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男「お願いだ、信じてくれ」白蓮「あらあら」

407ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/02/25(日) 20:28:48 ID:rVGswkgE
文「なぜあなたがいるのですか」

再度家に入ってきた射命丸は不服そうな顔で俺を睨みつけていた。実際不服なのだろうが俺のせいじゃない。

そもそも白衣男が射命丸と知り合いだなんて知らなかったんだが。

しかし射命丸から見た俺はどうやら白衣男を誑かしたように見えるらしい。

白衣男「俺が招いたんだ」

文「なんでこいつ………この人を? 貴方もあの場にいたでしょう」

白衣男「あぁ、あの場での発言は嘘だ」

男「嘘だ」

ある程度の事情を話すと射命丸は面白いように顔色と表情を変えた。

そして最終的にはがっくりとうなだれ長い溜息をついた。

男「あの場の嘘については他言無用で頼む」

文「さすがに言いふらすほど野暮じゃないですよ。それに言いふらしたとしても詳しい理由が分からないのですからジャーナリスト失格です」

文「私は勘違いで記事は作りますが嘘で記事は作らないのですよ」

それは読者にとってさほど変わりはないのではないだろうか。と思ったがもちろん口には出さない。

408ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/02/25(日) 20:55:21 ID:rVGswkgE
文「それで、未来を知る貴方は次に何をしようというのですか。白衣男さん達を巻き込んで」

ずいぶんと刺々しい言葉だ。巻き込まれたのは俺の方だというのに。

男「紅魔館に行く」

白衣男「紅魔館か。それはなぜだ?」

男「もうすぐレミリアは紅魔館を捨て人間の基地を襲撃する」

男「それを止める」

文「なぜです。人間を襲うのならばなにも問題はないでしょう」

問題はないように思えるだろう。俺たちの目的も人間の打倒なのだから。

しかし今じゃない。まだ紅魔館を巻き込めてない今、紅魔館を孤立させるわけにはいかない。

白衣男「紅魔館に協力を仰ぐことは問題ないとは思うが、あのお子様君主が首を縦に振るかどうか」

男「やってみなきゃわかんないだろう」

にとり「それで、紅魔館はいつ人間の基地を襲うのさ」

それは確か………

男「今日の昼だ」

409ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/02/25(日) 20:58:21 ID:rVGswkgE
みとり「もう…昼」

にとり「うん、昼になるね」

男「………だなぁ」

白衣男「なぁ、文」

文「なんですか、男さん」

白衣男「連れてってやれ」

文「ですよねぇっ! やっぱり私ですか!!」

射命丸が机をばんと叩く。両手で髪を掻き毟ったかと思うとずんずんと俺に向かって近づいてきた。

文「行きますよ」

そして俺の後ろに回り背伸びをしながら羽交い絞めにした。

男「あぁ、なるほ―――」

それを言い終わる前に俺の意識は途切れた。

410以下、名無しが深夜にお送りします:2018/02/27(火) 19:36:10 ID:d5aEZMZo
2週目は上手くやってくれてますね...

411以下、名無しが深夜にお送りします:2018/02/27(火) 20:39:11 ID:6wg6nfMg
四季映姫に触れてくれたのは読者の気持ちを汲んでくれたのだろうか
白衣男の幼馴染とかマジで忘れてた……もう何年前だろう
期待してます!

412以下、名無しが深夜にお送りします:2018/02/27(火) 23:45:57 ID:LJyb7vwM


413ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/03/01(木) 10:45:31 ID:1hiktW4U
目が覚めたとき、地上ははるか下にあった。気圧や空気の濃度の影響によって頭がふらつく。

男「どれくらい寝てた?」

文「ほんの二三分ですよ。人間にしてはずいぶんと回復が早かったですね」

気絶をすることは慣れている。なんてどうも自慢できないことだ。

文「レミリアさん率いる一団は捕捉しました。見つからないように高高度を超速で飛んでますけどあと数分で急降下します」

男「つまり?」

文「苦しいですよ」

こころなしか文が速度を上げ更に高度も上げた気がする。

冬の風が身を裂くように冷たい。まさかとは思うが嫌がらせではなかろうか。

文「では、行きますよ」

数分後、文が合図をし宙を蹴る。それと同時に頭の中を素手でかき混ぜられるかのようなめまいと不快感。

なんとか耐えて見せようと思ったのだが容易く俺の意識は暗闇へと落ちた。

414ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/03/01(木) 11:29:01 ID:1hiktW4U
次に目を覚ました時には冷たい地面に横たわっていた。

はっきりとしない頭のためか周りの音がひどく遠くに聞こえる。

その音は言い争っているような………いや、一方的に捲し立てているだけ………?

だめだ、はっきりしない。とりあえず無理をしてでも起き上がらなければ。

立ち上がろうとし、一度ふらついて顔面から地面へと崩れ落ちる。思ったよりもふらつきが酷い。しかしそれを理由に寝ているわけにもいかない。

男「うぇ……おぇっ」

「大丈夫ですか?」

男「え? ぁあ。なんとか」

話しかけてきた誰かの手を借りてなんとか立ち上がる。あたりを見回すと妖怪に囲まれていた。

「それで、あなたは一体?」

手を貸してくれた人を見る。赤い髪にチャイナドレスのような服装。

たしか紅美鈴さんだったろうか。

少し困ったような顔で俺を見ている。

415ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/03/01(木) 11:37:55 ID:1hiktW4U
男「説明したいからレミリア、さんに会わせてくれないか? それと一緒に射命丸が来たはずなんだけど」

美鈴「射命丸さんなら向こうに」

紅さんが指を指した先にいたのはロープでぐるぐる巻きにされ猿轡をかまされた射命丸だった。

よく射命丸を捕まえられたなと感心していると首筋にひやりとした冷たさと針でつつくような痛さを感じた。

「こいつらのために足を止めることは無意味よ。縛って転がせばいいわ」

美鈴「まぁまぁ咲夜さん、落ち着いてください。話を聞いてあげたって」

咲夜「こいつらが来たせいで今お嬢様と娘様が喧嘩なさってるの。処する理由はあっても許し計らう理由はないわ」

首筋にあてられた何かが更に押し込まれる。すでに痛みは針ほどでなく明確に苦痛になっていた。

男「レミリアさんに会わせてくれ。そのためにここまで来たんだ」

咲夜「お嬢様は忙しいの。それに文屋の仲間ほど信用できないものはないわ」

態度は変わらず言い争っても時間の無駄のように思える。言い争う前に転がされそうだが。

男「レミリアさんに会わせてくれ。レミリアさんは運命が見えるかもしれないが俺には未来が見える」

結局素直に事情を話すしかなく、未来の事についてある程度の情報を話す。

おそらく癪に触れることになるだろうと思ったが咲夜が何かを言おうとする前に小走りで駆け付けたメイド服を着た妖精が咲夜に耳打ちをした。

咲夜「………会われるそうよ。不愉快だけど案内はしてあげる。せいぜい貴方に奪われた時間分の価値はみせることね」

416ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/03/01(木) 14:06:54 ID:1hiktW4U
周りには多数の妖怪と妖精。逃げようにも逃げれそうにない。

もちろん逃げるつもりはないが、いざというときは覚悟したほうがいいのかもしれない。

男「結構いるんだな。紅魔館はそれほど大きくないと思っていたが」

咲夜「………」

答えてはくれないみたいだ。当り前だが警戒されているし、どこか嫌われているように思える。

案内されること数分。長身の男がさす巨大な日傘の下でレミリア・スカーレットは苛立たしそうな顔でこちらを睨みつけていた。

レミリア「あんたが謎の侵入者ね。うちの娘が止めなきゃ今頃あんたは妖怪の餌よ。感謝することだな」

レミリアがくいと顎で指す先にはレミリアの娘(正しくは“この”レミリアの娘ではないが)ウィルヘルミナ・スカーレットがいた。

彼女に視線を移すとスカートの端をつまんで恭しく一礼をした。

レミリア「ナイトウォーカーがわざわざ憎たらしい太陽の下を無理して進んでいるんだ。この苛立たしさを解消してくれるんだろうな? それができなきゃ道化らしく命乞いでもしてもらうわよ」

男「まさかウィルがかばってくれるとはな」

レミリア「なぜ我が娘の名前を知っているのかしら。それも愛称まで」

レミリア「あんたたち関係あるの?」

ウィル「私はないぞお母様」

男「俺はある」

417ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/03/01(木) 14:11:47 ID:1hiktW4U
レミリア「知り合いじゃないのになんで庇ったのよ」

ウィル「そんな運命を感じたから」

レミリア「私の運命にこいつなんていなかったわ」

と言ってレミリアは眉をひそめた。左右に首を振りながら唸っている。何か考え込んでいるように見えるが。

レミリア「私の運命にこいつなんていなかったのよ。何やったのウィル」

ウィル「私は何もしてない。神に誓ってもいいぞ」

レミリア「神に誓える子に育てた覚えはないわよ。じゃああんた何者なのよ」

何者かと聞かれれば答えには詰まる。

種族で言えば人間。立場で言えば寺の保護下。地底と寺に協力を仰ぎこの異変を解決しようとしているもの。

もっと言えば俺は………………

男「正義の味方だ」

418以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/04(日) 12:34:20 ID:8K31NVQU
支援

419以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/09(金) 00:24:14 ID:a4FJnYmg
乙です

420ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/03/10(土) 08:27:51 ID:gbUCXliQ
そうなりたかった。

霊夢の背中を追って、俺は正義の味方になりたかったんだ。

普通に考えれば道化た答えに対しレミリアはその小さな左手を顎に当て考え込んだ。

ウィル「絶対に会ったことない。絶対に知らない。だけど私はお前と会ったことがあるか? なんで私はお前を知ってるんだ?」

続いてウィルも頭をかしげる。ウィルヘルミナに関してはおそらくだがうっすらと前の世界と繋がっているのかもしれない。

もともとこの世界の住民じゃない故に、世界が巻き戻ったとしても完全にその影響を受けているわけではないのだろう。

そういえば彼女はどうしているのだろうか。

レミリア・フランドール・ウィルヘルミナに続く第四の吸血鬼。

吸血鬼でありながらレミリアに隷属するメイド服の名も無き彼女は。

レミリア「何見回してるのよ。逃がすつもりはないし、逃げ場もないわよ」

男「望んで飛び込んだんだ。逃げる気はないよ。ただ予想より妖怪の数が多いなって思ってさ」

レミリア「ふんっ。この私のカリスマにかかれば周囲の困っている妖怪を携えることなど納豆をかき混ぜることよりたやすいわ」

よくわからない例えをしながらレミリアが不敵に笑う。見た目は少女を越え幼女のように見えるがそれでも実力者であり強者なのだ。

まったく、見た目だけでは何も判断できない世界だな。ここは。

421ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/03/10(土) 08:39:11 ID:gbUCXliQ
レミリア「正直なところ仲間になれと言われたところで納得できるだけの材料がない」

レミリア「私は主だから、当り前かもしれないけど付き従ってくれる者達がいるのよ。つまりそいつらの命も私が担ってるってわけ」

レミリア「つまり私の価値はその分だけ重くなるってこと。わかるわよね?」

分かる。上に立つものとして当然の考えだ。上に立つものは立場は上であれど、付き従う皆を背負わなければならない立場。

だが説得をあきらめるわけには―――

レミリア「ま、いいわよ。仲間にはならないけど協力はしてあげる。案内なさいな」

男「!?」

今までの問答をあっさり覆される。いきなりの手のひら返しに隣にいたウィルも大きく目を見開いていた。

レミリア「くすくす。とてもびっくりしたって顔してるわね。その顔が見たかったのよ。あんたなんか偉そうでムカつくし」

レミリアが子猫のようにケラケラと笑う。目を細めにんまりと笑うレミリアの考えが読めなかった。

レミリア「さっきのは理論の話よ。だけど直感はまた別の話。直感はあんたと一緒にいった方が面白いってにやにやと笑ってる。あんたに一つ教えといてあげるわ」

レミリエがぴんと人差し指を立て、唇にあてる。

レミリア「付き従うすべてのものを背負うってことはそいつらを私の一存で我が侭に扱えるってことよ?」

そういって再びレミリアはケラケラと笑い始めた。

422ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/03/10(土) 08:45:32 ID:gbUCXliQ
男「ちょ、ちょっと待て、まだ論議にすら入ってないぞ。全てをすっ飛ばして」

レミリア「あら、仲間に引き入れたいんじゃなかったの?」

男「そうだが、そんなことはまだ言ってないじゃないか」

そう、まだレミリアに対して論議すらしていない。

レミリアの一方的な捲し立てを聞いてるだけで

ただそれが俺の考えを読むかの如く当てているだけで

レミリア「あんた顔にでやすいのよ。仮面でもかぶったらどう?」

ウィル「私仮面もってるぞ」

仮面をかぶったとして、そんな人間が信用されるわけない。いやそういう話じゃなくてだ。

男「直感なんかで、それだけで決めていいのか!?」

レミリア「文句がある奴はぶっとばすわ。物を知らないあんたのもう一つこのレミリア先生が教えてあげるわ」

レミリア「理論なんかすっ飛ばして直感だけで正解を探し当てる能力をね」

レミリア「カリスマっていうのよ」

423ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/03/10(土) 08:52:53 ID:gbUCXliQ
レミリア「咲夜!!」

レミリアが両手を数度打ち鳴らす。すると一度目の拍子で咲夜がレミリアの横に現れた。

いつ消えたのかも気付かなかったがいつ現れたのかも気付かない。

咲夜「お呼びでしょうかお嬢様」

レミリア「全軍撤退〜 目標はどこいきゃいいんだっけ?」

男「え、あ。地底だ」

レミリア「ってことらしいわよ」

咲夜「!?」

能面を被ったかのように無表情だった咲夜の顔が珍しく驚愕に歪む。

なぜそうなったかをレミリアに問うがレミリアの追い払うような手付きで返され咲夜は言葉を失っていた。

結局首を縦に振る事しかできなかった咲夜は去り際に俺を刺すような視線で睨んできたが悪いのは俺じゃない。

ウィル「地底初めて。温泉いこ。お母様」

レミリア「いいわね〜。流水はクソ喰らえだけど、温泉は別よね」

姦しく楽しそうにはしゃぐ二人を見て何か勘違いをしているのではないかと不安になったが、不思議と信頼感もあった。

聖さんや映姫さんとはまた別のベクトルで頼りになりそうだ。

424ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/03/10(土) 10:08:29 ID:gbUCXliQ
レミリアのようにコロコロ変わる進路だったが、結局は無事に事もなく進路を地底へと変えることができた。

ただ進行している妖怪の軍団に手を出せる勢力はいなかったらしく道中事もなく進むことができた。

文「あやや。よくわかりませんがうまくいった、ということでいいんでしょうか」

男「まだうまくいってないよ」

文「と、いうと」

問題はこの後だ。

俺の独断で連れてきたレミリアたちの軍勢。それを受け売れることは容易ではないはず。

男「聖さんはともかく勇儀さんが納得しますかね」

文「なるほど、そういうことですか。まぁ納得はしないでしょうね、こういうのもなんですが地底は結局引きこもりのあつまりですからね」

勇儀さんたちには言わないでくださいよと射命丸が付け加える。言おうとは思わないがあの勇儀の陰口を言うあたり案外不真面目なのだろうか。

425ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/03/10(土) 10:12:03 ID:gbUCXliQ
男「きっとレミリアならなんとかしてくれるでしょうよ」

文「あや? 会ったばかりにしてはずいぶんとあの小娘を信用してるのですね」

男「一番やりやすい相手ではありますよ。カリスマって呼ばれるだけはあって」

文「あの求心力と人心掌握術は見習いたいものです。人妖混合の紅魔館を纏めるだけありますね」

男「たしかに」

各勢力はそれなりの理由があって集まっているものの、紅魔館だけはそうじゃない。

レミリアを楔として繋ぎとめられた一団。レミリアに惹かれたものだけが集まる集団。

寺よりは緩く、地底よりは強固なつながり。そこは不思議と心地が良い。

男「もしもの時は勇儀さん説得してくれないか?」

文「嫌です。自分でしてくださいよ」

だろうな。正直なところあの殺気をまた浴びるのは勘弁したいところだが。

426以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/13(火) 20:56:05 ID:ZRbPQkXI
ちょっとずつ纏まっていってますね。更新乙です

427以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/17(土) 23:25:24 ID:pk8YPUfc
支援

428以下、名無しが深夜にお送りします:2018/04/02(月) 12:52:08 ID:wROZjE9w
支援

429以下、名無しが深夜にお送りします:2018/04/24(火) 16:02:02 ID:CZBxVtF6
いい感じに頑張ってるな
支援

430以下、名無しが深夜にお送りします:2018/06/06(水) 20:29:29 ID:x3dbdAIA
まだまだ待ち申す

431以下、名無しが深夜にお送りします:2018/07/15(日) 02:37:23 ID:K5HsYRfI
支援

432ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/07/26(木) 15:41:09 ID:ArKksw8Y
レミリア「まったく東方の鬼は頭が固いわね。もしかして筋肉で脳みそができているのかしら? もっと私みたいに柔軟性を持つべきじゃなくて? 身内だけで固まるのを良しとするからこんな陰気でかび臭いところで満足するのよ。私をみてごらんなさい、あの憎々しい太陽の下すら闊歩できるナイトウォーカーよ? まさしく私が新時代的」

勇儀「あぁ、そうかい。うちらはあんたみたいなへにょへにょの芯は持ってなくてね。日傘をさして歩くだなんて軟弱な解決策を選ぶ奴はいねぇのよ」

水と油の二人を合わせると火に油を注いだように燃え上がる。そしてその業火に焼かれるのはこの状況を招いた俺で(射命丸はとっくに逃亡した)

近くにいたから連れてきたにとりもすでに泡をはいて気絶しており、役には立ちそうにない。

人を小ばかにした笑みを浮かべぺらぺらと勇儀を嘲笑するレミリアと、こめかみに血管を浮かべそれに返す勇儀。いっそのこと殴り合いでもしてくれたほうが吹っ切れるかもしれない。

ドンッ!!

男「ひぃ!」

腹に響く重音が響く。いまだぺらぺらとまくし立てるレミリアに対し、勇儀が机を叩いた音だった。叩かれた重厚な木製のテーブルは砕けこそしなかったがひびが蜘蛛の巣状に広がっている。

勇儀「地底の連中は逃げねぇ、裏切らねぇ、媚びねぇ。そんな奴らだ。お前らはそれを守れるのか? おい」

レミリア「ふんっ」

シュガッ!!

男「ひぁっ!」

レミリアがその小さなかかとを机に勢いよく落とす。ひびが入っていた机は耐え切れずに細かな破片となり砕け散った。

レミリア「私たちは多種多様。勘違いしないで頂戴。あんたたちが私たちを受け入れるんじゃないの」

レミリア「私たちがあんたたちを受け入れるのよ」

433ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/07/26(木) 15:41:44 ID:ArKksw8Y
話は平行線。だけど交わっているようにも見える。

交わらないのはどちらがどちらの上に立つかでもめているからだ。

それは集団の長として立つものの当然の考え。

すべての責任を自分が負うためにする長の当然の行動。

結論は変わらないのに過程が違うだけで話がまとまらない。

喧々諤々終わらない会話に時間が食われていく。折れない二人によって。

この事態を招いた俺がどうにかすべきなのかもしれないが打つ手はない。

結局ただの傍観者になるのみ。

男「………はぁ」

勇儀「なにため息なんかついてるんだ、男。お前がこいつらを連れてきたんだよな」

レミリア「言ってあげなさい男。どちらが相応しいのか。もちろんカリスマに溢れる?」

男「え?」

434ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/07/26(木) 15:42:26 ID:ArKksw8Y
ため息に業火が引火した。火が一瞬で俺を取り囲む。

どちらが相応しいのか。

心情的にはレミリアのほうが相応しいと思う。

だけど地底の奴らを正しくまとめ切れるかというと不安もあり

つまり簡単に答えは出せない。

それが俺の意見だけどそんな回答をすればおそらく二人の拳が飛んでくるだろう。

苦笑いと冷や汗だけが流れる。俺はただの人間だぞ。未来を少し知ってるだけの。

強くなろうとしてるただの―――

文「あやや! 大変ですよ!!」

男(………ほっ)

この空気をぶち壊したのは珍しく額に汗をかいて飛び込んできた射命丸だった。

突然の乱入に当然のことながら矛先は一瞬で射命丸に向く。そんな二人からの威圧を受け、射命丸は上ずった声を上げたが、ひと呼吸を置いて勇儀の手を取った。

文「見つけたんです! 来たんです!!」

勇儀「なにがだい」

文「はたてとっ 椛がっ!!」

435ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/07/26(木) 16:21:42 ID:ArKksw8Y
会談は中断。はたてが誰かは知らないが、椛がだれかは知っている。

千里眼を駆使した、天才軍師………確かそう呼ばれていたはずだ。

ちらりと見かけたときは鋭く厳しそうな顔つきをしていたが、今は年ごろの少女のように安らかな寝顔を浮かべている。

肌には軽いすり傷が見えるがひどいケガには見えない。

ひどいケガは

はたて「あっはっは。もうだめかと思ったわよ」

右羽が折れているこの少女だ。声をだして笑ってはいるがその笑顔はどこか空虚に感じる。おそらく痛みを我慢しているのだろう。

いくら丈夫な妖怪といえど、この傷が平気だとは思えない。

文「こんな無茶して、死んだらどうするつもりですか!!

はたて「そんなに怒らなくっても。生きてるんだからいいじゃない。それに死んでもあそこから逃げたかったのよ」

はたて「わかるでしょ、天狗連中がどんな奴らかって。あいつらは椛を道具としか見てない。椛の命令には従ってるけど心の中では椛を見下してる。自分より惨めな白狼天狗だから。女だから。そんな理由でね」

はたて「いくつもの戦場を休みなくつれまわせ、そのたび体も心もすり減っていく椛を………私はもう見てられなかったのよ」

はたての明るい笑みが崩れ、憂いを帯びた笑みへと変わる。おそらくこっちが本当の表情で

その嘲笑はどこか自分自身に向けられているように見えた。

436ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/07/26(木) 16:42:04 ID:ArKksw8Y
勇儀「また大所帯になっちまったね」

レミリア「で、これをどうするの? 仲間を裏切って逃げたこの二人を。私なら受け入れるわ」

勇儀「………はっ。こいつらは元から私たちの仲間だ。帰ってきただけなのに受け入れない理由がないだろう」

レミリア「詭弁」

勇儀「なんとでもいいな。それにはたては自分の命を懸けてまで友を守ったんだ」

勇儀「その強さと心意気に惚れなきゃ鬼じゃないね」

レミリア「お涙頂戴に弱いのね。鬼の目にも涙ってやつかしら」

勇儀「減らない口だね」

レミリア「あら、言葉は無限だと思ってたけれど。もしかしてあなたはしゃべりすぎると死ぬ妖怪?」

レミリア「まぁ、そんなことより。あなたは一つ勘違いをしているわ」

レミリア「この子たちは強くない。弱いわよ」

勇儀「………弱くないさ」

レミリア「弱いわ。私が撫でれば死ぬくらいにね。だから守るのよ」

レミリア「私は過保護でね、一度好きになった相手を守ってあげるの。弱者の叫びを強者の雄たけびと聞き間違えるあなたと違ってね。現実での強弱を見抜きなさい。幻想を見続けると現実が犠牲になるわ。あなたはどうなの? この子たち弱者を守れる覚悟はあるの? 強者として」

勇儀「………」

437ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/07/26(木) 16:54:55 ID:ArKksw8Y
はたての言葉と表情に射命丸は言葉を返せなかった。

なぜかは俺にはわからない。はたてが射命丸を非難しているわけでもないのに下を向いて唇をかんでいる。

男「えっとさ、ここで話すよりも先に治療したほうがいいんじゃないのか? 痛いだろ、それ」

はたて「見た目よりは痛くはないわよ」

男「痛いんだな?」

はたて「………………すっごく」

はたてが頷く。当たり前だ。この言葉を素直に受け入れるバカはいない。

きっとこのはたては手足が折れても同じことをいうだろう。心配をかけさせないために。

だけどそれは無意味なことなのに。余計人の心をかき乱すだけなのに。

438ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/07/26(木) 16:59:42 ID:ArKksw8Y
男「射命丸、病院……かなんかに連れて行ってやってくれ」

文「あなたに言われなくてもわかってますよ。はたて」

射命丸が差し伸べた手をはたてが掴もうとして一瞬躊躇していた。すぐに笑顔を作って、射命丸の手をしっかりと握る。

はたて「ありがとう。文」

文「どういたしまして………はたて」

439ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/07/26(木) 17:00:23 ID:ArKksw8Y
文「………あなたは椛をどこかへ寝かせてあげてください」

はたて「変なことしちゃだめよ?」

男「しないって」

はたてはからかうようにくすくすと笑った。

射命丸の肩を借りてゆっくりと射命丸に連れられて行く。引きずっているところを見るとどうやら左足も怪我しているみたいだ。

男「さて、と」

椛に目を向ける。

はたてが命を懸けてまもった相手。

おそらく美しい白髪をしているのだと思うが、今は泥や汚れにまみれ黒く染まっている。

男「……誰かに綺麗にしてもらったほうがいいな」

傷口に雑菌が入ると大変だ。妖怪でもそうなのかは知らないけどきれいにしておくに越したことはない。

自分でやる?

やるわけないだろ。はたてに命を懸けて殺されるわ。

いや、たぶんはたてどころじゃないわ。

440ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/07/27(金) 10:57:12 ID:sET4db6.
誰の元に連れて行けばいいのか。確か河童のにとりが妖怪の山にいたはずだ。射命丸とも知り合いなのだからきっとこの子とも知り合いだろう。

ひかがみと脇の下に手を通し抱き上げる。

抱き上げた体は不思議なほど軽い。意識がないとは思えないほど軽かった。

まるでなにか大切なものが抜けているかのように。

汚れた体は薄暗い地底の闇に溶けていきそうで、俺は少し怖くなって腕に力を込めた。

彼女から小さく吐息が漏れる。

急いで安全なところへ連れていこう。

なにかに奪われる前に。

441ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/07/27(金) 11:07:09 ID:sET4db6.
男「はぁ、はぁ、はぁ」

いつの間にか走っていた。息を切らせて飛び込んできた俺を見て白衣男が目を丸くしていた。

白衣男「! そいつは椛か!?」

男「知り合いか?」

白衣男「あぁ、知りあいだ。しかしなぜここに? 妖怪の山にいたはずだろう」

白衣男に事情を話すと、唸るような声で小さく呻いた。

白衣男「よかった、がまずい」

男「何がまずいんだ?」

白衣男「天狗はご存知の通りプライドが高く性格が悪い! もちろん例外もあるがたいていはそんな奴らの集まりだ。報復がないとはいいきれん」

男「でも、もうこっちは妖怪の山に宣戦布告しているようなもんだしな」

妖怪の山の子供たちはこっちが預かっている。すでに恨みを買っているのだから今更ではないかと思う。

白衣男「子供は子供だ。楯にして交渉を迫らなければそう事にもしないだろう。重要なのは子供たちが連れ去られたことより、その事実が知れ渡ることが問題ということだ。椛の場合消えた事実を隠しておくことはできない。椛が雑兵なら問題はないのだが、一応指揮官という立場にあるものが消えてしまっているからな」

白衣男「まぁ、それは後で考えよう。今は椛の手当てをしなければな。にとり! おーいにとりー? ………みとりー!!」

あ、にとりは気絶したままだった。

442ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/07/27(金) 11:13:50 ID:sET4db6.
みとり「………手当は………終わったわ」

椛をみとりに預けると、その雰囲気に似合わず(と言ってしまっては失礼かもしれないが)テキパキと椛の汚れを落とし、傷の手当をしていった。

みとり「………服は」

白衣男「あぁ、服なら見た感じにとりの服が」

みとり「………見るの禁止」

ズビッ

白衣男「んぎゃーっ!!」

みとりがその細い指を容赦なく白衣男の眼球に差し込んだ。

男「お、おい。大丈夫か白衣おと―――」

みとり「………禁止」

ズビッ

男「言葉で十分ではーっ!?」

どの生物でも鍛えることができない場所を攻撃するのはやめてほしい。

人間、妖怪に限らず共通言語でしゃべっているのなら意思疎通はできるはずなのだから。

443ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/07/27(金) 11:40:05 ID:sET4db6.
白衣男から渡された酒を一口煽る。

酸味を感じる香りで、味は癖のない辛口。飲みやすくはあるがそれ以上に

男「………うっ」

アルコールが強烈だった。

白衣男「鬼が飲む酒を薄めたやつだからな」

白衣男が笑う。

頭がぐわんと揺れ、体中の血管が広がっていくかのような感覚を覚える。

薄めたとしてもかなりの強烈さ。

味は日本酒に近いのに、度数はおそらく焼酎を凌ぐ。

なんてものを飲ませてくれるんだ。

白衣男「さて、一つ聞きたいことがある」

男「なん、だ?」

白衣男「お前はどこを目指す。調和か支配か。この戦いをお前はどう、止める?」

男「俺は………止めないさ、止めるのは―――」

男「れい、む」

444ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/07/27(金) 11:49:59 ID:sET4db6.



















目を覚ます。夢は見なかった。

意識が戻るのと同時に頭痛とめまい、そこからくる吐き気。

状況を思い返すと、白衣男から渡された酒で酔いつぶれたらしい。

あんな酒飲んで平気でいられるか。

445ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/07/27(金) 11:52:56 ID:sET4db6.
星「目を覚ましましたか」

男「ほ、星さん!?」

気づかなかったが俺は布団に寝かされていたらしい。

正座をしてこちらをのぞき込む星さんの隣でナズーリンが呆れて俺を見ている。

ナズ「酒を飲んで倒れた君を、酒屋のとこの甲冑をきた変な奴が連れてきてくれたんだよ。まったく酒に飲まれるというのは愚かな行為だ。恥を知り給え恥を」

男「あれは、なんというか騙されたに近いな。注意してなかった俺も俺だけど」

覚えているのはこの戦いの終わり。

現実的に考えれば俺たちで戦いを終わらせるが正しかったのだろう。なのになぜか脳裏によぎったのは孤独に戦う霊夢の姿だった。

男「………なぁ、星さん。ナズーリン」

星「はい、なんでしょう」

ナズ「なんだい」

男「俺、頑張るよ。頑張ってみんなのために頑張るから」

ナズ「それは当たり前のことだ。そんな当たり前のことを今更口に出す必要はないね」

星「ナズーリン」

ナズ「でもまぁ。覚悟を決めないものを愚者と呼ぶなら、君はどうやら愚者よりはましのようだね」

446以下、名無しが深夜にお送りします:2018/07/27(金) 21:58:07 ID:ye1INuKg
キターーーー!!!

447ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/08/02(木) 13:53:14 ID:dMRob1y2
ナズーリンが珍しく褒めてくれた。照れ隠しの悪態を交えながらだけれど。

その頬はかすかにだが赤く染まっており相変わらずのその性格がほほえましく感じる。

星「あなたは今まで頑張っていましたね。そしてこれからも努力をすると誓いを立てました」

星「そんなあなたに対し私はなにもしてあげられないことを歯がゆく思います」

ナズ「相変わらずご主人は自分を責めるのが得意だね。こいつはご主人様に救われているよ。救われていないとは言わせないさ。ねぇ」

男「星さんには助けられてもらってばかりです。俺を信じてくれて、支えてくれて。なにもしてないだなんてそんなことありませんよ。感謝しています。ナズーリンにも」

ナズ「なっ、ふ、ふんっ! ずいぶんと殊勝な態度だね。気絶をして少しは素直になったのかな?」

事実だ。今まで俺の助けになってくれた人すべてに感謝をしている。だからこそみんなを助けたい。その数がどんどん膨れ上がっていつか抱えきれなくなる時がくるかもしれないが、それでも今は助けれる人を助けていたい。

ナズーリンに言わせれば甘い節操なしの人間らしい。長い時を生きてきた妖怪からみればその通りなのかもしれないがそれでも俺は人間らしく、無茶を無茶と思わずに刹那的でもいいから生きていたい。

なんでもない人間の俺が唯一人生に意味を持てるのが今なんだから。

448ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/08/02(木) 14:14:40 ID:dMRob1y2
次の日のことだった。

俺はあんな酒を飲ませてきた白衣男に文句の一つでも言ってやろうと息巻いて白衣男がいる酒屋へと向かった。

しかし白衣男はおらず、代わりにいたのは河童のにとりだった。

今の憤りをにとりに熱く話すがにとりは困惑するばかりで、この思いに同調してくれやしないし、この気持ちをぶつけるべき相手の居場所もしらない。

それどころか射命丸達や甲冑を付けた人もおらず、みとりは家の奥に引きこもっているらしい。

男「ったく。あれは絶対わかってやってたな。酔いは良くも悪くも人の本音を引き出すがだからと言って自白剤的な使い方をするとは人間の考えとはおもえん」

にとり「は、あはは………。えっと君の気持ちはよぉくわかったけど、それを私に話されても困るというか、なんというか。いや盟友の話を聞くのが苦痛ってわけじゃないんだよ? えぇっと、なにがいいたいのかというと………えと、あはは」

男「言いたいことがあるならはっきりと言ったほうがいい時もあるぞ。嘘も方便でよく使うこともあるが」

素直に言っていけない場合のほうが多いとは思う。

にとり「君ほど度胸はないんだよぉ………。というか君はお世辞でも強いとは言えないのにその強者に立ち向かっていく意思はどこから湧いてくるのかなぁ。鬼に吸血鬼にあの尼に。
まるで自分の命がいくつもあるかのように………人間なんだよね?」

男「どこからどう見ても人間だろう」

にとりも一見人間に見えるし、幻想郷の妖怪は人間にしか見えないものも多い。なので人間らしい見た目というと疑問がわくが、今までの人生の記憶からして妖怪ではないことは確かだ。

449ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/08/02(木) 14:32:32 ID:dMRob1y2
あ―――ただ

男「そうだ。にとりならこれの弾を作れるんじゃないか?」

紫から渡された時間を戻す拳銃。俺の生命線だった銃。俺の唯一の人とは違う部分。

弾切れのため、おどし程度にしか使えなかったが銃弾さえ手に入れば強力な武器になる。霊夢と小町が命を落としたときしか使えないが、それでもだ。

河童の技術力は確かなものだと聞いている。外の世界の科学とは違う魔法のような化学力だと。

にとり「ん? なんだい、これは」

男「時間を戻す銃だ。弾切れだから使えないけどな」

にとり「えっ、そんなものが……いやないとは言い切れないけど、とんだ大妖怪クラスでもそれは………うーん」

しかし実際に経験している。だからこそ俺は未来を知れている。

にとり「ちょっと見せてもらうよ」

にとりが眉をひそめながら俺から拳銃を受け取る。しばらくの間回してみたり解体してみたり天にかざしてみたりしたにとりだったが拳銃を机に置いて首を横に振った。

にとり「これ、ただの拳銃だよ。たしかに抽筒板が歯車の形になってるのは珍しいけど、珍しいだけのただの銃弾だよ。時間を巻き戻せるだなんて、無理だよ」

――――――え?

だけど、その銃は今まで何度も時間を巻き戻して。

………科学的なものではない?

450ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/08/02(木) 14:53:07 ID:dMRob1y2
考えてみればそれは当然のことだ。時間の逆行はSFの題材としてよく用いられるがその現象は科学よりも魔法的なものに近い。

ならば技術力に長けた河童より、魔術に富んだ誰かに見せたほうがいいのかもしれない。

魔術に長けるといえば―――パチュリーだ。他にはアリスがいるが今ごろアリスは幽香と一緒に逃げているはずだ。

レミリアに頼めばパチュリーと会わせてくれるだろうか。

男「ちょっと、パチュリーのところに行ってくるか」

にとり「それを持って? 本当に魔術的なものなのかなぁ。確かに軽くそんな残滓を感じるような、感じないような気がするけどさぁ」

どちらにせよ、俺が経験した時間逆行の原因はわかるかもしれない。

もしこの拳銃が原因でないのなら

俺はだれでも救えるようになるのかもしれないのだから。

451ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/08/02(木) 16:36:10 ID:dMRob1y2
レミリアは主を失った屋敷に陣取っている。つまりはさとりの屋敷にだ。

以前見たときは庭は荒れ果て、バラは鬱蒼と生い茂る雑草に埋もれていたが雑草はすべて抜かれ、綺麗になっている。

色とりどりの薔薇が咲き乱れているが、その中でも優しいまなざしを向ける薄青色のバラに眼を惹かれた。

美鈴「見たことない品種のバラですよね。すごい綺麗で優しい青色。助けてあげれて何よりです」

いきなり真横から声が聞こえる。美鈴さんが足音も気配もなく真横にいた。

美鈴「ご用はなんでしょうか。男さん」

男「こんにちは、美鈴さん」

美鈴「………? 私名乗りましたっけ?」

男「あー、えっとレミリア、さんから聞いてます」

452ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/08/02(木) 16:40:33 ID:dMRob1y2
俺が美鈴さんを知っているということ。それは美鈴さんの未来を知っていること。

なら知らせなくていい人には俺のことは知られなくてもいい。

美鈴「なるほど。今日はどんなご予定ですか?」

男「パチュリー…いえ、レミリアさんに用事がありまして」

美鈴「わかりました。あ、お嬢様は今は温泉にいるのでご案内しますよ」

男「温泉に?」

美鈴「はい。ご令嬢様と妹様とお風呂に行かれました」

男「………豪胆ですね。こんな状況なのに」

美鈴「温泉が目の前にあるなら入らない理由はないんじゃないかしら? その温泉が凶暴な人食い温泉なら別だけど、とお嬢様なら仰りそうですね」

確かに。したり顔で言いそうだ。

だけどその通りで、温泉に入ったからと言ってなんら不利益があるわけでもない。

その通りなのだが、人というものは無駄なことをしてしまいがちだ。

俺なら気にせずゆっくり入浴を楽しむだなんてことできそうにない。

453以下、名無しが深夜にお送りします:2018/08/08(水) 02:18:43 ID:t/Gn.ioI
待ってた

454ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/08/08(水) 14:33:51 ID:i1DbwrZ.
美鈴さんに案内され、温泉へと向かう。

もちろん温泉の場所は知ってるが、俺が一人で会いに行ったと美鈴さんに付き添われていったとじゃあ印象は全く違う。ある程度認めてくれた(と思いたい)とはいえ、楽しく過ごしている時間を邪魔できるほど親密な関係にはなっていないからだ。

美鈴「あの、変なこと聞きますけど。お会いしたことありますか?」

男「いえ、会ったことはないと思いますが」

少なくとも今回は。

美鈴「すんすん。でもなんだか嗅いだことのある匂いだったので。どこか懐かしいような」

男「はぁ、そうですか」

前回の美鈴さんにも同じようなこと言われた気がする。俺にはわからないが何かしらのフェロモンでも出ているのだろうか。

男「って、匂いで判断ってできるもんなんですか?」

美鈴「私、達人なので」

自慢げな顔をしているが、あまり意味は分からなかった。妖怪は人間より嗅覚が発達しているのだろうか。

ためしに深呼吸をしてみたが、土ぼこりとかすかなアルコールの匂いしかしなかった。

455ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/08/08(水) 15:22:19 ID:i1DbwrZ.
美鈴さんはそのあとも首を傾げ、唸っていたが結局思い出せなかったらしい。

俺に心当たりもないので人違いかなにかだと思うが、どこかひっかかるものはある。

まぁ、何が引っ掛かっているのかすらわからないから美鈴さんにひかれてなにか心当たりがあるように感じるだけだろう。

男「もしかしたら何か運命でもあるのかもしれませんね」

ときには直観的に感じたものが正しい道ということはあるものだ。レミリアがその通りに我が道を進んでいる通り、もしかしたらこの感覚は俺を導くなにかなのかもしれない

美鈴「はっ。軟派はだめですよっ。私には夫がいるのでっ」

腕でバッテンを作り、拒絶の意思を示す美鈴さん。たしかにそうとらえることも可能、というかどちらかというと口説き文句にしか聞こえないがそういうつもりで言ったのではない。

笑いながらため息をつき、その誤解を解く。

そもそも出会ってすぐの人を口説くような性格ではないし。

美鈴「なるほど。でもなんでしょう、直観とかじゃないんですよねぇ」

再度首をかしげる美鈴さん。その答えがわかるときは来るのだろうか。

男「もうすぐ温泉につきますよ」

美鈴「あっ、本当ですね。お話をしていると時間が経つのが早く感じますね」

美鈴「あとは寝てても時間が経つのが早く感じて、昼寝をしたらいつのまにか夜だったりしますよね」

しない。

456ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/08/08(水) 15:31:02 ID:i1DbwrZ.
旅館に入り、美鈴さんがずんずんと温泉に向かって歩く。

ほこりにまみれていたはずの廊下はいつのまにか掃除され、メイド服を着た妖精や小さな小鬼が忙しなく動き回っていた。

もう数日もすれば再び旅館として動き出すことが可能に思えたが、おそらくレミリア達のためにこの騒動は起こされているのだろう。

美鈴「お嬢様はこの中にいらっしゃいます」

ひらひらと揺れる赤い暖簾。そこには達筆で「女」の文字。

妖怪よっては性別による常識や倫理観に縛られないのかもしれないが、俺は人間であり、男である。

つまり女湯に入ることはできないということだ。

男「………どうしろと?」

美鈴「あっ。そうですね。入れませんね、あはは」

その通りだ。いくらレミリアが幼児体形であったとしてもだ。

それに、レミリアが素肌を人にさらすだなんてこと許しそうにないしな。

せっかく培った関係をこんなことで壊そうとは思わない。

本当だよ?

美鈴「男性用の水着持ってきますね!」

男「待って! そういう問題じゃないですから!!」

457ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/08/08(水) 15:44:32 ID:i1DbwrZ.
美鈴「でしたら上がられるのを待つしかありませんね」

男「初めからそのつもりでしたよ」

覗きの趣味はない。堂々と入っていけば覗きではない?

確かにその通りかもしれないが、それはそれでまた別の犯罪です。

いや、魔理沙とかぬえとは入ったことあるよ? でもそれはまた別じゃない?

って、俺はだれに言い訳をしてるんだ。

咲夜「よかったわね。もし一歩でも入ってたら切り取るところだったわ」

男「ひっ」

突然首元にあてられる冷たい何か。十中八九ナイフ。

いつの間にか後ろに立っていた咲夜が首にナイフを当てていた。

確かに初対面の印象はよくなかったかもしれないが、咲夜を害するような行動をとったつもりはない。

そして

458ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/08/08(水) 15:51:05 ID:i1DbwrZ.
吸血鬼「ウィル様を覗こうものならがおーしてたところだぞ。がおー!」

眼前にはこちらに鋭い目と尖った歯を向けるメイド服を着た吸血鬼。

前門の虎後門の狼よりも恐ろしい二人に挟まれていた。

男「下心は一切ないんで、助けてください」

美鈴「お客人に無礼を働いたらいけませんよ二人とも!?」

咲夜「今は客人として認めてあげるわ。だけどこの暖簾を一歩でも跨いだら」

吸血鬼「練って捏ねて肉団子にして、ご飯にするぞ」

なぜこうも信用がないのだろうか。

というかここに案内したのは美鈴さんなのに。

咲夜「お嬢様のお体を見るだなんて、下賤のものには許されないことで」

レミリア「いいお湯だったわ! 広い風呂は最高ね!!」

ウィル「お母さま! 服着て!!」

咲夜「ふんっ」

男「また目つぶしかっ!!」

咲夜に抱きしめられるようにして両目にナイフの柄をえぐりこまれた。一瞬裸のレミリアが見えたが、覗いたわけじゃないし、事故みたいなもんだし、興奮しなかったし、だから俺に非は一切ないはずなのに。

459ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/08/08(水) 16:09:25 ID:i1DbwrZ.
レミリア「なるほど、パチュリーに会いたいのね」

男「それをお願いしにきただけです。覗きにきたわけじゃありません」

なぜか下手人のごとく囲まれ事情を話すことになった。咲夜と吸血鬼は完全に敵を見る目で俺を見ている。こっちの完全な味方は美鈴さんのみであり、その美鈴さんも見当違いな弁護しかしない。

被害者(?)であるレミリアはあきれた目で俺を見てるし、娘のウィルヘルミナは娘を守る母のように後ろからレミリアを抱きしめている。

レミリア「こっちに落ち度があったんだし、怒るようなことじゃないし、というかなんで縛って転がされてるの?」

実にその通りである。

咲夜「こいつはお嬢様の裸を見ました。有罪です」

吸血鬼「ウィル様を狙ってる可能性もある。有罪だ」

レミリア「その理屈なら私が全裸で外を歩けば全員犯罪者にできるわけね。ナイトウォーカーであってストリーキングじゃないからしないけどね。それに全裸で歩いて、見た人を有罪にできるって私はゴダイヴァ婦人かっての。ゴダイヴァ婦人もピーピングトムに見せつけたわけじゃあないからちょっと違うわね………いや、この騒ぎ何よ」

レミリア「とにかく、咲夜と吸血鬼は下がる事。美鈴は書斎にこもってるパチュリーのところへ連れて行ってあげて。それとこれ以上の男への私の許可なき暴行は一切禁ずるわ」

話が分かる吸血鬼だ。勇儀さんよりは話しやすいがその周りが厄介でもある。勇儀さんもこっちに落ち度が一切ない状態で暴力をふるうことはないから、常識的なだけかもしれないが。

咲夜「わかりました」

レミリア「仕置きは暴力の範疇よ?」

咲夜「……………わかりました」

なんで咲夜は俺に暴力を振るいたがるんだ。

460ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/08/08(水) 16:23:44 ID:i1DbwrZ.
咲夜と吸血鬼から睨まれつつ、美鈴に案内されてその場から去る。

どうやらパチュリーがいるところはさとりさんの書斎らしい。

書斎について重い扉を開けるとまだ甘い匂いが残っていた。

先日のこと。たった1時間程度のこと。

だけどそれでも俺が放った最大の一手。

上手く、さとりさんを救えたのだろうか。

美鈴「パチュリー様―。お客人ですよー」

「………」

反応はなかった。

いや問題は反応がなかったことじゃない。

美鈴「わぁ。本の山ですね」

さとりさんの書斎がすっかり荒れていたことだ。

男「一体なにが?」

「……む、むきゅ。そ、そこにいる誰か、た、助けて」

男「本の山がしゃべった!?」

461以下、名無しが深夜にお送りします:2018/08/11(土) 17:09:57 ID:2UubuVwg
ついに紅魔館勢の登場、そして主人公は能力持ちだった?...

462ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/08/22(水) 16:17:16 ID:NwFz.mzQ
美鈴「パチュリー様!?」

もちろん本の山がしゃべるわけがない(幻想郷ならありえそうな話だが)。

なぜか本の山の中に埋もれているパチュリー・ノーレッジを本をかき分けて助け出した。

パチュリー「し、死ぬかと思ったわ」

パチュリーは本の雪崩に飲み込まれたせいか、あちらこちらに擦り傷やあざを作っていた。しかしどれも重大なものではなさそうで安心した。

パチュリー「あなたたちちょうどいい所に来たわね。あのままだと小悪魔が戻ってくるまで埋もれたままだったわ。それで、あなたは、えーっとレミリアのお気に入りだったかしら?」

男「お気に入りではないだろうけど、レミリアが話す人間ならおそらく俺のことだと思う」

美鈴「ところでなぜパチュリー様はあのようなことに?」

パチュリー「興味を惹かれる本が多くてね。高い所にある本をとろうとしたら成大にひっくり返ってこの様よ。いつもは小悪魔にとってもらってるから油断したわ」

美鈴「体を鍛えましょうパチュリー様。筋肉がその事件を解決してくれますから」

パチュリー「筋肉ができる前に私の命が燃え尽きるわ。確かに体を鍛えたほうがいいとは思うのだけど、実行に移すのは難しいものね」

美鈴「ところで小悪魔さんはどこへ?」

パチュリー「さぁね。気が付いたらいなかったわ。あの子たまに私に意味もなく反抗するときがあるから」

パチュリー「レミリアと違って従者に恵まれないわね。私は」

はたしてレミリアは従者に恵まれているのだろうか。

463ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/08/22(水) 16:27:55 ID:NwFz.mzQ
パチュリー「………体が痛いわ」

男「なら薬を貰って―――」

こようとする前にパチュリーがさっと軽く腕を振るった。

青い光。水疱のようにはじける光がパチュリーの体を薄く覆うと痣や擦り傷がみるみる内に消えていく。

さすが、魔法使いだ。

あっけにとられている間にパチュリーの肌は元の不健康な青白い肌へと戻っていた。

美鈴「その魔法を使って筋肉痛を治しながらトレーニングをすればいいのでは?」

さっきから美鈴さんの謎の筋トレ押しはなんなんだろう。間違ったことは言ってないのだが。まぁ、美鈴さんらしいといえばらしい。

健康的の代名詞ともいえる人だしな。

パチュリー「私は被虐趣味じゃないの。治せるけど、治す前は確かに痛いのよ。なかったことにできるからってなくなる前にはそこに『存在』したことは否定できないわ」

対して不健康の代名詞と表現できそうなパチュリー・ノーレッジ。

………なくなる前にはそこに確かに『存在』した。か

俺に対して言っているわけではないと知っているが、それでもその言葉はずきりと心に響いた。

464ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/08/22(水) 16:32:01 ID:NwFz.mzQ
パチュリー「それで、私に用事みたいだけどなにかしら」

男「………あっ。えっと、この銃なんだけど」

パチュリー「機械関係は河童に頼んだほうがいいと思うけれど」

男「時間を戻せる銃なんだが」

パチュリー「………これが?」

怪訝そうな顔をして拳銃を見るパチュリー。

なんでもありのこの世界で時間を逆行させることだけはどうやら受け入れられないみたいだ。

いや、こんな何でもない男が言ってるからかな。

パチュリーはじーっと拳銃を見て、数度左右に首を傾げた。

パチュリー「確かにその拳銃には魔術的な痕跡はあるわね」

男「やっぱり―――」

パチュリー「でも時間を逆行させるようなものじゃない」

男「――――――」

パチュリー「あなたのいう通りその拳銃で時間を逆行したことがあるとして、おそらくその原因はこれじゃない。他の要因が必ずあるはず」

パチュリー「例えばあなた自身が特別な存在。とかかしらね」

465ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/08/22(水) 16:42:06 ID:NwFz.mzQ
俺が特別な存在?

だとしたらその時間逆行に付与するものだ。

俺自身は決して特別な存在ではない。

ただのどこにでもいる人間だ。

今まで特別な人生を送ってきたわけではない。一般的な家庭環境で一般的な生活を送り一般的に成長して

―――そして一般的に何も成し遂げられなかった。

美鈴「男さんになにかすっごい力があるんですか?」

パチュリー「さぁね。だけどもの凄い力の持ち主っていうのなら私が―――いや私じゃなくてもレミリアが気付いているでしょうね」

男「ご期待に添えなくてすまないが俺は見た通り平凡な人間だ。下手したらこの世界では平凡にすらなれないかもしれないぐらいの」

パチュリー「でも原因があることは確かよ。どうする? 頭の中でも覗いてみましょうか?」

その言葉で脳裏に頭蓋が砕かれる光景が浮かぶ。スイカ割りのようにも見えるがぞっとしない光景だ。

パチュリー「大丈夫。治るから」

男「治ったとしても痛みは確かにあるんだろう!?」

パチュリー「冗談よ。本気にしたいならやってあげるけど」

男「やめてくれ」

466以下、名無しが深夜にお送りします:2018/08/23(木) 02:55:57 ID:jAv18lJE
待ってました!

467ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/08/23(木) 16:01:57 ID:94pU63SE
パチュリー「わざわざ私のところまできてご苦労なことだけど、私にはこれ以上言葉を返せそうにないわ。だってあなたのことは本に書いてないもの」

魔術でも科学でも解決はできず。

なにかあることは確かだが、その答えをもたらしてくれるものはないようで。

一体紫は俺に何をしてくれたのだろうか。

―――なぜ紫はただの迷い込んだ人間にこんなものを?

美鈴「どうしたんですか? 顔色がなんだか優れないようですけど」

男「顔色、悪そうに見えますか?」

パチュリー「悪いわね。私よりはマシだけど」

特に気分は悪くない。

なにも悪くはない。

だから―――

男「パチュリーさん。ありがとうございました。もう帰ります」

パチュリー「体に気を付けて」

美鈴「大丈夫ですか? よければ私が家までお送りしますけど」

男「いえ、一人で帰れますから」

468ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/08/23(木) 16:07:52 ID:94pU63SE
夢の中のような。泥の中を歩くような明瞭としない意識と足取り。

風邪なんかじゃない。

なのになぜかどんどん気分は悪くなっていく。

うなじに蛇の舌が這うような気色の悪い感覚。

痺れた皮膚がいつの間にか冷たく硬いなにかになったような感覚

ヒトから落ちていく―――

そんなわけもわからない感覚。

かちりかちりと呻きを上げる鉄の声

ぐるぐると回る

うねりを上げて流れる

そんな時間の間隔が、俺を苛み―――

ぬえ「――――――大丈夫?」

469以下、名無しが深夜にお送りします:2018/08/24(金) 20:02:58 ID:v.4xbupw
事の真相にまた一歩近づきましたね

470ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/08/31(金) 09:38:20 ID:epOGz2b6
気が付くと目の前にはぬえの顔。体を折った俺とまっすぐ立ったぬえの顔が同じくらいの高さ。そんな身長差。吐く息を感じるほどの近くでぬえが俺の顔を覗き込んでいた。

男「!!」

ぱっと一瞬で全身を取り巻くなにかは消え失せた。

ぬえ「って! 別にお前のこと心配してるわけじゃなくてさぁ! あんたがしくじると面倒なことになるし、聖に怒られるしで、だからこれは」

長々と心配そうな顔をしたことに対する言い訳を述べるぬえ。そんなぬえが可愛らしくていじらしくて思わず顔が綻んだ。

ぬえ「むぅ、なに笑ってるのさ、気持ち悪い」

男「ありがとうな。ぬえ」

ぬえ「わっ、こいつ罵倒されてるのに笑ってるよ気持ち悪いっ!」

男「いや、心配してくれてありがとうってことだよ。助かった」

ぬえ「だから私はお前のこと心配してたわけじゃなくて」

ぽんとぬえの頭に手を置く。黒髪に指を這わせかき分ける。俺の指の形に合わせて流れるぬえの髪。その手触りが本当に心地よかった。

ぬえ「撫でるなぁっ! ………ん、なんかむかつく」

男「ごめん。いやだったか?」

ぬえ「違う。なんかこの感じ、初めてじゃなくて、嫌じゃなくて、ムカつく。意味が分からなくて気持ちが悪い」

ぬえ「………………もうちょっと撫でてていいよ」

471ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/08/31(金) 10:26:55 ID:epOGz2b6
美鈴「男さーん、忘れ物………お邪魔しましたー」

ぬえ「ばっ! 早く離れろ変態!!」

しおらしかった態度から一変。容赦のない蹴りが懐に入れられる。油断していた俺の体は構えることもできずちょうどみぞおちに入った。先ほどとは違うが嫌な汗が流れる。

ぬえ「ふんっ」

肩を怒らせてぬえが去っていく。あぁ、ぬえ。カムバック。

ぬえのほうへ手を伸ばす情けない俺に対して美鈴さんが申し訳なさそうに両手を合わせていた。美鈴さんは悪くない。悪いことはなにもしていないのだけど間が悪い。

望むことならもっとぬえの頭を撫でていたかった。

終わってない。つながっていたことを感じていたかった。

美鈴「あの、銃を忘れて―――ルーミア!!」

美鈴さんが声を上げると同時に彼方に向かって石を蹴り上げる。

誰もいない闇に吸い込まれた石は―――

「ひゃんっ」

いや、だれかいたらしい。心地よさとは対極にある墨で書きなぐったかのような闇の中から一人の女性がゆらりと現れ出た。

金色の髪、赤い眼。そして黒いシックなワンピース。顔は造形だけは美人の部類。だけど浮かべる笑みがやけに嫌な印象を抱かせる。

たとえるなら闇。人を引き込む危うさとともに人の恐れを受ける存在のように感じた。

472ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/08/31(金) 10:42:57 ID:epOGz2b6
ルーミア「びっくりしたわぁ。いきなり小石を投げつけるだなんて迫害された気分。あなたはきっと罪を犯したことがないのね。羨ましいわ」

美鈴「あいにく様、罪だの罰だのつまらないことを考え出した神を信仰してはいないの。それよりなんで男さんに危害を加えた?」

ルー「食べてもいい人類かと思ったから」

ルーミアと呼ばれた女性がくすりと笑い赤い舌をちらりと出す。

表情こそ悪戯を咎められた子供のようだが、赤い赤い舌は飴をなめているかのようにゆらゆらとうねっていた。

………食べてもいい人類? つまり彼女は

男「俺を食べようとしていたのか?」

ルー「ここは妖怪の場所。博麗の巫女でも白黒の魔法使いでもないただの人間がいたら餌だと思うのは当然。あなただってお皿の上に犬がいたらご飯だと思うでしょ?」

思わない。そもそも犬は食べないし、牛や豚だとしても生きてればたとえ皿の上にあったとしても食料としては認識できない。

妖怪と人間の認識のずれが会話を狂わせていた。つまり目の前の女性は妖怪らしい妖怪で上手いこと会話ができそうにない。

美鈴「お嬢様の客人に闇を植え付けるのはやめなさい」

ルー「違うわ。この人が持ってる闇を大きくしただけ」

男「何が、何の話をしているんだ? 闇ってなんだ?」

ルー「心の闇、人間妖怪問わず心あるものがみな持つもの。私、あなたが弱ってく姿をじっと見てたんだけど不思議ねあなた。あの子を一目見たらすぐに闇を振り払っちゃうんだもの。もしかして愛かしら? これが愛かしら? これが愛なのでしょう?」

くすりくすりと目を半月にゆがめ笑う。なんというかやっぱりこの人は好きになれそうにないな。

473ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/08/31(金) 10:53:46 ID:epOGz2b6
美鈴「この人を食べることも害することもこの私が許さないわ。私に蹴られないうちにどこかへ行くことね」

ルー「おぉ、こわいこわい。犬に蹴られないうちにお暇しましょうか。あぁ、そうそうあなた」

ルー「ゆがめられた認識は心の闇として現れる。記憶を振り返ってごらんなさい」

男「それって―――」

どういうことなのだろうか。ゆがめられた認識?

記憶を振り返れ?

美鈴「考えるだけ無駄ですよ。答えのない問いを出して頭を悩ませさせるのがあれのやりかたですから」

男「でも、なにか引っ掛かるような」

美鈴「気のせいですよ。あ、これお忘れになった銃です」

手渡されるずしりと重い感触。

俺の最後の切り札であった拳銃。

―――拳銃?

誰からもらったっけ。そうか紫からもらったんだ。

あれ、俺、紫にあったっけ?

なんで俺、拳銃持ってるんだっけ?

474ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/08/31(金) 10:57:50 ID:epOGz2b6
痛む。

頭がとても痛む。

男「う、うぅ。あぁっ!」

美鈴「どうしました!? 大丈夫ですか!?」

うるさい

かちりかちりと頭の中に響く音がうるさい。

時計の針が目障りだ。

消えてくれ。

あぁ、なんで

俺はこんな

――――――――――――こんな

475以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/04(火) 00:20:11 ID:gu/nKzCk
大事なことが思い出せそう?

476以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/06(火) 00:34:23 ID:RJjIq7jg
待ってる

477ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/12/04(火) 16:26:13 ID:qyaudjHc
夢を見た。

歯車の間に挟まれるような夢を。

目を開けると俺の四肢はしっかりとある。触れた顔も特に問題はないらしい。痛みも感じる。

瞼を開けるということ。

体を起こすということ。

どうやら俺は気絶していたらしい。

なぜだろう。最近気絶することに慣れてきた気がする。アルコールよりも後をひく、脳の中心にずしんと鎮座する頭痛。それがなにゆえなのかはわからない。いつもより重い頭を何とか起こし、霞んだ視界で状況を確認した。

478ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/12/04(火) 16:26:52 ID:qyaudjHc
にとり「やぁ盟友。気分はどうだい?」

にとりがいた。見渡すとどこかの部屋。俺は清潔な白いベッドの上で寝ていたらしい。3つ並んだベッドの真ん中。右側はだれもいないが左側は使用中らしく、カーテンで仕切られていた。

一体ここはどこなのだろうか。にとりの部屋ではないようだが。

壁にはガラス扉の棚。擦りガラスでよくわからないが向こう側にはボトルのようなものがいくつも並んでいる。それと鼻を衝くアルコールの臭い。

男「………医務室?」

まるで病院のような環境だった。清潔であるが人間味を感じさせず、どこか危機感を煽る様な白色で統一された部屋。

にとり「ピンポンピンポン。正解だよ。ここは旅館の医務室さ。主は訳あっていないから私たちが使わせてもらってる。大丈夫さ、解剖台なんてものはないからねっ」

そう冗談めかしながらにとりが教えてくれる。どうやら本当に医務室だったらしい。

確かに元が旅館ならば医務室くらいあるだろう。しかしこの旅館。色々な物が揃ってるな。

にとり「見たところもう平気みたいだね。ならこのリンゴでも食べて早く元気になっておくれよ。医務室のベッドは人気なんだ」

にとりがほいっと真っ赤なリンゴを投げて渡す。リンゴは丸く艶々しており実に美味しそうだった。が食べる気にはならず枕元に置く

479ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/12/04(火) 16:27:34 ID:qyaudjHc
男「ところで、そっちのベッドは?」

にとり「はたてさんを寝かせてるんだよ。椛は栄養失調と疲労からくるストレスだから私たちの家でもなんとかなるけどはたてさんはそうは行かなくてね」

にとり「右翼の開放骨折、左足の筋断裂、左目の網膜剥離、左ほお骨のヒビ、右三四番肋骨の剥離、全身に擦傷裂傷多数。妖怪だってここまで行けば重体さ。こんな体でここまで逃げてきたんだよ。この人は。椛を守るために」

にとり「私だって椛の友達さ。私は友達を守ってくれたこの人にどうお礼を言えばいいんだろうね。友達を助けようとも思ってなかった私たちは、どう二人に謝ればいいんだろうね」

にとりがぎゅっと拳を握り締め、唇を強く噛む。かみしめられた唇は血が通わず白くなり、そしてぷつっと音を立て血が流れた。

男「にとり、唇から血が出てるぞ。そう思い詰めるのは」

にとり「はは、あはは。ここは医務室だから怪我をしても平気さ」

そういう問題じゃないだろ。はたから見てもわかる。どれだけにとりが自分を責めているのか。

嗚咽を我慢するその表情では涙を零すまいと耐える瞳に水色が滲んでいる。

先ほどから言葉を吐くたびに眉尻と頬がぴくぴくと動いている。

友達を守れなかった自責の念がにとりの小さな体を押しつぶそうとしていた。

480ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/12/04(火) 16:28:17 ID:qyaudjHc
俺は、どう言えばいいのだろうか。

あったばかりの少女に投げかける言葉なんてどれも薄っぺらすぎてすぐに破れてしまうようなものばかりだ。

下手な慰めはにとりの心を傷つけるだけで意味はない。

だから言葉を選べなかった。選べる言葉がなかった。

無言が正しいとは思わない。だけどこの場では無言が最善だった。

きっとにとりの心を癒すのは俺じゃなくて―――

はたて「煩くて、眠れないわよ」

カーテンが開いた。ベッドの上では包帯だらけのはたてが上体を起こし眉をひそめながらこっちを睨んでいた。

481ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/12/04(火) 16:32:13 ID:qyaudjHc
はたて「礼とか、許す許さないとか、べつに私は期待してないのよ。私は椛をここまで連れてきただけ。大切だったから。私は私ができる方法で、椛を救おうとしたの」

呼吸が荒い。それもそうだろう、息をしても痛む体でにとりに怒りの言葉をぶつけているのだから。

震える言葉で、揺らぐ瞳ではたてがにとりを刺す。

それを受けてにとりの口端からひゅっと息が漏れた。

はたて「あんただって椛を助けるのよ。全部私に、任すな!! お前も、守れ!! お前が、守ってやれ!! バカみたいに自分を責めて逃げるなバカッパ!!!」

にとり「ひゅいっ」

はたて「友達は口だけかぁっ!!! 証明してみせろよぉっ!!!!」

にとり「わか、わかったよっ」

はたての慟哭を受け、背中を押されたかのようににとりの体が弾ける。にとりは慌ただしく医務室から出ていき扉がばんっと勢いよく閉められた。

はたて「はぁ、はぁ、つっっっっらっ」

はたては荒い息を整えることもできずばったりとベッドに倒れこんだ。ぜぇぜぇとつらそうに呼吸をするその口元は怒号によって吐き出された唾でべっとりと濡れている。

その口元を綿ではたてはちらりとこっちを確認して瞼を閉じた。

男「………あー、りんごあるけど食べる?」

はたて「………ん。食べる」

482ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/12/04(火) 16:32:47 ID:qyaudjHc
なんとなくした提案にはたてはぱちりと瞼を開けて頷くと顎を数回俺のほうへ突き出して早くしろと催促してきた。

あまり料理をした経験はないのでリンゴの皮を剥くのは難しい。そもそも刃物はあるのだろうか。ふらりと部屋の中を探してみると

男「………これで、行けるか?」

メスがあった。雄雌じゃなくてあの手術に使うメスが。

包丁、というかナイフよりも短い刃渡りだがこれでリンゴの皮を剥くことは可能だろうか。

はたて「はやく」

悩んでいる俺の背中に再びはたての催促が投げつけられる。

俺は仕方なくメスを片手にリンゴの皮を剥くことにした。

483ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/12/04(火) 16:34:41 ID:qyaudjHc
当然だがあんな小さな刃物でリンゴの皮を剥くのは困難を極める。俺は何度も飛んでくる催促の言葉に急かされながら悪戦苦闘しつつ、皮を剥いていく。

よく研がれてあるメスはとても切れ味がよく、当てるだけで皮がするすると剥けていく。しかしそれは普段から料理をしている人、もしくは手先が器用な人だけだ。そのどちらにも当てはまらない俺は皮から勢い余って果肉ごと削り取り、結局できたのはデコボコした綺麗とは言えない形だった。

剥き終わった裸のリンゴを八つに切り分け、芯を除いて清潔そうな布にリンゴを並べる。皿は探してもなかったのでそのまま手ではたてのところまで持っていった。

男「お待たせ」

はたて「食べさせて」

はたてが俺に向かって口を開ける。怪我人だから体を動かすのがしんどいんだろうけどまったくお互いを知らない同士なのにそう任せてもいいのだろうか。

リンゴをはたての口まで持っていくとはたては一気に半分ほど口に頬張りシャクリシャクリと咀嚼した。お腹が空いていたのだろうすぐに飲み込むと俺の次を寄越せと言わんばかりに大きく口を開いた。

リンゴを差し出す。食べる。次のリンゴを差し出す。

会話はなくこの行動を繰り返すだけ。そうしてリンゴをすべて食べ終わったときにははたての呼吸は大分落ち着いていた。

はたて「ありがと」

そう言ってはたては目を閉じた。すぐに小さな寝息がたつ。

心を許しているのか、警戒するほどの余裕がないのか。

俺ははたてがしっかり眠りについたことを確認するとカーテンを閉じ、医務室から出ることにした。

484ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/12/04(火) 16:35:18 ID:qyaudjHc
いくつかの蝋燭が灯されただけの薄暗い廊下を進む。

地底のどんよりとした空気をかき分けて進む。

地底の空気は濁っており、それに硫黄の臭いが―――

男「!!」

硫黄の臭いではない。

不快という点では共通するが腐乱臭よりも新鮮でドロドロしたこの生臭さは。

血の臭いだ。

ルーミア「こんにちは? それともこんばんは? 太陽がないから時間の間隔もわからないわ。けれどそれは元々ね。くすくす。なんて太陽も届かない暗闇からご挨拶」

影があった。

不自然に暗い影。井戸を覗いたときのような不安を覚える黒色。

蝋燭の幽かな灯りを吸い込みそこに影があった。

485ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/12/04(火) 16:36:32 ID:qyaudjHc
男「えぇっと、ルーミア、か」

ルーミア「ご名答。もう動けるのね。せっかく私が自責してお見舞いにきたというのに。あぁ、残念、残念」

影から白い手が現れ左右にぷらぷらと揺れる。

道化たこちらの神経を逆なでる声色。

男「食べるつもり、だったのか?」

ルーミア「そこまで節操なしの食いしん坊ではないわ」

心外よ。そういいながらルーミアが影の中から頭を覗かせる。

まるで空中に浮いた生首と右手。妖怪というよりは幽霊のようだ。

真っ赤な瞳と真っ赤な舌がこちらをチロチロと見つめる。

それは服の下を弄られるような居心地の悪さを持っていた。

486ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/12/04(火) 16:37:20 ID:qyaudjHc
ルーミア「食べちゃいけないものと食べていいものの区別はつくわ。もう子供じゃないの」

男「だったら俺になんの用だ?」

ルーミア「くすくす。あなたのことを気に入ったから、かしらね」

煙に巻き答えが返ってこない。見通せない不可思議な印象。この耳障りな笑い声が頭痛を増長させた。

ルーミア「あら嫌そうな顔ね。でも本当なのよ。たとえば―――これくらい」

男「!!」

影から手が伸びる。それは不自然なほどに延び俺の胸倉を掴むと強い力で引き寄せた。

片手、しかも細い腕なのに、全身で抵抗しても意味なく勢いよく影の中へと引き込まれる。

何も見えない。ただ地底の空気よりももっと濁ったものを肌で感じる。

息苦しくなって喘いだ口内にぬるりと湿ったものが這いこんできた。

それはにゅるりにゅるりと俺の口の中で暴れる。頭の中まで届いているかのような錯覚。生暖かく蠢くそれは

ルーミア「ん……ぺちゃ……ぷちゅ…………くちゅ」

舌、だった。

487ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/12/04(火) 16:38:26 ID:qyaudjHc
色っぽさの欠片もない、怖気が走るようなキス。

レモンの味なんてしない。広がるのは獣のような生臭さと血の味。

耐え切れずに突飛ばそうとするがルーミアの体は少しも剥がれない。むしろもっと俺を引き寄せると俺の喉奥まで舌を侵入させた。

男「んぐゅ」

異物を吐き出そうと反射的に吐き気を催す。しかしルーミアの舌で蓋をされ苦しさに変換されるのみだった。

空気が足りない。息ができない。

溺れるよりも苦しい。

粘り気のある唾液だけが喉の奥をぬめり落ちていく。

それは毒のようで

意しきをじわじわと

むしばみ

おれは

「なにやってんだ」

くびねっこをだれかがつよいちからでつかむ

それはルーミアよりもずっとつよいちからでおれのからだをかげからルーミアごとひっこぬき、こじあけるようにしておれからルーミアをはぎとった。

488ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/12/04(火) 16:41:51 ID:qyaudjHc
男「っ! はぁ、はぁ、はぁ、はぁっ」

くうきを吸う。

からだの中にはいり込んだ悪いものをおい出そうと俺は何度も何度も呼吸をした。

レミリア「なにをやってるんだ? お前ら」

ルーミア「あらぁ、いいところだったのに」

ルーミアが悪戯を咎められた子供のようにばつが悪そうな顔で笑う。

レミリアは俺とルーミアの間に入るとルーミアに再度聞いた。

ルーミア「なにって、わかるでしょう?」

レミリア「捕食か?」

ぞっとしない言葉をはくレミリアにルーミアがくすくすと神経を逆なでる笑い声を返す。

レミリアはその対応に眉一つ寄せずにルーミアの答えを待った。

ルーミア「キス、接吻、ベーゼ。それらに類するもの、かしらね」

レミリア「あんなのは見たことないな」

ルーミア「だって少女漫画にはでてこないもの」

あのレミリアを恐れなくバカにするルーミア。普通ならばそこでレミリアが手をだし、戦いとなるだろうがレミリアの表情を見る限りどうやら慣れたことらしく、たんたんとルーミアの注意をするのみだった。

489ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/12/04(火) 16:48:20 ID:qyaudjHc
レミリアの小言にくすくすと笑うばかりで受けているのかいないのか、なんとも取れない表情をルーミアが浮かべる。

レミリア「今後この男に害をなすことを禁ずる」

ルーミア「あら、人を愛するということをあなたは害だと呼ぶのかしら?」

レミリア「押しつけがましい自分中心の愛はアガペーとは呼ばん。言葉遊びで煙に巻くのならこちらはもう言葉で返すことをやめるが?」

ルーミア「あら怖い怖い。でも私があの人間を好いているのは本当。だって面白い闇を抱えてるもの」

男「………闇?」

さっきも言っていた俺が持つ闇。心の闇、歪んだ認識。

いったい何が。

ルーミア「それじゃあバイバイ人類さん。また会いましょう」

疑問を呈す前にルーミアの姿がずずずと影の中へ消える。それと同時に濁っていた気配も血の臭いも消え失せた。どうやらもういなくなったらしい。

ルーミア。いったい俺の何を知っているんだ。

490ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/12/04(火) 16:49:23 ID:qyaudjHc
レミリア「大丈夫かしら。強烈なのを受けたみたいだけど」

男「気持ち悪い…」

レミリア「でしょうね。ルーミアもあぁ見えて………悪い奴だわ。ただ便利なの」

レミリア「言葉上でも好いていると吐くならあいつを利用してやりなさいな。」

もう係わる事自体お断り願いたい。あの不快感にはどれだけ接しても慣れそうにないからだ。

レミリア「口直しに紅茶はいかが?」

男「紅茶?」

レミリア「安心しなさい。今日は血液は入ってないから」

そういって猫のようにレミリアが笑う。今日は…ということは入ってる日もあるのか。

まぁ吸血鬼だしらしいと言えばらしいんだが。

男「折角だけど椛の様子を見に行ってくる。感動の対面に水を差すことになるかもしれないけど」

レミリア「あら、あなたはあの子が気になるの?」

にやにやとこちらを見てくるがそういう意味ではない。

男の女のそれではないということはレミリアも重々承知だろうにその上でこちらを出歯亀している。ただルーミアほどの嫌らしさは感じず、まるで子供のちょっかいのようだ。

491ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/12/04(火) 16:50:19 ID:qyaudjHc
男「今後の争乱の中心になるだろうからな。天狗は椛を狙ってこちらへ来るはずだ」

さきほど白衣男が言っていたこと。きっと天狗はこっちを狙ってくる。

だからどうすればいい。ここにとどまり迎撃するか。こちらから打って出るのか。それとも逃げるのか。

椛という存在は俺たちの尻に火をつけた。うかうかはしてられない。

男「今後のことについて後で話がある。勇儀さん、白蓮さんを呼んでおいてくれないか?」

レミリア「任せなさい。美味しい紅茶とケーキを用意しておくわ。ちゃんと坊主に合わせて肉は使ってないから安心しなさい」

そう言ってレミリアはパチリと大きな瞳を片方閉じ、こちらに向かってウィンクをした。

492ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/12/04(火) 16:50:54 ID:qyaudjHc
にとり「椛にできること、椛にできること、あぁ、なんだろうなぁ!」

にとりの部屋の前に立つとそんな台詞な中から聞こえてきた。

どうやら先ほどはたてから受けた言葉を模索しているらしい。

中ではドタバタと歩き回る足音も聞こえる。

まったく、怪我人がいるんだから静かにしてやれよ。

ガラガラとにとりの部屋の引き戸を開けると―――

にとり「ひゅいっ!?」

不意を突かれたにとりがぴょんと1メートル近く飛び上がった。

にとり「あいたぁっ」

そのままうまく着地ができず尻を床に強かに打ち付け、悶絶している

その様子がコミカルで俺は思わず噴き出した。

にとり「め、盟友。部屋に入る前にはノックを今度からしてほしいよ」

493ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/12/04(火) 16:56:28 ID:qyaudjHc
男「椛の様子はどうだ?」

にとり「あ、椛ならぐっすり」

椛「寝てないよ」

布団に横になった椛が鬱陶しそうな表情を浮かべこっちを見ていた。

椛「にとりがうるさくて、眠れない」

にとり「ひゃぁっ。ごめんよ椛!!」

にとりが土下座のように床に手をつき、ごつんごつんとその額を床にぶつけながら頭を下げる

椛「………そちらは?」

男「人間だけど敵じゃない。安心してくれ」

にとり「男って言うんだ。悪い奴ではないと思うよ!」

そこははっきりと言い切ってくれ。あって間もないから無理はないとはいえ。

案の定椛がこっちを警戒した様子で伺っている。

何か俺が下手な行動でもとればすぐさまにでも飛び掛かってきそうなほどだ。

俺は警戒を解くべく両手を上にあげてみたが効果はなく、視線がさらに鋭利になるのみだった。

494ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/12/04(火) 16:57:08 ID:qyaudjHc
椛「その男が、私になにか用でしょうか」

男「ちょっと話を聞きたくて」

椛「………逃げました立場ですが私も天狗です。仲間を売る様な真似はできませんよ」

その仲間から受けた仕打ちを考えれば復讐に燃えてもいいだろうに、椛はそう言うと口を固く閉ざした。

男「そうじゃない。ただ君も俺たちの一員になるんだから話を聞きたかっただけだ」

にとり「うんうん。今日からは椛も私たちの盟友だからね」

椛「………」

まだ警戒を解かず椛はこっちを頭の上からつま先までじっくりと観察をする。

どうみても中肉中背の一般的な人間。

普通過ぎて逆に怪しく見えるだろうが本当に無害な人間だ。

495ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/12/04(火) 16:57:39 ID:qyaudjHc
男「好きなもの、嫌いなもの、なにがよくて、なにがいけないと思うか」

にとり「盟友。口説き文句かい?」

男「違う。俺は人が嫌がることをできるだけ強要したくない。君はレミリアの、勇儀さんの、白蓮さんの、どの管轄とも違う。君を知っているのは君の友人だけ」

男「教えてほしい。君はどうしたい?」

そう聞くと椛はこっちをじっと睨むと小さな声でこう言った。

椛「………殺して、ほしい」

496ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/12/05(水) 15:29:55 ID:T8th2oiY
それ以上はなにも言わず椛は布団に包まりこちらに背を向ける。

聞き間違えじゃないかと思った。

いや、聞き間違えと願った。

だけどわなわなと震えるにとりの顔を見る限りどうやらそうはならなかったらしい。

にとり「ど、どうしてそんなこというのさ。椛。ねぇ! 椛!!」

にとりの言葉に答えず、その言葉から逃げるように椛はさらに布団の中に潜り込んだ。

男「………本当に、死にたいのか?」

にとり「そんなわけないじゃんか! きっと、なにか」

椛「はい。死にたいと思っています」

やっと帰ってきた言葉。その言葉はさっきの言葉をさらに肯定するものだった。

途中で遮られたにとりはぱくぱくと口を動かすがうめき声しか出ていない。

わなわなと肩を震わせ、にとりはぺたりと座り込んで嗚咽を上げて涙を流した。

にとり「もみじっ、もみじぃ、なんで、なんでそんなこと言うのさぁ」

泣きながら問いかける言葉に返事はない。その代わり丸まった布団が小さく震えていた。

497ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/12/05(水) 15:59:52 ID:T8th2oiY
男「にとり、椛にもわけがあるんだ」

にとり「わけ!? わけがわかんないよっ。死にたいなんて、思うことってあるのかい!?」

普通はない。

自分自身の命を軽々しく、意味もなく捨てる奴なんていない。

それは妖怪でも人間でも変わらない。

なら椛はなぜ死にたがっているのか。

それはたぶん

男「椛。ここにいる奴らはお前を差し出してまで生き延びようとはしないと思うぞ」

布団がひときわ大きく震える。

どうやら当たりらしい。

先ほど白衣男が言っていたこと。

椛を匿っているから妖怪の山の連中はきっと椛を取り返しに来る。

人間だけではない。妖怪の山まで明確に敵に回るということ。

そのことに椛は気づいていた。

498ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/12/05(水) 16:17:14 ID:T8th2oiY
男「椛を殺すくらいなら妖怪の山と全面的に戦争をする。まだ決まったわけじゃないが、絶対にレミリアも勇儀も白蓮もそう言うはずだ」

長い付き合いではないが、椛を見捨てるなんて考えを持つような人はいないはずだ。

にとり「そ、そうだよ! 椛を守るために私だって、戦うよ!!」

そう声を張り上げるにとりだったが最後には声が上ずって震えている。

だけど椛を助けるためににとりだって声を上げたんだ。

男「もちろん俺だってそう思っている。助けれるのなら誰だって助けたい」

男「だから、本当のことを聞かせてくれないか」

男「椛は、何がしたいんだ?」

椛「………っ、ひっく」

布団の中からか細いしゃくりが聞こえる。しゃくりを上げながら椛は

椛「たす、たすけ、たすけて、っ」

助けを求める声をあげたんだ。

499ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/12/05(水) 16:55:07 ID:T8th2oiY
男「そんな風に椛は言っていた」

この場に集まったのはレミリア、白蓮さん、勇儀、そして射命丸。

今、椛が思っていることを伝えると同様に眉をひそめた。

レミリア「この私が気を使われるとはな」

勇儀「この私が庇われるとはね」

白蓮「この私が救われるとは」

三者三葉にして同様の思い。

レミリアは不愉快そうに口を一文字に結び

勇儀は怒りに震えて

白蓮さんは悔しそうに唇を噛みしめ

文「本当に、椛がそんなことを、言っていたのですか」

男「布団に包まり、怯えながら、殺してくれと」

男「わかるか。みんなのために死のうとしながらもその勇気がもてないから殺してくれと懇願する椛の声色がどれだけ震えを隠していたか」

男「生きたいという欲望を隠した椛の声を」

強気に、強気に言葉を投げつける。みんなの心へ届けとばかりに。

500ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/12/05(水) 17:00:13 ID:T8th2oiY
きっとこの3人は椛のことを受け入れるはずだ。

見捨てるという選択肢はないはずだ。

だが三者とも立場がある。

軽々しく皆の運命を左右することを口にはできない。

どう救う。どう椛を救う。

どうやって椛を救うのか。

その言葉を誘い出すために挑発する。

レミリアをこき下ろし

勇儀を卑下し

白蓮さんに失望する。

三人だけに責任を負わせないために俺は必要以上に三人をなじる。

俺のせいになれ。

501以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/08(土) 01:13:35 ID:m0C82V0M
おお
来てた

502以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/10(月) 02:27:34 ID:05wJ8e2Y
ほんと好き待ってた

503ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/12/12(水) 14:59:54 ID:7BpEuGGg
勇儀「おい」

男「………なんでしょうか」

俺の挑発を勇儀さんが一睨みで遮る。

しかし遮られるわけにはいかない。挑発は効いている。

いくら凄まれようとも言葉を零れさせるまでは止まるわけにはいかない。

男「いくら凄んでも現実は変わらないでしょう。今は」

勇儀「おい、人間」

勇儀がとんと床を人差し指で叩く。

コツンと音がしたかと思えば

勇儀「人間」

いつの間にかその人差し指は俺の額に当てられていた。

男「―――っ」

当てられただけ。されど鬼ならここからたやすく

指一本で命を奪える。

その指を額にねじ込み、前頭骨をへし割り、前頭葉をかき回せば俺はぴくりと痙攣しすぐに息絶えることだろう。

504ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/12/12(水) 15:00:44 ID:7BpEuGGg
男「し、失望しましたよ。お、鬼がこんな」

勇儀「私を見誤るなよ人間。私たちを見誤るなよ。なぁ、人間」

静かに、静かに勇儀が俺の額を軽く小突く。

とんとん、とんとん。

勇儀の人差し指が本当に軽く俺の額を小突く。

小突かれるたびに舌の根が乾いていくのがわかった。

男「俺を殺したら、次は椛か? どうするんだ」

回らぬ舌で絶えず挑発を紡ぐ。ちらりと見たが三人も黙って俺を見ていた。

当たり前だが助け船なんかでる様子もない。

勇儀「人間」

バチンッ

縄が切れるような音がした。体がもんどりうって床に後頭部が叩きつけられる。

痛みは後から来た。

じんわりと徐々に徐々に際限なく強くなっていく痛み。思わず目じりに涙が浮かんだ。

そうなっても三人は微動だにしなかった。

505ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/12/12(水) 15:01:15 ID:7BpEuGGg
勇儀「前提を間違えてるんだ人間」

勇儀「お前が何をしたいかはわかってる。だがな、だがな人間」

勇儀「その結論は私たちにとっての前提なんだ。そしてだ」

勇儀「烏一群れから犬っころ守ることなんて大した問題じゃないんだよ。あたしにとってはな。だから今日話すべきことは、どう椛を救うかだ。わかるか人間。どう、椛を救うかなんだよ人間」

勇儀が口の中で同じ言葉を繰り返す。椛をどう救うか。その言葉は俺の思いと同じ。

だけどその先を行っていた。

力では心は救えない。

勇儀はそれを指していたんだ。

救うという言葉は椛ただ一人にのみ宛てられたものだった。

506ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/12/12(水) 15:02:25 ID:7BpEuGGg
レミリア「はぁ、こう舐められると立腹を通り越して笑えて来るわね。人間に心配された鬼と吸血鬼だなんて。これで落語でも一席演じてみる?」

レミリアが今だ痛みから立ち直れず倒れっぱなしの俺の横までとてとてと近寄ってくる。

そして俺に手を差し伸べると。

レミリア「えい」

俺の額を人差し指で弾いた。

再度後頭部を勢いよく床に叩きつけられる。

この勢いで叩きつけられてよく床は壊れないものだとなぜか関心をしてしまう。

たぶん俺の頭蓋骨はとっくに砕けているのではないだろうかという不安も。

レミリア「あなたは近くで私たちを見すぎなのよ。それでは見えなくなるものだっていっぱいあるわ」

そう言ってレミリアはもだえ苦しむ俺を愉快そうにじっと見た。

その上から白蓮さんが顔を出す。

痛みに苦しむ俺に手を差し出すと

白蓮「………」

無言で俺の頭を人差し指で弾いた。


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