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( ・∀・) 夢都市のようです (゚、゚トソン
1
:
名も無きAAのようです
:2012/05/03(木) 15:07:09 ID:pjD1kZAc0
(; ∀ )「あ゛ぁ…ぶ……はっ」
冷たい苦しい沼の中。
息を吸おうとしても咥内に入ってくるのは臭い泥ばかりで。
こんなことはなら、いっそう死んでしまった方がマシだと思った。
(; ∀ )「ぶぁはっぐっふぅ…ぅ」
これは夢だ。そんなことわかってる。いつものように…いつものように冷静にここから這い上がればいい。
けれど、何故かいつもなら自由に動く手足は、恐怖に弄ばれ言うことを聞いてくれなかった。
霞む視界で見上げた空は星一つない暗闇で、黒い空の真ん中には青白く光る鋭い三日月が
こちらをにんまりと見下ろしている。
ああ、苦しい、クルシイ。
2
:
名も無きAAのようです
:2012/05/03(木) 15:12:10 ID:pjD1kZAc0
(; ∀ )「はぁっ…は、ぅ゛、ん゛」
何故僕はこんな場所で溺れているのだろう。
何故僕らがあんな目に合わなければならないのだろう。
がぼり、と大量の泥が喉の奥に流れ込んできて、息が詰まった。
これは夢だというのに、苦しくてたまらない。冷たくてたまらい。
意識が遠のいていく中、もう殆ど暗い影に覆われていた視界の中を、一線の銀色の光が走った。
とたん、今まで体に纏わり付いて重くのしかかっていた泥がサァッと消え去り、
喉の奥に詰まっていたはずの物も、酸素の足りない息苦しさも、まるで幻の様に消える。
3
:
名も無きAAのようです
:2012/05/03(木) 15:17:30 ID:pjD1kZAc0
(; ∀ )「…ッハァ!」
一瞬何が起こったのか把握できず、慌てて自由になった手足でその場を這い回る。
けれどすぐに、もうどこにも泥の沼がないことに気が付いた。
それどころか、手足にも着ている服にも、体のどこにも泥は付いていない。
安心してドキドキと五月蝿くなっていた心臓を落ち着かせ、両手を地に付けたまま顔を上げる。
そこには―――
.
4
:
名も無きAAのようです
:2012/05/03(木) 15:22:27 ID:pjD1kZAc0
(;・∀・)
( #゚;;)
.
5
:
名も無きAAのようです
:2012/05/03(木) 15:27:22 ID:pjD1kZAc0
――夢とは、
・睡眠中あたかも現実の経験であるかのように感じる、
一連の観念や心像のこと。睡眠中にもつ幻覚のこと。
・将来実現させたいと思っていること。願望。
(Wikipedia引用)
( ・∀・) 夢都市のようです (゚、゚トソン
.
6
:
名も無きAAのようです
:2012/05/03(木) 15:32:56 ID:pjD1kZAc0
【20XX年5月10日
またあの場所に行った。銀色と黒で構成された入り組んだ駅。
今回は前よりも人通りが少なかったけれど、
誰かから逃げなくちゃならないのは変わらなかった。
いつものホームのいつもの車両に乗り込んで、その「誰か」を撒いた。
外の風景は相変わらずぐちゃぐちゃ。
私の乗り込んだ車両の人数も、顔が見えないのも変わらない。
今回は、次の駅に着いたところで目が覚めた。
夢占いのサイトによれば、駅は人生の岐路を示し、電車は現実からの逃亡を示し、
追跡者から逃げ切ることが出来るのは悩みの解決を示す…、らしい。
らしいけど、やはりこういうネットの情報はあまり
あてにしないほうがいい、と聞いたことがある。
実際、私の悩みが解決する兆しなんて、欠片も感じない。
眠っている間のただの映像に、そんなものが隠されているなんて
私には到底思えない。】
(゚、゚トソン パタン
(-、-トソン フー…
7
:
名も無きAAのようです
:2012/05/03(木) 15:37:17 ID:pjD1kZAc0
日々漠然と、何の感動もなく生きている。
第一話「腐敗する夢」
.
8
:
名も無きAAのようです
:2012/05/03(木) 15:42:01 ID:pjD1kZAc0
(゚、゚トソン「おはようございます」
朝。平日。トソンは誰もいないリビングに挨拶をすると、テレビをつけて適当なチャンネルにあわせた。
そして画面の右上に出た時刻を見て、今日も学校に行くのは諦めることにする。
現在時刻は午前八時半。トソンの家から彼女が属する高校までは、自転車で二十分かかる。
どう考えても今から家を出て走ったところで、遅刻は確定だった。
さっさと郵便受けから新聞を取り出し、今日こそは学校に行こうと思って着ていたセーラーを脱いで、
その下に着ていたTシャツと短パンになる。
ソファーの上にそれを適当に放ると、トソンはトーストにマーガリンを塗っただけの簡単な朝食を食べながら、
ぼんやりと広げた新聞の一面を眺めた。
灰色の紙の束には、いつもどおり、特に関心を寄せるようなことは書かれていなかった。
でも何もないというわけでもない。そこには、この国や世界のありとあらゆる話題が踊っているのだ。
暗い話から明るい話。地域の小話から世界的事件。世の中は今日も激動に満ちている。
9
:
名も無きAAのようです
:2012/05/03(木) 15:47:21 ID:pjD1kZAc0
(゚、゚トソン(某国が謝罪と賠償を某メーカーに要求)
(゚、゚トソン(五歳の男の子を母親の恋人が虐待)
(゚、゚トソン(溝に詰まった野良犬をレスキュー隊が救助)
(゚、゚トソン(意識不明患者今月に入って四人目、原因は未だ不明)
(゚、゚トソン「ふーん」
アナウンサーが時折噛みながら読み上げるニュースを、右から左へ聞き流し、二枚目のトーストを齧る。
いつもよりも焦げてしまったトーストは、なんだかザリザリして喉に詰まって、口の中がカラカラになりそうだった。
そういえば今日はまだ何も飲んでいないことを思い出し、牛乳を取りに台所へ向かう。
冷蔵庫のドアポケットに入ったそれを掴んで持ち上げると、思っていたよりも軽い手応えに眉を顰めた。
,_
(゚、゚トソン(なくなってる……)
10
:
名も無きAAのようです
:2012/05/03(木) 15:52:42 ID:pjD1kZAc0
世界は激動に満ちている、らしい。
でもそんなことは、トソンにとっては道端の石ころと同じくらい関心のないことだった。
はっきり言って、世の中の出来事なんて、直接関わりあわなければ起こっていないも同然なのだ。
どこか遠い場所で羽ばたいた蝶が起した風が、この辺りで台風になるという話くらい、眉唾物で実感が沸かない話。
トソンにとっては、牛乳がない事のほうがよっぽど重要なくらいの話で。
ぶっちゃけ、「ドーテモイイ」。
(゚、゚トソン(牛乳……買いに行きますか)
○ ○ ○
11
:
名も無きAAのようです
:2012/05/03(木) 15:57:05 ID:pjD1kZAc0
平日の九時過ぎという時間帯、トソンの住む住宅街は静まり返っている。
主婦は家事に追われ家の中に引っ込んでいるし、男達や子供達は会社や学校に出払っているからだ。
それは彼らにとっては当たり前のことだ。その当たり前からちょっと外れたところに、トソンは立っている。
牛乳の入ったコンビニ袋をガサガサと揺らしながら、トソンはぼんやりと街の様子を眺めながら家に帰っていた。
ここのところは夏日が続いたいたから、外に出るのは少し憂鬱だったのだが。
気温は思ったよりも暑いということはなく、天気もいいからトソンは散歩気分でゆっくり歩く。
ぽかぽかと気持ちのいい日差しに、目を細めて空を見上げた。
今頃学校では皆授業を受けている頃だろうか。
(゚、゚トソン(皆何やってるんですかねー)
トソンは学年が上がった時に貰った時間割表の事を思い出そうとしたが、
もう随分と目にしていないそれは、ぼんやりとしか思い浮かべることが出来なかった。
なんだか、一時間目から体育だったような気がするし、数Iと数Aの二時間ぶっとおしだった気もする。
どっちにしろ嫌な時間割には違いない。
12
:
名も無きAAのようです
:2012/05/03(木) 16:02:11 ID:pjD1kZAc0
(゚、゚トソン(今日で何日目でしたっけ、学校行ってないの)
(゚、゚トソン(そろそろ行かないとやばいですかねえ)
袋を持っていない、空いてる方の手の指を折って、学校に行っていない日数を数える。
確か最後に顔を出したのが、担任から電話を貰った次の日だったから。
(゚、゚トソン(三週間か)
(゚、゚トソン(うん、まだ大丈夫大丈夫)
(゚、゚トソン(ごーるでんうぃーくを挟んでますし)
(゚、゚トソン(たぶん)
もしかしたらそろそろ親に連絡を入れられるかもしれない。
そうなると流石にちょっとまずい。そうならないようにやっぱり明日くらいは顔を出しておいたほうがいいだろう。
明日こそはちゃんと起きようと意気込みながら、ちょうど公園の横を通ったとき。
(゚、゚トソン「あれ…?」
トソンは今この時間ならこんなところに居るはずのない人間を、公園のベンチの上に見つけた。
13
:
名も無きAAのようです
:2012/05/03(木) 16:07:02 ID:pjD1kZAc0
( ><)
昼寝(というには少し時間が早いが)をしているのだろうか。
犇めく住宅の隙間にひっそりとある小さな公園に一つだけあるベンチ。
その上で、小学生と思しき男の子が、膝に本と猫を乗せて、首をこっくりこっくりさせていた。
男の子以外、公園には誰もいない。トソンは少しだけ気になって、
公園に入ると男の子を起さないように近寄った。
隣には黒いランドセルが置いてあり、これは明らかに。
(゚、゚トソン(サボり、ですね)
(゚、゚トソン(いっけないんだー)
(゚、゚トソン(なんて、私も人のこと言えませんけど)
平日のこんな時間に、いるべき場所にいない小学生。
そんな彼に少し親近感を覚えたトソンは、男の子を起さないように気をつけながら、隣に腰かけた。
そして、トソンがベンチに座ったのを気配で感じたのか、男の子の膝で眠っていた猫がパチリと目を開けた。
猫は、男の子の膝の上に座ったままトソンを見上げる。
(*‘ω‘ *)「…………」
(゚、゚トソン(目ちっさ……猫なのに)
14
:
名も無きAAのようです
:2012/05/03(木) 16:12:27 ID:pjD1kZAc0
若干ふくよかな白くて真ん丸い猫は、じっとトソンのことを見上げ、それからくぁっと口を開けてあくびをする。
綺麗なピンク色の口の中に、鋭い白い歯が並んでいるのを覗き込みながら、トソンはふと頬を緩めた。
可愛いなあと思う。
猫といえば、猫目という呼称まで与えられるほど特徴的な、あの釣り上がった大きな瞳だ。
でもトソンは、猫の瞳見つめられると、いつもなんだか何でもこちらのことを見透かされているような、
なんとも居心地の悪い気持ちになってしまって、あまり猫目が好きではなかった。
けれど、この猫みたいなつぶらな瞳なら、とても見ていて落ち着く。素直に可愛いなあと思えた。
ついでにこのままあの甘い声で「ニャ〜」と鳴いてくれれば完璧なのだけれど。
(*‘ω‘ *)
(゚、゚トソン
(*‘ω‘ *)「……ぽっ!」
(゚、゚;トソン「?」
15
:
名も無きAAのようです
:2012/05/03(木) 16:17:13 ID:pjD1kZAc0
そんなことを考えながら、じっと猫の仕草を愛でていたら、猫がこちらをじっと見つめてきた。
トソンも見つめ返す。
すると、猫は突然期待から大きく外れた、凡そ猫らしくない妙な声で鳴き始めた。
(*‘ω‘ *)「ぽっぽ! ぽっぽ!」
(゚、゚;トソン(ええええ、何この変な鳴き方)
(*‘ω‘ *)「ぽぽっ! ぽっぽっぽ!」
。
( ><)゜....zzZ
( ><) ハッ
( ><)「え、え、ぽっぽちゃん、いきなりどうしたんですか?」
案外大きな猫の声に、今まで穏やかに眠っていた男の子は、ハッと目を覚ますと、
寝起きのまだどこかとろんとした目で、困ったように膝の上でトソンに向かって鳴き続ける猫を抱きかかえた。
(*‘ω‘ *)「ぽっぽ! ぽっ!」
(゚、゚;トソン(この鳴き方…猫に見えるけど本当は猫じゃない…とか?)
16
:
名も無きAAのようです
:2012/05/03(木) 16:22:11 ID:pjD1kZAc0
( ><)「鳴いてるだけじゃわかんないんです! いったい何に向かって鳴いて……」
(;><)そ「うわっ」
(;><)「お姉さん誰なんです!?」
(゚、゚;トソン(今まで気が付いてなかったのか)
男の子は猫の視線を辿ってようやくトソンに気が付いたらしく、彼女に気が付くとビクリと驚いて身を退いた。
その際、反対側に置いてあったランドセルがドサリとベンチから落ちたが、男の子はそれに気が付かずに、
ベンチの端まで猫を抱えてずり下がった。ちなみに膝に乗った本は器用なことにそのままである。
(゚、゚トソン「あ、えっと、私は怪しい者では」
(;><)「じっ、じゃあ絶対怪しい人なんです!」
(゚、゚;トソン「えぇ!? 何で!?」
(;><)「自分でそういう人は怪しい人だって相場が決まってるんです!」
(゚、゚トソン「ああ、言われてみれば……」
(゚、゚;トソン「っていやいやこういうノリは本当に怪しくないほうが多いですよ」
17
:
名も無きAAのようです
:2012/05/03(木) 16:27:17 ID:pjD1kZAc0
トソンは、彼のいうとおり、怪しくないとわざわざいう人間程確かに怪しいな、と納得しかけ、
けれどすぐに我に帰ると、自分は絶対に怪しくないからと男の子両肩を掴んで、
やや怯えた顔をする男の子にしっかり目の高さと目線を合わせて説明した。
が、男の子はトソンに掴まれた自分の肩と、トソンを見比べると、おずおずと口を開いて――
( ><)「も……もしかして」
(;><)「しょたこ(゚、゚;トソン「違いますから!」
何かとんでもない誤解が生まれよかけたのを、トソンは必死で遮った。
( ><)「……違うんですか?」
(゚、゚;トソン「違いますから! 私が好きなのは歳は30歳以上で背が3m以上のムキムキマッチョな男性ですから!」
(;><)そ「えぇ!?」
必死のあまり自分でもありえないと思う嘘が口から飛び出たが、
男の子が細い目をほんの一瞬見開き、「へぇ……」と気の抜けたような声を漏らしたのを見た限り、
どうやら信じてもらえたらしい。
まだ少し身構えてはいるけれど。
18
:
名も無きAAのようです
:2012/05/03(木) 16:32:05 ID:pjD1kZAc0
( ><)「違うんならいいんです……」
(゚、゚トソン「そんなことより、きみ」
( ><)「なんですか?」
(゚、゚トソン「ランドセル、落っこちて中身ぶちまけてますよ」
(><;)そ「あっ」
○ ○ ○
その後、トソンは男の子のランドセルからぶちまけたものを拾うのを手伝い、
そのまま二人は一緒に並んでベンチに腰かけ、のんびりと午前の暖かい日光を浴びていた。
男の子の名前は、ビロードというらしい。隣街の小学校に通っていて、
この公園にはいつもサボりをするときだけ、わざわざ一時間かけて歩いてくるという。
トソンが、どうして学校をサボるんですか? と軽い気持ちで尋ねてみたら、ビロードは少し俯いて黙ってしまった。
( ><)「……そのぅ」
19
:
名も無きAAのようです
:2012/05/03(木) 16:37:01 ID:pjD1kZAc0
(゚、゚トソン
(゚、゚トソン「ま、お互い様ですよ。私だって学校サボってるわけですし。無理していわなくていいですよ」
(゚、゚*トソン「こんなぽかぽかな気持ちいい場所で、そんなに暗い顔をしているのももったいないですしね!」
( *><)「……はいなんです」
本当にその日は空気がぽかぽかとしていて、
朝っぱらに考えたことも全部どうでもいいと思えるくらい気持ちがよかった。
うーんとベンチの上で両手を万歳し、背中を逸らしてトソンは伸びをする。
隣でもビロードが同じ事をしているのを見て、なんだか微笑ましかった。
彼の隣には、黒いランドセルと、その上に丸まっている白い猫(名前は『ちんぽっぽ』
というらしい、これだから小学生は)。
つやつやとした表面には、大小さまざまな傷が見えた。
実をいうとトソンは、さっきランドセルの中身を拾っている時に、落書きや切り傷でボロボロに
なった教科書を目にしていたのだが、ビロードには黙っていた。多分、見たことは言わないほうがいい。
何より、陽気な光の下では、それすらも自分にとってどうでもいい気がした。
しばらくゆっくり目を閉じて、日の光を満喫する。隣からは、本を読んでいるらしい、ビロードの
ページを捲るかすかな音が聞こえた。
20
:
名も無きAAのようです
:2012/05/03(木) 16:42:00 ID:pjD1kZAc0
(゚、゚トソン「何読んでるんですか?」
( ><)「そーせきさんなんです!」
そーせき。夏目漱石のことだろうか。
ビロードが持っている本は、よく見る児童用の物ではなく、大人が読むような文字の小さい本だった。
ページは少し黄ばんでいて、あちこちに染みがあって、古いのがわかる。
(゚、゚トソン「小学生なのに難しい本読んでるんですね」
( *><)「とってもおもしろいんです!」
と言ってビロードが見せてくれた表紙には、大きな黄色い目でこっちをじっと見てくる猫の絵が描かれていた。
やはり少し黄ばんだ紙に、細い流れるようなしなやかな線に、水彩で淡く色づけされた斑の猫。
今にも動き出しそうなその絵の猫の瞳に、トソンは少しだけ気まずくなり、目を逸らしてしまった。
たかが絵だ。なのにどうしてこんな気まずい気持ちになってしまうのだろう。
見つめられて、見透かされているような。居心地の悪い、そんな気分。
( ><)「どうかしたんですか?」
トソンの様子を不思議に思ったらしいビロードが、俯いた彼女を覗き込み、目があった。
21
:
名も無きAAのようです
:2012/05/03(木) 16:47:01 ID:pjD1kZAc0
(゚、゚トソン「あ…」
それにも何故かドキリとし、トソンはすぐに顔を上げると、ビロードの額辺りを見て微笑んだ。
(゚、゚トソン「すみません、ちょっと眠くなってしまって」
( *><)「それ、ぼくもなんです! おひさまがぽかぽかしててちょっと眠いんです」
ちょっと眠いというのは別に嘘じゃなかった。
ビロードのいう通り、日の光は相変わらず暖かくて気持ちがよくて、気を抜いているとついついあくびが出そうになる。
必死にあくびを噛み殺そうとしていると、隣でビロードが遠慮なく大きな口を開けてあくびをした。
つられてトソンもとうとう、ふぁ……とあくびをする。すると、一気に眠気が押し寄せてきた。
(゚、゚トソン「眠いですねー……」
( ><)「眠いんです……」
22
:
名も無きAAのようです
:2012/05/03(木) 16:52:57 ID:pjD1kZAc0
こてん、とビロードの頭がトソンの肩に寄りかかる。かと思えば、数秒後には小さな寝息が聞こえてきた。
寄りかかられてしまって動けなくなったトソンは、自分だけは寝まいと必死に目を開けていたが、
暖かい光と、肩に感じるビロードの子供特有の体温に、やはりついついうとうとしてしまう。
(゚、-トソン「んー……」
(-、-トソン「んんー…」
(-、-トソン(あ、今気が付いたけどこのまま寝たら牛乳腐るかもしれない……)
(-、-トソン
(-、-トソン(まあ大丈夫か……多分)
(-、-トソン
そしてとうとう眠気に負けて、トソンの意識はすべるように夢の中へと降りていった。
○ ○ ○
23
:
名も無きAAのようです
:2012/05/03(木) 16:57:17 ID:pjD1kZAc0
じっとりと重い薄暗闇。
目を開ければ、視界にはうっすらとこの空間にあるものを捉えることのできるくらいの暗闇。
最初に目に映ったのは、毎日見慣れた茶色の扉だった。
( 、 トソン
トソンは暗い部屋の真ん中に立っていた。
白い壁紙、きちんと整ったベッド、教科書が散乱している机、電源が切れて画面の真っ黒なパソコン、
カーテンの閉まった窓、本が疎らに入った本棚、床にほったらかしてそのままになっている学生鞄。
そして、扉が少し開き濃い闇が隙間から覗くクローゼット。
ここは、自分の部屋だ、とトソンはまず最初に思った。
けれど、トソンはここがすぐにいつもの夢の中だと気付くと、体を強張らせる。
これは、トソンが見る夢の中でも、もっとも見る回数の多い夢だ。
確かに現実のトソンの部屋と、夢の中のトソンの部屋は酷似していた。
けれど、決定的に違うことがひとつだけある。
いつもトソンが制服を掛けている壁のフックに掛かっているのは、ブレザー。
トソンの見たこともないデザインの制服。それに、トソンの学校はブレザーではなくセーラー服だ。
このブレザーが、トソンがいつもこれが夢だと判断する為の手段だった。
24
:
名も無きAAのようです
:2012/05/03(木) 17:02:02 ID:pjD1kZAc0
ハッとして足元を見る。大丈夫、靴は履いている。
廊下へと続く扉は鍵が開いているだろうか?
きっと大丈夫、いつもなら開いている。
前に見たこの夢を思い出しながら、自分から廊下への扉の距離を確認し、
トソンはゆっくりと視線をクローゼットへ移した。
ここは夢の中だ。けれど今、彼女の心臓はドクドクと鋼を打ち、体は微かに震えていた。
ここは夢の中だ。わかってる、ただの夢なのだ。目覚めれば終わる、夢。
自分に言い聞かせながら、クローゼットの僅かな隙間の奥を伺う。
濃い、深い闇は、まるでトソンを飲み込もうとしているようにも見え、思わず目を逸らしたくなる。
でも駄目だ。もしも目を離せば逃げるタイミングを失う。
( 、 トソン
夢の中だからなのか汗は出ない。
けれど、トソンはまるで汗が滲むような気分で、息を殺してただクローゼットの奥を見ていた。
闇の奥に潜む、自分にとって“危険”のある存在に、体が芯から冷えるような気がする。
ふと、闇の奥で何かが動いた気がして、足に力を入れる。
そして、クローゼットの隙間から“そいつ”の指先が覗いた次の瞬間。
トソンは一気に廊下への扉へと駆け出していた。
25
:
名も無きAAのようです
:2012/05/03(木) 17:07:07 ID:pjD1kZAc0
トソンが駆け出したすぐあとから、“そいつ”が追ってくるのを気配で感じる。
クローゼットの中から出てきた“そいつ”は、辺りに腐臭を漂わせながら、
気持ちの悪いうなり声を上げてトソンを追った。
予想通りちゃんと鍵の開いていた扉から転がるように廊下へ飛び出し、フローリングを踏みしめて必死に走る。
ちょっとでも足を滑らせてば、追いつかれるかもしれない。
何度も走ってきた見慣れた家の中を駆け抜ける。
彼女の部屋動揺暗い家の中は、彼女の現実の家と似ているようで僅かに違う。
廊下の曲がる方向、階段の長さ、リビングの位置、玄関への通路。
どれか一つでも現実と混同してしまえば駄目だ。
トソンはしっかりと今までの夢の記憶を辿り、立ち止まることなく家の中を走った。
夢だとわかっていても、トソンは怖かった。
腹の底から泣き喚きたいほど怖かった。
“そいつ”にだけは捕まってはいけないと思っていた。
捕まればいったいどうなるのかはわからない。
でも、本能的に捕まってはいけないとトソンにはわかっていた。
最後の廊下の角を曲がり、目の前に現れた玄関扉に飛びつくように駆け寄る。
そして力任せにノブを握って扉を押した。
26
:
名も無きAAのようです
:2012/05/03(木) 17:12:09 ID:pjD1kZAc0
( 、 ;トソン「!?」
ところが、いつもならここですんなり開いてくれるはずの扉が、今回は閉まっていた。
ガンッと腕に響く衝撃に、腹の底がサアッと冷たくなり、流れないはずの汗が滲む。
けれど驚きに呆けている暇はない。
すぐ背後に“そいつ”の腐臭と気配を感じ、慌ててノブの下についている鍵を開ける。
外に飛び出せば、目の前にはいつもの見慣れた、けれど微妙に現実とはちがう薄暗い街があった。
家を飛び出せば後はどこへでも、とにかく扉を閉めて“そいつ”に捕まらないよう逃げれば勝ち。
この夢はやっと終わる。
ところが、慌て過ぎたせいで足が縺れたトソンは、家の外の道路まで走ったところでその場で転んでしまった。
( 、 ;トソン
がくんっ、と道路の真ん中に倒れ、腹を強かに打ち付ける。
今まで五月蝿いくらいに鼓動を打っていた心臓が一瞬止まった。
耳が痛いくらいの静寂
聞こえるのは荒い自分の息遣い。
少しずつ近づいてくる足音。
背後まで迫った気配と腐臭にトソンは恐る恐る振り返った。
27
:
名も無きAAのようです
:2012/05/03(木) 17:17:03 ID:pjD1kZAc0
(゚、゚;トソン
(゚#ρ。;:トソン
そこにいたのは、ドロドロに腐って顔が崩れ、ボロボロのセーラーを着た自分だった。
28
:
名も無きAAのようです
:2012/05/03(木) 17:22:02 ID:pjD1kZAc0
( 、 ;トソン「あ……」
(゚#ρ;:。トソン
( 、 ;トソン「ぅあ…ああああああああああっ!!」
体が一気に冷たくなる。
トソンはすぐ目の前にいる“そいつ”から少しでも距離をとろうと、振るえる腕でその場からずり下がろうとしたが、
それよりも先に、“そいつ”が両腕をトソンの首へと伸ばした。
腐ってねとついた指がトソンの首を掴み、ゆっくりと締めあげる。
これは夢だ。夢なら覚めればいいのだ。早く覚めろ。この悪夢から覚めろ。
苦しい、夢なのに、いつもならこんなことになる前に覚めるはずなのに。なのに、なんでこんなにも苦しいのか。
だんだんと腐った指喉に食い込み、息が出来なくなる。
トソンの必死の願いは叶うことなく、目の前の“そいつ”は一向に消えてくれない。
29
:
名も無きAAのようです
:2012/05/03(木) 17:27:22 ID:pjD1kZAc0
ドロドロに溶け、左目が眼孔から垂れ下がった顔がトソンの顔に近づく。
濁った右目が、恨めしげにトソンを睨んでいた。
( 、 ;トソン
意識がだんだん遠くなる。
これが夢のはずなのに、何故こんなに感覚はリアルなのだろう。
頭がグラグラと煮立ち、手足が痺れる。
ああ、このまま行けば私は死ぬんだな。
トソンがそう、考えかけた時。
そして、いっそう首を絞める両の手の力が強くなった直後。
突然“そいつ”が、何かに撥ね飛ばされたかのようにトソンの目の前から消えた。
( 、 ;トソン「カハッ……んぐ、はあっ……はあっ」
トソンは自由になった呼吸に一瞬混乱したが、すぐに深呼吸をした。
足りない酸素を補給し、眩暈や手足の痺れが直るのを待つ。
30
:
名も無きAAのようです
:2012/05/03(木) 17:32:10 ID:pjD1kZAc0
(゚、゚;トソン「はあ…はあ……」
落ち着いたところで、トソンはいったい何が起こったのかと顔を上げた。
すると、トソンから少し離れた場所に、“そいつ”が苦しげに横たわってこちらを睨んでいるのが見えた。
そして、“そいつ”よりもトソンに近い場所に立っていたのは。
( ・∀・)
すらりとした細身の体系に、明るい色の髪。
そしてピシッとしたスーツにスニーカーを履いて大きな木槌を抱えた男。
トソンは、一応今まで見てきた夢の大半、建物の細部から登場した人物や動物、怪物をきちんと記憶している。
けれど、今目の前にいる男のことは、今まで一度も、夢の中でも、ましてや現実でも見た覚えはなかった。
彼は、トソンと“そいつ”の間に立つと、呆然と自分を見上げているトソンににっこりと微笑み、ピッと“そいつ”を指差した。
( ・∀・)「あれ、君の夢?」
(゚、゚;トソン「はえ?」
31
:
名も無きAAのようです
:2012/05/03(木) 17:37:03 ID:pjD1kZAc0
唐突の質問に、トソンは間の抜けた声を声してしまう。今の状況に、さっぱり頭が付いていけていなかった。
というよりも、自分の夢に出てきた人間が何故その夢の主にそんなことを聞くのか、わけがわからない。
今までこの夢で起こったことのない事態に混乱したまま、とりあえずトソンは男の質問に力強く頷いた。
(゚、゚;トソン「え、あ、えっと、はい」
いつもと事態は若干異なってはいるが、ここはやっぱりいつも訪れる夢の中だし、
“そいつ”もいつもどおり自分を追いかけてきたのだ。
妙に噴出す汗や息苦しさなど、普段と違うリアルさに違和感はあったが、
それでもここは自分の夢だとはっきり断言できた。
しっかりと頷いたトソンに、男はよりいっそう笑みを深くする。
( ・∀・)「ん、そっか、わかった」
( ・∀・)「そんじゃあ」
( ・∀・)「さっさと片しちゃおうか」
男の瞳が、一瞬怪しく光ったような気がした。
.
32
:
名も無きAAのようです
:2012/05/03(木) 17:42:16 ID:pjD1kZAc0
ざわり、と何故か鳥肌が立ち、トソンはぶるっと身を震わせた。少しだけ気分が悪い。
なんだか、自分の頭の中に異物が入ってしまったかのような違和感。
何故か夢がいつもよりリアルなことへの違和感にも似た感覚に、寒気がする。
我慢できずに額に手を当て俯いたトソンを一瞥し、男はにやりと笑うと“そいつ”の方へ向きなおった。
ぶんっと音をたてて、男は持っていた木槌を手の中で一回転させて構える。
それとほぼ同時に、今まで地面に這い蹲っていた“そいつ”は体制を立て直すと、己を弾き飛ばした男へと飛び掛っかた。
男の首に掴みかかろうとした“そいつ”を男は容易くかわし、そのまま勢いよく振り向きざまに木槌を振りぬく。
まるで野球のバットを振るようなスイング。
木槌は確実に“そいつ”の顔面を捉える。
“そいつ”は木槌を避ける暇もなく、べきゃっと大きな音をたてて再び吹っ飛ぶと、
家の塀にぶつかり、ずるずると地面に落ちた。
その間、たった数秒の出来事。
塀の隅に崩れ落ちいてる“そいつ”の首が、人間ではありえない方向に曲がっている。
なのにまだその場でもがいている“そいつ”に男は歩み寄ると、木槌を大きく振り上げた。
33
:
名も無きAAのようです
:2012/05/03(木) 17:47:28 ID:pjD1kZAc0
( ・∀・)「バイバーイ」
ガッ。
振り下ろされた木槌は重い音を響かせ、“そいつ”はあっさりと潰された。
瞬間、“そいつ”はまるで弾けるように辺りに四散し、消えてしまう。
その場に残ったのは、今まで“そいつ”がいた場所に転がる六角形の黒い物体と、男とトソンのみ。
男は、木槌を持ち直して一度、もう何もいないかと辺りを見回し安全を確認すると、
六角形の物体を屈んで手に取り、彼の背後で絶句しているトソンの方を振り返った。
そして、ぱっと空いた方の手を顔の横に上げると、ちょいちょいと指差きを折り曲げる。
( ・∀・)「じゃ、そっちのお嬢さんもバイバイ、またね」
(゚、゚;トソン「え?」
にこやかに手を振る男。
トソンが今の状況と男の言葉わ理解する前に、突然今までトソンが手を突き体を支えていた地面が消えた。
34
:
名も無きAAのようです
:2012/05/03(木) 17:52:06 ID:pjD1kZAc0
(゚、゚;トソン「え!?」
がくんと後ろに倒れる。
斜めになった視界に映ったのは、だんだん上空へと吸い込まれる様に消えていく夢の中の我が家と、周囲の住宅地。
真っ黒な空も、まるで画用紙をくしゃくしゃに丸めるみたいに小さくなって、消えていく。
それとは逆に地面はあらゆる大きさの四角形に切り分けられ、暗闇の底に落ちていく。
四角く切り取られ落下する地面の一つの上ににこやかなまま立った男は、
トソンが瞬きを一つした次の瞬間には消えていた。
崩壊する世界の中、トソンは結局いったい今がどういう状況なのか掴めぬまま、
四角い地面と共に暗闇の底へと落下していった。
○ ○ ○ ○ ○ ○
35
:
名も無きAAのようです
:2012/05/03(木) 17:57:15 ID:pjD1kZAc0
ゴッ、という側頭部への衝撃。のちに襲ってきた強烈な痛みに、トソンは顔を歪めてゆっくりと瞼を開けた。
,_
(-、;トソン「ッツゥ……」
若干涙目になりながら、右側の頭を抑えて体を起す。
そして、肌に感じた風の冷たさに、ぶるっと身を震わせた。
気がついてみれば、空で輝く太陽はもう随分と傾いてしまっていて、
小さな公園には近所の小学生がわらわらと集まっていた。
公園の中央にある時計を見る限り、どうやら結構長い間眠ってしまっていたらしい。
しかも寝こけてベンチから落ちたとは……絶対にここにいる子供たちの数人には見られただろう。
ふと、そういえば眠ってしまうまで一緒にベンチに座っていたビロードがいなくなっていることに気がつき、トソンは辺りを見回した。
てっきり、公園に来た友達と遊んでいるのかと思ったが、わらわらと数少ない遊具を取り合っているちびたちの中に彼はいない。
ランドセルももうどこにも見当たらないから、眠っている間に帰ってしまったのだろうか。
とにかくトソンは地面から立ち上がると、服に付いた砂を払ってベンチに座りなおした。
(゚、゚トソン ボー
夕暮れ近い冷たい風に、腕を擦りながらぼんやりと空を見上げる。
当然、いつまで見ていたって、現実の空は画用紙を丸めたみたいに、くしゃくしゃになって消えたりしはしない。
36
:
名も無きAAのようです
:2012/05/03(木) 18:02:34 ID:pjD1kZAc0
それにしても、変な夢だった。否、変というよりも“妙”と言った方がいいんだろうか?
トソンは、夢の中で見た腐った自分と、暗い闇を思い出す。
あの夢は、中学の三年生半ば辺りになった頃から、週に二三度見るようになった夢だった。
腐った自分を見たのは今回が初めてだったが、それまでの行動や出来事は、いつも同じ。僅かなぶれも今まではなかった。
いつもなら家から飛び出し、すぐに玄関扉を閉めてその場から立ち去れば終わる夢だった。
恐ろしい、けれど手順さえしっかり踏めば安全に終わる夢。
なのに、今回は違った。
にっこりにこやかな男の顔を思い浮かべ、小さく呻る。
彼はいったい何者なのだろう。
トソンの夢のイレギュラー。
(゚、゚トソン(ビロードくんと会ったことで私の心境に変化が現れた、とか?)
(゚、゚トソン(いやいや、特に心が動いたとかそういうのはなかったですし)
(゚、゚トソン(帰ったら一応あのサイト行ってみますか)
(゚、゚トソン(あんまり信用は出来ないけど)
37
:
名も無きAAのようです
:2012/05/03(木) 18:07:20 ID:pjD1kZAc0
(゚、゚トソン(帰ったら……あれ、私なんで外に……)
(゚、゚トソン
(゚、゚トソン「あ」
(゚、゚;トソン
(゚、゚;トソン(牛乳……)
トソンはすばやく立ち上がると、自分の脇に今まで忘れ去られ放置されていた牛乳の入ったコンビニ袋を鷲掴み、
我が家の方向へ歩き出した。
かなり時間は経っているが、途中から空気も涼しくなっていたようだし、きっと大丈夫だろう。
(゚、゚トソン(うん、大丈夫大丈夫)
(゚、゚トソン(……多分)
まあ、もし、万が一あたったとしても死にはしないだろう、多分。
38
:
名も無きAAのようです
:2012/05/03(木) 18:12:06 ID:pjD1kZAc0
コンビニ袋をぶんぶんと振り回しながら歩いている最中、
ふと、夢の中で嗅いだ腐臭を思い出し、トソンは眉間に皺を寄せた。
本当、妙な夢だった。普段なら臭いだって寒気だって夢の中では感じなかったというのに。
人間が腐れば、本当にあんな臭いを発するのだろうか。
腐った自分の姿を思い浮かべかけ、首を振る。
あまり思い出さないほうがいい。
次、あの夢を見たときは、今回のようなことはない様にしないと。
いつだってあの男が助けてくれるとは限らないのだから。
色を変え始めた空を見上げ、トソンはまだ鼻先に香る腐臭の記憶を振り払うように、
よりいっそうコンビニ袋をぐるぐると振り回しながら、誰も居ない我が家へと急いだ。
第一話「腐敗する夢」 おわり
39
:
名も無きAAのようです
:2012/05/03(木) 18:18:08 ID:pjD1kZAc0
今回はここまで。
次はもうあるのでまた近いうちに投下したいと思います。
では、また今度
40
:
名も無きAAのようです
:2012/05/03(木) 19:45:47 ID:726WmDIc0
おもしろい
待ってる
41
:
名も無きAAのようです
:2012/05/04(金) 12:27:54 ID:3Cjh3QoQ0
おー、いいね
乙
42
:
名も無きAAのようです
:2012/05/04(金) 15:52:34 ID:JlGZmL460
wktk
43
:
名も無きAAのようです
:2012/05/06(日) 20:15:18 ID:QHk5lOM.0
【20XX年5月10日 昼
公園でうっかり居眠りをしてしまったときに、あの夢を見た。
いつも通り、暗い家の中を逃げ回る夢。でも、今回はいつもと違う展開があった。
まず、玄関の鍵が開いてなかったこと。それから、追いかけてくる奴の姿を見たこと。
そして、そいつに襲われたところに助けがやってきたこと。
あと、いつもと違って何故か臭いと寒気を感じた。
公園で出会った男の子が何かの刺激になったんだろうか。
それともまた別の要因があるんだろうか。
夢占いのサイトは見てみたけれど、今回はあまり役に立たなかった。
助けに来てくれた知らない男の人は、スーツに何故かスニーカーだった。
大きな木槌を振り回し、私を追いかけていた“腐った私”を叩き潰してくれた。
いつも見る夢のはずなのに、臭いや寒気、スーツの男といい、
今回は何故か妙にリアルな夢だった。
ちなみに、公園で眠ってしまっている間に、買ってきた牛乳を放置してしまった。
もしかしたら夢の中の“腐った私”は、「このままだと牛乳腐るよ〜」
という警告みたいなものだったのかもしれない――なんちゃって。】
(゚、゚トソン パタン
(-、-トソン (牛乳、大丈夫かな……)
44
:
名も無きAAのようです
:2012/05/06(日) 20:20:07 ID:QHk5lOM.0
彼女はずっと嘘を吐きつづけている。
第二話「運ばれる夢」
.
45
:
名も無きAAのようです
:2012/05/06(日) 20:25:02 ID:QHk5lOM.0
トソンは夢日記を机のもとあった場所に静かに戻すと、
シャーペンの芯を出したり入れたりしながら日記に書いたことを反芻した。
公園、猫、ビロード、夢占いのサイト、鍵のかかった扉、臭い、寒気、腐った自分、知らない男、牛乳。
……牛乳、大丈夫だろうか。
家に帰った後、トソンはすぐに牛乳を冷蔵庫へ入れた。
まだ開封するのは何となく気が引けて出来なくて、今もまだ売っていたときと変わらない状態で置いてある。
風呂に入った後の牛乳コップ一杯一気飲みを今夜するかどうかが、今の悩みどころだった。
(゚、゚トソン(うーん、腐った牛乳というものを飲んだことがないからどうなるかよくわからない……)
カチカチカチカチ
(゚、゚トソン(最悪、お腹下すんですかね? だとしたら胃腸薬用意しといたほうがいいかな)
カチカチカチポト
(゚、゚トソン(あ、シャー芯出し過ぎた)
机の上に落ちたシャーペンの芯を指で苦心して摘み、シャーペンの先から中へと戻そうとする。
が、突然トソンの短パンのポケットの中から鳴り響く着メロに驚き、ぽろりと床に落としてしまった。
フローリングの板と板の隙間に挟まったシャーペンの芯を見て、
早々に諦めることにしたトソンは、携帯を開いき、通話ボタンを押した。
46
:
名も無きAAのようです
:2012/05/06(日) 20:30:00 ID:QHk5lOM.0
白(゚、゚トソン「はい、もしもし――あ、お母さん? どうしたんです? そっちまだ朝ですよね」
電話の相手は今父親の出張で海外にいるトソンの母親だった。
そうとわかったとたん、トソンの頭の中で様々な言葉や作り話が飛び交い、形を作る。
白(゚、゚トソン「ああ、ええ、元気にしてますよ。ちゃんと食べてます」
嘘。本当は毎日食パンやレトルトで済ませている。
白(゚、゚トソン「学校? 楽しいですよ、新学期に入って友達増えました」
これも嘘。本当はまだ友達なんて一人もいない。
学校だって、そんなに楽しいとは思わないし、第一まともに行っていやしない。
トソンの嘘に気がついていないらしい母親は、携帯の向うでとても安心したように笑っていた。
白(゚、゚トソン「そっちはどうですか? え、お父さんが拗ねてる? なんで」
白(゚、゚トソン「休みの日のデート中にお母さんが金髪碧眼のイケメンにナンパされたから?」
白(゚、゚トソン「それくらいで情けないですね、男なら相手を追い返すくらいしなさい! とトソンが言ってたって伝えてください」
白(゚、゚トソン「ええ、楽しいですよ、元気ですから。安心してください」
白(゚、゚トソン「はい、また夏休みに、バイバイ、元気で」
白(゚、゚トソン ピッ
47
:
名も無きAAのようです
:2012/05/06(日) 20:30:58 ID:7GwzlyB20
きたきた
48
:
名も無きAAのようです
:2012/05/06(日) 20:35:49 ID:QHk5lOM.0
(゚、゚トソン
(゚、゚トソン(……また嘘を吐いてしまった)
(゚、゚トソン
(゚、゚トソン(まあ、仕方ない仕方ない)
何が仕方ないのか自分でもよく考えていないが。
携帯を短パンのポケットに戻し、机の棚から教科書とノートを取り出す。
多分今の範囲はここだろうなあというページを適当に開き、シャーペンに新しい芯を入れなおした。
今、トソンの両親は長期の出張でイギリスに行っている。
本当は、両親はトソンも一緒に連れて行くつもりだったのだが、トソンが日本に残りたいと言ったのだ。
今まであまり自分の願いを口にしなかったトソンの言葉に、両親はとても驚いたらしい。
滅多にないトソンの要望を無視するのも忍びなく、両親は渋々彼女の一人暮らしを許したのだった。
トソンの独り立ちを願い、彼女に託した我が家。
両親の中では、立派に一人で家事をこなす娘の姿があるのだろう。
だから、トソンは若干の罪悪感を感じつつも、今日も両親の理想とはかけ離れた生活を送っていた。
今日の勉強ノルマを終え、時計を見る。
学校はきっともう放課後だろう。先生は今暇だろうか。連絡でも入れておこうと思った。
再び頭の中をあらゆる言葉が飛び交い、作り話を形作る。家の電話からかけようと思い、リビングへ向かった。
すっかり嘘を吐くことに慣れてしまったことに、少しだけ不安を感じながら、
トソンはそのことに気がつかないふりをする。
○
49
:
名も無きAAのようです
:2012/05/06(日) 20:40:19 ID:QHk5lOM.0
窓の外の空もすっかりと暮れ、真っ黒な空間に小さな星が輝き始めた頃。
適当にあわせたチャンネルでやっていたバラエティをぼんやり眺めながら、
トソンはインスタントのスープを飲んでいた。
今日の晩御飯は、朝と違い綺麗に焼けたトースト二枚に、それぞれ苺ジャムとマーマレード。
それから、ちょっと怖いが牛乳の入ったコップも、テーブルには並んでいる。
本当はちゃんと米を炊いておかずを作ったほうがいいのだろうし、両親もそれを望んでいるだろう。
一人暮らしの提案のときにも、
+(゚、゚トソン「家庭科の調理実習で一通り習ってるから料理は大丈夫です」
と大見得をトソンは切っていた。
けれど実際は、今まで調理実習は周りがやってくれるのに任せていたため、
トソンは包丁の持ち方もわからないレベルなのだ。
ついでにいうと、調理実習はトソンにとってあまり良い思い出は、どれ一つとしてない。
米を炊く方法も、炒め物の仕方も、何となくしかわからない。
わからないことには手を出さない。失敗したときが怖いから。
そして数少ない使い方のわかるトースターと電子レンジを駆使し、トソンは今まで食事を取っていた。
50
:
名も無きAAのようです
:2012/05/06(日) 20:45:09 ID:QHk5lOM.0
(゚、゚トソン(コンビニ弁当という手もあるにはあるんですけどねえ。でもあれは食べると舌が痛くなるから…)
もそもそとマーマレードジャムを塗りたくったトーストを頬張り、インスタントのスープで飲み下す。
テレビの枠の中では、最近イケメンを売りにしてあちこちに出てきているタレントが笑顔でこちらに微笑みかけている。
しかし、はっきり言ってあんまりイケメンには見えない。
なんだか誰かと誰かを切り貼りしたみたいな中途半端な顔だった。
(゚、゚トソン(最近こういうタレント増えたな)
(゚、゚トソン(イケメンってどういう人のこというんでしたっけ……)
ふと、脳裏に昼間の夢に出てきたスーツの男が浮かんで消えた。
まともに顔を見れる状況ではなかったが、なんだかそれなりにイケメンだった気がする。
(゚、゚トソン(また、会えますかね)
そう簡単に同じ夢を見れるとは限らない。
けれど、いつも同じはずのあの夢に出てきた初めてのイレギュラーに、トソンは強い興味を持っていた。
やっぱり夢は面白い。自分の内面を写しているとかそういうのは信じていないけれど。
でも現実では体験できないことを体験できるあの世界が、トソンは好きだった。
51
:
名も無きAAのようです
:2012/05/06(日) 20:50:08 ID:QHk5lOM.0
(゚、゚トソン(あの人が夢の中ではどういう人物なのかすごく気になる)
(゚、゚トソン(それに……)
「じゃ、そっちのお嬢さんもバイバイ、またね」
(゚、゚*トソン(……『またね』って言ってくれたし)
そういえば、見た夢のことを細かく思い出したら、
次見た夢もまた同じ夢だということが多々あることを、トソンは思い出した。
だとしたら、あの男のことを鮮明に思い出せば、もしかしたら、もしかするかもしれない。
トーストの最後の一切れを口の中に押し込み、食器を片付けテレビを消す。
さっさと風呂場に向かいながら、トソンはスーツの男の姿を頭の中に詳細に描きだし、好奇心に胸を膨らませた。
○ ○ ○
52
:
名も無きAAのようです
:2012/05/06(日) 20:55:01 ID:QHk5lOM.0
トソンが晩飯を食べ終わったところで
作者もちょっと晩飯を食べてきます申し訳ない
食べてきたら再開します
53
:
名も無きAAのようです
:2012/05/06(日) 21:15:00 ID:QHk5lOM.0
再開します
54
:
名も無きAAのようです
:2012/05/06(日) 21:20:09 ID:QHk5lOM.0
ギラギラとしているけれど決して眩しくない、銀色と黒でデザインされた入り組んだ駅の構内。
高い天井はぼんやりと暗く、そこから床へと何本も輝く銀の柱が伸びている。
床は、銀色のベースに黒いラインが緩やかなカーブを描きながら一面を覆い、
どこにあるのかわからないライトの光を反射していた。
行き交う人はいつもよりも疎らで少なく、けれどいつものように人々は厚いコートに身を包み、
目深く帽子を被って俯いて歩いていて。
前方に視線を投げれば、遠くの方には大きな縦に長いガラスの扉。
観音開きのそこから、多くの人間が出入りを繰り返している。
背後からはざわざわと人々の声や足音の波、車両発車のアナウンス。
でも、トソンは振り向いたことがないから、後ろに何があるのかは知らなかった。
(゚、゚トソン(………?)
トソンは高校の制服を着て、俯き歩く人々の流れの真ん中で突っ立っていた。
学校指定のセーラー服は、その装飾の細部は現実の物とは若干違う。
恐らく、トソン自身があまり自分の高校の制服をそこまで真剣に見たことがなく、
着た回数もそんなに多くないからだろう。
そんなことよりも、トソンはいつもと少し様子の違う駅に首をかしげた。
55
:
名も無きAAのようです
:2012/05/06(日) 21:25:03 ID:QHk5lOM.0
(゚、゚トソン(なんか、いつもより落ち着く)
いつもなら、この夢にやってきたらすぐに“誰か”から逃げ始め、
犇めく通行人を押しのけ前に前にと進むというのに、
今回は何故かいつもの“誰か”の存在も感じなければ、どこかへ逃げなければという不安もない。
通行人も少ないため、前に進むのに人を掻き分ける必要もない。
ギラギラと輝く銀の光も、なんだか自分を包み守ってくれているような気がするくらいだった。
,_
(゚、゚トソン
“誰か”の存在がなければ、逃げる必要もない。
トソンはここに居る目的を感じることが出来なくて、少し戸惑った。
戸惑った末、とりあえずいつも通りの手順を踏むことにする。
逃げる必要がなくなったから、いつもは足早に通り過ぎるこの場所をゆっくりと歩いた。
それでも、不安で押しつぶされそうな感覚がないためなのか、
人が疎らなせいなのか、いつもよりもさくさくと進むことが出来た。
普段はちゃんと観察したことのない構内をじっくりと見回しながら、いつもの道を進む。
目的の場所にはすぐにたどり着くことが出来た。大きな縦に長いガラスの扉を下の方から見上げる。
ガラスの扉は他の銀の柱同様、暗い天井の奥に吸い込まれる様に消えていた。
その先で、何かがキラキラと輝いているように見えるが、あれはいったい何だろう?
56
:
名も無きAAのようです
:2012/05/06(日) 21:30:15 ID:QHk5lOM.0
トソンは好奇心に胸を膨らませるが、輝きはあまりに高いところにありすぎる。
その正体を知ることを諦め、トソンは渋々先に進むことにした。
ガラスの扉をくぐれば、その先には白い、幅の広いエスカレーター。
普通のエスカレーターが十機ほど並んだぐらいの幅のエスカレーターに手摺はなく、
まるで階段がぐるぐると回っているように見える。
そして、エスカレーターが登りきった先にあるのは、駅の構内と同じデザインの、銀と黒で装飾された電車。
トソンは迷うことなく電車の中に乗り込むと、誰も座っていない紺色の座席の真ん中に腰掛けて、車内を見回した。
車内にはトソンの他に数人乗客が居たが、皆が皆一様に俯き、
顔はぐちゃぐちゃとした影に覆われ霞んでみることは出来ない。
アナウンスもない、おしゃべりもない、静かな車内に座って、電車が発車するのを待っている。
もしかしたら今回は乗客の顔を見ることが出来るかもしれない、
と少し期待していたトソンは、ちょっとがっかりしてしまった。
ここからはどうやら、いつもと同じという事らしい。
しばらくすると、電車はふしゅーという音をたてて扉を閉め、ゆっくりと走り出した。
最初のうちは真っ暗だった、トソンの向かいの窓の外が、パッと光を取り戻し明るくなる。
けれどそこに風景というものは存在しない。
あるのは、まるで雑誌や写真集や落書きを切り刻み、ぐるぐると回る洗濯機に放り込んだような景色だった。
57
:
名も無きAAのようです
:2012/05/06(日) 21:35:19 ID:QHk5lOM.0
見続けていると目が回りそうな景色から視線を逸らし、トソンも他の乗客と同じように俯く。
窓の外を見続けているとどうしても気分が悪くなってしまうからだ。
それに、この電車に乗るときはいつだってこうだ。そして、現実の電車に乗る時も。
車内で見知らぬ人と目があったり、“見られている”と思われると面倒だから下を向く。
きっと周りの人々も、同じ理由で俯いているのだと、トソンは思った。
そうこうしてその場をしのいでいるうちに、電車の窓の外は再び暗くなる。
それから、次の瞬間にはまたどこかの駅に到着する。
ぷしゅーという音とともに開いた電車の扉の下のほうに、トソンは視線を向けた。
いつもなら、このまま電車には誰も乗ってこないまま扉は閉まり、そして次の駅へと出発する。
次の駅がどんなところかは知らない。いつも、この後トソンは起きてしまうからだ。
この駅の次の駅はいったいどんなところなのだろう。
この前はこの駅に着いても、また発車しない内に目覚めてしまった。
今回はちゃんと行くことができるのだろうか。
そんなことを考えながら、電車の扉が音を立てて閉まるのを見ていたトソンは、
扉が一度完全に閉まる直前になってから、再び開いたことに驚いて、思わず目を見開いた。
一度しまりかけた電車の扉が開く理由は、一つだけ。
それは、ギリギリ乗り損ねた人を迎え入れるためだ。
.
58
:
名も無きAAのようです
:2012/05/06(日) 21:40:13 ID:QHk5lOM.0
再び開いた扉の向うに居た人物、なんだか見たことのあるスニーカーが車内に乗り込んでくる。
スニーカーは車内の通路の真ん中で一度立ち止まり、
つま先をこちら、トソンのほうへ向けると、ずんずんと近づいてきた。
トソンは体中に期待と不安が広がるのを感じた。
視線を上げ、こっちに近づいてくる人物の顔を確かめたい気持ちと、
もし予想と違っていたらという気持ちが押し合う。
電車の扉が閉まり、ゆっくりと視界の端に映る窓の外の景色が動き出す。
スニーカーの主は、車内の座席はどこもがら空きで座り放題だというのに、
迷うことなくトソンの隣に座ると足を組んだ。
トソンのすぐ側で、やはり見覚えのあるスーツのズボンとスニーカーが揺れている。
これはもしかしなくても、間違いない、明らかにあのスニーカーとスーツだ。
意を決したトソンは、パッと顔を上げると隣に座る男の顔をしっかりと視界に入れた。
(・∀・ )
(゚、゚*トソン「!」
.
59
:
名も無きAAのようです
:2012/05/06(日) 21:45:20 ID:QHk5lOM.0
やっぱりだ、やっぱりあの男だった。
すらりとした細身の体系に、明るい色の髪。そしてピシッとしたスーツにスニーカーを履いている。
あの大きな木槌は今日は持っていなかったけれど、でも間違いない。
トソンは再びこの人物と出会えたことに感動と興奮を覚えながら、男が自分を見るのを待った。
(゚、゚*トソン
(・∀・ )
(゚、゚トソン
(・∀・ )
(゚、゚;トソン
無言。
男は、なにやら楽しげな表情でただ窓のぐちゃぐちゃな景色を見ているだけで、
トソンのほうはチラリとも見ようとはしなかった。
もしかしたらこちらのことは忘れてしまっているのかもしれない。
それに、これは夢なのだ。夢の中の人物に何度もあったからと言っても、
相手に前に会った時の記憶があるかなんてわからない。
むしろ、無いときの方が圧倒的に多い。
いや、それよりもまず、この場合それは記憶と言っていいのだろうか?
60
:
名も無きAAのようです
:2012/05/06(日) 21:50:06 ID:QHk5lOM.0
まあそれは今はともかく。
(゚、゚;トソン
そのことにやっと気が付いたトソンは、一瞬腹の底が冷えたような気分になった。
すっかり一人で浮かれてしまっていたのが、すごく恥ずかしい。
でも、ここは夢であって自分以外現実の人間なんて一人も居ない、だから恥ずかしがる必要もないのだ。
なんとか腹の底から沸きあがる羞恥心を抑え、もう一度男のことをじっと見る。
(・∀・ )
ここは自分の夢なのだと割り切ったトソンは、遠慮することなく、現実なら不躾なくらいじろじろと男を眺めた。
どこか浮世離れした雰囲気に、なんだか不思議な色合いをしている瞳。
スーツには皺も染みも無く、スニーカーは近所の小学生が履いているものと同じメーカーのものだった。
,_
(゚、゚トソン(んー……)
やはり、何故か違和感を感じる。ここは自分の夢の中だというのに、
この男だけはまるで別の場所の異物のように思えるのだ。
男は、トソンに見られていても気にすることなく楽しげなままだ。
こちらにはきっと気がついているのだろう。
というか、こんなにじろじろと見られていて気がついていないわけがない。
だんだん、トソンはこの男にからかわれているような気がしてきた。
そして、それを決定付ける行動を、男がとった。
61
:
名も無きAAのようです
:2012/05/06(日) 21:55:04 ID:QHk5lOM.0
(・∀・ )
( ・∀・) チラ
(゚、゚トソン「!」
(・∀・ )彡フイ
(・∀・ ) ニヤァ
,_
(゚、゚トソン(こいつ……)
確信犯だった。
男は、己が行動を起さないことでトソンが戸惑っているのを楽しんでいるようだ。
さっきよりもいっそう楽しげにニヤニヤと窓の外を眺める横顔を、ぐっと睨みつける。
,_
(゚、゚トソン「……あの」
(・∀・ )
,_
(゚、゚トソン「あの、今日の昼間会いましたよね!」
言ってから、そういえば昼間の夢は夢の中では夜だったことを思い出したが、
言ってしまったものは仕方が無い。
62
:
名も無きAAのようです
:2012/05/06(日) 21:59:57 ID:QHk5lOM.0
それに、トソンの言葉に男はきちんと、初めてまともな反応を返してくれた。
今まで窓の外を見ていた視線をこちらに向け、パァッと明るい笑顔を浮かべた男は、
「その通り!」と言うと握手をトソンに求めた。
( ・∀・)「やあやあ、やっと話しかけてくれた、よろしく、僕の名前はモララー。君は?」
(゚、゚;トソン「え、あ、都村トソンです」
( ・∀・)「トソンくんか、いやあ君の夢は便利だね、乗り物だなんて」
(゚、゚トソン「へ? はあ、ありがとうございます」
( ・∀・)「これで都市の交通の便も少しはよくなるかなあ」
(゚、゚トソン「都市?」
( ・∀・)「そう、都市。今まではこんな夢を持った人なんて夢遊者にいなかったからずっと徒歩が主流でさあ」
( ・∀・)「目的地が遠い場合でもいっちいち歩かなくちゃならないしね」
( ・∀・)「個人でバイクとか自転車とか持ってる奴はいるんだけどねえ、でもやっぱり大半は徒歩だったから」
( ・∀・)「運び屋は新入りは乗せてくれるけど古参はあんまり乗っけてくれないんだよ」
( ・∀・)「あいつらケチだよな、こちとら毎日皆が平和に暮らせるようにせっせと片付けしてるってのに」
( ・∀・)「本当に助かったよー、ありがとう」
(゚、゚;トソン「……ええっと」
63
:
名も無きAAのようです
:2012/05/06(日) 22:05:25 ID:QHk5lOM.0
突然のマシンガントークにトソンは口を挟む暇もなく、わけのわからない話を聞かされた。
“都市”や“夢遊者”といった単語や、徒歩が主流だとか交通の便がどうだとか。
わけがわからない、というのは確かに夢の専売特許だ。
だがなんだろうこのなんともいえない感覚は。
言われていることはわけがわからないのに、この男――モララーと話していると夢だという実感がまるで沸かない。
何故か現実でわけのわからないことに遭遇しているような感覚だった。
そして頭に襲ってくるのは、昼間見た夢でも感じた違和感、不快感。
しかも今度はそれがよりいっそう強くなり、まるで電車に酔ってしまったかのような気分だった。
( ・∀・)「あれ、どうかしたのかい?」
(゚、゚;トソン「いえ、なにも…」
グラグラする頭を抑え、トソンはモララーから電車の床に視線を落とした。
モララーは、それを気にする様子もなく、電車の窓の外を眺めながら嬉しそうにしている。
( ・∀・)「それにしても今日はいい日だ」
( ・∀・)「電車は開通するし、トソンくんにもちゃんとまた会えたし、目立った悪夢の目撃情報もない」
( ・∀・)「都市の皆も喜ぶだろうな」
64
:
名も無きAAのようです
:2012/05/06(日) 22:10:16 ID:QHk5lOM.0
再びモララーが口にした“都市”という言葉が、頭にひっかかる。
そういえばこの電車は今どこに向かっているのだろう?
もしやその“都市”という場所に電車は向かっているのだろうか?
自分の夢なのに、何度も飽きるほど見てきた夢のはずなのに、
トソンはこの先いったい何が起こるのか全くわからなかった。
電車酔いのような症状が、一時的かもしれないが波が引き、少しだけ楽になる。
トソンは何度か瞬きをしてから顔を上げた。
(゚、゚トソン「あの」
( ・∀・)「ん、なんだい?」
(゚、゚トソン「その都市って、どこの都市ですか?」
( ・∀・)
(゚、゚トソン「他にもさっき言ってた夢遊者とか悪夢とかはいったい……」
(゚、゚;トソン「これは…私の夢、ですよね?」
65
:
名も無きAAのようです
:2012/05/06(日) 22:15:40 ID:QHk5lOM.0
( ・∀・)
( ・∀・)「……うんまあ、それらの質問は次の駅に着いたら教えてあげるよ」
(゚、゚トソン「次の駅……」
(゚、゚トソン「今この電車はいったいどこに向かってるんですか…?」
三度モララーに投げかけた質問の直後、
今までごちゃごちゃと極彩色に溢れていた窓の外がふと暗くなった。
それにすぐに気がついたモララーが、トソンの視線を窓の外に向けさせる。
( ・∀・)「そんなの決まってるじゃないか」
( ・∀・)「次の駅は、君が今僕に尋ねた場所」
暗かった窓の外が、今度はサァッと明るくなり、突然の強い光にトソンは目を瞑った。
電車がゆっくりと減速し、停止する。
扉の開く音がする。
モララーに手を引かれ、目が眩んだまま電車を降りる。
少しずつ瞼を開き、トソンの視界に映ったのは――
( ・∀・)「ようこそ、我らが“夢都市”へ」
.
66
:
名も無きAAのようです
:2012/05/06(日) 22:20:21 ID:QHk5lOM.0
(゚、゚;トソン「これは……」
そこにはまるで、極彩色のおもちゃ箱をひっくり返したような光景が広がっていた。
トソンが立っているのは見たことがあるようでないような駅のホームだった。
ところどころ出発した駅に似ている銀と黒のデザインの中に、古い駅のような鉄骨が見える。
トソンたちの背後の電車からは、いったい今までどこに乗っていたんだという数の人が車両から降りていた。
駅はどうやら小高い丘の上にあるらしい。
すぐ側にある改札から雪崩れるように人が出て行く端で、トソンは呆然と目の前の町を見下ろした。
電車の窓から見えた景色と同じようなコラージュのように継接ぎの景色。
一見、遊園地のアトラクションが所狭しと並んでいるかのようにも見えるし。
けれどよく見れば、それはちゃんと街の形をしているようにも見えた。
かと思えば廃れた過疎地のようにも見え、瞬きをすれば繁華街にも近代都市にも姿を変える。
朝と昼と夜が空に張り付くように揺らめき、僅かに歪んでいる。
少し首を動かしただけでまるで万華鏡を覗きこんでいるかのような景色が広がる現象に、
またトソンは一瞬眩暈を覚えた。
トソンの隣で相変わらずモララーは笑みを浮かべている。
67
:
名も無きAAのようです
:2012/05/06(日) 22:25:21 ID:QHk5lOM.0
(゚、゚;トソン「な、え……なん、ですかこの街は」
( ・∀・)「言っただろう、“夢都市”だよ。君がさっきどこにあるのかって質問してきた都市」
( ・∀・)「まあ最初のうちはこの光景を見てるのも大変だろうけど。慣れれば結構綺麗だよ」
(゚、゚;トソン「夢、都市……」
今まで見てきた夢のどれにも似つかない夢。
これは本当に自分の夢なのか、疑わしくなったトソンは試しに自分の頬を抓ってみた。
じんわりと頬に広がる痛みは、今まで夢の中では一度も感じたことがない。
(゚、゚;トソン「…痛い、え、痛い、まさか…」
まさか現実なわけがない。こんな光景が現実にあってたまるものか。
それに確かにさっきまで自分はいつもの見慣れた夢の中にいたのだ。
いつのまにか現実の世界を歩いていたなんて夢遊病を患っていた覚えはない。
68
:
名も無きAAのようです
:2012/05/06(日) 22:30:22 ID:QHk5lOM.0
トソンがさらに混乱して視線をあちこちに漂わせていると、
隣で彼女の様子を見ていたモララーは少しだけ表情を硬くした。
( ・∀・)「……言っとくけどここは現実じゃないよ」
(゚、゚;トソン「でも……痛みが」
( ・∀・)
( ・∀・)「うーん……」
( ・∀・)「君がまさかこれくらいで混乱するとは思わなかったなあ…」
,_
(゚、゚;トソン「は…? え?」
( -∀-) フー…
( ・∀・)「それは君が『頬を抓ると痛い』ことを知ってるから痛いんだよ。現実だからじゃない」
言われた言葉がいまひとつ飲み込めず、トソンはもう一度確かめるように頬を抓る。
やはりじんわりと広がる痛みに変わりはなかった。
69
:
名も無きAAのようです
:2012/05/06(日) 22:35:35 ID:QHk5lOM.0
(゚、゚;トソン
とりあえずはここは現実ではないと考えよう。
だとしても、トソンはこの痛みに関しては何だか納得がいかなかった。
今までだって現実なら痛みを感じるような夢を見てきたはずだ。
けれどもそれらの夢の中でトソンは一度も痛みを感じたことはなかった。
なのに何故今更、頬を抓ったくらいで痛みを感じたのだろう?
( ・∀・)「それは君が『痛み』を意識しながら頬を抓ったからだよ」
( ・∀・)「今までどんなに夢の中で酷い目に合おうと、君は夢の中では痛みなんて感じないと思っていた」
( ・∀・)「だから今まで君は夢の中で痛みを感じたことはなかったんだろう」
( ・∀・)「でもさっき君はここが夢なのか僅かながらも疑いつつ頬を抓った」
( ・∀・)「痛みを感じる可能性を意識していたから、痛みを感じたんだよ」
( ・∀・)「夢の中で痛みを感じないなんて誰が最初に言ったんだろうね」
70
:
名も無きAAのようです
:2012/05/06(日) 22:40:32 ID:QHk5lOM.0
表情をあまり感じさせない笑みをモララーは浮かべる。
トソンはやはりいまひとつ言われたことを飲み込めないまま、抓った頬を撫でた。
( ・∀・)「さて、まずはどこに行こうか」
そういいながら、モララーはさっさと改札機に向かって歩き出した。
さっきまでは五月蝿いくらいいた人の波も消え、そこはすっかり静まり返っている。
トソンは慌ててモララーの後にくっ付いて、開きっぱなしになっている改札口の扉を通り抜けた。
一瞬、切符もないのに通り抜けていいのだろうかと不安になりかけ、ここが夢の中だということを思い出す。
( ・∀・)「トソンはどこに行きたい?」
(゚、゚トソン
(゚、゚トソン「どこと言われましてもここがどこだか未だによくわかってません」
( ・∀・)「そっかあ、そうだよねえ」
(゚、゚トソン(さっきこの人ナチュラルに呼び捨てにした…)
71
:
名も無きAAのようです
:2012/05/06(日) 22:45:25 ID:QHk5lOM.0
( ・∀・)「まあ僕はここの案内人ってわけじゃないし」
( ・∀・)「じゃあとりあえずは――」
「おー、モララーじゃねえか!」
モララーが何かを言おうとしたとき、どこからか声がかかった。
そして声と一緒に聞こえてきたのは、低く轟くエンジン音。
声の方に視線を向けると、モララーはにっこり笑って片手をあげた。
( ・∀・)「やあジョルジュ、配達かい?」
_
( ゚∀゚)「おう、兄者に頼まれた奴をさっき届けたとこだ」
( ・∀・)「そりゃお疲れさん」
暴走族にも似た音を発してやってきたのは、濃い黄色に塗られた車体の、
バイクに似た乗り物に乗った、短い金髪の、眉毛の濃い若い男だった。
男の乗ってきたバイクは、だいたいの形とエンジンの音で何となくバイクとトソンは思ったのだが、
実際形は現実のバイクに比べると随分デフォルメされていた。
72
:
名も無きAAのようです
:2012/05/06(日) 22:50:13 ID:QHk5lOM.0
まるでアメコミに出てきそうなそれに跨る男は、親しげにモララーと談笑している。
身につけているのはバイクと同じく、けれどこっちは目が痛くなるような鮮やかな黄色のロングコート。
はめている手袋も履いている靴も暖色で、頭の先から足の先の隅々まで男は明るい色をしていた。
トソンがその派手な見てくれに目をぱちくりさせていると、男は「ところで……」と視線をトソンの方に寄越した。
好奇心に溢れた視線に、思わずモララーの陰に隠れる。
_
( ゚∀゚)「配達から帰ってる最中に、今まで何もなかった所にいきなり見たことない駅が現れやがったから、
もしやと思って来てみたんだが……そこのお嬢ちゃん、新入りか?」
(゚、゚トソン「え、新入り?」
_
( ゚∀゚)「何だ、違うのかよ」
(゚、゚トソン「え、あの」
( ・∀・)「いや、新入りだよ」
(゚、゚トソン「え?」
_
( ゚∀゚)「だよなあ、新入りじゃなかったらこんなとこ来れねぇもんな。
その様子だと、まだ自覚はないって感じか?」
( ・∀・)「だね」
73
:
名も無きAAのようです
:2012/05/06(日) 22:55:05 ID:QHk5lOM.0
なにやらトソンにはよくわからない話を始める二人。
新入りとはいったい何の新入りなのだろう?
トソンは自分が最近何かのグループに参加したり所属したりといった記憶は全くなかった。
なによりもここは夢の中だ。
さっきから夢の中のはずならないような出来事ばかりで、トソンは頭が痛くなりそうだった。
収まっていた酔いのような気持ち悪さもまた波が来ている気がする。
訳が分からないことには下手に口を挟まない方がいい。
深く深呼吸をしつつ、トソンは大人しく二人の会話を聞いていようと思った。
けれど、そう思った直後、モララーが妙なことを言い出し、トソンは首を傾げた。
( ・∀・)「さっき僕もここで偶然会ってね」
( ・∀・)「ちょうどここのことを説明してたとこなんだよ」
(゚、゚トソン「え、モララーさんさっき私と一緒に…っでぇ!」
モララーの言葉を訂正しようとしたトソンは、
彼にジョルジュからは見えない角度で二の腕をつままれ、
それをトソンが認識した瞬間思いっきり抓られて、痛みに悶えた。
74
:
名も無きAAのようです
:2012/05/06(日) 23:00:09 ID:QHk5lOM.0
(;、;トソン「っくぅ〜」
_
( ゚∀゚)「ん、どうしたんだ?」
( ・∀・)「頭痛だよ」
( ・∀・)「いやあ、まだここに来てばっかりで、彼女夢酔いしてるみたいで」
_
( ゚∀゚)「ああ、夢酔いは確かに辛ぇよな」
( ・∀・)「今薬持ってる?」
_
( ゚∀゚)「おう、あるぞ。ちょっと待て、今渡すから」
結局訂正をできないまま、トソンはジンジンと痛む二の腕を押さえていた。
モララーはそれを横目で一瞥しただけで、謝るそぶりはない。
憎々しげにトソンはモララーを睨んむと、一発蹴りを彼のスネにかまそうとしたが、
ひょいとあっさり避けられてしまった。
ジョルジュがバイク(だと思われる乗り物)の荷台をがさごそと漁る。
取り出したのは、なにやらきらきらと光る粒状の何かが入っている瓶だった。
ジョルジュは瓶の蓋を開けてそこから三つほど粒を取り出し、トソンに粒の乗った手のひら差し出す。
75
:
名も無きAAのようです
:2012/05/06(日) 23:05:21 ID:QHk5lOM.0
_
( ゚∀゚)「夢酔いにはこれが一番だ。噛み砕かずに飲み込め」
( ・∀・)「普通の錠剤と違って水なしでも飲めるから」
(゚、゚トソン「あ、ありがとうございます……」
渡された粒は、大きさは一粒が指先に乗るくらいの小さなもので、
これもまた町の風景同様見る角度によって色や模様が様々に変化した。
言われたとおりに、噛み砕くことはせず口に放り込むと、一気に飲み込む。
一瞬異物が喉を通るのを感じた後、薬は胃に落ちた。
とたん、今までずっとぐらぐらしていた重い頭が少しだけ軽くなった気がした。
( ・∀・)「あ、効果は服用しないと現れないから」
_
( ゚∀゚)「ここに来るたびに三粒ずつな」
――気がするだけだったらしい。
_
( ゚∀゚)「んじゃ、そろそろ行くか」
76
:
名も無きAAのようです
:2012/05/06(日) 23:10:28 ID:QHk5lOM.0
トソンが薬を飲み込んだのを確認すると、ジョルジュは停止させていたバイクのエンジンを吹かす。
すると、単車だったはずのバイクの脇が突然ぐにゃりと変形し、何もなかった場所にサイドカーが現れた。
ジョルジュはサイドカーが完全に形を作るのを見届け、トソンに視線で乗れと促す。
(゚、゚トソン「あの、行くって……どこへ?」
( ・∀・)「君を案内屋のいるところまで案内するんだよ」
_
( ゚∀゚)「ほら、さっさと乗れ」
(゚、゚;トソン「あ、はい」
( ・∀・)「ねえねえ、ジョルジュ」
_
( ゚∀゚)「んだよ」
( ・∀・)「このサイドカー、一人乗りに見えるんだけど」
_
( ゚∀゚)「そうだぞ、それがどうした」
(゚、゚トソン「あの、ヘルメットとかは…」
77
:
名も無きAAのようです
:2012/05/06(日) 23:15:47 ID:QHk5lOM.0
_
( ゚∀゚)「ヘルメット? そんなもんいらねえいらねえ、ここをどこだと思ってんだ?」
_
( ゚∀゚)「落っこちたら痛ぇくらいだ、心配すんな、死なねえよ」
(゚、゚;トソン(痛みはあるのか)
( ・∀・)「ねえねえ、ジョルジュ」
_
( ゚∀゚)「なんだよ」
( ・∀・)「僕はどこに乗ればいいのかな?」
_
( ゚∀゚)「ねーよんなもん」
( ・∀・)「なんだい僕は置いてけぼりかい?」
_
( ゚∀゚)「お前なら自力でついて来れるだろうが」
( ・∀・)「疲れるから嫌だ」
_
( ゚∀゚)「バーカ嘘吐け。夢の中で疲れた奴なんて見たことねーよ」
( ・∀・)「いやいやいや本当だって、めちゃくちゃ疲れるんだって」
_
( ゚∀゚)「俺の夢遊者暦なめんなよ。誰がそんなホラ信じるかっての」
78
:
名も無きAAのようです
:2012/05/06(日) 23:19:17 ID:QHk5lOM.0
_
( ゚∀゚)「そらお嬢ちゃん、しっかり掴まってな。
スピードは遅めにしといてやるけど万が一落ちたりしたら拾うのが面倒だから――な!」
(゚、゚;トソン「ぅわっ――」
( ・∀・)「あっちょっ置いてくなよ!」
言葉とともにジョルジュがバイクのアクセルだと思われる場所を触ると、
一瞬トソンには周りの景色が吹き飛んだように見えた。
体も一緒に吹っ飛びそうな感覚に、思わずサイドカーに掴まる。
けれどもそれはほんの一瞬のことで、しばらくすればトソンの周囲にはちゃんと景色が戻ってきた。
といっても、速度は僅かに遅くなっただけ。
今にも振り落とされそうなのは変わらないまま、トソンは必死でサイドカーに掴まった。
いったいどのくらいのスピードが出ているのか、バイクはもう駅から随分離れ、
目の前の都市へと続く丘の一本道を爆走している。
夢の中だからなのか、風は感じないため、目は開いていることが出来た。
_
( ゚∀゚)「お嬢ちゃん大丈夫かー!?」
(゚、゚;トソン「はいー! なんとかー!」
79
:
名も無きAAのようです
:2012/05/06(日) 23:23:27 ID:QHk5lOM.0
爆音のエンジン音の隙間を縫う様に聞こえてきたジョルジュの声に、トソンも声を張り上げて答える。
聞こえたかどうかわからないが、その後ジョルジュは何も言わないから多分聞こえたのだろう。
トソンはもう一度しっかりとサイドカーに掴まりなおすと、
置いてけぼりを食らってしまったモララーの様子を見ようとちらりと後ろを振り返った。
ジョルジュは彼に自力でついて来れるだろうと言っていた。
けれどトソンにはモララーが何か乗り物になりそうなものを持っていた記憶はない。
走ってついてくるということも考えられるが、このスピードについて走ることなんて出来るのだろうか……。
(゚;トソン チラ
(、゚;トソン「え」
( 、 !iトソン「えええー…」
そんなトソンの心配はあっさり消えることになった。
.
80
:
名も無きAAのようです
:2012/05/06(日) 23:27:03 ID:QHk5lOM.0
( ・∀・)「なにそんなポカンとしてるんだい、トソン!」
( ・∀・)「僕がこんな風になってるのに驚いたのかい?!」
( ・∀・)「忘れちゃいけないよ!」
( ・∀・)「ここは夢の中だ! 夢の中なんだよ、トソン!」
呆然とモララーを見上げているトソンに、モララーはあっはっはと楽しげな笑いを落とした。
今、モララーの身長は優に五メートルを越しているかもしれない。
元から背は高いほうだったが、まさかいきなりこんなに人の背が高くなるなんて誰が予想しただろうか。
それに、単に背が高くなっただけだったらトソンはこんな気持ちにはならなかった。
なんというか、はっきり言って気持ちが悪い。
夢酔いをしている中で、こんなものを見せられて、トソンの気分の悪さは絶頂にたどり着きそうだった。
ここが夢の中でなかったら胃の中のものを吐き出してしまっていたかもしれない。
現在のモララーは、手や胴はは今までどおりのサイズで、足だけが妙に長くなっているのだ。
81
:
名も無きAAのようです
:2012/05/06(日) 23:30:43 ID:QHk5lOM.0
いちいち、ぶんっぶんっと音がしそうなほどの大降りな一歩。
本人はきっと普通のスピードで歩いているくらいの感覚なのかもしれない、
けれど、ちゃんとモララーはジョルジュのバイクのスピードについて来ていた。
関節はいったい幾つあるのだろう、まるで何かの化け物のような見た目は、只管悪寒を誘う。
_
( ゚∀゚)「相っ変わらずキモチワリィ見た目だなあ!」
( ・∀・)「失礼だなあ、だったら僕もバイクに乗せろよなあ!」
_
( ゚∀゚)「やーなこったぁ!」
やっとバイクに追いつき、並走するモララーを見上げ、ジョルジュは怒鳴った。
それに負けじと、モララーも声を張って言い返す。
けれどトソンには、そんな二人のやり取りを傍観する余裕もなく、
必死にサイドカーから落ちないようにしながら気分の悪さと戦っていた。
( 、 !iトソン(なんだかとんでもない所に来てしまった気がする……)
82
:
名も無きAAのようです
:2012/05/06(日) 23:33:07 ID:QHk5lOM.0
駅はどんどん後方へと遠ざかる。
夢都市はだんだんと目の前に近づいてくる。
これからトソンの身には、いったいどんなことが待っているのだろう?
出来れば、これ以上気持ちが悪いことには遭遇したくない、とトソンは心の底から願った。
( 、 !iトソン「うぇっ」
第二話「運ばれる夢」 おわり
83
:
名も無きAAのようです
:2012/05/06(日) 23:36:18 ID:QHk5lOM.0
今回はこれでおわりです。
ここまで読んでくれた人ありがとう。
次回は一応もうありますが、ちょっともう一話分書き溜めてから投下しにきます。
では、また今度。
84
:
名も無きAAのようです
:2012/05/06(日) 23:36:37 ID:RzE4WT1E0
おつ、地の文が綺麗で羨ましいよ
次回も楽しみにしてる、
85
:
名も無きAAのようです
:2012/05/07(月) 06:11:52 ID:cDEcIJlI0
おつ
86
:
名も無きAAのようです
:2012/05/18(金) 20:07:35 ID:X8Lwg1Uw0
好きだわートソン
87
:
名も無きAAのようです
:2012/05/20(日) 19:15:25 ID:l3IWarkw0
マダカナー
88
:
名も無きAAのようです
:2012/05/20(日) 20:23:13 ID:UPqNmzkw0
読み返してる?
第一話脱字が多いお
89
:
名も無きAAのようです
:2012/06/08(金) 22:41:44 ID:oC4lnlaM0
大丈夫大丈夫
90
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 17:04:31 ID:38SxqkVM0
( 、 !iトソン(20XX年5月10日……)
( 、 !iトソン(あ、今現実は夜中だから)
( 、 !iトソン(20XX年5月11日…今回の夢は………)
( 、 !iトソン(…………)
( 、 !iトソン(くそう、ノートがないから記録できないじゃないですか)
( 、 !iトソン(なんか色々ありすぎて覚えていられるか自信が…)
( 、 !iトソン
( 、 !iトソン(というか、これは本当に私の夢なのか?!)
( 、 !iトソン
( 、 !iトソン「うぇっ」
91
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 17:07:27 ID:38SxqkVM0
( ・∀・)「大丈夫かあい、トソーン! バイクに吐いちゃ駄目だよー!」
_
( ゚∀゚)「夢の中で吐くとかねーよ!」
( ・∀・)「そんなこと一概に言えないだろう?!」
( ・∀・)「ここは夢の中なんだから何があったって可笑しくない!」
_
( ゚∀゚)「お嬢ちゃん、あとちょっとで着くからな! それまでの辛抱だぞ!」
( 、 !iトソン
( 、 !iトソン(これは本当に私の夢なのか?!)
( 、 !iトソン「うっ…うぇぇえぇ」
( 、 !iトソン(ああ…吐けない分、ずっと気持ち悪い……)
92
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 17:10:49 ID:38SxqkVM0
彼は目的を達成するまで、木槌を振るい続けている。
第三話「アパートの夢」
.
93
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 17:13:28 ID:38SxqkVM0
現在、トソンを乗せたジョルジュの運転するバイクと、
バイクと並走する足だけ異様に長くなったモララーは、目的地に入ったばっかりだった。
突然周囲に増えた建物は、遠くから見たときとは違い、形がしょっちゅう変わることはなく、
どこか異国を思わせる町並みの形を保っている。
シックな色合いの建物に、石畳の表通り。
見通しはあまり良くなく、道は真っ直ぐではなく緩やかな波のようにくねくねとしている。
そんな道をジョルジュの運転するバイクはスピードを落とさず、爆走していた。
もしもトソンが夢酔いとモララーの姿のせいで気分を悪くしていなければ、
もっと街並みを楽しむことが出来ただろうに。
しかし、あっちこっちへと激しく揺れる車体の上のトソンには、そんな余裕は微塵もない。
吐きたくても吐けない状況に口元を押さえ、彼女は何度もえづきながらサイドカーに掴まっていた。
94
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 17:16:38 ID:38SxqkVM0
表通りを出歩いている人間は誰もいないため、その通りをジョルジュはお構いなく爆走する。
建物の窓は、どれも暗く、その向こう側に人が住んでいる気配はない。
途中、バイクは小さな広場のような場所に出たが、そこもすぐに通り過ぎて後方に遠ざかってしまった。
(゚、゚!iトソン(あれ…)
広場を通ったのは一瞬。
けれど、トソンはその一瞬の間に、広場に人が固まっているのを見た。
町の中をこんな爆音のバイクが走っているのに、彼らはそれには目もくれず、こちらに背を向けて何かをしていた。
何をしていたかまではわからなかった。
でも、トソンは人々の後姿を見たとき、何か嫌な印象を受けたのだ。
心の奥の方に、泥を押し込められたような不快感が、あの場を通った一瞬トソンを襲った。
あれはいったいなんだったのだろう。
95
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 17:19:32 ID:38SxqkVM0
_
( ゚∀゚)「……おい、モララー!」
( ・∀・)「ああ、わかってる」
( ・∀・)「ジョルジュ、トソンをよろしく頼んだ!」
_
( ゚∀゚)「おう、当ったりめぇだ、任せとけ!」
(゚、゚!iトソン「え?」
トソンが後方に遠ざかる広場を、もやもやとした気持ちで見つめていると、
モララーがいきなり長かった足を元の長さに戻して、視界に現れた。
そして、いったいどこに持っていたのか、初めて出会ったときに持っていた木槌を右手に構えると、
バイクの進行方向とは真逆の方向――さっきの広場へと駆け出した。
(゚、゚!iトソン「モ、モララーさん、何しに行くんですか?!」
96
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 17:22:22 ID:38SxqkVM0
どんどん遠ざかるモララーにかけたトソンの言葉は、モララーには届かない。
いったいどうしたのだと、今度はすぐ隣でバイクを操るジョルジュを見る。
ジョルジュはトソンの視線に、口端を上げた。
(゚、゚!iトソン「ジョルジュさん、モララーさんは…!」
_
( ゚∀゚)「ああ、あいつは今な」
_
( ゚∀゚)「片付けに行ってんだよ」
○ ○ ○
97
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 17:25:13 ID:38SxqkVM0
さっき通り過ぎたばかりの小さな広場には、三十人くらいの人だかりが出来ていた。
美しい街並みの中で、その人だかりが出来ている一角だけが、今は異様な空気を放っている。
どろどろとした、頭の痛くなるような空気。
人だかりのその誰もが皆、再び広場に戻ってきたモララーには気がつかないまま、
背を向けて何かを取り囲んでいる。
取り囲まれているモノは、人が壁となっているために確かめることは出来ないが、
モララーにはもう、そこに何があるのかはわかりきっていた。
背後のバイクがカーブを曲がり視界から消えるのを確かめてから、
モララーは広場の入り口に立って木槌を持ち直した。
そして、目の前の沢山の背中の人数に、改めて呆れる。
( ・∀・)(なんかまた数増えてない?)
( ・∀・)(前はまだ十三人だったよな)
98
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 17:28:10 ID:38SxqkVM0
( ・∀・)(また現実のほうで何かあったな、ドクオの奴)
( -∀-) ハァー
( ・∀・)「おーっし、さっさと片付けようか!」
広場全体に響く声で宣言し、木槌を手の中で一回転させて駆け出す。
何かを取り囲んでいる人々はこちらに気がついていないのか、振り返ることはせず、
ずっと取り囲んだモノを見下ろしているようだった。
近づけば、なにやらブツブツと呟いているのが聞こえるが、その内容には興味がない。
モララーは人々にぶつかる直前で足を止める。
そして、そのままの勢いで振りかぶった木槌を目の前の男の後頭部に叩き付けた。
パァンとはじける様に男はその場から消え去り、代わりに現れたのは六角形の黒い物体。
コロンと石畳の上に転がったそれを拾っている暇は今はない。
99
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 17:31:21 ID:38SxqkVM0
突然襲われたにもかかわらず、人々はモララーに見向きもしなかった。
ただ只管、取り囲んでいるモノを見下ろしている。
振り下ろした木槌を、今度は左に振るい、男の隣にいた女二人を薙ぎ払う。
吹っ飛ばされた女二人は、モララーよりも後方の石畳にぐしゃりと落ちたが、呻き声一つ上げなかった。
ただ、じっと一点を見つめ、何かを呟き続けているのだ。
その様子に、モララーは少しだけ背筋がゾクリとし、脳裏にある映像が浮かびかけたが、すぐに思考から追い出した。
女たちの反対側にいた老婆と青年もふっ飛ばし、その前に立っていた女も叩き潰し、
やっと彼らに取り囲まれたモノはその姿を現した。
(;'A`)「モ、モモモモ、モッモモモラララーっ」
( ・∀・)「『モ』多過ぎだから。なんかまた人数増えてるけどなんかあった?」
100
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 17:34:17 ID:38SxqkVM0
(;'A`)「そんなそんなそんなこといいいいから早くっ早く助けっ…」
( ・∀・)「あーはいはいわかったから、ほら、ドクオ、さっさとそこから退いて」
そこにいたのは、少し貧相な体格をした、石畳の上に情けなく尻餅をついている青年。
傍らには、蓋が外れ中身が散乱した鞄が転がっている。
ドクオと呼ばれた彼は、長く伸ばした黒い前髪の隙間から、怯えたようにモララーを見上げた。
そして、慌てて言われた通りにモララーの作った隙間から、人の囲いの外に出ようとする。
しかし、ドクオがあとちょっとで囲いから出ようとしたとき。
両側で今までブツブツと何かを呟いているだけだった者たちが、ガシリとドクオの腕を掴んだ。
(;'A`)「ひぃっ」
再び囲いの中に引き戻されそうになる。
が、ドクオは顔を真っ青にして、目立った抵抗なくされるがままになっていた。
恐らく恐怖で身動きできないのだろう。
それを見て、モララーは木槌を振り上げた。
101
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 17:37:04 ID:38SxqkVM0
( ・∀・)「もー、何やってんだ、よ!」
ガッとドクオの腕を掴んでいた者の半分を叩き潰す。
続けざまにもう半分もふっ飛ばし、モララーはドクオの服の襟首を掴むと、広場の反対側へと投げ飛ばした。
('A`;)「ぅわああぁぁぁああぁ……ぐふぁっだふっ」
広場の反対側まで飛んだドクオは、そこにあった建物の壁にぶつかると、ぼたっと石畳に落ちた。
どうやら、飛ばされた瞬間に痛みを意識したらしい。
地面に転がったまま、芋虫のように悶えているドクオをみて、モララーは呆れた顔をした。
(; A )「おまっ…モラ、ぐふっ…なにす…っ」
( ・∀・)「いや、そろそろ学習しような。
そういうときに痛み意識したら駄目だって何回言えばいいんだよ」
('A`;)「んなっ…それ…いってぇえぇ」
( ・∀・)「今から速攻でこいつら片付けるから、そこ動くなよ」
102
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 17:40:04 ID:38SxqkVM0
痛みに悶えるドクオは、まあ大丈夫だろう。
擦り傷ぐらいは出来ているかもしれないが、それはまた帰ったら手当てしてもらえばいい。
それよりも構うべきは目の前にいる奴ら。
ドクオに向かってのろのろと歩み、ずっと何かを呟いている気味の悪い奴らだ。
モララーはまず最初にふっ飛ばした女たちの上に木槌を振り上げ、叩き潰した。
そしてすぐ背後に迫っていた男の横腹を殴り飛ばし、
続けざまそのすぐ後ろにいた子供の体を地面にめり込ませる。
前回片付けたときと比べて増えているとは言え、
そいつらはモララーにとってはただの掃除の対象でしかなかった。
自分やドクオに近づく者は、片っ端から叩き潰していく。
あちらこちらでパンパンと風船がはじけるような音が響き、黒い物体が転がった。
103
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 17:43:15 ID:38SxqkVM0
例え相手がどんな見てくれをしていたって容赦はしない。
男だろうが女だろうが、子供だろうが老人だろうが、叩き潰す。
奴らがいったい何を呟いていたって気にとめることもしない。
奴らはドクオにとって恐怖の対象でしかないのだ。
そして、モララーにとっては片付ける物でしかない――
――“悪夢”なのだから。
都市の皆が平和に心穏やかに暮らしていくために。
モララーがここで目的を達成するまで暮らしていくために。
彼は奴らを、“悪夢”を殴り、叩き、潰す。
( ・∀・)「バイバーイ」
ガッ。
パァンと再び破裂音を立てて叩き潰された老人を最後に、モララーはドクオの“悪夢”の片付けを終えた。
○ ○ ○
104
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 17:46:29 ID:38SxqkVM0
モララーと別れてしばらくして、ジョルジュとトソンは目的の場所にたどり着いた。
いつの間にか周りの景色は異国風の町並みから、寂れた工場地帯のような場所に変わっていた。
トタン塀が続く、殺風景な道。
コンクリートで出来た背の高い、表面ののっぺりとした塔のようなものが、
トタン塀の向こう側にずらりと立ち並んでいて、空は白っぽく、灰色の煙がどこからか漂っている。
どこか寒々しく、ここは胸のうちに心細さを植えつけるような気がした。
町の中で立てていた爆音も成りを潜め、ゆっくりとスピードを落として、ジョルジュはバイクを停止させた。
_
( ゚∀゚)「おい、着いたぞ」
( 、 !iトソン「ふぁ…ふぁーい……」
_
(;゚∀゚)「大丈夫かよ……」
( 、 !iトソン「ふぁ……………うぇっ」
105
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 17:49:12 ID:38SxqkVM0
サイドカーからふらつきながら降りる。
すると、サイドカーは出現したときと同じように、ぐにゃりと変形するとバイクの中に吸収されて、消えてしまった。
ジョルジュが心配して肩を支えようしてくれたが、トソンは首を振って何とか自力で立つ。
視界がまだあちこちに揺れているが、まあ何とかなるだろう。
深呼吸を何度か繰り返し、気持ちを落ち着ける。
しかし、ジョルジュは目的地についたと言ったけれど、ここはどこだろう?
ここは、今までトソンが見たことのない夢だった。
トタン塀だけが延々と続いている殺風景な場所。
さっき別れてしまったモララーが言うには、ここに“案内屋”がいるということだが。
そんな人物はどこにもいるように見えないし、店や家のようなものもあるようには見えない。
只管、トタンばかりが目に付く場所に人気はなかった。
(゚、゚!iトソン「……えっと、ジョルジュさん」
_
( ゚∀゚)「なんだ、立ち直ったか?」
106
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 17:52:27 ID:38SxqkVM0
(゚、゚!iトソン「はい、まあ。……あの、目的地はここであってるんですか?」
_
( ゚∀゚)「あってるぞ」
(゚、゚!iトソン「トタン塀と変な塔しかないように見えるんですけど」
_
( ゚∀゚)「あー、確かにパッと見はそうだよなあ。俺も初めて来たときは同じこと思ったわ」
ジョルジュはトソンの言葉に、懐かしそうに頷きながら、バイクをトタン塀の脇に止める。
そこから少しだけ離れた場所にあるトタン塀に掌を付けると、ぐいっと力を込めた。
すると、その箇所のトタンにだけ、人ひとりが通れるくらいの穴が開いた。
いや、穴が開いたのではなく、そこにどうやら扉があったらしい。
(゚、゚*トソン
まるで秘密の組織の隠し扉のようなそれに、トソンは思わず鼓動が早くなった。
好奇心と緊張が混ぜこぜになったような感覚。
電車の中で、モララーと再び出会ったときのような感覚。
トソンはすっかり夢酔いのことなんて忘れて、トタンに開いた穴に魅入っていた。
107
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 17:54:32 ID:38SxqkVM0
ジョルジュは扉の中に体を半分だけ滑り込ませたところで、トソンが着いて来ていないことに気がついた。
_
( ゚∀゚)「おい、さっさと来いよ。仲の奴らにお嬢ちゃんのこと紹介するから」
(゚、゚*トソン「あ、はい!」
呼ばれて、トソンも慌ててジョルジュに続く。
トタン塀の穴を潜った先には、外とは全く印象の違う風景が広がっていた。
一見、そこは現実ではオンボロアパートと言われる類の建物だった。
二階建ての、ぽろぽろの鉄骨とトタンで出来た建物。
廊下やそれぞれの部屋の扉は木で出来ていて、窓ガラスはところどころ割れている。
建物全体はコの字型になっているらしい。
二階の通路の曲がり角に当たるところが、両側とも壁が黒く塗られているのが奇妙だった。
ちょうどトソンの正面の二階部分には大きなベランダのようなものがあり、
そこには大きなテーブルと椅子が置いてある。
建物を覆うように被さっている高いトタンの天井には、ところどころ穴が開いていて、
そこから光が漏れて、木漏れ日のように地面にさしていた。
108
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 17:57:02 ID:38SxqkVM0
とても綺麗な場所とは言えない。
でも、雰囲気は決して寂れた感じはなく、寧ろどこか暖かい場所だった。
_
( ゚∀゚)「あれ? 誰もいねえなあ」
ジョルジュはアパートを見回し、頭を掻いた。
_
( ゚∀゚)「っかしいなあ、この時間なら皆あそこで何か食ってるんだが」
指差した先は、大きなテーブルと椅子のある場所。
どうやらあそこは食卓らしい。
よく見れば、テーブルよりも奥の壁際に、キッチンの陰が見える。
(゚、゚トソン「ここに住んでいる方たちは皆あそこで食事をしているんですか?」
_
( ゚∀゚)「ああ、ここに住んでなくてもタイミングが合えば皆で食うぞ」
_
( *゚∀゚)「り、料理の上手い人がひとりいて、その人が、いつも作ってくれるんだ。
その人の料理、すっげぇ旨いんだぞ」
109
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 18:00:13 ID:38SxqkVM0
突然頬を染めて、恥ずかしそうにジョルジュは説明してくれたが、
今の話の中に頬を染めるような部分が見当たらなくて、トソンは首をかしげた。
他にも、夢の中で食事をする、ということにもやや疑問を感じる。
夢の中ではたしか食べ物は味を感じなかった気がするのだ。
まあ、痛覚の件もあるから、これも意識の問題なのかもしれない。
もしかしたらこの夢自体がどこか可笑しいのかもしれない。
いや、可笑しい以前にまず夢なのだろから、
夢の中の人物が夢の中の食べ物を美味しいと言っていても何も可笑しくはないのか。
(゚、゚トソン
(゚、゚;トソン(結局この夢は私の夢なんでしょうか……?)
色々ありすぎて考えるのが遅れていたが、トソンは未だこの夢が自分の夢なのか自信が持てていなかった。
現実でないことは確かだ。現実で人間の足が伸びたり、乗り物の形があんな風に変形するなど考えられない。
でも、電車の中でモララーと再開してからというもの、どうしても違和感が拭えなかった。
110
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 18:03:11 ID:38SxqkVM0
最初は自分の頭の中に異物が入ったような違和感だった。
しかし、今はその逆。
まるで、自分がこの世界にとって異物のような感覚をトソンは感じていた。
初めて来た土地にやってきたような、新鮮な感覚。
夢の中だと例え初めて訪れた場所でも、今までずっとそこにいたような馴染みがあるはずだ。
なのに、今トソンは他人の家に上がりこんでいるような緊張を感じている。
_
( ゚∀゚)「おーい! 誰かいねぇのかあ!」
人気のないアパートに向かって、ジョルジュは声を張り上げた。
すると、アパートの奥から、なにやらこちらに走ってきているらしい、騒がしい足音が響いた。
次の瞬間、二階の通路の左側の曲がり角――だと思っていた場所にあった黒い壁から、人が飛び出した。
(;^ω^)「ぶほっ…はいはいはあい! 今行くお!」
.
111
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 18:06:06 ID:38SxqkVM0
_
( ゚∀゚)「お、ブーン! おいおい、そんなに慌ててどうしたんだよ」
(;^ω^)「いやっはあははは」
黒い壁だと思っていた場所はどうやら、通路があったらしい。
そこから飛び出してきたのは、白いパーカーを着た、少々ぽっちゃりした青年だった。
彼は慌てるように黒い通路からすぐに離れると、アパートの左側の一番端にある階段を使ってこっちに降りてきた。
そして、その直後黒い通路の奥から、今度はまた別の人物が飛び出す。
ξ#゚皿゚)ξ「コルァアアアブゥウウウウゥン!」
現れたのは、白い薄手の、華やかなフリルのついたチュニックに、
紺色のホットパンツを着た、金髪碧眼華奢で色白の超美少女だった。
黒い通路から飛び出し、クルクルと巻いた金髪のツインテールを揺らし、こちらを見下ろす。
112
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 18:09:10 ID:38SxqkVM0
しかし、その表情は阿修羅の如く。
折角の美貌も台無しになるほど、彼女は何故か怒っていた。
_
(;゚∀゚)「げぇっ! ブーンお前何したんだよ、ツンめっちゃ怒ってんじゃねぇか!」
(゚、゚;トソン「え? え?」
(;^ω^)「ツンのプリン間違って食べちゃったんだおー!」
_
(;゚∀゚)「ちょっ…アホ!」
ツンと呼ばれた彼女はアパートの階段の最後の段を踏んでいるブーンと呼ばれた青年を見つけると、
階段の方には向かわずに、食卓のあるベランダの手すりに足をかけた。
トソンは一瞬何をしようとしているのかわからなかったが、ジョルジュにはすぐにわかったらしく、
彼はトソンの手を引くと慌ててその場を離れて、アパートの右側へと避難した。
113
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 18:11:06 ID:38SxqkVM0
(;^ω^)そ「えっちょ、ジョルジュ呼んでおきながらどこ行くんだお?!」
_
(;゚∀゚)「巻き込まれて堪るかっての!」
(;^ω^)「この薄情者! ツンー! この通りだから、許してくれおお!」
ξ#゚皿゚)ξ「 問 答 無 用 !!」
ブーンが、さっきまでジョルジュとトソンがいた場所にやってきて土下座をするのと、
ベランダの手すりに足をかけていたツンが、そこから跳躍したのは同時だった。
(゚、゚;トソン「うわ……」
ひらりとまるでモンシロチョウのように身軽にベランダから飛び降りたツンは、
綺麗な弧を描いて真っ直ぐにブーンのいる場所へと飛ぶ。
空中で振りかぶり握り締めた拳を、落下するタイミングに合わせて、ブーンへと叩き込んだ。
瞬間、隕石が落下してきたかのような轟音が響き、辺りを砂煙が覆う。
114
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 18:14:03 ID:38SxqkVM0
(゚、゚トソン「え」
(゚、゚;トソン「ぇええええなんですかこれえ!」
_
( ゚∀゚)「今回も派手にやったなあ」
(゚、゚;トソン「えええっその程度のリアクションでいいんですかこれ!」
_
( ゚∀゚)「まあよくあることだし」
(゚、゚;トソン「よくあるんですか?!」
_
( ゚∀゚)「おう、お嬢ちゃんもそのうち慣れるよ」
もうもうと砂煙のたつ中、ジョルジュは完全に傍観者の位置で暢気にそういうと、
とりあえず二階に避難しとくか、とすぐ側にある階段を登った。
トソンもそれについて、階段を登る。
今にも板が抜けそうな見た目に反して、階段はしっかりとした作りになっていた。
115
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 18:17:18 ID:38SxqkVM0
「なんであんたは何度言っても私のプリン食べちゃうのよ!!」
「悪かったお! 悪かったから殴らないで…って、あひぃそこはだめえぇ!」
未だ収まらない砂煙の中から響く声。
声のほかにも何やら柔らかいものを殴るような音も聞こえる。
砂煙のおかげで姿が見えなくてよかったとトソンは思った。
きっと今頃あの中では目も当てられないような事が繰り広げられているに違いない。
(゚、゚トソン「……止めなくていいんですか?」
_
( ゚∀゚)「俺が入ったところで止まんねーよ。逆に俺も殴られて終いだ」
アパートの二階の手すりに寄っかかり完全に見物を決め込むジョルジュの隣に立つ。
相変わらず砂煙はやむことなく、ブーンとツンを包んだままだ。
はっきり言えば、置いてけぼりの状況である。
何のためにここに連れて来られたのかわからなくなりそうだった。
116
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 18:20:04 ID:38SxqkVM0
(-、-;トソン(うーん…)
自分は一体どうすればいいのだろうとトソンが考えあぐねていると、
さっきブーンとツンが飛び出してきた黒い通路から、今度は三人目が飛び出してきた。
('、`;川「ツンちゃん、やめてやめて! プリンならまた作ってあげるから!」
飛び出してきたのは、黒い髪の垂れ目の淡い色のワンピースを着た女性で。
彼女は手すりから身を乗り出すと、ブーンに暴力を振るっているであろうツンに必死になって呼びかけた。
しかし、ブーンを成敗することに夢中のツンは気がついていないらしく、全く止まる様子はない。
女性はしばらく呼びかけていたが、いつまでたってもツンが止まらないことを確認すると、
彼女は手すりの一部を掴んで、ばっとそこから一階へと飛び降りた。
すると、彼女に掴まれていた手すりがぐにゃりと曲がって、伸びた。
117
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 18:23:09 ID:38SxqkVM0
ずるーんと柔らかい飴のように伸びた手すりは、女性をゆっくりと地面へと下ろす。
そして女性が手を離すと、びゅるんっと、ゴムのように元の形に戻った。
(゚、゚;トソン(なんと!)
トソンは一瞬、いったいどんな構造をしているのかと目を見張ったが、すぐに、脳内にモララーの声が再生された。
そうだ、ここは夢の中だ。それを忘れてはいけない。何が起こったって可笑しくないのだ。
そんな方法で一階へと降りた女性は、翻ったスカートの裾を一回はらうと、
慣れた様子で砂煙に向かって走り、中へと突っ込んだ。
「もうやめな――さい!」
砂煙の奥から声が響く。
それとほぼ同時に、今まで砂煙の中から聞こえてきた打撃音がやんだ。
今までツンが暴れていたためにずっと舞い上がっていた砂煙が、だんだんと晴れていく。
少しずつ薄い膜の向こうから現れた光景は、女性に抱きつかれてバタバタもがいているツンと、
案外傷一つなく、けれど地面の上で大の字になって伸びているブーンだった。
○ ○ ○
118
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 18:26:08 ID:38SxqkVM0
カタリと目の前に置かれたのは、華奢なティーカップ。
中には、透き通った琥珀色の、香り高い紅茶の水面が揺れている。
大きな食卓の中央には、クッキーが山盛りになっているバケット。
他にもバスケットの周りには、ベイクドチーズケーキやベリータルトなど、様々なお菓子が所狭しと並んでいた。
女性はそれらをすべて並べ終えると、トソンの向かいの席に座ってにっこりと優しく微笑む。
('、`*川「どうぞ、遠慮なく食べて」
(゚、゚トソン「あ、ありがとうございます」
('、`*川「ツンちゃんもジョルジュさんもどうぞ」
ξ*゚⊿゚)ξっ「わーい」
_
( *゚∀゚)っ「い、いただきますっ」
( *^ω^)っ「お!」
119
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 18:29:01 ID:38SxqkVM0
食卓についた全員がお菓子に手を伸ばす。
けれど、女性はブーンの手だけをぺちりと軽く叩くと、彼からお菓子の皿を遠ざけた。
('、`*川「ブーンくんは今回はだめよ?
ツンちゃんのプリン食べちゃったペナルティ」
(;^ω^)っ「……おーん」
('、`*川「もー、ごめんなさいね。来て早々でびっくりしたでしょ?」
(゚、゚トソン「ああ、いえ、まあ」
トソンはなんと返せばいいかわからなかった。
ブーンとツンのことは確かに驚いたといえば驚いた。
リアクションも大いに取った。
だけれど、トソンはここにくるまでにも、十分に驚くことに遭遇していたため、少しだけ体制がつきかけていた。
120
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 18:31:17 ID:38SxqkVM0
今はここにいないモララーの言う通り、ここは夢なのだ。
何かが起こる度に驚いていたらキリがないだろう。
とりあえず曖昧に頷き、トソンはティーカップを手に取った。
さっきも疑問に思っていたが、味を感じることは果たしてできるのだろうか?
鼻先までカップを持っていき、香りを嗅いでみる。
(゚、゚トソン(ん……?)
ふわりと香ったのは、今まで嗅いだことのない種類の香りだった。
これはなんの紅茶だろう?
ダージリンでもアールグレイでもなければ、その他の紅茶の香りにも似ていない。
もしかしたら目の前の女性のオリジナルブレンドなのだろうか。
試しに、一口だけ口に含んでみる。
(゚、゚トソン(……んー?)
121
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 18:34:09 ID:38SxqkVM0
味は確かにちゃんとした。
これで、最初の疑問は解決したのだが。
トソンは首を傾げて紅茶を見た。
いや、これは紅茶と言っていいのだろうか。
今まで飲んだことのない味は、トソンの知っている紅茶のどの味にも当てはまらなかった。
といっても、トソンがそんなにたくさんの紅茶の味を知っている訳でもないけれど。
それでも、この味は紅茶ではないとは思った。
なんと表現すればいいかわからないが、とりあえずこれだけは言える。
(゚、゚*トソン(すごく美味しい)
次いで、トソンは食卓中央の山盛りのクッキーに手を伸ばした。
一つだけ手に取り、端をかじって紅茶(のようなもの)を啜る。
(゚、゚*トソン(おお〜……!)
122
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 18:37:08 ID:38SxqkVM0
_
( ゚∀゚)「美味いか」
(゚、゚*トソン「はい、とっても!」
_
( *゚∀゚)「だろだろ? これ全部ペニサスさんが作ったんだぜ……!」
(゚、゚トソン「ペニサスさん?」
('、`*川「そういえばまだ自己紹介してなかったわね。
ツンちゃんやブーンくんもまだじゃない?」
( ^ω^)「お、そうだったお。僕としたことがすっかり忘れてたお」
ξ*゚⊿゚)ξ゛モグモグコクコク
_
( ゚∀゚)「そういや、俺もまともに名乗ってなかったな」
女性の言葉に、その場にいた皆はいったん食べるのをやめた。
123
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 18:40:01 ID:38SxqkVM0
(゚、゚トソン「えっと、私は都村トソンといいます」
(゚、゚;トソン「突然ここにやってきてしまって、右も左もわからない状態なんですが…」
('、`*川「ああ、気にしないで。最初のうちは皆そんなものだから」
_
( ゚∀゚)「じゃあ改めて、まずは俺から。
俺の名前はジョルジュ……つっても、もう知ってるよな」
_
( ゚∀゚)「『運び屋』ていう配達の仕事をしてる。ちなみに荷物担当だ。
新入りの夢遊者をここまで連れてくるのも俺の役目だ」
('、`*川「ペニサスよ。
ここではみんなのご飯係と、時々怪我しちゃう子の手当なんかをしてるの」
('、`*川「クッキーと紅茶、気に入って貰えて良かったわ」
(゚、゚トソン(あ、これやっぱり紅茶なのか……)
124
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 18:43:24 ID:38SxqkVM0
自己紹介の終わったジョルジュが再びお菓子に手を伸ばす。
それを見てトソンも、もう一口紅茶(らしい飲み物)を飲んだ。
作った本人であるペニサスが紅茶と言っているのだから、やはりこれは紅茶なのだろう。
正直得体が知れないが、味は申し分ないので、その辺は今は黙っておく。
ξ*゚⊿゚)ξ モグモグ…ゴクン
ξ*-⊿-)ξ フゥ…
ξ゚⊿゚)ξ「私はツン。一応この都市のリーダーみたいなことしてるわ」
次に自己紹介をしたのは、お菓子を食べてやっと機嫌が直ったらしい、
先の阿修羅のような顔をしていた超美少女のツンだ。
ツンは、すっかり怒気が抜けたために、素の表情でトソンに微笑みかけた。
ξ゚ー゚)ξ「何か困ったことがあったらことがあったら、遠慮なく言ってね」
(゚、゚*トソン「あ……はい、よろしくお願いします」
125
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 18:46:02 ID:38SxqkVM0
彼女が笑えば、柔らかいツインテールがしゃらんと揺れる。
意志の強そうな碧い瞳は細められ、優しい視線がなんだか気持ちがよかった。
先程の阿修羅の顔とのギャップも相まって、彼女の笑顔はとても綺麗だった。
そして、歳はトソンと変わりないように見えるのに、何だか頼りになりそうな雰囲気。
最初にこの都市のリーダーと聞いたときは少し以外だった――どちらかというと、大人の女性である
ペニサスさんの方がリーダーっぽいと思ったのだ――が、この感じなら確かに頷ける。
ツンの微笑みに少し惚けてしまっていたトソンの肩をつついたのは、
隣でお菓子のお預けを食らっていたブーン。
( ^ω^)「ツンに見惚れてるところ悪いけど、自己紹介するお」
(゚、゚;トソン「はっ…あ、すこません」
( ^ω^)「僕はツンの補佐みたいなことと、
新入り夢遊者さんの都市案内をしているブーンだお」
126
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 18:49:11 ID:38SxqkVM0
ブーンはぽっちゃりと丸い顔で、ニコニコと人当たりのいい笑みを浮かべながらよろしくと言った。
弓なりになった目の奥の瞳は、どこか不思議な色に輝いていて、
誰だったか忘れたが、最近見た誰かを思わせる気がする。
( ^ω^)「わからないこととかは僕に聞いてくれれば何でも答えるお」
(゚、゚トソン「あ、モララーさんの言ってた案内屋って」
( ^ω^)「そうそう、それ、僕のこと」
( ^ω^)「…ん? モララーにはもう会ってるのかお?」
_
( ゚∀゚)「お嬢ちゃんと最初に会ったのはモララーだぞ」
( ^ω^)「おっ、そうだったのかお。で、そのモララーは?」
_
( ゚∀゚)「最初は一緒にこっちに向かってたんだけどな。あいつは片付けのために途中で別れたんだ」
_
( ゚∀゚)「今頃はもう片付け終えてドクオと一緒にこっちに向かってんじゃねぇかな」
127
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 18:51:38 ID:38SxqkVM0
(゚、゚トソン(片付け……)
“片付け”とはいったいなんだろう。
この単語はモララーと出合った時にも彼が言っていた。
モララーとはあの異国風の街で別れたきりだが、
あの時ジョルジュも確かに、モララーは“片付け”をしにいったと言っていた。
何だか、この夢の中にやってきてから、知らない単語がどんどん出てきている気がする。
それも、現実では聞きそうもない妙な言葉ばかりだ。
“片付け”は言葉自体は聞く事はあるが、恐らく使われ方が現実とは異なるのだろう。
現実で聞く言葉のニュアンスとは少し違った意味を彼らの会話の中でトソンは感じていた。
あと、ドクオとは誰だろう。
ξ゚⊿゚)ξ「あら、片付け対象ドクオのなの?」
_
( ゚∀゚)「おう、あれはどう見てもドクオのだった。なんか人数増えてるように見えたけどな」
ξ゚⊿゚)ξ「そう……また現実の方で何かあったのね。ちょっと悪いことしちゃたかなあ」
128
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 18:54:07 ID:38SxqkVM0
('、`*川「ツンちゃん、ドクオくんと何かあったの?」
ξ゚⊿゚)ξ「うん…前にドクオが見つけてきてくれた香水の香りが好みだったから、
また探してきて欲しいってこないだ言ったの」
( ^ω^)「あの好い匂いの、ドクオが見つけたのかお」
ξ゚⊿゚)ξ「場所はパレードの街?」
_
( ゚∀゚)「おう、パレードは今回はやってなかったけどな。だから思いっきり爆走してやった」
ξ゚⊿゚)ξ「あーじゃあやっぱり香水探しに行ってくれてたんだわ。
あいつがここに来たら謝らなくっちゃ」
(゚、゚トソン「あの」
( ^ω^)「なんだお?」
(゚、゚トソン「ドクオさんというのは」
( ^ω^)「あー、あいつはまた会った時に紹介するお。
それよりもまずはこの都市についてのことを説明しなきゃならんのだけど…」
129
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 18:57:21 ID:38SxqkVM0
ξ゚⊿゚)ξ「じゃあすればいいじゃない、何渋ってんの?」
( ^ω^)「んー、先にモララーに会ったの考えると」
('、`;川「ああ、彼たまに新入りさんにあることないこと吹き込むものね」
( ^ω^)「クーなんか最初の頃はそれのせいで勘違いが酷かったお……」
ξ゚⊿゚)ξ「ハインも少しだけ洗礼受けてたわね」
_
( ゚∀゚)「ああ、お化けアパート『ラウンジ』な」
('、`*川「それ懐かしいわねえ」
ξ゚⊿゚)ξ「確かにお化けアパートは別にあるんだけどね」
( ^ω^)「ハイン、嘘だって知るまでビクビクしながらここを出入りしてたおね」
( ^ω^)「ま、そういうわけで、新入りが最初の頃にモララーと二人っきりの時間が長かった場合、
この都市について嘘八百言われることがあるんだお」
( ^ω^)「トソンはどうだお? モララーから何か聞いたかお?」
130
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 19:00:10 ID:38SxqkVM0
(゚、゚;トソン「あー……」
トソンはブーン言われ、すぐに今までのモララーとの会話を思い出した。
モララーに言われたことは、今までトソンが認識していた夢の中の常識からは、
俄かには信じられないことが多かったのは確かだ。
でも、それらは、すぐにこの夢の中では本当だとわかった。
だから強いて嘘っぽいことがあると言えば、ジョルジュとの吐く吐かないという会話くらいだろう。
トソンは凄く吐きたかったが、結局吐くことはできなかった。
ブーンにそれを伝えれば、それじゃあ大丈夫だと安心したようだった。
( ^ω^)「それじゃあまずはこの付近を簡単に散策しながら説明しようと思――」
「たっだいまー!」
噂をすればなんとやら。
ブーンの言葉を遮ってアパート中に響いたのは、先程別れてからしばらく聞いていなかった声。
131
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 19:01:15 ID:38SxqkVM0
( ・∀・)「おお、皆お集まりのようで。ほらドクオ、ペニサスさんのお菓子の香りがするよ」
(!i'A`)「…………うぇっ」
( ・∀・)「こらこら、『うぇっ』はないだろ。ペニサスさんに失礼じゃないか」
(!i'A`)「いや…これお前のせいだから……なんだよあれ…足長過ぎ…気持ち悪過ぎ…」
( ・∀・)「君もジョルジュと同じこというのか。あと僕の上では絶対吐くなよ」
_
( ゚∀゚)「何度も言うけど、夢の中で吐くとかねーから!」
トソンたちが入ってきたトタン塀にある入り口。
そこから入ってきたのは、貧相な体格の青年を背負ったモララーだった。
モララーは二階の食卓に人が集まっているのを見つけると、貧相な青年を背負ったまま、
左の階段を使ってこちらへとやって来た。
恐らく、あれがドクオという人物なのだろう。
トソンはモララーに背負われている、顔色の悪い青年を見て、そう思った。
その予想通り、階段を登っている最中にモララーは青年のことをドクオと呼んでいた。
132
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 19:04:04 ID:38SxqkVM0
周りの人々は、モララーの背中でぐったりしているドクオを見ると、皆一様に心配そうな顔をする。
('、`;川「どうしたの? ドクオくん、大丈夫?」
ξ;゚⊿゚)ξ「ま…まさか“悪夢”にどこか喰われたんじゃ…」
( ・∀・)「いや、その心配は全くないよ」
( ^ω^)「じゃあどうしてそんな具合悪そうなんだお?」
( ・∀・)「ああ、それは……」
(!i'A`)「モララ…の足…長……キモ…チ悪………うぇっ」
_
( ゚∀゚)「な、ドクオもやっぱり気持ち悪いと思うよな!」
(!i'A`)「うぇっ」
(゚、゚;トソン(ああ、把握)
133
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 19:07:02 ID:38SxqkVM0
('、`*川「あら、ちょっと両膝小僧と両肘と顎擦り剥いてるじゃない!」
('、`*川「モララーくん、ドクオくんそこの椅子に下ろして。今消毒液持ってくるから」
( ・∀・)「はいはい」
( ・∀・)「……で、トソン」
(゚、゚トソン「はい?」
モララーは背負っていたドクオをぽすんと軽く、椅子の一つに座らせると、
自分は立ったまま食卓の上のベリータルトに手を伸ばしつつ、トソンを見た。
不思議な色合いをした瞳が、トタンの屋根の穴から漏れる陽に、キラリと光る。
( ・∀・)「僕と別れて結構時間経つけど、都市の案内とかはもう終わったのかい?」
(゚、゚トソン「あ、それならさっきちょうど行くところだったんですけど」
( ^ω^)「モララーたちが帰ってきて話が中断されたんだお」
( ・∀・)「そりゃ悪かったね。でも良かったや、僕が帰ってくる前に終わってなくて」
134
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 19:10:07 ID:38SxqkVM0
もごもごと、言葉の合間にベリータルトを頬張っては飲み込む。
なんとも器用な行為だ。
というよりも、トソンには何だかモララーの口の動きが何だか霞んでよく見えなかった。
これも、モララー曰くの「夢だから」なのだろうか。なのだろう。
( ・∀・)「だって折角僕が見つけた新入りに僕が構えないなんて詰まんないもんね」
(;^ω^)「構うのはいいけど、あんまり変なことは吹き込んだりしないで欲しいお」
( ・∀・)「ええ? 僕がいつ誰に変なこと吹き込んだっていうのさ」
ξ゚⊿゚)ξ「よく言うわ、全く」
モララーは、本当に何を言われているのかわからない、と言った様子で、首をかしげている。
本人はもしかしたら自覚がないのかもしれない。
もしかしたら、わざとそうしているのかもしれない。
どっちにしろ、トソンは最初にモララーに抱いた印象が、この夢の中でガラガラと崩れて行くのを感じていた。
まあ、もともとそんなに期待していたわけでもないから、別段ショックはないが。
135
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 19:11:20 ID:38SxqkVM0
( ^ω^)「まあ、そんなわけでさっきトソンに話してたドクオも来たんだし」
( ^ω^)「ほら、ドクオ、新入りさんのトソンだお、自己紹介自己紹介」
(!i'A`)「お……おぅ…」
ドクオは頭をぐらぐらと揺らしながらも、何とかブーンの言葉に頷く。
どうやら相当辛いらしい。
彼がモララーに背負われてきたことを考えれば、トソンには痛いくらいその気持ちがよくわかった。
きっとモララーの背中の上は、がくがくと上下に揺れて非常に居心地が悪かっただろう。
加えて、恐らくモララーはあの長い足の状態だったことは間違いない。
それで気持ち悪くならないはずがない。
トソンはドクオに同情すると、彼の血色の悪い手をそっと取った。
(゚、゚トソン「初めまして、都村トソンといいます」
(!i'A`)「俺……ドクオ」
(゚、゚トソン「ドクオさんのお気持ち、すごくよくわかります」
136
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 19:13:02 ID:38SxqkVM0
(!i'A`)「おぉ…おう」
(゚、゚トソン「今はまだ気分が優れないかもしれませんが、終わらない気持ち悪さはありません!」
(!i'A`)「……」
(゚、゚*トソン「またきっとすぐに元気になれますよ! 私がついてます!」
('A`)
(*'A`)(……かわいい)
(*'A`)「あ、あの」
(゚、゚トソン「はい、なんですか?」
(*'A`)「俺、調達屋っつって…この都市探索して見つけたものを…それが必要な奴に渡すっていう仕事してて……」
(゚、゚トソン「はい」
137
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 19:19:08 ID:38SxqkVM0
(*'A`)「で…たまに、頼まれたものを探しにいくっていうのも…やってるんだけど……」
(゚、゚トソン「はい」
(*'A`)「な、なんか必要なものがあったら…言って欲しいな……俺、探してくるから」
(゚、゚トソン「はい、よろしくお願いします、ドクオさん!」
(*'A`)「よ…よろしく……」
ドクオは照れくさそうに頭を掻くと、俯いてしまった。
もう少し、トソンは何か言おうかと思ったが、彼女が口を開くよりも先に、ブーンが二人の間に割ってはいる。
( ^ω^)「はい、じゃあお互い自己紹介も終わったところで。
トソン、これからこの都市のこと説明しながら、実際歩いて案内しようと思うお」
(゚、゚トソン(あ、そうだった。忘れてた)
本当なら、もう少し前にブーンの案内を受けていたはずだったのだ。
それが、いつの間にやらいろいろとずれてしまっていた。
もともと予定なんて合ってなきが如しだが、案内してもらう以上、彼に迷惑をかけるわけにはいかない。
138
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 19:21:07 ID:38SxqkVM0
ついて来てくれ、と手招きするいうブーンに、トソンはすぐに駆け寄ろうとした。
ところが、一歩踏み出したとたん、視界がガクッと傾き、思わず立ち止まる。
眩暈とはまたちがう、目の前の世界と自分が、グラグラと揺れる感覚に、トソンは目を白黒させた。
(゚、゚;トソン「あ……あれ?」
( ^ω^)「お、どうしたお?」
(゚、゚;トソン「なんか、地震? が……」
( ・∀・)「ブーン、あれだよ、時間切れ。ほら、今現実も多分」
( ^ω^)「お…」
(;^ω^)「おー、本当だお。皆でわいわいしてたらもうこんな時間だお」
(;^ω^)「時間切れなら仕方がないお。トソン、案内はまた今度ここにトソンが来たときにするお」
(゚、゚;トソン「は、え?」
突然辺りをきょろきょろ見回し、額に手をやって「しまったしまった…」と呟きだしたブーンに、
トソンは疑問の表情を浮かべつつ、どうやら己だけに起こっているらしい地震と戦っていた。
自分の頭が揺れているのか、自分の足元が揺れているのか全く判別できない感覚に、
また、あの夢酔いがぶり返す気がして、口元を押さえる。
139
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 19:23:02 ID:38SxqkVM0
食卓の周囲でお菓子を食べていたジョルジュ、ツンや、
ドクオの手当てをしていたペニサスもトソンの様子に気がつくと、
皆一様に残念そうな表情を浮かべて、口々に「じゃあ」「バイバイ」「またね」と言い出す。
トソンはいったい何が何だかわからず、縋るようにモララーの方を見れば、
彼は最初に出会ったときの別れ際の瞬間と同じ顔をして、こちらに掌を向けて、くいくいと指の先を曲げた。
( ・∀・)「じゃあね、トソン、また今度」
( ・∀・)「ちなみに今君はめちゃくちゃ揺れてると思うけど、それも慣れればなくなるからね!」
(゚、゚;トソン「え? モララ、さん、え? あ、れ、わ、ちょ、お――」
( 、 ;トソン「 ! 」
一回揺れるごとに、視界が白んでいく。
一回グラつくごとに、頭から思考が飛んで行く。
そうして、トソンは最終的に、真っ白に眩む世界に放り出された。
○ ○ ○
140
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 19:25:56 ID:38SxqkVM0
耳元で、激しい邦楽ロックが鳴り響く。
携帯のスピーカーから流れる音は、普通にイヤホンで聴くときよりも、
高温が耳を刺す様な響き方をしていて耳障りだった。
正直、あまり朝っぱらから聞きたくない音域だったが、
トソンの携帯には今、この曲しか彼女が起きれるアラーム曲はない。
布団の中から手を出し、目を瞑ったまま手探りで携帯を掴み、停止ボタンを押す。
ついでにスヌーズも解除してしまい、布団を体の上から跳ね除けた。
時刻は午後七時半。今から準備しても、十分に学校に間に合う時間だった。
が、しかし。
(゚、゚トソン
,_
(゚、゚;トソン「……う、ん」
,_
::( 、 ;トソン::(お腹……痛い…)
*
141
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 19:27:26 ID:38SxqkVM0
その日、トソンは腐ったものを摂取してしまったことによる腹痛で、
久々に仮病を使わずに学校を休むことになったのだった。
,_
::( 、 ;トソン::(もう絶対……)
,_
::(;、;トソン::(日向に置いといた牛乳は飲みません……!!)
第三話「アパートの夢」 おわり
142
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 19:40:53 ID:38SxqkVM0
どうも、ちょっと日が経ってしまいましたお久しぶりです。
ここまで読んでくれた人ありがとう。
ちなみに、
>> ,_
::( 、 ;トソン::(お腹……痛い…)
*
部分の「*」は投下する瞬間に誤入力しました、脳内補正で消していただきたい…
>>88
一応読み返してはいましたがチェックが甘かったようです。
今後誤字脱字を見つけたら遠慮なく(^Д^)9mしてください。
最近別ジャンルのSSを書いたり、
妹にニートと蔑まされ誹られるのでそんな状況から脱却すべくバイト探したりとやや忙しくなり、
投下間隔が疎らになると思います。
次はできるだけ早く投下できるように努力します。
では、また今度。
143
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 19:45:00 ID:IkdMLo7w0
良かったぁぁぁぁ!!
乙ですたい!
144
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 20:55:57 ID:JkGaKvc.0
おつおつ
次も期待してる
145
:
名も無きAAのようです
:2012/06/10(日) 21:00:13 ID:qi9Qdbdg0
良いねえ良いねえ
146
:
名も無きAAのようです
:2012/06/11(月) 12:42:08 ID:g4busvtcO
面白いな、これ
147
:
名も無きAAのようです
:2012/07/06(金) 21:02:54 ID:D7XzqI0s0
待っているでっせ。
148
:
名も無きAAのようです
:2012/07/23(月) 00:42:24 ID:9emK3DuQ0
影ながら待ってますよ。
149
:
名も無きAAのようです
:2012/07/23(月) 22:43:01 ID:/Mu/ZirkO
じゃあ俺は堂々と待ってるわ
150
:
名も無きAAのようです
:2012/08/06(月) 18:57:25 ID:Oy1t64MA0
ヘブシッ!
151
:
名も無きAAのようです
:2012/08/08(水) 22:58:51 ID:3jvwzcDU0
ブラクラと夢都市好きよ。
152
:
名も無きAAのようです
:2012/08/12(日) 19:17:46 ID:vUGObwiE0
まだかなー
153
:
名も無きAAのようです
:2012/08/17(金) 13:37:10 ID:SqPCEpRA0
どうもご無沙汰しています、作者です。
前話から結構時間が経ってしまいました。
四話はすでにあるのですが、如何せん投下する時間が取れません。
今月末にはその時間が取れるはずなので、今月以内には四話投下したいと思います。
あとトリってつけたほうがいいんでしょうか?
こんな感じで投下も話の進行もどうもゆっくりですが、
待ってくれている人ありがとう。
励みになってます。
では、また今月中のどこかで。
154
:
名も無きAAのようです
:2012/08/17(金) 14:39:37 ID:dHy7Olrk0
うひょょーおおおおあおお!待ってます!トリは好きなようにしていんじゃないすか?
とりままってます。
155
:
名も無きAAのようです
:2012/08/28(火) 01:40:25 ID:Nz8JKbJ20
まだ慌てる時間じゃない。
156
:
名も無きAAのようです
:2012/08/30(木) 00:10:00 ID:tiBT7kFY0
【20XX年5月11日
今回の夢は、なんとまたあの男の人に出会えた!
……といっても、実際話してみると想像していた人物像とは随分違っていたけれど。
また、あの銀色と黒の駅から発車する電車の中で、男の人とは出会った。
彼の名前はモララーというらしい。そして“片付け屋”という仕事をしているらしい。
彼は“夢都市”という謎の都市に住んでいて、そこは外側から見たら万華鏡のように
くるくると形や風景を変える都市だった。
そこのある工場地帯のような場所の一角にあるアパートで、
都市のリーダーであるツンさん、“案内屋”のブーンさん、
美味しいお菓子を作るペニサスさん、“調達屋”のドクオさんと出会った。
157
:
名も無きAAのようです
:2012/08/30(木) 00:13:04 ID:tiBT7kFY0
そこまで連れて来てくれたのは、真っ黄っきのド派手な、爆音バイクに乗っている
“運び屋”のジョルジュさん。
途中までは、足が長ーく伸びたモララーさん(すごく、気持ち悪い)も一緒だった。
モララーさんやブーンさんたちは、私のことを“新入り”と呼んでいた。
あと、“ムユウシャ”(漢字はあるのだろうか)なんていう言葉も何度か聞いた。
他にも、何だか今回の夢はいつも以上にわからないことだらけで。
そのくせ無駄にリアルな夢だったから、何だか混乱しそうだった。
今回の夢は、診断サイトは見ないことにする。
だってどう考えてもどうやって項目に当てはめればいいか、わからないから。】
(゚、゚トソン パタン
(-、-トソン フー…
(゚、゚トソン(あの夢はなんだったんだろうか……)
158
:
名も無きAAのようです
:2012/08/30(木) 00:16:10 ID:tiBT7kFY0
幻は、忘れていた宝物を、彩り照らしている。
第四話「思い出とパレードの夢」
.
159
:
名も無きAAのようです
:2012/08/30(木) 00:19:08 ID:tiBT7kFY0
午前診に行った結果、案の定、食あたりという診断結果を貰ったトソンは、今回ばかりは仕方なく、
担任に食あたりのために休みますという、久々に正当な理由で学校を休むことになった。
ぎゅるぎゅるとお腹を絞られているような感覚に腹を抱えてベッドに蹲り。
時にはトイレに篭って一時間くらい過ごしたり。
とりあえず、それはもうトソンは初めて体験する辛さだった。
やっと落ち着いてきたのは、次の日のことで。
処方された薬が効いたのか、もともとそんなに重い症状ではなかったのか。
とにかくトソンは、買ってきた牛乳の始末をしたのだった。
腹を壊した日は、“夢都市”の夢を見ることはなく、寧ろ何の夢も見なかった。
夢を見なかったなんてことは生まれて初めてだったため、
トソンはそれを腐った牛乳のせいだと決め付けて怨み節を呟く。
夢は、つまらない日常の中の数少ない楽しみの一つなのだ。
160
:
名も無きAAのようです
:2012/08/30(木) 00:22:07 ID:tiBT7kFY0
(-、-!iトソン(あーもう絶対に腐った牛乳は飲まない……)
まだ時折しくしくと痛み出す腹を撫でさすり、リビングのソファーにごろんと横になる。
先日はすっかり寝込んでいたせいで、勉強もまともにすることが出来なかった。
一日のノルマを増やさなければ、今後もしかしたら学校側にカリキュラムが追い抜かれてしまうだろう。
折角、学校に行ったときに、周りに置いてけぼりを食らわぬように、こまめに勉強をしていたというのに。
先程書き終わって、ソファーの前のテーブルに置いていた“夢日記”を手に取り、ぱらぱらとページをめくる。
書き込んだばかりの一昨日見た夢。
そのページは、今まで記録してきたものの中でも一番長い文章で埋まっている。
なんたって、あんな夢を見たのは今回が初めてだったのだ。
そりゃ、書きたいことも多くなるに決まっている。
ちなみに言うと、今回は途中で頭の中で整理がつかなくなり、
そして書きつづけていたらそのまま延々と書き続けてしまうような気がしたから、渋々書くのをやめた。
だから、本当はもっと長くなるはずだったのだ。
161
:
名も無きAAのようです
:2012/08/30(木) 00:25:32 ID:tiBT7kFY0
(゚、゚トソン(“夢都市”……)
(゚、゚トソン(“片付け屋”“ムユウシャ”……)
(゚、゚トソン(あ、そういえば誰かが“悪夢”が何とか言ってたような…)
ソファーに寝っころがったまま、気になる単語を指でなぞる。
このほかにももしかしたら聞き漏らした言葉もあるかもしれないし、
起きてすぐに忘れてしまった言葉もあるかもしれない。
(゚、゚トソン(でも……)
(゚、゚トソン(なんかこの夢は他の夢みたいに、あんまり霞がかからないんですよね)
くっきりと、気持ち悪いぐらい鮮明に思い出したのは、ペニサスさんの作ったお菓子たち。
他にも、ツンがベランダの手すりから飛んだ瞬間や、ドクオの照れた顔など。
普通の夢ならしばらくすれば忘れてしまいそうなことを、今回トソンは一日たった今でも、
きちんと目の前に思い浮かべることが出来た。
162
:
名も無きAAのようです
:2012/08/30(木) 00:28:12 ID:tiBT7kFY0
バイクの振動と鼓膜を叩くエンジン音。
気分の悪さにトソンを励ますジョルジュの大声。
舞い上がる砂煙の匂いに、見た目の割に頑丈だったアパートの階段。
美味しかったクッキーと紅茶(のような飲み物)。
ドクオの血色の悪い冷たい手。
本当に、気持ち悪いくらい鮮明に、リアルに思い出せる。
(゚、゚トソン(……お昼ごはん作りますか)
仰向けの状態から、足で勢いを付けて起き上がり、台所へ入る。
何かめぼしい物はあっただろうかと冷蔵庫を開けた。
中に入っていたのは、中身がもう殆ど入っていないケチャップと、
空っぽのジャムの瓶、それから底に申し訳程度に残っているマーマレードだけだった。
○ ○ ○
163
:
名も無きAAのようです
:2012/08/30(木) 00:31:15 ID:tiBT7kFY0
今日は久しぶりに食パン意外の物を食べようと、チンして食べられるタイプの白米を買ったトソンは、
少しだけうきうきした気分で帰路をトロトロ歩いていた。
相変わらず、平日のこの時間、この街の人気は殆どない。
帰ったら一緒に買った新商品のフリカケをかけて食べよう。
そのあとには、これまた新商品の林檎風味のプリンとやらもデザートに買った。
食べることに普段はそこまで執着していないトソンだったが、
“夢都市”の夢の中で見た、“ペニサスさんのお菓子”を思い出すと、
どうしても何か美味しいものが食べたくなったのだ。
(゚、゚*トソン(林檎風味プリン〜)
プリンといえば、そういえばツンはあの後新しいプリンを作ってもらえたのだろうか。
(゚、゚*トソン(ペニサスさんのお菓子美味しかったなあ)
今まで、夢の中で何かを食べたことは多々あった。
でも、こんな風に味を感じ、しかもその事をちゃんと、起きてからも覚えているのは初めてのことだった。
これからは意識さえすれば、他の夢でも食べ物の味を感じることが出来るのだろうか?
164
:
名も無きAAのようです
:2012/08/30(木) 00:34:16 ID:tiBT7kFY0
(゚、゚トソン「あ」
食べたクッキーの味を思い出しながらトロトロ歩いていると、あの公園の前を通った。
時間はあの時よりも少し遅いが、あの男の子は今日も来ているだろうか。
気になったトソンは、公園の入り口から中を覗いた。
見えたのは、いつもの申し訳程度に置かれている遊具に、一つだけあるベンチ。
ベンチの上には今日は、ビロードはいなかった。
(゚、゚トソン(今日はちゃんと学校に行ってるんですかね)
人気のない公園は、何だか少しだけ寂しい。
そういえば、トソンも昔はここでよく遊んでいた覚えがある。
確か、あの頃は、まだここまで遊具は少なくなかった気がした。
165
:
名も無きAAのようです
:2012/08/30(木) 00:37:31 ID:tiBT7kFY0
小さな公園に、ぎゅうぎゅうに詰まった遊具たちは、この地域の子供たちの大切な遊び場だった。
その中でもトソンが大好きだったのが、公園の中央にあった、回転する丸いジャングルジムだ。
最近、ネットを徘徊していて知ったのだが、あれにはグローブジャングルジムという名前がちゃんとあるらしい。
トソンは、あれに掴まって、吹っ飛ばされそうになるぐらいぐるぐる回るのが大好きだった。
それも親たちの「危ないから撤去して欲しい」という声によって消えてしまった。
今では、ここには鉄棒が大小一組と、滑り台だけ。
ちょっと前まではシーソーもあったはずだが、気がついたら消えてしまっていた。
(゚、゚トソン(懐かしいなあ)
雑草がところどころ伸びている地面を踏みしめ、公園の中に入る。
この前は、ビロードを気にしていたため、あまり見ていなかった。
ちょうど、グローブジャングルジムがあった場所に立つ。
小さい頃はここも、トソンにとってはそれなりに大きな公園だった。
(゚、゚トソン(もっかいあれで回れたらなあ…)
166
:
名も無きAAのようです
:2012/08/30(木) 00:39:17 ID:BMtJ5SCo0
きたか!
167
:
名も無きAAのようです
:2012/08/30(木) 00:40:35 ID:tiBT7kFY0
足元にあった石を蹴飛ばし、滑り台に近寄る。
ここの滑り台は、丸いドーム型の石の建物の外側に、階段と滑る部分が着いているタイプになっている。
そして、中にはトンネルが通っていて、夏は皆その中に入り、太陽から逃げている風景がよく見られる。
トソンも、小さい頃はよくここに雨宿りなどをしていた。
しかし、そのトンネルは公園の入り口からは視覚になっている為、もしも不審者が隠れていても、
すぐには気が付けないかもしれない、という保護者の意見が上がっているらしい。
もしかしたら、この滑り台もそのうちここから消えてしまうのかもしれなかった。
(゚、゚トソン(あら)
滑り台の傍らで思い出にふけっていると、頬にぽつりと水があたり、トソンはふと空を見上げた。
直後、ぽつぽつと地面に黒い染みが現れ、ザアァと急激に雨が降って来る。
(゚、゚;トソン「うわっ」
慌てて、滑り台のトンネルの中に入り、雨を凌ぐ。
トンネルは子供にあった大きさのため、トソンはその場にしゃがみ込まなければならなかった。
168
:
名も無きAAのようです
:2012/08/30(木) 00:43:28 ID:tiBT7kFY0
(゚、゚;トソン(あー、一瞬だけなのに髪の毛びっしょり……)
雨水の滴る前髪を、ポケットに入れていたハンカチで拭ぐう。
きっとにわか雨だろう。ここでしばらく待てばきっと止む。
再び、懐かしい気持ちになりながらトンネルの陰から空を眺めていると、背後で人の気配がした。
誰だろうと思い、振り返る。
(゚、゚トソン「あ」
( 。><)「あ…」
(*‘ω‘ *)「ぽっ!」
トンネルの中にいたのは、白いあの猫を抱えたビロードだった。
(゚、゚トソン「奇遇ですね、ビロードくん」
169
:
名も無きAAのようです
:2012/08/30(木) 00:45:15 ID:tiBT7kFY0
( つ<) グシグシ
( ><)「こ、こんにちわなんです…」
(゚、゚トソン「こんにちわ」
ビロードはトソンに気がつくと、ゴシゴシと袖で目元を擦ってから、小さく会釈した。
トソンは、それににっこりと笑って、ビロードの隣にしゃがむ。
(゚、゚トソン「雨ですねえ」
( ><)「雨なんです…」
トンネルは、こういう時の為に中に水がたまらないよう、中心が少し盛り上がり、
出入り口に向けて緩やかな傾斜がついている。
二人は、ちょうどその頂点、トンネルの真ん中でそれぞれ、両側の出入り口の外を見ていた。
170
:
名も無きAAのようです
:2012/08/30(木) 00:47:06 ID:tiBT7kFY0
(゚、゚トソン「ビロードくん」
( ><)「なんですか?」
(゚、゚トソン「プリン食べます? 林檎風味の」
( ><)「いいんですか?」
(゚、゚トソン「どうせ雨が止むまでここ出られませんし」
(゚、゚トソン「腐ったら困りますから、一緒に食べましょ」
( *><)「…ありがとうなんです」
ビロードと二人、雨が止むまでトンネルの中にしゃがみ込んだまま、顔を見合わせ、微笑みあう。
コンビニ袋から出したプリンの蓋をぺりぺりと剥がせば、狭いトンネルの中には甘い香りが広がった。
171
:
名も無きAAのようです
:2012/08/30(木) 00:50:25 ID:tiBT7kFY0
( *><)「わあ、良いにおいなんです」
(゚、゚トソン「スプーンは一本しかないんですけどいいですか?」
( *><)「大丈夫なんです」
(*‘ω‘ *)「ぽっぽっ」
( ><)「あっ、ぽっぽちゃんは食べちゃだめなんです」
(*‘ω‘ *)「ぽー」
プラスチックのスプーンで、薄黄色の柔らかいプリンを掬い、ぱくりと食べる。
ビロードは美味しそうに目を細めた。
雨はいったい何時になったら止むだろう。
今のところ、止む気配は一向にない。
ビロードから受け取ったスプーンで、一口プリンを食べながらトソンは、
これから暇つぶしになりそうな話題を探した。
172
:
名も無きAAのようです
:2012/08/30(木) 00:52:38 ID:tiBT7kFY0
ふと、ビロードを見て、何故今日はベンチではなくトンネルの中にいるのだ、
という疑問が浮かんだが、それは、彼の頬に残っている涙のあとを見て飲み込む。
代わりに、トソンは“夢都市”の話をすることにした。
(゚、゚トソン「ビロードくん、聞いてくださいよ」
( ><)「なんですか?」
(゚、゚トソン「一昨日、面白い夢見たんですよ」
( ><)「聞きたいんです! どんな夢なんですか?」
ざあざあと雨の降る音を聞きながら、トソンはビロードに夢の話をした。
○ ○ ○
173
:
名も無きAAのようです
:2012/08/30(木) 00:55:18 ID:tiBT7kFY0
電子レンジに入れた、チンして食べられるご飯がくるくると回る。
棚からフリカケを出し、割り箸をもって電子レンジの前に立ったトソンは、
レンジのオレンジ色の光に照らされ、くるくると回るご飯を見つめた。
きゅるきゅると空腹を訴えるお腹は、今ではすっかり好調だ。
誰も居ないリビングからは、家に独りしかいない静けさを消すために付けたテレビから、
アナウンサーの読み上げるニュースが聞こえる。
《意識不明者は未だ回復の兆しは見られず、原因の究明の……》
内容は、最近よく見聞きする話題だった。
けれど、特に世の中の事象に興味のないトソンは、すぐに音を聞き流した。
今は、己の空腹を満たすことだけで頭がいっぱいだ。
チン、と可愛らしい音をたてて、レンジの中の光が消える。
トソンは自分の脇にあるティッシュ箱から二枚取り出し、レンジの蓋を開けた。
四つ折にしたティッシュで、熱くなったご飯の容器の端を持ち、調理台に一回置く。
もう一度今度はもう少ししっかり容器を持ち、リビングまで早足で向かった。
174
:
名も無きAAのようです
:2012/08/30(木) 00:57:19 ID:tiBT7kFY0
洗い物を(洗うのが面倒だから)極力減らすため、お茶碗は使わない。
ソファーの前のテーブルにご飯を置き、トソンはその上にフリカケをかけた。
久々の、食パン以外のご飯である。
(゚、゚*トソン(はー、やっぱり米はいいですね)
(゚、゚*トソン(また買ってこようかなー)
ニュース番組はいつの間にか終わり、テレビは料理番組に変わっていた。
画面の中で、残り物でも美味しくできる、と銘打った料理を、
最近流行のまとめ売りアイドルグループのメンバーが作っているが、その様子は見ていて酷いものだった。
(゚、゚トソン(フライパンから零れてる零れてる)
(゚、゚トソン(えっ、そんなにお塩入れちゃうんですか)
(゚、゚トソン(うわあ……)
(゚、゚トソン
(゚、゚トソン(まあ、私も人のこと言えないんですけどね)
料理に挑戦しているだけ、まだマシなのかもしれない。
175
:
名も無きAAのようです
:2012/08/30(木) 01:00:12 ID:tiBT7kFY0
食べ終わり、空になったご飯の容器をビニール袋に詰め、燃えないゴミに捨てる。
割り箸は半分に折り、チラシに包んで捨てた。
ついでに、だんだん聞いてて五月蝿く感じてきたテレビも消す。
すると、トソンにはもう特にやることがなくなってしまった。
(゚、゚トソン(……暇)
(゚、゚トソン(勉強も今日の分は終わっちゃいましたし)
(゚、゚トソン(ちょっと早いですけど、今日はもう寝ましょうか)
さっさと風呂に入り、ベッドの中に潜る。
枕に顔を埋めたときに思い出したのは、昼間にビロードとした会話だった。
“夢都市”の話を聞いたビロードは、最初驚いた様子でしばらくトソンを見ていた。
変な話をしたせいで戸惑ってしまったのかとトソンは思ったが、
ビロードはすぐに笑顔になり、瞳を輝かせて「面白いんです!」と言ってくれた。
それから、ビロードは少しだけ考えるそぶりを見せると、
“夢都市”には図書館はあるのかと聞いてきた。
結局、都市の中を案内して貰い損ねたトソンには、図書館があるかわからない。
そして、次もまた都市の夢を見ることができるかもわからなかった。
176
:
名も無きAAのようです
:2012/08/30(木) 01:01:09 ID:tiBT7kFY0
だから、トソンはビロードに首を横に振った。
この返答に、てっきりビロードは残念がるだろうとトソンは思ったが、
予想とは逆に、ビロードは嬉しそうな顔でトソンのほうに身を乗り出し、こう言った。
「つぎ、“夢都市”に行ったときは必ず図書館に行ってほしいんです!」
そして、慌てて付け加えるように。
「あ、えっと、その……もしも図書館があったら、どんなところだったか教えてほしいんです」
「僕、本と図書館が大好きだから……」
手に持っていた本を胸に抱きしめ、片手で猫を撫でるビロードは、嘘を吐いているようには見えなかった。
でも、何故かトソンはあの時の彼に少しだけ違和感を感じたのだ。
177
:
名も無きAAのようです
:2012/08/30(木) 01:01:50 ID:tiBT7kFY0
(-、-トソン(…………)
(-、-トソン(図書館、か)
(-、-トソン(またあの夢、見れますか…ね……)
(-、-トソン
(-、-トソン
○ ○ ○
178
:
名も無きAAのようです
:2012/08/30(木) 01:03:19 ID:tiBT7kFY0
どんどんと階段を下りていく。ここはいったいどこの階段なのだろう?
暗いのか明るいのかよくわからないその場所は、ビルでよく見かけるタイプの階段に似ていた。
自分がどの辺りから階段を下りているのかはわからない。何で階段を下りているのかもわかっていない。
今、トソンはとにかく階段を下りることしか考えていなかった。
このまま下り続けていれば、きっといつかどこかへ出るだろう。そこへたどり着くまで、ただ只管下り続ける。
階段の壁には、ところどころ壁を四角くくりぬいて作った窓があり、そこから光が漏れている。
でも、窓の外の景色は見ることが出来ない。見ようとも思わなかった。
足音は聞こえない。自分以外誰かがいる気配もない。こういう夢は珍しくなかった。
夢は何時だってなんだってありえる。夢の中で起こらないことなんてない。
音のない世界だってあれば、自分以外誰もいない世界だってあるのだ。
こうして、階段だけが続く世界だって。
179
:
名も無きAAのようです
:2012/08/30(木) 01:05:01 ID:tiBT7kFY0
この夢を見たのはこれで五回目だった気がする。
今までの四回の中で、トソンが階段の一番下にたどり着いたことはなかった。
いつも、途中で目覚めてしまうのだ。
今回こそは、一番下までたどり着いてやろうと意気込み、トソンは必死に足を動かし続けた。
足の裏が、階段の一段一段にきちんとついている感覚はない。
階段の手すりに手を置き、それを支えにして、滑るように階段を駆け下りる。
その速度は常に一定。早くなることも遅くなることもない。
途中、踊り場に来たときだけ、足の裏に床の存在を感じた。
ふわりと浮く感覚。次に斜面を滑る感覚。そして踊り場の床を踏みしめ、手すりに体重をかけ方向転換。
くるんと次の階段の前に足を持って行き、再びふわりと浮く感覚。
ちらちらと視界に移る、四角い窓から漏れる真っ白な光。
同じことを繰り返していると、夢の中ならトソンはいつもだんだん楽しくなってくる。
このまま、ずっと階段を下り続けて行ける気がする。
けれど、そんな楽しい時間も長くは続かなかった。
突然、トソンは足の裏にはっきりと、階段の段の存在を感じたのだ。
今まで、滑るように階段を駆け下りていた体は、少しだけ重くなり、
踊り場からふわりと飛び出す感覚もなくなる。
そしてトソンの目の前に現れたのは、木で作られた、古い扉だった。
180
:
名も無きAAのようです
:2012/08/30(木) 01:07:12 ID:tiBT7kFY0
トソンはすぐに、今自分が居る場所は、階段の一番下なのだと気がついた。
今まで一度もたどり着くことの出来なかった一番下。
この先にはもう階段はない。あるのは、古い木の扉だけ。
体の中に、緊張が生まれる。
階段の手すりから手を離し、トソンはゆっくりと扉に近づいた。
どこかで一度見たことのあるようなその扉は、少し薄汚れていて、あちこちに傷がある。
ドアノブは丸く、真鍮で出来ていた。
そっと、手を伸ばしドアノブに触れる。冷やりとした手触りは、トソンの心臓の鼓動を早めた。
ここから先、扉を開ければきっとトソンの見たことのない夢が広がっているのだ。
いや、もしかしたら既に一度見たことのある夢に繋がっているのかもしれない。
どちらにしろ、自分はこれから、この階段を使って、一度もたどり着くことが出来なかった場所へ行く。
しっかりと握った、真鍮のドアノブをゆっくり回す。
ガチャリ、と音がするのを確認し、ぐっと扉を押した。
扉は、軋んだ音をたてて開く。扉の向うからは、少し埃っぽい匂いがした。
181
:
名も無きAAのようです
:2012/08/30(木) 01:08:47 ID:tiBT7kFY0
トソンは、自分の足元を見たまま、扉を開け放す。
そして、おずおずと顔を上げ、扉の向うの景色を見る。
果たして、トソンがその目で見た景色とは――
( *^ω^)
ξ*゚⊿゚)ξ
(゚、゚トソン
(゚、゚;トソン(……お?)
182
:
名も無きAAのようです
:2012/08/30(木) 01:10:48 ID:tiBT7kFY0
( *^ω^)「おー、ツン良い匂いだおー」
( *^ω^)「ドクオが持ってきた香水っていうのがなんか気に食わないけど良い匂いだおー」
( *^ω^)「ツンにぴったりだお!」
ξ*゚⊿゚)ξ「べ、別にあんたを喜ばせようと思ってつけてるわけじゃないんだからね!」
カップケーキがいっぱい盛ってあるバスケットを前に、ベタベタといちゃついている男女だった。
(゚、゚トソン(……え)
(゚、゚トソン(ここはもしや……)
183
:
名も無きAAのようです
:2012/08/30(木) 01:12:37 ID:tiBT7kFY0
トソンの目の前に広がるのは、コの字型のおんぼろアパート。
アパートを覆うようなトタンの屋根の穴から漏れる光。
左に見えるのは、二階のベランダにある大きな食卓と、いちゃついているぽっちゃりブーンと美少女ツン。
右に見えるのは、トタンの壁と、内側にだけ取っ手がついているトタンの扉。
ここは、つい最近見たばかりの、まるで自分が他人の家に上がりこんだような気分になる夢。
“夢都市”の中にある、皆が住んでいるあのアパートだった。
(゚、゚トソン「え、あ、うーん……」
(゚、゚;トソン「あ、あのぅ……」
ここは確かに“夢都市”だ。どこをどう見ても、この前のアパートと同じだ。
その証拠に、今トソンは少なからず、また気分が悪くなっている。夢酔いだ。
なら、目の前の二人に声をかけるべきなのだが、トソンは少し声をかけるのを躊躇ってしまった。
184
:
名も無きAAのようです
:2012/08/30(木) 01:14:27 ID:tiBT7kFY0
イチャイチャξ*゚⊿゚)ξ(^ω^* )イチャイチャ
(゚、゚;トソン
なんというか、あんな風に二人だけの世界を作られてると、間に入りにくい……かなり、入りづらい。
もしも今彼らの邪魔をすれば、間違いなく気まずい空気を作ってしまうような気がしてならなかった。
あまり人付き合いが得意でないトソンにとって、それはあまり陥りたくない状況だ。
それは例え夢だとしても同じ。
幸い、どうやら彼らもこちらには気がついていないようだし、トソンはとりあえず今は二人には声をかけずに、
他にも誰かアパート内にいないか探すことにした。
二人に気がつかれないように、そっと今自分が出てきた扉を閉じる。
185
:
名も無きAAのようです
:2012/08/30(木) 01:16:19 ID:tiBT7kFY0
閉じた扉の目線の高さにあるプレートには、【黒25り△】と刻印がされていた。
どうやらそれは、このアパートの二階にある一室の扉だったらしい。
隣にも、閉じた扉と同じ、けれど違う刻印のプレートがついた扉が並んでいる。
通りで見たことがあるわけだった。
試しに、一度閉じた扉をもう一度、そっと隙間を覗いて中を見てみる。
その向こうはもう階段ではなく、真っ暗でなにも見えない闇だった。
足音をたてないように、トソンは静かにアパートの廊下を歩く。
一歩歩くごとに、夢酔いのせいで目の前が揺れたが、何とか堪える。
そして、この前ブーンたちが飛び出してきた黒い通路の前にやってくると、足を止めた。
すぐ隣では、ブーンが何かしたのか、顔を真っ赤にしたツンに殴られている。
黒い通路は、四方の壁が真っ黒に塗られた、トンネルのようなものだった。
どこか、現実の近所のあの公園の滑り台のトンネルを思い出させる様子に、思わず足を踏み入れる。
距離はあまりなく、数歩歩いただけで向こう側についてしまった。
(゚、゚トソン(あ…)
186
:
名も無きAAのようです
:2012/08/30(木) 01:18:10 ID:tiBT7kFY0
(゚、゚トソン(コの字型じゃなくて、H型だった……)
通路の向こう側にあったのは、ほぼ反対側と同じ形のアパートだった。
違うところは、こっち側にはベランダと食卓がないというところと。
それから。
(゚、゚トソン(公園がある)
反対側のアパートの、何もなかったこの前ツンが暴れていた空き地の部分にあたる、中庭のような場所。
そこには、こぢんまりとした小さな公園があった。
ブランコ、二対のシーソー、小さな砂場、滑り台、そして――グローブジャングルジム。
(゚、゚*トソン(わあっ、回るジャングルジムあるじゃないですか!)
公園の真ん中には、カラフルなグローブジャングルがゆっくりくるくると回っていた。
トソンは、すぐにアパートの階段を下りると、それに駆け寄り、飛びつく。
すると、ジャングルジムは誰も回していないというのに、勢いよく回り始めた。
187
:
名も無きAAのようです
:2012/08/30(木) 01:20:03 ID:tiBT7kFY0
(゚、゚*トソン「うわー!」
ぐるんぐるんと回るジャングルジムに、トソンは昔に戻ったような気持ちになった。
視界が、世界が勢いよく回り、景色が混ざりあい、きらきらとはじける。
子供の頃は、この混ざりあう景色と、体にかかる力が好きで好きでたまらなかった。
体にかかる力は、夢の中だからか感じることはなかったし、
現実では景色がこんな風に光り輝いたりすることはなかったけれど。
それでもこれは、子供の頃の思い出を鮮明に思い出すには十分だった。
夢酔いのことも忘れ、トソンはぐるぐると回り続けた。
(>、<*トソン「わああー!」
「あれ、いつのまにか公園が出来てるじゃないか」
(((゚、゚;トソン))「うおっ」
188
:
名も無きAAのようです
:2012/08/30(木) 01:22:08 ID:tiBT7kFY0
がくん、と声が聞こえるのと同時に、突然ジャングルジムの回転が止まり、
トソンは慌てて勢いに投げ飛ばされぬよう、足を地面につけた。
ジャングルジムから手を離すと、それは再び、ゆっくりと自転を始める。
せっかく楽しんでいたのを邪魔されたトソンは、邪魔をした人物――モララーの方を見ると、
普段感情は受け流している彼女にしては珍しく、不機嫌なのをあらわにして不満を口にした。
,_
(゚、゚トソン「何するんですか、モララーさん。せっかく人が楽しんでるところを…」
( ・∀・)「やあトソン、来てたんなら向うでいちゃついてる二人に言えば良かったのに」
,_
(゚、゚トソン「人の話聞いてます?」
( ・∀・)「聞いてる聞いてる」
( ・∀・)「いやあ、何だかこっちから人の声が聞こえるなあと思ったら、見たことのない公園が出現していて」
( ・∀・)「その上君がぐるんぐるん回って叫んでるもんだからびっくりしちゃって、つい」
189
:
名も無きAAのようです
:2012/08/30(木) 01:24:20 ID:tiBT7kFY0
(゚、゚トソン「見たことない公園って……これ、前からあるものではないんですか?」
( ・∀・)「うん、前は向こう側と同じで何もなかったよ」
( ・∀・)「……ああ、そういえばまだ案内が済んでなかったんだっけ」
( ・∀・)「ちょうど良かった。ブーンは向うに居るんだし、二人で水でも差しに行こう」
( ・∀・)「ほらおいで、トソン」
(゚、゚;トソン「え、水でも差すって……あ、待ってください」
楽しんでいるところを邪魔されたことに関しては、まだ文句を言いたい気分だった。
けれど、案内をしてもらわなければならないのは事実だ。
また後で来れたら来ればいいと、名残惜しい気持ちを押し込め、
トソンはモララーと公園から離れ、階段を登る。
途中、回っている間は忘れていた夢酔いが再びやってきて、
それに気がついたモララーにあの薬を貰い、二人は向こう側へと戻った。
190
:
名も無きAAのようです
:2012/08/30(木) 01:26:09 ID:tiBT7kFY0
ベランダの食卓では、まだブーンとツンがいちゃついていた。
( *^ω^)「ツンの髪の毛はいつも綺麗だおー」
ξ*゚⊿゚)ξ「あ、あんたに言われなくてもそんなことわかってるわよ!」
ξ*゚⊿゚)ξっ「それよりほら、ブーンもカップケーキ食べなさいよ」
( *^ω^)っ「ありがとうだお!」
( ・∀・)「そこのお二人さん、乳繰り合ってるところ悪いんだけど、トソンが来てるよー」
ξ゚⊿゚)ξ ヒョイパク
(;^ω^)「あっ」
ξ゚〜゚)ξ ムグムグゴクン
ξ゚⊿゚)ξ「え、トソン? わーっ、いらっしゃい!」
(;^ω^)
191
:
名も無きAAのようです
:2012/08/30(木) 01:27:12 ID:tiBT7kFY0
いちゃついていた二人のうち、ツンの方はモララーに声をかけられると、すぐにぱっとブーンから離れ、
彼に渡そうとしていたカップケーキを自分の口に放り、飲み込んだ。
あまりの変わり身の早さに、目前でカップケーキを引っ込められたブーンはしばらく固まっていたが、
すぐに彼もトソンに気がつくと、嬉しそうに笑顔で迎えてくれた。
( ^ω^)「おー! トソンおかえりだお!」
(゚、゚トソン(おかえり…?)
(゚、゚トソン「あ、この間はごめんなさい、まともに挨拶できずに…」
( ^ω^)「いやいやそんなこといいんだお、新入りさんにはよくある事なんだお」
(゚、゚トソン「そうなんですか」
192
:
名も無きAAのようです
:2012/08/30(木) 01:28:11 ID:tiBT7kFY0
( ^ω^)「まだまだここでの感覚とかに慣れてないからだお」
ξ゚⊿゚)ξ「慣れればトソンも、そのうち自分が目覚めるタイミングがわかるようになるわよ」
(゚、゚トソン「へぇ〜」
( ^ω^)「それよりまた会えてよかったお、じゃあ早速ここを案内するお!」
ブーンはそういうと、食卓の上のカップケーキの入ったバスケットから一つ掴み、口に放り込んで席を立った。
○ ○ ○
193
:
名も無きAAのようです
:2012/08/30(木) 01:30:01 ID:tiBT7kFY0
人は誰でも、生きている中で「疲れた」と思う瞬間がある。
己の思い通りにならない自分に嫌気が差し、無気力な気分になることがある。
自分には出来ないことを夢に見て、想像や空想、妄想の世界を広げる。
昔の自分に思いを馳せ、戻りたいと願う時がある。
現実に疲れ、嫌になり、逃げたいと、どこか現実とは違う所に行ってしまいたいと考える時がある。
ブーン曰く、“夢都市”はそんな人々が眠りの中で見つけた、避難所のような場所だそうだ。
(゚、゚トソン(現実からの避難所……)
( ^ω^)「ここにはいろんな人がいろんな理由で住んでいるんだお」
( ^ω^)「皆が皆、ここで現実での疲れを癒し、失望や絶望を希望に変えているんだお」
(゚、゚トソン「へぇ……」
194
:
名も無きAAのようです
:2012/08/30(木) 01:32:02 ID:tiBT7kFY0
( ・∀・)「そんな風にいうと、なんか聞こえがいいねぇ」ボソッ
( ^ω^)「なんか言ったかお?」
( ・∀・)「いんや、続けて」
(゚、゚トソン(つまり、ここに居る人たちは皆、ただの夢の存在ではなく、現実にもいる)
(゚、゚トソン(という“設定”……? いや、でも確かに皆さんすごくリアルで……)
(゚、゚トソン(うーん……)
( ^ω^)「僕らは、僕らを含めたここに住む人々のことを“夢遊者”と呼んでいるお」
(゚、゚トソン「“ムユウシャ”…それってどういう意味ですか?」
ξ゚⊿゚)ξ「“夢”で“遊”ぶ“者”と書いて、まんま“夢遊者”よ。私たちは夢で遊んでるわけ」
( ^ω^)「ここで自分の思うように遊んでいるうちに、疲れを取るんだお」
195
:
名も無きAAのようです
:2012/08/30(木) 01:34:11 ID:tiBT7kFY0
ゾロゾロと、四人で連れ立って、何もない工場地帯をトタン塀沿いに歩いていく。
前回この辺りを来たときは、爆走バイクに乗って激しい夢酔いに襲われていたため、
まともに景色を見ることが出来なかった。
今回落ち着いて、こうしてゆっくり歩いていて気がついたことが、一つある。
それは、無機質なコンクリートの建物ばかりが立ち並ぶその隙間に、
一本だけ淡い暖かい色合いをした、建物があるということだった。
灰色の群の中で、唯一色のついた建物は嫌に目立ち、思わず目で追いかけてしまう。
そんなトソンの視線に気がついたのか、ブーンとツンがあれがいったい何の建物なのか、説明してくれた。
( ^ω^)「あれはこの都市の中心にある“時計台”だお」
(゚、゚トソン「時計なんですか?」
ξ゚⊿゚)ξ「名前だけよ。実際はあれを見ても時間なんかわかんないわ」
ξ゚⊿゚)ξ「見た目が、どこぞの国の時計台っぽいっていう安直な理由から、皆にそう呼ばれてるだけよ」
196
:
名も無きAAのようです
:2012/08/30(木) 01:36:02 ID:tiBT7kFY0
(゚、゚トソン「え、じゃああれって何の建物なんですか?」
ξ゚⊿゚)ξ「さあね、知らないわ」
( ^ω^)「たまに先端から何かキラキラしたものが出てくるけど、それも何かはわかってないんだお」
(゚、゚;トソン「ええー」
聞くところによると、“時計台”は“夢都市”が出来たころから都市の中心に立っていたらしい。
どこから見ても見ることが出来るくらい背の高い“時計台”は、今になってもその存在理由がわからないとか。
時折先端辺りから、吐き出されるように飛び出す、なにやらキラキラしたものは最早名物になっているという。
( ・∀・)「ま、ここは夢なんだ。意味のわからないものがあったって、なんら変じゃないさ」
(゚、゚トソン「そうですけど……」
まだわからない、調べていないといわれると、何だか自分で調べたくなってしまう。
普段現実で暮らしているときの無関心がまるで嘘みたいに、
トソンは自分の中で好奇心が膨らんでいるのに気がついていた。
随分と前に忘れていた気持ちが、都市の夢を見るようになってから、また蘇って行く。
197
:
名も無きAAのようです
:2012/08/30(木) 01:38:11 ID:tiBT7kFY0
(゚、゚トソン
そんな中で、ふと、再びあの疑問が頭の中に浮かんだ。
(゚、゚トソン「……あの」
( ^ω^)「なんだお?」
(゚、゚トソン「こんなこと聞くのはなんか、変かもしれませんけど」
ξ゚⊿゚)ξ「何よ、言ってみなさいよ。遠慮しなくてもいいのよ」
(゚、゚トソン「前に一度、モララーさんに聞いて、答えてもらっていないことなんですけど」
( ・∀・)「ん?」
(゚、゚トソン「……ここは」
(゚、゚トソン「ここは、私の夢……ですか?」
198
:
名も無きAAのようです
:2012/08/30(木) 01:40:16 ID:tiBT7kFY0
未だトソンは、ここが自分の夢なのかどうか判断しかねていた。
ブーンたちの話を聞く限りじゃ、ここがまるでたくさんの人が共有の夢のような口ぶりだ。
でも、まさか同じ夢をたくさんの人が見ているなんて、それも共有しているだなんて。
俄かには信じ難かった。
どれもこれも、自分の夢だと割り切ってしまいたい。
でも、どうしてもそうとは思わせてくれない感覚が、ここにはある。
やってくるたびに感じる、違和感や緊張感、落ち着かない感覚。
今まで見たことのない夢に、生き生きとした、リアルな住人たち。
体験しないとわからない、この感覚。
ここには、ここが自分の夢だと思わせてくれる要素は、あまりなかった。
たまに感じる親しみはあれど、それもほんの僅かな時間や、数で。
つい、現実と勘違いしてしまいそうな世界。
けれど、現実とは全く違う世界。
ここは、いったい――
199
:
名も無きAAのようです
:2012/08/30(木) 01:42:19 ID:tiBT7kFY0
( ・∀・)「ここは」
トソンの問いに口を開いたのは、モララーだった。
( ・∀・)「ここは君の夢だよ」
(゚、゚;トソン
その言葉に、トソンは一瞬、まったく違う感情が体の中でぶつかる様な、妙な気分になった。
やっと答えてもらった言葉だというのに、胸の奥に生まれたのはやはり疑問。
納得したいはずなのに、納得できない。モララーの答えに、思わず「違う」と言ってしまいそうになる。
モララーは、トソンの様子を見てほくそ笑むと、言葉を続けた。
( ・∀・)「でも、それと同時に、ここはもう君だけの夢じゃない。
君の夢はこの“夢都市”に受け入れられ、取り込まれ、一つになり、そして僕らの夢にもなったんだ。
君が見る夢は、これから都市の一部になり、この世界を広げていく」
( ・∀・)「ほら、たとえば君がこの前乗ってきたあの電車とあの駅。それからさっきの公園だよ。
この前までまではあの丘にはあんなものはなかったし、あそこにあんな公園はなかった。
駅が君の夢なのは明確だし、公園の方も恐らく君の夢だ。だって君が一番最初に見つけたからね」
200
:
名も無きAAのようです
:2012/08/30(木) 01:44:21 ID:tiBT7kFY0
( ・∀・)「ああして僕らの“夢都市”は発展して行く。誰か新入りがやってくるたびに都市の姿は少しずつ変わっていく。
僕らの夢が溶け込み、都市は形を成していくんだ。
だからここは、君の夢であり、僕らの夢なんだよ、トソン」
(゚、゚;トソン「………」
( ・∀・)「説明はこんなもんでいいかい、ブーン?」
(;^ω^)「えーっと、ずいぶんわかりにくかった気がしないでもないけど、まあ間違いではないお」
いっきに捲くし立てられてしまうと、頭の処理が追いつかなくなる。
それでもトソンは、何とかモララーにいわれたことを理解しようと必死になっていた。
夢酔いをぶり返しそうになりながら呻っていると、ツンがぽんっと肩を叩く。
ξ゚⊿゚)ξ「トソン、あんまり難しく考えてたら駄目よ、頭爆発しちゃうから。
ここではあんまり深く考えず、とにかく楽しむことがコツなの」
(゚、゚;トソン「は、はあ……」
201
:
名も無きAAのようです
:2012/08/30(木) 01:46:14 ID:tiBT7kFY0
ξ゚⊿゚)ξ「まあ、どうしても考えたいっていうなら、またあとでにしときなさい。
もうすぐ面白いもの見れるから」
(゚、゚トソン「面白いもの?」
ξ゚⊿゚)ξσ「ほら、来たわ」
気がついてみれば、トソンたち四人はもう工場地帯ではなく、あの異国風の街の中を歩いていた。
いったいいつ、景色が変わったのかトソンは全く覚えていない。
まあ、こういうことにはもう既にトソンは慣れつつあったので、あまり気には留めず、
トソンはツンが指をさした方向を見た。
視界に入ったのは、なんの変哲もない、緩やかなカーブを描く、街道。
背の高い建物に挟まれた、人気のない石畳の道。
最初トソンは、いったいこの道のどこが面白いのかと思ったが、
そんな考えは、耳に入ってきた音楽にすぐに消えた。
チンドン屋が演奏するものに似た音楽が、道の曲がった先から聞こえてくる。
しばらくすると、それはだんだん騒がしく、にぎやかな音楽に変わり、辺りに響きだした。
音と一緒にまずやってきたのは、頭上から舞い落ちる紙吹雪。
だんだんと淡く輝き出す視界に、それはキラキラと陽の光を反射して映った。
202
:
名も無きAAのようです
:2012/08/30(木) 01:48:36 ID:tiBT7kFY0
歩みを止めず、トソンたちは音がするほうに向かう。
そして、緩やかなカーブを曲がった先で出会ったのは、まさに“パレード”だった。
(゚、゚*トソン「わあ……」
( ・∀・)「おお、今日は何だか一段とにぎやかだね」
( ^ω^)「きっとトソンのことを歓迎してるんだお」
煌びやかな音楽を纏い、“パレード”はこちらに前進してくる。
先頭を行くのは、大きなティーポットの形をした家のような車。
薄橙色をしたティーポットの側面にある窓から、華やかな仮装をした人々が手を振り、
花びらを撒き、クラッカーを鳴らし、楽器を演奏している。
ポットの注ぎ口からはもくもくといろんな色の湯気が上がり、辺りは心地のよい香りに包まれた。
ちょうど、トソンたちがポットの隣を通ったとき、一番彼らに近い窓から顔を出した、
オレンジ色の髪の、顔にペイントを施した少女が、手に持っていた篭から何かを掴んでこちらにばら撒いた。
トソンたちの頭に降って来たそれを、トソンは両手で受け止める。それは、紅茶の飴玉だった。
203
:
名も無きAAのようです
:2012/08/30(木) 01:50:02 ID:tiBT7kFY0
続いてやってきたのは、ガラスで出来た地球儀をたくさん吊るした棒を持った、花のような衣装の乙女たちの列。
彼女たちは、くるくると踊りながら、時折隣の乙女のガラスの地球儀と自分の地球儀を打ち合わせ、音を奏でた。
その度に、あらゆる色の光が弾け、辺りに舞い散る。
弾けた光からは、楽しそうな笑い声が響き、乙女たちの踊りを彩る。
彼女たちの後ろからやってきたのは、カラフルなキリンの群れだった。
うっとりと夢見るような目元のキリンたちは、ゆったりとした歩みで、けれど大きな一歩を踏みしめる。
彼らの周りには小さな蝶たちが飛び回り、輝く鱗粉を降らせていた。
その後ろにも、延々と煌びやかなパレードは続き、賑やかな音楽も鳴り止まない。
まさに、夢のような光景に、トソンは思わず吐息を漏らした。
(゚、゚*トソン「綺麗ですね…」
ξ゚⊿゚)ξ「でしょ? こんなのが、いつもこの街ではどこからともなく現れるの。
だから、この街の通称は“パレードの街”。皆の娯楽の場よ」
204
:
名も無きAAのようです
:2012/08/30(木) 01:52:20 ID:tiBT7kFY0
気がついてみれば、街道にはトソンたち以外にもパレードを眺めている人たちがいた。
皆が皆、楽しそうな、幸せそうな表情でポットやキリンを見上げ、乙女たちに見惚れている。
(゚、゚トソン「あの人たちも“夢遊者”の方たちですか?」
( ^ω^)「あれは違うお。あれはこの街の一部、夢だお」
(゚、゚トソン「え、どういうことですか?」
( ・∀・)「つまり、現実に実態を持たない完全な夢で出来たの人たちさ」
(゚、゚トソン「……人間じゃないんですか?」
( ・∀・)「うん、彼らは実態を持たない故に、形が定まっていない」
( ・∀・)「だから、今ここでパレードが終わって彼らが消えて、次のパレードが始まっても、
今ここでパレードを見ていた人たちがまた現れるとは限らないんだ」
(゚、゚トソン「実態を持たない……」
205
:
名も無きAAのようです
:2012/08/30(木) 01:54:09 ID:tiBT7kFY0
( ・∀・)「陽炎みたいなものだと思えばいいさ」
( ・∀・)「ま、中には何度もしつこく出てくる夢もいたりするけどね」
自分の隣に立つ親子にちらりと目をやる。
父親に肩車をされた少年は、頭上に降ってくる光に手を伸ばし、きゃっきゃっと笑い声を上げている。
母親はその隣で、少年がはしゃいで落ちないように気を配っていた。
親子は、幸せな家庭そのもので、とても彼らが現実には存在しないなんて、トソンには思えなかった。
トソンが、親子に気を取られていると、彼女の耳元にモララーが顔を近づけ、囁いた。
( ・∀・)「トソン、忘れちゃいけないよ、ここは夢だ。あの親子もあのパレードも皆、幻だよ」
(゚、゚トソン「……モララーさん?」
( ^ω^)「モララー、さっきから僕の仕事とらないで欲しいお。
お前“案内屋”じゃなくて“片付け屋”だろうがお」
( ・∀・)「こういうのは言ったもん勝ちだよー」
206
:
名も無きAAのようです
:2012/08/30(木) 01:56:05 ID:tiBT7kFY0
何故か真剣味を帯びた囁きに、トソンは訝しく思ってモララーのことを見ようとしたが、
モララーはブーンに声を掛けられてすぐにトソンから離れてしまった。
トソンはもう一度、隣に親子を見た。
けれど、モララーに変なことを言われたせいか、もうあまり彼らのことに興味はわかなかった。
ξ゚⊿゚)ξ「ていうかあんた、別についてこなくても良かったのに。
さっきまで片付けてたんでしょ? 休まないの?」
( ・∀・)「せっかくトソンが着たんだ。ついてかなきゃ勿体無いだろ」
ξ゚⊿゚)ξ「やけにトソンに拘るわね」
( ・∀・)「最初に彼女を見つけたのが僕だから、なんか保護者的な?」
(゚、゚;トソン「えっ私子ども扱いですか」
( ・∀・)「えっ高校生なんて子供だろ?」
ξ゚⊿゚)ξ「変なこと吹き込んだりしないでよ」
( ・∀・)「しないしない」
三人に説明を受けているうちに、パレードの最後尾はいつの間にか随分後ろの方に行ってしまっていた。
遠ざかる賑やかな音楽に耳を澄ましながら、前方に見える“パレードの街”の出口へと足を向ける。
パレードから離れてしまうのは、少しだけ残念だった。
207
:
名も無きAAのようです
:2012/08/30(木) 01:58:02 ID:tiBT7kFY0
街の出口の外には、またこことは違う風景がちらほら見えている。
ブーンによればどうやら、アパートから他の場所に行くためには、必ずこの街を通らないといけないそうだ。
なら、パレードはまた次の時に見ればいい。
( ^ω^)「さ、これから紹介する場所や人がたくさんいるお」
ξ゚⊿゚)ξ「面白い場所ばっかりだから楽しみにしてて」
( ・∀・)「住人は変な奴ばっかりだけどね」
( ^ω^)「お前がそれを言うかお」
遠くの方で、パレードの音が聞こえている。
その音に、小さく「また今度」と呟いて、トソンは“パレードの街”から一歩、足を踏み出した。
第四話「思い出とパレードの夢」 おわり
208
:
名も無きAAのようです
:2012/08/30(木) 02:06:16 ID:A2E1Xkd20
乙
超楽しみにしてた
209
:
名も無きAAのようです
:2012/08/30(木) 02:07:20 ID:tiBT7kFY0
どうも、約二週間ぶりです。
ここまで読んでくれた人ありがとう。
ぎりぎりですが宣言通り今月以内に投下できてほっとしています。
が、投下直後にざくっと抜けがないかチェックしていたら誤字を発見。
>>204
に出てくる「実態」が、正しくは「実体」です。
何度もチェックしたのにまだ残っていたというのか……orz
次の投下ですが、
五話はまだ出来ていないので、また少し先になると思います。
あとトリは何だか面倒なので今はつけないことにします。
それでは、また今度。
210
:
名も無きAAのようです
:2012/08/30(木) 02:08:29 ID:BMtJ5SCo0
おつおつー
211
:
名も無きAAのようです
:2012/08/30(木) 02:31:37 ID:ytHfAHk2O
今、読み終わった
212
:
名も無きAAのようです
:2012/08/30(木) 07:00:25 ID:vgKgaRmI0
おつ!
213
:
名も無きAAのようです
:2012/09/21(金) 21:26:15 ID:Y/D8biIk0
俺こういう世界感大好きなんだ。待ってんぜ。ガンバ!
214
:
名も無きAAのようです
:2012/09/27(木) 01:44:24 ID:.ZjaGrPA0
ワクワクてかてか
215
:
名も無きAAのようです
:2012/10/04(木) 14:00:11 ID:A.fEqmOw0
wktk
216
:
名も無きAAのようです
:2012/10/08(月) 21:47:37 ID:t4GN8a3Q0
わっふるわっふる
217
:
名も無きAAのようです
:2012/10/31(水) 00:09:35 ID:xTA3gZTs0
まだかなー、わくてか
218
:
名も無きAAのようです
:2012/11/01(木) 21:33:53 ID:2K.Zmo320
待つぜぃ~。
219
:
名も無きAAのようです
:2012/11/04(日) 23:05:02 ID:YtZtmOs60
オラも松田
220
:
名も無きAAのようです
:2012/11/05(月) 00:22:11 ID:McyM5Bys0
わたしまーつーわー
221
:
名も無きAAのようです
:2012/11/28(水) 17:45:54 ID:/yygyDOk0
うふふ、待つぜ。
222
:
名も無きAAのようです
:2012/12/08(土) 01:05:12 ID:PdfB8QLQ0
3ヶ月…まだか…
223
:
名も無きAAのようです
:2012/12/12(水) 20:18:01 ID:lSSy0RH20
俺も今日夢の中で追われたぜ。待ってる
224
:
名も無きAAのようです
:2012/12/28(金) 01:59:58 ID:U0bzW.kA0
待ってるでごわす
225
:
名も無きAAのようです
:2013/01/11(金) 02:04:05 ID:TdK18Lns0
わーたーし↑まーつ↓わ↑↑
226
:
名も無きAAのようです
:2013/01/19(土) 00:00:24 ID:BfUUKKYY0
こういうの好きだわ。投下こないかなー
227
:
名も無きAAのようです
:2013/02/02(土) 13:23:31 ID:2PH2baKQ0
こないかなー
228
:
名も無きAAのようです
:2013/02/10(日) 20:37:35 ID:SLuUoNT60
ひやっ!1待つひやっ!
229
:
名も無きAAのようです
:2013/02/14(木) 20:46:34 ID:6CgLzwV.0
待ってる
230
:
名も無きAAのようです
:2013/03/12(火) 19:34:58 ID:EevOPsNY0
待ってるよー!
231
:
名も無きAAのようです
:2013/03/13(水) 12:02:59 ID:dVX1/vxQ0
まつまつー
232
:
名も無きAAのようです
:2013/03/13(水) 19:39:43 ID:OU9CCQJI0
もう駄目だな
233
:
名も無きAAのようです
:2013/03/30(土) 18:21:02 ID:dE05KghY0
諦めないぜー
234
:
名も無きAAのようです
:2013/04/02(火) 01:58:06 ID:7GtMoq5k0
諦めないー
235
:
名も無きAAのようです
:2013/05/09(木) 00:05:13 ID:pCb0sGb60
まつぜーー!やふー!
236
:
名も無きAAのようです
:2013/05/10(金) 21:55:07 ID:ZQFSKLx20
来たかと思た
237
:
名も無きAAのようです
:2013/07/09(火) 16:17:15 ID:b69tLok.0
まってる
238
:
名も無きAAのようです
:2013/09/04(水) 21:39:28 ID:wJmL.Jt60
超待つぜ~
239
:
名も無きAAのようです
:2013/09/12(木) 00:45:50 ID:bEgE8O9Y0
パレードの描写がすごくよくて、自分の目の前もきらきらした
240
:
名も無きAAのようです
:2013/09/17(火) 01:14:40 ID:Ltvp3dRs0
一年間ってあっという間ね
241
:
名も無きAAのようです
:2013/10/20(日) 18:36:59 ID:t37hl88.0
一ヶ月もあっという間だな
242
:
名も無きAAのようです
:2014/03/19(水) 18:42:58 ID:0mbl4JF20
半年もあっという間だな
243
:
名も無きAAのようです
:2015/01/12(月) 17:43:05 ID:BQ4vdhbQ0
まだー?
244
:
名も無きAAのようです
:2018/09/05(水) 11:34:14 ID:gib7J9Rc0
三年もあっという間さ
245
:
名も無きAAのようです
:2018/09/11(火) 20:43:41 ID:Sr31/Ptk0
夢遊者になってしまったか
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