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The Demon Village.
1
:
◆M0yfIGPt92
:2021/10/23(土) 21:46:11 ID:bDiJ5Dlc0
ブーン系秋の短編祭2021参加作品
180
:
◆L6OaR8HKlk
:2024/11/17(日) 19:40:14 ID:HcLXXAEI0
(;´・_・`)「す」
壁が、蔦が、ハの字に広がる二つの刃によって突き破られる。鈴は足を止めたが、回避にまで致らない
名前を叫ぶよりも早く、身体は反応していた。斧を振り上げ、『刃物』へ向かって投擲する
それは円の軌道を描きながら鈴の側を通り抜け、刃の『股』へ衝突して火花と鋭い鋼鉄の悲鳴を上げ、軌道を上方向へと逸らせた
(#´・_・`)「ず退がれ!!蟻共もだ!!」
ガキを運搬する蟻は差し迫った危機に素早く反応し、身を潜めたのに対し
鈴は再び腰を抜かし、ポカンと敵対ワンダーを見上げていた
(#´・_・`)「何してっ……!!」
パックリ裂けた壁の穴から、軽やかに身を翻して姿を現した敵対ワンダーを跳び蹴りで突き離す
そいつは、天井スレスレの大きな体躯を、薄暗い室内でもハッキリとわかるくらい鮮やかな『赤』のワンピースで包み
重油を流したような重く長い黒髪と、それに相反して死人に等しい白い肌をしていた
顔面はしっちゃかめっちゃかに描き散らしたガキの落書きのように乱雑で、ガバァと開いた口の中は、これまたゾッとする赤で塗り潰されている
腕と脚は枯れ枝を思わせる程に細いが、手は引き伸ばしたかのように長く大きく、青白い血管がそこらを這いずり回っている
その手には、ヒトの胴を容易く両断出来るほど大きな『鋏』。開閉を繰り返す度にシャキンシャキンと威嚇の音を鳴らしている
(;´・_・`)「そう易々と終わらせてくれねえか……」
名称、『裁断女』
[ぎゃはっははははははははははひひひははははぁああはははははぁはあひひあはあひひひひひひぃいぃいぃいいいぃい]
俺でも手を焼く第三階層危険地帯のワンダーが、獲物を見つけた悦びで大きく嗤った
181
:
◆L6OaR8HKlk
:2024/11/17(日) 19:42:54 ID:HcLXXAEI0
(;´・_・`)「鈴」
/ ゚、。;/「ハッ、ハッ……」
(#´・_・`)「鈴!!」
Σ / ゚、。;/「ひゃい!?」
ショック状態から怒鳴り声で無理やり引き戻す。気を失わなかっただけ上等と褒めてやりたいが、彼女は『此方側』の半妖だ。腰を抜かして過呼吸なんて以ての外だ
だが『無理もない』と言い聞かせている自分もいた。彼女の能力は視覚の拡張。『大桜堂に死角無し』と呼ばれるほど、索敵に長けている
現状、植物ワンダーの蔦が広がるこの環境下では、『目』の発現は防御応答によって塞がれる為、鈴の異能は殆ど機能しない
これまで『目』によって敵をいち早く捕捉し、先手を打ち続けてきた彼女にとって、『不意を突かれる』という経験に乏しい
それに加えて、仕事が終わりかけた気の緩みとアンブッシュによるジャンプ・スケア効果も相まって、御三家の副長が聞いて呆れる醜態を晒したというワケだ
(#´・_・`)「退がってろ。お前を傷物にして返しちまったら俺が親父さんに殺されちまう」
/ ゚、。;/「で、でもセンセ……」
(#´・_・`)「切り替えが先だ。それが出来ねえならガキ共見てろ」
有無を言わせぬ口調で諭すと、鈴はズルズルと足を引き摺りながら後ずさった
その様子が滑稽とでも言いたげに、裁断女はケタケタと嗤う。不愉快なブスめ。同じブスでも徳雄とは天地の差だ
(#´・_・`)「面白いか?今のうちに嗤っとけよクソアマ」
バッグを肩から下ろし、肩紐を左腕に巻いて取っ手を握る。お粗末だが、簡易的な盾だ
持ってきた武器は斧以外無く、それも弾かれて裁断女の後ろに控えるロバの近くに転がってる
不幸中の幸いは、壁を破壊した一撃にロバが巻き込まれなかった事だろう。まだ『ツキ』は残ってる
(#´・_・`)「すぐに嗤えなくなるからよ」
元より、運に頼らずともぶっ殺してやるがな
182
:
◆L6OaR8HKlk
:2024/11/17(日) 19:43:47 ID:HcLXXAEI0
[ぎぃぎぎぎぎぃいいいいいいいいひひひぃひひぃいいいいいいいいい]
嗤い声か鳴き声か区別のつかない音を鳴らし、鋏を両手で広げて迫る。鈴はまだ充分な距離まで逃げられていない
(#´・_・`)「オラッ!!」
盾を持つ左腕を前に、鋏の交叉点目掛けて突っ込む。相当な切れ味はあるだろうが、持って来た荷物の中には金属類や瓶など、容易く切断出来ない物も入ってる。すぐさま真っ二つにはなるまい。こわい
奴にとって俺の行動は予想外だったのか、閉じるモーションが遅れた。そのまま壁際まで押し込んでやろうとするが
[あばばばはっあああああばばばばばばっばぁああああ]
(;´・_・`)そ「ぐぅっ……!!」
すぐさま踏ん張りを効かせ、押し返してくる。バッグの中身はある程度の時間は稼いでくれる物の、迫る両の刃は両肩へと食い込み始めていた
奴が更に悦びそうに、苦悶の表情を浮かべながら、顔をバッグに隠すように移動させる。イキってた獲物の他愛無さがウケたのか、耳障りな嗤い声は更に大きく響く
こんな時、先人の言葉が役に立つ。『死中に活を求め』、『肉を切らせて骨を断ち』、『備えあれば憂いなし』
(#´・_・`)「……」
バッグの隠しポケットから、コンドームで包んだ液体を取り出し、コッソリと口の中に放り込む
それを歯で噛み千切り、中の液体に唾液と生命力を混ぜ―――――
(#´・_・`)「ブゥーッ!!!!!!」
裁断女の顔面へと『吹き掛けた』
183
:
◆L6OaR8HKlk
:2024/11/17(日) 19:46:36 ID:HcLXXAEI0
[ぎゃああああああああああああああああああああああああああッッッッッ!!!!!!!!???????]
生命力入りの『酒霧』の効力は抜群のようで、裁断女は顔を抑えてのたうち回った
悪役プロレスラーが古くから使う『毒霧』の手法だ。不意打ちはお前らバケモノだけの専売特許じゃねえんだよ
(#´・_・`)「嗤えねえか!?ああ!?」
鋏の拘束から解かれ、半分千切れた荷物を背後へ捨ててワンピースの襟を掴み上げる
白い肌は火傷によって『黒く』焼け爛れ、赤だか黒だかわかんねえ液体が噴き上がった。そのダメージに拍車を掛けるべく
(#´・_・`)「≪握≫ッ!!」
右拳で顔面を打ち下ろす
(#´・_・`)「くっ、たっ、ばぁぁぁ……」
二度、三度と続け、トドメの四発目を放つが
(#´・_・`)そ「れッ……!?」
渾身の殺意を込めた右拳は、デカい掌で受け止められてしまった
長い指は俺の手首までスッポリと覆い尽くすと、抜き取られないように爪を食い込ませた
≪握≫は継続して発動してるが、灼ける身体などお構い無しに、今度は襟を掴む左の手首まで掴まれてしまう
184
:
◆L6OaR8HKlk
:2024/11/17(日) 19:47:30 ID:HcLXXAEI0
[あーあーあーあーあーあーあーあーあーあ]
[ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああァァァァァァァァッッッッッッッッ!!!!!!!!!!]
(;´ _ `)「ッ!?」
耳を塞げない状況下での、空気を震わす大絶叫。鼓膜の奥に鋭い痛みが走り、眩暈が起こる
掴まれた両腕がグンと持ち上げられ、身体ごと宙に浮く
(;´ _ `)そ「ガぁッ!?」
背中が天井へと強かに叩きつけられたかと思いきや、休む間もなく地面へと叩き落とされる
右手が解放されたが、今度は真横に大きく振り回されて、腰を硬くて細いもんに打ち付ける
バラバラと砕けたガラスと共に、床に倒れ込む。膝に力を込めて立ちあがろうとしたが、打ったばかりの腰の痛みが阻害する
:(;´ _ `):「が……ぐ……」
[あぁーーーーーーーーはははぎゃはぁーーーーーーーーーー]
悶え苦しむ様子を確かめたかったのか、そこで『ダンス』の手を止め、俺の身体をボロ人形のように持ち上げる
三発殴った影響で顔面の半分が抉れ、鼻腔と思わしき穴から黒い泡が噴き出ているが、意に介さないかのように嗤い声を上げた
これが狭間に棲むワンダー本来の恐ろしさだ。ヒトはオモチャか餌でしかなく、遊び尽くした後に食い散らかされるだけの存在と嘲笑うモノ共だ
185
:
◆L6OaR8HKlk
:2024/11/17(日) 19:49:21 ID:HcLXXAEI0
(;´ _ `)「この……ふざけやがって……」
[うー、うう、ぶぶぶぶぶぅーーーーーー???????]
だから、奴らには時折思い知らせてやる必要がある
/ ゚、。#/「ウチも相手しぃや!!この阿婆擦れ!!」
ヒトとは最も
(#´・_・`)「図に乗ってんじゃねえぞワンダー風情がァッ!!!!!!!」
殺しに長けた恐るべき存在であると
186
:
◆L6OaR8HKlk
:2024/11/17(日) 19:51:22 ID:HcLXXAEI0
[ああああああああああはははああああはあああははははぎゃはひぃひひひひ!!!!!!!!]
裁断女が片手を空けたのは、自身の得物で俺を切り裂く為だ。奴の左手は落とした鋏の取手を掴んだ
無傷の鈴を前に、よくもまぁそんな悠長な真似が出来たもんだ。まだ虫の方が賢い
/ ゚、。#/「行きッ!!」
俺の顔の側を『小瓶』が通過し、その後を弾丸が超高速で追いかける
(;´・_・`)そ「おまっ……」
咄嗟に顔を伏せた俺とは対照的に、反応が遅れた裁断女は撃ち抜かれて破裂した酒瓶の破片と中身をマトモに顔面に浴びた
[ごぇえええあああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!]
僅かに生命力が込められていたのが、二度目の『酒焼け』に顔を手で覆う
だがダメージを受けても左腕はガッチリと掴んで話そうとしない。断続的に≪流≫をしているが、今日は使い過ぎて思ったほど出力が出ない
(#´・_・`)「この……クソアマがァッ!!」
ならばこのままインファイトでやる他ない。再びワンピースの襟を掴んで体勢を整え、左脇腹へ膝を入れる
僅かに蹲るが、決定打には遠い。だがヘイトを稼ぐには十分だ。奴の意識を、『得物』から逸らせられる
187
:
◆L6OaR8HKlk
:2024/11/17(日) 19:55:46 ID:HcLXXAEI0
[ばああああああああああああああああああああ…………]
顔を上げた裁断女から、怒りの呻き声が上がる。顔面は既にしっちゃかめっちゃかで怒ってんのか泣いてんのかわからない
(#´・_・`)「おうコラ来いよクソブスがァ!!!!!」
言葉で噛みついて更に挑発。奴の汚い黒髪が、静電気にでも当てられたかのように逆立った
よほど頭に血が昇っているのか、テメーの側から得物が失くなっているのに気づいていない。俺らには『協力者』がいるのを忘れているようだ
/ ゚、。#/「こんのォ……!!」
鈴の気合いが入った声を合図に、奴の右手首を掴んで力の限りしゃがみ込む
/ ゚、。#/「ど阿呆がァァァァ!!!!!!」
豪快なスイング音が俺の頭上を通過し
[ぎぃッ!!!!!!????]
『蟻』が奪い取った大鋏が、裁断女の喉元に叩き付けられた
188
:
◆L6OaR8HKlk
:2024/11/17(日) 19:58:56 ID:HcLXXAEI0
[ごぉおおおおおおおおおおおごろろごろろろぉぉぉぉ!!!!!!!]
この一撃は相当喰らったらしく、俺の腕を手放してフラフラと後ずさる
ようやく解放されたが、情けないことに足腰が立たず尻もちをついてしまった
(;´・_・`)「ハァッ……!!」
/ ゚、。;/「センセ!!」
蟻の隊列が俺らを庇うように前に出る。裁断女はそれが見えていないかのように首に食い込んだ鋏を苦悶の叫びと共に抜きにかかった
(;´・_・`)「しぶてぇ、ぐぅッ……クソ女が……」
/ ゚、。;/「センセ」
鈴が顔を寄せ、耳打ちする。この間、裁断女は早くも鋏を抜き取った
パックリと開いた首の傷からは、血にも涎にも似たドス黒い粘液がダラリと流れ出ている
/ ゚、。;/「『外の子ら』も反応しおった」
(;´・_・`)「外……?」
そう言えば、鈴は『目』を寄生体職員の待機場所に置いてきている。階下の騒ぎを聞きつけて、彼らも臨戦体勢に入ったらしい
/ ゚、。;/「倒すんやのぉて、追い出すで」
枠がへしゃげた窓から、自然光が差し込んでいる。そうか、この場所は壁一枚隔てて『大穴』に通じている
どのみち、今の疲弊した俺らじゃアレを殺しきれない。だったら別の階層に『追い出す』方が勝算がある
(;´・_・`)「面白えな」
/ ゚、。;/「もうひと気張り、いける?」
返答の代わりに、膝を叩いて立ち上がった。まだまだやる気の俺らを見て、裁断女は喉の傷から掠れた音を漏らす
鈴の一撃で声帯をヤったらしい。これで絶叫は使えまい
189
:
◆L6OaR8HKlk
:2024/11/17(日) 20:00:55 ID:HcLXXAEI0
[〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッッッッッッッ!!!!!!!!!]
/ ゚、。#/「やるで!!」
(#´・_・`)「おおッ!!」
鈴は銃を構えつつ後ろへと下がり、俺は蟻の防衛ラインを飛び越えて裁断女へと向かって駆け出した
[〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!]
怒りに身を任せた大振りの刃が、教室の壁を抉りながら胴へと迫る
(#´・_・`)「フッ!!」
スライディングで躱し、奴の背後にある半壊したロバの側にまで滑り込む
[シィイイイイイイイイイイ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!]
裁断女はすかさず振り返って、鋏で串刺しにしようと振り上げるが
/ ゚、。#/「ほらほら!!」
背中に銃撃を受け、一瞬の硬直をした。この隙に、ロバの近くに転がっていた斧を手に立ち上がり
(#´・_・`)「ボケがァッ!!!!!!!」
[ッッッッッッッッ!!!!!!!]
ガラ空きの脇腹へとフルスイングを叩き込む。高く鋏を掲げたが為に伸び切った身体は、『くの字』に折れて壁へと衝突した
木造の壁はダメージを順調に蓄積させ、隙間から漏れる光量は増していく。もう二、三発デカいのを叩き込めば、こいつを奈落へと突き落とせる筈だ
190
:
◆L6OaR8HKlk
:2024/11/17(日) 20:02:17 ID:HcLXXAEI0
(#´・_・`)「もういっ……!?」
斧を抜こうとするが、柄肩を握られて外せない。壁にめり込んだ鋏の先が、顔目掛けて勢いよく降りてくる
執着せず手放し、横転して回避する。鋏に貫かれた床板が、ズドンと肝の冷える音を立てた
[ヒィィイイイイイイイイイイイ!!!!!!!!!!!]
その床材ごと鋏を引き抜き、やたらめったらに振り回す。相当追い込んでる証明だ
鋏の不規則な軌道に当たらぬよう落ち着いて距離を取り、タイミングを計る
/ ゚、。#/「そろそろ観念しぃや!!」
[カォ…………!?]
弾丸が喉の傷を更に深く抉り、裁断女は大きく仰け反った
(#´・_・`)「ンダラァ!!!!!!!」
鳩尾に前蹴りを見舞い、半壊した壁へと追いやる。鋏と巨躯の重量で、壁のひび割れが大きく広がった
/ ゚、。#/「センセ!!畳み掛けり!!」
(#´・_・`)「おおよ!!」
ここが奴の土俵際だ。助走をつけて跳躍し、両足を揃え―――――
(#´・_・`)「くたばれッ!!!!!!」
上半身へドロップキックを放った
191
:
◆L6OaR8HKlk
:2024/11/17(日) 20:04:39 ID:HcLXXAEI0
[コォオオオオオオオオオオオオオオキィィィィイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!!!!!!]
裁断女の背中はついに教室の壁を打ち破り、腰から上は第六階層への境界に通じる大穴へと曝け出される
手放した鋏がクルクルと回転しながら落下していき、大樹に突き刺さった
残念なことに下半身は教室に残ったまま、これ以上落ちまいと無様なガニ股で踏ん張っている
(#´・_・`)「チッ、とことん往生際の悪い……」
/ ゚、。 /「センセ、見てみ」
鈴が足下を指すと、待機していた蟻たちが動き出していた
それと同時に、裁断女の上半身に『系』が絡まる。焦った様子で剥ぎ取るが、糸の供給量の方が遥かに多い
蟻達は裁断女の足下へと群がると、壁の破壊と下半身への攻撃へと取り掛かる。糸で真っ白に巻きつけられた裁断女から、僅かに悲鳴らしき音が漏れた
/ ゚、。 /「あの子らも向こう側から削ってくれとったんよ」
(´・_・`)「話通じすぎやろ。ざまぁねえな」
四面楚歌。放って置いても時間の問題だと思うが、こっちも急ぎだ。それに、返してもらわねばならないモンもある
脇腹に突き刺さったままの斧の柄を握り、裁断女の腹に片足を乗せた
(´・_・`)「じゃあなクソアマ。ジャングルを楽しめ」
足で身体を押し込みながら、一息に斧を抜き取る。弾みで裁断女は宙へと投げ出された
[〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!?????]
(´・_・`)「あ」
このまま第六階層にサヨナラバイバイかと思いきや、運が良いことにバタバタと振り回した手が偶然にも鋏の取手を握った
鋏はガクンと大きく傾いたが、大樹から抜けることなく主人の体重を支えた。健気な光景に涙が出てくるよクソッタレ
192
:
◆L6OaR8HKlk
:2024/11/17(日) 20:05:49 ID:HcLXXAEI0
(´・_・`)「鈴。ぶぶ漬けでも振る舞ってやれ」
/ ゚、。 /「はいな」
鈴は装填を済ませ、照準をピタリと裁断女の『手首』へと向けた
/ ゚、。 /「ウチ……ちゃうな。センセの奢りや。遠慮せんとよばれりや」
(´・_・`)「そういや弾代俺持ちだった」
大盤振る舞いの六連射は、一発も外れる事なく裁断女の手首へと着弾。肉と骨を断裂させ、身体から切り離した
[〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!]
紅白色の第三階層のワンダーは、声にならない断末魔と共に、未知なる『緑の地獄』へと堕ちていく
やがて、未練がましくぶら下がっていた醜い手の残骸も、上昇気流に吹かれて鋏を手放し、持ち主の元へと旅立っていった
/ ゚、。 /「フッ」
鈴はカッコよく銃口から立ち昇る硝煙を吹き消すと、袖の下へと納めた
これがさっきまで腰抜かして呆けてた女の姿である。忘れた頃におちょくってやろうと思った
193
:
◆L6OaR8HKlk
:2024/11/17(日) 20:06:22 ID:HcLXXAEI0
/ ゚、。 /「上がってくるやろか?」
(´・_・`)「片腕でか?Jの壁突破の方が現実味があるな」
鈴は薄汚れた着物の袖で口元を覆い、お上品にクスクスと笑った
/\、\ /「ほな、あのアホからガッポリせしめに行こか♪」
(;´・_・`)「ああ……」
全く逞しい奴だよオメーはよ
/ ゚、。 /「あ、センセほらあれ。デカ蜘蛛」
教えんでええねんああもう今日絶対悪夢見るわ
194
:
◆L6OaR8HKlk
:2024/11/17(日) 20:10:17 ID:HcLXXAEI0
―――――
―――
―
結論から言うと、ねぐら利用客の失踪にカフェオレ側は『直接』関与してはいなかった
大樹近くの境界の側には、俺たちが回収したのとは別の、エネルギー切れしたロバが横たわっていたのだ
恐らく、放棄したロバが何らかの弾みで境界を開いてしまい、寄生体……小さい虫かなんかがそこを通ってガキ共を連れてきてしまったのだろう。知らんけど
つまりは、偶然が起こした面倒な事故だったのだ。しかし容疑が晴れたとは言え、原因を作り出したのはカフェオレ側に代わりない。キッチリとツケを払って貰わねばと、ねぐらに帰還した矢先―――――
(;´・_・`)「ああ?ガキを受け取っていない?」
イ从゚ -゚ノi、「ええ」
俺たちが第三階層に潜ってからおよそ三時間。一人目のガキを見つけたのは2時間弱前だ
ガキを任せたぎんいろ隊に共有したルートは、鈴の『目』でマッピングし、俺がワンダーを蹂躙して通った道だ。現状、最も安全かつ最短の帰路を通ったはず
イ从゚ -゚ノi、「それと、一時間ほど前に白髭副局長から、アンタ達二人に出頭の要請があったわ」
(;´・_・`)「マジかよ……」
銀が持ってきた着替えに袖を通しながら、余り良いとは言えない報告を受け取る
とりあえずは、文彦含むガキ三人は綺麗な身体でねぐらへ連れて帰って来れた。だが、先に帰した筈のもう一人は今だに第三階層に残されている
そしてこのタイミングでの出頭要請。別組織が故の厄介ごとが鎌首をもたげて起き上がる気配がした
195
:
◆L6OaR8HKlk
:2024/11/17(日) 20:11:59 ID:HcLXXAEI0
/ ゚、。;/「最悪や……あのおじんの事やから、全部なぁなぁにして一銭も払わんつもりや……」
/ ゚、。;/「しずくちゃんは!?」
イ从゚ -゚ノi、「仕事。遊ぶのは今度にして」
/ ゚、。;/「なんでやの!?せめてしずくちゃんモチモチせな割に合わへんやないの!!」
(;´・_・`)「オメーくらいだよあいつでアニマルセラピーすんの」
イ从゚ -゚ノi、「相当参ったようね」
(;´・_・`)「話せば長い。サッカー部には?」
イ从゚ -゚ノi、「上手いこと認識阻害の術を掛けておいたわ」
妖狐と雪女の血を引く銀は、幻術にも一家言を持つ。どちたのルーツも人を惑わしてきた妖怪だ。そんなんチートやんズルやでズル
オカルトなトラブルが頻発する鬼ヶ村で合宿場を営んでいけるのには、彼女のフォローに依るものが大きい。ホンマ助かる。いつもサンキュな
(;´・_・`)「ハァ……めんどいなぁ……」
イ从゚ -゚ノi、「で、この子たちはいつまで置いておく気?」
銀が不満気に親指で指す先には、ガキ共を運んだご褒美として与えたジュースを一心不乱に吸うデカい蟻が三匹
一応はワンダーだが、今となっては共に危機を乗り越えた戦友でもある。丁重にもてなしたいところだが、ママが飼っちゃダメだって
(´・_・`)「ちゃんと連れて帰るよ……」
イ从゚ -゚ノi、「それと、カフェオレの副局長だろうと何だろうと、キチッとカタに嵌めてきなさいよ。鈴んとこはともかく、ウチみたいな弱小支部は下手に出るとどこまでもツケ上がられるんだからね」
(´・_・`)「わかってるよ……皆殺しにしてくる……」
/ ゚、。 /「利益が上がってからにしてくれへん?」
196
:
◆L6OaR8HKlk
:2024/11/17(日) 20:15:31 ID:HcLXXAEI0
さぁ困ったぞ。向こうはガキという人質を握った上で、損害賠償を値切りに値切る気満々ときた
対してこっちも寄生職員というカードこそあるが、カフェオレ側は従業員が減っても『世間体』に傷は付かない。減ったら足せばいいだけだ
一方ねぐらは一般のお客を相手にしている商売。ガキが一人行方不明になっただけでそらぁもうえらいこっちゃだ
それぞれが握る人質の重みが全く違う。クソ、人でなし共め。クソガキでも一般人を盾に取るか普通?
(´・_・`)「なんか都合の良い交渉材料無いかなぁ……」
銀と鈴は二人揃って蟻を指差した。俺は頭を抱えた
(;´・_・`)「どうしろってんだよそれで……」
イ从゚ -゚ノi、「腕の見せ所じゃない?」
/ ゚、。 /「あのおじん、ワンダーフリークやし案外喜ぶんとちゃうん?」
(;´・_・`)「だからっておめえウチの都合で……あ」
ふと思い出し、ズタボロボンボンになったバッグの中身をひっくり返す。お目当ての物は表面に疵こそ付いていたが、内容物は無事だった
イ从゚ -゚ノi、「ちょっと、散らかさないでくれる?」
(´・_・`)「やれるぞ」
イ从゚ -゚ノi、「何がよ?」
(´・_・`)「鈴、どうだ?」
/ ゚、。 /「……ありやな」
(´・_・`)「蟻じゃないが????????」
/ ゚、。 /「うわめんどっ」
目には目、歯には歯。悪い奴らには更に悪いやり方で
手の中に収まる筒の中で、コツンと小さく跳ねる音がした
197
:
◆L6OaR8HKlk
:2024/11/17(日) 20:55:16 ID:HcLXXAEI0
―――――
―――
―
「発信機を外すので、武器をお預かりします」
校舎にそぐわない鈍色の甲冑を二体引き連れた職員が、第三階層調査本部の入口で無愛想な出迎えをしてくれた
戻って早々にこれだよ。少しは労いの言葉をかけたところでバチは当たらんだろうに
(´・_・`)「どうぞ。ついでにワッパも掛けとくか?ん?」
/ ゚、。 /「にあーう」
(´・_・`)「似合うって何だオイ」
「……お入りください。副局長がお待ちです」
ドロッドロの斧と銃をすんげー嫌そうに受け取った職員が先導する。声どころか息遣いすら聞こえない甲冑は俺らの後ろに着いた
説明するまでもないが、こいつらはワンダーである。狭間という異空間を研究、管理する組織のNo.2に付き従う近衛騎士だ
(´・_・`)「これはこれは、皆さんお揃いで」
本部内は物々しい雰囲気に包まれていた。研究員達は緊張した面持ちで俺たちを見つめ、さっき救助したぎんいろ隊員達は不服そうに沈黙している
「……」
ぎんいろの隊長と目が合うと、彼は無言で医務室の方へ視線を送った。ガキはちゃんと送り届けてくれたらしい。実働隊だけは誠実で助かる
198
:
◆L6OaR8HKlk
:2024/11/17(日) 20:57:38 ID:HcLXXAEI0
本部奥にあるパーテーションで囲われた会議スペースの長机では、珍しく行儀良く座るまさしと
( ´W`) 「来たね」
甲冑を四体後ろに控えさせた、カフェオレ副局長『白髭』が、差し入れの弁当を食べていた
(´・_・`)「ご無沙汰しております。白髭副局長殿」
( ´W`) 「掛けたまえ」
コードネーム通り、顔の下半分にたっぷり蓄えられた白髭が特徴で、身長が低くなければサンタさんの愛称で親しまれていただろう
しかしその実態は、ワンダーという異形にのめり込んだ変態ジジイだ。彼の私兵でもある第八階層のワンダー『ブリキの兵隊(ティンマン)』を始め、敵対、中立、友好問わず、様々なワンダーのコレクションに生涯を費やしている
( ´W`) 「やってくれたね、キミたち」
大人しく椅子に座った俺たちの背後を、ピッタリとティンマンがマークする
白髭は顎に付いたタレをおしぼりで拭き取り、厳しい口調と眼光を放った。中々の演技力だ。俳優にだってなれるんじゃねえの?
(´・_・`)「身に覚えがありませんなぁ」
( ´W`) 「白々しい。よくもまぁ、こんな大騒動を起こしてしらばっくれていられるものだ」
(´・_・`)「そりゃあこっちの台詞だぜ。なぁ爺さん俺ら見ての通り疲れてんだ。クセー芝居はやめにしようぜ。どうせ周りはお仲間しか聞いてねえんだろ。単刀直入に言ったらどうなんだ?」
199
:
◆L6OaR8HKlk
:2024/11/17(日) 21:00:58 ID:HcLXXAEI0
白髭は僅かに眉を顰めたが、すぐに顔を綻ばせて背もたれに身体を預けた
( ´W`) 「話が早くて助かるよ」
(´・_・`)「概ね筋書きはこうだろ?『第三階層に侵入した第六階層のワンダー駆除に、俺と鈴を抜擢。しかし初動の処置を誤り、壊滅的な被害と侵入の拡大を招いたが、二人は部隊を置いて逃走。その責任を取らせるために副局長が直々に馳せ参じた』。いいねぇ、脚本家を呼んでくれよ。ラジー賞は総なめだぜ」
( ´W`) 「ほほぉ!!聞いたかね今の!!いやぁ、お見通しとは恐れ入った!!キミのような若いのがいてくれたらウチも安泰なんだがなぁ!!」
(;・`ー・´)「は、はは。全くその通りでございますはい」
元気無っ
/ ゚、。 /「じゃあ何やの?ウチらに責任押し付けてワルモノにしようって魂胆どすか?」
( ´W`) 「まぁまぁ、そうささくれ立つな。大桜堂のお嬢さん。お互い穏便に矛を収めようってだけの話じゃあないか」
(´・_・`)「こっちはテメーらの不手際で一般人が被害に遭ってんだよ。筋通んねえんじゃねえのか?」
( ´W`) 「筋を決めるのは此方だ。キミたちも大人しく出向いたって事は、ちゃんと理解しているのだろう?『はい』と大人しく従う他ないという事は」
ティンマンがジジイの意思を察知してか、一糸乱れぬ動作で腰に差した剣の柄に手を添えた
ワンダー六匹程度でイキり散らかしていやがる。こっちが万全ならもっと用意しただろうが、俺も鈴もくたびれた姿だ。制圧はこれで十分と踏んだのだろう
( ´W`) 「勿論、悪いようにはしない。キミたちには汚名返上の機会を用意しよう。改めて、第六階層の境界閉鎖を依頼してやる。今度こそ、勤めを果たしてくれたまえ」
/ ゚、。 /「要はタダ働きってことやろ。ウチが一番嫌いな言葉や」
( ´W`) 「名誉を取り戻せるのだから、これ以上の報酬はあるまい?飲めない場合は、そうだな……『保護』している少年の身柄は、完全に解決するまで『安全上』ウチで預からねばなるまい。しょうがない。うむ」
すっげえな。人ってここまで傲慢になるんだ。法律と契約書って大事だなぁ
それにしても、ここまで用意周到だと、元から騒動の原因を押し付ける算段だったのかもしれねえ
被害こそ偶然起こった事だが、奴らにとっちゃ体の良い身代わりが、差し入れ背負ってやってきたって所か
200
:
◆L6OaR8HKlk
:2024/11/17(日) 21:02:17 ID:HcLXXAEI0
(´・_・`)「……」
万が一と思って大人しく聞いてやったが、こりゃもう容赦する必要がねえな
ギャンギャンと抗議する鈴も、合図として俺の掌の中に『目』を発現させ、パチリとウインクした。可愛くねえよ顔でやれ顔で
(´・_・`)「お送りしたサンプルは?第六から報告は上がってないんですか?」
/ ゚、。#/「センセ!!受ける気なん?」
(´・_・`)「嫌ならお前だけ帰れよ。どうせ俺は断れる立場じゃねえんだ」
/ ゚、。#/「ッ……」
鈴は拳で強く机を叩き、椅子が倒れるほど勢いよく立ち上がる。ティンマンは一丁前に身構えたが、白髭が片手を挙げて制した
/ ゚、。#/「……付き合ってられんわ。ウチはお暇させてもらいます」
(´・_・`)「あー、ご苦労だったな。構いませんね、白髭副局長?」
( ´W`) 「他でもない小練くんがそう言うなら、目を瞑ってやろうではないか。お嬢さん、くれぐれも早まった真似はするんじゃないぞ」
/ ゚、。#/「誰が一銭の得にもならん事、やりはりますか?ほな、ごめんやす」
鈴はティンマンを押し除けて、パーテーションの奥へと去っていった
目の前のクソジジイなんて目じゃないほどの演技力だ。俳優でも食ってけるんじゃないか?
201
:
◆L6OaR8HKlk
:2024/11/17(日) 21:03:36 ID:HcLXXAEI0
( ´W`) 「やれやれ、これだから女は……おっと、キミのとこも女所帯だったな。心労を察するよ」
(´・_・`)「……それで?」
今日一ピキリと来たが、今にも噴火しそうな怒りのマグマの中でリラックスして脱力するグルメヤクザの姿を思い出して何とかぶち殺すのを保留した
『仕込み』は済んだ。あとは少々の時間を稼ぐだけだ
( ´W`) 「なんだったかね……ああ、サンプルだね。あれは第六階層の中立ワンダー『ガーデンキーパー』の種子だ」
(´・_・`)「『庭師』……ですか?」
( ´W`) 「左様。虫と植物のハイブリッド種で、他生物に寄生し、成長するにつれて寄生した生物の特徴を取り込み、最終的には十代前後の少女の姿へと成る」
ソシャゲキャラみてーだな
( ´W`) 「驚くべきは進化の幅の広さだ。鳥に寄生したなら翼を授かり、犬に寄生したなら嗅覚に優れ、猫に寄生したならしなやかな肉体を手に入れる。実に唆る……失礼、可憐なワンダーだ」
(´・_・`)「では、ガーデンキーパーと侵入してきた植物は別のワンダーであると」
( ´W`) 「名の通り植物の世話をして共生するワンダーだ。境界が開いた際、植物と一緒に迷い込んだのだろう」
(´・_・`)「ふむ……最初の襲撃の際、毒虫に咬まれました。大事には到りませんでしたが、危険性はありますか?」
(;・`ー・´)「ガガ、ガーデンキーパーが寄生した生物は、彼女たちが成長するまでの間、手足となり、養分の提供をしなければならない!!毒は送るが、致死性のない麻痺毒だ!!種が定着するまで、暴れられるわけにはいかないからね!!」
(´・_・`)「へぇ。俺に効かなかったのは?」
(;・`ー・´)「せいせい生命力!!少量だから無毒化も一瞬だったんだろう!!きき、気になるならこの後ケツケツ検査を」
(´・_・`)「ああ、ケツケツ検査は嫌だな……」
なんだか臭そうな検査はさて置き、俺に種子が植え付けられなかったのは、毒が効かなかった事で苗床として使い辛いってのがあったらしい
202
:
◆L6OaR8HKlk
:2024/11/17(日) 21:06:33 ID:HcLXXAEI0
( ´W`) 「ハッハ!!まぁそういじめんでやってくれ!!これからも長い付き合いになるのだから!!なぁ!!」
白髭はスッカリ上機嫌で、隣のまさしの背中をバンバンと叩く
トラブルの責任は部外者に押し付け、遥か頭上から良いようにタダでコキ使える。そりゃあ気分が良いに決まっている
だが、安堵するのはまだ早い。『同じ交渉の席』に座っている間は、相手がどんな態度を取ろうが、席を立つまで油断してはならない
( ´W`) 「それでだね、キミには第六階層の境界の閉鎖と並行して、成長したガーデンキーパーの捕獲も頼みたい。そうだな……できれば五種類ほどバリエーションがあると」
(´・_・`)「その事ですが白髭副局長」
( ´W`) 「何だね?もしや、既に手配しておると……?」
(´・_・`)「ええ。ですが私、恥ずかしながら虫は苦手なものでして……」
(; ´W`) そ「何……うっ!?」
右手に走った鋭い痛みに、白髭は顔を歪ませた
サンプルとは別に捕まえておいた『毒虫』が、反射で弾んだ手から飛び降り、テーブルの上をタカタカと駆けた
( ;´W`) 「何だ今のは……まさか、貴様!!」
(´・_・`)「管理が、甘かったようです」
白髭は右手を押さえ、椅子から転げ落ちる。虫さんの毒の効能は、先程まさしが説明した通り。麻痺するだけで死にはしない。残念ながら
だが、麻痺の目的は『種の定着』。上機嫌だったクソジジイの顔は一転して青ざめる
203
:
◆L6OaR8HKlk
:2024/11/17(日) 21:07:53 ID:HcLXXAEI0
(;・`ー・´)「と、取り押さえろ!!すぐに!!」
(´・_・`)「鈴ー」
名前を呼ぶと同時に、両の裏拳で後ろのティンマンに≪握≫を叩き込む。続けて、デカい銃声が連続して鳴り響き、パーテーションが貫かれた
障害壁越しに撃ち込まれた弾丸は、臨戦体勢に入ったティンマンの兜の『ひさし』をすり抜け、空っぽの空洞の中を縦横無尽に反射した
当然、≪流≫が込められた弾だ。それが全身くまなく駆け巡ったのだ。内臓を掻き回されたのと一緒のようなもんだろう
生命力を喰らったティンマンが六体総じて崩れ落ち、パーテーションがゆっくりと倒れ
(´・_・`)そ「いて」
頭を打った
/ ゚、。;/「っ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
鈴は『大口径』の衝撃に手をプラつかせる。武器は没収されるのは目に見えていた為、予め『ここの人間』に用意させていたのだ
/ ゚、。;/「か弱い乙女に撃たせるモンとちゃうでこれ……」
「ウチにはこんなものしかなくてな」
(;・`ー・´)「お前ら……!!」
鈴に引き続き、本部へ戻る前に『のどびこ』で連絡を取っていたぎんいろ隊員達が、倒れたパーテーションを踏み越える
そのうち一人の背には、人質にされていたガキが乗っていた
(;・`ー・´)「う、裏切るのか!?」
「裏切ったのは其方でしょう。『我々は』筋を通したまでですよ。お二人と違ってね」
(´・_・`)「かっこいい〜」
「どうも」
204
:
◆L6OaR8HKlk
:2024/11/17(日) 21:08:35 ID:HcLXXAEI0
ぎんいろの隊長は、胸ポケから折りたたんだ紙を取り出すと、腰を抜かすまさしへと差し出した
「そしてこれが、組織に対する我々の『筋』です。お世話になりました」
見るまでもなく退職届だ。まさしは唖然として一向に受け取ろうとしなかった為、隊長はそれをテーブルの上へと置いた。かっこよすぎてオシッコ漏らすかと思った
(;・`ー・´)「こ、この恩知らず共が!!!!行く宛など無いくせに!!のたれ死にが関の山に決まってる!!」
「再就職先なら既に決まってますよ。優秀な経営者と話がついたのでね」
/ ゚、。 /「いややわぁ、おべっか使うて。ウチもちょうど男手が欲しかったとこやから、渡に舟や」
転んでもタダでは起きないとはよく言ったものだ。本業が本業なので、ハロワに求人を出せるようなものでも無い
人材不足は常について回る。そんな中、どさくさで一気に四人も従業員を確保できたのだ。それも、ある程度異形と戦闘経験のある兵士ならば、即戦力として期待できる
これだけでもお釣りが出るくらいだが、本番はここからだ。キッチリとツケは払ってもらわねばならない
( ;´W`) 「ひっ、ひぃぃ……」
(´・_・`)「あーあー、大変なことになりましたなぁ。白髭危機一髪って感じ」
/ ゚、。 /「今そういういちびりいらんよ」
こけおどしのオモチャの兵隊はブッ壊れ、身内には見捨てられ、その上ワンダーに寄生されかけている
因果応報ってのを目の当たりにしてる気分だ。まぁこうなるように仕向けたの俺なんですけど
205
:
◆L6OaR8HKlk
:2024/11/17(日) 21:10:20 ID:HcLXXAEI0
(; ´W`) 「ワ、ワンダーを……使役……」
(´・_・`)「協力関係と言ってもらいたいですね。こいつらの目的は第三階層に入り込んだ植物の『剪定』。俺らはそれを手伝う条件で手を組んでるまでです」
(;・`ー・´)「そ……そうだ、寄生!!寄生されてるに違いない!!!!誰か!!!!こいつらを処分してくれ!!!!!早く!!!!」
/ ゚、。 /「よぉ囀りはるなぁ」
(;・`ー・´)そ「ヒィ!!!!!!?????」
鈴はカフェオレ実働部隊員の装備である拳銃をまさしの額へとゴリッゴリに押し当てる
あれはマグナム44っていって世界一強力な拳銃なんだまさしのドタマなんて一発で吹き飛ぶぜ楽にあの世まで逝けるんだ。運が良ければな
「残念ながら、今の彼らに喧嘩を売れる者はいませんよ。ミサイルでも携行してれば話は別ですけどね」
(´・_・`)「だ、そうだ。ミサイル持って来てもらうか?」
まさしはすっかり意気消沈したのか、ガタガタ震えながら両手を上げて退いた
( ;´W`) 「たっ、助けてくれ……」
白髭は縋り付くように腕を伸ばす。ぎんいろ隊が毒でやられた時は、≪流≫の酒を噴霧しただけで回復している。対処さえわかっていれば、自然界の毒よりも弱い
だが今し方、寄生について彼方から話したばかりだ。白髭は『ワンダーに咬まれた』という事態にパニクって肝心な所を見落としている
これでカフェオレのNo.2ってんだから聞いて呆れる。だが組織なんて往々にしてこんなものだろう。上に立てば立つほど、現場の実情は見えないのだから
(´^_^`)「勿論ですよ白髭副局長殿!!喜んで救って差し上げます!!」
( ;´W`) 「ヒ……」
こっちは満面の笑顔で快諾したってのに、クソジジイの顔面は青通り越して白くなっていく。失礼しちゃうんだから
(´・_・`)「ああ〜、ですが今ので生命力を使い果たしてしまったので、穏便な方法は取れませんねえ……けど、急を要する事態だ。なんとかしないと……」
(´^_^`)「せや!!!!!!!!!!!」
職員の誰かが「怖すぎ……」と呟いたのを聴き逃さなかった
206
:
◆L6OaR8HKlk
:2024/11/17(日) 21:11:51 ID:HcLXXAEI0
( ;´W`) そ「なっ、何をすr……」
ジジイの胸倉を掴んで持ち上げ、まな板に捌く魚を乗せるようにテーブルへと上げる
抵抗らしき痙攣が、余計に魚を思わせてウケる〜。手の空いてるぎんいろ隊員に抑えておくように指示をして
(´・_・`)「おい兄ちゃん!!消毒液と斧!!」
「ひっ、は、はひぃ!!」
遠くで恐々と眺めていた、俺らを案内した職員に『手術道具』を持って来させる
「どどっ、どうぞ」
(´・_・`)「あんがと。さて、しっかり抑えとけよ」
「アンタ怖えって……頼むから当てないでくれよ」
鈴はとにかく、ぎんいろ隊員はドン引きだった
( ;´W`) 「まっ……そ、そうだ、キミの所の、妖怪女史を連れてきてくれ……」
(´・_・`)「なんでお銀に時代錯誤のクソジジイなんかの面倒見せなきゃならねんだよ。身の程を弁えろや。刎ねるの首にしとくか?お?」
( ;´W`) そ「ヒィィ!!」
/ ゚、。 /「あーあー、虎の尾踏みよって……」
消毒用アルコールのボトルを開けて斧の刃を濡らし、残りは全部右手首へとぶっ掛けた
空ボトルを投げ捨て、狙いを定めるように刃を手首へと添え、そして高々と振り上げた
(´^_^`)「右手にバイバイなさってください白髭副局長!!!!」
(; ´W`) 「や、やめろォーーーーーーーーーーー!!!!!!!」
(´^_^`)「やめぬーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!」
白髭の叫び声ごと断ち切るように、刃を振り下ろした
207
:
◆L6OaR8HKlk
:2024/11/17(日) 21:13:04 ID:HcLXXAEI0
『だんっ』と音を立て、斧はテーブルへと突き刺さる。白髭の手首は
(; ´W`) 「ヒッ、ヒィィ……ヒィ……」
え!!!!!!??????繋がったままじゃん!!!!!!!!斧くんさぁ何やってんのちゃんと歌ってよ!!!!!!!
(´・_・`)「さて、交渉を続けましょうか白髭副局長殿?」
勿論、斧のやる気の問題ではない。元から一回目は外す予定だった。俺が本気で振り下ろしたら床まで砕け散る
それに、口が利ける間に交渉を済まさねばならない。毒の回る速度がどの程度かはわからんが、実動部隊であるぎんいろ隊のメンバーより耐性があるとは思えん
(´・_・`)「我々が提示する条件を飲んで頂けたら、手首が繋がったまま種子を取り除くだけでなく、件の第六階層の境界も閉じて差し上げますよ。ワォ!!破っ格〜!!」
( ;´W`) 「じょ、条件……」
(´・_・`)「一つ目。第六階層の境界閉鎖に必要な資材、資金、人材は全てカフェオレ側で負担し、一銭も此方へ請求しない」
(´・_・`)「二つ目。今回の事件への責任は全てカフェオレ側にあると認める事。並びに、俺らに一切の非は無いと宣言する事」
(´・_・`)「三つ目。今後、ねぐらと大桜堂の第三階層利用を常に認可し、無条件で境界を開く事」
(; ´W`) 「わ、わかった!!認める!!認めるから」
(´・_・`)「四つ目」
( ;´W`) 「勘弁してくれぇ……」
208
:
◆L6OaR8HKlk
:2024/11/17(日) 21:14:32 ID:HcLXXAEI0
泣き言を漏らす白髭をシカトし、条件の提示を続ける。ここからは鈴のターンだ
/ ゚、。 /「第六階層の境界閉鎖の報酬は、此方の言い値を前払いで支払う事。五つ目。今回の事件に関する賠償金を、小練 詩音並びに大桜堂 鈴に『今すぐ』支払う事。モチ、こっちも言い値や」
( ;´W`) 「せ、殺生な……」
/ ゚、。 /「センセ、おじんは右手の方が安いんやって」
斧をテーブルから抜いた
( ;´W`) 「わわ、わかった!!頼む!!頼むよぉ〜……」
/ ゚、。 /「金額はこんな感じで♪」
予め決めていた額を白髭に突きつける。ジジイの垂れ下がった瞼が目ん玉飛び出そうなくらいかっ開かれた
( ;´W`) 「い、一度持ち帰って、検討させて戴けないだろうか……」
(´・_・`)「ハァ……鈴」
/ ゚、。 /「はぁい、センセ」
(´・_・`)「カケ2しろ」
(; ´W`) そ「何ィーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!??????」
/ ゚、。 /「喜んで♪」
即答すりゃ出費も抑えられたってのに、ケチくさいジジイだ
(´・_・`)「これ以上お勉強代を増やされたくなけりゃ、黙ってウンウン頷くことですな」
/ ゚、。 /「あらぁ、ウチはもっともぉ〜〜〜〜〜〜〜〜〜っと、ゴネて貰いたいけどなぁ」
欲深デブもお前には負けるよ
209
:
◆L6OaR8HKlk
:2024/11/17(日) 21:16:15 ID:HcLXXAEI0
(´・_・`)「六つ目、これで最後だ。寄生体……ガーデンキーパーの捕獲、使役は一切行わず、全て第六階層へと還す事。種子の一つでもカフェオレ側で捕獲した場合……」
斧の切先でテーブルをなぞり、刃を白髭の白髭だらけの顎下に添える
奥歯がカチカチと鳴り響き、白髭もモジャモジャ震えた。癪に障る光景だなやっぱぶっ殺すか今
(#´・_・`)「ド厚かましいツラの皮ごと汚い髭ぶち剝いでケツに詰め込んでやろうかァァァアアアアアアアアーーーーーーーーーン!!!!!!!!!!???????」
/ ゚、。;/「怖っ!?」
白髭は観念したのか、強張った身体ガクリと緩和させたて白目を剥いた
全く、手間を掛けさせてくれる。これならぶっ殺すだけで解決する『裏』やワンダーを相手する方がよっぽど楽だ
(; W ) 「」
/ ゚、。 /「あ、気ぃ失ぅたで」
(´・_・`)「毒回ったか?」
「いや……単に恐怖で失神したんだろう……」
気づけば、いつの間にかカフェオレ陣営の連中がみんな鬼か悪魔でも見るような目で俺を見ていた。実物はもっとエグいことするのに
210
:
◆L6OaR8HKlk
:2024/11/17(日) 21:17:38 ID:HcLXXAEI0
(´・_・`)「よぉーし!!早速、仕事に取り掛かって貰おうかァ!!解決するまで休めると思うんじゃあねえぞ!!死にものぐるいで働け!!死ね!!!!!!」
カフェオレ職員達は、蜘蛛の子散らすように業務に取り掛かる
まさしはどさくさに紛れて白髭を連れ出し、医務室に向かっていた
(´・_・`)「隊長、悪いんだが解決まで陣頭指揮頼めるか」
「ついさっき退職した所だがな。彼らの最後の面倒を見ても構いませんか?女将」
/ ゚、。 /「よろしゅう頼みます。ああ、お金の回収を最優先に」
「小練さん、この子はどうしますか?」
(´・_・`)「俺が連れて行く。後片付けも残ってるしな」
隊員から人質だったガキを受け取る。背中の『ガーデンキーパー』は、相変わらず眠ったままだ
他のガキに寄生していたコイツらも、綺麗に取り除いて貰えたし、今日の出来事は悪い夢として誤魔化せるだろう。無理だったらしらん
「では、我々はこれで」
隊長始めぎんいろ隊員達は、俺たちに敬礼をして踵を返す。カフェオレでの最後の仕事へと向かう最中、隊長だけが振り返った
「ああ、そうだ。白髭副局長はどうする?」
(´・_・`)「え?ほっとけば?」
「いや……寄生されたのでは無いのか?」
(´・_・`)「されてないよ?」
211
:
◆L6OaR8HKlk
:2024/11/17(日) 21:18:07 ID:HcLXXAEI0
確かに毒は送り込まれたが、種子も同時に送り込んだとは一言も言ってない
恐らく種子の管理はあの芋虫が行っているのだ。寄生体の行動原理は、麻痺させた宿主をアレの元へ連れて行く事。そこでお仲間を芋虫によって増やして貰う
これは、一度毒でやられたぎんいろ隊に寄生の兆しが見られなかったのと、芋虫の役割を目の当たりにした俺と鈴が下した結論である
(´・_・`)「あのアホ共にわざわざガーデンキーパーの説明させたのは、連中がどこまで生態を把握しているかの確認と、脅威を認識させたかったからだ。ハッタリかます為にな」
「なぁおい待て、彼らはカフェオレの幹部だぞ。より深く知っていた可能性だってあった。その場合どうするつもりだったんだ?」
(´・_・`)「どうせここに『ミサイル』はねぇからな」
肩をすくめてこう答えると、隊長は大きく噴き出した
「これからが楽しみだよ。お二方」
こうして、杜撰な処理と責任転嫁が巻き起こした騒動は、一旦の幕引きを迎えたのであった
212
:
◆L6OaR8HKlk
:2024/11/17(日) 21:19:21 ID:HcLXXAEI0
―――――
―――
―
( ^ω^)「なんか気づいたら夜だったんですけど」
ガキ共は全員無事に寄生を解いてもらい、意識も直に回復。カフェオレの医師に健康状態も診て貰ったが、問題なしの太鼓判を戴けた
時間だけは巻き戻りはしないので、辻褄を合わせる必要があったが
(´・_・`)「なんかお前らずっと笑いながら四股踏んでたよ。グランドスコイグランドスコイ言いながら」
( ^ω^)「え……何それ……洒落怖……?」
(´・_・`)「ただの洒落だろ」
めんどかったんで適当に誤魔化した
(;'A`)「お前、宙に浮いてなかったか?」
( ^ω^)「そんなワケないじゃんwwwwwwwwwwwwwww目ん玉も顔面くらい腐ったんじゃねーのかおwwwwwwwwwwwwwww臭っwwwwwwwwwwwwwww顔面から腐敗臭がするおwwwwwwwwwwwwwww」
('A`)
なんか見られてたっぽかったけど
( メ)ω(メ)「年下の可愛いジョークじゃん……」
それも深く追求されることはなかった
213
:
◆L6OaR8HKlk
:2024/11/17(日) 21:20:42 ID:HcLXXAEI0
植物は、第六階層担当者の立ち合いのもと、翌日には除去作業が開始された
/#^o^\「これには温厚な僕も噴火寸前だよね」
第三階層の惨状を目の当たりにした第六階層主任『富士 暴流啓夫(ふじ ぼるけいお)』も、三角形の独特な髪型の天辺から赤い何某が噴き出そうになっていた。不思議な頭だった。頭大丈夫だろうか
/^o^\「せっかく境界が開きっぱななんだから、さけチーみたく縦に切り裂いて自重で第六へと落ちていくようにしよう」
(´・_・`)「頭かしこーい」
大桜堂の人員も導入し、まぁなんか色々やって伐採は上手いこといった。やっぱ自分で何とかせず専門家に任せた方が万事上手く行くものだ
大樹を中心に拡大していた蔦も、栄養の供給源が絶たれたのに加え、第三階層の自浄作用で徐々に減少していくらしい
で、最後に蔓延っていたガーデンキーパーの寄生体達を第六階層へとお見送りして―――――
(;´・_・`)「終わったぁ……」
/ ゚、。;/「終わった……」
丸二日掛けて、第六階層の境界の閉鎖は完了した。尚この間、二時間も寝てない
214
:
◆L6OaR8HKlk
:2024/11/17(日) 21:24:08 ID:HcLXXAEI0
疲労に見合った収穫もあった。先ずは言うまでもなく『お金』だ
提示した額はカフェオレ局長が直々に振り込んでくれた。最も、当人から面と向かって謝罪されたわけではない
そもそも、カフェオレ局長自体が正体不明の謎の人物で、No.2『だった』白髭も会った事は無いらしい
/ ゚、。 /「ボロ儲け♪ボロ儲け♪」
大桜堂のお嬢さんは、金さえ貰えれば誰だろうがどうでも良さそうだったが
さて……どうすんのこの降って湧いた大金?恵まれない子ども達に寄付する?
イ从゚ -゚ノi、「絶対やめて」
(,,゚-゚)「なんでそんな勿体無いことすんの?」
ヽiリ,,゚ヮ゚ノi「実は前から欲しかったお鍋があってぇ〜」
人の心???????え???????
215
:
◆L6OaR8HKlk
:2024/11/17(日) 21:24:40 ID:HcLXXAEI0
その他には、ワンダーの副産物と呼ぶべき物も手に入った
伐採の際に回収された『裁断女の鋏』だ。賠償金と共に此方へと譲渡されたのだ
物にもよるが、ワンダーの持つ武器は加工次第で強力な装備品へと生まれ変わる。東京喰種??????何の話??????
/ ゚、。 /「もろてええ?」
(´・_・`)「どーぞ」
普通にいらなかったんでこれも鈴の手へ渡った。俺が持ってても持て余すだけだ。鋏よりグーの方が強い
向こうには鍛治師との繋がりもあるし、金にも換えられるだろう。最悪インテリアとして飾っといてもいい
そしてもう一つ、鋏よりもとんでもないものが残った
(´・_・`)「オメーらなんで帰ってないの??????」
そう、蟻に寄生したガーデンキーパー三匹である。第六階層の境界を閉じた後に見つかったのだ
裁断女と共闘した仲だが、だからと言って面倒見る義理はない。ペットならもっと可愛いのを飼う。サモエドとか
/^o^\「あー、こりゃ完全に懐かれてんね」
/ ゚、。 /「虫やろ。懐くとかあるん?」
/^o^\「ガーデンキーパーは賢いからね」
なんでも、これから成長していけばヒトとほぼ変わらない見た目になるらしく、こっちの世界でも問題なく使役出来るとのことだ
そこで一つ気になったのは、どうして第三階層には成体のガーデンキーパーはいなかったのかだ
216
:
◆L6OaR8HKlk
:2024/11/17(日) 21:26:36 ID:HcLXXAEI0
/^o^\「まずガーデンキーパーは、環境に適応する為に、そこに生息するワンダーないし生物に寄生するんだ。生態を作り変えるより元からいるモノの特徴を奪った方が楽だし早いからね」
/^o^\「それともう一つ、境界が開いたのがおよそ二千メートル上空だったから、成体したガーデンキーパーは登って来れなかったんじゃないかな。これはヒトの姿を取ってしまったが故の弱点でもあるね」
(´・_・`)「そんで、どうすればいいのこいつら」
/^o^\「飼えばいいよ」
簡単に言ってくれるなこの頭三角マン
/^o^\「このサイズだと大体三ヶ月も経てば成体になってヒトの女の子と変わらない姿になるよ。キチンと教育すれば会話も出来る。宿主が蟻ってのもまた良いね。組織的だし、何より昆虫の中でも群を抜いて筋密度が高い。役に立ってくれると思うよ」
/ ゚、。 /「そんなんどうでもええねん。可愛いかどうかが重要やろ」
(´・_・`)「キミさぁ」
/^o^\「まぁ、ワンダーにしちゃ珍しくガワが悪くなることはないよ。ウチの職員なんか発見したガーデンキーパーを撮影してアルバム作ってるくらいだからね」
/ ゚、。 /「ウチが引き取るわ」
(´・_・`)「オメー見境って知ってる?」
217
:
◆L6OaR8HKlk
:2024/11/17(日) 21:27:25 ID:HcLXXAEI0
(´・_・`)「なぁオイ話進んでるとこ悪いんだけど第六に帰せねえのか?」
/^o^\「放り出すのは出来るよ。ただ群れには帰れないだろうね」
(´・_・`)「ああ……」
そうか、第六階層の調査班も大樹のある場所を突き止めてはいないのか
つまりコイツらは、不退転の覚悟で群れから離れたってワケか。迷惑過ぎる。人の許可も得ねえで勝手に
(´・_・`)「まぁ……面倒見るってんなら止めはしねえが……」
/ ゚、。 /「ウチがこの子らを立派な看板娘に育て上げるんや……」
虫だぜ?
(´・_・`)「ガーデンキーパーを育てた前例はあんのか?」
/^o^\「これから前例を作って欲しいんだよね。そんでデータとか貰えたらなって」
(´・_・`)「カフェオレ終わってんなマジで」
/ ゚、。 /「ほう!!そういうことなら話は変わりますえ?」
あーロックオンされちゃったよ
/ ゚、。 /「月一の成長記録につき大体これくらい戴こかな」
/;^o^\そ「ぎえー暴利!!ヤクザもビックリ!!インド人もたまげた!!」
/ ゚、。 /「せやけど今なら五年間継続契約でこのお値段!!更に最初の二年間は半額!!これ以上は一銭もまからへんよ!!」
/*^o^\「えっ、安ぅい!!!!!!!!契約しまぁす!!」
(;´・_・`)「……」
そんなこんなで、大桜堂は従業員四名と多額の報酬、賠償金に加え、ワンダー三体を迎え入れた
可笑しくない?今回被害に遭ったの俺らん所なんだけど?なんであいつが一番儲かってんの?
218
:
◆L6OaR8HKlk
:2024/11/17(日) 21:28:40 ID:HcLXXAEI0
白髭とまさしはと言うと
/^o^\「よく知らないけど、降格させられたのは確かだね」
(´・_・`)「よく知らねえって」
/^o^\「僕らが人事に興味あるように見える?」
自ら進んで殉職率のクソ高い研究職に就く人間の言うことは説得力がダンチだった
それにしても、『降格』で済むとは随分と甘い処分が下されたものだ。それとも、公にはされてないだけで実際は更に重い処罰を受けているのだろうか
どちらにせよ、恐らくもう彼らとは関わることは無いのだろう。野次馬根性にも似た興味も、寝て起きたら忘れ去るに違いない
/^o^\「第三階層の新しい主任には挨拶を?僕のいとこなんだ」
(´・_・`)「ああ……」
/ ゚、。 /「あの……こんなん言うた無いけど……大丈夫なん?あの子」
新しく関わり深くなる第三階層の新たな主についてだが
\(;^o^)/「終わった…………僕はずっと境界管理部で良かったのに………狭間なんかに常駐したくない………神よ………なぜこのような仕打ちを…………」
鬱に立直かかったような奴が抜擢された
/^o^\「どうせ三日もしたら慣れるよ」
人でなし集団がよ……
219
:
◆L6OaR8HKlk
:2024/11/17(日) 21:29:44 ID:HcLXXAEI0
生活に変化もあった。狭間の利用に制限が無くなったことで、『ねぐら』と『大桜堂』への行き来を面倒な手続き無しで行えるようになったのだ
と言っても、友達の家に遊びに行くような気軽さで使えるものでもない。管理されているとは言え、狭間が危険であることに変わりない。緊急性のある時にしか使わないだろう
/ ゚、。 /「ぐりちゃん、今日のご飯何〜?」
ヽiリ,,゚ヮ゚ノi「キーマカレーで〜す」
そう思っていた俺が馬鹿らしく思えるほど、鈴が頻繁に飯だけ食いに来るようになった
オフシーズンならまだしも、利用客の多い繁忙期に和装で来んなめちゃくちゃ浮いてんだよオメーよ
/ ゚、。 /「硬いこと言わんといてぇな。あるもんは使わな損やで」
(;´・_・`)「全くよぉ……」
/ ゚、。 /「それよりセンセ、見つからんうちに『居住区』の物置、片付けといた方がええんとちゃいます?」
(;´・_・`)「あ?物置?」
/ ゚、。 /「あの子らの『姉妹』、まだ残っとったみたいやなぁ」
(;´・_・`)「姉妹……?」
(;´・_・`)そ「あっ!!」
もう暫く、『あいつら』に振り回される日々は続きそうだ
220
:
◆L6OaR8HKlk
:2024/11/17(日) 21:33:15 ID:HcLXXAEI0
.
221
:
◆L6OaR8HKlk
:2024/11/17(日) 21:34:20 ID:HcLXXAEI0
第六階層にて
222
:
◆L6OaR8HKlk
:2024/11/17(日) 21:37:05 ID:HcLXXAEI0
[何も悪いことなどしていないのに]
片腕を捥がれ、行く宛もなく泥の中を這いずるワンダーは、自らに身に降り掛かった災難へ恨言を吐いた
『裁断女』と呼ばれた彼、あるいは彼女は、『表』と狭間を行き来していたワンダーだった
誰にも見られることなく深夜の学校に残っている『悪い子』を連れ去っては、棲家で弄んだ後にゆっくりと食す
そんな慎ましやかで幸せな生活を送っていただけであった
[あの二匹が、あの虫が]
全身を苛む痛みは眠りに就くことを許さず、触れる泥の感触は一片の安らぎも与えなかった
堕ちていく最中、焼きついたヒトの姿が頭から離れない。これまで愉しい事だけ味わっていた裁断女に芽生えた『憎悪』の感情が、行く宛もない彼女の手足を動かしていた
[ ]
満たされた憎悪の中で時折、彼女にとって言語化出来ない感情が湧いては消えていく
その正体は、ヒトの言葉で言うところの『祈り』であった。それは尊きものとして扱われるが、相反して届く確率は低い、呪いよりもアテにならない代物だった
「可哀想になぁ」
届かぬからこそ、祈りは尊い。だがこの瞬間、彼女にとって百発百中の魔法のようなものと化した
223
:
◆L6OaR8HKlk
:2024/11/17(日) 21:40:21 ID:HcLXXAEI0
彼女の前に立つモノは独りだった。しかし、そのモノの後には無数の足跡が続いていた
泥に刻まれているのは革靴の底であったり、大小様々なヒトの素足であったり、あるいは鳥や獣の足跡であったり
中には、足ではなく『手』の跡であったりと、そのモノが不可視の存在と歩んできた道のりの軌跡が、長い列を成して続いていた
「いい出会いってもんはどこに落ちているかわからない。だから旅は良い」
そのモノは泥など厭わずに地面に膝を付き、裁断女の頬に手を添えた
孤独だった彼女にとって、初めて与えられた『慈悲』の仕草。憎悪で満たされた胸中に、新たな色が混じる
「安心しろ。これからは俺たちが救いとなり、導き手となってやる」
「捨てられたお前の存在を、活かしてやる」
一目見ただけで感じた、異形を率いるカリスマへの『心酔』である
「俺たち『拾う神』が、お前の復讐の一助となってやる」
嚥下の音と共に、裁断女は暖かな光に飲み込まれる。気づけば、『偉大なるモノ』の列へと加わっていた
もはやその身を苛む痛みは無く、偉大なるモノの威光に安らぎを覚え、彼に続く足取りはこれまでに無いほど軽かった
変わりゆく自らの存在の中で、唯一不変のものがあるとするならば
【(´ _ `)】 【/ 、 /】
彼女に憎悪を芽生えさせた、二人への執念だけだった
224
:
◆L6OaR8HKlk
:2024/11/17(日) 21:42:48 ID:HcLXXAEI0
『狭間 “In The Backrooms.”』
END
225
:
◆L6OaR8HKlk
:2024/11/17(日) 21:45:14 ID:HcLXXAEI0
裁断女のモデルはこちらです
http://mzkzboon.blog.fc2.com/blog-entry-909.html
いつかぶっ殺してやろうとずっと思ってました
次回はまたブスとデブの合宿に戻ります
226
:
名無しさん
:2024/11/17(日) 22:10:17 ID:jNFoN1Nk0
おつおつ
227
:
名無しさん
:2024/11/17(日) 22:30:09 ID:4bdryv0A0
おつ
228
:
名無しさん
:2024/11/18(月) 06:47:19 ID:9HqF1qUQ0
おつ
229
:
名無しさん
:2025/02/02(日) 23:40:10 ID:/RzzjASY0
面白かった!裁断女のリベンジ楽しみにしてる
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