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( ^ω^)文戟のブーンのようです[3ページ目]

1【学校案内】:2018/09/04(火) 23:31:37 ID:/HhqdvjQ0

≪とりあえずこれだけ分かっていれば万事OKなQ&A≫


Q.ここってどんなスレ?
A.お題に沿った作品を指定期間内に投下
投票と批評、感想を経て切磋琢磨するスレ

Q.投票って?
A.1位、2位とピックアップを選ぶ
1位→2pt 2位→1pt で集計され、合計数が多い生徒が優勝

Q.参加したい!
A.投票は誰でもウェルカム
生徒になりたいなら>>4にいないAAとトリップを名前欄に書いて入学を宣言してレッツ投下

Q.投票って絶対しないとダメ?
A.一応は任意
しかし作品を投下した生徒は投票をしないと獲得ptが、-1になるので注意

Q.お題はどう決まるの?
A.前回優勝が決める。
その日のうちに優勝が宣言しなかった場合、2位→3位とお題と期間決めの権利が譲渡されていく

Q.使いたいAAが既に使われてる
A.後述の「文戟」を参照



詳しいルールは>>2-9を参照してください!

また雰囲気を知りたい方は

スレ1
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/21864/1531744456/

スレ2
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/21864/1533540427/

へGO!!

391从 ゚∀从〔文戟中〕 ◆ogHcBy0QF6:2018/09/17(月) 23:50:55 ID:Qeo2C1gM0

色とりどりの料理が並ぶ食卓を前に、彼女と母の会話は弾んでいた。
安心しつつも僅かな疎外感を抱いて、俺は料理に手を付ける。

( ^ν^) 「いただきます」

菜っ葉のお浸しを口に含む。
特有の青臭さが鼻に抜け、ひと噛みするとじゅわりと旨味が染み出した。

次に箸をつけたのは、根菜の黒酢炒め。
きらきらと光を反射する黒酢にコーティングされたレンコンは、シャキシャキと心地よい音を立てる。

咀嚼しているうちに、大切なことを思い出した。
彼女が菜食主義者であると母に伝えることをすっかり忘れていたのである。

( ^ν^) 「デレ」

ζ(゚ー゚*ζ 「ん?」

( ^ν^) 「食えないもん、残していいからな」

ξ゚⊿゚)ξ

それを聞いて、母が眉を顰める。
失言だったかもしれない。まるで偏食であるかのように聞こえてしまっただろうか。

( ^ν^) 「あ、母さん悪い。コイツ、ベジタリアンなんだよ」

ξ゚⊿゚)ξ 「あら、そうなの。それはちょうど良かった」

( ^ν^) 「ん?」

どういう意図での丁度いい、なのか。
問いかけようとしたところで、彼女の声が遮った。

.

392从 ゚∀从〔文戟中〕 ◆ogHcBy0QF6:2018/09/17(月) 23:51:45 ID:Qeo2C1gM0

ζ(゚ー゚*ζ 「ニュッさん、大丈夫。全部食べられるものばかりよ」

ξ゚⊿゚)ξ 「私もね、少し前から肉類食べるの止めたのよ」

( ^ν^) 「なんか、流行ってんの?」

ζ(゚ー゚*ζ 「健康にいいですし、ね?」

ξ゚⊿゚)ξ 「そうよね。肌の調子がかなり良くなったわ」

またしても会話に取り残され、侘しく人参のフライを貪った。

ξ゚⊿゚)ξ 「ところで、あなたたちいつまで滞在するの?」

( ^ν^) 「三連休だから、休みの間はここにいようかと思っていたんだが」

ξ゚⊿゚)ξ 「あら、そうなの」

( ^ν^) 「なんかまずいか?」

ξ゚⊿゚)ξ 「いえ、ウチは全然問題ないんだけど、明日の晩、ちょっとね」

ξ゚⊿゚)ξ 「さっき、荒巻さんのおじいちゃんが亡くなったって、連絡回ってきたのよ」

( ^ν^) 「それがなにか……あ」

拝鳴村はいくつかの地区に別れ、それぞれの住人で小さなコミュニティを築いている。
荒巻のじいさんとは同じ地区という繋がりはあるが、血のつながりはない。
死んだからといって、何か用事などあるだろうか。

用事?
明日の晩?

その時、記憶の海深くに沈んでいたひとつの言葉が浮かび上がった。

.

393从 ゚∀从〔文戟中〕 ◆ogHcBy0QF6:2018/09/17(月) 23:52:30 ID:Qeo2C1gM0

ξ゚⊿゚)ξ 「そう。御影遷しがあるのよ」

ζ(゚ー゚*ζ 「みかげうつし?」

ξ゚⊿゚)ξ 「参加する?」

ζ(゚ー゚*ζ 「いいんですか?」

平然とした顔で誘った母と、身を乗り出し目を輝かせる彼女。
話の展開のあまりの早さに眩暈を感じつつ、手を上げて制止する。

( ^ν^) 「おいちょっと待て。そんなに気安く……」

ξ゚⊿゚)ξ 「そりゃヨソの人を参加させるのはマズイけど、デレちゃんは嫁に来るんでしょう?」

( ^ν^)

( ^ν^) 「確かにその話をしに来たわけだけど、ちょっと待て」

( ^ν^) 「なあ、親父はどこに行ったんだ?」

食卓には、三人分の料理しかなく。
昔、親父の指定席だった椅子は空席のままであった。

彼女について報告をしようにも、父不在では意味がない。

ξ゚⊿゚)ξ 「お父さんね、仕事が忙しいのよ」

ζ(゚ー゚*ζ 「ニュッさんのお父様は確か、ホライゾン商会の」

ξ゚⊿゚)ξ 「そう。ちょっとね、今出かけているの」

( ^ν^) 「いつ帰ってくる?」

ξ゚⊿゚)ξ 「さあねぇ、あの人、マメに連絡してくれないから」

.

394从 ゚∀从〔文戟中〕 ◆ogHcBy0QF6:2018/09/17(月) 23:53:01 ID:Qeo2C1gM0

確かに、父は昔から連絡を忘れては母に叱られていた。

滞在中に父に会うことはできるだろうか。
不確実なら、母にだけ結婚の報告をするべきか。

迷ったときにはより面倒な選択肢を選ぶべきだと、漫画で読んだような気がする。

( ^ν^) 「親父と母さんが揃ったときに、ちゃんと報告させてくれ」

ξ゚⊿゚)ξ 「そうね、それがいいわ」

ちらりと様子を窺うと、彼女は満足そうな笑顔で野菜を頬張っていた。

.

395从 ゚∀从〔文戟中〕 ◆ogHcBy0QF6:2018/09/17(月) 23:54:31 ID:Qeo2C1gM0



暗闇のなかに、宮司の声が朗々と響き渡る。



村と森の境に建つ神社の敷地内、開けた野原に村人が集まり始めたのは夕方、まだ日も沈まぬ頃。
俺たちはここに立ちつくして、ただ夜を待った。

己の鼻先も見えぬほどの暗闇で、宮司の声に従い頭を下げ、目を閉じる。

ザッ、ザッと荒々しい音によって、参列者たちは穢れを払われた。


御影遷しの儀が始まる。

手元の提灯の微かな明かりだけを頼りに宮司は棺の元へ向かう。
橙色のともし火が、ゆらり、ゆらりと揺れながら、森との境に寝せられた棺へ向かう。

宮司が無事たどり着いたのを見届けた瞬間、ともし火すら消されてしまう。


「ロオオオオオオオオオオオオオオオ」


完全な暗闇の中で、野太い声が響く。
闇を揺らし、風を揺らし、棒立ちで見守る村人たちの鼓膜を揺らし、天高く響き渡る。
呼応するように風がひとつ吹き上がり、森の木々を揺らす。


   コン、コン
             コン、コン


手に持った何かで棺を叩く乾いた音が聞こえている。

聞こえるのはそれだけではなかった。
極限まで足音を殺した集団が押し寄せる、そんな地の揺れを足元から感じる。


一角獣の群れだ。


木と木の隙間から覗く数え切れないほどの瞳。
僅かな光もないこの場所で、彼らの瞳だけが光源になっている。

.

396从 ゚∀从〔文戟中〕 ◆ogHcBy0QF6:2018/09/17(月) 23:55:07 ID:Qeo2C1gM0


どれほどの時が立っただろう。
不意に一角獣が全身をさらけ出す。

広場の四隅に立てられた松明に、炎が灯されたのだ。

棺と宮司の足元に、影が色濃く描かれる。
地面の匂いを嗅ぐように、一角獣たちは棺の周りに集い、地に鼻先をつける。






彼らが満足し、一匹残らず森に帰るまで、村人たちは固唾を飲んで見守り続けた。




.

397从 ゚∀从〔文戟中〕 ◆ogHcBy0QF6:2018/09/17(月) 23:56:18 ID:Qeo2C1gM0

目を覚ましても暫く、ぼうっとしていた。

若い頃、毎朝俺の起床を見守ってくれていた天井が出迎えてくれたもんだから、混乱していたのだ。
そういえば、実家に帰って来ていたんだった。

隣に敷かれた布団は綺麗に畳まれている。
スマートフォンで時間を確認すると、もう10時を回っていた。

彼女を探して廊下に出る。
一階への階段を降りようとしたところで、母の声が聞こえてきた。

「デレ、あの子を連れて帰って来てくれて、ありがとう」

耳をそばだてる。
声は、父の書斎の扉から聞こえてきた。

「大変だったでしょ? 連れてくるの」

「そうでもないよ」

彼女の声、のはずだ。
聞き覚えのある声が、昨夜とは違う口調で、俺の母親と話している。

「結構ちょろかったよ」

「ま、ブーン君引っ掛けたツンちゃんには負けるけどねぇ」

「引っ掛けた、なんて人聞きの悪い」

「誰も聞いてないんだし、気にしなくていいじゃん」

「そうでもなさそうよ?」

「ニュッくん、盗み聞きしてるんなら入ってきたら?」

.

398从 ゚∀从〔文戟中〕 ◆ogHcBy0QF6:2018/09/17(月) 23:56:45 ID:Qeo2C1gM0

それっきり、二人の会話は聞こえなくなった。

父の書斎の扉のドアノブに手をかける。
回す勇気は出なかった。

母と彼女が、俺のいない所で、親し気に会話を弾ませている。
ああ、なんて素敵な展開だろう。理想的だ。
いくつもの違和感から目を背ければ、これほど幸せなことはない。


何故、親し気に名前を呼びあっているのだろう。
何故、父の書斎にいるのだろう。
何故、父は不在なのだろう。
何故、二人の横顔を似ていると感じたのだろう。


全ての疑問の答えは、扉一枚隔てた向こう側にある。


汗ばんで湿った掌で額の汗を拭う。
大きく息を吸う。そして鼻からゆっくりと吐く。

未だ高鳴る鼓動を抑えきれぬまま、覚悟を決めて扉を押し開けた。

.

399从 ゚∀从〔文戟中〕 ◆ogHcBy0QF6:2018/09/17(月) 23:57:29 ID:Qeo2C1gM0

( ^ω^)

初めに目に入ったのは、椅子に深く腰掛けた父の姿であった。
柔らかなクッションの入った背もたれに身体を深く沈めて、ひじ掛けに腕を預けている。
全裸であることを除けば、全く違和感はなかった。

( ^ν^) 「いや、いやいや」

( ^ν^) 「まずは服を着ろよ、親父」

( ^ω^)

返事はない。
口を開くことも、微笑みを崩すこともなく、微動だにせず父は裸をさらし続ける。

動いたのは、彼女だった。

ζ(゚ー゚*ζ 「ありゃりゃ、忘れてた」

そう言って、彼女は傍らから服を取り出すと、父の前に立ち。
父の両耳の辺りに掌を当てて。

カポリ。

父の頭部を取り外した。


  ζ(゚ー゚*ζ
( ^ω^)⊂


ζ(゚ー゚*ζ 「よい、しょっと」

父の頭部を机に仮置きした彼女は、シャツを胴体に被せ、首元のボタンを閉める。
あちこち引っ張って服の皺を伸ばしてから、彼女は、父の頭部をもとの位置へと戻した。

( ^ω^)

衣服を纏った父は、先程と変わらぬ穏やかな微笑みを湛えていた。

.

400从 ゚∀从〔文戟中〕 ◆ogHcBy0QF6:2018/09/17(月) 23:58:04 ID:Qeo2C1gM0

ξ゚⊿゚)ξ 「ねえ、デレ」

ζ(゚ー゚*ζ 「なあに? ツンちゃん」

ξ゚⊿゚)ξ 「朝ごはんにしましょうか」

ζ(゚ー゚*ζ 「そうね、私、お腹が減っているのよ」

ζ(゚ー゚*ζ 「しばらく前からね」

( ^ν^) 「お前、いや、お前ら、何者なんだ一体」

( ^ν^) 「親父を殺したのは、お前らか」

ξ゚⊿゚)ξ 「ブーンを殺したのは、ブーンの強欲さよ」

ξ゚⊿゚)ξ 「私はね、ブーンのことを食べるつもりはさらさらなかったのよ?」

ξ゚⊿゚)ξ 「もう何年も、ちゃんと我慢していたでしょう?」

( ^ν^) 「食べる、つもり?」

ξ゚⊿゚)ξ 「私があなたのお母さんにあたる人を食べたのは、ブーンがホライゾン商会を立ち上げたから」

ξ゚⊿゚)ξ 「近くで監視する必要があったから、仕方なく食べるしかなかったのよ」

( ^ν^) 「母さん、を、食べた?」

.

401('A`) ◆0x1QfovbEQ:2018/09/17(月) 23:59:07 ID:IrGLBXto0
('A`) 投下の途中で悪いがフォックスの次に投下するぜ

402( ^ω^)[文戟中] ◆DD/QFCGk1c:2018/09/17(月) 23:59:25 ID:v3UBSNVw0
(;^ω^)「支援だお……ウゴォ……」

403从 ゚∀从〔文戟中〕 ◆ogHcBy0QF6:2018/09/17(月) 23:59:49 ID:Qeo2C1gM0

ζ(゚ー゚*ζ 「ゆうべ、見たでしょう?」

ζ(゚ー゚*ζ 「我々の同胞たちの、食事を」

( ^ν^) 「昨夜……?」

父を、食べた。
母を、食べた。
我々。同胞。

理解不能な言葉の羅列からつかみ取った、俺でも理解できる単語から、何とか情報を読み解きたかった。
昨夜、何があった?

ξ゚⊿゚)ξ 「ホライゾン商会の設立自体には、反対するつもりはなかったの」

ξ゚⊿゚)ξ 「珍しい獣でいるにはそれなりにリスクがある」

ξ゚⊿゚)ξ 「乱獲を防ぐために、同胞の死体を剥製にする役目に名乗り出たの」

ξ゚⊿゚)ξ 「でもね」

ξ゚⊿゚)ξ 「最初は珍しがられた一角獣の剥製も、ある程度の施設に設置されると注文は落ち着いてしまった」

ξ゚⊿゚)ξ 「それで、ブーンは、中国の富豪向けに販路を広げようとした」

ξ゚⊿゚)ξ 「それは、我々の望む未来ではなかった」

ξ゚⊿゚)ξ 「だからね、私がブーンになることにしたの」

ξ゚⊿゚)ξ 「ブーンの影を、食べて」

ξ゚⊿゚)ξ 「ブーンの身体を着て、ホライゾン商会の舵を取るしかなかったの」

ξ゚⊿゚)ξ 「我々の、存続のために」

.

404从 ゚∀从〔文戟中〕 ◆ogHcBy0QF6:2018/09/18(火) 00:00:23 ID:x1jLa9Ts0
   
ζ(゚ー゚*ζ 「私の着ているこの体は、誰だったか、覚えてる?」

ζ(゚ー゚*ζ 「あなたの同級生のしぃちゃんだよ」

ζ(゚ー゚*ζ 「髪はツンちゃんの毛のストックを使ったけどね」

現実離れした言葉たちの濁流に飲み込まれ、声も出せずに立ちつくす俺に、彼女はゆっくりと近づいてくる。

ζ(゚ー゚*ζ 「ねえ、ニュッさん」

ζ(゚ー゚*ζ 「何のために近づいた、って、聞いてくれたよね」

かぱりと、口を大きく開いて彼女は笑う。楽しそうに。朗らかに。

ζ(゚ー゚*ζ 「生簀からエサが逃げちゃったら、追いかけて、食べちゃわないといけないでしょう?」

ζ(゚ー゚*ζ 「本当は、死んだ人間の影しか食べちゃいけないんだけどね」




鮮やかに赤い口内が網膜に焼き付いた。
それが、俺の見た最後の光景。





.

405从 ゚∀从〔文戟中〕 ◆ogHcBy0QF6:2018/09/18(火) 00:01:48 ID:x1jLa9Ts0




【カゲクイ】
森の住人であるこの一角獣は、人と共に生きている。
小さな角を誇らしげに掲げた繊細なこの獣は、太古の昔から人々に愛されてきた。



動物園の剥製に添えられていた説明書きを思い出す。


瞼を閉じ、こうべをたらして己の影を捧げてしまうのも、きっと必然なのだろう。
遺伝子に刻まれた、餌の矜持である。






【カゲクイのようです 了】

406从 ゚∀从〔文戟中〕 ◆ogHcBy0QF6:2018/09/18(火) 00:02:38 ID:x1jLa9Ts0
从 ゚∀从 「時間オーバーして悪かったぜフォックス!」

从 ゚∀从 「一週間ってみじけー!!」

407( ^ω^)[文戟中] ◆DD/QFCGk1c:2018/09/18(火) 00:05:56 ID:Wq33UYF20
(;^ω^)「乙だお……」

(;^ω^)「かわいいニュッデレだと思ったのに滅茶苦茶ホラーじゃねぇかお……」

408爪'ー`)y‐[文戟中] ◆IIES/YYkzQ:2018/09/18(火) 00:06:11 ID:wuDW0KHE0
爪'ー`)y- 「いやいや、((((;゚Д゚))))ガクガクブルブルしながら読んでたら、あっという間だったぜ」

爪'ー`)y- 「乙!」

爪'ー`)y- 「じゃあオレも投下するぜ」

409爪'ー`)y‐[文戟中] ◆IIES/YYkzQ:2018/09/18(火) 00:07:02 ID:wuDW0KHE0
窓から差し込む橙色が少しずつ青みを帯びていく。
少しずつ色を変えながら明日へ明日へと流れて行く雲。その中に一つ、先程からやけにゆっくり進んでいる小さな雲を見つけた。
なんとなく大人になり切れない、そんな自分を重ねてため息を一つ。どうやらそろそろ帰らなければいけない時間のようだ。


鍵盤に置いていた指を離し、椅子の横ににあったはずのカバンに手を伸ばすが、何もない。
椅子の下をのぞき込む。どうやら自分に酔いしれながら、弾いていたのが彼にも伝わっていたらしい。
カバンは辟易とした様子でぐったりと、椅子の脚にもたれかかっていた。


(-_-) 「ごめんごめん…つい入り込んじゃった」


なんだか急に阿保らしいような気がして、自嘲気味に笑った。
人とは上手く話せないのに、物言わぬ物とは話せるのというのだから、我ながら呆れたものである。


(-_-) 「それじゃあ、またね」


カバンに言い訳したのだから、ピアノにだって挨拶しなくっちゃ変だろう。
そんな風に思って、苦楽を共にしてきた相棒に声をかけた。

410爪'ー`)y‐[文戟中] ◆IIES/YYkzQ:2018/09/18(火) 00:07:36 ID:wuDW0KHE0
僕がここでピアノを弾くようになってから、もう十年になる。
初めて見たときは、おんぼろの駅舎と不釣り合いなくらいにピカピカだったこのピアノも、経年劣化によって段々と塗装のひび割れなんかが目立つようになってきた。
パーツもだいぶ弱ってきたのか、近頃は優しく弾いても歌っちゃくれない。僕が魂を込めて弾くと彼女もようやく乗り気になるのか、重い腰を上げて歌い始めるといった具合である。


長いこと素人が使い、メンテナンスもしてきたのだから当たり前なのかもしれない。
一度、業者を呼ぼうかとも考えたのだが、僕以外の人にここを知られるのは嫌だったので、結局は自分でメンテナンスをしながら、騙し騙しで延命しているのが現状だ。
初めて彼女の歌声を聴いた、あの時の音と同じにすればいいだけなので、調律は何とかなったのだが、他は本やネットの情報から自己流で何とかしていた。


(-_-) 「何とかしなくっちゃなあ…」


後頭部を掻きながら、そう独り言ちた。別に頭が痒かったわけじゃない。
僕の中の何かを悩んでいる人のイメージを真似てみただけだ。
でも、こうすることで悩みの種が粉々になってどこかへ飛んで行って、解決策を連れて来るんじゃないかなんて、心の隅ではちょっと期待していた。

411爪'ー`)y‐[文戟中] ◆IIES/YYkzQ:2018/09/18(火) 00:08:13 ID:wuDW0KHE0
(-_-) 「さて、帰ろっかな」


そう言って、部屋を出ようとした時、僕の目の前に夕陽を浴びてキラキラと輝く黒い何かが躍り出た。


――――――僕はこの日、天使を見てしまった。


頭のお堅い現実主義者の皆は、今から僕が言うことを決して信じないだろう。
なんせ、高校二年生になってもどこかに、宇宙人や髭もじゃの赤服おじさんがいるんじゃないかと、心のどこかで思っていたりするこの僕だって、思わず自分の目を疑ったくらいなんだから。


西洋画なんかでモチーフにされる天使は美しい金髪をしていることが多いが、僕が見た天使は濡れたカラスの羽のような艶やかな黒色の髪をしていた。
ちらりと覗いたワニ口クリップみたいな八重歯なんかむしろ悪魔的だし、翼だって生えちゃいない。
服だって気崩されたどこかの高校の制服だ。皆が思い浮かべる天使とは似ても似つかないだろう。

412爪'ー`)y‐[文戟中] ◆IIES/YYkzQ:2018/09/18(火) 00:08:41 ID:wuDW0KHE0
(-_-) 「……天使…みたいだ」


僕は思わず、そう呟いていた。
何だろうこの気持ちは、僕はどこかで彼女と会ったことがあるような気がする。
これが運命ってやつなんだろうか。ジャジャジャジャーンって感じなのか。
……ベートーヴェンめ、やりよる。


('、`*川 「……はぁ?…アンタ、何言ってんの?」


(-_-) 「え?」


(-_-)


(-_-)ガラガラ ピシャ

413爪'ー`)y‐[文戟中] ◆IIES/YYkzQ:2018/09/18(火) 00:10:12 ID:wuDW0KHE0
僕は思わず扉を閉めた。タイムタイム、ちょっと待ってくれ。テイク2を要求したい。僕が思ってたのと全然違うよ?
たしかに可愛い、めちゃくちゃ可愛い。それに声も綺麗だ。けどその口調と言葉は、随分と棘々しくて天使とは真逆な感じだ。


(-_-) (あ、やばい。すごいドキドキしてる)


(-_-)スゥーハー


(-_-)ガラガラ (よし、テイク2)


('、`*川 「いや、何閉めてんのよ」


(-_-) 「え、あ」


再度、扉を閉めようとしたその時、天使が扉の隙間に足を突っ込んだ。
そして僕の細腕では、微塵も対抗できないほどの圧倒的な腕力を持って、扉をこじ開けて中に入って来た。
なんて腕力……勇次郎さんもびっくりやでぇ。

414爪'ー`)y‐[文戟中] ◆IIES/YYkzQ:2018/09/18(火) 00:10:39 ID:wuDW0KHE0
('、`*川 「何閉めてんのよ?」


(;-_-) 「え、ぁ……ぅ」


('、`*川ハァ 「質問にはちゃんと答えろってーの」


そう言いながら、息がかかりそうなほどの距離で彼女は、僕の顔を覗き込む。
まいった。また上手く話せない。どうしたらいいのかわからなくなってきた。
自分の呼吸音だけが聞こえる。ちょっとパニックにでもなりそうだ。


('、`*川 「なんだ…廃駅のピアノを弾くオバケって、アンタのことだったのか」


(-_-) 「え?おば…け?」


('、`*川 「そうそう。この廃駅にピアニストのオバケが出るって言う噂。……アンタ知らないの?」


('、`*川 「凄く上手いピアノの音が聞こえるって、結構有名よ?」


(-_-) 「そ、そ……なの?」


('、`*川 「そうそう」

415爪'ー`)y‐[文戟中] ◆IIES/YYkzQ:2018/09/18(火) 00:11:16 ID:wuDW0KHE0
自分が都市伝説のようなものになっていたとは、意外とショックな事実だ。
たしかにここには、普段誰も寄り付かない。なんだか不気味だし、崩れそうだし。
オバケが出そうというのも頷ける。でも、僕はこの町全体を一望できるこの場所を気に入っていた。
夕暮れや星空が綺麗な日に、ここでピアノを弾いているとまるで、自分が本の世界に入り込んでいるかのように感じるのだ。
自分に酔ってる?ほっといてくれ。好きなんだから仕方ない。


('、`*川 「ところで、さっきまで弾いてたのもアンタなの?」


(-_-) 「……うん」


('ー`*川 「じゃあ、なんか弾いてちょうだい!!」


天使……いや悪魔か?がそういうので、僕は再度ピアノの前に戻る。
なんか弾いてちょうだいか、割と困った注文を貰ってしまった。


(-_-) 「じゃ、よろしく頼むよ」


軽く鍵盤を押し、彼女に声をかける。
何とも不機嫌そうにドの音が響いた。

416爪'ー`)y‐[文戟中] ◆IIES/YYkzQ:2018/09/18(火) 00:11:49 ID:wuDW0KHE0
('、`*川 「早く弾いてよ」


そう言って、天使は椅子を引きずって、ピアノの正面に移動する。
そしてなぜか、いただきますとでも言うかの様に、手を合わせた。


(-_-) (なんかか……じゃあ、これでどうだろう?)


(-_-) 「いくよ」


すっと息を吸い込んで引き始める。
さっき彼女と出会った時に感じた、雷に打たれたような衝撃を込めて…。


('、`*川 (……へえ、リャプノフのレズギンカか)

417爪'ー`)y‐[文戟中] ◆IIES/YYkzQ:2018/09/18(火) 00:12:21 ID:wuDW0KHE0
最初の鍵盤を弾いた時、いつもと違うイメージが頭を過った。


(;-_-) (音符が…跳ねてく!?)


赤や青に黄色と色とりどりの音符達が、ピアノからぴょんと飛び出していくのだ。
そしてその音符を彼女が次々と食べていく。
何とも不思議で現実離れした光景を見て、僕は綺麗だとすら感じていた。


(-_-) (こんなの…初めて見た)


考えごとに気をとられて、演奏する指に力が籠ったのを見抜いたのだろうか、彼女は眉を顰める。

418爪'ー`)y‐[文戟中] ◆IIES/YYkzQ:2018/09/18(火) 00:12:50 ID:wuDW0KHE0
('、`*川 「アンタ……余計なこと考えてるでしょ?」


(;-_-) 「う……」


('、`*川 「なんか変に甘くなった」


('、`*川 「集中して」


(-_-) 「ごめんね」


これまでの音を全て塗り替えるように、グリッサンドを一つ。本来の曲には入らないがこれはサービスだ。
力強く一音一音を響かせながらも、的確に強弱をつけていく。


連符などが続くような速い曲の時には、どうしても指が走りがちになる。だから、リズムキープは常に意識する。
でも、それだけに囚われていては、本当の意味でいい演奏はできない。


僕はピアノを弾くことは、楽器と対話することだと思ってる。
だからいつもの様に、ピアノと話しながら、弾いていた。

419爪'ー`)y‐[文戟中] ◆IIES/YYkzQ:2018/09/18(火) 00:13:26 ID:wuDW0KHE0
(-_-) 「よし、今のは上手いよ。いい感じ」


(-_-) 「また早いのが続くよ。気合入れていこう」


(;-_-) 「よし、ラストスパート」


するとピアノがいつもよりも、いい声で歌ってくれるような気がする。
ピアノが僕の声に答えるように、どんどん音符を吐き出していく。


(-_-) (さ、ここからもうひと踏ん張りだ!)


静かで繊細なタッチを徐々に強めていく。
そして曲は終わりへと向かっていく。弾むようなフレーズと地の底を這うような低音に、絶妙なバランスで音を絡ませる。


最後にちょっと激しい連符、そして静かに嵐が去った後の安寧を思わせるようなフレーズを添える。


(-_-) (よし、どんなもんだい!!)


そう思いながら彼女の方を見る。

420爪'ー`)y‐[文戟中] ◆IIES/YYkzQ:2018/09/18(火) 00:13:55 ID:wuDW0KHE0
(;、;*川 「ピアノと本当に話してる奴、初めて見た」


そう言って、彼女は泣くほど笑っていた。なんとなく恥ずかしい。
だって、その方がいい音が出るんだから、皆そうしているものだと思っていた。
むしろ、ピアノと話さない方がおかしい。全てのピアニストに対して、声を大にして言いたい。


('、`*川ホゥ 「でも、ひっさびさにこんなに美味しい音に会えた」


('、`*川 「ごちそうさまでした」


(-_-) 「お粗末様でした」


('、`*川 「アンタ名前は?」


(-_-) 「僕は日比谷奏。えっと…VIP校の2年」


(-_-) 「あんまり学校に行かないから、ヒッキーなんて呼ばれてる」


('、`*川 「へえ、ヒッキー…。ヒッキーねえ」


彼女は自分の中に、馴染ませるかの様に何度も、僕の名前を口にした。

421爪'ー`)y‐[文戟中] ◆IIES/YYkzQ:2018/09/18(火) 00:14:25 ID:wuDW0KHE0
('、`*川 「アタシの名前は辺見あかり」


('、`*川 「ムカつく奴らをしばき倒してたら、挨拶されるようになって……」


('、`*川 「『辺見さんざぁす!!』って言ってたのが縮まって、友達からはペニサスなんて呼ばれてる」


(-_-) 「辺見さんか」


僕がそう呟くと、彼女はちょっと嫌そうな顔をした。


('、`*川 「さん付けなんてしなくていいよ。同級生じゃん」


(;-_-) 「ごめん。癖なんだ」


ていうか、同級生だったのか。そりゃあ、どこかで見たことがあるはずだ。
でも僕は教室にいる時、外ばかり見ていたからか、クラスメイトの顔があまり記憶にない。
ちょっと確認してみるべきだろう。

422爪'ー`)y‐[文戟中] ◆IIES/YYkzQ:2018/09/18(火) 00:15:04 ID:wuDW0KHE0
(-_-) 「君はVIP校なの?」


('、`*川 「うん。二年B組」


まさかの同じクラスだった。
いや、流石に天使と見間違えるような子を見逃しているはずがない。


('、`*川 「アンタ、いつもここにいるの?」


(-_-) 「学校にいない時は、大体いるよ。流石に夜遅くなる前に帰るけどね」


('ー`*川 「また、食べに来てもいい?」


(-_-) 「うん」


(-∀-) 「またいつでも来て」


始めはそうでもなかったのだが、彼女とは上手く話せている気がする。
そう思ってちょっと調子に乗ってしまった。
久々に使った笑顔は、自分でもわかるほどぎこちなくて、どうも引きつっている。

423爪'ー`)y‐[文戟中] ◆IIES/YYkzQ:2018/09/18(火) 00:15:56 ID:wuDW0KHE0

(;-_-) (……しまった。また気持ち悪いと思われる)


('、`*川


('∀`*川 「……何焦ってんのwwww」


('ー`*川 「アンタ、なんか面白いねww」


(;-_-)


最初に出会った日は、そんなこんなであっという間に時間が過ぎていった。
この後も沢山話したんだけど、僕は久し振りに人と話して疲れてしまったのか、あまり覚えていない。
ただ、彼女の表情が瞼の裏に焼き付いて離れなくて、しばらく眠れない夜が続いた。

424爪'ー`)y‐[文戟中] ◆IIES/YYkzQ:2018/09/18(火) 00:16:45 ID:wuDW0KHE0
学校に行けば、相変わらず一人ぼっちだったが、全く気にならなかった。
彼女のことを考えながら、エアピアノをしていれば、時間は一瞬で過ぎ去った。


学校に行き、廃駅でピアノを弾いて、帰って眠るだけ。
たったそれだけだった僕の日々に、急に光が差したようだった。
まさに超新星爆発。それ位に眩い日々だった。僕の乏しい語彙じゃあ、到底上手く表せやしない。


今まではただ楽しくて、ただ難しい楽譜を弾きこなせるようになりたくて、弾いていた。
でも今は、彼女により美味しい音を食べてもらいたい。


気が付けば、僕はそれだけを考えるようになっていた。

425爪'ー`)y‐[文戟中] ◆IIES/YYkzQ:2018/09/18(火) 00:17:17 ID:wuDW0KHE0
(-_-) (どうしたらいいんだ)


(#-_-) (くそ!!くそお!!!!)


感情をぶつけるようにピアノを弾いた。
いくらイライラしたからって上手くなるもんじゃない。あの頃の僕が演奏する曲は、蛇口から出る水の様なもんだった。
まるで何かに憑りつかれたかのように弾いて、弾いて、弾き続けた。
そんな僕を見て、彼女は悲しそうな顔をした。


('、`*川


('、`*川 「アンタ、ピアノ弾いてて楽しい?」


(-_-) 「……どういうこと」


('、`*川 「最近のアンタは、前みたいに楽しそうじゃない」


('、`*川 「…手だってボロボロじゃない」


そう言って、心配そうに僕の手を取って撫でた。
その行為がおかしくなった僕の何かに触れた。

426爪'ー`)y‐[文戟中] ◆IIES/YYkzQ:2018/09/18(火) 00:18:00 ID:wuDW0KHE0
(#-_-) 「…君に何がわかるって言うんだ!!!!!!!!」


(#-_-) 「…僕は!!」


(#-_-) 「僕は…!僕は!!!!」


(#゚_-)


(#゚_゚)ゴポォ


自分でも驚くくらい大きな声を出したその時、僕の口からどす黒い何かが飛び出した。
普段、私は音楽しか食べないんだ。そう彼女は言っていた。
彼女は音を食べる。と言うことは、僕の言葉だって例外じゃない。


僕はこんなものを食べさせたくて、頑張ってきたわけじゃない。
だめだダメだ駄目だ。僕は君の笑顔が見たかっただけなのに……。

427爪'ー`)y‐[文戟中] ◆IIES/YYkzQ:2018/09/18(火) 00:18:30 ID:wuDW0KHE0
慌てて止めようとする僕に、優しく微笑んで


('ー`*川


('、`*川ゴクン


彼女はどす黒い塊を飲み込んだ。
そして、その場にどさりと倒れて動かなかった。


脈はあるが非常に弱弱しい。
すっかり混乱した僕は、どうしたらいいのかわからなくて、音を食べて倒れたのだから、音で治せるんじゃないか。
なんて考えて、彼女の為に曲を弾き続けた。


手が痛くなっても、演奏を止めなかった。
いつか彼女が目覚めて、全部冗談でしたと笑ってくれる。
始めはそう考えていた。でも、彼女は目を覚まさなかった。

428爪'ー`)y‐[文戟中] ◆IIES/YYkzQ:2018/09/18(火) 00:20:00 ID:wuDW0KHE0
( _ ) 「……どうしたら」


( _ )


(-_-)そ 


(-_-) (そうだ。あの黒い塊は僕の気持ちだった。)


(-_-) (なら、反対の気持ちがあれば、黒い塊を打ち消せるはず)


どこかの話の王子様みたいに、眠っている彼女にキスをする勇気は僕にはない。
代わりと言ってはなんだけど、僕が人生で一番初めに弾いた曲を贈ろう。

429爪'ー`)y‐[文戟中] ◆IIES/YYkzQ:2018/09/18(火) 00:20:45 ID:wuDW0KHE0
(-_-) (……星に願いを)


(-_-) 「最後のわがままだ……付き合ってくれる?」


そう訊くと彼女はいつもとは違い、上機嫌に歌い返してきた。


(-_-) 「…そっかありがとう」


静かに、けれど暗闇を照らす蝋燭の様な、強さと優しさを込めて、一音一音奏でていく。
音符は飛び出していかない。でも関係ない。
手が痛いし、腕も悲鳴を挙げてるけれど無視して、ひたすらに思いを込めて弾く。


痛い、苦しい。でも、こんなにも楽しいなんて。
久しく忘れていた感覚に、涙が出そうになる。

430爪'ー`)y‐[文戟中] ◆IIES/YYkzQ:2018/09/18(火) 00:22:50 ID:wuDW0KHE0
(-_-) (昔は、この曲が弾けなくて泣いてたっけなあ)


(-_-) (僕の隣にいた女の子が、いつも僕より早く曲を弾けるようになるのが悔しかった)


(-_-) (いつの間にか引っ越すことになって、いなくなっちゃって……)


(-_-) (逃げるのかよって思って、悔しくて泣いたっけな)


(-_-) (名前は………たしか)


そうか。そうだったのか。
僕らはずっと前に出会っていたんだ。


町外れのピアノ教室で。

431爪'ー`)y‐[文戟中] ◆IIES/YYkzQ:2018/09/18(火) 00:23:29 ID:wuDW0KHE0
長く長く、永遠の様にも感じた曲が終わる。


最後の一音には、ありったけの想いを込めて。
君が聞いたら、笑うだろうか。


(-_-) (昔も今も、僕は…君が!!)


最後の一音が廃駅に響く。
ピアノの弦が切れたのだろう。中から金属がぶつかるような音が聞こえた。
その音はとても綺麗で、澄んでいて。


頭上で大きな何かが弾けて、視界が真っ白く染まっていった。

432爪'ー`)y‐[文戟中] ◆IIES/YYkzQ:2018/09/18(火) 00:24:00 ID:wuDW0KHE0
目を覚ますと辺りはもうすっかり暗くなっていた。
彼女はどうなったのだろう。慌てて飛び起きようとして、頭を何かに激しくぶつけた。
目の前に星が散って、痛みが広がっていく。


(;-_-) (いった〜)


痛みが治まってきて、目を開けるとそこには、同じ体勢でうずくまっている彼女がいた。


('、`#川 「なんで急に起きるのよ!!」


(;-_-) 「君こそ、なんであんなの食べたのさ!!」


('、`;川 「あ、あれは……その」

433爪'ー`)y‐[文戟中] ◆IIES/YYkzQ:2018/09/18(火) 00:24:41 ID:wuDW0KHE0
彼女は言葉を食べるとその人の思いがわかるらしい。
それで僕の気持ちを知ろうとしたようだ。


(-_-) (あれ…?てことは)


(;-_-) 「……僕の気持ち、筒抜けだったってこと?」


( 、 *川コクリ


(;;゚_゚)  「え、ええーーーーー!!!?」


しばらくして、僕からちゃんと告白して、付き合うことになったわけだけど…。
その嬉し恥ずかしな日々を逐一書き記すことはやめておこうと思う。
成就した恋ほど語るに値しないものはないって言うしね。

434爪'ー`)y‐[文戟中] ◆IIES/YYkzQ:2018/09/18(火) 00:26:17 ID:wuDW0KHE0
それから、僕は夢だったピアニストになるため、創作へ留学することになった。
出発の朝、ペニサスは泣いて泣いて、それは大変だった。


(;、;*川 「待ってるから!!……アタシ待ってるからね!!」


(-_-) 「夢を叶えて、絶対に迎えに来るから」


(-_-) 「だから、泣かないで笑っていて」


(-∀-) 「君は僕の天使なんだから」


相変わらず、笑顔は下手だけど思いは伝わったはずだ。
あの日、あの廃駅で、音を食べる天使に出会ってから、一人ぼっちだった僕の世界は終わった。
君と二人で歩ける新しい世界が近づいてきたんだ。


ちょっと怖いけど、もう大丈夫。
君とならどこまでも行ける。今はそんな気分だ。


僕の全てだったあの廃駅の一室には、今はもう誰もいない。

435爪'ー`)y‐[文戟中] ◆IIES/YYkzQ:2018/09/18(火) 00:29:47 ID:wuDW0KHE0
爪'ー`)y- 「というわけで、『了』」

爪'ー`)y- 「タイトルは……」

爪'ー`)y- 「星に願いを」

爪;'ー`)y- 「にしても期間短すぎてヤバかったぜ」

爪'ー`)y- 「ドッくんおまたせ」

436( ^ω^)[文戟中] ◆DD/QFCGk1c:2018/09/18(火) 00:30:36 ID:Wq33UYF20
( ^ω^)「乙だお!」

(*^ω^)「ブーンちゃんのキンタマウスがキュンキュンしちゃうお!」

( ^ω^)「今回の品評会マジで名作しかないお」

( ^ω^)

(;^ω^)「順位付け出来ねぇおこれ……」

437('A`) ◆0x1QfovbEQ:2018/09/18(火) 00:30:39 ID:GYAv4c9w0

('A`) じゃあ投下するわ

438爪'ー`)y‐[文戟中] ◆IIES/YYkzQ:2018/09/18(火) 00:30:42 ID:wuDW0KHE0
爪;'ー`)y- 「食べるシーンあるから、お題には沿ってる……よな?」

439('A`) ◆0x1QfovbEQ:2018/09/18(火) 00:31:52 ID:GYAv4c9w0

船には釣り竿が備え付けてあった。

鈍く光ってしなるそれはカーボンのようにも見えたが、材質は知れない。
リール部分には見たこともない巻き取り機構がついている。

糸は油膜に濡れた絹糸のように様々な色の光を蓄えていた。

モララーはそれを持ち上げ、軽く振ってみる。


(-@∀@)「どうよ調子は?」


( ・∀・)「いや、さっぱりだね…」


( ^ω^)「本当に釣れるのかお?」


そう言ってブーンは身を乗り出し、糸の先を見定めようとする。
糸が垂れる先は遥か下、巨大な球形体の水面だった。

440从 ゚∀从 ◆ogHcBy0QF6:2018/09/18(火) 00:32:22 ID:x1jLa9Ts0
从 ゚∀从 ドクオ忘れ物だぜ
 っ[文戟中]

441('A`) ◆0x1QfovbEQ:2018/09/18(火) 00:32:58 ID:GYAv4c9w0

横目に宇宙のパノラマスケールを収め、
彼らは、その殆どが水で構成された、小惑星ほどはあろうかという大水球に上空から糸を垂らし、
そこへ引き寄せられる魚を待つ。

それは宇宙を回遊して、ここいら一帯に集まる特別な魚だった。

宇宙空間を自由に泳げるのに、なぜ水に集まるのか。
そんな疑問をモララーは今更、感じない。

巨大な水球の周りには、浮遊大陸じみた陸地が多数、周回していて、彼らの宇宙船もそこに居た。


そのさらに向こうには無数の銀河があった。

肉眼でこれほど多くの銀河を見ることが出来るというのは珍しい。
普通はただの星の光と見分けがつかないことが多い。

しかし此処では、はっきりとその形を見て取れる。
渦巻き状やリング状、ガス状の不定系を取る星々の光。

とても不思議な場所だった。
もしかすると、空間なり時間なりが歪んでいるのかも知れない。

442('A`)[文戟中] ◆0x1QfovbEQ:2018/09/18(火) 00:34:27 ID:GYAv4c9w0

(-@∀@)「モナーはどうだ?」


( ´∀`)「……」


(-@∀@)「モナー…?」

( ´∀`)「……おっ? ちょっと居眠りしてたモナ、すまんモナ」

(-@∀@)「やれやれ……」


水の小惑星に糸を垂らして、ひたすら獲物を待つ。

彼らが何故こんなところで釣りをしてるのかと言えば、
それは、一行がこの星系の中心近くにある惑星に立ち寄ったところから始まる。

443('A`)[文戟中] ◆0x1QfovbEQ:2018/09/18(火) 00:34:58 ID:GYAv4c9w0




超銀河的宇宙グルメ・レポートのようです




.

444('A`)[文戟中] ◆0x1QfovbEQ:2018/09/18(火) 00:36:06 ID:GYAv4c9w0

超光速航法を始めとする、既存の物理科学に反した体系が突如として人類の前に出現し、
彼らの生態圏が飛躍的に拡張してから数世紀が経つ。

国から国へ渡る移民の世紀を経験したように、人々は星から星へ、銀河から銀河へと渡っていった。
その過程で所謂、異星人なるものが、そう珍しくはないことを人類は知った。

恒星間戦争なんていう大昔の御伽噺のようなことも危惧されはしたが、
銀河規模の莫大な空間に対して生命体の集団密度は低すぎた。
つまり、領土や資源なんてものは、他人から奪うより前にそこら中であふれていた。

しかし、あまりに広大だった為、かえって一極集中するという問題も、しばしば見られた。
要するに、大都市ばかりにインフラや人口が集中して、
辺境までは、そういった整備が追いつかないのと同様だった。

そこではちょっとした争いが起こったりもするが、全面戦争を始めるには、やはり宇宙は広すぎた。
戦いに行って迷子になることも珍しくない。

445('A`)[文戟中] ◆0x1QfovbEQ:2018/09/18(火) 00:37:21 ID:GYAv4c9w0

だから彼らのような人種が必要になる。

銀河ガイドブック制作業者の調査員。
有り体に言えばそういうことになる。

未踏領域を探査し、情報を持ち帰って共有する。
それは人間という集団の社会性の一部だった。

銀河中を巡り、どこに何があって、誰が住んでて、どうなっているか、
それらをまとめてデータベース化し、時には評価するのが彼らの役目だ。


そんな折、辺境星系のとある惑星で、一行は入るべき飯屋を決めかねていた。

446('A`)[文戟中] ◆0x1QfovbEQ:2018/09/18(火) 00:38:47 ID:GYAv4c9w0

(;-@∀@)「まずいな…」


( ・∀・)「ああ、この辺りには銀河標準語の表記が殆ど無い…」

( ^ω^)「おっおっお、看板に何が書いてあるのか、まるでわからんお!」

( ´∀`)「我ら五人、銀河の果てで飢え死にモナ?」


('A`) 「馬鹿言うな、リーダーのお前がどうにかしろ!」

( ´∀`)「モナモナ…船に戻れば宇宙食があるモナ」

('A`) 「もう食い飽きたわ…」

( ´∀`)「それには同意せざるを得ないモナ…」

447('A`)[文戟中] ◆0x1QfovbEQ:2018/09/18(火) 00:39:44 ID:GYAv4c9w0

途方に暮れた一行の前に滑り出た救いの光は、やや怪しげな形をとっていた。



【超銀河的宇宙飯店】



その奇っ怪な文字列は、しかし、彼らにも読めたという一点において、強力無比であった。


(-@∀@)「おい……」

( ・∀・)「ああ…」

('A`) 「おお…!」

( ^ω^)「おっおっおっ!!」

にわかに色めき立つ一行。
互いに顔を見合わせ、うなずき合うと、彼らは店内へ駆け込んでいく。

448('A`)[文戟中] ◆0x1QfovbEQ:2018/09/18(火) 00:40:58 ID:GYAv4c9w0

若干の胡散臭さは認めるものの、この辺境で銀河標準語の表記にめぐりあい、
あろう事か、それが飯屋とは渡りに船。
一体、誰が彼らを責められようか。

気がつくと一行は席につき、食い入るようにメニューにのめり込んでいた。

だが、懸念は即座に現実のものとして化体する。


('A`) 「おい、これ……」

( ´∀`) ?! ?????

( ・∀・) 「……ッ!」

ばかな、飯店などと謳ってるくせに、
中華料理らしきものがメニューに見当たらないではないか。
モララーは唖然とする。

衝撃が一行の間を駆け抜け、彼らは愕然とし恐怖に震え上がった。


そもそもメニューが読めない。

449('A`)[文戟中] ◆0x1QfovbEQ:2018/09/18(火) 00:42:04 ID:GYAv4c9w0

店先では銀河標準語で宇宙飯店などと騙っておきながら、
店内には一切の標準語表記が存在しない。

それどころか標準語を解する店員すら見当たらなかった。



( ・∀・) (一体、これは―― )


その時、モララーの頭に閃光が走る。


( ・∀・) ("超"銀河的宇宙飯店……)

その意味は、銀河標準を遥かに凌駕している、ということではなかったか。
ならば飯店はどこへ行った、などという脳内少数派の下手な意見を退けると、
モララーは挙手にて意思表示した。


─(-@∀@)─( ^ω^)―( ´∀`)―('A`)─―


一行の耳目が、すばやく彼らの頭脳兼イケメン担当に集まる。

450('A`)[文戟中] ◆0x1QfovbEQ:2018/09/18(火) 00:42:41 ID:GYAv4c9w0

( ´∀`) 「発言を許可するモナ」

彼らがリーダー、モナーが厳かな声で告げると、
モララーはゆっくりと立ち上がって話し始めた。

曰く、この店は銀河的常識の埒外に存在する孤高の飯屋であり、
我々は、一切の常識と先入観、そして良識を捨て、
スペース・ギャラクシー・オーガ(宇宙銀河鬼)になる必要があると。

銀河仏と出逢えば銀河仏を斬り、宇宙神と出逢えば宇宙神を斬る。

( ・∀・) 「いざ参られい! 魑魅魍魎、神仏、悪鬼、羅刹、修羅!切って捨てるが、我らの花道!」

そう演説を締めくくって、モララーは席についた。

451('A`)[文戟中] ◆0x1QfovbEQ:2018/09/18(火) 00:43:16 ID:GYAv4c9w0

呆気にとられていた一行の中で、はじめに口を開いたのはドクオだった。

('A`) 「バカを抜かすな…気でも触れたか…?」

('A`) 「まず、何を言ってるのか意味がわからん」

屁理屈兼ブサメン担当の彼にしては、珍しくまっとうな反論だったが、
その全ては完全に黙殺された。

地球を遠く離れ、銀河の端の勝手も知らない星で、
心細く身を寄せ合う民草を導くのは、やはり自信に溢れたイケメンでなくてはならないのだ。
これが美少女ならば、なお良かったが残念ながらここには野郎しかいない。

( ´∀`)「新たなリーダーの誕生モナ…!」

(-@∀@)「然り然り! モララーの言にこそ従うべし!」

( ^ω^)「して、モララー殿、我らがまず頼むべきメニューは…」

452('A`)[文戟中] ◆0x1QfovbEQ:2018/09/18(火) 00:44:01 ID:GYAv4c9w0

右手を掲げ民草の熱狂を制すと、モララーは軽く咳払いしてから献策した。

曰く、一番上から順に頼む。


('A`) 「……」

馬鹿かこいつらは、超銀河的帰結とやらか、これは?
神だ仏だのを斬る前に、自分の腹でも切ったらどうだ。

そんな内心を吐露するより早く、ドクオは行動に出た。

手振り身振りで店員らしき男を捕まえると、
あろう事かメニューの一番下の料理をオーダーする。

それは完全な裏切りであった。

453('A`)[文戟中] ◆0x1QfovbEQ:2018/09/18(火) 00:44:40 ID:GYAv4c9w0

許しがたき背信行為に、モララー以外の一同は目を見開いて、烈火のごとく詰め寄ったが、
ドクオは薄笑いを浮かべながら、涼しい顔で出てきた料理に目を落とす。

('A`) 「……?」

皿を眺めてドクオは困惑した。

運ばれてきた大皿の上には、干からびた魚一匹の他には何も乗っていない。

それは干物魚というよりは、乾燥して枯れ果てた、魚のミイラといったほうが適切に思える。

('A`) 「なんだぁ、こりゃ…?」


はじめは気分を害したものの、次第にかすかな匂いを感じてドクオは魚を手で扇いだ。
すると、匂い立ってくるではないか、豊穣な香りが。

454('A`)[文戟中] ◆0x1QfovbEQ:2018/09/18(火) 00:45:42 ID:GYAv4c9w0

空腹感が刺激され、両頬の内側がジュワジュワとうごめく。

ドクオはもう抑えが効かなかった。

無造作に食器を掴むと魚の腹部を切り分けて、口にほおる。



('A`) (これが約束の場所か…)


天上の調がドクオの口から胃にかけて広がり、確かに世界は輝いて見えた。
あまりのことにドクオは脱力し、音を立ててテーブルに突っ伏した。


(-@∀@)「おい、何をやってるんだ…?」

( ^ω^)「きっとあまりの美味しさに泣いてるんだお!」

学生時代同様、机に突っ伏したドクオを、旧友のブーンは起こしにかかる。
上体を戻したドクオの目は、しかし、銀河の果てを漂流する遭難船のキャノピーのように死臭で濁っていた。

455('A`)[文戟中] ◆0x1QfovbEQ:2018/09/18(火) 00:46:19 ID:GYAv4c9w0

(; ^ω^) !?

( ^ω^)「ドクオどうしたんだお?!」

揺すってみて、返事はない。

(; ^ω^)「ドクオ気をしっかり持つんだお!」

(; ^ω^)「こんなところで死んだら量子コンピュータ上のデータはどうなるんだお!」

(; ^ω^)「ヨタバイト規模のエロ動画処分なんてやってられんお!」

(-@∀@)「大げさな…」

(-@∀@)「味に驚いて机に頭をぶつけ、めまいを起こしただけだろ…」

(-@∀@)「捨て置け、捨て置け! 我らが頭目に逆らった者の末路よ!」

(; ^ω^)「薄情だお!」

456('A`)[文戟中] ◆0x1QfovbEQ:2018/09/18(火) 00:47:22 ID:GYAv4c9w0

('A`) 「ぶ、ぶーん…」

( ´∀`) 「気がついたモナ!」

(-@∀@)「それ見たか…」

('A`) 「ああ…なんかちょと…妙な感じだが…大丈夫だ…」

('A`) 「料理があまりに…強烈でな…気をつけたほうがいいぞ…」


('A゚) 「ウッ……」

( ^ω^) 「ドクオ!」

(;-@∀@)「……」

どうやらドクオは大事には至らなかったようだが、
得体の知れないグルメ体験に一同はすっかり恐れをなしていた。

考えてみればそうだ、メニューが読めない上に、不慣れな辺境の土地。
どんな料理が出てくるか想像もつかない。

457('A`)[文戟中] ◆0x1QfovbEQ:2018/09/18(火) 00:49:24 ID:GYAv4c9w0

迂闊だった。

一行は全く未知の領域に迷い込んでしまっていた。

最早、何が彼らの胃でも消化できて、何が胃もたれや、食あたりをもたらしてくるのか見当もつかない。

場は急速に食のロシアンルーレット会場と化した。

( ・∀・) 「いいか、我々は曲がりなりにも銀河ガイドブック製作のための調査員という使命を帯びている」

( ・∀・) 「ここで何も注文せず逃げるというのは…」

最早、誰も聞いちゃあいない。
食うか喰われるかの局面で他人なんかを頼む奴が、この職業につくわけがないのだ。

統制の崩れたモララー王朝は急速な民主化と個人主義へと向かい、
今や全員が思い思いに料理を頼もうとして、メニューと格闘し、横目でドクオの容態をうかがう。


(-@∀@)( ^ω^)( ・∀・)( ´∀`)    ('A゚)ウボァ


気がつくとドクオの症状は更に悪化していた。

458('A`)[文戟中] ◆0x1QfovbEQ:2018/09/18(火) 00:50:31 ID:GYAv4c9w0

('A゚) 「ヒイッ…フウッ……ハッ…ヒッ…」


( ・∀・) (………)

こいつ、エイリアンでも出産するつもりか?
一行はそんな事を考えながらメニューを取り落とし、あるいは投げ捨て、
丸めてそこから覗いたりして、直ちにドクオの経過観察に移行する。

元からこんなもんだろコイツの顔色は、などと冷血漢が声を上げ、
にわかに場は騒然とし始める。

恐る恐るブーンとモララーがドクオに近づく。

( ・∀( ^ω^)つ('A゚) 


(; ^ω^)「脈が無いお!」

(; ・∀・)「こ、こいつ死んでる!」

(;-@∀@)「えぇ!?」

459('A`)[文戟中] ◆0x1QfovbEQ:2018/09/18(火) 00:51:15 ID:GYAv4c9w0

((('A゚)))


( ´∀`) 「いや、待つモナ! なんか動いてるモナ!」

(;-@∀@) 「ばかな、なんて恥知らずなやつだ! 脈が無いなら死んでるべきだろ!」


( ´∀`) 「これは、ゾンビだモナ!」

(; ・∀・) 「なんてこったい!」

超銀河的ゾンビ生物を食べたことで、脳をゾンビ的なウイルスだかバクテリアに喰われて、
ドクオはゾンビになった。

それが一行の出した結論だった。

460('A`)[文戟中] ◆0x1QfovbEQ:2018/09/18(火) 00:52:19 ID:GYAv4c9w0

( ;ω;)「おーん、おーん、ドクオ! ドクオ!」

( ;ω;)「もう一緒にギャルゲすることも出来ないのかお…」


('A`)「……う…う…う…う…う…ん…ん…ん…ん…ん…ん…」


( ^ω^)「えっ…」

( ^ω^)「喋ったお…いや、これ喋ってるおね?」

(-@∀@)「待て待て、ただゾンビが唸ってるだけだろ」


アサピーは冷たくあしらおうとしたが、
しかし――。

461('A`)[文戟中] ◆0x1QfovbEQ:2018/09/18(火) 00:53:06 ID:GYAv4c9w0

('A`)「み…い…い…い…ん…ん…ん…ん…な…あ…あ…あ…あ…あ…」


( ・∀・)「……」

( ´∀`)「なんか、すごいノロいけど喋ってるモナ」

一同は困惑した。

死体が動いてるだけなら、まあ、それでもかなりのところ破廉恥であるわけだが、
死体は死体だ。

コミュニケーション可能性が存在する死体。

これは大分まずいのではないか。
急速に崩壊していく死体の定義と彼らの常識。


ある日、動物の言葉を完璧に翻訳する機械が開発されました。
戯れに家畜に使ってみまして、人類は己の罪深さを知る。
食肉用の畜産が法的に禁止され、合成タンパク質と野菜へ全人類が移行したところで、
今度は植物の言葉を解する機械が発明された。

これは、そういう種類の衝撃だった。

462('A`)[文戟中] ◆0x1QfovbEQ:2018/09/18(火) 00:54:09 ID:GYAv4c9w0

('A`)「ぶうううううううううううんんんんんんんんんんん」

('A`)「おたああああああすううううううけええええええええええ」


(-@∀@)( ^ω^)( ´∀`)( ・∀・)「………」


助けを求める元友人を見捨てるわけにもいかず、
かと言ってどうすればいいのか。

そうだ、こんなふざけた料理を出した店が悪い。

一行は困惑を怒りに変え、料理長とオーナーを出せと店員に詰め寄った。

話の通じない暖簾店員に対する腕押しに業を煮やした彼らは、
店内に居た標準語と超銀河語を解する異星の客を締め上げ、通訳とした。

463('A`)[文戟中] ◆0x1QfovbEQ:2018/09/18(火) 00:55:20 ID:GYAv4c9w0

  ( ^^ω)ホマホマ
  ...ノノノノノノ

やたらと語尾にホマをつける異星人を便宜上「ホマ星人」とし、

( ´∀`) 異星人モナモナ

( ^ω^) おっおっお! なんかちょっとキモイお!


( ・∀・) ……

ひょっとしてコイツらは、モナ星人とおっおっお星人なのでは、という新たな猜疑をとりあえず脇に置く。


( ^^ω)「ドクオ君が食べた魚料理…」

( ・∀・)(あれ魚だったんだ…)

( ^^ω)「それは"夢見る七色銀河魚"と呼ばれてるホマ」

464名無しさん:2018/09/18(火) 00:55:46 ID:wuDW0KHE0
な、なんだこれ!
支援

465('A`)[文戟中] ◆0x1QfovbEQ:2018/09/18(火) 00:56:40 ID:GYAv4c9w0

(-@∀@)「夢見る…」

( ^ω^)「七色…」

( ・∀・)「銀河…」


( ´∀`)「モナモナ……」


(-@∀@)( ^ω^)( ・∀・)  (; ´∀`)

連携を乱したモナ星人が一行に睨まれるのを横目に、ホマ星人は話を続ける。

( ^^ω)「ホマ達はそれを食べることで、魚たちの記憶や夢、思考を追体験できるホマ」

( ^^ω)「究極の珍味ホマ」


( ^ω^)????

( ・∀・)「うーん…」

( ´∀`)モナモナ?

(-@∀@)「何を言ってるんだコイツは…?」

466('A`)[文戟中] ◆0x1QfovbEQ:2018/09/18(火) 00:58:03 ID:GYAv4c9w0

その概念というか習慣に馴染みのない一行には、それが何だかよく分からない。
何だかよく分からないなりに、要するに天然のドラッグみたいなものか、と結論づけてみる。

となると、この店は飯店の名を騙ったアヘン窟のようなものではないか。
銀河宇宙警察は何をやっているのだ。肥大化した官僚組織の鈍重さを一同は非難する。


( ^^ω)「夢見る七色銀河魚は、大銀河潮流という流れに乗って銀河を旅する回遊魚ホマ」

( ^^ω)「大銀河潮流は星々の引力や恒星風などを合わせた、七色銀河魚達の星間航路のようなものホマ」

( ^^ω)「そこに行って、別の記憶や思考を持った七色銀河魚を食べて、効果を打ち消すホマ!」

( ^^ω)「対消滅ホマ!」


( ・∀・) 「……」

こいつ、適当なこと言って僕らを担いでやしないか。
モララーは、そんな疑いの眼差しを、ちらりと異星人に向けたが他にどうしようもなかった。

467('A`)[文戟中] ◆0x1QfovbEQ:2018/09/18(火) 01:00:15 ID:GYAv4c9w0

そして、彼らは銀河の大海原へと繰り出した。

一路、ドクオを元に戻せる七色銀河魚を手に入れるために。




( ^ω^) 「モララー! 引いてるお!」


( ・∀・) 「うおっ…!」

(-@∀@) 「小細工はいらん、力押しでいくぞ!」

釣りの何たるかを解さない一行は一挙に竿を持ち上げ、リールを最大回転させる。
しかし、それでも手応えは堅い。

( ^ω^) 「フィーッシュ!!」

( ´∀`) 「うおおおおおモナ!モナ!」

何だかよく分からないが、確かに何かが釣り上げられた。
水揚げされたそれは船内でピチピチと跳ね回る。

(-@∀@)「こいつか? コイツなのか!?」

468('A`)[文戟中] ◆0x1QfovbEQ:2018/09/18(火) 01:01:34 ID:GYAv4c9w0

( ^^ω) 「………」

( ・∀・) 「……」

( ^^ω) 「ホマ! これぞ正に七色銀河魚ホマ!」

そこには、白銀色の鱗をした肥満の秋刀魚とでもいったような体型の魚があった。


(-@∀@) 「…全然、七色に光ってないようだが?」

( ^^ω) 「七色なのは見た目じゃなくて味の方ホマ!」

( ^^ω) 「早速この出店型超銀河宇宙船で調理するホマ!」

ホマを通じた説得で、どうにか連れてきた店の料理人が七色銀河魚を調理していく。


( ^ω^) 「おっおっお、"七色銀河魚のホイル焼き"ができたお!」

( ^ω^) 「たんと召し上がれだお! ドクオ!」


しかし――。

469('A`)[文戟中] ◆0x1QfovbEQ:2018/09/18(火) 01:02:59 ID:GYAv4c9w0

('A`) 「そもそも初期の超光速航行の不可能性は、光速が物理的な速度の限界であることに起因し
た。その上限に近づくにつれ質量が無限に増大し、そのような巨大質量を加速させることはほぼ不可能になる。
すなわち同時にウラシマ効果に代表される、亜光速で移動する物体の内部時間の遅延という現象が現れ、
けっかとして内部制御が限りなく静止するという問題がある。限りなく静止したコンピュータとリアクターでどうやっ
て加速するのか最早、見当もつかない。亜光速レベルで既に問題は山積されており、
光速を超えるなどという発想は御伽噺にも似た雰囲気をまとっていた」

('A`) 「さらに言えば…」


(;-@∀@)「おい、何か別の壊れ方をしてないか?」

( ・∀・) 「うーん、ゾンビのが静かな分マシだったかもね…」

( ´∀`) 「これは酷いモナ…」

470('A`)[文戟中] ◆0x1QfovbEQ:2018/09/18(火) 01:04:09 ID:GYAv4c9w0

(; ^^ω)「これは狙いの七色銀河魚じゃなかったホマ」

(;-@∀@)「なにぃ…?」

( ´∀`)「謀られたモナ!」

(; ^^ω)「ち、違うホマ…!」

一体どういうことだ。一行は各々手近の鈍器を担ぎ上げ、ホマ星人を取り囲む。


ホマ星人曰く、夢見る七色銀河魚とは星の海を泳ぐ宇宙回遊魚で、
その生涯の経験と記憶、思考と感情を食べることによって追体験できる。
世にも珍しい珍味にして、ホマ星人究極のメニュー。


つまり、彼らホマ星人は七色銀河魚が蓄積した経験情報を、食べることで経口摂取できる。
これは多分、そういうことになる。

そしてホマ星人が言うには、今回の狙いは特別な七色銀河魚。

471('A`)[文戟中] ◆0x1QfovbEQ:2018/09/18(火) 01:05:12 ID:GYAv4c9w0

( ^^ω)「狙うは七色銀河魚界の仙人…」

( ^^ω)「仙人魚ホマ!」


それは全てを掻き消す無へ達した仙人魚。
涅槃の境地。色即是空。

ドクオに取り憑いた銀河魚の思考や感情、そういった一切合切を、まとめて打ち消し初期化する。
それが七色銀河仙人魚ということになる。


(;-@∀@)「本当に成功するんだろうな……」

( ´∀`) 「胡散臭いモナ!」

( ^^ω)「大丈夫ホマ! これが一般的な解除方法ホマ!」

(; ^^ω)「問題は仙人魚が見つかるかどうかホマ!」

472('A`)[文戟中] ◆0x1QfovbEQ:2018/09/18(火) 01:06:00 ID:GYAv4c9w0

そうして、手当たり次第に銀河魚を口に放り込まれたドクオは、奇妙な壊れ方を変遷した。


ある時は大宇宙を股にかけるスペース・カウボーイであり、

('A`) 「武器を捨てろ! 手ぇあげな! この星は俺たち二人が住むには狭すぎるぜ…」


またある時は蒲焼にされる前の鰻で、

('A`) 「西マリアナ海溝出身です」


時には得体の知れない数列を吐き出す、何かの計算過程だったりして

('A`) 「83 9835259570 9825822620 5224894077 2671947826 8482601476 9909026401 3639443745 5305068203」


何かのお話の登場人物なんてこともあった

('A`) 「No. I am your father.」

('A`) 「NOOOOOOOOOOOOO 」


(; ^ω^)「一人二役ッ……!」

473('A`)[文戟中] ◆0x1QfovbEQ:2018/09/18(火) 01:07:27 ID:GYAv4c9w0

(;-@∀@)「ちくしょうめ…その仙人魚とやらは本当にいるんだろうな!?」

(; ^^ω)「おそらくは、いるはずホマ…でも割と貴重な部類でもあるホマ…」

(;-@∀@)「疑わしいじゃねぇか!」

徒労を重ねた冷血漢は悪態をつき始めて、その時。


( ´∀`)「アサピー! あれを見るモナ!」

モナーが指差すその向こうには、たった今、回遊からこの水球小惑星に帰還し、
尾びれを休めようとする七色銀河魚の一団が、群れを成して宇宙を泳いでいた。

その中にひときわ髭の長い仙人じみた人相の魚がいる。

(-@∀@)「奴か…!」

( ^ω^) 「間違いないお!」

( ^ω^) 「この大宇宙銀河銛で狙い撃つお!」

474('A`)[文戟中] ◆0x1QfovbEQ:2018/09/18(火) 01:08:51 ID:GYAv4c9w0

そして、一行は銛の雨あられを降らし遂に仙人魚を仕留めた。
一時、その流れ銛がドクオにあたって彼は死にかけた。

だが、それだけの犠牲を払ったというのに、究極の仙人魚でもドクオは戻らなかった。

それどころか、うつろな目をして、終始ブツブツと何やら唱えてる始末だ。


('A`) 「この世の一切は無、無である…そこから脱する…これが解脱…」


あまり、よろしくない。

ドクオの脳の中を、髭を蓄えた奇怪な魚が、身をくねらせながら泳いで行く。
一行はそんな妄想を幻視した。

とても、よろしくない。

475('A`)[文戟中] ◆0x1QfovbEQ:2018/09/18(火) 01:10:06 ID:GYAv4c9w0

(;-@∀@) 「仙人魚でもダメじゃねえか!怪しげな尊師が爆誕しただけだぞ!」


( ^^ω) 「どうやらホマ達と君たちとでは勝手が違うホマ…」

( ^^ω) 「困ったホマ…」

(;-@∀@) 「てめぇ…!」


( ^^ω) 「そもそも七色銀河魚は、ホマ達一族に代々伝わる伝承に登場する幻の魚ホマ」

( ^^ω) 「それが正確にどういうもので、いつからホマたちと付き合いがあったのかは、もう失われてしまったホマ」

(-@∀@)「無責任な野郎だ!」

(; ^^ω)「そんな、ホマはたまたま店に居合わせただけホマ!」

(-@∀@)「おっ…そういえば、そうだったか…」

(; ^^ω)「……」

476('A`)[文戟中] ◆0x1QfovbEQ:2018/09/18(火) 01:11:53 ID:GYAv4c9w0

( ´∀`) 「みんな聞いてくれモナ!」

( ´∀`) 「モナにちょっとした閃きが落ちてきたモナ!」

( ´∀`) 「これ…ドクオに似た魚を見つけるのはどうモナ?」


仙人魚を食べて尊師になり、干からびた干物魚を食べてゾンビになるのなら、
ドクオをもとに戻すために必要なのは。

ひょっとして、それは七色銀河魚界のドクオではないか?

( ´∀`) 「毒魚(ドクウオ)と毒男(ドクオ)」

( ´∀`) 「ほら、なんか名前も似てるモナ」


(-@∀@)

( ・∀・)

( ^ω^)

その超銀河的推論とも、モナーの間抜けな思いつきともつかない謎理論に、
全ドクオの命運は委ねられた。

477('A`)[文戟中] ◆0x1QfovbEQ:2018/09/18(火) 01:12:53 ID:GYAv4c9w0

しかし、七色銀河魚界のドクオっていうのは、一体どこにいるだろうか。
毒男ではない一行には見当もつかない。


(-@∀@)「ほら、あれだろ、やっぱり家に引きこもってるんだろ…?」

( ^ω^)「安直だお! そんな旧世代のカビが生えた毒男像なんて捨ててしまえお!」

(;-@∀@)「じゃあ新世代の毒男ってどんなだよ…」

( ^^ω)「それはホマに分からんホマ」


(-@∀@)「ブーンはどうなんだ、ドクオとは友達なんだろ?」

(; ^ω^)「……」

(; ^ω^)「一緒にゲームして遊ぶ以外は、よく分からんお…」

(; ^ω^)「と、とにかく、もっと水面付近まで近づいてみるお!」

478('A`)[文戟中] ◆0x1QfovbEQ:2018/09/18(火) 01:14:34 ID:GYAv4c9w0

一行は宇宙船に乗り込み、浮遊大陸にも似た陸地を後にする。

滑るように降下していく船体。
水面が近づにつれ、水球小惑星の大きさが明らかになる。
直径にして数十キロメートルはあるだろうか。

その凪いだ表面に船は静かに降りた。

(-@∀@)「思ってた以上に広いなあ…」

( ・∀・) 「この広さと深さを、あてもなく探すのは…」

(; ^ω^) 「そもそも銀河回遊魚なんだお、今ここにいるかどうかも怪しいお…」


だが、目指すべきものは、ただ、そこに居た。

                    。
      ヾjツ'   ヾjツ'          _
    ヾjソ'   ヾjソ'    ゚  rヘ__}ン´く
     ヾjツ'   ヾjツ'      /´   ,トー-`
     ヾjソ'  ヾjソ'      ('A`) ノフ
    ヾiツ' ヾjツ'      `7ヘ>

479('A`)[文戟中] ◆0x1QfovbEQ:2018/09/18(火) 01:15:45 ID:GYAv4c9w0

( ^ω^)「いやぁ…どこからどう見ても完全に毒魚です本当に(ry」

(-@∀@)「バカバカしいくらいにな…」

( ´∀`) 「モナモナ! さっそく捕まえるモナ!」


(-@∀@)「というか…やっぱりこの水球小惑星に引きこもってたな!」

(-@∀@)「見ろ見ろ! 奥に逃げていくばかりで宇宙に出ていく気配がない!」

( ^ω^) 「おっおっお…岩陰に籠もってしまったお…」

( ・∀・) 「どうにかして誘い出すしかないね…」


( ^ω^) 「モララー殿、モナー殿、某に策がありまする…」

480('A`)[文戟中] ◆0x1QfovbEQ:2018/09/18(火) 01:17:21 ID:GYAv4c9w0

( ´∀`) 「苦しゅうない、申してみよ」

( ^ω^) 「実はドクオが大事にしてるフィギュアが宇宙船にあるんだお」

( ^ω^) 「ちょとエッチな美少女フィギュアだお!」

( ^ω^) 「コイツを餌に一本釣りだお!」

( ・∀・) 「でもさ、そういうのは魚のフィギュアじゃないと毒魚は食いつかないんじゃないの?」

(; ^ω^) 「おっおっお…」

(-@∀@) 「どうせ他に当てもないんだ、試してみればいいじゃないか」


果たして、毒魚は軽々と一本釣りされることになる。
一体何故魚がそのような性的趣向を持つに至ったのか、一行には皆目見当もつかない。


( ^ω^) (銀河統一の美の基準でもあるのかお?)

それとも銀河を巡ってその手の趣味に目覚めたのか。
世界とはなんと罪深くて、素晴らしい。

などとブーンは考えもしたが、今はそれどころではなかった。

481('A`)[文戟中] ◆0x1QfovbEQ:2018/09/18(火) 01:18:40 ID:GYAv4c9w0

(-@∀@)「食えドクオ! 食うんだ!」

出店の料理人に調理をお願いし、一行は煮魚と化した七色銀河毒魚をドクオの口に流し込んで、
無理やり顎を動かし咀嚼させる。


('A`) 「おえええええええええ!!」


(-@∀@) 「うわあ…汚えぇ!」

( ´∀`) 「ああ…せっかくの毒魚がモナ…」

( ・∀・) 「どうだ……?」


('A`) 「全く何しやがる…」

('A`) 「馬鹿面並べてどうした…そんなに心配だったか?」

('A`) 「なかなか手荒だったがなんとか…助かったぜ…」

482('A`)[文戟中] ◆0x1QfovbEQ:2018/09/18(火) 01:19:28 ID:GYAv4c9w0

(-@∀@)( ・∀・)( ´∀`)( ^ω^)

「うーん…? こんな感じだったモナ?」

「なんか違和感があるような…」

「悪くはなってないか…」

「ブーンお前の意見は?」

「うーん、まだ判断しかねるお…」


('A`) 「お前ら何をコソコソ…」


( ^^ω) 「よかったホマ! 無事にもとに戻ったホマ!」

('A`) 「ああ、訳の分からん思考や知識や感情の流入で溺れそうになったぜ…」

('A`) 「ずっと自分の殻に閉じこもってぼんやりと世界を見てたさ…」

483('A`)[文戟中] ◆0x1QfovbEQ:2018/09/18(火) 01:20:29 ID:GYAv4c9w0

('A`) 「しかし、お前が店のオーナーだったとはなぁ…!」


(; ^^ω)「ばかな、どうしてホマ!?」

('A`) 「へっ……」

('A`) 「舐めるなよ、お前らがたらふく食わせた腐れ魚の中にはなぁ、
    腐れ魚界の言語学者だって居たに違いないんだ」

渋々ついてきた料理人とホマとの会話は、何もかもドクオには筒抜けだった。

店のオーナーでありながら客に扮して店の雰囲気を楽しんでたこと、
ドクオの異変に気づいてもしばらく手を打たなかったこと、
締め上げられてようやくやる気になったこと、

ドクオには全てがお見通しだった。

('A`) 「てめぇらの与太話は手に取るように分からぁ!」

484('A`)[文戟中] ◆0x1QfovbEQ:2018/09/18(火) 01:21:41 ID:GYAv4c9w0

言語学者や江戸っ子の七色銀河魚なんてものが何故、存在するのかは定かではない。
しかし、現実は論理を圧倒する。

今や超銀河的 宇宙江戸っ子 言語学者と化したドクオは、啖呵の勢いそのままに、
オーナーに詰め寄る。てやんでえ、べらぼうめ。


(; ^^ω)「料理の代金と経費はこっちで持つホマ」

(; ^^ω)「今回釣った七色銀河魚の余りも相場の二倍で引き取るホマ…」


('A`) 「あたぼうよ、こんだけの目に合わされて手銭を切ったとなりゃあ間尺に合わねえ、末代までの恥さらしよ」

('A`) 「そうなってみろ、この渡世しのいじゃいけねぇ、舐められたらしめぇよ!」


何やら江戸っ子から任侠者へとスライドし始めたドクオを尻目に、
その他の面々は達成感で、お腹を膨らませていた。

485('A`)[文戟中] ◆0x1QfovbEQ:2018/09/18(火) 01:22:43 ID:GYAv4c9w0

( ^ω^)「一時はどうなることかと思ったお」

( ^ω^)「カーチャンになんて説明したらいいか考えるだけで辛かったお…」

( ´∀`)「お宅の息子さんはゾンビになって悟りを開いたモナ」

(-@∀@)「笑い話としても出来が悪いな」

( ´∀`) 「それにしても半日は時間をロスしたモナ」

( ^ω^)「この星系のマッピングは巻でいかないとだお!」

(-@∀@)「やれやれ…」


( ・∀・)「向こうは、まだやってるね」

486('A`)[文戟中] ◆0x1QfovbEQ:2018/09/18(火) 01:24:01 ID:GYAv4c9w0

('A`) 「大体その毒魚? とやらのせいで俺に毒男的な経験情報と属性が戻ってきたところで…」

('A`) 「それがオリジナルの俺と同一だという保証がどこにあるんだ?」

(; ^^ω)「それは…ホマ一族的には…銀河魚は一過性の情報で人格を書き換えたりはしないホマ…」

(; ^^ω)「でもその、人間も同じかどうかは…だから…ホマ…」

('A`) 「話にならんな、つまり保証はないわけだ?」

そう言って、ドクオは肩で風を切る。
釣り針に括り付けられた、お気に入りのフィギュアを不審げに眺め、それを拾い上げて船に戻る。

宇宙船の脇に積み上げられた調理済の七色銀河魚から出た廃棄物にドクオは目を留めた。
鱗や頭、骨や皮。内臓の一部。


('A`) (そもそも、こいつらは一体何なのか…)

('A`) (ホマ星人と古くから関わりがある、経験情報の追体験ドラッグ…)

487('A`)[文戟中] ◆0x1QfovbEQ:2018/09/18(火) 01:25:49 ID:GYAv4c9w0

それは見方を変えれば、まるで俺達みたいだと、ドクオは自らの仕事に思いを馳せる。

ドクオに芽生える奇妙な思考。
それが七色銀河魚達の影響によるものかは、判別し難い。

そもそも「オリジナルの思考」なんてものがあり得るのか、という問いと同じように。
思考と情報は食い喰われ、常に書き換えられながら流転していくものだ。


七色銀河魚は多分、そのような経験型の領域探索システムだったのではないか。
宇宙を回遊し銀河を巡って、その領域を見極める。見て聞いて考えて。
そして食べられて、その成果はホマ星人に回収される。

かつてホマ星人が作り上げた、自己増殖型生体探査システム。その遥かな末裔たち。


それは人類がまた、そのような探索者である可能性を否定しない。

488('A`)[文戟中] ◆0x1QfovbEQ:2018/09/18(火) 01:27:41 ID:GYAv4c9w0

人類に備わる抑えがたい知的好奇心。
突如として現れた超光速航法を含む一揃いの新たな物理体系。
都合の良い宇宙科学的ブレイクスルーと、たちまち発見された航路、そして銀河へ広がる人類。
かつてから、そこに存在するかのように存在する異星人。

それらは、この次元を探索するためのプログラムと、その派生物なのではないか。

人類開闢以来の成果物たち、科学、文化、思想、哲学、芸術、宗教、数学。
これらの未踏領域の探査による経験と思考の結晶。
文明というレポートを提出し続ける経験的思考マシンとしての人間と人類。

我々が築く都市や文明が誰かにとって何かの意味をとる。
この世界を知る上での大規模なメタデータのようなもの。

我々が数学を発見だか発明し、それによってこの世界を理解しているように、
どこかの誰かが、我々を発見だか発明し利用することで、この次元を理解しようとしている。

神がいるとして、そいつはそのような者なのではないか。
そんな思考の欠片を、ドクオはつなぎ合わせ始めている。

489('A`)[文戟中] ◆0x1QfovbEQ:2018/09/18(火) 01:29:51 ID:GYAv4c9w0

この広大な銀河を、数え切れないほど内包する宇宙全体。
それより遥かに巨大な、何かの階層領域の存在。
そう考えてみると、自分たちは七色銀河魚ほどの存在ですら無いのかも知れない。


湿った風が頬をなで、巨大な水球の表面から宇宙船が浮上する。


('A`) (………)

もしこの宇宙がそういう宇宙だとして、なら俺がやることは決まってる。
俺たちはガイドブック業者だぜ。この世の知られざる未知を既知にするために駆動する。
それが造られたプログラムだとしても。

これこそが俺のオリジナルな何かだったのかも知れない。
そう考えて、ドクオは全天の宇宙へ向けて、一つ笑って見せる。

490('A`)[文戟中] ◆0x1QfovbEQ:2018/09/18(火) 01:30:32 ID:GYAv4c9w0

( ^ω^)「それでドクオ、ゾンビ体験はどうだったのかお?」

('A`) 「マジな話、衝撃だったわ」

(-@∀@)「ほほう…まあゾンビなんて、なかなか成れるもんじゃないからな」


('A`) 「こんな食い物がこの銀河に存在するとは」

('A`) 「すべてが輝いて見えたわ」

(;-@∀@)「……」

( ^ω^)「ゾンビ魚は食べ物だった…?」


('A`) 「特にブーン、お前の腹の贅肉は一際、輝いてたぜ?」

(; ^ω^)「おっおっお…ゾンビってやっぱ、そうなのかお…」

('A`)  「ダイエットしたほうがいいぞ」

( ・∀・) 「しかし、宇宙は広いね、こんな経験をすることになるとは…」

(; ^^ω)「全くホマ…」




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