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SSスレ「マーサー王物語-サユとベリーズと拳士たち」

422 ◆V9ncA8v9YI:2015/08/25(火) 09:02:18
「……ッ!!」

ハルの一撃はサヤシの腹にズシンと響いた。
通常であればこれくらい耐えきることは容易いのであるが、
いかんせん今は他に集中せざるを得なかった。
ゆえにハルの胴打ちに意識を飛ばしてしまう。
仮の話にはなるが、サヤシのお腹にもう少しだけ脂肪がついていればそれが防具の代わりになったかもしれない。
つまるところサヤシは細すぎたのだろう。

「やった……ハルが、ハルが勝った!」

絶対的な強者への勝利に、ハルは痛む拳をぎゅっと握った。
それだけにこの一勝が嬉しいのだ。
だがすぐに、自分一人で得た白星ではないことに気づく。

「ジッチャン達のおかげ、だよ。」

ハルはハニカミながら男性兵達に礼を伝えた。
彼らも雄叫びをあげながら今回の勝利を喜んでいるようだ。
始めは自分らの将の勝利に興奮しているかもと思ったが、
よく話を聞いてみるとそうではなかった。

「よし!これでサヤシ様はもう動けない!触りたい放題だ!」
「あぁ!責任は全部ハル様がとってくれるらしいからな!」

ハルは開いた口が塞がらなかった。
そして男の劣情を軽蔑するように怒鳴り散らす。

「ダメだダメだ!サヤシさんに指一本触れることはこのハルが許さないからな!!」
「ええ!?話が違うじゃないですか!」
「ハルが勝ったんだからその約束はおしまいなんだよ!普通わかるだろっ!」
「しかし……」
「上官の言うことが聞けないのか!もう口を聞いてやらないぞっ!」
「ぐ、ぐぅ……」

ハルは元よりサヤシの身体を男性兵に触れさせるつもりはなかった。
サヤシの剣術ならば当然凌ぎ切れると信じていたし、
勝利後はハルの鶴の一声でジッチャン達は止まると踏んでいたのだ。
そして実際にその通りになった。
ハルに「口を聞いてやらない」と言われたら彼らは従うほかないのだ。

「まったく、早くアーリーちゃんに加勢しなきゃならないってのに……」

ハルは同志であるアーリー・ザマシランのことを気にかけていた。
彼女の作り出す檻はどんな相手だろうと拘束するが
ジュースの効果が切れたら動体視力が戻ってしまって危険な状態になると聞いていたのだ。
まだタイムオーバーには遠いが、早期に助けるにこしたことはないとハルは考える。

だが、すでに遅かった。

「ハル、ちょ〜っと調子乗りすぎやなかと?」
「そ、そんな……」

ハルの目の前に立っていたのはエリポンただ一人だった。
血まみれになってはいるが、怖い顔をしてハルを睨みつけている。
そしてその足下には、刀で斬られたような傷を負ったアーリーがゴロンと倒れていた。

「うそ、だろ……どうやってアーリーちゃんの檻から抜け出したんだ……」
「決まっとぉやん、エリの実力、で。」


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