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それは連鎖する物語Season2 ♯2
1
:
数を持たない奇数頁
:2014/09/05(金) 21:07:09 ID:LUyN3zHI0
つまりリレー小説なのだ
613
:
数を持たない奇数頁
:2015/06/23(火) 21:46:38 ID:ss5gHwv.0
「……これ、いつまで続くんだ」
「んー、ソナーの反応を見るに、あと数分で終わりそうなんだけど……」
「それ、たぶん百回は聞いた」
ジョエル、リョタ、フィルの三人組は、未だに横穴を彷徨い続けていた。
一体何キロメートル歩いたのだろう。体感的には、もう伏神山の山裾を何十週もしたと言われても、違和感のない程に時間が過ぎている。
しかし先頭を行くフィルの旋律魔法による測定では、横穴の全長はたかだか数百メートル程度であり、もう既に出口に到達していてもおかしくはないのだ。だが現実の彼らは、未だに闇の中を彷徨っているままであり、巧妙の一つすら見えはしなかった。
何か魔術的な偽装が施されているのは火を見るより明らかなのだが、その痕跡がどうにも読み取れないのだ。
考えられる可能性としては、ここが結界の内部であるという事くらいであろうか。それにしては、侵入する際に発生するある種の違和感の様なものを感じ取れなかったが。
どうにかここから抜けようと、先程から試行錯誤は繰り返してみた。
しかし然程の備えもない現状に置いては、打てる手にも限りがある。精々前方、もしくは後方に全力疾走したり、壁や床、天井に穴を掘れる程度だ。当然ながら効果がある訳もなく、結局こうして、彼らは漫然と歩いている。
通常ならば、絶望的な状況だ。汗で体がぐっしょりと湿り、気力も体力も魔力も底を尽き、もっと罵詈雑言を吐きながら、地面を這いずり回っていてもおかしくないと言えよう。
しかし何故だろうか。彼らは確かに少々ウンザリしてはいるものの、別段強硬に発したりする様子などは、まるで見て取れない。彼らの神経が図太い事を抜きにしても、これは少々異常である。
理由は二つ。一つは、何故か力が一切尽きない事が挙げられる。
何時間もここに滞在している上に、幾度か全力で疾走しているにも拘らず、一切の疲労感を彼らは感じていないのだ。体力の無いフィルですら、である。
そのフィルが、恐らくはこの三人組の中でも、最も強い違和感を抱いているだろう。この横穴に侵入した当初から、横穴の全長測定や、痕跡の探知などの為に、幾度も魔法を使っているにも拘らず、魔力の欠乏などに起因する疲労感などが、一切訪れないのである。
フィル自身はそれなりに優秀な魔術師であるが、流石に何の供えも無くそんな事を続ければ、下手をすれば倒れかねない。だのに、彼は今だ意気軒昂であった。
そして二つ目は、時間感覚が狂っているためである。
彼らは確かに、体感的には数時間横穴を彷徨っていると自覚している。しかしより精確に言うと、「気付けば」数時間経っていたのだ。
何も作業をせず、ただ歩いているだけでも、気付けば時間が大分過ぎてしまう。忘我状態と言うか、何も考えずに体を動かしている時間が、あまりにも多いのだ。
――その状態が、実はどんどんと長くなってきている事に、彼らは気付いていない。人を静かに食い殺す、無限回廊の腹中に収められてしまった事に。
「そういえばさあ、俺昨日夢見たんだよ」
列最後尾のフィルが、口を開く。
「マジか。相手は誰だ。朝霞様か?」
「どういやらしかったの? まさか素足で踏んで貰ったのかい……!」
「何で淫夢前提なんだお前ら。俺だって哲学的な夢くらいは見るぞ」
「ああ、人は何故おっぱいに惹かれるのか、とか」
「何言ってるんだ。おっぱいは女性についているから良いのであって、それ単体に惹かれることなんてほぼ無いだろう」
「だが岩肌がおっぱいで構成された断崖があったらどうする」
「しめやかにロッククライミングをするね」
614
:
数を持たない奇数頁
:2015/06/23(火) 21:46:52 ID:XEYMRE4k0
先頭のフィルも、後ろを向いて会話へと参加する。出口があるにせよ、どうせ暫くはたどり着けそうにも無いのだから、大丈夫だろうという判断だ。明りもあるし、探査用の旋律も絶えず投射し続けている。何か変化があれば、すぐに感じ取れるだろう、と。
それを軽率と誰が言えようか。彼らは所詮、学生なのだ。
ぽふん、と後頭部に柔らかい何かが当たるとともに、花の香の様に甘い匂いが、フィルの鼻腔を擽った。布の感触越しに伝わってくる仄かな温もりが、人の体温であると気付いたフィルは、彼の中ではそこそこの素早さで、前方へ跳んでいた。
「……うっわあああああああああ!!!」
「ヤメロー! ヤメロー! 俺にそっちの趣味はないぞ!」
必然、彼のすぐ後ろにいたリョタが、押し倒される形で地面に倒れこむ破目になり、ぎゃあぎゃあと喚きながら、二人して地面を転がった。
唯一無事だったジョエルは、呆然としていた。友人二人の無様な姿に、では無い。フィルがいたであろう空間、その後方に突如として出現した、人影にである。
ローブで全身をすっぽりと覆っているが、その着古した布の下から僅かに覗く柔らかな膨らみ、そして何より、フードの奥に見えるその面立ちは、あからさまに女性のものであった。
美女である。そして何よりも、彼らが様々な理由から敬愛して止まない、柳瀬川朝霞に似ていた。瓜二つ、とまではいかないが、少々あどけなさの残る彼女の顔が、年月を経て完成に到れば、こうなるであろうと容易に想像できる程だ。
しかし彼女の日に焼けた褐色の肌とは違い、女性の肌は新雪の様に透き通る純白である。
そしてどういう意味があるのか、その楚々とした面には、顔の半分を覆うほどの大きな刺青が施されていた。それは夜天の月の様に妖しく輝いて見え、女性の蠱惑的な魅力を引き出すと共に、どこか抜き身の刃めいた剣呑さが感じられた。
深い深い夜のような、紫色の眼光に正面から見据えられ、ジョエルは金縛りにあったような心地で、女性の顔を眺める事しか出来なかった。
「朝霞、様?」
「……『様』?」
我知らず呟いていた言葉が、功を奏したことに、ジョエルは気付かない。彼の口にした何反応して、どこか空虚な昏い輝きを宿していた瞳に、仄かに感情の光が灯った。
スッと、徐に女性が近寄ってくる。一瞬ビクリとしたジョエルだが、美女がこちらに寄って来るという状況は、酷く得がたい物だと漸く気付き、不動の姿勢で待ち構える。
「何というか、女の子につけるには些か不穏当な敬称に感じるのだけれど。……貴方達は、朝霞とはどういう関係なの? 友達か、それとも彼氏?」
「奴隷です!」
「下僕です!」
「卑しい豚でございます!」
いつの間にか起き上がっていたフィルとリョタも加わり、銘々勝手な事を――しかし似通った意味合いの言葉を――口にする。
女性は押し黙る。というか、呆気に取られているのだろう。暫くして、大きな溜め息と共に「何をやっているのかしら、あの子は」という呟きを漏らした。
その所作は何処か所帯じみた印象をジョエルらに与える。コイツは人妻属性があると見た。ジョエルの双眸が怪しく光った。
「あのう、お言葉を返すようですが、貴方は朝霞様とどういう関係なのでしょうか……?」
先程の失態を恥じるようにしつつ、おずおずとフィルが切り出す。
「柳瀬川夕霧。あの子の姉よ。……ここを抜けたら、貴方達の名前も教えてちょうだい。朝霞の僕くん達」
615
:
数を持たない奇数頁
:2015/06/23(火) 21:47:18 ID:ss5gHwv.0
光明と、洞窟の内観とは異なる風景を湛えた「出口」は、まるで冗談の様な唐突さで、彼らの眼前に現れた。
それはまるで直方形に切り取った空間に、別世界の光景を無理矢理合成したかのような不自然さであり、魔界の秘境にでも生息する珍妙な生物が、口を開けて待っているようであった。
何の躊躇いも無く飛び込んでいった夕霧が、向こう側からくいくいと手招きをしている。尻込みする他二名を押しのけて、リョタがズイと前に進み出た。
「ここは俺が先陣を切る。そしてラッキースケベを装ってあの胸に全力で飛び込んでやる」
眼を鋭く細め、見据える先は夕霧の胸元だ。声を潜めずによくもまあそんな事を言える物だ、と夕霧は半ば感心しつつも、無反応を貫いた。あまり関わりたくないのだ。
「馬鹿野郎……! そんな危険な事をお前にさせられるか! 女体の神秘で、全身の血液が食べるラー油になっちまうかもしれないだろうが。だから俺が行く! 俺があの山脈をクライミングしてやる!」
「お前こそ、女性の体温で眼球がゆで卵になるかもしれないぜ。だからここは俺に任せろって。な? 感触、匂いに質感や幸福度は、後で五・七・五で情感たっぷりに纏めて発表するから」
「都都逸という手は無いのか、リョタ」
「てめえフィル! 何余裕ぶっこいてんだ! コイツはあれだぞ、飽くまで故意ではありませんって面して、あの二つの大雪山を踏み荒らそうとしてやがんだぞ! 世が世なら市中引き回しの上に、皮むいてホクホクになるまで茹でて、刻んだ玉葱と挽肉と共にカラッと揚げられるような暴挙だぜこいつは!」
「ふう、つくづく君って奴は……。何故、そうまでして胸に拘るんだい? 君が朝霞様に惹かれるのは、何故なのか。それを己に問うといい」
「朝霞様……。朝霞様は、基本的に俺たちを毛虫を見るような眼で見て、言葉の中にナチュラルに罵倒の言葉を混ぜてくださって、三メートル以内に近付いたら殺すといわんばかりの威圧感を放っていて、でも雑談くらいには付き合ってくれて、高いアイスクリームを献上すると、ちょっと嬉しそうにする所が凄い尊い。可愛い。踏み躙られたい」
「其処だジョエル!」
ビシィ、と効果音が付きそうな勢いで、フィルは人差し指を突きつける。
勇んで「出口」に飛び込まんとしていたリョタも、興味深いとばかりに視線を回らせている。夕霧は本当に嫌そうな表情を浮かべながら、何事かを呟いている。
「君は朝霞様の何に踏まれたいんだ! 女性の何に、何処にぐりぐりと踏み躙られたいんだ!」
「そうか……! 俺は、俺は、女の子の足に蟲を潰すかのように踏まれたいんだ!」
咆哮を上げるジョエルを、腕を組んだフィルが満足げに眺めている。リョタが、してやられたと言わんばかりの表情を浮かべ、口元に手をあてた。
途端、彼らの首に長い長い紐が巻きついた。
616
:
数を持たない奇数頁
:2015/06/23(火) 21:47:30 ID:ss5gHwv.0
「出口」の向こうで、詠唱によって精製した紐を手に持った夕霧は、それらを荒々しく手繰り寄せる。リョタらは釣り上げられた回遊魚よろしく、次々と引きずり込まれ、地面――板張りの床に、背中を強かに打ち付けた。
三人揃ってグワーッ、などと悲鳴を上げた後、見下ろしてくる夕霧の絶対零度の視線に背筋をゾクゾクといわせつつ、しかしリョタだけは、周囲に広がる風景に覚えがあった。
障子や木窓から降り注ぐ日光に、淡く照らされる室内。そこにデンと居座り、圧倒的な存在感をかもし出すのは、数百キロはありそうな神輿である。
金箔や種々の装飾を施された輿は、薄闇の中にあっても尚光り輝かんばかりの絢爛さであり、成人男性一人が乗り込めそうなほどの大きさがある。
リョタには見慣れた物だった。物心が付いたころから、年に一度の祭事の日には、これを担いだ成人男性や、それに付き従って山車や鉾を持った人々が街を練り歩くのを、何度も眼にしてきている。その行列についていった事とて何度もある。
スクっと立ち上がり、周囲を見渡してみる。和室かと思っていた室内は、どうやらそんな上等なものでもないらしい。
そこは古びた蔵だった。むき出しの石壁には所々皹が入り、漂う空気は何処かジメっと生臭い。床はそれなりに綺麗ではあるが、見上げてみれば、積もった埃によって梁が薄らと灰色がかっていた。
周囲には、神輿以外の祭具も同様に保管されていた。しかし神輿も含め、こんな所でちゃんと保管できているのかは甚だ疑問である。
「汚い所でしょう。でも、物は傷まないのよね、ここ」
こんな事をしても喜ばせるだけだと気付いた夕霧は、未だに地面に横たわるジョエル達を努めて無視し、リョタの隣に並び立つ。しかし彼の鼻の穴が、体臭を嗅ぎつくさんとばかりに開かれた事に気づき、間を置かず彼からも距離を取った。
「あの、ここって伏神の神社なんですか?」
「精確には、その神輿殿ですね」
ガラリと、引き戸が開け放たれ、外気が流入してくる。黴臭い匂いが一掃され、代わりに青々とした清風の香りが、彼らの肺を満たした。
引き戸の向こうには、リョタの見知った光景が、伏神山中腹の神社の境内があった。そしてその光景の半分以上を己の体で隠す存在にも、彼は当然見覚えがあった。
「ド、ドエロス師匠!」
「その呼び方、人前ではやめてくれませんかねえ。外聞が悪い」
鴉の羽根の様な、漆黒の長髪で陽光を照り返し、神主――いや、宮司である織守拓斗は苦笑した。夕霧は彼の横顔を、ゴミを見るような眼で眺めていた。
617
:
数を持たない奇数頁
:2015/06/23(火) 21:47:48 ID:ss5gHwv.0
黴臭い神輿殿から退去一行は、今は神社の敷地内に建てられた織守邸の居間に場所を移している。分家とはいえ伏神の聖地にその居を構えているだけあり、見事な枯山水を望める大きな中庭を擁した、立派な邸宅であった。
真夏の山中にありながら、心地よい涼しさに包まれた居間で茶を啜りながら、リョタ達は数時間にも及ぶ大冒険を、不純な動機と不適切なまでに卑猥な表現を織り交ぜつつ、何とも情感たっぷりに、織守と夕霧に語って聞かせていた。
「伝説のエロ本、ですか。何というか、それはまた随分と君らしい」
拓人は何とも楽しげに笑っているが、夕霧はと言えば、彼らと卓を囲む事すら嫌だと言わんばかりに、開け放たれた中庭側の障子戸に寄りかかりつつ、渋面を浮かべていた。
指貫と狩衣という、何とも時代錯誤な装いながらも、拓人のある種超然とした雰囲気はそこに違和感を差し挟ませない。眼鏡が光る涼やかな目元は、何とも理知的である。
彼が「ドエロス師匠」などという直球の罵倒に不快感を表さないのは、何もその温厚な気性が全てという訳ではない。全ては彼が、リョタ・マレグチに師匠と呼ばれて然るべき薫陶を授けたが故である。
その詳細な内容は今回は省くが、少なくともリョタの、延いては彼の友人二人の信頼を勝ち得る程度には、親密な関係であるという事は明記しておこう。
「しかし残念ながら、君達が手に入れた『賢者の書』は、その手の素晴らしい書籍ではないですよ。もしそうならば、あのような穴倉に保管なんてせずに、私が自宅の書庫で独占しています」
「なんて説得力なんだ……!」
「畜生! 女体と体液と豊富な語彙が飛び交うドエロイ本だと思ってたのに……!」
「オノマトペを巧に交えた軽妙洒脱な文章で紡ぎだされる、めくるめく肌色の世界があると思っていたのに……!」
「然るべき場所に訴えたら、私は貴方達から慰謝料を毟り取れると思うの」
眉間を押さえる夕霧とは裏腹に、拓人は実に楽しそうに、カラカラと笑う。リョタたちから受け取った『賢者の書』の表紙を撫ぜると、それが一体どういったものなのかを、簡単にだが説明し始める。
「まあ要するに、これは伏神の歴史書兼奥義書の様な物でしてね。彼の家が数千年の時間を掛けて築き上げた全てが、詰まっています。
持ち出しはもとより、閲覧も厳禁です。直系である聡治くんや劔……様はともかく、臣下の家であったマレグチくんでも、この事が本家の偉い人に露見すれば、まあ良くて記憶が、悪ければ存在を消されかねませんよ」
「――触手で!?」
「馬鹿野郎、スライム娘にだろ!」
「人間の処理を担当していた女の子が、何故か僕に一目ぼれ。そして始まる肉欲に塗れた学園ラブコメ。……ふふ、素敵だね」
「オーソドックスではありますが、女性だけで構成された暗殺者集団に、新たな遺伝子を取り込むために種馬として飼われるというのも、中々に心が躍りませんか?」
眼鏡のブリッジをくいと押し上げ、眼を細めた拓人の言葉が、三人の鼓膜を揺すぶった。
こいつ出来る、というジョエルとフィルの視線。衰えは無いようだと安堵するリョタの視線。そしてさっさと死ねばいいのにという夕霧の視線。その全てを笑って受け流しながら、拓人は話を続ける。
618
:
数を持たない奇数頁
:2015/06/23(火) 21:48:00 ID:ss5gHwv.0
「まあ、そろそろあんなザル警備の洞穴に置くのは止めるようにと、本家に言うつもりでしたし、丁度良かったと言えましょう。これは私が持ち出した事にします。君たちもこの件については早々に忘れるように。以上」
そこまで言い切ってから、ああそうだ、と思い出したように付け加える。
「今外は危険ですから、出ないように。邸内の部屋は自由に使っていいですから、一先ず、騒動が治まるまでゆっくりして行きなさい」
「え、危険って、何かあったんですか?」
「何でも、下水道に有毒ガスが充満してしまったらしく、それが地表に漏れ出てるんだそうです。住民達の避難は済んでいるのですが、ガスの除去にどうやら明日まで掛かるらしくって。ま、リョタくんも旅行気分を味わえると思って、一晩我慢していただければ」
その言葉に、ゴクリと唾を飲み込む三人。その横目でチラチラと、夕霧の顔を窺っている。その顔には、喜びの表情も浮かんでいるが、それ以上に恥らっているようにも見えた。
「え、えーと、泊れるのは嬉しいんですけど……」
「その、女の人と一つ屋根の下、っていうのはどうにも……」
「何ていうか、その、恥ずかしいです……」
「え……、今まで私に散々遠まわしなセクハラをしておいて?」
まるで年頃の少女の様にモジモジとする姿は、三馬鹿の称号に違わない醜態である。拓人は「若いですねえ」と笑った。
「心配せずとも、夕霧さんはここには宿泊しませんよ。こう見えましても彼女は、本家の頭首さまのご内儀ですからね。本宅の方へお戻りになりますよ」
「……そういう事よ。ここへは、賢者の書についての進言があると彼が言うから、夫の代理として来たの。まあその話し合いの最中に、貴方達が賢者の書を手にとってしまったから、私が取り返しにいく羽目になってしまったけど」
「つまり俺たちはナイスタイミングだった、と」
「バッドタイミングよ」
「まあそういう訳で、実はまだ話し合いの途中なんですよ。話の内容も、そこそこに重要な物になってしまいますから、出来れば君たちには席を外して頂きたいのです」
「そんな事言って、俺たちが何処かへ行った隙に、子供に言えないアレやコレをするつもりじゃないんですか!?」
「……これは独り言なのですが、予てより蒐集していた壷咲花蕾の官能小説群が、ようやく揃いましてね。現在は書庫に全巻収めてあります」
「こんなとこでダベってる暇はねえ! 行くぞ手前ら!」
「「応!」」
リョタの鶴の一声に、ジョエルとフィルが応え、バタバタと走り去っていった。その後姿にひらひらと、拓人は手を振っていた。
「いやあ、元気な子達ですねえ。将来が楽しみでなりませんよ」
「私は心配しか出来ないのだけれど。はぁ、全く朝霞ったら、どういう学園生活を送っているのかしら。全てが終わったら、姉として問い質さなくてはいけないわね」
ややあって、完全に人気がなくなると、夕霧は凭れ掛かっていた障子戸をピシャリと閉めた。
619
:
数を持たない奇数頁
:2015/06/23(火) 21:48:10 ID:ss5gHwv.0
「……まあ何にせよ、賢者の書を手に入れられたのは、幸運だったわね」
「そうですねえ。でなければ、自前の魔力で賄わざるを得ませんでしたよ」
先ほどまでリョタが座っていた座布団に、今度は夕霧が座った。自然と向かい合う形となった拓人の眼を、彼女はジィっと見つめる。
「本当に、この本が代わりになるの?」
「ええ。彼らに語ったことは本当ですからね。万を超える術式と、数百年を経て蓄えられた膨大な魔力。この本は謂わば、一個の巨大な神秘と言える物となっているのです。それこそ、この霊山と張るくらいの。司書の方々に露見すれば、禁書指定どころか焚書指定を受けて、荼毘に付されれかねない代物ですよ」
「まさに、霊山の術式を書き換えるには、打って付けという訳ね」
ズズズ、とすっかりと冷めてしまった緑茶を啜り、一息。拓人はやや間を置いた後、「ええ」と首肯する。
「仔竜を上伏町に解き放ったという事は、今日にでも儀式を始める腹積もりなのでしょう。上伏に打たれた結界の楔を、町民や配下の竜そのものの血で穢し、破壊する。そうする事で、既に結界の術式が書き換えられたこの伏神山は、丸裸となってしまいます。
そこを彼の竜――ベイバロンといいましたか? アレの力を持って位相差障壁を砕き、結界を流用した術式と、釣り餌で以って『竜骸』を引きずり出す。その釣り餌たりうるソウジくんは、今この場にいますからね。ベイバロン、いや伏神の亡霊どもには絶好のタイミングと言えます」
そして、我々にとっても。お茶請けにと用意した稀口の羊羹に舌鼓を打ちながらも、朗々と語る拓人の眼からは、笑みが消え失せていた。
「不愉快だ、実に。四拾七氏の八十年にわたる妄執が、実を結んでしまうなんて。ですから、台無しにしましょう。奴らの時間を全て無為に帰してしまいましょう。そしてついでに、貴方の大切な物も守ってしまいましょう。私が敷設した反転陣で竜骸を――『オロチの首級《クビ》』を、より深くにぶち込んでくれる」
そして、夕霧の顔を正面から見据えて、言う。
「何度も言いますが、竜に喰らわれた貴方の同胞の魂は、永久に失われる事となります。反転陣はこの賢者の書に彼女らの魂をくべて、起動するわけですからね。――覚悟は出来ていますか?」
「何度も同じ事を聞かないで。伏神の怨念に一泡吹かせられて、その上朝霞が生き残る。私達はそれ以上は望まないわ」
「劔はいいんですか? 一応旦那様でしょう」
「……あの人は、私が望まずとも生き延びてくれるわ。じゃなきゃ、私が好きになるはずないもの」
「惚気ますねえ。彼に聞かせてあげれば、きっと喜びますよ」
「煩いわね。早く話を続けなさい」
拓人は「結構」と、言葉を引き継ぎ、銀縁の眼鏡の奥で何処か陰気な笑みを浮かべた。
「それでは、茶番を終わらせるとしましょうか」
620
:
数を持たない奇数頁
:2015/06/23(火) 21:54:45 ID:ss5gHwv.0
以上、ちょっと長くなりすぎた
纏めると
ソウジくん:伏神邸でベイバロンと交戦中。クロガネの竜殺兵装の召喚が完了するまでの足止め。
クロガネ:本体は飛行ユニット「ヤタガラス」を装備して、上伏町の仔竜を駆逐中。
アギョー・スタチューが竜殺兵装を代理召喚し、ベイバロンへの奇襲の為に待機している。
真川&稀口女史:上伏町で竜と交戦中。
祢々:パソコンを朝霞に届ける為に上伏町へ。しかしその途中で竜に会い、絶体絶命。
三馬鹿:賢者の書を手に入れるが、それはエロ本ではなかった。現在は織守邸にてドエロイ本を観賞している。
夕霧&拓人:三馬鹿から賢者の書を受け取り、ベイバロンの「竜骸(オロチと呼ばれる竜の遺体)を取り込んで龍へと到る」という目的を利用しようと暗躍中
621
:
数を持たない奇数頁
:2015/06/23(火) 22:05:06 ID:KKcgzkS20
おっつおっつ。
とりあえず何事も読んでからだな。
622
:
数を持たない奇数頁
:2015/06/23(火) 22:07:09 ID:4E4rImG20
頑張りすぎィ!
西口おつポニ
読むのはこれからだが
623
:
数を持たない奇数頁
:2015/06/23(火) 22:58:10 ID:M9RaWHec0
まだ読んでないけどしゅごいいいいいいい
624
:
数を持たない奇数頁
:2015/06/24(水) 10:07:34 ID:WhauINNc0
>>610
と
>>611
の文章が重複してるが些細な問題ですね
祢々ちゃん絶体絶命のピンチが一番気になる
しかし…すまぬ祢々ちゃん、ソウジにメタい逆ギレかまさせてしまって…
ていうか真川さんとおばちゃんつえぇ!
625
:
数を持たない奇数頁
:2015/06/24(水) 10:34:29 ID:/foDTcSo0
名前のとこに書いてあるが、一文抜けたから張りなおしたのよ
正直抜けた分だけ投下すればよかったわ、すまんな
真川さんは霊体っていう雑魚竜のガチメタ特性持ってるから無双できてる、と考えてる
おばちゃんは普通に強い
626
:
数を持たない奇数頁
:2015/06/24(水) 10:47:24 ID:WhauINNc0
ああ、名前欄読んでなかったすまんぬ
混乱回避として610は削除してもいいかも分からんね
627
:
数を持たない奇数頁
:2015/06/24(水) 11:16:22 ID:/foDTcSo0
せやなあ
どあにきたら相談してみよう
628
:
どあにん
:2015/06/24(水) 12:36:54 ID:4FN1TX3Y0
おっつおっつ
処理は仕事終了後にやるぜ
あと賢者の書がエロ本じゃないのは合ってるけど
そんな大した物でも無いのに!
もっかい回って来たらやりたかった事やって、オワリ!
629
:
数を持たない奇数頁
:2015/06/24(水) 13:14:00 ID:/kjWEKmg0
関係無いけど兄さん見てたら競作前スレも落としといて
630
:
どあにん
:2015/06/24(水) 18:16:56 ID:c7D6kyoo0
処理完了です……
631
:
数を持たない奇数頁
:2015/06/24(水) 18:17:59 ID:/foDTcSo0
ワザマエ!
632
:
どあにん
:2015/06/24(水) 18:19:43 ID:c7D6kyoo0
黒龍たんが一瞬でやってくれました
633
:
数を持たない奇数頁
:2015/06/24(水) 20:08:12 ID:iDSqq/C.0
さすが僕らのおっp黒龍さんだぜ!
634
:
数を持たない奇数頁
:2015/06/24(水) 20:20:54 ID:Yr3EIlbE0
とりあえず困った時の学院に残った面子の夏休み風景で茶を濁す事も辞さない状況だということは理解した
635
:
数を持たない奇数頁
:2015/06/28(日) 12:18:44 ID:XIVHu7k20
閑話だ、閑話を捻じ込むのだっ!
具体的には委員長関係(アシュリー&エクリエル)、最近影の薄い面子(グダグダエル、剛機ホオノキ・ダン十二式)辺りを書いて第三部の伏線をそこはかとなく散りばめておくのだっ!
636
:
数を持たない奇数頁
:2015/06/28(日) 16:50:14 ID:AdDQQHFU0
密やかにダミアン竜憑化というネタを考えてるが普通にありそうで怖い
違和感ないのが怖い
637
:
数を持たない奇数頁
:2015/06/28(日) 18:14:50 ID:IN.6xEBc0
ダミアンは何か竜と意気投合してお兄ちゃん以上に使いこなしそう
あいつにはそんな雰囲気がある
638
:
数を持たない奇数頁
:2015/06/28(日) 18:29:18 ID:3xvBEp5c0
ダミアンはもっとヤバイ何かを宿したりしそう
それでそいつに「こいつやべぇ」とか引かれそう
639
:
数を持たない奇数頁
:2015/06/28(日) 18:32:41 ID:8JyckAD20
ダミアン「復讐するまで力を貸せ、復讐が終わったらこの体をくれてやる」
とか考えたけどこれ良く考えたら呪印もらったサスケや
640
:
どあにん
:2015/06/28(日) 21:58:02 ID:3FAHzan.0
ダミアンくんほんへは最後は悪魔崇拝に傾倒し過ぎて大悪魔と契約しちゃって終わる 予定でした
641
:
数を持たない奇数頁
:2015/06/28(日) 22:00:47 ID:XIVHu7k20
ごめん、やっぱり閑話的に学院に残っているだろう面子の話でお茶を濁す方向性になりそうだ
FEif暗夜ハードでちまちまやってるけど大体ケアレ=スミス氏降臨で気分転換に文章進めてるから最短来週には投げれるかも
642
:
数を持たない奇数頁
:2015/06/28(日) 22:01:58 ID:IN.6xEBc0
同性婚できるのが各国一人ずつという悲しみ
ツクヨミと同性婚したかったです
643
:
数を持たない奇数頁
:2015/06/28(日) 22:06:01 ID:O10tr58M0
大体やり直しの原因は
・サイラスのやっつけ負け
・エリーゼorアクアが敵の遠距離攻撃の範囲にいて普通にやられ
・マイユニ無双失敗
結婚はハロルド&エルフィしか成立してないなぁ……
644
:
数を持たない奇数頁
:2015/06/29(月) 11:39:36 ID:7uqEkyi.0
真川さんの新技考えた
披露するタイミングがあるかどうかは分からんが
645
:
どあにん
:2015/06/29(月) 23:28:54 ID:aN1GU35I0
ぼく 明日にクトゥルフとネクロニカのルルブ購入を決意
646
:
数を持たない奇数頁
:2015/06/29(月) 23:30:10 ID:fvOmScyI0
ついでにサプリも買おうぜ
帝国かガスライト
647
:
数を持たない奇数頁
:2015/06/30(火) 06:55:16 ID:9nYiFPGM0
兄さんCoCは持ってなかったっけ?
648
:
零字
:2015/06/30(火) 06:59:42 ID:uJeW5iYY0
クトゥルフなら2010もオススメ
ちなコレに収録されてるもっと食べたいならげーます出来ると思うで
俺経験あるし
649
:
零字
:2015/06/30(火) 07:00:06 ID:sVj48MvI0
連鎖とは関係なくてすまんな
650
:
数を持たない奇数頁
:2015/06/30(火) 11:55:54 ID:1c9oDOnA0
まさかのD20版だったり?
651
:
数を持たない奇数頁
:2015/07/02(木) 22:13:09 ID:t90hRRwc0
個人的にはアシュリーとエクリエルは犬猿の仲のだけど仕事上では手を取り合える(ただし全力で相手の手を潰そうと力を込める)関係だと思っている
652
:
数を持たない奇数頁
:2015/07/02(木) 22:18:47 ID:e5Iub5qc0
相手を潰すために、事態に対してオーバーキルレベルの策を張り巡らせそう
653
:
数を持たない奇数頁
:2015/07/02(木) 22:23:49 ID:t90hRRwc0
とりあえずパスされたところからの内容がてんで思いつかんから学院の閑話書いてるんだけど、何かサビ残して書類仕事してるサラリーマン的な哀愁が漂い始めている
654
:
数を持たない奇数頁
:2015/07/02(木) 22:47:29 ID:SScStpU60
お互いに喧嘩しつつの極限魔法合戦で敵勢を巻き込みながら気付いたら二人を残して敵を全滅させてた感じとか
655
:
数を持たない奇数頁
:2015/07/05(日) 21:21:56 ID:.Sfu8I8Y0
というかこれ学院の規模どうなんだろう? 何か俺が考えてるのって凄く……大き過ぎます……な感じがしてきた
俺はちょっとした学園都市(敷地内に学校を中心として生活に必要な施設、機関を詰め込んだ形)を想像してた
学校という意味では一校だけど各地区に校舎や各種施設があって、通学する生徒や職員を支える施設があって、それを動かす従業員がいて、街っぽくなってる感じで
656
:
数を持たない奇数頁
:2015/07/05(日) 21:27:14 ID:.Sfu8I8Y0
ああ、地区分けしてるのは専攻分野の問題と考えてる
657
:
数を持たない奇数頁
:2015/07/05(日) 21:28:10 ID:0elNkWcI0
俺のイメージとしてはホグワーツ+ダイアゴン横丁が一番近いかな
クソでかい学校+その周囲を覆うでかい森
+外縁部にそれぞれの世界の人間が馴染みやすいように作られた街みたいな
娯楽施設とか、購買に売ってないようなちょっとマニアックなものは外縁部の町に買いに行く、みたいな
658
:
数を持たない奇数頁
:2015/07/05(日) 21:36:17 ID:.Sfu8I8Y0
Oh……規模的には同じくらいで考えてるっぽいけど生活に関わる部分を内側か外側かで違うっぽいね
……明日にでも個人的イメージ図でも作って投げてみようかな。みんなの方向性から逸脱してるなら脳内イメージを訂正しないと
659
:
数を持たない奇数頁
:2015/07/05(日) 21:41:29 ID:0elNkWcI0
正直書いた人がちだと思ってる
俺はデカけりゃ後は何でもいいと思ってる
660
:
数を持たない奇数頁
:2015/07/05(日) 21:48:56 ID:.Sfu8I8Y0
とりあえず一つ言えるのは俺が考えているのだと初っ端の話し合いでたったりーんが提案していた規模の数倍規模程度の在学者数になってるわ
661
:
数を持たない奇数頁
:2015/07/05(日) 22:34:42 ID:KkSseZuU0
汝の欲すべきことを行うがいいと思うよ
某学園都市クラスの敷地があってもいい
リレーとはそういうものだ
662
:
数を持たない奇数頁
:2015/07/06(月) 21:28:32 ID:dJQ95ZLg0
ヒャッハー、もう面倒だからエクリエル、剛機ホオノキ・ダン十二式、九条泰生の閑話だけぶっこんじまおう
・エクリエル、サビ残で書類仕事をするサラリーマンの哀愁を知る
・【速報】剛機ホオノキ・ダン十二式氏、次回更新時も現行機を選択
・泰生は犠牲になったのだ……アシュリーの特技、その犠牲にな……
の三本立てでいく。おそらく13000〜15000文字程度になるはず
663
:
数を持たない奇数頁
:2015/07/06(月) 23:37:43 ID:urvvTaTQ0
ヒャッハー! 新鮮なKの人だ!
完成はいつ頃になりそうですかね?
664
:
数を持たない奇数頁
:2015/07/07(火) 09:28:43 ID:gf/UANAQ0
本音を言えば他キャラのも書きたかったけどネタが思い付かないのも相俟って断念。
とりあえず頑張れば今日明日中、特に頑張らなければ今週中。「今作は速さより堅さだよ、エンブレマー」ってなったら暗夜ハードやり直すから来週中かな
いや、マジで今作は速さで避けるよりも堅さで受けきった方が楽だわ。分隊組んで双方に天照らすとか回復着けてたらハンマー辺りを持ち出されない限りは突破される気がしない
(ただしすり抜け狐共を除く)
665
:
数を持たない奇数頁
:2015/07/07(火) 09:36:29 ID:cORJJCHw0
狐だけは許さない
エルフィいなかったら詰んでた
666
:
数を持たない奇数頁
:2015/07/07(火) 09:49:25 ID:gf/UANAQ0
すり抜けか、攻撃不可のどちらかだけなら良かったんだがな……
あ、俺はマイユニで無双した。試行回数は24回、マイユニに執事就けて敵陣のど真ん中に突っ込むだけという戦略もへったくれもないごり押しだった
667
:
数を持たない奇数頁
:2015/07/11(土) 08:08:54 ID:5.2W6hE60
インキン配信されて「成長吟味する理由は見つかったか? 相棒」とかそんなノリになったのでたぶん来週のパターンかな
668
:
数を持たない奇数頁
:2015/07/11(土) 17:25:20 ID:v1jyJ5Ek0
今気付いたけど二週間過ぎてたから、結局書き直して中途半端な上に予定よりも少なくなったけどぶん投げよう。
669
:
剛機ホオノキ・ダン十二式 1/3
:2015/07/11(土) 17:26:43 ID:v1jyJ5Ek0
剛機ホオノキ・ダン十二式が、複数いた。
厳密に言えば本人、もとい本機以外は剛機ホオノキ・ダン十二式ではない。同系列の別機だ。外装には所々に擦り傷が見られるが、致命的な損傷はない。
ただし無事なのは機体だけだ。中身となる記憶領域は抜き取られており、他界人の表現をするならば、死体とでも呼べる存在だ。
他界人であれば死体と接する事は望ましくない行動なのだが、機界人、特に生体部品の含有率が著しく低いないし生体部品を含まない個体にとっては、その限りではない。同系統の機体であれば破損原因を調べる事で自身が気をつけるべきことを理解出来るし、換装可能であれば再利用する事も出来る。
死人を解体して再利用、と考えれば非常にグロテスク極まりない。しかし機界人にとっては、日常的と言える行為の一つでもある。友人が主要機関のベアリングが壊れたと言っていたのを聞き、自身の同規格かつ重要度の低いベアリングを貸し出す事もある。身体の物理的な貸し借りは、機会由来の部品ばかりの機界人にとっては極々当たり前の事であった。
機械は壊れる。そして生体部品でもない限りは、一度壊れれば換えなければ直らない。逆に言えば壊れたところで、部品を換装すれば直るのだ。
ただし、内部……多くは頭部や胸部に搭載された記録領域に限っては別だ。これに関しては、機界人の技術をもってしても、一度破損してしまえば二度と直すことは出来ない。
その為に定期的なバックアップデータを保存し、その保存したデータの入った記憶領域を換装する事で、外面的には生を繋ぐ事は出来る。しかし一瞬でも継続性が断たれたという事は、死に変わりない。故に、剛機ホオノキ・ダン十二式は、十二式なのだ。厳密に言えば剛機ホオノキ・ダンと名乗る前に五回程度換装しているので、十二回だけ換装したという訳ではない。
そもそも、機界人の精神、人格と呼べる物がどうやって完成したのか、それは機界人にもわからない。過去にはソースコードを読み解く事で起源を知ろうとした者もいたのだが、そういう者は、例外なく死んでいる。過負荷が原因、という訳ではない。バグと呼称出来る精神異常に苛まされ、発狂。やがて自身の記録領域やバックアップデータを物理的に破壊……自殺してしまう。
故にソースコードを読み解く行為は禁忌とされている。それは五界統合後で自由意思という物を得てからも変わらない。むしろ、意思を得たからこそ誰もやりたがらない。誰だって、好き好んで死ぬような真似などしたくはないのだ。
どこの世界にもタブーというものは存在している。機界人にとっては、自己の起源探究がそれであった。
だから、剛機ホオノキ・ダン十二式が、態々同系列の機体を眺めているのは、自己の起源探究ではなかった。勿論、他界人に稀に見受けられる、死体に対して特別強い興味がある訳でもない。
工作用に換装した腕で、眼前の死体《スクラップ》を解体していく。外装を剥げば機界人の血管や神経系である諸々のチューブや配管、配線が姿を見せる。更に奥には諸々の臓器に該当するポンプや冷却機なども存在している。
暫く弄り回し、目的の物を見つけた剛機ホオノキ・ダン十二式の電子眼が鈍く輝く。破損しないように取り外し、眼前へと持っていく。
「――ふむ、見立て通り純正品ではないようだ」
他界人で言うところの心臓、そこに程近い、とある部品だ。およそ他界人で言う所の成人の親指程度の大きさの部品であるが、文字通り心臓部に関わる部品である為に、重要度は高い。
型番を確認しながら低い電子音で呟いていると、他の機体の陰から、同じ部品を手にした極彩色に塗装された機界人が姿を現す。
ぱっと見た外見こそまるで別物だが、剛機ホオノキ・ダン十二式と同系列機だ。塗装もだが、外装の至る所に装飾が施された結果、最早別物と化している機体は、世代的には先輩と言える存在である。
670
:
剛機ホオノキ・ダン十二式 2/3
:2015/07/11(土) 17:27:03 ID:v1jyJ5Ek0
「こちらもだ、同志剛機ホオノキ・ダン十二式よ。型番を見る限りは粗末な廉売品のようだ。見よ、本来ならばSaw-CraftWarksとあるべき部分がSow-CraftWarksとなっている。発音は同じだがな」
「おお、素晴らしき発見だ、歌舞機ウキヨエよ。此方などはSaw-OraftWarksだぞ。ソウ・オラフトワークスか。単に刻印を失敗して繋がったのか、それとも本当にそういう風につけたのかは不明だが」
「しかし助かったぞ、同志剛機ホオノキ・ダン十二式よ。私は軍用機の気が強く、この手の作業は不得手でな」
「気にするではない、歌舞機ウキヨエよ。私と歌舞機ウキヨエは同系機ではないか。三年以内に製造された工作作業腕《エンジニア・アーム》で手を打とう。片腕で良い」
「相変わらず工作作業を嗜むのだな。良かろう、片腕で良いという謙虚さに感動した。安藤工業製の八一式工業工作腕を用意してやる」
「これは思わず小躍りしたくなる褒賞だ。人間であれば鼻歌でも歌いながら作業でもするのだろう」
「勿論、その分はしっかりと働いて貰うぞ。私達の様に機械由来の機界人には死活問題であるからな」
勿論だとも、と、普段よりも波長の大きい声で返事をした剛機ホオノキ・ダン十二式は、解体を進めて行く。
――剛機ホオノキ・ダン十二式が解体作業に至った経緯などは、ある程度は形式に則って説明が出来る。元々五界統合学院へ在学、卒業後は機界人向けの部品流通管理機関へと就職した先輩に、日雇いのアルバイトとして雇われたのだ。
機界人向けの機械部品は、各地の自治体が認可した製造所で作られた物だけが公に流通している。他界人で言うならば、行政が認可した薬や医療器具が流通しているのと近しい感覚であろう。
所謂純正品と称される物は、例えば元々は人間界の金属加工業から発展して、各種換装品を手掛ける安藤工業や、精度が極めて高い、細々とした部品を扱う機界の老舗Saw-CraftWarksなどがある。
純正品と称されるだけあり信頼性は極めて高く、アフターサービスも手厚い。ただし高価である。
そこに付け入るように、認可されていない製造所で作られた廉価品も、裏では流通している。剛機ホオノキ・ダン十二式も、公言こそしていないが、重要度の低い幾つかの部品は廉価品を使っている。特に重要度の低さの割りに損耗しやすい箇所などは、一々純正品を使っていられない。身内含めて全て純正品を使っているのは、富裕層程度だろう。
精度が悪いという理由で認可されていない製造所もあれば、作業環境が悪く公害の懸念がある為に認可されていない製造所もある。理由は何だって良いが、使い勝手の良い安価な部品というのは、機界人であれば誰だって欲する物だ。
廉価品だと理解して扱う分には、まだ良い。信頼性が低い為、余程の貧困層でもなければ、重要度の低い場所にしか使わない為だ。
ただし純正品を装った粗末な廉価品に関しては別だ。純正品だと思い重要機関で使っていたら、実は廉価品であり、致命的な破損を起こしたという事件は、決して少なくはない。
場合によっては悪意を持ってわざと粗悪品を流通させ、誤作動や破損を目論む者だって存在している。
その為に、流通状況を管理して純正品と、それ以外を明確に区別して取り扱える仕組みが必要とされた結果、そのような機関が生まれたのだ。
671
:
剛機ホオノキ・ダン十二式 3/3
:2015/07/11(土) 17:27:22 ID:v1jyJ5Ek0
「ふむ、目に付く限りではSaw-CraftWarksを騙った部品が多いな。細々とした部品が主である為に騙りやすい、というのもあるのだろうが」
「逆に言えば、ここ最近は信頼性が高く重要機関に用いられる部品に粗悪品が紛れ込む傾向にある、という事か」
「その通りだな、同志剛機ホオノキ・ダン十二式よ。上司への報告書には、この手の部品の監視強化を提案しておく事にする」
「それは私としても助かるぞ。私は生体部品を使っていないからな、歌舞機ウキヨエ達の仕事が、直接健康に関わってくるのだからな」
「それに関してだが、次回更新時は戦闘機ではなく、流行のアンドロイド型にすればどうだろうか? あちらなら、一々作業毎に腕部を換装する煩わしさもない。その上、省エネルギーかつ省スペース化が図られている」
時代は他界人との共存を図りやすいアンドロイド型が主流になりつつあると、歌舞機ウキヨエは言う。単調な電子音ながら、どこか憂いの帯びた響きであった。
人間ならば肩を竦めて見せるのだろうと思いながら、剛機ホオノキ・ダン十二式は首を振る。
「――確かに、総合的な利点、欠点を考慮すればそれが良いのだろう。……ただ、効率重視が最も良い選択ではないというのは、最近の機界人の思考パターンの傾向なのかもしれない」
「つまりは、次回更新時も現行のままで行くと」
「機界人の中で、特に私達のような機械部品で構成された機界人は、自身と他人の境界線が曖昧だ。例えば歌舞機ウキヨエと右腕を交換したとしよう。その腕は、果たして私の物か? それとも歌舞機ウキヨエの物か? 所有権の事を言うならば、勿論歌舞機ウキヨエの物なのだが、自分自身が、”自分”だと認識して良いのは換装直前部分までなのか? それとも換装後も含めた全身なのか? あるいは、換装時に取り外した所有権が自身の部品も含めてなのか?」
腕が壊れれば腕を付け替える。規格さえ合っていれば、前の腕と同じ形式である必要はない。
それと同じく、記憶領域の互換性さえあれば、他系列の機体に換装する事だって可能なのだ。
「この機体は、私が私だと胸を張って断言する為に変えられないのだ。主流だからと機体その物を換装してしまうと、いつか自己という物を失いかねない。機界には前例があるだろう?」
各界において忘れ難い惨事という物は存在しているのだろうが、機界において忘れ難い惨事と言えば、大体の機界人は自己同一性喪失病と答えるだろう。
かつて、各方面に優れた機体が開発された。今後の発展と規格統一化による手続き簡略化の思想の下、支援金を出してその機体への換装が政府主導で進められた事があった。
当初こそは良かったのだが、自身と他人の境界線が曖昧となって行き、自己同一性を喪失。無気力化、及び注意力散漫となり、大規模な人災が相次いで発生した惨事である。また、規格統一化という思想の下で産業の多様性が失われ、多くの失業者が発生した事も、惨事の一部として語られている。
その惨事を教訓として、今日では多様なあり方が認められている。本来ならば質実剛健さが求められる戦闘機である剛機ホオノキ・ダン十二式が工作作業に勤しんだり、歌舞機ウキヨエが派手な外装を纏っていたりと、行動面や外見に関して、機界人は互いに必要以上に口出しをする事はない。
「……すまなかった、どうやら失言のようだったな」
「ふふ、片腕分を両腕分にするか、八三式工業工作腕で妥協してやろう」
「ならば両腕分にしておこう。流石に、最新型は用意出来ない」
「存外の利益となったな。勿論、その分だけは真面目に働かせて貰おう。さぁ、作業の続きと行こうではないか」
672
:
エクリエル 1/4
:2015/07/11(土) 17:28:02 ID:v1jyJ5Ek0
別段、空席だった風紀委員長の席に戻る事は難しい話ではなかった。
元々は高等部への進学時に、乱層区画の調査及び研究が主となり、作業量的に過負荷傾向となる為に学院側が行った処置だ。本来ならば副委員長であった真川敦を委員長とし、適当な人材を補佐として、副委員長に宛がうという話だった。しかし真川敦本人が委員長となる事を拒み、空席としたいという意見を出した為、審議の結果に委員長を空席とする事になったのだ。
当時は二進も三進も行かなかった為に承諾したのだが、現在ではある程度の余裕が出来た事。そして戻らねばならない程に、学院内での面倒事が増えてきた事から、一学期の後半からは仮として、風紀委員長へと戻っていた。二学期からは、正式に学院側から任命されるに違いない。
各学区から上がってきていた先日の巡回報告の書類から視線を起こしたエクリエルは、風紀委員長室の壁に掛けられた時計へと視線を向ける。
時刻は午後二時過ぎ。冷房が効いている空間である為に涼しいのだが、外の暑さは最高潮に達している頃であろう。窓の外を見やれば、雲一つない蒼穹に、太陽が燦々と輝いている。地表では陽炎が揺らめき、遠くの景色は歪んで見えた。
幸い――いや、ある意味不幸ではあるのだが、まだ帰る訳には行かなかった。巡回報告で発見された施設や備品の破損に対する改善の提案書、来週の巡回人員と経路の指示書、室内の新設備の検証報告書という風紀委員長として作成しなければならない書類を作っていない。学生である為にしなければならない課題類も、少量ずつでもやらないと後半に苦しくなる。挙句、学院から指示されている乱層区画の調査報告書も作らなければならない。
普段ならばそれだけで良いのだが、夏季休暇中の折り返す頃には、夏季執行部会が行われる。一学期の報告、二学期に執り行われる行事が議題となるが、それに対する資料や、事前に来ている質問等に対する回答の準備もしなければならない。
具体的には各行事の警備体制案だったり、有事の対処マニュアルだったりだ。多くは例年の物から、人名や規模を調整するだけで済むのだが、一部は一から作り直す必要のある物もある。
寮の自室でやらないのは、単に幾つかの書類が委員会室から持ち出し不可能な事と、冷房や照明の利用費が、委員長室では経費で落とせる事が大きな理由だ。もっと言えば、自室に備えている機材を使うよりも、委員長室に備えられた機材の方が性能が良いというのもある。紙類も、経費で落とせる。
一般生徒からすれば職権乱用だと指摘されそうではあるが、相応の仕事はしている心算なので、苦情などは言わせない。苦情を言う者は、まずは仕事を一通りこなし、それでも苦情があれば言って欲しいものだ。勿論、そうした上で苦情があれば改善はする。尤も、風紀委員長……書類仕事の嫌いな副委員長も含めた、風紀委員会の上層部の仕事をこなした上で苦情を言える者がいれば、の話なのだが。
学院は広い。苦情を言う余裕がある者は幾人かはいるだろう。ただそういう者達は、十中八九何らかの集団の上層部にいる者だ。指摘すれば自身の首を絞める事にもなる。
そんな下らない事を考えながら、エクリエルは書類を作ろうとパソコンに向かう。キーボードへと手を乗せると同時、机上に置かれていた電話機から電子音が響き始めた。
小さく息を吐き出し、画面の表示を見る。図書文化委員長室と表示されたそれを見れば、極々自然に眉間に皺が寄る。
出来れば出たくはないのだが、出なければ、恐らく私用の携帯電話の方に掛けられる。無論、嫌がらせの為か一瞬だけだろう。それを此方からでは電話出来ないように連続して続けられる。非常に煩わしい。
673
:
エクリエル 2/4
:2015/07/11(土) 17:28:36 ID:v1jyJ5Ek0
「……風紀委員長だ。図書文化委員長、何の用だ?」
『何の用って、ナニに決まってるじゃない。禁書盗難、あの件って今はどうなってるの? あと一冊戻ってきてないんだけど』
甘ったるいその声は、図書文化委員長のアシュリーの物だ。それを知覚すると同時、一層眉間に皺が深く刻まれる。
思わず、私の知った事か、と返してやろうとも思うも、止める。脳内に関連する情報を上げていき、繋がるようにそれらを組み立てていく。
あの一件は、結局は図書文化委員会に所属する人員によって引き起こされた物、というのが表向きに公表されている。その者には一週間の監視付き停学、という処分が下された。なお、盗んだ本は禁書と公表されていない。図書本館から持ち出し出来ない資料として軽度の処分としている。禁書盗難など、本来ならば退学処分がされても不思議ではない。
表向きでない部分を突き詰めていけば、語られぬ者達と呼ばれる集団が関わってくる。そこで脅された結果、盗難に至った。その為、情状酌量の余地ありという事で、ある程度の虚偽を交えて、他方からの文句を言われない形で解決としたのだ。
取調べによると犯人が盗んだ禁書は二冊。異界連結理論、そして生命変換法。組み合わせて運用すれば、五界統合時に等しい騒乱を生む原因となりうる。
ただ残りの一冊に関しては関与を認めなかった。各種の自白を促す魔法や機材を利用しても口を割らなかった。狂人でもなければ、確実に関与しておらず、そもそも狂人であれば脅しに屈指ないだろう。故に、無関係だと断言出来るだろう。
判明しているのは盗まれた事、という一点のみだ。監視を行う魔法を潜り抜けた事を考えれば、それなり以上に魔法に対する教養がある事は間違いない。しかし内部の人員などのように、構造の弱点を的確に突けるのならば、その限りではない。
なお、”語られぬ者達”と呼ばれる者達を脅した犯人に関しては、校外に所属する者、という方向で結論付けられた。その為、外部機関への調査が依頼されている。
エクリエルは、それを納得していない。校外の者が関与するには教師層以上の関与か、あるいは諸々の監視を抜けられる者でなければ不可能だ。前者はともかく、後者であれば、そもそも脅して盗ませるまでもなく、犯人自身で動く方が確実だ。
委員長が納得していないのにそう結論付けられたのは他でもなく、教師層や生徒会から圧力を掛けられ、エクリエルの指摘事項が握り潰されたからだ。エクリエルとしては、失踪した伊庭甲子郎の件も合わせて疑うべきだ、というのが本音だ。しかし、圧力によって禁書盗難事件とは無関係とされてしまった。
その事が脳裏を過ぎると、電話の相手が毛嫌いしているアシュリーである事と相俟って苛立ってくる。
「……調査中だ。そもそも、そちらが管理を徹底していれば起き得なかった事案だろう。大人しく報告を待つ事も出来ないのか?」
『あら、今日は随分と攻撃的ね。生理中かな?』
くつくつと、鼓膜を叩く笑い声は、人によっては甘美な響きに感じられるのだろうが、今は非常に耳障りなだけだ。
受話器越しでも聞こえるように、エクリエルは舌打ちを一つ吐き捨て、すっと目を細める。
「……用件はそれだけか?」
『クソ真面目なクソ天使なら何日前に、だとか、そういう事言うかと思』
叩き付けるように……もとい、受話器を叩き付けて通話を終了とする。
下品な上に不愉快極まりない相手に、いつまでも付き合う事程無駄な事は存在しない。
溜息と共に胸中で渦巻いた黒々とした感情を吐き出す。多少は落ち着くものの、それでも、苛立ちは収まらない。
拍車を掛けるかのように、再び電話機が鳴る。画面には、やはり図書文化委員長室の文字。拳を電話機に叩き付けそうになったが、止めておく。始末書の追加など、煩わしい事この上ない。
674
:
エクリエル 3/4
:2015/07/11(土) 17:28:58 ID:v1jyJ5Ek0
『冗談だよ、別に、貴女の生理周期なんて知っても……まぁ、多少は面白いように使えるけどね? 具体的に言』
「用件を言え。下らん戯言に付き合う心算はない」
『……ああ、そう。まぁ二学期からは風紀委員長に戻るらしいから、諸々の仕事で忙しいよね。うん、これは失敗失敗。弄るのは用件を済ませてからにするよ』
こほんと、態とらしい咳払いの後、アシュリーの用件とやらが鼓膜を揺らす。
正式な表明はまだだが、夏季休暇の何処かで夏季執行部会とは別に臨時部会が執り行われるとの事だ。どこで仕入れた情報かは不明だが、大方、彼女が”甘やかせた”相手を上手く使って、仕入れたのだろう。
単純に図書文化委員長という事で一般生徒とは隔絶した人脈がある上に、独自の人脈を持つアシュリーからの情報は、それなりには信用出来る。
尤も、彼女が嘘を吐いていないという前提の元に成りたつ信用ではあるのだが、委員会関係では互いに嘘は吐けない。信用しても良い。それ以外は、大体逆の事をすれば間違える事はない。
『夏季執行部会は例年通りの一学期の報告と二学期の行事に関して。で、臨時部会の方は一学期後半の諸々、って言えば通じるよね? エクリエルも、一応当事者だった訳だしね』
「なるほど。それで、禁書関係の報告を求めた、と」
『まだ未解決だからね、そういう所を突かれるのって嫌だからさ。それまでに、出来る限り身奇麗にしておきたいのよね』
「そういう事ならば先に言え。貴様との個人的な付き合いは畜生と交わる事と同程度には唾棄すべき事だが、委員会関係での付き合いならば私情は持ち込まない」
『獣姦並みに嫌って、どれだけ私の事を嫌っているのだか』
「普段の言動を完全な第三者に記録してもらい、それを確認すると良い。自身の欠点など、案外自身では気づけないものだ」
『ごめん、それそっくりそのまま貴女に返すよ』
「欠点など既に理解している。ただ、直す心算は現状ではない。……関係書類は、本館へ届ければ良いのだろうか?」
『……いや、図書文化委員長室でお願い。すぐに送れる?』
「まだ纏め終えていない。今日中に現状分は終わるだろう。……一七〇〇までには届ける」
675
:
エクリエル 4/4
:2015/07/11(土) 17:29:16 ID:v1jyJ5Ek0
『ん、五時ね。りょーかい。直接受け取るよ。学園祭は図書文化委員が関わるからさ、その関係で連日委員長室に缶詰だから』
折角の夏休みなのに嫌になる、と、心底嫌そうな口振りで吐き出された愚痴には、不本意ながら同意しか出来ない。
委員長というのは、どこも似たようなものだ。何らかの行事が近づけば、行事に関係する書類仕事や会議に忙殺される日々を送る羽目になる。特に自身が率いる委員会と密接に関わる行事となれば、私的に勉強をしどころではない。だというのに試験は待ってはくれない。そうして、委員長というのは、大体成績を落とす破目になる。
風紀委員会は、大規模な催し毎に忙殺される。安全に対する体制や、有事の対処などは風紀委員会の管轄である為、どのような方向性の催しでさえ、密接に関わる羽目となる。
文化祭で忙殺される図書文化委員長、体育祭で忙殺される保健体育委員長に比べれば、瞬間的な負荷は幾分か軽い。ただ継続して負荷を掛けられる為、どちらがましなのかは兼任するか、あるいは幾つかの委員長を体験しなければ分からない。
『……あ、こっちの用件は終わり。そちらからは何かある?』
「……特には、ない。強いて言えば禁書盗難に関して、もう一度監視系統の確認をしたい程度だ」
『あー……まぁ、委員達には、生徒会に睨まれると言えば多少は協力的に出来るかもね。正直、エクリエルと私的に関わるのは真っ平御免だけど、委員長同士なら、程々には付き合いたい人物だからさ。分かったよ、とりあえず案内の人員は用意しておく。……ところでさ、具体的に言うとエ』
用事が済めば、そこまでで良い。アシュリーの思いついた碌でもない考えに耳を傾ける事もなく、受話器を戻す。
数秒程電話機を注視したが、掛け直しはなさそうであった。その為、優先順位の上がった、禁書関係の報告書の作成の為、作りかけのデータを開く。
二冊分の事件概要と経緯、結果に関しては既に作成済みであり、そもそも提出し、確認印が入った原紙は文書保管用の棚に収められている。
残り一冊文に関しては、それの流用で殆どどうにかなる。結果の部分が書けないだけであり、調査段階で判明した諸々を纏めていけば、それで良い。
「――どこの阿呆だか知らんが、全く以って煩わしい」
足元の鞄からファイルを取り出したエクリエルは、纏める為にそれを捲っていく。
676
:
数を持たない奇数頁
:2015/07/11(土) 17:30:53 ID:v1jyJ5Ek0
結局アシュリーの甘やかし方がちょっとエロスヴァティに関わりそうな雰囲気になりつつあったりなかったりして、まぁ、その、なんだ、とりあえず二学期で委員会関係の話に持っていきたいなぁ、という俺の欲望を駄々漏れにした結果の産物をぶん投げてパスするんだぜ
677
:
数を持たない奇数頁
:2015/07/11(土) 18:45:11 ID:QdcNOZpU0
Kの人乙!
さて、読むのだ
678
:
数を持たない奇数頁
:2015/07/11(土) 19:17:29 ID:QdcNOZpU0
漂うは中間管理職の哀愁
679
:
数を持たない奇数頁
:2015/07/11(土) 21:45:15 ID:kf0sTmi20
乙
実は西口のところから読めてないため時間がかかるかパスになりそう
680
:
数を持たない奇数頁
:2015/07/11(土) 21:46:22 ID:QdcNOZpU0
正直俺のパートは無駄に長いだけだから斜め読みでよい
681
:
数を持たない奇数頁
:2015/07/11(土) 21:48:41 ID:kf0sTmi20
全部読む!
あらゆるやりたいことが溜まっていってどうしようもないことになってきた!
ああ今日の分の録画を撮るために溜まったアニメ消化してこないと
682
:
数を持たない奇数頁
:2015/07/11(土) 23:28:36 ID:9lt2jb4o0
Kの人乙ポニ
学園祭に関しては俺も個人的にやりたい事があったりするが、それをやる為にはソウジくんに対する朝霞好感度が低すぎることがちょっと懸念
ドネルケバブの件で一切関わらなかったから、今度こそ少しでも好感度上げようと思った矢先に革命が発生したというね
683
:
数を持たない奇数頁
:2015/07/12(日) 23:48:50 ID:Wg4dPbsA0
よし読み終わったぞ
ソウジつえぇ
エクリエル素敵
俺もこのまま学院編しようそうしよう
684
:
数を持たない奇数頁
:2015/07/19(日) 21:36:47 ID:.TclDJl20
夕焼けがにじむ旧校舎に生徒の影は無く、ただ木々の陰が少しだけ触れていた。
窓ガラスから入り込む夕日が、教室の静けさの中に混じっていく。
揃えられていない机だけが少し賑やかな、そんな風景だった。
しかしたったひとつだけ、夕暮れを拒むかのように、カーテンに閉ざされた教室が最上階の隅にあった。
電灯も点けられていない暗い教室ではあったが、揺れるカーテンが何かの存在をにおわせている。
まったく夏休みだというのに。
男は困ったように微笑み、大きな欠伸をしながらゆっくりと歩き出した。
弦楽器の音色が薄暗い空気を震わせる。
やがてそれは音楽となり、誰もいない廊下を駆け抜けていった。
「えらくご機嫌な音色だ。踊っているようでもある」
どこからともなく低い声がした。
「ふふ……揃ったようだね」
弦楽器を弾いていた者はそれを構えたまま語りかける。それはしっとりとした女性の声であった。
「集まってくれてどうもありがとう。さっそくだが我々へ幾つかの依頼が来た」
「どれでもいい。どれにしろ、面白いことにするのだから」
話を割った声の主は、前髪を払う素振りをして気取る。声の調子も独特で、その抑揚には何らかの自負があった。
「私は全部承っても構いません。丁度新しいものが出来上がったところですので」
その口調はお淑やかながら、少女のような高い声だった。
それに答えるかのようなタイミングで弦がゆっくりと引かれる。
「君たちには悪いが……実はもう決めてある。“薔薇”からの依頼にね」
静寂の中に微かなざわめきか生まれた。
やがてそれはそっと消えて、笑い声や机を叩く音に変わった。
「気に入らない……が、それ故面白くもなる。気に入った」
「かつてない大仕事になりますね。きっと、そういう人です」
奏者は曲に思えないような奇妙な演奏を始めながら、残る一人に尋ねる。
「貴方も踊りませんか?」
どこからかしっかりと声がした。
「愚問」
「誰かいるのかい?」
男が教室の戸を開くと真っ赤な夕陽が遠くに見えた。
夕日を反射してきらきらと光る教室の中には、男しかいなかった。
男は髪を掻き分けながら教室を後にする。
「おかしいなぁ。たしかカーテンは閉まっていたはずで、楽器の音もしてたのに」
685
:
数を持たない奇数頁
:2015/07/19(日) 21:39:52 ID:dPvjMmtc0
以上
久しぶりに参加できたぞ
この戦いが終わった後にやりたいことやるためのキャラを
色々伏せながら出しただけという
これ連鎖って呼べるのだろうか
タタリん頑張れ!
686
:
数を持たない奇数頁
:2015/07/19(日) 21:41:41 ID:j7ZQS/zo0
クロタンオツタン
687
:
数を持たない奇数頁
:2015/07/19(日) 21:45:01 ID:j7ZQS/zo0
あれ、旧校舎ってクロガネの巣じゃなかったっけ?
688
:
数を持たない奇数頁
:2015/07/19(日) 21:46:36 ID:.TclDJl20
え?そうなの?
もう色々完全に忘れてるやばい
689
:
数を持たない奇数頁
:2015/07/19(日) 21:53:08 ID:v12c9Rgc0
乙ポニ
最後に出てきた男は見回りかなにか?
690
:
数を持たない奇数頁
:2015/07/19(日) 21:53:24 ID:mmjvdezk0
クロおっつおっつ
>>687
いつから旧校舎が一つだと錯覚していた……?
691
:
数を持たない奇数頁
:2015/07/19(日) 21:56:35 ID:.TclDJl20
旧校舎は二つあったッ!!
>>689
先生です
692
:
数を持たない奇数頁
:2015/07/19(日) 22:12:01 ID:v12c9Rgc0
とりあえず二連チャンで番外みたいな流れになってるし、俺は本編に戻そう
ベイバロンどうしようかな。今のところ誰もあの設定拾ってないし、当初の予定とはちょっと変わるがリサイクルしてみようかな
693
:
数を持たない奇数頁
:2015/07/19(日) 23:13:53 ID:M.hriPlk0
おじいちゃん視点も進展させようとして書いてみたら「これ書いた奴は頭おかしいな」ってくらい酷くなった
なんかおじいちゃん、空とか飛びだした
694
:
数を持たない奇数頁
:2015/07/19(日) 23:15:43 ID:j7ZQS/zo0
余裕だろ
695
:
数を持たない奇数頁
:2015/07/19(日) 23:17:25 ID:M.hriPlk0
そうだよな、おじいちゃん先々代当主だもん、空くらい飛ぶよな
よかったよかった
696
:
数を持たない奇数頁
:2015/07/20(月) 05:23:17 ID:.wmKhde60
伏神家当主は化け物じゃないと務まらないのか……
697
:
数を持たない奇数頁
:2015/07/20(月) 06:59:42 ID:/Cm263U20
札を空中に投げ、それを足場に空を走ってもらおうか
698
:
数を持たない奇数頁
:2015/07/20(月) 11:50:13 ID:2o8K/DBg0
じいちゃん論外クラス認定
これにはソウジとベイバロンも思わず苦笑い
じいちゃん書くのクッソ楽しいんだ
699
:
数を持たない奇数頁
:2015/07/20(月) 11:57:09 ID:otOzjMIs0
爺ちゃんは何かいても許される感ある
700
:
数を持たない奇数頁
:2015/07/20(月) 16:21:02 ID:JUx8h7iE0
ベイバロン「あいつが何をしても不思議じゃない」
ソウジ「もう全部じいちゃんだけでいいんじゃないかな」
こんな感じでちょっぴり仲良くなっちゃったわ
701
:
数を持たない奇数頁
:2015/07/22(水) 23:00:46 ID:ZOalySwE0
戦闘前の軽い会話を入れようと思ったら、なんか哲学というか宗教じみた話になってきた
なんだこれは、俺はどこに着地しようとしてるんだ
702
:
数を持たない奇数頁
:2015/07/22(水) 23:01:40 ID:cQUxZEWc0
最近だらしねえな
703
:
数を持たない奇数頁
:2015/07/22(水) 23:05:32 ID:ZOalySwE0
ていうか俺の中でソウジくんの煽りスキルはカンストしてるのかってくらい相手を怒らせる天才になってきた
誰だよコイツそげぶかよ
704
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数を持たない奇数頁
:2015/07/23(木) 19:43:31 ID:V9ZQhPu20
ぶっちゃけ伏神家騒動がこんなに長引くとは思ってなかった。
竜関係がダークファンタジーなら、兄からの電話はラブコメだー! とか書いた本人としては、聡治の方に許婚云々とする心算だったりしたんだよなぁ。まぁ今の方が面白そうだから良いけど
705
:
数を持たない奇数頁
:2015/07/24(金) 00:16:12 ID:jy3OXdSs0
正直、俺は番外編がくるまで、伏神家アシュリー乱入ルートを諦めてなかった
番外編にちょろっと出たくらいなら、学院から空間移動する流れで登場させるつもりだった
で兄や祖父(無理やり)公認の次期妻みたいなノリにするつもりだった>つまりラブコメ
もうここまで来ると終わらせた方が早く思えるがなんで宗教じみた話になってんだろ
そういやドネルクラルの時も似たような事しでかしてたな俺…
706
:
数を持たない奇数頁
:2015/07/24(金) 23:24:05 ID:gSnu/HMA0
もうちょいで終わりそうではあるのだが、これ完全にドネルクラル戦の焼き増しでしかない気がする
俺がこういう種類の戦闘しか書けない馬鹿のワンパターン野郎である事を主張してる様にしか思えない
707
:
数を持たない奇数頁
:2015/07/25(土) 19:31:15 ID:3g4uIO0o0
七つの大罪って【傲慢】と【憤怒】以外の設定出てたっけ?
708
:
数を持たない奇数頁
:2015/07/25(土) 19:34:09 ID:UGLhPfJk0
【怠惰】が魔法の解除で、【暴食】が飢餓感と結びついた槍っぽい攻撃かな?
709
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数を持たない奇数頁
:2015/07/25(土) 19:41:51 ID:73E3ha3Q0
ありがたや、ありがたや
710
:
数を持たない奇数頁
:2015/07/25(土) 19:43:50 ID:A62hPzRc0
聡治の厨二シリーズの事なら暴食もあるな
出した本人としては↓のような設定で書いていた
古びた軍用札に複雑な構成式を多重筆記(言語の圧縮や重ねる事で式密度向上、省スペース化)で書いてコーティング(劣化防止、導通良好化)した物。
普通は複数枚の札を組み合わせて作る書記魔法だが、聡治が無駄に頑張ったせいで一枚で発動できるようになった。そのせいで携行禁止の扱いに。
(規定枚数以上に機能を分散させた場合なら問題なかった、という経緯を個人的には考えていたりする。)
711
:
数を持たない奇数頁
:2015/08/01(土) 09:09:29 ID:L7bBEMxc0
できちゃったみたいなの…(///
問題は、つい勢いに任せてベイバロンを倒しちゃった事だ
倒したのはクロガネだが
712
:
数を持たない奇数頁
:2015/08/01(土) 09:28:35 ID:mu4J7z6A0
かまへんかまへん
正直風呂敷広げすぎた
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