捨てる。

「確かに魅了は厄介な力ですが、あの女が持つ最強のカードじゃないでしょうね」

「ふゥむ、もっと厄介なもんといやぁ、さっきの植物みたいな結界か?
 普通の魔術じゃ破れんとか言っとったしな」

「あれも堅牢な障壁だとは思いますが、違いますね。
 いや、違う事もないかな?」

「おいおい、どっちなんだ」

「じゃあ、正解としておきましょうか。
 僕は、あの光の結界が、強固な意志や強い感情が生む副産物ではないかと推測してまして。
 心の壁というか、境界というか……要するに他者の価値観を拒み、己の常識を守る精神の具現ではないかとね。
 感情で世界を歪める存在について考えていたら、ふとそんなインスピレーションが湧いたんです」

「つまり、結界を作るような強い意志や感情が、一番強いカードってぇ事か?」

「ミリアに関しては、死んだ父親の理想を叶えようという意志、なのでしょう。
 彼女が事件を起こした動機にして、あらゆる不法を正当化する免罪符でもある。
 これを叩き潰さなければ、おそらく事件は解決しない。
 ですが、リンセル・ステンシィの命で揺らいだ程度の意志ですから、不落の要塞という訳でもないはず。
 希望的観測ではありますがね」

543装幀司書ヴェクス ◆xNodesigng:2015/08/13(木) 05:00:01 ID:n/j7HWKE0
ミリアには、淡いピンク色の病衣が着替えとして用意された。
反省の意を見せずとも、血のようなものがベットリ付いた服を着続けろとは言えない。
服の替えを運ぶのは、看護の意味を持つ自動搬送ロボット“プロセドリアー”だ。
看護婦を模した人型の機械だが、妙にアニメチックな造形である。
長い金髪と碧い瞳、不必要なまでのプロポーションの良さを持ち、気のせいか星の巫女にも似ていた。

「……まぁ、何とも言えないデザインだ」

検査室に置かれた機械人形を見て、異郷の魔術師は呆れたように言う。
如何に高性能医療機器でも、見た目が等身大のアニメフィギアでは異様な印象も否めない。
ドイナカ村の警備官も同意したように頷く。

「多分、院長の奴の趣味だろう。
 そう言えば、車に同じような絵を描いとる奴もおったな。
 痛車とか何とか言っとったが……何を考えとるやら。
 あぁ、俺は役場の様子を見てくるから此処は頼んでいいか」

「ええ、何かあったら連絡しますよ。
 何も無ければ、それに越した事はありませんが。
 三主教の方は此方の上司に連絡しますので、御案じなく」

ウィムジーが出てから数分後。
プラスチックのバスケットにタオルと服を詰めたプロセドリアーが、病棟の廊下を歩いてゆく。
人工知能の発達で近年の医療ロボットは生物の感情を認識し、高い判断能力を持つ。
細かい指示を下さずとも、大抵の事はやってくれるのだ。
頭の螺子が外れた相手でも、精神を擦り減らさないで会話出来る点から、特異病棟では特に重宝されている。

(千年前には付与魔術師しか為しえなかった神秘を、いとも容易く大衆が操る。
 まったく、堪ったものじゃないね)

現代の付与魔術師は浴室の前で佇む機械人形を見て、そんな感想を抱いた。
実際、ここ数百年の機械工学は進歩が目覚ましく、高度な人工知性を持つ機械も先進国では珍しくない。
例えばインペリア。彼の完全管理都市は機械を国家元首として戴き、市民を統治させている。

(機械が人の上に立つ光景なんか、ラクサズが見たら憤激しそうだ。
 ああ……教皇庁の内部にミリアの手先がいるかも知れない件は、今の内に連絡しておくか)

ヴェクスは魔術通信具を使って、ラクサズに必要事項を伝える。
それは手短で、プロセドリアーが浴室前の扉で佇む頃には終わっていた。

「ミリア君、着替えとタオルを用意したよ。
 浴室の外で看護用のロボットに持たせてるから、シャワーを済ませたら受け取ってくれ。
 ところで……まさか、シャワー音に紛れて壁なんか掘ってないよね?」

スピーカーで着替えの用意が整った事を伝えつつ、策謀の有無も問う
ミリアは魔力減衰帯でも魔術を使えるので、他人に悟られぬ時間を利用して何かしている可能性はあった。
強化魔術の使い手なら、爪を硬化させて壁を削るくらいは可能なはずだ。

「一応言っておくけど、他の部屋や廊下にもセンサーを備えた監視カメラがあるから。
 気づかれずに抜け出すのは不可能だよ」

内心では杞憂と思っていたが、それでもヴェクスは警告を行う。

(……機械人形の瞳にも監視カメラはある。念の為に起動させておくか)

プロセドリアーの撮影機能が起動して、管理室のモニター画面に撮影中の映像が転送された
今、重要視すべきなのはミリアの人権より、事件の解決だ。
だから、ヴェクスに疚しい気持ちは無い。おそらく。

544ミリア ◆NHMho/TA8Q:2015/08/20(木) 07:07:44 ID:O2xX6Z/U0
ミリアがシャワーを浴びていると、浴室のスピーカーから声が聞こえて来た。
コンクリート壁の掘削に励んでないかというヴェクスの確認だ。

「……別に壁なんか掘ってないけ、ど――――」

ミリアは向けられた疑いに文句を返しつつ、浴室の扉を少し開け、顔だけで外を覗き込む。
目の前には、アニメ調の等身大フィギアが静かに佇んでいた。
この場合、表情を強張らせて絶句するのは当然の反応かも知れない。

「――――何これ?」

尤もな疑問がミリアの口を衝く。
その疑問に答えるのは、金髪碧眼で真っ白なナース服を着た人形自身だ。

「初めまして、私は自律型の医療支援ロボット、プロセドリアー、です。
 あなたの、名前は、何ですか?」

高音の合成音声には抑揚がついていて、挨拶にも感情らしきものが表現されていた。
笑顔のつもりなのか、瞼が閉じ、それに合わせて口元も緩やかな弧を描く。
技術の高さを感じさせる仕草だが、やや不気味だ。

「……ミリア、だけど」

あからさまに警戒したまま、ミリアは恐る恐る自らの名を名乗る。
本当に自分へ向かって話し掛けて来たのか、確かめるように。

「ミリア、さん、ですね。
 タオルと、お着替えを、用意いたしましたので、どうぞ、着替えてください」

人型の看護用ロボットが、着替えの入ったバスケットを床に置く。
ミリアに用意されたのは、ピンク色で足首まであるワンピースの病院着だ。
外を歩き回るには目立つ恰好だが、血塗れにしか見えない服よりはマシではある。

「そ、そう、ありがと……」

「どう、いたしまして。
 もし宜しければ、着替えの、お手伝いを、致しましょうか?」

明るい調子の音声で介助を申し出るロボットだが、ミリアは首を振った。

「生憎だけど、アタシは介助が必要な重病人じゃないの。
 それくらい一人で出来るから、着替えの手伝いもいらない」

「それは、失礼いたしました。
 他に何か、御用はありませんか? ミリア、さん」

「あっ、あー……それなら電気シェーバーってある? 無ければ剃刀でもいいんだけど……」

ミリアは躊躇いがちに要求する。
一昨日辺りから暫く剃っていない箇所が衣擦れして、激しく動く度に気になっていたのだ。
出来れば早く剃って、元の滑らかな状態に戻したかった。

「電気シェーバー、ですね。
 もしかして、ムダ毛の処理、ではありませんか?
 デリケートゾーンは、皮膚が弱く、自己処理も、難しい場所です。
 毛の埋没や、色素沈着、毛嚢炎のトラブルが多い箇所ですから、自己処理は、オススメしません。
 宜しければ、私がお手伝い致しましょうか?」

プロセドリアーが背中に手を回して、電気シェーバーとジェルの容器を取り出す。
直ぐに電気シェーバーのスイッチを入れたようで、ヴヴヴヴヴ……と低い電動音が鳴る。

545ミリア ◆NHMho/TA8Q:2015/08/20(木) 07:08:32 ID:O2xX6Z/U0
「……そ、その前に。
 さっき自律型って言ってたけど、アンタの中に誰かが入ってるって事は無い? 着ぐるみみたいに」

この等身大フィギアらしきものが、スーツアクターである可能性を考えてミリアは聞いた。
イストリアでもエヴァンジェルでも、自律型の機械は一般的でない。
馴染みの薄いものに対して疑いを持つのは、無理からぬことだ。
他人に局部を見られるのは嫌だという、人として当然な理由もある。

「私の中には、誰もいません。証拠を、お見せします」

プロセドリアーは手首を取り外して、開口部からコードや精密部品が内蔵される内部構造を突き付けた。
続いて己の看護婦用の服を捲り、腹部に医療器具や衛生用品が収納されている様も。
ミリアも感心したように内部を覗き込む。

「へー……ロボットってのは本当だったみたいだね。
 で、アンタは自我とか感情はあるの?」

「はい、あります。
 私たちは、感情認識/生成プログラムを、搭載しています。
 近くに、信頼出来る人がいれば、安心しますし、暗くなると、不安になります」

「ほんと?」

「信じて頂けなくて、残念です」

疑いの眼差しを向けられ、プロセドリアーは悲しげなトーンで言葉を返す。
しかし、悲しげな反応を返したからと言って、感情を持っているという証左にはならない。

「裸見られると恥ずかしい、とか思ったりする?」

「いいえ、私たちに、羞恥心は、ありません。
 ですが、社会のルールに、反するので、無闇に裸になるような事も、ありません」

「ふーん……そこら辺は、やっぱり機械って事か。
 患者の下の処理もするのなら当然だろうけど。
 ま、こっちも恥ずかしがる事ないみたいだし、やって貰おうかな」

ミリアは看護用のロボットを浴室に招き入れる。
先ほどの言葉通り、室内を見ても魔術を利用して壁を破壊したような跡は見つからない。
ミリア自身はと言えば、素裸のままで、シャワーで上気した肌には微かに赤みが差している。
上から順に眺めれば、腰まで垂らした濡れた髪。豊かな胸と桜色の乳首。
柔らかな曲線を描く肉体。薄青の茂み。程よい肉付きの足……そんなものが見える。

546ミリア ◆NHMho/TA8Q:2015/08/20(木) 07:09:05 ID:O2xX6Z/U0
ミリアは浴室の床に座って両足を大きく開く。
プロセドリアーも跪き、電気シェーバーを持ったままミリアの局部に顔を近づける。
人が相手なら恥ずかしい体勢だが、所詮は機械相手だ。
ゴム手袋を嵌めた指先で下腹部に万遍なくシェービングジェルを塗られても、比較的恥ずかしさは少ない。
しかし、繊細な部分に慣れない刺激を受ければ声は漏れる。

「ん……っ」

「痛い、ですか?」

「痛くは無いけど、変な感じ。
 足の裏を自分で撫でても何ともないのに、他人に触られるとくすぐったくて仕方ないようなものだと思う」

「他人に足の裏を触られると、とても、くすぐったいんですね、覚えました。
 それでは、ミリアさんの、ムダ毛を剃ります。
 危ないですから、出来るだけ、動かないでください」

「分かってるよ」

機械人形はミリアの肌を指で引き伸ばすと、電気シェーバーを当てて短い毛を刈り取ってゆく。
これ一つで、どんな部位や状態にも対応出来る最新機器なので、ザラザラとした剃り跡なども残らない。

「痛みは、ありませんか?」

鋭利な刃がミリアの肌の上を滑ってゆく。
少しずつ上の方から毛を剃られ、その後を蒸しタオルで拭き取られる。
機械なので丁寧にやってくれるが、皮膚の薄い箇所に近づくと緊張するのは否めない。

「……だ、大丈夫。
 ところでアンタさ、リンセル・ステンシィって患者の居場所を知らない?
 昏睡のまま寝たっきりだから、もしかしたら看護した事あるんじゃないかと思ったんだけど」

ミリアは自分の両足の間で作業する相手に囁く。
声を潜めたのはヴェクスに聞かれたくないからだが、どのみち機械人形の瞳も耳もモニター室に通じているので意味は無い。
無論、今の様子を撮影されている事など、ミリアの与り知らない事だが……。

「済みませんが、患者さんの個人情報は、お教えできません」

トーンを落とした相手の答えにミリアも溜め息を吐く。
相手がロボットでは、脅しても賺しても望む答えを引き出せるとは思えなかった。

「そっか……。
 ま、期待はしてなかったから良いけどね」

ミリアは何度か体勢を変えさせられつつ、下腹部の毛を刈られてゆく。
程なくして、青い草原も更地に戻った。

「終わりました、ミリアさん」

「まあまあかな、ありがと」

剃り跡を撫でたミリアは、肌の滑らかさを確認すると礼を述べた。

547ミリア ◆NHMho/TA8Q:2015/08/20(木) 07:09:24 ID:O2xX6Z/U0
機械人形も笑顔を模した表情を作る。

「どういたしまして。
 また御用がありましたら、御遠慮なく、申し付けてください」

「……それなら、一つ質問。
 アンタって口から水分を摂取したら壊れる?」

「防水加工が、されていますので、平気です」

「そっか。
 なら問題ないね」

ミリアは医療用ロボットの頭を抱き寄せ、その唇に濡れた舌を差し込む。
人の感情を理解するようなものなら、魅了で精神に影響を及ぼせないかと考えたのだ。
これを操って利用すれば、外界に干渉できるかも知れないと。

「乱暴は、止めて、下さァい」

人工音声が困惑の色を帯び、心持ち非難がましいものに変わった。
しかし、ミリアは機械人形の頭部を両手で押さえつけ、ゴムのような感触の舌を舐め回す。

「これは乱暴じゃなくて、親愛の証だよ。
 主に人同士でするもんだけどね」

「キス、ですね」

「そうだよ、キス。
 で、キスされて何かアンタの感情に変化は無い?」

「困惑を、隠せません」

結果から言えば、ミリアの行為は全くの無駄に終わった。
魅了の魔力は無機物に効かない、という検証結果を得ただけだ。
特異病棟で医療用の自律機械が使われるのは、精神に干渉されないからなので、少し考えれば自明の事である。

「……クソッ、やっぱりダメか」

試みが期待外れに終わり、他に打てる手も考え付かない以上、後は普通に収監されているしかない。
ミリアは浴室の中で着替えると、病室兼監獄に戻った。
一連の行為が筒抜けである事など、思いも寄らず。

548医療司書コーデファー ◆COTONz2BNI:2015/08/28(金) 20:55:34 ID:jldd9I/I0
アクノスの病院に搬送された翌日、コーデファーは漸く意識を取り戻す。
昨日こそ瀕死の彼女ではあったが、今は腹部の裂傷も完全に消え去り、肌は白磁の美しさを取り戻していた。
傷の快癒は医師の手際に起因するものではなく、コーデファーが常に装着する首飾りの魔力だ。

「……ん、ぁ?」

医療司書は瞼を開けると、まず見覚えのない六人部屋の病室に困惑した。
窓を眺めると高層ビルと高架で描かれた風景が嵌まっていて、明らかにドイナカ村ではない。
困惑しつつもコーデファーがナースコールを掛けると、直ぐにアデライドが駆け付けた。

「看護婦、此処は何処」

「アクノス、第一号、中央精神医学研究施設、ヘルメース、附属病院」

「アクノス州の病院……とりあえず、今の状況を教えなさい」

コーデファーはアデライドに聞き返す。
実際、眠っている間に致命傷を受け、移動させられ、知らぬ間に完治していた彼女は状況がよく分からない。

「了解、説明開始」

アデライドの説明で、コーデファーが知った事は以下の通り。
まずはアルサラムの魔術で眠らされ、アレクサンデルごと攻撃を受けて死にかけた事。
元凶のミリアは拘留されたものの依然として危険な存在であり、警察の手に負えるかは怪しい事。
彼女による被害の拡大を想定して、患者たちを転院させ、ドイナカ村も警戒区域に指定された事。
ミリアの異常な魔力に対抗する為、アルサラムとエクレラはバニブルに戻り、病院では最小限の人員が事後処理に当たっている事。
その他はリンセルが隣のベッド、アレクサンデルが隔離病棟に運ばれた事くらいだ。

「――――アルサラム! 恐ろしく愚劣で野蛮な男ね! わたしごと殺そうとするなんて!」

コーデファーは怒りで顔を歪めた。
実際、金属杭で体を貫かれたのだから彼女の怒りも正当なものだとは言える。

「激怒厳禁、安静必要」

「そんなこと分かってるわ……!」

コーデファーは怒りの収まらない様子で言い返す。
目の前にアルサラムがいれば、そのまま聞くに堪えないような悪口雑言を吐く所だが、看護婦相手に怒った所で無益。
すぐに冷静さを取り戻すと、今聞いたばかりの話を脳内で反芻し始めた。

(あの女、ミリアは魅了しただけではなかったのだわ。
 まだ何か……別種の作用を持つ力を隠し持ってる。
 きっと、それがリンセル・ステンシィの延命の原因ね。
 魔槌を防いだ不可思議な光を作り出したのは、体内に埋め込んだとかいう魔術具?
 少なくとも、意志を持ってる物が体の中にあるのは間違いないはず……)

優先すべきは、自己を劣化させない技術を完成させ、完全な不老不死を成就させる事。
その為にはリンセルではなく、不可思議な現象の源に近い存在こそを調べなければならない。

「看護婦、電話を用意して」

549医療司書コーデファー ◆COTONz2BNI:2015/08/28(金) 20:56:50 ID:jldd9I/I0
ヴェクスからの応答を待つ間、コーデファーはふと疑問を浮かべた。
なぜ、自分は不老不死を欲するようになったのかと。
しかし、幾ら思索の糸を手繰り寄せても、端緒となる記憶を引き寄せる事が出来ない。
おそらくは、若化の際に脳内から失われてしまった情報なのだろう。

(……別に思い出せなくたって問題ないわ。
 死は生物として最大の苦痛だから、最大限の努力で避けようとしても不自然ではないもの)

「電話、準備完了」

程なく、看護婦が携帯電話を持って来た。
既に通話状態で、耳元へ持っていくと五秒も経たずにヴェクスの白々しい声が聞こえて来る。

「無事なようで嬉しいよ、コトン。
 僕も勇気を奮って、君を救った甲斐があるってものだ」

「失点を嫌っただけのくせして恩着せがましいわね。
 で、もうあの女の尋問はしたの?
 ミリアが体内に隠し持つ魔術具は何? あれが謎の光の原因?」

「臨時職員とはいえ、今の僕は警察の一員。
 捜査情報にも、一応の守秘義務があるんだけどね」

「そんなこと、どうだっていいわ。
 どうせ、ラクサズだか誰だかの意で動いてるんでしょう?
 彼は未知の力について知りたい。わたしは未知の力を調べたい。
 お互いの利益になるのに、何か不都合があって?」

受話器の向こうから苦笑の気配。

「例えば、僕が正体不明の飴を持っているとしよう。
 綺麗で美味しそうに見えるが、製造メーカーも原材料も分からない飴をね。
 これが食べられるかどうかは知りたいが、そのまま食べるのも不安だ。
 非常に美味しいかも知れないけど、特定の種族には猛毒って場合もあるからね。
 しかし、成分を調べさせる相手として、飴玉を見て瞳を輝かせる子供ってのは不安が否めない」

「無駄に回りくどい物言いって本当に腹が立つわ……死ねばいいのに。
 要するに、わたしがあの女に魅了されてないかを疑ってるの? それなら無駄な心配。
 人の形をしただけの害虫に、愛情なんて微塵も湧かないから」

「かも知れないが、とりあえず治療に専念した方が良い」

「治癒の首飾りを付けてるから、一日も経ってればもう大丈夫。
 身体が動くのに、黙って寝てるつもりなんか無いわ。
 わたし、時間の浪費って大っ嫌いなの」

「君の主義はともかく、猛牛も闘牛場へ追い込んだだけで、鎖で拘束したわけじゃない。
 闘牛士に頑張って貰わなくちゃ、とてもじゃないけど美味しく食べられないよ」

「まったく、情けない話ね。
 付与魔術師の名門たちが、二十年も生きてないような女に手も足も出ないなんて」

「世の中の広さを知るね。
 央漢の故事で、井底の蛙とか言ったかな」

コーデファーとヴェクスが電話越しの会話を続ける中、二人の人物が静かに病室へ入って来た。
黒いスーツの上にロングコートを羽織った青年と、紺色のスーツを着た十八くらいの女。
どちらも医者ではなく、患者に面会するといった雰囲気でもない。
彼らは地区警察からの要請で動いた連邦刑事局の刑事だ。

550医療司書コーデファー ◆COTONz2BNI:2015/08/28(金) 20:58:52 ID:jldd9I/I0
現在、この病室には六人の女性が入院している。
彼女たちの視線も一斉に闖入者へ集まったが、謹厳そうな青年は気にした風もなく、アデライドへ近づく。

「失礼、ローカルナ州から来た看護婦ですね。
 私は連邦刑事局のクラウス・ロットナー。
 ドイナカ村の事件について、詳しく事情を知りたいので同行願えますか」

ロットナーと名乗る刑事は警察手帳を掲げつつ、硬い声でアデライドに同行を要請した。

「確認、任意同行」

「任意だが、起きた事件の重大性を考えて協力して頂きたい」

任意と言いつつ、ロットナーは有無など言わせない。
彼らの目的は、ミリアに魅了されている可能性を持つ人物全員の拘留なのだから当然だ。

「了承」

アデライドは即答で同行を応諾した。
感情の動きが少ない顔からは、事件について検討したかまでは窺い知れなかったが。
続いて、ロットナーの視線は病室の新参者へ向けられた。

「そちらは医療司書のコーデファーさんかな」

「何? 警察への任意同行ならお断りよ。
 わたし、大怪我したばかりで今日はベッドから一歩も動けそうにないの」

もちろん嘘だ。

「先程、体は動くと聞こえたが」

刑事に嘘は通用しなかった。

「……立ち聞きしてたの?」

「偶然、聞こえまして。
 体が動くなら、捜査協力をお願いしたい」

「もしかして、あなたもわたしが洗脳されてないか疑ってる?
 あんな女に誑かされたって思われるのは心外だわ」

「精神魔術の厄介な点は、影響を受けているか否かを即座に判別出来ない事でね。
 検査でオールグリーンと出るまでは隔離させて貰いたい。
 とは言え、さして時間は取られないでしょう。
 未知の魔力は検知出来ずとも、嘘や偽証の判別は此処でも出来るそうですから」

刑事たちは病院に来て三時間も経たず、ドイナカ村から来た全員を隔離病棟へと送り込んだ。
そこで、心理分析ソフトと精神波測定を利用して、尋問と虚偽判定が行われる。

結果は、その日の内に出た。
医師団の一人、ヨードル・アークジーンが見事に引っ掛かったのだ。
彼は逃走を図ったものの、ロットナーに軽く捻られて捻挫を受け、そのまま隔離病棟へ拘禁された。
これでヨードルが教皇庁への連絡を遅らせ、アレクサンデルの解放を目論んでいた事も判明する。

警察の動きは速い。
同日、ルーラルダ連邦刑事局から教皇庁へ連絡が入り、アレクサンデルが精神操作を受けている事実も伝えられた。
エヴァンジェルの治安維持を司る都護聖省も、提供された情報を元にロルサンジュへ聖堂騎士を派遣。
しかし、ステンシィ夫妻への事情聴取は適わずに終わる。
ベーカリーに訪れた聖堂騎士アリアード・レーシャルは、明りの無い店舗に臨時休業の張り紙を見つけただけだった。

551装幀司書ヴェクス ◆xNodesigng:2015/09/03(木) 22:39:24 ID:jhx5I9Ow0
舞台は再びドイナカ村の病院に戻る。
管理室のヴェクスは、モニターでミリアの様子を眺めていた。
現在、病室と廊下との境界には、破壊された鉄扉の代わりにkee poutと書かれたテープが張られている。
破るのは容易いテープではあっても、一応は障壁としての役割を果たしているようだった。
入浴後のミリアも暇を持て余すように寝転がり、監獄として定めた範囲からは出ない。
焦燥も緊張感も見せないのは、魅了したヨードルの動きを待っているからだろう。

しかし、ミリアの元に朗報など来ない。
彼女の尖兵は既に拘束されたのだから。
無論、ヴェクスも懇切丁寧に経緯を教えるつもりなど無い。
自分の試みが順調に進んでいると夢想させていれば、ミリアも動かないと考えて。
怠惰に寝そべる囚人を監視しつつ、看守の方は先程の映像に効果的な使い道が無いか検討していた。

(さて、この自殺案件の映像はどうすべきか。
 脅迫で動きを封じられればいいが、逆上して後先考えずに暴れられても堪らない。
 いや、そもそもリベンジポルノの真似事をすれば、地区警察に手を貸したバニブルまで名声を地に落とす。
 証拠が残るような方法で脅すのは好ましくないな)

ヴェクスは何かを思いついたようで、電話を掛けるべくタブレット端末を手に取り、指先を動かす。
彼は通話先の相手に幾つかの魔術具を送付するよう依頼し、程なく要件を終えて電話を切った。
続いて、コーデファーの検査が終わった頃を見計らい、アクノスにも電話を掛ける。

「やあ、コトン」

猫撫で声に生理的な嫌悪感を抱き、コーデファーは無言で通話を切った。
しかし、ヴェクスはあからさまな拒絶に引き下がることなく、即座に電話を掛け直す。

「いきなり電話を切るなんて酷いなぁ。
 そう邪険にしないでよ」

「わたし、何時間も検査を受けたばかりで疲れてるの。
 少しは気遣いなさい。
 ……で、何の用?」

コーデファーは面倒臭そうに言った。

「報復の絞首紐《リプリサル・ギャロット》を送るから、リンセル・ステンシィに装着させて欲しい」

「あれを保険にするつもり?
 其処まで外道な手段を使うっていうのも情けないわね」

「悪魔と戦う時は、悪魔よりも悪魔的にならねばならないって言うだろう。
 ともあれ、ブラフよりは実行性のある方が良い。
 まあ、世の中の為だからセーフじゃないかな」

「理念のためなら不法も正当化されるって論理、あの女も使ってなかった?」

「もちろん、使ってたよ。
 あらゆる侵略行為は、目的で手段の正当性を担保するものだからね。
 まあ、彼女の主張は裁判で聞くとして、まずはそれが可能な状況を作るのが肝要だ。
 罪を問う奴がいれば、そいつにミリアの管理をさせたい」

「まぁ、いいわ。
 せいぜい、お得意の口先で宥め賺して自暴自棄にさせないことね。
 それと、其方に覧界視が置きっぱなしになってるから、すぐに此方へ送って頂戴」

突き放した様子で言うと、コーデファーが通話を切る。
用を終えたヴェクスがモニターに目を移せば、医療用ロボットが病棟に夕食を運んでいた。
時刻も夜に差し掛かったのだろう。

552巡検司書アルサラム ◆FarahLxH6M:2015/09/05(土) 20:50:45 ID:Aa/MmyRA0
図書国家バニブルの地下書庫、その深層。
無数の書架が林立する闇の迷宮に力強い濁声が響く。

「ホンマに来よったか!
 あの婆はんに見せられた通りの奴やな」

「ダァト……ではないな。誰だ」

アルサラムは不審に思い、書物の森に向かって誰何を響かせた。
それに応えて、一人の男が本棚の影から現れる。
真っ黒な髪で類人猿を思わせる強面、齢は三十を超えた程度のようだが、明確な国籍や人種は不明。
黒いスーツを着て、サングラスを掛け、右手で黒い宝玉――――厄災の種を弄んでいる。

「ワシは蜘蛛《スパイダー》」

「喋る虫とは珍しいな」

「アホ、蜘蛛が喋るか!
 蜘蛛は通り名や! 通り名! 本業は探偵!」

即座の訂正が飛ぶ。
蜘蛛《スパイダー》を自称する男は、バニブル市街に居を構える私立探偵であり、ヴァルンが面識を持つ相手だ。
当然ながら、ヴァルンも見知った相手の存在に気付く。

「マサトシ! なんでこんな所に居るの!?」

ヴァルンが素っ頓狂な声で驚く。
彼女が呼んだマサトシというのが、探偵の名前なのだろう。
言葉の響きは極東の一部で見られるものだが、彼が東大陸の出身なのかは誰も知らない。

「ヴァルンの知り合いか」

アルサラムは同行者に確認を取る。

「うん、ハー君が魔術で操られた時、弟子入りしようとした私立探偵」

ヴァルンの他己紹介に男も、そやそやと言いながら頷いた。

「それで、市井の探偵が何の用だ」

アルサラムは改めて相手の目的を問う。
謎めいた第一声からして、此方に用事があるのは間違いない。

「あァ……兄さん。
 悪いが、こっから先は進まんといてぇや」

進路の妨害は想定していたものだった。
現在、不安定なバニブルの政局を掻き乱すべく、どの派閥が暗躍していても不思議ではない。
アルサラムは眉を跳ね上げ、声音の温度を一段下げる。

「貴様の雇い主は、国家司書の地位を狙うラクサズの政敵といった所か」

「政敵ぃ? ちゃうちゃう。
 ワシの依頼人は、イシュタルって占い師の婆はんや。
 ざっと調べた限り、バニブルの政治家や官僚との繋がりはあらへんな」

蜘蛛《スパイダー》はニヤッと笑い、掌を横に振って否定のジェスチャー。

「では、横槍を入れる理由は占い師の戯言か」

553巡検司書アルサラム ◆FarahLxH6M:2015/09/05(土) 20:52:50 ID:Aa/MmyRA0
「まぁ、そうやな。
 フェネクス虐殺の前日辺りやったか?
 ラングルード地区で大陥没が起きたのは覚えとるやろ」

「忘れる訳がない」

私立探偵の言う大陥没とは、バニブルのラングルード地区で起きた、類を見ない程に大規模な崩落現象である。
被害は地階数十層にまで達し、倒壊した建物や負傷者・行方不明者は数知れず、影響範囲も100平方キロ近くに及ぶ。
原因こそ調査中だが、近衛隊長ハーラルの報告からバニブル政府が推測するのは容易だった。
地下書庫の底にはダァト――――建国王フラター・エメトの手で強大な禍物が封じられていると言う。
その封印に綻びが生じたか、或いは解けてしまったと考えるのが自然だ。

「兄さんが行こうってしとる所は、枢要罪“憤怒”に最も近い場所でな。
 先の大陥没も、そいつの力の一端が吹き出ただけぇって話や」

「それと俺に何の関係がある」

「で、だ――――その“憤怒”と兄さんは属性や相性が近いらしい。
 つまり、禍物から影響を受けて、そっち側に染まられちゃ困るって話やな。
 もし、そないなっちまったら、バニブルが受ける被害は大陥没の比じゃあらへん」

「その占い師の心配は無用のものだ。
 俺の心は悪しき禍物の色になど染まらない。
 運命の在り様は予言でなく、人の意志によって定まるものだ……退け」

「不可避《アドラステア》の称号を持つ予言者の予言やなけりゃ、ワシも聞き流したかもわかれへんがなぁ。
 ま、口でぇ言うても無駄やちゅうこっちゃか、兄さん。
 それやったら、ワシも破滅を防ぐ努力をせなあかんな」

私立探偵は黒宝玉を弄ぶ手を止めた。
口笛のような甲高い音を響かせて息を吸い込むと、彼は全身から薄墨色の陽炎を迸らせる。
蜘蛛《スパイダー》の通り名を表すが如く、暗い魔力の揺らぎは瞬く間に蜘蛛の形を取り始めた。

「予言は予言。
 未来は己の手で切り開く。
 正義の執行を阻むものがあれば、押し通るまで」

アルサラムもカードデッキを手にする。
付与魔術で特殊処理を施したクレド・マディラこそが、彼の最も使い慣れた武器だ。
ドイナカ村では虚霊炉の内臓魔力を用いてイラストを実体化させていたが、件の魔術具はラクサズの元で魔力の充填中。
従って、今は己の魔力だけでカードの絵を具現化しなければならない。

「ちょっ、ちょっと待ちなさい! 待って! こ、この脳筋っ!
 アルサラムが憤怒のアイン・ソフ・オウルに乗っ取られるのを防ぐだけなら、別に戦わなくてもいいでしょ!」

ヴァルンの制止が地下空間に響いた。
しかし、既に臨戦態勢の両者は止まらない。

「怪我をしたくなかったら下がっていろ」

アルサラムは同行者へ下がるように促すと、視界を埋め尽くす相手を眺めた。
呪力で作られた無数の影蜘蛛は、一匹一匹が中型犬ほどの大きさ。
それが、今やびっしりと石床を埋め尽くし、書架や天井にも張り付く。
実に悍ましい光景だが、普段から魔境染みた地下書庫を巡検する司書は鋼の意志を揺らがせない。

「ディオラオスの金狼――――進路を塞ぐ虫どもを蹴散らせ」

アルサラムが空中にカードを投げると、描かれた狼のイラストが抜け出す。
美々しい絵は、アルサラムの魔力で質量を備えて実体を持ち、象にも匹敵する巨躯の金狼となった。
イラストを失ったカードには『神に逆らって狼に変えられたディオラオス王の末裔たち』とのテキストだけが残る。

554巡検司書アルサラム ◆FarahLxH6M:2015/09/05(土) 20:57:24 ID:Aa/MmyRA0
「ウォォオオォォオオ!!」

一声吠えて駆け出すと、巨大な狼は黒い大蜘蛛の群れを踏み潰しながら猛然と書架の間を突き進んだ。
丸太のように太い前肢と鋭い牙で、蠢く影蜘蛛の波を割り、さながら除草機のように刈ってゆく。
圧倒的な質量の生物が眼前に迫って来る戦慄すべき光景だが、蜘蛛の主は怯まない。

「阻め!」

影蜘蛛の全てが蜘蛛《スパイダー》の思念に呼応して動き、一斉に漆黒の糸を吐き出す。
幾百もの魔力糸は黒い驟雨の如く宙を疾って網を作り、突進する魔獣を糸檻の中に閉じ込めた。

「……掛かったようやな」

蜘蛛の繰り手が勝ち誇る。
瘴気の網は体表を焼き、捕えた獲物の内部へ呪力の毒素を流し込み、全身に拡散させて肉体を冒す。
影蜘蛛の毒は生物の中枢神経を狂わせ、使い魔の機能を浸食し、霊体であれば維持魔力を失わせる。
金毛の巨獣も毒素で引き裂かれるような激痛を刻まれ、暴れ狂った。
古びた大気が鳴動し、付近の書棚は衝撃で倒れ、死蔵に飽いた居住者たちを吐き出す。
もし、保護魔術が施されていなければ、この短い間で幾つもの貴重な知識が永久に葬られた事だろう。

「ガァ! グォォッ! ハァフッ!」

地に引き摺り倒された魔獣は叫びながら暴れ続けるが、それでも蜘蛛の束縛は破れない。
影蜘蛛の網に強度を与えているのは、人では持ちえない程の異常な魔力だ。

「……その玩具はどうやって手に入れた」

魔術師が探偵に聞く。
アイン・ソフ・オウルの高みまで至った者を除けば、純粋な魔力でアルサラムを上回る人間は多くない。
そして、己に勝る魔力を持つ者が黒い宝玉を掴んでいれば、嫌でも思考は一つの可能性に辿り着く。

「厄災の種か? これやったら依頼主からもろたわ。
 これがあらへんと、ワシが勝てんとかゆうてな。
 せやけど兄さん、厄災の種なんて、ほんま物騒な名前やんなぁ」

闇を孕んだ球を摩りつつ、蜘蛛《スパイダー》は歯茎を剥き出して嗤った。

「それは探偵風情の手には余る代物だ」

「魔術師風情がゆうもんやな。
 自慢の使い魔は網ン中やってのに。
 とっとと降参して引き返せや、ワレ!」

「多寡が一度の攻防で、勝利を確信したつもりか。
 ディオラオスの金狼に熾天の炎を重ね――――出でよ、メルジェの獣王」

再び、アルサラムがカードデッキから一枚を抜き取る。
それは間髪を入れず中空へ投げられ、瀕死の巨狼に向けて赤光の筋を噴き出した。
瞬間、狼の毛皮は赤黒く染まり、火蜥蜴《サラマンダー》のように全身が紅蓮の炎に包まれる。

「使い魔の姿が変化したやと!?」

蜘蛛《スパイダー》はサングラスの奥で目を見開いた。
金狼が姿を歪め、体色を変え、鬣を伸ばし、暗赤色の大獅子に変貌してゆく。
獣の全身から噴き出す灼熱の炎は、瞬く間に影蜘蛛の網を焼き切り、幾筋もの白煙を登らせていた。
形勢を盛り返したアルサラムは、デッキから更に一枚のカードを抜く。

「メルジェの獣王が攻撃に成功したから、カードをドローさせて貰うぞ」

「待て、なんやその俺ルール!」

555巡検司書アルサラム ◆FarahLxH6M:2015/09/09(水) 05:34:09 ID:Pt1wfvVk0
アルサラムの従僕《サーヴァント》は、新たな肉体を得て悠然と立ち上がる。
赤獅子の全身に絡みつく瘴気の網も、噴き出す火炎で焼き切られ、瞬く間に枷としての役目を終えていた。

「メルジェの獣王、影蜘蛛の使い手を狙え」

アルサラムの言葉で、獣魔の瞳が蜘蛛《スパイダー》に向く。
使い魔に宿るのは敵意でも殺意でもなく、純粋な戦意だ。
それを感じ取り、標的たる探偵も防御の意志を固めた。
しかし、巨体の獣相手と正面から打ち合うには、小さな影蜘蛛では余りに力不足。
接近すれば蟻の如く踏み潰され、網で拘束しようにも輝く焔と呪力の影は相性的に最悪。
ならば、蜘蛛《スパイダー》の取るべき手は一つ。

「影蜘蛛ども、重なって阻め」

術者の命令で数多の影蜘蛛が近くの影蜘蛛に近寄り、蠱毒の要領で同化を重ね、翳りの濃さと体躯の大きさを増してゆく。
瞬く間に虎程の大きさとなった影蜘蛛たちは、突進してくる獅子の足に取り付いて進撃の阻止を図った。
別の個体は先程よりも強力な魔力糸を吐きかけ、再度の拘束を図る。
そして、これらは全てが無駄に終わった。
漆黒の糸は炎獣から噴き出す熱で瞬時に燃え尽き、足に取り付いた個体は猛進に引き摺られるのみ。

「ぐ、ぬぬ……ワシの影蜘蛛が!」

蜘蛛《スパイダー》は動揺の言葉を吐き捨て、慌てたように後方へ下がってゆく。
開いた空間に大獅子が進むと、書架の影から新たな影蜘蛛が湧き出すものの、それらも次々と焼滅される。

「此処まで押されるんか!」

影蜘蛛の瓦解で更に退く探偵。
呪術と魔術の攻防は魔術師側が圧倒しているかに見えたが、この二度目の撤退でアルサラムは不自然を感じ取った。

(……退き続けている割に、奴は俺を恐れていない。
 攻め込んでも決定打は与えられず、瓦解した先に進めば新手が阻む。
 形勢の不利を装って、俺に力押しさせるつもりか)

アルサラムは相手の棒演技の台詞から、持久戦の意図を汲んだ。
厄災の種から膨大な魔力供給を受けられる蜘蛛《スパイダー》と違って、彼の魔力は有限。
迅速な戦術の切り替えが必要だった。

(俺の見立てでは、奴の保持魔力は俺の倍か、それ以上。
 このまま使い魔《サーヴァント》での一進一退を続ければ、此方の魔力切れが先だ)

アルサラムの瞳に浮かんだ色を探りつつ、蜘蛛《スパイダー》が口を開く。

「やーや、ほんま強いなぁ……。
 せやねんけど、戦いは数や!
 なんぼ強かろうが、そっちの使い魔は一匹! ぎょうさんの影蜘蛛には適わへんでぇ!」

耳障りな大声に呼応して、書架の上から五匹の影蜘蛛が音も無く降って来る。
その異様な気配を察知して、アルサラムは全力で疾駆。
鞘から短剣を抜き、鮮やかな剣捌きで一匹の影蜘蛛を切り裂くと、そのまま影蜘蛛の密度が薄い場所まで駆け抜ける。

「破ッ」

(蜘蛛の強化に対抗して、下僕《サーヴァント》を増やすか?
 いや、それとも……それが奴の狙いか)

「なぁ……兄さんは戦いになったら、無駄口を叩かん主義やねんか?
 さっきから、喋ってるんはワシ一人だけやがな」

蜘蛛《スパイダー》は少し寂しそうに愚痴を漏らした。

556巡検司書アルサラム ◆FarahLxH6M:2015/09/11(金) 00:26:08 ID:qxDutRJ60
アルサラムは疾走しながら短剣を縦横に振るう。
刀身は磨き抜かれていて、反りの無い両刃。
銀の閃光が軌跡を描けば、影蜘蛛の頭が裂かれ、脚が切り落とされ、胴を薙がれる。
進路を阻む虫魔たちは次々と呪力を断ち切られ、後は溶けるように崩れてゆくのみ。
この魔術師らしからぬ武技は、卓越した資質と修練の賜物だ。

(使い魔を幾ら倒した所で、術者が補充するなら無意味。
 ……直接攻撃で仕留めるしかない)

数瞬の合間にアルサラムは戦術の方針を組み上げた。
しかし、防御に専心する相手の陣形を正面突破する事は、如何に熟練した能力を以てしても至難の業。

(蜘蛛の頭を潰す媒鳥がいる。
 敵の目を逸らし、攻撃を分散させる要員が)

アルサラムは次なるカードの具現を決め、幾つかの候補を心中に思い描く。
まず、前提としてクレド・マディラはカードの質に応じて、五等級のレアリティが設定されている。
アイアン(黒鉄)/ブロンズ(青銅)/シルバー(白銀)/ゴールド(黄金)/アダマス(神鉄)の五種の等級に。
先ほど使ったディオラオスの金狼と熾天の炎は、どちらも第二位の級であるゴールドだ。
このクラスのカード再現は、一枚につき全魔力の四分の一を使う。

(二度のゴールドで、残存魔力は約半分。
 同程度のカードを使えるのも後二回。
 一つは蜘蛛の足止め。もう一つを己か敵に使うのが最善)

「抜札《ドロウカード》――――冥界の軍隊蟻」

左手で握ったカードデッキから、蟻の群れが描かれるカードが中空へと滑った。
絵札の中から新たに現れるのは、青白い霊気を放つ大蟻の群れだ。
個々では影蜘蛛に劣る程度の力しか持たないが、数だけは只管に多い。
物量での目晦ましには、恰好の下僕《サーヴァント》だ。

「近くの蜘蛛を手当たり次第に襲え」

アルサラムは大蟻の群れを近くの影蜘蛛に向かわせた。

「ほーぉ、新手の使い魔やな。
 せやけど、烏合の衆なんざ影蜘蛛の餌食になるだけやで……迎え撃て!」

アルサラムの使い魔《サーヴァント》が、探偵の使い魔《サーヴァント》に襲い掛かるものの、使い魔の強さは魔力量が物を言う。
魔力を分散させて召喚した使い魔では、より高い密度の呪力で練られた使い魔には敵わない。
冥界の軍隊蟻が一体の敵を仕留める間に、影蜘蛛の方は三体も敵の数を減らす。

「あっちのライオンくらいのパワーなら厄介やが、雑魚を増やした所でこんなもんや!
 ワシの魔力も一向に尽きる気配があらへん!
 こっちは、兄さんが力尽きるのを待ってればええだけやな!」

蜘蛛《スパイダー》は勝ち誇るように言葉を続けた。

――――自らの狙いが、アルサラムの魔力切れを待つ事だと思わせる為に。

557巡検司書アルサラム ◆FarahLxH6M:2015/09/11(金) 00:27:46 ID:qxDutRJ60
戦況は優勢と退勢が交互に訪れ、まだ趨勢も読み難い。
メルジェの獣王に目を移せば、獅子は群がる蜘蛛を噛み殺し、焼き消し、彼らの主たる蜘蛛使いに跳躍していた。
しかし、寸での所で無尽蔵に湧き出す影蜘蛛と、呪力の黒糸で進撃を阻まれる。
緩やかな退き戦は、ジリジリとアルサラムの使い魔《サーヴァント》から炎の魔力を削ってゆく。

「おおっと、危ない! ひゃっひゃ!」

探偵は服の裾を焦がすも、間一髪で後方へ退避。
炎と霊気で照らされた空間に冷笑が響く。
一方、アルサラムは敵の死角を衝くべく、書架の影から蜘蛛《スパイダー》の側面へと回り込んでいた。
ドイナカ村でも装着していた身体能力強化の腕輪は、そのまま。
魔力が齎す隔絶した体術で短剣を一閃し、勢いを殺さぬまま影蜘蛛の胴を浅く削ぎ、脚を奪う。
黒血の如き呪力の影が飛散する中、魔術師はただの一瞬も留まらず、戦場を流麗に駆け抜けた。

視線の先には黒服の男。
流水の動きで蜘蛛《スパイダー》の側面に忍び寄ったアルサラムが、その心臓目掛けて刃を突き出す。

直前、魔術師は項の毛が逆立つのを感じた。
直後、魔術師の刃が止まる。

そして、色の無い糸が浮かび上がった。
いつの間にか、探偵の周囲には影蜘蛛の網が張り巡らされ、結界のように空間を満たしている。
アルサラムは其処に突っ込み、刃を突き出した姿勢のまま粘り付く糸に囚われたのだ。

「隠の糸、か。
 網を張って待つのが蜘蛛の流儀だったな」

アルサラムの口から呟きが漏れる。
彼が蜘蛛《スパイダー》の主を狙ったのと同じように、相手の側もアルサラムへの直接攻撃を狙っていたのだ。
己の周りに視認できぬ程の極細糸を張り、透明な罠でアルサラム自身を絡め取ろうというのが、蜘蛛使いの真の狙い。
呪力で姿を消していた糸も、今や炎の照り返しで光輝き、巨大書庫に鮮やかなイルミーションを描く。

「そないいうこってや。
 蜘蛛の糸は、これから兄ちゃんが気ぃ失うまでぇ全身を締め上げる。
 国の為やから、再起不能くらいにはさせてもらうぜェ!」

魔力糸で全身を絡め取られる魔術師を見て、蜘蛛使いは己の勝利を確信した。
そして、決め台詞。

「ワシら探偵に必要なものは三つある。観察力、行動力、決断力や。
 兄さんは一つばかし足りんかったようやなぁ……うっひゃひゃひゃひゃひゃあ!」

蜘蛛使いは声を上げ、笑った。
巡検司書は音も無く、嗤った。

558巡検司書アルサラム ◆FarahLxH6M:2015/09/15(火) 06:46:40 ID:lCS1mxWg0
アルサラムが使い魔を増やしても、無尽蔵に近い影蜘蛛を刈り尽くすのは困難。
蜘蛛《スパイダー》自身に攻撃魔術を掛けても、厄災の種で強化された魔力抵抗を破らなければ敗北が確定する。
此処までは両者共に読んでいる。
だからこその魔力に頼らない剣撃と、それを封じる蜘蛛の巣。

「縛れっ!」

蜘蛛《スパイダー》は網に掛かったアルサラムを締め上げようと、周囲の糸に呪力を流した。
縦横無尽に張り巡らされた糸が煌めき、ヒドラの触手のように動く。
当の魔術師はと言えば、切迫の危機にも動じず、冷静な表情で左手のデッキから一枚のカードを滑らせた。

「抜札《ドロウカード》――――戦界崩滅《ヴァースブレイク》」

カードが静かに床へと落ちる。

「まだ、悪足掻きする気が残っとったか?
 せやけど、今さら新しい使い魔を召喚しても無駄やで」

蜘蛛《スパイダー》は落ちたカードに警戒を見せるが、其処から新たな使い魔《サーヴァント》は現れない。
代わって地下書庫に現れたのは、血の輝きを持つ魔力線の放射。
数百もの赤い光線が床を走り、それは壁面から天井へと伝導して、血管や葉脈のように複雑な模様を地下書庫に描く。
一瞬遅れて、線に沿って大きな亀裂が生まれた。

「な、なんやと!?」

魔術師が選んだ切り札は、地形を破壊するカードだ。
それを具現すれば、当然ながら周囲の地形や建築物は崩壊してゆく。
恐ろしい速度で砕けてゆく床や天井を見て、蜘蛛《スパイダー》の背筋には怖気が走った。
アルサラムを拘束した呪力の糸を解いて、崩落から身を守る為に使わねば死ぬ。
しかし、蜘蛛糸での拘束を解いてしまった瞬間、目前の敵には無防備な姿を晒さねばならないのだ。

「ぐぬ、糞がっ!」

上層の床が巨大な岩塊に姿を変えて、頭上から降り注ぐ。
崩落の速度は極めて速く、迷う時間など一瞬たりとも無い。

「ちょっ、ちょっと何考えてるの! アっルっサっラっム〜〜っ!!」

後方で袖手傍観していたヴァルンも、巻き添えを気にしない同行者の姿勢を非難しつつ、全力で遠ざかる。
元より戦闘区域から離れていた彼女なので、此方は無事に安全圏まで逃れられるだろう。

「支えろ!」

蜘蛛《スパイダー》は崩落からの防御を優先した。
アルサラムの桎梏を解き、解いた糸を手当たり次第に壁や書架に伸ばす。
張り直された魔力糸の屋根が巨大な瓦礫群を受け止めるのと、アルサラムが矢のように突撃したのは同時だ。

「ま、待てぇっ……ぶぉっぐぅっ!」

探偵の助命嘆願は最後まで発されなかった。
正義の執行を阻むものは悪であり。悪を正すのは善。そして善意に歯止めは無い。
アルサラムは全く躊躇なく、水平に寝かせた短剣を標的の喉へ突き刺し、横に払う。
人を殺す事への心理的な抵抗が無い一撃。
蜘蛛《スパイダー》の頸動脈は断ち切られて、首から噴水のような血飛沫を流す。

559巡検司書アルサラム ◆FarahLxH6M:2015/09/15(火) 06:49:08 ID:lCS1mxWg0
戦闘が終了してみれば、惨憺たる有様だった。
周囲には凄まじい量の粉塵が舞い上がり、原型を留める物は何も無い。
膨大な書架は過半が倒れ、天井の崩落で上階の一部も雪崩落ちている。
壁や床は魔力と衝撃で広範囲が破砕され、移動するのも困難だ。
その中で形質保持の魔力で保護された書物だけが、破れも痛みも燃えもせず、冗談のように無事な姿で散乱していた。
使い魔たちを見れば、影蜘蛛の群れは一匹残らず消え去り、大蟻の軍団も崩落で潰れ去っている。
ただ一匹、暗紅色の炎獣だけが瓦礫の下敷きになりながらも辛うじて消滅を免れていた。

凄まじいばかりの被害だったが、隣室や通路にまでは崩壊の魔力も及んでいない。
ヴァルンも逸早く難を逃れたようで、どこにも目立った負傷は無かった。
崩壊が収まった頃を見計らい、彼女は瓦礫の上を這うようにして元の場所まで戻って来る。

「ア、アルサラム、なんて事してくれるの!?
 此処の瓦礫を片付けて修復するのにどれくらいの費用と手間が………………き、きゃあああ〜〜!」

惨状を目の当たりにして、ヴァルンが悲鳴を上げた。
蜘蛛《スパイダー》は強靭な蜘蛛糸を操って崩落の直撃は免れたものの、上半身が朱に染まっている。
致命的なのは、アルサラムの短剣で裂かれた首だ。
これを必死に魔力糸で繋ごうとしている蜘蛛《スパイダー》だったが、苦患の中では血管縫合はおろか、呪術の維持すら不可能。
意識を混濁させ、膝をつき、急速に命の灯を弱めてゆく。
迅速に高位の治癒魔術を掛けなければ、死を待つだけなのは明らか。

「死、死……マサトシが死んじゃう……なんで、どうして!
 剣で首を裂くなんて、此処までする必要あったの!」

ヴァルンがアルサラムに詰め寄る。

「完全に無力化する必要はあった。
 この男はヴェルザンディやミリア。
 あの危険な魔女たちと同じ、厄災の種の持ち主だ。
 仕留めなければ、此方が討たれる可能性も高い」

アルサラムは瓦礫の上に転がる宝玉を睨みつけ、そう呟いた。
実際、厄災の種は感情や欲望を増幅して、柔軟な思考を難しくする機能も秘める。

「あんまり知らない人だけど、こんな所で死んじゃうなんてあんまりよ。
 貴方、治癒魔術は使えないの!?」

「治癒石の手持ちはあるが、致命傷を癒せるだけの物は無い」

冷静に死の告知を返され、ヴァルンは落胆の表情を浮かべつつ瀕死の探偵へ近寄る。
一時は世話になろうとした人物だけに、目の前で死なれるのは極めて後味が悪い。

「何か他の手は…………あっ、フラター王なら助けられるかも!
 この階層にいるはずだから、どうにか其処まで持たせられれば助けられるわ。
 内蔵魔力が少なくても良いから、治癒石があるなら出して」

「――――確かに幾万もの魔術を収めたフラター・エメトなら、この男の治癒など造作も無いじゃろう。
 だが、彼の魔術王の手を煩わせるには及ばぬ。
 その男の命を繋ぐに足るだけの治癒石なら、わしが用意しておいたので遠慮なく使うが良い。
 起動呪語は何の捻りもなく、ヒーリングじゃ」

唐突な援助の申し出は、第三者から為された。
ヴァルンに治癒魔力を秘めた石を差し出したのは、地味な茶色いローブの上に赤いストールを羽織った老婆。
種族は人間のように見え、皺だらけの顔に白い長髪といった容貌で、ありがちな占い婆さんといった印象を受ける。
不可解な事に、この老婆は何の気配も予兆も無く、崩壊著しい地下空間の中心部へ現れた。

「あ、ありがとう……って誰!? い、いえっ、それは後ねっ! ヒーリング!」

ヴァルンが蜘蛛《スパイダー》の首の傷口に拳大の透明な石を押し当て、内包された魔力を開放する。

560巡検司書アルサラム ◆FarahLxH6M:2015/09/15(火) 06:54:09 ID:lCS1mxWg0
透き通った石からは、淡い白光が浮かび上がった。
治癒石とは、名前の通りに治癒の魔力を封じた石で、それなりに高価な代物だ。
込められた魔力次第で色や大きさは異なるが、老婆が提供した物は大振りで内蔵魔力も高い。
当然、それを使われた被術者の深傷も目に見える速度で塞がれていった。

「……随分と用意の良い事だ。
 尤も、貴様が蜘蛛使いを俺に差し向けた張本人と考えれば、段取りの良さにも得心が行く。
 馬鹿げた予言を根拠に俺の妨害をした真意は何だ、詐欺師イシュタル」

アルサラムは得体の知れない老婆に刺すような視線を向けた。
予言者ではなく、詐欺師と悪し様に呼んで。

「真意も何も嘘は無いぞ、アルサラム・ファラー・アゼルファージ。
 貴殿が憤怒の意志に惹かれた時、この国は崩壊する。
 ダァトに封印されている身と言っても、あれは神にも等しい力を持つ。
 更にアイン・ソフ・オウルの中で最も苛烈にして、最も正義を希求するものだ。
 思想の方向も貴殿と近いだけに同調を拒み続けるのは難しかろう」

イシュタルは答えたが、魔術師は微塵も納得しない。

「俺が狂わされると言いたいのか」

「左様、想いの渦に近づけば飲まれる。
 アイン・ソフ・オウルに抗せるのは、アイン・ソフ・オウルのみ」

老婆の断言を聞き、アルサラムが拳を握り締める。

「そのアイン・ソフ・オウルに至る為、俺は此処までやって来たのだ。
 無力な正義など、理不尽な暴力の前には屈するのみだからな。
 俺は正義を遂行する為、誰よりも力を持たねばならない。
 邪魔をするならば、誰であろうと排除するまで。
 第一、仮に貴様が予知能力を持つとしても、それが実現する保証など何処にも無い」

「予言は未来の儂――――枢要罪〝憂鬱〟アスタロトが教え、過去の儂――――占い師イシュタルが識る。
 競馬や宝籤の数字からローファンタジアの崩壊まで、今までに誤った事は一度も無いぞ」

「不可避の予言とやらか。
 だが、蜘蛛使いの派遣は無駄に終わった」

「少しばかり、試してみたのじゃよ。
 厄災の種であれば、僅かでも変化が訪れるのではないかと期待しての。
 もし、何か一つでも予知を変えられれば、バタフライ効果で未来も加速度的に変わってゆくであろうからな」

老婆は厄災の種を拾い上げると、灰色の瞳に微かな憂鬱を見せた。
運命の抗えぬ圧力に屈した時、人はこのような顔を見せる。

「ならば、俺が詐欺師の戯言など覆して見せよう。
 不吉な予言も成就させはしない。
 もう退け、これ以上道を阻むなら容赦しない」

「……では、一つだけ捨て台詞を残して退散させてもらおうかの。
 地上で起きる争いの大半は、大切な何かを失う恐怖に駆られてのものじゃ。
 仲間や家族の平穏、国家や宗教などのコミュニティ、法に人権、理想……それらを守る為に人は誰かを攻撃する。
 貴殿の正義を貫こうという意思も尊いものだが、他者にも貴殿とは異なる視点の正義や想いがあろう」

「何を言いたい」

「なぁに、単に愛を持てと言った所じゃよ」

老婆は曖昧に笑うと、舞い上がる粉塵の中に姿を消した

561enchanter ◆FarahLxH6M:2015/09/16(水) 05:56:01 ID:V/dyFW320

本編が再開するのか、凍結したままなのかは、気に掛かる所だ。

もし、凍結の理由が「乗っ取り紛いの所為でやり難い/継続意欲を失った」というものであれば、俺たちも向き合わねばならない。

562フロレア・ステンシィ ◆d/Florean2:2015/09/24(木) 05:54:17 ID:czcrj7pE0
ステンシィ夫妻はバスや鉄道を乗り継いで南西に向かい、途中で都市国家アパサに辿り着いた。
此処はエヴァンジェルを含む都市国家群“十ニ都市同盟”の一つで、海神であるツルア信仰の厚い港湾都市だ。
南に広がるサラキア海を眺めれば、コバルトを溶かしたような青色の上にボートやクルーザーが幾艘も浮かぶ。
生活排水が少ないのか、水の透明度も極めて高く、海底に船影が見える程だ。
この綺麗な光景が瞳の端に映っても、フロレアの顔は物憂げだった。
実の娘のリンセルと、実の娘同然と刷り込まれているミリア、二人共いないのだから当然かも知れない。

アパサからはルーラルダ連邦まで長距離高速列車を使い、アルバン市からバスかタクシーで南下するのがドイナカ村への最短経路である。
何事も無ければ半日で着くはずの行程だが、残念ながら事件は起こった。
国境を越えようという所で唐突に車内が暗くなり、列車も線路上で急停止する。
減速で体が引っ張られ、通路を歩いていたものは蹈鞴を踏む。
ボックスシートでステンシィ夫妻の向かい側に座っていた少女も、投げ出されるようにしてフロレアの胸に顔から飛び込んで来た。

「だ、大丈夫?」

「これは失礼致した、奥方。
 どうにも、この姿では踏ん張りが効かぬ」

華奢な少女は蒼白い顔を上げると、黒い瞳でフロレアを見据えた。
古風な喋り方をした少女は人間族らしき風貌で、年齢はリンセルと同じくらいに見える。
黒いワンピースを着ていて、足首までありそうな長い飴色の髪が印象的だ。
彼女が元の席に座り直した所で、不安がる乗客へ向けて車掌のアナウンスが入った。

「乗客の皆様。
 只今、路線の周囲で何らかの異常が起きたようです。
 当列車は路線の安全が確認できるまで、停止いたします」

列車が停止する旨を聞き、フロレアは不安げな顔で夫を窺う。

「何が起きたのかしら」

「フロー、外を見てみろ。
 詳しくは分からないが何か異常な事態が起きたようだ」

レナードが車窓に目を移した。
先程までは真昼の海が見えていた筈なのだが、今は違う。
外は真夏の夜のように薄暗く、赤や緑や黄色に輝く光の塊が、星のように宙を浮いていた。
日常から一変した非現実的な景色は、明らかに魔術的な空間浸食である。

「どう見ても……普通の景色じゃないわね」

開け放たれた窓からは潮の香りも消え、漂うのは異質な冷気と気配。
外を見た乗客たちの唇からも、次々に驚きや恐怖の声が漏れる。
聖都での虐殺事件を経験した者の中には、恐慌を起こす者すらいた。

「然り。
 ルーラルダで頻発している異変の一つが範囲を広げ、国境を越えたものと存ずる」

ボックスシートの向かいに座る少女は車外の異変にも動じず、落ち着き払った顔だ。
こんな現象は珍しくない、とでも言わんばかりの態度である。

「ルーラルダの異変?
 確か、ミリアちゃんのいる村も警戒区域になっていたけれど……。
 そう言えば貴女は魔法使い? それとも冒険者なのかしら?」

「我は一介の錬金術師。
 パラケルススとでも呼ぶが良い」

少女が名乗った錬金術師とは、一般に贋金師の類だと思われている。
その錬金術師を名乗られれば反応に困る所だが、フロレアは気にした風もない。

563フロレア・ステンシィ ◆d/Florean2:2015/09/24(木) 05:58:28 ID:czcrj7pE0
「そう、錬金術師のパラケルススちゃんね。
 私はエヴァンジェルのパン屋でフロレア・ステンシィ。
 こっちは夫よ」

「ああ、レナード・ステンシィだ。宜しく。
 今は昏睡状態なのだが、私たちにも君くらいの年の娘がいてね。
 アクノスに転院したようなので、これから手続きに向かう所だ。
 それと、最近もう一人の娘が出来たのだが、そちらもドイナカ村から行方が分からない。
 一刻も早く、リンシィとミリアの安否を確かめなければならないというのに……」

己の無力を感じてか、夫妻の顔は暗い翳りを帯びた。

「難儀であるな。
 だが、闇雲に動くのは危険。
 貴殿らは己の身を守るだけの力があるようにも見えぬ。
 この異変に関しては、周囲の様子を見つつ、己の身を最優先とするのが得策と存ずる」

パラケルススの言葉にフロレアも頷く。

「そうね。
 電話があるけれど、パラケルススちゃんは使う?」

無事に異変が収まる保証も無いので、フロレアとて不安は否めない身だ。
しかし、彼女は務めて明るい顔を作り、隣席の少女に問う。

「気遣いは忝いが、通信は試みるだけ無駄であろう。
 どうやら、この空間は魔法的に外界と切り離されたようだ。
 即ち、我らは大海の孤島へ流されたにも等しい身。
 まずは車掌にアナウンスさせ、乗客の中から事態を打破できる戦力を募らねばなるまい。
 魔術師や冒険者、或いは我のような者を」

パラケルススは立ち上がり、三歩進むと膝から崩れ落ちて床に手を付いた。

「ど、どうしたのっ?」

フロレアは屈み、少女の様子を窺う。

「……急に立ち上がったので貧血のようだ。虚弱な体が恨めしい」

「この混雑の中を一人で行くのは無理よ。私たちが付き添うわ」

フロレアは優しく付き添いを申し出た。
現在の車内は非常に混乱していて、少しでも事情を知ろうと運転室や車掌室に向かって乗客が殺到している。
果ては、異変はレヴァイアサンの仕業でフェネクスのような虐殺が起きると、憶測でデマを流す者まで現れる始末。
もし虚弱そうな少女を一人で混乱の中に行かせれば、怪我をしかねない。

「済まぬ」

レナードが人込みを掻き分け、開いた隙間をフロレアがパラケルススを抱えるようにして進む。
その間にも車内の空気は不穏さを増していった。
不安に駆られた乗客が車掌へ質問を飛ばし、それが詰問や難詰、怒声に変わるまでも速い。
フロレアたちが最後尾の車両に辿り着いた時には、そこかしこから怒号が飛んでいた。

「糞っ、なんで電話が通じねぇ!
 外の様子も変だし、魔術テロじゃないのかよ!?」

「何が起きているか説明しろ! 車掌の義務だろ! 早く出て来い!」

車掌室の前は不穏な空気が立ち込め、もはや暴動の一歩手前の状態。
乗客の何人かが車掌室の扉を蹴り破ろうとして、車掌は錯乱しながら通じない無線を何度も弄っているような有様だ。

564Froh ◆d/Florean2:2015/09/24(木) 06:32:21 ID:czcrj7pE0
◆エヴァンジェル近辺の地図

http://upup.bz/j/my53577uhVYtja1IyseRbq2.jpg

565フロレア・ステンシィ ◆d/Florean2:2015/09/26(土) 00:29:20 ID:057zsX1Q0
「取り急ぎ、周囲の錯乱を落ち着かせねば。
 この人数なら、アンゼリキウムで酢酸リナリルの効果を高めるのが最適か」

パラケルススは乗客不在の空席を見つけると、其処に座り、鞄の中から金装飾が施された白い筒を取り出した。
一見すれば万華鏡や証書ホルダーにも見える金属筒は、側面や底面に幾つもの収納スペースを持つ。
蓋の一つを開ければ、中にはボールペン程の透明な小筒が何本もホールドで固定されていた。
別の面にも錠剤や針やコットンやライターなど、様々な物が小分けされて入っている。
形状こそ円筒ではあるものの、まるで多機能筆箱のようだ。

「何をするの?」

化学物質と思しきものを使う意図を察して、フロレアが問う。

「芳香で鎮静を図るのだ、奥方。
 暴動寸前の状態では、誰も聞く耳を持つまい」

パラケルススは短く説明すると、透明なシリンダーに一粒の錠剤を入れ、中の液体と馴染ませるように軽く振った。
程なく、周囲には淡い柑橘類の香りが広がり、芳香の拡散と共に怒声も小さくなってゆく。
芳香が拡散を開始してから三分程が経った頃だろうか。
やや騒めきが収まった頃を見計い、パラケルススは前方の群衆に向かって語り掛ける。

「皆、聞け!
 車掌を責めても事態は解決せぬ。
 彼の仕事は列車を安全に運行させる事であり、怪異を鎮める事に非ず。
 まずは専門家たる者を乗客の中から募り、安全を確保するのが肝要。
 それが出来る車掌の邪魔をしてはならぬ」

調合された香料の作用だろうか。
見も知らぬ少女の声が、不思議なまでに聴衆の心へ響く。
今まで必死に扉を蹴り破ろうとしていた者も、なぜ自分は怒声を飛ばしていたのかと恥じ入った。

「あ、ああ……誰かにそうかも知れないな、済まん」

「誰か、こういった事に詳しい奴はいないのか?」

「いやぁ、俺はさっぱりだ」

落着きを取り戻した人が次第に座席へ戻り始め、人込みも緩やかに割れてゆく。
パラケルススの方はフロレアの手に引かれて通路を進み、車掌室の前まで辿り着いた。

「車掌殿、この列車は歪んだ空間に囚われたものと存ずる。
 至急、乗客の中から魔術師や冒険者を募るのが良策」

少女の要請で車掌が無線機から顔を上げる。
先程までは乗客の怒号に怯え、泣きそうな表情だったのが、今は幾分かの冷静さを取り戻した様子だ。

「ぼ、冒険者が……集まるだろうか?」

「一両に八十人が収容できる車両で五両編成だから、乗客は最大で四百人。
 魔術師や異能者の割合を人口の二百分の一と仮定すれば、我の他に一人は戦力がいると期待したい。
 もし招集が無駄に終われば、我一人で対処しよう」

パラケルススは乗客のパニックを防ぐ為、敢えて自信有り気に振る舞う。
車掌も安堵したように頷き、車内アナウンスを流す。

「緊急の放送を致します。
 お客様の中に冒険者や魔術師の方はおられますか?
 もし、おられましたら、最後尾の車掌室まで御出で下さい。
 早急な異変解決の為、是非とも協力をお願い致します」

566フロレア・ステンシィ ◆d/Florean2:2015/09/26(土) 00:30:11 ID:057zsX1Q0
車掌の招集要請は二人の冒険者を集めた。
一人は屈強そうな熊獣人の大男、ラクフォズ・ダッジム。
もう一人は彼の連れで、森エルフの女精霊使い、珊瑚樹のルパイネドーラ。
各々が自己紹介と能力の説明を行った所で、車掌が協力の要請を始める。

「皆様、集まって頂き、本当に有難うございます。
 それでは、パラケルススさんとラクフォズさんとルパイネドーラさんの三人で班を組んで貰って……な、何か」

熊の頭部を持つ獣人にズイッと顔を近づけられ、車掌が言葉を飲む。

「オイラの事はラクフォズじゃなく、ダッジムって呼んでくれ。
 ラクフォズっつーのは、フォズの息子って意味なんでな。
 ま、それも間違っちゃないんだが、俺自身の名前で呼ばれた方がしっくり来る」

「は、はぁ……はい」

車掌は小さな声で応諾した。
ダッジムは頭部も完全な獣形で、見た目はズボンを穿いただけの黒熊。
彼に一片の悪気が無くとも、凄まじい威圧感なのだ。

「ダッジム、貴方は顔が怖いのだから大人しくしてなさい」

「おいおいドーラ、種族差別は止めてくれや。
 こんなフレンドリーで愛嬌ある顔なんざ、大陸中を探したって――――」

「今が非常事態だって分からない?
 これ以上、無駄口を叩くなら蜂蜜を残らず棄てとくわ」

「待て、分かった!」

連れを窘めるルパイネドーラは緑の瞳と髪を持つ人型の妖精族で、背はフロレアと同じくらいだ。
二十代半ばにも見えるが、長命種族なので外見から正確な年齢までは分からない。

「両者とも宜しなに。
 まずは各々の見解を聞かせて頂きたい」

パラケルススは挨拶を一言で終わらせ、全員の理解度を問う。

「そ、そりゃあ……誰かが魔法を使ったんだろうさ、お嬢ちゃん」

獣人が頭を掻く。
車掌やフロレアでも魔術への理解が浅いと分かる態度だ。

「幻覚魔術や精神魔術で、異質な光景を見せている訳ではないでしょう。
 召喚魔術で別の空間に呼ばれたか、或いは空間を変質させて異界化させたか。
 いずれにしても、事の元凶は異常な魔力の持ち主です」

エルフの推論を聞き、パラケルススも頷く。

「ルパイネドーラ殿は精霊王を召喚できまいか?
 急造の異空間なら不安定な筈。
 上位精霊なら空間の維持魔力に干渉して、結界を破壊できるやも知れぬ」

「ごめんなさい、まだ精霊王との交感は無理なの」

「ならば、異変の源を突き止めるしかあるまいな」

パラケルススの結論を聞くや、ダッジムは己の出番とばかりに扉へ手を掛けた。

「列車の外に出てかい?」

567フロレア・ステンシィ ◆d/Florean2:2015/09/26(土) 00:31:34 ID:057zsX1Q0
気短かな獣人の行動にパラケルススは首を振る。

「ダッジム殿、急くでない。
 乗客の中に術者が潜んでいる可能性も有ろう。
 我は列車内から捜索するのが賢明と存ずる」

「おっ、なるほどね。頭良いな!」

ダッジムが感心した風にパラケルススの頭を撫でる。
大きな掌での撫で摩りは、虚弱体質の錬金術師の身体を傾げさせるに充分だったが。

「ひゃふっ……ん」

膝をつく少女を見て、周囲から大柄な熊男に非難の目が集まる。

「悪ぃ悪ぃ」

斯くして、列車内の探索が始まった。
まずはルパイネドーラが霊的な力の感知に秀でた精霊を先行させ、異常な力の有無や流れを探るのだ。
風の精霊は放たれると、最後尾から調査を進めてゆく。
四両目、三両目、二両目と、列車の何処にも異常は見つからない。
異変の震源は列車外ではと疑う精霊使いだったが、やはり原因はパラケルススの推測通り、列車内にいた。

「……該当しそうな奴がいたわ」

「どんな奴だ?」

低く抑えた獣の声。
ダッジムの瞳に獰猛な肉食獣の気配が宿る。

「精霊力《オーラ》の形から判断して矮躯、小人種か幼児くらいの背丈のようね。
 右手の指先から異常なまでの力と明るさを感じる。
 サーモグラフィー程度しか分からないから、容姿まで知るなら先頭車両に赴かないと無理よ」

ルパイネドーラの返答を受けて、パラケルススが考え込む。

「相手が小人であれば、強力な魔法を操る妖精種であろう。
 幼児ならば、強力な異能者が自覚なく能力を発動しているのやも知れぬ」

異常現象の原因が車内にあると聞き、先程から車掌の表情も驚きと不安が綯交ぜだ。

「まさか事件の犯人が列車内にいるなんて……そんな。
 そうだ、先頭車両の乗客はどうしましょう!
 避難させないと、危険なのではありませんか?」

「そうね。
 水や食料を配給するとかアナウンスして、先頭車両の人に少しずつ後尾へ移って貰うのはどう?
 犯人は前の方の座席だから、後ろの方から少しずつ人が減っても、気付かれ難いと思うわ。
 風の精霊を操れば、犯人付近の乗客も騒がせずに動かせる。
 水の精霊を使って水人形の表面に乗客の姿を映せば、即席の分身も作れるけれど……」

精霊使いが提案を述べる。

「その辺りは車掌殿とルパイネドーラ殿の手腕に任せよう。
 我らは減った乗客の代わりに先頭車両へ紛れ込む」

「……気を付けてね、パラケルススちゃん」

心配げなフロレアが見送る中、三者は先頭車両へ向かって行った。

568フロレア・ステンシィ ◆d/Florean2:2015/10/12(月) 00:07:04 ID:aQ0L7z220
宵の薄暗さの中で、色鮮やかな光は刻一刻と変化してゆく。
虚空に煌めく光の球は形を変え、鳥や蝶や鯨の姿となって羽ばたき、舞い、泳ぎ始めた。
黒曜石のような黒い大地も隆起して、粘土のように歪みながら出鱈目に色を塗られ、牛や馬や豚の姿を象る。

外界から閉ざされた空間は不思議な奇景を描くが、どこか楽しげな雰囲気や美しさもあった。
少なくとも、撮影に勤しむ乗客たちが現れる程度には。
好奇心から外に手を伸ばす者もいて、即座の危険は無さそうにも感じられる。
フロレアも座席に戻ると、暫く窓の外に視線を向けていた。

「綺麗ね……。
 フェネクスの夜景みたい」

「ん、行った事があるのか」

「ううん、テレビでイルミネーションを見ただけよ。
 でも、これを作ったのは誰なのかしら?
 自然現象では無さそうだけど、魔術師の仕業にしては遊び心があり過ぎるように見えるの」

「ああ、単純なテロでも無さそうだな」

とりとめも無い夫妻の会話。
そのまま、十分程が経った頃だろうか。
やや落着きを取り戻したフロレアは、車内の変化へ目を向ける。

「レン、何かしら……これ?」

フロレアは床に白い石が転がっているのに気付き、拾い上げて夫に見せた。

「鉱石……だろうな。
 石英か珪灰石じゃないか」

妻の掌に乗った白い石に値踏みの目を向け、レナードは見たままを答える。
それは親指程度の小さな、何の変哲も無い、山や河原にも転がっていそうな物だ。
さして、価値あるものには見えない。

「さっきは無かったら、誰かが落したのね」

「そうだとは思うが……。
 ああ、錬金術師の子の物じゃないか?
 確かこの辺りで転んでいたから、その時に落としたんだろう」

「あっ、そうね。
 きっとパラケルススちゃんの物ね。
 錬金術師なら、鉱物を持ってても不思議じゃないもの。
 もしかしたら重要なものかも知れないから、私が届けに行って来るわ」

パラケルススの調合を見ていたフロレアは、石が薬の素材である可能性に思い至った。
調合の素材なら、あり触れた物であっても欠ければ困る筈だ。

「この状況では不測の事態が起こらないとも限らない。私も行こう」

レナードも立ち上がり、ステンシィ夫妻は連れだって先頭車両へ向かった。

569フロレア・ステンシィ ◆d/Florean2:2015/10/12(月) 00:08:24 ID:aQ0L7z220
列車の先頭車両では、乗務員たちが乗客を食堂車まで誘導する真っ最中だ。
混乱を鑑みて車内放送は用いておらず、何人かが個別に声を掛けて、一人ずつ連れ出してゆく。

「避難行動について説明しますので、責任ある方は食堂車まで来て下さい。
 乗務員の指示に従って、慌てず、順番にお願い致します」

人が一人減ると、ルパイネドーラが貯水槽の水を人型に変え、乗客に偽装した傀儡を作って元の座席へ送り返す。
彼女は熟練の精霊使いらしく、手並みも鮮やか。
風の精霊を使った再音の術で騒めきを再現して、本物の乗客が車両から少しずつ減ってゆく違和感も与えない。
先頭車両の非戦闘員を食堂車に集め終わると、ルパイネドーラも先頭車両へ入ってゆく。

「御苦労さん。
 後は此処を封鎖すれば、遠慮なく暴れられるって訳か。
 ちょっと近づいて見たが、標的は人間族のガキだな。
 ぼーっと真っ白な画用紙を見てるだけだが、異様な気配だけはしやがる」

先頭車両で見張りをしていた獣人は、大き過ぎる小声で相棒の女エルフに言う。

「じっとしててって言ったのに近づいたの?」

「後ろから覗き見しただけだ。
 気取られちゃいねぇって」

「……まあいいわ。
 隣の席に座ってた自称保護者を連れて来たから、詳しい事情は彼女に聞いて」

ルパイネドーラが首を傾ける先には、三十半ばらしき人間族の女が佇んでいた。
彼女は異変の容疑者である少年の隣に座っていた人物で、保護者と名乗る女だ。

「ガキ一人で長距離列車に乗るってのも考え辛いし、連れくらいはいるわな。
 で、アンタは誰だい?」

ダッジムは見知らぬ中年女性に問い掛ける。

「私はNGO組織Ark to shineのメンバーでホノラウと申します。
 今は不幸にもフェネクスでの虐殺に巻き込まれた、リノ・セラミスタ君をルーラルダに連れてゆく途中ですが」

「……Atsか」

女が所属する組織の名を聞き、ダッジムは渋い顔となった。
アーク・トゥー・シャインは難民支援の非営利組織として知られ、こういった組織の例に違わず、人権侵害に煩い。
もしも、攻撃的な異能を使おうとした子供に攻撃すれば、後で訴訟を行ってくる筈だ。
その面倒な事態を考えれば、渋い顔になろうというものである。

「ええ、そのAtsの者ですが、私を連れて来た理由は何ですか。
 乗務員は避難行動の説明をすると言ってしない。
 食堂車では、先頭車両に異変の原因があるかも知れないから戻るなと言う。
 そして、そちらのエルフはリノ君との関係を聞くから付いて来いと……振り回されるばかりで、とても困惑しています。
 とりあえず、先頭車両が危険なのでしたら、リノ君も食堂車まで退避させて貰えませんか」

NGO職員の視線からは不審が滲み出ていた。
外の異変や、乗客が水の魔術で再現された異常な状況を考えれば、当然の反応でもあるが。

「その辺りは聞いてねぇのか。
 生憎だが、オイラたちは異変の原因をそのリノってガキだと見て、下準備の真っ最中だったんだよ。
 そんで、ようやく容疑者以外を全員退避させ終わったってわけ。
 アンタの話を聞いた限りじゃ、フェネクスの虐殺事件ってのが異能発現の切っ掛け臭えなぁ。
 ルーラルダ近辺では異変が多発してるらしいから、不安定な空間の影響を受けて覚醒したとも考えられるが……。
 ま、いつ能力が覚醒したかなんてこたぁ、どうだっていいか。
 対処しなきゃならんって事には変わりねぇしな」

570フロレア・ステンシィ ◆d/Florean2:2015/10/12(月) 00:09:48 ID:aQ0L7z220
女は獣人の説明に面食らったが、すぐさま不快げな表情を顔に出す。

「両親を亡くしたばかりの子供に虐殺を生き残ったから異能者、異変の容疑者とレッテルを押し付ける。
 自分がどれだけ差別的な行為を行っているかの自覚も無い態度には、呆れるばかりです。
 超能力に関する基礎データは? 無いですよね? 無責任な言い掛かりで決めつけてるだけですよね?
 御自分に異変を解決する能力が無い事を認めたくなくて?
 だから、他人に悪しきレッテルを貼って、それを解決する立ち位置を演じなければ、アイデンティティを保てない。
 さながら、魔女狩りのようです」

語調も荒く、否認するNGO職員。
理解しがたいものへの不審が、ありありと瞳に浮かんでいる。

「……言いたい放題だな。
 基礎データなんざ、あるわきゃねぇだろ。
 だが、あのガキが異能を持つのは間違いねえよ。
 精霊が異常な力を感知したらしいし、俺も危険な気配をビンビン感じたからな」

「隣に座っていた私は、何も感じせんでしたけど?
 それで、貴方がたはリノ君をどうするつもりです」

「決まってんだろ、オバハン。
 無理にでも異変を止めて貰うのさ。
 でないと、元の場所に戻れねぇし」

「貴方がたは不確かな推測を元に、罪の無い子供に暴力を振るうつもりですか?
 無知と混乱に付け込んで子供を傷つけるような事があれば、私たちは冒険者協会に厳重な抗議を致します」

「だから……まず、ガキの異能を止めるのが先だっつてんの!
 抗議も何も、空間が異界化してちゃ、電話なんか何処にも通じねぇだろ」

「では、私がリノ君と話して超能力者でない事と安全を確かめます。
 暴力での解決しか頭にないような方には、とてもではありませんが任せられませんので!」

冒険者への不信感からか、或いはオバハン呼ばわりが火に油を注いだのか、女は憤慨したように息巻く。

「止めとけ、ガキってのは獣に近い。
 暴力がうんたらかんたら言ってるが、その暴力を抑える理性は訓練しないと身につかねぇ。
 つまり、子供の異能者ってのは理性が働かねぇから猛獣と同じなんだよ。
 アンタにはあんのかい? 噛み殺される覚悟が」

「脅迫紛いのネガティブな先入観を周囲に植え付けて、暴力を正当化しようとする。
 まったく、最低そのものの態度ですね。
 尤も、リノ君は得体の知れない超能力者じゃありませんから、的外れな妄言ですけれど」

説得は聞き入れられない。
歴史ある魔術に比べて、超能力や異能に対する一般人の理解が薄い事も災いした。
NGOの女職員は獣人の話を疑い、止める間もなく先頭の座席へと踵を返す。
ダッジムの頭に、この女の腹に一発入れて気絶させてやろういう考えが浮かぶものの、すぐに霧散した。
炭鉱の金糸雀として消えて貰う方が、後腐れが無いと考えたのだ。

「熊に殺られる動物愛護団体のようにな」

「ダッジム殿、如何したか」

パラケルススが不審な顔で聞き返す。

「いや、あのオバハンの説得が成功したら良いなって祈ってただけだよ」

苛々した靴音が遠ざかると、入れ替わるようにしてステンシィ夫妻がやって来た。

571フロレア・ステンシィ ◆d/Florean2:2015/10/12(月) 00:11:29 ID:aQ0L7z220
フロレアは座席の近くで拾った白い石をパラケルススに差し出す。

「パラケルススちゃん。
 もしかして、これを落とさなかった?
 必要な物だと思って、持って来たのだけれど…」

「……賢者の石?」

錬金術師は呟き、己のポシェットに手を入れて弄る。
そして、ようやく其処に有るべきものの不在に気付いた。
注意深く白いポシェットの内側を見ると、蓋の留め金が折れており、カパカパと開く状態だ。
いつから、この状態だったのかは不明だが、ポシェットの不具合が所持品を紛失した理由なのは明白だ。

「感謝する、フロレア殿。
 これは賢者の石。万物を完全な姿へ導く霊薬だ。
 まだ完成形の赤化には至らぬが、それでも卑金属を銀に変成させる程度の力は持つ」

パラケルススは小さな石を受け取り、それが未完成の賢者の石であると語った。
伝承では、これを得た者は万物を黄金に変え、病を癒し、神にも等しい力を持つと伝えられる。
製造過程は、腐敗を示す黒化、復活を意味する白化を経て、最後に赤化した石が現れるとの説が一般的。
つまり、パラケルススの言う通り、白い石は未完成品だ。
とは言え、製造には莫大な労力とコストが掛かっていたので、別にフロレアへの感謝が色褪せる事もない。

「良かった! やっぱり薬だったのね。
 それで……この異変は止まりそう?」

フロレアは外の景色に視線を向けた。
夜空には赤光の鳥が群れを為し、青い光の蝶や緑の燐光を放つ魚が軽やかに輪舞する。
その光に照らされる下を、動物隊がユーモラスに行進していた。
フェネクスに赴いたことがある者ならば、彼の芸術都市のイルミーションを連想する景色だ。

「異変が止まるかどうかはともかく、異変の正体には見当が付いた。
 想像の具現化で間違いあるまい。
 リノ・セラミスタが、想像界の風景を現象世界に照応させているのだ」

「リノ・セラミスタ……?」

「フェネクスの星誕祭で虐殺事件に遭い、難民となった少年と聞く。
 おそらくは、在りし日のフェネクスを周囲の空間へ投影しているのであろう」

子供の落書きのように変化する空間を観察し続けて、パラケルススは異変の正体を看破した。
その推理を聞くと、ダッジムが会話に割り込んで来る。

「はん? 想像の具現化だって?
 じゃあリノってガキを気絶させりゃ、この怪現象も収まるって事か……。
 しかし、力の規模と範囲がやたらでかいな。
 周囲の空間全てを塗り替える能力なんて聞いた事ねぇぞ」

ダッジムは車窓から外の魔境を眺め、呆れたように感想を漏らす。

「確かに影響範囲は広いが、範囲を広げれば広げるほど、威力の方は低下するものだ。
 強引に作った不安定な空間ならば、少しの切っ掛けで砂上の楼閣の如く崩れ去ろう」

「ステ振りは範囲だけだと願いたいが、どうなんやら。
 無力化を図る順番としちゃ、オバハンの説得が最初で、それが無理ならパラケルススの薬。
 それもダメならオイラの腕力とドーラの精霊魔術……こんなもんか?」

「それで良いが、我も短い間なら接近戦で戦えるやも知れぬ。
 恐らく、ダッジム殿にも引けは取るまい。
 そうならぬ事を期待してはいるが」

572フロレア・ステンシィ ◆d/Florean2:2015/10/12(月) 00:13:15 ID:aQ0L7z220
「ほぉ……切り札有りかい? 期待してるぜ」

虚弱な錬金術師に嘯く、巨躯の獣人。
本来なら、両者が格闘で互角に戦える筈もないが、バラケルススは自身有りげだった。
大まかな手筈が決まると、バラケルススは手慣れた指使いで薬を調合する。
出来上がったのは、大型の猛獣でも一呼吸で昏睡させる睡眠薬だ。

「ルパイネドーラ殿、風の精霊を操って、対象だけに睡眠薬を吸引させる事は可能であろうか」

「ええ、出来るわ」

エルフが頷くと、緩やかな風がバラケルススの頬を撫でた。
水の精霊で数十の傀儡を作りつつ、風の精霊も同時に操っているのだから、ルパイネドーラの力量の高さが窺える。
車両後方で動く冒険者たちを他所に、難民支援組織の女職員はリノに向かって話し掛けていた。

「リノ君。
 今、外で起きている現象が、貴方の所為だって言い掛かりをつける人たちがいるの。
 でも、もちろん違うでしょう? そうよね?」

少年の返答は無い。
座席に腰を下ろしたまま、大きく見開いた瞳で白い画用紙帳を指でなぞり続けるだけだ。
陶酔する芸術家の如く、心は此処に有らず。

「リノ君、聞きなさい。
 これは冒険者協会から賠償金を請求出来る機会なのよ。
 人生を取り戻すチャンスを逃しちゃ駄目。
 幸運の女神は誰の元にも訪れはしないの」

女が肩を揺すると、空想に耽っていた少年も現実に引き戻された。
もし、この職員が真摯に少年と向き合っていれば、此処で異変は終わったかも知れない、
が、それは無理な注文だ。
そもそも、そうであれば、この異変自体が起こらなかったのだから。

「……ママじゃない」

虚ろな瞳に理性の光が宿ると、次第に怯えが浮かぶ。

「ママは……ママは何処?」

少年は不安に苛まれた顔で周囲へ視線を走らせるが、探す相手の姿は無い。
フェネクスの星誕祭で消えた二人の姿は、何処にも無かった。
その事実をホノラウは伝える。

「何度も教えたでしょう? 貴方のママもパパも、もう居ないって。
 ね、だから、これからの事を考えなくちゃ駄目よ。
 これから行くルーラルダは各地で難民が大勢発生し続ける中で、受け入れに消極的な国なの。
 でも、貴方の訴えが市民の間に広がれば、政府も動かざるを得ない。
 貴方も同じ街に住んでた人たちを助ける事が出来たら、とっても嬉しいでしょう?」

リノは頭を両手で抱え、瞳から涙を流す。
脳裏には巨大な人腕蜘蛛が厄災の種をばら撒き、周囲の群衆が事切れてゆく場面がフラッシュバックしていた。
心を引き裂かれ、世界の全てを奪われるような恐怖と共に。

「パパ! ママ! 何処ッ! 何処ッ!?
 わああぁぁああぁぁ! 誰か、助けてぇぇぇぇ! ああぁぁああぁぁ! 」

少年の悲痛な叫びを合図として、周囲の心象風景は苦悶の色彩を帯び始めた。
楽しげですらあった光景は終わりを告げ、彼の心が描いた生物たちは不気味に変貌してゆく。
外の動物たちも溶け合い、奇妙に複合しながら、人の腕を生やす巨大蜘蛛の姿へ変わり始めた。
フェネクスの悲劇を再現したかのように黒い驟雨も降り始め、それは屋根を溶かして車内へと滴り落ちて来た。

573フロレア・ステンシィ ◆d/Florean2:2015/10/12(月) 00:15:56 ID:aQ0L7z220
「ひっ!」

短い悲鳴。
説得すると息巻いていたNGO職員が真っ先に黒い雨を浴び、力無く倒れ込む。
乗客を模した水人形たちも、天井から漏れる黒雨の水滴を浴びて次々と形を崩していった。

「気を付けられよ。
 我の見立てでは、この黒い雨はフェネクス虐殺の記憶を具現化したもの。
 迂闊に触れれば、精神を塗り潰されよう」

パラケルススの警告で、二人の冒険者とステンシィ夫妻は慌てて雨漏りの箇所を見上げる。
フロレアもレナードも元の席に戻り損ねていたのだが、後ろの車両へ戻れていても状況に変わりはなかっただろう。
背後の車両でも、乗客の悲鳴は響き渡っていたのだから。

「ドーラ、やれッ」

車内に広がってゆく阿鼻叫喚を聞き、ダッジムは吠えるような指示を出す。
ルパイネドーラも即座に風の精霊へ思念を伝えた。

「シルフよ、標的を風の輪に閉じ込めなさい」

使役精霊のシルフは、パラケルススのシリンダーから粉を吸い上げる。
そして、列車内の大気を掻き乱しつつ旋回。
環状の風を作って、そのまま前方へと突進する。
眠りの微片を含んだ旋風は少年の気管に入り、神経に作用して、意識を奪う――――筈だった。

「やったのか?」

ダッジムが誰にともなく問うものの、答えは否だ。
確かに睡眠薬を吸引させたにも拘わらず、夢魔の囁きは届かない。
視界の先で小さな影がゆらりと動くのを見て、錬金術師は目論みの不首尾を認めた。

「即効性の麻酔だが、影響を受けておらぬようだ。
 今の少年は、肉体的にも通常生物の範疇に無いのであろう」

少年は幽鬼のように席から立ち上がると、振り返り、車両の後方を睨む。
瞳には攻撃的な拒絶の光が浮かび、とても七歳児とは思えない圧迫感だ。
誰もが肌を粟立たせ、強い敵意に気圧された。

「ママを返せぇぇ! 悪者ぉぉっ!」

臨戦態勢を見せる相手たちを視界に捉え、リノは喉を枯らして叫ぶ。
それは聞くものの心に世界から除かれるような重圧を与え、骨が震える程の恐怖を刻む血の咆哮だった。
途端に黒い雨の勢いも増し、天井の各所にも掌ほどの穴が次々と開く。

「おぉい坊主、落ち着けッ!」

「煩い煩い煩い! みんな嫌い!嫌い!大嫌い!」

ダッジムが説得を試みるものの、相手の敵意は膨れ上がり、心的な重圧も増すばかり。
ルパイネドーラは説得は不可能と逸早く判断し、残存する水人形を一斉にリノの元へ向かわせた。
水の精霊を相手の肺に潜り込ませて、意識を奪う意図だ。
麻酔同様に意識を奪えなければ、もはや溺死させるしかない。

「やっぱ、やるしかねぇか!」

覚悟を固めたダッジムも一瞬遅れて続く。
彼の思考も冒険者としては珍しくないもので、死なせても蘇生魔術で復活させれば良い、だ。
巨体に似合わぬ俊敏な動きで黒い雨雫を器用に避けつつ、ダッジムは標的に迫り――――唐突に消える。
数体の水の精霊と共に。

574フロレア・ステンシィ ◆d/Florean2:2015/10/12(月) 00:19:41 ID:aQ0L7z220
列車の天井を突き破り、通路に鉄色の壁が現れていた。

「な、何っ!」「うきゃうっ」「きゃっ」「うっ」

地震のような衝撃と振動が列車を揺らし、エルフと錬金術師とステンシィ夫妻の四人が体勢を崩す。
異臭に気付いたルパイネドーラが、顔を上げると赤い飛沫が一面に広がっていた。
水の精霊たちの気配も、今は感じられない。
視界を塞ぐ鉄の壁は何なのか? 巨漢の獣人は壁の向こう側なのか?
状況が飲み込めず、精霊使いは仲間に問い掛けた。

「ダッジム?」

混惑する精霊使いの問い掛けには、事態を把握したパラケルススが答える。

「ルパイネドーラ殿、あの壁は巨大ロボットが振り下ろした剣のようだ。
 信じ難いが、あれもリノ少年の想像で創り出されたものであろう」

ルパイネドーラもフロレアもレナードも視線を窓の外に向け、謎の金属壁の正体を確認した。
先頭車両の通路を塞ぐ壁の正体が、体高三十メートル級のロボットが振り下ろした剣であると。
客車を一刀両断した二十メートルの刃を側面から目にした所為で、通路に壁が現れたかのように誤認したのだ。
ステンシィ夫妻は非現実的な光景に声も無い。
いや、巨大な人型ロボットの出現には誰もが戦慄を隠せなかった。
熟練の冒険者も、窓から外を見てしまった数百の乗客たちも。

「巨大ロボット……。
 あんなものを七歳の少年が異能で作れるって言うの!?
 でも、範囲を広げれば威力は落ちるはずじゃ……」

精霊使いは絶望に満ちた否認を口から漏らす。
三十メートル級のロボットは、一般的なアイアンゴーレムの四倍程度。
包丁を巨大化させたような剣など、振り降ろされれば斬られたでは済まない。
数十トンもの衝撃を受ければ、人の肉体など簡単に四散してしまうだろう。
異能を操る少年への攻撃意思が急速に萎え、恐怖と逃走の感情が頭を擡げるのも致し方ない。

猶、この巨剣の持ち主について改めて語れば、フェネクスの虐殺の場で召喚された異世界の人造兵器である。
全身が銀色で、背に翼を持ち、中世騎士の甲冑にも似たフォルムと大剣を持つ人型の機械。
それを、リノは恐怖と破滅のイメージとして記憶していて、この空間に再現したのだ。
外見を想像で模した物なので、本来の性能は再現されていないが、危険度の高さに変わりはない。

「彼我の力に絶対的な差があるようだ。
 力の規模が桁違いであれば、我らにとって膨大な量でも、リノ少年にとっては微小な減少率なのであろう。
 地を這う蟻では、象が犀に変わっていたとて判別など付くまい」

「そんな……何か手は無いの! このままじゃ殺されるわ!」

「力量の差は顕著。
 神経に干渉する事が出来ず、物理的にも止められぬ。
 もはや、打つ手は一つか……」

パラケルススは切り札の使用を決意したが、それを実行する暇までは無かった。

「ミ、サイルッ!?」

窓を見て、掠れた悲鳴を上げる精霊使い。
少年の想像で実体化するロボットは、容赦なくミサイルでの追撃を仕掛けてきた。
正確にはミサイルを模したエネルギーかも知れないが、どちらであっても結果など変わるまい。

「シルフッ!」

精霊使いの絶叫は、耳を劈く轟音と赤い閃熱の中へ消えた。

575フロレア・ステンシィ ◆d/Florean2:2015/10/12(月) 00:22:43 ID:aQ0L7z220
誰の物とも知れない叫びの中で、紅蓮の炎塊が紫陽花のように咲く。
それは、幼児が全力で虫を叩き潰すような過剰な攻撃力だった。
爆発の圧力で屋根や壁は砕け散り、先頭車両もほぼ全壊の有様だ。
後続の車両も衝撃で横転し、今度は壁と窓が黒い雨に晒されて、溶け始めてゆく。
風の精霊を守りに回せたルパイネドーラと、その背後にいるステンシィ夫妻は辛うじて爆発の直撃を免れていた。
床に倒れ伏すフロレアの喉からも、微かな吐息が漏れている。

「う……ぅ……」

但し、無傷ではない。
粉砕された車両の破片が全身に突き刺さり、熱波を浴び、天井が吹き曝しとなった事で黒い雨にも打たれている。
ルパイネドーラも似たような状態で、全身から血を流して失神。
男性であるレナードだけが、僅かな体力の違いからか、甚大な負傷を受けても意識を保っていた。

パラケルススとホノラウの二人は即死だ。
数千度の爆炎で焼かれ、髪も皮膚も肺も一瞬で黒焦げにされていた。

爆音が消えれば、炎の音に混じって無数の悲鳴が聞こえて来る。
子供を抱えた母親が助けてと叫ぶ声。神へ縋る老人の祈り。若い男女の苦痛の叫喚。子供たちの苦悶の呻き。
外へ逃げようとした男は漆黒の雨に心を塗り潰され、恐怖の中で意識を途絶させた。

死神が跳梁し、絶望が勝利したフェネクス虐殺。
その限りなく正確な再現が此処に。

この暴力的な力こそが、アイン・ソフ・オウル。
彼らの感情一つで、年齢も、経験も、思想も、善悪も関係なく、台風や津波の如き圧倒的な力で理不尽に薙ぎ払われる。
つまりは、熟練の冒険者たるダッジムも判断を誤っていた。
相手は猛獣に等しい脅威ではなく、神災にも等しい脅威だったのだ。

小さき神が味わった虐殺の記憶は――――誰にも生存の奇跡など起こさせない。

576enchanter ◆FarahLxH6M:2015/10/25(日) 06:35:14 ID:GDNk2S7c0
……言葉が足りなかったようで、それは本編の書き手たちへ深く謝罪したい。

まず、俺には本編を進めている書き手に乗っ取りと思われているのではないか……という懸念がある。
此処で設定を増やしている事が本編の書き手に継続意欲を失わせ、その所為でスレを停止させたのではないか、という懸念が。
本スレで書かずとも、此処のレスが本編を停止させているのなら、乗っ取りと何が違うのだろう?という訳だ。
だが、俺は自分が原因となってスレッドが止まるのは本意じゃない。

つまり「俺たちは向き合わねばならない」というのも、この避難所での投稿を止めるべきではないのか、という己への問い掛けだ。
今後はレスをウェブ上に投稿せず、自分の為だけの話として静かに終わらせる方が望ましいのではないか?
そう迷っていたので、あの発言が出たという訳だ。

勿論、俺自身が本編のキャラクターたちを動かして、創発板のスレッドを進めようと考えているわけではない。
さすがに其処まで厚かましくはないが、そう受け取られても仕方なかったとは思っている。

猶、此処での設定、枢要罪アスタロトは現在は存在していないものだ。
名前も知れない占い師が未来の自分がなると称してはいるが、成否の知れない予言という形で描いている。
本編と食い違っても良いように。
本スレに別の憂鬱の枢要罪が出たら、彼女の予言は成就しなかった、という寸法だ。
俺が憤怒の枢要罪になるかのような台詞も、同様に回避可能かもしれないものとして描いたつもりだ。
そう見えないとは思うが、なるべく根幹の設定には触れないようにしようとは考えているんだ。
しかし、このような設定を出して意図の不明な台詞まで吐かれれば、不安にもなるな。本当に済まない。

それと……俺が本編の避難所に書き込まない理由は、個人サイトの専用掲示板に警戒心を抱いているからに他ならない。
この点は、陰で物を言う奴と受け取られても当然だと、我ながら思う。

何か、他に聞きたい事があれば遠慮なく聞いて欲しい。
此処でなら会話も可能だが、どこか別の場所で発された質問でも真摯に応えたい。

577フォルテ ◆uVQKW6f//c:2015/10/25(日) 11:34:23 ID:B40SDoH60
>>576
こちらこそ気を遣わせてしまって申し訳ないです。
あの彼が言ってる乗っ取りは全然関係ない雑談スレみたいなところで
「放置スレがあるから再利用しようかな〜」的な発言を見かけたのかな?と自分は解釈しました
(ざっと探してみたもののソースは発見できなかったけど)
4か月も止まってればなな板だったらとっくに落ちているところなのでそういう話が出てもそらそうだわなーという感じです

こっちは元々本編と連動してもいいし矛盾してもおkの番外編(俗に言うパラレル設定?)という前提でやってもらっているので
その前提でいけばアイディアの元になることはあれど邪魔になることはあり得ないハズ
本編が止まっている原因はひとえに単なるサボリでございますw
これだけのクオリティがあれば本編の存在知らなくてこちら側に独自に付いた読者さんとかいそうなのでその人達のためにも存分にやってくださいませ!

個々の掲示板の管理人の信頼どうこう以前に個人掲示板自体に書き込むのに抵抗がある人も多いのは理解してますよ〜
なので本当は本編にも参加してほしいところだけど無理には勧めませんw

578enchanter ◆FarahLxH6M:2015/10/25(日) 23:29:45 ID:GDNk2S7c0
>577
気を遣わせているのは此方こそで、汗顔の至りだ。
それどころか、多大な配慮に甘えさせて貰っている。
ただ、この件は慎重に判断したいので、もう少し考える時間は持ちたい。

サボりに関しては、運営を主導している立場での悩みを案じていた。
他の書き手にレスの督促や、今後の運営方針を窺う事で、却って離脱を招いてしまうのではないか。
……という懸念から、それらを発信し難いのではないかと。
その点に関して此方にも良い案は無いが、他の書き手と話し合いを持つのは、きっと有用な事だと思う。

また、敵側の目的や思想に不明な点が多いので、何も思い浮かばなかったとも推察している。
生前のミヒャエルは真なる三主を仮想敵とする事で、人類を結束させるという目的があった。
彼がネバーアースの理や仕組みに気付いていれば、大勢の意思を統一させる事で大いなる厄災を乗り切ろうとしていた可能性もある。
ヴェルザンディもまた、理想の世界を作る意志を持っていた。
それらが、枢要罪に変化した事でどのような変化があったのか? 彼らの新しい方針、実現の手段、最終目的は何か?
この辺りを未設定として、触れないまま進めようとしても、なかなか動かし難いものだ。

アヤカシの扇動もミヒャエルの仕業なのかどうか、明らかでない。
鬼が言う「綺麗な心をした邪悪な奴」は山上の男女と別に表現しているので、第三のアイン・ソフ・オウルの存在も読み解ける。
俺はマモンと予想したが、別の奴かも知れないし、やはりミヒャエルなのかも知れない。
これらに関しては、ある程度設定する事で書きやすくなる可能性はあると思う。

そして、本編への正式な参加に関して。
これは初期から何度も検討していたのだが、やはり迅速な意思疎通が難しいと思われる点。
加えてパワーバランスの高さから断念した。
元々の説明ではアイン・ソフ・オウルの位階はソードワールド2.0で例えられているが、余り2.0は詳しくない。
其処でギリシャ神話に変換してイメージしている。
人位が英雄、地位が下位神、天位がオリンポスの神々、神位がゼウスといったように。

これは個人的な捉え方だが、位階二つの差は余りに大き過ぎて、相対した時に即死するイメージしか湧かない。
世界交錯という現象もあるが、天位級の枢要罪を倒していく流れで進めるなら、人位では力不足。
潤滑な進行には、地位級程度の力量は必要と思われるが、この時点で既に神の領域だ。
どちらかと言えば、市民生活周りをメインに据えたい俺に本編は向かないだろう。

力になれず遺憾な所だが、其方が上手く行くようには祈っている。

579フォルテ ◆uVQKW6f//c:2015/10/26(月) 22:41:10 ID:92HSW/dg0
>サボリの原因
噛み砕くとそんな感じかもしれない
一行にまとめると「もう少しだけ待ってみようかな?」を無限ループ→いつの間にか今に至る
という感じですねえ\(^o^)/
せめて導師様が残ってる間にどうにかしてればよかったなあ…
でもエスさんだけでも残ってくれてたのが救いですね

>本編参加
避難所だけの問題なら公共性のある板に引っ越しもアリなんだけどそういうことなら難しそうですね…
とりあえず持ち直せるように頑張ってみます

580Miryis stalemate ◆NHMho/TA8Q:2015/12/11(金) 00:03:36 ID:mVzftu6I0
ずっと黙ってるのも不誠実だし、アタシも結論を書かなくちゃね。
結論から言えば、>>273のリンセルのその後から、>>575の事件までの一連の流れは終了する。
レスの続き自体は列車消失事件の結末までがあるけど、今後は此処に投下しない……と言うのが結論だよ。

スレ主さんは、彼の言葉は全然関係ない雑談スレでの発言を指すんじゃないかなって言ってくれたけど、そんな場所があるとは思えないしね。
あれは明確に此処の書き手を指していて、しかも文面からすれば相当な不快を与え続けていた……と捉えるのが自然だと思う。
おそらくは無神経、無理解に物語の上澄みを掬っていた事で。
それなら止めるのが最善。不快な思いを与えていたのならゴメンね。

波乱は望まないから、アタシへの言及や返レスは無用でお願い。
物語的には、本編で起きた因果律の混沌で消えたってのが整合性のある説明、かな。
仮に厄災の種がバラ撒かれてない事になってるのなら、アタシは事を起こさず、ミリア事件も始まらない。
三主事件が起きず、ボルツ・スティルヴァイも死んでないなら、イストリアを出る事だって出来ないはずだしね。

ただ、アタシなりにあの世界を愛してはいたから、誰の目にも触れなくてもミリア事件とでも呼ぶべきものの終わりまでは書くかもしれない。
魔術対策課を交えたリノの処遇、異変の犠牲者を絡めた蘇生関連の話、当然リンセルの行方も。
色々長くなっちゃったけど、アタシも本編の続きは楽しみに待ってるよ。

……それじゃあね。

581エスペラント ◆hfVPYZmGRI:2015/12/11(金) 22:50:43 ID:ULzlp2so0
すいません、返答が不要と書かれていましたが
いろいろ漁っていた際に発見し、自らの発言により起こったことの為
敢えて言わせていただきます。

本当に申し訳ありません。
私としては正直此処に関しては余り目を通していませんでした
聞いた経緯に関しては詳しい事は言えませんが本当に平身低頭の限りで誠意を見せるつもりです。
今更綺麗事と言われる覚悟で、ローファンタジーに書き込む形が違うとは言え
同じ設定を広げ、書いているのは仲間だと言っても差し支えない事だと思います。

なので消えることは無いですし、本当だったら私は消えていた身分ですが
此処の方に助けられた事を恩を仇で返すという最悪の形にだけはしたくない最低の自己保身もあります。
しかし本当に感謝しています、ありがとう。

もういないのであれば意味は無いですし、自分は最低の事をした事には変わりありませんので
忘れないようにしながらこれからも参加し続けようと思います。
それでは、お嫌でしょうがまたいつか

582ひとりごと ◆uVQKW6f//c:2015/12/12(土) 11:35:30 ID:Xr2sXq5s0
エスさんなら反応してしまうだろうなと思ったw
まあ隠れスレの更に隠れスレで波乱も置きようもないから大丈夫でしょうw
本編での大幅な世界改変はいっそ別の時間軸として切り離してしまうことで
こっちの書き手も気楽にできるようになるかな?との意図もありました
(もちろん心機一転仕切り直し&新規が入りやすくなるように、との意図がメインですが)
無理には引き止めないけど戻りたくなったらいつでも戻ってきてね〜

583Miryis stalemate ◆NHMho/TA8Q:2015/12/13(日) 04:19:58 ID:D2PS773Q0
来ちゃった……って言うんだよね、こういう時は。

>>581
まず、アタシは返事を聞かずに立ち去るほど短気じゃないから、もう何処にもいないなんて事はないよ。
繊細でもないから、傷心で塞ぎ込むような事だってない。
ただ、本編の書き手を傷つけてまで、此処を継続するつもりが無かったってだけ。

これが、何かしらの誤解から生じたものなのかは分からない。
迷探偵の回らない頭には、スレの乗っ取りを企てる者は自分を指すって結論しか出てこなかったから。

・もし本編が停止したまま倉庫行きになれば、此処だけがネバーアースを描く事になって実質的に乗っ取ったと言える点。
・キャラテンプレに操作可能と明記してあるNPCや、本編出演のモブに名前を付けて、此処で動かしている点。
・どうしても本編が動かないなら、アタシが枢要罪を操作した方が良いんじゃないかって考えが、何度か頭を過った点。
・此処の書き手が乗っ取りという単語を口にして、意味不明な態度を取った点。
・此処の書き手の発言全てにアタシは責任を持つ点。
・数か月も停止してたスレを、部外者が動かすとは考え難い点。

……うん、我ながら危惧や複雑な感情を抱かせてもおかしくないし、アタシに非無しと言えるかは怪しい。
でも、詳しい事情を説明出来かねるなら、無理に口を開かせる事も無いよ。
消えることは無いって言ってもらえるのなら、素直に甘えさせてもらおうかな。
アタシのあざとーく、しおらしーい態度で、仏心を出してもらえたって思って。
長々とやり取りが続くと、本編を進める為の気力まで削っちゃうかもしれないから、これにて一件落着!
殊更に自責で卑下するなんて、以ての外だからね。
むしろ、楽しんで書いて。

>>582
アタシは箱庭を作る事に楽しみを見出すタイプの書き手かも知れない。
だから、本編の書き手がやり難くならないようにって意図で支流のIF世界って口にしたけど、実際は本編と矛盾する設定は描けないと思う。
……ちょっと賢者の贈り物みたいな感じだね。
ただ、その辺りは因果の混沌が起きる時間をミリア事件の後にすれば、設定上の問題も起きないから大丈夫。
色々な気遣い、ありがと。
最近は常に朦朧としてて考えが纏まらない感じだけど、余裕が出来たら再投下を考えるかも。
誰かに見てもらおうって意図で始めた訳じゃないから、止めてもダメージを受ける訳じゃないんだけど、
起承転結の転の部分で止めたままってのも微妙だしね。

あ、それとブルースプリングスの設定投下場所は空想のコキュートスの12レス目だよ。
前の避難所に投下してたのは、その前身設定と思しき子供の国カイコだったかな。

584エスペラント ◆hfVPYZmGRI:2015/12/16(水) 00:24:08 ID:CeEtYI6I0
今は忙しいので、避難所への返信は後にしてこちらをまず先に

>>582
本当に申し訳ありません。
ただ何と戦ってるんだって言われそうですが
何処で火種として拾ってくるか分からないのは此処とは別の掲示板でよく分かっているので

>>583
ただ前に見た時に乗っ取り紛いの行為とも書かれていましたし
それは自分を指しているのであれば聞き捨てはならないというのもあります。
これは大部分でもあるのは本当の事で自ら思った事として言わせていただきます。
全部明かせないということに関して触れて頂かないのは助かります。

ありがとうございます。
ただ一つ言いたいのは余りに他の方の設定とかに矛盾とか出ることを気にするのは
皆で作っていくものである以上疑問を持っていたので
少なくても参加して作っていく権利がある以上ある程度の整合性云々は気にしなくても良いと思います。
それは設定した主だけが考えて作る事が許されるとか公言とかしているのは別だとは思います。
これは別に商業作品でもないわけで、設定が違うだのなんだの言う輩はいないでしょうし
久しぶりに覗いて思った事なので戯言程度に聞いていただければと

あとブルースプリングスに関して教えて頂きありがとうございます。
カイコの事も正直言われるまで忘れていましたが、覚えて頂けてるとは思いませんでした。
ちょっとうれしいですね。

とりあえずこれで終わりにします
今はいろいろ考えたり荒らしの類が居るので書き込みタイミングや
また忙しいのもあり何時になるかは分かりませんが書かせて頂きます。
それでは

585名無しさん@避難中:2016/06/29(水) 18:21:59 ID:H9YY95Z60
ksks


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