したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |

本のブログ(2013年から新規)

368korou:2017/11/30(木) 12:24:04
山中伸弥、平尾誠二・惠子「友情」(講談社)を読了。

今年一番の本ではないかとの評価が高いベストセラーなので一読。
想像通りの”熱い友情”、それも
成熟した40代の男性同士のそれがほとばしるような本だった。
40代の後半に至って初めて知り合ったというのに
急速に親密な仲になって
そこから癌との闘病という体験を味わうというドラマは
出版社としては見逃せない展開だろう。
山中教授の専門外だけど熱い男気の語りから始まり
平尾夫人の家族ならではの思いが、それでも想像以上冷静に語られ
最後に、最初の出会いとなった雑誌対談の再録という構成になっている。

ただし、この本は
平尾誠二という人がどれほど凄い人だったのかを
ある程度は知らないと
本当の意味では深くは読めないような気がする。
せいぜい松尾雄治まででラグビー観戦歴が止まっている自分としては
平尾という人について
ほぼ知らないに等しいので
その点は読んでいて我ながら歯がゆかった。
山中さんがぞっこん惚れこんでいるせいで
文章が上滑りになっているのが
そのままストレートに感じられるのも
そういう面が大きいはずだ。

ラグビー好きで平尾の偉大さを知っている人なら
この本はすごく印象に残るだろうし、いろいろな個所で落涙するのかもしれない。
自分には「ちょっといい本読んだ」という感想しか残らなかった。

369korou:2017/12/01(金) 16:40:35
西本紘奈「六兆年と一夜物語」(角川ビーンズ文庫)を予定外に読了。

ちょとだけ中身確認のつもりが
一気に最後まで読み切ってしまった。
とはいうものの
まるで詩集じゃないかと思われるほど字句がスカスカに空いていたので
普通に読み通すことができた。
276pの文庫本だが、誰でも1時間ちょっとで読破できるだろう。

内容は極端な設定のセカイ系恋愛小説で
セカイ系だけにSFっぽいネタで終わってしまう。
実体はボカロ小説らしいのだが
何せ原曲のことは知らないし
そもそもボカロ小説としての良しあしなど皆目分からないので
そのへんはなんとも言いようがない。

セカイ系としては、まずまず手順がきちんとふまれていて
そのへんんは安心できる描写になっている。
ただし、ある程度割り切って読まないと(ライトノベルっぽさとかを)
普通の小説しか知らない人には
抵抗感がある文体、構成、描写だ。

アマゾンでは
ボカロとしての出来に疑問符を抱く書評が多く
私のような評価をしている人は少ないのだが
まあいろんな読者がいてもいいだろうと思っている。

370korou:2017/12/08(金) 12:49:00
佐野徹夜「この世界にiをこめて」(メディアワークス文庫)を読了。

久々にメディアワークス文庫らしいストーリー、文体の小説を
読んだ気がする。
主人公はティーン世代で
どことなく世界とうまく折り合えない性格で
それでいて、なんとなくその主人公を気にしている女の子がいて
どういうわけかその女の子が(主人公にとっては)無意味に可愛くて
最後は主人公がちょっとだけ世界と折り合えた気になる・・・という感じ。
そういう王道のMW文庫だった。

やたら小説の意味、小説を書くという行為への意味を反復するので
そこは著者と著作という小説のお決まりの約束事を逸脱するようでもあり
そこを逸脱することによって、より深い何かを目指しているようでもあり
この小説全体の印象で言えば
そこは部分的に成功しているものの部分的には破綻している。
ただし、それらは登場人物への感情移入という側面からみれば
大きな傷ではない。
この小説の主人公、ヒロイン、そして重要な第2ヒロインすべてが
十分に魅力的だ。
この小説の美点は100%そこにある。

こういう素敵なパーソナリティを造形できる作者ーーいかにも
MW文庫にふさわしい
久々にMW文庫のそうした魅力に酔うことができた。
これが第2作だが、評判の第1作も読んでみたい。

371korou:2017/12/10(日) 17:00:39
望月衣塑子「新聞記者」(角川新書)を読了。

今年、官房長官記者会見でお約束の質疑応答の枠を打ち破って
一躍注目された新聞記者による著書である。
ただし、ジャーナリズムのことを論じた本とは言えない。
自身の生い立ち、取材の経歴などがずっと語られ
その合間合間に新聞記者としての学び、得られた職業意識、矜持などが
行間から滲み出てくるといった類の文章である。
しかも、その取材経過の記述が
本当に新聞記者かと思えるほど上手くなく
読んでいて、なぜこの記述になるのか
直前の数ページを読み直さなければならないことが何回かあり
読み通すのに予想外なほど苦労した。
また文章の端々から自然に感じられるニュアンスというものにも
意外なほど鈍感な感じを受け
これはこう書くと「自慢」として受け取られるぞという箇所で
無防備にそう書き流しているのも目立った。

ゆえに、今の職場でこの本を提供する価値は
読破前より遥かに低くなった。
ちょっとだけ功績を挙げた女性中堅記者の「自慢」話、
それもよく整理されていない、けれども書名からはジャーナリズムの話かな
と誤解されるような、でもそうではない散漫な話を
受験生には提供できない。

この本のいろいろな欠点をすべて承知して
なおかつ権力と対峙する一人の人間を応援してあげたいと思っているなら
断然オススメできる本である。
なかなか評価の難しい本であることは間違いない。

372korou:2017/12/16(土) 15:38:44
松浦哲也「母さん、ごめん 50代独身男の介護奮闘記」(日経BP社)を読了。

全く飽きずに夢中に読んだ。
介護ルポでこれほど我を忘れて読ませるものは
かつてなかったのではないかと思われる。
的確に表現される介護の実態と
できるだけ冷静に対応しようと思いつつ
一人の人間として仕方ない感情の動きも記述されていて
まさにリアリティ抜群で
あたかも読者をして「じぶんごと」の介護を体験可能なように思わせ
かつ再現されている稀有の名著だった。

自分にはここまで冷静には対応できそうもないし
もっと雑に済ませてしまいそうで
ある意味無自覚だった今までの自分が怖くなる思いだった。
親の介護はもうなくなったが
自分がそうなってしまうか、家人がそうなってしまうかという
近未来が待っている。
お金のことも、これからは期待できないので
そこも心配ではある。

自分としては、やはりガンで亡くなるほうが
人への迷惑のかけ具合が違うので望ましく思っている。
そこが自分で選択できないのが
「死」というものの不合理で厄介な部分なのだが。

とにかく今年一番といって良いドキュメンタリーだった。
誰にでも迷いなくオススメできる本である。

373korou:2017/12/23(土) 23:03:24
今村昌弘「屍人荘の殺人」(東京創元社)を読了。

新人の作品(鮎川哲也賞受賞作)ながら
今年度のミステリーNo.1の作品との高評価を得ている話題作である。
出だしは、西澤保彦の「七回死んだ男」のような独特の軽妙な筆致で読ませるのだが
展開が遅くてダレ気味なのも事実で、読み進めるのがしんどい感じがした。
しかし、どこかに凄いものがあるのだろうと期待だけを先行させて読み進め
ついに事件は起こるのだが、それがゾンビ出現というあり得ない設定であるため
面白さは増すものの、どこかで釈然としない感覚が残ってしまう。
後半はさすがに一気読みさせる筆力だったが
ありがちな結末のまま終わってしまうので
本格推理としての新味には乏しい。
実際のところ、もう一ひねりがあって、あっと驚く結末なのかと期待してしまったのだが・・・
それは何もなかった。

ゾンビが密室状態を作る重要な要素となっている点が新味かもしれない。
でもゾンビは非現実であり、空想上の産物でしかない。
本格推理にそれを持ち込むのは違反行為ではないかと思う。
本格推理の部分も、若い女性がそれだけの動機で大量殺人を計画し
実際に殺人を実行するという点においてムリがある。
細かくみれば、本人は直接手を下していないのでアリなのかもしれないが
ゾンビが出現しなかった場合、直接人を殺すことになるのだから
設定そのものにリアリティがない。

というわけで、面白く読んだ割には
読後感はすっきりとしないものが残った。
絶賛する玄人筋の感覚が分からない。

374korou:2017/12/30(土) 15:59:31
野村達雄「ど田舎うまれ、ポケモンGOをつくる」(小学館・集英社プロダクション)を読了。

ポケモンGOというものがどういう経緯で生まれたものなのかという
ごう普通の好奇心で読み始めたものの
その中心人物であるらしいこの著者の生い立ちについて
冒頭から著者自身によって淡々と語られ
人生の始まりがこれほど劇的な運命で定められていたのだという驚きで
読む前には想像もしていなかった展開となる。
中国大陸から日本に移住して
貧しさからも少しずつ脱却していくにつれ
徐々に現代日本に生きる若者らしい物語となっていくが
相変わらず、チャレンジする心なしでは何も解決しない状況は続く。
独学でパソコンのプログラミングを習得することに
半分失敗していたことに
自分と同じ体験をしているという親近感も湧くが
この人は新世代らしく、進路をそこに絞って専門の大学に進み
そこから独学の歪みを修正することができたのだから
世代の違いを思うとき、やや羨ましい気もするのは仕方ない。

あとは行動力で一気に大学院からグーグルに辿り着き
そこでポケモンGOのアイデアを実現させたのだから
今のところ悔いなき良き人生になっている。
本人の資質、幸運、その運を実現させる実行力の賜物というほかないが
そういう成功物語そのものについては
残念ながら類型的な話に終わっている。
ポケモンGOプロジェクトを推進したポケモン会社のトップが
いみじくも感動したように
この物語の肝は、やはり著者の生い立ちにあるように思える。
この生い立ちから、この大プロジェクトの成功までの経緯そのもの、経緯すべて全体が
素晴らしい物語であるように思えた。

375korou:2018/01/02(火) 15:46:43
新年最初の書評は昨年からの持ち越し読書。
NHKスペシャル取材班編「人工知能の「最適解」と人間の選択」(NHK出版新書)を読了。

NHKによる人工知能関連新書の第2弾。
前回の著作は
人工知能が単なる高性能のコンピュータというイメージにとどまらないということを
将棋の羽生名人という人類最高級の知性をうまく絡ませながら示した見事な新書だったが
今回の新書は
そこからどこまでの進展があって、今現在どんな状況なのかということを示した
まさに続編という形になっていた(読む前の推察通り)。
ただし、状況はますます分かりにくくなっていて
それに対する編集チームのまとめにも
いくらか現実に対する(「人間側」とでもいうべき)価値判断を随所に挟んできているので
全体として面白みに欠けてしまったように思われる。
まだ、価値判断を下してどうのこうのという現状ではないように思えた。
まだ、こんなことも可能になってきた、そしてその結果こんな未来が見えてきた
という驚きと興奮で現状を描き切るべきではなかったかと思う。
まあ、NHKの立場では、いつまでも面白がるというスタンスがとりにくいのだろうけど。

というわけで、期待に反して、面白い読書にはならなかった。
読んでいて眠気さえ覚えた。
まだまだ具体的なイメージを共有するにはムリがあるので
価値判断そのものが常識的な範囲になってしまう。
もっと面白く描けるはずなのに、という不満が先立ってしまう。
あと5年待てば、もっと面白い本になったはずなのに、という根本的な不満。

376korou:2018/01/05(金) 16:52:24
ジョン・ハンケ「ジョン・ハンケ 世界をめぐる冒険」(星海社)を読了。

「ど田舎うまれ、ポケモンGOをつくる」を読んだ直後で読了。
ただし、読み始めはこちらの本のほうが先で
年末から年始にかけて読んだ次第。
このハンケの本にも、野村達雄のことが書かれていて
ポケモンGOをめぐる日本の関係者は
上記2冊において、ほぼ重複して出てくるのが
当たり前とはいえ面白い。

ハンケという新しい世代の技術者の
その人となりとか、今までの仕事ぶりが
本人の口を通して、簡潔に語られている本である、
グーグルアースとポケモンGOを普及させただけで
もう現代の伝説上の人物と言ってよいが
いかにも技術者らしく
どことなく謙虚で、控え目ながら
自ら信じる方向については断固として譲らない。
まあ理系の人なので
その信条について不明瞭なところはほぼなくて
言いたいことはよく分かる。
それにしても、そんなに外へ出て行動することに重点を置くとはねえ・・・
ポケモンGOのブームの後では
後付けみたいに感じてしまうのだが。

分かりやすいので、安心してオススメできる本ではあります。

377korou:2018/01/07(日) 12:49:58
新海誠「小説 君の名は」(角川文庫)を読了。

TV初放映の同名の映画を観終わって
もう少しその世界観を深めてみたいという思いと
いまひとつ理解できなかった細部を確かめたいという気持ちで
監督自身によるノベライズの本を読もうと思ったのが契機。
本編読了後にあとがきを読んで
この本が映画公開前に書かれたことを知る(というか、購入時の経緯から「思い出す」)。
細部の変更はなかったので
公開後のノベライズだと言われても納得できたとは思うが。

細部の発見はあったものの(彗星の落下直前の三葉の”心”は瀧だった)
死亡リストにあった三葉が
なぜ最後に瀧と出会うのか、いまだに理解できない。
瀧は3年前に戻って過去を変えることができた、ということなのか?
パラレルワールドとして、瀧はその変更された未来に生きて
生き残った三葉に出会ったのか?
作品のテーマについて、そのへんは大きな要素ではないのだが
ストーリーとしてどうも釈然としない。
映画のノベライズのようなタッチで書かれているのだから
そのへんを理屈っぽく書いても
特にヘンな感じにはならなかったはずだから
そこはきっちり書いてほしかった(映画でそこを強調すると気分が萎えてしまうので
そこはぼかしてあったのは正解だろ思うが・・・)

まあ映画とセットで読む小説である。
単体で読んでもあまり意味のある読書にはならないだろう。

378korou:2018/01/10(水) 20:30:57
矢部太郎「大家さんと僕」(新潮社)を読了。

ごくシンプルなコミックエッセイなので
このスレに感想を書くほどでもないのだが
最近売れているこの本について
読後の感想として一つだけ書くとしたら
この本の魅力は
老婦人の佇まいの綺麗さにあるのだろうと思った。
マンガそのものは
アマチュアの人が初めて書いたものにしては
随分と達者で
少なくとも意味は十分に伝わる画力だった。
ただし、お笑いの人らしいくすぐりが乏しく
全体としてシリアスな感触が強く
本来なら言葉で語られる内容なのだがと思ってしまった。
しかし、その分、主観によるブレが最小限に止められ
大家さんである老婦人の人となりがよく伝わるのである。
そして、佇まいが控え目で、でも十分に人間的。
誰もこの感じを悪くは言えないだろうなと思った。

時間つぶしには最適なライトなコミックエッセイ。

379korou:2018/01/16(火) 12:49:53
夏目漱石「それから」(新潮文庫)を読了。

昨年末から読み続けていて
どうにも読み進めるスピードが出なくて
そろそろ2か月近くなるのではと思うほどの長期の読書となったが
最後の最後で
作品そのものの急な展開もあって
最後のあたりは結構一気読みに近くなった。

そこに至るまで
何の面白みもないというか
韜晦な主人公の勝手な理屈を延々と聞かされ
その理屈のなかで最悪なものを選択して
突如実行に移し、案の定カタストロフィーを迎えるのだから
漱石でなければ、さっさと投げ出していたに違いない。
さすがに漱石はそういう感覚にしておきながら
読者をひきつける「何か」を持っていて
読書そのものへの苦痛は一切感じなかった。

ただ、漱石らしい名作かと問われると
なかなか評価が難しい。
もっと書きようがあったはずだし
新聞小説という制約も感じられる。
あくまでも漱石ファンのための作品、と言ってよいだろう。

380korou:2018/01/16(火) 16:12:36
磯田道史「『司馬遼太郎』で学ぶ日本史」(NHK出版新書)を読了。

読み進めようかどうしようかと迷いながら読み始め
予想通り、自分の「司馬史観」への関心のなさに我ながら辟易しながら
なんとか最後まで読み終える。

代表作のチョイスは納得いくものだし
それについての解説も
まずまず的を得ていて全く問題ないのだが
それでいて違和感ばかりが残る。
やはり、司馬さん自身に
歴史をもとにしたなにがしかの主張があるのに
それをフィクションで描いてイメージも動員しようとするところに
矛盾があるのではないか。
司馬作品を読んでいると
どうしてもフィクションだろうという思いが強くなり
それでいて現実世界の現在と過去にコミットしていくのだから
始末が悪い。
司馬信者は、そのへんを曖昧なままにして誤魔化しているように見える。

こうして読後に振り返ってみると
案外、つまらない読書だったように思える。
本として客観的にどんなレベルかということは別にして。

381korou:2018/01/22(月) 16:19:46
眉村卓「妻に捧げた1778話」(新潮新書)を読了。

一風変わった著作であることは承知の上で
しかも、職場の蔵書にはふさわしくないことはすでに判断済みながら
ここにきて再びブーム(アメトーク?)が来たので
予算も潤沢なことだし、購入を決意。

事前チェックのつもりが
やはり内容が内容だけに身に染みてきた。
若い人が読んでも今一つピンと来ないかもしれないが
これは熟年夫婦の立場で読むと
文章の端々に敏感に反応せざるを得なくなる。
感情を抑えたトーンで書いてあるので
その場でワアーというのではなく、じわじわと沁みてくる感じだ。
ショートショートの出来がどんどん深化していくのも
意味深いものを感じる。

読む人を選ぶエッセイだろう。
感情移入できる人には大変な感動作品になる。
そうでない人には、今一つかもしれない。

382korou:2018/01/28(日) 21:23:59
望月拓海「毎年、記憶を失う彼女の救いかた」(講談社タイガ)を読了。

設定が今流行りの「記憶喪失」なので
感情移入はし易く
文体も、賛否はあるだろうが適度の軽さと特徴ある短さで
読みやすさもあって
割合とスムーズに読み進めることができた。
ただし、設定の細かいところはイマイチ雑な感じも受けたし
ヒロインの性格も不必要に複雑に書き込まれるので
徐々に「どうなのかな?」という疑問もふくらんでくる。
おまけに300ページというのは決して短くはないし。

170ページのあたりで
新たな展開が出てくるにおよんで
一気に物語は動き始める。
人によって読解力は異なるだろうが
普通程度の読者(自分も)であれば
おそらくヒロインと同時に、その真実に驚いたはずだ。

そして、最後のほうで
もう一つの真実が提示され
もはや「参った!」と言わざるを得なくなる。
こちらは結構多くの読者にとって予想外な展開だったはずで
そのまま、ハイテンションの読後感のまま物語は終わる。

見事なまでのストレート純愛物で
そこへのミステリの噛ませ方は、メフィスト賞受賞作の名に恥じないものがある。

使い古された設定を、シンプルだけど巧みに展開させた佳作。
高校生くらいの世代には文句なしにオススメできる(大人はいろいろと意見が出るだろうが)

383korou:2018/01/29(月) 16:50:50
野口悠紀雄「入門ビットコインとブロックチェーン」(PHPビジネス新書)を読了。

知的興奮という意味では
まさにAIの進化を知ったとき以来の大興奮となった。
”ブロックチェーン”という新機軸が
その概要は、読後において
ほとんど理解不能なまま終わったのだけれども
その新しい機能が書かれているとおり有効なものだとしたら
これからの社会にある程度のインパクトを与えるものであることは
確かだろうから。
AIよりもっと分かりにくい技術革新だが
野口さんのわかりやすい図表により
それを管理者側の革新とイメージすることによって
AIの進化と対比した四分法で
その概要を理解することはできる。

生半可な読後感なのに(つまり、何も分かっていないのに)
読後の高揚感は大きい。
もっともっと知りたいと思わされた近未来予測の本として
この本をとらえた自分が居る。
もはやビットコインなどはどうでもよい(笑)

384korou:2018/01/30(火) 13:54:05
村上春樹「バースデイ・ガール」(新潮社)を読了。

ごく短い小説が一つだけ。
ドイツ生まれのイラストレーターによるイラストがふんだんについている
”アートブック”の体裁だ。
イラスト混じりで60ページにも満たないので
2.30分で読了できる。

どこを切っても「春樹風味」が漂う一編。
テイストは、アメリカの作家のショートショートのようで
どこにも日本の風土が感じられない(六本木、東京タワーという固有名詞も出ているというのに)
ストーリーを引っ張っている謎、仕掛けが
読者の関心の的から微妙にズレているのも
いつも通りの「奇妙な味」を醸し出す演出に思える。
ただ、オーナーである老人のキャラが
きっちり描かれていて
さすがにこれだけの短さのなかに読後に印象が残る人物を造形し得ているのは
さすがにムラカミハルキと思った。

これ以外の感想はもう思いつかない。
あとは言葉にならない地点で思いにふけるだけ。

385korou:2018/02/02(金) 11:24:53
佐藤航陽「お金2.0」(幻冬舎)を読了。

野口悠紀雄さんの本と並行して読みつつ
さらに藤原和博さんの本にも関連していることに驚きつつ
なんとか読み終えた。
素晴らしい本だと思うのだが
読了に面倒臭さを感じてしまった理由は
随所に出てくる断定口調に思わず「うさんくささ」を連想してしまったこととか
あまりに大きなテーマなのに
その根拠が今一つ迫力不足であることなどが関係している。
ただ、そういう欠点もありながら
全体として時代の洞察という点で光るものがある著作であることも
間違いない「野心作」だ。

この本は野口さんの著作より一歩踏み込んで
資本主義の究極の修正版として「価値主義」なるものを提唱しているのだが
それは、もう片方にAI革命をイメージしていることが大きい。
ブロックチェーンというデータの正確さを保証する仕組みと
AIという自動処理の極致ともいえる手法が合わさったときに
従来の国家対個人、大資本対個人という図式が揺らいでくるという予測には
思わずワクワクさせられる。
ただし、本当にそういう方向にのみ世界は動くだろうか?
少なくとも、自然と対峙している世界、食料・燃料を確保する分野において
ブロックチェーンもAIも無力であることは間違いない。
そういうものを除いた限定的な分野だけについていえば
この本が予測している世界は、十分近未来の世界としてイメージできるのだが。
どちらにせよ、読む人に予想以上のインスパイアを与える話題作であることには
間違いない。

386korou:2018/02/07(水) 12:43:29
「マンガでわかる ビットコインと仮想通貨」(池田書店)を読了。

一連の仮想通貨&ブロックチェーンの説明本読書の一環として読む。
最初に野口さんの本を読んだときの知的興奮が
かなり醒めてきたのは否めない。
ちょうど取引所の不祥事が発生して
その信頼性に大きな疑問がついたのも大きい。
何よりも、「個」対「個」といいながら
現実には、国家レベルのスーパーコンピュータによる数式解読が必要であり
さらに不完全な取引所制度を管理する国による規制も必要であることも
分かってきた。

加えて、ブロックチェーンの正しい使い方は
国境を越えた「個」の結合が可能というところに尽きるが
現実には「根拠なく高騰する株」同様、投機向けの利用が
過熱しているだけという状況がある。

すべてを考慮して冷静に判断すれば
ブロックチェーンの構造はともかく
その運用が普通の人間にはできないようにも思える。
そこのところをもう少し慎重に吟味してほしいのだが
今回のマンガ解説本は
あまりに楽観的すぎる。
ブロックチェーンでも違法を追跡できると断言しているのには
苦笑せざるを得ない。

まあ、これについては・・・・難しい・・・(笑)

387korou:2018/02/19(月) 16:48:17
池上彰「知らないではすまされない自衛隊の本当の実力」(SB新書)を読了。

自衛隊についての具体的な知識を得たくて読んでみたが
肝心なところが曖昧に書かれていて
池上さんでもやはりこの類の本は難しいのだなと
思わざるを得なかった。
防衛についての正しい情報、詳しい情報は
どうしても外交機密となってしまうので
肝心なところはすべて推定になってしまい
さらに、理屈を並べながら様々なことを指摘しようものなら
もはやその時点でその本は政争の具として利用されてしまうという
悲しいというか仕方ない現実がある。
部分的には役に立つ知識もあったが
全体としては特に記憶すべき知見はなかったというのが
読後の正直な感想である。

こういう分野は断然「陰謀史観」の本が強い。
とりあえず偏った立場を徹底して追及することで
中立な立場では見えないものが一気に見えてくるからだ。
結局のところ、政治に絡むものはすべてそうなのかもしれない。
その意味で、常識的な池上さんには
いかにも不向きな分野の本だった。

388korou:2018/03/07(水) 20:16:40
柞刈湯葉「横浜駅SF」(KADOKAWA)を読了。

読む気がなかった本だが
某氏(内海氏)が注目していた作品だったため
ついつい読む羽目に。
読み始めは設定についていけなくて辛い感じだったものの
途中からはなぜかかつてない感覚の面白さを感じ始め
最後は一気読みに近い感じになってしまった。

本当に分からないこの面白さ。
書いてあることの半分は、本当の意味で理解できていないのに
それでいて先へ先へとページを繰ってしまったのは何故なのだろう?
あまりこの種のSFを読まないので
いかにも奇想天外な発想に驚くほかないが
それ以上に、その風変わりな世界で生きている登場人物たちの
確かな実在感が不思議すぎる。
普通ならあり得ない世界でのたわごとで終わるはずなのだが・・・

何というか
読後でさえ印象がつかめない珍作である。
他の人に薦めて感想を聞きたいが
むやみに薦めるのも憚られるマニアックな本ともいえる。
ライトノベルのランキングで第1位になっているので
案外そういう小説のファンが飛びつくジャンルなのかもしれない。
SFというより、重厚なラノベなのだろうか・・・?

389korou:2018/03/08(木) 16:14:04
村山冶・松本正・小俣一平「田中角栄を逮捕した男 吉永祐介と特捜検察「栄光」の裏側」(朝日新聞出版)を読了。

勤務先との関係もあって
吉永祐介の本を読むことにしたが
そもそも吉永の本など、もう入手困難な時代になっている。
現役で大活躍のときでさえ
その職種の特殊さから知名度に乏しく
ましてその生涯を追った本など売れるはずもない。
かろうじて入手可能なこの本を読み始め
その地味な足跡をたどること4ヶ月近くに及び
やっと今日読破できた(腰痛で連日年休をとったせいでもある)。

予想通りというか
もはや旧時代の遺影でしかない吉永祐介という人物。
残した業績の割には感銘を受ける部分が乏しかった。
検察官僚として、現場の最高責任者としてなら優秀だったのだろう。
それも、とびきり優秀だったのだろう。
でも、それ以外何もない人間。
そういう人たちの集まる検察庁というところ。
自分には本当に無縁な場所だと思った。

さらに鼎談を組んだ3名の記者たちの感覚も
今の我々、2018年に生きる一庶民の感覚とズレている。
でも、この時代ではスター記者だったのだろう。

というわけで
長く読んだ割には得るものは乏しい本だった。
昭和史の一つとして読むのなら、優れた裏面史なのかもしれない。
でも読みやすさに比して得るものは乏しい本である(検察の未来が書いてあるのにもかかわらず)

390korou:2018/03/11(日) 12:59:41
断念した本・・・竹中千春「ガンディー」(岩波新書)

ガンディーについて
以前から関心はあったものの
詳しくは知らなかったわけで
その意味で今回の岩波新書の新刊には期待十分で
読み始めたのだが・・・

著者が専門家であることは疑いもない。
時間さえあれば、不明な点を確かめつつ読み進めることも可能だったが・・・

なにせ入門編として読むには
不親切な記述が多すぎる。
ガンディーの業績を細かく記述するよりも
当時のインドの状況をもっと分かりやすく説明すべきだっただろう。
そもそもの前提が分からないと
その前提に向かって対決したはずのガンディーの行動、決意の尊さについても
なにも分からないというのが読書中の感想である。

Wikipediaで当時のインド独立運動の様子をまとめ読みしてみると
新書に10時間以上費やして得た情報量以上のものが
わずか1時間弱で得られた。
もちろん細部は不明だが
その細部を読む込むには
この新書は不向きである。
残念というほかないが。

391korou:2018/03/12(月) 17:50:44
S・D・ロバートソン「いま、君にさよならを告げる」(ハーパーコリンズ・ジャパン)を読了。

「横浜駅SF」に続いて、勤務先イベント(30選)用の読書。
読んでみて、前回同様30選にふさわしいクオリティだったので一安心。
外国物はなかなか難しいのだが、できれば入れておきたいので、ちょうど良かった。

内容は、SF、ファンタジーが絡んだ家族愛の物語で
あり得ない設定がどんどん出てくるのだが
描写そのものは
リアルで具体的でものすごくオーソドックスなので
物語の世界に入り込めないということはない(登場人物の性格に共感できるかどうかは別として)。

なぜおじいさんのホモ話が必要なのかという疑問はあるものの
それ以外は推進力抜群のストーリーで実に読みやすい。

読みやすさが一番の魅力で
それでいて全然雑でないというのがいいところ。
書名とか、冒頭の設定とかで泣かせる流れになっているのは
ちょっとマイナスかも。
これは泣かせるというより、分かりやすく考えさせられるというところに
美点のある物語だろう。

他にもっと同種の優れた小説があれば別だが
とりあえずこれでも全然問題ないというところ。

392korou:2018/03/18(日) 15:21:47
新井紀子「AI vs 教科書が読めない子供たち」(東洋経済新報社)を読了。

見事な著作である。
末尾に記された今後の計画についても
当節なかなかお目にかかれない「志」が感じられて
感銘するほかない。
この本に関する限り、完璧としかいいようがない。

余談にはなるが
この本についてのアマゾンの書評の酷さには驚くばかりである。
まさに「本が読めない大人たち」がよってたかって
自らの愚鈍さを表明しているようなものだ。
自分で例示しておいて、その例示がこの本で示されたものと勘違いしたまま悪評を下す人。
自分に読解力がないことに気づかず、問題例の矛盾とやらを指摘したつもりになって溜飲を下げる人。
ああ、確かに新井さんの言うとおりだ。
中学生のときの読解力のなさをそのまま大人まで引きずって
したり顔で書評する人がいっぱい居る。
げんなりもするが
この人たちはもう仕方ない。
この本では読解力はいつでも向上可能と書かれているが
新井さんは、限定つきで書いているのだから
そのことも織り込み済みなのだろう。
この人たちは、試練に遭わない限り、このまま自らの過ちに気づかないまま人生を終わるのだ。

だからこそ、この「志」は尊い。
これからの世代にはしっかりとしてほしい。
どんな方法でそれが可能になるのか誰にも分からないとはいえ。

393korou:2018/03/20(火) 11:33:38
山中伸弥・羽生善治「人間の未来 AIの未来」(講談社)を読了。

現代を代表する知性のお二人の対談本ということで
世間的にもまずまず売れたこの著作。
特に珍しいことが書いてあるわけではないものの
読んでいて気持ちよく脳がリフレッシュされる爽快さが
感じられる好著となっている。

新井紀子さんのように
純数学的にAIの未来を割り切るのではなく
もう少し意図せざる展開というものを無意識に混ぜながら
未来像を語る羽生さんの立ち位置は
現代の多くの人のイメージするAI観を代表するものだろう。
それに対して
山中教授の科学観、人生観は
個性が勝ち過ぎて、時に普遍性を欠くきらいもある。
しかし、そのあたりが対談という形式で
うまく中和されて、ほどよいテイストになっているところが
読みどころだ。

それにしても
やはり課題は教育ということに帰してしまう。
日本の未来は、改善されるべき教育ということで
どの本も一致するのだが
これほど皆のイメージが合致しない課題もないだろう。
難しい話だ。

394korou:2018/03/23(金) 11:45:29
土屋賢二「ソクラテスの口説き方」(文藝春秋)を読了。

たまたま手にして読み始め、やめられなくなり読破した。
前々からツチヤ氏の面白い語り口は了解していたのだが
初めてきっちり1冊の本を読んだように思う。
これほど読後に何も残らない本も珍しい、という
それ自体が珍しいタイプの賛辞を受けている本だが
本当に何も記憶に残らないし
そのことが通常の読書とは全然違う体験で貴重だと思う。
いちいち膨大な感想を要する読書をしていては
貧相なこと間違いない凡人の頭脳では身が持たない。
というか、すでにツチヤ氏の影響を受けた文体になっているのは
我ながら可笑しい。
これは侮れない「無駄な本」である。

哲学的な思考経路が、うまく「笑い」と出会った本である。
そういう類の本が楽しめる人には必読の本、オススメ度100%の本である。

395korou:2018/03/24(土) 22:50:06
エラリー・クイーン「ローマ帽子の秘密」(角川文庫)を読了。

仕事の必要で読み始める。
陽菜さん(JK)のおかげというのもあるのだが。
中学生時代にハマったミステリーで
ある意味、子供の読書から大人の読書へ成長していった時期の
代表的な読書となった本でもあり
そういう本を60歳になった今
再び新訳で読む(それも評価の高い訳で)というのも
感慨深いものがあった。

内容は全く覚えていなくて
再読とはいえ初めて読むのと同じだった。
あとがきで
優れた警察小説でもあると書いてあったが
納得である。
クイーン警部の描写は見事だった。
その反面、本格推理のフォーマットは踏んでいるものの
細部には不満が残った。
謎の解明に比べて
伏線部分が冗長に感じられた。
もっとも本格推理としてよりも警察小説としてなら
この冗長さは、むしろ丹念に書き込んだ佳作という評価になるわけだが。

思ったよりも長ったらしく
その反面、意外なほど味わい深い描写も多かった小説だった。

396korou:2018/04/02(月) 17:43:24
山白朝子「私の頭が正常であったなら」(角川書店)を読了。

乙一の別名義での作品。
ただし中田永一作品のような普通っぽいテイストに陥らず
初期の乙一作品に近い
ーー残虐なのにそれだけでない、狭い世界での話なのに身近に思えるという
不思議で魅力的な小説だったので嬉しかった。
短編集で、どの短編も面白く読めた。

それにしても
他の作家では味わえないこの風味がたまらない。
何がどう違うのかさっぱり分からないのだが
単なるホラーとは一線を画す暖かさとか
暗闇から抜け出せそうな仄かな光、希望、温かみを感じるので
全体の暗いタッチとの対比が絶妙で
読んだあとに、いかにも心に突き刺さる物語を味わったという実感に
浸れるのだ。
なかなか、こういう作家は居ない。
こんな年度末から年度初めの気忙しい時期でも
この小説は強い磁力をもって読書にいざなってくれる。

他の山白名義の作品も読みたくなった(買うぞ!職場で)

397korou:2018/04/08(日) 13:51:02
小野雅裕「宇宙に命はあるのか」(SB新書)を読了。

宇宙について書かれた本で
今までそれほど面白い本に出会ったことがなかったのだが
ついにめぐり合ったという感じ。
福岡伸一さんとはまた違った
サイエンス畑の人による優れた文章に酔いしれることができた。

一言で言って、この文章の魅力は「ワクワク感満載」ということになるだろう。
宇宙についていろいろなイマジネーションを働かせることによって生まれる
少年のようなワクワク感を
この著者は30代半ばになっても持ち続け
それを仕事として今活動しているわけだ。

その一方で
難しい内容を噛み砕いて
わかりやすくイメージ豊かに伝えるという
この種の入門書に求められることも満たしている。
SF小説の祖ジュール・ベルヌから
宇宙人との交信を夢見たフランク・ドレークまで
この200年近い人類の宇宙への夢、挑戦が
生き生きと描かれている。

ワクワク感に魅了されながら
知らなかった宇宙研究の世界の出来事について
いろいろと知ることができるというのは
なんという幸福なことであろうか。
優れた本というのは
こういう本のことを言うのだという見本のような名著である。

398korou:2018/04/10(火) 10:57:21
小林由香「ジャッジメント」(双葉社)を読了。

衝撃のデビュー作ということで
つい最近、第2作が発売されたのを機にその存在を知り
まず、1年半前に世に出たこの作品のほうを
読んでみることにした。

重たい。実に重い。
読んでいて辛くなる。
この年度変わりの気分が一定しない時期などには
本来なら読むべきないとも言えるが
今回は個人的事情により
そんなことは一切構わず読み進めることができた。
そして、読後の感想は「素晴らしい」の一言に尽きる。

まさに今この時代に書かれるべき小説だった。
そういう必然性を感じる小説にはなかなか出会えないのだが
これは全然違った。
細かく書いていけばキリがないが
日ごろ悲惨、陰惨なニュースを耳にするときに
いろいろと思ってしまうことが
この小説で一気に深く展開できたような気がする。
(もちろん、正解はない状況なので解決したわけではないのだが・・・)
最後のエピソードには思わず泣けてきた。

凄い。
読む時期さえ問題なければ
読書人必読の小説だと思った。

399korou:2018/04/11(水) 22:46:25
鴻上尚史「不死身の特攻兵」(講談社現代新書)を読了。

これもまた凄い本だった(最近「凄い本」に連続して出合う)
こういう日本人も居たのだという驚き。
それは「永遠の0」で知った驚きとは違う
現実の世界での話だったので
ひときわ感銘も深かった。

今、アマゾンの書評で否定的な意見を書いているものをあえて読んでみたのだが
いろいろと考えさせられた。
あながち間違いではない。
その人の言うとおり「特攻は無駄ではなかった」という論証も可能かもしれない。
しかし、それは単に歴史の検証にとどまる評価であって
それが現代にどういう意味があるのかというのとは別である。
戦争をどう思うかということは
その時代にあってどうだったのかということと
現代ではどういう意味をもつのかということとの
きわめて厳密な差異を知りつつも
あえて今現在で評価することでなければならない。
(その意味で「東京裁判」は滅茶苦茶ではあるのだが否定もできない

この本は、現代の日本人に書かれた本である。
当時「特攻」が有効だったかどうかなどということとは些細な話に過ぎない。
その意味で「否定的書評」もピントがズレているが
この本の第四章も、書かずもがなのことを書いているという側面は否定できない。
もう少しさらっと書いても、第三章までの迫力で十分伝わったのではないか。
まあ、第四章は現代日本人の多数意見であるから
論理的でないにしても罪は少ないが。

いずれにしても「凄い本」であることには変わりはない。

400korou:2018/04/16(月) 12:04:50
小林由香「罪人が祈るとき」(双葉社)を読了。

「ジャッジメント」があまりにも素晴らしい出来だったので
今回のこの第2作にも十分な期待といくらかの不安をもって
読み始めた。
すぐに不安は吹き飛び、作品世界に没入。
随所にシナリオ作家としての特徴が出ているのを
効果的で読みやすく思うと同時に
いくらか活字オンリーの世界である小説としては違和感も覚えつつ
それでも、読後の満足感は十分にあった。
これだけ書ける人はそうそう居ない。
いい作家に出会うことができた幸福感に浸っている。

前作は、重たいテーマでありながら連作短編であったので
やっと解放されたと思ったら、また重たいテーマで別の話という連続になり
いささか読み進めるのに疲労感も覚えたのも事実だが
今回は長編だったので、そういう「重たさへの疲労感」はなく
十分に作品世界に没入できた。
細かい違和感はともかく
やはりシリアスなテーマで一貫していて、いささかもブレがない上
各登場人物の造型が適格で、かつ心理描写が冗長でないことで
実に締まった感じが出ているのは素晴らしい限りだ。
ドラマ化も可能だし、そうなると作家としての人気も沸騰するだろう。
読後の満足感と充実感に満ちた小説だ。

401korou:2018/04/22(日) 18:19:55
七月隆文「ぼくときみの半径にだけ届く魔法」(幻冬舎)を読了。

このところテーマが重い本が多かったので
軽いタッチの会話中心で読みやすい本ということで
この本を選んでみた。
で、予想通り、読みやすく、かつ内容もありふれていてライトだった。

ナイーブで純粋な若い男性と
それよりも少し年下の難病の少女が
いつしか恋に落ちる物語・・というだけでありふれているが
それが最後にはすべての困難を乗り越えてハッピーエンドで終わるという
これ以上ない軽いタッチなので
逆に、重たい本に挑戦したいときには
どうでもいい小説に思えたかもしれない。
しかし、こういうタイプの本を読みたいときには
これ以上最適なチョイスはないだろうと思えるくらい
快適な読書であったことも確かだ。

いくらライトな心地よさがあっても
あまりにも内容空疎だったら読書の意味はない。
その意味でいえば
この小説には最低限の心理描写もあるので
ライトな小説の一つの極致としてアリだろう。

402korou:2018/04/29(日) 10:15:00
「昭和史の10大事件」(宮部みゆき×半藤一利)<文春文庫>を読了。

内容、対談者ともに食指が動いたので読み始める。
すぐに内容が薄いことに気付くが
そもそも深い内容を期待することが間違いだと思い直し
以降は楽しく読めた。

ストリップショーが10大事件というのは
完全に半藤さんの「趣味」と言えるが
その他の事件については妥当なところだろう。
①金融恐慌②2・26事件③大政翼賛会(三国同盟)④東京裁判(戦後改革)
⑤憲法第九条⑥ヌードショー⑦金閣寺消失(五輪参加)⑧第五福竜丸(ゴジラ)
⑨高度経済成長(公害・安保・新幹線)⑩宮崎勤事件

⑤が大きな項目として取り上げられているのが優れているところで
最近の人たちがこういう企画をやったとしたら
まず「10大事件」にはならない項目だろう。
こうしてみると
半藤さんの意向が大きく反映されているのか
戦後直後の価値喪失体験に関する項目が
④から⑧(部分的に⑨)まで該当している。
全体の半分がそうで
戦前の「戦争責任」関連と含めると
純粋に戦後日本独自の項目というのは
わずかに⑩だけという
ある意味極端な感じもするのだが
そんないびつな構造の対談に
宮部さんがうまく対応しているのも
読みどころの一つである。

403korou:2018/05/06(日) 18:05:42
折原一「異人たちの館」(文春文庫)を(約1週間前に)読了。

文庫本で1200円いう価格が示すように大部なミステリーで
読後の感想はほとんどの人が「お腹いっぱい」と言わざるを得ないだろう
まれにみる異色作だった。
伏線はほぼ回収されているとはいえ
不自然な設定が随所に見られ
ツッコミどころ満載だが
それ以上に作者が提示したありとあらゆる仕掛けに振り回され
結果として途中止めできない熱中を生み出しているのは
多くの読者共通の感想になるはずだろうから
いかに破綻していようと駄作では決してないことは断言できる。

それにしても、思わせぶりな描写が満載で
その割には仕掛けそのものは強引さが目立つわけで
その意味では文句なしの名作とは言えない。
でも・・・最低の作品なんてことは絶対にない・
・・という繰り返しになってしまうのだ。

もう具体的にどうのこうのという筋を書く気力も出てこない。
疲れる読書だし、こんな風に読後1週間も感想記入を放置してしまうような
作品であることも確かだ。
同時に、この疲労感を共有してほしいと無闇に他人に勧めたくなる作品でもある。
うーん、厄介だ。

404korou:2018/05/07(月) 22:57:38
宮崎駿(インタビュアー・渋谷陽一)「風の帰る場所」(文春ジブリ文庫)を読了。

図書委員会文化祭展示企画の参考資料として一気に読了。
いろいろと気難しい感じの宮崎駿に対座して
あの(70年代DJ界のヒーローだった)渋谷陽一がいろいろと聞き出すといったテイストの
なかなか一筋縄ではいかない対談集である。
あまりに多くの要素が気まぐれに点在して
しかしその雑多な諸々の要素が
宮崎駿という確固とした表現者のなかできちんと位置づけされているので
読者としては、その整頓具合までちゃんと正確に把握して読み解かなければならないという
大変しんどい読書だったのだが
その反面、マルクス主義も手塚治虫も里山主義もアニメーション映画そのものについても
その他のことも全部含めて
一気に一つの人格のなかに統一してイメージするという
他の本ではなかなか体験できない、言い換えれば実に面白い読書であったことも事実である。
もちろん、これはマニアックな作業でもあるので
仕事の一環としてこの本を読まざるを得なかった自分は
自然とそういう方向で読書できたわけだから
ある意味ラッキーだったと言えるのだ。

宮崎駿は韜晦だけど
ちょっと前の知識人は皆こうだったのかもしれないとも思う。
今の高校生にはムリだろうなあ・・・(遠い目)

405korou:2018/05/16(水) 22:25:02
磯田道史「素顔の西郷隆盛」(新潮新書)を読了。

一度だけ西郷隆盛という人の生き様を通して把握したいと思い
読み始める。
磯田さんの本だけに叙述が淀みなく
文明批評風な隆盛評もそれほど苦にせず読めた。
何よりいいことは
本が面白かった上に、その内容がきちんと頭に入ったことで
あまりに面白すぎて、その割には後で内容が思い出せないという本も
少なくないので
そういう意味で良書と言えよう。
今振り返ってみて、大体、西郷の生き様が辿れるような気がする。

ただし深い意味では、なかなか掴めない人物で
その思想を的確にまとめるのは難しい作業だ。
何でも西洋風に思考してまとめようとすると
こういう東洋の傑物の場合
何か大きなものが抜けてしまうような気がする。

とりあえず
大河ドラマ「西郷どん」の年でもあり
当面はオススメできる本であることは確か。

406korou:2018/05/22(火) 09:11:42
宮崎駿「シュナの旅」(徳間アニメージュ文庫)を読了。

かなり前に読了していたが
今回の委員会行事に合わせて再読することに。
やはり、というべきか
以前読んだ印象は全て幻だったかのごとく
再読ではなく、新規の読書でした(笑)
ストーリーは全然記憶になくて
今回知ったストーリーは
まさに「ナウシカ」のルーツのようなもので
それは「ナウシカ」解説本に書いてあったとおり。

なぜ、宮崎サンが
そのようなストーリー、設定に惹かれるのか
その感覚自体が自分には全く無いので
こういうアニメをどう評価していいのか難しいのだが
宮崎アニメとしては確かに完結しているし
宮崎サンの思いそのものは伝わってくるので
これはこれで良しというほかない。

誰にでもむやみにオススメはできないが
まあ高校生程度であれば大丈夫かな、というレベルの軽いストーリーアニメ。

407korou:2018/05/22(火) 09:15:10
池上彰「池上彰の世界の見方 朝鮮半島」(小学館)を読了。

池上さんが、地域別にその歴史を深く語るシリーズの朝鮮半島編。
中身については安心の叙述に読みやすさ抜群で、いつも通りの仕上がり。
さすがに、今現在一番の話題なので
こちらとしても読んでいて集中度が違うわけで・・・

(時間がないのでここで一度中断)

408korou:2018/06/12(火) 10:58:16
豊田隆雄「本当は怖ろしい韓国の歴史」(彩図社)を読了。

偶然、韓国関係の歴史の本を連続して読むことになった。
池上さんの本の書評を放置したまま3週間経過したが
その間、特に他の本を読破することもなく
やや健康状態が悪化したこともあり(視力も含め)
この3週間の間、読んだ本はこれ1冊だったが
読破するのに労力が要ったということではなく
むしろ、あまりの読みやすさに感心したくらいである。

池上さんの本は
どこかで現時点の状況を意識しているところがあって
それは戦後史に限定された著作である以上
当然ともいえるが
こうして豊田氏の著作と比較してみると
実に公平かつ客観的に叙述されていることが分かる。

豊田氏のこの著作は
近現代史に至るまでは気がつかないというか
あまりに昔過ぎて気がつきようがないのだが
近現代史に突入するや否や
一気に保守化した史観を展開して
いかに韓国が無責任かつ無節操な動きをしていたかを
これでもかこれでもかと指摘してみせる。
ただ、そういう類のおバカ本と違って
読むに値する「保守史観」本であるところに着目したい。

409korou:2018/06/12(火) 11:03:54
具体的な引用部分は皆無だが(手軽なサイズの文庫本では仕方ないところ)
巻末の参考文献を見てみると
一定の傾向が読み取れる文献ばかりで
これだけの文章が書ける人であれば
もっと幅広く文献を参照して
より客観的な叙述をしてほしかったと思うのである。
とはいえ、偏った資料ばかりとはいえ
論の展開は的確で
これはこれで一つの見識と言ってもよいだろう。
そして、近現代史以前であれば
ややこしい朝鮮半島の歴史について
これほど要点を読みやすくまとめた本には
今までお目にかかったことがないわけで
タメになる本だった。

なかなかリテラシーが必要な本で
うっかり推薦はできないが(司書仲間には推薦してしまったが・・・)
分かる人には分かる快著である。

410korou:2018/06/13(水) 20:54:40
猪木正実「人見絹枝の世界」(日本文教出版)を読了。

岡山文庫の一冊(職業柄の役得でタダで読める)。
郷土関係でしかも伝記とくれば読まないわけにはいかない。
読書欲が急速に落ちているとはいえ
さすがにこれだけ大きな活字で、内容もそうであれば
実質2時間程度で完読できた。

特に目新しい話はないのだが
せいぜい東京での二階堂体育塾の話とか
女子オリンピックなどの詳しい様子などが詳しいので
面白く読めた。
生家の福成がどのあたりか見当がつかないのが残念。

まあ、趣味の読書なんで、こんなところでおしまい。

411korou:2018/06/24(日) 12:06:33
中途断念記録。

藤岡陽子「満天のゴール」(小学館)を読了断念(293pの本で176pで断念)。
せっかく半分以上読んだのだから読了したかったのだが
作者に都合のいい登場人物の振る舞いを
これほど延々と見せられると
読み進めることは難しい。
かつて司馬遼太郎「花神」で
あまりにも作者が都合のいいところで顔を出し過ぎて
フィクションの世界に浸れないことに腹を立てて
半分近く読んだのに読了を止めたことがあったが
半分ほど読書して止めるのは、それ以来かも。

優れた描写も多いのだが
考えてみると
人物の出し入れについては
作家として基本的な才能に違いないので
そこが安易な流れになるのは
結構致命的ではないかとも思ってしまう。

今後注目し続けるかどうかは微妙な感じ。

412korou:2018/07/01(日) 09:49:18
是枝裕和「万引き家族」(宝島社)を読了。

(この文章を入力中に「このサイトは詐欺サイトです」という警告ページに切り替わるという事件発生。
 何でやねん。個人のレンタルサーバ上に20年近く使用している掲示板を置いてるだけやろ)

カンヌのグランプリを獲った映画の原作を
監督自身が執筆した小説で
正直あまり期待せずに読み始めたのだが
すぐに、普通のノベライズとは全然違うことが判明。
細部では映像化を前提にした描写もあるのだが
全体として、淡々とした書き込みすぎない描写が貫かれ
それでいて、人物の造形などは揺るぎなく書き込まれているので(映像化しているので当然かも)
何が書かれているのかわからないというような曖昧さが
一切ないのが素晴らしい。

そして、それぞれが家族について、血のつながりについて
安易に正解を出すでもなく、かといって日々の暮らしに流されっぱなしになるでもなく
その意味ではびっくりするくらい誠実に生きている人たちであることが胸を打つ。
それぞれの心の動きが、こうあってほしいという読者の願望とシンクロし始める後半部分からは
一つ一つの場面で想像力をかきたてられ
思わず感涙する箇所に何度も出会った。
読み終わって、読む前とのギャップの大きさに驚くとともに
映画のノベライズでこれほどの感動が得られるものなのかと畏怖の念すら抱いた。

紛れもなく今年読んだ本のなかで最高の感動傑作、

413korou:2018/07/09(月) 21:32:26
吉田麻也「吉田麻也 レジリエンス――負けない力」(ハーパーコリンズジャパン)を読了。

あたかも、ロシアW杯で日本中が盛り上がるのを予期したかのように
先月出版された日本代表センターバックの半自叙伝。
文章は適度に卑俗で適度にインテリジェンスで
そのバランスが程よく、最後まで飽きずに読める本になっている。
もちろん、文章がどうこうというより
日本人なので体格面では圧倒的に不利といえる
サッカーのディフェンスの選手として
世界屈指のリーグであるプレミアで準レギュラーとして長年活躍している
というその事実そのもので読者を圧倒する本なのだ。

分かりやすく書いてあるので
Jリーグ下部組織からJリーグ、オランダの下部リーグ、プレミアリーグという各段階で
それぞれどんなレベルで、どのくらい困難で、しかしどのくらいの努力でそれを克服できるのかという
一番知りたいところが、なんとなく分かるようになっている点が素晴らしい。
なかでも、最後のプレミアにおいて
もはや日本人の不利な面はどうしようもないと判断した上で
そこからさらに生き残る道を探っていく過程が
一言で言って「凄い」。
これこそ今回のW杯で、テレビの画面を見ていて一番感じていたことなのだが
やはりその方向が正しい一歩、とりあえず一番有力な一歩なのだろうと思った。

今が旬の本です。オススメできるレベル。

414korou:2018/07/12(木) 16:40:26
恒川光太郎「滅びの園」(KADOKAWA)を読了。

イメージとして
星新一のショートショートを長編にした感じ。
乾いた感性で世界が淡々と描かれ
ただしそこにうごめく人としての情念は揺るぎがなく
世界は明確な意思で動いているという前提。

それを設定としての面白さととらえるなら
超短編であるなら
そのまま突っ走って読者を驚かせる効果を持つのだが
ここまで長編になってくると、果たしてどうか。
少しだけ読者を選ぶかもしれない。
こんな絵空事に長時間付き合うのはムリという人も居て当然。

自分は恒川ワールドにハマりやすい体質なので
快適な読書タイムだった。
絶望と希望について
こんな側面から考えることになろうとは
思いもよらなかった。
いや、そんな具体的な感想は二の次で
ただ、ひたすらその世界が心地よかった。
ある意味、自分には
この本を批評する資格がない。

415korou:2018/07/19(木) 11:26:35
中途断念記録。

早坂吝「探偵AIのリアル・ディープラーニング」(新潮nex文庫)を読了断念(3643pの本で89pで断念)。

決して面白くないわけではなく
むしろ人工知能の最新知見を巧みに小説に応用しているところが
そこそこ魅力的に感じられたくらいだが
何せこの酷暑と視力の衰えのダブルパンチで
「そこそこ魅力的」程度だと
読書を控えなければならないコンディションなのだから仕方ない。
春・秋なら完読できたはず。
早坂吝氏の才能はやはり侮れない。

416korou:2018/07/26(木) 12:16:17
山里亮太「天才はあきらめた」(朝日文庫)を読了。

間違いなく、今年度の「でーれーBOOKS」の
自分の中での圧倒的受賞作。
文章は意外と韜晦で
最初のうちはスラスラとはいかないが
一度リズムにハマったら、その韜晦さも魅力になり
そうなれば
もはや”天才”山里の独壇場となる。
とにかく、負のエネルギーをどう処理して
とかく生き辛いこの人生を乗り越えていくかという点に
どの文章を読んでも、その一点に集中していて
最期まで迷いがない。
負のエネルギーを、その負の原因となった人物への復讐という形で昇華させ
そのことを肉筆のメモで見せているページなど
なかなかの圧巻で
本来なら読みにくい肉筆ながら
思わず読んでしまう。
実にパワーのもらえる本である。

解説の若林もすごくいい。
山里とは違ったタイプの文才の持ち主だが
さすがに書くに値する中身があって
この文才なのだから、面白くて当然だ。

以上、総括して今年のベスト・ノンフィクションで決定!

417korou:2018/08/09(木) 23:22:23
ペドロ・マルティネス「ペドロ・マルティネス自伝」(東洋館出版社)を読了(県立図書館本)。

ペドロ本人への興味というより
自分がリアルタイムで詳しくチェックできたMLBの時代を回想する意味で
ちょうどピッタリだと思い、図書館で借りてきた。
読み始めて、やはり面白く、500ページほどのぎっしりと活字が詰まったこの本を
一気読みしてしまった。

前半部分は、成功を手にするまでの過程で
青年らしい未熟さが好ましく描かれていたが
後半は、すでに成功を手にして
これから大人の紳士になろうかという時期であるのに
相変わらず激怒する性格が直らないまま
いろいろな誤解と悲劇を生み続けるので
全面的な同情は持ち得なかったというのが読後の感想。
ただ、前半の叙述から
どれだけ繊細で傷つきやすい性格なのかよく分かったし
それを念頭におけば、後半部分の出来事も
多少は納得もできるし
今まで伝えられてきた彼の”虚像”について
理解は深まった。
それだけでも、この本は読む価値があった。

MLBファンなら必読、そうでない人には
やはりオススメしにくい本。
ペドロがいかにMLBファンに敬愛されたか、それを知っていないと
単なるワガママアスリートの独白と取られかねないので。

418korou:2018/08/11(土) 12:13:42
宇佐美まこと「骨を弔う」(小学館)を読了。

未読の著者だったが
出だしが読みやすく淀みなく進行する感じだったので
そのまま読み続けた。
100ページを過ぎるあたりまでは
丁寧な叙述、とリアルな心理描写で満足できたものの
シンプルすぎるミステリー風味を全体に漂わせていながら
怪奇な事件が一切起こらないまま淡々と進められるストーリーに
飽きが来ていたのも事実。
150ページから200ページまで、読み通すのが辛く
どうなることかと思っていたら
200ページを過ぎてから俄然展開がスムーズになり
最後のオチまで一気読みできたのは
ある意味意外だった。

不本意な人生から再生のきっかけを掴む物語としてなら秀逸。
ただし、ホラーとかミステリーなどで売り出している作家の新作と思えば
この中途半端な読後の印象、不完全燃焼といわざるを得ない。
文章力は十分なので
何でも書けそうだが
この一作を読んだだけでは何とも言えない。
他の作品も読みたい、そう思わせるだけでの才能は
十分に感じられたので
また読んでみたい。

419korou:2018/08/12(日) 17:42:39
河合雅司「未来の年表 2」(講談社現代新書)を読了。

いつでも読めそうな気がして
ほぼ1ヶ月半ほど持ち歩いていた。
さすがにもう読了しなくてはと思い
本日読了。

前作については
飛ばし読みながら
すぐに名著であると判断し
多くの人に推薦した。
今回も同じクオリティを保っていて
多くの人に読んでもらいたいし
実際よく売れている。

今回は、より身近な例を挙げて
個人レベルでの未来像を提示している。
少子高齢化時代の個人レベルの話だから
どうしても60代以降の人生設計の話になり
そこに書かれていることは
今の自分が予定していることとほぼ合わないので
読んでいて気詰まりな箇所が多かった。
とはいえ、それは個人的事情なので
この本の客観的な価値とは無関係なことだが。

前著のインパクトが強かったので
そこまでのパワーはないものの
やはり国民必読の未来指南書になっている。

420korou:2018/08/23(木) 21:57:23
三秋縋「君の話」(早川書房)を読了。

今一番好きな作家の最新作。
そして、その期待は全く裏切られなかった。
それどころか、期待以上だった。
やや微妙な出来と言えなくもない最近の作品と比べて
設定の絶妙さが全体を支配していて
何の不満もない読後感、心地よかった。

本当に切ない恋愛、切ない女の子を描くのが上手い。
主人公はどこかで作者の分身なのだろうけど
文体が独特で全然嫌味がない。

文体といえば
村上春樹からの影響を指摘しているアマゾン書評があったが
まさにそのとおりだと思う。
春樹氏と違うところは
主人公の屈折に普遍性を持たせていないところだけだ。
春樹氏は、時代背景もあって
学生運動という共同体からの逃避という普遍性をもたせて
主人公の屈折を描いているのだが
2018年の現在、そういう普遍性のある屈折は存在しないわけで
まさに2018年にハルキ的感性で小説を書いたら?という想定についての
最上の答えとなっている。

もう何を書いて賛辞すればいいのか分からないほど
幸福な読後感。
多分、司書として読む最後の三秋作品となるだろう、感謝。

421korou:2018/08/26(日) 16:23:56
堤未果「社会の真実の見つけかた」(岩波ジュニア新書)を読了。

自分の職場(高校図書館)では
生徒への必読書として
常に最有力候補となる”青少年のためのバイブル”のような本として
必須の存在ともいえる本である。
なのに、いまだに読んでいなかった。
ほぼ退職間際になって、ふと読まなくてはと思い立ち
今更という思いもありつつ
読んでみた。
面白いものとはいえず
しかも内容の大半は同じ著者の他の本と同じようなことだし
楽しい読書とはならなかったが
最後の第4章を読んでみて
やはり青少年のための必読書という感想を新たにした。

現実はこうだというのが第1章から第3章、それに対して
希望をもつにはこういうことを知っておこうというのが第4章。
現実はなかなか普通の高校生には伝わらず
しかし希望のなさ加減だけは空気として伝わっているはずなので
第4章だけでも読んでほしいと切に思った。

これから3月までの間に
この本を紹介するに足る生徒に出会えるかどうか
楽しみに待ってみたいと思う。

422korou:2018/09/05(水) 21:23:50
秋吉理香子「ガラスの殺意」(双葉社)を一気に読了。

怒涛の一気読み必至。
これだけの緊迫感で最後まで読者を引っ張っていく力量たるや
他には絶好調時の東野圭吾くらいしか思いつかない。
凄いし、面白いし、いろいろな感情を揺さぶられるし
このところ、いろいろな方向に飛び散っていたこの作者の作品としては
これは決定打とも言ってよい傑作となっただろう。

細かいキズは2箇所。
いくらフィアンセの危機とはいえ
若い女性に対してその殺人鬼と対決せよと真剣に願うのは不自然だし
その動機で最後まで行動するのももっと不自然。
最後は、悪人を投げ捨てるかのように
あっさりと作中で殺してしまうのも乱暴。
また、男女刑事コンビなのだから
いくら女性がリードしていたとしても
男性の容疑者を取り押さえる状況で
女性が単独で部屋に向かう想定からコンビで向かう想定になっていく過程にもムリがある。
ここは、男性が部屋に向かい、女性が念のため下を見張るというのがセオリーで
その設定でも、このストーリーは成り立つはず。

しかし、それらをすべて忘れさせる最後の場面の強烈なインパクト!
以上のムリな設定でなければこの場面は成り立たないし
その最後の儚さ、哀しさが作品を際立たせているのだから
文句は言えない。

文句なし今年No.1小説の1つ。
「君の話」は読者を選ぶが
この小説にはどんな読者をも満足させてしまう魔力がある。

423korou:2018/09/09(日) 15:52:22
立石泰則「戦争体験と経営者」(岩波新書)を読了。

戦争体験の話と経営者の話は
ともに大好物(語弊もあろうが)なので
さっそく読んでみた。
読後の感じでは
経営者のミニ伝記に戦争体験の話がくっついている印象で
戦争に関する著者の見解には
とってつけたような違和感があった。

ただし、塚本幸一(ワコール)とか加藤馨(ケーズデンキ)のミニ伝記などは
そうそう読めるものではないので
なかなか面白かった。
戦争との強引な結びつけではなく
こうしたミニ伝記の総集編のようなものが著者の手によって書かれるとしたら
それはぜひ読みたいと思った。
むりやり岩波新書の夏特集の本になった感が強い。

末尾の追記で
塚本幸一が日本会議の初代会長である云々を岩波書店から指摘された件を書いているのが
なかなか興味深い。
これは岩波書店としては失態だっただろう。
でももう後へは引けない状況だったので
こういう追記を掲載することを条件にしたのだろう。
いろいろな意味で、岩波新書としてみればという前提で言えば
失敗企画と言わざるを得ない。

424korou:2018/09/15(土) 14:33:46
月刊「創」編集部編「開けられたパンドラの箱」(創出版)を読了。

2016年、19人の障害者を刺殺した「やまゆり園障害者殺傷事件」は
その確信犯的振る舞いも異様なら
危険な思想でありながら
ひょっとして世の中の多くの人がそういう情念を共有しているのではないかと
思わせる普遍性を感じさせる点で
まさに「パンドラの箱」のごとく封印したくなる事件だった。
そんななか、この本は
その封印を解いて
事件の真相に切り込もうとする勇気ある著作となった。

意思をもたなくなり物理的に存在するだけになった「人」は
他の人にとってどういう意味をもつ存在なのか?
およそ哲学上の命題のなかで最も困難なこのテーマについて
ほとんどの人が明快な回答を持ち得ないでいるのは確かだ。
障害者福祉と一言で言っても
いろいろな段階があって
すべて同じ理解で済ませることはできないはずなのだが
そこを同じ理解で済ませている現実がある。
そして、こういう事件に直面したとき
その判断を壊されたくないために
人は「偽善」に走る。
これでは植松容疑者と同じレベルでしかない(続く)

425korou:2018/09/15(土) 14:40:45
いや、皆、植松と同じレベルであり
彼の思想に根本的間違いはないのである(実際的意味において。倫理的には間違っているが)
ただ、我々は
その思想に基づき、29人もの無抵抗な何ら罪もない人間を一気に刺殺したりしない。
この場合、行動するかどうかの有無は
決定的に違うのだ。
犯罪の原因となる思想は
生身の人間の場合
どうしても、純粋に倫理的に正しくあることは難しい。
そのことを自覚しておいて
それと行動を切り離す、そして感情と倫理を整合させ止揚させ発展させていく営みが
「人間」そのものなのだと思う。

行動にもいろいろあって
刑法の構成要件そのものの行動は犯罪になり
その反倫理的思想を大声で表明すればヘイトスピーチになる。

我々は
正しい人間になろうと努力するときに
まず行動を慎み、同時に自らの脳内の暗い情念を昇華させないと
いけないのだろう。

そんなことを思わせた深い、厳しい書物だった。
いつもいつもそういうことを考えては居られないが
どこかできちんんと整理しておかなければならないテーマであることは確かだ。

426korou:2018/09/18(火) 11:58:42
村田沙耶香「地球星人」(新潮社)を読了。

「コンビニ人間」以来の村田沙耶香作品。
「コンビニ人間」には圧倒的な読みやすさというか
ごく日常の世界を扱った親しみやすさがあったのだが
今回は冒頭からやや異常な環境で異常な発想を持った女の子が登場し
最初の3分の1は、客観的に言えば、家庭内虐待と性的虐待を受けているという
かなりおぞましい世界が描かれる。
そして、妄想を現実化した行動により破局が生まれ
そこから一気に30代となった主人公が登場するのだが
そのあたりは、まあまあ普通の生活に若干違和感がある程度で
そこまでの修羅場続きの展開からすると
幾分ホッとした気分になるのだが・・・

徐々に主人公の夫の異常な思考回路によって
その周りの人たちもその異様さに巻き込まれることになり
最後の3分の1、特に最終数ページは
異常の極みというか、小説でなければ描けない「非現実的な現実」に覆われていく。

凄い、圧倒される、という読後感がピッタリの狂乱小説。
村田沙耶香は異才であるという評価は揺るがないだろう。
人を選ぶ小説だが、ハマる人、最後まで読める人には
強烈なインパクトを残す小説であることは疑いない。

427korou:2018/09/25(火) 21:50:05
保坂正康「昭和の怪物 七つの謎」(講談社現代新書)を読了。

ベストセラーになっているので読んでみた。
相変わらずの保坂流で
見事な取材ぶりと、イマイチよく分からない分析が同居していて
いかにも歯がゆい。
こんなのでベストセラーでいいのだろうか。
保坂氏にとっても良くない感じだが。

東条英機の章は読みどころが皆無。
石原莞爾についてはかなりのペース数を割いており
分析の不徹底な面は否めないものの
それなりに読ませる文章だ。
次の犬養毅については、あまりに分析がひどくて
何を書きたかったのかよく分からない。
渡辺和子の章も同じで
犬養道子と渡辺和子への取材で何かを学んだのだろうけど
この文章では個人的メモと同じで
伝わってくるものが何もない。
麻生和子への取材も含めた最終の吉田茂の章は
まあまあの出来栄え。
でもこれでは褒めすぎだろう。
取材ソースへの配慮は、もっと別の形で示すべきだ。

というわけで
とてもオススメできるクオリティの本ではないのだが
取材の内容そのものは優れているので
そこの部分だけに着目すれば
得るものも大きい本であることは確かだ。

428korou:2018/10/04(木) 22:47:27
葉室麟「散り椿」(角川文庫)を読了。

知人が「一気読み」して読後の高揚感がハンパないことを伝え
映画化もされ、しかも葉室さんの作品となれば
読了はともかく最低限の賞味は必須となった。
で、「一気読み」は納得で(自分は視力の関係でそれはムリだったが、そういう気持ちにはさせられた)
映像化したくなる映画人の心情も十分に理解できた。

非の打ちどころのない小説である。
テンポもよく、構成も巧みで、人間描写も抜かりない。

ただし、これほど情を尽くした物語なのに
終盤で涙腺を刺激しないのはなぜなのか?
「哀しみ」よりも「満足感」のほうが強いのはなぜなのか?
読後直後の感想はといえば、そうなってしまう。
葉室さんの芯の強さなのか?

多分、自分にとって読むに足る唯一の時代小説のように思えるが
たとえば、現代の小説の良質な「不安」と対比すると
何か物足りないものがあるのも確かである。
完璧なのだけど、自分の本質とは違うように感じる。
他人には安心してオススメできるのだけれど・・・

429korou:2018/10/15(月) 22:38:45
乙野四方宇「ミウ skeleton in the closet」(講談社タイガ)を読了。

「僕が愛したすべての君へ」「君が愛したひとりの僕へ」の連作が
かなり面白かった記憶があって
またまたこの作家の新作に手を伸ばした。
読後の感想を言えば
さすがに前作ほどのインパクトはなく
実にライトなノベルだったという印象。
それでも
読みやすさ、雑な展開をうまくまとめて印象良くさせるテクニック(論理の力?)などは
他の作家にはなかなか感じることのできない
乙野氏独特のものだった。
いつもいつも傑作を書き続けることはできないわけだから
これはこれでいい仕事をしていると言えるだろう。
なかなか侮れない作家だと思う。

とはいうものの
てだれの読者に言わせれば
穴だらけの甘い小説ということになるのだろうか?
高校の図書館だよりで紹介するくらいなら
大丈夫だろうけど。
そして、ついに本格的な小説に馴染まなかった自分にとっても。

430korou:2018/10/22(月) 08:21:22
東野圭吾「沈黙のパレード」(文藝春秋)を一気に読了。

東野圭吾の新作ということで、迷いもなく読み始める。
オーソドックスな出だしで順調に作中世界にハマり
そのまま(いつものように)一気読み。
テレビの録画をだらだらと見て”ノルマ”を消化する休日になるはずが
他のことに構うことなく、ひたすら読み続け、夜11時を大きく過ぎても
あと少しで終わりという段階なので読み続けるという
まあ、これ以上ない至福の時を過ごした。

たしかに細かいアラは探せば出てくるのだが
これはガリレオシリーズなんだから
こういう設定でないと面白くないだろうと考えれば
逆に欠点は一切ない小説だ。
そして、どんなにアラが気になったとしても
それを上回る筆力、魅力、惹き付ける力が
この小説には十分過ぎるほどある。
さすがは東野圭吾という書評を多く見たが
私も激しく同意する。
こういうストレートなミステリーもので
まだまだこれだけのものが書けるのだから
本当に凄いという他ない。
凄い、以外に言葉が見つからない。

でも、個人的には
これで終わりだなという思いもあって(もうタダで読めることはないだろう。退職なので)
東野圭吾作品の最後がこれで本当に良かったというのが
一番の感想。

431korou:2018/10/28(日) 22:35:26
堤未果「日本が売られる」(幻冬舎新書)を読了。

日本の現実がペシミスティックなイメージで暴かれている本なので
読み進めるのに気が重く、なかなかページが進まなかったが
「図書館だより」でこっそり推薦したせいで
数人の教員にリクエストされてしまい
とりあえず読破を急ぐ羽目となった。

まあ、とにかく大変な労作だ。
本質的に重要なことなのに皆が知っていない諸々の事実を
丁寧にデータを挙げて具体的に説明しているという
ジャーナリストとして最も大切な仕事を誠実に果たしている点で
著者の近年の仕事と同様、大いに敬意を払うほかない。
素晴らしい著作だと思う。
「知ってはいけない」と同じ地点に立つ名著だと
(最初の数ページだけで)直感できた。

もっとも、この悪化する一方の現代日本の状況を改善するために
何をどうすればいいのか、いくつか海外の改善事例も書かれているが
現代日本にはそのとっかかりすら見当たらない。
ただし、少数派だと思うが、党派性をもってこの著作を批判することで
現実にフタをする逃避の哲学だけは
御免蒙りたい。
とにかく、一般市民は
「正しい意見に賛同」、これしかないのではないか。

432korou:2018/11/13(火) 13:40:01
安田浩一「『右翼』の戦後史」(講談社現代新書)を読了。

以前から「右翼」の歴史には興味があったので
安田氏の著作ということも含めて
大いに期待しながら読み始めた。
さすがに取材中心の著作が多い人だけに
過去の文献の孫引きのような記述は少なく
その分、初心者の自分としては
概説部分への期待をそがれることとなった。

もっとも、著者でないと書けない部分が多いということは
この本のオリジナリティを保証するもので
それだけでも貴重な著作となっている。
ギリギリで間に合ったインタビューがある一方で
間に合わなかった例も多くみられ
その意味では
今後、この種の近現代史の一次資料を書くことは
非常に難しいというか
不可能になった感が強い。

逆に、最近の数年間の動向については
安田氏でないと書けない明快さに満ちている。
示唆に富んだ記述はさすがである。

とはいえ「右翼」に興味が薄い人には
全然意味のない本だろう。
読む人を選ぶ好著である。

433korou:2018/11/18(日) 18:49:08
中田永一「ダンデライオン」(小学館)を読了。

乙一名義ならともかく
中田永一名義のものは
青春真っ只中ストーリーが多くて敬遠していたのだが
今回はミステリー風味ということで
久々に読んでみた。
読み始めると一気に引き込まれ、
あっという間に読み終えることになった。
さすがの筆力である。

ただし感銘度は、読書メーターに書いている人もあるように
短編小説を読み切った感覚に近い。
あまりに面白すぎて、
そして普通程度のストーリーのひねり具合で
ラストも手練の読者からすれば物足りない感じなので
読んでいるときの面白さと対比したとき
読後の感銘はそこまではいかない人が多数だろう。
でも、これだけスッキリと書き切れる作家が
どれほど居るかと考えれば
さすがの「乙一」と言わざるを得ない。
山白朝子名義も含め、近年復活の兆しアリと言える筆力だ。

「たんぽぽ娘」へのオマージュになっているらしいのだが
それについては未読なので、ここでは何も書けない。
検索すると、うち(西高)に蔵書があったので(驚き)
チェックしてみようか。

434korou:2018/11/19(月) 13:47:21
ロバート・F・ヤング「たんぽぽ娘」(復刊ドットコム)を読了。

わずか34ページ(しかも1ページが14行!)のごく短い小説。
中田永一「ダンデライオン」を読んだ直後に
とりあえず「ビブリア古書堂」の第3巻の該当短編をチェックして
それからこの小説を読んだ。
何はともあれ、まず、描写の美しさに感銘。
ラストが分かりにくく思えたので
ネットで検索し、なんとか理解することができた。
主人公は先に若い頃のアンに出会っていて
その後の変化を自分の愛情だけで記憶しているので
今となっては
今目の前に見ているアン(44歳)の姿を
出会ったときのアン(24歳)と信じている(愛情による事実のすり替え!)

だから、タイムマシンでやってきた24歳のアンと偶然出会ったとき
44歳の主人公は、それが24歳のアンと気づかなかったのだ。
逆に、アンは、主人公への愛情を抱いたまま
過去の主人公の前に現れ(過去の主人公がアンの愛情を裏切らない存在だったことは幸運!)
そのまま結婚できたのだが
自分(アン)の記憶では
このタイミングで主人公は24歳の自分と出会うはずなので
・・・・うーん、この辺のアンの心理の真実が今一つつかめない。
なぜ、主人公が迎えに来てくれたことで、アンは安心したのだろう?

まあ、美しい小説なので、超短い小説をご希望の向きには断然オススメだ(そして細部で悩んでもらおう)。

435korou:2018/12/09(日) 18:34:27
角幡唯介「極夜行」(文藝春秋)を読了。

今年の本屋大賞ノンフィクション部門受賞作ということで
以前から名前だけは知っていた角幡氏の著作を初読み。
出だしからセンスのいい言葉のチョイスと
迫力ある筆力に魅せられ
あとは、とにかく異次元の体験である「極夜」の描写に
ひたすら圧倒されっぱなしで
この結構長いノンフィクションを一気に読み終えることになった。
読んでいる間の夢中の程度でいえば
近来にないほどだった(少なくともノンフィクションに限れば随一かも)

あまりにも都合よくアクシデントが起こり
これまた都合よくギリギリで解決していくので
著者によるフィクションも入っているのではないかと思ってしまうが
ここは、この筆力、描こうとした世界の正しさ、美しさを信じて
ほぼすべて真実と信じたい。
一般人が体験できない世界を
的確な表現で読者に疑似体験させる力は
相当なものである。
数々のノンフィクションの賞を過去に受賞しているのも
頷ける。

著作のなかで著者自身も言っているように
年齢から考えて、これ以上のクオリティの探検は
これからは難しいように思うのだが
これだけの筆力があれば
特に冒険ものでなくても期待できそうである。
やや読者を選ぶが
まあ読書好きであればOKな作品ではないかと思った。

436korou:2018/12/14(金) 10:38:20
池上彰「高校生からわかる資本論」(集英社<ホーム社発行>)を読了。

資本論について関心が高まり(ある意味、I先生の影響)
なかなか全体像までたどり着かないので
池上解説でアウトラインだけでも知っておこうと思い読み始める。

大体知っている内容が続き
それほど新しい知見は得られなかったが
逆に、それでも入門書として池上著作の1つとして成り立つのだということも分かり
これまでの自分の理解でそう間違いはないのだという
確証をもつことができた。

ソ連の崩壊により
遂に(前々から怪しいと思われた)マルクス経済学が
世界から捨て去られた20世紀末の状態から
いろいろな格差が生まれて
労働問題が頻発する21世紀初めの今に至ったことで
再びマルクスの思想は生々しく蘇りつつある。
後は、そのカオスをいかにして次の秩序ある状態に止揚させるか
という具体論に尽きるのではないか。
展望のないマル経だと
今までと何ら変わらない。
誰かが画期的な思想でマルクスの思想そのものを止揚すべきなのである。

この入門書を読みながらそう思った。
時代の影響ということ。
あとは、思想そのものをもう少し深く知りたいので
家にあるあの本を読み続けることにしよう。

437korou:2018/12/24(月) 09:56:56
安田純平「囚われのイラク」(現代人文社)を読了。

今年、突如解放されたこのジャーナリストに対して
世論、特にネットを中心とした意見は冷たかった。
何でこんな男を救うために
国家単位でみて少なくはないお金と労力を使い
恐らくは支払われたであろう(推測に過ぎないが・・・)巨額の身代金を
費やさなければならないのか、という怒り。
平和ボケした国らしいのどかな感情論が支配するのは
ある意味仕方ないとしても
そもそもの安田氏の仕事についての評価が
全く為されていない状況には
(予想はついたものの)改めて驚かされ、呆れる思いだった。

当県レベルでいえば
県立図書館にあるこの本がいつも「貸し出し可能」となっていた。
誰も借りないのである。
ネットショッピングレベルでいえば
この本は品薄状態から品切れ状態となり
事実上絶版となっている。
安田氏の新しい著作の企画の話も皆無である。
要するに、正面きって安田氏をきちんと評価しようという姿勢がないのである。
ジャーナリストを評価する際に
その著作について触れずに語ることなどあり得ないわけで
その点で
今年の安田氏糾弾のニュースほど
不毛で無意味で低レベルな話はなかった。
なんという国なのだろう、今の日本という国は。

438korou:2018/12/24(月) 10:07:05
県立図書館蔵書であるこの本が
あまりに「利用可能」なので
ついに我慢できなくなり、借りて読むことにした。
そして・・・読後の感想はといえば
ほぼ安田氏の主張は正しい、批判する人はバカ、ということになる。

もちろん、何の非もない完璧なジャーナリストということではない。
少なくとも、危険な場所に立ち会いたいという自らの願望を実現させるにあたって
可能な限り、事前に打てるべき対策は打っておき
衝動的に行動することは慎まなければならないのだが
その点で、いくつか軽率な点も見られるし
単独行動になりがちとはいえ
少なくとも、国内で自分の行動を的確に説明してくれる同志を確保しておく
慎重さもあってほしい。

とはいえ、逆に言えば
そういう条件を満たせた場合のみ行動して良いとまでは言い切れないのではないか。
ある意味、仕方ない面もある。
それだけの価値のある報道の可能性があるのだから。
危険を恐れて安全な場所からだけで
世の中の真実を伝え得るとは
良心的なジャーナリストであれば
誰も思っていないだろう。

439korou:2018/12/24(月) 10:10:26
その意味で安田氏のこの著作は
米国が仕掛けたイラク戦争前後のバグダッド周辺の市民生活を
リアルに伝える必読の書であるとともに
これだけのクオリティは
安田氏のジャーナリストとしての良心がもたらしたものであることを
実感させるものとなっている。

せめて、この本くらいは読んでから
批判したいのなら批判してもらいたい。
でも、恐らく、読んでしまったら
批判などできないだろう。
批判する人は、その意味でいえば
臆病であり可哀想な人たちなのだ。

「彼の仕事など他の人が伝えていることの繰り返しで価値がない」
と断じていたネット人の感想が本当かどうか確認したくて
読んでみたのだが
やはり、それは臆病者の遠吠えだったことが分かった。

安田氏には
もっともっと理解者を増やして
自分の仕事をより多く知ってもらえるよう努力してほしい。
読めば、すべてが分かるのだから。

440korou:2018/12/26(水) 14:07:03
矢部宏冶「知ってはいけない2」(講談社現代新書)を読了。

前著「知ってはいけない」が衝撃的な内容だったので
今回も相当期待して手に取った。
予備知識なしに読み始めたので
しばらくは話がどこに落ち着くのかわからなかったが
3分の1ほど読んだあたりで
これは「日米安保+地位協定などの補足」を論じた本だと判明。
成文化している米国側の文書が公開されたのを機に
同じものがなぜか成文化されない日本側の対応の不可解さと
条文内容についての日米の理解のギャップなどを丹念に説明しつつ
結果として、日本の立場からは主権侵害に近い内容が「密約」として
処理され続けてきた戦後の経緯が明らかにされている本である。

さて、だからどうすればいいのだろうか?
官僚というものは
自律では過去の間違いを修正しない種族だ。
かといって政治家にも期待できない。
国民一人一人がこの状況に及ぼす力は微々たるものだ。

結局、カタストロフィーに至るまで修正されないのではないか。
いつまでもこのマズい現状が更新されるだけではないのか。
そんな悲観的な気持ちにさせられる本である。
本当にこれは「知ってはいけない」本だった。
決定的に破綻する前に死ぬしかないだろうな、これは。

441korou:2019/03/18(月) 16:52:05
2019年になって本を読む義務が事実上消滅。
実際、本当に本を読まなくなった。
視力の関係もあり、今後とも本を読むことは少なくなるだろう。
特に小説類は。

それでも上田岳弘「ニムロッド」(講談社)
関眞興「EUやらイスラムやら ここ100年くらいの世界情勢をマンガでチラッと振り返る」(宝島社)などは
なんとなく読み終わる。

次の1冊は、退職後になりそうだ。

442korou:2019/04/04(木) 09:24:57
小林信彦「黒澤明という時代」(文春文庫)を読了。

本を読む習慣をいったん終了させて
再び読み始める瞬間はどうなのかと待機していた。
その合間に、以前からゆっくりと読み続けていたこの本について
たまたま録画していた番組などを全部観終えた結果
まとまった時間がとれたので
読み終えることができた。
つまり、これは、この数か月だらだらと読んでいた本を
単に読了させただけのこと。

とはいえ、小林信彦さんだ。
面白くないわけがない。
まして題材は黒澤明だし。
映画を観て確認しながら読み進めようかと思った時期もあったので
予想外に読了まで時間がかかった。
そもそも、祐季に本を買ってみたあの時期に
同時に買った本なので
相当前に入手した本だ(ブックオフで)。
小林さんの本でどうして未読なのだろうと思ったが
2009年の単行本の文庫化(2012年)なので
それはあり得るわけだ。

本の内容については
評価など今更だ。
いろいろと示唆を受けることが多かった。
ただし、喜劇人のそれと違って
再読のタイミングは
やはり実際の映画を観終えたときに限定されるはずだ。

443korou:2019/04/07(日) 11:00:02
中川右介「阪神タイガース 1965-1978」(角川新書)を一気に読了。

自分の興味ある分野のど真ん中だから
一気に通読した。
最近、これほどハマって読んだ本はないくらいだ。
やはり興味の赴くまま読む読書は面白い。
それに値する本を見つけるまでは大変だが。

知っているつもりでも
細かいことは全然記憶と違っていたりする。
そういう知的楽しみを含みながら
記憶の中の幸福な野球観戦のイメージをふくらませながら
どんどん読む進めていける愉楽。
それ以上に、この本の読後感を語る言葉は
今現在思いつけない。
中川さんの興味分野が
自分のそれと信じ難いほど重なるのが
不思議なくらいだ。
文章も自分のそれとよく似ているし。

まあ、読後の感想はこのへんでいいだろう。
深堀りする意味はもうないんだし。

444korou:2019/04/07(日) 22:46:21
近藤正高「タモリと戦後ニッポン」(講談社現代新書)を読了。

これも前回に続き県立図書館本。
図書館の棚で”タモリ”本を物色していて
これが一番客観的でより多くの事実を書いているように思え
借りてみた。
読んでみて、そういう印象通りのしっかりした本だった。
実に多くの文献を当たっていて
さらに不明な点については
まさにその出来事の中心人物に近い当事者に直接インタビューしているので
今のところ、ハンディな本としては
タモリ本の決定版といってもよいのではないか。

そういう”事実の交通整理”的要素が強いので
それ以上のものを求める向きには物足りないかもしれない。
それ以上のものを求めなければベストの本だ。
そして、それは題材が「タモリ」である以上
深堀りのコスパは低いはずで
その意味で、自分としては十分に面白かった。
読書する楽しみを十分に味わえた。

445korou:2019/04/15(月) 14:14:58
松本直也「音楽家 村井邦彦の時代」(発行:茉莉花社 発売:河出書房新社)を読了(県立図書館本)

村井邦彦氏の今までの業績をもっと具体的に知りたくて読み始めた。
基本的な叙述について、ややバランスを欠いた本ではあったが
知らないことも多く、タメになる本でもあった。
文庫本になったら買ってもいいなと思ったのだが
単行本としての非常識な高価設定(2700円)とか
発行元の零細さを考えると
なかなか文庫にならない予感がする。

内容について今更記すこともないのだが
メモだけは残しておこう。
(村井邦彦作品)
エメラルドの伝説、廃墟の鳩、白いサンゴ礁、或る日突然、虹と雪のバラード、夜と朝のあいだに、経験、
ざんげの値打ちもない、翼をください、忘れていた朝、恋人(森山良子)、スカイレストラン、
(「アルファ」ミュージックらしい作品)
学生街の喫茶店、あの日にかえりたい、夢で逢えたら、フィーリング、Mr.サマータイム。
ユー・メイ・ドリーム(シーナ&ロケッツ)、ライディーン
ひこうき雲、中央フリーウェイ、アメリカン・フィーリング

446korou:2019/04/16(火) 18:06:35
小林信彦「『あまちゃん』はなぜ面白かったか?(本音を申せば)」(文芸春秋)を一気読み。

県立図書館本。
これから2013年をスタートとして「本音を申せば」を最新刊まで借りて読む予定。
その第1弾としてまずこれを読んだ。
小林さんのエッセイについて
今更書き加えることもない。
面白いに決まっている。
今回も、全体の4分の1を少しずつ読んだ後
さきほど一気に残りの4分の3を平らげた。
文字通りの一気読み。
なんだか、また映画をしっかりと観たくなってきた。
でももう夜が近くて、今日はムリみたいだ。
それにしても、何から観ようか、と
ずっと迷っている。

80才近い著者が
”こじるり”の写真集を速攻で買う記述には驚いた。
まあ、自分も同じようなものだが(世間への活躍度合いは別として)

447korou:2019/04/24(水) 11:51:45
中川右介「松竹と東宝」(光文社新書)を読了。

自分は中川右介氏の著作のファンである(趣味・嗜好がドンピシャだ)
これも興味深い題材で、分厚い新書ではあるが(377p)
一気読みに近い感じで読み終えた。

おもに歌舞伎界の動向を中心にした記述で
映画のことも書いてほしい気もしたが
それはそれで面白く読めた。
歌舞伎の世界の閨閥図、系図、閥については
ややこしさ極まりないが
小谷野敦氏の「日本の有名一族」(幻冬舎新書)などを片手に
情報を整理しつつ読書することになり
かなり面白い読書になったのは確かである。

六代目菊五郎の立ち位置が常に一定でブレがなく
かつ人間味あふれること。
初代中村鴈治郎と松竹の発展が一心同体であり
かつ明治末期〜昭和初期における鴈治郎の存在感が
(特に関西において)絶大なものであったこと。
その初代鴈治郎の芸風は
意外にも養子でもあった長谷川一夫に最も継承され
そこから現在の坂田藤十郎に伝授されていること、等々。

あとがきにもあるように
これは初代鴈治郎と長谷川一夫の師弟愛を描いた本でもある。
七代目幸四郎の子たちの物語も面白いはずだが
途中で鴈治郎物語に力点が移ったのは
それはそれで大正解で
この本を単なる演劇経営史以上のものにしている、

448korou:2019/04/24(水) 16:26:52
小林信彦「女優で観るか、監督を追うか」(文藝春秋)を読了。

今回は2014年のクロニクルを小林さん流にまとめた本。
やたら訃報関連の話が多いのは仕方ないこと。
古い話がスムーズに導かれて出てくるのが
たまらなく懐かしく思え
自分もこういうものが書けるのであれば
書いてみたいと思わせるほど。

堀北真希の映画を観たくなった。
「麦子さんと」などが佳作らしい。
綾瀬はるかの「きょうは会社休みます。」(NTV)も
面白いらしい。

あと、ニコール・キッドマンの魅力とか。

449korou:2019/05/02(木) 18:20:29
マリアーノ・リベラ「クローザー マリアーノ・リベラ自伝」(作品社)を読了。

翻訳は金原瑞人・樋渡正人の2名の共訳。
MLBのレジェンドの自伝なのに
ベースボールマガジン社でなく作品社からの出版で
しかも金原さん名義の翻訳であるのが珍しい。
もっとも、内容もそれにふさわしく
リベラの人柄そのものの誠実さにあふれた佳作であり
読後がこれほど爽やかなMLB本は滅多にあるものではない。
同時代を生きたペドロ・マルティネスの本に比べて
感銘の度合いにおいて遥かに勝る。
書いてあることに真実味が感じられるのが素晴らしい。

一番感銘を受けたのは
2001年のレギュラーシーズン、9/11の様子、そこからの野球への盛り上がり、
そして奇跡的なポストシーズン、最後の予想外の出来事・・・敗北して帰宅するまでの描写、
そして、息子からのささやかなトロフィー・・・これには読んでいて感涙した。
他にも、自球団の選手はもちろん、他球団の選手であっても
尊敬に値する選手には当たり前のように賛辞の言葉を惜しまない姿勢。
いろいろな気持ち、姿勢、見解が、さりげなく語られ
それらが知らず知らずのうちに、この本を優れた自伝にしているのである。

久々に出会ったMLB関係の名著だった。

450korou:2019/05/02(木) 22:04:55
中川右介「1968年」(朝日新書)を読了。

これも県立図書館本。
中川さんの本とはいえ
特定の年代に特化した本ということで
過大の期待はせずに普通の面白読み物として読み始めたのだが
意外にも他に借りた本のどれよりも優先して読みたくなっていき
最後まで面白く読み終えた。

1968年の出来事が「音楽」「マンガ」「野球」「映画」の4つの話題に限定されて
それぞれの経緯が語られる形式で
まさに中川氏の少年時代の興味を
そのまま大人になって再現していくかのようで
それはそのまま自分にとっての少年時代の興味と重なるわけである。
この本の出版自体、そういう効果を狙って出されたはずであり
その意味で、特定の年代層にはたまらない本になるわけだ。

ただし、まえがきにもあるように
「マンガ」への関心は他の3つのジャンルに比べてはるかに強い。
この時代、マンガから離れていった自分としては
なかなか興味深い記述でもあった。
もちろん、「音楽」「野球」「映画」も興味深く
それぞれドキュメンタリーとしての面白みもあったので
ますます面白く読めたわけである。
中川本の真骨頂とでもいうべきか。

451korou:2019/05/06(月) 12:53:02
小林信彦「古い洋画と新しい邦画と」(文藝春秋)を読了。

今回は2015年のクロニクルを小林さん流にまとめた本。
あとがきによると、健康状態がすぐれないらしく
本来なら今の安倍政治への不信、不安などを
きっちり調べて書きたいらしいのだが
とても体力がもたないとのこと。
結局、昔の洋画の話が中心になり
小説とかの話も後回しになった模様。
まあ、それはそれで面白いわけで
小林さんにのみ許される裏事情ともいえる。

さすがに、小林さんの心の琴線に触れる名作の類は
年代が古すぎて自分には手におえない。
強いていえば
自分の好みと違うと決めつけていた映画が
小林さんの手にかかると違う魅力に見えてくるので
そういう視点から何か見えてくるかもしれないという
期待感は出てきた。

とはいえ、映画を観るのは
今の自分にとっては
そこそこしんどい行為なのだけれども。

452korou:2019/05/08(水) 16:45:43
田窪潔「デーブ・ジョンソンをおぼえてますか?」(彩流社)を読了。

特にそういう立場、経歴があるわけではなく
ただ単にプロ野球観戦が好きで
それが高じてこのような本を出してしまった、という類の本である。
極端に言えば、私と同類項のような人が書いた本であり
随所に見られる素人っぽい脱線ぶりを示した文章を読むにつけ
なんだか自分はこういう失敗はしたくないという観念にかられてしまったのは
自分のことに寄せすぎか。

そういう軽いタッチの読み物だけに
また文章そのものは流暢で淀みないだけに
あっという間に読み終えた。
特に新しい知見はなく
ジョンソンのプロ入りまでの生い立ちと
巨人入団後2年間の事細かな経緯くらいが主なところ。
後はうまくまとめたなという感じ。
最後のほうは著者のエッセイになりきっていて(確信犯!)
読むのがだるかったのも事実だが
まあこういう本もアリでしょう。

そうそう・・・2年目のジョンソンが張本の英語で救われたというのは驚き。
あまり他で聞かない話だったので。

453korou:2019/05/10(金) 16:46:33
中川右介「阿久悠と松本隆」(朝日新書)を読了。

中川さんの本にしては
あまりにまとまりがなくだらだらとしていて
途中、オリコン順位を月ごとに記録しているだけの叙述も多く
なかなか読み通すのに苦労した。
いよいよ最後のほうで
松本隆についての簡潔な総括を見つけ
こういうのを読みたかったのだと
読み前の期待感をやっと思い出した次第。

とはいえ、さすがに中川さんだけに
時代を象徴する重要な動きのなかでその核心に触れる「知られざる事実」について
さりげなく叙述の中にちりばめてあるので、読後の満足感は十分にある。

松田聖子のスタッフに続々とはっぴぃえんど人脈のメンバーが集まったのは
偶然ではなく、松本隆の意図したことだったこととか
ピンクレディーの紅白ボイコット、米国進出は
素人集団の所属事務所が、芸能界のドン的存在だった井原高忠に相談した結果
井原の提案によるものだったことなどは
重要な事実だけれども、あまり知られていない話だと思う。

自分のようなJ-POPファンにとっては。十分面白い本だった。

454korou:2019/05/11(土) 18:01:09
連城三紀彦「悲体」を60ページほど読んで
やや物足りなさを覚え中断。
書評を検索すると微妙な感じなので
このへんで止めておくことにした。
小説は
読書のなかでも結構エネルギーが要るジャンルだと痛感する。

455korou:2019/05/12(日) 11:25:14
小林信彦「わがクラシック・スターたち」(文藝春秋)を読了。

今回は2016年のクロニクルを小林さん流にまとめた本。
小林さんは、このエッセイの連載の直後に自宅で脳梗塞のため倒れた。
(さきほどこの次の巻を確認しようとして、改めてその事実を確認した。
 そのことはなんとなく覚えてはいたが、もう忘れていた。大変なことだ)
レギュラーなエッセイとしては、この巻が最後になるようだ。
相変わらず、映画中心のエッセイとなっているが
たまにかつての喜劇俳優論の「あとがき」風の文章にも出会えるので
そうなると俄然楽しくなる。
ということで、なかなかやめられない。
とはいえ、これで最後かもしれないと思うと寂しい。

いろいろと見たい映画もチェックできた。
ジョン・フォードの「荒野の決闘」はいい加減もう観るべきだ。
ダーティー・ハリーも、確認したら第5作まで録画済みだ(1と3がいいらしい)
「海街diary」はもちろん、他の綾瀬はるかの映画も録画ができているだろうか?
ニコール・キッドマンの悪女ものも面白そう。
まあ、それ以前に、13時からのBSブレミアムの映画を
そのまま生で観るというのも
今の生活なら十分可能だし。
そうやって掘り出し物を探すのも悪くない。

その流れでトリュフォーの「ヒッチコック映画術」が読みたくなった。
これから県立へ行って借りることにしよう。
小林さんの闘病生活をまとめた「生還」も、さっき予約した。
いろいろと小林さんにはお世話になっている感じ。
まあ一方的なんだけど・・・訃報だけは聞きたくないが、こればかりは・・・・

456korou:2019/05/14(火) 22:46:34
井原高忠「元祖テレビ屋ゲバゲバ哲学」(愛育社)を読了。

小林さんの推薦を知って。県立図書館で書庫から引っ張り出して借りた本。
かなり期待して読み始めたが、面白いのは最初のほうだけで
後半は、昭和のおっさんのグダグダのお説教という感じで
意外なほど面白くない本だった。
思うに、この方は、1990年代以降の日本の新しい姿を
本質的に理解できていないのではないか。
その意味では、1980年に50歳でリタイアするというトリッキーな選択は
意外なまでに本人にとって正解だったのではと思わせる。
そのまま日本のテレビ界に居ても、管理職ではどうしようもないし
むしろ老害の対象になったに違いないので。

小林信彦「テレビの黄金時代」のような面白い裏話満載を期待すると
100%裏切られる。
これはあくまでもモーレツ世代の自慢話であり
しかも出自が戦前のハイソサエティという庶民には縁のない話で
逆にそういう設定に弱い世代(テレビ初期の主役たち)には
絶対的な存在として君臨する人なのである。

2019年の今、この本の価値は半減している。
やはり、それなりに頑張っている今のテレビ芸人たちを
全否定するわけにはいかないだろうし
残念ながら、井原さんが目指した方向とは別の向きで
今のテレビ界はそれなりに成長していると思うので。

そこは小林さんの柔軟さとは違うところだと
この本を読んで痛感する。

457korou:2019/05/16(木) 23:08:17
中川右介「山口百恵」(朝日文庫)を読了。

間違いなく今年読んだ本のベスト。
今更百恵ちゃん?と思ったのが大きな間違いだった。
中川さんという稀代のノンフィクションライターの手によって
漠然とした山口百恵伝説が
厳密な事実の積み上げで粉砕され更新され
新たな輝きを獲得することになった。
この著書の続きとなる「松田聖子と中森明菜」も見事な作品であるが
明菜の部分が物足りないという欠点があるので
やはりこの作品が、今のところ、中川さんの著作の白眉となるだろう。

まず冒頭で、ナベプロ、ホリプロ、サン・ミュージックの概要
記されている点が素晴らしい。
歌謡曲の本はいろいろあれど
こういう基本的なことに触れていない本がほとんどなのだから。
さらに、スター誕生をめぐる山口百恵の動きも
微に入り細に入り的確に描写される。
そこからはもう中川マジックの世界で
もうこれは記述を信じるしかない。信じたいし、そうでありたい。
あとは音楽スレに感動のポイントを書いたとおりだ。

部分的には2019年の今でも通用する音楽だと思う。
そのことを確認できただけで十分読んだ価値はあった。

458korou:2019/05/22(水) 17:13:37
中川右介「月9」(幻冬舎新書)を読了。

500p近い新書で定価も1300円(税抜)もする大部な本だ。
しかし、中身はユニークそのもので
本来ならネットで断片的に紹介されるような軽いエピソードを羅列しながら
その反面、こういうテーマでは挿入されることのない政治の話題を挟んで
延々とフジテレビの月曜9時のドラマを
1987年から1996年の10年間にわたって
その企画、出演者、1話ごとのストーリー、世間の反応、視聴率、他への影響度などを
逐次紹介していくノンフィクションになっている。
自分としてもリアルタイムでありながら
そのほとんどを見ていなかったので
30年近く経った今になって
その粗筋を初めて知って
当時はそういうことだったのかと
改めて知ることばかりだった。
それにしても
同じような企画、ストーリー、配役などを
延々と読み続けることは
そうした知的興味を満足されるとともに
ある種の心地よい退屈さをも催すことにもなり
なかなか摩訶不思議な読書体験だった。

自分としては満足度100&だが
人には薦められない本でもあった。
リアルタイムで体験できなかった人のための本かもしれない。

459korou:2019/05/23(木) 07:40:29
田中正恭「プロ野球と鉄道」(交通新聞社)を読了。

なかなか珍しい視点の本である。
最初に日本プロ野球全体の歴史が概略として書かれていて
なかなか上手くまとめていて感心させられるのだが
すぐに書名どおりの展開になり
まず、交通の発達していなかった時代の
プロ野球選手たちの移動の厳しさが記される。
また、球団を所持あるいはかつて所持していた球団について
個別に語られ
実際の交通の便について現在の全球団についてコメントがある。
最後は。実際にもいろいろとアクティブにファン活動を続けている著者の
いろいろな人脈を駆使しただろうと思われる
プロ野球の名選手OB数名への直接インタビューとなり
これも交通関係中心の談話ということで
興味深いものとなっている。

部分的には、そこまで興味が湧かないと感じた箇所もあり
全体を詳しく読み通したわけでもないが
こういう著書は、その存在自体貴重ではないかと思われた。
誰も書きそうにもない分野でありながら
「昭和50年の広島カープの優勝は、山陽新幹線の博多までの開通直後で
 優勝への重要な要因」といった指摘など
なかなか含蓄に富んでいるからである。
売れそうにもないが、こうした貴重な本を企画・実現させた著者と出版社に
敬意を表したいと思う。

460korou:2019/05/28(火) 10:05:25
濱口英樹「ヒットソングを創った男たち」(シンコーミュージック エンタテイメント)を読了。

副題に「歌謡曲黄金時代の仕掛人」とあるように
昭和30年代後半から平成初期にかけての
いわゆる”歌謡曲黄金時代”における
各レコード会社(音楽出版社)のディレクター、プロデューサー14名について
インタビュー中心にまとめた本になっている。
あまりに多くの事実が、その関係者によって独白されているので
ある程度信用できる方々とはいえ
その事実をすべて網羅しつつ
全体像を把握していくのは
読み進めていくなかで容易なことではなかった。
結局、350ページ2段組みという膨大な情報量のうち
その数パーセントでも記憶に残れば上出来、といった読書になってしまった。

インタビューの相手は、ほとんどが1940年前後の生まれの方々で
80才前後という高齢者であることを考えると
この種の本がこのタイミングで出版された意義は大きい。
素晴らしい企画で素晴らしい内容の本ができたと言えよう。
さらなる続編が別の機会に別のスタッフで作られるべきだろう。
21世紀初頭という時代は、20世紀文化の裏方を探る時代なのかもしれない。
そう思わせるほど、この種の本は面白い。

461korou:2019/05/29(水) 10:37:27
スージー鈴木「1979年の歌謡曲」(彩流社)を読了。

「カセットテープ・ミュージック」の視聴で
個人的にはお馴染みになってしまった著者の本を県立で見つけたので
お試しで借りてみた。
まずまずの内容ながら
やはり、歌謡曲のような個人の趣味で語ってよい音楽について
他の人の趣味を延々と聞かされるのは
あまり心地よいものではない、ということも分かった。
もちろん、これをテレビ画面で、いろいろなニュアンス付きで知るとしたら
話は違ってくるのだが・・・いかんせん、文字だけで
いかに(1979年の)ミッキー吉野や(80年代の)沢田研二を絶賛されても、うーむ!

最初のうちは、鈴木さんだからということで
いろいろとyoutubeで視聴(試聴?)しながら読んでいたので
結構時間のかかる読書となった。
途中から、鈴木さんの好みに終始付き合う必要もないなと気づき
あとは一気だった。
もともとは一気に読める類の本だから、まさに一気だった。
もう1作、県立にあるのだが、借りるかどうかは迷っている。
まあ、今回は保留して、借りる本に困ったときに頼ることにしよう。

462korou:2019/05/29(水) 10:46:26
片山右介「サブカル勃興史」(角川新書)を読了。

目次を見て、仮面ライダー、マジンガーZ、宇宙戦艦ヤマト、ガンダムと並ぶ項目なので
いかに片山さんの本とはいえ
楽しく読むことができるだろうかと躊躇したのは事実だが
やはり片山さん、さすがは片山さんだった。
それぞれの項目について
よく知る人だけが楽しめるマニアックな記述などは皆無で
よく知らない人も理解できるきちんとした歴史背景の叙述を中心に語られていて
今までほとんど知らなかったこういう世界について
最低限の知識を得ることができたのだから
大変ラッキー、感謝感謝である。

70年代を取り上げた本なので
たとえば、ドラえもんなどは、どんな風な経緯で
現在のテレ朝系放映のアニメ番組実現に至ったのか
まさに「そこを聞きたい」という裏話を知る思いになる。
ガンダムに至っては、この本のおかげで全体像が初めて理解できた。
司書時代に読んでおきたかった気もするが、発行日からしてそれはムリか(2018年11月)。
まあ、隠れた名著ですね、これは。

463korou:2019/06/03(月) 23:02:07
中川右介「角川映画」(KADOKAWA)を読了。

音楽に関する著作の多い中川氏の著作だが
「山口百恵」などで
音楽以外にもやはり十分な調査が伺える記述をされていたので
今回も十分に期待し、まさにその期待通りのクオリティだった。
本当に何でも書ける人だ。
今回は、角川発行の「バラエティ」という雑誌も重要な出典なのだが
その雑誌を創刊号以来ずっとコレクションできているのも
中川氏の強みである。

全体に角川映画に好意的な見方で書かれていて
リアルタイムで角川映画のイメージがある自分などは
やや褒め過ぎではないかと思えるくらいだが
たしかに映画全体の構造的なレベルでいえば
「二本立て興行の見直し」とか「スターシステムの復活」とか
「意欲的な映画監督とのコラボ」とか
いつのまにか当時の日本映画界が見失っていたものを
角川春樹がストレートに復活させたという意味においては
当時は気がつかず、後になって考えれば
それは大きな功績と言わざるを得ないだろう。
もっとも、これはもう少し緻密な批評も必要であることは確かだ。
ただし、それは中川氏の今回の仕事ではない。
この著作のようなものがまず書かれるべきで
それから批評が始まるということだろう。
その意味でまた優れた著作にめぐり合えたということになる。

464korou:2019/06/04(火) 22:56:55
小林信彦「生還」(文藝春秋)を読了。

県立図書館で初めて予約をして借りた本。
闘病記のようなもので
もともと小林さんの著作を愛好するきっかけとなった類の本ではないのだが
ここまでお世話になった著者への敬意を込めて
あえて読むことにした。

突然の脳梗塞から話は始まる(2017年4月)。
そこからしばらくの叙述は
本人もあまり記憶がハッキリしていないだろうし
そのことを承知で強引に書き切るので
小林さんの文章としては極めて異質である。
文章の脈略が滅茶苦茶で、時系列も怪しい。
現実なのか幻想なのか曖昧な書き方で
かつ時系列が乱れてくるとなると
もはや何を読まされているのかイメージすらつかめない。
いつもの小林さんではないのだ、と心に念じつつ
そういうものを読むのは率直に言って悲しかった。
・・・・終わったのだ・・・・終わった?という感じ。

アルジャーノンではないが
後半にいくにつれて叙述がだんだんとしっかりとしてくるのも
読んでいて不思議な感じだった。
それにしても、脳梗塞は恐ろしいと思ったし
家族の支えがないと一気に進行して死に至るとさえ思えた。
良い家族をお持ちで小林さんも幸せだ、というのが一番の感想である。
一気読み、さすがにこのへんはいつもの小林さんのようだった。

465korou:2019/06/15(土) 15:46:35
黒岩比佐子「パンとペン」(講談社)を読了。

松岡正剛さんのブログで知ったこの本を
県立図書館で借りてきて
この3週間ほどずっと読み続けていた。
やや小さめの活字で、老眼用メガネを使用しても少しキツい感じで
最初のうちは、この本が原因でこのところの眼痛になってしまったかと後悔したが
ものの100ページほども読み進めると
さすがの面白さで、別に眼痛だろうと気にならなくなった。
著者はこの本の執筆中に膵臓がんが見つかり
書き終えてまもなく亡くなった。
同世代で悲しいことである。
しかも裏表紙の折り込みにある著者の近影は
私好みの魅力的な表情に富んでいて
生前にお目にかかりたかったという思いも強い。
何度も何度も見返して、一緒に喫茶店などで語り合いたかったと
見果てぬ夢に空想を広げた。
まあ、それはそれとして。

466korou:2019/06/15(土) 15:56:01
400ページに及ぶ長さに加えて
近代史上に名を残す逸材たちの名前が連綿と出続けるので
そのたびにWikipediaを参照しなければならず
WikiはWikiで別の人名を導き出して
わが脳裡を刺激するので
それ自体、連想ゲームのように関係人名項目をサーフィンすることになり
さっぱりページが進まないという
まさに理想的な読書の瞬間が続いていたのだった。

多くの社会主義者たちが登場するなかで
この本の主役たる堺利彦の人間的な大きさは別格で
平和主義、人民主義、純粋なマルクス主義という世界観も
今の世の中で理想とするにたるものだろう。
逆に、あまりに常識人だったので
革命を目指す人たちの群像が
実際以上に極端なイメージで描写され
それは、著者である比佐子さんの堺への愛着が為せることだっただろう。
それをふまえて読むとすれば
これは「冬の時代」を解読する最上のノンフィクションということになる。

読み終えて、あまりにいろいろな知識が脳裡に追加されたので
それを端的にまとめて記述することは、今のところ困難である。
ただ、明治後期から昭和初期にかけて
軍部が台頭するまでの間
社会主義者への弾圧、世間の厳しい視線というものが
日本近代史を読み解く大きな1つの軸であることはよく分かった。
大杉栄とか甘粕正彦なども
そういう視線で理解していかなければならないことを
新しく知った思いである。

467korou:2019/06/22(土) 18:33:23
中川右介「SMAPと平成」(朝日新書)を読了。

著者自身もあとがきで記しているように
これは「月9」の姉妹編のような本であり
それゆえ1996年のロンバケ&スマスマ開始のところで
叙述が終わっている。
新書という制約と著者自身の関心度から
SMAPの初期の出来事、活躍に絞った著作になっている。
例によって、参考文献を徹底的に駆使し
サブカルとはいえきちんとした検証を踏まえた「通史」が
出来上がっている。
かくして
「サブカル(漫画。アニメ)」「角川映画」「山口百恵」「聖子と明菜」
「月9」「SMAP」という流れで
昭和戦後期後半から平成前半までの大衆文化が
見事につながって語られることになった。

知らないことも多かったが
今回に関していえば
やや中川氏の思い入れが入り過ぎた感もある。
人から勧められた企画で自分自身のそれではないということが
大きいのだろう。
政界の動きと連動させる叙述も
特に効果的とも思われない。
あまり中川氏のことを知らない人には
奇異な本に思えるかもしれない。
とはいえ、こうしてきちんとしたサブカル史が語られることは
それ自体、大いに意味のあることだ。
あとは、提示された「素材」を安心して使いながら
優れた「料理」が披露されるのを待つだけだ。

468korou:2019/06/24(月) 17:03:25
長谷川晶一「虹色球団 日拓ホームフライヤーズの10か月」(柏書房)を読了。

昨日、県立図書館で借りて、今日の午後3時頃に読み始め、午後5時前に読み終えた。
とにかく、あっという間に読むことができた。
あとがきで、著者の長谷川さんの関心が
小さいころに触れた不思議な短命球団のことにあり
それが、高橋(トンボ)ユニオンズ、クラウンライターライオンズ、日拓ホームフライヤーズという
3球団の歴史をまとめる三部作となり
この本がその最後を飾る本となったことを知った。
高橋(トンボ)を読んだ記憶が今一つ定かでないが
クラウンは2年前に読んでいるので
おそらくこれで全制覇したはずである。

前回のクラウンの著作でも同じ思いだったが
こうして日拓球団についてまとまった著作を読む機会はなかったので
もうそれだけで貴重な本と言える。
インタビューの相手だった大下選手が
「ありがとう。こうしてくれると歴史が残る」と感謝の言葉を残したのも十分頷ける。
田宮監督の苦悩、新美投手の奮闘、金田留広投手の激情、張本勲の(意外な?)チームプレーなど
なかなか印象的な「侍伝説」でもあった。
それと同時に、当時のパ・リーグにあって
金田正一の果たした役割の大きさを改めて感じた。
パの歴史は、この金田の「中興の祖」としての功績抜きでは語れない。

そんないろいろな読後感を残す本である。

469korou:2019/06/25(火) 16:13:58
「忘れ難きボクシング名勝負100 平成編」(日刊スポーツ出版社)を読了。

県立本(返却されたばかりの本コーナーから)。
平成になってからのボクシングの動向は
継続して把握できていなかったので
今までの記憶(F原田から具志堅・渡嘉敷まで)につなげることができればと思い
借りてみた。
大体、予想通りの面子で驚きも発見もさほどなかったものの
階級の変遷などの豆知識や
あるいは、Wikiを参照して各人のトータルな戦いぶりを追跡することで
まあまあの収穫ある読書にはなったと思う。

90年代の辰吉が醸し出していたスターらしいオーラが
00年代や10年代の次代のスターを生み出したという功績は
否定できない。
そして、その辰吉が最後の最後で完全に叩きのめされたのが
ウィラポン・ナコンルワン・プロモーションだったのだが
そのウィラポンの長期政権にとどめを刺したのが
長谷川穂積であることは
今回初めて知った。
あとは、黄金のバンタムで
長谷川 → 山中慎介 → 井上尚弥 という流れが追跡可能であり
そこに内山、井岡などを加えれば
21世紀の日本ボクシング界の主力はほぼ網羅できたに等しいだろう。

まあ、団体が乱立して権威失墜なのも事実だが。

470korou:2019/06/28(金) 12:51:55
中川右介「冷戦とクラシック」(NHK生活新書)を読了。

クラシック音楽の著書が多いので
いよいよ中川氏の著作の本丸に突入・・・というか
かつて「ピアニスト」「フルトヴェングラー」などを読んで
おそらくこの本のテーマあたりが本丸だろうと見当をつけて
期待十分に読み始めた。
そして、その期待通りの満足で読み終えた。

これは
クラシック音楽家を通じて知る20世紀後半の歴史である。
冷戦が具体的にどのように始まり、具体的にどのように終わったかを
鮮やかにかつ簡潔にまとめている。
ソ連時代の支配者層の推移、冷戦時代の名演奏家たちの立ち振る舞い、
冷戦終結時の東欧各国の動き、等々。
詳しく知らなかったことがいろいろと分かり
これこそ読書の醍醐味という愉しい時間を過ごすことができた。

難点は、やはりクラシック音楽というジャンル自体が
政治という親しみにくいテーマを分かりやすくさせる効果の点で
何の意味もないということにある。
両方好きな人にはたまらない本だが
普通はどちらも好きでないだろうから
まさに趣味人の本にとどまり
その意味で広がりはもたない本ということになる。

「中川クラシック音楽本」としては
たしかに決定版に近い内容で
読み込める人には最高の本なのだが。

471korou:2019/07/02(火) 16:01:43
「私の履歴書 24」(日本経済新聞社)を読了。

高校図書館廃棄分から。
昭和40年発行で、稲山嘉寛、嶋田卓爾、林房雄、諸橋轍次、鮎川義介の面々。

稲山氏の文章は、サバサバし過ぎて物足りなかった。
もっと書いてもらえれば面白い話はいくらでもあったろうに
この辺は編集者の権限がほぼない「私の履歴書」の弱点だろう。
八幡製鉄所の巨大さだけは伝わってきたが。

嶋田氏については、ほぼ経済界、もっと狭めて実業界からも
ほぼ歴史上名を残さない功績者なので
こういう履歴書は貴重といえる。
ただし、他の史料で確認できないことばかりなので
どこまで信用できるかという懸念はつきまとう。
なかなか面白い話ではあった。

林房雄に至っては
戦後限定なので、これは少々たちが悪い。
せっかくの履歴書なのに
戦前の華々しい活躍については
他をあたるしかない。

諸橋氏については、稲山氏と同様の不満を持った。

最後の鮎川氏が一番面白かった。
自慢話になりがちな面を
独特の人生観でふくらませていて
人間の大きさを窺わせた。

472korou:2019/07/05(金) 18:19:00
北康利「叛骨の宰相 岸信介」(KADOKAWA)を読了。

物事を自分の哲学だけでしか判断できない狭い了見の著者であった。
読んでいて、そうじゃないだろと何度もツッコミを入れつつ
自分は自分なりに根拠を確かめながら読み進めていった。
その反面、詳しい叙述は大変参考になり
哲学による「捻じ曲げ」さえ頭の中で修正できれば
結構、新しい知見が加わったのも認めざるを得ない。
その新知識を、やはりネットで確認しながら読み進めていったので
読みやすい文章ながら(哲学がシンプルなので文章も平易で、その意味で読みやすい)
読み通すのに予想以上の時間がかかった。

全体として、首相になるまでの叙述は
見え透いた嘘が多く、読んでいて疲れるばかりだったが
首相になってからの叙述は
意外なほど説得力のある嘘に変貌し
「岸総理大臣」への評価を見直そうかと思ったほどだった。
しかし、戸川猪佐武の「政権争奪」の描写は
(田中派担当の情実があるにせよ)なかなか岸に対して辛辣で
真実はこの中間にあるのだろうなと思わせた。
藤山愛一郎については
この本にある通り、その後の評価が低すぎるように思われた。

久々の政治家の生々しい本で、いろいろな記憶が蘇った。
その意味では良かったのかもしれない。

473korou:2019/07/09(火) 13:57:21
中川右介「江戸川乱歩と横溝正史」(集英社)を読了。

現代(サブカルチャー)史を興味深く読ませる著者だが
これは現代というより近代、サブカルに近い純文学(純文学に近いサブカル?)がテーマなので
やや構えて読み始めた。

最初は、最近読んだ堺利彦の伝記に近い空気を感じたが
やはり明治末期から大正にかけての知識人の物語は
ジャンルが違えど人物が交差するので
否応なく類似の空気が漂うのだろう。

しかし、徐々にサブカル色が強くなるにつれ
江戸川乱歩の姿がハッキリと見えてくるようになり
その引力でいろいろな人物が惹きつけられ
その結果、横溝正史も作家として活躍できるようになるあたりから
いつもの中川氏の魅力を感じてくる(明晰な文章が光る)。
途中からは本当に一気読みとなった。

さらに
かつて読んだ小林信彦「回想の江戸川乱歩」を引っ張り出して
中川氏の叙述と重ね合わせて読むという愉しみもあった。

いつもと同じ感想にはなるが
今まで漠然としか知らなかったことが
いろいろとハッキリ見えてきて視界良好、納得の読後感となった。

474korou:2019/07/09(火) 17:19:53
井上潤「渋沢栄一(日本史リブレット 人095)」(山川出版社)を読了。

直前まで読んでいた「乱歩と横溝」が2段組みでびっしり300ページ以上ある大著だったので
大きな活字で100ページにも満たないこの本を読み通すのは簡単で
2時間以内で読み終えた。
前半は年代順にきっちり伝記風に書かれていたが
後半は、細かく整理して記述するのが大変だったのか非常に大ざっぱな記述になり
テーマ別に渋沢の仕事を概観した、まあ退屈な文章の羅列となっていた。

それでも、タメになったことを挙げれば
渋沢が備中井原に来た動機が分かり
そこからネット検索して「雨夜譚」の原文にあたることができたこと。
慶喜のために京都での兵力確保のため井原他の一橋領地に赴き
井原では住民が無反応だったところ
いろいろと行動した結果(阪谷朗廬との交流など)
首尾よく落ち着いたことなどが分かった。

それから、さすがにこの人の業績を追いかけることは
今の自分には結構しんどいことも直感できた。
自分としては
できるだけサブカル愛好者でいたいと思う。
渋沢への敬意はもちろん不変ではあるけれど。

475korou:2019/07/11(木) 13:36:06
本庄慧一郎「幻のB級!大都映画がゆく」(集英社新書)をざっと読了。

大都映画関係者が親族にわんさかといる著者が
まさに主観まるだしで、とにかく大都映画の足跡を世に残すべく
ありとあらゆることを書きまくった新書本である。
細部の誤りなどは多々あるが
ここは、こうしたマイナーな扱いを受けている映画会社について
可能な限り叙述を尽くした熱意に敬意を表するのが妥当だろう。

全体として、大都映画の徹底した庶民向けレベルの
映画作りのイメージが伝わってくる。
そして、巻末の人名事典も秀逸。

しかし、河合徳三郎はやはり複雑な人格の持ち主に思え
そういう人物を親族が客観的に描くことには無理がある。
そこの部分に関して、この本には
多くの嘘と虚実がちりばめられている。
さらに歴史認識も古いし、世界観・哲学も浅い。
そのへんは割り引いて読むしかない。
それでも読む価値があるのは
大都映画について他に適当な本がないからである。
さらに大都映画そのものについても
残されたフィルムが僅少であるから
今となっては何も語れないに等しい。

まあまあ面白かった本で、飛ばし読みも相当行った本にもなった。

476korou:2019/07/12(金) 22:16:24
宮田昇「新編 戦後翻訳風雲録」(みすず書房)を読了。

思いのほか読み応えのある良書だった。
いろいろなことを教えて頂いた印象。
小林信彦氏のことも登場し、その部分を興味深く読んだりできた。
翻訳家と一言で言っても
戦後まもなくから活躍した人たちは
あまりにも人間臭く、その体臭具合が実に心地よかった。
セックス好きもいれば、私生活にロックをかけて心の闇を守る人もいる。
例外なく酒好きで、議論好きでかつ熱くなりがち。
あの戦争に、青春の一時期を間違いなく振り回され
その影響から逃れようもなく、でも時代は容赦なく過ぎていく、
財産を守ることに必死な人も多く、おおむね頑固。
ああ、これこそ戦中派の生態ではないのか。
懐かしい感覚に、しばしば活字の向こう側の世界に思いを馳せ
ページをめくる手が止まることしばしだった。

その一方で、相変わらず調べるためにWikiを検索することも多く
驚いたことに
この本はWikiのネタ本として完璧に引用されているのである!
こんなに出典として引用されまくっている本も珍しい。
翻訳家というマイナーな職業ならではの光景だった。

本当にいい本を残してくれたものだと思う。
著者の宮田氏には感謝しかない。

477korou:2019/07/16(火) 18:52:57
中川右介「オリンピアと嘆きの天使」(毎日新聞出版)を読了。

レニ・リーフェンシタールとマルレーネ・ディートリッヒをめぐる物語。
それぞれの最盛期の活躍を、例によって年代別に対比しながら
正確に記述していくスタイルで描いていく中川氏お得意の評伝である。
今回は、隠し味(隠れてはいないが・・・)として
その時代(1920年代後半から1930年代)、その地域(ドイツ周辺)に最も影響を与えた
ナチスドイツとの関わりが細かく触れてあり
読みながら、ヘス、ゲーリンク。ゲッペルスなどの人物概要を確かめながらの
読書となった(おおいにタメになる読書だ!)

リーフェンシュタールには自伝があるのだが
その自伝が、いろいろと問題の多い文献だらけなので
そのあたりを、真実はどの辺かについて探る記述が多くなっている。
いわばメディアリテラシーが鍛えられる読書ともいえる。
それにしても、20世紀前半に活躍した人たちは
遠くない未来に、そうした嘘、虚構の類を検証されることに
思いはいかなかったのか。
優れた知性の持ち主のはずが、あまりにも無警戒に過ぎる。
また、これからの著名人は、政治に関心のないところを
いろいろと突かれることも覚悟しなければならない、ということも
リーフェンシュタールの後半生を知れば痛感する。

全体にディートリッヒよりもリーフェンシュタールの人生のほうが印象的だ。
やはり、防ぐことのできる失敗を、それでいて数多く犯してしまった人生のほうが
印象に残りやすいということか。

なかなか面白い本だった。

478korou:2019/07/17(水) 13:13:34
中川右介「怖いクラシック」(NHK出版新書)を読了。

これは、いわゆる正統派カルチャーの通史のようなものなので
著者の本についてカウンターカルチャー中心に読んできた
今までの流れとは違う種類の読書になる。
(もうカウンター系の本はかなり読み尽くした感がある)

これはこれなりに面白く読めた。
やはり、その音楽を聴いているだけで
その音楽家の生涯の細部に関しては
それほど突っ込んで調べたこともないので
知らない話もかなりあって
その意味で知的刺激を受けた。

とはいえ
さすがに、今更ヴォーン・ウィリアムスなどを聴く気にはならないし
ショスタコーヴィッチの交響曲についても(以前の読書でも好奇心をくすぐられたが)
優先順位はかなり後になる。
まあ、都合のいいところだけ記憶に残ったというところか。
チャイコフスキーとラフマニノフの関係とか
マーラーの生き様などは
大いに参考になった。

で、これで借りた本は全部読み終えたので
(宇都宮徳馬の伝記のみ期待したものと違ったので未読のまま返却)
これから県立図書館に行って
新しい本に挑戦することにしよう。

479korou:2019/07/20(土) 13:30:44
東野圭吾「白夜行」(集英社文庫)を読了。

久々の小説の読書。
県立図書館で偶然現物を見つけて
東野作品が現物、しかも「白夜行」が今そこにあるという珍しさから
思わず借りて帰った。
考えてみれば、かつて読んだにもかかわらず
ストーリーは全く覚えていないわけで
その後、その分厚さから当面の読書から避け続けていたわけである。
そうなると、読むのは、時間がたっぷりある「今でしょ!」(古っ!)

いやあ、長かった。
東野圭吾の定評のある力作だけあって
見事な構成、迫力だったが
前半は探偵役が出てこないので、物語の推進力がいくらか弱く
そのへんが最高傑作とは言えないかなとも思えた。
ただし、全体として、主人公2人の「ノワール」の要素を
過不足なく描き切った筆力には脱帽するほかない。
細部を分析すれば、たしかに不必要なエピソードとか
登場人物の1人だけ唐突に物語から消えてしまうなどのアラはあるのだが
伏線のミスのない回収、意図的な叙述スタイルなど
同様の細部の分析により、もっと魅力的な要素も発見できるわけで
全体として優れた作品というイメージは揺るがない。

こうなると続編を読みたくなるが(幻夜)
貸出中なので予約するしかない。

480korou:2019/07/24(水) 16:16:15
「わが記憶、わが記録(堤清二×辻井喬 オーラルヒストリー)」(御厨貴・橋本寿朗・鷲田清一/編)<中央公論新社>を読了。

以前、新聞連載時に一部を通読していて
面白かった記憶があったので
県立図書館で借りてみた。
通して読んでみて、やはり面白い本だった。

経営者としての堤清二氏の個性がハッキリしていて
これなら「セゾン文化」「パルコ文化」を創造し得ただろうなと納得できる。
さらに人間としての辻井喬氏も、感性が明瞭で
読んでいて曖昧な点は何一つない。
その上、長い活躍期間において
いろいろな著名人との交流が豊富なので
読んでいて単純に面白い。
経営論についてのみ、成功と失敗の両面がある堤氏としては
もう少し明晰に語りたかったに違いない。
そこだけ、やや韜晦気味の口調になったのは残念だったが
話としてなかなか面白く展開できないことも事実なので仕方ないことか。

宮沢喜一はともかく、佐藤栄作との縁も深いのには驚いた。
三島由紀夫との関係も、意外で興味深かった。
全体に知らない世界の話も多く、タメになったのは有り難いが
やはりWikiとの交互読みとなり、やたら時間がかかった。
2段組み300ページ以上という大部でもあり
「白夜行」に続いて、結構な労力となったが
こういう読書は歓迎だ。

481korou:2019/07/29(月) 21:15:14
東野圭吾「幻夜」(集英社文庫)を読了。

予約していたら、案外早く返却されてきたので、すぐに読むことができた。
とりあえず、「白夜行」の続編かどうかについてはあまり下調べせず、普通に読み進める。
(読後にその辺のことを調べたら、ネタバレ満載だったので、事前の下調べはしなくて正解だった)
「白夜行」よりも、コンパクトな時間設定で、登場人物のキャラがきちんと書き分けられていたので
読みやすさは、こちらのほうが格段に上だった。
途中からは、ページをめくる手が止まらなくなった。

続編かどうかについては、断然「続編説」を採る。
そうでないと「幻夜」の面白味は半減する。
白夜行の雪穂のキャラクターを知った上で
幻夜の美冬の行動を読み解けば
(かなりの強烈キャラではあるものの)それほどの違和感には至らない。
というより、美冬の心理描写をあえて略している作者の意図は
そこにあるとしか思えない。
作者は、続編かどうかは想像に任せるとのことで
これはミステリー全体をミステリーする仕掛けなのだろう。
その意味では十分に成功している作品だと言える。

「手紙」「幻夜」「容疑者Xの献身」と連続して出していたこの時期の東野圭吾は
まさに作家としての最盛期だったのだろうと思ってしまう。
少々のキズなどものともせず一気呵成に読者を圧倒してしまう筆力は空前絶後だ。
「白夜行」「幻夜」と読んできて
随分と時間を費やす読書になったが
その価値は十分にある。

482korou:2019/07/30(火) 17:06:00
中川右介「戦争交響楽」(朝日新書)を読了。

第二次世界大戦の直前から戦中にかけての
おもにヨーロッパでのクラシック音楽家たちの行動を
戦争への経過と併行して記述した本である。
この後の時代の同様な話が
「冷戦とクラシック」につながっていくのだが
やはり「冷戦」の時期とは比較にならない厳しい時代であったことが
如実に伝わってくる。
今の平和に日本に生きていると想像もつかない厳しさだ。

そもそも、知らないことのほうが多かった。
それも些細な史実ではなく、基本的な重要な史実について、である。
ナチスとソ連の密約くらいは知っていたが
その後、ソ連が、対独戦の大義を悪用して周辺諸国に攻め入ったこと
あるいは、ドイツがマジノ線回避のため、中立国で何の罪もないベネルクスに攻め入ったこと
同じくドイツがノルウェー確保のため、単に動線確保だけのためにデンマークを占領したこと、等々。
こういうことを知らずして、大きなことは語れないだろう。
近現代の世界史に無知なことを、もっと多くの日本人は意識すべきだ。
逆に、こちらの戦争の歴史も、多分欧米には知られていないだろうということも。

そんなことを思わせた読書だった。
八月を前にして格好の読書となった。

483korou:2019/08/03(土) 11:20:46
海野弘「1914年」(平凡社新書)を読了。

この本が書かれた2014年の時点で
案外1914年の状況、100年前の世界の様子が
現在と酷似しているのではないか、という仮説から
100年前の政治、経済、国際情勢、大衆文化、美術、サイエンスなどの各分野で
一体何が起こっていたのかを概説し
現在の状況との関連を読み解く本だった。
著者の博識が随所に展開され、まさに書かれるべくして書かれた本だといえる。
特に国際情勢の様子を手際よくまとめた前半は秀逸だった。

それに比べて、テーマ別の概説となった後半は
新書という制約も加わって
やや物足りない叙述に終始したように思われる。
そもそも、サイエンスとモダン・アートを並べて概説するという構成は
読者にはキツいはずだ。
その両者について、海野氏の知識についていける読者はそうは居ないはず。
ここで一気に読書のスピードが落ちてしまい
一気呵成に面白く読んだという読後感には乏しくなるわけだ。
やはり、これだけの博覧強記な著者に
新書レベルで概説させるというのは
企画としてムリな話なのである。

ということで
久々に海野氏の本を通読できたという愉しみが
最大のポイントとなった読書となった。

484korou:2019/08/03(土) 17:16:27
和田春樹「日本と朝鮮の一〇〇年史」(平凡社新書)を読了。

21世紀になってからずっと重要なニュースであり続けている
日本と朝鮮半島の関係だが
その割には、その関係の本で読むに値する本がなかなか見つからない。
この本にしても、県立図書館で立ち読みして借りることを決めたが
必ずしも面白そうとか、役に立ちそうとかのメドを立ててのことではなかった。

読後の感想を言えば
少なくとも、何の知識も情報もない場合
この本は良い羅針盤になるだろうということである。
新書サイズであり、かつ近現代に朝鮮半島で起こった史実を
丹念に追跡していった本ではないので
これ一冊で最小限のウンチクさえ語ることは難しいが
大きな事件と、その事件に関する研究の推移が分かるので
この本の次には、こういう方向で読み進めればほぼ間違いないだろう
という確信が得られるのは大きい。
やはり、当事者としていろいろな研究の場面に関わってきたのは著者の強みである。

日本の標準的な傾向から言えば
かなり親朝鮮の立場で書かれている。
戦前・終戦直後の日本人のあり方についての見方は
厳し過ぎるくらいだ。
しかし、こういう視点も必要であることは確かだ。
複眼、これこそ日本と朝鮮半島の問題を考える最大、最強の鍵だろうと思う。

485korou:2019/08/07(水) 20:22:33
中川右介「カラヤン帝国興亡史」(幻冬舎新書)を読了。

今までそれほど興味もなかったカラヤンの業績について
せっかく中川さんが熱心に書いていることだしと思い
読んでみた。
すると、カラヤンその人をめぐるいろいろな出来事が面白い上に
レコード会社との専属契約の話などタメになる情報が多く
そうなるとクラシック音楽ファンとしては
ページをめくる手が止まらなくなるわけで
一気に読んでしまった。

EMIがフィルハーモニア管というのは知っていたが(仕掛人レッグも)
デッカがウィーン・フィルで
ドイツ・グラモフォンがベルリン・フィルというのは
今まで全く知らなかった。
カラヤンが引き起こす名声への策略のせいで
時期によってその組み合わせではレコーディングできないという仕掛けになり
なるほどと思わざるを得なかった。

カラヤンの芸術に触れずにカラヤンの生き様のみを書いた本である。
少なくとも、読者はカラヤンの芸術については一通り体験済みという
暗黙の前提がある本ではある。
その前提さえ満たせば、面白く読める本だと思う。

486korou:2019/08/08(木) 10:01:43
山田五郎「知識ゼロからの近代絵画」(幻冬舎)を読了。

美術のウンチクを語りたいという何だかよく分からない欲求にかられて
県立図書館で借りた本。
写真満載で、読むというより眺める本だったが
なんとか全部「眺めて」みた。
読み終えて、というより眺め終えて
思うことは
やはり、絵画の写真に添えられた短い説明書き程度では
なかなか知識が頭に入ってこないとうことである。
全く知らないことについてのみ
少しだけ前進できたような気がするだけで
全体としては
ウンチクを語るにはあまりにも薄すぎる読後感となった。

まあ、これをきっかけとして
他の美術入門書を読み始めるしかない。
それも面白くて、そこそこ記述も深いもので。

487korou:2019/08/08(木) 10:15:43
「私の履歴書 25」を読了。

今回は、岩切章太郎、佐々木更三、進藤武佐ェ門、勅使河原蒼風、東山魁夷、河野一郎という面々。
読んでいて無性に面白いというのが全然なかったのは意外だった。
全体として、人間として武骨すぎて、現代の人間とあまりにも違いすぎて
その違和感のほうが強すぎるというか。

最後の河野一郎の文章は
他が昭和40年の執筆に対して、これのみ昭和32年執筆のものであり
保留になっていたものを
昭和40年死去に伴い、急きょ公開されたものらしい。
前半は、頭が悪いのにそれがどうしたと居直った
というタイプの政治家誕生物語のようで
読んでいてあまり心地よいものではないか
鳩山側近としての動きを記した後半は
生々しい、まさに当事者の手記らしい迫真の描写が続き
一気に読ませるものがあった。
鳩山が出した「4条件」がいつのまにか吉田によって「3条件」になった件は
この記載によって吉田の作為であったことがよく分かるし
松野鶴平の「ズル平」ぶりもうなずけるものがある。
そもそもが、新聞記者として奮闘してやってきたことが
農村の現地に行ってみると
そこには何も反映されていないという実情を知って
政治家へ転身することを決意したというあたりから
この人の真骨頂なのだろう。
佐藤栄作は、はるかにこの人より賢いが
こういう熱情はさらさら無かったと思う。
どっちが首相としてふさわしかったかは
なかなかの難問だとは思うが。

488korou:2019/08/10(土) 17:08:12
高平哲郎「喜劇役者の時代」(ヨシモトブックス)を読了。

同じ著者による「由利徹が行く」の焼直しのような著作らしいが
前著も読んでいないので
アマゾン書評子のように比較もできない(その方は酷評しているが)
初めて読む分には何の支障もなく
面白く読めた。
いかにも昭和戦前からの喜劇人らしく
ハングリーで、人間臭くて、泥臭い人生が描かれている。
戦争中に中国で暗号兵として活躍していた時のエピソードなどは
本当かいなと思うほど痛快無比、波瀾万丈で
その勢いで戦後の演芸界を生き抜いているから
たしかにその気になれば演芸界の中心人物にもなれたかもしれない。
しかし、これほど欲がなく、純粋に喜劇を演じる、脇役もしくは花形で
お客さんを喜ばすことに徹した喜劇人は
他に居なかっただろう。

そんな由利徹の生き方に惚れたのが、あの高倉健だったことが
この本の途中のあたりで描かれている。
これは感動のエピソードがてんこもりだ。
健さんも人間臭い俳優だったのだろう(見かけは謎と神秘ばかりだが)

それに比して、タモリなどの芸には冷淡だ。
辛うじてその一派の高平哲郎には心が通じて
こうして没後20年以上経って、再びその生き様を描いた本が出る。
まだまだ「過去の人」にしてはいけない。この人は。

489korou:2019/08/12(月) 21:50:26
矢野利裕「ジャニーズと日本」(講談社現代新書)を読了。

県立図書館で立ち読みした時点では
いろいろと知らない事実が列記してあるように思われたのだが
実際に読み始めると
著者の独断がひどくて、その論の展開についていけなかった。
ジャニーズの楽曲分析を
ジャニー喜多川の人生、人生観、世界観とクロスさせて
それを既存の音楽ジャンルから正しく組み合わせている本書の構成自体は
新鮮で面白いが
いざ各論で具体的な曲名を示されて論を展開されると
やはり未熟なアイドル楽曲でしかないそれらの曲から
例えばフィラデルフィア・ソウルとか、アシッド・ジャズなどのジャンルを
想起すること自体がお笑い草になってしまうのだ。
そう思っているところに
「ヒップホップ音楽、ラップは誰でもできるのが最大の特徴。黒人の苦悩について
 理解がない人にはできないというのは大きな間違い」とか書かれると
もう白けてしまう。
最後まで読み通すのに根気が要った。
構成の新鮮さだけですべてを我慢するほかなかった。

あまりにジャニーズが好きすぎる人がこういう本を書くとこうなる
という失敗の見本例のような本。

490korou:2019/08/14(水) 17:05:21
牧村憲一・藤井丈司・柴那典「渋谷音楽図鑑」(太田出版)を読了。

いわゆる渋谷系音楽について
今まで全く無知であったのを
1年ほど前に日本のJ-POP史の本を読んで少し理解できたので
今回、もっと本格的に知りたいと思い
県立図書館で借りてみた。
読んでみたら、予想以上に良い本だった。
最終章のあたりでは楽曲分析まであって
今テレビの録画でおもに録っている番組の内容とも重なった。

最近読んだ堤清二の本の内容とも重なり
パルコ文化との関わりもあった。
また、糸井重里など原宿の著名なアパートの話も興味深かった。
そして、本題では、いきなり小室等、六文銭から始まり
早々と大瀧詠一、山下達郎に話がつながり
そこから竹内まりや、大貫妙子を経て、かまやつひろし、細野晴臣などは当然のごとく出現し
最後にフリッパーズ・ギター、小沢・小山田の話で終わる豪華さ。

その豪華さの核心として、渋谷の地形、地名、スポット、その歴史(文化史)の変遷が描かれ
”渋谷系”だけに焦点を当てる短絡さを批判する姿勢も共感が持てた。
源泉として流れる”都市型ポップス”
その未来についても最後に語られているが
星野源の「時代の構造が縦・横ではなく前・後ろ」というニュアンスの言葉も印象深い。

一言でいえば、最近読んだ最良の音楽本だった。

491korou:2019/08/19(月) 11:24:53
中川右介「西洋絵画とクラシック音楽」(青春出版社)を読了。

絵画についてウンチクを語りたい、と以前から書いていたが
その関係で最初に借りた本があまりに薄かったので
今度は中川氏の力に頼ることにして
県立図書館で借りた本。

残念ながら、その目的は十分には達せなかった。
結構、西洋美術史というのは
簡単に俯瞰するには難しいものがあって
その微妙なニュアンスを端的に記述することは
いかに説明上手な中川氏でも難しいと思わせた。
ただし、後半の音楽史については
途中から面白く読めて
このあたりは
自分の持っている両分野への知識量の差が
原因しているように思われた。

全体として
類書にない記述が特徴的で
そのあたりは著者が「まえがき」で書いているとおりである。
自分がこの種の職業で活躍できていたとして
中川氏との共同作業が多かっただろうなという感慨を抱く。

492korou:2019/08/21(水) 18:55:24
「私の履歴書 26」を読了。

佐藤喜一郎,芹沢光治良,船田中,松田恒次という面々で
船田中は既読で記憶が残っていた。

佐藤、船田はともに昔風の威張りんぼで
こんな人たちと交流、あるいは部下として仕えたとしたら
心労は只事ではなかろう。
その点、松田恒次は、田舎の実業家という感じで
キツいリーダーではあるが、読んでいて不快感は少ない。

しかし、なんといっても今回の巻での驚きは
芹沢光冶良氏の文章だ。
明治時代を偲ぶ意味で読み直している今回の「私の履歴書」について
他の方々は、貧しいとはいっても一時的だったり、程度にも限度があったが
芹沢氏の体験した貧しさには強烈なものを感じた。
明治時代にも残っていた極貧の漁村の実情について
具体的かつ衝撃的なものであった。

今回、4月以降4冊通読して既読分がたまったので
一気に廃棄処分したが
芹沢氏のだけは残すことにした。

以降は1冊読み通した直後に廃棄することにする。

493korou:2019/08/29(木) 16:10:00
出野哲也「メジャー・リーグ球団史」(言視舎)を読了。

横書きで626ページに及ぶ大部なMLBの著作であり
出野さん単独でこれを書き上げたという点で
他に並ぶものがない労作と言える。
それだけに読み続けているうちに
細かいところで確認してみたいという欲求を抑えられず
この1か月というもの、ほぼこの本にかかりきりで
やっと本日午後3時過ぎに読み終えることができた。
この本を読み切る労力を例えると
おそらくその労力で新書だと5、6冊は楽に読めただろうが
それでも一度は読んでみる価値は十分にあった。
よく調べ抜いてあって、やはりWikipedisとは違う信頼感があり
知らない事実がてんこもりだった。
あまりに新しく知ることが多かったので
その大半をすでに忘れてしまっているのが本当に残念だが
まあ、こればかりは仕方ない。
もう一度読む気持ちはさすがにない。
なんとなく、この情報はこの本からだったかもしれない、という痕跡さえ
うっすらと記憶できていればそれで十分である。
借りた当初は購入も考えていたが
まあ、これはこれで完読したという記憶だけで満足することとしよう。

494korou:2019/08/31(土) 15:03:04
澁澤秀雄「澁澤榮一 新装版」(時事通信社)を読了。

県立図書館の新刊コーナーで偶然見つけて借りた本。
すでに定評のある伝記として知られるこの本が
新装版として新たに世に出たことは喜ばしいことで
近年テレビドラマなどで知られる機会が多くなったことが
再刊を実現させたのだろうと思われる。

一度読んだような気もしたのだが
どうせ記憶は曖昧だしと思い読み進めた。
前半部分は、つい最近借りた薄い伝記本で読んだばかりで
新鮮味はなかったが
洋行の時期から明治以降のエピソードを綴った後半は
やはり面白くて、一気に読み通すことができた。

(書評は、今回から、ムリに続けずに、簡潔にまとめることにする。
 ということで、これで終わり)

495korou:2019/09/02(月) 21:44:06
田崎健太「電通とFIFA」(光文社新書)を読了。

たまたま書棚で見つけて借りてきた本だが
読み始めると意外なほど面白く、あっという間に読破できた。
電通の歴史も分かるし、FIFAの歴史も概観できるし
ついでに高橋治則の事件も参照できるというスグレモノ。
高度成長時期の日本の経済力を背負った高橋治之と
バブルの時代の象徴となったその弟の治則の物語としても読める。

スポーツビジネスの本としては
かなり昔に読んだ「エージェント」(文春新書)以来のインパクトがあった。
多分こうじゃないかなと思っていたように
やはり歴史は動いていた。
あとは、誰かDAZNのからくりを書いてくれないものか。
他にも、面白そうな本を数冊、この本の記述から発掘できた。
また借りるとするか。

496korou:2019/09/03(火) 17:12:54
難波利三「笑いで天下を取った男 吉本王国のドン」(ちくま文庫)を読了。

吉本興業の創業者吉本せいの弟、林正之助が主人公の小説である。
小説とはいえ、作者から登場する芸人等への直接取材なども行っていて
かなりノンフィクションに近い形になっている。
それでも、同時に借りた「私の履歴書」の中邨秀雄のところも
同時進行で読み進めていたので
中邨氏の記憶違いもあるのかもしれないが
それを割り引いても
やはり小説は小説、都合よく切り取られていると言わざるを得ないだろう。
部分的には、いくら小説でもしてはいけない史実の改ざんまで見られるので
気を付けて読まなければいけない、という点で
厄介な小説でもあった。

林正之助の豪快な生き様、創業者に近い人間だけが持ち得るオーナーシップなどは
こういう小説のほうが分かりやすい。
その点は、読みやすい小説独自の文体もあいまって
一読に値すると思う。

ついでに「私の履歴書 経済人37」(日本経済新聞社)の中邨秀雄の部分について。
この方にしても、現代の感覚で言えばかなり型破りなのだが
部分的には新しいところも見られる。
まあ、芸人のギャラをもろに書いているところは苦笑する他ないが・・・
(以下、芸能・演劇スレへ)

497korou:2019/09/05(木) 15:58:27
本橋信宏「ベストセラー伝説」(新潮新書)を読了。

1960年代から70年代にかけて
著者自身にとっていつまでも記憶に残っているベストセラー、雑誌等について
その黒子たる編集者などに焦点をあてて
ノスタルジーに浸るとともに、出版業界全盛期のエネルギーのようなものを回顧しようという
いわゆる「世代限定本」だった。
著者のノスタルジーが文章の端々に過剰なまでに溢れ出て
どちらかというと、それはこの本の存在価値を軽くしてしまうほうに作用しているのは残念だが
限定された世代にドンピシャの自分にとっては
まずまず面白く読めた。

考えてみれば
1960年代、70年代を、2010年代に関係者をたぐって取り上げようとする試み自体
かなり無謀なことなのだろう。
その年代に決断を下すべき管理者であった人々は
半世紀過ぎてみればすでにその大半は亡くなっている。
その時代に実戦部隊だった青年たちが
何人か生存を確認できるだけという状況だ。
やはり、管理者への直接取材は、引退直後に行うべきで
実戦部隊にしても、せいぜい一世代後速やかに行うべきだろう。
この本は、その意味で、実戦部隊への直接取材に辛うじて間に合った本である。
この作業の次には、やはり片山右介氏のような仕事が必須だろう。
その過程を経て、やっと現代史が歴史の一コマとして定着することになるはずだ。

498korou:2019/09/09(月) 15:48:02
藤田潔「テレビ快男児」(プレジデント社)を読了。

「電通とFIFA」に出てきた藤田敦のエピソードが
書いてある本だったので借りてきた本。
読んでみると、まさに、いい時代に活躍できた”快男児”だった。
様々な芸能人、文化人をマネージメントしながら
アイデアマンでもあるので、同時に「鉄腕アトム」をアメリカに売り込み
その過程で深夜のTVショーのアイデアにインスパイアされ
「11PM」を考案。
弟と組んで、マスターズの生中継を手掛け
その勢いで音楽、美術の方面でもレベルの高いTV番組を実現。
制約の多い21世紀になっても
そうした良質の文化番組をオファーするTV界でも異色の存在だ。

ある意味、こうした人材を文化芸術の分野でも欲していたかもしれない。
そこにうまくハマり、なおかつ全力で取り組んだ男というところだろう。

いろいろな番組のいろいろな仕掛けが分かり
なかなか面白い本だった。
業界もで有名な人のようなので
これからもこの本をもとにいろいろと語られるだろう。

499korou:2019/09/10(火) 10:14:42
中川博之「歌との出逢い 愛とのめぐり逢い」(備北民報社)を読了。

読む前は、ページ数も200ページ程度と短そうで
出版も地元の新聞社ということで
あまり大した本ではないだろうとたかをくくっていたが
読み始めるにつれ、なかなかのクオリティに驚かされた。
そもそも2段組みにびっしりの200余ページなので
分量は300ページ以上の充実した自伝となっており
さらに、著者の記憶力が素晴らしく
それぞれの年代での記述が具体的でわかりやすく
最初から最後までしっかりと楽しめる著作となっている。

概ね、中川さんの人生といえば
さほどの激しい挫折もなく(最初の朝鮮半島からの脱出は凄惨なものだったが・・・)
大体上手く展開できているように思えた。
その上、生来ともいえる艶福家でもあり
家庭を壊してでも愛人と生きようとするその生き様は
考えてみれば、かなり酷いものといえなくもない。
しかし、読んでいる間、そんな酷さなど微塵も感じさせないところなど
不思議な魅力をもった方であると言わざるを得ないのである。
自分としては羨ましい限りである。

あと、県北で少年時代を過ごしただけの方だけに
岡山への愛が中途半端であることも否めない事実である。
「西川」の読み方を誤ったまま新曲をリリースして失敗した話とか
カラオケの発祥地は名古屋と誤認したりとか
いろいろと思うところはあったが
それでも、新見への愛は感じられたので
それはそれなりの郷土愛なのだろうと思った次第。

500korou:2019/09/11(水) 10:38:52
「私の履歴書 31」を読了。

岩田専太郎、中村白葉、法華津孝太、松前重義という面々。
このところ経済人の伝記に飽きていることは別スレでも書いたばかりだが
このメンバーには純粋な経済人は居なくて
それぞれ個性ある味のある人生を送られた方々ばかりだった。
ゆえに、読んでいて面白く、こうした年長者が活躍していた時代への
ノスタルジーも相まって、興味はより増していった。

岩田さんは、あまりに奔放で芸術家の生きざま過ぎて
読んでも何の参考にもならないとはいえ
それはそれなりに面白く、山口昌男の本との関連もあり参考になった。
中村さんは、当時の年長者としての感情、心の揺れが
ストレートに語られていて
時代を超えて胸を打つものがあった。
法華津さんの人生も、
いろいろな人たちとのつながりが見えて興味深かった。
松前さんのは既読ではあったが、
いろいろと忘れていて今回も新鮮に読めた。
詳しくは自伝を購入済みなので、もう一度読みたい気分でいる。

501korou:2019/09/12(木) 17:34:58
野口悠紀雄「戦後経済史」(日経ビジネス人文庫)を読了。

いつか読みたいと思っていた野口氏による経済史の本。
読み終わり、概ね期待通りの内容で満足はできた。
思ったよりも、具体的な「自分史」の部分が多く
人によってはそこの部分に違和感を覚える人も居るだろうが
アマゾン書評では、まあそのへんは深く追及されていないようだ。
(個人的には大変面白く読めた)

戦後日本の経済成長に「1940年体制」が寄与しているという論には賛同できる。
それは数多くの要因のなかでもかなり大きな部分を占めることは間違いない。
具体的な政策を立案する官僚が戦後も居残ったのだから
どうしてもそうなっていくわけで
この場合は高度に完成した官僚制をすでに持っていた戦前の日本からの
連続性が良い方に作用したということだろう。

ただし、世界全体で自由主義経済が志向され
それに見合ったインフラ、国際政治情勢が加味され
いろいろな意味で「1940年体制」と逆の方向が主流となったとき
日本の劣勢は決定的となっていく。
かといって、どう対処していけばいいのか、それは誰にも分からないほど
今の日本はいろいろな意味でねじ曲がってしまっている。
野口氏にしても、具体的なイメージをここでは提示し得ていない。
とはいえ、これは「経済史」の本なので
「現状への提言」をここに求めても仕方ないのではあるが・・・

502korou:2019/09/22(日) 20:49:08
石井代蔵「大相撲親方列伝」(文春文庫)を読了。

旧職場から持ち帰った(処分済み)本である。
ちょうど大相撲の興行中の時期だったので
興味深く読めた(逆鉾の急死直後で、この本には鶴ヶ嶺の話も出てくる)

親方の話だけかと思いきや、その親方の現役時代の話もてんこもりで
すべての親方を網羅できてはいないものの(当たり前だが)
有力な部屋系統については半分以上語られており
相撲雑学としてこの上ない本だった。
昭和の厳しい時代の力士の生き様が中心なので
こういう世界を平成、令和に継続させていくことは
なかなか大変だろうことは容易に推察される。
ハングリーなモンゴル勢が中心になっていくことは
この本の書かれた平成初期に予言することは可能だっただろう。

直情径行な人が多いだろうことも推察できるが
やはり相撲界の発展のためには
大所高所から時代を読める人が必要で
その意味で、武蔵川ー春日野という流れは貴重だった。
その後、そうした逸材は魁傑、貴乃花くらいしか居ないのが残念で
その2人も、もはや相撲界に居ないというのが
現代の相撲界の悲劇だろう。

まあ、そういうことは抜きにして読む本で
ひたすら面白い本ではあった。

503korou:2019/09/23(月) 21:49:36
「私の履歴書 32」を読了。

植村甲午郎、岡崎嘉平太、谷川徹三、平塚らいてうという面々。
全体に読みにくい感じだった。
いわゆる履歴書という形式にそぐわない文章で
普通のエッセーであればどういうことないのだが
履歴書ということで読み始めるので
最初のうちは違和感が大きいという感じ。

そのなかで、植村氏の文章はオーソドックスで
かつ上流階級っぽい文章で、いい意味で個性が感じられた。
岡崎氏の文章は、ビジネスマン向けのエッセーとしては一流だが
これだけでは岡崎氏の仕事は半分も伝わらないので
自叙伝としては不適当。
谷川氏に至っては、一昔前の学者然とした高尚な文章で
読者が誰であるのかを全く意識していない感があった。
部分的には面白いのだが、難解な箇所が多すぎて(哲学が専門でその関係の文章が多い)
読んでいて疲れてしまう。
平塚氏の文章は、さすがに誤魔化しとか偽善とかの匂いがプンプンと漂って
旧時代の先駆者はさもありなん、という印象が強い。
本人の書いた文章ということだけが取り柄で
実際には、第三者が書いた客観的な事実を補って読む必要を感じた。

というわけで、今回は不作の一冊。

504korou:2019/09/26(木) 22:07:13
西崎伸彦「巨人軍「闇」の深層」 (文春新書)を読了。

2016年発行の新書で、当時から
いろいろなスクープで話題となっていた「文春砲」のその当事者たる敏腕記者が、
巨人軍のいろいろなスキャンダルの取材を通して知ったことを、
「闇」としてまとめた力作である。
やや読みにくい感じがしたのは
その多くが、当時、現在進行形あるいは収拾中の事件であり
まとめにくかったのではないかと推察できる。
とはいえ、これだけの調査をしてちゃんと報道した点において
なかなかの記者魂を感じるのである。

人気のあるスポーツ全般に言えることとして
体質的に反社会的勢力が食い込んでくることはやむを得ない面がある
(人気興行の世界でもそうだが)
ゆえに、重箱の隅をつつくような事実暴露は本来好ましくないのだが
マスコミにもマスコミの事情があるのだろう。
なかなか、この種の割り切れない思いばかりになる事件は
消えそうにもない。
どこかで適当に済ませておいてほしいのだが・・・
そんなことを思った読書だった。

505korou:2019/09/27(金) 17:32:51
鈴木輝一郎「何がなんでもミステリー作家になりたい!」(河出書房新社)を読了。

なかなかの良書だった。
市立図書館で偶然見つけ、ふと立ち読みしてみて
良さそうと思ったその印象のまま読み終えることができた。
途中で、やたらミステリー小説にこだわるなあ、普通の創作じゃダメなのかと思ったのだが
良く見たら書名がそうだった(当たり前の話だ!)

ずっと才能のことを考えていて
やや気弱になっていたのも事実だが
結構、手順を踏んでいけば、夢もあながち夢でないということも
教えてもらった。
何かのきっかけになれば面白い。

506korou:2019/09/28(土) 11:14:31
古橋信孝「ミステリーで読む戦後史」(平凡社新書)を断念。

ミステリーを時代との関連で検証するという前書き部分からして
なかなかのクオリティの本なのだが
残念ながら、紹介する本の梗概を記す部分が多すぎる、
結局、著者の意図に反して
単なるストーリー紹介本になっているので
読むのを途中で止めた。
もう少し紹介する本の点数を絞って
多方面からの考察を加えたほうが
意義ある著作になったと思われる。
やはりミステリーは
その時代の社会情勢だけでは分析しきれないジャンルではないかと
思われるので。

507korou:2019/10/01(火) 11:22:22
山室寛之「プロ野球復興史」(中公新書)を読了。

昭和20年から昭和33年まで
敗戦からの復興の時代から長嶋登場までのNPBの歴史を
プロ野球中心にその概観をまとめた本。
書名に”プロ野球”とあるが、内容はアマ野球も含んでおり
最初のうちは少々アマ野球の記述が多すぎるのではないかと
その分プロ野球の記述が削られているような不満もあったが
読み終わってみると、最終的には気にならない構成にも思えてきた。

著者としては、新規に発掘した資料(鈴木惣太郎とか内村祐之関係のもの)に関する部分が
この本のウリだとあとがきに書いているように見えるが
実際に読んだ感想としては
むしろ、2リーグ分裂の危機以降の詳細な経緯を記した後半部分のほうが
資料的価値があるように思われた。
もちろん大部な資料では既に書き尽くされた事柄ばかりなので
そのあたりは著者としては引用しただけということになるのだろうが
少なくとも新書版という読みやすくかつ手にとりやすい出版の形で
これほど具体的に2リーグ分裂直後の各球団の困窮の様子が記された本は
他にはないように思われるのである。
2リーグ分裂の経緯などは、部分的には新書版でも読めるのだが
その後の各球団の様子については、本書で初めて読んだような気がする。
知らない事実がたくさん載っていて、驚きと知的好奇心の満足の連独だった。

著者の意図しないところで、この本の存在価値は多いにある。
NPBの歴史に興味のある人には必須の本ではないかと思われる。

508korou:2019/10/15(火) 20:34:44
MLBなどスポーツ観戦の期間に入って
集中して読書することは不可能になっている。
鮎川哲也「黒い白鳥」、小林泰三「アリス殺し」なども借りていたのだが
結局、有栖川有栖「マジックミラー」だけ読了。

有栖川有栖なので安心して読み始め
ややスピードが出なかったものの(予想以上にスポーツ観戦が忙しい!)
途中からは一気に読めた。
もともとミステリー小説の書き方のような本を読んで
面白そうだと思い借りた本なので
今となっては
もう少し違う基準で本を選んだほうが良かったのだが
これはこれで有栖川氏の著作として美点の多い作品だったのでOKである。

ミステリー小説の感想を緻密に書くのは難しい。
ストーリーを簡潔に表現できるほどの記憶力はもはや無いし
ミステリーとしてジャンル内で完結している場合
読後感以外に何も残らない。
その何物にも代えがたい読後感こそ
ミステリーを読む醍醐味なのだが。

ということで、今回はこれ以上は書けない。
「第7章 アリバイ講義」が面白く、実際、アリバイ崩しがメインのミステリーになっている・・ということで終わり。

509korou:2019/10/16(水) 21:19:17
井上寿一「機密費外交」(講談社現代新書)を読了。

なかなかマニアックな戦前外交史の本だった。
とはいえ、全体としての印象はどうかと言えば
機密費についての分析は表面的で
史料の残った数年間という期間限定でありながら
その期間内ですら統一した記述が見られないわけで
なかなか読み易そうで実は読み進めにくい本だったことも事実である。

とはいえ(とはいえ、を連発だ)初めて知る事実も多い。
国際連盟脱退の真相は、国連による経済制裁を避けるためということで
軍による熱河作戦を止められない外務省の苦肉の策であったことがよく判る。
また、蒋介石と汪兆銘の関係も
(これは松本重治の本を参照して分かったことだが)今回初めて理解でき
南京政府の親日派の苦悩なども
今や忘れ去られようとしている歴史の一コマだろう。
こうした重要な細部を知っておくことが
あらためて大掴みに歴史を総復習する際に
以前とは違ったニュアンスで史実を理解できることになるわけだ。

その意味では、なかなか有意義な読書だった。
著者には、この本の姉妹編があるようなので
今度はそれを読んでみることにする。

510korou:2019/10/16(水) 21:27:54
筒井清忠「戦前日本のポピュリズム」(中公新書)を読了。

現代日本のポピュリズム、あるいは今海外をも席巻しているポピュリズムについて
過去の歴史から同様な流れを学べるかもしれないと思い
期待半分で読み始めた。
だが、通読した印象として
このベテラン歴史家(70才)のこれまでの研究成果を
そのままポピュリズムという文脈で再整理した感があり
それほどポピュリズムについて新しい知見が得られたわけではない。

ただし、同時並行で読み進めた「機密費外交」と同様
今まで知っていた史実について
より詳しく、より細部にわたり再復習できたのは収穫だった。
天皇中心主義が政党・財閥の腐敗構造を指摘するマスコミ、世相から
必然的に生まれてきたという指摘は頷けるし
知らず知らずのうちに一定の方向に世論を誘導してしまうマスコミの恐ろしさも
再認識できた。
5・15事件のときの新聞の論調には驚かされるし
近衛首相の人気ぶりも、当時の新聞記事の文章などで
具体的に知ることができて有意義だった。

というわけで
「機密費外交」同様、近代史の理解を深めるには最適の読書ではあった。

511korou:2019/10/17(木) 13:41:55
「私の履歴書 34」を読了。
(貝塚茂樹、杉村春子、竹鶴政孝、堀江薫雄の4氏)

多彩な面々ではあるが、まず杉村春子から。
これほど、本人の告白と客観的な史実とか
食い違っているのも珍しい。
そもそも文学座の分裂騒ぎは、この方の中国共産党びいきから起きたことで
そのことが一行も書かれていないので
読みようによっては、脱退者のわがままだけがピックアップされ
座を取り仕切る者としては被害者の立場だった、ということになりかねない。
しかし、大女優でありながら
これほどワンマンでかつ思想的に偏狭だった人も居ないのではないか。
これこそ自伝の弊害の一つかもしれない。

貝塚茂樹氏の自伝も
何か時代離れしていて、今の時代に読むのがそぐわない感を受けた。
その点、堀江氏の奮闘ぶりは
(全然状況が違ってきている現在の国際金融界ではあるものの)それなりに読み応えがある。
数々の大きな歴史的事業に関わっていて
歴史の裏側をのぞき見する愉しみのようなものか。
竹鶴氏の自伝は、職人の自伝なので、いつの時代であれ面白く読める。
ただ、この方の記述も、いくつか事実を隠して書かれているので
他の資料で補足しておくべきものである。

512korou:2019/10/20(日) 15:19:52
中島大輔「中南米野球はなぜ強いのか」(亜紀書房)を読了。

県立図書館の書棚でずっと見かけていて
いつか借りようと思っていたが
気がつけば10月も下旬になり、もう借りないと、
実際に野球がTV観戦しながら実感をもって読むという時期を逸すると思い
すぐに借りて読むことにした。
予想通りとというか、予想以上に面白い本だった。
きちんと現地取材をして、それも十二分に好奇心をもって取材対象にアクセスするという
基本中の基本を踏まえた取材の結果だけに
その内容は信じるに値すると思われた。

著者があとがきにも書かれているように
中南米野球は意外なほどシステマティックに発展している。
キューバのように、そのシステムが崩れかけていたり
ベネズエラのように、政治・経済の混乱がシステムの存続を脅かせていたり
それぞれに問題も抱えてはいるものの
ひるがえって日本の現状はどうか?
野球人気は安定していて、野球人口も安心はできないものの即致命的とは言えず
そうした状況に前向きな改善など期待すらできないのではないか。
もっとシステムの構築が必要だろう。
アマ・プロ・各年代別の野球関係者が団結できるような組織ができて初めて
今、日本の野球界が何を為すべきなのかがやっと見えてくるような気がする。
この本は、陰画として、日本野球界への提言を含んでいる。
もちろん、中南米の様子自体の面白さも含めて
中南米野球の魅力も十二分に伝えていることも間違いない。

513korou:2019/10/26(土) 14:10:06
読了を断念した図書 ⇒ 井上寿一「戦争調査会」(講談社現代新書)

全部で260ページ程度の新書だが、162ページまで読んで断念した。
前半部分の調査会の発足、頓挫までの経緯部分については読破できたが
後半部分の調査会の示したデータによる戦争原因の分析の部分については
あまりに叙述が主観的で、かつ省略が著しく文意が判読できないので
読むのを止めることにした。
すでにある程度知っている史実について
それを著者の主観で並べ直して、意味不明なほど重要な部分が省かれた文章で
著者なりの論理を構築されても困るのである。

前半部分については
幣原喜重郎の意見、見識については、知るところが多かった。
しかし、他の部分では疑問も多い。
渡辺銕蔵のような特殊な思想の人間を
ことさらにピックアップして取り上げる必要がどこにあったのか不明だし
そもそも、調査会の委員に軍人が必要な理由を
会発足の経緯を記した部分で詳しく書くべきであった。
結局、それが頓挫の最大理由となるのであるから。

というわけで
著者の前作でも薄々感じたことだが
叙述能力不足が著しく読み通すに堪えない著作に思えた。
筒井清忠氏の著作でも同じような傾向を感じており
昭和史、戦前史の著作は
より慎重に選書しないと時間のムダになる可能性が高いかも。

514korou:2019/10/29(火) 15:18:16
中川右介「手塚治虫とトキワ荘」(集英社)を読了。

中川氏の最新作で、一般的にはベストセラーではないので
この時期に県立図書館で借りることができた。
いつもの中川さんの著作のレベルで
見事なまでに完成された「二次史料」となっている。
体裁としては、「江戸川乱歩と横溝正史」にそっくりで
二段組みで400ページ近い構成になっている。

ただし、正直に言って、今回は読み辛かった。
内容がつまらないのではなく
完全に暦年別に記述してあるため
前年の記述の続きが前提になり
記憶力のない自分としては
毎回毎回、前の方のページに戻って
記述を確認する必要があったからだ。
特に、脇役的存在の人物については
しまいにはWikiの力も借りて
何とか文脈を脳内でつなぎ合わせる感じにもなった。

あとは全く不満はない。
戦後から昭和30年代前半までの日本の少年漫画史について
基本的な知識は得られたように思うし
それぞれの漫画家への思いも強くなった。
この時代に描かれたマンガを読む機会があれば
ぜひ読んでみたい。

515korou:2019/11/04(月) 21:05:43
原彬久「戦後政治の証言者たち」(岩波書店)を読了。

副題が「オーラルヒストリーを往く」で
ひょっとして面白い発言がてんこもり?と期待して読み始めたが
結局、著者が多くの政治家にインタビューした時の印象深い出来事の羅列から
戦後政治史を安保改定時を中心に物語る形の本であることが判明。
ある意味”メタ「私の履歴書」”のようでもあり
多くの人名をWikiで再確認するという流れまで
「履歴書」の読書と同じになった。

岸がアイク訪日を断念したのは天皇への配慮であり
同じ思いだった宮中からもそういう懸念が寄せられていたというのは
今回強烈に印象に残った。
岸人脈についても深く知ることができた(川島、椎名、赤城という戦前からのつながりと
戦後の福田赳夫への寵愛から生まれる政権内の不協和音!)
三木武夫などの自民非主流派の動きと、野党の動静が
米大使(マッカーサー)からどう見られていたかということ。
妥協ない理念の対立は議会政治には不向きであり
体制内の見解の相違が実は最も厄介だという史実が明らかになった。

著者の得意分野と思われる社会党の分析もタメになった。
左派、右派の動きがよく分かった。
著者には社会党に関する著書があるようなので
また読んでみたい。

全体としてはマニアックな政治本という印象。

516korou:2019/11/08(金) 10:53:03
加藤陽子「戦争まで」(朝日出版社)を読了。

本当は同じ著者の「それでも、日本人は『戦争』を選んだ」を借りたつもりだったのだが
読み始めて、違う本だったことに気づいた(何とも間抜けな話!)。
まあ、それでも読むに値する本だろうなと予測して読み続けると
予想通り優れた本だったので良かった。
何よりも「思い込みを排して一次史料にあたってみる」という歴史学習の初歩が
何度も繰り返し示されているのが優れた点である。
その点で、アマゾンなどでこの本を思想的に危険な本だとしてけなしている素人評者たちは
その「危険」の論拠を全く示せていないので、批評として形を成していない。
たしかに、意図的に選ばれた史料というか根拠も見受けられるのだが
それは厳然たる思想を持ち合わせた著者として当然の主張であり
それを「危険」としか評せないのは
単に考察の狭さを露呈しているだけで、この手の文章に付き合うのは時間の無駄である。
何か有意義な批評はないかと低評価ばかり見てみたが
何一つとして意味のある批評は見当たらかった。

結論として、これは優れた本であり、また次の著書を読みたくなった。
やはり、もしこの本にケチをつけるとすれば、詳し過ぎて粗雑な頭では咀嚼し切れないという点にあり
その意味で、同種の本をもう1冊読んで、しっかりと頭に入れたいと思うのである。

517korou:2019/11/18(月) 14:28:11
松沢弘陽ほか編「定本 丸山真男回顧談(上)」(岩波書店)を読了。

上下本だが、内容が濃いので
上巻だけ読了の時点で感想を書く。
とはいえ、あまりに多くの内容があり、とてもまとめきれないので
簡潔に要点だけを書く。

マルクスはヘーゲルの歴史観を受け継いでいるので
「歴史主義」としてくくれる。
それに対してギリシア以来の西欧に根強い思想として
「自然権・自然法思想」というものがあって
その見地からは「歴史主義」は「相対主義」ということになる。
逆に、マルクスの立場からは
歴史上の史実はすべて必然として起こるものとして
それを肯定的に解釈し、いかに正しく認識するべきかという
実証主義の問題となる。
同じ史実を見ても、自然法の思想からは正邪の判断が為されるのと好対照である。
マルクス主義者は、ファシズムについてその必然性を認める余地があった。
よって、戦前の日本の知識人は「転向」して、全体主義に寄与することになる。
自然法を重要視する立場としては
ファシズムについてそこまで肯定的にはなれなくても
当然ということにもなる。

書いてみて、うまくまとまらないが
まあもう少し時間を経て、都合のいいように理解することにしよう。
こういうのは重要な視点だから、とりあえず自らの意見を持っておくこうにする。
次は下巻を借りて読むことにしよう。

518korou:2019/11/18(月) 14:35:03
大下英治「昭和 闇の支配者列伝 上」(朝日文庫)を読了。

著者の得意分野の本のようだ。
特に、この上巻の後半部分は
直接、関係者(稲川聖城など)に取材しているので
なかなか生々しい。

前半の児玉誉士夫、小佐野賢治については
部分的には知っていたが
その全体像を知るに恰好の記載だった。
後半の稲川会関係の記述については
実に多くの人物が登場し
その多くがいわゆるアウトローというのも
独特の面白さだった。

全体に講談調の記述なので
とりあえず概要を知る程度の理解がベターなのだが
それにしても
知らないことばかりの現代史ということで
自分の知的嗜好にピタっとハマった。
まあ、あまり読み過ぎると
精神的にゲロを吐きそうになるゲテモノ人物伝であることも
間違いないのだが。。。

これも下巻を借りて読み続けることにしよう。

519korou:2019/11/29(金) 22:15:55
原彬久「戦後史のなかの日本社会党」(中公新書)を読了。

日本社会党がどのような変遷を経て、戦後間もなく分裂と統合を繰り返し
その後、あの魅力的な江田構想がどうやってつぶされ、なぜ何の魅力もない成田・石橋路線が継続し
そして最終的には、21世紀になる直前に壊滅したのかという一連の史実を知りたいために
1冊でそれらを網羅している貴重な新書として期待して読み始めた。

叙述は下手くそで、本来は簡単なことを
学者独特の韜晦趣味で無意味に読みにくくしている本だった。
よっぽど読むのを止めようかと思ったが
1冊ですべて網羅しているというその1点のみの魅力だけで
何とか読み終えることができた。
確かに、こうして網羅されないと、なかなか指摘されない細かい史実などは
この本を読むことで何とか整理できた。
しかし、叙述の下手さに加えて
なぜ社会党が衰退していったかという本来のテーマについての考察が
あまりに雑で、自らの視点にこだわりすぎていて
本当の戦後政治史の記述として意味を成していないのである。
総評のバックアップこそ社会党の原動力ではなかったのか?
特に80年代以降の労働者運動の低迷が
社会党を衰退させていったのではないか。
そして、土井たか子というシンボルが
一時的にそれを救済したのではなかったか。
そして、その土井さえも北朝鮮との関わりで批判されたのではないのか。
そういった一連の史実が全く語られていない政治史の本というのも信じ難い。
小沢一郎に翻弄される社会党の姿というのは、この本のおかげでよく分かったが
それだけの叙述力があるなら、もっと書けたはずなのでとても残念

520korou:2019/11/30(土) 14:01:18
大瀧詠一「大瀧詠一 Writing&Talking」(白夜書房)を読了。

全908pぎっしりと活字が詰まった大部な本で
図書館で借りてはきたものの全部読み通せるかなと
さすがに不安はよぎったが
なんとか10日ほどで読了できホッとしている。
とりあえず大瀧さんについての最低知識は
仕入れることができたと思う。

ナンセンスソングでは、やっぱり
鈴木やすし「社長さんはいい気持ち」の存在を知ったのは大きい(笑)
こんな歌、今じゃ考えられないし。
また、美空ひばり「ロカビリー剣法」なんて名曲も
この本を読まなければ到底知り得なかったところ。
また、はっぴぃえんどのアルバムについても
1曲ごと解説付きで聴くことができて(youtube時代の恩恵)
かなり理解が深まった。
その後のCM中心の時代、山下&銀次発掘時代、2年間の沈黙、
「ロング・バケイション」のヒット、佐野&杉の発掘時代と続く
大瀧詠一史。
最後のトーク編で鈴木雅之との出会いも分かり
桑原茂一氏の名前まで登場。
田代まさしまでWikiで調べたりしてww
「夢で逢えたら」と「幸せな結末」が最後の大活躍ということになるかな。

まあ、とにかくお腹いっぱい大瀧づくしでした。
これからゆっくりと消化することにします。
それにしても、こんな分厚い本、しばらく読みたくないよ(苦笑)

521korou:2019/12/07(土) 13:56:06
大下英治「昭和 闇の支配者列伝 下」(朝日文庫)を読了。

少し前に上巻を読んで、今回この下巻を読んだわけだが
今回の下巻のほうがはるかに読みどころの多い本だった。
上巻に出てくる人たちは、大物すぎる上に
もう亡くなってから相当の日数が経って直接取材はムリな存在だったので
どうしても伝聞中心の二次著作になってしまうわけだが
下巻のほうは、その点、著者自身が直接取材した相手も多く含まれており
その分、説得力の多い人物描写になっているのである。

それでも、横井英樹あたりは結構著名人だが
総会屋の小川薫、小池隆一、正木龍樹、「国会タイムズ」の五味武、
後藤田正晴、石原慎太郎らと親交があり、町井久之ゆかりのビルの処分に奮闘、
さらにマイケル・ジャクソンとも深い関係にあった朝堂院大覚などになると
そもそも詳しい小伝すら存在しないような人たちなので
たとえばWikiで以上の人たちを検索すると
引用文献は大下氏の著作になるという具合である。
たしかに、総会屋とか業界のフィクサーといった人たちの生態を
これほど生々しく描写した文章にはなかなかお目にかかれない。
朝堂院大覚の最後のあたりは怪しげな文章が目立つが
それでも他では読めない経緯が満載で
かなり面白い読書になった。
上下巻通して読むべき力作だろう。

522korou:2019/12/07(土) 14:03:03
中川右介「巨匠たちのラストコンサート」(文春新書)を読了。

信頼できる中川さんの本で、比較的軽く読めるものを、と思い
借りてきた本だが
読み進めるにつれて
今までほとんど知るところのなかったグレン・グールド、マリア・カラスなどについて
コンパクトにその生涯を知ることができたので
予想外に貴重な読書となった。
特にリパッティの高潔な人生には感銘すら覚えた。

ロストロポーヴィッチの人生も
ソ連という国家に翻弄された気の毒なものだったことを知った。
「あとがき」ですら参考になる。
本当に中川さんのような人が居て助かる、というのが実感。
ユンク君のサイトと中川さんの著作があれば
クラシック音楽を楽しむのに何の支障もないだろう。
吉田秀和、宇野功芳といった人たちについていったかつての日々が
嘘のようだ。
今の方がずっといい。

523korou:2019/12/10(火) 11:39:45
「私の履歴書 35」を読了。
(稲垣平太郎、桑原幹根、菅原通済、永野重雄の4氏)

錚々たるメンバーで
かつ稲垣、菅原両氏については既読であったが
念のため読み直してみると
やはり再読に値するというか
記憶に残っていない部分が相当あって
一度か二度読んだ程度なら
再読するに限ると思い知った次第。

皆、昭和40年代に生存していた”怪物”たちであり
その後の昭和、平成、令和には存在し得ない大物たちである。
特に、今は永野さんの「履歴書」を読了直後ということもあり
永野重雄という人、その一人だけで財界を代表できた時代というものが
懐かしくも羨ましくも感じられてならない。

その反面、前回の杉村春子の例のように
本人の独白だけでは片手落ちになることもあるので
Wikiによる「復習」も欠かせない。
まあ、この面々だと「復習」すればするほど
器の大きさを再認識するしかないことがほとんどであることも
事実なのだが。

「履歴書」を読むペースが若干落ちてきたので
県立図書館から借りた本とのバランスを計算して
読み進めることにする。

524korou:2019/12/10(火) 11:40:43
あっ、巻号が違う(「第36巻」だった!)

525korou:2019/12/15(日) 10:39:31
フレッド・シュルアーズ「イノセント・マン ビリー・ジョエル100時間インタヴューズ」(プレジデント社)を読了。

614ページに及ぶ大部な本だが
活字の段組みは1段18行でシンプルなので
本来なら、サクサク読み進められる(なんといってもビリー・ジョエルだから)はずが
全く整理されていない記述と、なぜか読みにくい翻訳の日本語のせいで
読み通すのに意外なほどエネルギーを要した。
とりあえず、読了したことで
今までは漠然としか知らなかったビリーの生きざまが
ほぼ見通せるようになったのは間違いないが
それにしても読みにくくて困ったという印象が強い。

ユダヤ系でドイツから逃れてきた家族というのは全く知らなかったし
これほど何度も結婚、離婚を繰り返していたというのも意外だった。
もっと普通に実直な人だと勝手に思い込んでいたということもあるが。
また、マネージャーとのお金をめぐる訴訟が
これほど泥沼化していたというのも初耳で
それがビリーの純真な性格からくるものだというのも
興味深かった。
1990年代途中から創作を引退し、以後はライブ活動だけというのも
公然の事実なのだろうけど、自分としては本書により初めて知った。
youtubeでビリーを聴く場合、こういうのは一番重要な事実かもしれないし。

ともあれ、疲れる読書だった。
ただ、知りたいことは、まあまあ知ることはできたかなという感じだ。

526korou:2019/12/25(水) 21:37:33
西本恵「日本野球をつくった男 石本秀一伝」(講談社)を読了。

565ページ以上ある大部な本だが
内容は、あまり文章が流暢でない人が
ひたすら石本秀一という人を讃えたくて書きまくったものなので
活字の大きさ、段組みもないということで
読み易い本ではあった。
とはいえ、講談社のような一流の出版社が出したとは思えないような粗雑な編集で、
文章の無駄な繰り返しとか
時空列を無視した混乱するだけでの叙述が異様なまでに多く
読み易い外見とはうらはらに、読んでいて結構苦痛も覚えた。
さらに、被伝者への敬意をあらゆることから優先させてしまう軽率な叙述で一貫していたので
むしろ、石本秀一への本当の評価はどうだったのか別の媒体で再確認する手間もかかり
なかなか面倒くさい読書になった。
結局、広島商業時代の功績は、当時としては「神」で今現在だとアウト(体罰以上に危険)、
阪神時代は、結果を残したので◎(ただし、選手の心は掴めていなかった)、
その後の金鯱・大洋・西鉄時代は可もナシ不可もナシ、
広島カープ創建時代は完全に◎、
中日のコーチ時代は△(結果は残したが権藤をつぶした罪は大きい、その他の投手もダメにした例が多い。柿本だけ○)、
広島のコーチ時代も△(結果はまあまあ。監督をダメにした罪は大きいし、あまり選手も育たなかった)
ということになるだろう。
以上を全部◎で評価した書いたのがこの本ということになる。

いろいろと調べて新しいことも発掘しているが、それを評価する時点で全部ダメになっている惜しい本。
日本にも本当の野球ジャーナリズムが出てきてほしいものだ、
取材される側の問題もあるので、日本社会全体の課題でもあるけれど。

527korou:2020/01/03(金) 13:58:32
中川右介「国家と音楽家」(七つ森書館)を読了。

旧年中にほとんど読み終えていたのだが
年末年始に読書の時間がなかなか取れず
やっと今日になって読了することができた。

全部で8章あって、それぞれに
国家権力に対峙した音楽家の姿が描写されている。
重いテーマだけに、しっかり書き切った場合
この程度のスペースでは済まないのだが
そこのところは、さすがにうまくまとめられていた。
しかし、本来は
こういう分量で章立てすること自体に無理があるわけで
「国家と音楽家」というテーマについて
深まった何かを提示しているとはいえないのも事実である。

この本の価値は
普段、一般的なクラシック音楽の本で
取り上げられることの少ないミュンシュ、クリュイタンス、コルトー、パデレフスキーなどが
まとまった形で語られているところにあるだろう。
また、トスカニーニ関連の記述の詳しさも
案外珍しいのではないかと思われる。
まさに中川本の面目躍如といったところだ。

528korou:2020/01/07(火) 11:22:22
「世界から見た20世紀の日本」(山川出版社)を読了。

ほとんど写真だけのビジュアル本の体裁だが
読み込んでみると、途中に挿入されている文章が
意外とボリュームがあって、かつ読みごたえもあったので
読後感としては、予想以上に面白かったという印象だ。

写真そのものには
それほど驚くほどのものはなく既視感が強い。
やはり説明の文章が面白い。
冒頭の写真のミニ歴史とか、途中の戦前の銀座の様子とか
なかなか、ありそうで見つからない感じの文章だった。
唯一、保坂正康氏の書いた戦前の日本への国際評価の文章だけは
違和感が残った。
もう少し丁寧に分析できるはずなのだが。

買ってまで読むほどの本ではないが
図書館で借りて読むにはちょうどいい感じの本だった。

529korou:2020/01/14(火) 11:41:28
まず、読了をあきらめた本について。

田中聡「電気は誰のものか 電気の事件史」(晶文社)を
全体の半分ほど読んで断念。
もともと、日本の近代において
電気事業がどのように始まり発展したかについて知りたいと思って
借りてきた本なのだが
内容が、全国各地での電気事業黎明期における個々の事件を取り上げて
その意味を歴史的というよりは「電気」というものへの哲学的な問いかけ、
ひいては文明というものへの問いかけにつながるような記述に終始していて
当初の目的とは違ってきたので
断念せざるを得なかった。
文章そのものも、あまり要領を得たものではなかったのも予想外で
これはアマゾンの書評に騙された感が強い。

530korou:2020/01/14(火) 11:50:01
次に、本日読了した
刑部芳則「古関裕而」(中公新書)について。

この4月からの朝ドラのモデルとなる人物とあって
中公新書には珍しく話題を先取りしたような企画だが
たまたま県立図書館の新刊コーナーに残っていたので(そもそも知名度は未だ低い?)
借りて読んでみた。
大学の先生の本とはいえ、あとがきに記されているように
著者は以前から個人的に好んで聴いていたらしいので
ほぼアカデミックな乾いた叙述は見られず
普通の伝記本として面白く読み進めることができた。

とにかく戦時歌謡とスポーツ物において
他に並ぶものもない第一人者であったこと、
(逆に、それ以外の分野では、第一人者の古賀政男のようには
 ヒット曲連発とはいかなかったこと、しかし昭和20年代には
 それなりに大御所らしい活躍を見せたこと)
それから、昭和30年代以降は
菊田一夫とのコンビでオペラ、ミュージカルの方面で
活躍を続けたこと
(そして、菊田の死去以降は目立った仕事はできなかったこと)(
ということがよく分かった。
逐一youtubeで楽曲を確認できる時代に読めたことも大きかった(実に良い環境になったものだ!)

コンパクトにこの大作曲家のことを知るには最適の本。

531korou:2020/01/22(水) 10:25:17
高平哲郎「スラップスティック選集⑥ ぼくのインタビュー術 入門偏」(ヨシモトブックス)を読了。

要するに、高平さんのこれまでの仕事をまとめたものが”選集”という形で発行され
その仕事のなかでも高平さんの持ち味が発揮された”インタビュー集”について
大部になるため2巻物として、その1巻目に”入門篇”と銘打ったということ。
特にインタビュー術について詳しく語られた本ではなく
初期のインタビューについて、延べ39名分まとめたものである。
2巻物に分散したとはいえ、この本についていえば
440ページに2段ぎっしりと埋まった相当な分量になり
読み通すのに予想以上に時間がかかった。
植木等、堺正章、由利徹といった個人的に関心の深い人たちも多く含まれているのに
読了に時間がかかるというのは、なかなかあり得ない。

ちょっと残念だったのは
2020年にもなると、内容が(特に具体的な作品名とか時代の流行とか)古びてきて
今更そんなこと聞かされてもという感じになってしまうことだ。
いくら昔のほうが濃い時代だったというイメージであっても
所詮、流行は流行でしかなく、あくまでも1970年代だけの話ということにもなる。
今更「ピラニア軍団」について詳しく知ってもねえ、どうしようもないねえ、という感じ。
逆に、鶴田浩二、勝新太郎あたりは、もはやそんなスケールの俳優など皆無なので
インタビューすべてが貴重で、希少価値がある。

ということで、久々に「読み疲れ」した本。
全部面白いとまではいかないが、まあそれだけのエネルギーを費やすのも仕方ない本。
2巻目はちょっと間をあけて読むことにする。

532korou:2020/01/25(土) 10:17:48
中川右介「玉三郎 勘三郎 海老蔵」(文春新書)を読了。

大変な読書だった。
平成の直近の歌舞伎界を知るのが
未知の世界である歌舞伎を知る最初のステップと考えていたが
数多い中川さんの著作の最新作がこれだったので
ちょうど良い機会だと思い借りてみたのだが・・・

とにかく家系図が込み入っていて覚えにくい。
中川さんの叙述もあまりに詳細すぎて、
ついていけない部分をWikiでいちいち確認しながら
読み進めないといけないので
一日に数時間費やして10数ページしか進まない
というような読書だった。
しかし、それだけの労力を払ったかいがあって
この本を読む前と読んだ後では
歌舞伎の家系についての理解は数段深まった。

それと同時に
必ずしも現在の歌舞伎界の将来は明るくないということにも
気付かされた。
やはり勘三郎の死の影響は未だ続いているのだろう。
今後の歌舞伎界についても関心は深まった。
多くの人にとって多分煩雑な感じの著作だと思えるが
自分にとってはタイムリーな本だった。

533korou:2020/01/27(月) 12:50:39
大下英治「平沼赳夫の宣戦布告」(河出書房新社)を読了。

途中、通産相としての政策説明とか、小泉首相の郵政民営化のみの強引な解散選挙への異議とか
長文が挿入されていたが、そこは飛ばし読み、もしくは読まなかった。
2020年の現在となっては、読む必要は全くないと言えよう。
全体として、平沼氏への提灯本という印象は免れ得ず
少なくとも明確な立ち位置は示さないはずの大下氏の著作としては
異例な感じを受けた。
やはり、世代的な共感(平沼・1939年生、大下・1944年生)があったのだろうか?
どちらにせよ、2006年の郵政選挙直前に刊行されたこの本は
その後の国際情勢とか、東日本大震災とかの重要な出来事が含まれていないわけで
個々の政治テーマについて、もはや参考程度に読むしかなく
やはり、この10数年の国の内外の動きは大きかったのだなと
改めて実感させられる。

国政に携わりながら、そのなかで岡山県在住のキーマンとどう関わっていたか
ということについては
こういう本でしか知りようがない。
伊原木一衛、石井正弘という人がどういう軸のなかにいるのか
それを知ることができたのは収穫だった。
そもそもの平沼麒一郎との関係も明確に分かった。
あとは、こういう客観的な事実に絞って
誰かが「村上・亀井グループ」そしてその中での平沼の功績をまとめてほしいと
思うだけである。
この本には、選挙応援のような、今となっては読むに値しない部分も多く含まれているので。

534korou:2020/01/28(火) 16:13:53
読了断念本。
村瀬秀信「止めたバットでツーベース」(双葉社)

NPBエッセイで面白そうに思えたが
だんだんと創作風な雰囲気になり
単なる野球小説を読んでいるような感じになったので
読む意欲を失い断念。
近藤唯之氏のことを書いた最初のエッセイで騙されてしまった。

535korou:2020/01/29(水) 18:40:36
読了断念本。
倉山満「自民党の正体」(PHP)

個性的な政治評論、というかお遊び政治本の体裁だが
やはり今流行りのネトウヨ風、対外強硬論をぶちあげる論調で
これは、借りる際に立ち読みした程度では気が付かないほど巧妙に仕組まれていて
100ページほど読んでみてやっと気づいた。
面白く政治を語る才能は貴重だが
もはや、こんな論調に付き合うヒマはない。
もっと世の中にはしっかりとした政治本があるはずなので
この本の面白さにはなかなか出会えないとはいえ
そういう本を探して読むことにする。

リトマス試験紙は幣原喜重郎と吉田茂かな。

536korou:2020/02/01(土) 11:35:15
石橋健一郎「昭和の歌舞伎 名優列伝」(淡交社)を読了。

ちょっと前に読んだ「玉三郎 勘三郎 海老蔵」(中川右介著)の
前史に当たる時代の歌舞伎名優列伝になるので
うまいこと頭の中でつながって読めた。
とはいうものの
複雑に入り組んだ歌舞伎名家の流れを把握するためには
小谷野敦「日本の有名一族」とかWikipediaの助けを借りながらの読書となり
270ページ程度の新書でありながら
読破には結構時間がかかった。
もう、これで明治末期から平成の最後あたりまでの名優については
ほぼ把握できた感じである。

石橋氏の叙述は
長年仕事として歌舞伎の調査研究に携わり
自身も幼少期から歌舞伎鑑賞を続けて歌舞伎愛に満ちた方として
冷静かつ蘊蓄に満ちたものだった。
新書サイズの著作として、これほど適切な人選はないように思われた。
自分としては
もはや、その記述の詳細を批評することなど
知識の面において不可能である。
ただ、巻末に「外題一覧」を載せるのであれば
巻頭に「歌舞伎名家系図」を載せたほうが
よっぽど読者に親切だっただろう。
まあ、これは淡交社の編集者の仕事でもあるけれど。

537korou:2020/02/01(土) 11:43:13
辻和子「歌舞伎の解剖図鑑」(エクスナレッジ)を読了。

歌舞伎の名優列伝のついでに借りた本だったが
思ったよりも中身が濃く
もし歌舞伎ファンになるのであれば
購入してもよいかなとさえ思った本だった。
最初のほうは、ビジュアル本独特の読みにくさがあり
ビジュアル部分の小さい活字は読み飛ばしていたが
途中から興味深い箇所が続き
その後に見事な名優家系図が6ページにわたって展開されているのを見て
そのあたりからは詳読モードに突入することになった。
最後の舞踊の紹介あたりは、再度飛ばし読みモードになったが
とりあえず知りたいことを最低限知り得た感じはする。

ビジュアル本は直感的に読みにくそうに見えるので
今まで借りることをなるべく避けていたが
今回借りて読んでみて
本当に知りたいことであれば結構読みがいがあることも発見。
ただし、ビジュアル部分の説明がかなり小さい活字になることが多いので
目の負担も大きいということも知った。

ということで
いろいろな角度でいろいろなことを学べた貴重な一冊。

538korou:2020/02/02(日) 14:04:19
「私の履歴書 39」をほぼ読了。

加藤辨三郎、木川田一隆、喜多六平太、水田三喜男の4名で
このうち喜多六平太については、
内容があまりに能の専門的なものに偏っていて
読み通すのに苦労しそうだったので
読むのを諦めた。

加藤氏と水田氏の文章は
人物に余裕が感じられ
いかにも明治人の余徳が偲ばれるものだった。
その点、木川田氏については
いかにもいろいろな利権の絡む仕事に関わることで
その人間性の貴重な部分を失って居られるようにも思えた。
一般的には木川田氏は、信条の人と思われていたようだが。

あまりに長期にわたって読み続けたので(大部な本を借り過ぎてそっちに労力を取られた)
もはや加藤、木川田両氏の文章の内容については
記憶が定かでない。
まあ、これも仕方ないかと思う。
さらに順番を変えて読んだりした試行錯誤もしたが
やはり順番に読んでいくことにする。

539korou:2020/02/12(水) 14:06:59
半藤一利「世界史のなかの昭和史」(平凡社)を読了。

同じ著者の「昭和史」は随分前に読んだ記憶があるが
その内容はほとんど覚えていない。
読みやすいので、昭和史全体をイメージするには重宝するが
新発見の史実とか新しい知見が書かれているわけではないので
読んだ後しばらくするとその内容を覚えておくことは難しいわけだ。
今回は、その「昭和史」とその次に書かれた「B面昭和史」に続く
世界史との関連で書かれた昭和史ということになるが
それにしても著者はこの著作の時点で90歳に近いわけで
あとがきにも本人が書かれているとおり
文章の背後からはほとばしる知的好奇心とか情熱が失われつつあることは否めない、
最初の方でそういう”緩さ”を感じてしまい
読破しようかどうか迷ったものの
最近、昭和史の通史のようなものを読了していないせいもあって
そういう意味でならと思い、なんとか読了した。
スターリンに関しては、今まで年次ごとの詳細を詳しく知らなかったので
その意味では有効な読書にはなったが
おおむね既知の史実に既知の見解が述べられていた本だった。

やはり、こうしてみると
ドイツの仲介で蒋介石と和平が可能だった時点で
結果として「蒋政権を相手せず」と国の内外に宣言した点が
昭和戦前の不幸な歴史の分岐点だったと思わざるを得ない。
そこで和平が成れば、米国もあそこまで強い態度には出れなかっただろうと思うので。
さらに中国本土で石油採掘が可能になれば
黄金の昭和史になったに違いないのだが・・・

540korou:2020/02/14(金) 09:21:01
山口瞳「追悼 上」(論創社)を読了。

ふと何のせいか判らぬまま
山口瞳の本を読みたくなることが何回かあった。
なので、先日、県立図書館に行ったときに
伝記のコーナーでこの本の背表紙を見て
さらに中をパラパラとめくって良さげな感じであったので
さっそく借りてみた(ついでに全集第一巻の「江分利満氏の優雅な生活」も)

借りる前には想像もできなかったことだが
この本を読了してみて感じたことは
山口瞳という作家は
意外なほどしっかりとした方法論に基づいて
文章をまとめているということだった。
原則は、複数(それも2つ3つでは不十分で、できれば4つ5つ)のエピソードを絡めて
ある一つのテーマについて書いていくという手法。
本文中にもあったが、それは花森安治氏からの教えによるものなのだろう。
アイデアの枯渇を恐れて出し惜しみをしているようではプロではない、
枯渇時にはレベルの低いものを出していいのだという、ある種の迷いの無さ。
それが、山口瞳という作家が書く雑文の面白さを保証しているのだと感じた。
そして、その一面で、デビュー作の作風からはなかなかイメージできない
「無頼派」としての側面も大いに感じた。
そうしたことは、今回読了しなかったけれど「江分利氏・・」のような小説にも共通しているのではないかと。
(そこまで分かった時点で、この本を精読する意義は達成されたので
 著者が精魂傾けて書き綴った梶山季之、向田邦子への「追悼文」は
 あまりに長文なので読むのを一部省略した)

なかなか「通好み」の本だと思う。

541korou:2020/02/18(火) 11:31:45
小谷野敦「日本の有名一族」(幻冬舎新書)を読了。

以前から何度も参照していた本なので
今更読了も何もないのだが
今回、なんとなく最初から最後まで目を通したので
読了報告に追加することにした。

同種の本を数冊所持しているものの
この本でないと参照できない、あるいは同系統であっても一番見やすいという点で
他には代えがたい特色を持っている本であることは
間違いない。

これ以上コメントすることはない。
自分にとって、これは基本図書みたいなものだから。
自分の棺桶に一冊本を入れるとしたら
ハルバースタムの野球の本か、この本のどちらかになるだろう。

542korou:2020/02/18(火) 11:39:18
片山杜秀・山崎浩太郎「平成音楽史」(アルテスパブリッシング)を読了。

指揮者チェックをずっと続けていて
いわゆるカラヤン没後のクラシック音楽界のことについて
自分があまりにも無知であることが気になり始めてきたので(例:ピリオド演奏とか)
こういう本を読むことで
少しは足しになるかなと思い読み始めたのだが
そういう意図以上に得るものが大きい読書となった。
特に、片山さんの思考、言葉には
大いに啓発された。
同世代ということもあり
一言一言の意味について
その言外のニュアンスまで含めて
「わかる、わかる」と頷きたくなることが多かった。
もちろん、ティーレマン、ドゥダメル、クルレンティスなど
重要な人物アイテムについて
知ることができたのも大きかった。

以上まとめて、これほどしっかりとした収穫を感じた読書は
このところなかったので
実に意義ある読書になったと感じている。
片山さんの本をいろいろと読みたくなった。

543korou:2020/02/19(水) 23:01:05
福井幸男「アメリカ大リーグにおけるイノベーションの系譜」(関西学院大学出版会)を読了。

読了といっても、19世紀MLBの記述である第1章と
MLB財務を統計学の理論で分析した最終章は読まなかった。
20世紀と21世紀の今までのMLBを
制度改革の視点で説明したそのほかの部分は全部読んだ。

すでに知っている知識の再整理という感じの読書でもあったが
もちろん知らないことも多くあり
その意味では有意義なのだけれども
記憶力に限界があり
この本で初めて知ったことを列挙せよと言われても
ほぼ何も書くことができない。
まあ趣味としてMLB観戦するにあたって
時々思い出せればいいなという程度である。
野球観戦だからそれでいいと思っている。
時としてこんな読書もある。

544korou:2020/02/24(月) 22:54:53
中川右介「阪神タイガース1985-2003」(ちくま新書)を読了。

昨年10月に刊行され、年末に県立図書館で配架されたが
2か月以上待っても「貸出中」のままで
しかも誰も予約をかけなかったので
予約して読もうと決断し、先週やっと手にした本だ。
あっという間に読み終わることは分かり切っていた。
中川さんの本でNPBの本なのだから。

今回は前回の年代と違ってごく最近なので
知らないことを確かめるといった読書になった。
なぜ、80年代後半から00年代当初まで
あんなにも低迷したのか、ということについて
ある程度の確認はできたように思う。
単純に「弱かった」のだ。
少なくとも90年代のあの1軍メンバーで勝てるわけがない。
その一因はドラフトでの無策ぶりであり
外国人選手獲得のノウハウのなさである。
決してフロントなどのゴタゴタが主要な要因ではないのだ(阪神ファンはそのことを分かっていない)。
星野時代になっても、ドラフトは改善されなかったが
どういうわけか外国人選手の人選は当たった。
その後の安定ぶりも(2位が多い)外国人がまずまず活躍するからで
ドラフトは一向に改善されていない。
ゆえに優勝頻度は低い。
(続く)

545korou:2020/02/24(月) 23:12:56
(中川右介「阪神タイガース1985-2003」(ちくま新書)の書評の続き)

日本人選手に関しては、これはどこのチームでも波があるものだ(決して阪神だけの話ではない)
その波の下方へ向かう時期が90年代に集中しただけで
そこはドラフト入団の新人による刺激と
入念な調査に基づく外国人選手の獲得による戦力維持により
優勝はともかくAクラスの実力を保つことは可能なはずである。
しかし90年代の阪神にはそのどちらもなかった。
80年代後半の没落はいかにも阪神らしく(ああいう感じの低迷は確かに他のチームではなかなかないが)
これは人気球団の宿命で、フロントが無策であればああなる(最近はもう1つの人気球団の巨人のフロントも怪しい?・・・)
90年代の低迷とはちょっと違うニュアンスは感じられる(そこはフロントを嘆くのが妥当かもしれない)

ともかく、2003年の優勝は、金本獲得が大きいと思っていたのだが、そうでないことがこの本で分かった。
アリアスが38HR打って、ウイリアムス、ムーアがあれだけ活躍したのだから
ダメ外国人が常に居た年代とは大違いだ。
あとは井川をエースに育て、今岡、藪を復活させ
かつ野村時代に育った選手をきちんと使いこなした星野の手腕だろうが
その反面で、その年の横浜ベイスターズの対阪神戦でのあまりの弱さにも
助けられた面があるのも事実。
いつも選手全部を使いこなせる監督が居るわけでもないので
今後の阪神は、ドラフトでの選手獲得方針の改善と
MLBとのパイプ強化が鍵になるのではないか。

読後、そんな感想を持った。
アマゾン書評での”事実誤認の酷い本”というのは、例示ナシなので説得力が弱い。
どこが誤認なのかさっぱり分からない。

546korou:2020/03/01(日) 20:37:00
佐藤優・片山杜秀「平成史」(小学館)を読了。

いろいろな期待を込めて読み始めた一冊。
その期待通りの内容でもあったし、やや違う感想も抱いた対談でもあった。
しかし、知的な刺激を大きく受けることは間違いない。
異論があることを承知で、二人とも持論を展開していて
博覧強記であることも加わり
終始読者を圧倒する内容になっている。

平成とは、中間団体が消滅、その世界独自のルールが消滅した時代で
個人が無所属になり、アトム化し、ある意味偶然や運が大きく左右する存在になり
その結果、絶対的存在への帰依、憧れの増大・・・にもかかわらず
すでに「大きな物語」は滅亡しているので(その代表がマルクス思想)
常に不安定な状況にあって、結局刹那主義に流れるという展開。
さらに佐藤氏は、キリスト教などの宗教の解釈を加えて
現代を分析してみせている。

なかなか簡単にはまとめにくい。
平成と言う時代は
割合と簡単な時代ではあったように思うが
それでも30年の長さを簡単にまとめることはできないのは
当たり前かもしれない。
今度は片山氏の「平成精神史」を読むことにしようか。

547korou:2020/03/03(火) 17:44:19
「私の履歴書 40」を読了。

市川忍(丸紅飯田社長)、瀬川美能留、土川元夫、水谷八重子の4名。
細かいところは、読み始めて1か月近く経っている今
あまり思い出せないが
市川、瀬川、土川の3氏の印象は
似たり寄ったりというところか。
まさに昭和30年代からの高度成長時代のリーダーたちで
その教養は大正時代に由来し
昭和戦前期にいろいろな体験を積み重ねて
その経験を十二分に生かした結果
大企業のトップに成り上ったという印象である。
ゆえに、文章の端々に独善と強気が漂い
こういう人の下で働くのはしんどいだろうなと思ったりする。
反省などは1ミリもない人たちであろうから。
水谷八重子については
水谷竹紫についてある程度知れたので良かった。
最近仕入れた歌舞伎役者についての知識が
読んでいてかなり役に立ったので
そのへんも面白い読書体験だった。

そろそろ、面白味のある財界人が居なくなってきたかな、という感じ。

548korou:2020/03/06(金) 17:23:13
広瀬隆「億万長者はハリウッドを殺す 上」(講談社)を読了。

退職したらじっくりと読む予定の本の最有力候補として
この本を読むのを楽しみにしていたが
思った以上に活字が小さくて
読むのに苦労した。
そうして苦労して読んだ割には
得るものが予想以上に少なかったのは大誤算だった。
そもそも叙述の時系列が無茶苦茶で
まだその肩書になるのに10数年かかるのに
もうその肩書の職権を乱用していることになっていたり
名誉職で肩書を増やしただけなのに
その財閥のなかで抜群の発言力があることに決めつけられているわけで
陰謀論としては初歩的ミスの連発と言わざるを得ない。
田中宇さんの文章も時として相当なものだが
広瀬さんのはさらにそれを超越していて荒唐無稽そのものだ。

この1年で読書嗜好が変わり
こういう本を受けつけなくなったを痛感する。
時々面白い視点、新鮮な視点があるのだが
それだけのために小さい活字を凝視する労力を使いたくないので
下巻は当分封印する。
ただし、用無し本にするかどうかは
もう少し考えて決めたい。

549korou:2020/03/11(水) 11:14:54
岡留安則「『噂の真相』25年戦記」(集英社新書)を読了。

コロナウイルス騒動の拡大で
県立図書館に行くことすら躊躇されるような時世になったので
ちょうどいい機会だと思い、購入済み未読の本を読む作業を開始。
まずこの本が視界に入ったので、作業第1弾となった。

(・・・と思ったら、たまたまこのスレの前バージョンのスレを振り返る時間があって
 読んでいたら
 何と2004年にこの本を読んで、しかもダイスポさんとそのことで会話しているではないか。
 でも・・・読んでいるはずなのに、何の記憶もないのである。
 しかも、今回この本の半分以上読み進めて、知らないことばかりだなと改めて思い直したばかりのときに
 その書き込みを見つけたわけだから、なかなかの衝撃だ。
 まあ、これ以上その衝撃を詮索したところで何も出てこないので、この件は「やはり記憶は怪しい」で済ませておこう)

改めて読み終わった印象(笑)といえば
権力への警戒感という自分の今のスタンスは
もともとそういうことがメインだった時代をノスタルジーとして感じていた20代の頃の感性を
この雑誌の発見(1992年頃?)で、見失うことなく継続させていったのだろうな、という思い。
今はこういう雑誌はそもそもにおいて理解されないだろうから(どこかでマルクス、共産党の影響もあるし)
休刊はグッドタイミングだったのだと再認識する。
そして、当時でもかなり危機感があった岡留氏の意識を文脈に認めたものの
そこから比べても断然レベル低下している今現在の状況にあって
まだ決定的な秩序崩壊に至っていないことに
不思議な幸福感を覚えた。
まあ、何の根拠もない幸福感なのだけれども。

なかなか複雑な読後感だ。

550korou:2020/03/11(水) 16:56:31
「私の履歴書 41」を読了。

緒方知三郎、小原鉄五郎、椎名悦三郎、久松潜一の4名。

緒方、久松の両名は、専門の世界で著名な学者であり
それぞれの世界での著名人も出てくるので
それなりに面白味もあったが
全体として、狭い世界での勤勉物語という趣だった。
各人物の生没年を確認することで
時期別の人間模様が明確になることが
読んでいて唯一の楽しみだったかもしれない。

小原氏は昔風の偉人だった。
今の時代に、この姿勢、態度で
ここまでリーダーシップを発揮することは難しいだろうが
昭和の途中までなら、これで完璧とも言えるわけで
時代との巡り合わせが非常に良かった例と言えるだろう。
そのおかげで徹底した哲学まで深めていっているので
いくらか現代にも参考になる考えが含まれているように思う。
椎名氏も昔風の官僚、政治家だが
さすがに何をしゃべっていいか、しゃべってはいけないかという点において
現今の政治家とは一味違って慎重かつ冷静だ。
満州への思いも、普通なら氏のような賛美は理解され難いのだが
この時代にここまで踏み込んで書いているのには驚くとともに
本当かもしれないと思わせるリアルさが感じられた。

全体に明治以来の日本が築き上げた遺産を
なんとか先人に恥じないよう継承していこうとする世代の
息苦しさと誠実さと勤勉さを感じ
ふと岩田宙造のようなパイオニア精神の権化のような人を懐かしく思った次第。

551korou:2020/03/14(土) 12:05:16
山川静夫「私のNHK物語」(文春文庫)を読了。

歌舞伎などの古典芸能の大家としても知られる山川氏だけに
最近になってその方面の知識を個人的に蓄えてきたところで
さあ読んでみるかという感じで読み始めたのだが
読み終えた今の感想からいえば
ほぼ古典芸能の細かい話は出なかったなということになる。
もちろん、大阪放送局時代の話として
文楽のことは詳しく書かれていたし
随所に歌舞伎のことは出ていたのだが
それよりも、若い修業時代の頃は
意外なほどの遊び人で無茶し放題の人だったことが分かり
予想外ともいえる破天荒な面白さに目を見張らされた。
皆が知るあの温厚そうな佇まいからは想像もできないことである。
NHKアナについてのイメージが一変するような本だ。
(今はさすがにここまでの豪傑はあまり居ないのだろうけど)

考えてみれば、なんとなくNHKの有名アナになっていたような感じで
思ったほど人気番組というものを持っていなかったような印象を受けた。
「昼のプレゼント」にしても、個人的には感心しなかったし(一般には好評だったように書かれてはいるが)
宮田輝の後を受けて「ふるさとの歌まつり」の後番組をするにはさすがに大変だろうし
あの冴えなかった時代のNHKの歌番組を担当するのは貧乏クジでしかないし
「ウルトラアイ」にしても地味すぎるし
やはり「紅白」の山川でしかないだろう。
でも「紅白」だけであれだけの名声が得られたというのも不思議だ。
やはり分からないことも多く残ったが
どちらにせよ楽しい爆笑本でもあり面白かった。

552korou:2020/03/21(土) 13:40:35
「私の履歴書 42」を読了。

安西正夫、井伏鱒二、屋良朝苗、吉住慈恭一の4名。
この巻は、(安西正夫は除くが)感銘を受ける方々ばかり揃った。
安西氏にしても森矗昶のことをこれだけ詳しく書ける人は他に居ないので(女婿でもあるので)
1巻まるごと(廃棄せず)保存することにした。

井伏さんの文章の確かさには唸らされた。
やはり小説家ともなるとよく人を観察していて
実業家の書く自伝とは一味違う。
個々のエピソードが雑然と続けているだけのようにみえて
実は、大正・昭和戦前期の人間模様が
イメージ豊かに描かれている。
屋良さんについては
沖縄出身者の「履歴書」は初めてだったので
いろいろと印象深く
県立図書館で「沖縄現代史」の本を借りて
知識を補足することにしたほどだ。
吉住さんに至っては、全く知らない分野(長唄)の人だったが
この履歴書の書かれた昭和45年の時点で93歳という高齢で
しかも、芸事なので若い時から第一線で活躍できたこういう方などは
明治の中頃からの様子が具体的に書かれているという
実に貴重なものである。
黒田清隆のエピソードなど、それを1970年の時点で生々しく語れる人が
現存していたのだから仰天だ。
いいものを読ませてもらったという感がある。

553korou:2020/03/26(木) 16:13:56
広瀬隆「億万長者はハリウッドを殺す 下」(講談社)を読了。

コロナウイルス騒動のおかげで
外出もままならず
本来ならもっと先に読むはずだったこの本を
今日読了してしまった。
とはいえ上巻よりは面白かった。
すでにこの著者独特の牽強付会に慣れてきた上に
上巻よりはミステリー仕込みの叙述が多く
そのミステリー自体が自分にとってリアルタイムに近いこともあって
より具体的にイメージすることができたからだ。
相変わらず強引だ(笑)
しかし、マッカーシーの没落、映画人の具体的な活動、ナチスの亡霊、
あるいは原子力をめぐるアメリカ世論など
この本でならでは物の見方というものも知ることができた。
もう少し広瀬節に付き合ってみようか。
次はその後の10数年の世界を読んでみよう。

554korou:2020/03/30(月) 20:59:50
櫻澤誠「沖縄現代史」(中公新書)を読了。

屋良朝苗氏の”履歴書”を読んだ勢いで
県立図書館で沖縄の現代史の本を借りてきたが
なかなか辛い読書だった。
著者が若くてまだ生硬な文章しか書けない人で
例えば要約の部分を示唆しながら
その直後に全然別の事実を詳述したりする初歩的なミスから
そもそもどういう立場でその史実をとらえているのかという
著者の思想面も曖昧で
いろいろなレベルでの読みにくさが混在していた。
さらに自分自身が沖縄現代史について
初歩的な知識すら持ち合わせていないことも
読書のスピードを妨げた。

とはいえ、それなりに収穫もあった。
それこそ初歩的な知識はいくつか知ることができた。
また現代の沖縄独特の捻じれた意見、思想について
その捻じれ具合についてもイメージを持つことができた。
また重要人物の数人についても
その生きざまを参照することができた。

あとは、もう1回、コンパクトなサイズでいいので
もっとこなれた文章で通史を再読したい。

555korou:2020/04/10(金) 10:45:06
広瀬隆「アメリカの経済支配者たち」(集英社新書)を読了。

1985年時点での米国政治経済の支配者層を描いた上下2冊の本を読了し
次は1999年時点での同様な視点によるこの本を読み
さらにこの次には2000年代になった米国の同様な視点の本を読む予定だった。
しかし、この本を読んでいる途中で
どうも読んでいる間の幸福感が感じられなくなり
(これは以前も上下本の上巻を読み終わったときに感じたことでもあるが)
次の本はしばし保留することにしたい。

今回のこの本は
ロスチャイルドも含め、さらにIT長者、マスコミ、金鉱利権者からCIAに至るまで
対象を広げた本である。
その代わり、歴史的な叙述はカットされ
おおむね19世紀以来の大財閥としての振る舞いが概説されている。
その意味では、雑学としてタメになる本ではあるのだが
なにせ対象が広すぎて、もはや何が何だか分からないほど
話がとっちらかり、散漫な印象は拭えない。
もうこれだけの蘊蓄は覚えきれない。
そんな妙な敗北感が読後感としてよぎってくる。
まあ、この種の本は、あまり根を詰めて読まないほうがいいのだろう。

そうでなくても、なんとなく
(目の状態とかコロナウイルスで悶々とした状況のなかで)読書のペースが進まない今現在なので。

556korou:2020/04/15(水) 09:04:04
阿部眞之助「近代政治家評伝」(文春学藝ライブラリー)を読了。

戦前の東京毎日で学芸部長として名を馳せ
戦後はNHK会長となりその職のまま死去した
辛辣な人物批評で知られる著者が
1953年頃に雑誌に連載した人物評をまとめた文庫本。
取り上げられた人物は
山縣有朋、星亨、原敬、伊藤博文、大隈重信、西園寺公望、
加藤高明、犬養毅、大久保利通、板垣退助、桂太郎、東條英機
という12名。
明治から昭和に至るまでの政界における重要人物を取り上げておきながら
誰一人として褒められた人は居ないというくらい
辛辣な評伝となっており
特に伊藤と西園寺はもう少し功績を評価してあげても良かったのではないか
と思えるほどだ。
やはり実際に記者として取材した相手である加藤と犬養に関しては
わずかではあるが情が移っている気配が感じられるが
総体的には敗戦国日本はなぜ生まれたかという
この本が書かれた時期には皆思っていた疑問に答えるべく
そこまでの支配者層に対しての評価は極めて厳しい。

個人的には、原、伊藤、大隈、西園寺、加藤、犬養、大久保は
現代の政治家より遥かに優れていると思う。
逆に山縣、星、板垣、桂、東條などという連中は
いつの時代でも居るような普通の人々ではないかと思っている。
まあ、全体として、明治・大正の政治史を知る意味で
有意義な読書にはなったはず。

557korou:2020/04/20(月) 09:25:32
岡本綺堂「風俗 明治東京物語」(河出文庫)を読了。

明治の政治家の話を読んでいたら
この本のことを思い出し、ついつい読んでしまった。
以前から読んでみたい本ではあったが
以前は読み始めても内容が頭の中に入ってこないことが多く
自分の知識が足りないことを痛感するばかりだった。
それから比べれば
特に歌舞伎あたりの知識が以前より増えたこともあり
今回はまあまあ理解が進んで
最後まで読み進めることができた。

前半は各項目(湯屋、相撲、劇場など)について
そのおおまかな仕組みの説明があって
それがいかに昭和初期(執筆時の時代)と違っているかを
示す叙述であるのに対し
後半は、まさにエッセーそのもので
明治時代の東京の風景が偲ばれる名文となっていた。
おもに後半の叙述に魅了された。
なかなか、ここまで具体的に描写できる方も珍しいのではないか。
昭和初期であってもそうであったように
令和のこの時代では、なかなか貴重な読書となった。

558korou:2020/04/24(金) 12:00:42
「私の履歴書 43」を読了。

宇佐美洵、川口松太郎、三宅正一、茂木啓三郎の4名。
いずれの方の文章も飽きずに読むことができた。
絶対に他では読めないということではないが
今読んでいて良かったという実感はある。

宇佐美氏は環境(加藤高明、池田成彬など)に恵まれ
その環境の中で順調に推移した人生だった。
今思い出しても、他の3名と比べて印象は薄いのは事実。
川口氏の生きざまは、まさに古い世代で
いろいろなことを思い出させてくれた。
昭和というより、明治・大正・昭和戦前の感性だろう。
執筆時の昭和戦後期への嫌悪がにじみ出ているように思えた。
ゆえに関東大震災のところで「履歴書」は終わっている。
三宅正一氏と茂木啓三郎氏については
今まで深くは知らなかった人たちだが
今回読んでみて、昭和初期の労働争議について
いろいろと知ることが多く
その意味では蘊蓄が一気に増えた。

いかにも昭和の履歴書という面々だった。

559korou:2020/04/29(水) 09:19:59
石井妙子「日本の血脈」(文春文庫)を読了。

ずっと県立図書館の文庫の棚で見かけていて
いつか借りようと思っていたのだが
今回借りてみて読んでみて
これだけの内容であればもっと早く読むべきだったと
悔やまれた。
よくあるタイプの列伝が
しっかりとした女性目線で描くことで
こんなにも違った印象になるというお手本のような著作だった。
最初の小泉進次郎の章からして
ユニークな切り口が功を奏していて
典型的な女系家族をこの切り口で描けば
従来の小泉本とは全然違うイメージになるのは当然だった。
さらに香川照之、堤康次郎、小沢一郎、小澤征爾の章に至っては
わずか40ページ足らずの評伝ながら
大部の伝記ですら伝え損ねている重要なファクターを
浮かび上がらせることに成功している。
逆に女性を取り上げた章では(中島みゆき、オノヨーコ、紀子妃、美智子妃)
同性として分かってしまう部分が大きいのか
むしろ2,3代前の人物に焦点が当たり過ぎて(その追跡自体が面白いということもあるが)
ややピンボケという印象を受けた。
とはいえ、どの章も読みごたえがあって
久々に素晴らしい列伝に出会った感がある。

560korou:2020/04/29(水) 09:48:00
小林一夫「マンガでわかる楽譜入門」(誠文堂新光社)を読了。

全編マンガで200ページ足らず、しかも初歩的なことばかり書いてある本なので
”読了”の名に値するかどうか怪しいが
まあとにかく全部目を通してみた。
期待していたほどの内容ではなく
まさに入門編という感じである。
本当のところは、
和声のしくみのようなものが直感的に理解できるようになればラッキー
ということを期待して図書館で借りてみたのだが
そういう内容ではなかった。
まあ、こういうこともよくあるので仕方ないところか。

561korou:2020/05/02(土) 20:39:46
大下英治「ふたりの怪物 二階俊博と菅義偉」(MdNコーポレーション)を読了。

現代の政治家についても知っておこうと
県立図書館で借りてみた。
しかし、最近の大下本はダメなものが多い。
この本も、半分以上が二階、菅へのヨイショばかりで
提灯本の類と言われても仕方ないだろう。
そういう部分は読んでいてつまらないので
この本の3分の1近くはスルーして読み進めた。

さすがに二次資料の使い回しはせず
直接、関係の議員などに取材し、それをまとめて書いているのだが
問題は、その記述に何の批判、問題提起もないことだ、
ゆえに、この本のなかでわずかな部分ながら役立つ記載は
事実関係のみになってくる。
したがって、この本で事実関係の記述が出てくると
それをWikiで確認し
さらにキーワードについて追跡検索するという読書になった。
それにしても
限られた範囲での取材だったのに
不祥事で辞任した大臣だとか
現在捜査の手が進んでいる河井議員とか
グレーな人たちばかりになっているのが
いかにも皮肉である。
”怪物”どころか、せいぜい”怪物くん”程度の大物だろう。
まあ民主党末期よりはマシ、という程度か。

562korou:2020/05/05(火) 11:15:58
坪内祐三「昭和の子供だ君たちも」(新潮社)を読了。

最初のほうを読んでみて
期待した内容と違った感じを受けたので
しばらく放置していたが
それから思い直して再読したところ
意外と面白く読み進めることができ
途中からは一気読みとなった。
つまり、何か結論めいたもの、蘊蓄になり得るものを求めると
坪内さんのスタイルだとそれは難しく
読者は自らの読書スタイルを一旦保留して
坪内スタイルに合わせていくことによって
この著者の本はどんどん輝いていくということなのだろう。

書いている内容があらぬ方向に飛びまくり
全然まとめに入らないのが不思議なのだが
同じようなペダンチックな文体の山口昌男の文章とはまた違って
全然蘊蓄の形にならず、どこまでも雑学のレベルに留まるのが
いかにも個性的だ(坪内、山口に交流があるのも面白い)。
自らも雑学をため込んでいる人で、世代論に興味のある人にはタメになる本だが
随分と間口の狭い本で、興味のない人には全然無意味な本にも思える。

まあ自分としてはこれほど面白い本、ユニークな本はないと思ったのだが。
似たものを自分でも書きたくなった。

563korou:2020/05/28(木) 11:19:48
何と23日ぶりの読了。
県立図書館がコロナ関係で休館だったとはいえ
結構間が空いてしまった。
その図書館で借りた本
内田宗治「外国人が見た日本」(中公新書)を読了。

思ったよりも良い本だった。
明治以降の外国人旅行者の動向が
最低限の史料引用により
読みやすく、かつ説得力のある叙述で
書かれていた。
この種の本では出色の出来だと思う。
いろいろと感想が書けると思ったのだが
久々の書評のせいか
これ以上言葉が出てこない。
いい本なのにねえ・・・

564korou:2020/05/29(金) 14:40:01
小島直記「日本策士伝 資本主義をつくった男たち」(中公文庫)を読了。

今まで、小島氏の本をしっかりと読んだことがなかったので
ある意味読破を楽しみにしていたのだが
いざ読んでみると、同じエピソードの反復、意味不明な文脈の文章、
型にはまった人物評などが延々と続くのには閉口した。
一番問題なのは
この種の列伝形式で最もやってはいけないこと、取り上げる人物が
多すぎて叙述が中途半端になる、という素人同然のミスを
平気でやっていることである。
さあ、これからこの人たちはどうなるのかと期待を高めたところで
いきなり全然別の人物伝が始まるという展開だったので
大いに読書意欲が削がれた。
披露されるエピソードの数々は
質量共に現代人教養レベルを遥かに超えているのだが
それをこんな雑な形で並べてしまっては
もったいないことこの上ない。
もしWikiというものがなかったら
到底この本を読破することはムリだったに違いない。
Wikiのせいで、少しは役に立ったこの本だが
もう、この著者の本は読まないことにする。

565korou:2020/06/02(火) 13:56:32
「私の履歴書 44」を読了。

冲中重雄、渋谷天外、土井正治、和田恒輔の4名。
冲中、土井、和田のお三方は、いずれも超真面目人間で
読んでいて息苦しかった。
こんなタイプの上司だと、寿命がいくつあっても足りないだろう。
そのなかで渋谷さんは、対照的なくらい破天荒な人生である。
ただし、当の本人はいたって真摯に生きて居られて
その点では、他の3名と同じと言ってよい。
それにしても
偶然なのか必然なのか
こうした真面目な人たちが多数居られたことが
戦後日本の高度経済成長を支えていったのは
まぎれもない事実である。
そして、その姿勢が
根本的には間違っていなくても
その手法において、今の日本には
それほど重要なものではなくなりつつあることも。
こういう手法からは早く脱して
低成長の時代にふさわしい哲学、手法を定着させる必要があるだろう。
この種の「履歴書」を読むたびにそう感じる。

566korou:2020/06/14(日) 21:48:48
「日本人が知っておきたいアフリカ53か国のすべて」(PHP文庫)を読了。

アフリカについてちょっと知っておきたいと思い
県立図書館で借りた本だが
その目的に沿った非常に良い本だった。
コンパクトで叙述が簡潔で分かりやすい。
税込み700円程度の本でこれだけの知識が得られるのなら
お買い得なので、本屋で購入しようかと思ったりもしている。

それにしても貧しい国、政情不安な国が多い。
欧米諸国はそういう国が生まれる原因を作って
何の謝罪もなく、結果だけを非難しているが
フェアでない。
同じフェアでないのなら
自国中心主義とはいえ中国のやっていることは
案外人類全体のためになるのではないかとさえ思う。
もちろん、世界全体の監視も必要なのだが。
日本もその気になれば結構良い貿易相手になるはずだが
そもそも政情不安を解決できる能力がないので
仕方ない。
中国の後釜をうかがい、おこぼれを頂戴するしかないだろう。
残念ながら。

また熟読してみたいと思う本である(どうせ大半の知識を忘れるので)

567korou:2020/06/15(月) 21:34:16
読了しなかった本について

・宇沢弘文「宇沢弘文傑作論文集全ファイル」(東洋経済新報社)

宇沢先生の論文を集めたものだが、当方の能力不足というか読書意欲減退の季節だったため
十分に読めるレベルのエッセイ風の文章が多かったにもかかわらず、4分の1程度の読了で
終わってしまった。第Ⅰ部「社会的共通資本への軌跡」、第Ⅱ部「『自動車の社会的費用』
を著す」は完読、第Ⅲ部「近代経済学の限界と社会的共通資本」の第10章「勢いづく市場
原理主義への懐疑」の途中まで(144pまで)、他に第Ⅵ部「教育と社会的共通資本」の
第23章・第24章と第25章の途中までを読んだが、もう少し医療関係とかも読みたかった。
また読書意欲が上昇気味のときに読み進めたい。

・「カート・ヴォネガット全短編 2」

創作をそろそろ始めないといけないなあと思い借りた本。しかし、今一つ自分の求めている
ものと違ったのと、むしろ筒井康隆のほうがいいのではと思い出したりして、集中して読む
ことにはならなかった。

568korou:2020/06/19(金) 09:54:11
「私の履歴書 45」を読了。

石井光次郎、石田和外、尾上多賀之丞、小林勇の4名。
多彩なメンバーではあるが、なぜか印象に残る人は特になかった。
大体イメージ通りの人生を歩んでいる感じで
ただ石田氏のウルトラ右翼ぶりには辟易したというところか。
読了に2週間以上かかるので
最初のほうはすでに忘れかけているのが実情で
今までは、それでもページをめくり直して感想を記していたが
今回はそれほどの意欲も起きない。
まあ、こんなものかという程度。
それなりに皆大御所なのだが・・・

569korou:2020/06/24(水) 11:17:10
宮城大蔵「海洋国家 日本の戦後史」(ちくま学芸文庫)を読了。

大変面白かった。夢中で読んだ。
ここ最近、これほど知的興奮を満足させる本に
出合ったことはないと言ってもよい。
おもに戦後の日本外交の話で
しかも対象が対米ではなく対アジアというのが
視点として新鮮だった。
そして、記述が近年公開された史料に立脚した正確なものと推定できるので
安心して読み進めることができるのもポイントが高い。
最終的な論の着地点も、常識的なラインを外さず
単に常識的であるというレベルを超えて
それまでの論旨に沿った必然性を持ったそれであることも
説得力を増すものとなっている。

戦後すぐにネール(&ガンジー)の知名度が高かったのはなぜか。
スカルノ、スハルトのような傑出した政治家が日本ではそれほど著名でないのはなぜか。
周恩来の苦悩についてその真意は何か。
福田赳夫がアジア外交に成功した印象があるのはなぜか。
そうした素朴な疑問はほぼすべてこの本のなかに回答のヒントがある。
そして、英米のアジア外交のズレ、日本の微妙な政治的立ち位置など
本書によって認識を新たにすることは多かった。
著者の着眼点、分析力に感謝あるのみだ。
今年最高の読書になった(あえて断言!)

570korou:2020/06/25(木) 11:57:13
野村克也「私のプロ野球80年史」(小学館)を読了。

野村氏の著作は、あまりに多く出過ぎていて
もはや同じことの繰り返しになっている感じなので
読書意欲が湧かなくなっているのが事実だが
これは「NPB80年史」ということで、あえて手に取ってみた。
しかし、残念ながら、旧世代からの”ぼやき”以上のメッセージは
この本からは感じられなかった。
もう少し”史実”をそのまま記録してほしかったのだが
なぜか野村氏はそういう”単なる記録”を書こうとしない(しないまま亡くなられた)。
実に惜しいことである。
多分、物事をもう少し単純に考えているはずの張本氏の場合
結構、昔(昭和30年代とか)のことをそのまま書いているのと好対照だ。
野球も社会現象なので
旧世代が物申せる分野は限られてくるが
そのことを野村さんほどの教養がある人でさえ
真の意味で分かっていないのが残念である。

久々に野村氏の本を読んで、そういう思いを深くした。
まあ、自分が対戦したなかで一番の速球は山口高志だ、というような
興味深い記述などは面白いのだが。

571korou:2020/07/07(火) 09:38:05
佐々木実「資本主義と闘った男 宇沢弘文と経済学の世界」(講談社)を読了。

県立図書館で予約までして借りた本だ。
読み始めると、ほぼ伝記スタイルなので
これはラッキーと思い、そのまま読み進めたのだが
そのうち経済理論の概略が次々と続く展開となり
ほぼ皆無に等しい自分の近代経済学への知識では
完全理解が難しい読書に急変した。
しかし、著者の優れた文章力に助けられ
また宇沢氏の優れた生きざまに魅了され
なんとか最後のページまでたどり着いたというのが実情である。

厳しい読書だったが得るものもそれに比例して多かったと言える。
新しい知見、知らなかった事実というものがあまりに多いので
ここにそれを要約して書評の形にすることすら、ままならない感じだ。
最後のほうで、丸山真男の「日本にはユートピア思想がない」という言葉から
宇沢は日本では孤独なユートピア思想家だったという著者の見解が書かれていて
それがこの本が著される真の動機ではなかったかと推察された。
liberalismから社会的共通資本の発想に至る宇沢哲学、これこそ
未来の日本が辿るべきユートピア思想なのだろう。
これから順次咀嚼して、自らの思考への刺激とするしかない。
それ以上のことは自分にはムリだろうから。

572korou:2020/07/08(水) 22:55:03
宮城大蔵「現代日本外交史」(中公新書)を読了。

前回の宮城氏の著作が大変面白かっただけに
同じ著者による、こういう通史のような本を読むことは
読む前からワクワクするものがあった。
その期待感、ワクワク感に100%達成感、満足感があったかどうかは
今のところ断言はできないが
少なくとも、同時代史の強みというか、いろいろなことを思い出す契機になったことは
間違いないところである。
いろいろなことを覚えているようで、その実、実際のところは
新聞などの現在進行形のメディアによる情報だけにとどまっていることも多いのが
現代史の基礎認識としてありがちなことで
この本では、その情報の一歩先を丹念に書いてくれているところがありがたいし、
その一歩先の情報源がそれぞれの当事者からのオーラル・ヒストリーの成果でもあることが
あとがきに書いてあるので、とりあえずは
”一次資料による史実の1つ”という位置づけも可能なわけだ。

橋本龍太郎の外交の功罪(肝心なところで肝っ玉が小さい小心者であることが当時の日本の国益を損なっている!)とか
鳩山外交の限界(孤独な夢想家であり過ぎた。そういう人を神輿に上げて、勝手な外交をした岡田外相の真意は謎!)とか
野田首相の苦渋に満ちた尖閣諸島国有化のタイミングとか
なかなか興味深い史実を、この本で初めて知った。
またしても宮城本の面白さを知った思いである。
(それにしても、岡田克也という男は、宇沢弘文氏を民主党から遠ざけ、鳩山外交を堂々と外相の立場で邪魔した。
 ケシカラン男だなあ、ホントに)

573korou:2020/07/15(水) 12:02:01
「世界の覇権企業」(KAWADE夢文庫)を読了。

県立図書館で、あまり中身も見ずにとっさに借りた本だが
読み終わってみると、広瀬隆氏の著作を継いだ形の
中田安彦「世界を動かす人脈」の続編のような本だと思った。
となれば、途中止めにしている広瀬隆「アメリカの保守本流」を参考にしつつ
中田本を読んでも面白いかなと思ったりする。

すでに日本の企業など影も形もなく
もっぱらアメリカと中国の企業が覇を競う世界経済の世界を
いくらかヨーロッパの企業も含めながら
そのビッグ・カンパニーを逐一概説した
コンパクトながらなかなかよくまとまった本である。
上記中田本は2008年刊行だが
そこからも世界は激変していることに気づかされ
21世紀の世界の動きの速さに驚かざるを得ない。

なかなか有益な本だった。
テキトーに選んだ本だが
同じくテキトーに選んだ「経済で読み解く日本史 明治時代」(上念司)が
とんでもない本だったのに比べて
これは”当たり”だった。

574korou:2020/07/15(水) 14:37:05
「私の履歴書 46」を読了。

小汀利得、坂口謹一郎、中村汀女、松田伊三雄の4名。
小汀氏は痛快な人柄で、やや小難しい経済通の爺さんとばかり思っていたのだが
その生き様はなかなか魅力的だった。
坂口氏は、それに対して真面目一方で
典型的な学者人生、それもかなり運に恵まれた幸福な人生という他ない。
中村氏は、まさに身辺のことを事細かに記した履歴書で
読みにくい感じもしたが、いかにもという感じもあった。
松田氏は、典型的な昭和財界人で
まさにこの時期の典型的な履歴書を読んだという感が強い(中村氏の直後に読むので一層そう思った)。

だんだんと自分の記憶にある世界の様子とシンクロしてくる(昭和47年の履歴書)。
それでも、大正期の東京の郊外の様子が
昭和47年にもいくらか残っているという記述を読むと(松田氏の文章)
昭和47年と令和2年の現在との時間の幅も感じてしまう。
もうこの履歴書から半世紀経っているのだ。
大正期の半世紀前は幕末・維新直後なのだから。

575korou:2020/07/24(金) 12:03:27
「私の履歴書 47」を読了。

赤尾好夫、坂本繁二郎、滝田実、田代茂樹の4名。
赤尾、坂本両氏は
対照的な人柄でありながら
現代では意外なほど居なくなったタイプの”大きな人物”であるように
思われた。
それに対し、後半の滝田、田代のような人たちは
現代でも探せば相当数存在するように思われる。
もちろん、前者のようなタイプの人が書いた文章のほうが
圧倒的に面白い。
赤尾さんのような直線まっすぐの人からは
何かを見失っていないかという自戒の念に駆られるとともに
社会を批評する視点の修正を迫られる、
坂本さんの、いかにも本当の日本人ともいうべき感性、思考には
同じく、現代では見失われた何かを思わせるものがある。

滝田、田代両氏とて
読んでみて何も得るものがないというわけではない。
しかし、その時代において当時の財界を背負った人たちは
自分たちが負うべき責任の重さを痛感するあまり
その時代において最善の道を模索し決断し実行することに専念し
自らの仕事を、もっと長いスパンで自省するという作業が
やはりおろそかになっているのである。
今の経営者には、もっと先の未来を見つめた視点が求められている。
それは困難で、さすがに現代の経営者も目先のことで汲々している人ばかりだが
その意味では、この両氏の履歴書には
参考になるべきものは少ないと言わざるを得ないのである。

576korou:2020/07/31(金) 16:14:58
「私の履歴書 48」を読了。

赤城宗徳、池田謙蔵、古賀政男、高畑誠一の4名。
いずれも大変読みやすく、皆記述が簡潔で要も得ていた。
赤城氏の分は以前読んだ記憶があったはずだったが
読み始めると、そうではないことが判明。
当時でも古武士のようなイメージの方だったろうが
今となってはもはやこういうタイプの政治家は
全く居なくなってしまったと言ってよいだろう。
河野一郎とのコンビで、佐藤・池田の官僚政治を打破する勢力として
頑張ってほしかったが、河野の早逝でどうにもならなくなってしまったのは残念。
池田謙蔵、高畑誠一の両財界人については
おもに若い時代の仕事を中心に記述されていた。
また、池田氏は、三菱本社(上司があの奥村政雄氏)から三菱信託に行き
高畑氏は、鈴木商店から倒産後は日商に行き
それぞれ、信託業界、商社業務について面白い話が多かった。
池田氏が明治26年、高畑氏が明治20年の生まれということで
最近読んだ履歴書の財界人のなかでは執筆時の年齢が高齢であったことも
話の面白さの秘密の1つかもしれない。
明治の終わりには、もう前途有望な青年として生きていたわけだから。
古賀政男氏についても、ある程度はその苦労話は聞いてはいたが
本人の生々しい体験を読むのは初めてで、これも興味深かった。

さて、残り1冊となった「履歴書」。
図書館の本を借りずにいると、あっという間の進行ぶりだ。

577korou:2020/08/07(金) 22:53:35
「私の履歴書 50」を読了。

三遊亭圓生、塚本憲甫、前尾繁三郎、武蔵川喜偉の4名。
圓生師匠と武蔵川親方は、それぞれ昔の寄席、相撲の世界を
的確に冷静に叙述されていて
非常に参考になるので、永久保存版として残した。
塚本氏と前尾氏は、それぞれ堅実な人生を送られ
それなりに面白かったが、永久保存するまでのことはなかった。

しかし、4名ともに読み応えがあった。
一時期、時代が新しくなるにつれ
だんだん面白さがなくなったなと思ったこともあったが
やはり、この時期までは面白い。
もう持ち帰り分は全部読んで、ほぼ本の形から解体し
8名分だけ永久保存できた。

明日から何を読もうか、思案中。

578korou:2020/08/16(日) 09:58:05
大森実「ザ・アメリカ3 ライバル企業は潰せ 石油王ロックフェラー」(講談社)を読了。

30年以上も前に購入した本で、ずっと読み切れずにいたが
ついに今回読破した。
ゆったりとした活字なのに読み切れなかったのは
単なる自分の怠慢のせいでもあったが
読み始めてみて、大森氏の独特の文章のクセのせいでもあったことに
気付かされたのも事実だった。
敏腕新聞記者として名を馳せた大森氏ではあるが
面白い取材対象を嗅ぎ付ける才覚に関しては超一流であっても
読みやすい文章を書く才能については
せいぜい人並み程度であったということになる。
文章の途中で、主語に対応する述語を書いた直後にすぐ別の主語を挿入したり
それならまだましな方で、最初の主語に対する述語を略して
知らぬ間に別の主語を略したままその述語を直接続けるという文章を
平気で書く人なのである。
だから文章の正確な意味を読み取るに結構苦労した。

それでも読み通せたのは、
書いてある内容が歴史の隠された真実を暴くかのごとく
興味深いものがあったからである。
読後、「アメリカのビッグビジネス」(日本経済新聞社)でロックフェラーの項を探し
読んでみたが、同じような記述で、文章はこっちのほうが断然読みやすいので
この大森本は保存しないことにした。
まあ、名前ほどには読むに値しない本だけど
同種の本がなければ仕方なく必読本になる、という類の本である(自分には上記同種本があるので必読ではないということ)

579korou:2020/08/19(水) 17:11:20
赤瀬川隼「獅子たちの曳光 西鉄ライオンズ銘々伝」(文春文庫)を読了。

前職場からの土産本で、いつか読もうと思いつつ
だんだんと読む気がしなくなってきたので
今しかないと思って読み始めた。
この種の懐かし野球思い出話本は
なぜか最近になってあまり読む気がしなくなってきた。
やはり、あまりに昔過ぎて
今の感覚ではこれはあり得ないという部分が多すぎて
現実の世界の話ではないような嘘っぽさが漂ってきたからだろうか。
それなりに現代の野球は進化したように思う。
その一方で、野球だけの世界で議論を深めても
もはやどうにもならない制約が
この21世紀になってから全社会的に多くなってきているのも事実で
それは野球だけに限らないのだが。
その意味で、この本の書かれた1990年頃というのは
まだ戦後の雰囲気をひきずっていて
こういう豪傑野球の伝説を面白く読める時代ではあったのだろう。
あの頃、ひたすら昔の野球を懐かしんでいたのを思い出す。
青田昇、嶋アナ、三原・水原伝説、渡辺謙太郎アナ、CXのプロ野球ニュース・・・etc。
残念ながら、この本を2020年の今読むとしたら
ノスタルジーしか残らない。
本当に「残念ながら」だ(いい本だけど)

580korou:2020/08/26(水) 21:47:05
大坪正則「メジャー野球の経営学」(集英社新書)を読了。

ずっと前に購入して、ずっと「つん読」だった本。
つまみ食いのように読めば、なかなか役に立つ本だと思っていたが
今回通して全部読んでみると、今の自分の好みとは程遠く
読み通すのがしんどい本だった。
何よりも、こういう教科書風にかちっとした内容の本を
最近敬遠していたので読み慣れず
そういえば現役の司書の頃は、こういう本の読み方をしていたなあと
懐かしく思い出しさえしたほどだ、

内容は、2002年に書かれた本としてはベストに近く
当時読みこなしていれば相当なものだっただろうが
さすがに、それから20年近く経った今
いろいろな箇所が風化してしまっているのは否めない。
MLBはもちろん、NPBも、この20年で随分と変化したので
この本を今バイブルのように理解するのは
意外と難しいのではないかという気がする。
また、2002年ということで、日本人選手がMLBで最も重宝がられた時期であり
今思えば、本書の随所に書かれている「日本人有力選手のMLB行きを食い止める」という文言が
おかしくもあり、懐かしくさえ感じさせる。
優れた本なのだが、激動の分野だけに寿命も短い、そういった本だった。

581korou:2020/08/30(日) 16:55:42
小堺昭三「西武VS東急戦国史 上」(角川文庫)を読了。

上中下の3分冊の本なので、
本来なら全部読んで「読了」としたいところだが
結構内容が濃いので
今回は1冊ずつ感想を書き記すことにした。

この上巻は
五島慶太と堤康次郎の生い立ちから昭和10年代までの
それぞれの活躍ぶりを記した本になっていた。
あまりに多くのことが記されていて
洩れなく感想を書いていくことすら困難だが
この2人に共通しているのは
すでに大学に入る時点で、いわゆる立志伝中の人物になっていたこと、
そして、その青雲の志が引き寄せたかのごとく
大隈重信、後藤新平、小林一三といった政財界の大物が
まだ20代の五島、堤の両名を支援するという展開になっていたことが
極めて印象的だった。
そして、それぞれに悪名が世間に流布したなかでの
事業の拡大、新事業の創業という点も共通している。
そして、他にもこういう強引な事業を重ねた人物も居るはずなのに
特にこの2人が注目されてしまうのは
やはり、大衆に密着した事業である鉄道、住宅の分野で
顕著な実績を挙げたことが大きいだろう。
これに、映画と野球、テレビなどのソフト面を加えれば
日本の大衆社会の形成という切り口で
まとまった思索が可能かもしれない。

そうした期待をもって、いざ中巻の読書に突入。

582korou:2020/09/04(金) 13:37:35
小堺昭三「西武VS東急戦国史 中」(角川文庫)を読了。

上巻の続きで、太平洋戦争途中から戦後の高度成長時代の途中までを扱っている。
何と言っても、
上巻からその生い立ち、事業の拡大をずっと追っていった五島慶太、堤康次郎が
この中巻の後半で大往生を遂げる場面が印象的である。
まさに”巨星墜つ”という感じだ。
丁寧に事実を調べ上げて、それを何気なく記していく著者の記述スタイルが
この中巻においてはまずます磨きがかかり
もはや夢中で読まざるを得ないわけだ。

そこから後の2代目の対比も面白い。
五島昇の協調的な性格、意外と包容力のある人格が素晴らしい割には
なぜか事業が停滞してしまうさまは
別の意味で劇的だし
堤清二の苦境は、諸事情からみて壊滅的であったのに
なぜか事業が好転していくさまは
この人の持っていた運を想起させる。

いやあ、本当に面白い。
通読したら面白い本だろうとは思っていたが
こんなにハマるとは想像以上だった。
さあ、下巻を読もう!

583korou:2020/09/09(水) 22:14:35
小堺昭三「西武VS東急戦国史 下」(角川文庫)を読了。

下巻ともなると、1970年代以降の話になるので
少なくともそこに書かれているエピソードの時代背景などについては
読んで新しく知る、という楽しみはなくなってしまう。
加えて、下巻の最後のあたりになると
この本の書かれた1980年代半ばでの現在進行形の話は中心になるので
理由のはっきりしたスカっとした叙述ではなくなり
ほぼ推察ばかりのモヤモヤっとした叙述ばかりになっていく。
しかも、2020年の今、そこに書かれていることの半分は
実際にはそうならなかったわけで(西武も東急もかつての栄光は消えている)
そうなると
中巻までのワクワクした面白さが激減した感じになる。
残念ながら、この下巻は、普通に面白い現代史というレべルにとどまった。

ただ、1980年代半ばでの建造物などが
2020年の今どうなっているのかという変遷を辿る面白さは
いくらか残っていた。
横井英樹のホテルニュージャパンがプルデンシャルタワーになっていたのは
事実としては知っていたが
それがかつての赤坂東急ホテルの隣地であることは
今回地図を見るまでは知らなかったし
その近くに赤坂プリンスホテルがあって
その正面にホテルニューオータニがあるということも
今回初めて知った。
こういうのは、こういう本を読まないと確認しない事実だろうから
その意味では貴重な読書だった。
また、上之郷利昭氏の「西武王国」を読む楽しみもできたというものである。

584korou:2020/09/13(日) 15:53:47
小藤武門「S盤アワー わが青春のポップス」(アドパックセンター)を読了。

前からの続きで、上之郷利昭氏の「西武王国」を読み始めたのだが
想定外に読んでもあまり面白くなく、ついには断念。
代わりに、全く違う種類の本だが、以前から気になっていたこの本を
読むことにした。
これは、軽く読める本だったので、ほぼ3日間で読了できた。
なかなかのアイデアマンで、現代にもこういう人材は引く手あまただろうと思われるほど
とにかく、宣伝のためには労力、根回し、人脈総動員を惜しまない人のようだ。
意外と強引かつ強面風の人らしく
最後のほうに小藤氏ゆかりの人たちの文章が収められているが
そのほとんどが、なかなかの難しい人、でもその芯の部分は心遣いのできる人という風に
書かれているのが興味深い。
こういう部分は隠して出版するケースも多いと思うが
その点で、この著者は正直で、まさに実直な人柄なのだろうと思われた。
また、この本で知った知識を
youtubeで確認しようとすると
意外なほどデータが見当たらないケースが多く
すでに昭和20年代〜30年代に関しては
ネットだけで言えば、確認不可能な時代になっているのだなと実感した。
小藤氏の功績についても、簡単に書いておこうと思ったが
まあ、忘れてもいいかなとも思ったので、ここでは略(でもWikiに項目は欲しいなあ)。
久々に、なかなか楽しい本でした。

585korou:2020/09/17(木) 14:54:23
「淀川長治自伝 上」(中央公論社)を読了。

以前から読もう読もうと思っていたが
なぜか手をつけられなかった本で
それは映画の古い面白話を読もうとするあまり
淀川氏の人生、それも背景となる
昔の神戸あたりの佇まいについての描写が
結構しつこく語られている出だしの部分で
つまずいてしまうからだった。
今回は
そういう部分も含めて楽しく読めた。
むしろ、そういう部分こそ丁寧に読んだ。
その上で、この無類の人とでもいうべき方の感受性、世界観などが
ハッキリと浮かび上がってくるのが感じられ
本当に読むべき時に読めて良かった、と思わざるを得ないのだ。

さらに言えば、やはり「映画に古い時代の面白話」も詰まっている。
これだけ読書意欲をそそる要素がてんこ盛りであれば
読書のスピードが進むのは当然だろう。
途中からは一気読みに近かった。
その勢いで下巻に突入することになる。

587korou:2020/09/23(水) 15:00:17
「淀川長治自伝 下」(中央公論社)を読了。

下巻の途中までは「自伝」で、後半はほぼエッセイのようなことになっていた。
それはそれで別に構わないことだが、淀川サンにそれほど興味のない人にとっては
羊頭狗肉のような感じかもしれない。
そのエッセイの部分も、いかにも淀川サンらしい人間観察のペーソスにあふれ
小説のワンシーンを思わせる描写ばかりだった。
もちろん、自伝部分も素晴らしく
戦後ともなると、実際にハリウッド、ニューヨークに出かけて
ハリウッド映画の多彩な主役たちと対面する場面が
どれもこれも魅力的で
しかも”とことん映画好き”ということだけでコミュニケーションをとろうとする
淀川サンの不思議な魅力に
どの「主役」たちも魅せられていくさまが
本当に読んでいて愉しくなるのである。

本を読んで、その場限りの面白さだったら
もう捨ててしまおうと思って自分の書棚の本を読み漁っているわけだが
この上下本の自伝は
捨てられるわけがない。
何度も読み直すわけでもないが
少なくともしばらくは手元に置いておこうと思っている。
淀川長治という人としての魅力にあふれた本である。

588korou:2020/10/13(火) 09:05:45
小林信彦「また、本音を申せば」(文藝春秋)を読了。

前回の読了本から2週間以上経ち、久々に県立図書館から本を借りて読んだ。
この本はその一発目。間違いのない小林さんのエッセーの最新作。

大病明けだけに、文章に乱れがないか素人なりに懸念したのだが
その心配は無用だった。いつもの小林さんだった。
ただ、1つだけ感想を記せば
古い映画の話よりも身辺雑話の類のほうがずっと面白かった。
もはや、小林さんの存在そのものが貴重で
小林さんの嗜好を楽しむというより
小林さん自身を楽しむという次のレベルに達している感じなのだ。
逆に言えば、そこまでいけば、もはやどんな文章でも大丈夫ということになる。
小林さんにとっては嬉しくもなんともない話ではあるが。

まあ、そんな感じで、いつも通り楽しく読めました。

589korou:2020/10/13(火) 14:26:14
中川一徳「二重らせん 欲望と喧騒のメディア」(講談社)を読了。

県立図書館で借りた550pもの大部な著書。
もともとは、1970年代のNET(テレ朝)で起きた大川博と赤尾好夫の主導権争いに
いかに田中角栄が絡んで、最終的に新聞社とテレビ局の系列化を実現させたかという事案に
興味があって借りたのだが
もちろんそのあたりの描写も詳しく参考にはなったものの
それは最初の3分の1あたりまでで
残り3分の2については、最終的にライブドアによるフジテレビ買収未遂劇に至る
放送人をめぐる人間模様の描写がメインの本だった。
しかも、そのほとんどが生々しいマネーゲームで
複雑怪奇な仕組みを活用した難しい話のオンパレードということになるので
そのあたりには素人の自分にはちんぷんかんぷんの全く分からない話ということになるのだった。
というわけで
最初の3分の1は、話の分野としては大好物で美味しく頂いたものの
残り3分の2は、次第に興味が醒めていく(話の中身が分からないので)一方の読書となった。
村上ファンドあたりがどう動いたのかとか
新しく知ったこともいくつかあったが
まあ、もう少し簡便に知る方法もあったのではないかという後悔も残る読書になった。
著者の文章は、専門知識とか人物相関図に詳しい人にはピンとくる感じだろうが
それらが不足する場合は、意外なくらい難解な文章なのではないかと思われた。

以上まとめれば
大好物と不満だらけが混在した困った書物だった。

590korou:2020/10/29(木) 14:06:28
クリスチャン・メルラン「偉大なる指揮者」(ヤマハミュージックメディア)を読了。

音楽鑑賞を体系的に続けているので
こういう本も読んでみようかと気軽に借りてみた本だったのだが
読み始めると、きちんとした評伝になっていて
思ったよりも知的刺激に満ちたタメになる本だった。
クーセヴィッキー、ストコフスキー、アンセルメ、ライナー、サバタ、ミトロプーロス、
オーマンディ、アンチェル、マルケヴィッチ、チェリビダッケ、ショルティ、ヴァント、
ドホナーニなど、今までは詳しく知らなかったその生きざまについて知ることができたし
フリッチャイの人生は特に印象深いものがあった。
マリス・ヤンソンスとネルソンスの関係なども興味深いし
バレンボイムとジャクリーヌ・デュ・プレの人生も
今回詳しく調べる機会ができて良かった。

案外、こういうシンプルな指揮者評伝というのは
なかなか出版されないようで
こういう本は本当に貴重である。
この指揮者にはこういう録音があって、その概要はこうであって、という類の本なら
巷にあふれているのだが。

また借りて読むかもしれない。
というか、立ち読みになるかも。

591korou:2020/10/29(木) 15:43:44
山口昌男「挫折の昭和史(上)」(岩波書店)を読了。

退職したらじっくり読み込もうと思っていた本。
読後の感想を率直に言えば
同じく退職後のお楽しみ本だった広瀬隆「億万長者はハリウッドを殺す」と同様
今の自分には無縁な本だった。
もはや、こういうペダンチックで話が脈絡なく飛びまくる蘊蓄歴史学の本については
以前のような興味を持ち得ないことを改めて悟った。
とにかく読んでいて非常に疲れるので
下巻については、読むか読まないかはともかく
少し間を空けることにした。

592korou:2020/11/04(水) 08:43:12
長谷川慶太郎「大局を読むための世界の近現代史」 (SB新書)を読了。

前半が第一次世界大戦あたりの経緯から第二次大戦後の冷戦の始まりと終焉を記述した
まさに近現代史の話になり
後半は、中国と北朝鮮の現状を分析し、その結果、両国の現体制(出版時の2014年現在)が
まもなく崩壊するはずという予言を書いた本になっている。
2020年の今、その両国は未だ崩壊どころか、その兆しすら伝わってこないので
後半部分は、そんな状況の時もあったということで割り切って読む必要があるのだが
前半部分の分析は、独特のロジックで、それなりの説得力もあり興味深かった。
特に、No.1Warのときのオーストリア軍の弱さが
いわば多国籍軍のようなもので共通の言語すらない事情に由来するものであることや
共産主義国家の運営が硬直化する理由を、実際にそれらの国々を訪問した実体験をもとに
分析している部分は、なかなか他の本では読めないところだと思った。
あとは、中国や北朝鮮の崩壊が、若干の遅れはあるが実現するのかどうかということだが
こればかりは著者が死去されたので、どうにも確かめようがない。
ただし、崩壊した中国が軍の分割状態になり、最終的に連邦制を採らざるを得ないことや
統一した朝鮮半島が巨額の資金、援助を必要として、その際、日本が重要な鍵を握ることになるはず
とかの予想未来図については、確かに現実味のある話だと思われる。

なかなか知的刺激に満ちた本だった。

593korou:2020/11/13(金) 09:24:29
谷口智彦「日本人のための現代史講義」(草思社文庫)を読了。

最近になって初めて、著者が自分の高校の同級生であることに気付いたので
急きょ県立図書館でこの本を借りて読んでみた次第。
読み進めていくのと同時に、著者の正体も徐々に分かってきて
とにかく安倍首相の側近、代弁者ということで世間から見られていることも判明。
たしかに、この本の著述でも部分部分におかしな箇所が見られるが
実際にこの本が書かれた年代である2013年には
すでに外務省の副報道官だったのだから(しかも安倍政権に移動した直後の時期)
そういうことの反映なのかもしれない。

とはいえ、こういう感じの現代史はもっと書かれて然るべきだとも思った。
編年体とか年代順という歴史叙述の常套は
現代史では必須でないだろうし
また、歴史の素人が歴史を語る際に、そういう制約は不要な妨げでしかないのだが
かといって素人は歴史を語るなということにはならないだろう。
素人も現代史をどんどん語るべきだし、それが多彩な未来像を保証することにもなる。
その意味で、この谷口流現代史の叙述は好ましく思われた。
その内容に関しては、いろいろとツッコミどころ満載とは思うが。

読んでいる途中は、部分部分で感心する箇所もあったのだが
読み終わってみると、その叙述スタイル以上に感銘を受けた箇所となると
意外と少ないという印象になった。
現代史を意義深く語るというのは難しい作業なのだと改めて思った。

594korou:2020/11/18(水) 19:08:13
県立図書館で借りた本で初のケース。

昨日、借りている「論壇の戦後史」(奥武則著)を返却期限延長をしようとしたら
期限2日前だったので処理できず
まあ今日になってすればOKと思い
その処理をしないまま、今日は県立図書館に行ってきた(さらに2冊借りる)。
帰宅後、期限延長をしようとすると
なぜか延長できない画面になっているので
おやっと思いよく見ると、何と予約が入っているではないか!
明日が期限なのに、急きょ予約が入ったので
明日また県立図書館に行かなくちゃいけない。
さすがに連日はこたえるなあ、疲れるなあ。
でもしようがない。
この本は面白いので、じっくり読もうと思っていた矢先の出来事。
また借りるときのために
どこまで読んだかメモっておこうか。
とりあえず第4章(106p)まで読んだ。
(「世界」の執筆者周辺で全面講和論のはずが朝鮮戦争勃発で動揺がみられたという記述まで)

まっ、次借りるときは全部忘れてしまい
また最初から読むことになるかも・・・・

595korou:2020/11/19(木) 16:33:13
昨日の書き込みから事情急変し、家人が明日図書館に行くというので
その便で返却してもらうことにして、今日はその「論壇史」を読めるだけ読んでおくことにした。
で、意外なほど読み進めることができて、ついに読了した。

奥武則「論壇の戦後史」(平凡社ライブラリー)を読了。
よくまとめてある本だった(その意味で期待通りだった)。
1970年までの「戦後史」になっているが
末尾に補論などが追加してあり。さらに「解説」の保阪正康氏の文章なども
その後の経緯なども違う視点で書かれているので
今回の増補版で名実共に「戦後史」の各論、論壇史として完成した形になっている。

それにしても、戦後から10年間ほどのソ連という国に対しての楽観的というか好意的な見方については
2020年の今となっては想像を絶するものがある。
逆に言えば、そういう実態とかけはなれた前提で為された論議であるゆえに
1960年代に顕著になった批判意見に対して無策というか無言にならざるを得なかったのだろう。
それが論壇の一区切りであり、簡単に言ってしまえば、無駄な25年間ということになってしまった。
ハンガリー動乱の際の、そういう左翼系学者の反応が象徴的に思えた。
「民度の低い国だから、ソ連が教育してるんですよ」という見方、今ではあり得ないと思う。

こういった今ではなかなか想像しにくい時代の論壇の趨勢を
見事にまとめている好著だと思う。
個人的な観点も多いが、さほど気にならないのは
大筋を押さえてあるからだろう。
未読で返却を免れて本当に良かった。

596korou:2020/11/23(月) 14:06:56
山川静夫「私の『紅白歌合戦』物語」を読了。

カーシーさんのHPでこの本の存在を知り、さっそく県立図書館で借りて一気に読了。
カーシーさんの紅白歌合戦ブログで取り上げていた1974年の紅白の模様が
同じようにこの本でも詳しく描写されていたので
その比較も面白かったが
さすがに実際に司会を担当した人でしか書けない生々しい記述も多く
一気に読むことができた。
感覚的には古いものを感じるが
それはさておき
記憶力の良い方なので
「紅白」に限らず
昔のNHKの話を
こんな感じでどんどん書いてほしいと思った。

597korou:2020/11/23(月) 14:24:42
追記:↑の本は(文春文庫)

598korou:2020/11/24(火) 07:38:18
「60歳からはじめるSNS」(日経BP社)をざっと読了。

全ページしっかり読んだわけではないが
必要な箇所はほぼチェックし終えたので感想を。
2017年12月発行の本なのに、もう内容が古くなっているのには驚いた。
懇切丁寧に図版を多用してビジュアルにわかりやすく見せているのに
肝心のその画面の外見が
今現在アクセスして見られる外見とかなり食い違っているのである。
さらに、LINE,Facebook、Twitter、Instagramのどのツールでも
フォームをモデルチェンジした際に常に何のヘルプも用意せず
「使ってりゃそのうち分かるだろう」という方針で通しているので
この種の本の価値はますます下がってしまうことになる。
やはりSNSは未完成なツールと言わざるを得ない。
これだけ普及しても、それに対応する態勢が間に合っていないのである。
せっかく”63歳からはじめよう”と思ったのに
これでは難しいなと実感した。
前回借りたスマホアプリの本といい、今回の本といい
借りてはみたもののなかなかものにならない。
いっそのこと語学に専念しようかな、いやムリかな、うーむ、迷うところだなあ。

599korou:2020/12/03(木) 14:31:19
宮下洋一「安楽死を遂げた日本人」(小学館)を読了。

本当は「安楽死を遂げるまで」を借りたつもりだったが(講談社ノンフィクション賞受賞作として)
読み始めると、その次の作品であることに気付いた。
というより、この本がノンフィクション受賞作と読み終わるまで思っていた。
たしかに、この本がもたらす衝撃というよりも
安楽死というものを本格的に紹介した前作のほうが
未読なのだが多分衝撃度は大きかっただろうと推測できる。
その衝撃度の大きかったはずの前作を受けて
(著者の考えによるところが大きいのだが)
まだまだ日本社会では安楽死の議論が不足しているということで
日本社会と安楽死というテーマで実例をもとに踏み込んでいったというのが今作だ。

そもそもが安楽死についての知識がなく
ゆえに安楽死をめぐる現状についても知識皆無だったので
読んでいて、新鮮な知的刺激と同時に
著者の考えにも違和感を覚え
さらに日本社会の安楽死への意識の変化についても確信が持てなくなった。
どう考えていいのか分からないという状態。
多くの人はそうだろうと思う。
そんな状態で議論など進むのか、
そうこうしているうちに、安楽死の「便利さ」だけが独り歩きしていきそうな雰囲気。
著者の努力?にもかかわらず、そんな未来が想像されて(今の日本にこういう問題を真摯に議論する余地などないだろう)
読後の印象は辛いだけだった。
話もどうしても暗くなるし。
でも良書であることは否定しない。

600korou:2020/12/09(水) 10:09:40
峯村健司「宿命 習近平 闘争秘史」(文春文庫)を読了。

最近、がっちりとした労作に出会わないなあと思っていたのだが
そういう欲求を120%満足させてくれた名著だった。
あとがきを読むと、和歌山カレー毒殺事件で
マスコミのなかで唯一、犯人とおぼしき人物との接触に成功し
スクープをとったのも束の間
別件でフライング報道の罰を受け、左遷同然に中国出張を命じられ
そこで一から中国語を勉強、出遅れのハンディを徹底した現場取材で補い
これだけの労作をものにされたということが分かる。
最初のほうは、米国での取材、それもかなり瑣末な部分を詳しくえぐりとっているように思えて
何だ、核心に迫らない本だったのかと失望感も覚えたのだが
第3章あたりから中国本土での話になり、
一気にリアルな権力闘争の内幕を暴く迫力満点の記述に切り替わったので
俄然面白くなった。
まさに鄧小平以降の中国の政界闘争の話であり
簿熙来失脚をめぐる内幕話などは
実際に取材した者でなければ、ここまでリアルには描けないだろいうと思われた。
習近平について知りたかったのだが
それについてもかなり満足度の高い読書となった。
あと1冊、この著者の中国モノがあるようなので、さっそく借りてこよう。
間違いなく、今年有数の読書体験だった。
万人にオススメできる名著である。

601korou:2020/12/17(木) 17:25:16
ベン・ライター「アストロボール」(角川書店)を読了。

久々のMLB本。なかなかの力作とはいえ
このところ名著が続くMLB本のなかでは普通の出来だった。
やはり、不祥事が発覚した後では、この本に書かれている特に後半部分について
文字通り受け取ることができないわけで
その点で、この本に書かれたアストロズの復活劇については
もう1つの本の存在が予定されていなければならないのだが
今のところ、そういう本が企画されることを待つしかない。

前半部分は、なかなかの出来である。
特にルーノウ、シグ達の
「マネーボール」バージョンアップ版ともいうべき思考方法は
データ野球を批判する人たちにぜひ知っておいてほしい事項ではないかと思った。
全体に、取材対象への愛情が溢れ過ぎて
彼らのしていることはすべてうまくいったという前提でもあるかのような叙述が
各所にみられ、それが全体の焦点をぼやかせているきらいがあるのだが
データ以外の重要なポイントをどうみるか、というところだけは、うまく描けている。
その反面、なぜバーランダーがトレードに同意したのかについては曖昧だし
なぜ2014年のドラフトで失敗したのかについての分析は叙述が不十分だし
ベルトランに至っては、もはや「もう1つの本」が出ない限り、
ある意味間違いだらけなのかもしれない。

とはいえ、貴重なMLB本だ。
今現在のMLBを知る上で必須の情報が詰まっているのは事実だ。
ファンであれば必読だろう。

602korou:2020/12/24(木) 10:14:31
中川右介・石井義興「ホロヴィッツ」(アルファベータブックス)を読了。

ホロヴィッツについての日本有数のコレクターと言われる石井氏のコレクションを
以前出版した高価な本の普及版として紹介するために
編集者として中川さんが労を取った本である。
ほぼ4分の3程度、中川さんのホロヴィッツ伝記が占め
その余白に頻繁にジャケット等の現物資料の写真等のデータが入り
最後に石井さんの文章とデータ一覧が掲載されるという体裁になっている。
例によって中川さんの文章は要を得ていて簡潔にして分かりやすい。
ホロヴィッツの一生が明確な姿で浮かび上がってくる。
石井さんの巻末のエッセイ風の文章も面白く
コレクターというのはこれほどの努力をするものだと感心させられる
(かつての「脱走1号」さんの雰囲気を連想してしまった)
特にホロヴィッツの大ファンということでなくても
これほどの大ピアニストなのであるから
この程度のことは知っておいて損はないということだろう。
これからは、ホロヴィッツの演奏を聴くたびに
ああ、この時期はこういう感じだったのだなと思うことになる。
読む前に想像していたよりも得るものは多かった本である。

603korou:2020/12/30(水) 17:51:05
「日本陸海軍のリーダー総覧」(「歴史と旅」臨時増刊 S61/9)を読了。

トイレ読書で読了。
何時から読み始めたのか記憶も過去の記述もないが
ほぼ半年以上は読み続けていたような感覚だ。
かなり分厚いムック(424p)なので
毎日とはいえごく短い読書時間で
本当に読み終えることができるのかどうか、途中でくじけて止めてしまうかも
とも思ったのだが
本日、無事読了。
150名もの軍人について記載してあるので
もはや細かいことは全部忘れてしまったが(半年前に読んだところなどは特に)
何となく全部を網羅したという達成感で
日本の軍人についての基礎知識を身に着けたような感じで
勝手に悦に入っている。
間に挿入されている棟田博氏などのエッセイは秀逸。

604korou:2021/01/01(金) 18:56:29
「全著作 森繁久彌コレクション 1 自伝」(藤原書店)を読了。

600p余もある大部な本で
面白い内容にもかかわらず
(年末年始という時期でもあり)読了するのに結構時間がかかった。
第1部が「私の履歴書」で、すでに第2部を世に出していた森繁さんが
日経のそのコーナーに書いたのは、自らの出自と満州へ渡るまでの半生の出来事。
第2部が、昭和37年に50歳のときに書いた「森繁自伝」で
これが今の自分の出発点であることは間違いないところ。
第3部と第4部は、文筆家でもあった森繁さんが
折に触れて雑誌などに書いた文章をまとめたもので
第3部「満州」は、第2部の自伝の内容と重なるところが多く
ここが一番読んでいて難しいところだった(飛ばし読みしたいのだが、うまく“飛ばせ”ない)。
第4部「わが家族」は、森繁一家の日常エピソードをまとめたもので
このあたりは始めて知る事実が多く、奥様がこれほどの冒険家(シュヴァイツァーに憧れ
単身で会いに行く。日本女性初の南極訪問など)だったとは知らなかった。

こうしてみると、やはり第2部「自伝」の面白さは格別で
今となっては
若い頃にこの本に出合った幸運を喜ぶ他ない。
他にもいろいろ感想は多いのだが
今回はあまりぐだぐだと書くことは止めておこう。
余韻にも浸りたいので。
2021年最初の読了本です。

605korou:2021/01/05(火) 15:53:01
峯村健司「潜入中国」を読了。

前回読んだ同著者の本と、内容は一部被っているものの
権力闘争に焦点を合わせた前回の本と比べると
今回はテーマが広範囲にわたっていて
現代中国をコンパクトに知るには
こうした新書の形で手っ取り早く知るのがベターだろうと思われた。
ただ、新書サイズの制約のなかで、ここまで広範囲に話を広げてしまうと
どうしても中途半端な形、展開不十分な話になってしまうことは避けられず
読後の充実感という点では、前著に及ばなかったのが実感である。
それにしても怖いのが、最後の章に書かれていることで
今現在の中国は「1984(オーウェル)」のような強烈な監視社会になっていることだ。
中国の真実を知ることは、もはや国外でしか可能でないように思え
ゾッとした。

(以下どうでもいい話だが・・・)
アマゾンの書評は(あまりにくだらなくて)もはや滑稽である。
自分の信じたいものを信じるという子供のような精神状態の人たちが
この好著のなかに、信じたくないものを重箱の隅を突くようにして見つけて
こき下ろすという書評があるのだが
それがアマゾンのレビュアーでナンバーワンの存在の人だというのだから
笑ってしまう。
その方が、この本に代わって推薦する本というのが
どう見ても嫌韓、嫌中の類の本なのだから、いやはや・・・

606korou:2021/01/13(水) 15:40:50
中川右介「ロマン派の音楽家たち」(ちくま新書)を読了。

今回の中川本は、人物が複雑に入り組んで絡み合い
それを、最初の部分を除いて、すべて暦年別に記述してあるので
記憶力のない自分には、結構読み辛い本になった。
原則として、メンデルスゾーン、シューマン、ワーグナー、リスト、ショパンという5大音楽家の
1820年代から1840年代にかけての足跡を記した本ということになるが
それぞれに関係する人物の人数も多く、さらにベルリオーズの物語も追加され
誰が誰やら、あるいはそこまでの経緯はどうだったか、ということを確認するために
今読んでいるところから数ページ以上遡って該当箇所を探すという作業を
読書中ずっと続けなければならなかった。
そういう手間を惜しまずに読んだ結果
結構、この昔々の天才たちの進化ぶり、恋愛の様子などが
読む前には想像もしなかったほど具体的に脳裏に刻み込まれ
今は、一刻も早くWikipediaで再確認したいと思うほどである。
相変わらず、史料の読み込み、各史実の展開のさせ方など
さすがのプロの仕事だった。
正直、対象そのものへの興味は低かったので
読む前にはそれほど期待していなかったのだが
読み終わると、いつもの満足感がいつものように残った。

607korou:2021/01/19(火) 15:47:08
石原豊一「野球の世界情勢」(ベースボール・マガジン社)を読了。

何となく借りた本だが
ひょっとしてこんな内容だったらタメになるかなと思ったレベルに
十分達していた本だったので良かった。
ただ、この時期(冬。眼痛がしばしな起こる季節)だけの難しさで
ちょっとした活字の小ささが途中から気になり始めて
20ページほど読んだら目が痛んでくるのには弱った。
なかなか読書が進まない、その割には知らない事実が多すぎて
ちょっと前のページでも記憶が定かでなくなるので
何度も読み返すということを繰り返していたので
読了まで予想以上の時間がかかった。
結局、記憶力の限界というべきか
ちょっと前にも中南米の野球の本を読んだというのに
それでも各国の野球事情について
いまだにハッキリとは覚えられていないわけだ(読破直後の今でさえ)

ヨーロッパ各国の野球については
今まで全く知らなかったので
今回の読書はタメになった。
まさに、レジャーとしての野球、社交場としての野球場といった感じで
それぞれの国々でそれぞれの問題点が山積しているのも事実。
その点、中南米あたりは、真剣モードで、問題点も深刻なものが多い。
野球が盛んな国でのオリンピックの場合、野球は公開競技として復活の可能性は大、という指摘も
新鮮だった。
まあ、野球の本なので、どう読んでも愉しいのは愉しいのだが。

608korou:2021/01/31(日) 14:36:33
ピーター・ヘイワース「クレンペラーとの対話」(白水社)を読了。

音楽鑑賞を続けていると
どうしてもクレンペラーという人の巨大さを意識せざるを得ないことが
たびたび起こってくる。
いつかこの人の生の言葉を知らなければという思いが深まってきて
今回、県立図書館の書庫から引っ張り出してきて借りて読んでみた。
残念ながら、その生の言葉からは、クレンペラー自身が経験した時代である
西洋音楽としては古き良き時代ともいえる
20世紀最初の頃の時代の雰囲気だけが伝わってきて
彼自身の独特の叡智に満ちた言葉で、具体的に詳しく語る部分はなかった。
他人への批評、特に自分より年少の人たちへの言及もごく僅かだった。
いくらか記憶に残っているのは
「前衛音楽を紹介しようとかそういう意図は全くない。クロールでは、よいものを創ろうとしただけだ」
「今の指揮者(1960年代後半)たちは、踏むべき段階があるのを知らないか、もしくは忘れているかのようだ」
「十二音音楽が特殊だというのは偏見だ。古典派音楽も十二音使って書かれている。同じ音楽なのだ」
という言葉。
だが、その言葉は言い足りないことだらけだろう。
興味深いインタビュー本なのだが
クレンペラーの創造したその音楽の深遠さを説明するパンフレットにはなり得ていない。
インタビュアーの丁寧な進行が感じられて、悪くはない本だけれども。

609korou:2021/02/02(火) 09:38:25
読了した本ではないが、気になる本。
「スマホで見る阪神淡路大震災」(西日本新聞社)

映像を、本に記載のQRコードをスマホで読み取ることで実感できる本。
買ってもいいかな、と思ったりする。

610korou:2021/02/03(水) 16:39:09
「私の履歴書 経済人12」(日本経済新聞社)を読了。

6名の履歴書の内、永野重雄、加藤辨三郎両氏のものは既読なので
残る木下又三郎、司忠、砂野仁、倉田主税の4名分を今回読了した。

司、砂野両氏は、令和の現在、読むに堪えないものがあった。
昭和においても、こういう人の配下で働かざるを得なかった人たちは
相当苦労しただろうと思う。
木下氏のものも、自慢話のオンパレードなのだが
苦労の度合いが違うので、むしろそっちに意識が向かい
そこまでの嫌悪感は感じなかった。

日立製作所社長を務めた倉田氏の履歴書は興味深く読めた。
さほど苦労せずにのんびりと生きてきた倉田氏が
小平社長の人格に触れ一気に目覚めた後の人生は
壮絶というか、まさに苦労の連続であり
また実際の出来事を正確かつ細やかに記憶されているので
それがどういう苦労なのかが、そこから半世紀以上経った令和の今読んでも
手に取るように分かるところが凄いのである。
この倉田氏の慎重かつ堅実、謙虚な姿勢が
日立の社風、というか経営首脳陣の空気を作り上げたのだろうと推察できる。
昭和の経営者として模範的な生き方だったろうに違いない。

砂野氏などは1899年生まれ(司氏でも1892年)で
倉田氏の1889年とはほんの少し世代が違うのだが
その差は大きいような気がしてきた(その他、今までに読んだ人たちを思い起こせば)

611korou:2021/02/14(日) 22:58:18
佐野眞一「唐牛伝」(小学館)を読了。

今までの佐野氏の著作と比べると
信じがたいほど未熟な本だった。
著者は、これこそ今自分が書くべきテーマであり
そのことに確信を抱いていたはずだが
実際にはそういう思いとは程遠い駄作となったと言える。
佐野氏自身もそのことを直感として感じたのか
この作品以降全く何も書けていない。
無理やりに自らの体験と近い題材にして
さして効果のあったと思えない現場取材を重ね
そして、それをまとめるにあたって
それまでの著作ではあり得なかったほど混乱した記述を重ねているのを
読みながら感じてしまい
こうして優れた著作家は急に衰えていくこともあるのだ
と驚くばかりだった。
実に読みにくい。
インタビュー部分を不必要なくらいに分割して
他のインタビュー記事と混ぜこぜにしているので
今一体誰のインタビューを読んでいるのか
注意していないと分からなくなる箇所が何度もあった。
取材をいとわない姿勢はさすがだとは思うのだが
その取材自体、あまりにも無収穫で無駄で無意味なように思える箇所が
頻繁に見受けられ、全体として生煮えのノンフィクションとなった。
唐牛健次郎の生き様は、ある程度伝えられてはいるが
今までの佐野さんなら、こんな生ぬるい著作では終わらなかっただろう。
最近、新作が出ないなあと思っていたが
もはや魅力的な新作が書ける状態ではないのだなという
悲しい事実を確認するだけに終わった。

612korou:2021/02/24(水) 17:48:28
湯浅博「全体主義と闘った男 河合栄治郎」(産経新聞出版)を読了。

イギリスの理想主義に啓発され、戦前日本で唯一と言っていいほど自由主義に徹して
マルクス主義ひいては軍部という巨大な影響力を持つ権威、組織と闘い続けた河合栄治郎という人を
もっと知りたくて借りて読んでみた(丸山真男の対談集でしばしばその名前が出てきたので、その影響もある)
この本を読んで最も興味深く思ったことは
河合栄治郎は志半ばで病魔に倒れたものの(このことは戦後まで生きていたら日本の将来も変わっていただろうという
想像をたくましくさせる。でも吉田茂も河合ほどではないもののイギリス仕込みの自由主義の理解者であったから、
やはり対GHQという点では同じだっただろう。もっとも、吉田学校みたいな趣味が河合にはなかったので、そこは大きく
違うわけで、その意味ではポスト吉田とポスト河合は随分と違ってきたのかも。つまり、池田にも佐藤にも吉田のような
哲学はなかったわけで、その点で河合が政治家の中に後継者を見出せていたとしたら、それは大変な功績になったはず)
その河合の仕事を、弟子たちが戦後になって社会思想研究会という形で受け継ぎ、社会思想社を立ち上げ、個性的な出版物
を世に送り出すことで、一般人にもその特徴を伝えたという点だろう。自分もその影響を大きく受けた。小学生低学年なのに
「教養人の手帖」などという凄い本に出合ったり、映画に関しては「教養文庫」なしで今の知識にたどり着けたとは思えない。
そして、その反対側で権威を保っていたのが、「非武装中立」路線の進歩的文化人という立場で、この本は書かれている。
まさに社会党、共産党VS民社党という構図だ。その意味でこの本の主張は部分的に正しい。しかし、本当にそんな野放しの
非武装中立論ばかりだったのか、非共産党陣営の論者でもっと現実的な主張をする人も居たのではないかという疑念も残る。
以上は戦後の後継者たちの話であり、読後の印象もそのあたりが自分には生々しく残るのだが
戦前の河合本人の活動そのものについても、軍部と真正面から闘った勇気は大いに称えられていいのは言うまでもない。
そこには明治人としての国家意識、天皇賛美の傾向が残るとしても
逆に良心的知識人がたどり着いた人間像として分析すべきではないかと考える。
何でも現代の基準で過去の人物を裁けばよし、ということではないのである。
最近はそういう傾向が強まっているので、それには断固「否」と言いたい。

613korou:2021/02/27(土) 15:02:15
浦久俊彦「ベートーヴェンと日本人」(新潮新書)を読了。

書名とは違って、ベートーヴェン限定ではなく
明治・大正時代の日本においていかに洋楽が広まっていったかについて
その様子を大まかに伝える本になっていた。
読後の印象としては
文章があっさりしているので特にひっかかるところがなく
結果として記憶に残るポイントが皆無、新しく何を知ることができたのか不明という
残念なことに。
もう少しトリヴィアを掘り下げてほしかったし
こういう類の本であれば
それぞれの団体、個人のつながりに着目して
現存団体のルーツはこれになるというような叙述がもっと欲しかった。
読みやすいのはいいのだが、ここまでライトだと
結局何も得られないという典型的な本。

614korou:2021/03/08(月) 10:12:02
谷川建司「映画人が語る 日本映画史の舞台裏」(森話社)を読了。

たまたま県立図書館で見つけて借りた本。
最初のほうは特撮技術の専門的な話が多く
読み進めるのに難渋したものの
途中からは映画興行、宣伝などの話が中心となったので
かなり読みやすく、かつ面白く読めた。
2010年代に行われた”聞き書き”なので
映画黄金時代に仕事をされた方々の思い出を記録するのに
ちょうどギリギリの時期となり
その意味で谷川氏他の関係者の人たちは
本当に良い仕事をされたと思う。
無茶苦茶な労働環境と、何事にも大雑把で管理など後回しという
イメージの強い昭和20年代・30年代の映画界の様子が
具体的に語られていて、かなり面白い。

不満な点をいえば
東宝、大映、東映(特に動画関係)についてはかなり語られていて
それぞれの会社の沿革もWikiで補足して調べたりできたが
日活と松竹については、ほぼ語られていないので
そこは後日の研究を待つしかない。
それとインタビュアーの事実認識がズレている点も
随所にみられるのだが
できればインタビュアーの経歴も巻末に列記してほしかった。
たとえば1980年代で映画館が特撮映画特集をすれば、客が集まるのは容易に予想できるのに
「ビデオが普及していたはずなのでその影響はなかったのですか」などと頓珍漢な質問をしたりしているので。
若い人ならともかく、リアルタイムでその時期の空気を吸っていたなら
こんな質問は出ないと思うので。

615korou:2021/03/09(火) 17:03:12
断念した本・・・「朝鮮語を学ぼう 改訂版」(三修社)

この上ない詳しい本なのだが
理解が難しい箇所を丁寧に易しく書くという修行ができていない人が書いているので
途中から何を書いているのか全く分からなくなってしまった。
まあ、100ページほどは読めたので
少しは役に立ったということにしておこうか。

616korou:2021/03/11(木) 22:02:33
読了本といえるかどうか、半分しか読んでいないのだが
大物クラスは全部読んだつもりなので、とりあえず読了ということで・・・
瑞佐富郎「さよなら、プロレス」(standars)をほぼ読了。

(読了)
阿修羅原、アントニオ猪木、ザ・グレート・カブキ、前田日明、ジャンボ鶴田、スタン・ハンセン、
馳浩、小橋健太、田上明、佐々木健介、天龍源一郎、長州力、獣神サンダー・ライガー

(未読)
浅子 覚、垣原賢人、SUWA、ミラノコレクションA.T、力皇 猛、井上 亘、スーパー・ストロング・マシン
アブドーラ・ザ・ブッチャー、飯塚高史、中西 学

まあ、こうしてみれば、ブッチャーを除きほぼ網羅できたかなという印象。
なかなか独特の熱量の文章で、プロレスともなればこの熱量なのかなと納得もした。
とにかく、団体の乱立、メンバーの移動の激しいスポーツで
そのこと自体がこのスポーツの面白さでもあるようなので
Wikiで参照しながら読んでいると時間がかかること夥しかったが
なかなか楽しい読書&調べ物だった。
このくらい仕入れていると
アサヒ芸能の連載も比較的すらすら読めるかも。
って、何を目指しているのか、自分。

617korou:2021/03/24(水) 09:40:36
<日本の新常識研究会編>「令和の新常識」(PHP文庫)を読了。

雑学を増やしたい、クイズ番組で優越感に浸りたいというような目的で借りた本。
そういう欲求を満たすという意味では期待通りの内容だった。
ただし、幅広いジャンルにわたって新常識が書かれていたので
それらをすべて覚えて自分のものにすることは不可能だ。
この種の本を何度も何度も繰り返して読めばいいのだろうが
さすがにそういうマニアックな読書に挑戦する意欲はない。
まあ、時々、こういうのも借りてみるか、という程度の話。

618korou:2021/03/24(水) 09:46:04
高城千昭「『世界遺産』20年の旅」(河出書房新社)を読了。

世界遺産について何も知らないに等しいので
ちょっと知識を仕入れておこうという程度のノリで借りた本だが
これが予想以上の好著で、読んでいて本当にタメになった。
世界遺産の基準(10ポイント)について、具体的にわかりやすく書かれてあり
さらに、世界遺産をめぐる現在の問題点、課題も適切にまとめられていて
何よりも、随所に、著者が実際にその世界遺産を訪れた体験談が語られているので
叙述にリアリティ、説得力があるのが良い。
これを機会に
もう少し、世界遺産について読み込んでいこうかという気にもなった。
今月の読書のピカ一。

619korou:2021/03/30(火) 16:51:12
山平重樹「実録 赤坂ニューラテンクォーター物語」(双葉社)を読了。

以前「東京アンダーグラウンド」(R・ホワイティング)に書かれていた力道山と東声会の関係とかにも
興味があり、借りて読むことにしたが
まあまあ面白いものの、何となく苦労せず成功した若社長の物語という体が強く感じられ
イマイチ読み進むスピードに加速がかからないもどかしさがあった。
それが、力道山刺殺の現場に居合わせた若社長ならではの
生々しい描写のあたりから俄然面白くなり
後半は一気に読み終えてしまった。
確かに物凄い苦労などは皆無なのだが
それなりに苦しい体験も豊富で
何よりも空手経験者としての強みが
山本信太郎というこの若社長の強みだろう。
単なるボンボンだと、こうまで裏社会の実力者から気に入られることはないはず。
体育系ならではの礼儀正しさもあっただろう。
児玉機関系列の人脈と、博多の頭山満系統から流れる人脈が
程よく住吉系ヤクザ、山口組関連のヤクザ、あるいは東声会、稲川会も含めて
最上の形でこのナイトクラブ「ニューラテンクォーター」に融合しているかのようだ。
上質な文章、文体とは言えないが
まとまりのある分かりやすい構成で、ある意味描写の難しいこのジャンルのこうした本を
見事に書き切った著者も良い仕事をしたと言える。
裏社会を描きながら、読後の印象が薄暗い感じにならないのも良かった。

620korou:2021/03/31(水) 14:15:46
読むのを止めた本
「世界遺産に行こう」(学研パブリッシング)
止めた理由・・・世界遺産に興味が失せたから(飽きっぽい・・・)

621korou:2021/04/16(金) 17:31:18
井川聡「頭山満伝」(潮書房光人社)を読了。

読売新聞編集局次長などを務めた著者が
地元福岡で親しんできた玄洋社ゆかりの人たちの話などをまとめて
600ページを超える大著として
意外にも世に出ることの少ない近代日本の巨人である頭山満の伝記をものにした本。
著者自らあとがきで記しているように
歴史の専門家でもなければ、ノンフィクションとして定評のある書き手でもないのだが
とにかく対象となる人物への親愛の情、敬愛の念はピカ一な本になっている。
正伝というには程遠く、伝聞の事実を常識の範囲で吟味したとでもいうべき事柄を
時系列も自由に羅列している一方で
史実の検証、細部の検証などは後回しになっている印象は否めない。
その意味で、あくまでも正伝がない現状のなかで
そのうちに伝聞の事実すらもつかめなくなる最悪の事態を避けるために
とりあえず叩き台として伝聞事実を網羅し、うまくいけば入門用の書としても重宝されればよいという意図のもと
一定の決意のもとに出版されたということなのだろう。
読後の印象では、その意図は十分に達成されているように感じた。
あくまでも当座の整理の本であり、この本に示された思想、考えをどう受け止めようと
それは読者の自由だろう。
例えば、頭山の思想を阻んだのは、軍部の暴走、つまり軍という組織の崩壊が大きい要素なのだが
そのことについての記述がほとんどなく
もっぱら支配者層のミスリードという形で批判が集中しているのだが
個人的にはこういう叙述は中途半端で首肯し難いものがある。
しかし、それはそれでいいのである。
この本のおかげで、頭山の思想は十分に伝わってくるし
その人脈、交友関係もほぼ完ぺきに理解できたように思う。
その意味で、この本は、その後の知識の補充、さらなる考察を要求する本でもある。
名著ではないが、日本の近代史を考える上で重要なピースとなる人物の生き様を
自然体で描いた好著ということができるだろう。

622korou:2021/04/20(火) 15:31:58
金成玟「K-POP」(岩波新書)を読了。

あまり期待もせず、まあこのジャンルの網羅的理解の助けになればと思い借りた本だが
読んでみると意外に役に立って面白かった。
ほぼ時系列で書いてあるので読みやすかったが
所々で抽象的な理屈が混ぜてあって、そこがひどく理解しにくい文章になっていたのが
玉に瑕といったところか。
別スレに要点だけ抜き出してみたが
途中から面倒臭くなり止めてしまった。
もう1回、この種の本を通読すれば
今度はかなり明確に記憶できそうなのだが
そこまでの手間をかけるかどうかは今は分からない。
K-POPの本なのに、J-POPとの対比が書いてある箇所があって
そこは非常に参考になった。
K-POPは常に外に開かれていて、その実質について客観的な定義を試みることは可能だが
J-POPは基本的に自己規定の概念であり、定義自体が形式そのものであるという異形な言葉なのだということ。
だから、J-POPについて言えば
その範囲は明確な一方、それ以上に実質的な意義はその言葉からは見いだせないのに対し
K-POPについては、実質を示す言葉でもあるので(勿論、韓国のポップスという形式的な意味も含んでいる)
さらに深い考察も可能な言葉なのだということ。
そこに、音楽産業として見た場合、J-POPと比べて、より意図的な、何かを指向することが明確な傾向が顕著で
ゆえに、このような書籍で語ることが可能であり、意味もあるということになる。
J-POPを語ると、こうはいかない。
もっと雑然とした雑駁とした内容のものになる。
指針のない文化は徐々に避けられる時代になってきたと思うので
K-POPの未来は明るいだろうなと思う(J-POPはその点危うい)。
そんなことを思わせた本だった(好著)。

623korou:2021/04/26(月) 12:24:49
許永中「海峡に立つ」(小学館)を読了。

以前から関心のあった許永中について
自伝が2019年9月に刊行されていたようなので
さっそく県立図書館で借りて読んでみることにした。
内容は予想通りというか
少し文章に騙された感もあるが(一読、極貧の出と勘違いさせられた)
少年期から父親の名声により
在日としては優位な立場に立った上
いろいろな人脈を培いのし上がっていったという人生が
描かれていた。
最初は、ほぼ極道ばかりで
それでも当初から同和関係者の知己も多かったのだろう。
それから、大谷貴義などとの関係も生まれ
この本には書かれていない人脈筋もできていったのだろう。
お金に関しては、当初は同和関係で、それから住友の磯田などが絡んだいたのだろう。
だから、検察も、住友を直接やるわけにもいかず
許が犠牲になったのだと考えられる。
まあ、それにしても
目一杯生きた人生だから悔いはないはず。
その意味では爽快な味も残る自伝なのだが
でも、やはりドロドロしているのは否めない。
反社、というのはこういう人のことを言うのだろう。
でも、社会から抹殺するだけで本当にいいのだろうか。
本当に悪い奴はもっと居るはずだ。
許の自伝を読んで、ますますそう思えるようになった。
文章は雑で、どことなく偏りもあるが、それでも名著の部類だと思う。

624korou:2021/05/10(月) 17:36:21
時枝威勲「面白いほどよくわかる世界の王朝興亡史」(日本文芸社)を読了。

前半がおもに地理的にヨーロッパの王朝興亡史、後半は中国とイスラム世界の王朝興亡史という構成。
かなり多くの誤植が見られたが
それを上回る数多くの知識、情報が詰め込まれた好著で
読んでいて本当にタメになった。
周辺が中枢に入り込み新陳代謝を行うという”王朝の移り変わりの本質”が
繰り返し語られ
特に中国王朝の歴史は
その視点で見直すと全く違った形に見えるのが実に面白かった。
イスラム王朝の複雑な展開も
何となくではなるが全部理解できたような気もするし
その意味では後半の叙述について
知らない事実が多かったので、得るものが多かった。
前半部分にしても
ローマ時代などはあまり知らなかったので興味深く読めたし
まさに、この本のおかげで
ここ数年で興味が湧いてきた世界史全般に
一層関心が深まったような気がする。
となれば、次読むのも世界史の本かな。

625korou:2021/05/18(火) 18:01:23
広瀬隆「ロシア革命史入門」(インターナショナル新書)を読了。

世界史に興味が湧いているこの頃
広瀬氏が書いた「ロシア革命」の本を見つけ
面白そうと思い即借りたのだが
その一方で極端な陰謀論に基づく歴史叙述だったら困るなという
思いもあった。
読了した今、そんな懸念は無用だったといえる。
戦争回避が最大目的の「ロシア革命」だったというのは
広瀬氏が思うほど知られていないわけでもなく
むしろ、知られていないのは、革命成就後の戦時体制の名を借りた
度を過ぎた独裁政治ぶりのほうだったろう。
とはいえ、戦争回避の革命という部分も
世間の常識ということではなく、自分も知らなかったことなので
このコンパクトな新書全体を通じて
初めて知る史実が多く、大変タメになった。
また違った目、史観で見た「ロシア革命」の本を
読みたいとも思った。
やはり、広瀬氏の叙述は独特なので
面白く一気に読み切るには最適なのだが
世間一般的にはどうなのかという”セカンド・オピニオン”も
求めたくなるので。
全体としては、テーマの目のつけどころもよく、好著の部類だと思う。

626korou:2021/05/25(火) 09:15:38
吹浦忠正「『平和』の歴史」(光文社新書)を読了。

平和について書かれたまとまった本を探してはいたので
ひょっとしてと思い県立で借りた本。
全部で10章から成り、テーマ別に平和の歴史を叙述するスタイルだったが
読んでみた結果
最後の2章以外は、
著者の個人的意見を具体的な史実にあてはめて解釈するという
ある種残念な本になっていた。
ただし、著者は机上の空論を延々と述べているわけではなく
実際に国際平和に関する活動を続けて居られる方なので
それなりの説得力はあるのではあるが・・・
最後の2章は、これまでの世界の歴史のなかで
平和について考察するにあたって参考にすべき人物とその思想を
コンパクトにまとめていて
さらに、実際の国際平和活動に際して
どのような団体が存在し、またどのような方法が試みられているかを
ざっと叙述してあるので
案外、こういう類の「まとめ」はそう簡単には目にしない実情を思えば
なかなか貴重な本であるように思えた。
それにしても「憲法第九条」というのは
なかなかデリケートなものであるということもよく判った。
実際に活動を続けて居られた吹浦氏の文章からも
それは端々からよく伝わってきた。
同種の本が数多く出版されることを期待している。

627korou:2021/06/01(火) 11:56:48
八幡和郎「「領土」の世界史」(祥伝社新書)を読了。
(注:書き込み日付は6/1だが読了は5/31なので、5月読了分としてカウント)

世界史への興味が、ひいては各国史への興味にまで広がってきたので
こういう本を借りてみた。
一応その興味は満たされ、さらに未知の史実を知ることも多かったので
意義深い読書にはなったが
その反面、かなり多かった誤植に加えて
著者自身の記述ミスも信じられないほど多く
それらを確認すること自体は大変勉強になったものの
結果としてそういう作業に熱中するあまり
読書以外の時間を大幅に食ってしまうということにもなった。
まあ、全体として意義深い読書にはなったのだが。

オランダの実質首都がハーグであることは今回初めて知った。
その他にも、フランスの中世の混乱ぶりとか
スペイン、ポルトガルの近代史の具体的イメージとか
ロシア史のなかなかな面白さなど
世界史を学ぶ楽しさ満載の読書となった。
本としては、ミスが多すぎるので手放しで褒めるわけにはいかないが
今の自分にぴったりの本であったことは間違いない。

628korou:2021/06/29(火) 20:34:41
みの「戦いの音楽史」(KADOKAWA)を読了。

1か月ぶりに開館した県立図書館で
新刊コーナーにこの本があったので
今やっているyoutube動画編集作業との関連も感じられて
借りることにした。
実際に読んでみると
前半はまあまあの感じで、後半は期待外れという感想。
もともとボリュームのない本(大きな活字で250p程度、1時間で読もうと思えば読める)なので
内容の詳しさとかは期待していなかったが
1990年以降の音楽について、あまりにあっさりと書かれていたので
知りたい知識が全く増えなかった。
それ以前にしても
網羅的ではあったけれど
さすがに叙述が簡単すぎるのと
主な重要人物の選択にも制限がかかっていて
物足りないこと夥しかった。
やはり、この種の本をキッチリ書くのは難しい作業なのだろう。
誰か書いてほしいのだが。

629korou:2021/07/05(月) 11:19:01
伊藤金次郎「陸海軍人国記」(芙蓉書房)を読了。

トイレに持ち込んで、ちょっとずつ読み進めていた本で
1回につき1〜2ページ程度しか進まないので、毎日の用足しとはいえ
500ページ上下2段組みの本なので、読了までほぼ半年から1年近くかかった(読み始めの正確な日付が分からない)。
なにはともあれ、本日読了したので
古本市で20年ほど前に買ったこの本を、やっと読了できたことになる。

もともとは昭和14年に発行された本で、それを昭和55年に復刻したものを手に入れたわけである。
日中戦争が最も有利な展開になっていた時期で、まだ事態は泥沼化していないので
軍部を語る口調は肯定的で、日本の未来は明るいものとなっている。
本の構成は、日本列島を自在に横断し、各地方別に出身軍人を取り上げるというもので
やはり将官級人物を中心に、将来有望な左官級軍人をいくらか混ぜて
その功績がつぶさに語られている。
このような経緯、時期で出版された本だけに
2021年の今読み返すならば、かなりのリテラシーと予備知識が必要であることはいうまでもない。
少なくとも、陸軍の長州閥と海軍の薩州閥については知っていないと判読不能にもなるし
日本万歳風の叙述も、当時の世相、軍部礼賛の「空気」を察知して読まなければならないだろう。

そのような制約があるとしても
これだけの人数の軍人をとりあげて人物評している本は
なかなか見当たらないので貴重である。
読めば読むほど手放せなくなる本であることは間違いない。
巻末の索引も重宝するし、我ながら良い本を入手したものだと自画自賛したくなる。

630korou:2021/07/07(水) 18:18:58
君塚直隆「ヨーロッパ近代史」(ちくま新書)を読了。

中世以降の西欧史に興味を持ち始めていたので
この本を図書館で再発見(一度見つけていながらその5分後には無くなっていたという体験アリ)した時には
即借りることにした。
しかし、読み始めて、それが特定の人物の小伝をつないだような叙述であることが分かり
いささか気が削がれた。
それでも、基本的な史実については洩れなく記されていたので
少しずつでも読み進めていくことにした。
それにしても、その小伝がすべて近代の芸術・科学の担い手ばかりで
いうなれば統治者の歴史からみれば脇役に過ぎない人物ということなので
やはり隔靴掻痒の念は免れない。
王や皇帝を中心にした西欧近代政治史を読みたかったのだということを
改めて感じた次第である。
そうした点を除けば、叙述はシンプルで分かりやすく
しかも最後のまとめの章で、西欧の近代に芽ばえた「個人」の意味を追究する叙述などは
著者の史観をも連想できるものであり
歴史の叙述として一貫したものを感じ、なかなかの好著だと思えた。
それにしても、最後の方のレーニンの小伝など
つい最近別の本で同じような内容を読んだはずなのに
その大半を思い出せないという情けない記憶力を感じてしまった。
仕方ないのだが、がっかりである(自分に)。

631korou:2021/07/12(月) 17:24:44
吉沢英明「Wikipedai完全活用ガイド」(マックス)を一通り読了。

もともとは、そろそろWikipediaへの投稿を再開しようかなと思い
その参考にと思って借りた本だったが
内容が薄すぎて、その目的には全くふさわしくない本だった。
Wikipediaに関するマニュアル本というのが
ほとんど出版されていないのが現状なわけで
想定読者数が少ないということは
そういう目的をもった人は
冊子形態の活字本などでそういう知識を得ようと思わない
ということの裏返しのようだ。
薄い内容の割には細々とした叙述も目立ったこの本のおかげで
”Wikipedia雑学”だけはそこそこ増えた。
とはいえ、本当に役立ちそうなことは
項目の右端に✯印のあるものは優秀項目であるということぐらいか(それも日本語版で100項目以下しかないし)。
コモンズの説明も分かったような分からないような感じで
どうも役に立った読書とはいえない感じだが
類書もないのでどうしようもない。
(2006年12月発行という古さは我慢するとしても・・・)

632korou:2021/07/19(月) 21:57:33
中西孝樹「CASE革命」(日経ビジネス人文庫)を読了。

Web雑誌の何かで紹介された本の関係でこの本の存在を知り
さっそく県立図書館で借りてみた。
読み始めると、期待に違わず充実した内容で圧倒される思いだったが
とにかくカタカナ語、英語の略語の多さには困ってしまった。
内容が内容だけに、日本語の訳語などが間に合わないのは分かるのだが
これだけ多いのであれば、基本用語についてまとめた章を設けてほしい思いだった。
まあ面倒くさがらずに逐一ヤフーで検索すれば事は足りると思い直し
なんとか読み進めた。

「C」Connected
「A」Autonomous
「S」Shared&Service
「E」Electric
ということで「CASE(ケース)」なのだが
さすがに文庫本1冊の中で繰り返しその内容が説明されているため
読み終わったときには、その細部まで完全に理解できていないにしても
大体のイメージは浮かぶようにはなった。
それにしても、自動車業界の今は大変な過渡期となっていて
それは、20年ほど前の電機業界と同じような激変期とも言えるのだが
日本の業界はその激変の流れに乗ることができず、今や電機業界は壊滅状態。
願わくば、自動車業界がその轍を踏まないようにしてほしいものだ。
それと、もしこの本の内容が正しければ
自分は何とかその激変後の世界は体験せずに済みそうだということで一安心。

633korou:2021/07/19(月) 22:11:38
川崎大助「教養としてのロック名盤ベスト100」(光文社新書)を読了。

アメリカのローリング・ストーン(RS)の2012年改定版リストと
イギリスのニュー・ミュージック・エクスプレス(NME)の2013年版リストを
それぞれ合計して出したベスト100のロック名盤を取り上げた本。
ビルボードのチャートを追いかけた結果、そこから洩れている最大の音楽ジャンル、ロックについて
見聞を深めたいと思い借りた本だ。
読了の結果、見聞が深まったかといえば
なかなか難しいところで
確かにいくつかのアーティストについては
実際にyoutubeで音源を確認したりして見聞は広くはなったものの
全体としては、さほど新鮮な驚きがない残念な感じも残った。
やはり、特定の年だけのランキングというのは
どうしても偏りが出てしまい
そこには”音楽史を語る”という客観的、啓蒙的なモードは抜けてしまっているわけだ。
レッチリ、グリーンデイ、オアシス、U2などが抜けてしまっているし
その反対に、ジョン・コルトレーンやマイルス・デイヴィスなどのジャズを入れる根拠は何なのか?
ボブ・ディラン(5枚)、デヴィッド・ボウイ(4枚)、ブルース・スプリングスティーン(3枚)は
偉大なのは分かるとしても、選ばれた枚数が多すぎやしないか(全部で100枚しかないんだぞ)。
というわけで、音楽史的イメージは全くふくらまなかった。
案外、自分が所有している本に、そういう知的欲求を満足させてくれるものを見つけたので
またその本を取り出して読むことにしよう。
この本はこの本で、ランキングのつけかたを明示している以上、特にこれ以上不満を書けるわけでもない。

634korou:2021/07/22(木) 13:29:26
松本重治「昭和史への一証言」(毎日新聞社)を読了。

30年ほど昔に買った本で、ずっと本棚に置いていて
やっと今回読了したということになる。
きっかけは、やはり関口宏の「近現代史」をずっと録画して保阪正康氏の解説などを観ているうちに
ふと軍部の中国進出については、この本に詳しく書いていたなあということを思い出したからである。
かつてその部分だけを抜き読みしたことがあったのだが
そういえば最初から読んでいないなあということになり
今回、トイレ本として少しずつ読み進めてみた。
松本氏が優れた国際人であることには間違いないが
必ずしもその信条、判断基準に誤りがないということではないことも
読む前の予断としてあった。
そして、大体その通りの読後感となった。
これだけの経歴、家柄にあって、戦後日本への貢献があまりに少ないのではないかという不満も残る。
その一方で、他人には言えない健康上の不安が影響していたのではないかとも推測できる。
そういう人格への疑義は残るものの
こうして聞き書き(聞き手は國弘正雄氏)という形で出来上がった本自体については
余人をもって語ることのできない重要な史実について
その舞台裏を明らかにした昭和史研究の必読本となっている。
少なくとも、当時の中国の様子をこれほど具体的に生々しく語れる人は
出版時の1985年の時点にあって稀であったに違いない。
昭和史に興味のある人間には必読書というべきだろう。
できれば、本人がもっと若いうちに書いた「上海時代」も読みたいのだが
たしか活字の大きさが小さかったように記憶しているので諦めるしかないか・・・

635korou:2021/07/30(金) 17:17:57
常松裕明「笑う奴ほどよく眠る 吉本興業社長・大崎洋物語」(幻冬舎)を読了。

2013年、現吉本興業会長大崎洋が社長時代に出版された本で
著者は「噂の真相」出身の常松という人(元々は日刊ゲンダイの連載)。
2019年の反社騒動以前に書かれた本だけに
終盤に繰り返し現れる反社関係との人物との関係も
結構正直に書かれていて、そのあたりが面白いのは皮肉でもある。
終始、会社のアウトローを自認しているものの
実際にはこの人が会社の主流を歩んでいたことは否定しようもなく
そのあたりのムリさ加減が、いささかこの本の価値を下げているのは残念だが
そこを読み取れない人が案外多数居て
アマゾンの素人書評で「感動した」とか書いているのは滑稽だ。
木村政雄の配下に居て、東京初進出の功労者で、さらに紳助、さんま、ダウンタウンの実質マネージャーで
主流になれないわけがない。
やっかみはあったかもしれないが、そのあたりをアウトローという立場に偽装して書いているのは事実捏造だし
木村の仕事とされる新喜劇の立て直しを、自らの功績と断言しているのも、眉唾ものだ。
全体として、何がどうなってこうなったからこんなことになったという因果関係が全部ぼかされていて
読んでいてさっぱりわからない本になっている(どうして吉本が発展していったのか?細かいところでは「いいとも」の横澤Pは
東京支社長としてそこまで無能?)。
ただし、出てくる人物はお馴染みの人物ばかりだし、終盤の中田カウスとか紳助との関係などはリアルだし
面白く読める本であることは間違いない。
一気読みできて面白いし、部分的には十分納得できる叙述も多いのだが
吉本興業の歴史として参照するのは、かなりのリテラシーをもって読まなければならない本であることも確かだ。

636korou:2021/08/07(土) 22:03:56
トラヴィス・ソーチック「ビッグデータ・ベースボール」(角川書店)を再読了。

同じ本を2回読むことについては
今までそこまでの心の余裕がないせいもあって
少なくともこのスレにおいては例のないことだったが
ついにその禁?を破った。
というのも、今現在のMLBの試合を観るにつけ
この本で書かれたことの延長上に展開されていることは
紛れのない事実であり
そのことは、この本を初めて読んだ2016年には
そこまで痛切に分かっていないことだったからである。
今読むとどうだろうか、ある意味ワクワクしながら再読した。
今まで再読したことは何冊かあるのだが
これほど短期間の再読はあまり例がなかったし
さらに実際の世界で起こっていることを再検証するような読書というのも
例のない体験で実に面白いことに思えた。
再読してみて、初読のときに結構深く読み込んだはずなのに、実はそうでなかったことを痛感した。
若い時に読んだ本を再読して、何と浅い読書だったことかと思うのはよくあることだが
たかが5年前の読書でもこういうことがあるのかと驚かされた。
どう読んでもパイレーツが初めてビッグデータを駆使したチームではないこと。
要するに財政的に苦しい球団のやむを得ない”徹底”だったこと。
ピッチフレーミングというのが、審判の目を誤魔化すかのような技術では決してないこと。
ツーシームを投げる投手が、この時点では脚光を浴び始めていたこと。
すべて前回の読書では読み落としていた。
トータルでの読後の印象をすべて正確に書き連ねることは、現段階では困難だし、その必要もないだろう。
自分にとっては本当に必要な再読だった。

637korou:2021/08/26(木) 17:54:04
船山基紀(著)、馬飼野元宏(構成・文)「ヒット曲の料理人 編曲家 船山基紀の時代」(リットーミュージック)を読了。

たまたま県立図書館の書棚で見つけた本で
借りた後から、これはシリーズ物企画のようなもので第1弾として萩田光雄の本が出ていることに気付いたが
まあ第2弾から先に読むこともよくある話なので、仕方ないところ。

最初のほうで、やはり萩田氏の先駆的仕事のことが書かれていて
このあたりは先に読んでみたかったところだが
途中からは、船山氏独自の個性が全開となっていったので
これはこれで完結した評伝となっている(形式上は本人の著作ということだが評伝的性格も強い)。
アレンジャーの仕事というのは
筒美京平の仕事を考えた場合、非常に重要なポジションを占めているわけで
筒美氏に注目しっぱなしの自分としては、当然関心は高いことになる。
その意味で、この本に書かれていることは、筒美氏の仕事の内容を逆方向から照らしている感じで
興味深いことこの上なかった。
もちろん、船山氏は萩田氏ほどには筒美氏に密着した関係ではないので
途中からは船山氏独自の仕事の叙述が中心となっていく。
それはそれでアレンジャーという仕事の魅力を存分に語った本になっている。

それにしても、すでに10年以上実績をあげてプロ中のプロと目された船山氏に対して
CCBのデビュー曲のアレンジを依頼した筒美氏が、そのアレンジを聴くなり
本人の目の前で「これは船山君より大村君に頼んだほうが良かったね」と言ってダメ出しをするエピソードは
筒美京平という人間が、いかに仕事人間、仕事一途の職人であったかということを
残酷なまでに表していて、読んでいてゾクッとした。

末尾に詳細なディスコグラフィーもあり、途中に挟まれる関係者へのインタビューも人選・内容ともに的確だし
この種の本としてはよく出来た本だと思う。

638korou:2021/08/27(金) 17:29:37
一応記録だけ。

本日、大型本「ノモンハンの夏(中)」を読了。
あとは下巻のみ。

639korou:2021/09/29(水) 16:30:10
うーむ、1カ月以上読了本がないという珍記録となってしまった。
県立図書館のコロナ禍による長期閉館の影響は、思ったより大きかったかな。
今回は、そんな中で、トイレ本として継続して読んでいた本の読了報告。

「歴史読本WORLD 特集・アメリカ合衆国大統領」(新人物往来社)を読了。

この本を買ったのは1988年。
当時はレーガン政権の2期目満了の頃で、
次の新大統領の選挙がいよいよ本格的に始まったという時期。
まあブッシュ父以降のことは他でも調べられるので
それ以前の大統領について知識を増やしたいと思い、今回やっと完読。
こうして列伝を読むと、転機はセオドア・ルーズベルト大統領のときで
彼より前の年代の大統領に関しては
ワシントン(初代)からジャクソン(7代)までと、リンカーン(16代)の
8人だけ知っておけばいいくらい、無力な存在に思えた。
やはり20世紀以降がアメリカの時代なのだとつくづく思う。
そして、それは経済面での台頭もあったが
T・ルーズベルトのような政治家の出現も大きな要因であっただろう。
政党の果たした役割とか、連邦政府と各州の関係など
今一つ記述が欲しい部分もあったが
やはりこうした列伝は自分としては大好物であることを再認識した。
ということで、次回のトイレ本は、日本の首相列伝ということにした。

640korou:2021/10/10(日) 12:33:49
ベン・リンドバーグ、トラビス・ソーチック著「アメリカン・ベースボール革命」(化学同人)を読了。

県立図書館で予約して、1人待ちの後、臨時閉館中に確保済みの連絡がメールで来て
ギリギリのタイミングで借りに行き、家に帰って確認したら
もう次の予約が入っていて貸出延長は不可になっていたという経緯で読み始めた本。
自分のコンディションのせいなのか、翻訳の文章のせいなのか、どういうわけかMLBのことが
詳しく書いてある本なのに、なかなか読み進められず、かといって貸出延長ができないので
ずっと焦りながら読み続けることになってしまった。
しかも、期限である10/12(火)は天候不良なので、今日返却しておきたいと思い
急いで読み進めて、読後の余韻もなくすぐこうして感想を書き始めるという余裕のなさである。

というわけで、現時点では要領よくこの本の大意をまとめることができない。
500p近いボリュームにふさわしい、現時点でのMLBの状況が幅広く、洩れなく記述されている良書だと思うのだが
その内容を手際よくここに書き切ることは(内容の多彩さもあって)不可能である。
とにかく「選手の育成」ということに焦点を合わせていて
20年前の話題作「マネー・ボール」が、同じデータ活用でありながら「選手の発見」に注目した本であるのと
好対照である。
そして、それがあまりに合理的であるために、特定の球団(アストロズ)の暴走を招いた点についても
エピローグにおいて触れられていて、近いうちに行われる予定のMLB労使協定についての懸念についても書かれている
徹底したリサーチ、話題の展開力が魅力の本でもある。
もう1回ぼんやりと全体を復習して読み直したいのだが、もう返却するしかないのでそれも敵わない。
あーあ。プレーオフの面白そうなシーンの観戦も中断して読了したというのに・・・残念。

641korou:2021/10/18(月) 18:07:49
泉麻人「昭和40年代ファン手帳」(中公新書ラクレ)を読了。

泉氏得意の昭和ノスタルジア物で
昭和40年代に子供・大衆レベルで流行ったものを
各年ごとにまとめた読みやすいエッセイとなっていた。
この種の本に細かい分析などは不要で
まさに読んで楽しめればそれで良し、世代が違えば何の面白みもない本
ということになる。
著者自身がごく普通の感性の持ち主なので
書いてあることに全く違和感がなく
さらに当時書いていた日記からの記述も多いということで
正確な年代史になっているのも
この本の美点だろう。
本当は、この本から創作のヒントをもらうつもりだったが
読んでいくうちに
そういうことはどうでもよくなった。
(この本の後「ぼくら昭和33年生まれ」という、趣旨のよく似た本を読み始めているが
 そちらは特殊な感性の人が書いているので
 同じような本でありながら読後感は違っている)

642korou:2021/10/22(金) 17:44:11
四家秀治「ぼくら昭和33年生まれ」(言視舎)を読了。

泉麻人の本と同じく、ノスタルジアものなのだが
著者がクセのあるマスコミ人(アナウンサー出身)な分だけ
クセのある本になってしまっている。
結構古いタイプの性格のようで
自分とはかなり違う意見、感性の持ち主のように思われた。
さらに”補注者”なる人物が、随所に補足的な記述をしていて
その記述も結構クセがあるので
泉サンの本を読んでいるときほどリラックスした感じの読書にはならなかった。
逆に、そういう真反対の感覚の人だからこそ
今の自分が忘れ去っていた出来事が結構詳しく書かれていたり
同じ出来事でもそういう感じ方があるのかという発見もあったりした。
巻末の小宮悦子との対談では
著者のその個性が空回りして
悦ちゃんに軽くいなされたりしているのが痛快だった。
また、藤沢周へのインタビューの部分は
なかなか興味深いものがあった。
ポストモダンから歴史への回帰というテーマは面白い。
読んだことのない作家だが、機会があれば読んでみようかと思わせた。

まあ、難しいこと言わなければ、ノスタルジアものというくくりでもよい本なのだが。

643korou:2021/11/10(水) 10:06:07
岸信介・矢次一夫・伊藤隆「岸信介の回想」(文藝春秋)を読了。

文春学藝ライブラリー(文庫サイズ)で474p、
ただし巻末の資料編が大部で130p以上もあり、その部分を借りた本で逐一読むことは難しいので、
そこは略して読んだが
それでも部分的に小さな活字もあったりして、さらに偶々の眼痛もあって
これだけ面白い本なのに読了するのに結構時間を費やす結果となった。

全体として、岸の政治家としての信条がよく分かる本になっており
その点は岸としても会心の回顧録と言えるのではないかと思われる。
岸の残した業績は多岐にわたっているので
その業績をいったん肯定的に評価してしまうと
意図しようがしまいが結果として”提灯本”になりがちだが
この本は、岸本人が自身の業績を淡々と語っているので
そういう悪しき傾向に陥っていないのである。
元々記憶力の良い人なので、矢次のサポートは不要とも言えるが
それでも本人が喋りにくいであろうところを先回りして察して
無難な解説を補足するあたり
いかにも岸との付き合いの長さを思わせる配慮を見せている。
伊藤教授の質問はやや公式的で、岸・矢次の淡々としたスタンスとのギャップを感じた。
もっと岸・矢次のスタンスに寄り添った質問で掘り下げる方向で話を進めてほしかったのだが
これはこれで仕方ないというか、こういうオーラル・ヒストリーの企画を実現されたことを評価するしかないだろう。
特に矢次は、この企画の後数年も経たず死去しているので、その意味でも貴重なオーラル・ヒストリーになっているわけだ。
個々の論点についての感想は、また別の機会で違う形で書くことにする。

644korou:2021/11/10(水) 12:05:08
読了しなかった本、的場昭弘・佐藤優「復権するマルクス」(角川新書)について。

マルクスについて、資本論について、共産主義国家について、ソ連について
もっと具体的に、この2021年の現在において、もっと知りたいと思い借りてみたが
いきなり「国家と市民社会」、「マルクスと宗教」といった副次的かつ難解なテーマについて
博学な著者たちが、高度な基礎知識を前提にして語り始める本だったので
早々と読書意欲を削がれてしまった。
今日になって、全体構造を見ておこうと再度チェックしたら
第3章の「社会主義はなぜ失敗したのか」のあたりが
そこまでの難解な対話から一変して
具体的な留学時での体験を語り合う箇所になっていたので
急きょ、そこだけ読み通した。
ソ連崩壊から東欧社会の変動に至った時期まで、1990年頃までの
その地域での生活はもっと再認識されてもいい、日本では誤解だらけだという指摘は面白いと思った。
国外へ出れば自国通貨が弱いのでダメだが
国内に居る限り、意外と充実した生活、人間らしい生活が送れるというのは
意外だった。
そして第4章以降も覗いてみたが
資本論の話、マルクスの可能性の話となると、また難解、というか細かい話になってしまい
これも読むのは断念。
結局、70年代から80年代にかけての東欧諸国(主にユーゴ、チェコ)での具体的な話を読む
という読書に終わった。
まあ、それだけでも結構面白かったけれど(佐藤、的場両氏の博学が効いている)

645korou:2021/11/17(水) 11:07:10
末廣健一「岡山表町商店街物語」(吉備人出版)を読了。

何かのきっかけでスネークマンショーの桑原茂一の表町での少年時代のことを検索したときに
この本の存在に気付き、県立図書館で予約をかけたところ、すぐ貸出可になったので借りることにした。
思っていた内容に近いところもあり、そうでなく単なる個人の趣味をだらだらと書き連ねている部分もあり
特にプラモデル制作の蘊蓄を語る部分は途中で読み飛ばしたりもしたが
全体としては、この種の本がもっと欲しいと思わせる好著ではあった。
何よりも、著者が表町(上之町)で周囲の人たちに十分に可愛がられ愛されていた存在であったことが
この本の内容をかなり前向きにさせているのを感じ
自分にもしこれだけの精密な記憶が残っている環境、世代であったとしても
随分違った感じのものを書くに至っただろうと想定できるのである。
そうした現実肯定的な気分は、その後の朝日高校での充実した生活とか
自分の感性、趣味に合った職業、進路選びにもつながっているわけで
自分とは正反対の人生を送った人なのである。
そういう感性で表町を思う気持ちというのは
自分には想像もできない部分であり
その意味では大変興味深かったのだが
その反面、そうじゃないだろうという気持ちが残るのも事実である。
著者の音楽趣味が随分と軽いものであることを、この本の記述により知ることになるが
そうした数少ない欠点を知ることで、我ながら嫌味たっぷりな優越感に浸ったことも
間違いなく事実なのである。
その意味では読後感としては、読む前の予想よりはかなり違ったものにはなったが
まあ、それでも結論として好著であることも間違いない、まあ複雑なテイストだなあ、これは。

646korou:2021/11/19(金) 18:00:45
ジョン・G・ロバーツ+グレン・デイビス(森山尚美<訳>)「軍隊なき占領 戦後日本を操った謎の男」(講談社+α文庫)を読了。

岸信介のオーラルヒストリーの本を読んで
ハリー・カーンという謎の人物に興味を持ったところ
その人物についての格好の著作があるというので
すぐに借りて読んだ次第。
ある程度予測はしていたものの、想像以上に「陰謀もの」だった。
そして、陰謀論の本によくみられる欠点が、読むにつれてどんどん気になってきだして
途中からは読み続けるのが苦痛にすらなった。
これは、最近になって広瀬隆の本を読む際に感じる不快感と同質のものだった。

たしかにGHQの「逆コース」について、いろいろな関係者が暗躍したことは間違いない。
しかし、それは正式なルートでも解析可能なので、
そこを強引に非公式なラインからの解説で強調する必要はないのである。
開戦直前の日本からの対米和平工作について
いわゆる神父たちの暗躍が民間外交として知られてはいるものの
そこは、松岡外相の公式外交と近衛首相の対米外交との齟齬、及び野村駐米大使の奮闘をメインとして
そのサブストーリーのなかで神父たちを記述すればいいだけの話なのだ。
それと同様、ダレス、ドッジなどの活動、米国本土でのマッカーシー旋風などをメインとして
サブストーリーのなかでハリー・カーンたちを描いていけばいいだけの話に思えた。
この本では、マッカーサーの占領行政の方向を”反共”に変えたのは
カーン一派の功績が大きいという前提で書かれているので
終始違和感がつきまとった。
未知の人物も多く登場したが、大半はネット上にデータが存在していなくて
その点も、この本の叙述が公式に認められていないことを示すように思われた。
活字が大きいので、苦しくても読了はできたが、なかなかオススメはできない本。

647korou:2021/11/25(木) 10:44:44
「ノモンハンの夏」(半藤一利)<大活字本>を読了。

かつて活字の小ささのせいで読むのを断念していたこの名著が
大活字本で県立図書館にあるのを知り、すぐに上巻(全3巻)を借りて読んだのがこの夏のこと。
すぐに読み終わり、中巻に進み、これも読んだところで、県立図書館がコロナ禍で1か月ほどの臨時閉館となり
中巻を返却した時点で一時ストップとなる。
図書館が再開して、しばらくして行ってみたところ、全3巻全部が借りられて現物が消えているのに呆然となる。
それから2か月ほど経ち、ノモンハンへの興味というか読後の記憶そのものが薄れてきて
どうしようかと思案したが、このままではあまりに中途半端なので
再び現物が戻ってきたのを確認後、定評ある研究書と一緒に下巻を借りることにした。
その下巻を今日読み終わり、これで全3巻読み通したことになる(ただし現時点で上巻と中巻の記憶はほぼ薄れている)。
ただし、半藤氏の丁寧な記述、注釈とか、巻末の土門周平という方の全巻の内容をコンパクトにまとめた記述などのおかげで
下巻だけの記憶しかない中途半端な読書ということにはなっていないので、助かる思いである。

それにしても、読んでいてこれほど怒りがこみあげる本もなかなかないだろう。
司馬遼太郎がノモンハンの本を書き上げることができなかったのも
こういう誰もが感じる怒りの感情、それも激怒に近い感情、そうしたコントロール困難な精神状態のせいだろう。
しかも、誰もが辿ることになる、つまり、その激怒の感情がいつしか諦めの感情になっていくこと自体、自分でも許せなくなり、
そうなると、渾身の大作になるに違いないこの素材を扱うことすらできなくなる。
本当に気の毒すぎる下士官、兵卒たち、これこそ無駄死に、犬死というものだ。
日本人自体、戦争を指揮する人材を大量には生み出せない民族なのだろう。
上杉謙信、武田信玄は輩出できるが、それ以上同時代には生み出せないのだろう。
そう思うしかない、こんなヒドい高級軍人ばかり見せつけられては。

648korou:2021/11/26(金) 15:58:39
岩城成幸「ノモンハン事件の虚像と実像」(彩流社)を読了。

ノモンハン事件に関する最新資料が網羅された話題作ということだったが
実際に読んでみると、著者が元国会図書館職員ということもあって
全体の脈絡が不明というか漠然とした最新情報源の羅列ばかりの本だった。
もちろん、ゾルゲとの関連、石井部隊の活躍など
他の類書ではあまり見たことのない項目も多く
その点は参考になったのだが
肝心の事件概略について記述した部分が皆無なため
そもそもノモンハンで何があったのかについては
同時進行で読んでいた半藤さんの著作に頼るほかなかった。
同一テーマについて複数の研究者がそれぞれの視点から論を深める、といったタイプの本は
よく見かけるが
これは一人で書かれた本であり、なおかつ、
第一章に「村上春樹と司馬遼太郎のノモンハン事件」、第二章が「ノモンハン事件の主要文献、研究動向」ときて
第三章に「ノモンハン事件の概要と敗因」とあるのだが、そこには概要についての記述がほぼなくて
第四章で「同事件の見直しと歴史上の”もし・・”」とあるのに、大した「もし」の記述がなく
第五章以下は、自分の調べ得た範囲のみの各論が延々と続くのである。
途中からは読み進めるのに苦痛を覚えたが、飛ばし飛ばし何とか300p弱を読み終えた。
入門書の延長にある本ではなく、研究者のための論文集のような趣き。

649korou:2021/11/27(土) 17:01:00
有元葉子「今さら聞けない料理のこつ」(大和書房)を読了。

少しは料理のことについて知識を広げたいと思い、県立図書館で借りてみた。
ただし、今回の本は、”レシピ以前に知っておきたい”という副題を
初心者のための本と勘違いして理解していて
実際に読んでみると、料理の初心者というより
中級者程度のある程度献立を工夫し始めている人が
今後の参考に読んでおくための本だったようだ。

ということで、実際には今の自分にはあまり役立たない本だったのだが
まあ、こういう失敗はよく知らないジャンルだとよくある話だと思い
要は、こうした感じで次々と読み進めていくことだと悟った。
沢山読んで、沢山忘れて、それでも頭に残っていった部分で
スタートしていくしかないだろう。

ということで、この本についての感想はここまで。
次回も料理の初心者用の本を探して、借りることにしよう。

650korou:2021/12/01(水) 11:29:53
嵯峨隆「頭山満」(ちくま新書)を読了。

今年になって読んだ頭山満の伝記本は
かなり頭山の思想に共鳴の深い著者の手になる本だっただけに
随所に礼賛の記述が見られて、その点で違和感も多かったので
県立図書館の新刊本コーナーで見つけたこの本については
当然ながら客観的な叙述というものを期待するところ大であった。
読了した直後の今の印象で言うと
たしかにある程度は客観的な視点も感じられたのだが
新書としての独自性を出そうとするあまり
その思想から独自のアジア主義を抜き出すことを強調し過ぎて
叙述が空回りしている点も否めない、という感じだ。
頭山翁がアジアの関心が深かったというのは事実としても
単にそうしたインド、東南アジアなどの政治面での先駆者と対面したというだけで
何かを成し遂げたというわけでもないだろう。
やはりもう少し肉付けが必要で
結局、本当のところは、たまたま出会いがあって、そこから関係を深めた数人についてのみ
少なからぬ援助を施したという程度ではないだろうか。
そうなると、ムダなことにかなりのページ数を費やした本ということにもなる。
とはいえ、なかなかコンパクトな伝記すら見当たらない頭山翁について
やっと新書サイズのきちんとした本が刊行されたこと自体は
画期的なことである。
新書であれば数年は大型書店で現物が並ぶ可能性があるので
歴史の裏道に興味がある人たちにとって便利な本となることは間違いないだろう。
一応、それだけのクオリティは備えている本ではある。

651korou:2021/12/02(木) 18:05:56
高木大成「プロ野球チームの社員」(ワニブックスPLUS新書)を読了。

今日、県立図書館で借りた本で、もう今日のうちに読了してしまった。
大きい活字で170ページ程度、文章も平易で内容も明快なので、さすがに1時間程度あれば読了可能だ。
高木大成という久しぶりに見た名前と、書名が表す明快な内容に惹かれて、借りてみた。
読んでいくうちに、これは自分にも共通する物語だなと思えてきた。
32才で最初の社会人人生というか、その職業の人生を終え
似たような感じではあるけれど、それまでの経験が直には活かせない別の職業に転じ
しっかりとそれに向き合っているうちに、その職業も自分に向いているのではないかと思え
そこからまたまたもっと知らない世界の職業に転任して、そこでもやれることはすべてやりながら対応し
今また戻ってきて、47才の今充実しているという流れは
そのまま自分の人生に重なってくる。
(ここからの人生は、自分にとってはそれほど楽しいものではなくなってくるのだが
 それは自分だけの独特な世界なので、高木氏には参考にならないだろうが)
そう思って読んでいると、おのずからページをめくる手が早くなっていくのが分かる。

まあ、そういった個人的感慨は措くとして
本の内容についていえば、西武ライオンズがどうのこうのというよりも(具体的に書いてあるのだが、実際にそれを体験できないので)
パ・リーグの最新の動向、球団同士が連携して効率的な運営の仕組みを発展させたことについて
分かりやすく書いてあるのが参考になった。
映像関係のライセンスを、球団自身がコンテンツを制作した上で、共同管理することで効率的に収益を上げているのは
素晴らしいし、今やそれは米国まで輸出できるコンテンツ、運営になっているのには驚いた。
そうなると、セ・リーグの立ち遅れが惜しいところだ。
そんな新しい知見を得ることができた。
名著という類ではないが、NPBの現状をイメージするのに最適な本だと思った。

652korou:2021/12/06(月) 20:13:38
スージー鈴木「EPICソニーとその時代」(集英社新書)を読了。

県立図書館で借りて、ゆっくり読もうと思っていたら
知らん間に予約が入ってしまい、期限内に返却しなければいけないことに。
急いで、今日一日で読了。まあ1日で読めるライトな本ではあるけど。
最初の章で、EPICソニーが出した名盤を逐一年代順に紹介、評価、コメントを行い
次の章で、ざっとEPICソニーの歴史を、特にキーとなる人物中心に記述、
最後の章で、そのなかでも特に重要な小坂洋二、佐野元春の2名へのインタビューという構成。

最初の章では、youtubeで実際に聴いてみながら読み進めていった。
バービーボーイズなんて今までほぼ聴いていなかったのだが
こうして聴いてみると、男女のツインボーカル、それも個性的な声質、歌唱のボーカル
というのも案外日本では珍しいのではないかと思ったし
LOOKの「シャイニンオン」などは懐かしく、また改めて聴いてみて素晴らしいボーカルだと再認識。
岡村靖幸は相変わらず訳が分からない。訳わからなさでは椎名林檎と双璧か。
大沢誉士幸のサウンドも、今聴くとなかなかクオリティ高い。

第2章の歴史編は、今日ではなく借りてきた日に一気に読んでいたので、もう内容については忘れかけている。

第3章のインタビューは興味深かった。
小坂洋二という人そのものが面白かったし、
後で知ったのだが、大塚博堂の「めぐり逢い紡いで」の作詞者”るい”は小坂氏のことだったというのも驚きだった。
佐野元春のインタビューも、佐野さんの人柄もにじみ出ていて愉しく読めた。

さらに「リマインダー」というサイトも発見(これから探索する予定)。
予約でせかされたとはいえ、なかなか収穫の多い読書になった。

653korou:2021/12/10(金) 21:44:07
歴史読本WORLD「20世紀の政治家たち」(新人物往来社)を(主にトイレで)読了。

トイレ本第3弾?かな。
とにかくタメになる本だった。
アフリカはもちろん、中南米なども全く政治情勢などに無知だったので
この本で主要政治家とその業績をおおまかに知ることができ有意義だった。
また、アフリカ、中南米の国々では
なかなか民主政治が実現せず
形だけはソ連の独裁制を真似た疑似共産主義のような政体になっていくのも
独立までの諸事情などから頷けたし
この本の出版時期(1989年)以降の政治情勢についても
Wikiで確認したりできるのも、ネット時代の良いところだ。

ナセル、ネルー、あるいはチトーなどは
本当に大政治家だと思う。
思えば日本において、こういうスケールの政治家となると
戦後誰一人として思い浮かばない。
全世界的にも、随分と政治家が小粒になったのではないだろうか。
20世紀の特に中盤にそうした優れた政治家が続々現れたことに
何か理由があるのだろうか。
そんなことも思わせた本だった。

654korou:2021/12/15(水) 10:45:02
小熊英二「<民主>と<愛国>」(新曜社)を読了。

800ページにわたって、一読で理解できるような容易なものではない文章が延々と連なっている大著。
時に史実の叙述というか、取り上げる人物の小伝のような部分も挟まってはいるものの
その大半は、著者曰く「名前のない”何か”」というべき言葉をもたない概念、それも本書の主題となるべき重要な概念について
それをめぐる知識人たちの言葉の使い回しとか、その言葉が時代によって”読みかえ”られる過程を丹念に追跡していく記述であるため
本当に読むのがしんどく、大変な読書だった。
にもかかわらず、途中であきらめることなく読み続けられたのは
そこに書いてあることに多くの真実らしきものが感じられ
なおかつ、例えば「吉本隆明は何を訴え、何を書き、そしてそれが多くの人に影響を与えることになったのか」というような
今までの自分が全く知っていなかったことについて、新しい知識をもたらす読書であったことが大きかった。
膨大すぎる新しい知見のせいで、mixiの日記まで書いてしまったが(当掲示板の「政治・経済」スレまで復活!)
結局、この本について、読後直後の今の時点で
多くを語ることは不可能に近いと言わざるを得ないのである、

この著者には、まだまだ多くの読むべき著作があるのだが
今回の読書のしんどさを思うと、そうたびたび読破に挑戦できるものでもないと痛感する。
『単一民族神話の起源――<日本人>の自画像の系譜』(新曜社 1995年) とか
『<日本人>の境界――沖縄・アイヌ・台湾・朝鮮:植民地支配から復帰運動まで』(新曜社 1998年)などは
いずれ読んでみたいとは思うのだが
しばらく間隔をあけたいと思う。
今は、今回の読書について、いろいろなキーワードを心にとどめ
徐々に発酵させていきたいと思っている。

655korou:2021/12/21(火) 16:57:20
マイケル・ルイス「マネー・ボール」(ランダムハウス講談社)を読了。

以前読了したはずの本だったが
このところMLB関係の面白い本をいくつか読んでみて
この本の内容をほぼ忘れかけていることから再読しなければと思い
今回再読してみた。
案の定、初めて読んだ本だった・・・(爆)

そもそも2002年のアスレチックスのレギュラーシーズンの戦いぶりを描いた本だということを
初読の際にきちんと認識できていなかったというのも不思議だが
それはともかく、当時はとても読みにくい本だという印象だった。
今回、再読してみて、その印象について前半は正しく、
後半の主にA'sの試合ぶりを描いた部分では全く正しくないことが分かった。
初読のときには後半を読んでいなかったのではないかと思ってしまう。
逆に、この本には重大な欠点があり、前半があまり面白くなく、後半は面白いということ。
にもかかわらず、前半のほうが重要で、後半は付け足しと極言してもよい内容であることが
この本の評価を難しくさせている。
さらに、この本が指摘していることは、球団のフロントの人間にしかあてはまらないわけで
その意味で、多数の野球ファンと選手自身を置き去りにしている。
にもかかわらず、不思議な魅力を湛えているのは
著者がMLBとは全く無関係な職種の人であり
どんなに客観的に書いても、それが普通であるという一般的な、野球を好まない人までも納得する感覚の持ち主である
ということだ。
野球本は、想像以上に、野球好きな人が野球好きな人のために書かれている間口の狭いジャンルなのである。
この本は、そのジャンルの外にあるころで
いまだに名著のクオリティを保っているのである。

656korou:2021/12/30(木) 11:49:32
(2021.12.30読了だが、2021年読了分はまとめてしまったので、2022年読了分としてカウント予定)
佐藤啓「無名の開幕投手」(桜山社)を読了。

高橋ユニオンズのエース格だった滝良彦投手の生き様を
その出身校の後輩にあたる中京テレビの元アナウンサー(スポーツ畑)が
テンポのよい文体で書き上げた本である。
専門のノンフィクションライターではないものの
一つ一つの手がかりを手際よくまとめていて
調べて分かった事実へのコメントも適切で
読んでいて気持ちの良い本だった。
高橋ユニオンズのキャンプは岡山で行われていたが
宿舎が「たきもと旅館」であったこと、練習は岡山県営球場であったこと、
陸上競技の専門のコーチがランニングの指導にあたったことなど
かつてネットでチラッとだけ見たことがある事実を
再確認できたのは良かったし
滝投手が後輩(佐々木信也)を連れて後楽園で撮ったスナップ写真などは
珍しいワンショットだった。
他にも、今や跡形もない名古屋の八事球場という場所で
選抜高校野球の第1回大会が開催されたことなど
知らなかった史実も多く発見できた。
思った以上に楽しい読書となった。

657korou:2022/01/06(木) 11:59:01
佐藤啓「ウェルカム!ビートルズ」(リットー・ミュージック)を読了。

1966年のビートルズ武道館公演については
招へいしたキョードー企画の永島達司氏の存在が知られていて
かつて読んだ永島氏の評伝の記憶も鮮明なのだが
この本は、さらに踏み込んで、
その永島氏の周辺の人物、特に東芝音工の石坂範一郎(専務)について
知られざるその功績を明らかにしている。
当時、財界総理的存在だった石坂泰三の親戚筋だったということもあり
本人に十分な野心があれば
戦後、東芝の復興に尽くした石坂一族として著名な財界人になれたはずの範一郎だったが
当人は全くの温厚な紳士で
あえて言えば、泰三の執念(本来は東芝傘下だった日本ビクターを松下に奪われ、その代償として東芝に音楽事業部を創設)を
影ながら支えたことくらいが財界人としての唯一の業績として残ったのである。
著者は、そんな謙虚な範一郎について、もっと知られるべき人物として
この本を執筆したということになる。
それゆえ、範一郎への過度な賛美も随所に見られ
その分だけ永島氏の業績への言及が過少になっているきらいもあるのだが
それを除けば、(石坂家の直接取材以外すべて)二次資料を駆使した本とはいえ
概ね妥当な線で叙述が進んでいるので
安心して読めた。
1966年の出来事、あるいはその前段として1960年代前半の日本、世界の様子など
もはや活字の世界では忘れられがちな時代になりつつあるのだが
その意味で、2018年にこうした本が読みやすい形で出版された意義は
それだけで大きいものがあると言える。

658korou:2022/01/07(金) 15:27:25
スージー鈴木「サザンオールスターズ 1978-1985」(新潮新書)を読了。

読む前にはあまり期待していなかったのだが(例によってスージー氏独特の理論が展開か?)
一通り読んだ後の感想としては、意外と面白かったということになる。
やはり、この本にしても、1980年、あるいは1981年の頃のサザンの低空飛行ぶりなどを
すっかり忘れていたにもかかわらず、そのことを指摘されると
「ああ、そうだったな」と意外なほどリアルに思い出せるのであり
そんなにリアルだったはずなのに、なんで今まで忘れていたんだろうという
不思議な感覚にとらわれたということが大きいのである。
ただし、このグループについて何か書くのであれば
やはり21世紀の今現在までを含めて書くのが正しいやり方だろうし
40年以上の活躍のなかで、最初の活動停止状態までの8年間だけに絞るやり方は
中途半端以外の何者でもない。
あえてそういう角度で書かざるを得なかったのは
著者の思い出回顧という側面が強かったということでしかない。
もっとも、そうであっても
上記のように、リアルタイムであれもう40年以上も前の出来事について
いろいろと思い出させてくれるのは
同じ同時代人としてありがたいとも言えるので
これは世代を選ぶ本かもしれない。

659korou:2022/01/09(日) 20:51:29
小林信彦「私の東京地図」(筑摩書房)を読了。

2013年刊行の本で、その時期に、往時の東京と現在の東京の街並みなどの様子を
長年、東京周辺で暮らしている著者が、エッセイ風にまとめた本である。
いつもの小林流というか
自分が実際に見聞きしてその中でも確かなものだけを
きっちりと書き尽くすというスタイルが貫かれている。
読んでいて不確かなものも含めてとりあえず吸収するといったよくあるタイプの読書とは
その点で一線を画している。
東京の地理の話なので、どうしてもグーグルマップなどでの確認作業が必要となり
大きな活字で200pにも満たない本なのに
丸一日費やすような読書を数日続けないと読破できなかったのも確かである。
前半の赤坂、青山、渋谷、新宿あたりの記述は
想定以上に読み進めるのが大変だったのだが
後半の日本橋、本所、深川、両国あたりの記述は
すらすらと読み通せたのは
著者の幼少期の地元だったからなのか。
深川の「イースト21」というホテルとか、富岡八幡宮、清洲橋、深川江戸資料館など
あるいは人形町あたりの風情、明治座とかの名所などは
この本を読んだせいで行ってみたくなった。
相変わらずの小林節にホッとしながら読み終えた。

660korou:2022/01/15(土) 11:20:30
「ヒット曲の料理人 編曲家 萩田光雄の時代」(リットーミュージック)を読了。

リットーミュージック刊行の同シリーズの第1弾で
第2弾の船山基紀のほうは半年前ほどに読了済みである。
何と言っても筒美京平サウンドを筒美氏と一緒に作り上げた人という印象が強いので
筒美氏が日本のJ-POPの祖であるとするなら
萩田氏も同じくらいの栄誉を受けて当然だと思うのである。
つまり、この種のシリーズで第1弾が萩田氏であることに
音楽業界の誰もが異存ないだろうと思えるのである。

ただし、音楽ブログでも書いてアップしたが
本としては船山本の面白さに至らなかった。
これは萩田氏が、自分の仕事について十分に語れないという
個人的な制約からくるものだろうと思うし
また、萩田氏が自分の性格というものをよくご存じなのだろうと
今思えばそう解釈できるのである(要するに理系の頭脳で自分の感性で突進するので
ひいては業界仲間に迷惑をかける叙述になる可能性を直感しているのでは?)
まあ、ことはどうあれ、アレンジャーとして先駆者的存在であることにはかわりはないのだが。

最後のほうのインタビュー記事で、クリス松村氏の分はマニアックで面白かったし
何よりも、佐藤剛氏のインタビュー記事の見事さには脱帽だ。
これほど的確に日本の大衆音楽、流行歌⇒歌謡曲⇒ニューミュージック&アイドル⇒J-POPという流れのなかで
アレンジャーの果たした役割をまとめた文章は
今までに見たことがない。
永久保存の価値があると思い、その部分だけコピーしたくらいだ。
萩田氏の叙述が不十分でも、この部分だけでこの本の価値は十分にある。

661korou:2022/01/18(火) 10:26:27
松尾秀哉「ヨーロッパ現代史」(ちくま新書)を読了。

少し前に読んだ「ヨーロッパ近代史」(ちくま新書・君塚直隆著)の続編のような標題だが
その本と時代が連続しているかどうかは未確認。
「近代史」がややがっかりな内容だったのに対して
この「現代史」は、「近代史」を読む前のときのような過度な期待感もなかったせいもあって
事前の予想よりは遥かに内容の濃い名著であるように思われた。
とにかく、センテンスの長さが的確で、文脈がとれない部分がほとんどなく
スラスラと読めるし
各国の指導者について、結構手間がかかるであろうミニ評伝の類がほぼ完ぺきに記述されていて
これなど伝記マニアの自分には
嬉しい限りだった。
内容は、ほぼ10年単位で章組みが為されていて
そのなかで英・仏・独・露(途中まではソ連)については必ず記述され
さらにその10年ごとに東欧、北欧などが特集されてまとめて記述されるという
実にスタンダードな構成で分かりやすくなっている。

当初は、総力戦となってしまった世界大戦の反省のもと
各国とも福祉国家を目指して戦後の復興を急いだものの
60年代途中で行き詰まり、さらにオイルショックなどを経て
80年代からは新自由主義(=自由主義、小さい政府)が台頭、
そして今現在はその新自由主義がもたらした弊害(&EU統合に伴う諸問題)に
各国とも苦しんでいるという大きな流れが
この本を読むだけで、何となくつかめてくるという名著。

662korou:2022/01/18(火) 10:38:58
恒川光太郎「白昼夢の森の少女」(角川書店)を読了。

小説については、退職後は1冊だけ読んだ(東野圭吾)ような気がするが
それ以来の久々の小説となった。
恒川さんなら何とか読めるのでは、と目論んだのだが
もくろみ通り、面白く読めた。
短編集というのも正解だった。

記憶力が本当になくなってしまっていて
あんなに面白く読んだのに
今、目次を見て
その表題からすぐに内容が思い浮かばないのに
我ながら苛立つというか、呆れてしまう。

子供の頃の話で、友達の家と思ってついていって、ものすごい数の布団にまみれて遊んでいたら
実は友達の家ではなかったという「布団窟」が、リアルな感じで秀逸だと思ったし
謎の船に乗ってしまう「銀の船」は、「スタープレイヤー」などの異世界物を連想させる
まさに恒川ワールドと呼ぶしかない独自の境地へ連れていかれる物語だった。
「平成最後のおとしあな」は、こんな短い作品で見事なまでに伏線の回収ができていて気持ちいいくらいだし
「オレンジボール」も、何ともいえぬ不安な感じの読後感に苛まれて、やみつきになる。
最後の「夕闇地蔵」は。やや説明的な文章が多すぎるようにも思うが
描かれた世界は、「夜市」のようなおどろおどろしい、まさに前近代の闇の世界が突然現れたような
生々しい感じで、どこかで血の匂いも漂うホラー風味となっている。

ああ面白かった。

663korou:2022/01/20(木) 11:23:55
小林泰三「パラレルワールド」(角川春樹事務所)を読了。

今回図書館で借りた小説は
今読んでいる福田赳夫本の合間にちょこちょこ読む程度で済ませようと思っていたのに
この本は、読み始めると途中で止められなくなって
一気読みとなってしまった。
小説を一気読みなんて
東野圭吾のミステリーを除けば
最近ではそうそうない体験だし(司書時代も含めて)
東野ミステリーでさえ最近は一気読みも難しいはずだったのに
一体この読書体験は何なのか?
アマゾンの書評でこの本は散々な書かれようだが
自分には無条件に面白かった。
まあ、パラレルワールドをここまで徹底的に展開されると
我が粗雑な頭ではもはや完全理解は不可能なわけで
途中意味不明なところも読み飛ばすように進んでいってわけだが
それにしてもハラハラドキドキで面白い。
小説の一気読みがこれほど時間を忘れさせてくれる、ワクワクする時間を与えてくれるとは
久々の体験で、もうすっかり忘れてしまっていた。
小林泰三さんは裏切らない。
アリスなど名作パロディものも
今読むと面白いのかもしれないが
まあとりあえず書架に並んでいるものから借りることにするか。

664korou:2022/01/28(金) 14:30:36
五百旗頭真ほか「評伝 福田赳夫」(岩波書店)を読了。

2021年刊行の本で、なぜか今まで本格的な評伝がなかった福田赳夫に関する本ということで
県立図書館に予約までして借りた本である。
680pにも及ぶ大部な本であり、しかも活字が小さめに印字されているので
その意味では読み通すのに苦労したが
内容そのものは期待通りで面白い本だった。
その財政家としての基礎といえば
高橋是清のバランス感覚から学んだものであり
それが、第一次石油ショック直後の蔵相として的確な政策判断を培い
ひいては、物価高、消極投資のダブル不況となりながらも
日本が、先進国のなかでショックからいち早く立ち直ったという
大きな功績につながった、ということがよく分かった。
また、政治家としてはナイーブすぎる信念をもっており
そのことが政治家・福田の最大の魅力でもあり
反面、政治家として為すべき政策の完結を妨げる短命政権の元と
なったことも否定できない。
優れた「安定成長」経済政策家であり
ナイーブな理想主義者であり
しかし高級官僚にありがちな自己アピールの下手な人でもあったということ。
そういった福田氏の個性を強調するあまり
反対勢力の中心だった田中角栄への評価が
かなり一方的になっているのが、この著書の最大の欠点ではあるのだが
そこは、別に田中角栄本で補うしかないだろう。

665korou:2022/01/30(日) 20:48:05
なべおさみ「やくざと芸能界」(講談社+α文庫)を読了。

以前から気にはなっていたので
とりあえず1冊だけなべおさみの本を読んでみた。
思ったよりもズブズブの芸能界裏話の連発で
芸能界入りする前のヤクザとの交流なども
思ったよりも面白く読めたのだが
読み込んでいくうちに
文章の雑な展開が嫌になってきて(主語を省く日本語でこういう文章を書いてはいけないと思う)
第3章の前半のほとんどを占める「裏世界の人間とは」という哲学的な考察は
とても読み進める自信がなくなり、そこは全部飛ばして読み終えた。

読み終えた後、youtubeでなべおさみの映像をいくつか見た。
シャボン玉ホリデーをリアルタイムで観ていたときも
なべおさみの映画監督のコントだけは
不快な感じがして好きでなかったのだが
今こうして観ても、印象は変わらなかった。
何かが足りないのである。それが何かは曰く言い難いのだが。
ダウンタウンの番組で、この本に書いてあるような芸能界の裏話をしている動画は
ダウンタウンや坂上忍のリアクションが面白くて
なかなか良かったのだが。
ネットのチャンネルまで持っていて、頻繁に更新しているようだが
時間が長めの動画なので、今すぐには観る気がしなかった。

まあ、図書館で借りて読むぶんには、特にどうということはない本。
こんな本、買ってしまったら後悔するだろうな。
悪い人じゃないんだけどねえ。

666korou:2022/02/01(火) 17:14:50
本間ひろむ「ユダヤ人とクラシック音楽」(光文社新書)を読了。

今一つ分かりにくいユダヤ問題を
しかも個人的に既知の事実が多いクラシック音楽というジャンルのなかで
新書という読みやすいサイズで、かつわかりやすそうな文章で書いてくれている、ということで借りてみた。
読み始めは、なんだかよく分からないまま一方的に
ユダヤの歴史が民族音楽とかオペラとかの関係で語り続けられていて
これは相当粗雑な頭の人が書いた本なのか?直前に読んだなべおさみと同等のトンデモ本の類かと思わせたが
読み終わってみると、いわゆるクラシック雑学のなかの
ユダヤ人関係の部分だけがうまく抜き取られた上でコンパクトにまとめられたような
比較的良さげな印象になってしまった。
新しい知見、新しい解釈を望む向きには全く役に立たない本だが
そうした「まとめ」サイトのような効能を期待する人には
なかなかの好著だと思った。
「まとめ」サイトで簡潔でもあるので
文字にできる形では、これ以上の感想はない。

667korou:2022/02/06(日) 23:08:16
秋山長造「わが回想録 一筋の道」(山陽新聞社)を読了。

かつて神野力先生の山陽新聞社賞受賞祝賀会で受付をした際
「あ」行の来賓の担当だったのだが
そこで秋山長造氏を受付した際
「大変だね、ありがとう、頑張って」と激励して頂いた記憶があり
参議院副議長という大物でありながら
全く偉ぶらない人柄に魅了されたということもあり
秋山氏の名前は気にしていたのだが
今回、県立図書館の郷土資料コーナーでこの本を見つけ
借りて読んだ次第。
前半は自叙伝、後半は各所で発表された文章のアンソロジーで
自叙伝はシンプルなスタイルで読みやすく一気読みだった。
後半は、今となってはその時代だけの関心事だけのものも多かったので
いくらか飛ばし読みした。
社会党が斜陽化していく時代を党の長老として生きたわけで
そのあたりに何とも言えない不燃焼感、残念な気持ちが
どの文章からもにじみ出ていて
いかにも誠実、真面目な秋山氏の心情を思わせた。
加藤武徳と知事選で争ったことなどは初めて知ったのだが
昭和30年代の政界の様子などは
こうした古老の回想談でないと知れないわけで
その意味で貴重な本ともいえる。

668korou:2022/02/11(金) 12:29:30
中国地方総合研究センター「歴史に学ぶ地域再生、中国地域の経世家たち」(吉備人出版)を読了。

中国地域に関する本ということで、岡山県以外にも記述があるので
本来は岡山県関係の人物だけ読んで終わろうと思っていたのだが
読み進めていくにつれ、他県のことも知っておこうと思い直して
結局全部読了することにした。
江戸時代の地方各藩の財政の苦しさ加減は
ある程度知っていたつもりでいたが
この本を読んで、生半可なものではなかったのだなと
再認識させられた。
その反面、決意を強くして藩財政改革に当たれば
意外と早く状況が好転するということも分かったのだが
これは、江戸時代という主従関係が強固な時代にあって
藩政を左右できる立場という強みの為せることなのだろう。
要は、商業経済をどうみるかということであり
それは深く言えば、この世界、そこで生き抜いている人間全般を
どう見るかという人生観、世界観の話にも通じるのだが
そこが、そういう深い認識になかなか結び付かない現代の財政問題と
大きく違う点だろう。
また、グローバル経済に巻き込まれた現代と違って
この時代にあっては、とりあえず日本国内のことだけを想定しておけば良いので
その点でも随分異なるのだが
それ以外の面について言えば
江戸時代のことといえども、現代でも参考になる事例が豊富にあるように思えた。
なかなか渋い好著である。

669korou:2022/02/16(水) 17:07:59
こだま「夫のちんぽが入らない」(扶桑社)を読了。

興味深い本ではあったが、書名のせいで高校図書館で購入するのには躊躇したことがあり
今回その判断の可否も知りたくて借りてみた。
予想通り、良い本ではあったが、内容は高校生向きではなかったので
書名うんぬんは関係なく、購入しなかった判断は正しかったと分かった。
本としては上質であることは間違いない。
これほど自分の心情を率直に書くことは
簡単そうで難しい。
その一点のみで、この本には価値がある。
もっとも、いろいろと書き切れていない部分はあって
そんなダメ女がなぜいきなり結婚するような展開になるのか
いかにも不自然だし
ダメ先生が、退職後も児童に慕われるくだりも
納得できる記述がない。
両親などについては過不足なく書けているようなのだが
自分のことと夫のことについては十分に書けていないはずで
随所に不自然な記述が見られる。
しかし、そんな不備など吹き飛ばしてしまう率直で大胆な記述スタイルが
この本の最大の魅力だと感じる。
最終的に「夫(だけ)のちんぽが入らない」私の性器が
一番の苦しみになり
それを乗り越えようとしている現在進行形の「私」で物語は終わる。
それもいさぎよい終わり方で好感が持てた。
どうしてもこの書名になるだろうな、この物語は。

670korou:2022/02/22(火) 17:18:46
塩田潮「江田三郎 早すぎた改革者」(文藝春秋)を読了。

江田三郎には以前から関心があった上に
最近になって秋山長造の本を読んだばかりだったので
”郷土資料・連続「伝記」読書に挑戦”の一環として
今回読んでみた。
塩田氏の叙述は、この時期にはまだ生硬で結構読みにくかったのだが
とりあえず江田三郎を語る上で最低限必要なことはほぼ網羅してあったように思え
とりあえずの紹介本として十分に役立つ本だった。
「党を離れるのには遅すぎ、亡くなるのが早すぎた」人という評価は
まさにその通りで
江田氏は早めに社会党に見切りをつけて、最低限でも民社党と共闘していれば
随分と日本の政治も変わっていっただろうと想像できる。
また、社会主義協会が出しゃばる前に
佐々木更三の抵抗を押し切って党内で主導権を握れていたら
もっとダイナミックに変わっていただろうと十分想像できる。
社会党の幹部でありながら「アメリカの生活水準」という目標を掲げるあたり
まさに江田氏の見識は見事で時代をよく読んでいたと思う。
それを阻んだ鈴木ー佐々木-成田という主導部の動きについては
今度は当事者側から反対検証もしなければならないが
どちらにせよ、時代を読み誤っていることには変わりはない。
後は、和田博雄、黒田寿男なども含めて
岡山県人がこうした先駆者の仕事を忘れずに顕彰していくことも大事なことだろう。
とりあえず江田三郎を知るための本としては十分な内容。

671korou:2022/03/01(火) 16:17:51
谷川健司「近衛十四郎 十番勝負」(雄山閣)をほぼ読了。

全500p弱の大部な本であるが
後半の約300pは、近衛十四郎の出演した映画の詳細な紹介であり
今さら入手の難しいそれらの映画について
ストーリーや企画の経緯などを詳しく知っても仕方がないので
前半の200p読了の時点で「ほぼ読了」とすることにした。

市川右太衛門プロの研究生募集に応募して研究生となったのを初めとし
その右太プロでの人脈で大都映画に入り
一躍若手時代劇スターとして名を馳せたものの
戦時中の特殊事情で大都映画は大映となった時点で
時代劇スターばかりの大映では活躍できないとして
劇団を結成して巡業生活を続けた近衛十四郎。
兵役で中国に渡り、苦しい抑留生活の後、帰国し、再度劇団生活を続けるが
映画への夢も捨て切れず、嵐勘寿郎の芸能プロに所属しながら新東宝などの映画に
端役で出演した後、阪妻急逝後の松竹に移籍して時代劇スターとして復活。
ただし、あくまでも準主役に止まったので、第二東映設立と同時に移籍して
そこでは短期間なら主役として活躍。第二東映解散後もしばらく東映で活躍し
「柳生武芸帳」の剣豪柳生十兵衛役などの当たり役もあったものの
東映の任侠路線への変更を機に、東映テレビに所属してテレビ時代劇に進出。
そこで「素浪人月影兵庫」「素浪人花山大吉」の大ヒットとなり
日本中で知られる有名時代劇スターとなったというのが大筋。

ちょっと前に大都映画の本を読んではいたが
詳しい流れがこの本で分かって頭の整理になった。
まさに労作という印象の本。

672korou:2022/03/07(月) 18:00:09
鈴木美勝「北方領土交渉史」(ちくま新書)を読了。

鳩山一郎が行った対ソ交渉から、安倍晋三の対ロ交渉までを
動きの無かった時代を省きつつ
主なところはすべておさえて解説してある「北方領土交渉史」だった。
多少文章が読みにくい点はあるのだが
書いてある内容が興味深いので
思わず読み込んでしまうという迫力あるノンフィクションとなっており
また、著者が主観を入れて書いてある箇所は
読んでいて、ここは著者の主観部分とはっきりと分かるようになっていた。

1956年の「平和条約と同時に二島返還」というのは、当時としてはギリギリの線で
鳩山首相としては、国連加盟と抑留者帰還という優先事項を実現させたのだから
後世の人間としては文句は言えないところ。
それを粘り強く交渉して、相手国の国力が落ちた時点で
「四島返還」についてソ連(ゴルバチョフ)及びロシア(エリツィン)に認めさせたところまでは
日本外交の成果だったに違いない。
しかし、外交なのだから、「四島返還」可能な時点で、わざと妥協する手法もあったはず。
恩を売って、とりあえず「二島」で妥協して平和条約を結び、経済協力を進める手もあったに違いない。
もちろん、その後の歴史を見ると、ロシアは強硬な態度に変貌したに違いないので
「四島」全部は永遠に戻ってこなかっただろうが
今のように、二島返還でさえ日米安保破棄を条件とするような事態には至っていなかっただろう。
安倍晋三の外交の失敗についてページ数が割かれているが
これは橋本政権時に政治決断ができなかった龍太郎の責任ではないか。

まあ、それにしても、よくまとめあげたものだ。
政治記者経験豊富な著者にとってはそれほどでもないのだろうが、労作と言ってよい。
タメになった本。

673korou:2022/03/09(水) 10:18:31
グレンコ・アンドリ―「プーチン幻想」(PHP新書)を読了。

最初のほうで、
米国がロシアに対しNATO拡張はしないと約束した史実は一切ないと断言している記述を読んで
これはなかなか面倒な本だなと思い、いったん読書を中止(明らかな史実誤認なので)。
読書再開後も、日本外務省の「ロシア・スクール」は対ロシアで好意的な見方を助長している
などという調査不足の記述に悩まされたが(こういうのが自分の気付かない他の箇所でもあるのかという疑い)
実際のところは、再開後の読書については、ある程度のリテラシーを確立して読み続けることができたので
それほど面倒ではなかった。
そういった些細ではあるが、結構致命的な事実誤認を除けば
これは熱量の高い、志の高い、なかなか日本人のライターではここまでは書けないだろうと思われるほど
徹底して自説で説得してくる本で
その自説も荒唐無稽でなく、むしろ知見を正す類の良書に思えた。
また、文章に関しても、どういう仕掛けなのか見当もつかないが
少なくとも、これだけの日本語を駆使できるのだとしたら
本当に敬意に値するレベルで
他の多くの日本人学者も見習ってほしいくらいの熟達した流暢な日本語だった。

この本で「プーチン幻想」がほどけていったかどうかについては
読む人にとって様々だろう。
しかし、こういう本は貴重である。出版されて然るべきである。
著者のスタンスはどうあれ、これこそ民主主義社会における言論の自由なのだと思った。
(少なくとも、プーチンはそれを認めていないのだから)

674korou:2022/03/13(日) 17:07:25
東郷和彦「危機の外交」(角川新書)を読了。

1990年代の日本の外交をリードする外務省官僚だった著者が
2015年頃の時点で一民間外交研究家として
日本の外交のあるべき姿を論じた本である。
250p足らずの新書ながら、中身はきっしりと詰まっており
どの文章の行間からも、実際に外交実務に携わってきた外交官としての感覚が
滲み出るようだった。
恐らくはここに書かれているような在り方が
日本の外交としてはベストなのだろう。
しかし、もうこの著書から7年近く経過し
「対韓国(慰安婦・徴用工・竹島)」「対中国(靖国・尖閣)」「対ロシア(北方領土)」のどの問題についても
解決の方向どころか悪化する一方だし
むしろ、日本自体の国力について地盤沈下が激しく
国際政治上のポジションが著しく低下しているのが現状だ。
対韓国となれば、お互いに国力が伸び悩んでいることに加え
国際法上ムリな要求をしているのが韓国自身であることから
その関係は、韓国の強引な国際社会へのアピールだけ注視していけば足りるのだが
こと対中国に関しては、本気で対日関係に圧力をかけてくれば
日本にはそれに対抗し得るものは何一つない状態だ。
対ロシアは、すでにこの著書の時点で破綻の方向を示していたが
その後の安倍外交の失態、そして今回のロシアによる強引なウクライナ侵攻により
完全に手がかりを失ったうように見える。
インド・太平洋共同構想も絵にかいた餅に傾きつつある。
そのような悪化の方向にある中で、この本を読むことは
もはや採るべき方向の示唆をいうよりも
この時期ならまだ可能だったかもというノスタルジーに近い絶望を感じる作業とも言えた。
本は立派なのだが、もはや現状がそれに追いついていない。

675korou:2022/03/16(水) 12:04:28
風間賢二「怪異猟奇ミステリー全史」(新潮選書)を読了。

18世紀西欧で隆盛となったゴシック文学から始まり
現代日本のミステリー事情まで
おもに怪異、変格ミステリーに焦点を当てて
その歴史の概略が記された本。
ゴシック文学が、近代社会において根強い人気を保ち続け
それが明治以降の日本においても
日本独特の形で受け入れられたという流れが明確に示され、
読んでいてタメになった。
新しく知ったことが結構たくさんあって
その逐一をここで確認することすら難しいくらいだが
例えばWikiの力も借りて「嵐が丘」のあらすじを詳細に知ったり
谷崎潤一郎のミステリーを読みたくなり
県立図書館でのチェック本リストに追加してみたり。
途中から、ゴシック文学史なのかミステリー史なのか
日本”キワモノ文学”史なのか日本ミステリー文学史なのか
判然としない感じもあるが
全体として、書かれるべきことがしかるべき妥当な著者によって書かれたという
安心感が漂う好著であることには間違いない。

676korou:2022/03/25(金) 12:20:57
歴史読本臨時増刊(’88-9)「特集 世界を動かす謎の国際機関」(新人物往来社)を読了。

トイレでの読書本として、結構長期間読み続けていた。
かなり怪しい本かと思っていたが
他の本ではなかなか読めないような特殊な分野の情報について
要領よくまとめてあるので
これはこれで要保存の本とすることにした。
1988年発行の本なので
データとしては古いのだが
それも今となってはなかなか面白く
ソ連の存在とか、インターネット以前の情報産業の様子とか
案外もう人々の記憶から薄れかけている時代を
思わせてくれて
なかなかユニークな本である(というか、ユニークになってしまった、というか)

677korou:2022/03/30(水) 21:08:13
村上春樹「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」(新潮社)を読了。

かなり昔に単行本で買って、いつまでも読めずにいて
数年前に意を決して読み始めたところ
主人公が冷凍食品を買って、そのまま家に帰らずに食品を車に積んだまま
いろいろな店に寄って、結局数時間後に帰宅するというシーンを読んだとき
非現実的な話だと思い、読むのを止めてしまった。
そういう経緯で、また数年ほったらかしにして
今回、その非現実には目をつぶって読み進めようと思い(「ねじまき鳥」を読みたいと思い、その前提となる小説として)
またまた意を決して読み始めた。
今度は、冷凍食品を車に長時間放置どころではなく
随所に飲酒運転のシーンが出てくるのには呆れたものの
こうまで作者が飲酒運転を気にせず書きまくり、ハルキさんの編集者もそれを黙認しているとなると
もはやハルキ作品を読むのに”ハルキさんの常識”に従って読まなければならないのだと観念した。
(だから、冷凍食品はいつまでも腐らない、飲酒しても車の運転に支障はない、大けがの後でも酒を飲んでよい・・・等々)

さてそういう読書の入り口での不審な点を切り抜けて
なんとか最後まで読み切ってみて
この小説がどうだったのかといえば
とても短い文章では書き切れないし
かといって、長文をしたためる余裕も知識も体力もない。
ただひたすら、並行して描かれた2つの世界が最後に合体する仕掛けのみが
脳裏をぐるぐると回り、印象に残るのみである。
意識と無意識、企みと受け身、世界の終りと世界の崩壊・・・何だろう、分かるようで分からない、分かりにくい。
こうなると「ねじまき鳥」を読んで、まとめて感想を書くしかない。

678korou:2022/05/17(火) 18:23:50
「特集 日本の名門1000家(別冊歴史読本)」(新人物往来社)を読了。

トイレ読書本として読了した。
この種の本は今までに何冊も読んではいるのだが
この本に関しては、他の本ではなかなか取り上げられない分野が
意外と詳しく書いてあり、結構面白く読むことができた。
能・狂言、あるいは茶道・華道などの名門の歴史などは
今回初めて詳しく知ることができたし
巻末の「華族一覧」も
詳しくチェックすれば、なかなか役に立つ「辞典」のように使える。
その反面、財界とか、他の本でも詳しい歌舞伎などについては
特に目新しい叙述はなく、むしろ出版年(1988年)からくる古さが目立った。
トータルとしてみれば
かなり使える本であり
しばらくは捨てずに保存しておこうと思った本である。

679korou:2022/05/25(水) 22:20:26
村上春樹「ねじまき鳥クロニクル(第1部〜第3部)」(新潮文庫)を読了。

多分4月1日から読み始めた。そして今日読了。1か月と25日、最近では期間最長の読書となった。
些細なことではあるが、第1部の文庫本が最近再版された大き目の活字だったのに対し
第2部と第3部は改版前の比較的小さめの活字だったことが
期間最長の一因であることは間違いない。
この大きさの活字は短時間で済ませないといけないと思い
第2部からは一層読書スピードが遅くなった。
それでいて、その期間中、トイレ読書以外の本はほぼ読まず、この本の読破に専念した。

思ったよりも凡作で、同時に思ったとおりの力作だった。
作者は渾身の思いでこの小説を書き、作者はそれにより何かを得てなにがしかの変化を体得したが
読者はそこまでの感銘を得られない場合がほとんどだったに違いない。
何といっても混乱している。
そうでなくても、飛躍の多い文体と直喩や象徴が頻出する実は難解な文章(読みやすいのだが・・・)の作者が
さらに近現代史に踏み込んで、しかも日本語文体のコラージュまでも意図してちりばめているので
読者としては、それら全体を統一した形で把握することにかなりの労力を要するのである。
しかもその労力は小説を読むことによって得られる愉悦には昇華せず
最後まで「飽きないんだけど面白さとなるとどうかな?」という印象が続く。
彼は意識と無意識、自我と他者などの近代人のエゴを描こうとしているのだろうけど
そこに至るまでの道具立てが勿体ぶった大層なものになっていて
まあいうなれば効率が良くない。
印象的な場面はいくつもあるのだけれど
結局、主人公以外の登場人物はどれも人物が描けていないも同然だ。
とにかく、読後直後の今は
この作品の美点よりもガッカリ感のほうが支配して
作品そのものへの批評にまで至らない、というのが正直なところだ。
また何か書けるようになったら書くことにしようか。

680korou:2022/06/01(水) 13:33:00
横山源之助「明治富豪史」(現代教養文庫)の前半2篇を読了。

文庫本200ページの中身が、「明治富豪史」「富豪貴族」「海外の人」の三つに分けられていて
「明治富豪史」は本人もとりあえずのまとめとして一気に書かれたものであるのに対して
「富豪貴族」「海外の人」はいろいろな雑誌に書かれた同種の内容をまとめた章立てとなっている。
今回の読書では、「海外の人」は読了せず、他の2篇を読了した。
やはり、現代の財閥系企業につながる大本の話のほうが面白く
移民関係の話は実感が湧かないので。
そして、横山の意図が、富豪の成り立ちの偽善性を暴くものであったとしても
令和の今読むにあたって、そういう社会主義的な視点はなくとも
ただ単純に明治時代の秘められた歴史ということだけで
面白く読めることは否定できないわけである。
なかなか、ここまで詳しく明治初期の富豪の様子を書いた本というのは
ありそうで無いように思う。
期待通りの面白さだった。

681korou:2022/09/03(土) 12:03:41
猪俣勝人・田山力哉「日本映画作家全史(上)」(現代教養文庫)を読了。

トイレ本として読了。
猪俣氏の関係した人物が多数取り上げられていて
そのことは逆に、猪俣氏が
日本映画史上重要な役割を果たした人物であるということの
証しということにもなる。
そして、各人物の略伝に付記される形で書かれた各エピソードが
どれも人間ドラマのように思わるほど面白く
列伝を読む面白さ以上の魅力が付け加わっていた。
ちょっとこれは廃棄できない。永久保存版の本。

682korou:2022/09/04(日) 23:08:08
ロボットマナブ(原案)・大仏見富士(著)「自衛隊入隊日記」(学研プラス)を読了。

必要があって急きょ県立図書館から借りて読んだ本。
借りる前にパラパラとめくった感じで、これは読みやすいはずと判断したが
実際読んでみて、全くストレスなく最後まで一気読みできた。
結構個性的な著者なので、書いてあることが普通にそうなのだろうかという疑問は残るのだが
誰が書いても恐らく細部はそうなるだろうという部分に関しては
とりあえず最低限の描写がしてあるので
実際に実戦部隊として自衛官を志望する人にとっては
これほど有益な本はないかもしれない。
反対に、自衛官志望者以外にとって
どんな意味がある本なのかと言えば
なかなか難しい。
文章が極めて主観的なので、客観的に自衛隊のことを知ろうと思った人には
あまり参考にならないかもしれない。
個人的には、まあ話のタネとして使えるかも、という感じだった。
結局、巷によくある珍しい体験本という部類か。

683korou:2022/09/08(木) 15:02:38
岡田真理「自衛官になるには」(ぺりかん社)を読了。

必要があって読み始めた自衛隊本第2弾。
当面知りたい部分だけ先に読み、それで終わろうかと思ったものの
思い直して、再度、最初から全部読み通した本。
「なるにはBOOKS」をこんな形で読むことになるとは
想像もしなかったが
ある意味、その職業の良い面だけを強調して
闇の部分は抹消してあるともいえるので
高校生対象の推薦本、進路関係本として
本当にこれでいいのかという疑問も残った。
これはロクに読み通していなかった学校司書時代には
意外と見落としていた部分だが
それはともかく
当面の役には立った。
それ以上の感想は出てこない。

684korou:2022/09/12(月) 17:33:06
佐道明広「自衛隊史」(ちくま新書)を部分読み。

どうにも目が痛くなる本なので(活字は普通程度の大きさだが文章が読みにくく目が疲れてしまう)
読了は諦めて、ざっと目を通す程度にした(前半半分は読了したのだが、もう限界)、
自衛隊史としては
1960年代までは政治の思惑に振り回され、むしろ存在感を消すように要請されていたくらいだが
1970年代後半から、米国の衰退、軍事力の低下を背景に、日本の自衛力向上が要請され
1980年代はその押し問答が続き、なんとか日本の経済力と政治家の駆け引きで現状維持を保っていたものの
1990年代になり、例外的な措置を余儀なくされ、自衛隊の存在は曖昧なまま目立つレベルになってきた。
2000年代になり、周辺国からの危機が顕在化し、さらに神戸大震災などの災害等非常事態への対応も大きな任務とされ
2010年代になり、おもに安倍内閣の主導で、自衛力向上のためのプログラムが組まれるようになる。
まあ、そういった以前から何となくそうではないかと思っていた流れを
再確認した本ではある。
細部では知らない事実もいくつかあって参考になったが
そこまで読み込むための代償としては
この激しい眼痛は痛すぎる。
残念だが、他の本で探ってみたいと思う。

685korou:2022/10/01(土) 17:51:02
中川右介「文化復興 1945年」(朝日新書)を読了。

野球のシーズンも終わりかけているので
読書も少しずつ始めなければと思い
”中川本”でまずウォームアップということで
この本からスタート。
ただし、日によって目の疲れがひどいこともあるので
ムリはできない感じだ。

本そのものは、いつもの”中川本”で
安心して読める文章と、かっちりとした資料読み込みで
全く問題なく読めた。
ただし、一次資料を追って叙述するスタイルだけに
こうした特定の地点に絞った著作だと
中川氏の個性がうまく生かせない面も出てくる。
今度は、時系列に沿って推移するスタイルの本を
読もうと思っている。
あと、トイレ本として今現在も読書進行中の「映画作家全史」との関連で
客観的な叙述の中川氏と、あたかも自伝小説のような猪俣氏とで
同一人物ながら全く違った印象の人物評になるところも
興味深かった。

686korou:2022/10/29(土) 11:15:43
中川右介「至高の十代指揮者」(角川ソフィア文庫)を読了。

いつもの中川本。読みやすく、タメになって、読書ストレスフリーの本。
十大指揮者は、ベルリン・フィル常任指揮者(フルヴェン以降)を軸に、世代、国籍について万遍なく選んだ結果らしい。
トスカニーニ、ワルター、フルトヴェングラー、ミュンシュ、ムラヴィンスキー、カラヤン、バーンスタイン、アバド、小沢征爾、ラトル
といった面々で、前半の数名についてはすでに読んだ本の内容と重複することになる(しかしすでに忘れてもいるのでムダな読書ではない)
後半のアバド、小沢、ラトルについては、今回初めてその活躍の詳細を知ることができた。
これ以上の感想はもう書けない。
あとはそれぞれの指揮ぶりを、実際の音響で堪能することになる。

687korou:2022/11/08(火) 17:26:52
小菅宏「異能の男 ジャニ―喜多川」(徳間書店)を読了。

とにかくヒドい日本語、ヒドい文章だった。
こんなレベルで、よくフリーのライターが務まるなあと思った。
最初のページから最後のページまで、まともな文章はほとんどなかった。
意味を理解できるところだけ飛び飛びに読んだというのが実感だ。
意味を理解できる箇所は、ほぼ過去の事実をそのまま書いている部分で
それすら、かなりの部分が意味不明だった。
まして、著者の考えが書いてある部分など
どうやって読解せよと言うのかと言いたいくらいだった。

それでも読了(いや飛ばし読みかな)してしまったのは
ジャニーズに関する解説本が
あまりにも少ないという現実、しかも著者は
少なくとも80年代途中までは伝聞ではなく直接ジャニ―姉弟を取材していた
大手出版社の編集者だったからで
これが違うジャンルの違う著者であれば
最初の10数ページで投げ出していただろう。

著述の中身は、あまりに断片的に読んだので(そう読まざるを得なかった!)
イマイチ頭の中でまとまらない。
すでに整理してあるジャニーズ関係の知識と照合しながら
徐々に理解していくしかない。

キツい読書だ(苦笑)

688korou:2022/11/13(日) 15:30:02
小菅宏「女帝 メリー喜多川」(青志社)を読了。

前著同様、読みにくい本だった。
明らかに著者の文章は下手くそを通り越して
日本語として意味を成していない。
このような著作を出す人が
ジャニーズ関連本の権威と目されているのには
呆れてしまうが
それが現代日本の現状なのだろう。
いかに意味不明な文章が連なっていようとも
その中に挿入されるエピソードの数々は
著者でなければ書けない、他の人は体験すらできない事実なのだから
尊重されてしかるべきなのだが
それにしても、である。
結局のところ、何が書かれていたのか
読み終わった今は
むしろ悪文を通し読みした疲労のほうが勝ってしまい
何も思いつかないのである。
そして、最後には、オリジナル事実も散在しているが
やはり無視しても大丈夫な本かな、という評価になる。
オリジナルにしても
そんなに大したことない話だし。

689korou:2022/11/25(金) 13:54:47
猪俣勝人・田山力哉「日本映画作家全史(下)」(現代教養文庫)を読了。

トイレ本として9月上旬から読み始め、本日読了。
下巻のほうは、田山氏が主に書いているようで
取り上げられた作家たちも
この本の出版時(1978年)においては
中堅どころの人が多く
これからの活躍が期待される人々列伝という趣きである。
そして、最後のほうの数名について
その後の経歴もWikiで調べてみたが
ほとんど活躍できておらず
この本に書かれた仕事以降
映画人としては終わってしまっている状態だった。
それを思えば、物悲しい列伝ということになるが
本そのもののテイストとしては
やはり名著と言えるだろう。
これだけの人々を取り上げて
1冊の本に仕上げる苦労、努力は並大抵でない。
これもうかつに廃棄できない本である。

690korou:2023/02/17(金) 15:40:47
ほぼ3カ月ぶりの読了!
宇佐見陽「大リーグと都市の物語」(平凡社新書)を読了。

2001年発行の新書で、当掲示板がMLB関連の書き込みで潤っていた時期にはもう購入済みで
その時期からずっと、読みかけては途中で断念、途中で止めるを繰り返していた本だ。
ほぼ20年越しでやっと読了できた次第。
決して面白くなくて読み終えることができなかったということではなく
ただ単に偶然により読書が中断しただけだが
まあ、そういうことはよくある。
今回読み終えて、思ったよりも内容が濃かったことと
さすがに20年も経つと内容が古くなるということを痛感した。
2001年時点では、見事な新書と言えるが
やはり現在進行形の出来事を扱っているだけに
それ以後の多くの現在進行形が抜けてしまうのは
当たり前とはいえ、内容の新鮮さにおいて致命的になってしまっている。
あれからMLBは日々変化し、停滞もすれば進展もした。
20世紀のMLBはこの本でかなりの部分を参照できるが
21世紀のMLBも22年経過している。
読む時期を逸したと言わざるを得ない。
でも、不思議なのは、読後にこれは即廃棄かなと思えなかった点だ。
またいつか読み返したい、でもいつ読み返すんだという自問自答。
もう少し時間が経たないと結論は出ない。

691korou:2023/03/10(金) 12:57:11
宮崎勇・田谷禎三「世界経済図説 第四版」(岩波新書)を読了。

トイレ本として読了、前回が9月に読了だから、この本を半年かけて読んだことになる。
思ったより長くかかったが、やはり読みやすいとはいえない内容のせいだっただろうか。
事前に思っていたほどデータが多くなく、むしろ経済学の立場から現代の世界経済を眺めた場合
どのような考え方が最も妥当で一般的なのかを、文章で説明している本といってよい。
共著者の宮崎氏(福田赳夫氏のOBサミットの事務局長でもあった)は
この本の前回の改版(第三版)の直後に亡くなられ
今回の版の著者は田谷氏単独ということになったが
本としての構成、版組みは確立済みなので
単独著者になっても、そこのクオリティに関しては問題ないわけである。
なかなか平和が実現せず、むしろ新しい紛争の火種が増えてきていること、
紛争のない先進国にあっても、経済運営はスムーズでなく、むしろ格差問題が生じていること、
経済の世界一体化が進む一方で、そこでの問題、課題を解決する組織が機能していないこと、
そういったことが語られている本で
ある意味、普段感じていることの総復習のような読書でもあった。
悪くはないのだが、新しい知見に乏しく、魅力ある本とは言い難く
もっとデータ提供に徹したほうが使い手があるのだがと
思ってしまう。

692korou:2023/03/28(火) 17:28:14
池上彰・佐藤優「真説 日本左翼史」(講談社現代新書)を読了。

昨年11月にジャニー姉弟の本を借りて以来、久々に県立図書館の本を借りて読む。
これは、出版された当時に概要を知って、ぜひ読みたいと思った本である。
それから1年半ほど経って、世間的には注目度はぐっと落ちたのか、普通に書棚に並んでいて
続編共々、借りる人が居ないようだったので、それならと思い借りてみた。
自分としても以前よりは日本左翼史への関心は落ちてはいるが
まあ新書ぐらいならと思い読み始めてみたところ
結構その方面の記憶すらあやふやになっていて
小熊英二氏のあの力作を読んでいた時期とは
随分異なっている自分にまず戸惑う。

読後の印象としては
左翼全般について、まさに社会党のシンクタンク組織に属していた佐藤氏の独壇場とも言え
池上氏は、当時の政治状況について優しく解説を加えるにとどまっている。
そして、左翼史とはいいながら
実質、日本共産党と日本社会党の政党史となっており
そのことには違和感はなかったが
佐藤氏が、向坂逸郎とか宮本顕治などを絶賛する姿勢には
違和感を覚えた。
時に滑稽なくらい違和感を露呈するのも佐藤氏の個性ではあるのだが。

さて、しばらく他の本を片付けてから、続編に挑むことになる。

693korou:2023/03/29(水) 20:49:42
読了断念本
平川克美「喪失の戦後史」(東洋経済新報社)

BSプレミアムの特集番組で、戦後日本の60年代の喪失感が気になり
似たような問題意識かもしれないと思い県立図書館で借りた本だが
いつまで経っても、そうしたテーマは現れなかった。
そして、重要なポイントにおける認識の違いも目立ち
ある意味、著者の友人である内田樹氏の文章で感じられる「一流なんだけどうさんくさい」感が
鼻についてきたのも事実。
まあ、それ以前に目的に合ってなかったので読了断念。

694korou:2023/04/13(木) 10:01:08
池上彰・佐藤優「激動 日本左翼史」(講談社現代新書)を読了。

日本左翼史3部作の第2弾。60年安保以後から70年代初頭の新左翼の衰退までが描かれている。
今回は、第1弾では概要だけの解説で佐藤氏の引き立て役に回っていた池上氏が
リアルタイムで新左翼の衰亡を体験した自身の記憶をもとに、大いに語っている
(第1弾だけ読んで池上氏の限界を嗤った書評を見たが何と軽率なことか)。

新左翼の流れは複雑でとらえにくく、この本はその点を出来る限り分かりやすく語ってはいるが
それでも難しい。
あまりにも分派が激しすぎて、結局、若者だけの運動だったので
全体のまとめ役が不在だったのだろう(そして、まとめ役に耳を傾ける気持ちもなさそうだ)。
そして、達成感のない(自称)革命行動に閉塞感を覚え
本来の敵対勢力である国家権力への憎悪のはずが
派内の人間関係のこじれから、内部に敵を見出してしまったのだろう。
新左翼の成れの果ては、内部抗争、凄惨な暴力、殺し合いに行き着き
誰からも支持されない運動に終わってしまった。
始まりは聴くべきものがあった革命思想が、なぜか無意味な内部暴力に終わってしまったのは何故か。
そこにこの本を企画した意義があると、著者両名は語っている。
そのことをもっと掘り下げて分析してほしかったが
考えてみれば、そういう意図のもとに広く大衆向けに書かれた本は
今までになかったのではないかとも思えるので
その意味で本書はもっと読まれるべき類のものだろう。
内容に関しては、特に異論はなく、ためになる新知識が多く
有意義な読書となった。

695korou:2023/04/13(木) 14:16:51
安西巧「歴史に学ぶ プロ野球16球団拡大構想」(日経プレミアシリーズ)を読了。

ついつい借りてしまったプロ野球本。その割には面白かった。
前半の「拡大構想」については、読んでから少々間が空いたので
その内容についてほとんど覚えていないのだが
後半の「歴史に学ぶ」部分の記述は
ややこしい球団設立過程について実にコンパクトに分かりやすくまとめていて
知識の整理という面で実に役立つ読書になった。
球団の実質オーナーの変遷について
表面だけをなぞった球史の類は多いが
なぜそうなったかまでをこれほど簡潔に記した本は
滅多にない。

また知識が混乱したとき
この本を頼りに球史を振り返ることにしよう。

696korou:2023/04/25(火) 17:55:48
池上彰・佐藤優「漂流 日本左翼史」(講談社現代新書)を読了。

3部作の最終編で、1970年代の「あさま山荘」での新左翼勢力解体以降から、ウクライナ戦争の現在までを扱っている。
半世紀にも及び長い期間を新書1冊で概説するのだから、当然ながら駆け足で重大な事項のみを取り上げるスタイルになってしまうのは
当然と言えば当然だが、逆に考えれば、新書1冊分で済む程度の内容しかない「日本左翼史」だったとも言える。
ただただ衰退していき漂流しながら迷走していく「日本の左翼」。
最初は労働運動が目立ち、それからソ連の低迷、暴走を受ける形で社会党が変貌し(結局、衰退し)、ソ連の解体を受けて完全に左翼としての
アイデンティティを喪失した結果、今や”リベラル”と同義語となってしまうほど意味不明な言葉になってしまった「左翼」。
その経過が、著者二人の博学により語られている。
この本も、新知識満載でタメになった。
本来なら3冊とも購入して、何回も読み返したいところだが
残念ながらこの本の知識を活用するような場面もないだろうから
今の自分としては、読んでいるときの知的高揚感だけで満足するしかないのが
残念といえば残念。

697korou:2023/05/09(火) 21:37:21
半藤一利・池上彰「令和を生きる」(幻冬舎新書)を読了。

気軽に読める本として県立図書館で借りた本。
確かにスラスラ読める対話本だったが、後半から次第に半藤氏の独断が鼻についてきて
読後感はそれほど爽快ではなかったのも事実。
前半は、平成の最初の方の出来事を振り返る内容だったので
自分でも忘れていたことが多くあり、いい復習になったのだが・・・

半藤氏について悪く言えるわけもない。
でも、生涯の最後はこういう風にもなるという教訓かもしれない。
根拠が薄く、思い込みに近い主張が、決して控え目でなく強く出てきている。
池上氏はその点でまだそこまで老け込んでいないので
いつもの冷静な解説でわかりやすさも健在だが
それでも半藤氏に合わせたかのように
強引な論理の展開も垣間見え
池上さんは本当にそう思っているのだろうか、という疑念も湧く。

ということで
後半はかなり読み通すことに疲れてしまった。
まあ、そんなわけで
読後に「令和を生きる」知恵が増したかと言われれば
必ずしもそうではなく、むしろ碩学お二人の強引さに困惑したというのが
正直なところ。

698korou:2023/06/06(火) 16:18:08
中川右介「社長たちの映画史」(日本実業出版社)を読了。

久々に視力のこともある程度犠牲にして、しゃかりきに読んだ。そして、予想通り面白い本だった。
ある程度は、今までの映画関連本で既知としている史実だったが
自分の頭の中では、それらが整然と並んでいなくて、極端に言えば断片的な知識でしかなかったので
こうして一気に史実の絡み合いがほどかれ、人物の関わり合いが明快に示されると
本当の意味での知的興奮を覚え、知的爽快感に満たされる。

やはり、後半の昭和戦後編ともいうべき箇所(1945年ー1971年)に惹かれた。
昭和20年代には新興産業として創造意欲に燃えていた各社の経営陣が
昭和30年代後半に主にテレビ産業の躍進に負け始めたときに
的確な判断が全くできなかったという史実が何とも歯がゆく、空しい思いになる。
そして、そこから脱皮しようとして個人プロを立ち上げた三船敏郎、石原裕次郎たちの思いが
全く実を結ばず、最終的に悲劇的な結末を遂げるわけだが
その純粋な思いが胸を打つとともに、さすがにその純粋さだけではどうにもならないだろうと
誰もが思うわけで、なぜ誰も助けなかったのだろうという残念さが残る。
(「黒部の太陽」のときの関西電力だけは例外だったが・・・)
石原慎太郎という人について、少なくともこの面からみれば、大した人だと言わざるを得ない。
嫌いな佇まいの人だが、そこは認めざるを得ないだろう。

読んでいて、あまりに参考になるので、いっそのこと購入しようかと思ったくらいだが(分厚い本なのに税抜き二千円という安さ!)
もう少し留保することにした。

さて,次の中川本も読みたくなってきたぞ。

699korou:2023/06/20(火) 13:50:51
中川右介「アニメ大国建国紀 1963-1973」(イースト・プレス)を読了。

マンガならともかくアニメはちょっと、と思いながら借りてきた本だが
そんな懸念は無用だった。
中川氏は自分と同世代なので、マンガをベースに記述しながらアニメの歴史を記述していた。
そして、1964年から数年間は、自分もマンガをそこそこ熱心に読んでいた時期なので
書いてある内容に懐かしさとか、知らなかった事実への驚きが次々と溢れ出て
これほど楽しい、そして面白い読書になるとは、想像以上だった。

最後のページで、宮崎駿が手塚治虫について批判的な感想を述べた部分の引用があるが
これこそ、この本を読了した時点で、実に納得できる話であり
かつ、宮崎氏の感想は個人的なそれでしかないというのも納得できるのである。
やはり手塚治虫のまっすぐな思いが、人を動かし、時代を動かし
逆にそのまっすぐで妥協のない姿勢のせいで、人が離れて、時代からも縁遠い存在になっていった経緯が
多数の関連人物の動きとあわさって描かれている本である。
もう少し前の時期であれば、関係者への取材が可能であったに違いないし
これほど関係者の証言が食い違ったり、無言を貫いていたりして、曖昧な部分の多い日本アニメ黎明期の歴史について
直接取材は不可避だったはずだが、
それが可能であった時代には、誰もその作業に従事しなかった。
ゆえに、こういう形でしか、日本アニメ史は語れないのが残念でもあるが
それを成し遂げた中川氏の仕事は偉大であり不滅である。
今や日本が世界に誇れるものはこの分野ぐらいしかないのだから
ある意味、今の日本国民にとって必読書と言ってよいかもしれない。
またしても中川マジックに陶酔させられた。幸福な二週間だった。

700korou:2023/06/20(火) 13:55:00
早川隆「日本の上流社会と閨閥」(角川書店)を読了(トイレ本)。

今年3月から今日までかけて、読み続けた(眺め続けた)トイレ本。
1980年代前半に購入して以来、どれほどこの本を参照し続けてきたか分からないほど身近な本なので
今さら通読など想定もしていなかったが
適当なトイレ本がないので、読み始めることにした。
本当にイメージ通りピッタリのトイレ本だった。
本の内容については今更なので省略。

明日からどうしよう。
適当なトイレ本がないが、何か探さねば。

701korou:2023/07/21(金) 16:26:41
中川右介「プロ野球『経営』全史」(日本実業出版社)を読了。

県立図書館に直接リクエストして購入してもらった本で
読み始めてすぐに、リクエストしたかいがあったと実感できた本である。
これほど面白い観点で書かれたプロ野球の本は、かつてなかったと断言できる。
断片的に特定の視点、特定の球団に限定した形なら
いくつかあったかもしれないが
日本のプロ野球の歴史全体を「経営」の視点で書き綴った本というのは
かつて記憶がなく
そして、それはこれからの”あるべき経営の形”を示唆することにもなっている。

とにかく、あらゆる人物が登場し
それらの人物についてのミニ評伝、ミニ伝記も逐一書かれている。
日本で野球がプロ興行として成立し発展していく過程で
いかに多くの人物がそこに関わってきたかということがよく分かる。
正力松太郎が中心になって成立させ発展させてきたという”偽りの正史”は、
この本によって完全に化けの皮がはがされたといってもよい。
しかし、そのことは逆の意味において
この世界(NPB)において
真の意味におけるリーダーシップを発揮した人物が
過去に居なかったということの証明でもあり
そのことが現在のNPBを閉塞した状況に追い込んでいるということでもあるような気がする。
そう思えば、この本が出版された意義は
さらに大きく思えてくるのである。

702korou:2023/08/21(月) 16:14:03
中川右介「世襲」(幻冬舎新書)を読了。

政治家、自動車・鉄道事業の企業家、歌舞伎の名家について
それぞれの世界での世襲の実例を示しつつ
実際のところ、近代日本政治史、近代日本産業史、江戸時代以来の歌舞伎史について
コンパクトに知ることができる本にもなっているというスグレモノ。
他の本でこれほど詳しく書かれているものはないのではないかと思われる。
この種の本を読み続けている者として
これほど嬉しい読書体験はない。

政治史に関しては
どのような経緯で権力者たちが権力を得ていったのかが
こうしたフィルターで記述されることによって
意外なほどハッキリ見えてくる。
企業史に関しては
そもそもここまでコンパクトかつ詳しく書かれた自動車産業史、鉄道事業史の記述は
他の本では見たことがない。
歌舞伎史は、江戸時代の世襲について詳しく書かれていて
これも明治以降に偏りがちな類書と比べて優れているといえよう。

さらに、あとがきでサラッと書いているが
これは「天皇史」へのオマージュでもあるだろう。
ハッキリと”天皇家の世襲は望ましくない”と書いたりすると
不要な雑音、揉め事に巻き込まれる恐れがあるので
今回の著作では意図的に外しているように思えた。
しかし、著者の結論としては、そのように読める。
まさに、これこそこの本を書いた最大の動機なのだろうと思ったりする。

なんとか返却期限までに読めた、一安心(読み辛くて読破に時間がかかったのではなく、たまたま)

703korou:2023/08/22(火) 17:33:18
猪俣勝人・田山力哉「世界映画俳優全史 女優篇」(社会思想社<現代教養文庫>)を読了。

トイレ本として読了。
前回の閨閥本読了の後、何をトイレ本にしようか迷った末
このシリーズの「俳優篇」に目をつけ、まず女優篇から読むことにしたのだが
これは大当たりだった。
適度に知らない部分があり、ほどほど知っている部分もあり
活字の大きさも適当、叙述の平易さも妥当ということで
今回の女優篇の次は、当然ながら男優篇ということになる。
その次は男女優込みの現代篇、
それが終わったら日本の俳優に移る。

内容については省略。
意外と、著者たちが個人的な思い出を語っているのには驚いたが(今はこのたぐいの叙述は出版しにくいだろう)
まあ、猪俣氏にしても田山氏にしても、今までずっとその叙述に触れてきていて大体の嗜好などは承知できているので
特に問題はなかった。

さて、トイレ本、次回からは男優篇だ。

704korou:2023/09/09(土) 15:15:42
本多圭「ジャニーズ帝国崩壊」(鹿砦社)を読了。

ジャニーズ事務所の”悪業”が注目されているこの時期
かつて購入して一度読了もしているはずのこの本を
再読してみた。
思ったよりも中身が濃くて面白い本であることを再確認。

いろいろあって、なかなか要点を絞るのは難しいが
やはり、藤嶋泰輔というメリー喜多川にとってのパトロンの存在がユニークで
そこから最終的に勝共連合に資金が流れていく過程が
一般には語られていない部分で興味深かった。
喜多川姉弟というのは、あまりにも純粋で視野が狭く
そこを藤嶋がつついて好きなように資金を使っていたという構図が
みてとれる(証拠も何もないが、それこそ藤嶋の悪賢さだろう)。

そこから小杉理宇造、白波瀬傑といった小悪人に”悪業”が受け継がれ
さらに表面上は喜多川メリー、ジュリー親子に批判が集中する構図になっていく。
ジャニ―喜多川は、自らの悪業を自らのカリスマ性で帳消しにするという稀な人物だったが
亡くなってしまうと、その悪業を弁護する要素も消えてしまった。
そして、メリー亡きあと、ジュリーが一手に背負うには重すぎたジャニーズ事務所の負の遺産は
海外からの指摘で、一番わかりやすい性的犯罪行為により
その正体を浮き彫りにされたのだろうと思う。

つまり最初の悪業ともいえる労働搾取による統一教会への献金という行為は
もはやどこかにいってしまっているのだ。
そんなことを読後に思った。

705korou:2023/09/10(日) 16:38:34
木村元彦「江藤慎一とその時代」(ぴあ)を読了。

県立図書館で借りた本で
借りる前から、すぐに読了してしまうだろうなという予感があったが
その通りに一気読みで終わった。

叙述スタイルは
一次資料を駆使して二次資料を構築するという”中川右介”スタイルではなく
オーソドックスに関係者にインタビューを重ねて事実関係を掘り下げていくものである。
それだけに話は時として脇道にそれたり、関係なさそうな部分も出てくるが
やはり、まだ当事者に事実を確認できるテーマについては
このスタイルのノンフィクションは貴重であり、かつ欠かせないものだろう。

もともと江藤という打者に思い入れがある上に
こうした貴重な情報も満載だったので
実に面白く読めた。
水原茂という人のとらえ方も
また人間というものの不可思議さの典型のように思え
それに比べて、一昔前の野球人に時としてみられる傲慢さ、理不尽さは
あまりに人として浅く不誠実で、実に腹立たしく思えてくる。

大きな活字で200ページ程度の小著であるが
中身の詰まった好著だった。

706korou:2023/09/16(土) 17:06:43
西崎伸彦「海峡を越えた怪物」(小学館)を読了。

これも県立図書館で借りた本。ロッテ創業者の重光武雄についての評伝である。
読み終わった直後の印象としては
週刊誌の連載記事をまとめた本ということで
世間一般の評価よりも厳しい人物評となっており
それは登場人物全般においてそのようになっている。
例えば、次男で会社全般を引き継いだ立場の重光昭夫について
普通なら、不振のロッテ球団を立て直した仕事のできるオーナーという評価だと思うが
この本では大したこともできなかったダメな管理者という評価となっているし
また、この本のほぼ最後のほうまでは
一流の経営者の扱いだった武雄本人の評価にしても
最後の章(これは週刊誌連載の後、今回の出版に際して追記された章)では
2000年代に入ってからのいろいろなつまずき、お家騒動について
容赦ない指摘で、一気に評価を下げているのも
ある意味奇異な印象を受けた。
やはり、最も活躍していた時代から半世紀近く過ぎて
関係者から直接の証言を得ることが困難になっているので
どうしても過去の業績については
限定されたものしか出てこないというのが大きい、
それに対して、最近の出来事については
あらゆる情報が飛び交い
どうしても負の側面が隠し切れないという面もあるだろう。
現代の著名人の伝記ではよくあることだが
秘密主義のロッテという企業に関しては
そうした面がさらに大きく出てしまったという感が強い。
まあ、伝記として、この時期に書かれたものとしては(ほぼ2000年前後に書かれた連載だが)
よく出来たほうだとは思うのだが。

707korou:2023/10/24(火) 13:55:08
井沢元彦「日本史集中講義 1〜3(大活字本)」(大活字)を読了。

1・2は、先々週の金曜日(電気工事で停電・断水の日)に、図書館内で読了。
時間の関係で、3だけを借りて帰り、しばらく目を休めるために(結婚式を控えて健康管理)そのままにしておいて
やっと昨日一気に読了した。

副題で「点と点が線になる」と書いてあるが
まさに、そういう歴史の流れを重視した日本史の通史本だった。
もっとも、事細かく事件・出来事を記述する教科書のような本ではなく
歴史の流れだけを書いている本なので
すでに通史についてある程度理解している人でないと
この本を読み通しても無意味だろう。

近現代で、突然個人攻撃が始まったのには驚いた。
藤原彰という、さほど有名でもない歴史学者(井沢氏は歴史学の大家と評していて、こういう人が第一人者であることが許せないらしいが)を
これほど攻撃しなくても、普通に書いていれば納得するのに
ここだけは違和感ありありだ。
その勢いで、次々と指摘が続き、それらは重要な論点であるので、
今までの経緯、反対意見の論拠、自分の意見の論拠などを示す必要があると思うのだが
なぜか近現代編だけは、読みようによっては独断の連続のようにもとれる。
参考になる歴史観も多いのだが、近現代だけは独特だなと
思わざるを得なかった。
まあ、全体として良書だとは思うのだが・・・

708korou:2023/10/27(金) 14:30:37
猪俣勝人・田山力哉「世界映画俳優全史 男優篇」(社会思想社<現代教養文庫>)を読了。

トイレ本として、約2か月読み続けた本。
前回の女優篇と同様、
一昔前のこうした本では普通だった(でも今ではなかなか許されない)著者である猪俣・田山両氏ともに
主観丸出しの叙述で
自分には非常に面白く読めた。
特に田山氏については、自分の青春の想い出をふりかえるような叙述ばかりで
でもこういうのが本当の映画ファンだよなと思いながら読み進めた。

古い時代については知らない俳優ばかりで
でも、これで少しは目印がついたので
その時代の映画を観る際には
以前よりは興味深く視聴できるのではないか
という気がする。

さて、次は「現代篇」だ。これも楽しみ。

709korou:2023/11/09(木) 21:46:46
川島卓也「ユニオンズ戦記」(彩流社)を読了。

久々にボリュームのある本に食らいついた感じだった。
高橋ユニオンズのことが書いてあるはずと思って図書館で借りたのだが
最初は読めども読めども高橋ユニオンズの話が出てこず
もっぱら毎日新聞の大阪での夕刊発行のダミーとして設立された「新大阪」のことばかり書いてあり
なかなかユニークな本だと思った。
小谷正一、足立巻一、黒崎貞治郎といった人たちの群像劇が延々と描かれ
それはそれでかなり面白い読み物になっていたので
とりあえずは退屈せずに読み進めることができた。

黒崎貞治郎は毎日球団の関係者なので
なるほどと思い読んでいくと
予想通り、昭和20年代半ばの頃の激動のNPBの歴史が
独特のタッチで掘り起こされていく。
このあたりも独自の視点で書かれていて、なかなか参考にもなる。

そして、この本の後半は
高橋ユニオンズの戦いぶりを当時の新聞記事などで再現したかのごとく
なんと全試合の概要が延々と書かれているのだから驚く。
ハッキリ言って、途中で飽きてしまうほどの単調さなのだが
これも著者のユニオンズ愛というべきか。
まあ、これはこれなりに日本プロ野球史の貴重な記録ともいえる。

続編も予定されているらしい(そもそも昭和29年で終わっているし)
自分のような独特の野球ファンにとっては
こたえられない「ヘンな野球本」であることは確かである。

710korou:2023/11/11(土) 15:40:00
岸宣仁「事務次官という謎」(中公新書ラクレ)を読了。

本のタイトルと違った点が2つ。
①事務次官という言葉を使いながら、記述の大半が財務省(大蔵省)の次官に偏っていること
②事務次官についてのあるべき未来像を語る後半において、その記述はむしろ公務員制度の改革に偏っていること
こうした偏りはあったが、全体としては面白く読めた。
それは、当方が勝手知ったる公務員のことなので、
特に著者が取材した官僚の談話などから
言葉の背後から伝わってくるものが
実感をもって迫ってくるからなのだろう。

幹部級のエリート官僚だけは
独自の選抜制度にすべきというのが
現時点のベターな正解なのだろう。
その第一歩としてなら「内閣人事局」の創設・運用というのもアリだろうが
やはり、これからの日本においては
無理やりでも国家の目標を仮説の形で言語化して
その仮説に沿った各省の目標を定め
その目標を数年単位で具体化した上で
幹部官僚の職務を明確にする、そしてその職務に最適の人材を公募するという
新しい公務員制度を検討しなければならないだろう。
一気に改革できない今の日本だが
せめて事務次官だけでも、それからごく少数の幹部職員だけでも、
そして、公募と内部昇格の2本立てで運用というのが
現実的だと思える。

そんなこんないろいろなことを考えさせられる好著だった。

711korou:2023/11/14(火) 20:44:03
二宮清純「証言 昭和平成プロ野球」(廣済堂新書)を読了。

多分すぐ読めるだろうと思って借りた本で、実際すぐ読めた。
その割には、中身は予想以上に詰まっていて
今まではつまらない本が多かった二宮氏への認識を
改める結果となった。

二宮氏は、還暦となったこともあり
これからは古い時代の出来事を関係者から「オーラルヒストリー」を重ねて
未来の世代に残していく仕事を中心にしたいと
この本の”まえがき”で書いている。
二宮氏なら、そういう仕事は適任だし
いい方向に進んでもらったと
応援したい気持ちになった。

今回は、杉下茂、金田留広、城之内邦雄、柴田勲、佐々木信也、長谷部稔、古葉竹識、大下剛史、安仁屋宗八、田淵幸一、鈴木康友の
11名への「オーラルヒストリー」だった。
なかには、取材時からまもなく死去された方も居られるので
生前に話を聞けてよかったと思うのである。
話があまりに多方面に広がっているので(新書サイズとはいえ)
具体的なことはすぐには思い出せないのだが
なかなか面白く読めた本だった。

712korou:2023/11/21(火) 09:50:45
連城三紀彦「悲体」(幻戯書房)を読了。

何か小説の文体についてヒントを得たいと思い
畏敬する作家である連城氏の小説を借りた、というシンプルな動機。
しかし、もはやそのようなことはどうでもよくなり
世間一般では評価の低い小説というのに
自分としては無我夢中で読み進めることになった。
小説をこんなに一気に読んでしまうことなど
もう我が人生ではないだろうと思っていたのだが。
何年ぶりのことなのか、少なくとも退職後は初めてのはず。

何が凄いかといって
これほど細かく丁寧に人間描写ができて
しかも文章が洗練されているので
全く読みづらくないということ。
活字を追う疲れなど全然感じない反面
あまりに情景がリアルに迫ってくるので
(フィクションとはいえ)そういう体験を繰り返し味わうことへの疲れで
本を閉じたくなってしまうのである。
こんな作家は他にはいない。

また連城氏が紡ぐ物語を読みたくなってきた。
「恋文」などが良さそうだな。

713korou:2023/11/28(火) 21:50:25
笹山敬輔「興行師列伝」(新潮新書)を読了。

目次を見ての第一印象は
ありきたりな本だなということ。
興行師として、守田勘彌は面白いとしても
その後の大谷竹次郎、吉本せい、永田雅一、小林一三という章立ては
あまりに普通すぎると思ったのである。
しかし・・・読み始めてすぐに
この著者は出来る人だと感じた。
説明するのに苦労するような複雑な状況を
簡潔で分かりやすく書ける才能のある人である。
そして、各事件、事案についての簡潔なまとめについても
概ね妥当な、常識のある大人の意見と思われ
安心して読めるのだ。

ということで
すっかりこの著者のファンになってしまった。
今回の著作にしても
今まで知っていたことも多くあったとはいえ
それについて記憶があやふやになっていたところを
明瞭な形で再復習できたし
また同じ著者の別の著作を読みたくなってきた。

良い本にめぐりあうことは年に数回はあるのだが
良い著者にめぐりあうことは稀である。
今回はその稀な幸運に出会った感じだ。

714korou:2023/12/02(土) 10:37:13
竹中功「吉本興業史」(角川新書)を読了。

吉本興業の社員として数々の功績を残した著者だが、2015年に退職。
改めて外から吉本を眺める機会を得た。
その上で、いろいろな感慨、反省も含めつつ
私家版「吉本の歴史」としてまとめた本ということになる。
著者は、吉本興業の正史である「105年史」にも
社員時代にいくらか関わっており
それと対比させる意味もあったようだ。
その意味で、冒頭から
闇社会との関わりを延々と書き連ねて
なかなかの心意気を見せたわけだが
読み終わってみると
やはり全般として「手ぬるい」印象は拭えない。
もっとも、元社員としては、これが「手一杯」かもしれないが。

社史としてみれば
私家版ということで客観的な視点など期待すべくもない。
ただし、何もかも自慢するような嫌な感じもなく
そのあたりは巧く書けていると思った。
そして、エピソードの数々には
私家版ならではの「もう一つの真実味」が感じられ
全体としては好著といえる。
でも、まだまだネタはあるはず、
この著者にはもっと書いてほしいと思う。

715korou:2023/12/04(月) 21:09:13
(未読)連城三紀彦「恋文」<短編集まるまる1冊読了ではないが5作中2作を読んだ>

連城氏が1984年に直木賞を受賞した表題作と、「紅き唇」の2作を(大活字本で)読んだ。
いずれにせよ、とにかく作品世界が濃ゆい。
人間臭さ全開で、よくよく考えたら
自分が一番苦手な世界なのではないか?
文章が巧すぎて、ついつい手を出してしまうのだが
最初はその巧さに感嘆しながら
いつしか読み進めるのがしんどくなり
ついに投げ出してしまうというパターンが見えてきた。
前に読んだ「悲体」は、その点であっさり味もあって完読できたが
今回はさすがに濃ゆい、濃ゆい!
もうムリということで、残り3作品はパスすることにした。

連城氏の小説は
今のところ、ほぼ私小説の変型だ。
違うテイストがあれば
文章の達人だけに読みたいのだが
多分、どの小説にも濃ゆい人間関係が描き込まれているのではないか。

716korou:2023/12/14(木) 16:24:35
笹山敬輔「ドリフターズとその時代」(文春新書)を読了。

最近発見した久々の名文章家、笹山さん。その最新作。
期待通りの面白さだったし
最後の最後で、志村けんがなぜ喜劇王なのかということに触れ
それは著者のライフワーク(演劇史)と重なることによって
この本を書いた動機も明確になるという見事な結末となった。
何よりも、著者の”ドリフターズ愛”が心地よい。
また、そうした書いている対象への敬愛がなければ
ここまで深く書き表せないだろう。
自分は
(リアルタイムなのに)ドリフターズについては何の思い入れもないので
ここまで思い入れることのできる著者を
羨ましくも思うし
逆に今回初めていろいろな事実を教えられた。
特に、志村けんについては認識を改めることが多かった。

皆、昭和を生きた人間だと痛切に思うのである。
昭和という時代のいろいろな要素が
彼らの活動には詰まっている。
だから、こうして言葉の力で
その時代の顛末を振り返る必要があるのだと思う。
その意味では、書かれるべき時期に
書かれるべき著者によって書かれた
実にタイムリーな著作になっている。
文字通りの「佳書」だ。

717korou:2023/12/15(金) 12:15:22
大脇利雄「フェレンツ・フリッチャイ」(アルファベータブックス)を読了。

この本の出版元であるアルファベータブックスという会社が
近年数多くのクラシック音楽家の本を出している
貴重な出版社であることが分かり
さらに、中川右介氏が創業した出版社であることを知って
そのことも驚きの一つ。
フリッチャイのような必ずしも絶大な人気を誇っているわけではない指揮者について
さらに専門家でなく、その指揮者のファンであるという一般人の著作を
こうして企画し出版する心意気には
敬意を表さざるを得ない。

そうして出来上がったこの本は
中身も素晴らしく
さすがに長年のファン(フリッチャイのサイトの運営者でもある)だけのことはある。
知りたいことはほぼ書き尽くされていて
逆にこれ以上のことは推測でしか分からないだろうと思われる。
フリッチャイの命を奪った病名は
一般に言われる白血病とは断定できず
むしろ悪性リンパ腫と考えたほうが辻褄が合うという最後のコラムなどは
従来の見解を覆すものであり
こうした研究成果は広く知られるべきだろう。

まあ、フリッチャイに興味ない、そもそも知らないという人には
何の価値もない本ということになる。
伝記だから仕方ないけど。

718korou:2023/12/28(木) 17:50:24
笹山敬輔「昭和芸人 七人の最期」(文春文庫)を読了。

またまた笹山氏の著作をゲット、県立図書館の書庫から出してもらって借りた本。
七人の昭和芸人とは、エノケン、ロッパ、エンタツ、石田一松、シミキン、金語楼、トニー谷のこと。

個人的には
金語楼とトニー谷の晩年のテレビでの姿しか判らないわけだが
一般的にも、この本が出版された時点(文庫書下ろしで2016年刊行)で
これらの芸人のことを事細かく書けるほどリアルタイムで観ていた人は
皆無ではないかと思う。
その意味で、まさに
二次資料を駆使して見事な文章を組み立てる笹山氏の面目躍如たる本なのである。

「最期」とはいえ、きっちりとその生きざま、活躍の概要が簡潔にまとめられていて
そもそもがあまり詳しい生涯が語られなくなった人たちばかりなので
それだけでも貴重なのである。
もっと他にもいろいろと書いてほしいと
切に願うばかり、それ以上のことはない。
見事な複数伝記本。

719korou:2023/12/29(金) 10:29:20
田山力哉「世界映画俳優全史 現代篇」(社会思想社)を読了。

トイレ本として読了。
いまはなき社会思想社の映画シリーズとしてほぼ最新版といえるが
現代篇と銘打ちながら1984年頃までの映画俳優について語っているわけで
今となってはレトロ編といえるだろう。
メリル・ストリープ、トム・クルーズなど
2023年の現在でも大活躍を続けている例もあるが
その大半は80年代もしくは90年代の活躍で終わっていて
なかには何で取り上げているんだろうと疑問な人選も
ないではないが
個人の著作なのである程度の偏りは免れないところ。
そして、田山氏ならではの仏映画偏愛の傾向は
この著作でも顕著で
女優偏愛の傾向も全然改められていないのは
もはやご愛嬌という他ない。
そういう独断と偏見も
この方の著作の大きな魅力といえる。

さて、次は何を読もうか。

720korou:2023/12/29(金) 10:40:45
(2023年読了本① 1月〜9月)
(1月)
ナシ
(2月)
宇佐見陽「大リーグと都市の物語」(平凡社新書)
(3月)
宮崎勇・田谷禎三「世界経済図説 第四版」(岩波新書)
池上彰・佐藤優「真説 日本左翼史」(講談社現代新書)
(4月)
池上彰・佐藤優「激動 日本左翼史」(講談社現代新書)
安西巧「歴史に学ぶ プロ野球16球団拡大構想」(日経プレミアシリーズ)
池上彰・佐藤優「漂流 日本左翼史」(講談社現代新書)
(5月)
半藤一利・池上彰「令和を生きる」(幻冬舎新書)
(6月)
中川右介「社長たちの映画史」(日本実業出版社)
中川右介「アニメ大国建国紀 1963-1973」(イースト・プレス)
早川隆「日本の上流社会と閨閥」(角川書店)
(7月)
中川右介「プロ野球『経営』全史」(日本実業出版社)
(8月)
中川右介「世襲」(幻冬舎新書)
猪俣勝人・田山力哉「世界映画俳優全史 女優篇」(社会思想社)
(9月)
本多圭「ジャニーズ帝国崩壊」(鹿砦社)
木村元彦「江藤慎一とその時代」(ぴあ)
西崎伸彦「海峡を越えた怪物」(小学館)

721korou:2023/12/29(金) 10:42:10
(2023年読了本② 10月〜12月)
(10月)
井沢元彦「日本史集中講義 1〜3(大活字本)」(大活字)
猪俣勝人・田山力哉「世界映画俳優全史 男優篇」(社会思想社)
(11月)
川島卓也「ユニオンズ戦記」(彩流社)
岸宣仁「事務次官という謎」(中公新書ラクレ)
二宮清純「証言 昭和平成プロ野球」(廣済堂新書)
連城三紀彦「悲体」(幻戯書房)
笹山敬輔「興行師列伝」(新潮新書)
(12月)
竹中功「吉本興業史」(角川新書)
笹山敬輔「ドリフターズとその時代」(文春新書)
大脇利雄「フェレンツ・フリッチャイ」(アルファベータブックス)
笹山敬輔「昭和芸人 七人の最期」(文春文庫)
田山力哉「世界映画俳優全史 現代篇」(社会思想社)

<計28冊>

722korou:2024/01/03(水) 15:02:05
ルーベルト・シェトレ「指揮台の神々」(音楽之友社)を読了。

ユンク君サイトで話題になっていたので
県立図書館の書庫からリクエストして借りた本。
苦手の翻訳ものだったが意外と読みやすく
450pを超す分厚い本ながら短期間で読み終えることができた。

ハンス・フォン・ビューローから始まる指揮者列伝で
普通なら次はニキシュになりがちなところを
ハンス・リヒターをその間に挟むところが
いかにも分かってらっしゃるというセンスを感じる。
ニキシュの後にマーラーというのもさすがだし
そこでやっとトスカニーニの登場と相成る。
以下、ワルター、クレンペラー、フルトヴェングラー、クナと続き
さらにベーム、カラヤン、バーンスタインという流れ。
最後にラトルへのインタビューとなっている、
叙述は妙にバランスを崩してまでは詳しくもなく
かといって押さえるべきところはきちんと押さえてあって
なかなか信頼に足るバイオグラフィーだと感じた。

特に、ビューロー、リヒター、ニキシュ、マーラーあたりは
詳しい生涯を知るところが無かったので
新鮮でタメになった。
いい感じの佳著である。

723korou:2024/01/15(月) 16:44:57
ベン・リンドバーグ&トラヴィス・ソーチック「アメリカン・ベースボール革命」(化学同人)を再読。

2回目の読書となる本書。前回は、次に予約が入ってしまい、500p近いこの大著を大急ぎで読む羽目に陥ったのだが、今回は
年末年始の貸出期間長期となる期間を利用して、さらに2週間の貸出延長もかけて、じっくりと読むことができた。
前回は、最初に読んだ衝撃ということもあり、この本に書かれたいろいろなMLBでの変化について、初めて知った喜びが強すぎた
かもしれない。今回は割と冷静に読むことができ、こうしたMLB内での「革命」を過大にも過少にも評価できるようになったよう
な気がする。

この「革命」の最大の利点は、超一流選手は才能、という従来の決定論のような思考を覆して、一流に近い才能さえあれば、より科学的
にベースボールを追求することによって、誰でも超一流選手になれるということが実際に証明されたことである。超一流選手が増えれば
それは間違いなく野球界全体のレベルアップにつながり、今まで見たことのない新しい世界が開かれるはずだ。

一方、この「革命」は、野球のアスリートとしての側面だけを一気に改善する流れなので、野球そのものの競技としての側面には一切
関係なくなっていく。イチローはそれが言いたかったのだろう。でも、競技としての野球のレベルアップは、今のMLBだとかなり
難しいのではないか。より優れたアスリートになろうとする努力は、おそらくMLBレベルにまで達した選手であれば、ほぼ全員が
その方向により良くなろうとするだろうが、野球という競技のなかで頭脳を発揮する方向により努力しようとする選手は、どうしても
限られてくるのではないだろうか。残念ながら、近代スポーツはどうしてもその方向に発展しがちだ。それは他の競技でもそうなのだ。

また、こうした努力が、結局若い選手の早期育成につながることによって、その反作用として高年俸の選手の排除につながり、選手に
とっていいことばかりではなくなり、一方的に球団の財務が潤うだけという批判もある。その一方で、この流れが定着すれば、高年俸の
選手であってもまだまだ進化していくということでもあり、この点はまだ進行中の事実ということで結論には至っていない。
そして、そうした努力の最先端にいたアストロズの球団ぐるみの不正行為は、いかなる努力でもある程度の良識抜きだと皆が納得する
「革命」にはなり得ないということを明らかにしている。少なくとも野球界の外部では、厳しいコンプライアンスが要求されている現在
において、結果だけを追い求める姿勢は社会からは支持されないわけで、それに加えて、ファンあってのプロスポーツである以上、あま
りに極端な「革命」にならないよう、今まで以上に慎重に検討されるべきだろう。

今回の読了ではそんなことを考えた。そして、この本が名著であることに変わりないと再度思った。

724korou:2024/02/01(木) 16:57:30
大見崇晴「『テレビリアリティ』の時代」(大和書房)を読了。

笹山敬輔氏の著作からこの本の存在を知り、
さっそく県立図書館で書庫から出してもらって借りることに。
読了後の印象としては
思ったほど整理された本ではなく雑然とした叙述だったが
部分的には優れた考察も見られる好著ということになる。

戦後日本でスタートしたテレビという媒体を
「民主化を促す」媒体という本来の設立趣旨と
コンテンツ自体が内包している「エンタテインメント」としての性格に二分するとともに、
それらが自ずから両立し得ないものであることから
1970年代の「あさま山荘」実況中継のあたりから
「エンタテインメント」としてより
「ダダもれ」としてのドキュメント性のほうが優位になるという考察。
視聴者と制作者がお互いにお互いを必要とする日本のテレビ独特のコンテンツが形成され
そして、それが21世紀になって、ネット全盛時代に引きずられるかのように
双方向性、コメントする視聴者と
「やらせ」のないコンプライアンス重視のドキュメントスタイルの番組を作り続ける制作者との双方向性、
そして、それは「ニコニコ動画」のようなスタイルにすぐ馴染む日本独自の感性を生んだ、という考察。

しかし、この本の後半に頻発する「環境環境」という言葉などはあまりに抽象的で
この本の前半の分かりやすさ(萩本欽一の役割の強調、そして彼の復権をもくろむ叙述)に比して
後半の抽象的な難解さには閉口した。
前半の叙述だけでうまくまとめていればもっと面白い本になっただろうけど
著者が素人文学ファンということから、それは難しかったのかもしれないが。

725korou:2024/02/11(日) 12:31:42
マイケル・チャーリー「ジョージ・セル」(鳥影社)を読了。

480ページに及ぶ大著で、さらに優に100ページ以上あると思われる注釈・参考データが末尾に続く
稀代の名指揮者ジョージ・セルに関する伝記の決定版と言える好著である。
翻訳の文章が誠実過ぎて堅苦しいこともあって
読み続けるのには苦労したが
詳しいことは何一つ伝わっていない20世紀前半から中盤にかけての欧米のクラシック音楽界の実情を
前回読了したフリッチャイの伝記と合わせて
具体的かつ詳細に知ることができたのは
読了前の期待通りとなった。
ただし、全体を通して(クリーヴランド時代以降の後半の叙述では特に)
細かすぎる記述(個々の演奏会についていちいち曲目を羅列する細かさ)には閉口した。
翻訳文体の固さと相俟って
この本を必要以上に読みにくくさせている。

そうした退屈さの合間合間に
(人としてはともかく)芸術家としては極めて誠実な人生を送ったセルらしい言葉が挿入され
それはこの本の最大の魅力となっているだろう。
そして、もう一点。
絶賛を浴びた晩年の指揮ぶりでさえ
「予測可能だった」「説教臭い」などという批判も浴びていたことも
忘れてはならない。
どんなに真剣に芸術に取り組んでいて、まして才能に満ち溢れていたとしても
それだけでは完璧な芸術にならないという、いわば当たり前の事実が
ここには示されているのである。
そして、それはセルにどうしても馴染めない今の自分には
重要な真実であるように思えたのである。

726korou:2024/03/01(金) 14:08:47
山崎浩太郎「演奏史譚 1954/55」(アルファベータブックス)を読了。

読み始めるまでは、それほど期待はしていなくて
クラシック音楽の雑学が少し増えればという程度だったのだが
読み進めるにつれ、予想に反して面白い本であることが分かった。
ちょうど、今の自分の関心が深まっている分野、時代についての著書であることが
この読書を有意義なものにしているというわけだ。

直前にセルの本を読んだので
トスカニーニ、ミトロプーロスに関する出来事、あるいは
ワルター、モントゥー。ライナー、バーンスタインについての当時の評価など
まるで復習をするかのように読むことができた。
そして、トスカニーニはもちろん、フルトヴェングラー、カラヤン、カラスなどの
この時期の詳しい動きも
的確な記述で手に取るように分かった。
さらに、吉田秀和、山根銀二、朝比奈隆などの当時の日本音楽界での立場とか
大岡昇平、福田恆存などの当時の文化人のクラシック音楽への関心など
全く新しく知ることが多かった。

意外なほどタメになる本だった。

727korou:2024/03/05(火) 17:45:23
ノーマン・レブレヒト「クラシックレコードの百年史」(春秋社)を読了。

第1部が本編で、第2部・第3部はレコード史における名盤・迷盤の紹介となっている。
第1部は読み切ったが、第2部・第3部は読了しなくてもよいと思ったので
飛ばし見程度、そういう意味での読了ということになる。

第1部だけ完全読了とはいえ
実に読みにくい本で苦労した。
最初は、自分が固有名詞を覚え切れないせいだろうと思っていたが
読み進むにつれ、叙述自体が滅茶苦茶なせいも大きいと気がついた。
段落切れも何もなく、いきなり次の行で全く違う話が続いていたりして
読んでいるほうは、それに気づくまでかなりの時間がかかるのだから。
同じ段落のなかで、最初の行だけEMIの話、その次の行がいきなりデッカの話という風に
何の脈略もなく連続しているわけだ。
訳担当者は、もっと思い切って意訳すべきで
原著の不都合な流れをそのまま翻訳してどうするのか
と言いたくなる。

書いてある内容は興味深いもので
途中から極端な悲観論に終始するのには閉口したが
それ以外は、現時点でぜひ知りたい情報、知識が大半だった。
少なくとも、レコード会社、その関係者に関する知識量は
読む前よりも飛躍的に増えたような気がする。
まあ、もっと分かりやすい本で読みたかったけれど(^^;;

728korou:2024/03/16(土) 18:01:58
戸部田誠「芸能界誕生)(新潮新書)を読了。

予想以上に面白い本だった。
いわゆる聞き書きスタイルで書かれている本なので
そのすべてが真実であるかどうかは定かでないが
この種のサブカル本については
こうしたスタイルで書かれた本が必須なのであり
きちんとした検証が不可能な場合も多いので
そうなれば、ここで書かれたことが真実に一番近い事実として
語られることになるだろう。

”芸能界”については
ここで語られたことが全てでないのは勿論で
ナベプロが興行の世界まで支配し始めた時期の直前まで
日本の興行界を牛耳っていたヤクザの存在については
この本では全く語られていない。
しかし、それ以外の
おもにテレビ時代以降の芸能界の中心的存在となった芸能プロダクションについては
ほぼ完ぺきに歴史が網羅されていて、しかも簡潔で読みやすい記述となっている。
(あと、レコード会社とテレビ・ラジオ放送局の歴史も必要だが・・ここまで書いてみて
 それが不足していたと思い当たった)

昭和、特に戦後について芸能界を語る上での
必読書ともいえる佳著であることは間違いない。

729korou:2024/03/18(月) 12:18:22
お股ニキ「セイバーメトリクスの落とし穴」(光文社新書)を読了。

ダルビッシュ投手とのやりとりで有名になった著者だが
基本的に野球シロウトとしての立場を踏まえつつ
最新の野球理論についてどう考えたらいいのか、ひいては
最終的に野球の面白さとはどういうところにあるのかについて
いろいろな観点から語っている本である。
副題に「マネー・ボールを超える野球論」とあるが
出版社などの担当者たちが
いかに野球のことに無知であるかが
この副題のつけかたに示されている。
そして、その副題を了承してしまったところに
この著者の”シロウトとしての遠慮”が見えて面白い。
マネー・ボールはセイバーメトリクスと何の関係もない。

記述は多岐にわたっていて
そのすべてを理解するには
かなりの”野球愛”を必要とする。
そして、分析面では鋭いものの
著書全体としてはまとめ方が上手でなく
結局何が言いたいのかということにもなるのだが
この種の本では、そこは目をつむって
分析の面白さを味わうべきだろう。
特に変化球の分析に関しては
他に類のない見事なもので
ハッキリ言って全部理解することは難しいのだが
一読の価値はあると思った。
もう少し分かりやすいものが出ればベストなのだが
著者の次回作を待ちたいところである。

730korou:2024/03/26(火) 11:32:04
猪俣勝人・田山力哉「世界映画作家全史(上)」(社会思想社・教養文庫)を読了。

トイレ本として読了。
読む前から面白い本として分かっていたし
実際、タメになった本だったのだが
それにしても、今更ながら知らない人物も多くて
映画史全体を把握することの困難さを
改めて思い知った次第。
特に、ハリウッド以外の地域の映画人については
代表的な数人しか知らないわけで
この本に載っている人物にしても
この共著者たちが選んだ範囲内ということでしかないので
すべてが網羅されていることではないわけだ。

そんななかで
かなり古い映画について
猪俣氏が実際に観たときの感想、世評などを
具体的に書かれているのは貴重は記述だと思う。
なかなか、昭和初期の頃の映画をめぐるエピソードなど
ここまで細かく書ける人は
この本の出版時でもそう多くは居なかったわけで
まして2024年の今、それを知ることができることそのものが
奇跡のようなものだ。

というわけで貴重な読書だった。
次は下巻。

731korou:2024/04/02(火) 11:56:52
吉田光男(編著)ほか「韓国朝鮮の歴史」(放送大学教育振興会)を読了。

放送大学の講義を随時聴いている関係で
一度通史を読んでおきたいと思い
何でもいいから読みやすそうなものをと県立図書館で借りた本が
たまたま放送大学のテキストだった(借りる前には気付かなかった)という
ウソのような話。
そして、ゆっくりゆっくり読んでいって
貸出延長でさらに2週間かけて読もうと思った矢先
次の人の予約が入ってしまい延長ができなくなったので
慌てて昨日、今日で一気読みしたという経緯。
まあ、それでも落ち着いて読めたのでよしとするか。

期待通りの通史の内容、レベルで
非常に満足できる読書ととなった。
後はこのイメージに具体的な事項を追加していくことになる。
韓国朝鮮の歴史は思ったよりも複雑で
こうして通史を知ることは
すべての日本人に必要ではないかと感じた。
誤ったイメージで語られることが多すぎるので
自分としてももっと知識を増やしていく必要があるだろう。
放送大学のテキストというのは
その意味で(基礎知識の網羅。知識を身に付けるための最初のステップ)
重要な意味合いをもつと
今回の読書で認識させられた。

732korou:2024/04/10(水) 14:38:35
生明俊雄「二〇世紀日本レコード産業史」(勁草書房)を読了。

いわゆるコロンビア、ビクターなどのレコード会社について
二〇世紀における企業としての隆盛史を記した本である。
この本のあとがきで著者が書いているとおり
この種の本はほとんど書かれておらず
その意味でこの本の存在は貴重ですらある。
ただし、文章は生硬で晦渋で読みにくく
誤字脱字、単純な勘違いなどが頻出する
言ってみれば、編集者は何をしていたのかと
嘆きたくなるような本でもある。
読みにくいけど、初めて詳しく知る事実も沢山知ることができる
という類の本になる。
(それにしても、これで東京芸術大の博士論文の草稿かと思うと唖然。
 要するに、誰もこの本の中身をチェックできないということか。
 それで博士論文として幅を利かせるのはどうかと思うが・・・)

今回の読書で得た知識は膨大なものになる。
音楽雑談スレを新設した上で、いくつかそのスレでまとめて記しているが
それでもごく一部に過ぎない。
まあしつこく読み通せば、編集の不備はなんとか解決できるので
全体としては良書と言えるかもしれない。
誤字脱字、勘違いなどは、著者に全部、責があるわけでもないので。

733korou:2024/04/22(月) 18:36:45
ジョン・カルショー<山崎浩太郎訳>「レコードはまっすぐに」(学研)を読了。

実に面白い本だった。
もともとの文章がイギリス人独特のひねくれたユーモアに満ちていて
さらに訳文もその文章の特徴を十分に生かした巧みな文章になっていたので
翻訳本を読んでいるある種辛い日本語体験など
まったく感じることなく読み進めることができた。
アマゾンの評だと、訳文の間違いなどが厳しく指摘されているが
確かにそういう誤りが頻出している上に訳文も酷ければ
その指摘はそうだと思うのだけれども
これだけ面白く訳されているのだから
細かい間違いは、それはそれでグッと腹に収めておくのが
読書人の良識というものだろう。
誰かと厳密な議論をするわけでもあるまいし。

この本でもし残念なところがあるとすれば
カルショーが自身の仕事ぶりについて
あまりに謙虚で、自慢すらしない書きっぷりなので
客観的にみてカルショーの評価はどうなのかが
さっぱり分からないことだろう。
幸いにも、カルショーを高く評価している本を先に読んでいたので
「指環」録音の偉業なども知った上で読むことができたのだが。

それにしても生々しい(笑)
ルービンシュタインのエピソードなど、本当なのだろうけど
ちょっと可哀想(爆)
この本のおかげで、(今後も多分聴くことは少ないだろうけど)
オペラなどで活躍する名歌手の人たちについて
親近感が増したのは間違いない事実。

734korou:2024/05/17(金) 16:38:45
中川右介「市川雷蔵と勝新太郎」(KADOKAWA)を読了。

やや小さめの活字なので、読むのを後回しにしていたが
ついに読書にとりかかり、一気に前半を読了。
ところが、表題の2人が映画界に入ってからの記述が
暦年別に逐一出演作品の解説ばかりになるので
次第に食傷気味となり、一気に読書スピードが落ちてしまった。
このまま途中までで読了扱いにしようかなとも思ったが
何のタイミングなのか、急にそういう記述でも面白く読める瞬間が訪れ
そこからは一気に読み通してしまった。

読み始めるまでは
勝新太郎についてはある程度知っているつもりで
ゆえに市川雷蔵のことを知りたいと思っていたのだが
こうして読み終えてみると
勝新太郎のこともほぼ知らないことばかりだったことが分かる。
読んでみて良かったと思える。

日本映画の斜陽時期にスターとなった2人だけに
輝かしいだけの人生ではなかったことはもちろんだが
それでも、ギリギリでその輝きの中心に居たとも言える。
残るは歌舞伎界の旧態依然とした慣習の酷さ(映画界の五社協定も酷いものだが・・・)が
印象に残った。
今はそこそこ栄えているが
この体質はどうなのだろうか。
そんなことまで考えさせられた読書だった。


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板