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(‘_L’)は命令が欲しいようです
3
:
名も無きAAのようです
:2014/06/18(水) 03:44:50 ID:5JotI9w60
窓枠から室内を伺うと、主人の椅子に腰掛ける男がいた。男は床の血だまりを見つめている。視線の先には死体があった。
フィレンクトは咄嗟に主人の元に駆け寄ろうとして、やめた。息を確認するまでもない。死体は首と胴が離れている。
とんっと何かが降り立つ音がして、ジョルジュは振り向いた。机の文鎮でも落ちたのか、絨毯に吸収されるような音だった。
_
(; ゚∀゚)「なっ……」
(‘_L’)
フィレンクトは主人を無感動に見下ろした。これまでこの男から下された命令を思い返す。暗殺、敵対勢力の排除、護衛。ギャングへの使い。情報屋の始末。
そのすべてをこなしてきた。今日も終わった仕事を報告すると、次の命令のための待機を申しつけられるはずだった。
4
:
名も無きAAのようです
:2014/06/18(水) 03:46:22 ID:5JotI9w60
_
(# ゚∀゚)「てめぇ!いつのまに」
ジョルジュは焦った。背後から最も恐るべき男が近づいているのに気がつかなかった。感情が表に出せないので彼にはわからなかったが、この時フィレンクトは混乱していた。ジョルジュは銃をフィレンクトに向ける。引き金を引く前に長い足がそれを蹴り上げた。余裕のある優美な動作だったがずいぶんと重い蹴りで、銃は部屋の隅に飛んでいく。ジョルジュは冷静だった。
突然現れた男の顔を知っていた。続けざまの蹴りを後退して受け流し、携帯していたグルカナイフを顔を狙って投げつける。
先端に重心が集まり、打撃性の大きい山岳兵のナイフ。まともに食らえばそれだけで致命傷になる。だがジョルジュはそれよりも避けようとする動きを狙っていた。
ナイフの後ろで、振りかぶった一撃を浴びせる。大きく殴れば隙ができ、その間に銃を拾うつもりだった。
5
:
名も無きAAのようです
:2014/06/18(水) 03:48:09 ID:5JotI9w60
_
( ゚∀゚)「まじかよ……」
数センチずれて壁に突き刺さった。わざとはずしたようだ。ジョルジュはフィレンクトを睨みつけた。だが冷めた目で見つめ返される。わずかな攻防だったがジョルジュの息はあがっていた。向こうは涼しさを保っている。
_
( ゚∀゚)「……」
(‘_L’)「……」
6
:
名も無きAAのようです
:2014/06/18(水) 03:49:36 ID:5JotI9w60
(‘_L’)「彼は 何か伝言を残したでしょうか」
しばらく沈黙が降りて、先にフィレンクトが問いかけた。
_
( ゚∀゚)「伝言……?誰あてにだ」
(‘_L’)「私かもしれませんし、他の誰かに」
さきほどの攻防が嘘のように淡々と話す。ジョルジュは身構えたがフィレンクトが襲ってくる気配はなかった。ボスの情報がほしいのか。しかしジョルジュはここに居た男を会話する間もなく殺している。逆上させるかもしれない。だが口を割らされるのもごめんなので正直に答えた。
_
( ゚∀゚)「知らねぇな。なにも聞いてないぜ」
言った瞬間、フィレンクトが動揺したのが見てとれる。よほど重要な案件だったのか、呆然と物言わぬ死体に目を向けた。
_
( ゚∀゚)「……?」
(‘_L’)「……」
7
:
名も無きAAのようです
:2014/06/18(水) 03:50:51 ID:5JotI9w60
立ち尽くす彼は彫刻のようだ。息するときだけわずかに肩が揺れる。フィレンクトは考えていた。主人からはなにも聞かされていない。死んだ後のことを、命じられていないのだ。思考が停止していた。なにをすればいいのかわからない。歩んでいたレールの先が、突然消えてしまった。
(‘_L’)「それでは私は……、誰に命令を乞えばいいのですか」
_
( ゚∀゚)「は?」
突然バカな事を言い出した男をジョルジュは見る。表情は変わらないものの、どこか陰っていた。ボスの死に動揺しているのだろうか。それにしてはさっきまでの冷静さがおかしい。ジョルジュは苛立った。
知りうるかぎり最強の男が、雇い主が死んだくらいで不安そうなのが気に入らない。その気になれば自分など瞬殺できるだろう能力を持ちながら、迷子のような言葉はなんだ?
8
:
名も無きAAのようです
:2014/06/18(水) 03:51:17 ID:FeB9SHY20
こんな時間から
支援
9
:
名も無きAAのようです
:2014/06/18(水) 03:52:05 ID:5JotI9w60
_
(# ゚∀゚)「じゃあ死ねよ」
そう口から出ていた。そのためにジョルジュはここへ来た。先に殺した男はついで。目標はフィレンクトただ一人。
本来なら挑発の言葉だった。この後どうせ自分を取り戻すであろう男への、憎しみから吐き捨てた。
フィレンクトは混乱していた。29年、生きてきて、彼に指示をくれるものがいなかったのはこれが初めてだ。どの主人も死んだ時のことを教えてくれたものは居ない。たいてい譲られるか、代替わりでなどで仕えていた。ジョルジュは主人の身内でも、雇用の責任者でもない。全くの第三者だった。それでもその言葉は フィレンクトの耳にすっと入る。
フィレンクトはその時従うべき命令を探していた。ジョルジュは彼に悪態をついた。彼の放った言葉を命令と認識し、フィレンクトは胸元からリボルバー式銃を取り出して、身体を硬直させるジョルジュの前で自らの頭を撃った。
10
:
名も無きAAのようです
:2014/06/18(水) 04:09:53 ID:5JotI9w60
薬品の匂いがして、目を覚ました。見慣れた病室の白い壁でなく、薄汚れたつぎはぎ布のカーテンが目に入る。身体を起こそうとして上半身がベットに固定されていた。頭を触ることもできないが、なんらかの処置がされていることはわかる。
覚醒するのに脳波とリンクしているのか、チューブにつながれた先の機器が、機械音を鳴らす。さほど大きい音でもないのに、すぐに足音がこちらへ向かってきた。
('、`*川「起きたんだ」
女はフィレンクトの脈拍をはかり、身体をくまなくチェックする。横腹を撫でられ、古い傷跡に爪を立てられたがされるがままにおとなしくしていた。
('、`*川「なんだ。つまんない。怒らないの?」
そうのぞき込んだ顔には、好奇心と、なに かしらの侮蔑がある。どこかで見たことのある表情だった。
11
:
名も無きAAのようです
:2014/06/18(水) 04:10:38 ID:5JotI9w60
「彼は、どこに」
('、`*川「だれのこと?」
(‘_L’)「私を、ここに連れてきた人」
女はにやっと笑った。形容しがたい笑みだ。
('、`*川「じきに来るわ。……アンタもう少しビビりなさいよ。脈がほとんど一定じゃない」
それきりなにも聞こうとしないフィレンクトの耳に、女は楽しそうに呟いた。
「ここはアンタのボスが潰したくて潰したくてたまらない奴らの住処よ」
12
:
名も無きAAのようです
:2014/06/18(水) 04:11:31 ID:5JotI9w60
数分して、ジョルジュがドアを開けた。
('、`*川「ごゆっくり」
なにが嬉しいのか、機嫌よさそうに女が部屋を出て行く。
_
( ゚∀゚)「……」
ジョルジュは、フィレンクトに繋がれている拘束を一本づつ外していく。ようやくフィレンクトは身体を起こすことができた。向かい合おうとするとがちゃん、と引っ張られる。ベッドの手すりに、手錠で片腕を括られていた。フィレンクトは座ったまま男の言葉を待つ。ジョルジュはしばらくフィレンクトを前に長考して、重そうに口を開いた。
_
( ゚∀゚)「陥れようなんざ考えるな。知っていることはすべて話せ。いいな?」
(‘_L’)「はい」
13
:
名も無きAAのようです
:2014/06/18(水) 04:11:59 ID:ygYtUwqw0
見てるよ
14
:
名も無きAAのようです
:2014/06/18(水) 04:12:48 ID:5JotI9w60
ジョルジュはフィレンクトの主人の過去や、彼の行っていた事業、関わる者たちを聞いた。フィレンクトはすべてに答えた。けれど彼の知っているものなど微々たるもので、ジョルジュの期待していたものではない。フィレンクトは仕事の時に写真を見て覚え、記憶だけを頼りに 人物を探し出して始末する。それは膨大な記憶量になるため主人からよけいなことは忘れるようにと命令されていた。した、ことはうっすら覚えていても、日時や誰かなどとうに忘れている。
「いままで殺した奴らを覚えているか」
「いいえ」
ジョルジュはフィレンクトを殴りつけた。
渾身の力を込めたのに身体は揺らいだだけだ。
_
( ゚∀゚)「……」
(‘_L’)「……」
_
( ゚∀゚)「……なんで死のうとした?都合の悪い真実でも隠すためか?」
15
:
名も無きAAのようです
:2014/06/18(水) 04:13:37 ID:5JotI9w60
それはジョルジュの最も聞きたかった疑問だった。後始末をするなら、彼が死ぬよりもジョルジュが死ぬほうが早い。あの戦闘で人間離れした実力を知っていた。フィレンクトの行動が理解できなかったし、気味が悪かった。冷徹な殺し屋が、目の前で頭を吹っ飛ばしたのだ。奇跡、ほんの 少し銃口がずれていたらこの世には居られなかった。
(‘_L’)「……あぁ」
思い出したように呟いた。表情のなかった顔が少しだけ不思議そうに、ジョルジュを見る。年齢に釣り合わないあどけなさだった。
「あなたが言ったから」
16
:
名も無きAAのようです
:2014/06/18(水) 04:14:45 ID:5JotI9w60
('、`*川「殺さないの?」
フィレンクトの部屋を後にしたジョルジュに、ペニサスはそう声をかけた。
_
( ゚∀゚)「……」
('、`*川「いま殺さないと、厄介になるよ。あいつ、耐性あるの」
_
( ゚∀゚)「……耐性?」
ペニサスは小さく笑った。やだ、聞かないでよ。あたしが言うのよ。
('、`*川「拷問の跡。訓練では済まないような耐性。殺すんならあたしにさせてね。うんと苦しめてあげる」
それでもジョルジュは 沈黙している。
彼の態度にじれて、ペニサスが煽った。
('、`*川「アンタだって、いもうと殺されたじゃない」
ジョルジュはペニサスを睨む。彼女を無視して、歩みを続けた。方向はフィレンクトの部屋とは間逆で、ペニサスが怒鳴ったが気にとめないフリをした。その方が彼女を苛立たせられる。
17
:
名も無きAAのようです
:2014/06/18(水) 04:16:29 ID:5JotI9w60
フィレンクトは気持ちの悪い男だった。
その存在は半ば伝説じみていて恐れられている。あの男に挑んだものはすべて消され、ターゲットにされたものは上手に事故死した。喉の奥から笑いがでてくる。
苦かった。あれほどジョルジュが望み追いかけた悪鬼は、見捨てられた子犬ような眼をしている。
なぜあのような行動にでたのか、問いつめると命令がなかったから。そう言った。ジョルジュの乱暴な言葉が命令系だった。
それだけだ。混乱したフィレンクトはすがるようにその指示を全うした。
実に狂っている。ジョルジュは病室でフィレンクトを試した。本当に彼はそのような価値観を持っているのか。ボスを崇拝するあまりの後追い自殺ではないのか。
フィレンクト自身の持っていた銃を渡して、もう一度死ねと言った。彼は恭しくそれを受け取り、しっかりと口にくわえ込んだ。一度失敗しているので、確実な方法でやり直す。迷うことなく引き金をひいた。
通常なら声帯から弾丸が通って頭蓋にまで貫通し間違いなく死んだだろう。銃には弾が入ってなかった。カチ、カチ、と音がして、すまなさそうにフィレンクトが言う。
(‘_L’)「弾丸が入っていないようです。弾をもらえますか?」
18
:
名も無きAAのようです
:2014/06/18(水) 04:18:14 ID:5JotI9w60
慈悲心を持ったわけでも、哀れんだわけでもない。あの男は間違いなく、己の敵だ。
復讐を忘れてなかったはずだが、ジョルジュはフィレンクトの存在をもて余している。
この世の常識を身につけ、傲慢であれば十分だった。仲間たちの多くは痛めつけて生まれてきたことを後悔されるようなやり方で処刑することを望む。
それは憎む相手の、残忍な手口に対しての報復だからだ。フィレンクトは非道だが残忍ではない。冷徹だが汚くない。見本のようにきれいな殺しかたをする。だから彼に見合うのは絶対の死。どれほど魅力的な情報と交換してもそれを変えるつもりはない。なのに彼 自身が、それに恐怖していない。
どちらかといえば、死ぬことよりも放っておく事の方が不安そうに見える。事実、敵(フィレンクト不安から主人に近く認識しているがジョルジュにそのつもりはない)から受け取った銃で死のうとした。怯え、懇願しなければ裁いたことにはならず、溜飲も下がらない。
さきほどのペニサスの言葉で痛めつける案も立ち消えた。殺してくれと頼むほどの拷問は、時間がくれば死んでしまう。フィレンクトには、死は主人が下す命令の一つにすぎないのだった。
_
( ゚∀゚)「奴は凶器だ……」
問題はどのようにしてそれを裁くべきか
19
:
名も無きAAのようです
:2014/06/18(水) 04:30:56 ID:5JotI9w60
数日がすぎた。相変わらずフィレンクトの様子を見に来るのはあの女だけで、ジョルジュは姿を見せなかった。ペニサスはことあるごとにこれから先の捕虜への暗い未来を語ったがフィレンクトは動じない。それを決定するのはジョルジュで、すでに彼は死を命じられている。だが道具がなかった。
弾の入った銃を引いた時点で、もういいとも言われている。もっと何か言うべきことはなかっただろうか。主人の命は終わった仕事はすみやかに忘れること。今まで気にしたことがなかったので覚えていることが少ない。ジョルジュは自分を使ってくれるだろうか。時々他人と組むこともあって賛辞されることは多々ある。彼は自分の主人ではない。
主人を殺した。けれどフィレンクトは何の命令も持たされなかった。その後どうすればいいのか自分で判断できない。誰に従うべきなのか。ジョルジュの訪れが待ち遠しかった。もう一度命じてほしい。
今度こそ、上手に死んでみせるから。
20
:
名も無きAAのようです
:2014/06/18(水) 04:32:13 ID:5JotI9w60
突然ノックされることもなく、ドアが開かれた。見知らぬ男。男はフィレンクトの側にくると、手錠を外した。
(‘_L’)「……」
(´・_ゝ・`)「……」
男はフィレンクトの腕を強く掴むと、強引に部屋の外へ連れ出す。少し迷ったが、鍵は本来ジョルジュが持つものだろう。彼の許可のうえだと思い、ついて行く。
ねじれた階段を上って、ついた先は屋上だった。建物はいくつも後から継ぎ足される形で増築されている。フィレンクトのいた部屋はおもしろい外観の建物だった。
それでここが市街地だとわかる。スラム化の一歩手前。フィレンクトでさえ入るには案内人が必要だった。
「おまえ死に損なったんだって?」
男は下をのぞき込みなが言う。フィレンクトも下を見た。工事現場だと思ったが、
手入れされた地面、墓石。墓地だった。
(´・_ゝ・`)「ジョルジュが助けたなんて思ってないよな?あいつはとことんおまえを恨んでるんだから。……俺もな」
(‘_L’)「……」
21
:
名も無きAAのようです
:2014/06/18(水) 04:33:15 ID:5JotI9w60
フィレンクトは何も言うことはない。雑談するような能力は持ってない。ジョークのひとつも知らなかった。それでもなぜ男がここに連れてきたかを察する。
(´・_ゝ・`)「俺の手で殺せるなんて……神に感謝するぜ……なぁ悪魔、いつもなにを考え て殺すんだ?俺は早く天国にいくよう祈ってる」
男はお世辞にも体格がいいとは思えなかった。歩き方から、体術にも通じているようには思えない。軸のぶれた歩幅。だからフィレンクトは殺意は感じ取っていても、警戒はしていなかった。余裕たっぷりに、男が笑う。銃を取り出した。まるでこの世のすべてがそれにひざまずくように、優越の眼でフィレンクトを見る。
焦点をあてるふりをして、腕、肩、足、頭にふらふらと銃口をむける。男はフィレンクトの、絶望する姿が見たいのだ。殺してしまってはいけないのだろうな。まだジョルジュは命令していない。ならフィレンクトは独断を許されない。長年の染み着いた考えだった。この男は恐らくジョルジュの部下。本来ならば自分に向けられる銃は殲滅しなければならない。だが今の状況で、男を殺すのはためらわれた。保身のためではない。主人の気に障ることをしてはいけない。考えるフィレンクトは反応がなく、男が怒鳴った。
22
:
名も無きAAのようです
:2014/06/18(水) 04:34:25 ID:5JotI9w60
「さっさと命乞いしろよ。いまなら頭にぶち込んでやってもいいんだぞ。それとも先にそっちに突っ込むか?」
銃口が、フィレンクトの股間に向けられる。男として、背筋が凍るほど恐ろしい瞬間のはずだった。
(‘_L’)「困ります。あの人の、命令がないので」
フィレンクトが動いた。だが階段にも、男の側に近寄るわけでもない。男は背を向けるフィレンクトの足下に威嚇射撃をした。弾が数センチ横のコンクリートにめり込む。
「おい……ふざけるなよ。ほんとに撃つぞ」
それでもフィレンクトは止まらなかった。
囲むような壁はない。銃口をようやくフィレンクトの背中にむける。男は、歩みは一度止まると思った。数歩先は落下しかない。振り向いて、戸惑う姿に連射してやろうと。だがフィレンクトは屋根を踏むように空に足を落とした。支えを失って、彼の身体は簡単に地面に落ちていく。
(´・_ゝ・`)「ハハハ……地獄に落ちろ」
23
:
名も無きAAのようです
:2014/06/18(水) 04:39:06 ID:5JotI9w60
一旦ここまで
>>5
の前に
_
(; ゚∀゚)「んな!」
それなのにフィレンクトは向かってくるナイフを靴のかかとで受け止めた。先ほどから足技がすばらしい。感嘆するまもなく、ナイフはジョルジュに跳ね返ってくる。
が入ります
24
:
名も無きAAのようです
:2014/06/18(水) 08:06:32 ID:D8ZVCz220
乙
面白そうだけど改行入れてくれ
25
:
名も無きAAのようです
:2014/06/18(水) 12:22:35 ID:.LZph7Gk0
乙続き楽しみ
26
:
名も無きAAのようです
:2014/06/18(水) 15:06:32 ID:h.pgp0HE0
いいねいいね。フィレンクトらしいストーリー。
応援してる。
27
:
名も無きAAのようです
:2014/06/19(木) 12:20:40 ID:ituE3gmY0
これほんとにオリジナル?
28
:
名も無きAAのようです
:2014/06/20(金) 07:12:29 ID:qEjEnUIs0
面白そうだな
29
:
名も無きAAのようです
:2014/06/22(日) 11:42:37 ID:r.1uBdXk0
_
( ゚∀゚)「ここだ」
古い木造の建物だった。階段をあがってすぐの部屋。何も言わずに立っていると、開けるように促される。手の中の鍵が重く感じた。自分で鍵を開けるのは初めてだ。
何もないワンルームを想像していたが、室内は物が溢れている。テーブル、椅子、生活雑貨、テレビ、ソファ。玄関には山積みになった古新聞。観葉植物が黄色くなって放置されている。思わず隣のジョルジュを伺った。
今まで与えられてきたのはホテルの一室のような空間ばかり。すでに誰かが住んでいる場所へ、どうして連れてこられたのかわからない。カーテンを開けると太陽が部屋全体に差した。
埃が人の移動で所どころに舞っている。
珍しいもののように、フィレンクトは見ていた。
30
:
名も無きAAのようです
:2014/06/22(日) 11:43:59 ID:r.1uBdXk0
外観からは予想できないが、中は広い。扉で区切られた部屋がリビングに面して二つもある。そのうちの一つ、物置のようになっている場所をフィレンクトは貰った。
「そこらにあるものは好きに使え」
指定された部屋。細々とした物に囲まれ不思議な気分になる。雑多な所だが、けして汚いわけじゃない。ただ物が、まるで組み合わせられたように隙間無く置かれているので、それがよかった。フィレンクトも、その一部になりたい。
病院とも呼べないようなあの場所から、土地勘を掴ませないために目隠しで車に乗って運ばれてきた。身一つで何も持たず、着ているものさえ貰ったものだ。手首には手錠はない。チップの入った首輪もない。
31
:
名も無きAAのようです
:2014/06/22(日) 11:46:00 ID:r.1uBdXk0
チップの入った首輪もない。繋がられてい
ないと不安になる。それでもここに連れられてきた。きっと放り出されるわけではないはずだ。
積まれた荷物を前にしてそう考える。
フィレンクトの思考は一つしかない。
使われるか。捨てられるか。
「おい、手伝え。飯の支度だ」
ジョルジュの声が背中にかけられるまで、その場で考え続けた。
32
:
名も無きAAのようです
:2014/06/22(日) 11:47:18 ID:r.1uBdXk0
敵に傷を与えてはいけない場合。戦闘になってはいけない場合。逃げることを先行する。
歩きながら距離と高さを計っていた。あの建物は背が低い。密集した建築で、隣の家との足場もある。走ってはとっさに撃たれる可能性があった。
ゆっくりと、追いつめられる所まで移動する。それから下を眺めて、落ちた。張り巡らされた電線がちょうど真下にあったので、蹴って方向を変える。
向かいのベランダの手すりまで飛んで、身体の勢いを利用し反転。電球の割れた街灯にしがみついた。するすると降りて、屋上の男が下を覗くまえに逃げた。
場所に恵まれていた。高層のビルだと、こうはいかない。捕らえられてから久しぶりに身体を動かした。すこしだけなまっている。
このままあの病室に戻ろうかと思ったのだが、街中には銃を持った自営団があちこちに居た。姿を見られたら、撃ってくるだろう。手配はされたことないが、フィレンクトの顔は知れ渡っている。
苦労して隠れながら、主人に貰った部屋に一度帰った。薄いパネルに手をかざす。認証で簡単に入れる。以外にも部屋は荒らされていなかった。
33
:
名も無きAAのようです
:2014/06/22(日) 11:48:38 ID:r.1uBdXk0
主人が死に、フィレンクトが捕らえられて、誰も訪れていないようだ。
フィレンクトは主人からのメッセージを探した。死後、彼の縁者や後継者に従うような命令がないか期待していた。
だがフィレンクトに向けてのものは何もない。主人の死により、特定の誰かがフィレンクトを引き取るような話もなかった。
困った。これでは命令の順位は、ジョルジュただ一人になってしまう。彼は命令をくれないのに。ジョルジュはフィレンクトを捕虜として扱う。尋問くらいしか、与ええられるものがない。それ以外はずっと病室でぼんやりしている。
放置されるのには慣れていたが定期的に仕事がなければ困る。意識がさび付くのだ。思考は急に切り替えられない
長らく動けないでいる。
34
:
名も無きAAのようです
:2014/06/22(日) 11:51:36 ID:r.1uBdXk0
すると、そのまま根が張り付いたように固まってしまう。与えられる仕事こそが、フィレンクトには飴だ。
たとえ内容がどんなものでも。
(‘_L’)「これは?」
_
( ゚∀゚) 「空豆だ」
かご一杯のさやのついた大きな豆。一つ一つを慣れた手つきでジョルジュは向いていく。みよう見まねでフィレンクトも同じようにしてみるが、どうしても手つきはたどたどしい。ジョルジュがふっと笑った。
「殺す方が上手だな」
返答を求められたのではない。だから何も答えなかった。
結局フィレンクトは戻る場所がここ以外になかった。主人の仲間には会ったことがない。常に直接、指示を下されていた。命令を下す人間が他にいないので、理想といえないジョルジュの元へ帰るしかなかった。
35
:
名も無きAAのようです
:2014/06/22(日) 11:54:59 ID:r.1uBdXk0
ジョルジュは簡単にフィレンクトの帰還を許した。そもそも連れ出したのはフィレンクト憎しで殺そうとした男であり、手錠の鍵の管理も悪かった。
逃亡する能力も資金も十分にある男が、主人欲しさに帰ってくる。フィレンクトという存在に、ジョルジュは吐き気を催した。
沈黙は常にそばにある。だがフィレンクトが残念だったのはそれきり会話が途切れたことよりも作業が終わってしまうことだった。
(‘_L’)「他に、することはないのですか」
豆を向いてしまえば、それをジョルジュがもっていく。
「にんじんを刻んでくれ」
そう言って並べられた。ジョルジュは豆を洗っている。手にとって、戸惑った。包丁はある。皮むきもある。それをどのように使うのか予想してみるが、当たっているのかわからない。
てっきりジョルジュと同じことをするものと思っていた。会食でなんどかシェフが目の前でふるうのを見たことがあるが、それは下拵えでない。
材料も違った。包丁はナイフと同じ扱いでいいのだろうか。だが、形が違うから使い方も異なるはず。頭の中で次にとるべき行動を必死に探していると、ジョルジュがまた笑って人参の皮をむき始めた。
それから小さく切っていく。フィレンクトは安堵した。見せてもらえるなら同じことができる。次に渡されたタマネギを皮むきで向こうとして、とうとうジョルジュは爆笑した。真剣な顔つきで行うフィレンクトが滑稽で。
36
:
名も無きAAのようです
:2014/06/22(日) 13:52:24 ID:r.1uBdXk0
('、`*川「感情って使わないと動かなくなるの。知ってた?」
勝手をした部下に厳しく処分を言いつけてジョルジュは不機嫌だった。彼の心配がフィレンクトによる返り討ちで、飛び降りた後も無事に生きていることを知った男はうなだれ、ジョルジュの言葉を聞き入れる。
('、`*川 「なんで殺さないのよ。まさかアンタ、飼うつもりじゃないでしょうね」
フィレンクトの願いそのものだったが、ジョルジュは首を降った。簡単に主人を鞍替えするものは、簡単に裏切る。今はフィレンクトの属性を理解するものが、ジョルジュ以外にいないだけだ。
('、`*川 「……もしも後悔とか、反省や償いを期待してるんなら無駄もいいとこよ。あれはそんなことできない」
_
( ゚∀゚)「そういえば……お前見ただけで拷問痕だとよくわかった な。ひどい怪我でもないのに」
「何か知ってるのか……?」
('、`*川「ちゃんと殺す?」
「生かしておくつもりはない」
本音を言った。ペニサスはジョルジュの眼をみて、その決意を確認する。
37
:
名も無きAAのようです
:2014/06/22(日) 13:58:52 ID:r.1uBdXk0
('、`*川「引き出せるものなんてないでしょ。なのに自分のとこで面倒みるなんてどういうつもり?」
_
( ゚∀゚)「お前、簡単に殺したほうがいいと思うのか」
('、`*川「だって生きてたほうが困るじゃない。使えない大きな道具は処分しないといつ向かってこられるか分かんないわよ。今はまだいいけど、アンタに不満が集中したらどうすんの」
_
( ゚∀゚) 「信用があるうちは平気だ。でかい失態さえ犯さなけりゃな」
_
( ゚∀゚)「俺はあいつに絶望してから死んでほしい」
魚を食ったことがない者に、絶滅を告げて
も意味がないだろう。痛みを与えても、耐えることに意義を見つけるかもしれない。
使い捨ての鉄砲弾にしても、恐らく完璧にこなして帰ってくる。殺すだけなら簡単にできた。難しいのは、フィレンクトを心から後悔させること。罪の意識のないものに、道徳をとくつもりはない。必要に思われてから捨てる。そのあとに殺せばいい。
('、`*川 「無理だと思うけど」
_
( ゚∀゚) 「簡単に言うな。それでも人間だ。なんらかの心ぐらいはあるだろ」
「ないわよ」
「あんな人形に、意志なんてあるわけないじゃない」
そう、吐き捨てた。
38
:
名も無きAAのようです
:2014/06/22(日) 14:06:42 ID:r.1uBdXk0
噂よ。噂。そもそもあんな異常者、訓練だけでそうなるわけじゃないって予想くらいつくでしょ。どう育てたら完全に依存する人間ができあがると思う?
白い部屋に閉じこめるの。くわしくは知らない。ただ閉じこめて、自我を完全に奪ってから人格を形成するの。さっき言ったでしょ。感情を持ち主にコントロールされるから、思考ひとつが命令に従うようになってるんだって。
都合のいい人形よ。ロボットのほうがまだかわいげがあるかもね。いくらでも設定を変えられるんだもの。とにかく染み着いた性格みたいなもんよ。
変えられるわけないじゃない。フォックスがどこからあれを手に入れたのか知らないけど、あれひとりでこの辺りをまとめられるほどのもんなんだから。人間の三大欲求も低いの。性欲なんてないんじゃない。
だいたいあんなもの作るなんてろくでもないわ。変な奴らに目をつけられるまえにさっさと処分したほうがいいわよ。
39
:
名も無きAAのようです
:2014/06/22(日) 14:21:22 ID:r.1uBdXk0
('、`*川「何してんの」
芋の皮を向いていた。見てわかることなので説明はしない。ペニサスはゆっくりと手つきの悪いフィレンクトの手元をみて、
「ふうん」と呟くと
('、`*川 「何作るの?」そう聞き直す。
(‘_L’)「ポトフを」
朝食を作るのは難しい。食材を切って火に通して食器に盛りつける。調味料の数も多いうえに組み合わせが限られるので合わないと美味ではない。ジョルジュから教わったものはオーソドックスで簡単なものだ。好きなように作っていいと言われたがそれが難しいので教わったとおりの順番で献立を作っている。
('、`*川 「これから何するの」
(‘_L’)「洗濯と拭き掃除を」
ジョルジュがいない間、与えられたのはこれだけだった。どの部屋も好きに移動を許されている。
40
:
名も無きAAのようです
:2014/06/22(日) 14:27:35 ID:r.1uBdXk0
時間を埋めるように作業するのはフィレンクトには喜びだった。だがペニサスはその答えを聞いて一気に機嫌を損ねる。
('、`*川 「あの部屋にも入っていいって?」
(‘_L’)「はい」
('、`*川 「なにそれ。本気で罪悪感でも煽るつもり……」
ペニサスはぎっときつく睨んで言った。フィレンクトに会話の脈絡も、彼女の怒りの理由も知らない。
('、`*川 「あそこはアンタなんかが入っちゃだめよ。あたしだって駄目なんだから」
その言葉を守るつもりはなかったが、
(‘_L’)「はい」
そう答えた。
ペニサスはジョルジュの家に移ってから、
これまで以上にフィレンクトの元に来る。
明確な理由はないようだ。家事をするフィレンクトのやり方などに口をだしては怒る。彼女が来ると時間を大きくとられる。それでもジョルジュの帰りは遅いので、
終わらせることはできた。
('、`*川 「トルティーヤ食べたい。作って。」
冷蔵庫の食材は限られている。だが彼女はジョルジュに近しいようだし、家に彼女が居ることをとがめられたことはなかった。何度も作ると勝手もわかるようになる。
食材の味しかしない料理だったが、最近は混ざった味というものもわかってきた。
(‘_L’)「どうぞ」
一口たべて、なんとも言えないような顔でペニサスが言う。
('、`*川「ジョルジュそっくり。」
褒められたのか、そうでなかったのか区別がつかないが、模倣はできたということだろう。
41
:
名も無きAAのようです
:2014/06/22(日) 14:45:24 ID:r.1uBdXk0
('、`*川 「なにか話して。なんでもいいから」
食べながら彼女がいう。
フィレンクトが困惑するのはこういう時だ。すべての仕事終えて、することがないので逃げることもできない。
なんでもいいと言いながら、フィレンクトが一日の行動を言葉にすれば怒られる。彼女の求めるものがわからない。
(‘_L’)「何を話せばいいのでしょう」
('、`*川 「最近あったおもしろい話なんてどう?」
(‘_L’)「雑巾を縫いました……」
('、`*川 「なにそれ。ふざけてんの」
針を使って布を紡いでいくことを、好ましいと思った。初めてのことばかりで、慣れないものが多かったが、またやりたいと思のがそういうことだろう。だがフィレンクトの感動はペニサスに伝わらなかった。
('、`*川 「じゃ、フォックスについて聞かせて。覚えているものでいいから」
覚えている。主人のすべてを記憶していた。だが彼の行っていた陰謀は知らない。
フィレンクトが知ることではなかったからだ。
(‘_L’)「あの人に似ています」
('、`*川 「誰のこと?」
(‘_L’)「私を使ってくれない人」
('、`*川「……ジョルジュのこと?」
フィレンクトはうなずいた。
('、`*川 「……とんでもないこと言ってくれるじゃない。一体どこが似てんのよ」
(‘_L’)「話かけるところが」
('、`*川 「……アンタに?」
もういちど、フィレンクトはうなずいた。
ペニサスはあきれたがフィレンクトはそう思っている。
ジョルジュは主人のごとく振る舞うことはないが、家具のように存在しようとするフィレンクトに何度も話かける。
最初は一人言かと思ったが、まれに意見を求められるので会話だと気がついた。
主人にもそんな所があった。
これまでとはほとんど違う様子の新たな主人で、仕える期間も短かった。
42
:
名も無きAAのようです
:2014/06/22(日) 14:58:46 ID:r.1uBdXk0
('、`*川 「主人を変えたのは何回目?」
(‘_L’)「5回です」
('、`*川 「ジョルジュは入ってる?」
(‘_L’)「……はい」
('、`*川 「すべての主人を覚えてる?」
その質問には首を降った。交代する時に、過去を忘れるように申しつけられる。次の主人へと渡ったときに、命令系統が混乱しないように。
フィレンクトを取り戻そうとした男を撃ったことがある。だがあれは主人だったろうか。記憶はぼやけている。顔も思い出せない。
('、`*川 「アンタ、どうしたい?」
すっかり食べ終わって、つまらなそうにペニサスが聞いた。その質問の意図が汲めないでいると、もう一度彼女が問いかける。
('、`*川 「アンタ、これからどうしたい?」
フィレンクトは答えられない。
希望することは選択できない。
与えられるものを、ただ受け取ることしかできない。
43
:
名も無きAAのようです
:2014/06/22(日) 15:05:28 ID:r.1uBdXk0
オリジナルですが、似た元ネタあったらぜひ教えてください。
44
:
名も無きAAのようです
:2014/06/22(日) 16:15:38 ID:r.1uBdXk0
ジョルジュが帰宅すると、フィレンクトを連れて外に出た。
車に乗り込み、道路を走り出す。
舗装されていない道を抜けて、高速へと乗り継いだ。フィレンクトは警戒した。
襲われるには絶好の場所だ。自分は今、武器を何も持っていない。防弾ベストも着ていない。
盾になることもうまくできないだろう。
だが警戒とはよそに、襲撃はなかった。車はビルの隙間を抜けて、建設途中の丘へとついた。夜景が広がっていて、夜空がかすむほど輝いている。
*鼹鼹鼹* _**
( ゚∀゚)「……向こうがフォックスと手を組んでいた企業の縄張りだ。金だけは腐るほどある。今じゃ行政だって口をだせない」
ジョルジュが示した先は覚えがある。
何度も足を運んだことがある地理だ。
それから対照的に暗い方向をまた指さす。
*鼹* _**
( ゚∀゚)「俺らがいるのがあっち。みろ。わかりやすいだろ。電気だって不足してる」
ぽつぽつと暗闇にわずかな明かりが見える。大部分が闇に消えていた。
中央に集まるように華やかなビルたち、
その周辺地域は暗く沈んでいる。
*鼹* _**
( ゚∀゚)「フォックスが企業にどう取り入ったのかしらんが、奴は俺らの壊滅を約束したらしい。邪魔者がいなくなれば開発が進められる。あいつもていよく使われたもんだ」
*鼹* _**
( ゚∀゚)「企業は俺らに居なくなってほしい。だがもともとこの土地は俺らのもんだ。後から違法に土地を譲れって無理いったのは向こうで、それに抵抗して抗争になった。」
*鼹* _**
( ゚∀゚)「……フォックスは頭を潰せばちりぢりになると思ったんだろう。主要な俺らの仲間を、次々に襲わせた。お前を使って」
ジョルジュは銃を取り出す。オートマチックをスライドさせて薬莢を装填した。
フィレンクトはじっと見ていた。安全装置を外す。引き金を引けば発射する状態で、口径も大きい。
それをフィレンクトの眉間に突きつけた。
暴発すれば頭の半分は吹き飛ぶ。
殺傷能力の十分期待できる。
45
:
名も無きAAのようです
:2014/06/22(日) 16:17:25 ID:r.1uBdXk0
_**
( ゚∀゚)「…最近、はまってることってなんだ?」
突如話題を変えられた。
ジョルジュはペニサスのようなことを言う。
少し、考えて
(‘_L’)「植物に、水をやることです」
** ** _**
( ゚∀゚)「それはなんでだ?」
(‘_L’)「たぶん、変化することです」*鼹*
** ** _**
( ゚∀゚) 「何がだ」
「色が」
枯れかけた植物に水やりを、ペニサスから 教わった。そのままの状態しか知らなかったので、水の有無で日に日にみずみずしく変わっていく様には驚かされた。
*鼹* _**
( ゚∀゚)「いままで、したことはなかったのか?」
(‘_L’)「ありません」
ジョルジュの指先が、銃の重さでふるえる。フィレンクトはじっと、それを見つめる。
銃口が、額にくっついた。ジョルジュが引き金をひくその時まで、フィレンクトは目を閉じなかった。
** ** _**
( ゚∀゚)「楽しいかいまを」
*鼹* _**
( ゚∀゚)「楽しかったか?」
(‘_L’)「わかりません」
カチっと撃鉄の鳴る音がした。ジョルジュは疲れたように腕を引き上げる。再び銃弾は込められていないようだった。
わずかにフィレンクトは失望する。
役割を果たせないことが悔しい。
申しつけられば自分で、出来るのに。
*鼹* _**
( ゚∀゚)「…楽しくなったら、言ってくれ」
(‘_L’)「はい」
車はそのまま、夜を走り抜けた。
46
:
名も無きAAのようです
:2014/06/22(日) 16:18:51 ID:r.1uBdXk0
眉毛ェ…
47
:
名も無きAAのようです
:2014/06/22(日) 16:39:13 ID:7njgdo0w0
眉毛が煌めいてるけどジョルジュはかっこいい
48
:
名も無きAAのようです
:2014/06/22(日) 20:05:32 ID:FOGvZVw60
面白い
49
:
名も無きAAのようです
:2014/06/22(日) 23:50:57 ID:8P.LF1V60
こういう話大好きです
50
:
名も無きAAのようです
:2014/06/26(木) 05:20:18 ID:7IUNAGs60
辻馬車が舗装された道路を走る。振動はゆるやかとはいえないが、激しくもなかった。
街灯が至る所に設置され、人通りもにぎやかだ。
('、`*川「ばかばかしいったらありゃしないわ」
どれほど貧しくても技術は進歩している。
ガソリンとエンジンを搭載した車のほうがはるかに利便性は高い。
だがこの街は古代の特権階級を意識しているので、手間も時間もかかる方法を好んでいた。
('、`*川「金持ちの金持ちによる金持ちのための街ってね」
('、`*川「移動手段は気にくわないけど外観がいいのが嫌らしいわ」
中世へ様変わりしたような建築が多い。
行き交う人々の多くは富裕層だろう。
彼らは街と同じような装飾を身につけている。
('、`*川「こんなところでしか満足な買い物ができないのはしょうがないか」
51
:
名も無きAAのようです
:2014/06/26(木) 05:26:18 ID:7IUNAGs60
作りかけの道路、工事現場、そこに住み着いているレジスタンス。
対比が見事なほど際だっている。
ジョルジュが言うように、統率する人員が皆消えてしまえば、集まった反対勢力もすぐにちりぢりになるに違いない。
フィレンクトは思い返す。
周辺地理は把握しているが、ロンドンを模したこの街に入ったことはない。
移ってすぐに、フォックスへ譲渡された。
('、`*川「服を買うわよ」
彼女の突飛な行動には黙って従ってきたが、この時は珍しく意見した。
(‘_L’)「必要がありません」
フィレンクトの所有する服は一着のみ。
それ以外はジョルジュと共有している。
背丈の似ている男二人。少しだけ細身のフィレンクトには十分借りられる。
('、`*川「胸張って言うことじ ゃないでしょ。何から何まで世話になっといて恥ずかしくないわけ?」
(‘_L’)「思いません」
ジョルジュからすべてを与えられる。
それがフィレンクトの主従観念だ。
明確な命令はもらえないが、習慣は変わっていないのでそれを守り続けている。
なにを疑うことがあるのか。
('、`*川「あのね、」
一息、吸い込んでペニサスが笑う。力強い怒声が来ることがわかったが、避けられない。
('、`*川「パンツだってお下がりなんて汚いことしてんじゃねぇよ!って話なの」
52
:
名も無きAAのようです
:2014/06/26(木) 05:33:29 ID:7IUNAGs60
ジョルジュは簡単に許可を出した。
それどころかペニサスを護るようにとの指示さえある。
_
( ゚∀゚)「たぶん買い物だけじゃないはずだ。怪我させないようにしてくれ」
(‘_L’)「はい」
_
( ゚∀゚)「それと、」
_
( ゚∀゚)「あいつが何するのか、全部見てこい。いろいろ考えて、俺に教えろ」
(‘_L’)「はい」
ペニサスは看護婦でも娼婦でもない。
彼女は情報屋だ。ジョルジュに対する気安さから同士のように見えていたが、一時的に協力しているだけの関係だと話す。
それにしては周囲の彼女への信頼は厚いが、同じだけジョルジュが信用していることなのだろう。
フィレンクトさえも軽い用なら承る。
ペニサスの態度は露骨に変わるので見極めるのがとても難しい。
何度か“誘い”をかけられることもあった。
それに乗らなければ女として腹を立てる。乗ったとしても怒るだろうし、フィレンクトがジョルジュへ恭順な態度でいても不機嫌になる。
彼女が優しくなるのは二人のときだけで、
それでも伺うような目つきが警戒していた。フィレンクトはさらけ出すようなものは何もない。
けれどペニサスは探ろうとするのをやめない。不快にさせているのだと思っていた。
そんな彼女が世の中の好意にあたいする贈り物を、フィレンクトへする理解が難しい。
53
:
名も無きAAのようです
:2014/06/26(木) 05:38:10 ID:7IUNAGs60
緑の絨毯が詰められた店だった。
シャンデリアが豪華に光を集めて中央に輝いている。形式から言えば並の店だ。
それでもここら一帯では上等の部類に入る。ドア・ボーイがガラスの回転ドアを開けた。ペニサスは堂々と中に入り、フィレンクトもそれに続く。
ペニサスは知識からの振る舞いだがフィレンクトは単純に慣れていた。それでも着ているものはお下がりなので、場の違和感が強い。
('、`*川「呆れた。アンタ、ジョルジュよりも高いくせに、股下が長いってどういう意味よ」
既製品でなく寸法を計ってのオーダー。
ひと昔まえなら出来上がりに三ヶ月はかかったが、ここでは半日で仕上がる。
('、`*川「こういう時間は短縮するんだから、ほんと訳分かんないところよね」
次に連れて行かれた先が美容室だった。
服ができあがるまで、身だしなみを仕上げるようだ。必要最低限のことしかやってこなかったが、隠れ家にいる間ほとんど外には出してもらえなかったので久しぶりに髪にを整えて貰う。
従者の恥は主人の恥。そういえば以前にも、主人に人形遊びのように衣装を着替えさせられたことがある。
執事の格好が似合うと褒められた。
忘れるようにと、まだ命令されていない。
だから思いだしたのかもしれない。
54
:
名も無きAAのようです
:2014/06/26(木) 05:46:22 ID:7IUNAGs60
('、`*川「さ、エスコートなさい」
あつらえた服に袖を通す。ペニサスは大金を払っただろう。軽く、しとやかでデザインのわりに動きやすいスーツだった。
ただ体にぴったりとしているので、中から何もつけることができない。銃も忍ばせられない。それを計算したような出来だった。
ペニサスもドレスアップしている。化粧をしてきらびやかな姿だった。
フィレンクトは手をとって彼女を席へと連れていき、椅子をひく。紳士な対応は暗殺になくてはならないものだ。
ソムリエがワインをついで、それから料理が運ばれてくる。
特に厳しいマナーでもないが、雰囲気がそれを強要している店だった。
('、`*川「飲みなさいよ」
フィレンクトは口をつけた。主人の毒味もしたことがあるのですぐにわかる。
業務ボトルの味がした。
「バカみたいでしょ」
フィレンクトは何も言わない。表情にもださない。それでも内面を当てようとペニサスが言う。
('、`*川「こんなものありがたがって、真似しようとして、バカみたいでしょ。」
('、`*川「ここにいる奴らはね、中流層なの。本物を知らないから、アタシたちみたいなのをみて裕福だと思ってるわけ。
本物の金持ちにとっちゃいいカモよ。
これだけで納得させられるんだから」
('、`*川「与えられるものに不満がなくて、それが最上だと思ってる。疑わなくて、バカでとってもかわいい。アンタそっくり」
55
:
名も無きAAのようです
:2014/06/26(木) 05:50:35 ID:7IUNAGs60
蔑むような目でペニサスが微笑んだ。
その時、フィレンクトは唐突に理解した。
彼女はフィレンクトを、ジョルジュに近づけたくないのだ。理由はわからない。
考察もできない。
けれど彼女の感情がきっとそうだ。
フィレンクトに対して、反発するものは常に居た。だが彼女は今まで一番わかりにくい。
(‘_L’)「何をするのですか」
ジョルジュの命令を優先する。
護ること。たとえ本人が嫌がっても。
(‘_L’)「私ができることはなんですか」
('、`*川「だからホイホイついてきたってわけ……?じゃ、アイツに筒抜けじゃないもう。そっか、だからアンタも来たんだ。あんなに渋ってたのに」
言われるほど抵抗していないが、フィレンクトがNOを出すのはほとんどない。
それにジョルジュの側を離れることは、いきなり主人を失ったフィレンクトにわずかな不安を抱かせた。
56
:
名も無きAAのようです
:2014/06/26(木) 05:55:52 ID:7IUNAGs60
('、`*川「向こうのテーブル。」
視線だけで場所を教えると、ペニサスはバッグから小型のデータメモリをだした。
('、`*川「中身はべつに知る必要ないでしょ。アタシはこれからいい男にナンパされるの。それまで誰にも邪魔されないようにして」
ペニサスの指定したテーブルは予約されている。待ち合わせる相手がこれから来るらしい。ようやく、ふさわしい命令をもらえた。
ジョルジュ本人ではないが、ペニサスを護衛することが承けたものなのだから。
(‘_L’)「時間はありますか?」
('、`*川「あんまりないわね」
(‘_L’)「貴方ですか?」
('、`*川「両方」
(‘_L’)「ここのセキュリティは?」
('、`*川「七大企業のお膝元よ?バカでも天才でも、潜り込めたら苦労しないわ」
習慣の一部になっていたことは、身体はけして忘れない。
服を汚さないようにと命じられて、フィレンクトは階段をあがる。
景観のよい街並だが、そろって中世風の建築なため高い建物は限られる。一つは名物のために場所をとった城。
ライトをあてられ神々しく浮かび上がる城の側面。陰になっている暗闇の屋根のうえ。
レストランの対角線上に位置する場所。
足音を殺して屋根を上り、耳をすませる。
付近に人影は見あたらない。
道具は何一つなかった。それでも殺すだけなら可能だ。スナイパーの場合たいてい見張りがセットになっているが、フィレンクトが動いたのが直前なため、他に仲間は居なかった。
ふちに銃器をセットし、スコープを覗いている男が闇にとけ込んでいる。
57
:
名も無きAAのようです
:2014/06/26(木) 06:01:02 ID:7IUNAGs60
道具がないため時間をかけることができない。情報を吐かせるのも難しいだろう。
男の口元には通信機があり、悲鳴をあげるだけで仲間に気取られる恐れがあった。
仕方なく、フィレンクトは気配を消して彼の背後に忍びよる。力を込めて男の首を捻った。体重をかけて思い切り骨をねじるとゴキッと鈍い振動が手に伝わる。
何も知らない男はそのまま死んだ。
少しだけ痙攣したが数分で硬直が始まる。フィレンクトは男の顔から暗視ゴーグルを外して自分につける。設置されたスコープは、窓から見えるペニサスを捕らえていた。
('、`*川
談笑している男の姿も見える。
( ^ν^)
暗殺用の口径の小さな銃だが、もう少し大きい
ものだったら一発で二人を殺せる。それほど彼らの距離を近い。
フィレンクトはその位置からレストラン方向を狙える場所を探した。恐らく三方向。
一人が外してもそれを補助する別のスナイパーがいるはずだ。ペニサスは両方が狙われている可能性を教えた。
ならば文字通り蜂の巣にされてもおかしくはない。思った通りばらけた場所にスナイパーが居た。通信器は沈黙している。
一斉射撃で逃げるまもなくしとめる計画だろう。銃にサイレンサーがついていてよかった。近場の敵も、静かに殺せる。
('、`*川「化け物」
髪を夜風に乱されて、帰ってきたフィレンクトに、デザートを食べながらペニサスが言った。目に見える変化はそれだけだった。
返答せずに席につく。背中に視線を感じていたが、振り向くことなく食事に手をつける。
58
:
名も無きAAのようです
:2014/06/26(木) 06:06:18 ID:7IUNAGs60
('、`*川「アンタが欲しいってさ。どうする?」
ペニサスの取引相手だった。受け渡しが終わったのに、まだその場にいる。フィレンクトの交渉をしたらしい。
('、`*川「「いい条件じゃない?ちゃんと使ってくれるってよ」
フィレンクトは沈黙している。その権限は彼にない。ジョルジュが命じるなら素直に受け入れるが。
('、`*川「何人いた?」
(‘_L’)「四人です」
('、`*川「あらら。けっこう本気で狙ってきたわね」
('、`*川「アタシが何をしてるか、知りたい?」
(‘_L’)「はい」
彼女の行動を、ジョルジュに報告せねばならない。内容は主人が判断することだ。
('、`*川「教えない」
にこにこと嬉しそうにいじわるされる。
彼女はフィレンクトがジョルジュのために動くことを、邪魔するのが好きだ。
(‘_L’)「そうですか」
('、`*川「もっとねだりなさいよ。口説くみたいに。そしたら教えたげる」
そう言われるが、どのようにしてもペニサスは口を割らないだろう。
代わりに嘘も言わない。それを悟ったのでフィレンクトは何も言わなかった。
59
:
名も無きAAのようです
:2014/06/27(金) 02:22:55 ID:TIjqCXDI0
しえん
60
:
名も無きAAのようです
:2014/08/18(月) 21:28:10 ID:RDT23Eiw0
支援
61
:
名も無きAAのようです
:2014/08/26(火) 16:28:10 ID:ytzCl5C20
待っておるよ
62
:
名も無きAAのようです
:2014/10/04(土) 18:02:11 ID:S4N5dkbU0
_
( ゚∀゚)「似合ってるな」
元々薄い顔立ちで、さらに表情豊かでもない。仕事着としてスーツしか着てこなかった。その評価は妥当なものだろう。
フィレンクトは今日のできごとを報告する。一からすべて。ペニサスとの会話。
店員の様子、取引の相手、暗殺の男たち。さすがにオーダーメイドのくだりになると苦笑した。
63
:
名も無きAAのようです
:2014/10/04(土) 18:02:53 ID:S4N5dkbU0
_
( ゚∀゚)「つけられた?」
(‘_L’)「いいえ監視です」
_
( ゚∀゚)「どう違う」
*鼹鼹鼹*
(‘_L’)「我々の居場所よりも行き先が目的です」
辻馬車の利点は窓が大きく通りを一面みることができた。移動手段はすべて馬車のため、待機の間は車と違って人が居ることは少ない。
排気ガスの心配がないため窓にガラスはなく、冷気も入れられないので走らせないと中は蒸して暑い。
行きも帰りも、同じ馬車が同じ場所で人を入れたまま居るのはかなり不自然だ。
64
:
名も無きAAのようです
:2014/10/04(土) 18:03:39 ID:S4N5dkbU0
誰かを待つなら、近くの喫茶に入ったほうがいい。以上の推論からフィレンクトは何者かによる監視だと報告する。
ペニサスかフィレンクトか。
どちらが目的かはわからないが。
*鼹鼹鼹* _
( ゚∀゚)「恐ろしいな……」
先行きの不安よりも、目の前の淡々とした男は食事中に人を殺して、帰りに怪しげな馬車を見抜いてしまう。
その能力の高さが何より恐ろしい。
今更ながらジョルジュは幸運だった。
フィレンクトに主人がいたまま相対していたら、いまごろ簡単に死体となっている。
65
:
名も無きAAのようです
:2014/10/04(土) 18:04:23 ID:S4N5dkbU0
_
( ゚∀゚)「ペニサスを狙った相手の目的はなんだ?」
(‘_L’)「わかりません」
教えてもらえなかったし、情報を引き出すには手段も道具も足りなかった。
_
( ゚∀゚)「しょうがない。あいつにもあいつの思惑があるだろうしな」
66
:
名も無きAAのようです
:2014/10/04(土) 18:05:08 ID:S4N5dkbU0
一つだけジョルジュに話していないことがある。
67
:
名も無きAAのようです
:2014/10/04(土) 18:05:54 ID:S4N5dkbU0
('、`*川「それ、高かったんだから。ちゃんと着なさいよね」
ペニサスにそう言われたが、このスーツはフォーマルなもので、着る場所は限られる。前の主人たちならばいくらでも場を作れたが、今の状態では機会は恵まれないだろう。
下着とスーツ一着。あれほどジョルジュと共有することに嫌悪をみせたペニサスだったがフィレンクトに与えたのはこれだけだった。
('、`*川「必要ないんでしょ」
酒に酔って頬に赤みがさす。いつもなら表情がころころと変わる女だったが、その時は表情をなくしていた。
68
:
名も無きAAのようです
:2014/10/04(土) 18:06:41 ID:S4N5dkbU0
('、`*川「アンタはジョルジュより先に死ななきゃ駄目よ?それが嬉しいんでしょ?仕事になるんでしょ?弾よけでいい。できるだけ頑丈になりなさい。」
('、`*川「少しだけ同情されてるだけ。あいつこそバカだから。八虫類に恐怖を教えたいだけなの。わかった?」
('、`*川「これから死ぬ人間に、多くは要らないの。アタシからのプレゼント。できたら血塗れにしてね。生地に栄えるわ」
('、`*川「あいつきっと怒るわね。口だしするなって。バカなのよ。バカなんだから、仕方ないじゃない」
69
:
名も無きAAのようです
:2014/10/04(土) 18:07:23 ID:S4N5dkbU0
フィレンクトは悩んだが、結果ジョルジュに伝えなかった。一つにペニサスの感情、思考がジョルジュを害するものでも邪魔するものでもなかったからだ。
以前にも、主人の陰口を聞いたことがあったが聞かれるまで告げなかった。
もう一つに、主人とても近しい交友関係の場合決定的な裏切りが見つからないかぎり愚痴は見逃すことになっている。
たわいない文句も、第三者からの口で聞くと別の意味に聞こえてくるからだ。フィレンクトはそれを考えてやめた。
ペニサスは忠誠に似ている感情をジョルジュに抱いている。それで十分だった。
70
:
名も無きAAのようです
:2014/10/04(土) 18:08:59 ID:S4N5dkbU0
ーーーーーーーーーーーーーーーー
71
:
名も無きAAのようです
:2014/10/04(土) 18:10:01 ID:S4N5dkbU0
爪'ー`)y「何が食いたい?」
何でも。と答えると不機嫌になるので、彼の好きなものを答える。
爪'ー`)y「肉と魚、野菜。この三つが全部で理想だ。おまえいい加減自分の好みを覚えろ。」
連れられていくのは高級な店ばかりだった。彼は自分に惜しみなく与える。
72
:
名も無きAAのようです
:2014/10/04(土) 18:10:45 ID:S4N5dkbU0
服も、食事も、部屋も、武器も。必要な時以外は置物としてしか動かない自分に、際限なく話かける。
食事もレーションがあればそのほうが効率がいいのだが、せっかくマナーを知っているのだからと隣に座らせた。
爪'ー`)y「成り上がりに必要なのは品格なんだと」
用意される事情通の店でなく、一般の高級会員向けに通うことを好んでいた。
ためされることで、彼はスキルを学んでいる。
73
:
名も無きAAのようです
:2014/10/04(土) 18:11:29 ID:S4N5dkbU0
爪'ー`)y「なにもかも終わったらお前を返さなきゃならん」
契約は急だった。
ある日突然彼の元に送られた。七つのビルに、海を渡って。
爪'ー`)y「そら、うまいか?」
レア・ステーキ。些細な火加減で味が微妙に変化する。だが自分には成分はわかっても、旨みがよくわからない。ビタミン・ミネラル・亜鉛。脂質の高いほうが、美味とされる。
74
:
名も無きAAのようです
:2014/10/04(土) 18:12:17 ID:S4N5dkbU0
爪'ー`)y「お前は銃だ。オールマイティ。
使い方さえ知っていれば、誰にでも扱える」
肉の味。付け合わせのポテト。それから芳醇なワイン。
爪'ー`)y「だがもし銃に意志があったら。
お前がそのままに意志があったら。」
彼の話はいつも難しい。呼吸することと同じようにしか、自分は動けない。
彼が望むことならすべて従う。けれど、それは彼が欲しいものではないようだ。
爪'ー`)y「せめて嘘のつきかたくらいは覚えろ」
その命令に、はいと答えた。
75
:
名も無きAAのようです
:2014/10/04(土) 18:13:05 ID:S4N5dkbU0
ーーーーーーーーーーーーーーー.
76
:
名も無きAAのようです
:2014/10/04(土) 18:14:01 ID:S4N5dkbU0
目が覚める。
規則正しく、いつもと同じ時間。
記憶の反復。夢ではない。過去だ。
前主人との会話。結局何をさせたいのか、わからないままに終わってしまった。
着替えて、朝の日課を行う。窓をあけて風を入れ、掃いてから雑巾でほこりをぬぐう。
77
:
名も無きAAのようです
:2014/10/04(土) 18:14:48 ID:S4N5dkbU0
着替えて、朝の日課を行う。窓をあけて風を入れ、掃いてから雑巾でほこりをぬぐう。
ジョルジュからは相変わらず仕事の命令をもらえない。
ペニサスとの事を思い出す。
少数だが片づけた。フィレンクトは役にたったろうか。
ジョルジュはなにもかも主人たちと違う。
殺しを命じてくれない。物のように扱ってくれない。放置することもない。
彼のおかげで困惑することが増えた。考えることは苦手だ。それは主人の仕事だった。
78
:
名も無きAAのようです
:2014/10/04(土) 18:15:31 ID:S4N5dkbU0
_
( ゚∀゚)「手伝え」
キッチンに行くと珍しくジョルジュが起きていた。着てるものの様子から、寝ていないようだ。
階段を降りて、持たされた荷物を運ぶ。
塀の外に、組まれた木があって中に炭が燃えている。それにあふれるほど家にあった雑貨をつぎつぎ投げ込んだ。
79
:
名も無きAAのようです
:2014/10/04(土) 18:16:14 ID:S4N5dkbU0
小さなぬいぐるみ。リボンの花。目覚まし時計。キノコの電球。編まれたショール。小説。女物の靴。ヘアバンド。
生活する上で必要なものも、かまわず燃やしていく。塩化ビニールが、黒煙をだした。カラフルな彩りは、焦げて色を失っていく。
炎がひときわ大きく燃えあがった。わずかにガソリンの匂いがする。
80
:
名も無きAAのようです
:2014/10/04(土) 18:17:11 ID:S4N5dkbU0
_
( ゚∀゚)「お前生まれはどこだ」
(‘_L’)「わかりません」
_
( ゚∀゚)「家族は?」
(‘_L’)「わかりません」
カチカチ。ジョルジュはシリンダーをいじっている。彼の癖なのかもしれない。
みたことがあった。ライナスの毛布。
無自覚の、精神の安定。
81
:
名も無きAAのようです
:2014/10/04(土) 18:17:54 ID:S4N5dkbU0
_
( ゚∀゚)「自分が可哀相だと思ったことは」
(‘_L’)「わかりません」
ジョルジュは苛立っている。まるでゾウに噛みついたアリのような抵抗しかなかったが、それも滞っていた。
フィレンクトに仲間を殺されたことで勢力は大きく低下している。
82
:
名も無きAAのようです
:2014/10/04(土) 18:18:37 ID:S4N5dkbU0
開発の遅れを嫌って交渉に入っていた企業も、自滅を狙って手を引いてきた。
ほとんど詰んでしまった状態で、仕事を貰って傘下に入ってしまえという声もでている。
ジョルジュは起死回生を待っているわけではなかった。死と引き替えに手痛い攻撃をしかけて、妹の仇をとれればそれでよかった。
このまま膠着が続ければ資金も底をつき、それを埋めるためにさらなる犯罪を起こさなければならない。
仲間を養う立場の彼は、それを憂いている。
83
:
名も無きAAのようです
:2014/10/04(土) 18:19:21 ID:S4N5dkbU0
_
( ゚∀゚)「…あいつがいるから、後のことは心配してなかったんだ」
あの日、フォックスを殺した日。
死んでもいいと思っていた。
担当がいなくなれば開発に時間をとられ、
地味な嫌がらせと敵討ち。
命令をしたものと手を下したもの。この手で殺すと決めていた。
84
:
名も無きAAのようです
:2014/10/04(土) 18:20:04 ID:S4N5dkbU0
_
( ゚∀゚)「お前が死ぬのが簡単なのが悪い」
(‘_L’)「申し訳ございません」
復讐するのに手ごたえがなさすぎた。
「なあ、俺の事、どう思う」
(‘_L’)「……」
主人の評価はフィレンクトがすることではない。それでもジョルジュが苦しそうなので、フィレンクトは考えた。しばらく考えて、
85
:
名も無きAAのようです
:2014/10/04(土) 18:20:46 ID:S4N5dkbU0
(‘_L’) 「わかりません」
それしか答えられない。
86
:
名も無きAAのようです
:2014/10/04(土) 18:21:55 ID:S4N5dkbU0
_
( ゚∀゚)「俺はお前を許せない」
(‘_L’)「はい」
_
( ゚∀゚)「でも迷ってる」
(‘_L’)「はい」
_
( ゚∀゚)「……もう一人殺したい奴がいる。その時まで、働いてくれ」
(‘_L’)「はい」
ジョルジュが黒い炎で煙草に火をつけた。最初の煙を堪能してからフィレンクトにわたす。
生まれてはじめての煙草の味、上手に吸えなくて、しばらくむせた。
87
:
名も無きAAのようです
:2014/10/04(土) 18:24:43 ID:S4N5dkbU0
しばらく書き込める状態じゃありませんでした。見ててくださった人たちありがとう!
88
:
名も無きAAのようです
:2014/10/04(土) 19:13:50 ID:BSJxuORc0
見てます!!乙でした!!
89
:
名も無きAAのようです
:2014/10/05(日) 01:50:12 ID:HDUtD6nM0
来ていたとは!乙です 続きも待ってます
90
:
名も無きAAのようです
:2014/10/05(日) 07:29:06 ID:a5eyF7jk0
待ってた!ありがとう!乙!
91
:
名も無きAAのようです
:2014/10/05(日) 11:38:36 ID:5nU2oR1E0
乙
92
:
名も無きAAのようです
:2014/10/05(日) 13:48:22 ID:bCsv2Otw0
いい雰囲気だな。
93
:
名も無きAAのようです
:2014/10/05(日) 14:02:59 ID:.CpxSjvc0
乙!とても好きだ!続きを渇望して待つ!
94
:
名も無きAAのようです
:2014/10/06(月) 13:56:59 ID:hZ3SYm9c0
乙
しんしんと静かな雰囲気がいい
だんだん話が動きそうで期待
地の文好きだわ
95
:
名も無きAAのようです
:2014/10/08(水) 04:44:46 ID:y9lJb8uA0
( ^ν^)「仕掛けるのか?」
_
( ゚∀゚)「ああ」
( ^ν^)「……勝てると思うのか?」
_
( ゚∀゚)「そんなわけない」
( ^ν^)「じゃあなんで」
96
:
名も無きAAのようです
:2014/10/08(水) 04:45:34 ID:y9lJb8uA0
_
( ゚∀゚)「いろいろだ。考えた結果これが一番いいと思う」
( ^ν^ )「……気負いすぎだ。おまえは責任を負いたがる。一度捨ててみたらどうだ」
_
( ゚∀゚)「……ハハッ……無理な相談だ」
(‘_L’)
( ^ν^)「…………」
( ^ν^)「……おい、どういうことだ」
( ^ν^)「なんでこいつがいる」
97
:
名も無きAAのようです
:2014/10/08(水) 04:46:27 ID:y9lJb8uA0
_
( ゚∀゚)「言ったろ?」
「戦争だ。歯止めはない」
カチリ。トリガーをセット。
いつでも発射可能。フィレンクトはジョルジュの隣の頭に銃口を当てた。ひやりとした鉄の感触に、男が身を凍らせる。
98
:
名も無きAAのようです
:2014/10/08(水) 04:47:15 ID:y9lJb8uA0
( ^ν^)「……あの女か」
_
( ゚∀゚)「いいや。ペニサスは何も言ってない。引き際がうまい奴だ。そもそも、」
_
( ゚∀゚)「おまえ、あいつとは別人だろ?」
( ^ν^)「…………」
_
( ゚∀゚)「お喋りが上手じゃないな。ここで黙秘は認めたようなもんだぞ」
99
:
名も無きAAのようです
:2014/10/08(水) 04:47:57 ID:y9lJb8uA0
( ^ν^)「…………」
_
( ゚∀゚)「……わからないのは、交渉が決裂した後もおまえが留まった理由だよ。もうこちらには引き出せるものなんてないはずだ。」
( ^ν^)「…………」
_
( ゚∀゚)「狙いは何だった?こっちは大幅に人が減って工作は必要ないくらいだ。これだけ近くにいて俺を殺さなかった理由は?」
脅しは必要ない。ジョルジュの合図でいつでも殺せる。銃を構えた腕のまま、フィレンクトは動かない。
100
:
名も無きAAのようです
:2014/10/08(水) 04:48:40 ID:y9lJb8uA0
( ^ν^)「…………守るためだ」
_
( ゚∀゚)「何を……?」
( ^ν^)「おまえを守るためだジョルジュ」
_
( ゚∀゚)「笑えないな」
( ^ν^)「真実だ」
_
( ゚∀゚)「なんのために?」
( ^ν^)「決まってるだろう」
( ^ν^)「おまえが死んだら、誰があのクズどもをまとめるんだ」
_
( ゚∀゚)「……」
101
:
名も無きAAのようです
:2014/10/08(水) 04:49:22 ID:y9lJb8uA0
( ^ν^)「勝てない戦いなんて自殺と同じだ。おまえがそんな無謀なことをするなんて信じられん」
( ^ν^)「無駄なことは嫌いじゃなかったのか?」
_
( ゚∀゚)「無駄をそぎ落とした結果、後ろの男みたいな奴を作るのか?」
( ^ν^)「……こいつらの事は知らない」
_
( ゚∀゚)「おまえと同じ顔の男は知ってたぞ」
( ^ν^)「管轄外だ。俺らとはまったく違う」
_
( ゚∀゚)「自分の事は認めるのか」
( ^ν^)「……」
102
:
名も無きAAのようです
:2014/10/08(水) 04:50:05 ID:y9lJb8uA0
_
( ゚∀゚)「……あいつの事、少しでも愛してたか?」
( ^ν^)「…………」
( ^ν^)「……いいや」
( ^ν^)「好きだっただけだ」
_
( ゚∀゚)「……まあいいさ。おまえが誰で、双子でも三つ子でも、整形だってかまわん」
_
( ゚∀゚)「これから特攻に行くんだ。土産に何か持たせてくれよ」
103
:
名も無きAAのようです
:2014/10/08(水) 04:50:47 ID:y9lJb8uA0
( ^ν^)「…一つ聞きたいんだが」
_
( ゚∀゚)「なんだ」
( ^ν^)「フィレンクト」
「おまえ、チップは入ってないのか?」
(‘_L’)「…………」
_
( ゚∀゚)「答えてやれ」
(‘_L’)「はい」
( ^ν^)「そうか」
( ^ν^)「俺は入ってる」
104
:
名も無きAAのようです
:2014/10/08(水) 04:51:43 ID:y9lJb8uA0
口径の大きな銃の引き金を、男が言い終わるまえにフィレンクトは引いた。
轟音がして頭から男が吹っ飛ぶ。弾は頭蓋を貫通して、脳漿を飛び散らし、壁にめり込んだ。
血をまともに浴びて、一瞬のできごとにジョルジュがたじろぐ。
_
( :** ゚∀゚)「おい」
(‘_L’)「逃げます」
その一言だけを言ってジョルジュの腕をつかむと、想定していたルート、裏口の窓から飛び降りる。
ジョルジュは怪訝そうだったがフィレンクトの勢いに多くは尋ねなかった。
日頃からちくいちジョルジュを伺う彼の行動だ。緊急性が感じられた。
入り組んだ背の低い建物は逃げやすかった。崩れやすい建物を住民が直していくたびに等号のない壁が作られ、足場が多くなる。
迷路のような入り組んだ通路は常に道を変えている。
105
:
名も無きAAのようです
:2014/10/08(水) 04:52:32 ID:y9lJb8uA0
_
( ゚∀゚)「チップってなんだ」
建物をいくつも通り抜け、階段を上下してようやく一息つく。一定時間の休憩を入れてフィレンクトは常に移動する。
ジョルジュには影も形も感じられなかったが、フィレンクトは追ってを確信していた。
逃亡するなら同じ場所に止まってはならない。意識して周回するのが望ましい。
追跡者たちの気配を振り切って、ようやくフィレンクトが足を止める。
それでも壁に耳をはりつけて、振動を感じようとしていた。
「生体認証コード、ナンバーとGPSのついた米粒台のマイクロチップです」
_
( ゚∀゚)「ってことは」
106
:
名も無きAAのようです
:2014/10/08(水) 04:53:15 ID:y9lJb8uA0
(‘_L’)「盗聴の恐れもあります。あの男があなたの側にいて、一度も本社に帰っていないのならその機能は停止しているかもしれません。しかしGPSは生体が死ぬまで機動し続けます」
_
( ゚∀゚)「もうあの隠れ家使えないな……」
_
( ゚∀゚)「……おまえには入ってないのか?」
(‘_L’)「はい」
_
( ゚∀゚)「なんでだ?、おまえ回収されないって事だろ」
(‘_L’)「分かりません」
_
( ゚∀゚)「……フォックスは何か言ってたか?」
107
:
名も無きAAのようです
:2014/10/08(水) 04:53:57 ID:y9lJb8uA0
(‘_L’)「注文通りだと」
_
( ゚∀゚)「注文……?」
(‘_L’)「はい」
_
( ゚∀゚)「……」
_
( ゚∀゚)「つまり奴も、奴と組んでいた奴も、何かしらの理由でおまえを必要としてたのか。管理されない、人形を」
(‘_L’)「…………」
_
( ゚∀゚)「企業も一枚岩とはいかない、おまえがここに居るのは偶然なのか……?」
(‘_L’)「…………」
ジョルジュが睨みつける。だが無機質の目で見つめ返された。相変わらず、何も映すことのない目。
ジョルジュは考えようとしてやめた。
推論は無意味だ。偶然なら幸運。陰謀だとしてもフィレンクトを使うことでしか、一矢報いることはできない。
108
:
名も無きAAのようです
:2014/10/08(水) 04:54:46 ID:y9lJb8uA0
_
( ゚∀゚)「奴とのやりとりは覚えてるのか」
(‘_L’)「はい」
_
( ゚∀゚)「どのくらいだ?」
(‘_L’)「すべて」
まだ、削除命令は出されていない。
109
:
名も無きAAのようです
:2014/10/08(水) 04:56:18 ID:y9lJb8uA0
ー.ー.ー.ー.ー.ー.ー.ー.ー.ー.ー.ー.
ー.ー.ー.ー.ー.ー.ー.ー.ー
ー.ーー.ー.ー.ー.ー.ー
110
:
名も無きAAのようです
:2014/10/08(水) 04:57:17 ID:y9lJb8uA0
伸びてくる腕がある。
追いかけられている。死に直結するものではない。むしろ必死に、こちらへ追いつこうとするものがあった。
だが自分は歩みを止めない。変わらない速度でそれをふりほどいて進んでいく。
首のうしろ。所有者のあかし。
わめき声は耳に入らない。次の命令は受けた。主人の登録もすんでいる。
こめかみにチップが埋め込まれる。これでなにもかも把握される事になっている。
「フィレンクト!」
その名前は記号だ。自分はコードで整理されている数字のひとつにすぎない。
伸びてくる腕がある。強い、確かな力で腕を掴まれた。ふりほどけない。
「撃て」
正面からの声。名を呼ぶ声のうえからかぶさり、その命令は頭に浸透した。
まっすぐに腕を伸ばす。
頭に照準を定めて、引き金をひいた。
慣れた感触なのにずいぶんと重く感じる。
「フィレンクト」
声が遠くなり、視界から姿が消えた。
首のうしろ。
「やっかいな痕をつけられたな。焼くぞ」
「はい」
111
:
名も無きAAのようです
:2014/10/08(水) 04:57:58 ID:y9lJb8uA0
.ー.ー.ー.ー.ー.ー.ー.ー.ー.
ー.ー.ー.ー.ー.ー.ー.ー.ー.ー.ー.ー.
ー.ー.ー.ー.ー.ー.ー.ー.ー.ー.ー.ー.ー.
112
:
名も無きAAのようです
:2014/10/08(水) 04:59:04 ID:y9lJb8uA0
_
( ゚∀゚)「妹の結婚相手だったんだ」
拠点に帰らず、近くのバーガーショップで食事をとる。冷めたバンズを食べながら、無感動にジョルジュが言った。
_
( ゚∀゚)「なにもかも終わったら所帯を持たせるつもりだった」
_
( ゚∀゚)「妊娠してたからな」
フィレンクトは思い返す。死んだ者は数えない。数えられないほど手にかけてきた。
_
( ゚∀゚)「なんであいつが狙いをつけられたんだ?」
(‘_L’)「わかりません」
_
( ゚∀゚)「奴は何と言っていた?」
(‘_L’)「命じられました。写真の人間を処分するようにと」
113
:
名も無きAAのようです
:2014/10/08(水) 04:59:47 ID:y9lJb8uA0
(‘_L’)「それだけです」
_
( ゚∀゚)「そうか」
死者は数えてはいけない。依然それで痛い目にあった。
それでも記憶を半数しようと試みる。
ジョルジュがそれを望んでいるからだ。
みどりの黒髪。幼い顔立ち。
スパイの男が妊娠の失態を犯してしまった女。
ジョルジュの、妹。
(‘_L’)「あなたのせいではありません」
114
:
名も無きAAのようです
:2014/10/08(水) 05:00:47 ID:y9lJb8uA0
_
( ゚∀゚)「……俺以外に理由があるかよ」
めずらしくフィレンクトの意見に眉を寄せる。
だがフィレンクトは根拠なく言ったわけではない。少し考えれば分かることだ。
そしてそれは初めてのことだった。
(‘_L’)「妊娠です」
_
( ゚∀゚)「……どういう意味だ」
あの男が整形ならば妹は対象にならなかった。ひとつの家族で戸籍のある場合でも同じだ。
だが彼らは遺伝子から製造されたオリジナルに仕える兄弟。
その遺伝子をむやみに振りまくことが許されるはずがない。
あの男はミスを犯した。それゆえジョルジュの妹が処分されることになった。
遺伝子情報に鍵をかけられていない彼は、どの道使い捨てられる。
フィレンクトの説明を聞いて、ジョルジュが穏やかに笑った。
表情とは裏腹に心内では激高しているのがフィレンクトにはわかった。
115
:
名も無きAAのようです
:2014/10/08(水) 05:01:31 ID:y9lJb8uA0
_
( ゚∀゚)「……あいつを信じてそばに置いていたのは俺だ。結局、原因は俺だったってわけか」
(‘_L’)「……」
_
( ゚∀゚)「……何人いる?」
_
( ゚∀゚)「あいつは後、何人いる?」
(‘_L’)「把握していません。少なくとも本社には数人、世界では1000人ほどだと思われます」
_
( ゚∀゚)「何のために、あんなのを作ったんだ」
(‘_L’)「……分かりません」
影武者、裏切るリスクの少ない身内。
役割は多々ある。彼らもコードで管理されている。立場はフィレンクトと変わらない。
違うのはフィレンクトが主人を代えること。彼らが生涯オリジナルに仕えること。
ジョルジュの怒りが高まる。思考すればするほど苛立ちを増していった。
116
:
名も無きAAのようです
:2014/10/08(水) 05:02:30 ID:y9lJb8uA0
_
( ゚∀゚)「妊娠したから、やつの子供を受精したから、あいつはお前に殺されたのか?」
答えればさらに怒りを煽るだろうと思ったが、フィレンクトは素直に答えた。
「はい」
興奮したジョルジュが殴りつける。それでも理性は残っていたようで、顔でなく肩を思い切り殴打した。
フィレンクトは立ち続けるか、流れに身をまかせるか一瞬迷う。
だがジョルジュの拳が望んだようにしようとそのまま力に押され、壁に身体をぶつけた。
続けて拳が降ってくると思ったが、ジョルジュは忍耐強く耐えている。
_
( ゚∀゚)「……抵抗しろとは言わないから、身を守れ、でないと俺が困る」
(‘_L’)「了解しました」
ジョルジュをなだめるに必要な行為なのだ
う。受け流すようにして彼の拳を受けた。
ときどきまともに身体に入れてやる。
フィレンクトは息を乱すこともなかったが、ジョルジュは大きく深呼吸した。
それからひとつ、ふたつの涙を流した。
117
:
名も無きAAのようです
:2014/10/08(水) 05:03:34 ID:y9lJb8uA0
('、`*川「やだ、アンタこれなあに?」
そう言われたが自分で背中は見れない。
ペニサスはフィレンクトのうなじを軽くさすった。
('、`*川「火傷のうえから、移植されてる。何か埋め込まれたの?でも反応はなかったけど」
最初の日にフィレンクトの身体はセンサーでチェック済みだ。不審なものは何もない。だがペニサスはフィレンクトの肌の一部を気にした。
('、`*川「……歴史のある人形なんてめずらしい。普通は傷なんて消されるのに」
('、`*川「あんたの主人がやったの?」
(‘_L’)「覚えていません」
事実だ。
118
:
名も無きAAのようです
:2014/10/08(水) 05:04:19 ID:y9lJb8uA0
_
( ゚∀゚)「必要なもの、ほかにあるか?」
マシンガン、ハンドガン、いくつかの手榴弾、それから補充の弾薬。トラップ用の地
雷。グレネードといったものも少ないがあった。
ジョルジュがどこからかかき集めてきたものだ。フィレンクトは一瞥する。
どれも役にたちそうもない。火力による襲撃にはシェルターとマニュアルで対応される。陽動でしか使えないだろう。
唯一の救いはペニサスの補助。彼女が用意したPCがあれば数分のハッキングが可能になる。
(‘_L’) 「目標は何でしょう」
119
:
名も無きAAのようです
:2014/10/08(水) 05:05:03 ID:y9lJb8uA0
これだけの銃器を使用すれば少なからず打撃を与えることができる。
だが相手の心臓には届かないうえに末端で相手されることは間違いない。
命をかけるには小さな抵抗だ。対象の確認さえあればそれも違ってくる。鉛筆ひとつでも、人は殺せた。
_
( ゚∀゚)「多くは狙わん。爆弾巻いてつっこんでもどうせまた補充されるだけだ。お前みたいのが」
_
( ゚∀゚)「だから代わりのないものを狙う」
ジョルジュの命をかけた、最大の嫌がらせ。
_
( ゚∀゚)「…メインコンピュータ吹き飛ばしてやる」
都市付近になるほど機械は進出している。
人体に埋め込んだICカードで買い物から契約まで事足りた。
町を管理しているのは大企業でありジョルジュたちの敵の七つの企業。
密集したビルの上層部に機械は納められており、そこからすべてを管理していた。住民情報も、都市の信号カメラも、さまざまに。
120
:
名も無きAAのようです
:2014/10/08(水) 05:05:50 ID:y9lJb8uA0
七つのビルは国のなにより高くそびえている。侵入するのは困難だった。認証がなければまず入れない。
むやみに突破し、住民登録されていない者はレーザーで首をはねられる。
非人道的だと非難されたシステムだったが、その後起こったテロリストの襲撃でその声もやんだ。
_
( ゚∀゚)「お前と俺くらいしかこんな事するバカがいない。できるか?」
警戒線をくぐり抜け、フィレンクトと同じように警備に付く者たちに見つからず、
重要レッドの最上階へとたどり着かなくてはジョルジュの目的は達成できない。
_
( ゚∀゚)「……できるか?」
フィレンクトは常に命令を享受してきた。
だが彼にも限界はある。
強力な後ろ盾がない。最新の武器がない。先手をとれる情報も、バックアップの仲間もいない。
121
:
名も無きAAのようです
:2014/10/08(水) 05:07:14 ID:y9lJb8uA0
(‘_L’)「命じてください」
能力を越えた働きはできない。
主人に虚偽はつけない。たやすくYESと言えるような内容ではなかった。
だがフィレンクトは焦れる。
ジョルジュからの初めての、具体的な仕事の案。命令を、命令を!それさえ貰えばなんでもできる。身体ひとつで死に行けと、できるだけを殺してこい。
だが主人を目的の場所まで運ばないとならない。
内容はハード。しかしジョルジュは今までの主人たちとは違う。規約に縛られない。
ルールを破ることには当たらない。
何でもできる。ジョルジュが命じればなんでも!
(‘_L’)「どうか、命じてください」
ほとんど懇願だった。高揚する気分と、計算する冷静が混同している。
ジョルジュは可能かと聞いている。
フィレンクトは「はい」と答えるべきだったのに、ねだるような口調になってしまった。
122
:
名も無きAAのようです
:2014/10/08(水) 05:08:03 ID:y9lJb8uA0
_
( ゚∀゚)「……俺を、タワー最上階のメインビル、motherの元へ連れていけ。お前が死んでもだ」
ジョルジュには何の表情も伺えなかった。反対にフィレンクトは目を輝かせる。
微表情がめずらしく仕事をした。
(‘_L’)「はい」
感情がこもった声。
自分がこの声を出したのだと少し驚いた。
123
:
名も無きAAのようです
:2014/10/08(水) 05:09:47 ID:y9lJb8uA0
('、`*川「作戦って呼べるほどのものじゃないのね」
実行役は二人。補助が一人。
陽動で動けるものがジョルジュの傘下数十人
。彼らには状況が混乱したさいの、強奪という飴がある。
幾人かが銃火器で押し寄せ、マニュアル通りならそれに対応する企業の用兵が出てくるので、その隙に開かれたゲートから侵入する
('、`*川「パスはどうするの?アタシじゃ無理よ」
(‘_L’)「わたしの登録を使います」
('、`*川「……使えるの、それ」
(‘_L’)「私たちのコードは変更されません」
まだ廃棄されたことはないが、番号は受け継ぐものだった。中身だけ入れ替えられる。
('、`*川「セキュリティが甘いんだか強いんだか……まあ裏切る心配がないからこそなのかも」
('、`*川「第二のゲートはそれで入れるとして、警備はどうすんの?犬に爆弾でも巻く?」
階が高くなるほど警備は厳重になる。
最上階はこのビルの頭脳が置かれている場所だ。
フィレンクトと同じ者たちが、守りを固めている。
(‘_L’)「それには及びません。」
('、`*川「……なによ?どんな考えなわけ」
(‘_L’)「最重要機密です」
('、`*川「…アタシには話せないの?ならジョルジュに聞くわ」
124
:
名も無きAAのようです
:2014/10/08(水) 05:10:30 ID:y9lJb8uA0
_
( ゚∀゚)「で、どういう事だ」
フィレンクトのたてた計画に目を向く。
時間がかかりすぎない事が成功率が高いというのは常識だが、それにしても。
_
( ゚∀゚)「おまえみたいな奴らの居る階を、五分で通るってのは無茶じゃないのか?」
フィレンクトはバランス型だ。もっとも優秀なタイプで特技に偏りがない。
それだけに万能として重宝された。
だが警備に置かれている者たちはパワーとスピードに特化している。
侵入者に対しての制圧と迎撃に対応させ、機械のように冷静で効率のいい判断ができる教育を受けている。
そんな者たちが数十人固まっているというのは、ジョルジュに鉄壁を連想させた。
125
:
名も無きAAのようです
:2014/10/08(水) 05:11:12 ID:y9lJb8uA0
(‘_L’)「……あの階がもっとも早く通り抜けられます。五分は最低で、もう少し早まるかもしれません」
_
( ゚∀゚)「どうやって」
(‘_L’)「……」
どのように説明したものか、フィレンクトは迷う。
ジョルジュひとりにだけ話しても、彼はこの情報をペニサスに流す恐れがあった。
計画は絶対に成功させないといけない。ジョルジュの命がかけられている。
そう思うと失敗させるわけにはいかなかった。フィレンクトはもう、足下が崩れる不安定なあの瞬間を経験したくない。
_
( ゚∀゚)「……なんで言えない?」
沈黙するフィレンクトをいぶかしむ。
126
:
名も無きAAのようです
:2014/10/08(水) 05:12:03 ID:y9lJb8uA0
ペニサスは彼にとって仲間だ。だが得体のしれなさをフィレンクトは警戒している。
彼女がジョルジュに抱く感情と、この情報の扱いは別物だ。
どのように使われてもいいが、実行するそのときまで内密にしておきたい。
_
( ゚∀゚)「もういちど聞く。……できるのか?」
(‘_L’)「はい」
説明ができない。
フィレンクトの警戒はペニサスへの嫌疑だ。ジョルジュにここまで尽くす彼女をないがしろにすることは、彼の怒りを誘発する。
計画にリスクを招けない。本来ならすらすらと喋れたのに、彼の命と天秤にかけた結果フィレンクトの口は重くなった。
フィレンクトはジョルジュから信用を貰わなければならなかったのに、不審を抱かれている。
成り行きの主人への錯覚、彼はフィレンクトを信用したわけではない。
127
:
名も無きAAのようです
:2014/10/08(水) 05:13:18 ID:y9lJb8uA0
遂行する計画と、従うべき主人への忠誠。
矛盾した行動にフィレンクトは気持ちが悪くなった。
_
( ゚∀゚)「……お前が困ってるのは分かる」
(‘_L’)
_
( ゚∀゚)「初めて会ったときもそんな顔してたな。どうしたらいいかわからないって」
(‘_L’)
_
( ゚∀゚)「俺は成功できればそれでいい。おまえは陰謀に向かない奴だし。
言えない理由がよくわからんが、おまえなりに何か考えがあるんならそれでいい」
(‘_L’)
_
( ゚∀゚)「銃よりも叱られるほうが怖いのか?」
そう言ってジョルジュが笑った。
128
:
名も無きAAのようです
:2014/10/08(水) 05:14:12 ID:y9lJb8uA0
フィレンクトには脅しも痛みも効かない。
恐怖も。
それを最初にジョルジュは知った。あとから彼の献身そのものが生きる糧だと気が付いた。
盲目のフィレンクトは主人を裏切れない。
失うことこそが最大の不安なのだとジョルジュはよく理解している。
129
:
名も無きAAのようです
:2014/10/08(水) 05:15:10 ID:y9lJb8uA0
('、`*川「……いっちょまえに内緒にするなんて生意気よ」
結局、ジョルジュにも打ち明けなかった。
それを意外そうにペニサスは眺める。もっと怒られるかと思ったが、ペニサスは問いつめたりしなかった。
('、`*川「……あんた何になるのかしら」
('、`*川「生きたい?」
(‘_L’)「わかりません」
('、`*川「死にたい?」
(‘_L’)「わかりません」
('、`*川「どっちでもいい?」
(‘_L’)「…………」
('、`*川「アタシあんた嫌いよ」
(‘_L’)「それもわかりません」
('、`*川「あら、嘘も覚えたの?」
(‘_L’)「…………」
130
:
名も無きAAのようです
:2014/10/08(水) 05:15:58 ID:y9lJb8uA0
('、`*川「ジョルジュの奴、情操教育のつもりかしら?」
('、`*川「……なんでもいいや。あんた、ジョルジュ死なせたら許さないからね。絶対生きて返しなさいよ」
それは難しい。主人の意志を違えることはできない。フィレンクトがどれほど動けても、自分はジョルジュの意志に忠実でなければならない。
彼を生かしたいのはフィレンクトも同じだ。だがジョルジュはーーー
……行動するのが一緒ならフィレンクトはひとりにならない。目的を達成すればジョルジュも満足するだろう。
計画の予想はできても想像は許されていなかった。もし、彼が死んだら。想像は困難だった。
思考するのに負荷がかかる。
重くて苦しいその何かは、フィレンクトの胸に混乱と戸惑いを落としていった。
131
:
名も無きAAのようです
:2014/10/08(水) 18:58:07 ID:Gj7qhEwg0
支援
今まで見てなかったけど
メチャクチャかっこいい オサレ
132
:
名も無きAAのようです
:2014/10/08(水) 20:31:48 ID:yhmKQF0k0
うおお、きてた!これからどうなるか楽しみ!
133
:
名も無きAAのようです
:2014/10/20(月) 23:06:35 ID:dKZGx9EQ0
ワクワクすっぞ
134
:
名も無きAAのようです
:2014/10/23(木) 16:36:40 ID:808waeSkO
おもしろいそして楽しみ
135
:
名も無きAAのようです
:2014/10/27(月) 23:31:39 ID:ONPZ5VOE0
(‘_L’)「あれをください」
そう示されたのは店の中央、メインに大きく展示されているブラック・ローズの花束で店員は一瞬たじろいだ。
売り物としては非常に大きな買い物だ。
切り花でなく、きちんと根を残して肥料を与えている。
一度購入し、維持するのにも手間がかかる高級品で、赤い色が栄えるようにわずかな黒みのあるバラ。
.
136
:
名も無きAAのようです
:2014/10/27(月) 23:32:21 ID:ONPZ5VOE0
男の服装に目をやる。タイトスーツ。
グレーの落ち着いた生地。
しっとりとした色で安物ではない。
袖襟もきちんと腕に合わせて詰められている。計ったようなオーダーメイト。
ζ(゚ー゚*ζ「かしこまりました」
客の値踏みをして注文が本気だと知る。
男はすましたような顔で店員が台座から花鉢を移す行動を眺めていた。
.
137
:
名も無きAAのようです
:2014/10/27(月) 23:33:21 ID:ONPZ5VOE0
(‘_L’)「そのままで」
包装しようとした手を止める。
ζ(゚ー゚*ζ「……ラッピングはお辞めになりますか?」
(‘_L’)「はい」
ますますおかしな客だった。
この花の価値を知らないのだろうか、と不審に思う。
見かけだけを整えたおのぼりさんが、ガラスケースの中の目についたものを何も知らずに買おうとしているのでは。
けれど渡されたカードはプラチナ・ナンバーで、息を飲んだ。
ζ(゚ー゚;ζ「少々お待ちくださいませ」
.
138
:
名も無きAAのようです
:2014/10/27(月) 23:34:03 ID:ONPZ5VOE0
レジに通すが問題はなく代金が引き下ろされた。しばらく待ったがエラーはない。
本物のゴールデン地区の住民らしい。
笑顔を作り直してカードを返却した。
こんな客が再び訪れるのはめったにないだろう。
他の花も勧めてみたが、よい返事はもらえなかった。
店の高級感を出すためと、品揃えを誇るために取り寄せたバラはここ何年も売れることはなかった。
おそらく手近で買うしかなかったのだろう。もう少しいけばもっとランク上の店だあるのに。
139
:
名も無きAAのようです
:2014/10/27(月) 23:34:58 ID:ONPZ5VOE0
(‘_L’)「片手で持てるように仕上げてください」
そう聞いてぎょっとした。
これだけで贈り物としては十分すぎる価値のある花を、直接腕に抱いて帰るらしい。
通常なら花弁が痛まないように業者が揺れない電子車で配達する扱いなのだ。
金持ちの考えはわからない。
けれどもしかしたら、上流階級の女性たちは高価なモノをおざなりにプレゼントされるのが好きなのかもしれない。
世界が違うな、とバカらしくなって考えるのをやめた。
.
140
:
名も無きAAのようです
:2014/10/27(月) 23:35:46 ID:ONPZ5VOE0
包装を拒否されても刻印されたリボンは巻かなければいけない。
本来ならこの花には金を練り込んだリボンを使うのだが、再び客によって止められた。
「あれを」
選んだのはブラック。地味すぎるかと思ったが、ブラックの赤にそれなりに似合った。
ζ(゚ー゚*ζ「ありがとうございました。またお越しくださいませ」
受け取ると男はゆっくりとした、けれど無駄のない早さで出て行った。
.
141
:
名も無きAAのようです
:2014/10/27(月) 23:36:30 ID:ONPZ5VOE0
後から思い返せば実に趣味が悪い、高級な花束だと思う。別れか敵対か。
何にしろ意味のある贈り物に違いない。
欲しいとも思わなかった。
ζ(゚ー゚*ζ「……黒みのあるバラに、黒いリボンなんて、」
まるで血みたいーーー
.
142
:
名も無きAAのようです
:2014/10/27(月) 23:37:12 ID:ONPZ5VOE0
.
143
:
名も無きAAのようです
:2014/10/27(月) 23:38:07 ID:ONPZ5VOE0
管制塔、タワーのセキュリティを分割する一つの分室で、誰かの悲鳴を聞いた。
ソファに横になって眠気に誘われていたのに、無理矢理覚醒する。
聞こえた声の方向から内部の地図を思いだし、現在地からのシュミレートを目を開けるまえに済ませた。
起き抜けにコーヒーを淹れるのが楽しみだったのに。
うんざりした気分で監視システムを作動させた。
.
144
:
名も無きAAのようです
:2014/10/27(月) 23:38:50 ID:ONPZ5VOE0
カメラに侵入者の姿は映っていない。
だがわずかな小さい悲鳴は確かに聞こえた。
断末魔。
驚きと、命が消される恐怖に満ちた声。
数年前にすいぶんと聞いたもので、まだ忘れていない。
いくつかの部屋と、通路の映像を出すが侵入者どころか他の職員の姿もなかった。
この部屋はダストシューターのある隣で監査コントロールシステムのある部屋の後ろ。
つまり襲撃を受けた場合一番最後に押し入られる場所で、避難につながるエレベータが部屋に備わっている。
.
145
:
名も無きAAのようです
:2014/10/27(月) 23:40:27 ID:ONPZ5VOE0
進むべきか後退するべきか。
少し悩んで、それも無駄と理解した。
敵は自分が脳を休ませているあいだに手際よく征服している。
ドアの自動制御はすでにジャミングされ鍵の意味を無くしていた。
電源の制圧も完了。
空調管理のスイッチは切れている。
じかに電源を本社につないでいるコンピュータは無事だが、SOSを発信しても助けが来るまえに殺されるだろう。
舌打ちした。
だから警備員でなくSPを配置するべきだったのに。
銃も持っていない。
厳重な設定のプライドから携帯は許されていなかった。
.
146
:
名も無きAAのようです
:2014/10/27(月) 23:41:33 ID:ONPZ5VOE0
いくらセキュリティに自信があるからといっても、網の隙間を通る者は必ずある。
襲撃者はひっそりとしている。
ーーーひとりだ。
この狭い通路と部屋を多人数で制圧していたら、自分はとっくに息をしていない。
二人だとここまでたどり着くのがもっと早い。
武器は少ないはず、小銃で音がでないレーザー。もしくはナイフ。
一般のものなら悲鳴にかぶさった銃声が聞こえる。
それか素手による絞殺、かなりの技術を持っている。
これほどまでに、静かな襲撃のメリットは二つ。
事態の発覚を先延ばしにすることと、この部屋にある何か、何を奪われたのかさえ分からないように偽装すること。
.
147
:
名も無きAAのようです
:2014/10/27(月) 23:42:26 ID:ONPZ5VOE0
ここは襲撃の足がかりにする場所じゃない。
独立した建物で、重要な情報が分散された部屋のひとつ。
どこまで考えがあるのか知らないが、予想通りなら職員の誰かが横領で殺し合ったように見せかけるかもしれない。
その場合、目撃者は残してはならない。
そうだとしたら交渉は望み薄だな
ひそやかな足音でドアが開かれるのを見つめた。
.
148
:
名も無きAAのようです
:2014/10/27(月) 23:43:26 ID:ONPZ5VOE0
( ´_ゝ`)「取引しないか?」
出会い頭の一言。
普通の人間なら驚きと戸惑いで銃を向けてくるのだが、相手は普通ではなかった。
それも予測通り。
顔をみれば相手が同種か分かる。
彼は命令を受ける者。
そしてその命令に全滅は含まれていない。
彼は言葉の意味を考えようとした。
それだけで生きる可能性がある。
( ´_ゝ`)「欲しいパスコードを教えてくればすぐに割り出す。そしてそのまま帰ってくれたら後始末はこちらで済ませるぜ?」
追跡はかからない。ここで起きた出来事をなかったことにするつもりでそう言った。
.
149
:
名も無きAAのようです
:2014/10/27(月) 23:44:20 ID:ONPZ5VOE0
(‘_L’)「あなたに権限が?」
( ´_ゝ`)「できる」
フィレンクトは表情、身体の動揺から嘘を見破ろうとした。
しかしわずかな変化や微表情も現れていない。
(‘_L’)「あなたに利点は?」
( ´_ゝ`)「明日以降も俺が呼吸をできること。このうえないメリットだと思うね」
(‘_L’)「……」
( ´_ゝ`)「……」
.
150
:
名も無きAAのようです
:2014/10/27(月) 23:45:21 ID:ONPZ5VOE0
計画通りであればここに居る者すべてを片づけないといけない。
だがジョルジュから明確な命令は受けてこなかった。これまでとは何もかも違うやり方、臨機応変。
その場の対応が変わるのを隣で見ている。
リスクを思えば考えていた通りに事を勧めたほうがいい。
しかし誰にも知られずにパスを入手するというのは釣り合いの取れたメリットだった。
フィレンクトは男を見た。
背ばかりが高い、ひょろりとした体型。
しかし作業服の下は芯のある重心の乗った立ちすがた。
力の抜けた、いつでも動作可能の状態。
喉を狙う、すぐに手のひらでふさがれる。
注意を向け、足を掬おうと軸足を絡める。
その間、こちらの急所に拳が打たれる。
人体の最も柔らかく危険な場所。みぞおちとアキレス同時に肘と膝が入れられる。
回避するには退くしかなく、そうすればこちらの攻撃も当たらない。
.
151
:
名も無きAAのようです
:2014/10/27(月) 23:46:29 ID:ONPZ5VOE0
数秒間のイメージ。戦いになれば膠着状態に陥ることが伺えた。銃は持ってきていない。鉄の反応を感知されないために仕方ないことだった。
(‘_L’)「S9076854988のIDとコードを」
( ´_ゝ`)「はいよっと」
画面に向かって男が手をかざす。
指紋認識、生体登録。死体では使えない。
瀕死の状態にするのは難しいだろう。
どちらかの即死でなければ。
フィレンクトは取引を飲んだ。
( ´_ゝ`)「ほらよ」
待機する時間もなく、簡単に数字は現れる。
それからバーコードの圧縮されたファイル。
モバイルに読み込ませて入手した。
.
152
:
名も無きAAのようです
:2014/10/27(月) 23:47:22 ID:ONPZ5VOE0
背を向けて、ドアに向かおうとすると怪訝そうな、陽気な声をかけられた。
( ´_ゝ`)「え、もう帰んの?」
用事はすんだ。男は殺されなかった。
フィレンクトにはここに居る意味がない。
それでも振り返ったのは彼と似た意識を持っていたからだ。
同士は分かる。
彼はすこし、規格外の気もするがプレーンな個体が量産されるなか、変則したものを欲しがる人間は少なくなかった。
( ´_ゝ`)「なあ、無線のコードなんて何に使うの?俺に何かしてほしいことある?」
(‘_L’)「明日以降も息ができるように心がけてください」
よけいな喋りには死を。本来なら忠告する意味もない。
.
153
:
名も無きAAのようです
:2014/10/27(月) 23:48:19 ID:ONPZ5VOE0
よけいな喋りには死を。本来なら忠告する意味もない。
だが彼は人のような感覚で話しかけた。
おそらく現在フリー。
誰かに仕えていない。
直属でなく、ある程度の思考が許されていて、フィレンクトを見逃すことに優越と面白さを感じている。
理解できない個体だ。
生存することに忠実。いつかはフィレンクトの情報を人に流すだろうそれが明日であれば問題ない。
その頃には何もかも終わっている。
( ´_ゝ`)「アンタどこのシリーズ?違反者には見えないし、かといってメンバーにも見えないな。こんな事しでかせば誰の登録かすぐわかるぜ?」
(‘_L’)「連絡するのですか」
( ´_ゝ`)「いんや。しないけど」
(‘_L’)「では、なぜ」
.
154
:
名も無きAAのようです
:2014/10/27(月) 23:49:35 ID:ONPZ5VOE0
( ´_ゝ`)「俺はしないけどさ。
いいじゃん教えてよ。知られちゃまずいってんなら大丈夫。
ここでの騒ぎがバレたら俺も廃棄されるから全力で隠蔽するし。
てか、どうやって入ったの?通行許可持ってないだろ?」
(‘_L’)「……」
考える。ここで戦闘になるタイミング。
だが目の前の男は時間を稼ぐでも、たくらみがあるわけでもなさそうだった。
(‘_L’)「あなたに、何の関係が?」
( ´_ゝ`)「俺はただの傍観。
ぞくに言えば好奇心。
わかるか?興味本位だ。
どうみてもパターンに当てはまらない物事の対象を知ろうとする行為。
人間の探求心のひとつ」
(‘_L’)「理解できません」
( ´_ゝ`)「俺も。お前がどこに属していて、どうしてここを離れたのか
分からない。」
(‘_L’)「……」
( ´_ゝ`)「探求心だ。俺はまだ外を知らない。おまえはどうやってここへ来てどこに行くんだ?」
(‘_L’)
.
155
:
名も無きAAのようです
:2014/10/27(月) 23:50:34 ID:ONPZ5VOE0
「ここに居るのに何の感知もされないってことは登録されてないんだろ?
未登録なんてありえない。だれかの所有でしかないのに。」
(‘_L’)「……」
( ´_ゝ`)「なあ、教えてくれよ。お前はどうやって“そう”なったんだ?俺はまだできないんだ」
(‘_L’)「……故意ではありません」
そう呟いて、逃げるように部屋を去った。
必要もないのに止まるべきでなかったのに、耳を傾けてしまったのは男があまりにも必死に思えたからだ。
表情に変化はないのに、フィレンクトは内情がよくわかった。
彼がなぜここに居るのか分からない。
自分たちのような者には最も向かない仕事。配属されたからには何らかの理由があるはずだ。彼はそれを探している。
役割を振られ、それを全うすることは喜びで、呼吸するように当然の物事だった。
胸がざわざわする。
自ら頭を吹き飛ばしたときの感覚に似ている。
それは不安で、フィレンクトが男に共感したことの事実だった。
.
156
:
名も無きAAのようです
:2014/10/27(月) 23:51:26 ID:ONPZ5VOE0
彼は部品の一つに成りきれていない。歯車として齟齬を起こしている。
それがあの奇妙な人格の形成へと成長したのかもしれない。
フィレンクトは直線で居られる。まだ、柔らかく崩れることはない。
命令をくれる人、ジョルジュが居るかぎり。
.
157
:
名も無きAAのようです
:2014/10/27(月) 23:52:24 ID:ONPZ5VOE0
( ´_ゝ`)「……下手くそ」
首の折れた死体。
手際はいいが、殺すまでに時間があるマニュアルすぎるやり方。
もう少し自己流を考えた方がいい。殺しの仕方ひとつで簡単に癖は見抜かれる。
制御システムを復旧させて、カメラの映像を見た。
笑ってしまった。
侵入者は、所属するチームの顔をしてチェックをクグり抜けている。まるで解雇された社員が、当然のように社内を歩き回る様と変わらない。
.
158
:
名も無きAAのようです
:2014/10/27(月) 23:53:04 ID:ONPZ5VOE0
( ´_ゝ`)「ねえ、実験するなら教えてくれよ。それともアレ想定外?」
そう呟いてカフスを握る。すると耳元の通信機から返事が入った。
「……しばらく回線が切れていたな。何があった?」
( ´_ゝ`)「とぼけんなって。俺だって経過中なのに。面白そうなことしてるみたいじゃん」
「フリーのシリーズでも見たか?経緯を教えろ」
( ´_ゝ`)「やだ。応援するもん。何すんのか分からないけど。」
「……どのみち何も変わらん。お前はまだ正規じゃない。その言動が許されるのは結果次第だと言うことを忘れるな」
.
159
:
名も無きAAのようです
:2014/10/27(月) 23:53:53 ID:ONPZ5VOE0
( ´_ゝ`)「そういわれても俺は俺以外の何者にもなれないさ。そう望んだくせに、いきなり路線変更はむずい。」
( ´_ゝ`)「でも言わないって反抗した分成長してるだろ?」
「……口がうまくなったな。その調子で会話を続けろ。まともには見られるように」
( ^ν^)「いざという時の切り替えが重要なんだ。それさえできればいつでもお前を使える」
.
160
:
名も無きAAのようです
:2014/10/27(月) 23:54:47 ID:ONPZ5VOE0
.
161
:
名も無きAAのようです
:2014/10/27(月) 23:56:01 ID:ONPZ5VOE0
('、`*川「あれ、どこ行ったの?」
_
( ゚∀゚)「書庫を漁ってる」
('、`*川「何してんの?」
_
( ゚∀゚)「建築関連の本、読んでる。俺としちゃ上階爆発させりゃいいと思ってたんだが、それだけじゃビルって崩れないもんらしい。
どうせなら派手にいきたいって言ったら
どこが最短でうまく崩れるかを調べてる」
('、`*川「ふうん。じゃあそこが最後の場所になるのね。盛大な花火だこと」
_
( ゚∀゚)「…………」
('、`*川「……なによ、今更おじけづいたの?」
_
( ゚∀゚)「いや、」
.
162
:
名も無きAAのようです
:2014/10/27(月) 23:57:15 ID:ONPZ5VOE0
('、`*川「絆されることないわよ。本当ならさっさと処分できたのに。誰かさんがうまい言い訳作っちゃってさ」
_
( ゚∀゚)「……言い訳?」
('、`*川「なによ無意識?気づいてないフリは許さないわよ。あいつがいなきゃこんな特攻みたいな真似、しなかったのに」
_
( ゚∀゚)「……」
('、`*川「今世紀最大のテロ事件になるわね。マスメディアも報道しないわけにはいかないわ。
どうせ操作された記事にしかならないけど、外国人が死ねばそれなりに他国は関心を持つ」
('、`*川「ジャーナリストが入国してこればこっちのもんよ。
企業独占なんて腐るほどある話だけどあいつらはやりすぎた。」
('、`*川「って、言い訳。」
_
( ゚∀゚)「誰かがやるべきだ」
('、`*川「ええそうね。今までは仕掛けるにも手が届かなかった。
それが突然、おかしいと思わない?
あんな異常な、あきらかに洗脳された企業兵士が懐いてくるなんて。」
_
( ゚∀゚)「……演技には見えないな。もう少し弾が大きかったら、死んでた」
.
163
:
名も無きAAのようです
:2014/10/27(月) 23:59:06 ID:ONPZ5VOE0
('、`*川「でも躊躇しなかったでしょ?
そういう事がふつうにできる生き物なのよ。
生存本能を理性で管理してるわけじゃない。無くしてるの。
生物として圧倒的に低級なのよ。
あたしはあいつよりアンタが怖い。言ってやればいいじゃない。“要らない”って」
_
( ゚∀゚)「……」
('、`*川「簡単に発狂するわ。そもそも一人で行かせればいいのよ。できるだけ殺してこい、って。実行するわ。アンタの命令だったら何でも」
_
( ゚∀゚)「……せっかく手に入れたんだぞ。そんな事すりゃ回収されちまうだろ」
('、`*川「どうだか。そもそも主人を無くして生きてることがおかしいのよ。
個人登録している武器を他人が勝手に扱えるなんて欠陥もいいトコじゃない」
_
( ゚∀゚)「……前も聞いたがずいぶん詳しいな。おまえ、何を知ってるんだ?」
('、`*川「教えない。あいつが死んだら教えたげる」
_
( ゚∀゚)「なんでお前のほうがそこまで嫌う?そのくせ構ってるじゃないか」
('、`*川「……」
ペニサスは伺うようにジョルジュを見た。
勝ち気な彼女の表情が、そのときは暗く、さざめきのない水面のように思えた。
('、`*川「怖いの」
言葉とは裏腹に、硬いこえ。
.
164
:
名も無きAAのようです
:2014/10/27(月) 23:59:49 ID:ONPZ5VOE0
('、`*川「お願いだから絆されないで。
心を許したりしてはだめ。
あれはあんたが思うような奴じゃない。
懐いてるんじゃない、それが正しいと思うから行動してるだけなの。
あんたは勝手に身代わりにされてるだけ。ちゃんと使い切ったら殺しなさい。約束して」
_
( ゚∀゚)「買いかぶりだ。俺はそこまで大事に思ってない」
('、`*川「じゃあ誓えるでしょ?あの子を殺したのよ。
忘れられるほど大人じゃないし、許せるほど子供じゃない」
_
( ゚∀゚)
「わかってる」
.
165
:
名も無きAAのようです
:2014/10/28(火) 00:00:33 ID:WubQ7zgo0
('、`*川「違う、知ってるだけ。理解はしてないのよ。
それが怖いの……怖いのよ……」
_
( ゚∀゚)「……俺は言われるほど同情なんてしてないぞ。あいつがどれだけおかしくて危険かなんて十分承知してる」
('、`*川「…………あんたの欠点はね、全部飲み込んじゃうとこなの。
だからあの男も殺せなかったんだと思う」
_
( ゚∀゚)「……奴の事は言うな。俺の汚点だ」
('、`*川「怒るのは当然よ。ただあんた自身、納得してないし許せないけど、いつか時間が立てば、きっと絆されてた。
だってあの男がそうなんだもん。命令に背けなくて、ただ遂行することもできなくて。」
('、`*川「……だからきっと」
_
( ゚∀゚)「やめろ、聞きたくない」
.
166
:
名も無きAAのようです
:2014/10/28(火) 00:06:18 ID:WubQ7zgo0
('、`*川「ここじゃない別の国だったら、きっと家族を作れてた。ナンバーズは研究対象として許可が降りていたはずよ。いくつかの例があるもの。みんながみんな、簡単に捨てられるわけじゃ、」
_
( ゚∀゚)「ペニサス」
_
( ゚∀゚)「もしも、は無い」
_
( ゚∀゚)「俺が殺した」
.
167
:
名も無きAAのようです
:2014/10/28(火) 00:07:43 ID:WubQ7zgo0
「ありがとう」も
「おはよう」も「ごめんなさい」
も
ぜんぶ
懐かしい言葉になるひが来るの
『ありふれたせかいせいふく』より
.
168
:
名も無きAAのようです
:2014/10/28(火) 00:08:26 ID:WubQ7zgo0
.
169
:
名も無きAAのようです
:2014/10/28(火) 00:09:17 ID:WubQ7zgo0
(‘_L’)
バラを抱えて正面玄関から入った。
顔認識のカメラに映るが各国の列席の場ですぐに黒服が飛んでくることはない。
贈り物ですとガードマンに手渡す。
係りの一人が恐る恐るそれに触れて、本物の生花だと確認するとすぐに返却された。
ブラック・ローズは一代かぎりの変種。作り出すにノーブル・ブランドの制約と権利に縛られているので取り扱いには特に注意された。
鉱石や稀少金属よりも価値があると認識されている。
つまり、ひたすら高価な花。フィレンクトの所持していたカードの残高は、これ一つで底をついた。
.
170
:
名も無きAAのようです
:2014/10/28(火) 00:10:07 ID:k9jAZhUQ0
しえん
171
:
名も無きAAのようです
:2014/10/28(火) 00:10:17 ID:WubQ7zgo0
招待状もなしにパーティに潜り込むには誰もが疑わないプレゼントが必要だった。
宛名を著名な誰かにして、自分は配達のボーイを装う。
身体にぴったりとしたタキシード。シックなカラーで涼しげな顔立ち。
怪しまれることなく別室に案内される。
このような配達は直接本人に渡すことを前提にしているため、センサーの門を通ることなく控え室に入ることができた。
花の特性、過剰な光は花弁を痛ませるのだという説明はすんなり通る。
( ^ω^)「こちらで簡単な身体検査を行います」
花束を持ったままうなずく。
.
172
:
名も無きAAのようです
:2014/10/28(火) 00:11:09 ID:WubQ7zgo0
左手に持ち替えて、花束の隙間に隠していた小型の銃を掴んだ。
( ^ω^)「うぐッ」
火力のない銃なので、発射音はもちろん貫通さえしない。
返り血を浴びないように気をつけながら、額を撃った。弾丸は骨を砕き、脳かき混ぜて頭の内部に残る。
最低限の出血と、思考を奪うための殺し方。
( ^ω^)「あ、」
頭を撃っても即死しない。男は何が起きたのか理解できないでいる。
抵抗と叫びを無くして、今度は心臓にもう一度撃った。
びくんと痙攣して、身体がひきつる。
完全に膠着するまえに、引きずってクローゼットに押し入れた。少量の血痕を拭いて、ダストボックスに捨てる。
.
173
:
名も無きAAのようです
:2014/10/28(火) 00:12:17 ID:WubQ7zgo0
完全に絶命するまで約五分。
控え室の映像をチェックされるまではおそらく10分。
それまでに二階の通路へ急ぐこと。
再び花束に銃を込めて、フィレンクトは廊下にでた。
目的の方向へゆっくり歩き出す。
毎秒、不審に思われない程度の早さ。
招待客以外通れない入り口、係りは数分のあいだ姿を消している。
咎められないことは了解されたことだと受け取られる。
違和感なく、金を塗られた門を通り抜けた。
パーティドレスに身を包んだ人々がフィレンクトのバラに目を向ける。
その花が誰に届けられるかを予想して、
甲高い声を出した。
ブラック・ローズに注意を惹かれて、配達人の印象は誰にも残らなかった。
.
174
:
名も無きAAのようです
:2014/10/28(火) 00:13:31 ID:WubQ7zgo0
レッドカーペットの敷かれた階段をあがると、大広間にたどり着く。
下の階よりもランクがうえのハイ・ノーブルの人々。
使用される家具や食器などはすべて年数のあるアンティーク。
グラスを運ぶ使用人や、演奏する音楽団のさえ富裕層の立場にあった。
人を探しているそぶりで歩き回り、内部の作りを隅まで記憶する。
部屋の形で、隣り合う部屋数まで予測できた。出席者は社交することを目的としている立場の招待客ばかり。
さらに上の階に行かないと、ビルの内部には入れない。フィレンクトはしばらく眺めてひとりの女客に目をつけた。
壁際のファーコートに座っていて誰とも交流していない。
しかし周囲の客たちが皆彼女を気にしていた。はぐれたわけでなく、孤高を楽しんでいる。
カーストの上位に居ると検討をつけた。
花束のカードを抜いて、彼女の目の前に立つ。
.
175
:
名も無きAAのようです
:2014/10/28(火) 00:14:14 ID:WubQ7zgo0
(‘_L’)「お届けものです」
「……」
(‘_L’)「……お受け取りください」
「……」
フィレンクトは横に直り、静かに控えた。
女はバラを見て、フィレンクトを見て、
(*゚ー゚)「……どなたからかしら?」
そう聞いた。
(‘_L’)「お心あたりのあるお方からです」
(*゚ー゚)「……ありすぎてわからないわ。
こんな気の惹きかたするような可愛らしい方、居たかしら?」
(‘_L’)「どうぞ、思い出してくださいませ」
(*゚ー゚)「……こまったわねぇ。いまここでお名前をだして、違っていてたらどうしましょう」
(‘_L’)「お受けとりになられるだけでかまいません」
(*゚ー゚)「お返事はいらないの?」
(‘_L’)「お渡しするだけと伺っております」
.
176
:
名も無きAAのようです
:2014/10/28(火) 00:16:44 ID:WubQ7zgo0
女はフィレンクトを品定めをした。
シンプルな、それでいて野暮さのないスーツは長く整った手足によく似合っている。
取り繕うような無表情が少し気にくわない。その余裕を、崩したくなった。
(*゚ー゚)「……あなたお店の方?それとも」
(‘_L’)「使いです」
(*゚ー゚)「……ふふ。そうなの。ねえ、わたし人に酔ったのよ。だからさっきからここで休んでるの。お使いならカドも立たないし。どうか静かなところへ連れていってくださらない?」
そう言って、女は花を差し出したフィレンクトの腕を掴んだ。
(‘_L’)「……エスコートには慣れていませんし、私はただの配達です。どうか他の方と」
(*゚ー゚)「わたしはあなたがいいの。あなたはわたしの隣ではいや?」
(‘_L’)「いいえ。ただ身分不相応ですので」
(*゚ー゚)「いやだ、使用人の手を借りることに何の問題があって?いったい何を想像したのかしら」
フィレンクトは顔をそむけた。
初々しい反応に女は少しだけ気がはれる。
それでもフィレンクトの硬質な表情をもっとつつきたくなった。
(*゚ー゚)「お前の主人に叱られるというのなら大丈夫よ、さあ、手を引いて」
しなだれかかるようにフィレンクトの腕を組んで引き寄せる。
それからバラに顔を寄せた。
(*゚ー゚)「贈り主がいったい誰なのか、
時間をかけて聞きたいわ」
.
177
:
名も無きAAのようです
:2014/10/28(火) 00:17:57 ID:WubQ7zgo0
彼女に連れられた先はカーテンの深い長い廊下だった。
進むごとに人の気配が消える。
緊張するような強ばりを隣の腕から感じて、あやすように女がほほえむ。
通る人々は皆知らないふりをする。
なかには同性の連れ合いもあった
(*゚ー゚)「さあ、ここよ」
女がドアを示す。
あけて、引き入れると外からは想像できない優美な内装の部屋だった。彼女はソファに腰を落とす。
(*゚ー゚)「シャトー・ゴルーニュが飲みたいの。ついでちょうだい」
ラベルを選んでグラスに注いだ。
赤い液体の芳醇な香り。
酸味と木イチゴのような甘みと濃厚な熟成。味わうこともなく水のように流し込んだ。
(‘_L’)「……」
(*゚ー゚)「さ、誰があなたを寄越したのか、いっぱい聞かせてちょうだいね」
.
178
:
名も無きAAのようです
:2014/10/28(火) 00:18:41 ID:WubQ7zgo0
フィレンクトの喉元に手をかける。
女は襟カラーを引き抜き、ネクタイをほどきにかかった。
フィレンクトはこの部屋の階を計算した。
窓のない小部屋。
入り組んだ部屋の通路は角の右、隣の部屋には人がいない。
悲鳴をあげても、それが許される場所。
赤い唇がフィレンクトの口元に重なる。
袖口に仕込んだ針を引き抜いて、女の頸椎に突き刺した。
.
179
:
名も無きAAのようです
:2014/10/28(火) 00:22:30 ID:WubQ7zgo0
_
( ゚∀゚)「……パスを使うんじゃなかったのか?」
(‘_L’)「リスクを犯せなくなりました」
侵入するのにフィレンクトのコードを使うつもりだったのだが、管制塔で出会った男のことを考えてやめにした。
すぐに特定される。
(‘_L’)「映像に映ることなく、エレベータに乗れるのはここしかありません」
_
( ゚∀゚)「……」
ジョルジュは俯いて女の死体を眺めている。きれいな、眠っているような死体だった。
やすらかな苦痛さえない表情は、同じような過去の死体を連想させる。
_
( ゚∀゚)「女をやるときはいつもこうなのか?」
(‘_L’)「状況次第です」
抱き寄せて、少ない動作で殺すのは小柄な、そんな場面でも違和感のない女が多かった。
男に比べて柔らかい肉なので、針は簡単に刺さり、短時間で騒ぐことなく死に至る。
.
180
:
名も無きAAのようです
:2014/10/28(火) 00:24:14 ID:WubQ7zgo0
_
( ゚∀゚)「……あいつも同じように殺したのか?」
彼の妹のことだろう。
そう予想して、はいと答えた。
_
( ゚∀゚)「……」
(‘_L’)「……」
_
( ゚∀゚)「……どのみちビルを吹き飛ばすんだ。ここに居るやつらも、みんな死ぬ」
(‘_L’)「……」
ジョルジュが激昂すると思ったが、そうでなかった。
彼は息を吐いて、大理石のテーブルに座った。
それから並べられた酒類をみて、顔をゆがませる。
_
( ゚∀゚)「これひとつで、俺らは数年食っていける……
それを一度で飲み干すんだな、そう思えば同情も湧かねえ」
_
( ゚∀゚)「ニトロは設置したか?」
フィレンクトはうなずいた。旧式の古すぎる形式だが、手に入る有効な爆破物はこれしかなかった。
原始的ではあるが、その分破壊力がすさまじい。
広大なビルの一室、側面に取り付けた、これが暴動開始の合図になる。
.
181
:
名も無きAAのようです
:2014/10/28(火) 00:24:56 ID:WubQ7zgo0
_
( ゚∀゚)「エレベーターを降りたら軌道させる。そっから、時間との勝負だな」
階を上がればごまかしは効かない。
迅速に全力で進まなくていけなかった。
_
( ゚∀゚)「going to crush……」
ぜんぶ ぜんぶ、ぶっ壊してやる
.
182
:
名も無きAAのようです
:2014/10/28(火) 00:31:00 ID:WubQ7zgo0
花びらがだいぶ散って寂しい花束になってしまった。
最後の仕上げにフィレンクトはそれを放り投げる。
黒いリボンを選んだのは光に反射されないため。遠くのカメラが映像を拾わないようささやかな気づかい。
投げられた警備員は一瞬それに注意を引かれ、受け取ろうと手を伸ばし、愚かさに気づいてすぐに身を守る銃に手をやったが遅すぎた。
開いた腹の隙間に三発。
今度はハンドガン、射程距離が短いがその分威力が大きい。
腹と胸に穴を開けて、血をまき散らしならが警備員は絶命した。
彼女も女だった。
少し離れた場所にジョルジュがいて、壁と障害物を交互にして進む。
.
183
:
名も無きAAのようです
:2014/10/28(火) 00:31:52 ID:WubQ7zgo0
(‘_L’)「クリア」
オールクリア。
エレベータの回線を切り、動力を壊した。これで下から上がってくることはまずない。降りてすぐの通路に女性警備員。
この階の主の好みだろう。
彼女たちは部屋と直線の道にひとりの割合で待機していた。
だから手早く、殺しにかかった。
通信はすべて繋がっていた。約二分。
ペニサスから連絡が入る。位置情報を把握され、その階の空間をハッキング。
妨害電波の混戦、二分だけ暴れることが許された。
.
184
:
名も無きAAのようです
:2014/10/28(火) 00:32:46 ID:WubQ7zgo0
(‘_L’)「何も、話さないでください」
エレベーターを降りるさいに、フィレンクトはジョルジュにそう言った。
階数が上の先は、空気の振動で会話が盗聴される。
物音には反応しないが、発生した声を録音し、不穏を感じれば即座に通報がいくシステム。
たとえば単語ーー計画、死ぬ、殺した、
などの直接した表現は対象に入っている。
フィレンクトは禁止ワードを覚えているが、ジョルジュがそれを選び、より分けるのを覚える時間はない。
指さしで、進み方を決めた。
とはいっても単純に、先方をフィレンクト、後方をジョルジュにしただけだ。
二分の間に銃撃戦を済ませる。
片手にハンドガン、もう片手にライフルを持って、近場と少し遠い距離にいる者を狙撃した。
まず胸を撃つ、それから頭を。即座に通報されても、二分だけ回線は繋がっていない。
助けは来ない。何が起きているかも伝わらない。
.
185
:
名も無きAAのようです
:2014/10/28(火) 00:33:31 ID:WubQ7zgo0
ジョルジュは腐敗した都市の片隅で生まれて育った。
先進国らしく義務教育はあった。
けれどそれは最低限の知識、算数や理科といった生きていくうえで役に立つものだけで、社会や政治といったものにはほとんど触れたことがない。
酸性雨のふった痩せた土地を地主たちから買い取った代わりに、企業は楽園を与えた。
選ばれた市民たち、優勢遺伝子の彼らは支配階級。
それ以外の現地住民は決められた土地で暮らすことを余儀なくされた。
巨大な三角。
砂の遺跡を見て感じたものは、この国の仕組みそのものだ。上は限りなく狭く、それでいて富が集中している。
わずかな少数があふれんばかりを独占し、下へ行くほど貧しくなる。
ピラミッドの底辺は、もはや管理された家畜でしかなかった。
.
186
:
名も無きAAのようです
:2014/10/28(火) 00:34:14 ID:WubQ7zgo0
_
( ゚∀゚)「……きれいなものは、血を吸ってここまで成長したんだな」
上階へ行くのに使う、中央エレベーターから見えるガラスの外は、宝石をちりばめた絶景だった。
色とりどり、闇のなかに光がまぶしい。
一日中エネルギーを消費できる豊かさ。
スラムは排水処理さえ整っていない。
_
( ゚∀゚)「……民族浄化って知ってるか?」
フィレンクトは首を振る。
_
( ゚∀゚)「勉強したんだ……必死で」
.
187
:
名も無きAAのようです
:2014/10/28(火) 00:35:18 ID:WubQ7zgo0
人権保護団体はこの国でも仕事をしている。
彼らは土地を整備し、食料を運んで、病疫のためにワクチンを配給した。
ただでさえ貧しい状況のなか、それは住民たちに喜ばれ、感謝しーーーそして怠惰になった。
_
( ゚∀゚)「働かなくても最低限生きていけるなら、誰も必死にならないさ。
必要以上に与えすぎないように上手に操った。もはやこの国で、俺たちに参政権なんてない」
合法的に、きわめて優しく、外国からやってきた企業は侵略をはじめた。
最初にビルを建て、指導者を支援して裕福にさせた。
それからゆっくりと、国の政権を奪っていった。
ジョルジュが幸運だったのは、当時の軍が企業と政府の癒着に危機感を抱いて、
反対勢力を作るために兵士を募集したためだ。
そこでジョルジュは現実を知った。
規制されていた貴重な情報は、ジョルジュに怒りと反発を覚えさせた。
この国しか知らない。他国の情報は制限されていて、ジョルジュは自分たちが太らされるまえの豚だということに気がついた。
.
188
:
名も無きAAのようです
:2014/10/28(火) 00:37:35 ID:WubQ7zgo0
_
( ゚∀゚)「大陸だって見つけられたから征服された。ここもいずれそうなる。
そうなる前に、なんとかしたかった。
知らないまま、今を当然だって過ごしていたくなかった。この国の人間でもないのに、でかい顔してるなんて許せない」
_
( ゚∀゚)「そうーー思ってたんだがなぁ」
敵は強すぎた。
金と法律はすべてにおいて味方している。
レジスタンス、聞こえはいいが、ただの犯罪者組織でしかない。
なんでもやった。
資金調達のために強奪、誘拐。
一線は越えていないつもりだ。
荒れた世間でもまだ倫理は残っていた。
少年兵は作らなかったし、娼婦を薬づけにもしなかった。
国のためという大儀だけで、組織をまとめて戦ってきた。
そんな戒めも、妹の死と殺されていく仲間の死体で簡単にくずれた。
敵がルールを守らないのに、こちらが守る理由があるか。
.
189
:
名も無きAAのようです
:2014/10/28(火) 00:38:57 ID:WubQ7zgo0
_
( ゚∀゚)「それが当たりまえの世界じゃ、疑えないか。俺だって何も知らなかった」
何も知らなかった。
優秀な人間に、人間性を取り除いて、道具のように作り替える技術があったことも。
これは人じゃない。モノだ。
そばの男を眺める。
微動だにしない。
エレベーターは長い。
200階までは30分以上かかる。
_
( ゚∀゚)「ここから飛び降りたら怖いな。
撃たれるのも痛いし。
人間の本能には、眉間を怖がるようにできてるんだって知ってたか?」
(‘_L’)「いいえ」
_
( ゚∀゚)「反射的に脳を守るんだと。
ふつう、目をつぶるのは当然だよな」
唐突に腕を振り上げてフィレンクトの顔を殴ろうとした。拳が数センチ残して止まる。
まつげの先が、指に触れた。
フィレンクトはまばたきひとつしなかった。
.
190
:
名も無きAAのようです
:2014/10/28(火) 00:39:54 ID:WubQ7zgo0
_
( ゚∀゚)「無関心が一番腹がたつんだ。
女だってそうだ、反応があるから可愛くみえるもんだ」
(‘_L’)
ジョルジュはいつになく饒舌だった。
フィレンクトはジョルジュの変化に不穏なものが無いか探そうとした。
精神状態ーー安定。
しかし良好とはいえない。
常と違う態度。緊張とはまた違う様子。
フィレンクトはそれにふさわしい診断をつけられないでいる。
_
( ゚∀゚)「愛を知らないものは、絶望に興味がない」
誰かの言葉をつぶやく。
もしかしたら自然にこぼれたものかもしれない。
ランプが点灯し、エレベーターが目的の階にたどり着いた。
扉が、開かれる。
**
.
191
:
名も無きAAのようです
:2014/10/28(火) 01:23:19 ID:k9jAZhUQ0
おつ
192
:
名も無きAAのようです
:2014/10/28(火) 07:14:29 ID:iNccznn60
乙
193
:
名も無きAAのようです
:2014/11/01(土) 00:09:18 ID:DjqWRy/Q0
きてた!乙
194
:
名も無きAAのようです
:2014/11/01(土) 00:12:24 ID:tuZJbMaM0
乙
195
:
名も無きAAのようです
:2014/11/28(金) 20:24:22 ID:qvEjEbVw0
はじめから読んだけど面白いね!乙乙
196
:
名も無きAAのようです
:2014/12/02(火) 05:07:30 ID:3gBm1G8g0
人殺しの人殺しによる人殺しのためのメソッド
.
197
:
名も無きAAのようです
:2014/12/02(火) 05:08:36 ID:3gBm1G8g0
思考の停止ーー回復。
周囲状況の把握。床に伸びる出血確認。
命令待機状態。
命令待機状態。
命令待機状態。
対象主人の消失。伏した身体。
青冷レーダーが心臓を焼いた瞬間を目撃。
内蔵に重大な損傷箇所。
即死の可能性が大。
枝分かれしたもしもの指令は無し。
命令待機状態。
.
198
:
名も無きAAのようです
:2014/12/02(火) 05:10:21 ID:3gBm1G8g0
「撃ちなさい」
命令優先認識。主従確認。
倒れた血だまりの男。
ーーー死。
確認のための狙撃。
「撃ちなさい」
静かな声。
聞き覚えのある声帯。
命令ーー狙撃。
焼かれた男。
胸を貫かれて。
のけぞるように横倒れた。
人相照合。記憶のなかの人物。
デ・ジャブ。記憶のなかの出来事と重なる状況。
.
199
:
名も無きAAのようです
:2014/12/02(火) 05:11:16 ID:3gBm1G8g0
命令優先。
照準を身体に合わせる。
フィレンクトは、ふるえるジョルジュの指先をみた。
それから引き金をひく。
二発の銃弾。
ジョルジュの身体が衝撃に跳ねた。
.
200
:
名も無きAAのようです
:2014/12/02(火) 05:12:00 ID:3gBm1G8g0
(´・_ゝ・`)「本当にうまくいくのか?」
('、`*川「さあ?」
ペニサスは振り返らずに答える。
設置したいくつかのジャミング装置を順番に作動させるのに忙しかった。
混線した状態であれば機動隊の動きもかき回せられる。
事態の収拾をできるだけ引き延ばしたかった。
その分送り出したジョルジュたちに余裕が生まれる。
(´・_ゝ・`)「脳天気な返事だな。……帰ってこなかったらどうする。そっちの方が確率高いだろうに」
行うことを順番に数えながら、優秀な脳は男の言葉にカチンとくる。
リーダーという名の責任者がいなければなにもできない癖に。
.
201
:
名も無きAAのようです
:2014/12/02(火) 05:12:57 ID:3gBm1G8g0
('、`*川「50:50よ。0か100か。
死んでるか、やり遂げたか」
こちらから仕掛けた爆撃しか報告されていない。送り出して、連絡が取れなくなって10分。
そろそろ撤退する連絡をもらっても良さそうなのだが、通信は向こうから切れたままだ。
(´・_ゝ・`)「そもそも、本当に爆破なんて、できるのか?」
見上げる。
双眼レンズが無くても確認できる巨大な柱のようなビルディング。
遠距離からでも階層が分かる。
('、`*川「理論的で言うなら可能よ。
ひとつの建物しか壊せないけど、的確に重箇所に設置できれば吹っ飛ばせるわ」
.
202
:
名も無きAAのようです
:2014/12/02(火) 05:14:02 ID:3gBm1G8g0
高層ビルは側面に強く、内側に弱い。耐震性を重視した結果、そのような作りになった。
地震にだけは防衛でしか対策できなく、揺れる力を逃がすためにゆらぎのある土台。
その芯さえ折れてしまえばいい。
('、`*川「建築だけなら簡単よ。年数を考えて建てられたものじゃないんだから。」
きらびやかなハリボテ。
栄華の象徴。
特攻する数人なら十分可能な行為。
生殺しの状態でそこまでの決意を持った者がいなかった。
('、`*川「100か0か。生きてるか、」
死んでるか
.
203
:
名も無きAAのようです
:2014/12/02(火) 05:14:44 ID:3gBm1G8g0
同時刻、
.
204
:
名も無きAAのようです
:2014/12/02(火) 05:17:31 ID:3gBm1G8g0
( ´_ゝ`)「あったあった。全部死んじゃってるけど、これいいの?」
足下の腕を蹴る。
まだ暖かさを失っていない。
数人の死体を一瞥する。
争ったような形跡もなく、自決した様子の死体は綺麗だった。
無意識に数えて、その必要がないのだと視線をそらす。
( ´_ゝ`)「もったいなくねぇ?一体いくらすんだよこれ。無駄遣い反対!」
.
205
:
名も無きAAのようです
:2014/12/02(火) 05:18:28 ID:3gBm1G8g0
( ^ν^)「必要経費だ。状況に対応できない兵士など要らん」
( ´_ゝ`)「そういう風に教育したんじゃ仕方ないじゃん」
( ^ν^)「それではいつまでもそのままだ。我々が欲しているのは言うことを聞くだけの人形ではない」
( ´_ゝ`)「結果テロリスト引き入れてんじゃ損害でかくない?あれたぶん破壊行為が目的だと思うぜ」
( ^ν^)「かまわん。貿易取引は制限している。どうせ手に入れたものも微々たるものだろう。そちらのビルひとつ狙われたくらいで、何も変わらんさ」
( ´_ゝ`)「お客さま避難させなくていいの?大事な社員とか」
( ^ν^)「倫理と道徳でも勉強したのか。必要ないから消せ。いま連絡を入れても誘導にも時間がかかりずぎる。重要人物だけ選りすぐっているから損失はない」
( ´_ゝ`)「広報は?夜会に起きた惨劇!テロによる爆破事件ーなんて」
( ^ν^)「起こってしまえば一斉射撃の法案も通るだろう。」
( ´_ゝ`)「なんだ。見通してんのか、つまんな」
.
206
:
名も無きAAのようです
:2014/12/02(火) 05:19:10 ID:3gBm1G8g0
エレベーターの点灯ランプをみる。
50階まで上昇していた。
( ´_ゝ`)「俺は?」
( ^ν^)「待機。どのような結果になるかわからんうちは動くな」
( ´_ゝ`)「ふーん」
( ´_ゝ`)「あのさ、なんでこんなややこしいことしてんの」
純粋な疑問であり、自分が存在する理由を尋ねる。
本来ならレンタル式の傭兵として貸し出されるはずの自分。
兄弟シリーズの試作品としてプラグラムが作られた。
それが現在教育された認識をどれほど自由に解釈し、行動にうつれるかというテストの経過途中。
軽口はデモンストレーション。
207
:
名も無きAAのようです
:2014/12/02(火) 05:19:53 ID:3gBm1G8g0
最も万人に好評のタイプの性格をトレースし、実行する。
メンタルと身体は密接に繋がっているという診断通り、この性格にしてから質問という会話を引き出すことが増えた。
それは交流関係の作用にも関係しているようで、叱責はあるものの咎められたことはまだない。
だからモデルにした性格なら抱くであろう疑問を想定し、投げかける。
現在行われている傍観テストはあまりにも実用性がなさすぎる。
矛先が少しずれれば累計シリーズの信頼性に影を落とすだろう。
グラフのように目で見えるものでもない。
それなのに不確かなシリーズへの問題行動の結果を知るためだけにしては、事が大きすぎる。
.
208
:
名も無きAAのようです
:2014/12/02(火) 05:20:43 ID:3gBm1G8g0
( ´_ゝ`)「せっかく刷り込みして優秀に作ったのに、なんで壊すみたいなことしてんの?これから起こることってそんなに重要なこと?」
理解でいえば矛盾している。さっさと回収すれば費用も損害もかからなかったはずだ。
( ^ν^)「……銃の存在はこれまで人の戦争を激変させた。力の強い者、足が早いもの、徒党を組んでの戦い、すべてが過去のものになった。」
( ^ν^)「人が皆銃を持てるということは、戦い方が変わったということだ。
核兵器は威力がありすぎて、抑止力にしかならない。手軽で防衛も攻撃にもなるのは銃だ。だが皆がそれを持てる社会では、先手など取れない。」
( ^ν^)「銃の存在で誰もに、登録しただけで使用できる主体性のない武器など、何の役にもたたん」
( ^ν^)「欲しいのは合理的考えと冷静な判断力、能力を併せ持った兵士だ。普段は一兵卒のように擬態でき、主人を変えない、自分の意志でのみ利己的かつ従う者を認識できる」
( ^ν^)「……それが支配者の望む最高の武器だ」
.
209
:
名も無きAAのようです
:2014/12/02(火) 05:22:01 ID:3gBm1G8g0
( ´_ゝ`)「ふうん」
( ´_ゝ`)「ああ、だから」
人間性にこだわったのか。
.
210
:
名も無きAAのようです
:2014/12/02(火) 05:22:43 ID:3gBm1G8g0
(‘_L’)
フィレンクトは口元に指をたて、喋るなと合図する。
離れたところでジョルジュはライフルを抱えて、廊下の隅からそれを確認した。
つまりこの階からは、会話が盗聴される。
建築材をどのように活用したのか分からないが、上階はある一定の高さを越えれば壁がアクリル製のプラスチック材になっている。
これは水圧と透明度の利点で使われる水族館と同じで耐久と防弾に効果があり、なおかつ透けるので目視が可能だ。
.
211
:
名も無きAAのようです
:2014/12/02(火) 05:23:44 ID:3gBm1G8g0
_
( ゚∀゚)
反射が人並みなジョルジュは待機、フィレンクトはそのまま廊下を進んでいく。
100階から上はエレベーターがない。ゆるやかに作られた階段を上っていく仕様になっている。
その入り口を固めるのがフィレンクトと同じ兵器として教育された者たちだった。
ジョルジュは遠目からだがその姿を確認する。男性5人となぜか、幼い少女が三人。デリバリーの娼婦だろうか。
警備隊にしては存在が謎だ。
品がよい服を着ているのが遠くからでもわかる。
フィレンクトが彼らに近づいていく。
ここまで、何の障害もなく進んできたがさすがに心臓がいたい。
ジョルジュは同じ部族、出身の者たちは感覚でわかる。その地域独特のスラングや訛りなどで検討をつけるのだ。
だから彼らがフィレンクトに違和感を持たれると感づかれる。
外からの回線を切った状態はもう終わっていて、修復作業が行われている頃合い。
.
212
:
名も無きAAのようです
:2014/12/02(火) 05:24:40 ID:3gBm1G8g0
彼らに話し合いは無意味だ。
下での連絡がいけば即座に殺しにくる。
あのフィレンクトと同じ能力を持ったものが五人も居るというのは、絶望に近い恐怖だった。
それに、フィレンクトはここを突破する方法を言わなかった。
じんわりとまさかの考えが忍び寄る。
フィレンクトはすでに反旗を翻している。ここに至るまえに招待客、警備員を殺している。
だがもしそれが罠で、おびき出すための布石だったら。
ばかばかしい考えだ。
けれどペニサスの懇願するような言葉はジョルジュを不安にさせた。
フィレンクトが考えを改めるとどうなるだろうか。もともと彼はここに雇われていた。
.
213
:
名も無きAAのようです
:2014/12/02(火) 05:25:24 ID:3gBm1G8g0
そもそも彼がジョルジュに従うのに何の契約も同意も、報酬すらない。
命令がないからという理由で自分の頭を打ち抜いた純粋さはもしかしたら鞍変える理由になりうる。
どっどっと心臓が早鐘をうつ。
_
( ゚∀゚)
ジョルジュにはやるべきことがある。
死んでいった者たちへの弔い。
まぶたを閉じれば今でも顔が思い浮かぶ。男、女、子供、家族、
ジョルジュがここに居ることはフィレンクトへの細い信頼で成り立っていた。
はやく、はやく終われ。
フィレンクトが何をするのか知らないが。
早く俺を連れて行け。
顔をあげると靴音が聞こえて、銃を構える。それが見慣れた男のものだということに気がついた。
(‘_L’)「行きましょう」
.
214
:
名も無きAAのようです
:2014/12/02(火) 05:26:24 ID:3gBm1G8g0
トランプでいえばキングの立場だった。
数字の一番うえ、独立した命令系統を持たされ、脳に移植された装置からの受信するシグナルで動く。
彼らを動かすのは上位命令、彼らの主人だけだった。
それゆえ混線した連絡網は届かない。
下の階でどのような騒ぎがあっても。
彼らが従うのは部屋の主だけで、彼らが守るのは主人だけだ。
フィレンクトが現れたとき彼らは警戒を持たず、また解いてもいない。
命令の種類によって殺し合うこともあった。だが普段であるなら同じシリーズ、主人の面目のため協力体制をとることがおおい。
別のシリーズ、見慣れない顔であるということは連絡がなされていない。
.
215
:
名も無きAAのようです
:2014/12/02(火) 05:27:50 ID:3gBm1G8g0
近い男がフィレンクトに階への用件か、主人への用事かを問おうと口を開く。
だがそれより早くフィレンクトが言った。
(‘_L’)「Dコードが発令されました。すみやかに従ってください」
( ゚∋゚)「受けておりませんが」
(‘_L’)「まもなく連絡が入ります」
フィレンクトの言葉から数秒遅れて受信する。鼓膜近くに入った無線式のチップ。
これは一方からの通信しかできない。
主人からの命令を受けるためだけに使用される。
クリアな通信、低い声で命令される。
その内容を認識し、その場に居た者たちは一斉に銃器を取り出す。
.
216
:
名も無きAAのようです
:2014/12/02(火) 05:28:45 ID:3gBm1G8g0
「あなたは」
(‘_L’)「わたしは片づけを任されています」
その答えに安心したように、警備主任五人が組み合うようにしてお互いに銃を向けた。
少女タイプのアンドロイド機は初期設定を行う。目にともす電源が落ちて、まもなく機能を停止させた。
タイミングを図るようにして彼らは引き金を引いた。
目標に当てる訓練は充分だったようで、即死する場所を狙って穴をあける。
五人のシリーズは命令を認識し、Deleteコードを全うした。
従って彼らは五人ともが互いの頭を撃ち、自決をやり遂げた。
.
217
:
名も無きAAのようです
:2014/12/02(火) 05:29:41 ID:3gBm1G8g0
_
( ゚∀゚)「…………」
ジョルジュは呆然とする。彼らの価値観をわかっているつもりだった。
最大級の利便性、追求すればなるほど、チェスの駒のように切り捨てられることを前提とした存在のはずだ。
わかってるつもりだった。
だからフィレンクトに抱いたのは怒りだけでなく、同情だけでもない。人の形をしているからなおさら悪い。
どこかに機械的な部位があれば、青い血が流れてさえいれば、同じ人間であると思えなかったのに。
.
218
:
名も無きAAのようです
:2014/12/02(火) 05:30:25 ID:3gBm1G8g0
_
( ゚∀゚)「どうやった?」
(‘_L’)「あの男の声紋を複製し、作成した言語を無線に流しました。私たちでしか使用されないコードがあるので」
マスターはナンバーごとに区別されているだろうが、肉体情報はほぼ同じだろう。
まったく同じではなかったはずだが、特別な無線番号、主人からしかかかってこないはずという先入観を彼らは信じた。
.
219
:
名も無きAAのようです
:2014/12/02(火) 05:31:07 ID:3gBm1G8g0
_
( ゚∀゚)「……自殺する用意もあったのか」
納得する。
だからあんなに躊躇もなく行動できた。ジョルジュはフィレンクトを見る。
生存本能さえ失ったものを、人間と呼べるのか。
フィレンクトはジョルジュの視線を受け止め、変わらぬ表情でそこに居る。無感動な目だった。周囲状況をレンズのように見張っていながら、何も映していない。
.
220
:
名も無きAAのようです
:2014/12/02(火) 05:31:49 ID:3gBm1G8g0
異常なほどに命令されることを享受する態度さえなければ有能な秘書にしか見えない。
使い勝手のよい人形。ペニサスの言葉が蘇る。
こんな奴らが幾人も居るなか、ここまで来られたのは奇跡かもしれない。
_
( ゚∀゚)「もう喋ってもいいのか?」
(‘_L’)「かまいません、すぐ着きます」
長い廊下、透明アクリルはトンネルを連想させる。外の夜景が反射してまるで星空を歩いているようだった。
.
221
:
名も無きAAのようです
:2014/12/02(火) 05:32:35 ID:3gBm1G8g0
隣の男を奇妙に思う。
これほど役にたつのに、心が冷えるような戸惑いを覚えるのはなぜだろうか。
立場が違っていて、命令されたのがフィレンクトでもきっと同じように自死するだろう。
その気持ち悪さかもしれない。
ふと気がついた。
フィレンクトには未来がない。こ
れからを自分で決められないし望まないのだ。
ジョルジュが蔑んでも哀れみを抱いても、どんな風に扱おうが命令さえもらえれば満足なのに違いない。
やはり機械的思考に矯正は効かない。
すべてを終えたら彼を処分しなければいけない。
警備員たちの死に方はジョルジュに決意をさせた。規則の穴を抜けるようなやり方で彼らを殺した。
いまは味方でも、敵に回ってしまえばどうなるかーー
.
222
:
名も無きAAのようです
:2014/12/02(火) 05:33:20 ID:3gBm1G8g0
フィレンクトがドアのセキュリティロックにいつのまにか手に入れたキーを打ち込む。
ジョルジュが切望し何もかも犠牲にしてまで求めたドアはあっけなく開かれた。
.
223
:
名も無きAAのようです
:2014/12/02(火) 05:34:02 ID:3gBm1G8g0
ミセ*゚ー゚)リ
.
224
:
名も無きAAのようです
:2014/12/02(火) 05:34:49 ID:3gBm1G8g0
_
( ゚∀゚)「嘘だろ……」
息が止まるかと思った。
部屋の住人は緩慢に振り返る。
武器は持っていない。
ただワンピースだけのシンプルな服だけで椅子に座っていた。
_
( ゚∀゚)「なんで……死んだはずだ……」
女は立ち上がり、しずしずと歩み寄る。
それから事務的な口調で対応した。
ミセ*゚ー゚)リ「お客様がいらっしゃるという連絡は受けておりません。お名前と所属番号を口頭ください。身分を証明できない場合は退去してもらいます」
.
225
:
名も無きAAのようです
:2014/12/02(火) 05:35:34 ID:3gBm1G8g0
*鼹鼹* _
( ゚∀゚)「ミセリ……」
手を伸ばす、ふるえる指先で彼女の頬に触れた。無表情、しかしその肌は血が通っていて柔らかい。
人造だとしても、かまわなかった。
ミセ*゚ー゚)リ「身分の証明を求めます。所属が証明されない場合は強制退去の措置を取らせていただきます」
「!っやめろ!!
ジョルジュが振り向き、銃を奪おうと走る。だが反応は遅かった。フィレンクトは当然の行動をしただけだ。
.
226
:
名も無きAAのようです
:2014/12/02(火) 05:36:16 ID:3gBm1G8g0
目の前にいるのはDNAレベルで形成された、ただの人形で、主人の留守を預かっている。
存在を通報されないための、最もよい方法。
ぱん
乾いた小さな破裂音。
真っ白な服の胸元が血に染まる。
衝撃で女が崩れる。
ジョルジュのためを思って心臓を狙った。
結果一撃でといえず、続けて撃つことになった。
ぱん ぱん
血だまり、完全なる死体ができあがる。
フィレンクトは部屋の隅、カメラや侵入経路に目を向けた。
入り口は一つだけでないはず。この部屋は当然記録されているから、爆薬を仕掛けたあとすぐに撤退しなければ間に合わない。
時間を計算してジョルジュに目を向ける。
彼が動いてくれれば何も問題はない。
.
227
:
名も無きAAのようです
:2014/12/02(火) 05:37:15 ID:3gBm1G8g0
_
( ゚∀゚)「…………」
呆然としている。フィレンクトは待機した。
これから激高されるとしても、彼は優秀だからすぐに自分を取り戻すはずだ。
冷静さを失わせないために余計なことを口にしない方がいい。
フィレンクトは観察する。
ジョルジュは同じ事を経験した。
妹の死。妹に似た女の死。
一般的な感覚を持ったものなら深い感情にこれから襲われる。
_
( ゚∀゚)「……」
彼の表情は珍しく色がない。
そのまま考え込んだように動かない。
ロスする時間が気になる。
感情的になるのなら今でないと時間の遅れは取り戻せない。
そう思っているとジョルジュが携帯しているハンドガンのシリンダーを引いた。
ゆっくりと持ち上がる腕。
まっすぐな視線はフィレンクトを突き刺した。
フィレンクトは動かない。
.
228
:
名も無きAAのようです
:2014/12/02(火) 05:38:02 ID:3gBm1G8g0
ジョルジュの行動であればそれでいい。
銃口は狙いを定める。
ジョルジュの肩よりも少しうえにあがり、フィレンクトの額に照準をさだめた。
(‘_L’)「設置はひとりでも可能ですが、時間を取られているのでお早めに」
_
( ゚∀゚)「……ああ」
爆薬のセットを一人で行うのは大変だろう。だがジョルジュが決めたのであればそれに従うだけだ。
フィレンクトは瞬間にこれまでの流れに不備がないかを思い返し、彼への忠告がないかを探した。
特に思いつくものはなく、しいてあげるならこの先のジョルジュの逃亡が気にかかるくらいだった。
.
229
:
名も無きAAのようです
:2014/12/02(火) 05:38:56 ID:3gBm1G8g0
会話、記憶を思い返す。
そして目を閉じた。
視線を合わせたままではジョルジュが撃ちにくいだろうと考慮する。
息を飲む気配がした。
フィレンクトは想像できる。
彼の指先が意志をもって引き金を引く瞬間をーー
じゅうっと焼ける匂い。
違和感を感じて目をあけるとともに、ジョルジュが倒れ込むのが視界に入った。
230
:
名も無きAAのようです
:2014/12/02(火) 05:39:38 ID:3gBm1G8g0
.
231
:
名も無きAAのようです
:2014/12/02(火) 05:40:26 ID:3gBm1G8g0
その瞬間フィレンクトの呼吸は一度止まった。
ジョルジュが倒れるシーンが連続したコマ送りのように頭のなかで流れる。
予想していなかった危険性に対処できず、すべての機能が停止する。
奇妙なことにフィレンクトは動けなかった。
正しい行動は怪我の重傷さを見、すぐさま応急処置をとらなければいけないのに。
凍り付いたように足が動かない。
数秒間、フィレンクトは自己を消失した。
.
232
:
名も無きAAのようです
:2014/12/02(火) 05:41:11 ID:3gBm1G8g0
ジョルジュの胸を貫いたレーザーは高温で臓器を焼き切っている。
彼を運んで、処置室に移動するに必要な時間はこのビルを降りるまで間に合わない。
間に合ったとしても病院IDを偽造する合間も、移植に必要な臓器をそろえる時間もない。
そんなことを頭のすみで理解しているから、身体は硬直し動くことができない。
ジョルジュがいなければフィレンクトの行動理由がなくなってしまう。
「驚いたよ。どうして一般人なんかにつられていったのか不思議でならなかったが、なるほどよく似ている。シェーカーに入ったのによく覚えているものだ。
やはりお前は優秀だった。どこか欠陥があったのかずいぶん心配した」
厚い絨毯が敷き詰められた床、靴音をさせずに近づいてくる気配。
フィレンクトは動けない。主人と確定した男が倒れている。
出血量は少ないが、内蔵を焼かれて死に至るのは間違いない。
.
233
:
名も無きAAのようです
:2014/12/02(火) 05:42:03 ID:3gBm1G8g0
「兄弟かと思ったがそうではなかった。
本当によく似ている。お前が惹かれたのも頷ける。そっくりじゃないか。ーーアヒャに」
思考は冷静にその言葉を分析する。
現在ジョルジュに役立つ情報であるかないか。
彼が動けない今、彼の意をくむことができるか。
逃避した考えだがそれなら手足が動けそうに思えた。
だが男が語るものはどうやらフィレンクトのことらしい。
なぜジョルジュが撃たれたのか。
視線をさまよわせる。
部屋に備わった侵入者撃退用の砲。
未だ認可されていないはずだがここで法律の有無は意味がない。
なぜジョルジュが撃たれたのか。
それを男が語ってくれそうだった。
視線を向ける。いまフィレンクトがすべきことはジョルジュの命乞い。
情報と引き替えに取引しようと持ちかけるべきだ。
だが男の顔をみた瞬間またフィレンクトは機能を停止させた。
.
234
:
名も無きAAのようです
:2014/12/02(火) 05:42:56 ID:3gBm1G8g0
彼の顔は見覚えがある。
造形とは違う感覚、同じ顔でも違う中身。
フィレンクトは最初の研修にそれを教え込まれた。
( ^ν^)「お前は一度主人を撃った。
それで不安定になった。だが廃棄しないで正解だったよ。ここまで来れたのはお前の考えか?一般人に侵入計画は立てられない。
内部をよく知っている者がいないと。同じシリーズを削除した手間もよかった。
やはり一度、価値観を一遍させるべきだ。頭が柔らかくなる」
起動と再生。
どれを選ぶべきか無意識にフィレンクトは迷う。最初の男だった。
はじめの主人。
フィレンクトの思考のすべてが始まった人間。
人相照合、これまでの主人を思い浮かべる。エラー。エラー。
機械であればバグと認識されるだろう記憶のもや。フィレンクトは思いだそうとする。
この場ですべき最良の方法。
.
235
:
名も無きAAのようです
:2014/12/02(火) 05:43:47 ID:3gBm1G8g0
冷や汗をだす気分だった。
実際流れていないが、男の存在は動こうとするフィレンクトに大きな負荷をかける。
ジョルジュの消失、数分の死。
新たな主人の再認識。
この場における最適な行動はなにか。
フィレンクトは考える。
考えた結果、男の足下にひざまずいた。
それから新たな命令を待とうとした。
( ^ν^)「……だめだ。少しは自分で考えろ。ここまで来たときの気骨を見せろ。お前は知らなければならない」
フィレンクトは動かない。
語りは耳に入っているのに、思考として結びつかない。
そう教育を受けている。
その型を破るにはまだ自己が定まっていない。
( ^ν^)「……質問しろ。お前が知りたいことに答えてやる」
.
236
:
名も無きAAのようです
:2014/12/02(火) 05:44:31 ID:3gBm1G8g0
促されて顔をあげる。
フィレンクトが求めない理由を、自ら教えようとする。
主人の意図がわからない。
いままで知らないままでいられたのに、突然世界の仕組みを突きつけられた気分だった。
フィレンクトは思考する。
いま男がフィレンクトに求める態度。
知らなければならない。
主人はそれを教えたがっている。
だから最初のはじまりから投げかけた。
なぜ、フィレンクトがいまここに居ることになったのか。
男は満足そうに笑んで、語り始める。
フィレンクトの選択は正解だったようだ。
興味がないなりに、拝聴せねばいけない。
.
237
:
名も無きAAのようです
:2014/12/02(火) 05:45:18 ID:3gBm1G8g0
( ^ν^)「リスクマネジメント、最初はこれが原因だった。シリーズの評判は実にいい。機械では判断できないこともスムーズに行えるし、人として忠実で裏切る要素がない。
権力を持ち始めた人間が最初に欲するのは何より裏切りのない身内だ。保身を脅かすことのないような。
人間を所有するのはありふれた支配欲を満たしてくれるが、慣れるとどうしても愛玩物の癖に人権を主張する者が出始めてね。
愛人のワガママは可愛いものだがそれが諸刃になって跳ね返ることがある。だから傭兵としても使える人形を作成したんだが、それにも問題が出てきた。
重要な局面で判断を下せるものがいないのだ。ワンマン社長に育てられた社員がろくな人物に育たないように、意志がないというのは気概もない。
いつのまにか上位に立つ者たちの争いに巻き込まれ、主人を代えれば簡単に言うことを聞く。
せっかく人として育てられた利点がない。
これでは人工知能を搭載したアンドロイドとなにも変わらないではないか。
演技ができないのも、嘘がつけないのも致命的だ。誰もが使えるのであれば、お前たちが居ても意味がない。
実践の戦争では役に立つが生きようとする意志がないから簡単に全滅する。
.
238
:
名も無きAAのようです
:2014/12/02(火) 05:46:00 ID:3gBm1G8g0
損害を出しても生き残ったほうが勝つ場合のこともあるのだ。
そこでひとつの計画をたてた。
万人にひとりの可能性だが、教育された倫理を打ち破り自己のアイデンティティを持った兵士を育成することはできないだろうか。
つまり局面に強く、自己を犠牲にすることなくなおかつ先を見据えた判断力を持てるような、そう我々はスーパーマンを作ろうとしていたのだよ。
フィクションのような完全な者をね」
.
239
:
名も無きAAのようです
:2014/12/02(火) 05:46:42 ID:3gBm1G8g0
(‘_L’)
フィレンクトは動かない。
男はフィレンクトの反応を伺っている。
けれど彼を喜ばせる態度を取ることができない。命令がないからだ。
彼の発言通りに振る舞うべきだろうが、それのイメージが作れなかった。
ふさわしいと思える者が一人浮かんだが、その人物はいま床に倒れている。
.
240
:
名も無きAAのようです
:2014/12/02(火) 05:47:27 ID:3gBm1G8g0
( ^ν^)「……お前は予想をはるかに越えてすばらしい行動をした。多少奔放なところがあってもよかったが……それが性格なら仕方ない。規律を破るところもよかった。
この男のためにルールを犯したのは驚かされた。それにしても偶然というのはすごいな。フォックスが居なくなったのは予定外だったが、そこにアヒャに似た男が現れる確率もすごい。必然と呼んでもいいかもしれないな」
.
241
:
名も無きAAのようです
:2014/12/02(火) 05:48:15 ID:3gBm1G8g0
急に脳裏になにかが再生した。
記憶の断片。
引きちぎられたわずかな記憶でしかなかった。
アヒャ。ジョルジュとかぶさる。
誰か。同じ主人だと誤認識する。
ーーーーだからフィレンクトは彼に従おうとした。
最初の主人殺し。契約の切れた男。
再登録したさいにフィレンクトを取り戻そうとして、彼に撃たれた。
リバース。戻される印象。
これは何か。
記憶の再生はうまくいかない。無意識だが脳は思い出すことを拒んでいる。
初期設定。なにもかもを破棄。
すべて忘れること。命令されていないが、それが自己を守る防御となる。
フィレンクトは呆けたように聞いていた。それで次は、何をすべきか。
男の命令を待っている。待っている。
何か命令がほしい。
考えることがないように。
.
242
:
名も無きAAのようです
:2014/12/02(火) 05:49:05 ID:3gBm1G8g0
( ^ν^)「ほかに聞きたいことはないのか?」
声に不機嫌さがにじむ。それほど興味はなかったが、室内に居た女のことを訪ねる。
ジョルジュの妹、だが美人すぎるということもなく秀でたところがあるわけでもない。
( ^ν^)「ああ、身内の失態の原因だ。ただ彼はナンバーが二桁の者でな、とりわけ劣るわけではなかった。
そんな彼がミスを誘発する女ならきっと遺伝子に我々が好む因子があるのだろうと思ったのだ。まあ私にはあまり魅力的ではなかったが」
(‘_L’)
謎は解けた。だがフィレンクトは戸惑っている。
男に視線をあわせたが彼は観察するばかりでフィレンクトの望む命令をだしてくれない。
焦りに近い衝動に駆られていた。
それがなぜかわからない。
.
243
:
名も無きAAのようです
:2014/12/02(火) 05:49:58 ID:3gBm1G8g0
わからないなりに、フィレンクトは初めて不安におびえる。
このまま生殺しのように待機させられるのは、不快だ。
( ^ν^)「……最初からすべてを望むのは早急すぎたな。まあいい。状況とこれまでの経験からどのような結果が出せるのかパターンを記録できた。
主人を殺したことが記憶に傷をつけた。
それが原因での成長と思えば欠陥も紙一重。多大なストレスは生き物を疲弊させるが同時に成長もさせる。
……いい機会だ。フィレンクト、あれを撃ちなさい」
.
244
:
名も無きAAのようです
:2014/12/02(火) 05:50:43 ID:3gBm1G8g0
身体のどこかに亀裂が入ったようだった。
それで思い知る。
フィレンクトの予測していた最大の警戒。
こうなることをどこかで感じていたのかもしれない。
なぜなら男はフィレンクトのアキレスを切ることで、新たな内面をさぐろうとしている。
いまここで記憶の奔流と不具合が発生すればいい。
だがフィレンクトの脳に求めた命令が浸透する。
一方通行の指示。これまで従ってきたもの。
フィレンクトは顔をあげた。
それから立ち上がり、携帯していた銃を持ち直す。
男は面倒くさそうに見ている。一応の確認といった定だった。
.
245
:
名も無きAAのようです
:2014/12/02(火) 05:51:26 ID:3gBm1G8g0
フィレンクトは逆らえない。
命令は受信するものだ。
それこそが存在する意義。
だが登録も記憶の消去もされていないので、やはり拒否反応がでる。
さっきまで主人と認識していた。
急に認識を覆すのは、強い負荷がかかる。
( ^ν^)「何かを乗り越えるとき、一皮むけるようになる。おまえは新らしい概念の戦士になるだろう。撃ちなさい」
主人が二度めを口にするのはほとんどない。
フィレンクトは自分の伸ばした腕がふるえているのに気がつき、その感覚を知った。
.
246
:
名も無きAAのようです
:2014/12/02(火) 05:52:09 ID:3gBm1G8g0
(‘_L’)
自己の本能を切り離したフィレンクトの経験する、最初の恐怖だった。
構える。
銃口を倒れているジョルジュに向けて狙いを定めた。
引き金をひこうと指に力を入れた瞬間、彼の口がうごいて何かをかたどるのを見た。
銃声
.
247
:
名も無きAAのようです
:2014/12/02(火) 05:52:51 ID:3gBm1G8g0
フィレンクトは
.
248
:
名も無きAAのようです
:2014/12/02(火) 05:54:04 ID:3gBm1G8g0
続きは近日中に投下します。
こんな厨二たっぷりの見てくださってありがとうございます。
.
249
:
名も無きAAのようです
:2014/12/02(火) 12:01:33 ID:8hehoBsU0
気になるところで次回か 乙!
250
:
名も無きAAのようです
:2014/12/02(火) 12:36:36 ID:nat9CrUk0
おぉおぉつぅうぅう〜気になる〜
251
:
名も無きAAのようです
:2014/12/02(火) 15:25:32 ID:ty1TtH/U0
乙
252
:
名も無きAAのようです
:2014/12/03(水) 10:13:22 ID:bz1PF1oU0
おつ
253
:
名も無きAAのようです
:2014/12/04(木) 01:35:14 ID:DLSugi7Y0
いつも楽しく読ませてもらってます。乙!
擬人化注意 _
ミセ*゚ー゚)リ ( ゚∀゚)(‘_L’) ('、`*川
http://i.imgur.com/MMCbj07.jpg
254
:
名も無きAAのようです
:2014/12/04(木) 02:10:19 ID:vP8FZzDU0
>>253
かっこよすぎィ!
255
:
名も無きAAのようです
:2015/01/27(火) 23:21:50 ID:SZcazevc0
気になる所で…
256
:
名も無きAAのようです
:2015/02/09(月) 21:06:12 ID:xhe2u8TU0
待ってるよー
257
:
名も無きAAのようです
:2015/02/18(水) 03:49:10 ID:Tmojq0r20
続きみたい…
258
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 04:02:00 ID:PpHh.7g.0
いまの僕には 理解できない
『アンインストール』
.
259
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 04:02:50 ID:PpHh.7g.0
一発目は殺害目的。
二発目は確認。
三発目はほとんどない。
打ち損ねることが滅多にあり得ないから。
標的はマス目のように計算できる。
空気の抵抗、遮蔽物の有無。
垂直から放射物状にえがかれた弾のゆくえ。
一度目は殺意。
二度目は予備。
三度目はーーー
.
260
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 04:03:49 ID:PpHh.7g.0
「銃の話をしよう。クラッシクなマスケットからスコープの付いたライフルまで。共通しているのは薬効を押し出して目標物に当てる行為。狭い筒管のなかで爆発物を一カ所に集中して飛ばす。
圧力によって鉄が逃げだし、すさまじい早さで威力に変換される。筒が長ければ長いほど安定するスナイパーライフル。ばらまくようにして発射するもっとも殺傷能力が高いショットガン。
サイレンサーもいい。威力が小さくなるのが玉のキズだけど、最新式のものは他の銃と弾丸が変わらないよう改良されたのもある。オートマッチクが主流とはいえ僕は回転式がやっぱり一番すきだな。シリンダーをスライドさせて薬莢を抜くことがなんだか雰囲気がある。
それに万が一でも弾詰まりがないしね。オートマの怖いところは滅多になくなったとはいえ、いざという時にジャムる危険性。自動で排出や装填してくれるのはいいけど、一対一とか重要な局面の場合数万の確率で整備不良があったらジ・エンドってイメージ。
もちろんイメージだけだよ。なんたって自分で使うことはほとんどないもの」
.
261
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 04:04:34 ID:PpHh.7g.0
「娯楽映像での銃はバンバン撃ちまくってるけど実際はそんなことないんだよね。どう見てもその壁のなかで撃ったら跳弾するでしょって場面もあるし。
威嚇にしても自分の位置を教えるような撃ち方はしないのに。やっぱ映像だと派手さを求められるからね。実際身近に銃がない人たちが作るとそうなるみたい。当然だよね。何百発って撃ったらもうだいたいの人たち死んでるし。そうなったら盛り上がらないか。物語の起承転結がうまくいかないからフィクションとして仕方ないかな」
.
262
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 04:05:17 ID:PpHh.7g.0
「本当なら規正ラッシュで銃器も対象なんだろうけど銃に変わる経済の流通が新しく見つからないかぎり規正されることはまずないだろうね。でも防衛として持っててもうまく使えるとは限らない。
何も持たずに撃たれるよりはって意識かな。取り扱いを知ってれば防衛にはなるかもしれない。でも不思議だけどね、銃って握ったら撃ちたくなる。水鉄砲を大人に持たせたって同じ結果になると思う。
だから撃たないひとは銃を嫌悪してるかトラウマがある人くらいかな。銃撃戦に巻き込まれないかぎりそうはならないから、やっぱり流通を止めるのは難しいだろうね」
.
263
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 04:05:59 ID:PpHh.7g.0
「先進国で開発される兵器のひとつに、倫理感を判別する機能のAIがついた銃ってのがあるんだって。
つまり身を守るために使われるけど、殺すためにはNGって奴。銃がどうやって見分けるのか知らないけど本当ならすごいよね。それさえ世界に蔓延すれば、銃による犯罪はとことん無くなるに決まってる」
.
264
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 04:06:40 ID:PpHh.7g.0
「きみも だよ。使われるんじゃない。選ばなければいけない。自分で考えて、使う人間を、選別できるように」
「そのときまで、頑張って自分を作らなきゃ。個性を持てというんじゃないよ。ただ選択する自由を、自分から取りにいかなきゃいけない」
.
265
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 04:07:23 ID:PpHh.7g.0
( ゚∀゚)「フィレンクト、きみはーー」
ぱん
.
266
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 04:08:14 ID:PpHh.7g.0
.
267
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 04:09:09 ID:PpHh.7g.0
数秒に満たないわずかな時間、様々な記憶と予感が駆けめぐる。
考える。考える。
現在おこなえる適正な行動。
許可される行為。
フィレンクトは横たわる死体を見る。
その指先、わずかに呼吸しようとした口。
生存を確認した瞬間に、一つの指針が欲求に並んだ。
それはフィレンクトの命令主体に位置する。
忠実な命令のひとつで、何よりも守らねばいけないことだ。
理解するとなぜそれに思い至らなかったのか、不思議なほどだった。
.
268
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 04:10:19 ID:PpHh.7g.0
照準を合わせ、倒れた身体に撃ち込む。
二発。
衝撃で肉体はわずかに跳ねて、そのまま動かない。
命令遂行行動をとって、振り返る。
男の元に、従順を見せるために。
(‘_L’)
.
269
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 04:11:09 ID:PpHh.7g.0
人形として教育されたシリーズの廃棄は基本的に脳の消去を行って、うまくいかない場合のみ肉体ごと処分する。
そのさい彼らは大人しく火葬場に向かう。
生理的反応を抑えるために酸欠で脳の機能を停止させ、死を受け入れる。
本来なら銃を使って死ぬことは弾の消費と掃除で非常に手間だ。
それなのに自死するように言いつけられることは少なくない。
ブレイン・シェイカーで脳の情報を探られたり、廃棄されたつもりがどこかに移動されて使用されたりといったことを防ぐ意味と、確実に処分したという実感のためだ。
ハードディスクを再生不可のため壊すのに似ている。
支配と権力欲を満たすために、主人たちはそれを命令する。
だからフィレンクトに命じたそれも同じような意味合いがあった。
.
270
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 04:11:51 ID:PpHh.7g.0
( ^ν^)「……嫌がると思ったが素直だな」
男はフィレンクトの微表情に違和感がないかを観察し、そう言った。
フィレンクトは常のまま、狙撃して再び男の真横に立つ 。そして待機姿勢をとる。
( ^ν^)「これからどこか行きたい場所はあるか?経緯を発表すればお前を欲しがる者は多いだろう。皆融通が効かない人形ばかりでうんざりしている。
この国で少し暴れすぎたし、現地民との接触もありお前の顔は有名になりすぎたな。
顔を変えてもいいが、中身を交換したと思われるのもしゃくだ。」
男はもう死体に目を向けることはない。
フィレンクトは沈黙している。
ひたすら置物のようにあろうとしている。
それから待った。
.
271
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 04:12:38 ID:PpHh.7g.0
( ^ν^)「……雑談を楽しめるような性格であればもっと価値があるんだが……主人のために行動制限を広げただけでも成果だな。今度は、」
フィレンクトは待機する。
男の意識が空に浮き、室内のレーザーを忘れる一瞬のあいだ。
それを待っている。
( ^ν^)「トレースした性格でも植え付けようか。見た目そのものが人のように振る舞うことができたら完璧だ。
ただのシリーズだと思わせることができれば情報戦にも先手を取れる。」
フィレンクトは待っている。
男の言葉は表面だけ頭のなかを撫でていき、すぐに霧散した。
意見を求められる内容ではない。
( ^ν^)「それにしても多少のあいだとはいえ主人を殺すのは外聞が悪いな。個人登録の補強をしっかりしなければ。
お前の判断と主張で選ぶことが望ましいが、世の主人たちはそれを好まないだろう。我々だけの所有で居られればいいが、“彼ら”がお前をどう扱うか」
.
272
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 04:13:20 ID:PpHh.7g.0
待機状態。身体は動かさず、しかし警戒は最大限。いつでも動けるように。
飛び出せるように。
フィレンクトは待っている。
男は話ながらもフィレンクトをしっかりと観察している。
行動を見極めようとしている。
その視線がとぎれる瞬間を、ただ待っている。
.
273
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 04:14:02 ID:PpHh.7g.0
某時刻
.
274
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 04:14:44 ID:PpHh.7g.0
( ´_ゝ`)「予想外?想定外?」
( ^ν^)「想定の範囲内だ。」
( ´_ゝ`)「そう?なんかつまんなそうに見えるけど」
( ^ν^)「確かにもう少し動きがあってもよかった。」
( ´_ゝ`)「ワッガママー。いいじゃんいいじゃん。そんな裏切りとか求められても可愛そうじゃん。裏切ったとこでフリーズするだけだし」
( ^ν^)「突発的な事故からここまで来れたのだと考えれば貴重さもある。だからイレギュラーな反応が欲しい」
( ´_ゝ`)「つうても行動のパターンは予測してるでしょ」
( ^ν^)「当然だ」
.
275
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 04:15:28 ID:PpHh.7g.0
( ´_ゝ`)「なにその反抗期まえの娘がもう少し態度悪ければいいのにって願望」
( ^ν^)「お前どこからその表現拾ってくるんだ」
( ´_ゝ`)「秘密ーねね、でもよくやってる方じゃん?もうゴールさせてもいいと思うな」
( ^ν^)「…………」
( ´_ゝ`)「なんかさ、見てるとやっぱないものねだりだなあと思うよ」
( ^ν^)「どういう意味だ」
( ´_ゝ`)「だってアンタ作り出す側じゃん。俺ら受ける立場で、アンタ命令する側。」
( ^ν^)「それが何だ」
.
276
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 04:16:14 ID:PpHh.7g.0
( ´_ゝ`)「俺は自己を形成しなきゃいけなかったから客観的な目っていうのを養わなきゃいけなかった。
それには第三者ってたち位置が重要なんだって。
人は評価されると不快らしいから先に言っとくけど処分しないでね。
俺らとは違う、つまり普通の人間は自己意識をもってて、自分に足りないものを補おうとする本能がある。
アンタらは普通じゃないけどそれって生まれだけじゃん?
中身はけっこうただの人っぽいとこあるよね。
あいつあんな偉っそうな態度してるくせにロリコンでなおかつ機械フェチとか、好みも超違うし。」
( ^ν^)「続けろ」
( ´_ゝ`)「自己投影だよ。自分に足りないものを求めてる。だからあいつに期待してるんじゃない?
それ以上の、予想外なことを」
( ^ν^)「面白い意見だ。人並みに感情でも湧いたか」
( ´_ゝ`)「どうだろ。下克上でもしたら満足?」
( ^ν^)「できるものならな」
( ´_ゝ`)「報酬欲求がないから無理だなー。俺どっちでもいいもん。
やっぱプライドって大事だわ。
それがあるから争うようになるんだろ」
277
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 04:17:08 ID:PpHh.7g.0
( ^ν^)「酒と女に狂えたら男として一人前だ。やってみるか」
( ´_ゝ`)「抱けるけど面白くないと思うよ。ベッドマナーは教わったけど全部奉仕の一環だったし。
アルコールは少量ならいいけど多すぎると中枢神経麻痺させるから好めない。なんでみんな飲むの?効率悪すぎない?」
( ^ν^)「無駄を消費できるようになればわかる」
( ´_ゝ`)「それが一番難しいのに……」
( ´_ゝ`)「でもやっぱわかんないなあ」
( ´_ゝ`)「なんだってそんなもの欲しがるわけ?」
( ^ν^)「何が」
( ´_ゝ`)「だからさ、」
支配からの逸脱ってやつ
.
278
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 04:17:54 ID:PpHh.7g.0
刷り込み認識ーー主人への忠誠と絶対の服従。依存により安心を得られる。
命令に従うことで自己を認識し、生物の欲求だと肯定する。
であるから、対象主人と認識したものを消失すると決定権を選べなくなり行動を停止する。
それは次に主人と認定されるまで続く。
本来シリーズを作成した時点で刷り込みは強烈なものだった。
主人に逆らうことは呼吸の仕方を忘れるような歪さがある。
支配されることを当然とし、また何よりも主人を守りぬくこと。
女王アリを生かすために犠牲を当然とする兵隊アリをモデルケースにされた。
無意識の献身。
どれほど理不尽でも非論理でも、すべて主人のためだけに彼らは尽くす。
保身を考えることはまずない。
現在だけを考える。何が主人にとって最適であるか。
.
279
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 04:18:38 ID:PpHh.7g.0
模倣された時間だった。
主人の死という点だけにおけば、似ているかもしれない。
倒れた死体。ジョルジュと、フォックス。
そこに立ち尽くしているフィレンクト。
現れた第三の男。
.
280
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 04:19:21 ID:PpHh.7g.0
命令を探す。
フォックスの時はできることが何もなかった。
彼は報復の見せ物として殺されたあと首を切られた。
フィレンクトは男に視線をやった。
彼はつらつらと話していたがフィレンクトの反応がないのに興味を失ったようだった。
部屋の死体を片づけろと指示をだし、そのままくつろぐために部屋を出ようと考えていた。
フィレンクトは待機姿勢を崩さなかった。
部屋のあらゆる隅にカメラがあり、その映像を男は通信されて見ている。
レーザーを使ったことでそれがわかった。
脳の思考で、瞬時にそれを使うことができる。フィレンクトは隙間を探した。
常に見張っているわけではない。プログラムなら穴は見つからないが、男は通常の人間と同じIQと能力の持ち主のはずだ
.
281
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 04:20:43 ID:PpHh.7g.0
男は部屋から出ようとする。フィレンクトの沈黙と微動だにしない様子を認めて、そのまま意識から切り離した。
演技といった可能性は思いもよらないだろう。
フィレンクトはこれまで、嘘をついたことがない。
足を動かす。
床を歩き、ドアをくぐろうとする。
死角が生まれるその瞬間を、フィレンクトは待った。
男の身体が横向きになり、完全にフィレンクトを視界から外した。
距離は遠くない。
フィレンクトは流れるような動作で銃を構えた。その動きを室内のカメラは感知し、すぐさま情報を男の脳に送る。
男が振り向くのと、フィレンクトが引き金をひくのは同時だった。
男の脳に埋められた受信と送信の指示機を狙って発砲する。
チャンスは一度だけだった。
.
282
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 04:23:13 ID:PpHh.7g.0
フィレンクトの反撃にとっさの反射でレーザーが発射されるが、それより弾が頭蓋と肉を砕く方が早かった。
目標の照準はずれて、青冷レーザーはフィレンクトの右肘を焼いた。
じゅっと肉が焼ける音。
神経系統への痛みの伝達。
感覚を遮断。生存本能が低いから、それは日頃から可能だ。
焦げた関節から先が、重りのように揺れて千切れる。
男の方はぐらついた重心を保てず、そのまま足から崩れた。
骨の堅い部位を撃ったため、出血量は少なく意識もはっきりしている。
( ^ν^)「なぜだ……」
( ^ν^)「判断力が低下したのか……」
目眩と感覚の不良。
揺らされた脳が視界を正常に映さない。
身体を司る場所を損傷したためまともに起きあがることも難しいだろう。
.
283
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 04:23:56 ID:PpHh.7g.0
( ^ν^)「なぜだ。理由を云え。これは明らかに、」
フィレンクトは残っている腕で落ちた手から銃をとる。
それから男の首の動脈を圧迫し、呼吸を困難にした。
もう弾が残っていなく、補充するよりかその方が簡単だった。
男は口を開いて何かを言い掛けたが、軌道をふさがれて顔を蒸気させたあと強く締めたので男はすぐに絶命した。
流れ作業のような行程で死んだ。
.
284
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 04:24:39 ID:PpHh.7g.0
呼吸の停止を確かめる。
それからはた、とこれは反逆になるのだろうかと考えた。
だが考えただけで終わった。
この男は主人ではなかった。
あの時とただ違うひとつの事柄。
(‘_L’)「彼が、まだ生きている」
冷たくなった男の質問に答え、ようやくフィレンクトはジョルジュの元に駆け寄ることができた。
.
285
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 04:25:30 ID:PpHh.7g.0
フィレンクトは撃ったときに、防弾ベストを身につけたジョルジュの防御性の高い場所を狙った。
すでに致命的な怪我を負っているため頭といった危険性の高い部位でなくとも疑われることはなかった。
だが布面積で止まったとはいえ衝撃は大きい。
ジョルジュは呼吸をしていた。
小さくけれど必死に。
焼けた肉は傷口が焦げ付いていて血は止まっている。フィレンクトは心臓部位に手をあてる。わずかに心音がした。
.
286
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 04:26:20 ID:PpHh.7g.0
急に地面への感触が強くなった。
踏みしめる感覚が戻ったのだと知る。
さきほどの男を撃ったときは感覚がなかった。ただ考えをなぞるような行動だった。
それもジョルジュが生存しているから、躊躇することはなかったのだ。
彼が死んでいたらいつまでも置物でいただろう。
.
287
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 04:27:01 ID:PpHh.7g.0
身体を横たえるとジョルジュは苦しそうに呻いた。傷の具合を見る。
ゆっくりと血は流れていた。焦げた傷口だが、中身の臓器からとめどめなく溢れている。
ネクタイを外し、ジョルジュの胸に巻いて止血を試みた。
抗生物質の紙パックをジョルジュの背負っていた袋からとりだし、注射する。
ここまでひどい怪我は想定していなかった。なかに人が待ち受けているのを知らなかったように。
少しだけ苦しそうな表情が和らぐ。
脳内からドーパミンが出ている。
それで傷の痛みを押さえているのだ。
フィレンクトは考えた。
このまま彼を背負って逃げることはたやすい。
爆薬をこの部屋で爆破させ、大騒ぎになれば負傷者に紛れることができる。
そう考え、実行しようとする。
だが立ち上がりかけて、残った腕を掴まれた。
.
288
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 04:27:47 ID:PpHh.7g.0
(‘_L’)「……なにか」
ジョルジュは息をはいて、言葉を発しようとしている。
だが肺と心臓は失う血液と損傷した臓器を補おうと活発しているため、なかなか声帯にまで機能が働かない。
見かねたフィレンクトが彼の背中に手をあて、発生の手助けをした。
_
( ゚∀゚)「……どうなった」
記憶が多少混濁している。貫かれたうえに弾丸の衝撃を受けたので無理もない。
.
289
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 04:28:29 ID:PpHh.7g.0
(‘_L’)「襲ってきたので、撃ち返しました」
事実だけを述べる。
詳しく説明するにはジョルジュの状態は悪すぎた。
いまこうしているだけでも身体は血を流している。
フィレンクトは医者でない。
銃創を受けたときの応急処置と、監禁された場合の栄養補助に関する知識しか持ち得ていない。
だからジョルジュの口を止めるにふさわしい助言を出すことができなかった。
彼は語りだす。
フィレンクトのこれから想定する脱出劇に、加われないことを理解しているようだった。
.
290
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 04:29:41 ID:PpHh.7g.0
_
( ゚∀゚)「ここ、爆破できるのか?」
(‘_L’)「問題ありません」
_
( ゚∀゚)「そうか……ひとりでも可能、だった、け」
(‘_L’)「ひとりでは」
_
( ゚∀゚)「ひとりだ。こればっか、はしょうがない」
フィレンクトは押し黙る。
これ以上なにを言えばいいのかわからない。選択できない場面には彼はいつも沈黙していた。
それがなぜか今は不快なものに思える。
フィレンクト以外の誰かだったら、現在のジョルジュにかけるのにふさわしい言葉を選ぶことができたはずだ。
.
291
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 04:30:32 ID:PpHh.7g.0
_
( ゚∀゚)「おまえ、腕どうした、」
(‘_L’)「焼けました」
_
( ゚∀゚)「ぶっ、」
ははは、乾いた、空気をふるわせるだけの小さな笑いだった。
_
( ゚∀゚)「……こんな時も、その顔で、その口調っていうのは、笑えるな」
エンドルフィン過多。意識の異常。
彼はこんな時に楽観になる人物でない。
フィレンクトは肩と腰に手をいれて、ジョルジュを持ち上げようとした。
そのとき初めて失った腕の存在を思い出して愕然とする。
.
292
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 04:31:23 ID:PpHh.7g.0
_
( ゚∀゚)「どっちかひとつだ。」
ジョルジュが眼を細めてそう吐いた。
彼の短縮した言葉の表現にいつも面食らったフィレンクトだが、その時はすぐさま理解する。
片腕でも設置は可能。
しかし時間はだいぶかかるだろう。
ジョルジュをかついで逃げる時間はない。
_
( ゚∀゚)「俺は置いてけ。弛緩してるし、もう感覚がないんだ。」
嘘だ。
だが指先は冷えている。血はいまだ少量ずつだが、止まっていない。
フィレンクトは立ち尽くした。
いままさに、ジョルジュが死にかけている。それを救う手だてが自分にはない。
何でもできるはずだった。
ジョルジュが居ればなんでも。
だから引き金を弾けたのに。
.
293
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 04:32:06 ID:PpHh.7g.0
_
( ゚∀゚)「おい、」
呆然と彼を見下ろす。
本来ならこの後のことを聞かなければならない。
その計画を完遂させるために。
_
( ゚∀゚)「お前、死ぬなよ」
ジョルジュがそう命令する。
それで思考が現実に引き戻された。
命令形。
フィレンクトが従うべきもの。
フィレンクトは動かない。
ジョルジュが具体的な命令を出していないからだ。
連れていけないと遠回しに言われたが、何かをしろ、早くいけなどと言われたわけじゃない。
それを口にされることを恐れた。
.
294
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 04:32:48 ID:PpHh.7g.0
緊張の面差しで、ジョルジュの顔を眺める。
もう血の気もない。
_
( ゚∀゚)「俺が殺すまで、絶対に死ぬなよ」
はい、と答えることができただろうか。
なにもかもが遠くに思える。
たとえばジョルジュの長引く間隔の呼吸とか。
絨毯に確かに量を増やして染みていく血とか。
_
( ゚∀゚)「ああ、くそ」
「ぜんぶ、壊してくれ」
壊してくれ。
.
295
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 04:33:30 ID:PpHh.7g.0
悔しそうに彼が顔をゆがめる。
その一瞬は生に溢れるように見えた。
ペニサスに悪態をつく普段の顔とまったく同じに見えた。
ちくしょうと口のなかで呟くとフィレンクトに眼だけで頷かれる。
この後を頼むと伝えたようだった。
彼は最後に小さく発音すると眠りに落ちる間際のように眼をつぶる。
最後の言葉は小さすぎて聞き取れなかった。
女の名のようだったが誰なのかを特定するのは難しかったし、フィレンクトにその気はなかった。
生きている方とも限らない。
.
296
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 04:34:16 ID:PpHh.7g.0
(‘_L’)「はい」
.
297
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 04:34:58 ID:PpHh.7g.0
.
298
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 04:36:23 ID:PpHh.7g.0
( ´_ゝ`)「wwwwwwww」
( ^ν^)「やかましい」
( ´_ゝ`)「なにもwwww言ってないのにwwww」
( ^ν^)「……」
( ´_ゝ`)「ゴメンゴメン。でもよかったじゃん。ああなって欲しかったんだろ?」
( ^ν^)「あそこまで極端なものを求めたわけではない。忠義心があるわけでもないし、すぐに死ぬ相手に操をたてるのは論理的でない」
( ´_ゝ`)「なにそれwwwちょう理不尽www」
( ^ν^)「やめろ不快だ」
( ´_ゝ`)「はーい」
( ´_ゝ`)「でもさーかっこよくない?」
( ^ν^)「事実は小説より奇なり。あれが従うかわからんが好むのは多いだろうな。だが管理は難しいだろう」
.
299
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 04:37:32 ID:PpHh.7g.0
( ´_ゝ`)「なんで?」
( ^ν^)「死ぬと理解していながらそちらを選んだんだ。戻ると思うか」
( ´_ゝ`)「居なくなったんなら戻ってくるんじゃない?新しい主人欲しくてさ」
( ^ν^)「今まで主人の遺言を聞かされた者など居ない。切り替えのよものなら忘れることもできそうだがアレはもう限界だろう。次にシェーカーを使えばどうなるかわからん」
( ´_ゝ`)「処分するの?」
( ^ν^)「貴重なデータは取れた。
欲を言えばもっと頭を使ってほしかったな。駆け引きにたけるような」
( ´_ゝ`)「そいつは無理な要求だ」
.
300
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 04:38:27 ID:PpHh.7g.0
( ^ν^)「なぜ。主人を守るためにボーイの真似事だってしている。あの男が花を使って侵入するのを思いつけたはずがない。
そこまで柔らかな思考ができるならもっとうまく動けるはずだ」
( ´_ゝ`)「大事なこと忘れてない?
あの場面であいつの主人はもう死にかけてた」
( ^ν^)「だからだ。主人の次を見据える行動を取れなければいけなかった。
心中されては何のために監視していたのか意味がなくなる」
( ´_ゝ`)「うーん」
( ´_ゝ`)「あいつけっこうすごいとこあるよ?」
( ^ν^)「評価できる点はもうない。
変わり種ということなら面白いが」
( ´_ゝ`)「いや、そうじゃなくてさ。……なにか聞こえない?」
( ^ν^)「なにも」
.
301
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 04:39:31 ID:PpHh.7g.0
関節さきの焼けた腕、肉と骨が切断され露出している。応急手当をしてからしばらく考えこんだ。
ジョルジュからの最後の命令。
それを考えることだけがフィレンクトのすべてだった。
爆発物を設置して。結果はどうだろうか。
上階の一部分を崩すだけでは足りないように思えた。彼はぜんぶと言った。
すべて。
この世のすべて。
フィレンクトは考える。何もかも終わったら自分の世界も終了してしまう予感に襲われた。
まだその時ではない。
恐ろしい予感を先送りにして、どのように箇所を決めるか悩んだ。
ジョルジュの希望を叶えようとすると、この階では不十分。必要な知識を探り出す。
見取り図、耐震設計、加重の要点。
軍にいたことはないから爆発作業は初めてだ。それでもこれは成功させなければいけない。何としても。
.
302
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 04:41:12 ID:PpHh.7g.0
( ´_ゝ`)「ねー、これからどうすんの」
不規則な動きで、跳ねてくる男がいる。
彼に殺意はないようだった。武器は携帯していないし、脳内のコントロールシステムもない。フィレンクトは振り向かなかった。
彼に構っているヒマはない。警戒だけとって、考えを実行に移そうと荷物を持って歩き出す。
( ´_ゝ`)「麻痺してんのかさせてんのか知らないけどさ、それ治療したら?」
そう言って携帯ボックスを投げられる。
なかには一揃い怪我に必要なものが詰められているものだ。即座に手当ができるように。
.
303
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 04:43:02 ID:PpHh.7g.0
フィレンクトは痛み止めと血止めだけを使った。縛っただけでは滴りを止められず、床にてんてんとしずくが落ちるのでそれは有り難かった。
( ´_ゝ`)「逃げたほうがいいぜ。もう用済みらしいし」
男は一定の距離をとってフィレンクトを追いかける。彼の目的が何か分からないが、警戒すべき相手でないのは確かだった。
今までもこれからも、彼は傍観しかしていない。
なぜここに居るのか。監視するにしてもフィレンクトが男を殺したとき何の手だても取らなかった。
だから危険はなさそうだと判断した。
事実、同じエレベーターに乗っても彼は行動を起こさず、鼻歌を歌ってフィレンクトを面白そうに見ているだけだ。
( ´_ゝ`)「?逃げないのか」
304
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 04:44:21 ID:PpHh.7g.0
フィレンクトはある階層に止まり、その先へ進む。
やるべきことがあった。それが最優先。
逃亡は最後。
ペニサスにジョルジュのことを報告するという意志がなければ、その逃亡も考えなかった。
ガラスの壁からビルの側面を確認する。
ちょうど真正面、隣接するビルが建てられている。
.
305
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 04:45:43 ID:PpHh.7g.0
● ●
�������������� ●������ ●������ ●
● ●
フィレンクトたちが居るのは右上のビル。
306
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 04:47:17 ID:PpHh.7g.0
この一つでも巨大なビルが崩れれば足下にいる準国民たちが大勢死傷するだろう。
そのためにフィレンクトは重心の柱を選んだ。より多く、ではない。より広範囲に。
ジョルジュの望み通りに。
( ´_ゝ`)「貸せよ」
隣の男がいつのまにか下ろした荷を探っている。フィレンクトは無機質な視線でそれを眺めた。
.
307
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 04:47:59 ID:PpHh.7g.0
彼は楽しそうだが、また事務的でもあるという矛盾した様子だった。
にい、っと口のはしをあげる。
覚えてで、笑顔の練習でもしているような顔で言った。
( ´_ゝ`)「手伝ってやる」
.
308
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 04:48:49 ID:PpHh.7g.0
.
309
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 04:50:03 ID:PpHh.7g.0
( ´_ゝ`)「ねえ何か聞こえるだろ?こっちからよく見えるもん」
( ^ν^)「一定の騒音は遮断されている。こちらの硬質ガラスは外から何も影響は受けない」
( ´_ゝ`)「ふふ。知ってるさ」
( ^ν^)「……機嫌がよさそうだな」
( ´_ゝ`)「俺はじめてかもしんない。なんかスキップして外でちゃった。」
( ^ν^)「いまどこに居る」
( ´_ゝ`)「だからさ、外」
( ^ν^)「さっさと帰ってこい。破壊行為に及んだ場合巻き添えを食らうぞ。いま部隊を送ったからじきに」
310
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 04:51:02 ID:PpHh.7g.0
( ´_ゝ`)「もう遅いって」
( ´_ゝ`)「聞こえないの?あの音」
( ´_ゝ`)「便利さの弊害だね。一番上だから逃げるのもできないでしょ」
( ^ν^)「……さっきから何を言っている」
( ´_ゝ`)「ヘリポートは使えないよ。一番最初にやられる場所だし。観察が終わったから映像をまとめて切ったのも痛かった。
これから何をするにしても行動は予想してるんだっけ。でもさ、思想を制限されたわけでも、倫理感があるわけでもなくて」
( ´_ゝ`)「主人の為に120%の力を出すように育てた結果、その主人を無くしたらどうするのかを予想してなかったでしょ」
.
311
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 04:52:25 ID:PpHh.7g.0
( ^ν^)「最後の命令をやり遂げるだけだ。どうせそれを終えれば動かなくなる」
( ´_ゝ`)「効率だけ考えるとさ、発想がすごいんだよね。さすがナンバーズを殺しただけはある。
あいつにとってもう俺らは仲間じゃないし、所属じゃないんだ。アンタは主人でもない」
( ^ν^)「結論から言え。何が言いたい」
( ´_ゝ`)「だめだめ。俺は時間かせぎしてるんだから。どう頑張っても俺はアンタを殺せない。
でもアンタが望むのはそういうことなんだろ?じゃあ間接的にだけどそうであろうとしてるんだよ、だって」
( ´_ゝ`)「まさかドミノやろうだなんて、思いつくわけないじゃないか」
.
312
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 04:53:14 ID:PpHh.7g.0
一点の重心、加重のある側面を吹き飛ばす。傾いた上階はまるで折れたように寄りかかろうとするだろう。
隣のビルに。
本来なら複数にわけた爆発物をすべて同じ場所で爆破させる。それで支えていた柱を崩し、途方もない重さの壁とコンクリートが落ちる。長さがあるから、そのまま下に落下することはない。
ビルの先端、屋上付近から長さのある廊下のぶんだけ振り下ろす衝撃は強くなり、数万トンの拳が隣接するビルの側面に打ち下ろす。
外から眺めている人々にとっては衝撃の、中に居る者たちは阿鼻叫喚の一夜になった。
.
313
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 04:54:23 ID:PpHh.7g.0
勢いをつけて落ちてきたビルの上部分を、ほとんど真っ逆様に受け止められず隣のビルは強く揺れた。
このビルの上階に深く突き刺さり、これもまた側面から折れるようにして崩れた。
この時隣ではなく、落ちてきたビルの真後ろに倒れることになった。つまり中央の。
破片と黒い煙。火災が起きてケーブルが切れたために電気事故まで誘発する。
人々は逃げまどうしかできなかった。
.
314
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 04:55:51 ID:PpHh.7g.0
「見える?そっから一番いい景色だと思うけど」
彼はすぐさまウィンドウのカーテンをONにした。いつもなら夜景の眼にうるさすぎる光がわずらわしいのに、そのときガラスは闇一色だった。
静寂のなかに亀裂が入る音がして、グレネードを使われても割れないはずのガラスが白く線条に広がるのをみた。
巨大すぎて何が降ってきたのかさえ肉眼ではわからない。
ただ質量の途方もなく大きなものが、部屋ごと彼を押し潰そうとしていることだけを理解した。
.
315
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 04:56:45 ID:PpHh.7g.0
( ´_ゝ`)「バイバイ、父さん」
できることは何もなかった。
ただ本能に従い彼の身体は硬直する。
一瞬の間、耳にその声だけが入る。
何かを叫んだはずだが言葉にならなかった。
頂点にいるはずのナンバーひと桁。
栄華を極め、権力を手にして彼を脅かすものは何もないはずだった。
そんな彼は死を選択できることもなく、単純な肉塊に成り下がる。
.
316
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 04:57:39 ID:PpHh.7g.0
( ´_ゝ`)「絶景だなあ」
遠目から見ると感動すら覚える景色だった。折れた象徴のビル、まるで黙示録のようで。
.
317
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 04:58:46 ID:PpHh.7g.0
崩壊するビルは連鎖して崩れる。
ドミノのようにすべてが倒れるようにはいかなかったが、隣接している建物にそれなりに被害は与えている。
これから起きることを考えた。
耳元の無線は通信が切れて。
もう生きていないだろう。
結局あの男が求めていたのは何だったのだろうか。最後の瞬間、不明瞭なわめきしか聞こえなかった。
こうなる事を予想しなかったというのはじつに興味深い。
それを見通していた自分も。
( ´_ゝ`)「俺はアンタの求めるなにかになれたかな?」
まだ個々の意識はない。
兄者は希薄で、理解できないからそれを探そうとしていた。
.
318
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 04:59:53 ID:PpHh.7g.0
同時刻
.
319
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 05:00:35 ID:PpHh.7g.0
('、`*川
ペニサスは同じく屋上からそれを眺めていた。もう長い時間、通信が途切れていたから期待はしてない。ただその破壊の巨大さに驚いて笑う。
('、`*川「ずいぶんでっかい花火じゃない……」
どちらかは死んでいる。
その片方はジョルジュである可能性が高い。
彼が生きているなら、フィレンクトはそんな事をしなかったはずだ。
なぜならそれは自爆行為に似ているから。
被害が大きすぎて逃げるのも大変なはずだ。現在組織の一端は町を襲撃しているから、彼らも被害を被ったかもしれない。
どちらにせよジョルジュのやる事にしては、派手すぎる。
.
320
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 05:03:03 ID:PpHh.7g.0
「こうなるって、わかってたのか」
後ろに立たれて、息を飲んだ。
足音を消されるのはいい気分ではない。
ペニサスは自分のたち位置を知っているから余計に。
('、`*川「必ず成し遂げるって思ってたわ。まさかここまでとは思わなかったけど」
(´・_ゝ・`)「……三十人以上死んだ。まったく警戒してなかった所でだ」
('、`*川「は?ちょっとまってよ、場所は下町のとこでしょ。なんで上町で被害がでるのよ」
('、`*川「……勝手に行動範囲を広げたわね」
.
321
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 05:03:44 ID:PpHh.7g.0
(´・_ゝ・`)「チャンスだった。銀行も地下マーケットも手薄だ」
('、`*川「信じらんない。やっぱあんたに統率は無理よ。ジョルジュが帰ってきたらきつく処分するように云うから!」
(´・_ゝ・`)「帰ってくるのか」
雰囲気に気がつく。目線がゆらゆらと揺れて、落ち着きのない様子だった。
ペニサスはこの男と関係があまりよくない。
彼は自分を信用しておらず、自分は見下している。手を出されないのは強く能力のあるジョルジュが居るから。それでもこの時はまだ、彼を侮っていた。
ペニサス有能すぎた。
.
322
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 05:04:43 ID:PpHh.7g.0
('、`*川「来るに決まってるでしょ。あいつは英雄よ。」
(´・_ゝ・`)「そうか……」
('、`*川「ちょっと、なにーー」
考えているのか。その問いは男の熱い息にかき消された。
.
323
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 05:05:29 ID:PpHh.7g.0
瓦礫が車も店も押しつぶす。
あとには騒乱と悲鳴と苦しみの死だけが残った。フィレンクトは片腕をかばいながら歩き続ける。
そのうち救援隊の一人から毛布をもらい、治療を固辞してそのまま去った。
汚れた煙、まだ黒煙は鎮火していない。
ざわついた人々の声であたりは騒がしい。
時期にここも崩れるだろう。フィレンクトは置いてきたジョルジュのことを考えた。
最後にみた彼は豪奢な部屋でひとり血に塗れていた。連れて帰ることは適わない。
あの死体は傾いたビルと共に落ちていっただろうか。まだ命令は遂行していない。
.
324
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 05:06:17 ID:PpHh.7g.0
ぜんぶ壊せと言った。だからフィレンクトは歩く。振り向きもせず、そのまま進む。
一度帰るつもりだ。それから健康状態を確認し、休眠をとって再び。
ーーーどこに帰ればいいのか。
そう思うと足は止まりそうになった。
とりあえずペニサスの顔を思い出す。
彼女の指示に従わなくてはいけない。
でなくば、ジョルジュの望みを遂行できない。
通りを進み、交通渋滞に巻き込まれながらなんとか電子車を確保した。
通路を通って隠れ家に急ぐ。
このとき外に居る見張りが異常に少ないことに気がついた。
.
325
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 05:07:19 ID:PpHh.7g.0
治安は安定していないとはいえ、ここらは縄張りごとにルールがある。ジョルジュがまとめ上げた男たちは、数ブロックごとに立っているはずだ。その兵隊たちがいない。
いつもと違うことは、フィレンクトの警戒を呼び覚ます。そういえばジョルジュが居ないのだ。
フィレンクトをもう仲間と認識するものはいないかもしれない。
心配は杞憂だった。建物内には人がいない。出払っているようだ。
恐らく混乱中の略奪に出かけたのだろう。
こんな時でないと、品物は手に入らない。
それでもこの少なさは異常だった。
留守を預かるのがひとりも居ないというのは。
フィレンクトはその時はじめてここに、何も変わらずに帰ることを想定していたのだと気づく。
隣にジョルジュを連れて、ペニサスが迎えてくれるような。
.
326
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 05:08:36 ID:PpHh.7g.0
内部はしんとしていて、静かな靴音だけが響く。誰も居ない、そのまま背を向けて探しに行こうかと考えたが、奥の部屋の扉がわずかに動いたのを視線にとらえた。
警戒しながら進んでいく、潜むような気配はなかった。
フィレンクトはドアをくぐる。
そこに彼女が居た。
327
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 05:10:35 ID:PpHh.7g.0
('、`*川「……おかえり」
彼女はちらりとフィレンクトの失った腕を見る。
('、`*川「結構痛いことになってるのね。おいで、義手つけたげる」
歩きだす。
しかしその歩みはふらついている。
重心も定まっていない不安定な歩みだ。フィレンクトは何も言わず後ろをついていく。彼女を支えるのは義手を受け取ってからでもできる。
.
328
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 05:11:23 ID:PpHh.7g.0
('、`*川「地雷とか、そういうので欠損するのも多いのよ。土地を取られたくないって地主が仕掛けてね。犠牲になる大半がその辺に住んでる人らなのに」
倉庫の鈍い明かりのなか、ペニサスはいくつかある腕のサイズを選んでフィレンクトの肘にあてる。
断面の手当はすませてある。
癒着させるにしても傷をカバーさせてからでないといけない。
('、`*川「これでいいわ。ぴったり」
ペニサスが選んだ義手は銀色の継ぎ目がないものだった。フィレンクトには違いが分からない。
どうせなら肌色のものがよかったのだが、ペニサスは穏やかに首を振った。
('、`*川「これはね、神経系を繋げて指先まで操作できるタイプなの。確かに肌の色に合わせるものもあるしその方が多いけど、それに比べて動作がなめらかなのよ。
つかむ、にぎる、広げる、つまむ、その他小さな可動も違和感なく行えるわ。見た目より性能がいいの」
.
329
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 05:12:05 ID:PpHh.7g.0
神経を繋げるときだけ痛みと震えがあった。まるで凹凸のようにへこんだ部位に義手がはめられる。
はめた直後から指までは動かなかったが、手首は動かせた。
手術で人工の手足がつけられるので、その場しのぎとしては優秀なものだ。
腕を上げ下げしてその具合を確かめる。
違和感はあるがその内慣れるだろう。
銃の扱いも可能かと指を動かす努力をしていると、ペニサスが壁にもたれかかる。
そのまま足下が力をなくして、崩れ落ちた。
330
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 05:13:10 ID:PpHh.7g.0
ようやくフィレンクトは彼女の状態に気がつく。
腹部の衣服を破ると包帯と医療用のテープで膿んだ傷口を巻いているのがわかる。
フィレンクトはキットを取りに行こうとした。義手のおかげで彼女を運べる。
感染症を抑えるために抗生物質を注射しすみやかに医療機関に運べば容態は安定するはずだ。
隠れ家に医療部屋はついているはずだが誰ひとり居ない状況であてにはできない。
フィレンクトは焦っていなかった。
だがなぜペニサスがこの事を隠すようにしていたのか検討をつけることもできなかった。
331
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 05:14:03 ID:PpHh.7g.0
('、`*川「……要らない」
(‘_L’)「離してください」
('、`*川「そばに居て」
貴方を助けられない。
そう続けようとしたが、ペニサスの言葉で黙った。
彼女はいま不安になっている。抱えて移動しようと考えると、ペニサスが続けて言った。
('、`*川「もういいの。助けなくていいのよ」
フィレンクトは動きを止めた。
.
332
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 05:15:10 ID:PpHh.7g.0
再び分からなくなる。
常時であれば教わったマニュアルであれば緊急時の救急行動は当然のはずだ。
手を動かそうとした。
彼女を抱えて部屋を出る。
治療できる場所に。
だがその行為は彼女自身の手に押し止められた。
フィレンクトの戸惑いを理解するかのように柔らかく笑う。
これまでの挑発めいた、生き生きとしたものでない。その優しげがフィレンクトには恐ろしく思う。
変化はこれまでフィレンクトに多大な負荷しかかけなかった。
.
333
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 05:15:59 ID:PpHh.7g.0
('、`*川「ジョルジュになんて言われたの?」
(‘_L’)「壊せと」
ALL。すべてを壊せと。
フィレンクトはまだ一部しか達成していない。だからその後の指示を彼女から伺うつもりだった。
ペニサスならジョルジュの意見に賛同してくれるだろうと。
('、`*川「……そう」
予想とは反対に彼女は呟いただけだった。
334
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 05:16:49 ID:PpHh.7g.0
('、`*川「ねえ、聞いていい?」
彼女が手を握る力が強くなる。
ゆるめるとそのまま無くしてしまいそうな握力だった。
ペニサスが伺いをたてるなど珍しい。
どうぞ、と促す。
('、`*川「なんで最初っからアタシを警戒してたの?」
(‘_L’)
335
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 05:17:54 ID:PpHh.7g.0
ペニサスの顔を見たことがある。
化粧でいくらか違っているが整形をしたわけでもないので目鼻立ちは変わっていない。
どこかで知っている顔だった。
恐らく条件付け。無意識の行動をテストされるその場に彼女が居たのだろう。
断片であるが、白い壁紙と白衣をきた黒髪、赤い口紅は鮮烈に覚えている。
それは痛みと一緒になって片隅に残っている記憶だった。
336
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 05:18:51 ID:PpHh.7g.0
('、`*川「そう……アタシは覚えてない。
あんたちは生産されるえんぴつみたいなものだったから。流れ作業よ。
いちいち把握してられないわ。」
('、`*川「……でもそっか。だから怯えてたのね。自業自得。これアタシが企業に居たこと知ってる奴にやられたの。
ジョルジュが居なくなれば暴走するだろうなって思ったけどいくらなんでも早すぎるわよ」
(‘_L’)
('、`*川「……やっぱりあんたは優秀なのね。きっと全部覚えてるんだわ。
だからって思い出すのは危ないからやめなさい。いまみたいに、ちょっと知ってるくらいでちょうどいいの」
まばたきしてほうっと息を吐く。
ペニサスはフィレンクトの無表情の頬を撫でた。
それからジョルジュに向けるのと同じ笑顔を向ける。
.
337
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 05:19:59 ID:PpHh.7g.0
('、`*川「ほかには、ジョルジュは何て?」
(‘_L’)「殺すまで死ぬなと」
難解な言葉だった。
ジョルジュの最後の命令で、フィレンクトを縛りつけるもの。
しかしその縛りが無ければ溶けてしまいそうなのも事実だ。
だから命令先をペニサスに向けたかったのに、彼女は満足そうに笑う。
.
338
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 05:21:13 ID:PpHh.7g.0
('、`*川「あいつらしい。そうよ、ジョルジュに殺されるまでは生きなきゃ駄目よ。
仇なんだから」
フィレンクトの後ろ髪に指を通しながら楽しそうにそう言う。
ペニサスの状態は悪くないがけっして良いものでもない。
輸血をしてないだろうからそろそろ意識が混濁して気を失ってもおかしくないのだ。
だがフィレンクトが彼女を持ち上げようとするとそのたびに制止する。
.
339
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 05:22:25 ID:PpHh.7g.0
('、`*川「ねえ、優秀な殺し屋はキスで殺すのよ。知ってた?」
耳元でそう囁かれる。
フィレンクトは彼女の望みを理解した。
これほどまでに抵抗にあらがいたい命令はなかった。
ジョルジュが生存なら何が何でも拒否し、そのまま連れ去った。
ジョルジュが許すはずがないから。
だがもう彼は居ない。
ペニサスは生を望んでおらず、フィレンクトは彼女に従いにやってきた。
緩慢に彼女を引き寄せる。
.
340
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 05:23:40 ID:PpHh.7g.0
いままで数え切れないほど行ってきた行為だった。カフェで、バーで、パーティで。
もれなく相手は美女で、フィレンクトに抱きしめられることを望んでいる。
ペニサスもただそれを待っていた。
針は両袖に仕込んでいた。
シンプルな分何にでも使えるから。
フィレンクトはペニサスに顔を寄せ、そのまま口づける。
341
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 05:25:15 ID:PpHh.7g.0
彼女が息を飲んだ一瞬のあいだを狙って首の頸椎に突き刺した。
痛みは少しの間だけ、すぐに意識が飛んでまぶたが落ちる。
生理反応で身体がびくびくと痙攣する。
その反応を抱きしめていた。
彼女の体温が無くなるまで、ずっと。
.
342
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 05:26:15 ID:PpHh.7g.0
終章
そして 誰も いなくなった
.
343
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 05:27:26 ID:PpHh.7g.0
フィレンクトはしばらくの間停止していた。
抱いている柔らかな身体がゆっくり冷たさを増していき、堅い肉に変わるまで。
思考も冷えたように固まった。
従うべき人間が欠如。
考える。
だが考えは堂々巡りになり、答えの出ない計算は苦痛しかなかった。
ジョルジュの不在。
順位は繰り下がりペニサスが準になるはずだった。
その彼女はフィレンクトの腕のなかで覚めない眠りにある。
.
344
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 05:28:38 ID:PpHh.7g.0
無意識に武器をさがした。
自分の頭を吹き飛ばしたときの、少しの間完全に己を消失していた。
その間記憶もなく、不安もなく、命令もなかった。
無いことが安心につながりそうだったが、ジョルジュの言葉を思い返す。
死ぬつもりはなかったが、自己で管理できない肉体の破損は死に直結する。
行動は起こせなかった。
.
345
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 05:29:59 ID:PpHh.7g.0
(‘_L’)
フィレンクトはペニサスをゆっくりと床に寝かせた。
それからぐるぐると動き回る。
考えるときはじっとしている方が効率的のはずだが、なぜか猛るような衝動でそれができなかった。
ジョルジュが居ない。
ペニサスも居ない。
ジョルジュの命令ーー壊すこと。死なないこと。
彼が殺しにくるまで。
第二の命令は実行不可だ。彼は死んだ。死人は行動できない。
それなのになぜ彼はあんなことを?錯乱にしては落ち着いていた。
落ち着いてフィレンクトに指示をした。
.
346
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 05:31:14 ID:PpHh.7g.0
ならば彼の命令だ。遂行しなければいけない。
だがもう彼がいない。
成果を報告できない。これからの命令をもらえない。
離れるだけならいくらでも待っていられるのに、帰還予定がないことはーーーとてもとても、困る。
思い返す。フォックスの時は彼が居た。
そしてあの瞬間に彼を選んだ。
選んだからには命令をそのまま実行しなければならない。ならない。
(‘_L’)
.
347
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 05:32:17 ID:PpHh.7g.0
フィレンクトは死んではいけない。
ジョルジュが殺しにくるまで。
フィレンクトは壊さなければいけない。
ジョルジュが望んだ通りに。
矛盾はない。
ただジョルジュの望みを叶えるためにはしばらく生き延びて、武器と情報を調達できるようにならなければいけない。
そのためには他の主人を見つけれることができない。命令は遂行中であるから。
フィレンクトは考える。
すべてを壊さなければいけない。
いまある命令をこなさなければ、この喪失した何かを埋めることができない。
だがそれはこなしただけで埋められるだろうか。
.
348
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 05:32:59 ID:PpHh.7g.0
恐ろしかった。
予感だけでフィレンクトは動けなくなる。
死を看取ってしまったから。
だがフィレンクトの足を動かすのも彼の命令だけだ。
立ち止まり、歩き、また立ち止まるを繰り返しているといつしか行動の予定を考えていた。
現在テロの収縮を計っているはずだがレジスタンスの抵抗で収まってはいない。
数時間後には制圧部隊が押し戻すがそれまではほぼ無法地帯だ。
片腕の市民は保護区に送られる。
それに紛れて一度土地を離れる。
早く逃げなければ手配される。
フィレンクトの行ったことよりも所属していた身分が明らかになるほうがまずい。
全力をあげて捜索されるだろう。
いまから逃げ出して間に合うかどうか。
計画をたてると恐ろしかった予感が一時的に薄らいだ。
やはり考えることはない。
ジョルジュの命令だけを覚えていけばいい。
(‘_L’)
.
349
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 05:34:11 ID:PpHh.7g.0
フィレンクトは気がつかない。
これは彼の希望で選んだ選択だった。
フィレンクトは認識していない。
だが初めてあげた産声だった。
ジョルジュへの、再認識、恐らく好意。
希望、彼の望み。
.
350
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 05:35:14 ID:PpHh.7g.0
フィレンクトは
.
351
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 05:36:33 ID:PpHh.7g.0
������������
((‘_L’))
移送されるトラックのなか、太陽よけのローブをかぶって顔を隠す。
シティは黒い粉塵にまみれて、それでもきらびやかに輝いていた。
無くなった柱は三本。
すべてを倒すにはまだ足りない。何もかも。
道徳を学んでこなかった。
フィレンクトにとってはそれが正しく、なすことなので疑いようもない。
光に反射する銀の義手に表情のない顔がうつる。
唇がうごいて、誰かの名を発音した。
はじめて呼んだ、主人の名だった。
.
352
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 05:37:15 ID:PpHh.7g.0
フィレンクトの章
.
353
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 05:42:12 ID:PpHh.7g.0
いったん終わりです。
近日再開とかいっておきながらながくあけましたごめんなさい。
不謹慎な展開になっていきますがあくまでフィクションでお願いします。
いろいろ話を考えていたんですが、日本人人質事件とか思いっきり考えていたこれからの内容と被ったりするので、ブーン系といえどこれはいいのかな…と悩んでおりました。
まだこれから別のタイプで話を続けていくのでながい目でみてくださるとうれしいです。
支援絵、ありがとうございます。滅茶苦茶うれしいです。プロ並じゃないですか本当に。
354
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 12:45:53 ID:IHllkrdg0
乙、雰囲気大好きだ
凄く格好いい
続き何時までも待ってますぜ
フィレンクトは何処に向かうのか
355
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 13:08:31 ID:SfCkuqGQ0
おつ!行く末が気になる〜
356
:
名も無きAAのようです
:2015/02/25(水) 00:23:06 ID:ErF7fB1.0
乙!!
ずっと息を詰めて読んでた、精緻を極める心情の描写がすごく好きだ。
次の章が待ち切れない
357
:
名も無きAAのようです
:2015/02/25(水) 17:01:23 ID:G70FSCNc0
これで完結でもいいくらい濃厚な章だった
続きもわくてか
358
:
名も無きAAのようです
:2015/02/25(水) 18:52:12 ID:pX.mBppY0
乙
マジかよまだ続くのか
すげぇボリューム
359
:
名も無きAAのようです
:2015/02/27(金) 04:18:47 ID:r/TBeVGs0
残酷描写注意
三、四章でたぶん終わります
360
:
名も無きAAのようです
:2015/02/27(金) 04:20:58 ID:r/TBeVGs0
彼女の章
.
361
:
名も無きAAのようです
:2015/02/27(金) 04:21:47 ID:r/TBeVGs0
男の子って何でできてる?
かえるとかたつむり、子犬のしっぽ!
.
362
:
名も無きAAのようです
:2015/02/27(金) 04:22:35 ID:r/TBeVGs0
( ´_ゝ`)
マッチをすってたばこに火をつける。
この頃はレトロなものが流行っているらしい。火だねに香のようなものが混ざっているらしく、たばこと香木の匂いがまざる。
貰い物だけど、これはもう使わないな。
飲み込んで、肺に入れる。
それを鼻からだす。味わい深いが、味覚がおかしくなるし、鼻も聞かなくなるだろう。
もう戦闘に直接立つことはあまりないのだが、染み着いた習慣は疎かにはできない。
.
363
:
名も無きAAのようです
:2015/02/27(金) 04:23:18 ID:r/TBeVGs0
普通の人間のように擬態していると兄者の耳に靴音がきこえる。
砕けたコンクリートが散らばる道路を歩くための、作業靴。
ひょいと顔を出した男は知っている顔。
数日まえに部下としてよこされた男だ。
( ^ν^)
これがいまの兄者の連絡係り、端的にいえば見張り役だ。
ただし末尾の者らしく、その価値は遺伝子情報にしかない。
.
364
:
名も無きAAのようです
:2015/02/27(金) 04:24:06 ID:r/TBeVGs0
( ^ν^)「あのー兄者さま、突撃隊の責任者らしき者がぜひ会いたいと言っているんですが」
( ´_ゝ`)「何の用件?」
( ^ν^)「恐らく膠着状態を改善する案ではないかと。突入を抑える気配もありますし」
( ´_ゝ`)「?なんだってそんなことするんの」
( ^ν^)「いやー関係者の身内が人質になっているようです」
( ´_ゝ`)「はあ?嘘だろ。そんなことで計画変更できるもん?」
( ^ν^)「人情的にはだいぶアリです。むしろその案でいこうとしてます」
( ´_ゝ`)「……ばっかだねー。人質とられた時点で詰んでるし、むこうも殺す気ないんだから突入しかありえないのに」
.
365
:
名も無きAAのようです
:2015/02/27(金) 04:24:48 ID:r/TBeVGs0
( ^ν^)「ないんですか?では何のための?」
( ´_ゝ`)「要求通すためだよ。いま撤退したら調子に乗ってどんどん侵攻してくるぞ。領土さえ占領すれば勝ってるって思うんだから」
( ´_ゝ`)「仕方ないなあ。みんなこんなにバカだと思わなかったよ」
移動用トラックと住居用トラックがいくつも並べられて、道路を占領している。
崩れたビルの破片はまだ撤去されていない。襲撃のさいにこれらが身を守るたてになるからだ。
.
366
:
名も無きAAのようです
:2015/02/27(金) 04:25:34 ID:r/TBeVGs0
いまだ治安は安定していない。
むしろこれからが本番だった。本社からの増援は距離という問題で遅れていた。
敵はこのわずかな時間を狙って、土地と建物、貨幣価値のあるものを奪いにきている。もともと企業グループが町を安定させていたときは、整備されていない住民外に潜んでいたのだが。
多数のけが人と死者で警備が不十分なところを狙いにきていた。
.
367
:
名も無きAAのようです
:2015/02/27(金) 04:26:17 ID:r/TBeVGs0
( ´_ゝ`)「あんたがリーダー?」
( ФωФ)「責任者か」
兄者住居トラックのひとつ、連隊の責任者らしきナンバーを見つけてなかにはいる。
彼らは傭兵団。
企業でなく、軍人でもない。どこにも属することなく雇われて働く。
その多数は地元民でなっている。
ただし一度外国に出たものや、教育を受けているものなどで、知性は高い。それに国派でもあった。企業の汚職やそれに癒着する政党とはまったく別物として活動している。
戦国時代なら彼らは優秀な家臣か、地方領主に収まっていただろう。
そして彼らの現在の不満はおそらくどこにでもある方針の違い。
.
368
:
名も無きAAのようです
:2015/02/27(金) 04:27:03 ID:r/TBeVGs0
( ´_ゝ`)「えーと討論形式でいくね。しゃべるのは順番こ。矛盾がないように、興奮するのも感情的になるのもだめ。
個人的なことで隊を動かすのは許さないし、こちらの命令に従わなければ支援しません。わかった?」
( ФωФ)「いいだろう」
( ´_ゝ`)「まずなにを要求してるの?」
( ФωФ)「……そちらのきわめて非人道的な行為について、即刻中止願う。人質とテロリストを同じように射殺するなんて国連の倫理協定に違反する」
( ´_ゝ`)「バリケードを作って攻め入ろうとしてたやつらのこと?人質に銃もたせてたからあれはノーカン。間違えられても仕方ない。非人道行為を問いつめるならテロリストに直接いってくれ。こちらの対応は適切である」
( ФωФ)「では、少年少女隊をためらうことなく発砲したのはなんといいわけするつもりだ」
369
:
名も無きAAのようです
:2015/02/27(金) 04:27:47 ID:r/TBeVGs0
( ´_ゝ`)「世界の半分は未成年の兵士で循環してるんだぜ。人類皆平等。命の尊さに区別なんてつけられないって。赤ん坊も子供も大人も老人も。
そもそも使うほうが悪い。正当防衛を行使できなけりゃこっちがやられる。アンタだって銃もってたらうつだろう?」
( ФωФ)「加減をするのがまっとうというものだろが!!やりたくてやってるわけではないのだぞ!!せめて投降を待つべきだった」
( ´_ゝ`)「無茶いうなよ。向かいあってる俺らと身内みたいなやつら、どっち信じるかなんて分かり切ってるだろうが。
むしろ未成年のほうが純粋なぶんタチ悪いんだぜ」
( ФωФ)「……このさき、人質を救出する気はないということか」
( ´_ゝ`)「特別な法案も先日通ったんでね。たとえば飛行機とか、ハイジャックされたら打ち落としていいってことになった。さらに被害を出すよりましだろう?そもそも人質だって同じ部族やつらが混じってるんだから逃げようと思えば逃げられたさ。」
.
370
:
名も無きAAのようです
:2015/02/27(金) 04:28:30 ID:r/TBeVGs0
( ´_ゝ`)「それに人質が意味ないって早めにわからせておかないと、ずっとこの調子で脅迫に屈しちゃうの?そっちのほうが不毛じゃない?」
( ФωФ)「……貴様の言葉は机上の空論でしかない」
( ´_ゝ`)「でもあってるよ。長引けばひくほど状態は悪くなるし、というかこんな陽動につき合ってられないんだよ。全体グルだし。」
( ФωФ)「?なにを言っている」
( ´_ゝ`)「輸出と輸入の岐路を狙われてる。いま出国者が殺到してるから紛れるのは難しくない。ここがどれだけ豊富な土地か傭兵にはわかんない?冷戦だって支援者がいたから長続きしたんだぜ」
( ФωФ)「ここがただの囮だというのか」
.
371
:
名も無きAAのようです
:2015/02/27(金) 04:29:14 ID:r/TBeVGs0
( ´_ゝ`)「そう。だから殺されないと踏んでいる。おまえらの中に協力者はたくさん混じってる。ちょっと銃の照準をずらせばいいだけ、見逃せばいいだけ。
突入はいつやるか教えない。アンタらは後方に回らせる。不審者がいてもどうせ見ないふりされるだけだから何もしなくてもいいよ」
( ФωФ)「……おれは」
( ´_ゝ`)「あー、いい。そういうのいいの。アンタはアンタの仕事してて。いまさら責任者変わりまくると面倒だし」
( ФωФ)「俺は無責任に役割を放ったりはしない!」
( ´_ゝ`)「ほら分かってない」
.
372
:
名も無きAAのようです
:2015/02/27(金) 04:29:56 ID:r/TBeVGs0
背中撃たれるっていってんの。俺は
.
373
:
名も無きAAのようです
:2015/02/27(金) 04:30:38 ID:r/TBeVGs0
.
374
:
名も無きAAのようです
:2015/02/27(金) 04:31:24 ID:r/TBeVGs0
( ‘∀‘)「アンタどういうつもり」
从'ー'从「……」
化粧が濃い。
手に入る物資が少ないから、薄化粧で街にたつ娼婦は多い。
だがワタナベと向かい合っている女はマスカラ、赤い口紅に、ファンデーション、頬紅まで塗っている。
もとの顔立ちをかくすように塗りたくった。そこまで厚いと化粧だけで美人の定義になってしまいそうだ。
.
375
:
名も無きAAのようです
:2015/02/27(金) 04:32:08 ID:r/TBeVGs0
( ‘∀‘)「無法地帯じゃないってことくらいわかるよね?ヒトの客に手ぇだしてどうなるかわかってんの?」
縄張り争いは各区域に住むすべての住民の義務だ。そこを追放されるとどこまでも下へ落ちる。
最下層は死。
そこまでいけばもう這い上がれない。
難癖をつける女はついこの間まで、区画ボスの身内だった。
ギャングが娼婦に生ませた子がまた同じ職業につく。
父親がそこまで上の立場じゃないので中層の階級、チンピラよりうえで、正市民より下。
テロがおき、戦争めいたことが町中で起きているなか、階級をあげようと抗争がはじまった。
.
376
:
名も無きAAのようです
:2015/02/27(金) 04:32:53 ID:r/TBeVGs0
そのさなか、渡辺は女に目をつけられた。
彼女の親しくしていた男が一晩、渡辺を買ったからだ。
娼婦の財産は常連客。
下層にいる襲われて金も払われないような女でもないかぎり、一晩だけというのはめったにない。
買う客も、見知らぬ女に殺されたくはないからだ。
.
377
:
名も無きAAのようです
:2015/02/27(金) 04:33:39 ID:r/TBeVGs0
( ‘∀‘)「なんとか言えば?言ったって許さないけど」
普段なら、渡辺はふるえて許しを乞いた。
女の気のすむ態度をとり、土下座して頭を踏まれ、稼いだ金を渡せばよかった。
だが現在その必要はない。彼女は知らないが、彼女の後ろ盾の父親はすでに死んでいる。抗争中の出来事、報復の恐れはない。
だれもが上へと登りたいときに、他人のために動く義理はない。
.
378
:
名も無きAAのようです
:2015/02/27(金) 04:34:26 ID:r/TBeVGs0
从'ー'从「うるせぇよ、メスブタ」
( ‘∀‘)「あ”?」
.
379
:
名も無きAAのようです
:2015/02/27(金) 04:35:15 ID:r/TBeVGs0
渡辺は華奢だが力はある。
太くなりすぎない程度のはりのある筋肉を身体にまとっている。脂肪のやわらかさだけで客を取るただの娼婦ではない。
すじの通った弾力の肌は小金を持っている客に喜ばれた。稼いだ金を、己の美容に使う女はもうこのあたりにはいなかった。
高級娼婦は一等地区に集められた。
金と地位にあこがれた娼婦たちはそこに集結し、誰も帰ってこない。
渡辺は自分の趣味志向のためだけに生きているから、そこへの興味をもたず、結果まだ生きている。
.
380
:
名も無きAAのようです
:2015/02/27(金) 04:35:59 ID:r/TBeVGs0
从'ー'从「てめぇがブスでデブだから乗り換えられんだろ。自分の×××の締まりの悪さ他人のせいにすんじゃねぇ」
( ‘∀‘)「はあ?」
女は刃向かった渡辺に一瞬本気で困惑し、ついで発言の意味を理解し、瞬時に沸騰した。
(#‘∀‘)「てっめぇ、ふざけんじゃねーぞゴラぁ!!」
.
381
:
名も無きAAのようです
:2015/02/27(金) 04:37:00 ID:r/TBeVGs0
渡辺は手袋をしている。
タートルネックの上着、それから長く布の分厚いズボン。
露出しているのはほぼ顔だけ。娼婦としてはめずらしく、女を主張していない。
その拳を握る。
女が自分のハンドバッグから小型の銃を取り出すまえに、踏み込んだ足の重心をのせて顎をまっすぐと殴りつける。
( ‘∀‘)「ぶっ」
故郷で男たちが行っていた演舞のひとつ。
だが渡辺はこの方法しかしらない。避けられたらおしまいなので、絶対に避けられないほど近いところから繰り出す。
鉄板の入った手袋、女とはいえ鍛えた握力と振りかぶった力。
拳に柔らかい肉に包まれた固い骨が砕ける感触がダイレクトに伝わる。
電気信号のように、全身がしびれるような感覚。
.
382
:
名も無きAAのようです
:2015/02/27(金) 04:37:53 ID:r/TBeVGs0
( ‘∀‘)「あ、あっぐあ」
顎と歯が砕け。肉を切り裂いて出血する。
女があわてて口元をおさえるも、渡辺は待たなかった。ここで小競り合いなどない。
いちどやったら最後までやらなければ、逆襲される。
続けて顔面にたたきつける。今度はもっと柔らかく鼻の軟骨がぐにゃりと曲がる。
続けてたたきつける。
頬骨が砕ける。
叩きつける。目玉が飛び出す。
叩きつける。叩きつける。叩きつける。叩きつける。
.
383
:
名も無きAAのようです
:2015/02/27(金) 04:38:38 ID:r/TBeVGs0
( ‘∀‘)「くひゅ」
ぴゅっと口だった場所から血しぶきがあがる。顔を完全に破壊されて女はそのまま壁にもたれ、地面におちていった。
最後のしあげに、手は痛いし疲れてもいたので、そこらに転がっていたブロック石を持ち上げ、女の頭に落とした。
頭蓋骨というのは案外しぶとく、きれいにつぶれなかったので足踏みして終わる。
女が完全な肉の塊になったのを確認して、渡辺は一息ついた。返り血が点々と、服にはねたのでずいぶん機嫌を悪くした。
血はなかなか落ちないうえに、ドブネズミのような女の体液だと思うと脱ぎたくなった。だが着替えはもっていない。
.
384
:
名も無きAAのようです
:2015/02/27(金) 04:39:20 ID:r/TBeVGs0
从'ー'从「汚れちゃったじゃない」
女の持っていた所持品をバッグだけを残してすべて奪う。死人に持ち物は必要ない。
予想とおり、化粧品のたぐいが多く入っている。売ればそこそこ小遣いになるだろう。
女のリストが一番の収入だったが、このときはまだ渡辺はその価値をわかっていなかった。
.
385
:
名も無きAAのようです
:2015/02/27(金) 04:40:04 ID:r/TBeVGs0
化粧品を売った金と、奪った金でブティックへ行った。
ガラスで閉じられている店で買い物をするのは始めてだ。
そこでかわらしく、予算を伝えて自分に似合う服を選んでもらう。
そこまで高級店ではなかったが、店員にとっても渡辺にとっても幸運なことに、あざ笑うことなく店員は仕事をしてくれた。
スラム住民をバカにして追い返すと、最近はどんな風に恨みをはらされるか分からない
.
386
:
名も無きAAのようです
:2015/02/27(金) 04:40:49 ID:r/TBeVGs0
「この組み合わせなどいかがでしょう。
お客さまのお肌に似合うお色になっております」
从'ー'从
濃い青のブラウスと、グレイのスカート。紺の靴下に服にあわせた白い靴。
渡辺はほほえんで、ありがとう。とお礼を言った。
彼女の顔立ちは人種が混ざったクォーター。����
はっきりした二重と形のよい目は澄んだ灰色、闇に落ちるまえの空のうつくしさ。
来店した当初の服装と比べれば見かけは白鳥とアヒルほどに違う。
.
387
:
名も無きAAのようです
:2015/02/27(金) 04:41:38 ID:r/TBeVGs0
服だって財産だ。そこらの死人からでも、はぎとられる。
ワタナベが買ったのは娼婦に似つかわしくない。
彼女が髪を整え、薄く化粧し、清楚に笑えばどこかの育ちのよいお嬢さんに見える。
しかしワタナベは高級の客を狙っているわけではなかった。
そういう好みもいるし、ワタナベは十分彼らの嗜好にあうのだろうが、ワタナベ本人がそれを嫌がる。
娼婦は彼女にとって生きていくうえでの職業だ。元から素材のよい彼女は、髪をみだし、体型をかくし、顔をうつむいていないと目をつけられる。
だから自分の身は自分で守るしかない。
.
388
:
名も無きAAのようです
:2015/02/27(金) 04:42:21 ID:r/TBeVGs0
彼女にとって女は敵だ。男は餌。
子供はうるさい存在、老人は眼中にない。
.
389
:
名も無きAAのようです
:2015/02/27(金) 04:43:06 ID:r/TBeVGs0
ふわふわとした足取りで家に帰る。
こんな気分は今までにないかもしれない。
好物を目にまえにしたときのようなものとまったく違う。
着飾った姿を、他人に見せたいだなんて!
自分がまったく信じられない。
廃墟の建物、入り口を改造したドアをあける。なかは迷路のようになっていて、至るところに罠をしかけている。
道筋を間違えたらおしまい。
正しい道は彼女しか知らない。
いや、つい最近にひとりにだけ教えた。
ワタナベがこの世で唯一、恋をした相手。
.
390
:
名も無きAAのようです
:2015/02/27(金) 04:43:48 ID:r/TBeVGs0
かたん、と扉をしめる。
「ぐぅぅぅ……」
すると音に反応して暗闇からうめき声がする。この建物は電気が通ってない。
近隣の大半はそうだ。
ワタナベは気分を害した。
どうして出るまえに片づけておかなかったんだろう。幸せな気分に、水を刺された。
相手の罪は重い。
.
391
:
名も無きAAのようです
:2015/02/27(金) 04:44:33 ID:r/TBeVGs0
从'ー'从「もう。どうしておとなしくしてくれないの?」
荷物を慎重にベッドに置いて、椅子に座っている相手に近づく。
男を拘束などしていない。
ただ声を出せないように、喉を焼いた。
それから椅子ごと杭を指して、はりつけにしている。
腕は椅子の背中に回して、その上から釘を貫通させた。
出血多量で死んでいると思ったのに、まだまだしぶといようだ。男に対する興味はワタナベにもうない。
男は懇願するように首をふり、目でワタナベに救いをもとめている。
まだぐったりと何もしないほうがワタナベには好ましいのに。その媚びるような視線に腹がたった。
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392
:
名も無きAAのようです
:2015/02/27(金) 04:45:15 ID:r/TBeVGs0
从'ー'从「ねえ、あたしきれい?きれいだって言ったよね」
ワタナベはサイズの大きい服を、両腕を交差し肩をあげるようにして脱いだ。
かたちの崩れていない胸があらわれる。
下着はつけていない。
それは特別な日につけるものだ。
男の目が見開かれる。
こんな時でも本能が刺激するのか。
じっと視線をそらさない。
ワタナベは下も脱ごうかと思ったが、やめた。期待されると裏切りたくなる。
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393
:
名も無きAAのようです
:2015/02/27(金) 04:45:59 ID:r/TBeVGs0
从'ー'从「あたしがきれいなのはね、理由があるのよ」
上半身はだかのまま、男のひざに乗り上げる。肩に腕をまわして、男の顔を眺めた。
どうして男ってみんな、同じ顔しかしないんだろう。
从'ー'从「あたしの遠い遠い、おばあちゃんがね」
.
394
:
名も無きAAのようです
:2015/02/27(金) 04:46:47 ID:r/TBeVGs0
从'ー'从「おまえらに犯されたからだよ」
ナタを男のすぐ隣の壁に立てかけていた。
この男がそれに気がついて、腕をちぎってでも手にとっていたら逃げられたかもしれない。
ワタナベは男の頭に振り下ろす。
錆びた鉄は切るというより、叩き割るようにして男の頭を二つに砕いた。
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395
:
名も無きAAのようです
:2015/02/27(金) 04:47:30 ID:r/TBeVGs0
ワタナベの生まれはもう名前がない。
地域は小さいながらも国だったはずなのに、いつのまにか都市になり、さらに区域のなかの一部になってしまったからだ。
大陸を侵略する最初の足がかりにちょうどよい場所だったため、まっさきに攻め込まれて蹂躙された。
たしか50ねん前だったと母がいっていた。そのころ周辺諸国が力のかぎりに暴れ回っていたころで、ワタナベたち先住民はそうそうに駆逐され出荷された。
奴隷制はいまは別のかたちで残っている。
登録された準市民以下の立場。
ながい名前だったので覚えていない。
スラムの大半がこれに分類されている。
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396
:
名も無きAAのようです
:2015/02/27(金) 04:48:19 ID:r/TBeVGs0
皮肉にも犯され、殺され、蹂躙されたあとのワタナベたち民族は血が混ざり合い、遺伝子情報が平均化された。
昔のように肌の白さや髪の美しさでなく、造形が美の基準となったので、美人の確率があがったともいえる。
それ以上に、不美人は用なしとして捨てられたはずだが。
ワタナベの生まれ育った地区はつい最近奴隷解放の地として、民族が戻ることを許された。許されただけで、土地に住めるわけではない。
莫大な使用料、公共料金、登録証明をしなければ市民にはなれないし、なれたとしても維持できる稼ぎがあるはずもない。
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397
:
名も無きAAのようです
:2015/02/27(金) 04:49:01 ID:r/TBeVGs0
ワタナベは男が嫌いだ。
偶然うつくしさのかけらを、幼児の頃に発揮できていたからこそワタナベは息をしている。間引きは当然の行為。
仕事をできない女が、生きていてもしょうがない。せいぜい爆弾をまいて特効するだけで。それも犬にも劣る。
かちゃ、っとふたたび扉がひらく音がした。
はっとワタナベは振り返る。
ここに迷わずたどりつけるのはひとりしか知らない。そんなひとにこんな血塗れな姿をみせるなんて!
乙女のように恥じらい、胸を隠した。
裸が恥ずかしいのではない。
行儀が悪いと思われるのが嫌だった。
398
:
名も無きAAのようです
:2015/02/27(金) 04:49:44 ID:r/TBeVGs0
きい、っと静かに閉めて、長身の影が入ってくる。
影はすぐに足をとめて、ワタナベの所業を見下ろした。
ぱっくり割れた頭の死体。
すぐそばにうつむいた若い女。
(#゚;;-゚)「……この男は?」
从'ー'从「あの、えっとね、悪いやつだったの!ほんとよ」
(#゚;;-゚)「……どんな?」
从'ー'从「ええっとねーたしか、武器を売ってたの。ドジョウセイブンがなにかって奴。嫌われてるみたいだったから、いいかなって」
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399
:
名も無きAAのようです
:2015/02/27(金) 04:50:35 ID:r/TBeVGs0
だめだったかな。
ワタナベは不安で心臓が痛くなった。
まともに法が整備されていないとはいえ、普通の人間なら嫌われる。
こんな時間に帰ってくるとは思わなかったのに、まずいところをみせてしまった。
(#゚;;-゚)「…………」
人を殺すのに抵抗はないし、仕事のひとつだと思ってる。誰だって金のために人を殺すくせに、ワタナベの殺しをみるとみな不快をしめすのだ。それが残念でならない。
あたしは無差別で殺してるわけじゃないのに。通り魔のほうが、よっぽどひどい。
その人が、ワタナベに近づく。
.
400
:
名も無きAAのようです
:2015/02/27(金) 04:51:25 ID:r/TBeVGs0
すこしびくりとした。
何を言われるのだろう。表情が堅いから、こちらも緊張してしまう。
この人でなかったら、鼻で笑いかけるのに。
手をポケットに入れて、ハンカチをだした。
なにをしているのかとみれば、それは近づき、ワタナベの頬に触れる。
(#゚;;-゚)「あまりしないで。あなたが汚れる」
从'ー'从「あっ……」
顔があつくなる。頬に布と、その人の指がさわり、どうしようもなく、胸が高鳴った。
ワタナベは恋をしたことがない。
だから自分がどういう状態かわからなくて、変にふやけた顔のままうなずいた。
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401
:
名も無きAAのようです
:2015/02/27(金) 04:52:07 ID:r/TBeVGs0
この人はワタナベの顔をすっかりふいてしまうと、自分のコートを脱いで、裸体にかけてくれた。
またワタナベはどうしていいかわからなくなる。
こんな風に、誰かに気づかわれたことがないのだ。
(#゚;;-゚)「まだ寒い。シャワーでも浴びて。暖まっておいで」
優しく促され、その横顔をみながらぼうっと歩き出す。
部屋を都合よく追い出されたのと、この建物には温水装置がないのをワタナベが思い出すにはもう少し時間が必要だった。
その人の残り香のするコートに顔を埋めて、至福にひたっていたからだ。
.
402
:
名も無きAAのようです
:2015/02/27(金) 04:52:49 ID:r/TBeVGs0
(#゚;;-゚)
でぃはまだ暖かい男を見下ろした。
スーツを着てそこそこ身なりのいい男のはずが、いまは下着姿で頭をかち割られて死んでいる。たぶんどうしようもない男だったのだろう。
同情はしない。ワタナベに狙われるというのは、誰もが救いたがらない人種だからだ。散らかった室内に見渡す。
男の身元を示すなにかないか探した。
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403
:
名も無きAAのようです
:2015/02/27(金) 04:53:34 ID:r/TBeVGs0
もう人相は判別できない。
切り裂かれた服のなかに、首からさげるパスをみつける。
それでこの男がただの作業所か、なにかしらに勤務している男だとわかった。
そこそこ地位の高い人間は身体のどこかにGPS入りの身分証明が入っている。
ワタナベはそういう事を知っててさらったのだろうか。そうだとしたらずいぶんと頼もしい。
でぃはいまのところ絶賛逃亡中だ。
巨大ビルが爆破されて、研究所も被害にあった。そこから逃げたさき、整備されていない区域に逃げ込んだ。
ワタナベに出会えたのはまさに奇跡だった。
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404
:
名も無きAAのようです
:2015/02/27(金) 04:54:30 ID:r/TBeVGs0
凍結したプロジェクトの結果がでぃの存在だ。もうデータも古い。
内部の出来事や、いままで行われた実験などを知っているから、手伝いとして残されていた
本来なら外にでれるような立場じゃない。
研究所のなかで、でぃは一番頭がよかった。暗記や計算などでなく、他人の気分を読みとれることができた。
実験動物としてはきわめてまれな能力だ。
万人に嫌われることなく、一部からは処分されることを悲しまれ、無意識にでぃを残そうと働きかける。
だからこの年になってもまだ生きていた。
そして作業員として、残ることが許された。
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405
:
名も無きAAのようです
:2015/02/27(金) 04:55:15 ID:r/TBeVGs0
男を検分する。見知った顔でない。
知っていたらどうしようと思うのを頭のすみに放り投げた。
大好きだとなついていた友人ちはそのまま処分された。
でぃは生き残りをかけて、好みのままふるまっただけだ。
何もしないことがふさわしいように思える。
あの分厚い壁のなか、なにもしないで見送った研究所の者たちのように。
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406
:
名も無きAAのようです
:2015/02/27(金) 04:56:00 ID:r/TBeVGs0
ワタナベはすごい。
でぃはこんな風に、まだ人を殺したことがない。
くしゃみする音が壁にひびいて、ようやくでぃはワタナベがまだ風呂場から出てこないことに気がついた。
この建物に、湯が出る機能もないことも。
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407
:
名も無きAAのようです
:2015/02/27(金) 04:57:45 ID:r/TBeVGs0
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408
:
名も無きAAのようです
:2015/02/27(金) 04:58:45 ID:r/TBeVGs0
「兄者、あれなに」
小さなひと差し指がガラスの向こうを指さす。そこにはまだ集結していない争乱があった。
命令はとっくにだしている。後は撤収作業を終えるだけ。戦車なみにでかい車で、建物ごと押しつぶせばいい。
遠隔操作だから人も死なない。コスト方面から考えれば人の方がいいのだが、道徳観点からできなかった。
誰もが兄者の考えではない。
.
409
:
名も無きAAのようです
:2015/02/27(金) 04:59:31 ID:r/TBeVGs0
( ´_ゝ`)「あれはねーお掃除してるんだよ。ほらきれいになっただろ」
子供をあやしながらそう教える。
この子供は現在の上司にあたる者からの預かりものだ。絶対だった支配者が死ぬというまさかの出来事、それもテロによってで、上流階級でも危機感を覚えたらしい。
まともではないが、だからこそ安全な男のもとに後継者たる子供はよこされた。
兄者は教育はできないが、遊ぶことならできる。むしろ遊びなら子供の方がうえだ。
瞬時にルールをいくつ思いつくか、などといった難解な発想を兄者はまだ理解できない。
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410
:
名も無きAAのようです
:2015/02/27(金) 05:00:14 ID:r/TBeVGs0
( ^ν^)「うわあ怖い。ちっちゃい子にろくでもないこと教えないでください」
そういって兄者の係りが床にある端末でガラス窓の景色を遮断する。
銃撃戦の音は聞こえないが、なにをやっているのかは屋敷のなかから丸わかりで、兄者は子供と仲良くそれを眺めているだけなのに、なぜ閉められるのか。
.
411
:
名も無きAAのようです
:2015/02/27(金) 05:00:56 ID:r/TBeVGs0
( ´_ゝ`)「てかおまえ、わかりづらいんだけど。番号いくつよ」
( ^ν^)「えっ……いや。あの、それほどの者じゃ」
( ´_ゝ`)「それは俺についたのみればわかる。どんくらい下?」
( ^ν^)「……900番代です」
( ´_ゝ`)「めっちゃ下っ端じゃん!」
( ^ν^)「しょうがないですよ。まさか桁違いの方たちがそろって無くなるなんて滅多にないんですから。繰り上がったのはほんの少しですけど、これでも僕出世したんですよ」
( ´_ゝ`)「俺つきって出世になんの?」
( ^ν^)「…………一応」
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412
:
名も無きAAのようです
:2015/02/27(金) 05:01:39 ID:r/TBeVGs0
( ´_ゝ`)「生意気なやつめ、こうしてやる!坊主、マッキーもってこい」
「おっけー」
( ^ν^)「ちょおまて……いたいいたい離してくださいよ、」
(A ^ν^)「あー……なにするんですか」
( ´_ゝ`)「いいね見やすくなったし。わかりやすい」
(A ^ν^)「えーなんてかいたんですか?」
( ´_ゝ`)「アルファベット」
(A ^ν^)「えー目立つしなんかもう雑……」
( ´_ゝ`)「ばっかこれからの時代目立たないとのし上がっていけないって。出世したいんだろ?」
(A ^ν^)「したいですけど……」
.
413
:
名も無きAAのようです
:2015/02/27(金) 05:02:21 ID:r/TBeVGs0
( ´_ゝ`)「とりあえず坊主の家来な!話はそれからだ
「それからだ」
(A ^ν^)「はああああ」
(A ^ν^)「……というか報告があるんです。すこしよろしいですか」
( ´_ゝ`)「なに?」
(A ^ν^)「ある施設の映像なんですが」
室内の壁が壁紙からパネルに変化する。
ナンバーズに名前はない。
番号で統一されるので兄者の書いたAというのは端から見てもわかりやすい。
Aは半壊した建物の映像を映した。
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414
:
名も無きAAのようです
:2015/02/27(金) 05:03:03 ID:r/TBeVGs0
(A ^ν^)「最近はほとんど活動してなかったようなんですが、一角が壊れて実験動物が逃げたようなんです。まあほとんど回収しましたけど」
( ´_ゝ`)「そんで?」
(A ^ν^)「どのような研究を行ってたかよく分かってなくて。資料が廃棄されてるうえに研究員がみな死んでしまったので。」
( ´_ゝ`)「みんな?全部?」
(A ^ν^)「はい。事故じゃない事はたしかです。ただ銃やナイフといったものではなくてですね、撲殺とか絞殺とかみたいなんです。えらい馬鹿力で。」
( ´_ゝ`)「遺伝子実験なんかどこでもやってるでしょ。失敗した検体にでもやられたんじゃない?」
(A ^ν^)「はい、まあそのあたりかもしれませんが。ただ人型ならよかったんですがこいつはどうも……そうじゃないみたいなんです」
( ´_ゝ`)「んー?その施設、何系の研究してたの?」
.(A ^ν^)「ハイブリッド混合生物。ヒトキメラ種です。発見された場合、どう考えても我が社の技術だと……知られるでしょう」
( ´_ゝ`)「あー……ちょっとそりゃまずいな。」
( ´_ゝ`)「再生して」
.
415
:
名も無きAAのようです
:2015/02/27(金) 05:04:11 ID:r/TBeVGs0
.
416
:
名も無きAAのようです
:2015/02/27(金) 05:05:08 ID:r/TBeVGs0
整備された都市でも有数の名所を、二人歩いている。
そこはテロが起きた惨事をまったく感じさせない、富裕層の道路だった。
ワタナベは買ったかばりの服を着て、でぃの隣に寄り添っている。
そおっとコートの袖をつかむと、でぃは心得たかのように手を握ってくれた。
付き添いがいるというのは、声をかけられにくい。
でぃはワタナベの機転に感謝したが、彼女はもっと単純な動機だったので頬を染めた。
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417
:
名も無きAAのようです
:2015/02/27(金) 05:05:53 ID:r/TBeVGs0
从'ー'从「ここ、あんまり歩いたことないの。迷わない?」
(#゚;;-゚)「地図は頭のなかに入ってる。むしろここを抜けた通りはきみに頼ることになるから、その時は案内を願う」
从'ー'从「わかった!」
にこにこと嬉しそうに笑う姿はあどけなく、治安のよい街によく馴染んでいる。
でぃはシンプルにデザインされた街のガラス越しに、自分たちの姿を眺める。
少女と男。でぃの頬に軽いやけどがある。
そのやけどは外出するさいにワタナベが化粧で隠してくれたから目立たない。
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418
:
名も無きAAのようです
:2015/02/27(金) 05:06:36 ID:r/TBeVGs0
ただのコート姿の男にしか見えないはずだ。人にすれ違うたび、どこかおかしいところはないだろうかと不安になる。
これまでこんなに多くの人間に出会ったことがないのだ。ワタナベには何を聞いても肯定しか返ってこない。
少し違和感もあったが、それを信用することにした。
ワタナベは奇妙な女だった。
でぃは研究所しか知らないが、そこは規律の世界だ。その規律も研究員の微妙なさじ加減でころころ変わる。
その変化についていけない者たちから先にいなくなった。
でぃはワタナベに匿ってもらうにあたり彼女の希望を聞いた。
望みをかなえてもらうときは、交換条件がなければいけない。
約束は成り立たないのだ。
だが彼女の望みはひとつだけで、それはでぃの要求でもある。
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419
:
名も無きAAのようです
:2015/02/27(金) 05:07:18 ID:r/TBeVGs0
(#゚;;-゚)「きみは、僕と一緒でいいと言ったが、あれはどこまで?」
街路樹の公園を歩きながら、隣の彼女にそう問いかける。
でぃはいつまでもこの国にとどまるわけにはいかない。いずれ捕獲される。
そうなるまえに、国外に逃げなければいけなかった。
从'ー'从「いつまでも。ずっと一緒にいたいの」
別れるつもりはなく、確認といった程度できいたことを、また確認のつもりで返される。
つまりワタナベはどこまでもでぃについてきてくれるようだ。
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420
:
名も無きAAのようです
:2015/02/27(金) 05:08:00 ID:r/TBeVGs0
(#゚;;-゚)「きみは、僕と一緒でいいと言ったが、あれはどこまで?」
街路樹の公園を歩きながら、隣の彼女にそう問いかける。
でぃはいつまでもこの国にとどまるわけにはいかない。いずれ捕獲される。
そうなるまえに、国外に逃げなければいけなかった。
从'ー'从「いつまでも。ずっと一緒にいたいの」
別れるつもりはなく、確認といった程度できいたことを、また確認のつもりで返される。
つまりワタナベはどこまでもでぃについてきてくれるようだ。
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421
:
名も無きAAのようです
:2015/02/27(金) 05:08:42 ID:r/TBeVGs0
(#゚;;-゚)「僕と一緒でいいの?」
从'ー'从「あなたじゃないと嫌なの。あなたは?わたしと一緒じゃだめ?」
つたない言葉で、賢明にワタナベが言い募る。でぃはワタナベの思惑を探ろうとしたが、真剣な、ふるえる眼差しには彼女の情熱しか映っていない。
その目は仲間たちがたびたび、研究員に裏切られるまえに見ている。
ひたすら信じ抜こうとする目だった。
でぃは彼女を信用した。一体でぃの何に惹かれたのかわからないが、彼女は自分と供に居ることが望みらしい。
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422
:
名も無きAAのようです
:2015/02/27(金) 05:09:42 ID:r/TBeVGs0
(#゚;;-゚)「わかった。僕もきみと一緒にいたい」
ワタナベは強い。
そしてでぃをないがしろにしない。
むしろ仲間たちのように、優しく接してくれる。そんな彼女を失いたくなかった。
この迷路のような国で、行き先のないでぃが隠れることができているのはワタナベが居るからなのだ。
ぱあっと彼女の顔がほころぶ。
でぃは人の美醜を知らないが、その様子は微笑ましいと思った。
嘘も、偽りも、駆け引きもないそのままの感情。研究所では許されない素直さ。
周囲を歩いていた人々はその様をみて、和むと同時にすこしだけ嫉妬も滲ませる。
暗い国内ニュースが続くなか、未来を約束しあったカップルにしか見えなかったからだ。
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423
:
名も無きAAのようです
:2015/02/27(金) 05:10:44 ID:r/TBeVGs0
( ´_ゝ`)「カメラばっか集中的に壊されてるんじゃん」
(A ^ν^)「知能が高いやつですね。だいたいは五歳時並の検体が多いんですが、成人並の知能を持ってるようです」
( ´_ゝ`)「んー。逃げるとこまで計算してんな。てか隔離室の壁貫通してんのかよ。これ生体兵器でも作ろうとしてたのか?」
(A ^ν^)「えーっと。残されたわずかな資料では……そうですね。シリーズの制作期間とほぼ被ってますから、たぶん作ってる途中に生産競争に負けたんだと思います」
( ´_ゝ`)「あーもったいなくて捨てられなかったんだろうなあ。いつか日の目みれると思って待ってたわけだ。その間に破壊されたようだけど。管理チップはどうなってんの?」
(A ^ν^)「施設内から外に出すことはほぼなかったので、入ってませんね」
( ´_ゝ`)「衛生の目も限度があるしなー。姿かたちがわかってないとさすがに無理。なんか情報ないの。外見とか、能力とか」
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424
:
名も無きAAのようです
:2015/02/27(金) 05:11:51 ID:r/TBeVGs0
(A ^ν^)「資料を破壊されたのが痛いですね。バックアップごと消されてます」
( ´_ゝ`)「んー?情報端末は小型だろ?それも潰されてんの?」
(A ^ν^)「それならまだ望みもあったんですが、パスワードを使って正規のやり方で消去されてるんです」
( ´_ゝ`)「へー……外に出ようと檻をめちゃくちゃに壊した奴にしては、少し理知的だな」
(A ^ν^)「アンバランスですよね。もしかしたら、理性と感情がばらけているのかもしれません」
( ´_ゝ`)「……いや。もっと単純なことかもしれないぜ」
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425
:
名も無きAAのようです
:2015/02/27(金) 05:13:04 ID:r/TBeVGs0
目に付いた店に入る。そこは中流層向けのレストランだった。
でぃはワタナベを連れて窓際の席にと向かう。そこからはある建物が見据えることができた。
ひとりだったら、堂々とこの場にいられない。
また再びワタナベに感謝する。
彼女は育ちの違う気後れを見せず、堂々とした態度を見せる。
慣れているわけでもない。このような店員の教育が行き届き、食器ひとつを客が持ち帰らないような場所ははじめてだった。
だがワタナベにとっては服も、高価な食器も見たことがない料理もどうでもいい。
向かいに座り、さも慣れているかのように振る舞うでぃがワタナベの後ろをじっと見ていることだって。
彼女はでぃが自分を見ていなくとも、見つめているだけでよかった。
.
426
:
名も無きAAのようです
:2015/02/27(金) 05:13:53 ID:r/TBeVGs0
でぃは料理が来るあいだ、ひたすらワタナベの背後の建物に集中している。
そこは研究役員たちが行き来する場所で、でぃの知る誰かが通らないかを探していた。
研究所から逃げたあと、その後を知らない。
自分を探されているなら、見知った顔のものが居る可能性が高いと思った。
逃げるまえに、役にたつ道具や情報がほしい。
しかしいくら待っても、関係者は一人も通らなかった。
仕方なく出てきた料理に手をつける。
.
427
:
名も無きAAのようです
:2015/02/27(金) 05:14:43 ID:r/TBeVGs0
でぃが食べ始めて、ようやくワタナベも食事に手をつけた。
彼女のとる食事は栄養補助のパンを堅くしたようなものだ。
味覚を楽しむということをしたことがなかったので、切り分けたソースがかった肉を口にして、びっくりしたように動きが止まる。
それをみてでぃが目を細める。
(#゚;;-゚)「炭火で焼いているから旨みが詰まっている。おいしい?」
从'ー'从「……お肉って、臭くないのね。びっくりした。すごく、飲み込みやすい」
味というより食感の感想だった。
でぃも外を知らない世間知らずだが、ワタナベは生き方を知っているのに、基本的な価値観を知らない。
.
428
:
名も無きAAのようです
:2015/02/27(金) 05:15:44 ID:r/TBeVGs0
夢中になって肉を詰め込む。
少しはしたないかもしれないが、ワタナベが食べたどのパンよりも柔らかく、まろやかな肉だった。
すっかり食べてしまうと、でぃの腕が伸びてくる。唇のとなりについたソースをナプキンで拭われた。
レディのマナーなど知らないが、ワタナベは嬉しさと少しの恥ずかしさを感じる。
自分の恥などどうでもよいのだが、でぃに恥をかかせたのではないかという不安だ。
けれどでぃはどうでもよさそうにナプキンを折り畳む。
別段、なにも気にしてはいない。ただ女性が顔を汚すのに耐えられないだけだ。
(#゚;;-゚)「……やっぱりきみは暖色系の色が似合うね」
从'ー'从「だんしょく……?」
(#゚;;-゚)「赤い口紅より、オレンジ色の方がいい」
从'ー'从「それの方が好きってこと?」
(#゚;;-゚)「きみに映えるってこと」
从'ー'从「うん……わかった!」
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429
:
名も無きAAのようです
:2015/02/27(金) 05:16:42 ID:r/TBeVGs0
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430
:
名も無きAAのようです
:2015/02/27(金) 05:17:33 ID:r/TBeVGs0
( ´_ゝ`)「うーん」
割れた鉄筋、細かな破片。折れた鉄骨。
半壊というより、ほとんど全壊している。すべて取り壊したほうがいいだろう。
回収チームはすでに作業を終えており、分析した結果が兄者の手元にある。
人間のDNA以外のものが数点でた。
同じくらいのキメラ体の死体もあるので、より分ける作業に時間がかかる。
( ´_ゝ`)
きらきら光ものが檻の回りに散らばっている。手袋をした指で、それをつまむ。
( ´_ゝ`)「なあ、お前ってなにでできてんの?」
(A ^ν^)「?はあ」
(A ^ν^)「うーん、酸素、炭素、窒素、カルシウム、それからアンモニアと」
( ´_ゝ`)「俺はケーブルと液晶」
( ´_ゝ`)「こいつはなんだろうな」
手のなかにある剥げた肉片は、ハ虫類のウロコによく似ていた。
.
431
:
名も無きAAのようです
:2015/02/27(金) 05:19:36 ID:r/TBeVGs0
一時停止
影響を受けたもの
マルドゥック・スクランブル
ヤングガン・カルナバル
ボーン・レガシー
思っていたより長くなりそうです。
お付き合い頂ければ幸いです
432
:
名も無きAAのようです
:2015/02/27(金) 05:33:00 ID:aStjWgWM0
超つきあう。おつ!
433
:
名も無きAAのようです
:2015/02/27(金) 05:33:41 ID:aStjWgWM0
ってまだだった!
434
:
名も無きAAのようです
:2015/02/27(金) 08:14:32 ID:ezbi21qg0
おつおつ
435
:
名も無きAAのようです
:2015/03/04(水) 14:46:41 ID:dxK0TtFU0
うっひょおおいつの間にかきてた!おつおつ!
436
:
名も無きAAのようです
:2015/04/14(火) 17:51:50 ID:12V9/C96O
面白いと思う
437
:
名も無きAAのようです
:2015/04/15(水) 22:06:10 ID:vdF02GYkO
いい雰囲気だ
>>431
にあげられてるやつも見てみようかな
438
:
名も無きAAのようです
:2015/06/19(金) 22:05:26 ID:n/v2XhvU0
あなたの 目にうつるもの
すべて憎く見えるの
あたし以外は 見ないで
『指切り』
.
439
:
名も無きAAのようです
:2015/06/19(金) 22:07:33 ID:n/v2XhvU0
神さまを拾いました。
ワタナベはそれまで何の目標もなく生きていた。
生きていることが息をする理由。
母の思い出はもう薄れている。
寄り添いあって身を守る同盟も連れ合いもない。
心を分かち合った瞬間に、お互い殺し合うことになるからだ。
下手に出るというのは油断を誘うこと。
愛をかけるというのは、殺してもいいという事。
彼女がそれまで自分がされてきたことを男にやり返している。
幼女のころはできなかったことを、熟成した大人になってようやく。
甘い香りを放って男を誘う食肉花のように。
その時もまた、それをしている最中だった。
.
440
:
名も無きAAのようです
:2015/06/19(金) 22:08:55 ID:n/v2XhvU0
从'ー'从「どうしたの、お兄さん。大丈夫?」
わき腹をおさえて、ぐったりと男が倒れていた。
ワタナベの住んでいる建物の入り口付近、逃げ込んできたのようだった。
外はひたすら騒がしい時。
ニュースパネルは街の掲示板にある。わざわざ見る気にもなれなくて、ワタナベは一人の客を自分の巣に誘った。
そして客と時間を過ごしているときに、なにかの引きずるような音を聞いて警戒したのだ。
(#゚;;-゚)「……」
彼は何も言えないようだった。
ワタナベを見る目に不安がない。
ただの女だと思って、侮っているようにさえ思えた。
.
441
:
名も無きAAのようです
:2015/06/19(金) 22:10:27 ID:n/v2XhvU0
男はみな、彼女の餌だ。
みれば仕立てのよい服を着ている。
硝煙や崩壊した建築物の埃で薄汚れているが、客だったら大金を落としてくれる種類だろう。
ワタナベは彼を家のなかに連れ帰ることにきめた。
さっきまで相手していた男はもう意識がない。
性器を切り落として、鼻を削いで、指先を一本づつ落としていったから痛みに耐えられないようだった。
この男だって見せしめにそういうことを行うのに、やられたらみっともなく泣き叫ぶ。
興ざめもいいところだった。
人のうえにたつ身であるから、もう少し気概があると思ったのに。
血の匂いをかいで、拾った男が身じろぎする。
それから椅子の上にある死にかけの客をみて、立ち上がろうとした。
そのまま膝をたてることができたら、逃げられただろうが、ワタナベはそれを許さない。
从'ー'从「だーめ」
.
442
:
名も無きAAのようです
:2015/06/19(金) 22:11:54 ID:n/v2XhvU0
持っていたハンマーを、彼の頭に振り下ろした。
硬い骨がきしむ手応え。
彼が苦痛の声をあげて、床に倒れる。
この時を振り返ると後悔しかない。
でぃのことを知っていたら、薬で意識をなくす優しさもあったのに。
彼は目眩と、脳に受けた痛みで朦朧とした。
上半身を起こそうとするも、ふらついてそれができない。
ワタナベはのしかかった。
男は皆彼女の獲物だ。
ふふふ。っと笑みを漏らして、男の服をはぐ。��
.
443
:
名も無きAAのようです
:2015/06/19(金) 22:13:09 ID:n/v2XhvU0
セックスは貪る行為だ。
男はみな女を貪る。
だからワタナベは男を食い散らかさないといけない。
捕食者は彼女でないといけなかった。��
彼は渾身の力をこめて抵抗した。
処女のように、性的に襲われることに恐怖する。
だがワタナベはそれを許さない。
苦しげに嫌がる彼の頬を殴り、抵抗する手足を蹴り、腹に膝を落とす。
苦痛を受けてようやく抵抗が弱々しいものになる。
しかし シャツをはだけると、ワタナベの指がとまった。
.
444
:
名も無きAAのようです
:2015/06/19(金) 22:13:57 ID:n/v2XhvU0
从'ー'从「え……?」
ワタナベはその時この人に恋をした。��
生涯で唯一、自分を犠牲にしてもいいと思えるほど、深く。
.
445
:
名も無きAAのようです
:2015/06/19(金) 22:14:50 ID:n/v2XhvU0
(#゚;;-゚)「変じゃないかな」
从'ー'从「ううん。とってもすてき。誰にも見せたくないくらい」
(#゚;;-゚)「違和感があったら言って欲しいんだ。人混みに紛れないといけないから」
从'ー'从「うーん……じゃあもっと地味なものがいいかな。」
(#゚;;-゚)「黒は意外と目立つから、……僕には何色がいい?」
从'ー'从「……白とか?」
.
446
:
名も無きAAのようです
:2015/06/19(金) 22:15:48 ID:n/v2XhvU0
(#゚;;-゚)「白か…難しい」
从'ー'从「……ねえ、絶対あなたじゃなきゃ、だめなの?」
(#゚;;-゚)「うん。僕は逃げるのと隠れるのが得意だから。」
从'ー'从「あたしじゃ無理?役にたたない?」
(#゚;;-゚)「とんでもない。いまだってすごく役にたってる。でもきみは目につきやすいから、記憶に残ったら大変だ。」
从'ー'从「あなたがやることないのに」
(#゚;;-゚)「言ったろう。僕は逃げるのが得意なんだ。カメレオンみたいにね」
.
447
:
名も無きAAのようです
:2015/06/19(金) 22:24:44 ID:n/v2XhvU0
.
448
:
名も無きAAのようです
:2015/06/19(金) 22:25:36 ID:n/v2XhvU0
(A^ν^)「問題が起きました」
( ´_ゝ`)「なに」
(A^ν^)「敵の損害が大きいです。囮って言ってましたが、めちゃくちゃ容赦ない囮ですよ、これ」
( ´_ゝ`)「なんぞ」
(A^ν^)「まあみてください」
.
449
:
名も無きAAのようです
:2015/06/19(金) 22:26:40 ID:n/v2XhvU0
電気系統が遮断されている、広範域の外の様子が映像に移った。
暗視画質の解析度をあげると、暗闇にがれきの山が崩れ、
なにかの影が移動しているのが目視でも確認できる。
辺りを照らす大型のライトは最初に狙われ、破壊された。
敵が少数人数の場合、闇にまぎれて襲撃するのは古来から効率がよい。��
だが映像とその後の報告を合わせてみれば、ひとつの動く影にチームが壊滅されたというのは何とも解せない。
.
450
:
名も無きAAのようです
:2015/06/19(金) 22:27:35 ID:n/v2XhvU0
見るからに、改造されたモデムを着込んだ傭兵の姿をしている。
それが脚の筋力強化された昆虫のように重さを感じさせない走りで、こちらの部隊を混乱させていた。
.
451
:
名も無きAAのようです
:2015/06/19(金) 22:28:50 ID:n/v2XhvU0
( ´_ゝ`)「パワードスーツじゃん。
でも人間の能力値には限界があるんだから、そこまで脅威でもないでしょ」
(A^ν^)「見てから言ってください」
本来、補助機能用に作られたもので、体力のないものでも車を横転させることができる。
災害時の救出用に、身軽に使えるものとして設計された。��
だが画面のなかの傭兵は、乗用車を持ち上げ、連携を取ろうとした前線の隊列に投げつける。
衝撃吸収のためなかなか切れないはずの外装が破けて、中のエンジンがむき出しになる。
ほとんど時代遅れのガソリン燃料を使っていたたため、それは簡単に引火し燃え広がった。
.
452
:
名も無きAAのようです
:2015/06/19(金) 22:30:35 ID:n/v2XhvU0
( ´_ゝ`)「わあ」
避難しようと撤退する部隊に、火の中からあらわれた傭兵は更にマシンガンを連射する。
怒号と命令の声が入り交じり、響いた。
戦う相手はこちら側が右往左往しているあいまに、跳躍して再び建物の闇に姿を隠す。
( ´_ゝ`)「わーお。すごい」
(A^ν^)「人間の動きじゃないですよ」
兄者は戦車を数台でいれて特攻させようかと考える。しかし遠くの敵には有効でもこの相手には聞かない。
忍び寄られて細工でもされたら応対できない。
.
453
:
名も無きAAのようです
:2015/06/19(金) 22:31:36 ID:n/v2XhvU0
( ´_ゝ`)「機械でもいれてんのかね」
(A^ν^)「メリットないですよ。
そのくらいなら工業用の機械で暴れさせたほうがいいです」
( ´_ゝ`)「なー。人間の能力の補強と増強するだけなのに、えらくつええ。」
(A^ν^)「それにアンドロイドにしては、動きがなめらかです。人間みたいに、反射も俊敏だし」
( ´_ゝ`)「うーむ。だからあいつらあんなに余裕こいてたんだな。」
(A^ν^)「どうします?ここで時間とられたら港と空港抑えられませんよ。コンテナくらいの損害ならいいですけど、保険きかない商業品まで略奪されたらどこに売りつけられるか」
( ´_ゝ`)「しゃーない。奥の手使おう。」
(A^ν^)「なにか案が?」
( ´_ゝ`)「必殺☆警備のうっすいところ中心に狙っていこう作戦」
(A^ν^)「そのまんまですね」
( ´_ゝ`)「またの名を外道作戦。敵がやるなら、同じだけのことしないと勝てないしね」
.
454
:
名も無きAAのようです
:2015/06/19(金) 22:32:38 ID:n/v2XhvU0
入り口のレーンをくぐり、でぃはその建物に入った。
パスはワタナベが殺した男のもの。
幸運にも男は企業の会社員だった。
いくつかある関連場所のなかから、見知ったここを選ぶ。��
パスを誰が使ったか、調べられるまでに少しは時間があるはずだ。
急ぎ足で目的の場所に向かう。
何度かこの場所に来たことはあるが、ひとりで行ったことはない。
緊張を顔に出さないようにして、さもここの職員というふりで人とすれ違う。��
.
455
:
名も無きAAのようです
:2015/06/19(金) 22:33:46 ID:n/v2XhvU0
でぃは弱い。
鋭いかぎ爪も、剛力な筋肉も持ってない。
あの実験施設にて誰より人に近く、一般的な生物とかけ離れたような身体持っている。
銃の使い方を知らない。
どころか誰かと組み合ったことさえない。体力や筋力は平均値だ。
だからワタナベの強さはでぃにとって憧れる。
あんなに痛そうな行為を、他人に平気でするというのは、少しうらやましい。��
でぃにはできない。
他人の痛みを想像してしまう。
自分がされるより、隣の檻で誰かがされるのをずっと見てきた。
観察者たちと同じ立場で、笑っていた。
でないとすぐに、それは自分の番になる。
.
456
:
名も無きAAのようです
:2015/06/19(金) 22:35:01 ID:n/v2XhvU0
倉庫のような部屋をみつけ、そこに入る。
要所だが人の出入りが少ない。
アルファベッドと数字で管理されている情報室。
むかし一人の人間に教わったことを実行する。
.
457
:
名も無きAAのようです
:2015/06/19(金) 22:36:51 ID:n/v2XhvU0
('、`*川「コストとか、利便性の問題でね、随時更新される情報以外のものって意外とアナログなのよ。
そこに居る人たちにとって当たり前のものって意識されないから、狙うならそういう所ね。
職員はたいてい社内マンションに住んでるからそれの住所とか一カ所にまとめられる。誰が使用したのか記録にも残されるから、巡回場所にもならない」
('、`*川「人間の情報ほど安いものなんてないわ」
.
458
:
名も無きAAのようです
:2015/06/19(金) 22:37:46 ID:n/v2XhvU0
つまり手薄で、すぐに事態が発覚しない。
棚であふれた広い倉庫。
ずらりと並んだファイルを通し目で見ながら、条件に合うアカウント情報を探す。
出国記録にでぃとワタナベが通過できるもの。
男性と女性。夫婦が望ましい。
仕事の関わりで国外へ行くという、矛盾のない設定で。
いくつか候補を見つけて、自分たちに近い体型の社員を選ぶと、アカウント情報を持っている端末に入力する。
.
459
:
名も無きAAのようです
:2015/06/19(金) 22:39:21 ID:n/v2XhvU0
ファイルを棚に戻すと人の足音が聞こえた。��
革靴の堅い音。
すぐにでぃは棚の隙間に隠れ込む。
だが人の足音は数人いるらしい。
でぃは白衣や研究者が着るような制服を着ていないから、見つかったらひとめで不審者だと知られてしまう。
廊下やロビーでは私服がでもかまわないが、こういった場所では制服を着て仕事をしないといけない。
図書館と棚の並べ方が似ているため、直線の道をのぞき込まれたらすぐにバレる。
でぃは奥に進んだ。
どこか、隠れる場所がないか。
数人の話声まで聞こえてきた。
.
460
:
名も無きAAのようです
:2015/06/19(金) 22:40:15 ID:n/v2XhvU0
シャっと扉が開き、おそらく資料を取りにきた男女数人。
ワタナベならどうするだろう。
とりあえずでぃは隠れるしかない。
人がばらけて、でぃのすぐそばにまで迫っている。
棚は長く、大きい。
天井から生えているように。
実際鉄骨が貫通しているので、地震が起こって建物が崩れてもここの棚が壊れることはない。
棚に足をかけて、体重がしっかり乗るか確認してからでぃは梯子のように上に登った。
ひとが一人入れるほどの押入に似た空間が開いている。
その棚に潜り込む。
資料を探しにきた誰かはでぃの足下を気がつくことなく通り過ぎていった。
.
461
:
名も無きAAのようです
:2015/06/19(金) 22:41:51 ID:n/v2XhvU0
こつこつと足音が完全に消えるまで数秒。
数分してから部屋の扉が閉まる音が聞こえた。
だがまだ油断してはいけない。
完全に沈黙がおりて、自分の呼吸音が目立つようになってからでぃは縮まっていた身をお越し、そろりそろりと棚から降りる。
棚のナンバーを見ながら足を進めていくと、目に入った箱があった。
赤いテープが張られているから他の資料と違い視界に目立つ。
黄色は現在も進行中のプロジェクト、青はよい成果で終わったプロジェクト。
失敗は廃棄されるまで、黒いテープに巻かれる。
赤の意味をでぃは知らない。
そのまま通りすぎようとしたのだが、箱の説明文にある人物の名前を見つけて、足が止まる。
硬直した。
それは見ないふりができない。
良いなど入っているわけがないのに、でぃはそれを見過ごすことができない。
懲罰を受けるときに、なにをされるのか知っていたいように。
.
462
:
名も無きAAのようです
:2015/06/19(金) 22:42:55 ID:n/v2XhvU0
恐怖と、好奇心、それから憎しみ。
手を伸ばし、ためらいつつもでぃは箱のふたを開ける。
予想していたような恐ろしげなものは入っていなかった。
書類が数点。
タイトルに『On the Origin of Source』��
とある。
でぃは数式や実験の結果をまとめるときなどに使われる単語はそこそこ知っているが、その意味はわからなかった。
書類のほとんどが専門用語で理解は難しい。
しかし読み進めるうちに特徴からでぃのことが記されているのを知った。
その他の仲間たちも。これは自分の記録だ。
記録はすべて破棄したはずなのに。
なるほど、アナログはだから取り入れられている。
欠点と同じように利点があるから。
.
463
:
名も無きAAのようです
:2015/06/19(金) 22:44:24 ID:n/v2XhvU0
書類を折りたたみ、服の内側に巻いて入れた。
それからもうひとつ、探す人物の情報が増える。
制作者と呼ばれる男の住所。
でぃは逃げるために必要なことを知っている。
自分の存在をまっさらに消して、忘れさられてしまえばいい。
そのためにはすべてを知ってるものが邪魔だ。
できるだろうか。
でぃには制御用チップが移植されていない。
非力だったから、物事をよく理解して協力的だったから、好かれるように努力し、愛しているふりをしたから埋め込まれずにすんだ。
もうひとりチップのないものもいたがそれは耐久テストばかりやらされて実験に不必要だった。��
反逆の理由も、それを行える知識も持っている。
けれど慣らされ、植え付けられた恐怖心は消えることがない。��
.
464
:
名も無きAAのようです
:2015/06/19(金) 22:46:59 ID:n/v2XhvU0
でぃは考える。
できるだろうか。��
支配者への絶対服従は身体にも、思考にも染み着いてしまっている。
できれば二度と会いたくない。見るのも嫌だ。その存在が、でぃを認識し見つけられるのも恐ろしい。��
できるだろうか。
できなかったらワタナベに手伝ってもらおう。
.
465
:
名も無きAAのようです
:2015/06/20(土) 00:07:40 ID:f3g1KVM20
目的を達成し、十分すぎるほどの情報を手に入れ倉庫を出た。
焦る気持ちを抑えて、入り組んだ廊下をいくつも曲がり、遠回りして移動する。
コートを脱いでワタナベと選んだ服になり、来たときとは別の入り口に向う。
もし誰かが異変に気がついて、すれ違った男を探そうとしても黒いコートの姿という先入観が残る。
それを払拭し、違う人物だという一瞬の目眩まし。
パスを通して、レーンをくぐる。
走りたいのをこらえて、ゆっくり歩きだそうとした。
.
466
:
名も無きAAのようです
:2015/06/20(土) 00:08:38 ID:f3g1KVM20
(’e’)「……ちょっといいですか?」
レーンの受付係りの男に声をかけられた。
心臓が口から飛び出るような気がした。
表情を変えないようにして、振り返る。
あやしい行動はなかったはずだ。
持ち物もバッグさえない。
休憩のランチに行くのだと言えば何も問題はないはずだった。
.
467
:
名も無きAAのようです
:2015/06/20(土) 00:10:07 ID:f3g1KVM20
(#゚;;-゚)「なんですか」
(’e’)「ちょっと簡単な検査をしたいんですが」
凍り付いた。
動揺が顔にでなかっただろうか。
服の下には持ち出した証拠を忍ばせていて、触られたら間違いなく紙の音がする。
でぃは顔をゆがめた。
ここは突っぱねるべきだ。
しかし強行すれば疑われる。
このまま逃げてしまいたい衝動に襲われた。
受付の男に、困ったような顔を向ける。
(’e’)「ほんの数分でいいんですが」
調べられたら終わりだ。
捕まって二度と自由がない。
行き先も、したいことも、自由な発言もできない。
どうしよう。
武器なんて、もっていない。
.
468
:
名も無きAAのようです
:2015/06/20(土) 00:10:57 ID:f3g1KVM20
疑われるなんて思ってもなかった。
後ろから複数のグループがやってくる。
でぃの隣を横切って、レーンから外に出た。
迷ってどう逃げようかと考えていると受付係りが急に言う。
(’e’)「あ、嫌なら結構ですよ」
(#゚;;-゚)「え」
.
469
:
名も無きAAのようです
:2015/06/20(土) 00:11:39 ID:f3g1KVM20
怪訝そうにしたでぃに、一応の確認ですからという。
感謝している暇はない。
思わぬ救いを全力で掴んで、でぃは小走りでレーンをさっとくぐった。
どうして見逃したのかわからないが、いいと言うのなら任意だったのだろう。
本当にあぶなかった。
受付係がもうすこし疑っていたら、きっとすぐに知られてしまっていただろう。
( ゚∋゚)
(’e’)
ふり返ると、交代のために来た別の受付係らしい男と何かしゃべっている。
.
470
:
名も無きAAのようです
:2015/06/20(土) 00:12:36 ID:f3g1KVM20
だから解放されたのかもしれない。
休憩の時間まで、仕事を持ち込むことはない。
心底、ほっとして、でぃ身体から力が抜けた。
抜きすぎて何もないところで転びそうになった。
( ゚∋゚)「へたな下心だしてんじゃねぇよ」
(’e’)「うるせぇ」
.
471
:
名も無きAAのようです
:2015/06/20(土) 00:13:48 ID:f3g1KVM20
ワタナベはうろうろと待ち合わせの広場で待っていた。
どれほど時間がかかるか知らないが、そんなに遅くなるような事じゃないはずだ。
あの人が捕まっていないか、それだけが心配だった。
ワタナベが来ないように、と念をおされて約束してしまう。
仕方ない。あんなに優しそうにお願いされたらうんとしか言えない。��
「ついていけばよかった……」��
後悔する。捕まったのは問題じゃない。
どこに居るかさえ知ってれば、迎えにいけるのに。
でぃが姿を消した建物をじっと睨むが、それを見ても意味がない。
建物同士が地下で繋がっているから、どこの建物から出てくるのかわからないのだ。��
でぃはどこか抜けているところがある。
ワタナベが思うのもなんだが、自分のような女を信用するのは迂闊としか思えない。
本当ならさっさと売り飛ばされて商品になっている。
でぃじゃなければ、ワタナベはそうしていた。
そもそもナイフのひとつも持って行かないなんて。
この街は銃を使うのにルールがあるから、喧嘩は殴り合いか刃物だけで行う。
銃を一度取り出したら、殺されても文句は言えないのだ。どちらかがやられても、それを旨みにする第三者だって居る。
いくら治安のいい会社に侵入するからって、危険がないわけじゃないのに。
.
472
:
名も無きAAのようです
:2015/06/20(土) 00:14:29 ID:f3g1KVM20
ほとんど泣きそうだ。
せめてでぃがもう少し凶暴だったらよかった。��
でもそしたらあの穏やかな雰囲気がなくなってしまう。
从'ー'从
(`∠´)「よう」
ぐるぐる考えていたら声をかけられた。
一瞬で情けない顔から表情が抜け落ち、冷たく男を見る顔にかわる。
.
473
:
名も無きAAのようです
:2015/06/20(土) 00:15:14 ID:f3g1KVM20
从'ー'从「なに」
(`∠´)「いや。めずらしいな。おまえがこんなとこ来るなんて。募集でも探しにきたのか」
しらじらしい。
ワタナベにはこの男の目的がわかる。こいつは薄汚い情報屋だ。
他人の嗜好を売り買い、口止めまでせびろうとする。
誘ってもノッてこないから、いまの所ワタナベの手にかかってない。
やりにくくて、小賢しい相手だった。
.
474
:
名も無きAAのようです
:2015/06/20(土) 00:16:44 ID:f3g1KVM20
从'ー'从「べつに。どうでもいいでしょ」
(`∠´)「似合ってるぜ。そのかっこ」
嬉しくない、どころか猛烈に腹がたった。
人の神経を逆なでするのが上手な男だ。
でぃの言ったワタナベに似合うセンスを、汚されたような気持ちになる。
从'ー'从「向こういけ」
(`∠´)「なんだよ。なにかまずいことでもあんのか?そういえば最近、お前の客みんな居なくなってるよな」
从'ー'从「だから?」
(`∠´)「いいのかよ。客に手ぇだして」
.
475
:
名も無きAAのようです
:2015/06/20(土) 00:17:50 ID:f3g1KVM20
从'ー'从「あたしの客だ。お前には関係ない」��
(`∠´)「……それじゃ目ぇつけられるぜ。せっかく美人なんだからどっかの後釜ねらえばいいのに」
从'ー'从「殺されたいの?」
(`∠´)「心配してんだよ」
ワタナベはいらだちを隠さず、足下のベンチを蹴った。だが男はなにも反応しない。
(`∠´)「最近不景気だからさ、なんかネタがあったら買うぜ」
从'ー'从「ない」
(`∠´)「またまた。お前がペット飼ってるって、みんな言ってるぜ」
追い払おうと、口を開きかけた瞬間、最悪のタイミングで待ち人が来た。
.
476
:
名も無きAAのようです
:2015/06/20(土) 00:18:44 ID:f3g1KVM20
(#゚;;-゚)「待たせたか」
でぃにはきっと姿を隠すという意志より、目立たない認識でいるのだろう。
ワタナベは男の前にでぃをさらしたくなかったのに。
きちんと襟もとまでコートを着ているのが救いだ。
この男に、でぃのことを見られたくなかった。
(`∠´)「へー。こりゃまた。へー」
从'ー'从「いこう」
(#゚;;-゚)「知り合いでは」
从'ー'从「違う。いいからいこう」
.
477
:
名も無きAAのようです
:2015/06/20(土) 00:20:30 ID:f3g1KVM20
(`∠´)「まってまって、なあアンタ、金稼ぎたくなったのと、そこの女から逃げたくなったら連絡して。
いい仕事あるぜ」
斡旋業者か。
でぃは素早く連絡先が書かれているカードを手渡される。
しかしそれを見るまえに、ワタナベが奪いとって道路に捨てた。��
男を恐ろしい形相でにらみつける
从'ー'从「どっかいけ。関わるな」
(`∠´)「わかったって。そんな怒るなよ」
相当入れ込んでるな、と男は様子を見た。
でぃが居るからまだワタナベは暴力に訴えてこない。
男はワタナベの忍耐を初めてみた。
.
478
:
名も無きAAのようです
:2015/06/20(土) 00:21:50 ID:f3g1KVM20
(`∠´)「こんど乱交好きの客紹介してやるからねー」
最後に大声で宣伝して走ってにげる。
とうとうワタナベは服のポケットから何かを取りだそうとしていたので間一髪だった。
(#゚;;-゚)「陽気な男だな」
从'ー'从「忘れて。ろくな事にならないか
ら」
.
479
:
名も無きAAのようです
:2015/06/20(土) 00:22:40 ID:f3g1KVM20
.
480
:
名も無きAAのようです
:2015/06/20(土) 00:23:33 ID:f3g1KVM20
( ´_ゝ`)「うーん」
通信端末を拡大。
メールにはこちらの要求を却下する内容が丁寧に記されている。
( ´_ゝ`)「でも好きにしていいってこと?」
つぶやく言葉はそのまま画面の文章になる。
チャット形式なので会話のように情報をやりとりできる。��
すぐに返信があった。��
かえってきた答えは事務的で簡潔。
.
481
:
名も無きAAのようです
:2015/06/20(土) 00:24:20 ID:f3g1KVM20
ALL OK
( ´_ゝ`)「規約や、制限は?」
NONE ノン
ーーーーー無し
( ´_ゝ`)「了解した。特に好ましい希望はあるか?」
.
482
:
名も無きAAのようです
:2015/06/20(土) 00:25:24 ID:f3g1KVM20
数分の間。返ってきた命令が思いもしないものだったので、兄者は久しぶりに驚く、という感情の揺れを味わう。
( ´_ゝ`)「目的手段として?それとも結果的に?」
.
483
:
名も無きAAのようです
:2015/06/20(土) 00:26:29 ID:f3g1KVM20
both equal
どちらも同じ
.
484
:
名も無きAAのようです
:2015/06/20(土) 00:28:21 ID:f3g1KVM20
.
485
:
名も無きAAのようです
:2015/06/20(土) 00:30:00 ID:f3g1KVM20
( ФωФ)「バレてる」
ビール瓶に口をつけたままの男にそう、入室したとたんロマーノは言った。
部屋を囲む男たちは皆銃器を持っていたが、彼が入るとそれを下ろす。
( ФωФ)「こちらの目的も、なにもかもだ。」
('A`)「……まだ平気さ」
ベッドに横たわる男の足下には女たちがひざまずいている。
目に生気がない。
高揚感のあとのけだるさ。
おそらく覚醒剤のたぐい。
ロマーノはそうあたりをつけた。
この戦時下中に、ずいぶん高級なものを使っている。��眉を潜める。
.
486
:
名も無きAAのようです
:2015/06/20(土) 00:31:48 ID:f3g1KVM20
( ФωФ)「無駄遣いするなと何度いったらわかる。ストックは限りがあるんだぞ」
賄賂に催眠に、口裏あわせ。薬は何にでも使える。
ときには金の代わりにすらなりうる。
身内同士で使用するのは馬鹿げたことだ。
男は無視してロマーノに尋ねる。
('A`)「やっかいなヤツなのか。指揮官は」
( ФωФ)「……鼻が効くタイプじゃないが、考えがいい。いずれ一斉攻撃してくるだろう。人質の存在も気にする奴じゃない。」
.
487
:
名も無きAAのようです
:2015/06/20(土) 00:35:28 ID:f3g1KVM20
それを聞くと彼は口笛を鳴らす。
('A`)「ずいぶん、過激で素敵な頭だな」
('A`)「もう少し長引けそうだと思ったが、無理そうか?」
( ФωФ)「事態の早期解決を目指すようだ。もうあまり時間がない。
いくつか分かれて行動しよう」
( ФωФ)「お前はコンテナのある港へ向かえ。たぶん最後の捕り物になるはずだ」
('A`)「……お前は?」
( ФωФ)「俺は責任者の役割がある。
その場から動けない」
.
488
:
名も無きAAのようです
:2015/06/20(土) 00:36:51 ID:f3g1KVM20
('A`)「どうだか。裏切るつもりじゃないのか?お前の立場ってずいぶんいい位置にいるよな」
軽い口調だったので苛立ちを隠すことなく振り向く。
しかし、その顔は決して笑っておらず、室内の男たちも同調するように目くばせしたのでロマーノ慎重に答えた。
( ФωФ)「馬鹿なことを言うな。いま俺が抜ければさらに疑われるんだぞ。」
('A`)「なおさらだ。このまま俺らごと、あいつらと一緒に吹き飛ばすつもりじゃないのか?そうすりゃ二重にもうけられる。こっちの荷物と、報奨金」��
( ФωФ)「そう都合よくいくか。」��
('A`)「……ま、いいさ。俺たちだって何もないってわけじゃない。覚えておけよ、裏切りは許さない。一人だけいい目みようったって、ここに居る誰かが絶対にお前を殺しにいく」��
.
489
:
名も無きAAのようです
:2015/06/20(土) 00:38:31 ID:f3g1KVM20
( ФωФ)「理解している。そちらも同じことだと思っておけ。裏切れば我々は全力で報復する」��
('A`)「では約束と勝利にささげる祝杯を」
開いてない瓶が投げられ、それを受け取る。
針の刺さったようなあと、溶接した痕跡がないかを充分確認してから、ロマーノはふたを開けた。��
( ФωФ)「ぬるいな」��
('A`)「そういう飲み方さ」
490
:
名も無きAAのようです
:2015/06/20(土) 00:39:55 ID:f3g1KVM20
( ´_ゝ`)「準備しといて」
(A^ν^)「全部サイレン式ですか。しかし増員もないのにどうして道具だけを?」
( ´_ゝ`)「設置と機動は専用のAIにやらせるからいい」
(A^ν^)「あれ、外道作戦は中止ですか?」
( ´_ゝ`)「うん。ちょっと問題発生」
(A^ν^)「ええー……その、わたしは仮にもナンバーズの一員でして。訓練は受けてますけど能力値はそんなに高いわけじゃないんですが……」
( ´_ゝ`)「安心しろ。期待はしてない」
(A^ν^)「ならいいですけど……」ホッ
.
491
:
名も無きAAのようです
:2015/06/20(土) 00:40:43 ID:f3g1KVM20
( ´_ゝ`)「ある意味一番簡単で、一番ひどい事になっちゃってさ」
(A^ν^)「?なんですかそれ」
( ´_ゝ`)「お叱りがないんだよ。それも好きにやっちゃっていいって。
どんな事も。さすがに無駄遣いはだめだろうけど」
(A^ν^)「本社も余裕なくなってしまったんでしょうか」
( ´_ゝ`)「いや、逆。余裕ありすぎて、むしろ気にしてない。ジャーナリストも摘発してるようだし」
(A^ν^)「隠蔽できるから、そのすきに片づけておけってことですか」
.
492
:
名も無きAAのようです
:2015/06/20(土) 00:41:53 ID:f3g1KVM20
( ´_ゝ`)「そーみたいなんだけど、なーんかひっかかるんだよなー」
(A^ν^)「楽できるならいいんじゃないですか?」
( ´_ゝ`)「お前出世したいなら考えろよ」
(A^ν^)「ふぇぇ」
( ´_ゝ`)「俺べつに楽にしたいってわけじゃないのに」��
( ´_ゝ`)「なんだって、殺し放題の許可なんて出したんだろう」
.
493
:
名も無きAAのようです
:2015/06/20(土) 00:44:03 ID:0D46VgK60
おいおい来てるじゃねーか! 支援
494
:
名も無きAAのようです
:2015/06/20(土) 01:08:57 ID:leU1.bcQ0
キターー(゚∀゚ 三 ゚∀゚)
495
:
名も無きAAのようです
:2015/06/20(土) 02:16:39 ID:f3g1KVM20
どうしようもないくらいに
歪んだこの愛で
世界は満ちている
『愛ト茄子ト平和ナ果実』
.
496
:
名も無きAAのようです
:2015/06/20(土) 02:17:32 ID:f3g1KVM20
珍しい暗闇の空をながめる。
都市は常に町と道路の明かりで洪水のようにあふれかえり、夜と昼のさかいがなかった。
いま現在でぃが居るのは区域の外、ワタナベのよく知る田舎の土地であり、新たな住まいだ。
半分に欠ける月。
電気のない世界に居たことはこれまでになく、自分の指先まで見えないというのは新鮮だった。
.
497
:
名も無きAAのようです
:2015/06/20(土) 02:18:27 ID:f3g1KVM20
从'ー'从「なにしてるの」
近くでワタナベの声がする。
草むらを踏む音。
ライトのない場所でよくでぃを見つけられるものだ。
ワタナベの視力に感嘆する。
(#゚;;-゚)「そろそろ新月が近いんだ」
从'ー'从「月のない夜のこと?」
(#゚;;-゚)「そう。まっくらな夜のこと。雲もなくて、ずっと闇なんだ。」
从'ー'从「困るなあ。あなたが見えないもの」
女の手が伸びてくる。
.
498
:
名も無きAAのようです
:2015/06/20(土) 02:19:08 ID:f3g1KVM20
でぃの腕をつかみ、肩に伸びて顔に触れる。
頬から鼻筋まで、顔を確認されるように触れられる。
ワタナベの手つきに愛撫めいたものがないから、でぃも安心して身をまかせる。
(#゚;;-゚)「きみは僕と寝たい……?」
从'ー'从「別に。どうして」
(#゚;;-゚)「好きだと言ったから」
从'ー'从「変なの。好きだとセックスするの?ふつう逆じゃない?」
身体の関係とは利点の交換にある。
娼婦として生きているワタナベにとってそれは絶対の価値観だった。
.
499
:
名も無きAAのようです
:2015/06/20(土) 02:19:54 ID:f3g1KVM20
(#゚;;-゚)「……わからない。普通、じゃないから」��
从'ー'从「あたしはあなたが好きだけど、そういうので汚したくはないの」
ワタナベはそう言って、しかし訂正した。
彼女のなかのでぃはどこまでも清純で、白さにあふれているから、少しくらい自分の痕をつけたい。
从'ー'从「ううん、たまに、汚したくもなる。とっても綺麗だから」
(#゚;;-゚)「綺麗……」
从'ー'从「おとぎ話ってね、綺麗で、可愛くて。でもそれだけでしょ?本当にあるものだなんて思わないもの。」
(#゚;;-゚)「奇形だとは言われ慣れているけど、綺麗だなんて初めて言われた」
ワタナベのてらいのない言葉に戸惑う。
態度にも声にも現れていないが、何も知らないはずの彼女だからこそ、その言葉が好ましい。
.
500
:
名も無きAAのようです
:2015/06/20(土) 02:20:39 ID:f3g1KVM20
从'ー'从「きっと自分たちが汚いから。認めたくないのよ。」
从'ー'从「ああでも、あたし男に生まれたかった」
(#゚;;-゚)「どうして。きみこそ、そのままの姿で美しいのに」
从'ー'从「男に生まれて、あなたを妊娠せるの」��
从'ー'从「そしたらきっと、あたしが死んでもあなたとの血がずっと続いていくんだわ」
从'ー'从「それってきっと、すてきなことよ」
(#゚;;-゚)「……それがきみの愛なら、きみが女でよかった」
从'ー'从「あたしが嫌い?」
(#゚;;-゚)「いいや。男にそんなことされるなんて、死んだほうがまし」
从'ー'从「うん、あたしも」
.
501
:
名も無きAAのようです
:2015/06/20(土) 02:21:36 ID:f3g1KVM20
嬉しそうにワタナベが笑う。
物騒な事を言うわりに、でぃは最初の出会い以外、彼女に暴力をふるわれたことがない。
ワタナベはほとんど自分を束縛せず、自由にしてくれる。
でぃを好きだと言ったものは、皆それの反対しかしなかった。
(#゚;;-゚)「アカウントを取得したから、チケットの交換をしたい。誰か、それができることに思いあたる人はいないか?」
从'ー'从「……ひとり知ってる。でも関わり合いたくない。あなたを見せたくない」
(#゚;;-゚)「では頼んでいいか」
从'ー'从「船に乗るだけなのに、わざわざ座席を交換する必要があるの?」
(#゚;;-゚)「万が一の用心だよ。アカウントで購入歴が知られれば辿られる。
他人と違う取得で交換したものの方が安全だ。飛行機には乗れないから、船だと長時間拘束される」
从'ー'从「……わかった。連絡とってみる」
(#゚;;-゚)「それからもうひとつ頼みがあるんだけど……」
从'ー'从「なあに」
少し迷ってから、恥ずかしそうにでぃは銃の撃ち方を聞いた。
.
502
:
名も無きAAのようです
:2015/06/20(土) 02:22:21 ID:f3g1KVM20
.
503
:
名も無きAAのようです
:2015/06/20(土) 02:23:08 ID:f3g1KVM20
(A^ν^)「あのー」
( ´_ゝ`)「いま忙しい」
(A^ν^)「お客様なんですが……」
兄者はプロテクトの実験結果をまとめて見ている。
操縦するための戦闘用アンドロイドはあたりを破壊するだけなら充分だが、小回りには向いていない。
いっせいに取り囲まれて受信機能を壊されてしまえば役にもたたない。
動かなくなった機械は分解されてさまざまな用途に作られ、もしくは売られてしまう。
こちらはそこまで痛くもない損害だが、向こう側にとってみれば美味しいことしかない。
敵も勢いづくし、取られた部品でさらに襲ってくるからアンドロイドはなるべく使いたくないのだが、増員予定のない状況は仕方がなかった。
.
504
:
名も無きAAのようです
:2015/06/20(土) 02:24:10 ID:f3g1KVM20
( ´_ゝ`)「シリーズは暗殺と警護にしか向いてないしなあ。指揮官役殺してもまとまりがなくなるだけだし。
好きにしてもいいって、焼き払うしかないじゃん。最終手段すぎるし、つまんないし」
(A^ν^)「あのー……」
( ´_ゝ`)「目的も好みも違う連中まとめるって大変なことだったんだな。あの男もったいねーな。スカウトすりゃよかった。でもスパイ殺されたからどっちみち無駄か」
(A^ν^)「兄者さまー……」
( ´_ゝ`)「うえっ」
連絡が入る。��
最低限の警備区域、バリケードを張って企業側の兵士が戦う場所に、またパワードスーツが現れたらしい。
兄者は撤退を優先した。人員がいなければ、よけいなことはできない。
( ´_ゝ`)「なんか人事とか中間管理職の気分。一番たいへんなのは真ん中だね、まったく」
口元のマイクに話す。
現場へとつないだ。
( ´_ゝ`)「いったん、爆撃してもいいから避難と、これ以上入ってこさせないで。
.
505
:
名も無きAAのようです
:2015/06/20(土) 02:25:01 ID:f3g1KVM20
( ´_ゝ`)「うん。準備が入ったら、ミサイルうつから」
(A^ν^)「兄者さま……」
( ´_ゝ`)「なんだって。忙しいのに」
(A^ν^)「たぶんこちらが優先かと」
(A^ν^)「お客さまです。全壊した施設の前責任者で、プロジェクトの重要人物みたいで……」
( ´_ゝ`)「んん?」
視線をそらす。兄者はAのすぐ後ろにいた男を見た。
( ´∀`)
.
506
:
名も無きAAのようです
:2015/06/20(土) 02:26:01 ID:f3g1KVM20
( ´_ゝ`)「終わってるプロジェクトの責任者がなんだってここに?」ヒソヒソ
(A^ν^)「逃げた実験動物のことじゃないですか。というか本人から来たんですよ。こっちは知らせてないんですけど」ヒソヒソ
( ´∀`)「……終わった?プロジェクトはまだ未完だが」
(A^ν^)「え」キコエテタ
( ´_ゝ`)「え」
( ´_ゝ`)「くわしく聞こうか」
仕方ない。
オートに切り替えて、防衛システムを作動させる。
軍事はもう、ゲームと同じようなものだ。
一気に壊滅させるのを諦めると、兄者は席をたち、別室に男を連れ立った。
.
507
:
名も無きAAのようです
:2015/06/20(土) 02:27:15 ID:f3g1KVM20
( ´∀`)「ああ。その前に頼みがある」
( ´_ゝ`)「俺権限そんなにないぜ。いまテロリストと戦ってる最中だし」
( ´∀`)「簡単だ。わたしを保護してほしいだけだからな」
( ´_ゝ`)「へえ、なにやらかしたんだ」
( ´∀`)「なに。少し命を狙われているだけさ」
( ´_ゝ`)「ふうん。ホントに珍しくないね」
( ´∀`)「わたしの子供たちからね」
.
508
:
名も無きAAのようです
:2015/06/20(土) 02:28:10 ID:f3g1KVM20
( ´_ゝ`)「えーっと駆除?簡潔だな。掃除でもすんの?」
兄者は男の差し出した情報端末から経歴と、行ってきた実験の内容を読み込む。
( ´∀`)「似たようなものだ。しかし内容を把握していないところを見るときみはそこまで重要ではないのかな?だとしたらそれなりの階級の方に話したいのだが」
( ´_ゝ`)「いんや。いま現在タワーの修復と治安維持、国内からの出国なんかは最終的に俺のサインがなければOKできませーん。というわけでどうぞお話ください」
( ´∀`)「ふむ。話というほどではないのだが、私の研究内容は知ってるな?
施設に関して」
( ´_ゝ`)「ああ。でもあれ資料全部紛失しちゃったんだけど」
.
509
:
名も無きAAのようです
:2015/06/20(土) 02:28:57 ID:f3g1KVM20
( ´∀`)「問題はない。結果報告をまとめたものだけだ。しかし無くなったのはどういうものだ?」
( ´_ゝ`)「材料はそろってたんだけどさ、内容と種類がわかんなくて。脱走されたのもまだ特定できてないんだ」
( ´∀`)「ひとつはわかる。わたしを襲ってきたものだから。だが問題なのはもうひとつの方なのだ。生きている検体は捕獲しているものだけなのだね?」
( ´_ゝ`)「うん檻のなかにいるので全部」
( ´∀`)「死んだものも把握できていると」
( ´_ゝ`)「ちゃんとそろえてる。確認する?」
.
510
:
名も無きAAのようです
:2015/06/20(土) 02:29:52 ID:f3g1KVM20
( ´∀`)「いや。もう見てきた。
しかし困ったな。個体のひとつはまだ可能性が残っていて、実験中であるのだ。個体が年数をたつのを待っていたのだが、まさか逃げられるとは思ってなくてね」
( ´_ゝ`)「プロジェクトはまだ続いてるって言ったけど、それどこ情報よ?そもそもあんなの、ただの趣味じゃねーの?いまどきキメラなんて流行らないぜ」
( ´∀`)「環境に適応した生物の進化が目標だった。人間はいま文明から切り離されたら生きていけないからな」
( ´_ゝ`)「それにしたって使い道がないじゃん。人よりちょっと丈夫でも、戦車に勝てるってほどでもないんだろ?」
( ´∀`)「何を言ってる?生物の耐久のことか?」
( ´∀`)「そんなもの、実験中の副産物だ」
.
511
:
名も無きAAのようです
:2015/06/20(土) 02:49:46 ID:f3g1KVM20
ひつじたちの沈黙
.
512
:
名も無きAAのようです
:2015/06/20(土) 02:51:18 ID:f3g1KVM20
( ´∀`)「羊は集団自殺をする。
崖からひとつの個体が飛び降りると、つられて列にならんでいるように他の個体も飛び降りて死ぬ。」
( ´∀`)「この危険察知能力は鳥とよく似ている。
鳥は最初の一羽が飛ぶとそれに釣られて全体が動き出す習性を持っている。
ひつじたちは危機を感じ、逃れようと崖から飛びだすのだ。
そして死ぬ。
学説では危機察知を間違えたひつじに釣られてしまったとの見方が支持されているが、わたしはそうは思わない。ひつじたちは危機を感じていたのだ」
.
513
:
名も無きAAのようです
:2015/06/20(土) 02:52:47 ID:f3g1KVM20
( ´∀`)「増えすぎる、という危機をね」
( ´∀`)「生物には増えすぎた個を淘汰する本能が備わっている。
どれほど時代を越えても、種としての遺伝子に刻み込まれたものが」
( ´∀`)「しかし人間は進化しすぎた。本能に支配された者はもう、ほとんどいない。
不快であるという理由だけで絶滅させられた生物のリストはひたすら長いというのに」
( ´∀`)「細菌、寄生虫はもちろん、作物を荒らす害獣、増えすぎたクラゲやヒトデなど」
.
514
:
名も無きAAのようです
:2015/06/20(土) 02:55:27 ID:f3g1KVM20
( ´∀`)「しかし当然ながら弊害はある」
( ´∀`)「それらがいなくなったせいで、人の長寿も増えた。病気や事故が減り、自然的な死人がほとんどでなくなったのだ」
( ´_ゝ`)「うん、なんとなく予測ついてきたわ」
.
515
:
名も無きAAのようです
:2015/06/20(土) 02:56:30 ID:f3g1KVM20
( ´∀`)「蚊の絶滅を知ってるか」��
( ´_ゝ`)「また古代な昆虫がきたね。とうの昔になくなった害虫だろ」��
( ´∀`)「そうだ。人類の歴史と寄り添うように蚊は人に寄生してきた。
本来は植物の樹液をすすって生きていたものが、ある時動物の体液を吸い、効率のよいエネルギー摂取を知った。そして蚊は進化した。
そのためだけに、針のような口を伸ばし、身体は薄く小さくなり、自らの体液を血にまぜることで凝固をふせがす。
これほど不快な寄生生物は他にはおらん」��
( ´_ゝ`)「いまはもう居ないだろう」
.
516
:
名も無きAAのようです
:2015/06/20(土) 02:58:28 ID:f3g1KVM20
( ´∀`)「いなくなったのではない。
自然的には絶対にな。
人が繁栄すればするほど、蚊は繁殖した。
ときに病気を媒介する害虫となって。しかしいまはもう自然公園の図鑑目録でしか見られない希少種だ。それがなぜかわかるか」
( ´_ゝ`)「さあ。先人さまの、偉大なる努力かな」
( ´∀`)「まさにそのとおり」
( ´_ゝ`)「あたってんのか」
.
517
:
名も無きAAのようです
:2015/06/20(土) 03:00:31 ID:f3g1KVM20
( ´∀`)「人はこのやっかいな同居人を駆逐することに成功した。長い年月をかかて。彼らが繁殖すればするほど、数を減らすように」
( ´_ゝ`)「人為的に絶滅させたのか」
( ´∀`)「そう。繁殖の能力のない雄を作りだし、雌と掛け合わす。
その卵は孵らない。そうやってながく根気強く、次世代につなげる鎖を切ったことによって子の生まれなくなった蚊はやがて死ぬ。そして断絶した」
( ´_ゝ`)「ああ、なるほど」
( ´_ゝ`)「あんたはそれを、人間にもしようとしたんだな」
( ´∀`)「of course!」(言うまでもなく)
.
518
:
名も無きAAのようです
:2015/06/20(土) 03:01:37 ID:f3g1KVM20
( ´∀`)「地球という箱庭で生物が増えすぎないように、管理するのは征服した者の義務だ。
人類もそれに当てはまる。
だが本能を抑えて、理性があるうちは誰が死にたがる?だから種族衰退の遺伝子を組み替える。大量に、人が死ぬように」��
( ´_ゝ`)「傲慢だね。自分たちは生き残ると思ってる?」��
( ´∀`)「結果だけは予測はできるが絶対ではない。わたしは殺されないかぎり死なないように」
( ´∀`)「しかし国別に、人種別にそれぞれ異なる人間は1000人いればいい。70億は、多すぎるのだ」
.
519
:
名も無きAAのようです
:2015/06/20(土) 03:03:08 ID:f3g1KVM20
兄者は一通り説明を聞いた。
講義するように長かったが、理解させるのを学者らしく上手で、主要な研究内容の目的と結果をわかりやすくまとめた。
これまでの国の方針、経営価値の観点から見た、企業側の不可解な行動を理解する。
シリーズ制作の秘話や、選ばれた管理者の存在理由。
なかなか壮大で、しかし不都合が多すぎるように思える。
.
520
:
名も無きAAのようです
:2015/06/20(土) 03:04:21 ID:f3g1KVM20
( ´_ゝ`)「だから反抗しない人間が必要だったのか」
( ´∀`)「そうとも。殺し合うにも人数が必要だ。だが少数のなかで争いあっていては、絶滅してしまう。支配する側にとって統治はながく続いたほうがいい。」
( ´_ゝ`)「殺してもいい。というか、殺さなきゃならない。自滅はだめなの?」
( ´∀`)「それを待ってるあいだにどんどん増えるぞ。暗黙の了解とはいえ、みなが皆それを了解するわけではない」��
( ´_ゝ`)「でも決定されたんだろ?なら堂々とやればいいじゃないか」
.
521
:
名も無きAAのようです
:2015/06/20(土) 03:06:26 ID:f3g1KVM20
( ´∀`)「わかっとらんな。生き残るからこそ、下手なリスクを負えないのだ。その後のことを計画せねばいけん。
現在だけでなく未来を考えると、大虐殺なんて黒歴史だぞ。
必要なことといえどな。教科書から消されるだろうが」��
( ´_ゝ`)「わかんねーな。なんだってそう大がかりな事すんのか。殺し合いなんてここじゃなくてもどこだってやってるじゃないか。
一発のロケットで方がつくのに、なんでそう長期な計画なわけ?」
( ´∀`)「長い目で見ているからだ。核なんて使えない。汚染は除去するのに時間がかかる。地球の浄化を待ってたらそれこそ本末転倒だ。救うのは地球ではない。」��
( ´∀`)「人だ」
.
522
:
名も無きAAのようです
:2015/06/20(土) 03:07:27 ID:f3g1KVM20
( ´_ゝ`)「種族衰退なんてもう始まってると思うんだけど」��
( ´∀`)「お前、デザイナー生まれじゃないのか」
遺伝子配合列、デザイナーベビーは当然のように行われている。
優秀な子、美しい容姿、運動能力、どれも平均以上に仕上がるように。
組み替えられた遺伝子で受精させられる。
一定の地位と収入があれば、誰でもサービスを利用できた。
( ´_ゝ`)「ちょっと違うけど、まあ間違ってないな」��
( ´∀`)「ならわからんな。人工じゃなく、自然受精は本能だ。
どこにでも人間は適応する。こちらが禿げ山に移植した緑を、若芽が出るたびに貪るシカと同じだ。」��
.
523
:
名も無きAAのようです
:2015/06/20(土) 03:08:29 ID:f3g1KVM20
( ´_ゝ`)「全体通して徹底すればいいじゃん。いまだって多少モメてるけどだいたい力で征服できてるのに」��
( ´∀`)「遠い未来より目のまえの利益に群がるのが本能だ。いま死にそうなら全力で生きるチャンスを探し、抵抗する。文明と一緒だ。
この利便さをもう人類は捨てることができない。どこか遠くで誰かが死んでも、電気やガス、水道を利用することが重要。それを捨てれば誰かが助かると知っていてもな」
( ´∀`)「人の原罪だ」��
( ´_ゝ`)「科学者なのに神を信じてんの?」��
( ´∀`)「信仰と技術は関連がない。神に祈っても、絶滅する動物が減るわけでもないし、プランクトンが増えるわけでもない」��
( ´∀`)「使いすぎた資源は再生せねばならん。そのためにはいまの人類数は多すぎるのだ」
.
524
:
名も無きAAのようです
:2015/06/20(土) 03:09:24 ID:f3g1KVM20
「人間は繁栄しすぎた。もはや70億は管理できない。」
「間引きが必要なのだよ。それもゆるやかに、誰にも気づかれることないように」
.
525
:
名も無きAAのようです
:2015/06/20(土) 04:07:54 ID:f3g1KVM20
ブーン系に愛を叫んでくれた人ありがとう
そしてシナリオライターに敬意を。
妄想するのと創造するのはだいぶちがうことがわかります
fateとかほんとにすごいなぁ
待っててくれた人たちに感謝
あなたたちのレスでやる気が起きました
526
:
名も無きAAのようです
:2015/06/20(土) 13:14:37 ID:yksYnmh.0
乙
527
:
名も無きAAのようです
:2015/06/20(土) 18:08:08 ID:f3g1KVM20
('、`*川「ここから出たら、どこへ行きたい?」
砂漠がいいな。
青い月のある砂の海。
施設の白い壁に張られた絵は、アラビアンナイトの世界を描いていた。
ラクダに乗った布のたっぷりとした装束の男が、もうひとり女の手を引いている。ひたすら遠く、どこまでも続くようなだらかな地面。
でこぼこした丘さえ、すべてが砂で作られていた。
.
528
:
名も無きAAのようです
:2015/06/20(土) 18:09:14 ID:f3g1KVM20
('、`*川「アンタに似合うかもね。どっちを着たい?男の服と、女の服。」
……男がいい。いまの名もいやだ
('、`*川「気に入らない?女神の名なんて、とても贅沢じゃない」
だからこそ。
勝手にこちらを神聖視されても困る。
('、`*川「じゃあでぃ、ってのはどう?元とそんなにもじりを変えてないし、男女両方で使えるでしょ」
でぃ。意味はあるの?
('、`*川「……day.日々って意味。いつまでも続けばいいわね」
.
529
:
名も無きAAのようです
:2015/06/20(土) 18:09:56 ID:f3g1KVM20
日々続けばいい。
研究所ではそのささやかな願いすら、適わないことだと知っている。
ふっと懐かしい夢が途絶える。��
唯一でぃの身体に興味を示さなかった人間。��
彼女がかまわないからこそ、でぃは懐いていた。
そして様々な知恵を与えてくれた。
拒否してはいけない。
曖昧に、何かを濁すようにすること。
与えられることに対して、次に繋がるように活用すること。
自分の不利になりそうなことは、研究員の誰かに任せることによって選択権を得ること。��
……愛玩物は、哀れであるからこそ、愛されるのだということ。
.
530
:
名も無きAAのようです
:2015/06/20(土) 18:10:51 ID:f3g1KVM20
从'ー'从「……泣いてたの?」
揺さぶられて。
起こされた。ワタナベが眠そうに目をこする。
彼女の髪先が、あごに当たる。
胸にワタナベの顔があり、心臓に寄せるようにして彼女が寄り添っている。
ただふれ合うだけの、体温をわけ合うということは懐かしい。
「泣いていないよ」
从'ー'从「誰を思い出してたの?男?女?」
ときどき妙にするどい。
ごまかすことなく、女と答えた。
どこに居るのかもわからない。
でぃにありったけの知識を与えてくれたあと、姿を消した。会えたらいい。でもその確率はきっと少ない。
.
531
:
名も無きAAのようです
:2015/06/20(土) 18:11:33 ID:f3g1KVM20
从'ー'从「……男じゃないなら、いい」
ワタナベは再びでぃの胸に頭を乗せて、眠りに落ちる。
出会ったばかりではあるが、でぃはもう彼女がなにを求めているのかを察知した。
それは檻のなかで仲間たちがみなで共有しているものだ。
暖かく、ゆるやかな温度。
ワタナベはでぃに役割を求めてない。
それはとてもすてきなことだ。��
でぃがでぃのままで居られるというのは、これまでになかったから。
.
532
:
名も無きAAのようです
:2015/06/20(土) 18:12:48 ID:f3g1KVM20
男であり 女であり 父であり 子であり
伴侶となり 妻であり 夫であり
またそれらすべての母でもある
.
533
:
名も無きAAのようです
:2015/06/20(土) 18:13:42 ID:f3g1KVM20
怖い。
許可されていない行動はいけない。
入ってはいけない場所。
聞いてはいけない単語。
見てはならないもの。
無意識にそれらを避けてしまう。
長年の教育は、わかっているのに選択肢を制限するようだ。
从'ー'从「どうする?」
ワタナベにうなずく。
大丈夫。ここは施設じゃないし、でぃはもう管理された個体じゃない。
逆らうことは痛みに繋がらない。
なによりワタナベは強いから。それにかなり、励まされる。
.
534
:
名も無きAAのようです
:2015/06/20(土) 18:15:30 ID:f3g1KVM20
想像していたよりずっと質素だった。
もっと厳重な、警備がたくさんあって、すぐにでも誰かに連絡が行くような場所だと思っていた。
制作者の住所はパートエリア。ゴールデン地区に近いがそこまでの高級街でない。
だから襲撃するのも、難しくなかった。��
通りをいくつか点検し、人のいない道から入る。
誰かを襲うのに都合のいい時間帯は昼間だ。
人の多いところへ逃げればいい。
最近は物騒で、誰が撃たれてもみな知らないふりで忙しい。人の群れは防御の代わりにもなる。��
でぃは呼吸する。
全身の強ばりを解くように。支配者を殺したら、何もかもから自由になれるだろうか。
ワタナベにもらった銃身を握る。
黒くて冷たい。これが発射したときに一瞬で熱くなる。まだ撃たれたことはない。��
.
535
:
名も無きAAのようです
:2015/06/20(土) 18:16:39 ID:f3g1KVM20
だから銃の本質を知らない。
だが知らなくても、人を殺せる。
ワタナベが小型の重機カッターで、ドアの鍵を壊す。
本当に彼女はなにもかも、役にたつ。
でも恐ろしい。
まだ何も起きていないのに、なぜか怯えている。
虐げられた記憶がでぃの警戒心を刺激している。��
从'ー'从「入るよ」
しぃっと合図をして、彼女はドアの隙間に入る。でぃも続いた。
大丈夫、いまはまだ。ワタナベが隣に居るかぎりは。
ドアがひっそりと開いた。
.
536
:
名も無きAAのようです
:2015/06/20(土) 18:17:44 ID:f3g1KVM20
室内は荒れていた。
それほど広くもない、せいぜい4Lの広さ。
当時の研究職員の家としては慎ましいほどだ。
ワタナベが無造作になかにはいり、歩く。
歩くたびに紙を踏んだ。英字を印刷された書類が、床の隙間を埋めるようにして散らばっている。
家主はいなかった。
この荒れようからみて、人が住めるような部屋ではない。
でぃは拍子抜けした。
それからなにが起こったのか、推察しようと部屋を調べる。��
壁に設置されている棚はまっぷたつに割れていた。
本が無造作に散らばっていて、家主は逃げることしかできなかったのではと思うような有様だった。
金庫は見つからない。
貴重なデータは必ずこの家にあるはずだった。
しかし情報を納めるような場所はどこを探してもない。
コンピュータが机にあったが、それはすでに破壊されていた。
.
537
:
名も無きAAのようです
:2015/06/20(土) 18:19:56 ID:f3g1KVM20
从'ー'从「ね、なにを探したらいい?」
ワタナベの問いに答えられない。
関連するデータひとつを見つけるのに、時間がかかりそうだ。
もしかしたら床に散乱する紙ひとつひとつを調べなくてはいけないのかもしれない。
げんなりしかけて、いいや、と考えなおす。��
情報室で持ち帰ったデータを読み解くことはできなかったが、でぃの関わった結果はきっと貴重なもののはずだ。
でなければあのように保管されているはずがなく、無造作にばらまかれているわけがない。
だが、本棚にも、机にも、書斎にも、見あたらなかった。
そんなはずがない。��
しかし、ここがなぜ荒れているのだろうか。
この家は一番上の男の家だ。
責任者、すべてを決めるもの。
でぃたちにとって絶対の存在だった。
.
538
:
名も無きAAのようです
:2015/06/20(土) 18:20:58 ID:f3g1KVM20
(#゚;;-゚)「まさか……」
でぃは思い直す。そもそも、荒れた家になにがあったのか?��
(#゚;;-゚)「ワタナベ、出よう。もうとっくに、持ち出されたんだ」
罠の可能性が頭をよぎる。
散乱された部屋の様子を見た瞬間、逃げるべきだった。
そのことに思い立ち、ワタナベに声をかける。
(#゚;;-゚)「ワタナベ……?」
.
539
:
名も無きAAのようです
:2015/06/20(土) 18:22:03 ID:f3g1KVM20
さっきまですぐ隣に居た気配がない。書斎には誰もいなかった。
倒れた棚の影をのぞきこんでも、彼女の姿がない。
(#゚;;-゚)「ワタナベ」
心臓がいやな音をたてる。
どうして。いったいどうして、でぃは彼女を万能だと思っていたのだろう。
警戒し、一度確かめた奥の室内を伺いながら、進む。
自分のたてる音しか聞こえないというのは、不気味で恐ろしいことだった。
身を潜めようとしたが、進むたびに足はくずを踏むことになり、どのみち隠れることは難しい。
そもそもでぃは戦闘訓練を受けたことがない。
.
540
:
名も無きAAのようです
:2015/06/20(土) 18:22:50 ID:f3g1KVM20
音をたてないようにしてさきほどまでワタナベが調べていた部屋に入る。
室内灯のあかりがなく、目はこらしても奥は見えない。
(#゚;;-゚)「ワタナベ……?」
こもるような声が聞こえた。
うなるような、低い声。��
それが口元をふさがれて、おびき寄せるために拘束されていたワタナベと気がつくまえに、でぃは影に襲われた。
.
541
:
名も無きAAのようです
:2015/06/20(土) 18:25:01 ID:f3g1KVM20
.
542
:
名も無きAAのようです
:2015/06/20(土) 18:25:55 ID:f3g1KVM20
川*゚ー゚)「やだやだー!」
「どうした。お前は知能には問題がない。分別がついているはずだろう」
川*;ー;)「でも、やなの!せっかくお絵かきしてる時間だったのに!」
「なんだ単なるわがままか。早く処置室にいけ。でないと強制するぞ」
川*;ー;)「やだもん!」
「火傷がつくとサーモグラフィーが誤作動をおこすから使いたくないんだ。いい加減しろ」
川*;ー;)「い、やあああー!!」
.
543
:
名も無きAAのようです
:2015/06/20(土) 18:26:58 ID:f3g1KVM20
手を引いてあげればいい。
背中をなでて、優しくなだめてあげればいい。
けれどここの人間に、それができる人はいなかった。
でぃは古参だ。もう八年以上、同じところに居る。
職員たちの求めていた結果であり、代えがきかない。
だからこそ、長らく学ぶことも多かった。
そして、目のまえの彼女は数字だけつけられ、名前がない。
入れ替えの比較新しい個体だった。
彼女の肌は青い。
皮膚を形成する細胞には虫類のものを混ぜて創られた。
水に濡れると美しい緑色に変化する。
つぶつぶと盛り上がった鱗に水がたまり、はじかれて流れていく。
それをでぃは美しいと思ったが、職員の大半は異形の姿を好んでいない。
人に近い姿でなければ、同情も沸かずただのサンプルだった。
.
544
:
名も無きAAのようです
:2015/06/20(土) 18:27:51 ID:f3g1KVM20
「ねぇ。あとで絵本読んであげるよ。それと飴をもらってきてあげる。一緒にいこうよ」
感情だけは職員にコントロールできるものではなかった。
それ以外のすべては管理されているものの、感情だけは誰にも管理できない。
サンプルの彼女は年数もたっておらず、心は人の子と同じように幼かった。
他の大半のサンプル体も同様だ。
ただ外見は成熟した大人の姿そのものだから、ぐずる彼らに職員たちは苛立って、安易な叱りかたをする。
.
545
:
名も無きAAのようです
:2015/06/20(土) 18:28:43 ID:f3g1KVM20
「いい子だな、××××。そのまま連れてってくれ」
頷くと、彼女の手をひいて歩き出す。
まだかなり渋っていたが、職員がセーバーをかざす様子を見せると従った。
スタンガンを使いやすいように棒状にしたもので、どれほどの巨体でもいうことを聞くようになる。��
しゃくりあげる彼女の頭をなでて、慰める。
たまにもらえる自由時間を奪われたのだから、彼女の怒りは正当なものだ。
けれどその訴えは届くはずがない。
水槽のなかの魚の怒りだった。
.
546
:
名も無きAAのようです
:2015/06/20(土) 18:29:35 ID:f3g1KVM20
川*゚ー゚)「……行きたくないのに」
「仕方ないよ。痛いのはいやだろう?」
川*゚ー゚)「好きじゃないけど、べつにいいって思う。やればいいって」
「それはだめだよ。」
川*゚ー゚)「なんで?」
「危ないから。」
川*゚ー゚)「痛いのあたしだもん」
「でも危ないんだ」
.
547
:
名も無きAAのようです
:2015/06/20(土) 18:30:22 ID:f3g1KVM20
息をすることさえ、管理されている生活で、彼らの機嫌を損ねることの恐ろしさ。
それをどう伝えようか迷う。
しかし彼女はまだ子供で、検査が多いということは十分、研究の余地があるということだった。
ここで聞き分けのいい子になってしまえば、また別の危険がある。
でぃは迷って、たしなめるだけにした。
「せっかくきれいな肌なのに、傷がつくのはもったいないよ。さっきの人間もそう言ってただろ?」
川*゚ー゚)「きれい?」
「うん」
川*゚ー゚)「きれいってなに?」
彼女は、まだ、その概念を持っていなかった。
.
548
:
名も無きAAのようです
:2015/06/20(土) 18:31:07 ID:f3g1KVM20
施設のなかは防音に設計されている。どれほど叫ぼうと、その声が部屋に漏れることはない。
けれど処置室のなかに入ると、経過を確認するためガラスが薄くなり、実験最中の“音”がよく聞こえる。
削られる音。
炙られる音。
切断する音。
耳がいい個体は耐えられなく、早めに意識を落とす。
彼女は怯えなかった。
まだ音の正体を知らないのだ。
泣かれることがなかったのでほっとした。
.
549
:
名も無きAAのようです
:2015/06/20(土) 18:32:15 ID:f3g1KVM20
ぐううううううう
低いひくいうなりが聞こえる。
ふたりとも身体をこわばらせた。
本能だった。
獣のような声。
威嚇のようだが、これが痛みに耐えているときの声だと知っている。
ガラスのなかで、一匹の異形がいた。
全身鱗に覆われ、切れ目のような黒い眼球がこちらを見ている。
衝撃の音がして、壁が揺れる。
異形が壁にたたきつけられた音だった。
抵抗し、ガラスのなかの物を壊すためにまた暴れる。
川*゚ー゚)「あたしあいつ嫌い」
「どうして」
川*゚ー゚)「こわいし、うるさいんだもん」
「……好きでそうやっているんじゃないんだよ」��
呟く。
見咎められたような視線を感じて、振り返った。��
ガラスのなかの異形と、目あったような気がした。
.
550
:
名も無きAAのようです
:2015/06/20(土) 18:36:01 ID:f3g1KVM20
.
551
:
名も無きAAのようです
:2015/06/20(土) 18:37:01 ID:f3g1KVM20
( ´_ゝ`)「……」
( ´_ゝ`)「いつだっけかな」
( ´_ゝ`)「むかしむかし、石油がなくなったら次世代エネルギーがどうのこうのってあったよな」
( ´∀`)「ほう、おまえ見かけによらず年がうえなのか」
( ´_ゝ`)「ちがう。新聞でみたんだ。社会の流れを知るのに、それが一番いいから」
.
552
:
名も無きAAのようです
:2015/06/20(土) 18:38:22 ID:f3g1KVM20
( ´_ゝ`)「学者とか政治家とかが、真面目な話てて、やっぱあれだね。バカは怖いよね」
( ´_ゝ`)「石油枯渇なんていまじゃ誰も信じてないのに」
( ´_ゝ`)「でも当時はそれが最先端のニュースだったんだぜ」
( ´_ゝ`)「国民向けには」
( ´∀`)「そうさな。」
( ´∀`)「いくらなんでも、調査報告を受けてないはずがない」
( ´∀`)「数人は知ってたはずだ。そしてそれが、原発を推進することになった」
.
553
:
名も無きAAのようです
:2015/06/20(土) 18:39:17 ID:f3g1KVM20
( ´_ゝ`)「それだよ」
( ´_ゝ`)「資源再生なんて、なんて当たり前のことをいまさら言うんだ?」
( ´_ゝ`)「エネルギーも、なにもかも、取り尽くしたら別のもので代用できるじゃねぇか」
( ´_ゝ`)「なあ、いまさら国民向けの演説なんていらない」
( ´_ゝ`)「人類は確かに多いけど、それって建前だろ?」
( ´_ゝ`)「いいじゃん。殺し合いで」
( ´_ゝ`)「どの時代でも必ず人は死ぬんだからさ」
( ´_ゝ`)「わざわざ、そーいう事で守らなくても」
.
554
:
名も無きAAのようです
:2015/06/20(土) 18:40:13 ID:f3g1KVM20
( ´∀`)「……」
( ´_ゝ`)「人類を救うんじゃなくて、自分のモノにしたいんだろ。とんだ世界征服だわ。規模がでかすぎる」
( ´_ゝ`)「で、あんたは多分人が減るよりもそれを人間で試したかったんだろ」
( ´_ゝ`)「いいね、いいね。そしてウチのオヤジが計画をすすめたってことだ」
( ´∀`)「……オヤジ?」
( ´_ゝ`)「製作者にはその責任があるじゃん?俺を作ったナンバーズのことさ」
.
555
:
名も無きAAのようです
:2015/06/20(土) 18:41:11 ID:f3g1KVM20
( ´_ゝ`)「てかさ、この実験やばくない?下手に感染爆発みたいなこと起こったらそれこそ人類絶滅じゃん」
( ´_ゝ`)「そーいうことも、考えなかったの?」
( ´∀`)「むろん、対策はある」
( ´∀`)「管理できなくなるなど、悪夢だ。バイオハザードなど、決して想像上のものではないからな。」
( ´∀`)「繁殖によって人が減らせるのなら、繁殖によって増やす」
( ´_ゝ`)「?試験管で生産でもするのか」
( ´∀`)「ちがう。人はいつの時代も、人口授精に憧れる。自然でないものには排他的だ。」
( ´∀`)「だからこそのプロジェクトなのだ」
( ´∀`)「ただの実験ならば、経過だけを観察すれば良い」
.
556
:
名も無きAAのようです
:2015/06/22(月) 00:55:08 ID:vh1IwXQk0
しえん
557
:
名も無きAAのようです
:2015/07/01(水) 08:12:13 ID:ByrLZ9HI0
面白いよー
おつ
558
:
名も無きAAのようです
:2015/10/23(金) 12:51:54 ID:iAVjbgPE0
待ってる
559
:
名も無きAAのようです
:2015/10/31(土) 22:54:08 ID:gSUaJlqw0
よくわかる登場aa紹介
( ´_ゝ`)
黒幕をボスに持つ悪役
顔のでない上司に使われてて大変。
でもわりと気楽にやってる
というよりも心配とかべつにない
生まれの理由によりサイコパス
(A^ν^)
ナンバーズとかいう地位そこそこのクローンに生まれたのによりにもよって ( ´_ゝ`)の部下に
生体的に機能は普通の人間なので戦えません。下っぱ中の下っぱ。
たくさんの( ^ν^)が出てきたらいつの間にか殺されてるモブくらいのたち位置
出世して生き延びたい
( ´∀`)
謎謎マッドサイエンティスト
誰もが考えるけど実際にやったらこれはひどい中二だよね!を実際に、やっちゃった人。クリスチャン。
右の頬を打たれたら諭すために左を差し出すような奴。
善人が幸せについて本気で考えた結果
560
:
名も無きAAのようです
:2015/10/31(土) 23:05:19 ID:gSUaJlqw0
从'ー'从
かわいいは正義
かわいいから男を食い物にしてもいいよね(※物理的に)
だって男もみんなやってるじゃん?
でもでぃだけは特別。むしろ貢いじゃう勢いで執心してる
男でも女でもでぃに近づく奴は排除するつもり。サイコパス
(#゚;;-゚)
いまのところ性別不明にして置きたかったのに作者の力量不足でそうはいかなかった模様。叙述トリックとか、やってみたい人生でした
虐げられた経験から他人の感情の機微にものすごく敏感。
だから 从'ー'从のことは好きだし信頼してる。愛が重すぎて疲れるというのはない。むしろ重すぎる愛しか知らない
川*゚ー゚)
あの子
誰かの回想に出てきた。
青い肌の頭が弱い子らしい
実はこいつもサイコパス
561
:
名も無きAAのようです
:2015/10/31(土) 23:18:44 ID:gSUaJlqw0
('A`)
抵抗勢力の中心人物のひとり
目的は不明
たぶん遊ぶ金欲しさ
頭がいろいろ回るので、悪巧み役
酒と女と金と、殺しくらいしか娯楽を知らない。少年には優しい。(意味深)
後天的環境からのサイコパス
※(生きていくうえで全く役に立たない知識)
ここでのサイコパスの意味合いはまともな人ではない、躊躇なく人を殺せるという意味合いです。シリアルキラーは人を弄くりたい、殺したいという欲求がメインなので、サイコパス≠シリアルキラーです。覚えておきましょう
( ФωФ)
ダンディかつ渋めの男前。aaでさえこの貫禄。猫のようには全くもって見えない。ヒーローにしようかかませ役にしようか本格的に悩んだ。
でもよく考えたらどのたち位置にいるかで生きる立場は変わるので、意味がないことに気づく。
ヒーローであると同時にどうしようもないチンピラ。
それなりに善人であり、生きていくためには悪人。つまりは普通の人
でもサイコパス
※サイコパスとは自己中心的であり、目的のためなら躊躇なくそれを排除できる資質の人ということです
しかし資質だけであり、それは本能的にはセーフです。得をしたい。利益を得たい。ほらね、普通の人でしょ?
562
:
名も無きAAのようです
:2015/10/31(土) 23:28:20 ID:gSUaJlqw0
(`∠´)
aaの名前を忘れた。こいつなんて言ったっけ?ググってもでてきませんでした。
素敵で無敵じゃないほうの情報屋。
収入源は主に人の噂話。
なので从'ー'从からは嫌われてる
人間性は好きじゃらないけど、そこそこ役に立つからまぁいいかって対応ばかりされる。
胡散臭いから仕方ない
※重大なネタバレ※
実は人情に弱い。
でもサイコパス
たぶん死ぬ
563
:
名も無きAAのようです
:2015/10/31(土) 23:29:09 ID:gSUaJlqw0
近いうちに投下します。
待っててくれた人LOVE!
期待に添えるよう頑張ります
564
:
名も無きAAのようです
:2015/10/31(土) 23:38:37 ID:gSUaJlqw0
ラスト
( )
謎の男
(#゚;;-゚)と从'ー'从を襲撃した
顔も姿もわからない。けど男。あとごつい。
notサイコパス
565
:
名も無きAAのようです
:2015/10/31(土) 23:52:42 ID:WzmgPZnY0
ベル……
566
:
名も無きAAのようです
:2015/11/01(日) 10:38:00 ID:tyu52b0w0
待ってました
567
:
名も無きAAのようです
:2015/11/01(日) 20:52:36 ID:yXXE1w160
ワタナベは油断したわけではない。
ただ暴漢者が強すぎた。銃を向けるまえにそれはたたき落とされ、腰のナイフを取る時間もなく頭を鷲掴みにされる。
声をあげようとした口は乾いた手のひらでふさがれ、喉を強く押されるとうめくことも苦しい。
.
568
:
名も無きAAのようです
:2015/11/01(日) 20:53:19 ID:yXXE1w160
ワタナベを捕まえた腕は強く、彼女が全身で抵抗しても微動だにしない。
まるで柱のようだ。しかしワタナベには危険に怯える本能がすっかりすり減っている。
恐怖よりも、怒りのほうが強い。
でぃになんとか知らせようとするのだが、闇に潜む暴漢はそれをさえぎるようにワタナベの身体を圧迫した。
肋骨がきしみ、声が出せない。
.
569
:
名も無きAAのようです
:2015/11/01(日) 20:54:11 ID:yXXE1w160
(#゚;;-゚)「ワタナベ……?」
警戒するでぃの声が聞こえると、足音がした。
来てはいけない。
もがいて暴れようにも、身じろぎするたびに強く、握られた。
解放は一瞬だった。目の前にでぃがあらわれた瞬間、暴漢は襲いかかり、でぃを抱き込む。用なしになったワタナベは放り投げられた。勢いつけて壁にぶつかり、しかし痛がっている時間はなく。
.
570
:
名も無きAAのようです
:2015/11/01(日) 20:55:00 ID:yXXE1w160
身体が自由になるとすぐに解体用のナイフを腰から引き抜き、でぃに掴みかかる男の背中に突き立てた。
肉を切り分ける刃物は十分に研いであり、切れ味はするどい。
しかし簡単に振り払われ、衝撃にワタナベの方が吹き飛ぶ。
突き立てたはずのナイフの刃先はぱきりと折れた。
从'ー'从「うそ……」
.
571
:
名も無きAAのようです
:2015/11/01(日) 20:55:52 ID:yXXE1w160
从'ー'从「やだ、!かえして!」
身体をおこし、再び男に立ち向かっていく。
覆面をした男が横わきに抱えているのは、ぐったりと意識をなくしたーーーーーでぃ。
从#'ー'从「かえせ!!」
落ちた銃を拾い、男に向けるとすぐさま引き金をひいた。
連射機能はついていないので、慎重に男の顔面だけをねらう。
荷物のある男はそのまま撃たれ、頭に穴をあけてくずれ落ちるはずだった。��
しかし男は片腕で顔を防御する。
異常なことに、どれだけ撃っても、弾ははじかれるだけだ。
苛立ち、ワタナベは沸騰した。
.
572
:
名も無きAAのようです
:2015/11/01(日) 20:56:43 ID:yXXE1w160
从#'ー'从「ふざけるな!ふざけんなよ!かえせ!!」
从#'ー'从「それは!あたしのだ!!!」
ワタナベは苛立って、金属の切断に使ったカッターを取り出し、振り回した。スイッチを入れると刃先がぐるぐるまわり、側にあった椅子やテーブルにぶつかり、それらを削る。カスが散った。
.
573
:
名も無きAAのようです
:2015/11/01(日) 20:57:25 ID:yXXE1w160
从#'ー'从「かえせ!!!」
銃弾をふせいだ腕に振りかぶり、カッターで切りつけた。
ごりごりと削れる音がすると、ばちっとなにか細かなものが粉砕し、舞った。��
男の衣服が破れて、奇妙な肌が露わになる。顔を近づければうろこ状だとわかっただろう。��
しかしワタナベの視線はずっとでぃにあり、それを気にすることなくもういちど、切りつけようと振りかぶった。
.
574
:
名も無きAAのようです
:2015/11/01(日) 20:58:28 ID:yXXE1w160
从#'ー'从「切断してやる!」
しかしカッターを振りかざす動作の隙をねらい、男の拳が振ってくる。
刃物を飛ばす勢いでワタナベは殴られた。身体はふっとび、机にぶつかると割れていた板がさらに砕ける。
壁に頭を打ったようで数秒ほど意識をとばした。
気がついたときにはもう、男も、でぃも居なくなっていた。
从#'ー'#从「ああああああああああああああああああああ��あああああ」
.
575
:
名も無きAAのようです
:2015/11/01(日) 21:00:16 ID:yXXE1w160
クリスチーヌ! クリスチーヌ!
ああ降りていきたい!
降りていきたい!
降りていきたい!
すべての出口が閉ざされている、闇の井戸のなかへ!
『オペラ座の怪人』
.
576
:
名も無きAAのようです
:2015/11/01(日) 21:01:16 ID:yXXE1w160
.
577
:
名も無きAAのようです
:2015/11/01(日) 21:02:21 ID:yXXE1w160
(A^ν^)「すいません。お話中たいへん申し訳ないんですが…」
( ´_ゝ`)「なんか進展あった?」
(A^ν^)「はい。スーツがめっさ暴れてまくってます。どうしましょうか」
( ´_ゝ`)「んー。なんかいまの話きいちゃったらからなー」
( ´_ゝ`)「いまいちやる気にならねーわ。ちなみに被害どんくらい?」
(A^ν^)「撤退したからシェルター止まりにはなってるんですけど、最低限の交戦しかやってないので破られそうです」
( ´_ゝ`)「威嚇射撃2、3発くらい打っとけ」
(A^ν^)「スーツはいいんですか?」
( ´_ゝ`)「あんな嫌がらせみたいなのまじで捕まえようとしたら時間かかってしょうがないじゃん」
( ´_ゝ`)「向こうもわかってっから撹乱しかしないんだよ」
.
578
:
名も無きAAのようです
:2015/11/01(日) 21:03:12 ID:yXXE1w160
(A^ν^)「了解しました。ミサイルはどうしましょうか?」
( ´_ゝ`)「あー…」
( ´_ゝ`)「うーーーーーーーん…とね」
( ´_ゝ`)「どうする?」
( ´∀`)「わたしに聞くのかね?司令官はきみだろうに」
( ´_ゝ`)「だってサンプルはたくさんあったほうがいいんだろ?」
( ´_ゝ`)「いまここで死んだら都市部と地方で結果異なるよ?」
( ´∀`)「ふむ。状況はそれほど逼迫してはいないのか」
( ´_ゝ`)「うん。だってここ囮だし」
.
579
:
名も無きAAのようです
:2015/11/01(日) 21:04:05 ID:yXXE1w160
(A^ν^)「え?」
( ´∀`)「……なるほど。交通量の高い場所を抑えて制限をかけたのか。どうやらお相手はボードゲームが好きなようだね」
( ´_ゝ`)「そらそうよ。俺らとガチでやりあって、得することなんかねーじゃん」
(A^ν^)「え囮?」
( ´_ゝ`)「あれ言ってなかったけ?」
(A^ν^)「でも、だって、あの。少年兵とかばんばん死んでるんですけど」
( ´_ゝ`)「戦争だもの」
(A^ν^)「市民とか、流れ弾受けて」
( ´_ゝ`)「富裕層はいないからへーきへーき」
(A^ν^)「傭兵の3割くらい負傷してますけど」
( ´_ゝ`)「金払うのバカらしくなるよねーでも本人たち納得して契約してるからいいんでないの」
.
580
:
名も無きAAのようです
:2015/11/01(日) 21:04:54 ID:yXXE1w160
(A^ν^)「いや、そんなつもりじゃないんですけど、」
(A^ν^)「だって…こんなに死人出てるのに、被害でかいのに、本当に囮なんですか?」
( ´_ゝ`)「うーん。そっかお前したっぱだもんなぁ」
(A^ν^)「な、なんですか?なんかだめでした?」
( ´_ゝ`)「だめっていうかー。いやだめだなこりゃ。御愁傷様。出世できないわお前」
(A^ν^)「こ、こんなに真面目なのに?」
( ´_ゝ`)「真面目ってか、普通っていうか平凡っていうか平均値っていうか」
(A^ν^)「」
.
581
:
名も無きAAのようです
:2015/11/01(日) 21:06:18 ID:yXXE1w160
( ´_ゝ`)「だってさー、俺らや向こうってべつに死傷者って数えてないしー」
( ´_ゝ`)「被害のでかさ加減からいってもせいぜい金しかないぜ?それも爆発してる車両は強奪したもんだし、武器はメンテナンス不要の粗悪品。たまに自分の頭撃ち抜く用。そして人件費なんてタダ同然」
( ´_ゝ`)「ここでいう機会費用ってなにか、おまえわかるか?」
(A^ν^)「はぁ…しなかったことに対するもしもの費用ですよね?ええと、この場合もし迎え撃たなかったら、その間何をしているか、ですか」
※詳しくはググろうね
( ´_ゝ`)「そう。そもそも作戦なんてないに等しいようなもんだろ。ごり押しのテロなんてやらかすからには、必ず目的がある。前線で戦ってるやつらは知らされてないけど、奥に中心人物なんて絶対いない。」
( ´_ゝ`)「意味がないから。これだけ大量に人も武器も反乱も備えてるのに?」
.
582
:
名も無きAAのようです
:2015/11/01(日) 21:07:08 ID:yXXE1w160
( ´_ゝ`)「だから向こうがやりたがってるのは、俺らが援軍を送るための道路を使えなくすること、それから最高司令官の足止め」
( ´_ゝ`)「つまり俺の足止めってこと」
( ´_ゝ`)「あー俺って優しいー。敬ってもいいよ」
(A^ν^)「ありがとうございます」
( ´_ゝ`)「だからおまえつまんねぇんだわ」
(A^ν^)「」
( ´∀`)「しかし、いいのかね?それだけわかっていながら、なぜ対処をとらない」
( ´_ゝ`)「だってべつに、本気になるようなことじゃないし」
(A^ν^)「いやいや、武器取られちゃったら不味いですよ。うちの製品ただでさえ国際的に非難浴びてるんですから、」
( ´_ゝ`)「また作ればいいし。」
( ´∀`)「反乱は必ず鎮圧できるという自信かね?いずれ足元を掬われるぞ。どれほど会社が優れていても、少数は不利ではないか」
.
583
:
名も無きAAのようです
:2015/11/01(日) 21:07:56 ID:yXXE1w160
( ´_ゝ`)「いやだってさ。いったじゃん。出国と入国は俺が管理してるって」
( ´_ゝ`)「そもそも、誰もここから出す気なんてないよ」
( ´_ゝ`)「人間は減らさなきゃってさっき言ってたやん」
( ´_ゝ`)「おんなじ意見なんだよね。うちのとこもさ」
( ´∀`)「余裕があるということか」
( ´_ゝ`)「生きてここから出さないってこと」
( ´_ゝ`)「そいつがなんであれ、絶対ね」
.
584
:
名も無きAAのようです
:2015/11/01(日) 21:09:42 ID:yXXE1w160
.
585
:
名も無きAAのようです
:2015/11/01(日) 21:10:27 ID:yXXE1w160
食事の時間が好きじゃなかった。
それは食事ではなく、ただの補給だったから。
個体によって栄養素も取り入れる薬も違う。病院食ですらない。
経口摂取さえできなく、直接チューブで点滴を流し込まれる者もいた。
そんな彼らにとって補給は憂鬱な時間だった。しかしごくわずかに、鈍くとも味覚を形成された者たちがいる。
甘みに苦み。それだけしか感じ取られないが、食べることの楽しみを得ることはできた。
.
586
:
名も無きAAのようです
:2015/11/01(日) 21:11:19 ID:yXXE1w160
「……おいしい?」
川*゚ー゚)「うん!」
ただ用意されるのは最低限の固形。
言い換えれば残飯。
職員の廃棄される分を、適当に混ぜ込んだもの。
人の食事のように配慮されていないのは当然。
いくつもの種類がひとつの鍋に捨てられた自分には口にすることができないほど、悪臭が強い。酸っぱい匂いが鼻につく。
しかし味覚や嗅覚が発達していない個体には、それでも十分味がするご飯なのだ。
無臭の流動食や、味のしない錠剤よりもましな。
.
587
:
名も無きAAのようです
:2015/11/01(日) 21:12:08 ID:yXXE1w160
「……お皿がほしいね」
川*゚ー゚)「?なんで」
「スプーンをもらってこれば、汚れないですむから」
川*゚ー゚)「へんなの!あとで洗えるよ」
明るく、屈託ない顔で彼女は笑う。
どろどろに混ざった、元がなにか判別ができないモノで顔や手を汚している。手づかみで水っぽさのある“食事”を取っている。
食べずらくなれば、直接鍋に顔をつっこんだ。異常ではない。
ここではこれが当たり前の風景だった。ただ職員と食事をともにする自分しか、本当のことを知らない。
伝えることも難しい。
皿があってもスプーンがあっても、
きっとみな使わないだろう。
必要に迫られることがないから。
.
588
:
名も無きAAのようです
:2015/11/01(日) 21:12:51 ID:yXXE1w160
「ごめんね。タオルがあればよかったんだけど」
川*゚ー゚)「べつにいいもん」
「そしたら拭いてあげられたのに」
川*゚ー゚)「どうして拭くの?」
それが人だから。
.
589
:
名も無きAAのようです
:2015/11/01(日) 21:13:40 ID:yXXE1w160
けれど言葉はでなかった。��
彼女たちは、そのカテゴリに属していない。
.
590
:
名も無きAAのようです
:2015/11/01(日) 21:14:28 ID:yXXE1w160
「おいで××××。いいものをみせてあげようか」
いくつもある使用されていない部屋のひとつに、こっそりと引き込まれる。
素直に従った。
まわりに誰も居なかった。
この場合の意味の誰も、に仲間は含まれない。
男を止めてくれるような施設の職員は誰もいなかった。
毎回自分だけが連れていかれる。仲間たちには妬まれたり、うらやましがられた。
彼らは本当に楽しい思いをしているのだと信じているのだった。
だから相談もむずかしい。
なにをされ慣れているのか、いまだ深くはわかっていない
.
591
:
名も無きAAのようです
:2015/11/01(日) 21:15:13 ID:yXXE1w160
撫でられるような声で、囁かれるのは危険信号だ。
支配者からの、機嫌をとるような態度は不振しかない。
けれど気づいていないふりをして、頷いた。
慕っているようにこちらが示せば、危害は加えられない。
その代わりにひどいことをされる。
「おまえは綺麗だ、美しい。神がつくりたもうた、最上の生き物だ。」
研究員はひざまずいて、つま先に唇を落とす。��
恍惚に近い顔でうっとりと見つめられた。彼の場合はまだいい。
じっとしていればじきに解放される。少なくとも、肉体的な損傷はなかった。
.
592
:
名も無きAAのようです
:2015/11/01(日) 21:16:03 ID:yXXE1w160
「大人になる日が待ち遠しいね。おまえは世界で一番、幸せな××になるんだろう」
ひもで閉じるだけの簡易な服。室内の温度は一定にたもたれているから、それだけで不安はない。
それなのに、いつも過ごしている衣服なのに、心もとない気分にさせられる。なぜだろう。男の手が入ってくるからだ。
豊かで、脂肪あふれた太い指が、でぃの足をのぼってくる。
ただ撫でているだけなのに、走り出したくなるのはなぜだろう。
打たれるわけでも、つねられるわけでもなく、ただねっとりと肌に触れる。
男の手が汗ばんでいるからだ。
だからこんなにも気持ちが悪い。
湿った手が、乾いた皮膚を濡らしていくから。
.
593
:
名も無きAAのようです
:2015/11/01(日) 21:16:48 ID:yXXE1w160
「なにをみせてくれるの?」
押しとどめるようにして聞いた。
声はふるえていないだろうか。
動揺をみせてはいけない。
隙があれば、そこを突かれてしまう。撫でていた手が動きをとめ、なり惜しそうに足から離れていく。
ものすごく、安堵した。
理由は知らないが、彼らは中身にまで触れてはいけなかった。
他の個体は服を剥がされて、臓器のなかまで覗かれるから、それは破格の扱いだ。自分でも理解している。
優しく。穏やかに。いやがらない。
嬉しそうに。懐いているように。
そうやって振る舞わなければいけない。��
でないと扱いがひどくなる。
.
594
:
名も無きAAのようです
:2015/11/01(日) 21:17:32 ID:yXXE1w160
「ああ……ほら。ずいぶんまえに、寝物語をみんなで聞いただろう。あれを見せてやろうと思ってね」
言い訳の言葉。ついでの説明だ。
そんなものは挿し絵でさんざん見たし、スクリーンに現れるような画像はもう見飽きている。
それでも笑顔をつくって、喜んだふりをした。
「ほんと?みたい」
でないと続きが行われる。
無邪気にそう促す。
「ああいいよ。記録的なニュースにもにもなったから、めずらしいと思ってね。ほんとは外の出来事を流しちゃいけないんだけど、おまえは誰かに言ったりしないだろう」
男はどこか自慢げに、こちらを伺うように言った。どこかさげすみの感情をもって知性をひけらした。
彼はなにも知らないままの無垢だと思っている。
.
595
:
名も無きAAのようです
:2015/11/01(日) 21:18:14 ID:yXXE1w160
こちらは職員のアカウントをいくつも記憶しているのに。
手元の打ち込みを盗み見た。
指紋認証とユーザーとパスコード。
自在に使えれば、どこの部屋にもいける。外につながるドアにもくぐれる。思惑を押し隠し、はやくとねだる。
急かされて男はまんざらでもないように、映像を取得する。
そしてそれは映し出された。
しかし予想外の映写で、期待していなかっただけに、息がつまる。
食い入るように、目を見開いた。
「……これなに?」
「千年にいちど、あるかないかの風景だそうだ。美しいだろう?」
「うん……」
「そうだろう。雨の降らない砂漠に、こんな奇跡があるんだ。世界はまだまだ、驚きに満ちているよ。まるでおまえのようじゃないか」
.
596
:
名も無きAAのようです
:2015/11/01(日) 21:19:05 ID:yXXE1w160
崇拝するように拝まれることもある。
しかし逆に、わわけもわからず毛嫌いされることもあった。
ふたつにどんな違いがあるのかわからない。思考の違い。
人間の違い。男女の区別。わかっているのは、両方ともこちらを特別とみなしていることだ。善くも、悪くとも。
.
597
:
名も無きAAのようです
:2015/11/01(日) 21:20:19 ID:yXXE1w160
ミ,゚Д゚彡「おい」
「……っ」
腕を捕まれ、強く握られる。そこには気遣いなどない。
殴られないのは単純に手を痛めることと、実験最中の個体への配慮のためだ。
期間が終了すればなにをされるかわからない。低い恫喝に、いつも本気で怯える。
彼らの悪意は怖かった。
嫌いを越えて、いつも憎まれている。
理由を知らないから、なおさらに。
研究員と部屋から出たのを見られてしまった。詰め寄られる。
明確な悪さなどしていないのに。
この男はいつも、自分ばかり責め立てる。
.
598
:
名も無きAAのようです
:2015/11/01(日) 21:21:22 ID:yXXE1w160
ミ,゚Д゚彡
二人きりで部屋にいったな。なにをしてたんだ?」
答えそうになって、口をつぐんだ。
映像のことは黙っている約束だ。
ばれたら二人とも不幸になる。
しかしその様子は、この男にある疑いを抱かせた。
そして発想は簡単に飛躍する。
ミ,,゚Д゚彡「言わないつもりか。言えないような何かをしていたんだな?汚わらしい!!だからおまえはだめなんだ、人を堕落させる!」
「だらく?」
ミ,゚Д゚彡「そうだ。正常ではない。歪だ。この世の正常ではないから、おまえのせいで道を間違えるやつがでてくるんだ。なんて恐ろしい」
「やだ……はなして!」
.
599
:
名も無きAAのようです
:2015/11/01(日) 21:22:11 ID:yXXE1w160
ミ,゚Д゚彡「なにをされた?話すんだ。でないと仕置きだぞ。
なんのためにみながおまえを待っているんだと思うんだ!まともじゃない子宮を使ってまで、世界に貢献しないといけないんだぞ!」
「わからないよ。なにを言ってるの」
ミ,゚Д゚彡「歪んだ生まれだがおまえ自身が汚れてしまえば元も子もない。さあ、ちゃんとされたことを話すんだ。あの男は処分される。もうおまえに近づくこともない。だから言え。×××を握ったか?足を開いたのか?」
ミ,゚Д゚彡「それともおまえから誘ったのか?この悪魔め!」
恐怖に襲われ、抵抗した。すねを蹴って、逃げ出す。
他の個体と違って獣相がなくとも、運動もトレーニングもない研究職の男に比べれば筋肉はついている。
.
600
:
名も無きAAのようです
:2015/11/01(日) 21:22:54 ID:yXXE1w160
反抗に驚いた隙に手を振り払って全力で走った。
仲間の誰よりも人間に近くとも、人よりも体は優れているはずだ。
いつもそのように言われている。
長く。ひたすら長く続く廊下を許されている範囲内で走りまわる。
追いかけてはこないようだった。
それでもまだ不安で、観察用の植物園にと向かう。
.
601
:
名も無きAAのようです
:2015/11/01(日) 21:23:40 ID:yXXE1w160
天井がガラス張りで、夜でも日射がある。
葉の大きい植物や木々がいくつも繁茂していて、イグアナ種の個体たちの楽園場所だった。
隠れ場所に向いている。
他の部屋に比べて、少なくとも探す時間くらいは稼げる。
背丈のながい草にうずまり、震えながら身を隠した。
悪意は怖い。好意はどこかそら恐ろしい。
学んだことは、回避の方法だけ。
.
602
:
名も無きAAのようです
:2015/11/01(日) 21:27:46 ID:yXXE1w160
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603
:
名も無きAAのようです
:2015/11/01(日) 21:28:36 ID:yXXE1w160
('A`)
さっとパネルに指を滑らせると、経路案内の画面がでる。
路線の色合いを確認し、無線で暗号化したデータを飛ばす。使用しているのはほとんどがきちんとしたまともな製品だ。
違法改造さえしなければ誰でも使える。登録した持ち主はすでに変わっているが。
喉がかわいたのでボトルの首を割って、コップに注いだ。
打ち付け、ガラスの割れた音が静かな部屋のなかに響いたが、誰も反応することはない。
色褪せたソファやシーツのないスプリングベッドの上には死体のような女たちが転がっている。
.
604
:
名も無きAAのようです
:2015/11/01(日) 21:29:29 ID:yXXE1w160
ξ ⊿ )ξ
川 д 川
|゚ノ ∀ )
彼女たちはみな恍惚に眠り込んでいる。
客をとるために起きている時よりも、幸せな夢のなかにいる時間のほうが長い。
男たちもそれに慣れ、反応のないまま犯すこともあった。
つまらなくとも、早く済む。
('A`)「陽動に気づかれてるか…」
ひとり呟く。
管制の司令官はそれなりにキレるらしい。しかし拠点までバレているわけではない。そのまま続行する。
傭兵団の役割のまま、あくまでもレジスタンスを貫く。この国の人間でなくとも。
.
605
:
名も無きAAのようです
:2015/11/01(日) 21:30:11 ID:yXXE1w160
('A`)「鼻が聞かないタイプねぇ…欲をいえばセオリー通りで居てほしいんだが、どんなんだろうな」
('A`)「お帰り」
('A`)「楽しかったかい?」
彼は背後の存在に声をかけた。
気配なく、いつ立たれたのかもわからないが、そこにいるだろうという予測があった。
.
606
:
名も無きAAのようです
:2015/11/01(日) 21:30:51 ID:yXXE1w160
薄暗い電球の下、闇の深い場所から影が形になり、体躯のよいなにかが現れる。
それは一部の隙間なく、プロテクト・スーツに覆われていた。顔もわからない。
しかしわからなくともいい。人間の記号を、この男は持っていない。
('A`)「なにか飯でも食うか?女ならそこにいるし、酒も腐るほどあるが、おや?」
ドクオは男が脇に抱えたものに気がついた。
最低限の衣食住しか欲しないこの男が、なにやら訳のありそうな人間を持っている。
('A`)「なにか新しい情報でも手に入ったのか?」
しかし男は黙ったまま、持ち物を渡すこともなかった。自分のたちへの手土産ではなさそうだ。
.
607
:
名も無きAAのようです
:2015/11/01(日) 21:31:48 ID:yXXE1w160
('A`)「……部屋を用意させようか?」
男はしっかりと意思表示した。
首を降って。NOの意味。
つまりはこれは男の獲物であり所有するということだ。
ドクオは乾いた笑みを浮かべる。
狂人の頭のなかなど理解不能だ。
女ならばまだ分かりやすいものを。
抱えられている人間は、特別美しいというものではない。見るからに凡庸だった。
しかしこの男が望むのなら、叶えてやらないと。
獣を飼うのは、飴だけが必要だ。
手に負えない相手に鞭は振るえない。
.
608
:
名も無きAAのようです
:2015/11/01(日) 21:32:46 ID:yXXE1w160
('A`)「じゃあ早く連れてってやんな」
しかし男は動かない。
プロテクターのアイサイトレンズから、ドクオをじっと見ている。
なにか訴えたいことがあるのだ。
それを探るのはいつもならば、手間だったが、この時は簡単だった。
('A`)「心配しなくとも、取りゃしないよ。傷つけたりもしないさ」
おまえがいる限りな
男が仲間でいる間なら、そのためにいくらでも機嫌をとる。いま意識のない手土産が、たとえ拒絶したとしても。
言うことを聞かせる薬ならあった。
.
609
:
名も無きAAのようです
:2015/11/01(日) 21:33:29 ID:yXXE1w160
ドクオの言質を取ると、男は再び重さの感じられない足取りですっと闇に消えた。
跳んだのだ。音をたてず、俊敏に。
窓から野外にでて、屋根をいくつも経由した離れにと帰った。
たどり着くまでに、人では時間がかかる。梯子もなにもないので、ひとりでは降りられない。
連れられた人間は、目を覚ましても逃げることはできないはずだ。
一段落ついて、ドクオはようやく緊張をといた。
表情にも仕草にも出さないようにしていたが、銃の効かない相手というのは身構える。殺す手立てがないのは絶望だった。
仲間にできて、本当によかった。
.
610
:
名も無きAAのようです
:2015/11/01(日) 21:34:21 ID:yXXE1w160
('A`)「おっかねぇ」
('A`)「あの人間、食うのかな」
離れが汚れてしまえば、掃除屋が必要になる。
いまのうちに予約をとっておくか、とのんきにwebサービスを開いた。
血や内臓が腐れば、内装が使い物にならなくなる。
.
611
:
名も無きAAのようです
:2015/11/01(日) 21:52:12 ID:yXXE1w160
「月は男神にも女神にもたとえられる。国によってはさまざまだがな。
しかし、だからこそふさわしい名だと思ったのだよ」
「おもしろいのは、多くの国々では、太陽は男なんだ。荒々しく照りつける。日照りに乾き、古くから、日射は恵みと同時に飢えを招きよせた。
それが雄々しい男神のように思えたの
だろう。月はやさしく夜をひっそりと照らす。そこに女人をみたのだ。アポロンやアルテミスがメジャーなのも、そういうことだろう。」
.
612
:
名も無きAAのようです
:2015/11/01(日) 21:53:08 ID:yXXE1w160
「ただアジアの島国だけは異なる。
長らく鎖国状態だったからか、そっくり反対なのだ。アマテラス大神とツクヨミのミコト。このふたりは兄弟だが、太陽神が姉だ。女人であっても、太陽であるから男よりも格が高い。」
「どちらでもあるおまえにふさわしいものはなんだろうか。ただの連番を区別のために呼ぶのも味気ないだろう。これほど生き物として最適に進化する種の、初代なのだからな。おまえは母であり、父である。」
「アルテミスであり、アポロンなのだ。」
「ゆえに美を象徴する女神から名をもらい、月を意味する言葉にした」
「うつくしいだろう?××××」
.
613
:
名も無きAAのようです
:2015/11/01(日) 21:53:57 ID:yXXE1w160
悲鳴のような声をあげかけて、目をさました。
心臓が早鐘を打っている。どくどくとうるさく、それで夢のなかのできごとを払拭する。
(#゚;;-゚)「は、は、……」
今しがたまで、支配する声がそばにあった。おきが上がり、そんなものはないのだと確認する。
誰もいないはずだ。
でぃはひたすら、自由のはずだった。そばに伸びる手がないのに安心する。
落ち着きかけて、現状に気がついた。
ここは、どこだ。
.
614
:
名も無きAAのようです
:2015/11/01(日) 21:54:57 ID:yXXE1w160
散らかった室内。
布ばかりが積み重なっている。電灯もなく、あばら家といった風情だった。
人が生活する様式がまったくない。
板を張られたようなせまい壁が四方にあり、中心にでぃは寝ていた。
積まれた布を被り、子供が布団をかぶるように。
(#゚;;-゚)「ワタナベ……は?」
なにがあったのか、直前までの記憶は抜け落ちている。
襲われた直後、でぃは全体を知るまえに意識をなくした。
その後を知らない
恐る恐る、小屋から出ようと試みる。
取ってのあるドアのおかげで、閉じ込められているとは思わなかった。隔離部屋は、内側からは開かない。
ドア事態は簡単にひらいた。
.
615
:
名も無きAAのようです
:2015/11/01(日) 21:55:39 ID:yXXE1w160
(#゚;;-゚)「え、……」
しかし一歩踏み出すことはできない。
床がなかった。
天上の楼閣のように、その部屋は下界から上にある。
見下ろせば、高いところの風が顔に吹き、髪を乱した。
人差し指で摘まめそうなほど、下にある家々はちいさかった。車なんておもちゃのようだ。
足がすくんでしまい、でぃはへたりこんだ。
高いところは嫌いだ。もうドアを開ける勇気もない。
.
616
:
名も無きAAのようです
:2015/11/01(日) 22:01:41 ID:yXXE1w160
(A^ν^)「それで、結局どうするんですか?」
( ´_ゝ`)「そうさなー、とりあえず集合させて、そこを叩く。」
(A^ν^)「じゃあ向かうんですね」
( ´_ゝ`)「いんや。積み荷やらなにやら狙いつけられてるんのがわかってるんだからさ、馬鹿正直にそこに行く必要ないっしょ」
( ´_ゝ`)「かといって向こうから来るわけもないし。空は押さえてるから、逃げるんなら海だな」
(A^ν^)「幾人か向かわせますか?でもそのぶん、ここの警備が薄くなってしまいますが…」
( ´_ゝ`)「向かわせるっちゃ向かわせるけど、別に俺らじゃねーよ」
(A^ν^)「へ?」
( ´_ゝ`)「いるじゃん。こんなときに、都合のいいのが。そのためにお金払ってるんだし」
(A^ν^)「……!ああ」
.
617
:
名も無きAAのようです
:2015/11/01(日) 22:02:45 ID:yXXE1w160
一時停止。
まとめ終わったらまたきます
618
:
名も無きAAのようです
:2015/11/02(月) 20:14:03 ID:5nTiP99M0
おつ
619
:
名も無きAAのようです
:2015/11/02(月) 21:03:59 ID:dnzKaTuw0
やったああああ!待ってたら来てた!
これから読んでくる!
620
:
名も無きAAのようです
:2015/11/06(金) 23:00:48 ID:Iajk2B0I0
ロマネスコ・アレクセーレフはこの国で傭兵団を率いている。
おおよそ治安の一定しない国特有の、力が法であり、秩序だった。
彼はロシアとメキシコのハーフであり、外見と同じように内部にも凍えた粛清を持っていた。傭兵団といえば聞こえはいいが、実際犯罪者の集団だ。
ただ金稼ぎと利権のためにとある会社と契約することもある。
.
621
:
名も無きAAのようです
:2015/11/06(金) 23:01:33 ID:Iajk2B0I0
生きていくためには金が必要だ。
そしてこの国ではユダヤのように、商人はまともに生きていけない。
傭兵と手を組み、互いに協定を結ぶことが前提になる。契約してさえいれば、襲われることはない。
それは観光客も含まれる。ツアー客でさえ、大手のパックに入っていないと、行方知らずは当然だった。
そのための自警団。
仕事を得るためには、仕事を作り出さないといけない。
.
622
:
名も無きAAのようです
:2015/11/06(金) 23:02:21 ID:Iajk2B0I0
そして彼らはもっとも実入りのいい仕事をつい最近見つけた。ビルが倒壊するほどの、大惨事。
被害はたいへんに大きかったが、この国の人間が受けた傷ではない。
みな冷静に、どれほどの儲けが出るかを考えた。株式は下がったはずだが、周辺地域の経済は活性化した。
混乱のさなか、めずらしく後手に回った企業の応対。傭兵団という兼業は、強盗に様変わりする。
たとえ登録されていない商品だろうと、分解して売却すれば金にはなる。
需要があり供給がある。
.
623
:
名も無きAAのようです
:2015/11/06(金) 23:03:02 ID:Iajk2B0I0
日常的に、そのような嗅覚が発達している者たち。束ねるためにも、ロマネスコは強面であり、タフガイであり、信頼されている。
彼らの傘下にいる限り、食いっぱぐれることはない。区域にもよるが、簡素な作りの銃も振る舞った。
銃を持てない者これに殺到した。
しかし、犯罪数が増えることはない。ある程度管理する社会のほうが、もめ事は少なかった。警察が機能していない以上、取り締まるのは彼らでもあるのだ。
.
624
:
名も無きAAのようです
:2015/11/06(金) 23:04:16 ID:Iajk2B0I0
この国は政治に混乱はないが、重要な役職をある一族に牛耳られている。
そのため国民が外貨を得るには、こういう事でなくば方法がない。正しくないと非難されるであろう行為だが、正しさだけでいえば企業が正義となる。
抑圧された国民たちは反乱を起こしてもよいはずだ。しかし国の多くが企業の技術に依存している現状。誰もが企業の顔色を伺うことに疑問を持たない。
撤退され不便になるのは、自分たちであるから。誰も難民にはなりたくはない。
国民は上手に飼い殺しにされていた。
飼われたくないのが、傭兵団だ。
立場上、自警団と呼んでもいい。
外資系に侵略されないがための。
.
625
:
名も無きAAのようです
:2015/11/06(金) 23:05:04 ID:Iajk2B0I0
そのためには法律が間違いであり、反抗することが正義だった。
そも、法とは強者のための、強者が制定したものである。
だからいつまでたっても、改正されない。
.
626
:
名も無きAAのようです
:2015/11/06(金) 23:14:44 ID:Iajk2B0I0
( ФωФ)「依頼かね」
( ´_ゝ`)「そーいうこと」
( ФωФ)「残党がまだ多い。我々がここを離れてしまうと、責めいる手数が増えるぞ。」
( ´_ゝ`)「べつにいいよ。突破されるわけじゃないし」
ロマネスコは傷のついた両眼で男を睨んだ。
( ФωФ)(……頭が悪そうなわけではないのに、このゆるさはなんだ)
.
627
:
名も無きAAのようです
:2015/11/06(金) 23:15:26 ID:Iajk2B0I0
ロマネスコは不機嫌な様子を隠さない。
彼にとってこの男は理解の範囲外にあった。
( ФωФ)「ならば早々に移動しよう。敵の予測の裏をかけば、襲撃もうまくいくだろう」
( ´_ゝ`)「ああ。でもべつに、強硬しなくてもいいからさ。威嚇行動になってればそれで」
( ФωФ)「叩かないのか?」
( ´_ゝ`)「だって一ヶ所に集めてからじゃないと漏らすし。面倒くさいじゃんちまちま削るの。」
( ФωФ)「そんな弱腰のうちでは侮られるぞ」
.
628
:
名も無きAAのようです
:2015/11/06(金) 23:17:13 ID:Iajk2B0I0
奇妙な胸騒ぎと、まるで見透かされているような態度。
どこか気味が悪い。この男の言葉には真あがない。どれも正しく、間違っているような気がする。
しかし言葉だけでみれば、ただの不精者。富にあぐらをかいただけの、企業の坊主。
しかし、先ほどから、契約途中の話し合いのさなか、この男がよい位置に来ることは一度もなかった。
ふらふらと、適当に部屋のなかに入り、ソファーに座り。だされた酒を飲む。
その間スナイパーは男の急所に狙いをつけることができない。
身体を揺らしたり、首を傾げたり、ソファーの背中に座ったりと、自由に動き回っている。
.
629
:
名も無きAAのようです
:2015/11/06(金) 23:18:15 ID:Iajk2B0I0
ロマネスコは部下に窓のひさしを閉じさせた。
これを偶然と考えるほどおめでたくはない。頭のゆるそうな男だが、隙というものがなかった。
しかし意識しているわりに、こちらからの出したものに口をつけるのも不気味だ。
本当に警戒しているのか、わからない。それが気味が悪い。
承知のうえで行っているのか。ただただ。運のよいだけの男か。
いいや、そんなものが、司令官であるはずがない。ロマネスコは己の認識を改めた。なにかある。
あるからこそ、これほど自分たちにとって都合のいい展開になるはずがない。
.
630
:
名も無きAAのようです
:2015/11/06(金) 23:18:56 ID:Iajk2B0I0
( ФωФ)「作戦概要があれば伝えてくれ。仲間を消耗させたくはない」
( ´_ゝ`)「これといったことはないなー。でもスーツ着た奴は無駄に追いかけなくていいぜ」
( ФωФ)「なぜだ。あれが一番、目障りではないか」
( ´_ゝ`)「行動が読みやすい。近場にいるなら、問題が起きてるのは遠くのほうだ。」
( ФωФ)「というと」
( ´_ゝ`)「そのまんまだよ」
( ФωФ)「……」
.
631
:
名も無きAAのようです
:2015/11/06(金) 23:19:41 ID:Iajk2B0I0
ロマネスコは黙る。
男もそれ以上口にしなかった。
パワーゲームを真似るつもりはなかったが、あれこれ口にすれば無知のようにも見られ、また相手に疑問を持たれる。
所有権を渡したまま素直に承諾したほうが疑いは少ない。
どれほど気がついているのか、さぐりを入れたかったが、それ以上は難しい。
駆け引きなのか、そうでないのか。
見分けるのが困難な時は乗ってはいけない。
632
:
名も無きAAのようです
:2015/11/06(金) 23:20:23 ID:Iajk2B0I0
( ФωФ)「それだけか」
( ´_ゝ`)「うん」
( ФωФ)「では我々は仕事をしよう」
( ´_ゝ`)「……うん?」
( ФωФ)「我々が居なくなったぶん、負担が増えるだろうが、それで潰されるお前たちではないだろう。」
( ФωФ)「せいぜい足止めを踏ん張るのだな。勝手に死ぬのではないぞ。契約中なのだ。金がもらえん」
( ´_ゝ`)「あー、うん、まぁ」
.
633
:
名も無きAAのようです
:2015/11/06(金) 23:22:55 ID:Iajk2B0I0
協力体制。裏切りと罠。ロマネスコは腹芸が得意というわけでなく。
嘘を言わない代わりに真実も言わない。味方のふりをしているだけだ。
ただあまりに厳しい対応では、見限られるし信用されない。
実直で真面目な見方をされれば幸いだった。
( ФωФ)「少し警備のために残していくか?」
( ´_ゝ`)「いや、べつに……」
残念だ。警護と称して見張りをつけられたのに。
案じているふりをして、手を休めるようにと警告をする。
あわよくば、そのまま逃げ切れるかもしれない。
.
634
:
名も無きAAのようです
:2015/11/06(金) 23:23:54 ID:Iajk2B0I0
( ФωФ)「同じことを繰り返すが、撃退せよとは言わん。ただいまの現状で追撃するのは控えるんだな。
破れかぶれになった奴が特攻すれば、どんなに厳重でも死なない保証などない。ここの人間ほど、テロをやり慣れているものなどいないのだ」
( ´_ゝ`)「お、おう」
( ФωФ)「我々はいずれ革命軍となる。お前たちと連携しなくばならんのだ。その時まで生きていてとらわんと困るのでな」
あやふやな将来だが、目的は間違っていない。利権さえ得られれば、それで安泰。
ロマネスコが治める一体が、豊かであれさえすればよかった。
裏切りの裏切り。ドクオとの共闘が終われば、次はまた敵になるかもしれない。
そのときに背後を守る存在が必要だった。
.
635
:
名も無きAAのようです
:2015/11/06(金) 23:24:49 ID:Iajk2B0I0
ある程度まで信頼させる。
傭兵団の使い勝手のよさ。社会の裏の秩序を保っているのは、ロマネスコたちだという自信がある。
ロマネスコ・アレクセーレフはそういう男だ。
東西冷戦の時代のように。同盟と嘘と裏切りは、使い分けるためにある。
( ´_ゝ`)「……」
( ´_ゝ`)「え?フラグ?……」
.
636
:
名も無きAAのようです
:2015/11/06(金) 23:26:29 ID:Iajk2B0I0
.
637
:
名も無きAAのようです
:2015/11/06(金) 23:27:12 ID:Iajk2B0I0
('A`)「それでビビって逃げ帰ってきたわけかよ」
( ФωФ)「恐れてなどいない。ただ気味が悪かっただけだ」
('A`)「なにがだよ。飄々としたような奴なんだろ?扱い易そうじゃないか」
2台のトラックを、擦れ違うようにして挟む。二人は別の車両に乗って、窓から会話していた。
交通量の少ない、視界も限れる道路の脇に寄せる。通信手段は、この国では覗かれても文句は言えない。
厳重にカギをかけたとしても、製造元の管理は現在の敵だ。
うかつに受信されてはならない内容。確実な密談はいまだにアナログが有効だった。
.
638
:
名も無きAAのようです
:2015/11/06(金) 23:28:06 ID:Iajk2B0I0
( ФωФ)「あれは扱いやすいわけではないぞ。対面しなければ、あの気持ち悪さはわからん」
('A`)「どうだか。そっちはただの人間だろう?」
('A`)「こっちのほうが得体がしれねぇぜ」
( ФωФ)「しかし、扱いのほうは難しくなさそうだな」
('A`)「わからねぇよ。キレさせた時のこと考えるとな。爆発物なみの慎重さで対応してるが」
( ФωФ)「そうか。こちらの方は一応、手出しは控えるようにと苦言を刺しておいた」
('A`)「素直に聞いたか?」
( ФωФ)「恐らくは。ただ気づかれているのか、いないのかの判断がつかない。どれほど特攻しても、まるで被害がないというような顔をしている」
.
639
:
名も無きAAのようです
:2015/11/06(金) 23:28:48 ID:Iajk2B0I0
('A`)「なるほど。そいつはたしかに気味が悪い。どっちかわからないんだな?」
( ФωФ)「ああ。軍なら除隊じゃすまさない」
( ФωФ)「どちらでもいいとは、そういうことだろう」
('A`)「やつら、なにか企ててるんじゃないのか」
( ФωФ)「その様子も見られないから、気味が悪いのだ。ゲリラ戦に対して、防衛はするものの迎撃にこない」
( ФωФ)「俺が言うまえから、そのようなスタンスだった」
('A`)「ふぅん。そりゃ、おかしな話だ」
( ФωФ)「……」
('A`)「なんだよ?」
( ФωФ)「あの子どもたち、どうなった?」
.
640
:
名も無きAAのようです
:2015/11/06(金) 23:29:41 ID:Iajk2B0I0
ロマネスコが尋ねたのは、スラムから拾われてきた少年兵たちのことだ。
彼らの多くは仕事を得るために銃を持たされる。そして教育された。
ロマネスコは少年兵の存在を憂いたわけではない。
ただ彼らは、この国の人間である。
ロマネスコが収める地域での、将来は一員であったかもしれない存在だった。
('A`)「……生きてるのも、いる」
( ФωФ)「……見せしめか」
('A`)「冗談やめろ、って思わず笑っちまったぜ」
('A`)「まさか躊躇なく撃って来るたぁな思いもしなかった」
.
641
:
名も無きAAのようです
:2015/11/06(金) 23:30:37 ID:Iajk2B0I0
ドクオが乾いた笑みを浮かべる。
どこか自嘲めいていて、ロマネスコはそれでこの男を信用に足りると判断した。
何を惜しむかの価値観は似ていなければ協力はとれない。背中を預けることもできない。
そしてひとつのことに気がつく。
( ФωФ)「そこだ」
( ФωФ)「奴らには慈悲がない。容赦さえもない。我々を人だと、思ってすらないのだ。この国はもう我らの国ではない」
( ФωФ)「武器を持たされた子供を、衆人の目のまえで残酷に射殺した」
( ФωФ)「なのにこちらがわからの攻撃に、焦りが見られない。余裕がないからこそ、あそこまで配慮なくやれたのではないのか?事実、いまは誰もが我々を支持している。それもあの一斉射撃があってこそだ」
巨大な勢力と反乱。
弱者を踏みにじる様子は誰もの怒りと反発を招く。
大使館は沈黙しているが、表だっていないだけで、このやり方に賛成というわけではないはずだ。
.
642
:
名も無きAAのようです
:2015/11/06(金) 23:32:39 ID:Iajk2B0I0
( ФωФ)「矛盾している。なにか、なにがある。いまここで、我々を殲滅しないだけのなにかが」
口に出せばその考えはかちりとはまった。
不気味に沈黙し始めた、敵の様子にしっくりと来る。
ただそのなにか、が分からない。
('A`)「……潮時だな。最後のコンテナを運べたら、俺は引き上げる。この国からな」
('A`)「おまえも考えたほうがいい。まともな奴は、こんなところで生きられない」
( ФωФ)「……」
ロマネスコはしばし沈黙した。この男から愁傷な言葉を聞くことになるとは。
( ФωФ)「それは惜しまれていると、考えてもいいのか」
('A`)「そうだ」
('A`)「ここにゃなんたって、あるべきものがない」
.
643
:
名も無きAAのようです
:2015/11/06(金) 23:33:31 ID:Iajk2B0I0
('A`)「先進国のふりをしているのに、法律が機能してない」
( ФωФ)「ああ……独占禁止法、消費者法……」
('A`)「それだけじゃないさ」
ドクオはそこで初めて哀れみを見せた。諸外国から来た男の、偽りない同情。
この国の生まれでは、持ち得ない世界観。
生まれた時から、管理された肥溜めに生きる気分はどうだ?
('A`)「たぶん倫理観。豊かなのに、餓えることなんてないのに」
品物はある。作物も。輸入も頻繁で、国は、国だけは豊かだった。
ただ、下位のものが、それを入手する手だてがない。
奪うことでしか。
ドクオは当たり前のことを口にした。
.
644
:
名も無きAAのようです
:2015/11/06(金) 23:34:12 ID:Iajk2B0I0
('A`)「人が死ぬことが日課になっている」
( ФωФ)「外は違うのか」
('A`)「……少なくとも、意識はある」
( ФωФ)「意識?」
('A`)「犯罪という、意識がな」
('A`)「ここにはそれがない。」
('A`)「意識がないから、問題にさえならないだろう」
( ФωФ)「よくわからんな」
('A`)「まぁな。本当はどこかの、えらい学者さんが言うべきなんだろう」
('A`)「俺みたいなのがそう思うくらいに、この国は歪んでるんだ」
.
645
:
名も無きAAのようです
:2015/11/06(金) 23:35:05 ID:Iajk2B0I0
( ФωФ)「だから我々は戦っている。いずれ国を取り返すさ」
('A`)「……そうじゃないんだよなぁ。なんてーかさ、」
('A`)「救われたいとか、思ってないのが問題なんだよ
」
.
646
:
名も無きAAのようです
:2015/11/06(金) 23:38:04 ID:Iajk2B0I0
.
647
:
名も無きAAのようです
:2015/11/06(金) 23:39:48 ID:Iajk2B0I0
( ´_ゝ`)「そんで?」
( ´∀`)「なにがだ」
( ´_ゝ`)「話の続き。まだあるだろ。その重大なプロジェクトは、なぜ未完のまま放置されてたんだ?」
( ´∀`)「……なに、簡単なことさ。」
( ´∀`)「時間が足りなかったんだよ」
( ´_ゝ`)「そういや年数たつのを待ってたって言ってたな。なんでだ?」
( ´_ゝ`)「いくらでも、好きなように育てられただろうに」
.
648
:
名も無きAAのようです
:2015/11/06(金) 23:40:38 ID:Iajk2B0I0
試験管のなかのホムンクルス(人工生命)
生まれたての成人
設定され、カスタムされる身体。
年数を待つことなどない。ただ老化を促進させ、望みの姿で止めればいい。
命を弄ることに抵抗もなく。技術がありながらなぜ、行わなかったのか。
純粋な疑問を兄者が尋ねる。
( ´∀`)「まあ意識の違いだ。できるだけ自然に育つことを待っていたのだ。弄ればいろいろと噛み合わないこともある」
( ´∀`)「脳の作用や筋肉の発達、神経系の影響、成長ホルモンの過剰分泌。
メンテナンスが難しく、完全にコントロールできないのならば、やはり時間をかけてでも穏やかに進めたほうがいい」
( ´∀`)「なにせ、失敗はできないからな」
( ´_ゝ`)「なんで?」
間違えたのなら、やりなおせばいいのでは?
.
649
:
名も無きAAのようです
:2015/11/06(金) 23:41:24 ID:Iajk2B0I0
( ´∀`)「突然変異とは、進化だと思うか?」
( ´_ゝ`)「また講義?学説では、枝のように別れた可能性の一つ。ただ、それが大多数ではないかぎりに、一代のみの変種であることが前提だったような」
( ´∀`)「さすがに、よく知っている。ヒトノゲムを解析した遺伝子実験の果てに、わたしはたどり着いたのだ。」
( ´∀`)「種の起源とも言えるべきものにね」
( ´_ゝ`)「大袈裟な」
( ´∀`)「なにを言う。真面目に主張するさ。有性生殖を繰り返して進化してきた歴史を真っ向からひっくり返すほどの衝撃なのだぞ」
.
650
:
名も無きAAのようです
:2015/11/06(金) 23:42:11 ID:Iajk2B0I0
( ´∀`)「そも、
子を生むのが片方だけというのはじつに効率が悪いとは思わんかね?」
( ´_ゝ`)「男が妊娠する世界のほうが狂喜だろうがよ」
( ´∀`)「否定はしない。わたしもそう思う」
( ´∀`)「ただ少し考えてみてくれ。両性を持つ者がいたら、どうなのかと」
( ´_ゝ`)「両性具有、半陰陽?」
( ´∀`)「none、それは染色体に原因があるから母体のホルモンが影響する場合だ。
」
( ´∀`)「わたしのは違う」
( ´∀`)「哺乳類動物、ヒト科の、完全なる両性体だ」
.
651
:
名も無きAAのようです
:2015/11/06(金) 23:43:17 ID:Iajk2B0I0
( ´_ゝ`)「……逆に聞きたいんだけどさ」
( ´_ゝ`)「なんでそれがうまくいくと思ったの?」
( ´∀`)「固定概念を捨てることだ。むしろ。あらゆることに対して、うまくいく」
( ´_ゝ`)「生理的嫌悪は理性で抑えることはできないよ」
( ´_ゝ`)「第三の性別みたいなもんだろそれ」
( ´∀`)「いや、それの問題は克服ずみでもある」
( ´∀`)「ヒトに好かれる、というのは特別な才能でな。ごくまれに反発する者が居たとしても、大多数に受け入れられたならば、問題はないのだ」
( ´∀`)「悪魔的に、あれはそういうことが上手だった」
.
652
:
名も無きAAのようです
:2015/11/06(金) 23:44:34 ID:Iajk2B0I0
( ´_ゝ`)「ふぅん。そういや捜索すんのに具体的なこと聞いてなかったな」
( ´_ゝ`)「どんな奴なんだ?その成功例って」
( ´∀`)「外見ならばデータに残っているはずだ。サルベージできる。必要なのは特性か?」
( ´_ゝ`)「そうだな。メンタルと習性を教えてくれれば、それで範囲の特定ができるし」
( ´∀`)「ふむ……」
( ´∀`)「自らは動かずに、他人の手を使って行動する。好まれると言ったろう。そういうことに長けている」
( ´_ゝ`)「珍しいな。命令主体型じゃないのか」
( ´∀`)「蝶よ花よと育てあげたらな、いつの間にか人を利用することを覚えよった。逃げたのも、たらしこんだからだ」
.
653
:
名も無きAAのようです
:2015/11/06(金) 23:45:24 ID:Iajk2B0I0
( ´_ゝ`)「ああ。じゃあ潜伏先もすぐわかる。ここで居場所のない奴を匿うなんて、限られるしな」
( ´∀`)「いや。恐らく見つけるのは難しいな。たぶん庇われているはずだ」
( ´_ゝ`)「?愛人とかなら、新顔を検索することもできるけど」
( ´∀`)「そうではない。先も言ったが、あれは好かれるだけではないのだ。本人の特性ゆえか、そういう風に生まれたのか」
( ´∀`)「ひたすらに、ただ愛されるのだ」
( ´∀`)「愛しかたに、違いはあれどな」
( ´_ゝ`)「コミュニケーションレベルが高く、他人の支配がうまいってこと?」
( ´∀`)「そうだ。そしてそれは無自覚な献身に変わる」
.
654
:
名も無きAAのようです
:2015/11/06(金) 23:46:05 ID:Iajk2B0I0
( ´∀`)「身代わりになってでも、庇ってやろうとする。あれを救うために」
( ´_ゝ`)「なんか精神病質者みたいだな。嘘がうまく、人に頼るのが得意で、自己中心的にしかものを考えられない」
( ´∀`)「それも、生き残るためだけにだ」
( ´∀`)「あれのために40年費やした。簡単に死なれては困る。」
( ´_ゝ`)「確かに、争いあってもその輪から外れていれば危険は少ない」
( ´_ゝ`)「しかし不思議だな。庇護される生き物に、自分からなったってこと?」
( ´∀`)「それも無意識に。そのように育ったのだ。どれほどわたしが歓喜したか、わかるだろう?」
( ´∀`)「この世で生物の頂点は人間だ。そのために、人間を攻略することとなった。これもまた進化なのだよ」
.
655
:
名も無きAAのようです
:2015/11/06(金) 23:46:56 ID:Iajk2B0I0
( ´_ゝ`)「外見的特徴に、特別なものは?平均的美格数値とか」
( ´∀`)「特にない。強いて言えば美形ということだが、そんなものありふれている」
( ´_ゝ`)「たしかに」
シリーズ、ナンバーズ、その他の人工的生命体。共通しているのは、平均的な造形があるということ。個性的な面というものは、あまりない。量産される人形たち。
( ´∀`)「昔は羽根を背中につけた愛玩生物が人気だったんだが、すぐに生産は中止になった。」
( ´∀`)「人気がいまひとつでな。鳥の習性をそっくり真似るうえに、感情表現が豊かではなかった。天使を眺めるのはいいが、懐かないということで廃棄になったんだ」
( ´∀`)「しかし耳としっぽをつけた別のシリーズを売り出したらこれが売れに売れた。やはり、犬や猫は歴史が長いぶん、人に懐きやすい」
.
656
:
名も無きAAのようです
:2015/11/06(金) 23:48:17 ID:Iajk2B0I0
( ´_ゝ`)「そいつに耳やしっぽがあるのか?」
( ´∀`)「いいや」
( ´_ゝ`)「それなのに、好まれる」
( ´∀`)「そう。なぜか。独占もしくは支配、束縛、それから従順」
( ´∀`)「だれもが愛と呼ぶべきかもしれないことのように、ただ好まれるのだ」
( ´_ゝ`)「ふーん。じゃあさ、過去のケースを教えてくれよ。そこまで具体的ならなにかあるだろ?」
( ´_ゝ`)「うちんとこってさ、ギャングとマフィアの抗争とか多いんだけど、おかしな事件なんかは起こんないから探しやすいんだ」
死体と、犯人。
被害者と殺人者。犯人がいない、該当に値しない人物が犯人であることは滅多になく。
人が密集している地帯だからこそ、監視は多い。
人々は、事件を起こした犯人を知っている。知りながら生活している。
そこからたどれば、逃げた個体を探すのも容易だろう。
民衆に溶け込んだ手先は、いくらでもいる。
.
657
:
名も無きAAのようです
:2015/11/06(金) 23:49:16 ID:Iajk2B0I0
( ´∀`)「……ふむ。しかしそこまで特殊なケースというものでもないが。参考になるかわからん」
( ´∀`)「研究員が一人死んでな」
( ´∀`)「調べた結果、他の個体に指示して殺させたことがわかった」
( ´∀`)「それだけだよ」
.
658
:
名も無きAAのようです
:2015/11/06(金) 23:57:31 ID:Iajk2B0I0
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659
:
名も無きAAのようです
:2015/11/07(土) 00:01:09 ID:4CVnIR9g0
(A^ν^)「……」
(A^ν^)「一止めが囮」
(A^ν^)「二度めも囮……」
(A^ν^)「じゃあ三度めは……?」
(A^ν^)「囮を使うなら、本命はどこなんだ……?」
(A^ν^)「あの人を足止めするのに、なぜわざわざ交通網を麻痺させる必要がある……」
(A^ν^)「考えなきゃ」
(A^ν^)「役に経たないと、意味がない」
(A^ν^)「生きている意味がないと、」
処分される
.
660
:
名も無きAAのようです
:2015/11/07(土) 02:19:40 ID:J6HhtrFk0
支援
661
:
名も無きAAのようです
:2015/11/07(土) 14:32:24 ID:8X1zjZjc0
④
662
:
名も無きAAのようです
:2015/11/12(木) 18:37:05 ID:vvnmNgMYO
もののわかったスピーディーな会話好き
663
:
名も無きAAのようです
:2015/11/19(木) 03:28:03 ID:r3dbzxrw0
支援
めたくそ面白い
664
:
名も無きAAのようです
:2015/11/22(日) 10:40:41 ID:tnyXgnDM0
主は来ませり
road is come
主は来ませり
road is come
主は
road is��
.
665
:
名も無きAAのようです
:2015/11/22(日) 10:41:52 ID:tnyXgnDM0
川*゚ー゚)
草木のなかで、彼女が笑っている。
背の高い鋭い先端の葉が生い茂り、彼女と自分の姿を隠す。
緑が青々と濃い。草の匂いが強い。
それは決して嫌いなものではなかった。
ひたすらに高い天井からはさんに
さんと太陽の光が降って、緑色がきらきらと輝く。
遺伝子操作によって景観のために育てられた大樹の下、体いっぱいに日光を受けるために彼女が手を広げた。
.
666
:
名も無きAAのようです
:2015/11/22(日) 10:42:37 ID:tnyXgnDM0
川*^ー^)
青い、碧い肌いっぱいに光を浴び、それは輪郭に沿って瞬いた。
鱗状のきめ細かな肌が美しい。
感嘆したつぶやきがこぼれる。
.
667
:
名も無きAAのようです
:2015/11/22(日) 10:43:30 ID:tnyXgnDM0
「ねぇ、エヴァ……」
川*゚ー゚)「?それ、なあに」
「きみの名前」
川*゚ー゚)「あたし68だよ?」
「それは生体番号。正式ならthd068だよ。これはね、それとは別の名前」
「ぼくがでぃ、であるみたいに」
川*゚ー゚)「××××みたいな?」
「それは違う」
川*゚ー゚)「なんで?」
「きみはエヴァ。ちゃんと理由もある。ぼくみたいに変なのじゃない」
.
668
:
名も無きAAのようです
:2015/11/22(日) 10:44:14 ID:tnyXgnDM0
川*゚ー゚)「えば?」
「エヴァ」
川*゚ー゚)「あたし、エヴァ?」
「そう。エヴァ、エヴァ。エヴァ」
川*゚ー゚)「なあに」
「とこしえの緑なんだって。きみにぴったりなのは、それしかないんだって思ったんだ」
Ever green
だからその色が一番好き。
.
669
:
名も無きAAのようです
:2015/11/22(日) 10:45:06 ID:tnyXgnDM0
.
670
:
名も無きAAのようです
:2015/11/22(日) 10:46:22 ID:tnyXgnDM0
“キャラバン”は停滞している。
銃器や食料、毛布や衣服。生活雑貨、歯ブラシと石鹸はどこに行っても需要がある。
それらをトラックの荷台に、人と同じように積めるだけ詰め込む。
それが現在の反抗勢力のアジト。
かつての遊牧民のように、移動をしながらその日を過ごす。
定住の地はない。
彼らはここで生まれ、どこにも行けなく、争うために生きている。
671
:
名も無きAAのようです
:2015/11/22(日) 10:47:19 ID:tnyXgnDM0
国を離れたわけでないから、難民でもない。
与えられた土地を行き来していることが前提なので、国連の人為的差別の範囲にも入らない。
生まれながらのジプシー。
配給されるわずかな物品を待ち、しかしそれだけでは到底足りない。
ゆえに彼らは生きるため盗賊になる。ある側面で見ればテロリスト。
政府からは反抗勢力。国民たちからは愛すべき労働破綻者たち。
しかし彼らは、自分たちが何者であるかというこだわりがない。
ドクオにとって、それが最も奇妙であり、不気味で不可解なことだった。
迫害されている者たちは自己の潔白な主張をするものだ。
('A`)「倫理なく道徳もなく、しかし教育だけは浸透している。……バカなほうが管理しやすいだろうに……」
.
672
:
名も無きAAのようです
:2015/11/22(日) 10:48:11 ID:tnyXgnDM0
('A`)「先進国ゆえの怠慢か……いや、きっとそうじゃない」
('A`)「そのほうが都合がいいんだろう」
無知は染まる。簡単に。
しかし初めから色がついてさえいれば、後から上澄みを塗られても最初の染めが残っている。
苦々しい気分だ。
行こうと思えばどこにでもいけるはずなのに。それはドクオの信条でもあった。人が縛る自己意識というものは、人が作り上げた鎖である。
繋がれた意識もないままに。
('A`)「Joy to the world, the Lord is come!��
Let earth receive her King♪
Let every heart prepare Him room,��
And heaven and nature sing,��
And heaven and nature sing,��♪
And heaven, and heaven, and nature sing.
」
('A`)「road is come♪……まさかもろびとこぞりてを知らない国があったとはね」
.
673
:
名も無きAAのようです
:2015/11/22(日) 10:49:06 ID:tnyXgnDM0
世界で一番知られているはずの讃美歌、また書物。宗教は贅沢品だった。
信じてさえいれば救われる
たとえ地獄に落とされても。
けれどその事さえ
('A`)「……誰も知らない」
祈りの概念がのない世界
nobody knows
.
674
:
名も無きAAのようです
:2015/11/22(日) 10:50:07 ID:tnyXgnDM0
トラックがいくつも渋滞し、扉を解放させて品物を運ぶ。
路駐すると、そのまま店構えとなった。
物品の少ない街では物売りが直接人々に売りにくる。その商品を補給するのがドクオたちだ。
だから顔役でもあり、どこに行くにも不便はない。
顔馴染みが警備と警戒を兼ねている。気軽にドクオはストリートに出た。
似たような人々が、列を作って買い物に励んでいる。
隙間を縫うようにしてそこを通る。
警備の一人に小柄な影をみつけ、その姿に思わず声をかけた。
.
675
:
名も無きAAのようです
:2015/11/22(日) 10:51:13 ID:tnyXgnDM0
('A`)「おい」
��(´・ω・`)��「あ、」
少年はぺこりと頭を下げた。
血に濡れた包帯は代えられてなく茶色い。
左肘から先がなかった。
反対の手でショルダーホルスターを持ち直し、ドクオに向かないように気をつけた。
張りつめるような雰囲気はないが、誤解があってはならない。
('A`)「……それ化膿してないか?」
��(´・ω・`)��「ううん。そんなことないよ。もう血も止まったんだ」
('A`)「だからって……もしかして止血した時のままかよ。それ」
��(´・ω・`)��「?」
('A`)「おま、ちょっとまってろ」
.
676
:
名も無きAAのようです
:2015/11/22(日) 10:52:43 ID:tnyXgnDM0
人混みをかきわけるように進み、列の最初に並ぶ。
売り子に詰まれた箱を開けさせ、中からミネラルウォーターを取り出させた。
受けとると、少年の怪訝そうな顔に困惑が混じる。
ふたをあけ、子供の腕に注ごうとすると彼は慌てた。
(´・ω・`)「!そんな、勿体ないよ、水がこぼれちゃう!」
('A`)「当たり前だろ。こぼれるもんなんだよ水ってのは」
(´・ω・`)「でも、あっ!」
掴みあげ、千切れかけた包帯をほどいてから患部に注いで固まった血の塊にかけてやる。
細い腕の先端は、切断面から盛り上がり、むき出しの皮膚が赤くテラテラと光る。
薬によって麻痺させているから、痛みを感じていないだけだ。
この分だと神経も取り除かれているだろう。
わめくこともないが、しかしそれでは義手を操ることもできない。
おざなりに処置された結果だ
むっつりした顔で、ドクオは一本まるまる注ぎきり、ボトルを降る。
��.
677
:
名も無きAAのようです
:2015/11/22(日) 10:54:10 ID:tnyXgnDM0
(´・ω・`)「……怒ってる?」
('A`)「なにが」
(´・ω・`)「怒ってる顔してる……」
('A`)「おまえにじゃない」
(´・ω・`)「ごめんなさい」
('A`)「だからおまえにじゃないって」
(´・ω・`)「でも、お水……」
('A`)「医療セット使うより安い。それとも注射がいいか?」
(:´・ω・`)イヤイヤ
('A`)「じゃぁ黙ってろ」
.
678
:
名も無きAAのようです
:2015/11/22(日) 10:55:26 ID:tnyXgnDM0
新品のガーゼをポケットから取りだし慣れた手つきで巻いていく。
血の巡りを止めない程度のきつさで巻くと、洗いたての感触が気持ちいいのか、少年はない腕を動かしながら礼を言った。
(´・ω・`)「あのね……ちょっとすっきりした。ありがとう」
('A`)「……ああ。おまえいつ来たんだ?」
��(´・ω・`)「朝からいるよ」
('A`)「じゃあちょっと来い。俺んとこにいまおまえの姉さんいるから」
(´・ω・`)「ほんと!行く!ちょっと待ってて」
��いうと、飛び跳ねるようにして駆け出す。すぐ近くに駐屯している部隊長に許可をもらうためだ。
ドクオの名をだせば却下されるということはまずない。
彼は嬉しいそうに戻ってきた。
��(´・ω・`)「いいって!」
.
679
:
名も無きAAのようです
:2015/11/22(日) 10:56:41 ID:tnyXgnDM0
この場所で女たちの仕事はひとつに限られる。
銃を持つのは男の仕事。
それを慰めるのは女の仕事。
かといって冷遇されるわけではない。むしろその優遇されていた。
守られ、貢がれ、あやされる。
逆に娼婦にさえなれない女たちは負け組だ。不器量と未発達な身体。
しかしそんな片鱗があるものは、生まれてすぐに棄てられる。
(´・ω・`)「お姉ちゃん!」
|゚ノ ^∀^)
.
680
:
名も無きAAのようです
:2015/11/22(日) 10:58:18 ID:tnyXgnDM0
ベッドに横たわった女。
ドクオの住みかに専属契約している娼婦だ。いまは薬でバッドドリップ中。
1日の大半を夢を見ながら過ごしている。だからとても機嫌がいい。
売り上げの少なさに弟に当たり散らすことも減った。
(´・ω・`)「なんだかちっちゃくなった?」
('A`)「飯食わねぇんだよ」
その分薬を欲しがる。
合成麻薬を血中に流し込んだからか、顔色は青白く、肌は荒れ美貌はゆっくりと衰えていく。
もう街中に立つこともできない。
それでも彼女は幸せだろう。
口元は笑んでいる。
薄く開いた目は弟を映さない。
なにか別の、なにかを見て、幸せそうに笑っている。
少年も笑った。
(´・ω・`)「お姉ちゃん、機嫌いいみたい。大人しいけどずっとこんなだったらいいな」
力の入らない、くったりとした姉の手を持ち上げ、少年は彼女の膝に頭を乗せた。
かれが甘えることができるのは、もうこの家族しか残っていない。
.
681
:
名も無きAAのようです
:2015/11/22(日) 10:59:51 ID:tnyXgnDM0
��('A`)「……おまえさ、姉ちゃんいなくなったらどうすんだ?」
(´・ω・`)「……いなくなるの?」
('A`)「もしだ。いなくなったら、どうする」
(´・ω・`)「……どうしよう。一緒に行く」
('A`)「どこに」
(´・ω・`)「うーん。わかんない。でもおんなじとこ」
少年は一応の戦闘訓練は受けており、銃の扱いも知っている。
生きていくための知恵はある。
それでもやはり、彼にとって姉の存在は絶対立った。
薬を買うために、少年兵として売り渡されたとしても。
.
682
:
名も無きAAのようです
:2015/11/22(日) 11:00:58 ID:tnyXgnDM0
('A`)「違うとこ行ってみるか?腕なかったらやりにくいだろう」
(´・ω・`)「うん。でも足じゃなかったからよかった。走れなくなるとこだったもん」
��(´・ω・`)「違うところって?」
('A`)「例えば外とか」
(´・ω・`)「外?」
('A`)「この国の外。外国だ」
��(´・ω・`)「外ってなにがあるの?」
('A`)「戦争があるけど、ここよりゃましだな。内乱のほうが救えねぇ。ただ死ぬのが減る」
('A`)「EU連合の境界線にまでいけば、少なくとも人権は保証される」
(´・ω・`)「じんけん……?」
('A`)「銃で撃たれる確率が少なくなるってことだ」
(´・ω・`)「ほんと?」
('A`)「ああ。」
(´・ω・`)「うーん」
.
683
:
名も無きAAのようです
:2015/11/22(日) 11:01:58 ID:tnyXgnDM0
(´・ω・`)「お姉ちゃんは?」
('A`)「姉さんも一緒だ」
(´・ω・`)「……」
(´・ω・`)「うーん……でも、いいや」
('A`)「……なんでだ?」
(´・ω・`)「だって外って銃持っちゃいけないんでしょ?」
('A`)「規定はうるさいが、所持は認められてる。ただ審査は必要だな」
��(´・ω・`)「しんさにはお金がかかるよね?」
('A`)「出してやるぞ、そんくらい」
��(´・ω・`)「でも撃つのに理由が必要なんだよ」
('A`)「そうだな」
.
684
:
名も無きAAのようです
:2015/11/22(日) 11:03:25 ID:tnyXgnDM0
(´・ω・`)「なんだか窮屈だし。やっぱりいいや」
('A`)「銃は離せないか」
��(´・ω・`)「うん。これないとなんにもできないもん」
('A`)「……そうか」
��(´・ω・`)「でもさ、外の人たちってどうしてるの?」
('A`)「なにがだ」
��(´・ω・`)��「銃をあんまり使えないのって不便じゃないのかな」
('A`)「じゃないんだろ」
��(´・ω・`)「どうやって殺すの?ナイフ?それってとっても面倒なのにね」
('A`)「…………」
('A`)「殺さないんだよ」
口にした言葉はとても白々く聞こえた。
.
685
:
名も無きAAのようです
:2015/11/22(日) 11:05:25 ID:tnyXgnDM0
.
686
:
名も無きAAのようです
:2015/11/22(日) 11:06:12 ID:tnyXgnDM0
(゚、゚トソン「アレクセイ」
女が体を寄せて密着した。甘えるような仕草だったが、恋人にやるよりも家族のそれに近い。
出会ってまだ三年に満たないが心のほうは互いに熟成していた。
(゚、゚トソン「いつになったら、あたしたちは家に住めるのかしら」
( ФωФ)「もうじきだ」
傭兵の生活に定住はない。
呼ばれると移動する。追いかけると、また敵は逃げる。
常に一ヶ所に留まることが難しい。
住む場所は時に貧相で、時に豪勢だが女の望むものにはかけ離れていた。
(゚、゚トソン「毎日、同じところで寝起きしたいわ」
(゚、゚トソン「ホテルなんかいいから」
( ФωФ)「仕事があらかた片付いてからだな」
.
687
:
名も無きAAのようです
:2015/11/22(日) 11:07:07 ID:tnyXgnDM0
( ФωФ)「でなければ落ち着くこともできん。提携がうまくいけば、じきに土地を取り戻せる」
太くささくれた肌の指が、柔らかいものに触れるようにして女の顔を包んだ。
暖かみに女が目を細くする。
けれども不安げな表情は浮かない。
(゚、゚トソン「……協力ってあの男でしょ。信用できるの?外の人間じゃない」
(゚、゚トソン「うす気味わるい顔してる」
( ФωФ)「……たしかに信用は難しいが、信頼にはおける」
(゚、゚トソン「なあにそれ」
.
688
:
名も無きAAのようです
:2015/11/22(日) 11:08:15 ID:tnyXgnDM0
( ФωФ)「奴の性根がどのようかなんてのは知らんがな、奴の能力だけは買っているんだ」
女の長い髪をかき分け耳に口を寄せるとロマネスコは囁いた。
( ФωФ)「あの男は棺桶乗りだ」
( ФωФ)「それも重度の」
(゚、゚トソン「……なんなのそれ」
( ФωФ)「知らなくてもいい。だがそれが、あの男と組むに決めたひとつでもあった」
( ФωФ)「空を行く奴らというのは、たいがいみんなまともじゃない」
(゚、゚トソン「……なんだかよくわからないけど、役に立つんならそれでもいいわ」
(゚、゚トソン「取った場所は、私たちで使ってもいいのよね?」
( ФωФ)「ああ。一瞬の隙間を狙って入り込み、そこからバリケードを立てていく」
( ФωФ)「そうすればおいそれと手は出せん。この数を相手に、狙撃で片付けられるとは思わんからな」
( ФωФ)「……そして最初の非人道的行為の非難を避けるためにも、和解案を持ち込んでくるだろう。」
( ФωФ)「うまく流れに乗せるつもりだが、つかみようがないのだけが気がかりだ」
(゚、゚トソン「そう、きっとうまくいくわ。これまでもそうだったんだもの」
( ФωФ)「ああ。」
.
689
:
名も無きAAのようです
:2015/11/22(日) 11:11:34 ID:tnyXgnDM0
(゚、゚トソン「……そういえばアレクセイ」
(゚、゚トソン「近頃町中で変な工事が行われているの」
(゚、゚トソン「それも計画のうち?」
( ФωФ)「工事………?」
( ФωФ)「それは一体どのような」
(゚、゚トソン「壁よ」
(゚、゚トソン「生活している周辺を囲むようにして大きな壁があるの」
(゚、゚トソン「なんのためかは、わからないけ
ど」
.
690
:
名も無きAAのようです
:2015/11/22(日) 11:16:04 ID:2h5EJ0zM0
.
691
:
名も無きAAのようです
:2015/11/22(日) 11:17:16 ID:2h5EJ0zM0
バラバラと、鼓膜に響く轟音が聞こえる。
蜘蛛の子を散らすように、スラムの住民たちが姿を消した。
売り手たちは慌てて品物わ荷台に投げ込み避難しようと車内に戻る。
ドクオも空を仰いで警戒した。
偵察用のヘリでも、機関銃は備わっている。
撃ってきたらヘリに向かって走るつもりだった。
風圧の被弾する計算状、ヘリからの連射は遠くであるほど当たりやすい。
しかし真下は狙いがつけにくい。
人ほどの大きさならざ十分に見逃す。一つに固まって逃げる群衆と離れた遠い的。
生物的には孤立した獲物こそ狙われやすいが、この場合においては逆だった。
一度で、出来うる限り多くの獲物を。
それが人間の心理。
.
692
:
名も無きAAのようです
:2015/11/22(日) 11:18:06 ID:2h5EJ0zM0
('A`)「もう巡回してやがる」
('A`)「あー、いい。それは置いてけ」
('A`)「同じのはもういくつか集めたからな」
指示に従い、売り子たちは緩和板に仕舞われた荷を持ってかけだす。
本当に大事なものだけを。身ひとつでというわけにはいかない。
命と同じだけの価値がある。
いまここで狙撃されても、抱えた荷物を落とすわけにはいかない。
ドクオは反転し、立ち止まった。
頭上のヘリに敵意は感じられない。
狙いを定められている、ということも感じられない。
.
693
:
名も無きAAのようです
:2015/11/22(日) 11:19:00 ID:2h5EJ0zM0
('A`)(部品は集めた。あとは精製している燃料の質をあげるだけだ)
ヘリは攻撃の気配がない。
しかし警戒を解くことはなく、下位の10人たちは一様に息をひそめ、遮蔽物に隠れた。
ドクオだけが、撃たないと確証を持って顔を出し様子をうかがう。
やがて一つのヘリの後ろから、いくつもの運搬機がやってくるのが見えた。
それにあたりをつける。
最初の偵察はこれのためだろう。
('A`)「……なんだってんだ、ありゃ」
プロペラの音が空に響きわたる。
背後にはいくつものコンテナと、剥き出しの鉄板のようなものを運ぶ飛行機が連なっている。
手を出せば、偵察用から攻撃が来ることは明白だった。
('A`)「………」
.
694
:
名も無きAAのようです
:2015/11/22(日) 11:19:49 ID:2h5EJ0zM0
ここに来て、反抗勢力に挑発するような運航。
しかしこれはそのためのものではない。金属のような物体は、どこまでも黒く日光を受けても反射さえしない。
物を作るには理由があり、製品を使うのには目的がある。
('A`)「……なにをしでかしやがる気だ」
低い声でうなる
ロマネスコの言った嫌な予感が胸に湧いた。
戦争において新しい情報というのはみなすべからく、不幸である。
.
695
:
名も無きAAのようです
:2015/11/22(日) 11:20:32 ID:2h5EJ0zM0
.
696
:
名も無きAAのようです
:2015/11/22(日) 11:21:25 ID:2h5EJ0zM0
(A^ν^)「……少ない」
(A^ν^)「やっぱりだ。強奪にあったコンテナのほとんどは回収できてる」
(A^ν^)「ぶちこんで、かき回したような惨状なのに、七割以上盗まれていない…」
(A^ν^)「どうしてだ。そして一体何のために、奴らはちょっかいかけてくるんだろう」
(A^ν^)「あんなにも死人をだしてるのに……」
.
697
:
名も無きAAのようです
:2015/11/22(日) 11:25:26 ID:2h5EJ0zM0
兄者は死傷者数をとるに足らないものと見ているが、それは彼が彼であり、製造元の立場だから言えることだ。
ピラミッドの上からの考えでしかない
しかし見上げるものたちからすれば、信頼のできない指導者など、首を代えればいいだけのこと。
数こそが力であり暴力。
誰も死にたくない。
統率はあれど、管理されているわけではない。生きることに貪欲でそのために幼くから銃を持たされている。
そんな彼らが、死人を出してまで襲撃を続けることが解せない。
(A^ν^)「あるはずだ、目的が。
ちゃんとしたメリットが」
(A^ν^)「それを見つけなきゃ終わらない」
(A^ν^)「一網打尽になんてできない」
(A^ν^)「子供まで使ったのに、虐殺という名目があるのに、世論に訴えかけることも最低限しかしかないんだ。話題が大きくなれば、やりにくいことでもあるんだろうか……?」
.
698
:
名も無きAAのようです
:2015/11/23(月) 00:52:01 ID:AX413/eo0
この説明の少なさの心地よさですよ
699
:
名も無きAAのようです
:2015/11/23(月) 07:26:36 ID:6RBqH8P60
いつの間にこんなに進んでたのだ
700
:
名も無きAAのようです
:2015/12/24(木) 19:24:15 ID:G.aD6vsc0
面白すぎる
どんどん読ませてほしい
701
:
名も無きAAのようです
:2015/12/31(木) 01:13:28 ID:om3Yvxs60
ミ,, Д 彡
川*゚ー゚)
「ああ、エヴァ、エヴァ、なんてこと!」
川*゚ー゚)
「どうして、こんなこと……」
川*゚ー゚)「だめだった?」
「どうして?エヴァ」
川*゚ー゚)「だって触るんだもん」
「検査?少しじっとしていればすぐに終わるのに」
川*゚ー゚)「痛かったんだもん」
.
702
:
名も無きAAのようです
:2015/12/31(木) 01:14:10 ID:om3Yvxs60
「でも、エヴァ。だからってこれはダメだ。これじゃ、怒られる」
川*゚ー゚)「だって……」
「これじゃ、君が、ああエヴァなんてことを!」
川*゚ー゚)「痛いの嫌だったんだもん」
「触られるのが?」
川*゚ー゚)「うん。なんかね、足のほうに入れてくるから、すっごく痛いの」
川*゚ー゚)「嫌って言ったのにやめないの」
川*゚ー゚)「女だから、しょうがないならじっとしてなさいって」
.
703
:
名も無きAAのようです
:2015/12/31(木) 01:15:05 ID:om3Yvxs60
川*゚ー゚)「ほんとはでぃがやることだったんだよって」
川*゚ー゚)「でもでぃは“お役目”があるからできないんだって」
川*゚ー゚)「女を作ったのは男だから、なんだって」
川*゚ー゚)「痛いのや」
川*゚ー゚)「だめなの?」
川*゚ー゚)「お又痛いの、とっても痛かったの」
「エヴァ……」
なんてこと。なんてこと。
それなら、
僕がやらなきゃいけなかった
.
704
:
名も無きAAのようです
:2015/12/31(木) 01:15:48 ID:om3Yvxs60
.
705
:
名も無きAAのようです
:2015/12/31(木) 01:16:30 ID:om3Yvxs60
从'ー'从「ねえ」
声をかけられた。
振り向くとめずらしい相手が居る。
とっさに体が強ばる。
なにか危害を加えられるのかと怪しんだが、彼女にその気はないようだった。
しかし慎重に様子を伺う。
(`∠´)「どうした?乱交の受付でもするか?」
軽い口調で挑発したが、ワタナベは微笑んだままだ。
.
706
:
名も無きAAのようです
:2015/12/31(木) 01:17:12 ID:om3Yvxs60
うすく、愛想よく、品がいい。彼女の笑みには媚びがない。
だからそれなりに格を知っている顔役たちから好かれている。
見栄えのいい、上質な娼婦というものはどこからも重宝される。
こんなイかれた女でも、商売できた。
そんなワタナベが、自分に愛想を振る舞っている!面倒な事しか思い当たらなかった。
本来なら、お願いのまえに脅迫が来るはずだ。
.
707
:
名も無きAAのようです
:2015/12/31(木) 01:17:54 ID:om3Yvxs60
(`∠´)「おいおい。このあいだとはえらい差があるな。俺になにか用なのか?」
从'ー'从「そう。頼みがあるの」
(`∠´)「無駄働きはしないし、前払いが条件だ」
从'ー'从「オッケーじゃあいま支払うね」
鞄に手を入れて、ワタナベがなにかを取り出す。
それを警戒しながら待った。
なにか。おかしい。
取り決めの交渉がない。
怪訝にワタナベをみるも、目があい、にっこりと笑う。
.
708
:
名も無きAAのようです
:2015/12/31(木) 01:18:42 ID:om3Yvxs60
从'ー'从「はい。」
差し出されたのを受け取ろうと手を伸ばしかけて、固まった。視線はワタナベの手元から離せない。一気に心臓が冷えた。
狂った女だとは思っていたが、まさかここまでとは!
(`∠´)「おまえ……」
从'ー'从「ほら。前払いなんでしょ?さっさと取れよ」
彼女の手にあるのは、手のひらに乗っているのは信管の外れた手榴弾。
通称パイナップル。
爆発すればこの至近距離だ。
間違いなく即死する。
銃社会に慣れた者らしく、頭を覆って走りだすべきだった。
しかし相手がこの女では、それは意味がない。
背中に投げつけられる。もしくは追いかけてきて、この女と一緒に……
ぞっとする。
.
709
:
名も無きAAのようです
:2015/12/31(木) 01:19:27 ID:om3Yvxs60
(`∠´)「どういうつもりだよ……」
威勢がいい声はでなかった。
ただ恐ろしい気分でワタナベを見返す。この女の気に入る返事をしようにも、まだなにも具合を聞いていないのだ。
取り扱いの簡単な女だった。いままでは。
从'ー'从「これ使ったことある?すごいよ。頭がきれいに半分吹き飛ぶの。爆弾ってさ、ちゃんと造ったらすごく上手に千切れるんだよね。こんなにちっちゃくっても」
(`∠´)「だから……、なんのっつもりだって!」��
从'ー'从「だまれ」
ぴたりと口を閉じた。手榴弾を持った手が、上下し、己の目前まで近づいたからだ。
.
710
:
名も無きAAのようです
:2015/12/31(木) 01:20:15 ID:om3Yvxs60
ひっと後ずさりしそうになった。が、ワタナベは許さない。��
彼女はじつに娼婦らしく、自然に腕を絡めた。
はためにはどう見えているのか、想像してぞっとした。
客と娼婦の交渉途中。
誰も危険になど気づかない。
从'ー'从「なあほしいんだろ。これが支払いだ。受け取れよ」
(`∠´)「かんべんしろって…マジに…、俺にどうしてほしいんだよ……」
一縷の望みをかけて、そう聞いた。
殺すつもりならこんなやりとりなんてしないはずだ。
きっと。そうであってくれと強く願う。
从'ー'从「仕事をしてくれればいい。おまえの仕事だ。簡単だろ?」
(`∠´)「なにを……?」
从'ー'从「あの人がさらわれた」
(`∠´)「あの人って、あ、あの時の男か?」
.
711
:
名も無きAAのようです
:2015/12/31(木) 01:21:00 ID:om3Yvxs60
ワタナベはうなずく。整った顔立ちが無機質になる。
その目の異様に澄んだ様子に、彼女の本気を見た。
NOはだめだ。適当なふりもだめだ。
使えないとわかった瞬間に、手元のこれが降ってくる。
距離を取らないと、安全な距離まで、離れないといけない。
面道ごとに巻き込まれるのも、信用されずに殺されるのもごめんだ。
.
712
:
名も無きAAのようです
:2015/12/31(木) 01:21:45 ID:om3Yvxs60
(`∠´)「…わかった。調べてみるって。ただ時間が必要だからさ、少しまって」
从'ー'从「はやく」
(`∠´)「ああ。わかってるよ。でもこれって待つのが仕事だったりするからさ、連絡入ればすぐにこっちから伝えるし」
从'ー'从「はやく、はやく。あの人が壊されないうちに。汚されないうちに。手えだされないうちに。欠けないうちに、取り戻さないといけないの。」
(`∠´)「……な、わかってっからさ。とりあえず詳細おしえてくれよ。そんでいろいろ調べてさ、わかったらすぐおまえに」
.
713
:
名も無きAAのようです
:2015/12/31(木) 01:22:27 ID:om3Yvxs60
爪のながい指先が、首の肉を掴む。
手榴弾ごと首を締められて、一瞬で恐怖に陥った。
鉄とプラスチックの堅い感触。
なお悪いことに、こいつは粗悪品だった。見た目だけのシロモノ。
いつ爆発するか、本人にもわからない。爆弾の利点は痛みを感じるまえに天国へいくことだ。それが本当かは、誰も知らない。
いままさに、死にそうな恐怖に直面している。
手榴弾もこわいが、いつ爆発させるかわからない女のほうがこわいに決まっている。
.
714
:
名も無きAAのようです
:2015/12/31(木) 01:23:28 ID:om3Yvxs60
从'ー'从「ねえ、あたしなんでもいいの。あの人が戻ってくるんならなんでもいいし、あの人が戻らなかったら、おまえでもいいの。
だっておまえが見つけられなかったってことだもんね」
从'ー'从「いいのよ。戻ってさえすればいいの。でも戻らなかったら。
あたしのあたしのあの人がもど、もどらなかったら、壊すのはおまえでも、いいの」
.
715
:
名も無きAAのようです
:2015/12/31(木) 01:24:12 ID:om3Yvxs60
絶叫したかった。
しかし喉からはかすれたような呼吸音しかでなかった。
あしらうのは絶対に無理だ。
この女から逃げるにはこの国から離れないといけない。
でなければ蛇よりも執念深い、
狂った思考のこの女の怒りが、一心に自分に向くことになるのだろう。
そう悟った。
.
716
:
名も無きAAのようです
:2015/12/31(木) 01:25:01 ID:om3Yvxs60
.
717
:
名も無きAAのようです
:2015/12/31(木) 01:25:48 ID:om3Yvxs60
円卓を囲むのは かわいそうな駒鳥で
【Who killed u n owen】
.
718
:
名も無きAAのようです
:2015/12/31(木) 01:26:29 ID:om3Yvxs60
布地の厚い毛布、片隅に散らばるのはミネラルウォーターと包装された携帯食。
見慣れない印字された包みをこわごわと開く、すると焼き菓子に似ているようなクッキー生地の食べ物が出てきた。一口かじってみる。
甘みがわずかにあり、味は菓子のようだ。悪くない。
ただ、やたらと口のなかが乾く。
そのための水なのかもしれない。
(#゚;;-゚)「……」
.
719
:
名も無きAAのようです
:2015/12/31(木) 01:27:23 ID:om3Yvxs60
部屋のなかはうす暗い。
電気がいっさいなく、窓から差し込む光だけが朝を知らせてくれる。
わずかに開ける硝子戸からのぞき込むと、真下の風景がちらりと見える。
おもちゃ箱のような景色。つまめそうなほどの、建物の群。
どうしようもなく、でぃは高所に居るのだった。
わけのわからない誰かに、わけのわからない場所に閉じ込められている。
でぃは拉致した者の顔を見ていない。予想しようにも鎧のような装備に包まれている。
.
720
:
名も無きAAのようです
:2015/12/31(木) 01:28:06 ID:om3Yvxs60
わけのわからないなにか、は日をあけてたびたび高所の部屋に来た。
しかしたいてい、でぃが気配に気づくとすっといなくなる。
出入り口のない部屋で、外壁をつたって上り下りしているのだ。尋常でない能力だ。��
まともな人間には思えない。
(#゚;;-゚)「きみは、誰?」
夕暮れの明るさがきえていく時間帯。
電気のない室内はすぐに暗闇に染まる。
影のようにして、その時間にこっそりと伺いにくるのももうなれた。
相変わらず得たいのしれない者に対する警戒はあったが、いっこうに近寄ってこないので、それも薄くなりつつある。
.
721
:
名も無きAAのようです
:2015/12/31(木) 01:28:56 ID:om3Yvxs60
食事を運ばれ、衣類を渡される。
この部屋は小さいながら、浴室も備わっていた。
与えられるものに不足はしていない。
ただどうして、という悩みだけが尽きない。
(#゚;;-゚)「……つれもどしに来たんじゃないの?」��
研究所の手のものではないのか。
そんな意味の言葉、あっさりと無視された。影は答えない。
ただじっと、うす暗がりに佇んでいる。��
姿を確認すると即座に部屋から逃げていたのに、ここのところ、でぃが話しかけるととどまってくれるようにはなった。
ただ正体も、目的も、なにもかもが不明すぎて、でぃは戸惑う。
要求がない。
それではなにを求められているのか、でぃにはわからない。
.
722
:
名も無きAAのようです
:2015/12/31(木) 01:29:39 ID:om3Yvxs60
(#゚;;-゚)「……ワタナベが心配だ。彼女のところにもどりたい」
でぃがいない今、なにをするのかわからないから。
自暴自棄になって、危険なことに首を突っ込んでいないか気になる。
それにせっかく得た協力者を失いたくなかった。
柔らかく、帰せと訴えるも、影は微動だにしない。
硬質なスーツのまま、顔の位置にあるカメラレンズがじっとでぃに向いていた。
(#゚;;-゚)「……なにか言ってよ」
ぽつり、そう不満をこぼす。
この侵入者が訪れるまで、娯楽らしいものもなく、ずっとひとりきり。
.
723
:
名も無きAAのようです
:2015/12/31(木) 01:30:25 ID:om3Yvxs60
退屈は緊張をむしばむ。
怪力で、不気味で、物言わぬ不審者でも、ひとり狭い部屋に取り残されているよりはいい。
でぃが言うと、スーツの頭部がゆれた。
シュー……
(#゚;;-゚)「……え?」
.
724
:
名も無きAAのようです
:2015/12/31(木) 01:31:11 ID:om3Yvxs60
呼吸音だった。肺を絞ったような。
かすれたような、息をするときの。
吸った息が、漏れたような音。��
は虫類独特の。
そんな呼吸をするのは1人しか知らなかった。
(#゚;;-゚)「…………エヴァ?」
.
725
:
名も無きAAのようです
:2015/12/31(木) 01:31:53 ID:om3Yvxs60
.
726
:
名も無きAAのようです
:2015/12/31(木) 01:32:53 ID:om3Yvxs60
.
727
:
名も無きAAのようです
:2015/12/31(木) 01:33:35 ID:om3Yvxs60
(A^ν^)「ちょっといいですか?」
( ´_ゝ`)「んー?」
(A^ν^)「…なにをしようとしてるんです?」
(A^ν^)「截断まえの金属板ばかり、前線に送ってるようですけど」
( ´_ゝ`)「ああ、場所の特定がむずくってさ、どっちがメインかわかんないからとりあえずバンバン持ってったんだよ」
( ´_ゝ`)「数キロ県内にたくさんあれば、移動もやすいし」
.
728
:
名も無きAAのようです
:2015/12/31(木) 01:34:35 ID:om3Yvxs60
(A^ν^)「はぁ……えと、それはなんのために?」
( ´_ゝ`)「制圧のためでしょ」
(A^ν^)「???」
(A^ν^)「えーっと…」
(A^ν^)「不特定多数の人海戦術をやられるから、そのために多くの物量で攻める、ってことでいいんですか?」
( ´_ゝ`)「うん」
(A^ν^)「しかしなんだってあんな物を?」
(A^ν^)「硬くて燃えなくて、貫通しなくて電気を通さなくて、それだけじゃないですか」
( ´_ゝ`)「うん」
(A^ν^)「たしかに構造状、うちの技術でしか分解できないシロモノですが、そんな物が役に?」
( ´_ゝ`)「うん」
.
729
:
名も無きAAのようです
:2015/12/31(木) 01:35:22 ID:om3Yvxs60
(A^ν^)「」
( ´_ゝ`)「想像つかない?」
(A^ν^)「いいえ!つきます。たぶんついてます」
(A^ν^)「ただ……規模が大きすぎて…」
(A^ν^)「範囲、すごく広いじゃないですか」
( ´_ゝ`)「そう?」
( ´_ゝ`)「でもま、しょーがないね」
( ´_ゝ`)「あんまし減らしたくなかったんだけどさ。いいかげん終わらしたいし」
(A^ν^)「都合よくいきますかね」
( ´_ゝ`)「たぶん」
.
730
:
名も無きAAのようです
:2015/12/31(木) 01:36:04 ID:om3Yvxs60
( ´_ゝ`)「うまくいかなくても、まあいいよ」
(A^ν^)「……いつも思うんですけど、どうしてそうなげやりなんですか?」
( ´_ゝ`)「ん?」
( ´_ゝ`)「……え、俺?」
(A^ν^)コクコク
( ´_ゝ`)「投げやりってやる気ないってことだろ。俺めっちゃやってるじゃん」
(A^ν^)「なんか熱心じゃないですよね。そういう時に使うんですよ、投げやりって」
( ´_ゝ`)「えー……」
( ´_ゝ`)「俺ちゃんとしてるけどなぁ」
( ´_ゝ`)「逆に熱心てなによ?」
(A^ν^)「それは……もっとこう、確実に、とか執念をもったかんじの……」
.
731
:
名も無きAAのようです
:2015/12/31(木) 01:37:05 ID:om3Yvxs60
( ´_ゝ`)「だから確実性えらんでるじゃん」
( ´_ゝ`)「囲いあったら、逃げらんないでしょ?」
(A^ν^)「そうなんですけど、そうなんですけど……なんか違うというか……」
( ´_ゝ`)「えーなによ?」
( ´_ゝ`)「気になるわー」
(A^ν^)「……んー、たぶんですけど。あれですね」
ああそっか。興味がないだけなんだ。
( ´_ゝ`)「?」
(A^ν^)「……地図みてきます。次どこからあらわれるのかわからないので」
( ´_ゝ`)「港でしょ」
.
732
:
名も無きAAのようです
:2015/12/31(木) 01:38:19 ID:om3Yvxs60
(A^ν^)「それを、絶対だって言えるように確かめてみます」
( ´_ゝ`)「オッケーグーグル!」
(A^ν^)「…………」
(A^ν^)「では……」
( ´_ゝ`)「失望してんの?」
(A^ν^)「……いいえ」
頑張りには意味がない。
熱意も、わずかな情も意味がない。
(A^ν^)「わたしにはあとどれくらい時間が残されていますか?」
( ´_ゝ`)「こんどのこれ、解決するまで」
(A^ν^)「それはよかった」
なにもかも執着のなさそうな人相手に、思い悩んでは時間がもったいない。
(A^ν^)「どっちかっていうと、」
(A^ν^)「絶望ですかね」
結果しか、意味がない。
.
733
:
名も無きAAのようです
:2015/12/31(木) 01:39:07 ID:om3Yvxs60
絶望に至る病
.
734
:
名も無きAAのようです
:2015/12/31(木) 01:40:01 ID:om3Yvxs60
施設の壁はぶ厚い。
柱は最上階から地下まで貫通しており、少しの地震程度で壁や骨組みはびくともしない。
火災があっても消火剤がまかれ、すぐに鎮火する。
そのさい、空気の供給も止まる仕様になっている。
中の生き物への配慮ではもちろんなく、施設内の重要な記録を守るためだけの設計だった。
職員用の個室もそうだ。
壁は厚く、防音で冷たい。
逃げだそうとするすべての個体たちをふせぐように。
.
735
:
名も無きAAのようです
:2015/12/31(木) 01:40:43 ID:om3Yvxs60
響く足音も、誰かの悲鳴も聞こえない。大型の機材を使うときだけ地面が振動する。
それらはたいてい冷たくなった個体を処分する時に使われた。
火葬はきちんと焼くと時間がかかる。燃料もかかる。
だから大型の機材でプレスされた。
そんな場所だったから、職員のプライベートはもちろん、仕事のためにも防音管理はきちんとされていた。
施設内は清潔で、掃除が行き届き、快適だ。
残酷な光景も、工場のような作業で行われているとそう思えなくなる。
家畜の解体をできるだけクリーンに行えるように。
そんなマニュアルもあっただろう。
死はひとしく、実験対には平等だった。当たり前すぎて、なにが起こっているのか理解しないうちに済まされる。
実験対の知性は低い。
彼らにそれは必要がないものだった。
.
736
:
名も無きAAのようです
:2015/12/31(木) 01:41:26 ID:om3Yvxs60
でぃは幸運だった。
ひとつのプロジェクトのために作られた。��
それは長期で、確実性で、結果をなにより期待されるものだった。��
だからそれまで生きるために、人並みの知性があった。��
“母胎があまりに愚鈍では、子にもそれが遺伝してしまうからな”
正確な意味は理解していないが、そう言った職員のことを覚えている。
他の個体とは違う。
しかし違うからといって、恵まれていることにはならない。
.
737
:
名も無きAAのようです
:2015/12/31(木) 01:42:17 ID:om3Yvxs60
そのときでぃは、人に会わずに施設内を移動していた。
成長するに従って、職員たちの態度があからさまになってくることに辟易していた。
でぃは他の個体とはべつに、検証中の個体のために愛玩物だった。
気が向けば可愛がる程度の、無責任な愛情。
そして��自分がどの立場にいるのかも知らない。
ならば都合よく暮らすためには、気に入られるしかない。��
道ばたですり寄ってくる猫のような愛想のよさ。��
無機質で媚びることがない、敵意に満ちた個体たちよりも好まれるのは当然だろう。
.
738
:
名も無きAAのようです
:2015/12/31(木) 01:43:03 ID:om3Yvxs60
そのなかででぃは呼吸し、顔色を伺い、なにも知らない、無知な子のようにふるまった。
女には腕のなかで甘え、男にはひざのうえに乗った。
そうすれば内緒だよ、と多少の融通をきかせてくれる。
ほんのわずかな特権。
余った菓子を振る舞われたり、就寝する寝室を居心地のよい部屋に変えてくれたり。
なかでもでぃがもっとも重要視したのは情報だった。
記録媒体には載っていない、職員の人間性。
それから処分されやすい個体の特徴。研究の余地があれば、まだ生かされる。
雑用のためだけに生きている実験対だっている。
手に入れた情報の鮮度は短い。
くだらないものでも、すぐに身近なものと共有するべきだ
.
739
:
名も無きAAのようです
:2015/12/31(木) 01:43:57 ID:om3Yvxs60
でないとすれ違いに悲劇が起きる。
伝えたところで、遅すぎたりする。
職員のプライベートな個室と、実験室や大広間。
そんなところを覗けば、施設はいくつも自由に行き来する場所がある。
でぃは友人のところに向かっていた。
��
日光浴を楽しむ、青い肌の少女。
木々のそばであれば嬉しそうにする。
だからいつも通り植物のところにいると思ったのに中央の植物園に姿はなかった。
高いところが好きだから、木に上っているのかも思ったが、見上げても木漏れ日のなかにはいない。
.
740
:
名も無きAAのようです
:2015/12/31(木) 01:48:43 ID:om3Yvxs60
でぃは首をかしげ、また思いつくところに移動する。��
水場にはいなかった。
砂場にも、草木が繁茂するべつの植木にもいなかった。
同じ場所に縄張りをつくるエヴァは基本、居心地のいい場所を変えない。
いやな予感がした。
それはたいてい、取り返しがつかないものだ。
「エヴァ……?」
走り、探しまわる。
怯えながら処分場にも顔を出したが、使われた跡はなく、それに安堵する。
しかし見つからない。
どこに行ったのか。
歩き続ければどれほど広い場所でも終わりがくる。
でぃが考えに考え、最後についたのはひとりの男の部屋だった。
.
741
:
名も無きAAのようです
:2015/12/31(木) 01:49:50 ID:om3Yvxs60
「……」
近づきたくはない。
けれど個体数の管理はこの男がしている。でぃには冷たくとも。
仕事ならばきちんと対応してくれるはずだ。
そう、思いこもうとした。
大丈夫、なぜならここの廊下にはカメラがつけられている。
なにかあれば、そこまで逃げればいい。
いくら危ない男でも、カメラのまででぃになにかすることはないはずだ。
ーーーはずだ。
それとも。それともあの男がエヴァを連れ込んでいたならどうしよう。
エヴァは知性がひくい。
いやなことでも、納得すると我慢してしまう。
成長し、肉つきのよくなったでぃをみるようにして、体はしっかりと成熟しているエヴァに、欲望をたぎらせていたらーーー?
.
742
:
名も無きAAのようです
:2015/12/31(木) 01:50:37 ID:om3Yvxs60
そっと指で、ドアに触れた。冷たい金属のひやりとした感触。
体温を感知して、扉は両開きにあいた。
部屋にはふたりがいた。
備え付けのベッドのうえ。
壁にくっついている机のかげから、上半身が見える。
川*゚ー゚)
そして彼女がいた。
しかし男もいた。
.
743
:
名も無きAAのようです
:2015/12/31(木) 01:53:28 ID:om3Yvxs60
虐げられている、という恐ろしい予想は裏切られた。��
エヴァはこちらをむくと、「でぃ!」無邪気に笑んだ。
それから汚れた顔を袖でぬぐう。
「なにしてるの……?」
ひかりの加減だろうか。
廊下によくある青みのある光でなく、部屋の灯りはオレンジに近い。
赤黒い、色がもっと黒く見える。
エヴァは濡れていた。
大量に、湿ったわけなく被ったようにして濡れている。嗅いだことのある臭い。
乾くと、茶色く変色したりする、赤。
男の首はネジ切れていて、皮一枚でかろうじてつながっている。
だらん、とベッドの下にぶら下がってきいる。
虐待したのは彼女だった。
.
744
:
名も無きAAのようです
:2016/01/02(土) 01:02:59 ID:EfL14mGQ0
乙!
745
:
名も無きAAのようです
:2016/01/04(月) 23:25:19 ID:nzkftehI0
おつ
746
:
名も無きAAのようです
:2016/01/08(金) 01:49:34 ID:DincLnGo0
( ´∀`)「ずっと思っていたことだよ。
どうして人類は管理されてはいけないのか」
( ´∀`)「およそこの地上にて、誰のものでもない場所が存在するかね?
国、土地、空、地下、水、空気、はたわ宗教という概念。民族間の価値観。これほどまでに共有しているというのに。
絶滅動物は美しく尊いものでなければ保護されない。
草木を守るために共存する醜い虫たちは見向きもされない。人類が興味がないからだ」
.
747
:
名も無きAAのようです
:2016/01/08(金) 01:50:23 ID:DincLnGo0
( ´∀`)「生物には優劣がある。
当然のことだ。しかし最上位に人間が立ち、下位はそれ以外。
なるべく減ることがないようにという、最低限の意識しかない。
まるでリサイクルマークのようではないか。
あればそれなりに分別にだすが、なければ行動にうつすことなどまずやらない。そうした危機感もなく、いまどこでどのような動植物が死に耐えているのか、知ることもない。
知ろうとも思わない。」
( ´∀`)「当然だ。人間には人間の営みがある。他の生物だって自分たちの生存が第一なのだ。
いったいどうして自分たちのことをないがしろにしてまで他を気にしなければならないのだね。」
.
748
:
名も無きAAのようです
:2016/01/08(金) 01:51:12 ID:DincLnGo0
( ´∀`)「本能に忠実になれればじつにしあわせだ。人は人らしく生きている。このうえなく正常な世界の理。
ただそこに科学はない。
傲慢な繁殖だけがある。
増えすぎたゆえの、淘汰が必要になるくらいの」
( ´∀`)「人間が発展し、この星の支配者となることが人類観点からみてこのうえない功績だとして、それらを管理、支配することは」
( ´∀`)「さらなる偉大さにつながるのではないか?」
( ´∀`)「管理できないからこそ争うのだ。秩序がないから殺しあうのだ。
互いにゆずりあう精神が培われないから、自己中心な損を嫌い、奪うことでしか幸福を信じられないのだ」
( ´∀`)「人が少なければ、そのぶん敬うことが増える」
.
749
:
名も無きAAのようです
:2016/01/08(金) 01:51:54 ID:DincLnGo0
( ´∀`)「実際にクローズド・サークルを行ってみればわかる。
食物の心配さえなければ、人が減るのは恐怖でしかない。
そんな状態で誰が殺し合いなどしたいものか。乱すもの、脅かすものこそ一番最初に排除されるだろう」
( ´∀`)「倫理があり、教育があり、思想を共有し、豊かさを分かち合う。奪い合うからこそ、争うのだ。しかし分かち合うには、いまの人は多すぎる。」
(A^ν^)「だからプロジェクトを?」
.
750
:
名も無きAAのようです
:2016/01/08(金) 01:52:35 ID:DincLnGo0
( ´∀`)「ああ。教育ない人間など人ではないよ。ただの獣だ。知性ある獣など、害獣いがいのなにものでもない。環境を破壊し、貴重な生物の循環を止める。絶滅寸前の動植物などめずらしくもない。
そしてその危機に気づきもしない。
不足になってからでは、意味がないのだ。
足下が割れそうなときには身動きなどできないだろう?」
(A^ν^)「なるほど」
( ´∀`)「人類の歴史など、殺戮の繰り返しだ。それは人も動物もかわらん。
生態系に破壊を促すだけ、人類のほうがよほど害悪ではあるがな」
(A^ν^)「あなたは原理主義者ですか?」
( ´∀`)「そうだ。極論を言っていると自分でも判っている。」
( ´∀`)「しかし長年の考えをまとめると、どうしてもこうなるのだ。」
.
751
:
名も無きAAのようです
:2016/01/08(金) 01:53:24 ID:DincLnGo0
( ´∀`)「わたしは人類を愛している」
「だから破滅するまえに、どうにかしてやりたいと思ってる」
.
752
:
名も無きAAのようです
:2016/01/08(金) 01:54:16 ID:DincLnGo0
(A^ν^)「破滅?せいぜいが殺し合い程度では?」
( ´∀`)「戦争だよ」
( ´∀`)「近いうちに必ず起きる」
( ´∀`)「そしてそれだけはどうしても回避できない」
( ´∀`)「歴史的に、国が大量虐殺を繰り返すのはどうしてだと思う?」
(A^ν^)「粛清ですね」
(A^ν^)「権力を握るための」
( ´∀`)「その通りだ。それは邪魔なものを排除するために。自分たちが、生き残るために。」
( ´∀`)「邪悪であれば、あるほどに生存が増す」
.
753
:
名も無きAAのようです
:2016/01/08(金) 01:54:59 ID:DincLnGo0
( ´∀`)「生き残る確立が高くなる。
人を蹴落とすのは本能なのだ。
しかし当然、それだけではいけない」
( ´∀`)「わたしはね、性善説を信じてもいるんだ」
( ´∀`)「誰かを思いやるのは美しい。暖かい。喜ばしい。」
( ´∀`)「家族や身内を愛するのが種を残すことの本能かもしれない。だが全くの他人を、なにの思惑ないままに愛するのは違うだろう?」
(A^ν^)「そうですね」
.
754
:
名も無きAAのようです
:2016/01/08(金) 01:55:42 ID:DincLnGo0
( ´∀`)「今の時代、愛するのにも理由が必要なのだ。男女、結婚相手、愛玩物。自分に有効なものか、そうでないものか」
( ´∀`)「その枠を取り払うためには、やはり現人類は多すぎる」
( ´∀`)「生きる数が限られてしまえば、人は争わざるを得ないのだ」
(A^ν^)「理由はそれだけでしょうか」
( ´∀`)「なに?」
(A^ν^)「この都市は恵まれています。電気も水もない農村よりもはるかに。教育も、最低限行き届いている。」
(A^ν^)「それなのに、まだ抵抗するのはなぜでしょう」
.
755
:
名も無きAAのようです
:2016/01/08(金) 01:56:25 ID:DincLnGo0
( ´∀`)「利権ほしさだろう。元は彼らの土地と考えているのさ。もう取り上げられているのに」
(A^ν^)「ええ。でもそれならそれで、おこぼれをもらっていればいい」
(A^ν^)「こちらだって援助はしている。微量ですが。」
(A^ν^)「命をかけてまで、抵抗する意味がわからない」
( ´∀`)「聖戦と考えているなかもしれんな」
( ´∀`)「大義があれば、人はなんだってできるものだ」
(A^ν^)「そんな戦士のようにも思えません。やる事といったら子供を盾にして時間を稼ぐような奴等です」
.
756
:
名も無きAAのようです
:2016/01/08(金) 01:57:07 ID:DincLnGo0
( ´∀`)「ふむ。ならば、もっと単純なものかもしれない」
( ´∀`)「争いなど、いつの世も原因はひとつだ」
(A^ν^)
( ´∀`)「足りないから、奪うのだ」
( ´∀`)「彼らの求めるものとは、そもそもなんなのだ?」
.
757
:
名も無きAAのようです
:2016/01/08(金) 02:01:31 ID:DincLnGo0
.
758
:
名も無きAAのようです
:2016/01/08(金) 02:02:16 ID:DincLnGo0
壁は順調に組み立てられている。
黒色の金属板はしっとりと輝くこともなく、ただ暗い暗い墨のように黒い。
30キロほど間隔をあけ、貧民区域を囲うようにして、高く長い。
まるで巨人がいまにも顔をだすようではないか、と誰かが言った。
それほど異様な高さだった。
遠くの山を見るようにして壁が景色のなかにある。
道路や家々を遮断しながら。
距離を詰め、丸く全体を囲っていく。
人々はその工事の目的を知らない。
邪魔でありながらも、隙間から通行できるからだ。それに文句をつけても、止めさせることなどできない。
.
759
:
名も無きAAのようです
:2016/01/08(金) 02:03:20 ID:DincLnGo0
(`∠´)「やばいな」
ビル屋上からその景色を眺める。
20階数ほどある建物だが、壁の高さにはかなわない。
雲に届くのでは、そう錯覚するほどだった。
(`∠´)「まじで…やばい」
企業がこれほど大がかりなことをするなんて、しかし予想はつく。しびれを切らして手っ取り早く片付ける魂胆だろう。
倫理も道徳もなく。
.
760
:
名も無きAAのようです
:2016/01/08(金) 02:04:05 ID:DincLnGo0
(`∠´)「あの男、こんなかから探さないと行けないのかよ……」
砂のなかに落ちた一粒を、掻き分けろというようなものだ。その一粒は金色の。
埋もれているから、見つからない。
逃げたい。逃げようか。優秀な脳みそがそう訴えかける。関係ないものに巻き込まれるのなど、クソ食らえ。
渡辺から逃げればいいだけの話。
もしくは殺されなければいい話。
(`∠´)「駄目だ……」
もしも、捕まったら。
渡辺のやり方は、よく知っている。
日頃彼女を怒らせても被害に合わなかったのは、渡辺がそこまで自分のに興味がなかったからだ。しかし今は違う。
.
761
:
名も無きAAのようです
:2016/01/08(金) 02:04:49 ID:DincLnGo0
ある意味で、とても頼りにされている。それを裏切るのは、自殺と同じ。それも酷い死にかたをするだけだ。
性器を切り落とされ、数時間ほど生かされていた男の末路を思い返す。
渡辺はそういう女だ。
どうすれば死なずにできるだけ苦しむのか、やり方を知っている。
自己流で。
(`∠´)「ちくしょー……」
せいぜい壁が、できあがるまえに。
あの男を見つけなくてはいけない。
.
762
:
名も無きAAのようです
:2016/01/08(金) 02:05:44 ID:DincLnGo0
.
763
:
名も無きAAのようです
:2016/01/08(金) 02:06:34 ID:DincLnGo0
男の体が、ベッドから半分ずり落ちている。
奇妙にねじれた頭が床について、顔は真後ろを向いている。
目が合わないことだけが救いだった。
エヴァは上手に首を締めたのだろう。
器用に、窒息させてから首をちぎった。
点々と、果実をつぶした時のように。
圧迫された瞬間、水が吹き出たようにして、血が跳ねたのだった
横たわった体。物体になりさがる、元人間。
となりにはエヴァが笑っている。��
いやなことから解放されて、嬉しそうに。
.
764
:
名も無きAAのようです
:2016/01/08(金) 02:07:29 ID:DincLnGo0
「どうして?」
川*゚ー゚)「だって、痛いことするんだもん」
実験だったら、検査だったら。��
エヴァはこんなことをしなかった。
男を殺さなかったはずだ。
聞き分けの悪い子は、いつもお仕置きされる。反抗するも、それに怯え、渋りながらも言うことを聞いていた。
職員たちの威圧感にも負けて。��
けれどここは密室で、男とふたりきりだった。
男以外の目がない。
大勢の職員から、たったひとりの男と対立するだけになる。
.
765
:
名も無きAAのようです
:2016/01/08(金) 02:08:17 ID:DincLnGo0
だからエヴァは反抗した。
聞き分けなかった。男に怒った。
ひとりよりも、大勢のほうが怖いに決まっている。
エヴァには保身がない。
それからを思考することができない。空間把握能力も低く、概念がどういう意味なのか、考えることができない。
知識が高ければ高いほど、実験動物は危険なものになるからだ。
単純でおとなしく、聞き分けることができる。��
飼育が簡単で、手間もかからない。��
でも、だからこそ。
そのあとを想像することができない。
.
766
:
名も無きAAのようです
:2016/01/08(金) 02:09:06 ID:DincLnGo0
「痛いことをされたの?」��
川*゚ー゚)「うん」��
「足をひらけって……言われたの?」��
川*゚ー゚)「掴まれたの」
息が、つまる思いで聞いた。
「……痛いのを、××られたの?」��
川*゚ー゚)「うん」
でぃはベッドに乗り上げると、男のずり落ち掛けている体を蹴った。
死体はだらん、とはずみに床に転がる。��
表情ない顔で、それを見下ろした。
.
767
:
名も無きAAのようです
:2016/01/08(金) 02:09:57 ID:DincLnGo0
「じゃあ、ぼくのせいだね」
川*゚ー゚)「なんで?」
「こいつはぼくとしたがってた」
だから代わりが必要になった。
求めるからこそ、嫌悪となってより執着された。
手をだしてはいけないジレンマと、職員の権限にストレスを感じていたはずだ。代替え品にてすませようとする。
危機を感じていた。
だからでぃは逃げていたのに。
.
768
:
名も無きAAのようです
:2016/01/08(金) 02:10:40 ID:DincLnGo0
川*゚ー゚)「だめ、あれ痛いの。でぃ柔らかいから、だめ」
「……エヴァも痛かったでしょ」
川*゚ー゚)「うん」
「だからね、ぼくも痛い」
川*゚ー゚)「されたの?」
「ううん。そうじゃないんだ……」
「でも、痛い」
まっすぐな、澄んだ目が見つめてくる。
ひどい、気持ちが悪くなることをされたのに、彼女はどこまでも清らかだった。
こうなってもまだ、でぃのことを心配してくれる。
身代わりにされたというのに。
男に刺されたのに。
.
769
:
名も無きAAのようです
:2016/01/08(金) 02:11:22 ID:DincLnGo0
「痛いんだ」
呟くと、彼女が腕を延ばし、でぃをつかむと引き寄せた。
握力の強い手は、金属の手すりを簡単に折り曲げる。骨ごと肉を引きちぎる。��
けれど警戒も、危険も感じられない。
ひやりと変温動物のように冷たい肌をしていた。優しい力で抱きしめられる。
この手がでぃを傷つけるはずがない。
.
770
:
名も無きAAのようです
:2016/01/08(金) 02:12:04 ID:DincLnGo0
川*゚ー゚)「まだ痛い?」
ゆらゆら、抱かれながら揺れる。
子供をあやすようにして。
座りながら、一定のリズムで穏やかに横に揺れる。寝付きの悪い子に眠りを誘うような仕草。
慰める動作というものを、エヴァはこれ以外に知らない。
数えもしないほどまえに、泣く彼女はこうやって誰かに慰められた。
それを教えたのは誰だっただろう。
でぃかもしれない。
もういない優しかった個体かもしれない。
川*゚ー゚)「ねえ痛い?」
.
771
:
名も無きAAのようです
:2016/01/08(金) 02:13:02 ID:DincLnGo0
心臓の音が、耳に入る。
ゆったりと、穏やかで等間隔の音が。
すぐそばに死体があるのに。
殺してしまったのに。
エヴァがかわいそうなのに。
弾力のある肌の下、鼓動を聞くのは気持ちよかった。
「うん。痛い」
そっと目を閉じた。彼女の背中に腕を回し、離れがたく抱きしめる。
肩にあごを乗せて、呟く。
「だから、もう少し。こうしていて」
.
772
:
名も無きAAのようです
:2016/01/08(金) 02:13:45 ID:DincLnGo0
考えなければいけない。��
人を傷つけた実験対が生きられる理由を。��見つけなければいけない。
エヴァが処分されない道を。
人間に危害を加えた個体は処分される。それは規則だった。
いちど支配から逃れそうになると、彼らは学習するからだ。
大きな体、獣の力。鉄の柵を食い破るほどの剛力や、顎の力。
一トンを越える体重を持つものも居た。
人型が人に害したのは、でぃが知るかぎり初めてだ。
.
773
:
名も無きAAのようです
:2016/01/08(金) 02:14:39 ID:DincLnGo0
理由をこじつけなければ、そう考えるも、都合のよい言い訳が思い浮かばない。��
エヴァは被害にあっただけ。
そんなことが通るほど、施設は優しくない。
それよりも彼女の反抗心が問題になるのは間違いない。
どうにかして、切り離さなければ。
この死体、この男とエヴァとの関係を。
考えろ考えろ。どうすればいい。
どうすればエヴァを守ることがきる?
どうすれば、男を殺したことを知られないようにできる?
死体の隠蔽はできない。エヴァを隠すこともできない。なにか、なにか工作はできないだろうか。��
しかし考えは堂々巡りにしかならない。
管理されている身として、できることが限られすぎている。
.
774
:
名も無きAAのようです
:2016/01/08(金) 02:15:21 ID:DincLnGo0
犯人探しは必ず行われる。
そのときに嘘がうまくないエヴァは、言わないことしかできない。
誰か。誰かが必要だった。エヴァのために、でぃに強力してくれるだれかが。
しばらくうずくまって考える。
思い立つと、でぃは立ち上がり、眠っているエヴァにシーツをかけて部屋を出た。
.
775
:
名も無きAAのようです
:2016/01/08(金) 02:16:03 ID:DincLnGo0
うまくいかないかもしれない。��
すべてバレてしまうかもしれない。��
それでも、考えられる一番いい方法がほかにない。
でぃの知るかぎり、もっとも確実な方法。
廊下をなんども曲がり、生活形態の違うブースにたどり着く。
夜行性の生き物たちが住まう場所。
檻に囲まれた、職員たちが手を焼くも、使い勝手の良さと耐久性の高さから重宝されている生き物。
.
776
:
名も無きAAのようです
:2016/01/08(金) 02:16:48 ID:DincLnGo0
目の前に。ぱっくり開いた大きな口が。生ぬるい空気が頬に触れる。
吐息がかかったのだ。
でぃは顔をあげた。願いを込めて。
その黒い目を見つめる。
言葉が通じるのはわかっていた。
その目に知性が宿っていることも。
だから懇願した。
「お願いだ」
.
777
:
名も無きAAのようです
:2016/01/08(金) 02:17:38 ID:DincLnGo0
(*゚ー゚)「たすけて」
.
778
:
名も無きAAのようです
:2016/01/08(金) 15:42:46 ID:UTBKDTmE0
支援
779
:
名も無きAAのようです
:2016/10/07(金) 05:04:01 ID:h6i.vu.o0
まつまつ
780
:
名も無きAAのようです
:2016/11/17(木) 13:06:27 ID:/z5WvXAw0
“誰だったかしら。兄さま。
究極の愛はカニバリズムだと言ったのは。エドガー・アラン・ポー?”
“違うよ。姉さま。
彼はネクロフィリアだったんだ”
【ブラックラグーン】
.
781
:
名も無きAAのようです
:2016/11/17(木) 13:07:08 ID:/z5WvXAw0
かさついた紙袋を破ると固い生地のビスケットがみっしりと入っている。
つまむと一口かじった。
(#゚;;-゚)「ビスケット…好き」
(#゚;;-゚)「パンも。クッキーも。パスタも。好き」
(#゚;;-゚)「お肉はきらい」
「だいっきらい…」
.
782
:
名も無きAAのようです
:2016/11/17(木) 13:09:34 ID:/z5WvXAw0
��������
.
783
:
名も無きAAのようです
:2016/11/17(木) 13:10:45 ID:/z5WvXAw0
( ´_ゝ`)「あ」
(A^ν^)「なんです?」
( ´_ゝ`)「こいつこいつ」
('A`)
( ´_ゝ`)「調べたらさ身元でてきた。すげーぞこいつの履歴書。」
(A^ν^)(誰だこいつ…?)
( ´_ゝ`)「大尉だって大尉。」
(A^ν^)「軍属ですか?」
( ´_ゝ`)「そ。いまはそんなもんなくなっちまったけど」
( ´_ゝ`)「へぇパイロットか。ならいい職にもつけただろうに。なんだってこんなとこにいるんだろうな」
(A^ν^)「職業軍人なんて…もうなかったはずですよね。そもそも軍隊なんて二十年まえに廃止されてるのに」
( ´_ゝ`)「ナンセンスな奴っているんだなあ。何が目的なんだろ」
( ´_ゝ`)「ジャーナリストだったら困る。めんどくさい」
(A^ν^)「…なにしに来たんでしょうね。」
.
784
:
名も無きAAのようです
:2016/11/17(木) 13:11:38 ID:/z5WvXAw0
( ´∀`)「飛びたいんじゃないのか」
( ´_ゝ`)「あ、いたの」
( ´∀`)「いつの間にか、個人での飛行どころか国内でも飛行機の操縦は限られたものになったからなぁ。」
( ´_ゝ`)「嬉しそうだな」
( ´∀`)「おう。パイロットなんて久々に聞いたとも。私が子供のころは空港に行けさえすればたくさんの飛行機や戦闘機の本物が見れたものだ。懐かしい」
( ´_ゝ`)「すっごい非効率かつ非合理で廃止された職業だっけ?」
( ´∀`)「嘆かわしいことだ。彼らは英雄だのに」
( ´_ゝ`)「いまじゃ遠隔で操作できるのに。手動でしか飛ばせなかった頃のはなしだろ」
( ´_ゝ`)「中身入りミサイルにならないだけましじゃん」
( ´∀`)「いつの時代も人は空に憧れるものだ。ああ羨ましい。この男は戦闘機に乗ったのだろうなぁ」
.
785
:
名も無きAAのようです
:2016/11/17(木) 13:12:21 ID:/z5WvXAw0
( ´_ゝ`)「え、無理でしょ。」
( ´_ゝ`)「戦闘機なんて何十年も前からもうただのラジコンだし」
( ´_ゝ`)「人間が運転する機械なんてよく乗れるよね」
( ´_ゝ`)「こわいじゃん」
(A^ν^)(怖いって感覚あるんだ…)
( ´∀`)「そうかな。わたしは逆にすべて機械任せのほうが恐ろしいよ。世代のせいかもしれんな」
( ´_ゝ`)
(A^ν^)
( ´_ゝ`)「んー」
(A^ν^)「そうですかね」
(A^ν^)「機械仕掛けのほうがなにより安全で確実だと思いますけど」
.
786
:
名も無きAAのようです
:2016/11/17(木) 13:13:03 ID:/z5WvXAw0
( ´∀`)「以外とそうでもない。なにより緊急に対応できない、というデメリットがあるだろう。このあいだなんてひどかった」
( ´∀`)「そもそもの始まりは食糧難からだ。それさえなければ施設破壊も逃げられることもなかったのだ…」
( ´_ゝ`)「ふぅん?」
( ´_ゝ`)「なんかあったっけ」
( ´∀`)「タワー倒壊のことだよ。それのお陰で交通事情が麻痺し、たいへんな目にあった。首都であり中心部であるここはまだましだったろうが」
( ´∀`)「わたしたちの研究施設なんて地方みたいなものだからね。身体で言えば指先のようなものだ。血液の供給が追い付かなくなれば真っ先に崩れ落ちる」
( ´_ゝ`)「回りくどい」
( ´∀`)「……つまり、食うに困ったのさ。弱小施設とはいえ職員は50人以上いたし、研究対象なんてその倍だ。」
( ´∀`)「災害といえば身ひとつで逃げるよう教えられているし、備蓄などなかった。配給を待たなければいけない」
(A^ν^)「…………」
.
787
:
名も無きAAのようです
:2016/11/17(木) 13:13:48 ID:/z5WvXAw0
( ´∀`)「しかし対処は遅かった。遅すぎるほどだ。すでに近隣の店は何もかも買い占められていた後だったし。水道が使えることだけが救いだったな」
( ´_ゝ`)「まじかー。やっぱ後手後手だったんだなー」
( ´∀`)「危機にすかさず対応できる者がいないのは仕方ない。その地位の人間が不足していたのだろう」
( ´_ゝ`)「おかげ様で。俺がいまんとこトップだしね」
( ´∀`)「しかしこの時代にこの都市で飢餓というのは笑えんぞ。水とクラッカーだけで何日も過ごすのはずいぶん苦しかったしな」
( ´_ゝ`)「防衛システムは稼働してたけど、たしかに流通に関しては遅かっただろうな。あれ判断に時間かかるし」
( ´∀`)「そこらへん改訂したほうが絶対にいい」
( ´∀`)「さて、議題の続きがまだある」
( ´∀`)「できればなにか食べながらしたいものだが」
(A^ν^)「でしたら席を変えましょう。なにか運ばせますので。フレンチはお好みですか?」
( ´∀`)「もちろん」
.
788
:
名も無きAAのようです
:2016/11/17(木) 13:17:48 ID:/z5WvXAw0
��
.
789
:
名も無きAAのようです
:2016/11/17(木) 13:19:23 ID:/z5WvXAw0
食事が足りなかった。
それが第一の悲劇。
職員も実験動物たちも、みな飢餓を経験したことがなかった。
マニュアルの生活したしたことがなかった彼らは避難についてもマニュアルでしかなかった。災害時に身ひとつで逃げることを訓練されている。
災害時の支援はすみやかに行われるため、荷物を持つ必要がない。
だがそこは限られた都市の、限られた範囲だったために、流通がままならなかった。
食品を保存する仕組みはなかった。巨大な冷蔵庫の中身は消費期限の近いものから順に自動的に廃棄される。
職員たちはみな、その日の日付を食べたことがない。要領を圧迫することなく新鮮な食事を取るための仕組みである。
.
790
:
名も無きAAのようです
:2016/11/17(木) 13:20:17 ID:/z5WvXAw0
( ´∀`)「さて」
( ´∀`)「われわれが目指したのは真性半陰陽、つまり完全なる両性具有者だ」
銀色のナイフが、霜ふりの赤い肉を切り落とす。ほとんど力を入れていないに関わらず、指先だけで肉が裂けた。
( ´∀`)「産むこと、孕ませることに特化させた生殖のための生物」
( ´∀`)「ただ膣の育ちが遅れていてね、さすがにデリケートな器官だから、時間を待たなくてはいけなかったのだ」
( ´_ゝ`)「クラインフェルターみたいに、XXY型ってこと?」
( ´∀`)「ちがう。それではただの染色体異常だ。これは根本からして異なる」
( ´∀`)「ほ乳類に、魚の性質を持った性別転換だと考えてくれればいい。卵巣も精巣も、機能している」
( ´∀`)「本来両性具有は繁殖に向かない。どちらかの生殖器に分かれなくては2つとも駄目になるうえ、もともとが歪なため奇形のかたちで生まれてくることが多い」
( ´_ゝ`)「アンタの想像が確かなら、そいつは精子と卵子を両方持っていることになる」
( ´_ゝ`)「そんな存在なんて、可能なのか?」
.
791
:
名も無きAAのようです
:2016/11/17(木) 13:20:59 ID:/z5WvXAw0
( ´∀`)「可能なのだ。そして、生み出した。1000/1の確率的で卵が授精した瞬間に、このプロジェクトは始まった」
( ´∀`)「単純に生殖するだけなら、単体生物のほうが優れているのは当然だ。しかし人は有性生殖によって遺伝子を取り入れることを選んだ。その結果がこの大繁殖。安定した繁栄に繋がるのなら、病気に強い種としての存続」
( ´∀`)「そこで考えられたのだ。産むこと、孕ませることのできる第三の性があればいい、人はなにもかも、クローンに代用させてきた。妊娠もまた、同じようにすればいい」
( ´∀`)「ただどうしても試験管のなかで育成する子供では支持を得られなかった。あくまでも自然妊娠に拘られてね。試行錯誤した結果思いついたわけだよ」
( ´∀`)「男、女、両方を相手に、子供を作れるような存在を」
.
792
:
名も無きAAのようです
:2016/11/17(木) 13:21:44 ID:/z5WvXAw0
( ´_ゝ`)「精子と卵子を両方備えるといずれどちらも駄目になるんじゃないか?」
( ´∀`)「本来ならば、そうだ。」
( ´∀`)「しかし両方を同時に備える必要はない。使い分ければいいのだから。魚のように」
( ´_ゝ`)「時期ごとに性別を代えるのか?」
( ´∀`)「少しちがう。男女差はないが、内蔵の中身が変わる」
( ´∀`)「それにより、両性を持つことが可能だ」
.
793
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名も無きAAのようです
:2016/11/17(木) 13:22:25 ID:/z5WvXAw0
��
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794
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名も無きAAのようです
:2016/11/17(木) 13:23:05 ID:/z5WvXAw0
ルーティン化されたはずの日常が少しずつ変わる。
職員たちの分を除けば大型の実験体への供給が最優先だった。
本能のまま生きている彼らが管理可能なのは習性をきちんと把握しているからだ。
そしてその分のしわ寄せはある程度safeと判断された者たちに来る。
二日に一度あった食事がなくなった頃には
水と点滴に使う栄養液だけが配給された。
最低限の糖分は保証される。
しかしだからと言って空腹がなくなるわけではない。
胃袋を満タンにしないかぎり
知性のない獣は餓えに苦しむ
それはsafe(安全)の扱いを受けた者たちも同じだった。
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795
:
名も無きAAのようです
:2016/11/17(木) 13:24:01 ID:/z5WvXAw0
( ´_ゝ`)「“人が想像しうることは人は実現できる”」
( ´_ゝ`)「ジュール・ヴェルヌの世界だな」
( ´∀`)「だがまだ全て終わっていない」
( ´∀`)「このプロジェクトで人類を抑制するためには、経過中の実験体が必要だ。」
( ´_ゝ`)「死んでなかったの?」
( ´∀`)「檻のなかにはいなかったのか?」
( ´∀`)「あれは頭がいい」
( ´∀`)「そうなるように教育したからな」
( ´_ゝ`)「人類が減少するか否か、その実験体にかかってるわけだ」
( ´∀`)「なんとしても、見つけなければいけない」
( ´∀`)「でなくば、すべてが無駄に終わってしまう」
.
796
:
名も無きAAのようです
:2016/11/17(木) 13:24:42 ID:/z5WvXAw0
ごはんが無いと、うるさかった。
もうなにも食べてない。食べないあいだが長くて長い。最初からそうだったみたいに。
ごはんの時間があったのも忘れちゃったかもしれない。
お腹のすかせたうるさい子は檻の棒を噛む。
そんなことをしたらビリビリするのが飛ぶのにうるさい子たちはやめなかった。
そのうちビリビリが弱くなってただのパチパチになってもまだかじかじしてる。
ビリビリが痛くないんじゃない。
お腹が空いてるだけなの。
わたしは大丈夫
だってなんでも食べれるもの。
堅くても柔らかくてもどろどろしてても
酸っぱくても苦くてもえぐくても辛くても
.
797
:
名も無きAAのようです
:2016/11/17(木) 13:25:31 ID:/z5WvXAw0
わたしはなんでも食べれるの。
でもあの子は違うから。
粉っぽい板きれみたいなのしか食べなかった。
だから小さくて弱くて柔らかすぎる。
歯をたてるとすぐに破れるくらい。
どんなものでも飲み込めるわたしなのに
あのこはあんなものしか口に入れないから心配。弱くて小さいから心配。
ぶつかっても叩かれても引っ張られても
ちっちゃく丸くなるしかできないからかわいそう。
わたしは大丈夫。あのこには平気だけど。
うるさい子や他の子たちは平気じゃないかもしれない。
他の子たちがあのこをごはんにしちゃったらたいへん。
柔らかいからすぐになくなっちゃう。
そのまえにわたしがごはんにしてあげなきゃ。ごはんにされる前にわたしがごはんにしてあげなきゃとっても しんぱい
.
798
:
名も無きAAのようです
:2016/11/17(木) 13:26:15 ID:/z5WvXAw0
( ´_ゝ`)「フィッシングはどう?」
( ´∀`)「釣りはしたことないな」
( ´_ゝ`)「じゃなくて、フィッシング(囮)適当な情報ばらまいて食いつくの待てばいい。地味だけど効果あるよ」
( ´_ゝ`)「ただそれなりに食いつくエサが必要だけど。」
( ´∀`)「ふむ」
( ´_ゝ`)「だってさ、こんだけ探しても見つからないってことはめんどくさいことになってるか、完璧に隠れてるかのどっちかだぜ」
( ´_ゝ`)「スラムに潜まれたら向こうからやってこない限り辿るのは無理だし」
( ´∀`)「意外だな。てっきりこの都市のすべては管理されているものと思っていたが。やはり手の届かないところもあるのかね」
( ´_ゝ`)「映画の見すぎ。ごみ貯めをなんのために調べるのさ。」
( ´_ゝ`)「あそこらへんは無法地帯。中身を知る意味もない」
.
799
:
名も無きAAのようです
:2016/11/17(木) 13:27:10 ID:/z5WvXAw0
( ´∀`)「なるほど」
( ´_ゝ`)「アンタ動き出すような情報持ってないの?アンタが詳しいんだろ?早くしないと回収できなくなるぜ」
( ´∀`)「そう言われてもなぁ……臆病なアレが何を考えているのかさっぱりわからん」
( ´∀`)「そもそもなぜ逃げたのかもよくわからんのだ。充分すぎるくらい、待遇はよかったのに」
( ´_ゝ`)「そういやそうだな」
( ´_ゝ`)「逃げることについて、教えたのか?教えないと逃げないはずだろう」
( ´_ゝ`)「逃亡する発想なんて普通思い付かないだろ」
( ´∀`)「アレは頭がよかった」
( ´_ゝ`)「それでもだ。外に出したことなかったんだろ?」
( ´_ゝ`)「だったら逃げるなんてこと、思い付かないはずだ。自分では」
( ´∀`)「たしかに。君の言う通りだ。恐らく職員から何らかの影響を受けていたのだろう。多少の触れあいは認めていたからな」
( ´∀`)「しかしこんなことになるのなら、隔離すべきだった。教育が仇になった」
.
800
:
名も無きAAのようです
:2016/11/17(木) 13:28:02 ID:/z5WvXAw0
( ´_ゝ`)「必要あるのか?ただの研究体だろうに」
( ´∀`)「当然だ。教育とはすべての知的生命体に平等に与えられるものだ。人は生まれながらに人なのではない。教育によって人になるのだ」
( ´∀`)「支配が楽だからといって、無知のままにしておくのは許しがたい。放っておけば無知ゆえの取り返しがつかないことをしでかすこともあるのだ。最低限の思考は持ってないと」
( ´_ゝ`)「でもやらかしたんだろ?」
( ´∀`)「ああ。残念なことだ。あれは倫理を知らなければいけない。命というものがどれほど尊く尊重されるものかを学ばなければならんのだ」
( ´∀`)「でなくば母にはなれない」
( ´_ゝ`)「ふーん」
( ´_ゝ`)「倫理ねぇ……ただの実験動物にしてはずいぶんたいそうな」
( ´∀`)「人に愛された分、人になつくのが理想ではないか」
( ´∀`)「そのために教育したし躾もした。心を鬼にして」
( ´∀`)「大切なことを教えたのだ。命を殺すことがどれほど罪深いか」
.
801
:
名も無きAAのようです
:2016/11/17(木) 13:28:57 ID:/z5WvXAw0
生きるために食べる
食べるために殺す
殺すために 生きる
生きるために
.
802
:
名も無きAAのようです
:2016/11/17(木) 13:29:44 ID:/z5WvXAw0
大丈夫だよエヴァ
守ってあげる
きみは絶対に守ってあげる
「おいどうなっている。乾燥肉じゃどうやっても足りなかったぞ。せめて骨のついた奴じゃないと」
「無茶を言うな。穀物だってもう残り少ないんだぞ。そんなもの奴等に出せるもんか」
「我慢させておくしかないだろう」
「自然では何日も飲まず食わずって場合もあるんだ一週間くらいどうってことない」
「それもそうだな。多少暴れるのも仕方ないだろう」
「まだ記録の取れてない奴だけ隔離してお
け」
「はは、見ろよあいつら。まるで獣だな」
「……共食いしてやがる」
.
803
:
名も無きAAのようです
:2016/11/17(木) 13:31:47 ID:/z5WvXAw0
('A`)「壁が完成する前だ」
( ФωФ)「早急すぎやしないか?」
恐らく最後になるであろう密談。
ふたりの意見は真っ向から割れた。
('A`)「嫌なタイプなんだよあれは。ああいう大がかりな工事をするってことは大がかりな目的があるってことだ」
( ФωФ)「……ただの壁だろう。俺たちを押しきるだけの。かのベルリンと同じものさ
('A`)「博識だな。しかしこの国が、この都市がそんな穏やかだと思えるのか」
( ФωФ)「この国は停滞している」
( ФωФ)「民主制の顔をした企業による独裁制だ。益のないことに金はかけんよ」
.
804
:
名も無きAAのようです
:2016/11/17(木) 13:32:43 ID:/z5WvXAw0
( ФωФ)「我々がようく知っている」
('A`)「…………それならいい。」
('A`)「しかし、お前アレを見て何も思わないのか?」
( ФωФ)「ダムみたいだなとは思うが……正直お前がそこまでなにを警戒してるのかわからんよ」
('A`)「そうかい。他のやつらもお前と同意見か?」
( ФωФ)「ああ」
('A`)「……あれが処刑を連想させられるのは俺だけか」
('A`)「お前たちが慣れきっちまってるのか」
どちらもだろうな。
.
805
:
名も無きAAのようです
:2016/11/17(木) 13:34:01 ID:/z5WvXAw0
��
.
806
:
名も無きAAのようです
:2016/11/17(木) 13:34:51 ID:/z5WvXAw0
(A^ν^)「どうした?」
( )「これは……!申し訳ありません。騒ぎになってしまいましたか」
(A^ν^)「なにがあった?」
( )「お手を煩わせるほどのことでは」
(A^ν^)「いいから、なにがあった?」
( )「…………不審な男がどうしても責任者に会わせろと、」
(A^ν^)「……なぜそれで騒ぎになった?」
本来ならばゲート前の不審者などすぐに排除される。騒ぎになるほどの時間もなく。
( )「…………申し訳ありません。相手は情報屋でして」
(A^ν^)「……」
末端の職員と情報を生業にしている者は切っても切れない縁にある。どこぞの職員が小飼の情報屋と揉めたのだろう。
(A^ν^)「それで、その情報屋がなんと?責任者をだせと?」
( )「はい……」
呆れた。愚かな職員はどうしようもない者を相手にしたようだった。
.
807
:
名も無きAAのようです
:2016/11/17(木) 13:35:54 ID:/z5WvXAw0
(A^ν^)「ちなみに責任者とは、誰を指しているんだ?」
( )「さぁ……ただ責任者としか。ただえらく必死らしくて、いまもまだ暴れているようなんです。」
(A^ν^)(……)
(A^ν^)「どんな奴だ?上級市民ではまずないだろう?」
( )「はい。中間市民でもありません。しかし下層市民でもありません。」
(A^ν^)「どこにも属してない、情報屋らしいな」
(A^ν^)「なにか情報でも売りに来たのかな」
( )「どうでしょうか。ただ、取引をしたいと申し出でてますね。私たちは相手にしなかったので、暴れました」
(A^ν^)「……会ってみるか」
( )「え、」
(A^ν^)「彼らの価値観が知りたいな」
(A^ν^)「たとえばどんな時に命を懸けるのか、とか」
.
808
:
名も無きAAのようです
:2016/11/17(木) 13:36:52 ID:/z5WvXAw0
(`∠´)「……」
貧相な小男だった。
目だけが油断なくあたりを見回している。
彼の姿を目にすると、男は飛び付くようそわそわとし始めた。
(`∠´)「……ええと。あんたが今回の責任者?」
(A^ν^)「責任者という言葉をどういう意味で使ってるのかわからないが、ここを預っている一人で間違いないとも」
(A^ν^)「もっとも私の上にはもっと多くの者がいるがね」
下位の者と話すには自然と口調が改まる。
そのように教育を受けている。彼には意識もなかった。
(`∠´)「………」
.
809
:
名も無きAAのようです
:2016/11/17(木) 13:37:35 ID:/z5WvXAw0
通常ならば自分のような存在、瓦解したとはいえ一族‘’ナンバーズ‘’がこの男と会話することなどない。処理を適当に任せ、本来の政務に励んでいる。
しかし焦っていた。
反抵抗勢力の読めない攻撃、短いリミット。
部隊の集める情報量だけでは解決の糸口にもならない。
だから何らかの、少しのヒントでもいいから欲しかった。ほとんどきまぐれと興味本意である。
(A^ν^)「それで?何の用でここに来たのだ?」
(`∠´)「……」
(`∠´)「……売りに来たんだ。」
(`∠´)「リスト……買ってくれよ。たぶんあんたたちの知りたいやつらのこと、たくさん載ってると思うぜ」
男はそういって手帳を取り出した。
それはこの情報屋が人探しのためにとある娼婦から譲り受けたものだった。
.
810
:
名も無きAAのようです
:2016/11/17(木) 13:38:20 ID:/z5WvXAw0
��
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811
:
名も無きAAのようです
:2016/11/17(木) 13:39:08 ID:/z5WvXAw0
( ´_ゝ`)「褒めろ」
(A^ν^)「ええ……」
( ´_ゝ`)「ドクオ・ハーレイのことがわかったのは収穫だろ。表に出てないだけで裏に要るのはそいつだろうし」
(A^ν^)「でしたら私の手柄なのでは……?」
( ´_ゝ`)「おまえ一人でこの膨大な名前のなかから('A`)だけを特定して( ФωФ)との関連性を見つけられたか?」
(A^ν^)「………………いいえ」
( ´_ゝ`)「( ФωФ)の使用してる施設と('A`)の彷徨いてる場所はお な じ
また娼婦たちを連絡係に使ってるのは明白だ」
( ´_ゝ`)「ただの顧客リストのなかの名前の欄からこいつらの繋がりをおまえは見つけられたか?」
(A^ν^)「いいえ。逆にどうやったんですか……素晴らしいですね」
.
812
:
名も無きAAのようです
:2016/11/17(木) 13:39:55 ID:/z5WvXAw0
( ´_ゝ`)「偽名の使い方を確認しただけだ。毎回名前のを変えるやつ、第二の名を常に持ってるやつ。こいつは後者だったからな」
( ´_ゝ`)「なにを考えてるのか知らんが、恐らくこいつが参謀だろう。これで狙いをつけることができる」
( ´_ゝ`)「リードできるな」
(A^ν^)「…………リード」
( ´_ゝ`)「不満か」
(A^ν^)「いいえ。ただ、」
(A^ν^)「まだ考えてるんです。彼らの目的を」
.
813
:
名も無きAAのようです
:2016/11/17(木) 13:40:55 ID:/z5WvXAw0
��
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814
:
名も無きAAのようです
:2016/11/17(木) 13:42:49 ID:/z5WvXAw0
甲高い音が鳴り響く。
それは人生のかなり最初のほうで聞いたことのある音だ。もっぱら最近はアラーム起こされるばかりなので、彼はこの音の主を認識するのに時間がかかった。
りりりりりり。りりりりりりり。
奇襲ではない。緊急でもない。
しかしこの割れんばかりの頭のいたくなる音はなんだ?寝起きにこの音で起こされるのはちょっとした拷問である。
彼は手探りで音の元を探した。
歩き回るほどに意識ははっきりしてくる。
やがて彼は気がついた。
この部屋に電話線と呼べるものがあっただろうか。
.
815
:
名も無きAAのようです
:2016/11/17(木) 13:43:29 ID:/z5WvXAw0
りりりりりり。りりりりりりり。
部屋の前に固形物が落ちている。それは懐かしい形をしていた。黒電話の受話器部分。
それだけが落ちていて、わめいている。
デリバリーサービスのメッセージ。
すぐに目が覚めた。携帯の電波すら限られるこの国の、この場所で。遠慮なく張り巡らされた電波を受信できるなど。
手に取る。見た目に反し、受話器は軽かった。これひとつで、ケーブルなしでどこまでも繋がる電話になる。無線機のようなものだ。
警戒しながらボタンを押した。爆発物だと思えなかったのは、あまりの軽さゆえだ。
('A`)「…………だれだ」
繋がった瞬間的、数秒の間があいて、声が聞こえた。
かすかに笑っているような気配がした。
「パンケーキの焼き方を知ってるか?」
.
816
:
名も無きAAのようです
:2016/11/19(土) 07:44:45 ID:qkaGEcqY0
きてたかおつ
817
:
名も無きAAのようです
:2018/08/25(土) 23:34:26 ID:mwZIYLLI0
やべぇ2年かよもう
818
:
名も無きAAのようです
:2018/09/05(水) 11:35:41 ID:gib7J9Rc0
はやいな
819
:
名も無きAAのようです
:2018/10/01(月) 02:16:29 ID:nO7Fs2NQ0
ずっと待ってるからな
820
:
名も無きAAのようです
:2021/06/30(水) 21:09:59 ID:qAnLsSBc0
実は待ってる
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