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SSスレ「マーサー王物語-サユとベリーズと拳士たち」

1 ◆V9ncA8v9YI:2015/05/02(土) 12:22:52
ずっと前にマーサー王や仮面ライダーイクタを書いてた者です。
マーサー王物語の数年後の世界が書きたくなったのでスレを立てました。

2007年ごろに書いた前作もリンク先に掲載しますが、
前作を知らなくても問題ないように書くつもりです。

SSログ置き場
http://jp.bloguru.com/masaoikuta/238553/top

388 ◆V9ncA8v9YI:2015/08/11(火) 16:34:18
はい、アーリーのグルグルはBerryz×Juiceのナルチカネタです。
バレバレですねw

389 ◆V9ncA8v9YI:2015/08/12(水) 19:59:15
フクとサヤシは絶体絶命だった。
敵対するアーリーとハルはどちらも格下だというのに、相手のペースに完全に飲まれてしまっている。
こうも容易くリードを許す時点で、修行が足りていないのかもしれない。

「サヤシさん、さぁ、刀を床に捨てて。」
「……」

顔が火照って、頭がボーッとするサヤシは言われるがままに居合刀を置いてしまった。
刀は剣士の命だというのも忘れるくらいなのだから、よほど正常な判断が出来ていないのだろう。
それを見たハルはニヤリとした。
ここでサヤシの刀を奪い取ることを彼女は躊躇しない。罪悪感も感じない。
目の前のチャンスをただ見逃す方が戦士として二流以下だと考えているからだ。

(まともにやり合ったらサヤシさんには太刀打ちできない。それは認めるよ。
 でも使えるものを全部使えばハルだって勝てるんだ……この勝負、もらった!)

ハルはサヤシに覆いかぶさったまま刀を掴み、相手の脇腹へと突き刺そうとした。
手入れの行き届いている名刀なので、ほんの少し力を入れるだけでバターのように肉を切ってくれることだろう。
そうすればサヤシは戦闘不能、ハルの勝利……となるはずだった。
突然の乱入者が現れるまでは。

「させん!」

その者はこちらに走ってきては、刀を掴みかけたハルの手を思いっきり踏んづけた。
骨に異常をきたしたハルは激痛のあまり絶叫し、刀を奪うどころじゃなくなってしまう。
そして乱入者はそのまま走りを止めず、フクを拘束するアーリーの元へと急ぐ。

「え?え?……なんですか?」

アーリーが戸惑うのも構わず、その者はフクを縛る腕をギュウッと掴みだす。
そして信じられないことに、果実の国No.1の怪力の持ち主であるアーリーの腕をフクから剥がしていったのだ。
自分より力強い人間を見たことがないので、アーリーの混乱は益々促進する。

「やめたってください!誰!!誰なんですか貴方は!!」

アーリーは知らないようだが、ハルにはその正体が分かっていた。
そしてもちろん、フクとサヤシも彼女をよく知っている。
フクよりパワーのある帝国剣士はその人しか存在しないのだ。

「誰って?通りすがりの魔法剣士っちゃん。」
「「エリポン!!」」

390名無し募集中。。。:2015/08/13(木) 08:40:24
エリポン颯爽に登場!こりゃサヤシのエリポンガーと奥様の惚気必須だなw

元ネタわかるのが嬉しい 前作読んだときはまだ詳しくなかったから過去動画見まくった思い出…w

391名無し募集中。。。:2015/08/13(木) 12:40:02
心憎いコラボw

392名無し募集中。。。:2015/08/13(木) 14:32:04
イクサじゃなくてディケイドだなw

チャラーって例の音楽が流れたw

393 ◆V9ncA8v9YI:2015/08/13(木) 18:03:16
エリポン・ノーリーダーの登場に、フクは感謝の気持ちを抱かずにはいられなかった。
アーリーに抱きしめられていたままならサヤシを救うことが出来ず、ひどく後悔していたかもしれないからだ。

「エリポン……来てくれてありがとう!」
「エリはフクの右腕やけんね。いつどんな時でも助けに来るよ。」

そう言うと、エリポンはサヤシの方に視線を向ける。
己を恥じてうつむいてしまっている同期に、にやけながら声をかけるのだ。

「ちょっとサヤシー?結構ピンチやなかったー?」
「う、うるさい!」
「ガッカリさせんでよ。そんなもんだった?サヤシの実力は。」
「分かっちょる……もう、相手に飲まれたりしない。」

この状況にハルは危機感を覚えていた。
単純に敵の数が増えたというのもピンチなのだが、
それ以上にハルのハニートラップもアーリーの拘束も通用しなくなったことがまずいのだ。
特に、サヤシが完全に正気に戻ったのが痛すぎる。
おそらくはエリポンが居る限りは決して崩れたりはしないだろう。

(くそっ!アユミンのやつ、足止めに失敗したのか……
 エリポンさんも結構負傷しているみたいだけど、2対3でどうにかなるのか!?)

1人現れることでこうも形成が変わるなんて思ってもなかったので、ハルは冷や汗をかいてしまう。
そして不安に思っているのはアーリーも同じだった。
どうしていいのか分からずに、棒立ちのままハルの方をチラチラと見ている。
そのような焦りを感じ取ったのか、たたみ込むようにフクが鬨の声をあげだす。

「よし!3人で協力して2人を倒そう!みんなで力を合わせれば必ず勝てるよ!」

フクの言うことが正しいことは誰が聞いても明らかだった。
敵であるハルとアーリーでさえ不安に押しつぶされそうになっている程だ。
3人のチームワークを見せつければあっという間に制圧できることだろう。
だが、サヤシはフクの指示に反対だった。

「違うじゃろ。フクちゃん。」
「えっ!?」
「ここはウチとエリポンが抑える。だからフクはハルナンを今すぐ追いかけて!」
「!!」

サヤシの言葉にはエリポンも同感だ。
口には出していないが、その自信気な表情が物語っている。
カノンがフクの盾ならば、エリポンとサヤシは二本の刀。
その刀が主を先に行かせてくれると言うのだから、フクは信じるほかない。

「分かった!……任せるよ、二人とも。」
「「おう!」」

394 ◆V9ncA8v9YI:2015/08/13(木) 18:04:52
はい、コラボレーションは意識して書いてますw

395 ◆V9ncA8v9YI:2015/08/15(土) 22:29:50
ハルとアーリーはフクをみすみす通すことしか出来なかった。
追いかけようとしても、エリポンとサヤシがプレッシャーをかけるので簡単に阻止されてしまうだろう。
だが、ハルはある意味ではこれをよしとしていた。
自分たちの目的は「フクを倒すこと」や「ハルナンを守ること」ではなく、「フクの票を減らすこと」だ。
ならばフクを深追いせずとも、目の前の2人を確実に仕留めることが出来れば十分。
もっとも、それが難しいのだが……

(ハルさん!ハルさん!)
(どうした?アーリーちゃん。)

アーリーがハルに対してアイコンタクトを送り出した。
女性に対する気配りバッチリなハルは、それを100%解読することが出来る。

(このエリポンって人には私の力が通用しません!
 だから戦う相手を交換しませんか?サヤシさんならまだ抑える自信があります。)
(ダメだ!それはダメだ!)
(えっ、どうしてですか?)
(エリポンさんにはハルのイケメンパワーが全く効かないんだ……
 何故なら自分が一番カッコいいと思ってるからね。)
(そんな……!)

強靭な肉体を持ち、且つ自意識過剰気味なエリポンは2人の天敵とも言える存在だった。
また、エリポンの登場によって気を張り詰めたサヤシだって簡単な相手ではない。
2対2である限りは不利なのである。
では、どうするべきかというと。

(エリポンさんは怪我をしている!アユミンが残した成果だ。
 そこを一気に突こう!)
(二人掛かりってことですね!)

ハルとアーリーは同じタイミングでエリポンに飛びかかった。
手負いのエリポンを奇襲でさっさと片付けて、その次にサヤシを倒そうという策なのである。
だがハルは焦りのためか大事なことを忘れていた。
本気を出したサヤシはモーニング帝国剣士の中で「最速」であることを。

「これ以上好きにさせるかっ!!」

サヤシは不意打ちにも戸惑うことなく、ハルにの左脚にスライディングによる蹴りをぶつけた。
線の細いハルが突然の横槍に耐えられるはずもなく、その場で転倒してしまう。

「しまった!」

二人掛かりでエリポンに仕掛けるはずが、アーリー単騎で突っ込む形になってしまった。
すぐにでも続きたいハルだったが、それは無理な話だ。
激昂したサヤシが今すぐにでも刀を振り下ろそうしているのだから。

「安心せい、命までは奪わん!!」
「ひっ!!」

396 ◆V9ncA8v9YI:2015/08/16(日) 13:25:43
サヤシの思想は変わりつつあった。
はじめは「自分たちに危害を与える者は殺してでも止める」というスタンスであったが、
今では「命まで奪う必要はない」と考えるようになった。
実際に食卓の騎士クマイチャンと対峙することで、死の恐怖を存分に味わったからこその変化だろう。
しかしいくら考えが変わったとしても、刀を振るう感覚まではそう簡単に変わらない。
ゆえに、元来の殺人剣をいかに弱めるかという点においてサヤシは苦労していた。

(これくらいか?えいっ!)

居合刀は一瞬にしてハルの胸を傷つける。
研ぎ澄まされた名刀による一撃なので、当然ハルは激痛を感じる。声も出ない。
だが上記の理由もあってか、斬撃がやや鈍っていたのがハルにとって不幸中の幸いだった。

(めっちゃ痛い!涙が出そうだ……でも生きてる!
 ハルの竹刀捌きでサヤシさんの刀を打ち落としてやれば勝てるんだ!)

ハルは寝っ転がった姿勢のまま上半身を起こし、
サヤシの小手に竹刀「タケゴロシ」を思いっきりぶつけようとした。
居合術こそ怖いが、刀さえ無ければ戦力を大幅に落とせるとの判断だ。
ところが、ハルが打った先には既にサヤシは居なかった。

「え!どこに……」
「後ろじゃ!!」

ハルが起き上がろうとする一瞬の隙に、サヤシは背後に回りこんでいた。
ダンスで鍛えた足捌きを活用すればこれくらいは容易い。
ましてや相手がハルのような若輩者であれば、威圧されてパフォーマンスを妨害されることもほとんど無い。
相手はクマイチャンではないのだ。
あれほどのプレッシャーを経験した今、サヤシはちょっとやそっとでビビったりはしない。

(刀は加減が難しいけぇ……じゃけん蹴りならどうじゃ!!)

サヤシはボールをキックするように、ハルの頭を思いっきり蹴飛ばした。
エリポンのようにスポーツが得意だったり、カノンのようにローキックに長けていたりする訳ではないが、
後頭部への強打が効くのは当たり前。
ハルは目が飛び出るような痛みを感じ、更に耐え難い吐き気まで催してしまう。

「ぐうっ……ハァ…ハァ……くそっ!苦しい……」

397 ◆V9ncA8v9YI:2015/08/17(月) 02:39:24
二人掛かりで飛び込んだはずが、気づけば自分一人だったためアーリーは焦りだす。
しかも標的であるエリポンはひどく好戦的な目をしている。
今更謝ったとしても逃してはくれないのだろう。
もっとも、逃げる気などさらさら無いのだが。

「どうする?力比べでもする?またエリが勝つっちゃけど。」
「それはしません!負けるのは嫌です。」
「ふぅん、じゃあ何をするって?」
「私本来のスタイルで戦わせてもらいます!!」
「ほぉ……」

アーリーが背中から取り出したのは二本で一組のトンファーだった。
右手と左手の両方に持つこの武器を、彼女は「トジファー」と名付けている。
トンファーを構えることによって、ただでさえ大柄のアーリーのリーチが更に伸びたので
エリポンは巨大な籠に囲まれたような感覚に陥ってしまう。

「なるほど動けん。エリ、閉じ込められとる?」
「はい、女性ならハグして拘束するんですが、男性にはいつもこうしてます。
 男の人に抱きつこうとするとメンバーに怒られちゃうんで……」
「いや、エリは女っちゃけど。」
「わー!そういう意味じゃないんです!あなたにはハグは効かないなって思っただけで……」
「いい、いい、分かっとるから。」

アーリー自身はこんな調子であるが、戦術自体は脅威だとエリポンは感じていた。
右に動けば右にトンファーを、左に動けば左にトンファーをぶつけてくると予測されるので、
エリポンはまったく動かずにアーリーを仕留めなくてはならない。
しかもエリポンのすぐ後ろには廊下の壁が迫っているため、後方移動だってさせてもらえない。
そして面倒なことに、此の期に及んでアーリーがまた奇妙なことをし始める。

「ジュースで乾杯!」
「は?……」

アーリーは他のKAST同様にジュースを飲むのだが、エリポンにはその意味が分からなかった。
だがそれがただの水分補給ではないことには勘付いている。

(ドーピングの類?この子が筋力強化とかしたらやばかね……)

となればエリポンの採るべき策は先手必勝しかなかった。
ドーピングが効く前にアーリーを斬り倒すのが最も有効だと考えたのだ。
エリポンの打刀「一瞬」による斬り込みの速さはその名の通り一瞬だ。
師匠の音速には届かなくても、それに近いだけの速度は出すことが出来る。

「お腹、ガラ空きっちゃん!!」

アーリーは両手を大きく広げていたため、胴体に隙があった。
そこに高速の刃を打ち込めば早々に決着はつくだろう。
ところが、自信満々に振られた一撃はアーリーには通用しなかった。
音速寸前の打刀より速く、右手のトンファーが護りに来ていたのだ。

(えっ!?速すぎる……!!)

ぼーっとしているように見えて俊敏なガードを繰り出すアーリーにエリポンは面食らう。
そして速いのはガードだけではなかった。
空いている方の左トンファーが既にエリポンの胸へと接近している。

「しまっ……」

今しがた攻撃体勢に移ったばかりのエリポンがすぐに防衛に回れるはずもなく、
シュルシュルと回転したトンファーを胸にぶつけられてしまう。
そう、アユミン戦で斬られた胸を更にえぐられてしまったのだ。

398 ◆V9ncA8v9YI:2015/08/17(月) 02:58:58
過去ログを見返しましたが、エリポンはアユミンに胸を斬られてませんね、、、
最後の一行は削除します。

399名無し募集中。。。:2015/08/17(月) 06:53:44
トジファーw結局あのトマトはどうなったのか…

400 ◆V9ncA8v9YI:2015/08/17(月) 13:00:12
アーリーの飲むジュースはメロンジュース。
マロが以前飲んだように、「どんな些細な動きも捉える眼」を得る効力を持っている。
視野が著しく狭くなるのが玉に瑕ではあるが、範囲内の動きは絶対に見逃さない。
例えエリポンが高速の斬撃を繰り出そうと思っても、アーリーは筋肉の動きから攻撃の初動をキャッチ出来るのだ。
こうなればスピードはまったく意味をなさなくなる。
どんな技だろうと発動する前に防御してしまうのだから。

「大人しくした方がいいですよ。抵抗しても無駄です。全部防ぎますから。」
「くっ……」

エリポンにはアーリーの防御術のカラクリは分からなかったが、単調な攻撃が通用しないことは理解できた。
となればお次は魔法だ。
各国のスポーツを取り入れたエリポンの魔法ならばアーリーを出し抜けるかもしれない。

「喰らえ!風の刃!!」

エリポンは床が砕けるような勢いで、打刀「一瞬」を足元に叩きつけた。
これはアユミンを攻撃した時のように、アイスホッケーを応用したもの。
どこから飛んでくるのか予測困難な攻撃ならば通用すると考えたのである。
ところが、これは悪手だった。

「魔法?ホッケーですよね、それ。」
「!?」

同じKASTのトモがアーチェリー競技を嗜んでいたことから分かるように、
果実の国では(アンジュ王国ほどではないが)スポーツが盛んだった。
アーリーもアイスホッケーには疎いが、エアホッケーなる遊戯は得意中の得意。
自身に破片が到達するよりも速く、右手のトンファーで打ち返してしまう。

「そりゃーー!!」

細かな破片とは言え、それら全てが勢いよく自分の身体に返ってきたので
エリポンは血反吐を吐いてしまう。
アユミンとの戦いのダメージも残っているため、どんな微弱な攻撃も致命傷に思えるのだろう。

「言ったじゃないですか!だから大人しくしましょう。」
「ハァ……ハァ……なんで?」
「え、何がですか?」
「なんで、君は自分から攻撃を仕掛けんと?さっきから受け身ばっかやん。
 エリ、こんなに虫の息なのに……チャンスと思わんの?」
「!」

エリポンの指摘にアーリーはドキリとした。
そして、エリポンはその表情の変化を見逃さない。

「なるほど……付け入る隙、そこにあるかな?」

401 ◆V9ncA8v9YI:2015/08/17(月) 13:00:46
トジファーは残念ながらお亡くなりに…

402 ◆V9ncA8v9YI:2015/08/18(火) 12:58:35
アーリーはエリポンが視野の外に出ることを恐れていた。
メロンジュースで一時的に発達した「眼」ならば敵の動きを全て把握できるが、
何らかの拍子で相手を見失えばその通りではなくなってしまう。
いくら優秀な眼を持ったとしても、見えないものまで見ることは出来ないため
アーリーは常に相手から眼を離さない体勢を取り続けなくてはならないのである。
余計なことをせず、ただ相手を囲むことだけに専念する……
それが完全なるディフェンスの条件だったのだ。
そして、エリポンはなんとなくだがその事に気付き始めている。

「さすが果実の国の戦士。さすがの防御力っちゃん。やけん、弱点あるね。」
「!!……弱点、ですか?」

全ての攻撃を事前に防ぐアーリーではあるが、音速の攻撃までは防ぐ事は出来ないとエリポンは見抜いていた。
「音速の攻撃」とは言っても、師匠のように本当に音の速さで刀を振ることを指しているのではない。
エリポンは文字通り「音」。つまりは「声」で攻撃しようとしているのだ。
両手を広げた体勢ではアーリーは耳を塞ぐことは出来ない。
ならば精神的に追い詰めるような言葉を防ぐ手段はないということになる。

「君のやり方だと1人しか相手に出来んよ?エリしか囲めない。」
「十分です!エリポンさんを抑えるのが私の役目ですから!」
「ほんと?すぐ後ろからサヤシが刺そうとしとるけど。」
「!?……」

エリポンの言うことはでまかせだった。
あわよくばアーリーの注意を逸らせるかもと思って言ったのだ。
しかしまだ幼くてもさすがは戦士。恐怖こそ感じても決して後ろは振り向かなかった。
エリポンを抑えるのが役目、という言葉に嘘は無いようだ。

「ごめん今のは嘘。サヤシは来とらんよ。」
「はぁ……良かった。」
「でもね、そんなにビビったってことはハルが負けてると思ったってことやない?」
「え!?いや、その……」
「君の防御、凄いよ。でもそれは強いお仲間がいたらの話。
 いつもは果実の国の戦士たちと共に戦っとるんやろ?そりゃ信頼できようね。
 でもぶっちゃけ、ハルって信頼できる?」
「出来ますよぉ!」
「あの子、帝国剣士の中で最弱っちゃけど?」
「えっ……」
「ほら、君からは見えんかもしれんけど、今もこうしてサヤシにボコボコにされとる。
 うわ痛そう……泣いてる、可哀想可哀想」
「嘘をつかないでください!もう騙されませんよ!!」
「それが、今のだけは嘘じゃないんだよなぁ……」

403名無し募集中。。。:2015/08/19(水) 01:04:55
三味線を使いよるか

404 ◆V9ncA8v9YI:2015/08/19(水) 12:58:44
エリポンの言う通り、ハルはサヤシにやられてボロ雑巾のようになっていた。
後頭部を強打された後に鳩尾への蹴りを3発も入れられ、
そうしてうずくまっているうちに自慢の木刀まで切断されてしまった。
それでも意地を見せようと手ぶらで立ち向かったが、
刀の峰で思いっきり鼻を叩かれて、大量の鼻血を流してしまう。
プライドの高いハルにとって、痛みよりも己の不甲斐なさが何よりも辛い。

「こんなに……こんなに遠いのかよ……」

サヤシと自分との距離が想像以上に離れすぎていたことに、ハルはショックを受ける。
受け入れがたいがこれは現実だ。
肩書き自体は同じモーニングを帝国剣士であるが、
実力にはこれだけの開きがあったのである。
そして、ハルはこれより更なる追い討ちをかけられることとなる。

「ハル様とサヤシ様が決闘している!こんな廊下で……」
「エリポン様もいるぞ!!」
「な、何が起きてるんだ!?」

ゾロゾロと大挙してやったきたのは、先ほどハルが結成したサヤシ捜索隊だった。
何やら騒々しかったのでやってきたのだが、
まさか帝国剣士同士が戦っているなんて思いもしなかったのでみながみな驚いている。
そして、ハルにとって己の無様な姿を見られるのが耐えがたい屈辱だった。
普段馬鹿にしているジッチャンら男性兵に嘲笑われているような気がして、顔が真っ赤になってくる。

「み、見るなぁ!!ジッチャン達あっち行けよ!!」
「でもハル様!お怪我が……」
「うるさいうるさいうるさい!!お前ら全員どこかに消えろ!!命令だぞ!!
 上官の言うことが聞けないのかぁぁぁぁぁ!!」

そして、物音に釣られてやってきたのは男性兵達だけでは無かった。
その者たちは、壁の向こうの隠し部屋からハルを心配そうに見守っている。

「ドゥーさん可哀想……出来ることならすぐにでも助太刀したい……」
「無駄よクールトーンちゃん、あなたサヤシに勝てないでしょ。」
「そうですね、サユ王様……」

モモコとクマイチャンの戦いを見終えたサユ王とクールトーンの二人は、次の見学先としてここを選んでいた。
サユはアーリーの眼を使った戦いを見せたいと思って来たのだが、
予想外に帝国剣士の恥部に直面してしまったので、ポリポリと頭をかく。

「ハルのダメなとこ出ちゃってるわね……クールトーンちゃん、アレでもカッコいいと思う?」
「思います!弱いのにサヤシさんに立ち向かう姿勢とか!」
「弱いって言っちゃってるじゃん」
「あわわわ、違うんです。」
「違わないわ。そもそもハルの魅力はカッコよさなんかじゃないの。
 クールトーンちゃんも、そしてハル自身もそこには気づいてないみたいだけども。」
「魅力……なんだと思うんですか?」
「かわいさ。」
「真面目にやってください!!」
「いやいや真面目よ大真面目。」

405 ◆V9ncA8v9YI:2015/08/20(木) 13:00:11
泣きじゃくるだけならまだしも、一般兵らに当たり散らすハルの姿はあまりにも見苦しかった。
そして、サヤシ・カレサスはその態度にひどく憤っている。
モーニング帝国剣士に選ばれる者は例外なく一騎当千の実力を持つと言われているが
それにあぐらをかいて、あたかも自分が神の如き存在と錯覚するようでは三流だ。

「上に立っていいのはサユ王ただ一人じゃけぇ……勘違いも甚だしい。
 もう喋るな。喚くな。ハルが表に出るだけで帝国剣士のイメージが下がりよる。
 じゃから、ここで寝てろ。」

サヤシは腰につけた鞘に手を当て、居合の準備を始めた。
殺すつもりは無いが、穏便に済ますつもりもさらさらない。
これは脅しなどではないことは誰の目にも明らかだった。

(サヤシさん……マジかよ……)

腰の抜けたハルは避けたくても避けることが出来ない。
ゆえに、これから起こりうる悲劇を想像すると更に涙が溢れてくる。
そうして怯えた結果、ハルが絞り出したのはたった一言の懇願だった。

「……助けて、お願い。」

今更命乞いをしてももう遅い。サヤシの抜刀はもう止まらない。
ハルの薄皮を切り裂くために、居合刀は走り出している。
これさえ決まればもうハルは生意気な口を聞けなくなるだろう。
だが、サヤシは一つ勘違いをしていた。
「助けて」の言葉が自分への嘆願であると思い込んでいるが、
そのメッセージは実は他の人物へ送られたものであり、
その人物もしかと受け取ったことをサヤシは知らなかった。

「ハル様!危ない!!」
「!?」

ハルを護るために刀の前に立ちはだかったのは一人の男性兵だった。
実はこの人物は先ほどハルに竹刀で滅多打ちにされた老兵であり、
そんなハルを護るために立ち上がったのである。
意外すぎる邪魔者の登場にサヤシは慌ててしまう。
このままだと無関係の老兵を殺してしまうかもしれないので、必死に刃の軌道を修正する。

「な、なんじゃあ、いきなり!」

幸いにも斬撃は老兵の太ももを傷つける程度で済んだが、
目の前にはサヤシにとって信じられないような光景が広がっている。
なんと、ハルに馬鹿にされていた男性兵たちが集結して
ハルを護るように囲んでいたのである。

「ハル様を泣かせる者はサヤシ様でも許せません!」
「どうしてもと言うなら我々を全員倒してからにしてください!」
「ハル様のお役に立つのが我々の使命ですから!!」

サヤシは大混乱し、ハルもキョトンとしている。
帝国剣士同士の戦いに一般兵らが割って入ることなんて前代未聞。
それも嫌われていると思われたハルの側につくのだから事態は複雑だ。
だが、実情は案外シンプルなもの。
みんながみんな、ただハルを護りたいだけなのである。
小生意気だけど、ハルは可愛いのだから。

「ジッチャン達……ありがと。」

ハニカミながらも礼を言うハルを見て、彼らの士気は最高潮になる。

406名無し募集中。。。:2015/08/20(木) 14:11:15
なんじゃそりゃw

407名無し募集中。。。:2015/08/20(木) 14:41:05
何してんだよじっちゃん

408名無し募集中。。。:2015/08/20(木) 22:36:24
東京出張帰りの新幹線で一気に読みました

で、ジッチャン何やってるんだw

409名無し募集中。。。:2015/08/21(金) 06:50:16
じっちゃん(´;ω;`)

410 ◆V9ncA8v9YI:2015/08/21(金) 12:42:12
「これはいったい?……」

一般兵らの参戦にクールトーンは驚愕していた。
事情も何も知らぬであろう彼らが、サヤシ相手に立ち向かうことが驚きなのだ。
この光景を分析したサユが、クールトーンに語りだす。

「ハルは力が弱いし、刀剣も振れない、体力だって並以下。
 おまけにすぐに怒ったり泣いたり、性格も酷いもんよね。
 じゃあ、そんなハルが何故帝国剣士に採用されたと思う?」
「カッコよくて……可愛いから……ですか。」
「そう、男女問わず従えるカリスマ性こそハルの強み。
 おそらくは城内のほとんどがハルに味方したいと思っているはずよ。
 クールトーンちゃんだってそうでしょ?」
「はい!大好きです!」
「そう、その好きという感情はなかなか馬鹿にできないの。
 本当のファンなら自分がどうなったとしても、ハルを第一に考える。
 怒鳴られても、竹刀で殴られても、帝国剣士のエースを敵に回したとしても
 やっぱりハルのことが好きだから、ハルが可愛いから味方しちゃう。
 これは驚異であり、脅威よ。普通は真似できない。」

サユの発言には説得力があった。
ハルに限らずサユだって人気あるため、命をかけても惜しくないと思う者は大勢いるだろう。
サユ王が居なくなればきっとロスってしまうに違いない。
だが、クールトーンには一つ不安があった。

「でも、それで本当にサヤシさんに勝てるんでしょうか……」
「クールトーンちゃん、戦いは"数"よ。」
「えっ、でも一般兵が何人いたって帝国剣士には勝てないんじゃ……」
「そうね。黄金剣士やプラチナ剣士の時代はそうだったかもね。
 でも、悲しいことに今のは帝国剣士の力は弱体化してる。
 一騎当千でなんとかなる時代は終わったの。
 そういった意味では今の帝国剣士の三強はフク、ハルナン、そしてハルなのかもね。」
「え!サヤシさんやアユミンさんじゃなくてですか?」
「フクは国を愛するがゆえに多くの愛国兵の士気を高めることが出来る。
 ハルナンは他国から味方を大量に引っ張ってくる才能があるわね。
 そしてハルにはカリスマ性がある……これからの帝国を牽引するのに、この3人は欠かせないはず。」
「ドゥーさん凄いなぁ……さすがだなぁ……」
「とは言えサヤシがこのまま黙っているとは思えない。どうなるのか見ものよ。」
「はい!」

411 ◆V9ncA8v9YI:2015/08/21(金) 12:44:43
まさかジッチャンの行動にこんなに反響があるとは……w

412名無し募集中。。。:2015/08/21(金) 17:21:33
三強の内二人を擁する天気組勝ちじゃね?
ハルナン王誕生なるか?

413名無し募集中。。。:2015/08/21(金) 19:40:24
俺は正直ガッカリしたよ
可愛さとか見た目の美醜について言及されたら工藤以外のメンバーのファンからすれば良い気はしないだろう
今まではそういうのなかったからフラットに見てこれたのに残念だよ

414名無し募集中。。。:2015/08/21(金) 20:01:38
ドゥーへたれ過ぎる・・・なんか無性に帝国地下に叩き落としてあの方達に根性叩き直して欲しいわw

415名無し募集中。。。:2015/08/22(土) 01:34:36
人の捉え方は難しいね
ここのドゥーはすごくよく描けていると思いますよ

416名無し募集中。。。:2015/08/22(土) 02:54:08
作者が思う通りに書けばいいよ
書くのは作者なんだから

417名無し募集中。。。:2015/08/22(土) 04:41:32
SSにマジレスするなさ

418 ◆V9ncA8v9YI:2015/08/22(土) 12:47:07
ルックスというよりは「守ってあげたい、なんか気になる」感じの可愛さを意識していましたが
確かに配慮が足りてなかったですね。申しわけございません。

第一部のストーリーは結末まで考えてあるため、話の大きな変更は有りませんが
それでもお付き合いいただけると嬉しいです。

419 ◆V9ncA8v9YI:2015/08/22(土) 17:43:57
サヤシはちょっぴり落ち込んだ。
兵がハルの方にばかりつくので、自分には人望が無いのかもと思ってしまったのだ。
だが、そんなサヤシももう気持ちを切り替えている。
この状況に対処するには冷静でなければならないのだから。

(親衛隊を一瞬で結成するその能力は正直羨ましいのぉ……
 じゃけど、ウチの腕っぷしなら恐るるにたらんけぇ。)

サヤシの実力は抜けているが、それは決して個対個に限った話ではない。
個対多だろうとサヤシは強いのだ。
この事実はサユの「戦いは数」発言に矛盾しているように聞こえるかもしれないが、そうではない。
相手が数百数千であればサユの言う通りだが、今現在ハルについた男性兵らは数十人程度。
しかも念密な策の練られていない烏合の衆であれば、やりようはいくらでもある。

「まずは……3人。」

サヤシは最も近くにいる兵士に飛びかかり、到達すると同時に横っ腹に刀をぶつけだした。
峰打ちとは言え、サヤシほどの達人の振りからなる鉄棒の強打は激痛では済まない。
ボキバキといった音を鳴らしながら、兵はあばらを折り、倒れていく。
そしてサヤシの侵攻はこれでは留まらない。
またも近くにいる相手に対して、逃げ足よりも速く二撃目三撃目を繰り出していく。
派手な骨折音を鳴らしながら、あっという間に3人をのしてしまったサヤシに一般兵らは当然恐怖する。
このようにあえて悲痛な音を聞かせることによって、恐怖で足を止めてしまうのがサヤシの狙い。
この世の流れが一騎打ちから多勢での戦いに変遷していっているのは百も承知。
だからこそサヤシは相手が複数でも戦えるように努めてきたのである。

「怖すぎる……あれが帝国剣士エースの実力か……」
「俺たちの力ではハル様を守れないというのか!?」

たった3回の振りで敵の士気を下げたサヤシはさすがだった。
ハルだって閉口している。
だがハルが黙っているのは敗北を認めたからではない。
サヤシを倒す策をじっくりと考えていたのだ。

「ジッチャン達……怖くて動けない?」
「申し訳ありません……お守りしたい気持ちをは有るのですが。」
「じゃあ、許可する。」
「え?」
「サヤシさんを触るのを許可する。 胸でも、脚でもどこでも触っていいよ。」
「は?……」
「責任はハルが全部取ってやるって言ってるんだ!!
 お前達、サヤシさんを好きに触っちゃえ!!
 さっさと動け!上官の言うことが聞けないのか!!」

ハルの突拍子のない発言に一般兵らはポカンとしてしまった。
そして他でもないサヤシ・カレサス自身が、何が何だか分からないような顔をしている。

「え?え?ハル……今なんて言ったの?」

420 ◆V9ncA8v9YI:2015/08/24(月) 02:02:11
冗談のようなことを言うハルだが、その表情は真剣そのものだった。
涙を拭って、ビシッとサヤシを指さすその姿勢に「嘘」などないことは明白だ。
こうなってくると兵らの士気は俄然あがってくる。

「うぉおおおおおお!!!」

男性兵らはハルの親衛隊だが、サヤシのことだってもちろん大好きだ。
自分たちにとってモーニング帝国剣士は雲の上の存在であるために、普段は手を触れることも恐れ多いが
今回に限りどこを触ってもOKだとハルが約束してくれている。
こんなチャンスは二度とないと断言しても良いだろう。
ならば達人の剣捌きに恐れおののいている場合ではない。特攻すべきは今なのだ。

「行くぞ!俺はやってやるぞ!!」
「させるか!サヤシ様に触るのはこの私だ!」
「いやいやこの俺が!!」

サヤシは絶句した。
屈強な男たちが自分の身体目当てで飛び掛かってくることは恐怖でしかなかった。
居合刀を握る時は「足を切られても構わない」「腕を落とされても構わない」といった覚悟で臨んでいるが
それとこれとでは話は別だ。
剣士である前に女性である自分を守るために、サヤシはなんとしてもこの局面をしのがなくてはならない。

「ば、ばかああああ!!」

顔をリンゴのように真っ赤にしてはいるが、剣の腕前はやはり確かだった。
自分に触れようとする愚か者たちに一発ずつ強烈な打撃をお見舞いしていっている。
しかしいくら敵の数を減らしても、残った兵らの士気が落ちることはなかった。
何が起きようと揺るがない目標は、烏合の衆だった彼らに力を与えてくれたのだ。
この思いの強さは、優位に立っているはずのサヤシをジリジリと消耗させていく。

「うそ、やだ、それだけはお願い、やめて……」

サヤシが極限まで精神をすり減らしたその時、雷は発生する。
その正体は天気組団の「雷の剣士」であり、親衛隊の指揮官であるハル・チェ・ドゥーだ。
男性兵の陰に隠れてサヤシの近くまで接近していたのである。
自分がサヤシの意識の外にいる今がチャンスであると、竹刀を構えている。
この竹刀は親衛隊が用意してくれた予備のもの。手入れはハルが自分で行う以上に万端だ。

(行くぞサヤシさん!これが本当の本当の最後の一撃だ!
 狙うのは"小手"じゃない。それじゃあ意識を断ち切れない。
 そして"面"でもない。サヤシさんの眼力で避けられちゃうだろう。
 だから!ハルが打ち込むべきは!)

ハルは腕と脚にグッと力を込めた。
非力な彼女が力を入れたところでたかが知れているかもしれないが、
決着をつけるための道しるべはジッチャンら一般兵らが作ってくれた。
指揮官ハルは期待に応えるため、電撃のごとき速さでサヤシへと竹刀をぶつける。

「"ドウ"!!!!」

421名無し募集中。。。:2015/08/24(月) 20:28:32
やっさんはどうなっちまうのやら

422 ◆V9ncA8v9YI:2015/08/25(火) 09:02:18
「……ッ!!」

ハルの一撃はサヤシの腹にズシンと響いた。
通常であればこれくらい耐えきることは容易いのであるが、
いかんせん今は他に集中せざるを得なかった。
ゆえにハルの胴打ちに意識を飛ばしてしまう。
仮の話にはなるが、サヤシのお腹にもう少しだけ脂肪がついていればそれが防具の代わりになったかもしれない。
つまるところサヤシは細すぎたのだろう。

「やった……ハルが、ハルが勝った!」

絶対的な強者への勝利に、ハルは痛む拳をぎゅっと握った。
それだけにこの一勝が嬉しいのだ。
だがすぐに、自分一人で得た白星ではないことに気づく。

「ジッチャン達のおかげ、だよ。」

ハルはハニカミながら男性兵達に礼を伝えた。
彼らも雄叫びをあげながら今回の勝利を喜んでいるようだ。
始めは自分らの将の勝利に興奮しているかもと思ったが、
よく話を聞いてみるとそうではなかった。

「よし!これでサヤシ様はもう動けない!触りたい放題だ!」
「あぁ!責任は全部ハル様がとってくれるらしいからな!」

ハルは開いた口が塞がらなかった。
そして男の劣情を軽蔑するように怒鳴り散らす。

「ダメだダメだ!サヤシさんに指一本触れることはこのハルが許さないからな!!」
「ええ!?話が違うじゃないですか!」
「ハルが勝ったんだからその約束はおしまいなんだよ!普通わかるだろっ!」
「しかし……」
「上官の言うことが聞けないのか!もう口を聞いてやらないぞっ!」
「ぐ、ぐぅ……」

ハルは元よりサヤシの身体を男性兵に触れさせるつもりはなかった。
サヤシの剣術ならば当然凌ぎ切れると信じていたし、
勝利後はハルの鶴の一声でジッチャン達は止まると踏んでいたのだ。
そして実際にその通りになった。
ハルに「口を聞いてやらない」と言われたら彼らは従うほかないのだ。

「まったく、早くアーリーちゃんに加勢しなきゃならないってのに……」

ハルは同志であるアーリー・ザマシランのことを気にかけていた。
彼女の作り出す檻はどんな相手だろうと拘束するが
ジュースの効果が切れたら動体視力が戻ってしまって危険な状態になると聞いていたのだ。
まだタイムオーバーには遠いが、早期に助けるにこしたことはないとハルは考える。

だが、すでに遅かった。

「ハル、ちょ〜っと調子乗りすぎやなかと?」
「そ、そんな……」

ハルの目の前に立っていたのはエリポンただ一人だった。
血まみれになってはいるが、怖い顔をしてハルを睨みつけている。
そしてその足下には、刀で斬られたような傷を負ったアーリーがゴロンと倒れていた。

「うそ、だろ……どうやってアーリーちゃんの檻から抜け出したんだ……」
「決まっとぉやん、エリの実力、で。」

423名無し募集中。。。:2015/08/25(火) 12:58:13
だから身体作り(脂肪たっぷり)したのね

424名無し募集中。。。:2015/08/26(水) 12:48:43
オリを抜け出せたのは魔法か怪力か

425 ◆V9ncA8v9YI:2015/08/26(水) 19:41:09
ハルがサヤシを討ち取る数分前。
何があっても体勢を崩さないアーリーにエリポンは難儀していた。
いくら耳障りの悪い言葉を聞かせても、顔を歪めるばかりで檻を解除しようとはしない。
むしろその意志の強さにエリポンの方が参っているくらいだ。

(この子、言われたことはキッチリとやり遂げるタイプか……
 自分でアレコレ考える敵よりも、こういう子の方がやりにくいっちゃね。
 しょうがない、ここは力技でぶち破るしかない。)

エリポンは一気に腰を落とし、アーリーの膝下に斬りかかった。
軽さが売りの打刀「一瞬」が振り下ろされる速度はとても速い。
そしていくらアーリーの腕が長いとは言え、トンファーによる防御はここまで届かないとエリポンは考える。
しかしアーリーの眼はエリポンの初動をしっかり捉えていた。
そのため、エリポンと同じタイミングでしゃがみこみ、不意打ちの刃を防ぐことが出来る。
しかもアーリーのトンファー「トジファー」は二本で一組。
左手のもう一本はエリポンの脳天をカチ割ろうと前進していた。

(やっぱりそう来る!?ならば!)

高速で迫るトンファーを回避することは難しい。
よって、エリポンは避けることを諦めた。
とは言ってもただで受ける気はさらさらない。彼女は頭突きで止める気だ。
トンファーがぶつかるポイントを頭頂部から額にズラす程度の猶予ならある。
後は覚悟を持って、気合いを入れれば耐えることが出来るのだ。
そしたらアーリーだって少しは怯むかもしれない。

「全部、見えてますよ。」

アーリーは衝突直前にトンファーの軌道をちょびっとだけ下げた。
狙いを頭ではなく鼻へと転換したのだ。
鼻への強打を受けたエリポンはたまらず後ずさりしてしまう。
明らかに骨は折れているし、鼻血は多量に吹き出ている。
結果的にエリポンは攻めきれず、反撃まで受ける形になってしまった。

「ぐ……」
「無駄です。血を見るのはあなただけです!」
「馬鹿にしてっ!」

エリポンは悔しくてたまらなかった。
打ち負けたからではない、アーリーが追い打ちをかけないことが悔しいのだ。

(エリにはそこまでする必要が無いってことやろ?
 確かにエリは弱い。アユミンにも競り負けとった。
 でもね、この刀だけは本物やけん……負ける訳にはいかん。)

エリポンは手に持つ刀をジッと見る。
この打刀「一瞬」は彼女が愛してやまない元帝王が使用していたもの。
どうしようもないエリポンに戦いの全てを叩き込んでくれた恩師から譲り受けたのだ。
師のためにも、刀のためにも、エリポンはこれ以上負けを重ねる訳にはいかない。

「使ってみるか……」
「何を、ですか?」
「ガキさんの技を!」

426 ◆V9ncA8v9YI:2015/08/27(木) 13:00:17
エリポンは刀を鞘に入れ、アーリーをキッと睨みつける。
いつでも刀を抜けるこの構えは「居合術」のもの。
それがアーリーにはすぐ分かった。

「分かりますよ。居合ですよね。」
「うん、今から君を斬る。」
「そんな大事なことを教えてもいいんですか?」
「関係なかよ。これから出す技は分かっていても避けられん。」

エリポンはガキの超高速剣技を繰り出すつもりだった。
素早い振りであり、且つどこを狙うのか直前まで分からないために避けるのは難しい。
もっとも、居合の心得がなくてはこの技を扱うことは出来ないのだが、
幸いにもエリポンは「居合の達人」の剣技を間近で見る機会が多くあった。

「サヤシ、借りるよ!」

エリポン一人の力では師匠には及ぶはずがない。
だがしかし、同期のサヤシの剣術をイメージすれば近くまで迫ることが出来る。
持ち前の筋力と、華麗な居合術。
その二つが融合したからこそエリポンはガキを再現してみせたのだ。

「上段・飛流!!!」

鞘から解き放たれた刃は、上方向にあるアーリーの胸へと一直線に突っ走っていく。
抜刀の調子は上々、重力にも負けずどんどん加速していくのが手にとってわかる。
そして重要なのが、アーリーがトンファーによる防御をしていないということ。
剣が速すぎてガードが間に合わなかったのだと、エリポンは予測する。

「どうだ!これがガキさんの……」

想定通りならばここでアーリーを斬り捨てているはずだった。
だがおかしい。
刃が胸に届くよりも速く、エリポンの両肩に激痛が走っている。

「え!?……こ、これは……」
「諦めてください、全部見えてるんです。」

エリポンの肩を壊したのは、刀が放たれるより先に振り下ろされたトンファーだった。
右肩にトンファー1つ、左肩にトンファー1つ。
つまりはアーリーは両腕を使ってエリポンを攻撃したのである。
彼女には本当に全てが見えている。
筋肉の微妙な動きだけではない。眼球や、呼吸する口の動きだってキャッチしているのだ。
ならばどのタイミングでどこに攻撃するのかは手に取るように分かる。
アーリーの眼がそれ程までに優れていると思わなかったエリポンは、
上方向からの振り下ろしに勝てず、崩れ落ちてしまう。

427名無し募集中。。。:2015/08/27(木) 17:01:24
ビルw

428名無し募集中。。。:2015/08/28(金) 00:38:19
居合いまで止めるのか?アーリー強い!この状態からどうやってエリポン逆転したんだ?

429 ◆V9ncA8v9YI:2015/08/28(金) 09:18:44
エリポンの視界は暗くなりつつあった。
確かに自分の技のキレはガキと比べてまだまだなのだろうが
こうも通用しないのかと思うと気が滅入ってくる。

(せっかく大見得切ってフクを助けに来たっていうのに、ダサすぎっちゃん……
 アユミンにも勝てない、この子にも勝てない……ダメダメすぎない?
 そういえばサヤシが言っとったっけ、Q期の次期団長がエリなのはありえんって。
 ……まったくその通り。返す言葉もない。こんなダサい団長がおったらいかんよね。)

この時エリポンは完全に勝利を諦めていた。
自分の力ではアーリーの檻をブチ破ることが出来ないと認めたのだ。
これまで痛む身体をなんとか支えてきていたが、心が折れればそうもいかなくなる。
床にグッタリと倒れこみ、瞳を閉じていく。

「こっち終わりましたよ!ハルさん大丈夫ですか!!」

エリポンが目を瞑ると同時にアーリーはハルのいる後方へと振り向いた。
これが、エリポンにとっての最後の好機となる。
アーリーはエリポンが確実に気を失うのを確認してからハルを見るべきだったのだ。
だが彼女にはそれを待ってられない理由があった。
先ほどエリポンに言葉責めで不安感を煽られた結果、ハルが気になってしょうがなかったのだ。
アーリーがエリポンから眼をはなしたということは、即ち檻が解除されたということ。
いや、檻とか関係なく剣士に背中を向けることは自殺行為だ。
エリポンは閉じかけの目に光りが差し込んできたことに気付く。

(うわ、背中ガラ空き……ここで斬ったらイチコロやない?
 でも、そしたら帝国剣士のプライドが……)

エリポンは一瞬のうちに激しく葛藤した。
自分は敗北した身。
そんな自分が勝者に卑怯な手で斬りかかるのはいかがなものなのだろうか?
それは敗北よりも惨めなことではないだろうか?

(いや違う!エリ自身の使命を思い出せ!!)

エリポン・ノーリーダーの使命。
それはQ期団団長フク・アパトゥーマを「刀」となって護ることだ。
刀が何故メンツを守る必要があろうか?
刀が何故プライドを気にする必要があろうか?
何も気にすることはない。フクに抗う敵を斬り倒せば良いのだ。
使命を果たすためにエリポンは立ち上がる。

「下段・降羅」
「えっ?」

エリポンは下向きの刃で、アーリーの両方のふくらはぎを斬りつける。
突然の凶刃に対処できるはずもなくアーリーは膝をついてしまう。

「戦闘中に余所見はいかんよ!」
「しまった!まだ息が……!」

アーリーはまた檻を作ろうとエリポンの方へと身体を向けるが
負傷したふくらはぎがそれを許さなかった。
拘束がはじまるよりも高速で、エリポンは追撃する。

「中段・野田ぁぁっ!!」
「あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁ!!!」

エリポンは満身創痍だが、最後の中段斬りの勢いはなかなかだった。
アーリーの胸を深く傷つけ、地に寝っ転がらすことに成功する。

「ダサくてごめんね。でもこうしなきゃ勝てんのがエリの実力ったい。」

ここでアーリーを斬ったが、敵は1人ではないのは百も承知だ。
すぐにサヤシとハルの方へと視線を向ける。
その時がまさにサヤシがハルに倒されたところであったのはショックだったが
心の動揺を悟られないように、戦況を少しでも有利にするために、挑発をする。

「ハル、ちょ〜っと調子乗りすぎやなかと?」
「そ、そんな……」

ハルは面白いように狼狽していた。
怖い顔で睨みつけたのと、実際にアーリーが倒れ込んでいるのが効いているのかもしれない。
戦士として勝利したとは口が裂けても言えないが、
これは自分の実力なりにアレコレ手を尽くした結果だ。
ここは堂々と胸をはろうとエリは決意する。

「うそ、だろ……どうやってアーリーちゃんの檻から抜け出したんだ……」
「決まっとぉやん、エリの実力、で。」

430 ◆V9ncA8v9YI:2015/08/28(金) 09:25:10
前作ネタになりますが、確かに飛流はビルですw
降羅はコラー!、野田は〜のだ。 といったようにガキさんが言いそうな言葉が元ネタですね。

また、アーリーが強すぎに見えるかもしれませんが、
「檻に入らないよう注意する」「二人掛かりで仕掛ける」などの対処で簡単に破れます。
食卓の騎士ならこんな感じですかね。

クマイチャン→そもそも檻に入りきらない。
マイミ→二発だと防がれるので10発100発1000発殴りまくる。
モモコ→アーリーの頭じゃ処理できない攻撃をする。

431名無し募集中。。。:2015/08/28(金) 10:30:40
技名にそんな意味があったなんて!「魁弾出飛我」とかもあるのかな?w

432名無し募集中。。。:2015/08/30(日) 20:57:02
アレコレしたいって曲あったよね
たしかあーりーセンター
ハルに真実を教えてあげたい

433 ◆V9ncA8v9YI:2015/08/31(月) 12:43:04
>>431
エスカレーター式の話ですね。
ガキさんの再登場は怪しいですが、弟子が再現する可能性はあるかもです。

>>432
アレコレって表記する時はだいたいその歌をイメージしてますw


最近更新が滞っていてすみません。
今夜も遅くにならないと書けなさそうなので
簡単なオマケだけチャチャっと書いちゃいますね。

434 ◆V9ncA8v9YI:2015/08/31(月) 12:49:04
オマケ

サユ「隠し部屋からサヤシ達の戦いを盗み見……もとい見守るわよ。」
クールトーン「はい!」

〜〜

ハル「……助けて、お願い。」
ジッチャン達「うおおおおお!!」
クールトーン「うおおおおお!!」
サユ「クールトーンちゃん落ち着いて!」

〜〜

ハル「サヤシさんを触るのを許可する。 胸でも、脚でもどこでも触っていいよ。」
ジッチャン達「うおおおおお!!」
サユ「うおおおおお!!」
クールトーン「サユ王様落ち着いて!」

おしまい

435名無し募集中。。。:2015/08/31(月) 15:56:13
>エスカレーター式
正解wちなみにOGは今何してるとか一応頭の中にあったりします?

裏でこんな事が起きてたとはww

436名無し募集中。。。:2015/09/01(火) 00:21:46
帝国剣士見参!って感じ?

http://www.hello-online.org/img/Hello_Project-574686.jpg

437 ◆V9ncA8v9YI:2015/09/01(火) 02:55:08
サヤシを撃破して上り調子なハルだったが、
満身創痍ながらも不穏な空気を漂わすエリポンに完全に気圧されていた。

(全身血だらけだってのになんてオーラだよ、ジッチャン達だって怖がってるじゃん
 またサヤシさんを倒した時と同じやり方でいくか?……いや、ダメだろうな。
 エリポンさん、きっと何をされても止まらないはず……)

身体に触れていいという理由で男性兵たちをけしかける作戦は通用しないと、ハルは気づいていた。
そもそもサヤシとでは性格が違いすぎるという理由もあるが、
今の鬼気迫ったエリポンならば多少触られたところでまったく動じないと考えたのだ。
第一、当の老兵たちがエリポンに近寄るのを恐れている。
斬り捨てられたアーリーのようにはなりたくないと誰もが思っているのだろう。

(どうすればいい!?ハルが直接ガチンコで相手するのが正解なのか?
 ジッチャン達抜きで……勝てるか?
 やばい、分からない、今のエリポンさんはまったく分からない!怖い!
 どうしよう、近づいてきてる、早く決めないと!ハルはどうすればいい!?
 助けて!助けてよ、アーリーちゃん!)

極限まで追い詰められたハルは、あろうことか倒れているアーリーにすがってしまっていた。
ゾンビのように詰め寄ってくるエリポンのことがそれだけ恐ろしかったのだ。
本来であれば戦士としてとても情けないことであるのだが
結果的に、それが正解であることにすぐに気づかされることとなる。

「戦闘中に余所見はいけませんよ!」

その声が聞こえた途端、ゴッという鈍い音が聞こえてくる。
音の発生源はエリポンの右足のすね辺り。凶器はトンファーだ。
被害者エリポンは何が起きたか分からないような表情をしながら、その場に倒れこむ。

「!?」

エリポンも、ハルも、ジッチャン達も驚愕してはいるが、何も驚くことはない。
この場にトンファーを武器として扱う人物はただ一人しかいないのだから。

「アーリーちゃん!生きてたんだ!」
「ギリギリですけどね……もう、ダメかもです……」

エリポンの足を破壊したのは、地べたに這いつくばっているアーリー・ザマシランだった。
胸を斬られて気を失っていたように見えたが、最後の力を振り絞って打撃を繰り出したのだ。
この不意打ちが卑怯だと呼べないことはエリポンが最も痛感している。
何故ならそれはさっき己がやった行為とそっくり同じだからだ。だからこそ悔しい。叫びたくもなる。

「あああああああああああああ!!!!!」

いくら力んでも、いくら凄みを効かしても、壊れた足は動かない。
エリポン・ノーリーダーははフクを守る刀としての役目を果たせぬまま、心半ばに力尽きてしまう。

438 ◆V9ncA8v9YI:2015/09/01(火) 02:57:54
>>435
二部以降に関連しそうなOGしか考えてませんね。
というわけで、今の段階では言えませんw

>>436
おおー殺陣道ですか。実はこれ行きたかったんですよ。
かっこいいですね。本作のイメージにも凄く合っています。
まだ本作に出ていない人が2人ほどいますがw

439名無し募集中。。。:2015/09/01(火) 18:09:35
勝利への執念をビシビシ感じます

440 ◆V9ncA8v9YI:2015/09/02(水) 08:45:47
土壇場でエリポンを倒したアーリーは、今度こそ本当に気を失ってしまう。
刀による負傷がひどくて、もう戦えるほどの力が残っていないのだろう。
結果的にこの場で最後まで立っていたのは、ハル・チェ・ドゥーと男性兵たちのみとなった。

「ハルたち、勝ったのか……」

勝者であるハル自身も心身ともに疲労しているため、出来れば床にペタンと座り込みたいところだったが
フクを討つという大事な使命を果たすまではそうも言ってられなかった。

(票数を減らすって意味じゃエリポンさんとサヤシさんを倒せたのは大きい。
 でも、このままハルナンがフクさんにやられたら厳しいぞ……)

アユミンが敗北したのは明らかであるし、
マーチャンとオダ、そしてカノン・トイ・レマーネの動きもハルは気になっていた。
自分の知らないところで味方が軒並みやられていたとしたら、せっかくの戦功がパーになってしまう。

(結局、フクさんを追わざるを得ないんだよな。
 ハルはやれる。今の勢いならなんだって出来る気がする。
 でも、ジッチャンたちはどうする?)

これからの戦いは、帝国剣士の団長同士によるものへと突入するだろう。
我が軍の最高指揮官である二人の決闘を一般兵に見せてよいものかとハルは悩んでいた。
自分らとエリポン、サヤシが血を流しあっているのを見られただけでもギリギリだというのに
フクとハルナンの争いを目の当たりにされたら、その時に生じる不信感は相当のものになると予測される。
出来ればここからはハル一人で行動したい。
しかし、ハル一人じゃ戦力になるかどうかも怪しい。

(どうすりゃいいんだよ……連れてくか?置いてくか?)

こんな風に困惑するハルの耳に、とある呻き声が入ってくる。
それは床に横たわっているアーリーから発せられたものだった。
その苦しみの表情を見てハルは気づかされる。
何故自分は彼女をここまで放っておいていたのかと。

「ジッチャンたち!命令だ!」

男性兵たちはハルに注目した。
彼らには、ハルの言うことならどんなことも聞く覚悟が出来ていた。

「エリポンさん、サヤシさん、そしてアーリーちゃんを医務室に連れて行くんだ。
 3人とも結構な重体だからね、そっと運ぶんだぞ。でも急いでよね。
 あとこれ大事!ぜったい変なところ触ったりするなよ!
 もしそんなことしたら絶交だからな!!」
「「「はい!」」」

そこからの彼らの動きは迅速だった。
さすが日頃から訓練されているだけあって、タンカの用意などは手慣れている。
この分なら大事には至らなさそうなのでハルも一安心だ。

(問題は、ジッチャンたち抜きでやらなきゃならないことか……)

後ろ盾が無いと思うと途端に怖くなってくる。
しかしだからと言って逃げるわけにはいかない。
すぐにでもハルナンに加勢するために、ハル・チェ・ドゥーは一人で走り出していた。

441 ◆V9ncA8v9YI:2015/09/03(木) 13:38:22
「なんなのこれ……」

ハルナンは途方に暮れていた。
アヤチョの服を見繕ったので早速プレゼントしてあげようと思って来たのだが
そのアヤチョのいる作戦室の扉が、グニャングニャンに曲げられていたのだ。
こんなことをできる人物は限られている。

「マイミ様がやったんだろうなぁ……どうしましょ、これじゃ中に入れない。」

マイミがこの扉を無理に開けようとした理由も気になるが
ひとまずハルナンはどうすれば室内に入れるかを考えた。
自分の剣の腕前では扉や壁を切り裂くことは出来ないし、素手でこじ開けることはなおさら不可能だ。
内側からなんとかしてもらおうにも、中にいるのは重体のアヤチョと、非力そうなユカニャ王だけのはず。
となればこの場で扉を開けてもらうことは期待できない。

「マイミ様を探して開けてもらうのが一番の早いのかなぁ。
 でも一体どこに………………ハッ!!」

この時、ハルナンは敵の気配を感じ取った。
戦闘能力では他に劣る彼女ではあるが、直感は割と冴えている。
来たる外敵に向けて剣を構えるスピードはなかなかのものだった。

「そこにいるのは誰ですか!……」

このように言ってはいるが、ハルナンにはこれから来る敵の正体がなんとなく分かっていた。
しかし、それを認めたくなかったのだ。
アンジュの番長らを刺客として送り込み、
その次は食卓の騎士であるマイミとクマイチャンを解き放った。
もちろん天気組やKASTといった頼れる仲間たちだって辺りをウロウロしていたはず。
それなのに、ヤツはここまでやってきている。
実力だけではない、それ以外のあらゆる力が彼女に味方していることを
ハルナンは決して認めたくはなかった。

「私だよ、ハルナン。」
「!!!……」

そこにいたのは案の定、フク・アパトゥーマだった。
Q期の力を借り、敵だったはずの番長らを味方につけ、
そして食卓の騎士モモコに助けられることによってここまでたどり着いたのだ。
数々の死線を抜けてきたというのに、フクの目はとても穏やかだった。
それがまたハルナンをイラつかせる。

「ハルナン、降伏して。」
「……」
「これ以上みんなが血を流すのを見たくないの。だから終わりにしよう。」
「そしたら王はフクさんになりますよね。」
「えっ?そ、そうなのかな、よく分からない。」

此の期に及んでカマトトぶるフクに、ハルナンはハラワタが煮えくり返る思いだった。
もしもここで敗北を認めたら帝国剣士内でのハルナンの求心力は急激に失われていく。
ひょっとしたら天気組からだってハルナンを見捨てる者が現れるかもしれない。
ならば票数はフクがハルナンを上回る。
次期モーニング帝国帝王は晴れてフクに決定だ。
……それだけはあってはならない。

「王になるのは私です。」
「ハルナン……」
「降伏なんてしませんよ。ここでフクさんを斬れば王になれるんですから!」

442名無し募集中。。。:2015/09/03(木) 19:38:40
ついに直接対決か…純粋な実力で言えばフクのようだけどハルナンは何してくるか分からない恐ろしさがあるね

443名無し募集中。。。:2015/09/04(金) 09:02:32
カーズ様のように結果のためには何でもやってきそうなとこがハルナンの魅力だわw

444 ◆V9ncA8v9YI:2015/09/04(金) 14:42:25
フクに切りかかる時、ハルナンはちょっと前の出来事を思い出していた。
小さな村で暴れる悪漢を退治するという任務の後で、
同じ天気組団のアユミン・トルベント・トランワライと語り合った時の話。

「ねぇアユミン、どうしてモーニング帝国は一番強い人が帝王になるのかな?」
「えっ……なんでって、そりゃ一番強いからでしょ」

その時のアユミンのキョトンとした顔はとてもよく覚えている。
おそらくはこれまで母国の制度に疑問を抱かず生きてきたのだろう。

「それがおかしいと思うの、私は。」
「何が??今日のハルナンの方がおかしいよ。どうしたの?」
「だって考えてみて。帝王は戦場には赴かないのよ。」
「まぁ、王様だしね。」
「でもその王様はもともと帝国最強の剣士なんだよね?
 そんな人を王座に縛り付けてしまったら、軍の持つ力が弱まるのは必至よ。
 ガキ元帝王にしても、サユ帝王にしてもそう。
 帝王が新しく決まる度にわたしたち帝国剣士達は弱体化してきたじゃない。」
「うーん、それは分かるけどさ」
「分かるけど、なに?」
「別にその最強の人が居なくなっても、残った帝国剣士だけでなんとかやってるじゃん。
 平和な時代なんだし、仕事といえば犯罪者の取り締まりか、攻めてきた小国を制圧するくらいでしょ。」
「そうね、この国が平和で素晴らしいのは認める。」
「ハルナンがアンジュや果実の国の王と仲良くなったおかげだよね。」
「うふふ、ありがとアユミン……でもね、私は不安でならないの?」
「え、何が?」
「この平和はずっと続くのかなってね……そう思う時がたまにあるの。
 なんか予感がするんだ。近いうちに恐ろしいことが起きるんじゃないかなって」
「怖い……戦争とか?」
「いやいや、ただ思っただけ。なんでもないの。
 でも私たち帝国剣士は、国民を守るためにあらゆる手段を尽くさないといけないと思う。
 例えば帝国剣士最強候補であるフクさんを帝王なんかにせず、
 ずっと現役で戦ってもらうとか……」
「!?……ハルナン、なにを言ってるの……」
「例えばの話だってば。その方が軍事力を保てると思っただけ。」
「……じゃ、じゃあさ、その時に王座に座っているのは誰になるの?」
「わたし……だったりしたら面白くない?」
「笑えない。」
「ふふっ、そっか。笑えないか。」
「だって、ギャグにしちゃリアリティーがありすぎるんだもん。」

445 ◆V9ncA8v9YI:2015/09/04(金) 14:46:51
おまけ

ハルナン「マーチャン……だったりしたら面白くない?」
アユミン「笑えない。」
ハルナン「うん。」
アユミン「国が滅ぶ。」
ハルナン「うん。」
アユミン「しかも数年後には本当に最強になってそうだし……」
ハルナン「事態は深刻ね……」

446 ◆V9ncA8v9YI:2015/09/04(金) 14:49:14
書き始めて長く経ちましたが、やっとハルナンの戦いを書けますね。
何故か私の書く飯窪さんモチーフキャラは例外なく性格が悪くなるので
ちょっと気をつけるようにはしますw

447名無し募集中。。。:2015/09/04(金) 19:32:38
>>446
大悪魔様だし仕方あるまい

448名無し募集中。。。:2015/09/05(土) 11:36:22
>>445
ちょw

449名無し募集中。。。:2015/09/05(土) 15:25:47
>>447
(しーっ!それもしかしたら後に使う設定かもしれないから俺も言わなかったのに!)

450名無し募集中。。。:2015/09/05(土) 18:46:50
>>449
しまったぁ〜!
とはいえやっぱ思い浮かぶんだな

451 ◆V9ncA8v9YI:2015/09/05(土) 21:30:29
ノハ ; ゚ゥ ゚)

452名無し募集中。。。:2015/09/06(日) 02:19:55
はるなん酷い言われようだなw

トライアングル見てるけどゼータ王がマーサー王に思えて仕方ない…普段は頼りないのにキメる時はキメる感じがイメージ通りだわ

453 ◆V9ncA8v9YI:2015/09/06(日) 16:11:32
ハルナン・シスター・ドラムホールドは、波打つ刃のフランベルジュを右手に持ちながら
正面にいるフクのほうへと走っていった。
彼女がここですべき使命は全部で3つ。
1つは"フク・ダッシュ"を封じること。
1つは"フク・バックステップ"を封じること。
1つは"フク・ロック"を封じること。
要するにフクを強者たらしめる得意技をつぶすことが、勝利に繋がると考えたのである。
現にフク・アパトゥーマはアーリー・ザマシランの超パワーで拘束されることによって
上記の技を出すことができずに無力化されていた。
そこからもハルナンの考えが正しいことがわかるだろう。
そして、「ウェーブヘアー」と名付けられた彼女のフランベルジュならばそれを実行に移すことができる。

(脚をッ!削ぎ落すッ!)

ハルナンのフランベジュは「斬る剣」ではなく「削る剣」。
相手の肉を慈悲なく削り取ることによって、耐え難い苦痛を与えることを目的に造られている。
※製作者はマーチャン
これで太ももやふくらはぎをガリガリと削ぎ落されたらダッシュやバックステップはおろか、
歩くことすらままならなくなるだろう。
そのためにハルナンはフクにぶつかる寸前、姿勢を前傾へとシフトしていく。
走る勢いそのままに足の肉を持っていこうという考えなのだろう。
だが、こう来るであろうことはフクも十分承知していた。

「"フク・バックステップ"!」

きめ細やかな白肌に刃が入れられるよりも早く、フクは後退する。
考えてみればフクはタケの攻撃でさえも難なく回避していた。
となれば狙いのハッキリしているハルナンの攻撃から逃れることなど朝飯前。
しかもフクにはその先までもが見えている。

「隙だらけだよハルナン……"フク・ダッシュ"!!」

奇襲に失敗したハルナンは、帝国剣士団長とは思えぬほどに無警戒だった。
これではまるで攻めてくださいとでも言っているようなもの。
だからこそフクは容赦のない全力の体当たりをぶつけることにした。
二人の体重差からしてハルナンがその場に踏みとどまることなど当然できるはずもなく
大袈裟なほどに吹き飛ばされてしまう。
向かう先はフクとハルナンの延長線上にある「ねじれた鉄扉」。
結果、ハルナンの細身は硬い扉に激しい勢いで衝突し、ゴオンといった派手な音を鳴らしていく。

「くぁっ!……ぐぅぅぅ……あああああああぁああ!!」

フクに体当たりされたせいか、鉄扉にぶつかったせいか、それものその両方が辛いのか
ハルナンは必要以上に大きな叫び声をあげていた。
たった一瞬すれ違っただけでこれだけの醜態を見せるハルナンはやはり団長レベルとは言い難い。
そして、それは同時に帝王としての器でないということも示している。
フクは心を鬼にして、ハルナンに引導を渡す決意する。

「ハルナンもう終わりにしよう……私が終わらせてあげるから。」

454 ◆V9ncA8v9YI:2015/09/06(日) 16:12:44
トライアングルはDVD出たんですよね。
はやく見たい……

455名無し募集中。。。:2015/09/06(日) 18:13:05
俺はハルナンを応援するッ!

456 ◆V9ncA8v9YI:2015/09/07(月) 01:54:57
多くの帝国剣士らが訓練をサボっていた時期でも、フクとハルナンらは休まずに修練に励んでいた。
一騎打ちの模擬戦を数多くこなしてきたということもあって、フクはハルナンの実力を大体把握している。
どう仕掛ければどう動くのか、どれだけ痛めつければ気を失うのか、手に取るように分かるのだ。
そんなフクが、勝利が近いことを確信している。

(ハルナンじゃ私の突進に耐えられないことは分かっていたよ。
 その細身で鉄板に叩きつけられちゃ、もう自由には動き回れないよね。
 後は私の"サイリウム"で決めさせてもらう!)

フクは桃色に輝く装飾剣「サイリウム」を強く握りしめ、地を這うハルナンへと向かっていった。
動けぬところに確実に振り下ろせば勝利は確定。そのはずだった。
ところがここでハルナンは立ち上がる。
生まれたの小鹿のように頼りなさげではあるが、己の足で確かに自立していたのだ。
この時点で想定を越えられたわけだが、フクは特に狼狽したりはしなかった。

(そうか、ハルナンにも譲れないものがあるんだね……)

どんな人間でも窮地に立てば実力を越えた能力を発揮可能であることを、
フクはこれまでの戦いを経て学んでいたのだ。
となればここでハルナンが根性を見せて立ち上がろうと全く不思議ではない。
大事なのは、心の柱をへし折るだけの追い打ちを今から掛けることだ。

(凄いよその思い。感動する。でも私の思いだって全然負けてないんだよ!
 何回起き上がっても、何十回何百回立ち上がっても倒してあげるんだから!
 "フク・ダッシュ"!!!)

つま先に、足首に、すねに、ふくらはぎに、そして太ももに力を入れて
それを一瞬のうちに開放することで爆発的な加速力を発生させる。
これがフク・アパトゥーマの"フク・ダッシュ"
もはや本日何発目の発動かは覚えていないが、相手が耐える限りは何発も放つつもりだ。
真正面にいるハルナンめがけて超高速で突っ走って行く。

「そう来ると思いましたよ、フクさん」
「!?」

この時、フクの想定を大きく上回る出来事が起こった。
ダッシュで特攻した先にはすでにハルナンは居なかったのだ。
トリックのタネはなんでもなかった。フクとの衝突より先に回避行動に移っただけである。
実は思ったより普通に動けたハルナンが、思ったより早くスタートを切っただけのこと。
帝国剣士や一般兵らの間ではフクの"ダッシュ"ばかりが凄いと持て囃されているが、
実際のところハルナンの"スタート"もなかなかのもの。
瞬発力などではなく、頭の回転の速さで"スタート"を切れたからこそ、最悪の事態を回避できたのだ。

「しかも、その先はとても危険ですよ。」

ハルナンを打ちのめすことを第一に考えていたフクは、今回ばかりはその先が見えていなかった。
本来の目的地のちょっと先には「ねじれた鉄扉」が存在する。
超のつくほどの加速がついたフクのダッシュが急に止まれるはずもなく
そのまま全身でぶつかってしまう。
体重の違いか、衝突時の扉はハルナンの時よりも大きな音を響かせていた。

「あぁっ!!……」

フクはハルナンのことをよく知っているようだったが、
裏を返せばハルナンだってフクのことをよく知っている。
どのように振る舞えばコロッと騙されるかくらいは簡単に分かるのだ。
そして、慎重派のハルナンはフクを鉄扉に衝突させた程度ではよしとしなかった。
敵の攻撃を安全に避けたというのに、激痛に苦しむ演技をし始めたのだ。

「痛い痛い痛い痛い!!ああああああああ!!!いやああああああああ!!!」
「!?……ハルナン、何を……」

フクには狼狽えていた。
ハルナンの行動が意味不明すぎて、どうすれば良いのか処理しきれなくなってしまったのだ。
だが、じきにこの謎行動の真意に気づかされることになる。
背筋どころか全身が凍り付いてしまうくらいの絶望と引き換えに。

457名無し募集中。。。:2015/09/07(月) 02:43:10
ハルナンが怖いわマジでw

458名無し募集中。。。:2015/09/07(月) 23:23:25
さすがハルナン!ゾクゾクするww
作者さんも毎回飯窪さんメインの時は楽しんで書いてる気がするよw

459 ◆V9ncA8v9YI:2015/09/07(月) 23:32:27
ハルナンは丁寧に条件を整えていた。
自分とフクの計2回も鉄扉に衝突するよう仕組んだのも、
大袈裟なほどに大きな声で周囲に苦しみを訴えたのも、
全てはあの人に知らせるため。
そして、SOSのメッセージは今まさに到達する。

「ハルナン!!!そこにいるの!!!」

扉の向こうから急に声が聞こえてきたのでフクは驚いてしまう。
そして同時に嫌な予感を感じていた。
その声の主が何やら凶悪な存在に思えてならなかったのだ。

「ハルナン!今行くからね!すぐ!すぐにこの扉をブチ破ってやるからね!!!」

興奮したような声が鳴り止むよりも早く、
ガン!ガン!ガン!と言った3つの音とともに扉の一部が盛り上がっていく。
フクには分かる。この硬い扉は素手で殴って凹むようには出来ていない。
このように形状を変化させるには鉄の塊をぶつける他に手段は無いだろう。
そう、まさにタケが武器とする鉄球のようなものが必要不可欠なのだ。

(じゃあ扉を壊そうとしているのはタケちゃん!?
 いや、タケちゃんはあんな声じゃ無い。
 なんだっけ、この声、どこかで聞いたことあるような……)

フクが考えるスピードよりも、扉がぶっ壊れるスピードの方が早かった。
鉄製の頑丈な扉ではあるが、考えてみればこうなるのも当然だ。
これまでマイミの怪力で捻じ曲げられたり、
フクダッシュで吹き飛ばされたハルナンがぶつかったり、
それより体重の重いフクが衝突してたりしていたのだ。
そこに何発も鉄球をぶつけられたら、流石に破損するに決まっている。
しかも球を投げた張本人は、食卓の騎士に最も近い存在と言われる怪物。
感情が爆発した時の投球は、タケ・ガキダナーの豪速球をも凌ぐと言われている。

「ハルナン!!怪我してるの!?誰にやられたの!!……こいつがやったの?」

その怪物に睨まれたフクの全身は凍りついてしまった。
ここで彼女は直感した。
今回の戦いでの最大の強敵はハルナンなどではなく
今しがた目の前に現れたこの相手だということを、理解する。

「あなたは……アヤチョ・スティーヌ・シューティンカラー……
 アンジュ王国のアヤチョ王……」
「あなたは……だれ?ハルナンを虐める子は死刑だよ。」

460 ◆V9ncA8v9YI:2015/09/07(月) 23:35:09
確かに楽しんで書いているのは否定できませんw

461名無し募集中。。。:2015/09/08(火) 00:01:29
アヤチョキター
ガンガンガンw

462名無し募集中。。。:2015/09/08(火) 00:13:26
某鍋スレを彷彿させるなw
てかマジ恐ろしいのはハルナン知略…

463名無し募集中。。。:2015/09/08(火) 16:36:14
ジョジョ3部でDIOがわざとブン殴られてジョセフのとこへ飛んだ時を彷彿とさせるね!

464名無し募集中。。。:2015/09/08(火) 18:33:14
ハルナン恐ろしい娘・・・!!

465 ◆V9ncA8v9YI:2015/09/09(水) 12:51:36
アヤチョの身なりはボロボロで酷いものだった。
肌を包む衣があちこち破けているのもそうだし、
何よりもマロ戦での負傷がとても痛々しい。
アザや腫れだらけの姿からは、扉をぶち壊したようには到底見えなかった。

(でも、凄い威圧感……!)

ハルナンがアヤチョと仲が良いことはフクも知っていた。
また、アヤチョ自身の武力の高さも耳に入れていた。
だが、ハルナンのためともなれば壊れた身体を酷使してまで戦おうとする執念までは
さすがのフクも知らなかったのだ。
先ほどアヤチョは死刑と言ったが、その言葉はただの脅しなどではないのだろう。
愛と狂気に満ちたその目が物語っている。

「ダメよアヤチョ、殺すのだけはやめて」
「ハルナン!」

さっきまで苦しんでいたハルナンが、平気な顔をしながらアヤチョにお願いをする。
ハルナンの驚異的な回復力にまったく疑問を抱くこともなく、
アヤチョはニコニコしながら返答する。

「うん、分かった!アヤとハルナンの約束だもんね。
 痛めつけて、懲らしめるくらいにしておくね。
 ほら、そこで寝てるあの子達みたいな感じ!見て見て!」

そう言いながらアヤチョが指差す先を見たフクは、心臓が破裂しそうなくらいに驚いた。
そこではフクの味方になったタケ、カナナン、メイの3名が血だらけで倒れていたのだ。
彼女らがどうして作戦室の中にいたのかは分からないが
アヤチョ1人の手でやったと思うと戦慄してくる。

「あの3人……アヤチョ王が傷つけたんですか」
「え?そうだよ!」
「どうしてそんなことを!」
「どうしてって?だってあの子たち裏切ったんだもん。」
「貴方の国の戦士じゃないんですか!仲間……そう!仲間なのに!」
「え〜?仲間じゃないよ〜」
「!?」
「アヤの仲間はこの世にハルナンただ1人。それ以外は全て敵。」
「そんな……!」

466名無し募集中。。。:2015/09/09(水) 12:56:39
フルスロットルのアヤチョは恐ろしい

467名無し募集中。。。:2015/09/09(水) 14:56:46
また鬼神あやちょがみれるのか!?

468名無し募集中。。。:2015/09/09(水) 15:32:06
アヤチョこぇぇ

469名無し募集中。。。:2015/09/09(水) 18:45:10
ぶっ壊れてる…
これで王なんだからすごいわ

470 ◆V9ncA8v9YI:2015/09/10(木) 13:00:02
「許せない……」
「ん?」
「こんなことが許されていいわけありません!」

フクの年齢はアヤチョ王よりもやや下ではあるが
この時の激怒した姿は、まるで生徒らに指導をする監督生のような迫力があった。
(隣に鞭を構えたお姉様がいれば完璧だ。)
本来守らなくてはならないはずのタケ達を痛めつけたことが
普段滅多に怒らないフク・アパトゥーマの琴線に触れたのである。
もっとも、アヤチョの考えがすべて理解できないという訳ではない。
狂信的とはいえハルナンを愛することは良きことだし、
大切な存在のためなら何だってしてやろうと思うことはフクにだってある。
フクにとってのエリポン、サヤシ、カノンがアヤチョにとってのハルナンなのだろう。
だが、フクは自国民を憎むべき敵とみなしたことは一度たりともない。
形式上ハルナン達とは敵対してしまっているが、そこに悪意や殺意がある訳ではないのは明らかだ。
どちらかと言えば「守りたい」という思いが強いからこそ戦っている。
一方、アヤチョは自分の口からも言った通り、国民への愛情はこれっぽっちも無いようだ。
一国民ならばそういう考えを持つ人もいるかもしれないが
アヤチョはアンジュ王国の王なのだ。
王がそんな考えでは国が持たない。
大勢が不幸になる。

「アヤチョ王……あなたは私の越えるべき壁なんですね。」
「え?ん?何言ってるの?」
「あなたを正すこと、それが私が王になるための第一歩です!」

モーニング帝国の帝王になりたい。
フクがそう強く願うのは、これがはじめてのことだった。

471名無し募集中。。。:2015/09/10(木) 20:17:15
はい!お姉さま!

472名無し募集中。。。:2015/09/10(木) 20:27:53
フク覚醒だな…サユ卒コンを思い出す

473名無し募集中。。。:2015/09/11(金) 01:43:50
頂上決戦か

474名無し募集中。。。:2015/09/12(土) 13:03:12
作者さん大丈夫ですか

475 ◆V9ncA8v9YI:2015/09/12(土) 15:07:52
すいません、今夜あたりには書けると思います。

476名無し募集中。。。:2015/09/12(土) 15:12:03
良かった
雨の被害にあわれたのかと

477 ◆V9ncA8v9YI:2015/09/13(日) 02:29:26
次の瞬間、フクの身体は動き始めていた。
王として国民を愛することこそが何よりも大事であることを示すために
愛国心の象徴である装飾剣「サイリウム」で斬りかかる。

(私が国を思うときはいつでもこの剣を振ってきていた。
 愛する組織のために一心不乱に振り続けるこの思い、少しでも分かってほしい!)

フクは先手必勝とばかりに"ダッシュ"を仕掛けた。
いま彼女にできるのはダッシュしかない。だがそのダッシュに絶対的な信頼を抱いている。
目の前に立ちふさがるアヤチョ王がいくら「食卓の騎士に最も近い存在」と言われていようが
今現在のその姿は風が吹けば倒れるくらいに満身創痍に見えている。
全力ダッシュからのサイリウムの振りをぶつければ打ち破れるはずに違いない。

「フクさん、私もいること忘れてませんか?」
「!」

フクがアヤチョに到達するよりも早く、ハルナンは"スタート"を切っていた。
先ほど壁にぶつかった際の苦しむさまや、日ごろフクに見せていた極端な貧弱さは演技であったために
ハルナンにはまだ戦う余裕が残されていたのだ。
とは言っても激痛を感じたことや、骨に異常をきたしていることは事実であるために
一人でフクを迎撃するなんて大層なことは決して考えてはいなかった。

(私がすべきはフクさんを減速させること。ただそれだけ。)

アヤチョを守るように、フクの前に立ちはだかったハルナンは
また先刻と同じように相手の足を削り取るため、フランベルジュ「ウェーブヘアー」を低く構えている。
このまま足を破壊できれば上出来だし、例えここでバックステップをされてもフクを減速させること自体は成功する。
要はアヤチョへのMAXパワーの突進を防止することがハルナンの役目なのだ。
欲を言えばはじめに定めたようにダッシュ・バックステップ・ロックの3つを封じてからアヤチョに引き継ぎたかったが
いざ戦況がこうして進んでしまっているのだから仕方はない。
それにいざとなれば自らタックルでもぶつけてフクのスピードを低下させる覚悟だって持ち合わせている。
隙さえ作れば後はアヤチョがなんとかしてくれる……ハルナンはそう信じていたのだ。
だがハルナンは分かっていなかった。
アヤチョがどれだけ規格外の存在であるのか、
そして、どれだけハルナンを愛しているのかを、だ。

「ハルナン危ないよっっっ!!!!!!」

気づけばアヤチョはフクとハルナンの間に入っていた。
それはつまりフクのダッシュよりも、ハルナンのスタートよりも、速く動いたということ。
信じられるだろうか?いや、仮に信じられないとしても信じてほしい。
このアヤチョはハルナンを危機から守るためであれば、自分を守るよりも速く反射神経が働くのだ。
そしてその時は全身の痛みすらも忘れてしまう。
自国の裏番長との闘いで骨折したことも忘却して、折れた右腕をフクの胸へと強く叩きつける。
高速のダッシュに対して、それよりも速いカウンターを見事に決めた形になるので
その威力は甚大だった。

「あぁっ!!」

二人の体重差なんてなんのその。
フクは鎖の千切れたサンドバックのように遠方へと飛ばされてしまう。

478 ◆V9ncA8v9YI:2015/09/13(日) 02:30:33
>>476
なるほど、確かにタイミングが一致してましたね><
これ以上ご心配をおかけしないためにも、更新頻度をあげたいと思いますw

479名無し募集中。。。:2015/09/13(日) 09:23:32
アヤチョの愛が重すぎる…そりゃ実際の体重さも関係ないねw

480名無し募集中。。。:2015/09/13(日) 14:32:47
アヤチョ「残影拳!」

481 ◆V9ncA8v9YI:2015/09/14(月) 02:32:09
アヤチョが己の身を挺してハルナンを救ったのは、今回で二度目だ。
マロの放った凶弾を身代わりで受けた事件は記憶に新しいだろう。
テンションの上がり下がりによって強さが変動するアヤチョにとって
ハルナンの苦しみこそが最もテンションの下がる出来事であり、
何よりも回避したいと考えているのである。
つまり、彼女の頭の中が100%すべてハルナンである限りは
どんな攻撃からであろうと守る覚悟ができている。

「そういえばカノンちゃんがこんなことを言ってたっけ
 "私の愛を軽くみるな"……まさにその通りだよね。」

アヤチョは蹴り飛ばしたフクに向けて、己の思いをつぶやいた。
雷神の構えから放たれる蹴りは高速・高威力であるため、
余程のことがない限りはもう立ち上がることが出来ないはずなのだ。
しかし、アヤチョは一つの違和感を覚えていた。
蹴った時の感触が、どうやらいつもと異なっていたのだ。

(柔らかい?……なんか、すごく柔らかかった……)

普段はアンジュの番長らを蹴っ飛ばしているアヤチョにとって
敵の胸に、相当なクッション性があったのは初めての体験だった。
その秘密の正体は言うまでもなく、フクの胸の脂肪の厚さによるもの。
おかげでフクは激痛を感じながらもなんとか気を失わずに済んでいた。

「はぁ…はぁ…なんとか、耐えたかな……」

"耐えた"とは言ってもかなり息苦しいし、打った背中もひどく痛い。
だがフクは立ち上がることが出来た。
ここでギブアップしてしまえばすべてが終わることを理解しているからこそ、立てるのだ。
それを残念に思ったハルナンが、アヤチョに声をかける。

「へぇ……あの蹴りを受けても立てるんですね。」
「ハルナン、あいつ結構しぶといね。」
「でも大丈夫だよアヤチョ、いやアヤちゃん。立てなくさせる策はあるから。」
「え!やっぱりハルナンは凄い。どんな作戦!?」
「なんてことないよ、ただ私が足を削りにいくだけ。」

ハルナンは完璧に理解していた。
自分がどんな危険な行動をとろうと、アヤチョが必ず盾になってくれることを。

482名無し募集中。。。:2015/09/14(月) 06:38:11
なんかハルナンがどんどん邪悪になっていってるんだが…w

483 ◆V9ncA8v9YI:2015/09/14(月) 12:55:11
あ!アヤチョは蹴りではなくてフクを殴り飛ばしてましたね。
すいません訂正します。
アヤチョの損傷箇所は大事なポイントなので……

484 ◆V9ncA8v9YI:2015/09/14(月) 12:59:06
アヤチョとハルナンが次に取った行動は「並走」だった。
立つのがやっとなフクを仕留めるために、二人掛かりでやって来たのである。
どちらかが先に来てくれればフクも対処のしようがあるが、この二人の走行速度はまったくの同じ。
この完全なる並走を実現できているのはハルナンによる力が大きかった。
アヤチョを普通に走らせて、そこから少しの狂いもなくついていく技術をハルナンは持っている。
「人に合わせる」能力において、彼女の右に出るものはいないのだ。

(アヤチョ王とハルナン……どっちを気にしたらいいの!?)

2人が迫ってくるまでのわずかな時間ではあるが、フクは必死で考え抜いた。
一見したら血だらけ且つ素手のアヤチョよりは、フランベルジュを握るハルナンの方が脅威に見えるが
ご存知の通りアヤチョ王は何をしでかすのかまったく読めたものではない。
となればアヤチョの方をまず先に仕留めるのが得策だ。
フクは2人が近づいてきたタイミングで、アヤチョに装飾剣を振るう。

「はぁ!!」

斬撃を放つと同時にハルナンの刃が太ももをえぐる感触があったが、フクは気にしない。
激痛ではあるが今はアヤチョに集中すべきなのだ。
サイリウムによる一撃を叩き込みさえすれば、残りの敵はハルナンただ一人になるのだから。

485名無し募集中。。。:2015/09/14(月) 22:03:15
やっぱりハルナンのような権謀術数に長けたキャラがいないと盛り上がらんよね!

486 ◆V9ncA8v9YI:2015/09/15(火) 13:14:18
結論から言って、アヤチョを切ることを選んだのは失敗だった。
盾も鎧も持ち合わせていないので、一見して斬撃から身を守れないようには見えるが
彼女には「折れた右腕」といった武具がちゃんと備わっていた。
もはや感覚の通っていない腕を鞭のようにしならせ、
雷神の速さで装飾剣の腹へと強く叩きつける。
こうすれば己への攻撃は全て遮断することが出来るのである。
こんな芸当、常人には当然不可能な動きではあるが、
自身を神と同化させている(と思い込んでいる)アヤチョには可能なのだ。

(素手で防がれた!?……じゃあ次は!)

このままアヤチョの攻撃を受けてはまずいと思ったフクは、バックステップで後退する。
つい先ほどハルナンに傷つけられた太ももが強烈な悲鳴をあげてはいるが、
少し退くくらいならばなんとか出来ていた。
そして後方に着地するや否や、痛む脚も気にせずハルナンの方へとダッシュし始める。
アヤチョには攻撃が簡単には通らないことは十分わかったので、標的をハルナンへと変えたのだ。
コンマ数秒のうちに切り替えられるバックステップとダッシュに対応できる人間なんてそうそういない。
これでひとまずはハルナンを撃退できるとフクは考えたのだろう。
だが、その判断はアヤチョの愛を軽く見すぎているとしか言えなかった。
どんな状況だろうとアヤチョの反射神経はハルナンを守ることを第一としている。
ほんの僅かな隙間しかないが、アヤチョはフクとハルナンの間へと入り込んでいく。

「危ない!!」
「ま、また!?」

アヤチョの表情は必死、フクの表情は驚愕。
そしてハルナンの顔には微かな笑みが浮かんでいた。
彼女はアヤチョと並走すれば絶対に自分が傷つくことはないと知っていたのである。
たとえフクがハルナンに攻撃を仕掛けたとしても、
とても信頼できるアヤチョが必ずや身を挺して守ってくれる。
よってハルナンはノーダメージで一方的にフクを切り付け続けることが可能なのだ。

(ありがとうアヤちゃん。でも苦しいでしょう?……すぐに終わらせてあげるからね。
 私の刃をもっと深くまでフクさんに入れれば……それでおしまい。)

487名無し募集中。。。:2015/09/15(火) 15:11:24
ハンナン恐ろしい子!!


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