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ローファンタジー世界で冒険!避難所

572フロレア・ステンシィ ◆d/Florean2:2015/10/12(月) 00:13:15 ID:aQ0L7z220
「ほぉ……切り札有りかい? 期待してるぜ」

虚弱な錬金術師に嘯く、巨躯の獣人。
本来なら、両者が格闘で互角に戦える筈もないが、バラケルススは自身有りげだった。
大まかな手筈が決まると、バラケルススは手慣れた指使いで薬を調合する。
出来上がったのは、大型の猛獣でも一呼吸で昏睡させる睡眠薬だ。

「ルパイネドーラ殿、風の精霊を操って、対象だけに睡眠薬を吸引させる事は可能であろうか」

「ええ、出来るわ」

エルフが頷くと、緩やかな風がバラケルススの頬を撫でた。
水の精霊で数十の傀儡を作りつつ、風の精霊も同時に操っているのだから、ルパイネドーラの力量の高さが窺える。
車両後方で動く冒険者たちを他所に、難民支援組織の女職員はリノに向かって話し掛けていた。

「リノ君。
 今、外で起きている現象が、貴方の所為だって言い掛かりをつける人たちがいるの。
 でも、もちろん違うでしょう? そうよね?」

少年の返答は無い。
座席に腰を下ろしたまま、大きく見開いた瞳で白い画用紙帳を指でなぞり続けるだけだ。
陶酔する芸術家の如く、心は此処に有らず。

「リノ君、聞きなさい。
 これは冒険者協会から賠償金を請求出来る機会なのよ。
 人生を取り戻すチャンスを逃しちゃ駄目。
 幸運の女神は誰の元にも訪れはしないの」

女が肩を揺すると、空想に耽っていた少年も現実に引き戻された。
もし、この職員が真摯に少年と向き合っていれば、此処で異変は終わったかも知れない、
が、それは無理な注文だ。
そもそも、そうであれば、この異変自体が起こらなかったのだから。

「……ママじゃない」

虚ろな瞳に理性の光が宿ると、次第に怯えが浮かぶ。

「ママは……ママは何処?」

少年は不安に苛まれた顔で周囲へ視線を走らせるが、探す相手の姿は無い。
フェネクスの星誕祭で消えた二人の姿は、何処にも無かった。
その事実をホノラウは伝える。

「何度も教えたでしょう? 貴方のママもパパも、もう居ないって。
 ね、だから、これからの事を考えなくちゃ駄目よ。
 これから行くルーラルダは各地で難民が大勢発生し続ける中で、受け入れに消極的な国なの。
 でも、貴方の訴えが市民の間に広がれば、政府も動かざるを得ない。
 貴方も同じ街に住んでた人たちを助ける事が出来たら、とっても嬉しいでしょう?」

リノは頭を両手で抱え、瞳から涙を流す。
脳裏には巨大な人腕蜘蛛が厄災の種をばら撒き、周囲の群衆が事切れてゆく場面がフラッシュバックしていた。
心を引き裂かれ、世界の全てを奪われるような恐怖と共に。

「パパ! ママ! 何処ッ! 何処ッ!?
 わああぁぁああぁぁ! 誰か、助けてぇぇぇぇ! ああぁぁああぁぁ! 」

少年の悲痛な叫びを合図として、周囲の心象風景は苦悶の色彩を帯び始めた。
楽しげですらあった光景は終わりを告げ、彼の心が描いた生物たちは不気味に変貌してゆく。
外の動物たちも溶け合い、奇妙に複合しながら、人の腕を生やす巨大蜘蛛の姿へ変わり始めた。
フェネクスの悲劇を再現したかのように黒い驟雨も降り始め、それは屋根を溶かして車内へと滴り落ちて来た。


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