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SSスレ「マーサー王物語-サユとベリーズと拳士たち」

425 ◆V9ncA8v9YI:2015/08/26(水) 19:41:09
ハルがサヤシを討ち取る数分前。
何があっても体勢を崩さないアーリーにエリポンは難儀していた。
いくら耳障りの悪い言葉を聞かせても、顔を歪めるばかりで檻を解除しようとはしない。
むしろその意志の強さにエリポンの方が参っているくらいだ。

(この子、言われたことはキッチリとやり遂げるタイプか……
 自分でアレコレ考える敵よりも、こういう子の方がやりにくいっちゃね。
 しょうがない、ここは力技でぶち破るしかない。)

エリポンは一気に腰を落とし、アーリーの膝下に斬りかかった。
軽さが売りの打刀「一瞬」が振り下ろされる速度はとても速い。
そしていくらアーリーの腕が長いとは言え、トンファーによる防御はここまで届かないとエリポンは考える。
しかしアーリーの眼はエリポンの初動をしっかり捉えていた。
そのため、エリポンと同じタイミングでしゃがみこみ、不意打ちの刃を防ぐことが出来る。
しかもアーリーのトンファー「トジファー」は二本で一組。
左手のもう一本はエリポンの脳天をカチ割ろうと前進していた。

(やっぱりそう来る!?ならば!)

高速で迫るトンファーを回避することは難しい。
よって、エリポンは避けることを諦めた。
とは言ってもただで受ける気はさらさらない。彼女は頭突きで止める気だ。
トンファーがぶつかるポイントを頭頂部から額にズラす程度の猶予ならある。
後は覚悟を持って、気合いを入れれば耐えることが出来るのだ。
そしたらアーリーだって少しは怯むかもしれない。

「全部、見えてますよ。」

アーリーは衝突直前にトンファーの軌道をちょびっとだけ下げた。
狙いを頭ではなく鼻へと転換したのだ。
鼻への強打を受けたエリポンはたまらず後ずさりしてしまう。
明らかに骨は折れているし、鼻血は多量に吹き出ている。
結果的にエリポンは攻めきれず、反撃まで受ける形になってしまった。

「ぐ……」
「無駄です。血を見るのはあなただけです!」
「馬鹿にしてっ!」

エリポンは悔しくてたまらなかった。
打ち負けたからではない、アーリーが追い打ちをかけないことが悔しいのだ。

(エリにはそこまでする必要が無いってことやろ?
 確かにエリは弱い。アユミンにも競り負けとった。
 でもね、この刀だけは本物やけん……負ける訳にはいかん。)

エリポンは手に持つ刀をジッと見る。
この打刀「一瞬」は彼女が愛してやまない元帝王が使用していたもの。
どうしようもないエリポンに戦いの全てを叩き込んでくれた恩師から譲り受けたのだ。
師のためにも、刀のためにも、エリポンはこれ以上負けを重ねる訳にはいかない。

「使ってみるか……」
「何を、ですか?」
「ガキさんの技を!」


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