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機動戦士ガンダム ブラックアウト
1
:
スコール
:2008/11/12(水) 00:49:16
念願の宇宙へ域を広げた人類。
しかし、その直後に起こった戦争。
幾度もの戦争。
人間は血に飢えていた。
苦しみを乗り越えて、人間に残ったものは戦争をするための技術だけだった。
そして、過ちにまた手を染める。
西暦.2309
第3次大戦が終わった後50年。
各地の復興もままならないというのに死の商人たちの暗躍で戦火が燃え上がろうとしていた。
大戦後に大国の合意によって作られた地球連邦。
しかし、そのやり方は発展途上国を自国の支配下に置き圧政をしくというものだった。
広がる反発意識。
50年という月日で蓄積された怨恨が、そして爆発した。
大国内で同時期に多発するテロ。
そして、人型白兵戦用兵器モビルスーツ(MS)がテロリスト勢力の中に現れたとき、人々は確信した「新たな戦争が始まった」と
2
:
スコール
:2008/11/12(水) 01:34:17
夢から覚めたような気分だった。いや、今まで見てきたのが悪夢の反対、いい夢だったのだ。
俺は数学の授業を受けていた。
ぼんやりと窓から外を眺め、いつこの退屈な時間は終わるのかと片手間で板書を書いていた時だった。
光が広がった。
閃光で視界からすべての景色が消える。
次に真ん中から色が変わる。赤と黒が中間の地点で混ざったちょうどいい色。爆炎だった。
そして、音と振動がやってくる。
天を焦がすかのように燃え上がった爆炎と耳栓をしたって聞こえそうな爆音。そして、振動とその衝撃で椅子から転げ落ち、夢から覚めた。
動揺が広がる。女子たちの悲鳴。
先生まで窓の外を見て硬直していた。
クラスメイトの一人が、自分と休憩時間中よく話をしていた友人「ネビル=セラブロ」が席を立ち、教室を出て行った。
俺はそれを追いかけた。
無我夢中だった。
校舎を出て、郊外へ足を向けるネビル。
彼の足取りは恐怖なんかじゃない。最初から気づいていた。だから追いかけたのだ。
そして、彼は足を止めた。
そこは人間の生活圏すべてでその影を見ることができるといわれるほどの大企業「アナハイム」の倉庫。
ネビルが振り返り、こちらを見る。
責めるような目つきだった。
俺から視線を外し空を見上げるネビル。
いや、正確には空を見上げたのではない。
彼の視線の先には物体が二つ、浮かんでいた。逆光で黒く見えるそれ。
目が慣れてきた。それは人型だった。
直感するMSだ。それも地球連邦側じゃない。
視線を戻すとネビルがいなくなっていた。必死で彼を探す。
……居た。
倉庫の敷地内に入っていた。
俺も急いで塀をよじ登りネビルを追う。
倉庫の中に姿を消すネビル。
追って入ると中は真っ暗だった。
「なんでついてきたんだ」
暗がりから声が聞こえる。聞きなれたネビルの声だ。
「……」
理由なんて無い。お前が教室を出たから、と言いそうになったがのど元で止めた。
明かりがつく。
一瞬、爆発の時のように何も見えなくなった。
そして、また赤だった。
しかし、今度の赤は違う。動いてなかった。
「MS、ガンダムだ」
聞いたことがある。連邦が開発した新主戦力だと。
「これは連邦が開発したものじゃない。それに、広告塔じゃガンダムが主戦力になるとか言っていたけど、連邦は統率が取れないから作れて5機だろうな」
ネビルは左斜め後ろの電気パネルの前になっていた。
「驚くのも無理は無い。でもソール、君は冷静でいたいんだろう?じゃあ、その口をあけた間抜けな顔はよしたほうがいい」
自分の手で自分の顔を触って確かめた。確かに口が開いていた。
また足元がゆれた。
「連邦の基地は破壊された。戦力が残っていたとしても制圧されるだろう。じきにね」
歩み寄ってくるネビル。
「だけど、これはチャンスなんだ。僕は自由になりたいんだ。力を貸してくれ。頼む」
ネビルは深く頭を下げた。
「き、急になんだよ。どうなってるんだよ。くそっ、いまさらパニックになってきやがった」
ネビルが手に持っていた分厚い本を投げてきた。
表紙にはG・U・N・D・A・Mの文字とよくわからない英数字の羅列。そしてゼフェロキアの文字。
「マニュアルか……つまり……」
ネビルの頬が緩む。
「冷静になってきたようだね。その通りだ、こいつを動かす」
ネビルは俺に背を向けると動いてない赤の方へ駆け出す。階段を駆け上がり、向こうへ走っていく。
俺はそれについていく。ここまできたんだ、と自分に言い聞かせて。
時々足元を襲う振動で階段から落ちそうになった。手すりにすがり、時々マニュアルに目を通しながら進んだ。
ゼフェロキアはガンダムについた名前のようだった。
ガンダムゼフェロキア。アナハイム・エレクトロニクス、つまりアナハイムグループの会社が開発、製造したガンダム1号機。
複座と書いてあった。
ネビルが振動に耐えるため姿勢を低くして俺を待っていた。
「さあ、行こう」
「……いつか、戻れるのか?」
ネビルの頬がまた緩んだ。しかし、目は冷たい感情を帯びていた。
「僕はもどらない。君は僕に力を貸してくれ」
それが答えだった。
後戻りはできない。
だけど、それなら簡単に踏ん切りがつく。
思考の時間なんていらなかった。
「わかった」
それは過ち。
しかし、自分で選んだ選択。
俺の戦乱が始まった。
3
:
スコール
:2008/11/12(水) 02:34:32
複座とは一人以上で機体を動かすときに使う言葉だった。
二人乗りの1号機。なんだかよくわからない機体だ。
二人乗りのためコックピットは中々、広かった。
キャノピーが閉じられる。
ネビルはこの機体の扱い方を心得ているようだけど、俺は違う。
マニュアルを何度も読み返しているけど、単語の羅列にしか感じられない。
頭に内容がさっぱり入ってこない。
わかったことはこのゼフィロキアがどんな領域でも稼動できるような汎用性を意識して作られたものだということだ。
それに電子戦用の機器まで取り付けられているそうだ。
欲張りすぎて他の機体に比べ、少し大きくなったとも書かれている。だけど、それを補う以上の機動性、耐久性を保持しているようだ。
開発者たちは現行最強のMSを目指して作ったのだと思われる。
そんなものが若干17歳二人の手の中にあってよいのだろうか。
いや、自分で決めた選択だ。迷わない。
「カメラは動いているのに外はまっくら。シートか」
爆発の振動に比べれば、ほんの些細な振動でゼフィロキアは動き始めた。
「ソールは自分のやるべきことがわかっているかい?」
「いや、全然」
ふふっと笑う声が前の席から聞こえた。少し、癪に障ったが仕方が無いものだと決め付け、耐えた。
じゃあ、とネビルが切り出した。
「ソールが砲撃担当にしようか、僕が機体の操縦を担当しよう」
しかし、それはつまり俺に人を殺せと言っているのだ。
俺はそれを無言で返事をしてやった。常人なら許可とも、拒否とも取れずに悩むところだろうが、最早目の前のおもちゃに耐え切れなくなったような顔つきのネビルは許可と即決したようだ。
シートが取り外され光を見た。
ネビルがパネルに手をやり、倉庫の屋根が中央から開いた。
空にいた二つのMSは地球連邦基地上空で戦闘しているようだ。
「僕の自由が……始まる」
ネビルの上ずった声は不気味だった。
今にも狂い、笑い出しそうなネビルの後ろで俺は砲撃担当としての仕事をこなそうと思った。
何かに専念しなきゃ無駄な思考が始まる。俺は凡人だ。凡人なら凡人らしく、だ。
「行くよ、ソール。さぁ、冒険だ」
バーニアに火が付き、機体が空へと舞い上がる。
ゼフィロキアには何も装備されていなかった。
あるのは主兵装のビームサーベル2本と左肩のビームキャノン。
「撃つぞ」
ネビルに告げる。いや、本当は自分に言い聞かせたんだ。
射撃用のモニターが現れる。スティックを動かせばニュートラルの位置からターゲットサイトが動いた。
ゲームじゃないか。
いや、不謹慎だ。
「当てる理論は簡単だ。敵の行動を予測し、距離を計算に入れ、当たる位置に放つ。それだけだ」
わかっている。しかし、当たらないだろう。
ゼフィロキアの装甲は硬い。現行の実弾兵器、特に100mm口径のマシンガン程度では近距離でピンポイントに当て続けなければ傷もつかないだろう。
だから、相手を近づかせネビルに近距離戦をやってもらうほうがいいのだ。
トリガーをゆっくりと引いた。
振動。一筋の光が伸びる。それは一直線に伸びるとテロリストの機体に穴を開けた。
スパーク、電光が走り、爆発。ほとんど一瞬だった。
「すごいよ!よく当てたね。君がついてきてくれてよかった」
ネビルは本当にうれしそうに言った。
4
:
スコール
:2008/11/12(水) 02:35:50
しかし、俺の頭に賞賛の言葉は入ってこない。
どうやら、穴が開いてしまったようだ。
敵に穴を開けたように、ぽっかりと。
この穴を俺はどうやって埋めればいいのだろう。
「じゃあ、次は僕の番だ」
体に負荷が掛かる。Gだ。
テロリストは俺たちに気づいたらしい。
銃を乱射して、撤退する気だ。
「当たらない、僕の方が速いみたいだ」
言葉の通り、ネビルはすいすいと弾の間をすり抜ける。
俺のはまぐれで済むが、ネビルのこれはまぐれという言葉じゃすまない。
このためだけに生まれ、生きているのだろうか。こいつは。
だとしたら、こいつと一緒にいることが俺の最大の過ちになるだろう。
そうこうしている間に、ネビルはあれだけあった距離をもう後コンマ何秒かで手が届く距離に縮めていた。
「サーベル」
電子音が鳴り、機械が「ビームサーベル」と復唱する。
ゼフィロキアの右手が腰に伸び、白い円筒状のビームサーベルをつかみ、抜き取る。
しかし、ビームの刃は伸びない。
アイドリングストップ、の様なものだ。必要なときにだけ刃を出す。
テロリストの機体も近接武器に手をのばした。
斧のようなものを抜き、構えた。
敵の直前で、ネビルはさらに加速した。
敵はそれに気づき早く斧を振り下ろした。しかし、ネビルはそこで逆にバーニアを吹かし勢いを殺した。
見事な空振りを見せる敵。ネビルは冷静に、敵の胸部装甲にサーベルを当てると俺がやったようにトリガーを引いた。
装甲を貫通し、反対側までビームの刃が飛び出た。
ゼフィロキアと同じように、そこにコックピットがあるならパイロットは消え去っただろう。
そして、敵は動きを止めた。
晴れて俺たち二人は人殺しの仲間入りをした。
輝かしい一歩だ。
5
:
スコール
:2008/11/16(日) 12:53:00
無我夢中だった。なんて言葉で片付けたら俺は何人の人に殺意を向けられるだろう。
テロリストのMSは自重で落下。ビームサーベルは展開してあったので、MSの胸から頭にかけてが裂かれ、熱で発光している。
止める暇なんて無かった。俺はGに耐えるだけで精一杯だった。
ネビルは突如、機体を右下へふると、一番近くにいた地球連邦のMSを斬ってすてた。
「……!!何やってんだよ!」
ネビルは不敵に笑うと「いつ仲間になったんだ?」と言った。
ネビルの言っていることは確かに正しい。しかし……
「大丈夫、お仲間は最初から用意してある。外で待ってるそうだ」
じゃあ、最初から外に行けば、いや、それよりも俺の代わりにそのお仲間を用意すれば……
「考えてる暇があるなら、手を動かしなよ」
いつのまにか、ゼフィロキアは地球連邦のMSと間をあけMS全てが視界に入る場所に移動していた。
俺はまた手を動かし、ビームを発射していく。
ミス、ミス、命中、ミス……
全部で三機のMSを破壊した。
手を止めようとしたとき「まだ残ってるよ」
ネビルが奥を指差しながら言う。
ネビルの指先には基地があった。
テロリストの攻撃を何発ももらっていたので、主要なところは破壊され、基地としての機能を果たせてない。
6
:
スコール
:2008/11/25(火) 19:25:15
通常の感覚は全て麻痺している。
スティックを動かす。が止める。
疑問が沸いた。これ以上破壊する必要があるのか?
「何モタモタしてるんだよ。厄介なことになっってしまったけど……」
レーダーに目を移すと新しく敵の信号が増えていた。
連邦軍所有の量産機、MSジェインが4機、そして。
それに気づいた瞬間、ネビルは機体の向きをそれに直した。
俺はそれを今度はなんだ……、と心のうちで悪態をつきながら敵機を確認していく。
ジェインと編隊を組み、接近してくるその姿はまるで、
「ガンダム!?」
ネビルも驚いた顔をしている。
どうやら色々と隠し事をしていそうなこいつにも、このことは知らなかったらしい。
「なぜここに?こんな辺境のコロニーに?」
常人離れしたパネルタッチで左手を動かすネビル。
即座にマルチモニターが浮かび、音声だけの通信が始まった。
「どういうこと?知らされてないよ」
ネビルは危機を感じているのか、声が若干上ずっている。
「こっちも今知ったばかりだよ。足がつかないように、巧妙に撤退するんだね」
通信からは気丈そうな女の声が聞こえてくる。
「ネビルの後ろに座ってる君」
俺のことか。
「そうだよ、君のことだよ。初めまして。ジャネット=ムェルダーだ」
ソール=バリントン。と返事を返す。
「うちの馬鹿が迷惑をかけるねぇ、迷惑をかけるついでで力を貸してほしいんだ。未知数の危険が近づいてるみたいだ。頑張って切り抜けてほしい。以上」
っとだけ言って通信は切れた。ネビルが「っだ、そうだよ」っとつけくわえる。
「ガンダムが出てきた。本来ならゼフィロキアの方が性能は高いのだけど、ちょっと事情があってね」
機体はまだ静止している。その間に、射撃戦をするにはちょうどいい距離まで敵は近づいていた。
「ジェインは全機落とせるだろう?ガンダムは僕に任せて」
「わかった」
狙い打つ。
ターゲットサイトが俺の意思で動く。
まずは右下のだ。
狙いをつけ、敵の行動を読もうと集中し始めたとき、連邦のガンダムが撃ってきた。
バーニアを吹かし、緊急回避する。しかし、そのせいでジェインから狙いが外れた。
「ごめん、相手が持ってきてるのはビーム兵器だから」
律儀に反応するネビル。
この機体はおかしい。
二人乗りで、射撃戦に特化するならもっとシステムをかえるべきだ。なのに、こいつは接近戦もできるように。いや、どちらかというと逆だ。接近戦が主体のものに遠距離武器をとりつけたような、ちぐはぐな機体だ。
そう思考する間も俺は手を動かし、それと連動して左肩の剣のような姿をしたビームキャノンが動く。
当たれ。
そう念じ、トリガーを引く。
しかし、当たらない。
「さっきとは違う。錬度が高い」
ネビルのその言葉で俺は現実に引き戻された。
相手も人だ。でも、
「やらなきゃ、やられるんだ。この状況を作ったのが俺だとしても……!」
自分に言い聞かせ、トリガーを引く。
「当たれ!」
放たれた一筋の光は、殺意が乗り移り凶悪な死神の鎌と化した。
脇には目も振らず、ジェインの機体に突き刺さる。
当たったものも致命傷ではなかった。ジェインの右腕、ビームライフルを持つ手が吹き飛び、爆発する。
「そろそろ危ない、動くよ!」
7
:
スコール
:2008/11/30(日) 01:20:43
今まで溜めてきたフラストレーションを発散するかのように、左右に機体を振るネビル。もちろん、まったく狙いがつけられない。
敵のガンダムは、傷ついた自分の肉親を守るような、とても人間らしい挙動でジェインの前で盾を構えている。
「お肌の触れ合い会話、ってやつさ」
無線では会話できない何か、ということか。とネビルは続けて一人、合点がいったようだ。
ガンダムから離れ、後退するジェイン。
残りジェン3機、ガンダム1機。いわゆる、死亡フラグというやつなのだろうか。
「下がってろって、無駄に死ぬことは無いだろ?」
お肌の触れ合い会話で右腕を破壊されたジェインのパイロットに後退を呼びかける。
「しかし・・・」
「しかしもクソもない。後退しろ。めーれーだ」
わざとふざけた口調で話す連邦軍所属、ガンダムのテストパイロットであるハルバート=E=マイン。
真面目な奴にはふざけた口調が一番と、自分で謳ったことがあるのがこれの理由だった。
「早く行けよ」
これはジェインのパイロットには聞こえてない。ハルバートがビームライフルを持つガンダムの左手でジェインを押しやり、機体と機体の接触が解かれたからだ。
「さて、贋物なのか。本物なのか……」
自分の乗っている最新鋭機と同じようなフォルムを持つ、所属不明機。好奇心をくすぐるには十分な理由だった。
性能的には相手の方が上のようだ。外見に合わない俊敏さで3機の連携を巧みに避けている。
しかし、射撃に先ほどのような切れが無い。結果、パイロットになって日が浅く機体の性能を引き出せてない。そういう印象を持つ。
「にしても、どこの所属かはっきりしてないのによくもこんな撃ちまくれるよな」
どうやら基地の3機は相手を敵と決め付けたらしい。本来なら降伏勧告を出すのがセオリーだ。
まぁ、確かにこちらはコロニー第1基地に配備されていた5機の内、2機を破壊されさらに同じ基地に所属する仲間を撃たれているわけだし、彼らの気持ちをわからないでもない。
「しかし……」
ここはお友達の馴れ合いの場じゃない。軍だ。規律は守るべきだ。
ハルバートは素早く自分の意思を行動に移す。それはまずジェインを止め、所属不明機に降伏勧告を出す。という明瞭なものだ。
相手の機体にも通信が聞こえたら幸いなのでわざと無線を使う。
「しかし、敵はこちらに撃ってきたのですよ」
「敵じゃねぇ、所属不明機だ」
短く返すと、ハルバートの意思が伝わりやすくなりジェイン3機は行動を止めホバリングを始めた。
それにつられてガンダムタイプも動きを止めた。
「聞こえてるか?聞こえているのなら、返事をしてくれ」
テロリスト、連邦、当てずっぽうで何個かの、違う周波数で同時に呼びかける。
ノイズ−−
「聞こえている」
若い声が聞こえてきた。
「なんというか、勧告無しで攻撃してしまってすまない」
謝る必要は無いのに謝ってしまったのは、ハルバートがなんと言おうか決めてなかったからだ。
ネビルたちもそれをわかっているので、沈黙で返事を返す。
「見ての通り、我々は地球連邦軍だ。所属不明機パイロット、今すぐ武装解除して機体から降りて来い。君はテロリストの機体2機を撃破した功がある。我が軍に攻撃し2機を撃破したことは帳消しにはできないが、罰を少なくすることはできる。まだ遅くない、早く投稿しろ」
通信が切れた。一方的に切られたのだ。
やれやれ、とかぶりを振るハルバート。味方に「やっていいぞ」と告げた。
8
:
スコール
:2008/11/30(日) 15:56:50
静止したネビルたちを含めて5機の中で一番最初に動いたのはハルバートだった。ついで、ネビルたち。
ハルバートは優秀なパイロットとしてガンダムのテストパイロットを任されている。また本人もエースということを自負している。
自分に確固たる自信を持ったエースパイロットは、例え卑怯と言われようが目標を撃破してみせるという矜持があった。
先ほどからハルバートは敵となったガンダムタイプの戦い方を観察していた。
そこでわかったのは、癖があまりないということ。
それは厄介なことだ。能力が発展途上であるか、または熟練のつわものか。
「だが、落としてみせる」
ハルバートは冷静だった。
対照的にソールとネビルは焦っていた。
どちらもうまく敵が倒せないことに苛立っていた。
ビギナーズラックなのか、才能なのか、本人たちはわかっていないが序盤で圧倒的な力を見せ付けながらMSを2機落とせたという事実は2人を増長させた。
長期戦はだめだ。
このまま行けば、練度や経験の少ない自分たちは不利になることは確実。
それにネビルの頭にはジャネットたちのこともあった。
どこに潜伏しているかは方角しか知らないので具体的にはわからないが、自分たちは行動を起こすために少し無茶をしているのだ。
コロニー内のほかの基地から応援が来るかもしれない。いや、長期戦になったら確実に来るだろう。
ジャネットたちの所在が、自分たちが倒されるより前にばれてしまうかもしれない。
ネビルの背中は冷や汗で湿っていた。
ソールの手前でなければ、服を脱ぎ捨て背中を掻き毟っていただろう。
ソールの頭に考えが浮かぶ。
接近戦。
リスクは高い。All Or Nothingだ。
「しかし、一撃で倒せるということは……」
無意識に言葉に出していた。
「接近戦か?」
声に出している気はなかったため、ソールに声をかけられネビルはどもった。
「……あ、あぁ。サポート、牽制頼む」
「わかった……!」
ソールが太ももの上に開いて置いてあったマニュアルを閉じる。
「やってみたいことがある」
それはネビルに声をかけたのではない。ネビルはソールに射撃を任せるといっていた。ネビルはだからソールの射撃に関しては何も言わない。
長い付き合いになりそうだ。二人の心の中だ。
長い付き合いになる相手を信頼できなくて、どうする?
開き直りのようなことを2人して思っていた。
ソールは先ほどからなれない手つきでパネルをタッチしている。
それはビームキャノンの収束率にかかわる設定を見直していた。
今までは収束率85%。一撃必殺の光を放つ状態だ。
今設定しなおしたのは収束率40%。
収束率が悪いと、遠くまで届かない、当たったところで威力が弱くなる。などの短所が見られるが、反対に当たりやすくなるというものだ。
「間合いをもうすこし知覚してくれ」
ソールの言葉に反応してネビルはスティックを倒す。
「狙いを絞ろう。まずはこいつからだ」
ソールがディスプレイ上で動くジェインの一機にマーキングする。
「俺は均等で相手を牽制する、ネビルは自分のタイミングでやってくれてかまわない」
「いや、ソールにはガンダムに注意を持ってほしい。他の機体は二の次でいい」
わかった、ソールは短く返す。
ゼフィロキアの動きが変わった。
チグハグな動きをしていたのが、まとまりが出た。
意思が表れた。とでも表現しようか。
ハルバートにはそれが伝わった。
しかし、それが何故今になって起こったのかまではわからない。
ハルバートの口元が歪む。
無意識下でハルバートは喜びを感じていた。
辺境のコロニーで、毎日テスト。
それが今、こんなエキサイティングしている。
それは冷静を売りにしているハルバートの認めたくない感情。しかし、闘争本能むき出しの人間の姿だ。
9
:
スコール
:2008/11/30(日) 20:04:27
「その首、もらった……!」
ジェイン1機をサーベルで撃破したゼフィロキアの硬直した隙をついて肉薄するハルバート。
「来た、殺意!」
ハルバートの機動を見ていたソールが敏感に反応する。
ハルバートに向けてほとばしる光。ビームの出力をわざと落としているため、光は連射され、さながら雨のようにハルバートに迫る。
「当たるのか!うおっ」
ガンダムの右肩の装甲に光が当たり、爆発とともにハルバートの勢いが殺がれる。
負けじとビームライフルを放ち、ハルバートは機体の体勢を立て直す。
そのときにはゼフィロキアのロックオンはハルバートから外れ、ジェインに移っていた。
光が放たれ、その光に姿を隠すように、巧みにジェインに接近する。
もう1機のジェインが味方を援護しビームを放つがそれは機体のそばを空しく通り過ぎ、霧散した。
また1機、破壊された。
2対1。最初は5機いた。
圧倒的?いや、そうではない。
たしかに5対1という状況を今の状況へ持ち込める。結果を聞けば確かにとても真似できない。
しかしやはり機体の性能が高い。ハルバートはそう分析した。
その機体を操るものの能力はまだ稚拙。取るに足らないものだ。
中途半端な距離で打ち合いをしていたら性能で圧倒される。しかし、実力のでる接近戦なら。
「おれが援護する……行け!」
大気中の塵などを燃やしながらゼフィロキアへ迫るビーム。
ハルバートは最後のジェインを援護する振りをしながらチャンスをうかがっていた。
光の交差が中空を彩る。
偶然ジェインの放ったビームとゼフィロキアが放った光がぶつかった。
ビーム同士の干渉で波動ともいえる強い力が炸裂する。
しかし、それはハルバートのチャンスには成りえなかった。
10
:
スコール
:2008/12/08(月) 00:51:44
ジェインは後方へ大きく飛ばされる。
しかし、パイロットは器量が良く、一回転後、機体制御用バーニアを1,2度吹かし体勢を整えた。
「どこだ?シエラ達の仇!!」
残り一機になってしまった。原因は?
奴だ!!
しかし、ゼフィロキアの姿は見えない。
首と眼球の動かせるだけを使って敵影を探す。
「下だ!」
だがすでに、ジェインのパイロットに意識は無かった。
少し離れた位置にいたハルバートにはわかっていた。ガンダムタイプがどのような、神がかり的な挙動を見せたか。
ゼフィロキアは波動が機体に振りかかったというのに微動だにせず、回転しながらハルバートの方へ牽制で、ビームを放つと、水面に浮かぶ状態から平行移動で水中へ沈むように。ジェインの真下へバックで移動して見せた。
そして、そこから地上方向から出た稲妻のように浮上すると、一太刀でジェインを真っ二つにして見せた。
今度はお前が焦る番だ。
「ん?」
ハルバートは幻聴を聞いた。
青年二人に馬鹿にされる想像が突然頭の中に湧いた。
「馬鹿に……してぇぇ!」
とてもじゃないが、耐え切れない。怒りがハルバートの肉体全体を包み込んだ。
習慣でつけているパイロットスーツのヘルメットをバッと脱ぎ捨てる。ヘルメットは後ろのディスプレイにあたり、バウンドしてハルバートの足元に落ちた。
「最後の1機だ。命令だと、足が付かないように撤退しないと……」
ソールはトリガーを引き、ビームを放つ。
「撤退しよう。欲張らないほうがいいだろう」
「わかった。牽制を……」
「あぁ、好きに動いてくれていい」
テロリストの2機を撃破した頃と大きく違うのは二人の会話量だ。
もちろん、それはすべて機体の制動に関する会話だ。
彼らは今日始めて同じ機体に乗るのだ。以心伝心などまた夢の夢。ならばどうするか、これがそれを補う答えだ。
11
:
スコール
:2008/12/16(火) 20:22:43
「……逃げる気かよ!」
ハルバートは吠えた。ディスプレイの中でゼフィロキアは自分に背を向けていた。
額に青筋が浮かび、目が血走る。
もてあそばれたっ!
自分が乗っているのは将来、連邦軍主力機となる最新鋭機。世界1の硬度を持つスーパーメタル「ガンダニウム」を装甲に使い、最新の技術によって戦艦の主砲クラスの威力を持つビームライフルの携行まで可能になった。言わば、現行最強を目指して造られ、それを体現するに至った最高機!
そして、それにはエースと名高い俺が乗っている!
自尊心を打ち砕かれた。
このままじゃ終われない。
奴は、背を向けている奴は許されるのか?
否!
殺してやる
フットペダルが踏み込まれた。
急加速によって生じたGが容赦なくハルバートに襲い掛かる。しかし、ハルバートの体勢は依然、前傾姿勢のままだ。
体が殺気で溢れている。
「死ねよやーっ!」
ゼフィロキア目掛けて、光の矢が放たれた。
「動いた、ビーム!」
「逃がしてはくれないのか……」
ネビルが巧みな操縦でハルバートのビームを回避する。
ソールがガンダムの挙動を注意深く見ていたお陰だ。
「ジャネット達のことが気になるんだ……早く集合地点へ行きたい」
「あぁ、でもまずは火の粉を振り落とさないと」
ソールはディスプレイに写るガンダムを見て、違和感を感じていた。
まるでガンダムの装甲を通して、殺すという強い思いがゼフィロキアを包み込むような。
それはハルバートの殺気が強い証拠であり、またソールの第6感が強く働いた証拠でもあった。
「くそっ、当たれ」
先程からソールはトリガーを断続的に引き続けている。
しかし、放たれたビームは掠りもせず、ただ流れていく。
出力を落として連射しているビームを掻い潜り、ゼフィロキアへ肉薄するガンダム。
「食らえ」
ハルバートはまたもや吠えた。
それがビームの刃に乗り、ゼフィロキアの機体を狙う。
「んぐぅ!」
間一髪、ネビルが反応した。
サーベルとサーベルが交差する。エネルギーの干渉で一瞬2機のの間に間が空く。直後、ゼフィロキアのわき腹にガンダムの左足がヒットした。
震動は無い。ゼフィロキアのコックピットの周りを覆うゲル剤が震動を殺したのだ。しかし、だからこそパイロットは何をされたかわからない。
ゼフィロキアの機体が弾かれ、体勢を崩しながら押される。
「ネビル!」
そこへまたもや、光の刃が振り下ろされる。しかし、ガンダムを注視していたソールによって、また危機を逃れた。
「これじゃやられる……!無茶を」
してでも、殺さないと
殺さないと。それを言う前にソールは口を閉じた。心の奥底でまだ踏ん切りがついていないのだ。
サーベル同士の干渉で生まれたエネルギーは発光し、2機の間を照らす。
「ガンダムのパイロットぉぉぉおおお!
ゼフィロキアのコックピットに男の声が流れる。ハルバートの声がお肌の触れ合い会話で聞こえてくるのだ。
「ふざけるなぁぁああ!!」
ネビルは直感的に、話している男に大して嫌悪を感じた。
自分勝手なんだ。
そう思い、嘲るように鼻を鳴らした。
ソールは驚いていた。
ふざけるな。という言葉にどんな意味があるのか、ソールは知らない。
ハルバートは馬鹿にして、という意味でふざけるなと言った。つまり、ネビルは正しい。
しかし、ソールは自分自身の心の奥底を見透かされたような感覚に陥った。
まだ踏ん切りがついていないのか、人を何人も殺しておいて。そういわれた気がした。
だがら反発する。
ソールはまだ反抗期だ。
「ふざけてないんか、いない」
静かに言い放った。
それを聞いたネビルは驚いた顔をする。
「お前なんか、消えちゃえ」
ショートカットキーを使い、ビームキャノンの出力を変更する。出力85%だ。
ターゲットはガンダム。
しかし、激昂しているためサーベルの存在に気づいていない。
死ね!ソールがトリガーを引いた。
瞬間、ディスプレイの半分がホワイトアウト。優秀なAIがサブカメラの映像に、ディスプレイを切り替える前に。2機を半端の無い震動が襲った。
12
:
スコール
:2009/01/31(土) 12:25:23
「う、ウォォォ!」
ガンダムが手に握っていたビームサーベルの柄にゼフィロキアのビームが命中した。
強烈な発光とともにサーベルに収められていたエネルギーが奔流となって2機を襲った。
ガンダムの胸部装甲は焼け焦げ、ゼフィロキアもネビルの咄嗟の判断で腕を差し出してなかったら、ガンダムと同じ状況に陥っていただろう。
ゼフィロキアはコックピットのダメージが少なかったため、吹き飛ばされ、ある程度ガンダムから離れたところで体勢を立て直した。
しかしガンダムはそのまま落下していき、背部から地面に墜落した。
ビルに落下したらしく、コンクリートの粉で砂煙が立ち上っている。
ゼフィロキアは、ガンダムが立ち上がらないことを確認するとどこかへ去っていった。
連邦軍の最新鋭機を蹴散らした所属不明機。この報せは連邦の情報統制の甲斐なく世界を飛び回った。途中いくらか脚色されたり、故意の情報操作が行なわれ、ただでさえ頭を抱えている連邦軍首脳部をさらに困らせる形となった。知識人たちの意見は新たなテロリスト勢力の出現としてまとまった。
だが、この騒動の中、もっとも困っているのはアナハイムだった。アナハイムの倉庫からゼフィロキアが現れたのは、コロニー内の監視モニターが録画しているので、言い逃れ出来ず(最初から言い逃れする気はなかった)、1部の人間に「死の商人」としての1面を曝け出してしまい、社会からの糾弾という最悪の事態を避けるためのマスメディアへの口止め料、エージェントの派遣など、かさむ出費はコロニー1基の修理に肩を並べるほどのものだった
13
:
スコール
:2009/04/19(日) 20:15:04
暗い。
何も見えない。何も聞こえない。
見えるものが全て暗黒なのか?空気の振動をかき消すような防音装置が用意されているのか?
ただ俺のそこで椅子に座っていた。
気づいたら、この部屋で両腕両足を固定されていた。
起きてから何分経っただろうか。
藻掻きはした。しかし、椅子すら微動だにしなかった。
記憶を探る。学校、異変、級友ネビル=セラブロ、倉庫……ガンダム。
思い返してみれば不可思議なことだらけだ。
何故あの時、コロニーに、襲撃があった?
何故ネビルはあの倉庫にゼフィロキアが置いてあることを知っていた?なおかつ、まるで手足のよう
に動かせた?
いや、冷静になれ。ネビルはどこかの組織と連絡を取っていたし、俺も……。俺が放ったビームは連
邦軍のMSに当たっていた。
俺はビデオゲームを思い出し、敵の行動を予測し、予測先に照準を合わして、時間を計算して、トリ
ガーを引いただけだ。
誰でもできることをしただけだ。
ならば、MSの操縦というのも案外簡単なのかもしれない。
ネビルはマニュアルも手にしていた。
では、疑問はコロニーの襲撃目的と、ネビルの所属しているらしい組織。
最後の衝撃で気を失ってしまったから、ここがどこなのかはわからない。
ただ、ひとつわかることがある。
じたばたしても、無駄だって事だ。
そこまで行き着いたところで俺は目を閉じた。
何も見えないなら視覚など無駄だ。
そして体の力を抜いた。
行動全てが無駄ならば……どうにでもなってくれ。
そして意識が落ちていく。ゆっくりと。
「艦長……代理、警戒宙域、抜けました」
ブリッジ。5つあるオペレーター席には2人のオペレーター。
一段上がったところにあり、全ての情報を逐次モニターできる指令席には女性が座っていた。
艦長代理。ジャネット=ムェルダーだった。
「そう、警戒態勢解除、ついでステルスモード」
オペレーターが復唱し、ディスプレイがレッドからブルーに切り替わる。
ジャネットの右後ろには男が立っていた。
何をするでもなく、起立の姿勢でオペレーター達の仕事をただ、見ている。
男はネビル=セラブロだ。
ネビルはジャネットに呼ばれていた。
問題を起こしたからだ。
任務外行動。
一歩間違えば、この艦の存在がばれ、上役達の命令によってこの艦ものともクルーは全員心中しなけ
ればならなかったかもしれない。
それが必要な行動や、情状酌量が認められるような事ならお咎め無しだったかもしれない。ジャネッ
トはそういう艦長代理だった。
だが残念ながらこれは完全にネビルのミス、いや理解不能の行動。
椅子を回転させ、ネビルに体を向けるジャネット。その表情は苦虫を噛みつぶしたように歪んでいる
。眉間にしわが寄り、誰が見ても爆発寸前とわかるだろう。
「ネビル、あなたに与えられた任務は?」
その声は、どこまでも落ち着き、どこまでも冷たく、低い。
対するネビルはまるで涼しい顔をしている。
「はい。僕が与えられたのは連邦軍の監視、そして有事の際にゼフィロキアを回収することです」
当然、と、まるで臆さないネビル。
もちろん間違ったことは言ってないので、それは正しい。
こめかみをひくつかせたもののジャネットは未だ小康状態だ。
「あなたは問題行動を咎められここに呼ばれました。それは理解してる?」
「はい」
即答だった。
14
:
スコール
:2010/08/13(金) 12:45:11
読み返した
誤字脱字、多すぎ
ちゃんと設定まとめる
どっかの故事に習うとしよう
>>15
から本気出す
15
:
スクネ
:2010/10/01(金) 22:47:03
ネビル達が乗っているのは輸送艦に見せかけた宇宙空母だった。船体後部につけられているコンテナの1つには回収したゼフェロキアがエンジニアから補給を受けている。また、他のコンテナには、その気になればこの艦内だけでMSを組み上げることが可能な程の量の物質や遠隔操作の無人攻撃機、コンテナにカモフラージュされた砲塔が隠れている。
ブリッジには艦内権限がトップの艦長代行ジャネットと、艦の運行を担うオペレーターがチーフ・オペレーターのトルエン=グーフィールド以下4名が働いていた。警戒態勢が解除されるとそそくさと2名のオペレーターが退出した。彼らはこの時間、非勤務時間なので当たり前の行動だった。しかし、誰が見ても怒りに当てられる前に逃げ出したのは明らかだ。そして、彼らの行動が正解だったのも。
ジャネットはネビルの方に向けていた椅子を元に戻した。片肘をつき、こめかみを押さえる。
「何か理由があるのなら、今言いなさい」
静かに言い放ったが、今にも爆発しそうな火薬庫の気配が、背中から漂っている。
トルエンが作業の手を止め、1段上がったところにあるキャプテンデスクを心配そうに見つめた。トルエンのオペレーターデスクからでは、ジャネットの表情は見えない。
「勘です。根拠のないものを感じました」
オペレーター全員の手が止まった。
ネビルの表情は先程から変わらず、不気味な程に自然な笑顔を張りつけたままだ。声色は真剣そのものであった。
「クライアントは条件に情報漏洩の禁止を挙げています。なのに、あなたの行動によりゼフェロキアの存在が一般市民にまで知られ、危うくこの艦の存在まで露呈するような事態になりました。まして、独断で民間人を収容して」
「今後の活動を円滑に行うためには彼が必要だと感じました」
ジャネットの両手がデスクに叩きつけられる。椅子を蹴り倒す勢いで立ち上がると、人差し指をネビルの眼前に突きつけた。
「散々勝手な真似をしておいて、英雄気取りか。ネビル=セラブロ!」
目尻がつり上がり、並の大人でも圧倒されそうな圧力がネビルに向けられていた。
「無期限謹慎を言い渡します。M-03にて通達があるまで自習をしてなさい」
言い切って、パネルを操作しデスクの高さを降ろすと、降り終わる前に飛び降り、通路への扉に向かった。
「キャプテン!」
見守っていたトルエンが口を開いた。ジャネットの足が止まる。
16
:
スクネ
:2010/10/01(金) 23:07:28
「なんだ、チーフ」
「警戒態勢を抜けたとして、依然連邦は探査の手を強めている。探知されたときに素早く手を打つため、パイロットは動けるようにしておいた方が良い」
「ソウイチローがいる。彼はMSも動かせる」
「ではバイパーは誰が動かすんだ」
「攻撃機と言っても所詮は警戒機の上位互換。MS戦の役には立たない」
そこで、ネビルが手を挙げた。
「チーフの言う通りです。確かに勝手な行動をしましたが、フェイズを円滑に進めるためには僕の力が必要ですよ」
デスクから通路の扉前まで移動していたネビルが割って入った。
「これは決定だ、チーフ。ミーコ、ソウイチローにチュートリアルを送っておいてくれ。それと、艦内権限もパイロットクラスへ変更」
「は、はい。了解しました」
相手をする気がなかったようで、ネビルの発言は無視された。ネビルは呆れたように肩をすくめると、通路へ出ていった。
突然名前を呼ばれ驚いたようだったが、ミーコ=サカザキは律儀に敬礼で返すと、艦内情報にアクセスを開始した。
「完了です。ソウイチローは現在、バイパーのメンテナンス中でコンテナにいます。念のため、自室へのコールをかけておきました」
「ありがとう。では引き続き、作業をしてくれ。今日中に出発してフェイズ2に入りたい。すぐに戻る」
それだけ言うと、ジャネットは足早に出ていった。
トルネンは納得のいかないまま作業に戻った。
3人で分担して仕事を行うものの、手はまったく足りなかった。周囲を連邦の戦艦がうろつき、関所が作られようとしていた。被検知範囲には侵入していないが、それでも繊細な仕事を要求される場面だった。
「くそ……!」
心の中で処理しようとした苛立ちが、口をついて出ていた。
17
:
スクネ
:2010/10/03(日) 11:10:53
――欄外の落書き――
ここまで推敲などはしていない。
誤字・脱字の指摘があれば是非受けたい
――終わり――
「上役達が何も言ってこない……いったい彼は……」
無重力下では安全に移動するため、壁から出たグリップを利用する。グリップは一定距離間で巡回するのでそれに掴まって移動するのだ。そのグリップを左手で掴みながら、ジャネットは右手をこめかみに当てた。
「おかしい。どういうことだか調べないと」
彼女が向かっているのはM階層だ。ネビルが謹慎を言い渡された03号室のある場所だ。深部にあり、自習室が並んでいる。つまり、隔離された捕虜などの収容室だ。
グリップからグリップへ、慣れた手つきで移動していた。T字路に差し掛かり、三角跳びの要領で曲がろうと壁を蹴ると、向かいから人影が飛び出した。ぶつからないよう、後ろ手でグリップを掴み、体を安定させ、空中で静止した。
「キャプテンジャネット」
呼びかけてきた人影はソウイチローだった。手には電子端末を持っている。部屋の情報端末と同期してあるのだろう。
「これはいったいどういうことです?契約書にも依頼にもこんなこと書いてありませんでした」
ソウイチローは止まるとき、天井のグリップを利用したため、ジャネットからは見上げる形だ。手に持った持った電子端末を操作すると、ディスプレイがソウイチロー側からジャネット側へ入れ替わった。それを突き出すようにしている。そこにはミーコが送ったチュートリアルファイルと任務の追加、及び権限開放の旨が書かれた文書が映されている。
「緊急処置よ。パイロットは今自由に動けないの」
「謹慎でしょ。勝手だけどここは軍じゃないんですよ。結局失敗もしてないし」
「その考えは甘いわ。それに今回は運が良かっただけ、次に似たようなことを繰り返したら今度こそアウトよ」
ジャネットは、ソウイチローが民間人ソール=バリトンの処置を近くで見ていたことを思い出した。バイパーで安全な経路の案内と、連邦の警備体制を攪乱させたのは彼だ。
「それは命令よ、もう決定された。職責が増えるのはかわいそうだけど、あなたがやってくれないと」
「それならあの一般人を使ってください。ネビルが言ってましたよ。撃って落としたのは彼だって」
その報告はネビルの口から直接聞いているし、コックピット内部の映像も既に見ていた。ネビルと同じように、感情の起伏が外から判断できないタイプの人間だと、一発で見切っていた。
「わかっています。でも、彼を使うわけにはいかないでしょう?最悪の事態に陥る可能性だってあるの」
民間人を起用するには手続きが必要だろう。自由に使える頃には、艦のまわりをMSに囲まれているはずだ。勝手に使えば上役達の機嫌を損ね、艦と心中することにもなりかねない。そんなことで命を散らすのはこの艦のクルー全員にとってご免だった。
「これ以上、何もないわね?艦長代理の権限でそれらの処置を行います。ソウイチロー=ヤギ。持ち場に戻りなさい」
声色を低くした職務モードに切り替えた状態で言い放った。これ以上異論を言ったところで希望が叶うことはないだろう。
「了解しました。職務に戻ります」
端末を脇に抱え、軍人に見られれば鉄拳修正をうけそうな敬礼を披露した後、ソウイチローはジャネットの脇を抜けていった。ジャネットはソウイチローの姿がブリッジとは反対方向に遠ざかっていくのを見届けた後、移動を再開した。
「個人で勝手な行動をすれば、誰かの仕事が増えるのは当たり前なの。もう大人になってもいい年でしょう」
それはネビルに向けた言葉か、ソウイチローに向けた言葉か。あるいは両方に向けた言葉だった。
18
:
スクネ
:2010/10/23(土) 21:58:28
「こんなところで油売ってていいのか?ソウイチローのやつはどっか行っちまうし」
コンテナの壁にゼフェロキアは掛けられていた。動かないよう拘束具をつけられた姿は、訪れた島で縛り付けにされたガリヴァーのようでもある。その機体には数人のエンジニアと作業機械がたかっている。多脚の作業機械はまさに蜘蛛といった形状で、エンジニア達からはアラクネなどと
呼ばれている。先程の戦闘でゼフェロキアがダメージを受けた箇所の修理は終わっていた。現在は塗料の塗布や潤滑油を差すなど調整にあたる作業が始まっている。
「あいつどうしたって言うんだ?すごい慌ててたぞ?」
エンジニアはキャットウォークの上からゼフェロキアと膝の上の情報端末を交互に観察している。彼はここ、3番コンテナで情報技術を担当していて、エンジニア共通のえんじ色のつなぎの上に置かれた情報端末の画面にはプログラム言語が淀みなく流れている。目を離すべき作業ではないスペルチェックで時折ゼフェロキアに目を向けるのは、さも作業しているという体を演じる彼なりのカモフラージュのようだ。
「お前と話してたみたいだし、何か知らないのか?おい、聞いてるのか?ネビル」
彼がこうもしつこく聞くのはソウイチローと彼が面識があったからだ。ヴァイパーの置かれている2番コンテナのエンジニアと共同でバグチェックをしたことがあり、そのときソウイチローも一緒に手伝っていた。また直接、情報端末のカスタマイズをソウイチローに教えたこともある。彼は地球から2番目に遠いコロニー2で農作物の管理を生業としている弟をソウイチローの姿から思い出していて、つい心配をしてしまっていた。ソウイチローは彼を知らない。3番コンテナといえばネビルのゼフェロキアが置かれているぐらいにしか印象が無かった。
エンジニアの斜め後ろ、壁に寄りかかり、腕を組み、ネビルはゼフェロキアの姿を静かに見ていた。エンジニアに話しかけられても反応がない。
「やっと始まりましたよ。ここからです。全ては」
口を開きはしたが意味のわからないことを言うので思わずエンジニアは振り返った。しかしネビルは出口に向かって移動し始めたところで、エンジニアがその姿を認めたときには靴の裏しか見えなかった。
「……なんだってんだ?」
数秒その姿を見た後、考えるのをあきらめるように作業に戻った。彼が作ったゼフェロキア専用自動スペルチェックツールによってプログラムから計12個の記述ミスが見つかっていた。
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