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SSスレ「マーサー王物語-サユとベリーズと拳士たち」

405 ◆V9ncA8v9YI:2015/08/20(木) 13:00:11
泣きじゃくるだけならまだしも、一般兵らに当たり散らすハルの姿はあまりにも見苦しかった。
そして、サヤシ・カレサスはその態度にひどく憤っている。
モーニング帝国剣士に選ばれる者は例外なく一騎当千の実力を持つと言われているが
それにあぐらをかいて、あたかも自分が神の如き存在と錯覚するようでは三流だ。

「上に立っていいのはサユ王ただ一人じゃけぇ……勘違いも甚だしい。
 もう喋るな。喚くな。ハルが表に出るだけで帝国剣士のイメージが下がりよる。
 じゃから、ここで寝てろ。」

サヤシは腰につけた鞘に手を当て、居合の準備を始めた。
殺すつもりは無いが、穏便に済ますつもりもさらさらない。
これは脅しなどではないことは誰の目にも明らかだった。

(サヤシさん……マジかよ……)

腰の抜けたハルは避けたくても避けることが出来ない。
ゆえに、これから起こりうる悲劇を想像すると更に涙が溢れてくる。
そうして怯えた結果、ハルが絞り出したのはたった一言の懇願だった。

「……助けて、お願い。」

今更命乞いをしてももう遅い。サヤシの抜刀はもう止まらない。
ハルの薄皮を切り裂くために、居合刀は走り出している。
これさえ決まればもうハルは生意気な口を聞けなくなるだろう。
だが、サヤシは一つ勘違いをしていた。
「助けて」の言葉が自分への嘆願であると思い込んでいるが、
そのメッセージは実は他の人物へ送られたものであり、
その人物もしかと受け取ったことをサヤシは知らなかった。

「ハル様!危ない!!」
「!?」

ハルを護るために刀の前に立ちはだかったのは一人の男性兵だった。
実はこの人物は先ほどハルに竹刀で滅多打ちにされた老兵であり、
そんなハルを護るために立ち上がったのである。
意外すぎる邪魔者の登場にサヤシは慌ててしまう。
このままだと無関係の老兵を殺してしまうかもしれないので、必死に刃の軌道を修正する。

「な、なんじゃあ、いきなり!」

幸いにも斬撃は老兵の太ももを傷つける程度で済んだが、
目の前にはサヤシにとって信じられないような光景が広がっている。
なんと、ハルに馬鹿にされていた男性兵たちが集結して
ハルを護るように囲んでいたのである。

「ハル様を泣かせる者はサヤシ様でも許せません!」
「どうしてもと言うなら我々を全員倒してからにしてください!」
「ハル様のお役に立つのが我々の使命ですから!!」

サヤシは大混乱し、ハルもキョトンとしている。
帝国剣士同士の戦いに一般兵らが割って入ることなんて前代未聞。
それも嫌われていると思われたハルの側につくのだから事態は複雑だ。
だが、実情は案外シンプルなもの。
みんながみんな、ただハルを護りたいだけなのである。
小生意気だけど、ハルは可愛いのだから。

「ジッチャン達……ありがと。」

ハニカミながらも礼を言うハルを見て、彼らの士気は最高潮になる。


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